一年前新設された冒険者養成学校モーディアル学園。
多くの施設が冒険者候補生達で賑わっているが、その中でもここ学生食堂は、候補生がいない時など無いのではと言われるほど
常に明るい喧騒に満ちている。仲間と冒険の相談をする者、恋人同士で桃色空間を作りあげる者、
仁義なきおかずの奪い合いを始める者など、その過ごし方は様々だ。
そんな中、明るい雰囲気から距離を置くように、壁際の席で一人ぽつねんと食事をする候補生がいた。
病的なほど白い肌に側頭部から生えた二本の角。冥界の血を継ぐディアボロスだ。
モーディアル学園は、新設校ということもあり、入学式の時期以外でも編入生という形で多くの候補生を受け入れている。
死の危険が常に付きまとうとはいえ冒険者に憧れる若者は決して少なくない。平均して月に一度、多い時は複数回、
編入生の入学式が行われていた。彼女もそんな編入生の一人だった。一足先に冒険者候補生となった姉の影響もあって、
新進気鋭と名高いモーディアル学園にやってきたのだ。しかし、彼女はついていなかった。共に編入する候補生の面々が、
何と言うか、他種族から受け入れられやすい者らに偏っていたのだ。
ノーム、クラッズ、ヒューマンとセレスティアが複数人。
これらの生徒達を外してまで、他種族から嫌われがちなディアボロスをパーティーに誘う変わり者はいなかった。加えて、彼女は
自分が嫌われやすいことを重々承知していたし、元来内向的な性格でもあったので自分から誰かに声をかける気にもなれなかった。
入学から二週間が経ち、同期の候補生が落ち着き場所を見つけた現在になっても、彼女は一人のままだった。
この現状をどうにかしたい、と思わないでもない。冒険者を志した理由の中には、信頼できる仲間を得たいという願いも確かに
含まれているのだから。しかしそれでも、思いきって声をかけた時に返された、あの怪訝そうな迷惑そうな目を見てしまうと、
どうしても尻込みしてしまうのだ。
(…このままではよくないな…一人用の課題を出してもらうにも限りがあるし…)
もそもそと食事を続けながら心の中で溜め息をつく。
自分の種族が嫌われやすいとはいえ、他のパーティーにディアボロスがいないわけではない。
血筋を言い訳に心を閉ざすのも良くないことだと分かっている。
(分かってはいるのだが…)
何度も何度も繰り返し、何十回目かの堂々巡りに陥っていたディアボロスは、
「よう。ここ、座らせてもらうぞ」
「…………えっ? あ、え、は」
不意にかけられた声に反応が遅れ、
「…………は?」
慌てて顔を上げたら山盛りの料理が視界に飛び込んでくるという不思議経験をした。お皿いっぱいのご飯とパン、ステーキ五枚、
山盛りカレー、ハンバーグ六個、川魚の香草焼き四匹、根菜とゆで卵のサラダ、湯で野菜バーニャカウダ添え、その他諸々エトセトラ。
学食のメニューが一通り、文字通り山盛りになっている光景に、ディアボロスは我が目を疑った。
成長期且つハードな毎日を送っている冒険者候補生は基本的によく食べるとはいえ、これはちょっと度を超えている。
「おっと、これじゃ顔が見られんな」
そう言って、山が崩れないよう料理を除け、その間から顔を出したのはバハムーンの男子生徒だった。
確かに、身体が大きく代謝も高く前衛職に就くことが多い彼ら彼女らはよく食べる。が、これは大分度を超えている。
「これでよし」
「……お腹壊さないのか……?」
「こんくらい普通だろ?」
「普通であってたまるか!」
思わず声を荒げてしまい、ディアボロスはしまったと口を押さえる。が、バハムーンは特に気にした様子もなくばしりと両手を合わせ、
「いただきます」
丁寧に一礼すると山を崩す仕事に取り掛かった。
「………………」
しばし、食事を食べる音だけが響く。
ガツガツと、しかし以外にもよく噛み、みるみるうちに山を小さくしていくバハムーンを、ディアボロスは呆気にとられて眺めていた。
数十分後、見事にきれいになったお皿を積み重ねたバハムーンは手を合わせ、
「…いかんいかん。デザートを忘れていた」
「まだ食べる気かおまえっ!?」
再びディアボロスのツッコミを誘う。
デザートは大事だろう! と大真面目な顔で言いきった彼を見送ったディアボロスは、そこでようやく自分たちが
――というかあのバハムーンの食事がとても目立っていたことに気付いた。途端に居心地が悪くなるが、幸か不幸か、
バハムーンが持ってきたデザートのせいで意識は再びそちらに持っていかれる。
「……お腹、壊さないのか……?」
「甘いもんは別腹って言うだろ」
「別腹にも限度はあるだろう…?」
半ば予想はしていたが、数種の果物とアイスを筆頭に、ホットケーキプリンクッキーチョコレートフルーツポンチ杏仁豆腐その他諸々。
基本的に、冒険者候補生の食費や寮費といった、いわゆる冒険に関係ない生活費は全て学園側が出しているのだが。
「いやー、こんなうまいもんが好きなだけタダで食えるなんて、冒険者候補生って得だよな」
「…私は今、食堂の皆さんと会計の方に頭を下げたい気分だよ…」
いつもお疲れ様です。
「そういやあんた」
「え、あ、なんだ?」
「食わんのか、それ?」
そう言われて、そういえば自分の食事がほとんど手付かずだったことに気付く。
「…なんだが食欲がなくなった」
「ちゃんと食わんと体に良くないぞ?」
「お前が原因なんだがな」
「俺?」
きょとんと首を傾げる彼は本気で気付いていないらしい。
「そらはともかくとして。ええと…何の用だ?」
「む?」
「わざわざここに座ったということは、私に用事があったのではないのか?」
「用事…あー、ああ! そうだったそうだった。忘れてた」
コイツ本当にバハムーンか?
ディアボロスの頭上に飛び出ている疑問符には気付かないようで、バハムーンはにかっと笑う。
「用事というか、提案というか。頼みがあってな」
「頼み?」
「お前さん、この前入学した編入生だろ?」
「そうだが」
「んで、まだチーム組んでないだろ?」
「…まぁ」
渋々頷いたディアボロスに、バハムーンは人懐っこい笑顔を見せた。
「なら、俺と組んでくれないか?」
「おまえと?」
「ああ。俺も、あんたよりちょいと早く入学したんだがまだ一人身なんだ。だから、丁度良いかと思ってよ」
「…それだけの積極性があれば、どこかしらのチームに入れたのではないか?」
「どこも6人揃っててなあ」
お手上げだと両手を上げるバハムーンは嘘をついているようには見えない。ディアボロスは少し考える素振りを見せ、眉根を寄せて言葉を返した。
「こちらとしては悪い話ではない。だが、私と組んでいると来る者も来なくなるかもしれないぞ」
「構わんよ。ディアボロスとバハムーンの仲間はお断り、なーんてヤツ、こっちから願い下げだ」
あっさりと言われてディアボロスは複雑な気持ちになった。
自分のような者を仲間として受け入れてもらえるのは嬉しいし、少し話しただけの印象ではあるが、バハムーンはとっつきやすい
快活な性格のようだ。パーティーを組む相手として文句はないどころか、こちらからお願いしたいくらいである。
しかし、だからこそ、自分が原因で彼の足を引っ張るような状況になるのは躊躇われた。
黙り込んでしまったディアボロスを見て、バハムーンは困ったように頭をかく。
「…なんか考えてるようだが、駄目な理由でもあるのか?」
「え…あ、いや…」
「別にお前さんを困らせたいわけじゃないんだ。迷惑ならはっきり言ってくれ」
「ちがっ、迷惑なんかじゃない!」
「ならパーティー成立だな」
「っ……」
反射的に出た言葉を拾われてディアボロスは言葉に詰まった。
何かを言おうと暫く口をぱくぱくと動かしていたが、肝心の言葉が出てこずがっくりと項垂れる。
「……分かった、分かったよ。これからよろしく頼む」
「おう!」
もう一度大きな溜め息をついた彼女だが、にっこりと笑うバハムーンを見ているとどうも文句を言う気が起きず、呆れ交じりの笑みを見せた。
「おっ。あんた、笑うとずいぶん可愛らしいんだな。もっと笑ったほうがいいぞ」
「…はあっ!? なっ、ば、ぅ…よ、余計なお世話だ!」
一人が二人に増えたとはいえ、彼女らはまだまだ新米冒険者である。どちらかが倒れたら確実に大変なことになる二人は、
石橋を叩いて壊すくらい慎重に探索を進めていたので、他と比べると明らかに出遅れていた。
しかし、彼女たちは、頭数の少なさやスタートの遅さを覆せる程には優秀だった。
竜騎士と侍という戦闘特化型のバハムーンが敵を倒し、踊り子のディアボロスが彼を支援する。ディアボロスは必要に応じて
攻撃に回ることもできるため、二人という少数ながらも安定した戦闘を進めることができていた。また、明るく気さくな性格だが
少々落ち着きがないバハムーンと、内向的で人見知りしがちだが思慮深いディアボロスは、性格面でもうまい具合に役割分担ができていた。
ディアボロスとバハムーンがチームを組んで一ヶ月。
華々しい活躍はないが一歩一歩着実に課題を完了する二人は、学園内での評価をじわりじわりと高めていった。
ある日の夕方。冒険を終えた二人はいつものように食堂にやって来ていた。一か月前までは気分を沈ませる要因だった活気ある
雰囲気も、隣に気の置けない仲間がいるだけで和やかな気分にしてくれるものに変わっている。そんな自分の変化はどこか
気恥かしくもあったが、それ以上に喜びが勝っていた。
「よし、食うか!」
「そうだな」
きちんと手を合わせた二人は待ちに待った食事に手をつける。
食べながらいつも通りなんてことの無い雑談を交わしていた二人だったが、不意にディアボロスが首を傾げる。
「……ん?」
「どうひひゃ?」
「口に物を入れたまま喋るな。…おまえ、以前よりも食べる量が減っていないか?」
「む…そうか?」
今日のバハムーンの夕食は、どんぶり山盛りのご飯、オムレツ四枚、ボウルいっぱいの野菜サラダ、鮭のムニエル五枚に
二種のパスタを各々大皿一枚ずつ。主食主菜副菜各一つのディアボロスと比べたらはるかに多いが、それでも、
初めて会った時よりは減っている。以前よりも運動量が減ったのだろうか、と首をひねるも、チームを組んでからの方が
探索に回す時間は長くなっているのだ。運動量が減るとは考えにくい。
「もしや、体調が悪いんじゃないか?」
「俺はこの通りぴんぴんしているぞ」
「自覚が無いのかもしれないな。おでこ見せてみろ」
「おお」
「……平熱だな。となると胃腸に問題があるのか…? バハムーン、念のため食事が終わったらモミジ先生のところへ」
「いや待て。少し落ち着け、ディアボロス。俺は大丈夫だ」
「しかしだな」
淡々と、しかし顔に「心配」の文字を張り付けながら言うディアボロスに、バハムーンはくすぐったそうな苦笑を見せた。
「お前さん、意外と過保護だよな」
「…仲間を心配するのは当然のことだろう」
「だから大丈夫だ。いくら俺でも自己管理くらいはできる。単純に、腹いっぱいになるから食わないってだけだ」
宥めるように言われ、ディアボロスの頭上には疑問符が飛んだ。あれだけ大量に食べていたのに満腹ではなかったということだろうか。
彼女の反応を見てか、バハムーンはぽりぽりと頬をかく。
「今までは、何故か満足できなかったんだよ。沢山食べたはずなのに妙に飢えてたんだ」
「あれだけの量を食べていたのに、か?」
「そうなんだ。だが、今はそんなことはもうない。腹いっぱいなのに余計な飯食う必要はないだろ」
何となく釈然としないが、本人が言うのだから間違いはないのだろう。
ディアボロスは頷くと、美味しそうにオムレツを頬張るバハムーンと同じように自分の食事に手をつけた。と、そんな時。
「食事中に失礼。ここ、座っていいかい?」
二人に落ち着いた声がかけられた。
声をかけてきたのは男子用の制服を着たクラッズの女子生徒だった。後ろには、遠慮がちに目を伏せているフェルパーの女子生徒も控えている。
「おっ、クラッズじゃないか。久しぶりだな」
「ご無沙汰しているよ、バハムーン。それから、君とは初めましてだよね? ディアボロス」
「えっ、あ、ああ。そうだな」
穏やかな笑顔を向けられ、ディアボロスは内心驚いた。そんな彼女には気付かぬまま、バハムーンは嬉しそうに席を勧めている。
「クラッズとは侍学科が一緒でな。何度か手合わせしたことがあるんだ」
「そうだったのか」
クラッズといえば盗賊学科系というイメージが強かったが、と頷くディアボロスにクラッズはにこりと笑ってみせる。
「一般的ではない自覚はあるよ。けれど、私は戦闘職が性に合っていてね」
「ああ、すまない。悪い意味で言ったつもりはないんだ。その…」
「大丈夫、気にしていないさ。例え偏見の目を向けられても実力で黙らせれば良いだけだし。
…そうそう。それで、君たちにお願いがあるんだ」
「お願い?」
どうしたんだと首を傾げるバハムーンの一方で、ディアボロスはこの流れに既視感を覚えていた。
彼女の予想を裏付けるかのようにクラッズは口元を引き締める。
「私と彼女を君たちのパーティーに入れてくれないかな」
「おお、構わんぞ。仲間が増えるのは大歓迎だ。な、ディアボロス?」
「そうだな」
「軽いね?!」
それまで冷静な姿勢を崩さなかったクラッズが初めて動揺を見せた。
彼女の影に隠れている――体格差的に隠れられていないのだが――フェルパーも、驚いたように尾をぴんと立てている。
「それでいいのかい君たち!?」
「仲間が増えるのは大歓迎だと言っただろう。…あ、待てよ。そういやお前さん、もうパーティー組んでたよな? そっちはいいのか?」
「…うん。そこを何よりも先に聞かれると思っていたんだけどね」
クラッズは苦笑した。そして、フェルパーに一瞬だけ気遣うような視線を向けると、もう一度こちらに向き直る。
「実は、私とフェルパーは、今まで所属していたパーティーを抜けたんだ」
「なら問題ないな。よし、明日からよろしく頼むぞ!」
「いやちょっと待っておくれよ! ここで終わりじゃないんだって!」
「む?」
きょとんとするバハムーンに頭が痛くなりつつ、ディアボロスは二人の間に入る。
「ちょっと待て、バハムーン。パーティーを抜けたというのなら、一応その理由も聞いてみたい」
「何故だ?」
「…わざわざチームを抜けるのにはそれなりの理由があるだろう? そこを曖昧にしては、いつか問題が起きるかもしれないからだ」
「クラッズはいいやつだ。こいつが連れてきたんならフェルパーもいいやつだと思うぞ?」
「おまえの友人を疑うつもりはないし、私だって仲間が増えるのは嬉しい。だが、念には念をと言うだろう」
「あんたは少しばかり慎重すぎるな」
「勇敢と蛮勇は天と地ほどに違うからな。…言いたくないのなら言わなくても構わない。教えてもらえないか?」
二人のやり取りをどこか嬉しそうに聞いていたクラッズは、ディアボロスの言葉に大きく頷いた。
ずっと下を向いていたフェルパーも、耳と尻尾をぴんと立て伺うような眼差しを向けてくる。
「一言で言うと、他のメンバーとそりが合わなくなってしまったんだ。
私は侍で、この子はナースなんだけれども、それでは駄目だ、転科してくれと言われてね」
「…どういうことだ?」
パーティー内に回復役がいないとか、魔法職がいないとかの理由で転科をする候補生は大勢いる。
言葉だけ聞くとそれが原因でパーティーを抜ける事態にまでなるとは考えづらい。
「言葉通りなんだけれど…私は風水師に、フェルパーは狩人とビーストになるよう言われた。前衛が足りなかったわけでも、
魔法職が足りなかったわけでもないよ? 風水師の幸運の鐘と、真・二刀龍で両手に弓装備が欲しかっただけだ。
私は前衛の戦闘職がやりたいとか、フェルパーは戦うのが苦手だとか、そういった事情はどうでもよかったみたいでね」
クラッズの口調はあくまで淡々としていたが、鋭く吐き出した呼吸に内心が表れていた。
「何度も話し合おうとしたけれど、意味はなかった。それどころか、パーティーの決定に従えないのなら抜けろと言われてさ。
それで、つい、カチーンときてしまってね」
あとはご覧のとおりさ、と笑うクラッズと、しょんぼりと耳を落とし尻尾をへたらすフェルパーを見て、
しかめっ面で聞いていたバハムーンは炎交じりの息を吐く。
「よく分かった。ディアボロス、これで文句はないだろう!?」
「分かったからブレスを吐くな。…嫌な記憶を話させてすまない。是非、私たちのパーティーに入ってほしい」
「助かるよ! こらからよろしくね」
「…よろしく、おねがいします」
「うぉ!? あんた喋れたのか!」
「おい、バハムーン!」
「………………」
しゅんと耳を伏せるフェルパーに、ヤバイと口を押さえるバハムーン、そしてバハムーンを諌めつつフェルパーに
気遣わしげな目を向けるディアボロス。新しい仲間たちを見つめるクラッズは、普段とは違う、年相応に無邪気な笑顔を見せた。
二人が四人に増え、戦闘や冒険の幅は一気に広がった。
ディアボロスの支援を受けたクラッズとバハムーンが突っ込んで行き、フェルパーが回復し、前衛が取りこぼした敵は強烈な
鞭の餌食になる。後衛を気にせず戦えるためか、前衛二人はそれはもうのびのびと剣や槍を振り回し、時に後衛二人が
頬を引きつらせるほどの戦いっぷりを見せた。また、戦闘に余裕が出たおかげで、今までは手応えの無さを感じながらも
始原の森の入口近くしか探索できなかったのが奥の方まで行けるようになる。
資金や資源は倍ほどに溜まり、おかげで装備を強化することもでき、戦闘は更に楽になった。他のパーティーが苦戦していた
バドネーク討伐の試験も、あまりにも簡単にあっさりと倒せてしまったので面喰ったほどだ。
メンバー同士の中も、初めのうちこそぎこちなさや緊張感はあったが、四六時中ずっと一緒の状態を何日かも続ければ、
自然と慣れや愛着が湧いてくる。まさに、順風満帆だった。
(……順風満帆、なんだが)
中庭の端に腰かけたディアボロスは心の中で呟いた。
彼女の視線の先では、バハムーンとクラッズが物干し竿と木刀を得物に鍛錬に励んでおり、フェルパーはディアボロスの隣で医学書を
読みふけっている。始原の森は一通り探索したし毎日毎日冒険に出るのもなんだから、という理由で、一行は久々の休日を楽しんでいた。
「おら、まだまだ行くぞ!」
「ふふっ。全力でかかってきたまえ!」
「…………」
楽しそうに組手をする二人を見ていると、ディアボロスの中にモヤモヤとした感情が生まれる。それを自覚した彼女は苦い顔でそっと視線を逸らした。
(馬鹿だ私は)
端的に言うと、ディアボロスはクラッズに嫉妬していた。
バハムーンの隣で剣をふるい、彼から背中を任せられているクラッズが、羨ましくて仕方がなかった。
(クラッズは、大切な仲間なのに)
口下手な自分と話している時とは違う、冗談混じりの明るいやりとりをしている二人を見るのが辛かった。
楽しそうな笑顔を、他の人に見せないでほしいと思った。
(……馬鹿だ、私は)
いつからかなのかは分からない。初めて会った時から…とは考えにくいが、ほんの最近とも思えない。
それこそいつの間にか、ディアボロスは、バハムーンのことが好きで好きでしょうがなくなってしまったのだ。
「……大丈夫?」
不意に隣から声をかけられる。ぼんやりと顔を向けると、心配そうなフェルパーがこちらを見つめていた。
「ん、ああ…大丈夫だ。少し、ボーっとしてしまった。大したことはない」
「…………」
どうにか笑ってみせたディアボロスをフェルパーはじっと見つめる。
「……二人のことが気になる?」
「え?」
「苦しそうな顔してたから」
「い、いや…そんなことは…」
否定の言葉に力はない。今の自分では何を言っても墓穴にしかならないような気がして、ディアボロスは口を噤んだ。
「…私で良かったら、聞くよ?」
「え。しかし…そんな…」
「あなたがバハムーンのことを好きなのは、分かる。バハムーンとクラッズの仲が良くて、ヤキモチ焼いちゃうのも分かる。
…辛そうだから」
「…………」
「聞くよ?」
たどたどしくも優しい言葉を聞いてディアボロスは言葉に詰まった。
この胸の内にある、よく分からない丸いような尖がったような気持ちを吐きだして楽になってしまいたいとは思うけれど、
クラッズと仲が良いフェルパーにこの感情をぶつけるのはとても酷いことのような気がした。
困りきった顔で黙り込んでしまったディアボロスを見て、フェルパーは何故か目元を緩ませる。
「ディアボロスは、優しいね」
「…優しいなんて言葉、私には一番似合わないな」
「そう?」
「ああ。おまえの方がよっぽど優しいよ」
「…そうかなぁ」
ふるふると尻尾を振った彼女は、少しの間じぃっと空を見上げ、
「……言ってみたらどうかな?」
「誰が、なにを、誰に言うんだ?」
「ディアボロスが、好きってことを、バハムーンに」
つまり告白しろということか。
「無理だ」
「無理じゃない」
「即答…?! いや、まて、無理だ。第一私のような者に告白されて喜ぶ阿呆がどこにいる」
「はぁい。ここにいます」
「……はあ!?」
予想だにしなかった答えにうろたえるディアボロスを見て、フェルパーは、珍しく悪戯に成功したクラッズのような顔で笑う。
「付き合ってって言われたら、考えちゃうけど。ディアボロスみたいな、優しくて、頼りになる人に好きって言われたら、嬉しいよ?」
「な……な……!?」
つまり、恋人になるかは別として好意を向けられることそのものは嬉しい、ということだろう。普段は青白い頬を仄かに赤らめ
――ということは、フェルパーなら真っ赤になっているところだろう――ぱくぱくと口を動かすディアボロスは大変可愛らしい。
にぃーっと目を細めたフェルパーは、一旦打ち合いを止めて何やら話しこんでいるクラッズ達に目を向け、
「…クラッズ」
「どうかしたかい?」
「うわっ!?」
「あいかわらず早いなー」
呼び寄せる。直後、一瞬でフェルパーの前に片膝を着いたクラッズに、ディアボロスは本気で驚き、バハムーンは感心の声を上げた。
「ディアボロスが、バハムーンにお話があるんだって」
「なるほど。それなら、お邪魔虫は退散したほうがいいね」
「あと、ほっぺに傷。駄目だよ、女の子なんだから」
「あはは、ごめんよ」
「……えーと」
目の前のやり取りについていけないディアボロスに、
「応援しているよ!」
クラッズは良い笑顔で親指を立て、
「待ってるよ? 行ってらっしゃい」
「…ええっ!? いや、待て、ちょっ、ここで言えと?! 無理だぞそんなの!」
「じゃあ、あとでお部屋に行かせてって言ったら? たぶん、喜ぶよ?」
「そ、そうか…?」
フェルパーは、ある意味告白よりももっと際どいことを勧める。
ディアボロスは困った様子で眉根を寄せていたが、手持無沙汰気味に三人を見ているバハムーンを放っておけなくなったのか、
ぎくしゃくしつつも近付いて行く。そんな彼女とその想い人を、フェルパーとクラッズは、微笑ましいものを見る優しい眼差しで見送った。
「…うまくいくといいな」
「大丈夫さ。バハムーンと私がいつもどんな話していると思う? 君とディアボロスの話ばかりだよ」
「そっか…じゃあ、大丈夫かなぁ…」
「…反応なし…負けるな私。ときにフェルパー。君、あんなことをディアボロスに勧めるなんて、中々情熱的だね?」
「だって、人がいるのに好きって言うなんて、恥ずかしいでしょ? だったら、人がいない方がいいじゃない」
「……うん?」
どうやら、無自覚のようであった。
その日の夜、食事を終え風呂にも入り、後は寝るだけの状態になったディアボロスは、
寝間着の代わりに制服を身に付けバハムーンの部屋を訪れた。
「よう、いらっしゃい」
「わざわざすまない」
「気にすんな。お前さんならいつでも歓迎だ」
明るい笑みと共にこんなセリフを言われ、ディアボロスの心臓は大きく脈打った。
(落ち着け…こいつに他意はない…多分わりと誰にでも言う…よし、私は大丈夫だ)
自分の言葉に自分で傷付くも、心の落ち着きは取り戻せて安心する。
とはいえ、招き入れられるままに部屋に入り、勧められるままに椅子に腰かけた彼女は客観的にみると緊張でガチガチだったが。
「それで、話ってなんだ?」
普段と変わらぬ明るい口調で尋ねられ、ディアボロスは再度緊張の波に飲み込まれた。
来るまでに考えてきた言葉は見事に吹っ飛び頭の中は真っ白になる。
「あ…のだな。そのっ…つまり…だから…」
「ディアボロス、ゆっくりでいいぞ」
「す、すまないっ! えと…その…あの…!」
(うわぁああ駄目だ落ち着け私っ! 駄目だ絶対なんだコイツって思われてる! 早く、早く言わないと…!)
ディアボロスは、完全に混乱していた。
そも、バハムーンの部屋に入ったのだって初めてなのだ。余計な物の無い武士然とした部屋に意味もなくときめいたり
無駄にキュンとしたりしながら告白なんてするのは、あまりにも、難易度が高すぎた。
混乱し、焦り、とにかく本題を言わねばと自分を急かしたディアボロスは、
「わ、私っ、おまえのことが好きなんだっ!」
「……は?」
自爆した。
「あぁぁああああ違うっ! いや違わない! 違わないんだけど違う!」
「…お、おい、ディアボロス。少し落ち着」
「ちがっ、あの、ちがうんだ! こんなことが言いたかったんじゃなくて! いや、言いたかったんだけどちがくて!
だって、その、おまえには感謝してるんだ! 私なんかに話しかけてくれて、笑いかけてくれて、仲間にしてくれて!」
「ディア」
「戦いになったら守ってくれるし! そんな奴、初めてで、すごく嬉しかったんだ!
それに、おまえはその、いつも明るくて、皆を元気づけてくれるだろう? おまえがいてくれたら大丈夫だって思えるし、
でも私だって何か力になりたいし、あまりにもまっすぐだから心配になるしな!?」
「わか」
「だから、えっとその、ずっと傍にいさせてほしいんだ! でも多分、そんなのは迷惑だから、ええと、
とにかく私はおまえのことが好きで、でも迷惑にはなりたくなくて、だから…」
ディアボロスはもはや半泣きになっていた。自分でも何を言っているのかよく分からない。
「…だから…ええと…」
先ほどまでの勢いが嘘のようにしょんぼりと肩を落とすディアボロスを見て、バハムーンは大きな溜め息をついた。
「…なぁ、ディアボロス」
「は、はい…」
「……そんなに怯えんでも、取って食ったりしないぞ」
「…すまない…」
自分でもどうにもできないのだろう。泣き出しそうな顔で目を潤ませる彼女に、もう一度大きな溜め息を零す。
「…あんたなぁ…こんな状況でそんなこと言うとどうなるか、ちゃんと分かってるか?」
「……どういうことだ?」
てっきり怒られるか断られるかと思っていたディアボロスは、思ってもみなかった言葉に目を瞬かせる。再三、溜め息が返ってきた。
「分からんか…」
「すまない…」
バハムーンは立ち上がってドアの鍵をしっかりかけ、頭上に疑問符を飛ばすディアボロスの前にしゃがみこんだ。
「これでも、分からんか?」
「ええと…なにがだ?」
「……ほんっとーに分からんのか?」
「…物分かりが悪くてすまない。全く分からない」
「……あんた、頭いいのに妙なとこ抜けてるよな」
「ど、どういう…きゃあ!?」
突然勢いよく抱き上げられ、ディアボロスは反射的に首元にかじりついた。
そんな彼女にちらりと笑みを見せたバハムーンは、大股でベッドまで歩き、抱えていたディアボロスを優しく横たえ、
その上に覆いかぶさる。散々バハムーンに溜め息をつかせたディアボロスも、ここでようやく事態が呑み込めた。
「ば、バハムーン!?」
「お、やっと分かったか?」
からかうような笑みを向けられディアボロスの頬は熱を持った。そんな彼女を慈しむかのように、バハムーンは艶やかな髪を優しく撫でる。
「悪いな。好きな奴にあんなこと言われて我慢できるほど、俺はできた性格じゃない」
「え。えっと、そ、れは…」
「好きだぞ、ディアボロス」
初めて聞くほど優しい声と共に、荒々しい口付けが落とされた。
唇を食み、歯列をなぞり、長めの舌を巻きつける。乱暴まではいかないがかなり激しい口付けに、ディアボロスは応じるのが精いっぱいだった。
「んぅっ…ぁむ…ん…バハム、ぅん…!」
少し苦しいと伝えようとしても、僅かな時間離れるのすら許さないというようにすぐ口をふさがれる。
酸欠と、バハムーンが自分を求めていることの喜びとがないまぜになって、ディアボロスの思考はゆっくり溶かされていった。
思考と比例するように、ベッドに縫い付けられている身体からも力が抜ける。バハムーンが満足げに身を起こす頃には、
ディアボロスはくたくたにされていた。荒い息をつき自身をぼんやりと見上げる彼女を見、バハムーンは笑みを深める。
「色っぽいな」
「っ…だ、誰のせいだ…!」
「勿論俺だ。俺以外の奴なんて許さんよ」
彼にしては珍しい言い方にディアボロスは目を瞬く。そんな彼女にもう一度唇を寄せ、次いで、制服のボタンにも手をかけた。
ついばむような口付けを受け止めていると、いつの間にか、ディアボロスは下着同然の格好にされてしまった。
反射的に手で隠そうとするも、
「駄目だ。全部見せろ」
「は、恥ずかしいんだが」
「我慢だな」
両手をしっかりと押さえつけられる。男女差がある上に踊り子のディアボロスと竜騎士のバハムーンだ。力で勝てるはずもない。
欲望を隠そうともしないギラギラ光る目を向けられて、ディアボロスはなんだか泣きたくなった。
一方のバハムーンは、今すぐ己を突き入れ滅茶苦茶にしてやりたい衝動を抑えるので必死だった。
反応を見る限り相手は初めてなのだから、めいっぱい優しくしてやらねばと分かっていたが、
心底恥ずかしそうなのに抵抗らしい抵抗をせず健気に耐えているディアボロスを見ると我慢できなかった。
駄目だ俺は、と楽しげに呟いて、仰向けなのにほとんど質量を変えない豊満な胸に口を寄せる。
「ん、ぁっ!?」
途端、ディアボロスの口から甘い悲鳴が漏れた。自分のものとは思えない響きに、
どうにかして口を押さえようと手を動かすが、しっかりと押さえられているのでそれも叶わない。
「やっ…ふ…ば、バハムーン!」
「良い声だな。もっと聞かせてくれ」
「いやだっ! くぅ…!」
「強情な奴め」
両手が使えないのはバハムーンも同じなので、口で下着をずり上げ、滑らかな乳房にしゃぶりつく。
「ふぁあっ!? やっ、待てっ…それ、やめっ…」
「止めてほしいとは思えんなぁ」
「ひぅっ! ぁ、ゃ…」
ほんのりと赤くなっている肌に吸いつき痕を散らす。控え目にツンと立っている乳首を舐めるとディアボロスは身をよじった。
そろそろバハムーンも限界が近かったので、押さえている手を離して秘部に手を寄せる。ディアボロスは一瞬だけ怯えの表情を見せたが、
すぐに目をつぶりバハムーンに抱きついた。彼の胸板に形の良い胸が押し付けられくにゃりと潰れる。
「……ここは天国か」
「……? バハムーン…?」
「なんでもない。ちゃんと解してからにするから、心配するな」
「す、すまない…」
「謝るな。俺は今、とても楽しい」
彼女のショーツはうっすらと染みを作り、秘裂はそれなりの潤いを帯びている。
だが、ディアボロスは大分華奢な体格だし、そうでなくともバハムーンのモノは大きめだ。もう少し慣らした方が良いだろう。
緩やかに開き始めている秘裂に指を寄せ、愛液をすくいながら全体に馴染ませていく。
ディアボロスは浅い呼吸を繰り返していたが、次第に刺激を快感と受け取れるようになったのか、控え目な喘ぎ声を零しだした。
本人は必死で押さえているつもりなのだろうが、密着しているバハムーンの耳は少しの取りこぼしもなく全て拾い上げる。
まずい、とバハムーンは瞑目した。全身で触れている柔らかい身体の感触や、濃さを増していく匂いや、
時折耳に届く甘い声が、彼の理性を削ぎ落していく。思っていた以上に限界が早い。
「…ディアボロス、すまん、頼みがある」
「……ぇ? ん、どう、した…?」
うっとりした彼女に理性が振り切れかけるも全力で引き戻す。心の中で自分の欲求と格闘しつつ、バハムーンも衣服を取り払い、
腹に届きそうなほど膨れ上がった分身を取り出した。ディアボロスが緊張と不安で顔を強張らせる。
「手を貸してくれんか」
「ええ、と…ど、どうすればいいんだ?」
「…触れそうか?」
自分にとっては身体の一部でも、ディアボロスにとっては未知の物体だ。
張り詰めんばかりに血管が浮き出ており先走り液を零している分身は、どう好意的に見てもグロテスクとしか言いようがない。
無理はいかん無理はいかんと彼女の様子を伺ってみると、
「…大丈夫だ。それに、その…私も、おまえに気持ち良くなってほしい」
興奮でどうにかなりかねないことを言ってのけた。
「なら、この辺握って…っ、軽く、撫でてみてくれ」
「…こ、こうか?」
「ぐっ…!」
「バハムーン? 大丈夫か?」
「……問題、ない」
問題は大いにあった。たどたどしい手つきで竿の部分を撫でられているだけなのに、気持ち良すぎた。
ともすればすぐに達してしまいそうだったが、ディアボロスに触られてすぐに達するのはあまりにも情けない気がしたので、
歯を食いしばり腹に力を込めて全力で我慢する。そんな彼の姿に、ディアボロスの心にはなんとも言えない愛おしさが込みあがった。
自分の手でバハムーンが気持ちよくなっているのがとても嬉しかった。その感情が、彼女を少しばかり大胆にさせた。
撫でるだけだった手で一物を優しく包み、先端から溢れる液を擦りつけるように扱いていく。
先ほど自分がされたことのお返しだったが、その効果は覿面だった。
「お、おいっ! ぐ…もういいっ、十分だ…!」
「ん…もう少し…」
「いらんって……駄目だ、出るっ…!」
そう言うのとほとんど同時にバハムーンは彼女の手の中に精液をぶちまけた。
どころか、手の中だけでは収まらず、屈みこんでいたディアボロスの腹や胸を汚していく。
「……すごい量だな」
「っはぁ…ふ…すまん。ちょっと待っててくれ、タオルを…」
敢えて彼女の方を見なかったバハムーンが言い終わるより早く、ディアボロスは、なにを思ったか手に付いた精液を口に含んだ。
「……は」
「…不思議な味がする」
仄かに口元を緩ませる彼女を見、そのしなやかな肢体を汚した精液を見、どこか嬉しそうな言葉を聞いたバハムーンの理性は吹っ飛んだ。
「……ディアボロス」
「う…ん? バハムーン、どうし…お、おい、バハムーン…?」
様子が変わったことに気が付いたのか不安げな顔でこちらを見るディアボロスに笑顔を返す。本能的に閉じられようとしていた
膝をこじ開け、露にされた秘部に舌を寄せる。ディアボロスは焦って彼を止めようとしたが、もう止まれなかった。
「ぁ、やぁぁあああっ!?」
いきなり最も敏感な陰核を舐められて、ディアボロスは呆気ないほど簡単に高みへ上りつめた。甘い悲鳴に口元を緩ませ、
刺激から逃れようと跳ねる腰をしっかり抱え込む。びくびくと震える彼女は初めての喜悦を受けきれていないようだったが、
「ぅあっ、やぁっ!? ば、バハムーン、っあぅ、ちょっと待て、待ってくれっ!」
バハムーンは待たなかった。
制止の言葉は聞かず、愛液を湧きだす秘裂に吸いつく。固く閉じた肉壁に舌を差し込むと悲鳴じみた嬌声が上がった。
それに気を良くして奥へ奥へと舌を伸ばす。
「やだっ、そんなとこ…ぅあっ、あっ…バハム、ダメだって…ひぅぁっ…や…ああ…!」
「…嫌じゃないだろ。ほら、ここも」
「んぁあっ?! やっ、待って…や、ぁ…また、きちゃ…っ――!」
再びディアボロスの背が弓なりにしなる。バハムーンは獰猛な笑みを零し、肩で息をする彼女の秘裂に自身をあてがった。
「ぁ…バハムーン…ちょっと、待って…」
「すまんな、もう待てない」
懇願を一言で切り捨て、それでもゆっくりと分身を中に沈めていく。ディアボロスは苦悶とも喜悦ともつかない声を漏らしたが、
抵抗をすることはなかった。熱くうねる中に誘い込まれ、バハムーンは意外なほど早く奥まで辿り着く。
「……ディアボロス、大丈夫か?」
「…ぁ…も…分かんな…」
「…どうしてお前はそう、興奮を煽るようなことばかりするんだ」
煽りたくてやってるわけじゃない、と返す前に、バハムーンがゆっくりと動き出す。あまり大きく動くことはせずに、細かく緩やかな
速度でディアボロスを突き上げる。苦痛と紙一重の刺激は、しかし、じっくりと攻められる内に体に響く快感に変わっていった。
「ふ、ぅぁ…バハムーン…ぁ、あぁ…」
「…少しは、辛いの、マシになったか?」
こくこくと頷いたディアボロスはバハムーンの首に縋りついた。そうされると少々動き辛いが、
甘えられているようで悪い気はしないし、熱くて柔らかくて少しきつい彼女の中は入れているだけで達しそうなほど気持ち良い。
二人はゆっくりと高みに押し上げられていった。自身の限界が近いのを感じ、バハムーンはディアボロスをしっかりと抱きしめる。
「…ディアボロス」
「っあ…ん…ばはむ、ぅあっ…?」
「…好きだ」
万感の思いを込めて最奥で精を放つ。子宮をこじ開けられ、中を埋めつくされるその感覚に、ディアボロスも限界を迎えた。
少しの間、部屋には互いの荒い呼吸が満ちていた。
肩で息をするディアボロスは、ふと、彼女を見下ろすバハムーンがこれ以上なく優しい目をしていることに気付く。
その優しい眼差しが、彼女の中の張り詰めていたものを解きほぐした。
「…お、おい、ディアボロス? どうした。何故泣くんだ。辛かったか?」
「…すまない…感極まった…」
「どういうことだ? おい、俺にも分かるように説明してくれ。だ、大丈夫なのか?」
途端に慌てるバハムーンを見ていると、先ほどまで自分を好き勝手していた相手と同一人物とは思えなくて、ディアボロスは思わず吹き出してしまう。
泣きながら笑うなんて器用なことをする彼女の上で、バハムーンはおろおろと困ったままだった。
「うまくいったようで何よりだよ」
「ああ。すまんな、色々気を使わせた」
「なーに、このくらいなんてことないさ」
槍と剣で打ち合いながら、バハムーンとクラッズは笑みを交わす。
今日も今日とて――バハムーンのせいでディアボロスが不調だったので――冒険に出なかった一行は、朗らかな日差しが注ぐ中庭でのんびりしていた。
「それはそうと、さ」
上から下へ、右から左へと流れるような動作で木刀を撃ちつけながら、クラッズが言う。
「おう、どうした?」
それをやり過ごし受け流すバハムーンは、首を傾げる余裕も見せた。
「お願いがあるんだ」
「俺に出来ることなら」
「フェルパーを落とすの、手伝って」
カァンと高い音が響く。バハムーンの持っていた物干し竿は、下から上へと斬り上げた勢いではねとばされてしまった。
「…お前さんが落とせないのか?」
「彼女の鈍感さと純粋さは、君のディアボロスと並ぶほどかもしれないよ」
「それは相当だな」
言って、バハムーンとクラッズは互いから視線を移す。その先には、
「……くぅ……すぅ……」
「……にゃ……くー……」
お互いの肩にもたれかかり、穏やかな寝息を立てるディアボロスとフェルパーがいた。
いいなぁディアボロスの肩枕…とぼんやりするバハムーンの隣で、クラッズは非常に珍しいことに悔しげに表情を歪ませる。
「…私なんて、フェルパーの寝顔見るのに二カ月かかったのに…たかだか三週間で…!」
「……そうなのか」
「ディアボロスだから許すけどさ。…とにかく! あの鈍感娘を落とすのは一筋縄じゃあいかないんだ。協力しておくれよ」
「分かった分かった。で、俺は何をすればいいんだ?」
「そうだね、まずは――」
安心しきった様子で眠るディアボロスとフェルパーの前で、クラッズとバハムーンは悪巧みを開始する。
明るくとっつきやすい性格に見えて実は癖のある前衛二人と、一見関わり辛いように見えて実は人の良い後衛二人。
そんな、呑気で陽気な彼らの冒険は、
「…おっ、そこのカワイコちゃん! よかったら僕とデートでも」
「こらっ! あなた、いい加減にしなさいな!」
まだまだ始まったばかりである。
136 :
110:2014/05/19(月) 23:43:13.62 ID:AxGh+AS8
以上です
配分間違えて妙なことになって申し訳ない
それ以外にも色々と申し訳ない
ちょっとスライディング土下座してくる
>>136 待ってたGJ。ディアボロスの初々しい感じがいいな
そしてクラッズとフェルパーにも激しく期待
138 :
...:2014/05/20(火) 20:39:44.00 ID:pE2t7A7X
>>114です。
あの時、相関関係作るのたのしかったなぁ、とか考えながらととモノ3の舞台で百合ったったので投下します、結局楽器集めで投げたんだっけ…
主人公は当時のパーティから引っ張ってきました(もともと別の企画用のキャラだったのですが)
記憶がうろ覚えだから原作のキャラは出ませんが気にしないでください
先駆者の皆さんと見比べると見苦しいところなど多々ありますがさらに気にしないでください
冒険者の道を志し勉学の道へと進んだ者が入る場所。それが冒険者養成学校の存在意義であり、
生徒たちも学校に夢を叶えるための踏み台としての機能を求め、やってくる。
だが、必ずしも全員の目的がそこにあるとは限らないのが世の中の面白いところだろう。
「ふぃー、今日も帰ってこれた」
「あぁもうホントだべ、アイツの魔力が尽きたときはどうしようかと思ったけど、何とかなったべ」
南東の砂漠と火山に囲まれた過酷な立地にある学園、タカチホ義塾の学生寮ではいつもくたくたに疲れ果てた生徒たちが各々の部屋で身を休めている。
二人部屋になっているこの一室に暮らしているのは今しがた生傷だらけで迷宮探索から帰還したこの娘たちだ。
「でも、収穫は上々。もうあの薄暗い遺跡に通う生活とはしばらく縁がなくなりそうだ」
腰に携えた刀を棚に片付けているはドワーフのアスカ。
彼女は武家の出身で、家を継ぐ器となるための修練として自ら冒険者の世界へと飛び込んだ経歴を持つ。
「あぁ、そうだといいべ。もう扉に尻尾を挟んでケガをするのはキツいべ…」
自身の背丈より大きな斧を壁に立てかけたのはバハムーンのリサ。
アスカの家の家来の娘として生まれた彼女はアスカにとって幼馴染でありながら主従関係にあり、アスカの世話役として抜擢され共にこの学園にやってきた。
「え?もしかして、また挟んじゃったのか?…うわぁ、鱗がはがれてるじゃないか」
「いつになっても鉄の扉は慣れねぇべ。オレの家みたいに扉が全部ふすまなら怪我しないのにな」
二人の間に先ほどまで血を血で洗うような戦いぶりを見せていたとは思えない朗らかな笑いが生まれる。
彼女たち二人の目的はアスカの社会経験と侍としての修行にあり、学校を卒業して冒険者になるという他の生徒たちが夢見るような目標は彼女たちの眼中にはない。
ならば他にも修練を行うだけならやり方はいくらでもあるし、家をわざわざ飛び出して危険に身を晒す必要はないのだが、
アスカにはそうまでしてこの学園に入る意味があった。
「あはははは…はぁ、可笑しかった。…でもとにかく、今日もリサは頑張った。そして私も頑張った。お互いを労おうじゃないか」
「…え、帰ってきたばっかりだべ?少し休んでからでも…」
「いいんだ、本調子のまま臨んだらそれこそ腰が立たなくなって明日の探索に支障が出かねないからね」
「アスカ…で、でも、オレ今汗臭ぇべ…?」
「素敵じゃないか。私はリサの匂い、すごく魅力的だと思うよ。それとも、リサは何か問題があるのかい?」
「え、そう…か?アスカが問題ないなら…べつにいつでもオレはいいんだけど…」
「やらない理由がないならやっておこう。ほら、脱いで脱いで」
彼女たちはやおら着ていた服を脱ぎ、畳んで箪笥にしまってから裸で向き合った。
「おっと、鍵かけておくべ」
踵を返そうとするリサの口元に明日香の右手が添えられる。
「いいよ、やろう。それに多少スリルがあった方が燃えるだろう?」
左手はいつの間にかリサの陰部に滑り込み、彼女の準備ができていることを確認しつつわずかに入口の内壁を指の腹で擦り事を促す。
「…わかったべ。ごめんな、気が利かなくて。」
「ううん、むしろそういう気遣い、嬉しかったよ。」
アスカはリサの手を取り彼女の布団の上まで連れて行く。まだ左手の指はリサの中にわずかに入ったままもどかしい刺激を続けている。
リサが彼女の嗜好を知ったのは思春期に入りしばらくたったころだ。
幼いころからの付き合いである二人の仲は当初から異質なものだった。アスカはリサに恋心を抱き、両親にさえ嫉妬するほどにリサを大切に思っていたのだ。
そのころは彼女の言動をまだ過剰な友情というくらいにしか思っていなかったリサだが、その認識はとある時に改められることになってしまう。
「…ねぇ、どうしたい?リサ」
「え?うーん…なんでもいいべ。アスカと一緒なら」
その言葉に思わず目を細めるアスカ。
半分はリサの甘い発言に気分を良くなったことによるものだが、もう半分は決定権を委ねたのにもかかわらずそれを蹴られたことへの驚きだ。
「じゃあ、勝負しよう、ね」
きっかけは、アスカの家でのお泊り会であった。
アスカと共に風呂に入ったリサは、風呂上りの彼女の様子がおかしいことに気付き、そっと後を追って部屋へ様子を見に行った。
ほんの少しだけふすまを開き隙間から部屋を覗き込んだリサが見たものは、アスカの自慰。
当時まだ初潮すら訪れていなかったリサであったが、彼女のリサの名を連呼しつつ股間をさすり嬌声を必死に堪える行為に、その意味を理解したのだった。
親友の想いを感じ取ったリサは部屋へと踏み込み、秘め事が露見し動揺する彼女をよそに自ら彼女の生涯の伴侶となることを宣言する。
それはいたく彼女を感動させ、リサのプロポーズを願ったり叶ったりだと二つ返事で受けて二人の仲は親友から恋人へとステップアップした。
また、この出来事を彼女の親に報告すると『並みの男より甲斐性ある、それだけの気概があるのならば』と、両親公認の仲となれたのだ。
彼女は自分たちの仲を快く容認した両親に目を丸くし、世継ぎなどの問題はどうしたと疑問を呈したが、
別にそこは養子などもらえばよいとむしろ彼女たちを応援する態度を崩さなかった。
もはや学校で男子生徒が女子の制服を着てもよい時代。ならばこれくらい認めてもいいだろう、とアスカの両親は笑って言っていた。
「…ん…あは、今日のリサの唇、いつもより柔らかい」
「そ、そう?自分じゃわかんねぇべ。…ん……」
一つの枕に互いの頭を預け、向かい合う二人。
ときおりどちらからともなく行われる軽いキスは二人を学園の世界からその外へ切り離していく。
互いの背中にまわる互いの腕がいっそう力を増し、互いの境目を崩し一体化せんと引き絞る。
枕が、布団の端が、液に滲みていく。
しかし、当時彼女たちは結婚ができる年齢には達しておらず、
さらにアスカもまだ家督を継ぐのに十分な実力を持っていないことを理由に両親から夫婦の真似事はしないようにとのお達しが出されていた。
また、リサも同様に両親に『まだ儀礼も覚えられていないお前に正式に主様に仕えることは適わない』と、リサがアスカのものとなることを反対されていた。
恋人となり、将来を誓ったのにもかかわらず、リサを自分のものとできないアスカは、欲求不満を抱え何とか両親の目を欺けないかと画策する。
そんな彼女が目を付けたのがこのタカチホ義塾であった。
アスカの修行の場となり、リサの花嫁修業の場ともなることを兼ね備えられるこの場所は、お互いの両親から疑われることはない。
さらに寮に入れば同棲もできるため、彼女が求めていたリサを誰にも邪魔されず堪能することができる。
彼女にとってここは幸せな結婚生活を送る前にその甘いところだけを味わおうとするための隠れ蓑であった。
「くぅ…あす、かぁ…」
「…イイ声。でも、一人で愉しんでたら勝てないよ?簡単にイったら私もやりごたえないし」
アスカのドワーフならではのごつごつとした指は見た目に合わず滑らかにリサの背中を滑り、彼女の翼と尻尾の付け根にある皮膚と甲殻の境目を労わる。
不規則にリサの弾力ある胸を先端の突起を残して愛撫するアスカの舌は、
まるで犬がマーキングで所有権を主張するかのようにしつこくリサの二つの丘に自身の唾液の匂いを擦りつける。
アスカから送りつけられる需要に見合わぬ小さな快楽の波に、唇をきゅっと結んだままの表情のリサがキッと眉を寄せアスカをにらみつける。
リサの精悍なその目は敵と対峙した戦士としての豪放磊落で勇敢であるそれではなく、哀れな犠牲者が持つ細枝のようなか弱い反抗心に支えられたそれであった。
「…あ。…ふふ、やるじゃない」
リサの尻尾の先がアスカの秘裂へと向かい、その肉芽の頭を優しく撫でつけた。
ピリッと感じるその刺激はそれだけではまだ達するほどではないのだが、彼女の気分を盛り立てる発破とはなりうる。
「でも、だーめ。たくさん焦らした方が気持ちいいんだから…もうすこし私はこうしてるよ?」
始めは、寮生活が始まってすぐから性交渉を仕掛けてきた親友の豹変ぶりに驚きを隠せなかったリサであったのだが、
なしくずしに肌を重ねていくうちに今では彼女の手技にいくつもの器官を欲望の対象へと開拓され、まんまと彼女の指一本にその心を絡め取られてしまっていた。
かつては親の身分など関係なく常に同等の身分で接していた二人だが、そのパワーバランスの拮抗は完全に崩れていた。
「…んっ、はぁっ…ぁ!…ダメ…許して…頼むから…」
「いいよ、リサ、すごくトロトロで、いい表情。でも、もっとリサならグチャグチャでだらしない可愛い顔できるよね?」
「えっ…ぅう、もう、ムリ、ダメだべ…」
「ダメじゃない。この前もできたんだから今日もできる。私は何もおかしなことは言ってない、そうでしょう?」
話しながらゆるゆるとではあるがリサを快楽へと導いていた指が止まる。
それは今のリサにとって、普通の状態を通り越して苦痛とすら感じさせた。
沸点をわずかに下回る熱量を持つに至ったリサの聖域は自身へと我慢の限界を訴え続ける。
しかし、リサの腕はひっしと目の前のアスカの背中を抱いたまま、その訴えを見て見ぬ振りする。
主の前で自慰をするなど不敬の極み。なおかつそれが彼女本人の手技により高められた欲望ならなおさらであった。
「アスカ…頼むからぁ…虐めてくれよ…責めてくれねぇと、おかしく、なる…」
「ふーん、でもいいのかい?負けになっちゃうよ?それに、自分で慰めた方が早いよ?私、下手だしね」
下手?いや、それはとんだ詭弁である。彼女の手技が下手ならば、なぜリサは己を慰めることができなくなっているのだろうか。
アスカの言葉にリサは一心に首を振る。
それは目の前の親友の言葉を否定すると同時に、この昂ぶりを我慢するという選択肢を捨て去ることでもあった。
アスカのリサを求めるその欲望は執念とも呼べるものがあった。
彼女は突如として部屋に上がり込んできたリサからのあのプロポーズを受けたとき、喜ぶ半面心の底に怖れを抱いた。
自分が特異な魂を持つ人間だという自覚が彼女にはあった。親友に生産性も道理もない不純で歪んだ感情を抱いた人だ、と。
あの純粋なリサが自分と同じ同性を愛せる精神異常者だとは到底思えなかった。
彼女は考えた。リサにはいずれ汚らわしくて汗臭い男どものどれかに恋をし、交わり、その子を産むことになる未来がある。
そして悩んだ。そんなリサは今後も自分を見つめ続けてくれるだろうかと。このまま、こんなヤツと一緒でいてくれるだろうかと。
最後に彼女はこう結論付けた。異性にリサの意識が向いてしまうその前に、自分の虜になってしまえばいいのだ、と。
「そんなことはねぇよ…だから、お願いだから、オレを…」
彼女がその気になるようにと、リサの尻尾が再度アスカの秘部へとすり寄る。
すると、アスカの手が尻尾をさえぎり、掴み上げた。
「…ダメって、言ったよね?
…まぁ、いいか。今回はもう許しちゃうけど、次もやったらお仕置きしなくちゃいけなくなるからね?」
アスカの指が尻尾の先を握り、その先端を前後に擦り上げる。
尻尾の付け根とは別にこの部分をこうして刺激するとリサにはまた別の快感が生まれることを彼女は知っている。
「…ふぃっ!?…あ、やぁっ!」
どの種族にも言えることだが、尻尾は敏感で刺激されると非常にこそばゆい感覚に陥る個所である。
アスカがそこをあえて責めて性感を刺激できるように開発したのは敏感であるからこその快感の大きさを狙ったものであるが、
それとは別に、まるで男性の絶頂を誘うような動きをすることになるこの倒錯的な絵面も彼女が気に入ったポイントだった。
「はぁっ、んんっ…うぁ、あすかぁ…」
「あは、リサの尻尾って敏感…まるで男のアレみたいだね」
アスカは、人一倍素直なリサの心を捕らえるには、彼女の欲望を掌握することがうってつけだと考えた。
そのために彼女は独学で性についての知識を、快感を覚えさせるための手技を覚えた。
自分が、自分だけがリサを善がらせることができると彼女の身体に刻み付けるために。
誰にもリサの奥の聖域を穢させないように。
リサは私のモノだという確固たる自信をつけるために。
でもそれはつまり、自分という檻にリサを囲い込むこと。
アスカの目標はそんな、浅ましくも独りよがりな独占欲が凝り固まったものだった。
今でも彼女は自分自身をお気に入りのおもちゃを箱の中に大切にしまいこむ子どものような幼稚な発想をもってして、
こんな淫靡なことをしているのかと自嘲する。
「あっ…!?」
尻尾への責め手を緩めることもないまま、ふいにアスカの指がリサの背中を背筋に沿ってすっと撫で上げ、さらに耳を甘噛みした。
それだけでリサの身体は打ち震え、驚きと切なさに満ちた顔をする。わずかにだが、絶頂の閾値を超えたらしい。
また一つリサに刻み付けた傷跡が増えた。アスカの欲望が一瞬の微笑に表出する。
「ふぁ…ひぃっ…」
その惚けている顔を目で犯し、怯えているような微かな嬌声を耳で確かめ、
ハリのある肌を指で堪能し、だだ漏れとなっているメスのフェロモンを鼻腔いっぱいに味わう。
とろけるような甘美に浸っているアスカは心とは真逆にまっさらな無の表情でその反応を見ていた。
「ん、どうしたの…?もしかして、こんな拙い愛撫で気持ち良くなっちゃったんだ?」
「だ、だって…」
「じゃあ、やっぱり私はいらないかぁ」
「…え……?」
「だって、耳と尻尾と背中を触ったくらいで気持ち良くなれる敏感なリサなら、私がどうこうしなくても気持ち良くなれるもんね。
こんなんじゃあ勝負にならないし…私、もう疲れたし寝ちゃおうかな」
『勝負』というものも彼女がリサの心を自分に繋ぎ止めておくためだけの虚構にすぎない。
アスカがリサを絶頂させたら勝ち。耐えきられたら負け。
そんなルールにおいて行われるこの趣向は、初めの頃はくすぐるだけとか、胸を揉むだけとか、そんな程度。
じゃれ合いの延長線上をしているだけだった当時のリサはまだ無垢であった。
いまだにリサの純潔は守られ続けているが、ここまで猥らな感性を習得させられてしまった今では既に純粋さより淫靡さの方が上回っている。
常にこの『勝負』ではリサの性感を熟知したアスカが勝つ。だが勝ち負けなんて彼女にはどうでもよかった。
ただ、彼女はリサを嬲り、弄び、リサが自分だけの彼女だと再確認できる機会が欲しいだけ。意味など始めから存在していない手段のための目的だったのだ。
「だ、ダメっ!」
目を逸らせたまま上体を起こそうとするアスカを、腰をグイと掴み必死に抱き寄せて止めるリサ。
気高いバハムーンであるはずのリサのその瞳は、まるで捨てられた子犬のように潤んでいた。
「いいの?私なんかで?」
「…いじわるはやめてくれよ。オレは、アスカがいないとダメだべ。
アスカにされないと、ダメ…なんだ。だから、頼むよ。……イカせてくれ。」
蚊の鳴くような声でそれだけ伝えると、ただでさえ紅潮していたリサの顔はさらに朱くなり、目線を外してうつむいた。
「……えへへ、ごめんね。よく言えました。……これはご褒美だよ?」
その姿を愛おしそうに眺めていたアスカは、両手でリサの頭を持ち、その額に軽くキスした。
『勝負』が自分を玩具としたアスカの児戯にすぎないとはリサも気付いている。
しかし、そんなことはリサには問題にはならなかった。
アスカがもたらしてくれた今まで知ることもなかった快楽はすぐさまリサを中毒に追いやった。
これまでの人生を彼女の部下として、主を守る戦士として暮らす半生を送っていたリサに『女』としての快楽は未知で強大であった。
それは好奇心を大いにくすぐり、その思いの赴くままアスカに付き合ううち、
気が付いたときにはもう後戻りができないほどに猥らな感性が磨かれてしまっていたのだ。
だが、リサは今の自分の状況やアスカの行動に不平を漏らしたことは一度もなかった。
理由はもちろんリサにとって彼女は主であり、そうそう文句の言える相手ではないという部分が一番であったが、
リサは性に堕落していく自分が、ただひたすらに滑稽であったということも理由の一つにある。
楽しめていたのだ。アスカの手の上で転がされ、その手技に狂わされ、破滅していく己の無様さを。
どさりとアスカはそのまま倒れ掛かり、仰向けになったリサの上にのしかかるように寝そべった。
「…今日もありがとうね、ここまで付き合ってくれて。…じゃあ、イかせるよ?」
アスカはリサの胸の谷間から覗きこむように上目遣いする。
その顔は慈しみに満ちているようにも、冷めているようにも見えた。
「お、お願いします…ひゃぁっ!?」
リサの言葉を半分聞き流すようにして、アスカはリサの肉が詰まってハリのある胸の先端を含み、吸い上げながら舌先でチロチロと擦る。
空いた両手はそれぞれもう一方の胸とリサの肉芽へ向かい、いきなりに三つを摘まみ圧迫する。
胸にむしゃぶりつく彼女の顔が一瞬上がる。
それに相槌を打つようにリサがゆっくりと頷くと、アスカは両手と歯を使い三点の突起をちぎりそうなほどに捻じり上げた。
「あ、あっ…ふぁああああああああああっ!」
身体をくの字に曲げビクンと大きく震えるリサに、彼女は強い愛おしさを覚え、同時に自身の奥底の快楽も最大限に高まる。
目をシワが寄るほど強く閉じて快感に打たれるリサの頭を労わりつつ、アスカは小さく、だがとても充実できる絶頂を迎え入れていた。
彼女には、リサが絶頂に打ち震える姿を見るたびに思い出す光景がある。
それは、彼女が初めてリサに絶頂を体験させたときのことだ。
たしか背中に抱きついて、『ねぇ、大人の遊びをやってみないかい?』とかなんとか言っていたように彼女は記憶している。
それが快楽とも気付けず歯を食いしばって意識が押し流されないようにしていたあの苦悶の表情。
予想外の反応だったが、それはそれで彼女の感性をくすぐるものがあった。
散々あちこちをまさぐり、そして最後に軽くキスしながらまだそんな器官があるとも知らないであろう肉芽の包皮をめくり、露出した本体を撫で上げた。
あっ、と言うと同時にリサの身体は痙攣し、糸が切れたかのようにぐったりと脱力しそのまま失神していたリサのあの一連の反応は今でも思い出して口元が綻ぶ。
波が引き気を取り戻したあと、安心して一息ついたその吐息は特別唾液の匂いがきつかった。
『…怖い。なんだったんだべ、今のは?』と、ぼそぼそとした声で訴えかけていたあのころのリサは心底から初心だった。
名前すら知らなかった快楽という感覚を大きくリサの心に刻み付けたあの日の深夜、
彼女は床の中でなぜか涙が止まらなかった。
今でも彼女はあれが嬉し泣きだったのかそれとも本当に悲しかったのか判別がついていない。
「そうだ、なんだかんだですっかり忘れてた。」
湿気るどころかすっかり濡れてしまった布団のカバーを外しを雑巾で拭っているアスカが、ふと思い出したようにつぶやく。
その声は小さいものであったが、すぐ脇にいるリサの耳に届くには十分だったようだ。
「ん、どうしたんだべ?」
「あぁ、あのさ…リサにプレゼントしたいものがあるんだ。似合うと思って」
作業を切り上げた彼女はタンスをガサゴソと探り、一本の革のベルトを取り出して見せる。
腰に巻くものとしては明らかに短すぎるそれは、アスカが常に身につけている物と同じもの。
「…それって、首輪?」
「うん。」
「これをつけるってのか?…あははー、そんな冗談ばっかり。そんなの犬っころにつけるかアスカたちドワーフがつけるものだべ?
ペットにつけるようなものオレがつけてもおかしいべ?」
「それがいいんじゃないか」
「…へぇ?」
何を言っているのかわからないとばかりにキョトンとした表情をしているリサだが、アスカは気にせずさらに言葉を付け足す。
口元に手を当てながら話している彼女の顔は目を細めていて楽しげだ。
「私はリサに首輪をつけて、番犬代わりに飼いたいって思ってたりするんだよね。もちろん、そういう『遊び』っていう話だけど」
「おいおい、そんな変態みたいなことに付き合うのはちょっと…」
「いや、リサにはそんな変態になる才能があると信じてる。
女の子同士で楽しめちゃう恐れを知らないリサにはこんなのたまらない背徳感でしょう?
それに、まだ私たちペアルックの服とか持ってないんだし…いいじゃない?これくらい」
これくらい、とは揃いの首輪をつけることを言っているのだろうか。
だが、リサにも彼女のその言葉の裏に何か思惑があるとは容易に見えた。
「…そんなことを言っちゃって、結局どうしたいんだべ?」
「うーん、そうだな、外では誰よりも勇敢で強いリサが、この部屋の中では私一人の所作に一喜一憂する光景。…ふふ、楽しそうじゃない」
彼女のその目は瞬きも少なめで、一切の間断もなくリサの瞳へとそそがれ続けている。
生まれが高貴であるからこそなせるおぞましいほどに威厳の籠った思わず顔を背けたくなるような視線。
「なんだ、それって現状維持ってことだべ?
わかったよ。アスカがそれで嬉しいってんだろ?なら、やってみる価値がオレにはあるってことだべ」
「…そう、ありがとう、リサ」
それは有無をリサに言わせる気はない、ということであった。
彼女は礼を言うのが早いか、首輪の留め金を外してリサの首へと押し当てる。
自身が普段身につけているそれと同じ、幅広で赤い大きな首輪が、高潔なバハムーンであるリサの首に手際よく巻かれる。
一度ゆるいところでバックルを締めて頸部への当たり具合を確かめた後、グイと一気に引き絞った。
「ッ!?アスカ!?」
「大丈夫だから、首を絞めるとかそんなことはしないよ」
慌てたリサに微笑みで答えるその顔は明らかに反応を愉しんでいた。
ゆるく首に引っかかったような形で首輪がついていると動いた拍子にぶらぶらと動いたりして何かと邪魔になる。
アクセサリーをつけるなら動くときに邪魔にならないようにぴっちりと張り付くように、というドワーフの生活の知恵。
だが、異種族のリサにとって首輪はただのアクセサリーではなく、常に首をわずかに絞められているという激しい違和感を産み出す装置として機能する。
その侵襲性の高さは、自分はアスカに全てを、命さえも握られていると錯覚させるには十分であるだろう。
事実、そのような恐怖から先ほどのリサの動揺があったのだ。
「かわいいよ、似合ってる!」
「そ、そう…か?」
アスカはそんなリサの瞳の奥の困惑を見つめ、また一つリサのこころを崩したと手ごたえを感じ、
自身のなかの何かが壊れていく様を幻視した。
あぁ、私は、親友をまた一つ墜落させてしまった。
私は、どうしようもない不義者だ。
私は、真正面から恋心に向かい合う勇気がなかった。思い描く理想図に近づくために友との絆を投げ捨てた卑怯者なのだ、私は。
「リサ、」
「なんだべ?」
「それでも私は愛してるから、心から」
「いきなり喋りだしといて『それでも』ってなんだべ?…オレもアスカのこといっぱい愛してる」
「…じゃあさ、これからも私に奉仕してくれる?」
「…うん、喜んで」
あえてこの言葉を、わざと上下関係が出るような言い方を選んだのに、
リサの否定を聞きたかったのに。
彼女は、頷いた。
「そう。…ありがとう、リサ」
「…なんで泣いてんべ?」
「え?あ、あぁ、嬉し泣きだよ、リサがそんなに私のことを大切にしてくれたらと思うとね」
私とリサの仲はもはや対等でも恋人でもなかった。
リサは、私との関係を、『主従』という枠組みで受けとめられてしまったのだから。
もう、私の想いが愛の形をとることは適わなくなってしまっていたのかもしれない。
私は主でリサはその従者。父母や祖父母の代と同じ関係を、私たちはただ漫然と続けているだけであった。
2連続だと……何が……何事が……!!
146 :
110:2014/05/21(水) 20:51:12.95 ID:2cFT2quG
有り難い言葉をいただいた上に
>>114の素敵な話を見て俺の中の何かが目覚めたらしい
連投っぽくなってしまって申し訳ないんだが、投下させてもらいます
クラッズとフェルパーの百合、エロまで遠い上にエロくない上に本番どころか前戯もほぼ無し
百合と思って書いたし今も百合だと思っているけど、世間一般の百合とはだいぶ違うんで注意してください
小さい頃から、お前は女らしくないと言われ続けてきた。
家の中でお人形遊びをするよりも外でチャンバラや虫取りをする方が好きだったし、甘い恋愛物よりも危険な冒険譚に目を輝かせる子どもだった。
成長してからもその傾向は変わらず、それどころか、見方によっては更に悪化した。パーティの先頭に立ちどんな強敵にも怯まず、
相手が強ければ強いほど興奮し、唇は知らずのうちに獰猛な弧を描く。可愛らしい顔を凶悪な笑顔に歪め、愛嬌のある丸い目を爛々と
輝かせる彼女は、時が経つにつれ一部の生徒から”戦闘狂い”の呼称を押し付けられた。
もっとも、彼女を女らしくないと言わせる理由は戦闘時に依るものではない。むしろ、普段の生活の場面でそう言われる方がよっぽど多かった。
中性的な話し方や、動きやすいからと身に付けている男子用の制服などはまだ序の口だ。紳士的で丁寧な態度、朗らかな笑顔、
聞いているこちらが思わず赤面してしまうような言葉。しかも、性別種族関係無く大半の相手にそう接するのだ。
彼女からしてみれば、それは単純に、えてして浮きがちな自分を周囲の面々と馴染ませるためのある種の処世術であった。
しかし、そんな思惑とは関係無しに、彼女を知る相手はクラッズをこう呼んだ。曰く「イケメン少女」と――
そんなイケメン少女であるクラッズだが、例えば男になりたいとか、はては女の子にしか興味がないといったことは全くなかった。
変わっている自覚はありつつも自分の性別は紛れもなく女性だと認識し、女の子の複雑で面倒くさいところは可愛いと、男の子の単純で
直情的なところは楽しいと考えていたため、その気になればどちらでもいけた。もっとも、本気でないのにそういった付き合いをする気は
一切無かったので、こうしたアプローチをするのはフェルパーが初めてであるが。
フェルパーは入学してから初めてできた友人である。
入学式が終わり、新しいクラスで新しい生活への期待と不安で緊張していた同期の候補生の中でも、彼女は飛び抜けて緊張していた。
表情を強張らせ、瞳孔は膨らみ、耳をペタリと伏せ、落ち着きなく揺らされている尻尾の毛はぶわりと逆立っている。
彼女の種族は人見知りをすることは知っていたし、種族柄フェルパーに自分から話しかけるのは気が引けたのだが、なんとなく
緊張で今にも倒れそうになっている彼女を放っておくことはできなかったのでクラッズの方から声をかけたのだ。
「や、こんにちは。隣座ってもいいかな?」
「っ……?! ………………」
「…えっ? えっ、ちょ、君、大丈夫かいっ!? うわ、わ、まずい…も、モミジ先生ーっ!」
その結果、既に限界間近だった彼女に止めを刺してしまったのだが。
そんな、今考えるとわりと最悪な出会いを果たした二人は、意外にも一緒にいるようになるまでに時間はかからなかった。
初めの一件でフェルパーが極度の人見知りだということはよーく分かったので、クラッズは、まず彼女が怯えない位置を探すことから始めた。
個人が他者との間に必要とする空間、パーソナルスペースを掴み、徐々にでも縮めることで、自分に対する緊張を和らげようと考えたのだ。
最初は15mだったその距離も、毎日笑顔で話しかけるうちに13m、10m、7mと縮まっていき、二人がとあるパーティに所属する頃には
3mになっていた。快挙である。大事なことなのでもう一度。快挙である。
パーティ内では、クラッズはフェルパーの通訳者状態になっていた。彼女は決して悪い性格ではないし、ナースとしての技術も、それを更に
洗練しようとする意思も努力する力も持っていたが、その人見知り癖はそれらの美点を覆って尚余りあるものだった。
そこで仲間たちはクラッズを頼ったのである。彼女はどんな種族ともそれなりに良好な関係を作れたし、フェルパーも、その頃には
クラッズとなら、たどたどしくとも意思疎通をできるまでにはなっていたので、フェルパーのことはクラッズに一任されていた。
とはいえ、クラッズは、いつまでもその役割を果たすつもりはなかった。フェルパーは自分がいないとやっていけないような
依存心が強い性格ではないからだ。そして、その判断を裏付けるように、彼女は自分から他の仲間たちとも関わろうと努めていた。
しかし、そんな時に転科事件が起きた。
今でこそ、バハムーンとディアボロスという、世間一般で言われている種族の悪評をさらっとスルーしている仲間と出会えたが、
脱退した当時はそんな都合の良いことがあるとは思わなかったし、これからどうしたものかと二人揃って途方に暮れていたのだ。
特にフェルパーは、ようやく少し馴染めてきたパーティを抜けたことで大分参っていた。緊張しいな彼女にとって、これからまた
新しいパーティを探し、そこの仲間に慣れる努力をすることは相当な負担なのだろう。
「……ごめんよ、フェルパー」
自然と零れた声は、自分らしくない弱々しく震えた声だった。フェルパーは耳と尾を垂らしたまま、クラッズを見つめる。
「……どうして、クラッズが謝るの」
「こんなことになってしまって…」
「……後悔してる?」
「いや、まったく。…けど…もっとうまく立ち回るか、もう少し辛抱すれば良かった。新しい編入生が来るのはもう少し先だろうし…
こんな中途半端な時期に新しいパーティを探さないといけないのは、大変だ」
自己嫌悪で顔が上げていられない。唇を噛み俯いたクラッズを、フェルパーは少しの間じっと眺めていたが、
なにを思ったか不意に彼女の前に膝をつく。まん丸の目に射止められたクラッズは目を瞬いた。
「別々に、探す?」
「いや…私は、そうしたくないな。その方が効率は良いかもしれないけれど、君と離れるのは寂しい」
火花が爆ぜるように飛び出してきた言葉はクラッズ自身を驚かせた。自分がフェルパーにここまで執着しているとは思っていなかった。
けれど、嘘偽りない正直な気持ちだ。そんな気持ちを込めて彼女を見つめ返すと、フェルパーは仄かに口元を緩める。
「…私も。大丈夫だよ。一緒に探そう? 私、ちゃんと、頑張る」
柔らかく微笑む彼女は、いつになくまっすぐで力強い、吸いこまれそうな目をしていた。少しだけその目をじっと見つめ、クラッズも笑う。
多分、きっと、この時に、クラッズは恋に落ちた。
普段とは違う芯の強さにやられたとか、初めて見た笑顔にやられたとか、健気な言葉にやられたとか、考えられる理由は幾つかあるけれども。
(わざわざ理由付けなんて、しなくていい)
クラッズは、思う。
(一般的ではない恋だって、構わない)
フェルパーに対して感じている、どうしようもないほど強い恋慕の情を抱えながら。
(何故好きになったかなんて些細な問題だ。障害なら頭と力と技を使って捩じ伏せる。…こんなことを本気で思う程度には、私は、あの子のことが――)
「つまりね、私はフェルパーが大好きなんだよ、バハムーン」
「ああ。それはもう、よく分かっている」
どこかげんなりした表情を返されて、クラッズは頬を膨らませた。
「君の惚気をいつもいつもいつもいつも聞いているのに、その反応はあんまりじゃないかい?」
「あんたに対してじゃない。フェルパーの鈍感さに対しての溜め息だ」
「……ああ」
やれやれと首を振るバハムーンに苦笑を返す。本来ならば、精霊結晶を納め終えこれから楽しい夕食ということで胸が弾む場面だが、
それを補って余りある精神的な疲れが二人の肩を重くした。ちなみに、フェルパーとディアボロスには座席を確保するよう頼んだので
今この場に二人はいない。想い人の前でこんな話ができるような心臓は持ち合わせていない。
クラッズの「ありとあらゆる手段を駆使してフェルパーを落とそう大作戦」はどれもが不発に終わっていた。フェルパーは、高すぎる壁だった。
参考までにここ数日の作戦の経過を見ていただきたい。もっとも、作戦とはいえ、最近のクラッズはかなりしびれを切らしているので
巧妙というよりは直球ど真ん中一本勝負、もはや普通の告白になっていたりするのだが。
その一、「東方に学ぶ」
はるか東方にあるタカチホ大陸には、「俺のために毎朝味噌汁を作ってくれ!」というプロポーズの言葉があるらしい。
初めて聞いた時はなんだそりゃと思ったものだが、よくよく考えてみると「俺のために」「毎朝」と重要な部分は押さえている。
キザったらしくもないしこれは良いかもしれないと、早速自己流にアレンジした結果が、
「ねえ、フェルパー。お願いがあるんだ」
「どうしたの?」
「私のために毎朝ホットケーキを作ってほしいんだ!」
「ホットケーキは美味しいけど…毎朝じゃ体悪くしちゃうよ? 食事は三食バランス良く。特に、私たちのパーティは成長期なんだから、
好きなものだけじゃなくって嫌いなものも、きちんと栄養を考えて食べなきゃ」
「あ、はい…仰るとおりです」
真剣な顔で、幼子に言い聞かせるように丁寧な、食事指導であった。
その二、「もう直球勝負でいいじゃん」
「フェルパーの鈍感さはよく分かった。だがな、その言葉はあまりにも遠回しすぎたのかも分からんぞ。
こうなったらいっそ、直接、好きだー! って言ったらどうだ? …しかし…あいつそんなに長く喋ることあるんだな…」
クラッズの報告を聞いたバハムーンに言われた言葉である。直情的でまっすぐな彼らしい提案だが、たしかに、東方の言葉はいささか
慎み深すぎたのかもしれない。それに、思い返してみればいきなりプロポーズというのも先走りすぎた感がある。
前回の反省を踏まえたクラッズは、ようし今度こそと意気込む。
「フェルパー。私、君のことがとても好きだよ」
「ありがとう…私も、クラッズ、好きだよ」
優しく目を細められ、
「…うん、ありがとう! これからもよろしくね」
そう言うしかできなかった。
その三、の前に。
「――なんでだよ!? そこはもっと押すところだろう! もっとグイグイいかんといけないところだろう!?」
「っ、君は、あの時の彼女を見ていないからそんなことが言えるんだよ! 私のことを仲の良い友達だと信頼しきっている、あの目を!
私の好意を友情だと信じきっている、あの笑顔を! あんな嬉しそうなあの子にグイグイなんていけるわけないだろう!?」
「…す、すまん」
その三、「もういっそ」
「強硬手段に出るってのはどうよ?」
「無理矢理、ダメ、絶対」
「そうだよなぁ…。だが、あいつの鈍感さをどうにかするには行動で示すしかない気がするぞ」
「だからって、今までこつこつと築き上げてきた信頼をぶち壊すような真似、したくないね。あの子を傷つけるなんて論外だし……待てよ」
「おい一秒前に自分がなに言ったか思い出せ」
「違う違う。スキンシップを図ってみるのはどうかと思って。よく考えたら私、自分から彼女に触ったこと無いし」
「そうなのか?」
「ああ。だって、あれだけ人見知りが強い子に触るなんて、余計な緊張を与え…あ、ダメだこの案」
「…そうだな」
他にも色々と試してはみたが、大体こんな具合で全て見事に気付かれないのである。狙った獲物に刃が届くなら、硬かろうと素早かろうと
その対策を取れば良いが、今回はそも刃が届かない空気を斬ろうとしているようなものなのだ。流石のバハムーンも溜め息をつきたかった。
「……女を口説くのって、難しいな」
「…そうだね…」「まったくだよなー。デートに誘っても断られるし」
「ああ、君も苦労しているんだ…ね?」
突然聞こえてきた声に後ろを振り返ると、懐っこい笑みを浮かべるヒューマンの男子生徒がいた。クラッズの表情は柔らかくなり、
バハムーンの口元は若干引きつる。
「ああ、悪い悪い。話が聞こえてつい」
「構わないさ。デートに誘っても断られるなんて、君の相手も手強そうだね」
「んー、時々相手してくれるヤツもいるんだけどなー。昨日の子は、」
「ヒューマンさん!!!」
彼の言葉を大音量が遮った。思わず肩をすくめてそちらを見た三人は、温和な顔立ちを怒りに染めたセレスティアの女子生徒を見つける。
「セレスティアか。どうしたー?」
「どうしたー? じゃないですよ! あれだけ言ったのに、貴方また、女子生徒の部屋に遊びに行きましたね!?」
「……なんだ?」
「痴話喧嘩かな?」
顔を見合わせるバハムーンとクラッズは目にも入らないようで、セレスティアはつかつかと歩み寄りヒューマンの胸倉を掴んだ。
「朝からわたくしの所に訴えに来られたんですよ! 今月に入ってから何度目ですか!? いい加減にしなさいな!」
「ま、待てセレスティア、落ち着け。僕はただ、誘われたから」
「だから! 誘われたからって何も考えずにほいほいついていくのを止めなさいと言っているんです!!」
「お、おいおいちょっと待てお嬢さん。落ち着け。そいつ離してやれ」
胸倉を掴んだままがくがく揺らすセレスティアを、見かねたバハムーンが止めにかかる。
「…どちら様ですか」
「いや、今までコイツと世間話をしてた者だが、」
「まさかっ…ヒューマンさん、貴方、殿方にまで相手をしていただきたいのですか!?」
「へっ?」「は?」
「だぁーもう君はちょっと落ち着きたまえ! セレスティア、私たちは君たちの事情を知らないし、余計なことをするつもりはないけれど、
ここは食堂のど真ん中だ。お願いだから少し落ち着いて…せめて端っこで話をしないかい?」
なんだかとても面倒くさいことになりそうな雰囲気を察してクラッズも間に入る。セレスティアは一瞬眉根をひそめたが、すぐに
自分たちがかなりの注目を浴びていることに気が付いたようで顔を赤らめた。
「…も、申し訳ありません…つい、我を忘れてしまいました…」
「うん、まあ、そういう時もあるよね。えーと…私たちの仲間が席を取っていてくれるから、ご飯取ったら行こうか」
聞いた話をまとめると――ディアボロスは顔をひきつらせフェルパーは彼女の影に隠れたが、話はできた――大体ヒューマンが悪かった。
ガンナーとマニアを学んでいる彼は、可愛らしい存在が好きであり、ひいてはそれが女好きに繋がった。今まで男所帯で過ごしてきた彼は
必死にそれを我慢してきたが――モーディアル学園に入り、我慢の必要がなくなったことでその欲求は解放されたとのこと。
元々相性が良い種族は勿論、相性がそれほど良くない種族、果ては相性最悪のバハムーンであろうとも、自分が「可愛い!」と思った相手は
「とりあえず、デートに誘う」
「なんでそうなるんだい!?」
「だってほら、可愛いヤツと一緒にいると和むだろ? それをゆっくり味わいたいだろ? 二人で話せりゃ最高じゃないか!」
「…一瞬納得しかけたけどそれはおかしいよ!」
そんな軟派な彼だが、意外にも申し出に応じる女子生徒はそれなりにいるらしい。
元々他種族から好かれやすいことに加えて、ヒューマンは、子犬を思わせる妙な魅力がある。まあ少し話すだけなら…と了承し、
何となく気分が乗ってしまって彼を部屋に招き入れた女子生徒も、信じられないことに存在した。
ここまで聞くとふざけんなリア充爆発しろ、と呪詛を吐きたいところだが、事態は更に複雑だった。
「…何と申しますか…その……お話をして、寝るだけなんだそうです」
セレスティアが訴えてきた女子生徒から聞くところによると、遅くなったから泊まっていけばとの言葉にヒューマンは笑顔を返し、
そのまま寝てしまうのだそうだ。それはもう、見事なまでに、ぐっすりと。
「……お前さん、本当に男か?」
「当たり前だ。僕が女の子に見える?」
「いや…その…。…………婚前交渉はしない派か?」
「…へぁっ?! なっ、ばかっ、あ、当たり前だろそんなことは! そういうのは将来を約束した相手とするものだ!
ていうか食事中だってのにんな話するんじゃねえ!」
「あんた初心なのか女タラシなのかはっきりしろよ!!」
ともかく。ヒューマンのこうした言動に振り回された女性陣は、弄ばれたと感じるそうだ。恥ずかしさとも怒りともつかない感情を抱えた
彼女らは、何故か直接の相手であるヒューマンにではなく、彼ののチームメイトであるセレスティアに訴えに行くらしい。そしてその度、
セレスティアは、朝っぱらからパジャマのままで、愚痴とも惚気とも文句ともつかない話を相手の気が済むまで延々聞かされるのだとか。
「……聞いてもいいか」
「……なんでしょう」
「その…どうしてそんなことに…? 別の方法を取ろうとは、思わなかったのか?」
「…わたくし…彼の可愛いレーダーにはかからなかったものの…何故か懐かれてしまって…」
「それで、なし崩しに?」
「……貴女は、無邪気にじゃれてくる子犬を無碍に出来ますか……?」
「…よく、分かった」
ヒューマン以外の四人から同情と労りが混ざった眼差しを向けられ、セレスティアは荒んだ心が少しだけ癒されるのを感じた。
そんな彼女を、ヒューマンは不思議そうな表情で眺めている。自分の言動がこの混乱を引き起こしている自覚はないようだ。
微妙に噛み合っていない二人を見て、残る四人は顔を見合わせた。ちょっと試しに乗ってみようか、と軽い気持ちで乗り込んだ船が
いつの間にかだだっ広い海の真ん中まで流されていた気分だった。
「…ええと…話はよく分かったよ。それで、そのー…君たちって、他の誰かとパーティ組んでるのかい?」
「うんにゃ。なんでかすぐに抜けてっちまうんだよなー」
十中八九お前のせいだ、とその場にいる全員が思ったが、言わなかった。
「ヒューマン、念のため確認させておくれ。君は単純に、可愛い子と一緒に話ができたら嬉しいなーって思っているだけなんだよね?」
「ああ!」
ここで、どこか虚ろだったセレスティアの瞳に光が戻ってくる。その光には期待と戸惑いが半々になって混ざっていた。
「…よし、分かった。お前さんたち、俺たちのパーティに入れ」
「……ふぇ?」「おっ、いいのか!」
バハムーンの言葉に、セレスティアは信じられないと目を瞬かせ、ヒューマンは嬉しそうな笑顔を見せる。
「君たちさえ良かったら。ただ、条件がある。パーティの一員になったからには、他のパーティの子をむやみやたらとデートに誘わないこと。
これまでみたいに君たち二人の問題じゃあなくなるんだから、下手したらパーティ同士の抗争の火種になり兼ねないからね」
「えっ…あー…んー…でも、そうだよな…。分かった。気をつける」
「あと、ディアボロスに手ぇ出したら男の楽しみを一生味わえない体にするからな」
「おまっ、バハムーン!?」
「胆に命じとく」
あれよあれよという間に話が進み、セレスティアは置いていかれたような心地になった。が、このままではなんか色々納得がいかないと
どうにか思考を立てなおし、口を開こうとして――ディアボロスの肩から顔を覗かせているフェルパーと目が合う。
「……よろしく、おねがいします……!」
緊張と羞恥で瞳を潤ませ、耳をべたりと伏せ、怯えや不安を必死に押さえながらそんなことを言われ、
「…あ…はい、こちらこそ、よろしくお願い致します」
セレスティアには、深々と頭を下げる以外の選択肢は無くなっていた。
早速明日の探索から始めようと取り決め、一行は寮の入口で別れた。
当然のように同じ部屋に戻っていくバハムーンとディアボロスを見送り、ぶんぶんと手を振るヒューマンと丁寧に頭を下げるセレスティアを
見送ったクラッズは、全員の姿が見えなくなったところで大きく息をつく。新しい仲間が増え、これで六人全員が揃ったことは喜ばしいが、
それにしても今日は疲れた。もう今日はとにかく早く部屋に戻って今すぐ寝よう、と踵を返したクラッズは、
「……フェルパー?」
「………………」
袖口を遠慮がちな手に掴まれる。首を傾げる彼女を見て、フェルパーは困ったように尻尾を揺らした。
「どうしたんだい? 何か、やってほしいことがあるのかな?」
「………………」
「教えてほしいな。私にできることなら何でもやる。できないことでも、できる限りやるよ」
あくまで優しく言い聞かせると、フェルパーはともすれば聞き逃してしまうほど小さな声で呟く。
「……今日……」
「今日?」
「……一緒に寝ても、いい?」
「もちろんさ! 私が部屋に行こうか? それとも、来る?」
「…行く…」
「分かったよ。なら、ホットミルク準備して待ってるね」
笑顔でそう言ったクラッズに、フェルパーは安心したように目を細めた。フェルパーとも一旦別れ、自室に戻ったクラッズはしっかり戸を閉める。
(うわぁぁぁああああどういうこと!? どういうことこれっ!? フェルパーが自分から一緒に寝るお誘いってこれ襲っていいの?!
襲っていいのかなこれ!? いや駄目だよねどう考えてもっ!? どうしようどうすればいいのか全然わからない!
そうだこういう時はバハム…駄目だ馬に蹴られて死んでしまう!!)
大混乱であった。
その後も、暫くうわぁうわぁと悶えていたクラッズだが、ようやくこんなことをしている間にフェルパーがやってきてしまうと気付く。
慌てて刀をしまい、大急ぎで風呂を済ませ、彼女と親しくなってから常備するようになった牛乳を簡易キッチンで温めている時に扉が叩かれた。
「…クラッズ?」
「フェルパー、いらっしゃぃむぁ!?」
――扉を開けたら、そこは桃源郷でした。
限りなく頭の悪いフレーズを思いついたクラッズだったが、彼女にそんな自分を笑う余裕は残っていなかった。
「……っ……っ……?!」
「……クラッズの匂い……」
「ふぇっ、ふぇむぅあ!?」
「…くすぐったい。そこで喋っちゃダメ」
(そんなこと仰られましても!?)
クラッズをしっかり抱きしめたフェルパーは、満足げに頬を擦り寄せてきた。彼女の仕草は普段のクラッズであれば心の中で
のたうちまわるくらい可愛らしいものだったが、今のクラッズにはそんな理由はない。
重ねて言おう。クラッズは、フェルパーに、正面から抱きしめられていた。フェルパーに一切の他意はないだろうが、彼女よりも頭一つ程
小さいクラッズは、そうされると埋まるのである。口が、谷間に。
(フェルパーって着やせするタイプだったのかーっ!)
馬鹿馬鹿しくも切実な悲鳴を上げる。柔らかく張りがある二つの山は、クラッズから冷静さを奪っていった。
(…柔らか…やわらか…そういえばディアボロスも胸あるっけ…今日のセレスティアも…あれもしかして私以外皆豊かだったりする…?
まぁいいや…そんなことより不届き者から狙われないよう…気をつけ……やわらか……)
段々とぼんやりしてきたクラッズには気付かずに、フェルパーはさかんに彼女の匂いを嗅ぎ、自分の匂いを擦りつけていた。
為されるがまま流されること十数分。やっと落ち着いたのか、フェルパーは満足げにクラッズを解放する。
「…ずいぶんと甘えたさんだね…?」
「……嫌だった?」
「私は侍。例え体格差があろうとも、本気で嫌ならこんなに可愛らしいナースさんに後れをとったりはしないよ」
少々気取って笑ってみせるとフェルパーは嬉しそうに微笑んだ。
「まぁ、驚いたけどさ。一体どうしたんだい。君がこんなことするなんて、珍しいね?」
言いながら、ある程度温まったホットミルクをカップに移し、フェルパーのものには蜂蜜をたっぷり入れる。ちょうど人肌程のそれを
手渡すと、フェルパーは尻尾を揺らした。
「…ヒューマンと、セレスティアと…香水のにおいが…」
「あー…いきなりだったもんね。びっくりしちゃったかな」
恐らく、事前に何も言わず心の準備をさせずに引き合わせてしまったので、普段以上に緊張してしまったのだろう。さっきやたらと
クラッズのにおいを嗅いだのも緊張を落ち着かせる手段だったのかもしれない。悪いことをしてしまった、と目尻を下げるクラッズを見て
フェルパーはベッドに座る彼女にそっとしがみつく。首に息がかかって少しくすぐったい。
「…フェルパー?」
すんすんと鼻を鳴らす彼女を撫でながら、クラッズは自分の理性が音を立てて崩れていくのを感じていた。先ほどの抱擁で既に大分
参っていたのに加え、このしがみつきである。優しい石鹸の香りに混じったフェルパー自身の甘い匂い。親しげに擦り寄せられる暖かい体。
どんどん明確になっていく思考の中心は、どのようにして理性を練り直すかではなく、どうやってこの愛らしい猫を怖がらせないよう
可愛がるか、その方法を考えることに終始していた。
「……クラッズの匂い……」
「うん?」
「……落ち着く……好き……」
甘えるような柔らかい声で囁かれ、もうダメだ、とクラッズは思った。
「…なら、私のにおいでいっぱいにしてあげようか」
「…え…? んむっ!?」
不思議そうなフェルパーに素早く口付ける。まん丸の目が更に大きく開かれるのを見て、クラッズは自然と笑顔を浮かべていた。
深いものを交わしたい気持ちを堪え、すぐに解放して頭を撫でてやると、フェルパーは今何が起こったのか分からない様子で瞳を瞬く。
そんな彼女ににっこりと笑ってみせ、
「ちょっとごめんね」
「にゃっ!?」
ひょいと抱き上げベッドに座らせる。フェルパーの混乱がより酷くなった。
「仮にも侍学科だもの。そこらのクラッズよりは力も体力もあるさ」
「…す、すごい…ね…?」
「お褒めにあずかり光栄です」
言って、もう一度口付ける。口だけでなく、頬に、鼻の頭に、瞼にと唇を寄せるとフェルパーはくすぐったそうな声を漏らした。
その反応に気を良くして舌を唇の間から侵入させると、流石に驚いたのか肩が跳ねた。それを押さえることはしないで、できる限り
優しく撫でながら柔らかい唇を舌先でくすぐる。彼女の口内は甘い蜂蜜の味がした。
「ふぅ…ん…にぅ…」
フェルパーは、自身の声が段々と甘えを帯びていっていることに気付いているだろうか。心の中で笑い、頭を撫でていた手をずらして
艶々した毛並みの耳をそっと撫でる。
「んにゃっ!」
「おっと。…ここ、撫でるの嫌?」
尋ねながらも耳の縁をなぞっていると、フェルパーは恥ずかしそうに目を伏せた。拒絶の言葉はない。
「…君をいじめたいわけじゃあないんだ。嫌だったら、すぐに言って」
耳元で囁いてそのまま耳の先端を食む。途端、フェルパーの体がびくりと跳ねた。敢えてそれを無視して毛繕いをするように舌を這わせ、
反対の耳も手で愛撫する。耳の付け根の辺りをこりこりとさすってやると落ち着きなく振られていた尻尾がぴんと伸びた。
「んにゃっ!? ぁ…クラッズ、それ…やぁ…」
「嫌なの? …気持ちよさそうだけど?」
「にゃぁ…ぅ…やぁ、なのぉ…」
蕩けきった声や表情を見ると嫌だとは思えないが、ここで強引に進めてもフェルパーを怖がらせることにしかならないだろう。
そう判断したクラッズは、最後に一度ぴくぴくと動いている耳に口付けて、次いでぼんやりと開かれている唇にキスを落とす。
今度はすんなり受け入れられたことに喜びを感じつつ、怯えたように縮こまる彼女の口内に触れていく。形の良い歯や鋭い犬歯をなぞり、
ぬるぬるした舌先と、猫らしく細かい棘が敷き詰められている舌の腹に触れる。時折棘が擦れて僅かな痛みが生じるものの、それを
はるかに上回る興奮でさほど気にはならなかった。フェルパーは、最初のうちこそかちこちに固まっていたが、やがて遠慮がちに舌を
絡めてくる。自身の棘でクラッズを傷つけないようとの配慮なのか動きは小さく控え目だったが、なによりも彼女が応じてくれたことが
たまらなく嬉しかった。
ちゅうちゅうと口を吸いながら手を服に寄せる。寝る前だというのにきちんと閉じられていたボタンを開き、服の隙間から手を差し込むと、
「んにゃっ!? にゃっ、あぅ…」
「……ブラジャー、付けてないんだ?」
「…だ、だって…すぐ寝るから…」
頬を染めたフェルパーは困ったように視線を落とす。が、そうすると、丁度自分の胸がクラッズに触られているところをばっちり見てしまい
余計に顔を赤らめる羽目になった。目をつぶる彼女をそっと押し倒し制服とシャツの前をはだけさせる。灯りの下に陶磁器のように白く
滑らかな身体が晒されて、クラッズは思わず唾を飲み込んだ。美しい半円を描く乳房に触れ、優しく指を押し込むとフェルパーは声を殺す。
切り傷や胼胝がある小さい手に触れられると、何故か、フェルパーの胸の奥は熱くなった。
ゆっくりと肌を撫で、時々少し強めにこすったり、押し込んだりする。それだけでも声を我慢するので精一杯なのに、クラッズは徐々に
硬くなっている胸の頂にも触れるのだ。もどかしいくらい優しい刺激を与えられ、フェルパーの胸は熱くなり、腹の奥には
今まで感じたことの無い疼きが溜まっていく。もっと強く、自分のことを滅茶苦茶にしてほしい衝動が湧きあがってくるが、
それ以上に未知の感覚への恐れや、これ以上続けられると自分が無くなりそうな恐怖がフェルパーを支配した。
嬉しいのと、驚きと、怖いのと、不安なのが混じりあって、フェルパーの思考は限界だった。
「…ぁ…クラッズ…」
「…ん?」
「も…だめ…んぅ…終わりに、して…」
なんとか絞り出した言葉を聞いたクラッズは、戸惑った様子で手を止めた。そっと目を開けると、寂しそうな、悲しそうな、申し訳なさそうな
様々な感情が入り混じった複雑な笑顔を浮かべている。それを見たフェルパーは後悔した。胸の奥が、もっともっと熱くなってしまう。
「ん……そう、だね。やっぱり、嫌だよね」
「嫌じゃないっ!」
思っていた以上の大声が出て、クラッズはもちろん、フェルパーも驚いたように動きを止めた。戸惑ったように口に触れる彼女を見て、
クラッズはいつもと変わらない優しい苦笑を浮かべる。その表情に、また、心が疼いた。
「嫌じゃないって、言ってくれるのかい?」
「…ぅ…だって…ぁぅ…」
「でも、終わりにしてほしいんだよね?」
「それはっ! その…だって…ヘンなんだもん…」
「ヘン? なにが?」
言いながら、クラッズはフェルパーに毛布を掛ける。体が冷えて、風邪でもひいてしまったら大変だ。
「……頭の中、ぼうっとなって…からだ、あつくなっちゃうんだもん……」
恥ずかしそうな呟きを拾ったクラッズは、その表情とも相まって、今すぐ押し倒したくなる衝動を抑えるのに苦労した。肩にかけた毛布を
ぐるぐる巻きにして、その上からフェルパーを抱きしめる。そっと頭を撫でていると、フェルパーは少し落ち着いてきたのか
クラッズに頬を寄せ、ぐりぐりと頭を押し付けた。
「…私としては、君がヘンになっちゃうとこ、とっても見たいんだけど」
「にゃっ…?!」
「でも、怖いんだよね。それならいいや。完全に理性飛んじゃってたし…いきなりごめんね。変なことして」
そう言ってフェルパーを撫でる彼女は普段通りのクラッズだ。フェルパーが知らない顔で、知らない声で、彼女を求める人ではない。
そのことにとても安心するのと同時に、何故か、少しだけ残念になった。あのまま先に進むのはとても怖かったけれど、だからといって、
今までと全く変わらないのも嫌だった。いつも落ち着いているクラッズが不意に見せた熱量は、驚いたし、怖かったし、びっくりしたけれど
同時にとても心地の良いものだったから。
けれど、フェルパーがそう思っていることを、この人はきっと気付いていない。申し訳なさそうに自身を撫でるクラッズは、
少しでも刺激したらすぐに泣いてしまいそうなほど心細そうな顔をしていた。だから――
「……ね、クラッズ。こっち向いて?」
「ん? どうしたんだい、フェル」
言い終わるよりも早く口付ける。ぱっちりした可愛らしい瞳がフェルパーだけを映しているのは思ったよりも嬉しいことだった。
一瞬とも永遠ともつかない時間が終わる。自分でしたこととはいえとても恥ずかしくて、フェルパーは真っ赤になって俯いた。
そんな彼女を、クラッズは少々呆気にとられて見ている。
「……フェルパー?」
「こっ、これくらいならっ!」
「…うん?」
「さ、さっきみたいなのは、怖いけど…今くらいなら、その…へいき、だから…」
「……うん」
「…もうちょっとだけ、待ってて、ください」
毛布にくるまったフェルパーは、耳をべたりと伏せ、視線を落とし、真っ赤な顔で今にも泣きそうなほど目を潤ませている。
だけど、それでも、待っててほしいと言ってくれた。
「…ねえ、フェルパー」
「…………」
「私は、君のことが、大好きだよ」
「……うんっ」
蕾が綻んだような笑顔を見て、ようやく自分の気持ちがきちんと伝わったことを感じたクラッズは、満面の笑みでフェルパーを抱きしめた。
翌日の朝。
クラッズの匂いいっぱいで恥ずかしい…! と大急ぎでシャワーを浴びるフェルパーを置いて、クラッズは一足先に待ち合わせ場所に向かった。
恥ずかしいとくるかそうか…とか、可愛いなあもう本当にもう可愛いなあとか、まぁ、まだ待ち合わせ時間までには余裕があるから
大丈夫だねとか。内心頬をでれでれに緩ませたクラッズは、
「あ、早いね。おはよ……う……」
非常に気まずい雰囲気を醸し出すディアボロスとセレスティアを見て、やっぱりフェルパーと一緒に来ればよかったと後悔した。
敵意とまではいかないが親しげでもない、非常に複雑かつ気まずい空気は当の二人にとっても苦痛だったらしい。クラッズの声を聞いた
二人は、救い主が現れたとばかりにホッとした顔で後ろを振り向き、
「おまっ…クラッズ!? いったいどうした!?」「な、なにがあったんですか!?」
ほとんど同時に似たようなことを叫んだ。もしかしたら意外と気が合うんじゃないかこの二人、とクラッズは思う。
しかし、ディアボロスとセレスティアが驚愕するのも当然で、今のクラッズは、目の下に濃い隈があり、顔つきはどことなくやつれ、
いつもはきちんと整えられている髪も寝癖が立っており、そのくせ気持ち悪いくらい良い笑顔をしているのだ。イケメン少女の名折れである。
「大したことはないさ。それよりディアボロス、バハムーンは?」
「寝坊したから置いてきた。しかし、大したことないっておまえ…」
「セレスティア、ヒューマンは? まさか昨日の今日ってことはないだろうけれど」
「だ、大丈夫です。弾の補充を忘れていたそうで、今購買部に行っています。そんなことより、本当にどうなさったんですか…?」
「んー、ちょっとねー」
ちょっと昨夜、いちゃいちゃちゅっちゅしてる内にフェルパーが寝ちゃって、この絶妙な寸止め具合にMの道に目覚めそうになったとか、
むしろ目覚めないとやってられないというか、ゴロゴロ喉を鳴らしながら幸せそうに寝ているフェルパー見てると嬉しい半面
この心の内に燻っている欲望をどうすればいいんだと結局ほとんど徹夜状態になったとか。
そんなことをまさか言えるはずもなく、クラッズは魂の抜けたような顔で笑う。
「クラッズ…あの…おまえ、そんな状態で探索とか行って大丈夫か…?」
「無理はなさらない方が良いのでは…あ、ヒールかけましょうか…?」
「いや、大丈夫さ。むしろ、八つ当たり相手…もとい、この力を存分に発揮できる相手と戦いたいからね。
…ふふっ、今の私ならこれまで超えられなかった限界を軽々と越えられそうだよ…はははっ…」
虚ろな笑みを浮かべにこやかに物騒な台詞を並べ立てるクラッズに、ディアボロスとセレスティアは心の底から思う。
(頼むから…)(お願いですから…)
((早く誰か来て……!!))
少し前と同じことを、少し前よりももっと切実な気持ちで願う二人は、どことなく似通った表情をしていた。
159 :
110:2014/05/21(水) 21:35:25.04 ID:2cFT2quG
以上です
前回以上に申し訳なさ過ぎて頭が上げられません
お目汚し失礼しました
うおおおお仲間が増えた!いいぞもっと百合(や)れ!
何が……起こって……
ま、まさか新作が出る流れ……
まとめてGJ
ここにきてまさかの作品ラッシュ・・・
これはGJせねば
163 :
名無しさん@ピンキー:2014/05/26(月) 21:05:41.53 ID:sdIixG7h
待ってましたー!!!
GJ!!!
ここって基本オリキャラ絡み?
>>164 オリキャラは多いけどNPCを書いてる作品も沢山あるから、事前に注意書けばいいんじゃないか?
俺はオリキャラもNPCも楽しく読ませてもらってる
キャラクターの口調を確認したい
↓
PSNから再DLしよう
↓
容量不足でやりくりしてもメモリー捻出できず←いまここ
ととモノFINALが500円って買いかなぁ…
買い
買おう
170 :
名無しさん@ピンキー:2014/06/22(日) 14:12:56.30 ID:aPZxp3YB
買って損はしないぞ。
買い
ほ