シュタインズゲートのエロパロ 4

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1名無しさん@ピンキー
・シュタインズゲートの妄想を叩きつける場所です。
・カップリングについては問いません。 ただし、注意書きは忘れずに。
・べ、別にエロが無くたってかまわないんだからねっ

シュタインズゲートのエロパロ 3
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1325789848/
シュタインズゲートのエロパロ2
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1304341945/
シュタインズゲートのエロパロ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257776865

まとめ
STEINS;GATE 2ch二次創作まとめwiki
http://www1.atwiki.com/reading_steiner/


2名無しさん@ピンキー:2012/09/09(日) 19:27:14.70 ID:k1bgg3bc
>>1乙ニャ
3名無しさん@ピンキー:2012/09/09(日) 19:30:24.77 ID:Bq4v/aW/
>>1乙だお
4名無しさん@ピンキー:2012/09/09(日) 20:36:22.22 ID:V5e0d2nY
おつ
5名無しさん@ピンキー:2012/09/09(日) 20:44:16.55 ID:yQJW1jyI
>>1乙だね〜
6名無しさん@ピンキー:2012/09/09(日) 21:24:07.26 ID:VkmQ2D0B
>>1
7名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 08:05:55.79 ID:86K4JduR
い、>>1乙です
8名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 15:51:59.36 ID:lFRkP24k
いちょつ
9名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 23:18:38.53 ID:2NAPdlgJ
こんばんわー
続き物かつ新スレ初投稿です
待ってた人がいるのかどうかは置いといて……
しかし岡部珍太郎なぜバレたし
オカリンそっくりの存在で文中でこっそりオカリンの行動に見せかけて行動し
やがてはオカリンの信用を失墜させるオカリンのライバルの予定だったのに……!

ごめんなさい嘘です誤字ぶっこきましたorz
見直してるんですけど気づかないものですねえ
まとめに上げるときに直しておきます

ちなみに岡部珍太郎の最期は廚二ネームの鳳凰院d馬をラボメンに大爆笑され吐血
まゆりにオカチン呼ばわりされて憤死
10第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/10(月) 23:22:11.84 ID:2NAPdlgJ
3−7:2011/02/12 23:52 未来ガジェット研究所

恥らいながらも視線は逸らさず、上目遣いで、覗き込むようにして彼の顔色を伺っている阿万音鈴羽。
岡部倫太郎の鼓動はみるみる早くなり、真冬にもかかわらずぶわ、と汗が吹き出てくる。

「……本気で言っているのか」

やっとそれだけの台詞を、搾り出すようにして発した。

「本気も本気、大本気だよー。あたし初めて会った時からオカリンおじさんに一目惚れでさー」
「そ、そうなのか?!」

思わず声が上ずり、甲高い声で返してしまう。
未来の自分に会うなり惚れられていた、と言われるとなんとも妙な、面映い気分である。

「そうそう。小さい頃は『オカリンおじさんのお嫁さんになるー!』って大騒ぎしてさ、父さんや母さんをずいぶん困らせたっけ」
「そ、そんな小さい頃から?!」
「それでオカリンおじさんのお嫁さんにはもうなれないんだよーって言われてさ、『じゃあおじさんのあいじんになるー!』とか言い出しちゃって。
『あいじん』のやり方をみんなに聞いて廻ったりしてさー。しまいには父さんが包丁持ち出して『オカリンを殺して僕も死ぬー!』なんて、そりゃもう大騒ぎで」
「それはまた……ダルも不憫な……」

父親として娘に言われたい台詞はと聞かれれば『私大きくなったらパパのお嫁さんになるー!』あたりが上位に来るのではないだろうか。
その栄誉を自分以外の、それも自分と同い年の風采の上がらぬ友人に奪われたとなれば橋田至も面白いはずがなかろう。
もし自分が同じ立場に立って娘が同じような事を言いだしたとしたら、己の右腕たる彼に対してだとて殺意を抱きかねない。岡部倫太郎は親友の気持ちが痛いほどよくわかった。

「……ちょっと待て、なぜお前が嫁にはなれないと断定されているのだ。もしかして俺は結こn」

彼女の言葉に差し込まれていた違和感を確かめよう と開きかけた口を、阿万音鈴羽の人差し指が止める。

「禁則事項だよ。あまり知らない方がいい」
「そうだったな、すまない」
11第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/10(月) 23:26:22.03 ID:2NAPdlgJ
先刻余計な知識は未来を変える悪影響があると言われたばかりである。
岡部倫太郎は反省しつつも、以前と違う展開にやや戸惑っていた。

「いいよ。それよりこれでわかったでしょ? あたしが好きなのは岡部倫太郎。好きな男に抱かれるんだから嫌なはずがない。岡部倫太郎も今後のミッションのために必要なスキルを身に付けられる。ほら、なにも問題ないじゃない」
「……後悔は、しないのか」
「しない。それだけは、絶対に」

岡部倫太郎の真摯な問いかけに、阿万音鈴羽は迷い一つなく応じた。
こちらの目を見つめる彼女のまっすぐな瞳は、かつての彼女のまま何も変わってはいなくて、
岡部倫太郎の心にあった、最後の留め金が……外れた。

「阿万音鈴羽……」
「岡部……倫太郎」

互いに距離を詰め、相手の顔を見つめ合う。
阿万音鈴羽はいつもの躍動感が身体から溢れ出しそうな元気一杯の表情ではなく、頬を染め、何かを訴えかけているかのような、どこか物欲しそうな、それでいて物怖じしているような、
そんな上目遣いで、手を組んで、腰をもじもじと動かしながら岡部倫太郎を見つめている。
なんとも失礼な感想ながら、岡部倫太郎にはそれがなんとなくダンボールに放り込まれた捨て犬が必死にこちらの気を引こうとしている様に見えた。

「えー、で、まずは何をすればいい?」
「あそっか、ええっと、ん〜……あ、そうだ! はい! はいはいはーい! じゃあじゃあ岡部倫太郎! キス! キスがいい! キスして!」

ぴょんこぴょんこと元気よく右手を挙げながら、体全体で主張する阿万音鈴羽。
つい一瞬前までのしおらしい様子はどこへやら、だ。

「キスならさっきしたではないか」
「違う違う! 全然違うよ! さっきのあれはあたしの決意表明っていうかなんていうか……とにかく違うの! ねえ岡部倫太郎! キースー! キースーしーてー!」
「ええい腕を振り回すな! 子供かっ!」
「だってー! 岡部倫太郎がゆったー! 何すればいいかってあたしに聞いたんだよー!」
12第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/10(月) 23:30:16.37 ID:2NAPdlgJ
岡部倫太郎の腕を掴みぶんぶんと振り回しながらおねだりする阿万音鈴羽。
彼に叱られその動きを止めるが、なんとも不本意そうな表情で睨んでくる。
そこには彼に叱られて「やりすぎちゃったかな……?」という僅かな気後れと、「あたしは悪くないもん!」といういかにも子供らしい不満が同居していて、
岡部倫太郎の脳裏には、やや年のいった自分が新聞でも読んでいるところに、幼い彼女が過剰なスキンシップを求めじゃれついてくる様が妙にありありと浮かんだ。

「わがままを言うな。少し考える」
「うう〜」

掴んでいた腕を離し、下を向いて明らかに落ち込んでいる様子の阿万音鈴羽。
今までの世界線の彼女に比べ明らかに親密というか、自分に対し慣れ甘えている印象がある。
岡部倫太郎は気分を落ち着け、あらためて彼女の提示した案件について考えてみた。

キス……接吻、くちづけ。
確かに男女の仲を深め雰囲気を盛り上げる基本的なスキンシップである事は間違いない。
だからその練習をする、というのも筋が通った話ではある。
けれど……と岡部倫太郎は首を捻る。
なぜ彼女はこれほどこだわるのだろうか、と。

「まあいいだろう。では最初はキスの練習だ」
「やたっ」

かがみ込んで小さくガッツポーズをする阿万音鈴羽。
岡部倫太郎はますます首を捻る。

「うむ。あー……ででででではゆくぞっ」
「あ、あんまりかしこまらないでよ! あ、あたしまで緊張しちゃうじゃないか……」
「無茶を言うなっ!」

耳朶を染めて、視線をくりくりと動かしながら岡部倫太郎をチラチラと見上げていた阿万音鈴羽は、やがて覚悟を決めたのか、小さく息を吐いて目を閉じ、朱に染まった頬をそのままに岡部倫太郎の方に顔を向けた。

……綺麗な唇だ。
岡部倫太郎はそんな妙に場違いな感想を抱く。
13第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/10(月) 23:36:51.01 ID:2NAPdlgJ
だがいつまでも彼女を待たせるわけにはいかない。
ごくりと唾を飲み込み、阿万音鈴羽の肩を掴む。
ぴくん、と一瞬肩を震わせた彼女は、だがそこから動こうとせず、ただひたすらに彼の唇を待った。
岡部倫太郎の唇が、ゆっくりと彼女の唇に迫り……

「ん……ちゅ、ん、んっ、んあ……っ」

岡部倫太郎の腕が阿万音鈴羽の背に廻り、阿万音鈴羽の腕がそれに続いて彼の背中に廻された。
そして互いにぎゅっと抱き締ったまま、目を閉じて唇を強く触れ合わせる。
やがてゆっくりと唇を離した二人は……しばらくの間見つめ合い、その後再び激しく唇を奪い合った。

「ん、ぷぁ、んんっ!? んっ、んんっ、ん〜〜っ!」

岡部倫太郎の手が阿万音鈴羽の首と後頭部に廻され、彼女を一層強く抱き締める。
普通に立っていては唇に届かなくなってしまい、爪先立ちをしていた阿万音鈴羽が、岡部倫太郎の強引な抱擁にびく、びくん、とその腰を震わせた。

「ふぁ……ん、わ、わ、わ……ぁん……っ」

ようやく唇を解放され。荒い息と共に岡部倫太郎にもたれかかるようにその胸に崩れ落ちる阿万音鈴羽。
その頬は紅潮し、瞳は潤んでいて、身体は微かに震えていた。

「……キスは今日が初めてか?」

本番はともかく、岡部倫太郎はキスの経験自体は意外に少なくない。
椎名まゆりにも奪われたし、別の世界線でだが牧瀬紅莉栖とも延々と口付けを交わした記憶がある。
だからこの点に関してだけは、岡部倫太郎に一日の長があった。
……と、当人は思っていたのだが。
14第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/10(月) 23:42:01.65 ID:2NAPdlgJ
「ううん。初めては四歳の時、オカリンおじさんのほっぺたに」
「なにっ?!」
「おでこにしたのはその半年後かな。唇はその翌年」
「す、進んでいるな……」

意外な告白に呆気に取られる。しかもその相手は全て未来の自分ではないか。
無論未来のことだから全く身に覚えはないのだが、今の阿万音鈴羽から再び幼い頃の姿を想像し、その元気いっぱいの少女が今より若干老けた己に甘えながら親愛のキスをしている様を思い浮かべ、岡部倫太郎は妙な気恥ずかしさを覚えた。

「あ、でも年で言ったら最初にしたキスより今日の方が十年も前だし、これがファーストってことになるのかなあ」

彼の背に腕を巻きつけたまま、その厚いとは言えぬ胸板に嬉しそうに頬擦りしつつ、阿万音鈴羽はそんな事を呟く。

「いや待てその理屈はおかしい」
「ううん、おかしくないよ。だって間違いなく今日があたしのファーストキスだもん」
「……どういう意味だ?」

なにやら緊張感を解き、ほにゃ、と妙に顔をほころばせた阿万音鈴羽が……岡部倫太郎に恥じらい混じりの、とびっきりの笑顔を見せた。

「へへー、あのさ、あのね、岡部倫太郎の方からキスしてくれたの……今日が初めてなんだ!」

真下から胸に埋めていた顔を上げ、心の底から幸せそうな顔でそう叫ぶと、「えへへー♪」というなんとも得意げな、嬉しげな声を発して再び岡部倫太郎の胸に飛びつく。
自分に対する好意を隠そうともしない、まるで子犬のような彼女のそんな様子に、岡部倫太郎の胸は不覚にも高鳴った。
知りたい、もっと知りたい、彼女のことを……そんな欲求が、だんだんと鎌首をもたげてくる。
15名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 23:45:02.65 ID:2NAPdlgJ
というわけで今日はここまで
任務に真剣な鈴羽もいい……
→過去で記憶を失った鈴さんもいい…
→でも平和(?)な世界で未来のオカリンおじさんにすっかり懐いた甘えん坊な鈴羽がいてもいいじゃないか!
→ぜひ読みたい!
→見かけない!
→ええいみんな下がれ俺が書く!
→ゴメンナサイスイマセンユルシテ ←イマココ

それではまた次回ー ノノ
16名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 23:49:05.48 ID:ip/1nTta
乙です。
鈴羽ちゅっちゅ
17名無しさん@ピンキー:2012/09/10(月) 23:56:46.56 ID:uWbFoUGq

ええぃ、続きはまだかー!
18名無しさん@ピンキー:2012/09/11(火) 23:30:04.41 ID:jPnrAL38
鈴羽!(挨拶)
というわけで今日も来ました
でもなんかエロというよりイチャイチャしてるだけのような気も……
19第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/11(火) 23:35:05.74 ID:jPnrAL38
3−8:2011/02/12 00:02 

「それで……次はどうすればいい?」
「ふえっ?! あ、そ、そっか、そうだった」

パッと岡部倫太郎にしがみついていた両手を離し、慌てて距離を開ける。
これは恋人同士の睦み合いではない。あくまで性交渉の手ほどきなのだ。
そう心に言い聞かせながら、だが勝手に高揚してしまう己の心を阿万音鈴羽は御しきれないでいた。

「ええっと、えっと……そうだ!」

少しだけ悩んだ後、何を思いついたのか表情を輝かせる。
さっき岡部倫太郎に止められた行為……今度こそはと彼女は己の上着の裾を掴み、先刻無理矢理引きずり下ろされたため若干皺になっていた服を勢いよく脱いだ。

「っぷう!」

頭を抜いたのみで袖はまだ通ったままだが、彼女の張りのあるみずみずしい肌が、特に首筋やうなじ、脇腹が目に飛び込んできて、岡部倫太郎は思わず息を飲む。
阿万音鈴羽は服を一気に脱ぎ捨てると、そのままソファに放った。
今や彼女は上半身に黒いスポーツブラ、下半身にスパッツ、そして靴下を着用しているのみである。
彼女のブラジャーは装飾も色気もない簡素なもので、だが健康的なその肌にはよく似合っていた。

「じゃあキスの次は胸いってみよー!」
「明るいなお前は……」

岡部倫太郎の言葉に阿万音鈴羽は一瞬で頬を染め、その全身を桃色に上気させる。
服を脱いでいるため、岡部倫太郎には彼女の白い肌がみるみる薄紅に染まる様がありありと見て取れた。

「こ、これでもこっちだって緊張してるの! こうやって無理してないと……その、は、恥ずかしいじゃん!」
「そ、そうだったのか、すまん」

ブラ越しの胸を両腕で隠しつつ、やや前かがみとなって頬を染める阿万音鈴羽。
その三つ編みが大きく跳ねて、彼女の羞恥を表していた。
とはいえ緊張でガチガチに硬直されたり、嫌がられたり、あるいは拒絶されるよりはずっとやりやすい(そこまで考えたところで、牧瀬紅莉栖との初体験を思い出し、岡部倫太郎は軽く落ち込んだ)。
ミッション遂行のためとはいえなんともありがたい話である。
岡部倫太郎は感心しつつ阿万音鈴羽に近寄って、女性の下着の妙な生々しさに心臓を打ち鳴らしつつ、その胸部に手を伸ばし……
20第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/11(火) 23:41:13.19 ID:jPnrAL38
「……で、これはどうやって外せばいいのだ?」
「あそっか。えっとね、後ろにホックがあるから……」

うんしょ、と腕を後ろに回してブラジャーのホックをいじる。
その際にちらりと見えた彼女の腋と脇腹が醸し出す健康的なエロスに、知らず岡部倫太郎の視線が釘付けになる。

「……ねえ、岡部倫太郎が外してみる?」
「なに? どういうことだ?」
「ほら服を相手に脱がせてもらう方が興奮する人と自分で脱ぐ方が興奮する人っているじゃない。牧瀬紅莉栖がどっちなのかはわからないけどさ、一応両方できるようにしておいた方がいいかなー、なんて」
「なるほど、確かに。 ……しかしそういう知識はどこで仕入れてくるのだ、鈴羽」
「んー、えっとー、父さん?」
「ダルよ…自分の娘に何を教えている……」

頭を押さえながら呻き声を洩らす岡部倫太郎。
一方阿万音鈴羽は気にする素振りもなく両手を後ろに回したまま彼に背中を向けた。
その背中の抜けるような白さと、羞恥から染まる薄紅に、岡部倫太郎は知らず熱い吐息を漏らす。

「ほらほら、ここ、ここのホックをさ……」
「ほう、構造自体は単純なのだな」
「そうじゃないと毎日付けるの大変じゃん」
「ふむ、言われてみれば……」

あまり色気のない会話を交わしながらブラジャーを外す二人。
そして……遂に、彼女の双丘が灯火の下にさらされた。
もはや彼女の身体を覆っているのは白靴下とスパッツのみ。ある種倒錯的な性癖と受け取られかねぬ格好である。

「ど、どう……?」

阿万音鈴羽は己の胸の下で腕を組み、双房をやや持ち上げ強調するようにしながら、頬を染めて岡部倫太郎を見つめている。
そのどこか非現実的な光景に、岡部倫太郎は軽い眩暈を覚えた。

「む……いや、どう……とは?」
「あたしの身体……変、じゃない?」

彼女にしては妙に歯切れが悪く、どこか躊躇いがちに尋ねる。
怖いもの知らずの阿万音鈴羽だが、やはり好きな男に己の裸体を晒すというのは勇気のいるものらしい。
21第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/11(火) 23:47:11.27 ID:jPnrAL38
「すまん。さっぱりわからん」
「あうっ、な、なんだよそれー!」

だが続く岡部倫太郎の返答に、彼女はがくりと体勢を崩した。

「無茶を言うな! 比較できるほど女性の裸など見た事がないのだ!」
「そ、それはそうだけどさー!」

互いに切れ気味にまくし立てる。
まあ二人揃って初体験なのだから、いっぱいいっぱいなのもお互い様だろう。

「けどー、なんかさー、ほらー! お、男だったらその、な、なんか言う事がさー!」
「な、何を言えばいいのだっ!」

甲高い声で突っ込みを入れつつ、とりあえず阿万音鈴羽の姿をまじまじと見つめる。
胸部を下から持ち上げるようにして強調している、いっそ扇情的にも映るポーズ。
だが彼女の竹を割ったような性格と鍛えられた張りのある肌は、それを単純な淫靡へと貶めていない。
むしろその姿は健全な肉体美を含めた眩いエロスを内包していて、岡部倫太郎は見惚れるように小さく息を吐いた。
ただ緊張とプレッシャーでいっぱいいっぱいの阿万音鈴羽にはそうは映らなかったようで……

「あー! 溜息ついた! やっぱり変なんだー!」
「違う! 誤解するな! そうではない!」
「うー、オカリンおじさんに呆れられちゃったあ。ねえ、どこがヘンだった!・ すぐ直すからさー!」
「ええい、だから話を聞け! そのまま近づくなっ!」
「わーん! あたしの裸見るのも嫌なんだー!」
「だーかーらー違うと言っているだろうがっ!」

乳房を持ち上げたまま半泣きでにじりよる阿万音鈴羽を押し留めるように両肩を掴む。
ただ先刻と違ってその手は彼女の肌に直に触れていて、その柔らかな感触に岡部倫太郎はどぎまぎした。

「鈴羽、正直お前の裸が他の女と比べてどうだというのはわからん。わからん、が……その、い、今のお前はき、綺麗だとは思うぞ?」
「ホ、ホント? ホントにホント!?」
「ああ、本当だ」
「嘘じゃない? ホントにそう思ってる?!」
「くどい! 何度も言わせるな、この鳳凰院凶真がこのような事で嘘をつくと思うか! お、お前の裸は確かにき、きrもがーっ!?」
「やったー!」
22第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/11(火) 23:51:49.20 ID:jPnrAL38
岡部倫太郎の言葉に最初不安そうにしていた阿万音鈴羽は、だがそれが誤解だったとわかると満面の笑みを浮かべつつ歓声を上げ、その双丘で彼の顔面を挟み込むようにして彼の首っ玉にしがみついた。

「へへー、キレイだってー、岡部倫太郎があたしのこと綺麗だってさー。へへへー♪」
「もがっ! もごっ! ええい鈴羽! 今の状況がわかっているのか!」
「え? なにって……わわっ!?」

己の乳房を自ら岡部倫太郎の顔に押し付けている事に今更気付いた阿万音鈴羽は、真っ赤になって首に回していた腕を解き、慌てて飛び退いた。

「ご、ごめん! あたし浮かれてた!」
「……いや、構わん。元々女性の身体に慣れるのが目的なのだから」
「あ、そっか。そ、そうだよね! じゃあ……えっと、その、触ってみる?」
「いいのか?」
「う、うん。だってほら、そのために脱いだんだし」

そうは言いつつもやはり恥ずかしいのか、彼女の肌はほんのりと桃色に染まったままだ。
阿万音鈴羽はあらためて両腕を後ろに廻し、足を斜めに組んで、僅かに上体を反らして直立した。無論下はスパッツ一丁である。
そのポーズは、なんとなく岡部倫太郎にヌードデッサンのモデルを連想させた。

「えーっと……ど、どうぞ! 岡部倫太郎!」
「あー……では、お言葉に甘えて、その、失礼する」

とても裸を見せている男女同士の会話とは思えぬが、彼らは彼らなりに必死である。
岡部倫太郎はおそるおそる右手を伸ばし、おわん状の乳房の縁よりやや中ほどを指で軽くつついてみた。
思った以上の弾力があり、かなり張りがある事に驚嘆する。

「あン!」
「ヘ、ヘンな声を出すなっ!」
「無茶言わないでよー! さっきも言ったでしょー、こっちだって緊張してるんだから!」
「わ、わかった。では続けてゆくぞ!」
「う、うん……あっ!? んっ、ン、あ、あふ……っ」
「も、もう少し声を抑えられんのか? その、なんだ、変な気分になるだろう!」
「だから無理だってばー!」

むしろその変な気分こそがこのミッションで必要なものなのだが、互いに目の前の事に必死でそこまで思い至れない。
指でつついて感触を確かめた後、おわんを包み込むように掌で包み込んだ岡部倫太郎は、やがて両手を用いてその双丘を掴み、手触りを確認するように揉み始めた。
23第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/11(火) 23:56:42.13 ID:jPnrAL38
「あぅん……あ、あっ、それ強いっ、もっと優しく……ンッ!」
「ああ、すまない。こ、こうか?(モニュッ」
「ひんっ! そ、そう……そこ、いい、かも……っ! あ、ん、んふぅ……っ!」

岡部倫太郎が阿万音鈴羽の乳房を弄んでいると、やがて彼女の胸に変化が訪れた。

「む、何やら乳首が大きくなっているような……?」
「あ、ん、それ、女が、感じ始めてるってこと、だよ……」
「そ、そうなのか」

牧瀬紅莉栖との初めてではとてもこんな落ち着いたやり取りができる状態ではなかったが、今回は相手が何をしても逃げ出さないとわかっているのでじっくりと観察する余裕があった。
岡部倫太郎はしげしげと彼女の様子を眺めながら実験を続行し、己の行為による女性の反応を確かめてゆく。

「触ってもいいか?」
「いい、けど……すごく敏感なところだから……えっと、なんて言うのかな。その……優しく、して、ほしい、かな」

瞳を潤ませて、僅かに息を荒げながら、だが逃げ出したりはしない。
阿万音鈴羽は、岡部倫太郎がもたらす己の体の不如意に必死に耐えていた。

「では……ゆくぞ」
「ん……ああっ! や、くふんっ! んぐっ、く、くぅぅんっ!」
「だ、大丈夫かっ!?」

岡部倫太郎ができる限り優しく乳首をつまみ、こねくると、阿万音鈴羽は突然激しくその上体を反らし、肩をがくがくと揺らした。
慌てて指を離し、肩を掴んで阿万音鈴羽を落ち着かせる。
彼女は髪を振り乱し、三つ編みを大きく跳ね躍らせて、唇を強く噛み、半開きの口からもわっと熱気の籠もった吐息を漏らした。
24第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 00:00:09.46 ID:r+LLh2V3
「だ、大丈夫……」
「大丈夫なようには見えないぞ」
「ちょっと、その、感じすぎちゃって……」
「辛いなら……やめるか?」
「ヤだ!」

岡部倫太郎が彼女の身体を気遣うような言葉をかけるが、阿万音鈴羽はキッとした表情で睨みつけ反駁した。

「最後までちゃんとして! あたしは大丈夫だから!」
「まったく……強情なところも変わらんな!」
「そんなのあたし知らな……あっ、んくぅっ、ひぁぁっ!?」

呆れたように呟いた岡部倫太郎は指先による乳首への責めを再開する。

「ふむ、なるべく優しく丁寧に……か。ふむ、ならば指先より相応しいものがあるではないか」
「え? それってどういう……ふぁっ? あ、そ、それダメ、やだっ! ひんっ!? や、あ、あ、か、感じすぎちゃ……きゃふぅぅぅっ!?」

小さな悪戯心を思いついた岡部倫太郎は、機を見計らって唐突に乳房に吸い付いた。
そして唇と舌先で、丹念に乳首を刺激し始める。

「だめぇ、だめだって岡部倫太郎! そ、そんなことされたら、されたらぁっ、あたし、あたしぃぃ……!」

がくがく、と腰を振わせつつ、涙声で訴える。
だが岡部倫太郎はそれに耳を貸さず、ひたすらに丹念に彼女の乳首を愛撫した。

「も、もうだめっ、もう、もう、あ、おか、べっ、おか、オカリンおじさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!!」

衝動的に岡部倫太郎の後頭部を掴み、己の胸に強く押し当て……阿万音鈴羽はびくん、と腰を一際大きく跳ねさせ、上体を反らしながら甲高い悲鳴を上げる。
そしてそのまま岡部倫太郎に縋りつくようにへなへなとその場に崩れ落ち、床に女座りでへたり込みながら彼の腰に肩を預け、全身を小刻みに震わせつつ涙混じりの声で荒い息を吐いた。


彼女自身気づいてはいなかったが……
その口の端から、涎が一筋流れて落ちた。
25名無しさん@ピンキー:2012/09/12(水) 00:02:20.49 ID:r+LLh2V3
そんなわけで今宵はこれで失礼します。
えっちに一生懸命で頑張りやだけどいっぱいいっぱいの女の子
いいよね……
それではまた次回ー ノノ
26名無しさん@ピンキー:2012/09/12(水) 00:34:20.45 ID:/iGZ208N
おっぱいだけでこれとは……鈴羽のテンション上がりすぎだろ常考
イく時は男は物理的、女は精神的な要因の方が大きいというがけしからん!もっとヤれ乙!
27名無しさん@ピンキー:2012/09/12(水) 02:43:56.16 ID:BgsQGmGo
ワッフルワッフル!!
28名無しさん@ピンキー:2012/09/12(水) 07:10:58.61 ID:oH5FjjzJ
乙です。
あこがれの?オカリンおじさんとのHで鈴羽もテンション上がってるんだろなw
29名無しさん@ピンキー:2012/09/12(水) 23:23:36.32 ID:r+LLh2V3
鈴羽!(挨拶)
こんばんわー
今日も更新に来ました
とりあえずいい調子ですね
このまま続けられたらと思います
30第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:31:07.93 ID:r+LLh2V3
3−9:2011/02/12 00:08 

「ふぁ、ふぅ、ふぅ……っ、ふぁ、あ、ああ……っ」
「だ、大丈夫か? その、なんだ、苦しい……のか?」
「苦しい……? 逆だよ岡部倫太郎。気持ちよすぎて……なんだろう、これがイくってやつなのかな……?」
「その……なんだ、確かにダルが持っている成人誌やエロゲではよく見かけたが……実際の女性もそんなに感じやすいものなのか?」

彼女の乱れっぷりに、思わずそんな素朴な疑問が湧いてくる。
もしそうだとするなら、牧瀬紅莉栖の時ももう少し上手くいっていたような気がするのだが。

「わかんないよぉ、あたしだってこんなの初めてなんだからぁっ」

今更ながら胸を隠すように左腕で覆って、真下から抗議するように見上げる阿万音鈴羽。

「でもなんかさ、『ああ、いま岡部倫太郎にされてるんだぁ……』って思ったらふわってなっちゃって、なんかすごい気持ちよくなっちゃって、き、気付いたらあんなになってたの!」
「そ、そうなのか……」
「うう〜」

涙目でへたりこんでいた阿万音鈴羽は、岡部倫太郎の下半身に肩を預け、首を軽く傾けて深くもたれかかろうとする。
けれど岡部倫太郎が何故かやや腰を引いた事で体勢が崩れ、不服そうに彼の足元に無理矢理寄りかかろうとして……
自分の頬を奇妙な異物が突いている事に、己が彼の股間に身を寄せていたことに、そしてその異物が岡部倫太郎のズボンからテントのように突き出た彼の陰茎であることに……気づいた。

「ん……っ」
「……鈴羽?」
「ふ……ぁ」
「おい、鈴羽!」
「ふえやっ?!」

岡部倫太郎の声に反応するまで、阿万音鈴羽はどこか心ここに在らずというか、うっとりとした表情で彼の股間に頬をすりすりとこすりつけていた。
彼の声に慌てて我に帰った彼女は、耳朶まで赤く染めて、その場で鳶座……いわゆる女の子座りのまま恥ずかしそうに身を縮める。
31第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:37:12.87 ID:r+LLh2V3
「うー、なんか岡部倫太郎には恥ずかしいところばっかり見られるー……」
「お、俺が悪いのかっ?!」

思わず甲高い声で反応してしまう。
阿万音鈴羽は両手と尻をぺたんと床についたまま、縋りつくような瞳で彼を見上げてきた。

「ねえ、岡部倫太郎……これ、これさ、あたしの体で興奮したってことだよね?」
「う、うむ。まあそうなる……のか?」
「あ、あたしで興奮したんだ……な、なんかその、陶然とするね」
「トウゼン? 当然? ……陶然、か?」

岡部倫太郎は彼女の言葉の意味を理解するのに数瞬の時を要した。

「相変わらず難しい言い回しをするのだな」
「古いものとか大好きだからねー……ってあれ? あたしそのこと岡部倫太郎に話したっけ?」
「ああ……別の世界線のお前とだがな」
「へー、そうなんだ。なんか親近感感じちゃうなー」
「当たり前だろう。お前自身なのだから」
「あそっか。あはは、そうだよねえ。 ……ねえ、それより岡部倫太郎、これ中見てもいい?」

阿万音鈴羽は彼の怒張した股間を指差しながら、どこか遠慮がちに訪ねてくる。

「ぐむ……み、見た方が練習の助けになるのか?」
「うんうん、なるなる! すっごいなるよ!」

瞳を輝かせ、ぶんぶんと大きく首を縦に振る。

「……仕方ないな」

岡部倫太郎は股間のファスナーに手を掛ける。
その股間の目と鼻の先には、期待に瞳を爛々と輝かせている阿万音鈴羽。

「……やっぱり駄目だ」
「えー! なんでー!?」
「そ、そんなにじろじろ見られると恥ずかしいではないかっ!」
「ずるーい! あたしだって恥ずかしいの我慢して脱いだのにー! 岡部倫太郎だけずるい! 卑怯だ! 卑劣だよ岡部倫太郎!」
「おわっ! こら、やめろ、鈴羽、あたーっ!?」

期待させるだけさせておいておあずけを喰った事がよほど不服だったのか、阿万音鈴羽は岡部倫太郎の両脚を抱え込むと諸手刈りのようにして引き倒し、彼に尻餅をつかせる。
そして暴れる岡部倫太郎の下半身を拘束すると、彼の手で髪の毛をぐしゃぐしゃにされるのも気にせずその股間に覆い被さり、両手が塞がっているために唇で強引にファスナーをこじ開けた。
32第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:40:53.08 ID:r+LLh2V3
「ひゃっ!?」

唐突に股間から飛び出たそれは、トランクスの隙間からびょこんとその身を突き出して、阿万音鈴羽の眼前にそそり立つ。
一瞬びくりと身を竦めた阿万音鈴羽は、だがすぐに食い入るように目の前の肉棒を見つめた。
……無論下半身はしっかりと拘束したままでだ。

「いやっ! 恥ずかしい! 見ないでっ!」

まるで女のような言葉遣いで、甲高い声で泣で叫ぶ岡部倫太郎。情けないことこの上ない。

「へえ……こんな風になってるんだ。ねえ岡部倫太郎、これ男子の平均サイズより大きいの? 小さいの?」
「知るかぁ! 比べたことなどないわ!」
「ふーん、いつもは科学的検証がどうのこうのとか言ってるのに。調べないんだ」
「やめて。本気でやめて」

もし平均サイズより小さいなんて事が判明したらきっとショックで当分立ち直れまい。
男心というのは妙なところで繊細なのだ。

「ふーん、小さいといいんだけどなあ」
「なにっ?!」
「だってそうでしょ? 多分牧瀬紅莉栖も秋葉留未穂も桐生萌郁も椎名まゆりも、全員ヴァージンだよ?」
「む……」
「もちろんあたしもね。女の初めてはほんとすっごい痛いって話だから、サイズ的にあんまり大きいとほら、大変そうじゃない」
「そういう考え方もあるか……」

今回は状況が状況である。複数の処女と肌を重ねなければならないのだとしたら、確かにサイズが小さめの方が有利に……

「ああいやいやいや! だからと言って俺のサイズが小さいと言っているわけでは!」
「ねえねえそれよりさ、これ触っていい?」
「な、なんだとっ?!」
「いやだからさ、おちんちん」
「言われなくてもわかっているっ! そうではなくてなぜ触りたいのかという話だ!」
「だってほら……興味あるし。ね、岡部倫太郎、他のみんなにだってしてもらう事があるかもしれないんだしさあ、ねえねえ、いいでしょ? ねー、ねぇーってばー!」

阿万音鈴羽がまるで幼い少女が両親におもちゃをおねだりするような声色で岡部倫太郎の膝を揺する。
もっともねだっているのは大人の玩具だが。
33第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:45:31.61 ID:r+LLh2V3
「ええい落ち着け鈴羽! 子供かっ!」
「うう〜……だってぇ〜」
「……わかったわかった、そんな捨てられた子犬のような目をするな。好きにしろっ」
「やったぁー! さっすが岡部倫太郎、話がわっかるー」
「普通立場が逆だろう……」

呆れた口調で岡部倫太郎が嘆息する。
確かに通常なら嫌がる女性に男が無理矢理男性器を触らせたり舐めさせたりするのがセオリーだが、阿万音鈴羽にはそんな常識は通用しないらしい。
彼女は改めて岡部倫太郎のペニスに顔を近づけ、吐息がかかるほどの距離でまじまじと見つめる。

「へー、ほー、ふーん……あ、ぴくんってなった」
「お前が息を吹きかけるからだっ!」
「へぇー、息だけで反応しちゃうんだ。敏感なんだねー」
「はうっ?!」

興味津々の阿万音鈴羽が猫のように口を丸めてつん、と人差し指で陰茎をつつく。
思わず小さな悲鳴を漏らし、やや前屈みとなる岡部倫太郎。

「わー、おもしろーい!」
「ええいっ面白がるなっ!」
「えい、やあ、そりゃー!」
「あ、だからやめて、やめ……あふんっ!?」

つんつん、と指先でつつき、ぴくぴくと震え反り返る肉棒を楽しげに観察していた阿万音鈴羽は、やがてその行為を徐々にエスカレートさせてゆき、遂に手指で包み込むようにして陰茎を掴んだ。

「おー、意外とやわっこいねー。骨は?」
「そんなものあるかっ!」
「あ、そうなんだ」
「だから、強く、握る、なっ!」
「あ、ああそうだよね、ごめんごめん」

知らぬ間に陰茎を強く握りしめていた阿万音鈴羽は、岡部倫太郎にそう言われて慌てて手を離す。

「ふーん、この反り返ってるところが気持ちいいんだ」
「いちいち分析するなっ!」
「えー、だって必要でしょ? ねえねえ岡部倫太郎、これ味見てもいい?」
「はぁ?!」
「え、あたしなんか変なこと言った?」

岡部倫太郎の大仰な驚き方にむしろ彼女の方が驚いて、多少慌てながら聞き返す。

「い、いや、そういうのは普通男の方からやってくれと頼み込むものではないかと思ってな。少なくともダルの持っていた雑誌などではそうなっていたのだが」
「へーそうなんだ。でもそれってつまり頼みたいくらいやって欲しいってことだよね?」
「まあ……そうなるのか?」

なにせ岡部倫太郎にはそんな経験が欠片もない。だから『それ』がどういうものなのかさっぱり実感が持てなかった。
34第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:54:51.98 ID:r+LLh2V3
「はいはーい! じゃあさじゃあさ、あたしやりたい! やってみたい! 岡部倫太郎、いいでしょー、ねえってばー!」
「だからいちいち手を挙げるな! 揺するなっ! ええい、好きにしろ!」
「やったぁ! じゃあ……えっと」

口では大胆なことを言っておきながら、だが岡部倫太郎の肉棒を前に、阿万音鈴羽は頬を染めてもじもじと立ちすくむ。
彼女にだって経験はまるでない。これからどうすればいいのか、どうすれば岡部倫太郎が喜んでくれるのか、全くの未知数なのだ。

「えーっと、えっと……ん、ちゅっ」

だがやがて意を決したようにそそり立つ陰茎に顔を近づけると……阿万音鈴羽は目をぎゅっと閉じ、その中程についばむようなキスをした。

「ちゅ、ちゅ、ちゅっ……ん、ちゅ、ちゅぱっ、ん、ん」
「だ、大丈夫か鈴羽。その……なんだ、臭いとか」
「ちゅるっ、ん、ちゅ……ふわ、へいひへいひ。ん、ちゅ、ぷはっ……確かにちょっと変な臭いかもだけどイヤな臭いじゃないよ。なんていうか……これが岡部倫太郎の臭いなんだぁって思うと、その……なんか懐抱の念があるっていうか」
「カイホウ?」

岡部倫太郎は怪訝そうに眉をしかめた。
カイホウ……解放? 介抱? いや文脈から考えて懐かしい懐か? それに包、あるいは抱か……差詰め懐抱の念、あたりだろうか。
普段使わぬ言葉だがおそらく感慨深い、程度のニュアンスなのだろう、と岡部倫太郎は解釈する。

「そうなのか……よくわからん感覚だな。雄効果のプライマーフェロモンを鋤鼻器に受容するようなものか?」
「ちゅ、んちゅ、ぺろ……ごめん、難しくてよくわかんない」
「あー、生物学的に言えば発情する、とでも言うのか」
「んー、ちゅ、ちゅ、れろ、んっ……どうだろ。なんかえっちな気分になっちゃうのは本当だけど」

髪を掻き上げながら、岡部倫太郎の言葉をどことなく雑な態度で受け流す阿万音鈴羽。
どうやら目の前の行為……彼の股間への奉仕にいつの間にかすっかり心奪われてしまっているらしい。
最初は手指で軽くさすり、唇であらゆる箇所にキスの雨を降らせ、やがて舌を出して優しくつつくようになって、
キスはいつの間にか吸い付くような動きに変わり、舌もだんだんと大胆に竿の上を這いはじめて、
岡部倫太郎が敏感に反応した場所を重点的に……執拗に責めてゆく。
35第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/12(水) 23:58:36.21 ID:r+LLh2V3
「ふう……ぁ、ん、れろ……ちゅぷっ、ね、このキノコの傘みたいなとこと先っぽが気持ちいいの?」
「む、あ、ああ……っ」

唇と舌先でカリと鈴口を刺激しながら、阿万音鈴羽はその先からにじみ出る粘液を啜った。

「なんか透明だね。精液ってもっと白いものかと思ってた」
「そ、それは精液ではない。確かカウパー線液とか言う中和剤と潤滑油の役目を持つ液体だ」
「ちゅーんちゅ、わひゃい?」
「するか聞くかどっちかにしろ! あー、確か女性の膣内は酸性で精子は酸に弱いから、アルカリ性のこの液体で中和するとかなんとか」
「へー、全然知らなかった。あ、でも潤滑油ってのはわかるよ」
「……まさかそれもダルに教わったのか」

自分の娘に早すぎる性教育を施す己の右腕の様子がありありと想像できて、岡部倫太郎が思わず眉を顰める。

「違うってば。ええっと、感じるとこーゆーのが溢れちゃうのは……お、女も一緒だから、さ」
「なるほど……そうなのか」

岡部倫太郎の長竿から唇を離した阿万音鈴羽は、赤くなってどこか不服げに彼を下から見上げるように睨む。
だが岡部倫太郎に見つめられ返すと、みるみる頬を染めて慌てて下を向き、まるで何かを誤魔化すかのように再び行為に没頭した。

「ん、ちゅ、ちゅるっ、ん、ん、はむ……っ!」
「うぁ、す、鈴羽……っ!?」

阿万音鈴羽は……遂に岡部倫太郎の肉棒をその口に咥え込んだ。
こうと決めての事ではない。心と身体が求めるまま行為に耽っている間に、自然と彼女の身体がそれを求めたのだ。
36第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 00:04:02.39 ID:r+LLh2V3
「ん、ちゅ、ちゅるっ、ん、ふぁ、ん、んんっ、ぷぁ、はむっ、ん、ちゅ、ちゅっ、んん〜〜っ!」

右手ををスパッツ越しに己の股間に押し当て、強くさすりながら、左手と唇で陰茎を刺激する。
唇は幾度も肉茎の上を往復し、舌は亀頭に絡みつくように巻き付いて、鈴口から溢れる粘液を懸命に、そして愛しげに啜り、嚥下する。

「す、鈴羽! ダメだ、刺激が、強、す……っ!」

これが橋田至が呼んでいる十八禁の同人誌かなにかなら、竿役はたとえ童貞でももう少し持つのだろうが、残念ながら岡部倫太郎にはそういう補正はないようだった。
あまりの刺激に耐えきれず、彼は思わず阿万音鈴羽の口内に大量に精を放ってしまう。

「うぷっ、んんっ、んくっ、こくん、んぷぁっ、うえっ! む、無理ぃ〜っ! んっ、あ、あああ……っ!!」

突然の放精に驚いた阿万音鈴羽は、それでもなんとか全部飲み込もうとするが、その勢いと粘つく感触に耐えられず、咳き込んだ拍子に肉竿を口から離してしまう。
制御を失った陰茎は精液を無遠慮に撒き散らし、たちまち阿万音鈴羽の顔と上半身を白濁で染め上げてしまった。
彼女の口元は肉棒を含んだ時のまま、半開きのままとなっていて、精液を嚥下しようとしていた舌も半ば出しっぱなしになっており、
一方でここ数日一切性処理をしていなかった岡部倫太郎の精液はだいぶ溜まっていたようで、彼女のそんな口元にも、唇にも、舌先にも白濁を垂らし、汚してゆく。

「ん、あ、ああっ、あつ、い……っ」

上半身裸の阿万音鈴羽は白濁の熱量をその肌で直接感じ、全身をぶるりと官能に打ち震わせる。
そしてスパッツだけを履き、女の子座りの姿勢で目を閉じた彼女は、半開きの口から自ら舌を出すようにして……小刻みに震えながらその白いシャワーを受け止めていた。
37名無しさん@ピンキー:2012/09/13(木) 00:07:35.47 ID:b0EWf95c
はじめてのドキドキ
いいよね……
そんな二人が書けて満足です
それではまた次回ー ノシ
38名無しさん@ピンキー:2012/09/13(木) 00:49:21.53 ID:tUu44LEJ

鈴羽エロい……オカリン(笑)
早く続きを!
39名無しさん@ピンキー:2012/09/13(木) 22:59:10.19 ID:b0EWf95c
鈴羽!(挨拶)
今宵も更新に来ました
ちょっと寝ぼけてるので更新ミスがあったら勘弁してください……
40第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 23:05:24.33 ID:b0EWf95c
3−10:2011/02/12 00:16

「うわっ、す、すまん鈴羽、大丈夫か!?」

岡部倫太郎は慌てて己の陰茎を押さえ、阿万音鈴羽の肩を揺する。
だが彼女は半ば放心状態となって、微かに震えながら焦点を失った瞳でぼんやりと岡部倫太郎を見つめていた。

「ん、すご、い……これが、男の人の、おか、べ、りんたろ、の、せーえき……」

舌の上に付着した精液を、ぼんやりと、とろんとした表情で喉奥に注ぎ、ん、と小さく洩らしてから飲み込む。
だが気管支に付着したらしく、阿万音鈴羽は激しく咽せた。

「だから無理はするなと……」
「ん、大丈夫、もう平気。ん、れろ、ん、ぴちゃ……あん、こんなとこにも……ぴちゃ、れろ、ちゅっ」

阿万音鈴羽は誰に言われるまでもなく、自らの肌に付着した白濁を舌で舐め、掬い取り嚥下してゆく。
その様は普段の彼女に比べてなんとも淫靡で、いやらしく、岡部倫太郎の股間のものは再び天に向かってむくりと屹立した。

「わあ、すごーい……」

先程と同じような反応、だが微妙に声のトーンが違う。
さっきまでは物珍しいものを見るような、興味が先立つ反応だったが、今の彼女の台詞には先刻彼女が言葉にした通りのニュアンスがその内に含まれていた。
すなわちどこか“陶然”とした、官能を感じさせる、熱を帯びた視線である。
目の前でそそり立ってゆく“それ”が、己を性的に見ている証拠なのだと、自分が性の対象として認識されている証左なのだと、そして自らもまたそれに求め、応え、悦んでいるのだと、
彼女の体が、心が全身で訴えている。そんな事を自覚しているような、表情。

「鈴羽……」
「う、うん……」

もじもじ、と急にしおらしくなった阿万音鈴羽が、指をつんと突き合わせ、暫しの躊躇の後に己のスパッツに手をかけ、座ったままゆっくりと脱いでゆく。
そしてその下から遂に彼女の股間……陰部が顔を覗かせた。
41第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 23:10:17.38 ID:b0EWf95c
「下には何も履いていないのか……」
「ショーツ履いたら折角のフィット感がなくなっちゃうじゃん!」
「そうなのか。しかしなんだろうな、このHENNTAIチックな印象は」
「へ、変態じゃないもん! スパッツの下には何も履かないのがフツーなの! スポーツ選手とかもみんなこうだもん! 下に何か履く方が変なの!」

阿万音鈴羽は真っ赤になって必死に自己の正当性を主張する。
だが彼女の言葉に岡部倫太郎は『この鈴羽の時代にもスポーツはあるのだな、ならばそこまで酷い時代ではないということか、よかった……』などとどこか場違いな感想を抱いていた。

……とまあそんな事を考えつつも、その瞳は自然股の間へと向けられる。これもまた男の性である。
彼の視線から隠すように、阿万音鈴羽は真っ赤になって己の秘所を両手で覆う。

「そ、そんなにじろじろ見ないで岡部倫太郎……は、恥ずかしいよ……」
「……そう言われてもだな。ミッション達成のためには一番重要な場所ではないか」

考え事をしていたためか、どこか心ここにあらずで事務的に返答してしまう岡部倫太郎。

「そ、それはそうだけど……」

その台詞を彼の今回のミッションに対する真摯さの表れと受け取った阿万音鈴羽は、その真剣な視線に頬の赤みを強め、遂に根負けしたかのように股を開き、ゆっくりと手をどける。
岡部倫太郎はそのまま彼女の股間の間に座り込むようにして膝をつき、間近で彼女の秘所をじっくりと観察した。
42第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 23:12:04.04 ID:b0EWf95c
「湯気が出ているな。それに随分と……濡れている」
「わーん、いちいち解説するなー!」
「おわっ!?」

股ぐらの間に岡部倫太郎を受け入れている阿万音鈴羽が、ぽかぽかと彼の頭を叩く。

「す、すまん、ただ大丈夫なのかと思って……」
「大丈夫? 何が?」
「いや、トイレに行かなくて良かったのか、と……のわーっ?!」

阿万音鈴羽が放った拳を慌てて避ける岡部倫太郎。へたり込んでいた状態からの彼女の拳には力の入れようがなく、なんとかかわす事に成功する。が、その握り拳には確かに怒気が込められていた。
岡部倫太郎はびくりと怯えて尻餅をつきながら慌てて後ずさり、そのまま土下座する。

「す、すまんっ! 何か気に障ることを言ったのなら謝る! だから怒らないでくれ!」
「べ、別に怒ってるわけじゃ……」
「嘘だ! さっきのパンチには確かに殺意が込められていたぞっ!」

指を差して喚く岡部倫太郎の言葉に、斜め下に視線を逸らした全裸の阿万音鈴羽は、広げていた足を畳んで横に倒す。
こうしてみるとなんとも女性的というかしとやかなポーズで、その肩から脇腹、臀部へと伸びる身体のラインと羞恥に染まった肌、いつもと違う恥じらいの様子はなんとも色っぽく、岡部倫太郎は思わず唾を飲み込んだ。

「……い」
「ん?」
「……じゃない」
「すまん鈴羽、良く聞こえないのだが」
「だからこれはお漏らしじゃないのっ!」
「そ、そうなのかっ!?」

岡部倫太郎は女性の秘部をじっくり見るのもそれが濡れている状態を見るのも初めてで、単に事実を確認したかっただけである。
ただ同時にそれは阿万音鈴羽にとって、これ以上ない羞恥プレイの一環となってしまっていた。
43第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 23:14:04.42 ID:b0EWf95c
「これは……えっと、さっきの岡部倫太郎とおんなじで、お、女の子がえっちな気分になると、その、出てきちゃう……って言わせないでよ! 恥ずかしいなーもー!」
「そうか、バルトリン線液か……!」

バルトリン線液は女性が性的興奮状態にあると膣内より分泌される液体であり、主に秘部に対する性的刺激から発生するが精神的な高揚でも分泌されることがある。用途は主に性器の潤滑作用であり、男性器の挿入の補助の役目があると考えられている。

「……見ても、いいか」
「ふえっ?! あ、えっと……お、岡部倫太郎は、見たいの?」
「ああ」

彼の思わぬ真面目な声に、阿万音鈴羽は思わず唇を噛み、ごくりと唾を飲んだ。
実際岡部倫太郎には興味があった。
初めて……そう、牧瀬紅莉栖との初体験(未遂だが)に於いて、彼女は激しく痛がったのだ。
それゆえに岡部倫太郎は挿入を断念し、気まずい別れ方をしてしまった。
もしその答えがここにあるのなら綿密な調べる必要がある。なにせ今回のミッションの最重要課題なのだから。

「ふむ、随分と溢れているな。これはさっき自分で擦ったからか?」

再び阿万音鈴羽の股間を覗き込み、顎に手を当てながら質問をする。
それは純粋に興味本位から来る質問だったが、知らぬうちに言葉責めの性格を帯びてしまっていることに当人は気づいていない。
44第3章 孤想恋慕のアリテッド(中):2012/09/13(木) 23:18:54.52 ID:b0EWf95c
「そ、それもある、けど……その、岡部倫太郎の、を……その、してる時……」
「鈴羽、わかりづらい。主語をはっきりと言ってくれ」

ミッション達成のため、牧瀬紅莉栖との仲を取り戻すため、真実を探求すべく質問を重ねる。
だがそうして彼に頼まれ、命令されるたびに、阿万音鈴羽の肌はますます赤みを増し、呼気が荒くなってゆく。

「お、岡部、倫太郎の、お……その、おち……」
「鈴羽、もう一度言うぞ、はっきりと頼む」

阿万音鈴羽の股間を覗き込みながら、視線だけを上に向け、強い口調で告げる。
牧瀬紅莉栖との再戦に関わる重大ごとだ。彼が真剣になるのは当然だろう。
だが阿万音鈴羽は、彼の厳しい表情と強い視線に射竦められ、その命令口調に背筋をぶるりと震わせて……遂に彼の本意とは別の方向に決壊した。

「おちんちん! 岡部倫太郎のおちんちんを口淫してる時にこ、興奮して濡らしちゃったんだよぉ!」

叫びながらびくん、と全身を震わせ、背筋を反らす。
足先を左右に開いたまま、だが両膝を膝頭で合わせて必死に何かに耐えていた……が、股間の潤みは先刻よりいや増して、遂には床にさえこぼれ落ちた。

「こういん……口淫? なるほど、そういう事をすると性的に興奮するものなのか」
「よ、よくわかんないよぉ。普通の女の人は嫌かもしれないけど……」
「お前は違うのか?」
「そ、それは……! そ、その、岡部倫太郎の、だから……」

元々赤いのにさらに耳まで一層に赤く染めて、視線を逸らすように斜め下に向けながらぼそぼそと答える。

「なるほど……相手にしっかりと確認を取った方がいいという事だな」
「う、うん……そうだね」

熱でもあるかのようにぼうっとしながら、岡部倫太郎の言葉をどこか虚ろな頭で聞く。
彼の問いに、抗し得なかった。
あんなに恥ずかしい質問だったのに、つい問われるまま、命じられるままに答えてしまった。
阿万音鈴羽はぞくりと背筋を震わせながら……自らが酷く性的に興奮している事を自覚する。

そして、いざこの男が事に及んだとき……この顔で、この声で頼み込まれて、拒絶できる女性が果たしてどれ程いるのだろうか……
などと、愚にもつかぬ事を考えていた。




……彼女の股間は、既にしとどに濡れていた。




(『第3章 孤想恋慕のアリテッド(下)』へ つづく)
45名無しさん@ピンキー:2012/09/13(木) 23:22:16.48 ID:b0EWf95c
というわけで中編終了ー。
私は前編とは言わなかった。三章は上編と言ったのだ。
そう、鈴羽のエロスはまだもう一段階変身を残している……!

ってとこで申し訳ないんですが
明日は泊まりがけでお出かけの予定なので更新できません
週明けの月曜も夜まで用があって、更新できるか微妙なとこです
よって次回は火曜以降、運が良ければ月曜の夜にでもお会いしましょう
それではー ノシ
46名無しさん@ピンキー:2012/09/13(木) 23:24:03.00 ID:YllIbVyf
乙です。

そう言えばゴム無しでやっちゃってもタイムリープでなかったことに
しちゃうのかなw サイテーなオカリンだww
47名無しさん@ピンキー:2012/09/14(金) 05:21:55.90 ID:4AkmBytN
オカリンもDT卒業からのクズリンへのジョブチェンジも目前か
胸が熱くなるな
48名無しさん@ピンキー:2012/09/17(月) 23:11:30.59 ID:xSKz8Jno
こんばんは
今日も何とか更新できそうです
49名無しさん@ピンキー:2012/09/17(月) 23:15:10.92 ID:6jKennra
キター!!o(^▽^)o
50第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/17(月) 23:15:41.28 ID:xSKz8Jno
3−11:2011/02/12 00:22 未来ガジェット研究所

「……鈴羽、お前の……あー、性器、触れてもいいか?」
「ふやっ?! え? え? えええ?」
「何を取り乱している。お前もさっきやったではないか」
「そ、それは、そうだけど……そうだけどさー……っ」

もじもじと太股をよじり合わせ、妙に恥ずかしがる。
先刻あれだけ淫らがましいことをしておきながら今更恥じ入る彼女の様子に、岡部倫太郎は首を捻った。
彼にとってこれは調査である。心の中でそう割り切ることでようやく積極的になることができたというのに。

「鈴羽」
「んふぁっ!? う、うう〜……こ、こう……?」

ミッションのためと己に言い聞かせつつ、岡部倫太郎ができるだけ落ち着いた声を出す。
だが阿万音鈴羽は彼の低い声にまるで別の意味でひくんと反応し、やがておずおずと己の足をゆっくりとM字に開き、潤んだ瞳で岡部倫太郎を股間の前まで迎え入れた。
目尻の涙は嫌悪からではない。
彼の声が耳を通った時、彼の言葉を脳が命令だと認識した刹那、知らず感じた恍惚が分泌させているものだった。

「さっきよりも濡れているな」
「そ、それは……岡部倫太郎が、色々、言わせるから、ぁ……っ」
「? ただ質問しただけだろう」
「え、えっちなこと言わされると感じちゃうんだ!」
「……そういうものなのか」

ふむ、と顎に手をやり考え込む岡部倫太郎。
彼女の身に起こっている変質に、彼は現状全くの無知かつ無自覚であった。
橋田至が知れば女性に服従の悦びを知らず教え込んでしまった岡部倫太郎を絶賛するだろうか。
だがもしその相手が己の娘だと知ったら彼は一体どんな顔をするだろう。
いずれにせよ阿万音鈴羽はすっかり高揚状態にあり、彼の一挙手一投足にいちいちぴく、ぴくんと反応してしまう。
次に何を言われるのか、何を言わされるのかが頭の中でぐるぐると渦巻いて、それだけでますます蜜を溢れさせてしまうのだ。
51第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/17(月) 23:18:58.29 ID:xSKz8Jno
「では……触るぞ」
「う、うん……その、お、おっぱいの先っぽと同じで敏感なところだから、こっちもあんまり強くしないで……」
「? 乳首でいいではないか」
「は、恥ずかしいんだよー!」
「?? わかった。気をつけよう」
「うう〜、あ……ひっ、んっ!」

そっと、撫でるように、阿万音鈴羽の秘所に指を這わせる。
びくんっ、と腰を揺らせた阿万音鈴羽は、まるで震動が波となって伝わるように、腰から反らした背中、背中からうなじ、うなじから脳髄へとその快感を受け取り、知らず口から切なげな喘ぎを漏らした。

「鈴羽、お前は敏感な方なのか? そうでもないのか?」
「そんなのわかんない、わかんないよぉ……あっ、ひくっ?!」

岡部倫太郎に質問されながら撫でるように秘所を愛でられる。
言葉と指の両面の刺激によって、阿万音鈴羽は追い立てられるように上り詰めてゆく。

「ふむ、サンプルケースが自分しかいないから確かめようがない、か。それは俺も同じだが」
「あ、あたししか、いないってこと……?」
「ああ。少なくともここまでしたのはお前が初めてだ」
「あぅんっ! ……えへ、へ」
「……何がおかしい」
「はぁ、はぁ……あ、ううん。なんか嬉しいな、って。それだけ」
「おかしな奴だ」
「あっ、そこダメッ! そこクリ……ダメだってば……ぁ!」

カリ、と岡部倫太郎の指が陰核を引っ掻く。阿万音鈴羽はまるでスタンガンを浴びたかのようにびくりと震え、脚をがくがくと揺らした。

「わからんな。十分湿っているように見えるが……女というのは一体どれくらい濡れれば痛くなくなるものなのだ?」

女性の初体験は痛いものである、という話は岡部倫太郎も聞いたことがあった。
実際牧瀬紅莉栖はそのせいで彼を拒絶したのだ。
だがこれ程にしとどに濡らしているなら潤滑油としての性能は十分な気がする。
もしそれでも痛いというなら一体何が不足だというのだろうか。
52第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/17(月) 23:27:23.98 ID:xSKz8Jno
「わかん、ない、けど……初めてだとここがまだ広がりきってないから痛いんじゃない、かな」
「ここ、とは?」
「ふゃっ!? う、うぅ〜……っ、だ、だからぁ……っ」
「鈴羽、教えてくれ」

岡部倫太郎の淫心の一切ない言葉に、遂に阿万音鈴羽の心が決壊する。

「ち、膣のことだよぉ! ヴァギナ! お、お、おま、おまん……っ」

ゴニョゴニョと消え入りそうな声で呟きながら、岡部倫太郎の前で左右に大きく開いた両脚の間、己の秘所を両手の指で指し示し、僅かに指先で広げる。
もはや顔が赤いどころではない。彼女の全身はすっかり羞恥にのぼせ火照りきっていた。

「……つまり慣れの問題か」
「た、たぶん……っ」
「それではダメなのだ! どうにかして受け入れられるようにしなければ! 紅莉栖はきっとまた……!」

激高しかけた岡部倫太郎……彼の様子を見て少しだけ己を取り戻した阿万音鈴羽が、全裸のまま、彼をぎゅっと抱き締める。
その身は未だ赤熱の欲情の中にあったが……目の前で懊悩している男のために、彼女はできる限り落ち着いた声を絞り出した。

「大丈夫だよ、岡部倫太郎。痛くったって、んっ、女の子は、大好きな人のためなら我慢できるから」
「だが……現に俺は……っ!」

なおも動揺し震え慄く岡部倫太郎の口を……今度は彼女の唇が塞いだ。

「ん……ん、ちゅっ、あ、ん……ぷぁ、ん……」

自ら唇を差し出しながら、だがむしろ己が蕩けた表情となって顔を離す阿万音鈴羽。

「どんな痛みだって……覚悟があればきっと大丈夫。でも女のそんな気持ちを、雰囲気を作ってあげるのは……岡部倫太郎、君なんだよ」
「……責任重大だな」
「だから言ってるじゃないか。そのためにみんなを抱いて欲しいって。そのためにあたしがいるんだって」
「………………」
53第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/17(月) 23:29:06.08 ID:xSKz8Jno
互いに無言のまま見つめ合う二人。
やがて岡部倫太郎の手が彼女の背中に回り……阿万音鈴羽は、背後のソファに背中から乗り上げて、倒れ込むようにして彼を誘った。

「っと、ちょっと待て。準備、準備をしなければ」

……が、突然岡部倫太郎が上体を上げて、慌ててポケットを探り始める。

「何探してるの?」
「あれだ! ええっと……なんだ、その、挿入前に付ける……む? そ、そうか、今は二日前だったか」

わたわたと上着やズボンをまさぐる岡部倫太郎に、ようやく阿万音鈴羽もピンと来る。

「……ひょっとして、スキン?」
「そそそうだ、それだ」
「へぇ、意外だね、岡部倫太郎はそういうの普段から持ってるんだ」
「普段からは持っていない! ただ……その、なんだ、あー……」

身体をまさぐる手をやや緩めながら、必死に言葉を探しつつ、なんとも言いにくそうにそっぽを向く。

「紅莉栖がこっちに来ている間に……その、何かあるのではないかと期待していなかったと言えば……嘘になる」
「ふーん、成る程ね。ちゃんと岡部倫太郎も準備はしてたんだ」

少し声のトーンを落としながら、どこか冷めた口調で呟く阿万音鈴羽。
そしてぼそりと、小さな声でこう続ける。

「……別にあたしは付けなくてもいいのになー」
「馬鹿なことを言うな! もっと自分の身体を大切にしろ!」

岡部倫太郎の大声にびくりと肩を震わせた阿万音鈴羽は、だがやがて彼がズボンの後ろポケットから取りだしたコンドームを見てみるみるとその頬を赤く染め上げる。
どうやら一旦間を置いてしまったことで却って恥ずかしさが増してしまったものらしい。
54名無しさん@ピンキー:2012/09/17(月) 23:30:02.07 ID:xSKz8Jno
というわけで今宵はここまで!
なんとなくバレル・タイターには申し訳なく……
まあそんなわけでまた次回ー ノノ
55名無しさん@ピンキー:2012/09/17(月) 23:41:14.06 ID:qBiNK8GK
お忙しいのに乙です
56名無しさん@ピンキー:2012/09/18(火) 00:31:33.45 ID:C3Uz3Hgn
57名無しさん@ピンキー:2012/09/18(火) 23:40:09.38 ID:tnQUX770
こんばんは
今日も更新に来ましたー
58第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/18(火) 23:43:47.56 ID:tnQUX770
3−12:2011/02/12 00:26 

「こう……でいいのか?」
「ん、たぶん大丈夫……だと思う」

陰茎に装着したゴムをしげしげと眺めつつ、互いに真っ赤になった阿万音鈴羽と岡部倫太郎がスキンの具合をチェックする。

「なんとも心許ないな」
「仕方ないじゃないか! あたしだって初めてなんだからー!」

むー、とふくれっ面をした阿万音鈴羽は、だが一転して恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「こ、こっちは準備、できてるから……」
「……いいのか」
「うん、来て……」

もはやそれ以上の言葉は必要なかった。
不思議と優しげな笑みで、両手を広げ己を迎え入れる阿万音鈴羽の姿に無性に愛しさがこみ上げてきた岡部倫太郎は、そのまま彼女の上にのし掛かって……

「……ええい、どこだ! ここかっ!」
「んっ! そこじゃないってば! あ、今度は下すぎるー! 違う! そこお尻! お尻だって! ひぁんっ!? そ、その穴はまだだめだってばー!」
「まだ!? まだとはどういう意味だっ!?」
「そ、そーゆーのはもっと『ぷれいのはば』っていうのが広がってからだって父さんと母さんが……っ」
「ダルー! お前は夫婦揃って娘にどういう教育をしているー! ダルー!」
「そ、そんなことはどうでもいいから! と、とにかくもっと上だよ岡部倫太郎!」
「良くはない! 良くはないぞ鈴羽! だ、だがそうか、ちょっと待っててくれ。 ……ここか!?」
「ひゃんっ!? そうじゃなくってもっと上の……そ、そうそう! そこそこ! そこから、そう、ゆっくりと……んっ、そ、そう、違う! そこでいいの! そのまま、無理矢理、で、いいからっ、深、く……あ、あぁあぁあああああああああっ!?」

冗談のようなドタバタを一通り演じた後、遂に彼女の処女膜を貫いた。

「ひ、ぐ……っ!」

全身を震わせ、涙目で歯を食いしばり、岡部倫太郎の背に回した腕に力を込める。
口から漏れる声は明らかに辛そうで、痛そうで、

「大丈夫か鈴羽! 今、今抜くか、らあたぁあああっ?!」

慌てて己の逸物を引き抜こうと上体を上げた岡部倫太郎は、だが彼女の万力のような腕に強引に引き戻される。
彼女の脚は震えながらもがっちりと彼の腰に絡み付けられ、このままでは引き抜くどころか身動きすらままならぬ。
59第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/18(火) 23:47:39.95 ID:tnQUX770
「鈴羽、辛いのだろう? あ、あまり無理をするな」
「ん、へい、き……っ!」

口ではそう言いながらも到底平気とは思えぬ涙混じりの口調で、阿万音鈴羽が搾り出すように呟く。

「大丈夫、初めてなんてこんなものだって、聞いてた、し……っ」
「あれほど濡れていても痛いものなのか……」

それでは緊張でガチガチになってまるで濡れていなかった牧瀬紅莉栖が耐えられるはずもなかったわけだ。
岡部倫太郎は己の浅薄さに呆れ果て、心の内で溜息をついた。

「だがどうする、このまま動いても痛いだけだろう」
「うん。だからちょっとの間このままでいてもいい? そうすれば少しは慣れると思うから」
「わかった……すまない、鈴羽。お前にだけ辛い思いをさせて」
「あたしだけ……ってことは、もしかして岡部倫太郎は気持ちいいの?」
「……正直に言おう。かなり気持ちがいい。もしいきなり動かしたらそのまま射精してしまいそうだった。まさかこんな感覚が存在するとはな」
「そっか、気持ち、いいんだ……ふ〜ん……」

苦しげに眉根を寄せ、細かく喘ぎながら、
けれど心底嬉しそうに、満足そうに微笑んで、阿万音鈴羽は岡部倫太郎の首に回した腕の力をそっと強め、彼の頭を引き寄せる。

「ね、岡部倫太郎。こうしてじっとしてる間……少し、話ししててもいいかな」
「ああ」

己がこれほどの快楽を感じているというのに、真逆に苦しそうな表情の阿万音鈴羽を見ているのが辛く、まるで自分が欲望の赴くまま彼女をいたぶっているような感覚に襲われ、痛烈な罪悪感を覚えてしまう岡部倫太郎。
そんな彼女の苦しみが少しでも紛れるなら、と阿万音鈴羽の言葉に力強く頷く。

「あのね……あたし、岡部倫太郎……ううん、オカリンおじさんの事が好きだったの」
「ああ、それは聞いた」
「出会った時から……ううん、出会う前からずっと」
「出会う……前?」
「うん。あたしね、ずっと思ってたの。あたしには好きな人がいるんだって。ずっと一緒にいたい。ずっとそばにいたい。ずっと……隣にいたい。そんな風に思える人が。それでもしその人に会ったら、あたしはきっとその人のことが大好きになるんだーって」

幼少時にありがちな王子様願望だろうか、それにしても随分と強い思い込みだが。
岡部倫太郎は彼女の心理をそんな風に分析した。
60第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/18(火) 23:52:20.87 ID:tnQUX770
「それでね、物心付いて初めてオカリンおじさんに会ったとき思ったんだ。ああ、あたしが探してた人はこの人だったんだって。あたしはこの人のことが好きなんだ……って」
「おいおい、それはいくら何でも持ち上げすぎだろう。お前が三つ四つの時だとしても俺は三十路前後だぞ」
「ううん。あたしはあの時確信したんだ。ずっと、ずっと会いたかったの。初めて会った君に、ずっと前から」
「ハハハ、そんな僕タマ*みたいな……」

そこまで言い差して、岡部倫太郎の言葉が止まる。


「まさか……!?」
「うん。だから……きっとこれが、あたしのリーディング・シュタイナー」


阿万音鈴羽は、笑っていた。
いつもの愉快そうな笑みではなく、優しげな、愛しげな微笑み。

「オカリンおじさんに別の世界線の話を聞いたとき、オカリンおじさんの力の話を聞いたとき、あたしすっごくいっぱい考えたんだ」

リーディング・シュタイナーは誰もが持っている力……ただ常人のそれはあまりに微弱で、微かな記憶しか残すことができない。
だからそれは書き換えられた新たな世界線の記憶の片隅で、単なる夢や妄想、或いは白昼夢として片付けられてしまう。
幼い少女は必死に考えた。岡部倫太郎と同じ時を生きた別の世界線の自分にはその力はなかったのだろうか、と。
そして今の自分には……その力はないのだろうか、と。

「あたしはなんにも覚えてないけど、でも別の世界線のあたし達は……きっとみんな岡部倫太郎、君のことが好きだったんだ」
「そ、そう……なのか?」

そう言われても岡部倫太郎には確信がない。
確かに嫌われていたとは思わないが、少なくとも今の彼の記憶ではそれ程深い付き合いになった事はなかったから。
61第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/18(火) 23:57:33.50 ID:tnQUX770
「うん。だってそうじゃなきゃ、あたしの心にこんなに強い想いが残ったりしない。そりゃもしかしたら行き違いで喧嘩した事だって、敵同士になるような事だってあったかもしれないけど……
それでも岡部倫太郎、そんな時でもあたしは、君にきっと特別な想いを抱いてた。そんな気がするんだ」
「想い……?」
「うん。君と同じ時間を生きられなかった今のあたしには別の世界線の記憶なんて残ってくれなかったけど……でも想いだけは残された。残ってくれた。こうして……あたしの中に」

幾度も繰り返したループの中で、渡り歩いた世界線の中で、彼女には幾度も助けられた。
世界線の成り立ちと理解、アトラクタフィールド理論、ダイバージェンスメーター、そしてIBN5100。
そのどれが欠けていてもあの孤独な旅路を終わらせることはできなかっただろう。

「もしかしたら全然違うかもしれない。あたしの勝手な思い込みかもしれない。ひょっとしたらオカリンおじさんに本当に一目惚れしただけなのかもしれない。
でもこれはかつてのあたしの想い……岡部倫太郎と一緒にかけがえのない時間を過ごした、たくさんのあたしの想いの結実だって、きっとそうなんだって、そうだったらいいなって……あたしは信じてるんだ」

あの頃は彼女が自分に接触してくるのはこの特異な能力……他人より遙かに強く発現しているリーディング・シュタイナーのせいだと思っていた。世界を救うキーマンだからだと思っていた。
だがもし彼女にそんな気持ちがあったなら、自分を少しでも好いていてくれたのなら……

「だから……さ、岡部倫太郎。もし君がその頃あたしを……別の世界線のあたしを少しでも想っていてくれたなら……お願い」

頬を染め、口元をわずかにほころばせ、鼻と鼻でキスするほどの距離で、囁くように。

「あたしの知らないあたしの分まで……今、この身体を愛して欲しいんだ」
「……わかった」

彼女の言葉を心に刻む。
その強い想いを、純な願いを。
たとえこの後何があっても、タイムリープで彼女の記憶が消えるような事態になったとしても……
自分は、自分だけはその想いを忘れまいと、岡部倫太郎は心に誓った。
62名無しさん@ピンキー:2012/09/18(火) 23:59:10.12 ID:tnQUX770
というわけで今宵はここまでー
明日はお酒が入るかもなので更新できるかわかりませんが、なるべく早い内に更新したいと思います
それではー ノシ
63名無しさん@ピンキー:2012/09/19(水) 00:11:19.12 ID:djT3gmwN
乙!
64名無しさん@ピンキー:2012/09/19(水) 14:58:33.85 ID:Wej9vptc
おつおつ
65名無しさん@ピンキー:2012/09/20(木) 23:05:08.91 ID:5ZsSpYGv
tips:僕タマ:『僕の卵を守って』というタイトルの少女漫画。卵を産んだ少年を巡る前世の記憶を持った少年少女達の物語。当時爆発的にヒットし、前世の記憶を持つと自称する少年少女が大量に発生し社会問題にまでなった。

3−12のtips忘れてたorz
あと昨日は申し訳ありません。
このページまで開いてたのにお酒が入っていたので爆睡してしまいました。
今日は更新できそうですー
66第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/20(木) 23:08:17.03 ID:5ZsSpYGv
3−13:2011/02/12 00:32

「んっ、そろそろ大丈夫かも……」
「そうか、では、行くぞ」
「うん、来て…… ッ! んっ! んくぅっ!」

ず、と岡部倫太郎がゆっくりと腰を動かす。
阿万音鈴羽は目をぎゅっと閉じ、くぐもった声を漏らしながらその律動に身を任せた。

「どうだ?」
「うん……んっ、さっきよりはだいぶ慣れた感じ」
「そうか、時間を置いて馴らすのも有効という事か」
「ん……っ、そう、みたい」
「では……続けてゆくぞ」
「う、うん……」

いつもの太陽のように元気いっぱいな返事ではなく、羞恥に頬を染め、大人しく、しおらしく頷く様にドキッとした岡部倫太郎は、彼女を強く抱きたい、激しく腰を打ち付けたいという己の内の衝動を必死に押さえ、可能な限りゆっくりと抽挿を行う。

「ん、あ、うン! なんか、ヘンな、感じ……っ」
「どうした、苦しくなったか? それとも辛くなったのか? 一旦やめるか、鈴羽?」
「ううん……そういうのじゃなくて……なんか腰の奥あたり、身体の芯がムズムズして、なんかすっごくもやもやするんだ……っ」
「それは……なんだ」
「よくわかんないけど……もしかしてこれが『感じてる』ってことなのかな……?」
「そうなのか?! 鈴羽は感じてるのか?」
「だからわかんないってばー! けど、その……もっと動いてくれたら、わかる、かも……」

肌を朱に染め、ほんの僅かだけ唇を尖らせて、上目遣いでそんな言葉を呟く。
それは彼女の……おそらく初めての、性的な「おねだり」であった。
67第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/20(木) 23:11:59.51 ID:5ZsSpYGv
「鈴羽……っ!」
「おかべ、りんたろ、ぉ……っ!」

ゆっくりと、だが徐々に強く、激しく腰を動かす。
岡部倫太郎にも少しずつコツが掴めてきたようだ。

「おか、おかべ、りん……、たっ、ふゃんっ!?」

必死に想い人の名を叫び、甘い悲鳴を上げさせられていた阿万音鈴羽は、唐突に止められた動きにがくんと上体を揺らし、不安げに相手を見上げた。

「……フルネームでも構わんが、他にないのか、何かいい呼び方は」
「えっと、オカリンおじさん……?」
「それ以外でだ!」
「ええっと……」

己の内に侵入している異物を感じ、若干の痛みと、だがそれ以上の多幸感に包まれながら、阿万音鈴羽は額に指を当てて考え込む。

「ん〜……なんでもいい?」
「ああ、鈴羽が呼びたいように呼ぶがいい」
「じゃあええっと……“リンリン”って呼んでもいい?」
「んがっ!?」
「ねえいいでしょ? 今だけ、セックスしてる間だけでいいから!」

上目遣いで、左頬に人差し指を当てて、確認するように小首を傾げる。
その愛らしい様に心臓を鷲掴みにされかけた岡部倫太郎は、だが必死に己を保ち抗おうとした。

「いやいやいやいや。流石にそれはない、それはないだろう!」
「えー! でもでもでもっ! なんでもいいってゆった! 岡部倫太郎なんでもいいってゆったよー?!」
「ええい! 文句と一緒に腰を動かすなっ!」

岡部倫太郎の下で左右に押し広げられた脚を不満げにじたじたと動かし、結果として腰を蠢かせる阿万音鈴羽。

「くっ、やめ、やめないか鈴羽!」
「くふんっ、やだ、やだぁ! 岡部倫太郎が悪いんだから! んっ、約束、守らないと、ダメなんだ、ぞぉ……きゃふぅっ!?」

彼女の腰の動きに快楽が波の押し寄せ必死に耐える岡部倫太郎。
だがこの時追い詰められていたのはむしろ彼女の方だった。
阿万音鈴羽は悲鳴を噛み殺し、くぐもった喘ぎを上げながら、それでもその動きをやめようとしない。
68第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/20(木) 23:16:46.52 ID:5ZsSpYGv
「ええいわかった、わかったから! 好きにしろ!」
「んん〜〜っ! ふぁ……え? いいの?」
「鈴羽が言い出したんだろう」
「あ、そ、そうだよね。えーっと、じゃ、じゃあ……り、りんりん?」

許諾されて今更照れくさくなったのか、岡部倫太郎に組み敷かれたその腕の下で、真っ赤になってもじもじと身をよじりつつ、肩をすぼめながらおそるおそるそう呼びかける。
そしていざ自分で口にしたあと、今更ながらにその呼称に含まれた甘ったるい雰囲気を肌で感じて、見る間に全身を朱に染め恥ずかしそうにその身を縮めた。
彼女のそんな愛くるしい様にこれまで幾度も脳天を貫かれていた岡部倫太郎は再び後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃を受けて、恥ずかしさのあまり思わずつっけんどんな応対をしてしまう。

「な、なんだっ」
「あー、やっぱり怒ってるんだー!」
「お、怒ってなどいない!」
「ホント?」
「ああ」
「リンリンって呼んでもいいの?」
「くどい!」
「……リンリン」
「……あー、なんだ」
「リンリン?」
「だからなんだと言っている!」
「えへへ……リンリーン!」
「おわー?!」

阿万音鈴羽は嬉しそうに岡部倫太郎の首っ玉にしがみつく。
結果としてそれは2人の密着をより高め、阿万音鈴羽の双丘が彼の胸板に押し付けられて、強い弾力を保ちつつも大きくひしゃげた。

「へへ、えへへ、リンリン、リンリン、リンリン……っ」
「お、おい、やめろ、やめないか、やめてくださいお願いします。というか変だぞ、なぜそれ程テンションを上げるのだ!?」

嬉しげに連呼しながら岡部倫太郎の顎に愛しげに頬擦りする阿万音鈴羽。
だがその様子はどこかハイになってしまっているようにも見える。
69第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/20(木) 23:22:43.94 ID:5ZsSpYGv
「んー、前からねー、欲しかったんだ、あたしだけの呼び方!」
「自分だけ……?」
「うん! 岡部君とか岡部さんとか御主人様とかさ、みんな呼び方違うじゃん。オカリンおじさんはほら……まゆりおばさまの真似っこみたいだし」
「それでそんなにこだわってたのか……」
「そうなんだー。いやー、オカリンおじさんに聞いたらすごい嫌がってさあ」
「それは……そうだろうな」

岡部倫太郎は未来の自分の聡明さに感謝した。

「それでしつこくおねだりしたらさ、過去の自分が許可したらいいって言うから……」
「前言撤回だ岡部倫太郎! 人に押し付けるなっ」

まあ正確には他人ではなく己自身だが、彼の心情は察するに余りある。

「だからもし無事に帰れたら向こうでもリンリンって呼ぶんだー。へへー♪」

無事に……その言葉を聞いて岡部倫太郎の表情が引き締まる。
この時間改変によって世界線は変動するのだろうか。その時彼女はどうなるのだろう。未来からやってくる要因自体が消失した場合、彼女が未来からタイムトラベルしてくる理由は無くなる。
仮にここにいたとしてもそれはきっと別の理由で、その時……彼女のこの想いは、一体どこへ行ってしまうのだろう。

「……りんりん?」
「鈴羽……!」
「きゃっ、え、な、なに? んふっ?! ん、ちゅ、ちゅぱ、んっ、ふぁ、ぁん……っ」

阿万音鈴羽の唇を強引に奪い、その身体を強く抱き締める。
彼女は最初驚いた様子だったがすぐに岡部倫太郎に身を任せ、向こうからも唇に吸い付き、舌を絡めあった。

「ど、どうしたのリンリン、急にそんな……ぁっ?! あ、あっ、あっ、あっ、ひんっ?!」

とろんとした瞳で岡部倫太郎を見上げてきた彼女の顔は、だが彼が強い律動を始めると驚きに目を見開いて、その後快楽に歪む。
初めてゆえに身体中で快楽を感じている程ではないのだろうが、精神的充足が大きいからだろうか、思った以上に彼女の体は岡部倫太郎のペニスとその動きを受け入れてしまっていた。

70第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/20(木) 23:26:02.83 ID:5ZsSpYGv
「ふぁ、なんかふわふわする、ぅ……んっ! はぁんっ! おかべ、りんたろ、ぉ……リン、リン……っ!」
「鈴羽……っ!」
「ふぁっ?! あ、あああああっ?!」

阿万音鈴羽の首と背中に腕を回し、耳元で彼女の名を強く囁く。
耳朶に吹き付けられる吐息と彼の強く低い声色が脳髄を蕩かせ、阿万音鈴羽は痺れるような官能に身を焼いた。

「んっ、はぁっ、やぁっ! へ、ヘンだよぉ……あたし、あたし初めて、なの、にぃ……っ!」

幾度も幾度も貫かれ、その都度悲鳴に似た嬌声を上げる。
潤んだ瞳、半開きの口、僅かに伸びた舌、口の端からとめどなく漏れる涎は彼女が感じている事の明確な証左であった。

「リンリンっ! だめっ、ダメェ! あたし、あたしもう……っ!」
「むぉっ!? し、締め付けが、急に、キツく……っ!」

一気に上り詰めた阿万音鈴羽は、岡部倫太郎の首に巻きつけた腕の力を強め、彼の腰に絡み付けた両の脚に力を込める。
それは随分と危険な体勢なのだが、彼女の膣壁が急激に狭まり切羽詰った岡部倫太郎にはそれに気が回るだけの余裕が足りない。

「すまん! 鈴羽、出る!」
「うん、来て、来てぇ! リンリン! リンリンっ! ふぁっ!? あ、ぁあぁあぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」

ぎゅむ、と岡部倫太郎にしがみつくようにして、阿万音鈴羽の膣が彼に射精を促がす。
そしてぎゅっとつぶった目尻から涙を零しつつ、悩ましげな、甘い悲鳴と共に絶頂へと至った。

「ん、ふぁ……はへ、ん……っ」

だらり、と全身から力を抜いて、その場に崩れ落ちる阿万音鈴羽。

「りんりんの……おかりんおじさんのせーし、いっぱいだよぉ……」

そしてスキン越しだというのに、とろとろにとろけた声で、どこか遠い他人事のような、だが不思議と満ち足りた声で……そう呟いた。
71名無しさん@ピンキー:2012/09/20(木) 23:27:28.04 ID:5ZsSpYGv
というところで今回はおしまい。
次回で第三章は終わりにできると思います。
それではまた次回ー ノノ
72名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 00:58:01.17 ID:eCgeG5qA
わおぅ!
73名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 05:15:22.12 ID:SBuT3c6n
りんwwwwwwwwwwりんwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
ええでええでー
74名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 13:56:53.08 ID:Z1xJwtAL
リンリン…鈴羽ではなくオカリンがこう呼ばれるとは…新しいwwwww
75名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 15:05:59.19 ID:7Zfa2M+0
鈴羽だのリンリンだの鈴虫かってwww
76名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 15:21:28.29 ID:JaNPcqKl
りんりんはたしかひよれんの鈴羽√で呼ばれてたな
あれはたまげたww
77名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 23:10:48.65 ID:NHyRAH71
鈴羽!(挨拶)
今宵も更新に来ましたー
今日で第三章は終わりの予定です
78第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:17:09.03 ID:NHyRAH71
3−14:2011/02/12 00:48

「あー……大丈夫なのか?」
「うん、たぶん」

事が済んだ後に、ゴム越しに己が吐き出した大量の精を確認し思わず眉を顰める岡部倫太郎。

「まさか漏れ出たりしてないだろうな」
「岡部倫太郎が気にすることなんてないよ。あたしは大丈夫だから」
「あー、なんだ、避妊薬を飲んでいるとか……?」
「……うん、まあそんなとこ」
「なぜ一拍置く」
「細かい事は気にしないでいいってば。それより少しはわかった? 女の体のこと」
「あ、ああ……」

股間をティッシュで拭いている阿万音鈴羽の姿がなんとも卑猥で、岡部倫太郎は思わず目を背ける。
先刻まで彼女の全裸を散々拝んでいたというのに、なぜ今の方が背徳感を感じてしまうのだろうか。

「んー、あー、お、そうだった……鈴羽!」
「え?」

股間を拭き終わり、スパッツを履いたところで岡部倫太郎から唐突に声をかけられる。
きょとんとした顔で振り向いた阿万音鈴羽に、何かが放り投げられた。

「うわっ、っとっと……あ、これって……!?」

彼女が咄嗟にキャッチしたのはその感触から何かの金属の塊のようだった。
掌を開いてみると……そこにあるのは小さなピンバッジである。

「知っているのか?」
「うん! まゆりおばさまも、萌郁おばさんも、みんな持ってる! 父さんだって!」
「そうか……みんなまだ持っていたのか」
79第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:21:34.84 ID:NHyRAH71
それはラボメンの一員である事を示すピンバッジ。
縁にはよく見ると小さな文字で「OSHMKUFA2010」と彫られている。
その謎の文字列はラボメンの構成員の頭文字を、ラボメンとなった順番に刻んだものだった。
即ち岡部倫太郎、椎名まゆり、橋田至、牧瀬紅莉栖、桐生萌郁、漆原るか、フェイリス・ニャンニャン。
だが……その最後のAだけは、現状誰も示していない。
ラボメンは現在7名なのだ。その点について椎名まゆりも橋田至も随分と不思議がっていたものだった。
だが岡部倫太郎は知っている。岡部倫太郎だけは覚えている。
そこにはかつてラボメンとして名を連ねた、とても大切な人物が入るべきだと。

……阿万音鈴羽。

ジョン・タイターとして彼に世界線の概念やアトラクタフィールド理論を教え、未来から来たレジスタンスとして彼らの命を幾度も救って、
そして……彼にIBN5100を渡すため過去へと一方通行の旅に立ち、現代に辿り着く前に橋田鈴として亡くなった女性。
目の前の阿万音鈴羽と同じ容貌、同じ姿の……けれど遙かに不幸な世界から未来を変えるため、己が消滅する危険すら厭わずタイムマシンで現代へとやって来ていた大切ならラボの一員。

「これ……これすっごい欲しかったんだ。でもいっぱいいっぱい欲しがったのに誰も譲ってくれなくて、オカリンおじさんにおねだりしても『お前が大きくなったらな』って言うばっかりで」

そこまで言いさして阿万音鈴羽の動きがハタと止まる。

「も、もう言われたって返さないんだから! あたしがもらったんだもん! あたしのものなんだからっ!」

そして慌ててピンバッジを後ろ手に隠し、珍しく大仰にうろたえながら必死に主張した。

「ああ。それはお前のものだ、『バイト戦士』よ」
「え……?」
「お前は覚えていないだろうが、かつて阿万音鈴羽は我がラボの一員だった。だからラボメンNo.8はいずれ生まれてくるであろうお前のために空けてあったのだ。そのピンバッジは……正真正銘お前のものさ、鈴羽」
「わぁ……っ!」
80第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:25:33.01 ID:NHyRAH71
瞳を輝かせて、再びピンバッジを取り出し、じいと見つめる。

「あれ? じゃあもしかしてこの最後のAって……あたしの苗字?!」
「そうだ。お前の姓、阿万音から取ったものだ」
「うわー、すごい! ホント?! 夢みたい!」

阿万音鈴羽はまるで誕生日にプレゼントをもらった子供のようにピンバッジを高く掲げ、ぴょんぴょんと幾度も飛び跳ね、弾んだ声で快哉を叫んだ。

「本当は10年後くらい……お前が生まれて物心ついたあたりで渡そうと思っていたんだがな。考えてみればその姿のお前にこそ渡す意味があるのかもしれん」
「うわー、うわあー! あたしさ、あたしこのピンバッジすっごくほしくって、みんなに見せてもらったときに穴が開くほどじっと見ててさ! この最後のアルファベットだけずっと気になってたんだ!」

瞳を輝かせ、ピンバッジを慣れた手つきで目の近くまで持ってきてじっと見つめる。
そしてその視線が縁取りの端、Aの文字に辿り着いたところでにんまりと笑った。

「それでさ、『このAはあたしの頭文字だからこれはあたしのだー!』って言ったらみんなに『あんたは橋田鈴羽でしょ!』って言われてさ、
それで『じゃあお母さんお父さんとリコンして! あたしをあまねすずはにしてー!』って大騒ぎしたらさー……父さんがすっごく落ち込んで」
「そ、そうか。重ね重ねダルも不憫な……」

最後の部分で彼女の声のトーンがやや下がったところをみると、どうも未来のバレル・タイターはその件で本気で凹んだものらしい。
そういえば……と岡部倫太郎はあらためて気付いた。
彼女は、阿万音鈴羽は父親の事をバレル・タイターではなく橋田至だとはっきりと口にしていた。
つまり彼女は父親の正体を知っているという事で、そして親子の触れ合いもしっかりとあったという事で……

岡部倫太郎は、それがなんとも嬉しくて、思わず口元をほころばせた。
81第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:28:15.60 ID:NHyRAH71
「だからこの時代に来る時にさ、過去に影響を与えないように偽名を使った方がいいって聞いたとき……あたしは母さんの姓を借りて阿万音鈴羽を名乗ったんだ」
「なるほど……そういう事だったのか」
「だからまさかホントにこれがあたしの名前だなんて思わなかった。えへ、へへへ、嬉しいなあ♪」

んー、とピンバッジに軽くキスをすると、口元を猫のようにして愛しげに頬擦りをする。
どうやら彼女がそのピンバッジを本気で欲しがっていたのは間違いないようだった。

「喜んでくれたようで何よりだ。だが本当にいいのか? 俺の感覚で言えば十年早く渡せたことになるが、お前の感覚だと逆に十年近く受け取るのが遅れることになるのだが」
「いーのいーの! 細かい事は気にしない! 結局もらえたんだし!」

なんとも上機嫌にピンバッジを弄んでいた阿万音鈴羽は、だが唐突に真面目な顔になって彼の方に振り向いた。

「岡部倫太郎。大事な……話があるんだ」
「その前に服を着ろっ」
「あ、そっか」

スパッツ一丁の己の格好に今更気付いた阿万音鈴羽が、もぞもぞとスポーツブラをつけて上着を着込む。
岡部倫太郎はようやく彼女の姿を正視できるようになってほっと息をついた。

「あ、そういえばシャワーあったっけ? 後で貸して欲しいんだけど」
「ああ、そこにある……が、冬は少し寒いぞ」
「オーキードーキー」
「それで……なんだ。さっき聞いた話が全部ではないのか」
「ううん。未来の件で今話せるのはあれが全部。そうじゃなくって……これからのこと」
「これから……?」
「うん。これから岡部倫太郎がタイムリープ……っていうんだっけ? 記憶を過去に飛ばす時には……最大でも上限よりマイナス2時間までにしてほしいんだ」
「上限一杯ではなく……か? だがそれは何故だ?」
「今起こった事を……なかったことにしたくないから」
「あ……!」

そうだ、もし最大までタイムリープしてしまったら今彼女と肌を重ねたことも全てなかったことになる。
だが……彼女の純潔を考えるなら、それはむしろ好ましい事のはずではないだろうか。

「ダメだよ、岡部倫太郎。セックスには体の馴れも重要なんだ。ソーロー、っていうのかな? 記憶だけ残ってても体が童貞のままだったら折角学んだことも半減しちゃうんだってさ。紅莉栖おば……牧瀬紅莉栖とも上手くいかないかもしれない」
82第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:34:16.06 ID:NHyRAH71
岡部倫太郎は今更思い至った。単に彼の記憶にセックスの経験を植えつけるだけなら、そもそも出逢ったあの時に肌を重ねてから過去にタイムリープすればよかったのだ。
それをしなかったという事は……つまり彼女には最初からこれが織り込み済みだったということだろう。

「2時間余裕をもって遡れば、岡部倫太郎は今からちょっと先に『飛んで』くることになる。そうしたら全部事情がわかってるあたしは、そのまま岡部倫太郎の手伝いができる」
「む、なるほど、そうか……!」

そうだ。「タイムリープしてくること」を事前に把握している協力者があらかじめ存在しているなら、たとえ何度目のタイムリープだろうとその人物は協力してくれるに違いない。
いちいち事情を説明する必要もなければ説得する手間もいらない。岡部倫太郎にとって実に有難い存在になり得るはずだ。

「あたしは考えるのが苦手だからあんまりそっち方面では役に立てないかもしれないけど……体を動かすのは得意なんだ。どんな事でも協力するから。ううん、手伝わせて欲しい」

阿万音鈴羽の瞳には強い決意の色があった。彼女自身気付いていないことではあったが……それは何かを為し遂げんと決心した時の岡部倫太郎の瞳の色に少し似ていた。

「あたしね……オカリンおじさんの武勇伝を聞くのが大好きだったんだ」

子供の頃、瞳を輝かせて、彼の本当なのか法螺なのかわからぬ話を何度も何度も、繰り返し聞いていた。

「どんな話でも喜んで聞いてくれるあたしが嬉しかったのか、オカリンおじさんは時々『世界線のおはなし』をしてくれるようになった」

過去へと送るメールで世界線が書き換わり、世界自体が大きく変容する。
そしてそのせいで不幸になってしまった仲間達のために、彼が奔走する物語。
細かいところやグロテスクな部分は省かれて、ずいぶんと脚色されてはいたが……それは確かに、彼の足跡を示した素晴らしき冒険譚だった。
83第3章 孤想恋慕のアリテッド(下):2012/09/21(金) 23:39:26.15 ID:NHyRAH71
「すっごく面白い、とっても大好きなお話だったけど……でも、少しだけ、キライなところがあったんだ」
「嫌いな、ところ……?」

ラボメンが襲われるところだろうか、それとも桐生萌郁や天王寺裕吾の裏切りのくだりだろうか。
岡部倫太郎の怪訝そうな問いに、阿万音鈴羽はふるふると首を振った。

「世界線を移動すればみんなは元の世界を覚えていない。どんなに近くの人でも、大切な人でも、誰一人」

そうだ、世界線を移動するという事はそういうこと。世界中の人間の記憶は新たな世界の歴史に応じて再構築されてしまう。
元の世界の記憶を保持している岡部倫太郎こそが……唯一の異端者なのだ。

「だからオカリンおじさんは全部一人で背負ってく。ラボのみんなの悩みも、想いも、罪も、全部一人で、その背中に乗っけて」

彼女の言う通りだった。そう、全てを覚えているのは己自身だけ。
世界線を渡るたびに仲間達の協力を仰いだが、それでも新たな世界に旅立つ時に彼に付いて来られる者は……誰一人としていなかった。

「そんな時の……オカリンおじさんの顔が、あたしは嫌だった」

何かを諦めたような、どこか皮肉めいた、寂しげな微笑。
子供心に……阿万音鈴羽はその表情が嫌いだった。大好きなオカリンおじさんにそんな顔をさせる『何か』が嫌だった。

「そして……オカリンおじさんはいっつもその言葉を言うんだ。あたしの大嫌いな言葉」

その言葉にどれ程の意味が込められていたのか、幼い彼女には理解できなかった。
ただ大好きなオカリンおじさんにそんな表情をさせてしまう『その言葉』は……彼女の心に深く刻み込まれた。

「だから今度の件ではあたしが全面的に協力するって決めてたんだ。岡部倫太郎と同じ重荷を背負うんだって。それがたとえ罪だって……あたしは背負う。君と一緒に」

阿万音鈴羽は、強靱な意志を滲ませたその瞳で……
時を遡った先にいた、あの日あの時、己が未だ幼かった頃に見た、あの時のオカリンおじさんと同じような瞳の色をしている目の前の男……
子供の頃から恋い慕うその男を見つめ、ずっと伝えたかった言葉を告げた。




「岡部倫太郎。君を『孤独の観測者』なんかに……させやしないんだから」




84次回予告(予定):2012/09/21(金) 23:41:18.20 ID:NHyRAH71
4−0:2011/02/12 00:58

「……で、どうするの?」
「どうする、とは?」
「最初の相手だよー。やっぱり椎名まゆり?」
「やっぱりとはどういう意味だっ」

甲高い声で叫び返し、岡部倫太郎はしばし考え込んだ。
誰を相手にするか……それは今後の展開に何か大事な意味を持つような気がする。
阿万音鈴羽は向こうから積極的に協力してくれた。けれどこれからはそうはゆかぬ。
タイムリープによってやり直しができるとはいえ、そこに至る過程自体を己の手で構築しなければならぬのだ。

「…………!!」

その時……岡部倫太郎の脳裏に天啓のようなものが走った。

しばし無言で熟考し、思いついたアイデアを検討する。
そして……小さく頷いた岡部倫太郎は、伏せていた顔を上げた。

「……決めたんだね、岡部倫太郎」
「ああ」

彼の瞳の強さに気付き、嬉しそうに、だが表情を引き締める阿万音鈴羽。
彼がそういう顔つきをするときは……誰よりも頼もしいのだと、彼女は幼い頃から知っていた。

「……最初は」
「最初は?」
「フェイリスに、する」




岡部倫太郎の瞳に、もはや迷いはなかった。




(『第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1)』へ つづく)
85名無しさん@ピンキー:2012/09/21(金) 23:51:27.63 ID:NHyRAH71
というわけで第三章、鈴羽ルート無事(?)完結でございます。
だだ長いお話に最後までお付き合いくださった方がいたのならただただ感謝でございます。
書きたいことを書ききれず、改めて己の非才と筆力のなさに嘆いておりますが、とりあえず鈴羽に思うところの精一杯を可能な限り書き殴ってみました。
鈴羽ファンの方に少しでも喜んでいただけるような、
そうでない方にも鈴羽の良さが少しでも伝わるような、
そんなエピソードであったら、と思います。

さて少し休んでからいよいよ本格的な攻略開始、
手始めにして最大の難関、フェイリスルートに突入です。
ピンクは淫乱!を合言葉にまたちまちまと更新していきたいと思います。
3章の感想でもいただけたら励みになります。
それでは早ければ来週にでもー ノノ
86名無しさん@ピンキー:2012/09/22(土) 00:09:46.21 ID:sAEqNT8u
乙乙乙!すげー!なんか感動したぞ!

『孤独の観測者』使ってきたかー!このフレーズ好きなんだよね。寂寞とした決意がこもっててゾクっとくるものがある。本編オカリンの代名詞とも言えるか。

毎日ずいぶん楽しませてもらってますが、ここまでの感想をさらっと言うと、読み応え十二分、そしてこの鈴羽は間違いなく鈴羽だと思います。ちゃんとキャラ掴めてる。
ある意味でエロパロにあるのが勿体無いw

そして鈴羽との交わりを「残して」来たね(ニヤリ)。と言うことはもしかすると…?!
次はフェイリスか……もっともっとエロくしてくれてもいいんだぜ?w

続き楽しみにしてます!速く来週来い!
87名無しさん@ピンキー:2012/09/22(土) 00:12:54.86 ID:drjIQS8B
乙です。
オカリンによるフェイリス攻略、楽しみです。
88名無しさん@ピンキー:2012/09/22(土) 15:33:34.30 ID:JUIPi+0Z
ま、まだ途中なんだかGJなんて言わないんだからねっ!

フェイリス!ニャニャニャ!!!
89名無しさん@ピンキー:2012/09/24(月) 02:15:27.09 ID:jRrTwbmo
長編はありがたいのう
乙乙
90名無しさん@ピンキー:2012/09/24(月) 23:08:58.19 ID:88p7mSX0
こんばんはー
いろいろと感想ありがとうございます。
励みになります。
それではどうにか更新できそうなので第四章に突入してみたいと思いますー。
91第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/24(月) 23:10:57.88 ID:88p7mSX0
4−1:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……フェイリスだ」
「で、上手く行ったの?」
「いや、失敗だった」
「一応聞くけど、何回目?」
「……七回目だ」

呻くような声で、岡部倫太郎が呟いた。

「へぇー、結構苦戦してるんだ」
「フェイリス・ニャンニャンには相手の心を読む特殊な力がある。下手な小細工は通用しない」
「あー、なんだっけ、『チェシャー・ブレイク』だったっけ?」

正確には相手の顔色を窺って言っている事が嘘かどうかを見破る程度の、いわゆる『察しがいい』といった類の能力の発展系のような物なのだが、いずれにせよ厄介な事には違いない。
その上フェイリスの行動は猫のように気まぐれで掴み所がなく、こちらの策をまるで全て見透かしたかのように軽々と跳び越えていってしまう。
何度も繰り返したタイムリープで彼女のタイムスケジュールや幾つかの有用な情報は手に入れたが、未だに決定打と呼べるようなものは何一つないのが現状だ。

「ふーん、それにしても留未穂お姉ちゃんがねえ。ちょっと意外だなー。もっと早く折れると思ってた」
「フェイリスはああ見えてかなり芯は強いぞ」
「いやそういう意味じゃなくってー……うーん。もしかしてまだなのかなあ?」

阿万音鈴羽がなにやら岡部倫太郎に理解できない事を呟きながら腕を組んで考え込む。

「……そういえば鈴羽、ひとついいか」
「ん、なになに? 何でも言って。あたしは岡部倫太郎に協力するためにここにいるんだから」
「すまんな。では聞くが、まゆりや萌郁は『おばさん』でなぜフェイリスは『お姉ちゃん』なのだ。特にまゆりとは同世代だろう」
「……だってあの人おばさん、って言っても返事してくれないし」
「ああ……」

なんとなく納得できる理由で、岡部倫太郎は思わず頷いてしまった。

92第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/24(月) 23:13:42.31 ID:88p7mSX0
「だが2036年と言うことはフェイリスはもう四十を超えているはずだろう。まったく何をやってるんだあいつは……」

岡部倫太郎は頭を押さえつつ溜息をついて……
がば、とその顔を上げた。

「うわっ?! ど、どうしたのいきなり?」
「見落としていた……! そうか、ヒントは最初から提示されていたのだ!」

突然ブツブツと呟き始めた岡部倫太郎は、興奮した面持ちで阿万音鈴羽の方へと振り返る。

「お手柄だぞ鈴羽! もしかしたら攻略の糸口が見つかるかもしれん!」
「? ?? そうなんだ」

自分の何がどうヒントになったのかさっぱりわからずに首を捻る阿万音鈴羽。

「よくわかんないけど……役に立てたようなら良かったよ!」
「うむ、とりあえず今回のタイムリープで確認するとして、活かせるとしたら次回以降か……」

ソファに腰かけ、何やら思案しながら作戦を練る岡部倫太郎。

「ねえねえ、オカリンおじさん」

その背後、肩口から、岡部倫太郎の顔の真横に身を乗り出してくる阿万音鈴羽。

「なんだ、鈴羽?」
「とりゃーっ!」
「おわっ!? な、なんだっ!」

頭脳労働に没頭しているせいか、おじさん呼ばわりされても特に反応しない岡部倫太郎。
そんな彼の真面目な横顔を間近に眺めながら……阿万音鈴羽が悪戯っぽい笑みと共に背後から抱きついてくる。

「ねーねー、なんかヒントになったならごほーびー! ごほーびちょーだーい! あたしオカリンおじさんのごほーびがほしい!」
「む……いや構わんがまた即物的だな。なんだ、何か欲しい物があるのか? この時代のみやげ物か何かか?」
「そーじゃなくってさー、もー、前はいっつもしてくれてたじゃん!」

妙に幼い口調で岡部倫太郎に迫った阿万音鈴羽は、けれど彼が“いつもの”御褒美をくれそうにないと察すると『むー』と頬を膨らませ、これ見よがしにそのぼさぼさの髪を彼の頬に押し付けてぐりぐりと刺激する。
93第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/24(月) 23:15:55.82 ID:88p7mSX0
「あー……なんだ、もしかして撫でて欲しいのか」
「うんうん! そう! それそれ!」

ぱあああ、と顔を輝かせる阿万音鈴羽。
その態度からするに、よほどかつての彼女と未来の岡部倫太郎にとって当たり前の行為だったのだろう。
幼い頃の阿万音鈴羽が今のようにじゃれついてきた時、岡部倫太郎がそうしてあやしていたのだろうか。

「……なりは大きくてもまだまだ子供だな、鈴羽は」
「えへへー♪ そういう岡部倫太郎は若いのにずいぶん大人だねっ」
「それは老けてるという意味かっ」

ごろごろと喉を鳴らし後ろから頬擦りしてくる阿万音鈴羽に溜息をつきながら、その頭をおっかなびっくり撫ではじめる岡部倫太郎。

「まったく、今手懐けたいのはお前ではなくフェイリス・ニャンニャンなのだがなっ」
「ぶーぶー、今は他の猫の事考えたらだめだにゃーっ!」
「うおわっ! しっ、しがみ付くなっ! あ、当たってる!? 腕に当たってるぞ鈴羽っ!」
「当ててるんだよーっ! にゃーん♪」
「なっ、なぜ猫言葉になるっ!」
「へへー。リンリンが留未穂お姉ちゃんに慣れるための特訓だにゃー! そりゃーっ♪」
「のわーっ?!」




……その周回の阿万音鈴羽は、終日、やけに甘えん坊であった。
94名無しさん@ピンキー:2012/09/24(月) 23:18:56.69 ID:88p7mSX0
とゆーわけで今宵はここまで。
あれ鈴羽編は終わったハズなんだけどな……
フェイリス編と銘打っておいてなんですが、しばらくはフェイリス攻略のための下準備に忙しくて彼女の出番はなかったり。
それまではタイムリープを駆使した岡部倫太郎のドタバタをお楽しみ下さい。
それではまた次回ー ノノ
95名無しさん@ピンキー:2012/09/24(月) 23:59:32.89 ID:0XKx0qn9
96名無しさん@ピンキー:2012/09/25(火) 00:06:42.61 ID:QtQyJhZ6
乙でーす
97名無しさん@ピンキー:2012/09/25(火) 06:54:51.97 ID:6RKfjnAl
なんというフェイント回ww
98名無しさん@ピンキー:2012/09/25(火) 23:33:08.05 ID:d8Ds3FVF
こんばんわー
今日もちまちま更新しに来ました
99第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/25(火) 23:34:53.48 ID:d8Ds3FVF
4−2:2011/02/13 23:00 未来ガジェット研究所

「よし、完成!」

牧瀬紅莉栖が額の汗を拭って快哉を叫ぶ。
外は真冬だがヒーターを付けっぱなしにしているラボの中はむしろ暖かいくらいだった。

「お、牧瀬氏できたん?」

牧瀬紅莉栖の声を聞き、何かの雑誌を読み耽っていた橋田至が顔を上げる。
夜の初めあたりまでは手伝っていたのだが、どうやら最後の調整は専門家である彼女でないと駄目らしい。
彼らの前には新電話レンジ(仮)を改造してたった今完成した、タイムリープマシンが鎮座していた。

「うん。一応ね。まだ倫理的な問題は解決してないけど……」
「でも記憶だけとはいえ過去に飛ばすマシンだろ……本当ならマジですごくね?」
「理論的には完璧。あとは誰かが実験をして確かめるしかないわけだけど……」

だが一切のテストなしにそれをするのは人体実験に等しい。
もしかしたら記憶が上手く上書きできないかもしれない。一部の記憶に齟齬が生じるかも知れない。それどころか転送先の記憶自体を破壊してしまうかもしれない。
そんな危険な実験を、一体誰が行おうというのだろうか。

「その役目、俺が引き受けよう!」
「オカリン?!」
「岡部! 一体どこ行って……きゃっ! あ、あんたどうしたのそれ!?」

バタンと扉を開けて寒風と共にラボに入ってきた岡部倫太郎。
彼の顔や首筋にはなんとも痛々しい幾つもの裂傷が刻まれており、その白衣は血に塗れていた。
100第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/25(火) 23:39:12.52 ID:d8Ds3FVF
「どうしたもこうしたもない! それよりタイムリープマシンは完成したんだろうな、助手よ!」
「だから助手じゃないと何度も言っとろーが! え? マシン? あ、うん、一応。それより岡部、その傷……っ!」
「わけは後で話す! それより早速マシンを使わせてもらうぞ!」

ずかずかと奥の部屋に入り込み、説明も聞かずに電話レンジの設定を始める。

「岡部、あんた一体何を……っ!?」

彼が説明も受けずに手馴れた様子でマシンを起動してゆく様を見て、牧瀬紅莉栖は思わず息を飲んだ。
そして、すぐにとある可能性へと辿り着く。

「岡部! あんたもうこのマシンでタイムリープしてるのね!? それも何度も時間を遡ってる、そうでしょ!?」
「え? マジ? オカリンタイムトラベラーなん?!」
「ああ、そうだ」

素早くタイマーを46時間前へとセットしながら、牧瀬紅莉栖の詰問に淀みなく答える岡部倫太郎。
きっとこのやり取りも幾度となく繰り返してきたのだろう。

「何かあったのね! タイムリープが必要な何かが!」
「……ああ」
「なに? 何があったの?! 誰かに危険が迫ってるとか?!」
「その通りだ」

岡部倫太郎の表情に、牧瀬紅莉栖と橋田至の二人は息を飲む。
この男は……このマシンの有する問題を全て抱えたまま、誰かを救うためにタイムリープを繰り返してきたのだ。

「ねえ、何があったの?! 教えて! 過去の私にでもいいから!」
101第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/25(火) 23:44:35.78 ID:d8Ds3FVF
思わず叫んでしまう。
岡部倫太郎の悩みを、懊悩を知りたい。力になりたい。助けてあげたい。
心の中から湧き上がるそんな気持ちの昂ぶりが、衝動的に彼女にそんな台詞を叫ばせていた。

新電話レンジ(仮)から激しい放電現象が起きる。42型ブラウン管は既にラボに設置されており、リフターの起動にブラウン管工房の様子を確認する必要はない。
岡部倫太郎は携帯電話を片手に……牧瀬紅莉栖の方へと振り向いた。

「紅莉栖、いつか必ず話す。約束だ」
「……………………ッ!!」

それまでの厳しい顔つきから一転、びっくりするほどに優しげな笑顔。
不意を打たれた牧瀬紅莉栖は、みるみるその顔を朱に染めて両手で口元を覆った。

岡部倫太郎の顔が、部屋全体が、みるみる涙で滲んでゆく。
彼女は歪んだ視界の中、明滅する放電がやけに綺麗だな、などと場違いな感想を抱いた。
みっともないほどに涙腺が緩んでいるのがわかる。
だってずるいではないか。卑怯ではないか。
どうしてこんな人体実験にも等しい蛮行を、そんな笑顔で甘受しようとしているのか。
どうしてそんなにも……自分の造った装置を、当たり前のように信じてくれるのか。

なぜいつも……
なんでいっつも、全部一人で背負って行ってしまうのだろうか。


自分を、置いてけぼりにして……!!


「では……行ってくる!」
「岡部ェェ!」

牧瀬紅莉栖の涙混じりの叫びが眩く輝く部屋に響き渡る。




……岡部倫太郎の指が、携帯のボタンを押した。
102第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/25(火) 23:46:01.12 ID:d8Ds3FVF
というわけで少々短めですが今宵はここまで
それではまた次回ー ノノ
103名無しさん@ピンキー:2012/09/25(火) 23:57:56.46 ID:taufgOMp
乙。
どうなるかなー
104名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 00:49:57.94 ID:w58avenx

オカリン話したら修羅場待ったなしでしょそれw
最終的にはラボメンをハメーしてポイーするわけなんだから
105名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 03:36:23.14 ID:IEBu2NHt

引っ掻き傷ってやっぱりフェイリスに引っ掻かれたのかなwさすが猫w
106名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 04:57:42.12 ID:z38d94vz
ま、まだ途中なんだかGJなんて言わないんだからねっ!

フェイリス!ニャニャニャ!!!
107名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 07:03:08.77 ID:nAs5CLcG
フェイリスww
108名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 09:03:01.94 ID:/q5YbMBp
簡単に落ちないフェイリスとか凄くいいじゃニャいか
楽しみにしてます
109名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 23:02:31.40 ID:2zBB2Gqe
鈴羽!(挨拶)
あれ? 確かもうフェイリスルート……
ま、まあそれはそれとして今宵も更新です。
感想ありがとうございますー
110第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/26(水) 23:04:16.63 ID:2zBB2Gqe
4−3:2011/02/11 01:00 未来ガジェット研究所

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……フェイリスだ」
「で、上手く行ったの?」
「いや、今回も失敗だった」
「一応聞くけど、何回目?」
「八回目だ」

幾度も失敗している割には、だがそれほど気落ちしていない様子で岡部倫太郎が答える。

「へぇー、結構苦戦してるんだ?」
「フェイリス・ニャンニャンには相手の心を読む特殊な力がある。下手な小細工は通用しない」
「あー、なんだっけ、『チェシャー・ブレイク』だったっけ?」

溜息をつきながら以前と同じ台詞を繰り返す。
なんとも感動的に見えた牧瀬紅莉栖との46時間後の……彼にしてみればつい先刻の会話。
だがあの傷がフェイリス・ニャンニャンとニャンニャンしようとして付けられた爪痕だと知ったら、一体彼女はどんな顔をするだろうか。

「……言えるわけがないだろうがっ!」
「? なになに、なにかあったの?」

立ち上がってとてとてと岡部倫太郎の元まで歩いてくる阿万音鈴羽。
彼女にしてはなんとも無防備で警戒心の欠片もない挙動である。
とはいえ彼女の感覚で言えばほんの10分前まで目の前の男と肌を重ねていたのだ。警戒心も薄れようというものである。

「いや、鈴羽には関係ない話だ」
「えー! 岡部倫太郎ずるーい! あたしにも教えてよー。あたしたち同じミッションを遂行する同志じゃないか!」
「あー、ともかくお前が聞いても益のない話なのだ。気にしないでくれ」
111第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/26(水) 23:09:25.79 ID:2zBB2Gqe
さすがに爪痕の話は少々気恥ずかしく彼女にも告げられぬ。
岡部倫太郎はそのまま流そうとしたが、どうやら阿万音鈴羽にとってはそれが己が未熟故に大事な計画を打ち明けてもらえなかったかのように聞こえてしまったらしい。

「ぶーぶー! それでも聞きたいー! ねー、岡部倫太郎ー! りんりーん! ねーってばー!」
「おわっ!? う、腕を引っ張るな! それとリンリンはやめろと言っただろう!」

岡部倫太郎の近くまでやってきて、そのまま飛びつくように彼の腕を掴んだ阿万音鈴羽は、腕をぐいと引いてしがみつき、そのまま下から見上げるようにして抗議の瞳を向ける。

「セックスの間はいいってゆったもん!」
「い、今はそのー、あー、なんだ、し、してはいないだろう!!」
「じゃあする! 今から岡部倫太郎とセックスするから!」
「そ、そういうのを本末転倒というのだっ!」

岡部倫太郎にとって、彼女と肌を交わしたのは既に半月以上前の記憶である。
けれど阿万音鈴羽にとってはつい10分前の出来事なのだ。
そんな感覚の齟齬が生んだ互いの距離感の違いが、岡部倫太郎を必要以上にどぎまぎとさせてしまう。

「うう〜、岡部倫太郎が何も教えてくれない〜……」

露骨にしょんぼりしながら妙に横に伸びた口、潤んだ瞳で彼を縋るように見つめる阿万音鈴羽。
かつて別の世界線で会った、あの使命感に燃えた凛とした彼女からはやや想像しにくい表情だが、今の岡部倫太郎にはそれもまた彼女の本音である事がわかっていた。
そこまで殺伐とした時代でなければ、彼女はそれなりに年頃の女らしく、またどこか気の抜けた一面もある娘のようだ。親しい相手には妙に甘えがち部分もあるらしい。
かつての彼女達からの乖離をやや寂しく思う反面、あの時の彼女達にも秘めていただけでこうした側面があったのだろうか、などといらぬ事を考えてしまう。
今の彼女が以前語っていた話が正しいなら……あの頃の彼女達も、岡部倫太郎に甘えたい、じゃれつきたいと少しは思っていたのだろうか。
112第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/26(水) 23:13:35.19 ID:2zBB2Gqe
「……いや、割と身に覚えがないでもないな」
「? 岡部りんたろー?」

そういえば当時の彼女達も事態が深刻になるまではやけにのんびりしていたような気がするし、彼と妙にスキンシップを取りたがっていたような気がしないでもない。
あれはひょっとして自分にもっと構って欲しいというポーズだったのだろうか。
そう考えると、当時の彼女ののほほんとした態度もどことなく愛らしく感じてくるのが不思議である。

「ああいやなんでもない。それよりお手柄だ、鈴羽。お前のくれたアイデアが役に立った。ミッション自体は失敗だったがこれは大きな前進だ」
「? ?? そうなの? えへへ、よくわかんないけど嬉しいな」

先刻までの不平はどこへやら。褒められてぽぽ、と頬を染め、頭を掻いて照れ笑いする阿万音鈴羽。その笑顔には以前の太陽のような天真爛漫さはやや影を潜め、目の前の男に対する年頃の娘らしい慕情が仄見える。

「ついては鈴羽、次のミッション遂行に当たってはお前の協力が必要だ。手伝ってくれるか?」
「え? いいの? やったあ! ホントに岡部倫太郎の手伝いしてもいいんだよね?!」

ぱああ、と顔を輝かせ、喜びをその四肢全体で表す阿万音鈴羽。
岡部倫太郎の手伝いができる、という事が心の底から嬉しくてたまらないらしい。

「ああ、非常に重要な任務だ。頼めるか」
「うん! うん! まっかせて! 絶対にやり遂げて見せるよ!」
「よし、よく言った……で、指令の前にまず腕を離せ」
「えー、このままでもいいじゃないかー」
「駄・目・だ。真面目な任務の話なのだ。このままでは話しづらいだろう」
「ぶー。おーきーどーきー!」

やや不服げに、だが素直に腕を離して距離を開ける阿万音鈴羽。

「よし、ではまず街中でだな……」
「え? 待ち伏せ? ……うん、うんわかった。うん、襲撃? ああ、強奪すればいいんだね? 任せて、そういうのは得意なんだ!」
「なぜ得意なのだ……っ」

なにやら不穏当な呟きを互いに洩らしながら……
彼らは、気紛れな仔猫の捕獲作戦に乗り出した。
113第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/26(水) 23:15:05.73 ID:2zBB2Gqe
というわけで今宵はここまで。
現在着々と狭められているフェイリス包囲網です。
それではまた次回ー ノノ
114名無しさん@ピンキー:2012/09/26(水) 23:31:51.95 ID:IEBu2NHt
乙!

フェイリスはまだかー!
エロいフェイリスはまだかー!!
115名無しさん@ピンキー:2012/09/27(木) 00:00:03.26 ID:olxiGG7N
脳内モモーイがアップを始めました
116名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 00:03:51.33 ID:caRNgeeU
今日はないのかな
117名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 01:18:33.12 ID:8kZ8KeFS
少し遅くなりましたが更新に来ましたー
……寝ぼけてミスってたら勘弁してください。
118第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/28(金) 01:20:58.92 ID:8kZ8KeFS
4−4:2011/02/13 23:00 未来ガジェット研究所

「よし、完成!」

牧瀬紅莉栖が汗ばんだ額を拭って快哉を叫ぶ。
外は真冬で、窓を揺する寒風は強い。
だが相当開発に集中していたのだろう、暖房も相まって彼女の肌にはじっとりと汗が滲んでいた。

「お、牧瀬氏できたん?」

牧瀬紅莉栖の声を聞き、COMIC LOLを読み耽っていた橋田至が顔を上げる。
最後の調整は専門家である彼女でないと駄目だったらしく、彼は現在休憩中のようだった。
カーテンを開けて奥の部屋を覗き込む。そこには新電話レンジ(仮)を改造してたった今完成した……タイムリープマシンが鎮座していた。

「うん。一応ね。まだ倫理的な問題は解決してないけど……」
「でも記憶だけとはいえ過去に飛ばすマシンだろ……本当ならマジですごくね?」
「理論的には完璧。あとは誰かが実験をして確かめるしかないわけだけど……」

だが一切のテストなしにそれをするのは人体実験に等しい。
もしかしたら記憶が上手く上書きできないかもしれない。一部の記憶に齟齬が生じるかも知れない。むしろ転送先の記憶自体を破壊してしまうかもしれない。
そんな危険な実験を、一体誰が行おうというのだろうか。

その二人の会話に割って入るように、大きな音を立ててラボの扉が開いた。

「ええい助手よ! タイムリープマシンは完成したか!」
「あれオカリン髭そったん? なんかイメージ違うっつーか……え? ちょ?!」
「だから助手と呼ぶなと言っとろーが! あと岡部! こんな大事なときに一体どこ行って……って、え? 誰その人?!」

寒風と共にラボに飛び込んでくる岡部倫太郎。
そしてその後に続くように飛び込んできた……スパッツを履いた謎の女性。
119第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/28(金) 01:24:55.64 ID:8kZ8KeFS
「岡部倫太郎、あたしに手伝える事は?!」
「大丈夫だ、全部一人で設定できる!」

真剣な顔で互いにそんな会話を交わしながらずかずかと奥の間へと早足でやってくる。
そして迷う事なく椅子に座った岡部倫太郎はヘッドホンを手に取り耳に当てた。

「オ、オカリン?! そのテラカワユスなおにゃのこは一体誰だ! 誰なんだお?! 大事なことなので二度言いました! キリッ!」
「へへー、橋田至の娘、橋田鈴羽だよ! 父さん!」
「ああなるほどつまり僕が2歳くらいの時に生まれた子供ですねわかりますってんなわけねーだろ常考!」

思わず反射的にそう叫んだ後、橋田至はやけに無防備な笑顔で自分の前に佇んでいるその娘を髪の毛からつま先に至るまでじっくりたっぷりねぶりあげるような視線で視姦する。
その容姿と体格と格好と言動から、橋田至の視線を浴びた客商売を除く異性は十人中十二人が露骨に嫌悪や忌避の反応を示すものなのだが、彼女にはそうした態度の変化も見られない。
ただ不思議そうに小首を傾げ、無邪気に微笑みながらその三つ編みお下げを揺らすのみだ。

そうしたところも含めて……その娘は、容姿からスタイルから格好から、何から何まで彼の好みにフィットしていた。

「もしかしてこれオカリンのドッキリなん? でもナイスチョイスだよオカリン! マジGJ! マジパネェッス! ……ていうかこんな子どこで見つけてたん? オカリンの超絶ナンパテク? あでも薬はヤバいっしょ? 
そ、それとももしかして禁断のMC系ですか本当にありがとうございます! ハァハァ、そ、そこんとこ僕にだけこっそり教えてくれませんかねぇえ?」
「しとらんわーっ!」

橋田至の過度の興奮に思わず突っ込みを入れる岡部倫太郎。
とはいえ目の前にいるのはそう遠くない未来に出会って一目惚れするであろう最愛の妻との間の一粒種である。彼の好みに合致しない方がむしろおかしいわけなのだが。
120第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/28(金) 01:29:55.01 ID:8kZ8KeFS
「鈴羽! 正体を明かすのは禁則事項ではなかったのか!」
「大丈夫だよオカリンおじさん。だってどうせタイムリープするんでしょ?」
「まあ確かにそれはそうだが……」

以前とは違う阿万音鈴羽の言動の軽さに頭を抱えながら……
とそこまで考えたところで、そういえば当時の彼女は彼女で割といい加減だったような……と考え直す岡部倫太郎。
いずれにせよ己のやるべき事は変わらぬのだ。
彼は淀みない動きでタイムリープマシンを起動させる。

「……え? オカリンがおじさん? あれ? ひょっとしてマジなん? オカリンのドッキリじゃなくて、マジで僕の娘なん?」
「うん、そうだよ父さん。父さんの娘の橋田鈴羽です。タイムマシンに乗って2036年から来ました。う〜ん、ちょっとヘンだけど初めまして……になるのかな?」

顎に人差し指を当てて考え込む様はなんとも可愛らしく、さらに近親という禁忌の背徳感がプレミアとして上乗せされて、それが真実か否かに関わらず橋田至の興奮を層倍に煽った。
そう、もはや語るまでもない。彼は重度のHENTAIなのだ。

「も、もし本当にボキの娘なら、ぼ、ぼぼ僕のことをパパと呼ぶはずだお!」
「え? えーっと……パパ?」

小首をかしげ、身を乗り出し、未来でいつもしているように下から覗き込むようにして、いわゆる“家族の距離感”で橋田至を(親子としての)思慕の瞳で見つめる阿万音鈴羽。
だが彼女はこの時代のオタクに関する重大な公式を失念している。


容姿×声×あざとさ=破壊力。


彼女のスパッツ姿で繰り出されるその声は、その行為は、そのポーズは、そしてそこから算出される破壊力は、現在絶賛童貞HENTAIオタ真っ盛りである橋田至にとってはまさにカンスト級……そう、致死量にも等しいものであった。
121第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/28(金) 01:35:06.77 ID:8kZ8KeFS
「ふぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! もう嘘でもドッキリでもなんでもいいお! オカリン! 僕オカリンに一生ついてくお! 
フハー、フハー、我が生涯に一点の悔いなし! もといすすすす鈴羽たんにアレ着てもらっちゃったりアレしてもらっちゃったりさらにはあんな事言ってもらっちゃったり
他にもあんなことやこんなことやあーんなコトをしちゃったりなんかしちゃったりしたら本当に悔いなsおごーっ?!」
「そこっ、HENTAIは黙ってろっ!」
「きゃーっ!? 父さん! しっかりして 父さんってば!!」

ごつーん、と牧瀬紅莉栖が投擲したスパナが額にクリーンヒットし、そのまま昏倒する橋田至。
慌てて駆け寄った阿万音鈴羽が彼の上体を抱き上げ、恍惚とした表情で「ウェヘヘヘヘ」と呟いている父親を必死に介護をする。主に膝枕で。
その事実を後で知れば、彼はきっと己が気を失っていたことを血の涙を流して後悔したろう。

「そんなことより岡部! あ、あんたまさかタイムリープを……!」
「そんな事とは酷いな……ああ、その通りだ助手よ。だが今は説明している時間がない!」

橋田至の暴走とその顛末を横目で眺めながらタイマーを起動し、新電話レンジ(仮)ことタイムリープマシンが放電現象を引き起こす。

「ねえ、後でちゃんと説明しなさいよ! 岡部!」
「わかっている! 全てが終わった後にな!」

放電がますます激しくなって……タイムリープの準備は万全に整った。

「ねえ岡部! 一つだけ教えて! タイムリープは……タイムリープは上手く行ったの?!」
「ああ、紅莉栖……お前の発明はガチだった」
「岡部ぇっ!」

牧瀬紅莉栖の絶叫が眩く輝く部屋に響き渡る。




そして岡部倫太郎の指が……携帯の送信ボタンを押した。
122名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 01:36:23.33 ID:8kZ8KeFS
というわけで今宵はここまでー。
次あたりで前準備はおしまいになると思います。
それではまた次回ー ノノ
123名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 01:57:01.75 ID:7G1DuVzb


まだか、まだなのか!笑
フェイリス分を、はや…く……
124名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 02:31:56.32 ID:ygYjv79N
モモーイ難しいんだな…
125名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 06:41:27.03 ID:4yoQCjAU
いつも乙です
フェイリス編なのにここまでフェイリスなし
だが鈴羽が可愛いから無問題
126名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 07:19:56.49 ID:+8HK2USt
フェイリスどんだけ難攻不落なんだww
127名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 07:25:03.55 ID:NV32I2vK
なんというループ地獄
オカリンがんがれ超がんがれ
128名無しさん@ピンキー:2012/09/28(金) 23:56:00.62 ID:8kZ8KeFS
こんばんは
今日もちまちま更新に来ました。
フェイリスルートのフェイリス不在は今回が最後になると思います。
たぶん。
129第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/29(土) 00:02:52.89 ID:u8naI6xt
4−5:2011/02/13 10:33 未来ガジェット研究所

「クリスちゃん、トゥットゥルー!」

扉を開けて椎名まゆりがラボに入って来る。
手に持っているのは彼女にとって定番といえるジューシーからあげナンバーワンの包みと弁当の類だろうか。

「あ、おはようまゆり。今日は遅かったわね」
「うんー。ちょっと家の手伝いがあったのです。あとはねえ、えっへへー、お買い物ー♪」

牧瀬紅莉栖が開発室からカーテンを半分開けて挨拶を返す。
椎名まゆりもまたビニール袋を掲げて挨拶し、慣れた所作でソファに座った。

「ねえクリスちゃんクリスちゃん、もしかして昨日も徹夜だったの?」
「まあね。あと一息だから」

袋から飲み物と弁当を取り出しながら、最近いつも奥の部屋に籠もりっきりの牧瀬紅莉栖に話しかける。
実のところ椎名まゆりにとって、会って早々アメリカに戻ってしまい、この前ラボにやってきてすぐになにやら難しい機械にかかりっきりとなってしまった彼女との付き合いはそれほど長くない。
だが彼女は持ち前の人慣れした雰囲気からすぐに牧瀬紅莉栖と打ち解けて、今ではまるで古くからの知り合いであるかのように気さくに接している。そしれ牧瀬紅莉栖もまた、そのような彼女に好感を抱き、気を許しているようだ。

「なんでかよくわからないけど、まゆしぃね、クリスちゃんとはずっと昔から仲良しだったような気がするのです」
「奇遇ねまゆり、実は私もなの」
「なんでだろうねえ、不思議だねえ、えっへへー♪」
「本当……不思議なこともあるものね」

つい先日牧瀬紅莉栖が来日した折、その歓迎パーティーでそんな会話を互いに交わし合っていたりもした。
今ではすっかり旧知が如き仲の良さである。
130第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/29(土) 00:06:49.38 ID:8kZ8KeFS
「まゆしぃはクリスちゃんもダルくんももっと身体には気をつけた方がいいと思うのです。具体的に言うと〜、もっとちゃんと休んだ方がいいと思うのです」

椎名まゆりはもぐもぐとジューシーからあげナンバーワンを頬張りながら、だが口調自体は真面目にそんな事を言う。

「そうね。一息ついたらたっぷりと休ませてもらうわ。ところでまゆり、今日はメイド喫茶でお仕事なんじゃなかったっけ?」
「えっへへー、実はそうなのです。フェリスちゃんにどうしても、って頼まれちゃって」

2011年2月14日……明日はいわゆる若き男女に重大な日、即ちバレンタインデーである。
しかし今年のバレンタインは月曜日、即ち平日であり、各種店舗などではその手のイベントが一日前倒しにされていた。
即ちそれが今日である。
フェイリスほどではないが椎名まゆりもまたメイクイーン・ニャンニャンの大人気メイドであり、この手のイベントで外すことのできぬ人材だ。
ゆえに試験間近という多忙な時期にも関わらず、フェイリスは椎名まゆりに頼みこんで今日のシフトに入ってもらっていたのだ。


もっとも……この件に関しては、試験勉強が大変だと渋る椎名まゆりに、岡部倫太郎が強く勧めたから、というのも大きいのだが。


131第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/29(土) 00:11:11.01 ID:u8naI6xt
「でもまゆしぃは頭が良くないから、午前中はいっぱい勉強しなきゃなのです」

本当なら全日シフトに入って欲しかったフェイリスだったが、流石に試験前に学業を疎かにもできず、結果椎名まゆりは午後からのシフトになっていた。
そこで彼女は早めにラボにやってきて、教科書を広げて午前中の内に試験勉強をしておこう、という算段らしい。

「ねえクリスちゃん、オカリンはー?」
「さあー、さっき出かけたっきり帰って来ないけど」

作業をしながら、どことなく不満げな声で牧瀬紅莉栖が返す。

「ええ〜、オカリンにわからないところ教えてもらおうと思ったのにぃ」
「残念だったわねまゆり。あんな薄情な奴の事はさっさと忘れなさい。その方が貴女の身の為よ」
「えー、オカリンは薄情なんかじゃないよぉ〜」
「どうだか」

牧瀬紅莉栖の発言には何の意図が含まれているのだろうか。
自分を放ってどこかへ出かけてしまった岡部倫太郎に対する仄かな怒りでも含まれているのだろうか。
132第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/09/29(土) 00:12:05.79 ID:u8naI6xt
「ダルくんはー?」
「橋田ならとっくにあのメイクイーンなんたらとかってメイド喫茶に行ってるわよ。朝の6時前くらいだったかしら。『フェイリスたんのチョコは僕が一番にもらうんだお!』とか言ってさ。この寒いのに開店前から並ぶんだって。バッカみたい」
「えっへへー。ダルくんも大変だねー」

そんな会話を交わしながら、牧瀬紅莉栖はタイムリープマシンの開発に、椎名まゆりは試験勉強に精を出す。

「う〜ん、うう〜ん。難しいのです」
「どこがわからないのまゆり、見せてみなさい」
「え、クリスちゃんが見てくれるの? えっへへー、クリスちゃんは優しいねえ」
「別にそんな事ないわよ。ただの気分転換だか、ら……」

カーテンを開け、開発室から出てきた牧瀬紅莉栖が椎名まゆりの隣に座ろうとしたその時、ラボの扉が開いた。

「岡部? あんた一体この忙しいのにどこ行って……ふぇっ?!」
「どうしたのクリスちゃん? あ、オカリン、トゥットゥ……ほえっ? オ、オカリン? え、ええ〜?!」
「ね、ねえまゆり、あれって、やっぱり……お、岡部よね?!」

驚きに目を丸くする椎名まゆり。
頬を赤らめ、隣にいる椎名まゆりの肩をゆさゆさと揺する牧瀬紅莉栖。
開いた扉の先には……岡部倫太郎と、その背後で無表情のままVサインを出している桐生萌郁の姿があった。
133名無しさん@ピンキー:2012/09/29(土) 00:13:23.15 ID:u8naI6xt
というわけで今宵はここまでー
そろそろ準備も万端といった頃合いで、次回からいよいよフェイリス登場の予定です。
それでは〜 ノノ
134名無しさん@ピンキー:2012/09/29(土) 00:14:04.61 ID:7mYmaLN5
乙。
フェイリス期待
135名無しさん@ピンキー:2012/09/29(土) 01:05:15.45 ID:q3DA1hI1

やっと本編かwフェイリスは焦らすなw
136 忍法帖【Lv=40,xxxPT】 :2012/09/29(土) 08:23:25.11 ID:7CX0ekKt
乙……フェイリスたんに期待
137名無しさん@ピンキー:2012/10/01(月) 23:09:51.27 ID:Og2edQKG
こんばんは。
今日も更新に来ましたー
138第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:16:51.72 ID:Og2edQKG
4−6:2011/02/13 11:38 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

「うへ、うへへへへへ、フェイリスたんの愛の手作りチョコゲットだお!」

ほくほくした顔でメイクイーン・ニャンニャンから出てくる橋田至。
彼の手には綺麗にラッピングされたバレンタインのチョコレートがあった。
本日のメイクイーン・ニャンニャンはお客様特別感謝デーということで、来店者には猫耳メイド達によって漏れなくバレンタインチョコレートが手渡されるサービス付きだ。
しかも数量限定だが、それが先着でフェイリスお手製の特製バレンタインチョコレートになるというのだ。しかも手書きのメッセージカードつき。
当然のことながら今朝は厳冬にもかかわらず秋葉原の裏通りに行列が発生し、その行列を見て並び始める客まで出てきて、開店時間にはすっかり長蛇の列となっていた。
そんな中、前日からラボに泊まり込んでいた橋田至はその地の利を最大限に生かし、見事行列の先頭の栄誉を勝ち取って、憧れのフェイリスから誰よりも最初にチョコレートを手渡されるというフェイリスファン最大の誉れを手にしたのである。

「ま、コミマで外周シャッター前の行列に並びなれたこの僕の手にかかれば、この程度のことなんて当然だお!」

ふふん、と鼻を高くしながら階段を降りる。
本当なら今日は一日中だって入り浸っていたいところなのだが、客がかなり多いこととタイムリープマシンの開発が大詰めを迎えつつあることもあって、彼は戦利品たるそのチョコを持って早々に退散することにした。
そんな彼が後ろ髪惹かれる思いで振り返ったその時……その横を一人の客が通り過ぎる。

「誰だろ今の男。見たことない奴だけど……?」

怪訝そうな顔つきで眉を顰める橋田至。
顔は一瞬しか見えなかったが、男の彼から見てもなかなかのいい男振りであった。
だがまあいずれにせよ一大イベントたるこの日に、こんな時間にしか来られぬような愛の足りぬ輩如きにこの店の、そしてフェイリス・ニャンニャンへの想いが劣っている筈もない。
己の懐にある愛の第一号チョコ(義理)ゆえの優越感に、自然と唇が得意げに歪む橋田至。

けれど……そんな彼の目を以ってしても、当のその人物が岡部倫太郎だとは見抜く事ができなかった。
139第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:21:46.82 ID:Og2edQKG
「おかえりニャさいませ。御主人様♪」

全身からあざといほどの媚を振り撒きながら、この店の人気No.1たる猫耳メイド、フェイリス・ニャンニャンが新たな客を出迎える。

「フニャ? ……ニャニャ?」

だが怪訝そうな表情を浮かべたフェイリスは、小首を傾げつつ斜め下から覗き込むようにしてその客に顔を近づけて……

「ニャニャ?! 凶真?!」

そして目を丸くしてぴょーんと一歩飛び退った。

目の前にいるのは確かに岡部倫太郎……鳳凰院凶真だった。
ただし無精髭を剃り黒眼鏡をかけ新調のスーツ(レンタルだが)を着込んだ彼は、いつもとはまるで違う、なんともダンティーで大人びた雰囲気を醸し出している。

「どうした、お前がこの俺を見間違うとは珍しいではないか、フェイリス・ニャンニャンよ!」

鳳凰院凶真となって大仰に右手で薙ぎ払うようなポーズを取る岡部倫太郎。
いつもなら傍目には滑稽そのものにも映る彼の動きは、だが服装のせいか、それとも体の切れのせいか、今日に限っては妙に決まって見える。

「びっくりしたニャ。凶真そんな格好もするのニャ?」
「フフフ、ミッションのためとあらばこの程度の変装など雑作もないこと。恐れるがいいフェイリス・ニャンニャン! この驚異のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真の真の姿に!」
140第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:25:32.01 ID:Og2edQKG
……嘘である。いや、嘘ではないが正確ではない。
今回の衣装や化粧その他のコーディネートに関して、彼は桐生萌郁の助けを全面的に借りていた。

かつて彼女はラウンダーとして活動する際の隠れ蓑として編集プロダクション『アーク・リライト』に一時的に身を置いていた。
ただ岡部倫太郎は異なる世界線での様子や生活態度から、彼女は単にライターという肩書きを借りるためだけにそこに在籍していたのだと思い込んでいた。
だが……試しにラボの研究レポートを書かせてみたところ、彼女が実際に文章や編集に関する優れた才能を有している事が判明した。

そこでとある件でその編集プロダクションの女編集者と顔見知りとなっていた岡部倫太郎は、彼女に桐生萌郁を推挙したのだ。
かつて彼女が、異なる世界線で勤めていた会社に、もう一度。

そう、桐生萌郁は現在ブラウン管工房でバイトをしながら、『アーク・リライト』の仕事も手伝っている。
私生活に関しては極度にズボラな彼女も仕事に関しては割と熱心で(一度その仕事ぶりを拝見した時など、岡部倫太郎はむしろ「熱心すぎる」と述懐したものだ)、記事の評判も良く、
最近はレポートや特集記事なども任され、かなり可愛がられているようだ。

そこで岡部倫太郎は桐生萌郁に頼み込み、プロダクションのコネを借りて今回の服装などを見繕ってもらったのである。
まあその際に彼女から少々条件を出されたが……それは今回の攻略には直接関係ないので、岡部倫太郎はとりあえず脳の隅っこに追い遣る事にした。
ちなみに彼自身はちょっと髭を剃って顔の部分をいじってもらい、服などはアドバイスをお願いする程度で済ますつもりだったのだが、
どうにも向こうのスタッフが素材のいい岡部倫太郎(当人にその自覚はさっぱりないのだが)にすっかりやる気となってしまい、こうして全身コーディネートされてしまった、というわけだ。
141第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:29:15.40 ID:Og2edQKG
「けどその眼鏡だけはいただけないニャ。凶真にはちょっと似合わないニャ……ニャ!」

岡部倫太郎のかけている眼鏡を素早く取ろうと手を伸ばしたフェイリスだったが、彼はそれを上体を反らして華麗にかわす。
四度目のタイムリープの時はそれで眼鏡を奪われてしまい失敗したのだ。
だが一度不意打ちを回避さえしてしまえば、痩躯ながら背の高い岡部倫太郎とかなり背の低いフェイリスではその後の戦果は火を見るよりも明らかだった。

「ニャ! ニャニャ!」

まるで猫じゃらしにじゃれつく猫のように岡部倫太郎の眼鏡に幾度も跳びつくフェイリス。
その姿を萌えーとばかりに店内の男性客達が生暖かい目で見つめている。
無論フェイリスもそのあたりは折り込み済みだろう。

「フェイリス、いい加減にしろ。ここのメイドは御主人様の服装にケチをつけるのか?」
「そういうわけじゃ、ニャいけど……」

少ししょんぼりした顔で肩を落とし、その後すぐに笑顔に戻る。

「それもそうニャ! 凶真の言う通りだニャ! 御主人様を席に御案内ニャー!」

フェイリスに案内され店内を進む岡部倫太郎。
その中途、一度だけフェイリスが油断した彼から眼鏡を奪い取ろうと最後の足掻きを試みるが、それに引っかかったのは六回目のタイムリープが最後である。
見事にその不意打ちを見切った岡部倫太郎は憮然とした表情でフェイリスを見つめ、彼女はやけに演出過剰なポーズと鳴き真似で謝罪した。

その後は流石に懲りたのか大人しく先導を務めるフェイリス。
店内を歩く彼の姿にざわ、とところどころでざわめきが起き、フェイリス以外の猫耳メイド達が僅かに頬を染めて彼の姿を流し見た。
しばしの間、この店にしては珍しく接客がややおろそかになる。
そう、彼女たちは明らかに岡部倫太郎に目を奪われていたのだ。
他にも店内に僅かにいる女性客らがなにやら真剣な顔でブツブツと話し合いつつ、彼に鋭く熱い視線を送ってきている。
この後10分ほどしてから彼女たちが持ちかけてくるであろうコスプレの要請……いや懇願だろうか。確かクロトサマだかなんだか……それをなるべく波風を立てずやり過ごす台詞を今から脳内でシミュレートしておく岡部倫太郎。
確か九回目のタイムリープの時のやりとりが一番効果的だったはずだ。
142第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:32:17.46 ID:Og2edQKG
席に着き、氷水を煽りながら小さく一息つく。着慣れぬ服が少々鬱陶しいが顔には出さぬよう気をつけた。

……正直、服装の方はおまけのようなものである。
彼の本来の目的はその黒眼鏡の方にこそあった。スーツ姿はいわば眼鏡を目立たせぬためのダミーなのだ。

フェイリスには相手の心を読む特殊能力『チェシャー・ブレイク』がある。
とは言ってもESPなどのいわゆる超常現象とは異なり、どちらかと言えば高度に発達した洞察能力のようなものだ。

彼女はそれを相手の表情から探り当てる。
嘘を付くのが苦手な岡部倫太郎など、顔色一つで簡単にその真意を見破られてしまうのだ。
普段ならばそれで特に問題はなかった。彼の言動や行為には基本的に悪意はなく、フェイリスにとって有益であったり楽しみであったりする事が殆どだったからだ。
だが今回は違う。目的自体は彼にとって真剣極まりないものだが、手段としては少々後ろめたいものを抱えている今の岡部倫太郎が、その本心をフェイリスに見抜かれてしまえば一巻の終わりである。

彼女の能力を封じる単純にして確実な方法は目隠しをしてしまうことだ。
相手の細かな表情や顔色から本音を読み取る彼女にとって視界を封じられることは致命的である。
だが……物陰から彼女に襲いかかり目隠しをした上で事に及ぶなど、明らかに強姦以外の何者でもないではないか。

岡部倫太郎は、たとえ最終目的が牧瀬紅莉栖にあったとしても、その時間の流れに於いては目指す相手にとって真摯であろうと、大切にしようと心に決めていた。
かつて彼女たちの大切な想いをひとつひとつ潰してきた、そして今また彼女たちを利用しようとしている己ができる、それがせめてもの事だと思ったから。
143第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/01(月) 23:33:55.02 ID:Og2edQKG
となれば……フェイリスの視界を封じる以外の方法で彼女の能力に対抗するしかない。
そこでこの変装作戦である。
色つきの眼鏡をかけて視線を読みにくくさせ、髭を剃り化粧をして印象を変える。普段と異なるイメージを与えることで彼女の洞察能力に齟齬を起こさせようとしたわけだ。

実際のところ、かつて異なる世界線に於いて、サングラスをかけて彼女の能力に対抗しようとした雷ネット大会の対戦相手の心の内を彼女は手に取るように見透かしている。
ゆえにこの程度のことで誤魔化せるのかどうか甚だ疑問ではあったのだが、幾度もタイムリープをして確かめた結果、どうやら意外にもこの変装にはある程度効果があることが立証されていた。
彼女のあの何もかも見通すような挙動や言動が、明らかに鈍っているのである。

「…………」

別のテーブルで接客をしながら、じい、と岡部倫太郎の後ろ姿に視線を走らせるフェイリス。
とくんと胸を打つ鼓動、頬に走る僅かな朱色、何かを求めるように微かに動く手指、呟くように開かれた小さな紅い唇。
……そして客の声ですぐに我に返り、全力でもてなし、媚を売るフェイリス。

確かに岡部倫太郎の策は功を奏していた。だがそれは彼の計画通りではあっても目論見通りではなかった。
フェイリスが『チェシャー・ブレイク』と自称しているその優れた洞察能力には、相手の心情を読み取るための冷静な判断力が欠かせない。
だが岡部倫太郎の今のその姿は、知らず彼女の動悸を早め、心を浮つかせて、その持ち味である沈着さと分析力を鈍らせてしまっていた。

そう、正味のところ……




フェイリス・ニャンニャンは、その時、確かに岡部倫太郎に見惚れていたのだ。




144名無しさん@ピンキー:2012/10/01(月) 23:34:56.58 ID:Og2edQKG
というわけで今宵はここまでー。
フェイリス可愛いよフェイリス。
それではまた次回の更新でお会いしましょう。 ノノ
145名無しさん@ピンキー:2012/10/02(火) 00:05:00.98 ID:zlNN1xR0
フェイリス!ニャンニャン!
146名無しさん@ピンキー:2012/10/02(火) 00:08:10.39 ID:A/zX7lfj
おつー。
ファイリスが見蕩れてガードが下がった、と。
ここまで長い道のりだったんだなぁ。
147名無しさん@ピンキー:2012/10/02(火) 00:10:48.17 ID:HoLcULYk
やっとフェイリスが出た!
乙乙
148名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 00:52:30.71 ID:K4UMdIio
机で寝オチしてました。
誠に申し訳なく……
149第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/03(水) 00:56:33.81 ID:K4UMdIio
4−7:2011/02/13 12:45 

「ニャンニャーン! 凶真凶真、今日がなんの日か知ってるかニャ?」
「ふむ、確かフェルマーの最終定理に誤りがない事が証明された記念すべき日、だったような……」
「違うニャ違うニャ! ぜーんぜん違うニャ! 今日は愛と夢と希望に満ち溢れた記念日、バレンタインデーなのニャ!」

笑顔いっぱいで全身からあざとさを振り撒きつつ、岡部倫太郎のテーブルにコーヒーのおかわりを注ぎに来たフェイリス・ニャンニャン。
岡部倫太郎はその媚び媚びの言動や衣装と、丁寧で淀みないコーヒーの注ぎ方のアンバランスに、今更ながらこの店のコンセプトを再確認する。
店主によほどこだわりがないとこういう店は作れまい。
そして……異なる世界線の記憶から、岡部倫太郎はそれが目の前の彼女……フェイリス・ニャンニャン本人である事を知っていた。

「彼女がいない男にとっては愛どころか夢も希望もない日だぞ、それは。そもそもバレンタインデーは明日ではないか」
「細かい事を気にしちゃダーメなーのニャ!」
「フ、記念日と言っておきながらその期日のズレが細かい事だなどとは片腹痛いわ!」
「フニャ〜、そんなことばっかり言ってると凶真モテなくなっちゃうニャよ?」
「もとよりモテたためしなどない! そして世界に混沌をもたらすマッドサイエンティストたるこの鳳凰院凶真にとってモテる必要などまったくない! だいたい当今のバレンタインなど商業主義の成れの果てではないか!」

この辺りのやり取りもまた幾度も繰り返されてきた流れだ。
彼女の最初の台詞があらかじめわかっていた岡部倫太郎は、話の繋ぎのため、今日が単なるバレンタイン前日ではない事をあらかじめネットで調べていたのである。
150第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/03(水) 00:58:25.78 ID:K4UMdIio
「そんなことないニャ! 凶真はモッテモテニャ!」
「なに? フッ、そのような相手が一体どこにいるというのだ!」

大仰に両手を広げ肩を竦める岡部倫太郎。いかにも芝居がかった所作である。
そしてその台詞にピンと猫耳を反応させ、得物に襲い掛からんとする猫が如く瞳を煌めかせるフェイリス・ニャンニャン。

「ここにいっるニャ〜!」
「おわーっ!?」

がばあ、と飛び掛ってきたフェイリスが岡部倫太郎の腕にしがみつく。
トランジスタグラマーである彼女は小柄ながらもなかなかに豊かなバストを有しており、それが岡部倫太郎の肩から上腕あたりに押し当てられ、瑞々しい「女の子」の暖かく柔らかな感触がスーツ越しにも伝わってくる。

「ええい、や、やめんかフェイリス・ニャンニャン!」
「もう、凶真ってば恥ずかしがり屋さんなのニャ〜♪」
「じょ、常識的と言ってもらおうかっ」
「ニャニャ? 凶真はマッドサイエンティストのくせに常識なんかに囚われるのかニャ?」
「ぐ、ぐぬぬ……」

ここはあえて言い負かされる方がフェイリスの機嫌もよくなる。いい流れである。
とはいえ論破される事自体が愉快なはずもなく、岡部倫太郎は半ば本気で悔しがる。
だがその迫真があるからこそ、フェイリスは未だ彼の真意に気付けない。

「はい凶真、フェイリスからの愛の気持ち……受け取って欲しいのニャ!」

腕を離し、一旦距離を取ったフェイリスは、先刻まであれほど密着して身体を擦りつけていたにも関わらず、もじもじしながら頬を染め、もったいぶって懐からそれを取り出す。
それは……茶色い包装紙にピンクのリボンが巻かれ、筆記体で「I love you♪」と手書きのメッセージカードが添えられた、いかにもな感じの小包みであった。
151第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/03(水) 01:02:43.80 ID:K4UMdIio
「……今日は店に来た者全員にサービスではなかったのか、フェイリスよ」
「ニャニャ?! 凶真なんでそれを知ってるニャ?! ムム、まさか天からの神託を傍受する悪魔の発明“地獄の三尸録(ヘル・イアーズ)”が既に完成していたニャ!?」
「いや、普通にダルに聞いたのだが……」
「ニャニャ−!? まさかダルニャンに裏切られるニャんて……これは大ピンチニャ……“七つ天の軍勢(ヘヴンズ・セヴンス)”がこのままでは壊滅してしまうニャン!」
「たかがチョコの1つや2つで壊滅する軍団などいっそ滅んでしまえばいいのだ! だいたいお前の手作りのスペシャァルチョコとやらは先着50名様だかにとっくに配り終えているのだろう? ダルが自慢していたぞ」
「その点なら心配御無用だニャン! フェイリスはぁ、凶真のためにそのスペシャル手作りチョコを取っておいたのニャ〜♪」
「のわ〜っ!? こらっ、しがみつくなっ! じゃれるなっ! 懐くなっ! ええい離れろお前は猫かっ!」
「そうニャ! フェイリスは可愛い可愛い御主人様の仔猫なんだニャ〜♪」

チョコを己の胸元に当ててくねくねと腰を蠢かし媚を売るだけ売った後、満面の笑みを浮かべ、躍動する四肢で再び飛びついてくるフェイリス・ニャンニャン。

「……いいのか? そもそも常連のダルならともかく、俺がそこまでしてもらう義理はないと思うのだが」
「そんなことないニャ! 凶真にはいっつもお世話になってるしぃ、フェイリスはとってもとっても、海より深く空より高〜く、宇宙の“万智の大海(アカシック・プール)”よりも広く感謝してるのニャ〜」

ニュフフフ、と口元を猫のように丸めながら岡部倫太郎に縋りつき、これ見よがしに幾度も胸を擦り付けるフェイリス。
店内の男性客から突き刺さる憎悪と嫉妬と怨嗟の視線。
152第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(1):2012/10/03(水) 01:05:27.13 ID:K4UMdIio
「ま、まあラボの所長としてラボメンから差し出された感謝の気持ちを受け取らんわけにもゆくまい」

もったいぶった咳払いをしつつ、やや赤面しながらチョコを受け取る岡部倫太郎。

「ぶーぶー、そういう言い方する凶真は嫌いだニャ!」

一瞬呆気に取られた後、なんとも不満げに頬を膨らませたフェイリスは、まるで移り気な猫のようにぷいと顔を背け、そのまま別の席へと接客に向かう。
まるでさっきまでの馴れ馴れしい態度が幻でもあったかのように、取り澄ました顔で。

おそらくもっと別の切り口の返答が欲しかったのだろう。
大仰に恥ずかしがるなり、照れるなり、取り乱すなり。
まあ彼女の場合喩えそういう反応を取ったところで、きっとからかい半分のネタにしてしまうのだろうけれど。

ほのかに緩む客達の視線。
ざまを見ろ、いい気味だ。そんな溜飲を下げたような心の呟きが彼らの間から立ち昇っているのが目に見えるようだ。


……否、ここまでは全て計算通り。


ここで彼女に避けられてこそこの後の展開が生きてくるのだ。
岡部倫太郎は淀みなく繋げた会話の流れにホッと息をつき……この後の台詞を幾度か反芻しながら、フェイリスに気付かれぬよう表情を引き締めた。




(『第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2)』へ つづく)
153名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 01:06:29.41 ID:K4UMdIio
というわけで今宵はここまで〜。
それでは皆様また次回〜 ノノ
154名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 01:08:47.73 ID:yPcrvla0
おつ。これはwktkが止まらない。
155名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 01:36:07.92 ID:6xoXIyBB

明日はまだか
156名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 06:21:51.92 ID:vGMYKRG4
乙なのぜ。
オカリンがんば。
157名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 23:17:15.51 ID:K4UMdIio
こんばんは
今日も来ましたー
158第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/03(水) 23:18:59.85 ID:K4UMdIio
4−8:2011/02/13 13:05 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

「トゥットゥル〜、マユシィ・ニャンニャンですニャ〜! 御主人様、コーヒーのおかわりはいかがですかニャン?」
「ああ、まゆり、もらおうか」

猫耳メイド服に着替えた椎名まゆりが、コーヒーポットを持ってスーツを着た優男のところにやって来た。

「あ、オカリンだー! トゥットゥル〜! わあ、うわあ、一瞬気づかなかったよ〜♪」

瞳をまんまるに見開いた椎名まゆりが、実に嬉しそうな声を出しながらコポコポとコーヒーを注いでゆく。

「何故気付かない。朝に一度見たろう」
「えっへへ〜、だってオカリンがそんな格好するの珍しくって、まゆしぃはびっくりなのです。あ、そうだオカリン、あのね……」
「コスプレならしないぞ」
「ええ〜、まゆしぃまだ何も言ってないよ〜?」
「違うのか?」
「そうだけど〜……」

言う前から機先を制されがっくりと肩を落とす椎名まゆり。
これもまた四回目あたりのタイムリープから延々と繰り替えされてきた会話である。

「さてと、ではコーヒーを飲んだら失礼するとするかな」
「ええ〜? オカリンもう帰っちゃうの?」
「ああ、昼は食べたし、まゆりの顔も見れたしな」

ごく自然な手つきで椎名まゆりの髪を優しく撫でる岡部倫太郎。
これまた当たり前のように頭を差し出し、それを嬉しそうに受け入れる椎名まゆり。
その様は彼女の格好も相まって、まるで人間に愛撫をせがむ猫のようだ。
店内のところどころから聞こえる息を飲む音、湧き出す殺意。
フェイリス・ニャンニャンに飽き足らずマユシィ・ニャンニャンにまで!
ぐぬぬええいリア充死ね!
そういった心の底からの怨嗟の声が漏れ聞こえてくるようである。
159第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/03(水) 23:22:17.24 ID:K4UMdIio
「そういえばお前はチョコを配らないのか?」
「今から来たお客さんには配るよ? あ、もしかしてオカリンも欲しかった?」
「いや、もうフェイリスにもらった」

懐から先刻受け取った包みを取り出し、椎名まゆりに見せる。

「わあ、じゃあまゆしぃのチョコは明日ラボであげるね!」
「ああ、では楽しみに待つとしよう」

正直料理が苦手な彼女の手作りチョコに関してはそこまで期待はできぬ。店で買ってきてくれた方がまだ助かるくらいだ……が、とりあえず今はこう言っておいた方がいい。
先ほど気まずく別れた後で岡部倫太郎の席に近寄れないでいるフェイリスに見せ付けておく必要があるためだ。

「では失礼するかな。どうもフェイリスは多忙なようだから、お前がよろしくと言っておいてくれ」
「うん、わかった。じゃあねオカリン、トゥットゥル〜!」

店を出た岡部倫太郎は、だがそのままラボには帰らず、やや店から離れた場所で携帯電話を取り出す。

「俺だ。今から『オペレーション・フリッグ』個別オペレーションF、その第二段階へと移行する。ああ、わかっている。失敗は許されない。機関の方には別方面から手を回しておいた。すぐにはこちらの計画には気づかないはずだ。
なあに、任せておけ。あらゆるミッションを全て果たし遂せてきたからこそ今の俺があるのだ。ああ、では武運を祈っていてくれ。全ては“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の導きのままに。エル・プサイ・コングルゥ」

携帯をしまい、小さく溜息をつく。
仲間の命がかかっているのだ。本来ならマッドサイエンティストの演技などやっている余裕はない。
だが今回のミッションに於いて、今はどうしても鳳凰院凶真である必要があるのだ。
岡部倫太郎は、己を叱咤するように軽く頬を叩いた。
160第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/03(水) 23:29:40.48 ID:K4UMdIio
「ニャニャ? 凶真? 帰ったんじゃなかったのかニャ?」
「ああ、電話があってな。少し話をしていたところだ」

背後からかけられた声に、いかにもさりげない風を装い振り返る。
黒眼鏡が陽光に反射し、その場面だけ見ればなんとも様になっている挙動であった。
フェイリスが一瞬映画の一シーンか、と感じてしまったのもだから無理はない。

「フェイリス、お前こそどうしたのだこんな所で。今店は千客万来だろう」
「お昼休みは過ぎたしまゆしぃ達が来てくれたからちょっとだけ余裕ができたニャ。今の内に足りなくなったコーヒーを受け取りに行くのニャ!」
「なるほど。しかしお前は店の看板娘だろう。他の者に行かせれば良かったのではないか?」
「ニャウ〜、そうしたいのは山々ニャンだけど、今日出してるコーヒーはフェイリスがどうしてもってお願いして用意してもらったスペシャルブレンドなんだニャ。
これを頼めるのは気難しい個人営業の店長さんだけニャから、フェイリスが受け取りに行かニャいと……」

少し俯き加減で語るフェイリスの話を聞きながら、岡部倫太郎が顎に拳を当てて追憶する。
彼が考え込むときのポーズだが、今日に限っては指先に当たる無精髭の感覚がないため少々違和感があった。

「ふむ、言われてみれば確かにいつもと香りが違うような気がしたな」
「ニャ! 凶真、やっぱりわかってくれたニャ?!」
「ああ。素人の俺では言われてようやく気付く程度だが……こういつもより香りが濃厚で味にも深みがあったような気がする。雑味交じり……というのもおかしな表現かもしれんが何かこう芯から暖まるような……」
「そうだニャそうだニャ! フェイリスが求めていたのもまさにそんな感じのブレンドなのニャ! すごいニャすごいニャ! 凶真にはテイスティングの才能があると思うニャ!」
161第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/03(水) 23:32:41.04 ID:K4UMdIio
ぱああ、と顔を輝かせて尊敬の瞳で見つめてくるフェイリス・ニャンニャン。
その無邪気な敬意の眼差しに、岡部倫太郎は表情にこそ出さぬもののやや面映い気分になった。

……なにせ今の表現は、七度目のタイムリープにおいて彼女自身から聞いた受け売りに過ぎぬのだから。

「だがあくまでそんな感じがするかな……と言った程度だぞ、俺の場合。さっきも言ったがあくまでお前に言われて気づいたくらいなのだ。まあ普段より美味かったのは確かだが」
「それでもいいニャ。フェイリスたちの気遣いが少しでも御主人様の気分を良くできたなら、それでフェイリスは満足なのニャ!」
「……フェイリスは立派だな」
「フニャ……っ!?」

先刻椎名まゆりにしたのと同じように、フェイリスの髪を指先で優しく梳くように撫でる。

「ニャゥ〜、きょ、凶真ぁ……」

まるで本物の猫が撫でられたときのように、甘えた声で喉を鳴らしてしまうフェイリス。

「よし、では褒美に俺がそのコーヒーを運んでやろう」
「え、凶真、いいのかニャ?」
「なんだ、俺では不服か」
「そんなことないニャ! でも凶真にはあのラボで大事なお仕事が……」
「あのとはなんだあのとは。お前も立派なラボメンなのだぞフェイリス・ニャンニャンよ。それに今回メインで開発しているのはダルと紅莉栖だからな。俺が多少遅れて帰っても問題はなかろう」
「う〜ん……それじゃお願いするニャ! 実は結構重くって、一人で運ぶの大変だったりするニャ〜」
「それみろ。人の好意はありがたく受け取っておくものだ」
「わかったニャ! これから凶真にめいっぱい甘えることにするニャー!」

嬉しそうに岡部倫太郎に飛びつき、腕を組んでしがみついてくるフェイリス。
162第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/03(水) 23:37:03.03 ID:K4UMdIio
「げ、限度は弁えるんだぞっ」
「ぶーぶー、凶真さっきと言ってること違うニャ!」

文句を言いながらも、だがそれは口だけで、フェイリスは実に機嫌よさそうに、岡部倫太郎にぴとりとひっついている。


……岡部倫太郎は、この流れのすべてを知っていた。


やや気まずい別れ方をした後、昼時の大混雑で岡部倫太郎の席に再び寄りつく暇もなく、その後は椎名まゆりが相手をしていてどうにも近づき難い。
フェイリスが接客の途中、幾度も彼の席に視線を向けていたことを、岡部倫太郎は様々な手段で……過去のタイムリープに於いて、阿万音鈴羽を客として店内に座らせずっと彼女を観察させたりしながら……調査し、確認していた。

そして椎名まゆり他午後番のメイドたちがやってきて、昼時の混雑がやや収まった後になると、やっと彼の席へやってきて再びちょっかいをかけてくるようになる。
だがその機会を奪うようにして彼が退店した場合……
彼がどのタイミングで店を出ても、彼女は高い確率で『岡部倫太郎の後を追うように』コーヒーを買いに外出するのだ。
彼女なりに今日の心の読めぬ岡部倫太郎の様子が気になって仕方なかったのだろう。
あとは彼女がなるべく喜びそうな選択肢を選び、二人で街に出るだけである。




岡部倫太郎の腕にぎゅっとしがみつき、うろたえる彼の様子を楽しんでいるフェイリス・ニャンニャン。
だが……彼女は己が既に幾重にも張り巡らされた蜘蛛の巣の中へと踏み出していることに、未だ気付いてはいない。




163名無しさん@ピンキー:2012/10/03(水) 23:39:15.22 ID:K4UMdIio
そんなわけで今宵はこーこーまーでー
……っていうか最近ずっと私ばっかり書いてるんだけどいいのかなコレ
少しは控えた方がよかったりするのかしら……?
164名無しさん@ピンキー:2012/10/04(木) 00:39:40.13 ID:zjWyGjiP
大丈夫だ、問題ない
気にせず続けたまえ、俺が許す。
165名無しさん@ピンキー:2012/10/04(木) 01:13:57.43 ID:DOBNAyWU
おれも許す、むしろもっとやって下さいお願いします。
166名無しさん@ピンキー:2012/10/04(木) 01:53:49.76 ID:4JigXD0G
問題無い。機関は我々の動きに気付いていないようだ。このまま任務を続行しろ。
乙・プサイ・コンガリィ
167名無しさん@ピンキー:2012/10/04(木) 23:31:11.73 ID:a3aucPoE
こんばんはー。
少し安心しました。
それでは遠慮なく今宵も更新したいと思います。
168第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/04(木) 23:34:12.30 ID:a3aucPoE
4−9:2011/02/13 13:32 秋葉原裏通り

昌平橋通りと中央通りに挟まれた、狭く雑然としていながらも活気のある賑やかな通り。
それを蔵前橋通り方面に進みながら、岡部倫太郎とフェイリスは楽しげに語り合っていた。

「そして俺は断腸の想いで世界線を渡り、その世界と決別したのだ!」
「ニャニャ! 凶真は遂に秘められし力に目覚めたのニャ?! 多元宇宙を自在に渡り歩く『神々の界渡り(デーヴァ・ウォーク)』……まさか既に会得していたニャんて……!」
「まあ自在とまではいかないがな。実のところどこへ行くかは俺にもわからんのだ。これぞまさに混沌、まさにカオス! ムァッドスァイエンティストたるこの俺に相応しいとは思わんか! フゥーハハハハハハ!」
「凄い自信ニャ……フェイリスも負けていられないのニャ! 今こそ封じられた凶真とのあの想い出を開放し、禁断のアレに手を出す時が来たようニャ……!」
「待て、あの想い出とはなんだ、そもそも何故封じられていた」
「ニャニャー! けどそのためにはきっかけとなる『あの儀式』をしないとならないニャ! 凶真! 遊んでる暇はないのニャ!」
「俺は別に遊んでなどいない! それと『あの儀式』とはなんだ!?」

フェイリス節全開のやりとりに追い詰められたように後ずさる岡部倫太郎。してやったりとばかりに距離を詰め、腕に縋りつきながら頬を染めて上目遣いで彼を見つめるフェイリス。

「決まっているニャ……あの時と同じことをすればいいニャ」
「あの時……? ちょっと待て、あの時とはなんだ、そして俺は何をした?!」
「キス……だニャ。凶真はフェイリスを情熱的に抱き締めて、そのまま二人は熱い口づけを交わしたんだニャ……」

とろん、と蕩けた表情で、己の胸で岡部倫太郎の腕を挟みこむようにして誘惑する。
無論彼女一流の演技である。岡部倫太郎が激しく動転したところで解放してやり、からかっていたという事にして流すつもりなのだ。

「ニャ……?!」

だが彼女の目論見に反して……岡部倫太郎はフェイリスを優しく、だが強く抱き締める。
169第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/04(木) 23:36:54.71 ID:a3aucPoE
「ニャ、ニャニャ?! 凶真!?」

一瞬の事に何が起こったのか理解できず、そして直後にみるみると頬を真っ赤に染め目を白黒させるフェイリス・ニャンニャン。

「ダメニャ! 離すニャ! 凶真ぁ!」

じたばたともがきながら、必死に彼の束縛から逃れようと手足を動かす。
頭の中が激しく明滅している。咄嗟のことに思考が追いつかない。
嫌ではない。嫌なんて事あるわけないけれど。
でも今は、ここでは、この姿じゃ駄目……!

気付けば彼女は……岡部倫太郎の腕の中でたたらを踏んでいた。

「……抱き締めてキスをしろと言ったのはお前ではないか」
「じょ、冗談を本気にする人は嫌いニャ!」

思わず強い口調でそう叫び、その腕を振り解いて一歩、二歩と距離を開け……


……だが、三歩目が踏み出せない。


彼女はその優れた洞察力でいつも相手の心を読んできた。
だからどれくらい近寄れば、どれくらい離れれば相手がどんな反応を示すか常に把握しながらやり取りできた。
先刻のようにキスを迫った時だって、彼がうろたえようと逆に襲いかかってこようと、それが本気か冗談か、目を見るだけですぐにわかってしまう。
だからこそギリギリのところまで踏み込んで積極的なスキンシップを取ることができるのだ。


それがいつもの彼ならば……だが。


今回のように激しく拒絶した時だとて、いつもの岡部倫太郎ならこれ以上離れれば慌てて追いかけてきて謝ってくれる……そのはずだ。
だから今だってきっとそうしてくれる……そう思うのに、そう思いたいのに、常と違ってその確信が持てない。
だって今日の彼は一体何を考えているのか、フェイリスにはさっぱりわからないのだ。
170第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/04(木) 23:40:05.13 ID:a3aucPoE
容姿と服装の印象が変わり、色付きの眼鏡で視線が隠され、なにより先刻から止まぬ動悸が彼女から冷静な思考を奪っている。
それらは彼女の『チェシャー・ブレイク』にとって大きな障害となり、その発動を封じていた。

だから今の彼女にはわからない。
これ以上彼から離れてもちゃんと追いかけてきてくれるのか、
あんなきつい言い方をして彼が怒ってやしないのか、
『嫌』と口にしてしまった事で……彼に嫌われてしまったのか、どうか。

わからない。さっぱりわからない。
自分の言葉が彼にどう受け取られているのかがわからない。
そもそも届いているのかどうかすらわらかない。

まるで五里霧中である。表面上は平静に振舞っていながら、フェイリスの心は千々に乱れていた。
なまじ普段から相手の心が読めるが故に、その能力を封じられてしまった不安が彼女に強い態度を取らせる事を躊躇わせてしまっているのだ。

これが彼以外なら……それでもなんとかできた。
平気とはゆかぬまでもいつもの態度を通せただろう。
けれど彼である。鳳凰院凶真である、岡部倫太郎である。


彼女にとって彼は……決して嫌われたくない相手だった。


彼に、凶真に、岡部倫太郎に嫌われたくない。でも一体どんな言い方をすればいいのだろう。どんな態度を取ればいいのだろう。
いつもならさらりと出てくる言葉が今日に限って浮かんでこない。
失敗できぬ会話……そんなものは大人の世界で幾つもこなしてきたというのに、なぜこれ程にプレッシャーを感じてしまうのか。
いちいち己に問うまでもなく彼女にはわかっていた。
失いたくないのだ。この人との絆を、この人を、絶対に。

「フェ、フェイリスはみんなのアイドルなんだニャ。だから一人の想いに応える事はできないんだニャ」

やっとそれだけの言葉を搾り出す。
けれど……岡部倫太郎が次に放った言葉で、彼女の心臓は完全に凍りついた。

「そうか……ならば『フェイリスでないお前』はどうなのだ」
「ニャ……っ?!」

彼の言葉にびくり、と身を竦ませる。
さくり、と鋭い何かが胸に突き刺さった。

(なん、で……? なんで、凶真が、そんな、ことを……!?)
171名無しさん@ピンキー:2012/10/04(木) 23:41:52.85 ID:a3aucPoE
というわけで今宵はここまでー。
たまには攻めオカリンに戸惑うフェイリスがいたっていいじゃない。
それではまた次回にお会いしましょう。 ノノ
172名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 00:28:41.87 ID:aiuvd56l
乙です。
遂にフェイリスの本陣に踏み込めるか?
がんばってくださいまし。
173名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 00:49:43.23 ID:gwGQXUVB
オカリンがんばれ。超頑張れ。
174名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 07:39:46.41 ID:bcNqH/UD
仕事と恋愛という永遠のテーマですねわかります
175名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 23:16:06.91 ID:woZwEdv7
こんばんは
今宵も更新しに来ました
ではしばし推敲の時間をば戴きたく
176第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/05(金) 23:17:46.48 ID:woZwEdv7
4−10:2011/02/13 13:39 

「おっとごめんよ!」
「フニャ?!」

どん、と肩と肩がぶつかる。
やけに足の速い相手であった。声からすると女性か子供だろうか。
フェイリスは突き飛ばされた勢いで思わず転びそうになって……岡部倫太郎に抱きとめられた。

「大丈夫か、フェイリス!」
「あ、は、はい、すいません……」

頬を染め、岡部倫太郎の胸元に顔をうずめ、微かに薫る彼の匂いにどこか忘我の表情でお礼の言葉を呟いて……
そこでフェイリスは妙な違和感を感じた。
そして数瞬の硬直の後何かにハッと何かに気付き、恐る恐る己の頭部をまさぐる。

「……ない」
「む、どうしたフェイリス」
「ない、ない!」
「フェイリス?」
「え? なんで? どうして?」

慌てて周囲を見回したが……どこにも見当たらない。
そう、彼女の頭部から……いつも身に着けている例の猫耳カチューシャが消え失せていた。

「おい、どうしたフェイリス、しっかりしろ!」
「どうしよう、どうしよう……私、ああ……っ」

蒼白となってうろたえるフェイリスの台詞には、いつの間にか語尾から“ニャ”が消えている。
それどころか一人称すら“フェイリス”ではなくなっていた。
だが不測の事態ゆえに動転している彼女には、未だその自覚がない。

「フェイリス、どうした、顔が真っ青だぞ! しっかりしろ! メイクイーンに戻るか?! それともラボで休んで行くか?!」

岡部倫太郎に肩を揺すられ告げられた言葉に、なぜかぞくりと背筋が総毛だった。
震える身体で、まとまらぬ頭で、必死に今の状況を考える。


……あれ?
今の私は……誰?
今の自分は、一体どっち……?!


177第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/05(金) 23:21:26.59 ID:woZwEdv7
「や……イヤ、それはダメ、ダメです……ッ!」

“今の自分”をメイクイーンのみんなに見られるのも、ラボのみんなに見られるのも嫌だ。
その中の幾人かにはいつか自分から打ち明ける時が来るのかも知れない。
けれどそれは今ではない。今はまだ駄目だ。早すぎる。
でもどうしよう、どこに行けばいいんだろう。私は、一体どうすれば……っ!

「落ち着けフェイリス! ならお前の家はどうだ! 家族は! ここから遠いのか?!」
「あ……っ!」

そうだ、ここからなら家はそう遠くない。それにあそこに帰れば替えの猫耳がある。
今日は誰もいないし、すぐに戻ってスペアを探して帰ってくれば……!

よろり、と身体をふらつかせたフェイリスを岡部倫太郎が慌てて支える。
最近多忙だったせいか疲労で身体がずしりと重い。
これまで気力で持ちこたえてきたものが……一気に噴き出してきた感じだ。

「歩けるか」
「は、はい、大丈夫です……」

岡部倫太郎の腕から離れ、一歩踏み出そうとしたところで……ぐらり、と視界が揺れる。
ふわ、と身体が浮かぶような感覚と共に意識が明滅した。
目の前に地面が、アスファルトが迫ってきて……

「フェイリス!」

……そして、岡部倫太郎に背後から強引に抱き止められた。

「岡部、さん……」

ぼんやりとした頭で、風邪を引いたような赤い顔で、うわごとのように呟く。
いつものように『凶真』、ではなく、一人ベッドの中で呟くように彼の名を呼んでいる事に……彼女は未だ気づいていない。
178第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/05(金) 23:29:45.21 ID:woZwEdv7
「ええい、フェイリス、ほれ!」

岡部倫太郎は呆れたようにフェイリスの前で腰を落とし、背中を向ける。
どうやら自分におぶされと言っているらしい。

「あの、でも、私の、家、は……っ」
「病人の戯言など聞く耳もたん! 大人しくおぶさるがいい。俺がお前の家までエスコートしてやろう」

昼の街中、それも日曜日である。
周囲には観光客から買い物客まで多くの人々が雑踏を為しており、やけに目立つメイド服の娘とスーツ姿の凛々しい男とのやりとりを注視していた。
こんな中で男性の、それも懸想の相手の背に負わされるなど恥ずかしいことこの上ない。
けれど『チェシャー・ブレイク』を使うまでもなく、彼が芯から己を心配してくれているのがフェイリスには痛いほどによくわかった。
なにより今の自分の体調を考えると、彼の好意に甘えた方がいいのは間違いない。
すっかり調子を狂わされたフェイリスは、周囲の刺さるような好奇の視線に顔を真っ赤にしながら……大人しく岡部倫太郎に背負われた。

彼の首に腕を回し、その背中にそっと頬を当て、湿った息を吐いた。
それは安堵の吐息か、それとも熱病が如きその想いゆえか。
いずれにせよ冬空の下、彼女の口から漏れた白い煙は風に流されて消えてゆく。
まるで自分のこの気持ちのようだ……フェイリスはふとそんな事を考え、静かに目を閉じた。

ゆっくりと立ち上がる岡部倫太郎の背中で縮こまるフェイリス・ニャンニャン。
その背に負われることで今更ながらに己の小ささと、彼の背中の大きさを実感する。
こんな小娘の自分のことを、彼は女として見てくれているのだろうか……そんな愚にもつかぬ事を考えてしまう。
179第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/05(金) 23:38:23.43 ID:woZwEdv7
彼の優しさは自分に対してだけのものではない。そう、岡部倫太郎は誰にだって優しい。
だから勘違いをしては駄目だ。期待しては駄目だ。
でも……喩えそれがわかっていても、
それでも止まらないこの早鐘が如き鼓動は……ならば、一体どうすればいいのだろう。

この胸のときめきが、激しく打ち鳴らされている心臓の音が、背中越しに彼に伝わりやしないかしら。彼にこの秘めた想いを悟られやしないかしら。
そんな気恥ずかしさから、黒衣の男に背負われた小柄な猫耳メイドはその顔を赤らめ、耳朶からうなじまで赤く染め上げる。

そんな少女の愛らしい様子は無論のこと周囲の通行人からも丸見えであり、
彼らは口々に心の内で羨望と憧憬と怨嗟の声を上げていた。
ただ幸か不幸か、いつもならそんな周りの感情が全て把握できてしまうはずの彼女は、今に限ってその力を行使できていない。


だって、己を背負った男の事しか……目に入っていなかったから。


「よ……っと。首にしっかりと腕を回しておけ。落ちるなよ」
「はい……」

岡部倫太郎の背中に当てられた彼女の頬は時折何かを確認するかのようにそっと擦り付けられ、やけに湿った吐息が彼の借り物のスーツを湿らせる。
彼の首に回された腕は……まるで無理矢理引き離されるのを恐れているかのように、ぎゅっと力が込められていた。




そんないつもとうって変わってなんとも大人しく、しおらしく、そして素直な様子で……
フェイリスは岡部倫太郎に背負われ、己の家へと向かった。




180名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 23:40:37.51 ID:woZwEdv7
というわけで今宵はここまで〜
来週ですが、月曜はたぶんかなり疲れてると思われるので、もしかしたら更新できないかもしれません。
そのときは火曜日以降にお会いしましょう。
それでは〜 ノノ
181名無しさん@ピンキー:2012/10/05(金) 23:41:48.85 ID:cgmyzZWJ
乙です。
乙女なフェイリスがかあういのう。
ファザコンの気があるであろう彼女にはオカリンの背中は麻薬かも。
182名無しさん@ピンキー:2012/10/06(土) 00:22:34.34 ID:zum0OZ/z
183名無しさん@ピンキー:2012/10/06(土) 05:32:11.81 ID:HJD76D6t
いかん、オカリンが普通にイケメンしてるがコイツ計画的犯行なんだった…続きが気になるぅー
184名無しさん@ピンキー:2012/10/07(日) 11:23:24.13 ID:+jwiAMC5
…計画通り!

オカリンマジ期待してる。
185名無しさん@ピンキー:2012/10/08(月) 23:53:14.03 ID:fgDPzTWV
こんばんはー
更新はなんとかできそうですが、今宵はなんだかとても眠いのですぐに寝入っちゃいそうです。
186第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/08(月) 23:58:41.04 ID:fgDPzTWV
4−11:2011/02/13 14:18 秋葉家

岡部倫太郎は椅子に座り両手を組んで、身じろぎもせず目の前の相手を見つめている。
ここは秋葉原の繁華街からやや離れた、高層ビルの最上階にあるフェイリスの家。
そして目の前のベッドでこんこんと眠っているのが……その当のフェイリスである。

最初は家に帰ってすぐに猫耳を取り出し戻るつもりだったようだが、彼女の体調が思わしくないと判断した岡部倫太郎によって無理矢理ベッドに寝かしつけられて、
力なくもがいていたフェイリスは、だが彼が優しく頭を撫でてやるとやがて不如意となって体中の力を抜き、そのまま吸い込まれるようにして寝入ってしまった。

……実際のところ、フェイリスはかなり疲労していた。

バレンタインのイベントの起案、準備、広報、手作りチョコの作成等々を行いながら接客もしていたのだ。疲れない方がおかしいだろう。
なにやら競合店とのいざこざもあったと聞くが、そちらの方は詳しくはわからない。
ただ流石に秋葉を萌えの街に仕立て上げた人物だけあって小さいながら彼女の気力は相当なものがあり、普段は気を張っていてそういった様子はおくびにも出さなかった。
しかし猫耳のない状態……即ち秋葉留未穂が唐突に外に現れた時、取り乱したショックで彼女の気力がふっつりと切れてしまい、
そして溜まっていた疲労が一気に溢れ出し、体調を崩してしまったというわけだ。

岡部倫太郎は、心配そうな顔つきでフェイリス……いや秋葉留未穂の寝顔を見つめている。
なにせ彼女があれほど体調を崩してしまったのは彼のせいなのだ。
彼があんな策を弄したりしなければ、彼女はもうちょっと持ちこたえられたはずなのに。
ラボメンを誰よりも大切にする岡部倫太郎にとって、それは相当に辛い、苦渋の決断だったに違いない。
187第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 00:02:32.95 ID:fgDPzTWV
だが彼は知っている。2回目のタイムリープの折に確かめたのだ。あのまま放っておいたら、彼女は翌日の2月14日、メイクイーン・ニャンニャンの終業後、まるで張りつめた糸が切れるようにして店内で倒れてしまうのである。
そのまま救急車で搬送された彼女はそれなりに危険な状態だったらしい。
ギリギリまで無理をした結果、身体に相当なツケが廻っていたのだと医者が言ってた。

だからこれは必要な処置なのだ。ミッションを達成し、同時に彼女の身体を休めるためには。
岡部倫太郎はそう心に言い聞かせ、先刻のような策を実行した、というわけだ。

……そう、あの時体当たりして猫耳を奪ったのは阿万音鈴羽、そして混乱し冷静な判断力を失っている彼女を誘導し、誰もいないこの家へと己を招き入れさせたのは、全て彼の作戦によるものである。
彼は幾度もタイムリープを繰り返し、家の状況や彼女の体調などの情報を得て、数回前からこの状態まで持って行くことに成功していた。


だがやはり最大の鍵は……あの猫耳である。


岡部倫太郎はかつて異なる世界線に於いて、猫耳カチューシャを外した彼女……秋葉留未穂に会ったことがある。
彼女は普段と全く違う大人びた、しとやかな娘で、岡部倫太郎を慕ってくれていた。
あの時は、彼女は猫耳を着脱することでフェイリスと秋葉留未穂という演技を自在に使い分けているのだと思っていた。

だが……違った。

いやそれも間違いではないが、正確ではなかった。
八回目のタイムリープの折、阿万音鈴羽の発言が気になった岡部倫太郎は、偶然を装って彼女の猫耳を喫茶メイクイーンで外してしまったのだ。


そして……彼は見た。
……彼女があからさまに怯え、うろたえる様を。


188第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 00:04:46.75 ID:fgDPzTWV
他のメイド達は、そして椎名まゆりはそれを単に「フェイリスが酷く取り乱していた」と認識し、彼女を店の奥に下げて休ませた。
だが岡部倫太郎だけは気づいていた。彼女の本質を見た事のある岡部倫太郎だけが気づく事ができた。
彼女のあの様子、あの言動は……


その時の彼女がフェイリス・ニャンニャンではなく、秋葉留未穂である事を示していた。


それはつまり彼女の人格変更が彼女の意志で、彼女が望んで行われるだけではなく、猫耳カチューシャの有無そのものによっても生じ得る、ということを意味していた。


彼女自身は猫耳を着脱する事で二つの人格を演じ分けているつもりだったのかもしれない。少なくとも最初の内はそうだったのだろう。
だがそれが繰り返される内いつのまにかあの猫耳は精神的なスイッチング装置として機能するようになってしまったのではないだろうか。
猫耳を外したフェイリス・ニャンニャンがあり得ぬように、猫耳をつけた秋葉留未穂もまたいない……そう彼女が強く思い込むことでその別人とも言える人格を自在に操っていたのだとしたら、確かにそうした仮説も成立し得る。

無論今だとて彼女自身の意思で演じ分ける事も可能なはずだ。
実際猫耳メイドたるフェイリスの姿の時でも、彼女は岡部倫太郎の前では時折秋葉留未穂の横顔を覗かせることがあった。
そして異なる世界線とはいえ彼女の本音を目の当たりにした事のある岡部倫太郎は、その微かに仄見える本性に気付く事ができた。

そう、彼女の心に余裕がある時なら意図的な演じ分けが可能なのだ。
けれど咄嗟の時、不測の事態……
例えばあの猫耳カチューシャを落としたり、奪われたりしてしまった時に、彼女自身の意思と関係なく人格のスイッチングが働いてしまうらしい。
189第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 00:07:54.45 ID:/cRkRPPk
そして……岡部倫太郎にはもう一つ気づいた事があった。
彼女のその時の取り乱しよう、その怯えようは……明らかに他の人間、それも近しい知り合いに“秋葉留未穂である自分”を見られるのを極度に恐れているように見えたのだ。
もしかしたら……彼女は、フェイリスという猫耳メイドとして振舞っているからこそ自分は他の人と付き合えている、と思っているのかもしれない。
フェイリスという人格だからこそ自分は皆に好かれているのだと思い込んでいるのかもしれない。
或いは秋葉留未穂としての、権力や財力を有する自分の正体が露見してしまうことで、皆の自分に対する態度が変わってしまうことを恐れたのかもしれない。


だから……岡部倫太郎は、それを利用した。


往来で阿万音鈴羽を使って彼女から猫耳を奪い、介抱する。
予想通り他人に奪われても彼女の人格スイッチングは行われ、結果秋葉留未穂がそこに出現する。
だが彼女は“秋葉留未穂である自分”を他人に見せたがらない。だからラボにもメイクイーンにも戻りたがらないだろう。

ならば彼女が行きたがる先は……彼女の家しかない。

そして彼女の家に現在誰もいないことは、それより以前のタイムリープで既に確認済みである。
そう、岡部倫太郎は……すべて計算ずくで彼女の家へと侵入を果たしたのだ。




岡部倫太郎の懐には……現在、阿万音鈴羽から手渡された猫耳が隠されている。
フェイリス・ニャンニャン……いや、秋葉留未穂が目覚めるまで、あと6時間近い時が必要だった。




190名無しさん@ピンキー:2012/10/09(火) 00:08:39.28 ID:/cRkRPPk
では今宵はここまで〜。
それでは次回にお会いしましょう。 ノノ
191名無しさん@ピンキー:2012/10/09(火) 00:45:49.36 ID:Szf/xCKR

いよいよか
192名無しさん@ピンキー:2012/10/09(火) 02:41:56.12 ID:p4py1MRa
展開の方向性はエロだがある意味完成形である執念オカリンの片鱗が見え隠れしていて実によい
乙乙
193名無しさん@ピンキー:2012/10/09(火) 17:33:13.82 ID:Szf/xCKR
>>192
(エロへの)執念オカリンか。なるほど(笑
194名無しさん@ピンキー:2012/10/09(火) 23:27:17.78 ID:/cRkRPPk
こんばんはー。
今日も更新に来ました。
195第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 23:30:10.75 ID:/cRkRPPk
4−12:2011/02/13 20:01 

「ん……」

秋葉留未穂はゆっくりと目を開け、ぼんやりとした視界で天井を見つめた。
天井の明かりは補助灯だけ。周囲はかなり薄暗い。視界を確保するため、いつものようにベッドの上のランプ型のスタンドの灯りをつける。
久しぶりにいい気分だ。どうやらぐっすりと眠れたらしい。
でも寝る前のことをよく覚えていない。自分は一体いつから、なんで……

「……っ!!」

がば、と上体を起こし、ベッドから跳ね起きる。
そして素早く時間を確認しようとして……ベッド脇の椅子に座っている岡部倫太郎と目があった。
彼はいつの間にかにあのスーツを脱ぎ、黒眼鏡を外しており、いつもの白衣へと着替えていた。

「岡部さん……!?」
「……時間が気になるか? 午後8時ちょうどといったところだ」
「そんな……!!」

愕然として周囲を見渡す。部屋は薄暗く、窓にはカーテンが掛けられている。
だがカーテン越しの景色はすっかり夜の闇に溶け込んでいて、北風がごうごうと窓に吹き付けていた。

「なんで……っ」

なんで起こしてくれなかったのか……と言おうとして、だが口には出せなかった。
それを彼に求めるのは見当が違うと、彼女自身が一番よくわかっていた。

「何故起こさなかったのか、そう言いたいのか? それはお前が疲れていたからだ。少し揺すった程度ではまるで反応しないくらいぐっすりと眠っていたぞ」
「ああ、どうしよう、お店が……!」

思わず両手で顔を覆い、その身を震わせる。普段の彼女では演技以外では決して見せぬ表情だ。
196第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 23:34:35.93 ID:/cRkRPPk
「心配するな。店にはお前の体調が悪いから午後は休ませると連絡しておいた。大事はないから落ち着いて店を廻すようにともな。コーヒーは店主に事情を説明して頼み込み、まゆりに受け取りに行かせた。
臨時のバイトも2人ほど紹介しておいた。1人はルカ子だ。主役のお前が抜けた替わりにはならんだろうがまゆりにサポートさせれば2人ともそこそこ使えるはずだ。
それと一応指圧師に店内の様子のレポを頼んでいる。場合によっては記事になるかもな。店の詳しい様子は後日それで確認してくれ」
「あ……」

ちなみにもう1人のバイトは当然ながらバイト戦士こと阿万音鈴羽である。
漆原るかの方は最初猫耳メイド服の女装に難色を示していたが彼が必死に頼み込むと最後には承諾してくれ、一方の阿万音鈴羽は、昔アキバの名物だったメイド喫茶の制服が着られると割と乗り気だった。

「それとまゆりが見舞いに来ると強硬に主張していたが……お前の自宅を教えていいものかどうかわからなかったので断っておいたぞ。問題ないなら後で電話してやってくれ。 ……すまんな。余計なことをしたかもしれん」
「いえ、そんな……」

店への連絡と混乱の抑制、商品の仕入れと人員の補充、後に生かすための店内の様子の記録……そして秘密の厳守。実際岡部倫太郎がしてくれたことは、彼女の指示がない状態ではほぼ最高の対応と言っていい。感謝こそすれそれを責めるのは流石に筋違いというものだろう。
事実、岡部倫太郎は彼女達に任せておけば店の方はほぼ上手く廻るであろう事が既にわかっていた。これもまた二回前のタイムリープから確認済みである。

だがそれもある意味当たり前ことなのだ。
なにせ彼は不足していた己の対処に関して、以前のタイムリープに於いて秋葉留未穂自身に尋ねて確認していたのだから。
つまりこれは彼女本人が下せる最善手でもあるわけで、当人が認めざるを得ないのはむしろ必然なのだ。


ただ……そうした事情をまるで知らぬ秋葉留未穂本人にとってみれば、岡部倫太郎の対処はあまりに華麗すぎて、見事すぎて、まるで指先一つでなんでも解決してしまう魔法使いかなにかのようにすら錯覚してしまう。
いや魔法使いというより……むしろそれは彼女がいつも思い描いていた、白馬の……


197第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 23:42:00.26 ID:/cRkRPPk
「だがあんな往来でふらつくようではいつ店内で倒れても不思議ではなかった。そっちの方が店にも客にも迷惑をかけていただろう、違うか?」
「……そうかも、しれません」

正鵠を射られ、珍しくしおらしくなって項垂れるフェイリス……秋葉留未穂。
彼女自身、あそこで体調を崩したことで自分がいかに無理をしていたのが自覚できたのだろう。

「お前はなんでも一人で抱え込みすぎた。いかにお前自身が経営している店だろうと、お前一人だけで廻しているのではないのだぞ。もっと周りを信頼して頼ってみたらどうだ。
まゆりだっている、ダルだって店の常連だろう。なによりお前はラボメンなのだ。困った時はいつだってこのムァッドサイエンティスト鳳凰院凶真が手を貸してやる。遠慮など許さん!」
「岡部さん……!」

岡部倫太郎の言葉に感銘を受けたらしく、しばし言葉を失う秋葉留未穂。
彼女はやがてほんのりと頬を染め、言葉を選ぶようにして謝罪した。

「そう……ですね。ごめんなさい岡部さん。御迷惑を……おかけしました」

自分自身の立場、その正体……彼女はなるべくならそれを近しい人に知られたくなかった。
彼女の背後にある権力や財力によって、相手の自分を見る目が変わってしまうことが怖かったのだ。
けれど……もっとみんなを信じてもいいのかもしれない。彼のように自分の正体を知っても些かも態度を揺るがさぬ相手もいるのだから……


「…………?」


……あれ?
秋葉留未穂は首を捻った。
自分は一体いつ、どこで彼に正体を明かしたのだろうか。
いや知られていない。知らせていない。そのはずだ。自分は彼にさえ、一度だって。
ならば動転して朦朧としていたはいえ、何も知らぬ彼をこの家に案内したのは不味かったのでは……?

「……岡部、さん?」

ならば、なぜ……
なぜ彼は、自分が喫茶メイクイーン・ニャンニャンのオーナーだと知っているのか……?
198第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 23:49:17.16 ID:/cRkRPPk
「なぜ俺が、お前があの店のオーナーだと知っているのか、という顔をしているな」
「っ!!」

びくり、とベッドの上でその身を強張らせ、表情を引き攣らせる秋葉留未穂。
こうした時真っ先に疑うのは産業スパイや財産目当ての輩どもである。実際彼女はこれまで立場上そういう連中と関わった事もあった。
だが秋葉留未穂は目の前の男がその手の人物だなどとは微塵も疑ってはいなかった。
なぜって……あの黒眼鏡を外した今の彼の顔からは、自分に対する心配と気遣いが溢れんばかりに感じられたから。悪意なんて欠片も感じられなかったから。

「……お前自身の口から聞いたのだ」
「そんな……私、そんなこと、一度も……」
「今のお前ではない。異なる世界線のお前から、だ」
「え……世界、線……?」

一瞬彼の言っている事がわからず、思わずきょとんと目を瞬かせてしまう秋葉留未穂。

「昼に言ったではないか。俺は幾つもの世界線を渡り歩いてきたことがあると。その内の一つで、俺はお前から店のことをはじめ色々打ち明けられたことがあるのだ」
「え? あれって……まさか、そんな、本当に……?」
「お前の『チェシャー・ブレイク』なら、俺が嘘を言っているかどうかわかるはずだ。そうだろう……留未穂?」
「……っ!!」

秋葉留未穂は思わず息を飲んだ。
間違いない。彼の言っていることに嘘はない。
岡部倫太郎の表情とその台詞が、彼女自身のその特異な能力が、彼女にそう確信させる。
だってもし自分が彼に正体を打ち明けるなら……確かに、彼には名前で呼んで欲しい、留未穂と呼んで欲しい、そう思っていたから。
そして……同時に彼に初めて己の名を呼ばれ、その頬にみるみると強い赤みが差してゆくのを自覚する。

「全部、知っていたんですか……」

そこまで言いながら、彼女は今更自分がフェイリスではなく秋葉留未穂の口調になっていることに気付き、それでいながら彼の前でなんの違和感も忌避感も感じていない自分に驚いていた。
199第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/09(火) 23:58:09.70 ID:/cRkRPPk
「ああ……全部聞いた。お前の悩みも、お前の苦しみも……お前の、気持ちも」
「そう、だったんですか……」

ぱちくり。
そこまで言い差して、秋葉留未穂は目をしばたたかせる。


……ねえ、ちょっと待って。
今、彼は、一体なんと言った?


「私の、気持ち……?」

一瞬怪訝そうな顔で岡部倫太郎の顔を覗き込んで……そして己が能力ゆえにすぐにその真意を悟り、瞬く間にその顔を真っ赤に染め上げる。

「そんな、私……っ!」

なんてことを、なんて事を言ってしまったのだろう。
いや言ってはいないけれど、自分は言っていないけれど!
別の世界の自分は、この胸に秘めた想いを……既に彼に伝えていたというのか。
それはつまり彼は当に自分のこの気持ちを、秘めた想いを全て知っていて、それなのに自分だけはそんな事に気付きもせずに、いつものように、当たり前のように彼に接していて、
せめてこれくらいは許されるのではないかと己に言い訳をしながら、仄かな想いを内に秘めたまま彼にじゃれついていたということで……!

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」

元々熱っぽかった顔が一層に火照ってくるのがわかる。まるで高熱を出した時のようにクラクラする。
でも、あれ、けれど、どこまで言ったの? 別世界の自分は彼に何を、どこまで告げたの?
あれも? あんなことも? もしかしてあんなことまで!?
まさか夜の臥所でのあんな想いとか、あんな行為とか、彼に対するあんな、あんな淫らな懇願や誓願までは言っていないと信じたい、信じたいけれど……!


そこのところどうなの! 自分!


「あの、あのっ、私、私岡部さんに、何を……?」
「む? 確か……白馬の王子様とかなんとか……」
「きゃっ!?」

小さな悲鳴を上げながら、口に手を当てて耳たぶまで赤くする。
まるで彼に心の奥底まで覗かれ、裸の自分をさらけ出されてしまったかのよう。
そう、いつもは、いつもなら、いつだって相手の心を読み、翻弄してきた彼女が……




今日に限って、岡部倫太郎の掌の上で踊らされていた。




200名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 00:00:50.72 ID:GHaZjwO4
というわけで今宵はここまでー。
攻め攻めで小悪魔なフェイリスも無論いいと思うんですけど、
たまにはこういうオカリンに翻弄されちゃう系のお話もいいんじゃないかと。
フェイリスファン的にアリなのかどうか不安なところですが。
それではまた次回〜 ノノ
201名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 00:04:09.88 ID:ulfCU7bL

ありです。大ありです。
202名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 00:06:53.79 ID:836FUUSF
乙乙!GJなのぜ!
かっこいいオカリンとかわいい留未穂たん最高だろう!
……ダルに代わって壁を殴っときますんで。
203名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 00:19:55.42 ID:+PM18t15
GJ
204名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 01:00:35.40 ID:ch76li54
ちくしょう、寸止め続けやがって!
気になるじゃねぇか!!!
205名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 06:33:05.53 ID:BYdRRic5
うぉつだ!
ほんとこのフェイリス/留美穂はかわいいな〜。大アリです
オカリンも地道にここまでお膳立てしてきたかいあったものだろう。
206名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 22:55:58.51 ID:GHaZjwO4
ピンクは淫乱!(挨拶)
というわけで賛同してくれる人もいるようなので今晩も安心してフェイリスかわかわを続けたいと思います。
207第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/10(水) 23:02:00.63 ID:GHaZjwO4
4−13:2011/02/13 20:14 

岡部倫太郎にとってそれは賭けだった。
かつて彼が会ったあの世界線のフェイリス……秋葉留未穂は、あくまで向こうの世界線での記憶と行動によって構築された彼女であって、今目の前にいる彼女そのものではない。

あの時の彼女が抱いていた想いを、だからこの世界線の秋葉留未穂が同様に抱いているとは限らないのだ。
さらに言えば『白馬の王子様』というあの言葉、あれはあの世界線の彼女だけの表現かもしれないし、あの日4℃とやらの取り巻きから彼が身を挺して彼女を守った事からそう呼んだだけなのかもしれない。
この世界線の秋葉留未穂がその言葉に反応するかどうかは……言ってみるまでわからないのだ。
だから、それは大きな賭けだった。


……11回目のタイムリープまでは、だが。


今の岡部倫太郎は既に知っている。この世界線の彼女もまたその言葉で自分を捉えていることを
初めて会ったときから気になる存在であったことを。
そして椎名まゆりに遠慮してその気持ちを懸命に抑え込もうとしていることも。
その全てを承知した上で……岡部倫太郎は彼女に迫る。

「留未穂……」
「岡部、さん……」

彼が説明した別の世界云々のことは記憶にまるでない彼女にはよくわからなかった。
けれど自分の正体を知られ、先刻から本名で呼ばれているというのに、恐怖や忌避感をまったく感じていない……それだけははっきりとわかる。
ひょっとして自分をさらけ出すというのはそんなに嫌なものではないのだろうか。もし正体が知られても皆変わらずに接してくれるのだろうか。

それとも……この人だけが特別なのだろうか。
208第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/10(水) 23:04:36.35 ID:GHaZjwO4
いや、恐怖どころかむしろ先刻から彼に名前で呼ばれるたびに心臓がとくん、とくんと大きく脈打って、自らの頬の赤みがいや増してゆくのがわかる。
彼に素のままの自分を見られている……そう感じるだけで勝手に高揚してしまう彼女……秋葉留未穂の心、そしてその肢体。

もっと呼んで欲しい。自分の名前を。
もっと見つめて欲しい。自分を、自分だけを。
そんな浅ましい想いがふつふつをその内から湧きだし吹きこぼれそうで、彼女は必死に己を抑制しようとする。

大丈夫、大丈夫。
自分を抑える訓練なんて、小さい頃からずっと積んできたんだから……!

けれど……そんな懸命な努力も、岡部倫太郎が己を見つめる強い視線にみるみる焼き溶かされて、その心はすぐにくしゃくしゃに掻き乱されてしまう。
そして今更ながら自分がベッドから身を起こしている事に気づいた彼女は全身を薄桃色に染め、慌ててシーツを掴み己の首から下をくるみ込むようにして身を隠そうとした。

「留未穂、お前は覚えていないだろうが、かつて俺はやむを得ない事情によってお前の想いを無に帰したことがあった」

岡部倫太郎が言っているのは彼女が送ったDメール……それを打ち消すことで彼女が必死の想いで取り戻した父親を再び消してしまった事を指している。
けれど話の流れから……秋葉留未穂はそれを、自分が一途な想いで告白したこの気持ちを彼が拒絶した、という風に受け取ってしまった。
209第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/10(水) 23:06:41.47 ID:GHaZjwO4
なぜだろう。心がざわつく。
実際には告白なんかしていないのに。今までそんな勇気なんて欠片もなかったというのに。
椎名まゆりを言い訳にして、ずっと口にすら出せなかった臆病者だというのに。
だのに、今はそれが届かなかった事が……こんなにも、悔しい。

なぜ自分の想いは無碍にされてしまったのだろう。何か大切な使命があったのだろうか。
この人は仲間を大切にする人だ。ラボの誰かが危機に瀕していたりしたのだろうか。そのために、何かの大義のために、自分の“この”気持ちに応えられなかったのだろうか。

なら……その大義って、なに?
この気持ちを拒むほどに大切なもの?
それは自分想いよりも……自分よりも、大切な人なの?


知りたい。教えて欲しい。どうして、どうして自分のこの想いを……!


秋葉留未穂は、いつの間にか異なる世界線での自分の気持ちと、己自身秘めた想いを完全に同化させてしまっていた。
自分自身に対して思い入れをしすぎてのめり込んでしまった、とでも言えばいいのだろうか。

それが彼女の、常人より強いリーディング・シュタイナーの力によるものなのか、それとも二つの人格を完璧に演じ分けられるほどの没入と呼ぶに相応しい過剰な演技力の賜物なのかはわからない。
いずれにせよ彼女は告白もしていないのに、まるで自分自身が彼に袖にされてしまったかのように感じてしまい、激しい悔悟と嫉妬を募らせてしまっていた。
210第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(2):2012/10/10(水) 23:07:47.99 ID:GHaZjwO4
「だが『オペレーション・ラグナロク』は完遂された。世界は救われ、ラボも仲間も皆救われたのだ。だから……」

じ、っと己を見つめる岡部倫太郎のまっすぐで優しげな瞳。強い意思を感じさせる、彼女が強く憧れていた瞳。
そんな彼の瞳に見詰められている事に我知らず高揚感を感じてしまう……秋葉留未穂。

「だから今一度確認しておきたいんだ。留未穂、お前の気持ちを」
「私の、気持ちは……っ!」

もう『言った』のに。とっくに『伝えた』のに。
この人はまた自分の口から言わせようとするのか。

「ずるい……っ」
「ん?」

ずるい……なんてずるい人なんだろう。

岡部倫太郎の問いに……彼女の身体は『答える』より早く『応えて』しまっていた。
シーツをはだけ、上体を前のめりに彼にすり寄って……そのまま、ベッドの脇にいる岡部倫太郎に抱きついたのだ。


「私の気持ちなんて……とっくに、知っているくせに……っ」


小柄すぎるその体躯で、岡部倫太郎の首にしがみ付き身を寄せる秋葉留未穂。




岡部倫太郎の耳元で囁かれた彼女の声は熱く湿っていて……
その台詞には……押さえきれぬ昂ぶりが秘められていた。




(『第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3)』へ つづく)
211名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 23:09:19.28 ID:GHaZjwO4
というわけで今宵はここまでー
しかしここまで煽っておきながら実は次回はまだエロ突入ではありません
それどころかフェイリス自体出てこなかったり……?
そんなわけでまた今度ー ノノ
212名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 23:11:22.71 ID:zkDOYMaE
焦らすなぁ…。
213名無しさん@ピンキー:2012/10/10(水) 23:21:00.24 ID:dTZxyprZ
PCの前で「続きはまだなのニャ!!」とKBをバンバン叩いてるフェイリスさんが
幻視されますw 乙ww
214名無しさん@ピンキー:2012/10/11(木) 00:27:31.41 ID:nXiaXMJB
総受けじゃないオカリンもいいもんですなあ
215名無しさん@ピンキー:2012/10/11(木) 23:03:34.05 ID:2u7gI1Mb
こんばんわー。
今宵も更新しに来ましたー。
216第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:05:46.58 ID:2u7gI1Mb
4−14:2011/02/13 18:45 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

しばし時間は巻き戻って……ここはメイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』。
バレンタインという一大イベントに於いて、主役たるフェイリスのいないこの店は、意外なことに結構な繁盛を見せていた。

「やっほー! こんちわ〜っす! メイクイーン・ニャンニャンでーす!」
「リンリンちゃんリンリンちゃん。そこは『いらっしゃいませ御主人様にニャンニャン♪』って言わないとダメだよ〜」
「あそっか! ……えっと、いらっしゃいませご主人様ー! ……ニャン、ニャン?」

やけに元気のいい声と、裏腹になんとも慣れぬ接客。
岡部倫太郎にフェイリスの穴埋めを頼まれた阿万音鈴羽は、喜び勇んでミッション達成のための仕事に従事していた。

……猫耳メイド姿(お下げつき)で。

そうでなくとも現代……彼女から見れば過去の、だろうか、それらの風俗に興味津々な娘のだ。その上未来においてバイト経験も豊富である。
猫耳メイドによるメイド喫茶などまさに彼女の趣味と実益を兼ねた仕事と言えるだろう。

「オーキードーキー、おばさま!」
「もぉ〜、まゆしぃまだおばさんって年じゃないよぉ」
「あー! そうだったそうだった、悪いね椎名まゆり。間違っちゃったよ、えーっと、なんか知り合いの人に似ててさー」
「へぇ〜、そうなんだ。でも今はまゆしぃじゃなくってマユシィ・ニャンニャンだよ、リンリンちゃん♪」
「あそうだったそうだった。ごめんごめん、マユシィ・ニャンニャン!」

普通なら童顔の椎名まゆりと間違えるような中年女性などまずいるはずがないのだが、椎名まゆりは華麗にスルーする。
相手がフェイリスあたりだったらあることないこと全部探られてしまいかねない阿万音鈴羽であった。
ちなみに彼女のメイドネームであるところのリンリン・ニャンニャンは当人が名付けたものだ。
鈴羽の鈴の音読から来ているのだろうが、それが己が懸想していた相手を呼ぶ際の愛称と同じである事に果たして何か意味があるのか、どうか。
217第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:08:40.78 ID:2u7gI1Mb
「え、ええっと……その、ご、ご注文を繰り返しますっ! ホットコーヒーひとつ、ケーキセット1つ、ド、ドリンクは、あの……しょ、食前と食後どちらがよろしいでしょうかっ!」

一方で向こうのテーブルでは、これまた猫耳メイド服に身を包んだ漆原るかことルカニャン・ニャンニャンが、なんとも恥ずかしそうに、たどたどしく接客している。
明らかに不慣れで初心者丸出しなのだが、それはそれで萌え愛でるのがここの客たちのマナーである。
また岡部倫太郎の指示で常にベテランメイドが近くに控えており、お客様が許容できる範囲のミスはスルーしつつ致命的なミスは出させぬようにフォローさせている。
結果として彼女……もとい彼は、典型的な可愛さ極振りのドジっ子メイドとして人気を博していた。

「ふうん、やるじゃん。ええっと、漆原るか……じゃなくってルカニャン・ニャンニャンだっけ?」

途中まで口を開きかけ、慌ててこの時代での呼び名に戻す阿万音鈴羽。

「あの……えっと、鈴羽、さん……でしたっけ……?」

今日店で初めて会ったにしてはやけに馴れ馴れしい態度の彼女に、怪訝そうな表情の漆原るか。

「うん、阿万音鈴羽。ここではリンリン・ニャンニャンね! 岡部倫太郎に頼まれて手伝いにきたんだ」
「! 岡部さんと、お知り合いなんですか……?」

彼の名が出てくるとは思わなかったのか、目を丸くしながら、だが今度はまじまじと阿万音鈴羽の姿を注視する。
なんとも元気溌剌とした、いかにも活動的な女性に見える。それも結構な美人ではないか。

「はぁ……どうして岡部さんの周りにはこんな綺麗な人ばっかり……」
「漆原るかだって十分美人じゃないか! 自信持っていいよ!」
「ひゃうっ!?」

ぱしぃん、と尻を叩かれ、思わず飛び上がってしまう漆原るか。
新人猫耳メイド同士のじゃれ合いに、客達は鼻の下を伸ばして見入っている。
218第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:11:47.94 ID:2u7gI1Mb
「あ、マユシィ・ニャンニャン! それなにやってんの?」

ぴょーんと跳ねるような挙動で椎名まゆりの近くまでステップしてゆく阿万音鈴羽。
岡部倫太郎との関係が気になって仕方ない漆原るかはついその後を追ってしまう。

「これ? これはねえ、今日はバレンタインだから、お店のメイドさん全員でお客さんにチョコを配ってるんだ〜♪」
「へぇ面白そう! はいはい! 椎名まゆり! じゃなかったマユシィ・ニャンニャン! あたしもそれやる! やりたい!」
「え? そう? 臨時のメイドさんだから大変かな〜って思ってたんだけど、リンリンちゃんもやってみる?」
「うんうんやるやる! ほら漆原るか……じゃなかったルカニャンも!」
「え、ええ〜! ぼ、僕もやるんですかぁ?!」
「当たり前じゃないか。臨時とはいえあたし達はこのお店に雇われてるんだ。郷に入れば郷に従えってね。岡部倫太郎もきっと喜んでくれるよ!」
「お、岡部、さんが……?」

昼過ぎに彼からかかってきた電話を思い出す。
メイド喫茶で猫耳メイドになって働いてくれというなんとも無茶な願い。
彼も初めは半泣きで必死に拒絶していた。
当たり前だろう。死にそうなほどに恥ずかしいし、何より自分は男なのだ。

けれど事情を聞いてみればラボの仲間であるフェイリスが過労で倒れたとの事。
それを救いたいという岡部倫太郎の情熱と真摯さ、あの痺れるほどに力強い言葉……そして同じラボの仲間を助けなければという使命感。
そんなこんなで彼は結局その頼みを引き受けることになったのだ。

(あの時の電話越しの岡部さんの声……すっごく凛々しくって……)

今思い出すだけで鼓動が自然と速くなり、漆原るかはほうと熱い溜息をついた。
あの声で懇願されたら、どう抗ったって自分には断ることなんてできっこない。
きっとそれがわかっていながら……あの人は自分に電話をかけてきたのだ。
219第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:15:55.30 ID:2u7gI1Mb
(岡部さん、ずるい……でも頼ってくれて嬉しい……かな?)

ぽ、と頬を染める漆原るか。
その手に持っているのはラッピングされたハート型のチョコレート。

「……っていつの間にぃ?!」
「ささ、ほらほら、渡しちゃいましょうよ、ね? ルカニャン?」

お店の先輩メイドが後ろから肩を叩く。
ガクガクと身体を震わせ、泣きそうな顔で振り向く漆原るか。
その瞳は小動物のように何かを必死で懇願していたが……先輩メイドに笑顔で拒否された。

「え、ええっと、あの、その……ぼ、僕のチョコ、う、受け取ってくれますかぁ……っ?!」

真っ赤になって、なんとも恥ずかしそうにチョコを差し出す漆原るか。
それはこんな姿の自分をじろじろと見られながら、こんな台詞を言わされている羞恥プレイ的な赤面なのだが、
渡される側から見ればそれはなんとも艶っぽい、しとやかで奥ゆかしい美女からの愛の告白のようにも聞こえてしまう。

「ふーん、やるじゃないかルカニャン。あたしも負けてられないや」

とんとん、とチョコレートで肩を数度叩きながら、客の前にカツカツと歩を進める阿万音鈴羽。

「ごめんね。あたし好きな人がいるんだ。嘘はつけないからこのチョコレートにあたしの想いを込める事はできない」

御主人様に対し、凡そ猫耳メイドにあるまじき事を堂々と言い放つ阿万音鈴羽。
またその表情がなんとも厳かで、客相手だというのにまるで戦場帰りの傭兵と一般市民さながらである。

「でもその分思いっきりサービスするからさ、それで勘弁して……ニャン♪」

ぐい、と客の胸元を掴み引き寄せて、その懐にそっとチョコートを差し込む。
そしてそのまま首っ玉にしがみついて、本物の猫よろしくにゃんにゃんと頬擦りを始めた。

思わず悲鳴めいた奇声を上げる御主人様。
けれどその声には拒絶の響きが欠片もなく……むしろあり得ぬ事態に対する恍惚の叫びのようにも聞こえた。

「チョ、チョコの贈呈、うちはリンリンちゃんで!」
「お、俺はルカニャンで頼む!」
「俺はリンリンちゃんだ!」「俺も俺も!」
「ルカニャーン! こっちこっち! こっちに来てー!」
「バカ! 俺のが先だ!」
「マユシィ・ニャンニャン、お願いします!」
220第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:17:52.00 ID:2u7gI1Mb
ざわめきと共に喧騒で溢れる店内。
そんな様子を店の端で観察しながら、なにやらメモしつつ写真を撮る女性が一人。

「あれ〜、萌郁さんだ、いらっしゃいませ〜ニャンニャン♪」
「……にゃん」

ぼそり、と呟きながら手で招き猫のようなポーズを取る桐生萌郁。
素なんだか冗談なんだかいまいちわからぬ反応である。
しばらくそのポーズのまま固まっていた彼女は、だがやがて再び熱心にペンを走らせ始めた。

「今日は店番じゃなかったっけ?」
「大丈……夫。店長から電話が、あったの。綯ちゃんが疲れて寝ちゃったから、今日はもう家に帰るって。それで、店じまい……」
「あーそっかぁ、今日は二人とも遊園地だったっけ?」
「……そう」
「それで萌郁さんは休憩に来たの?」

ふるふる、と首を振る桐生萌郁。
その表情は一切変わることなく、どんな感情を内包しているのか窺い知る事ができぬ。

「岡部君に、頼まれて……このお店の、記事、を……」

返事というか、自分に言い聞かせるように呟きながら、先刻書きかけた文章に線を引き書き直す。

「雑誌に載れば、儲けものだし、載らなくても、フェイリスさんに、後で、彼女がいない時の店の様子を、見せられるから、って、岡部君が……」
221第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/11(木) 23:18:52.98 ID:2u7gI1Mb
「そっかぁ、えっへへ〜、オカリンはすごいねえ」

なぜだか無性に嬉しくなった椎名まゆりが思わず破顔すると、桐生萌郁がこくこくと肯く。

「そう、岡部君は、凄い……」
「じゃあじゃあフェリスちゃんがいない分もまゆしぃいっぱいい〜っぱい頑張らないとねえ、えっへへ〜♪」

くるくるり、と機嫌よさげにその場で廻る椎名まゆり。
それを閃光の如き速度で携帯を構え、一瞬にして手動シャッターの連続写真に収める桐生萌郁。

「ええ〜?! 今の撮っちゃったの〜?」
「後で、フェイリスさんと、岡部君に、見せる……」
「そ、それなんだかそれすっごく恥ずかしいよぉ、萌郁さ〜ん?!」

いつもコミマなどでコスプレ写真を撮られる事に慣れているはずの彼女が珍しく恥ずかしがる。
作ったポーズではないありのままの姿を、それも身内に見られることが恥ずかしいのだろうか。
一方ゆさゆさと肩を揺すられ、頭をぐらぐらと揺らしながら、けれどメモとペンだけは放さぬ桐生萌郁。

「だ、め……これも、ラボメンNO.005の、しご、と……」

「もぉ〜、萌郁さぁ〜ん!」

ゆっさゆっさと揺らされる桐生萌郁の視線は、椎名まゆりとその背後にいる阿万音鈴羽と漆原るかに向けられている。
彼女も猫耳メイド服を着てみたかったのだろうか。
けれど岡部倫太郎は、彼女にモエモエ・ニャンニャンを名乗らせ、接客を任せるような愚を犯しはしなかった。




……なにせ十度目のタイムリープで、十二分に懲りているからである。


222名無しさん@ピンキー:2012/10/11(木) 23:23:31.61 ID:2u7gI1Mb
というわけで今宵はここまで〜。
オカリンと各ヒロインのやりとりも無論大好きなんですが
ヒロイン達同士のやりとりとかも大好きなんですよ
そんなわけで今回ちょっとだけメイクイーンの様子をフォローする意味でも書いてみました
こういうのが好きな人がいてくれればいいんですが

そんなわけで次回からまたフェイリス編に戻ります。
ではでは〜 ノノ
223名無しさん@ピンキー:2012/10/11(木) 23:26:02.82 ID:6TGvPuXY
乙なのです。
……モエモエ・ニャンニャン、何をしでかしたのだw
224名無しさん@ピンキー:2012/10/11(木) 23:48:36.70 ID:SJip0g/F
乙なのです
・・・ダル、娘に何を教えたんだw
225名無しさん@ピンキー:2012/10/12(金) 04:07:17.55 ID:IlqJIvFY

るか子のフラグが……アーッ!
226名無しさん@ピンキー:2012/10/12(金) 06:15:23.21 ID:SrgM3PcM
いつもながら乙です。
ルカ子の、”都合のいい女”化になりつつあることを自覚しながらも拒めないというモノローグは読んでいてニヤニヤしてしまいました。
いいねー、オカリン愛されてるねー。
早くも他のヒロイン達とのストーリーが楽しみになって来ました。
というか、フェイリス編なのにフェイリスの出番が異常に少ない(苦笑
227名無しさん@ピンキー:2012/10/12(金) 23:07:04.05 ID:bJMfi+qj
こんばんわー
今週最後の更新です。
これからはずっとフェイリス出ずっぱりの……ハズ(予定)

228第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/12(金) 23:10:29.30 ID:bJMfi+qj
4−15:2011/02/13 20:22 秋葉家

「留未穂……」
「ん……ちゅ、ん、んん……っ」

何かを言いかけた岡部倫太郎の口を、真っ赤になった秋葉留未穂の唇が塞ぐ。
身を乗り出したまま、岡部倫太郎にもたれかかるように唇を吸っていた秋葉留未穂は、口腔内に突然突き込まれた彼の舌の感触に驚き、想像だにしていなかった行為に目を白黒させながらもそれをおずおずと受け入れ、彼の舌を己の舌先でつんとつつき、やがて積極的に絡め始めた。

この過程は……どうしても必要なものだった。

フェイリスは『みんなのフェイリス』であることにこだわりがあるらしく、内心はどうあれこういった場面では岡部倫太郎を拒んでしまう。
無論男と女である。無理矢理襲うことだってできるが、それでは意味がない。
あくまで彼女の側から受け入れる流れでないとこの後が困るのだ。
だからここでは普段抑圧されている分己の想いを吐露することに飢えている秋葉留未穂こそが相手として望ましいのである。
そのための猫耳の奪取であり、大胆になりやすい二人きりというシチュエーションなのだ。

「ん、ちゅ、あ、岡部、さぁん……」

唇を僅かに離し、頬を赤らめ、とろんとした顔で岡部倫太郎を見つめる秋葉留未穂。
自分から為したにしてはあまりに大胆かつ大それた行為に羞恥で身悶えし、太股を擦り合わせ、背中から腰にかけてわずかによじらせる。
突然の事に驚かせてしまっただろうか。もしかして嫌われてしまっただろうか。こんな事をしてくるようなふしだらな娘は嫌いだろうか……そんな想いが脳裏にぐるぐると駆け巡る。

でも、でも、彼もさっき、し、舌で応えてくれたし……!

先刻の口づけを思い返し、そのあまりに妄りがましい行為にますます頬を赤く染め上げてしまう秋葉留未穂。
不安と興奮で心臓が早鐘のように打ち鳴らされ、内側から立ち昇る熱気に軽い眩暈すら覚える。

そして岡部倫太郎の手におとがいを掴まれ、引き寄せられて唇を奪われたとき……彼女の頭は沸騰した。

もはや『チェシャー・ブレイク』など何の用も為してはいなかった。
ある意味当然だろう。今の彼女に冷静な判断力や分析力など望むべくもないのだから。
229第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/12(金) 23:15:58.71 ID:bJMfi+qj
視界がチカチカする。朦朧として思考がまとまらない。秋葉留未穂は高揚と混乱の極みにあった。
全身からじんわりと汗が噴き出てきて服を濡らし、不快で服を脱ぎ散らかしたくなる。

……そして気づいたとき、彼女の体はベッドの上に仰向けに倒れていた。
岡部倫太郎にそっと、優しく押し倒されていたのだ。
彼の行為に反発を覚えぬどころか、むしろ抵抗すらしない己自身に秋葉留未穂は驚く。
真上には肩の上あたりに両手を置いて自分を見下ろしている真摯で真剣な彼の顔。
その瞳を覗き込んだとき、秋葉留未穂は「ああ、私今からこの人に抱かれるんだ……」となんとも他人事のような感想を抱いた。
嫌悪感は感じない。むしろ胸が高鳴り興奮してゆくのが自分でもわかる。

(やっと、やっと、この人と……!)


けれど、風邪でも引いたかのようにぼんやりとする頭でそこまで思いのぼせたところで……
唐突に、秋葉留未穂は己が雰囲気に飲まれ、流されることを『期待』しているのだと、気付いた。


我に返り、みるみると耳まで赤くなる。

あれほどにみんなのため、椎名まゆりのためと一線を引いていたのではなかったか。
己の能力で彼との距離を測り、この気持ちを抑えてきたのではなかったか。
それを、こんな簡単に、それも自分から破ってしまうだなんて……!

「あの、岡部さん、わ、私……っ」

なんて、なんて浅ましい娘なのだろう。こんな恥知らずな女、きっと彼からも、皆からも呆れられてしまうに違いない。
翻って一瞬己を取り戻した彼女は、この場の雰囲気に流されぬようにと心に防壁を張り巡らせ、必死に己を保とうとする。

「留未穂……綺麗だ」

だが……岡部倫太郎のその一言が、せっかく築き上げかけた彼女の自制心という名の心の牙城をあっさりと、そして完膚無きまでに粉砕してしまった。
彼の甘い囁きが耳に響いた途端、彼女の心の柵は砂上の楼閣が如くあっさりと崩れ落ち、痺れるような掻痒と快感が背筋から全身へと走りぬける。
230第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/12(金) 23:18:46.97 ID:bJMfi+qj
もうどうなってもいい、何をされてもいい……そんな風にすら思えてしまう。
いけないと感じる自制心は、むしろ禁忌を犯しているかのような背徳感にすり替わり、
岡部倫太郎の顔が近づき、強引に組み伏せられるようにして唇を奪われても……そこに屈辱を感じることはなく、むしろ屈服し蹂躙される事に後ろ暗い倒錯した悦びすら覚えてしまう。

「ン、あ、岡部、さん……岡部さァ……ンっ」

幾度も唇をかわしながら、甘えた声で訴えかける。
もっと、もっと見て欲しい。もっとして欲しい。もっと激しくして欲しい。この身体の、心の火照りをなんとかして欲しい……!

「ぁ……」

小さな声で、熱い吐息を交えて呟く。
岡部倫太郎の手指が……彼女の衣服に、その胸のあたりに伸びていた。

「ん……っ」

ぴくん、と反応する。
包み込むような手の動き。岡部倫太郎の手指の中で形を変える己の胸。
秋葉留未穂はめくるめく陶酔と胸の高鳴りで、心と身体がどうにかなってしまいそうだった。

「……意外と大きいのだな」
「やぁ……っ、言わないで、ください……っ」

頬を染め視線を逸らし、胸を隠そうとする。
だがその腕を岡部倫太郎に掴まれ、左右に広げられて、秋葉留未穂はより一層胸部を強調するようなポーズを強いられた。

「なぜ言ってはいけない。事実だろう?」
「だって、恥ずか、しい、です……っ」

んにゅ、という言葉にならぬ喘ぎを漏らし、瞳に涙を溜めていやいやと首を振る。
その様はまるでぐずっている幼女のようで、彼女の体型とその姿勢は丁度幼い娘に無理矢理乱暴を働いているようで……それでいて彼女の胸はしっかりと己が成熟した大人であると自己主張をしていて、
恐ろしいほどの背徳感から、岡部倫太郎は己の背筋からぞわぞわと沸きあがる劣情を必死に押さえつけた。

岡部倫太郎はやや上背のある身長178cm、一方の秋葉留未穂はたった2歳違いだが身長は143cmしかない。背丈的に言えば大人と子供ほどに違うのだ。
彼らのしている行為を考えれば、それが背徳的に映るのもだから已む無しと言えるかもしれない。
231第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/12(金) 23:22:35.60 ID:bJMfi+qj
「何を恥ずかしがる事がある。胸部は女性の象徴だし異性に対するアピール部分でもある。そこが発達している事はなにもやましいことではなかろう」
「でも……だって……っ」

くすん、くすんと鼻を鳴らしながら、潤んだ瞳で己に覆い被さっている岡部倫太郎を上目遣いで見つめる。
そこには隠し切れぬ羞恥と昂ぶりと……そして、僅かながら彼を責める色が混ざっていた。

「その、え、えっちな娘だって思われたら、岡部さんに嫌われてしまいます……っ!」

顔を横に背けて、だが薄暗がりの中でわかるほどに頬を朱に染め、目尻に溜まった涙がつう、と鼻先を伝って流れて落ちる。
彼女が嫌がっていたのは彼の行為そのものではなく、むしろ己の本性を知られる事で彼に嫌われてしまうのではないかという本能的な怖れに他ならなかった。

「俺が……俺がそんな事で留未穂を嫌うとでも思っていたのか?」
「でも、だって、だって……!」
「見損なうな! 腐ってもこの鳳凰院凶真、その程度の事で動じる男ではないわ!」
「あ……ンッ! んう、ん、ちゅ、あ……ん、んあっ、んふ……ぅ、ん……」

すんすんとすすり泣く秋葉留未穂に覆い被さり、その顎先に指を宛がい強引に己の方に向けさせて唇を奪う。
そしてじたばたと暴れる彼女の腕を無理矢理左右に押し広げ、キスをしながらその胸に手指を這わせた。
一瞬背筋を反らせ、大きく腕を振ってもがく秋葉留未穂だったが、彼が胸に触れる指先と唇を犯す舌先の優しさに脳髄を痺れさせ、やがてゆっくりと身体中を弛緩させて彼の為すがままに身を任せてしまう。

「何も恐れることはない。お前は綺麗だ、留未穂。この……あー、乳房だとて立派なお前の一部なのだから、何も恥じることはないのだぞっ」
「あ、岡部、さぁ、ん……ん、んあ、んちゅ、ふぁ……」
232第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/12(金) 23:25:03.21 ID:bJMfi+qj
はふ、と熱い吐息を吐いて、蕩けた顔で岡部倫太郎を見つめる秋葉留未穂。
一方岡部倫太郎は最初につい『おっぱい』と言いそうになって、慌てて脳内で適切な単語を探し終え、ほっと一息つく。

秋葉留未穂の胸は実際やや大きめで、サイズ的には阿万音鈴羽と同じくらいだろうか。相対的に小柄すぎるその体格に比すればかなり大きめで、彼女の着用しているメイド服の構造的に下から押し上げられるような形となっており、それが一層強調されていた。

岡部倫太郎はやがてメイド服の胸元のボタンを外し、その胸部を顕わにする。
白い布地の下から現われたのは上品にデザインされた白いブラジャーで、それが薄明かりの中で妖しく煌めいていた。

「留未穂……あー、背中に手を回すぞ」
「あン、岡部、さぁ、ん……んっ!」

ベッドと彼女の背中の隙間に手指を這わせ、ブラのホックを探す。
岡部倫太郎の手指で背中をこすられ、びくん、と反応してしまった秋葉留未穂は、だが震えながらも自ら背筋を反らせ、彼の行為を手伝った。

「ん……ここか?」
「あ、もうちょっと、下……ンッ、あ、そこ、です……きゅふっ!?」

パチ……という小さな音と共に何かが外れる音が聞こえ、同時に秋葉留未穂の胸部がやや形を変える。
指先をブラジャーに引っ掛けて丁寧に抜き取ると……メイド服に挟まれた彼女の生の双丘がまろび出た。

「ふむ、やっぱり思った通りだ。綺麗なものじゃないか、留未穂」
「あ、やだ……っ」

羞恥に再び胸を両腕で覆い隠そうとするが、それが通用しない事は先刻からわかりきっているはず。
だからもしかしたら……彼女は岡部倫太郎に強引に組み敷かれる事それ自体を望んでいたのかもしれない。
233名無しさん@ピンキー:2012/10/12(金) 23:30:54.39 ID:bJMfi+qj
というわけで今宵はここまでー。
フェイリス可愛いよ留未穂。
それではまた来週以降にお会いしましょう。 ノノ
234名無しさん@ピンキー:2012/10/12(金) 23:37:21.76 ID:pj3Hxwjs
身長143でEカップだからな、相対的には萌郁さんより大きいくらいに感じるはずだハァハァ(;´Д`)
235名無しさん@ピンキー:2012/10/13(土) 00:16:58.68 ID:5O5WZhVx
乙です
オカリンってやればできる子だったんですねwww
236名無しさん@ピンキー:2012/10/13(土) 06:02:23.34 ID:J2CT4HG6
237名無しさん@ピンキー:2012/10/13(土) 11:55:03.71 ID:7V8PdzcK
フェイリスたんに手を出すなんてオカリン絶対に許さない
絶対にだ
238名無しさん@ピンキー:2012/10/13(土) 13:52:16.54 ID:y3rIxtIe
乙っす
やべーな、オカリン
既にかなり経験値高いんじゃないか?
もう本命にいけるんじゃないのw
239名無しさん@ピンキー:2012/10/14(日) 02:42:01.75 ID:tdsKT5n0
>>237
涙ふけよ、ダル
240名無しさん@ピンキー:2012/10/15(月) 23:10:33.73 ID:mmMnD+St
こんばんわー。
今宵もできれば更新させてくださいませ。
241第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:12:40.42 ID:mmMnD+St
4−16:2011/02/13 21:03 

「ん……ふぁ、あン、あっ、んっ、んあ……っ、岡部さ、岡部、さ……ぁ、ンッ!」

それから凡そ20分ほど、岡部倫太郎は彼女の胸を執拗に攻め立てた。
感触を確かめるかのように、形が変わるほど様々な揉み方を試す。掌で、指で、やがては舌先で、唇で。
胸全体から乳輪、乳首に至るまで、ひたすらに丁寧に、優しく、だが情熱的に。

始めは何かされるたびに悲鳴に近い声をあげ、唇を噛んで耐えていた秋葉留未穂は、だがやがてくぐもった吐息を漏らすようになり、今ではすっかり甘い喘ぎで悶えている。
その胸は岡部倫太郎の唾液によってすっかり濡れそぼっており、ベッド上のランプが照らす薄明かりによってぬらぬらと淫らに光り煌めいていた。

「ふぁ、あん、ぁ、岡、部、さぁ、ん……?」

岡部倫太郎の執拗な責めが止み、ゆっくりとその唇が、そして顔が離れてゆく。
だがようやく一息つけるようになったというのに、彼女の喉から漏れた言葉には安堵というよりもむしろどこか欲求不満げな響きが込められていた。

「留未穂……見てもいいか?」
「あ……っ」

ぞわ、と背筋に痺れるような感覚が走り、彼の視線の先に気付いて一瞬その身を強張らせる。ただでさえ熱に浮かされたような気分だというのに、さらに身体中が火照ってゆくような感じがした。
彼の視線の先にあるのは……メイド服のプリーツの入ったスカート部分、そしてその内側……即ち女性の最も大切な場所、乙女の園である。
秋葉留未穂はもぞ、とその身を動かし、身体を斜めに傾けると、右脚をくの字に折り曲げ、左足を伸ばして……その部分が見えやすいような、だが同時に隠しやすそうなポーズを取った。
242第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:15:09.74 ID:mmMnD+St
「大丈夫か、留未穂?」
「ぁ……ハイ……っ」

岡部倫太郎の真剣な、低い声。
その声を聞いただけで、高揚でゾクゾクと背筋が震えた。
つう、と口の端から無意識に涎が垂れてしまう。

くちゅ、という彼女自身しか感じられないほんの微かな音。
今から彼が覗き見るであろう己の花園が、淫靡な期待からか今まさにと湿りつつあるのを感じ、羞恥でますますその頬を赤く染め上げる。

(ああ、ああ、彼のこの声を聞いて抗える女の人なんて……本当にいるのかしら……?!)

もう駄目だった。彼女はすっかりのぼせ上がり、岡部倫太郎に夢中になってしまっていた。
今の彼女なら、彼に頼まれたら大概の願いを悦んで叶えてしまうだろう。それがどんな願いであれ、彼女の手が届く範囲なら。

無論ずっと以前から彼を好もしいと思っていたし、その胸に秘めた想いが、ときめきがあった。
だがまさかに想いを確かめるよりその後の方が、求めていた時より求められている今の方が、これほどまでに彼に彼に傾倒してしまうだなんて、彼女自身思ってもいなかったのだ。


そんな彼女も……まさかに、今の自分と全く同じ述懐を、つい先日既に別の女が抱いていたなどとは想像だにできまい。


ゆっくりとスカートがずらされて、その遅さにむしろ彼女の方がやきもきしてしまう。
じらされて、じらされて、そろそろとたくし上げられるスカート。
不謹慎なことに、そうやって焦らされる事で彼女の興奮はますます煽られ、彼の細かな所作をも逃すまいと、その身体はますます感度を高めてゆく。

「……濡れているな」
「そんな落ち着いた声で……言わないで下さい……っ」

甘えた声に混じる僅かな非難の色。
彼の声色に高揚や劣情の色が含まれていないことが不満なのだ。
もっと自分で興奮して欲しい、欲情して欲しい……今や彼女はそんなことすら頭にのぼせていた。
243第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:17:36.63 ID:mmMnD+St
そして、それがゆえに彼の態度に不安になる。
自分は彼の劣情を煽り立てるほどの価値も魅力もないのだろうか、と。
この小柄な身体がいけないのだろうか。それとも子供っぽいこの見た目が悪いのだろうか。
少女としての魅力と女としての魅力は別のものだ。自分には……ひょっとして大人の女としての色香が足りていないのだろうか。
岡部倫太郎は……こんな自分に、性的な魅力を感じてくれていないのではないだろうか。
そんな考えが頭の隅によぎった途端……背筋がゾッと冷たくなる。

どうしよう……嫌だ、それは嫌だ。そうであって欲しくないと心から想う。

他の誰に好かれたって、幾十幾百の人に好かれたって、ちやほやされたって、
この人に嫌われるのだけは、嫌だ。
それだけは、それだけは絶対に耐えられない……っ!

「岡部さ……ンッ!? ぁっ、ン、ア、アァ、くふんっ!」

だが彼女のそんな懊悩は、岡部倫太郎の手指という名の濁流にいとも簡単に押し流されてしまう。
切なげな声で彼の名を呼んだ秋葉留未穂は、その指がショーツの上をなぞるように動くと背筋を大きく反らし、昂ぶりによる涙を迸らせながら身体を小刻みに震わせた。
まるで電流を流されて身体が勝手に痙攣しているような感覚。こんな感覚は生まれて初めてである。

幾度も幾度もこすられて、その都度はしたない声を上げ跳ね悶えた彼女は、自覚できるほどに淫らな声色に、自分自身で一層に高揚させてしまう。
そして遂に彼の手指がショーツの中にするりと入ると……秋葉留未穂は声にならぬ悲鳴を上げて大きくその身をのけぞらせた。

「あ、そ、そこは、ぁ……っ!」

岡部倫太郎の指先は、やがて彼女の股間にあるぷっくりとした突起物にたどり着く。
今この時点ですらこれ程に感じてしまっているのに……“そこ”を弄られたらどうなってしまうのだろうか。
怯えと期待の入り混じった甘い疼きが彼女の下半身から競りあがってくる。
244第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:20:46.00 ID:mmMnD+St
「あ、ぁ、岡部さ、あ、きゃふぅぅぅぅぅっ!」

彼の指先がその先端を軽く摘むと……秋葉留未穂は声にならぬ悲鳴を上げて、全身をガクガクと震わせるとそのままくたりとベッドの上に崩れ落ちた。
幾ら興奮しているとはいえ彼女はこれが初体験である。そこまで性感が発達しているわけではない。
だからそれは実際の性感ではなく、むしろ彼女自身の過剰な期待によって精神的に達してしまったのかもしれない。

「……少しは感じたか?」
「はぁ、はぁ……よく、わかりませ……んっ! ぁ、ん……っ」

彼女も年頃の娘である。今まで己を慰めた事がないではなかった。
目の前の男を幾晩も夢に求めながら、シーツの中で甘くくぐもった声を噛み殺していた事だってある。

けれど……今日感じているこれはそれまでのものとはまるで別物だった。
まるで雷に打たれたような衝撃。これが達する、ということなら、今まで己が自ら慰めていたあの行為は一体なんだったのだろう。

ぼんやりとそんな事を頭にのぼせている秋葉留未穂の耳に……カチャカチャという音が響く。
それが岡部倫太郎がベルトを外す音だと気付いて……横になっていた彼女の頬の赤味が一気に増した。
245第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:22:24.95 ID:mmMnD+St
おそるおそる顔を向けてみれば、なんともグロテスクな肉の棒が彼の下半身から生えている。
平静な状態であれば彼女はその異物に嫌悪感なり忌避感を抱いたかもしれない。
だが今の彼女はその形と漂う臭気に、なぜか奇妙な陶酔と興奮を覚えてしまう。

「留未穂……」
「岡部さん……あ、いやぁ、ん……っ」

くの字に曲げていた脚を掴まれ、びしょ濡れのショーツがずらされ片足だけ脱がされて、その後両脚を無理矢理M字に広げられる。
秋葉留未穂は口で嫌がり上体をもぞもぞと蠢かせるが、それ以上の抵抗はしないし、できない。それどころがしようとすら思っていない。
彼女の身体も心も……今やすっかり岡部倫太郎を受け入れる準備が整っていたのだ。

「行くぞ……!」
「ハイ……ッ」

岡部倫太郎が圧し掛かるように覆い被さり、秋葉留未穂は胸の前に手を組んで、祈るような姿できゅっと目を閉じた。

「ん、くふん、ぁ、あ、あ、ああああああああああああああああっ!!」

ずぶ、ずぶ、ぷつ、ぷつつ……ずぶっ。

柔らかく、だが実の詰まった肉壁を無理矢理押し広げるような感覚。阿万音鈴羽の時にはなかったものだ。
彼女の秘所はそれほどにせまく、きつく、そして小さかった。
秋葉留未穂はあまりの激痛に悲鳴を上げ、だが途中から口を無理矢理閉じて唇を噛み締める。
見る間に彼女の小さく愛らしい唇の先が切れ、その白い肌に紅の血糸が流れた。
246第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/15(月) 23:24:30.25 ID:mmMnD+St
というわけで今宵はここまでー。
乙女乙女したフェイリスとか 好きです。
それではまた次回以降でお会いしましょう。
ではでは ノノノ
247名無しさん@ピンキー:2012/10/15(月) 23:28:54.03 ID:H2MNTPcU
乙でした。
しかしあの二人の体格差だといろいろ苦労するだろうなぁ。
69なんか不可能じゃなかろうかw
248名無しさん@ピンキー:2012/10/15(月) 23:31:46.50 ID:aPMA/tkI
おつおつ
249名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 00:41:03.53 ID:/Se7dDBl
どうみてもメインヒロインです本当にありがとうございました
250名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 01:02:39.02 ID:pnZ8yrRR
けしからんもっとやりたまえ
251名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 23:07:29.00 ID:Vcq75p++
こんばんわー。
やれと言われたらやるしかないでせう。
というわけで今宵も更新しに来ましたー。
252第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/16(火) 23:11:20.26 ID:Vcq75p++
4−17:2011/02/13 21:21 

「ぐ……大丈夫か、留未穂!」

彼女の感じている痛みは結合部が狭すぎるゆえだろう。それは逆に言えば岡部倫太郎の陰茎が強く圧迫されているという事でもある。
あまりの締め付けに思わず射精してしまいそうになるのを必死で堪えながら、岡部倫太郎は痛みのあまり我知らずぽろぽろと落涙している秋葉留未穂に声をかける。

「血が出ている! 我慢をするな! 叫んでいいんだ! 留未穂っ!」

岡部倫太郎の叱咤するような声にびくり、と身を震わせて、ようやく彼女の噛み締められていた唇が開く。
きっと思考も纏まらぬ、まともに考え事も困難な状況だろう。
それでも岡部倫太郎の声が届いたのは、おそらく彼が呼んだ彼女の名前のせいである。
留未穂、という名を彼が口にすると、まるで魔法のように彼女は岡部倫太郎の言葉に従ってしまう。まるで条件反射か何かのように。
彼女にとって、秋葉留未穂にとって、恋しく愛しいその男から名前を呼ばれる、というのはそれほどの事なのだ。

だがようやく開いても、彼女の口はぱくぱくといたずらに開閉を繰り返すのみで、まるで空気を求め苦しんでいる金魚のようだった。
あまりの痛ましさに岡部倫太郎は己の肉茎を引き抜こうとするが……秋葉留未穂の腕が彼の首に絡みつき、それを押し留める。

「留未穂……、お前、何を……っ!」
「………、…、い……」

微かに、消え入るような声で、秋葉留未穂が何かを呟く。

「どうした? 何が言いたい?」

やさしく頭を撫で、首筋をさすりながら、岡部倫太郎がなるべく平静を装って尋ねる。

「……ち、…、い……」
「すまない留未穂、良く聞こえない」
「き…ち、い、い……」
「……留未穂?」
「気持ち、い、い……っ」
「な……っ?!」

愕然とした岡部倫太郎に下には……唇から血を滴らせ、涙を流しつつ、くしゃくしゃになった秋葉留未穂の笑顔があった。
253第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/16(火) 23:19:36.89 ID:Vcq75p++
「嘘をつくな! そんな辛そうな顔で何が気持ちいいだ! 今ゆっくり引き抜くから……おわっ?!」

腰を浮かせた岡部倫太郎を押し留めるように首に回した腕の力を強め、前のめりに引き寄せる秋葉留未穂。
そして鼻と鼻がこつんと当たる距離まで顔を近づけると僅かに腕の力を緩め、ふるふると力なく首を振った。

「嘘、じゃ……ない、です……っ」
「何を言う! やせ我慢なのが丸わかりではないか! すまない、俺が性急過ぎたのだ。次はもっと……!」

笑顔のまま再び首を振る秋葉留未穂。それはそのまま消え入りそうなほど儚い笑みで、岡部倫太郎は思わず息を飲んだ。

そう、岡部倫太郎にとっては幾度もやり直せる『次』がある。
けれど……今、この刹那の秋葉留未穂にとって、これはたった一度の、生涯でただ一度の『初めて』なのだ。

「貴方の言うとおり……身体は、とっても、痛い、の……」

眉根を強く寄せて、一瞬笑顔が歪む。意志の強い彼女が隠しきれていないのだ。きっと相当に痛いのだろう。

「でも……想いが、心が、気持ち、いい、から……っ」

秋葉留未穂の言葉に、その笑顔に、岡部倫太郎の胸は苦しいほどにきゅっと締め付けられる。
肉体の充足と精神の充溢は別のものなのだ。果たして自分は……あの時、牧瀬紅莉栖にここまでの覚悟をさせる事ができていただろうか。
お互いにいっぱいいっぱいで、相手を思い遣る気持ちも気遣う余裕もありはしなかった。
準備も整っていなかった彼女を無理矢理押し倒して、ただ己の欲情を満たすことしか考えていなかったではないか。

岡部倫太郎は、学んだ。
そして二度と忘れまいと誓った。
たとえこの後彼女が……秋葉留未穂が全てを忘れ去ってしまっても、彼女のその言葉を、その想いを、覚悟を……


今この時を、決して忘れまいと。


254第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/16(火) 23:22:28.49 ID:Vcq75p++
「ん……ふぁっ? ちゅ、あ、んっ、ふぁん、や、ぁ……くふんっ」

岡部倫太郎は彼女の唇に舌を這わせ、その流れる血を舐め取ってゆく。
しょっぱい鉄のような味……秋葉留未穂の味を味わいながら、そのまま彼女の唇を奪った。
そして舌を絡め悶え喘いでいる彼女の胸に手を這わせ、揉みしだき、乳首を抓み弄り倒す。

阿万音鈴羽との交合で、時間をかける事で挿入時の感覚にある程度慣れるという事は学んでいたし、彼女の気分を盛り上げ肉体を刺激することで、潤滑油としてのバルトリン線液を一層に分泌させる狙いもある。

身長差から秋葉留未穂の唇や胸を攻めるにはかなり腰を浮かせねばならず、背中がかなり痛む。
色々思案していた岡部倫太郎は……やがてふと思いついたように上体を浮かせた。

「岡部さ……きゃっ?! やんっ、あ、こ、これ……っ」

秋葉留未穂が気付いた時には、彼女はベッドの上に座り込んだ岡部倫太郎の腰の上に、密着対面してしがみついていた。無論下半身は結合したままで。
いわゆる対面座位と呼ばれる体位である。
岡部倫太郎の上に跨るようなこの体位であれば、多少の身長差は緩和できるはずだ。
ただ、体格に比して大きめなその胸は、彼の身体に強く押しつけられる格好となるが。

「あ、ん、ちゅ、れる、んっ、ふぁ、ぁん、やぁ、んちゅ、ちゅぱ、れろ……んちゅっ」

先刻までと変わって、積極的に舌を絡めキスをねだる秋葉留未穂。
ベッドに押し倒され上から覆い被さられた状態と異なり今は目線の高さが近く、気持ち的にも『してもらう』から『求め合う』にシフトしているようだ。

「ん、ふぁん、んちゅ、あ、岡部さん、ちゅ、んんっ、ぁ、岡部さぁ、ん……ちゅ、れるっ、んんっ」

すすり泣くような甘い鳴き声を上げ、幾度も幾度も蕩けるようなキスを繰り返す。
彼女自身すら気づかぬうちに……その腰が、僅かながら官能的に蠢いた。

「留未穂、もう大丈夫なのか?」
「ふぁ、ん……なん、です、かぁ……?」

とろとろに蕩けるような甘えた声で、秋葉留未穂がどこか舌足らずな口調で尋ねる。

「あー、痛みだ。腰が……動いているぞ」
「え? あ、やぁ……っ!?」
255第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(3):2012/10/16(火) 23:25:07.25 ID:Vcq75p++
指摘されて初めて気付いたのだろう。真っ赤になった秋葉留未穂は岡部倫太郎の首に回した腕の力を強め、ひしとしがみつく。
だが密着したがゆえに、逆に彼女の腰が、尻廻りが艶かしく動いている事が互いにはっきりとわかってしまった。

「やだ、知らない、知りません、こんな、こんなの……っ」

自分自身の淫蕩さが信じられなかったのだろう。イヤイヤと首を振りながら、泣きそうな声で訴える。
自分はこんな淫らな娘ではない、信じて欲しい、だから嫌わないで欲しいと。

「留未穂。自分で動いてみないか。痛くない範囲で、少しずつで構わない」
「え、でも、そんな……っ」
「留未穂」
「は、はい……んちゅ……れろ、ん……んっ、んぁっ、んっ、ちゅっ、んっ、んん……っ」

岡部倫太郎に唇を奪われた秋葉留未穂は、舌を絡めあいながら少しずつ意識して腰を動かしてゆく。
最初はたどたどしく、おずおずと、だが徐々に、少しずつ強く。

「んっ、ふぁ、ぁ、ぁ、ぁ、んぁっ、おか、べ、さぁっんっ、んちゅ、ふぁ、あ、だめぇっ! だめですっ!」

少しずつ少しずつその身を慣らしていった秋葉留未穂は、やがてその腰をリズミカルに律動させ、痛みの内に小さな快楽を感じ始めていた。

「何が、駄目、なのだ、留未穂っ」
「これ以上、これ以上したら、私……っ! んっ、ぁ、ふぁんっ、や、やぁっ!」

サイズ差ゆえの強い締め付けに必死に耐えながら、岡部倫太郎は彼女を抱え、胸を、首筋を、唇を攻め立てる。
秋葉留未穂は膝立ちで彼の上に跨り、嬌声を上げながら我知らず大きく腰を振っていた。

「あ、あ、あ、あぁっ、おかべさっ、わたし、ぃ、も、もぅ……っ」
「ああ、俺も、限界、だ……っ」
「あ、あ、岡部さん、おかべさん、おかべさん、おかべさんっ、おかべさぁんっ! おかべさ、ぁあ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

秋葉留未穂の腕が引き攣るように固まり、その背中を折れるかと思うほど大きく後ろに反らして
どくん、どくんと……
彼女の内に、岡部倫太郎の白濁が注がれていった。




(『第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4)』へ つづく)
256名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 23:28:03.83 ID:Vcq75p++
というわけで今宵はここまでー。
フェイリス可愛いよ留未穂。
健気で献身的な留未穂とかもたまにはいいですよね。
そんなわけでまた次回お会いしましょう。 ノシ
257名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 23:29:13.81 ID:kLEce/oG
乙です。
留未穂健気すぐる。
そして大事な物を手に入れたオカリン。同時に重い物も背負って……。
しかし次も留未穂のターン?
258名無しさん@ピンキー:2012/10/16(火) 23:42:21.85 ID:2X63ch/z
まぁ、出してすぐさよならって訳にも行くまいよ
259名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 00:49:53.49 ID:XPlgMCbV
乙っす。
スマガにもあったが、ループしている主人公としていないヒロインとの覚悟の差というのは描かれるべきだよな。
主人公には”何度やり直しても目的を果たす”という意思はあれど、同時に”何度でもやり直せる”っていう甘えもある。
そこでこの一瞬こそが全てと挑んでいるヒロインの存在はやっぱ胸にくるね。
さてはてオカリンはこの後どんな決断をするのか
260名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 01:31:12.50 ID:qdPnds1X
ひょっほーい!
よくも俺の貴重な睡眠時間を奪ってくれるな
261名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 19:50:08.68 ID:6eaF9RWt
鈴羽、フェイリスときて次は誰だろう
262名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 22:34:29.53 ID:eEfvZt0Q
ルカ…いや、何でもない。
263名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 23:06:20.64 ID:eoJ1tTC8
こんばんわー
今宵も更新しに来ました
しばしの間お付き合いくださいませー
264第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/17(水) 23:10:45.27 ID:eoJ1tTC8
4−18:2011/02/13 21:38 秋葉家

「ん、んちゅ、あン、岡部さぁん……ん、ちゅ、ちゅ……っ」

膣内にたっぷり放精されたまま、互いにまだ繋がったままで、半裸の秋葉留未穂と岡部倫太郎は乱れ汗ばんだ衣服を気にする気振りもなく互いの唇を貪っていた。
だが、その左腕を彼女の背中に廻しながら……
岡部倫太郎は、右手をこっそりと後ろに廻し、何かをそっと取り出した。

「んちゅ、にゃ、凶真ぁ、ちゅ、んちゅ……ふぁ。凶真、凶真ぁ……♪」

甘えた声に猫撫で声のような媚びた音色が混じる。だが当人は未だ気付かない。
彼女は岡部倫太郎に跨ったまま、無自覚にすりすりと尻を動かして彼の腰を艶かしく刺激している。

「いやらしい動きだな、フェイリス。欲求不満なのか?」
「んちゅ、にゃぅん、凶真ぁ、凶、ま……ウニャ?」

フェイリス、名を呼ばれた事でようやく彼女は気が付いた。
己がいつの間にかいつもの自分、即ち猫耳メイドたるフェイリスの口調となっていることに。
そして己の頭部にいつの間にかに猫耳が戻っていることに。

「フニャ?! きょ、凶真? こ、これはどういうことニャ?」
「どうしたもこうしたもない。あの時地面に落ちていたものをたまたま拾ったのだ。ただ……そのなんだ、返す機会を失ってしまってな」

嘘である。阿万音鈴羽によって奪った猫耳を、眠っている彼女を運んでいる間にこっそりとポケットにねじ込んでもらっていたのだ。
だだ、既に動揺と高揚の極みにある今の彼女では、もはや『チェシャー・ブレイク』によって彼の真意を見抜く事は叶わない。

「だがまさか……自分自身で演じ分けの制御ができんとはな、驚いたぞ」
「フニャッ!? ニャゥッ、あ、駄目ニャ駄目ニャ! 離れるニャア!」

冷静に考えれば何も知らない岡部倫太郎は猫耳を付けた途端に人格が変貌する彼女にまず驚嘆するべきで、彼の落ち着き払った態度は少々不自然だ。
だが異なる世界線の知識によって己自身が知らぬ部分も全て知られているかもしれないし……そんな混乱がその違和感を追求させることなく押し流す。

一方で行為後に唐突に猫耳を装着した件については特に追求もされなかった。
265第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/17(水) 23:15:20.39 ID:eoJ1tTC8
「なぜ離れる必要がある。ついさっきまであんなに愛し合っていたではないか」
「愛……っ、フニャ、ニャウゥ〜……と、とにかく駄目なものは駄目なんだニャ!」

岡部倫太郎の口から発せられた言葉に真っ赤になって蕩けるような顔でふにゃふにゃと一瞬全身を弛緩しかけたフェイリスだったが、慌てて我に返って腰を浮かせ岡部倫太郎の逸物を引き抜こうとする。

「理由を話せ! そうでなければ納得できん」
「ミャウッ!? フニャァアァアァァアアアッ!!? ……だ、駄目ニャア、今イッたばかりでビンカンになってるのニャ……ニャウッ?! ミュッ! ミャウゥンッ!!?」

岡部倫太郎に腰を押さえられ、そのまま下から突き上げられる。
発情期の猫のような甘い鳴き声を上げさせられたフェイリスは、泣きそうな、だがやけに切なげな声音で岡部倫太郎に懇願するが、彼はそれを黙殺する。

「フミャン! だって、だってぇ……っ! ニャニャッ! ニャぁン!」
「だって……なんだ?」
「それ、それはぁ……フミャン!? フミャウぅ……ッ」
「はっきり言ってくれないとわからんぞ、フェイリス」
「フミャァァアアアアッ!? ズンッしちゃダメニャ! ズンッだめニャ! あ、あ、フェ、フェイリスは、フェイリスはぁ……
フェイリスはみんなのフェイリスなのニャ! 誰か一人のものになったらいけないのニャァアァアアアアッ!! ニャッ!? フニャぁンッ!」

岡部倫太郎の執拗な責めに、フェイリスは遂に己の本心を白状してしまう。
メイド喫茶のアイドルたるフェイリスは皆の偶像……ゆえに誰か個人のものになってはいけない、そう言いたいらしい。
いつもなら廚二病全開の受け答えをしているところなのだろうが、流石に一度達した後に続けて激しく責め嬲られているこの現状で、そこまでの精神的余裕はないようだ。
266第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/17(水) 23:19:16.85 ID:eoJ1tTC8
「それは屁理屈だなフェイリス! さっきお前は俺に望んで抱かれていたのではなかったか!?」
「そっ、それは、留未穂、だから……んっ?! ちゅっ、んんっ、ぷぁ、あン、凶真ァ……」
「……それが屁理屈だというのだフェイリスよ」

フェイリスの必死の反駁を唇で塞いでしまう岡部倫太郎。
フェイリスもまたフェイリスで、唇を奪われた途端言葉も抵抗も止めて、喉の奥からくぐもった鳴き声を上げながら岡部倫太郎の舌にしっかりと舌で応え奉仕を始めてしまう。
唇を求められたらそうするものだと、既にこれまでのキスで彼に教え込まれていたからだ。

そう……これこそがフェイリス攻略の最終段階。
“フェイリスを”抱く、そのためにこれは必要はプロセスだった。
秋葉留未穂として達した彼女をフェイリスに戻し、事後の余韻で高揚している彼女に攻勢をかける……それがタイムリープを繰り返してきた岡部倫太郎がようやくたどり着いた結論である。
童貞を脱したばかりの彼がいきなりこれほど手際よく初体験の娘を酔わせられるはずもない。
彼もまた彼で幾度も玉砕を繰り返してきたのだ。

「フェイリスとしてのお前は誰か一個人に傾倒するようなことはない、そう言いたいのだな?」
「んちゅ、そ、そうだニャ……だから早く、ちゅっ、その、コ、コレを……んにゅっ」

これ以上性的なことをするな、と頼み込んでおきながら、その口で彼の唇、そして舌への奉仕を止めぬフェイリスは、肌を桃色に染めてもじもじとしながら、己の尻を僅かにくい、くいと蠢かす。

「フェイリス、お前今日は確か店に来た客に全員チョコを配っていたな。それも先着50名だかにはお前自身の手作りのチョコをだ」
「そ、そうニャけど……それがどうかしたニャ?」

唐突に臥所の外の事を持ち出され、何が言いたいのか理解できずおろおろと当惑するフェイリス・ニャンニャン。
267第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/17(水) 23:21:55.37 ID:eoJ1tTC8
「そして遅れてきた俺に、わざわざ取り置いてあった手作りチョコをくれた」
「そ、それは凶真にはいっつもお世話にニャってるから、感謝の気持ちを込めて……!」
「ならばなぜ……俺のチョコは他のオリジナルどもと形が違うのだ」
「ニャッ?!」

フェイリスは絶句した。チョコを受け取ってからこの家に来るまで、岡部倫太郎は誰とも接触していないはずである。
だからそんな事を彼が知りようはずがない。そこに込められた自分の気持ちなんて知られるはずがないのに……!

「ニャ……ニャんでそれを……?!」
「お前に貰ったチョコを自慢するダルに写メを送られてな。夕飯替わりに食べようとした俺のチョコと形が違うことに気づいたのだ」
「ニャ、ニャニャ……ッ!」

岡部倫太郎は大枠では嘘は言っていない。ただしそれは五回目のタイムリープの時の話だが。
その時点では彼は未だこの家にたどり着くこともできず、チョコだけもらって早々にラボに退散していたのだ。
そして小腹が空いてチョコでも食べようかといったところで、橋田至の指摘でその事実に気づいたのである。

壁際に追い詰められた猫のような引きつった顔で、だが頬を染め恥ずかしそうに上目遣いで岡部倫太郎を見つめるフェイリスは、まるで主人に悪戯が見つかって部屋の隅に縮こまっている仔猫のようだ。
証拠は上がってしまった……もはや言い逃れはできない。
268第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/17(水) 23:23:22.45 ID:eoJ1tTC8
「聞かせてくれ。フェイリスは俺が好きなのか、嫌いなのか」
「嫌いなわけないニャ! 好きニャ! 凶真のこと大好きニャ! でも、でもでもぉ、ダメ、なんだ、ニャン……ニャウンッ?! ふ、ふにゃぁぁぁぁ……っ」

岡部倫太郎が嫌い、という言葉に過剰に反応し大慌てで否定するフェイリス。その腰が艶めかしく動き必死に彼にすがりつく。
だが現在の彼女の膣内には未だ彼の肉茎が挿入されたままなのだ。
己の動きで身体の芯を刺激されてしまったフェイリスは、真っ赤になって桃色の吐息を吐き出した。

「ならば俺一人よりも店に来る客達の方がずっと大事……そういう事か?」
「違うニャ違うニャ! そうじゃないニャ!」

岡部倫太郎の問いを……フェイリスは泣きそうな声で叫び、否定した。

「これ以上凶真に優しくされたら……凶真のこと好きにニャっちゃったら……フェイリス、戻れなくなっちゃうニャァ。お客様の前でもきっと凶真の事ばっかり考えちゃうニャ。みんなのメイドでいられなくなっちゃうニャ。
だから……だからダメなのニャ。お願いキョーマ、フェイリスをみんなのフェイリスでいさせて欲しいニャ……」
「フェイリス……」

岡部倫太郎は……己の上にまたがっているフェイリスをきつく抱き締める。

「凶真……ニャニャ? きょ、凶真、深いニャ! そんなにきつくギュってされたら深く入っちゃうニャ! フニャン!? みゃ、みゃぁぁぁぁぁぁっ♪」

それは彼女の内で再び励起してきた彼の逸物をより一層深く挿入する事に繋がり、フェイリスは溜まらず激しく悶え、甘い悲鳴を上げた。
269名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 23:25:06.58 ID:eoJ1tTC8
というわけで今宵はここまでー
昨晩の純なやりとりはどこへやら(笑)
だってほら、フェイリスルートって言ってるんだから『フェイリス』を攻略しないとね……?
270名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 23:26:40.92 ID:8xLnRWsk
まさかの一粒で二度美味しい方式
だがしかしそれでこそフェイリス!
ありがとうございますありがとうございます
271名無しさん@ピンキー:2012/10/17(水) 23:50:09.31 ID:6eaF9RWt
272名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 02:09:25.77 ID:VQE19Qv8
乙です
毎晩の投下が楽しみで仕方ない
273名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 08:21:13.81 ID:8ihzIZqH
脳内BGMが我が栄光になっちまったわw 
274名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 11:25:36.78 ID:z9b/yrkO
乙です
どんどん深みにはまっているフェイリスが可愛くてしょうがないです。
275名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 23:12:46.79 ID:gFgm312L
ピンクは淫乱!(挨拶)
というわけで今宵も更新に来ましたー
276第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:15:49.68 ID:gFgm312L
4−19:2011/02/13 21:47 

「ふむ、フェイリス、お前の気持ちはわかった」
「凶真ぁ、んにゅ、わかって、くれたニャ……?」
「ああ。だから今度はお前の身体に聞くことにしよう」
「フニャ?! きょ、今日の凶真ちょっと変ニャ?! いつもは、そんな……!」
「……強引な俺は嫌いか?」
「ニャ……ミャゥゥ……そ、その質問はずるいニャ。ずるいニャ。卑怯だニャ」

頬を染めたフェイリスが岡部倫太郎の上でもじ、と身をよじらせる。
今の彼女にとってそれがどんなものであれ彼を嫌うという選択肢が取れるはずがない。
もっとも……当の岡部倫太郎の方は彼女に凛々しい表情を向けつつ、

(い、いかん、今の台詞は流石に少々気障すぎたか……ってうおっ! 効いているっ!?)

なぞと内心冷や汗を掻きながら口に出しているのだが、今の彼女は既にそれを察知するすべを失ってしまっている。

「何がずるいと言うのだ」
「だって、だってだってぇ、フェイリスが凶真のこと嫌いになるニャんてこと絶対にありえないのニャ……」
「……フェイリス」
「んちゅ、ニャウッ?! く、首はダメ、ニャ……! う、うなじも弱いのニャア、んっ、あっ、ニャッ!? ほ、ほっぺは……ん、ちゅっ、ぺろ、ぺろぺろ、んんっ、ちゅるっ、んっ、んくっ、んくっ、コクン……ん、ふぁ……っ」

首筋からうなじ、下顎、頬とキスをされたフェイリスは、その後再び彼に口の中を蹂躙される。
座り込んだ岡部倫太郎の上に跨り、抱き締められている今の彼女にはそれに抗うすべがない。
我知らず岡部倫太郎の差し出した舌に己の舌を伸ばし絡みつかせ、与えられた唾液を蕩けた表情で嚥下してしまうフェイリス。
その挙動だけ見れば……どこをどう見ても嫌がっているようには見えぬ。
277第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:18:01.96 ID:gFgm312L
「ふむ……ではこれはどうだ?」
「ニャッ!? ふみゅう! ミャ……そ、それは、ぁ……っ!」
「どうなのだ、フェイリス。口にしてくれなければわからんぞ」

岡部倫太郎は……彼女と接合したまま、その頭に手を置いて優しく撫で始めた。
フェイリスはたちまち瞳を潤ませて目を細め、口元をだらしなく開き、なんとも心地良さそうな表情で甘ったるい鳴き声を上げてしまう。

「にゃうん……き、気持ちいいニャア……フニャァ、もっとぉ、もっとなでなでしてほしいニャン……んっ♪」

猫耳をつけているからか、それとも彼女の生来の性質なのか、フェイリスは特に撫でられるのが好きなようだ。
頭だけではない。頬や顎先を丁寧に撫で上げると、なんとも満足げに喉を鳴らし、岡部倫太郎の掌に顔をこすり付け、ゆさゆさと尻尾……いや腰を揺らしてしまう。

……それがいつものメイクイーンやラボでならまだ良かった。
だが今は場所が場所、状況が状況である。
特にフェイリスはつい先刻その内に岡部倫太郎の迸りを受け止めたばかりで、その上未だに彼と繋がったままなのだ。
そんな状態で最上の『心地よい』を享受し続ければ……果たしてどうなってしまうのか。

「みゃう……んみゅ。あン、凶真ぁ、凶真ぁ。もっと、ニャ? もっとぉ、んっ、ん、んっ、ふみゅう、みゃうぅん……っ♪♪」

甘い鳴き声に混じる官能の調べ。はだけられた胸元は岡部倫太郎の胸板に幾度もこすり付けられ、その小さな身柄に不似合いな大きさの乳房は幾度も形を変え、乳首が痛いほどに勃起している。
未だ繋がったままの下半身は、そんな彼女の声や刺激によってすっかり勢いを取り戻した彼の屹立に突き上げられ、僅かに浮いている。
そして岡部倫太郎に撫で上げられ心地よく鳴いているその影で……知らず、彼女の腰は、尻は、淫らにくねり、うねり、覚え始めたばかりの快楽を貪っていた。
278第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:23:00.38 ID:gFgm312L
「フェイリス……嫌ではなかったのか?」
「みゃ? ニャニャー?! あ、これは、これは、ぁ……っ」

無自覚に己が為していた行為の淫奔さに気付かされ、真っ赤になってイヤイヤをするフェイリス。
だがそれでもなお彼女の腰が無自覚に蠢いている事を目視で確認した岡部倫太郎は……ゆっくりと、己の陰茎から彼女を解き放った。

「ふにゃ、あ……っ」

ようやく望み通り解放されたというのに、彼女の喉奥から漏れたのは言いようのない不安と切なげな渇望の声。
彼女自身痛いほどにそれを自覚してしまって、肩を窄め小さくなって、怯えたような瞳で岡部倫太郎を見上げた。

「フェイリス、お前を傷つけたくない。嫌ならやめる。だから言ってくれ。俺にどうして欲しい?」
「にゃ、凶真、ずるい、ずるい、ずるいのニャ……ッ」

わかってるくせに。自分がどうして欲しいかなんてとっくにわかってるくせに。
留未穂のときと同じく……この人は、また、こっちから言わせるつもりなんだ……っ!

『チェシャー・ブレイク』と自称する相手の心を読み取る力。
今や彼によって封じられてしまったその力の欠片を使うまでもなく、フェイリスは岡部倫太郎の意図をすぐに察した。
そして理解していながら……彼女は、もはやそれに抗する事ができなくなっていた。


度重なる岡部倫太郎の責めで、彼女の心と身体は……すっかり発情させられてしまっていたのである。


「凶真ぁ、凶真ぁぁっ」

まるで捨てられた子猫がぬくもりを求めて鳴くような、そんな甘え縋りつくような声。
フェイリスはそんな鳴き声を上げながら……おずおずと彼の腰の上から降り、ゆっくりと後ろに下がりながら四つんばとになり、岡部倫太郎に己の臀部を向け、上半身をベッドに沈め尻を高く掲げた。
ショーツを脱がされたといってもスカートは未だ履いたままだ。彼女は真っ赤になりながらスカートの裾を自らつまみたくし上げ、美しいヒップのラインをさらけ出しながら彼の方へと火照った顔を向ける。
そして無反応な岡部倫太郎に焦れたように、もじもじと尻をくねらせた。
279第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:25:51.75 ID:gFgm312L
「……ニャ」
「フェイリス?」
「……て、……ニャ」
「聞こえないぞ、フェイリス」
「……して、ほしいニャ……」
「もっと大きな声で」
「フェ、フェイリスのぉ……にゃあ、うにゃうぅ、凶真ぁ、は、恥ずかしいにゃあ……っ」
「フェイリス!」
「みゃうっ!」

羞恥のあまり消え入りそうな声で懇願するフェイリスを、岡部倫太郎が一喝する。
まるで主人に叱られた猫のようにびくんと肩を震わせたフェイリスは、遂にその心を、己の本音を決壊させた。
いつもやっていることではないか。これは演技なのだ。演技だから恥ずかしくない、演技なんだから恥ずかしくなんかない……っ!

「んにゅ、ご、御主人様ぁ! え、えっちな雌猫フェイリスの、うずうずって疼いてるこ、ココをぉ……御主人様ので掻き回して欲しいのニャぁ! フェ、フェイリスの火照ったカラダを、ご、御主人様ので鎮めて欲しいのニャア……凶真、凶真ぁぁ!」

先程までとはうって変わって大きな声で、むしろ叫ぶように。
どこぞで知ったであろうそれらしき成人向けの作品を流用した、演出過剰な誘い文句。
ただ流石にペニスやヴァギナのことは直接言うことができなかったらしく、微妙にぼかされていたが。

「……よく言えたなフェイリス、偉いぞ」
「凶真、凶真ぁ、にゃうぅ〜……ふにゃ、あ、気持ちい……ニャァあああああああっ?!」

背中と尻を向けて縮こまっているフェイリスに覆い被さるようにして、優しく頭を撫で髪を梳る岡部倫太郎。
たちまち相好を崩し、蕩けたような甘い声で鳴き始めたフェイリスは……
だが同時に挿入された陰茎の衝撃に、悲鳴に近い叫びを上げて身体をガクガクと震わせた。
280第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:28:13.33 ID:gFgm312L
「はにゃ、はにゃぁあぁぁあああぁあああ♪」
「……大丈夫か、フェイリス?」

予想以上の激しい反応にやや不安になり岡部倫太郎が尋ねる。

「か、軽くイッちゃったニャ……なでなでしながら挿れるの反則ニャぁ……っ」
「そ、そうか、すまん」

とりあえずフェイリスを落ち着かせるために再び軽く髪を梳く。
そしてそのままゆっくりと抽挿を開始した。

「ニャッ、フニャッ!? ミャウ、ミャァ、ミャァあぁ……ふみゃぁう♪」

苦しげにも心地よさそうにも聞こえるフェイリスの呻きと喘ぎ。
だが最初の時よりもだいぶ抽挿が楽に行えるようになった気がする。
フェイリスの身体が適度に弛緩していることと、後背位という体位、そしてやはり身体が慣れてき事もあるのだろう。

「ミャ、凄いニャ、ニャウ、凄いニャア……ミャン! フミゃン!」
「痛みはどうだ? まだ感じるか?」
「ニャ……まだちょっと痛いんニャけど……なんか変な感じニャ。うずうずジンジンしてるのニャ。凶真にズンッてされると身体がどこかに飛んでいきそうな気持ちになるニャ……ニャッ、ぁん!」

彼女の表現は岡部倫太郎にはいまいち理解できなかったが、とりあえず痛みだけではなくなっていることは把握し、少しだけ息をつく。

「どこらへんがいいのだ? ここか?」
「ミャッ! ちょっと痛いニャ……あ、ぁ、ぁ、そこ、そこはイイニャ。ん、ぁ、ニャ、ニャ!」

フェイリスに尋ねながら彼女が少しでも感じそうな場所を丁寧になぞる。
その都度彼女は猫のように鳴き、猫のように悶えた。
281第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/18(木) 23:32:06.38 ID:gFgm312L
「ニャ、ウニャ、ニャフッ、ミャァ! 凶真ぁ、フェイリス何か変ニャ! 何かが下からせり上がってくるニャ! ニャ、フニャぁああ!?」

やがてフェイリスの声色に徐々に切羽詰ったものが混じり始める。
それにつれて彼女自身の腰の動きが活発になり、局部の締め付けが増してきた。

「ぐ、き、つい……っ!」
「はニャアぁぁ! 凶真、凶真ぁ、助けてニャ! フェイリスどこかに行っちゃいそうニャ! 凶真ぁぁ!」
「どうすれば、いい? フェイリス、どうして欲しいんだ!」
「ぎゅってしてぇ! フェイリスを後ろからぎゅ〜ってして欲しいニャァアァ!」

視界が明滅し、膝ががくがくと揺れる。
フェイリスは交合による快感が増してくるごとに己が掻き消えてしまうような奇妙な切迫感と不安を感じ、背後にいる岡部倫太郎に救いを求めた。

「こうかっ!」
「ニャ! そうニャ! ぎゅってしてニャ! ニャ、ァ、ァニャ! ふにゃ……ニャァアァァアアアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」

岡部倫太郎に背中越しに強く抱擁された瞬間、彼女は身体中の力を抜いて……その後思いっきりその背を反らし一気に達した。

「ハニャ、ニャ、ニャぁあぁああああああン……♪」

強く抱き締めたままでは陰茎だけ器用に引き抜くこともできぬ。結果として彼女はその内に再び大量の白濁を叩きつけられることとなった。
がくがくとその肢体を痙攣させ、半開きとなった口から震える舌を伸ばし、甘ったるい声を上げながらずるりと肩をずらして……
フェイリスは、尻を高く掲げたまま、前のめりに崩れ落ちた。
282名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 23:34:09.25 ID:gFgm312L
というわけで今宵はここまでー
少しでもエロいと思ってくれる人がいたら嬉しいです
それではまた次回ー ノノ
283名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 23:36:36.73 ID:SAcTf6kj
乙です。
フェイリスみたいな独自口調のキャラはエロく描くのが難しいですよね。
284名無しさん@ピンキー:2012/10/18(木) 23:41:47.34 ID:FXNcpE/J
>>282
ピンクは淫乱!(乙)
285名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 00:11:25.78 ID:hqg4C4lj
286名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 02:07:50.71 ID:HYRnLzPt
>>282
ピンクは淫乱!(褒め言葉)
287名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 06:13:12.58 ID:wIUwxqmw
ピンクは淫乱!(賞賛)
288名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 07:31:22.33 ID:M1hHdFqo
すごく…淫乱です
289名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 12:04:24.79 ID:/J3+WG0/
ピンクは淫乱!(掛け声
290名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 22:35:40.60 ID:hqg4C4lj
まだか…
291名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 23:03:22.66 ID:KH5zQbgg
ピンクは淫乱!(挨拶)
というわけでこんばんわー
いいよね淫乱ピンク……
そういうわけで今晩も更新しに来ましたー
292第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/19(金) 23:07:08.86 ID:KH5zQbgg
4−20:2011/02/13 22:02 

「んっ、凶真ぁぁ、ふみゅぅぅぅ……」

岡部倫太郎に逸物を引き抜かれ、ぐったりと身をベッドに突っ伏しながら、フェイリスの口から疲労と満足の吐息が漏れる。
そんな彼女の様子を確認した後……岡部倫太郎はこっそりとその頭部から猫耳を奪った。

「はぁ、岡部、さん、の……んっ、あ、いっぱい、入ってる……ぁンっ」

己の状態に気付かず注がれた余韻に浸っていたフェイリス、もとい秋葉留未穂は……
それから暫くして、ようやく己の置かれた状況を自覚する。
四つんばいで、背後から貫かれたままの己の姿を。

「きゃっ!? あ、や、やぁっ!」
「どうした、留未穂、そんなに慌てて」
「あ、だ、だって、こんな格好、ど、動物、みたいで……っ!」

岡部倫太郎は彼女を未だ背後から抱き締めたままだ。
だからそのうなじから背中にかけてみるみる朱に染まってゆく様をよく観察できた。

「何を恥ずかしがる事がある。お前からその格好で誘ったのではないか」
「そ、それは……っ!」

フェイリスの、と言おうとしてつい先刻同じように論破されたことを思い出す。
どう言い繕おうと自分自身がこの体位で彼を誘ったのは間違いではないのだから。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」

羞恥に頬を染め、小さく身を縮め、震えながら泣きそうな顔で面を伏せる秋葉留未穂。そんな彼女をころんと裏返し、そのまま上半身を抱き起こし優しく撫で上げる岡部倫太郎。

「泣くな、留未穂。俺が悪かった」
「あ、岡部、さぁん……」

ポッと赤くなり。両手を頬に当て恥ずかしがる秋葉留未穂。所在なげに視線を逸らした彼女は……今更ながらに彼の下半身が丸出しである事に気付き、殊更に赤面する。
293第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/19(金) 23:10:13.34 ID:KH5zQbgg
「……どうした、興味があるのか」
「あ、いえっ! べべ別にそういうわけじゃ……っ!」

わたわたと慌てながら、だが指の隙間から覗く視線は彼の股間に注がれたままだ。

(あれが……さっきまで、私の、中に……)

激しい痛みと、だがそれ以上の情動を与えてくれたもの。
自分を『女』にしてくれたもの。
多感な少女が、そんなものを見せつけられて気にならぬはずがない。

「……あー、留未穂よ、もしお前が嫌でなかったらだがー」
「あ、ええと……なんでしょう?」
「その……なんだ、綺麗に、してくれないだろうか」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

唇を噛んで見る間に頬を紅潮させる秋葉留未穂。
だが……彼女は最後まで“イヤ”とは言わなかった。言えなかった。

「あ……おっ、きい……」

とくん、とくんと心臓を打ち鳴らしながら、四つんばいの姿で目の前にそそり立つ肉棒を見上げる。
これがもししごいてくれだの舐めてくれだのという要求なら、もしかしたら彼女は生理的な嫌悪感が先立ち、断っていたかもしれない。
だが綺麗にしてくれ、という言葉はそれが性交によって生じた結果であることを意味していて、つまり半分自分の責任なのだからちゃんと掃除しなければ……という義務感のような気持ちを彼女に生じさせた。

見れば見るほど彼女にとってそれは異物であって、いっそグロテスクにも映る。
だが“それ”に二度も注がれた彼女は、不思議なほどにその物体に対する忌避感を失っていた。むしろ不思議な愛しささえ覚えるほどだ。
294第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/19(金) 23:12:07.97 ID:KH5zQbgg
おずおずと陰茎に近づいた彼女は、その臭いに一瞬だけ顔をしかめるが、やがて確かめるかのようにすんすんと鼻を鳴らし、ほんのりと頬を染める。
これが男の人の臭い……岡部倫太郎の臭いなのだ。
僅かにその身を震わせた彼女は、やがてゆっくりと顔を近づけていって……

岡部倫太郎の肉茎に、軽く触れるようなキスをした。

「ちゅっ、ん、ちゅっ、ちゅ、ちゅちゅっ、ん、岡部さん……ちゅ、ん、んんっ」

まるでワイングラスを持つような繊細な指使いで陰茎を支え、唇でキスの雨を降らせる秋葉留未穂。
やがてそれに舌で舐め取る動きが加わり、岡部倫太郎の肉棒にこびりついた精液と彼女自身の愛液を丁寧に舐め取ってゆく。

「んちゅ、ん、ふぁ、ちゅるっ、れろ、ん、ちゅ、ぺろ、んっ、んっ、ふぁ、ん、ちゅ、ちゅ、ちゅる……っ」

そんな彼女の様子を見下ろしながら……
岡部倫太郎は何を思ったか、再び奪った猫耳を彼女に戻した。

「ニャッ、ウニャ、れろ、ん、ちゅるっ、フニャア、ん、凶真、凶真ぁ、ん、ちゅ、ちゅる……フニャ?」

恍惚の表情で長竿を舐め上げていた秋葉留未穂……もといフェイリスは途中で己の身に起こった事に気づくが、その行為を中断する事なく、逆によりいっそう激しく奉仕に及んだ。
295第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/19(金) 23:20:41.50 ID:KH5zQbgg
「ン……はむっ、ん、ちゅぱ、ちゅるっ、ちゅぱ、ちゅ、ンニャ、ニャ、ちゅるるっ、ふぁ、ひょうま、んっ、ひょうまぁぁ……ん、ちゅるるっ、んくっ、コクン、ん、ふにゃうっ」


先刻までは舌を出して舐めていたのに、今やその小さな口に一生懸命肉棒を咥え込んで、必死に舐めしゃぶっている。
腰を突き出した岡部倫太郎はその舌使いにより一層の快楽に呑まれ、たちまち射精感がこみ上げてきた。

「う……フェイリス、出すぞ!」
「ふみゅっ?! みゃ、ん、ちゅ、ちゅる、ンニャ、ふみゅぅぅうぅうううううっ! ん、んくっ、こくん、こくん、ぷはっ、ニャッ! ん、うぇ、にゃぁあぁあああああ……っ」

口の中で突然射精されたフェイリスは一瞬目を丸くするが、すぐにそれを一生懸命嚥下しようとする。
けれど口淫が初めてな上に精液が相当粘つくこともあり、結局全て飲み干す事はできず、彼女はとうとう口からペニスを吐き出してしまった。
そしてフェイリスは……そのまま暴れる肉竿から溢れ出る白濁を震える身体で、涙混じりの顔で受け止める。

「うぇ、ん、にがぁ……凶真ぁ……ひっく」
「す、すまんフェイリス、大丈夫か?!」

嗚咽混じりのフェイリスの声を聞き、思わずうろたえる岡部倫太郎。
流石にやりすぎたか……? と身構える彼に、だがフェイリスは自ら震える舌をくく、と伸ばし、その上に乗った己の唾液と交じり合った白濁を示した。

「ん、んくっ、こくんっ」
「お、おい、無理はするな」
「凶真ぁ……フェイリスは頑張ったニャ?」
「あ、ああ、最高に気持ちよかったぞ」
「だったら……メスネコのフェイリスは御主人様の御褒美が欲しいニャン……♪」

もじもじ、と指を突き合わせ、上目遣いでおずおずと頭を差し出してくるフェイリス。
その様をなんとも愛しく感じた岡部倫太郎が彼女の頭を優しく撫でてやると、フェイリスは心地良さそうに甘い鳴き声を上げた。
296名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 23:22:36.42 ID:KH5zQbgg
いやーぴんくはいんらんですねー(棒読み)
実のところフェイリスの人格変更を猫耳カチューシャという外部ギミックに委託したのは
今回のような「オカリンによるフェイリス/留未穂の強制人格変換ラブイチャダブル調教」をやりたいという下らn……深遠な理由があってですね
ああやめてやめて物をなげないで

それでは次の更新は来週以降という事で、今週もお疲れ様でした
では良い週末をー ノノ
297名無しさん@ピンキー:2012/10/19(金) 23:45:03.15 ID:M1hHdFqo
俺の淫乱ピンク棒が暴れ出しそうだぜ
298名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 00:03:37.85 ID:nq7R3VTG
Oh PINK!!
乙!!!!!!
299名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 00:37:04.72 ID:ImP9+cFk
乙乙!

ピンクは淫乱(ビシィ!)
300名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 01:57:26.76 ID:ZvZ3jI2M
乙プサイコンガリィ
301名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 06:39:56.47 ID:2bZbjzwK
ピンクは淫乱!(GJ!)
302名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 06:46:29.13 ID:c1Q7Rkq5
ピンクは淫乱!(GJ!)
303名無しさん@ピンキー:2012/10/20(土) 21:44:25.12 ID:1fheH7R3
全くお前らは…

ピンクは淫乱!(GJ!)
304名無しさん@ピンキー:2012/10/21(日) 01:14:11.47 ID:Ww35o1Ig
ピ、ピンクは淫乱って、たはは……
305名無しさん@ピンキー:2012/10/22(月) 22:58:19.80 ID:JmBr5x5T
ピンクは淫乱!(総括)
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
みんないんらんいんらん言い過ぎですよ!
ちゃんと本文を見て……
淫乱だコレ!
306第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/22(月) 23:02:27.15 ID:JmBr5x5T
4−21:2011/02/13 22:31 

「そろそろ頃合いか……」
「あの、岡部さん、それは……?」

再び猫耳を外された秋葉留未穂は、岡部倫太郎の両手の間にピンと張られたものを見ながら目を丸くする。

「見たままではないか、留未穂。お前には何に見えるのだ?」
「ええっと、はい、縄……ですよね?」
「そうだ」

そう……それは縄だった。麻縄である。
ただそこいらの店で売られているものならば目につくはずの毛羽が見あたらず、どこか光沢のある麻縄だった。
それくらいは見ればわかる。ただ……それが用意された意図がわからない。

「これは……こうするのだ」
「あ、岡部さん、何を……?!」

秋葉留未穂の両手首を頭上に掲げさせ、くるりとその手首を縛る。
彼女は一瞬きょとんとした後驚きに目を見張る。
ここにきて……ようやく彼女にも岡部倫太郎の意図する事がわかった。

「あ、や、いや……っ」
「イヤ、か……? 留未穂」
「あ……っ」

本能的に嫌がる彼女の顔を覗き込むようにしながら、岡部倫太郎が確認する。
間近に迫る岡部倫太郎の顔。そして落ち着き払った低い声。
それだけで彼女の自制心が泥のように崩れだし、倫理観が飴のように溶けてゆく。
法も、世間体も、羞恥も、恥辱も、今や全てが岡部倫太郎の前に霞みつつあった。

「あ、や、あん……そんな、あ、おかべさ……んっ、あ、ああ……っ」

彼女はもじもじと身をよじらせ、体中を薄桃色に染め上げながらも、結局縛られた両腕をベッドの端に留められてしまうまで抗うことはなかった。

「こ、こんなの、イケナイ、ことです……ああっ、私、私、今いけないこと、してる……っ」

ぴくり、と太股を僅かに痙攣させながら、全身を震わせ泣きそうな声で呟く。
これどその湿った声色には……確かに押さえきれぬ昂ぶりが込められていた。
307第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/22(月) 23:08:45.10 ID:JmBr5x5T
「一応こうしておかねば……どんな反応をするかわからんからな」
「反、応……?」

……と、そこで岡部倫太郎はおもむろに彼女の頭にカチューシャを付けた。

「あ、ん……岡部さ……ニャ、凶真ぁ、凶真ァ……♪ ……フニャ?」

甘えた声を出し喉を鳴らしていたフェイリスは、身を起こそうとして今更ながらに己の置かれた立場に気付く。

「ニャッ? ウニャニャ?! キョ、キョーマ! これはどういう……ニャニャ! ほどくニャ! ほどいてニャ! やめっ! フニャッ! やめるにゃあああああっ!!」
「ふむ、流石に猫は縛られるのが苦手と見える」

まあ猫でなくても大概の人間はふと気づいたら自分が縛られていた、などという状況に陥れば嫌がるものだとは思うが、岡部倫太郎は(少なくとも表面上は)特に動揺した気振は見せぬ。。
じたじたと暴れるフェイリスを上から押さえつけるようにして、その首元へと顔を近づける岡部倫太郎。
確かに猫の性質ゆえに身動きが封じられることに過剰に反応してしまっているのかもしれないが、だからといって既にどうしようもない状況にまで追い詰められているフェイリス・ニャンニャン。

だがそれも致し方なかろう。なにせつい先刻、彼女は自ら望んで縛られていたのだから。

「ニャニャ、凶真、なにしてるニャぁ……?」

姿勢的に岡部倫太郎のしている事がよくわからず、不安げな声で鳴くフェイリス。
だがやがて微かな音と首に伝わる感触から、彼女にもようやく彼の為さんとしている事がわかった。

「にゃ……っ?!」
「ふむ……これでよし」

岡部倫太郎の指先につままれているのは……細い紐。
それは彼女のメイド服の首元に巻かれていたリボンであった。
彼女は現在シャツのボタンを外され、ブラを外されて胸が顕わになっているだけで、衣服は未だ着用したままだ。
だが首元を外し、そこを広げた今……彼女の首から乳房、そして愛らしい臍にいたるまで、その上半身が完全に露わとなって灯火の下に晒されていた。
……とは言っても、袖は通っているので服が完全に脱がされたわけではないのだが。
308第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/22(月) 23:12:39.07 ID:JmBr5x5T
「凶真……フェイリスの肢体(カラダ)が見たかったニャ……?」

先刻までの激しい動悸とは異なる、甘く疼くようなときめき。
頬を染めたフェイリスの問いは、だがさらに衝撃的なものに塗り潰される

「いや……首にそんなものを付けたままでは、せっかくのコレが付けられんのでな」
「ニャ、ニャニャニャ……ッ?!」

フェイリスが思わず息を飲み。なんとも形容し難い声で鳴いた。
岡部倫太郎が取り出したものは……首輪。
人間用の、だが明らかにペットの首に巻くような、いわゆるその手のプレイ用の小さな黒い首輪であった。
フェイリスとの街中でのデートの最中阿万音鈴羽に買ってきてもらい、彼女が奪ったカチューシャと共にポケットにねじこんでもらったものである。

彼女に押しかけられたSMショップもさぞや驚いたことだろう。
なにせ健康的な娘が一人でいかがわしい店内にやってきて、型番からサイズに至るまで正確な注文でSMプレイ用の首輪を購入して颯爽と去って行ったのだから。

……まあ阿万音鈴羽が去った後の店主が何を妄想したかは置いておいて、それを見せられた時のフェイリスの反応はなんとも見ものだった。
その形状から瞬時にそれが何かを悟り、岡部倫太郎の目的を察した彼女は……


「ふにゃ、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」


全身を悦びにうち震わせ、なんとも嬉しげに、甘ったるく蕩けるような声で鳴いたのだ。
309第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/22(月) 23:14:46.40 ID:JmBr5x5T
「それ、それフェイリスに付けるニャ? 御主人様がフェイリスに付けてくれるのニャ?」
「ああ、俺自らが付けてやろう」
「うにゃぁぁぁぁぁぁ♪ 嬉しいニャ。嬉しいニャあ。早くつけて欲しいニャ!」

あろうことか服従を意味する首輪を前にして、自ら首を差し出し早く早くと装着をせがむフェイリス・ニャンニャン。
猫であらんとする彼女にとって、そしてすっかり発情した今の彼女にとって、岡部倫太郎という懸想の相手が持つには、それはあまりにも蠱惑的な小道具過ぎたのだ。

「む……こうか?」
「ふニャッ、そうニャ、そこで……にゃふぅ、ん、にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん♪」

無事首輪を装着されたことによる安堵の鳴き声には明らかに恍惚と悦びが含まれていて、とろとろに蕩けただらしない顔は泣いているようにも笑っているようにも映る。
震える四肢には興奮を示す汗が浮かび、わななく口の端からは涎が垂れて、もじもじとすり合わせる太股の間からは淫らに粘つく液体が漏れ出していた。

「どうだフェイリス、痛くないか? 気分は?」
「ふにゃ、御主人様のモノにされちゃったニャ……フェイリス御主人様の、御主人様のぉ……にゃ、ふにゃああああ……♪」

岡部倫太郎の問いに答えているのかいないのか、フェイリスはうわごとのようにそんな事を呟きながら、全身を歓喜に打ち振るわせている。
顎に手を当て、そんな様子をじっくりと観察した岡部倫太郎は……


そこで、再びネコ耳カチューシャを取り外した。
310第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/22(月) 23:16:13.26 ID:JmBr5x5T
「はひゃ、ん、あ、おかべ、さぁぁぁぁん……♪ ひゃふ、ん、ふぁ……?」

しばらく陶然と我を失っていた秋葉留未穂が……今更ながらに我を取り戻す。

「あ、きゃ、や……これ……っ?!」
「首に違和感があるのか? 自分で確かめてみるがいい」

岡部倫太郎がいつの間にやら用意していた手鏡を取りだし、彼女の前に差し出す。
震える手で鏡を受け取った彼女が覗き込んだそこには……仄暗い灯火の中に浮かび上がる、首輪を付けた己の姿が映し出されていた。

つい先刻の記憶がまざまざと甦る。
目の前の男への従属の証……それを倒錯とした悦びの中、せがむように、おねだりでもするように付けてもらった浅ましき自分。
秋葉家の一人娘、いわゆる御令嬢たる立場にある人間が、その能力で海千山千の大人連中と渡り合ってきた秋葉留未穂が、今裸に向かれて、自ら望み、懇願して首輪を巻かれている。
そのあまりの淫靡さと背徳感に、彼女の背筋がぞわりと総毛だち、そしてそれ以上の快美が全身に溢れ……弾けた。

「や、いや、あ、おかべさ、あ、みな、見ないでぇ……あ、ふぁっ、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

あまりの高揚と羞恥に一気に達してしまった彼女は……
岡部倫太郎の視線に身悶えし、淫らにその身をくねらせながら、彼がしげしげと眺めている前で股間からちょろちょろと小水を洩らしていた。




「ふあ……おかべ、さ、に、みられてる……みられてます……っ、ああ、あああ……っ、お、おかべさ、あ、お、おかべさ、ま、ぁ……っ♪」
311名無しさん@ピンキー:2012/10/22(月) 23:18:53.66 ID:JmBr5x5T
というわけで今宵はここまでー
なんかこー倒錯としたエロスもいいと思うんですよ
フェイリスと留未穂ならではというか

……うんやりすぎましたごめんなさい

そんなわけでまた次回ー ノノシ
312名無しさん@ピンキー:2012/10/22(月) 23:29:53.66 ID:h4P/GCim
ピンクはいん……最早二重人格レベルだろこれwww
313名無しさん@ピンキー:2012/10/22(月) 23:42:40.48 ID:8hCOrlnB
裸に向かれて→裸に剥かれて
314名無しさん@ピンキー:2012/10/23(火) 02:18:42.09 ID:N+M9fRd3
ピンクはド淫乱(賞賛)
315名無しさん@ピンキー:2012/10/23(火) 05:33:02.39 ID:UDSD0ssJ
ピンクは二重淫乱(GJ)
316名無しさん@ピンキー:2012/10/23(火) 22:57:07.10 ID:5ddIkwLC
こんばんはー
今宵でフェイリスルート終了ですー
317第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/23(火) 22:58:53.28 ID:5ddIkwLC
4−22:2011/02/13 23:14 

それから……


岡部倫太郎は、体力の続く限り秋葉留未穂とフェイリス・ニャンニャンを抱いた。
留未穂の嫌がる事はフェイリスにやらせ、フェイリスが拒絶する事は留未穂にさせて、
そして……その行為の中途で互いを入れ替えて。
そんな倒錯的な行為を、幾度も繰り返した。


「そ、そんなところ、な、舐めるだなんて……ああ……っ」
「ん、ちゅ、ぺろっ、んにゃっ、ふにゃぁ、きょ、凶真のココ、綺麗にしてあげるニャア……ん、ちゅ、れろ、ぴちゃ……」

「やめるニャ! ダメニャ! ぐるぐるイヤなのニャ! ニャニャニャ! やめ……ニャァァァァァ!」
「はぁ……んっ、ああ、肌に、食い込んで……はい、お、お好きなように、縛って、下さい……私の肌に、縄目の跡が、つく、くらい、に……ああっ!」

「ええっ、そ、そんな事……わ、私、そんな牛みたいな……っ」
「フニャアアアア、もっと、もっとぎゅってしてニャ! もっと搾って欲しいニャ!」

「フミャウゥ!? ち、違うニャ違うニャ! そこは違うニャァ!!」
「んっ、あ、そ、そんな不浄なところに、ゆ、ゆび、なんて……ぁ、ぁ、あぁっ!」

「ああっ、そんなのダメですっ、あ、んっ、あ、そんな、体中にだ、なんて……っ!」
「ふみゃぁあぁああ……体中凶真の臭いでいっぱいニャ……ん、フェイリス、凶真にマーキングされちゃったにゃぁあぁああ……♪」

「ミャッ! みゃうっ! ふみゃんっ! にゃぁあぁああああっ!」
「あ、ああっ、ん、んあっ、そんな、激、し……っ!」

「あ、あ、あっ、ぁっ、ぁっ、ぁっ、ぁ……んぁあああああああっ!」
「みゃうっ!? みゃ、みゃっ、みゅっ、んみゃっ、ミャアアアアアアアッ!」

「ふにゃぁあああっ! 凶真、凶真ぁっ! フェ、フェイリス、フェイリスもう……っ!」
「ああっ、んっ、はぁっ、ん、んっ、んっ、ああっ、岡部さっ、お、岡部さまぁっ! わ、私も……私もぉ……っ!!」

「あ……っ」
「ニャ……ッ!」

「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」」
318第4章 緊嬢転伽のチェシャー・ブレイク(4):2012/10/23(火) 22:59:37.72 ID:5ddIkwLC
果たして幾度目の吐精になるのか……
秋葉留未穂とフェイリス・ニャンニャンは、遂に初めての夜で完全なる高みにまで登り詰めた。


「はぁ、はぁあああああ……っ♪」

がくり、とベッドに崩れ落ち、息も絶え絶えにか細い声で喘ぐ秋葉留未穂。
その首に妖しく光る漆黒の首輪。

「ん、あ、岡部さ、まぁ……♪」

その声には満たされきった充足の色と女としての喜びの音色が、妖しいほどに混じり合っていた。

「留未穂は、留未穂はぁ、この身も、心も、全部、岡部、さま、の……」
「………………」

最後まで聞くとなにやら取り返しのつかないことになりそうな気がして、岡部倫太郎はそっと彼女の頭部に猫耳を付ける。


「ウニャァアァ……凶真は、きょーまはフェイリスの御主人様ニャン……フェイリスはぁ……フェイリスは御主人様のえっちなメスネコなのニャァァァ……♪」



319次回予告:2012/10/23(火) 23:02:26.77 ID:5ddIkwLC
5−0:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……フェイリスだ」
「で、上手く行ったの?」
「ああ。成功はした」
「おー、さっすがー」
「だが……」
「……だが?」
「……やりすぎたっ」

呻くような声で、岡部倫太郎が呟いた。

「やりすぎって……えっちのしすぎって事? いーんじゃない、それだけ上手くやれたって事でしょ?」
「違う、そうではないっ! その……なんだ、フェイリスが痛そうなのを見ていられなくってだな、本番で何度も失敗するのは悪いと思い……こう、ここに戻るたびにダルがラボに置いていたその手の本を参考にしていたらだな……っ」

んー……と顎に人差し指を当て暫しの間考え込んでいた阿万音鈴羽は、やがてあっけらかんとこう言い放った。

「それは参考書に問題があったんじゃない?」
「……返す言葉もない」

力なく呟きながらがくりと肩を落とす岡部倫太郎。
フェイリスは奔放で、掴みどころがない娘である。
だから岡部倫太郎としては可能な限り万全を期して彼女を逃さぬよう対策を練ったつもりだった。
が……いざ本番に及んでみれば、彼の予想以上にフェイリスは岡部倫太郎に対して真摯であり、そして素直だった。彼が思っていた以上に彼を好いていて、彼に焦がれていたのだ。
そこに橋田至から学んだやや(いや、むしろやや度を越して、だろうか)邪な知識と岡部倫太郎の策謀が合わさって……まあ、結果として必要以上に彼女を愛し過ぎ、かつ堕としすぎてしまった、というところだろうか。
320次回予告:2012/10/23(火) 23:05:39.17 ID:5ddIkwLC
だが……と彼は同時に想う。
最初がフェイリスで良かった……とも。

なにせタイムリープで過去に戻ってきた現在、彼女は絶賛で無理をしている真っ最中のはずである。
このまま行けば三日後には疲労困憊で倒れてしまうことは確定なのだ。
もし他のラボメン達と性的な行為を働くため彼が血道を上げている間に、彼女が幾度も幾度も、タイムリープの度に倒れてしまっていたら、そしてそれを後から知ることとなったら、岡部倫太郎の心はどうにかなってしまっていたかもしれない。
既に失われた……もう戻ってくることのない未来とはいえ、彼女と肌を重ねこれまで以上に愛しく思えるようになった今だからこそ余計にそう思う。

このタイムリープからは、椎名まゆりに頼んで彼女を無理矢理にでも休ませておかなければ。
岡部倫太郎はその事を心に強く留め置いた。

「……それで、次はどっちに行くの? 椎名まゆり? それとも桐生萌郁? あたしの助けは必要?」

なにやら乾パンらしきものをかじかじと齧りながら、床に直座りしている阿万音鈴羽が問いかける。

「いや……向かうべきはそのどちらでもない。もしお前が必要なときはその時に声をかける」
「え……まさか牧瀬紅莉栖にいきなり挑む気?! ダメだよ、まだ早すぎる!」

ガタ、と腰を浮かせかけた阿万音鈴羽に、やや低い声で岡部倫太郎が答えた。

「勘違いするな。その二人を相手にする前に行かねばならぬところがあるだけだ」
「行かなきゃ……いけないところ?」

明らかに予想の範疇外の答えだったのだろう、阿万音鈴羽は怪訝そうな声を出す。




「ああ……柳林、神社だ」




(『第五章 忘我のパローレ・パローレ(前)』へ つづく)
321次回予告:2012/10/23(火) 23:08:41.59 ID:5ddIkwLC
というわけで第四章、フェイリスルートが無事(??)完結でございます
まずは長々と駄文に付き合ってくださった読者の皆様にただただ感謝
相も変わらず己の文才の無さに嘆く日々ですが、とりあえず全力だけは尽くしました
ピンクは淫乱!の合言葉を胸に、主にエロ方面にですが orz

二次創作の場合、キャラクターの名前を出すだけでそのキャラの容姿、格好、声などをかなり明確にイメージしてもらうことができ、それらの描写を省ける利点がありますが、
同時にそのキャラクターらしくない言動や行動を取らせると途端に萎える、というリスクもあります
特に原作に於いて心情描写がされていないキャラクターや、原作と乖離した展開(十八禁など)の場合、それらのリスクは増大します
拙作のフェイリスが皆様の心の中のフェイリスと地続きであれば……と切に願うところです

このエピソードがフェイリスファンにとって少しでも楽しめる内容であれば、
そうでない方が少しでもフェイリスを好きになってくれる内容であれば、
そんな事を願いつつ、このルートを閉じさせていただきたいと思います

さて次からはいよいよ第五章、鈴羽が一切触れなかったルカ子ルートです。
作中の岡部倫太郎はノーマルであり、男であるルカ子を選ぶ事はあり得ないのですが、それでも彼(彼女)がこの作品におけるヒロインである事になんら変わりはないわけで、当然オカリンが忘れるはずもありません
エロパロ板にあるまじき非十八禁展開のため話数は少なめですが、少しでも愉しんでいただけたらと思います
次回の更新は明日……もしかしたら明後日になるかもしれません
というわけで今宵はこの辺で〜
感想などいただけたら一層の励みになったり ノノシ
322名無しさん@ピンキー:2012/10/23(火) 23:12:08.22 ID:SbjEc20x
>>321
投下乙です。
フェイリスを堕としたことに、そのことをなかったことにしてしまったことに
苦悩するオカリン。そして今後更にこの重みは増して行くわけですな。
ルカ子は個人的に大好きなキャラなので、たとえ濡れ場はなくともオカリンが
どんなフォローをするのか楽しみにしております。
323名無しさん@ピンキー:2012/10/23(火) 23:17:27.73 ID:pr56TqPJ
ルカ子√非18禁と聞いて安心した俺がいる

毎度乙
続き楽しみにしてるず
324名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 00:39:26.90 ID:zr8RZMaq
ルカ子に開発されてしまうオカリンも見て見たかった
325名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 03:53:39.59 ID:c3B/ABHd
>>321
投下乙です!
非18禁と聞いて残念なのか、いや・・・
>>324に書きこんだ覚えないんだが俺がいる
326名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 05:02:42.88 ID:lbNNdmvc
ピンクは淫乱だった(GJ)
327名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 06:04:55.92 ID:dOV2Gfpr
フェイリス編、無事終了乙です。
めっちゃ淫乱なピンクをありがとうございます。
しかしオカリンはこのままこのことを”なかったこと”にしてしまうのでしょうか?
ルカ編でのプラトニックな攻略も楽しみにしてます
328名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 23:00:50.25 ID:U/bW9NQG
こんばんわー
色々と感想ありがとうございます
それでは張り切って第五章に突入……ちょっと眠い(欠伸
329第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/24(水) 23:03:51.56 ID:U/bW9NQG
5−1:2011/02/13 23:00 未来ガジェット研究所

「よし、完成!」

牧瀬紅莉栖が額の汗を拭って快哉を叫ぶ。
外は厳冬に相応しく強い風が吹き付け窓をガタガタと揺らしていたが、橋田至が年末に拾ってきて修理したヒーターが現在絶賛稼働中であるため、室内はむしろ暖かいくらいだった。

「お、牧瀬氏できたん?」

牧瀬紅莉栖の声を聞き、成人誌を読み耽っていた橋田至が顔を上げる。
どうやら最後の詰めを彼女に任せ、ネットを見ながら休憩中だったらしい。
橋田至がカーテンを開けたると、彼の前には新電話レンジ(仮)を改造してたった今完成した、タイムリープマシンが鎮座していた。

「うん。一応ね。まだ倫理的な問題は解決してないけど……」
「でも記憶だけとはいえ過去に飛ばすマシンだろ……本当ならマジですごくね?」
「理論的には完璧。あとは誰かが実験をして確かめるしかないわけだけど……」

だが一切のテストなしにそれをするのは人体実験に等しい。
もしかしたら記憶が上手く上書きできないかもしれない。一部の記憶に齟齬が生じるかも知れない。それどころか転送先の記憶自体を破壊してしまうかもしれない。
そんな危険な実験を、一体誰が行おうというのだろうか。

「ようやく完成したか! 我が助手よっ!」
「お? オカリン、おかえりー」
「岡部! あんた一体どこほっつき歩いてきたのよ!」

寒風を引き連れラボに入ってきた岡部倫太郎。
彼の手にはビニール袋がぶら下げられており、歩きながらそれをダルの前に置く。

「お! セブンの限定弁当じゃん! オカリンこれ喰っていいの?」
「ああ、完成祝いだ。好きに食べてくれ」
「わーお、オカリン話せるゥー! そこに痺れる憧れるぜ。いやマジで」
330第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/24(水) 23:07:52.30 ID:U/bW9NQG
歓声を上げながら弁当の物色を始める橋田至を放って、カーテンを開ける岡部倫太郎。
そして腰に手を当て御立腹の体の牧瀬紅莉栖にドクターペッパーの缶を放り投げる。

「あ、ありがと……」
「御苦労だったな、クリスティーナ」
「な、なんだいきなり気色悪い」
「気色悪いとは失礼だな」

苦笑しながら岡部倫太郎が実に慣れた所作で椅子に座る。

「だ、だってあんたが素直な時は、その……どうせろくでもないこと考えてるんだから……っ」

褒められて嬉しいのか頬を染めもじもじしている牧瀬紅莉栖。
だがそんな彼女を尻目に、岡部倫太郎は無言でマシンの設定を弄ってゆく。
それも彼女の説明も聞かずに、なんとも堂に入った様子で。

「岡部……?」
「早速だが使わせてもらうぞ、助手よ」
「岡部、あんた一体何を……っ!?」

呆気にとられていた牧瀬紅莉栖は、だが彼の迷いのない動きにすぐにとある可能性に気付いて息を飲んだ。

「岡部! もしかしてあんたもうこのマシンでタイムリープしてきた後なの!?」
「え? なになに? 牧瀬氏牧瀬氏、オカリンがタイムリーにどうかしたん? 黒ストの伝線でも拝んだ?」
「うっさい黙れこのHENTAI!」

カーテンの向こうからごそごそと音がする。
どうやら橋田至も様子がおかしい事に気付いたらしい。

「ねえ、それより岡部……っ」
「ああ、そうだ」

素早くタイマーを32時間と45分前にセットしながら、牧瀬紅莉栖の詰問に淀みなく答える岡部倫太郎。
きっとこのやり取りも幾度となく繰り返してきたのだろう。

「何かあったのね! タイムリープが必要な何かが!」
「……ああ」
「なに? 何があったの?! 岡部!」

だが……岡部倫太郎はそれに答える事なく、無言でヘッドホンを装着する。
331第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/24(水) 23:11:32.34 ID:U/bW9NQG
牧瀬紅莉栖の心の内に、ぐるぐるぐるぐると激しい想いが渦を巻く。
この人は一体何を悩み、何に苦しんでいるんだろう。
少しでもいいから知りたい。力になりたい。助けてあげたい。
けれど彼は今度もも何も教えてくれなくって、たった一人で旅立ってしまう。


また……また私を置いて……っ!


新電話レンジ(仮)から激しい放電現象が起きる。42型ブラウン管は既にラボに設置されており、リフターの起動にブラウン管工房の様子を確認する必要はない。

「ちょ、牧瀬氏! なにやってるん! 危ないお!」

カーテンを開いた橋田至が思わず叫ぶ。
タイムリープマシンは既に励起状態となっており、部屋の中は既にジジ、ジジジという喧しいほどの音の洪水と青白い光の奔流に包まれていた。
空気中に走る電流が顔面近くを走り、思わず後ずさった牧瀬紅莉栖は、けれど右腕で顔を覆いながら一歩、また一歩と岡部倫太郎に近づいてゆく。

何かしたい、この人のために何か……!

「岡部……ねえ岡部……っ!」

大気を流れる電流が彼女の白衣を焦がす。けれどその歩みは止まらない。
真剣な顔つきで何かをブツブツと呟いている岡部倫太郎……せめてその呟きだけでも聞き取れれば……!


「お前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛しているお前が好きだ愛している……」
「ちょ、おま……っ!?」

彼が死んだ魚のような瞳でブツブツと繰り返している言葉の正体を聞いて目をまん丸に見開く牧瀬紅莉栖。


「ちょ、待っ、ちょっと、お、岡部……? あ、あ、あんたなにが目的でタイムリープしとんのじゃぁぁぁあああああああああああっ!!!!」


顔中を紅潮させた牧瀬紅莉栖渾身のツッコミが、青白く輝く部屋に響き渡る。




……岡部倫太郎の震える指が、携帯のメール送信ボタンを押した。
332名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 23:14:28.74 ID:U/bW9NQG
というわけで今宵はここまでー
オカリンにはいつだってがんばりやですね(棒読み
それではまた次回ー
333名無しさん@ピンキー:2012/10/24(水) 23:17:02.94 ID:Rz4naWTe
乙。
つかオカリンの追いつめられよう?が凄いんですけど、いったい何をしたんだルカ子……
334名無しさん@ピンキー:2012/10/25(木) 01:06:15.18 ID:F8YcBVqV
オカリン?
え?

続きが、気になります。
335名無しさん@ピンキー:2012/10/25(木) 10:57:11.13 ID:czHsDABm
暗示?練習?
とにかく続き楽しみにしてるず
336名無しさん@ピンキー:2012/10/25(木) 23:19:25.81 ID:lMqo2mxM
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー

……だが男だ
337第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/25(木) 23:20:02.60 ID:lMqo2mxM
5−2:2011/02/12 11:23 柳林神社

2月12日、土曜日。
漆原るかは、いつもの如く巫女装束を纏い、神社の境内を掃除していた。
とはいえ真冬のさなかである。本来なら余計な装束は纏わぬほうが良いのだが、流石にマフラーと手袋程度は身に着けているようだ。
漆腹るかは慣れた手さばきで箒を操り、手際よく木の葉を掃き寄せてゆく。

「岡部、さん……」

小さく、掠れた声で呟く。
ほう、と溜息が溢れ、口から白い吐息が漏れた。
それはたちまち強い北風に吹き飛ばされて掻き消すように消え失せる。

だが彼女……いや漆原るかは『彼』だ。
見た目は中性的で、そのたおやかな佇まいは女性と見紛うばかりだが、彼はれっきとした男である。
そしてそんな彼の想いは……北風に吹き付けられた程度で消え去ってしまうような小さなものではなかった。

岡部倫太郎……普段は鳳凰院凶真を自称し、漆原るかの師匠を名乗っている。
そして彼もまた、岡部倫太郎を師と仰ぎ尊敬していた。
こうして岡部倫太郎の事を思い浮かべるだけで胸がぼうっと熱くなり、それだけでこんな真冬の作業にも耐えられるような気がする。
そして彼は、それもこれも全て岡部倫太郎が己を鍛えてくれたお陰だと信じて疑っていない。

「岡部さん……」

再び熱い吐息を漏らし、敬愛すべき師の名を呼んだ。
だが彼の表情……そして頬を染め、ぷっくりとした唇を僅かに蠢かし掠れた声で呟いたその口調に込められた熱には、むしろ相手に対する慕情とすら取れるものが込められていた。
338第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/25(木) 23:25:27.86 ID:lMqo2mxM
けれどその想いが岡部倫太郎に告げられる事は決してない。
彼の性癖がノーマルである事は漆原るか本人が一番良くわかっていた。
だからもしその想いを口にしても、それが遂げられる事は決してないのだ。
そんな事はわかっている。ずっと前からわかっていることだった。


だのに……漆原るかは、彼へのその秘めた想いを断ち切る事ができない。


いや、正確には少し違う。
諦めはついているのだ。彼は男で、自分も男。男性同士が結ばれるなど所詮絵空事であり、現実には起こりえない。
それに岡部倫太郎の周囲にはいつだって綺麗な女性が集まっていて、しかも皆彼に好意を抱いているようだ。
さもありなん、と彼は思っている。
男の自分が惚れるくらいなのだから、世の女性が彼を放っておくはずはないのだ、と。

まあその点に関しては少々彼の誤解が含まれていて、岡部倫太郎はいわゆる女受けをするタイプではないのだが、どうしても自分視点から彼を見てしまう漆原るかにはそうした結論は導き出せぬ。

いずれにせよ……漆原るかは岡部倫太郎と己が結ばれる、という夢見がちな未来に対して既に諦観を得ている。それに間違いはない。

ないのだが……それでも、彼は岡部倫太郎が好きだった。
届かぬとわかっているのに、望みなんてないと自覚しているのに、決して報われることはないと知悉しているのに……それでも、その上で彼は岡部倫太郎への好意を抱き続けているのだ。
339第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/25(木) 23:27:25.22 ID:lMqo2mxM
「岡部、さん……」

だから彼は想い人の名前を独り呟き続ける。
その名を口に出す事だけは誰にも止める権利などないのだと、せめてそれだけは自分にだって赦されるだろうと、そう心に想い定めて。

「なんだ? ルカ子よ」
「あ、はい、実はですね……わひゃぁぁうぅっ!?」

当たり前のように受け答えしかけて、本物の岡部倫太郎が来ていることに遅まきながら気付き、思わず奇声を上げてしまう漆原るか。

「お、お、岡部さん?!」

箒を杖がわりになんとか態勢を保った彼は、すっかり動転して思わず声が裏返ってしまい、自らのその声の高さにますます恥じ入り、頬を染めて小さく縮こまった。

「岡部ではない。鳳凰院凶真だっ」
「す、すいません、凶真さん……」

ややオーバーアクション気味な岡部倫太郎の言葉に、消え入りそうな返事をする。

「ところでどうした我が弟子よ、何か困りごとか?」
「あ、いえ、別にそういうわけでは……」
「む、そうか?」
「は、はい……すいません」
「何を謝ることがある。お前は何か悪いことでもしたのか、ルカ子よ」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「ならばそう簡単に謝るな! 己を恥じるな! もっと自信を持て! それでもどうしようもなくなったときは……そうだな、その時は遠慮なく俺を頼るがいい」
「は、はいぃ……」

大仰なポーズを取りながらの岡部倫太郎の低く、凛々しい声にうっとりとしながら返事をする。
漆原るかにとって彼の言葉は絶対にも等しいものだった。
340第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/25(木) 23:29:26.50 ID:lMqo2mxM
彼……岡部倫太郎はラボメン、つまりラボに所属する仲間達のことをとても大切にしている。
だからラボメンに困ったことがあればいつでも親身になって相談に乗ってくれるのだ。
漆原るかは彼のそういう優しく、ある種お節介とも取れる側面をよく知っていた。
だってそういう彼にこそ自分は救われたのだから。だからこそ彼を慕っているのだから。

しかし……今彼に相談に乗ってもらうわけにはいかない。
想い焦がれている張本人に、その熱き想いが届かぬ事についての相談などできるはずがなかろう。
だから岡部倫太郎が珍しく深く追求してこなかったことに対して、漆原るかはほっと息をついた。

「そ、それより岡部さ……凶真さんこそどうしたんです、こんなところで。父に何か御用ですか? 呼んできましょうか?」
「どうした……だと? 決まっているだろうルカ子よ。この鳳凰院凶真が行動する理由はただ一つ! この世界に混沌を撒き散らすためだ! フゥーハハハハハ!」

両腕を広げ高笑いする岡部倫太郎を、漆原るかは目を細めて見つめている。
いつもの如き会話、いつもの如きやり取り。だが……ただ岡部倫太郎が近くにいる、それだけで感じるこの喩えようもない幸せ。
己の想いを打ち明けられぬ漆原るかにとっては、それで十分だった。


……それで、十分のはずだった。
341名無しさん@ピンキー:2012/10/25(木) 23:30:29.67 ID:lMqo2mxM
というわけで今宵はここまでー
ルカ子健気可愛いよルカ子
まあそんなわけで次回もよろしく ノシ
342名無しさん@ピンキー:2012/10/25(木) 23:35:25.58 ID:kCtVc5ym
乙です。
やっぱり前回のオカリンはルカ子の精神攻撃から逃げてきたんでしょうかねw
343名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 03:26:19.02 ID:1bLQ8EgC
乙です。だが男だ。
344名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 03:47:11.45 ID:uk9JZVsJ
夢枕獏を思わせる文体
乙です
345名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 16:21:35.58 ID:UHfGN38s
暗示しなきゃいけないほどに惹かれるってどんだけよ
ましてや男相手でそれなんだから女性陣の立つ瀬がないw
346名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 23:13:34.10 ID:pYoEEim/
だが男だ!(挨拶)
では今週最後の更新に入りたいと思います
347第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/26(金) 23:16:00.07 ID:pYoEEim/
5−3:2011/02/12 11:45 

「そうだ、ルカ子よ、そういえばお前に一つ頼みたいことがあるのだが……」
「は、はい、なんでしょう。その、ボクにできることでしたら……」

岡部倫太郎が彼に頼み事をすること自体はそう珍しいことではない。
彼個人としては恥ずかしかったり気乗りがしない頼み事もないではなかったが、漆原るかが最終的に岡部倫太郎の頼み事を拒絶することは殆どないと言っていい。
そして岡部倫太郎自身も、その事はよくよく把握しているはずである。

それに彼本人としても岡部倫太郎の頼みを聞くのはとても嬉しいことだった。
実のところ大概の難問は椎名まゆりや橋田至の手を借りるか、あるいは彼本人の手で解決してしまう事がほとんどであり、岡部倫太郎が彼を頼る時は本気で困っている事が多い。
そんな彼に手を貸して、頼られて、役に立つ……それは漆原るかにとってとても栄誉な事だった。
もしそれで彼の笑顔が見られて、感謝の言葉が聞けたなら……もうそれだけで心がいっぱいに満たされて、幸せな気持ちになれるのだ。

「そうか。それは助かる。ではなんだ、その……その前に食事でもどうだ?」
「はい……?」

だから、助けを借りる時はいつだって一方的に用件を切り出すか、ラボに召集をかけることが常だった彼が、それもいつも金欠を嘆いている岡部倫太郎がそんな事を言い出すなんて今までついぞ無かったことで……
漆原るかは、その言葉を聞いてしばし硬直してしまった。

「報酬の前払いだ。ちょうど昼時だしな」
「お昼……えっと、岡部さんとボクとで、ですか……?」
「他に誰がいる。それと鳳凰院凶真だっ」
「はあ、はい……って、え、ええええええ?!」

きょとんとしたまま目を二、三度ぱちくりとさせた後で、我に返って驚きの声を上げてしまう漆原るか。
348第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/26(金) 23:19:34.32 ID:pYoEEim/
「なにをそんなに驚くことがある」
「い、いえ、その……まゆりちゃん達は?」
「報酬の前払いだと言っているだろう。なぜそれにまゆりを同伴させる必要がある」

椎名まゆりは大食漢であり、下手におごろうものなら彼の生活費が色々とピンチになること請け合いである。
ゆえに下手に呼べない、という理由もあるのだが、既に漆原るかにはそんな事情を斟酌するような心の余裕は失われている。

「じゃ、じゃあじゃあ、もしかして……その、二人きり、ですか?」
「まあそうなるな。それがどうかしたのか?」
「ひゃいっ!? い、いえっ、ななななんでもないですっ!」

二人きり、という言葉につい過剰に反応して、大きく動揺して思わず声を上ずらせてしまう漆原るか。

「どうした? 何を慌てているルーカー子ーよー」
「え、いえ、でも、おか……凶真さん、そのお金は大丈夫なんですか? その、まゆりちゃんの分は払えないっているなら、その、ボクの分だって……」
「お前に心配されない程度には持ってきてあるぞ、ルカ子よ」

懐具合に気を廻されたことが気に障ったのか、やや憮然とした表情で返す岡部倫太郎。
ただその後ですぐに背中を向け、こっそりと財布の中身を確認するあたりがいかにも小心者の彼らしい。
まあそういう心配をさせたくないのなら、もう少し普段の生活と資金状況を改善しておくべきだろう。

「それとも何か用事があるのか? 忙しいようならまた今度の機会にするが……」
「いえっ! 大丈夫です! 暇です! 行けます!」
「そ、そうか? ほ、本当に大丈夫か?」

大慌てて叫ぶ漆原るか。気圧されたように一歩後ずさる岡部倫太郎。
だがようやく把握した夢のような状況が目の前で喪われようとしていると思い込んでしまった漆原るかは、その危機感から泣きそうな顔で必死に岡部倫太郎に訴える。
349第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/26(金) 23:20:59.26 ID:pYoEEim/
「い、行きたいです……その、お、岡部さんと一緒にいきたい……ふ、二人で一緒にイきたいですぅ……っ」

掠れた……だがやけに熱っぽく、湿り気のある声で懇願しながら、漆原るかが岡部倫太郎にすがりつく。

「ま、待て待てっ! その言い方はやめんかっ! わかった! わかったから少し離れてくれっ!」

漆原るかの口調と声色とその潤んだ瞳からまるで異なる状況を想像してしまい、思わず赤面して彼の腕を振り払う岡部倫太郎。
けれどすがりつく自分を振り払った彼に、漆原るかは食事の約束が反故にされそうなのだと勘違いしてますます擦り寄ってくる。

「お、岡部さぁん……ボク、ボク岡部さんと一緒がいいんです……お願いです、い、イかせて……イかせてくださいぃ……っ」
「わ、わかった! わかったから! 行こう! 共に食事に行こうではないか! というか元々食事に誘ったのは俺なのだ! 別にそこまで必死にならんでもいいだろう!」
「あ、す、すいませんっ、な、なんかびっくりしちゃって、その、つい……」
「それと岡部ではない。鳳凰院凶真だっ!」
「あ、す、すいません凶真さんっ」

真っ赤になってそっぽを向く岡部倫太郎。
ようやく落ち着いたらしく、彼の白衣を掴んでいた手を離す漆原るか。

けれど巫女装束の彼の懸命な懇願を、もし誰かが端で聞いていたとしたら、一体どんな感想を持っただろうか。
350第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/26(金) 23:22:24.01 ID:pYoEEim/
「えー、だが本当に暇でいいのかルカ子よ。期末テスト期間中ではないのか?」
「あ……いえ、それは夕方からやるつもりだったので……」

一瞬テストの事を思い浮かべて青くなるが、それでも岡部倫太郎からの食事のお誘いには抗えない。
もしかしたらこんな気まぐれ今後二度と訪れないかもしれないのだ。
この絶好の機会を逃すだなどと彼……漆原るかには考えられない事だった。

「そうか、では掃除が終わるまで待たせてもらおう」

少し寒そうに腕を組んで境内の木にもたれかかる岡部倫太郎。小さく吐いた吐息が白く、彼の前で澄んだ大気を濁らせる。
漆原るかは追い立てられるように掃除を終わらせ、用具をしまった後に全速力でよそ行きの服(少しだけお洒落な)に着替え、息を切らせて戻ってきた。

「ハァ、ハァ……お待たせ……しました……」
「大丈夫かルカ子よ、だいぶ息が上がっているようだが……」
「だ、大丈夫です、ばっちりです! 毎日五月雨を振って鍛えてますから!」
「む、ちゃんと教えを守っているようだな我が弟子よ。では行くぞ、英雄王の食卓へ!」
「はいっ!」

岡部倫太郎の後を嬉しそうについてゆく漆原るかは……出で立ちの中性さとその容貌や表情から、傍目には気難しい彼氏とのデートに浮かれている美少女のようにでも見えただろうか。
351名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 23:23:08.60 ID:pYoEEim/
というわけで今宵はここまでー
それでは次回があれば来週以降にお会いしましょう ノノシ
352名無しさん@ピンキー:2012/10/26(金) 23:25:30.47 ID:wmF87PEG
おつなのぜ。
ルカ子けなげよのぅ。
353名無しさん@ピンキー:2012/10/27(土) 00:14:08.04 ID:vbKiufO0
中性的?いいえ、女性的です。
354名無しさん@ピンキー:2012/10/27(土) 06:35:32.67 ID:+8D9BP3w
英雄王で吹いた
355名無しさん@ピンキー:2012/10/29(月) 00:02:00.88 ID:TqfznMx1
中の人的にダルの食卓だよなwww
356名無しさん@ピンキー:2012/10/29(月) 22:56:22.13 ID:Idc3JrV/
こんばんは
今宵も更新しに来ました
短い間ですがお付き合いください
357第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/29(月) 22:59:42.82 ID:Idc3JrV/
5−4:2011/02/12 12:22 メイド喫茶『メイクイーン・ニャンニャン』

「お帰りなさいませ御主人様♪」

黄色い挨拶と共に店内に通される。

「ニャ、凶真?」

満面の笑みで御主人様を出迎えた猫耳メイドが小首を傾げ、その後ニュフフ、と口元に手を当てて含み笑いを漏らした。

「どうしたニャ凶真、ルカニャンと二人で来るなんて。ひょっとしてデートかニャ?」
「フェ、フェイリスさん……!」
「馬鹿なことを言ってないで早く席に案内しろ」

デートという言葉に、密かに心の内でまさにそんな妄想をして浮かれていた漆原るかは図星を突かれ慌てふためくが、岡部倫太郎は当然のように切って捨てる。
当たり前の事ではあるけれど、漆原るかはほんの少しだけ落ち込んだ。

「ニャニャ! 今日の凶真はつれないニャ! あの日あの時世界樹(ユグドラシル)の下で交わしたフェイリスとの熱い熱い約束は一体なんだったニャ?!」
「残念ながら反故にさせてもらおう。今日はそれよりも大切な用事があるのだ」
「そんニャあ! あの時の運命を信じて今日までずっと生きてきたのに……ひどいニャ。凶真の嘘吐き! フェイリスの心の純潔を返すニャー!」
「んが……ええいとっとと席に案内せんかフェイリス・ニャンニャン!」

両手で顔を覆って泣き真似をするフェイリスと、芝居がかった台詞で突っ込みを入れる岡部倫太郎。
いつもの如きやり取りである。
だが……フェイリスの言葉に動揺していた漆原るかは、彼女が純潔、という言葉を放った際に、岡部倫太郎がいつもより僅かにうろたえていた事には気付けなかった。
358第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/29(月) 23:02:09.86 ID:Idc3JrV/
「ニャニャー!? 御主人様が怒ったニャ〜! ごめんニャ。ごめんなさいニャ、フェイリスが悪かったのニャあああ!」
「ああもうわかった! 怒ってないから早く案内せんか!」

泣き真似をしながら岡部倫太郎の腕に縋りつき許しを請うフェイリス。
いつもながらの迫真の演技に、漆原るかは素直に感心してしまう。


まるで本当に御主人様の怒りにおののいているメイドのようだ、と。


「ホントかニャ? ホントに怒ってないニャ?」
「くどい、何度も言わせるな」
「怒ってないニャら証拠が欲しいニャぁ……」

さびしんぼうな上目遣いで指を咥え、御主人様を見上げる仔猫のような瞳。
眉を顰め頭を掻いていた岡部倫太郎は……だがやがて諦めたように彼女の頭に手を置き、たどたどしく撫でてやる。

「ふにゃぁあん♪ 気持ちいいニャア……♪」
「……まったく、客をいつまで待たせるつもりだ、フェイリス・ニャンニャンよ」

しかめっ面で呟く岡部倫太郎と彼にしがみつきながらゴロゴロと喉を鳴らすフェイリス。
そしてそれを羨ましそうに、そして白衣のノッポに殺意の瞳を向ける男性客一同。
すっかり機嫌を直し鼻歌を歌いながら案内するフェイリスに、岡部倫太郎はようやくホッと息をついた。

「それでは御注文が決まり次第お呼び下さいニャ、御主人様♪」

別の座席へと注文を取りに行くフェイリスに憧憬の瞳を送る漆原るか。
彼女ほど素直に自分の気持ちを出せたら……そう強く心に思う。
内気で引っ込み思案で怖がりな自分。
そんな自分を変えたくて、だから彼は岡部倫太郎に憧れた。

以前に比べればだいぶ積極的になれたと自分でも思っている。夏に椎名まゆりに勧められたコスプレデビューもその成果だ。
けれどやはりまだまだ自分をさらけ出す事には抵抗がある。

だってそれは……最後には決して許されぬ領域への想いへと、繋がってしまうから。
359第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/29(月) 23:04:26.20 ID:Idc3JrV/
「あの……、岡部さん」
「鳳凰院凶真だ」
「あ、すいません凶真さん、その……さっきの話、なんですけど……」
「さっきの? どの話だ」
「あ、いえ、その……フェイリスさんと昔交わした運命の約束がどうのって……」
「気にするな。あれはフェイリスの戯言だ。それより何を頼む。何でもいいぞ! この鳳凰院凶真に全て任せておくがいい! フゥーハハハハハ! ……うむ」

ひとしきり高笑いした後、こっそり後ろを向いて再び財布の中身を確認する岡部倫太郎。
漆原るかはくすくすと笑った後、メニューをざっと確認する。
普通の喫茶店に比べると若干高めだが、いわゆる普通のメイド喫茶のように馬鹿みたいに高い値段でもない。味も並の喫茶店と遜色ないレベルだし、少しでもこの手の店に通った事がある者なら相当に勉強している、むしろ良心的な価格に感じられるだろう。

「ええっと、えっと……どれにしようかな……」

岡部倫太郎におごってもらう経験など殆どない漆原るかは、どのあたりのメニューを頼めばあたりさわりがないかと少し悩んだ。
コーヒー一杯やジュースだけなど、不必要に遠慮してしまっては却って彼の好意を無にしてしまうことになりかねないし、かといってあまりに高いものを頼んでは彼の財布に大打撃だろう。
岡部倫太郎が常に金欠である事など、弟子である彼にはとっくに承知なのだ。

「ええと、じゃあこのケーキセットを。レアチーズで」

結局悩んだ末、それなりに美味しそうで値段もそこそこのデザートとコーヒーのセットを頼む事にした。
こんなメニューひとつ決めるだけでも、以前の彼なら倍以上の時間をかけていたはずだ。

「ケーキだけでいいのか?」
「はい、十分です……」

少しだけ自分が誇らしくなって、漆原るかは目を細めはにかみながら微笑む。
その姿はどう見てもとびっきりの美少女のそれで、岡部倫太郎の背中に再び殺意の視線が幾重にも突き刺さった。
360名無しさん@ピンキー:2012/10/29(月) 23:05:15.90 ID:Idc3JrV/
というわけで今宵はここまでー
それではまた次回以降にお会いしましょう ノシ
361名無しさん@ピンキー:2012/10/29(月) 23:14:26.30 ID:nqCkYAdU
乙ダルム
フェイリスが微妙にRSかかってるっぽいのが怖い
362名無しさん@ピンキー:2012/10/30(火) 07:09:50.08 ID:+SpOd0QL
乙っす
フェイリスのオカリンに対する甘えっぷりが尋常じゃない。
原作でもリーディングシュタイナーを発現させた猫耳メイドなら、きっと...
さてはて、そこらへんがどう回収されるのか気になりますが、まずはルカ子編がどのような話になるのやら。
363名無しさん@ピンキー:2012/10/30(火) 07:19:50.30 ID:p1QaO5B1
フェイリス△wwww
るか編と思えぬほど目立ってるw
364名無しさん@ピンキー:2012/10/30(火) 23:08:02.85 ID:HxpUx16b
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
365第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/30(火) 23:11:29.33 ID:HxpUx16b
5−5:2011/02/12 13:37 

その後二人は食事を摂りながらお互いの最近のことについて話し合った。
漆原るかは去年の秋口に突然岡部倫太郎が連れて来た牧瀬紅莉栖という女性が、今月に入ってラボで何かの開発に没頭している事は聞いていた。
牧瀬紅莉栖……彼がラボメンの証である例のバッジをもらった当日に、岡部倫太郎が出逢ったという女性。
正確にはその二ヶ月ほど前に岡部倫太郎が命懸けで救った女性……らしい。
なぜ彼女の方が自分よりもラボメンナンバーが上なのか、なぜ見ず知らずだったはずの彼女を岡部倫太郎が命懸けで助けようとしたのか、漆原るかには詳しい事はさっぱりわからなかった。

ただ一つわかっているのは……彼女が、岡部倫太郎を好いている、という事だけだ。

彼女だけではない。友人の椎名まゆりも、同じラボメンの桐生萌郁も、先刻のフェイリス・ニャンニャンも……漆原るかは、彼の周囲で彼に好意を抱いていない女性はいないと思っている。
そして……だから、それゆえに悲しい。
自分だけ決して踏み越えてはならぬあまりに大きな溝がある事が。
だって自分は……男だから。
だから決して告げる事はできない。この想いも、この思慕も。

そう、彼は今も強く自覚していた……
自分は、漆原るかは、岡部倫太郎のことを好いていると。

こんな気持ち、決して彼には知られてはならない。
男同士なんて気持ち悪がられるに決まっているからだ。
だからこの想いは秘めたままでいなければならない。決して知られず……墓場まで隠し通さねば。
そうでなければ……今の距離すら失ってしまう。
決して手は触れられないけれど、隣にいられる、そんな距離すらも。

ただ、漆原るかは少々勘違いしていた。
確かに彼は男でありながら男である岡部倫太郎に懸想している。
けれどその思慕は男としての男好きというわけではなく、むしろもし彼が女性であると考えれば何もおかしくはない恋愛感情の発露なのだ。
けれどフェイリス・ニャンニャンと異なり他人の心を覗けるわけでもない彼はその違いにまで考えが及ばず、結句自らの気持ちをただよからぬものとして、それでも捨てきれぬ切ない想いとして胸に抱いたまま苦しんでいた。
366第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/30(火) 23:18:00.58 ID:HxpUx16b
「……どうした、ルカ子よ。何か考え事か?」
「あ、いえ、なんでもないんです。すいませんお……凶真さん、心配させてしまって」
「そうか……それならいいのだが。ではそろそろ出ようか」
「ハイ」

食事を終えてメイクイーン・ニャンニャンから出てきた二人は、腹ごなしとばかりに秋葉原の裏通りを歩く。

「今日は本当にありがとうございました岡部さん。ごちそうさまでした」
「気にするな。俺の方から誘ったのだからな。それと鳳凰院凶真だ」
「あ、ハイ、凶真さん。 ……あの、それで、ええっと」
「なんだ、我が弟子よ?」
「その、ボクに用事って……一体なんでしょう」

どきどきと胸を鳴らしながら、だが勇気を振り絞って尋ねる。
岡部倫太郎と二人で秋葉原を歩く、岡部倫太郎と二人で食事をする。
それだけで既に彼にとっては望外の喜びであって、幸せすぎてどうにかなってしまいそうだった。
まるで熱病に浮かされたかのように身体が火照っていて、足元が浮ついている。
世の女性が好いている相手とデートしている時というのは、こんな気分なのだろうか。

けれどこれは報酬なのだ。彼が言い出すであろうなんらかの用件のための。

漆原るかは岡部倫太郎に頼み事をされると大抵聞き入れてしまう。
だから彼にいいように使われている側面がないでもない。
そんな事は彼自身も、そして岡部倫太郎も重々承知のはずだ。
にもかかわらず今回岡部倫太郎はわざわざ彼に報酬を提示してきた。それも前払いでである。
いつもの彼にしては凡そあり得ないことだ。

それを考えると……おそらく今日彼が漆原るかに依頼してくる内容は相当難易度の高いものである事が予想される。

物理的に大変なのか、それとも精神的にハードルが高いのか、いずれにせよ楽な内容でない事は確かだ。
だから聞くのが怖かった。この幸せな時間を壊したくはなかった。
けれど……聞かなければ。知らなければ。
彼が、岡部倫太郎が自分に何を望んでいるのか、何をして欲しいのか。
それがラボメンにして弟子である、自分がするべき事だからと……漆原るかは信じているから。
367第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/30(火) 23:20:39.67 ID:HxpUx16b
「うむ、よくぞ聞いてくれた我が弟子よ」

大仰に腕を広げた岡部倫太郎は、やや芝居がかった口調でそう告げると、その進路を左に変えて、公園の中に入っていった。
秋葉原の裏通りにある芳林公園である。
秋葉原に訪れる者は戦利品の確認と外での食事以外で公園に寄ることは滅多にない。
その上今は真冬である。
ゆえに休日だというのに公園の中は今日も閑散としていた。

「……む、このあたりでいいだろう」

もったいぶったポーズで、岡部倫太郎が公園の中程で立ち止まる。
漆原るかもまたその少し手前で立ち止まった。

「ルカ子よ、我が弟子よ」
「は、はいっ、なんでしょう凶真さん!」
「お前に頼みたい事というのは他でもない、少々こう……お前の意見を聞きたいのだ」
「意見……?」

漆原るかは首を傾げる。
今まで幾度か彼から助言や意見を求められたことがあったが、自分の意見が彼の役に立ったことはほとんどなかったような気がする。
そんな自分にたっての願いとは一体どんな話なのだろうか。

「そうだな、例えばだルカ子よ、お前が仮に……女だったとする」
「はい、ボクが女……ってええええええええっ?!」

途中までうんうんと頷いて、その後素っ頓狂な声を上げる。
もし自分が女だったら……そんなこと漆原るかはいつだって考えていた。
自分が女性だったら、もしかしたらこの想いを告げることができるのかもしれない。
岡部倫太郎が……目の前の男性がその想いを受け入れてくれるかどうかはわからないけれど、少なくとも告白すること自体はできるのだ。

自分にその勇気があるのかどうかはわからないけれど。
あんなにたくさんの綺麗な女性に、可愛い女の子に囲まれている彼が自分を選んでくれるとは思えないけれど。
それでも……女になれば、自分が女の子になれば、
少なくとも自分のこの気持ちに、決着はつけられるのだ……!
368第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/30(火) 23:29:50.95 ID:HxpUx16b
「……どうした、ルカ子よ」
「ボクが、ボクが女の子なら……! あ、凶真、さん……」

まるで風邪でも引いたかのように顔を朱に染めた漆原るかが、ほう、と熱い息を吐いて岡部倫太郎を見つめる。

「ルカ子、しっかりしろ、どこか調子が悪いのか?」
「あ……あ、いいいえいえっ、だだだ大丈夫ですっ!」

岡部倫太郎に肩を掴まれ、ようやく我を取り戻す。
気づけば目の前に岡部倫太郎の顔があって、漆原るかは真っ赤になって慌てて距離を取った。
だって彼の顔をずっと間近で見つめたままなんて……耐えられない。きっとどうにかなってしまうだろうから。

「調子が悪いのか?」
「いえいえいえ、もう大丈夫です、ご心配をおかけしました、凶真さん!」
「む、そうか? 平気ならそれでいいのだが……」

やや不審げな表情ながらなんとか納得した様子で、岡部倫太郎は腰に手を当て、小さく伸びをして背を反らす。
その間に漆原るかは己の胸に手を当て、必死に鼓動を落ち着かせようとしていた。

(危なかった……もしあれ以上岡部さんに抱き寄せられてたら、ボク、ボク……っ!)

いけない事だ、許されない事だ。
それは決して明かしてはならぬ事なのだ。
知られれば拒絶される。嫌われてしまう。傍にいられなくなってしまう。


それだけは……それだけは嫌だから。絶対に嫌だから。


だから、この想いはこの人に気取られてはいけない。
そう懸命に自分に言い聞かせて、なんとかして己を保とうととしているのに。
だのに……なんで。
なんで、今日に限って……そんな……!


漆原るかは表面上にこやかにしながら、心の奥底でそんな葛藤を繰り返していた。
だが……今日の岡部倫太郎の攻勢は、その程度では終わらなかったのだ。
369名無しさん@ピンキー:2012/10/30(火) 23:30:53.52 ID:HxpUx16b
というわけで今宵はここまでー
ルカ子女の子可愛いよルカ子
そんなわけでまた次回ー ノシ
370名無しさん@ピンキー:2012/10/30(火) 23:31:29.77 ID:UZaBGMxi
おつですー。
ルカ子はかわいいですよね。
371名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 01:45:46.93 ID:z+H0iRR2
だが男だ(続き期待)
372名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 12:23:20.37 ID:uMhn/Eno
だが男だ(るかの口調違和感)
373名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 13:55:48.65 ID:qvXdoa+j
だが男だ(難しいキャラだし仕方なかろ)
374名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 15:58:02.21 ID:k3V1hM9o
だが男だ(俺は気にならん)

まゆりがなのですなのです言ってたり、ダルがだおだおだおだお言ってたりするとちと萎えるけど
375名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 22:54:50.28 ID:Evfmjn9v
こんばんはー
今宵もよろしくお願いします
口調については気をつけているつもりなんですが
気になる方がいたのなら申し訳ありません m(_ _)m
376第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/31(水) 23:00:12.17 ID:Evfmjn9v
5−6:2011/02/12 13:52 芳林公園

「どうする、気分が悪いようならやめておくか?」
「大丈夫です凶真さん。急な話でちょっとびっくりしただけですから。ええとボクは女、ボクは女……はい、凶真さん、ボクは女の子です!」

無論演技のつもりではあるが、自分が叫んだ台詞に思った以上に違和感がない事に漆原るかは驚いていた。

「よし、では次にルカ子よ、女であるお前に……仮に好きな男がいたとする」
「はい、女の子のボクに、好きな男の人が……」

両拳をぐっと握り、岡部倫太郎の言葉を繰り返したところで……

「えっ、ええええええええええええええええええっ?!」

思わず悲鳴に近い叫び声を上げてしまった。


……女になった自分が。
女になった自分が、好きな人。

そんな相手一人しかいない。
目の前にいる岡部倫太郎以外にあり得ない。
それを、まさか、その当人の口から聞く事になろうだなんて思ってもみなかった。

どういう事だろう。どういう意味だろう。
女になりたいと焦がれている自分。
岡部倫太郎に仄かな慕情を抱いている自分。
それをまるで全て見透かしたかのような彼の言葉。
これにはいったいどんな意味があるのだろうか。

ひょっとしてこれは遠回しな告白か何かなのだろうか。
それともこちらの気持ちを全部見透かした上で自分にはそんな趣味はないと牽制しているのだろうか。

頭がグルグルと廻っている。ついでに目もぐるぐると廻っている。思考が上手くまとまらない。
羞恥と怯え、高揚と悲嘆がない交ぜになって漆原るかはすっかり動転し、混乱の極みに達した。

「ルカ子、ルカ子! ええいしっかりせんか!」
「あ、岡部、さん……」

気付けば漆原るかは、彼の腕の中にいた。
ぼんやりとした意識で周囲を確認する。どうやら自分はベンチに座らされていて、隣に座っている彼の方に倒れこんでしまっているらしい。
もしかしてこれが憧れの膝枕というものだろうか。

自分を上から覗き込む心配そうな岡部倫太郎の顔。
その表情で……自分を嫌っていない、それだけは確信できて安堵する。
377第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/31(水) 23:02:42.11 ID:Evfmjn9v
「あの……岡部さ……」
「一人で立てるか、ルカ子よ」
「あ、は、はい……」

しばらくこの体勢のままでいたかったけれど、どうやら夢はいつだって早く覚めるものらしい。
なんとも残念そうに、漆原るかはベンチに座り直す。
そして先刻の彼の言葉を思い返しみるみるとその頬を染めながら、掠れた声で問いかける。

「あの、岡部さん、ええっと、さっきの、どういうことなんでしょう……?」

ばくん、ばくんと心臓が打ち鳴らされる。
だって彼の質問の意図が、目的がさっぱりわからない。
なにもわからないままでは、頭の中がまたぐちゃぐちゃになってしまう。
だから……漆原るかは問わずにはいられなかった。

「ふう……やはり言わねば駄目か」

岡部倫太郎は頭を掻きながら、やや不本意そうに呟いた。
一人ベンチから立ち上がり、軽く尻をはたきながら小さく伸びをした彼は、そのまま漆原るかの方に向き直る。

「実はな、指圧師に頼みごとがあってな……」
「……はい?」

指圧師と言えば桐生萌郁のことであろう。
漆原るかは彼女とさほど親しいわけではないが、ブラウン管工房のアルバイトであり、仕事熱心な女性であり、そしてラボメンの一人である程度の事は知っている。
他にも随分と無口で、そのかわりメールを打つ速度が異常に速いことも。
岡部倫太郎が彼女を“閃光の指圧師(シャイニング・フィンガー)”と呼んでいるのも、そのメールを打つ指の速度の異様さから来ているらしい。
けれど……それが、あの桐生萌郁が、今回のあの奇妙な質問に何のかかわりがあるというのだろうか。
予想していた事とはまるで異なる展開に、漆原るかは目を白黒させた。
378第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/31(水) 23:05:24.09 ID:Evfmjn9v
「その交換条件としてまあ……俺は指圧師の仕事を手伝う事になったのだ」
「仕事……?」

ますますわからない。彼女の仕事はブラウン管工房のアルバイトではないのか。

「あー、実は指圧師は最近とある編集プロダクションのライターの仕事もするようになっていてな」
「へえ、そうだったんですか。ボク全然知りませんでした」
「うむ、そしてそこの仕事の関係で、ケータイ小説を書いていたりもする。確かこう……『あたしの虹』とかなんとか……」
「ええっ?! ホントですか? ボクそれ読んでます! 凄い……あれ桐生さんが書いてたんですか……?」

驚いて思わず聞き返してしまう漆原るか。
毎週更新を楽しみにしているケータイ小説の作者が、まさかこんなに身近にいただなんて。

「嘘を言ってどうする」
「そ、そうですね……すいません。あれ、でも確かあの小説の作者って現役女子高生だとか……?」

漆原るかは一瞬セーラー服を身につけた桐生萌郁の姿を想像してしまう。
その姿はまるでコスプレのようで……少々、いやかなり胸の部分がきつそうだった。

「あー、元々は確かにそうだったらしいのだが……なんだ、その現役女子高生の才能が枯渇したらしくてな。幾ら待っても続きが書けない」
「ああ……」
「それで四苦八苦している編集に、俺が桐指圧師を推薦したのだ。あいつの文章力が確かなのはお前も知っているだろう」
「あ、は、はい。一度学校のレポート手伝ってもらった事があったんですけど……凄かったです」

椎名まゆりと共同で提出したレポートがあやうく賞を取り全国コンクールだかに出品されそうになって慌てた事を思い出しながら、漆原るかはこくんと頷く。
あの時のレポートはほぼ桐生萌郁のアドバイス通りに……というか殆ど全て彼女一人で書いたようなものだった。
379第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/31(水) 23:07:42.92 ID:Evfmjn9v
「ということはええっと、つまり桐生さんは……」
「あー……うむ。いわゆるゴーストライターという奴だ。他の連中には内緒にしておけよ。特に口の軽いまゆりとダルには絶対だ」
「は、はい、わかりました!」

頷きながらもちょっぴり嬉しくなる。
椎名まゆりと岡部倫太郎は二人だけしか知らぬようなことで盛り上がっていることがよくある。
けれど今回の件は彼女には内緒の、いわば彼と岡部倫太郎と二人だけの秘密ということになるわけだ。
決して誰にも漏らすまい……漆原るかは心の内でそんなことを強く誓っていた。

「ただな、指圧師は現在少々煮詰まっているらしい。ヒロインに男が告白する場面が上手く書けないというのだ」
「あ……」

ここにきてようやく漆原るかにもこれまでの展開が腑に落ちてきた。

「そこでこの俺が指圧師のためにヒロインが喜びそうな告白の台詞を考えてこなければならなくなったのだが……正直何も思い浮かばん!」

頭を掻き毟るようにして大きく仰け反る岡部倫太郎。

「だいたいこの狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真に! 男と女だの色恋だのに廻す頭脳などありはしないのだ!」

岡部倫太郎は呻くようにしてそう吐き捨てて……

「ですよね……はは、あはは……」

漆原るかはようやく得心して、だが激しく気落ちする。
380第五章 忘我のパローレ・パローレ(前):2012/10/31(水) 23:12:00.10 ID:Evfmjn9v
「で、でも、そのラボには他にもその……女の人がいるじゃないですか。男のボクに頼むよりまゆりちゃん達に頼んだ方が……」
「まゆりに、だと」

わざわざ一言一言言い直すようにして、岡部倫太郎が声を震わせる。

「頼んだとも! 全員に! 一人ずつ! だがまゆりは色気より食い気でその手の仕事にはまったく役に立たん! 真顔で『ジューシーからあげナンバーワンを毎日君に届けるよ』などとのたまうIKEMENがこの世のどこにいるというのだ?! 
クリスティーナはクリスティーナで今時三文小説にも出てこない歯の浮くような安っぽい台詞しか出して来ない! なぁにが『君の瞳は百万ドルの夜景よりも綺麗だよ』だ! 二十年前のセンスだそれは! お前は一体いつの生まれだ! 
かといってフェイリスに任せたら任せたでヒロインも男の方も前世で引き裂かれたムー大陸の運命の生まれ変わりだかなんだかにされるに決まってる!」
「た、大変だったんですね……」

ラボで行われたであろうやり取りがありありと脳裏に浮かんできて、気の毒に思いつつも思わずくすりとしてしまう漆原るか。

「まあそんなわけで、白羽の矢が立てられたのがお前というわけだ、我が弟子ルーカー子ーよ」

大真面目な顔で、岡部倫太郎が彼の前で大きく腕を広げた。

「ラボメンの誰よりも女らしく! ラボメンのだれよりも女心のわかるお前を見込んで! 是非協力してはくれまいか!」
「な、なんだか複雑な気分ですぅ……」
「あ、べ、別に嫌ならいいのだぞっ」

威圧するような大声で語っておきながら、最後の最後にやけに小心者っぽい甲高い声。
すっかりいつもの岡部倫太郎である。
漆原るかはそれがなぜだか嬉しくって、くすくすと笑い出してしまった。

「わかりました。ボクなんかでお役に立てるなら……同じラボメンとしてぜひ協力させてください」




漆原るかのその笑顔は……かつての彼には、ないものだった。




(『第五章 忘我のパローレ・パローレ(後)』へ つづく)
381名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 23:14:31.67 ID:Evfmjn9v
そんなわけで今宵はここまでー
ルカ子のキャラはまゆりの勧めでコスプレデビューをしたりで若干ゲーム本編より若干積極的になっているかもしれませんね
ちなみに明日は所用があってもしかしたら更新できないかもです
それではまた次回ー ノノ
382名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 23:28:46.07 ID:j6UKuenL
GJwww
情景がありありと想像できてクソワロタwww
つかラボメンガールズ残念すぎるだろうwww
383名無しさん@ピンキー:2012/10/31(水) 23:46:55.13 ID:KKsZ+kh4
鈴羽なら『キミに一生萌え萌えキュン!』だろうかw
384名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 00:33:38.47 ID:X1tR9Xfr
乙!
ルカ子はラボの中では一番常識人だし、乙女心を一番普通に理解してそうだ。
だが男だ!

>>383
「奇襲を掛けられたって絶対守りきってみせる!」
とかじゃね?w
385名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 02:29:43.27 ID:/ZaRFY5X
だが男だ(続き期待)
386名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 23:24:42.87 ID:E2xKyWTL
こんばんはー
今宵も失礼します
ちょっと眠いので色々ミスがあったらお許しを……
387第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/01(木) 23:29:36.22 ID:E2xKyWTL
5−7:2011/02/12 13:31 柳林神社

「悪いねえ、こんな寒い日に」

漆原るかの父、漆原栄輔が恐縮そうに笑っている。

「全然平気だよ! あーじゃなかった、平気です! いやー、まさか神社のアルバイトができるなんて思ってなかったからむしろあたしとしては嬉しいくらいなんだけど……」

頭を掻きながら元気よく返事をしているのは言わずと知れた阿万音鈴羽である。
現在彼女は巫女装束に着替え、竹箒を持って神社の境内を掃除していた。それも手袋もマフラーもなしで。

本来漆原るかは午後にも軽く神社の仕事をして、その後試験勉強の予定であった。
けれど彼女……もとい彼にとって全てにおいて優先される岡部倫太郎との用事によってその予定は大きく崩れてしまっている。
そこで岡部倫太郎が漆原るかのかわりに派遣したのが彼女……阿万音鈴羽である

「それじゃあここが終わったらお守りの販売の方に廻ってもらおうかな。後で社務所の方に来てくれるかい?」
「オーキーどーきー……じゃなくて、ええっと、わかりました!」

岡部倫太郎にきつく言われているらしく、言葉遣いを気づいた範囲で丁寧に直す阿万音鈴羽。
漆原栄輔は少し苦笑しながら「では頼んだよ」と言い置いて立ち去った。

「ん〜、もっと気をつけた方が良かったかなあ。せっかくの岡部倫太郎がくれたミッションなのに」

ちょっとだけ反省しながら、だが箒を持つ手は止まらない。
言葉遣いはともかく、働くこと自体彼女はむしろ好きな部類である。
それに少なくとも岡部倫太郎の相棒という立場にある限り手抜きはすまい……そう彼女は心に決めていた。
388第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/01(木) 23:33:59.67 ID:E2xKyWTL
「けどるかおじさん……じゃなかった漆原るかの攻略かあ。岡部倫太郎は本当に真面目なんだから」

確かにラボメンの一員ではあるし、かつて昔話として聞いた際には色々とあった仲らしいが、それでも現在は男である。
阿万音鈴羽にはわざわざ彼を攻略する意味がピンと来なかった。

「まあそういうところに誠実な人だからみんなからも好かれてるのかなー」

そして結局はそのあたりにオチを持っていって、一人うんうんと納得する。
漆原るかだけではない。他のラボの女性達も皆、彼のそうした側面をよく知っている。
自分だって彼の誠意と誠実さはつい昨晩確かめたばかりなのだから。


昨晩……と心の内で呟いたところで、一瞬の間のあと彼女は箒を持つ手を止め、その顔をみるみる紅潮させる。


(うわ、うわあ、どうしよう。ドキドキが止まらないよう。あ、あたし、あたし岡部倫太郎と、き、昨日……っ)

……そう、岡部倫太郎にとって感覚的にはもはや1ヶ月近く前の初体験も、阿万音鈴羽にとってはつい先日の出来事なのだ。

腰のあたりに未だ残っている違和感がまざまざと昨晩の体験を想起させ、阿万音鈴羽は思わず境内の玉砂利の上にへなへなとへたり込んでしまう。
目をぎゅっとつぶって真っ赤になった頬を隠すように両手で押さえ、ぶるんぶるんと頭を振って冬空にお下げを揺らす様はなんとも初々しい。

「ってなにやってるんだあたし! こんな事じゃ岡部倫太郎の相棒だなんておこがましくって名乗れないじゃないか!」
389第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/01(木) 23:42:27.25 ID:E2xKyWTL
必死に己を叱咤する阿万音鈴羽。
けれど火照った頬は熱情という言葉の字義に等しく彼女の顔を焼いて、昨晩の甘いひとときは彼女の鉄の自制心を勝手に浮つかせてしまう。
どきどきと突き手が心配になるほどに早鐘を打ち鳴らす胸、まるで己の身体ではないかのようにじんじんと疼く腰が、普段は溌剌とした彼女の内側から懸命に『女』を主張していた。

「うう〜……駄目だ。なんか思い出しちゃったら顔が自然に緩んじゃう〜」

ふにゃふにゃと全身を弛緩させ、およそ普段の彼女に不似合いなほどに表情を崩して女座りのまま箒にしがみつく阿万音鈴羽。
無論巫女装束で。

「ってしっかりしろあたし!」

ぴしゃん、と己の両頬をはたき、なんとか正気を取り戻す。
肌寒い風が薄い巫女装束の隙間から彼女の肌を突き刺し、頭が急に鮮明になる。
阿万音鈴羽は箒を杖代わりにしてなんとか立ち上がり、大きく深呼吸した。

「ふう……危なかったー。お、岡部倫太郎がいけないんだ。ただの練習台のあたしにあんな……あんな優しくするから……っ」

ほわわ、と頬を赤らめ、少々だらしない表情に陥った彼女は、ぶんぶんと首を振って強引に我に返る。

「まったく……岡部倫太郎ってば誰にだって優しいんだからっ」

それは牧瀬紅莉栖を攻略するための練習相手に過ぎぬ己にあんまり優しくするな、という意味なのか、
それとも自分にだけ優しくして欲しいのに他のラボメンにも等しくその手を差し伸べる岡部倫太郎への悋気の表れか。

「大体るか漆原るかには北風も太陽も必要ないんだから……攻略なんて無意味なのに」

ぼそり、と妙に謎めいた言葉を呟く阿万音鈴羽。




……岡部倫太郎はまるで北風で太陽のようだ、と誰かが言った。




世界線は同一だが、今よりもう少し未来の話である。

ただその言葉の意味を岡部理太郎自身が理解するには……もう少し時間が必要だった。
390名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 23:45:27.25 ID:E2xKyWTL
というわけで今宵はここまでー
油断したことに鈴羽分を投入。巫女装束で
それと仕事が忙しくなってきたので明日以降しばらくの間少々更新が途切れがちになるかもしれません
なるべく更新ペースは守りたいところですが
それではまた次回〜 ノノ
391名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 23:48:12.84 ID:MkFHG4w9
乙です。
まさかのルカパパw
お身体をたいせつに〜。
392名無しさん@ピンキー:2012/11/01(木) 23:52:25.24 ID:pa50vfck
だが男だ(だが男だ)
393名無しさん@ピンキー:2012/11/02(金) 09:59:17.10 ID:kqMY/LeB
今更だがこれ世界変動率3%の亜種なのか。幻のハーレムEND
いいぞもっとやれ
394名無しさん@ピンキー:2012/11/02(金) 23:16:19.44 ID:ZmOouflx
こんばんはー
今宵もよろしくお願いしますー
395第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/02(金) 23:18:48.74 ID:ZmOouflx
5−8:2011/02/12 14:15 芳林公園

「よくぞ言ってくれた我が弟子よ! それでどのような台詞がいいと思う? 忌憚ない意見を聞かせてくれ」
「そうですね……ありがちですけど『お前が好きだ、愛してる』とかどうでしょうか。女の子って案外ストレートなセリフにグッとくると思うんです」
「んがっ!? そ、そうか、ストレートに、か……」

誤解も何もかも解けて、ようやくすっきりとした気分で岡部倫太郎の手伝いができると心の内で安堵の溜息をついた漆原るか。


だが……それが早計に過ぎなかったことを、彼はこの後まざまざと思い知らされることになる。


岡部倫太郎は彼が告げたセリフになぜか大仰に驚いて、妙にうろたえている。
先刻までの様子とうって変わって、やや挙動不審の体だ。

「どうしたんですか、凶真さん」
「あーいや、なんでもない。なんでもないんだが……ちょっと待ってくれ、電話だ」

岡部倫太郎は携帯を取り出してそのまま話し始める。
そして……突然がくんとうなだれた。
両手がだらりと下がり、そのまま動かなくなってしまう。
小さく悲鳴を上げた漆原るかは、慌てて彼の元へと駆け寄った。

「岡部さん? ……岡部さん?!」

まるで意識が唐突に途切れたかのような奇妙な動き。
何かが背中にぞわ、と走り抜けた漆原るかは、岡部倫太郎の身体を必死に揺する。
396第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/02(金) 23:20:46.39 ID:ZmOouflx
「……いや、なんでもない。大丈夫だ」

額を押さえながら、岡部倫太郎が呻くように呟く。

「でも、でも、顔が真っ青ですよ?!」

おかしい。やっぱりおかしい。
もしいつもの岡部倫太郎なら彼の今の台詞を訂正するところだ。
曰く「岡部ではない! 鳳凰院凶真だ!」と。
だからきっと何かあったのだ。ショックを受けるような事が。
一体誰からの電話だったのだろう。どんな用件だったんだろう。
気になる、知りたい、助けになりたい、この人の力に……!
そのためだったら、自分がどうなったって構わないから……っ!

「心配いらん。俺を誰だと思っている」
「でも、でも、岡部さぁん……っ!」
「岡部ではない、狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真だ!」

突然声のトーンが上がり、漆原るかはびっくりして思わず一歩後ろに下がる。

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」
「くどい。師を疑うのか我が弟子よ」
「いえ、そういうわけじゃないですけど……」

確かに声の調子も悪くないしさっき感じた妙な不安感も消え失せてしまっている。
では先刻のあの異様な状態は一体なんだったのだろうか。
397第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/02(金) 23:22:32.87 ID:ZmOouflx
「あの、岡部さ……凶真さん、今の電話、誰から……」
「ああ、ちょっと待っていろルカ子よ。すぐに済む」

岡部倫太郎はにじり寄る漆原るかを片手で制し、やや距離を取って携帯を耳に当てる。

「……わかっている。このようなところでつまずいている場合ではない。ああ、大丈夫さ。機関の圧力などに負ける俺だと思うか。
ああ、ああ、任せておけ、やり遂げてみせるさ……それが“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の選択だというのならな。ではまたな。次の連絡はこのミッションが終わった後だ。エル・プサイ・コングルゥ」

岡部倫太郎は誰かと連絡を取り合って、そのまま携帯を切った。
その表情はすっかりいつもの彼のものであり、漆原るかはほっと胸を撫で下ろす。

「あの……今の電話、エル・プサイ・コンガリィ……」
「コングルゥだっ!」

甲高い声でツッコミ返す岡部倫太郎。このやり取りも一体幾度繰り返されたことだろう。
完全に元の調子に戻ったらしき彼に安堵した漆原るかを前に、岡部倫太郎はわざとらしく咳払いする。

「……凶真さん?」
「あー、でだ。さっきの告白の台詞だが……」
「はい……? ああ、はい、えっと……」

唐突に話題を戻されて、漆原るかが記憶を手繰り寄せている間……
岡部倫太郎は、彼に正対して、真剣極まりない声で……こう告げた。




「……お前が好きだ、愛している」




漆原るかの脳内が、今度こそ完全にショートした。
398名無しさん@ピンキー:2012/11/02(金) 23:23:28.74 ID:ZmOouflx
というわけで今宵はここまでー
ね、眠い……
ではまた来週……zzzz
399名無しさん@ピンキー:2012/11/03(土) 11:51:39.76 ID:pIrAESTh
いったいこのオカリンは何時からどういう事情で飛んできたのかw
400名無しさん@ピンキー:2012/11/03(土) 12:04:07.04 ID:Tn4C4uDx

オ、オカリン……めくるめく世界へ……アーッ!!!
401名無しさん@ピンキー:2012/11/04(日) 00:10:12.87 ID:Qawy4KNt
全力でアッー!
402名無しさん@ピンキー:2012/11/04(日) 20:08:36.72 ID:jJFufBUO
駄目だ、女になってるとしても元は男だってわかってるからルカ子は拒否反応が…
403名無しさん@ピンキー:2012/11/04(日) 20:44:16.82 ID:7eWFbFbv
どうせならTSモノで最期はルカ子に孕まされる女オカリンとかどうよ
404名無しさん@ピンキー:2012/11/05(月) 23:26:57.61 ID:I7Sdc8P8
こんばんはー
今宵も更新に来ましたー
405第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/05(月) 23:31:18.73 ID:I7Sdc8P8
5−9:2011/02/12 14:21 

「え……?」

最初漆原るかには、彼の放った言葉が理解できなかった。
いや正確には理解できていたのだが、頭が理解を拒んでいた。
だってそれは、決して彼の……岡部倫太郎の口から出るはずのない言葉だったから。

おかしい。こんなのおかしい。現実のはずがない。
そうか夢だ、夢なら全部納得できる。彼が食事に誘ってきたのも突然告白してきてのも、全部夢だったのだ。

「なんだ、夢か……夢ならボク、ボク……っ」
「どうしたルカ子よ。やはり調子が悪いのか?」
「大丈夫……大丈夫ですぅ。凶真さん……岡部さん、ボク、ボク嬉しい……っ」

漆原るかは眼を細め、とろんとした顔で岡部倫太郎に微笑み、そのまま彼にしなだれかかろうとする。

「なぜ言い直す我が弟子よ。今の台詞はどうだった?」
「はいぃ、すごく、良かったですぅ……」

ほう、と熱い吐息を吐いて、かすれた声で返事をする。
寒風に流されて、彼の吐息が白い靄となって流れて消えた。
けれどそんな凍てつく風など気にもならぬ。
なにせ漆原るかの心は、身体は、今やいっそ汗ばみかねないほどに強い熱情を帯びていたのだから。

「……そうか、では指圧師に伝える候補にしておこう」
「え、あの、岡部さん、それ、どういう……?」

さあ、と顔が青くなる。
今彼はなんと言ったのだろうか。
桐生萌郁に今の言葉を伝えると言ったのだろうか。
つまり今のは彼女に告白するための予行演習で、そのために自分に意見を聞いて……

「う、うう、ひどいです……ひどいです岡部さぁん……っ」

高揚していた気分がたちまち消え失せて、かわりに激しい気鬱が襲ってくる。
消沈と絶望、そして諦観。
だが考えてみれば当たり前ではないか。
わかっていたはずだ。彼にその気はないと。
何を勝手に勘違いして、勝手に舞いあがっていたのだろう。
漆原るかはたまらなく惨めな気持ちになって……あまりの辛さに岡部倫太郎の顔を正視する事もできなくなっていた。
406第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/05(月) 23:34:17.65 ID:I7Sdc8P8
「ボク……ボク、帰りますぅ!」

踵を返して走り去ろうとしたところを……だが岡部倫太郎に肩を掴まれて止められる。
彼の腕の力が思った以上に強い事に、その男らしさに、漆原るかは不覚にもその心臓を跳ね踊らせた。

「待て、さっきからどうしたルカ子よ。今の台詞は小説に使えないのか?」
「しょう、せ、つ……?」

彼の口から漏れ出た言葉を聞いて……漆原るかの目が点になった。

「さっきも言っただろう。指圧師のケータイ小説で使う告白の台詞だ! 同じ台詞でも言い方によってだいぶ印象が変わるだろう。だから台詞を伝えるだけでなく、指圧師の前で実演しなければならんのだ!」
「実、演……あの、今のが、ですか?」
「他に何がある」

……ということはなんだろうか。
つまりさっきのは小説に出てくる男が告白するシーンの演技、ということだろうか。

「そうだ。だから客観的にお前の意見が必要なのだ。どうだった、今の言い方で問題なかったか」
「あ、ええっと……は、はい。その……す、すごく良かったと思います」
「そうか……ふむ、よし」

何かブツブツと呟きながら岡部倫太郎は新品らしきメモ帳に何かを書き込んでゆく。今の台詞を書き留めているのだろうか。
一方の漆原るかは、すっかり勘違いして舞い上がり、誤解して落ち込んだ自分がなんとも恥ずかしくなって、その場にへたり込んでしまっていた。

「うう、ううう……ボク、ボク、なんて恥ずかしい勘違いを……っ」
「む、何か言ったかルカ子よ?」
「い、いいえっ、なんでもないですっ!」
407第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/05(月) 23:36:47.82 ID:I7Sdc8P8
つまりは完全な独り相撲だったわけだ。
がっかりすると同時に、どこかほっとする。
この関係は変わらない。いつも通り、これまでも……そしてこれからも。
それが永遠に続くなんてことはあり得ない……そんなことくらい知っているけれど。
せめていつかこの関係が崩れる時まで、忘却の彼方に消え去る日まで、大切にしていきたいから……

「……で、他にはないのか、我が弟子よ」
「はいい?」

一人納得してフェードアウトしそうになっていた漆原るかの気持ちが、岡部倫太郎の声で無理矢理現実に引き戻される。

「ええと、他に、というと……」
「決まっている。他の候補はないか、という事だ。一つだけでは不足かもしれんだろう。こういう時は幾つか素案を持っていって相手に選んでもらうのが一番なのだ。いちいちお前を呼び出すのも迷惑だろうしな」
「いえ、僕は凶真さんの頼みならいつだって……」
「お前はまゆりと同じで学生なのだから、そうそう無理はさせられん。学生の本分はあくまでも勉強なのだからなっ!」
「は、はい……そうですねっ!」

自分の事をそんなにしっかり考えてくれているだなんて……
岡部倫太郎の言葉に感銘を受け、拳を握って強く返事をする漆原るか。
だが今の言葉は岡部倫太郎自身に関して完全に棚上げされている点について、彼女……もとい彼はまったく気づいていない。
408第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/05(月) 23:38:46.92 ID:I7Sdc8P8
「という事でどうだ、他に何かないか、こう女心をぎゅっと掴んで離さぬような告白の台詞は」
「ええっと……えっと、そ、そうですね、こう……『二度と離さない〜』とかそんな事言われたら嬉しいかも……」
「む、そうか」

岡部倫太郎はスゥと息を吸うと、キリッと真面目な顔となり、漆原るかを見つめる。
その真剣な瞳に思わずどきりとして息を飲むと……その呼吸に重ね合わせるように、低い声でこう言った。

「もう……二度と離さない。お前のことを、決して」
「はうぅっ?!」

ばくん、と心臓が跳ね上がる。羞恥と喜悦のレッドゾーンがいとも簡単に限界を突破した。
よろ、とよろめき右足でなんとか態勢を保とうとするが、果たせずに近くの木にもたれかかる。
赤熱した頬がまるで林檎のようで、潤んだ瞳はまるで熱情に流された娘が恋しい人を見るそれだった。

「どうだった? 今度のは」
「はひぃ……す、すごくよかったですぅ……っ」

全身をひくつかせながらなんとか答える漆原るかの言葉に、我が意を得たりと強く頷く岡部倫太郎。

「そうか。よし、ではどんどん行こう。次は何かないかルカ子よ!」
「ふえ、ええええええ……?!」

これは単なるラボメンの仕事の手伝いである。
岡部倫太郎はごく一般的な異性愛者だし、漆原るかの想いに応えることはない。
けれど……もしかして。
いや、もしかしなくても。

今日、この日、たった今この瞬間は……
岡部倫太郎が、漆原るかが幾度も夢に想い描いたあんな台詞も、あんな告白も……全部言ってくれる、そういう事だろうか。それも彼のあの声で……迫真の演技つきで。

漆原るかは……己が置かれた状況のあまりのあり得なさに、一瞬意識を失いそうになった。
409第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/05(月) 23:40:26.65 ID:I7Sdc8P8
というわけで今宵はここまでー
ルカ子は難しいですねえ
そのままだと生理的に駄目って人もいるし
かといって女性化するとわかってないって人もいるだろうし
私は素のままの彼女(だが男だ)が割と好きなんですが

それではまた次回ー ノノ
410名無しさん@ピンキー:2012/11/06(火) 01:33:21.99 ID:xXDr0tdb

オカリンが攻め…だと…!?
411名無しさん@ピンキー:2012/11/06(火) 05:30:35.02 ID:3kai5Q5n
乙女…だが男だ(ええでええで!)
412名無しさん@ピンキー:2012/11/06(火) 23:27:06.96 ID:EI9ILWYE
というわけで今宵も来ました
よろしくお願いしますー
413第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/06(火) 23:29:41.14 ID:EI9ILWYE
5−10:2011/02/12 14:35 

「初めて会った時から気になっていた……」
「はうっ!?」
「気づけば、お前の背中を目で追っていた」
「きゃうぅうぅっ!?」

岡部倫太郎の低い声が、漆原るかの心臓を鷲掴みにし、彼は思わずぐらりとよろめいて慌てて近くの木に寄りかかった。
真冬だというのに顔が赤すぎて熱を持っているのがわかる。
まるで酒を飲んだかのように身体がぐらぐらと揺れていて、もしいま軽く押されたらそのまま倒れてしまうことだろう。

「今のはどうだった」
「い、今のも素敵ですぅぅ……は、はうん……っ」
「ルカ子よ、さっきからお前はどれを聞いてもいいとか素敵とか……もっと冷静で客観的な意見をだな」
「む、む、無理ですぅぅ〜〜っ!」

ひんひんと泣きながら必死に訴える。
だって自分が言って欲しい台詞を、一番言って欲しい相手に、それも彼が真面目な時に出すあの魅惑的な低音ボイスで告げられ、叫ばれ、耳元で囁かれているのだ。
そんな事をされて漆原るかが正気でなんていられるはずがない。
むしろ彼にしてみれば未だに我を保っていられるだけでも十分奇跡的なのだ。

「むう……仕方ない。では選別は後で俺の方でやるとして……他には、他にもっとないか」
「他ですかぁ? じゃ、じゃあ……」

漆原るかはおずおずと己の願望を伝える。
いつの間にやら彼の脳裏から桐生萌郁の手伝いという意識はすっかり消えていて、自分が岡部倫太郎に言って欲しい告白台詞集になってしまっていたが。
414第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/06(火) 23:33:36.99 ID:EI9ILWYE
「なるほどな……そういう台詞もアリか」

ブツブツと呟きながら漆原るかに背を向け距離を取った岡部倫太郎は、そこから上半身だけ振り返り、彼に手を伸ばすようにして……こう告げた。

「寝ても覚めても……お前の事ばかり考えていた」
「ボ、ボクもですぅ……っ!」

岡部倫太郎の言葉に呼応して、思わず心の底からの本音が漏れてしまう。
漆原るかは凡そ数秒間の陶酔に頬を染めて……その後ハッと我に返った。

「あ、い、いえ、今のはその……っ!」

がくがくと足が震え、たちまち顔面が蒼白になる。
知られた。知られてしまった。決して告げてはいけないこの想いを……決して知られてはいけない人に……っ!

「あ、あ、あの、岡部さん……っ!」

必死に、縋りつくような瞳で岡部倫太郎を見上げる。
この人に……この人に嫌われてしまったら……っ!

(やだ、嫌だ! ボク、ボクは……っ!)
「……なるほど、ヒロイン側の返しもあった方がわかりやすいかもしれんな」
「え……?」

ふむ、と一息ついた岡部倫太郎は、何やら手帳に書き込んでゆく。

「悪くないアドリブだったぞルカ子よ。それで、他にまだあるか?」
「あ、え、ええっと……」

ばくん、ばくんと激しく鳴いていた心臓がゆっくりと鼓動を収めてゆく。
真冬にもかかわらずだらだらとかいた冷や汗に風が吹き付けて、あまりの寒さにぶるりとその身を震わせた。
どうやら幸運の助けか、あるいは岡部倫太郎の類稀なる唐変木ゆえか、今の言葉の真意については気付かれなかったようだ。
だがそれは同時に岡部倫太郎が漆原るかに対してそういった感情を一切持っていないということでもあり、漆原るかはほっとすると同時に少し落ち込む。


そんな事は……とっくの昔に覚悟していたはずなのに。
415第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/06(火) 23:37:12.29 ID:EI9ILWYE
「あの、じゃあですね、こんなのはどうでしょうか……」

彼の言葉を聞いて小さく頷いた岡部倫太郎は、再び距離を取って口の中で台詞を反芻する。

「この気持ち……お前に告げてはいけない事くらいわかっている。だがどうしても伝えておきたいのだ、俺の想いを……この気持ちを!」

ずん、と肺腑を抉るような岡部倫太郎の叫び。
それは本来……自分が彼に向かって言わなければならない台詞。
そして言えば、言ってしまえば確実に拒絶されてしまう。
それがはっきりとわかっている断罪の斧。



告げれば今のこの距離すら許されなくなってしまう……破滅の言葉だ。



その罪深さに、己の想いの重さに耐えかねて、漆原るかは涙腺を緩め、我知らず落涙してしまう。

「ど、どうしたルカ子よ! 何か不味かったか?」
「いえ……いえ。とっても、素敵でした。その、思わず感動しちゃって……」

元々掠れている声を涙でさらに枯らして、小さく嗚咽しながらそれだけをなんとか告げる。
そして彼の言葉で、漆原るかは今更ながらに強く自覚した。

ああ、そうだ……やっぱりこの気持ちは変わらない。変えられない。変えようがない。
それほどにこの人が好きだ。大好きなのだ。
男がどうの、女がどうの、そんな性別なんて関係なく……




ああ、漆原るかという存在はこんなにも……
岡部倫太郎というヒトが、どうしようもなく好きなのだ……と
416名無しさん@ピンキー:2012/11/06(火) 23:38:31.65 ID:EI9ILWYE
というわけで今宵はここまでー
次あたりでルカ子ルートは終わりの予定です
ちと短めですが
それではまた次回〜 ノノ
417名無しさん@ピンキー:2012/11/07(水) 05:57:46.23 ID:xN+MXzvH
だが男同士だ(ええでええで!)
418名無しさん@ピンキー:2012/11/07(水) 16:32:53.93 ID:oGT4yoJ0
この精神攻撃は両者共にきつい
オカリンがループ毎に自己暗示した理由が分かったわ
419名無しさん@ピンキー:2012/11/07(水) 23:05:16.45 ID:WIWciRf5
というわけで今宵も更新に来ましたー
420第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/07(水) 23:07:38.19 ID:WIWciRf5
5−11:2011/02/12 14:49 

小さく溜息をつき、漆原るかは静かに目を閉じた。
心の奥底にひた隠しにしている……だが決して消えぬこの熱き想い。
灰をかけた火鉢のように埋め火となっているけれど、なにかのきっかけでいつ燃え広がってもおかしくはない、この狂おしいほどの気持ち。

そうだ、この気持ちに嘘なんかつけない。
喩え世界中の人に後ろ指を刺されたって、この想い、この気持ちにやましいところなんて一点もない。
それだけは……誓って言える。
自分の人生を賭けたって、それだけははっきりと言えるから……


「最後に……ひとつ、いいですか」


漆原るかは……胸に手を当て、心を落ち着けて、できるだけゆっくりと言葉を紡ぐ。
最後に、どうしてもこの言葉だけは……
いつも心のどこか、記憶の片隅になぜか引っかかっていたこの言葉だけは、彼の口から聞いてみたい。
そんな言葉が……


『彼女』の中に、あった。


「……なんだ」

腕組みをしたまま岡部倫太郎が小さく肯く。
漆原るかは言葉を選ぶようにして話を続けた。

「あの……桐生さんの小説でそういうシチュエーションがあるのかよくわからないんですけど……」
「構わんぞ、ルカ子。台詞の方が出来がいいならそこに至るまでの話の筋の方を変えてしまえばいい。指圧師もそう言っていた」
「はい。じゃあえっと……記憶喪失というか、その、恋人同士の女の子の方がですね、事故か何かで記憶をなくしちゃうんです」
「ほう、記憶喪失ネタか。定番で陳腐だが逆に王道かもしれん」

続きを促しながら、だが岡部倫太郎は僅かに眉を顰めた。
これまでに比べてやけに具体的な指定であるところが気になったのだろう。漫画やアニメ、或いはテレビドラマか何かのシーンだと思ったのかもしれない。
421第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/07(水) 23:10:34.48 ID:WIWciRf5
「はい。でも……なんて言ったらいいのか、その、難しいんですけど……そのシーンの時にはまだヒロインに記憶が残ってるんです」
「ふむ、そういえば昔そんな映画があったな。脳の病気でだんだん記憶を失ってゆく恋人とのお涙頂戴のラブロマンス……だったか?」
「それで……その、男の人の方が、ええっと、恋人にですね、もしお前が俺を忘れても俺はお前を忘れない……みたいな感じの、その」
「……………………っ!」

岡部倫太郎はハッと何かに気付き目を大きく見開いて、その後驚愕の表情で漆原るかを見つめた。

「……覚えて、いるのか?」
「? はい? ええっと、なんの事でしょう……?」

突然そんなことを言われても、漆原るかにはピンとこない。
覚えているか、とは一体何について指しているのだろうか。

「……いや、なんでもない。続けてくれ」
「はあ……はい。でも、その……以上、です」
「ふむ……ともかくそんな感じの台詞なのだな。わかった、やってみよう」

顎に手を当てて、何やら考え込むようなポーズのまま固まる岡部倫太郎。
その表情が異様なほどに真剣であることに、漆原るかは不思議そうに首を捻る。
もしかして自分が妄想していたシチュエーションが気に入らなかったのだろうか。それとも存外に気に入ってくれたのだろうか。
後者なら……嬉しいのだけれど。

はあ、とついた溜息が白煙となって漆原るかの口元から流れて消える。
岡部倫太郎の黙考は、ほんの少しだけ長く続いた。

「……よし、準備はできた、ゆくぞ、我が弟子よ」
「あ、あの、今度はボクも……その、合いの手というか……参加してもいいですか? さ、さっきみたいな感じにです! そ、その、恋人、役、として……っ」
「ああ、構わない。やってくれ。元々そういう台詞だろう」
422第五章 忘我のパローレ・パローレ(後):2012/11/07(水) 23:25:20.84 ID:WIWciRf5
「……よし、準備はできた、ゆくぞ、我が弟子よ」
「あ、あの、今度はボクも……その、合いの手というか……参加してもいいですか? さ、さっきみたいな感じにです! そ、その、恋人、役、として……っ」
「ああ、構わない。やってくれ。元々そういう台詞だろう」

幾度か小さく深呼吸をした彼は……漆原るかに視線を向ける。
その驚くほど気迫に満ちた瞳に漆原るかは思わず息を飲み、心臓がばくんと跳ね上がった。
岡部倫太郎が顎をしゃくって漆原るかに促す。どうやら彼の方からセリフを振ってくれという事らしい。
まるで言いたい台詞が全て見抜かれているようで妙に気恥ずかしい。
けれど……覚悟を決めた漆原るかは、左胸をそっと押さえながら彼をじっと見つめた。


真剣な瞳に応えるように……その胸の内の全てを込めた、真摯な気持ちで。


「ボクが記憶をなくしても……ボクのこと覚えていてくれますか」
「……ああ」
「ボクが岡部さんのことを忘れてしまっても、ボクのこと覚えていてくれますか」
「…ああ」
「ボクが……ボクが岡部さんのことを好きでいたことを……覚えていてくれますか」
「ああ! 忘れない。たとえお前が忘れようとも、俺だけは、絶対に……っ!」

いつの間にか漆原るかの目の前までやって来ていた岡部倫太郎は、そのまま彼を……彼女を、強く抱き締める。
突然の出来事に思考が追いつかず、完全に硬直してしまった漆原るかの耳元で……岡部倫太郎は、どこか辛そうな、泣きそうな、震えるような低い声で……こう告げた。


「忘れるものか……絶対に忘れない。何があっても……俺は、俺だけは覚えている。絶対にだ。約束するよ……ルカ子」
「あ、ああ、岡部、さ……あ、あああ……あああああああああああああああっ!」


耳に息がかかる程の距離でそう囁かれて……
漆原るかは、彼に抱かれたままびくん、とその背を大きく逸らし、全身をがくがくと揺らすと……
やがてかくん、と膝を折りその場に崩れ落ちた。

肉体的には男でありながら、彼は……いや彼女は、精神的には明らかに女として……絶頂に至ったのだ。


「ふあ、おか、おかべ、さぁ、ん……っ」


女座りで地べたにへたり込み、眼前の岡部倫太郎を陶酔の瞳で見上げる。
腰が砕け、達した余韻で微かにその身を震わせながら、頬の紅潮をいや増して、潤んだ瞳から涙を零す。
そしてぼやける視界で彼を見つめ、半開きの口から喘ぐような吐息を漏らすと……




……漆原るかは、意識を失った。
423次回予告:2012/11/07(水) 23:28:01.93 ID:WIWciRf5
6−0:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「……ルカ子だ」
「ええっ?! 岡部倫太郎ってそっちの趣味もあったの?!」
「違う! 女心に詳しいルカ子を相手に口説き文句の特訓をしていたのだっ」

実は他にも理由があるのだが、特に説明する必要もないので黙っておいた。
阿万音鈴羽は煎餅を口に咥えながら、目を丸くして感心する。

「おおー、さっすが岡部倫太郎。ぬかりないなあ」
「……む、当然だ。なにせ絶対に失敗できぬミッションなのだからな」
「やるじゃん岡部倫太郎! すごいすごい!」
「こらっ! だからことあるごとに抱きつくなっ!」
「えー、あたしそんなに抱き付いてないよー」
「俺はっ、タイムリープするたびにっ、抱き付かれてっ、いるのだっ!」
「ぶー、じゃああたしも抱きつくー!」

首っ玉にしがみついてごろにゃんと頬擦りをしてくる阿万音鈴羽に、小さく溜息を付く。

岡部倫太郎の性癖は比較的ノーマルだ。ごく当たり前に女性が好きだし、同性である漆原るかは完全に範疇の外である。
だが……彼は知っている。この世界で彼だけは知っている。
漆原るかがかつて女だった時の事を。
彼女が自分を好きでいた事を。
そして……この世界線でもまた、彼はその想いを内に秘めたまま自分を好いてくれているのだと。

岡部倫太郎は彼の想いに応える事はできない。
けれど……あの時、彼が彼女だった時、彼女が望んでいた世界を壊し、彼女の想いを擲ってこの世界線にたどり着いたことを、岡部倫太郎は決して忘れてはいない。
だから……返したかったのだ。
こういう機会に、少しでも返しておきたかったのだ。
それが……『彼女』の想いに背を向けた自分ができる、せめてもの償いだと思ったから。
424次回予告:2012/11/07(水) 23:30:23.03 ID:WIWciRf5
「で、残ってるのは誰?」
「指圧師……萌郁とまゆりだな」
「ふ〜ん。じゃあやっぱり椎名まゆりから? 彼女なら幼馴染だしやりやすいでしょ?」
「いや……最初は萌郁から行く」
「え、なんで?」
「色々とあるのだ」
「……ふ〜ん?」

そう、最初に阿万音鈴羽と肌を重ね、次にフェイリス・ニャンニャンを選んだ時から心は決まっていた。
岡部倫太郎は、あの時取り消してきたDメールの順に彼女達に会いに行くつもりだったのだ。
だからこのタイミングで漆原るかに会いにいく必要があったのだ。
彼が満足できるような台詞を恥ずかしがらずに言えるようになるまで、幾度もタイムリープを繰り返しながら。


だが……ここにきて最大の問題が彼の前に立ちはだかる。


他の娘達……椎名まゆり、フェイリス・ニャンニャン、そして牧瀬紅莉栖が多かれ少なかれ自分に好意を持っている事はある程度わかっていた。
別に女心に詳しくなったわけではない。単に半年前のあの事件の折の経験則からである。

だが……彼女だけは違う。

桐生萌郁はSERNが管理しているラウンダーだった。岡部倫太郎を、ラボの仲間を監視し、付け狙う立場の人間だったのだ。
そしてβ世界線の大枠から外れておらず、おそらく2010年の7月28日以前まではほぼ同じ世界線であっただろうこの世界線に於いても、彼女はラウンダーであるか、元ラウンダーである可能性は決して低くはない。

そんな彼女が……




果たして、岡部倫太郎に心を、そして身体を開いてくれるのだろうか。




(『第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1)』へ つづく)
425名無しさん@ピンキー:2012/11/07(水) 23:34:47.53 ID:VT63HSRH
擲つのは自分の持ち物じゃないかな?
踏み蹂ったって原作で言ってたし
426次回予告:2012/11/07(水) 23:41:30.43 ID:WIWciRf5
というわけで第五章、ルカ子ルートがなんとか完結です。
今回>>421>>422の間で文章の重複があったことをお詫びします。
いやほら、タイムリープタイムリープ……
ごめんなさいマジすいません orz

さて男と男、というお話には拒否反応が出るのも当然ですし、この手の許容範囲は人によっても異なるため色々と異論の出そうな第五章でございます。
女性化すればコレジャナイと言われ、男の娘のままで書くとキモイだのなんだのと言われ……難しいですね。

自分なら男の娘たるルカ子が男の子のままでオカリンの事を好きなとき、ノーマルなオカリンがどう彼を攻略するかと考えて書き始めてみたら……まあこんな形になってしまいました。
ルカ子が好きな人が少しでも楽しんでもらえたなら。
そうでない方が少しでもルカ子を好きになってくれたら、そんなエピソードであれば、と思います。

さて次回から第六章 なげえよ! と言われるかも知れませんがようやく指圧師ルートに突入です。
作中の難易度的にはフェイリスルートが最難関だったんですが、むしろお話的にはこのルートが一番大変かも知れません。
なにせ本編のあの状況だけだと、かつてラウンダーだった彼女とミスターブラウンに関する情報が少なすぎるので……
そんなわけで今宵はそろそろこの辺で〜
感想などいただけたら一層の励みになったり ノノシ
427名無しさん@ピンキー:2012/11/08(木) 00:17:52.44 ID:De+CWotx
 このところ、この話の更新を見ないと寝付けなくなりました
 主人公だけでなく各キャラの内面もうまく表現されており 続きが連日楽しみです
428名無しさん@ピンキー:2012/11/09(金) 23:15:59.06 ID:vdPF4t66
こんばんは
昨晩は申し訳ありませんでした
今月に入ってから多忙&疲労でちょっと爆睡してしまって……
今日は更新できそうです
429第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/09(金) 23:21:58.78 ID:vdPF4t66
6−1:2011/02/13 23:00 未来ガジェット研究所

「よし、完成!」

牧瀬紅莉栖が額の汗を拭って完成を告げる。
外は凍えそうな寒さだったが、橋田至が年末に拾ってきたヒーターのおかげで室内は十分に暖まっている。

「お、牧瀬氏できたん?」

牧瀬紅莉栖の声を聞き、エロ本を読み耽っていた橋田至が顔を上げる。
最後の詰めは彼女でないとできなかったらしく、特にやる事もなかった彼はPCの前でニコニヤやミュウツベあたりを開きながら休憩中だったらしい。
カーテンを開けた橋田至の前には、新電話レンジ(仮)を改造してたった今完成した、タイムリープマシンが鎮座していた。

「うん。一応ね。まだ倫理的な問題は解決してないけど……」
「でも記憶だけとはいえ過去に飛ばすマシンだろ……本当ならマジですごくね?」
「理論的には完璧。あとは誰かが実験をして確かめるしかないわけだけど……」

だが一切のテストなしにそれをするのは人体実験に等しい。
もしかしたら記憶が上手く上書きできないかもしれない。一部の記憶に齟齬が生じるかも知れない。それどころか転送先の記憶自体を破壊してしまうかもしれない。
そんな危険な実験を、一体誰が行おうというのだろうか。

「ふむ、どうやら完成したようだな我が弟子よ」
「お? オカリンおかえりー。どこ行ってたん?」
「そうよ岡部! あんた一体どこほっつき歩いてきたの! あと弟子じゃない! 助手だ! ……ってあーそれも違うっ! 岡部、今の無し! 無しだかんな! ってねえちょっと聞いてんの! 岡部っ!!」

まくし立てる牧瀬紅莉栖の言葉などどこ吹く風と、寒風を身に纏いながらラボへと入ってきた岡部倫太郎。
彼の手にはビニール袋がぶら下げられており、歩きながらそれをダルの前に置く。
430第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/09(金) 23:29:04.74 ID:vdPF4t66
「お! これまど☆まじタイアップ弁当じゃん! オカリンこれもらっていいの?」
「ああ、完成祝いだ。好きに食べてくれ」
「わーお、さっすがオカリンそこに痺れる憧れるゥー!」
「フッ、所長として当然のことだ」

歓声を上げつつ幾つかの弁当を取り出して物色を始める橋田至。彼を放ってカーテンを開ける岡部倫太郎。
彼はいざ完成という瞬間に部屋を空けていた所長様になんともご立腹の体の牧瀬紅莉栖に軽くドクターペッパーを放る。

「おか……きゃっ!? あ、ありがと……」
「御苦労だったな、助手よ」

ぽん、と軽く肩を叩く岡部倫太郎。
途端に頬を赤らめて、ふてくされるようにそっぽを向く牧瀬紅莉栖。
彼女の唇は……なぜか笑みを押し殺すように無理矢理引き結ばれていた。
彼にねぎらいの言葉をかけられる……たったそれだけのことで先刻までの不満が霧散してしまうあたり、彼女もまた随分とわかりやすい娘である。

「ま、まあな。ほら、一応完成させたわよ」
「わかっている。お前の造った物を疑ったことなど一度もないぞ、俺は」
「なあ……っ!?」

優しく笑いながら軽く言い放った岡部倫太郎の言葉に、真っ赤になって動転しわたわたと挙動不審げな動きをする牧瀬紅莉栖。
その間に彼はなんとも手馴れた動作で椅子に座った。

「な、なによ岡部いきなりそんな……な、何企んでるのよっ!」

恥ずかしさを誤魔化すようにそこまで喚き立てたところで……牧瀬紅莉栖は妙な違和感に気付いた。
目の前の岡部倫太郎がタイムリープマシンの設定をしている、それはいい。
けれどなぜ一切説明していない部分の操作までこんな流暢に行うことができるのか……?
431第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/09(金) 23:30:40.63 ID:vdPF4t66
「岡部……?」
「早速だがマシンを使わせてもらうぞ、助手よ。前にも言った通り実験台は俺だ」
「岡部、あんた一体何を……っ!?」

奇妙な違和感と頭の中の嫌な予感がみるみる符合してゆく。
彼の様子と言動から……牧瀬紅莉栖はとある可能性に気付いて息を飲んだ。

「お、岡部! あんたもうこのマシンでタイムリープしたてきた後なのね!?」
「え? なになに? 牧瀬氏牧瀬氏、オカリンがどうかしたん?」

カーテンの向こうからごそごそと音がする。
どうやら橋田至もこちらの様子がおかしい事に気付いたらしい。

「ああ、そうだ」

素早くタイマーを9時間と35分前にセットしながら、牧瀬紅莉栖の詰問に淀みなく答える岡部倫太郎。
きっとこのやり取りも幾度となく繰り返してきたのだろう。

「何かあったのね! タイムリープが必要な何かが!」
「……ああ」
「なに? 何があったの?! 岡部!」

だが……岡部倫太郎はそれに答える事なく、無言でヘッドホンを装着する。

牧瀬紅莉栖の心の内に湧き上がる激しい想い。
いつだって、いつだってそうだった。
この人はいつだって仲間のために全てを背負って一人先へ行ってしまう。
あれはただの夢だけど、そう、ただの夢に過ぎないはずなのに、
だのにこんなにも気になる、胸が苦しくなる。
役に立ちたいのに、助けになりたいのに、この人は今回もこうして、また一人で……


また……また私を置いて……っ!
432第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/09(金) 23:34:48.53 ID:vdPF4t66
新電話レンジ(仮)から激しい放電現象が起きる。42型ブラウン管は既にラボに設置されており、リフターの起動にブラウン管工房の様子を確認する必要はない。

「ちょ、牧瀬氏! なにやってるん! 危ないお!」

カーテンを開いた橋田至が思わず叫ぶ。
タイムリープマシンは既に起動状態となっており、部屋の中は既に喧しいほどの放電の光と音が奔流となって渦巻いていた。
空気中に走る電流に本能的に後ずさった牧瀬紅莉栖は、けれど右腕で顔を覆いながら一歩、また一歩と岡部倫太郎に近づいてゆく。

「岡部……お願い、教えて! 助けになりたいの! 貴方の助けに……! 岡部ぇっ!」

牧瀬紅莉栖の必死な叫びに……岡部倫太郎が振り向く。

「その言葉だけありがたくもらってゆくぞ、我が助手よ。だが……今回に限ってお前の力は借りられん!」
「岡部! それってどういう……っ!」

そこまで言い差して……牧瀬紅莉栖は今更ながらに彼の視線の先に目をやった。



岡部倫太郎は……じぃーっと、見つめていたのだ。
彼女の胸を。


じぃーっと。それはもう慈しみに溢れた瞳で。
そのささやかな胸を。



「……岡部?」

とりあえず胸を隠しながら、頬に赤味を差して、唇をひくつかせながら少々棘の入った声で詰問する牧瀬紅莉栖。
その眉が、なんとも剣呑そうにひくついている。

「ちょっと待て岡部、今あんたすんごい失礼なこと考えてなかったか……?」
「すまん、はっきり言おう。今回に関してはお前ではまったく役に立たんっ」

やけに高い声でそう告げると、くるりと顔を逸らす岡部倫太郎。

「おぉぉぉかぁぁぁぁべぇぇぇぇぇぇっ!!! ちょっとあんたが何考えてるか頭蓋切開して海馬に電極ぶっ刺して確かめさせろゴルァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

牧瀬紅莉栖の憤怒混じりの絶叫が青く輝く部屋に響き渡る。




……岡部倫太郎の指が、逃げるように携帯のメール送信ボタンを押した。
433名無しさん@ピンキー:2012/11/09(金) 23:36:54.27 ID:vdPF4t66
というわけで今宵はここまでー
ようやく第六章に突入です
だいぶ多忙になってきた昨今、もしかしたらちょくちょく更新に穴が開くかもしれませんがその際はご容赦下さいませ

では次回は来週以降にお会いしましょう ノノ
434名無しさん@ピンキー:2012/11/09(金) 23:39:55.78 ID:L4cQSq1G
乙です。
なんだろう、オカリンが助手相手にすごい勢いでフラグ折りを繰り返して
いるんじゃないかと危惧してしまう……w
435名無しさん@ピンキー:2012/11/10(土) 00:37:57.76 ID:W2QMCRV6

無理はせずに頑張ってくれ!
助手が相変わらずクリスティーナでなによりです。
436名無しさん@ピンキー:2012/11/10(土) 00:48:47.43 ID:vFL0yxSe
ルカ子どうやって決着つけるか気になってたけどこう来るとは
そしてついにもえいくさんktkr依存心強いぶん即堕ちしそうw
437名無しさん@ピンキー:2012/11/10(土) 05:33:13.28 ID:GAdRNMG1
来てるゥー!
なんだろう
牧瀬氏の好感度高めて高めて蹴り落としてるこの感じ
438名無しさん@ピンキー:2012/11/10(土) 14:40:09.02 ID:eJcjgg3U
助手ぶち切れ吹いたw
無理せず完走してくれー
439名無しさん@ピンキー:2012/11/11(日) 00:53:24.15 ID:UbrAUNWQ
毎晩更新を楽しみにしてるので
無理せず完走を・・・なんとか完走を!
440名無しさん@ピンキー:2012/11/12(月) 23:10:14.81 ID:nmFtx7Zz
こんばんはー
今宵も更新に来ましたー
441第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/12(月) 23:13:52.44 ID:nmFtx7Zz
6−2:2011/02/12 10:08 ブラウン管工房

2月12日、土曜日、早朝。
ブラウン管工房の店番をしている桐生萌郁の前に、岡部倫太郎がいた。

「よそ行きの……スーツ?」
「ああ。お前が仕事しているあの編集プロダクションからコネをつけられないか?」

現在店内には店員たる桐生萌郁が一人だけ。
彼女が真面目に仕事している事をいいことに、この店の店長にしてビルのオーナーでもあるミスターブラウンこと天王寺裕吾は、最近娘の綯とよく出かけてゆく。
遊園地に行ったり、映画を見に行ったり……凡そ店長を自認する者にあるまじき行為である。
だがアナログ放送の終了を半年後に控えたこの時期に今更ブラウン管を購おうとする者は皆無といってよく、結果この店は常に閑散としていた。
だからこそ岡部倫太郎も気軽にこうして立ち話ができるわけだ。

「できると思う……けど」
「けど……なんだ」

すぐには返事をせずに、携帯電話を取り出す桐生萌郁。
そしてその指先を高速で動かすと、瞬く間に文面を打ち込んでゆく。
一瞬の間を置いて岡部倫太郎の携帯が鳴った。
いつものように取り出してみると、やはりというか彼女からのメールであった。

『そんな服着て岡部君どこに行くの! 誰と行くの!
 すっごい気になる〜!
 ね、教えて! ><』

「別にいいではないかそんな事は。誰にでもプライベートというものがある。無論この狂気のマッドサイエンティスト、鳳凰院凶真にもな!」

岡部倫太郎が名づけた彼女の二つ名……『閃光の指圧師』の異名に相応しく、瞬く間に返信を打ち込んでゆく桐生萌郁。
この世界線の彼女は昔ほどには携帯依存症ではなくなっていた。だがそれでも長い台詞を喋るのはまだ苦手なようで、そうした時は未だこうして携帯に頼っている。
442第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/12(月) 23:16:25.28 ID:nmFtx7Zz
『だってだって気になるんだも〜ん! ><
 椎名さん? 牧瀬さん? フェイリスさん? それとも漆原君?
 あ、もしかしてもしかすると桐生さん?
 つまり……私!?
 きゃ〜! 岡部君ったら岡部君ったら!////
 年上のおねーさんをたぶらかして何しようっていうの〜? コノコノー(*^^*)>』

「……待て、色々ツッコミどころはあるがその前になぜルカ子が入っている」

 やや声を引きつらせて岡部倫太郎が突っ込むと、それ以上の速度で彼女の返信が届く。

『私の口からそれを言わせたいの?!
 んも〜、岡部君ったらお・ま・せ・さ・ん!
 今はまだお昼だよー! そういうアブナイお話は夜に二人っきりで……ね☆
 やだーもう、こんなこと女の口から言わせるだなんて岡部君のたらしー! 天然ドSー! ><』

「ダメだこいつ……早く何とかしないと……」

『きゃー! きゃー! なんとかするだって!
 岡部君になんとかされちゃう〜!
 岡部君のえっち! ><』

 一見するとなんとも和やかな会話を交わしているように聞こえるが、実際言葉を発しているのは岡部倫太郎ただ一人。
 桐生萌郁は彼の前で無表情に携帯電話を構えているのみだ。

「ええい、馬鹿なことを言ってないで、どうなんだ、できるのか、できないのか!」

『うう……ひどい
 岡部君に馬鹿って言われた……(T_T)
 それにいきなり怒鳴るなんて……』

「あ、ああ、すまなかった。怖がらせるつもりはなかったのだ。それで……どうなのだ?」
443第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/12(月) 23:17:50.18 ID:nmFtx7Zz
『ううん、大丈夫。からかった私も悪かったんだし。ゴメンネ☆
 服の件はたぶんなんとかなると思う。
 でも……岡部君も知り合いだよね? 自分で頼めばいいのに』

「俺は知り合いと言っても単なる顔見知りだからな。今ではお前の方が親しいし付き合いも長いだろう」

岡部倫太郎の言葉に納得したのかしないのか、桐生萌郁は暫しの間無言のまま動きを止めた後、再び高速でメールで返信をする。

『それはそうだけどー……
 そうだ、それじゃあ岡部君のお願い聞くかわりに、私の方からもいいかな?』

「むむ、交換条件というわけか。なかなかやるな指圧師。いいだろう、話を聞こうではないか」

『あのねあのね、私が実はケータイ小説書いてるって話は前にしたよね?
 それで今ちょっぴり困ったことになってるの。』

「困ったこと……? どうした、スランプか何かか」

『スランプっていうか……う〜ん、そうなのかな?
 あのね、ヒロインが男の人に告白されるシーンなんだけど、男の人の告白セリフがなかなか出てこないのー! ><
 なんか考えても考えても陳腐な台詞しか浮かんでこなくて……
 岡部君も何か考えてくれない?』
444第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/12(月) 23:19:08.65 ID:nmFtx7Zz
「こ、告白のセリフだと?! そんなものこの狂気のマッドサイエンティストたる鳳凰院凶真にとって専門外だぞ?!」

あからさまにうろたえる岡部倫太郎。
それはそうだろう。むしろ女性の心を動かす言葉なら今の彼の方が教えを請いたいくらいだろうから。

『でもでも、二人で考えれば何かいいアイデアが出るかもしれないしー
 ね、告白なんて全然されたことない寂しい私を助けると思って……手伝って! お願い! ><』

むむう、と考え込む素振りをする鳳凰院凶真。
だが……彼の答えはとうに決まっていた。

「……仕方ない。最初に頼みごとをしたのは俺の方だしな。わかった、手伝おう。だが期待はするなよ。天才科学者たるこの俺はそういった事は正直不向きなのだ」

両手を挙げてやれやれ、といった風情の岡部倫太郎。
桐生萌郁は……携帯に目を遣りつつ、だがやがて彼に向き直ってぼそり、と己の唇で呟いた。


「……ありがとう」


ようやく彼女の口から出た言葉に、岡部倫太郎は苦笑しつつも肩をすくめる。

「なに、ラボメンの悩みは俺の悩みだ。確か締め切りはもう少し先だったな。今からは無理だが数日中に時間を作る、それでいいか?」
「わかった……」
「よし、契約成立だ。なあに、たとえ専門外のことだろうこの鳳凰院凶真に任せておくがいい! 必ずや全読者感涙のセリフを考えてやろう! フゥーハハハハハ!」
「……お願い」

店内に響き渡るような大声で笑い出す岡部倫太郎。
彼を見つめる桐生萌郁の顔は……無表情ながら、どこか嬉しげに見えた。
445名無しさん@ピンキー:2012/11/12(月) 23:21:39.02 ID:nmFtx7Zz
というわけで今宵はここまでー
ラボメンwithついった
いいよね
実はルカ子ルートと萌郁さんルートはフェイリスルートの舞台裏でもあったりします
それではまた次回〜 ノノ
446名無しさん@ピンキー:2012/11/13(火) 02:07:13.87 ID:/YXL0RWw

萌郁さんのメール中のテンションの高さは既にフラグが立っているようにさえ感じさせるw
447名無しさん@ピンキー:2012/11/13(火) 23:11:26.64 ID:gDyOm5jk
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
448第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/13(火) 23:13:33.98 ID:gDyOm5jk
6−3:2011/02/13 10:32 ボロアパート二階・桐生萌郁宅

「初めて会った時から気になっていた……気づけば、お前の背中を目で追っていた」

桐生萌郁のアパート、多少散らかった彼女の部屋。
ちゃぶ台の前に座り込みケータイを打ち込んでいるそのご当人の前で、岡部倫太郎がオーバーアクションを交えながら熱演を揮う。
以前のタイムリープで漆原るかから聞き出した告白の台詞だ。
だが彼女は一切表情を変えず、ただ岡部倫太郎を無表情で見上げている。

(むう、この台詞も失敗か……?)

などと岡部倫太郎が失望し、肩を落としたとき……彼の携帯に着信があった。

『んもー岡部君ッたら大・熱・演!
 おねーさんドッキドキ!
 すっかり堪能しちゃった☆
 岡部君ってば演技派だね〜 
 こんなこと言われる彼女さんは幸せだよねっ コノコノー(*^^*)>』

「って受けてたのかよっ! だったら初めからそう言え! 不安になるではないかっ!」

 ずるりと上体をずらした岡部倫太郎が思わず甲高い声で突っ込む。

『ゴメンゴメン!
 岡部君あんまり頑張ってたから邪魔するのも悪いかなーと思って。許して!
 ホントは最初の1回目でOK出してもよかったんだけど、岡部君の演技をもうちょっと見てみたいナーなんて思って黙ってたのは岡部君と私だけの秘密だよ!
 ウェヒヒヒ』

「俺に告げたら意味がないではないか! あとなんだその気色悪い笑い方は!」

 岡部倫太郎の叫びに桐生萌郁は彼の方へ顔を向け、しばし視線を合わせた後再び携帯へと視線を戻し高速でメールを打ち込んでゆく。
 その表情はメールの文面からは到底想像がつかぬほどに無表情だ。

『え? 知らない?
 今年に入ってから始まって現在大ブレイク中の深夜アニメ『まど☆まじ』*のヒロインの笑い声だよー
 ウェヒヒヒ☆』
449第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/13(火) 23:16:04.67 ID:gDyOm5jk
「そういえばダルがそんな名前のアニメを勧めていたような……確か魔法少女物だったか? しかし意外だな指圧師よ、お前アニメなんて見ていたのか」

無表情ながらどこかきょとん、とした顔の桐生萌郁は、やがて高速で携帯を打ち込むと途中で手を止め、一、二度打ち直してから岡部倫太郎に送信する。

『秋葉原で記事を書く者ならそれくらいの基礎知識は必要だって編集さんに言われて見始めたの。
 最近のアニメって複雑だったり可愛かったりで、なかなか侮れない感じ。
 さすが日本が世界に誇る文化だよねー』

「まあ正論だが……しかしヒロインがそんな不気味な笑い方でいいのか……?」


正直その笑い方は魔法少女というよりはむしろ魔女のイメージである。


『可愛い漫画を描く原画家さんと、衝撃的展開とか残酷描写とかで有名な脚本さんが手を組んでね、
 脚本の人は途中まで別名義で正体隠してたから途中からの展開に視聴者が阿鼻叫喚!
 今は衝撃に継ぐ衝撃で視聴者みんなでジェットコースターに乗ってる気分なの! ><』

「ほほう、この世に混沌をもたらす者としては興味深いな」

『中でもね、謎の少女ほむほむちゃんがお話のキーになって目が離せないの!
 まだ正体は明かされてないんだけど、これまでの言動から何度も時間遡行を繰り返してるんじゃないかって噂されてるんだー。』

「なに?! ……そ、そうなのか?」
450第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/13(火) 23:18:10.85 ID:gDyOm5jk
『あくまで推測だけどね!
 でももし本当なら、かつての時間軸で仲の良かったヒロインの子を助けるために、友達だったっていう過去さえなかった事にして、たとえ相手に嫌われてでもその子を助けようとしてるっていう悲劇的展開なんだよー。
 早くも次週が待ちきれないー ><』

「…………」

思い当たる事が多すぎて思わず押し黙る岡部倫太郎。
なにせ今この時も彼は幾度も繰り返したタイムリープの末にここに立っているのだから。

「……どうしたの?」
「あ、いや……」

突然携帯ではなく生の言葉で語りかけられ思わず動揺してしまう岡部倫太郎。
そう、彼もまた幾度となく過去を書き換えて来た。
フェイリス・ニャンニャン攻略のための服を借り受けるという名目で桐生萌郁に近づき、そのための交換条件を解決するために漆原るかに告白の台詞を考えてもらって、それをダシに桐生萌郁に会いに行く。
これが彼がここしばらく行っていたタイムリープ時の行動であった。
フェイリスを攻略する際には漆原るかや桐生萌郁に会いに行くタイミングはバレンタイン以降に持ち越して、漆原るかを攻略する際には桐生萌郁から交換条件を引き出してからすぐに神社に向かい、
そして今回の桐生萌郁攻略の際は、フェイリスに会いに行くかわりにこうして彼女のアパートを訪れている。
ところどころアドリブや計画の変更はしているが、おおむね同じ流れなのだ。

「それより告白の台詞は決まったか。どれが良かったのだ」
「…………」

カチカチカチ、と再び携帯を高速で叩き始める桐生萌郁。

「指圧師よ、できればお前の声で聞きたいのだが」

が、岡部倫太郎のその言葉に、彼女の指が止まる。

「どれも、良かった……」

暫しの静寂の後、ぽつり、と呟く。

「そうか……それならいいのだが」

とりあえずホッと息をつく。
本来の目的は目的だが、それはそれとして彼女の直面している困難に対して何かの役に立ちたいと思っていることもまた事実なのだ。
451名無しさん@ピンキー:2012/11/13(火) 23:20:16.62 ID:gDyOm5jk
tips:まど☆まじ:『魔法少女まどが☆まじか』。2011年1月から放映開始されたアニメ。当初は可愛い魔法少女物といった出だしであったが、
仲間の魔法少女が惨たらしく殺害される3話以降から徐々に魔法少女世界の暗部が明らかにされてゆく。ちなみにヒロインのまどは最新話に至るまで未だ魔法少女になっていない。

というわけで今宵はここまでー。
ハイテンションな萌郁さん
いいよね
ではまた次回〜 ノノ
452名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 00:28:10.74 ID:O7ygUOfR
もえいくさんは可愛いなぁ
453名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 01:07:41.10 ID:b/dg16p1

実はフェイリスとルカ子と萌郁の攻略は同時だったのか……オカリンなんたる策士
454名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 03:37:40.76 ID:t5+KcICy
毎度乙です
なるほど、とても効率的な攻略をなさっているようで。すごいなオカリン
もえいくさんが赤面するところが読みたい!
455名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 06:51:56.22 ID:nDossxFi
乙。
このもえいくさん可愛いなww
456名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 23:45:51.94 ID:iQpNcarS
こんばんはー
今夜も更新しにきましたー
457第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/14(水) 23:48:54.82 ID:iQpNcarS
6−4:2011/02/13 10:47 

「やれやれ……では一応要件は済んだという事だな」
「うん……」

岡部倫太郎は大きく伸びをして、とりあえず畳の上に座り込んだ。
かつての彼女の部屋はやけに雑然としていて、酒瓶やらゴミ袋やらカップメンやらが散乱していた。
到底女性の部屋とは思えない荒れっぷりで、初めて部屋に通されたとき岡部倫太郎は思わず絶句してしまったものだ。
彼女は部屋の整理整頓ができない、いわゆる典型的な『片付けられない女』だったのだ。
岡部倫太郎は仕方なく彼女の部屋の整理整頓を手伝ってやり、部屋を綺麗……とまではいかないまでも、少なくとも他人を上げられるレベルにまで掃除してやった。
その時の彼女の尊敬の眼差しはなんとも面映ゆいものだった。
なにせ誰だってできそうなことをやってやっただけだったのだから。

それからは彼女の仕事を手伝ったときなど、時折この部屋へやって来ては部屋の片付けを手伝ったりするようになった。
そうした時、彼女は素直に礼を言い、手間をかけさせた事を謝ってくる。
部屋に引き留めて食事などをごちそうしてくれることもある(とはいえ大概はカップラーメンやカップ焼きそばの類なのだが)。
掃除の際に下着などを彼に見られてもとんと気にしない風で、そういう意味では岡部倫太郎を男性として意識していないのかもしれない。
もしそうだとするなら彼女を攻略するのはかなり困難という結論になるわけだが。

(ともかく……指圧師の好みがわからん事にはな)

付き合いの長い椎名まゆりや自己主張の強いフェイリス・ニャンニャンなら好き嫌いを調べるのにそう苦労はしない。
漆原るかはなにを与えても喜びそうだから除外するとしても、桐生萌郁の好みだけはどうにも掴みづらい。
458第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/14(水) 23:51:23.30 ID:iQpNcarS
「あー指圧師よ、少し聞いていいか」
「なに……?」

ちゃぶ台の向こうに座った桐生萌郁が僅かに首を傾げて尋ねてくる。
光線の具合だろうか、その何気ない仕草がいつもの能面のような表情と相まってどことなく可愛らしく、岡部倫太郎は僅かに動揺する。

「あー、その、なんだ、お前は……好きなものとかはないのか?」
「好きな、もの……?」
「うむ。その、なんだ。考えてみればお前の趣味や好みをよく知らんと思ってな。ラボメンの好みを把握しておくのもラボの代表として大事な務めなのだ! フゥーハハハハ! ……あ、嫌なら無理しなくてもいいぞっ」

最後に弱気になってしまうのがなんとも岡部倫太郎らしい。
一方の桐生萌郁はしばし考え込んでいた風だったが……

「……携帯」

ぽつり、とそれだけ呟き、右手に折り畳まれた携帯電話を構える。

「それは知っている。それ以外でだ」
「……じゃあ、特には」
「ないのかよ! もうかよ! 早いだろ! ええい本当にないのか? こう食べ物とか!」
「食べ物……」

再び小首を傾げる桐生萌郁。どうやら表情は変わっていないが彼女なりに考え込んでいるらしい。

「ドネルケバブ……?」
「なんで疑問系なんだそこ! あとドネルケバブかよっ!」

女性ならもう少し高級品なりスイーツ(笑)なりなんなりを注文しそうなものなのだが(少なくともクリスティーナあたりならそう答えるだろう、などと岡部倫太郎は勝手に結論づけた)、やはりこういうところも桐生萌郁は彼の想像の斜め上を行っていた。

「ええい、そんなことでは好きな男の一人もできんぞ!」

思わずらしくない事を口走ってしまう。
あまりにも情報が得られずに少々焦っていたのかもしれない。
失言癖のある岡部倫太郎は、思わず己の口元を手で覆った。
459第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/14(水) 23:53:35.40 ID:iQpNcarS
「……本当?」

だが……意外なことに、桐生萌郁は岡部倫太郎のその発言に珍しく反応を示した。

「好きな人……できないと思う?」
「ん? ああ、まあそんな趣味では男の方も呆れるのではないか?」

多少投げやりにそう答えると、桐生萌郁は少しだけ眉根を寄せた。

「それは……困る」
「む、そうか、フハハハハ! そうだろうそうだろう! もっと気をつけた方がいいぞ指圧師よ! お前も行き遅れになるのは嫌だろうからな!」
「それは……別に」
「いいのかよっ! じゃあ何が困るというのだ!」

岡部倫太郎の逆切れ気味の問いかけに、桐生萌郁は無表情のまましばし押し黙っていたが、やがて静かに口を開く。

「……岡部君は?」
「うん? 何の話だ?」

唐突に質問に質問で返され、がくりと肩を落とす岡部倫太郎。

「岡部君は……どう?」
「どう、とは何がどうなのだ。せめて主語述語くらいははっきりさせてくれ。日本語として」
「岡部君は……おかしいと思う?」
「いやだから何が!?」
「……ドネルケバブ」
「そこかよっ!」

思わずビシッ、と突っ込みのポーズを取ってしまう。
だが桐生萌郁にとっては随分と真面目な話らしく、真剣な目つきでこくりと頷く。

「んー、まあ、秋葉原の名物だしな、俺は別に嫌いじゃないが……」

彼女なりに真剣であるらしき事を雰囲気から感じ取り、一応真面目に答える岡部倫太郎。

「なら……いい」
「だからなーにーがー!?」

これまた唐突な回答に、岡部倫太郎は思わず叫んでしまう。

「好きなもの。ドネルケバブで……いい」

だが桐生萌郁の内ではどうやら結論が出たようで、携帯電話を両手でつまみ、己の口元を隠すようにそれをかざして……
多少俯き加減で、少しだけ頬を染めて、眼鏡越しの上目遣いで目の前の男を見つめていた。
460名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 23:54:35.49 ID:iQpNcarS
というわけで今宵はここまでー
もえいくさんかわかわ
それではまた次回以降にお会いしましょう ノノ
461名無しさん@ピンキー:2012/11/14(水) 23:57:02.59 ID:mec8neRL
乙です。
今まで以上に先が読めないなぁ。
なんというかつかみ所がないよね>もえいくさん
462名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 00:30:53.39 ID:ObKim39N
掴み所はおっぱいだけ
463名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 00:52:04.58 ID:o6Se8pqm

萌郁さんの大きなおっぱい……
近いうちに、目の前でぷるんぷるんと揺れるのか。……ゴクリ。良い眺めだ。
464名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 15:17:09.51 ID:8b07l60C
萌郁さん可愛すぎだろ…外見と精神年齢の格差がたまらん
465名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 23:25:54.75 ID:DLRKw7s+
こんばんんはー
今宵も更新しに来ましたー
466第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/15(木) 23:30:15.91 ID:DLRKw7s+
6−5:2011/02/13 11:45 

その後なんとなく会話が続かず、互いに押し黙ったまま時間が過ぎていった。
岡部倫太郎は手持ち無沙汰に周囲に視線を投げては頭の中で現状の打開策を練る。
時折携帯に手をかけるが、会話の相手は例の如く組織の連中であった。

一方の桐生萌郁は、これまたいつもの如くの無表情でノートパソコンに向かい何かの作業をしている。ケータイ小説の原稿か何かだろうか。
先刻の岡部倫太郎の熱演で執筆熱に火でもついたのだろう。携帯電話を打ち込む時とあまりかわらぬ高速のタイピングで文章を綴ってゆく。

彼女は時折手を休めると、その視線をそっと部屋の向こうにいる岡部倫太郎に向ける。
そして彼がまだそこにいる事を確認すると、何をするでもなくそのまま再び視線を戻した。
それはどことなく、何かの置物やぬいぐるみなど、その人にとって大切なものを視界の端に確認して安心するかのような、そんな所作。
桐生萌郁はそれを終えるとふわ、と肩の力を抜き、どことなくリラックスした雰囲気で作業を再開する。

そんな状況が暫く続いて……やがて彼女がキーボードを叩く手を休め、小さく溜息をついた。
どうやら一段落ついたようだ。

「終わったのか」
「うん……荒稿は」
「荒稿?」
「うん。この後何度か読み直して推敲する」
「なるほどな」

短い会話が続いた後、再び静寂が訪れる。
岡部倫太郎の望まぬ、だが桐生萌郁はどこか望んでいる風の、静寂の時間。

「ええい、らちがあかん!」

だが……遂に岡部倫太郎が痺れを切らした。
他のラボメンならば情報収集のしようはある。例えば椎名まゆりとフェイリス・ニャンニャンは同じバイト先だし、漆原るかも椎名まゆりと同じ学校に通っている。
だから相手の趣味や好み、今日の予定などを聞き出すのもそう難しいことではない。

一方桐生萌郁は(呼びでもしない限り)それほど頻繁にラボに訪れるわけでもないし、親しい知り合いにも心当たりがない。あえて言うならミスターブラウンこと天王寺裕吾とその娘の綯だが、彼らに話を聞くのは少々危険な気がする。
もし失敗してもタイムリープすればいい、とにかく今必要なのは情報なのだ……岡部倫太郎はそう結論付けた。
467第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/15(木) 23:32:19.20 ID:DLRKw7s+
「岡部君……どうしたの?」
「あー、指圧師よ、気分を悪くしないで欲しいのだが……今付き合っている相手などはいるのか?」
「付き合う……?」
「そうだ」
「岡部君に付き合ってもらって、仕事を……」
「そうではない。つまりなんというか……男と女の関係になっているような相手はいるのか、と聞いている」

ぴくん、桐生萌郁の肩が揺れた。
その顔は依然無表情ながら、わずかに動揺している事がこれまでの付き合いから岡部倫太郎にも窺える。
なんと言うか、岡部倫太郎の口からそれを聞きたくなかった、そんな風な表情に見えなくもない。

「……いない」
「いないのか」
「うん……」

いつもより小さく頷くと、まるで岡部倫太郎の真意を推し量るかのようにじいと彼を見つめる。

「あー、彼氏が欲しいと思った事は?」
「…………」

桐生萌郁は、無言のまま押し黙る。

「あーすまん、気分を悪くしたなら謝る。ただちょっと興味があってな」

だが岡部倫太郎もこのまま引き下がるわけにはいかない。このループでは失敗するとしても、せめてもう少し踏み込んで情報を手に入れなければ。

「……考えたことも、ない」
「ないのか」

小さくこくん、と頷くと、再び岡部倫太郎に視線を注ぐ。

「だがさっき男ができないと困ると言っていたぞ。矛盾するではないか」
「あれは……」
「あれは、なんだ」
「あれは……もう、いいの」
「ぬう、わけがわからん」

彼女なりに納得しているようなのだが、岡部倫太郎にはさっぱりである。
468第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/15(木) 23:33:24.13 ID:DLRKw7s+
「それはなんだ、仕事が恋人とか、そういう感じのものか」

確かに彼女は生活能力は皆無だが仕事面では実に優秀である事が判明している。
下手に男を作るよりも仕事に精を出しているほうが生産的と考えても不思議ではない。

「……違う」

だが返ってきたのは否定の言葉だった。
それも彼女にしてはかなりの即答とも言える部類である。
どうやらキャリアウーマン志向でもでもないらしい。
岡部倫太郎はますます理解に苦しみ、頭を抱えた。

「……岡部君」
「なんだ」

そんな風に彼が頭を悩ませていると……今度は彼女の方から質問を投げかけてきた。

「岡部君は、なんでそんな質問、するの……?」
「あ、いや、それは……」

核心を突かれ、思わす答えに窮する岡部倫太郎。

「あー、なんだ、その、お前も見た目は悪くないんだし、そのダイナマイトバデーを腐らせておくのはいささかもったいないと思ってな」

悩んだ末に、頭を掻きながら半ば冗談めかした言い方をする。
セクハラとも取られかねない発言だが、これくらい踏み込まないと彼女の真意がわからないと判断したのだ。

「もったいない……?」
「そうだ。こう随分とこの……あー、発達した、というか、グラマラス、というか……ええいダルめ! 奴がここにいれば幾らでも語るだろうに!」

己のその手の語彙の貧弱さを嘆く岡部倫太郎。
469第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(1):2012/11/15(木) 23:36:03.24 ID:DLRKw7s+
だが……彼の発言は、一見それとわからぬながら桐生萌郁に重大な変化を及ぼしていた。

「私の体で……興奮、するの?」

ぱちくり、と目を幾度かしばたたかせた後、どこかきょとんとした表情で尋ねる。
ただよくよく耳を傾けてみれば……その声は僅かに上ずっているようにも聞こえた。

「あ、ああ、普通の男ならまず放っておかんと思うが」

彼女の身体に視線を走らせながら、一応素直な感想を述べる。
整った顔立ち、女性にしては高めの背丈、無表情なところはクールビューティーに見えなくもないし、その豊かなバストは男ならば大概は思わず目で追ってしまうことだろう。
当人がまったく自覚もしていなければ磨いてもいないためさっぱり目立たぬが、おそらくそれなりにメイクをすれば相当に化けるのではないだろうか。

「……岡部君は?」
「なに?」

だが……彼女にとって、そこいらの有象無象の男の評価などどうでもいいようだった。

「岡部君は……興奮、する?」
「それは……あー、うむ。まあ、一応俺も男だからな」

可能な限り当たり障りのない答えを用意する岡部倫太郎。
再び目をニ、三度瞳を瞬かせた桐生萌郁は……


「ん、わかった」


そう呟くと、突然己の上着を脱ぎ始めた。




(『第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2)』へ つづく)
470名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 23:37:03.64 ID:DLRKw7s+
というわけで今宵はここまでー
もえいくさんマジ挙動不審
そんなわけで(2)へと続きまする
それではまた次回ー ノノノ
471名無しさん@ピンキー:2012/11/15(木) 23:39:41.13 ID:s1/iqd8I
乙です。
ちょ、もえいくさんいきなり何をするダァーw
他人から向けられる好意に慣れてないから応じ方も分からないとか
そういうクチだろうか。
続きに期待しております。
472名無しさん@ピンキー:2012/11/16(金) 00:42:29.61 ID:tyHxSMSW
岡部が見たいから。脱いだら喜んでくれると思ったからってとこだろうか
献身や素直さ通り越して依存体質すなぁ。犯リン裏山
473名無しさん@ピンキー:2012/11/16(金) 19:16:27.29 ID:Dpr5t9jI
うわー こんなところで追いついたorz
攻めるもえいくが気になるじゃないか
474名無しさん@ピンキー:2012/11/16(金) 23:13:00.02 ID:UTYSJiLn
こんばんわー
今週最後の更新に来ましたー
475第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/16(金) 23:18:45.23 ID:UTYSJiLn
6−6:2011/02/13 09:50 ブラウン管工房

「もえかおねえちゃん、遅いね……」

天王寺綯が父である天王寺裕吾のズボンを掴みながら呟く。
口調もどこか寂しげだ。

「ああ……一体どこほっつき歩いてんだウチのバイトは」

天王寺裕吾がやや不機嫌そうに溜息をついた。
今日は寒いながらも好天に恵まれていて、彼は娘の綯を連れて今から遊園地に行く腹積もりなのだ。
それを邪魔しようとする者は男だろうと女だろうと容赦する気のない天王寺パパである。

もし今日の彼女の遅延が岡部倫太郎の仕業であると知れたなら、一体あの白衣の男にはどんな末路が待ち受けているだろうか。
最悪二度とタイムリープできない体にされてしまうかもしれない。

「こんちゃーっす! バイトしに来ましたー!」

……と、そこに元気のいい挨拶と共にジャージ&スパッツというこの季節にしてはやけに寒そうな格好の女性がやって来た。
彼女は右手を挙げながら、いかにも怪しげな店内に警戒心の欠片もなく入ってくる。

「なんだあ、おめえは。バイトなら間に合ってるぞ」

若干イライラしていた天王寺裕吾が凄みを利かせた視線を向けるがその女性の笑顔が崩れることはなく、彼はほう、と心の内で感心した。
大概の女子供は、いや男でさえも、彼が睨みつけて平然となどしていられないというのに、なんとも肝の据わった女もいるものである。
少しだけ興味を持った天王寺裕吾は、あらためてその女性を観察する。

綺麗……と言っていい容姿である。動作もきびきびとしておりこまめに動きそうだ。
また細かい足運びに隙がなく、おそらくなんらかの格闘技の経験があるに違いない。
そして崩れぬ笑顔。それも演技ではなく本心からのものだ。この状況で、さらに自分の前で笑い続けていられるのはよっぽどの能天気か、あるいは相当に肝が据わっているか……

(……あるいはその両方、か)

ざっと見ただけでそこまで判断した天王寺裕吾は、改めて彼女に問いかける。
476第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/16(金) 23:26:30.43 ID:UTYSJiLn
「んで、なんでおめえはこんな場末の店のバイトなんてする気になった」
「えーっと、岡部倫太郎に言われて……その、今日は俺が桐生萌郁を預かるからかわりにお前が店番をしておいてくれって」
「なあにぃ……あんの野郎人ン家のバイト拉致しやがってよくもまあぬけぬけとそんな事が言えたもんだ……!」

ゴゴゴゴゴ、と体中から怒気を噴出していた天王寺裕吾は、だが足元にいた娘の声で我に返った。

「おとーさんおとーさん、もえかおねえちゃんとオカリンおじさん二人でどこにいったの? ゆーえんち?」
「ああん……?」

娘の言葉にしばし考え込んでいた天王寺裕吾は、やがて何を納得したのだか突然笑い始めた。

「ハッハッハ! そうかそうか、あいつらも遂にそんな風になったか! そりゃあせっかくの休日だ、店番に一日縛り付けとくのは耐えられねえよなあ岡部! ハッハッハ!」

手を叩いて大笑いする父親にびっくりして目を丸くする天王寺綯。

「それでおめーがかわりに派遣されてきたってわけだ。え? いい面の皮じゃねえか。で、おめーは岡部のなんなんだ? あ?」
「相棒……かな? 岡部倫太郎の事が大好きだから、彼の役に立ちたいんだ!」
「ハア……? なあおい、好きってなあそりゃどういう意味だ。まさかあのバカのこと尊敬してるとか……」
「もちろん尊敬もしてるよ! でも女としても好きなんだー。へへー♪」

なぜか得意げに告げるスパッツ少女。
そしてその後に頬を染めてもじもじと照れ始める。

「ああん……?」

天王寺裕吾は一転腕を組んで考え込む。
話の流れから岡部倫太郎がこの店のバイトである桐生萌郁を連れ出したのは間違いないのだが、その代替要員として岡部倫太郎が好きだと公言するような女性を派遣する、という神経がよくわからない。
昨今の恋愛事情は年のいった天王寺裕吾にはよくわからなかったが、なんにせよ随分と複雑怪奇な話ではないか。
477第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/16(金) 23:28:37.78 ID:UTYSJiLn
「ねえねえおとーさん、もえかおねえちゃんとオカリンおじさんはどこいったのー?」

一方で父親に勝手に納得された上に説明もしてもらえない天王寺綯は事情がサッパリ飲み込めない。
ただ彼女にとって妙に気になる議題のようで、父のズボンをくいくいと引いて幾度も尋ねる。

「んー、デートに行ったんじゃないかなーって話してたところだよ」

阿万音鈴羽が膝を折って、天王寺綯と視線の高さを合わせてにこりと笑いかける。

「で、でーと……?!」

びっくりして目を白黒させてしまう幼い少女。彼女にとって男女が連れ立ってのデートというのは遥か山の頂にそびえているかのような遠大なイメージがあった。
なんというかデートから結婚、出産、そして老後に至るまでストレートに線路で繋がっているような、そんな感覚なのだ。

「オカリンおじさん、もえかおねえちゃんのことが、好きなの……?」

とてて、と父の足の後ろから阿万音鈴羽の前まで歩いてくる天王寺綯。
視線の高さを合わせて話しかけるのは自分を対等に見てくれている証拠だと、理屈はわからぬまでも直感で理解したのだろう。
そして幼い心に感じたのだ、この人はkっといい人だ、と。

「うーん、そのあたりはあたしにもよくわかんないなー。綯姉さんがもっと大きくなったらわかるんじゃないかな」
「もっとおっきくなったらかあ……」

うーん、と腕を組んで考え込む天王寺綯。さっぱりわからないけれど、とにかく父親のまねっこのポーズを取る。
なにやら自分が偉くなったような気分になれるので、少女はそのポーズが嫌いではなかった。

正直オカリンおじさんは怖い人だ。怖い人だけれど……ちょっぴり気になる人でもある。
なにせ彼女にとって父親である天王寺裕吾を除けば一番最初に親しくなった異性なのだ。
怖いという感情的要素が抜けた時、果たして彼の事をどう感じるのか……その事について、彼女は未だ無自覚であった。
478第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/16(金) 23:31:51.49 ID:UTYSJiLn
「…………?」

だが目下のところ、彼女はもっと別の違和感を強く感じていた。
目の前のニコニコ笑っている優しそうなお姉さんの言葉が、さっきから妙に心に引っかかっていたのだ。

「……なえ、ねえさん?」
「あっ! あー、え、えっとホラ! あたしがこの店にバイトに入るんだったらあたしよりこの店に詳しい綯……えっと綯ちゃんは先輩みたいなものじゃないか! だからホラ……その、綯姉さんって」

未来の呼び癖がうっかり口から漏れて、しどろもどろになりながらもなんとか言い訳する阿万音鈴羽。
しばし呆然とした後、ぱああ、と顔を輝かせる天王寺綯。

「わたし……おねえちゃん?!」
「え、えーっと、そうそう! 綯ねーさん!」

天王寺綯は周囲の人間関係の中で基本的に常に一番年下であり、妹扱いや子供扱いされる事が殆どであった。
そんな中で、彼女を目上扱いした阿万音鈴羽の発言は、だから天王寺綯にとって相当に嬉しいことだったらしい。

「うん! じゃあ綯おねえちゃんがおみせのことおしえてあげる! え、えーっと……」
「名前? 鈴羽だよ、阿万音鈴羽!」
「すずはおねーちゃん……うん! じゃあすずおねーちゃんこっちきて!」
「はいはーい! 綯ねーさん!」
「んふ、んふふふふふー♪」

妙にテンションの上がった天王寺綯が口元を猫のように丸め、跳ねるようにして店の中を案内する。
その口調はなんともたどたどしく、難しい事は何一つ説明できていないが、阿万音鈴羽はいちいち大仰に肯いて、あくまで教えを請う立場を崩そうとしない。
もっとも彼女の場合、子供あしらいが上手いというよりレトロな文化に触れて素直に感心しているだけなのかもしれないが。

そんな彼女の様子を見ながら……天王寺裕吾は目を細め、唇をニヤリと歪めた。
479第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/16(金) 23:35:16.56 ID:UTYSJiLn
「ようし、おめえ、採用だ」
「やったー! ってまだ採用されてなかったのー!?」
「ったりめえだ! どこの馬の骨ともわからねえ奴をポンポンと店番に採用できるか!」
「えー、てんちょー、馬の骨はひどいなー」
「あー! おとーさんすずおねーちゃんとらないでよー!」

ぷんすかと父親を叱る天王寺綯。今の彼女は新たにできた妹分のお世話に大忙しのようだ。
困ったように肩を竦めた天王寺裕吾は、遊園地へ出かける時間を多少を遅らせようと時計を確認し……その後なぜか眉を顰める。

「……なあ新入りバイト」
「鈴羽だよー! 阿万音鈴羽!」
「そうそう。鈴羽つったか。おめえ……以前に俺に会った事なかったか?」

一瞬きょとんとした阿万音鈴羽は……だがすぐに笑顔でそれを否定した。

「やだなー店長、あたしこの街に来たの昨日だよ昨日! 初対面だって!」
「そうか……そうだよな。悪ぃ、変なこと聞いちまったな」

再び邪魔する父親におかんむりの天王寺綯。
だが娘を溺愛しているその禿頭の大男は、珍しく彼女のお叱りの声が耳に入っていなかった。

彼が脳裏に思い浮かべたのは、かつて半年前に別の世界線でアルバイトをしていた阿万音鈴羽か。
それともこれまた別の世界線で十年以上昔に死別した、かつてのこのビルのオーナーだった橋田鈴のことか。
それともまるで関係ない、単なる他人の空似だったのか。

詳しい事は彼自身にもわからない。なぜあんな質問をしたのか当人ですらわからぬのだから。


けれど……天王寺裕吾と阿万音鈴羽は、再び出会った。
数奇な縁で結ばれた二人が、喩えこのタイムリープの間だけだったとしても、再び出会ったのだ。


それが岡部倫太郎が結んだ縁だというのなら、きっとそうなのだろう。
いつか……もといやがて阿万音鈴羽が言うようにそれが彼の力だというのなら、それもきっと間違っていないのだろう。




だってどんな寒い冬空の下でも……太陽の光が照らしている事に変わりはないのだから。
480名無しさん@ピンキー:2012/11/16(金) 23:37:46.98 ID:UTYSJiLn
というわけで今週はここまでー
せっかく追いついてもらったところ申し訳ないですが今回は鈴羽のターンということで
もえいくさんの猛攻は来週以降に持ち越しでございます
せっかくのもえいくさんルート、ミスターブラウンと鈴羽の話はちょっと触れておきたかったので
それではまた次回〜 ノノシ
481名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 00:05:47.11 ID:vopXy7KE
裏切られたぜ……!
482名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 00:12:58.48 ID:McOGRITt
まさかの天王寺親子……!
綯ちゃん可愛いよ綯ちゃん……ってまさか綯ちゃんまでオカリンの毒牙に……??
wktk半分gkbr半分。
483名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 01:43:48.74 ID:YGMytVtj
綯の守備範囲広いなwwww
これは・・・もしや・・・?
484名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 02:04:26.76 ID:u/07Huvd
『お前は十五年と言わず今ここで(社会的に)殺す』フラグ?
485名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 07:39:34.76 ID:McOGRITt
萎えさんに逆レイープされたオカリンが泣きながらラボに駆け込んできてタイムリープ
486名無しさん@ピンキー:2012/11/17(土) 08:52:54.38 ID:cO8oLPpq
かわいい綯ちゃんしかいないだろ!萎えさんの話はやめるんだ
487名無しさん@ピンキー:2012/11/18(日) 19:16:37.06 ID:SlLH5pWd
どれだけ鬼畜なことしても総受けにしか見えないのがオカリンの凄いところ
488名無しさん@ピンキー:2012/11/19(月) 23:07:18.73 ID:fCd+ydu8
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
え? 綯ちゃんルート?
ないよ
そんな
ものは


……たぶん
489第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/19(月) 23:13:54.69 ID:fCd+ydu8
6−7:2011/02/13 12:17 ボロアパート二階・桐生萌郁宅

「待て、待て待て待て待て、待て指圧師よ!」

上着を脱ぎ捨て、驚くほどに大きなブラジャーを顕わにする桐生萌郁。
それがまた黒の下着で、なんともアダルティな雰囲気を醸しだす。
当人がそれを見越して購入したのか、それとも単にサイズの合うものを適当に見繕った結果なのかはよくわからぬが。

ともかくも桐生萌郁はその姿のまま四つんばいで彼に近づいてくる。
彼女が手足を動かすたびにその胸が大きく脈打って、もはやそれは視覚的暴力とすら言える有様であった。
岡部倫太郎は思わず畳の上を後ずさりする……が、すぐに背中が壁に当たって後退を阻まれる。
さらにその際後頭部を打ち付けてしまい、思わず頭を押さえて呻き声を上げた。

「あたーっ?!」
「岡部君、大丈夫……?」
「あ、ああ、大したことはない……ってうぉい! 指圧師! 近い近い!」

岡部倫太郎が明滅する視界を回復させると……桐生萌郁は既に彼の両脚の間にずいと入り込んでいて、股間に近づけていた無表情を彼の方に向けていた。
下着越しにすら圧倒的な存在感を放つ両の乳房が、彼の両膝の上にぷにょにょんと乗せられている。
思わず全身を引き攣らせ、硬直してしまう岡部倫太郎。
桐生萌郁は、まるで巣にかかった蝶を絡め取りに来た蜘蛛のように彼の動きを封じ、左手で前髪をかき上げる。

「む、け、携帯? ちょ、ちょっと待て指圧師よ、メメメメールが来た!」

これ幸いとばかりに携帯を取り出し震える手で確認する岡部倫太郎。
こんな危機的状況から少しでも抜け出したい……それは実にわかりやすいほどの逃避であった。


送られてきたメールには……こんな文面が添えられていた。


『は、恥ずかしいよ〜!////
 顔から火が出そう ><』

「お前かよ! 恥ずかしいのかよ! それならそうと早く言ってくれ! まるで俺だけヘタレみたいではないかっ!」
490第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/19(月) 23:15:22.31 ID:fCd+ydu8
思わず情けない声で叫ぶ岡部倫太郎は、今更ながらに彼女の手に携帯が握られていることに気付く。

『だって〜、恥ずかしいものは恥ずかしいんだもんっ!
 岡部君は平気なの? ><』

「へ、平気なわけがなかろう! というか言ってることとやってる事が全然違わないか指圧師よ! あ、やめてっ! そこやめてっ!」

羞恥を伝えるメールを送りつけながら、だがその一方で真剣極まりない表情で岡部倫太郎の股間を至近で覗きこみ、指先でそっとつつく桐生萌郁。
岡部倫太郎の逸物はたちまちに反応し、ズボン越しにその屹立を見せた。

『きゃっ。
 おっきくなった。////
 岡部君私の裸で興奮してるの?
 おねーさん恥ずかしいけど嬉しいな〜☆☆☆☆
 (*^^*)ゞ』

「だから……待て、指圧師! 萌郁っ!」

岡部倫太郎が思わず彼女の名を叫ぶと、びくり、と肩を震わせて桐生萌郁の動きが止まる。
そしてのろのろと顔を上げ、彼の顔を見つめると、すぐにふいと視線を逸らし携帯を打ち込もうとして……


……その手を、岡部倫太郎に掴まれる。


「あ……」

メールを打ち込むことを阻止されて動揺する桐生萌郁。
頬に赤味が差し、困ったように眉根を顰める。
それは大柄な彼女には似つかわしくない、どこか怯えた小動物めいた表情で、
岡部倫太郎は『なんとなくいじめたくなるような顔だな……』などと思わず不謹慎なことを考えてしまう。
491第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/19(月) 23:17:17.75 ID:fCd+ydu8
「……岡部君、痛い」
「あ、ああ、すまん」

どうやら気付かぬうちによほど強く握り締めてしまっていたらしい。
慌てて手を離すと、桐生萌郁は彼の手の跡が僅かに赤く残った己の手首を、不思議と優しげに撫でる。

「だが……できればメールではなくお前の声で聞かせてくれ、萌郁」
「…………」

桐生萌郁は携帯に目を遣って何かを打ち込もうと指を構えたが……そのまま手を止めた。

「……ダメ、なの?」
「なにがだ」
「私じゃ……ダメ?」
「だから何がだ!」

相変わらずわかりづらい彼女の話し方に、多少苛立たしげに応える。
事実彼は苛立っていた。せっかくのチャンスだったのだ。こうなる事を望んでいたのではなかったか。
なのになぜ……ここに来て自ら水を差すような真似をするのだろう。
己の憤りが外に漏れ出たかのような言葉にますます自己嫌悪を催す。
これではただの八つ当たりではないか。

「岡部君は、私じゃ……興奮、しない?」
「はぁ……?」

どこか困惑したような、眉根を寄せた表情で尋ねてくる。
それは……なんとなく、今にも泣き出しそうな風情を湛えていた。

「ああいや、無論興奮する! 興奮するとも!」

大慌てで手を振りフォローに廻る岡部倫太郎。
だが落ち着いて考えればそれは果たしてフォローになっているのだろうか。
ただどちらにせよ彼女の表情は晴れぬままだ。
当たり前だろう。自ら服を脱ぎ男に迫るなど彼女にとっても相当な覚悟だったはずだ。
それを拒絶されたのである。何かの明確な解答を求めるのはむしろ当然と言えた。
492第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/19(月) 23:18:10.76 ID:fCd+ydu8
「なら……なんで?」

桐生萌郁が己の『行為』が受け入れられない理由を尋ねてくる。
だがその問いは……岡部倫太郎自身も答えられなかった。彼自身にもその理由がわからなかったのだ。
どう考えても、現在の彼の目的を考えれば、ここは受け入れる一手しかないはずなのに。
なのになぜ、彼女からの誘惑を、岡部倫太郎は拒んでしまったのだろうか。

「いや……やはりおかしい。おかしいぞ指圧師よ」

再び以前の呼び方に戻った事に彼女は僅かに眉根を寄せて不満の色を表したが、それを口に出す事はなかった。
ただ、彼が気付かぬ程度に唇を尖らせはしたが。
一方の岡部倫太郎は、暫し目を閉じ、心を落ち着けて、言葉を選びながら話を続ける。

「なぜ……その、俺なのだ。いきなりそういう行為はだな、あー……いささか早いと思うのだが」

言いながら己に毒づく岡部倫太郎。
どの口が吐いているのだろう、と。
なにせ己の目的のために今から目の前の女性を、桐生萌郁を抱こうとしているのだ。
そんな自分がいかにも相手を気遣うような台詞を吐くなど、偽善もいいところではないか。
493第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/19(月) 23:19:11.98 ID:fCd+ydu8
というわけで今宵はここまでー
もえいくさんかわかわ
というわけでまた次回にお会いしましょう ノノ
494名無しさん@ピンキー:2012/11/19(月) 23:23:04.03 ID:sB1Uzlj+
おつおつ。
もえいくさんは言葉とメールのギャップが楽しいですなぁ。
495名無しさん@ピンキー:2012/11/20(火) 00:09:47.92 ID:Fs58iZue

えーと。こういう時なんて言うんだっけ?

……!
ワッフルワッフル!
496名無しさん@ピンキー:2012/11/20(火) 01:43:17.21 ID:tU8NPePF
ちじょいくさんかわええ
497名無しさん@ピンキー:2012/11/20(火) 23:15:00.77 ID:b5T76pmi
こんばんはー
今宵も更新させてくださいませー
498第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/20(火) 23:19:39.54 ID:b5T76pmi
6−8:2011/02/13 12:23 

「………………………」

しばし押し黙った桐生萌郁は、やがて彼から視線を逸らし、斜め下を見つめながら何か考え事を始めた。
そして……たっぷり三分ほど沈黙した後にようやく面を上げ、再び岡部倫太郎をまっすぐ見つめる。

「岡部、君、は……全部、くれたから」
「……全部?」

またである。彼女の発言は短すぎて逆に要点が掴めない。
岡部倫太郎はその真意を図りかね、首を捻った。

「私には、前は、なんにもなかった……本当に、なにも」
「………………」

それは岡部倫太郎も聞いたことがあった。
目の前の彼女自身に、ただし別の世界線で。

「なにもなかった私は、気づいたらビルの屋上にいて……このまま飛び降りたら楽になれるのかな、って」

携帯を用いず彼女がこれほど長い台詞を喋るのは珍しい。
岡部倫太郎にとっては既に知っている部分ではあったが、真剣な面持ちで彼女の言葉に黙って耳を傾ける。

「そんな時助けてくれたのが……天王寺のおじさん」
「……ミスターブラウンか」

こくり、と桐生萌郁が小さく頷く。

「おじさんは色々と世話を焼いてくれて……今では店番も任せてくれる。とても……感謝しているの」

彼女の告白は、かつて岡部倫太郎が彼女自身から聞いた言葉とは少し異なっていた。
ミスターブラウン……天王寺裕吾がラウンダーとして彼女を囲ったのか、それとも純粋に親身になって彼女を保護したのか、今の発言からはわからない。
岡部倫太郎はその事を問い質したいという強い誘惑に駆られたが、必死に自制する。
確認はしたいが……今はその時ではない気がする。
それより彼女の話の続きを聞くことの方が先決だろう。
わずかに沈黙した桐生萌郁に、岡部倫太郎は続きを促した。
499第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/20(火) 23:21:50.28 ID:b5T76pmi
「でも……私はやっぱり何をしていいのかわからなかった。自分が本当にここにいていいのか、わからなかった。天王寺のおじさんはそんなのは当たり前だって、人がそこにいることに理由なんていらないって言ってくれたけど……自信が、なかった」

彼女の言葉は……揺れていた。
よほど辛いことを話しているのだろう。触れ合ったままの彼女の身体が、微かに震えている。

「なぜ……そこまで自信がないのだ」

あれほどに仕事ができるのに、代筆とはいえケータイ小説だってあれほど人気なのに。
確かにコミュニケーションには若干の不安があるかもしれないが、それは周りがフォローしてやれば済む話だ。
なんで彼女は……これほどまでに己を卑下しているのだろうか。

「私……いらない子だって、ずっと言われ続けて……ずっと、ずぅっと……だから、本当に自分はいらない子なんだぁって、ずっとずっと思ってて……でも、そう思うことで、私、安心してて……」
「安、心……?」

ぞわり、と岡部倫太郎の心に何かが走る。

「だって、いらない子の私なら……誰も私を見ない……誰も私に期待しない……だから、誰も私に失望しない。だったら、その方がいいかな、って……」

彼女を支配していたのは虚無……長い間否定的な評価に身を晒され続けていたがゆえの虚無感だろう。
誰も彼女に期待しないから、誰も彼女に失望しない……彼女はそう言った。
だがそれは裏を返せば彼女が他の誰にも期待していない、と言っているのと同義である。
自分から何も望まなければ……絶望することもない。
期待し努力しなければ何かを得る事はできないのかもしれないが、少なくとも何も持たなければそれ以上失うことはないのだから。

自分では何をどう言い繕っても変えられぬ己の希薄さ、無意味さ。世界との隔たり、距離感。
孤独、絶望、そして空虚。
何をしても決して満たされぬ心……それはもはや“飢え”ですらない。
飢えとは自覚無自覚に関わらず足らぬ事を知るがゆえにこその生じるものだ。
だから彼女が感じていたのは飢えではない。飢えにすら辿り付けぬ“うつろ”……それが当時の彼女だった。
500第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/20(火) 23:25:08.50 ID:b5T76pmi
「そこに……岡部君が来てくれたの」
「俺が……?」

来た、とはどういう意味なのだろう。
今の彼にはこの世界線で彼女と初めて会った記憶がない。世界線を移動した際にリーディング・シュタイナーが発動し、その当時の己の記憶を塗り潰してしまったからだ。
けれどこの世界線の自分がやはり自分自身だと仮定するなら、彼女との出会いはこれまでの数少ない情報からでも容易に想像がつく。
きっとIBN5100を探して困惑していた彼女を見かねて、勝手に助けを申し出て、彼女の奇妙な応対に辟易しながらも一緒に探し回っていたに違いないのだ。

「岡部君は……私を助けてくれた。見ず知らずの私を、そんな事をしても岡部君にはなんの得にもならないのに」

メールを通さずこれほどの長い言葉を彼女から聞くのは久しぶりである。
あの夏の三週間ぶりではないだろうか。
もっとも……あの時は世辞にもまともな状況とは言い難かったが。

(まともでないのは今も同じ、か……)

岡部倫太郎は、半裸の女性を股の間に迎え入れた今の状況に内心苦笑しながら、彼女の次の言葉を待った。

「不思議だったの。知り合いだった天王寺のおじさんならわかる。でも……私の事を何も知らない人が、どうして、って」
(知り合い……?)

自分が知っている事情とズレがある。そう察した岡部倫太郎はかつてα世界線で彼女が述懐した言葉を記憶の隅から必死に手繰った。
確か彼女はこの世に絶望していて、自殺を考えビルの屋上に昇ったところでラウンダーを募集するメールを受け取り、そこでFB……すなわちミスターブラウンこと天王寺裕吾とメール上の関係ではあるが知り合い、傾倒していったはずだ。
だがこちらの世界ではどうやらそれ以前から彼と知り合いだったらしい。
天王寺裕吾はその際に彼女をラウンダーに誘ったのだろうか。
元々知り合いである、という関係性の変化と彼の性格を考えると、天王寺裕吾自体はラウンダーのままだが桐生萌郁を勧誘してはいない、というケースも考えられる。
場合によっては二人ともラウンダーとは無関係、という可能性だってあるだろう。
いずれにせよ断定するのは危険だ。今はこちらから聞きだすより彼女の話を一通り聞いた方がいいだろう。
岡部倫太郎は再び彼女の言葉の続きを待った。
501第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/20(火) 23:27:27.19 ID:b5T76pmi
「岡部君は……私を引っ張ってどんどん先に歩いていった。私はそれに必死についていって……気付いたら、みんなが、いた」

ラボメンとして迎えられた当初、彼女はラボの誰とも知り合いではなかった。
だが人懐こい椎名まゆりが、マシン絡みで専門知識が豊富な橋田至が、岡部倫太郎の助手の牧瀬紅莉栖が、猫耳メイドのフェイリス・ニャンニャンが、神社の巫女の漆原るかが、たちまち彼女の周囲に溶け込んで、当たり前のように傍にいるようになっていた。
なにかあるごとに集められるラボの仲間達。困った時は手を差し伸べてくれる、他の誰かが困っているなら互いに知恵を出し合う。
成功したらはみんなでしゃぎ合い、誰かが失敗したら全員で悲しみ、励ましてくれる。
そして……その先陣を切っていたのは、いつだってこの目の前の白衣の男だった。
ラボメンの悩みを吹き飛ばし、皆を明るく照らしてくれたのは、そのきっかけをくれたのは、いつだって彼だったのだ。

「私は……いつの間にか、寂しくなくなってた。あのラボにいる事で……私は、ようやく自分が欲しがっていたものに気付いた」

岡部倫太郎に圧し掛かったまま、彼女は語る。
淡々と、だが熱っぽく。
その熱情はかつてFBと呼ばれる人物へ向けられていたものとどこか似通っていて、
彼女のそんな様子に……岡部倫太郎は呆気に取られ、言葉を失っていた。

「でも欲しがっていたものは……もう、全部あった。岡部君が、くれたの」
「俺、が……?」

先程と似たようなやり取りにぞわり、と背中に何かが走る。
それは違和感。彼女の言葉の中に滲む小さな、だが看過できぬ違和感。
気付きたくない、だが気付かねばならない、彼女と己との間に隔たる重大な齟齬。

「私の中は、全部、岡部君が満たしてくれた。だから、岡部君が何かを望むなら、私は、私の全部でそれを叶えてあげたい」

岡部倫太郎の股ぐらの間から一層身を乗り出して、熱く……だが暗い瞳で彼女は告げる。



「たとえ……どんな、ことでも」
502名無しさん@ピンキー:2012/11/20(火) 23:28:51.92 ID:b5T76pmi
というわけで今宵はここまでー
なんか本気で忙しくなってきた……
可能な限り更新ペースは崩さないようにしますです
ハイ

というわけでまた次回ー ノノ
503名無しさん@ピンキー:2012/11/20(火) 23:30:14.31 ID:2Nu2mMLE
乙ですー。
「熱く……だが暗い瞳」ってのがなんか迫力ですな。
ちょっと病んでる部分がわずかにあるんでしょうかね。
続きに期待しとりますー。
504名無しさん@ピンキー:2012/11/21(水) 23:16:48.68 ID:9sPUlYo3
依存体質はなおってなかったか
萌郁さんには幸せになって欲しいな
505名無しさん@ピンキー:2012/11/21(水) 23:36:35.68 ID:gzgxlFz2
こんばんは
今宵も更新しに来ましたー
506第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/21(水) 23:39:22.00 ID:gzgxlFz2
6−9:2011/02/13 12:33 

静寂が……部屋に満ちていた。
ただ二人の呼吸の音だけが静かに聞こえている。
お互い自分の心臓の音がいやというほど頭に響いていた。

半裸の女性が壁際に座り込んでいる男の股ぐらを開き、ブラ越しとはいえ己の裸体をその上に乗せている、そんな異常事態。
にもかかわらず……その二人の間からは、性的な興奮というものがまったく伝わってこない。
ただ真剣な瞳と、真摯な眼差しだけが、互いに交錯し、絡み合っていた。

「………………」
「岡部、君……?」

だが、やがて男の方が動き出した。
ゆっくりと女性……桐生萌郁の肩を押しやり、己から離す。
そして彼女が脱ぎ捨てた服を拾いにいって、その肩の上にそっとかけた。

「岡部君、どうして……っ?!」

桐生萌郁の声は、今にも泣き出しそうな悲壮感に満ちていた。
どこかヒステリックな、狂気に似た情動がその言の葉の奥に潜んでいる。
やはり、だめなのだろうか。
こんな自分がいくら身を擲ったとて、彼の役には立てないのだろうか。
それは悲しい。とても悲しい事だ。
だってそれは彼が自分にしてくれた事の万分の一さえも、彼に返す事ができないということなのだから。

「…………な」
「え……?」

岡部倫太郎の口から小さな呟きが漏れた。
だがそれは小さすぎて桐生萌郁の耳には届かない。
ただその声が低く、太く、何かに対する憤怒に満ちている事だけは、彼女にもわかった。
507第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/21(水) 23:42:36.06 ID:gzgxlFz2
「……ける、なよ」
「岡部君……怒ってる?」
「ああ怒っているとも! ふざけるな……ふざけるなよ桐生萌郁っ!」

突然形相が変わり、激しい怒りを顕わにする岡部倫太郎。
名前を呼ばれたことにびくん、と反応する桐生萌郁。
わけもわからず、ただ怒られた以上は己に非があると疑わぬ彼女はその身を竦ませ、怯え、惑う。

「ごめんなさい、岡部君、ごめんなさい、ごめんなさい……っ」

能面のような表情が崩れ、涙腺からみるみる涙滴が溢れてくる。
ああ、自分は彼の怒りを買うような事をしでかしてしまったのだ。
それがどんな事であれ彼の気分を害したのだ。自分が悪いに決まっている。

謝らなければ、許しを請わねば……
桐生萌郁は、たちまちそういう結論を導き出してしまう。
そんな風にしか……彼女は考えることができないのだ。

「違うっ! そうではない! 俺が怒っているのはお前のそういうところだ!」
「そう、いう……?」

わからない。彼が何を言いたいのかさっぱりわからない。
怒られた事に対して謝った事にすら怒られて……一体自分はどれだけ悪い事をしでかしたというのだろう。
何をすれば彼の許しを得ることができるのだろう。

「聞け! 俺が怒っているのはお前があんなものを『全部』と言った事だ! 次に怒ったのはお前が何も悪くないのに謝った事だ!」
「…………?」

やっぱり、わからない。
彼は、岡部倫太郎は一体何が言いたいのだろうか。
508第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/21(水) 23:45:08.89 ID:gzgxlFz2
「いいから服を着ろ! すぐにだ! そうしたら教えてやる!」

言われるがままにのろのろと服を着る。
そしてボタンを留めながら……先刻の彼の怒りが、その怒声が、なぜか全然嫌ではない自分に気付いて少し驚いた。

昔は、かつての自分は、何かをするたびに叱られて……そのたびに自分の存在を否定されたような気がしていた。
初めから期待されなければ、評価されなければ怒られることもないからと、小さい頃の彼女は己の内に閉じこもっていた。
それが当時の彼女の幼い自我を……『心』を守るために必要な所作であると、無自覚ながらも気付いていたのだろう。


だが……岡部倫太郎の怒りは違っていた。


当たり前である。彼の怒りは彼女を貶めるものではなく、むしろ逆に評価しているからこそのものなのだから。
期待しているからこそ怒るのだ。信じているからこそ叱るのだ。桐生萌郁という存在を……認め、大切に思っているからこそ怒鳴ってくれたのだ。

それが肌で感じられたからなのか、桐生萌郁は昔の自分のように陰鬱とした……いやそれすらも感じぬようなあの空虚な気分には陥らなかった。
むしろなんと言うのだろう。つい先刻まで泣きそうだったというのに、今ではまるでベクトルの異なる感情が彼女の内に湧き上がり渦を巻いていた。


(嬉、しい……?)


それは不思議な感覚だった。
岡部倫太郎に叱られた事が、嬉しい。
自分に期待してくれている事が、嬉しい。
こんな自分を気遣ってくれる事が、嬉しくてたまらない。
目の前に怒気を滲ませている岡部倫太郎がいるというのに……彼女は知らず、無自覚に口元を綻ばせてしまう。
509名無しさん@ピンキー:2012/11/21(水) 23:46:52.84 ID:gzgxlFz2
というわけでちょっと短めですが今宵はここまでー
もえいくさんかわかわ
そんな感じでまた次回ー ノノ
510名無しさん@ピンキー:2012/11/21(水) 23:58:34.82 ID:Sfz5/crU
乙です。
説教モードのオカリンがパパすぐるw
511名無しさん@ピンキー:2012/11/21(水) 23:58:46.21 ID:9ZJ3bPzi


オカリンの口説きに期待
512名無しさん@ピンキー:2012/11/22(木) 02:18:08.49 ID:pJ5FLMP1


こっからエロい空気になれんのか?
これからの展開に期待だな
513名無しさん@ピンキー:2012/11/22(木) 09:10:08.57 ID:+SDA7EHz
そげぶ
514名無しさん@ピンキー:2012/11/22(木) 23:25:18.36 ID:qbvytjSp
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
515第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/22(木) 23:27:19.22 ID:qbvytjSp
6−10:2011/02/13 12:39 

「着替え終わったな……では、ゆくぞ」
「あ……っ」

どこに、とすら問う間すらもなかった。
岡部倫太郎は彼女の手を取ると、そのまま靴を履き、外にすたすたと歩き出す。
桐生萌郁は靴べらを使う余裕すらなく、爪先でとんとんと靴を揃えながら引っ張られるようにして慌てて彼の後に続いた。

その間……岡部倫太郎は、無言。
むすっとした表情で、明らかに怒気を孕んでいる。
そう、岡部倫太郎は怒っていた。激しい憤怒に身を焼いていた。
それは桐生萌郁に向けられたものであり……同時に、己自身へと向けられたものでもあった。

(全部、だと……あれが全てだと?)

彼女の言葉を思い返すたびにふつふつと怒りがこみ上げてくる。
彼は世界線移動の影響で彼女との最初の数日の出会いこそ覚えていないが、その後の半年の付き合いは全て記憶している。

彼女の部屋の汚さに辟易したり、部屋の整理整頓を手伝ったり、ラボの仕事を手伝ってもらったり、椎名まゆりや漆原るかのレポートを手伝ってもらったり、
今回のミッションにおいても、スーツを借りたり、メイクの手配をしてもらったり、疲労で倒れたフェイリスのために喫茶メイクイーン・ニャンニャンのレポートを書いてもらったり、
時にはそのネコ耳メイド服を着せて店員をやってもらったりもした(そしてその結果に後悔したりもした)。

それは確かに波乱に富んだ時間だった。
当たり前の時間が、いつもの如き日常が、かけがえのないものだという事を岡部倫太郎は知っている。
夏に過ごしたあの永遠の三週間が岡部倫太郎に刻んだ、決して忘れてはならぬ想い。
彼女と過ごした半年間も、そんな大切な日々だった事は言うまでもない。
516第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/22(木) 23:30:33.28 ID:qbvytjSp
けれど……それでも。
それでもそれは岡部倫太郎にとって『当たり前』のことだった。
ラウンダーかも知れぬ彼女を警戒し、やや過剰に目を向け、世話を焼いてきた嫌いこそあるものの、それでも岡部倫太郎は彼女にごく普通の、ありきたりなことをしていただけのつもりだった。
他のラボメンたちなら言わずとも知っている、彼の当然のようなおせっかいの範疇の出来事だったはずである。


それを……彼女は『全て』と言ったのだ。


岡部倫太郎にとって、他の皆にとって当たり前のことを、彼女は己の全てだと言った。
そしてかつてFBに対してそうだったように、今度は岡部倫太郎に傾倒し、依存しかかっている。

あれだけの事で。
そう、たったあれだけの事で。あれしきの事で。

それが……許せない。
そんな彼女を、そしてそんな彼女を看過していた自分を、岡部倫太郎は許せない。
だって彼女が、桐生萌郁がそんな気持ちを抱いてしまったと言うことは、
彼らにとって当たり前の日常に過ぎなかったあの日々を、彼女がそれほどまでにかけがえのないものだと思ってしまったという事は……


(ならば……自殺を考えていた頃の萌郁は、いったいどれだけ欠けていたというのだ……っ!)


岡部倫太郎の怒りは、そこにあった。
自分達が当然のように享受していた日常を、ラボメンたる桐生萌郁だけが持っていなかった。
自分達がのうのうと日々下らぬ事に文句を付け、だが総じて幸福に、自堕落に過ごしていた頃、彼女はそんな日々が存在することすら知らなかった。

それが許せない。許せるはずがない。
岡部倫太郎が、本来の目的を簡単に達する機会を得ながら、それを無意識に拒絶した理由が、これだった。
こんな些細な日常程度で彼女に全てを捧げさせてしまう事は、ラボメンたちを束ねる未来ガジェット研究所の代表たる彼にとって、岡部倫太郎にとって、決して許容できぬことだったのだ。
517第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(2):2012/11/22(木) 23:33:03.13 ID:qbvytjSp
だが、ならばどうする。
一体どうすればいい。

彼女に、桐生萌郁にあの程度の日常を「全て」だなどと言わせぬためにはどうすればいい。
無論それが、ごく普通の、ありきたりな日常がかけがえのないものだとは承知しているけれど、だがそれでは駄目だ。今の彼女にとってはそれだけでは駄目なのだ。
ならば、その方法とはなんだ、その手段とはなんだ。


……そんなこと、決まっている。考えるまでもないことだ。
岡部倫太郎は心の中で叫んでいた。


味あわせなければ。
もっと。

あんな日常風情ではなく、もっと素晴らしい何かを。
そうでもしなければ……自分に彼女を抱く資格などない、隣に立つ資格もない。岡部倫太郎はそう心の内で吐き捨てた。

「覚悟しろ桐生萌郁! お前を……必ず幸せにしてやるっ!」

大通りへと向かう歩を早めながら、岡部倫太郎が強い決意を孕んだ、低い声でそう宣言する。


「え、それ、って……」


彼の言葉をどう解釈したのか……
桐生萌郁はみるみるその頬を朱に染め、彼の掴んでいる右腕にそっと己の左手を重ねると、彼の早足に着いてゆこうと懸命に、その背をとてとてと追っていった。




それは、年齢的には真逆ながら、兄に置いてゆかれまいと必死に後を付いてゆこうとする妹のような……
そんな風情にも、見えた。




(『第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3)』へ つづく)
518名無しさん@ピンキー:2012/11/22(木) 23:34:37.12 ID:qbvytjSp
というわけで今宵はここまでー
オカリンはほんとに遠回りが好きだなーと
そういうところも含めて好きなんですけど
それではまた次回ー ノノ
519名無しさん@ピンキー:2012/11/23(金) 18:31:34.49 ID:YbwGfpZf
>「覚悟しろ桐生萌郁! お前を……必ず幸せにしてやるっ!」
これはあかん、さすがに犯リンは格が違ったw
520名無しさん@ピンキー:2012/11/23(金) 23:27:56.50 ID:RHzFTSCd
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
いよいよ(3)に突入です
521第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/23(金) 23:30:02.89 ID:RHzFTSCd
6−11:2011/02/13 13:16 編集プロダクション『アーク・リライト』

「ふむ、待たせるな」

自販機にあったドクペをこれ幸いと購入し一気に煽りながら、ビルの一階の廊下で壁にもたれつつ桐生萌郁を待つ。
通路を歩いているビルの関係者らしき女性がすれ違いざまに軽く会釈し、岡部倫太郎は慌てて会釈を返した。
ビル全体が編集プロダクションというわけではないのでまるで無関係な会社の従業員なのかも知れないが、場違いを自覚している岡部倫太郎にとってはどちらでも大差のないことだった。
ちなみにその女性が岡部倫太郎に会釈をしたのは単なる儀礼というわけではない。彼が明らかに目を引いたからだ。
清潔そうなシャツに紺と赤のストライプの入ったネクタイ、黒地のスーツに革靴、無精髭を剃られこざっぱりとした顔、整えられた髪。
今の岡部倫太郎はすっかり小洒落た風体となっており、丈の高さもあって相当に目を引く風貌となっていた。
実際のところしっかりめかし込んだ場合彼は相当に映える容姿であり、それだけに普段いかにお洒落に気を割いていないかが丸わかりである。
先刻の女性も、エレベーターで己の仕事場へたどり着いた後、おそらくは同僚の女性に階下で見かけたダンディな男についてまくし立てているに違いあるまい。

岡部倫太郎は携帯で時間を確認し、やや苛立たしげに頭を掻く。
そして空になったドクペの缶を自販機の隣に置かれた缶とペットボトル専用のゴミ箱に投棄しようとして……
ようやく、その先の壁に隠れている人陰に気付いた。
522第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/23(金) 23:33:58.70 ID:RHzFTSCd
「指圧師! 何を隠れている!」

岡部倫太郎の声にびくり、と肩を震わせたその人影は、やがて観念したのかおずおずとその姿を現す。

「…………ッ!」

岡部倫太郎は思わず目を丸くした。明らかに想像の範疇を超えていた姿だったからだ。

桐生萌郁はシックで瀟洒な紅いドレスに身を包んでおり、その胸元は大きく開いて彼女の豊かな双丘が生み出す深い渓谷をくっきりと浮き立たせている。腕に下げているのは冬用のウールのストールのようだ。
胸部へと視線を誘導するために先端に小さな牙のようなものが付いた綺麗な首飾りを身に着けており、レプリカなのか本物なのか、手首には宝石をあしらった腕輪が、指先には白く輝く指輪が嵌められている。

足元はロングのスカートに白のハイヒールで上品に纏められており、ちらりと見える脚線に男の視線が釘付けになること受けあいだ。
ぼさぼさの髪はすっかり綺麗に梳かされて背中へと流れており、丁寧に施されたメイクは彼女の肌の白さを引き立てて、一見するとまるで深窓の令嬢のよう。

あまりに慣れぬ衣装に頬どころか耳まで紅く染めた桐生萌郁は、よくよく見ればその全身すらうっすらと紅潮させている。
眼鏡の奥の瞳は自信なげに床を見つめ、だが目の前の男の感想が欲しいのか僅かに上目遣いに岡部倫太郎へと向けられていて。


……そのあまりに彼女らしくないしおらしい姿に、岡部倫太郎の心臓は一気に動悸を早め、彼はみっともないほどに動転した。
523第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/23(金) 23:35:42.19 ID:RHzFTSCd
「岡部くん、あの、恥ずかしい……から、あんまり、みないで……」
「うおあっ?! す、すすすすまんっ!」

肩をすぼめて、両手を腰の辺りでぎゅっと握り締め、羞恥に身を縮めている桐生萌郁は、掠れるような小さな声でそう懇願する。
大慌てで顔を背けた岡部倫太郎は、急いで胸を押さえその興奮を押さえ込もうとするが……上手く行かぬ。

所在なげに視線を逸らした先には桐生萌郁の上司たる例の女編集が親指を立てて「我、してのけたり!」といかにも満足な御様子。
だがそれは明らかに彼の予想の外だった。女は化粧で化けるというがこれは流石に化けすぎだろう。

「あの、岡部君、えっと……」
「あー、なななななんだー指圧師よー」

まともに受け答えたつもりだったのに思わず声が上ずり、棒読み口調となってしまう。
あまりに刺激的な彼女の姿を正視できず、岡部倫太郎はずっと視線を逸らしたままだった。

「その……ヘン、じゃない……?」
「そそそそそんなことはないとおもうぞーフゥーハハハハハハハハ!」

ろくに見もせずについそんな事を告げてしまう。
それが女性にとっていかに失礼なのか知りもせずに。

「そ、そう……かな」
「よよよよよーしではしゅしゅしゅ出発しようか!」

未だに己に自信が持てぬ桐生萌郁と、彼女をまともに見ることもできぬ岡部倫太郎が、ギクシャクとしながらビルを出た。


こんな体たらくでこの後の彼らが上手くゆくはずもなく……
それを見越してか、例の女編集は彼らを見送りながら頭を掻いて溜息をついた。
524名無しさん@ピンキー:2012/11/23(金) 23:36:47.00 ID:RHzFTSCd
というわけで今宵はここまでー
幸せにするって言ったらデートですよデート
そんなわけで来週以降の次回にまたお会いしましょう ノノ
525名無しさん@ピンキー:2012/11/24(土) 23:25:25.63 ID:lOvtQdUK

大人デートか
何かあることに期待
526名無しさん@ピンキー:2012/11/25(日) 02:23:00.09 ID:VdbK5Z0O
それにしてもエロがないw
527名無しさん@ピンキー:2012/11/25(日) 23:17:13.70 ID:f9UPUkXm
溜めてるんだよ(意味深)
528名無しさん@ピンキー:2012/11/26(月) 23:04:44.39 ID:raUPzts7
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
しかしエロないね……
529第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/26(月) 23:09:33.61 ID:raUPzts7
6−12:2011/02/13 13:25 編集プロダクション『アーク・リライト』

「岡部、君……?」
「ああすまん、急な用件でな」

くらり、と平衡感覚を失ったかのように僅かによろめくが、壁に手を当てて無理矢理押さえ込む。
目の前には瀟洒な深紅のドレスを纏った桐生萌郁がいて、心配そうにこちらを見ていた。

「岡部君、大丈夫……?」
「ああ、問題ない。少しだけ待っていてくれるか」
「う、うん……」

岡部倫太郎は話し相手のいない携帯を耳に当て、呻くように呟く。

「大丈夫だ。このミッションを失敗させるわけにはゆかん。そのためだったら俺はどんな事だってしてのけるさ。
なあに、任せておけ、きっちりとレディをエスコートしてみせる。それが“運命石の扉(シュタインズ・ゲート)”の選択だと言うのならばな。
ああ、では生きていたらまた会おう。エル・プサイ・コングルゥ」

一息にそれだけ言い切った岡部倫太郎は携帯を閉じると、それをそのまま手早くしまった。

「どうした、指圧師よ。呆けた顔をして」
「……本当に、大丈夫、なの?」

どこか不安そうな、心配そうな表情の桐生萌郁。
だが極上に着飾った今の彼女は、その憂いの表情すら可憐に映る。

「ああ、問題ない。そちらも大丈夫なようだな」
「? ……何、が?」
「さっきまで恥ずかしいとか言っていなかったか?」
「!!」

つい先刻、携帯を取り出し電話を始めた岡部倫太郎が突然真っ青になって今にも倒れそうなほどによろめいた。
心配になった彼女は思わず岡部倫太郎の前まで駆けつけていて、今更気付いてみれば大きく開いた胸元が彼の目の前でこれでもかというくらいに自己主張している。
530第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/26(月) 23:11:03.88 ID:raUPzts7
目を丸く見開いて、まるで銃を向けられた人間がそうするように手を上げてニ、三歩後ずさる。
そしてみるみると頬を染めて、その場でもじもじと身悶えし、恥らい始めた。

「おいおい、一度平気だったものをなぜまた恥ずかしがる」
「でも、だって、やっぱり、恥ずかしい……」

消え入りそうな声で呟く桐生萌郁の言葉は、耳を澄まさねば聞き取りにくいほどに小さい。

「あー、そう恥ずかしがるな指圧師よ。えー、なかなか悪くないのではないか?」
「え……?」

岡部倫太郎のらしくない、意外な言葉に思わず顔を上げる桐生萌郁。
だが気付かぬうちに先刻より一歩半ほど近づいてきていた岡部倫太郎の顔は思っていたよりも近く、彼女は思わずびくりとその肩を震わせて硬直してしまう。

「ふむ……やはりあれだな。お前は磨けば光る素材だったわけだ。うむ、悪くないと思うぞ」
「嘘……」
「嘘なものか。なんだ指圧師よ、俺の言う事が信じられないか?」
「そういうわけじゃ……ない、けど、でも……」

頑なに己への好意的評価を拒む桐生萌郁に、岡部倫太郎は溜息をついてこう告げた。

「ならば言い方を変えよう指圧師よ。他の奴らが何と言うかは知らん。だが俺は、少なくとも俺だけは、お前の今の格好、似合っていると思うぞ。ああ、随分とめかしこんだではないか!」
「…………!!」

オーバーアクション気味に両手を広げそんなセリフを恥ずかしげもなく告げる岡部倫太郎。
背後から聞こえるこのビルに勤めているらしきスーツに身を包んだ若い女性達の黄色い声
ぴくん、と全身を震わせ、上気した顔で、やや潤んだ瞳で彼を見つめる桐生萌郁。
その瞳には常に彼女の心に渦巻く劣等感と、だが同時に僅かながら浮かんだ期待がほの見える。
531第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/26(月) 23:13:07.33 ID:raUPzts7
彼女のそんな表情を、未だに少々どぎまぎと見つめながら、岡部倫太郎は心の内でほっと息を吐いた。
どうやらタイムリープは成功したようだ。

以前のタイムリープで上がりっぱなしだった岡部倫太郎は、結局彼女のことをまともにエスコートする事もできず散々引っ張りまわしてしまった。
そしてギクシャクしたまま別れ、タイムリープマシンの完成を苛立たしげに待ち受けながらひたすら対策を練って来たのだ。

「では行こうか指圧師よ。あー、違うな。外に出た後でそのままでは流石に不自然か。行くぞ、萌郁」
「!!」

再び肩を震わせ、目を丸くした後ニ、三度目をしばたたかせる桐生萌郁。
タイムリープ前のデートでは、彼女の方からそう呼んで欲しいと言われた件を、今度は彼の方から先手を打つ。

「……なんだ。不服か。別の呼び方の方がいいか?」

岡部倫太郎が眉を顰めてそう尋ねると、桐生萌郁は珍しくやや慌てた風にふるふる、と首を振る。

「それで、いい……」
「それ? それとはなんだ?」
「その呼び方で、いい……」
「わかった。では改めて行くぞ、萌郁」

岡部倫太郎が歩き出し、その後を追うように、少しだけ早歩きの桐生萌郁が続く。
それはまるで彼がようやく呼んで欲しかった名前を呼んでくれて、けれどもし彼に遅れてしまったらもうそう呼んでくれなくなるのではないかと恐れているような、嬉しさと驚きと、未だに多くの不安を残した、そんな様子。

彼女の去ってゆく姿を物陰から見送りながら……彼女の上司たる女編集は、会心の笑みを浮かべて親指を立てた。
532名無しさん@ピンキー:2012/11/26(月) 23:14:25.38 ID:raUPzts7
というわけで今宵はここまでー
めかし込んだけど自信なげな憂い美人のもえいくさん
いいよね……
ではまた次回お会いしましょう ノノ
533名無しさん@ピンキー:2012/11/27(火) 23:39:09.39 ID:A3ttrAkB
続きを・・・続きを!(懇願)
534名無しさん@ピンキー:2012/11/27(火) 23:39:26.34 ID:Z7hVmlU3
こんばんわー
今宵網更新しに来ましたー
535第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/27(火) 23:40:03.02 ID:Z7hVmlU3
6−13:2011/02/13 14:02 秋葉原・中央通り

すっかりよそ行きの格好となった二人が、慣れぬお洒落に上がりつつも秋葉原の繁華街を歩いている。
本来漆原るかに告白台詞を尋ね、桐生萌郁のケータイ小説のためにそれを実演してきたのはフェイリス・ニャンニャン攻略のために岡部倫太郎用の衣装を借りるためだったわけだが、今回はそれを桐生萌郁のために利用する事にした。
例の女上司は桐生萌郁のことを随分と可愛がっているらしく、岡部倫太郎が彼女のために二人分の衣装を借り受けたいと頼み込んだら二つ返事でOKを出し、気合を入れてプロに化粧と着付けをさせたのだ。
お陰で二人とも秋葉原ではやや場違いなほどに目立ってしまっており、先刻から周囲の視線がなんとも面映い。

「そういうわけでバイト戦士よ、とりあえずこちらは順調だ。臨時バイトの方はどうだ?」
『大丈夫大丈夫! 問題ないよ!』
「……まあお前なら心配いらんとは思うが」
『えへへー。岡部倫太郎にそこまで言われちゃったら期待に応えないわけにはいかないなあ。実はさあ、あたしブラウン管みたいなレトロな技術大好きなんだよねー』
「ああ、知っているとも」

その後二言三言話して携帯を切る。以前のタイムリープでは彼女に無断でバイトをすっぽかさせて後で大目玉だったのだ。
なので数回前からあらかじめ阿万音鈴羽を派遣して先手を打つようにしていたわけである。

「待たせたな……どうした、指圧……いや、萌郁」
「岡部、君……」

以前のタイムリープで彼女の用件は理解しているものの、そ知らぬふりで受け答える岡部倫太郎。
ただその後の返答は以前とはまた変えてやる必要があるはずだ。

「岡部君……みんな、見てる……」
「ああ、そうだな」

桐生萌郁は真っ赤になって俯いて、岡部倫太郎の背中に隠れるようにして縮こまり、彼のスーツの裾を指でつまんでいる。
536第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/27(火) 23:44:45.43 ID:Z7hVmlU3
「私、やっぱり、帰る……」
「帰るて……まだビルを出てから10分も経っていないぞ」
「だって、みんな、こんなに……」

ますます縮こまって、背中から岡部倫太郎に上目遣いで必死に訴える。
ほぼ密着している彼女の胸部の双丘が岡部倫太郎の上腕と背中辺りになんとも柔らかな圧迫感を与えていて、彼の心臓が再び制御不能な域で高鳴った。
だが同時に彼女が指でつまんだ裾をくいくい、と引いているのがなんとなく子供っぽくて、岡部倫太郎はなんとか体の緊張を解く事に成功する。

「やっぱり、私、変……」
「違う。よく周りを見てみろ。お前を見て嘲笑している奴がどこにいる」
「え……?」

岡部倫太郎がす、と彼女の前からどいて、その隣に立ち腕を優しく掴み、肩に手を置いた。
視界が開かれ、さらに腕を掴まれ逃げ場を失った桐生萌郁は、猫に会った鼠のようにびくりと身を竦ませる。
目を大きく見開いたまま、すっかりその身を硬直させ……
だが身動きも出来ぬこの状況、しかも往来の真ん中ではいつまでもそのままではいられない。

遂に観念したのか、彼女はおそるおそる周囲へと目を向けた。
その瞳に飛び込んできたのは……道行く人の視線、視線、視線。
しかしそれは確かに彼女に対する嘲笑や侮蔑の籠もっていない、彼女にとって初めての、よく理解できぬ表情だった。

「なに……?」
「みんな、お前に見惚れているのだ、萌郁」

桐生萌郁は……最初、隣にいる男の言葉がよく理解できなかった。

「嘘……」
「嘘なものか。よく見ろ、皆羨望の眼差しでお前を見ているではないか」
537第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/27(火) 23:47:48.54 ID:Z7hVmlU3
まさか。
そんなまさか。
仲間内や職場の上司はともかく、彼女はそれ以外の存在から自分が肯定的な評価を受けられるだなどとは思っていなかった。
執筆しているケータイ小説は確かに大人気だけれど、ファンにじかに会った事もないし、なによりあれはゴーストライターとしての評価だと割り切っている。

だが……彼女が視線を向けた相手は、頬を染めて皆そっぽを向いてしまう。
彼女を指差している女友達らしき集団も、上げているのは嘲笑ではなく黄色い歓声である。
これはどういうことだろう。彼らは一体何を見ているのだろう。

「誰か、有名人が、来てるのかも……」

視線を背後に向けるが、そこにいるのも思わず彼女に目が釘付けになってしまっている通行人ばかり。
では一体彼らがあんな眼差しで見ている人はどこにいるのだろう、大型のプロジェクターか電光掲示板でも新しく設置されたのだろうか……などときょろきょろ周囲を見回して……
そして、岡部倫太郎に肩を揺すられた。

「目を逸らすな。みんなお前を見ているんだ」
「私、を……?」

にわかには信じられない。けれど彼らの反応はどうやらそうとしか思えない。

「見ろ、あそこのカップルなぞ男がお前に鼻の下を伸ばして彼女に怒られているではないか」

ちなみにその彼女の方が岡部倫太郎の姿を見てポ、と頬を染め、彼氏を引っ張るようにして退散したことについては、面倒なので黙っておく事にした。

「もっと自信を持て。周りの反応を見てもわかるだろう。みんなお前が綺麗だと思っているのだ」
「〜〜〜〜〜っ」

肩を掴んでいる岡部倫太郎に耳元で囁かれ、真っ赤になって俯いてしまう桐生萌郁。
そんな二人の様子を見て小さな黄色い声とどよめき、そしてリア充死ね! といった怨念が秋葉原の路上に渦巻いてゆく。
538第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/27(火) 23:53:27.00 ID:Z7hVmlU3
「……は」
「む? どうした萌郁、何か言ったか?」
「……おかべ、くん、は?」
「なに? 俺がどうかしたか?」

耳まで赤くしながら、肩を掴んだ岡部倫太郎の腕に逆にしがみついた桐生萌郁は、上半身を沈めたまま顔を上げ、掠れるような声でこう尋ねた。

「岡部、君は、どう思う……?」
「だから何をだ」
「岡部君は……岡部君も、私、綺麗、だって……っ」
「…………!」

彼女の必死な様子がその羞恥と戦う表情からも見て取れて、岡部倫太郎の心臓がばくんと大きく跳ね上がる。
今回こそは落ち着かなければ、と己に言い聞かせつつ、必死に脳内で橋田至の映像を垂れ流し己の興奮に水を差し続けた。

「あー、さっき言わなかったか?」
「言ってない……っ」

ふるふる、と首を振る彼女の形相は必死そのものだ。
確かに先刻は似合っているとしか言っていない気がする……岡部倫太郎は今更ながらに思い出し、小さく首を振った。


彼女をエスコートする事こそ……このタイムリープで己がすべきことなのだ、と心に言い聞かせて。


「そ、そうか……あー、指圧師よ、うむ、まあなんだ……その、お、俺も綺麗だとー、あー……思うぞ、うむ」

慣れぬ言葉に思わず赤面し、顔を背けて鼻頭を掻きながら告げる岡部倫太郎。
これは演技ではない。何度言っても、やはりこの格好の彼女の前では照れてしまうのだ。

ぽん、と顔を一層に赤くして、頭から湯気を噴き出した桐生萌郁は、暫し潤んだ瞳で彼を見上げた後……
しがみついた彼の腕をくい、と引いて己の方へと引き寄せ、小声で、上目遣いで訴えた。

「……萌郁」
「ん?」
「指圧師、じゃなくて、もえか」
「ああ、すまんすまん、あー、ええっと……萌郁」

思わず動転していつもの呼び方に戻っていた岡部倫太郎の、妙に慌てた風な声を聞いた桐生萌郁は……




おそらく、彼の前で、いや人前で初めて……恥ずかしそうな、とびっきりの笑顔で微笑んだ。




秋葉原に場違いな美女の、その眩しいくらいの笑顔は……その日の夕方から、@ちゃんねるでしばしの間噂にのぼる事になる。
そして傍らにいた黒服のIKEMENには、リア充死ねの怨嗟の声が。
539名無しさん@ピンキー:2012/11/27(火) 23:54:27.79 ID:Z7hVmlU3
というわけで今宵はここまでー
オカリンの評価が気になって溜まらないもえいくさんいいよね……
そんなこんなで今宵も失礼します
ではまた次回ー ノノ
540名無しさん@ピンキー:2012/11/28(水) 00:21:43.87 ID:drf0ztwh
オカリンならリア充でもなぜかいやな気がしない


ああ、オカリンになりたい
541名無しさん@ピンキー:2012/11/28(水) 00:31:50.60 ID:8+miHP7l
ダルの扱いにワロタw

オカリン羨ましい
542名無しさん@ピンキー:2012/11/28(水) 23:13:16.17 ID:HhA9b/pR
こんばんはー
ご迷惑でしょうが今宵も更新にお付き合いくださいませー
543第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/28(水) 23:15:11.27 ID:HhA9b/pR
6−14:2011/02/13 14:33 秋葉原・ゼニ−ズ

「どこへ行くにしてもまず何か腹ごしらえをせんとな。さすがにこの時間まで何も喰わんと腹が減っていかん」
「うん……」

二人で連れ立って秋葉原の裏通りのファミレスに入る。
岡部倫太郎は最初はメイクイーン・ニャンニャンにでも行こうかと思ったが、桐生萌郁が激しく恥ずかしがるのでやめておいた。
まあ無理に連れて行ったところでフェイリス・ニャンニャンに散々弄られるのみであまりデートとしての成果がは芳しくないことは前々回のタイムリープで実証済みである。
確かにフェイリスの好感度は何もせずに妙に上がったけれど、今回求めているのは彼女のそれではない。

ファミレスでも人目を引く格好ゆえか店の客達からの視線を随分と集めはしたが、流石にこの時刻ともなればだいぶ客も閑散としていて、そこまで気になるほどではなかった。

「俺はパスタプレートのなすのミートソース、コーヒーは食前で」
「じゃ、じゃあ、私も……」

とりあえず注文をして、軽く水を飲んで一息つく。
桐生萌郁は勿論のこと、実のところ岡部倫太郎もなかなかに緊張の只中にあったのだ。
なにせ化粧とお洒落を完璧にしてのけた彼女は、ちょっと隣に立つのも憚られるほどの美女なのだ。そのうえ年上である。
岡部倫太郎ならずとも緊張しようというものである。
もっとも……今日に限っては彼もまた十二分なほどにめかし込んでいるのだが。

「そういえば……萌郁、足は大丈夫か」
「足……?」
「ハイヒールは不慣れだろう、なるべくゆっくり歩いたつもりだったのだが……痛くはなかったか?」
「あ…………」

以前のタイムリープで彼女をあちこちに連れ回した際に、慣れぬ靴のせいで彼女にいらぬ我慢と痛みを強いた記憶から、今回は早めに確認しておく。
一方の桐生萌郁は何を思ったのか頬を染めるとみるみるその身を縮め、岡部倫太郎の向かいの席で小さく縮こまってしまった。
544第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/28(水) 23:18:15.66 ID:HhA9b/pR
「おい、どうした萌郁」
「今日の岡部君、優しい……」
「そ、そうか?」

耳まで赤く染めた彼女が、疑いというほどではないにせよ確認の目を向けてくる。
一瞬動揺した岡部倫太郎だったが、すぐに己を平静に保った。
この視線にさらされることだって、決して初めてではないのだから。

「あー、そのー、なんだ、気のせいではないか? 俺はいつでも優しいぞ。フゥーハハッハハ!」
「それは、知ってる……」
「知ってるのかよっ! い、いや、だからそれはつまり気のせいという事だろう」

テーブルの上に肩先から上だけ出して、両の手指でテーブルの端をちょこなんとつまみ、岡部倫太郎をじい、と見上げていた桐生萌郁がふるふる、と首を静かに振る。

「……やっぱり、変か?」

こくん。
しばしの逡巡の後に、桐生萌郁が小さく頷いた。

「……嫌、か?」

ふるんふるん。
今度の返答は早かった。
眼鏡越しに目をぎゅっとつぶった彼女は、その髪を乱しながら大きく首を横に振る。
その様を上から見下ろしていた岡部倫太郎は、彼女の様子がなんとなくぐずっている子供のように映った。

「ならいいではないか。ほれ、萌郁、食事が来たぞ」

がば、と上半身を上げて椅子に座りなおし、無表情のまま慌てて彼女なりに身繕いを整える桐生萌郁。
そして届いたコーヒーとスパゲティで、二人はだいぶ遅い昼食を摂った
545第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/28(水) 23:23:46.84 ID:HhA9b/pR
食事中の会話は主に岡部倫太郎の方から発した。
桐生萌郁は彼の言葉に相槌を打ったり意見をしたり、あるいは質問に答える形で会話に参加する。

「あー、なんだ、萌郁、つかぬ事を聞くが……」
「……なに?」
「俺の話は……その、退屈ではないか?」

岡部倫太郎は語ろうと思えば語る事が幾らでもあった。
己のこと、己の野望のこと、ラボのこと、未来ガジェットのこと、ラボメンたちのこと、実に色々だ。
だが女性というのは人の話をするより人に話を聞いてもらいたい生き物なのだと以前どこかで聞いた事がある。
だからもしかしたら桐生萌郁も飽きてきているのではないか……そんな事がふと不安になったのだ。
なにせ今回はあくまで彼女をエスコートし、彼女を楽しませる事が今日の目的なのだ。自分だけで自己満足に浸っていても意味がないのだから。

「大丈夫……」

だが世辞なのか、それとも本音なのか、桐生萌郁はふるふると首を横に振る。

「岡部君といると、楽しい……」

そして、答えになっているようないないような、そんな曖昧な答えを返した。

「……それは逆説的に俺の話はつまらんと、つまりそう言いたいわけか」
「違う。そんなつもりじゃ……っ」

岡部倫太郎の突っ込みに、無表情のまま、だが慌てた様子で否定する。
それは桐生萌郁の微妙な機微を察し始めた彼から見れば、確かに彼女なりに必死に、懸命に訴えかけているように見えた。
546第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/28(水) 23:26:35.17 ID:HhA9b/pR
「冗談だ」
「あ……」

岡部倫太郎にからかわれたと気付いた桐生萌郁は、そのままずるずると上半身をずり落とし、先刻同様、テーブルに隠れるようにして机の縁を指でつまみ、顔を鼻から上だけ出して眼鏡越しに彼を睨んだ。
いや、睨もうとしたが上手く行かず、じっと熱い視線を送っているようにも見える。

「おかべくん、意地悪……」
「怒ったのか」
「……知らない」

ふい、と顔を背ける桐生萌郁。
だが己の態度が彼を怒らせてやしないかと、ちらちらと不安げに視線だけはこちらに向けている。
その様がなんとも小動物めいていて、岡部倫太郎は軽く噴き出してしまう。

「……そういう顔もできるのだな、萌郁は」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

彼女の憤怒ではない怒り……いや、ヘソを曲げた、といった表現の方が適当だろうか。
そんな表情を凡そ初めて拝んだ岡部倫太郎が、実に率直な感想を漏らす。
そして彼の苦笑に近い、けれどなんとも優しげな笑みを目の当たりにした桐生萌郁は見る間に頬を染めると……
そのままずるずる、と遂には頭さえ沈み込んで、そのままテーブルの下に籠もってしまった。




彼女をその天の岩戸から引きずり出すために……
岡部倫太郎は結局、結構な時間とドネルケバブを費やすことになる。
547名無しさん@ピンキー:2012/11/28(水) 23:27:38.30 ID:HhA9b/pR
というわけで今宵はここまでー
なかなか悪くないデート具合だと思うのですが、いかがでしょうか
それではまた次回お会いしましょう ノノ
548名無しさん@ピンキー:2012/11/28(水) 23:48:03.23 ID:NcTUdav/
乙ダヨー
もえいくさん大人げないw
549名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 02:46:03.86 ID:DEpA1KdE
乙。
岡部の自重リミッター
Lv1.ダル
Lv2.Mr.ブラウン
Lv3.萎え
550名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 03:54:28.09 ID:e+IHl7No

オカリンめかしこんでファミレスは無いぜ、アキバでも洒落乙なカフェやレストランは幾らでもあるだろ
……と思ったが、オカリンの財布が薄くなりすぎて困るか
551名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 16:52:44.43 ID:4YO602lZ
洒落た場所いくのはルカ子の時で懲りてるんだろ
ファミレスだからこそ萌郁さんの行動も許容されるわけだし
そう考えるとなかなかのチョイスじゃね
552名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 21:56:00.51 ID:DEpA1KdE
ルカにしろ萌郁にしろ自分に自信がないから、高級なところ行っても委縮するだけじゃね?
553名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 23:33:52.87 ID:1bjkA7jK
こんばんわー
今宵も更新しに来ましたー
554第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/29(木) 23:38:17.92 ID:1bjkA7jK
6−15:2011/02/13 18:27 秋葉原・喫茶ルアノール

「ふむ、恋愛映画というのも真面目に見れば案外悪くないものだな」
「うん……小説の参考になった……」

コーヒーを飲みながら先刻見てきた映画の感想を述べ合う。
昼食が遅かったせいもあって本格的に夕食を食べる気にはならず、二人は喫茶店に入って軽くコーヒーと軽食を摂っていた。
本当は昼食の時からファミレスなどではなくもう少しマシな店に案内するべきだったのだろうが、岡部倫太郎にはその手の知識もなければ予算もない。
それにそもそも幾ら奮発して高級な店に案内したところで桐生萌郁の反応にあまり良好な変化がないため、今回のタイムリープではやや予算を浮かせた格好である。
いや、互いにテーブルマナーについて詳しくないこともあり、懐が痛む割にいらぬ恥をかく分だけむしろマイナスかもしれなかった。

もっともその分映画は厳選したし、この手の喫茶店も普段は寄らないタイプだ。
岡部倫太郎は最初から前半よりも後半に勝負を賭けていたのである。

外はすっかり日も暮れて、ビルの灯りとネオンが秋葉原の通りを照らしている。
そんな夜景の中窓の外に目を向ける桐生萌郁の姿は、そのドレス姿と相まってなんともアダルティで、ここでもまた周囲の客どもの好奇と羨望の視線を集めていた。

岡部倫太郎は、確認するように軽くポケットの中を探る。
そこにはチケットが一枚入っていた。
近くのホテルの宿泊券である。

幾度目かのタイムリープまでは舞上がっていて全然気付かなかった。どうやら例の編集さんが気を利かせてこっそり忍ばせておいてくれたらしい。
どうやら本気で桐生萌郁のことを気にかけているようだ。やや手法が強引過ぎる気がしないでもないが、正直金欠の岡部倫太郎にとっては有難い補給物資である。
555第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/29(木) 23:44:28.27 ID:1bjkA7jK
……ここに来るまでに一体幾度タイムリープを繰り返しただろうか。

桐生萌郁のドレス姿に上がらぬようにしたり、立ち寄る店の選択をミスったり、映画館と視聴する映画のチョイスに失敗したり……。
自分の我を通しても意味が無いし、相手の好みだけを選ばせても自分の気分が乗らぬ。結局は互いがお互いを知り、一歩踏み込み、一歩譲り合う事が大切なのだと学んだ。
牧瀬紅莉栖との秋葉原を歩いたあの日……自分は、そして彼女は果たしてどれだけ互いのことを見ていただろうか。譲り合っていただろうか。
そこまで考え、岡部倫太郎は大きく首を振る。後の事を考えても仕方がない。今は彼女を……桐生萌郁のことだけを考えなければ。

「萌郁、その……なんだ、あー、お前の上司がこんなものを用意してくれたようなのだがー」
「…………!!」

岡部倫太郎が差し出したチケットを見て、桐生萌郁がそれの意味するところを察しみるみる頬を染め、肩を窄めて俯く。

「まったく、好意の押し売りにも程があると思うのだが……」

と、そこで一旦言葉を切って、小さく息を整える。

「……萌郁、どうする?」
「………………」

一息に言い切って反応を窺う。
強引に誘っても彼女がついてくる事は既にわかっている。だがここは彼の恣意だけではなく、彼女の同意があった方がこの後の展開が上手く廻る事を、既にタイムリープによって岡部倫太郎は学んでいた。
もっとも……最終的にはその機微をこそタイムリープ無しで把握できるようになっていなければならないわけだが。
556第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/29(木) 23:47:21.09 ID:1bjkA7jK
「迷うなら……やめておくか? まあ昼にあんな事をしておいてなんだが……」

軽く苦笑しながらチケットを仕舞おうとする岡部倫太郎の手の上に……彼女の、白い手指が乗った。
それは微かに震えていたが……恐怖や嫌悪からのものでない事は彼女の表情から見れば明らかだった。


桐生萌郁は岡部倫太郎の問いに……頬を染め、小さく首を振って応えた。


「それは何に対しての否定だ? チケットに対しての返事か? それともやめると言ったことに対してか?」
「あ、あとの、ほう……」
「なら……構わない、ということか」

こくん。
桐生萌郁はうなじまで朱に染め身を縮めつつも、上目遣いで岡部倫太郎を見つめこくん、と小さく頷く。

窓際のカップルの一挙手一投足を固唾を呑んで見守っていた一部の客達(主に女性陣)が小さくどよめき、微かな歓声が上がる。
それが聞こえているのかいないのか、桐生萌郁はそのままずるずると椅子を半ばまでずり落ちて、唇を戦慄かせながら顔全体を上気させていた。

恥ずかしくってたまらない、今にも顔から火が出そうな様子。
けれど彼女が嫌がってなどいない。というより、むしろ望外の喜びすぎて当惑しているかのような表情である。
岡部倫太郎にはそこまで彼女の心の機微はわからない。けれど……彼女が頷いてくれたことは、彼女が己の意志で選択したことだけは、はっきりと伝わってきたから。


だから……岡部倫太郎は唾を飲み込み、万全の覚悟を決めた。


「では行こうか。外に出たらこれを羽織るといい。昼間は珍しく暖かかったが、その格好では夜は冷えるだろう」
「あ、ありがとう……」

岡部倫太郎が己のスーツを脱いで桐生萌郁の背に軽くかけると、伝票を持って会計を済ます。
頬を染めた桐生萌郁が真紅のドレスを微かに揺らしながらその後を追って退店した後……店内の幾つかのテーブルから羨望と憧憬の溜息が漏れ……そして、小さな拍手がそれに続いた。
557名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 23:48:47.48 ID:1bjkA7jK
というわけで今宵はここまでー
オカリン最後のがんばりが近づいて参りました
それではまた次回ー ノノシ
558名無しさん@ピンキー:2012/11/29(木) 23:49:29.43 ID:1A/HJEG0
乙なのぜ。
もう壁を叩くしかないのぜ。
つか絶対@ちゃんねるにスレ立ってるww
559名無しさん@ピンキー:2012/11/30(金) 02:42:00.13 ID:6HRUUYR+

ファミレスのとこ早速フォローされててワロタ
もしや書き溜めず書いてるのか!?
ところで、いよいよ本番っすな(ゴクリ
560名無しさん@ピンキー:2012/11/30(金) 23:09:47.53 ID:mX2RVOvf
こんばんは
今週最後の更新に参りました
少し長めですがしばしお付き合いくださいませ
561第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:13:14.07 ID:mX2RVOvf
6−16:2011/02/13 19:49 秋葉原第一ホテル

「綺麗……」

秋葉原近在のホテルの、それなりに高い階からの夜の眺望。
桐生萌郁は夜の闇に浮かび上がる秋葉原電気街の灯火を、さっきから飽きもせずに見つめていた。

一方の岡部倫太郎はどこか落ち着かない様子で椅子に座り、部屋を見回している。
暖色系のライトに照らされた洋室で、バスルームや冷蔵庫やテレビなど、いわゆるホテルらしいものが一通り揃っている。ただテレビが大型液晶デジタルテレビなあたりが秋葉原らしいといえばらしいだろうか。
床はクリーム色のカーペットで、壁紙もきめ細かく、よく見れば部屋に置かれているグラスもどことなく上品に見える。
そして極めつけが……部屋の隅で自己主張をしているツインベッドだ。

まあつまりは……この部屋はカップルが泊まり、雰囲気を存分に味わってそのままベッドに雪崩れ込むためにしつらえたもの、ということになる。

なんとも愚昧なものを作るものだ、と岡部倫太郎は心の中で毒づくが、今から己がそれを利用しようとしているのだから笑い話にもならない。
この部屋に入ってからは緊張からか会話も途切れがちで、互いに相手を意識しつつもこうして視線を合わせないでいる。
昼間にそれなりに盛り上がったというのにこれである。色恋に手馴れている連中というのはこういう空気になったとき一体どうやって対処しているのだろうか、岡部倫太郎は真剣に彼らに教えを請いたい気分になっていた。
もっとも幸か不幸か、彼にはそうした友人は皆無だったけれど。

「……萌郁」
「!!」

しかし……待っているだけでは埒があかぬ。元々ここから先こそが彼の目的なのだから。
岡部倫太郎が声をかけると桐生萌郁はびくりと肩を震わせて、けれど窓越しに向けた視線を動かそうとしない。

「萌郁」
「……なに?」

だが岡部倫太郎が静かな口調で再び声をかけると、遂に覚悟ができたのか眼鏡越しの目を伏せて、桐生萌郁はゆっくりと振り向いた。
562第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:16:39.45 ID:mX2RVOvf
「今日一日……どうだった」
「どう……?」
「お前は、俺がいなくてもいらない人間だったか。今日街でお前を見ていた連中は、みんな俺が呼び集めた連中だとでも言うのか」
「それ、は……」
「お前にはもっとこの世界を楽しむ権利がある。俺がいたからじゃない、ラボメンになったからじゃない、お前がお前自身であるというだけでその資格があるのだ。ミスターブラウンもそう言っていたのではないか?」

岡部倫太郎の言葉に、桐生萌郁は静かに息を飲んだ。

「だから……萌郁、俺に感謝するな。俺に必要以上に寄りかかるな、依存するな。お前は一人でなんだってできるのだ。誰の命令を聞く必要もないし、従う必要もない。お前はただお前が信じた事を……やりたい事をすればいい」
「………………」

桐生萌郁は無言だった。だが岡部倫太郎の言葉が響いていないというというわけでもないようだ。
彼女は押し黙ってこそいるが、彼の言葉を一言一句聞き漏らすまいと静かに耳を傾けている。

「勿論全部自分で抱え込めと言っているわけではないぞ。一人でできる事には限界もある。そうした時は遠慮なく仲間を、俺を頼ればいい。
お前は我が研究所のラボメンなのだ。困っているラボメンに手を差し伸べないほどうちのラボの連中は薄情ではないぞ……無論、この俺、鳳凰院凶真もだ!」

岡部倫太郎の言葉を聞いた後、彼女はしばし沈黙を続けた。
だがそれは無反応がゆえの静寂ではない。その証拠に彼女の頬には強く朱が差している
左胸に手を当てているのは心を落ち着けているのか、それとも己の心臓の音を聞いているのか
言いたいことを言ってそのまま俯き、しばらく様子を窺っていた岡部倫太郎が、やがて何か声をかけようかと再び顔を上げたとき……


彼の目に飛び込んできたのは、泣きそうなほどに瞳を潤ませた彼女の姿だった。



 
563第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:20:46.21 ID:mX2RVOvf
「萌郁……!」
「あのね、岡部君……」

静かに息を吐き、桐生萌郁が話し始める。

「私、今日一日、すごい楽しかった……」
「…………」
「あんまり楽しくって、ついこれは夢なんじゃないかな……って思っちゃって、足を軽くつねってみたりして」
「……で、どうだった。夢だったか?」

ふる、と彼女が小さく首を振る。

「……痛かった」
「だろうな。なぜならこれは夢ではないのだから」

今度は同意するようにこくん、と頷く。

「でも……それとおんなじくらい、やっぱりわからなくって」
「わからない……?」
「自分がこんなに楽しくていいのかなって、役立たずの、いらない子の私がこんなに楽しくていいのかなあって、そう思っちゃって」

目尻から、涙が一筋零れ落ちる。
赤味が差した頬とそこに伝う涙は、いつもの彼女とは違い、内から溢れ出る情動を表しているかのようだった。

「知ってる。わかってるの。岡部君が言ってることも、言いたいことも、みんな。でも……そんな気持ちがずっと頭の中にあって、離れなくって、なのに……岡部君といると楽しい気持ちが抑えきれなくって……っ!」

なんと激しく、情熱的な女性なのだろう。
岡部倫太郎は、目の前の彼女の姿に息を飲んだ。
荒んだ過去が、鬱屈とした想いが、彼女のこんな一面を、本質をずっと覆い隠していたのだ。
己を否定し続け、他人と言葉も碌に交わせずに、メールでしかやり取りができぬ内気で陰気な女へと変えてしまっていたのだ。

だというなら、それは……

「そうか……それが、お前の本当の姿なのだな、萌郁」
「っ!!」

言葉を失い、一歩後ずさる。
明らかに今の岡部倫太郎の言葉に虚を突かれたのだ。
564第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:23:26.11 ID:mX2RVOvf
「気付いているか。今日、俺と一緒に秋葉原を廻っている時、その間中……萌郁、お前は一度たりともメールを打たなかった。自分の口で話していたのだぞ」
「あ……っ」

「お前は変われる。いやもう変わりつつある。俺はお前にどんな酷い過去があったのかはよく知らないし、その過去を変えてやる事もできん。だが今のお前なら手助けできる。萌郁、お前が誰にも頼らず、一人で生きていける手助けが、だ」

言いながら心の内で苦々しげに毒づく。
その過去を幾度も自分勝手に書き換えて、まゆりを死なせたのはどこのどいつか、と。
確かに最初に椎名まゆりを殺したのは目の前にいる桐生萌郁だった。
その事で彼女を恨んだりもした。
だが実際にはそれは彼女が主体で為された事ではなかった。むしろ椎名まゆりの死という避けられない世界の収束の中で、単にその世界線で手を下す役が彼女に割り振られていたに過ぎなかったのだ。
どんな形であれあの時の椎名まゆりは死んだ。桐生萌郁の手であっても、なくても。
そしてそんな世界線を作り出してしまったのは……他でもない、安易にDメールを乱用した岡部倫太郎当人ではないか。

だから……彼女は悪くない。むしろ被害者とすら言える。
彼が、岡部倫太郎が、桐生萌郁に椎名まゆりを殺させたのだ。
彼女のあの白い、細い指に拳銃を握らせ、硝煙の臭いを染み込ませたのだ。
ひとたび筆を取れば自分を、ラボメンの皆を唸らせるようなレポートを仕上げ、多くの人を愉しませる小説を書いてのける、あの美しく素晴らしい手指にだ。


なんて愚かなで、浅はかで、情けない男か!


だからこそ彼は、同じ過ちを繰り返すまいと彼女をラボに迎え、ラボメンとして大切に遇した。
けれどその気遣いが、かつてFBに対してそうであったように、彼女を自分へと依存させてしまっているなら、それは正さなければならない。
565第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:29:01.24 ID:mX2RVOvf
桐生萌郁は誰かの手足であってはならない。
あれだけ自分で光り輝ける人間が、他人に全てを委ねていてはいけない。
もしそんな生き方しか知らないなら、できないのなら……知らせなければ、学ばせなければ。彼女自身の価値を。己の手で掴める幸せを。
岡部倫太郎が今日一日彼女をエスコートして来たのは……後になって思い返してみれば、本来の目的とは別にそんな意味も込められていた。

「お前が役立たずだ? いらない子だ? そんな事お前以外の誰だって信じていないぞ」
「…………っ!」

口元を両手で覆い、桐生萌郁がたじろぐ。
だが岡部倫太郎はそこで強めた語調を緩めたりはしなかった。

「まゆりだって、ダルだって、紅莉栖だって、フェイリスだって、ルカ子だってそうだ。ミスターブラウンだって、会社の同僚や上司だってそう思っているはずだ。当然、この俺もな!」

心の内で鈴羽だってきっとそう思うに決まっている……と叫ぶが、声には出さないでおく。

「この半年、お前のレポートに何度も唸らされた。お前の調査に何度も助けられた、まゆりやルカ子の宿題を手伝ってもらったこともあるし、フェイリスのためにライバル店舗の取材をした事だってあっただろう!」

もはや彼女の涙腺は完全に決壊し、桐生萌郁は頬を染め滂沱していた。

「わかるか、お前が俺に頼るように、お前だってみんなから頼られているのだ。萌郁、そんなお前が不要だなどと抜かす奴がいるなら俺が許してなどおかない。ああ許すものか! 殴り倒してだってその口を止めてやる!」

岡部倫太郎は桐生萌郁に一歩近づき、その右腕を大仰に薙ぐように振う。

「だから己を卑下するな! 見下すな! それはお前に期待してる仲間を侮辱する行為だ!」
「きた、い……? わたし、に……?」

眼鏡の向こうの瞳が涙で溢れている。頬は真っ赤に染まり、嗚咽で声がよく聞き取れぬ。
だが……彼女の言いたい事は、喩え聞き取れずとも岡部倫太郎にはわかっていた。
566第六章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/11/30(金) 23:33:49.73 ID:mX2RVOvf
「そうだ、期待だ。みんなお前に期待している。俺だって期待している。そして……お前がそこから逃げ出せば失望するし、残念に思う」

さらに一歩近づいた岡部倫太郎は、桐生萌郁の目の前に立っていた。
彼女はもはや涙を隠そうともせず、ぽろぽろと泣きながら赤い顔で岡部倫太郎を見上げている。

「お前は……もうそういう人間になったんだ。だから……俺を失望させないでくれ」
「…………っ!!」

岡部倫太郎が、そっと彼女の背中に腕を回す。
一瞬びく、とその身を強張らせた彼女だったが、それ以上に暴れることも抗うこともなかった。

「ひっく……おか、おか、べ、くん……ひっく」

嗚咽交じりに、感極まって……桐生萌郁は彼の首に腕を廻しひしとしがみつく。
そんな彼女を強く抱き締め返して……岡部倫太郎は、耳元でこう呟いた。

「萌郁……覚えているか。お前が昼に言った言葉」
「…………?」

小首を傾げた桐生萌郁は岡部倫太郎の方に首を向ける。
そしてびっくりするほと近くにある彼の顔に目を丸くし、たちまち顔中を朱に染めて頭からぽん、と湯気を湧かせた。

「お前はあの時、俺が何の得もないのにお前を助けた、と言ったな」
「…………」

そういえば、確かに、そんな事を言った気がする。
けれどそれが一体今どう関わってくるのだろうか。

「得なら……ちゃんとあったさ」
「え……?」

その時の、岡部倫太郎の笑みを、桐生萌郁はきっと一生忘れないだろう。
儚げで、なぜかすごい弱々しいのに、だのにただひたすらに優しくて、相手を思い遣る、そんな笑み。
桐生萌郁の心臓は、一瞬にしてその笑顔に鷲掴みにされてしまった。

「萌郁、お前と……会えた」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
「岡部倫太郎は……桐生萌郁に、出会えたんだ」

ぶわ、と涙腺が一気に緩む。
溢れ出る涙が止まらない、止められない。

「ふえ、ふ、ふええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええん」

桐生萌郁は、泣いた。
心の内に巣食っていた膿をすべて洗い流すかのように強く、激しく、延々と鳴き続けた。
岡部倫太郎は……己の胸の内で泣きじゃくる、大きな身体の、だが子供のような女性の背中をそっと、ただひたすらに優しく抱き締めていた。
567名無しさん@ピンキー:2012/11/30(金) 23:37:16.95 ID:mX2RVOvf
というわけで今宵はここまでー
この手のパートを書くときにはいつも各章ごとに
「あれこれもう●●だけでよくね?」
と思ってもらえるように書いている(つもり)です
読者の皆様にそれが幾ばくかでも伝えられていると良いのですが
それではまた次回〜 ノノ
568名無しさん@ピンキー:2012/11/30(金) 23:42:44.31 ID:Qvvd7zEc
あれこれもう萌郁だけでよくね?(乙)
569名無しさん@ピンキー:2012/12/01(土) 00:41:27.45 ID:5hEb7r+M
乙〜♪
>なんて愚かなで、浅はかで、情けない男か!
のくだりが好きです。
570名無しさん@ピンキー:2012/12/01(土) 02:43:04.86 ID:7BW4CVy3
内外イケメン死角なし。さすがギャルゲ主人公
それはそうとこの経験ってタイムリープしたらなくなるわけだ
オカリンの心情的に看過できなくね?
571名無しさん@ピンキー:2012/12/01(土) 08:13:06.42 ID:esCk89Nu
オカリンマジ情熱的
572名無しさん@ピンキー:2012/12/01(土) 16:51:14.68 ID:KL6XINto

当初の目的がなにだったか忘れてしまったが
オカリンがイケメンだということはよくわかった
573名無しさん@ピンキー:2012/12/03(月) 23:19:00.53 ID:GdoHzvpi
こんばんは
今宵も更新しに来ましたー
574第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/12/03(月) 23:22:16.62 ID:GdoHzvpi
6−17:2011/02/13 20:18 

「あのね……岡部君」

あれから延々と泣き続けて、ようやく落ち着いたらしき桐生萌郁が、心地良さそうにもぞ、と岡部倫太郎の腕の中で身じろぎをする。
そしてその鼻先を彼の胸板にこすり付けるようにして愛しげに頬擦りをした。
そんな彼女の様子が溜まらなく愛しく思えて、岡部倫太郎は彼女の背中に廻した腕の力を一層に強める。
桐生萌郁は鼻にかかった小さな喘ぎ声を漏らすと、泣き腫らした……だが嬉しげに細められた紅い瞳で、こんな事を呟いた。

「岡部君……岡部君がお昼に言ったこと……覚えてる?」
「む……俺がか?」

先刻の己の言葉に対し、今度は同じような質問を返される。
岡部倫太郎は自分の言った言葉を必死に思い出そうとするが……流石に全部は覚えていない。

「いや、すまん。一応何を言ったかは覚えているつもりなのだが……どの件だ?」
「岡部君がね、私のこと、幸せにする、って言ってくれたの……」
「ああ、そう言えば……ハァア?!」

思わず甲高い声ですっとんきょうな声を上げてしまう。
その言葉は岡部倫太郎もはっきりと覚えていた。
確か彼女の腕を強く引きながらそんな台詞を叫んでいた気がする。
気がするのだが……

「あ、いや……」

そこまで思い出して、今更ながらに気付いた。


……あれ? あの発言って、もしかしなくてもヤバいんじゃないか?


自覚した途端に岡部倫太郎の顔がみるみる赤くなる。
心臓の鼓動がどんどん早くなり、彼が真面目ゾーンを維持できる領域を悠々と限界突破した。
なにせ桐生萌郁をその手の内で抱き締めているのだ、彼女の大きな大きなあの双丘が彼の胸板を刺激して止まぬのである。
575第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/12/03(月) 23:25:50.80 ID:GdoHzvpi
これは生理現象!
これは生理現象!
なぞと必死に己に言い聞かせても、なかなかに素直に言うことを聞いてはくれぬ。
下半身を不如意にさせつつ、動転した岡部倫太郎がしどろもどろに言い訳をした。

「あの発言はだな、ええーっと、つまりなんというか……」

必死に言い繕おうとするが、考えれば考えるほど袋小路に追い詰められてゆく。
だってあの場面で、あの言い草で、普通に考えればどこをどうとってもプロポーズにしか聞こえないではないか!

無論岡部倫太郎は困難なミッション遂行のため、未来の桐生萌郁を救うため、彼女を抱かねばならぬという大義名分がある。
その意味において、どうせタイムリープでなかったことにするのだからどんな口約束だろうとしても構わぬだろうという意見もあるだろう。
過去を書き換え、実現されることの無い空約束で相手がその気になるのならむしろ喜ばしいことではないか。

だが……それにしたて流石にプロポーズはやりすぎではないだろうか。
仮にも女性の一生を左右する言葉なのだ。そんな軽々しく口に出していいものではない決してない。
岡部倫太郎という男は、ついそんな事を考えてしまう男なのである。

「あー、いや、その、要するに言葉のあやというか……」
「私ね……無理なの。あんな風に言われて幸せになる事は、できない」
「………………っ!!」

岡部倫太郎の高揚した気持ちは、だが彼女の次の発言によって完全に冷や水を浴びせかけられた。
そんな……あそこまで自分の気持ちに素直になったのに。あれだけ泣きに泣いてすっきりしたはずなのに。
一体何が……桐生萌郁は何が不満だというのだろう。
576第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(3):2012/12/03(月) 23:36:05.43 ID:GdoHzvpi
「萌郁、それはどういう……っ!!」

途中まで言いかけたところで、その口が彼女の人差し指で塞がれる。
彼の唇に指で蓋をしてのけた桐生萌郁は……控えめな、けれどなんとも優しい笑みを浮かべていた。
眼鏡越しに細められた瞳、恥じらいに頬を染めた彼女の微笑みはなんとも蠱惑的で、岡部倫太郎の心をひしと掴んでやまぬ。
跳ねるようにリズムを刻んでいた彼の心臓が……その日一番の大きな鼓動を鳴らした。

「だって……私、岡部君にバッジをもらったあの日から……ううん、たぶん初めて会ったときから、きっと、ずっと幸せだったの」
「………………!!」

今度は……岡部倫太郎が息を飲む番だった。

「だから、私、幸せに『なる』事はできないの。だってもうずっと前から幸せだから」

あれだけ泣いたのに……頬を赤らめたまま瞳を潤ませ、岡部倫太郎を熱い視線で見つめる桐生萌郁。

「でも、今日はいつもより、もっと、ずっと楽しかった、嬉しかった……」

そう言いながら、桐生萌郁はそっとつま先立ちに背を伸ばして……岡部倫太郎の唇を奪う。


「ずぅっと、幸せだったの」


ほんの僅かな間の唇と唇の触れ合い。
互いの息づかいが耳に響くほどの距離、交差する視線、唇の上を通り過ぎる対手の唇の柔らかな感触。

まるで罪でも犯しているかのようにすぐに唇を離した後、桐生萌郁は岡部倫太郎の首に腕を巻き付け、頬を擦りつけるようにしながら彼にしがみつく。
そして湿った吐息を漏らしながら、恥ずかしそうな、消え入りそうな声音で……彼の耳元に、甘い声色で囁いた。


「……ほんとだよ?」


彼女の背中に回されていた腕がぎゅ、と強くなる。
僅かに背を反らせ、桐生萌郁が驚いて岡部倫太郎の方に顔を向けたその時……




……今度は、彼の方から唇を奪われた。




(『第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4)』へ つづく)
577名無しさん@ピンキー:2012/12/03(月) 23:37:44.48 ID:GdoHzvpi
というわけで今宵はここまでー
オカリンの猛攻の後のもえいくさんの少しだけの反撃の巻
まあそんなこんなで次回からいよいよ本番突入(の予定)です
エロパロ板なのにエロ少なめでごめんね
それではまた次回ー ノノ
578名無しさん@ピンキー:2012/12/03(月) 23:54:02.93 ID:C+JpyGPE
乙です。
オカリンに一矢報いたもえいくさん。
ええですのぅ。
579名無しさん@ピンキー:2012/12/04(火) 00:18:44.41 ID:eoSOZfor
なかったことにしてはいけない

いやマジで
580名無しさん@ピンキー:2012/12/04(火) 04:16:45.59 ID:LNq5ZGBs
乙です。オカリンまじスケコマシ
581名無しさん@ピンキー:2012/12/04(火) 23:27:17.80 ID:ShzuKxZu
こんばんはー
今宵も更新しに来ましたー
582第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/04(火) 23:28:42.12 ID:ShzuKxZu
6−18:2011/02/13 20:32 秋葉原第一ホテル

「ん……っ」

岡部倫太郎と桐生萌郁は互いに強く抱き締め合い、激しく唇を交わす。
最初彼が舌を突き入れたとき彼女は目を丸くして驚いたが、すぐにその身を委ねるようにして蹂躙されるがままに任せた。

喉奥から漏れるくぐもった喘ぎ声。
閉じられた瞳からは涙が零れ、時折確認するかのように薄目を開けて目の前の男を覗き見る。
そのうち岡部倫太郎が彼女のおとがいを掴み、舌を口腔内に突き入れると彼女は目を白黒させたが、上顎を舌先で刺激して促がすように彼女の舌をいじくると、桐生萌郁は鼻にかかった甘い声を上げ、自から舌を絡みつかせてきた。

岡部倫太郎の首に回された彼女の腕の力は強く、強く。
ぎゅっと抱きついたまま離れない。
いわゆる「首っ玉にしがみついた」状態である。

上から覆い被さるように彼女を掻き抱き、たっぷりと舌を絡め合わせる岡部倫太郎に対し、おずおずと舌を伸ばし、確かめるように彼の口の中をつん、つんとつつく桐生萌郁。
やがて小さな悲鳴を上げた彼女はびっくりしたように目を丸くして……だがすぐに蕩けたような表情となると、目を細め、頬を赤らめながらこくん、こくんと喉を鳴らし……岡部倫太郎の唾液を嚥下した。

「ぷぁ……っ」

一体どれ程交わっていたのだろう。
互いが唇を離した時、その間にはなんとも濃厚な唾液の糸橋が逆アーチを描いていた。

唇は離れたものの未だ相手の首と背中に腕は回したままだ。
目の前の男を見上げる桐生萌郁の瞳は潤みきっていて、眼鏡越しの熱い熱い視線が目の前の男に注がれている。
それは興奮と、高揚と、恍惚のない交ぜになった表情で、きっと今の彼女の視界には岡部倫太郎以外の何物も映っていないに違いない。
583第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/04(火) 23:29:31.76 ID:ShzuKxZu
「ん、あ……?」

……と、蕩けていた瞳にゆっくりと焦点が戻り、陶酔の中にいた桐生萌郁がふと正気に戻る。
彼女はゆっくりと彼の首に回していた腕を解き、自らの両頬に当てると……
上目遣いで岡部倫太郎を見上げながら、今更のように口元をわななかせ、首から耳先に至るまで牡丹のように朱に染め上げた。

「おか、べ、く……は、恥ずかし……っ」

己がつい先刻勢いで流されるままにしてきた行為の数々を想い出し、今更ながらに羞恥に身悶える。
あまりの恥ずかしさに脳天がくらくらとして、衣装も雰囲気も、何もかもが急に耐え難くなってきた。
煌々と点いている部屋の灯りすら己をじいと凝視しているようで、思わずその場にへたり込みそうになる。

「あ……っ」

だが、かくんと体の力が抜けた彼女を、岡部倫太郎の力強い両腕が支えた。
それは今の彼女にとってまるで己全てを、己そのものを支えられ、包み込まれたような感覚で、桐生萌郁はぽう、と己の頬に熱を伴った血が集まるのを強く感じた。

力が抜けた彼女の体はやや後ろに身を反らしていて、だがその顔だけは決してその相手を見失うまいと岡部倫太郎に注がれている。
彼はそのまま桐生萌郁を強く抱き締め、彼女もまた応えるかのように岡部倫太郎の背なに腕を廻した。

「岡部、くん……」
「……萌郁」
「あン……っ」

互いに名を呼び合って、ただそれだけで高揚する。
ことに桐生萌郁の反応は顕著だった。
584第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/04(火) 23:31:04.44 ID:ShzuKxZu
「萌郁……」
「んっ」
「萌郁」
「あっ、んっ」
「……萌郁!」
「んっ、あ、あああっ」

びくん、と桐生萌郁が岡部倫太郎の腕の中で幾度もその身を痙攣させ、背を反らし、その後唇を噛み締めるようにして何かに耐えた。

「随分と敏感な反応だな。ここが弱いのか?」
「んっ! 違う、と思う……」
「ではここか……? いや違うな」

ふむ、と暫しの間思考を巡らせた岡部倫太郎は、潤んだ瞳で己を見上げる彼女の陶然とした瞳にようやく解を導き出す。

「……指圧師よ、お前名前を呼ばれるのが好きなのではないか?」
「よく、わから、ない……」
「萌郁」
「んっ、あっ、んんっ!」
「……やはり名前に反応するようだな」
「そう、かも……」

そう、どころの話ではない。
普段おちゃらけている時の彼の声はやや性急でやや甲高い。それは彼のノリの良さと気軽さを表していて、ラボの仲間を安心させ、元気付けてくれる。

だが……岡部倫太郎本来の地声はむしろかなり低く、そしてよく耳に通る。
強く印象に残る声なのだ。
彼が自称する狂気のマッドサイエンティストが実を伴うのはだいぶ先のことになるであろうが、少なくとも演説や扇動に関しての素養は今でも十分にあると言えるだろう。

そんな……彼の声が。
耳元で低く、優しく、己の名を囁いている。
それもいつもは指圧師指圧師と揶揄して呼んでいる自分を、萌郁、と呼んでくれるのだ。
それでどうにかならぬわけがない。
桐生萌郁は、あまりの羞恥と昂揚でくらりと眩暈がした。
585名無しさん@ピンキー:2012/12/04(火) 23:33:20.58 ID:ShzuKxZu
というわけで今宵はここまでー
オカリンの低音ヴォイスで耳元で名前とか囁かれちゃったりしたら
そりゃあ萌郁さんでなくてもどうにかなっちゃうと思う次第
そんなわけでまた次回なんですが
お仕事が本気で忙しくなってきたので今後はちょっと日刊更新が厳しいかもしれません
更新できなかった日はごめんなさいね
586名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 00:13:56.30 ID:sF5wEORR
乙です。
本番突入来たねぇ!
587名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 00:39:35.09 ID:29bY/BHx
乙です。
シリアスな時のオカリンヴォイスなら仕方が無い
588名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 01:09:28.85 ID:Sd7bgWho
とどめの名前呼びか。オカリンvoiceマジエロい。濡れるな
589名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 19:37:57.71 ID:keWWf+7k
濡れるわー
俺おっさんだけど
590名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 22:47:54.58 ID:3oPFvF7P
おつです。もえいくさんのポテンシャルをこのSSで知りました!感謝!
主のSS、読みやすいし面白いし言葉のセンスも好きだ。シュタゲ分に飢えてエロパロ板開いてみて良かったよ…!
591名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 23:34:44.33 ID:SkRwfFsT
こんばんはー
今日もなんとか更新できそうです
帰れるかちょっと微妙だったけど……
592第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/05(水) 23:37:32.06 ID:SkRwfFsT
6−19:2011/02/13 20:49 

「ハァ、ハァ……」

荒い息をつき、桐生萌郁はようやく一息をつく。
熱情と興奮に身を任せ、幾度も抱擁と接吻を交わし、抱き合っては離れ、離れては抱き合って互いの名を耳元で囁く。
言ってみれば、ただそれだけ。

ただそれだけで……驚くほどに興奮している。

自分が書いているケータイ小説ならこうはいかない。
もっと矢継ぎ早に色んなイベントを起こし読者を飽きさせないようにするものだ。
けれど……ただ相手の腕の中にいる事が、ただ己の名を囁かれるだけの事が、唇を交わすだけの事が、


たったそれだけの事が……これ程に、自分を充たしている。


こんな気持ちは初めてで、それはとてもとても素敵な事で、
この気持ちを絶対に忘れないようにしよう、と彼女は心に刻んだ。

「萌郁……その、なんだ」
「……なに?」

岡部倫太郎がやや言いにくそうな口ぶりで頭を掻く。

「……言って」
「あー、うむ。その……胸、見ても、いいか」
「………………!」

桐生萌郁は眼鏡の奥の瞳を丸くして驚いた。
明らかに意表を突かれたのだが、同時に彼女はどことなく面映い、下半身から湧き出すような掻痒感を感じていた。

……彼が、岡部倫太郎が自分の胸を見たいといった。

それが、それそのものが、彼女が感じたむず痒さの正体である。
有り体に言って……桐生萌郁は、彼の発言が嬉しかったのだ。

自分の、自分なんかの……そう言うとまた岡部倫太郎に叱られそうだが、
こんな自分の身体を彼が見たがっている。触れたがっている。求めてくれいる。
それがたまらなく心地よく、たまらなく嬉しい。
593第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/05(水) 23:42:37.64 ID:SkRwfFsT
「…………ん」

肩をすぼめてこくり、と頷き、上目遣いで岡部倫太郎の顔色を伺う。
彼は鼻頭をこり、と掻きながら視線を逸らし、そのまま彼女の背中に手を回して……

「む、留め金が……ない?」
「あの、前……」
「なに、ああ、確かフロントホックとか言うのだったか?」
「……そう」

阿万音鈴羽に教わった事を思い出しながらそのたわわな、と表現してよい胸部に目を向ける。
桐生萌郁はその上乳に両手を乗せて、まるで彼の前に胸を突き出しているかのような格好だ。
紅いドレスの胸元にははっきりとわかるほどの谷間が出来ており、
なんとも扇情的で、ただ立っているだけの相手に岡部倫太郎は思わず唾を飲む。

「では……む? ええっと……こうか? いや違うな、ここか……?」
「ん……あっ、んんっ!」

初めて触るフロントホックにやや戸惑っている岡部倫太郎の指先が、知らず彼女の豊かな胸の各所をブラ越しに触れ、つついてしまう。
そもそもドレス用の下着なら肩紐のないタイプのロングブラあたりが定番のはずなのだが、あえてフロントホックにさせているあたり彼女の上司は確信犯なのだろう。
そんな上司の掌の上なのだろうか、相手に身を任せつつも自然胸に神経を集めてしまっている桐生萌郁は、必要以上に敏感に岡部倫太郎の……愛しき男の指先を感じてしまっていた。

「難しいな、こうして……こうか?」
「あ、んっ、は、んっ、ああっ!」

身体を震わせ、身を悶えさせ、甘い悲鳴を噛み殺しながら必死に耐える。
だが彼の手指は上手く外せぬ焦りからかだんだんと遠慮がなくなって、遂には彼女の胸を鷲掴みにしながらホックを弄り始めた。

「おお、ここか、よし……うおっ?!

パチン、という音と共にどさり、と岡部倫太郎の手のひらにのし掛かる重量感。
下着による補正を失った彼女の胸が、その本来の膨らみと重みを彼の手に与えてのけたのだ。
594第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/05(水) 23:47:05.24 ID:SkRwfFsT
「……萌郁?」
「はぁ、はぁ、ん……っ」

ようやく一息をついて改めて桐生萌郁に目を向けると、今更ながらに彼女がやけに顔を赤らめて俯いている事に気付く。

「どうした、萌郁」
「んっ、んくぅっ」

肩を軽く抱くとそれだけでぴくん、とやけに鋭敏に反応する。

「……? ともかく、ブラジャーを外すぞ」
「あ……っ」

ドレスの胸元をやや広げて、そこからブラジャーを引きずり出す。
すると衣服を押しのけるようにして彼女のたわわな双丘が飛び出てきた……いや、まろび出てきた、の方が正確だろうか。

「……これは、また……凄いな」
「あ、あんまり、みない、で……」

顔を近づけながらその豊満な胸に感心したようにしげしげと眺める岡部倫太郎の視線が恥ずかしくって、桐生萌郁は思わず両手でその胸を覆い隠してしまう。

「あー、気持ちはわかるがな萌郁よ、その……なんだ、かえって逆効果だぞ思うぞ?」
「え……? あ……っ」

だが溢れ出たその大きな乳房は既に隠蔽することができる程度のサイズではなく、むしろ彼女の押し付けられた手によってむにょりと淫靡に形を変えて、却って扇情的に男を誘っているかのように見える有様だった。

岡部倫太郎はその驚くべきサイズに感心しながらも、これだけ差があると流石に紅莉栖に挑む際の役には立たないな……などとやや不謹慎な事を考えてしまい、慌てて首を振る。


目の前の相手を、桐生萌郁を、愛する。
少なくともこの時間の流れではそうするのだと、そう心に誓ったはずではないか。


「萌郁……」
「あ……んっ、んちゅっ、ん、ふぅ……」

岡部倫太郎は彼女の腕を掴み胸から引き剥がし、暴れる彼女の唇を強引に奪った。
眼鏡越しに目を見開いて驚いた桐生萌郁は、だが彼の強引な攻めの前に徐々にその動きを緩慢にし、やがてされるがままに唇を吸われ、舌で蹂躙された。
595第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/05(水) 23:53:27.72 ID:SkRwfFsT
「ぷぁ、ん、んふぅ、ふぁ……っ」

岡部倫太郎が唇を離すと、流れる糸橋を床まで垂らしながら、とろんと蕩けた顔の桐生萌郁が彼の腕の中でふらふらとしている。

「萌郁、胸……触るぞ」
「ん、ふぁ、ん……っ」

ぼんやりした、だが妙に熱っぽい表情で岡部倫太郎を見つめる桐生萌郁。
明確な返答は得られなかったが、おそらく拒絶はされまいと岡部倫太郎は彼女の胸部に手を伸ばした。

「ふむ……随分と胸は柔らかいのだな」
「んっ、あ、ひぁ、ん……あ、ああ……っ!」

むにょん、ぷにょんという弾力がありつつも柔らかいなんともいえぬ手触り。
その感触を確かめるべく色々な触り方、掴み方を試みて、その都度桐生萌郁の口から甘い叫び声が漏れ出た。

正面から掴んで揉みしだき、下から包み込むようにして、上から押さえつけるように。
まるでマシュマロか弾力の強いゼリーのような、柔らかくてそれでいて張りのある乳房。

岡部倫太郎はその乳房のプリンを探求している内に、その先端の小さなナッツがいつの間にか膨らんでいる事に気付いた。

「……ふむ」
「んあっ!? あっ、ひっ、おかべく、やめ……っ!」

左右の乳房を同時に解放し、桐生萌郁がほうと息を付いた瞬間……その衝撃はやってきた。
岡部倫太郎が両の乳首を摘み、かるく捩じったのだ。

こりこりとした感触、先刻より大きな反応。どうやら桐生萌郁は殊更に乳首が弱いらしい。

「あっ、ダメッ、痛いぃっ!」
「おお、済まん。ならばこうか?」
「ふぁっ、はへっ、ひんっ、んくぅぅっ!」

敏感なだけに他の部分よりさらに丁寧な扱いが必要となるようだ。
岡部倫太郎は持ち前の探究心をそそられ、どれほどの強さが、ねじりが、つまみ方が彼女を感じさせ、どこから先が痛みなのかを丹念に、地道に繰り返し確認してゆく。

「……なるほど。大体把握したぞ萌郁……萌郁?」
「ふぁ、はひ、んふ、はへ、ふぁ、ぁぁぁぁぁぁぁ……っ」

岡部倫太郎が乳首から指を離すと、すっかり上気した顔の桐生萌郁が視線を彷徨わせながらどさりと岡部倫太郎にもたれかかってくる。
だらしなく開いた口元からは舌が伸びて涎を床に垂らし、鼻にかかった喘ぎ声はすっかり甘く蕩けるようだ。
乳首に走る痛みと快感、交互に繰り返される刺激と疼き。
ほんの短時間ですっかり開発され、調教されてしまったそのたわわな胸はすっかり充血し……今や授乳器官から性的な器官へと変貌を遂げていた。
596名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 23:55:14.10 ID:SkRwfFsT
というわけで今宵はここまでー
萌郁さんと言えば、胸、乳房、おっぱい
そんなリビドーを叩きつけてみました
最近だいぶ忙しくなってきましたが、とりあえずまた次回にお会いしましょう ノノ
597名無しさん@ピンキー:2012/12/05(水) 23:59:09.59 ID:sF5wEORR
乙。
もえいくさんといったらおっぱいですよねwww
598名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 00:12:37.63 ID:rHG1sAxe
おっぱいは性器!(あいさつ
599名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 01:01:02.05 ID:g+DnSNJ5
おっぱいは性器!(ねぎらい
600名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 01:49:12.78 ID:2GFQsImd
おっぱいは性器!(迫真
601名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 02:45:05.49 ID:JYxBHWnn
おっぱいは性器!(それがシュタインズ(ry
602名無しさん@ピンキー:2012/12/06(木) 23:42:31.21 ID:UUzsC9lu
こんばんはー
今日もなんとか更新できそうです……
603第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/06(木) 23:48:09.59 ID:UUzsC9lu
6−20:2011/02/13 20:57 

「おい、大丈夫か、萌郁!」

ずるり、と彼女の上体がずれ、そのまま床に膝をつく。
どうやら感じすぎて立っていられなくなってしまったらしい。

「ふあ、ん……あ、おかべ、くん、の……」

膝をついたまま岡部倫太郎の下半身にもたれかかった桐生萌郁は、己の目の前ではち切れんばかりに怒張している患部を見つける。
ズボンの下から目一杯自己を主張している岡部倫太郎の陰茎である。
桐生萌郁はそれを熱っぽい瞳で眺め、知らず下から掬い上げるようにズボン越しに手指で撫で上げ、テントの頂点に愛しげに頬ずりをした。

「うお、も、萌郁……っ!?」

岡部倫太郎の呻き声が聞こえる。だがそれが苦痛によるものではなく、むしろ快楽からもたらされるものであることを、性的に興奮している桐生萌郁は内から湧き上がる情動で理解していた。
己の行為が彼を興奮させている。気持ちよくさせている。
その事が目で、耳で、肌触りでわかる。

……ぞくり、と背筋に何かが走った。

嬉しい。嬉しい。自分の身体が、行為がこの人を悦ばせている事が堪らなくうれしい。
もっと、もっと、もっと喜んで欲しい。
もっと、もっと、たくさん。
自分の手で、指で、他の何を使ってでも。

「ん……っ」
「お、おい、萌郁?」
「ん、んっ、ん、ん……っ(ジ、ジー」

桐生萌郁は何を思ったのか、彼の股間へと顔を近づけるとズボンのファスナーの留め具をはむ、と唇で啄む。
そしてそのまま膨張する股間に苦労しながらもゆっくりとそれを引き摺り下ろし、股間部を露出させた。
たちまちその隙間から飛び出し、トランクスの隙間からにゅっと自己主張した岡部倫太郎の陰茎が桐生萌郁の頬に突き刺さる。
604第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/06(木) 23:52:40.45 ID:UUzsC9lu
「……な、なんだ?」

股間部の意外な反応に目を白黒させた桐生萌郁は、留め具を喰えたまま眉を顰め、しばし岡部倫太郎をやや困惑したような、非難するような視線で上目遣いで見つめていたが、やがて再びファスナーへと目を向け、ゆっくりと、丁寧に下ろしきった。
岡部倫太郎の陰茎は今や彼女の頭の上にあり、長い髪に巻きつくようにして小さな刺激にびくん、と揺れている。

「おかべ、くん……」
「ええいっ、それに話しかけるなっ!」

肩をすぼめて、熱っぽい瞳で岡部倫太郎の股間から生えた肉茎を見つめる桐生萌郁。
彼女はやがて己の胸を両手で抱え込むようにして僅かに唇を尖らせ、頬を染めて岡部倫太郎を見上げると、こんな事を尋ねてきた。

「岡部くん、私の胸で……したい?」
「んなっ!?」

思わず動揺して一歩後ずさる岡部倫太郎。
ばくん、と心臓が大きく高鳴ったのがわかった。

「な、な、な……っ」
「……なに?」

わなわなと身を震わせながら桐生萌郁を指差す岡部倫太郎。
彼の言いたい事がわからぬ桐生萌郁はきょとんと首を傾げた。

「なぜ、なぜそんな事を知っている萌郁っ」
「ケータイ小説は、過激なものも、多い、から……橋田君に、小説のこと内緒で、そういう資料のこと、尋ねたら……こういうのが描いてある、同人誌、勧められて……」
「ダ〜ルゥゥゥ〜〜〜! ええい、奴には後でエロゲ没収の刑だっ!」

頭を押さえて呻く岡部倫太郎。

「岡部君は、したく、ないの……?」
「うぐ……っ」

むにょんと左右から押し迫る、そのたわわな果実の誘惑を前に動揺を隠せない岡部倫太郎。
知らぬ内にすっかり彼女のペースである。

「おっ、俺は別におっぱいやら胸やらおっぱいのような即物的なことで興奮したりなどは……っ」
「あ、おっきく、なった……」
「すいませんごめんなさい興味あります」

必死に強がろうとしたが、正直すぎる下半身は嘘をつけなかったようだ。
605第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/06(木) 23:56:36.37 ID:UUzsC9lu
「ん……わかった」

桐生萌郁はこくんと頷くと、膝歩きですりすりと岡部倫太郎に密着するほどに近寄り、斜め上に突き立っている彼の陰茎を胸の谷間でむぎゅ、と挟み込んだ。
そしてそのまま左右から押したり、ずらしたりしながら刺激を与えようと試みる。

「ん……、どう……?」
「むう、気持ちいい、気持ちいいのだが……少し擦れる感じがな」

やはり乳圧だけでは如何せん刺激が弱い。
それに膣内と違って濡れていないので滑りが少々不足している気がする。

「ん……っ」

岡部倫太郎の言葉を聞いた彼女はしばし考えを巡らせている様子だったが、やがて彼の陰茎をその胸で挟み込んだまま、その真上でれろ、と舌を出した。
そして舌先からたらあ、と唾液を垂らし、己の乳とその間の肉茎を濡らし、汚す。

「ん……きゃっ」

上気しながらも無表情な彼女が、舌を伸ばし唾液で己の乳を飾り立てるというその異常なシチュエーションに、岡部倫太郎の愚息は思わず反応して胸の内で暴れ廻る。
乳房の内で藻掻き憤るそれに驚いた桐生萌郁は左右からの圧力を強め乳圧で押さえ込もうとするが、自分の唾液で滑りが良くなってしまっていたためそれも叶わず、その肉棒は彼女の乳の間から飛び出してしまった。

「ん……だ、め……っ」
「うぉ……っ?!」

桐生萌郁は岡部倫太郎の肉茎が逃亡を果たした事が許せなかったのか、やや不服そうに眉をしかめると、再びその両の乳でバナナ状にに反り返ったそれを挟み込み、さらにこれ以上逃がすまいと乳の間からはみ出たその先端を自らの唇をすぼめてはむ、と咥えた。
突然の刺激に思わず反応してしまう岡部倫太郎の愚息。口の中で暴れるそれを、だが桐生萌郁はより深く咥えこむ事で無理矢理抑え込み、なにやら満足げな、鼻にかかった呟きを漏らす。
……が、口に咥えたままなのでそれはちゃんとした言葉になる事はなく、ただ徒に彼の男根を震わせ刺激しただけに終わった。
606第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/06(木) 23:59:27.60 ID:UUzsC9lu
「ん……ちゅ、ん、れろ、ん、ちゅぱ、ん、ん……っ」

陰茎をより深く咥え込もうと首を傾け、舌を伸ばし、胸をこね、押さえつける。
確かにさっきよりはだいぶ気持ちよくなったが……やはり本体の動きが少なすぎるのが問題なのか、まだゆるゆるとした快感で快楽というほどではない。
無論これはこれで悪くはないのだが……

「萌郁……俺も動いていいか?」
「……ん」

唇を伸ばしたまま上目遣いで岡部倫太郎を見上げた彼女は、そのままこくん、と頷くと再び視線を下に戻す。
岡部倫太郎は彼女の胸から竿を少し抜き取り、そのまま強く突き入れた。

「んんーっ!?」
「大丈夫か?」
「ん、んん……(コクン」

最初の内は互いに動きを確認しあうように、やがて徐々に積極的に。
呼吸を合わせて乳房の間に肉茎を出し挿れしてゆく。
唾液によってすっかりぬめりを増した谷間と、その先端で唇を伸ばして肉棒を咥えようとする彼女の唇が柔らかながら膣とはまた別の刺激となって岡部倫太郎の股間をいきり立たせた。

「うお、こ、これは……っ」
「ん、んんっ、んん〜っ、ん、ちゅっ、ん、れろっ、ん、んんっ!」

徐々に高まってくる射精感。岡部倫太郎は桐生萌郁の肩を掴むと一層に激しく腰を動かし、彼女もまたそれに懸命に応える。

「んっ! んんっ! ん、んん〜〜〜〜〜〜〜っ!!」

どぷっ、どくん、どくん……っ

ついに最後の一線を越え、白濁が肉茎の先端から溢れ出た。
口先だけで舐め啜っていた桐生萌郁はその勢いに耐えられず唇を離してしまい、白く濁った精液は彼女の眼鏡を、顔を、髪を汚し、どろりと垂れた最後の数滴が上乳を汚し谷間に垂れた。

「うおっ!? す、すまんっ!」
「ん……おかべくん、の……」

べとべとに汚れてしまった桐生萌郁に必死に謝罪する岡部倫太郎。
けれど当の彼女は熱っぽい表情のまま己の肌に注がれた白い灼熱を甘く受け入れて、眼鏡にかかった白濁を指で掬うとそのまま口に突き入れ、目を閉じて味わうように舐めしゃぶった。

「これが、おかべくんの、味……?」

蕩けた表情。上気した肌。いつもの如く抑揚がないのにどこか艶を感じさせる甘い声。
桐生萌郁のそんな様子にたまらなくなった岡部倫太郎は……そのまま彼女を抱え、ベッドへと連れ込み押し倒した。
607名無しさん@ピンキー:2012/12/07(金) 00:00:49.14 ID:IwmFrZnR
というわけで今宵はここまでー
ただいま絶賛おっぱい祭り開催中の巻でした
それではまた次回ー ノノシ
608名無しさん@ピンキー:2012/12/07(金) 13:13:30.98 ID:rq1wE68Q
乙です。さすがのエロス枠、エロイ
609名無しさん@ピンキー:2012/12/07(金) 13:46:28.59 ID:LHXR5pSB

ドラマCD化されるのはいつですか?(`・ω・´)
610名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 01:27:33.28 ID:ZtJj3+Qt
こんばんは……
更新するだけして寝ます……
611第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/08(土) 01:30:28.24 ID:ZtJj3+Qt
6−21:2011/02/13 21:14 

「おか、べ、くん……」

ベッドの上に横たわった桐生萌郁は、体を斜めによじり頬を染め、ベッド脇に立っている岡部倫太郎を見上げている。
その瞳には高揚と興奮と、これから己の身に起こるであろう出来事に対するほんの僅かの怯えと、それ以上に隠すことのできぬ期待が見え隠れしていて、岡部倫太郎は思わずごくりと喉を鳴らした。

「ん……っ」

暫しの、静寂。

桐生萌郁は岡部倫太郎を待ちうけ息を潜め、岡部倫太郎は己を落ち着けるためわずかの間逡巡し動きを止める。
結果として二人の間に小さな空隙が生まれた。

「ん、ん……」

もぞ、もぞ……
岡部倫太郎が己を取り戻し、だが間が開いてしまったためどうやって空気を戻そうかと思案していると、ふと視界の端に何か蠢くものを見つけた。
桐生萌郁の顔ばかり見ていた岡部倫太郎は視線をゆっくりと下げてそれを視界の中央に据える。

……脚、だ。
桐生萌郁の脚である。

紅いドレスのスリットから盛れ出ている彼女の瑞々しい太股。フェイリス・ニャンニャンのように細くも、阿万音鈴羽のように躍動感にも満ちていないが、ふっくらとしていて実に柔らかそうな太股。
そんな彼女の脚と脚、より正確には腿と腿が……摺り合わされて、いる。


もぞ、もぞ……
もじ、もじ。


桐生萌郁は己の両の脚を絡みつかせ、何かに耐えるような切なげな瞳で岡部倫太郎を見つめていて……

「萌郁、お前……」
「え……? あ……っ」

がた、とベッドの上に片膝をついて上がりこみ、彼女の脚の間に手指を挟みこむ。
ぼんやりと、半ば恍惚としていた桐生萌郁は彼の指の感触で漸くに我に返り、己が為していた行為を、太股を擦り無聊を慰めていた事を今更ながらに自覚してかああ、と耳まで赤くなると、それを認めたくないのかじたじた、と岡部倫太郎の腕の下で暴れる。
だが彼に無理矢理唇を奪われ、びくんと四肢が引き攣った間隙に手指をショーツの隙間に滑り込まされると、流石に観念したのか、潤んだ目を閉じて大人しく彼の唇を吸った。
612第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/08(土) 01:35:03.77 ID:ZtJj3+Qt
「凄い、濡れているな……」
「ん、ちゅ……言わないで……れろ、ん、は、恥ずかしい、の……」

まるで漏らしたかのようにびしょ濡れの彼女の股間に驚く岡部倫太郎。
眼鏡越しの目をバツが悪そうに逸らし、まるで子供のような表情ではにかむ桐生萌郁。

彼に己の秘所をまさぐられているのが恥ずかしくてたまらないのだろうが、己の身体が発する欲求には抗い難いのか、逆に彼の手指の感触を確かめるかのようにもぞり、とその太股を蠢かせる。
その動きがあまりに扇情的で、艶かしくて……

岡部倫太郎は、彼女の両脚を掴むと、その左脚を抱えて股間を無理矢理に曝け出す。

「や、岡部くん、だめ、こんな格好……っ」

ばたばた、と暴れようとするが両脚を押さえられていては抵抗らしい抵抗もできぬ。
岡部倫太郎は股間を覗きこむようにして股の間に頭を挟みこむと、ショーツをずらして彼女の秘所を観察した。

「ふむ……思った以上に毛が濃いな……」
「だめ、だめぇ、そんなこと、言っちゃ……あ、ああ……っ」

見られている。見られている。
全部、全部見られている。

自分の最も恥ずかしいところ。女の部分を、一番大事な人に、一番嫌われたくない人に。
変だったらどうしよう。呆れられたらどうしよう。この人に、岡部倫太郎に嫌われるのだけは嫌なのに。

「俺で……こんなに感じてくれているのか?」
「…………っ!」

恥ずかしくって泣きそうになる。
なんて事を聞くんだろう。なんて恥ずかしいことを。
当たり前だ、当たり前ではないか。彼以外の誰でだってこんなになることなどないというのに。

桐生萌郁は思い詰めたような瞳で岡部倫太郎を見つめ、耳まで赤くしながら……小さくこくんと頷いた。
613第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/08(土) 01:37:24.71 ID:ZtJj3+Qt
「そうか……」
「あ……あ、ああっ、んっ、んふっ!」

彼女の答えに何を納得したのか、岡部倫太郎はおもむろに桐生萌郁の股間を手指で弄り出す。
胸を犯され、興奮しているところを放置され、さらに己が肢体を火照らせ、持て余しているところを見抜かれて……
桐生萌郁の身体は、すっかり発情し、欲情してしまっていた。

「ああ、おか、べ、く……んんっ、はあっ、ん、はあっ、あ、だ、だ、だめ、んっ、ああっ!」

くちゅ、ちゅく、ぷちゅ、ぬちゃっ

なんとも水っぽい、淫らな液音が部屋に響く。
その音が鳴るたび、いや音に合わせて、桐生萌郁の口から悲鳴とも喘ぎともつかぬ声が漏れた。
だが……岡部倫太郎の執拗な責めはやがてその水音をずいぶんと粘っこいものに変え、彼女の声もまた徐々にくぐもった、熱っぽく、湿った、艶のある声色に変わってゆく。

「ん、あ、おか、べ、く……ひぁっ?! あ、だ、だめ、それ、そんなの、汚な……っ!」
「だから自分を卑下するなと言っただろう。大丈夫だ、萌郁のものなら」
「あ、そんな、そん、な、あ……ひぁああああっ?!」

やがて岡部倫太郎は手指と共にその舌で彼女のびしょ濡れの女陰(ほと)を蹂躙し始めた。
その柔らかで丁寧で、だが執拗で強い刺激は、彼女の体の火照りをますますのっぴきならないものへと高めてゆく。

当初岡部倫太郎が突き出した頭を押しのけるように差し出された彼女の両手は、いつの間にやら己の股間へと彼の頭を押さえつけるような姿勢となっていて、だらしなく開かれた口から漏れ出る涎は、彼女がすっかり己の欲情に流され、蕩尽の域に至っている事を示していた。

ぴちゃ、ぺちゃ、ちゅるっ、れろっ、じゅるるっ、ぺちゃり

「啜っても啜っても溢れてくるな」
「もう、もう、岡辺くん、ばか、ばかぁ……っ」

なんの気もなしに呟いた岡部倫太郎の言葉だが、どうやら彼女は言葉責めと受け取ってしまったらしい。
だがその責めに反応するかのように溢れる淫液の勢いが増すのだから、なんとも業の深い身体である。
614第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/08(土) 01:39:30.29 ID:ZtJj3+Qt
やがて……彼女の隠しても隠し切れぬほどに大きくなった肉芽が、岡部倫太郎の目に止まる。
岡部倫太郎はその先端を唇で含み……舌先でぬらりと刺激した。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!」

びっくん、とベッドの上で大きく背を反らし、悲鳴を必死に噛み殺す。

「か、はぁ……っ」

だが強すぎる刺激に知らず口を開け、肺から空気を吐き出した。

「おい、萌郁、大丈夫か、萌郁!」

大きすぎる反応に驚き慌てた岡部倫太郎が慌てて彼女の上体を起こす。
桐生萌郁の唇は強く噛み締められたせいでわずかに出血していた。

「はぁ、ん、平気……はぁ、ん……はぁ……っ」
「平気な顔ではないぞっ」

赤らめた顔をさらに赤くして、まるで茹蛸のようになっている。
目元からは涙がぽろぽろと流れ落ち、だらしなく口を開いては涎をとろりと溢れさせ、荒い息を吐きながら……まろび出た胸を上下に揺らしている。

「刺激が強すぎたか……すまん」
「ん、いい……びっくりしただけ、だから……」

息を整えながら、とろんとした表情で目の前の男の顔を見つめている。
心から溢れる気持ちが止まらない、抑えられない。彼女の瞳は高揚と激情を宿し岡部倫太郎を捉えていた。

「………………」

じい〜。

「…………………………」

じい〜〜〜。

「?」
「……………………………………」

じい〜〜〜〜〜〜〜〜〜。

「どうした、萌郁」

彼女の身体を気遣って暫し時間を置こうとする岡部倫太郎。
だが彼女のすっかり火照りきった熟れた肢体は、欲情してしまった心は、その猶予さえ耐えられない。
615第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/08(土) 01:42:03.17 ID:ZtJj3+Qt
「大丈夫か? まだ苦しいのか……っておうわっ?!」

桐生萌郁の様子がおかしい事に首を傾げ、疑問を挟もうとした岡部倫太郎は、彼女の両手に頭を掴まれそのままぐいと身を引き寄せられる。
そしてそのままぽふ、と彼女の胸の谷間に顔面を埋められ、ぎゅっと抱き締められた。

桐生萌郁はそのままの状態で、困惑したように眉を八の字にして暴れる岡部倫太郎(の後頭部)を見つめている。
身体が熱くって、抑え切れない何かが下半身から全身を貫いていて。


けれど……具体的にどうしてよいのかがわからない。


いや、何をすればいいのかは知識では知っている。
己のヴァギナに彼のペニスを迎え入れればいいのだ。
問題は一体どういうルートをたどればその流れに行きつくのかがわからない、という事である。

どういう台詞で誘えばいいのだろう。
どういう体勢で迎えればいいのだろう。
どうすれば、どうしたら。
それがわからぬ彼女は……だからとりあえず彼が性的な興味を示した己の胸に彼を迎え入れてみたのだ。

「〜〜〜〜〜〜っ!」

じたじた。

「〜〜! 〜〜〜〜!!」

ばたばた。

「〜!! !!! 〜〜〜〜〜!!!!」
「岡部くん……?」

桐生萌郁が腕の力を緩めると同時に、岡部倫太郎が彼女の胸の谷間から無理やり頭を引っこ抜いた。

「ぶはぁっ! ぜぇ、ぜぇ……窒息するわっ!」
「ご、ごめんなさい……」

興奮どころではない岡部倫太郎の剣幕に、びくりと肩を震わせ泣きそうな瞳で彼を見つめる。
どうしよう。どうしよう。
怒らせちゃった。怒らせてしまった。
どうすれば、どうしたら……。

「萌郁……いいんだな?」
「…………っ!!」


どうする必要も、なかった。


両手で顔を覆って、真っ赤になって、
けれど……彼の言葉に、小さく、だがはっきりとこくんと頷く。
肉欲と歓喜と……そして確かな期待を込めて。




岡部倫太郎は己の逸物を掴むと……
激しく濡れそぼった、桐生萌郁の女陰をずぶりと貫いた。
616名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 01:43:16.93 ID:ZtJj3+Qt
というわけで今宵はここまで〜
ようやく結ばれた二人……
そんなところで次回にお会いしましょう…… ノノ
617名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 02:23:21.69 ID:TiSHT8oV

これは激しくなるな
618名無しさん@ピンキー:2012/12/08(土) 22:13:10.65 ID:2CnwVN6Z
激しく乙。
久々にダーリンをプレイしたけど、やっぱりもえいくさんは睫毛長くて美人だわ
619名無しさん@ピンキー:2012/12/09(日) 00:49:19.69 ID:Wz7l9HYK
もえいくさんの胸で窒息したい
620名無しさん@ピンキー:2012/12/09(日) 04:32:24.38 ID:WsB1Nl85
萌郁さんの胸で逝けるなら…

あ、なんか助手が電極持ってこっちに来た逃げr
621名無しさん@ピンキー:2012/12/09(日) 18:33:57.34 ID:blB6EdQg
乙・プサイ・コンガリィ
もう、もえいくさんと結婚しちゃえよw
それにしても各ヒロインの中で助手が1番チョロイ気がする……難易度的に
622名無しさん@ピンキー:2012/12/09(日) 18:43:33.07 ID:qZECjgVe
いや、まゆしぃだって喜んで……というよりは当然のようにOKしそうな……
623名無しさん@ピンキー:2012/12/10(月) 23:10:54.52 ID:m3FjPfK+
こんばんは……
今日は珍しく余裕をもって更新できそうです
624第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/10(月) 23:13:51.91 ID:m3FjPfK+
6−22:2011/02/13 21:32 

「くぅ……んっ!」

脚をM字に広げられ、覆い被さるように彼女を組み伏せた岡部倫太郎に正面から貫かれる。
桐生萌郁は苦しそうに呻きながらびくん、と背を反らし、だが暴れることも抵抗することもなく彼を受け入れた。

「……大丈夫か?」
「ん、平気……」

平気なわけがない。
己の薬指を噛んで必死に痛みに耐えている彼女は瞳から一筋涙を流し、その全身を小さく震わせている。
破瓜の痛みに必死で耐えているのだろう。
だが視線を逸らしながら、瞳を潤ませたまま、彼女はただの一言も泣き言を言わぬ。
それはまるで不平を言った瞬間に今までの全てが消え失せてしまうのではないかと思っているようで、そしてそれを恐れ必死に我慢しているようで、岡部倫太郎は不覚にも胸を高鳴らせると同時に少し腹を立てた。

「萌郁、なんだその顔は」
「な、なんでも、ないの……っ」
「嘘が下手だな、お前は。言っただろう。お前を幸せにしてやると!」
「おかべ、くん……? ふぁっ?! あ、ひあっ?!」

急な律動は彼女の痛みを増すだけだし、彼女が感じ始める前に己が達してしまう怖れがある。
だから岡部倫太郎はまず腰を動かさず彼女の身体を慣らす事にして、替わりに桐生萌郁の感度を高める事にした。

まずは胸。次に胸、そして胸だ。
優しく、強く、時には強引に。
揉み、掴み、こねくり、いじり回し、弄び。
手で指で、舌で、唇で、そして歯で、これまでのあらゆる知識と経験を駆使して彼女の乳房を、そして乳首を刺激し、蹂躙する。

「ひんっ! おかべ、く、はげし、すっ、んん〜〜〜っ! ん、んむう!? ん、ちゅ、ちゅぱぁ……へあ……あんっ!」

激しく息を吐き悶える桐生萌郁の必死の嘆願を唇で塞ぎ止め、口腔内を犯しながら手指で彼女の胸をさらに刺激し続ける。
そしてそのまま髪を撫で、首筋をこすり、顎を撫で上げ、肩から背中に指を這わせて少しでも感じやすそうなところを彼女の反応から探り、攻め嬲った。
625第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/10(月) 23:16:45.73 ID:m3FjPfK+
「んん〜〜っ! ぷぁっ、おかべくん、あ、そこだめぇ……んっ! はんっ」
「なるほど……ここが敏感なのだな、萌郁」
「ひんっ!?」

背中をなぞりながら尻肉をまさぐりつつ、岡部倫太郎がニタリと意地悪く笑う。

「どうした……今のはどこの反応だ、萌郁」
「くふぅ……ん、んんっ!」
「…………?」

だがどうにも手指の動きと彼女の反応が一致しない。
というか常に岡部倫太郎の言葉に反応して手指で悶えているように見える。

「もしかして……触れるのと一緒に名前を呼ばれるのがイイのか……『萌郁』?」
「ひぅんっ! あ、はぁぁ……っ!」

最後の彼女の名前だけやや大きく、はっきりと、身を乗り出して彼女の耳元で囁いてみる。
効果は絶大だった。桐生萌郁は全身を震わせ、必死に閉じようとしていた口をだらしなく開けては眼鏡越しの瞳に欲情と悦楽と涙を滲ませ激しく悶えた。

「なるほどな……この期に及んでもっと名前を呼んで欲しいのか……いじましいな、萌郁」
「ひんっ」
「萌郁」
「くぅんっ」
「萌郁…」
「ふぁ、ぁ、ぁ、あ、おかべくん、おかべくぅん……っ、あ、あひっ!?」
「萌郁!」
「ひぁ、あぁ、ぁぁぁっ!」

手指で桐生萌郁の全身を愛撫しながら、耳元で、様々な語調で、ひたすらに彼女の名前を囁き続ける。
たったそれだけで、彼女はまるで糸の絡まった人形のようにその四肢を蠢かせ、舌を突き出し、快楽に溺れてゆく。

これも言葉責めの一種と言えるのだろうか……
岡部倫太郎が彼女を解放した時、桐生萌郁は彼の腕の中、微かにその身を震わせながら息も絶え絶えの状態でぐったりとしていた。

言葉と手指だけで、彼女は幾度となく軽い絶頂を味わった。
指先から患部へと放たれる快楽と、耳元から全身へと広がる快感が、彼女のすっかり発情した肉体の各所で絡み合いぶつかり合って、小さな爆発を引き起こす。
そしてそれが連鎖するように次々と全身を貫き、悦楽の情動となって幾度も幾度も彼女の身を焼いたのだ。
626第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/10(月) 23:22:01.54 ID:m3FjPfK+
「ひゃ、おひゃへくん、わ、わらひ、わらひぃ……」

感じすぎて口元が覚束ない。そんな彼女の様子に、岡部倫太郎の下半身は強く反応し、桐生萌郁の中を寄り一層に深く貫く。

「ひんっ?! は、ひゃ……っ」
「萌郁……動くぞ」
「ん……っ」

岡部倫太郎の肩を震える指先で掴み、こくんと頷く。
彼女の瞳に宿る覚悟と理性の閃き。
だが……岡部倫太郎が一突きすると、その顔はたちまち悦楽の渦に囚われてしまった。

「ひんっ、あっ、あ、あ、おかべくん、おかべくんっ」

がくがく、と肢体を揺らし、嬌声を上げながら目の前の男の名を連呼する。
何が言いたいのか、と彼が顔を近づけると、首に腕を回してしがみつき、甘えるように彼の唇を吸った。

「んっ、ちゅっ、ん、あっ、ひんっ、あ、あ、あ、ああっ、おかべくんっ、ああっ」

岡部倫太郎の下で脚を開き、貫かれるがままに悲鳴を上げ悶える桐生萌郁。

「んっ、あっ、やぁっ、よこ、当たる、の、ふぁっ、あああっ」

やがて岡部倫太郎は彼女の左脚を肩にかけ、彼女を横臥させて刺し貫くと、これまでと違った刺激に桐生萌郁は背を反らし、胸をベッドに押し付けて激しく悶えた。

「だめっ、おかべくんっ、そこっ、あっ、やぁっ」

岡部倫太郎のたどたどしい体位の移行に、だが何一つ逆らわず素直に従う。
遂に彼女は四つんばいとなり、獣のような姿勢で腰を掴まれ、背後から貫かれるまでとなった。

「おかべくんっ、おかべくんっ、あっ、やぁっ、こんな、のぉ……っ」

髪を振り乱し、獣のように喘ぎ叫んで、涙と汗を撒き散らし尻を振る。
がくがくと震えた腕は崩れ、肘と胸で身体を支えながら、けれどその大きな尻だけは高く掲げて、
初めてだというのに……彼女はすっかりその行為に溺れ切っていた。
627第6章 夜陰嫋々のダブルムーン(4):2012/12/10(月) 23:31:54.23 ID:m3FjPfK+
「んっ、あっ、おかべくんっ、おかべくんっ、わ、わたし、もう、もう……っ」
「ああ、俺も限、界、だ……っ!」
「あっ、あっ、ああああああっ」

ラストスパートとばかりに勢いを強めた岡部倫太郎の動きに、桐生萌郁は溜まらず激しい嬌声を以って応えた。

「お、おひゃべくんっ! わ、わらひ……も、もうらめぇっ! ふぁっ、かは……っ」

びくん、と大きく背を反らした桐生萌郁は……
だらしなく開いた口から涎まみれの舌を突き出し、絶叫と共に達した。

「あぁああぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」

どくん、どくん……
己に注がれる白濁を貪欲に啜るべく、股を閉じて強く陰茎を締め付ける。
岡部倫太郎の肉茎の形と大きさ、そして生の射精の感覚を……桐生萌郁の膣壁はしっかりと覚え込んだ。
やがて彼自身がゆっくりと引き抜かれると、くた、と両腕から力が抜けて、上体を崩しベッドに顔から倒れ込む。
上体をだらしなくシーツの上に投げ出しながら、だが尻は未だ高く掲げたまま、岡部倫太郎が征服した証をその股間からとろりと垂れ流しつつ……首を傾け足元にいる彼を見つめた。


その瞳は情欲に満ちていて、どことなく物足りなげで、なにか甘えているようで。


やがて……己の横に置かれていた彼の左手に目を留めた彼女は、眼鏡越しの物欲しげな瞳でその人差し指を咥えた。
そしてはむ、はむ、と彼の指を味わうように唇で甘噛みしながら、じぃ……、と無言で、けれどじっとりと熱を帯びた瞳で彼に訴えかける。

己の疼きを、肉欲の昂ぶりを……己の女陰(ほと)が彼の迸りを欲しているのだと。
そしてもぞもぞ、もじもじと、自らの火照りを見せつけるかのようにその太く柔らかな太ももを幾度も擦り合わせて……


「萌郁っ!」


岡部倫太郎は、溜まらず彼女の上に再び覆い被さり、その乳房に乱暴に手指を這わせる。


「あン……っ!」


すっかり性に目覚めた桐生萌郁の身体から、真冬だというのに熱く馨しい汗が迸った。
それは臭気とも呼べる強い臭いではあったが、同時に男を蠱惑し興奮させる成分が満ちていて。
鼻腔から脳髄を焼かれた岡部倫太郎は、無我夢中で彼女のおとがいを掴むと、激しくその唇を吸った。


やがてベッドの上からくぐもった声が漏れると……絡み合った二つの影が再びリズミカルな律動を刻み始める。




燃え上がった二人の夜は……まだ当分終わりそうにない。
628次回予告(予定):2012/12/10(月) 23:36:09.48 ID:m3FjPfK+
7−0:2011/02/12 01:00 未来ガジェット研究所

がくん、と岡部倫太郎の体が揺れて、携帯電話を持つ手がだらりと下がる。

「あれ、岡部倫太郎、もしかしてタイムリープしてきた?」

床に胡坐を掻いて座り込み、ヒーターに手をかざしていた阿万音鈴羽が問いかける。

「……ああ」
「相手は?」
「萌郁……指圧師だ」
「ああ、萌郁おばさんね」
「だが……」
「ん? なに?」
「果たしてこれで良かったのか……と思ってな」

あの時、確かに桐生萌郁の軛を外してやった、そんな気がした。
彼女の内に籠もり、他人や携帯電話に依存する性を、ほんの少しでも救えた気がしたのだ。

けれど……タイムリープをしてしまえば、彼女は元のままだ。
かといって岡部倫太郎にも余裕があるわけではない。
他のラボメンを攻略している最中に彼女のことまで気に掛ける余裕はないのだ。

ならば……何ができるだろう。
全て遡り無かったことにしてしまった今、彼女のために何をしてやれるのだろう。何が許されているのだろう。
先刻まで傾けてきた全力は……無駄だったとでも言うのだろうか。

「大丈夫だよ、岡部倫太郎」
「む……何がだ?」

阿万音鈴羽の声に、岡部倫太郎が顔を上げる。
その苦渋に寄った眉根を身ながら、彼女は呆れたように笑っていた。

「萌郁おばさんは未来でも元気だよ。詳しくは言えないけど……素敵な人」
「そう、か……」

その言葉に少しだけ肩の力が抜ける。
もし未来で彼女が今より前に進めているのだとしたら、もしかしたらこの先の未来でまた彼女をフォローする機会が巡ってくるのかもしれない。
その時は全力でサポートしてやらねば……そんな決意を新たにする。
629次回予告(予定):2012/12/10(月) 23:40:11.78 ID:m3FjPfK+
「そういえばバイトの件はすまなかったな。急な話で」
「バイト? あたしが? どこの?」
「いや、そういえば今のお前にはまだ頼んでいないのだな……」

嘆息しながら大きく伸びをする。
あの後互いが求め合うままに、幾度も幾度も肌を重ねた。
この肉体には特に疲労が蓄積しているはずもないのだが、なんとなく疲れた気がする。

「えっと、後は誰が残ってるの?」
「……まゆりだけだ」

阿万音鈴羽はその返事を聞いて目を丸くする。

「えー、もう? さっすがオカリンおじさん! ……じゃなかった、岡部倫太郎!」

彼女にとってはつい先刻事情を説明したばかりの感覚なのだろう。
だが岡部倫太郎はこれまで既に幾十ものタイムリープを繰り返してきたのだ。
幾ら事情を共有しているとはいえ、この感覚を分かち合う事は難しい。

「いっそお前にもタイムリープをしてもらえばよかったな」

と一瞬口に出しそうになったが、やめておいた。
この世界線では阿万音鈴羽は(この時代の)ラボメンたちと面識がない。
自分に続いて見知らぬ女性までがタイムリープしたら他のみんなはどう思うだろう。
場合によっては牧瀬紅莉栖あたりが同じようにタイムリープしてくる怖れすらある。そうなれば色々と台無しではないか。

岡部倫太郎は小さく溜息をついて窓際まで歩く。
夜風が窓を揺らしカタカタと小さな音を立てていた。外に出たらきっと猛烈な寒さに違いない。

「まゆり、か……」

難度、という意味ではフェイリス・ニャンニャンや桐生萌郁に比べてずっと低いかもしれない。
けれど長い付き合いなだけに、他の仲間よりも躊躇があるのもまた確かだ。
だが……これが彼女のためになるのなら。
椎名まゆりを救うことに繋がるのなら、岡部倫太郎は迷わない。迷ってはいけない。
かつて彼女を救うために命を賭けたように。今度もまた全てを賭けて。
けれど、その『手段』のことを考えたとき、岡部倫太郎の眉根が僅かに歪む。


この手で……抱く、というのだろうか。
彼女を、大切な彼女を。椎名まゆりを。この手で。
愛情ではなく、いや愛していないとは言わないけれど……大義という名の言い訳の下、目的のための手段として。




彼の懊悩と嘆息は……窓を、ほんの少しだけ曇らせた。




(『第7章 懸想千秋のハープスター(上)』へ つづく)
630名無しさん@ピンキー
というわけで第6章、萌郁さんルート完結でございます。
他のヒロインと違って依存攻略完了状態から恋愛攻略完了にもっていくというちょっと変わった構成上、
エロパートより攻略パートの方に比重が傾いてしまいました
いわば携帯依存モードの萌郁さんと無口キャラとしての萌郁さんのダブル攻略みたいな

実のところ個人的には萌郁さんルートはだーりんでだいぶ満足しちゃってるんですよね
ただ正規ルートで萌郁さんエンドがない! ってのだけが心残りで、それをなんとか補完しようと四苦八苦してみました。

萌郁さんファンが少しでも壁ドンしてくれたら、
そうでない方が少しでも彼女の魅力に気づいてくれたら、
そんなエピソードであってくれれば、と思います。

さて次回から第7章、遂にまゆりの登場です。
実のところ残りの二人はもう攻略完了してんじゃね? とゆうレベルで好感度が高いのですが、同時に本編にて二者択一を迫られた因縁のヒロインでもあります。
そのあたりを上手く書けたらなあ……と思いつつ今宵はそろそろこの辺で〜

感想などいただけたら一層の励みになったり ノノシ