うわー、ミスった
これが
>>27の次。真ん中に入る文章だった
ちょっと頭冷やしにジョギングしてくる
およそ一時間後。桜屋敷のルナの私室。
ルナが、いつものように清純な朝日をからかって遊んでいた。
「ぼ……わ、私はそんなことしません!」
「何を言ってるんだ……。女だって性欲はあるんだぞ?」
ルナは生真面目な表情を作った。
「…………えっ?」
朝日は真顔できょとんとした。
ルナの顔が赤くなった。
「……バカっ! そこで黙るなバカ者っ! まるで私が卑猥なことを言ったよう
ではないか……」
(実際におっしゃったように思うけど……)
と朝日はそう思ったがもちろん口には出さなかった。
「ん……? なんだその目は? どうやらまだメイドとしての自覚が足りんらし
いな。よし朝日の希望通り少し性的なお仕置きをしてやろう」
ルナが朝日にベッドの上に寝転ぶように促した。
「……ル、ルナ様大変申し訳ございません! 急用を思い出しました! 失礼致
します!」
朝日は礼をしてから逃げるように部屋を飛び出した。
乙
31 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/03(月) 11:54:58.96 ID:NfwZQHVr
ちゃんとオチもついてるし何気にルナ様が可愛くてよろしい
ルナ様が可愛くてよろしい
誰か 居らぬのか
ここにいるぞー!
うおおお、ここにもいるぞー
35 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 07:22:59.26 ID:ypA8RM92
もしももっと遊星が素直で純真で、基本的にイオンに対して「僕は兄様のこと大好きですよ」と恥ずかしげも無く全力笑顔ニパーだったら
『走馬灯・散』
【大蔵衣遠】
「なにを見ている」
【大蔵遊星】
「あ、お兄さまだー!」
僕は兄のそばに駆け寄り、そのまま胸に飛び込んだ。
【大蔵遊星】
「はるばるトーキョーより、ようこそいらっしゃいました!」
【大蔵衣遠】
「ふン」
兄は腰に抱きついたままの僕を見下ろすと、軽く頭を撫でてくれた。
【大蔵衣遠】
「聞かれたことに答えろ、遊星。お前はなにを見ていた」
【大蔵遊星】
「桜の木です! お兄さま、日本には桜の木で彩られた道があると聞きました」
【大蔵衣遠】
「ああ。この国にはガーデニングという文化はあるが、あれはその比ではない。
狂おしく咲き乱れた満開の桜木の路は、さながら異世界の様だ。
いずれお前も目にする機会があるだろう」
-----------------------------------------------------------------
しまった
こんな衣遠だと遊星が朝日になる理由が思い浮かばない
デレッデレだなこの兄!
ショタ&ショタコンw
男性モデルとしては身長なさすぎで役に立てないことを悟った遊星は、女性モデルになるため完璧な女装を身に付けるべく桜屋敷でメイドをすることに、とか
モデル兼パタンナーの才能を見出されてモッテモテになり、
モデルとして活躍したいのならアイドルの道は十分ありとデヴ様に諭され
ルナ様が「フィリコレでは君達全員を舞台に上げたい。キツイと思うが4着頑張ってくれ」→朝日「ルナ様も出ましょう。5着作りました(にぱー」をヤラかし
あれ?凄く良い感じになる気がする
その後の遊星 2月上旬 『新転地』
ようし、僕の人生はこれからだ!
と、燃えに燃えて日本へやって来たのが四年前。
兄の手伝いをする傍ら、服飾関連の技術を勉強していた僕に危機が訪れた。
【スタンレー】
「なあ、イオン。遊星にデザインを教えるのは良いんだけど」
【大蔵衣遠】
「今忙しいから後にしろ」
【大蔵遊星】
「あ、ジャンだ。おはよう」
【スタンレー】
「うん、おはよう。……いや、少し前から言おうと思っててね。さすがに我慢の限界というか」
【大蔵衣遠】
「遊星、少し痩せたか? ウエストが2ミリ細くなっている」
【大蔵遊星】
「そうですか? 食べる量はあまり変わっていないつもりですけど」
【大蔵衣遠】
「育ち盛りだからか。次の食事からはカロリーを5%ほど上乗せしろ」
【大蔵遊星】
「わかりました、お兄さま」
【スタンレー】
「うん、やっぱり限界だ。いいね。言うよ?
い い 加 減 遊 星 を モ デ ル に 服 を デ ザ イ ン す る の は や め ろ !」
【大蔵衣遠】
「なんだと?」
僕の採寸の腕を止めた兄は、鼻白んだ表情でジャンに向き直った。
【スタンレー】
「イオン、最近キミがデザインする服は遊星がモデルを務めたものばかりだろう?」
【大蔵衣遠】
「何を言ってる。俺が最近扱っているのはレディースだ」
【スタンレー】
「この雑誌にモデル名載ってるけど、小倉朝日? バレバレだよ?」
ジャンが差し出したのはティーン向けのファッション雑誌。
そこに写っているのは……ええと、うん。
兄がどうにか上手く誤魔化してくれますように。
【大蔵衣遠】
「……それはりそなだ」
【スタンレー】
「りそなちゃんはこんなに大っきくないでしょ」
【大蔵りそな】
「今、妹をバカにする発言を耳にしたのですが! 妹、そこそこありますよ!」
【スタンレー】
「ごめんごめん。でも、これは遊星だよね?」
【大蔵りそな】
「たしかにこれは下の兄ですね。妹、こんなに大っきくないです。
……なんで上の兄が女装してキメ顔でポーズ取ってるんですかっ!?」
やっぱりバレた。というか妹に女装バレた。
僕はこれからどんな顔でりそなと接すればいいんだろう……。
【スタンレー】
「女装の件は置いておくとして。二人とも、兄離れ弟離れの季節なんじゃないのかな。
そろそろ春も近いしね。というわけで、こんなプランはどうだろう?」
そう言って、ジャン見せたのはとある学校のパンフレットだった。
兄が学院長代理になりそこねた入学式 4月上旬
周囲で女の子がせわしなく歓談を繰り広げる中で、僕は一人、あてがわれた席に座り俯いていた。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。やはり女装をしたのがよくなかったんだろうか。
きっかけは、兄に付いて行ったファッション雑誌の撮影現場だった。
モデルの女の子が体調不良で来ることが出来ず困っていたところ、背格好の似た僕がボーダーレスファッションという体で
服を着ることになったのだけれど。
そこからありのままに起こったことを話すと、
何故かスカートを履かされウィッグを付けられメイクされてカメラの前に立った僕はキメ顔でポーズを取っていました。
何を言ってるのかわからないと思うけど、僕も何をされたのかわからなかった。
多分、あのスタジオの雰囲気に気圧されたんだと思う。さすがに下着は抵抗したけどね。……三回目までは。
【女子生徒A】
「ねぇやっぱりあの子――じゃない?」
周囲の女の子が遠巻きにこちらを見ている気がする。
【女子生徒B】
「うわ、ホントだ。――だ」
いや、やっぱり見ている。こちらを見てなにか話している。
もうバレちゃった? どうしよう。
ここで僕が男だとバレたら学院長のジャンの顔に泥を塗る結果になるかもしれない。
「ねぇ、あなた……」
き、来た! 上手くごまかさないと!
「もしかしてモデルの小倉朝日さんじゃない?」
【小倉朝日】
「いえ全然……え?」
予想外の言葉に思わず顔を上げると、そこにはキラキラした瞳で僕のことを見つめる女の子が居た。
「ほら、やっぱりそう。私、あなたの載ってる雑誌全部集めてるのよ」
【花之宮瑞穂】
「あ、ごめんなさい。花之宮瑞穂と申します。三年間よろしくね。小倉朝日さん」
------------------------------------------------------------------------------------
>>36から、壊れイオン→瑞穂とアイドルルートへの道を書いてみた。
誤字脱字、壊れイオンは脳内補完してくれ。
今日のSS書きの人は何かこう、輝いてるなw
43 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 21:01:54.95 ID:fzccWU+x
俺もまさか
>>35からこんなに発展するとはおもわなんだ
いや、すげぇ嬉しいけどね
44 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 21:05:08.17 ID:fzccWU+x
今全部読んだ
あれ、これ何らかの理由で原作どおりルナ様の従者と学園に通うと取り合うんじゃね!?
取り合うんじゃね!?
なんで二回言った?なんで二回言った?
モデルとして有名ってところが乙女恋とかぶる・・・
47 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 10:20:36.71 ID:z2zQeQAK
というか原作より自分の好意を素直に出すとか ルナ様やばいんじゃ
なんだろ
とてつもなく改変されてるが
輝いてるなオマイラwww
>>40 えっと気になる部分が
>……なんで上の兄が女装してキメ顔でポーズ取ってるんですかっ!?」
は下の兄じゃないのか?衣遠が女装っすか?汗
こうしてみると遊星はもちろん、なんか衣遠も可愛いなw
>>36で「ふン」と言って頭を撫でるところが一番ツボだった。
あと、壊れイオンってなんかFDに登場しそうw
>>30>>31 コメントありがとー。ルナ様好きそうだから彼女のルート後日談の妄想を垂れ流してみる。「忠犬ルナ様」ってタイトルが浮かんだ……。
ちょっと衝撃の展開かもしれないけど、妄想なので温かい目でよろしく。
夕方の桜屋敷。
その名の通り桜色に染まる夕焼け空の下、二人の新人メイドが掃き掃除をしなが
ら、門の傍に立っているルナ様の様子をそっと窺っていた。
ルナ様は微動だにせずずっと通りを眺めている。時折通る通行人はルナ様の不気
味な様子に顔をしかめたりするが、当の本人はまるで無関心だ。
ルナ様は、いつものように誰かの帰りを待っているかのように立ち続けている。
「いつも夕方になるとああして門の所に立たれているけど、いったいなんなのか
しら?」
「そうよね……。いつもぴったり五時半頃に立たれるから気味が悪くて……。ほ
ら、あんまり大きな声じゃ言えないけど、あのお顔と髪の色でしょ……まるで幽
霊みたいで……」
身体的特徴をあげつらう台詞に、さすがにもう一人の新人メイドは咎めようかと
思ったが、言われてみればまさにその通り。泣かず笑わず怒らず、ほとんど地下
のアトリエに籠もっている桜屋敷の主人はまるで幽霊のように不気味に感じてい
たのだ。
「まあ、言われてみるとそうよね」
二人の新人メイドが雛鳥のようにぴーちくぱーちくしゃべっていると、ふいに二
人の背後から脅かすように声が掛けられた。
「ほら、何をくっちゃべってるの? 仕事ならいくらでもあるでしょ」
「は……はい!」
慌てて、新人メイドは振り返り、メイド長に頭を下げた。桜屋敷のメイド長は後
藤という名前の太った中年のメイドだった。
「す、すみません」
素直に頭を下げる先週雇ったばかりの新人メイド達を見て、桜屋敷のメイド長で
ある後藤はため息を吐いた。
「まあ、わからなくもないか……」
メイド長は、二人が見ていた桜屋敷の主人であるルナ様を見た。
どのみち人の口に戸は立てられない。なら、変な尾ひれのついた噂を聞くより前
に真実を話しておくべきだろうとメイド長は思った。
「ちょっとこっち来なさい」
メイド長に促されて、ルナ様のいる屋敷の門から離れた所に三人は移動した。
メイド長は小声で話し始めた。
「あなた達が知りたそうにしていることの真相を話してあげるわ。……実はね、
桜屋敷の主人は、実質二人いたのよ」
「ふたり?」
新人メイドは驚き、首を傾げた。一人が代表して質問した。
「どなたですか?」
「ルナ様の夫、いえ正確には婚約者ね」
「……こ、婚約者!?」
確かにルナ様はまだお若く、そして何より美しくて資産も才能もある。だが、二
人のメイドには信じられなかった。
「あのルナ様がですか!?」
新人メイドが驚くのも無理はなかった。彼女の知る限り、ルナ様に親しい友人は
一人もいなかった。もっとも重用しているこのメイド長の後藤ですら世間話一つ
さえ交わさない間柄なのだ。それなのに婚約者がいたという……。
「本当のことよ。名前は小倉朝日いいえ大蔵遊星……それがルナ様の公私ともに
パートナーだった方のお名前よ」
「え?」
新人メイドは首を傾げた。
全く聞き覚えがないのだ。まだ桜屋敷に勤めて一週間程度とはいえ、そのような
重要人物の名前さえ聞いたことがないことを不思議に思った。
首を傾げる二人の新人メイドからルナ様に視線を移し、メイド長は、この夕焼け
空に相応しい澄んだ悲しい声で語り始めた。
「いつもああやって、ルナ様はずっと待っているのね」
「……待っている……ですか?」
「ええ。亡くなった大蔵遊星様を」
一瞬あと、新人達は小さく声を漏らした。
「……亡くなっ……た……お亡くなりになられたのですか?」
「ええ……。亡くなられたわ。……もう、朝日、大蔵様は亡くなられましたと誰
が伝えてもルナ様はまるで信じないけどね」
「えっと……もしかして……」
新人メイド達にもやっと真相がわかり初めてきた。なぜルナ様が夕方五時半に屋
敷の門に立つのか。どうしていつもどこか悲しそうなお顔をされているのか。
「大蔵様はおっしゃったわ。夕方五時半頃に帰ってくる、と。その日、ご実家の
大事な用事で出掛けられた帰りに、車に轢かれそうになった女の子を助けて車に
――」
メイド達は息を飲んだ。
「事件を見ていた人達は驚いたそうよ。大蔵様の勇気と行動力に感心していた。
子供がはねられそうになるという危機的状況で、大蔵様は一瞬の迷いもなく飛
び出されて無事子供を助けられた。……けど、大蔵様は――」
「……その、大蔵様は……」
「遺体は損傷が激しくて納棺の際、顔を見ることも叶わなかったわ。
もしかしたら、そのせいもあってルナ様はまだ大蔵様の死を信じられないのかも
しれないわね。だから、ああして毎日ずっと門の所で待っているのかも」
「毎日……」
新人メイドはそう口にして、ふいに疑問が湧いた。
「いったいいつ頃から?」
「大蔵様が亡くなられたのはもう十年も前よ。それから一度も欠かさず、ルナ様
はああして大蔵様の帰りをずっと待っておられるの。今日みたいに寒い冬の日も
……」
「じゅ、十年……十年毎日ですか!?」
「ええ。休まず欠かさず。どんなに大事な用があっても夕方になればお戻りにな
って、ああしていつ大蔵様が帰ってきてもいいように門の傍に立っておられるの」
メイドの喉がごくりと鳴った。
もし一二週間程度なら美談で済んだだろう。だが、十年――十年なのだ。実に
3650日以上……。一度も欠かさず……。
「……おそらくここまで話を聞いてわかったと思うけど、あなた達のような新人
を割と急遽雇う必要になったのはこのルナ様の奇行のためよ。……この行為をと
ても気味悪がって陰口を叩いたり、辞めていったり……とそういうわけ」
「……そうだったんですか……」
「もし八千代さんがいて下さっていれば、それでもどうにか屋敷の仕事を回して
いけたのかもしれないけど、私みたいな中年の平凡なメイドじゃね」
「八千代さん?」
「ええ、私の前にメイド長を務めていらっしゃったとても忠義に厚い、有能なメ
イドよ」
「そんな方がどうしていなくなったんですか?」
「有能すぎたのよ……そして、忠義心が厚すぎた……」
現メイド長は顔を暗くして答えた。
「八千代さんは、まるで現実を見ようとしなくなったルナ様に何度も忠告したわ。
『朝日を呼べと何度おっしゃられても、いない人間を呼ぶことはできません』
『もう大蔵遊星様はいらっしゃいません。お亡くなりになりました』
『もう朝日さんはこの屋敷にも、いいえ、この世のどこにもおりません』
『お嬢様、お願いですから前を向いて下さい! 子供時代のあれほどの苦境を乗り
切ったお嬢様です。きっと今回の件も乗り切れます』
『大蔵様のことは私もとても残念に思います。ですが、一時でいいので忘れて、
少しでも前を向いて下さい』
……当時メイド長だった八千代さんは、変わってしまったルナ様相手に唯一正論
をぶつけ続けた使用人だった。
……私も八千代さんの言うことは全面的に正しいと思った。
けど、ある日、……とうとうお嬢様の逆鱗に触れてしまったのね。お嬢様は『朝
日は死んでなどいない! 私との約束を破るはずがないからだ!』と錯乱してし
まわれて、そのまま八千代さんに解雇を言いつけてしまったの」
「そんなことが……」
「八千代さんの他にも、花之宮様、ユルシュール様、柳ヶ瀬様、りそな様と四人
も友人がいたわ……。みな始めは八千代さん同様ルナ様を気遣っていたわ。
けど、一年過ぎても、ああして大蔵様の死を全く受け入れられないルナ様を見て、
このままでいけないと思い、厳しい意見もおっしゃられるようになったの。け
れど……」
「やはり八千代さんと同様に……?」
「ええ……。おそらくルナ様にとって、大蔵様は、あの得難い友人達よりもさら
に大事な方だったのでしょう。
まず始めに数え切れない程の激論の末ユルシュール様が出て行かれて、次に柳ヶ
瀬様とりそな様が……。元々三人ともルナ様と同じくらいショックが大きかった
らしく連日連夜続く仲の良かった友人同士の言い争いに絶えられずルナ様から離
れられました。
一番最後までそばにいたのは友人では花之宮様でしたが、それでもやはりショッ
クが尾を引いていたのでしょう。一度風邪で大きく体調を崩した後そのまま花之
宮家に引き取られて以来一度も桜屋敷に顔を見せてはおりません。
八千代さんは最後の最後までルナ様の強さを信じていらっしゃいましたが、結局
ルナ様に強制解雇を言い渡されて、屋敷の敷地内に一歩も踏み入ることはできま
せん。
……それももう随分昔の話です」
冬の桜屋敷に夜の帳がゆっくりと降ろされ、徐々に冷え込んできた。それはまる
でルナ様のかつて辿った悲しい人生の温度のようであった。
「ルナ様は結局、ご自分に朝日の死を、大蔵様の死を信じさせようとする者をこ
とごとく遠ざけられていったのです。
結局残ったのは、決して忠言をせず、保身のために入れ替わっていく新人メイド
の陰に隠れてルナ様を出来る限りやり過ごしていた私だけという有り様です」
以上が、あなた達が知りたがっていたことの真相です、と現メイド長は口を結ん
だ。
新人メイドはぶるっと震えた。それは何も冬の寒さのためばかりでもなかった。
そしてどっと疲れたような気がした。
そのまま何の会話もなく三人は屋敷の中へと引き返していった。
3652日。
それは桜小路ルナが、小倉朝日――大蔵遊星を待った時間だった。
越えてきた眠れぬ夜の回数でもあった。
絶望に叩きのめされるとわかっていても、必死に気力を振り絞ってルナ様が屋敷
の門で朝日の帰りを待った回数でもあった。
一日一日なら鉄の自制心が支えてくれた。だが、傷は回復しないまま、心身の疲
労が重なり、もう小さなルナ様の心も身体も絶望の悲鳴を上げていた。
一日も休まず、夕方の五時半に、自分が愛した小倉朝日、大蔵遊星の帰りを待っ
ていたルナ様の目の前に、奇跡が訪れようとしていた。
時刻は深夜午前二時。
今夜は冬の夜の中でも一番冷え込んでいた。
ルナ様は、メイド達の会話から実に数時間経ってもまだ門の所にいた。無論、い
つもならもうとっくに屋敷内に戻っている時間だったが、どうしても待ち続けた
いという気持ちが勝ったのだ。
ルナ様は門の傍にいた。
だが、立ってはいない。
地面に倒れ込んでいた。
意識はほとんど失いかけていたが、それでもまだ朝日の帰りを待とうと気力だけ
で門の方を向いていた。それは驚異的な心の強さと愛だった。
もうルナ様の細い指に感覚はない。あまりの寒さに全身が痛いと感じている。麻
痺して石のように重くなっていた。
過労と疲労で倒れたルナ様の身体が、地面に接した半身がまるで氷に乗っている
かのように冷たくなっていく。が、そんなことも気にならなくなるほど疲れ切って
いく。なぜか断続的に不思議な強烈な眠気がルナ様を襲っていた。
高熱で上気した頬とうるんだ瞳のルナ様は、門の向こうを見つめながら、浅く白
い息を吐き続けていた。
もうルナ様の意識はほとんどなくなりかけていた。
もしこれが十年前の桜屋敷なら絶対に誰か気付いただろう。夕食にも現れず、湯
殿も使用した形跡の見られないルナ様のことを不審に思っただろう。
だが、もうそこまで親身になってルナ様のことを心配する人間は、この桜屋敷中
探しても一人もいない。実際、ろくに食事も取らず何日もアトリエに籠もること
さえあったのだ。だから、誰一人ルナ様がこんな極寒の真冬の外にたいして厚着
もせずいることに気付かなかった。
ルナ様の心はもう折れる寸前だった。
いや、もう朝日の死を知ってしまった時に、いともあっさりと折れてしまってい
たのかもしれない。
十年待ち続け、信じ続け、友人を遠ざけ、信頼できるメイド達を解雇し、デザイ
ナーの仕事に逃げ、心身を追い詰め過ぎた結果、もう避けることができない破滅
が、ルナ様の心と身体を襲っていた。
死んだように倒れ込んでいたルナ様はかすれた声でせつない希望を漏らした。
「……朝日……お前に会いたい……」
それは朝日の死を知ってからこの十年で初めて表面に表れたルナ様の弱さだった。
今までずっと必ずもう一度会える、必ず帰ってくると信じていたのだ。
弱音一つ漏らさなかった。周囲の人間にも必ず朝日は帰ってくると強硬に主張し
続けてきたのだ。
だが、先程の願望は、絶望に彩られた奇跡に縋るしかない愚かな弱者の台詞に過
ぎなかった。
「朝日」
そうルナ様が呟いた時、ふいに耳に声が届いた。それはルナ様がこの十年間唯一
望んだ奇跡だった。
――ルナ様。
現実主義のルナ様は幻聴など信じない。主従共に写真嫌いのため朝日の写真はた
だの一枚もなかったが、その姿も声もルナ様は寸分違わず十年経っても覚えてい
た。
その記憶に寸分違わぬメイド服姿の朝日が、この寒い冬の夜、外套も羽織らず目
の前に立っていた。十年前には毎日見ていたあの笑顔を浮かべて……。
「これはどうしたことだ……」
ルナ様は倒れたまま驚いた。
「……朝日……朝日がいる! ……ああ、朝日、朝日……会いたかった……」
ルナ様は朝日に向かって手を伸ばそうとしたが、もう腕は寒さと疲労で動かなく
なっていた。
――ルナ様。
「私はずっとお前に会いたかったんだ!。
私にはわかっていた。お前がきっと帰ってきてくれると。
八千代は信じなかった。ユーシェも信じなかった。瑞穂も信じなかった。湊もり
そなも信じなかった。誰一人信じなかった。
……けど、私はずっと信じていた。信じていたんだ!」
ルナ様は雪のように冷たくなった頬に涙を流しながら、高熱にうなされながらも
美しい笑みを浮かべられた。
「お前は私に嘘を吐かない。
絶対に言いつけを守る。
……それを私はよく知っていたからな」
それは主としての誇りに彩られた素晴らしい笑みだった。
「十年前のあの日、きちんと約束したもんな……朝日は必ず帰ってくると。夕方
の五時半頃には屋敷に着くと。
そして私は約束したんだ。なら、そのとき帰ってくるお前を待つために、私は五
時半に門の所に立っていると。
私はお前の主だ。主従が交わした約束は絶対に守られるべきなんだ」
――ルナ様……。
「ずっと言いたかったことを言うぞ、朝日! 今から言うぞ!
お帰り、朝日。……よく帰っ…………」
ルナ様の声がふいに途切れた。
桜色だった唇は紫に黒ずみ、そこから絶え間なく吐き出されていた白い息はもう
ない。
薄く開かれていた目は閉じられていた。
大理石のように冷たくなった肌に残る、涙の跡だけが月明かりに照らされて、ぬ
るぬるとまるで生き物のようだ。
その美しい氷の彫刻のような少女は、生涯でも最も美しい笑みを浮かべ、この十
年一度も浮かべることのできなかった安らかな顔のまま、永遠の眠りについた。
ルナ様の意識は急速に永遠の闇の中に吸い込まれていった。
彼女はこの落ちるような感覚が一方通行であり、いわゆる死を意味する現象であ
ることを本能的に直感しつつも、その流れに静かに身を任せていた。
なぜなら、この闇の世界の先には、一つの光があったのだ。
白い小さな点のような光は、ルナ様の意識が現実を手放すにつれて加速する。
その小さな白い光は、朝日だった。
朝日の笑顔だった。
メイド服を着た朝日がルナ様を出迎えてくれていた。
ルナ様は大きく笑った。まだ幼かったあの頃のような純粋な笑みだ。
ただもう現実の頬の筋肉を動かすこともできない。だが、もうそんなこと気にも
ならなかった。
その夢のような美しい世界でルナ様は聞きたかった相手から、もっとも聞きた
かった言葉を聞けたのだ。
その名の通り、朝日のように柔らかく優しい声で。
ルナ様、ただいま戻りました、と――。
59 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 11:38:34.10 ID:EXHlldc9
やるじゃん!やるじゃないか!
すばらしい!
おっさんだけど泣いてもいいかな……?
61 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 11:50:58.17 ID:EXHlldc9
あ、ただまぁ俺的には大好物だけど
欝話や死にネタは予め警告しておいたほうが良かったんじゃないかな
まあ、それはあるかもね
他SSスレでも割と書きたい人多かったりするから一応慣れてるけどね
いろいろな感想ありがとー。参考にする。
個人的にはルナ様はそんなに弱くないと思いたい
どちらかと言うと朝日の忠義心とルナ様の信頼とお互いの愛情的に
朝日:夢枕に立って最後の別れを済ませる
ルナ様:死を受け入れて振り返らずデザイナーの道を極めようとする。但し世話係も私的なパートナーも朝日と遊星で永久欠番
屋敷の何処かには「魂だけは帰ってきた証」になる何かが存在
の方がしっくり来る
66 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/14(金) 05:51:50.27 ID:mnOXJRO7
そろそろ新作はよ
時間空いたら何か投下するから待ってて
やっぱ年末忙しい
69 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/20(木) 20:41:40.37 ID:wEmL2xRz
何らかの事故に巻き込まれた朝日と心配するルナ様
誘導
エロゲネタ板
http://pele.bbspink.com/erog/ エロパロ&文章創作板では
>以下は禁止、より相応しい他の板でどうぞ。
>年齢制限付きの作品に関するスレッド →エロゲネタ&業界/エロ漫画小説アニメ/エロ同人等
となってますので、このスレッドの削除依頼をした上で移動願います。
特に意見要望が無ければ
正月にはこのスレタイのままエロゲネタ板へ移行します
あれだけ本スレで名前を出してれば見てないと言う事も無いと思うんで
作品は各自保管、場合によっては作者の方々がWikiへ保管するのも良いでしょう
では、来年も皆様のご投稿お待ちしております
73 :
名無しさん@ピンキー:2012/12/28(金) 07:40:09.70 ID:HdDnZEss
いいんじゃね?
1回2回なら言うつもり無かったんだけど
sageをいい加減覚えて欲しいんだけどなー
来るたびこのスレ上に上がってるぞ?
75 :
名無しさん@ピンキー:2013/01/04(金) 20:52:27.84 ID:PFYUm/XX
sageってなんですか?
言うだけ無駄、いつもと口調が違う
これ真性がID変えながらからかう時のやり口
ちなみに普段たまーにsage消し忘れてるよこの人
その証拠に、
>>25見てみようか。
どういうコピペになってる?「専ブラ」だろ?