シュタインズゲートのエロパロ5

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1名無しさん@ピンキー
・シュタインズゲートの妄想を叩きつける場所です。
・カップリングについては問いません。 ただし、注意書きは忘れずに。
・べ、別にエロが無くたってかまわないんだからねっ

シュタインズゲートのエロパロ 4
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1347184330/
シュタインズゲートのエロパロ 3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1325789848/
シュタインズゲートのエロパロ2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1304341945/
シュタインズゲートのエロパロ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257776865/

まとめ
STEINS;GATE 2ch二次創作まとめwiki
http://www1.atwiki.com/reading_steiner/
2名無しさん@ピンキー:2012/12/11(火) 07:46:14.74 ID:E3xnkqcX
前スレ容量オーバーのため新スレ作成しました。
立てられてよかった…。

>前スレ630
投下&萌郁編完結乙。
残り2人は確かに攻略完了済でどちらかというとオカリンの覚悟・決断次第だからな。
全ての原点でもあるといえるw
3名無しさん@ピンキー:2012/12/11(火) 09:31:19.27 ID:j+sZkLQK
スレ立&前スレ630乙です^^
朝から抜かせてもらいました…
4名無しさん@ピンキー:2012/12/11(火) 14:42:35.62 ID:6TvsAECJ
たて乙。
あと前スレのもえいくさんの人乙
5名無しさん@ピンキー:2012/12/11(火) 21:45:20.85 ID:iIdCXuhb
まさかの容量オーバーw
6名無しさん@ピンキー:2012/12/11(火) 23:04:20.47 ID:iwQgabD7
前スレが512kオーバー・・・だと・・・?

脳内の中での神格化が止まらない件
もうね、一冊のノベルとして重宝したい作品だお
勿論、観賞用・保存用・予備・の3点買いでFA!絶対にだ!
7名無しさん@ピンキー:2012/12/12(水) 01:07:20.01 ID:XiV5afLH
>>6でも言ってるけど、
もう今年の冬は間に合わないにしても夏コミで出してもいいレベルだと思う。
布教用含めて5冊は買う自信がある。
8名無しさん@ピンキー:2012/12/13(木) 00:31:02.34 ID:2FcY9Nm+
こんばんは……
スレ半分で容量オーバーとか初めて見ましたww
いや私のせいですね申し訳ない orz
ええっと昨日は仕事疲れで爆睡
今日は残業でつい今しがた帰宅という状況なので遅れて大変申し訳ない
軽く更新して今日は寝まーす……
9第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/13(木) 00:32:46.74 ID:2FcY9Nm+
7−1:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……まゆりだ」

どこか疲れた口ぶりで答えた岡部倫太郎は、小さな溜息をついて肩を鳴らした。

「で、上手く行ったの?」
「ああ。抱く事に成功はした」

「へぇー、すごいじゃん! で、あとは誰が残ってるの?」

嬉しそうにはしゃぐ阿万音鈴羽。だがなぜか岡部倫太郎の顔色は優れない。

「……ダメだ」
「へ?」
「ダメなのだ、このままでは」

岡部倫太郎の言葉には失意がある。
つまり前回のタイムリープは彼の望む結果に終わらなかったと言うことだ。
一体どういう事だろう。椎名まゆりを抱く、という目的は達成されたはずではないか。

「岡部……倫太郎?」
「ダメだ……ダメだダメだ、ともかくこのままではダメなのだ!」

徐々に言葉が激しさを増してゆく。
それは正確には失意と言うよりは失望、それもどこか憤怒の入り交じった感情のようだった。
ただそれが椎名まゆりに対するものなのか、彼自身に対するものなのか、それともまるで別の何かに対するものなのかは判然としないけれど。
阿万音鈴羽は息を飲み、彼の迫力に気圧されて一歩下がった。
10第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/13(木) 00:44:06.87 ID:2FcY9Nm+
「もう一度……もう一度まゆりを攻略する」
「え? だってまゆりおばさまはもう終わったんじゃ……」
「違う! 終わってなどいない! このままではダメなのだ。まだ足りない……まだ……!」

額に手を当てた彼が浮かべているのは苦悶の表情だ。
阿万音鈴羽はその理由を問い質そうと手を伸ばしかけるが、なぜか躊躇してそのまま手を下ろしてしまう。

話を聞きたい。
聞いて力になりたい。
大好きな岡部倫太郎のためだったらどんな事だってしてあげるのに。


けれど、こんな表情の時の彼が抱え込んだ重荷を他人が背負えないことを……彼女は誰よりも知っていた。


悔しい。辛い。
こういう時の彼を助けるために、助けたいからこそ自分は未来からやって来たというのに。

歯がみする阿万音鈴羽に気づいているのかいないのか、
岡部倫太郎は冷蔵庫からドクペを取り出し、ソファにどっかと腰を下ろして一気飲みする。

「朝まで寝る。鈴羽、7時になっても俺が起きなかったら起こしてくれ」
「うん、わかったよ。わかったけど……」

脚を組み、ソファに深くもたれ、そのまま目を閉じる岡部倫太郎。

「それとお前は今回手伝わなくていいぞ。俺だけで十分だ。次のタイムリープまで秋葉原を観光でもしてくるがいい」

それだけ告げると、彼は瞬く間に寝息を立て始める。
特技か何かなのだろうか。それとも余程疲れているのだろうか。

「岡部倫太郎……なにかヘンだよ……」

阿万音鈴羽は知っている。
岡部倫太郎の意志の強さも、諦めも悪さも、その執念とも呼ぶべき不屈の精神も。
けれど今の彼のありようは、どこかそこから外れている気がして。


彼女は、幾度、いや幾十となく彼を迎えてきたこの部屋で……




初めてどこか不安そうな顔で岡部倫太郎の寝顔を見つめていた。




 
11名無しさん@ピンキー:2012/12/13(木) 00:45:33.41 ID:2FcY9Nm+
というわけで今宵はここまでー
これまでも順風満帆とはいかなかった攻略ですが、果たして今回は……?
まあそんな感じで次回に続きますー ノシ
12名無しさん@ピンキー:2012/12/13(木) 09:45:43.25 ID:SJuxzGee
おつー
13名無しさん@ピンキー:2012/12/13(木) 12:22:06.09 ID:DalM0s4b
>>1スレ立て乙
新スレ立ってたの気づかなかったぜ、
なんで誰も感想書かないのかな〜と思ったらw

萌郁編も含めて感想ー

やっぱり萌郁さんはエロかった。素晴らしい。
無口な彼女だからどう表現するかと思ったけど、饒舌にならずとも必要なことは肉体言語で全て表現できるな!
おっぱいの力は偉大だ。
どこぞの貧乳とは違うのだよ!ェ

そしてやっとまゆしぃの番が来たか。彼女は近し過ぎる分距離感の描き方が難しそうで。
でも彼女もバツグンの身体の持ち主でして、非常に期待しております!
14名無しさん@ピンキー:2012/12/13(木) 19:30:44.03 ID:/219Rx7g

だーりんのまゆしぃの水着姿は凄かったな
15名無しさん@ピンキー:2012/12/14(金) 01:48:11.47 ID:pqQmdB6z
こんばんは……
少し寝過ごしました
16第7章 懸想千秋のハープスター(上)::2012/12/14(金) 01:49:58.68 ID:pqQmdB6z
7−2:2011/02/12 10:42 未来ガジェット研究所

「う〜ん、う〜ん」

鉛筆を顎に当て、目の前のノートとにらめっこしている椎名まゆり。
部屋の奥では牧瀬紅莉栖と橋田至がタイムリープマシンの開発に勤しんでいる。

「おはよう諸君! 開発は順調に進んでいるか!」

ばたん、と大きな音を立てて扉を開けた岡部倫太郎がラボに入ってくる。

「あ、オカリン! トゥットゥル〜♪」
「うむ、まゆり、今日もいい天気だな!」

なぜか上機嫌に見える岡部倫太郎。

「なに、岡部。随分とハイテンションだな。遂に危ない薬にでも手を出した?」
「何が遂にだクリスッティ〜ナよ。俺は以前からもそしてこれからも未来永劫そんなものに頼るほど落ちぶれてなどいないわ! フゥーハハハハハハ!」
「どうだか。あとクリスティーナ言うな」
「まあそれは置いておいてだ」
「置いておくなぁ! 聞けぇ!」
「ところで我が助手よ、マシンの開発の方はどんな具合だ」
「だぁ、かぁ、らぁ、私は助手じゃない! クリスティーナでもないっ! 私には牧瀬紅莉栖というちゃんとした名前があるの! 何度言ったらわかる!」
「ええい! マシンの進捗具合を尋ねているのだ我が助手よ!」
「あー! もー! ……もダメ。なんか疲れた。あーでもここで折れたらなんか負けな気がするぅ〜!」
17第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/14(金) 01:52:30.84 ID:pqQmdB6z
頭を押さえながら溜息をつく牧瀬紅莉栖。高笑いしながら調子に乗る岡部倫太郎。
そして……そんな彼らの様子を実に楽しげに見つめている椎名まゆり。

「牧瀬氏牧瀬氏。オカリンのことだからここで折れたらたぶんずっと助手呼ばわりだと思われ。なんかこれ前にも言った気がするけど」
「私もそう思う……ええい、いっそもっと素直な応答ができるように脳漿掻き出して弄り倒してやろうかしら」
「こっ、怖いことを言うなっ! 大体そんな事本当にできるのかっ?!」

大仰に驚いて後ずさる岡部倫太郎。
一方でサディスティックな笑みを浮かべて不気味に肩を揺らす牧瀬紅莉栖。

「ふっふっふ……さあてどうかしらねえ。とりあえずあんたの脳を覗いてみればはっきりするんでしょうけど。どう岡部? 科学の偉大な発展のために検体として協力する気はない?」
「ごっ、ご免こうむるっ!」
「なによ、科学者なのにそれくらいの探究心持ち合わせてないの?」
「俺は科学者ではない、ムァッドサイエンティストだっ! その手の実験はされる側ではなくする側なのだ!」
「ハイハイ、厨二病乙」
「う、嘘ではないぞ! この俺の手にかかれば人の脳を覗き見ることくらいいとも容易い事なのだからなっ!」

虚勢を張って人差し指で牧瀬紅莉栖を差し、必死に牽制する岡部倫太郎。
18第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/14(金) 01:54:39.07 ID:pqQmdB6z
「おおー、すごいぜオカリン。是非今度メイクイーンでフェイリスたんの考えてることを実況生中継してほしいお。エ、エロトークしながら!」
「ま、まあ機会があったらな」
「ふーん。じゃあせっかくだしその機会こっちで用意させてもらおうかしら」
「な、なにっ!」
「それくらい簡単なんでしょ。確認させてもらえないかしら……『助手として』」
「うぐっ!」

腕を組んでジト目で岡部倫太郎を見つめる牧瀬紅莉栖。
逃げ場を失い一瞬うろたえる岡部倫太郎。

「よ、よかろう。えー、あー、まゆりよっ! 我が実験台となってもらうぞ!」
「ふぇええ?! まゆしぃが?」

傍観者を決め込んで楽しそうに見物していた椎名まゆりが、突然槍玉に挙げられてすっとんきょうな声を上げる

「うう、でもまゆしぃはオカリンの人質なので逆らえないのです」
「その通り! ふふふまゆりよ覚悟するがいい!」
「ふええ、オカリンに考えてること全部知られちゃうよう」

上から見下ろされ、挙動不審げにわたわたとする椎名まゆり。
岡部倫太郎のまっすぐな視線を浴びた彼女は、下からじぃ、と覗き込むように見つめ返し、やがて両頬に手を当ててぽ、と頬を染めた。
そしてそれをじっくりと見学していた橋田至の一言。

「まゆ氏まゆ氏、『全部知られちゃうよう』のところだけもう一度!」
「ぜ、全部知られちゃうよう……」
「そこ、もっと恥ずかしそうに、くぐもった声で!」
「ふええ……ぜ、ぜんぶ知られちゃうよう……っ」
「「やめんかこのHENTAIがーっ!」」
「おごーっ!?」




岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖の同時ツッコミが物理的に飛び……橋田至はラボの床に崩れ落ちた。




 
19名無しさん@ピンキー:2012/12/14(金) 01:55:22.15 ID:pqQmdB6z
というわけで今宵はここまでー
また次回お会いしましょう ノノシ
20名無しさん@ピンキー:2012/12/14(金) 07:53:57.41 ID:tZUxNz1v
>>19
いつも乙です^^
まゆりの「ふええ」だけでおなかいっぱい…
中の人で脳内再生されてもうヤヴァい
21名無しさん@ピンキー:2012/12/14(金) 17:17:36.43 ID:Skow6Ofn
乙・プサイ・コングルゥ!
まゆしぃマジ天使。
22名無しさん@ピンキー:2012/12/15(土) 01:53:30.40 ID:KXxH86zY
こんばんはー
だいぶ遅くなりましたが更新に来ました……
最近マジ忙しい……
23第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/15(土) 01:57:12.82 ID:KXxH86zY
7−3:2011/02/12 11:37 

「えーっと、うーんと、ここはこうじゃなくって……えーっと?」

椎名まゆりは目下頭を悩ませている模擬テスト用のプリントをじっと見つめて……その後ぺらりとめくってみる。

「落ち着けまゆり。問題用紙の中から算出されない答えなどない」
「うう、それはそうだけど、いくら考えてもさっぱりなのです」
「上に書いてあるだろう。よく見てみろ」
「ふえ? どこどこ?」
「そんな上じゃないっ! というか別の問題を見てどうする。同じ問題の一行目だ」
「えーっと、えっと……??」

頭上に?マークを浮かべて首を傾げる椎名まゆりに、業を煮やした岡部倫太郎が指で差し示す。

「公式で習っただろう。この値をここに代入すればだな……」
「あ、そっかぁ。じゃあここをこうすれぱ……できたー!」

瞳を輝かせて問題用紙を掴み、正面に掲げる椎名まゆり。よほど嬉しかったのだろう。

「大袈裟だな」
「そんなことないよー。まゆしぃこんな問題解けたの初めてなのです!」
「普段のテストの成績が本気で心配になってきたぞまゆりよー……」

頭を抱える岡部倫太郎。その背後ではしゃぐ椎名まゆり。
そして……それをどこか感心した風情で眺めている牧瀬紅莉栖。

「……ふうん、ちょっと見直した。岡部、アンタ人に教えることもできるのね」
「んがっ、失礼な! 高校の数学だぞ!?」
「自力で解けるかどうかと他人に教えられるかどうかは別のスキルよ岡部。後者の方がずっと難度は高い。相手がどこが間違ってるかがわからないと相手を導けないからね」
「うん、すっごくわかりやすかったよー。えっへへー、オカリンありがとう。まゆしぃは大感謝なのです!」

憮然とした表情で、だが満更でもなさそうに岡部倫太郎が頭を掻く。
24第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/15(土) 02:00:24.37 ID:KXxH86zY
本来なら……こんな流れではなかった。


思ったより難しい設問に岡部倫太郎がどう解いたものだろうかと腕組みをしている間に、牧瀬紅莉栖がやってきてスラスラと解を示し、その日の彼は随分と面目を失ったものだった。
だからタイムリープしてやり直した際に、事前に椎名まゆりが悩んでいる試験範囲を簡単に予習し、万全の対策を施していたのである。

「終わったー! 長かったよー」

ずべ、とテーブルに上半身を投げ出す椎名まゆり。

「まだ終わってなどいない。本番の試験は休み明けだろう」
「えっへへー、そうだったねえ。忘れてたよー」

困ったような笑顔で自分の頭を撫でる椎名まゆり。

「そこを忘れては本末転倒ではないかっ」
「でも、オカリンが教えてくれたからきっと大丈夫大丈夫。だいじょうぶいぶい、なのです」

にこやかに笑いながら立ち上がり、小さく伸びをすると奥の部屋を覗き込む椎名まゆり。

「ねえねえ、下の電子レンジ使ってもいいかなあ?」

今回開発しているタイムリープマシンはかつて作成し、廃棄した電話レンジ(仮)の同型機をわざわざ探し出して作成している。元々が偶然の産物であり、不安要素は少しでも減らす必要があったのだ。
だが夏に電話レンジ(仮)を廃棄してから冬に至るまで、ラボに電子レンジがないのはいかにも不便であった。特に椎名まゆりがそれを強く主張したのだが。
そこで電話レンジ(仮)がラボから姿を消してほどなく、橋田至が廃品置き場から適当な電子レンジを回収してきて修理、ラボに備え付けたのだ。
これが椎名まゆりの言っている『下の電子レンジ』である。
ちなみにこちらは修理以外には一切手が加わっていない素の電子レンジであり、特殊な機能は何もない。

「う〜ん、別にこっちで使ってるわけじゃないけどアンペア的に不安があると思われ」
「でも数分でしょ? その間こっちを起動しなければ問題ないんじゃない?」
「けど停電はマズイっしょ。まあオカリンが全部責任取ってくれるって言うならモーマンタイだけど」
「それは困るっ」

階下から恐ろしい形相の天王寺裕吾が階段を登ってくる様を想像して背筋を寒くする岡部倫太郎。
25第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/15(土) 02:02:53.50 ID:KXxH86zY
「えー、でもー、ジューシーからあげナンバーワンが〜」
「世界が震撼する程の偉大なる発明のためだ。ジューシーからあげナンバーワンはまたの機会にするのだなまゆりよ」
「ええ〜。まゆしぃそれだけが楽しみで勉強してたのにぃ〜」
「小さいなっ?!」

思わず突っ込みを入れた岡部倫太郎ではあったが、悲しそうな椎名まゆりの顔を眺め、やがてやれやれといった表情で彼女の頭に手を乗せた。

「ともかく開発を遅らせるわけにはいかん。電子レンジの使用は禁止だ、まゆり」
「うう〜、まゆしぃはとってもと〜っても残念なのです……」

しょんぼりと肩を落とす椎名まゆりと、それを見て不機嫌そうに目を細める牧瀬紅莉栖。

「ちょっと岡部! 電子レンジなんて使ってもたかが数分でしょ! それくらいなら……!」
「だからまゆりよ、いっそ外に食べに行こうではないか」
「へ?」「ふえっ?」

意外そうな声が二つ同時に響いた。
ひとつは牧瀬紅莉栖のもの、もうひとつは椎名まゆり当人のものである。

「我が未来ガジェット研究所の偉大なる発明のためだ。ダルと我が助手が開発に専念できる環境を整えるのもラボの代表たるこの鳳凰院凶真の務めである! フゥーハハハハハ!」
「ふえー、オカリンがお昼をごちそうしてくれるなんてまゆしぃびっくりなのです」

椎名まゆりが両手を合わせて目を丸くする。

「助手よ、これで構わんな」
「い、いいけど……」
「なんだ、まだ何か文句があるのか」
「違う。ただその、なんかあんたらしくないな……って」
「そ、そうか? き、気のせいではないか?」

ギクリとして思わず言いよどんでしまう岡部倫太郎。
だが意外にも牧瀬紅莉栖の追求はいつもの精彩を欠いていた。

「そうかも。なんかずっと籠もりっきりでちょっとナーバスになってる気がする。ちょうど今開発も大詰めだし、岡部が……その、私の開発環境に配慮してくれるのは、正直嬉しい、かもしれない」
26第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/15(土) 02:06:26.54 ID:KXxH86zY
頬を赤らめて、わざとらしく腰に手を当てそっぽを向く。
その様がなんともいじらしき愛らしく、岡部倫太郎は現在進行中のミッションの事を一瞬忘れかけた。

「べ、別に感心したとかそういうんじゃなくて、いやラボの代表としては当然というか、むしろ気を使うのが遅すぎというか、ただあんたがそんな事言い出すなんて珍しいなとか、そんだけ! そんだけだかんな!」
「牧瀬氏からツンデレ分補充いただきました本当にありがとうございます。ただちょっと糖分過剰だお。オカリンオカリン、だから外に行くならついでにペプシのNEXよろ」
「うっさい黙れHENTAI!」

話が横に逸れてくれた事で岡部倫太郎はとりあえずホッと息をつく。

「確かにずっとラボに籠もったままでは空気も悪かろう。換気でもするか?」
「待ってオカリン、この寒さで窓全開にされたら僕寒さで凍え死ぬ自信があるのだぜ。光の早さでな! キリッ」
「冗談だ。後でNEXではなく何か暖かいものでも差し入れしよう」
「マジでー? さっすがオカリン僕達にできない事を平然とやってのける! そこにシビれるあこがれるゥ!」
「……なんか岡部今日はホントに変ね。どうかしたの?」

再び牧瀬紅莉栖が眉をひそめ、岡部倫太郎はギクリとその肩を一瞬竦ませた。

「まゆり、これはきっと罠よ。こいつの事だからきっと何かロクでもないことを考えてるに決まってるわ」
「きっと食事に睡眠薬をまぜまぜして眠りについたまゆ氏に色々イケナイ研究をするつもりなんだお。オカリン、その時は是非ボクも呼んでくれ」
「HENTAIは黙ってろ!」

当たり前のように牧瀬紅莉栖のツッコミが飛ぶ。

「えー、オカリンはそんなことしないよう。ねえオカリン?」
「あー、うむ。当然だろう。なぜこの俺がまゆりにそんな事をせねばならん」

岡部倫太郎は僅かに言い淀んだ後それを否定した。
なにせ今回に限り完全に嘘とも言いきれないからだ。
27第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/15(土) 02:11:28.91 ID:KXxH86zY
「ほらー」
「それはそれでまゆりに失礼じゃない?」
「クリスッティーナよ、俺にどうしろというのだそれは」
「だからクリスティーナじゃないと言うとろーが!」
「勘違いするなよ。まゆりは俺の人質だ。人質をどうこうするなど俺の勝手、俺の自由! わざわざ睡眠薬など使うまでもないわ! フゥーハハハハハ!」

高笑いする岡部倫太郎を尻目に、椎名まゆりに優しげな視線を向ける牧瀬紅莉栖。

「まゆり、こんな危険人物と縁を切るなら今のうちよ? 大人になってからこんな人と付き合ってたら絶対貴女のためにならないわ」
「そこっ! 失礼な事を言うなっ!」

ツッコミを入れつつも内心で肝を冷やす岡部倫太郎。
なにせ以前動画で見た未来の自分は未だに厨二病のままだった。
確かに自分だって大人になってまでそんな相手と付き合いたいとは思わない。

「わかった、そこまで言うなら差し入れの件はナシだ。行くぞまゆり、二人で美味いものでも喰ってこようではないか」
「あーオカリンゴメン! マジ謝るから! だから肉まん! あったかホカホカの肉まんプリーズ!」

橋田至の叫びを無視して、まゆりを連れて外に出る岡部倫太郎。寒風が肌を刺して思わず身震いをする。

「いいのオカリン、ダルくんのこと放っておいて。クリスちゃんのことも」
「構わん。いい薬だ。人の好意を踏みにじりおって」

ふん、と不機嫌そうに腕を組み階段を降りる。

「えー、ダルくんもクリスちゃんもそんなこと考えてないと思うけどなあ」

とててて、と岡部倫太郎の後を追いかける椎名まゆり。そして隣に辿り着いた事で満足そうに歩調を緩める。
そんな彼女の頭に軽く手を乗せる岡部倫太郎。

「わかっている。後で差し入れでもしてやろう」
「うんっ!」
「見た目が同じ激辛中華まんをな! フゥーハハハハハハ!」
「もー、オカリンってばー」

たしなめるような口調の椎名まゆり。
だがその表情は、口調とは裏腹にどこか嬉しそうだった。
28名無しさん@ピンキー:2012/12/15(土) 02:12:21.72 ID:KXxH86zY
というわけで今宵はここまでー
ちょっとだけ長めですが日常の風景ということで
それではまた次回ー ノノ
29名無しさん@ピンキー:2012/12/15(土) 13:31:48.48 ID:0Y5NlY/c
壁!壁は!どこだ!
30名無しさん@ピンキー:2012/12/16(日) 00:37:19.84 ID:mI9cokzD
クソぉ壁はどこだ!!壁は…っと、あぶねーなおっさん!!

…あ…て、天王寺さん…ご、ごめんなさ(死
31名無しさん@ピンキー:2012/12/16(日) 21:07:17.18 ID:+WKFFGRf
乙。
やっぱりオカリンとまゆしぃは相性が良いな。なんだかんだいってまゆりにはダダ甘なオカリンらしい
32名無しさん@ピンキー:2012/12/17(月) 23:45:09.33 ID:ItqUgOad
こんばんはー
今宵も更新しに参りましたー
33第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/17(月) 23:48:02.84 ID:ItqUgOad
7−4:2011/02/12 12:11 キッチンジロー

岡部倫太郎と椎名まゆりはキッチンジローで軽い昼食を取った。

「座れてよかったねー」
「ああ、なにせ昼時は込むからな」

ざわめく店内で一息つく。
幾つもの世界線を越えて様々な秋葉原を見てきたが、やはり秋葉原はこの雑然とした空気あってこそのものだろう、そんな感慨が湧いてきて、岡部倫太郎は自嘲するように唇を歪めた。

「ねえねえオカリン、ところで今ラボで作ってるえーっと、たいむ……」
「まゆり、外でその話題は無しだと言っておいたはずだ」
「あ、そうだった。えっへへー♪」

こつん、と己のこめかみを軽く小突く椎名まゆり。
悪気は一切ないのだろうが、どうにも口に蓋をしにくいというか、他人に秘密を作るのが苦手な娘である。


だが今回はいらぬトラブルはなるべく避けねばならぬ。
タイムマシンの開発進捗こそ芳しくないもののこの世界線でもSERNは未だ健在だし、元の世界線との類似性の高さからこの街にラウンダーが潜伏している怖れも十分にある。
街中でうかつな発言をして目を付けられたら元も子もない。
特にタイムリープマシンが完成する前に襲われることだけはなんとしても避けねばならなかった。

岡部倫太郎は半年前、己の迂闊さと危機意識の低さゆえに多くの仲間を傷つけ、彼女達の想いを無に帰して来た苦い経験がある。
それは既に上書きされて消え失せた過去だけれど、それでも彼の記憶には深く刻まれていて、
だから既に危険がわかっており、取るべき対策がはっきりしている以上、彼はラボの所長として大切な仲間達を前に同じ轍を踏むことは決して許されないのである。

「十分に気をつけてくれまゆり。ラボの存亡に、そしてラボメン達の命に関わる事なのだ」
「えー、でもでも、きっとみんなだってすごいなーって思ってくれるよー」
34第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/17(月) 23:50:56.77 ID:ItqUgOad
一方の椎名まゆりにはどうにもそうした危機感が欠如しているようだ。
当たり前だろう。彼女はこの世界線ではあの半年前の永遠の夏休み……その当時だとて命の危機などには一度たりとも瀕してなどいないのだから。
だが岡部倫太郎は知っている。この世界中で彼だけが知っている。α世界線での彼女の運命を。永劫とも思えるほどに繰り返された忌まわしき収束を。どんなに足掻いても止める事はできなかった……彼女の終末を。


己の目の前で死んでゆく彼女を……幾度も、いや幾十となく見せつけられたのだ。


だからあんな世界線にはもう行かない。決して行かせやしない。
そのためにはたとえ彼女がどう思おうと、自分達が行っているタイムリープマシンの開発を外部に知られるわけにはいかないのだ。

「俺は狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ。世間の評価など別にどうでもいい。世界に混沌をもたらすことこそが俺の望みなのだからな」
「えー、みんなにもっとオカリンのこと知ってもらいたかったのになあ」

どこか不服げにテーブルの上に上体を投げ出す椎名まゆり。
きっとそれが彼女なりの真摯な想いなのだろう。
そんな彼女の頭に軽く手を乗せて、できる限り優しく撫でる。

「俺のことはラボメンであるお前達だけがわかっていればいい。少なくとも今はまだ……な」
「……うん」

目を閉じて心地良さそうに彼の手指の感触に身を任せる椎名まゆり。
この当たり前の、どこにでもあるような日常がなんとも得難いものだと、かけがえのないものだと岡部倫太郎は知っている。
彼女が……椎名まゆりがなんの危機感もなくこうして笑っていられるのは、とても素晴らしいことなのだと。


だからこそ大事にしたい。もう二度と失くしたりはしない。
そのために……彼は、たとえ泥を啜ってでも進む覚悟があった。


「さ、そろそろ料理が来る頃だ。いつまでもテーブルに突っ伏していたら皿を置く場所がなくなるぞ」
「えー、それは困るよー」

眉根を寄せながら椎名まゆりが上体を起こす様を……当たり前の、けれどかけがえのないそんな光景を、
岡部倫太郎は眼を細め、頬杖を付きながら見守っていた。



 
35名無しさん@ピンキー:2012/12/17(月) 23:52:12.44 ID:ItqUgOad
ということでちょっと短めだけど今宵はここまでー
また次回にお会いしましょうなのだ ノノシ
36名無しさん@ピンキー:2012/12/18(火) 00:22:52.50 ID:cfiyHdMg
トゥットゥルー♪(あいさつ
37名無しさん@ピンキー:2012/12/18(火) 06:56:29.45 ID:hDu0BjZk
前スレ630でロストしたけど、ちょうど良かったのかな?
38名無しさん@ピンキー:2012/12/18(火) 12:25:09.04 ID:t7Z1Rb8T
容量オーバーでDat落ちしたよ
感想書き込もうとしたらちょうど書けなかった
39名無しさん@ピンキー:2012/12/18(火) 20:48:09.64 ID:t1Y7Q3ot
わくわくですな
40名無しさん@ピンキー:2012/12/19(水) 00:58:09.41 ID:NOWtALC4
こん、ばん、は……
ついさっき帰ってきました
出かけたの朝なのになあ……
ともかく更新だけして寝ますー
41第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/19(水) 01:00:51.27 ID:NOWtALC4
7−5:2011/02/12 13:07 秋葉原・中央通り

「ラボに戻る前に少し店を回って行く。まゆりも付き合え」
「えー、オカリン、何か買い物?」
「うむ。次なる未来ガジェットの着想を得るためにな! フゥーハハハハハ!」

そんな事を豪語しながら表通りの店を巡る。
とはいっても特に何かを購入する予定などないのだが。
まずは椎名まゆりの反応を見るための軽いジャブと言ったところだろうか。

「あー、ストーブがあるよ電気ストーブ!」

電化製品の店を物色していると、椎名まゆりが歓声を上げて暖房器具のコーナーへと駆けて行った。

「まゆり、店内を走るな。迷惑だろう」
「えっへへー、ごめーん」

口ではそうは言いながらも、椎名まゆりは展示されている電気ストーブの前にしゃがみこみ、手をかざしながら「わー、あったかーい」だの「ぽかぽかなのです!」だの暖まり具合をチェックし始める。

……まあ、実際に点灯しているわけではないのだが。

「ねえねえオカリン、まゆしぃね、これラボにあったらとってもあったかーってなると思うのです」
「却下だ却下。電気代がいくらかかると思っている。それに電気ストーブはラボの広さではあまり効率的とは言えんぞ」
「じゃあこっちはこっち! ガスストーブならきっとあったまるよー!」
「ガスヒーターならもう一台あるだろう。年末にダルが拾ってきた」
「あー、そういえばそうだった。えっへへー」

こつん、と己の頭を小突く椎名まゆり。
確かに彼女の言いたいこともわかる。あのガスヒーターは確かに便利だが、旧式のせいか部屋全体が温まるのに結構時間がかかるのだ。
ゆえに現状真冬に誰もいないラボに最初にやって来た人間は、部屋が暖まるまで少々肌寒い思いをする必要があった。
42第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/19(水) 01:02:23.97 ID:NOWtALC4
「じゃあこれは……」
「灯油は誰が運んでくるんだ。それに換気はどうする。暖まるたびに部屋の窓を開けることになるぞ」
「う〜ん、難しいねえ」
「ともかく暖房は諦めろ。少なくともここにあるものは我がラボの予算的に無理だ」
「えー、じゃあオカリンはなんでこんなところに寄ったの?」
「う……いやそれは……というか違う! このコーナーにはお前が寄り道したんだろう、まゆりよ」
「あれれ、そうだっけ?」
「そ・う・だ。では先に行くぞ」
「あー、オカリン待ってよ〜」

岡部倫太郎の歩みに遅れるまいと、とたたた、と小走りで追いかけてゆく椎名まゆり。
けれど彼女の歩調には置いてゆかれた、といった焦燥や不安は感じられない。

「遅いぞ、まゆり」
「えっへへ〜。ごめ〜ん」

とん、と小さく飛び跳ねて、両脚で岡部倫太郎の隣に着地する。
なんとも嬉しそうな、柔らかな笑みで。

椎名まゆりは知っている。岡部倫太郎の優しさを。
椎名まゆりは知っている。彼が決して自分を置いていったりしない事を。

自分が小走りで追いかけているなら歩調をゆるめてくれる。
角を曲がったら少しの間佇んで追いつくのを待ってくれる。


自分が迷わないように。いつだって。


自然口元をほころばせた椎名まゆりは、岡部倫太郎の左手を掴んで半ば強引に腕を組んだ。
いや、むしろどちらかと言えばそれは、腕を引きながら彼に寄りかかるような格好に近いかもしれない。
43第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/19(水) 01:05:56.38 ID:NOWtALC4
「おい、まゆり、どうした」
「ん〜、なんでもないので〜す」
「なんでもないという事はなかろう。こら、歩きにくいぞ。手を離さんか」
「えっへへ〜。イ〜ヤな〜のですっ♪」

なんとも上機嫌にそう告げた椎名まゆりはさらに腕を引き、上半身を傾けて岡部倫太郎に身体を預けた。

「あー、いや、その、なんだ……」

頭を抱えながら周囲を見渡す岡部倫太郎。
土曜日ゆえに歩道には歩行者が蔓延しており、その雑踏どもは当然と言うべきかリア充氏ね! 的な空気を蔓延させている。

少し離れた場所では年嵩な女性達が何やらひそひそと小さな声で囁き合っては岡部倫太郎のよれよれの白衣に胡散臭げな瞳を向けていた。
その視線は羨望や嫉妬というより……むしろ無垢な少女に不埒を働こうとする不審者に対するそれだろうか。

「と、ところでまゆりよ。どこか行きたいところはないか」
「ふぇ? どうしたのオカリン?」

どこか上ずった声の岡部倫太郎の言葉に、腕をぎゅ〜っと引っ張ったまま、下から見上げるようにして椎名まゆりが問いかける。

「ど、どこへなりとも連れて行ってやろう。どこでもいいぞ!」
「どこって……どこ?」
「どこでもいいと言っただろう! ともかくここではないどこかにだ!」

どこかコミカルな口調ながら、岡部倫太郎は割と切羽詰っていた。
けれど端から見ればこれもいちゃついている様に見えるのだろうか。
周囲の好奇に満ちた視線を浴びて、真冬だというのに岡部倫太郎の肌にはじんわりと汗が浮いてきた。

「えっとね〜、じゃあオカリン、ちょっと付き合ってもらってもいい?」
「ああ構わんぞ! さあ行こうすぐに行こう!」
「ふぁ……」

岡部倫太郎は椎名まゆりの手を取ってスタスタと歩き出す。
ととと、と少し体勢を崩しながら、だがすぐに持ち直した椎名まゆりがそれに続いた。
一刻も早くその場を立ち去りたい岡部倫太郎の歩みは結構な速さで、いつもよりやや急いた感じでそれに合わせる椎名まゆり。

けれど彼女には不満などなかった。むしろ逆であった。
己の右手を掴んでいる岡部倫太郎の手。いつだって自分を引っ張ってくれる素敵な手。真冬なのにやけに暖かい大好きな手。

「えっへへ〜♪」

やけに嬉しそうに笑った椎名まゆりは……
やがてとてて、と早足で岡部倫太郎の隣に並び、再びその歩調を合わせた。
これまでもずっとそうしてきたように。




……きっとそれが必要なら、これからも何度だって。




 
44名無しさん@ピンキー:2012/12/19(水) 01:06:27.94 ID:NOWtALC4
そんな感じで今宵はここまでー
ね、眠い…… ノノ
45名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 00:00:02.88 ID:+SdvqqAy
乙です
なんか美しいですよね
何かはわからないけど
46名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 00:13:19.51 ID:DegG+4X1
こんばんは……
今宵もなんとか更新できそうです
このペースを維持できるといいですね
47第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 00:14:29.82 ID:DegG+4X1
7−6:2011/02/12 14:12 ドンキ・ホーテ店内

「で……行きたいというのが、ここか」
「だってだって、オカリンと一緒に来てみたかったの!」

彼らがやって来たのは最近すっかり秋葉原に定着したドンキ・ホーテであった。
様々な品が結構良心的な値段で、所狭しと並べられている。
決して見やすい店内ではないけれど、そこをむしろ宝探しでもするような感覚で物色するのがこの店の特徴であり、楽しみ方でもある。

無論ただ賞品を物色しに来たわけではない。
椎名まゆりが望んで来た場所である。ここに何かの攻略の手がかりがあるのではないか……
岡部倫太郎はそう目論んでいたのだ。

だが……

「わぁ〜、すごいすごい! オカリンオカリン、このお猿さんシンバルで目覚まししてくれるよ!」

妙にはしゃぎながら椎名まゆりが雑多に詰まれた目覚ましコーナーの一角を指差す。
そこには昔ありふれていたシンバルを打ち鳴らす猿のおもちゃに目覚まし時計の機能が付与された商品が特価で売られていた。

「ただ喧しいだけではないか? そもそもまゆり、お前目覚まし時計は既に持っているだろう」
「え〜、でもでも、いっぱいあった方がしっかり目覚めるかもなのです!」

必死に抗弁する椎名まゆりだが、それは売り言葉に買い言葉のたぐいであってあまり説得力は感じられぬ。

「そこまでして目覚めたい状況とは一体なんなのだ」
「え〜っと、例えばコミマの始発に遅れないようにするとか〜」
「早寝早起きを心がけろっ!」

岡部倫太郎のやや甲高い声のツッコミに、だが椎名まゆりは唇を尖らせる。

「え〜、だってだって、コスプレ用の衣装の製作でちゃんと眠れない時もあるし〜」
「しっかり計画しろ。前日にまで仕事を残すな」
「ええ〜」
「大体まゆりよ、お前はなんでも引き受けすぎなのだ。確かにお前のコスプレ衣装製作技術が優れているのは認めるが……」
「でもでもでもオカリン、まゆしぃの作った服を着てくれるレイヤーさんが1人でも増えたなら、まゆしぃはすっごくすっごく幸せなのです」
48第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 00:15:24.85 ID:DegG+4X1
にぱー、と邪気のない笑みで笑う。本気でそう思っているのだろう。
この笑顔は……かつて岡部倫太郎が命を賭けて守ったものだ。
幾度も幾度も幾十度も挑み、敗れた。その都度彼女の死を目の当たりにしてきた。
心を、魂をすり減らすようにして必死に挑み、ようやくたどり着いたのがこの世界線である。
だから……今彼女のこの笑顔を見る事ができるのは、彼のささやかな、だが何よりの褒賞であり、そして誇りでもあった。

「オカリン……?」

岡部倫太郎が僅かな間耽っていた感慨から我に返ると、椎名まゆりがじいと上目遣いで彼を見つめていた。

「? どうしたまゆりよ」

事情を話していない椎名まゆりに気取られるような事は何もなかったはずだが……
岡部倫太郎は首を傾げて椎名まゆりを見つめ返す。
すると彼女は何故か頬を紅に染めて、ばつが悪そうに顔を背けてしまう。

「オカリン……ずるいのです」
「なにがずるいのだまゆり。この俺、鳳凰院凶真はラボメンに対して卑劣を働くような真似はしない! フゥーハハハハハ!」

そう言いながら彼の胸はちくりと痛んだ。
今まで自分がやってきた事が、そしてこれから彼女に対して働こうとしている行為が、卑劣でなくてなんなのだろうか、と。

脳裏に浮かぶラボメン達の姿……
策を弄するようにして、罠に嵌めるようにして抱いたフェイリス・ニャンニャン。
いかにも己には罪のないフリをして、偶然を装うようにして心を弄んだ漆原るか。
大人のデートを重ねて、盛り上げた雰囲気の中で押し倒した桐生萌郁。


そしてまた今回も、そんな風にして彼女を……椎名まゆりを、自分は……!


 
49第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 00:16:46.40 ID:DegG+4X1
「ちがうの〜。そういう意味じゃなくって……」
「どうしたまゆりよ。言いたい事があるならはっきりと言わんんか」

慌てて我に返った岡部倫太郎はとりあえず話題を自分から相手へと切り替える。
気取られた様子はない……ような気がする。
確かに今日の椎名まゆりはいつもと違って少々歯切れが悪かった。
時折総てを見透かしたかのような鋭い洞察力を発揮する彼女が、今日はなんとも挙動不審である。

「な、なんかオカリンのまゆしぃを見る目つきが……」

ゴニョゴニョ、と消え入るような声で椎名まゆりは抗弁し、顔を背けたままチラリと視線だけ岡部倫太郎に送ると再び逸らす。
気のせいか耳朶の赤味が増したようにも見えた。

「な、あ、いや違うぞまゆり! 俺は決してお前をいやらしい目付きで見ていたわけでは……!」

慌てて大声を出したせいで周囲からの視線を集め、ますますうろたえる岡部倫太郎。
彼女が言いかけていた事は全然別の事だったのだが、まあ発言内容から類推すれば彼がそう誤解してもおかしくはない。

商品がうず高く積まれたこの手狭な通路で、少女と見紛う娘に必死に言い訳をしている白衣の男は怪しいことこの上なく、
岡部倫太郎は店員が召喚される前に急いで撤退した。


……椎名まゆりの手を、強く引きながら。


「オ、オカリ〜ン!」

引かれるがままに岡部倫太郎の後を追う椎名まゆり。
その頬には、うっすらと朱が走っていた。
50名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 00:18:15.14 ID:DegG+4X1
というわけで今宵はここまでー
まゆしぃ可愛いよまゆしぃ
それではまた次回お会いしましょう ノシ
51名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 00:57:39.89 ID:D1ajQjny

やべぇ、紅くなるまゆしぃ超可愛い
52名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 23:47:20.75 ID:DegG+4X1
こんばんはー
今宵は珍しく余裕をもって更新できそうです
53第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 23:49:35.16 ID:DegG+4X1
7−7:2011/02/12 16:22 秋葉原・中央通り

その後岡部倫太郎と椎名まゆりは二人で秋葉原をぶらぶらと歩いた。
いずれラボに戻るという確たる終着はあったけれど、彼らには取り立てて目的地があったわけではない。

にも関わらず、寒風吹き荒ぶ2月の秋葉原を、その身を寄せ合ってゆっくりと散策する。
不思議と寒さはあまり感じなかった。
椎名まゆりは岡部倫太郎の横で何か楽しそうに語りかけ、どこか嬉しそうについてゆく。
電気屋、メイド喫茶、玩具店、フィギュアの店……秋葉原独特の雑多で混沌とした街並み。
彼女は岡部倫太郎と共に歩きながら、それらの店を覗き込み、まるで宝石箱を見つけたかのように瞳を輝かせていた。

「見て見てオカリン、あれ凄いよ〜♪」
「……まったく、まゆりよ、お前は相変わらず楽しいことを見つけ出す天才だな」
「ええ〜? そうかなあ?」
「ああ、そうだとも。自信を持っていいぞ。この鳳凰院凶真が保障してやろう。フゥーハハハハハ!」
「ん〜、よくわかんないけど、オカリンに褒められるとまゆしぃは嬉しいのです。えっへへ〜」

嬉しそうに微笑んで帽子を直す椎名まゆり。
彼女の笑顔が眩しくて、岡部倫太郎は僅かにたじろいだ。
これほど自分に全幅の信頼を寄せてくれている相手を、自分は今から練習台にしようとしている。
これは彼女に対する裏切りではないだろうか。

……いや、違う。断じて裏切りなどではない。
牧瀬紅莉栖を、そして彼女自身を救うためだ。それはわかっている。わかっているのだが。

「? オカリン?」
「ああいやなんでもない。次はここなどはどうだ?」

抜けているようでいて意外に鋭い椎名まゆりの追及を逃れるため、岡部倫太郎は適当に中央通りから一本脇道へと入る。
そこには店内総てがカプセルトイで埋め尽くされたなんとも秋葉原らしい店があった。
54第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 23:50:39.86 ID:DegG+4X1
「わあ、うーぱだ! ねえねえオカリン! これやりたい! やっていい?」
「ふむ……まあよかろう」

岡部倫太郎が財布の中身を確認して大仰に肯くと、椎名まゆりは喝采を上げてコインを入れ、レバーを回す。
出てきたのは何の変哲もないうーぱだったが、椎名まゆりは嬉しそうにそれを抱き締めた。

「えっへへ〜、オカリンにもらったうーぱはこれが2つめなのです」
「む、あの時はメタルうーぱでは……ああいや、なんでもない」

途中まで言いかけて岡部倫太郎は慌てて口をつぐんだ。
彼がメタルうーぱを引き当て椎名まゆりに手渡したのはこの世界線ではない。
だからあれは岡部倫太郎の記憶にはあるが椎名まゆりの記憶にはない出来事なのだ。

椎名まゆりを救い、牧瀬紅莉栖を助け出せた唯一の世界線。
たどり着いたこの世界線を二度と変えたいとは思わないけれど、それでも時折ラボメンたちとの乖離に気付き胸が苦しくなる事がある。

過去の記憶の僅かなズレや齟齬、そしてそこから感じる疎外感。
自分だけが……岡部倫太郎だけがこの世界に溶け込んでいないという不気味な遊離。
けれどそれは飲み込まなければ。総て飲み込んで先に進まなければ。だってそれは所詮岡部倫太郎個人の苦しみに過ぎないのだから。

そうでなくばラボメンのみんなの想いを犠牲にしてまでこの世界線に到達した意味がないではないか。
己がしでかしてきた愚かな過ちに比べれば、その程度の苦しみなど……!

「……オカリン、大丈夫?」
「あ……ああいや、大丈夫だ、問題ない」

気付けば椎名まゆりが心配そうな表情で彼を見上げている。
岡部倫太郎は慌てて取り繕うと僅かに顔を逸らした。
55第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 23:51:19.83 ID:DegG+4X1
「だめだよオカリン、悩んでることがあるならちゃんと相談しないとー」
「だから問題ないと言っているだろう。お前が心配しなくても大丈夫だ、まゆり」
「うう〜。確かにまゆしぃはクリスちゃんとかダルくんに比べたらなんの役にも立たないかもだけど……」
「そんな事はないさ。まゆりはちゃんと役に立ってるとも」

椎名まゆりの台詞につい反射的にそう答えてしまう岡部倫太郎。
けれどここで引き下がるわけにはいかない。言うべき事はしっかり言わねば。

「ホント?」

見上げる彼女の瞳は彼女にしては珍しくどこか不安そうで、岡部倫太郎の胸が不思議とざわついた。

「ああ、本当だ。まゆりがいなかったら俺は大事な道をきっと幾度も間違えてしまっていたろう。まゆりがいてくれたから俺はここまでたどり着けた。本当に感謝している」

その言葉に嘘はない。
半年前……彼女の死を回避する為だからこそ岡部倫太郎はあそこまで必死になれたのだ。途中の彼女の励ましや告白、激励があったからこそ幾度も立ち上がって来られたのだ。

あの時阿万音鈴羽のタイムマシンを前にして、心が折れかけていた己を叱咤してくれた一言。
あれがなければ岡部倫太郎はきっと惨めな敗残者のままだったに違いない。
椎名まゆりを救う、牧瀬紅莉栖を救う……そのために必死に足掻いてきた。
けれどその実、岡部倫太郎は幾度も彼女達に救われてきたのだ。
二人にはいくら感謝してもし足りないくらいなのである。


……今の自分の顔を彼女に見せないほうがいい。
岡部倫太郎は椎名まゆりの帽子を取り、頭に手を乗せて、己の顔を見せないようにしながら多少強引に撫でつける。
56第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/20(木) 23:52:05.65 ID:DegG+4X1
 

……今の自分の顔を彼女に見せないほうがいい。
岡部倫太郎は椎名まゆりの帽子を取り、頭に手を乗せて、己の顔を見せないようにしながら多少強引に撫でつける。

「えへへ〜、オカリンが褒めるなんて珍しいのです。なにかいい事でもあったのかなあ?」

素直に喜んでいる椎名まゆりの笑顔に胸を掻き毟られる。
それを誤魔化すように、彼は椎名まゆりの髪を一層に強く、ぐしゃぐしゃと掻き回した。

「ちょっと〜、オカリンつよい〜。や〜めぇ〜てぇぇ〜〜」
「ああ、すまん、つい、な」

目をぐるんぐるんと回す椎名まゆりに慌てて手を離す。知らぬ間に力を入れすぎてしまったらしい。

「んも〜、オカリンってばひどいのです。ぷんぷんなのです!」
「いやだからスマンと言っているだろう。悪かった、まゆりよ」

腰に手を当て大仰にヘソを曲げる椎名まゆりの横で、両手を合わせて拝み倒す岡部倫太郎。

「反省してる?」
「ああ」
「ホントにホント?」
「ああ、しているとも」
「えへへ、じゃあ今回は許してあげます♪」

大仰に頭を下げる岡部倫太郎を、どこか慈しむような瞳で見つめていた椎名まゆりがにこ、と微笑む。
岡部倫太郎が幾ら怒らせるようなことをしても、彼女は大概すぐに許してしまう。
それは椎名まゆりが単純な性格だから……とも言い切れぬ。どちらかと言えば年下の割に時折見せる母親のような包容力の為せる技、とでも言うべきだろうか。
彼女のそうした笑顔に、岡部倫太郎は幾度も助けられてきた。




……本当に、助けられてきたのだ。



 
57名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 23:52:58.08 ID:DegG+4X1
というわけで今宵はここまでー
なかなか攻略のとっかかりが掴めないオカリン
いや普通に見てるとただのデートですけど
それではまた次回ー ノノ
58名無しさん@ピンキー:2012/12/21(金) 00:24:16.99 ID:tqK1tBIb

どう見てもカップルのデートですありがとうごさいました
リア充爆発しろ!
きっと可哀想なオタク達が数人憤死したに違いない
59名無しさん@ピンキー:2012/12/21(金) 00:30:31.33 ID:GUthTnaT

リア充爆発しろ
60名無しさん@ピンキー:2012/12/21(金) 01:03:53.25 ID:KzBXhEn6

憤死犠牲者がここに
61名無しさん@ピンキー:2012/12/21(金) 01:52:43.54 ID:QpjBh1lu
コレはスレが建つ勢いで壁殴
62名無しさん@ピンキー:2012/12/21(金) 08:31:56.49 ID:fKsviYoi

アパートの壁が消えた
63名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 00:28:04.17 ID:+1SJMCJP
こんばんはー
文章途中かぶっちゃっててごめんなさい
自分ばっかり申し訳ないですが今夜も更新していきます……
64第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/22(土) 00:31:54.19 ID:+1SJMCJP
7−8:2011/02/12 17:10 秋葉原・昭和通り

夕方、すっかり暗くなった通りを2人で歩く。
無論この時期は昼間でも寒いが、それでもやはり昼は太陽の恩恵があるのだという事を岡部倫太郎は改めて実感した。

「いっそ太陽嵐でも……いやいやいや、流石にそれはまずいか」

ぶつぶつと呟きながらビルの向こうに隠れた太陽に少しだけ毒づく。あと10分もすれば日の入りだろう。

「だいぶ寒くなってきたね……」
「ああ……」

なんとなく口数の少なくなった2人は、互いに身を寄せ合うようにして雑踏の中を歩いていた。

(ええい、くそ、本当にこれでいいのか……?)

岡部倫太郎の焦燥は濃い。
実際今日一日椎名まゆりと一緒にいたというのにまるで進展がなかった。
他の女性……例えばフェイリスなり桐生萌郁あたりならばより仲が進んだ、或いは距離が縮まったと感じることもないではなかったのだが、こと椎名まゆりに対してはそれがまるで感じられない。

別にけんもほろろ……というわけではない。
むしろ逆である。いつもの距離が近すぎるのだ。

普段から一緒にいるから仲が深まる実感もない。言い方は悪いが空気のようなものだ。
相手の事は互いに大体わかっているし、何をして欲しいのかも肌で感じる。
けれどいざそこから踏み出そうとした時……どうしたらいいのかがまるでわからない。

(むう……またタイムリープしてやり直すにしてもせめてとっかかりの一つも掴めなければな……)

岡部倫太郎が今回のタイムリープは半ば失敗と諦め、次回以降の為に必要な情報を入手するべきだと頭を切り替えようとした、その時……

「……まゆり?」

つい先刻まで少し遅れてはとててて、と己の隣まで小走りに駆けてきたというのに、今はその気配がない。
ハッと気づいて振り返る岡部倫太郎。

 
65第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/22(土) 00:33:35.15 ID:+1SJMCJP
……椎名まゆりの様子が、おかしい。
ぼんやりと、虚ろな表情で、虚空を見上げて無言で手を伸ばしている。


「“星屑の握手(スターダスト・シェイクハンド)”……!?」

最近あまり見かけなかっただけに虚を突かれた岡部倫太郎は思わず棒立ちとなってそれを見つめてしまう。
けれどここは往来のど真ん中だ。
虚空に手を伸ばし身動き一つしない彼女をどこか怪訝そうに眺めながら人波が左右に分かれてゆく。
このままではいかんと岡部倫太郎は彼女が伸ばしていない方の手を掴み、道路の端まで連れて行ってそっと抱き締めた。

こんな時間に一体何に向かって手を伸ばしていたのだろうか。
本当に星屑を掴もうというのなら、いっそ昼間よりはお似合いの時間だけれど。

「まゆり……」

優しくて、愛しくて、大切な娘。
自分の愚かしさで幾度も死を迎えた、いくら贖罪を重ねても足りぬ相手。
今のように放っておくには危なっかしくて、けれどいつだって自分の背中を支えてくれた、かけがえのない女性。

そんな彼女を……自分は抱かなければならぬ。
身勝手な理由をつけて、騙すようにして。

それが牧瀬紅莉栖を救うためだというのはわかっている。
椎名まゆりの、彼女自身の未来における悲惨な運命を変えるために必要なことだということも理解している。
そう、迷うようなことなど何もないのだ。



何もないというのに……!


 
66第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/22(土) 00:37:23.05 ID:+1SJMCJP
ぎり、と歯ぎしりをする岡部倫太郎の腕の中で……椎名まゆりが僅かに身じろぎをする。

「む……気づいたか、まゆり」
「……オカリン、いいよ?」
「なに?」

不意に、椎名まゆりがそんな事を呟いた。

「いい……とは?」

一瞬意味が理解できず、鸚鵡返しに尋ねてしまう岡部倫太郎。
彼の腕の内で目を閉じて、彼の胸の感触を確かめるようにして頬を押し当てていた椎名まゆりが、もぞもぞと動きながら顔を上に向けた。

「オカリン、まゆしぃに何かお願いしたい事があるんだよね? きっとすっごく言いにくいお話」
「…………!!」

真下から岡部倫太郎を見つめるようにしてずば、と確信を突いてくる。
あまりに単刀直入すぎて、岡部倫太郎は思わず言葉を失った。

「でも……いいの。オカリンがこれ以上悩むことなんてないんだよ?」

緩んだ腕の内から抜け出した椎名まゆりはとてて、と僅かに距離を開け、上体を傾けると彼を下から覗き込むようにして言葉を続けた。

「言って欲しいな、オカリン。まゆしぃにできることならなんでもするから」
「いや、しかし……っ」

椎名まゆりの瞳にあるのは絶対の信頼。
それは岡部倫太郎が決して彼女に酷いことをしないでであろうと信じて疑わない目だ。
だが心に後ろめたいところのある岡部倫太郎は、彼女の無垢な瞳に思わずたじろいでしまう。

「ね、お願い。まゆしぃね、オカリンの役に立ちたいの。ラボメンの中でね、まゆしぃだけぜんぜんオカリンの役に立ってないから」
「そっ、そのようなことはないぞっ! さっきも言っただろう!」
「うん、わかってる。オカリンならそう言ってくれるって。でもでも、それだとまゆしぃの気が済まないのです」
67第7章 懸想千秋のハープスター(上):2012/12/22(土) 00:40:09.40 ID:+1SJMCJP
両手を胸の前で組んで、上目遣いで懇願してくる。
頼みごとをする側ではなくされる側がこんなに必死だというのも考えてみれば奇妙な話だ。

「その……なんだ、まゆりよ」

途中までやや心許ない口調で語り始めながら……岡部倫太郎は覚悟を決めた。

「何を隠そうこの鳳凰院凶真は狂気のムァッドサイエンティストである!」

口調を岡部倫太郎から鳳凰院凶真へと変え、大仰なポーズを取る。

「うん、知ってる」
「その狂気の科学者が口にも出すことを憚られるような内容なのだ。今から貴様の身体には見るもおぞましく聞くも戦慄するような数々の人体実験が襲い掛かることになるだろう! フゥーハハハハハ!」
「うん、わかった」

あまりにあっさりとした受諾の言葉に、ポーズを決めた岡部倫太郎がずるりと肩を崩す。

「ほ、本当にいいのかっ! 後悔したりはしないなっ!?」
「え〜っと、困ったりはするかもだけどー、きっと後悔はしないのです」
「ほ、ほう、なかなかに強靭な精神力だな。素晴らしい、それでこそ我が被検体に相応しいというものだ!」
「ヒケンタイ? ん〜、そういうのはよくわからないけど……」

人差し指を己の顎に当て、椎名まゆりは満面の笑顔で応えた。

「まゆしぃはオカリンの人質だし、ジンタイジッケンのイケニエなので、オカリンの言う事には逆らえないのです♪」
「まゆり……!」

思わず往来を背に彼女を抱き締めたい衝動に駆られた岡部倫太郎は、だがなんとか己の心にブレーキをかける。
焦ってはいけない。どんなに順調に事が進んでいようと、決して油断してはならない。




そう……それは始まりだった。
岡部倫太郎と椎名まゆりの……長い、長い道程の始まりに過ぎなかったのだから。




(『第7章 懸想千秋のハープスター(中)』へ つづく)
68名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 00:41:48.52 ID:+1SJMCJP
というわけで今宵はここまでー
まゆり健気だよまゆり
ではまた次回ー ノノ
69名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 00:44:21.66 ID:Xq/uKZHW

まゆしぃは既にオカリンがしようとしてるコトを知ってるような気さえしてくる。
70名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 01:40:44.46 ID:AkohY8Zk
末永く爆乙
71名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 02:47:33.68 ID:JuzFYnd9
72名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 08:50:02.52 ID:K1RAShAz
>>69
RSで夢に見ていたりして
73名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 14:17:09.64 ID:NM5XJdcW
>>72
お、おぉ…。
74名無しさん@ピンキー:2012/12/22(土) 23:16:53.79 ID:itNsGjBJ
>>72
だろうな…
75名無しさん@ピンキー:2012/12/23(日) 14:31:26.49 ID:Yp64Arrt
続きmdky
76名無しさん@ピンキー:2012/12/23(日) 15:57:21.94 ID:iv8nVdO+
年末で忙しいんだろ。ゆっくり待てよ。
77名無しさん@ピンキー:2012/12/23(日) 16:05:43.71 ID:lLvgt/sD
元々ここの主は週休2日だ
78名無しさん@ピンキー:2012/12/23(日) 16:53:52.12 ID:wX/K3g7/
焦りは禁物だぜ?
79名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 02:33:15.60 ID:BqJqVb9b
もしかしたらリア充爆発してるころかもだしな
80名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 14:13:50.35 ID:D1wKN7Pz
いやいやまさか…まさか…
81名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 19:12:37.46 ID:YlXmXyx1
なん‥だと‥
82名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 19:26:52.04 ID:4OfZCyIp
おまいら動揺しすぎwewwee
83名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 20:45:13.66 ID:Tam6/34k
と鏡
84名無しさん@ピンキー:2012/12/24(月) 23:53:59.58 ID:ZO/uiihZ
こんばんは
今宵も遅くなってしまいましたがなんとか更新できそうです
リア充?
爆発すればいいと思うの
85第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/24(月) 23:58:42.04 ID:ZO/uiihZ
7−9:2011/02/12 17:43 秋葉原第一ホテル

「ほぇ?」

強い決意を秘めた岡部倫太郎に手を引かれ、普段通らぬ道を通り、

「ほぇぇ?」

前だけは幾度も通りがかった事のあるホテルに引きずり込まれ、実に手馴れた様子でチェックインされて、

「ほぇぇぇ?」

ホテルの一室に案内され、ダブルベッドの部屋に通されて、

「ほぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

そのベッドの上に正座して、椎名まゆりはようやく我に返った。

「オ、オカリン?!」
「どうした、まゆり」

あらかじめ買っておいたドクペを冷蔵庫の中に放り込む。
冷蔵庫の利用は自由だがルームサービスを利用すると高くつくからだ。
岡部倫太郎は桐生萌郁を攻略する際幾度もこのホテルを利用しており、既に大体の構造を把握していた。

「あのね、あのあの、これってどういう……?」
「まゆり、お前が言ったのではないか、どんなことでもすると」
「う、うん、言ったよ? 言ったけど、その、これから何をするのかサッパリなのです」

この手のホテルに入り慣れていないのだろう。椎名まゆりはやや挙動不審げに部屋の中を見回している。
普段の彼女ならば外の景色を見てはしゃいだり部屋のテレビを弄ったりと色々無邪気に遊びまわるはずなのだが、今日に限ってはなぜか妙に大人しい。

うろうろと動かす視線がベッドの上の枕で止まり、思わず硬直してしまう。
だってベッドはひとつ、枕はふたつなのだ。
これはどうしたって頬に朱を注ぐのが止まらない。止められない。
86第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 00:01:19.10 ID:ZO/uiihZ
確かに椎名まゆりは岡部倫太郎が言い出すどんな実験でもその身に受ける覚悟であった。
彼の苦しむ顔は見たくなかった。そのために自分ができる事ならどんな事だってするつもりだった。
けれどまさかこのような事になるとは予想していなかったのだ。

それは確かに夢想しないではなかったけれど。
時折夢に見ないでもなかったけれど。
顔中まっ赤にしてベッドから飛び起き、慌てて部屋を見回して、彼の姿が見当たらぬ事に軽く落胆したりもしたけれど。

それでも……あれはただの夢。
寝ぼけ眼をこすって、徐々に目が覚めるにつれ薄れてゆく陽炎のような記憶。
ついさっきまではっきりと覚えていたはずなのに、今では夢の中の彼の横顔すらぼんやりとしか思い出せない。


そして……記憶と共に急速に薄れゆく彼のぬくもりに、まるで凍えるようにその身を抱き締めるのだ。


けれど、それにしても今日は一体どういうつもりなのだろう。
椎名まゆりは彼の考えていることがよく理解できなかった。

こんなところに連れて来ておきながら岡部倫太郎は何も言い出さぬ。だが彼をひたすらに想い続けてきた少女にとってはある想像が……なんとも己に都合のよい妄想が胸にもたげてきてどうしたって離れてくれない。

サッパリだなんて大嘘である。けれど自分の口からは流石に言い出す事はできない。
だってまさか、そんな。己がずっと望んでいた、切望していた、夢にまで見ていた事が、今日この日にこんな機会で訪れようだなどと……
87第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 00:04:15.48 ID:NFGCB+sj
「その……なんだ、まゆりよ、今からお前に人体実験を行う」

暫らく何かを思案していた岡部倫太郎は、やがて言葉を選ぶように話し始めた。

「人体……実験?」
「うむ、まあ新しい未来ガジェットを開発するためにだな、人体の構造について体感的理解を得る必要があるというかなんというか……」

ぐしゃぐしゃと髪を掻きながら、岡部倫太郎は言いにくそうに続ける。

「まあわかりやすく言えばまゆりよ、お前の身体を調査させてくれ」
「なあんだ、研究のためなんだ」
「何がなあんだだ、最初にそう言ったではないか」

思っていたこととちょっと路線が違う事に半ば安心し、だが少しだけ気落ちする。
けれどそれもまた実に岡部倫太郎らしい理由ではないか。
考えてみればそもそも前提がおかしいのだ。準備も何もなく唐突に彼の方から告白するなどと。
そんな事は決してあり得ない……椎名まゆりはそれを誰よりも知っている。


だって彼には……岡部倫太郎には牧瀬紅莉栖がいるのだから。


「うん、わかったよオカリン。まゆしぃはラボの研究のために頑張るのです!」
「よく言ったまゆり……済まないな。助手は今新しいマシンの開発で手一杯でお前しか頼れないのだ」
「えっへへ〜。気にすることないのです。だってまゆしぃは……」
「俺の人質だから、か?」
「うん♪」

己が目の前の男の人質である事を……
その少女は、実に嬉しそうに肯定した。




 
88第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 00:05:32.53 ID:ZO/uiihZ
というわけで今宵はこれまでー
他のヒロインがベッドに連れ込むまでが攻略だというなら
まゆりの場合ベッドに連れ込んでからが本格的な攻略開始でございます
それではまた次回ー ノノ
89名無しさん@ピンキー:2012/12/25(火) 00:10:15.88 ID:72ecUykT

ラスボスが待ち遠しくなってきた
90名無しさん@ピンキー:2012/12/25(火) 00:25:55.22 ID:Yyhr7tLg
乙ぱい
まゆりはなんのかんのでコミマ行きなれてるし、知識だけは豊富そうな気ガス
逆に、クリスのこと想ってるのがバレてる以上そのことで拒絶が来たりしないだろうか…
91名無しさん@ピンキー:2012/12/25(火) 08:48:23.09 ID:FutDahCF

だーりんでのまゆりとオカリンを見る限り、付き合ったらバカップル確定の2人だよな
92名無しさん@ピンキー:2012/12/25(火) 23:40:22.11 ID:NFGCB+sj
こんばんはー
今日は多少余裕を持って更新できそうですー
93第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 23:42:54.19 ID:NFGCB+sj
7−10:2011/02/12 18:02 

「では……ゆくぞ、まゆり。辛くなったらちゃんと言うのだぞ」
「はいは〜い!」

片手を挙げ、明るく返事をする椎名まゆり。
それを聞いてギシ、とベッドの上に膝立ちで上がり込む岡部倫太郎。
望んでいたものと違うけれど同衾している事に変わりはなく、表面上は朗らかながらやや緊張気味の椎名まゆり。
二人は……ベッドの上で、互いに座り込みながら間近で見詰め合った。

じいー……
じいい〜〜……
じいいい〜〜〜……

「は、恥ずかしいのです……」

ぽぽ、と頬を染め、上目遣いで岡部倫太郎を羞恥混じりの視線で見つめ返す椎名まゆり。
その破壊力はいつもの彼女に慣れ親しんだ岡部倫太郎すら思わず取り乱しかねないほどであった。

「馬鹿者! いちいち言うな! こ、こっちまで恥ずかしくなってくるではないか!」
「えっへへ〜……ごめんねオカリン」

ちろ、と舌を出して困ったように笑いながら己の側頭部をこつんと軽く小突く椎名まゆり。
彼女のそんな様子をどこか困ったような、だが決然とした表情で見つめている岡部倫太郎。

普段の彼女なら……岡部倫太郎の様子がおかしい事に気付けたかもしれない。
けれど椎名まゆりは現在極度の緊張状態にあった。
知らず汗をかき、鼓動を早め、頬が紅くなるのを必死に抑えようとして失敗し、のぼせた流し目で岡部倫太郎をチラチラと見つめる。
まあこんな状況で平静であれと言われても到底無理な話だろうが。

岡部倫太郎はそんな彼女の様子をじっと見つめ、その後そっと彼女の帽子をつまみ、ベッドの脇に置く。
そして小さく息を吸い込むと、覚悟を決めたのか、ごくりと唾を飲み込んで……
椎名まゆりの小柄な割りに豊かな胸を、服の上からそっと包み込むように触れた。
94第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 23:45:03.14 ID:NFGCB+sj
「ん……っ」

ぴくん、と椎名まゆりが反応する。

「……オカ、リン?」
「どうだ、まゆり、どんな感じだ?」
「んー、よくわからないのです」
「ではこれではどうだ?」

今度は両手で双丘を掴み、軽く、優しく揉み解す。

「はひゃ?! オ、オカリン、く、くすぐったいよう! あは、あははははは!」

唐突に笑い出す椎名まゆりにびっくりする岡部倫太郎。
胸を揉んでこのような反応が出ようとは完全に彼の予想の範囲外であった。

「そ、そうか……くすぐったいのか」
「あは、やん、もぉ、オカリンやめて、やめてぇ……あは、あははははは!」

なおも手を止めず愛撫を続けるも、笑い転げる椎名まゆりに攻めあぐねる岡部倫太郎。
これはどういう事だろう。性感帯がまるで未発達という事だろうか。

「なるほど……こういうケースも想定しておかないとならないのだな……」
「あは、あははは……ほえ、オカリンどうしたの?」
「いや、なんでもない。ちょっと待っててくれ」

岡部倫太郎は立ち上がってベッド脇で鳴っている己の携帯電話を手に取った。

「俺だ。どうした、機関の手が廻ったか?」

がくん。
電話に出た岡部倫太郎の両手が突然だらりと下がり、まるで正体を失ったようにその身体がぐらついた。

「オカリン!? どうしたの! 大丈夫?!」

目の前でふらつく岡部倫太郎に何か本能的な危機を感じ思わず膝立ちでにじり寄る椎名まゆり。

「ああ……大丈夫だ、まゆり、問題ない。ちょっと待てくれ。用件はすぐに済む」
「でも……っ」

心配そうな椎名まゆりを片手で制し、岡部倫太郎は携帯電話を耳に当て低い声で呟いた。

「大丈夫だ。今度はヘマしない。俺が誰だかわかっているだろう? ああ、任せておいてくれ。全ては“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の選択のままに。エル・プサイ・コングルゥ」
95第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 23:47:25.95 ID:NFGCB+sj
椎名まゆりに返事をした岡部倫太郎の言葉はどこか疲れた風だったが、携帯電話を切った時にはすっかり元の調子を取り戻していた。

「本当に大丈夫オカリン? 嘘ついたらメ、だからね?」
「ああ、大丈夫だとも」

僅かの間虚ろだった表情が急速に元に戻り、ラジオ体操第二を始める岡部倫太郎。
その様子は確かにいつもの彼のもので、椎名まゆりはほっと胸を撫で下ろした。

「もぉ〜、びっくりしたよ〜オカリン〜」
「ああいやすまん。心配をかけたな」

軽く微笑んで椎名まゆりの頭に手を乗せる。
彼女は岡部倫太郎のそんな優しい笑顔が大好きだった。

「さ、続きをするぞ、まゆり。覚悟はいいな?」
「ほえ? あ、うん。わかった」

すっかり気を許した椎名まゆりはベッドの上で緊張を解き、その身を岡部倫太郎に預けた。
岡部倫太郎は真剣な面持ちで彼女を見下ろし、やがてそ、と服の上から再びその胸に触れる。

「ん……っ」
「くすぐったいか、まゆり」
「ううん、大丈夫……」

先刻までの岡部倫太郎の手つきとはまるで違う、優しく、柔らかなタッチ。
椎名まゆりは不思議と心地よくなって、ぴくん、とその身を僅かに震わせる。

「ん……っ」

ぴくん。
びくん、ぴくっ、ひく、ひくん……っ。
再びその身が震えた。この感覚は一体なんだろう。
だるいような、掻痒とするような、それでいて熱に浮かされているような。
それらは全て微かな感覚でしかなかったが、なぜか椎名まゆりの全身をじわじわと侵食し、静かに支配してゆく。
96第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/25(火) 23:50:26.40 ID:NFGCB+sj
「ふぁ、ん……っ」

僅かに声が上ずった。小さい息を二度、三度と吐く。

「どうしたまゆり、何か変わった事があったら言ってくれ」
「ん……大丈夫。ただちょっとポカポカする……」

どことなくぼうっとした気分で、まるで寝起きのような半眼で岡部倫太郎を見つめる椎名まゆり。
だが明らかに寝起きとは異なる小さな情動が、その瞳の内に見え隠れしている。
椎名まゆり自身はまた気付いていない。
けれどそれは確かに彼女の中に僅かながら芽生え始めた劣情……そう、いわゆる性の衝動の発露であった。

ほう、と漏らす吐息が熱い。
目の前で己の身体に触れている男にもやもやとした衝き上げるような気持ちを感じる。

(実験なんかじゃなくって、本当に、ホントにオカリンと……)

不意にそんな考えが頭にのぼせて、慌てて首を振った。
椎名まゆりは知っている。いやわかっている。
彼の、大好きな岡部倫太郎の心は、同じラボメンである牧瀬紅莉栖へと向いている事を。
そして彼女もまた岡部倫太郎を憎からず思っている事を。


だから……自分はこの想いを口に出してはダメだ、ダメなんだ。絶対に。


「……大丈夫か、まゆり。熱でもあるのか」
「な、なんでもないよオカリン。大丈夫だいじょーぶ、だいじょーぶいぶい!」
「そうか……それならいいのだが」
「もー、オカリンはちょっと心配屋さんなのです。ええと、マット運動の……」
「マッドサイエンティストだっ」
「そうそう、それなんだから、もっとびしびしやるべきだと思うのです」
「むう、まさかこの鳳凰院凶真が人質に説教されるとは……」
「へへ〜、まゆしぃはオカリンの人質だから、オカリンのことならなんでもわかるんだよ〜♪」

岡部倫太郎の追及に慌てて取り繕い、笑顔を浮かべる椎名まゆり。
けれどその身に宿った熱は、徐々に彼女の心に欲熱の炎を灯しつつあった。




 
97名無しさん@ピンキー:2012/12/25(火) 23:51:36.75 ID:NFGCB+sj
というわけで今宵はここまでー
少しずつ少しずつ熱に侵されてゆく無垢な少女
いいですよね……
そんな感じでまた次回〜 ノノノ
98名無しさん@ピンキー:2012/12/26(水) 00:33:35.45 ID:LeC0ZprB
乙ー
オカリン、もしかして飛んできた?
99名無しさん@ピンキー:2012/12/26(水) 01:07:40.11 ID:cyXlrdxM

まゆりはかわいい。かわいいは正義。
100名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 00:02:03.54 ID:yUQ9IzbC
こんばんは
今宵もなんとか更新できそうです
101第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 00:07:08.07 ID:yUQ9IzbC
7−11:2011/02/12 18:45 

「ん、はあ……っ」

耐え切れずつい喘ぎ声が洩れてしまう。
知らぬ間に己の口が半開きになっている事に椎名まゆりは驚いた。
岡部倫太郎の手つきは優しく、丁寧で、それでいて丹念で、椎名まゆりはいつの間にかに己がくすぐったがっていない事に気付く。

「オカ、リン……っ」

自分の頬が真っ赤に充血しているであろう事がありありとわかる。
自分の表情がうっとりと、陶然となっているだろう事がはっきりと理解できる。

「オカリン、ダメ、もう、ダメだよう……っ」

ぎゅ、と岡部倫太郎の胸を突き押すが、一向に離れてくれぬ。

「何がダメなのだ、まゆり」
「だって、だって、これ以上しちゃったら……っ」

そこまで言い差してハッとなる。
今自分は何を言おうとしたのだろう。

これ以上してしまったら……なんなのだろうか。
牧瀬紅莉栖に悪い? 無論それもある。
けれど、違う。椎名まゆりははっきりと自覚した。
これ以上岡部倫太郎とこんな触れ合いを続けていたら、きっと我慢できなくなる。
きっともっと強い結びつきを求めてしまう。
自分の抑えが効かなくなってしまう。
岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖の仲を応援すると、二人を見ていて決めたはずなのに。


「……そんなこと、どうでもいいや」


そんな風に、思えてしまう。
それは嫌だ。
そんな自分は嫌だ。
岡部倫太郎は好きだけど。大好きだけれど。
昔からずっとずっと、ずうっと大好きだけれど。
でも、だからって、いや、だからこそ、こんな流されるような形で牧瀬紅莉栖を悲しませたくは、ないから。

「ね、オカリン。やめよ? ほら、これ以上しちゃったら、その、悪いよ……っ」

岡部倫太郎を見上げ、なんとかそこまで口にする。
胸の奥がズキリと痛い。自分で自分の胸にナイフを突き刺しているような気持ち。
でもこの痛みは自分だけだ。自分だけが痛いなら、きっとそれが一番……
102第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 00:09:38.13 ID:yUQ9IzbC
……椎名まゆりは、己が目を大きく見開いた。


最初は何が起きたか理解できなかった。
目の前にあるのはなんだろう? 岡部倫太郎の顔だ。それもこんなに間近に。
なんでこんな近くにあるんだろう? それも頬と頬がくっつきそうなくらいに。
それに……熱い。
唇が、熱い。
今、自分の唇に押し当てられているのは、一体……

「〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

遅まきながらようやく気付く。
椎名まゆりは……岡部倫太郎とキスしていた。
それも親愛のそれではなく、明らかに情愛のそれである。

「ん、ちゅ、ん、あ、んっ、ちゅ、ぷぁ……っ」

言わなければ。こんな事はよくないって。

「ん、ちゅ、ちゅっ、オ、オカ、ん、んん〜っ!!」

言わなければ。牧瀬紅莉栖に悪いって。

「ん、オカリ、んっ、ちゅ、ふぁ!? ん、ちゅ、れろ、ん、れろ、ちゅ、ちゅ……っ!」

けれど何かを言いかけるたびに岡部倫太郎の唇が執拗に彼女の唇を啄ばんで、舌が蹂躙して、椎名まゆりは気付けば我知らずそれに応えてしまっていた。
自ら岡部倫太郎の唇を貪り、舌を絡め、その首筋に腕を回し、しがみついて。
まるで飢えた獣のように彼の唇を求め、甘い鼻声を上げてしまう。

「ぷう……」
「ふぁ……オカリン、おかりん……ん、あ、ああ……っ」

やがて岡部倫太郎の抱擁が緩み、その唇が離れると……
椎名まゆりはまるで名残を惜しむかのように半開きの口から舌を突き出して……二人の舌を渡す淫らな糸橋がとろりと垂れた。

「オカリン、ふぁ、オカリン、おかりぃ、ん……」

涙と涎と僅かに鼻水を垂れ流しつつ、だらしなく開いた口から熱く湿った吐息を漏らした椎名まゆりが、とろっとろの表情でベッドの上に崩れ落ちる。
視界が歪んでいるのは涙で滲んでいるせいだろうか。椎名まゆりには岡部倫太郎の表情がよくわからなかった。
103第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 00:15:01.57 ID:yUQ9IzbC
「なん、で……んっ、なんで……?」

なんでこんな事をするのか聞きたいのに、上手く言葉が出てくれない。
ただその疑問を求める言葉がうわ言のように口から漏れるだけだ。

「『実験』だ。必要なことだからだ」
「でも、でもでも、オカリン、オカリンには紅莉栖ちゃんが……っ」

なんとか言葉を紡ごうとした椎名まゆりの唇は、岡部倫太郎によって再び強引に塞がれて。
上顎を、舌を蹂躙され、あまりの心地よさに脳を蕩かされてしまう。

「ん、んん……ぷぁっ! オカリ、んっ! んぁっ、ん、ちゅ、ちゅるる……んくっ」

強引に舌で口をこじあけられ、口腔内をねぶられる。
岡部倫太郎の舌先から送り込まれてきたのは、彼の口の中で生成された唾液であった。
涙目を見開いて驚いた椎名まゆりであったが、やがて命じられたわけでもないのに自ら彼の舌に己の舌を絡みつけ、その唾液をこくん、こくんと嚥下する。

岡部倫太郎の唾液を取り込んでいる……
その事に気付いたのは、めくるめく恍惚の後だった。

椎名まゆり肉体が誰よりも何よりもそれを欲していて、信じがたいほどの悦楽を、多幸感を彼女にまず与えてしまう。
そして視界が真っ白に明滅しまともに思考もできなくなった脳髄が、数秒の遅延の後ようやくにその事実を認識したのだ。
抗おうにも抗えない。こんな感覚は初めてだった。


椎名まゆりは、自分自身をもう少ししっかり者だと思っていた。


無論ドジは踏む、ミスもする、みんなから能天気だ、抜けているなどとよく言われる。
けれどそういう事ではない。
そういう表層的なところよりもっと深いところで、自分はラボのみんなの事を落ち着いて見守っていられる……そんな風に思っていたのだ。信じていたのだ。

険悪になったみんなの仲を取り持ったり、疎遠な者同士を繋げてみたり、岡部倫太郎が考えているだろう事をそれとなくみんなに伝えてみたり。
自分には牧瀬紅莉栖のような頭脳も、橋田至のようなパソコンの腕もないけれど、せめてそんな風にラボのみんなの潤滑油になれたらなあ……それが彼女の望みであり、目標であった。
104第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 00:17:06.78 ID:yUQ9IzbC
……なんという思い上がりだろうか。

今この場でしなければならない事は、岡部倫太郎を止めること。
たとえどんな実験だろうと、こんな事をしては牧瀬紅莉栖が悲しむに決まっている。
だからこんな『実験』なんてもので自分が身体を許すわけにはいかないのだ。


許すわけにはいかないのに……それがわかっているのに、それができない。


岡部倫太郎から与えられる身体的充足が強すぎる。
唇を奪われただけで全身に電流が走った。舌を突き込まれただけで腰が砕けそうになった。
唾液を嚥下した時に感じたあの満たされた感じはもはや形容のしようがない。
昔テレビでやっていた麻薬中毒というのはこんな感じなのだろうか。

キスだけでこれである。
これ以上の事をされてしまったら、求められたら一体自分はどうなってしまうのだろう?

「紅莉栖の事は言うな」
「れも、はもっ、ん……へも、はっへ、ぇ……っ」

唇を舌先で突かれ、半開きの口からとろりと涎が漏れてしまう。
口を閉じようとしてもまるで麻痺してしまったみたいに上手くゆかぬ。
椎名まゆりはこれ程に己が御し切れなかった事などついぞ記憶になかった。

いや……あった。

かつて祖母を失ったとき、自分では自分をどうしようもできなかった、あの時。
自分を御することも律することもできずに、ひたすら祖母の墓の前に立ち竦むことしかできなかった日々。

己の意思ではどうにもできないような感覚が……当時の自分と被る。
あの時は心が、今は身体が、言うことを聞いてくれない。
105第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 00:19:37.16 ID:yUQ9IzbC
かつては岡部倫太郎が彼女を救ってくれた。
けれど……今はその岡部倫太郎こそが彼女の箍を外した張本人である。
一体自分はなぜこれ程に流されてしまうのだろう。岡部倫太郎の指は、舌は、彼女の身体が望んでいる事をまるで魔法のようにしてのけてしまう。

わからない。わけがわからない。
岡部倫太郎はいつだってラボメンの事を第一に考える男だった。そのはずだった。
その事について椎名まゆりが疑った事は一度もない。今この時だって信じている。
ならば……今回の事だってきっと意味がある。
だから彼がこんな風に必死になっているのは、きっとラボのみんなのためなのだ。

けれど……どうしてこういう手段を取るのかがわからない。
わからない上にそれがあまりに己の欲情と一致しすぎていて、考えも悩みもせずに押し流されてしまいそうになってしまう。
尋ねなければ、岡部倫太郎に。
牧瀬紅莉栖を、ラボのみんなを悲しませてまでこんな事をする真意を……。

「まゆり……今は、お前だけを見ている」


ばくん、と心臓が跳ね上がった。


その台詞は、ダメだ。
そんな事言われたら、岡部倫太郎の唇から呟かれたら。
戻れなくなる。身体だけでなく心まで戻れなくなってしまう。どうにかなってしまう。
体中が欲しているこの情欲の濁流に必死で抗おうともがいている自分の心が必死に掴んでいる、最後の藁の一本さえも立ち切れてしまう。

「ふぁ……オカリン、オカリン……っ!」

悩み、迷い、懊悩、
恋慕と自制、友情と愛情
充足と飢餓、肉欲と性欲
混沌の大海の中、椎名まゆりを己を必死に抑え、御そうとして……
けれど岡部倫太郎に強く抱擁された瞬間……その総てが無惨にも砕けて散った。




少女のように幼い顔立ちの椎名まゆりの瞳に浮かんでいるのは……明らかに情欲の色だった。
106名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 00:22:47.82 ID:yUQ9IzbC
というわけで今宵はこーこーまーでー
なんとなく淫靡なかほり
そういうのもたまにはいいよね!
ではまた次回ー ノノ
107名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 02:23:13.24 ID:gp+4q/R+
>>106
ついにここまで来たか…というかまゆしぃがエロく見えてきた俺を殴りたい><
108名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 04:44:11.18 ID:uXdbqD1A
109名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 09:52:18.12 ID:bvMDqvp2
おおすげえ、まゆしぃをここまでエロく書けるとはっ!
エロさだけではなく、彼女の葛藤がホント巧く伝わってくる。
やべえ、まじでおもしろい
110名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 17:11:02.51 ID:eulWDynD

ま、まゆ氏エロ過ぎるお…
111名無しさん@ピンキー:2012/12/27(木) 23:24:26.98 ID:yUQ9IzbC
こんばんは
今年の更新もそろそろ終わりです
とりあえず今日は更新できそうですがー
112第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 23:28:25.00 ID:yUQ9IzbC
7−12:2011/02/12 19:37 

己の下で組み伏せている椎名まゆりの脱力した様子を、岡部倫太郎は冷徹な瞳で見つめていた。
こんな事が許されるはずはない。許されるはずはないが……ここで苦虫を噛み潰したような顔をしてはダメだ。
四回前のタイムリープではそこを彼女に気取られたのだから。

そう、今ここにいる彼は既に幾度もタイムリープを繰り返していた。
椎名まゆりを、その身体を攻略するために、だ。
初めての椎名まゆりがあれほどに正体を失うのも当然といえた。
なにせ岡部倫太郎は彼女が強く反応する行為だけを突き詰めて修得してきているのだから。

……本当は実験だなんだと偽りたくはなかった。
けれど岡部倫太郎にはどうしても他に方法が思いつけなかった。

最初は他のラボメン達と同じように椎名まゆりと普通にデートして歓心を買い、恋人として関係を築こうと思っていた……が、ダメだった。

彼女には空々しい愛の台詞などまるで届かなかったのだ。
椎名まゆりは彼が牧瀬紅莉栖に惚れている事などとっくに気付いており、彼女を放って己に手を出そうとする岡部倫太郎を手厳しくたしなめた。

そう、どんなに優しくしようが、どんなに強引に迫ろうが、椎名まゆりはある一線以上には絶対に靡かなかったのだ。
彼女のそうした時の頑固さは岡部倫太郎が一番よく知っている。

だからと言って力ずくで犯すような行為はもっての他だ。
そも身体的には体力に自信のない岡部倫太郎より彼女の方がずっと勝っているのだし、逃げられてしまう危険も十分に高い。
阿万音鈴羽に助力を求めればなんとかなるかもしれないが、そんなやり方では椎名まゆりを悲しませるだけだろう。

いくら牧瀬紅莉栖を、世界を救うためとは言え、椎名まゆりを傷つけてしまうのでは本末転倒だ。
かつてその二人の命を天秤に賭けて懊悩した事のある岡部倫太郎は、もはや二度とそうした決断をしまいと心に誓っていた。
113第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 23:31:37.53 ID:yUQ9IzbC
そこで最後に残った手段が……『実験』という名目だった。

椎名まゆりは岡部倫太郎……いや鳳凰院凶真の人質であり、人体実験の生贄である。
かつて彼女が祖母の死のショックで自閉症気味となった折、彼はそうした『設定』で彼女を呼び戻した。
それ以降、椎名まゆりはその設定を遵守して岡部倫太郎の傍らにいる。
だから……実験を名目にすれば彼女の方から協力させる事ができるのだ。
あとはホテルに連れ込んで、様々な名目で『実験』してしまえばいい。

この案は途中まで上手く行った。

くすぐったがってばかりいる椎名まゆりの性感帯を丹念に調べ上げ、雰囲気を盛り上げて、徐々にその身体を蕩かせてゆく。
これまで一体彼女の唇を幾度吸ったろう。
今では椎名まゆりの唇を岡部倫太郎のサイズに合わせてすぼめさせるのに数分とかからなくなってしまった。

けれどその先がいけない。何度挑んでも拒まれてしまう。
今の椎名まゆりにとって、岡部倫太郎はどうやら牧瀬紅莉栖のものらしい。
それに関しては自覚がないわけではない。久々に彼女に会えて少々浮かれていたのもある。
椎名まゆりはこう見えてかなり鋭い部分もあるのだ。己の心中などとっくに察していたとしてもおかしくはない。

そして……彼女はそれを自分が邪魔するのは、どうしたって嫌らしいのだ。

幾度も幾度も拒絶され、ようやくその強固な壁を崩す事ができたのが……やっとのこと前回である。

「今は……お前だけを見ている」

歯の浮くような台詞だが、どうやら効果があったらしい。
阿万音鈴羽、秋葉留未穂、桐生萌郁……彼女達に女性は言葉に弱いと散々学んだものだが、それを改めて実感する

まあここに漆原るかも加えておくべきだろう。確かに台詞の練習として一番助けになったのは彼女……もとい彼の攻略の時だったのだから。
114第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/27(木) 23:34:44.46 ID:yUQ9IzbC
考えてみれば牧瀬紅莉栖とのデートの時はそんな事を考える知識も余裕もなかった。岡部倫太郎はまた貴重なデータが得られた事に深く感謝しつつ、強い自己嫌悪に陥る。

(今は……か)


“今はお前だけを見ている”
……なんとも手前勝手で都合のいい台詞ではないか!


相手を最も優先しているようでいて、所詮一時の関係でしかないと言い放っているのだ。
岡部倫太郎は己の腕の下で正体を失っている椎名まゆりに気取られぬよう、心の内で毒づいた。

けれど……岡部倫太郎は気づいていない。
だからこそ、そんな身勝手な台詞だからこそ、今の椎名まゆりの心を蕩けさせるのに都合が良かったのだと。

それは……言い替えればつまりこういう事だ。


“今この時、この行為はただ一度だけの過ちだけれど”
“この瞬間だけは、岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖よりま椎名まゆりを選ぶのだ……!”と。


つまり彼の台詞は椎名まゆりの背徳と贖罪と、小さな自尊心と些細な優越感を内包したなんとも複雑な女心をくすぐる最高の誘惑だったわけだが、流石に岡部倫太郎がそこまで意識していたわけではない。
おそらく椎名まゆり自身とて無自覚だろう。もし指摘すればきっと彼女は激しく否定してその後強い自己嫌悪に陥るに違いない。

いずれにせよ彼女は今その身を許してくれた。
後は文字通り『実験』を完遂させるだけである。
115第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 01:20:27.71 ID:hufdOEoT
「オカリン、オカリン……っ」

ひっく、ひっくとしゃくりを上げながら、くしゃくしゃの顔で岡部倫太郎を見上げる椎名まゆり。
彼女は今岡部倫太郎にのしかかられて、その両腕の下で完全に脱力してしまっている。

「まゆり……脱がすぞ」
「あ……っ」

彼女のトレードマークであるそのゆったりとした衣服を自らの手ではだけさせてゆく背徳感。
真っ赤になって顔を逸らし、けれどどこか期待しているような瞳で己をチラリと盗み見る椎名まゆりの欲情した瞳。
それは彼女をまるで家族のように認識していた岡部倫太郎にとって、凄まじいまでのエロチシズムを伴って脳髄を焼いた。

「あ……オカリン、見ないで……」
「さっきまであんなに乱れておいて今更だぞ、まゆり」
「ふぇ……っ!」

岡部倫太郎の言葉に耳先まで真っ赤になって、椎名まゆりは右腕で己の顔を覆い、その身を横に向けもじもじと悶える。

「まゆしぃ……まゆしぃすっごく恥ずかしいのです……オカリン、そんなことゆっちゃ、やぁ……っ」

椎名まゆりの口から漏れた拒絶の言葉は、だが彼女が内包している淫らな熱に当てられていて、なんとも甘ったるい響きを伴っている。
恋人というよりむしろ妹に性の衝動を感じてしまったような罪悪感と少女と見紛うばかりの小柄な体躯、そしてその体型の割にふくよかで張りのある胸部は、岡部倫太郎に強く禁忌を想起させ、同時にその淫靡さに彼は不覚にも強い興奮を覚る。

「まゆり……」
「ん……ふぁ、いや……っ!」

上から強く抱き締められると、椎名まゆりは実に甘い甘い声で鳴き、岡部倫太郎の情欲を必要以上に煽った。
肩口をはだけ、肌を晒し、けれど脱がされ切っていない椎名まゆりは、日常の象徴たるその衣服を中途半端に纏っているがゆえに却って羞恥の色を濃くし、岡部倫太郎の腕の中でじたばたともがく。
けれどその挙動が男の獣欲を、征服欲をより刺激し、岡部倫太郎はその行為を一層激しいものにしていった。

「や、ん……いた……っ!」
「む、どこか痛いのか、まゆり」
「ん、大丈夫なのです、ただオカリンの手がちょっと強いかなって……」

知らず興奮してしまった岡部倫太郎は、どうやら彼女の肩を強く掴み過ぎてしまったらしい。

「平気だから、ね、オカリン。だから……」
「……ダメだ」
「ほえ?」
「まゆり、お前に痛みなど……感じさせるものか!」
116名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 01:21:49.44 ID:hufdOEoT
途中ちょっと寝オチしてしまいました申し訳ない。
それではまた次回ー ノノ
117名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 01:53:59.60 ID:wZbWfYvK
>>116
無理はなさらず。乙乙。
118名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 16:25:55.45 ID:Aqj705XX
いつも乙です
他のカップリングならどれでも美味しくいただける自分でもおかまゆだけは受け付けなかったんだが
この岡まゆはいける、不思議
119名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 17:25:28.91 ID:XxNmpfjo
まゆり攻略の冒頭のオカリンは何回目のオカリンなんだろう
まだこの後も色々ありそうだ
120名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 23:19:01.77 ID:hufdOEoT
こんばんわー
今年最後の更新になります
明日からコミケだから早めに寝なくちゃ……
ああサークル参加とかはしてないです念のため
121第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:22:19.04 ID:hufdOEoT
7−13:2011/02/12 19:52 

「ん……ふぁ、いや……っ!」

上から強く抱きすくめられると、椎名まゆりは甘い声で鳴いて岡部倫太郎の興奮を層倍に煽った。
肩口をはだけ、肌を晒し、けれど脱がされ切っていない椎名まゆりは、日常の象徴たるその衣服を中途半端に纏っているがゆえに却って羞恥の色を濃くし、岡部倫太郎の腕の中でじたばたともがく。
けれどその挙動が男の獣欲を、征服欲をより刺激し、岡部倫太郎はその行為を一層激しいものに……

しそうなところで、ギリギリ自制する。

「や、ん……オカリン……どうしたの……?」

まるで高価な白磁に触れるように、丁寧に、そっと彼女の肩に触れる。
ぴくん、と反応し、熱病のように火照った顔を向けてくる椎名まゆりに優しく微笑みかけると、その肩口に軽くキスをした。

「あ、オカ、リ……っ、あ、あ、ああっ、ふゃんっ、ぁ、ぁんっ!」

これほど優しく愛撫されるとは思っていなかったのか、椎名まゆりの声に動揺の色が走る。
けれど岡部倫太郎が剥いた肩口から肘に向かってキスの雨を降らせると、彼女は断続的に甘い悲鳴を上げ、舌ったらずな嬌声と共にその小さな体を跳ね悶えさせた。

岡部倫太郎がゆっくりと唇を離すと、まるで蛞蝓が這った跡のように腕に粘つく唾液の道が残される。
椎名まゆりは内から湧き出る情動に流されるまま、彼が刻んだ唾液の跡に陶然とした瞳を向け、舌を伸ばしてちろちろと舐め始めた。

「ん、ちゅ、ちろ、ん、ちゅ、れろ、ろ……んく……っ」

岡部倫太郎は、彼女がそんな倒錯した行為に夢中になっている間に静かに彼女の下半身へと移動する。
タイムリープによって彼女の些細な痛みは快楽で塗り潰した。そろそろ本番への準備を始めなければ。

「まゆり……」
「ん、ほえ? オカリン……? あ、や、だめぇ!」

岡部倫太郎の言葉を先刻までより若干遠くで聞いて、本能的に彼から離れたくないとその姿を必死に探す。
けれど彼が己の下半身へと移動している事に気付いた椎名まゆりは……牡丹のように真っ赤になって岡部倫太郎の頭を押しやった。
122第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:25:41.06 ID:hufdOEoT
「何がダメなのだまゆり。はっきりと言ってくれなければわからん」
「そ、それは、あの、あのねオカリン……っ」

わたわたと説明しようとするが上手く言葉にできぬ。
いや正確には言葉にはできるが口にはしたくない。
彼女がそんな風に己自身で手一杯なことを幸いに、岡部倫太郎は彼女のスカートを捲り、その内のショーツをじっくりと確認した。

「……なんと、すっかり濡れているではないか。漏らしたのか、まゆりよ」
「やぁ……っ」

無論岡部倫太郎にはわかっている。それは紛う事なき愛液だと。
スカートの内側からむわっとした熱気と湿気を放っているそのショーツは彼女が十分に感じている証拠であり、そこに漂っているものは少女然とした椎名まゆりの肢体から濃密に匂う芳醇な“女”の香りなのだと。

椎名まゆりは思わず手近にあった枕を両手で掴むと、岡部倫太郎の頭をぽふぽふ、と幾度もはたく。

見られた。知られてしまった。自分が初めてだというのにこんなに濡らしているところを。感じているところを。
恥ずかしいどころの騒ぎではない。顔から火が吹き出てきて火傷しそうだ。もしホテルの窓が開閉自由なら飛び降りてしまいたいくらいである。

「冗、あた! 談、あた! だ。ええいやめんか!」

真顔でフォローしようとした岡部倫太郎は、だが一言放つたびに降って来る枕を遂に鬱陶しそうに横に払った。

「まったく、何を恥ずかしがることがある。男を受け入れる準備ができているという事ではないか。むしろ健全な証だろう」
「ほえええええ……っ?!」

岡部倫太郎の言葉にただでさえ赤い頬がさらに赤熱し、掴んでいた枕を胸元にぎゅっと抱えて口元を覆い隠す。
そしてそのまますす、とベッドの上で岡部倫太郎から少しだけ距離を取った椎名まゆりは。「うぅ〜」と抗議するような上目遣いを岡部倫太郎へ送った。
123第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:30:58.88 ID:hufdOEoT
(準備って、じゅ、準備ってつまりそうゆうことだよね? ま、まゆしぃがオ、オカリンを、オカリンのを……っ)

そこまで心の内で呟いた後、「きゃー!」と声にならぬ叫び声を上げ、抱えた枕に顔を埋める。
だってどんな形だろうと夢だったのだ。岡部倫太郎と結ばれる事が。
ずっと秘めていた想いはとても強かったけれど、だがあまりにも距離が近すぎたがゆえに伝える機会を失って、それは彼女の心の内で燻り続けていた。

そうして足踏みしている間に……岡部倫太郎の周りにはいつの間にか魅力的な女性達が集まってしまった。
バイト仲間のフェイリス・ニャンニャン、巫女服のよく似合う漆原るか、ライターのお仕事をしている桐生萌郁、

そして……天才研究者の牧瀬紅莉栖。

特に一番最後に現われた牧瀬紅莉栖は、岡部倫太郎と同じ分野の人物であり、椎名まゆりにはまるで理解できぬ会話を平気で彼と交わす、いわば岡部倫太郎と“同じ言葉”を持つ側の人間だった。
それは勉強の苦手な椎名まゆりには決して届き得ぬ世界であって、その事で彼女が多少なりとも忸怩や悔悟にまつわる感情を持たなかったのかと言えば嘘になる。

彼女……牧瀬紅莉栖は、ラボに来てすぐに彼女達と打ち解けた。
椎名まゆりとも、橋田至とも、他のラボメンたちとも。
まあ漆原るかの事は未だに女性だと信じているようだが。
別に牧瀬紅莉栖が社交的なわけではない。むしろどちらかと言えばその手のことが苦手な部類だと本人も言っていた。
それなのに彼女達は、不思議なことにまるで旧知の間柄のようにすぐに仲良くなったのだ。

けれど……同時に、彼女は知りたくなかったことを知ってしまった。
あの日、去年の秋に牧瀬紅莉栖の歓迎会を開いた日、
心労のせいか、気候のせいか、体調を崩した彼女に駆け寄った岡部倫太郎を見た、あの時に。


牧瀬紅莉栖は岡部倫太郎の事が好きなのだ。
そして岡部倫太郎は……牧瀬紅莉栖の事が好きなのだ、と。

 
124第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:33:27.26 ID:hufdOEoT
みんなが岡部倫太郎に好意を抱くのは別におかしくはない、と彼女は考えていた。
それは女性に限らず、たとえ男であろうと、彼の近くにいるなら誰だって、だ。

確かに普通の人には少々奇異に映るかもしれないけれど、彼が仲間想いの優しい人物である事を、椎名まゆりは誰よりも知っている。
そして普段はちょっと情けないところもあるけれど、ラボメンのためなら誰より強く頼もしくなれる男だということも。
だから彼に近づける人なら、そばにいても平気でいられる人なら、彼の良さに自然気付くはずなのだ。

でも……岡部倫太郎の方が女性にそこまであからさまな態度を取るのは初めてだった。
心配そうな表情、動揺した様子、そして牧瀬紅莉栖が無事だとわかった時の……あの安堵の表情。

それを見た瞬間、彼女は、椎名まゆりは悟ってしまった。
もはや自分には勝ち目など残っていない事に。

椎名まゆりが妹のような、家族のような立ち位置に甘んじている間に、安穏としている間に、牧瀬紅莉栖は岡部倫太郎の“隣”へとたどり着いてしまったのだ。

椎名まゆりは一見するとどこか暢気な、天然な娘であり、恋愛関係には疎いと誤解されがちだが、それは違う。
彼女は色恋を知らぬ幼女でもなければ全てを受け入れられる聖女でもない。
壊れかけた自分の心を救ってくれた岡部倫太郎に友情や信頼以上の感情を抱かなかったわけもない。
だから彼と牧瀬紅莉栖の間に流れる空気に彼女が木石でいられたはずも……またなかったのである。

しかし……不思議と椎名まゆりは牧瀬紅莉栖に嫉妬や憎悪の念を抱くことはなかった。
彼女が素敵な女性だった、というのもある。会ってすぐに仲良くなれるほど気心が通じ合えた相手だから、というのもある。
だがそれ以上に……椎名まゆりは思ってしまったのだ。


牧瀬紅莉栖、岡部倫太郎は、お似合いだ、と。

 
125第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:35:38.93 ID:hufdOEoT
その日から、椎名まゆりは己の心をずっと封印してきた。
岡部倫太郎は自分のことを好いていてくれる。それは間違いない。
たとえそれが妹相手のそれであっても、家族に対するものであっても、岡部倫太郎は椎名まゆりを大切にしてくれている。それで十分ではないか。

自分はもう必要以上にもらっている。あの日、あの時に救われてからもずっと、たくさんのものを岡部倫太郎にもらっている。
だからもう彼はこれ以上自分なんかのために我慢なんかしなくていいし、してほしくない。
好きな人ができたならその人と幸せになってほしい。
それが自分も大好きな牧瀬紅莉栖ならそれこそ何も言う事なんてなにもないではないか!


そう思っていた……そう思っていた、のに。


(なんで、なんでまゆしぃは、こんな……)

目尻に涙を浮かべながら、荒い吐息を吐いて、熱に浮かされたようにぼうっとして、
岡部倫太郎の……最愛の人の前で、彼に言われるがままに股を開いているのだろうか。

わからない。わからない。
気持ちよすぎてわけがわからない。
椎名まゆりはその身に襲う快楽にすっかり押し流されてしまっていた。

「では……ゆくぞ、まゆり」
「ふぁ……オカリン……ん……んん〜っ!」

びくんっ、とその背を反らし、岡部倫太郎の陰茎を迎え入れる椎名まゆり。
眉をしかめ、歯を食いしばり、何かに耐えるようにぶるりとその身を震わせた彼女は、荒い息を吐きながら涙を零し、ゆっくりと、ゆっくりと呼吸を落ち着けて、
岡部倫太郎の逸物を迎え入れたまま……彼の背中にそっと腕を回した。
126第7章 懸想千秋のハープスター(中):2012/12/28(金) 23:37:45.84 ID:hufdOEoT
「ん、ふぇ、えへへ、オカリンと、ひとつになっちゃった、ね……」

ぽろりと涙を零しながら、万感を込めて呟く。
だが岡部倫太郎はmなんとも真剣な面持ちで、己に貫かれその肢体を小刻みに震わせている椎名まゆりを見つめていた。

「……痛かったのか?」
「う、うん。オカリンの、ちょっと大きかったかな〜って。でもいいのです。まゆしぃは幸せすぎてそんなもの全然へーきなのです。えっへへ〜……」

精一杯の笑顔で応える椎名まゆり。だがその眉根は僅かに曇っている。
随分と濡れていて受け入れる準備は十分だったし、多幸感に包まれて破瓜の痛みが緩和されている、というのも嘘ではないだろう。
けれどやはり体格差から来る互いのサイズ差は如何ともし難かったらしい。

「それでは……駄目だ」
「ほえ? オカリン?」
「それでは……駄目なんだ、まゆり」
「オカリン、それってどういう……ふぁっ!? あ、あっ、あっ、あ……っ!」

椎名まゆりが問いかけようとした言葉を、岡部倫太郎の激しい律動が塗り潰してゆく。
初めのうち痛みに耐えていた椎名まゆりは……だがやがて断続的な甘い喘ぎ声を上げながら岡部倫太郎の動きに応えていった。




(第7章 懸想千秋のハープスター(下)へ つづく)
127名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 23:44:33.41 ID:hufdOEoT
というわけで今年はこーこーまーでー
いやー夏に始めてからまさかここまで続くとは……
もし最初から読んでいただいている方がいらっしゃるなら本当にお疲れさまです
今年の更新はこれで最後となりまして、年末年始はお休みしたいと思います
次回の更新は早くて来年年明けの1/4(金)、もしくはその翌週の月曜からになるかと
128名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 23:48:15.29 ID:hufdOEoT
一応今年の(!)総括をば
無駄に長い話でそれこそ内心忸怩たるものがあるのですが、一応各章ごとに自分の書きたいテーマみたいのがありまして……
第三章:鈴羽をオカリンと思いっきりイチャイチャさせてみたい、甘えさせてみたい。照れ&デレさせてみたい(させた)
第四章:健気な留未穂と受けフェイリスをWエロ調教してみたい(した)
第五章:ノン気のオカリンが男の娘をどうやって攻略するのか書いてみたい(書いた)
第六章:本編ルート上でのもえいくさん攻略が書きたい。読者に壁ドンさせてみたい(努力はした)
第七章:エロとは縁通そうなまゆしぃで読者に欲情or劣情を催させたい(試行錯誤中)
第八章:ラスボス
みたいな感じです
誰か一人でも読者諸氏にそう思っていただいたなら嬉しい限りです
それでは世界のため、ラボメンのために無酸素で全力失踪している拙作の岡部倫太郎が皆様の心の中のオカリンと地続きであらんことを願って……

良いお年を〜 m(_ _)m
129名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 23:57:54.13 ID:5veiQpsS
乙!!
また来年な!
130名無しさん@ピンキー:2012/12/29(土) 02:20:55.54 ID:ACCY3PbY
お疲れ様乙
良いお年を
131名無しさん@ピンキー:2012/12/29(土) 06:45:16.91 ID:8EpG67ye
乙!
いつの間にかこれみて寝るのが習慣になりましたw
よいお年を〜
132名無しさん@ピンキー:2012/12/29(土) 10:50:42.73 ID:fQlnB/t8

気がつけばすごい大作になってて、今年は連日お疲れ様でした。毎晩これを読むのが楽しみになってた(笑
次回が待ち遠しいな!よいお年を。
133名無しさん@ピンキー:2012/12/29(土) 15:01:56.82 ID:ki/2s/bs
乙!!良いお年を!!
ラスボス「実は私はひと言口説かれただけでデレるぞぉーー!!」
みたいになりそうだなww
134名無しさん@ピンキー:2013/01/01(火) 08:39:17.84 ID:DzLNEew+
あけましておめでとー
今年もよろしく
135 【大吉】 :2013/01/01(火) 08:48:46.30 ID:DIH4UaaP
あけおめー
136名無しさん@ピンキー:2013/01/03(木) 06:03:34.65 ID:fLC0xT5g
>>118
年跨ぎの亀レスだけど
大概のエロパロだと恋人同士(エロ含む)になった後からとか突然セックスから開始とかが多いんだけど
まゆりは普段がエロから縁遠いキャラだから唐突にそういう設定から始められても感情移入しにくいんじゃないかな
こうその間を上手く脳内補完できないと言うか
137名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 01:08:11.52 ID:Ss7zaN1M
あけましておめでとうございます
本年もよろしくお願いします
ということで新年最初の更新に入りたいと思います
金曜なので早速週末突入ですが……
138第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/05(土) 01:10:39.29 ID:Ss7zaN1M
7−14:2011/02/12 20:22 秋葉原第一ホテル

タイムリープ15回目。

「では……ゆくぞ、まゆり」
「ふぁ……オカリン……ん……っ!」

びくんっ、とその背を反らし、岡部倫太郎の陰茎を迎え入れる椎名まゆり。
一瞬眉をしかめ、何かに耐えるようにぶるりとその身を震わせた彼女は、だがやがて岡部倫太郎の逸物を迎え入れたまま彼の背中にそっと腕を回した。

「ん、ふぇ、オカリン、オカリンと、ひとつになっちゃった……」

ぽろりと涙を零しながら、万感を込めて呟く。
だが岡部倫太郎は、なんとも真剣な面持ちで己に貫かれ呆然としている椎名まゆりを見つめていた。

「……まだ、痛かったか?」
「う、うん。オカリンの、ちょっとだけ大きかったかな〜って。でもいいのです。まゆしぃは幸せすぎてそんなもの全然へーきなのです。えへへ……♪」

満面の笑顔で応える椎名まゆり。確かにその眉根は少々雲ってはいるが、ほんの僅かなものだ。
破瓜の痛みはあったのだろう。だがそれ以上に強い多幸感で麻痺してしまっているらしい。
体格差から来る互いのサイズ差は如何ともし難いとしても、岡部倫太郎の前戯はそれを覆すに十分に足るものだったようだ。
だが……

「それでは……駄目だ」
「ほえ? オカリン?」
「それでは……駄目なんだ、まゆり」
「オカリン、それってどういう……ふぁっ!? あ、あっ、あっ、あ、ああ……っ!」

椎名まゆりが問いかけようとした言葉を、岡部倫太郎の激しい律動が押し流してゆく。
一瞬だけ痛みに眉根をひそめた椎名まゆりは……だがすぐに断続的な甘い喘ぎ声を上げながら岡部倫太郎の動きに応えていった。
139第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/05(土) 01:15:07.83 ID:Ss7zaN1M
7−15:2011/02/12 20:37 

タイムリープ28回目。

「では……ゆくぞ、まゆり」
「ふぁ……オカリン……ん、はぁ……っ!」

びくんっ、とその背を反らし、岡部倫太郎の陰茎を迎え入れる椎名まゆり。

「ん、ふぇ……っ!?」

困惑したように上げた椎名まゆりの叫びには、既に仄かな甘い響きが含まれていた。
ぶるりとその身を震わせた彼女は、だがやがて岡部倫太郎の逸物を迎え入れたまま、彼の背中にそっと腕を回す。

「ん、ふぁ、オカリン、オカリンと、ひとつになっちゃったよぅ……っ」

ぽろりと涙を零しながら、万感を込めて呟く。
岡部倫太郎は、真剣極まりない面持ちで己に貫かれ陶然としている椎名まゆりを見つめていた。

「……大丈夫かまゆり、痛かったか?」
「ううん。大丈夫。でもでもオカリン、さっきのすっごくすっごく恥ずかしかったんだよ?」

岡部倫太郎の腕の下で、頬を染め、その厚いとは言えぬが頼もしい胸板に頬を寄せる。

「ああ、すまん。では……どうだ、その、気持ちよかったか?」
「ん〜っと、えへへ、よくわからないです……」

困ったような満面の笑顔で応える椎名まゆり。
破瓜の痛みは殆どなかった。溢れんばかりの多幸感で全て塗り潰されてしまったのだ。
むしろ初めてだというのに覚悟していた痛みがまるでなくて、彼女自身困惑してしまったほどである。
岡部倫太郎の前戯は優しく、激しく、そして執拗で、彼女はその中途で幾度も軽く達した。
体格差から来る互いのサイズ差など、岡部倫太郎の執念と技術の前では如何程のものでもなかったのである。
けれど……

「それでは……駄目だな」
「ほえ? オカリン?」
「それでは……まだ足りないのだ、まゆり」
「オカリン、それってどういう……ふぁっ!? あ、あっ、あっ、あ、ああっ、ひぁんっ! オカ、リぃ、ん……っ!」

椎名まゆりが問いかけようとした言葉を、彼の激しい律動が押し流してゆく。
彼女はすぐに断続的な甘い喘ぎ声を上げ、岡部倫太郎にしがみつき快楽の波に飲まれていった。
140第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/05(土) 01:22:50.00 ID:Ss7zaN1M
7−16:2011/02/12 20:58 

タイムリープ42回目。

「では……ゆくぞ、まゆり」
「ふぁ……オカリン……ん、んん〜……っ!」

びくんっ、とその背を反らし、岡部倫太郎の陰茎を迎え入れる椎名まゆり。

「ふわ、わわ、ひぁ……っ!?」

途端、口から漏れたのは驚愕と動揺の叫びだった。
岡部倫太郎の逸物が女陰に入り込み、陰核が擦れる際にあまりの快美がその身を襲い、まるで雷にでも打たれたかのように椎名まゆりの全身が跳ねる。

「ひぁ、あ、あ、あっ、ああああああああっ!」

びくん、びくんとその背を反らし、身を震わせた彼女は、やがて全身の力が抜けたように岡部倫太郎の腕の下で崩れ落ち、涙と涎を流しながらその肢体を小刻みに震わせた。

「ん、ふぁ、オカリン、オカリン、オカりぃ、ん……っ」

うわ言のように幾度も、幾度も呟く。彼女の万感を込めて。

「……イッたのか、まゆり」
「ふぇぇぇ、ばかぁ、おかりんのばかぁ……っ!」

泣きながら岡部倫太郎の胸をぽかぽか叩く。だがその腕にはまるで力が入っていない。
岡部倫太郎に言われた通り、椎名まゆりは彼に貫かれた悦びで達してしまっていたのだ。
彼の前戯は優しく、激しく、そして執拗で、丹念に丹念に彼女のヴァギナをほぐし、椎名まゆりはその途中で幾度も幾度も気をやった。

「オカリン、おかりん、まゆしぃ、まゆしぃもう……んっ、ふぁ……っ」
「もう……なんだ、まゆり」
「い、意地悪、しないでぇ……っ!」

最後の方などあまりにじらされて、岡部倫太郎に切なげな声でおねだりをしてしまったほどである。
これが初めてなのに。一生に一度の破瓜だというのに。
思い出すだけで椎名まゆりはベッドの上を羞恥で転がりそうになるほどだった。

そう……体格差から来る互いのサイズ差など、岡部倫太郎の圧倒的な執念の前ではなんの障壁にもなり得なかったのだ。

「よし……これでいい」
「ふぁ、ん、ひぁ、あ……おかりん?」
「いいんだ、まゆり。お前は何も考えないで。ただ身を任せていれば……それでいい」
「オカリン、それってどういう……ふぁっ!? あ、あっ、あっ、あ、ああっ、ひゃんっ! オカリン、オカリンっ!? あ、きゃうん……っ!」

椎名まゆりが問いかけようとした言葉を、岡部倫太郎の激しい律動が押し流してゆく。
彼女はすぐに甘い悲鳴を上げて、岡部倫太郎にしがみつつ快楽と悦楽の濁流へと溺れていった。




……まるで、自ら望むように。




 
141名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 01:24:19.69 ID:Ss7zaN1M
というわけで今宵はここまでー
はてさて新年早々激しい姫初めですがこれからどうなることやら……
というわけでまた来週以降にでも〜 ノノシ
142名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 01:27:04.24 ID:m0E/m3b6
乙ぱい!!
今年もいい年になりそうだ!
143名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 11:07:14.16 ID:9Uzp+m7s
痛みもなく、しかも入れた途端にイくだと……!?
144名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 13:28:19.46 ID:GQhTjHcP
145名無しさん@ピンキー:2013/01/05(土) 13:53:59.68 ID:+gemTvAB
>>143
丹念に愛撫すれば不可能ではない
あとはまあ、中オナヌーしたことあるかどうかも関係する
146名無しさん@ピンキー:2013/01/06(日) 00:07:15.23 ID:72Ej/jJM
ラスボスが一回だけだから最後の練習なんですね
もうプロのレベルに達してるけどww
147名無しさん@ピンキー:2013/01/06(日) 01:25:35.29 ID:ah8leskF
>>145
タイムリープこんだけ繰り返してるなら
RSで性感が共有されて高まってる可能性
148名無しさん@ピンキー:2013/01/06(日) 16:42:36.17 ID:y37dl5bH
ねぇよ。
149名無しさん@ピンキー:2013/01/06(日) 19:24:43.14 ID:DGNALyqC
共有はされてなくても夢で見て疼いて自分で…ってのはやってそう

しかしオカリン、最中に電話何度も取ってるのかな
150名無しさん@ピンキー:2013/01/06(日) 19:47:28.07 ID:qBcAR20I
42回もまゆしぃの処女を堪能したオカリン爆発
151名無しさん@ピンキー:2013/01/07(月) 23:22:14.73 ID:yo4pkwcp
エッチを終えた助手が一言

「お前、タイムリープしてね?」
152名無しさん@ピンキー:2013/01/07(月) 23:55:14.04 ID:aRvntbSl
こんばんは
今宵もなんとか更新できそうです
それではしばしの間お付き合いをば
153第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 00:01:56.82 ID:RsQzYJ6g
7−17:2011/02/12 21:09 

タイムリープXX回目……

襲い来る快楽に抗えない。
椎名まゆりは甘く切ない叫びを幾度も幾度も上げさせられて、その都度に達した。

とろっとろに蕩けた表情はもはや泣いているのだか笑っているのだか判然としない。
ただその悲鳴にもまた甘い音色が混じっていて、彼女の肢体が全身で悦んでいるのは明白だった。

ぽろぽろと零れた涙は痛みや辛さからではない。
あまりに感じすぎて涙を堪えることすらできなくなってしまったからだ。
だらしなく開かれた口からとめどなく涎が垂れ、シーツを汚す。
戯れに口に突き込まれた岡部倫太郎の人差し指に、まるで赤子のように吸い付くと丹念に、愛しげに舌で舐る。

頼まれたわけでも命じられたわけでもない。ただ椎名まゆりは内から湧き出る情動の赴くまま、性欲を貪らんがために動いていた。

涙や涎だけではなく、時折岡部倫太郎に拭われるほどに鼻水を垂らして、半脱ぎの衣服がぐしょ濡れになるくらい全身汗みずくだ。
いくらヒーターをつけているとはいえ真冬である。ここまで汗をかくものだろうか。

「ふぁ、ふぁぁあぁぁぁぁ……っ」

ひくん、ひくんと全身を痙攣させ、脚をみっともなくM字に開いて、注がれた白濁で股間を白く染め、椎名まゆりは恍惚の中でベッドに横たわっている。

岡部倫太郎に言われるがまま、されるがままにポーズを取り、前から後ろから貫かれ、彼の上で淫らに腰を振った。
そのどれもが喩えようもないほどに心地よく、気持ちよく、それでいて優しさに満ちていて、
椎名まゆりの身体はその快楽にすっかり耽溺してしまっていたのだ。

きっと今の彼女は、岡部倫太郎が命じればどんなはしたない行為だろうと悦んで従うに違いない。
彼の言葉は、指示は、命令は今の彼女にとって即ち快楽であった。
もしそれが正気に戻ったら羞恥で全身朱に染め両手を頬に当て転がり廻るような破廉恥な行為だったとしても、今この時の彼女はそれに抗うことができぬだろう。
154第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 00:06:05.23 ID:RsQzYJ6g
だって気持ちいい、気持ちいいんだもの。

岡部倫太郎の手は、指は、唇は、舌は、まるで椎名まゆりの全てを知っているかのように的確に彼女の弱点を突き、それどころか彼女自身すら知らなかった悦びへと導いてしまう。
何をされても気持ちいい。どこをどうされても気持ちいいのだ。
椎名まゆりはもはや思考停止に近い快楽の中でその身を淫らに蠢かせ、ただひたすらに甘い声で喘ぎ、発情した猫のように鳴いていた。


それは……全て岡部倫太郎の目論見通りの展開だった。


椎名まゆりが感じた痛み、辛さ、不安、そうしたものを彼女に訴えられるたび、己で気付くたびにタイムリープを繰り返し、一つずつ丁寧に摘み取ってゆく。
それも途中でやめる事なく、毎回最後まで彼女を誠心誠意抱いた上で、だ。
椎名まゆりにとってはたまったものではないだろう。なにせ目の前の相手は初体験で緊張している彼女以上に彼女自身の心も身体も知り尽くしているのだから。
どこをどう弄れば感じるのか、どう語りかければ緊張が解けるのか、どういう順序で身体をほぐせば性感が高まるのか、どのタイミングで耳元に囁きかければ彼女の心の不安を取り除き、興奮を高めることができるのか……
岡部倫太郎は累計百時間を優に超える椎名まゆりとの性交によってすっかり把握してしまっているのだから。

けれど……なぜそこまで彼は椎名まゆりに拘るのだろうか。

単純に彼女を抱き、牧瀬紅莉栖を攻略するための経験を積むためであったなら、タイムリープ20回未満で既に彼の目的は達成されている。
確かに椎名まゆりはだいぶ痛がっていたが、初体験でしかも体格差を鑑みれば十分許容範囲だったはずだ。
だが岡部倫太郎はそれを良しとしなかった。今の彼はいわばゴールを迎えた後、さらにパーフェクト勝利を求めて延々と連コインでコンティニューし続けているような状況である。
155第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 00:12:02.44 ID:RsQzYJ6g
(駄目だ……まだ、まだ赦されない。俺は、まだ……!)

椎名まゆりを抱く岡部倫太郎の心には強い決意と執念が込められている。いや、ここまで来ればいっそ妄執、妄念と言ってもいいかもしれない。
それは……かつての彼の戦い、椎名まゆりを救い、牧瀬紅莉栖を助けようと奔走した夏の三週間に起因していた。


岡部倫太郎は……椎名まゆりを、殺したのだ。


いや、直接手を降した事は一度もない。
桐生萌郁に殺されたり、天王寺綯に地下鉄のホームから突き落とされたり、SERNの手によってタイムマシンの実験台にされゼリー状になって壁に埋め込まれたり、あるいは岡部倫太郎を助けるため車に跳ねられたり、
他にも交通事故、心臓発作、抗争の流れ弾なんて事もあった。
その時点で椎名まゆりがどこにいようが、何をしていようが、必ず同じ時刻に彼女は死んだ。

世界線の収束によって彼女の死は不可避だったのだ。
だが岡部倫太郎はその結論に至るまでに、幾度も幾十度も愚かな過ちを犯した。
世界線の収束を認めようとせず、彼女を救おうと無駄な努力を重ね、タイムリープを繰り返し……

結果として、無数の彼女の死を引き起こしてしまったのだ。

無論先述した通り岡部倫太郎が直接手を下したことはない。
けれど椎名まゆりの死が確定している世界で、彼女が死ぬ瞬間を幾度も迎えたのは、そしてそれを眺め続けたのは、彼女を殺害したのとなんの変わりがあろう。
156第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 00:20:56.27 ID:RsQzYJ6g
椎名まゆりの幾多の死を見せ付けられ、それに抗い徒労を重ねた岡部倫太郎の精神は磨耗していった。
終いには彼女の死を見てももはやなんの悲嘆も感慨も抱かずに、ただ次の手段を模索してタイムリープマシンをひたすらに起動させるという愚行を延々と繰り返す始末だった。

……それはもはや死を看取る行為ではない。単なる作業である。
そう、己の為した行為の正否を見極めるためだけに、彼は椎名まゆりの死を観察し続けたのだ。


それはマッドサイエンティストどころではない。まさに外道の、人非人の為す事である。


……最終的に、椎名まゆりは救われた。
牧瀬紅莉栖ともども命を永らえ、今こうして元気で(岡部倫太郎の腕の下で、その肢体をほの紅く淫らに染めて)いてくれる。
世界線を書き換えたことにより彼女の死はなかったことにされ、全てが上手くいったのだ。

だが……岡部倫太郎だけは覚えている。

己の軽挙を、己の浅慮を、己の罪を、彼は全て記憶している。
岡部倫太郎の突出したリーディング・シュタイナーの能力が、異なる世界線での経験を忘れさせてくれぬ。
その記憶は、椎名まゆりを殺し続けた罪科は、彼の心に深く突き刺さったままだった。

だから……決めたのだ。

再びタイムリープマシンを用いたミッションとなった今回の『オペレーション・フリッグ』に於いて、その幾度も時を遡りやり直せるという特性を活かし、
このミッションの主目的たる性交渉に関し、椎名まゆりの初体験を一点の曇りもない素晴らしいものにしてやろう……彼はそのためだけにタイムリープを繰り返してきたのだ。

幾度も、幾度も、
前回よりは今回、今回よりは次回により精進して、
かつて彼女が死んでいった回数を上書きするように、塗り潰すように、幾十度だって。

そう、それは……岡部倫太郎の贖罪だった。

彼がかつてタイムリープによっていたずらに浪費した彼女の命を、今度はそれ以上の至福へと結実させるため。
そのために、彼は椎名まゆりを延々と抱き続けてきたのだ。



 
 
157名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 00:22:29.06 ID:RsQzYJ6g
ということで今宵はここまでー
清純派のまゆりにエロは似合わないとお考えの方もいらっしゃると思いますが
そういう方には大変申し訳なく
ではまた次回にお会いしましょう ノノノ
158名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 02:45:59.59 ID:9ZNxwqYA
乙!
オカリン(´・ω・`)
159名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 14:00:26.29 ID:iqNqr0nl
さすがオカリンだぜ
俺たちにできないことを軽々とやってのける!
そこに痺れる憧れるゥ!!
160名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 21:24:48.42 ID:XfrOrBOE
まゆしぃもそろそろ終わりかー
161名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 23:38:41.80 ID:RsQzYJ6g
さて今宵も失礼します
しばしの間お付き合いくださいませ
162第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 23:45:26.93 ID:RsQzYJ6g
7−18:2011/02/12 21:23 

「ん、ふぁ、ひゃうっ!?」

四つんばいのまま陰茎を背後から深く深く挿入され、子宮を突かれて椎名まゆりが悲鳴を上げる。
けれどその声は既に甘え蕩けた官能の調べを放っていて、彼女がその行為を悦んでいる事は明白だった。

きゅうきゅうと岡部倫太郎の長尺を締め付ける彼女の膣は、今やすっかり彼の反り返ったその形状を習い覚え、吐精を促がしながら快楽を貪っている。

「ん、ん、あ、あっ、あっ、あっ、あ……っ!」

犬の交尾のような格好で背後から刺し貫かれ、激しい律動をその身に刻まれて、それでも椎名まゆりが感じているのは羞恥よりもむしろ快楽であった。

「どうだ、まゆり、気持ちいいか?」
「ふひゃんっ! きゃんっ! うん、うんっ、まゆし、まゆしぃ気持ちいいのっ、気持ちいいよぉ! お、おかりぃんっ!」

ここに至るまで、彼女はあまりに快楽を浴びすぎた。
初めての葛藤も不安も痛みもなにもかも岡部倫太郎によって摘み取られてしまった今の彼女は、もはや彼から受ける快楽しか感じぬ、岡部倫太郎から浴びる快感のみを求め貪る生き物と化していた。

……言ってしまえば、彼女は今や発情した雌そのものだった。

心地よさが、気持ちよさが、彼女の強靭な自制心を突き崩す。
その幼い身体に似合わぬ淫らな表情とだらしなく開いた口元から、だから漏れ出るのは偽りなき本音のみだった。

「よし、出すぞ、まゆり!」
「うんっ! 来て! 来てぇ! オカリンっ! いっぱい射精(だ)してぇっ! ふぁっ!? あ、あ、ああああああっ!!」

ギリギリのところで引き抜いて、椎名まゆりの小振りなヒップから背中にかけて射精する。
肌に感じる吐精の熱……それだけで昂ぶっていた彼女の体は達してしまった。
163第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 23:48:52.14 ID:RsQzYJ6g
「ふゃ、んっ、オカリン、おかリぃん……っ」

ぽたり、ぽたりと全身から汗と体液を迸らせて、すっかり汗みずくとなった椎名まゆりがうなじ越しに振り返り、目尻に涙を浮かべた切なげな表情で岡部倫太郎を上目遣いに見つめる。
彼に向けられた臀部をくいくいと蠢かせ、反らせた背中は微かに震えて……それは弱々しい子犬のようでいて、それでいて発情した雌犬のようで、
散々精を放ったはずの岡部倫太郎をして再び長尺をそそり立たせるのに十分な艶姿であった。

「はぁ、はぁ、ふぁ……っ」
「大丈夫か、まゆり?」
「うん、だいじょーぶ。あのね、あのねオカリン?」

小柄な割に大きめの胸部に腕を廻され、岡部倫太郎に抱き起こされながら、椎名まゆりはおずおずと己の内なる欲求を口にする。

「オカリンの……その、それ。ええっと、お、おちんちんさんを、その、触っても、いい、かな……?」
「む……構わんが。あまりいいものではないぞ」
「えー、まゆしぃがこんなに気持ちよくなっちゃうものが悪いもののはずがないよぅ」

岡部倫太郎は今まで彼女に奉仕系のプレイをさせなかった。
フェラチオやパイズリ、手コキや脚コキといった、いわゆる「相手にやってもらう」タイプの性行為である。
それは彼が贖罪の気持ちで椎名まゆりを抱いていたからであり、むしろ彼の方が奉仕するべきだという気持ちが強かったためだ。

「……その、なんだ、ダルあたりに何か聞いたのかもしれんが、無理はしなくていいのだぞ、まゆり」
「ううん。まゆしぃが……したいの。オカリン、だめかなぁ?」

下から覗きこむようにしておねだりしてくる椎名まゆりの表情にはあどけなさと純粋さと、同時にこの短い時間で学び習い覚えた情欲と色香が込められていて、そのアンバランスな魅力に岡部倫太郎は思わず生唾を飲み込んだ。
164第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 23:51:39.66 ID:RsQzYJ6g
無理に奉仕をさせる気はなかった……が、彼女の方から望むのなら拒絶する理由はない。

「……構わんぞ。ただ嫌だと思ったらすぐにやめていいからな。あとは……あー、あまり強く握るな。とても敏感な部分なのだ」
「うん、わかった」

椎名まゆりは膝立ちになった岡部倫太郎の前にぺたんと座り込むと、改めて彼の屹立をしげしげと眺める。

「ほええええ……細長いきのこさんなのです。エノキダケ?」
「……噛むなよ」
「…………うん、わかった!」
「なんだ今の間はっ! あとなぜ気合いを入れるっ!」

岡部倫太郎から浴びせられた休みなき悦楽の雨から解き放たれたからだろうか、椎名まゆりはそののんびりとした雰囲気を含めやや普段の様子を取り戻しているように見える。

「んー……こんにちはおちんちんさん。お元気ですかー」
「話しかけるなっ」

まるでぬいぐるみに語りかけるように、椎名まゆりは両手を頬の横で広げて岡部倫太郎の逸物に語りかける。
そしてその小さな手指でそ……とカリ首に触れ、直後にぴくんと跳ね上がる目の前の長竿に目を丸くした。

「はわわっ、すっごい元気さんなのです!」
「あふんっ」

思わず情けない声を上げてしまう岡部倫太郎。
けれど椎名まゆりは一層に瞳を輝かせ、にじり寄るようにして彼の魔羅へと顔を近づけた。

「いっぱい濡れてる……まゆしぃが濡らしたの?」
「あー、まあ、なんだ……うむ」
「ほえー……あ、でも先っぽからなんか出てる。オカリンオカリン、男の人も濡れるの?」
「あ、ああ、カウパー腺液と呼ばれるものだ」
「ほええー……男の人も濡れるんだねえ」

性的な事を実に無邪気に尋ねてくる椎名まゆり。なんというかすっかり彼女のペースである。
先刻までは岡部倫太郎が支配していたはずの空気が、今や別のものに染まりつつあった。

けれど……それは、互いにとって嫌な空気では、なかった。
165第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/08(火) 23:55:32.95 ID:RsQzYJ6g
「ねえねえオカリン、これ舐めても大丈夫?」
「なにっ!? あ、ああ。特に身体に悪いものではないと思うが……」

岡部倫太郎に許可をもらった椎名まゆりは瞳をますます以て爛々と輝かせ、彼の陰茎を凝視する。

「い、言っておくが食べ物ではないぞっ! 噛むなよ!」
「もー、何度も言われなくてもわかってるよ〜……はむはむもしちゃダメかな?」
「は、はむはむ?!」
「こう歯を立てないで、唇で……『はむ』って」
「いや、やってみないとわからんが……おそらく大丈夫なのではないか?」

未知の経験に想像力を総動員するが、どうにも笑顔の椎名まゆりが己の竿をがぶぅと噛み千切るシーンが浮かんでしまい思わず背筋を総毛立たせる。
けれど歯を立てないというのなら大事には至らないのではないか、ととりあえず結論づけてみた。
何より椎名まゆり自身が積極的になっているのに止めるべきではない。

「えへへ……じゃあいただきま〜す♪」
「だから食べ物ではないと言っているだろうっ!!」

岡部倫太郎の叫びを無視し、彼の男根へと顔を近づける椎名まゆり。
そしてそのまま唇で歯を隠し、はむ、とくわえ込む。

「うおっ!?」
「ほはひんほはひん、はひひょーぶ?」
「あ、ああ、大丈夫だ、問題ない」

とりあえず痛みはなく、岡部倫太郎は安堵した。
フェラチオのような快感があるわけではないが、妙な掻痒感というか、ムズムズした感覚を催す。

「ん〜……(チロッ」
「む……っ」

椎名まゆりは唇の隙間から舌を突き出し、その先端で岡部倫太郎の肉棒の中途を軽くつつく。
誰に教わったことでもない、岡部倫太郎自身に命じられたことでもない。
彼女自身が試行錯誤しながら目の前の男性器に相対し、少しでも気持ちよくなって貰おうとしているのだ。


そう、それは……本来的な意味での“奉仕”の所作であった。


「ぷう、じゃあ次はこの先っぽのを……ん、ちゅ、ちろ、ん、ちゅる……っ」
「む、う、あ……っ」

椎名まゆりの唇が岡部倫太郎の亀頭に及び、その先端を舌で刺激し、唇で啜る。
敏感な部分だけに思わず反応してしまう岡部倫太郎。彼の様子に自分がしている事の性的な正しさを認識した椎名まゆりは、より積極的にその行為に埋没していった。
166名無しさん@ピンキー:2013/01/08(火) 23:56:36.13 ID:RsQzYJ6g
というわけで今宵はここまでー
オカリンのターンからまゆりのターンへ
たまにはこういうのもいいですよね
それではまた次回〜 ノノ
167名無しさん@ピンキー:2013/01/09(水) 01:04:40.13 ID:Ix4qOwGB
まゆしぃに搾り取られるとかマジでオカリン爆発しろ…!!!
168名無しさん@ピンキー:2013/01/09(水) 01:05:11.42 ID:NlREjTB6
RS無双過ぎだぜ・・・
能力は違うがまるで明晰夢の世界を制した猛者が繰り出すような世界に俺の妄想が有頂天
169名無しさん@ピンキー:2013/01/09(水) 23:14:44.88 ID:qsyCftKa
というわけで今宵も更新しに来ましたー
しばしお付き合いくださいませ
170第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/09(水) 23:18:18.46 ID:qsyCftKa
7−19:2011/02/12 21:45 

「ん、ちゅ、ちゅるっ、はむっ、ん、ん、んぷぁっ、はむっ、ん、んちゅっ、ちゅ、ちゅるるるる……っ」
「う、あ、ま、まゆり……っ!」

椎名まゆりの丹念な唇と舌での奉仕は、岡部倫太郎の反応を確認しながら徐々にその動きを進化させ、やがて本来のフェラチオに近い形へとその姿を変えていった。

「んちゅ、ぷぁ、ん、オカリン、んちゅっ、ほはひん、ん、れろっ、ん、ちゅっ」

うわごとのように幾度も岡部倫太郎の名を呟き、その唇を震わせる椎名まゆり。その微かな震動がまた彼の敏感な部分を絶妙に刺激し、自らの名を呼ばれながら岡部倫太郎は押し寄せる快感に翻弄される。

舌先でつつき、巻き取るように舐め、鈴口をねぶり、
唇でキスをして、咥え、軽く皮を引っ張り、
指先でつまみ、掌で掴み、緩く握り、さすり、こすりつけて
男根の先端から肉竿、やがてさらに下がって睾丸に至るまで、
椎名まゆりは岡部倫太郎の陰部を丁寧に、丹念に愛撫し、彼の快感を際限なく高めてゆく。

「ぐ……まゆり、そろそろ、出そうだ……っ!」
「ん、ふぇ? 出る?」
「うおぁっ!?」

岡部倫太郎の言葉の意味がよく理解できなかったらしき椎名まゆりは、顔をひょいと上げたついでに思わず長竿をきゅっと強めに掴んでしまい、それが岡部倫太郎に限界を迎えさせる。

「ぐお……っ」
「ほぇ? きゃ……っ!?」

岡部倫太郎の男根から白濁が飛び散り、椎名まゆりの顔面に撒き散らされる。
咄嗟のことに何が起きたか理解できぬ彼女は、思わず目を閉じてそのまま顔射を受け止めた。

顔中に飛び散る白濁。微かに震える身体で、わけもわからぬまま舌を突き出してそれを健気に受け止める少女。
それはあまりに背徳的で、あまりに淫靡で、岡部倫太郎の全身がぞくりと興奮に震えた。
171第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/09(水) 23:21:59.46 ID:qsyCftKa
「ん……ちゅぱっ。れろっ、ん〜、ちょっと苦い……かな?」
「おい、まゆり、無理はするなよ」
「無理だなんてそんなぁ。まゆしぃはさっきからしたいことをしてるだけだよ〜」

瞼にかかった白濁を指先ですくい取ると、ちゅぱ、と小さな唇でその指を咥え込み、粘つく精液を味わう。
その後己の肩や腕に付着した白濁を舌を伸ばして舐め取って、口の中でじっくりと味わうと、んく、と嚥下した。

「オカリンオカリン、オカリンも気持ちよかった?」
「あ、ああ、とてもよかったぞ」
「えっへへ〜。そっか〜、気持ちよかったんだぁ♪」

にこー、と満面の笑顔で微笑む椎名まゆり。
けれどその身は半裸に剥かれ、総身に汗が滲み、股間には白濁と愛液が溢れ、顔にはまだ彼が放ったザーメンがところどころに付着している。
その愛らしさと淫らさの官能的なミスマッチが、岡部倫太郎の脳髄を焼いた。

「……ねえねえオカリン。あのね、まゆしぃはちょっとだけオカリンに聞いてほしいことがあるのです」
「なんだ、まゆり。遠慮せずに言ってくれ」

岡部倫太郎の許諾を得ると、椎名まゆりはなぜか居住まいを正し、彼の前にちょこなんと正座した。まあ衣服の乱れはそのままだったが。

「あのね、まゆしぃね、さっきまですっごい気持ちよかったの」
「あ、ああ、そうか?」

岡部倫太郎は思わず生返事をしてしまう。
彼の幾十に及ぶタイムリープが効を奏した結果と言えるが、こう面と向かって素面の当人から伝えられるとなんとも面映い。

「うん。オカリンにいろいろしてもらって、いっぱいしてもらって、あのあの、まゆしぃ初めてなのに、初めてだったのにとっても感じちゃって……えっと、すっごいすっごい恥ずかしかったのです……」

告白しながらみるみる全身をピンクに染め、耳たぶまで朱に染めながら指を突き合わせる。
岡部倫太郎を下から上目遣いで見つめつつ、だがすぐ目が横に泳いでしまうあたり本気で恥ずかしかったのだろう。
172第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/09(水) 23:27:27.36 ID:qsyCftKa
彼女の口ぶりは幼いが言っている内容は明らかに性事に関わることで、その臭うようなエロチシズムは岡部倫太郎をして唾液を嚥下させるに足るものだった。
けれど……椎名まゆりの言葉はそこで終わらなかった。
むしろ彼女の言いたかった事は、その先にこそあったのだ。

「でもでもあのね、オカリン。まゆしぃね、今みたいにオカリンのおちんちんさんに気持ちよくなってもらえた時ね、なんかすっごく嬉しかったのです。さっきのがずっと気持ちよかったけど、今のがすっごく嬉しかったの」
「………………!!」

思わず上体を前のめりにさせ、岡部倫太郎は椎名まゆりの言葉に耳を傾けた。
聞き逃してはならぬ言葉だと思ったのだ。

「なんでかな〜って、まゆしぃあんまり頭よくないからいっぱいいっぱい考えたのです。そうしたらね、まゆしぃなんとわかっちゃいました!」

ずりずり、と膝立ちで岡部倫太郎の前までやってきた椎名まゆりは、そのまま女座りでぺたんと尻餅をつくと、岡部倫太郎の腕をぎゅっと握る。

「あのねオカリン。オカリンがまゆしぃに気持ちよくなってほしいな〜って思ってるのと同じくらい、まゆしぃもオカリンに気持ちよくなってほしいのです。
オカリンからしてもらうだけじゃダメなの。まゆしぃからもしてあげたいの」

掴んだ岡部倫太郎の掌を、そっと己の、小柄な割に膨らんだ乳房にそっと押し当てる椎名まゆり。
とくん、とくんと彼女の心臓の音が肌を通して伝わってくる。
そして彼女の瞳は、まっすぐに岡部倫太郎の瞳を射抜いて……

「してもらうでもなくって、してあげるだけでもなくって、まゆしぃね、オカリンと一緒に気持ちよくなりたいのです。ダメ……かなあ?」

その言葉に岡部倫太郎は思わず面を落とし……その身を震わせ、拳を強く握った。
173第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/09(水) 23:29:18.24 ID:qsyCftKa
「……オカリン?」
「くくく……ハハハ、フゥーハハハハハハハ!」
「オカリン?! ど、どうしたの?」
「クク、フハハ……なんたる愚か者だ、俺は!」

そう、椎名まゆりの言う通りだった。
確かに今の岡部倫太郎には優れた技術がある。幾人もの女性をその手で抱いて、女を悦ばせる技術を磨いてきた。
けれどその最終目的はなんだっただろうか?
牧瀬紅莉栖を快楽に堕とす事だったろうか?


否、断じて違う。


破局した彼女とやり直し、愛を確かめ合うことだ。
それには互いの気持ちが一番大事ではないか。
いくらテクニックを弄したところで、そこを忘れては本末転倒である。

そうだ……と岡部倫太郎は思い出す。
確かに彼女との始めては失敗してしまったけれど、
それでも、二人でホテルに入るまでの葛藤も高揚も、ベッドの前で互いに見つめ合ったときめきも興奮も、そこには一切の嘘はなかったはずだ。互いが互いを想う気持ちが確かにあった筈だ。
それを忘れて、このまま彼女へと挑んだら間違いなく失敗していただろう。


その最も大切なことを……岡部倫太郎は椎名まゆりから教わった。


そして……同時にふと脳裏に浮かんだことがある。
彼女が往来で唐突に伸ばした“星屑の握手(スターダスト・シェイクハンド)”、
あれはもしかして自分に救いを求めていたのではないか?
誤った道を繰り返そうとしている己をたしなめようとしていたのではないか?
根拠はないが、岡部倫太郎にはそんな気がしてならなかった。
174第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/09(水) 23:31:20.39 ID:qsyCftKa
「オカリン、オカリン、大丈夫? まゆしぃ変なこと言っちゃった?」

心配そうに岡部倫太郎を揺する椎名まゆり。
彼女の瞳からは狼狽と心配の色がありありと見て取れる。

「いや……お前は正しい。俺はまた道を誤るところだった」
「ほんと? まゆしぃ役に立った?」
「ああ立ったとも。お前のお陰で世界は救われることだろう!」
「ほぇ〜、なんかよくわかんないけど、まゆしぃ照れちゃうな〜。えっへへ〜♪」

頬に赤味を差して頭を掻く椎名まゆりをたまらなく愛しく感じる岡部倫太郎。
そうだ、今この時は、ただひたすらに彼女を愛するためだけに使おう。

いや……違う。
愛するのではない。愛されるのでもない。


ただ……愛し合うためだけに。


岡部倫太郎はそんな決意を改めて固めると……彼女の背に腕を回し、そっと抱き寄せて唇を奪った。

「ん、ちゅ、ちゅるっ、ん、ふぁ、おふぁ、ひん……ん、んん〜っ!」

長い大人のキスを終え、ゆっくりと唾液の橋を伸ばしながら椎名まゆりを解放する。

「一緒に気持ちよくなろう、まゆり」
「……うん!」


そして二人は、互いのぬくもりを確かめあうかのように再び強く抱き合った。
175名無しさん@ピンキー:2013/01/10(木) 02:35:27.70 ID:MWJPw3Pt
また寝オチ……
これで失礼します
次回あたりでまゆしぃ編は最後かな……? ノノノ
176名無しさん@ピンキー:2013/01/10(木) 08:56:09.49 ID:OA0Q8fQk

いよいよラスボスか
177名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 00:00:22.56 ID:L48zZaoP

まっちょしぃの最後か…ゴクリ
178名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 01:23:32.94 ID:s359SmbE
こん
ばん、わ
残業残業で今帰ってきました
息を整えたら更新しまーす……
179第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/11(金) 01:30:34.37 ID:s359SmbE
7−20:2011/02/12 21:59 

「ん、オカリン、オカリン、ん、あんっ、ふぁっ、ん、ん、んん〜〜……っ!」

うわ言のように幾度も岡部倫太郎の名を呼びながら、椎名まゆりは彼の首に腕を回しぎゅっとしがみ付く。
強く密着した彼女の肢体、そのはだけられた小柄な体躯の割に豊かな乳房が岡部倫太郎の胸板にこすりつけられ、強い張りを伴いながらも淫らに歪んだ。

「まゆり、まゆり……!」
「オカリン、オカリン……! ん、ちゅ、ちゅぱ、ん、ひゃうぅぅ!」

互いに名前を呼び合い、唇を交わす。
その間に岡部倫太郎の剛直が椎名まゆりの奥深くを貫き、彼女は甲高い、だが甘い悲鳴を上げた。

「んひゃぅぅっ!? オ、オカリンずるいよぉ、そんな、いきなり……あっ、んひゃっ! はう……んっ!」
「狡いとは失礼だな。まゆりのここはこんなにも悦んでいるではないか」

すっかり習い覚えた巧みな腰使いで椎名まゆりの膣壁を刺激する岡部倫太郎。
彼にとっては数十回目の経験である。それはまあ動きも巧みになろうというものだ。

「それは、あっ! オカリンが、んっ、も、もぉ〜、まゆしぃは怒ったのです!」
「むおっ!? ま、まゆり、いつの間にそんな……!」

椎名まゆりは怒った……というにはまるで険も怒気もない、けれど官能の入り混じった切なげな声を上げながら、岡部倫太郎の陰茎を膣できゅきゅっと締め付ける。
運動神経のいい彼女の身体は意外なほど鍛えられていて、体格差もあってその締まりも相当なものだった。
さらに岡部倫太郎に色々と開発されている内に彼女自身も学習したものらしく、未熟ながらもこうして自ら彼の逸物を刺激するほどにまで成長していた。
180第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/11(金) 01:39:17.25 ID:s359SmbE
「オカリン、んっ、あの、ひゃっ!? あのね……っ」

幾度も激しく貫かれ、喘ぎ、背を反らし、彼の腕の内で淫らにその身をくねらせ悶えながら、椎名まゆりは涙混じりの声で叫ぶ。

「好き……ん、好きなの……っ、オカリン、ふぁっ、まゆ、まゆしいぃね、オカリンのこと、ん、好き、大好きぃ、大好きなの……っ! ひゃ、ふひゃぁぁあぁああっ?!」

全てを言い終わらぬうちに椎名まゆりの膣内の感じやすい部分とクリトリスを同時に刺激して、嬌声と共に彼女を快楽の渦に陥れる岡部倫太郎。
だが先刻までと違う。明らかに違う。
肉体的な快感はさほど変わらぬが、精神の充足感がまるで違う。
互いが求め合う……ただそれだけでこれ程に感じ方に違いが出るとは彼自身思ってもみなかった。

最初から誠意だけで迫っても、牧瀬紅莉栖がいる以上椎名まゆりは己の想いをひた隠し、拒んでいただろう。
その身体を快楽だけで攻め立てても、彼女は性に溺れるだけで己の想いは吐露すまい。

肉体的な悦びと、精神的な充足と、そのふたつが合わさって初めて彼女は素直になれたのだ。
喩え牧瀬紅莉栖が岡部倫太郎を好きだからとて、いかに他の女性が幾人も彼に懸想していたからとて、
それでも己が、椎名まゆりが岡部倫太郎の事を好きだと、大好きだと想う気持ちは変わらない。変えようがない。

性愛と快楽と、恋慕の情に押し流されながら、溢れる情動の濁流に飲まれながら、彼女はやっとそれに気付いた。
そしてようやく気付いたその想いを押し留めるような……心のわだかまりは全て取り払われてしまっていた。
181第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/11(金) 01:43:40.79 ID:s359SmbE
「オカリン、オカリンっ、ひ、あっ! ま、まゆしぃ、まゆしぃもう、もうね……もうダメみたいです……っ!ダメなの、も、もぉ、おかりぃ、ん……! ん、きゃふっ! ふゃっ、あ、あ、ああ……っ!」

やがて椎名まゆりの声に切迫感が混じるようになり、彼にしがみ付く腕の力が一層に強くなる。

「もう少しの我慢だ、まゆり。だが……このままでいいのか?」

岡部倫太郎の言葉に、椎名まゆりは今更ながらに己が取っている体勢を自覚した。
彼女は無意識の内にその両脚を彼の腰に絡みつけ、その逸物を我が内から逃さぬようにしていたのだ。


そう……彼女の雌としての本能が、無意識の内に最愛の雄の精をその内に欲していたのである。


見る間に真っ赤に染まる椎名まゆりの頬。
耳朶まで紅に染め上げた少女は……けれどもはや己を偽る事などできなくなっていた。

「うん、いい、いいのっ! オカリン、このまま最後までしてえっ!」
「本当にいいのだな、後悔はしないな、まゆりっ!」

岡部倫太郎の方も限界に近づきつつあった。これ以上突き入れたままだと確実に膣内に射精してしまう。
無論タイムリープでなかった事にはするのだが、だからといって目の前の愛しい少女の想いを無碍にはできぬ。
幾度時間を遡行しようと目の前の相手には常に全力であれ……それが岡部倫太郎が己に課した枷であり、相手に対するせめてもの誠意なのだと信じていたから。
182第7章 懸想千秋のハープスター(下):2013/01/11(金) 01:50:17.36 ID:s359SmbE
「しないっ! しないよ。するわけないよぉ! オカリンの想いが欲しいの、オカリンがね、まゆしぃのこと、まゆしぃのこと少しでもいいなって想ってくれてるなら……っ」

椎名まゆりの瞳は絶頂を間近に控えた押し迫った様子がありありと窺える。
そして同時に目の前の男に抱かれている悦びを全身で……激しく、艶かしく蠢かせた肢体で表していた。

「出してっ! オカリンっ! オカリンの全部っ、まゆしぃにちょうだいっ! オカリン、オカリ……んっ、ふぁっ!? あ、きゃっ、ん、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

岡部倫太郎の長竿がひと際深く突き刺さり、椎名まゆりが思わず背中をくの字に折り曲げた瞬間に……それは、放たれた。

あれだけ吐精した後だというのに、驚くべきほどの量が彼女の膣内に、子宮に注がれて……
椎名まゆりは一気に頂に昇り詰め、歓喜の悲鳴を上げながら幾度も幾度も達し、その四肢をびくん、びくんと大きく震わせる。

「ふひゃ、ひゃう、ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁぁ……♪」

だらしなく口元を開き、気の抜けきった声を洩らしながら……
椎名まゆりは、まるで瀕死の病人のようにベッドの上でぐったりとその身を横たえる。

「ん、オカリン、オカリン……っ」

岡部倫太郎の名を呼んではいるが、彼に呼びかけてはいない。
正体を失った今の彼女は、もはや瞳の焦点すら定まらず、まるでうわ言を呟くようにただ己の心の有様を口にのぼせているだけだ。

「オカリン、オカリン……」

ぶつぶつと呟きながら、声のトーンが徐々に緩やかになってゆく。
よほど疲れたのだろう。どうやらそのまま寝入ってしまうようだ。

「ん、オカリン……」

やがて……彼女の右腕がゆっくりと上がる。
虚空を掴むようなその手つきは、『星屑との握手(スターダスト・シェイクハンド)』と呼ばれる彼女独特の仕草だ。
けれど今日に限って、その指先は僅かに蠢き、まるで何者かを求めているかのようだった。

無言のまま、岡部倫太郎がその手を静かに掴む。
椎名まゆりは口の端を綻ばせ……実に満足そうな笑顔を浮かべた。

「むにゃ、オカリン、オカリン……」

すっかり寝言に取って代わってしまった少女の繰り言は、最初から最後まで……ずっとその男のみで占められていた。

「オカリン……まゆしぃね、オカリンのこと、だいだいだいだ〜い好き、なのです……えっへへ〜……んにゅ♪」




彼女が伸ばした掌は……
その日、星屑ではなく、最愛の男の手によって握られた。



 
183次回予告:2013/01/11(金) 01:55:19.15 ID:s359SmbE
8−0:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……まゆりだ」
「ふ〜ん。で、上手く行ったの?」
「ああ、なんとかな」
「おー、さっすがー。じゃあ後は誰が残ってるの?」
「もう、いない」
「ふえ?」
「まゆりで……最後だ」

がた、と半ば腰を浮かせた阿万音鈴羽が、びっくりした顔で岡部倫太郎を見つめている。

「ええっ!? 留未穂お姉ちゃんは? 萌郁おばさんは!?」
「もう、済んだ」

岡部倫太郎の言葉には覇気がない。
淡々と……ただ事実のみを述べていた。

「すっごーい! もう終わっちゃったの!? 早いねー。さっすがオカリンおじさん!」
「ああ……もう、と言うには少々時間をかけすぎたかもしれんが」

阿万音鈴羽としてはあっという間、そんな感覚だろう。
なにせ彼女にとってはつい先刻送り出したばかりなのだから。

けれど岡部倫太郎にとっては違う。
幾度も幾度も、幾十幾百と、岡部倫太郎はタイムリープを繰り返してきた。
初めて阿万音鈴羽と肌を重ねてから、彼の感覚で一体幾日過ぎただろう。いや、既に数ヶ月単位やも知れぬ。
184次回予告:2013/01/11(金) 01:56:34.15 ID:s359SmbE
だが……それも今回で終わりだ。

「いよいよ『オペレーション・フリッグ』も大詰めだ。鈴羽、今回も色々働いてもらうぞ」
「オーキードーキー! といってもアタシにとっては初めてのお手伝いだけどさ」

いそいそと立ち上がって岡部倫太郎の隣に歩み寄った阿万音鈴羽は、彼の腕にそっとしがみ付く。

「……怖いの? 岡部倫太郎」
「ああ。今度という今度は失敗は許されないからな。重大な任務だ」

厳しい顔つきで天井を睨み付けた岡部倫太郎は……だが、その後静かに微笑んだ。

「なあに、心配するな。ラボのみんなから色々と学ばせてもらった。今度は……きっと大丈夫だ」

優しげな手つきで阿万音鈴羽の頭を撫でる。
腕にしがみついたままの彼女は、まるで童女のようなあどけない笑顔でそれを享受した。

そう、すべてはこの時のため……
かつて失敗に終わった、彼女との逢瀬をやり直すため。

「待っていろ……紅莉栖!」




岡部倫太郎の脳裏に浮かんだ、その生意気そうな白衣の娘のために。




『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ 第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1)』へ つづく)
185名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 02:08:41.25 ID:s359SmbE
というわけで第7章、まゆりルート完結でございます。
最終的に助手と二択をかけることになった少女、オカリンがタイムリープを繰り返すきっかけとなった女の子。
誰よりも近くにいて、それゆえにこそ互いに多くの葛藤があったはずの相手。
そんな相手ですので、今回のようなミッションにおいてオカリンにも色々と思うところがあるのは当然だと思うわけです。
そのあたりがこの未熟な筆致から少しでも伝わってくれると良いのですが。

彼女の話をあえて似合わぬエロ推しで書いたのには一応理由があるのですが、清純や天然の印象の強い彼女にこのような展開は似合わぬ、或いは好みではないという方もいらっしゃったかと思われます。
そうした方には大変申し訳ありませんでした。

まゆりファンが少しでも喜んでくれたなら、
そうでない方でもほんの少しでも彼女で興奮してくれたなら(待て
そんなエピソードであってくれれば、と思います。

さて次回からいよいよ第8章、ラスボスクリスティーナこと牧瀬紅莉栖の出番です。
第1章でオカクリだとぬか喜びさせた方には大っ変申し訳ない思いをさせてしまいましたが、なんとかそうした展開に突入できそうです。
タイムリープを封じられたオカリンが、万全を期すため早朝から深夜まで助手を24時間エスコートする予定でございます。

それではようやく出せた作品通しての正式タイトルと共に今宵は失礼したいと思います。
というか、眠い……

感想などいただけたら一層の励みになったり ノノシ
186名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 02:17:30.01 ID:i1S8i74J
乙乙!
残業明けなのに本当にお疲れさまでした、ありがとう
毎日更新は嬉しいけど、体調崩したら元も子もないかんね!

今まで慣らす描写がなかったのが結構疑問だったんだけど、今回の話で納得しました
内面の描写が上手だからいつも読みやすくて共感しやすいです
エロエロはエロエロでエロエロなところがいいと思います

途中から読み始めたから最初の方分からないけど、次も楽しみに待ってます
187名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 07:51:03.48 ID:XiGtt4Uw
今夜はwktk
188名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 12:01:14.27 ID:Qt0daMqr
毎晩wktk
189名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 22:30:41.99 ID:iMLWHh16
ラストは一発勝負なのか?
性格には2度目ではあるが。
190名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 22:42:57.40 ID:UcXA8o6/
これ途中から読んでたんだけど、最初ってどんな感じだったの?
191名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 22:56:53.28 ID:Q25jHHGn
192名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 23:10:01.21 ID:GePV9OCS
>>191
ありがとう、読んでくる!
193名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 23:33:50.84 ID:mkuiGIC4
こんばんは……
今日は比較的余裕をもって更新できそうです
194第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/11(金) 23:36:56.35 ID:mkuiGIC4
天の川の対岸で待っている織姫は、いつだって彦星の事を待っていて……
そんな事を呟いたのは、一体誰だったろうか。








いつ、誰が……どの世界線で呟いた言葉だったろう。








 
195第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/11(金) 23:41:39.19 ID:mkuiGIC4
8−1:2011/02/13 05:52 未来ガジェット研究所

「ふわ、ああああああ……」

大きな欠伸をしながら機械を弄り回す。
牧瀬紅莉栖は徹夜明けの目を擦りながら作業に没頭していた。

「橋田、スイッチ入れて」
「おk。つか牧瀬氏ちょっと無理しすぎじゃね? もう9割方完成してるっしょ、これ」

徐々にタイムリープマシンになりつつある電話レンジ(仮)から伸びている配線、その先にあるPCから手馴れたキーボード捌きでマシンを立ち上げる橋田至。
ブゥン、という音と共に電話レンジ(仮)が起動し、牧瀬紅莉栖はマシンから伸ばした別の配線に繋がっている計器類で数値をチェックし始める。

「まあね。でもここから先の微調整が一番難しいのよ。ここをクリアしないと今日中に終わらない」
「今日中に完成させるつもりだったん?! ヤバス、僕今から出かけるつもり満々だった罠」
「え、そうなの?! 参ったな。橋田がいないと作業効率が落ちる。あのバカがいれば多少はマシなんだけど……ああもうアイツどこ行ってるのよ!」
「どこかへ行ったバカとは誰の事だ、助手よ」

カーテンの向こうの扉が開き、ビニール袋を提げた岡部倫太郎が寒風を携えて現われた。
まだ早朝も早朝、冬至が過ぎて少しずつ日が延びている時期とはいえ、真冬のこの時間ともなれば日の出までまだ30分以上ある計算である。

「このラボでバカって言ったらあんたしかいないでしょ岡部! この開発も大詰めの時期に手伝いもしないで遊び惚けてる所長さんは誰?」
「むぐ……べ、別に遊び惚けていたわけではない! 徹夜明けで疲れているお前たちのために買出しに出ていたのだ!」

これ見よがしに買い物袋を突き出しながら必死に反論する岡部倫太郎。
けれど彼ら2人ほどには現在の開発案件の役に立っていない事は重々自覚しているため、その舌鋒は鈍い。
196第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/11(金) 23:52:30.52 ID:mkuiGIC4
「おー、オカリン差し入れ買ってきたん?! ありがてえマジありがてえ」

どすどすとカーテンを開けて開発室から出てくる橋田至。
彼がいないと検証のできない項目らしく、肩を竦めながらそれに続く牧瀬紅莉栖。
彼女は左手で大きく伸びをして、右手で口元を押さえながらやけに長い欠伸をした。

「お、このおにぎり焼肉入りじゃん。こっちは明太。オカリンにしては随分と奮発してね?」

ガサガサとビニール袋を漁りコンビニおにぎりを物色する小柄な巨漢。

「俺にしてはとはなんだ俺にしてはとは。失礼な」
「スマソスマソ。で飲み物はやっぱりドクペ?」
「いや……今のお前にはこっちのがいいと思ってな」

軽く放られたペットボトルを慣れぬ手つきでなんとかキャッチする橋田至。

「あっつー! ……ってこれMAXじゃん! なんでこのチョイス? ま確かに今ちょうど僕が欲しかったものですが何か」

MAXコーヒーはかつて茨城や千葉、栃木などを中心に販売されていたコーヒー飲料である。
味としてはコーヒー牛乳に近いが練乳がたっぷり含まれており、とにかくだだ甘いのが特徴だ。
現在は全国で販売されているが、一時期は知る人ぞ知るマイナーメジャー飲料として有名であった。

「どうせ今からメイクイーン・ニャンニャンに並びに行くのだろう? なにせこの季節だ。寒空の行列にドクペでは身体が冷えるだろうと思ってな」

岡部倫太郎のこれ見よがしなドヤ顔に、橋田至がペットボトルを胸に抱き身を震わせながら大仰に感動する。

「ふお、ふおおおおおお! なんといういたわりと友愛の心! 僕が心を開いてるお!」
「開かんでいい」
「オカリンマジ一生付いて行くっス!」
「当然だダァルよ。お前は我がラボの貴重な戦力なのだからな! 」
「いやーでもオカリンなんで僕の考えてる事わかったん? マジエスパー登場かと思ったお」
「ふん、“我が頼れる右腕(マイ・フェイバレット・ライト・アーム)”の考えることなどこの鳳凰院凶真には全てお見通しなのだ!」
「さっすがオカリン俺達にできない事を平然としてのける! そこに痺れる憧れるゥ!」
「フゥーハハハハハ! 遠慮せずもっと褒めるがいい!」
「茶番乙」
197第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/11(金) 23:57:36.44 ID:mkuiGIC4
橋田至と盛り上がっていた岡部倫太郎は、牧瀬紅莉栖の冷たいツッコミに水を差されがくんと体勢を崩す。

「で、私の分もちゃんとあるんだろうな」
「無論だ。好きなものを選ぶがいい。俺は余りもので十分だ」
「ふうん、随分と殊勝じゃない、岡部にしては珍しい」

文句を並べながら、だが素直にビニール袋を受け取って物色を始める牧瀬紅莉栖。
時折瞳を輝かせているのはおにぎりの好みの具財でも見つけたのだろうか。

「じゃあこれとこれと……あとドクペもらうわね」
「ああ、俺の分は冷蔵庫に入っているからな」

残り物を受け取りながらトッピングを確認する岡部倫太郎。
その後ろには防寒着を着込みますます丸くなった橋田至がいた。

「では不肖橋田至、これよりフェイリスたんの愛のチョコを受け取りに行ってくるお!」
「ああ行って来い。ゆっくりしてきていいぞ。今日の開発は休みだからな」

岡部倫太郎の言葉に、牧瀬紅莉栖と橋田至は目を丸くした。

「え、オカリンそれマジ? 牧瀬氏は今日中に完成させたいって言ってたけど」
「別に今日完成させなければならない決まりはないからな。ダル、今日はメイクイーンでゆっくり休んで英気を養ってくるがいい。俺が許可する」

一人で話を進める岡部倫太郎に、背後の牧瀬紅莉栖が食ってかかる。

「ちょっと待て岡部! あんた一人で勝手に決めるな!」
「待て助手よ、ダルはメイクイーンの列の先頭に並ぶつもりなのだ。これ以上待たせるわけにはいかんだろう」

岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖の舌鋒を片手で制し、背後の橋田至に首を向ける。

「ダルよ、ここは俺に任せて先に行くがいい。万が一機関の手によって計画が変更になった場合携帯で連絡する」
「オーキードーキー。オカリン、アンタ今最高に輝いてるぜ!」
「ああ、行って来い!」
「それじゃオカリン、後で骨は拾ってやるお! それと夫婦喧嘩はほどほどにナー!」
「「どわれが夫婦だっ!」」

二人の妙に息の合ったツッコミを背に、最高の笑顔で親指を立てた橋田至が脱兎の如く……というには些か鈍重な足取りで走り去ってゆく。




 
198名無しさん@ピンキー:2013/01/11(金) 23:58:56.79 ID:mkuiGIC4
というわけで今宵はここまでー
ようやくこのまで来ることができました
これもひとえに皆様の応援のおかげでございます

それでは皆様お休みなさーい ノノ
199名無しさん@ピンキー:2013/01/12(土) 00:00:18.39 ID:1KNbVv30

やっぱ、オカリン・ダル・紅莉栖の掛け合いは良いな
200名無しさん@ピンキー:2013/01/12(土) 00:59:32.22 ID:TVEAQZI9

安定のダルwww
201名無しさん@ピンキー:2013/01/12(土) 07:37:26.53 ID:DRn9L3GL
流石収束さんはすごいでw>ダル安定
202名無しさん@ピンキー:2013/01/12(土) 17:30:59.59 ID:hduzI/RR
毎日楽しみにしてるで
203名無しさん@ピンキー:2013/01/13(日) 03:01:12.83 ID:HUReRPZx

ブレないダルwwww
204名無しさん@ピンキー:2013/01/14(月) 18:44:31.98 ID:8/hogsEM
こんばんは
いつもより早めの時間に失礼します
今日は一日家にいるのでいつもより早めに更新の予定ー
205第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/14(月) 18:46:54.80 ID:8/hogsEM
8−2:2011/02/13 06:04 

「まったく……その最高の右腕なんちゃらには随分と気を使うアンタは、私にはなんの気配りもなしか」
「“我が頼れる右腕(マイ・フェイバレット・ライト・アーム)”だ」
「どーでもいい。心っ底どーでもいい」
「聞いたのはお前だろう、クリスティーナ」
「だからクリスティーナじゃないと何度も言っとろーが!」

橋田至がいなくなり、不機嫌を隠そうともしない牧瀬紅莉栖。
どうやら今日の開発を中止にされた事がだいぶ癇に障ったらしい。

「随分と機嫌が悪いな、我が助手よ」
「誰のせいだと思ってるのよ! それと助手でもない!」
「気が短いのは寝てないからではないのか。徹夜は身体に毒だぞ」
「この性格は元からだ! あと休みはちゃんと一昨日もらいました! 十分休めたし!」
「ならば栄養が足りていないのではないか。だからいつまで経っても胸がそんなに貧相なのだ」

岡部倫太郎の言葉に見る間に顔をまっ赤に染めて慌てて己の胸部を隠す牧瀬紅莉栖。
まあ桐生萌郁の時と違って隠すほどの大きさもないのだが。

「な……っ! 言ったな! 胸の事を言ったな!? パパにも言われた事ないのに!」
「父親が言ったら流石にセクハラだろう……」
「岡部が言ってもセクハラよ! あーもうホンット最っ低!」
「あー言えばこう言う、こー言えばああ言う。もう少し落ち着いたらどうなのだ、助手よ」
「あんたの減らず口のせいでしょーが!」

丁々発止の口喧嘩、椎名まゆりがいれば困ったように笑い、橋田至がいれば夫婦喧嘩だと揶揄するここ最近のこのラボの風物詩である。
だが以前と違うのは、岡部倫太郎がやや引く事を覚えたことだろうか。
206第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/14(月) 18:52:08.42 ID:8/hogsEM
「……なんにせよちゃんと飯を食え。話は食事しながらでもできるだろう」
「もー、都合が悪くなるとすぐ話を逸らすんだから……っ」

ぶつぶつと文句を言いつつ、腕組みを解いてどっかとソファに腰を下ろし今度は脚を組む。
その豪快な様はいっそ男と見紛うばかりで、世辞にも女性らしい所作には見えぬ。

「ほれ、こっちの袋にサラダも入っている。ちゃんと野菜も取るがいい」
「あんたはあたしのママかー!」

渾身のツッコミを入れながら、だがその後サラダは素直に受け取る牧瀬紅莉栖。

「い、いちおー私の身体も気遣ってるって事か……うん」
「当たり前だろう。お前は我がラボの貴重な戦力で、このムァッドサイエンティスト鳳凰院凶真の大事な助手なのだ。無理をさせて倒れられでもしたら今後の開発に支障が出るからな! フゥーハハハハハハ!」
「ハイハイ妄想乙」

などと冷たく返しながら、なぜか僅かに頬を染めていそいそとコンビにおにぎりのビニールを剥がしにかかる牧瀬紅莉栖。

「大事……ふーん、岡部にとって私ってそんなに大事なんだ、へぇ〜……」

小声でぶつぶつと呟きつつ、なにやらみるみると機嫌がよくなってくる。
……が、そんな彼女のご機嫌な表情が、ある瞬間にぴしりと固まった。

「ね、ねえ岡部、あのさ……」
「ん、どうした助手よ?」
「あの、えーっと、その……」
「どうした、何か言いにくいことか」

なにやらもじもじしている牧瀬紅莉栖に一瞬どきりとする岡部倫太郎。
これは、この態度はもしかして……
207第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/14(月) 18:58:43.49 ID:8/hogsEM
「このおにぎりくるんでるビニールが剥がせない〜!」

泣きそうな牧瀬紅莉栖の声にがくりと膝から崩れ落ちそうになる岡部倫太郎。

「まったく、どれだけ不器用なのだクリスティーナ! これだからセレブセブンティーンは……!」
「セレセブゆうなあ!」

やや湿った声で反駁する牧瀬紅莉栖は、だが岡部倫太郎がソファの横にやってくるといそいそと脚を閉じ、肩をすぼめちょこなんとかしこまる。
そしてやや上気した頬で、すぐ隣に立ち中腰になって彼女が両手で差し出したおにぎりを受け取る岡部倫太郎を見つめた。

「大体コンビニにぎりなんぞこの前も差し入れしたろう。なぜこの前できたものができなくなっているのだ。退化しているのかお前は。まったく人類進化史上の新発見だな」
「あの時はー! ……あ、あの時はほら漆原さんとまゆりがいたからあ」

何やら言い訳めいたことを口にしながら、だがその瞳は岡部倫太郎がおにぎりをいじる指先から離れない。

「おにぎりの包みをわざわざ人に取ってもらったのか。そんなだからセレセブと言われるのだ」
「そ、そんなこと言うのあんただけだし! だって私がどうやってこの包装開けようかって四苦八苦してたら二人が手伝ってくれて……ほらせっかくの好意を無視するわけにもいかないじゃない!」
「だがそれで覚えられなかったなら次もまた同じ事の繰り返しだろう。今回の件のようにな。ほら、こうやって開けるのだ。もうわかったろう?」
「う、うん……ありがと」

岡部倫太郎に包みを開けてもらったおにぎりを掌の上にぽん、と乗せられ、素直な言葉が口から洩れる。
208第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/14(月) 19:03:30.33 ID:8/hogsEM
「困ったものだな。後でまゆり達にもしっかり言っておかねばならん。下手な同情はかえって相手のためにならんと」
「えーっと、それ確か日本のことわざよね。情けは人の為ならず……だっけ?」

おにぎりを両手で包むように持って、はむ、とその先端を啄ばんだ牧瀬紅莉栖がそんな事を聞いてきた。

「違う。その諺は相手に情けをかければ最終的にその恩が自分にも返ってきて結局得になるから他人には優しくしておけ、という意味だ」
「へえ、意外と打算的な意味なのね」
「ま、お前のように誤用する連中が多いがな」
「く……っ、むしろ私は岡部がちゃんとした意味を知ってる事の方が意外に感じる」
「失礼な! 俺だって日本人なのだからそれぐらいは知っている!」

ジト目でそんな事を言ってくる牧瀬紅莉栖に岡部倫太郎が必死に反駁する。
……とはいえ彼も最初から知っていたわけではない。
フェイリスや椎名まゆりを攻略している最中に幾度も繰り返したタイムリープ……その時にこの場で幾度か話題に上ったネタだったのであらかじめ調べていたのである。
ちなみに橋田至が今日早朝から研究所を空けるのも、その時の彼が何を欲しがっていたのかもすべて過去のタイムリープによって確認していた項目だ。

確かに牧瀬紅莉栖を攻略できるチャンスは一度だけしかない。タイムリープマシンは二度と使えぬと覚悟した方がいい。
けれど……彼女が攻略対象でない時の、別のラボメンが相手のタイムリープで、彼女に関する攻略データを集めてはいけないという決まりはないのだ。
岡部倫太郎は、これまでのこの永劫の48時間で培ってきたあらゆる経験を以って牧瀬紅莉栖に当たっていた。
209名無しさん@ピンキー:2013/01/14(月) 19:05:27.47 ID:8/hogsEM
というわけで今宵はここまでー
コンビニおにぎりを開けられない助手
そういう世界線があってもいいと思うんですよ
あと正式タイトルを出したこともあってwikiの方を若干手直ししました
それではまた次回〜 ノノ
210名無しさん@ピンキー:2013/01/14(月) 19:40:29.28 ID:Wrso03vk
毎回楽しみに読んでいます

コンビニおにぎり開けられない、、、そんな人が自分の近くにもいます。

でも、男だ!w
211名無しさん@ピンキー:2013/01/15(火) 15:51:37.63 ID:VP0fOriT
212名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 00:01:04.46 ID:YXtPOxls
こんばんは
今宵も更新しに来ました
213第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 00:03:03.94 ID:YXtPOxls
8−3:2011/02/13 06:13 

「……で? 岡部、なんで今日休みにしたの? 何か理由があるんでしょ?」
「あー、うむ。まあな。不服か?」
「個人的には納得いかないけど、このラボの所長はあんただし、ちゃんと理由があれば主張は取り下げる」

気分が落ち着いたのか、それとも機嫌がよくなったからか、先刻よりはだいぶ譲歩した発言をする牧瀬紅莉栖は、
おにぎりの合間にドクターペッパーを流し込みながら、岡部倫太郎にやや鋭い視線を投げつけている。
それはちゃんとした理由があれば納得する。けれど逆に言えば下らない理由なら容赦しない、と宣言しているようなものだ。

以前の岡部倫太郎ならそこでびびって腰が引けていただろう。
だが今の彼は特に慌てる様子もなかった。彼女が望んでいる事があらかじめわかっているからだ。

「では逆に聞こうかクリスティーナ、なぜお前はそんなに急いで完成させたがる」
「それは……っ!」

効果は覿面であった。牧瀬紅莉栖はみるみる頬を紅潮させ、あからさまなほどに挙動不審になる。

「それは、えっと、学術的好奇心と言うか知的興奮と言うか……だってタイムリープよタイムリープ! もし成功したら世界的大発明よ! それで興奮しない科学者なんているはずない! 私は科学者! よって興奮する! 
だから一刻も早く完成させてその結果を確かめたい! だからすぐに開発を再開したい! 以上証明終わり! はい論破。反論は?」

一気に捲し立て、己の立てた屁理屈に矛盾がないことを反芻すると、満足したようにソファに深く腰かける牧瀬紅莉栖。
だがその勝者の余韻は岡部倫太郎の放った返しの刃の前にあっさり崩れ落ちた。
214第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 00:12:10.71 ID:O+90NNoX
「世紀の大発明だろうがなんだろうが、お前の身体には替えられん、クリスティーナ」
「はう……っ!?」

岡部倫太郎の言葉にたちまち真っ赤になって、ソファの上できゅっと脚を抱え込みうろたえる牧瀬紅莉栖。

「お前に無理をさせて一日早く完成させ、結果お前に三日寝込まれるくらいなら、完成を一日遅らせてお前に元気でいてもらった方がよほどマシだ。そうではないか?」
「あうっ、はぅぅ、お、岡部?」
「これはこのラボの所長としての判断であると同時に……俺の個人的な要請でもある。だからあまり無茶はするな、紅莉栖」
「ひゃうっ!?」

大きく開いた口をわななかせ、あからさまなほど挙動不審となってびくりとその身を縮こまらせる牧瀬紅莉栖。
ここ一番での名前呼びがいかに効果的であるかは、今回のタイムリープでも、去年の夏の事件でも散々経験済みである。
岡部倫太郎は今回それを最大限い活かす腹積もりであった。

……とはいえあまり何度も連発しては効果も薄れよう。
これまでと違いもう二度とやり直しは効かぬのだ。使用するタイミングには十分注意を払う必要がある。

「ず、ずるい……」
「む、何がだクリスティーナ、俺のどこがずるいと言うのだ?」
「だ、だってそんな私の健康とかそういうのに議論の方向性を変えられちゃったら、反論しにくいって言うかぁ……」

ソファの上で、両脚を抱え込むようにして縮こまり、膝の上から岡部倫太郎をジト目で睨む。
もっともその頬は桃色に染まっていて、口調もあまり強いものではなかったが。
215第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 00:15:40.45 ID:O+90NNoX
「別に言い返さなくてもいいだろう。納得はできたか」
「……納得はできなかったけど理解はした。そうよね、ラボの所長なら所員の健康を最大限に気を使う義務がある。ある意味当然かつ常識的な答えだわ。ただ岡部が自称マッドサイエンティストの分際でそういう常識的な事を言い出すのが意外だっただけ」
「ぐむ……と、とにかく理解したなら今日の開発は中止だ、助手よ」

牧瀬紅莉栖は己の赤面を誤魔化すように、一般論に論旨をすり替え話題を逸らした。
そして岡部倫太郎を少しやり込めた事に気をよくすると、再び脚を伸ばして大きく伸びをする。

「ん〜〜、ん、ん。それじゃ私も今日はホテルに帰ってゆっくり休もうかな……」
「……なんだ助手よ。わざわざ今日を休みにしてやったというのに、来日した目的は果たさないのか?」
「目的? あんた何言ってるのよ。私がここにいる目的はこのタイムリープマシンを完成させることでしょ?」
「それはお前が日本に来てから俺が話したことではないか、クリスティーナよ。お前がそれ以前にここに来た目的は別にあったのではないか?」
「へ……?」

両手を大きく頭上に掲げ、伸びをしたポーズのままびし、と固まる牧瀬紅莉栖。

「だから、お前はバレンタインデーのために来日したのではないのか、と聞いているのだ」
「な、な、な……っ!?」

赤くなる。みるみる真っ赤になる。
それも顔だけではない。その手先から白衣の下に見えるうなじまで、目に見える彼女の全身が真っ赤に染まってゆく。
岡部倫太郎はこれほど見事に人間が朱色に染まる様を初めて見た気がした。

「な、な、ななななにを言ってんのよアンタはぁぁ〜〜っ!」

目をぐるぐる回しながら激しく手を振り端から見て不審者かと見紛うばかりに取り乱す牧瀬紅莉栖。
岡部倫太郎はその様子を見ながら不謹慎にもああ、やはり彼女をからかうのは面白い、などといったやけに失礼な感想を抱いた。
216第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 00:18:16.67 ID:O+90NNoX
「そそそそんなわけないじゃない! なに岡部自意識過剰!? そそそそんなに私の事意識してたわけ?! 童貞乙! って……え? 岡部が私の事……意識? ふぇ? はうぅ……っ!」

勝手に推測して勝手に妄想して勝手に意識して勝手にテンパる牧瀬紅莉栖。
もうこの態度だけで十二分なほど彼女の気持ちは明らかなのだが……岡部倫太郎はあえてここで一歩引いた。

好意があるのはわかっている。
が、好意だけでは……ダメなのだ。

確かに互いの気持ちは一番大切である。
だが気持ちだけではどうにもならない事があることもまた岡部倫太郎は理解していた。
初めて彼女を抱いた、忘れもしない2月14日……明日の出来事。
彼の感覚では既に遥か過去のものとなってしまっているその記憶が、激しく警鐘を鳴らす。

「落ち着け! 言っている事が支離滅裂でよくわからんが……お前は以前アメリカに帰国後、まゆりとメールでやりとりしていたそうではないか。日本のバレンタインデーの特殊性に興味があると」
「お、岡部が私のこと……え? ええ? ……って、なんだと?」

明らかに彼女が望んでいる話の方向性からずれている事に気付き、牧瀬紅莉栖が我に返る。

「日本では国中巻き込んでの一大イベントのバレンタインだが、アメリカでは日本のようには盛り上がらないらしいな」
「そ、そうね。アメリカのバレンタインはむしろ家族で贈り物をしたりとかクラス全員にカードとお菓子配ったりとかそっちの傾向のが強いし……
贈り物も男女問わずね。それにチョコだけじゃなくてトイとかジュエリーとか……ランジェリーなんてのもあったかな。少なくともまゆりに聞いたみたいな菓子業界の一大商業イベント、って感じじゃない」
「ともかく助手よ、その時お前は日本のバレンタインに大層興味を惹かれていたようではないか。この時期の来日を快諾したのはそんなイベントを見学したかったからではないのか?」
217第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 00:20:12.28 ID:O+90NNoX
岡部倫太郎の言葉にようやく彼の真意を把握し、同時に己の勘違いにまた頬を染めてしまう牧瀬紅莉栖。

「そ、そうよ! 興味があったの! 私だって女なんだからな! 悪い!?」

まるで野生の獣が逃げ場を失って、近づいてくる人間に威嚇するように全身の毛を逆立ててがなり立てる。
どうやら己の勘違いがよっぽど恥ずかしかったらしい。

「……別に悪いとは言ってないだろう。ただバレンタインのイベントを堪能したいなら、出かけるのは明日ではなく今日だぞ?」
「へ……? でもバレンタインデーって2月14日……」

彼女が無理をしてまで今日中に完成させたかったのはまさにそのバレンタインデーに間に合わせるためだったわけで、今日中に開発を全部終わらせて、岡部倫太郎とその記念すべき日を過ごしたかったわけで……

「研究者のお前にはピンと来ないかもしれないが、明日は月曜日、平日だ。平日ではメインの購買者である学生と会社員が買いに来られないだろう。先刻お前も言っていたではないか、これは商業イベントなのだ。だからその手の催しは全て休日である今日に前倒しにされている」
「な、なん、だと……?!」
「だからわざわざ今日案内してやろうと開発を中断してまで休養日にしたのではないか。明日秋葉を回っても出がらしのようなイベントしかやっていないが、それでもいいのか?」

岡部倫太郎の呆れたような声に、その顔を最初青く、その後すぐに赤く染めた牧瀬紅莉栖は……

「そ、そ、そ……」
「……そ?」
「そーいう事は先に言ええええええええええええええええええええええっ!!?」

遂に逆ギレして心の底から絶叫を上げた。
218名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 00:21:27.21 ID:O+90NNoX
というわけで今宵はここまでー
くるくる表情の変わる助手を想像するだけで書いている側としては楽しいです
読み手に少しでも伝わってくれると嬉しいのですが
それではまた次回〜 ノノノ
219名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 08:30:17.98 ID:T1uHia44
>>218
GJ!!
紅莉栖可愛いよ紅莉栖
220名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 09:00:06.12 ID:TVLAFDDd
乙!
くるくる忙しないクリスが手に取るように分かるw
221名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 12:19:16.05 ID:KxczEe3x


次回も楽しみです
222名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 12:31:06.35 ID:iR4G5aMk



ダルメインが少なくてさみしいです
223名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 12:42:50.56 ID:G058IZFp

紅莉栖はからかってなんぼ

>>222
やめろ、ダル攻略√のフラグを立てるんじゃない!
224名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 20:29:03.23 ID:iR4G5aMk
>>223
ダル『が』主役になるのがそんなに許せませんかそうですか
ダルとても魅力的なキャラクターだと思うのです
225名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 21:15:25.39 ID:G058IZFp
>>224
ダル好きだよ、大好きだよ!
でもこのSSでメインにしたら、「アーッ!!!」になるじゃない!w
226名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 21:33:14.06 ID:4daxUKL7
紅莉栖さん流石です
227名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 21:44:54.88 ID:+e9rIFjI
ダルが女の子の世界線と聞いて
228名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 23:19:57.78 ID:mWk3xTnc
右手(腕)が恋人と聞いて
229斤質総和のメタボサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:27:47.16 ID:eorCcCyb
岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖を救えなかった。
決死の努力空しく、彼女の命は彼の掌から零れて落ちた。
ビルの屋上で両手を地に着き嗚咽する岡部倫太郎。
世界は……もはや破滅へと収束するしかない運命となったのだ。

「それでも、できることは……ある」

だがやがて……彼の喉奥から掠れた声が漏れた。
砂を掴み、泥を啜ってでも、岡部倫太郎にはやらねばならぬ事ができたのだ。

SERNに対抗するためのレジスタンスを組織すること。
世界線の変動を報せるダイバージェンスメーターを作ること。
橋田至を助け……タイムマシンを作り上げること。


そしていつの日か……いやいつかは既にわかっている。
2036年に、彼の娘……阿万音鈴羽が過去へ……この時代へとタイムトラベルするための準備を整えなければならぬ。


その時には……世界線の収束によって己の命は既に尽きているだろうけれど。


「さあ……忙しくなるぞ」

肺腑が抉られるような痛みを堪え、できる限り平気そうな声を出す岡部倫太郎。
だがそんな彼の苦しみを……橋田至は尋ねるまでもなく知っていた。

「オカリン……」
「ダルよ……」

互いに見つめ合う岡部倫太郎と橋田至。

「俺達、ずっと友達だよな!」

そして岡部倫太郎が派手にずっこけた。

「雅史かよ! 東鳩かよ!」
「え? それじゃあお前の感じているそれは一種の精神疾患だ。治し方は俺が知っている。俺に任せろとかの方がいい?」
「誰彼かよ! 誰だよ! ええいこんな世界線ナシだナシ! 最初からやり直しだやり直し!」
230名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 23:29:33.33 ID:eorCcCyb
>>225
ごめんなさいおふざけが過ぎました反省してます
さてそれでは冗談は置いておいて本編の更新に入りますー
231第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:34:27.58 ID:eorCcCyb
8−4:2011/02/13 10:02 

「ふー……」
「息を飲んでまで見るようなものかっ!」
「だって、その、なんだか驚いちゃって……」

岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖、彼らは未だラボの中にいた。
何をしていたのかと言えば……ずっとテレビを視聴していたのだ。
タイムリープマシンを稼働させるためには42型のブラウン管テレビが必要である。
ゆえに岡部倫太郎はミスターブラウンこと天王寺裕吾に格安でブラウン管テレビを譲ってもらって、この部屋に備え付けていた。
この時橋田至が少々遊び心を発揮して、ブラウン管テレビの配線を弄り実際のテレビ放送を受信できるようにしていたのだ。
電話レンジ(仮)に無関係の機能をつけるのは岡部倫太郎的には反対であったが(そもそもあと半年で見られなくなるのだ)、実際にこうして役に立っている事を考えると己の右腕の先見の明に感謝せざるを得ない。

そう……岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖は、テレビを見ていたのだ。
それも早朝から今の今まで、ぶっ通しで三時間半。

今日は日曜日、とくれば当然朝のスーパーヒーロータイム、そしてその前後に放映している各局のアニメ番組が目白押しである。
そもそもが秋葉原の朝は遅い。まともに開き始めるのが十時以降という店も多いのだ。
ゆえにあまり早朝から出かけても意味がない。
そこで岡部倫太郎が時間を潰す意味で軽く話題を放ったら、思った以上に牧瀬紅莉栖が食いついてきて、
こうして延々とアニメと特撮番組を視聴していた、というわけである。

「まさかこんなに連続してアニメばっかり放映してるなんて……日本って凄いのね」

なにやら呆気に取られたというか、圧倒されたような表情で牧瀬紅莉栖が呟く。
とはいえその頬は紅潮しており、興奮し喜んでいる事は見るからに明らかだった。

「お前もアメリカで見ていたのではないのか?」
「うん。全部じゃないけど……でも私が見てたのはネット上にうpされてた動画だったし、バラバラに見てただけだったから。まさかこんな風に集中して放映してるなんて……」
「なんだ、感動したのか?」
「うん、すっごく! やっぱり日本はアニメ大国だなって実感した!」

岡部倫太郎としてはやや皮肉を込めた発言だったのだが、牧瀬紅莉栖はそれを素直に受け止めてしまったようだ。
頬を赤らめきゃいきゃいと己の興奮を素直に語る牧瀬紅莉栖はなんとも嬉しそうで、それを眺めていた岡部倫太郎もまた嬉しくなってくる。
232第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:38:14.24 ID:eorCcCyb
「何か気に入った作品はあったか?」
「やっぱり雷ネット翔かな。完成度が頭一つ抜けてる感じ」
「確かにな。俺は継続して視聴しているわけではないが、大人の鑑賞にも耐えるとダルが豪語していただけのことはある」
「でしょー?」
「なぜお前がドヤ顔なのだ助手よ……」

岡部倫太郎が眉を顰めながら問い質すと、牧瀬紅莉栖が得意満面に胸を張る。

「それはもう岡部が子供向け作品というフィルターを廃してきちんと品質を評価してくれた事が嬉しいって事よ」
「お前だとてにわかのくせに……」
「な、にわかとはなんだ! 少なくともあんたよりはずっと詳しいわ!」

ややうんざりした表情で岡部倫太郎が手をひらひらと振ると、牧瀬紅莉栖はむきになって食ってかかる。

「わかったわかった。確かにお前の言う通り若干の偏見があったのも認めるし、大人が視聴に値する作品なのも認める。俺が間違っていた」
「ふふーん、よろしい♪」

牧瀬紅莉栖の機嫌が目に見えてよくなり、岡部倫太郎の目的は達成された。
とはいえ勝ち誇ったような牧瀬紅莉栖の表情は、どことなく岡部倫太郎の悪戯心を刺激する。
彼女の表情を曇らせてみたい、怒らせてみたい、そうしたいわば好きな娘に対する男の子のような心境。
けれど今日は、少なくとも今は駄目だ。岡部倫太郎は必死に自制した。
そうした感情から口走った言葉で、いったい今まで幾度彼女と口喧嘩したか知れないのだ。

「ところで岡部、もう十時も過ぎたわけだが、そ、そろそろ出かける?」

時間を確認した牧瀬紅莉栖が少しだけそわそわした空気で尋ねる。

「いや、この時間までいたのだからもう少しだけこのまま待機だ」
「誰か来るの?」
「ああ、まゆりが勉強しに来るはずだ。せっかくだからそのまま留守番を頼む」
「なるほど……ああ、そういえばまゆり今日は午後からメイド喫茶でバイトだったっけ? フェイリスさんに泣いて頼まれたとかなんとか言ってた」
「ああ。そのために手近なここに来て試験勉強というわけだ」
「ふ〜ん、まゆりも大変ねえ」
233第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:41:33.90 ID:eorCcCyb
そんな何気ない会話を交わしつつ、岡部倫太郎は僅かの間感慨に耽る。
こうして当たり前のように言葉を交わせる。ある時は口論し、ある時は手酷くやり込められて、またある時は楽しげに笑い合う。
そんなありきたりの、ごく当たり前の日常。
だがそれはなんと素晴らしく、なんと価値のあることか。
今回のミッションの失敗は、その日常を破壊しかねない。
決して失敗は許されないのだ。岡部倫太郎は任務の重大さに改めて慄然とした。

一方で、牧瀬紅莉栖もまた何やら妙な様子だ。
不意に何かを思いついたように動きを止めて、なにやら思索に入っているらしき岡部倫太郎の(彼女の視線から見れば、やけに凛々しい)横顔を見つめている。
何かを言いたげに開かれた口……だが結局何も言えずにそのまま閉じる。
そんな事を幾度か繰り返したところで……不意に己の方に振り向いた岡部倫太郎と目が合った。

「なんだ助手よ、金魚のように口をぱくぱくさせおって。酸素が足りんのか?」
「な、な、な……っ!」

不思議そうに首を捻る岡部倫太郎。
みるみる顔を真っ赤に染める牧瀬紅莉栖。

「誰が金魚よばかー!」
「おわーっ!?」

手近にあったノートを投げつけ、その角が岡部倫太郎の額にクリーンヒットする。
たまらず彼は床に倒れ、憤懣やるかたない、といった風情の牧瀬紅莉栖が投擲ポーズのまま荒く息を吐いた。

「イタタタタタ……では一体なんだというのだクリスティーナ! 先刻の貴様の痴態の真の意味は!」
「痴態とかゆうなあ!」
「あたっ! 痛っ! や、やめんか助手よ! 危ないっ! 危なぎゃーっ!」

ボールペン、消しゴム、三角定規と机上のものが次々に投擲され、防戦一方となった岡部倫太郎が口を開いた先に飛来してきたのが空のヤカンである。
頭部に派手な金属音を響かせた岡部倫太郎は、再び派手な音を立てて床に沈んだ。

「ぜー、はー、岡部のバカ! 死ね! 氏ねじゃなくて死ね!」
「お、落ち着けねらーよ……どごわっ!?」
「どわれがねらーじゃ! もう、間違ってました、私が間違ってました! アンタにあんな事聞こうとした私がバカだったわよ! あーもう!」

手近に投げるものを失った牧瀬紅莉栖が、ソファに置かれたクッションを胸に抱いて「イーッ!」と舌を突き出す。
234第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:45:02.42 ID:eorCcCyb
「いつつつ……で、あんな事とはなんだ」
「だから岡部に聞こうとした私がバカだったと言っとろーが!」
「ええい! 聞かれなければ答えられるかどうかわからんだろうが!」
「いーえーわかりますー。アンタみたいな厨二病のバカにわかるはずがあーりーまーせーんー」
「ええい! 俺が厨二病ならお前は@ちゃんねらーではないかこのねらーめが!」
「だからねらーってゆーなあ!」

売り言葉に買い言葉、互いに譲らぬ刺々しい言葉の応酬。
けれど……二人はどこかで、それを心地よいとも感じていた。

理路整然とした理論で己をグゥの音も出させずにやり込める理論派の牧瀬紅莉栖は、岡部倫太郎にとって憧れだった。
牧瀬紅莉栖にとっても、研究一筋の自分に気軽に接してくれる相手で、それも幾度言い負かしても腐らない、恨まない、根に持たないでいてくれる男は岡部倫太郎以外に知らぬ。

それに……何より、命の恩人である。
それもアメリカに帰らず二ヶ月も捜し歩いた懸想の相手でもある。
彼と共にいること、彼と言葉を交わすこと、彼と白熱した議論を闘わせる事は、牧瀬紅莉栖にとってなんとも心地よいものであった。

……が、それで相手を怒らせてしまっては本末転倒である。
牧瀬紅莉栖も内心その事は重々承知なのだが、負けず嫌いな性格ゆえになかなか謝るきっかけが掴めない。

「ぜー、ぜー、よ、よし、こうしようではないか助手よ。解決できるできないに関わらずまず俺がお前の質問を聞く。その上でそれが俺の答えられぬものならば、潔く俺の負けを認め、今日の昼食を奢ろうではないか」
「はー、はー……ほー、岡部にしては大きく出たじゃないの。いいわ、その賭け乗った。じゃあもし私が負けたら岡部にチョコの一つでも恵んであげようじゃないの」
235第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:49:12.76 ID:eorCcCyb
内心「やたっ!」と小躍りする牧瀬紅莉栖。
これで合法的にバレンタインに岡部倫太郎相手にチョコを渡す口実ができたのだ。
自分の頭の回転の速さに今日ほど感謝したことはない。
研究者としてそれでいいのかはまあ置いておいて。

「チョコ?」
「か、勘違いしないでよね! これはそ、そう! あくまで日本の風習を学ぶためによ! 幾らチョコを買っても渡す相手がいないとイベントを満喫したことにはならないでしょ! 
その栄誉ある相手に岡部、あんたを選んであげるって言ってんの! どうせDTのあんたにはチョコの貰い先なんてないでしょ?!」
「いや……この時期ならまゆりとルカ子とフェイリスから貰うかな」
「うぐ……っ」

得意げに岡部倫太郎をびしりと差していた人差し指が震える。
明らかに手強すぎる相手ばかりである。
特に漆原るかはあの容姿の上に料理も巧みで、ある種彼女の理想の大和撫子であった。
“彼女”が岡部倫太郎に好意があるのは見ていればわかる。
もし漆原るかに本気の手作りチョコなど作ってこられた日には、店買いのチョコレートなど幾ら大枚をはたこうが色褪せてしまうに違いない。

「ふ……だがいいだろう、面白い。我が助手からこの鳳凰院凶真に日頃の感謝の証としてチョコを供出させる。それもまた素晴らしい余興となることであろう! フゥーハハハハハハ!」
「ほっほーう、言ったな? けど勝ったと思い込んだ時には既に負けている! 岡部! あんたの敗因はその油断よ!」
「まだ勝負も始まっていないのに敗因と来たか……ククク、どうした助手よ、何を焦っている?」
「焦ってなんかないわよ! じゃ、じゃあ質問!」
「ああ、どんと来るがいい! そして己の愚かしさを噛み締めるのだクリスティーナ!」
236第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/16(水) 23:53:33.08 ID:eorCcCyb
互いに引くに引けないところまで自分を追い詰めて、いざ口を開こうとしたその時、
牧瀬紅莉栖は……己が敗北しなければならぬことを今更ながらに思い出す。
そうだ、負けなければチョコが渡せない。折角のチャンスが全て水泡に帰してしまう。

まだ間に合う! 今から簡単な質問に変えれば……!

……が、そうそうそんなものを思いつくはずもなく、そのまま最初の質問を口にする。
牧瀬紅莉栖は自分の頭のフルスロットルな空回りっぷりに、今日ほど落胆したことはなかった。


「ええっと……その、なんだ、岡部」
「……なんだ、急に勢いがなくなったな。負けを認めるか?」
「誰が認めるか! そうじゃなくって、その……あんた橋田の事右腕だなんだって言ってるじゃない」
「“我が頼れる(マイ・フェイバレット)”……」
「いちいち言わんでいい」
「ぐぬ……っ」

先刻までの勢いはどこへやら、やけに静かな声で話し始める牧瀬紅莉栖。
だがそのツッコミの鋭さは変わっていない。

「その……岡部はその右腕の橋田の考えてる事がわかるって言ってたわよね」
「当然だ。ダルは我が右腕同然、いや右腕そのもの! 己の身体について知らぬような愚か者ではないぞ、この鳳凰院凶真は!」

それを聞いたとき……なぜか牧瀬紅莉栖の頬が朱に染まる。

「そ、それじゃあ……それじゃあ……な? そ、その、岡部、あんた私のこと助手呼ばわりするけど、その助手が今考えてることとかも……わかったり……する?」

上目遣いで、どこか自信なさげな様子で、岡部倫太郎を見つめながらますます赤くなって、やがて耐えられなくなって視線を逸らす。
だがそれでも気になるのか、時折ちらちらと目線を彼に向けて、再び気まずくなって慌てて顔を逸らした。
彼女は自覚しているのだろうか。それとも無自覚での発言だろうか。
牧瀬紅莉栖の問いかけは、つまり……

「岡部にとって、私はなんなの? 大切に思ってるの?」

と発言しているに等しかった。
237名無しさん@ピンキー:2013/01/16(水) 23:54:40.10 ID:eorCcCyb
というわけでちょっと長めですが今宵はここまでー
いいですよね空回る助手
そんな感じでまた次回ー ノノ
238名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 02:01:55.71 ID:sNkcCxFG
乙。
いやぁ…いいなぁ…。
239名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 09:48:45.36 ID:ZVQG8lrh

クリスかわいいよクリス
240名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 21:31:30.30 ID:9zni0yOA
乙です
空回る助手は良いんだけどこんな投擲するようなキャラだっけ?
うろ覚えだがルカ子の股間まさぐった時以外で理不尽な暴力に訴えた覚えがないから
鋭利な文具を躊躇なく人に向かって投げるとか別のツンデレキャラに見える
241名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 22:31:40.08 ID:J1jC5Bhc
そうだね
無闇に暴力振るうキャラじゃないよ助手は
242名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 22:46:43.00 ID:cV0PVN5z
まぁ助手って実は匙加減難しいキャラだし、二次創作上での多少のブレは仕方ない
243名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 23:24:53.76 ID:lvBhQAr7
こんばんわー
今宵も更新できそうですー
>>240>>241
暴力と言うよりは遠くへ追いやるイメージで私としてはさほど違和感がなかったのですが
気になるようでしたら申し訳ありません
244第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:27:08.59 ID:lvBhQAr7
8−5:2011/02/13 10:14 

「フフ……フフフ……フゥーハハハハハハハ!」

そしてその(彼女にとって)重大極まりない質問に対し……岡部倫太郎は哄笑を以って応えた。

「愚問! なんという愚問! この鳳凰院凶真がそのような下らぬ問いの解を知らぬとでも思っているのか!」
「わ、わかるの、岡部……?」

頬の赤味がいや増して、どぎどきと心臓を打ち鳴らす牧瀬紅莉栖。
この想いが、本当に彼に届いているのなら……
ああ、それならいくらだって敗北を認めてチョコでもなんでも贈れるのに……

「当たり前だろう! この俺を誰だと思っている! 世界に混沌をもたらす者! 鳳凰院凶真だぞ! 我が助手の心の内など、全て俺の掌(たなごころ)の内である!」
「た、たなごころのうちなんだ……」

己の胸に手を当てて、ぼうっとした表情で岡部倫太郎を見つめる牧瀬紅莉栖。
心臓が破裂しそうなほどに打ち鳴らされている。
頬が赤い。顔中が熱い。いっそ高熱を発していると言われてもおかしくない赤面っぷりだ。

彼女のそんな様子をチラリと確認した岡部倫太郎は……
勝利を確信したかのように口の端を歪めた!

「よぉし、では答えよう我が助手よ。俺は徹夜続きで疲労困憊のお前とダルを、一昨日家に帰したな?」
「うん、おととい……はいぃ?」

あまりに己の想像……いや妄想とかけ離れた言葉に、牧瀬紅莉栖は凡そ年頃の女性としてあるまじき胡乱な声を発した。

「か、帰したが……それがどうした」
「だがお前のことだ。きっと開発の事で頭がいっぱいで、何もせずにそのままベッドに倒れ眠ってしまったはずだ! そうだろう?」
「だ、だ、だからそれがどうしたって言うのよ!」
245第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:32:50.86 ID:lvBhQAr7
聞きたい台詞から何やらどんどん遠ざかっているような気がしないでもないが、確かに言われた通りではある。
あの日は数値がどうの配線がどうのと頭の中でぐるぐると考えを巡らせて、そのままベッドに倒れ込むようにしてシーツもかけずに爆睡してしまったのだ。

「お前は翌日寝坊した! そして開発中のマシンの事が気がかりでそのまま飛び起きて気もそぞろにラボへとやってきた! 違うか、助手よ?」
「いや違わないけど……だから何?」
「つーまーりーだ! お前はここしばらく風呂に入っていない! このまま街を歩くのは流石にちょっとイヤだ。だからラボのシャワーを借りられないか……と、そのような事を考えていたのだ! フゥーハハハハハ! どうだ、図星だろう!」
「なああっ!?」

がつん、と牧瀬紅莉栖の脳天に鈍器で殴られたような衝撃が走った。
確かに合っている。テレビを見終わった直後、今から出かけようというあたりでそんな事を考えてはいた。
岡部倫太郎は確かに彼女の想いを読み取ってはいたわけだ。
読み取っていたわけなのだが……


同時に、一応仮にも女性である牧瀬紅莉栖相手に、決して読み取ってはならない気持ちというものもあるのだ。


「ふ、ふ、ふ……」
「クックック……どうしたクリスティーナよ。見事正解されてぐうの音も出ないか?」
「ふ……ふっざけんな馬鹿ぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「おがーっ!?」

岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖のあまりの剣幕に思わず飛び退き珍妙なポーズのまま固まる。
また何か放り投げられるかと警戒したのだ。
彼女は近くにあった未来ガジェット製作用の材料……工事現場などから拾ってきた廃材を掴んだが……
しばしの躊躇の後それをそっと戻し、岡部倫太郎はホッと息を吐く。

先刻のヤカンも彼女には当てるつもりなどなかったのだろう。
ただ岡部倫太郎を遠くへ追いやろうとした結果命中させてしまっただけだ。

それを気にして今回手控えたようではあるが……だがだからといって彼女の怒りが収まったわけではない。
246第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:36:32.78 ID:lvBhQAr7
「最低! ホンッと最ッ低! もー頭来た! 本っ気で怒ったぞ岡部ェ!」
「ま、ままま待て! 落ち着けクリスティーナ!」
「これが落ち着いていられるかぁ! あーすいませんね臭い女でさぞかし嫌な想いをさせたでしょうよあーほんっとに悪かったわよこんなとこ二度と来ないわよ
でも女の体臭なんてあんたみたいな童貞がそうそう嗅げるもんじゃないんだかんねしっかりとその鼻腔に記憶しておきなさいよ馬鹿あんたなんか私の臭いでMMQだ! 氏ねっ!!!」

言っている本人も理解できぬような支離滅裂を撒き散らし、目尻に涙を浮かべ真っ赤な顔でずかずかと部屋を飛び出ようとする牧瀬紅莉栖。
普段の彼ならば床に尻餅をついたまま呆然と見送っていたに違いない。
けれど今の岡部倫太郎はそうそう簡単に諦めるような、いや諦められるような男ではなかった。

「待て! 紅莉栖!」
「きゃ……っ!?」

扉のノブに手を掛けて、今にも出て行こうとした牧瀬紅莉栖を……岡部倫太郎が背後から抱き留める。

「は、は、は、離せ! こら! 馬鹿ァ!」

じたばたともがく彼女の抵抗は、だが本気で嫌がっている者のそれではない。
背後から見ても、その耳朶が真っ赤に染まっている事でそれが理解できた。

「すまん、怒らせるつもりはなかったのだ。謝る。悪かった。許してくれ」
「ふぁっ!? こ、こら、耳元で囁くなぁ! ひ、卑怯よ岡部ぇ、ん……っ」

岡部倫太郎に背後から抱き締められる……それだけで牧瀬紅莉栖の許容量は限界水位をやや超えていた。
なにせ彼に焦がれて二ヶ月もあてどなく秋葉原を彷徨ったほどなのだ。完全に研究や開発に没頭している時でもない限り、片時だって岡部倫太郎の事を忘れた事などない。
アメリカにいてもそうだった。日本に来てからさらにその想いは強くなった。
ましてや二人っきりの今など過剰なほどに意識してしまっている。だからこそついのぼせ上がって先刻のような行為に及んでしまったわけで。
なんのことはない。“めろめろきゅー”なのはむしろ彼女の方なのだ。
247第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:40:16.38 ID:lvBhQAr7
さらにそれに加えて夢で繰り返し聞き、寝所で妄想までしていた彼の声を耳元で甘く優しく囁かれなどしたら、とてもではないが怒りなど持続できない。完全に羞恥と動悸に上書きされてしまう。
今や彼女は沸騰しそうなほど真っ赤になった顔を見られぬようにいやいやと首を振りながら、岡部倫太郎の腕の中で力なくもがくのみだった。

「あ……っ」

やがて彼の腕がほどかれ、牧瀬紅莉栖は束縛から解き放たれた。
けれど彼女の唇から漏れたのは……明らかに失意の声だった。

「岡部……?」

背中に感じていた気配が消える。
それだけで心に渦巻く不安がいや増して、牧瀬紅莉栖は慌てて振り向いた。
かつての彼女の妄想……正確には彼女のリーディング・シュタイナーが見せていた別の世界線の記憶の断片から、牧瀬紅莉栖は“岡部倫太郎が自分の前から消えてしまう”という事に潜在的な恐怖感を覚えるようになっていた。

いない。
岡部倫太郎がどこにもいない。
振り返った先にはつい一瞬前までいたはずの彼の姿がなく、牧瀬紅莉栖の顔がみるみる青ざめる。

「あ、やだ……っ」

先刻の自分を抱き締めた彼の腕のぬくもりが、背中に当たった彼の胸の堅さが、消えた。消えてしまった。
それだけでがくがくと牧瀬紅莉栖の胸が締め付けられて、溜まらず俯いて……

「……おかべ?」


そして……眼下の床に這い蹲って土下座している岡部倫太郎を発見した。


「悪かった! クリスティーナ! この通り謝罪する! 済まなかった!」

床に頭をこすり付けるようにして平身低頭する岡部倫太郎。
つい先刻までの緊迫した恐怖はなんだったのか。牧瀬紅莉栖はどっと肩の力が抜けた。
248第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:42:56.38 ID:lvBhQAr7
「お、お、脅かさないでよ、岡部……っ」
「? 脅かす? 何の話だ。俺はただお前を怒らせた事に対して誠意を見せようとだな……」

こうして受け答えする岡部倫太郎は、すっかりいつもの彼のままで、
牧瀬紅莉栖は湧きあがる安堵から思わずくすくすと笑い出してしまう。

「な、なにがおかしいのだ助手よ」
「く、くくく……だって所長様自らが助手に土下座とか、どれだけ立場低いのよアンタ……ぷ、もーだめ、あはははははははっ!」
「悪かったなっ!」

岡部倫太郎のやけに高いトーンの声を聞いて、自分の中の怒りがすっかり霧散してしまっている事に驚く牧瀬紅莉栖。
彼の近くにいると、いつだって感情のジェットコースターである。

「ぷっ……くすくす、ごめん岡部。ちょっと笑いすぎちゃった」
「俺の事はいくら笑ってくれても構わん。だが一つだけ訂正してくれ」

土下座した格好のまま表を上げ、床に正座した姿で牧瀬紅莉栖を見上げる。
その真摯な表情に、彼女の心臓がばくんと跳ね上がった。

「な、なんぞ……?」
「さっき言った言葉を。ここに二度と来ないと言ったな、助手よ」
「あ……」
「それを訂正してくれ。このラボにはお前が必要なのだ。頼む」

岡部倫太郎の土下座にはしっかりと意味があった。
単に怒らせたから謝るという以上に、このラボを取り仕切る所長としての責任感から出たものだったのだ。
個人的な感情から身勝手に怒りを撒き散らした自分が急に気恥ずかしくなって、牧瀬紅莉栖は途端にしおらしくなる。
249第8章 欣執双和のメテムサイコシス(1):2013/01/17(木) 23:45:09.71 ID:lvBhQAr7
「お、岡部、その、私も悪かったわよ。ちょっと感情的になりすぎた」
「いや、俺の方こそもっと気遣うべきだったのだ。すまない」
「あー、えっと、お、岡部……」
「なんだ?」
「その……あれだ、そうよ、シャワー貸して! お願い!」
「ああ、無論だ。ラボメンならこのラボの施設を自由に使って構わん」
「あ、ありがと……そ、それじゃあ遠慮なく使わせてもらうわ」

とっととこの話題を切り上げたいのか、それともこの場にいるのが気恥ずかしいからか、牧瀬紅莉栖はそそくさとシャワー室へ消えてゆく。
彼女の機嫌をなんとか直した岡部倫太郎は、緊張の糸が切れてそのまま近くの壁に肩を預け崩れ落ちた。

「……俺だ。機関の者に離間工作を仕掛けられた。ああ、大丈夫だ、心配するな。なんとか阻止する事ができた」

岡部倫太郎はいつものクセで携帯を取り出し、誰も出ていない携帯電話に……己自身に語りかける。

「正しい解を提示しても上手くゆかぬこともある。当然考慮すべきだった。ああ、認めよう。俺の認識が甘かった」

そう、彼は知っていた。牧瀬紅莉栖の問いかけの答えを。
かつてフェイリス・ニャンニャンを攻略する際、橋田至の当日の動向を確認するため早朝にこのラボを訪れた事があって、その時に今のような状況になったのだ。

その時は橋田至の思っている事も牧瀬紅莉栖のそれも見事に外し、彼女は得意げに自分の内心を語ったのである(その後橋田至と岡部倫太郎に散々からかわれ、彼女がキレた事は言うまでもない)。

だから今回はその轍を踏まぬようにとちゃんと正解を述べたわけだが……それはそれで彼女に怒りに火を付けてしまったわけだ。まあある意味当たり前の話なのだが。

「だが安心してくれ。必ずこのミッションは成功させて見せる。ああ、協力してくれた多くの仲間達に感謝を。互いに“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の加護があらん事を。エル・プサイ・コングルゥ」

岡部倫太郎は携帯をしまう前に一瞬だけ時間を確認する。
今は2月13日の午前10時31分……


あと2分足らずで、椎名まゆりがこの扉を開けるはずである。




(『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ 第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2)』へ つづく)
250名無しさん@ピンキー:2013/01/17(木) 23:46:11.18 ID:lvBhQAr7
というわけで今宵はここまでー
それでは皆様また次回お会いいたしましょう ノノ
251名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 00:24:08.27 ID:ySRORGQG

助手の・・・体臭・・・
252名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 00:31:54.25 ID:PGbu0Png
乙。2828が止まらないww
助手って分厚い参考書でHENTAIたちを制裁してなかったっけ?
253名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 00:35:46.47 ID:acF6s4+c
体臭ネタはゲームでもあったな
254名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 01:01:06.43 ID:oIoWYQeC

助手の体臭か。
オカリンはクンカクンカできるのかちくしょー!
255名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 23:42:38.12 ID:K3WKByPI
こんばんは
今宵も少しだけ失礼します
256第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/18(金) 23:45:31.51 ID:K3WKByPI
8−6:2011/02/13 10:45 未来ガジェット研究所

「それじゃあオカリン、クリスちゃん、トゥットゥルー♪」
「ああ、しばらく留守にするぞまゆり。午後になっても戻らなかったらそのままメイクイーンに行ってくれ。後で俺たちも行くかもしれん」
「えっへへ〜、了解なのです!」
「じゃあねまゆり、来てすぐに出かけちゃうなんて悪いと思うけど……」
「気にしないでいいよぉ。クリスちゃんこそオカリンとのデート楽しんできてね〜」
「な……っ」

軽く言われた一言にたちまち牧瀬紅莉栖は頬を真っ赤に染める。

「ちちち違うのよまゆりお願い聞いて! わわ私と岡部は別になんともなくって、ただイベントとしてのバレンタインに興味があるだけでそうだまゆり! 
せっかくだからチョコ買ってきてあげよっか? こう豪華な奴をどーんと……!」
「え〜、大丈夫だよお。クリスちゃんこそもうあまりこっちにいられないんでしょ? せっかくオカリンがくれたお休みなんだし、まゆしぃはクリスちゃんがい〜っぱい羽を伸ばしてくればいいなあって思うのです」

椎名まゆりのあまりの素直で眩い言葉に、思わず光を遮るように腕をかざしてしまう牧瀬紅莉栖。

「まゆり……ありがとう。うん、わかった。私たっぷりと英気を養ってすっごいマシンを完成させるからね!」
「えっへへ〜、オカリン、楽しみだねえ」
「ああ、そうだな。ではそろそろ行くぞ助手よ。まゆりはまだ勉強が終わっていないのだ。これ以上いては邪魔になるだけだぞ」
「う、うん、そうね。それじゃ、まゆり」
「はいはーい! いってらっしゃ〜い♪」

元気よく手を振る椎名まゆりに見送られ、岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖はラボを出て階段を降った。
257第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/18(金) 23:48:36.72 ID:K3WKByPI
「まったく……まゆりに誤解されちゃったじゃない」

階段の上の椎名まゆりににこやかな笑顔で手を振り返しつつ、彼女が扉を閉めると途端に憮然とした表情となる牧瀬紅莉栖。

「誤解? 何のことだ?」
「ほら、だから、その……さっきまゆりが言ってたじゃない」
「だから何のことだ」
「もー、ホンッと鈍いわねー。ほら、わ、私の日本のイベント見学ツアーが、そのデ、デートだって……勘違いされちゃったってゆうか……」

後半になるにつれどんどんご小声となり、しまいにはゴニョゴニョと呟くだけとなってよく聞き取れない。
少なくとも両手指をつんつんと合わせて、頬を染めてもじもじしているその様は、到底否定したいようには見えないのだが。

「なんだ、そんな事か」
「そんな事とはなんだそんな事とは! 岡部はいいの?! まゆりに誤解されたまんまで」
「……別に誤解されてはないだろう」
「さーれーてーたー! されてました! 明らかに私達の外出をデ、デ、デ……!」

デートでないと言い張るならばむしろ毅然とした態度を取るべきなのだが、彼女にはそれがまるでできていない。
というよりここまで過敏に反応するとかえって彼女の方が強烈に意識してしまっているように見える。
一方の岡部倫太郎は平然としており、むしろその無反応ぶりが彼女の癇に障った。

「あのねー、岡部……!」
「あ……」
「おお、指圧師よ、今日は店番か」
「うん、そう……」

岡部倫太郎へと向けられようとしていた牧瀬紅莉栖の舌鋒は、だが一階に降りたところで声をかけてきた桐生萌郁によって遮られ、彼女は二人の背後で割り込む事もできずに口をぱくぱくとさせていた。
258第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/18(金) 23:51:56.65 ID:K3WKByPI
「お前一人か? ミスターブラウンはどうした」
「店長は、綯ちゃんを連れて、花やしきに……」

桐生萌郁の言葉を聞いて大仰に肩を竦める岡部倫太郎。

「まったく、バイト一人に店番を任せて遊び呆けているとは情けない。店長として失格だ! まああまり繁盛するような店ではないからいいとして……お前も労働条件がおかしいと思ったらきちんと主張するのだぞ!」
「……わかった、そうする」

こくん、と素直に肯く桐生萌郁。
その頬には僅かな赤味が差していて、眼鏡越しの視線はじいと岡部倫太郎を見つめたまま動かない。

「まあお前も半年も続けているわけだしな、多少は慣れたのかもしれんが……本当に大丈夫か、萌郁?」

嘆息しながら語りかけつつ歩を詰めて、最後の一言は彼女に顔を近づけ、耳元で囁く。
たちまちぽん、と耳まで仄赤く染めた桐生萌郁はすすす、と小股で後ずさって、岡部倫太郎から視線を外し、俯いたままこくんと頭を下げた。
遠間からではよくわからぬが、近くに寄れば耳まで真っ赤なことが見て取れるだろう。

「そうか、だが無理はするなよ。どうしても困った時にはいつでも俺を呼ぶがいい。この鳳凰院凶真、ラボメンのピンチにはいつだって全速力で駆けつけるからな!」
「……うん、知ってる」

こくこく、と幾度も肯く桐生萌郁。
視線は再び彼に戻されたが、その瞳には慕情と同時に信頼が垣間見える。
ピンチの時には目の前の男がきっとなんとかしてくれる、そう本気で信じて疑わぬ者の目だ。
259第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/18(金) 23:53:53.74 ID:K3WKByPI
「ではゆくぞクリスティーナ……おい、何をしている」
「あ、いや、これはだな……」

彼女の視点から見れば妙に仲睦まじく見える岡部倫太郎と桐生萌郁。
その二人の息の合った、信頼関係で結ばれたようなやり取りを見せ付けられ、そこに割って入ることができなかった彼女は、先刻岡部倫太郎を糾弾しようと彼を指差したままの姿勢で完全に硬直していた。

「さっさと行くぞ。このままでは昼になってしまう」
「誰のせいだ誰のー! あ、桐生さん、失礼するわね」

ぺこりん、と頭を下げ、愛想笑いをしながら横を通り過ぎる牧瀬紅莉栖。
桐生萌郁がラボメンの一員である事は知っているし顔も合わせているのだが、彼女とはあまり話題が会わないというか、それ以前にこれまであまり接点らしい接点もなかった二人であった。
そんな彼女の様子をじいーっと見つめていた桐生萌郁は、やがて首を傾げ、ぽつりと一言だけ呟いた。

「……デート?」
「あ、違うの桐生さん、それは誤解で……えっと私と岡部は……」
「デート……そうだな、まあそのようなものだ」
「なあー?!」
「時間がもったいないと言っているだろう。さあ、行くぞクリスティーナ」
「あ、やだ、ちょ、ちょっと待って岡部! 待ちなさいよコラー!」

つかつかと歩いてゆく岡部倫太郎の後ろを、いかにも文句を言いたそうに牧瀬紅莉栖が追いかけてゆく。
そんな二人の背中を、眉根を寄せてじいと見つめながら見送った桐生萌郁は、やがて、

「……お似合い」

そう呟くと、店の中に引っ込んでしまった。
260名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 23:54:31.95 ID:K3WKByPI
というわけで今日はここまでー
それではまた次回ー ノノノ
261名無しさん@ピンキー:2013/01/18(金) 23:59:23.39 ID:eh8uwsYO
初遭遇記念カキコ

しどろもどろな紅莉栖ちゃんMMQ
262名無しさん@ピンキー:2013/01/19(土) 01:37:00.46 ID:yKxCvmfZ
オカリンがリードして
助手は振り回されるのを楽しんでるなww
263名無しさん@ピンキー:2013/01/19(土) 21:34:46.44 ID:CG/n8B37
毎晩乙です
今夜も楽しみです
264名無しさん@ピンキー:2013/01/20(日) 00:21:20.14 ID:/WWyARFk
>>263
平日しか更新しないぞ
265名無しさん@ピンキー:2013/01/20(日) 03:19:23.67 ID:DvLFL9vA
平日限定ってこのスレ見ただけだと書いてないから分からん人がポツポツいらっしゃるね。
266名無しさん@ピンキー:2013/01/20(日) 06:01:33.51 ID:/WWyARFk
>>285
まあいろんな人が見に来てくれるならいいことじゃない?
個人的には場所が場所なのと時期をちょっと外してることもあってかなりマイナーな気がする
267名無しさん@ピンキー:2013/01/20(日) 16:17:50.67 ID:+pimelQ4
鈴羽のところからROMってるよー
268名無しさん@ピンキー:2013/01/21(月) 00:23:16.24 ID:89lnzyOt
マイナーだとしてもこれは良SSだからな
俺は頭からずっと読んでる
269名無しさん@ピンキー:2013/01/21(月) 23:57:11.26 ID:RINaZe6j
こんばんは
今日もなんとか更新できそうです
それではしばしの間お邪魔します……
270第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 00:05:32.28 ID:RINaZe6j
8−7:2011/02/13 11:12 中央通り

「ちょっと岡部! 待て! 待ちなさいよ!」

つかつかと先を歩く岡部倫太郎を早足で追いかける牧瀬紅莉栖。
水泳を除けば運動能力的にはそう大差のない二人ではあるが、上背のある岡部倫太郎の方が歩幅は大きく、彼が大股で歩けば牧瀬紅莉栖はついていくので精一杯となる。

「……どうした、クリスティーナ」

振り向きながら歩調を緩め、牧瀬紅莉栖が追いつくまでしばしゆったりと歩く岡部倫太郎。
彼の背後までやっとたどり着いた牧瀬紅莉栖は、さらに一歩斜め前に出て彼の隣を陣取った。

「はぁ、はぁ、もう、岡部あんた歩くの早すぎ……!」

前かがみになって荒い息を吐く牧瀬紅莉栖。

「あ、すまん。少々考え事をしていた」
「なに? あんた考え事してると早足になるの?」
「いやそういうつもりはないのだが……あー、すまない。悪かった」
「あ……ううん、別にいいの。いいんだけど……」

頭を掻きながら素直に謝る岡部倫太郎。
あまりに相手があっさりと折れてしまったのでそれ以上追求しにくい牧瀬紅莉栖。
いや、それどころか……

「……あれ? ってことはもしかしていつもは私の歩幅に合わせてるの?」
「あ、いや、べ、別にお前に合わせているというわけではないぞっ。単にその方が話しやすいからであって……」
「ふーん……へぇー、ほぉー」
「な、なんだっ?」
「んーん、べっつにー?」

そんな感じで、岡部倫太郎の反応にすっかり機嫌を直してしまう。

「意外と気遣いするタイプなのかもね、岡部って」

腰に手を当て、少し胸を反ら気味にして隣にいる男に話しかける牧瀬紅莉栖。
すっかりいつもの調子を取り戻したようだ。
271第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 00:09:00.47 ID:XC/0zDi6
「当たり前だろう。俺は未来ガジェット研究所の所長なのだ。ラボメンへの気遣いを欠かしたことなどない」
「ほー。私への気遣いはよく欠かすくせによくそんな事が言えるわね」
「なに? それは聞き捨てならんな。俺がいつお前への気遣いを欠かしたというのだ助手よ」
「それだー! だから助手ってゆーなー!」

ずびし、と指を差す牧瀬紅莉栖の顔を、むしろ身を乗り出すようにして覗き込む岡部倫太郎。

「……そんなに嫌か?」

どっくん。

「あ、いや! 別にそんな嫌ってほどでもないけどその……」

岡部倫太郎の意外なくらい真面目な顔つきに跳び上がらんほどに驚き、心の臓を跳ね上げさせて、どぎまぎしつつ二、三歩後ろに下がりながらしどろもどろに答える。
実際口では嫌だ嫌だと言ってはいても、もし彼から助手ともクリスティーナとも呼ばれなくなったらきっと彼女は寂しく思うに違いない。

「その……なんだ?」
「だ、だーかーらー! 私の方が岡部より知識も技術も上じゃない! その私が助手扱いなのはおかしいだろーが! むしろ逆であるべきよ!」
「……ふむ、なるほど。それがお前の意見かクリスティーナよ」
「そ、そうだがなにか」

岡部倫太郎がいつも繰り出す屁理屈と言う名の減らず口が今日もまた飛び出すのかと身構える牧瀬紅莉栖。
けれどそうしたやり取りは、知らぬ間に彼女の愉しみともなっていた。

「では仮にお前の述べた仮設が正しいと仮定してだ」
「仮仮ゆーな。仮定も何も厳然とした事実ですが何か」
「ぐむ……では『仮に』そうだとして、俺はお前の事を何と呼べばいいのだ? い、言っておくが所長の座は譲らんからなっ!」
「誰も欲しくないわそんなもん。普通に呼べばいいのよ普通に」
「ちゃんと読んでいるではないかクリスティーナよ」
「それは普通とは言わん!」
「ならばセレセブか? ねらーか? 蘇りし者(ザ・ゾンビ)か? それともメリケン処女か?」
「どーれーもーちがーう! 大体何よ最後のはアンタだって童貞でしょーが」
「ぐぬぬぬ……あれもダメこれもダメ、それでは一体なんと呼べば良いのだ!」
272第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 00:17:27.39 ID:XC/0zDi6
童貞と呼ばれたときほんの一瞬だけ言い淀みそうになり、慌てて誤魔化す岡部倫太郎。
なにせ今の彼は最初に彼女に挑んだ時とは経験値が違いすぎる。
確かにその殆どはタイムリープによってその肉体の上から“なかったこと”にはなっているが、それでも阿万音鈴羽とのセックスは既に経験済みなのだ。
そう、今の岡部倫太郎はもはや童貞ではないのである。

「普通でいいって言ってるんだから普通に名前で呼べー!」
「……紅莉栖?」
「はうっ!?」

往来で絶叫する牧瀬紅莉栖の顔を上から見下ろすようにして呟く、低く穏やかな声。
自分で要求しておいて、たちまち耳まで朱に染め上げる牧瀬紅莉栖。

「紅莉栖、どうかしたのか?」
「はわっ!?」
「しっかりしろ紅莉栖、どこか調子でも悪いのか」
「え? ひゃっ! わ、わわわわ……っ!」

優しく語り掛けつつにじり寄る岡部倫太郎を前に、目をぐるぐると回しながらわたわたと後退する牧瀬紅莉栖。
明らかに脳の許容量をオーバーしているようだ。
天才だなんだと持て囃されてはいても、どうやら彼女は恋愛や男女関係に関するキャパシティには著しく不足気味らしい。

「ちょ、ちょっとタンマ! ストップ! お、岡部、落ち着け、な?」
「むしろ落ち着いていないのはお前のだようだが、紅莉栖」
「ひゃんっ!? だ、だからおk……きゃっ!?」

早足で後ろに逃げる牧瀬紅莉栖は、歩道の段差に足を取られて危うく転びそうになる。
だが素早く一歩踏み出して彼女の肩に手を回し、強引に抱き寄せるようにしてそれを防いだ岡部倫太郎は、目と鼻の先にある彼女の顔……その額にそっと己の額を押し当てた。

こっつん、と互いにだけ聞こえる小さな音。

「今日は寒いな……随分と顔も赤いぞ。風邪でも引いたか、紅莉栖?」
「ひぁっ!? わ、わ、お、岡部ぇ……っ!」

真冬だというのに信じられないくらいに真っ赤になった牧瀬紅莉栖が、半開きの口を震わせて泣きそうな声で呟く。
いや……それは場所が場所なら喘ぐ、と表現しても許される熱っぽさであった。

「……ふむ、やはり少々額が熱いな。調子が悪いようならラボに戻って休むか?」
「ふぁ、ん、おかべ……ってそれはダメーっ!」

どん、と岡部倫太郎を突き飛ばすようにして距離を取り、荒い息を吐く牧瀬紅莉栖。
自分の顔が信じられないくらいに火照っているのを自覚する。
もしこれ以上あの距離で迫られていたら……きっと身も心もどうにかなってしまっていたに違いない。


彼らのやりとりを目撃していた歩行者達は……皆一様に口から砂糖を吐いていた。
273名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 00:18:29.89 ID:XC/0zDi6
というわけで今宵はここまで……
ここしばらくは平日でも毎日更新できるかわかりませんが、なんとか頑張ってみたいところです
それではー ノノシ
274名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 00:21:02.69 ID:0XLhOa8m
乙です
無理なさらず
275名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 00:25:06.78 ID:amWmNM3o
乙乙
ハチミツ吐ける自信あるぜ!
276名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 00:28:35.06 ID:0SinnfyP
乙です

平日は、毎日更新を心待ちにして楽しく読んでいますが
あまり無理せず 体を労わってくださいな
277名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 00:31:59.75 ID:/VRSVWZz
フンッ!


うわっ、なんだこれ!甘っ!
砂糖!?砂糖だ!
278名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 18:10:00.52 ID:GR9AAJcj
あめー
糖尿になるほどあめーよ
279名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 21:14:19.76 ID:SczZVsyZ

このバカップルどもめが!!
280名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 22:52:36.31 ID:LtuH3skl

ゼリーマンズレポートならぬシュガーマンズレポートか、セルンが熱くなるな…
281名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 23:14:18.34 ID:XC/0zDi6
こんばんは
今宵も更新できそうでなによりです……
282第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 23:16:17.08 ID:XC/0zDi6
8−8:2011/02/13 11:25 

「ところで紅莉栖」
「……い」
「? どうした、声が小さくて聞こえないぞ」
「い、いつもの呼び方でいい……」

頬を染めて、なんとも悔しさを滲ませながら岡部倫太郎を睨みつける牧瀬紅莉栖。

「どうした、お前がこう呼べと言ったのではないか」
「そ、そうだけど! そうだけどなんか調子が狂うのよ!」
「ふむ……別に構わんが。ならば以後俺の呼び方に文句は付けるなよクリスッティーナよ!」
「きょ、今日だけだからな! 今日はちょっと調子が悪いって言うかなんていうか……ともかく今日だけだからなっ!」
「良くわからん奴だ。ともかくそれならば今日は遠慮なく呼ばせてもらうぞ我が助手よ。フゥーハハハハハ!」
「くう〜、なんか悔しい〜っ!」

『むきー!』と横から聞こえそうなほど悔しげな顔で、岡部倫太郎をギリギリと睨めつける。
けれど彼の方はどこ吹く風で、ただ歩調をゆるめて牧瀬紅莉栖の歩幅に合わせた。

「そういえばさっきは俺に何か用があって呼び止めたのではないのか、クリスティーナ」
「あ、そうそう、そういえばそうだった」

岡部倫太郎に詰問したい事があって呼び止めたはずなのに全然別の話題で盛り上がってしまい、気付けばすっかり当初の目的を忘れてしまっていた。
まあ彼と一緒にいるとままあることであり、そういうところも牧瀬紅莉栖は嫌いではなかった。

「さっきのまゆりと桐生さんの件よ」
「む? あの二人がどうしたのだ?」
「いや、ほら、なんか誤解させちゃったというか……」
「誤解? どのような誤解だ」
「だーかーらー! 私と岡部がデ、デートにでかけるとかなんとか……」
283第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 23:24:22.29 ID:XC/0zDi6
どうにも鈍い岡部倫太郎の反応に焦れるように解説する。
ただ本人の口からはなんとも言いにくそうで、自ら口にしながらその声はゴニョゴニョと徐々に小さくなっていった。

「どこが誤解なのだ我が助手よ」
「だって私と岡部はあくまで日本の代表的なイベントであるバレンタインの見学に秋葉原を廻ってるだけで……!」
「……何がしかのイベントを男女二人で見て廻るのは、普通デートと呼ぶのではないか、クリスティーナよ」
「ふへ……っ?!」

何の気もなさそうな岡部倫太郎の言葉に、なんとも間の抜けた、すっとんきょうな声を上げてしまう牧瀬紅莉栖。

「え? 岡部、こ、これってデートなの?!」
「少なくとも端から見ればそう見えるのだろうな。というか……そもそも俺は最初からそう思っていたのだが」
「ひえっ?! お、岡部、正気!? わ、私のデート……その、したいのか?」

みるみる耳朶を赤く染めて、岡部倫太郎に詰め寄る牧瀬紅莉栖。
その瞳は何かを期待しているかのように潤んでいて……
肩をすぼめながら、彼の次の言葉を一言たりとも聞き漏らすまいと唾を飲み込んでいた。

「……何をそう堅くなっている。巷を見てみろ、デートなんぞそこらじゅうでやっているではないか。ただ二人で街に繰り出すだけだと思えばいい。俺を見ろ、一体まゆりに幾度昼飯を奢らされた事か……!」

悔しそうに両手を挙げてわななかせる岡部倫太郎を見て、牧瀬紅莉栖はどっと肩の力を抜いた。
彼女が期待している答えとは違っていたが……だが、同時にいらぬ緊張感からも解放されたようだ。
284第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/22(火) 23:27:04.54 ID:XC/0zDi6
「……そうね。せっかくのイベントなんだし楽しまなきゃ損よね」
「そういう事だ。特にお前はさほど長く日本にいられないのだから、この機会に存分に満喫するといい」
「うん、わかった、そうする」

岡部倫太郎の言葉に、牧瀬紅莉栖は自然な笑顔で肯首する。

「でも意外ね、デートが普通だなんて岡部が言い出すとは思わなかった」
「し、失礼だな助手よ!」
「あはははは、ごめん、でもホントありがと。なんか楽になった」

牧瀬紅莉栖の笑顔にホッとすると同時にどきんと心臓を打ち鳴らす岡部倫太郎。
良い雰囲気を保ちつつ、だが最初から盛り上げすぎないように、可能な限り言葉を選んで会話をしてきたつもりだが、果たしてどれほどの効果があったのだろうか。

けれど同時に思い直す。全てが計算づくでも駄目なのだ。
自分も一緒に楽しまなければ……最終的にきっと相手に気取られる。

「まったく……難しい任務だな」
「? 何か言った、岡部」
「いや、なんでもない。それよりまずどこに行く。高級品を見繕いたいならここではなく銀座あたりに出向いたほうがいいぞ」
「銀座って……ここから遠かったっけ?」
「この道を南下すればそのまま銀座だ。そうだな……歩いて20分といったところか」
「ふ〜ん。じゃあとりあえず秋葉原でいいかな。ね、オススメのお店とかある?」
「普段はチョコなど滅多に食わんからな……だがまあ当てはある。ただその店にいくのはもう少し後だ」
「OK。それじゃあとりあえず……適当に廻りますか!」
「わかった。言い出したのは俺なのだし、付き合おう」
「うんっ! じゃあね、まずはあの店!」
「いきなりドンキかよ! どれだけ女子力が低いのだクリスティーナよ!」
「なんだとー?!」

牧瀬紅莉栖が指差した先へ……二人は信号を待って歩き始めた。
285名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 23:27:43.63 ID:XC/0zDi6
というわけで短めですが今宵はここまでー
それではまた次回にお会いしましょう ノノシ
286名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 23:49:20.31 ID:lBFoiL5v


完全にオカリンのペースだと!?
287名無しさん@ピンキー:2013/01/22(火) 23:51:23.65 ID:0SinnfyP
乙です

しかし、、、ドンキを選ぶとは、残念な紅莉栖。
いやまあ 手作りチョコの材料は豊富だよねっ。手作りチョコの・・・大事なことなので2回言い(ry
288名無しさん@ピンキー:2013/01/23(水) 00:22:09.39 ID:l+P9sh2n
乙!!

数日前にこのSSを見つけ、最初から一気読みしてしまいました・・・。
エロだけじゃない、その他の部分でもすばらしいSSだと思います!

今後も無理はしない程度に、がんばってください!!
289名無しさん@ピンキー:2013/01/23(水) 08:36:05.38 ID:OudgQq46
DQNホーテワロタ
290名無しさん@ピンキー:2013/01/23(水) 23:16:30.80 ID:GwPKFUSm
こんばんは
少しでも多くの人に読んでもらえたら嬉しいですね
それでは今宵も更新させていただきます
291第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/23(水) 23:21:17.04 ID:GwPKFUSm
8−9:2011/02/13 13:12 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

「「お帰りなさいませ御主人様〜♪」」
「わ、わ、わぁ……っ!」
「「ニャンニャン♪」」
「わぁ〜……っ!」

フェイリス・ニャンニャンとマユシィ・ニャンニャンの二人に出迎えられ、思わず歓声を上げて舞い上がってしまう牧瀬紅莉栖。

「すごーい……二人ともとってもキュート……!」

呆然とその愛らしい姿に見惚れ、知らず嘆声を漏らす。
あざといにも程があるメイド衣装に猫耳、初見の人間には相当なインパクトだろう。
彼女の目はすっかり二人に釘付けになってしまっていた。

「ありがとうニャクーニャン。フェイリスすっごく嬉しいニャン♪ それではマユシィ、お二人をお席の方にご案内するニャー!」

全力で媚を売りつつ元気よく片手を挙げたフェイリスの横で、椎名まゆり……もといマユシィ・ニャンニャンがほにゃ、と柔和な笑みを浮かべすす、と二人の前に出る。

「それでは御主人様、お嬢様、こちらへどうぞ〜、ニャンニャン♪」
「ふわあ……っ」

頬をみるみる染めて舞い上がる牧瀬紅莉栖。
椎名まゆりに店内を案内されながら、彼女は興奮気味に岡部倫太郎の白衣の袖を引っ張った。

「岡部、岡部! どうしよう、私お嬢様だって!」
「……この店は誰にだってそう言うのだ。そういうサービスなのだからあまり気にするな」
「そんな事言われたって……やだ、どうしよう。胸がドキドキして止まらない……っ」

岡部倫太郎の袖をつまんだまま、火照った顔で彼を見上げ、己の心臓に手を当てる。

「……どうやら気に入ってもらえたようでなによりだ」
「うん、うん、凄い……来て良かった……」
292第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/23(水) 23:25:25.62 ID:GwPKFUSm
先刻まで秋葉原でチョコレートを売っている店を転々としていたのだが、個人的にあまり彼女の気にいるものがなかったらしく、後で本格的に銀座辺りを廻ろうか……といったあたりで牧瀬紅莉栖の腹の虫が鳴いた。

「な、な、なぁ……っ!」

真っ赤になってうろたえた彼女は往来で空腹時の身体機能とその健常性について滔々と述べ始めたため、岡部倫太郎はなんとか彼女を宥めすかしつつ、昼食を摂りにメイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』へと立ち寄ったわけだ。
牧瀬紅莉栖はメイド喫茶自体には興味津々の様子だったが、客層に関してなんともネット情報に汚染されたマイナスの印象を抱いており、
女性である自分が入っていいものかと思い悩んでいて、結局岡部倫太郎は半ば強引に彼女を引っぱって来た。
最初のうち抵抗の様子を見せていた牧瀬紅莉栖は、だがなぜか彼が手を引くと途端に大人しくなり、頬をほんのりと桜色に染めたまま素直に岡部倫太郎について来て……そして現在の状況となっているわけだ。

「こちらがメニューになります。ご注文が決まりましたらお呼び下さいニャン♪」

笑顔でメニューを差出した椎名まゆりの手を、牧瀬紅莉栖の両手ががっちりと握る。

「まゆり、今の貴女すっごく可愛い! 私感動してる……!」
「えっへへ〜、そんなクリスちゃん大袈裟だよう」
「ううん、そんな事ない! なんか本当にアニメから飛び出してきたみたい……!」
「うう〜、クリスちゃん、まゆしぃすっごく嬉しいけど恥ずかしいのです……」
「まゆり、素が出ているぞ」
「あ、いけないいけない。申し訳ありませんお嬢様にゃーんにゃん♪」
「やーん、やだもーまゆりったらすっごい可愛い〜」
293第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/23(水) 23:31:36.90 ID:GwPKFUSm
瞳を輝かせ、テーブルから身を乗り出して盛り上がる牧瀬紅莉栖に、恥ずかしそうに照れ笑いする椎名まゆり……もといマユシィ・ニャンニャン。
そしてそんな姿を見ながらさらに鼻息を荒くする牧瀬紅莉栖。
女性としては少々慎みに欠ける所作にも見えるが、これは状況が問題なのかそれとも彼女自身の問題か。

「まるで田舎から来たおのぼりさんだな助手よ」

確かに彼女の興奮ぶりは少々度が過ぎており、もし犬のように尻尾があったなら間違いなく振り切れていたに違いない。
この様子では放っておくと橋田至以上の常連になりかねない……岡部倫太郎は心の内で嘆息した。

「ほっといて! せっかくのこの感動に水を差すなこの馬鹿岡部っ!」
「いや、俺はともかくまゆりは仕事中だ。あまり俺達のテーブルだけに拘束するわけにもゆくまい……と、そういえばまゆり、ダルはどうした。先にこの店に来ていたはずだが」
「あ、ダル君ならねえ、今日はお客さんが多いだろうからってさっき私と入れ違いに帰っちゃったよ〜。あんまり居座るとフェリスちゃんに迷惑だから〜って」
「なるほど。まあ喫茶店で休むより家に帰って寝た方がいいかもしれんな」
「うん。ダル君なんかだいぶ疲れてるみたいだった」
「わかった、すまんなまゆり。そろそろ仕事に戻れ」
「あ、そっか、ごめんまゆり。仕事の邪魔しちゃって」
「大丈夫だよクリスちゃん。だって御主人様とお嬢様にご奉仕するのもメイドのお仕事だニャ〜ン♪」
「はう……っ」

猫のような手つきを、フェイリスに比べてややゆっくり目に取る椎名まゆり。
その緩慢とも言える動作は、けれどフェイリスとは別の意味で常連客に人気であった。
当然の事ながらその手のことに慣れていない牧瀬紅莉栖のハートにも見事にクリティカルヒットする。
294第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/23(水) 23:33:01.88 ID:GwPKFUSm
「も、ダメ、岡部。私頭が沸騰しちゃいそう……」

それぞれランチメニューを注文し、それを受けた椎名まゆりが去った後、なんともだらしない顔でテーブルに突っ伏す牧瀬紅莉栖。

「まさかここまで耐性がないとは……」

呆れたように肩をすくめる岡部倫太郎。
いつもならすぐさま反論がすっ飛んでくるのだが、どうやら今の彼女にはその気力すら削ぎ落とされてしまっているらしい。

「まるで牙を抜かれた狼だな……」
「なんとでも言って〜……今の私は大体許せちゃう〜」
「ええいみっともないからテーブルに倒れこむな! で……どうなのだ、クリスティーナ」

だらしない姿の牧瀬紅莉栖を叱った後、居住まいを正し、真面目な顔つきとなった岡部倫太郎が妙なことを尋ねてくる。

「どう……って、なにがだ」

彼の声の調子からなにかそれまでと違うものを感じ、身を起こし怪訝そうに問い質す牧瀬紅莉栖。

「この店の制服だ。気に入ったか?」
「う、うん。それはもう。思わず写メ撮ってスレ立てようと思ったくらい」
「立てるな」

キリッと生真面目な表情でそんな事を言い放つ牧瀬紅莉栖に橋田至と同じ空気を感じ、呆れたようにツッコミを入れる岡部倫太郎。

「まあなんにせよ気に入ってくれてよかった。流石に当人が気に入らん服を着せるわけにもいかんからな」
「……………………はい?」

岡部倫太郎が当たり前のように言い放った一言。
牧瀬紅莉栖は……数瞬の間、彼の言葉の意味が本気で理解できなかった。
295名無しさん@ピンキー:2013/01/23(水) 23:34:48.83 ID:GwPKFUSm
というわけで今宵はここまでー
それではまた次回の更新でお会いしましょう ノノシ
296名無しさん@ピンキー:2013/01/24(木) 00:17:08.37 ID:BhmhTRSr
ここからが本当の『地獄』だ……
297名無しさん@ピンキー:2013/01/24(木) 01:06:47.37 ID:jmuosS87
おつです

助手編じっくり楽しめていい
298 ◆DCy0FEfZMg :2013/01/24(木) 22:18:10.09 ID:VlP40QgM
てすと
299名無しさん@ピンキー:2013/01/24(木) 23:19:02.17 ID:620wd4NU
こんばんは……
今宵は余裕をもって更新できそうです
300名無しさん@ピンキー:2013/01/24(木) 23:19:59.75 ID:620wd4NU
8−10:2011/02/13 13:25 

「ちょっと待って岡部、今なんて言った」
「お前にここのメイド服を着せると言ったのだ、クリスティーナよ」

眉をしかめ、詰問するような口調で尋ねる牧瀬紅莉栖相手に、表情を変えず、ごく当たり前の日常会話のように返す岡部倫太郎。

「な、なして?」
「どこの出身だお前は。何故って……お前は今日バレンタイン絡みのイベントを満喫するために秋葉原に繰り出したのだろう? ならばこの手のメイド喫茶こそ相応しい場所ではないか。見ろ!」

岡部倫太郎が指差した先では、猫耳メイドたちが御主人様にハート型のチョコレートを手渡している。
今現在ここにいるのは先着50名様限定のフェイリスお手製チョコを目当てに早朝から並んでいたような猛者ではなく(まあその居残り組も若干いるが)、
ごく普通の客たちだが、それでもなんともだらけきった情けない笑顔で嬉しそうにチョコを受け取っていた。

「イベントを満喫するというのはああいうことを指すのだ! バレンタインだのチョコレートだのは本来天才マッドサイエンティストたるこの鳳凰院凶真の門外漢ではあるが、
我が大事な助手の要請ともあれば断るわけにもいくまい。ゆえにこうして貴様にもチャンスをくれてやろうというのではないか! フゥーハハハハハ!」
「え? つまりなんだ、私に、あの服を……着ろと?」
「うむ。察しがいいではないか」

愕然とした表情で岡部倫太郎に確認する牧瀬紅莉栖。
そして腕組みをした彼のなんとも重々しい肯首にびくんと肩を震わせ、その後おそるおそる店内を見回しそのメイド服を確認する。
そしてのろのろと首を戻し、再び岡部倫太郎の方へ向いた牧瀬紅莉栖は、震える指で己を指差して再確認するようにこう聞いた。

「……私に?」
「ああ。何度も言わせるな」
301第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/24(木) 23:23:33.43 ID:620wd4NU
次の瞬間、牧瀬紅莉栖はたちまち顔を真っ赤にし、その後真っ青になり、さらに再び真っ赤になった。
まず猫耳メイドとなった己の姿を妄想して高揚し、だがぼさぼさの髪、手入れの行き届いていない肌、正直あまり自信のない体型を思い起こして血の気が引いて、さらにその姿を他人にじろじろと見られている様を想像して羞恥に頭を茹らせる。

「む、無理無理無理無理! 絶対無ー理ー!」
「なぁにが無理なのだ我が助手よ」
「だ、だだだってだって! あ、あんな格好わ、私できない……っ」

店内だというのにまるで吹きさらしの寒風でも浴びたかのように己自身を掻き抱いてぶるりと震える。
岡部倫太郎に、そして周囲の客連中に嘲笑われる様でも想像してしまったのだろうか。

「あんな格好とはなんだ、フェイリスやまゆりの姿を見たときは手放しで褒めていたではないか」
「そ、それは二人が可愛いからぁ……っ」
「ふむ……それならばなおのことお前にも似合うと思うのだがな」
「ふぇ……?」

岡部倫太郎の怒涛の攻撃に必死に抗っていた牧瀬紅莉栖は、だが彼の言葉に思わず面を上げる。

「岡部、今、なんて……?」
「おおい、まゆり! マユシィ・ニャンニャン! お嬢様がお呼びだぞ!」
「ふええっ!? お、岡部!?」

パンパン、とまるで執事のように手を叩く岡部倫太郎。
たちまち通路の向こうから椎名まゆりが飛んでくる。
なんとも素早い反応で、まるでずっとこちらの会話に耳を傾け彼が呼ぶのをまちかねていたかのようだ。

「お呼びでしょうか御主人様ニャ〜ンニャン♪」

頬を染め、やけに嬉しそうな声で返事をする椎名まゆり。
302第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/24(木) 23:29:23.14 ID:620wd4NU
「申し訳ありません。お食事の準備はもう少しかかりますニャ〜」
「ああ、いや、それはいいのだ。それよりマユシィ・ニャンニャンよ、ひとつ尋ねたい事がある」
「はい、なんですかニャ〜?」

柔和な笑みを浮かべ、岡部倫太郎の脇へすす、と移動する様はまるで本物の従順なメイドのようで、
あたかも彼に命令されるのを心待ちにしていたかの如くである。

「正直に答えてくれ、クリスティーナにこの店の猫耳メイド服が似合うと思うか?」

岡部倫太郎の方へ顔を向け、その後耳まで赤くしてこちらの様子を窺っている牧瀬紅莉栖の方に向き、その後再び岡部倫太郎の方へ顔を向ける椎名まゆり。
その直後、彼女はまるで餌を用意された猫のように瞳を輝かせて身を乗り出した。

「クリスちゃんクリスちゃん! ここの制服着てくれるの!?」
「ふぇっ!? あ、いや、その、でも、私なんかじゃきっと似合わないし……」
「そんな事ないよぉ〜、クリスちゃん可愛いからまゆしぃ絶対似合うって思うなぁ〜」
「わ、私が可愛いなんて、そんな……っ!」

腕を組みながらふふんと胸を逸らす岡部倫太郎。
コスプレ衣装を造るのが趣味である椎名まゆりは自らコスプレをする事も多いが、それよりも他人にコスプレをさせたがる。自分で造った衣装を他人に着てもらうのが好きらしい。
ゆえに彼女が少しでも素養のありそうな者に否定的な反応をするはずがないのである。

「ね、ね、せっかくだから今から着てみようよ〜、ぜったい似合うよ〜」
「あの、えっと、落ち着いてまゆり。お願いだから……っ」

のんびりした口調ながらこうしたところは妙に押しが強い椎名まゆりにたじたじとなる牧瀬紅莉栖。
岡部倫太郎相手のように邪険に扱うわけにもゆかず、かといって黒幕である岡部倫太郎に縋ることもできず、彼女は途方に暮れる。
303第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/24(木) 23:34:03.76 ID:620wd4NU
「だ、大体まゆり、今はお仕事中でしょ?! そういうお遊びみたいな事はいけないと思うの。ね、そうよね岡部。だいたい許可もないのに……」
「……だ、そうだが、フェイリス・ニャンニャンよ」
「許っ可すっるニャ〜!!!」
「ええええええええええええええええええっ!?」

いつの間にかに岡部倫太郎に招聘されていたフェイリスが右手を高々と挙げてOKを出す。
ちなみに彼以外殆ど知らぬことだが彼女がこのメイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』のオーナーであり、今のは実質店長許可を貰ったも同義である。

「みんなもクリス・ニャンニャンの猫耳メイド姿、見たいかニャ〜?」
「ふええええええええええええええっ?!」

素早く振り向いたフェイリスは、店全体を見回すようにして呼びかける。
たちまちノリのいい客たちから大きな歓声と拍手が返ってきた。
店をまるごと巻き込むことで責任感の強い牧瀬紅莉栖の退路を断つのが狙いだろう。
そのノリの良さと緻密な計算には流石の岡部倫太郎も舌を巻いた。

「というわけニャ! お客様もお待ちだニャ! すぐにお着替えお着替えニャ!」
「あ、ちょ、ちょっと待って! フェ、フェイリスさん? ま、きゃああああああああ?!」

マユシィ・ニャンニャンとフェイリス・ニャンニャンに左右から腕を引かれた牧瀬紅莉栖は、そのままずるずると店の奥に消えてゆく。

岡部倫太郎は己の策に満足げに肯くと、別の猫耳メイドが運んできたランチセットを受け取りながら、互いに親指を立てて戦果を祝した。




 
304第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/24(木) 23:34:57.90 ID:620wd4NU
タイトルひとつ付け間違えた…… orz
まあともかく今宵ここまでー
また次回お会いしましょう ノノシ
305名無しさん@ピンキー:2013/01/25(金) 00:02:40.82 ID:kzKSxG+6
乙乙
306名無しさん@ピンキー:2013/01/26(土) 00:25:23.13 ID:Y4HXADsZ

ツンデレネコ耳メイドのコンボは最強。
307名無しさん@ピンキー:2013/01/26(土) 00:30:09.58 ID:7iQG051Z
こんばんは……
ちょっと遅くなりましたがなんとか更新できそうです
308第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/26(土) 00:45:33.69 ID:7iQG051Z
8−11:2011/02/13 13:57 

「……ふむ、少々遅いな」

ランチセット……今日のメニューはオムレツ(ケチャップによる文字サービスつき)だったが……を平らげた後、岡部倫太郎は携帯電話で時間を確認する。
あれから30分以上経過しているのにまるで音沙汰がない。
もしかして何か不測の事態でも起きているのでは……?

そんな事を考え、思わず椅子から腰を浮かせかけたところで、岡部倫太郎は店内の異状を肌で感じた。
各テーブルの会話が徐々に途切れ、小声での囁きが取って代わり、やがてそれさえも消え失せて……気付けば静寂が店内を支配していたのだ。

「……なんだ?」

まさかタイムリープマシンの存在を察知したSERNが動いたのか……?!
ぞわりと背筋が総毛立ち、緊張しながら全身の神経を研ぎ澄ませて眼を細め、店内にぐるりと視線を走らせた岡部倫太郎は……彼らの視線が一点に集中している事に気付く。
そしてその方角へと顔を向けて……彼はぴしりと硬直した。


……そこには、美しいメイドが立っていた。


店の奥からフェイリス・ニャンニャンとマユシィ・ニャンニャンに挟まれて歩いてきたのは、彼女達と同じくこの店の猫耳メイド服を纏った赤毛の女性。頭部に乗せたカチューシャがなんとも愛らしい。
首元のリボンは他のメイド達と比べるとやや幅広で、まるでプレゼントを包むリボンのように強調されており、あたかも彼女が何者かの所有物であると強く自己主張しているかのようである。
ちなみに色は黒だ。

やや吊り目気味な瞳は妙に潤んでいて、頬は真っ赤に染まり、随分と解放的な下半身を気にしてもじもじと脚をよじり合わせている。

岡部倫太郎は数瞬呼吸を忘れ、ただ呆然とその女性を見つめていた。
309第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/26(土) 00:47:35.68 ID:7iQG051Z
「な、なんか言ったらどうなの、岡部」

責めるような、それでいてあまり強くはない口調。
店中の注目を、視線を一身に浴びている事が恥ずかしくてたまらないらしく、スカートの前で組まれた手指が所在なげに動いていた。

彼女の特徴的な声と、こちらを睨むような鋭い目付きにハッと我に返る。
自身で策を弄しておきながら……岡部倫太郎は、目の前の美女の正体を今更ながらに理解した。


「……紅莉栖か?」


「な、なんだとー?! 今さらか! 今さらそれを言うか! お、岡部! あんたが無理矢理着せたんでしょーが!」
「もー、オカリーン! そういうこと言っちゃダメだよぉー!」
「ホントに駄目ニャーキョーマは。クリス・ニャンニャンがどれだけ勇気を振り絞ったと思ってるニャ。乙女心を理解しない御主人様は八蹄馬(スレイプニル)に蹴られて死ぬといいニャ! キョーマ! もう一度やり直しだニャ!」

猫耳メイド姿のまま真っ赤になって口をぱくぱくさせている牧瀬紅莉栖の左右から、椎名まゆりとフェイリスの激しい叱責が飛んだ。
予想を遙かに上回る成果に思わずうろたえた岡部倫太郎は、心の内で己を叱咤し無理矢理冷静さを取り戻しそうする。
今回はタイムリープマシンは使えない。やり直しは効かぬのだ。多少のミスはカバーできるが致命的な失策は回避しなければ……!

……そう、岡部倫太郎は、この周回でこれまでとは決定的に違う選択肢を一つ選んでいる。
今日は2月13日、バレンタインデーの前日だ。
けれど元々牧瀬紅莉栖とのデートは明日、すなわち2月14日に行われていたはずである。
彼はそれを一日早めたのだ。
310第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/26(土) 00:48:49.29 ID:7iQG051Z
なぜか? と問われれば当然ながら今年……2011年のカレンダーに起因する。
今年の2月14日は平日であり、バレンタインのメインイベントは大体13日に行われていた。その手の事に疎い岡部倫太郎とまるで知らなかった牧瀬紅莉栖は、だからいわば出枯らしのような街をその日歩いていたわけだ。
とはいっても当日バレンタインらしいことは何もせず、喫茶店などで延々と駄弁っていただけだったため、大した問題にもならなかったのだが。

けれど今回は違う。牧瀬紅莉栖に存分にバレンタインを堪能してもらい、雰囲気を盛り上げておく必要がある。
となればその日は2月14日では駄目だ。イベントが多めの休日、2月13日こそが相応しい。
しかしその場合一つ大きな問題が発生する。

そう……タイムリープマシンだ。

これまでのタイムリープにおいて、タイムリープマシンは常に2月13日の午後11時に完成していた。例外はない。
時間がずれぬよう、岡部倫太郎は最新の注意を払って牧瀬紅莉栖の予定を崩さぬようにしていたからだ。
当たり前の事だが、これまでの周回では彼女は常にこの時間マシンの開発に勤しんでいた。今回はそれを強引に連れ出したわけである。

なぜそんな事をしたのか……?
理由の一つが阿万音鈴羽の語っていた世界線の収束だ。
もし岡部倫太郎が牧瀬紅莉栖とのセックスに失敗した場合、高い確率でタイムリープマシンは失われるという。

もし完成させてもどうせ失われてしまうのなら、そもそも期日に間に合わせる必要はない。
逆にもしこの『オペレーション・フリッグ』が成功するならば、その後に余裕を持って完成させればいい。
311第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/26(土) 00:50:48.59 ID:7iQG051Z
また……阿万音鈴羽はこうも言っていた。
ミッションに失敗した場合、彼女はマシンを未完成のまま放置してアメリカへ帰ってしまうこともある……と。

それはつまり牧瀬紅莉栖との交合の際タイムリープマシンがまだ完成していなかったケースもあるという事を示唆しており、
そして実のところ……それは最悪の中でもまだマシな部類の結末なのではないか、と岡部倫太郎は考えたのだ。

破壊されたり持ち出されてしまってはお手上げだが、完成していなければ少なくとも彼女が無理矢理使って故障させてしまう心配はない。
そして未完成ならばたとえすぐにではなくともいずれ完成させられる余地がある、という事でもある。


そう、もし牧瀬紅莉栖がいなくなったとしても……未来ガジェット研究所にはもう一人の天才、橋田至がいるのだから。


幾つかの世界線で彼は自力でタイムマシンを開発し、阿万音鈴羽を過去へと送り出した。
それにこの世界線に於いてはタイムマシンを牧瀬紅莉栖と共同開発したというではないか。
彼の力があれば、いずれタイムリープマシンを完成させることもできるかもしれない……それが岡部倫太郎の結論であり、希望であった。

無論失敗を前提に行動するのは愚かなことだが、かといって成功したときの事だけを考えるわけにもいかない。
世界の命運がかかっているのだ。最悪の事態に備え、打てる手は全て打っておくべきである。
だからこそ……彼は今日、2月13日を決戦の日に選んだのだから。
312名無しさん@ピンキー:2013/01/26(土) 00:51:19.29 ID:7iQG051Z
というわけで今宵はここまでー
それではまた来週以降に ノノシ
313名無しさん@ピンキー:2013/01/26(土) 21:31:04.41 ID:3EgNbh3R
乙かれ
助手メイドも悪くないな
314名無しさん@ピンキー:2013/01/28(月) 00:16:50.56 ID:f2lF9xhE
乙!
クリス・ニャンニャンかわいすぎる
315名無しさん@ピンキー:2013/01/28(月) 06:50:40.95 ID:vFncQDtO
悶えた
316名無しさん@ピンキー:2013/01/28(月) 23:56:54.18 ID:TWk9a5RQ
こんばんは
今日も更新できそうです
317第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/29(火) 00:01:43.45 ID:TWk9a5RQ
8−12:2011/02/13 14:03 

岡部倫太郎は呼吸を落ち着け、目の前の女性……猫耳メイドとなった牧瀬紅莉栖をじっと見つめる。
その視線を受けてたちまち頬を赤らめ、もじもじと身をよじり視線を泳がせる牧瀬紅莉栖。
日常と非日常の狭間で彼女の方は相当に舞い上がってしまっているようだが、その姿に動悸が抑えきれぬのは岡部倫太郎の方とて同様であった。

「あ、ああいやすまん。その……なんだ、よく似合っているではないかクリスティーナよ。見違えたぞ」

やっとの事でそれだけの台詞を搾り出す。
これまでのようにタイムリープのたびに思案し厳選した、考え抜いた台詞回しというわけではない。
ただそれでもそれは彼女を攻略するまでに幾度も幾度も挑んでは玉砕してきたラボメンたちとのやりとりの中で培われ、彼の中で育まれてきた言葉使いであった。

椎名まゆりとフェイリス・ニャンニャンが左右から「きゃー!」と叫びながら牧瀬紅莉栖の腕にしがみつき、ただでさえ赤かった彼女の顔がまるで茹で鮹のように真っ赤に染まる。

「やったニャやったニャ! ミッション大成功ニャ!」
「よかったね〜クリスちゃん、オカリンが褒めるなんて相当だよ〜?」
「はわっ!? え、そ、そうなの?!」
「そうニャそうニャ! キョーマはフェイリスがどんなに可愛いカッコしてもあざといポーズ取ってもちょっぴりエッチな鳴き声で誘惑しても御主人様に絶対隷属の誓いをしても褒めるどころか反応すらしてくれないニャン! 
そのキョーマの心を動かしたんだから、クリス・ニャンニャンはきっと『きら星の国のお姫様(トゥィンクル・スター・プリンセス)』に違いないニャ!」
「え、そ、そんな、プリンセスだなんて、わ、わわわ……っ」
「落ち着けクリスティーナ。フェイリスのいつもの手口だ。惑わされるなっ」
「で、でも、だって! や、やだどうしよう考えが纏まらない……こんなの初めてよ……ねえ岡部、どうしよう……どうしたらいい?」
318第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/29(火) 00:05:07.25 ID:vq0VrI5C
もはや当人の許容量を完全に超過しているのだろう。
フェイリスが途中幾度か聞き捨てならないことを言ったはずなのだが、いつもと違ってそれに突っ込むどころか気づく余裕すらない。
目をぐるぐる回した真っ赤な猫耳メイドプリンセスは、きっと左右のお付きの支えがなければ卒倒しているに違いない。

「と、ともかく冷静になれ助手よ。まずは大きく深呼吸だ。それ!」
「「すぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ……っ」」

岡部倫太郎が店内にも関わらず大きく両手を広げ深呼吸を始める。
椎名まゆりとフェイリスから解放された牧瀬紅莉栖もまた、人前だというのに彼の真似をして深々と深呼吸を始めた。

「どうだ、少しは落ち着いたか」
「す、少しだけね……あ、ありがと」

動転していた自分が相当に恥ずかしかったのだろう。
そっぽを向きながら真っ赤な耳朶を岡部倫太郎に見せ付けつつ、小声でぼそぼそ礼を言う牧瀬紅莉栖。

「ふむ、よかろう。すまんなフェイリス、無理を言った」
「いいってことニャー! 御主人様が喜ぶならフェイリスどんどんサービスしちゃうニャ!」

満面の笑顔でにぱっと笑ったフェイリスは、そのまま岡部倫太郎の隣に来て彼の脇腹を肘でつつき、小声で囁きかける。

「それにぃ、フェイリスはメイドさんニャ! 御主人様の命令ならなんでもどんなことだって聞いちゃうニャン?」

がたた、と幾つかのテーブルから身を乗り出しかける男性客ども。

「……別に俺だけのメイドではないだろう」
「ニャニャ! キョーマは自分のメイドさんの忠誠心が信用できないって言うのかニャ! フェイリスはぁ、フェイリスはとっても寂しいニャ。こんなにキョーマに尽くしてるのににゃぁ〜……」
319第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/29(火) 00:07:26.76 ID:vq0VrI5C
本当に寂しそうに、俯き加減かつ上目遣いで、岡部倫太郎に哀願の瞳を向けるフェイリス・ニャンニャン。
本日の先着50名様限定フェイリスお手製チョコレートの手渡しイベントの栄冠を勝ち取った猛者どもすらこんな待遇は受けた事がなかろう。
たちまち店内に溢れかえる羨望と嫉妬の視線。それを背中に感じつつもあえてお尻(と尻尾)をふりふりと振りつつ岡部倫太郎に甘えしなだれかかるフェイリス。

そしてそんな彼女を「いいな〜」といった様子で指を咥えて眺めているマユシィ・ニャンニャン。
その寂しん坊な背中がますます男共を煽り駆り立てる。

「え、ええいフェイリス! 俺のところのメイドは既に間に合っている! お前は店の顔だろう! 他の客の相手をせんかっ!」
「ニャニャ〜ン! 御主人様からそう命令されたら仕方ないニャ! フェイリスは御主人様の忠実なメイドニャから、寂しいけど御命令に従うニャ〜♪」

途中まで寂しそうに、だが途中から突然明るい口調に転調してそう告げると、フェイリスはくるりと岡部倫太郎に背を向ける。

「というわけでお待たせニャ〜! 残念ながらお手製じゃないけどぉ、愛のたっぷりこもったチョコレートはまだまだた〜っぷりあるニャン!」

店内に語りかけ、歓声を浴びながら両手を挙げるフェイリス。先刻までの嫉妬と怨恨混じりの視線はどこへやらだ。
なんとも人の心を掴むのが上手な娘である。

「それじゃあマユシィ、一緒に新しい御主人様たちにチョコを渡しに行くニャン♪」
「にゃ〜んにゃん! マユシィ・ニャンニャン了解なのです♪」

二人は気分を切り替えたらしく、そのまま岡部倫太郎の座席から立ち去る風情である。
ただどうやらその前に、フェイリスが牧瀬紅莉栖に話があるようだ。
320第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/29(火) 00:11:09.90 ID:vq0VrI5C
「ところでクリス・ニャンニャン、せっかくメイドになったんニャからお店の手伝いとかする気はないかニャ?」
「ふぇっ? て、手伝いって……わ、わわわ私がっ!?」
「そうニャ! お店に来る御主人様方に『いらっしゃいませ御主人様〜ニャンニャン♪』って挨拶してえ、お店で用意したチョコレートを『こ、これが御主人様への私の気持ちですニャ……』
って言いながら恥ずかしそうに渡したりしてぇ、クリス・ニャンニャンは美人だからきっと大人気になれるニャ?」
「にゃにゃー!? そ、そんなこと、そんなこと……わ、わた、わたし……っ」

岡部倫太郎、椎名まゆり、フェイリス・ニャンニャン。
三者三様の視点で牧瀬紅莉栖を見つめている。
そんな中、彼女は……己がフェイリスに言われたような行為を客相手にしている様子を想像して……


……ぼむっ!


「あ、爆発したニャ」
「クリスちゃん顔が真っ赤っかだよ〜、大丈夫〜?」
「おい、クリスティーナ。しっかりしろ。傷は浅くはないが瀕死というほどでもない」


三人の前で、過度の羞恥で見事に頭を爆発させた。


「そ、そそそそっ」
「そ?」
「そそ?」
「……日本語は正しく使え、助手よ」
「そ、そそそんなの無理っ、無理無理無理! 絶対無理だってばぁぁぁぁぁぁぁっ!」

完全にテンパってしまった牧瀬紅莉栖。
そしてそれをこれはこれで可愛いと存分に愛でる一堂(含その他メイド及び客たち)
321第8章 欣執双和のメテムサイコシス(2):2013/01/29(火) 00:14:01.41 ID:vq0VrI5C
「……やれやれ、どうやらこのメイドはまだ客相手には教育不足で出せんようだな。フェイリス、あまりうちの助手をいじめてやるな」

肩を竦めた岡部倫太郎の台詞に、フェイリスが残念そうに首を振る。

「いじめるつもりはニャかったんだけどニャ。クリス・ニャンニャンがイヤだって言うなら仕方ないニャ……マユシィ・ニャンニャン!」
「いえっさ〜フェリスちゃん。ニャ〜ン♪」

フェイリスのキビキビした声に、椎名まゆりが真っ赤になってうろたえている猫耳メイド姿の牧瀬紅莉栖を岡部倫太郎の向かいの席に丁寧に座らせる。

「はわわ……うちのってゆわれた……うちの助手って……はぅぅ……」

そして……先刻の岡部倫太郎の台詞をすっかり自分に都合良く解釈して固まっている牧瀬紅莉栖に……
去り際のフェイリス・ニャンニャンがこっそりと耳打ちした。

「というわけでフェイリスは他の御主人様のところに行ってくるニャン。だからキョーマのお相手はぁ……新人メイドのクリス・ニャンニャンに任せるニャン♪」
「ふぇっ!?」

くすくす、と口元に手を当て悪戯っぽく笑ったフェイリスが、新人猫耳メイドの真っ赤なうなじを堪能しながら悪魔の如き囁きを牧瀬紅莉栖の耳から脳髄に注ぎ込む。

「店長命令ニャ。うちの制服を身に着けてる以上、しっかりたっぷり御主人様に御奉仕するニャよ? ク〜ニャン♪」




牧瀬紅莉栖の頭が、本日二度目の爆発を引き起こした。




その猫耳メイドプリンセスの正面に居座っている優男こそ爆発しろと心の内で叫んでいた男性客は、果たして店内に幾人いただろうか。




(『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ 第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3)』へ つづく)
322名無しさん@ピンキー:2013/01/29(火) 00:16:27.34 ID:vq0VrI5C
というわけで今宵はここまでー
だーりんやってて思ったこと
フェイリスシナリオだって事はわかってる
そろでも俺は! 俺はツンドラじゃなくてツンデレの助手メイドが見たかったんだ……っ!
というわけで頑張ってみました! フェイリスが(あれ
それではまた次回お会いしましょう ノノシ
323名無しさん@ピンキー:2013/01/29(火) 02:41:41.20 ID:E39Lg3Iu
>>322GJ
…うん。マジでオカリン爆発しろw
324名無しさん@ピンキー:2013/01/29(火) 05:48:48.76 ID:iRkGENSP
これはオカリンもげろ
325名無しさん@ピンキー:2013/01/29(火) 08:55:26.22 ID:mLJPViMh
いいよいいよー
326名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 00:13:40.63 ID:Xs0hE4gK
こんばんは
今宵も更新しに来ました
327第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/30(水) 00:14:19.04 ID:Xs0hE4gK
8−13:2011/02/13 14:32 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

「どうした助手よ。フェイリスに何を吹き込まれた」
「放っておいて……」

プシューと頭部から湯気を噴き出しながら、牧瀬紅莉栖がテーブルの上に突っ伏している。
岡部倫太郎と同じテーブルの差し向かいで、当然ながらメイクイーン・ニャンニャンの制服たる猫耳メイド服で、だ。

顔は真っ赤で耳まで赤い。妄想と自己嫌悪で脳内がパンクしそうなのだ。
いや、とっくにバーストしているのやもしれぬ。

「ともかくいつまでも机に這い蹲っているな。せっかくのランチが冷めてしまうぞ」

ランチの注文は岡部倫太郎と同じタイミングではあったが、牧瀬紅莉栖がメイド服に着替える事になった際に店の者が気を利かせ、彼女が着替え終わるタイミングでランチを運ぶように手配していたらしい。
特にそれらしき指示はなかったはずだが、流石にこの店の店員にはサービス精神という物が行き届いているようだ。

「うう〜、わ、わかったわよ……」

ゆっくりと上体を起こし、頼んでいたオムライスをパクつく。

「あ、美味しい……」
「それはそうだろう。昨今の秋葉原でただのメイド服目当ての客だけでこれほどの繁盛なぞするものか」
「へぇ〜、いいお店ね、ここ」
「……気に入るのは構わんが、あまり通いつめるなよ。お前とダルは我が研究所の大事な戦力なのだからな」
「わかってるわよ。公私のけじめはつける」

そうは言いながらも食事しながら店内にチラチラと視線を走らせている。どうやら随分とこの店がお気に召した様子だ。
無論そうなるだろうと踏んでこの店に案内したわけだが、今後の事を考えると却って頭痛の種を増やした気がする岡部倫太郎であった。
328第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/30(水) 00:16:16.87 ID:Xs0hE4gK
さて、しばしオムライスと格闘していた牧瀬紅莉栖は、だがやがて挙動不審げにチラチラと周囲に視線を走らせる。
まるでスパイか何かに追われている研究者のようだ。
普段なら笑い飛ばすところだが、なにせ彼女の場合それが本気で洒落にならぬわけで、岡部倫太郎は鋭く彼女の視線の先を追う。
……が、特に怪しい人物は見当たらない。

「……どうした?」
「あ、ううん、なんでもない」
「なんでもないという事はないだろう助手よ。あからさまに怪しいぞ」
「そ、そんなに?」
「ああ。まるで動物園で衆人環視に晒されてパニックに陥ったハダカデバネズミのようだ」
「どういう喩えだコラァ!」

突っ込み返しつつもやや勢いのない牧瀬紅莉栖は、再び肩をすぼめてもそもそと食事を再開する。
けれど周囲をキョロキョロ見回したり、せわしげに目線を動かしたりと、まるで己が犯罪者であると自白しているが如き怪しさである。

「だからどうしたというのだ、どう考えてもおかしいぞクリスティーナ」
「う……っ」

岡部倫太郎のやや強い口調に気圧されるように身を縮める牧瀬紅莉栖。

「そんなザマではせっかくの食事も美味くなかろう。仕方ない、この鳳凰院凶真がお前の悩みを解決してやろうではないか。だから大人しく口を割らんか、クリスティーナ」
「わ……笑わない?」
「相談する中身によるな」
「うう〜……」

岡部倫太郎の言葉に観念したのか、ちらちらと周囲を気にしつつ、牧瀬紅莉栖がややテーブルに身を乗り出すようにして呟いた。

「な、なんか、店中が私のこと見てるような気がして……」
「ああ……」
329第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/30(水) 00:23:55.81 ID:Xs0hE4gK
言われてみれば店中のテーブルから時折こちらを見つめる視線がある。
彼が見返すと慌てて視線を逸らすが、それでも止む気配はない。
まあさもありなん、と岡部倫太郎は思った。
普段見慣れぬ猫耳メイド、それも見た目だけなら牧瀬紅莉栖は結構な上玉なのだ。
それが真っ赤になって恥ずかしそうにもぞもぞと身悶えているのである。客どころがメイドたちまで微笑ましい目付きでこちらを見つめているような気さえする。
まあ岡部倫太郎の背中には明らかに羨望や敵意や殺意めいたものも突き刺さってはいるのだが、とりあえず彼はそれらをすべて無視する事にした。
そんなものに囚われていては到底このミッションを完遂することなどできぬだろうから。

「確かに……注目の的だな」
「やっぱりぃ。お、岡部のせいなんだからなっ」
「俺のせい……とは何のことだ」
「お、岡部が私にこんな格好させるからぁ……み、みんなが笑ってるんじゃない……っ」

羞恥は当然としてその上に屈辱だか後悔だかを上乗せしてぷるぷると身を震わせる牧瀬紅莉栖。
あまりに場違いなその発言に岡部倫太郎はいっそ初々しい魅力を感じてしまったほどだ。

「馬鹿なことを言うな助手よ。そんなチラ見ではなくもっとよく周りを見てみろ」
「できるかー! こ、こうしてるだけでも恥ずかしいのにぃ……っ」

岡部倫太郎だけに聞こえるような、囁くような掠れ声でうにゃうにゃと言い訳をしつつ肩をすぼめ縮こまる牧瀬紅莉栖。

「……そういう仕草は見た目通り猫っぽいのだがな」
「う、うるさい黙れこのHENTAIがぁっ」

いつもの如き罵倒を放つがその声はなんともか細く、今日の猫耳メイドにはいつもの迫力が欠片もない。
岡部倫太郎は彼女の自己評価の低さに苦笑しつつ、ぐるりと周囲を睥睨して肩を竦め、大仰に両手を広げた。
330第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/30(水) 00:30:41.68 ID:Xs0hE4gK
「面を上げろ。前を見ろ。現状の分析も冷静にできなくして何が科学者だ。ん? 脳科学の権威が聞いて呆れるわ。そんな事も学ばずに飛び級でもしたのか? それでは“蘇りし者(ザ・ゾンビ)”の名が泣くぞ」
「誰がゾンビだバカぁっ!」

今度の抗議の声は先刻よりもだいぶ大きく、周囲の視線を一斉に浴びる牧瀬紅莉栖。
たちまち真っ赤になって再び縮こまらんとした彼女の頬を……


……岡部倫太郎の右手が、撫でるようにそっと支えた。


「ひぁ……っ!?」
「落ち着いてよく見てみろ。周りで笑っている連中は本当にお前が滑稽で笑っているように見えるか?」

たちまち全神経が彼に触れられた頬へと集中し、衆人環視への過剰反応が一気に消し飛んだ。
まあこれはこれで沸騰寸前なのであまり冷静な状態とは言えぬのだが。

「あれ、えーっと、何か、違う……ような……?」

なんとか周囲の状況を分析し、やっとのことで違和感に気付く牧瀬紅莉栖。

「当然だ。皆お前に見惚れているのだからな」
「ふぇっ!? み、みとれてって……んなバカな?!」
「何を驚く事がある」
「だ、だって私こ、こんな格好……っ! ほ、ほらフェイリスさんとかまゆりの方がずっとキュートだし……っ!」

唐突に突きつけられた現実にあわあわとパニックを引き起こすしどろもどろに抗弁する牧瀬紅莉栖。

「無論フェイリスもまゆりもよく似合っているさ。だがお前だって……その、あー、げふんっ、まあ、なんだ……よく似合っていると……思うぞ?」
「ほ、ほんと?! ホントなの、岡部……? 本気で言ってる?」
「嘘を言ってどうする! そもそもさっきも同じような事を言ったではないか。二度も言わせるなっ」
「ひぇっ?! ええと、えっと、その……あの、あ、あ、あ……っ」

両手を頬に当て、再びぷしゅーと顔から湯気を発した牧瀬紅莉栖が……
なんとも恥ずかしそうに、だが内からの高揚を抑えきれぬかのような潤んだ瞳で岡部倫太郎を見つめ、絞り出すような声で小さく呟いた。



「あり、がと……その、す、すっごく、嬉しい……っ」




彼女のいじらしさに心臓を鷲掴みにされた客どもは……
岡部倫太郎に殺意を放ちつつ、後日その赤髪メイドの正式採用をフェイリスに訴えるべく運動を起こすことになる。
331名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 00:32:27.20 ID:Xs0hE4gK
というわけで今宵はここまでー
助手は書いてるだけで楽しいですね

それではまた次回ー ノノシ
332名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 00:36:01.80 ID:47pZtCi0
いつも乙です
今は中盤あたりかな?
終盤が楽しみです
333名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 03:30:04.96 ID:DNl6yfwp
オカリンがイケメンすぎてつらい
334名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 03:39:25.41 ID:GQslPaGu
乙でした

しかし、これは絶対に、VIPあたりでスレが立ってるw
「アキバの白衣男が女連れてる」とかw
335名無しさん@ピンキー:2013/01/30(水) 16:46:27.07 ID:gR/C+N/I
続きマダー
336名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 05:37:22.27 ID:agqWKd7P
おはようございます
もう夜ではなく朝ですがこっそり更新していきます
それでは……
337第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 05:43:56.92 ID:agqWKd7P
8−14:2011/02/13 14:58 

「………………」

昼食が終わり、皿が下げられたあたりから牧瀬紅莉栖の様子が再び不審げになる。
まあこの店に来てから彼女が正常であった時間の方が短いような気もするが。
ただ今回は店員達の服装を注視したり、周囲の視線を気にしたり……といった今までともまた違い、岡部倫太郎の方をちらちら見ながら、頬を染め、肩を揺すり、もじもじと身悶えている。
その様子は現在の彼女の衣装も相まってなんとも愛らしく、思わず身を乗り出して彼女をぎゅっと抱き締めたくなる衝動に駆られた岡部倫太郎は、携帯電話を取ってすわ機関の精神攻撃かと騒ぎ立てんとする惰弱な己を必死で制した。

「……どうした、クリスティーナ。何やら先刻からまた様子がおかしいようだが」
「そっ!? そそそそんなことないんじゃない?」
「そんなことあるわ。一体どうしたというのだ、毎度毎度」

溜息混じりに岡部倫太郎の言葉にびくりと肩を震わせる牧瀬紅莉栖。
彼女にしてはなんとも気弱な態度である。

「え、えっと……あのね、岡部?」
「なんだ」
「その……私、フェイリスさんから、あの、命令を受けてて……」
「命令? ほう、一体どんなミッションを受けたというのだ」
「……聞いても笑わない?」

おどおどと、縮こまるように身を沈め、上目遣いで尋ねてくる。

「さっきも聞いたぞその台詞は。俺がお前の必死の頼みを聞いて笑い出したことがあったか」
「あったような気もする……」
「う……ともかく今日は笑わんから言ってみろ」

いつもと違う、どこか怯えた小動物のような様子に岡部倫太郎は大いに嗜虐心をそそられるが、今はからかうタイミングではないと己に辛抱強く言い聞かせる。
こうした時に大笑いしたり調子に乗ったりするからいつも喧嘩になるのだ。
牧瀬紅莉栖との日常を愉しむだけならそれでもいいが、今回は後戻りの効かぬ一本道である。険悪になるとわかりきっている選択肢は控えねばならぬ。
338第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 05:47:42.97 ID:agqWKd7P
とはいえ……あまり気張りすぎても椎名まゆりの時のように己の身勝手で相手を振り回すだけになってしまうので注意が必要だ。
その辺りのバランスがなんとも難しい。

世の男女はいつもこのような綱渡りを経て付き合っているのだろうか。
岡部倫太郎は、軟弱と侮っていた街のカップル達に対して再評価する必要を認め、ランチの後に運ばれてきたコーヒーを静かに傾け、彼女の言葉を待った。


「その……岡部に、御奉仕しろって、言われた」


コーヒーを噴き出しそうになり、無理矢理堪えたせいで激しく咽せて咳き込む岡部倫太郎。
目の前には妙に熱っぽい瞳でこちらを見つめている猫耳メイドの牧瀬紅莉栖。
それは何かを期待しているようでもあり、何かを望んでいるようでもある。
彼女の瞳は一体己に何を期待しているのだろう。目の前の自分になんと言って欲しいのだろう。
心臓を鷲掴みにされた岡部倫太郎は、大慌てで心を落ち着け、可能な限りゆっくりと深呼吸して息を整える。

これは大きなチャンスだ。
だが同時にプライドの高い彼女相手に下手な地雷を踏めば大いに機嫌を損ねるリスクもある。
けれど……ここは踏み込むべき場面だろう、岡部倫太郎は大急ぎで脳内の算盤を弾いた。

「なるほどな。確かに。何せ今のお前は萌え萌え猫耳メイドプリンセスなのだからなクリスティーナ……いやクリス・ニャンニャンよ!」
「ニャ、ニャンニャン!?」
「そうだ! まず手始めに語尾にニャンと付けるのだクリス・ニャンニャン!」
「え? ふぇ?! えーっと、えっと、こ、これでいいのか……にゃ、にゃん?」
「ちがーう! 正しくは『これで宜しいですか御主人様ニャンニャン♪』だ!」
「岡部キモイ」
「ええいっ! 真顔で突っ込むなっ! あと急に素に返るな! こっちが恥ずかしいではないかっ! さあ、お前の番だ! やってみせろクリス・ニャンニャン!」
「ひゃうっ!? え、えっと、こ、これで宜しいですか……にゃんにゃん……?」
339第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 05:53:03.37 ID:agqWKd7P
岡部倫太郎の声にびくりと身を竦ませ、頬を朱に染めて小声でぼそぼそと呟く牧瀬紅莉栖。

「御主人様はどうした?」
「ひぇっ!? や、やっぱり言わないとダメ……?」
「当然だ。それがなくして何がメイドか。なんだ、クリス・ニャンニャンは主人に対して敬意も払えぬような失格メイドであったか。我が助手ながら嘆かわしい。せっかくのそのメイド服が泣いているぞ」

大仰な態度で額に手を当て失意を露わにする岡部倫太郎。
案の定カチンと来てテーブルから身を乗り出す牧瀬紅莉栖。
なんとも扱いやすい娘である。
ひょっとしてSERNもこうして彼女を乗せて研究させていたのではなかろうか……などと岡部倫太郎はいらぬ危惧を抱く。

「そ、それくらいできるわよっ! ただ岡部が相手だと不本意だってだけなんだからなっ!」
「ほっほーう、ではやってみせるがいいクリス・ニャンニャンよ! お前がメイドに相応しいかどうかこの鳳凰院凶真が見定めてやろうではないか!」
「いーだろうやってやろうじゃないの! 後で萌え萌えキュンってなったって絶対に許さないんだからな!」
「何を許さないのかはわからんが……ようし、いいだろう。その勝負乗ろうではないか」
「はう……っ! や、やっぱり言わなきゃダメ……?」
「お前が言ったのだ! いい加減覚悟を決めんか!」
「あうううう……っ」

威勢よく啖呵を切った後にどすんと椅子に座り直し、そのままみるみると肩をすぼめ小さくなる牧瀬紅莉栖。
岡部倫太郎相手にその言葉を言わねばならぬ事に随分と葛藤しているらしい。

(やだ、どうしよう、岡部相手に言うの? ご、御主人、サ、マ……ってきゃーっ! きゃーっ! ダ、ダメダメッ! 無理! 無理無理! 絶対無理! も、もしそんな事言っちゃったら、私……っ!)
340第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 05:55:35.05 ID:agqWKd7P
いつも角突き合わせている岡部倫太郎を御主人様呼ばわりするのが癪に障る……という気持ちもないではない。
けれどそれ以上に、彼女はその言葉を口に出してしまうことで己の内にある未だ形になっていない“何か”を認めてしまう事が怖かった。
それが何なのかはわからない。けれどそれを自覚してしまったら今までと同じように彼に接する事ができないかもしれない。
そんな潜在的な葛藤が彼女を悩ませていた。

けれど今更後には引けぬ。あれほど調子よく捲し立てておいて今更なかったことになどすればそれこそ何を言われるかわかったものではない。
いや、それ以上にもしそんなことになったらきっと彼をがっかりさせてしまう。彼を失望させてしまう。呆れられてしまう。
それは嫌だ。それだけは嫌だ。だから言わねば、言わないと、言わなくっちゃ……!

「あ、あの……っ」

感情を無理矢理押さえ込もうとして失敗した、どこか泣きそうにも見える赤ら顔の上目遣いで……
猫耳メイド牧瀬紅莉栖は、絞り出すような掠れ声で岡部倫太郎にこう告げた。

「こ、これで宜しいでしょうか、御主人様………………………………にゃん」

ざわりとざわめく店内。
新人のツンデレ猫耳メイドの態度と台詞に次々と心臓を射抜かれる男性客ども。

そしてそれ以上に強力な、鉄槌を脳天を力一杯叩きつけられたような衝撃を受けた男が一人。
無論のこと岡部倫太郎である。
それは彼にとってあまりにも致命的な一撃であった。
必死に保っていた自己が崩壊しかかり、冷徹に組み上げた計算が音を立てて崩れてゆく。

「あ、あー、いや、ま、まあなかなかの……だがこの俺には……げふんっ! あ、ああ俺だ。き、聞いてくれ! 機関の新兵器だ! 高精度のマインドブラストを使用された! 
判断力が低下している! 深刻な事態だ! 応援を要請する! もしもし、聞いているのか! おいっ!」
341第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 05:59:36.47 ID:agqWKd7P
あからさまに胡乱な態度を取って、己に禁じていた携帯電話への逃避すら始める岡部倫太郎。
必死に張っていたメッキがみるみると剥がれてゆく。
けれど……本来ならばそれを追求するはずの牧瀬紅莉栖もまた、己自身の言葉に激しい衝撃を受けていた。

だってそれは屈辱的な言葉だった。
タイムリープマシンや電話レンジ(仮)の際の理論構築には目を瞠るものがあったが、それ以外の議論では基本常に彼女に言い負かされている、研究者としては少々情けない岡部倫太郎。
確かに気になる相手だしときめきを覚える異性でもある。
けれどそれでも、自らを卑小なメイドとみなし、彼を御主人様呼ばわりするのは彼女にとって屈辱のはずだった。そうであるべきだった。


だのに……いや、ならば……
この胸に感じている高揚はなんだろう。


なんでこんなにも胸がざわつくのだろう。
思っていたような屈辱や嫌悪をほとんど感じない。それどころか感じているのはむしろ胸の高鳴りと喜悦である。
いや、いっそそれは歓喜と呼び変えた方がいいかもしれない・
もしかして自分は目の前の男に、岡部倫太郎にかしずきたいのだろうか。彼の前で跪き、頭を垂れ、従属したいとでも言うのだろうか。

彼の口から漏れる淫靡な命令に、頬を染め、身悶えしながら……
けれど逆らうこともできずに唯々として従い、諾々と服を脱ぎ、この身体を使って淫らな奉仕をしたいとでも……


「「…………ハッ!」」


正気に返ったのはほぼ同時であった。
互いにみっともないほどに真っ赤になって相手を見つめ合う。

「あー、そのー、なんだ、クリスティーナ」
「え、ええっと、な、なんだ、岡部」

互いに目線で探り合う相手の気持ち。
けれどいっぱいいっぱいの頭では、到底まともな分析などできるはずもなく……

「そ、そろそろ出るかっ」
「そ、そそそうね! そうしましょう! いいいいつまでもテーブルを占拠してたらお店にも迷惑だしねっ!」

自分の今のこのみっともないほどの動揺と昂ぶりが、どうか相手に見透かされませんように……!
そんな事を互いに祈りながら、二人は同じ結論に達し慌てて席から立ち上がった。




「……ニュフフ、ミッション・コンプリートだニャン♪」




店の奥で……フェイリス・ニャンニャンが口元に手を当て、全てが目論見通りに進んだことに含み笑いを漏らしていた。




 
342名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 06:00:58.35 ID:agqWKd7P
というわけで今宵は……じゃなかった
今朝は
ここま
で(ガクリ

ではせわしいですが早ければ今晩にでもマター ノシ
343名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 11:12:12.30 ID://px1SYM
1日2回…だとぉぅ…
乙、激しく乙。
344名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 11:33:32.62 ID:vagbovP3
やばい、思わずおっきするお
これが機関の新兵器の威力か
恐ろしいぜ

345名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 16:12:45.06 ID:wSuzi6xT
安定のオカリンもげろ
346名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 16:26:11.85 ID:VzBc8R6k
347名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 23:21:27.10 ID:agqWKd7P
こんばんはー
今日は昨日の(今朝の?)轍を踏まないように早めに更新予定です
それではしばしの間お付き合いをば
348第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 23:23:43.00 ID:agqWKd7P
8−15:2011/02/13 16:44 

「ふうー、なんかだいぶ歩いたわね」
「そうだな。鈍った身体にはちょうどいい運動になったろう」
「お前モナー」
「むぐ……っ!」

機嫌の良さそうな牧瀬紅莉栖の突っ込みにやり込められ、つい唸ってしまう岡部倫太郎。
彼らは結局あの後徒歩で銀座まで歩き、幾つかの有名点を梯子しながらチョコレートを物色していた。

彼の感覚から言って、正直高級店のチョコレートというのは少々理解し難いものであった。
あんなチョコの小粒に一体何がどうなってあれ程の高値が付くのだろう。

とはいえ需要があるからこそ供給があるわけで、二人が物色している間もチョコレートは見る間に売れてゆく。
その店で人気があったのは花の形をしたチョコレートの7個詰めセットで、確かにそれは見事な意匠の凝らされた、如何にも美味しそうな逸品ではあった。
けれど一口サイズのチョコが7粒で3000円近くする、というのは彼の金銭感覚としては凡そあり得ぬレベルである。
だがそのあたり女性の感覚はだいぶ違うものらしく、己と同じ感想を持つであろうと予測していた牧瀬紅莉栖は、ほくほくした顔でそれらのチョコレートを買い求めていた。

「いやーいっぱい買っちゃった!」

なんともご機嫌な牧瀬紅莉栖。

「岡部、悪いわね、荷物持ちさせちゃって」

現在岡部倫太郎の両手には高級そうな紙袋が幾つも提げられている。
銀座という街の高級感とバレンタインというイベントの空気に見事に流されて、牧瀬紅莉栖はだいぶ散在をしたらしい。
349第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 23:24:56.44 ID:agqWKd7P
「気にするな。仮にもお前は一応なんとかレディなのだからな。この天才マッドサイエンティスト鳳凰院凶真とはいえ、こういう日くらい荷物持ちをするのはやぶさかではない」
「少し引っかかる物言いだが……まあよし」

やや失礼な言い草をした岡部倫太郎をジト目で睨むが、芯から怒っているわけではないようだ。

「しかし少々意外だったな」
「なにが?」
「いや……正直お前は秋葉原のドンキ辺りで間に合わせるのかと思ったぞ」
「失礼な。SATUGAIするわよ」
「いやすまん。少し侮っていたようだ。ほれこの通り。謝罪しようではないか」
「正直でよろしい♪」

頭を下げる岡部倫太郎を牧瀬紅莉栖は上機嫌で赦した。
とはいえ彼の感想は十分に正鵠を得ている。
なにせ岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖がかつて共に挑んだ初戦に於いて、彼女はまさにそのドンキでチョコを買っていたのだから。
このあたりの流れがだいぶ変わってしまったのは果たして良かった事なのか、どうか。

正直それはもはややり直しの効かぬ岡部倫太郎にはわからない。
ただ以前よりは好感度を稼いではいる……はずである。
そんな漠然とした成果だけが今の彼の支えであった。
350第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/01/31(木) 23:26:16.92 ID:agqWKd7P
「あ、そうだ岡部、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだ、トイレなら近くのデパートのものを借りるといいぞ。店員の視線が気にならなければだが」
「違うわーっ! そうじゃなくて、ええっと、この近くに休めそうなとこ……ある? こう人気のあまりなさそうなところがいい」
「ふむ、休めそうな場所、か……」

正直銀座近辺は岡部倫太郎もあまり詳しくはない。
そもそも今日に限らず銀座も秋葉原もこの時刻はどこに行っても人の流れが絶えぬ街だ。
その上今日はバレンタインである。さらに浮き足立った客どもが街中に群れを為している日だ。
このような日にそんな便利な場所が……

「……あるな、そういえば」
「本当?!」
「なぜ疑問形になる。お前が聞いたのだろう」
「い、いやなんか人ごみばっかりで正直ホントにそんな場所があるのかなって……」
「ああ、少し遠回りだが構わんか?」
「うん。それでどこに行くの?」
「ま、着いてからのお楽しみだ」


岡部倫太郎は小さく嘆息して歩き出す。
彼の足取りは無造作かつ大股で、気づかぬうちにすっかり距離を開けられてしまった牧瀬紅莉栖が慌てて小走りで彼を追いかけてゆく。


なんとも気のない歩き方……けれど実のところ岡部倫太郎は極度の緊張状態にあった。
彼女の用件はなんとなく想像がつく。
つまりこのミッションの正否は次に己が向かう場所にかかっていると言っても過言ではないのだ。

果たしてこの選択は正しいのか、どうか。
自分が選んだ場所が世界を救うやも知れぬ、滅ぼすやも知れぬ。




そんな重責を身に受けて……岡部倫太郎はまっすぐに目的地へと向かった。
351名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 23:27:13.62 ID:agqWKd7P
てなわけでちょっと短めだけど今宵はここまでー
それでは皆様また次回 ノノシ
352名無しさん@ピンキー:2013/01/31(木) 23:41:07.38 ID:wGxB7Kn4

まさかラブホ直行ですかw
353名無しさん@ピンキー:2013/02/01(金) 01:36:05.67 ID:eqLEzH/v
今日の朝にも更新されていた・・・だと?

さあ、オカリンどこへ向かう!?
乙!!
354名無しさん@ピンキー:2013/02/01(金) 22:55:07.29 ID:0TgRUyUk
毎度乙だわ本当
355名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 00:26:05.09 ID:0gqHzwGO
こんばんは
帰ってきたのがついさっきなので更新するだけしてもう寝ます……
356第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/02(土) 00:29:21.44 ID:0gqHzwGO
8−16:2011/02/13 17:21 柳林神社

「へえ……」

物珍しげに周囲をキョロキョロと見渡す牧瀬紅莉栖。
岡部倫太郎が選んだ場所……それは秋葉原近辺としてはかなり人の少ない穴場的スポット、柳林神社であった。

「神社は初めてか?」
「初めてってほどじゃないけど……こんなところにあったのは知らなかった。ふ〜ん」

すっかり暗くなってしまった境内は、外の喧騒を拒絶しているかのような静けさを保っていた。
確かに牧瀬紅莉栖の要望通り人気はないが、この時間帯だとどちらかといえば人間以外の何かが湧いてきそうな気がしないでもない。

「ここなら一息つくのに丁度良かろう」
「う、うん、そうね……」

夜に差し掛かり、徐々に風が強くなってきている。
真冬の風は遮蔽物の少ない境内を強く吹き抜けて、牧瀬紅莉栖はあまりの寒さに思わず身震いした。

「……冷えるぞ」
「あ、ありがと……」

己の外套を脱いでそっとかけてやる岡部倫太郎。
頬を染め、なんとかお礼の言葉を呟く牧瀬紅莉栖。

吐く息は白く、風に飛ばされては見る間に流されてゆく。
そんな寒風が吹き荒ぶ中、二人は互いに見つめ合い……

ガサガサッ!

「きゃっ!」
「おわっ!?」

そして近くの生垣あたりから響いた音に必要以上に驚き慌てて互いに距離を取る。
この辺り、二人揃って実にビビリである。
357第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/02(土) 00:35:33.32 ID:0gqHzwGO
二人がごくりと唾を飲み込む中、何やら枝葉がこすれるようなその音はすぐに止み……
次にぼう、と闇の中に光が浮かび上がった。

「お、お、おおおお岡部ぇぇ……な、なんかお墓からユ、ユーレイが……っ!」

ガタガタと震えながら岡部倫太郎にひしとしがみつく牧瀬紅莉栖。

「おおお落ち着け! それは寺だ! 大体なぜアメリカ帰りのお前が幽霊を怖がるのだっ!」
「だ、だってぇ……っ!」

泣きそうな顔で縋り付いてくる牧瀬紅莉栖の姿はいかにも弱々しく、岡部倫太郎の保護欲を駆り立てる。
彼は無言で牧瀬紅莉栖を素早く胸元に抱き寄せ、腰を落として謎の光の方へと鋭い視線を投げた。

「誰だ!」
「あ、あれ……岡部、さん……?」
「む……その声はルカ子、か……?!」

闇の中から現われたのは……懐中電灯を持った漆原るかであった。

「なんだ、お前だったのかルカ子よ……ああいや別に驚いてはいない! 驚いてはいないぞっ!」
「はあ、はい……あ、あの、岡部さん……」
「鳳凰院凶真だ!」
「あ、はい、すいませんっ! えっと、凶真さんこそどうしてこんな夜分にこんなところへ……?」
「あー、うむ、うちの助手が少し、な……?」

喋りながら漆原るかの様子が少々おかしい事に気付く。
頬を朱に染め、まんまる白目の上に涙目でこちらを見つめながら、カタカタとその身を震わせているではないか。

「……ルカ子?」
「はわ、わわわわわわ……ご、ごめんなさい凶真さんっ! ま、まさかそういう関係とは知らなくって! お、お邪魔しましたぁっ! うぁああああぁぁぁあああんっ!」
「ルカ子! どうしたルカ子! おおい!」

岡部倫太郎が呼びかけるも既に遅く、泣きながら脱兎の如く逃走する漆原るか。
358第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/02(土) 00:41:25.17 ID:0gqHzwGO
「一体どうしたというのだルカ子は……」
「……岡部」
「いきなり走り出して……慣れた神社の境内とは言え夜道で転んだら危ないではないか」
「ねえ……岡部」
「む、どうした、助手よ」
「その、なんだ……き、きつい」
「おお、すまん……っ?!」

真っ赤な頬の牧瀬紅莉栖が呟いた声の近さにに、今更ながら互いの顔が驚くほど間近にある事に気が付いて、岡部倫太郎の声が思わず上ずった。
彼女の口から零れた白い吐息が、風に流されて掻き消える。

そう、怪しい物音に怯えしがみついてきた牧瀬紅莉栖を守るため、岡部倫太郎は彼女を強く抱き寄せていた。それも己の外套を纏わせた彼女を、だ。
これでは本人達がどう言い訳をしようと、恋人同士の濃厚な逢引シーンにしか見えぬだろう。

やや力を緩めた岡部倫太郎の腕の中で、頬を染めながら彼を上目遣いで見つめる牧瀬紅莉栖。
己の胸にひそと寄り添っている彼女の意外な小ささに、驚きつつも愛しさがこみ上げてくる岡部倫太郎。


「……誤解、させちゃったかな」


牧瀬紅莉栖の台詞にどきんと心臓が大きく脈打つ。
ここだ。
このタイミングだ。
勝負をかけるとしたら、このタイミングしかない……っ!

 
359第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/02(土) 00:46:46.88 ID:0gqHzwGO
「誤解とはなんの事だ」


可能な限り何気ない風を装いながら、岡部倫太郎が言葉を選び会話を誘導する。
声がやや乾き上ずっているような気がして、慌てて手の甲を抓り己を叱咤した。


「な、なによ。それくらい察しなさいよ」
「それではわからん。もっとはっきり言ってくれ」
「あのねえ! そ、そういうのを女の口から言わせるとか、その……っ」
「ん? どうした助手よ。研究者であるお前が明確な理由を分析も論述もできんのか。やれやれ、我が助手ともあろうものが、失望したぞクリスティーナ」
「それは論旨のすり替えよ! 岡部!」
「……で、お前はできるのか? できないのか?」
「ふっざけんな! それくらいできるわよ!」

ものの見事に挑発に乗った牧瀬紅莉栖は、一拍置いてぼぼ、とその頬の赤味を増した。

「えっと、えっとだなぁ……その、漆原さんが、その……私達をこ、あ、逢い引きしてる恋人同士だって誤解しちゃったんじゃないかな……って、ええいいちいち言わせんな恥ずかしい!」

つっかえつっかえなんとか言い切った牧瀬紅莉栖は……己が未だ岡部倫太郎の腕の中にいる事に気付き、
そして彼の腕の力が再び強められたことでその胸を一気に高鳴らせる。

「……誤解なのか、それは」
「ひえっ!?」

あまりにみっともない声を挙げてしまった牧瀬紅莉栖は己の声に赤面する。
岡部倫太郎の顔が……驚くほどに、近い。

「だ、だって岡部、わ、私達、べ、別にそんな、つ、付き合ってもないんだぞ……っ?」

頬を赤らめ、潤んだ瞳で、縋りつくような上目遣いで岡部倫太郎に訴える。
そのいじらしい姿に岡部倫太郎の脳は破裂しそうなほどに興奮するが、無理矢理己の足を逆の足で踏んづけて冷静さを保とうとする。

「ならば付き合えばいいではないか」
「で、でも、でもっ、その、そーゆーのはっ、お互いの、お互いの気持ちがだ……っ」
「……少なくとも俺は、そうでありたいと思っているが」
「はう……っ!!」

どんなに冷静でいようとしても、流石にその緊張は抑え切れなかった。
頬を赤らめ告げた岡部倫太郎の言葉に……牧瀬紅莉栖は口元を手で押さえ息を飲む。




「……お前が好きだ、紅莉栖」




 
360名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 00:47:42.88 ID:0gqHzwGO
ようやくここまで来れましたー
これも皆様のご声援のおかげでございます
それではまた次回〜 ノノ
361名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 00:48:32.70 ID:HBkK5oaX
岡部よく言ったあああああ!
乙!
362名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 00:54:43.37 ID:IIPXtx7w
えんだああああああああああ
363名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 01:27:10.44 ID:7zYAOOJD
キタアアアアアアアアアアァァァァーーーーーーー!!!!!
364名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 08:48:03.33 ID:DlC0tJIG
うわああああああ!!!
365名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 17:17:38.68 ID:ECGFq8d5
オカリン頑張ったなぁぁぁ!!
366名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 18:47:08.40 ID:fYii4mpy
ニュフフがデュフフにみえた
367名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 20:25:21.89 ID:isn1DuCo
フラウ坊自重。
368名無しさん@ピンキー:2013/02/02(土) 23:08:26.26 ID:wUaHNTkK
さぁきましたあああああああああああああああああああああああああ!!!
369名無しさん@ピンキー:2013/02/03(日) 23:47:44.04 ID:dFzlG4W1
次の展開が今が一番楽しみだわ
370名無しさん@ピンキー:2013/02/04(月) 20:29:44.37 ID:o3qIK9LH
wktk
371名無しさん@ピンキー:2013/02/04(月) 21:47:03.73 ID:cq/R2ZZo
どうなるのか楽しみすぎる。このタイミングで土日とか、焦らしプレイにもほどがあったわぁ……
372名無しさん@ピンキー:2013/02/04(月) 22:07:57.99 ID:ZfVjSYkD
まだかな まだかな 待ち遠しい
373名無しさん@ピンキー:2013/02/04(月) 23:46:57.12 ID:iULsiCnK
こんばんはー
今宵もしばしの間お付き合い願いますー
374第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/04(月) 23:53:24.77 ID:iULsiCnK
8−17:2011/02/13 17:48 

「岡部……っ!」

泣きそうな顔で岡部倫太郎を見上げる牧瀬紅莉栖。
その顔は上気していて真冬だというのにやけに火照っていた。

「俺の思いは告げた。紅莉栖、お前の気持ちを教えてくれ」
「ほあああああっ!? わた、私の気持ち、だと……っ!?」

大仰にうろたえてただでさえ紅い顔をさらに朱に染め上げてしどろもどろになる牧瀬紅莉栖。
しばらくわたわたとしていた彼女は、だが岡部倫太郎の瞳に射竦められたように小さくなって、彼の腕の中でじぃと彼を見つめる。
何かに怯えるように……
そして、何かに期待するように。


二人の口から幾度か白い吐息が漏れては風に流され消えてゆく。
一体どれくれい時間が経ったのだろうか。
おそらくほんの数十秒のことのはずなのに、岡部倫太郎はまるで渺茫とした時が流れたような錯覚さえ覚えた。

「岡部……それ、貸して」
「なに?」

肯定でも否定でもない完全に想定外の台詞に、岡部倫太郎は一瞬彼女の発言を脳内で意味のある単語として構築できなかった。
「それ」とは一体なんだろう。何を指している言葉なのだろうか。

「それよそれ! 岡部が手に持ってる紙袋!」
「あ、ああ……これか」

牧瀬紅莉栖が銀座で購ったチョコを始めとする贈答品……その紙袋を確かに岡部倫太郎は持っていた。
彼女はそれを奪うように受け取ると、すっかり薄暗い神社の境内の中、目を凝らして袋の中を漁り始める。

「えーっとこれじゃなくってこれでもない……ああもうそれじゃないってば!」
「……ペンライトでも使うか?」
「ノーサンキュー!」
375第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/04(月) 23:56:09.09 ID:iULsiCnK
岡部倫太郎の申し出をびし、と片手で制した彼女はなおも袋の中身を物色する。
そしてしばらくごそごそとああでもないこうでもないとまさぐっていた牧瀬紅莉栖は、やがて茶色い包装に上品なピンクのリボンが巻かれた平たい箱を取り出した。
岡部倫太郎は……今さらながらに今日がバレンタインデーである事を、そして先刻まで何を買い漁っていたのかを思い出した。

「ホ、ホントは今日中にマシンを完成させて、明日手作りのを渡すつもりだったのよ。そのために今日開発を頑張る予定だったの! 
でもまさかイベントが前倒しになってるとか知らなくって、その、それに岡部に誘われたから舞い上がっちゃって、私……っ!」

言葉が上手く纏まらない、言いたい事が上手く伝えられない。
目の前の男に告げたい事は、ほんの短い、たった一言だというのに。
だのにそれが言い出せなくって、結局ここまで回りくどいことをせざるを得なかった。

「幾ら高いものを買ったって手作りには敵わないなんてそんな事わかってる。で、でもこれだって苦労したんだかんな! お、岡部にバレないようにこっそり店の人に頼んで……!」

なんともいじましい努力の末に手に入れたチョコレートが……今その手の内にある。真冬だというのに汗ばんだ手に握られている。


「岡部……受け取って、私の気持ち」


差し出されたチョコレートをつとめて平静に、だが内心動揺しまくりながらもギリギリのところで踏みとどまって、なんとか受け取る岡部倫太郎。

「……えー、あー、その、な、なんだ。あー……紅莉栖!」
「は、はいっ!?」

受け取ったチョコレートの包みを、胸元に掲げるようにして、

「確かにもらったぞ、お前の気持ち」
「はぅう……っ」
376第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/04(月) 23:58:45.83 ID:iULsiCnK
牧瀬紅莉栖は胸を何かに刺し貫かれたかのように、ニ、三歩後ろによろめいた。
脳が沸騰しそうだ。考えがちっともまとまらない。
冷静な判断も、明快な知識もなんにもない、ただわけのわからぬ高揚だけが湧き上がってくる。
科学者としてこんな状態は到底許容できぬ。
だというのに……感情が、心の奥底から突き上げてくる衝動が、今のこの気持ちに全てを委ねたいと訴えていた。

「……岡部は、ずるい」
「なに? 何がずるいのだ」

務めて冷静に返しながら、だが内心大いに焦る岡部倫太郎。
これまでのやりとりに何かミスがあっただろうか?
もしかして自分は……このミッションを失敗をしてしまったのか?
激しく脈打つ鼓動が口から飛び出しそうだ。
岡部倫太郎は死刑宣告にも等しい牧瀬紅莉栖の言葉を待った。

「こ、こうゆう時だけ……こんな時だけ名前で呼ぶなんて……ずるい、ずるいずるい、ずるい!」

駄々をこねる子供のように連呼しながら、真っ赤な顔で岡部倫太郎を睨みつける。
だが……その表情は子供のそれではなく、明らかに大人の……“女”のものだった。

岡部倫太郎の上体が揺れ、膝から崩れ落ちそうになる。
だがすんでのところで堪え、なんとか持ちこたえた。

「お、岡部っ?! ど、どうしたのっ!?」
「ふう……あまり脅かすな。拒絶されるものかと一瞬焦った」

真っ青な顔で答える岡部倫太郎の言葉に……最初きょとんとして、だがやがてくつくつと笑い出し、遂には口を押さえながら身体を震わせ、必死に笑いを堪える牧瀬紅莉栖。

「何がおかしい!」
「だ、だってぇ〜〜〜! くくっ、岡部、そんな、この期に及んでどんだけビビリなのよ〜〜! もぉ〜! あーおかしっ! ふふ、あはははははははっ!」
「わ、悪かったな! ビビりで!」

真っ赤になって叫び返す岡部倫太郎の言葉には作為は一切なくて、
今更ながらに……岡部倫太郎は今日心の底から吐いた台詞が一体幾つあったろうかと思い返す。
377第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/05(火) 00:02:09.69 ID:iULsiCnK
「もぉ……あそこで拒絶する気なら、その前に渡したチョコはなんだったのよ」

頬を染め、はにかみがちに微笑んだ牧瀬紅莉栖は、散々笑った後だからかなんともリラックスしていて、その笑顔に岡部倫太郎の鼓動が一層に跳ね上がる。

「そ、それはそれ、これはこれだ。本当にビビッたのだから仕方なかろう!」
「ビビリ岡部ー♪」
「うるさい、“甦りし者(ザ・ゾンビ)”め」
「……ね、もしかして岡部、照れ隠し?」
「言うなっ」

言葉を交わしながら、少しずつ彼との距離を詰める牧瀬紅莉栖。
やがて小首を傾げた彼女が……岡部倫太郎の目の前に立っていた。

「……そうね。そういえば岡部にだけ言わせてた。考えてみたらフェアじゃなかったかも」
{む? 何のことだ?」
「チョコレート渡すだけで、私の方から言ってなかったってコト」
「言って……だから何をだ?」

きょとんとする岡部倫太郎を前で恥ずかしそうに微笑みながら、僅かに身を乗り出して……
頬を染めた牧瀬紅莉栖が、遂に己の想いを告げた。


「好き。岡部。大好き」
「…………っ!!」


照れくさそうに、けれど嬉しそうに、目の前の男を見上げた牧瀬紅莉栖は、
やがてやや緊張した笑みを浮かべながら一歩、また一歩とロボットのように岡部倫太郎に近づいて、その胸元にぴとりと寄り添った。

「紅莉栖……!」
「うん? なに、岡部」

上背のある岡部倫太郎の胸にもたれかかり、すり、と頬を擦りつけながら、彼の声に反応して上目遣いで見つめてくる。
その声に含まれていた甘えた響きに……岡部倫太郎の理性は危うく全て吹き飛ぶところだった。

震える腕を左右に広げ、思いっきり抱き締め押し倒したいという想いを必死に抑えながら、可能な限りゆっくりと抱擁する。
一瞬身を竦めた牧瀬紅莉栖は……けれど恥ずかしそうに微笑みながら、己のもまた背に腕を廻した。




薄暗い神社の境内で……
今、二人の影が一つになった。




 
378第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/05(火) 00:03:07.06 ID:iULsiCnK
というわけで今宵はここまでー
ついに互いの想いを告げた二人……

さあ、問題はこの後だ
ではまた次回にお会いしましょう ノノシ
379名無しさん@ピンキー:2013/02/05(火) 00:06:46.46 ID:jqsBbndh
あら、いいですねー
380名無しさん@ピンキー:2013/02/05(火) 00:42:30.03 ID:KlJ9llEA
このオカクリは萌える
381名無しさん@ピンキー:2013/02/05(火) 03:34:13.32 ID:f59UMF2m
2828282828452828452845452828
382名無しさん@ピンキー:2013/02/05(火) 10:01:05.89 ID:Kscyicxd
>>381
さりげなくシコってんじゃねえww
383名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 00:46:39.47 ID:htgnY8v0
ここがエロパロ板だってことを忘れそうになるよ
いい意味で
384名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 02:01:31.90 ID:a/UChd8Q
こんばんは……
先刻ようやく家に帰ってきたので更新するだけして寝ます……
385第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 02:02:28.46 ID:a/UChd8Q
8−18:2011/02/13 18:18 ブラウン管工房

「あれ、岡部倫太郎?」
「む、鈴羽ではないか、どうしたのだこんなところで」

寒いからというなんともいい加減な理由で牧瀬紅莉栖と手を繋ぎながらここまで歩いてきた岡部倫太郎は、知り人の影に気付き慌てて手を離した。
もし橋田至あたりが見ていたら間違いなく壁ドンコースだろう。
もっとも唐突に手を離された牧瀬紅莉栖は少々御不満顔であったが。

「いやー、ブラウン管って見るの初めてでさー」
「それはそうだろうな……」

ビルの一階にある、このビルのオーナー天王寺裕吾が経営しているブラウン管の専門店『ブラウン管工房』。
あと半年足らずで地デジが日本中を席巻するであろう昨今、そんなコンセプトの店が繁盛するはずもなく、当然のように今日も一日閑古鳥が寂しげに鳴いていたようであった。
阿万音鈴羽に限らず、現代の子供にしたところでブラウン管は既に馴染みの薄い品ではないだろうか。

そんな中、店内を我が物顔に見て廻っている阿万音鈴羽。
ところどころで「へ〜」「ほ〜」「うわー!」などと声を上げつつなんとも面白そうなリアクションをしている。
岡部倫太郎はつくづく見ていて飽きない娘だ、となんとも他人事のような感想を抱いた。

実のところ彼女は今日一日働き通しである。
岡部倫太郎の指示の下、朝から彼と牧瀬紅莉栖を遠巻きに護衛しつつ要注意人物を見かけたらすかさず携帯で連絡を取り、
喫茶メイクイーン・ニャンニャンから橋田至が出るタイミングを報告したり、
二人が神社に向かうことを事前に伝えられると先回りして他の参拝客をそれとなく遠ざけたり……と、目に見えぬところでずっと彼のサポートに徹していたのである。

そして今日の彼女の仕事は全て終了した……そう、阿万音鈴羽は指令を見事完遂したのである。
とはいえこの場で彼女と鉢合わせするとは予想しておらず、岡部倫太郎はさてどうしたものかと思案に耽る。
386第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 02:04:18.65 ID:a/UChd8Q
「……岡部君、帰り?」
「ああ。こんな客もいない店で一日店番とはご苦労なことだな、指圧師よ」

さて、彼がそんな雑事で頭を悩ませていると、カウンターの方から桐生萌郁が遠慮がちに声をかけてきた。
彼女が携帯ではなく口頭で話しかけてきたのが意外で、岡部倫太郎は物珍しそうに彼女の方へと顔を向ける。

「平、気……一人は、慣れてる、から」

「え〜! お客お客! あたしがお客だよ〜?!」と店の向こうで手を挙げながらぴょんこぴょんこと主張する阿万音鈴羽をさらりと無視しながら、桐生萌郁をじっと見つめる岡部倫太郎。
両腕を下げ、頬を膨らませ、肩をいからせて明らかに不満そうな阿万音鈴羽。
そして彼の視線に気付き、くく……と首を傾けながら、頭に「?」と浮かべる桐生萌郁。

「孤独には慣れてはいても、別に好むところではないのだろう?」
「! ……嫌い、じゃ、ないの」

岡部倫太郎の言葉に一瞬目を大きく見開いた桐生萌郁は、けれどすぐにいつもの無表情へと戻る。

「でも、今は、みんなと一緒が、いい……」

そしてきゅ、と彼の服の袖を抓み、頬を染め、眼鏡越しに上目遣いで見つめてくる。
以前は決してしなかった表情だ。
何かに期待しなければ絶望もしない……彼女はいつかそれと似たような事を言っていた気がする。
けれど今の桐生萌郁の顔には明らかに彼に期待する何かがあって、他人との関わりをできるだけ避けてきた彼女がラボメンと他一部だけとはいえ心を開きつつあることに岡部倫太郎は内心喜びながら……


……背中に突き刺さる視線を感じ、ハッと我に返った。

 
387第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 02:06:41.66 ID:a/UChd8Q
そうだ、今回はあくまで牧瀬紅莉栖が最終目標である。このようなところで好感度を下げるべきではない。
岡部倫太郎は大慌てで店の奥にいた阿万音鈴羽を呼びつけた。

「鈴羽! 俺達がラボに入ったら萌郁を連れてここから離れろ。他の誰も近づけるなよっ」

小声で指令を伝えると、一転して真面目な表情になった阿万音鈴羽がこくんと肯く。こうした表情の時の彼女は実に頼もしい。

「わかったよ。でもいいの? 萌郁おばさん……じゃなかった桐生萌郁は店番してるんだよね? 強引に連れ出しちゃってもいい?」

小声で囁き返しながら、右手で手刀を作り、なんとも物騒なことを呟く阿万音鈴羽。
予定調和のような反応にどこか感心しつつも髪の毛を掻き毟る岡部倫太郎。

「駄目だ! 暴力沙汰はいかん! 大体昏倒させたとしてどうやって運び出すつもりなのだっ」
「あそっか。でもじゃあどうするの? 天王寺のおじいちゃんだって戻ってくるんでしょ?」
「おじい……心配いらん。ミスターブラウンは今日は小動物と一緒に遊園地に行って……」
「小動物? あの人ペット飼ってたっけ?」
「シスターブラウンの事だ! 天王寺綯! ミスターブラウンの娘!」
「あー、おねーちゃんの事か。誰かと思った」

天王寺綯についてやけに親しげに語る阿万音鈴羽。未来で知り合いだったりするのだろうか。
いや、考えてみれば彼女の口からラボメンの面々の話題は大体出ていたような気がする。という事はラボが移動したのでもない限り階下のブラウン管工房の店主たる天王寺裕吾及びその娘と親しくてもなんら不思議ではない。

「ともかくシスターブラウンが電車の中で疲れて寝入ってしまったからここには戻らずそのまま家に帰るともうすぐ連絡が来る! そうしたら指圧師……萌郁を連れてなるべく早くここを離れてくれ」

かつてこのミッションの途中、タイムリープを繰り返す中で、岡部倫太郎は桐生萌郁にメイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』の記事を書いてもらったことがある。
天王寺裕吾からの連絡はその時に彼女から聞いた話だ。
388第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 02:08:15.00 ID:a/UChd8Q
「オーキードーキー。そういう事なら任せて!」
「ああ、頼んだぞ」

ぼそぼそと小声で会話しながら、軽く肩を叩く。
阿万音鈴羽は僅かに頬を染めて、その後強く肯いた。

「待たせたな助手よ。いい加減寒くなってきた、ラボに戻ろう」
「……いいけど」

岡部倫太郎が階段を登り始めると、なんとも不機嫌そうな声で承諾する牧瀬紅莉栖。
少々不安になって振り向いてみれば、そこには恥ずかしそうな、けれどやや不満げな表情の彼女がいた。

「どうした、何か気にかかる事でもあるのか?」
「別に。ただ……」
「ただ、なんだ、いちいち回りくどいな」

鍵を開けながらラボの扉を開ける岡部倫太郎と、彼の後に続いて部屋へと入る牧瀬紅莉栖。

「岡部って……女なら誰でも優しいのね」

思わず噴き出し、その後大きく咳き込む岡部倫太郎。
とはいえ彼女の声色には非難や詰問ではなく、どちらかと言えば不安の色が込められていた。

「俺の想いは伝えたはずだ、紅莉栖」
「そ、それは、そうだけどな……」

わきわきと手を蠢かし、胸の前で指を突き合わせる牧瀬紅莉栖。

「それに指圧師は我がラボのラボメンだ。この所長である俺が気にかけるのは当然だろう」
「じゃあ……あのお下げの人は? スパッツの。見たことない人だったけど」
「ああ、無論鈴羽も……」

当然ラボの一員なのだから……と言いかけて慌てて口を噤む。
そうだ、今この時代、この世界線において彼女がラボメンであると知っているのは岡部倫太郎ただ一人のはずではないか。
無論皆に説明して面通ししてもいい。言い訳など幾らでも考えられる。
だが今それをするのは不味い。何より納得させるには時間が足りなさ過ぎる。

「あー、彼女はバイト仲間だ。人呼んでバイト戦士。凄腕のアルバイターなのだ。この鳳凰院凶真の野望に賛同してくれてな、なにくれとなく仕事を手伝ってくれる」
「ふ〜ん、つまり騙してるのか」
「だ、誰が騙しているのだっ! 失礼なっ!」
「ぷ……くすくす、ごめんごめん」

牧瀬紅莉栖の笑いから緊張感が消えている事にほっとする岡部倫太郎。




そして……遂にお膳立てが全て整った。




目的地に、目的の人物と、十分な時間的余裕を以って辿りついた。
互いの気持ちを告白し、誰にも邪魔されない。
後は……そう後は、互いの気持ちを肌で確かめ合うだけである。



 
389名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 02:09:27.11 ID:a/UChd8Q
さて準備は万端……ですが
デートをして想いを伝えるまでなら前回だとてたどり着いてはいるのです。
今回はその先に行けるのか……
ではまた次回にお会いしましょう ノノシ
390名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 04:17:11.30 ID:PtunNmYH
頑張れオカリン…!
391名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 06:37:21.31 ID:2T8u9Pj8
いけ…岡部…っ!
392名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 07:28:13.98 ID:oSIz2VkP
さぁイケ…いやいけ…岡部…!!!
393名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 20:45:53.22 ID:AZyhG05o
おつ
394名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 22:59:21.23 ID:a/UChd8Q
こんばんは……
今日は珍しく(本当に!)早めに帰れたので早めに更新していきます
それでは暫しお付き合いくださいませ
395第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 23:02:53.07 ID:a/UChd8Q
8−19:2011/02/13 20:32 未来ガジェット研究所

「……って何をやっているのだ俺は!」

がば、と読みかけの雑誌を放り捨て岡部倫太郎が叫ぶ。

「なに岡部、なにか忘れ物?」
「ああいやそうではない、そうではなくだな!」
「ねえそっちにプラスのドライバーない? 小さめのやつ。こっちに見当たらないんだけど」
「ああそれならダルがPCの整備に使うと言って朝こっちに……ってちがーう!」
「何が違うのよ、さっきからどうしたの岡部、ちょっと変よ? あ……変なのはいつもか」
「失礼なっ! 誰がHENTAIかっ!」
「岡部」
「その称号については謹んでダルに譲りたいっ! そうではなくだな……俺達は一体なにをやっとるんだ!」
「何って……タイムリープマシンの開発?」

牧瀬紅莉栖が開発室からカーテンを半分開けてこちらを窺いつつ、あっさりと言い放つ。
がくりと膝を折り床に崩れ落ちる岡部倫太郎。

そう……彼らはあの後二時間以上、結局何も、なんにも、まったくもって何一つ、
淫らがましいことは愚かやましいことひとつすらしていなかったのだ。

最初は互いにそれなりにそわそわ浮ついていたのだが、場が持たないと牧瀬紅莉栖が付けたテレビのバラエティー番組で雰囲気がだだ下がり、
その後このままではいかんと岡部倫太郎がテレビを消せば、じゃあせっかくラボに戻ってきたんだしと彼女はタイムリープマシンの開発に戻ってしまう。

そして牧瀬紅莉栖の手伝いをしながら手持ち無沙汰に雑誌でも読んでいたら……気付けばもうこの体たらく、というわけである。

あれだけ完璧なお膳立てをして、外的要因すら全て排除してのけたというのに、なんともはや揃いも揃ってヘタレなことこの上ない二人である。
396第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 23:08:41.34 ID:a/UChd8Q
「俺はマシンの開発のためにここに戻ってきたわけではないぞ我が助手よ!」

牧瀬紅莉栖が掴んでいたカーテンを横に引き剥がし、暫しの間二人を隔てていた壁を取り去る岡部倫太郎。
びくん、と一瞬身を竦めた彼女は、だが不本意そうに彼をやぶ睨みで見つめ返した。

「元々私はマシンの開発のためにここに来たわけなんだが何か。それを岡部に中断させられて街に出かけたわけだけど、またラボに帰って来たんだから開発を再開するのが筋ってものじゃない?」
「違う。勘違いするな。お前は日本に来るまでそもそもタイムリープマシンどころか電話レンジ(仮)の事すら知らなかったではないか。お前がここに来た本当の目的はなんだ!」
「そ、それは……っ!」

頬を染め、岡部倫太郎を困惑したように見つめる牧瀬紅莉栖。
だが彼の真剣で真摯な視線を浴びるとその紅潮を一層に濃くして、恥ずかしそうに慌てて顔を逸らした。

「教えてくれクリスティーナ。お前は何が目的で日本に来たのだ」
「え、えーっと、えっと、そ、それはだな……っ」

口をわなわなと震わせながら、先刻までとは打って変わってあからさまなほどにうろたえる。
つい数時間前に互いにその想いを伝え合ったというのに、なんとも流されやすく打たれ弱い娘である。


「………………で」


口をぱくぱくさせていた牧瀬紅莉栖は、だがやがて俯き加減の上目遣いで岡部倫太郎を睨みながら、小声で搾り出すように何かを呟いた。
睨んでいるとは言っても怒りや不満といった類のものではない。それはどちらかと言えば請願、あるいは懇願の意が込められているように、岡部倫太郎には思われた。
397第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 23:13:34.83 ID:a/UChd8Q
「む? どうした助手よ」
「……で、…んで」
「声が小さい。聞こえないぞっ」

やや強い口調でそう言うと、牧瀬紅莉栖はどこかムッとしたようにその視線を強くして、ずいと岡部倫太郎に近づき彼の白衣の襟を掴んだ。
その手が微かに震えているのは拒絶される恐怖か、それとも堪えようのない高揚か。
そして……彼女は、囁くような小さな声で、懇願するような潤んだ上目遣いで、岡部倫太郎に訴えた。


「……名前で、呼んで」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」


彼女のあまりのいじらしい懇願に脳天を打ち貫かれた岡部倫太郎は、そのままがば、と牧瀬紅莉栖を強く抱き締める。

「きゃっ!?」
「……紅莉栖」
「ふぁ……っ!」
「紅莉栖」
「な、なに、岡部?」
「愛してる」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!?」

岡部倫太郎の言葉に思わず顔を上げてしまう牧瀬紅莉栖。
彼女は何が言いたかったのだろう。彼に何を言おうとしたのだろう。
その心の内を示す、けれどその強い強い想いの十分の一も伝え切れていない、未熟な自己の吐露をするつもりだったのだろうか。


けれど……その開きかけた唇を、今度は彼の唇が、塞いだ。


「んん〜〜〜〜〜っ!? ん、ちゅ、あ、ん、ちゅ、ちゅ、ふぁ……っ!」

情熱的に唇を吸い、僅かに離して再び吸い付き、幾度も、幾度も唇を重ねる。
最初は目を白黒させていた牧瀬紅莉栖は、だがやがて彼に応えるようにして自ら唇を差し出してきた。

「ぷぁ……っ、あ、ん、ふゃ、ぁ、ぁ……っ」

やがて岡部倫太郎がゆっくりと唇を離すと、すっかりのぼせ切った、上気した顔の牧瀬紅莉栖が潤んだ瞳で彼を見つめていた。
398第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 23:25:38.13 ID:a/UChd8Q
「じ、神社……っ」
「む、柳林神社の事か?」

岡部倫太郎の問いに、どこかぼんやりとした、恍惚の表情で牧瀬紅莉栖が小さく肯く。

「神社でのキスが、わ、私のファーストキスだったんだぞ……な、なのに二、二度目でこれは、その……は、激しすぎない?」

小刻みに荒い息を吐き、目尻には涙を溜めている。
明らかに処女街道まっしぐらの彼女には刺激が強すぎたようだ。

実のところ岡部倫太郎にとってキスは初めてではない。
椎名まゆりとファーストキスは済ませているし、他のラボメンともこの延々の数日間で浴びるほどにキスをしてきた。
それに……そもそも当の牧瀬紅莉栖相手ですら、半年前に異なる世界線でたっぷりとその小さな唇を堪能したことがあるのだ。

ゆえにその唇の交歓については、岡部倫太郎は彼女より一日の長があると言っていい。
いや経験値だけを考えるならば一日どころではないのだろうが。

「……嫌、か?」
「違う! そんなこと言ってない!」

岡部倫太郎は牧瀬紅莉栖の背に廻した手の力を強め、彼女をより密着するように引き寄せる。
そして息を飲んだ彼女の耳元で、吐息がかかるほどの距離で……そっと、だが熱い口調で囁いた。

「俺は……お前としたいぞ。こういうことを。もっとだ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!! わ、私も……っ! 私も岡部としたい。もっとしたい。したいよ……っ!」

感極まったのか目尻から涙が零れ落ち、彼女もまたその腕を岡部倫太郎の背に廻す。
399第8章 欣執双和のメテムサイコシス(3):2013/02/06(水) 23:26:30.99 ID:a/UChd8Q
……心の内で妄想していた岡部倫太郎との蕩けるような口づけ。
このラボの中で幾度も、幾度も彼の唇を吸った。
それは所詮己の身勝手な想像だったけれど。秋葉原の街中で彼を捜し歩いた夏の日々の中、強い日差しの下で見た己の願望……ただの白昼夢に過ぎなかったはずなのだけれど。


だのになぜ……彼の唇の気持ちよさも、その唾液の甘さまでもが、あの時の白昼夢と同じなのだろうか。


「鼻と鼻……ぶつかりそうね」
「……ああ」
「こういうのも……キスって言うのかしら」
「知らん」
「こら、岡部……少しは話に乗ってくれてもいいじゃない」
「こんな近くにお前がいるのに……これ以上我慢ができるか、紅莉栖……っ!」
「え? きゃっ?! お、岡部、ちょ、んっ!? んちゅっ、あ、ん、ちゅぱっ、ん、んちゅ、ちゅるっ、ん、ぷぁ、おか、べっ、ん、ちゅっ、おかべっ、ちゅっ、おかべぇ……ん、んんっ!」




もう止まらない。止められない。
互いに相手の名前を呼び合いながら……雨の如きキスが、二人の間に降り注いでいた。




(『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ 第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4)』へ つづく)
400名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 23:28:46.76 ID:a/UChd8Q
というわけで今宵はここまでー
いいいよ次の(4)で助手編も終わりです
ほんとに長くて申し訳ない
それではまた次回ー ノノシ
401名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 23:31:09.18 ID:oSIz2VkP
キスだけで勃ったぞどうしてくれる…GJ!!
402名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 23:43:17.29 ID:ZhJXjx/o
ふぅ……
403名無しさん@ピンキー:2013/02/06(水) 23:58:51.21 ID:ipi/0QnV
今日も息子は元気です
404名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 00:37:22.69 ID:2S3hAza6
あら、いいですねー
405名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 02:01:39.60 ID:QLpeIGbQ
乙です!
作者の焦らしたまらんですな
次で終わりとか言わず、もっとじっくり続けて欲しいw
毎日の密かな楽しみになってしまった
406名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 02:51:00.54 ID:T5t+kfqi
あれは…犯リン!?
407名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 03:44:46.74 ID:Ihv9qzMZ
乙!!
ついに物語の終わりが見えはじめてしまった・・・。
早く読みたいが、終わって欲しくはないという orz
408名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 23:10:13.80 ID:fIeoK6I8
こんばんは
今宵も更新できそうです
少し時間がかかるかもですが……
409第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/07(木) 23:14:15.75 ID:fIeoK6I8
8−20:2011/02/13 20:48 未来ガジェット研究所

「ふぁ、ん、ふぁ、や、ぁぁ……っ」

それから10分ほど後、岡部倫太郎がゆっくりと顔を離すと、すっかりとろっとろに蕩けさせられた牧瀬紅莉栖がむずがるようにくぐもった声を上げ、岡部倫太郎の唇をを舌先で懸命に追った。
互いの舌先から垂れ下がる唾液が糸橋となって、灯火の下淫らな煌めきを放っている。
だがやがて自重に耐えられなくなったその粘つく糸は、二人の足元へとくちゃりと墜ちた。

「ふむ、なんともいやらしい顔をしているな、紅莉栖」
「や、やだっ、う、嘘よ、そんなの……っ!」
「ならば……確かめてみるか?」
「ふぇ……っ?」

岡部倫太郎に背後から抱き竦められ、よたよたと背後から押されるようにしてシャワー室へと連れ込まれる。
ここの更衣室には鏡があって、牧瀬紅莉栖はそこで己の姿をまざまざと見せ付けられることとなった。

「こ、これが、私……?」

真冬だというのに汗ばんだ白衣、上気した頬、潤んだ瞳、半開きの口、唇の端から垂れている涎の跡、
そして……あまりに淫らでだらしない顔つき。

まるで橋田至がプレイしているエロゲのヒロインのようだ……などと下らぬ事が頭にのぼせる。
なんだろう。まったく現実味を感じない。こんなエロエロしい表情の娘なんて本当にいるのだろうか。これが本当に自分なのだろうか。

これほどにいやらしい顔を……牧瀬紅莉栖は初めて見た気がした。
こういうのをなんと言っただろうか。確か@ちゃんねるで見かけた事があるような気がするのだけれど……

「見ろ紅莉栖。自分の顔を。すっかり発情しているではないか」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

そうだ、確かそうだった。
これは……この表情は、まさに発情した雌の顔そのものではないか。
410第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/07(木) 23:22:30.63 ID:fIeoK6I8
そんなもの、そんな顔、エロゲや成人誌、あるいは十八禁の同人誌の中だけのものだと思っていた。自分には関係ないと思っていた。
牧瀬紅莉栖は……まさかに、自分がそんな表情をするだなんて考えたこともなかったのだ。

「や、やだ岡部、み、見ないでぇ……っ!」

みるみると頬の赤味をいや増して、鏡から逃げ出すように視線を逸らす。だが顔を背けた先には岡部倫太郎の顔があって……慌てて開きかけた口を、そのまま彼の唇に強引に塞がれた。

「ふむっ!? ん、ふぁ、んちゅ、あ、おか、べ……っ! ん、んくっ、ん、んん〜〜〜〜っ!!」

先刻までの浴びせるような軽いキスではなく、より深く、より淫らな唇と唇の接触。
舌を突き入れられただけでもあまりの喜悦と興奮でどうにかなってしまいそうだったのに、今度は彼の舌先から唾液が送り込まれてきた。
牧瀬紅莉栖は目を白黒させながら、だがやがてこみ上げてくる陶酔感に抗し得ずにそれをつい嚥下してしまう。

(の、飲んでる……っ、私岡部の唾液をごくごくって飲んじゃってるよぉ……っ!!)

ぞわぞわ、と背筋に走る高揚と倒錯感。
それに浸って恍惚としていた牧瀬紅莉栖は、岡部倫太郎におとがいを掴まれ、接吻を繰り返しながらその顔の向きを変えさせられる。
その先にはついさっき逸らしたはずの鏡が控えていて……


そして、そこにはすっかり蕩け切った淫らな“オンナ”が、映し出されていた。


 
411第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/07(木) 23:26:05.33 ID:fIeoK6I8
「ふぁ……っ! あ、や、やぁっ、岡部っ、んぷっ!? ん、ちゅ、あ、れろっ、ん、おかべ、んんっ、ちゅ、ちゅっ、んくっ、おか、べぇ……ぁん、ん、んくっ、コク、コクン、んくっ、コクッ、コクッ、ゴク……ン……ぷぁ……っ!」

己の淫らな姿を見せ付けられ、逃げようともがいても背後から抱きすくめられて逃げ出せない。
ディープキスを交わしながら唾液を注がれ、ますます昂ぶってはしたない表情へと堕ちてゆく己の姿を見せ続けられた牧瀬紅莉栖は……

「んっ、んくっ、ぷぁっ、あ、おか、べ……あ、あっ、ああああああああああああああっ!!?」

最後に彼に背中をぎゅっと抱き締められ、弓なりとなった己に覆い被さるようにキスをされた瞬間……
びくんと背を一層に反らし、電流が走ったかのようにその身を震わせ……そのままとすん、と膝から床に崩れ落ちてしまった。

「ふぁ……ん、あ、や、おかべ、おかべぇ……っ」

くしゃくしゃになった顔で、だらしなく半開きになった口からとろとろと涎を溢れさせた牧瀬紅莉栖は、岡部倫太郎の名を呼びながら震えた手を伸ばす。

「どうした紅莉栖、大丈夫か?」
「ね、岡部、どうしよう、なんか立てないの、立てないよぉ……っ」

床にへたり込んでしまった彼女は自分でも驚くほどの喪失感に苛まされていた。
つい先刻まで密着していた岡部倫太郎の身体が、今はあんなにも遠い。
それが嫌で、たまらなく嫌で、必死に手を伸ばしているのに……届かない。
震える脚が、動かぬ腰が、彼女を床に縛りつけ、彼へとたどり着くことを拒んでいるのだ。

もしかして……ずっとこのままなのだろうか。何かの悪い病気か何かで、自分はもう歩けなくなってしまったのだろうか。
どんなに手を伸ばしても、もう彼には届かないのだろうか。
彼の背中を……また見送ることしかできないのだろうか。


あんなに……あんなに後悔したのに。
もうこれ以上置いていかれるのは嫌だって、あんなに強く思っていたのに……!!

 
412第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/07(木) 23:30:39.57 ID:fIeoK6I8
「ねえ岡部、私どうかしちゃったの? ねえ、動かないの。足が全然動かないの。岡部に触れたいのに、岡部の服に、肌に、ずっと触っていたいのに!
岡部の白衣に頬ずりしたいのに、岡部の臭いを嗅ぎたいのに、私の湿った息を吐きかけたいのに、もっとずっとずっといっぱいそばにいたいのに、こんなに近くにいるのにできないの、岡部、岡部ぇ……っ!!」
「落ち着け紅莉栖。おそらくだが単に腰が抜けただけだ」
「ふぇっ?!」

言われて見ればいかにもそれっぽい症状ではある。
つい数瞬前までまるでこの世が終わってしまったかのように絶望していた自分が顔から火が出るほどに恥ずかしい。
だって仕方ないではないか。岡部倫太郎に触れられない、というただそれだけのことがこれほど寂しいものだなんてつい先日までは思いもしなかったのだもの。

たかが腰が抜けた程度でこんなにも取り乱すなんてなんてみっともないのだろう。
岡部倫太郎も呆れて顔を逸らしてしまっているではないか。

「…………岡部?」

だがそれにしては様子が変だ。
なぜ彼はあんな風に顔を赤くして照れているのだろう。
自分がまたみっともない顔でもしているのだろうか。
洗面所の上にある鏡はこの状態では見えなくて、自分がいかにみっともない表情なのかは確かめるすべはないけれど。
413第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/07(木) 23:36:06.49 ID:fIeoK6I8
「あー、いや、なんだ。その……気持ちはとても嬉しい。俺もまあ……だいたい同じ想いだ、紅莉栖」
「ハァ?」

岡部倫太郎の言葉が一瞬まったく理解できず、思わず怪訝そうに問い返してしまう。
彼は一体何を言っているのだろう。
同じ想い……という事は、つまり論理的に考えて牧瀬紅莉栖……即ち己自身が発した言葉に共感した、という事だろうか。
ならば思い出せ、自分がつい先刻言った台詞を。
ええっと、確か……

岡部倫太郎に触れたいだの、
岡部倫太郎の服に、肌にずっと触っていたいだの、
岡部倫太郎の白衣に頬ずりしたいだの、
岡部倫太郎の白衣の臭いを嗅ぎたいだの、
岡部倫太郎の白衣の湿った息を吐きかけたいだの、
岡部倫太郎ともっともっとずっとずぅっといっぱいい〜っぱいそばにいたいだの、

こんな、
こんな、台詞、を……

「……あ」

もしかして、いやもしかしなくても、
あろう事か、岡部倫太郎本人の前で、口にのぼせてしまっていたのでは……?

「わ……」
「わ?」
「わ、わぁあぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?」
「ど、どうした! 大丈夫か紅莉栖!?」

ほんのりなんて生ぬるいレベルでなく顔中真っ赤に火照らせる牧瀬紅莉栖。
自分を気遣ってくれる岡部倫太郎の姿が一層に彼女の羞恥を煽り額から蒸気が噴出した。

「お、岡部、ねえ岡部……っ!」
「な、なんだ、どうした、何かして欲しい事があるのか?!」
「あ、あ、あんたの頭蓋ドリルで開けて、海馬からさっきの記憶を切除させろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
「無茶を言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
414名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 23:37:37.61 ID:fIeoK6I8
というわけで今宵はここまでー
甘々イチィイチャエロバカップルもたまにはいいですよね
たまには!
そういうわけでまた次回〜 ノノシ
415名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 23:47:20.38 ID:RHDKIPCn
壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁壁ぇぇぇえええええ!!
もう興奮のあまりなに書いていいかわかんなくなったぜぇ
416名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 23:55:53.06 ID:afIf5Kxu
これは、、、いい!
417名無しさん@ピンキー:2013/02/07(木) 23:57:58.97 ID:UIzcO1+h

とってもエロいお
418名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 00:00:58.08 ID:HO8+qZKc
454545284545452845282845452845
419名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 00:18:12.86 ID:4WuQoYMG
たまたま昼からまとめ読み始めたら
リアルタイムでクライマックスとは

最後まで期待
420名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 03:05:15.29 ID:XbCDe+VP
爆発・・・いや、オカリンなら赦す!
思う存分ヤッちまえ!!
乙!!
421名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 06:40:37.22 ID:sFCdBveG
あれ、なんで壁かなくなってるんだっ!?
422名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 08:30:59.13 ID:RS5/wTcp
今から読みはじめた人なんかもいるのか
ここにたどり着くだけでも大変だったろうに
423名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 09:46:20.03 ID:Knv5CU1U
毎度乙です
エロ直球かと思いきや、物凄い勢いで曲がりやがったw
これは…色々たまらんな!(良い意味で)
424名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 09:52:06.14 ID:Knv5CU1U
あれ、壁が無い…。大地を殴るしかないのか
425名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 20:05:39.38 ID:eHpT0ltT
おつ
426名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 23:14:23.64 ID:yppZBe5q
こんばんはー
今日も今日とて更新だけしてゆきますー
427第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/08(金) 23:19:01.38 ID:yppZBe5q
8−21:2011/02/13 21:08 

「紅莉栖、どうだ、立てそうか?」
「ん……まだダメみたい。脚が笑っちゃってるし」
「……治るのか、それは。病院に行った方がいいか?」
「大丈夫よ。腰が抜けるって言っても実際に腰骨が抜け落ちるわけじゃなくって自律神経の一種の交感神経が背中の筋肉である脊柱起立筋を上手く動かせなくなってるだけの状態だから。時間が経過すれば元に戻るはず」
「成程……」

流石に何が原因か判明さえしてしまえば牧瀬紅莉栖の言葉には淀みがない。
己の専門分野に近い部分なのだから尚更だろう。

「ふむ……身動きできないお前に色々とするのもまた男のロマンではあるが……」
「ちょ、ちょっと岡部、橋田のHENTAI思考に毒されてない?」
「いやいや、抵抗できぬ助手というのもこうしてみるとなかなかそそるではないか。フハハハハハハ!」
「なー!? 本気? 本気か岡部! あ、あんたって人はぁぁぁぁっ!!」

高笑いしながら指先をわきわきと蠢かせ、不気味に高笑いする岡部倫太郎。
未だに下半身を動かすことができずあわあわと慌てる牧瀬紅莉栖。

「さあ観念するがいいクリスティーナ! このマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の毒牙にかかるがいい!」
「ちょっと岡部待って、待ってってば! お、落ち着いて……ね?」
「愚か者め! 無抵抗の貴様なんぞという格好の餌を目の前にぶら下げられて大人しくしていられるこの鳳凰院凶真だと思うかーっ!」
「あーん! ちょっと嬉しいかもって感じちゃってる自分が嫌ぁぁぁぁぁっ!!」

がばちょ、っと上から押し倒すようにして牧瀬紅莉栖に覆い被さる岡部倫太郎。
びくん、と身を竦め、目を閉じて襲い来る辱めに耐えようとする牧瀬紅莉栖。
だが……彼の手は、指先は、そっと彼女の背中と膝裏に回されて……

「ひゃ……っ?!」

気づけば牧瀬紅莉栖は立ち上がった彼の胸元に優しく抱きかかえられていた。
そう、もはや言うまでもない。それはいわゆる……お姫様抱っこ、という状態である。
428第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/08(金) 23:22:24.53 ID:yppZBe5q
「や、なに、え? 岡部?!」

事情が理解できずきょろきょろと挙動不審げに左右を見回す牧瀬紅莉栖。

「ふん、幾らマッドサイエンティストと言えど身動きできぬそれも自分の助手に手を出すほど腐ってはおらんわっ」
「岡部……」

ほっとすると同時に今更己の体勢を自覚して恥ずかしさに身を縮める牧瀬紅莉栖。
だがその羞恥は決して嫌なものではなく、むしろ暖かい、どこか心地いい感覚だった。

「どうだか。本当に襲う気はなかったの?」
「……実は少し危なかった」
「ちょ、こら、そこは思ってても否定しなさいよっ」
「正直な気持ちなのだから仕方なかろう。お前が……あー、紅莉栖があんな無抵抗な有様だったら当然それくらいの事は考える。お、俺も男だからなっ」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

からかったつもりだったのに思った以上に真摯な答えが返ってきてたちまち耳まで赤く染める牧瀬紅莉栖。
だってそれは自分だけでなく彼もまたこちらに欲情しているという事であって、
自分からの一方通行でなく、ちゃんとお互いに求め合っているという事であって……

「やだ……どうしよう」
「なんだ助手よ、何をニヤけている。俺のどこがおかしいのだっ!」
「違う〜。表情筋がなんか緩みっぱなしになっちゃって、顔の表情が戻らなくなっちゃってるの〜!」
429第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/08(金) 23:27:08.91 ID:yppZBe5q
怒ったような口調ながら、彼女の表情はなんともだらしなく緩んでいて、目尻が下がり唇をふにゃふにゃと歪ませており、どう見ても幸せそうに微笑んでいるようにしか見えぬ。
頬を染めた牧瀬紅莉栖のそんな顔を間近に見せ付けられた岡部倫太郎は、耐え切れず彼女を抱き上げたままキスをしようと顔を近づけるが、体勢的にやや無理があるのかなかなか上手くゆかぬ。
だが彼の意図を察した牧瀬紅莉栖が岡部倫太郎の首に腕を巻きつけて、互いに顔を近づけてまず鼻先同士て軽くバードキス、その後唇同士でフレンチキスを交わした。

「ん……おか、べ……っ♪」
「紅莉栖……!」

互いに唇を貪りながら、やがてゆっくりと彼女をソファの上に降ろす。
牧瀬紅莉栖は彼から離れる事を嫌がり、いやいやと童女のように首を振っていたが、岡部倫太郎が最後に鼻先に優しくキスをしてやると、
ぎゅ、と彼の首に廻した腕の力を強めて己の方に招き寄せ、その唇を強く吸って……それでやっと満足できたのか、その後ゆっくりと腕の力を緩め、岡部倫太郎を解放する。

「……やだ、私なんかすんごい舞い上がっちゃってる。何様だ」
「言うな。俺も心が浮ついてどうにかなりそうなのだ」
「ホント? 岡部ホントに浮ついてる?」

むー、とどことなく不服そうな顔で岡部倫太郎を睨む牧瀬紅莉栖。
無論怒りからではない。甘え半分で愚痴を言っているだけなのだが。

「そこは確認するようなことなのか?」
「だって……なんか今日の岡部すっごく優しいし、なんかこう、ちょっと男前って言うか……と、とにかく調子が狂うのよ! な、なんか私ばっかりテンパっちゃてるみたいで……こう、ちょっと悔しいって言うかぁ……」
430第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/08(金) 23:31:24.86 ID:yppZBe5q
「……心配するな。俺もお前に恥ずかしいところを見せられんとずっといっぱいいっぱいなのだ」
「なんだ……そうだったんだ」

少しホッとした様子ですぐに機嫌を直す牧瀬紅莉栖。
そんな彼女のおとがいを掴んで己の方に向き直らせる岡部倫太郎。

「ちょ、お、岡部……?」
「続きだ。紅莉栖、キス、してもいいか……?」
「ひぇっ!? う、うん、い、いいけど……っ」

一拍置いて再び恥ずかしくなったのか妙に初々しい反応を返す牧瀬紅莉栖。
彼女と一緒になったらきっといつまでも新鮮な気分が味わえるな……なぞと愚にもつかくぬことを考えてしまい、少々面映くなる岡部倫太郎。
だが、それでも彼の動きは止まる事なく、ゆっくりと顔を近づけていって……

「ひゃうっ!? お、おかべっ!? 、きゃんっ! ん、ひゃっ?!」

目を閉じて、己の唇に訪れるであろう柔らかい感触を待ち受けていた牧瀬紅莉栖は……
だが彼の唇が己の唇ではなくほっぺたに吸い付いたことで思わずびっくりして奇声を上げてしまう。
だが岡部倫太郎の唇は……そこで止まる事はななく、さらなる探求の深淵を彼女の肌の上で繰り広げてゆく。

頬から鼻先、唇を掠めるようにして上顎から下顎、さらに下がって首筋、うなじ、そして胸元へと……


「ひゃうっ! ちょ、んきゅ!? ちょっと岡部っ! ひぁんっ! や、あ、そこぉ……っ、ん、あ、お、おかべ、おかべぇ……
あ、あんたホントにいっぱいいっぱいなのかこらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!? ……あンっ!」




最後に彼女の唇から漏れた声には……明らかに快楽の甘い響きが込められていた。



 
431名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 23:32:38.74 ID:yppZBe5q
というわけで今宵はここまでー
総受けのオカリンも好きですけども
たまにはこういう攻めオカリンもいいですよね
それではまた次回〜 ノノ
432名無しさん@ピンキー:2013/02/08(金) 23:33:45.23 ID:2wwfa7yR
ほうほう
433名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 00:16:59.39 ID:BhxNRVVg
壁の修復が間に合わん・・・ッ!
434名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 00:24:48.42 ID:XNlhK+hc
ラウンダー出動だ!壁を作れ!
俺の壁殴りに耐えられる強度の壁を作れ!
そして俺が破壊する!!
435名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 00:57:51.27 ID:Y/dTD996
なあ、壁くれよ…ぶっとい壁をよ…
436名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 01:53:24.51 ID:FoedQ3Kv
「プロテクト・ウォールッ!!」
437名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 02:58:52.12 ID:k57WHgBV
あら、いいですねー
438名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 12:09:24.24 ID:NwxXs9If
オレ、このSSが終わったら糖尿病の治療に行くんだ
439名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 17:16:45.68 ID:x9UJc7Y0
>>436
皆に叩かれたプロテクトウォールが砕け散って、
「ぐはあああ!」
と倒れ込むガオガイガーまで幻視した。
440名無しさん@ピンキー:2013/02/09(土) 22:32:39.61 ID:TcMlJUu/
>>438
早く行け
441ふわりん:2013/02/10(日) 00:46:15.61 ID:dMSEsDU6
二人とも幸せそうだね〜♪
ボク妬けちゃうよ〜///
442名無しさん@ピンキー:2013/02/10(日) 06:27:56.37 ID:Ymwjy0Xf
そろそろ続き来てるかな、と思ってこのスレに来て、
休日だと思い出した時のさみしさたるや・・・

だーりんをやって気を紛らわせよう orz
443名無しさん@ピンキー:2013/02/11(月) 22:26:18.35 ID:vnJujBMJ
prpr(^ω^)
444名無しさん@ピンキー:2013/02/11(月) 22:55:55.62 ID:eBOSve8s
こんばんは
今日もちょっとだけ早めに更新していきます
445第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/11(月) 22:59:28.67 ID:eBOSve8s
8−22:2011/02/13 21:21 

「ん、ばか、ぁ……ばか岡部ぇ……んっ、あ、あっ、んんっ!!」

首筋から胸元へ這うようにキスされて、喘ぎ声を上げそうになるのを両手で口を押さえ必死に堪える牧瀬紅莉栖。
だがその手首を岡部倫太郎はがっしと掴み、胸元付近から彼女を見上げるようにして睨み付けた。

「手で押さえるな、紅莉栖」
「な、なんでよ岡部……は、恥ずかしいじゃない……っ!」
「お前のその恥ずかしい声をもっと聞かせろと言っているのだ、俺は」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! ば、ばかぁ……っ、バカ岡部ぇ……んくっ!」

真っ赤になって文句を言うが、彼に掴まれるままに抗うのをやめる牧瀬紅莉栖。
今度は唇を噛んで声を殺そうとするも、緩急を付けた岡部倫太郎の攻めに耐えきれず、少しずつ甘い声が唇の端から漏れてしまう。

「んっ! んきゅっ、ぷぁ、ん、ぁんっ、あ、おか、べ……っ?」

徐々に首から下に降りていった刺激が、唐突に消える。
不思議そうに牧瀬紅莉栖が下を見ると……岡部倫太郎の頭は、ちょうど彼女の胸の前で静止していた。

「紅莉栖、お前の胸……見てもいいか?」
「ひゃうっ!? そ、それは……えっと……」

岡部倫太郎の真剣な瞳に射竦められ、口元をわななかせながらしどろもどろになる牧瀬紅莉栖。

「えーっと、あの、お、岡部なら……ってやっぱりおかしい! そんな真剣な顔で迫られたって恥ずかしいものは恥ずかしいわよ!」
「ええいいちいち我に返るなっ!」
「だって仕方ないじゃないっ! お、岡部に見られるなんて、その……っ!」

己の胸を隠すようにして、泣きそうな顔で、
牧瀬紅莉栖は悲痛な表情で訴える。

「ラ、ラボのみんなほどには、その、私、胸なんてないし……っ!」
446第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/11(月) 23:03:02.69 ID:eBOSve8s
彼女の想いは単純だった。驚くほどに単純であった。
岡部倫太郎に呆れられたくない、飽きられたくない、嫌われたくない。
己がコンプレックスを感じている部位を愛しい人に見せまいとする……それはいじましいほどの防衛本能であり、彼女なりの乙女心だったのだ。

「……まあ確かにダルと比べればだいぶ小振りではあるな」
「そうそう橋田の胸って凄いわよねー……ってちっがーう!」

思わずノリツッコミをしてしまう牧瀬紅莉栖の額を岡部倫太郎が軽く小突く。

「あまり下らんことを言うな紅莉栖。俺は大きな胸が見たいのではない。お前の胸が見たいのだ」
「な、な、なななななぁぁあぁぁああぁあぁああああああっ!?」

沸騰するほどに真っ赤になった牧瀬紅莉栖は、ソファの上でころんと横に倒れたまままるで胎児のように小さく丸まって、その膝頭の隙間から岡部倫太郎を恥ずかしそうに睨みつける。

「ぜ、絶対に笑わない? 呆れたりしない?」
「約束する、絶対にせん」
「そ、それなら、まあ……許す」

横に倒れたまま、脚をソファからゆっくりと伸ばし床につける。
それはちょうどソファの上で横たわりながら脚だけ床に投げ出したような格好で、岡部倫太郎の視点から見れば実に扇情的な光景に映る。

「では……ボタンを外すぞ」
「う、うん……って岡部、なんかあんた手馴れてない?」
「そうか? 衣服の構造なぞ男女でそうは変わらんだろう」
「そ、それはそうだけど……」

流れるような動作で牧瀬紅莉栖の制服のボタンを外してゆく岡部倫太郎。
シャツを左右にはだけさせ、戸惑いもせずにブラを外し机の上に放る。
そしてシャツを白衣の下に隠し、上半身だけ見ればあたかも全裸に白衣を纏ったかのような格好にさせた。
ただしワンポイントとして緋色のネクタイは残したままだ。
447第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/11(月) 23:07:11.04 ID:eBOSve8s
「ふむ、全裸白衣ネクタイ……これはまたHENTAIチックな……!」
「ヘ、HENTAIはアンタだばかぁーっ!」

真っ赤になって半泣きで、上から圧し掛かるような岡部倫太郎の胸をポカポカ叩く。
だが岡部倫太郎にとってはそんな彼女の仕草すら愛しくて、そのまま強引に己の方に首を向けさせ唇を奪った。
たちまちくぐもった甘い声を上げ、岡部倫太郎の舌攻めに応えてしまう牧瀬紅莉栖。
キスの作法については……もうだいぶ調教が進んでいるようだ。

「んっ、ん、ちゅ、ふぁ……ひゃぁっ!? あ、んくぅっ、お、おか、べ……ひぅんっ! あ、や、や、やぁ……っ!」

口づけを交わしながらはだけられた胸を揉み始めると、牧瀬紅莉栖は目を白黒させて思った以上に過剰な反応する。
背を逸らし、四肢を戦慄かせた彼女は、暴れるように岡部倫太郎の腕の下で激しく悶えた。

「ぷぁっ! はぁ、はぁ、う、ん……あンっ」
「……胸を揉むと唾液も増えるのだな。甘いものを前にして自然と唾液が分泌されるのと同じ理屈か?」
「し、知らないわよばかぁ……っ!」

半開きの口でなんとか憎まれ口を叩く……が、その瞳は潤んでいて、口調はなんとも弱々しい。
増えた唾液は彼女の口の端からぬらりと垂れて、あたかも涎を垂らしているが如しである。

「どうした、やけに大人しいではないか。そんなに胸が良かったか?」
「ち、違……ひゃっ!? あ、やっ! 岡部ぇ、そ、それだめぇぇっ!!」

反駁しようと開きかけた牧瀬紅莉栖の口を、胸に唇で吸いつくことで止める。
おわんのような、小ぶりだが形の良い胸をじっくりと味わうようにしながら、片方の手で逆の胸を丁寧に揉み、押し、抓って刺激する岡部倫太郎。
448第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/11(月) 23:10:41.82 ID:eBOSve8s
「ひゃうっ!? あ、岡部、ね、お願いそれやめて? そこにそんな事されたら私……ぃ、やぁっ! んっ! ひゃうぅぅっ!?」

岡部倫太郎の攻撃は止まらない。彼は遂に胸部の先端たる乳首へと唇を当て、伸ばした舌先で転がし、つつき、舐り、唇でつまみ、最後にとどめとばかりに軽く歯を立てた。

「あ、や、岡部、おか……んっ! あ、あああああああああああああああああああっ!」

あまりに強い刺激に牧瀬紅莉栖は思わず悲鳴を上げて、彼の顔面を己の胸に押し付けびくんとその身を大きく弓なりに逸らし、そのままがくりとソファに崩れ落ちた。

「ひぁ、あ、ん、ひゃぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ♪♪」


とろんと蕩けた瞳、だらしなく開いた口、薄桃色に染め上げられた肌……
そう、牧瀬紅莉栖の体は……岡部倫太郎によってすっかり“出来上がって”いた。


「なんだ、随分と感度のいい胸だな」
「ふぁ、そ、そう……なの?」
「うむ。女の胸は大きさより感度とも言われるしな。そう卑下するものでもないのではないか?」
「ホ、ホント……?」
「ああ、少なくとも俺は気に入ったぞ」
「ば、ばかぁ……! 気にいるとかゆーなぁ……っ!」

さて、とりあえず一応のフォローはしたものの、正直なところ胸の大きさと感度の関係性について岡部倫太郎自身にもあまり確信はない。
なにせ彼がこれまで見てきた女性の胸部……
即ち阿万音鈴羽、秋葉留未穂、桐生萌郁、そして椎名まゆり。
彼女達の胸は皆総じて感度が高めだったためあまり参考にならなかったのだ。

ちなみに彼女達は格別に性感が高かったわけではなく、調教によって開発されたわけでもない。
単に相手が岡部倫太郎……密かに想い慕っていた意中の相手だったからこその反応だったわけだが……流石の彼もそこまで気は廻らない。
449名無しさん@ピンキー:2013/02/11(月) 23:11:23.55 ID:eBOSve8s
というわけで今宵はここまでー
それでは眠いのでこれて失礼します……zzz
450名無しさん@ピンキー:2013/02/11(月) 23:25:20.88 ID:mDDtFNGx
鈍チンなのは相変わらずだなぁwww
451名無しさん@ピンキー:2013/02/12(火) 08:00:07.08 ID:gQ+QKui5
452名無しさん@ピンキー:2013/02/12(火) 23:31:13.10 ID:DLgz2qWF
こんばんは
今宵も更新していきますー
453第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/12(火) 23:33:35.97 ID:DLgz2qWF
8−23:2011/02/13 21:33 

「では……そろそろゆくぞ」
「う、うん……」

剥かれた胸を隠すようにしてソファに座り込む牧瀬紅莉栖。
彼女の前に跪いてそのショートパンツに手を掛ける岡部倫太郎。
懸想の相手が己の前で傅いている……それだけで彼女は喩えようもないほどに高揚する。

「腰を上げてくれ」
「こ、こう……? ね、ねえやっぱり私が脱ごうか?」
「いや、俺の手で脱がしてみたいのだ」
「〜〜〜〜〜! ほ、ほんとにHENNTAIだな……っ」

口では不満そうに、だがその表情はむしろ陶酔のそれだ。
大好きな男が、自分の前で膝をつきながら奉仕している……それは彼女にとってなんとも甘い甘い誘惑であった。

「よし……取れたぞ。後は上も脱いでしまおうか」
「ひゃうっ!? こ、こっちは自分で脱げるからぁっ!」
「? いや、別に構わんが……」

岡部倫太郎にされるがままに陶然としていた牧瀬紅莉栖は、だがこれ以上されると何か危険な領域に踏み込んでしまうような気がして慌てて自分から服を脱ぎはじめる。
ただし白衣とネクタイは残したままで。
これぞ紛う事なく全裸ネクタイである。
正確にはそれに黒ストッキングが付いてくるが。

「むう……見れば見るほどHENTAIチックな……」
「それはお前だばかーっ! こ、これはその、そんなHENTAIの岡部が喜ぶんじゃないかって考察しての格好であって別に私が好き好んでしてるわけじゃ……っ!」
「つまり……俺のためにしてくれた格好というわけか」
「ひゃうっ!? ま、ま、まあ、そうなる……わね」
「ああ、紅莉栖、すごくいやらしい。興奮するぞ」
「ひゃ……っ!?」

ぼふ、という音と共に頭部を爆発させる牧瀬紅莉栖。
今更ながらに己がいかにはしたない格好をしているのか実感したらしい。
454第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/12(火) 23:42:01.58 ID:DLgz2qWF
「や、やだ……っ、あ、改めてそういわれたら急に恥ずかしくなってきた……っ!」

あわあわと腰をソファの背もたれに押し当てて、逃げるようにして後ろに下がる牧瀬紅莉栖。
とはいえ元々ソファに座っていたわけで、距離的には全然開けられていないのだけれど。
それでも必死に後ろに下がろうとした彼女は……両脚を開いたまま、肩をすぼめるようにして縮こまった。

「……逃げているつもりなのか知らんが却って扇情的だぞ、紅莉栖よ。それとも誘っているのか?」
「え? や、違……っ!」

そう……今の格好でそんなポーズを取れば、自然股間部分に視線を誘導し、白衣の隙間からの胸の谷間を強調しているかのように見えてしまう。
岡部倫太郎でなくとも乱暴のひとつも働きたくなろうというものだ。

「だいたい今更恥ずかしいなどと何を言っているのだ。いいか! よく聞け我が助手よ!」
「な、なんぞっ?!」

突然大声を出されて思わずびくりと身を震わせてしまう牧瀬紅莉栖。
彼女の前でオーバーなアクションと共に立ち上がった岡部倫太郎は、今やすっかり鳳凰院凶真の体である。

「今の格好が恥ずかしい恥ずかしいと言うが……そもそもお前が普段している格好からして十二分にエロくて扇情的なのだ!!」
「な、なんだってー!?」

反射的にツッコミ返した後にびしりと硬直する牧瀬紅莉栖。

「って……ちょっと岡部、それってどういう……?」
「だらしなく着こなした制服の上から白衣! しかも下はスカートではなくショートパンツ! その上靴下でもなく黒ストと来ている。まさかそれでエロくないなどと言い訳するつもりではあるまいなクリスッティーナよ!」
「ふぇっ!? そ、そうなの? わ、私全然気にしてなかった……!」
455第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/12(火) 23:45:09.53 ID:DLgz2qWF
改めて指摘されて己の普段の格好を思い返す牧瀬紅莉栖。
角度が変わればすぐに中身が見えそうなギリギリのショートパンツに黒ストッキング、さらに制服+白衣。
冷静に分析してみればチラリズム&フェティシズムを満たしたなんとも挑発的な格好ではないか。
つまり……つまり自分は今までそういう視点で男連中に見られていたというわけで……

「へっ、ひぇ、ひゃう……っ!?」

奇声を上げわたわたしながら頬の赤みをいや増して、岡部倫太郎を上目遣いで見つめつつ破裂しそうなほどに胸の鼓動を早める。
だってつまり、彼が言った通りだとするなら……

「ね、ねえ岡部、それって、じゃあ、その……お、岡部も普段、そんな風に……私、を……?」
「あー、うむ。無論いつもではないがなっ。お前が今のようにソファで無防備に寝ているところなどは……少々自分を抑えるのに苦労していた」
「はわ……っ?!」
「あとは……その、なんだ。ま、まゆりや萌郁やフェイリスあたりならともかく、ダルや他の男には見せたくないな……とも思っていたぞ」
「はわ、はわわわ……っ!!?」

岡部倫太郎の告白を聞くたびにみるみると顔が赤熱してゆく。
つまり自分は今までそういう目で見られていたのだ。性的な目で見られていたのだ。
けれど……それで感じているのは嫌悪? 侮蔑? 唾棄?
いや、全然違う。

「お、岡部、あ、あ、あんた何言って……っ!」
「俺は本気だ! ずっと前から……初めて会った時から、お前に惹かれていた。その後何度も会っている内にいつか……いつかお前とこうなりたいと、こうしたいと思っていたのだ……っ!」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
456第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/12(火) 23:53:56.36 ID:DLgz2qWF
それは……その言葉は、互いの内に大きな齟齬を抱えている。
牧瀬紅莉栖にとって彼は、父親の公演で会った後二ヶ月後に再会して数日、そして今こうして来日してわずか一週間、全て合わせてもたった十日ほどの付き合いでしかない。
だが岡部倫太郎にとっては数日どころか数週間、いや、全てのタイムリープを合わせれば或いは数ヶ月以上にも及んでいたやもしれぬ濃密な付き合いだったのだ。
二人で命を狙われた事だってある。

だからお互い、単純に相手の気持ちを推し量る事はできない。
牧瀬紅莉栖が発動したリーディング・シュタイナーによって彼に募る想いを積層させ、その想いに懊悩していたのと同じように、
岡部倫太郎もまた、彼女に想いを打ち明ける際、強い苦悩と迷妄を抱えていた。

この世界線の牧瀬紅莉栖にとって……己は所詮出会ってほんの半月足らずの相手に過ぎぬのである。
だから幾ら彼女を抱き締めたい、愛したいという張り裂けんばかりの強い想いが胸の内にあっても、それを相手に伝えることはできない。求める事もできない。
だって今の牧瀬紅莉栖にとって自分は知り合ったばかりの日本の変人学生に過ぎぬのだから。

それでもつい最近までは我慢できた。我慢してきた。
椎名まゆりと牧瀬紅莉栖、そのいずれかが死ぬしかない、どちらかを選ぶしかない二律背反。それを覆し、今この世界に立っている……それで十分だと、彼女が生きていてくれさえすればそれだけで満足だと己に言い聞かせ、ずっとずっと耐えてきたのだ。

けれど、突然やってきた謎の手紙、降って湧いたタイムリープマシンの開発。
そして……そのために来日し、久々に再会した牧瀬紅莉栖。
彼女の笑顔を見た瞬間に……岡部倫太郎は己を抑えられなくなっていた。

喩え相手にとって自分が大したことのない男でも、会ったばかりのろくでなしでも、傍にいたい、一つになりたい……そんな執念にも似た気持ちが彼を暴走させ……


そして……あのホテルで、彼は失敗した。


 
457第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/12(火) 23:58:26.87 ID:DLgz2qWF
そうだ、岡部倫太郎こそ限界だったのだ。己の内に募る強烈な想いほどに、愛する女の内に自分はいない。
そう思い込んでいたがゆえに、彼は焦り、過ちを犯した。
幸い未来から来た阿万音鈴羽とタイムリープマシンによって一度きりとはいえやり直しの機会は与えられたけれど、そうでなければ絶望のあまり心がどうにかなっていたかもしれない。


一方牧瀬紅莉栖もまた……彼の魂を搾り出すかのような述懐に衝撃を受けていた。
それは好きな男にそういう目で見られていたと知った時に感じる高揚……なのも間違いではないけれど、単にそれだけではなかった。


……だって今まで、今日までずっと、牧瀬紅莉栖は岡部倫太郎を心の内で追いかけていたのだ。


岡部倫太郎は自分より先にいる。飛び級で大学を卒業し、ヴィクトル・コンドリア大学脳科学研究所所属の研究員になった天才少女……そう持て囃されているにもかかわらず、牧瀬紅莉栖はなぜかずっとそう思い続けていた。
あの時……夏に見続けたあの夢で、彼はいつだって自分を置いて先に行ってしまったから。
自分の知識なんてなんの役にも立たない重い選択を背負って、いつだって独りで旅立ってしまったから。

無論あれは夢だ。現実ではない。

けれど……牧瀬紅莉栖はなぜかいつだってそれが脳裏にこびりついて離れなかった。
あの秋の数日、そしてこの一週間ほど、彼を論破し、悔しがらせて気を紛らわせていても、心の中ではいつだってそんな想いが渦巻いていた。
自分が幾ら追いかけても、手を伸ばしても、彼を掴めない、その背に届かない。
こんなに、こんなに頑張ってるのに、彼はまた自分を置いて行ってしまう。


その悲壮な決意に満ちた……重苦しい背中を向けて……!!

 
458第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/13(水) 00:00:31.15 ID:fd8xy+H0
「ねえ岡部! こっちを見てよ! ねえってば! 岡部ぇっ!!」

夢の中で必死に絶叫しても、彼の背は黙したままで何も語ってくれない。
そんな焦燥、そんな絶望。
彼と会っているとき、彼の側にいるときは、そんな事も忘れていられる。
岡部倫太郎の隣にいられる、それだけで満たされるから。
でも、けれど、一人になると……途端に押し寄せてくるのだ。

あの時のあの気持ち、あの切なさが、
あの狂おしいほどに彼を求める気持ちが。
いくら求めても決してたどり着けない、手に入らない……そんな孤独な想いが。


それが……違ったというのだ。


彼もまたずっと、ずっと自分を求めていてくれた。
ずっと前から自分を愛しいと思っていてくれた。自分と同じように。
一方通行じゃなかった。なかったんだ。

それは神社で互いに愛を告白し合った時と同じ、いやそれ以上の強い充足と昂ぶりを彼女にもたらして……

「わたっ、私も……っ、私も、岡部……っ、私も岡部とずっとこうしたかったぁ! こうしたかったの! こうしたかったよ!」

心の内から溢れる気持ちが止まらない。止められない。

「お、おい、紅莉栖、どうした、紅莉栖っ!!」
「ひくっ、ふぇ、う、あ……おか、べぇ……ふぇぇ、ひっく、ふぇぇぇぇぇ、ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……っ!」

気づいた時……牧瀬紅莉栖は、大粒の涙を流し滂沱していた。




互いにずっと一方通行だと思い込んでいたその気持ち……
各々が必死に伸ばしていた手が……今、やっと繋がれた。




 
459名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 00:01:46.91 ID:DLgz2qWF
というわけで今宵はここまでー
それでは皆様また次回にお会いしましょう ノノシ
460名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 00:19:07.00 ID:LaMsAQVb
いい話ダナー

   /.   ノ、i.|i     、、         ヽ
  i    | ミ.\ヾヽ、___ヾヽヾ        |
  |   i 、ヽ_ヽ、_i  , / `__,;―'彡-i     |
  i  ,'i/ `,ニ=ミ`-、ヾ三''―-―' /    .|
   iイ | |' ;'((   ,;/ '~ ゛   ̄`;)" c ミ     i.
   .i i.| ' ,||  i| ._ _-i    ||:i   | r-、  ヽ、   /    /   /  | _|_ ― // ̄7l l _|_
   丿 `| ((  _゛_i__`'    (( ;   ノ// i |ヽi. _/|  _/|    /   |  |  ― / \/    |  ―――
  /    i ||  i` - -、` i    ノノ  'i /ヽ | ヽ     |    |  /    |   丿 _/  /     丿
  'ノ  .. i ))  '--、_`7   ((   , 'i ノノ  ヽ
 ノ     Y  `--  "    ))  ノ ""i    ヽ
      ノヽ、       ノノ  _/   i     \
     /ヽ ヽヽ、___,;//--'";;"  ,/ヽ、    ヾヽ
461名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 00:38:52.87 ID:sQg6MIMp
イイヨイイヨー、モリアガッテキタヨーーー!!!
乙!!
462名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 22:40:35.04 ID:mcqMC9/5
俺もズボンを下ろしながら泣いてるよーウエーン
463名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 23:29:35.32 ID:fd8xy+H0
こんばんはー
今日も京都手更新していきます
ちょっと短めですが
464第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/13(水) 23:31:59.70 ID:fd8xy+H0
8−24:2011/02/13 21:59 

「ひくっ、ひっく、んく……っ」

牧瀬紅莉栖が突然大泣きを始めて慌てた岡部倫太郎だったが、とりあえず隣に座り彼女をそっと抱き寄せて、落ち着くまでその背を優しくさすってやった。

「ん……もう大丈夫」
「まったく……驚かせるな」
「……ごめん」

すん、と小さく鼻を鳴らし、泣き腫らした瞳で岡部倫太郎の胸板から顔を上げ、彼を上目遣いに見つめる牧瀬紅莉栖。
それだけで易々と心臓を射抜かれてしまった岡部倫太郎は、そのまま彼女をぎゅっと強く抱き締める。

高揚とも興奮とも違う、不思議と満たされた気分……
きっとこうして朝まで抱き合っていても満足できるに違いない……二人は互いにそんな事を感じていた。


けれど……


「ね、岡部……」
「なんだ?」
「……して?」
「ぐむぅ!?」

静かで、落ち着いていて、彼女にしては驚くほどに優しく……それでいてどこか甘えた、そんな口調。
そんな声で、そんな口調でそんな事を囁かれては……岡部倫太郎の脳がパニックを引き起こすのも仕方のない事だった。
465第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/13(水) 23:34:34.59 ID:fd8xy+H0
「ほ、ほ、本気か、助手よ」

思わず反射的にいつもの呼び方をしてしまった岡部倫太郎に、牧瀬紅莉栖はあろう事か微苦笑しながら彼の胸にもたれかかり、目を細めて囁くような声色で彼を責める。
あくまでも甘い、蕩けるような口調で。

「……くりす」
「む、なんだ、そうした?」
「く・り・す」
「な、なにっ!?」
「さっきまでみたいに紅莉栖って呼んで……ね、岡部?」
「〜〜〜〜〜っ!! く、紅莉栖……っ!」
「うん」
「紅莉栖……!」
「……はい♪」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜うごごごごごごご」

頬を染め、恥ずかしそうに返事をする、素直極まりない牧瀬紅莉栖。
それは岡部倫太郎にとって眼前に核爆弾を叩きつけられるレベルの、まさに致死量相当のダメージであった。

「紅莉栖、あー、紅莉栖、紅莉栖……っ!」
「ハイ。うん……なに、岡部?」
「済まん……もう、耐えられそうに……ない……っ!」
「きゃ……っ?!」

真摯たろうと、紳士たろうと必死に押さえつけてきた欲情が、劣情が、彼女のおねだりによって完全に決壊してしまった。
岡部倫太郎は彼女を抱き締めたままソファに押し倒すと、その後両腕をついてやや強引に組み伏せる。
466第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/13(水) 23:41:16.78 ID:fd8xy+H0
「ぁん……落ち着いて岡部、もう逃げたりしないから……」
「あ、ああ、わかっている。わかっているとも……だが仮にお前が逃げ出そうとしても無駄だ。俺は……決してお前を逃がさない。ああ逃がすものか。そんな気はさらさらないぞ、紅莉栖……っ!」
「うん。捕まえていて岡部……ぎゅ、って、して? 私も……私も岡部とずっと一緒が、いい……っ」

潤んだ瞳でそう告げて、両手を広げて岡部倫太郎を迎え入れる牧瀬紅莉栖。
二人は互いの唇を奪い合い、貪り合い、互いの身体を揉みしだき、まさぐって、息を荒げながら徐々に乱れてゆく。

「……もう、濡れているのか」

ストッキングの上から指を這わせ、岡部倫太郎が呟く。

「ん……っ、当たり前でしょ。岡部と……してるんだぞ?」

恥ずかしそうにもじもじしながら、脚をよじり合わせて……だがすっかり素直になった牧瀬紅莉栖が心の底からの本音を告げる。

「見ても……いいか?」
「うん……岡部が、見たいなら」

羞恥にもぞ、と身悶えながら、だが過剰に恥ずかしがる事もなく、牧瀬紅莉栖はゆっくりとストッキングを下ろしてゆく。
全ての下着をテーブルの上に擲って……そして、遂に彼女の下半身が顕わになった。
467第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/13(水) 23:42:55.84 ID:fd8xy+H0
「……そういえばお前の生足を見た記憶があまりないな。少し新鮮だ」
「ぷ……その感想もどうなんだ」

少し微笑んだ後、僅かに頬の赤味を強め。牧瀬紅莉栖が小声で尋ねる。

「もっと……見たい? いっつも、私の脚……」
「魅力的な提案だが……やめておこう」
「そうなの? 岡部は黒スト派?」
「馬鹿を言え。それならば何故今脱がす。もっと単純な話だ」
「単、純……?」
「お前の脚を、他の男どもに軽々しく見せたくない」
「ばか。でも、嬉しい……♪」

いつもなら真っ赤になって発狂している場面だが、すっかり素直になった今の彼女は恥ずかしそうに微笑むのみだ。
そんな彼女の笑顔に再び胸を焼かれ……岡部倫太郎は軽くその額にキスをする。

「……触るぞ、紅莉栖」
「うん、岡部の好きにして……いいよ。ん……んっ、んくっ、あ、うんっ、ふぁ、やぁっ、あん、おか、べ……っ!!」

指先で、優しく、丁寧に彼女の秘部を刺激してゆく。
甘美な刺激にくぐもった悲鳴を上げていた牧瀬紅莉栖の声は……
だが、すぐに甘い調べをその内に宿し、やがて激しく喘ぎ始めた。
468名無しさん@ピンキー:2013/02/13(水) 23:44:28.60 ID:fd8xy+H0
ふっきれた助手ってすっごい素直で甘えてくると思うんですよ
……オカリン限定で
まあそんなわけで今宵はここまでー
次回またお会いしましょう ノノ
469名無しさん@ピンキー:2013/02/14(木) 00:01:37.22 ID:cXyqQmfl
普段なら壁を殴るどころか爆破したいところだが、
オカリンなら許せる、不思議!
乙!!
470名無しさん@ピンキー:2013/02/14(木) 00:07:38.62 ID:VxpzX93m
         /     \      な、なに急にスレ開くんだお!!
       /  ─   ─\        スレ開く時はノックくらいしろお!!
    /  ( ○)三(○)\
    |   /// (__人_.)   |   .____
    \      |r┬|  /  |\ ‐==‐ \
    / ヽノ  ⌒`ヽ<´    \| ̄ ̄ ̄ ̄|
   / |      \___)⌒ \    ̄ ̄ ̄ ̄
   ` ̄\ \       ,,,, \
        \       /\\ \__
        ゝ,,,__、___/   ヽーヽ___)
471名無しさん@ピンキー:2013/02/14(木) 23:35:17.86 ID:6kBUOyUs
iTunes
472名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 00:03:45.84 ID:D15X5mkz
こんばんはー
今日はちょっと調子が悪いので更新するだけして倒れます……
473第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/15(金) 00:06:21.32 ID:D15X5mkz
8−25:2011/02/13 22:31 

「綺麗な色だ……」

牧瀬紅莉栖の股間部を丹念に観察しながら岡部倫太郎が呟く。

「ばか……そんなところで研究者の本分を発揮するな」

文句は言うがその口調は柔らかで、その声色には拒絶の色は見えない。
岡部倫太郎もまた己の行為を止めるつもりもないらしくさらに顔を近づけてじっくりと視姦する。
既に彼の手指によって十分にほぐれたその部分はすっかり濡れそぼっていて、とろとろと淫らな液体を分泌していた。

試しに指を丁寧に突きこむとくちゅり、という卑猥な音と共にその指が静かに沈みこんだ。
そして同時にぴくん、と彼の左右に広げられた太股が震え、上体を僅かの反らした牧瀬紅莉栖の切なげな声が深夜のラボに響いた。

「随分と敏感なのだな、紅莉栖」
「そ、んなの、わかん、ない……わよ……っ、んっ、んふっ、んん〜〜っ!」

くちゅ、くちゅり。
岡部倫太郎は指先で彼女の秘部を弄りながらなんとも意地の悪い質問をする。
だが牧瀬紅莉栖はそれにできる限り素直に答えようとしていた。

「紅莉栖……お前は自分で慰めたりするのか?」
「ふぇっ!? え、ええ〜っと岡部、答えなくちゃ……ダメ?」

一瞬驚いた後、恥ずかしそうに身を縮めた牧瀬紅莉栖が、頬を染めながら問い返す。

「あー、いや、別に嫌ならいいのだが」

岡部倫太郎の言葉にますますその肌を薄桃色に染めた彼女は……己の股間を弄繰り回している彼の上から囁くように告白する。

「……する、よ」
「……………………!!」

ごくり、と喉が鳴った。
拒絶されること前提で、なんの気もなしに尋ねた言葉だというのに、今ではその先が気になって仕方ない。
474第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/15(金) 00:12:31.97 ID:D15X5mkz
「ベッドの中で……ね、岡部のこと思い出しながら、一人で……その、岡部がいじってるそこを、こう、んっ、ゆび、で……んんっ!」

ひくん、とその身をよじりながら、牧瀬紅莉栖が岡部倫太郎の眼前で秘所に指を突き込み、激しくその身を揺らし、悶える。
彼女の声には艶があり、それでいて切なげで、秘部から漏れ出る淫猥な音とともにそれを眼前で見せ付けられた岡部倫太郎は頭がクラクラしてきた。
まさか己で慰めているかどうか聞いただけなのに、己をオカズにして目の前で実演してくれようなどとは思いもしなかったのだ。

「……ま、ますます溢れてきた、な」
「ん……っ、だって岡部が、岡部が見てる……あっ、岡部が見てるんだからぁ……ん、んん〜っ!」

告白しながら自ら上り詰め、今にも目の前で達しようとしている牧瀬紅莉栖の腕を……岡部倫太郎が掴む。

「ふぁっ?! おか、べ……?」
「俺にも……させてくれ、紅莉栖」
「ひゃうっ!? うん、うん、して、んくぅっ! 岡部、好きにして、いっぱいして、ぁんっ、きゃうっ!!」

岡部倫太郎が彼女の股間へとさらに顔を近づけ、やがてぴちゃ、ぴちゃりと音を立てる。
牧瀬紅莉栖は背筋をぶるりと震わせて、襲い来る快楽に身を任せ嬌声を上げた。

「ひうっ! ひゃぅぅっ! お、おかべがっ、岡部がわたしのアソコ舐めてるっ! ひんっ! す、啜ってるよぉ……きゃうっ! ひんっ!!」
「あそこじゃわからん。もっとはっきり言ってくれ、紅莉栖」
「ひう……っ?! プ、プッシー、ヴァ、ヴァギナ、おまんこっ! おまんこ舐められてるのぉっ!」

びくん、びくんとその四肢を跳ね悶えさせながら、彼の顔面を両腿で挟み込むようにしてぎゅうと締め付ける。
だが岡部倫太郎の舌は止まる事なく彼女の膣の外を、内を攻め、ねぶり、啜り、そして嚥下した。

やがて……彼の瞳が、充血しつつぷっくりと膨らんだ……彼女の陰核に向けられる。
目の前の男の事を懸想しながら幾度もその部分を慰めたことのある彼女は、これから己の身に起こり得るであろう事を用意に演算し、本能的に恐怖する。
475第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/15(金) 00:14:37.03 ID:D15X5mkz
「ひぁ、ひゃぁぁ……お、岡部、そ、そこは……やぁ、やだ、だめぇ、今そこつんってされたら、されたらぁ……ひっ!? や、ふぁぁぁあああああああああああああああああああっ!!?!」

絶叫と共に大きく弓なりに背を反らす。
全身を瘧のように震わせた彼女は、そのままくたりとソファに背中から崩れ落ちた。

「大丈夫か、紅莉栖」
「ひぁ、ひゃ、ひゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……っ♪♪」

ひくん、ひくんと全身を震わせ、ぐったりとソファの上で弛緩している。口の端しからはみっともないほどに涎が垂れ流されていた。
岡部倫太郎によってたっぷりと己のヴァギナを、そしてクリトリスを攻め嬲られた彼女は今やすっかりその正体を失い、とろとろに蕩けきった表情で虚ろに虚空を眺めている。
身体はすっかり汗にまみれ、白衣を濡らし、涙と涎が垂れ流されてなんともだらしな風情である。

「ふう……これだけ濡らせば大丈夫か」
「もう……少しは、加減、しなさい、よぉ……っ」

息も絶え絶えに牧瀬紅莉栖が呟く。
半泣きの声ながら、だが非難は混じっていても拒絶の色は皆無である。
目の前の男のする事を、全て受け入れている声色なのだ。

「…………………」
「ふぁ……おか、べ……?」

無言のまま、上体を起こした岡部倫太郎が己の裸体……性格には全裸白衣にネクタイだが……を見下ろしている。
その視線に牧瀬紅莉栖は恥ずかしそうにその肢体をもぞ、と蠢かせたが、不必要に胸や局部を隠すような姿勢は取らなかった。
もっと見て欲しいのだ。己を、己の身体を、岡部倫太郎に。

けれど……彼のその黙視は、彼女の望んでいるそれとは少し異なっている。

「しかし……ここまで濡れるものなのだな」
「当たり前でしょ。好きな男にされてるんだ、ぞ……っ」

先刻彼に攻めねぶられた余韻が下半身を襲い、喋りながらも途中で全身をぶるりと震わせる牧瀬紅莉栖。
その答えに……岡部倫太郎は改めて感慨に耽る。
476第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/15(金) 00:17:03.82 ID:D15X5mkz
あれは……一体どれくらい前の事だったのか。
期日で言えばそれほど昔でもない。それこそ明日、未来の話である。
だが岡部倫太郎の感覚的には既に数ヶ月前の話になる。いや、もしやしたら半年以上過ぎているのかもしれない。

牧瀬紅莉栖との……本当の意味での初体験の夜。

あの時岡部倫太郎はいっぱいいっぱいで、自分の状態も、相手の事も考えていなかった。
落ち着いて考えればテンパっていたのは自分だけではなく、牧瀬紅莉栖もまた己のことだけで手一杯だったはずで、こちらを気遣う余裕もなかったはずだ。

お互いが相手を求め懸命に手を伸ばしていたのに、相手の事を見ていなかった。
上手く行くはずがなかったのだ。
結局のところ、互いの名を叫びながら、あの時はお互い自分の事しか考えていなかったのだから。

それが……今はどうだろう。
彼女はこれほどにその身を火照らせて、すっかり挿入の準備を整えていて、自分を求めてくれている。
セックスに及ぶまでにしっかりと気分を盛り上げておくことで、前戯をしっかりしておく事で、ここまで変わるものなのだ。

岡部倫太郎は……ラボの仲間にそれを教わったのだ。
なにも知らぬ己の初めてを導いてくれた阿万音鈴羽。
育んだ気持ちは痛みを凌駕すると教えてくれたフェイリス・ニャンニャン。
どんなものであれ、真摯な想いは相手の心にしっかりと届くのだと気付かせてくれた漆原るか。
ただそこにいる……それだけで満たされることもあるのだと学ばせてもらった桐生萌郁。
そして技術より大事な気遣いがあると、互いが求め合う大切さを知らしめてくれた椎名まゆり。

その全員の……誰が欠けていてもきっとここにはたどり着けなかっただろう。
大音声でその感謝の言葉を喧伝したい気持ちを必死に抑え、目を閉じ、掠れるような小さな声で感謝の言葉を呟く。
477第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/15(金) 00:18:01.51 ID:D15X5mkz
「彼女達に……限りない感謝を」
「おか、べ……?」

不思議そうに、だがどこか物憂げな様子で岡部倫太郎の名を呼ぶ牧瀬紅莉栖。
彼の様子が少しおかしい事に気付いたらしい。

「いや、なんでもない。それより紅莉栖、そろそろ……いいか?」
「! ……うん、来て……岡部」

両手を広げ、岡部倫太郎を迎え入れる牧瀬紅莉栖。
その表情は普段の彼女が信じられぬほどになんとも柔和で、一瞬女神に招かれているのかと錯覚してしまうほどだった。

岡部倫太郎は……そっとスキンを取り出し、彼女に気付かれぬ程度に慣れた手つきでそれを装着する。

「ゆくぞ……!」
「うん、あ、ん、そこ、んっ、くぅっ、あ、ふぁ……あぁあぁあぁぁああああああああああああああああああっ!!!」

ずぶり、と挿入の岡部倫太郎の陰茎が彼女の陰唇を貫いてゆく。
破瓜の痛みに牧瀬紅莉栖が絶叫し、彼の背中に爪を立てた。

けれど……彼女は拒まなかった。
彼を殴ることも、押し返すことも、蹴り飛ばすこともなく、むしろ逆にぎゅっと岡部倫太郎を抱き締め痛みを紛らわせようとする。

そう、交合は為ったのだ。




二人は……遂に結ばれた。




 
478名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 00:20:00.81 ID:D15X5mkz
というわけで今宵はこーこーまーでー
バレンタインを主題にしたお話でバレンタイン当日(ちょっと過ぎちゃいましたが)にぴったり結ばれるっていうのは偶然にしても出来すぎですねw
これもひとえに皆様のご声援の賜物でございます m(_ _)m
そのことに限りない感謝しつつ、また次回にお会いしましょう……ガクリ
479名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 00:24:17.53 ID:2wo095xE
ワロタ
紅莉栖さん暴走しすぎやでw
480名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 00:26:12.58 ID:CmjhLonD
すげぇ
生まれて初めてバレンタインに歓喜した気がするwww
・・・ふぅ
481名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 02:35:09.57 ID:+vuSfIiU
>>478
乙乙。体調には気をつけて…。
482名無しさん@ピンキー:2013/02/15(金) 07:28:28.89 ID:DJPQhAMO
おっつ
483名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 00:23:24.37 ID:AFHceAPY
偶然なんかじゃない。すべてはシュタインズゲートの選択だ
484名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 00:25:18.53 ID:qeElzgMw
職人さんまだ寝込んでるのかなw
485名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 02:02:49.01 ID:WhtXkoTX
こんばんは
寝オチしました
今日で八章が終わりなので勢いでそのまま上げてから寝ます
486第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:06:19.12 ID:WhtXkoTX
8−26:2011/02/13 22:45 

「ん……んん……っ!」
「大丈夫か紅莉栖、痛いか?」
「ん、痛、い……正直すんごく痛い」

呻くようにして牧瀬紅莉栖が呟き、岡部倫太郎にしがみつく腕の力を強める。

「でも……いいの。覚悟してたから。平気、よ……!」

やや眉根を寄せて、少しだけかすれた声で、告げる。
あれだけお膳立てした上でこれなのだから、彼女の膣は相当に狭いのではないだろうか。
岡部倫太郎自身をぎちぎちと締め付けるその圧力からもそれがわかる。
前回のようになんの前準備もなく挑んでどうにかなるようなミッションではなかったわけだ。

「岡部、ね、動かないの……?」
「いや、少し話をしないか。しばらく時間を置けばお前も少しは慣れるだろう」
「ほ、ほんと……?」
「ああ」

岡部倫太郎の断言に少し安心した風の牧瀬紅莉栖は、だが僅かの間のあとむー、と頬を膨らませ唇を尖らせた。

「やけに詳しいな、岡部」
「ダルの知識だ。間違っていたらすまん」

一瞬ひやりとするがなんとかやり過ごす。
流石に彼女を抱くために他のラボメンガールズ全員を襲ってセックスしてきただなどとは口が裂けても言えない。

「ねえ……岡部、ひとつ、聞きたい事があるんだけど……」
「なんだ」

彼に話しかけるとき、牧瀬紅莉栖は一瞬躊躇した。
岡部倫太郎はそれに気付きつつも、そのままスルーする。

彼女が尋ねてくることは……多分“あのこと”だ。

彼には、ある種の確信があった。
だから、覚悟してその言葉を待つ。
487第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:21:48.48 ID:WhtXkoTX
「ねえ……なんで、私なの?」


わかってはいても……それは岡部倫太郎の心臓を握り潰し、肺腑を締め付ける問いだった。

彼女が大事だ。牧瀬紅莉栖が大切だ。誰よりも好きなのだ。愛している。
けれど自分にとってのこの激烈な想いほどには、彼女にとって己は大きな存在ではない。
あんなに熱く交わした想いも、唇も、タイムリープと世界線の移動によってなかった事にしてしまったのだから。

そして……同時に、彼女の問いかけは己が抱いてきた他の女性陣のことを記憶から引きずり出してしまう。
彼女達もまた岡部倫太郎にとって忘れられない存在になっていたのだ。
なにせ果てしないほどのタイムリープの中で、それこそ一人ひとり、想いを通じ合わせ肌を重ね合わせてきたのだから。


その二つが合わさって、背徳と欺瞞、自責と断罪とが岡部倫太郎の魂を責め苛んだ。
けれど、それでも、彼が言うべき言葉は決まっていた。
ずっと前からそう問われたときはこう答えようと……心に決めていたのだ。


「俺は……お前に何度も助けられた。幾度も幾度も、それこそ数え切れないほどにな」
「え……? どういうこと? 私岡部をそんなに助けた覚えなんてない」
「お前に覚えがなくとも俺にはあるのだ。わからないなら夢や妄想と片付けてくれてもいい」
「………………!!」

ばくん、と心臓が高鳴る。
夢や妄想で相手の事を幾度も幾晩も想う……それは牧瀬紅莉栖にとって心当たりのありすぎることだった。
そうでもなければいくら命を救われたとて、たった一度しか会っていない相手を二ヶ月も探そうとはしなかっただろう。
488第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:26:23.39 ID:WhtXkoTX
「情けないことに俺はお前に頼ってばかりで、縋ってばかりで……そしてそんな中で、俺はお前に惹かれていったのだ。少しずつ……だがやがて離れがたいほどに」
「わ、私も…………っ!!」

岡部倫太郎の言葉を、思わず漏れた言葉が断ち切る。
だって止まらなかったのだ。止められなかったのだ。内から湧き上がる想いが言葉となって口の端から奔流となって流れ出す。

「私も、ずっと、ずっと惹かれてたの……初めて会った時からずっと……!」
「……紅莉栖?」
「あの日岡部に助けられてから、秋葉原で探して歩き回るたびに、あんたの顔が浮かんできて……っ」

止まらない。止まらない。
びっくりするほどに溜まっていた気持ちが、堰を切ったように溢れてくる。

「見たこともないはずのあんたの顔が、背中が勝手に浮かんでくるの……岡部と一緒になんかを開発したり、議論を交わす妄想なんかしちゃって……でもそれがすっごく楽しそうで……っ!!」
「!! 紅莉栖、お前、まさか……!!」

岡部倫太郎は愕然として目を剥いた。
だってそれは、もし彼の推測が正しければ……
牧瀬紅莉栖が発動させたリーディング・シュタイナーに他ならないのだから。

けれど……彼の様子がおかしい事にもきづかず、牧瀬紅莉栖の述懐は続く。

「でも……途中から岡部の様子がだんだんおかしくなって、なんかすっごく辛そうで、悩んでる感じで、でも私はそんな岡部の大した助けにもなれないで、適当な助言くらいしか言えないで、いつだって岡部は私を置いて先に行っちゃって……
それが悔しくって! 情けなくって! 何度も何度も後悔した! ……ふふ、変でしょ、ただの妄想なのにね。 ……夜中に泣きながら目覚めた事だってあるんだぞ」
「紅莉栖……お前、そんな事を考えていたのか……!」
489第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:30:09.25 ID:WhtXkoTX
それは岡部倫太郎からすれば衝撃的な告白だった。
彼にしてみれば世界線の収束によって己の努力が全て無為に帰す徒労の中、それに光明を当ててくれたのが彼女だった。
彼女の助言があったからこそこの世界線にたどり着き、今こうしていられるのだ。
椎名まゆりの命を救ってくれた恩人でもある。
その事について岡部倫太郎は彼女に感謝してもし切れないと考えていた。

それなのに……彼女自身の気持ちは違っていたのだ。
確かにタイムリープして旅立つのはいつも岡部倫太郎である。
それを見送る側の気持ちを、言われてみれば彼は考えた事がなかった。

そうだ、幾十幾百と繰り返したタイムリープの中、幾つも渡り歩いてきた世界線の中、彼が事情を打ち明け助けを求めたのはいつだって彼女……牧瀬紅莉栖だった。

逆に言えば彼女だけがいつだって事情を理解したうえで、彼が旅立つのを見送っていたのだ。
タイムリープする瞬間、彼女が常に隣にいるわけではなかったけれど……


それでも……目の前で自分を延々と見送り続けた彼女の気持ちは、一体いかばかりのものだったのだろうか。


「初めて会ったあの日より探してる日々の方が、探し歩いていた頃より再会した後の方が、その時よりもずっと……今の方が、貴方が好きなの、岡部……好き」

気付けば牧瀬紅莉栖は落涙していた。
溢れ出た想いに感情が追いつかなかったのだろう。
岡部倫太郎は……彼女を深く深く、そして優しく抱き締めた。

「俺も同じだ、紅莉栖。あの時より今の方が、ずっとお前が好きだ……紅莉栖!」
「岡部、ん、ちゅ、ふぁ、岡部ぇ……っ、あ、んっ! ちゅ、れろ、ちゅ、ちゅ……っ」
490第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:42:05.98 ID:WhtXkoTX
互いに深く結合したまま、一層に強く抱き合い、その唇を貪る。
気付けば……岡部倫太郎の腰が彼女を貫くように動き、牧瀬紅莉栖の下半身もまたたどたどしいながら艶かしく蠢いていた。

「あ、岡部、ん、あ、あ、あ……っ」
「大丈夫か紅莉栖、もう少しゆっくりの方がいいか?」
「ん、へい、き……ちょっとだけ、慣れたみたい。んっ! 岡部の、好きに、して……あ、んあっ! ひゃんっ!?」
「そんな事を言われたら……もう止められんぞ、紅莉栖……!」
「うん、あっ! 止めないでっ、んくぅっ! 止めちゃイヤっ! ひゃうっ!? もっと、もっともっと、いっぱい岡部が欲しい、欲しいよ……っ」
「うお……うおおおおおおおっ! 紅莉栖! 紅莉栖!」
「岡部っ! ああっ! 岡部ぇっ!!」

互いに貪るように腰を動かし、激しく律動する。
互いの名を叫びながら唇を奪うように啜り、舌を絡めあう。

悲鳴と嬌声と、吐息と喘ぎが入り混じり、肉が肉を打ち付け、粘つく液体が抽挿する淫靡な音がそれに加わる。
深夜のラボで、今や言い訳のしようがないほどに激しい愛の交歓が執り行われていた。

「んっ、あ、やっ! 岡部、ああ岡部、岡部ぇ……! ひうっ! あ、強……っ!」
「む……もっとゆっくりの方がいいか?」

激しい律動が僅かに緩み、汗まみれの岡部倫太郎が己の腕の中に問いかける。
だが……半開きの唇の端から涎を垂らし、すっかり蕩けた顔の牧瀬紅莉栖はふるふると首を振った。
491第8章 欣執双和のメテムサイコシス(4):2013/02/16(土) 02:43:30.16 ID:WhtXkoTX
「ううん……もっと強く、して。もっとぎゅうって岡部を刻み付けて欲しいの。あ、んっ、わ、私の中に、岡部が欲しい……っ!!」
「紅莉栖……っ!」
「ふぁっ!? お、岡部、激し……っ!」
「そんなおねだりをされて……もう止まらん、止まらんぞ紅莉栖……!」

岡部の野獣のような叫びに、けれど牧瀬紅莉栖は目を閉じて彼の首に廻した腕を強める。

「うんっ! うん、止めないでっ! ひぁっ!? あ、あああっ!!」

リズミカルな肉の動きと荒い息、そして淫らな抽挿音がラボの中に響く。
我知らず岡部倫太郎の腰に己の両脚を絡ませていた牧瀬紅莉栖。彼女の嬌声には……徐々に強い切迫感が混じるようになっていた。

「岡部っ! おかべぇ、ふぁっ! ね、ねえ、わたし、私なんかヘンっ! なにか来ちゃう! なにか来ちゃうよぉっ!」
「紅莉栖! お、俺ももう限界だ! だ、射精すぞ……っ!」
「うん、来て、来てぇ! 岡部、おかべ……あ、り、倫太郎……り、りんたろ、ぉ……あ、ひっ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」

どくん、どくんとスキン越しに岡部倫太郎の精液が放たれる。
その陰茎の震動が最後の一押しだったのか……

牧瀬紅莉栖は、全身を激しく震わせ、弓なりに背を反らして……絶頂に至った。




(『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ エピローグ 北風で太陽のロジック(前)』へ つづく)
492名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 02:49:32.73 ID:WhtXkoTX
というわけでなんとか第8章、助手ルート完結でございます。
ラボメンの面々が相当乗しての助手攻略いかがだったでしょうか。
一章の頃にオカクリを予想して待っていた方がいらっしゃるなら、半年も(!)お待たせして申し訳ありませんでした。
まさかバレンタイン当日の更新で二人が結ばれるだなんて、ちょっと出来すぎですね。
自分でも驚いています。

助手のファンがほんの少しでも喜んでくれたのなら、
そうでない方が少しでも彼女の事を気に入ってくれたのなら、
そんなエピソードであってくれれば、と思います。

さてこれで全てのヒロインは攻略しました……が、お話自体がこれで終わるわけではありません。
これで本当に世界は救われるのか、果たしてヒロイン達は救われるのか……
そんなエピローグが、もう少しだけ続きます。

感想などいただけたら一層の励みになったり ノノシ
493名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 02:57:46.68 ID:CeKb/AXq
乙です
いよいよ終わりに近づいてますな
494名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 05:38:15.47 ID:QOJamX4q
>>492
助手編完結乙です!!
エロパロという枠にとらわれない完成度、
見つけて一気読みしてしまった頃が懐かしい・・・。

もし、エロパロだけじゃなく他にもSS書いていたりしたら
是非教えてもらいたかったりします!
495名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 11:52:57.64 ID:tlI67euw
>>492
GJ!
半年待ってたが長くは感じなかった
オカクリはエロ、と言うよりもっと他の何かが満たされた感じですがねw
496名無しさん@ピンキー:2013/02/16(土) 20:35:25.45 ID:r2UEAtq9
>>492
乙!
はじまってから半年もたってたのかと逆にびっくりした。
毎日の更新ありがとうございます
497名無しさん@ピンキー:2013/02/17(日) 20:56:18.39 ID:WeNrMtpB
素晴らしい!電子書籍にしても売れるのでは?
498名無しさん@ピンキー:2013/02/17(日) 22:54:26.65 ID:xSOYDJiS
現実世界の話だけどさ
CERNのLHCが2月14日に 約2年間の
"Long Shutdown 1"に入ったんだって
つまりタイムリープできなくなったわけだ

・・・主が奇跡起こしすぎな件
499名無しさん@ピンキー:2013/02/17(日) 23:07:06.63 ID:09WpBsjI
>>498
オカリンぎりぎり間に合ったな。
主何者
500名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 00:29:14.32 ID:Y2C7fiHW
>>498
すげー
501名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 07:53:25.37 ID:IWR1GHzk
>>498
マジかwww

リアル日付でもバレンタインになったり、
ほんとにやり直しがきかない状態になったり、
いろいろと神がかっているなw
502名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 11:35:19.06 ID:51LsKPJY
…実はバレル・タイターなんじゃね?
503名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 11:55:57.68 ID:joJb4diy
落ち着け
作中の時間は二年前だ
それにしても出来過ぎだごがw
504名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 16:00:37.89 ID:9QDzk8Xy
>>503
なんてブーメランw
505名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 19:17:39.95 ID:p22zcU/y
>>503
おまいがもちつけ
506名無しさん@ピンキー:2013/02/18(月) 23:56:39.85 ID:id9c09jl
こんばんは
長かったようでもうエピローグ
時間の経つのは早いものですね
それでは今日も更新させてくださいませ
507エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/19(火) 00:04:12.51 ID:+JgBWZZY
9−1:2011/02/14 07:08 未来ガジェット研究所

翌朝、ラボの中。
岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖はいつもの如き格好で、同じソファに腰かけていた。
ただ昨晩あれだけ愛し合ったというのにどうにも仲睦まじいといった風情ではない。
今もソファの端と端に離れて座り、互いにそっぽを向きっ放しではないか。


……ただし、なぜか二人揃ってその顔を真っ赤に染めたまま、だが。


延々と続く膠着と静寂……互いに寄せられる眉。
時折各々己の髪を乱暴に掻き毟り、或いは頭をぶんぶんと振る。
お互い相手の事を見てもいないというのに、なんとも息の合った挙動である。
だが昨晩のあの睦み合った様は一体どこにいったのだろうか。

(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ……ッ!)
(いかん、いかんいかんいかんいかんいかんいかんいかん……っ!)

……これである。

(冷静になって考えてみたら、わ、私岡部になんかとんでもないこと言っちゃってなかったか?!)
(落ち着いて考えてみたら、お、俺は何かろくでもないことをクリスティーナにしていたような……?!)

そう、先刻から小一時間ほど……二人はこうしてずっと脳内で暴走しっぱなしなのだ。

(お、岡部にあ、あんな趣味があったなんて……ま、まあアキバのオタクなんだから不思議じゃないんだけど……わ、私なんかで喜んでくれたのかな……?)
(ま、まさか助手があれほどノリノリになるとは……元々オタク気質ではあったが素質がありすぎる……)

あの後……牧瀬紅莉栖の初体験を済ませた後、二人は互いに貪るように求め合い、思いつく限りの事をした。
その際にどうやら互いに色々と発見があったらしい。主に性的な意味で。
508エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/19(火) 00:06:56.81 ID:+JgBWZZY
(け、けどそれより何より私! 私岡部の事なんて言ってた!? り、『倫太郎』とか言ってなかったか?! そ、そ、それどころか最後の方なんか……っ!? きゃー! きゃー! なにそれ! なにそれ! 私何様!? ホンッと信じらんない!!)
(助手の事を俺は飽きるほどにこう紅莉栖紅莉栖と……それでまた喜ぶものだから調子に乗って……ああくそ! 俺は一体何様だ! この後一体なんと呼べばいい! どう呼べば助手にもラボのみんなにも角が立たんのだ! ぐおおおおおおおお!)

盛り上がっている間は互いに理性が振り切れていてあられもない淫語も呼び名も好きに言い合えたものだが、いざ事が済んでしまうと中途半端に発達した理性が邪魔をする。

(私、私……これから岡部にどんな顔向けたらいいわけ?! 全然わかんない! わかんないわよー!)
(ええい! お、俺は一体これからどんな顔で助手に話しかけたらいいのだ! まったくもって! さっぱり! わからーん!)

なんというか、いい意味でも悪い意味でも、実にお似合いの二人である。

「「あのー……」」

互いに真っ赤になったままで相手の方を向き、視線を合わせた瞬間全力で逸らす。
そして己の胸をがっしと握り、目をぐるぐる回し唇をわなわなと震わせながら、破裂しそうな心臓を必死で抑えつけた。

「な、なんだっ!」
「そ、そっちこそなによっ!」

互いにそっぽを向きながらつっけんどんに叫ぶ。
そして相手の声を耳にしてますます己を昂ぶらせてしまう。

「あー、えー、そのー、なんだ」
「う、うん、なによ。早く言いなさいよ」
「えー、あー、つまりだなー」
「ええいじれったいわね! 用があるなら早く言って! こっちがもたないからー!」
509エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/19(火) 00:09:01.15 ID:+JgBWZZY
遂に耐え切れなくなった牧瀬紅莉栖が彼の方に振り向いたその時……
岡部倫太郎の唇が、彼女の名を告げた。

「あー……紅莉栖」
「ひゃっ!? ひゃぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!?」

ぶんっと大きく首を廻し、岡部倫太郎から全速力で顔を背ける牧瀬紅莉栖。
その頬はまさに真っ赤と表現していいほどに染め上がっていて、外で見かけたらアルコール中毒を疑われるレベルとなっていた。

「だ、大丈夫か! えー、く、紅莉栖!」
「ひゃうっ! ひゃんっ! 待って! ちょっと待って!」
「ど、どうかしたのか紅莉栖」
「ひゃんっ! だ、だからそれを待てって言ってんの!」
「それ……? それとはなんだ、紅莉栖」
「ひぅぅ?! だ、だから名前名前! 私の名前〜〜〜〜〜っ!」
「ああ……」

岡部倫太郎はようやくに彼女の挙動不審の原因に気付く。

「ならば……これでいいのか、助手よ」
「はー、はー、すっごく不本意だけど、とりあえず……」

顔を赤らめたままぜいぜいと息を吐いている様はまるでどこぞの酔っ払いである。

「……いつもはちゃんと名前で呼べと言っているのに、随分と矛盾しているではないかクリスティーナよ」
「だ、だって無理! 無理無理ムリムリム〜リ〜〜! 名前で呼ばれると色々思い出しちゃうの! 昨日のあんなこととかこんな……あ〜〜〜〜〜〜! もう恥ずかしくってあんたの顔が正視できない!」
「そ、そういうものか……?」
「あー! 疑ってるな! よーしじゃああんたにも味合わせてやる! 覚悟しなさいよ!!」
510エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/19(火) 00:11:56.37 ID:+JgBWZZY
岡部倫太郎を指差して非難した牧瀬紅莉栖は身体ごと彼に向き直り、足を揃え、居住まいを正し、両手をちょこなんと膝の上に乗せ、身を竦め、耳まで赤く染めながら……もじもじと上目遣いで彼の名を囁いた。

「り、倫太郎……さん」
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!?」

もんどりうって床に落ち、そのまま真っ赤になった己の顔面を鷲掴みにしてごろごろと転げまわる岡部倫太郎。
同時に自分で吐いた台詞のあまりの恥ずかしさにこちらはこちらで悶絶しその身をよじらせ小刻みに震わせる牧瀬紅莉栖。

「ハァー、ハァー、すまん助手よ、お前の気持ちよくわかった」
「でしょう……?」

どっかとソファに座り直した岡部倫太郎が額に手を当て青白い顔で呟く。
やや離れたところにはこれまた妙に疲労困憊した牧瀬紅莉栖。

「……しばらくはいつも通りで呼び合うとするか、クリスティーナ」
「そうね、なんかすっごく不本意な気もするけど。私もあんたの事当分岡部って呼ぶから」

ハァ、と互いに溜息をついて、ようやく相手の顔を見つめ合い苦笑する二人。
三歩進んで二歩下がった塩梅だ。
まったくもって面倒なことこの上ない。
511名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 00:12:35.32 ID:+JgBWZZY
それでは今宵はここまでとさせていただきます
また次回お会いしましょう ノノシ
512名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 00:28:54.99 ID:TDfBqvVt
意見などこの場で言ってやる。
このSSで家の壁が破壊される。以上だ。
513名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 02:00:07.44 ID:6Ay8MG54
いいっすなー
514名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 05:47:21.58 ID:tZbQM+ZM
乙です!
オカクリが珍しくくっそ甘いバカップル展開だと思ったら、そういうことかw
いいぞ!いい壁の無くなりっぷりだ!
515名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 06:20:06.21 ID:SGsBGxkm
お前らずっとそうやってイチャイチャしてろクッソwwwwwwwwww
516名無しさん@ピンキー:2013/02/19(火) 07:26:49.11 ID:oXlQrLyT
それでもオカリンなら許せる!

・・・と思っていた時期が俺にもありました。

爆発しろ。
517名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 00:12:07.56 ID:KrFrx5uB
こんばんは
ちょうど今帰ってきたところです
嗚呼忙しい……
とりあえず更新するだけして寝ます……
518エピローグ 北風で太陽のロジック(前)::2013/02/20(水) 00:15:54.23 ID:KrFrx5uB
9−2:2011/02/14 07:22 

「い、言っとくけどな、別にいつもの呼び方がいいって言ってるわけじゃないんだからな! た、ただまだちょっと記憶が鮮明すぎて恥ずかしいのが先に来ちゃうって言うか……」
「わかっている。俺だってもうちゃんとお前の事を名前で呼びたい」
「岡部……」

昨日散々抱き合い愛し合い甘い言葉を囁き交わしていた分際で、今更ながらにその程度の台詞できゅうん、と胸をときめかせてしまう牧瀬紅莉栖。
なんというか岡部倫太郎限定で実にお安い娘である。

「わ、私だった、私だってなぁ! お、岡部のこと、ちゃんと、名前で、呼びたい、もん……っ」

ときめきゲージが少し振り切れてしまったのか、ソファに座ったままいそいそと岡部倫太郎の隣まで移動して、肩と肩が触れ合うほどの距離で彼を見つめる。
その熱い眼差しに不覚にも胸を高鳴らせてしまう岡部倫太郎。


頬を真っ赤に染めた二人は、互いに相手をじっと見つめ、やがてどちらからという事もなくゆっくりと顔を近づけて……


「トゥットゥル〜〜♪ おはよーなのです!」
「「わあああああああああああああああああああああああっ!?」」

唐突に大きく音を立て開かれた扉から、寒風と共に椎名まゆりが入ってきた。

「……オカリン、クリスちゃん、どうしたの?」
「あは、あははははははははは、な、なんでもないのまゆり」
「あー、うむ、ちょうどマシンの開発が一段落ついたところでな、今後の事を相談していたところなのだ!」
「そ、そうそう、そうなのよ!」
「ふ〜ん?」

きょとんとした顔で首を捻る椎名まゆり。
519エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/20(水) 00:24:19.25 ID:KrFrx5uB
彼女が部屋に入ってきた瞬間に大慌てで距離をあけて座りなおす二人。
あまりに突然の事だったため岡部倫太郎の方などは半ばソファからずり落ちるような格好である。

「そ、それよりどうしたのだまゆりよ、珍しいではないかこんな朝早く。今日は学校だろう」

ソファから立ち上がり尻をはたきながら、岡部倫太郎はこの時間にはなんとも珍しい来訪者である椎名まゆりの様子を観察する。
そもそも徹夜作業でもない限りこの時間のラボにまず人はいない。そして昨日はラボメンに一日休暇を言い渡してあり、その事は彼女にもしっかりと伝えてある。
つまり普通に考えれば今この部屋には誰もいないはずなのだ。
それがわかっていて……なぜ彼女はこんな朝早くからここに訪れたのだろう。

「学校にはちゃんと行くよ〜。でもその前にオカリンに会いたかったのです。えっへへ〜♪」

機嫌よさげに笑う椎名まゆりは、よく見ればちゃんとセーラー服に身を包んでいる。つまり登校前というわけだ。

「俺がいるとどうしてわかったのだ? 昨日は休みだと言ってあっただろう」
「いるかどうかは知らなかったよ〜、でもオカリンなら朝にはラボに来てるかな〜と思って、だからオカリンが来るまで待ってようかな〜って思ってたの。まさかもういるなんて、ほんとラッキーだよー♪」
「そ、そうなのか……」

明るく元気な椎名まゆりはラボのムードメーカーであり、最初期のラボメンでもある。基本的にはいつだって大歓迎……なのだが、流石に今は少々間が悪い。

「あー、で、だまゆりよ。学校に行く前に俺と会って済ませておきたい用件とは一体なんなのだ?」
520エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/20(水) 00:26:37.50 ID:KrFrx5uB
彼女はこの後学校がある。用件さえ済めば早々に退散するはずだ。
岡部倫太郎はそう判断し、彼女の用事について軽く尋ねてみた。

「え〜? どうしうかな〜? ねえオカリン、今じゃないとダメ?」

だが椎名まゆりはなぜかこの期に及んで言いよどむ。それも妙に恥ずかしそうに、照れ臭そうにだ。
そして……なぜかちらりと牧瀬紅莉栖に視線を走らせる。

「あー、できれば手短に頼みたいものだが……」
「ん〜、わかった。それじゃあオカリン、あのね……?」

いつもはもっとストレートな彼女が、やけにもったいぶって……



背中に隠してあった、ラッピングされたチョコレートを差し出した。



「あのねあのねオカリン、まゆしぃの気持ち、受け取ってほしいのです……」
「は……?」

赤くなって、もじもじ、と差し出されるハート型のチョコレート。
毎年恒例といえばその通りなのだが、彼女の挙動が明らかに例年と異なる。

岡部倫太郎と視線が合うと両手を前に差し出したままぽぽぽ、と頬を染める椎名まゆり。
これでは恒例行事ではなくまるで本気の愛の告白ではないか。

「まゆり……?」

どうしよう、どうすればいいのだろう。
岡部倫太郎は完全に硬直した。

自分は牧瀬紅莉栖と付き合うことになったから受け取れないと言うべきだろうか。
恒例の行事だからと当たり前のように受け取るべきなのだろうか。

下手に受け取ると牧瀬紅莉栖へ失礼なような気がするし、かといって受け取らないでおいて椎名まゆりを悲しませるとそれはそれで彼女の逆鱗に触れそうな気もする。
いや、そもそもこの段階で二人が付き合っているとラボメンに明かしてしまっていいのだろうか。その点については牧瀬紅莉栖と同意が取れていないではないか。


岡部倫太郎が助けを求めるように彼女の方に振り返ろうとした、ちょうどその時……
521名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 00:27:22.63 ID:KrFrx5uB
というわけでちょっと短めですが今宵はここまでー
それではまた次回にお会いしましょう
522名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 00:37:58.14 ID:l9iHCaN/
いいところで終わらせやがるぜ…
523名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 00:55:22.78 ID:3Z05LbJ3
ここにきてまゆしぃ再参戦だと…!?
まさか、オカリン以外にも微弱にリーデ


[文書はここで途切れている
筆者は何者かによって排除されたようだ]
524名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 07:07:53.69 ID:MZfiCFuH
ダル「リア充は爆発すべきだお」
525名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 07:13:52.24 ID:SY9MrKU/
修羅場キタ――――(゚∀゚)―――― !!!?
って、おいおい…。
526名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 07:57:12.79 ID:9oUkn9Wn
おいいいいいいいいいいいいいいい!?
てっきりマジでハッピーエンドのエピローグ一直線かと思ったら…

誰もが思ったと思うが、>>520は本気で小説家を目指してもいいと思う。
527名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 10:37:08.53 ID:z8DiMp+H


>>526に同意。っていうか>>520は本職の人なのでは?
528名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 11:09:05.74 ID:3Z05LbJ3
この作品も冊子化して同人誌として売ればいいんじゃないか?
529名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 13:15:38.44 ID:htfsCCln
同人エロゲとして売り出してもいいのだぜ?
だーりんのるか子ルート等の駄シナリオより断然おもろいし、続きが気になる。
530名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 17:39:54.22 ID:CtJ7f/vJ
駄シナリオゆーなw
まぁ、フェイリス・萌郁・まゆりルートと助手・鈴羽・ルカ子ルートで天国と地獄なのは認めるが。
531名無しさん@ピンキー:2013/02/20(水) 21:56:50.25 ID:sQXpJ0od
だーりんはぶっちゃけ、フェイリスもえいくまゆり補完ゲーだったからしゃーない
532名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 01:28:54.59 ID:v1/hpGXl
こんばんは
今帰ってきました
更新するだけして倒れます……

あと総40万字くらいあるので薄いラノベでだいたい4冊分くらい
文字媒体の同人誌で出すにはちょっと大杉やしないですかね
533エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 01:33:19.45 ID:v1/hpGXl
9−3:2011/02/14 07:30 

「岡部、君……いた……」
「し、指圧師!? ど、どうしたのだこんな朝早く」

椎名まゆりの背後の扉が再び開き、寒風吹き荒ぶ中桐生萌郁が部屋の中へと入ってきた。
手には大きめな手提げのバッグを持っている。とはいえブランド品の類ではなく単なる買い物袋かなにかのようだが。

「おいおいどうしたのだ指圧師よ、もしかして寝てないのか?」

桐生萌郁の顔はなんとも酷い有様だった。
この寒空の下化粧もしていなければ目も充血していて、さらには目の下には隈までできている。

「ん……へい、き……」
「平気という顔ではないぞ! ちょっと待っていろ!」

シャワー室で蛇口を捻り、しばらく待って温水が出たあたりで手近にあったタオルを濡らす。
取って返した岡部倫太郎は、そのまま桐生萌郁の顔を甲斐甲斐しく拭いてやった。

「ほれ……これで少しはマシになった。まったく、お前も一応女なのだから身だしなみにも少しは気を使え」
「ありが、と……」

身格好に関して岡部倫太郎からツッコミを入れられる時点で桐生萌郁のズボラさも相当なものである。
ただ自分の顔が彼に丹念に拭われている間、彼女は頬をじんわりと染め、無表情ながらなんとも嬉しそうに見えた。

「で……一体何があったのだ指圧師よ。事件でもあったのか? 機関の陰謀か?」

岡部倫太郎の問いにふるふる、と首を振る桐生萌郁・

「ではなんだ、俺の助けが必要な事なのか?」
「ちが、う……」

そして再びふるふる、と首を振る。
534エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 01:36:53.13 ID:v1/hpGXl
「ならば一体なんなのだ! お前がこんなに朝早くここを訪れる以上何か特別な事態なのだろう?!」

苛立たしげな岡部倫太郎の言葉に……しばし考え込んでからこくん、と肯く桐生萌郁。
岡部倫太郎とのみ会話しているとはいえ、彼女がメールを一切使っていない時点で本来ならば一大事なのだが、状況が状況だけに岡部倫太郎はそれをつい看過してしまう。

「岡部くんの、助けは、いらない、けど……」
「けど……なんだ」
「岡部くんは、必要……」
「はぁ? ますますもってわけがわからん。いいから早く用件を言ってくれ!」
「わかっ、た……」

両手を大仰に広げた岡部倫太郎の言葉にこくん、と肯いた桐生萌郁は、もぞもぞ、と手にしたバッグから何かを取り出す。
それは……大きな漆塗りの三段お重であった。

「……なんだ、それは」
「チョコレート……」
「なにっ!?」

三段重ねのお重という形状から凡そ最も似つかわしくない回答に岡部倫太郎は素っ頓狂な声を上げ、チョコ、という言葉に椎名まゆりがぴくんと反応する。
そして……岡部倫太郎の背後から何やら少々剣呑な空気が漂い始めた。

「チョコ……というとあれか、ヨーロッパの中ほどにある……」
「それはチェコ共和国……これは、バレンタインチョコ……」
「っ!!」

冗談で誤魔化そうとしたところにストレートでカウンターを喰らう岡部倫太郎。
桐生萌郁の顔は無表情で何を考えているか良くわからぬ……が、かつてタイムリープによって幾度も彼女とのデートを繰り返してきた岡部倫太郎には、彼女が恥ずかしがりながらも精一杯平静を装おうと必死に努力している様がありありとわかった。
思わず抱き締めて応援してやりたくなる……が、すんでのところで自制する。
そう、彼女との想い出はもう消えたのだ。覚えているのは……この世界で自分だけのはずである。
535エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 01:45:16.65 ID:v1/hpGXl
「頑張って作ったんだけど、上手くいかなくって、やっとできたと思ったら、朝になっても固まってくれなかったから……そのまま、もってきた……」
「……それは温めすぎなのではないか。テンパリングが上手くいかなかったのだろう」
「そう、かも……」

テンパリングとは湯煎したチョコレートを固めるための温度調節作業である。
もしこれに失敗してしまうとチョコレートは風味も落ちれば粉も噴く。特に60度以上に熱したチョコレートは二度と固まらないという。単に温めたものを冷やすだけではないのである。
岡部倫太郎は幾十幾百にも及ぶタイムリープの中で、漆原るかやフェイリス・ニャンニャンから手作りチョコレートの製法や豆知識について色々と聞いていたため容易に彼女の失敗の原因が推測できた。
そもそも基本的にズボラな桐生萌郁があんな厳密な温度管理などできるはずないのだ。

「で、そのままお重に詰めて持ってきたというわけか」
「そう。だから……チョコ・フォンデュ……」
「わー、バナナだ〜♪」

脇から上がる椎名まゆりの歓声。
お重の上の二段にはバナナやキュウイ、イチゴなどの果物と焼き鳥用の木串が入っている。これで果物を突き刺してチョコに漬けろということらしい。
そして三段目にはなみなみと茶色の液体。よく見れば縁から少々垂れている。

「岡部くん、食べて、くれる……?」
「ぐむぅ……っ」

首を傾げて問いかける彼女の表情には一見なんの変化も見出せないが、ラボの中でただ一人、岡部倫太郎だけは彼女の不安げな様子がよくわかった。もし断られたらどうしよう……そんな湧き上がる不安に彼女なりに勇気を振り絞って立ち向かっているのだ。
536エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 01:47:58.48 ID:v1/hpGXl
……手に取りたい!
口にして美味いと言いたい!
たとえ味に多少問題があっても良く頑張ったなと頭を撫でてねぎらってやりたい!

岡部倫太郎は無性にそんな衝動に駆られる。
だってあの桐生萌郁が頑張っているのだ。今まで手作りチョコなぞロクに作ったこともないだろう彼女がきっと本なりネットなりで調べて一生懸命に作ってくれたのだ。
よくよく見ればお重を持つ手には幾つも絆創膏が巻かれている。きっと火傷してまで徹夜でチャレンジしていたのだろう。目の下の隈もきっとそれが原因に違いない。

その上で固まらなかったものをチョコフォンデュというアイデア賞で曲がりなりにも人が食べられる代物にして持ってきているのである。彼女にしては相当な努力と苦心の結晶なのだろう。

そんな彼女の想いを……彼女なりの誠意を無にするのは、岡部倫太郎には凡そ耐え難いことだった。
けれど彼女のチョコに手を出した瞬間、椎名まゆりのそれを無視するわけにもゆかぬ。


そして……それらの行為の審判者は、岡部倫太郎の背後に控えている。
たらり、と筑波山の名物のように脂汗を流す岡部倫太郎。
正直、怖くて振り返る事ができないのだ。
537名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 01:49:06.23 ID:v1/hpGXl
というわけで今宵はここまでー
萌郁さんかわいいよ萌郁さん
それではまた次回ー (パタリ
538名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 03:17:51.55 ID:4oj/QcE5

おいもえいくさんまで参戦かよ
この調子でどんどん集まるとオカリン心労で死ぬぞw
539名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 05:18:03.31 ID:P2+we+cL
これは機関の陰謀だな
540名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 06:40:44.50 ID:Cj36aJQY
40万字…!!!??
541名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 08:03:54.84 ID:LiXAnxkA
やったねオカリン !修羅場が増えたよ!
542名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 09:37:06.85 ID:DicM9Bk/
ダル「爆発すればいいお」
543名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 10:02:29.97 ID:1RNLgDOl
…これはアレか?ヒロイン全員RS微発動的な…?
というか40万字って…もう夏コミで出してもいいんじゃないか?
(自分用・布教用×2で最低3冊買う)
544名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 11:52:23.58 ID:T/Iz55b5
しかしこれだけよくかけるな
545名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 12:09:23.24 ID:lKqTRt6Y
ちょうど連載半年くらいだから
平日のみ更新とはいえ一ヶ月22日
一日3000字なら一ヶ月で66000字
それの6倍で約40万字だな
546名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 13:11:51.25 ID:4oj/QcE5
1日原稿用紙8枚を毎平日半年間とか……
まじ恐れ入りますm(_ _)m
547名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 23:18:41.39 ID:zBD0HEyh
こんばんは
今日は若干余裕があります
ほんとに若干ですが
548エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 23:21:27.63 ID:zBD0HEyh
9−4:2011/02/14 07:37 

「し、失礼します!」

ガチャン、というやや性急な開け方で扉が開き、コートを着た綺麗な女性……と思しき人物がラボに飛び込んでくる。

……だが男だ。

「ル、ルカ子?」
「あ、岡部さん、いらしてたんですか、よかったぁ……」

頬を赤らめほわ、と柔和な笑みを浮かべる漆原るか。
まるで真冬のさなかにそこだけ大輪の華が咲いたよう。

ちなみにコートの下はセーラー服なのだが誰も疑問に思わない。

「ど、どうしたのだルカ子よ。お前も今日は学校だろう」
「そ、そうなんですけど、そうなんですけど……っ、そ、そのっ、どうしても岡部さんにお渡ししたいものがあって……」

真っ赤になってしどろもどろになりながら、もじもじと太股をすり合わせて視線を泳がせる。
漆原るか独特の掠れた声が、これまた切迫感と羞恥の様子を実によく表していた。
それは女性が恥ずかしそうにしている様子としては凡そパーフェクトな挙動であって、岡部倫太郎の心臓がつい鼓動を早めてしまうのもだからいた仕方のないことだろう。


………だが男だ。


「あー、そのなんだ、よ、用件というのは……なんだ、我が弟子ルーカー子ーよ」

猛烈に嫌な予感を感じながら念のためにと尋ねてみる岡部倫太郎。

「は、はひっ! あ、あの、あのあのっ、お、岡部さんにこ、これを受け取ってもらいたくって……っ!」

彼女(彼だ)が差し出したのは両掌サイズのハート型にラッピングされた実に可愛い包装で、花の形のリボンがその上にちょこんと乗っている。
これまた見事なくらいに完璧な手作りのバレンタインチョコレートであり、漆原るかの乙女力が見事に反映された逸品といえよう。



…………だが男だ。



 
549エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 23:27:32.92 ID:zBD0HEyh
「あー……ルカ子よ、そのなんだ、気持ちは確かに嬉しいのだが……」
「わかってます! ボクなんかが岡部さんにあげるのはおかしいって! で、でも岡部さんはボクの尊敬する先輩で、師匠で、その、すごく大切な人っていうか……と、とにかく日頃からすごいお世話になってますし、だ、だから感謝の気持ちとして受け取って欲しいんですぅっ!」
「フハ、ハハハハ、ハハ……」

予想より斜め上に嫌な予感が当たり岡部倫太郎の口から笑い声が漏れる。
ただそれはやけに乾いた笑いで、彼の横顔はやけに青白かった。

牧瀬紅莉栖は未だ彼が男である事を知らぬ。
もし何も知らないのなら今の言動は素で勘違いされても仕方のないレベルだし、知られたら知られたで別の意味で混乱を招きそうだ。
一体どのような言い訳をすべきかと頭の中で必死に考えているところに……更なる混乱の主が飛び込んでくる。

「ニャッニャ〜ン! 凶真ァ! 明けましてバレンタインだニャ!」
「フェ、フェイリス?!」

メイクイーン・ニャンニャンのウリであるネコ耳メイド姿となった……というか大体いつもこの格好のような気もするが……フェイリス・ニャンニャンが恐ろしいほどのハイテンションでラボに飛び込んでくる。

「フェイリス……あー、お前も学生……ではなかったか?」
「そうだニャ! 花の女子高生ニャ♪」
「自分で花のなどと付けるなっ! ではなぜ平日のこんな時間にメイクイーンの制服を着ているのだ」
「なぜって……そんな御主人様の前でメイドがメイドの格好をするのは当たり前のことだニャン!」
「は……?」
550エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 23:33:02.53 ID:zBD0HEyh
呆気に取られる岡部倫太郎の前で、フェイリスがもじもじと身をよじらせながら、方形の上品な箱(メイクイーン特製である)をこれまた綺麗にラッピングし、
リボンとおまけにメッセージカードまで添えてある、あたかも市販品と見紛うばかりの手作りチョコを差し出してきた。
かつて彼女を攻略していた折にもらった、フェイリスお手製オリジナルチョコ(全1名様。岡部倫太郎限定)である。

「あの……御主人様ぁ、フェ、フェイリスのぉ、御主人様への想いを目いっぱい詰め込んだこのチョコを、どうか受け取って欲しい……ニャン♪」

顔を赤らめながら、潤んだ瞳で、斜め下から請願するような上目遣いで擦り寄ってくるフェイリス・ニャンニャン。媚の売り方というものを熟知している迫り方である。
橋田至あたりがこの光景を目の当たりにしたらきっと鼻血を噴きつつ憤死するに違いない。

「……フェイリスよ」
「ニャニャ……フェイリスに何か御命令かニャ? 御主人様?」

くい、と小首を傾げて愛らしく尋ねてくるフェイリス・ニャンニャン。
気圧されるように思わず半歩後ずさって無意識に防御の姿勢を取ってしまう岡部倫太郎。

「あーいやそうではなく、なぜ店の外でまで御主人様なのだっ」
「さっきも言ったニャ! 御主人様のことを御主人様って呼ぶのは当たり前の事ニャよ、キョーマ♪」

にぱ、と実に気持ちのいい笑顔で答えるフェイリス。
あまりの爽やかさになにやら追求する側が間違っているような気すらしてくる岡部陰太郎。
551エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 23:36:37.29 ID:zBD0HEyh
「いやいやいや。いやいやいやいや。それはおかしい、それはおかしいだろう!?」

そう、何かおかしい。
なぜこんな早朝に、それもラボメンが一堂に会して(除ダル)、それも皆で揃いも揃ってバレンタインのチョコを渡そうとしてくるのだろう。
まさか所長である岡部倫太郎の労をねぎらうためにラボメン皆で示し合わせでもしたのだろうか。

「ってニャニャ? マユシィ?! それに他のみんなも! 一体どうしたニャこんな朝早く?」
「それはこっちの台詞だよ〜。フェリスちゃんこそどうしたの? まだお店開いてないよね?」
「フェイリスは昨日はクリス・ニャンニャンに譲ったからバレンタイン当日の今日は譲る気はないのニャ! 御主人様にフェイリスの愛情がた〜っぷり詰まったチョコを手ずから食べさせてあげるのニャ!」
「ってあれ? え、え、ええ〜〜!? み、みんな来てたんですかあ?! ボ、ボクいっぱいいっぱいで、その、全然気付かなくって……はうっ、も、もしかしてみんな……その、ボクの、えっと、聞いて……?」
「……ばっちり」
「わああああああああああああああっ! き、桐生さん! わ、忘れてっ! 忘れてくださいぃぃぃ〜〜〜!」
「……ダメ。漆原くんの一世一代の告白、だから、忘れるのは、失礼……」
「そのボクが忘れてって言ってるんですぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜っ!!」
552エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/21(木) 23:39:08.56 ID:zBD0HEyh
ゆさゆさと揺すられる桐生萌郁。羞恥の極みですっかり混乱している漆原るか。
すっかり喧騒の波に飲まれたラボはまさに姦しいと表現するに相応しき混沌で。もしこれがブラウン管工房の営業時間内だったら天王寺裕吾が殴りこんでくるレベルである。

つまり別に誰も示し合わせてはいなかったのだ。
岡部倫太郎は目の前の騒動をどこか遠くに聞きながらそんな事を思った。
では……ならば、この異常事態は一体どういうことなのだろう。

「……岡部♪」
「ハ、ハイッ!」

背後から聞こえる、一見優しげな、だがなんとも険のある声に思わず直立不動で気をつけの姿勢を取ってしまう岡部倫太郎。

「ねえ岡部、ちょっとこっちに来なさい」

ぽんぽん、とソファを叩く音がする。
従わなければ。従わなければ何をされるかわからない。
そんな恐るべきプレッシャーが背後から炸裂している。
機関の拷問具もかくやというレベルで恐怖心が肺腑から競りあがってきた。

振り返らねば。だが怖い。
牧瀬紅莉栖の方に向いて彼女の隣に行かなければ。でも怖い。




ああ誰か、誰かこの事態を打破する者はいないのか……?!



 
553名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 23:39:52.26 ID:zBD0HEyh
というわけで今宵はここまでー
それではまた次回にお会いしましょう ノノシ
554名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 23:47:13.96 ID:SFer+OWv
エピローグでこんなに話広げて収束できるのか?
オカリンの心臓並に心配だわww
555名無しさん@ピンキー:2013/02/21(木) 23:55:13.59 ID:4XF1oASm
やはりオカリンは爆発する運命だったのか・・・!
556名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 00:54:24.29 ID:Gb2sEu0l
これもシュタインズゲートの選択だと言うのか
557名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 01:53:51.42 ID:xiC6NE4c
エルプサイコングルゥ
558名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 10:34:38.42 ID:JB7QY1A0
ダル「」
559名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 10:43:35.62 ID:CtaqDnYX
ダル?
し、死んでる……!
560名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 11:47:54.68 ID:NLY3nIuH
おおこええ…
561名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 12:03:35.40 ID:nPynTRP4
待て…誰か一人忘れてないか…!?
562名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 13:45:39.60 ID:qXPTKSCW
色んな意味でオカリン爆発ですね
563名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 15:51:05.00 ID:Gb2sEu0l
紅莉栖「岡部許さない。絶対にだ!」
ダル「オカリン許さないお。爆発しる!」

ここに、新Webラジオパーソナリティの結成動機が誕生した

http://www.kagaku-adv.com/blog/2013/02/21/000044.html
564名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 19:10:30.07 ID:NLY3nIuH
>>561
シスターブラウンか!()
565名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 23:20:26.13 ID:12KGNZIg
こんばんはー
今日はちょっとだけ早めに上げて早寝します……
566エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/22(金) 23:22:58.39 ID:12KGNZIg
9−5:2011/02/14 07:45 

「おっはー! こんちゃーっす!」
「おお、鈴羽!」

……いた。
この混沌とした事態を打破する新しい風が扉の向こうから吹き抜けてきた。
ただ……それは岡部倫太郎が望むものとはまるで方向性が違っていたが。

「あ、リンリンいた! わーい、リンリーン!」

実に嬉しそうな満面の笑みで、岡部倫太郎の目の前までとててて、と駆けてくる。
椎名まゆりのようというか、岡部倫太郎に対して警戒心の欠片もない近寄り方だ。
ラボに集まった女性陣は、その妙に岡部倫太郎との距離感の近い新たな闖入者に呆気に取られ、静まり返る。

「「「りんりん……?」」」
「はぐうっ!?」

皆で呟くその呼称に思わず心臓を鷲掴みにしてうずくまる岡部倫太郎。
これは恥ずかしい。確かにこれは恥ずかしい。

「す、鈴羽、頼むからその呼び方はやめてくれと……」
「えー? いいじゃんリンリン。ダメ?」
「いや、なんというかこう皆の前でな……?」
「みんな……?」

今更のように周囲を見渡す阿万音鈴羽。

「おー、牧瀬紅莉栖もいる。って事は成功したんだ! リンリン……じゃなかったオカリンおじさん!」
「あ、ああ……一応な。だがどうにも皆の様子がおかしいのだ」
「「「おじさん……?」」」
「はぐふぅっ!?」

度重なるラボメンガールズによるハモリ攻撃に大ダメージを受ける岡部倫太郎。
確かにいかに年下そうとはいえ数歳しか年の変わらぬ相手に己をおじさんと呼ばせるのはなかなかに通なHENTAIっぷりである。
567エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/22(金) 23:30:20.67 ID:12KGNZIg
「じゃあもうあたしも遠慮することないじゃん! ハイおじさん、毎年恒例のモノ! 今年も食べてくれると嬉しいなっ♪」

溌剌とした彼女が珍しく頬を染め、照れ混じりの笑顔で差し出したのは……手のひらサイズのチョコである。
意外なことに見た感じ手作りのようだ。
やや小さめだがしっかりとラッピングもされており、手馴れない風ながらきちんとリボンまで巻いてあった。

「……お前チョコなんて作れたのか」

つい率直な感想を伸べてしまう岡部倫太郎。

「あー! バカにされた! あたしオカリンおじさんにバカにされたよー!?」

がびーんと今にも擬音が聞こえてきそうな阿万音鈴羽の表情。よく見れば半泣きである。

「ああいやすまん。なんというかあまりそういうイメージがなかったものでな……」

確かかつての世界線の彼女はサバイバル術を学び虫やら雑草やらを食べていたと聞いたような気がする。
その印象がいつまでも残っていた岡部倫太郎には、だから彼女が嗜好品であるチョコを作る、という発想が湧かなかったのだ。

「酷いなー。あたし4つの頃からおじさんに毎年あげてたんだよー」
「なに、そうなのか!?」
「それでさそれでさ、あたしその頃はすっごく下手糞で、後で自分で食べたらすっごくすっごく不味くって、でもオカリンおじさんはそんなチョコをなんだかんだ言いながらちゃんと食べてくれて、あたしをお膝の上にのっけて『頑張ったなー』なんてなでなでしてくれてさー……」
568エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/22(金) 23:33:22.46 ID:12KGNZIg
恥ずかしそうに思い出話をしながら、両手を頬に当てほにゃにゃ、と緊張感の解けた笑顔を見せる阿万音鈴羽。
なんとも無防備で愛らしい笑顔である。幼い娘ならば両親の前、年頃の娘ならば恋人の前でもなければ見せぬ表情だ。
常の岡部倫太郎ならそれを愛でる余裕もあっただろう。


だが……今この時、この状況に於いては、彼女のこれ以上ないほどのその愛らしさは逆効果以外の何者でもなかった。


「それで毎年毎年去年の反省を生かして頑張ってさー、だから確かに料理とかはそんなに得意じゃないけど、あたしチョコだけはちょっと自信あるんだー。へへー♪」

恥ずかしそうに後ろ手になり、足を斜めに組んで岡部倫太郎ににぱっと笑いかける。
なんというかこう全身から『ほめてほめてー♪』といった雰囲気を燦々と放っており、それが岡部倫太郎には如実にわかった。


……そして、その他女性陣(ルカ子含む)にも、それが実によーくわかった。


「4歳……? そんな小さい頃から、岡部さんに、チョコを……?」
「ニャニャ? 御主人様の知り合いって事はマユシィとも知り合いなのかニャ?」

ラボメンガールズの視線が一斉に幼馴染である椎名まゆりに向けられる。

「う、ううん、知らない。まゆしぃの知らない人……」
「昨日、お店に、来てた……確か阿万音、鈴羽、さん」

じぃぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
好奇と警戒の視線が阿万音鈴羽に注がれる。

「でも……そっかぁ、なんだ、オカリンそんな小さい頃からチョコもらってたんだぁ……」
「ぐはぁっ!?」
569エピローグ 北風で太陽のロジック(前):2013/02/22(金) 23:40:35.71 ID:12KGNZIg
椎名まゆりのどこか寂しそうな……悲しげな笑顔に岡部倫太郎の心臓が張り裂けんばかりになる。
彼女にそんな顔はさせたくない、させたくなんてなかった。
だからこそあの時、永劫の時間タイムリープを繰り返したというのに……!

「だからさだからさ、今年のも食べて欲しいなーって……ダメ?」

岡部倫太郎の隣に立ち、もたれかかるようにして肩をすりすりする阿万音鈴羽。

「あー! ずるいニャずるいニャ! それフェイリスがやるつもりだったニャ!」
「えー、まゆしぃもやりたいよぉ」
「岡部くん、私は……?」
「ええっと……じゃあボクは桐生さんの後ろで……」
「ええい並ぶなぁー!?」

さらなる混乱に沸き返るラボの中。
岡部倫太郎はなんとか事態を沈静化させるため、彼女との事実関係をはっきりさせようと努力する。

「あー……えー、す、鈴羽よ、俺にとっては、そのー、なんだ、初めてもらう事になるわけだがー……」
「あれ? そだっけ? まあいーじゃん! 細かい事は気にしない気にしない♪」
「気にするわぁぁぁぁぁぁっ!!」

なんともざっくばらんすぎる阿万音鈴羽の言葉に思わず大声で突っ込みを入れる岡部倫太郎。
だがそんな彼の激昂も、ハタから見れば仲のよい二人の気心の知れたスキンシップに見えなくもない。


……ぷっつん。


そして……遂に、岡部理太郎の背後で何かが切れる音が、聞こえた。

「ほっほぉ〜……岡部、アンタまゆりにも教えてない幼馴染がいたんだな。それも毎年チョコをもらってるだあ……?」
「お、落ち着け助手よ! は、話せばわかる!」

慌てて振り返った岡部倫太郎が見たのは……夜叉だった。
全身から禍々しいオーラを放ち頭部から二本の角を生やした助手夜叉が、そこにいた。

「え……ええい鈴羽こっちに来い!」
「わ、きゃ……っ!?」

進退窮まった岡部倫太郎は阿万音鈴羽の手首を掴み……そのままラボの外へと脱兎の如く駆け出した。




(『『恋歌鴛鴦のミルキーウェイ エピローグ 北風で太陽のロジック(後)』へ つづく)
570名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 23:42:10.74 ID:12KGNZIg
というわけで前編はここまでー
次の後編数話でいよいよ長かったお話も終演でございます
ってなわけでキリもいいので今週はこれでおしまい

うん
鈴羽いいよね……

それではまた次回ー ノノシ
571名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 23:42:54.62 ID:gp+mwuSo
572名無しさん@ピンキー:2013/02/22(金) 23:47:43.65 ID:gL/zhJCj
CHAOS;LABO
573名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 00:25:30.71 ID:7sdXggNo

ここからどうやって収集つけるんだw
574名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 00:57:26.22 ID:MZS7owR8
やはり世界はこの狂気のマッドサイエンティストに安息の日々を与えないのかw
575名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 01:28:22.20 ID:qjDD/FXF
紅莉栖エンドだろうがまさかのどんでん返しがあるのか?
576名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 02:36:19.60 ID:+WkZ5w+Z
す、鈴羽END...?
577名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 06:48:36.28 ID:3ZPepVpD
まあどんな展開にせよ鈴羽が可愛いのはいいことだ
578名無しさん@ピンキー:2013/02/23(土) 09:33:10.78 ID:1bX3+xGj
オカリンの童貞を奪ったのは鈴羽。

さて……。
579名無しさん@ピンキー:2013/02/24(日) 00:12:06.54 ID:mAmtQFqI
しまった…今日は週末だ。
580名無しさん@ピンキー:2013/02/24(日) 19:20:08.00 ID:RNZYfeve
せ、せやな…
581名無しさん@ピンキー:2013/02/25(月) 22:53:39.35 ID:exNXf7pi
さて今日はいつもよりちょっとだけ早めに更新……
果たして今週中に追われるか、どうか……
582エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/25(月) 22:59:16.37 ID:exNXf7pi
9−6:2011/02/14 07:53 未来ガジェット研究所

「あー! 御主人様が逃げたニャ!」
「せ、せせせ戦略的撤退と言ってもらおうかっ!」
「あー! オカリーン、待ってよー!」
「お〜かぁ〜べぇぇぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!! ええい絶対許さん! みんな、山狩りよ!」
「「「おー!」」」

一致団結して階段を駆け下りる一同。
だが降りきった時点で……既に二人の姿は影も形もなかった。

「ええいいつもにも増して逃げ足の速い! こうなったら手分けして探すわよ!」
「……待っ、て」
「え? 萌郁、さん……?」

牧瀬紅莉栖の声を遮ったのはなんとも珍しい事に桐生萌郁であった。
その意外性ゆえに一同はつい足を止め彼女の言葉を待ってしまう。

チャキ、と眼鏡を直した桐生萌郁が背筋を伸ばし、階段をゆっくりと降りてくる。
背の高い彼女がシャンと姿勢を正すと、元の素材がいいだけになんとも凛とした風情に見える。

「ターゲット……岡部くんの基本的な生活基盤はこのラボと実家くらいしか、ない……それも最近の連日の開発の部品購入と差し入れ、それに昨日牧瀬さんとのデートでお金を使ってただろうからそんなに余裕もない、はず」
「はうっ!?」

今更のようにデートの件を持ち出され、ラボの皆からの視線を浴びて真っ赤になる牧瀬紅莉栖。

「それに今は一人じゃない、二人分の交通費は、少額でも今の岡部くんには結構な負担の、はず。それを考えれば岡部くんの選択肢はそう多くは、ない……」
「……………………」
583エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/25(月) 23:04:47.19 ID:exNXf7pi
皆呆気に取られて桐生萌郁の言葉を聞いていた。
いつも殆ど会話らしい会話をしたことのない彼女が随分と饒舌である事も勿論だが、その内容がまた理路整然としていてあまりにも見事だったからだ。

「岡部くんが行きそうなところは、大きく三つ。実家に帰る、喫茶店とかカラオケとかそれ以外の場所で時間を潰す、近くの路地裏に身を潜める。後の二つの場合、ほとぼりがさめたころに、ラボに戻る」

一本ずつ指を立てながら語る桐生萌郁の声は、いつもと違ってやけにしっかりしている。
これまでの弱気であまり外との接触を持ちたがらなかった彼女とは明らかに異なる様子なのだ。
まるで何か大きな出来事があって自信がついたかのような……そんな変貌ぶりなのである。

ただ……その場にいる皆にはその契機がさっぱり理解できなかった。
だってつい先日の夕方まで、それまでと同じようにずっとラボの階下で店番をしていたではないか。

「実家に帰るなら、乗り換えが少なくてお金の一番かからない秋葉原駅。どこかで時間を潰すならまずお金を下ろす必要があって、今は銀行が閉まってるから、いつものコンビニ。あとは……近くの路地裏を虱潰し」

誰も彼女の言葉に異を挟めない。
現状文句の付けようのない分析だからだ。
言われてみれば岡部倫太郎はそれらのいずれかの行動を取るだろうと、すぐに皆が納得できたほどである。
584エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/25(月) 23:06:50.78 ID:exNXf7pi
「足の早い椎名さんは、秋葉原駅、に、行って……」
「う、うん、わかった!」
「漆原君は、いつも買い物に行くあそこのコンビニで、岡部くんが来るか、見張って、て」
「は、はい……」
「岡部くんの頼みを断り切れなくって、見逃しても、いいけど、その場合はちゃんと連絡、して……」
「は、はいぃっ!」

びくぅ、と肩を震わせて直立不動気をつけのポーズで返事をする漆原るか。
仮に自分が最初に岡部倫太郎を発見した場合、彼に強く頼み込まれてそのままずるずると見逃がしてしまうであろう光景がありありと浮かんでくる。

「このあたりの地理に詳しいフェイリスさんは、私と一緒に近くの路地を捜索……フェイリスさんはメイクイーンのある南側、私は北側を探す……」
「わかったニャモエニャン! 見事な指示ニャ!」

びし、と両脚を揃え桐生萌郁に敬礼するフェイリス・ニャンニャン。
演出過剰なところも含め、先刻までの様子と打って変わっていつもの彼女そのものである。

「牧瀬、さんは、岡部くんが戻ってくるかもしれないケースに備えて、ラボで、待機……それとみんなの、連絡役に、なって、くれると、助かる……」
「わ、わかったわ。それで行きましょう」
585エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/25(月) 23:08:49.96 ID:exNXf7pi
どこか圧倒されたように受け入れる牧瀬紅莉栖。
本当は自分がいの一番に探しに行きたいのだが、この中で一番運動神経がなさそうなのが自分であることも彼女は重々承知していた。
反論したくてもこのキャスティングが一番優れている事が理性で理解できるのだ。

「では各自時計を取り出して。時間を、合わせる。えっと……7時58分10秒、11秒……」
「ほえ? 時計? あ、待って待って、えーっと、かいちゅーかいちゅー……」

わけもわからずラボメン一同で時計の時刻合わせをする。

「ではマルハチマルマル……状況開始」

そして8時ちょうどになったところで、颯爽と歩き出す桐生萌郁。
他の皆は一瞬呆気に取られた後、それぞれ指示された場所へと慌てて走り出す。

そして唯一取り残された牧瀬紅莉栖は……
しばし呆然とその場に立ち尽くした後、のろのろとラボへ戻っていった。

しかし彼女の様子は一体どうしたことだろう。
ラウンダーとしての本分に目覚めでもしたのだろうか。

けれど……おそらく心配には及ばない。
なにせカツカツと裏通りを歩きながら近くの路地裏や建物の隙間に鋭い視線を放っている彼女、桐生萌郁の心の中は、実に単純なもので構成されていたからだ。

(岡部くん岡部くん岡部くん岡部くん岡部くん岡部くん岡部くんおかべくんおかべくん……っ)




手に持っている袋がずしりと重い。
それは……今の彼女の決意の重さそのものでもあるのだ。




 
586名無しさん@ピンキー:2013/02/25(月) 23:11:44.42 ID:exNXf7pi
これがかつてのラウンダーとしての資質と
オカリンに勧められ伸ばしたライターとしての資質を併せ持った
ハイブリッドもえいくさん(ただしオカリン絡み限定)です
将来ダルと並んでオカリンの情報収集にきっと役に立ってくれるかなー……とか
どうかしら
ダメかしら

そんなわけでまた次回ー ノノシ
587名無しさん@ピンキー:2013/02/25(月) 23:26:13.76 ID:tGKC6xKX
燃郁さん……!
588名無しさん@ピンキー:2013/02/25(月) 23:44:43.76 ID:so2LX8Lu

少人数サークルでハーレムとかダルはキレていいw
589名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 00:00:07.57 ID:aXvRDrIt
狩られたオカリンが枯れるww
590名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 00:07:16.14 ID:tQqi82Ao
もえいくさん覚醒w
先が読めないな・・・
591名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 01:29:08.90 ID:4LOPOBta

こりゃ、オカリン捕まるとこってり絞られるな(性的な意味で
592名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 01:29:56.32 ID:PhiIkZTK
593名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 05:03:23.91 ID:qESn2e9x
覚醒もえいくさんに戦慄を禁じ得ない
594名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 12:32:47.31 ID:RrWAKR/3
これだけのメンバーにナイトハルト達も加わるからなぁ〜。反300人委員会がどれだけの規模かはわからないが、やっぱりオカリン達は情報とか科学技術とかその辺の担当なんだろうな
595名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 23:12:57.73 ID:RLLt+y8O
さて今日もなんとか早めに更新できそうです
よかった……
596エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/26(火) 23:17:02.60 ID:RLLt+y8O
9−7:2011/02/14 08:08 秋葉原裏通り・路地裏

「はぁー、はぁー、ここまで来れば大丈夫だろう」

奇しくも桐生萌郁の推測通り阿万音鈴羽と共にラボからやや離れた路地裏へと退避していた岡部倫太郎は、荒い息を整えながら必死に状況を整理した。
そしてとりあえず隣にいる協力者から事情を聞こうとして……

「……鈴羽?」

彼女が自分の真横で目を閉じ、頬を染め、僅かにつま先立ちになってこちらへほの紅い唇を差し出している事に気が付いた。


……即チョップ。


「あー! ひどい! おかべりんたろーチョップしたー!? キ、キスを待ってるオトメゴコロをチョップで叩き割ったよー!?」

ヒリヒリ痛む額を押さえながらまんまる白目の半泣き顔で叫ぶ阿万音鈴羽。
呼び方がオカリンおじさんから岡部倫太郎へとまた変わっているのは彼が嫌がったからか、それとも二人きりになったからだろうか。

「なんで? あたしを選んだから連れ出してくれたとかじゃないの? キスは?」
「なんでそうなる!? あともう少し静かに喋らんか。見つかったら面倒だろう」
「面倒? どうして?」
「と・も・か・く・も・う・少・し・静・か・に・話・せ!」
「……オーキードーキー」

涙目で額をさする阿万音鈴羽は、だが岡部倫太郎の言葉に素直に従う。

「……で、あれは一体どういう事だっ」
「あれ……って?」
「ラボのみんなのことだ! まゆりも! 指圧師も! ルカ子も! フェイリスも! みんな様子がおかしかったではないか!?」
「そう? 別に違和感なかったけど。あたしのちっちゃい頃とかはおっきなイベントがあるたびにいっつもみんなだいたいあんな感じだった気がするけど」
「な、に……?」

顎先に人差し指を当てて考え込む阿万音鈴羽の言葉に、岡部倫太郎は思わず眉を潜める。
597エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/26(火) 23:20:06.64 ID:RLLt+y8O
「つまり……今の彼女達の様子は、お前にとっては普通のことだと言いたいのか、鈴羽?」
「うん。だってあたしはそのために未来から来たんだし」
「なん、だと……?」

あっさり言ってのけた阿万音鈴羽の言葉に、岡部倫太郎が慄然とする。

「ど、どういう事だ?! お前はあのとき世界の危機を救えと言ったではないか!」
「言ったよ。それも嘘じゃないもん。でも……う〜ん、でもなんて言ったらいいのかな、ねえ岡部倫太郎、あたしが来る前に、岡部倫太郎はリーディング・シュタイナーを発動させた?」
「そう言えば……していないな」
「じゃあさじゃあさ、昨日牧瀬紅莉栖を抱いてミッションを達成した後は?」
「……していない」
「でしょ? つまりそういう事」

岡部倫太郎は今更ながらに思い出す。
そうだ、これまでのミッションは常に変動してしまった世界線を元に戻すために行われていた。
けれど今回は違う。リーディング・シュタイナーは一度たりとも発動していない。世界線の移動は起こっていないのだ。

「そういう事とはどういう事だ!? 鈴羽! 説明してくれ!」
「だからー、今回の岡部倫太郎のミッションはこの世界線を維持するために行われたの! 世界線が変動するとしたら君がミッションに失敗するか、牧瀬紅莉栖の攻略を諦めた時だよ」
「ッ!!」
「だから岡部倫太郎がミッションを成功させてもあたしは消えてないでしょ。今この時この流れがあたしのいる未来に繋がってる証拠だよ」

確かに……それなら一応筋は通る。
世界線の維持のためのミッションというのは初めてだが、未来からの介入により改変された結果としての未来が前提としてあるのならば、そうしたケースもあり得るかもしれない。
598エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/26(火) 23:23:38.25 ID:RLLt+y8O
「ならば……教えてくれ、鈴羽。みんなのあの様子は一体どういう事なのだ。真冬だというのにまるで皆そろって春のように浮ついていたぞ」

岡部倫太郎の問いに、阿万音鈴羽は一瞬目を閉じて考え込む。
答えを探しているというより、むしろどうやって説明したものかと思案している様子だ。

「ん〜……ミッションが成功したって事は、岡部倫太郎はみんなを抱いてきたんだよね?」
「ああ」
「なら……おばさんたち……ラボのみんなの気持ちもわかってるよね?」
「……ああ」

そう、知っている。岡部倫太郎は既に知っている。
彼女達が皆自分を好いている事を。こんな情けない自分にもったいないほどの好意を持ってくれていることを。
そして……そんな彼女達に対する少なからぬ想いが、己の内にあることも。

だがそもそもそんな事は半年前から知っていた。
今回新たに判明したのは桐生萌郁くらいのものだ。
ただ牧瀬紅莉栖を選んでしまった岡部倫太郎は……彼女達の想いにずっと背を向けてきたのだ。

「じゃあさ、岡部倫太郎。リーディング・シュタイナーの定義を教えて」
「なに……?」
「岡部倫太郎の知っている範囲でいいからさ。お願い」
「あ、ああ……」

唐突に話題を変えられ、彼女の意図が理解できず当惑する岡部倫太郎。
だが一応聞かれたままに己の知っている範囲でその能力について言及する。
599エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/26(火) 23:24:37.14 ID:RLLt+y8O
「世界線が変動した場合、変更された過去に従って世界中の人間の記憶は書き換えられる。それに抗し得る力が即ちリーディング・シュタイナーだ」
「ふんふん」
「リーディング・シュタイナーは誰でも持っている……が、大概は新たな世界線の記憶に押し流され、微かな追憶やデジャ・ヴュとなって幻視するのみ。ゆえに世間の人間はそれを夢か白昼夢として片付けてしまう」
「ふ〜ん。さっすが岡部倫太郎、詳しいね」
「茶化すな」

岡部倫太郎の説明に相槌を打ちながらこくこくと肯く阿万音鈴羽。
それにしてもなんとも嬉しそうに話を聞くものだ。きっと彼の話を聞くのが小さい頃から大好きなのだろう。

「リーディング・シュタイナーが強すぎる場合……元の世界線の記憶が完全に残ってしまい、逆に新しい世界線の記憶を得る事ができない。例えばこの俺のようにな。
そのせいで随分と不便な思いもしたが……逆にこの力のおかげでまゆりも紅莉栖も助けられる事ができたのだ。今では感謝している」
「わー、すごーい! 他には?」
「いや……だいたい以上だが」
「えー? 他にもあるはずだよー、岡部倫太郎、もっとしっかり思い出して」
「む……?」

阿万音鈴羽に突っ込まれた岡部倫太郎は腕を組んで考え込む。
他に言い忘れた事などあっただろうか……?
600エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/26(火) 23:27:06.92 ID:RLLt+y8O
「あー、そうそう、リーディング・シュタイナーは世界線移動だけではなくタイムリープによっても発動するようだ。あとは……同じ時間軸を幾度も繰り返すことで記憶や想いが残りやすくもなるようだな」

そう、椎名まゆりが延々と繰り返された己の死を夢として記憶していたのはタイムリープによってもリーディング・シュタイナーによる記憶の蓄積が起こり得るという証左である。
そして他の部分を彼女があまり覚えていないところを見ると、繰り返されたことにより記憶がより深く刻み込まれ、リーディング・シュタイナーによって思い出しやすくなったとも考えられるのだ。

「そうそう、それそれ。岡部倫太郎、ちゃんとわかってるじゃないか」
「それ……とは何のことだ?」
「だからタイムリープによっても記憶や想いの蓄積が起こり得るってとこ」
「それが……どうかしたのか?」
「だからさ、岡部倫太郎……君は今回のミッション達成のためにみんなを抱いてきたんだよね。そしてそのために何回も何十回もタイムリープを繰り返した」

阿万音鈴羽の言葉に……岡部倫太郎は目をニ、三度しばたたかせ、その後ぎょっと大きく見開いた。

「ま、まさか……!?」
「そのまさかだよ、岡部倫太郎。ねえ……君に好意を持ってる女性がさ、何度も何度も、何十回も、君に告白したり告白されたり、デートをしたりセックスしたりしてきたんだよ? 
君みたいに強いリーディング・シュタイナーの持ち主はいなくても、たとえ記憶は持ち越せなくったって、そんな強い想いが延々と繰り返しすり込まれたりしたら……そしてそれが少しでも残ってたら、どうなると思う?」
「あ、あ、ああああああ……っ!?」
「元々大好きだった岡部倫太郎への気持ちが、ちょっぴり振り切れちゃっても仕方ないんじゃないかなーって、あたしは思うんだけど」
601名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 23:30:31.95 ID:RLLt+y8O
というわけで今宵はここまでー
オカリンラブな鈴羽もいいと思うんですよ
ええ完全に個人的な趣味ですが
それではまた次回〜 ンノシ
602名無しさん@ピンキー:2013/02/26(火) 23:32:50.95 ID:9yuh2wQ5
ふむ、実に興味深い話だな
603名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 00:04:37.87 ID:AFnXp3Qc
振りきれかたが「ちょっと」じゃない気がww
604名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 00:13:55.74 ID:hGqPfvou
全ては機関(大奥)の罠だったのだ……
605名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 10:38:22.82 ID:XTqI6g48
これは実に良いHENTAIルートですね
606名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 23:26:55.35 ID:nJGHuYeK
こんばんはー
今日はちょっと長めです
それでは失礼しまして更新タイム
607エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:28:05.46 ID:nJGHuYeK
9−8:2011/02/14 08:19 

「す……鈴羽、俺を騙したのか!?」

真っ青な顔になって、岡部倫太郎が呻くように呟く。
もはやタイムリープしてやり直すこともできない。
もしすぐにタイムリープマシンを完成させ過去に遡っても、彼女達は各々微弱とはいえリーディング・シュタイナーを発動させまた今の状態に戻ってしまうだろう。

「騙したなんて心外だなー。あたしが嘘をつくような女じゃないって言ったのは君だよ、岡部倫太郎」
「だ、だが、ならばなぜこの事を教えてくれなかった! こんな事がわかっていれば、俺は……!」
「だって……もし言ったら岡部倫太郎はみんなを抱かなかったでしょ?」
「当たり前だっ!」
「でも……そうしたらみんなを救えない。最初に言ったでしょ、ラボのみんなを救う事がこのミッションの本当の目的だって」
「な、に……?」

わからない。岡部倫太郎は阿万音鈴羽の言葉がどうにも理解できなかった。

「待ってくれ。どうも会話が噛み合っていない気がするぞ。そもそも世界線が変動していないならなぜお前はラボのみんなが不幸な目に遭うとわかっていた」
「えーっと……」

岡部倫太郎の真剣な眼差しと問い詰めるような口調に、阿万音鈴羽は困ったように首を捻る。

「ん〜、一応禁則事項なんだけどなー。もうミッション達成したから平気なのかなー」
「頼む、教えてくれ、この通りだ……!」

深々と頭を下げる岡部倫太郎に却って慌てる阿万音鈴羽。

「わ、待ってよ待ってよ! わ、わかったからさ! も〜……岡部倫太郎にそんな事されたらあたし断れないじゃないか……!」
「……すまない」
「んー、でもどこから話せばいいのかな……?」

腕を組んで暫し考え込む阿万音鈴羽。
彼女の言葉をじっと待ち受ける岡部倫太郎。
608エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:29:42.84 ID:nJGHuYeK
「えーっとね? あたしのいる世界線はこの世界から繋がってる。つまりあたしの知ってるオカリンおじさんは今のおじさんが成長した姿ってことになるよね?」
「まあ……そうなるな」
「だから……オカリンおじさんは後悔してた。必要なこととはいえラボのみんなにこんな事をして本当に良かったのかって、もっと他に方法はなかったのかって」
「……そうだろうな。確かに俺ならそう考える」

今までの話に特に矛盾点はない。
どうしてあのプロセス……彼女達を抱く事が必要だったのか、それが不明なだけだ。

「だから……オカリンおじさんは紅莉栖おばさんと協力してある発明品を作ったんだ」
「発明品……未来ガジェットか?」
「そ、ダイバージェンスメーターとタイムリープマシンを組み合わせた世界線移動装置……未来ガジェット214号機、『運命石の放浪者(シュタインズ・ウォーカー)』」
「ちょ、ちょっとカッコイイな……」

演技のはずの岡部倫太郎の厨二心がくすぐられる、なんとも魅力的な発明品の臭いである。

「あたしが知ってるタイムリープマシンってそのガジェットの中に組み込まれてたから、ピンで動いてるのは見たことなかったんだよね」
「なるほど……俺やダルが生きていながらタイムリープマシンを見るのが初めてのような口ぶりだったのはそのためか」

 岡部倫太郎の言葉に、阿万音鈴羽は我が意を得たりとこくこく頷く。

「で、それはDメールとどう違うのだ? 名前からして世界線を渡り歩く発明品なのだな?」
「そ。ポケコンに繋いだダイバージェンスメーターに世界線変動率(ダイバージェンス)を設定して、ヘッドホンをかけてマシンを起動させることで、指定した世界線……それも最大48時間前までの過去に飛ぶことができる装置」
「なに!? 指定した世界線へと行けるのか! それは大発明ではないか?!」
「うん。さらに移動先の世界線で元の時間に到達すると同時に自動的に元の世界線に戻ってくることができるんだ。つまり最大48時間分の別の世界線の記憶を持ったままで元の場所、元の時間に帰還できるってわけ。岡部倫太郎の傑作だよ」
「しかも必ず元の世界線に戻る事ができるのか! それは凄いではないか!」

岡部倫太郎は興奮した。
どこへ飛ぶかもわからぬDメールに比べ、なんとも利用価値の高そうな発明品に聞こえる。
609エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:30:53.09 ID:nJGHuYeK
「んー、でもねー、確かに凄いんだけどこれにも色々問題があってさー」
「問題? 問題とはどういう事だ」
「まず第一にこの装置で別の世界線に行けるのは岡部倫太郎だけ。他の人には使えない」
「なに……?」
「理由はわからないんだ。装置は確かに起動するのに誰も別の世界線の事を覚えてない。観測者である岡部倫太郎以外には使えないとか、
他の人だと別の世界線に飛んだ時点で向こうの世界線の記憶に書き換わっちゃって、戻ってきた時にもやっぱりこっちの記憶で再構築されちゃうから記憶が持ち越せないんだとか幾つかの仮説はあるんだけど、
とにかく結果はおんなじ。岡部倫太郎以外には使えない」
「むう、それは確かに面倒だな……」

そう口には出しつつも彼は言うほどに不便さを感じてはいなかった。
飛んだ先で何があるかはわからないのだ。多少なりともリスクのある装置を、他のラボメンに使わせる気など始めからさらさらない岡部倫太郎である。
今の自分がこうなのだから、きっと未来の己もそう判断するに違いない。
岡部倫太郎は一人腕組みをしてうんうんと頷いた。

「第二に遡れるのは最大48時間前まで。そして装置を使用した時間になると強制的に元の世界線に戻される。あと向こうの世界線で未来に行く事はできない。これはさっきも言ったね」
「ああ」

一番有効な使い方は元の世界線で何が起こるかわからぬ選択肢を別の世界線で確かめる……といものだが、どうやら今の話だとそうした事には使いにくいようだ。

「第三に飛んだ先の世界線が一体何が原因でこの世界線と分岐したのかがわからない。向こうに行って自分で調べるしかないって事」
「それは……不便だな」

つまりかつてDメールを使っていた時のように、今の自分がどういう状況に置かれているかしっかり把握する必要がある、ということだろうか。いや、Dメールと異なり何が直接要因で世界線が変動しているのかが全くわからないのだからさらに面倒やも知れぬ。
世界線変動率(ダイバージェンス)の数値からある程度推測ができる事と、その数値をこちらの任意で設定できることがせめてもの救いだろうか。
610エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:32:01.72 ID:nJGHuYeK
「そして第四に……電気代がすっごくかかるの。それも遠く離れた世界線に行くほど、い〜っぱい!」
「そ、それは一大事だな!」

つまり予算的な都合で乱用ができないという事だろうか。
タイムリープマシンで少しだけ過去に遡って電気代をチャラに……とも考えたが、考えてみればその当のタイムリープマシンはその未来ガジェットの中である。
確かに凄い発明ではあるが、こうしてまとめて見ると思った以上に使いどころの難しいマシンのようだ。

「でも……オカリンおじさんはそれでも何度も世界線を飛んだよ。毎日毎日バイトしながら、必死にね」

阿万音鈴羽の声のトーンがやや下がる。
どうやら当時の岡部倫太郎は相当に大変だったらしい。

「でも……調べれば調べるほどはっきりとわかった。『それ』を確信せざるを得なかったんだ。だから……最終的にはオカリンおじさんも折れて、あたしがこの時代に飛ぶ許可をくれた」
「そう……それが聞きたかったのだ。『それ』とはなんだ、俺は一体何を確信したのだ」
「岡部倫太郎……君から離れたラボのメンバーは……遠からず不幸になる」
「……………ッ!!」

阿万音鈴羽の言葉に……岡部倫太郎は思わず息を呑んだ。
彼女の口調があまりに真に迫っていたからだ。

「ハハ……そんな、大袈裟な……」
「大袈裟じゃないんだ。岡部倫太郎、君が誰かを選んだ事による失恋とか家の都合とか世間の圧力とか……色んな理由で君から離れる人がいる。そして……君から離れたラボメンには、例外なく不幸が訪れるんだ」

乾いた笑いを漏らす岡部倫太郎に。厳しい口調の阿万音鈴羽が未来を突きつけた。
611エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:32:47.33 ID:nJGHuYeK
「拉致されたり、音信不通になったり、行方不明になったり、300人委員会に洗脳されたり、連中の実験に巻き込まれて殺されたり不具になったり、恋人と別れて酒に溺れたり、
海岸線をドライブ中に落石に遭って車ごと海に落ちて溺死したりとか、他にも原因不明の病死、事故死、発狂、半身不随、自殺、植物人間……
望まない相手と無理矢理結婚させられて家庭内暴力、流産に堕胎ってのもあったかな」
「…………………ッ!!」
「色んな世界線に出かけて戻ってくるたび、オカリンおじさんは憔悴していった。だってそうでしょ? 自分の元から仲間が離れていった世界を見せ付けられて……
その仲間が悲惨な末路を遂げる、それを毎回毎回知らされるんだ。見せ付けられるんだ。そしてその原因を何度も何度も丹念に調べなきゃいけないんだ。あの頃のオカリンおじさんは……本当に辛そうだった」

阿万音鈴羽の声は低く、その拳が僅かに震えていた。
大好きなオカリンおじさんの役に立ちたい、助けになりたい、支えてあげたい……!
けれど自分ではなんの役にも立たない。
そんな己に、彼女はきっと忸怩たる思いでいたに違いない。

「どんな経過を辿るのかは世界線によって色々。でも……常に共通してる事はひとつだけ。岡部倫太郎、ラボのみんなが君から離れるとその時点で世界線が変動する。
そして……変動した先の世界線では、必ずその人は不幸になる。世界線の収束によってね」

岡部倫太郎は絶句した。
なぜ……なんでそんな事になってしまうのだろう。
岡部倫太郎の心を暗澹たる闇が占め、絶望が静かにその魂を侵していった。
612エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:35:36.68 ID:nJGHuYeK
「どうにか……ならないのか? 皆を救う事はできないのか?」

か細く、力のない声で岡部倫太郎が呟く。
肩の力ががっくりと抜け、まるで死人のように生気が感じられない。

「方法は……あるよ」
「教えてくれ、どうすればいい、どうすればみんなの不幸を回避できる!」

泣きそうな、悔しそうな、なんとも情けない顔で岡部倫太郎が阿万音鈴羽に縋りつく。

「簡単なことだよ。岡部倫太郎の傍にいる限り……そうした不幸は起こらない。ラボのみんな、誰一人ね」
「な、にぃ……?!」
「あたしが最初に岡部倫太郎と会ったときにも、ラボのみんなの話をちょっとしたよね。でも……その不幸の中に……漆原るかだけはいなかったはずだ」
「ああ、言われてみれば……確かに」

岡部倫太郎は思い出していた。
確かに彼女は漆原るかの不幸については言及していなかったし、ターゲットとして襲うように指示もされなかった。
まあこの世界線での漆原るかは男であり、指示されたらされたで岡部倫太郎は大いに困ったであろうが。

「彼だけは……漆原るかだけは、これから分岐する殆どの世界線で、君から離れることがないんだ。君達のどちらが誰と結婚しても、独身を貫いても、漆原るかが世界線によって男であっても女であっても、
君達同士が結婚してもしなくても、君達だけは……ずっと一緒にいた。だから彼……場合によっては彼女、かな……にだけはそうした不幸は殆ど起こっていない」
「なんと……!」

意外の感に打たれた岡部倫太郎が思わず驚きの声を漏らす。
ずっと一緒にいるのは漠然と椎名まゆりの方だと思っていたのだが。
けれど言われてみれば岡部倫太郎の生活基盤はこのラボであり、そして漆原るかは近所の柳林神社の跡継ぎである。確かに地縁的な意味でも案外長い付き合いになりそうな気がする。
613エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:39:29.56 ID:nJGHuYeK
「もちろん君の近くにいる事が安全って意味じゃない。岡部倫太郎の廻りでは今後もたくさんの事件が起こるし、君も、ラボのみんなも何度も命の危機に晒されることになる」
「ぐ……やはりそうなのか」

以前の彼女の言動からなんとなく予測していたことではあったが、それでもこうハッキリと言われるとこう色々と肺腑に来るものがある。

「でも……少なくとも岡部倫太郎、君と一緒に困難に立ち向かってる時は凄い幸せだって、君の助けになれたらとても嬉しいって、みんな言ってた。とびっきりの笑顔でね」
「……………っ!!」
「君は……ラボのみんなを襲う暗い運命を、暗雲を吹き飛ばす北風なんだ。みんなの迷いを、懊悩を断ち切って心をポカポカに暖める太陽なんだ。ラボのみんなには……岡部倫太郎、君が必要なんだよ」

息を飲む岡部倫太郎を見ながら……阿万音鈴羽はそこで一旦言葉を切った。
そして小さな溜息をついて、そのまま話を続ける。

「だから……みんなを助けるためにはこうするしかなかったんだ。タイムリープを繰り返して好感度を増幅させ、ラボのみんなを君から離れられなくする……
これがあたしが未来で紅莉栖おばさんから指示された『オペレーション・フリッグ』の真の目的だよ」
「そう、か……そうだったのか……!!」

岡部理太郎は呆然と立ち尽くす。ようやく得心が行ったのだ。
自分のしてきた行為の全てが……納得はできなくとも理解できたのである。

「まあそういうわえかだからさ……頑張ってね、岡部倫太郎!」
「……そうだな。もっと修練を積まねばならんな」

己が牧瀬紅莉栖や橋田至に比べて大きく劣っている事を岡部倫太郎は強く自覚している。
けれど少なくとも目標ができた。
彼らの足手纏いにならぬ程度にしっかりと知識を、技術を身に付けて、未来の己の発明に手が届くようにならなければ……
614エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/27(水) 23:42:07.55 ID:nJGHuYeK
「そうそう、早く悪い奴らをバッタバッタって薙ぎ倒せるようにさー」
「……待て。なぜそっち方面になる。俺に荒事を期待するな」
「え? そう? あたし綯姉さんに格闘技教わったんだけどさー、その綯姉さんに格闘技のいろはを教えたのってオカリンおじさんじゃなかったっけ?」
「なにっ!? お、俺がだとっ!?」

岡部倫太郎は愕然として思わず情けない声を上げてしまった。確かにもっと勉強して立派な科学者……もといマッドサイエンティストにならねばと思ってはいたが、格闘だの荒事だのは完全に彼の予測の範疇外である。

「いやー、みんなから逃げ回ってる内にすっかり体力がついちゃったってオカリンおじさん苦笑してたよー? それでせっかくついた体力を活かすためになんか通信教育だかハウツー本だかで勉強したって……」
「はぁぁぁっ!? そ、そんなに追い廻されるのか俺はっ!?」

思わず大声で叫んでしまう岡部倫太郎に……阿万音鈴羽が意地の悪そうな、だが実に嬉しげな笑顔を向ける。




「だから言ったじゃん! 頑張ってね、ってさ♪」




 
615名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 23:44:13.92 ID:nJGHuYeK
というわけで今宵はこーこーまーでー


次回……最終回です
616名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 23:51:11.08 ID:TDPOxnfq
ついにラストか
617名無しさん@ピンキー:2013/02/27(水) 23:59:54.11 ID:Z2Dr54Sl
単に甘ったるいハーレムエンドではないところが凄いというか、ここまできて
不幸の影がつきまとうのが哀れというか……いやまぁハーレム化やむなしという
仕掛けだからしかたないか。うむ。

オカリン腎虚エンドにならないようがんばれw





あともげろ
618名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 00:03:10.87 ID:M1Z9C7Fr
まあ酷い未来の危険でもない限り
わざわざ過去に来たりはしないだろうからな
619名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 01:03:26.14 ID:DkhUVQCP

こんなにハーレムを巧くかく人初めてだわ
620名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 01:17:31.16 ID:w7Hl6nyB
おつ。γリンなら体術もいけるはず
621名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 01:59:31.00 ID:Q2acY8Md
最終回か…なんか寂しいな…

ともあれ今までのこと全部がみんなの幸せのためと分かったからには…
オカリンの築くハーレムか…世界から壁が消えるな…
622名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 05:15:04.51 ID:OTFa56ap
あ、僕既に全裸なんでよろしくお願いします
623名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 11:26:23.81 ID:q7ePzE9n
ダル「機関の精神攻撃に違いない」
624名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 14:00:48.47 ID:ovX305CW
まっちょリンktkr

もげろっ!!
625名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 21:02:38.64 ID:psrXfOtD
今夜で終わりか〜
626名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 23:14:19.97 ID:li5tMdHA
こんばんは
長いようで短い日々でした
今日で最終回ですー
627エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:15:18.28 ID:li5tMdHA
9−10:2011/02/14 08:35 

「あー! キョーマ! 見つけたニャ! 発見ニャ!」
「フェ、フェイリス!?」

突然路地の出口に滑り込むような体勢でフェイリスが現われる。
そして素早く携帯電話を取り出すとどこぞへと連絡を取った。

「こちらソルジャーF、こちらソルジャーF、コマンダーK応答願いますニャ。ターゲットOとターゲットAを確認、場所は明神下中通り、タカラビルの裏手ニャ!」

「あー、フェイリス……?」
「連絡は以上……ニャ! キョーマ! キョーマぁ!」
「どっふぅ!?」

携帯を切るや否や、全力ダッシュで岡部倫太郎へと飛びつきその首っ玉にしがみつく。
そして壁に叩きつけられ激しくむせる岡部倫太郎にそのままごろごろと喉を鳴らしながらすりすりと頬擦りを始めた。

「凶真、キョーマ、フェイリスの御主人様にゃぁ♪ もう離さないニャ! キョーマ! きょーまぁ! ふみゃぁぁぁぁン♪」
「うおいっ! お、落ち着け! こら! 離れないかフェイリス!」

岡部倫太郎が必死に引き剥がそうとするも、ひしとしがみついて離れてくれないフェイリス・ニャンニャン。

「御主人様ぁ、フェイリスすっごい寂しかったのニャ。御主人様がいきなりいなくなっちゃってすっごいすっごい寂しかったのニャ。だから、だからぁ、いっぱい、いーっぱい構って欲しい……ニャン?」
「おわぁぁぁぁぁぁ!?」

頬を染め、耳元で囁くように告げながら熱い息を吹きかける。
岡部倫太郎はぞわぞわとした快感が立ち昇ってきて思わず情けない悲鳴を上げてしまった。
628エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:17:03.86 ID:li5tMdHA
「ま、待て待てフェイリス・ニャンニャン! さっきも聞いたがなぜ俺が御主人様なのだっ! お前はメイクイーン・ニャンニャンの看板娘、みんなのアイドルだろう!」

彼の問いかけにフェイリスは困ったような少し悲しそうな……だが妙に熱っぽく艶のある表情で訴えかける。
彼女の周囲にはハートマークが飛び散っていて、岡部倫太郎には気のせいかそれが瞳の中にまで浮かんでいるような気すらした。

「そうニャ。フェイリスはみんなのフェイリスニャン♪ でもでも、なんか昨日の夜からぁ、凶真の、御主人様の事ばっかり頭に浮かんできて、御主人様の事でフェイリスのカラダココロもウズウズって疼いていっぱいになっちゃったのニャン! 
このままだと授業中でもお仕事の最中でも御主人様の事ばっかり考えちゃってなんにも手に付かないニャン! だから御主人様……キョーマは責任を取るべきニャ!」
「せ、責任だとっ!?」
「そうニャ! 御主人様欠乏症にかかったフェイリスにキョーマ分を補充させるニャ!」
「そ、それは一体どうやって補充すればいいのだっ!」

岡部倫太郎の甲高い叫びに、フェイリス・ニャンニャンはぽぽ、と頬を染める。

「こうフェイリスをい〜っぱいなでなでしてぇ、フェイリスがあ〜んってしてあげたチョコを食べてぇ、あとは……あとはぁ、フェイリスのほっぺにチュッてしてくれたら、補充完了ニャン♪」
「できるかあああああああああああああっ!!」
「フニャ〜〜〜ッ!?」

ぶんっと大きく上半身を揺すった岡部倫太郎は強引にフェイリスを振りほどく。
そのままぴょーんと後ろ向きに跳んだフェイリスは地面にシュタっと四つんばいで着地した。
629エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:31:07.79 ID:li5tMdHA
「猫かお前はっ!」
「猫ニャ! フェイリスは御主人様の可愛いメス猫なのニャ♪」
「誤解を招くような言い方はよせっ! 誰かに聞かれて勘違いでもされたらどうするっ!」
「大丈夫ニャ! 勘違いじゃなくすればいいニャ!」
「なにぃ!?」
「フェイリスはぁ、御主人様の命令なら……どんなことでも聞いちゃうニャよ……?」

 とろんとした、上気した瞳で岡部倫太郎を熱い眼差しで見つめるフェイリス・ニャンニャン。
 その目つきには明らかに何かを期待している、どこか淫蕩な気色がほの見えて……

「ぐむ、ぐむむむむ……ええい撤退! 戦略的撤退である!」
「あー待ってニャ待ってニャ! キョーマぁ!」

路地の逆側を抜けて大通りに出ようと走り出した岡部倫太郎は……だがその前方を何者かに塞がれてしまう。

「あー、オカリンいたー!」
「はひ、はひ、まゆりちゃん……足速いよぉ……」
「まゆりっ! ルカ子っ!?」

二対一では流石に分が悪い。取って返してフェイリスの横を抜けようとした……ところで、

「はぁ、はぁ、見つけた……岡部くん……」
「おぉぉぉぉかぁぁぁぁぁべぇぇぇぇぇぇぇ……ッ!」

「し、指圧師っ! クリスティーナまで!?」


……岡部倫太郎は、遂に、ラボの仲間達に完全に囲まれてしまった。

 
630エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:32:28.69 ID:li5tMdHA
「捕まえたニャ! これでもう逃げられないニャ!」
「くっ、しまった!」
「オカリ〜ン、いきなり逃げ出すのはいけないと思うのです」
「ま、まゆりっ、こ、これには深いわけが……っ!」

振り返って言い訳しようとしたところで、岡部倫太郎はびしりと硬直した。
己の腕にひしとしがみついている椎名まゆりが……その肢体を腕に擦りつけ、頬を上気させているではないか。

「……まゆり?」
「えっへへ〜、ねえねえオカリン知ってた? まゆしぃねえ、オカリンのことがだいだいだいだ〜い好き! なのです♪」
「いや……あ〜、まあ、知っていたかそうでないかと聞かれれば、まあ知ってはいたが……」
「本当〜? 嬉しいなあ。そっかぁ、オカリン知っててくれたんだぁ♪」

嬉しげに、愛しげに彼の肩に頬ずりする椎名まゆり。
それは父に甘える娘のようでも、兄に甘える妹のようでもあって……
同時に、年上の恋人に甘える無垢な少女そのもののようでもあった。


逃げ場がない。逃げられない。
左手をフェイリス、右腕を椎名まゆりに掴まれ、完全に退路を断たれた岡部倫太郎。


前方には髪の毛を逆立てて目を爛々と紅に輝かせた鬼神のような牧瀬紅莉栖と……無言のままカツカツと間合いを詰める桐生萌郁。

「……指圧師?」

一瞬呆気に取られた岡部倫太郎は……だが次の瞬間ギョッとした。
彼女の迷いのない足取り、強い意思の込められた瞳、引き結ばれた唇……それはかつて異なる世界線で見た彼女の姿と重なっていたのだ。

そう、あの日、一番最初に椎名まゆりが殺された、あの時の桐生萌郁……ラウンダーとしての彼女の姿が、今の彼女と重なって見える。
631エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:42:06.39 ID:li5tMdHA
「指圧師……指圧師……萌郁っ!!」

彼女の突然の行動に呆気に取られた女性陣は誰も彼女の行動を止められない。
ただ一人我に返った岡部倫太郎は必死に逃げ出そうと足掻くもののフェイリスと椎名まゆりに拘束されていて身動きが取れぬ。

桐生萌郁は右手に持った紙袋を肘までずらし、素早く中からお重を取り出すとそれを右掌に乗せ、左手指で蓋を弾き、串を取り出してバナナを突き刺すと、
そのままお重を横にスライドさせつつ三段目の液状のチョコレートに漬け込んで……

「……えい」
「んがっ!?」

そのまま、岡部倫太郎の口の中に突き込んだ。


もぐ、もぐもぐ……ごくん。


「……意外にいけるな」
「本、当……?」
「ああ、これはこれで悪くないと思うぞ、頑張ったな、指圧師……あー、萌郁」
「うれ、しい……っ」

岡部倫太郎の言葉にみるみると頬を染め上げ、目尻に涙を浮かべる桐生萌郁。
彼女は薬指で己のぷっくりとした唇に触れ、目を細めるとなんとも控えめで柔和な笑みを見せた。
その様は大柄な彼女ゆえに却って愛らしく、岡部倫太郎の心臓を鷲掴みにするのに足る十分な破壊力を備えていた。

「あー! モエニャンがデレたニャ!」
「わー、萌郁さんかわいいー!」
「やだ、桐生さん、綺麗……」
「あ、や、あ……っ!」

わいのわいのと周囲から囃し立てられた事で我に返った桐生萌郁は、たちまち真っ赤になっておろおろと左右を見回すと……
真っ赤に頬を染めたままささ、と岡部倫太郎の背中に隠れ、彼の肩にしがみついて小さくなった。
632エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:43:29.95 ID:li5tMdHA
「な、なんかズルイニャ!? 一番槍取られた上にそのギャップ萌えはちょっと卑怯ニャよモエニャン!?」
「ねえねえ萌郁さん、後でそれ私も食べてい〜い?」
「う、うん……大丈、夫……」

掠れるような小さな声で呟く桐生萌郁がますます小さく縮こまってゆく。

「わ、わー、桐生さん、すっごく綺麗だ……」

真っ赤になってその光景を見守っていた漆原るかは……だが意を決してように面を上げる。

「岡部さん、つ、次はボクのチョコを……」
「あーダメニャダメニャ! 次はフェイリスが食べさせてあげるのニャ!」
「え〜、ずるいよフェリスちゃーん。まゆしぃもオカリンにあーんして食べさせてもらいたいのです」
「お前がかよ!」

岡部倫太郎のツッコミは、だが現状なんの状況打破にもなっていない。

「ねえねえ岡部倫太郎。みんなが終わった後でいいからさ、あたしの分も食べてよ」
「あーいや、だからその前にだな……?」

わいのわいのと岡部倫太郎を取り合っている一同を前に……
全身を震わせその肌を紅潮させている、鬼夜叉がが、一人。

「おぉぉぉぉぉぉかぁぁぁぁぁぁぁぁべぇぇぇぇぇぇぇぇぇあんた、一体、何様のつもりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「おわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! おおおお落ち着け助手よ、こっ、これには深いわけがっ!」
「ほほーういったいこの期に及んでどんな言い訳があるんだかじっくりたっぷり聞かせてもらいましょうか針の筵の上でなあっ!」
「お、お前っ、それ物理的に乗せるつもりだろう!?」
「当ったり前だこのウスラトンチキ! 時代劇に出てくるあのギザギザの石も乗っけてくれるわぁ!」
「のわぁぁっ! それは死ぬっ! それは死んでしまうぞクリスティーナっ!」
「だから死ねって言ってんのよこのダボがぁぁぁぁぁっ!!」
「だからお前はどこの生まれだぁぁぁぁっ!?」
633エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:46:06.54 ID:li5tMdHA
ちなみに石抱きの拷問ではギザギザなのは座る木製の台座の方で、膝に乗っける石は通常の方形である。
まあそんな事はさておき、凄まじい迫力の牧瀬紅莉栖に気圧されるように、他の女性陣が僅かに後ずさった。
その時……彼女らの拘束が緩んだことを察した岡部倫太郎が、思いっきり身体を揺すり捕縛からなんとか脱出する。

「あー! キョーマがまた逃げたニャー!」
「あ、オカリーン、待ってよぉ〜〜〜っ!」
「あ、おかべ、くん……」
「岡部さぁぁぁん! ボクのチョコ〜〜〜〜っ!」
「岡部ぇぇぇぇぇ! 逃ぃぃぃぃがぁぁぁぁすぅぅっぅぅかぁぁぁぁぁっ!!!」

ラボメンたちの愛の叫びを背に脱兎の如く駆け出した岡部倫太郎は……
路地を抜ける瞬間……すれ違いざま、壁に背もたれ腕を組み、彼にウィンクを投げかけた阿万音鈴羽に……こんな事を囁かれた。




「覚悟決めなよ岡部倫太郎。これも……“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の選択だよ?」




寒風が吹き荒ぶ朝の秋葉原。
冷たい風が路地を吹き抜け岡部倫太郎の背中を押した。
背後から聞こえる幾つもの靴音は彼の背を追って……


岡部倫太郎の張り裂けんばかりの絶叫が、秋葉原の裏通りに轟いた。




「こんな……こんな“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の選択があるかあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!」








 
634エピローグ 北風で太陽のロジック(後):2013/02/28(木) 23:48:00.30 ID:li5tMdHA
×         ×         ×








天の川の対岸で待っている織姫は、いつだって彦星の事を待っていて……
そんな事を呟いたのは、一体誰だったろうか。




いつ誰が……どの世界線で呟いた言葉だったろうか。




けれどこの広い宇宙にはたくさんの銀河が、たくさんの天の川が流れていて……

その内の幾つかの川の向こうの織姫は、

だから、もしかしたら……同じ彦星を待っているのかもしれない。








恋歌鴛鴦のミルキーウェイ
エピローグ 北風で太陽のロジック(完)
635名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 23:49:30.44 ID:li5tMdHA
というわけでなんとか完結です……
後書きはちょっと長くなりそうなのと余韻をぶち壊しかねないのでまた後日と言うことで
それでは皆様読了お疲れ様ー ノノシ
636ふわりん:2013/03/01(金) 00:07:40.38 ID:+gv9D5NW
サイコーーーーっ!!!!
なんかもう一つの本にして売っててもおかしくないんじゃないかなってぐらいおもしろかったです!!!
もし売ってたら迷わずにボク買っちゃうよ〜!!!
毎日の楽しみのひとつだったよ〜!!
こんなにも楽しい作品をホントにありがとうございました!!!! 
637名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 01:36:17.42 ID:BCnbBpu1
ブラボーーーー!!
ブラボーーーーーーーーー!!!

長い間、本当にお疲れ様でした
そして、すばらしい作品をありがとうございました!!
638名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 01:37:20.31 ID:L2qluj6A
ついに完結してしまった。
……なに……もう半年も経っているだと!?
そんな馬鹿な!あっと言う間だったではないか。
これは機関の時間操作攻撃に違いない!
機関の手先となり巧妙で魅惑的な小説で俺の時間を奪った>>1は、
責任をとって出版するべき。
そして多いに感謝されるべき。
エル・プサイ・コンガリィ
639名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 05:32:00.56 ID:bdZOADrA
エル・プサイ・コングルゥ
GJだった…っ!
640名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 07:03:32.66 ID:NxkFwMDN
GJ! (AAry
いやしかしロングランでしたな。
続けるだけじゃなくてちゃんと完結させることが一番難しいんだけど、
それができたことが何より凄いです。
おつかれさまでした。
641名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 07:38:08.93 ID:5cFsBJOR
お疲れ様。
原作の別ルートとして発表されても充分に耐えうる内容と文章力、大変素晴らしかった。
642名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 07:46:32.94 ID:OYcoTo6f
乙!

>>638>>641に同意
643名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 11:05:00.58 ID:qoNd5pLt
お疲れです
644名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 12:28:42.36 ID:NgSSlOsO
R18版だーりんルートだわー
むしろだーりんよりらぶチュッチュで面白かったわーw

半年間、夜の密かなお楽しみをありがとう!
最後まで楽しく読めたエロパロは久し振りでした。


これもうコミケで出しちゃえよ、マジで…。
645名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 12:37:06.50 ID:NgSSlOsO
おっと、書き忘れていた

世界中のみんな!壁殴りパワーをオラに分けてくれ!!
646名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 12:47:15.78 ID:tVUtTfpR
俺の力を全部持ってけ!
647名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 14:28:50.13 ID:t/yteWiB
>>645
俺のパワーも持ってけ!!

>>635
半年間本当に楽しませてもらいました。
これだけの作品を最後まで書ききることはとても容易ではないはず。
尊敬、敬意、感謝…表わす言葉が多すぎて困りますw
そして、この「シュタインズゲート」という作品をもっと好きになりました。
素晴らしい作品で私をはじめ多くの皆様を楽しませてくれた貴方にこの言葉を。

エル・プサイ・コンガリィ
648名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 15:08:26.21 ID:Beao0bDz
コングルゥだと何度言わせれば以下略
649名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 16:51:21.78 ID:BCnbBpu1
>>638
アインシュタインに文句を言いたい気分だな!
650名無しさん@ピンキー:2013/03/01(金) 20:39:03.51 ID:SeuITV4k
まじ神っす
半年ありがとうございました!
651名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 00:24:37.47 ID:U719JiFM
いや〜時間がたつのを忘れるとはまさにこのこと
2日で一気に読ませてもらいました!
エル・プサイ・コングルゥ…
652名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 01:56:04.54 ID:WZyEiZYi
助手エンドだと思ったが無難にハーレムときましたか
そのほうがみんな楽しめるしね
653名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 01:58:00.51 ID:WZyEiZYi
それと、新しいシュタゲSS職人の登場を願うばかり…
今回の方の次回作にも期待
654名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 02:17:03.66 ID:7ZNhzQV4
夏にシュタゲ分に飢えてこのスレに遭遇
まとめwikiで最初から読み、それから毎日(つい土日もw)読んでました
シュタゲSSはまゆりの口調が難しいとか言いますが、
さすがは神、違和感ない文章で魅せてくれました
私と私の息子を喜ばせていただいてありがとうございました
エル・プサイ・コングルゥ

なんか上からの批評みたいになってますすいません
655名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 03:08:15.02 ID:DdWnbkyf
次はダルクリ。
656名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 12:31:41.69 ID:aK/eDNmB
オカリン以外だとみんなNTRっぽく思えて仕方ないのは俺だけか?
657名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 13:01:07.02 ID:78efE1dE
ダルクリはラジオだけにしていただきたい……
658名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 13:10:18.88 ID:jl4PL9s0
次はオカクリ。
659名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 13:42:32.63 ID:qADNj7Lc
いや、まゆクリだっていいじゃない
660名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 16:19:19.16 ID:Z/6Lh7fH
鈴栗でもいいのよ
661名無しさん@ピンキー:2013/03/02(土) 16:40:55.80 ID:Hnxuelie
まゆ萌で…
662あとがき、のようなもの:2013/03/03(日) 00:11:43.62 ID:/OQ+jYF5
……ハーレムが、好きです。
それも男←ヒロインみたいなのが個別に複数あるタイプじゃなくって、
ヒロインがそれぞれ仲が良くって男主人公がいなくてもちゃんと人間関係構築してて、
それでいて全員で同じ屋敷やアパートに住んでたり同じ部活だったりするようなタイプ
さらにそれでいて主人公が誰かを選ぶまでのモラトリアムとしてのハーレムではなく、全員とその後もずっと付き合っていこうという結末としてのハーレムが好きです。

とはいえそこまでいくと該当するのはエロゲのおまけシナリオとかのチープなハーレム展開くらいしかないんですが。

その上でそれぞれのヒロインが主人公に箔を付けるためだけのハーレム記号要員やトロフィーとしての役割だけでなく、陵辱やら調教やらMCでもなく、それなりにしっかりした理由で主人公を選ぶ……
みたいな話になるともう該当作品がすっごい少ないんですね。

それでまあ、ないなら作ってしまえ、と書き始めたのが本作、ということになります。
663あとがき、のようなもの 2:2013/03/03(日) 00:14:05.74 ID:/OQ+jYF5
題材としてSteins;Gateを選んだのは作品自体のファンであったことも勿論ですが、ヒロイン達がどの娘も魅力的で、んとかみんなを幸せにしてやりたかったからです。
特に本編やファンディスクで不遇なところもあった鈴羽や萌郁あたり。
まあハーレム要員になる事が幸せなのかどうかは置いといて(ダメじゃん)。
ちなみに表向きは積極的でも他のヒロインがいると一線を引いたり相手に譲ったりしちゃいそうな自制心の強めな娘にはえろんえろんなことをしてオカリンと離れられなくなってもらいました。性的な意味で。
フェイリスとまゆりルートがエロに傾いていたのはそのためです。

まあそんなわけでなんとか無事ハーレム展開が構築されたわけですが……上述のようにこの作品は完結時点でようやくプロローグでもあります。
要は「納得できるハーレム展開の前準備」のようななものですから。
御都合主義だったり最初からみんながオカリンにラブラブだったりやけに積極的だったり、
あるいはオカリンが誰と付き合って誰とセックスしても、複数のヒロインと退廃的な関係に陥ったとしても、「鴛鴦後です」と書いておけばあら不思議! 全然問題ないわ! みたいなテンプレを目指してみました。
今はだいぶ下火ですが、もし誰かがSteins;Gateの二次創作を書くとき、この作品の設定をその土台なり踏み台にしていただけたら、これ以上の幸せはありません。
664あとがき、のようなもの 3:2013/03/03(日) 00:16:43.70 ID:/OQ+jYF5
さて……
完結したところで一つ、この作品であえて説明しなかった大きな矛盾が一つあります。
Steins;Gateと呼ばれる世界線は世界線と世界線の狭間……境界面上に存在するために世界線の収束から逃れることができる。
だからこそ椎名まゆりも牧瀬紅莉栖もどちらも助かる可能性がある……そういう世界線だったはず。
にもかかわらず第三章に於いて阿万音鈴羽は「世界線の収束によって」この時間にタイムトラベルしていると発言しています。これは一体どういう事でしょうか?
解釈としては三つあります。

1.この世界線はSG世界線であり、収束は発生しない。結局目的達成のために阿万音鈴羽をタイムマシンで過去に送り出すことになった未来オカリンや未来助手が面倒なので鈴羽に伝えていなかった(or嘘を教えいている)ため、鈴羽はそれを収束だと信じ込んでいた。
2.この世界線はSG世界線だが、収束が発生する。執念オカリンの観測ミスで、近似のβ世界線とはまるで性質の異なる収束であるため彼には気づくことが出来なかった。そのためまゆりと助手は助かるが、鈴羽のタイムトラベルという収束は発生してしまう。
3.この世界線はそもそもSG世界線ではなく、よって収束も発生する。半年前の助手を救うミッションの際、岡部倫太郎はミッションの達成の仕方を一部誤って、
結果まゆりも助手も助かる世界線に移動はしたもののそれはSG世界線ではなくハーレム世界線であった(!)。よって収束が発生する。

等です。どう解釈するかは個々人の好みにお任せします。
ちなみにそこいらへんを都合良く解釈して貰うために、作中では現在彼らがいる世界線がSG世界線である、とは一度も明言しておりません。
665あとがき、のようなもの 4:2013/03/03(日) 00:18:18.05 ID:/OQ+jYF5
最後に……
少し変わっているかもしれませんが、私にとってweb上の創作というのは「レスの一種」という感覚があります。
皆さんがウィットに富んだレスやAAを生み出すのと同じように、単に私にとってその形式が小説である、といことです。
更新頻度が高いのも単に連レスしてるからなんですねw
なので私の書いたお話は皆様のレスによって励まされ、補完され、或いはよりよいレス(作品)にしようと試行錯誤した末に今の形となりました。
レスによって展開が変わったり出番が増えたキャラも結構いたりします。
つまり何が言いたいかと言いますと、この作品はここで読んでくださった、レスしてくださった皆様のお陰で今の形になれた、ということです。
なので……最後にこの言葉を贈らせてください。
今日まで拙作の完成・完結にお付き合いしてくださって本当にありがとうございました。
m(_ _)m
666名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 00:19:27.50 ID:tCUxO1xd
おつかれさまでした。
本当に楽しかったですよ。
667名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 00:21:12.14 ID:D9NArx3Q
>>665
こちらこそ今まで楽しませていただきありがとうございました^^!
なるほど、>>664を一読して作品の解釈がまた少し深まったような…
僕自身もそうですが、Steins;Gateという作品をまた好きになれた人も、
たくさんいるのではないかと思います。
本当にありがとうございました^^!!!
668名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 00:35:46.48 ID:a5m6Fsfk
>>665
ロンクランお疲れ様でした。
そして素晴らしい作品をありがとうございました。この半年の楽しみでした。

それにしても、「作ってしまえ」で書いた割に非常に高いクオリティ、そして>>664のような隠し設定の深さ……ここで筆を置いてしまうのは勿体無い!
>>663でおっしゃるように、「納得できるハーレム展開の前準備」を作ったのなら、その上に乗ったデザートを我々は食べられるのですよね?よね?

是非よろしければ今後の創作活動のご予定を聞かせてください。(他作品SSも含めて)
669名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 01:31:07.10 ID:Y0wwCE9K
>>665
短編でもいいんでまた書いてください
待ってます
670名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 02:33:00.14 ID:toMw729q
え、得ろアニメ化けttいだお。誰が何と言おうと絶対にだっ!
誰か早く千代○にツイートしてくるんだのぜ

・・っていうのは無理だから脳内で映像化して全俺の中で楽しむ事にした。
671名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 05:16:15.79 ID:lLl2MpKg
>>665
本当にお疲れ様でした!!
他にも作品があったりしたら、是非教えて欲しい…!
672名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 06:27:51.09 ID:lLl2MpKg
俺もやってみたくなったので、ちょっと書いてみた。

こんな凄い作品の後に書くのは恐ろしくて仕方ない上、
あそこまでコンスタントに更新できるとは思えないですが…。

ちなみに、オカクリ。
673背徳狂乱のヒュプノシス 01:2013/03/03(日) 06:28:38.66 ID:lLl2MpKg
「ぅう…ん………?」

気がつくと、そこはラボの研究室だった。
雑然と置かれた何かの基板やパソコン、天井のシミや薄暗い明かり。
見慣れたはずの景色だが、何か違和感がある。

私は、パソコンの前にある椅子に座っていた。未来ガジェットの開発をする時、いつも座っている椅子。
ガジェットの開発をしている最中に、いつの間にか眠ってしまったのだろうか?
アタマの奥が、脳の奥が、熱を持っている。ような気がする。
まだぼーっとしているアタマをすっきりさせたくて、背伸びをしようと、思った。

「ぅう〜〜んん……えっ!?」

身体が、動かない。背伸びをしようと思っても、身体が動かない。
伸びをするどころか、首だけで振り返ることも、指一本動かすことすらできない。

「えっ…!? ちょ、なに、なんぞコレ!?」

椅子に深くもたれ掛かり、頭の後ろで両手を組んでいる。姿勢としては、背伸びをする時の状態と同じような感じだ。
声は、出せる。ちゃんと発声ができているという事は、顔の表情筋も動いている。しかし、他の部分はまるで石になってしまったように----全く動かす事ができないままだった。
674背徳狂乱のヒュプノシス 02:2013/03/03(日) 06:29:28.00 ID:lLl2MpKg
これは…ひょっとして金縛りってヤツなのか?
睡眠麻痺、つまり睡眠時の全身の脱力と意識の覚醒が同時に起こった状態。不規則な生活、寝不足、過労、時差ぼけやストレスなどから起こると言われている。
霊の仕業だとかオカルトめいた話もあるが、そんなモノは信じない。科学者がそんなオカルトを信じてどうする。というか、霊とか怖い。ホラーは苦手だ。ほんとやめて欲しい。
でも、しゃべることができ、視界もハッキリしている以上、睡眠麻痺の可能性もなさそうだ。身体の一部だけが睡眠麻痺状態になるとか、聞いたこともない。

次に、自分の脳の中で何かしらの障害が起こってしまった可能性に行き着く。脳医学の観点から見れば、あり得ない事ではない。
だが、それによって身体が動かせないというのは、自分の脳の中でなにか大きな問題が起こっているという事だ。
急に心の中で恐怖感が膨らみ、思わず叫ぶ。

「ねぇ! ちょっと、誰かいないのっ!? ねぇっっ!!」

身体は相変わらずピクリとも動かない。
今自分がどういう状況に置かれているのか判断が付かず、恐怖に心が支配されていく。

「お願いっ、誰かいるなら返事してぇっ!!」

----ガチャリ。

その時、玄関の方から音が聞こえた。
ドアのノブが回された音。その後に、ぎぃー、と安普請のドアが開かれる音が聞こえる。
部屋の奥の方を向いているため、このままではそちらは見えない。
ぎくりとして、思わず振り返ろうとしたが、相変わらず身体は動かない。

「だっ、誰っっ!? 誰なの!?」

……返事がない。
後ろで足音とともに、人が動いている気配がある。

「ねぇ、誰なのっっ!? 聞いてる!!??」
675背徳狂乱のヒュプノシス 03:2013/03/03(日) 06:30:26.33 ID:lLl2MpKg
怖い。恐ろしい。
身体が動かない上、誰がラボに入ってきたのかすらわからない。何より、いま自分がどういう状況に置かれているのかわからない、という恐怖で、頭がどうにかなりそうだった。

「ねぇ、聞こえてるの!? ねぇっっ!!」

足音がとまり、後ろから声が聞こえた。

「…紅莉栖」

「……おっ…岡部!?」

それは、確かに岡部の声だった。
ただ、いつもとは違う、低い、何かを押し殺したような声。

「ねぇ、岡部なのっ? 身体がっ…動かないのっ…、お願い、助けてっ!」

思わず、助けを求めていた。
普段なら、こんな懇願など絶対にしないだろう。
ただ、今は状況が状況だった。混乱と恐怖で、頭の中は埋め尽くされている。プライドなんて最初からなかったかのように、ほとんど涙声で叫びながら、助けを求めていた。

「…紅莉栖、どうした?」

岡部の声で、恐怖心が徐々に溶けていく。
精神は混乱したまま、身体は動かないままだったが、知っている人間が近くにいてくれる事が心強かった。それが岡部なら、特に。
一度深呼吸して、心を無理矢理落ち着かせる。
まずは、現状をしっかり伝えないと。

「え〜…ええと、その、岡部…? なんか、私…えっと…金縛りに…なっちゃったみたいで…身体が、動かないの…。ちょっと、助けて欲しい、のよ…」

足音と気配で、岡部がいま自分の真後ろにいることがわかる。

「紅莉栖、何をそんなに怖がっているのだ?」

思わず頭に血が昇る。コイツは。
相変わらず空気が読めないというか、何というか…!

「一人っきりで、身体も動かない状態で、いきなり誰が入ってきたかもわからないってなったら、怖くないわけないでしょ!? こっちが助けを求めてるんだから、さっさと返事くらいしなさいよね!! いいからさっさと助けなさいよ!!」
676背徳狂乱のヒュプノシス 04:2013/03/03(日) 06:31:17.41 ID:lLl2MpKg
いつもの調子で、叫んでいた。
多分、この時点でだいぶ心は落ち着いてきていた、と思う。
岡部が来てくれて、身体は動かないままでも、いつものようなやりとりができたから。
わけのわからない非日常から、いつもの日常に戻れたから。

そう、思ってたけど。

「紅莉栖」

「こ れ は お 前 が 望 ん で い た 事 だ ろ う  ?」

「なのに、なぜ怖がるんだ?」

………は?
コイツ、何を言ってるんだ?
厨二病をこじらせすぎて、ついにおかしくなったのか?
空気が読めないにもほどがあるだろ!!

「はあぁ!? こんな時まで厨二とか、バッカじゃないの!? こんな訳のわからない状態、私が望むハズないじゃない! こっちは真剣に頼んでるの! いいから早く助けろっ!」

岡部は何も答えなかった。
後ろで人が動く気配がした後、岡部が視界の左隅に入る。
首が動かせないから、目で追うことしかできない。精一杯左側を見ようとしても、岡部の顔の輪郭が見えるだけだった。

「お…、岡……部……?」

岡部は、何も言わなかった。
ちょっとだけ安心していた心が、急にざわめき出す。
心臓が、波打っているのがわかる。
どこかへ行っていたはずの混乱と恐怖が、急に戻ってくる。

「ね、ねぇ、岡部…? どうしたの…?」
677背徳狂乱のヒュプノシス 05:2013/03/03(日) 06:32:05.23 ID:lLl2MpKg
ここからだと岡部がどんな顔をしているのか、わからない。
これがいつもの厨二病モードなら、顔を見ればわかる。でも、今は顔が見えないせいで、どんな表情をしているのかすらわからない。

----というか、さっきコイツ、私の事を紅莉栖って呼んでなかったか…?
名前を呼んでくれるのは嬉しいんだけど……って、そういう事じゃなくて!
岡部が厨二病を発症している時は、絶対に名前で呼んでくれない。助手とかクリスティーナとか、ザゾンビとか、訳のわからない名前でしか呼ばないのだ。
だから、今は鳳凰院凶真ではなく……岡部倫太郎のハズだ。

それに、……岡部の顔が近い。
私の左耳に、息づかいが聞こえる距離。
恐怖と不安、岡部の顔が近くにあるという恥ずかしさ、そして耳にふきかかる岡部の息づかい。
いろいろなものが入り交じって、今私の精神は混沌の極みに突き落とされていた。
こんなの、私じゃない。もっとクールになれ。状況を見極めろ。
理性はそう言っているが、考えれば考えるほどわからなくなる。
なんだ、何なのだ、これは! どうすればいいのだ!?

「それでは、紅莉栖」
「お前の望む事を、はじめようか」

低い声とともに、耳に息がかかる。
ぞわわ、と左半身に経験したことのない感覚が走った。
鳥肌が立つような、くすぐったいような、----気持ちいいような。
さっきから聞こえていた自分の鼓動が、どくん、と跳ね上がって聞こえる。

「おっ、岡部っ!? はじめるって…な、なにをっ!? ……えっ?」

そう言った瞬間、自分の視界が真っ暗になった。
目を開けているのに、何も見えない。
必死になって視線を巡らすと、上下からほんの少しだけ、光が差し込んできている。
……アイマスク?
まぶたの上に、何かが軽く触れている感覚。耳の後ろに、何かが引っかけられている感覚。
飛行機の中で眠るときにつけるアイマスクの感覚だ。
なぜ視界が暗くなったかの理由がわかってほっとするのと同時に、私の心はさらに混乱していく。

「ちょ、ちょっと、岡部っ!? なんなの、コレっ!?」

わけがわからない。
気付いたらラボの研究室の椅子で、身動きひとつとれない。岡部が助けに来てくれたと思ったら、訳のわからない事を言われてさらに視界までふさがれた。

「岡部、聞いてんの!? ねえ、なんなのよ、コレは! いい加減にしないと脊髄引きずりだすわよっ、ねえったら!!」

「お前を怖がらせるつもりは、ない」
「それはお前が望む事でも、ない」
「ちょっと待っていろ」

「何を訳のわかんない事っっ……! 早く助けてよ、お願いだからっ…! ねぇっ、岡部っっ…!!」
678背徳狂乱のヒュプノシス 06:2013/03/03(日) 06:32:59.14 ID:lLl2MpKg
泣き出しそうになりながら、叫ぶ。
声の代わりに聞こえてきたのは、カチャカチャという、パソコンのキーボードを叩く音。
その瞬間----なぜだかわからないけど----恐怖と不安と混乱に支配されていた心が、急に落ち着いていくのがわかった。

ずっとやってきた研究が、ようやく完成した瞬間のように。
長年抱えてきた悩みが、解決した瞬間のように。

まるで、心の中から恐怖や不安といった負の感情を----物理的に取り除かれた----ように。

「これでどうだ?」

これでどうだ、と言われても。
全然わからないけど、納得できるものでもないけど…。
なぜか、恐怖心はなくなった。
まだ鼓動は驚くほど早いし、さっきまでの緊張のせいか、自分の顔が紅くなっているのがわかる。
そして、もうひとつ。
自分の中に、経験したことのない感覚があった。

首筋が、ぞくぞくするような。
耳元が、ぞわぞわするような。
全身が、むずむずするような。

そんな、わけのわからない感覚。
それを認めたら、なぜか自分が自分ではいられなくなるような気がして。
その感覚をできるだけ隅に追いやるように、できるだけ平静を装うように、無理矢理問いかける。

「……岡部、ちゃんと答えて。あんた、何をしてるの? 何をしようとしているの?」

「お前が、望んでいることだ」

「だからっ、その望んでいる事って何なのよ!?」


「お前は」

「凌 辱 さ れ た か っ た の だ ろ う ? こ の 俺 に」
679名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 06:35:42.61 ID:lLl2MpKg
……と、今日のところはここまでで。

エロ要素なしでごめんなさいw
680名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 06:48:32.57 ID:/OQ+jYF5
ヒャッハー!
早速新作が来たぜ!
ありがてえありがてえ
681名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 11:06:36.41 ID:C8d2N4ju
あら、いいですねー
682名無しさん@ピンキー:2013/03/03(日) 16:00:09.99 ID:D9NArx3Q
うおおおおおおおおおおおおお!?
なんかすごく面白そうなところで切れた!?
エロ要素なしって…十分エロいですよw
683名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 05:32:33.05 ID:baUGupl6
……そろそろ書き込めなくなる頃だったりして
684名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 20:32:48.90 ID:NaasVyPV
あ、確かにちょっと怪しいかも
次の投下はもたない気がする
685名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 20:46:25.81 ID:ZBn21qYm
次スレ立てとく?
そしたら安心じゃない?
686名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 21:06:11.29 ID:l43qHFJU
落ちてなくって新スレとかたてていいもんなんだろうか
でも作品上げてくれる人にスレ立てさせるのも悪い気がするのも確か
687名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 21:21:23.66 ID:bHBqRrH+
いいんじゃないか。
人口が多いスレは1000行くちょっと前か容量が埋まりそうなときに次スレ立てるような了解があるし。
688名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:05:18.83 ID:NanAj14f
続き、いきたいと思います。
容量オーバーになったら、その時はその時でw
689名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:07:08.86 ID:NanAj14f
 
岡部が何を言っているのか、まったくわからなかった。
りょうじょく……リョウジョク……?
頭の中で漢字が変換されていく。
凌……辱………凌辱…?

………ははは、またまたご冗談を。
ないない。あり得ない。
えーと、他に変換できる漢字は……。

…あれ、他に当てはまる漢字って……なくね?

もう一度、岡部の言葉を思い返す。


----凌辱されたかったのだろう? この俺に。


「はああああああああああぁぁぁぁぁぁああああぁぁ!!!???」


そりゃ確かにお互いに想いは伝えたし勢いでキスもしちゃったりしたけど
それはその場の流れというかそういう物であってその先とかはまだしたことないし
恋人同士という存在のハズなのに岡部がなかなか手を出してこないヘタレのせいでいい加減手を出してこいよとか
内心思ってたりもするけどなにより岡部がこんなグイグイくるようなタイプなら私が一人
妄想を膨らませたりする必要もないし別にこんな事をされてみたいとか思ってたりは
無意識ではあるかもしれないけどそんなことは本来なら絶対にないしありえないしこれは現実じゃない。
はい論破。


…………誰をだ。


なんか心の中を垂れ流しにしてしまった気がするけど忘れる。忘れろ。お願いだから忘れて。
いや、そんなコトを言ってる場合じゃなく。
 
690名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:07:50.63 ID:NanAj14f
 
あり得ないこの現状、あり得ない岡部の言葉。

そうか、夢か、夢オチってヤツだな!?
どうせこの後、私はベッドから滑り落ちて、
「ハッ……何だ、夢か…」とかいうオチなんだろ!

そう思い込もうとしても。
視界がふさがれていても、岡部がすぐそこにいるのがわかる。
体温を感じる。空気の揺れを感じる。
夢にしては、現実感がありすぎるのだ。
こんがらがった脳がショートしそうになり、思わず叫ぶ。

「あんた、何言ってんの、バッカじゃない!!?? 凌辱とかどこのエロゲーなのよこのHENTAI!! そもそも私がこんなコトを望んでるとかあり得ないし、絶対あり得ないっっ!! 大事なことなので二回いました!! こ、こんなの、夢とかに決まってる!!」

「夢……か」
「それなら、自分の身体で確かめてみろ」

「へっ…? ちょ、ちょっと、岡部!? ねぇ、う、嘘…でしょ、ねぇったら!! 聞いてんのか、このバ……んぅうっっ!?」

おとがいを掴まれ、何かに唇をふさがれた。
柔らかくて、暖かくて、どこか覚えがある感触。
頬や鼻に、わずかに触れてくるこの感覚。
目の前に感じる、体温、息づかい。

………えっ!?

キ、キス……されてる!?
 
691名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:08:31.83 ID:NanAj14f
 
「んうぅっ……! んぐうぅうっんっっ!!」

しゃべろうと思っても、唇をふさがれていて。
身体をよじって逃げようとしても、相変わらず身体はピクリとも動かないままだった。
唇に伝わる感触と、体温と、岡部の匂い。
驚きと、恥ずかしさと、不安とがごちゃ混ぜになり、私の脳髄を焼き尽くしていく。

「んんっ……ぅふうんっ……っんぐうんッッ!!??」

突然唇に触れてきた、ぬらりとした感触。
それは唇を無理矢理こじ開け、口の中に侵入してくる。
え、え、え、えええええええっっ!?
こ、これって………!?!?

「んふぁあっっ…! …お、岡部、んうっっ…ねぇっ……ちょっと、タンマ、ふぅんッッ…! お、お願いだから、一回ストップっ…んう゛ぅんんッッ!!」

理解が追いつかない。
冷静になろうとしても、唇や口腔の粘膜を刺激してくるぬらりとした感覚に、すべてを塗りつぶされていく。
経験したことがない、自分の体内を舐め回されているという感覚。粘膜と粘膜が擦れ合うたびに、そのザラっとした感触が脳を直撃してくる。
自分の頭蓋骨を通して聞こえてくる、ぬるぬるくちゅくちゅぴちゃぴちゃという音が、視界を閉ざされた頭の中で響き、反響していく。
一方的に自分の口腔と舌を犯され、そこから全身に広がっていくぞわぞわした感覚に理性が溶かされていく。

「んぷはぁッッ……はぁはぁ…んっ……」

数秒だったのか、数分だったのか。
やがて口の中で動き回る舌が動きを止め、唇と唇が離れる。

さっきまで頭の中を支配されていた感覚が消え、ようやく頭の中が回転し出した。
ほっぺたのあたりが熱い。濡れた唇が気化熱でスースーしている。
その瞬間、自分がいったい何をされていたのかを改めて把握してしまい、恥ずかしさがこみ上げてくる。今頃、顔が真っ赤になっている事だろう。
 
692名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:09:18.38 ID:NanAj14f
 
別に、イヤなわけじゃない。
というか、なんだ。その、ええと。
岡部と、こういう事をするのは…、イヤじゃないし…、その、したくなかったと言えば嘘になるし、なんだ、その、し、し、し……した……かった。うん。

でも、今の状況はわけがわからなさすぎて、突然すぎて、強引すぎて、でもイヤかと言われるとそういうわけじゃないんだけど……。いや待て、これじゃあ私がHENTAIみたいじゃないか!?
自分の頭の中でグルグル回っている思考に自分で気付いて、それが恥ずかしくて、さらに頭に血が昇って、思わず叫んでいた。

「はぁ……はぁっ…!! ちょ、ちょ、ちょっと!! どういうつもりなのか説明しなさいよ、岡部!!!」

「だから」
「これはお前が望んでいた事だろう?」
「いい加減、素直になったほうがいいのではないか?」

「はああぁぁ!? 相変わらず言ってる意味がぜんっぜんわけわかんないんですけど!! 一方的に、しかも私が動けない時にこんなコトするとか、セクハラ行為で訴えてやるんだから!!」

そ、そりゃ妄想の中では無理矢理される自分を思い浮かべてしまった事もないわけではないけど、いきなりこんな状態になってそんな状況を認められるわけないだろ!
頭の中でツッコミを入れるが、それはこういうことをされたかったという事を認める事になってしまうわけだからそんなことはあり得ないと言っておく。うん。
さっきキスされてたときに何か変な声が出てたような気もするけど、あれは息が苦しかっただけ。感じてなどいない。はい論破。

一人で勝手にいろんな事を考えて、赤くなったり青くなったりしている私には興味がないように、岡部が告げる。

「そうか、それなら仕方ない」
「では、身体でわかってもらうしかないようだな」

「……ふぇっっ!? ちょ、ちょっと、ストップ!! タンマ!! だから人の話をちゃんと聞けって言っとろー……ひあぁぁああッッ!?」

左耳に、ぬるりとした生暖かい感触。
予想してなかった感触に、思わず声をあげてしまう。
耳から首筋、肩のあたりまでその感覚は広がり、ぞわぞわと鳥肌がたつのがわかる。
身体が動かないから、首をすくめて逃れようとすることも、手で払いのけることもできない。
 
693名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:12:03.24 ID:NanAj14f
 
「ひぃうぅっっ! はぁっ……んくぅぅ……んっっ!」

耳元で聞こえる絶え間ないくちゅくちゅという音。
その音がするたびにぞくぞくと首筋を這い回る感覚。
耳にふきかかる、吐息。

「お、願い、んっ…、ねぇ、ちょっと、んくぅんっっ……待って、ってばっ、……うあっ……んあっ、んうぁああああぁああッッ!!?」

耳を甘噛みされた。
ヤバい、これヤバいッッ……!

「うう゛ふぅんんッッ!! お、岡部、そ、そんなの、は……んぁあぁっ! は、反則っっ…よっ!?」

ぬるりざらりとした感覚と、甘く引っ掻かれるような感覚の中で、追い打ちをかけるように耳元で囁く声が聞こえる。

「どうだ?」
「もうそんな声をあげるとは……」
「お望み通り、ちゃんと感じているようではないか」

「んぐうぅっっ……いっ、今のはっ、そういう、ことじゃ…んうぅっっ、なくてっっ! ちょっと、びっくりした……んあぁッッ! だけ、よっ……!」

冷静な岡部にそう言われるのがなんか悔しくて、思わず言ってしまった。
いや、その言い訳にはいくらなんでも無理があるのはなんとなくわかっているけれど。
ハッ!? そうか、これが『くっ、悔しいッッ! でも感じちゃうビクンビクン』か……まさか自分が経験することになるとは。

「そうか」
「それなら仕方ないな」

そう囁きながら、徐々に耳から首へと責める場所が移動しはじめる。
それと同時に、さっきまではくすぐったさと得体の知れない感覚の両方だったはずのものが、明らかに得体の知れない、甘い感覚の方が多くなってきている。
……ホントにヤバい。このままだとホントにヤバい。

人間、拳を握りしめたりハラに力を入れれば、多少の感覚はガマンする事ができる。でも、今はそれすらできないのだ。
しかも、視界が塞がれているせいで、どうしてもそこに意識が集中してしまう。
せめて首をすくめて逃げたりできればいいんだけどっ……!
 
694名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:16:21.73 ID:NanAj14f
 
「ちょっと責めづらい姿勢だな」
「紅莉栖、首を右側に動かせ」
「俺が責めやすいように、だ」

ぱちん、とどこかで音が聞こえたような気がする。
その時、あんなにも動かせなかった身体が----とは言っても首だけだが----突然動き出した。
……すくめるのではなく、責められている側を全開にするように。

「ぇえっ?? な、なんで!? さっきまで動かなかったのにっ!! なんでっ……んくうっっ……、ま、待って、待ってぇぇっっ!! んう゛ぅあぁああッッ!?」

無防備になった首筋を一気に舐めあげられる。
こっ、こんなの声ガマンできるわけない!

「うぐぅんんっっ…! ちょ、ホント、お願いだからっっ! んうああぁあっっ……はあぁっっ!」

首筋を舌や唇でなぞられる。歯で優しく引っ掻かれる。
きつく結んだはずの私の口から、耐えきれずに声があがる。
しかも、私の反応が強いところを重点的に、執拗に責めてくる。

「ひうッッ! ダメぇっっ…! んんぅああぁッッ!! ほんっと、ダメだっっ……てぇっっ!!」

首筋だけじゃなく、今度は喉元を触れられるような感覚。
次の瞬間、ボタンを外されているのだ、という事に気付く。

「ふぇっ!? ちょ、ホント、ねぇ、お、岡部っ! ねぇ、岡部っっ!?」

首筋から送り込まれる感覚と、ひんやりとした手が、喉元から鎖骨に触れている感覚。
不安と、快感と、ほんの少しの期待とがごちゃ混ぜになって、もう自分でも何をいってるのかよくわからない。

それでも、ゆっくりと。なぞるように。手が服の中に差し入れられてくるのは、わかってしまった。
 
695名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:19:44.93 ID:NanAj14f
というわけで、今日はここまで。
ようやくエロっぽいところまで入ってきました。
……って、名前にタイトル入れ忘れてた orz

ご意見、ご感想いただけるととっても嬉しいです!
読みづらいところとかあれば、ぜひ教えてもらえるとそれもありがたい。
696名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 22:59:06.79 ID:baUGupl6
ウェヘヘヘヘ
イイヨイイヨー
>読みづらいところとかあれば、ぜひ教えてもらえるとそれもありがたい。
あくまで個人的な意見だけども
同一人物の台詞を「」「」で区切って続けると普通のお約束として一瞬別の人の台詞だって脳が判断して一瞬混乱するね
今回は登場人物が2人しかいないから消去法ですぐ判別できるけども
697名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 23:19:23.08 ID:8dA8SFjS
ふむふむ(^ω^)
698名無しさん@ピンキー:2013/03/04(月) 23:21:12.12 ID:4QmJjuHe
オカリン「紅莉栖ペロペロ(^O^)」
699名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 01:32:58.09 ID:m7fg5rt4
栗ご飯のムッツリ具合が出ていてイイヨー
700名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 04:00:01.00 ID:vRAJjuqp
某深紅ネタにニヤリときたwww
701695:2013/03/05(火) 10:14:50.53 ID:/8HHPVkS
>>696
ふむふむ、指摘ありがとう、把握した。

多分今日の夜も更新できる…と思う。
時間は不明だけど、期待しないで待っててw

それにしても、SS書いて見てわかった。
前の神SS作者さん、総文字数40万字オーバーとか、
それがいかにとんでもないのかという事が。
そして、あのレベルの作品をあのペースで書き続けられることが。
とんでもねぇ。マジで尊敬します。
702名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 20:27:11.54 ID:/8HHPVkS
というわけで、続き。

紅莉栖かわいいよ紅莉栖。
703背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/05(火) 20:28:06.58 ID:/8HHPVkS
 
「おっ……岡部……? う、嘘、でしょ? どうせ、ドッキリとか、そういうヤツなんでしょ……? ねぇってばぁ!!」

手が服のなかをまさぐり、乳房へと近づいていく。

「ま、待って、待って!! ほら、こういうのって順番とか、あったりするじゃない? べっ、別にイヤなわけじゃないけどっ……いや、そういう事じゃなくてっ! だから……だめっ、待ってっ! お願いッッ……!」

岡部の手は動きを止めず……ブラと乳房の間に滑り込んでいく。

「……お、おね……がいッッ! はぁっっ……待って、待ってぇっ……うくっ……んう゛う゛あぁあぁあッッッ!」

体中に、電撃が走る。
乳房を撫で回され、乳首を弄ばれ。こんな動けない状態で、他でもない岡部に。
首筋と乳首から送り込まれる快感と、初めて異性に胸を触られたという恥じらいががドロドロになって。
乳首を弄ぶ指が蠢くたびに、自分ではどうしようもなく、声が漏れていく。

「あっ……くぅんんっっ! ふあっ……んっっ! んう゛っ! ほ、ほんと……ダ……メぇぇっっ……こ、こんなっ……はぁああぁッッ!」

自分が涙声になっているのがわかる。
岡部に自分のあえぎ声を聞かれることが恥ずかしくて、顔が熱い。
頭に血が昇りすぎて、もやがかかったようにぼうっとしている。
酸素を求めて息を吸おうとしても、その度にあえぎ声とともに肺から空気が絞り出されていく。

「んう゛あッッ……あぁっ! はぁっ…んっっ……くぅっう゛ああぁあッ!」

「紅莉栖は感じやすいのだな…。
 どうだ、少しは素直になる気になったか?」

乳首を弄ぶ指の動きは止まらないまま、耳元で囁かれる。
気持ちよすぎて、理性が飛びそうになる。
もっと、もっとして欲しい。もっと気持ちよくして。
私は……もっと岡部にっ……!
しかし、アメリカの研究所暮らしの中で身につけた、冷静な自分がそれを押しとどめる。周りがみんな年上の中で、うまくやろうとして身につけた----身についてしまった----冷静な仮面。
それが、自分が壊れることを許してはくれなかった。

「ふう゛んッッ……! はっ…はぁっ……こ、こんな、事してっ…ぐうぅッ! あとで、覚えて、なさ……んっ! ……覚えてなさいよっ!」

素直じゃない自分が恨めしかった。
このまま、快楽だけに流されれば楽なのに。
思いのままに乱れることができれば、楽なはずなのに。

「……そうか。
 それじゃ、仕方ないな」
 
704背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/05(火) 20:29:21.07 ID:/8HHPVkS
 
その瞬間、ぶちぶちっ、という音とともに、着ていたシャツのボタンが引きちぎられる。
乱暴にブラがまくり上げられ、乳房にひやりとした空気が触れる。

「いッ……いやああああぁあッッッ!? だっ、だっ、だめだめ、ダメぇぇっっ!! お願い、見ないで、見ないでッッ!! お願いだからっっ!!」

さっきまでぼうっとしていた頭が、あまりの恥ずかしさで覚醒する。
手で隠そうと腕に力を入れようとしても、後頭部で手を組んだまま、相変わらずピクリとも動かない。
手で隠すことも、身を捩ることもできず、羞恥心で精神が焼き尽くされる。

「おっ……お願いッッ! 見ないでっ! 見ないでぇっ! いやぁっ……、岡部っ、お願いっ!」

「ふむ……。なかなか綺麗な肌をしているではないか」

「ーーーーッッッ!!!!」

ぼんっっ! という効果音が聞こえてきそうなレベルで、顔が真っ赤になっているのがわかる。
お願いだから、そんなこと言わないで!
恥ずかしくて死んじゃいそうなんだからぁっっ……!!

「見るな、見るなバカッッ!!! おのれの視神経を目玉ごと引き抜くからな! ぜっ、絶対だからな!! 今すぐそのHENTAI思考の脳髄ごと、全部ホルマリン漬けにしてやるんだからぁっっ!!」

「……少しはおとなしくなったと思ったが、気のせいだったか」

「うっさい、誰のせいだと思ってんの……えっ、ちょ、な、何!? やっ……あああぁあああッッッ!?」

乳首に、さっきとは違う、生暖かいぬらりざらりとした感触。
それとほぼ同時に、爪でカリカリと優しく引っ掻かれる感触。
恥ずかしさに我を忘れてたせいで、その快感が不意打ちとなって襲ってくる。
両方の乳首を舌と指で弄ばれ、恥ずかしさが快感に押し流されていく。

「ふう゛うあぁあッッ! そっ、そんなのっっ、…あんっ! は、反則っ……ひあッッ! ぁああッッ!」

唇で吸われ、舌でねぶられ、歯で甘噛みされ、指でつままれ、爪で引っ掻かれ……乳首から押し寄せる感覚に慣れる事もできず、一方的に快感を押しつけられる。

「さて…。素直になれない貴様には、お仕置きが必要なようだな」
 
705背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/05(火) 20:30:03.82 ID:/8HHPVkS
 
「ふぇっ!? な、な、な、何っ? なんなのっ!? ひぅんッッ!?」

片方の乳房に、急にひんやりとした、ぺたぺたした感触のものが押しつけられる。少し遅れてもう片方にも。

「な、な、なに!? なんなの、何するつもりっ!? イヤっ、ねぇっ、岡部っっ!!」

それは張り付くように乳房にまとわりつき、離れようとしない。
身体を動かせるなら振り落とすこともできるかもしれないが、今はそれすらできず、ただわめくことしかできなかった。

「紅莉栖、知りたいのか?」

「ーーーッッ、……知りたくなんかないっっ! さっさととってよ、コレぇっっ!!」

「……とってもいいのか? そうするとまた胸が丸見えになるわけだが」

「ーーーーッッッッ!? うぁっ…ぐぅううっっ……!」

さっきの恥ずかしさを思い出し、思わず口ごもる。
その瞬間、かちり、と音が聞こえた。

「ヒッッ!? な、なぁッッ!? うあッッ! ちょっと、なんなの、これぇぇッッ!! ねぇっ……んうっ……いやあぁあああ!!」

突然、乳房に張り付いた何かが動き出す。
ヴゥーーンというモーター音とともに、乳首から這い上がってくる感覚。
舌で弄ばれているような。
爪で引っ掻かれているような。
でもそのどれとも違う、異質な快感が乳首を責め立ててくる。

「いやっ、んくっ…! なん、なの、これっっ!! んう゛あっっ!?」

それは数秒ごとに動きを変え、感覚に慣れる事を許してはくれなかった。
動きが変わるたび、あえぎ声がひときわ大きくなってしまう。

なにこれ、なんなのっっ!?
オトナのオモチャ的なアレなの!!??
機械がこんな動きできるとか、反則でしょっ!?

「さて。その反応を見る限り、どうやら気に入ってくれたようだな」

「…ちょっ!? そんなわけあるかそんなわけあるか! 今すぐ止めなさいよ、コレ!! お願いだから止めて!!」

「そんな事が言えるようなら、まだまだだな」

かちり。そんな音が聞こえたような…気がする。

「だから、何を言って……ひあぁっっ!? ちょ、やっ、ダメッッ!! う゛ああぁああッッ!?」

乳首に吸い付いているそれの、動きが激しくなる。
さっきまでの動きなら、舌で舐められてる時よりはマシだったけど……こうなると…ヤバいっ!
 
706背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/05(火) 20:32:03.74 ID:/8HHPVkS
 
「ま、まってまってまって! これダメッ、ダメなのっ!! お願いっ、止めてぇっっ!!」

「……ほう、それが人にものを頼むときの態度なのか?」

「……はあぁあっ?? なに言ってんの、バッカじゃ…んくっ…、ないのッッ! さっさと止めろ、バカッッ!!」

……あれ。なんかイヤな予感がする。
思わず勢いで毒を吐いてしまったけど…。
こっそり盗み読んだ橋田の薄い本でも、こんな事を言ってたヒロインがいたような…。
その後の展開は、確か。

かちり。

「ひあっ…!? うう゛ああぁあああああぁぁッッッッッ!!??」

乳首への刺激がさらに強くなる。
ぬるぬると。
ぐにぐにと。
カリカリと。
ちろちろと。
絶え間なく、機械的に。無慈悲に乳首を弄ばれる。
数秒ごとにかわる刺激は、両方の乳首を責め続けられる。

「うあぁっ……くっ…ひぅんっ! …ぅあっあぁっあぁあッッ!」

「さて、それでは次、だ」

「い、いやっ、まだ、なにかあるのっっ!?」

かちかちかちかちかち。

プラスチックが鳴らす、安っぽい音。
音を聞いた瞬間、条件反射で思わず身構えそうになる。
……しかし、乳首への刺激が強くなることはなかった。
少しだけほっとした、次の瞬間。
 
707背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/05(火) 20:33:39.75 ID:/8HHPVkS
 
びびぃーーっっ! びりびりびり。

「ちょッッ?? なに!? なんの音!? 何してんの!!??」

恐怖で、快感がかき消える。
すぐ近くで何かが破れる音、破かれる音。
ぐい、とシャツを掴まれ、引っ張られた。

ひやりとした空気が、肩、脇腹に触れる。
もう一度、ぐい、とシャツが引っ張られる。
びりり、という断末魔のような音とともに、さきほどまで腕に触れていたはずの、布の感触がなくなった。

「えっ……、あ、あんた、何をっっ!?」

今度は、まくり上げられたブラが引っ張り上げられる。
ぎぎぃっぎっぎっ、という堅い物同士がこすりつけられる音、びびぃっという布が引き裂かれる音の後……ブラが下の方へ、すとん、と落ちていくのがわかった。

「いっ……いっ……いやああああぁぁッッ!? 何してんのよぉっっ!?」

ひょっとして、服を破り捨てやがったのか!?
しかし、シャツならまだしも、ブラはワイヤーが入ってるから簡単には引きちぎれない。
って事は、さっきのかちかちって音はカッターナイフかなにかか!?

最初に気がついた時、私はシャツとネクタイしか身につけてなかった。
と言うことは、今の私の格好って、ホットパンツにネクタイのみなんじゃ……!?

「あんたッッ!? いったい何してくれてんのよっっ!!!」

さっきまでの快感や恐怖など忘れ、思わず語気が強くなる。

「ほぅ、まだそんな事を言う元気があるのか?」

「あったりまえでしょっ!? 人のお気に入りの服を破り捨てるとか、いったい何を考えて……!!」

……あれ。なんかイヤな予感がするパート2。
それは、不幸にも的中してしまった。

「ひうんっ!? くっ…ふあぁあッッ!? んううぅぅッッ!!」

ひんやりした手が、触れるか触れないかの距離で二の腕、脇の下、脇腹となぞっていく。
さわさわと撫で回されるという、くすぐったいと気持ちいいの中間くらいの感覚。
その感覚が脳に到達した直後、忘れていたはずの乳首の快感が戻ってくる。
その快感が引き戻されると、新たに上半身を這い回られる感覚と混じり合い、怒りや驚きという感情を一瞬で押し流していく。

「ひっ!…うあっ……んう゛あぁッッ…ぐうっ…んくぅっ…あっあぁあぁッッ!!」

一度快感が引き戻されてしまうと、もう戻ることはできなかった。
乳首を弄ばれる感覚、上半身をさわさわと這い回る感覚。
それは全身にぞわぞわと広がり、休むことなく快感が襲いかかってくる。

状況としては、上半身はほぼ全裸の上、手は後頭部で組まれたまま動かす事もできない。
本当なら羞恥心で発狂しそうなところなのだろうが、そんな事を考える余裕はなかった。
 
708名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 20:42:26.79 ID:/8HHPVkS
今回はここまで。

身動きできないところに目隠しして、
あんなことやこんなことするのって楽しいね!

補足しておくと、
紅莉栖の胸につけられたオモチャは、こんなイメージだったり。
ttp://www.rends.jp/products/r1_07.php
709名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 21:24:09.67 ID:s4hGZ7Mp
オカリンの責めは続く
乙です
710名無しさん@ピンキー:2013/03/05(火) 23:37:13.88 ID:CiNesx+h
おお、我らがUFOではないか!
711名無しさん@ピンキー:2013/03/06(水) 00:05:05.14 ID:cF0E2gzh
UFO凄いな、男でも使えないかな
712名無しさん@ピンキー:2013/03/06(水) 00:50:05.96 ID:PyR3Hd4u
>>711
来るかね、オナテク板乳首開発スレに……
713名無しさん@ピンキー:2013/03/06(水) 21:01:36.49 ID:IP75I0IS
まだ大丈夫かな…
714名無しさん@ピンキー:2013/03/06(水) 23:56:39.47 ID:hrp5VrMD
>>708
人間の欲って限界ないよな、こんなのが世の中に出てるとは今の今まで知らなんだわ・・・
715名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 00:29:22.42 ID:7h70N41u
どんなのか興味あるけど中々怖くて踏み出せないんだよなあ
716名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 03:01:49.94 ID:ZNOGZdWu
UFO、大人気じゃないか……w

というわけで、今日も更新。
ちょっと短めだけどごめんなさい。
717名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 03:03:55.17 ID:ZNOGZdWu
 
「…はぁっ、ふぅっ…んっくっ…あっあぁっ…うくっ…ぅうあぁ……」

いったい何分が経ったのだろう。
一切身動きの身動きができないまま、視界さえ封じられ。
乳首は得体の知れない物にねぶられ、上半身をぞわぞわと手が這い回る。
絶え間なく送り込まれる快楽に、頭の中が塗りつぶされていく。
もう、声を我慢しようなどという余裕はなくなっていた。

もう、このまま……。
もっと、もっとして欲しい……。

気にしないようにと思ってはいても、身体の芯に絡みついてくる、焦燥感。

気持ちいいけど……上半身だけじゃなくて……。
もう、ダメ、なの……もっと、下のほうもっ……!

……………………。

………………………………!?

………って、今、自分はなに考えてたっっ!?

そんなこと私が思うはずないし!!
下も触って欲しいとか絶対に思ってない!!
エロゲーじゃないんだから、こんな状況でそんな事考えるわけないッッ!!
そう、私がそんなことを考えていたというなら、証明が必要なのっ……!

一瞬でもそんな淫らな事を考えた事を認めたくなくて、必死に自分に言い訳をしようとする。
しかし、一瞬でもその思いを気にしてしまうと、それはとどまることなく。
頭の中によぎってしまった淫らな妄想が、身体と精神を蝕んでいく。
下腹部がむずむずするような……焦燥感に、全身が支配されていった。
 
718背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/07(木) 03:05:33.15 ID:ZNOGZdWu
 
「紅莉栖よ。……上半身だけでは、物足りなくなってきたのではないか?」

「---------なッッッッッ!? い、いったい、な、な、な、なんの事でしょうかッッッ!?」

自分の頭の中をのぞかれた気がして、猛烈な恥ずかしさに襲われる。

「そ、そ、そんな事、考えるわけ、ないじゃないのッッ!? バッカじゃない、このHENTAIッッッ!!」

突然、視界が明るくなる。アイマスクをとられたようだ。
まぶしさに思わず目を閉じ、光に慣らすように徐々に目を開いていく。
そして……岡部と目が合った。

「こ、こんなコトしてっっ……いったいどういうつもりなのよッッ!!」

「俺はお前が望むコトをしているだけだ」

「だっ、だっ、だっ、誰がこんな、HENTAI行為をのぞむかッッ!」

「それなら……これはどういうコトだ?」

岡部の手が、ベルトのバックルに伸びてくる。
ベルトは簡単にはずされ、今度はホットパンツのボタンを外そうとしている。

「えっ、ちょ、ちょ、ちょっ……!!?? 待って、待て、待ってぇ、ストップ、ダメぇ!!!」

ボタンが外され、ファスナーがおろされるじりじりという音。

「だめ、だめ、ダメッッ! それは、ダメッッ!!!」

ファスナーが下ろされ、水色の下着が隙間からあらわになる。
こちらのわめき声を楽しむかのように、岡部はゆっくりと、そこに手を伸ばしてきた。

「イヤぁっっ……お、お願いっっ、ホント、ダメ……ダメぇ!!」

手が、下腹部に触れる。
手が、下着と肌の間に滑り込んでいく。

「だめっ……だめッッ……おね……が……ッッッうあぁあ゛あ゛あ゛ああぁぁぁッッッ!?」

くちゅ、という音とともに、身体に電撃が走る。
さっきまでとは比べものにならない快感が、脳を焼いていく。
指が蠢くたびに、叫び声にも似た声が喉から絞り出される。
 
719背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/07(木) 03:07:33.91 ID:ZNOGZdWu
 
「あぁあ゛あ゛ぁッッッ……あっ…くっ…あ゛っ……うああ゛
あ゛っっ……!!」

「………さて。これでも、認めないと言うのか?」

「はぁっ……はぁっ………------ッッッッッ!?!?」

岡部が、ぬらぬらと光る指を見せつけてくる。
指は少し白濁した愛液にまみれ、糸を引いていた。
それが自分のヴァギナからあふれ出た物であるという事を見せつけられ、頭が瞬間沸騰する。

「そっ、そっ、そっ、それはっっ!! そのっっ………!!」

あまりの恥ずかしさで、言葉がでてこない。
顔を背けようとしても、相変わらず首すら動かせない。
ただひたすら、きつく目を閉じることしかできなかった。

「わ、わ、私が、こ、こんなっ……ぬ、濡れてるとかっ……あり得ないあり得ないあり得ないッッ!! こ、こ、こんなHENTAI的な行為で感じるとかあり得ない!! 私は絶対……認めないんだからッッ!!」

「………そうか」

そういって、岡部は白衣のポケットに手を突っ込む。
取り出した物を、私に見せつけてきた。

「紅莉栖。これがなんだかは……わかるな?」

「………ッッッ!?」

知っているか知らないかで言えば、知っている。
……ピンクローター。大人のおもちゃだ。しかし。

「……そっ、そっ、そっ……そんなの……し、知らない……わよ……」

全力で目線をそらしながら、そう答える。
知ってると言えば、いつもの調子でからかわれると思い、思わずそう言ってしまっていた。
 
720背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/07(木) 03:09:10.25 ID:ZNOGZdWu
 
「ほう、それすら認めるつもりがないのか。ならば……」

そういって、ピンクローターを持った手を股間へ近づけてくる。

「ちょっっ、いやっ、ダメっっ!!! そ、そんなの、ダメぇっっ!!」

「何がダメなのだ? …コレが何かは知らないのだろう?」

「……〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッッ!!!」

お前、絶対わかっててやってるだろ!!
思わずツッコミを入れそうになるが、再び下着の中に入り込んでくる岡部の手に気をとられ、必死で訴える。

「いやっ、お願い、だめっ……んう゛ああぁッッ!」

ローターがクリトリスに触れる。
指とは違う、ひやりとした硬質な物の感触。
下着をつけたままなので、岡部の手がどけられてもローターは固定されたままだ。
今度はローターのスイッチを見せつけられる。

「……なっ……な、何よッッ、何なのよッッ!」

「さて、どこまでその威勢を保てるか、楽しみだな」

かちり。

「ひっっ……うぁああ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁあ゛あ゛あ゛ッッッ!!!???」
 
721名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 03:12:57.87 ID:ZNOGZdWu
今日はここまで。

快楽と理性の狭間でゆれる女の子っていいよね。
それが、普段ツンツンしてるムッツリならなおさらだ!
そういう意味で、こういうシチュに助手はピッタリだと思う。うん。
722名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 09:00:34.95 ID:xsf54BtJ
さて、オカリンの様子がおかしいのは一体…
723名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 09:28:23.41 ID:16uzX/Ki
さっきまで胸ポケットに入ってたものが冷たいとはどういうことだ、助手よ
724名無しさん@ピンキー:2013/03/07(木) 15:31:35.09 ID:qK5+7bgz
725名無しさん@ピンキー:2013/03/08(金) 00:31:42.54 ID:fCrY9bw3
>>723
ぐっ、そこは、あれだよ、見なかったふりを……w

というわけで、更新してきます〜
726背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/08(金) 00:32:34.79 ID:fCrY9bw3
 
「あ゛あっ……んくっ……うああ゛っっ……!!」

痺れるような感覚とともに、凄まじい快感が襲ってくる。
身構えていたとしても、それは耐えきれるような物ではなかった。
身体は動かせないはずなのに、全身がガクガクと痙攣する。

「おっと、こっちも責めてやらんとな」

かちり。

「えっ、ちょ……! あっ…あ゛ぁっ…! そ、そんな、ダメっ……ダメッッ!!」

乳首に張り付いていたそれが、再び動き出す。
クリトリスと両乳首を同時に責められ、その快楽に全身が震えていた。

……ヤバい、これほんっとヤバいっっ!!
頭の中が真っ白になっちゃう……もう、何も考えられないっっ……。

乳首とクリトリスから広がっていく快感と同時に、もう一つ得体の知れない感覚がわき上がってくる。
身体の奥が震えて、締め付けられて、何かがせり上がってくるような感覚。

「うあぁああ゛あ゛……! お願い、止めてっ……でないとっ……わ、私ッッ……!!」

得体の知れない感覚は、徐々に、そして確実に大きくなっていた。
身体が自由に動かせるなら、手を握りしめたりして意識をそらす事もできたかもしれない。
しかしそれさえできない今の状況は、確実に精神と身体を追い詰めていく。

……あっ…あっっ……な、なんか……くるっっ!
これが……イっちゃう……って感覚なのかな……?
このままだと……ほんとにっっ……!

乳首とクリトリスから広がる快感が身体全体に広がり、身体の芯がさらに熱を帯びる。
もうすぐ来る『何か』に備えるように、全身がこわばっていく。

「はぁっ…はぁあっ……あぁあ゛っ…ダメっ……もうっっ……!」

全身が痺れる。
気持ちいい。
頭が快楽で塗りつぶされる。
身体の奥からわき上がってくる感覚が、ついに爆発しそうになった、その時。

かちり。

「あっああ゛っ……うあぁあ゛っっ…………-------ふぇっ……??」
 
727背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/08(金) 00:33:30.41 ID:fCrY9bw3
 
自分を責め続けていたオモチャが、突然動きを止めた。
思わず目を開き、岡部を見つめる。

「……さて。もう一度聞こう。素直になる気にはなったか?」

「はぁっ……はぁっ……だから……んっ…なんのコトよっっ……」

「今お前が考えている事を、そのまま言えばいい」

……なんで止めたの……?
……もう少しで……イキそうだったのにっ……。

「----ッッ!? な、なっ、なんの、コトっっ!??」

いったい何考えてた、私!?
そんなこと……そんなこと考えるわけないっ……でしょ!?

「…まあ、いい。お前が欲望に正直になるまで待つだけだ」

「え、ちょっと、まっ……ひああぁあっっ!?!?」

かちり。

オモチャは再び動き出し、容赦なく乳首とクリトリスを責めはじめた。
イキそうになる寸前で止められたせいで、さらに性感が高まっているのか、さっきより感じてしまう。

「ひああ゛っっ……あっ…うあ゛っっ…ああ゛ッッ!? だ、ダメ、押しつけたりしないでッッ!!」

下着の上から、ローターをクリトリスに押しつけられる。
その度に、鋭い快感が身体を走り、身体はビクビクと痙攣し、悲鳴にもにたあえぎ声が口から漏れていく。
あっという間に頭の中が快楽で塗りつぶされ、また身体の奥から何かが突き上げてくる。

「あっ…はぁっ…ああ゛っっ……も、もう……んう゛う゛ああ゛ッッ!」

かちり。

「えっ……そ、そんなっ……またっ……!?」

同じところでオモチャの動きが止められる。
も、もう少しだったのにっっ……!!
 
728背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/08(金) 00:34:23.89 ID:fCrY9bw3
 
「何が、そんな、なのだ?」

「----ッッッ!? なんでもない、なんでもないったらッッ!!」

口では強がってみたものの。
どうしようもないもどかしさに、精神を焼かれていく。
振動のせいで痺れているクリトリスから。ぐにぐにと責め続けられていた乳首から。抗いがたい疼きが、わき上がってくる。

………たい。
イ……たい。
イキ…たい。

必死に否定しようとしても、一度火が付いたその欲望は、見て見ぬ振りはできないくらい大きくなっていた。

かちり。

「……あ゛っ!? ま、またっ……ああ゛あ゛ッッ!!」

モーター音とともに、一瞬で理性が押し流される。
全身の疼きが、快感で塗りつぶされる。
身体の底から這い上がってくる快感が、あっという間に膨らんでいく。
もう、ダメ……、お願いっっ……!

かちり。

「うあっ……はぁっ……うぅぅ〜〜………」

また、ここで……止めるのっっ!?
うめき声にも似た声が、口から漏れていく。

「して欲しいコトは、ちゃんと口にだしていうのだな」

「なッッッ!? そ、そんなの、い、い、い、言えるわけっっ、ないでしょっっ!!」

「ならば、そのままだ」

「うぅ……お、お願いっ……、もう、ダメ、なのっ……!」

かちり。

「ああ゛ッッ!? ダメ、お願い、もうやめてっ……!! うああ゛
ッッ……お、おかしく……なっちゃうからぁっっ!!」
 
729背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/08(金) 00:35:44.30 ID:fCrY9bw3
 
イキたい……。
イカせて欲しいっ……!
もっと、もっと、もっとして欲しいっ……!

繰り返される寸止めで、理性が壊れかかっている。
イキたいと思うことを、恥ずかしがっている余裕はもうなかった。
しかし、それを口にだして言う……?
そ、そんなコト言えるかっ!! でもっ、もうっ……!

かちり。

「んくっ……うう゛ぅ〜〜〜〜〜ッッッッ……!!」

……お願いっ、もう……イカせてっ……!!
このままじゃ、ほんとに…おかしくなっちゃうっ……!

心の中で恨み言を言いながら、精一杯にらみつける。
それでも岡部は……無表情だった。

かちり。

「うああ゛あ゛あ゛ッッ……ああぁぁああッッッ!!!」

もう、ダメっっ……。
こんなの、ホントに耐えられないっっ……!
イキたい、イキたい、イキたいよぉっっ……!!
ねぇ、岡部、お願い、お願いッッ!!

イキそうになるたび、寸止めされて。
すぐに限界ギリギリまで押し上げられて。
それを何度も、何度も、何度も繰り返される。
それこそ、無間地獄のように。

………もう、限界だった。
大人の世界で張り合うために身につけた理性の仮面。
それが、音を立てて崩れ落ちていく。

かちり。

「はぁっ…はぁっっ…はぁっっ………お、お願い……もう……………せて」

「……聞こえんな」

「もう……ホント……おかしくなっちゃうからっ……イ………せてっ」

だんだん声が小さくなってしまう。
顔どころか、全身が真っ赤になってるのがわかる。
恥ずかしさで全身から火がでそうだ。

「お、お願いっ……も、もうっ…………イカせ……て……ください……」

かちり。

「ひあ゛っ……うあ゛あ゛っっ……ああぁぁああっっ!!!」
 
730名無しさん@ピンキー:2013/03/08(金) 00:39:25.16 ID:fCrY9bw3
というわけで、今日はここまで。
女の子が堕ちる瞬間ってすばらしい。

例によってご意見ご感想、文章への指摘なんかがあれば嬉しい。

というか、ねちっこすぎるかな……?
すでに2万字くらいになってるわけだがw
でも、俺としてはこれくらいじっくりたっぷりねぶりまわすように(ry

文章書くのって、難しいですな。
731名無しさん@ピンキー:2013/03/08(金) 00:53:36.08 ID:epj97kMx


ハァハァ……
732名無しさん@ピンキー:2013/03/08(金) 06:15:04.94 ID:52GaKC3o
理性が崩れ落ちる瞬間
いいよね……
733名無しさん@ピンキー:2013/03/09(土) 00:01:55.11 ID:hH3D9qiV
734名無しさん@ピンキー:2013/03/09(土) 12:53:30.00 ID:yLflM9xT

これは…気の済むまでじっくりゆっくりねっとりお願い致します。
お願い致します。
735名無しさん@ピンキー:2013/03/09(土) 21:38:38.75 ID:eC2Hy+FR
そろそろ次スレ立た方がいいのかな
736名無しさん@ピンキー:2013/03/10(日) 00:45:28.93 ID:9fG9YHhh
そうだねえ
更新途中で止まったりする危険もあるし
737名無しさん@ピンキー:2013/03/10(日) 20:52:57.79 ID:9fG9YHhh
まだ書けるかな……?
738名無しさん@ピンキー:2013/03/10(日) 20:53:34.48 ID:hBC48S7h
そうそう。970とか490KB超えで新スレたてるべき
739名無しさん@ピンキー:2013/03/10(日) 21:05:39.82 ID:Z3HC9dOM
あの容量がどこを指してるのかしらんけど
とりあえずこのスレをテキストに落としたら464kbだったよ
740名無しさん@ピンキー:2013/03/10(日) 21:51:38.88 ID:7Jz9Raa4
今アプリで見たら493KBだった
頃合いかもね
741名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 00:01:50.05 ID:Yh+fK4La
埋めてから新スレ?
更新の邪魔になるから埋めた方がいいよね
742名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 01:33:03.97 ID:KLdqjwtb
立ててから埋めた方がいいな
743名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 09:48:48.93 ID:bnGcDAXj
立てられないので以下テンプレです
誰かよろしくお願いします

**********

シュタインズゲートのエロパロ6

**********

・シュタインズゲートの妄想を叩きつける場所です。
・カップリングについては問いません。 ただし、注意書きは忘れずに。
・べ、別にエロが無くたってかまわないんだからねっ

シュタインズゲートのエロパロ5
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1355179107/
シュタインズゲートのエロパロ 4
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1347184330/
シュタインズゲートのエロパロ 3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1325789848/
シュタインズゲートのエロパロ2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1304341945/
シュタインズゲートのエロパロ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257776865/

まとめ
STEINS;GATE 2ch二次創作まとめwiki
http://www1.atwiki.com/reading_steiner/
744名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 10:01:46.21 ID:bHrqG/te
あの容量がどこを指してるのかしらんけど
とりあえずこのスレをテキストに落としたら464kbだったよ
745名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 10:03:58.16 ID:bHrqG/te
うへなんか前のレスが残ってた
誤爆すまぬ
746名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 21:19:35.58 ID:pAV/q68t
ああ、俺だ。
ラボメンNo.>>743の依頼は無事遂行した。
ttp://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1363004264/
エル・プサイ・コングルゥ。
747名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 21:43:42.91 ID:Kb4qnzya
>>746

これで安心して埋められるな!
っていうかそもそも900になってないのにこんな事態になる方が本来はちょっと異常なんだがwww
748名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 23:06:29.32 ID:D21Vji0Y
サブタイトルの意味が知りたいところ
749名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 23:24:15.51 ID:+tXIpiYG
>>746
乙です!
ありがとう!
750名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 23:44:06.82 ID:fkN6XpSI
>>748
hypnosis: 催眠(英語)

作中のオカリンの妙な素振りと合わせて考えるに、中期記憶をターゲットに多分そういうこと。
どっちから持ちかけたとか、終わった後が楽しみだな。
751名無しさん@ピンキー:2013/03/11(月) 23:47:57.78 ID:pAV/q68t
>>747
まぁ連載が続いてたからテキスト量多かったしね。
よいことです。
752名無しさん@ピンキー:2013/03/12(火) 00:37:10.50 ID:wOZFBhS1
ちょっと間が空いてしまいましたが、更新していきます。

とりあえず、埋めるつもりで最初はコチラに。
もし途中でダメになれば、新スレに移行したいと思います。
753背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/12(火) 00:37:59.94 ID:wOZFBhS1
 
襲いかかってくる快感に、脳髄を焼かれる。

「あぁあっ……この……ままっ……! もっと……もっとっ……うああ゛あ゛ぁッッ……」

一度壊れた理性は戻ることなく、身体と精神は快楽をむさぼろうとしていた。
唇を塞がれ、岡部の舌が口の中に侵入してくる。
舌と舌が蠢き、絡み合い、くちゅくちゅという音が脳に響いていく。

「んうっ……はぁっ…はぁっ……んくっ……おか……べぇっ……!」

口と、乳首と、クリトリスと。
ただでさえ感じやすい部分を同時に責められ、全身が快楽に塗りつぶされる。

「あっ……うああ゛っ……きっ…気持ちいいよぉっ……もっとっ……はぁっ……あぁああぁっっ……!!」

何度も寸止めを繰り返された身体は、すぐに絶頂の寸前まで押し戻される。
身体の奥からわき上がってくる、あの感覚。
理性すら崩壊してしまうほどに、待ち望んでいた感覚。

「はぁっ……もっ、もうっ……ダメっ、イっ……ちゃうっ……イっちゃうよっ……!」

鼓動が激しくなり、酸素を求めて胸とお腹が激しく上下する。
絶え間なく襲ってくる快感の奔流がさらに強烈になり、脳の中が快楽に呑まれ、真っ白になっていく。

「ああっ……うあっ……あぁぁあああっっ……! ぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ああぁぁあああああッッッ!!!」

目の前が真っ白になり、すべてが快感に支配される。
全身から溢れ出た快楽の波に襲われ、動かないはずの全身が、がくがくと痙攣する。
口の端からはだらしなくよだれが垂れているが、気にしているような余裕はなかった。
 
754背徳狂乱のヒュプノシス:2013/03/12(火) 00:38:43.88 ID:wOZFBhS1
 
「うああぁっっ……はぁっ…はぁっ……んっ……あぁっ……ひう゛っっ!?」

かちり。

絶頂に達した強烈な快感がまだ身体に残っているというのに、オモチャの動きがさらに激しくなった。
イったばかりで身体が敏感になっているのか、くすぐったいようなむず痒いような感覚とともに、イった瞬間の感覚が身体に戻ってくる。

「えっ…? ちょっ、も、もう…イっちゃったからっ……ひあ゛っっ…! ダメぇっっ……お願い、イっちゃったってばっ、ストップッッ…!」

「イキたい、といったのは貴様ではないか」

「だっ…だからっ、もう、ふあっ……イったからっ…とめ……あ゛ッッ……とめてっっ!」

「知らんな」

「ちょっ!? なに言って……うあっ……お願いっ、ストップっ! もうダメ…だって……ひああ゛っっ……止めてぇっっ!!」

かちり。

ようやく止まると思いきや、さらにオモチャが激しく動き出す。

「ひっ…えっ、な、なにしてんのっっ!? うあ゛っ、お願いっ……もう、止めてってばぁっ!!」

イったばかりの身体をさらに蹂躙され、半狂乱になって懇願する。
身体の奥から、あの感覚がまたわき上がってきていた。

「はぁっ…んくっ…ダメっ……こんなことされてたらっ…また…イっちゃうっ……イっちゃうからぁっっ!!」

脳の中が真っ白になる。
身体ががくがくと痙攣し、凄まじい快感が広がっていく。

「うあ゛っ…ほんとっ…また……イっちゃう……ぁああっ……ダメぇっ……イっちゃうよっ……はっ……うあっ……ぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッ!!」
 
755背徳狂乱のヒュプノシス
 
再び絶頂に押し戻され、快感が全身を貫いていく。

「はぁっ…お、お願い、もう……止め……てっ……はあっ……お、おか…しくなっちゃう……からっ……!」

それでも、オモチャの動きが止まる事はなかった。
連続で絶頂に達した身体は、全身がほんのりと赤く染まり、汗だくになっていた。
口からたれたよだれが糸を引き、胸のあたりに滴っている。

「うあ゛あ゛っっ……だ、ダメっ……、ほんっ…と……きもちよすぎてっ……ひう゛っ……おかしくっ、なっちゃうからぁっっ!」

身体の奥からまたわき上がってくる、あの感覚。
これ以上イってしまったらどうなってしまうのだろう、という恐怖が心をよぎる。

「んぐっ…、はぁっ…! ダメっ…このままだとっ……またイっちゃうっ……おかしくなっちゃうっ……お願いっ、もうっ……んう゛う゛ああ゛ッ!」

下着の上から、ローターが押しつけられた。
痺れるような快感に、全身を支配される。
酸素が足りないのか、頭の中が朦朧としていく。

「ひぐっ……うあ゛っっ……ダメっ、またっ……またイっちゃうっ…イっちゃうぅっっ! はぁっ……あぁあっっ……う゛あぁっっ……うぁああ゛あ゛あ゛あ゛あぁぁあ゛あ゛あ゛ッッッ!!!」

ぱちん。

脳の中で音が聞こえた……気がした。
凄まじい快感に身体と精神が支配され、意識すら押し流されていく。
全身ががくがくと痙攣し、股間のあたりに生暖かい感覚が広がっていた。

ひょっとして、おもらしでもしちゃったかな……。
何となくそんな事を思い、それを恥ずかしいと認識する前に。
さらに押し寄せる快感によって、意識が遠くなり。

私は、気を失った。