【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#3

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1名無しさん@ピンキー
前スレ
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1338986200/l50
512k超えの為立てました。
29話後位の話1:2012/06/25(月) 14:36:22.74 ID:QzuY/mXr
立てついでに即死回避と口実を付けて投下。
エロ描写拙い部分は脳内補完のご協力をお願いします。


遠藤からお茶を出され微笑みながら会釈する彼女。
背筋をピンと伸ばして綺麗に正座しているその所作は、とても美しい。

と思って気付かれぬよう眺めていたら
「榎本さん、何か喋って下さい」
先程までの落ち着いた物腰とは打って変わって落ち着きが無い。
「…何かって?」
「何でもいいです」
何でも、と言われても僕から振れる話題などある訳が無い。
「ここに来てからちょっと落ち着かないんですよ」
何か話せと言っておいて、彼女は僕の言葉を待たずに喋りだす。
「何か空気が重たいっていうか…冷たいっていうか…感じません?」
冷たい。
確かに古い住宅ならではのひんやりとした空気を感じなくも無い。
だがそれはあくまでこの手の建物には良くある雰囲気ではないのだろうか。
とは思いながらも、取り合えず辺りを見回してみた。
小さな悪戯心が芽生える。

「何…何見てるんですか?」
一点を凝視する俺に、彼女が怯えながら尋ねる。
「いえ…何となく気配を感じたもので」
嘘だった。
しかし彼女の顔色はみるみる青ざめていく。
”ガタン”
追討ちをかけるように物音がする。
これもまた建物特有の物だろう。
「い…今、何か聞こえましたよね?」
耐え切れない、と言わんばかりだ。
眉が完全に八の字を描いている。
「風じゃないですか?」
そう切り返しても彼女の眉は下がったまま。
口からはいつものような切れのいい答えは出てこなかった。
39話後位の話2:2012/06/25(月) 14:36:55.69 ID:QzuY/mXr
…また、か。

倉庫で榎本はあの事件の前に手に入れた珍しい錠前を一人観察していた。
いつもならある程度外観を確認した後はとりあえず器具を刺し込んで探ってみるのだが

手が一向に動かない。

興味が削がれた訳ではないはずだった。

―落ち着かない。

訳も無く日常を過ごす事が出来ない。
この状態を持て余している感覚だけが把握できる。
錠前を目の前にして開ける方法より手に入れた後に起こった出来事ばかりが頭を過ぎる。
鍵を使わずに錠を開ける。難解な密室の謎を解き明かす。
難しければ難しい程、心の奥底から湧き上がる快感がが全身を支配する。
それが一番で唯一の興味の湧く事だった筈なのに。

錠前を置き、席を立つ。
くるりと体を反転させ歩き出すと、自然と右手が上がり人差し指が忙しなく動く。
いつも散乱している物事を纏める時のクセだ。
数歩進んで歩みを止めると瞼を閉じた。

関係者に事情を聞く時は、弁護士の顔。
先生と呼ばれる職業でありながらも、決して高圧的になる訳でもなく、
どこか暖かく相手に不快感を与えない対応が出来ている。
そして自らが悪と感じたものを見逃す事が出来ない真っ直ぐな所。

とても自分に釣り合うとは思えない。

なのに用も無いのに菓子を持ってここに来ては他愛も無い話をしたり、
ありもしない怪奇現象に怯えたりするのは、幼すぎる。
何よりこんなつまらない自分に何故、用も無いのに会いに来るんだ。
来た所で気の効いた相槌など打った記憶もない。
彼女はそんな女性が喜びそうにない僕の相槌に喜び、僕に笑顔を向けてくる。

何故。

…いや。
彼女がここに来る理由等がそもそも自分の今の状態に関係がある訳ではない。
また結論とは違う方向に逸れていく。

何故僕がこうも今まで通りが成り立たないのかを考えて…


ぴたり、と指の動きが止まり軽く捻ると閉じていた目が開く。


「そうか、そうだったのか」

49話後位の話3:2012/06/25(月) 14:38:46.00 ID:QzuY/mXr
「あれ?何か密室抱えてましたっけ?」
声のした方向へ振り返ると純子が居る。
「いえ…」
本当は心臓が飛び出る程驚いていたが、動揺を表に出すことなく純子を見つめる。
「何か…事件でも?」
あくまで平静を装いながら純子に問いを投げ、先程放り投げた錠前を置いたデスクに向かう。
「事件では無いですけど…」
「けど?」
いつもより強めの語気。
純子はおずおずと右手に下げた袋を差し出す。
「会社の近所にケーキ屋さんが出来たので良かったら一緒にと思って買ってきただけなんですけど
お邪魔でしたか?」
榎本に対し常にフラットな印象が強い分、ちょっとした変化があると怒らせてしまったのかとつい勘ぐってしまう。
得体の知れない存在だった榎本から、感情が見えるようになったのは何時からだったろう。
ただ…感情を察する事は出来ても、それがどういう経緯でそうなったのかはまだ解らないが。
「いえ…邪魔ではないです。というか何時からいらしてたんですか」
榎本は椅子に座ると古びた錠前に手を伸ばす。
口調がいつものトーンに戻り純子は内心安堵しながらいつもの席に向かう。
「いつものようにこう…されている所でした」
純子はポーズを真似て微笑む。
が、純子に向かって背を向けている榎本の視界には入っていない。
「お茶頂きますね」
慣れた手つきでお茶を淹れ自分の席と今は空いている榎本の所定の位置に置いた。
自ら箱を空け目当てのケーキを取り出す。本来ならば失礼な行為だ。
とはいえ作業中の榎本の注意をこちらに向けてまでケーキを選ばせる方がもっと失礼だと純子は思う。

「榎本さん」
ケーキを食べ終えた純子が、作業中の猫背に向かい声をかける。
「何でしょう」
返事はあるが振り返りもしない。
「男性から可愛い、って言われたらどう返せばいいんでしょう」

ガタン。

少し乱暴に榎本が立ち上がる。
「あ、私ショートケーキ頂いちゃいましたけど、まだまだありますよ〜」
作業に区切りがついたのだと思い榎本へケーキを勧める純子。
荒々しい動作に気付かず、再び話を戻す。
「この前犬山さんにお話を聞いていた時、そう言われたんです
でも私、そんな事思った事無いですしデレデレするのもおかしいじゃないですか」
純子は話を続けるが榎本の頭には半分位しか言葉として入ってこない。
ただ嬉しそうに話しているという事と、胸の奥から込み上げて来るどす黒い感情だけが解る。
「お世辞なのは解ってるんですよ。でもほら、良く言われますぅ〜とか言うのも変ですし
だからといって適当に流すのも失礼ですし」
少しクリームの残るフォークを指先で弄んでいる。
照れているのか口調はいつもよりハッキリしない。
榎本の中で何かが、弾けた。
「男性ってよく解らないんですよね。変に答えて誤解…」
「青砥さんは可愛いですよ」
「…へっ?」
一瞬、心臓が止まった気がした。
いや、心臓が止まったら死んでしまうのでそんな事は無いと思い改める。
顔を上げ、言葉の主の方を見るが背を向けたままだ。
これは練習かしらと思い、的確な言葉を探したが頭が真っ白になっていて上手く言葉が出てこない。
「あの…ええと…」
顔が熱い。
振り返った榎本の顔を見たが、榎本の居る場所には明かりが届かず暗くて
どんな顔をしているのか見えない。
59話後位の話4:2012/06/25(月) 14:40:02.44 ID:UpR81IEY
きっと自分は真っ赤になっている。
そしてそれを榎本は見ている。
こちらから相手の様子を知る事が出来ず、自分の動揺は榎本に見透かされているような気がした。
「あのっ…」
焦りから意味も無く純子は席を立つ。
榎本は返事もせずに純子に近付く。
明かりの下に現れた榎本の表情は何故か怒っているように見える。
自分に向けられる視線が痛い。
(またやっちゃった…)
以前犬について話していただけなのに怒ったようになってしまった事も有った。
特に榎本に対して悪い事を言ったつもりは無かったのだが。
気まずい空気に耐えられず、視線逸らしそろそろと鞄に手を伸ばす。
撤収…という言葉が一番的確だろう。


「好きなんですか?」
鞄に届く寸前に手首を掴まれる。
「え?」
「犬山さんが好きなんですか?」
純子の手首を掴む手に力が籠もる。
「いえ…全然…。ていうか何で…」
「嬉しそうに見えたので」
やはり怒っているようだ。純子はそう確信した。
しかし何故榎本が怒る必要があるのだろう。
解らない。解らないが誤解されるのは困る。
「別に嬉しくないですよっ。す、好きでもないし」
対応に困った事は確かだ。ドキドキもした。でもそれはそういう物とは違う。

正確に言えば違う事を思い知らされた。
同じ台詞でも言う人が違うだけなのに、こんなにも動揺してしまう。
いつも気付かないフリをしていた。
榎本と過ごしている時間が長くなるほど湧き上がってくる感情。
増えるだけ増えてもう溢れてしまいそうなのに、純子はそれでも目を背けようとする。
「何か…良く解らないですけど、怒らせてしまったようなので今日はこれで…」

―失礼します。

その言葉は音にならなかった。
榎本の唇がその発生源を塞いでしまったから。


69話後位の話5:2012/06/25(月) 14:40:44.61 ID:UpR81IEY
どこをどう歩いたのか覚えていない。
恐らく体にしみついた家路を忠実にたどってきたのだろう。
気づけば純子は着替える事も忘れて、自宅のテーブルに突っ伏していた。

目を閉じるとあの時の事が鮮明に蘇る。

『好きみたいです。青砥さんの事』
ほぼ触れるだけのキスの後、視線を合わせる事無くボソリと榎本が呟いた。
どうしたらいいのか解らなくなって、純子は手首にかかる圧力が若干緩んだ瞬間に
そっと拘束から逃れ、鞄を手にして逃げるように倉庫を出た。

何故?
彼は、私にキスをした。
どうして?
怒っていたのに。

大体「好きみたい」って何なのだろう。
誰が?
榎本さんが?
そしてその好きは、どういう好きなのだろう。


「あ゛〜〜」

声にならない声を上げ、乱暴に頭を掻いてもモヤモヤは消えない。
こんなに堂々巡りをする位なら、その場で聞けばいいのに。と出来ない自分に苛々する。

友達、とは少し違う。
仲間として持つ好意だと思っていた。
でも違う。
仲間という言葉で誤魔化していたんだ。

自分は榎本を好きだ。

でも、榎本の事何も知らない。
今まで知識の豊富さと、手際の良さでいくつも事件を解決してきた。
余りにも怪しすぎて、最初は本職は泥棒なのではないかと疑った位だ。

でも…
もし、そうだったとしたら?

恐ろしい憶測を必死で否定する。
幾つもの密室事件に出合い、共に解決してきた。
時間と問題を共有する程、その疑惑は薄れてきたはずだった。
きっと自分と同じ気持ちのはず。

でも…




怖い。
それが2人の共通の感情だった。
相手を恐れる事で生まれる恐怖ではない。

未知なるものに対する恐怖と
それに冷静に対処出来ない、自分が一番怖いのだ。
79話後位の話6:2012/06/25(月) 14:41:49.23 ID:UpR81IEY
『順調に弁護士になれた貴女に解る訳ないでしょ?』
来栖菜穂子にそう詰られ、返す言葉も無く項垂れる彼女。
『貴女はそうじゃないって言えるの?』
桑島美香に問われ、自分もそうなのかもしれないと悩む彼女。

自分の存在もまた、彼女達と同様に純子を苦しめる物なのかもしれない。
自分の純子へ向ける感情に気付いてしまったからこそ、余計にそう思う。

頭では充分過ぎるほど理解している。
だが、制御出来ない。
気付かれぬようにしている成果が、皮肉にも裏目に出ている。

純子や芹沢と出会わなければ。
この薄暗い空間に息を潜め、錠を開ける事で満たされるだけの日々を送っていれば
感情などという愚かな物に振り回されずに過ごす事が出来たのに。

…出会わなければ、良かった

自ら達した結論が強烈に胸を締め付ける。
息苦しさに胸に手をやり、握り締めても柔らぐ事のない痛み。
辛い、苦しい。

しかしこれを僕だけの中に留める事で、純子が苦しまないのならば
…いつか失うかもしれないなら、いっそ


悲しい決意を踏みとどまらせるかのように、電話が鳴った。



「ありがとうございました。榎本さん」
電話を掛けてきたのは純子だった。
切羽詰まった声で助けを求められ、必死で純子の家に向かった。
「…いえ、別に」
廊下でしゃがみこみ、震える純子を確認した時は怒りで全身の血が沸きあがる思いだった。


「以前も居て…その時は芹沢さんに来てもらったんですけど、今日は最終便で出張に行っちゃってて…
どうしたら完全に排除出来るんでしょうかね」
何の事はない。部屋にゴキブリが出たのだ。
「芹沢さんもここに・・・?」
純子の問いかけには答えず、殺虫剤の缶をテーブルに置くと全身を脱力感が襲うのを感じた。
同時にこの部屋に理由はどうあれ芹沢が一人で来た事がある事実を知り、
また制御不能な感情がじわじわと広がる。
「ええ、まぁ・・・」
恐怖の対象が始末され、少しずつ動揺が消えてくると
榎本を咄嗟に呼んでしまった事に後悔の波が押し寄せて来た。
とはいえこのまま帰すのも失礼だと思い、純子は珈琲を淹れた。


「すいませんでした、榎本さん。こんな遅くに」
立ち尽くす榎本に座るよう促しながら、純子はテーブルに珈琲を置く。


怖い。
欲しいものが手の届く位置にある。
今、この手で掴む事で彼女を傷つける事は解っている。
この感情は自らをも切りつける諸刃の剣だ。
でも…
89話後位の話7:2012/06/25(月) 14:42:25.96 ID:UpR81IEY
「青砥さん」
カップを運んできた盆を戻そうとダイニングへ向かう純子に声を掛ける。
「はい?」
振り返る純子の表情はどこかぎこちない。
「貴女は故意にこのような行動をされるんですか?
大体こんな時間に僕のような男を自宅に上げていますが、何かを期待しているのでしょうか?」
逃げようとする純子の視線を捕らえ、一歩一歩距離を詰める。
鍵について語る時より大きな威圧感を感じ、純子は後ずさりした。
「そういう訳では…」
緊急事態だったから、などという理由付けも白々しくすら思えて、言葉が続かない。
「ではどういうつもりなんですか?つい数時間前に僕は貴女に酷い事をした人間ですよ」


怖い。
何も知らないこの人に対してこんなも強く惹かれている自分が怖い。
悪い人なのかも知れないのに。
憶測が的中して傷つくかもしれないのに、目を逸らす事が出来ない。


踵がドアの存在を知る。後ろ手でノブを回して逃れる事も出来るのに手を伸ばす事もしない。
触れるか触れないかの距離で榎本の歩みが止まった。
「貴女の気持ちを無視して、僕は…」
ふと、事件が解決した時に見せる瞳が記憶の中から鮮明に蘇る。
射抜くような鋭さの中に、別の感情が見えた。

99話後位の話8:2012/06/25(月) 14:43:42.68 ID:UpR81IEY
それが悲しみだと理解する前に、純子の頬を涙が一筋伝う。
その姿に榎本は吐きかけた更なる自虐の言葉を飲み込んだ。
「榎本さんを…拒む事…が出来たら…こんなに辛くありません」
言葉の切れ目にまた一つ、涙が零れる。
「でも怖くて、素直に受け入れる事も出来ません。もうどうしたらいいのか解らないんです。
苦しいです。逃げたいです。でも逃げる所なんて無いんです…」
振り絞るような純子の言葉。榎本の耳には悲鳴として届いた。
純子の頬をそっと撫で、涙の跡を拭い去る。
拭っても、また一つ二つと涙は溢れ出て止め処無く頬を濡らす。
「…助けて…下さい」
縋る眼差しに応えるように、榎本はそっと純子の額に口付けた。

こんな事は応急処置にもならない。
愚かな行為であり、優しさでもなんでもない事は承知している。
だが、幾ら予防線を張っても無駄だった。
溢れでてくる物を抑え込み、想いを殺す事で傷口が広がり続けるのだからもう解き放ってしまおう。

瞼に唇を落とすと濡れた睫毛が冷たい。
目頭に溜まっている涙をそっと吸い上げると純子の体に緊張が走った。
榎本の指が純子の顎のラインをなぞる。
瞼への口付けから開放され、榎本の顔を見つめると今度は唇を奪われた。

触れるだけのキスは数秒で終わり、妨げとなる眼鏡を外すと榎本は純子を強く抱きしめ深く口付ける。
純子の身体がガラス戸に押し付けられているのを衝撃音で確認すると、腰に左腕を回して崩れ落ちそうな身体を支えた。
榎本の初めて見せる激しさに眩暈がする。
息苦しくて咄嗟に唇を離そうにも、後頭部から抱え込むように回された榎本の右手に阻れる。
潜り込んで来た舌に応えようにも、慣れないせいかどこかぎこちない。
冷たい指先が、首筋を這う。

欲しい。
その想いが自らの首を絞める。
苦しさに幾らもがいても抗いきれない。

指がなぞった感触が消えぬ間に、呼吸を妨げていた唇がその後を追う。
くすぐっい感触に純子が身をよじると、ガラス戸に軽く頭部が触れる。
「・・・っ・・・」
立っている事が辛そうな純子の身体を腰に回した腕でベッドまで導く。
そっと横たえると視線がぶつかった。
純子の浮かべる恥じらいと困惑の表情に、押し込めた筈の躊躇いが榎本の中に芽生える。
「今だけは、忘れてください」
自らに言い聞かせる意味を含む榎本の言葉を理解出来ない所為か、純子の表情は困惑の色を増す。
「このまま騙し騙し貴女と過ごすのはもう、限界です」
109話後位の話9:2012/06/25(月) 14:44:49.83 ID:UpR81IEY
きっちりと閉められたブラウスのボタンをするすると外され、露わになった胸元に強く吸い付かれた。
想いが増す程に湧き上がる反証を打ち消すように、白い肌に紅い印が刻まれる。
ブラのホックが器用に外され圧迫感から開放されると、榎本の舌が控えめな丘を上がりその頂きを軽く吸い上げる。
「ひ…ぁ…」
硬度を増してゆく先端を舌先で弄ばれ、腰が甘く蕩けていく。
恥ずかしさの余りに目は閉じたまま榎本に身を委ねていると、下半身を包む着衣も次々と剥がされる。
「電気…」
言いかけて、純子は息を呑む。
敏感な花芯に榎本の指が触れ、消して欲しいと言い終える事も許されない。
自分の身体が、どれだけ求めていたのかと思い知らされる。
「お願い…消し…」
榎本の指先から水音が聞こえる。
花弁を割り進入した指が、内壁をやわやわと刺激しながらゆっくりと出入りを繰り返している。
「…ん…は…っ…」
純子の反応を確認し最も声の上がった場所を探り当て、執拗に刺激を与えてきた。
故意なのか、それともそれだけ淫らに身体が反応しているのか解らない。
ただ静かな部屋に卑猥の色を濃くした水音と純子の甘い鳴き声が響く。
溢れ出る蜜を絡めた指が花芯へ触れ、どうしようもない刺激が純子を追い詰める。

『今だけは、忘れてください』

言葉の意味を理解すると同時に、純子は意識を手放した。


四肢をぐったりさせ肩で息をする純子の白い肌は、達したばかりの所為か赤みを帯びていて
ぼんやりと開かれた瞳は焦点が定まっておらず、潤んでいた。
あまりに官能的なその姿に榎本は部屋の明かりを消し、着衣を脱ぎ捨てる。
手探りでベッドサイドにあるスタンドライトに明かりを灯した。
眉間に皺を寄せ、目を閉じたままの純子を見つめる。

モノクロだった世界に突然やってきて、純子は色をつけてしまった。
それがどういう事なのか、解っているのだろうか。

頬に張り付いた髪をそっと払い、労るようなキスをする。
唇を離すと、閉ざされた瞳が開いた。
「え…のもと…さ…」
愛しい。この感情もきっと純子がくれた。
「私も…榎本さんの事…す…」

―好き。

純子の口からそう言われる資格は、今の自分にはない。
指先で純子の言葉を止めると力の入らない純子の下肢を押し開き、貫いた。
苦しげでどこか甘美な声が純子の口から漏れた。

この一時しか純子の苦しみを紛らわす事しか出来ない。
今は…まだ。
119話後位の話:2012/06/25(月) 14:46:23.81 ID:UpR81IEY
以上、お目汚し失礼致しました。

ROMに戻ります。
12新婚 ◆tsGpSwX8mo :2012/06/25(月) 16:06:23.73 ID:YuMhQBhj
純子はベッドの上で激しく体を動かしている。
彼女は榎本の腰をまたぐように上に乗っていて、その身には何もまとってはいない。

二人の下半身が密着する場所からは、淫らな粘液の音が途切れなく聞こえてくる。

純子の小ぶりの乳房は、彼女の動きに合わせ……それなりに揺れていた。
とはいえ、榎本にとっては充分なほど淫らな光景であった。

「あっ! ああっ……」
焦点の合わぬ瞳のまま中空を向き、あえぎ声を漏らしている純子。
しかしそれだけではなく、彼女のひだのひとつひとつが、
まるで独立した生き物のように榎本のものにからみつき始めていた。

これまでに味わったことのない快感に、自らを抑えることも出来ず、
榎本は彼女の腰を両手でつかみ、激しく下から突き上げる。

なすすべもなく純子はそのまま一気に絶頂へとおしあげられ、
声も無くがくがくと体を震わせながら、激しく体内の榎本をさらに締め付ける。

そんな刺激に抗うことなど不可能で、榎本もまた射精をはじめる。
遮るものなど装着していないため、榎本の胸へと倒れこんだ純子を両腕で抱えたまま、
脈動は純子の奥へと注ぎ込まれてゆく。いくども、繰り返し。
13新婚 ◆Mjk4PcAe16 :2012/06/25(月) 16:08:36.34 ID:YuMhQBhj
二人の呼吸がおだやかなものへと変わった頃、榎本は体の位置を入れ替える。
キスをし、かなり長い間むさぼりあったあと、二人は名残惜しそうに唇を離す。

目の前の榎本の顔を見上げながら、純子は言う。
「赤ちゃん、できるといいな。私、好きだから、赤ちゃん」

「避妊をしない場合、一年で85%程度のカップルが妊娠するというデータがあります」
「あ〜っ、いまこの状態でそれをさらっと口にするんですか?
 ふふっ、榎本さん、全然かわってないんですね〜」

「……いえ、それを言うなら、かわってないのは純子さんのほうだと思いますが?」
「え? わたしのどこが?」
「夫である僕に対して『榎本さん』と呼ぶのは、現時点では誤り…だと」
「あっ…… ハハ、それはそうかも」

榎本は何も言わず純子を見つめている。
逃げ切れないその場の雰囲気をひしひしと感じて、純子は覚悟を決めた。

「け、け、径さん」
純子の口からその言葉が出た瞬間、
予測していたはずの榎本の視線が、明らかに定まらなくなり、
挙動不審となったあげく、頬まで染め、困ったようにあらぬ方角を見る始末。

そこには普段のポーカーフェイスを失った男がいた。

純子は心の中で叫んだ。
可愛い!! なにこれ?!
思わずぎゅっと抱きつく。唇を重ねる。激しく吸う。

その瞬間、彼女の中に残っていた榎本の分身が、再び力を盛り返した。

「あっ!」
「ごめんなさい、純子さん。もう、とめられない!」

野獣と化した榎本は、その晩ずっと、純子の体を離そうとはしなかった……

Fin
14名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:26:53.94 ID:Mxl4QD1x
スレ立て乙!
以下ドラマ感想



ドラマ終わったね青砥さんに電話あったのはいいけど
最後の表情で妄想打ち砕かれた・・・よ・・・。
15名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:28:00.98 ID:de3AM96G
ちょっ……
最終回ラスト10分までは超面白くてわくわくしながら見てたんだけど
最後がちょっと……
ってか、まさかここまで見事に榎本×青砥フラグがぶっつぶされて何の進展もないまま終わるとは……
16名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:31:57.25 ID:wTDh6GfY
前スレ約束です。
結局、ネタばれになってしまってましたね。
まさか海外逃亡まで被ると思いませんでしたが…
今後は妄想を公にするのは控えようと思いました。
失礼しました。
17名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:41:30.02 ID:QN1PeBXW
ドラマ終わっちゃったね、まさかの海外高飛びENDだったけど面白かった
しかし榎本青砥のフラグはボッキリ折れてしまったな・・・
せめて最後、電話切る時一瞬だけでも榎本が躊躇うとか、
青砥が泣いて感情的になるとかあれば良かったのに
まぁ、そういう演出をしないのがこのドラマの良い所なんだろうなw
今となっては中盤の榎本DT疑惑は何だったのかw
18名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:42:45.39 ID:Mxl4QD1x
別に妄想を形にするのはいいんじゃないか
>今日の昼に、ドラマは榎本が失踪して終わるらしいという噂を聞き
とか言う文章で絡まれただけなんだし。
某所の噂で浮かんだネタですぐらいの控えめな説明にすればw

それにしても前スレの約束はこの後にあっても全く違和感なかったよGJ
19名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:43:05.15 ID:7hhvGLjN
スレ立て&投下乙です!
>>15 恋愛要素なくなってたね。 最後の電話で何かしらあるかと思ったのに
20名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 22:45:37.03 ID:QN1PeBXW
順番前後しちゃったけど、スレ立て乙!>>1
そして書き手の皆さん作品投下ありがとう
1スレから過去作品遡って全部読むよ!
書き手の皆さんの素晴らしい作品のおかげで
このドラマにどっぷりハマることが出来て幸せな3ヶ月でした

>>16
気にすることないよ!ネタバレとは違う
これからも良かったら榎本青砥を書いてほしい
21名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 23:43:10.45 ID:CEV6DOwc
純子の携帯番号を榎本が覚えていた
芹沢ではなく純子に電話した
これだけで満足

この作品に出合えて嬉しく思う!
本編は終わっちゃったけど毎日ここに通うよ
22名無しさん@ピンキー:2012/06/25(月) 23:53:28.18 ID:QN1PeBXW
>>21
なるほど!>携帯番号を覚えてた&青砥に電話した
今最終回リピから戻ってきたけど、あちこち青砥が可愛すぎるw
23名無しさん@ピンキー:2012/06/26(火) 01:45:44.85 ID:uk8XNH2d
最終話、最後のブラック榎本にやられて思いついた話
時系列は考えてませんが榎本が高跳びする前なのは確かです。
続編来い! スペシャル来い! という祈りもこめつつ
24鍵師の怒りと罰ゲーム 1:2012/06/26(火) 01:46:36.96 ID:uk8XNH2d
「ごめんなさい榎本さんっ! 本当にすいませんっ!」
「…………」
 90度に腰を折って謝罪する純子を、榎本は無視。
 いや、恐らく意識はしているのだろうが。人を寄せ付けない無表情、何を考えているのかさっぱり読めない無の空気が、無駄に緊迫感を煽っている。
 そんな榎本を前に、純子は今にも泣きそうな顔で「すいません」「ごめんなさい」を繰り返した。というよりも、それしかできることはなかった。
 二人の間に転がっているのは、見事に真っ二つに割れた古い錠。
 冷え冷えとした空気が漂う中。純子は、何故こんなことになったのか……を思い返していた。

 その日、純子は上機嫌で榎本の職場「東京総合セキュリティ」に訪れた。
 特に用事はない。今日は、アフターに用事が入っていたが、その待ち合わせまで中途半端に時間が空いたので、ちょうど通り道にあるから顔を出した……というだけのこと。
「榎本さん、こんばんはっ!」
「こんばんは、青砥さん」
 美味しい、と評判のケーキを片手に地下備品倉庫を覗けば、開錠作業に没頭する榎本が、無愛想に挨拶を返してきたのもいつも通り。
 ただ、一つ違ったのは……
「…………」
「え、どうしました、榎本さん?」
「いえ」
 ぼすん、と目の前に座った純子を見て、榎本がわずかな時間、固まった。
 それは本当に微かな変化でしかなかったが。数ヶ月もの間、毎日のように顔を合わせていれば。無表情の中にもわずかな違いがあるのだとわかってくる。
「いえ、じゃないですよ。何か言いたいことがあるのなら言ってください! 気になるじゃないですか」
「……今日は、どのようなご用件ですか」
「あ、すいません。別に用事はないんですよ。ただ、この後、この近くで合コンがあるんです。中途半端に時間が空いちゃったので、来ちゃいました」
 うふふ、と含み笑いと共に答えると、榎本の表情がぴくりと動いた。
「合コン、ですか?」
「ええ。学生時代の友人に誘われて。何だか一流企業の社員さんがいらっしゃるそうです」
「……今日は、お仕事はお休みだったんですか?」
「いいえ? 普通にありましたよ。飲み会があるから定時で退社させてもらいましたけど」
「…………」
 榎本は無言。だが、それは、言いたいことはあるが、どう言葉にすればいいのかわからない、という類の無言。
 ちらちらと視線が往復する。その目の動きを追って、純子は「ああ」と声を上げた。
「着替えたんですよ。さすがに、合コンであのスーツはちょっと堅苦しいかな、と思いまして。わたし、ああいう席は初めてなんですけど。こんな格好で大丈夫でしょうか」
 立ち上がる。いつもの地味なパンツスーツとは違う、女性らしい華やかな色合いのブラウスとフレアースカートという姿で、くるりと一周。
「似合いますか? こういう格好、あんまりしないので。実はちょっと不安だったんです」
「…………」
「えーのーもーとーさーん!」
「……すいません。僕は、女性の服装には詳しくないので。コメントを求められても困ります」
「もう、堅苦しいですねえ! そんなの、榎本さんの主観でいいんですよ! 似合うか似合わないか、って、それだけでいいんです!」
「…………」
25鍵師の怒りと罰ゲーム 2:2012/06/26(火) 01:47:33.95 ID:uk8XNH2d
 純子の催促を、榎本は無視。そのまま開錠作業に没頭する彼を見て、ふう、とため息をつく。
(まあ、榎本さんには聞くだけ無駄よね。それにしても、似合いますよ、の一言くらい、言ってくれてもいいのに)
 わずかに膨れながら、持ってきたケーキを皿の上に乗せる。
「榎本さん。ケーキ、どっちがいいですか? モンブランとザッハトルテがあるんですけど」
「どちらでも。青砥さんがお好きな方を取ってください」
「ええー! どっちも美味しそうですっごく迷ってるんです。だから、榎本さんが先に選んでください」
「……では、モンブランで」
 榎本は「ザッハトルテ」というケーキを知っていたんだろうか、と失礼な疑問を抱きながら、モンブランを慎重に差し出す。
 ついでに手元を覗き込むと、これまで見た錠の中でも、とてつもなく年季の入った錠が目に飛び込んできた。
「随分、熱心ですね。その錠は?」
「これは、室町時代に使われていたとされる錠の一種です。アンティークの類に入るので苦労したのですが、先日、ようやく持ち主の方と交渉が成立しまして」
「へええええ……室町時代ってすごいですねえ! そんな時代から、錠ってあったんですね?」
「日本でも最古のものの一つでしょうね。手に入れることができて幸運でした」
「すごいっ……榎本さん、わたしも、ちょっと見せてもらっていいですか? あ、榎本さんはケーキ食べちゃってください。お茶も入れましたよ。冷めないうちにどうぞ」
「構いませんが。古い錠なので、非常に作りが脆いです。取扱いには気を付けてください」

 ああ本当に、自分は何て馬鹿でドジなのだろうか。この手のトラブルを何回引き起こせば気が済むのか。
 大体、何で見せてもらおうなんて思ったのだ。鍵や錠になんて何の興味もない癖に。ただ、榎本があまりにも楽しそうに見えたので、ついつい自分も見てみたくなったのだ。それが、それが……
 持ち上げたりひっくり返したりしてじっくり錠を見ている最中、落として壊した。
 一言で説明すれば、そういうことになる。
 これがどこにもである鍵だというのなら、「弁償しますっ!」と言えばいい。だが、これは違う。値段の問題ではない。ものすごく貴重な古い錠で、滅多に手に入らない希少価値のある、そういうものなのだ。
 おそるおそる顔を上げる。榎本は純子の顔も壊れた錠も見ていなかったが。せわしなくすりあわされている指の動きを見ると、相当に動揺しているのは明らかだった。
 ああ、どうしようどうしようどうしよう……
「え、榎本さん、すみませんっ。すみません……謝ってすむことじゃないってわかってますけどっ! 謝ることしかできないんです。本当にすみませんっ……」
「…………」
「あの、わたし何でもします。お詫びに何でも言うこと聞きますから! その、だからっ……」
 許して下さい、と言いかけて、口をつぐむ。
 許してもらえるわけがない。榎本がどれほど鍵や錠に愛着を持っているかを、自分はよく知っている。大切なコレクションを壊されたのだ。二度と来るな、顔も見たくない、出て行け――と言われても仕方がない。
 どんな罵声も甘んじて受けようと、純子がギュっと目を閉じて待っていると――
「……何でも?」
 微かな、本当に微かな声が、響いた。
 顔を上げる。指をすりあわせる動作はそのままに、榎本が視線を向けていた。
 その表情は相変わらずの「無」だが……何故だろう。純子の背中に、ぞくりとした寒気が走った。
「何でも、言うことを聞くと、おっしゃられましたか」
「……は、はい」
「そうですか」
 何だろう。榎本は何を言い出す気だ?
 自分から言い出しておきながら、今更「嫌です」などと言えるわけがない。
 何を言い出すつもりなのか。戦々恐々しながらうつむいていると。すっ――と、音もなく立ち上がった榎本は、流れるような動作で、備品倉庫の入り口に向かい「がちゃん」と音を立てて施錠した。
 再び足音もなく戻って来る。黙って純子の目の前に座ると、そのまま、しばらく沈黙の時間が流れた。
 あまりにいたたまれない空気に純子が顔を上げると。恐ろしいまでの無表情で自分を見つめている榎本と視線がぶつかり、思わず息を呑んだ。
26鍵師の怒りと罰ゲーム 3:2012/06/26(火) 01:48:14.97 ID:uk8XNH2d
 な、何だろう。この表情――
「あ、あの、榎本さん?」
「青砥さん」
 たまらず声をあげる純子を制するように。榎本は、淡々と言った。
「では、一つ、ゲームに付き合っていただけますか」
「げ、ゲーム?」
「はい。簡単なゲームです。それに付き合っていただけたら、今回のこの錠は諦めます」
「……そ、そんなことで、いいんですか?」
「はい。壊れたものはどうしようもありませんから」
 そんな風に言われると、返す言葉がなくなる。
 ゲーム。鍵や錠にしか興味を示さない榎本の口から出たとは思えない単語だが、同じ錠を探して来いと言われるよりはずっとマシだ。二度と来るな、顔を出すな、と言われることを思えば、それくらい何でもない。
「はい、わかりました! 本当にすみません。榎本さんの気が済むまでお付き合いしますからっ! ゲームって、どんなゲームですか?」
「簡単なゲームです。青砥さん、その椅子をここに持ってきてもらえますか――そう、それです。では、そこに座っていただけますか」
「? はい」
 純子が勢い込んで立ち上がると、榎本は、すっ――と、美しい動作で部屋の隅に置かれた椅子を指差した。
 基本的に、この備品倉庫の椅子は、どれも背もたれのない丸椅子と呼ばれる椅子ばかりだが。その椅子だけは、背もたれのついた少し立派な椅子だった。
 普段は使われていないらしいその椅子を引きずって来て、榎本が指差した場所――部屋の中央に持ってくると、言われるがままに腰を下ろす。
 何をするつもりなのか――と、視線を巡らせていると。
「!? 痛っ!」
 いつの間にか背後に立っていた榎本が、純子の手首をねじりあげた。
 華奢な体格からは想像もつかない力に、思わず悲鳴をあげるが。榎本は、それには一切構わず、見事な手際で純子の両手首を背もたれの後ろに回し――
 がちゃんっ! と、硬質な音が響いた。
「え、榎本さん――?」
 手首をゆする。がちゃがちゃ、という音と、冷たい金属の感触が、手首に伝わってきた。
 思い切り引っ張るが、手首に痛みが走ってすぐに力を抜く。指先でまさぐると、じゃらり――と、鎖らしき手触りが返ってきた。
「あの、これは――」
「手錠です」
「て、手錠!?」
「そして、これがこの手錠の鍵です」
 すっ、と目の前に差し出されたのは、小さな鍵だった。
 それをじっくりと見せられた後、そっと手渡される。慎重に指で受け取ると、榎本は「落とさないようにして下さい」とだけつぶやいた。
 そして――
「ひっ!? ちょ、ちょっと榎本さん! 何を!」
「静かにしてください。ゲームです」
「げ、ゲームって……やっ! ちょっと、ちょっと待って!」
 不意に、視界が陰った。
 ぐるり、と純子の目を覆ったのは、どうやらタオルらしい。目隠しをされた、ということに気付いたのは、完全に視界を覆われた後。
 何も見えない。どれだけ首を振っても、もがいても、タオルは緩む気配もない。
 ついで、触れられたのは足首。さすがに抵抗したが、榎本の動きは巧みだった。どれだけ足をばたつかせても、彼はそれに頓着する様子はなく、瞬く間に、純子の両足首は椅子の脚に縛り付けられた。
 わずかに股を開く格好で、椅子に完全に拘束された――そうと悟った瞬間、ぞっとするような恐怖が走り抜けた。
27鍵師の怒りと罰ゲーム 4:2012/06/26(火) 01:49:06.46 ID:uk8XNH2d
「では、ゲームを始めましょうか」
 耳元で囁かれる榎本の声は、実に平静に聞こえた。
「簡単なゲームです。青砥さんのクリア条件は、今、手に持ってらっしゃる鍵を使って、手錠を外すこと。僕は、これから様々な手を使ってあなたの動きを妨害します。制限時間は――そうですね。青砥さんは、そう言えばこの後、合コンでしたね。何時に集合予定なんですか?」
「っ……は、八時、ですけど」
「後一時間ですか。待ち合わせ場所に向かう時間も必要ですから、制限時間は三十分としましょうか。三十分以内に手錠を外してみてください。成功したら、あなたの勝ちです。壊れた錠のことは、諦めます」
「っ……あ、あの、わたしが、負けたら……?」
「そうですね。考えていませんでした。あの程度の鍵でしたら、まず負けることはないと思いますが――もし負けたら――ゲームには付き合っていただけたんですから、錠のことはお約束通り諦めますが。僕の言うことを一つ聞いてもらう、という形でも取りましょうか?」
「……な、何を言うつもり、なんですか?」
「さあ」
 ふっ、と、耳元で微かな笑い声が響いたような気がした。
 目隠しをされているせいで、純子には、榎本の表情はわからないが。
「それは、これから考えるとします。では――始めましょうか:
 冷酷な言葉に、純子は、慌てて指先で手錠をまさぐった。
 じたばたあがいても仕方がない。ゲームは始まってしまった――何としても、この手錠は外さないと。
「っ――きゃあっ!?」
 ふいに、胸元が涼しくなった。
 視界を塞がれているので、何をされているのかは想像するしかない――が、首筋、胸元に微かに触れるこの感触は――
「え、榎本さん、何してらっしゃるんですか!?」
「言いませんでしたか? 妨害しています」
「ぼ、妨害って!!」
「急いだ方がいいですよ。もう、五分経ちました」
「!!!!」
 榎本の言葉に、慌てて開錠作業を再開する。といっても、後ろ手に指先だけで手錠の鍵を開ける――口で言うほど簡単な作業ではない。
 しかも――
「ひっ!」
 ぶつぶつっ! という音と共に、涼しい空気が忍び寄ってきた。
 榎本の指が、首筋をくすぐって。そのまま、ブラウスのボタンを全開にした。
 多分、そうだろう――と思うのだが。見えない、ということが、こんなにも不安を煽るものだとは思わなかった。
「いやっ! やめっ……ひっ!」
 つつつっ――と、指先が鎖骨、胸元を辿って、下へ、下へと降りてきた。
 脇腹に温もりが触れる。あっ――と思ったときには、榎本の両手が背もたれとのわずかな隙間に入り込んで。そのまま、下着のホックをぱちりと外した。
 思わず全身を揺さぶって逃げようと試みるが。両手・両足を封じられては、大した抵抗はできない。
 事実、榎本は片手でやすやすと純子の肩を押さえ込んで。もう片方の手で、ぐいっ! と下着をたくしあげた。
 今、榎本の眼前に自分の胸がさらけ出されている――全身から冷や汗が噴き出すのを感じながら、必死で見えない視界を巡らせた。
「え、榎本、さん……何を、するつもりですか?」
「…………」
「お願い、やめて……ひゃっ!」
 ぴちゃり、という微かな音。鎖骨に感じる、ちくりとした感触。
 何をされているのかは想像に頼るしかないが。ぬるりとした感触が、胸元を伝わっていった瞬間、ぞくぞくした悪寒が背筋を駆け巡った。
 もがく。とても手錠に集中などできない。ちゃりんっ! という小さな音と共に、鍵が床に落ちたが。拾ってくれ、などと言えるはずもない。
28鍵師の怒りと罰ゲーム 5:2012/06/26(火) 01:49:46.37 ID:uk8XNH2d
「やっ……え、榎本さん……ひっ!」
 かりっ、という小さな音。胸の頂を走り抜ける、微かな痛み。
 ちろちろと生暖かい舌でなぶられる感触に、じわり――と、内部から熱がにじみ出るのがわかった。
 初めて、というわけではない。学生時代までさかのぼれば、何度かそういう経験はあった。
 けれど、それはお互いの合意の元、何にも拘束されない場所――平たく言えばベッドの上で――行われた行為であり。こんな特殊なシチュエーションは、もちろん初めてのことで――頭の芯が、ぼうっとするのがわかった。
(ど、どうしようっ……ひいっ!)
 しつこく胸をいたぶられながら、同時に、衣擦れの音が耳についた。
 榎本が――? と一瞬考えたが、違う。同時に感じたのは、太ももに触れる冷たい空気。
 スカートをたくしあげられた、ということに気付いて、文字通りの意味で血の気が引いた。
「やだっ! もう嫌っ……お願い、これ以上は……榎本さん!」
「…………」
「えのもと、さん……」
 するすると、太ももを伝ってきた指が、下着に触れた。
 椅子に座っている状態で、下着を脱がせるのは無理だろう――と、どこか呑気なことを考えていると。下着の隙間からダイレクトに指が忍び寄ってくるのを感じて、悲鳴が漏れた。
「ひゃっ! あ、あ、やっ……」
「……開錠作業は、進んでいますか」
「え……」
「制限時間まで、後十分ですが」
「っ…………!!」
 進んでいるわけがない。そもそも、鍵などとっくに取り落としている。そんなこと、榎本は当然気づいているはずなのに――
「も、もうやめてください。わたしの負けです。後十分でなんて無理です。お願いですから……」
「諦めないでください。鍵をうまく鍵穴に差し込むことができれば、開錠までものの数秒とはかかりません。ぎりぎりまで頑張ってください」
「だからっ……ひゃっ!」
 くちゅり、と。湿った音が、恥ずかしくなるほど大きく響いた。
 胸への愛撫で既に潤い始めていた秘所に、榎本の指が、容赦なく潜り込んできた。
 これまで、いかなる鍵でも開錠してみせた器用な指先が、純子の内部を蹂躙する。
 ぐちゅ、ぐちゃという音が響く中、必死に歯を食いしばって声をこらえようとしたが。その唇から嬌声が漏れるのに、数秒とはかからなかった。
「やっ……あ、あ、あ……え、榎本さん、榎本さんっ……やめっ……」
「やめて欲しいんですか」
「っ…………」
「ここは、随分正直に訴えてるように見えますけど?」
 するり、と指を引き抜かれた瞬間、悶えるほどの熱情が内部から溢れて来た。
 嘘だ。自分はやめて欲しいなんて思っていない。むしろ……
「んっ……!」
 唇の間に、何かが押し込まれた。
 それが榎本の指である、ということに気付いたのが数秒後。そして、その指が、それまでどこに触れていたのか――に気付いて、必死に振りほどこうとしたのは、さらに数秒後。
「んっ、んっ、ん――っ!!」
 容赦なく指が押し込まれる。かみついてやろうか、と考えて、それを必死に堪える。
 榎本の指を傷つけるわけにはいかない。鍵と錠を趣味にしている彼にとって、その指はまさに命そのものなのだ。
 大切な錠を破壊した自分が、この上彼の指を奪うことなど、できるはずがないっ――
29鍵師の怒りと罰ゲーム 6:2012/06/26(火) 01:50:24.59 ID:uk8XNH2d
「わかりますか。僕の指をこれだけ汚したものが何なのか」
「っ…………」
「何なら、なめてみますか? なかなか、自分で味わうことはないでしょうから」
「…………」
 ぽろぽろと、タオルの奥で涙が溢れるのがわかった。
 辛い、怖い、悲しい――という気持ちは、もちろんある。けれど、それ以上に――
 熱いっ……
 無意識に太ももをすりあわせようとして、足首に食い込むタオルが、その動きを阻む。
 もっと触れて欲しかった。もっと奥深くまで来てほしかった。もっと――
 ――榎本に来て欲しいっ!!
「え、え、榎本、さん……」
「何ですか」
「わ、わたしっ……」
「後五分ですね。いかがですか、開錠作業は」
「…………」
 ずるり、と、唇から指がひきぬかれる。溢れる唾液が顎を伝って、滴り落ちるのがわかった。
 わかってしまった。榎本は決してこれ以上は動いてくれない。自分からは動く気はない。後五分。彼のことだから、純子が何も言わなければ、いつもの無表情で純子の痴態を観察し、そして何事もなかったかのように解放するつもりなのだろう。
 ゲームは僕の勝ちですね、とか何とか言って?
 ――嫌だっ――
「や、やめないで」
「青砥さん?」
「やめないで。お願い、榎本さん。もっと……」
「…………」
「お願い。榎本さんが欲しいんですっ……」
「…………」
 ゲームは僕の勝ちですね、と、まさに純子の想像した通りの台詞を囁かれた。
 再び潜り込んできた指が、中途半端にくすぶっていた純子の熱情を一気に昇華し、爆発させた。
 あられもない声をあげて、不自由な体制で背をのけぞらせる。
 倒れそうになる椅子を支えたのは、榎本なのか。唇に微かに触れた柔らかな感触は、何だったのか?
 疑問に答えを得られないまま、純子は、脱力して全身を椅子に預けた。
30鍵師の怒りと罰ゲーム 7:2012/06/26(火) 01:51:04.61 ID:uk8XNH2d
 気が付いたとき、純子の身体は解放され、小さなベッドに寝かされていた。
 身を起こすと。傍らには、いつもと変わらない、無表情の榎本が立っていた。
「榎本さん?」
「気が付かれましたか」
「ここは……」
「倉庫の中二階です。仮眠用のベッドがあるので、運ばせてもらいました」
「あ……」
 身を起こして視界を巡らせる。いつもより近い天井。細々とした用具に囲まれた狭い場所。たまに榎本が上がるのを見たことがある、あの備品倉庫の階段の上か――
「どうしますか」
「え?」
「合コンの時間が迫っていると思うのですが」
「…………」
 言われるがままに、腕時計に視線を落とす。今すぐにここをとびだしても、間に合うかどうかという微妙な時間――
「榎本さん」
「行くんですか、合コンに」
「…………」
「ゲームは、僕の勝ちですよね」
 淡々とつむがれる言葉に、純子は力なく頷いた。
 あの妨害行為は卑怯だ、と言ってもよかったが。例え榎本が何もしなかったとしても、自分では、三十分以内に手錠を開錠することはできなかっただろう。
「僕が勝ったら、錠のことは忘れるついでに僕のお願いを一つ聞いてもらえる――そういう約束でしたよね」
「――はい」
 これ以上、何を言い出すつもりだろうか。
 いまだに熱が残る身体を抱えて、ぼんやりと榎本を見上げると。
「行かないでください」
「……はい?」
「行かないでください。合コンに」
「…………」
「そういうお願いは、ありですか?」
 榎本の言葉が、脳に伝わり、意味を理解するまでに、少しばかり時間が必要だった。
 これはどういうことだろうか。榎本は何を言いたいんだろうか。まさか――
「ゲームに負けたのは、わたしですから。それがお願いだって言うのなら、もちろんお聞きしますけど」
「…………」
「それだけで、いいんですか?」
 備品倉庫は施錠されていて、誰も邪魔する者はいない。
 自分はベッドに横たえられていて、傍には榎本がいる。この状況で、お願いがそんなことでいいのか?
「榎本さん?」
 身体に残る熱情は、まだ消えてはいない。中心部はまだまだ熱くうずいていて、目の前の男を……榎本を欲しい、と、そう訴えている。
 潤んだ目で見上げると、その意味を悟ったのか。ぎしり、という音と共に、榎本の身体が、のしかかってきた。
 押し倒される。固いマットレスを背中に感じながら、純子は、目の前の身体を思いきり抱きしめた。

〜〜END〜〜
3123:2012/06/26(火) 01:51:50.12 ID:uk8XNH2d
終わりです。
ドラマは終わっちゃいましたがこのスレが今後も続いていくことを祈っています。
32名無しさん@ピンキー:2012/06/26(火) 07:42:31.04 ID:Afvhc9Em
もう3スレ目に突入なんてすごい!
じゃあ、写真撮りまーすw

ドラマ終わってしまってさみしいけど、このスレのおかげで救われてます。
職人さまGJです。
33名無しさん@ピンキー:2012/06/26(火) 13:43:37.83 ID:fMV2D5OA
>>31
乙です!
ブラックどS榎本最高でした〜!

チーム榎本好きな自分としてはラスト若干寂しかったけど、
続編やってくれるって信じてる!!
34名無しさん@ピンキー:2012/06/26(火) 18:46:09.74 ID:hKWkpw1h
>>31
GJ!
榎本はやっぱりドSが似合うな、攻め方がまたエロい

最終回を観るまではと書き控えていたシリアスネタやおバカネタが幾つかあったけど、
ラストの榎本の黒いニヤリで全飛びしたわw
35名無しさん@ピンキー:2012/06/26(火) 19:51:56.20 ID:j8aiH/bx
昨日の最終回はあれこれと妄想したな
ふと佐藤こと椎名が自首する前に青砥を睡眠薬入りコーヒーで眠らせ
いやらしい事をしようとするのを榎本が阻止したりするとかさ
36名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 00:50:45.14 ID:sT6W1146
最終回、きれいにまとめたとは思うけど榎青萌えチーム榎本好き的にはショックだった…
榎本さんドライ過ぎるよおおおせっかく仲良くなれたと思ったのに
今まで原作よりもラブ描写あったのに最後の最後は原作と真逆じゃないか…
せめてエスケープ前に少し名残惜しそうな素振りを見せてくれたらなあ
色々感想見て自由でいるためにこれ以上情が移るのを避けようとして離れたって補完したけど
続編つくって原作のような関係で腹さぐりあったり駆け引きしながらイチャイチャして欲しい
ほんとショックでずっと落ち込んでるわ…w
37名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 06:56:45.07 ID:qXiycR/T
同じだよ喪失感ハンパない、今のとこリピする気も起きない。
録画全消ししそうな勢いだわ…思いとどまってるけど。
せめて最後のニヤリ無かったら。
書きかけのSSも書く気しないわ。
妄想して幸せだったころに戻りたい。
38名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 09:41:29.60 ID:9J2zkiBn
>>31最高です!やっぱ手錠プレイは榎本の醍醐味www

>>36>>37自分もあの最終回を見て、芹沢青砥を切り捨てた榎本を見た後では
過去回の榎青萌えシーンなんてもう見る気がしないよ。
ここの住人以外にはあのラスト好評みたいだけどね…
でも自分はこのスレにはまだまだ期待してるよ!
もともとパロディだし最終回を見た後でも文章で読めばあの2人が蘇ってくる。
しばらく皆さんショックでしょうが、落ち着いたらまた投下して下さい。
楽しみに待ってます。
39名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 10:39:02.72 ID:71A/t2q8
>>36>>37
同じく魂抜けたみたいになってるけど
自分は全然関係ないジャンルのサイトを運営してて
この数ヶ月は鍵部屋にはまりすぎてサイトの方でも萌えを叫んだりSS紹介したら
自分のSS読んで鍵部屋に興味持った、ドラマ見た、榎青最高みたいなコメント結構もらえた
そうやってファンを開拓したら、DVDの売上とかフジテレビに要望殺到とかで、続編とかに希望が出るかも
公式サイト見てると、榎本の過去が明らかになる予定とか榎本と純子がお互い惹かれあってく予定とか、明らかに最終回にそぐわないコメントが並んでたし、あのラストは続編に繋げるために変えられたのかも……と前向きに考えてみる。
まあ何が言いたいのかと言うとこれからもSSで萌えを満たしながら榎本が帰ってくるの待とうよ、ということです。
長文ごめん
40Departure 1/5:2012/06/27(水) 12:16:06.50 ID:2zRk+Ozm
前スレ『約束』を書いた者です。

自分としては、あのラストは楽しめましたが、
あまりにも身も蓋も無いようにも思えたので
最終話後半の脚本をリライトしてみました。

よかったら、読んで下さい。

・・・・・・・・・・

径は、部屋を出る前に、何かやり残したことはないかと振り返った。

築三十年以上になるだろう解体寸前の木造アパートの一室は、
足を踏み入れた時と同じ既視感をたたえて、静かに径を見返している。
ベランダの無い小さな窓から、吹き込むすきま風。
木の節を模した天井を一層みすぼらしくさせる雨漏りの跡。
彼は、雨風をしのぐにも心もとないこの棲家で、
あのオフィス街の密閉容器を夢見たのか。

径は、これから会おうとしている男のことを思った。

今目の前にある、ひと蹴りで穴が開きそうなこのドアと、
防弾ガラスで出来た重い扉と…。
その先に明日という日が続いていることを信じてドアノブを回した男の
その思いつめた表情は、自分に似てると、ふと思った。
41Departure 2/5:2012/06/27(水) 12:16:53.32 ID:2zRk+Ozm
アリーナの通路は暗く、男の表情からはなんの感情も読み取れない。
小柄で痩せぎす。自分と同い年の筈なのに、一回りは年下に見える。
そんな、どちらかと繊細で気弱そうな風貌に似合わない冷静さと大胆さ。
やはり榎本という男のことは侮らない方がいい。
自分の直感は正しかったと、改めて思う。

だが、通報したのは失策だった。
あの一件で、榎本は俺がしかけた盗聴器に気がついたに違いない。
そもそも、社長の死を通報する必要もなかったのだ。
わざわざ自分の視界から這い出てくれていたものを
もしや殺し損なったのではないかという狼狽から
第一発見者になるという安易な道を選んでしまった。

椎名章は絶望にうちひしがれながら、榎本の無表情な瞳の奥の感情に
一縷の望みを込めて尋ねた。
「君にならわかるだろ・・・?俺の気持ちが」
42Departure 3/5:2012/06/27(水) 12:17:31.63 ID:2zRk+Ozm
「俺の気持ち?」
径は声には出さずに、心の中で章の言葉を反芻した。

金さえ手に入れば、人生をやり直せる?
金が無ければ手が届かない女とも付き合える?

不意に径の胸に、青砥の香りが立ちのぼった。
彼女を近くに感じる度、確かに自分も同じ事を考えたかもしれない。
あの人と共に生きる、という人生を。

だが…

径は頭の中の残像を振り切ると、章の質問には答えずに、逆に訊き返した。

「それで・・・ガラスは超えられたんですか?復讐を果たし、ダイヤを手に入れて、
それであなたは開放されたんですか?…僕にはそうは見えません」
章の瞳に、すがるような色が宿った。
「君にはどう見える?」
「前後左右、それから上下まで、ガラスに囲まれているように見えます」

径の言葉に思い当たる節があるのか、章の表情が曇った。
径はそれには構わず言葉を続けた。
「ぼくは・・・ガラスの箱に閉じ込められるのはごめんです。
例え向こう側に行けないとしても・・・」

続く言葉は、章に言ったものではなかった。
径は今や章を説得する形を借りて、自分自身に言い聞かせた。

「…自由でいたいんです」
43Departure 4/5:2012/06/27(水) 12:19:17.18 ID:2zRk+Ozm
章は観念した。
あっという間に全てが急転したことが、まだ信じられなかった。
本当に何もかも失ってしまったのか?
ダイヤモンドも復讐の悦びも、…そして、未来も。

「そう言えば、ダイヤモンドの一部が
イミテーションにすり替えられていましたね」
榎本の声の調子が、一変した。
章は意味が判らず、目の前にいる正体不明な男の顔を見る。

榎本はそれには構わず、夢見るような視線を
アリーナのホールに続く扉の向こうに投げかけながら喋り続ける。

「どうやらあの強欲な社長も、更に強欲な業者に騙されていたんでしょう。
洗濯槽の中に隠されていたダイヤを確認しましたが、そのうちの一億円相当が
ホワイトジルコニア。つまりイミテーションでした」
「そんな…まさか…嘘だ」
章には信じられなかった。
社長はあの部屋で、毎日のようにダイヤを鑑定していたのだ。
イミテーションが混じっていたら、気がつかないわけがない。

「嘘じゃありませんよ。今あなたのアパートの洗濯槽の中で眠っている
ダイヤモンド達の一部は間違いなく偽物です」

章は、榎本が嘘をついているのだと気がついた。
いや、一部がイミテーションにすり替わっているのは事実だろう。
だが、そのすり替えが可能な人間は、どう考えても…

「君は一体…何を言いたいんだ?」
章は喘ぐように言った。
「取引ですか?黙っていてやるから、分け前をよこせ…と?」

榎本はそんな章に一瞥をくれた。
「僕はそんなに強欲じゃありません。その半分で充分です」
ますます、なんのことか判らない。
「あなただって、人生をやり直す為なら5億も必要じゃないでしょう。
寧ろ、罪も償わず、まるで卵を守るタガメのように四六時中ダイヤに寄り添い
これから一生、警察や泥棒の影に怯え続けなければならない」

章には、榎本の真意が計りかねた。
榎本の視線が再び遠くなった。

「あなたの生い立ちと社長との因縁を考えれば、情状酌量の余地は充分有ります。
仮に無期懲役の判決となったとしても、刑務所内での素行が模範的であれば
数年で仮出所することも可能だと思います。
その時、五千万という資金があれば、あなたは人生をやり直せるかもしれない。
そのチャンスに、かけてみる気はありませんか?」

章はごくりと唾を飲んだ。
「君を信じてもいいのか?」
目の前にいる摩訶不思議な男は、相変わらず自分を通り越して、
ステージに続く重い扉を見ている。

しばらくの沈黙ののち、榎本はゆっくりと口を開いた。
「信じ合えなければ、あなたも僕も、ここで終わりなんです」
44Departure 5/5:2012/06/27(水) 12:22:43.72 ID:2zRk+Ozm
空港の公衆電話を前に、径はためらっていた。
架けるべきではないのは判っている。
だが自分が何も言わずに去ったなら、青砥はどんなに戸惑うだろう?
ホワイトジルコンにすり替えられたダイヤの話は
きっともう鴻野を通じて、芹沢や青砥の耳に入っているに違いない。
そしてそんな状況でも、きっと青砥は希望をかき集め
径の無実を信じ、無事を案じているに違いない。
青砥に、そんな思いをさせたくなかった。
青砥には、陽の当たる道を歩いて欲しかった。

断ち切らなければ…全てを。
径はポケットの小銭を掴んだ。
日本円は、しばらく無用な生活が始まるのだ。

公衆電話の重い受話器を取り上げ、見慣れた番号を押す。

「はい。もしもし!?」
3回目の呼出音の後に続いたのは、既に懐かしい青砥の声だ。
「…すみません、連絡が遅くなりました」
第一声を振り絞る。
「どこに行ってたんですか!?」
青砥の声は怒っていたが
「心配してたんですよ?」
すぐに涙声が混じる。
「榎本か?」
やはり芹沢も近くにいるらしかった。
彼の時計を盗んだのは、やはり悪戯が過ぎたかと今更思う。

「ちょっと事情がありまして…」
言いよどむと、芹沢が畳み掛ける。
「榎本、どこにいるんだ、榎本?」

一瞬返事に詰まったが、正直に答えることにした。
「空港です」
「空港?旅行にでも行くんですか?」
訊き返したのは青砥だった。
45Departure 6:2012/06/27(水) 12:23:33.63 ID:2zRk+Ozm
「ええ。臨時収入があったもので…」
胸にこみ上げる感情を押し殺して、出来るだけ淡々と返事をする。
自分はこういう男なのだ。
あなたの信頼に応えられる人間じゃない。

耳障りな雑音が聞こえた。
どうやら、芹沢が青砥から携帯をもぎ取ったらしい。
最後のコインが落ちて、今までの全てがカウントダウンを始める。

「おい、榎本。聞きたいことがあるんだ。
警察が佐藤学の部屋から押収した六億相当のダイヤのうち
ほぼ一億相当分が、ホワイトジルコン…つまり偽物だったんだそうだ。
…お前、まさか…」
まさかこのタイミングで訊かれるとは…
径は、自分に落ち着けと言い聞かせた。

「…なんのことでしょう?社長が業者に騙されたんじゃないですか?」

携帯を通して、芹沢の失望感が伝わってきた。
それでいい。
今は崖から突き落とされたような気分でも、いずれそのうち
早々に自分と縁が切れたことに安堵するようになるだろう。

だが、青砥はなおも食い下がってきた。
「旅行って、どこに行くんですか?」

答えられるわけが無い。
「…さぁ」
「いつ、帰って来るんですか?」
「さぁ」

機械的に答えながら、径は気抜くと口からついてでそうな
二つの言葉を飲み込むと、その代わりに、言うべき言葉を口にした。

「フライトの時間なので、もう行きます」

受話器を置く手がにぶるのが我ながら滑稽だ、と径は思う。
心にこだまする全ての感情に耳を塞ぐように真新しいイヤホンを装着する。

『ありがとう』も、『ごめんなさい』も、そして…
全ての感情を、今はここに置いて行こう。
青砥に出会う前の、本来の自分を取り戻そう。

「馴染んだ孤独にいつまでしがみついてるんだ」
ふいに、もう一人の自分がつぶやく声が聞こえた気がした。

径は、自分の中に残る僅かな純情を嘲笑するように笑を浮かべ
背筋を伸ばして歩き出した。
46Departure 終:2012/06/27(水) 12:25:10.46 ID:2zRk+Ozm
以上です。
5つの場面で区切るつもりが、投稿規制で1つ付け足しになってしまいました。
毎度お見苦しくて申し訳ありません。

それではまたロムに戻ります。
47名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 13:00:04.06 ID:LIpB5hp5
エロの無いエロパロは要らない
48Departure お詫び:2012/06/27(水) 13:19:40.13 ID:2zRk+Ozm
それは失礼しました。
49名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 13:23:08.10 ID:D7164ntH
いや、こういう補正もたまにはいいよ。
少し癒された。
50名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 13:25:45.47 ID:LiNO1o05
>>46
GJです!補完ありがとう
51名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 15:12:36.20 ID:BRGNhSNu
こういうテイストで終わってほしかった。
ドラマ的にはあれで正解なんだろうけど。
52名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 15:27:55.43 ID:+jU3aSLg
>>45 GJです!
ドラマもこんなラストだったらよかったのに
53名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 19:06:32.79 ID:IBTzHUvh
ダイヤ換金しに海外飛んで、ほとぼり冷めたらひょっこり帰ってくるんじゃない?
自分はこれで一生さよならとは思ってないから、切り捨てとは受け取らなかった。
帰ってきたら密室事件でチーム榎本再開。
原作みたく疑心抱きつつも、より本当の榎本に近づける関係に変化していく・・・そんな妄想をしているw
続編あるといいな
54名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 19:09:44.37 ID:nVCR4HRB
書き手の皆さん素晴らしい作品の数々、乙です
ドラマが終わってからはもうこのスレが心の拠り所ですw

ドラマの終わり方に不満はない、むしろ素晴らしかったと思う
でも寂しさが半端ないよ
恋愛ドラマじゃないから過度な甘い展開はもともと期待してなかったけど
でも榎本が帰ってくる可能性を残して終わってくれて良かったと思う
限りなくクロに近いグレー、ってことだよね、今のところ
映画とかもう1クールとかじゃなくていいからSPで1回やってほしいな
その時もまた最後姿消しちゃっても、そのうち帰ってくるさって思えるからw
55名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 22:35:04.54 ID:NaYwfTnh
最終回のあのラストのニヤリはどんな風でも想像させるものがあって、それだからこそ
それまでの青砥との可愛くて微笑ましい関係をブツ切りしてしまったから、一気に魂ごと
持ってかれた気がした
ドラマとしてはあの黒いニヤリがあったから見事に物語が締まったんだけどね

でも去り際、青砥にわざわざ電話してきたことに期待を繋げてみる
こうであって欲しいという気持ちを込めて半年後設定で書いてみた
56手繰る聲 1/3:2012/06/27(水) 22:35:50.82 ID:NaYwfTnh
風が乾いた冬の匂いを運んでくる季節が巡っていた。
このところ、仕事が終わって帰って来るとひどく疲れていて何もしたくない。
それが続いて次第に自堕落になってしまうのが嫌で、無理やり気分を奮い立たせいててもどこかに
空しさが残っている。
そのせいもあって青砥は最近犬を飼い始めた。住んでいるところは特にペット可を明記していなかった
ものの、事前にきちんと相談したせいもあるのか大家は黙認という形で許可してくれた。
ペットショップで一目惚れをして買った犬は三ヶ月の柴犬の牡でとても賢く、凛とした眼差しは決して
忘れられない誰かにとても似ていた。
そう、半年前に突如として姿を消した愛しい人に。

その電話がかかってきたのは、犬を買ってから半月ほどしてようやく一人と一匹との生活に慣れて
きた頃のこと。
入浴後に冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出そうとしている時、突然テーブルの上に置いて
いた携帯が鳴った。見知らぬ番号ではあったがその時は特に気にはなっていなかった。
予感はあったのかも知れない。
「はい、青砥です」
とことこと側に寄って来た犬もきょとんと耳を立てている。
『こんばんは』
決して忘れない、懐かしい声だった。
驚きで携帯を取り落としそうになったが、必死でその名を呼んだ。
「…榎本さん!」
『お久し振りです』
「お久し振り、じゃないですよもう!今どこにいるんですか?」
『それは答えかねます』
「いきなりいなくなって、どんなに心配したと思ってるんですか…私も芹沢さんもあれからどんなに
探したか分かりませんよ、なのに」
『すみません』
榎本からの言葉は相変わらず完結過ぎるほどに短い。聞きたいことは山ほどあったが、今は何とか
この会話が途切れないように繋ぐことしか考えられなかった。遊んで欲しそうに膝の上でじゃれている
犬の頭を撫でながら、青砥は懐かしい声を懸命に追う。
「榎本さん、あなたが何者であっても私は」
『僕は何者でもありません』
「…結局のところ、ダイヤモンドが最初から全て本物だったのかどうかは何も証拠がなく、榎本さんが
関与していたかについては警察でも実証出来ませんでした」
『そうですか』
57手繰る聲 2/3:2012/06/27(水) 22:36:23.53 ID:NaYwfTnh
携帯から聞こえる声は聞き馴染みのある、静かで淡々としたもので全く波がない。動揺ひとつない
のは一切関わりがなかったからなのか、それとも単に都合良くしらばっくれているのか。それすら何も
分からない。
ただ、一つだけ言えることはある。
ごくり、と唾を呑み込んではっきりと青砥は告げた。
「私は、榎本さんを信じています。芹沢さんもです。ですからいつか帰」
『それでいいと思います』
「え?」
話している途中で被ってきた榎本の声は、その先を言わせまいとしているようだった。
『人の印象は第三者からの視点でたやすく変わります。僕がこうと思う僕の実像と、青砥さんが思う
僕は恐らく若干の違いがあるでしょう。誰もがそうなのです。ですから』
一旦途切れた言葉は、やや間を置いてから続いた。
『見えているものが見えないとしても、他の誰かが僕について何を言っても、青砥さんが思う姿の僕で
あるなら、そこに本当の僕はいます』
「何を仰っているのか、良く分かりません」
榎本はやはり何もかも曖昧なままにするつもりのようだ。言葉を選んで、あくまでも青砥の知りたい
ことの核心には決して触れない。それでも、いつも顔を合わせていた頃の榎本を思い出して懐かし
かった。
なのに榎本はそれを嘲笑するように棘を刺してくる。
『青砥さんの知りたいことについてですが、僕は恐らく今も疑われている最中でしょうね。それに関して
僕が無関係であると言ったとして、あなたはどちらを信じますか?真実がどこにあるかではなく、あくま
でも心情的には、です』
「ですからそれはもちろん、榎本さんの方を私は」
『人はいつも嘘をつきます。僕も嘘をつきます。けれど本当のことしか言わない面もあります。さて…
僕の本心はどこにあるのでしょう。青砥さんが見てきた僕も全て虚像だったりするかも知れません、
それでも?』
「それでも、です。私が見ているものはいつも一つだけです。その先にいる榎本さんであるなら、私は
一途に盲信します」
『…あなたらしいですね、とても』
榎本の口調がわずかに柔らかくなったように感じた。それだけは決して誤魔化せない本心なのだろうと
切ないまでに確信する。
そして、気になることがもう一つ。
58手繰る聲 3/3:2012/06/27(水) 22:36:54.96 ID:NaYwfTnh
「榎本さん、どうして突然私に電話を?」
久し振りの電話を雑談で終わらせて、これで二度と声すら聞けないとしても諦めはついている。ただ、
心の底をいつも見せなかった榎本の本心をわずかでも見出したかった。
『先程、青砥さんを思い出したからです』
やはり答えはあっさりとしたものに留まっている。しかしそれでも嬉しかった。少しであったとしても
榎本の記憶の中に存在していたのであれば。
「…私はあれからずっと榎本さんのことばかり考えていました」
『僕があなたを忘れる筈がないでしょう、純子さん』
「…っ」
二人きりで過ごしていた時の呼び方を突然されて、青砥は言葉を失ってしまった。榎本が一体何を
思っているのか分からないが、こうして会えない、触れ合えない状況で囁かれるのは正直ずるい、と
どうしても感じてしまう。
嘘の言葉でも全然構わなかった。
「そんな風に呼ばれたら、私は…」
余計なことなど何も考えずにいられてとても幸せだったあの頃を思い出すと感極まってしまい、涙が
後から後から溢れてくる。
『泣かないで下さい』
「榎本さん…会いたいです」
『僕を困らせないで下さい、純子さん』
「……会いたい」
駄々っ子のように泣きじゃくる青砥に閉口したのか、微かな溜息が聞こえた。
『本当に、困った人ですね。相変わらず』
その言葉を最後に、携帯はぷつりと切れた。かかって来た時と同様の唐突さに青砥は携帯を握り
締めたまま子供のようにわあわあと泣き続ける。犬が心配をしてくれているのかぐるぐると周囲を
歩き回っていた。
「…大丈夫、大丈夫だから、ごめんね…径」
榎本と同じ名前をつけた犬は青砥を見上げてくんくんと鼻を鳴らし、宥めるように小さく鳴き続けて
いたが、すぐにぴんと耳を立てて玄関の方角に向いた。
「何?」
威嚇するように姿勢を低くして唸る犬を不安な気持ちで眺めていると、程なくして玄関のチャイムが
鳴った。




59名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 23:27:20.37 ID:v7OOCYpQ
うっそ。前スレが終わってたの気づかなくてずっと更新ボタン押してた。
自分涙目。
これから読む。
60名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 23:35:47.71 ID:qXiycR/T
>>58
GJ! 泣いた。
61名無しさん@ピンキー:2012/06/27(水) 23:59:45.50 ID:v7OOCYpQ
きゃーきゃーきゃー!
すごい禿げ萌えの嵐が!!!
書き手さんたちGJ×3つだったっけ。
数えてないけど、全部好き。
ありがとう。
62名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 00:16:55.76 ID:WgQtHTB0
前スレが512k超えてるのに気付かなくて最終回後突然書き込みなくなったから
榎青ファンがあの最終回に落ち込んで離れていったのかと一人寂しく思ってた
なんだ、新スレがあったんだね!よかったー
63名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 00:31:18.29 ID:7rH5uU1b
あ、ごめんなさい。いろいろかぶってるかもだけど
最終回の後、どうしても榎本と純子には再会していてほしい、という祈りをこめて
五年後の二人を書いてみました。
多分みんなが気にしてるだろう
「携帯電話解約=純子&芹沢切り捨て?」と「ラストシーンのにやりは何だ?」に
自分なりの希望的見解を付け加えています。
エロシーンまで持ち込もうと頑張ったのですが長くなりすぎたので割愛していまいました……
それは本当に申し訳ありません。
では、今から投下します。
64Five Years After 1:2012/06/28(木) 00:32:16.02 ID:7rH5uU1b
「エノモト。これはお前のことじゃないのか?」
「……人違いでしょう」
「そうか? この写真、おまえによく似てるぞ。探してる、会いたい、だそうだ。熱烈なラブレターじゃないか」
「人違いです」
「どれどれ……ジャパンからか。やっぱりお前のことだろう?」
「違います」
 たまたま同じホテルに居合わせた、というだけの白人男性のしつこい追及に、榎本はため息をついて目を伏せた。
 排他的な日本人とは違い、欧米人はよく言えば友好的で悪く言えば馴れ馴れしい。
 例えば、インターネットの片隅に転がっている、怪しげな人探し掲示板の情報を、わざわざ確認しに来る程には。
 こういったことは初めてではない。声をかけてくる人種に違いはあれど、数ヶ月に一度の割合で、同じようなやり取りを繰り返してきた。
 インターネットは世界中と繋がっている。どこの国に行っても、完全に逃れることは不可能だ……ということはわかっていたつもりだが。まさか、彼らが五年も経った今でも、情報発信を続けているとは思わなかった。
「…………」
 榎本をからかうのにも飽きた男性が去って行った後、こっそりと彼が使っていた端末に歩み寄った。
 インターネットの閲覧履歴から、男性が先ほどまで見ていたページを探り当てる。よくある、「この人を探しています」系のHPで、そこには、五年前の榎本の写真と名前や外見的特徴が、日本語、英語、中国語など様々な言語で書き連ねられていた。
 情報更新日はほんの数日前。更新が新しいものほど、情報が上に……つまりは人目につくような作りになっているらしく。新しい情報など無いにも関わらず、彼らは頻繁にこのサイトにアクセスしては、更新を繰り返しているらしい。
 すぐに諦めると思っていた。
 最初にこの手のサイトを見つけたのは四年以上前……榎本が日本を脱出した、数ヶ月後のことだったか。
 放っておけばすぐに忘れるに違いない、と思い、何のアクションも起こさずにここまで来たが。さすがに、そろそろ潮時かもしれない。
「……本当に、あなたは困った人です、青砥さん」

 仕事が終わって、帰宅した後。すぐにパソコンを立ち上げるのは、この五年の間にできた純子の日課だった。
 行きつけのHPにアクセスし、メールをチェックし。そして、今日も特に何の情報も無いことにため息をついて、パソコンを閉じる。
 同じことを毎日繰り返しているが、決して飽きることはない。飽きてやめてしまえば、それこそ、彼を見つけることは叶わなくなってしまうのだから。
「……どこにいるんですか、榎本さん」
 パソコンの電源を落とし、ベッドに転がる。眠る前に携帯をにらみつけるのも、日課の一つだった。
 五年の間に、純子も弁護士として、それなりに成長してきた……と思う。
 あの頃は、ただ芹沢の後をついて歩くだけのことが多かったが。今は、それなりに重要な案件を任されるようにもなってきたし、それに伴い、自分で仕事の調整……つまりは、時間を自分の采配でやりくりできるようになってきた。
 近々、芹沢に長期休暇の申し出をしてみるつもりだ。きっと、芹沢は渋い顔をするだろうが。目的を聞けば、彼も嫌とは言わないに違いない。
 一口に外国と言っても広い。そう簡単に見つかるとは思っていないが、手はなくもない。伊達に、五年もの間、情報収集を続けてきたわけではないのだから。
「わたしは、絶対に諦めません」
 五年前、芹沢に向かってそう啖呵を切った。その決意は、今も揺らいでいない。
 ため息と共に携帯を枕元に置き、明りを消す。どんなに仕事が忙しいときでも、どんなに疲れているときでも、決して携帯の電源は切らない。いつ何時、彼から連絡が来るかわからないから。
 真夜中でも明け方でも構わない。純子から連絡を取ることができないのなら、待つしかない。
「おやすみなさい、榎本さん」
 そして、今日も。返事のない携帯に挨拶をして。純子は、眠りについた。
65Five Years After 2:2012/06/28(木) 00:33:13.73 ID:7rH5uU1b
 ――異変に気付いたきっかけは、不自然にきしむ、ベッドのスプリング音だった。
「……ん……んんっ……?」
 暗闇の中で、純子はうっすらと目を開けた。まだ完全に目が覚めていないせいか、頭がぼんやりする。
「なに……」
 無意識のうちに布団から這い出ようとして、異様な空気に、動きを止める。
 何の物音もしなかったが。そこに、確かに誰かがいた。それはわずかな呼吸の音かもしれないし、微かに伝わってくる体温かもしれない。何かはわからないが――とにかく、誰かの気配が、あった。
「!!」
 とびおきる。悲鳴を上げようとして――大きな手に口を塞がれて、恐怖で背筋が凍りついた。
(誰っ……)
「――相変わらず、あなたは無防備な人ですね、青砥さん」
「!!?」
 耳元で囁かれた声に、全身が、強張った。
 忘れるわけがない。この声。この響き。闇の中でもわかる、細くすんなりと伸びた指、お世辞にも大柄とは言えない、華奢な体躯。
 腕を振り回す。ベッド脇のスタンドをつかみ、手探りで、明りをつけた。
 ぼんやりと浮かぶ光の中で。五年前とあまり変わらない――けれど、確かに五年の歳月を経た彼が、そこに居た。
「…………!!」
「大声を出さないでいただけますか。このマンションの防音設備はあまりよくありません。悲鳴を聞かれて、通報でもされたら面倒ですので」
「…………」
 必死に頷くと、そっと手を外された。
 大きく息を吸い込む。恐怖などどこかに吹き飛んでいた。今、胸に宿るのは――
「榎本さんっ……」
「お久しぶりですね、青砥さん」
「ど、どうしてっ……!?」
 驚愕。そして喜び。
 五年前、電話一本で姿を消した彼が、今、再び目の前にいる。夢ではないか、と頬をつねってみたが、しっかりと痛かった。
「どうして、ここに……」
「本当にあなたは無防備な人です。五年も経っているのに同じマンションに暮らしているとは思いませんでした」
「わたしっ……鍵、かけて。チェーンロックも……」
 純子の言葉に、榎本はふっ……と鼻で笑った。
「こんなの、余裕です」
 懐かしい、その自信満々な表情。
 ああ、そうだ。全くの愚問だった。彼にとって、鍵だのチェーンだのは何の意味もない。純子のマンション程度の鍵など、彼にかかればものの数秒とは持たなかっただろう。
 だから。聞くとするなら。
「どうして、ここに……榎本さん。今まで、どこに……」
「…………」
 今更だが、自分はパジャマ姿だった。当たり前だが、こんなことになるとは思っていなかったから部屋の掃除もしていない。
 羞恥心がこみあげてきたが、まさか出て行けと言うわけにもいかない。
 あの頃と同じような、ニットにネクタイという定番スタイルの榎本から目をそらし、もじもじと視線を彷徨わせていると。
「――警告にあがりました」
「え?」
「わかったでしょう、青砥さん」
 どすん、と。榎本らしくもない、乱暴な仕草で、ベッドに腰掛けた。
 スプリングがきしむ。不安定に揺れる身体に純子が戸惑っていると。榎本は、すっ――と手を伸ばして、純子の肩を、つかんだ。
66Five Years After 3:2012/06/28(木) 00:35:33.44 ID:7rH5uU1b
「僕にとって、戸締りなど何の意味もない。その気になれば、いつだってこんな風にあなたの家に侵入することができます」
「…………」
「その気になれば、この場であなたを襲うことだってできる……僕は、そういう男なんです」
「……何を、言っているんですか? 榎本さん」
「わかりませんか」
 そう言って、榎本はうっすらと笑みを浮かべた。
「迷惑だ――と言っているのです。いい加減に、僕を探し回るのは、やめて下さい。世界中、どこへ行ってもあなたの出している尋ね人情報につきまとわれて困っています」
「…………」
「会いたい、とのことでしたね。ですから、会いに来ました。これっきりにして下さい、というつもりで」
「榎本さん」
「わかるでしょう。僕とあなたでは、住む世界が違うんです。五年前のあのとき、思い知ったでしょう」
 五年前。
 鴻野警部、そして芹沢が言っていた。榎本には、裏の顔があるのではないか、と。
 あのとき、椎名が盗み出したダイヤモンドは、一億円相当が偽物とすり替えられていた。また、同時期、美術館等で窃盗が多発していた。被害にあった館内の監視カメラを確認したところ、どのカメラにも榎本の姿が写りこんでいた――
 これといった証拠はない。だから、警察に手出しをすることはできない。けれど、無関係だ、と断じるには、あまりにもタイミングが良すぎる、と――
「青砥さん」
「…………」
「青砥さん、聞いていますか」
 顔を上げる。目の前にある、榎本の顔。この五年の間、会いたい、会いたいと願い続けて来た男――
「青砥さん?」
 腕を振り上げ、翻した。手のひらをその頬に叩きつけるまで、数秒とはかからなかった。
 ぱあんっ! という高い音に、確実に、時が止まった。
「…………」
「何を、言っているんですか、榎本さん」
 自然と身体が震えた。恐怖や悲しみではない。これは武者震いであり……怒りだ。
「何を言っているんですか、あなたは。わたしが……何故、あなたに会いたいと願っていたか。五年の間、探し続けてきたか。あなたにはわからないんですかっ……」
「青砥さん?」
「文句を言うためですよっ!」
 もう一度、腕を振り上げる。予測していたのか、その攻撃は榎本の腕に阻まれた。
 至近距離で見つめあう。一瞬たりと目をそらすまい、と誓って。純子は、この五年の間、胸に秘めていた怒りを一気にぶちまけた。
「本当にあなたは何を言っているんですか! 何を勝手な! あのとき約束したじゃないですか。
 明日、何もかも話すって。それなのに、あなたはその日のうちに携帯電話を解約してわたし達の前から姿を消した! いきなり犯人が自首して来て、わたし達がどれだけ困惑したか、あなた、わかってるんですか!?」
「…………」
「その後は三日も連絡をよこさず、仕事もやめて! 倉庫も片付けて! やっと連絡が来たと思ったらいきなり外国に行くって言い出して!
 そしてさようならですよ!? あなたのせいで、密室専門弁護士とか持ち上げられた芹沢さんが、その後どれだけ苦労したと思ってるんですかっ……!!」
「――いえ、それは……」
「わかってますよ! 八つ当たりだってわかってます。でも、しょうがないじゃないですか! 本当にびっくりして……ショックで、悲しくて……怒りでもしなきゃやってられませんよ! 榎本さんは何もわかってない!
 あなたはっ……あなたにとっては、わたし達なんて、急にいなくなってもどうでもいい存在かもしれない。でも、わたし達にとっての榎本さんは違うんですよっ……」
67Five Years After 4:2012/06/28(木) 00:37:11.57 ID:7rH5uU1b
 ぼろぼろと、自然に涙が溢れだすのが悔しかった。
 五年前のあのとき、誓ったはずなのに。例え榎本を見つけることができたとしても、決して泣くまい、と。
 泣いたところで、榎本がそれにほだされることなどありえないのだから。ならば、せめて弱みは見せないようにしよう、と。
 でも、駄目だ。無理だ。わたしは――
「――会いたかった」
「…………」
「会いたかったんですよ、榎本さんっ……」
 ――忘れたことなんか、なかった。五年の間、一日だって。
 何度か、親から見合いの話を持ち込まれた。同世代の友人たちはどんどんいい相手を見つけて家庭を築いて、それを羨ましく思いながらも自分から前に進む気にはなれなかった。
「榎本さんっ!」
 捕まれた腕を振り払って、その胸に身を投げ出した。
 抱擁など最初から期待していない。だから、自分からすがりついた。
 榎本が、今日、ここを訪れたのは、本当に純子の行為が迷惑だったからかもしれない。今度こそ本当に決別するつもりで、やって来たのかもしれない。
 それでもよかった。やっと言うことができる。今、目の前に榎本がいる。それだけで十分だから。
「……いつでも部屋に侵入して、襲うことができるって、そう言いましたよね?」
「…………」
「じゃあ、襲っちゃってくださいよ」
 笑みになったかどうか自信はなかったが、それでも笑ってみせた。
 怯えたりなどしない。怯える必要などどこにもない。それを、榎本に見せつけるために。
「いいですよ。榎本さんなら大歓迎です。わたしのこと、無防備だって言いましたね? 榎本さんにとっては鍵なんて何の意味もないって。
 当たり前じゃないですか。何で、榎本さんを警戒する必要があるんですかっ……いつ、榎本さんが戻って来られてもいいように、あえて引っ越ししなかったんです。何で、わからないんですかっ……」
「――青砥さん」
「五年前……」
 榎本の胸元を握りしめて、言葉を絞り出す。
 その結論に達するまでには、相応に時間がかかった。芹沢とも何度も言葉を重ねた。それは所詮憶測の域に過ぎないのだけれど――しかも、多分に希望的観測に過ぎないのだけれど。
 それでも、あのときの榎本の行動を合理的に説明するとしたら、この解釈が一番納得できる、と。そうやって導き出した結論。
「榎本さんが姿を消したのは、わたしと、芹沢さんのためですか……」
「…………」
「あの時点で、あの窓拭きの彼を……椎名さんを容疑者として数えるのは無理がありました。彼を逮捕するには証拠が必要だったけれど、決定的な証拠は彼が盗んだダイヤモンドだけ。
 屋上の給水タンクに隠されたボーリングの球ですら、決定的証拠とは言えません。水に濡れて、指紋は取れなかったでしょうから――
 そして、彼はそのダイヤモンドを恐らく自室のどこかに隠し持っていたのだろうけれど……あの時点で、自室の強制捜索は恐らく無理だったでしょう」
「…………」
「榎本さんが、調べて下さったんですね。きっと、椎名さんの家に忍び込んで」
 強固なセキュリティに守られた社長室にさえ、余裕で侵入できると宣言した彼のことだ。
 あんな古い木造アパートの一室など、彼にとっては開放空間に等しかっただろう。
 不法侵入。いくら犯罪捜査のためとは言え、決して一般人に許されることではない。例えそれで事件が解決したとしても、榎本が罪に問われるのは間違いのないことだった。
 そして、それに芹沢や純子が関わることは、弁護士としてキャリアに致命的な傷を残すことになるであろうことも――
68Five Years After 5:2012/06/28(木) 00:38:53.47 ID:7rH5uU1b
「事件を解決するためには法を犯すしかなかった。それにわたし達を巻き込まないために――」
「――それは買いかぶりというものです」
 純子の言葉を遮って、榎本は、冷え冷えとした言葉を返した。
「僕は、ただ、これ以上あなた達と一緒にいたくなかっただけです」
「――どうして」
「法律に守られた範囲でしか動けないあなた方は、地位、名誉、金銭――あらゆる全てに恵まれているのでしょうが。僕から見れば、全面ガラスの檻に囚われているようにしか見えなかった。
 僕は、自由でいたかったんです。あなた達にも、警察にも囚われず、自由気ままに生きていたかった。だから、あなた達を切り捨てたんです」
「切り捨てた。わたしと、芹沢さんを」
「そうです」
「――でも、榎本さんは、外国に飛び立つ前、わたしに電話をくれました。携帯電話を解約されて、そのまま黙って姿を消されても何の支障もなかったでしょうに」
「…………」
「榎本さん」
 違っていたらごめんなさい、と前置きして。
「携帯電話を解約されたのは――わたし達から連絡を取れないようにしたのは――待ちたくなかったからじゃないですか?」
「…………」
「法を犯すしか、解決する道が見つからなくて。わたし達の前から姿を消すことを決意して――
 切り捨てたのはわたし達ではなく、あなたの未練ではないですか? 携帯電話をそのままにしていたら、わたし達の電話を待ってしまうかもしれない。それが嫌で――」
「何を言っているんですか、あなたは。そんなわけが――」
「わかりますよっ! だって……わたしは、毎日のように、思っていましたっ……」
 ぐっ、と、枕元の携帯を握りしめる。
 そうだ。信じる、諦めない――とどれほど固く誓っても。それでも五年は長かった。
 いっこうに鳴らない携帯電話を見るにつけ、いっそ番号を変えてしまおうか、と。そう思ったことは一度や二度ではない。
 変えてしまえば諦めがつく。榎本は新しい番号を知らないのだからかかってこなくても仕方がない――そう、自分に言い聞かせることができる。
 それでもできなかった。一縷の望みにすがりたかった。榎本はこの携帯の番号を知っている。覚えていてくれている。だったらかけてきてくれるかもしれない。いつか、いつか――
 その微かな望みだけを胸に、この五年、耐えて来たのだから。
「榎本さん。わたしを見てください」
「…………」
「わたしの言葉が的外れだって言うのなら! わたしの目を見てください!」
「…………」
「――榎本さん」
 榎本は、顔をあげなかった。決して、純子の顔を見ようとはしなかった。
 五年前のあのときからそうだった。彼は、滅多なことでは純子と目を合わせてはくれなかった。あのときは、単にコミュニケーションを取るのが苦手な人なのだ、と。そう思っていたが――
「住む世界が違ったら、どうしていけないんですか……?」
「…………」
「違う世界だって、いいじゃないですか。同じ世界に住んでいたって、わかりあえない人はいます。なら、違う世界に住んでいても、わかりあえることだって、あるかもしれないじゃないですか」
「青砥、さん」
「榎本さん」
 わたしを抱いてくださいよ――と。心の奥底からの本音は、思ったよりもすんなりと出た。
 わたしを襲うことだってできるんだって。そう豪語されたんですから。だったらできるって証明してくださいよ――と、挑発的な言葉まで付け足してしまった。
 こんな夜中に、わざわざ家まで忍んで来て下さったんだから。相応に期待しちゃいますよ。榎本さんが悪いんですよ――と、半ば八つ当たりに近い言葉まで吐いた。
 どう思われてもよかった。今更、見栄やプライドや羞恥心など何の意味もない。そんなものは、榎本がいなくなることに比べたら大したことではないのだと――五年前に、十分に思い知っていたのだから。
「榎本さんがわたしをどう思っているのかは、わたしにはわかりません――でも、わたしは榎本さんが好きです。違う世界の人だって構わないって、そう思えるくらいに」
「…………」
「榎本さんは、どうですか?」
「…………」
 純子の言葉に、榎本は微かに唇を開いて――
69Five Years After 6:2012/06/28(木) 00:39:29.82 ID:7rH5uU1b
 ――五年前。
 臨時収入も手に入れて、身辺整理も終えて、いざ、日本を飛び出そうとした瞬間。榎本の足を阻んだのは、純子の笑顔だった。
 このまま何も言わずに姿を消したら、純子はきっと悲しむだろう。ひょっとしたら、犯人の手にかかったのでは――と、いらぬ心配をかけるかもしれない。
 そう思ったとき、自然と足は公衆電話に向いていた。
 携帯電話を処分したとき、メモも何も残していなかったのに、それでも自然に指が動いた。この数ヶ月の間、毎日のように発着信を繰り返していた純子の番号を、いつの間にか諳んじていたのだと――そのことに、自分が一番驚いた。
 けれど、いざ、コールが始まった瞬間、急に怖くなった。
 椎名が約束を守っていれば、事件は既に解決しているはずだ。既に、あの二人には、ダイヤモンドの一部が偽物とすり替えられていたことも、耳に入っているかもしれない。
 ひょっとしたら、電話をかけた瞬間、罵声を浴びせられるのかもしれない――それなら、それでも構わないのだが――
 五回、コールしても繋がらなかったら、諦めて切ろうと思っていたが。電話は、あっさりと繋がった。
 驚いた。二人は本当に自分を心配していた。どこに行くのか、いつ戻って来るのかと問われた。
 ダイヤモンドの件を知らなかったから、ではない。知っていたのに、それでも、自分のことを案じてくれていた――
「では」
 これ以上、通話を続けていることができなくて。物言いたげな純子の声を強引に断ち切って、電話を切った。
 受話器から、なかなか手を放すことができなかった。
 住む世界が違う人間だ、ということは、純子も芹沢も薄々気づいていただろうに――それでも、二人は、自分を受け入れようとしてくれていた。
 頭から信じていたのではない。疑いを持ちつつも、受け入れようとしてくれた。榎本という存在を、自らの理想で歪めるのではなく、丸ごと受け入れようとしてくれた――
 未練を断ち切り、受話器から手を放した。
 ああ。もう十分だ、と。そう思ったとき、自然と笑みがこぼれた。
 この数ヶ月の日々は、自分にとって無駄ではなかった。それは素晴らしく幸せで、有意義な日々だった――そう素直に認めることができて、とても、とても嬉しかった――

「……本当に、あなたは困った人です」
 五年前の思い出を振り払って、榎本は、つぶやいた。
「どうせ僕のことなんかすぐに忘れるだろうと思っていたのに――忘れてはくれませんでした」
「……忘れるわけがありません」
「あなた達のことなんか、すぐに忘れることができる、とそう思っていたのに――忘れられませんでした」
「…………」
「――会いたかった」
 それこそが、榎本の本心だった。
 認めることが怖くて、目をそらし続けて来た――日の当たらない場所に立つ自分にとって、まぶしすぎる存在なのだと自分を戒めようとして――けれど、できなかった。
「僕も、ずっと会いたかったですよ、青砥さん」
 なら、何でさっさと来てくれないんですかっ! ――という罵声を受け止めて。
 榎本は、純子の身体を押し倒した。
 今後のことなど考えていない。今更戻って来たところで、この国に榎本の居場所があるかどうかはわからない。
 だが――そんなことは、きっとささいな問題だ。
 居場所がなければ作ってしまえばいい。離したくない人がいる。諦めたくない人がいる。それで十分だ。
 五年前と変わらない、華奢な身体を抱きしめて。
 その耳元で、榎本は本音を囁いた――

〜〜END〜〜
7063:2012/06/28(木) 00:40:49.87 ID:7rH5uU1b
終わりです
長々と失礼しました。
71名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 03:07:56.75 ID:HNkrQ6Bd
素敵だ。
72名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 07:03:19.09 ID:hj8jbe7f
>>70
すごい!GJ。
73名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 10:37:44.16 ID:9k1zT+2h
>>63
素晴らしいです。GJ!

皆さん、あのラストからきれいにラブ方向に持って行ってお上手です。
ぜひとも、もっと読みたいです。

原作の榎本が純子を食事に誘うくだりが最終回に来ることを期待してたので、
そうなるようにラストを改変したものを投下します。エロはあっさりめです。ごめんなさい。
74another epilogue@:2012/06/28(木) 10:39:30.06 ID:9k1zT+2h
「あのっ、旅行って、どこに行くんですか?」
『…さあ。』
「いつ…帰ってくるんですか?」
『さあ。』
純子の問いかけに榎本からはそっけない言葉しか返ってこない。
さすがに不安になり、思い切って尋ねた。
「さあって榎本さん…まさか…帰ってこないつもりじゃないですよね?」
暫しの沈黙。
『…青砥さん。』
「はい?」
『帰ってきたら…食事でも一緒にどうですか?』
「…えっ?」
『無理に、とは言いませんが。」
「いえっ、えっと、い、行きます。で、でもっ…。」
『フライトの時間なので、もう行きます。』
「あっ。ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ。」
『では。また、連絡します。』
そう言ってあっけなく電話は切れた。
呆然と携帯電話を見つめる純子。
「何だって?」急かすように芹沢が聞く。
「…さあ…?」
純子にも全く訳が分からなかった。確かなのは食事に誘われたことだけだ。
それもいつになるのかわからない約束を。

電話を切った後、しばらく榎本はその場で佇んでいた。
なぜ、あんな約束をしたのか。食事の約束などする予定ではなかったのだ。
純子に別れを告げた後、さっさと電話を切るつもりだったはずなのに。
帰ってこないつもりではないかという問いに核心を突かれたような気がして、実は一瞬ドキリとした。
その狼狽ぶりを悟られないために、咄嗟にあんな言葉が口を突いて出てしまった。いや、それだけではない。
本当に純子に会えなくなってしまうことに抵抗を感じたからではないか。
我ながら情けないと思う。いつから自分は己の感情に簡単に流されるようになってしまったのだろう。
――きっとあの屈託のない笑顔に出会った時からだ。
彼女の笑顔は僕を混乱させる。彼女に笑いかけられる度に思考回路にがたつきが生じるのだ。落ち着け。冷静を保つんだ。
こんなことでは次の“仕事”に支障が出るかもしれない。
榎本は自分に言い聞かせる。そして、パスポートを掴み、イヤホンを耳に差し込むと、搭乗口に向かって歩き出した。
75another epilogueA:2012/06/28(木) 10:40:38.00 ID:9k1zT+2h
そして4か月が経った。
ジメジメした熱気を感じさせていた季節はいつのまにか肌寒さを感じさせるようになっていた。
あれから全く連絡はない。
鳴らない携帯電話を見つめながら純子はため息をついた。
その様子を見た芹沢が声をかける。
「榎本からまだ連絡はないのか。」
「はい…。」
「全く…どこ行っちゃったんだろうなぁ〜、アイツ。」
心なしか芹沢も寂しそうだった。
「そうですね…。」
「なあ、青砥。」
「はい?」
「アイツさー、やっぱり泥棒だったんじゃないか?ほら、空き巣の友達だっていたしさー、椎名章のダイヤのことも俺は疑わしいと思ってるんだよ。ひょっとしたら俺の時計も…」
「芹沢さん!何、言ってるんですか!榎本さんはそんなことするような人じゃありませんっ!そんなこと芹沢さんも知ってるじゃないですか!」
純子の剣幕に芹沢は目を見張り、それ以上続けられなかった。
「そ、そうだな。でもなー…」呟きながらも何やらブツブツ言っている。
ホント、どこ行っちゃたんだろう…
純子は悔しい位に真っ青な空を窓から見上げた。
どこかで榎本もこの空を見上げているのだろうか。
かと言って、こちらから連絡する術も見当たらない。待つことしかできない自分のこの歯痒さ。純子は深く長いため息をついた。

19時を少し過ぎた頃、仕事を終えた純子はいつものように帰路に着こうとする。
しかし、当然のことながら帰っても何もすることもない。
今日もコンビニに寄って何か適当な夕飯でも買って帰ろうと考えていた矢先、携帯電話が鳴る。
見ると公衆電話からだった。
榎本に違いない。
そう直感した純子の鼓動が早まる。
「もしもしっ!?榎本さんですか?榎本さんですよね?」
『…はい。榎本です。良くわかりましたね。』
電話から聞こえてくる懐かしい声に純子は心が躍った。
「そりゃ、わかりますよ。今時、公衆電話からかけてくるなんて、榎本さん位しかいません。いつ帰ってきたんですか?」
『今です。』
道理でがやがやと人のにぎやかな声に交じってアナウンスらしき声が聞こえてくるはずだ。今、空港で到着したと同時に電話をくれたのかと思うと嬉しくなった。
『食事の件なんですが…』
「あっ、そうですねー。いつにしましょうか?榎本さんも帰国したばかりで疲れてるだろうから…」
純子はパラパラとスケジュール帳をめくる。
『…今からはどうでしょう?』
「へ?」
『では、○○ホテルの××号室で待ってます。』
純子の返事を待つことなく電話は切れた。
え?今から?
純子は戸惑いながら、今日も着ているいつものグレーのスーツを見る。
食事って言っても、こんな恰好でいいのかしら…
しかし、久々に榎本に会える喜びに勝てず、純子は早々と事務所を後にした。
76another epilogueB:2012/06/28(木) 10:42:40.33 ID:9k1zT+2h
指定された部屋の前まで来ると、純子はまず、髪型やスーツに乱れがないかチェックした。
気持ちを落ち着けるために、深呼吸を一回して、呼び鈴を押す。
暫しの間があった後、ドアチェーンを外す音がし、ドアが開いた。
純子の体は緊張で強張る。
――そこには待ち焦がれた榎本がいた。
4か月前より若干痩せているように見えたが、黒縁の眼鏡、シャツにネクタイ、フレッドペリーの薄手のセーターという出で立ちに変わりなかった。
「榎本さん!お元気そうですね!」
純子の顔から大きな笑みがこぼれる。
「どうぞ。」
榎本に招き入れられ、素直に部屋に入ったものの、あれ?食事に行くんじゃないの?と疑問に思う。
しかし、部屋のテーブルの上に並べられた豪華な食事を見て、その疑問は吹き飛んだ。
「食事って…ルームサービスなんですか?」
「はい。気に入りませんか?」
「いえ…そういうわけではないんですけど…。」
もしかしたら外で食事ができない理由があるのではないかと純子は考えた。
人の目を気にしてる?やっぱり…何かあるのかしら?
少し緊張している純子を解きほぐすように、榎本は椅子に座るよう促した。
純子は椅子に座りながら無駄に広い室内を見回す。
「この部屋って…スイートですよね?」
「正確にはセミスイートですが。」
「すごいですね…。臨時収入が結構あったんですか?」
「まあ、そんなところです。」
多額の臨時収入…ひょっとしたらあのダイヤを…
純子の疑念は深まるばかりだ。
どうしよう…聞いてみたいけど…聞くに聞けない。
「そういえば、どこに行かれてたんですか?」
思い悩んだ純子はあたりさわりの無い質問をする。
「フランスです。」
「フランス?」
榎本は芸術にも造詣が深かったのだろうか。何となくフランスは似つかわしくない気がした。
「パリにはリベラル・ブリュアン館という建造物があって、その地下に昔の錠が展示されているんです。」
「ははぁ。なるほど。」
それなら榎本らしい選択だと思った。と同時に数日前にフランスの美術館で、有名な絵画が盗まれたというニュースを思い出した。
そこは最新の警備システムを備えていたらしい。
…まさか。いくら榎本さんでもそこまでねぇ…。
頭に浮かぶダークな考えを必死に振り払う。
「それで、フランスに4か月間も。」
「はい。」
「へぇ…。」
4か月間も滞在するなんて、結構な費用になるだろう。東京総合セキュリティの退職金はそんなにいいのだろうか。
そもそも7、8年程度しか勤めていないような社員にそんなに出す景気のいい会社があるのか。
すり替えられていたダイヤは確か1億…。
それを滞在費に充て、4か月近く美術館の下調べを重ねたうえ、絵画を盗んだ…なんてこと…ないよね?
色んな疑惑が頭の中をぐるぐるとまわる。
ダメだ。何を聞いても勘ぐってしまう。
純子は我慢が出来なくなった。このまま無難な会話を続けるよりは白黒はっきりさせた方がいいと思ったからだ。
77another epilogueC:2012/06/28(木) 10:44:21.30 ID:9k1zT+2h
「私…榎本さんに聞きたいことがあるんです。」
「何でしょう?」
「榎本さんって…その…やっぱり…あの…ど、泥棒、なんですか…?あのダイヤの件とか…気になっちゃって。も、もちろん私は違うって信じてるんですけど。」
「――もし、仮に、そうだったとしたら、青砥さんは僕を軽蔑しますか?」
榎本は眼鏡を外し、純子を見た。
蛇のように絡み付く視線が純子を捕える。
軽蔑?榎本のことを?
そんなこと考えてもみなかった。
私は榎本さんを軽蔑するために真実を知りたかったのだろうか。
違う。
「け、軽蔑だなんてそんな!わ、私はただ…」
そう言いかけて口をつぐむ。
私は一体何を言いたいのだろう。
明らかにしたいのは榎本が泥棒か否かという問題ではない。
言葉を探しながら、自分の頬を冷たく濡らすものの存在に気付き、純子ははっとする。
自分の頬を一筋の涙が伝っていた。
榎本もその姿を見てぎょっとしたような表情を浮かべる。
その瞬間、純子の口からずっと伝えたかった言葉が溢れだした。
「ごめんなさい。こんなことが聞きたかったわけではないんです。それどころか…榎本さんが何者かなんて、私にとってはどうでもいいことなんです。それより…私は…ずっと…榎本さんに会いたかったんです。」
榎本は何も言わない。
感情が高ぶった純子の言葉を待っているようだった。
「そうなんです。私は榎本さんに会いたかったんです。会えなくて、ずっと寂しかったんです。榎本さんはそうではないだろうけど、私は…会いたかったんです…。」
純子は涙をぼろぼろ流しながら捲し立てた。
私は何を言っているのだろう。
これではまるで告白ではないか。
純子は頭の片隅でそんなことを考えながらも、とめどなく溢れる感情は止められなかった。
普段からは考えられない純子の様子に驚きながらも、榎本はこれまでの思いが脳裏をよぎる。
――会いたかったのは僕も同じだ。
この4か月間、純子のことを思わない日はなかった。
何度忘れようとしたことか。だが、そう思えば思うほど純子の笑顔がちらつき、心の中を深くえぐる。その度に榎本の心は悲鳴を上げた。
苦しみに耐えかね、榎本は決心をする。今、すべきことが終わったら、日本に戻ろうと。
青砥さんはもう自分のことなど待っていないかもしれない。
証拠はなかったとしても、ダイヤの件で僕のことを軽蔑し、二度と会ってくれないかもしれない。
それでもいい。
異国の地でずっと生殺しの状態でいるよりは、例え受け入れられなくとも純子の側にいることを選んだ。
ただ…、本当のことを言えば拒絶されるのが怖かった。
だから、電話での嬉しそうな純子の声を聴いた瞬間に救われた心地がした。
そんな彼女が拒絶どころではなく、自分に会いたかったのだと今、目の前で涙を流している。
榎本は自分の愚かさに辟易した。
そして、ゆっくりと椅子から立ち上がり、純子に歩み寄る。
「僕もですよ。青砥さん。」
今までに聞いたことのない優しい声だった。
必死で涙をこらえながらも大粒の涙を流す純子を抱きすくめた。
「僕だってずっと会いたかった…」
榎本が唇で純子の涙を拭う。
「え、榎本さ…」
呼びかける純子の唇を榎本のそれで塞ぐ。
涙の味がした。
78another epilogueD:2012/06/28(木) 10:45:34.66 ID:9k1zT+2h
そして抱き合ったまま、ベッドに倒れ込む。
荒く深く口づけられながら、純子は震える手でスーツの上着を脱いだ。
榎本にホテルの部屋に呼ばれた瞬間から、こうなることを予想していたわけではないが、全く期待していなかったと言えば嘘になる。
初心な自分を淫らにさせるほど、榎本との4ヶ月の別離は強烈だった。
もどかしいとでも言うように榎本のセーターに手をかけ、脱がせた後、シャツのボタンに手をかけ、お互いに脱がせあった。
生まれたままの姿になるまでにそう時間はかからなかった。
全裸になった純子のそこかしこに榎本は口づけを落とす。
まるで空白の時間を埋めるかのように。
唇の柔らかく生温かい刺激に純子の体は震えた。
白く華奢な体は榎本の手と唇でいやらしく苛まれ、うっすら朱に染まり、火照ってくる。
榎本は両足を軽く開かせると、眼前にある白い太腿の間に滑り込んだ。
もうそこはすでに潤いを湛え、榎本を誘っているかのように思えた。
「僕を待っていてくれたのですね。」
そう言って榎本は秘部に口づける。
「…ひゃ…あ!」
突然の刺激に純子は大きく喘いだ。
その後も容赦なく榎本は舌で攻め続ける。純子の内部を煽情的に掻き乱し、蜜を吸い、花芽を擦る。
「ぁん…は…ぅん…」
妖しく濡れた唇から零れ落ちる嬌声が甘さを増す度、榎本の舌も激しさを増した。
あっという間に純子は頂点に達する。得も言われぬ快感に体が麻痺したように動かない。
「青砥さん。」耳元で囁く榎本の甘い声。
「…はい。」麻痺した唇から必死に声を絞り出した。
「僕はまだ満足してません。」
その言葉とともに、純子は思い切り腰を引き寄せられる。
さらに足を開かされると、十分な固さを持った榎本が純子の内部に押し込められていった。
「ああっ!」
榎本のモノが純子の膣壁を擦り上げる。
「は…あぁ…」
先程オーガズムを迎えたばかりだというのに、新たな快楽が体を突き抜けた。
二人の激しい息遣いと律動に合わせた淫靡な水音が広い部屋の中で響く。
激しく絡み合う二人の間を隔てるものは何もなかった。4ヶ月という月日も、純子の頭の中を占拠していた密かな疑念も。
膣の内部が収縮し、小さく痙攣を始めると、榎本は閉ざしていた自分自身を解放するかのように欲望を放出した。
純子の体が大きく仰け反り、榎本の背中に爪の跡を残す。
それは榎本に振り回され続けた純子のささやかな抵抗のようでもあった…。
79another epilogueE:2012/06/28(木) 10:47:00.41 ID:9k1zT+2h
小さな衣擦れの音で純子は目が覚める。
榎本からの連絡を待ち続けて、連日寝不足になっていた上に2回も絶頂を迎えたせいですっかり眠ってしまっていたようだ。
薄明かりの中で目を凝らすと、榎本が服を整えている。
「すいません。起こしてしまいましたか。」
「…もう…行ってしまうんですか?」
「いろいろと準備しなければいけないことがありますので。」
いつも含みを持った言い方をする榎本が憎らしい。でも、そんな榎本を軽蔑することも嫌いになることもできない自分の負けだと純子は思った。
「…榎本さん、もうどこにも行きませんよね?」
ドアノブに手をかけた榎本はフッと背中で笑う。
「また、連絡します。」
そう言うと、ドアの向こうに消えた。
純子の問い掛けに対する返事はまたも得られなかった。だけど、今度こそはずっと側にいてくれるような気がした。
何の根拠もないのだけれど。
純子はそっと榎本の温もりが残るシーツに触れる。
間違いない。榎本さんはここにいた。
昨日までの不安な思いはもうどこにもなかった。

数日後、純子のもとに、とあるセキュリティショップがオープンする旨のダイレクトメールが届く。ともすれば見落としてしまいそうな葉書の隅に手書きで書き加えられた11ケタの数字。
純子は携帯電話を取り出すと、逸る心を押さえながら、その数字をダイヤルした。
ちょうどその頃、榎本は開店前のショップで、デスクに向かい、フランスで入手した古めかしい錠を開ける作業に熱中していた。傍らに置いてあった携帯の着信音が鳴る。
画面を見るとあの愛しい人の番号だった。いつまで経っても純子の番号を暗記している自分に苦笑する。開錠作業を続けながらハンズフリーのボタンを押した。
『もしもし。誰だかわかりますか?』
いたずらっぽく笑いを含んだ純子の声。
「わかりますよ。青砥さんでしょう。」
『そうです。良くわかりましたね。』
数日前にも似たような会話をしたなと榎本は思う。
「わかりますよ。第一、この番号は青砥さんにしか教えていません。」
『あはは。そうだったんですか。…ところで榎本さん、今夜空いてます?』
「今夜ですか?空いてますけど。どういった用件でしょう?」
『お食事でもしませんか。お店がオープンした記念に。」
「…それはいい提案ですね。」
『じゃあ、19時にそちらに伺います。』
カチリという鍵の開く音とともに純子からの電話は切れた。
榎本は目を閉じ、息急き切ってここに駆けてくる笑顔の姿の純子を想像する。
全く…どんなに最新で難攻不落なセキュリティよりも自分の心を魅了してやまないものがこの世の中にあるなんて。
榎本は目の前の錠を見つめながら小さく微笑んだ。
8074:2012/06/28(木) 10:51:19.32 ID:FdFtkedr
以上です。
お目汚し大変失礼致しました。
81名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 11:43:56.35 ID:1rPWZTn3
Five Years After
禿げ萌えた!何コレ幸せ!

another epilogue
豪華な食事は食べられないままだったのか気になるw
榎本はホテルに入るまではきっと成瀬仕様かなにかで、部屋の中で榎本仕様に着替えたに違いないと信じてる。
しかし4ヵ月後って・・・10月ならセーターもありか。
お店を開いた榎本は眼鏡セーターは封印していてカジュアルに違いない。
きっと歩き方も姿勢も変えてるに違いない。
82名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 11:46:52.23 ID:Yk8o9xYz
ここでも成瀬…
魔王族自重して
83名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 13:42:23.38 ID:pOrqVRn2
前スレ書き込めなくなってたの知らなくて、スレが止まったままだったから
みんな最終回見て燃え尽きちゃったんだと思ってたw
新スレ立っててよかった。1&職人さん乙です!
84名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 20:31:06.38 ID:CxBxErcj
まあ確かに、あのラストで頭真っ白になった視聴者は多かろう
だけどこのスレの勢いはまだまだ続くようで嬉しい
職人さんたちの愛によって作品クオリティもハンパないことになってるから、
これからも楽しめるのが何よりも有り難いよ
85名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 21:24:21.65 ID:Bz/C8dam
あのラストだからこその萌え話がいっぱいあって嬉しい
青砥(の涙)に負けて己の中のルールを破っちゃう榎本ってイイ!
リスク覚悟?で青砥に会いに来る、らしくない行動をする榎本が好きすぎる
86名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 21:43:29.67 ID:RskOKXkk
職人さんたちGJ!
あのラストを見た時その後の再会なんてとても想像できなくてもう終わりだとおもったんだ。
でもここの作品見てたら全然繋がるじゃん!未来期待できるじゃん!なんてちょっとウキウキしてるw
SPでも何でもいいからセキュリティショップオープンでもう一度見たいな。
そしてそこへ毎日愚痴りに来る青砥w
87名無しさん@ピンキー:2012/06/28(木) 22:23:54.98 ID:hk6fNGr0
職人さんたち、神作品ありがとー!
どれもこれも、その続きが読みたいーってところで終わってて、
おかげで余韻にどっぷりがっつり浸ってる

ドラマ終わって寂しかったけど、このスレのおかけで救われてるよ
88名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 00:49:26.60 ID:oW3j3Pxb
凄いなあ、職人さん達ありがとう!
原作も読んでみたけど、こっちは大人な2人だね。
微妙な関係って感じが何だかいいかも。
89名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 06:47:01.38 ID:oxSlkvz+
素敵な萌え作品をありがとう!
榎青はやっぱり(・∀・)イイ!!
90名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 13:12:15.52 ID:6gYdNInl
ラストをフォローしてくれる作品がたくさん投下されてて嬉しい…!
あの終わり方ショックだったけどやっぱりまだまだ榎青好きだから今後もこのスレ続くといいな
あ、もし次スレ立てるときがきたらスレタイの【ドラマ】取ってほしい
原作設定も大好きだから話しやすい&投下されやすいように…
91鍵師の災難、上司の受難 1/6:2012/06/29(金) 23:23:37.93 ID:mYA+NG1H
こんなネタ思いついたので投下

注意:寸前まで行ったのですがエロ本番に持ち込めず……申し訳ありません

××××××××

 最近、毎日のように顔を出していた純子が、今日は珍しく来なかった。
 榎本がそのことに気付いたのは、仕事も開錠作業も一段落し、そろそろ帰宅しようか……と考えた、午後8時過ぎのことだった。
 携帯に目をやるが、特に連絡のようなものはない。まあ、来るときだって大抵は何の前触れもなく現れるので、不思議なことではないが。
 これから、純子がここに来る可能性はあるだろうか? と一瞬考え、苦笑する。
 会おう、と約束しているわけではない。いちいち、「もう帰ります」などと連絡を入れる必要も、ましてやいつ来るか……どころか来るかどうかもわからない相手を、待つ必要などないだろう。
 結局、いつもより心持ちゆっくりと後片付けをし、職場を辞したときは、夜9時になろうとしていた。

 その連絡が来たのは9時15分。ちょうど、職場の最寄駅に到着し、電車に乗ろうとしていたときだった。
 不意に鳴りだした電話。取り出してみれば、着信相手はつい先ほど脳裏を過ぎった相手。
 今から顔を出しても大丈夫か、という連絡だろうか。その場合、自分はどう答えるべきなのだろうか?
「はい、もしもし」
 そんなことを考えながら、電話に出ると……
『ぐすっ……ひっく……ぐすっ……』
「……青砥さん?」
『ううっ……ひっく……ううう……』
「青砥さん? どうされました?」
 改札手前でユーターンし、喧騒溢れる駅構内から一歩外に出る。
 瞬間。
『うわああああああああああああああああん!!』
 電話越しでも耳が痛くなるような、すさまじい泣き声が飛び出してきた。
「青砥さん? 青砥さん、どうされました?」
『ううう……助けて……助けてください……』
「青砥さん? 助けてとはどういう……今、どちらですか?」
『いま……いま……いま、わたしがいるのは……』
 どうやら、純子は泣いている上に酔っているらしい。
 要領を得ない電話に焦りながら、何とか現在地を聞き出す。幸い……と言うべきか。純子の現在地は、近所……つまりは、榎本の職場の近くだった。
 やはり、自分のところに顔を出すつもりだったのか? そこで、何があった?
 謎は尽きなかったが。榎本とて、泣いて助けを求める純子を見捨てるほど、非人道的な人間ではないつもりだ。
 すぐに向かいます、と答えると。安心したのか、電話は切れた。

 酔ってはいても、純子の説明は正確だった。
 言われた通りの住所に向かう。繁華街……居酒屋から洒落たバーまで、酒を出す店が一通り揃った界隈の片隅で、純子はうずくまっていた。
 酔漢に絡まれていなかったのは最大級の幸運だろうと思いながら、肩を叩く。
「青砥さん」
「…………」
「青砥さん、大丈夫ですか」
「…………」
92鍵師の災難、上司の受難 2/6:2012/06/29(金) 23:24:37.07 ID:mYA+NG1H
 のろのろと視線をあげる純子の顔は、明らかに真っ赤で、吐息どころか全身から酒の匂いが漂っていた。
 その目は全く焦点があっておらず、手を引いた瞬間、よろめいてしゃがみこんでしまった。
 どうやら、完全に酔い潰れているらしい。
「青砥さん。ご自宅までお送りします。肩につかまって下さい」
「…………」
 ぐすん、としゃくりあげる声。こんなところで泣いてくれるな……と内心祈りながら、純子の脇の下に腕をまわし、強引に立ち上がらせる。
「青砥さん。何があったんですか」
「……たすけてください」
「僕で助けられることでしたら、助けますが。何があったんですか」
「…………」
 ずるずると、純子の身体をひきずるようにして大通りに出る。幸いなことに、電話で呼ぶまでもなく、タクシーが通りがかった。
 何とか車内に純子を押し込み、ついで自分も乗り込む。純子の住所を告げると、運転手からは非難と軽蔑の眼差しを向けられた。
(……僕が飲ませたわけではないのですが)
 まさか、これから前後不覚の純子を手籠めにするとでも疑われているのか。だとしたら非常に心外なのだが。
 運転手と目を合わせないようにしながら、そっとため息をつく。肩にもたれかかってくる純子の重みが、妙に胸を騒がせる。
(タクシー代は……僕が立て替えるしかないんでしょうね)
 痛い出費になりそうだ、と頭を抱え。早く目的地についてくれと、それだけを祈り続けた。

 以前に一度訪れた純子の家。
 この程度の鍵を開けることなど、榎本にとっては造作もないが。住民に見られたら何事かと思われるだろう。
 さて、どうしたものか……と悩んでいると。榎本にもたれかかるようにして立っていた純子が、ごそごそと鞄を探り鍵を取り出した。
 どうやら、酔ってはいても日頃の習慣は抜けないものらしい。
 鍵を開けて部屋の中へ。以前に入室したときよりやや雑然とした印象の室内に足を踏み入れ、純子の身体をソファに横たえると。
「……ぐすっ」
「青砥さん?」
「ぐすっ……何で……何でなんですかあ……芹沢さん……」
「…………」
 あんまりと言えばあんまりな呼びかけに、さすがの榎本も眉間にしわが寄った。
「何でなんですかあ……あんまりです……芹沢さあん……」
「僕は芹沢さんではありませんが」
「失恋しちゃいました」
 ぴきっ! と。空気が凍りつく気配を感じた。
「失恋しちゃいましたあ……わたし……あんまりだと思いませんかあ……そりゃ、そりゃ、ずーっと黙ってたわたしも悪いですよお……でも、毎日顔あわせてるんですよ……普通、気づくでしょう? そうですよねえ……?」
「…………」
 大体、原因はわかった。それに何故自分がまきこまれるのかは理解できないが。
 純子が芹沢に。なるほど。大分年は離れているが、ああ見えて、芹沢は弁護士として非常に優秀らしいし、男の目から見ても、外見もいい。……やや、年はいっているが。
(……一体何を言ったんですか、芹沢さん)
 それにしても、この純子の荒れようはどうだ。一体どんなひどい台詞を吐いたのか。
 榎本の目から見ても、芹沢の女性関係は派手そうだ。自分とは違って。
 きっと、日頃遊び慣れた女性に対するのと同じような態度を純子にも取ったのだろう。この真面目な純子が、そんな扱いをされてどれほど傷ついたか――
93鍵師の災難、上司の受難 3/6:2012/06/29(金) 23:25:33.52 ID:mYA+NG1H
 何故か苛立ちが募って来た。自分が怒る筋合いなどどこにもない……いや、今、現在進行形で迷惑をかけられているのだから、関係なくはないが……が、それにしても、純子のこの荒れようは尋常ではない。
「痛いんです……」
 そんな榎本の怒りなどどこ吹く風で。純子は、ひたすら涙と愚痴をこぼし続けた。
「痛いんです。心がとっても痛いんです……失恋って、こんなに辛いものだとは思いませんでした……ひどい、あんまりです……」
「青砥さん」
「助けて……」
 伸ばされた手を反射的に握ると、ぎゅっと指に力がこめられた。
「助けてください……」
「…………」
 潤んだ瞳で見つめられ、ぐらり、と理性が揺れたが、何とかこらえる。
 何を求められているか、がわからないほど鈍くはないつもりだが。それに乗るほど、自分の人間性は腐っていないと思いたい。
 こんな状況で手を出すなど、純子に対する最低の裏切りだ。傷ついて、助けを求めて来た。きっと、自分は純子から相応に信頼を得ていたのだ。そう思いたい。
 ならば、その信頼に応えたい。
「駄目ですよ、青砥さん」
 やんわりと手を振り払って、自前のハンカチで純子の涙を拭う。
「それは、駄目です。そんなことをしても、あなたの傷ついた心は癒えません」
「…………」
 榎本の言葉が、通じたのか、通じなかったのか。
 やがて、純子の唇から静かな寝息が漏れ始めて。榎本は、安堵の息をついた。

 そのまま帰宅してもよかったが。この状態の純子を一人放っておくことはできなかった。
 と言って、家主が眠っている中、一人ただ待つというのも居心地が悪い。
 自分もお節介になったものだ……と苦笑を漏らしながら、携帯を取り出す。
 電話をするには非常識な時間だが、こんな状況なら許されるだろう。
 もう寝ているか……という不安は杞憂に終わり。コール三回ほどで、通話は繋がった。
『もしもしーえのもっちゃん? 何だ、こんな時間に?』
「こんばんは、芹沢さん」
『仕事の話……じゃないよなあ? 何? 何か用?』
「はい」
 きっぱりと頷いて、ちらりと純子に視線を向ける。
 こんなことをしても、純子を悲しませるだけかもしれないが。巻き込まれた人間として、どうしても一言告げてやりたかった。
 娘でも通じるほどに年の離れた女性に何をやっているんですか芹沢さん。
「今、青砥さんの家にいるのですが」
『はあっ!?』
「申し訳ありません。青砥さん本人は、今、ちょっとお休みになられていますが」
『待て待て。何? 用って、もしかしてそういうこと? お前ら、ついにそういう関係に? 何、榎本、青砥とやっちゃったの?』
 いきなり下劣な話題を振られて、眉間のしわが深くなるのがわかった。何故そうなるのだ。自分が何をしたのか、もう忘れたとでも言うのか。
94鍵師の災難、上司の受難 4/6:2012/06/29(金) 23:26:15.16 ID:mYA+NG1H
『何だ何だ、そうだったのか。いやいや、青砥におめでとうって伝えてくれ。榎本、うちの青砥をよろしく頼むぞ』
「違います。よろしく頼まれても困ります」
『はあ?』
「青砥さんに助けを求められました」
『助けえ? また家にゴキちゃんが出たのか?』
「そんな助けだったらよかったのですが。青砥さんは泣いて酔い潰れておられました」
『はいいい? 待て榎本、ちゃんと説明してくれ。意味がわからん』
「芹沢さんに振られたのが辛くて悲しい、と泣いておられます」
『…………』
 榎本の言葉に、電話から長い沈黙が返ってきた。
『……なあ、榎本。俺、ついに耳がおかしくなったのか?』
「正常に機能していると思われます」
『誰が、誰に振られたって?』
「青砥さんが、芹沢さんに振られた……とお伺いしました」
『はあっ!? 何それ!? 何の話!?』
 あくまでもとぼけるつもりか。あるいは……もしや、芹沢には、「振った」という感覚すらなかったというのか。
 ありうる話だ。女性からの誘いなど、それこそ毎日のように受けているであろう、芹沢のこと。純子の必死の誘いを、冗談とみなして軽く流した……そんな様がリアルに想像できて、榎本にとっては久しく覚えがない、「激怒」と呼ばれる感情がこみあげてくるのがわかった。
「芹沢さん。あなた、彼女に何を言ったんですか」
『な、何も言ってないよ!? 何、えのもっちゃん!? 何か怒ってる!?』
「はい、どうやらそのようです。僕に口出しする権利は無いとわかっていますが、彼女に助けを求められた人間として、芹沢さんのことがどうにも不愉快です」
『だから何の話! 何で俺、身に覚えのないことでこんなに責められなきゃいけないの!?』
「とぼけるおつもりですか? 青砥さん、ずっと泣いておられたみたいですよ」
『だから、俺は知らないって! 別に、今日は仕事以外の話はしてないぞ!? 帰るときだって、普通に笑顔でさよならって手を振ってたぞ!? 大体、今日、青砥は定時で退社してお前のところに向かったはずだぞ!?』
「……はい?」
『間違いない! 昼休みに行列のできる店で有名なスイーツが買えたとか自慢してたからな。帰りにお前のところに差し入れに行くんだって浮かれてたぞ!? いや本当だって!』
「…………」
『なあ、榎本。本当に青砥はそう言ったのか? 俺に振られた、って? 何かの聞き間違いじゃないのか?』
「…………」
 芹沢の必死の問いかけには答えず、榎本は無意識のうちに指をすりあわせていた。
 芹沢の言葉に、嘘はないように聞こえる。その話が本当だとしたら、確かに状況はいささか不可解だ。
 定時で職場を出たのなら、いつもなら、純子は夕方の6時過ぎには榎本のところに顔を出していたはずだ。だが、来なかった。
 そして、その3時間後、酔い潰れた純子から電話がかかってきた。
 純子が飲んでいた場所は、榎本の職場の近くだった――
「…………」
『榎本? なあえのもっちゃん? 本当だって、信じてくれよ? 大体、俺と青砥がいくつ年が離れてると思ってんだ? いくら何でも手を出したりしてないって! えのもっちゃ――』
「すいません、芹沢さん。また後ほど、かけ直します」
95鍵師の災難、上司の受難 5/6:2012/06/29(金) 23:27:56.56 ID:mYA+NG1H
 必死に弁明する芹沢を無視して、通話を強制終了。そのまま携帯の電源を落として、再び指をすりあわせる。
 夕方の6時過ぎ。その頃、自分は何をしていただろうか?
 ――と考えて。よみがえった記憶に、冷や汗が伝うのがわかった。
 まさか、そういうことなのだろうか。いや、いくら何でも自意識過剰だろう。あの純子がまさか――
 しかし、芹沢に振られた、と考えるよりは、その方が余程自然な話にならないか?
 そもそも、純子が「芹沢さん」の名前を出したタイミングを考えると――
「――――きゃあっ!?」
 不意に、背後から響いた悲鳴に、榎本はびくっ! と背中をひきつらせた。
 振り向く。いつの間に目を覚ましたのか――ソファから身を起こした純子が、こぼれんばかりに目を見開いていた。
「え、榎本さん!? 何で!? 何でここにっ……ここ、わたしの家ですよねっ!? 何でっ!!?」
「青砥さん……」
 覚えてらっしゃらないのですか、と言いかけて、口をつぐむ。本当に忘れているのだとしたら、きっと、その方がいい。お互いに。
 が、純子は、どうやら酔って記憶をなくすタイプではなかったらしい。その顔から血の気が引いていくのに、数秒とはかからなかった。
 震える手が携帯を探り当て、すさまじいスピードで画面を操る。恐らく、電話の発信履歴を探っているのだろう。両手で顔を覆って、「やっちゃった……」とうめき声を漏らした。
 その言葉が、全て教えてくれた。恐らく、榎本の想像は当たっていたのだろう、と。
「すいません、僕で」
「……何で榎本さんが謝るんですか」
「本当に助けを求めたかったのは、芹沢さんなんでしょう?」
「…………」
 榎本の問いに、純子は無言。けれど、否定しないことが、答えのようなものだろう。
 ゴキブリ事件のときもそうだった。困ったとき、助けを求めるとき、純子が頼る相手はいつも芹沢だ。
 だから、今回も。「振られた」と思ったとき。痛くて、辛くて、苦しくて、どうしても一人ではいたくなくて、芹沢に助けを求めたつもりで、間違えて榎本に電話をかけてきたのだろう。
 正直、間違えてくれて助かった。芹沢だったのなら、あの潤んだ目で助けを求められたとき、嬉々としてその誘いに応じたのではないかと思えてならない。
「青砥さん」
「……はい」
「的外れなことを言っていると思われたら聞き流して下さい。本日6時頃、備品倉庫に居た女性はうちの社員です」
「……はい?」
 榎本の言葉に、純子は、非常に間の抜けた返事をよこしてきた。
 あえてそれに返答せず、淡々と言葉をつむぐ。
「なお、彼女は先日結婚されたばかりです。新居に引っ越す予定だが、ホームセキュリティはどのようなものを入れたらいいのか、といった相談を受けました。もちろん、言うまでもないことですが、彼女の夫は僕ではありません」
「…………」
「おわかりいただけましたか」
 榎本の言葉に、純子の身体からへなへなと力が抜けた。
96鍵師の災難、上司の受難 6/6:2012/06/29(金) 23:29:55.39 ID:mYA+NG1H
「……榎本さんが結婚されるわけじゃなかったんですね」
「違います。そんな予定はありません。というより、そんな相手はいません」
「なんだ……なあんだ……そうだったのか……」
 まだ酒が残っているのか、赤みの残る顔で。
 純子は、笑顔を浮かべて涙をこぼした。
「よかった……」
「…………」
「よかったあ……」
 その笑顔を見ているうちに、不意に、以前、雑談の折に出た会話を思い出した。

 ――ねえ、榎本さん。榎本さんは、どんな女性が好みなんですか――
 ――わたしですか? わたしはですねえ、対等な立場で話してくれる男性がいいかなあって思います――
 ――女は弱い者、守る者って、そういう男性じゃなくて。わたしと対等にしゃべってくれる男性がいいんです――
 ――もちろん、いざとなるときは助けてくれる人がいいですよ? でも、変にかばってやらなきゃ、守ってやらなきゃ……って男性は、嫌ですね。甘えちゃいそうだし――
 ――わたしは、彼氏には甘えたくないんですよ。昔からそうでした。友達とか彼氏には助けてもらいたくないんです。助けを求める相手は、いつも両親でした。それでかな――

「榎本さん……」
「はい、何ですか」
「本当に、本当にご迷惑をおかけしました……タクシー代、いくらでしたか。お支払します。……今日、帰りの分も含めて」
「……これが領収書になります」
 差し出された金額に眩暈を感じたのか、純子はしばらく「わたしの馬鹿馬鹿」とつぶやいていたが。気を取り直したのか、深々と頭を下げた。
「今回の件については、後日、改めて謝罪させてください――榎本さん」
「はい」
「そのときに……お話したいことがあります。聞いて、もらえますか?」
「…………」
 その話の内容は、薄々想像がついたが。それは、きっと自分の口からは言わない方がいいのだろう。
「はい、喜んで」
 その言葉に、純子は、笑みを返した。
 今日のところは引き上げよう。自分はまだ、純子の家に泊めてくれと言えるような関係ではない。
 今は、まだ。

「それでは、失礼します。おやすみなさい、青砥さん」
「はい。おやすみなさい、榎本さん」

 ――とりあえず。
 あらぬ疑いをかけた芹沢に、何と言って謝罪すべきか。当面は、そちらの方が問題だった。

××××××××

おしまい
本当は電話を間違えずにかけたパターンで芹沢×純子に持ち込もうかとも思ったのですが
どう考えてもアンハッピーエンドな結末になりそうだったので却下しました
おそまつさまでした
97名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 23:46:43.60 ID:mRhTaF7K
わーい、新作だ、職人さんGJです
ドラマ終わった寂しさを埋めてくれるのはこのスレだ
あとはドラマをひたすらリピってる
「玄関脇の〜」ってところ、何度見てもゾクッとする
98名無しさん@ピンキー:2012/06/30(土) 13:13:04.57 ID:9QrpAG0l
ハッピーエンドに続きそうな終わり方でうれしいお♪
99名無しさん@ピンキー:2012/07/01(日) 23:14:15.65 ID:s5BF2oKY
明日は月曜日だけどもう放送ないんだよなぁ、寂しい
遅れてこのドラマにハマったので、
1スレからこのスレまでまとめ読み出来て幸せだった
書き手さんたち、どうもありがとう!
100名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 21:15:17.78 ID:nnY1AyYm
さびしい月曜の夜(´・ω・`)
やっぱり、放送が終わると書き込み減るね
101名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 21:21:43.84 ID:Kx9XZnrD
某サイトはまだ一日3〜5個は更新してくれるんだけども・・・。
こっちはもう動かないのかなぁ。
102名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 21:26:34.33 ID:3pYx4qDb
>>101
某サイトが自分が見てるとこと同じとこなら
あそこに書いてる書き手さんの何人かは元ここの書き手さんだよ。
こっちに投下してくれなくなったのは、ドラマが終わったとかいうより
投下のたびに書き手にいちゃもんつける馬鹿がいるからだと思う。
せっかく作品投下しても、感想より先に苦情が来るようなとこ
そりゃ書き手さんも嫌になるでしょう。
103名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 21:27:59.63 ID:Kx9XZnrD
>>102
二人ほどいらっしゃいますね。
いつも拝見してますよ。
104名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 21:53:32.89 ID:NTxJpDMJ
でも、苦情を入れてるのも書き手さんなんじゃないかな?
読み手専門の人はディスったりしないもんだよ。
なんでも美味しく頂いている。
新人の書き手さんの作品が受けると、脊髄反射のように
ケチ付けるのが湧いて来るのは、どのスレでも一緒というか…
近親憎悪が一番厄介だよね、どの世界でも。
105名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 23:22:18.71 ID:hnXGLN5e
そうかい?注意書きの有無やマナー違反には物言いが付くけど、SSの内容自体には
そんなに苦情は無いような気がするが。
106名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 23:24:30.94 ID:KLV9MLmS
>>105に同意。
107名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 23:42:34.28 ID:De4QhHsL
>>105
え、そう?
前スレの性別転換ものに対する苦情とか、妊娠ネタの純子の性格悪すぎ! とか
このスレでもエロなしはいらないとか
結構きつい意見出てると思うけどな。まあそれが2chだと言われたらそれまでだけど
それに、マナー違反に対する注意だって、作品の内容に全く触れずに、説明もなくいきなりsageろ! とか
新人書き手が怖がって逃げるの無理ないわw って自分は思った。
あ、当方、別スレの書き手です。ここでは読み手専門だけど
108名無しさん@ピンキー:2012/07/02(月) 23:55:31.19 ID:KLV9MLmS
>>107
うーんそういやにちゃん慣れ過ぎたからか
これぐらいでって思えるのかもなぁ
もっとひどいの見てきたから特にw
109名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 00:36:18.95 ID:pttWanie
>107
自分もいくつかのスレで投下した事があるけど、初心者でマナー違反してしまったり、
変に絡んでくるカプ厨とか、謂れもないいちゃもん付ける荒らしとかがいても、
必ずフォローしてくれる読み手さん達がいたから特に気にすることは無かったなあ。
それにこのスレはアニメや漫画系のスレに比べれば、穏やかな人が多いと思うよ。

>108と同じように、慣れただけかもしれないけどw
110名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 01:18:11.16 ID:DkbN91RW
自分が嫌だなと思ったのは
>「〜た」「〜ました」が続く文章は小学生の作文みたい
っていう意地悪なコメント

他にも10分割までとか、一回の投稿で何文字まで入るとか
職人さんそれぞれ書きたいスタイルがあるだろうにと思った

でも、ここで投稿してたらしき人のブログを見つけたので
自分は今後はそっちの更新を楽しみに待つつもり
他の作家さんも出来ればオリジナルサイトを作って誘導して欲しい
その方が絶対楽しいよ
111名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 01:37:50.57 ID:gmpxY0vp
何故ここにわざわざ過疎るような書き込みをするのかなぁ。
ここが好きな人だっているんだから、他でやりたいなら一人で勝手に行って。
112名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 01:53:31.60 ID:p3ddKfa+
やりたいわけじゃないよ、読みたいだけ
でも、けなしたくてしょうがないやつもいるから
このスレはぼちぼち潮時でしょ?と
113名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 02:24:11.69 ID:54Oej6Uk
SS書く訳でもないなら尚のこと、あなたが出ていけばいいだけじゃない?潮時かどうかは>>112が判断すべき事じゃない。新種の荒らしとしか思えない。
114名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 02:30:26.80 ID:NppimQY3
>>110
>他にも10分割までとか、一回の投稿で何文字まで入るとか
>職人さんそれぞれ書きたいスタイルがあるだろうにと思った

それ指摘したのは、いつも連続投稿に引っ掛かると
投下する人がぼやいていたからでないの?
115名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 06:52:41.68 ID:p3ddKfa+
10分割以内でも引っかかってるケースはあったし
以上でも問題なく投稿出来てるケースもあった
他にも終わりなら終わりと入れろとか
次が書き込めないとか、ネタばれだ消えろとか
作品投下する時言い訳すんなとか

そういうのが平気な連中はこれからも
同じことを繰り返せばいいや
自分は別のとこのを読ませて貰うさいなら
116名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 07:39:33.16 ID:PmEsR9hG
みんな性格わるっ
117名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 08:28:49.83 ID:nkpOVnS/
あぼーん祭りだー\(^o^)/
118名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 08:39:20.66 ID:AiuswIqM
そりゃ2chなんだから色んなことがあるだろうけど、
だからといって、別の場所に誘導するってのはやり方が汚いと思う。
わざわざこのスレつぶすメリットがない。
ここを見たくない人が見なくてすむってだけでしょ。なら自分が見なけりゃいい。
入り口がここしかない人だっていて、その人たちはここの更新をすごく楽しみにしてるのに
そういう人たちの気持ちを無視するのはどうかと思う。
119名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 08:40:07.49 ID:NppimQY3
愚痴が吐きたいのならこの板にある愚痴スレに行って思いっ切りどうぞ
ここでやると中身がお子ちゃまだと思われて余計に嫌われるだけだよ
120名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 09:07:50.63 ID:QeA4esv4
何が嫌だったかは書き手さんそれぞれだと思う。
他の人にとっては何でもない指摘でも、書いた人にとってはショックだったってこともあるだろうし。
それは住人が勝手に「これくらい普通」だの「よそに比べりゃここはマシ」だの決めることじゃないだろう。
自分が一番嫌だろうなと思うのは
SS投下してもろくに反応ないのに、議論になった途端にこうやってどっと書き込みが来るのはショックだろうな、とは思う
121名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 10:07:10.26 ID:XNSlrFVI
>>114
違うよw
勝手に「10分割以内におさめられる書き手の方が偉い」みたいなこと言い出した奴がいて
次に投下してくれた書き手さんが「10レス以内におさめられなくてすいません」って謝ったら
多分同じ奴だと思うけど、偉そうに10分割以内におさめるにはこれくらいの文字数で〜とか言い出した

あれ読んだときからずっと疑問だったんだけど、エロパロ板ではSSは10分割以内、って暗黙のルールがあるんだろうか。
いくつかのスレを覗いてたけど、そんな指摘見たことなかったんだよね。
投下時は基本sage、とか、特殊シチュは前注が必要とか、書きながらのLIVE投下は嫌がられる、とかいうのはよそのスレでも見かけるんだけど
たまたまかな?
122名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 10:37:58.27 ID:LAJ0nSTz
こんな流れの中、勇気振り絞って投下します。
原作榎青でエロあり、二人は恋人同士の設定です。
スレが再び盛り上がりますように。

*******

「ねえ、さっきの密室の話なんだけど…。」
「今はそんな話、やめませんか。」
榎本は純子の耳元でそうささやくと、薄い耳朶を甘噛みした。
「あっ!」
必然と純子の口から小さな叫びが漏れる。
確かに濃厚に肌を重ねた後にすべき話題ではなかったが、純子は拘留されているクライアントのことが気になっていた。
数日前、マンションの一室で若い女性が殺され、第一発見者が容疑者として逮捕された。その容疑者が今回のクライアントだった。
その人物は無実を主張しているが、それを覆す決定的な証拠がなかった。
なぜなら、そこは発見されるまで完全な密室であったからだ。
またもや密室…
最近では密室殺人が大安売りでもされているのだろうか。
純子はこうも頻回に遭遇する“密室”という2文字にめまいを覚えた。
重い足取りでF&Fセキュリティ・ショップのドアを開ける。
カウンターの奥で榎本が顔を上げた。
閉店間際なためか客は一人もいなかった。
「お久しぶりです。青砥先生。」
榎本は小さな嫌味をチクリと言う。
「ごめんなさい。ここの所忙しくて、連絡できなくて…。」
「わかってますよ。だいぶお疲れのようですから。…さては、またも密室ですか。」
榎本はいとも簡単に純子の悩みを当ててみせた。
純子が恋人である榎本のもとを訪れるのはそう珍しいことではない。
しかし、事件の協力を依頼する際には、榎本にもわかる何らかの重苦しいオーラを発しているようだった。
きっと犯罪者であると知りながら、弁護士として協力を求める自分に後ろめたさを感じているのが伝わるのだろう。
「…そうなの。よかったら意見を聞かせてもらえるかしら?被害者は25歳の女性。あるマンションの一室で殺されているのが発見されたの。」
純子はカウンター越しの榎本の前にあるスツールに腰掛け、手帳を見ながら状況を伝えた。
「現場はええと…5階建てのマンションね。玄関のドアは施錠されていて…」
榎本は手帳を覗き込むように身を乗り出すと、いきなり自らの唇で純子のものをふさいだ。
「!!」
突然のことで純子はたじろぐ。
榎本は唇を離し、純子を見据えるとゆっくりと言った。
「続きは…ベッドの中で…聞きましょうか。」
123名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 10:39:09.59 ID:LAJ0nSTz
そうして今に至るわけだ。
すでに貪るようにお互いを求めあった後で、気怠くなった体を持て余していた。
ベッドの中で話そうといったのはそもそも榎本ではないか。
純子は怒ったように背を向けると、榎本の言葉を無視して続けた。
「…で、現場はそのマンションの2階で、被害者の無断欠勤が続いていることを不審に思った上司が訪ねて遺体を発見したってわけ。…あっ…」
榎本の指が背中を這う。純子はゾクゾクした。
「…その上司が、今回のクライアントなんだけど、彼は合鍵を持っていて…。」
「合鍵?今時の上司は部下のプライベートまでも監視するのですか。」
榎本は背中から純子を抱きしめると、首筋に舌を這わせる。
「…ぅん…も、もう切れてしまったとはいえ、以前不倫関係に…。…ん…ぁ……榎本さんっ!」
「…続けてください。」
「あ…そ、それで…容疑者は…あっ!…ぅん……!え、榎本さ…」
いつの間にか榎本の片手が純子の秘部を捕えていた。もう一方の手は乳房を包んでいる。
「続けてください。」
そう言いながら、榎本は両手を忙しなく動かした。
「あぁっ!…え、榎本……や、やめ…。あぁん!」
後ろから羽交い絞めにされ、思うように抵抗できない。
そしてここぞとばかり、いいように榎本に弄ばれている。
「や…こんなんじゃ、話が…できない…んっ…!」
「ですから、やめましょうと言ってるじゃないですか。」
榎本は純子の肩を押さえ、仰向けにさせると、その上に覆いかぶさった。
みると純子の瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
それを見て密かな快感を覚えた。
昔から手の届きそうにないものを征服することに悦びを覚える性癖はどうしようもない。
そんな男の毒牙にかかってしまったあなたが悪いのですよ。
榎本は純子を抱き起し、膝の上で抱きかかえる。
そして、純子の不覚の涙と嬌声で再び猛り立った男の部分をゆっくりと沈み込ませていった。
「んんんっ…!」
先程の愛撫とは違う体の芯を貫くような快感に純子はよがる。
「ふ……ぁん…あっ…あっ」
緻密で計算されたように繰り返す律動に身を任せ、自然と榎本を受け入れていた。
先程まで燻っていた小さな怒りも快楽に変わる。
そのうち榎本にも余裕がなくなってきたのか、一層激しく、力強く突き上げられた。
「ああっ!んっ!あ、ぅ…んんっ!!」
純子の甘い喘ぎが悲鳴のような声に変わる。
124名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 10:40:51.18 ID:LAJ0nSTz
固く体を抱きしめ、強固に密着すると純子のさらなる奥に榎本は到達した。
大きな刺激に純子の体がびくりと跳ねる。それに併せて純子の内部も収縮する。
きつく締め付ける内壁からの刺激によって、激しく乱された榎本の息遣いが純子の耳を掠めた。
自分と同じように榎本も感じているのだと思うと純子の心は悦楽に震える。
榎本は背中をひたひたと這い上がってくる射精感に自制心を失いそうになりながらも、なおも純子を突き上げた。
微妙にコンプレックスを刺激させるこの女性が自分の腕の中ですでに淫らに悶えているというのに、それでもなお攻め立てたい思いに駆られるのはつくづく嗜虐的だと思う。
だが、いまや本能に打ち負けた自分にそれを戒めるもう力は残っていなかった。
限界が近い…
榎本は苦しそうに浅い呼吸を繰り返す。
そして、純子の上半身が仰け反ると同時に、内部も大きく波打った。
最後の刺激を全身で受け止めながら、榎本も苦悶の表情を浮かべ体液を吐き出した。
再び襲ってくる気怠さの中で、純子はぼんやりと事件のことを思いだす。
しかし、今だけはこの心地良さに浸っていたい。
ぐったりと榎本に体を預けていると、肩口に口づけを落とした榎本は申し訳なさそうに言った。
「ところで、密室の件ですが…。」
「?」
「どうやって犯人が密室を作ったのか、そして、その犯人についてもわかりました。」
「ええっ!私、事件についてほとんど何も言ってないわよ!?」
純子の脳裏に一人の人物が浮かぶ。
「わかった!鴻野とかいうあの刑事ね!?あなた、事件のこと聞いてたんでしょう!?」
怒りに体を震わせる純子から逃れるように、榎本はベッドから起き上がる。
「コーヒーでも飲みませんか。美味しいブルーマウンテンの豆が手に入ったんです。」
「いりません!」
純子はブランケットを頭からかぶるとぎりぎりと歯噛みした。
キッチンから漂ってくるコーヒーの香りが純子を誘惑する。
榎本径。やっぱり食えない男だわ。
純子はそろりと起き上がると傍らにあった榎本のシャツを羽織り、キッチンに向かった。

*******
中途半端ですが、以上です。
お気に召さなかったらごめんなさい。
誰かの神作品が投下されるまでのつなぎだと思って温かく見守っていただけると幸いです。
このスレの作品が大好きだったんで、こんな形で無くなってしまったら悲しい。
職人さんたち戻ってきてー。
125名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 11:19:42.91 ID:lAXHc7Bf
>>124
GJです!原作設定だけどドラマの二人で脳内再生余裕でしたw
あと変な流れをぶった切ってくれてありがとう。
126名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 12:52:25.32 ID:eXpZxvcr
GJ! 榎本さんに振り回される青砥さんカワユス
127名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 16:46:09.31 ID:AiuswIqM
原作榎青でもともと関係を持ってる二人なのかな?
しれってしてる榎本いいよー!
128名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 18:32:31.87 ID:MiBqDsRE
>>124
GJ!!!エロいいっ!

勇気をありがとう。
129sage :2012/07/03(火) 22:27:08.04 ID:OKOZVmyR
原作榎本の方がドS臭漂うのは何故なんだぜ。虐め泣かされる純子をもっと!!!!!
130名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 22:50:48.41 ID:ZOy+Xl8C
ドラマの榎本はストイック過ぎてDT疑惑もあるぐらいだけど(おまけに容姿がアイドルだし)
原作の榎本はより大人な感じで青砥との遣り取りもこなれてるからな
131名無しさん@ピンキー:2012/07/03(火) 22:51:36.52 ID:pgpAjA0u
>>124
GJ!!
自分もまだここ続いて欲しいから雰囲気変えてくれてありがたい…!
あなたのも十分神作品です!えろかった〜
ドSだけど好き度合いは榎本の方が強く見えて萌えた…w
132ひみつ 1/4:2012/07/04(水) 10:57:24.47 ID:eEj6VXJv
上でラブラブな榎青を頂いた後で大変恐縮なのですが
需要があるかわからないブラックヤンデレ榎本ネタ書いてみました。
すいません。この段階ではR18とはとても言えません。
かなり榎本がブラックですのでそれでもよい! という方のみお願いします。

××××××××

「そういやさあ。榎本は、いっつもイヤホンしてるけど。あれ、何聞いてるんだろな?」
 ある晴れた日の昼下がり。
 尊敬する上司の素朴な疑問に、純子は「はて」と首を傾げた。
 何故そんな話題になったのかは忘れた。大した流れではなかっただろうからどうでもいい。
 問題なのは、結構長い付き合いとなるのに、純子も芹沢も、榎本の好きな音楽一つ知らない、ということだ。
「わたし達、考えてみたら榎本さんのこと何にも知らないんですねえ」
「改めて聞いたことなかったしな。何だろうな。クラシックか?」
「ロックとかアイドルとかではなさそうですよね、何となく」
「やめてくれ、面白すぎる。あの無表情でイヤホンから流れてるのは『会いたかった〜会いたかった〜♪』? 勘弁してくれ」
「あのイヤホンしてると、わたし達の声とか全然聞こえてないみたいなんですよね。でも、そんな大音量で聞いてたら、音漏れとかしそうなものだと思うんですけど。全然聞こえないですよね?」
「よっぽど高性能なイヤホンなんだろ。よく考えたら音楽とは限らんな。ラジオとか落語って可能性もあるか」
「どっちにしろ、榎本さんのイメージじゃないですねえ」
 うーん、と二人で腕を組む。
 はっきり言ってどうでもいいことではあるのだが。一度気になると知りたくなるのは純子の性分だ。
「そうか、わかった。あいつのことだ。きっとあのイヤホンからは鍵開けの音が延々響いてるんだ。間違いない」
「ちょっとやめてください! じゃあ、あのイヤホンからは『がちゃっかちゃっ』って音が延々と鳴ってるってことですか? それって想像したらかなり怖いですよ!」
「榎本ならありえそうだろ。うーん……よし、青砥。お前、今度榎本に会ったとき聞いてみろ。何なら一緒に聞かせてもらえ」
「芹沢さんが自分で聞けばいいじゃないですか」
「馬鹿、男が男の趣味を根掘り葉掘り聞くなんておかしいだろ? ただでさえ、榎本は小柄で華奢でその手の男に好かれそうな外見してんだ。あらぬ誤解を招いたらどうする。だから頼む」
「はいはい。もう、わかりましたよ」
 正直、芹沢の言うことはよくわからないが。まあ、気になるのは純子も同じだ。それに、上司の頼みを無下に断るわけにもいかない。
 大したことではない。一言聞けばそれで済むだろう……と。純子は、あっさりと頷いた。

 明けて翌日。
 別に用があったわけではないが、仕事も早く終わったし……と、純子は、手土産と共に東京総合セキュリティへと足を運んだ。
 すっかり通い慣れた地下備品倉庫。軽くノックをして「榎本さーん」と言いながら覗き込むと。
「……あれ?」
 いつもなら、「こんばんは、青砥さん」と、無表情の榎本が出迎えてくれるのだが。珍しいことに、返事がない。
 もしや、今日は外回りに出ているのか……と、純子が中を覗きこむと。
「あ」
 机に突っ伏している榎本を見つけ、純子は、慌てて口元を押さえた。
133ひみつ 2/4:2012/07/04(水) 10:58:33.14 ID:eEj6VXJv
「寝てる……珍しい」
 開錠作業で疲れが溜まっていたのか。榎本は、錠を前に、腕を枕にして居眠りをしていた。
 時刻は夜の七時。定時も終わっているだろうから、咎めることではないだろうが。このまま放っておいたら風邪を引くかもしれない。
 起こした方がいいのか。でも、気持ちよさそうに寝ているのに起こすのも気の毒か……
 とりあえず、部屋を見回して、防災用品らしい毛布を引っ張り出し、肩にかける。
 滅多に……というより、初めて見た榎本の寝顔。意外とまつげが長く、眼鏡を外した素顔は驚くくらい童顔だ。とても年上とは思えない……
 と、誰も見ている者がいないのをいいことに、じっくり観察していると。
「あ」
 目についた白いイヤホンに、純子は思わず声をあげた。
 どうやら、榎本はイヤホンをしたまま寝てしまったらしい。ということは……もしや、あのイヤホンからは、今も何かが流れているのか?
「…………」
 きょろきょろと周りを見回して、ついで、榎本の様子をうかがう。目を覚ます様子は、無い。
「榎本さん」
 小さく囁く。反応、なし。
 そう言えば、と、思い当たる。最初の頃は、純子が訪れても、部屋からは何の反応もなかった。今日のように寝ていたわけではなく、榎本が常にイヤホンをつけていたため、肩を叩くまで純子達の訪問に気付かなかったから。
 それが、いつからか。純子達が訪問するとき、榎本は、イヤホンを外してちゃんと出迎えてくれるようになった。
 ささいなことだが。どうしてか、気になった。このイヤホンは、榎本にとって、どんな意味があるんだろうか――?
「ちょっと……すみません」
 小さく断って、手を伸ばす。身体に触れないように気を付けながら、そっとイヤホンを外そうとして……
「!!」
 不意に伸びた手が、がっ! と、純子の手首をつかんだ。
 一瞬、時が止まった。声も出せず、瞬きすらもできず。捕まれた手首を見つめていると――
「……青砥さん。いつ、いらしたんですか」
 寝起きだからか、いつもより焦点がずれた、潤んだ瞳。やや乱れた前髪。
 けれど、手にこもる力は、強い。そこに、明確な拒絶の意思を感じるほどに――
「え、榎本さん。あ、ごめんなさい。ついさっきです――起こしてしまいましたか?」
「いえ。お気になさらずに。うたたねをしていただけですので」
 言いながら、そっと手をほどかれる。そのまま、流れるような動作でイヤホンを外す榎本をじっと見つめて――
「榎本さん」
「はい?」
「いつもイヤホンしてらっしゃいますけど。何を聞いてるんですか?」
「…………」
134ひみつ 3/4:2012/07/04(水) 11:00:25.78 ID:eEj6VXJv
 直球な質問を、ぶつけていた。
 芹沢がいたら、「あちゃあ」と頭を抱えていたかもしれないが。持って回った言い方は、純子の趣味ではない。
 第一、何がまずいのか。何を聞いているのか、くらい、教えてくれてもいいではないか。自分達はチームメイトなのだから。
「榎本さん」
「……別に、面白いものではありません」
 言いながら、榎本はポケットを探ると、iPODを取り出して差し出した。
「どうぞ」
「え、見てもいいんですか?」
「ええ。別に、隠すようなものではありませんので」
「あ、ありがとうございます……」
 あまりにもあっさりとした展開に、逆に釈然としないものを感じる。
 首を傾げながら、iPODを操作して、登録されている音楽の一覧を見てみる。
 クラシックの名曲から、いわゆる懐メロ、ロック、演歌、最新の音楽チャートTOP10をそのまま抜粋してきたのか、と言いたくなるような最新ヒットソングまで。
 何の統一性もない雑多な音楽の詰め合わせが、目に飛び込んできた。
「……榎本さんの趣味がわかりません」
「別に趣味ではありません。音楽のリズムに合わせて手を動かすと、開錠がスムーズに進むので。とりあえずヒットしている音楽を片っ端からダウンロードしただけです」
「何か特別に好きな曲、とか、無いんですか?」
「ありません。再生もシャッフル再生で聞いていますので、特に何かを選んで再生していることはまずないですね」
 榎本らしい、と言えばらしい返事に、純子は「うーん」と首を傾げた。
 答えは出た。実にあっさりと。けれど、何か納得がいかない。
 別に隠す必要はないではないか。実際、榎本本人もそう言っていた。
 なら……
 あの一瞬。イヤホンを外そうとした純子の手首をつかんだ、あの力強さ。
 あそこに、明確な拒絶を感じたような気がしたのは。あれは、自分の気のせいだったのだろうか?
「……榎本さん、和菓子買ってきました。お好きなのどうぞ」
「いつもありがとうございます」
 気にはなるが。これといった根拠があるわけではない。何より、榎本が本当に何かを隠しているのだとしたら。それを純子が聞き出すのはまず無理だろう。
 だったら。無理やり聞き出そうとしてお互いが嫌な思いをするよりは、このまま黙って流しておくべきだろう。
 榎本と過ごす時間は楽しい。そこに、榎本が何を聞いているか、など、何の関係も無いのだから。
135ひみつ 4/4:2012/07/04(水) 11:02:58.08 ID:eEj6VXJv
 お邪魔しました、と純子が去った後。榎本は、iPODの電源を落として、ため息をついた。
 危なかった。油断していた。今日あたり来るだろう、と予想できていたのに、まさか寝てしまうとは。寸前で気づいたのは幸運と言うしかない。
 ポケットを探り、小さな機械を取り出す。イヤホンを装着し、電源を入れると。雑音混じりに、聞き慣れた声が流れて来た。

『……そうなんですよ芹沢さん! iPOD見せてもらったんですけど、本っ当に全然統一性のない音楽の詰め合わせでした!』
『はい、どうもリズムを取るためだけに聞いてるみたいですよ? 特に好きな音楽はないそうです』
『ええ、芹沢さんが言っていた会いたかった〜♪ も入ってましたね。あはは。その意味では芹沢さんの想像、当たってましたね』

 どうやら、彼女は電話をしているらしい。相手は芹沢か。かかってきたのか、あるいはかけたのか。それは定かではないが。
 舌打ちが漏れる。気に入らない。芹沢と純子はただの上司と部下で、それ以上でも以下でもないことはよくわかっているが。彼女の傍にいる男という、ただそれだけで気に入らない。
 しばらく耳を澄ませていると、電話は終わったらしく、規則正しい足音、及び開錠の音が聞こえた。
 周波数を合わせ、スイッチを切り替える。靴を脱ぐ音、玄関を上がる音。彼女の家の間取りは完璧に頭に入っている。音を聞くだけで、彼女が今、家で何をしているか、どう過ごしているかが手に取るようにわかった。

『ん? あれ、芹沢さん、まだ何か用でした? え? あ、ごめんなさい! そっちが本題でしたよね。ええ、明日の裁判資料なんですけど……』

 ソファに腰を下ろしたところで、また芹沢から電話が入ったらしい。眉間にしわがよる。今、何時だと思っているのだ、非常識な。
(……時計だけじゃ足りませんでしたか)
 胸中でつぶやいたところで、電話は終わった。
 響く足音、ついで衣擦れの音。自然と口角が上がるのがわかった。純子は実に無防備だ。一人暮らしの女性としていかがなものか、とは思うが。人を疑うことを知らない彼女らしいとは思う。

(あなたが悪いんです。僕に踏み込み過ぎたから)

 かちり、かちりとスイッチを切り替えながら。
 暗い地下室の中で。榎本は、いつまでもイヤホンに耳を傾けていた。


××××××××

終わり
この榎本で続きを書くとしたら監禁ネタになるんでしょうか。
DT疑惑漂う純粋な榎本が好きな方、失礼しました。
また明るいネタ思いついたら投下します。
136名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 11:21:51.41 ID:fqJFnU3D
リアル投下に遭遇して興奮!!
新作ありがとうございます!
うれしくて目から変な汁が…

ブラックさが榎本らしくてよかったー
もしよかったら、是非とも続きをお願いしたいです
137名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 11:42:37.25 ID:EnEvgHn8
うわああぁあwww
真っ黒黒のえのもっちゃんだwwww
3までは今までどおりの感じで読んでてちょいエロくるー?なんてdkwkしてたら
4でひっくりかえったwww
ちょーおもろいよ!!!!
138名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 12:10:38.79 ID:qqvIEIou
GJ!GJ!
黒ヤンデレ榎本最高、続き全力全裸待機
監禁全然オゲ!
139名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 12:17:01.30 ID:5yN4Tf4t
>>124
うわぁ!この作品かなり好きかも!恋人同士設定めっちゃ萌えるw
原作ってこんな感じなのかー。
自分ドラマの2人が好きで、原作読むとイメージ変わりそうで手出さなかったんだけど
すごい読みたくなった。

>>132
GJです!うたたね可愛いw監禁ネタもぜひ読みたいです!!
やっぱ榎本には手錠・拘束・監禁・盗聴が似合うwハマってる。
140名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 13:42:48.56 ID:sKcWXHM6
時計wwwえのもっちゃんの仕業w
141名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 14:55:59.27 ID:yG71FuQy
>>135
Great job!ドSとかヤンデレな榎本たまらんw
続きも明るいネタも投下待ってます!

>>124
Great job!榎青のエロに飢えてたwから、投下してくれてありがとう。
また投下待ってます!
142名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 17:56:29.18 ID:jyZb+B5B
ヤンデレ好きなので悶え死んだww
GJです!!!!
監禁榎本も見てみたい
143名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 17:59:43.87 ID:jyZb+B5B
連投済まん。
原作榎青もGJです!!
ドラマから入って最近原作も見たからめっちゃくちゃ楽しめました。
原作の榎本は色気があって好きだ。
脳内再生はドラマの榎本だけど
144名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 18:20:30.55 ID:EnEvgHn8
中の人のスレでちょっと盛り上がった榎本のアクション読みたいなー。

銃をつけつけられて平然としている榎本。
撃たれてそれた弾丸が頬をかすって赤い線をつくってる。
眉をひそませ鋭い目つきで相手を見る榎本。
次の瞬間青砥の腰と頭を抱えて横っ飛び。

みたいなの。

それか壁のぼり的なものとかー。
喧嘩ふっかけてきたあんちゃんを華麗な技で(力を使わずに)倒しちゃうとかー。
145名無しさん@ピンキー:2012/07/04(水) 22:58:36.31 ID:64kJDDZC
純子の生活把握で、榎本のニヤリ顔が自然と浮かぶww盗聴とか、いかにも!な感じで良かった。
ドSで真っ黒な榎本を!!お願いします!!
146ぼくのもの(前編) 1/5:2012/07/05(木) 00:17:38.54 ID:UTNAq8Da
>>132-135 書いた者です。
コメントくださった方、ありがとうございます。
続きの監禁ものを読みたい、と言ってくださった方がいらっしゃったので書いてみました。
すいません。まだ前編ではエロに到達してません。
後、榎本が前にもまして真っ黒です。
そういう榎本が読みたい、という方だけどうぞ。

××××××××

「榎本さーん。男性が女性を『綺麗だね』って褒めるのって、どんなときだと思います?」
 いつもの東京総合セキュリティ地下備品倉庫にて。純子は、持参したチョコレートと榎本が入れてくれた紅茶を楽しみながら、だらだらと雑談を流していた。
 返事があることなど期待してはいない。芹沢あたりに聞かれたら「何が面白いんだ」と言われそうだが、自分の漏らす愚痴も雑談も、嫌な顔一つせず受け止めてくれる相手というのは貴重だ。特に、社会人になってからは。
「榎本さん。聞いてますか?」
「……はい。聞こえています」
 純子の問いかけに、榎本はいつもの無表情で答えた。
 相変わらず開錠作業に集中しているらしく、純子に視線すら向けてはいないが。それでも返事をしてくれる辺り、律儀な榎本らしいと感心してしまう。
「つまりですね、合コンに行ってきたんです。里奈ちゃんに誘われて――すっごく楽しかったんですよー。相手の方もいい人ばっかりで」
「そうですか」
「その中の一人にですね、綺麗だね、って褒められたんです。わたし、仕事帰りにそのまま出かけたんでこの格好だったんですよ。周りの子達はみーんな綺麗に着飾ってたから、何かの嫌味かと思っちゃいました」
「そうですか」
「でも、その後で、携帯の番号とか渡されたんですよ。よかったらまた会いたい、って。これで、誘われてるってことですよねえ?」
 榎本の顔を覗き込むようにして問いかけると。根負けしたのか、榎本はため息をついて手を止めた。
「憶測でよろしければ」
「どうぞ」
「その状況から考えますと、その男性は普段のままの青砥さんを好ましいと感じ、できれば交際していきたい――と考えている、と思われますが」
「そうですか!? やっぱりそうですか!?」
 榎本の言葉に、純子は身を乗り出した。
 自分でも「そうかな」と期待はしていたのだが。榎本のような冷静な男から改めて太鼓判を押されると、勇気が沸いてきた。
「わああ、嬉しいですっ! そんな人もいるんですねえ!」
「そんな……とは?」
「だって、わたし、今まで弁護士になるために勉強勉強で、メイクとか服とか、気を使ったことがなかったんですよ。だから、今もお洒落をするのが苦手なんです。
 今までの彼氏だって、デートのときもお洒落一つしてこないわたしを見て『俺のこと、本気で好きじゃないんだ』とか勝手なこと言って振られてきました」
「……はあ」
「何でですか。お洒落をしないと振り向いてもらえないなんておかしいじゃないですか! 交際から結婚に発展した場合、その人とは一つ屋根の下にずーっと暮らしていくことになるんですよ!? 24時間ずっとお洒落をしてるなんて、無理に決まってるじゃないですか!」
「……そうですね」
「だから、嬉しいです。お洒落してなくても、素のままのわたしがいいって言ってもらえて。そんな人って今までいなかったから、すっごく嬉しいんですよ」
 満面の笑みで訴えても、榎本は無言。その顔には何の表情も浮かんでおらず、ありありと「それを僕に言われても、どう答えればいいんでしょうか」という本音が透けて見えた。
 まあ、それはそうだろう。純子とて、別に榎本からコメントをもらおうとは思っていない。ようは、自分の考えが間違っていない、と誰かに認めて欲しかっただけだ。
「ありがとうございますっ。榎本さんのおかげで勇気が出ました」
「……お付き合いなさるんですか」
147ぼくのもの(前編) 2/5:2012/07/05(木) 00:19:09.24 ID:UTNAq8Da
「さあ……それは、うまくいったらいいなあ、とは思いますけど。こればっかりは会ってみないと何とも……実は、これから食事に誘われてるんですよっ」
「これから、ですか?」
「はいっ。何度かメールのやり取りしてて、一度食事でもどうか、って――二人きりで誘われるなんてすっごく久しぶりで。でも、期待して行ってただの勘違いだったらみっともないじゃないですか。だから、榎本さんの意見が聞きたかったんですっ」
「……そうですか」
「里奈ちゃんとかにも色々電話で相談はしてたんですけど。やっぱり男の人の意見も聞いてみたかったので――本当にありがとうございました」
「いいえ、お役に立てたようで何よりです」
 榎本の素っ気ない言葉にもう一度礼を返して、純子は、紅茶を飲み干した。
 腕時計に目を走らせる。約束の時間までには間があるが、もう出た方がいいだろうか。電車が遅れたりする可能性も考えて、余裕を持って行動した方がいいだろうか。
 いやいや、その前に、やはり着替えた方がよくないだろうか。相手が普段の純子を褒めてくれたから、と、今日もいつもの仕事着のままだが。だからと言って二人きりというのがわかっているのに全く着飾る気ゼロというのは、逆に相手に失礼ではないだろうか?
 そんなことを悶々と考えていると――
(……あれ?)
 不意に、瞼が重くなってくるのがわかった。
 時刻、夜の七時過ぎ。普段なら、仕事に追われているか榎本と雑談しているか――という時間。特に疲れているわけでも寝不足というわけでもないのに。
(あれ……あれ……)
 急速に押し寄せてきた眠気に、がくん、と純子の頭が落ちた。
 とてもあらがえない。いや、あらがおう――などと考える前に、純子の意識は遠ざかり、そのまま、机に突っ伏した。
 そんな純子を見ても、すぐ傍らにいる榎本は動揺の気配一つ見せず――自分の紅茶を飲み干すと、黙って部屋を片付け始めた。
 ティーバッグやチョコレートの包み紙と一緒に細かく引き裂かれた薬包紙が捨てられていることに、純子は、もちろん気づくことはなかった。

××××××××

 初めて手を出したのは五年前だった。
 セキュリティの工事に赴いたどこかの会社の社長宅で、窃盗事件が発生した。犯人は工事を請け負った警備会社の人間……つまりは榎本に違いないと、騒ぎ立てられた。
 榎本にしてみれば実に心外な言いがかりだった。窃盗の内容はプロ意識のかけらもない実に杜撰なもので、あのような見苦しい手口を自分の仕業と思われるのは不本意の極みだった。
 親切心ではない。自分の矜持のために、夜半に社長宅に侵入し、盗聴器を仕掛けて詳細を探った――犯人が社長の愛人であるとわかったときは、失笑が漏れた。何だその真相は。馬鹿にするにも程がある。
 盗聴器を回収した後、警察をそれとなく誘導して濡れ衣は晴らしたが。その結果、社内での居心地は、いささか悪くなった。
 もともと同僚達とのコミュニケーションなど無に近かったが。それでも、聞えよがしな陰口や不躾な疑惑の視線は、気持ちのいいものではなかった。
 だからこそ、何か、周囲の雑音をシャットアウトする道具が必要だった。

 ――復讐などではない。興味本位ですらない。これは、雑音を阻むバックミュージックに過ぎない。

 東京総合セキュリティのオフィスや上司、同僚宅――特に自分に疑惑をかけたり露骨な嫌がらせを仕掛けてきた相手を選んだのは、せめてもの良心のつもりだった――の生活音を聞きながら、この五年の間、閉ざされた地下備品倉庫の中で、過ごしてきた。

 その対象が、社内の人間からある事件で知り合った女性弁護士に切り替わったきっかけが何だったのかは、既に榎本も覚えていない。
148ぼくのもの(前編) 3/5:2012/07/05(木) 00:20:43.95 ID:UTNAq8Da
 目が覚めたきっかけは――特になかった。
 大きな音が聞こえたわけでもなく、どこかに痛みや衝撃を感じたわけでもなく。覚醒は、至って静かで穏やかだった。
「……え」
 眠気特有のぼんやりした思考の中で、純子はきょろきょろと周囲を見回した。
 見覚えのない部屋だ。どこかの寝室……だろうか? 自分はベッドに寝かされていて、その傍らにはデスクと椅子があり、本棚がある。本棚の中には、鍵や防犯関係の資料が――
「え?」
 自分の部屋ではない。悲しいことに自分の寝室はこんなに整然とはしていない――と言って、ホテルの一室というわけでもない。
 この部屋は……
「ええっ!?」
 身を起こそうとした瞬間、「じゃらんっ!」という金属音に阻まれた。
 視線を泳がせる。今まで気づかなかったが、純子の左手首、そして右足首は、金属の輪……手錠、と呼ばれるもので、ベッドに拘束されていた。
 特注品なのか、輪と輪を繋ぐ鎖は割と長めで、腕も足も、ある程度は動かせる。
 けれど、ベッドから逃れることはできない――自分の状況を把握して、純子の顔から血の気が引いた。
 何なのだろうか、この状況は。こうなる直前、自分は、何をしていた?
 榎本の元を訪れた。そこでいつものように雑談をしながら、紅茶と菓子を食べていた。その後は、合コンで知り合ったいい感じの男性と食事の約束をしていて、少しばかり浮かれていた。
「!!」
 慌てて周囲に視線を巡らせる。壁にかかった時計は、1時を指している……午前1時なのか、午後1時なのかはわからないが。どちらにしろ、約束の時間がとっくに過ぎていることは確かだった。
「な、何で……」
 そうだ。あのとき……そろそろ待ち合わせ場所に向かおうか、と考えていたとき、急に眠くなった。
 あの眠気は普通ではなかった。あまりにも急速に訪れたソレに、純子は意識を奪われて――
「……気が付かれましたか」
「!!」
 がちゃん、という音と共に、部屋のドアが、開いた。
 視線を向ける。薄々、予感はしていた――部屋のインテリアや本の趣味から何となく。けれど、認めたくはなかった。
「榎本さん……」
「どこか、痛むところはありませんか」
「あ、ありませんけど……」
 トレイ片手に立っていたのは榎本だった。いつものカーディガンもネクタイもない、第二ボタンまではだけたシャツにスウェットという、中途半端にラフな服装で。
 傍らのデスクに、サンドイッチと紅茶が乗った皿を、ことりと置いた。
「あの、榎本さん」
「お腹は空いてませんか」
「……あの」
「喉は乾いていませんか」
「…………」
 あまりにも淡々とした言葉に、あらゆる疑問が、封じ込められた。
 当たり前の日常生活のワンシーン……そんな態度を取られて、一体、何を言えというのか。
149ぼくのもの(前編) 4/5:2012/07/05(木) 00:21:24.87 ID:UTNAq8Da
「お腹空いてます。喉も乾いています」
「そうですか」
「榎本さん。今……何時ですか」
 純子の質問に、榎本はチラリと時計を見上げた。
「1時8分です」
「……夜の?」
「はい」
「…………今日は、何日、ですか?」
 返ってきたのは、記憶にある日付の翌日だった。深夜0時を回っていることを考えれば。純子が意識を失ってから、およそ6時間後……ということか。
「榎本さっ……」
 質問は、押しこまれたサンドイッチに阻まれた。
 反射的に咀嚼する。何てことのない卵サンドだが、中の具がまだ温かい……まさか、榎本の手作りだろうか?
「味は大丈夫ですか。お口に合いますか」
「……すっごく美味しいですよ」
「それはよかったです」
 こんな状況で呑気な、と自分でも思うが、空腹だったのだから仕方がない。
 差し出されたサンドイッチをもくもくと平らげる。卵サンド、ツナサンドと、ちゃんと具にバリエーションをつけてくれているのは……榎本なりの気遣い、だろうか?
 って、いやいや、何をほだされているのだ! この状況は、どう考えてもそんな呑気なものではないだろうっ……
「紅茶も飲みますか」
「飲みますよっ。喉、乾いてるんです」
「わかりました」
「だから、手錠外してください。寝たままじゃ飲めません。こぼしたらベッドにっ……」
 ぐいっ、と、目の前で、榎本が紅茶を煽った。
 何を――と考える暇もない。頬に添えられた手。押し付けられた唇。舌先で割り開かれた口内に注ぎ込まれる、程よく冷えた紅茶――
「んっ……んぐっ……」
 榎本は器用だった。一気に流し込むような真似はせず、唇から溢れるようなこともなく、注ぎ込まれた紅茶は純子の喉を潤し、むせることなく、嚥下されていった――
「え、榎本、さん……?」
「…………」
 怒るより先に呆然としてしまった。何だ、今の出来事は――ここにいるのは、本当に榎本、なのか……?
「――ここは、僕の家です」
「え?」
「会社に届けてある住所とは、別の。本当の、家です」
「…………」
150ぼくのもの(前編) 5/5:2012/07/05(木) 00:23:47.15 ID:UTNAq8Da
 榎本が何を言いたいのかがわからない。会社に届けてある住所とは、別? 本当の家……?
「会社に、虚偽の報告をしているんですか……?」
「いいえ。そちらにもちゃんと、僕が契約しているマンションの部屋があります。ただし、そちらに帰ることはほとんどありません――月に一度、掃除に訪れるくらい、でしょうか」
「…………」
「この住所を知っている者は、誰もいません」
 だから。
 そう言って、榎本は、静かに純子の目を覗き込んだ。
「あなたがここにいることを知っている人は、誰もいません」
「…………」
 伸ばされた指が、男性のものにしては美しい、と――純子は、場違いな感想を抱いた
「これは、どういう状況ですか?」
「どういう、とは?」
「何が、起きてるんですか? 榎本さんは、何がしたいんですか? わたしを――どうするつもりですか?」
「…………」
 純子の問いに、榎本は、静かに首を傾けた。
 首を傾げた……悩んでいる、ということに気付いたのは、その数秒後。
「そうですね。――僕は、収集癖がありまして。珍しい鍵を見つけると、手にいれられずにはいられません。といって、手に入れた後、開錠に成功すれば興味を失うわけでもありません。
 手に入れたものは永遠に手元に残しておきたい性質なんです。その意味では、あの地下備品倉庫や、会社に届け出るために借りたマンションは、格好の置き場となっていますので。無駄ではありませんね」
「は、はあ?」
「わかりませんか」
「わかりませんよっ。何を言っているんですか、榎本さんっ……一体……」
 今度のキスは、より深く、内面をえぐるようなキスだった。
 頬に添えられた手には力が入り、顔を背けることが許されなかった。
 強引に割り開かれた唇から差し入れられた舌が、純子のそれを絡め取り、散々になぶるのを、ただ、受け入れることしかできなかった。
「んっ……んぐっ……」
「…………」
 つうっ、と、唾液の糸がお互いの唇を結んでいる状況下で。
 榎本の口角がわずかにつりあがっていくのを、純子は、呆然と見つめることしかできなかった。
「――あなたも僕のコレクションの一つになったということです。青砥さん」

 それが監禁生活の始まりの合図だった――ということに、純子は、しばらくの間気付かなかった。

××××××

前編ここまで。すいません。がっつりエロは後編に。近日中には投下します。
後、純粋なDT榎本がお好きな方は本当に申し訳ありません。
こちらが終わったら次はそういう榎本で何か書いてみます。
151名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 00:42:38.79 ID:hO5Bq92w
うわぁぁぁぁぁぁん、ありがとう〜!
こんなヘンタイえろ本さんが大好きです
お利口にして待ってます
152名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 01:09:00.68 ID:YXvIFhoN
ブラック榎本…!前編だけで既にエロいっすw
続きを全力で待機!
153事実と真実 1:2012/07/05(木) 03:35:29.51 ID:+zaD2nRI
ブラック榎本待機中ですが、ヘタレ榎本を投下します。

肉体関係有りの榎青だけど、エロは無いです。
うじうじ悩む榎本が書きたくて書いたら、
純子の性格が原作寄りともドラマ寄りとも言えない中途半端なことに…

苦手な方は「事実と真実」でタイトルよけ願います。

***********************************************
純子の自分に対する感情が、榎本は判断できなかった。
彼女の中に自分に対する好意が存在することはもちろん分かっているが、その好意の質が分からなかった。
純子は自分に抱かれるが、それは事実なだけで真実ではなかった。
自分に抱かれる事実と、純子の自分に対する感情、いわば真実が一致しているなら良い。
だが、もしこの事実と真実が食い違っていたら、今さら自分は耐えられるのだろうか。
そう思いながら榎本はずっと純子の真実を知ることを恐れ、「どうして純子は自分に抱かれるのか」という疑問を本人に問うことは無かった。


榎本と純子が、いわゆる肉体関係を持ったのは、今からちょうど1年前のことだった。

榎本のところに純子が来るのは当然という状態になっており、純子は特に用が無くても東京総合セキュリティの備品倉庫室を訪ねてきた。
別に何をするわけでもなく、差し入れのお菓子を食べながらテレビを見たり、仕事の資料を開いたり、榎本が解錠する様子をじっと眺めたり、
倉庫内の備品を端から端まで全部眺めて回ったり。
時には、並べられている鍵にうっかり手を出してしまい外せなくなってしまったと騒いで解錠作業中の榎本の邪魔をしたりした。

その頃すでに榎本は純子のことが好きだった。
そうでなければ、いくら「チーム榎本」の仲間とはいえ、用も無いのに自分の領域に他人を入れることを許したりなどしない。
そんな気持ちが愛情と欲情に変換されたのがいつからだったのかは榎本にも分からなかった。特にこれといったきっかけがあったわけでもない。
劇的な何かによって感情が変化したわけでなかったためか、それとも純子との関係がこれ以上ないくらいに良好であったためか、
もしくは純子にその当時「恋人」と呼べる人間がいなかったためか、純子のことは好きだったがそこまで焦るほどのものではなかった。
無理に告白して、良好である現在の関係を壊すくらいなら、黙っておいた方がいいと考え、それを実行できるくらいには榎本の心には余裕があった。
もちろん、純子のふとした仕草や表情に煽られ、手に入れたいと思うことは時々あったが。
154事実と真実 2:2012/07/05(木) 03:38:49.19 ID:+zaD2nRI
その日もいつものように純子は榎本のいる備品倉庫室に仕事終わりに遊びに来て、何をするわけでもなく、お茶を飲みながらテレビを見ていた。
関係が変化するという予兆などどこにも無い、いつものありふれた風景であった。
きっかけは本当に些細なことで、会話の流れとその場の雰囲気、まさにそれだけだった。

純子がテレビを見ている横で、榎本はいつもの様に黙々と解錠作業に没頭していた。指先に確かな手ごたえを感じ、カチャリと鍵が回る音が部屋に響くと、
その音に気づいた純子がテレビから顔を向けて榎本を見た。
「開きましたか?」
「はい」
「ずいぶん古めかしい鍵ですね。見るからに時代物!って感じで」
純子は椅子から立ち上がり、榎本の手元を覗き込んできた。ふいに目の前にあらわれた純子のやわらかそうな首筋に榎本は少し煽られ、
触りたいという衝動にかられたが、気づかれないように小さく深呼吸をしてその衝動をやり過ごした。
「約400年前に作られた和錠の一つです」
「400年前ってことは…これ、江戸時代に作られた鍵なんですか!?」
驚きの声とともに純子が頭を持ち上げたため、危うく榎本の顔とぶつかるところだった。それを寸前で避けると、純子は大慌てで謝ってきた。
「す、すすすみません! 大丈夫でしたか?」
「いえ。大丈夫です」
「お顔にぶつかっていませんか? あぁもう私ったら、榎本さんにお怪我がなかったとはいえ、本当にすみませんすみませんすみません…」
何気に榎本は、こういった純子の急な表情の変化を気に入っていた。
笑っていたかと思えばオロオロしたり、泣きそうになったかと思えば眉間に皺を寄せて何かを考え始めたり、目まぐるしくコロコロと変わる表情は見ていて飽きない。
心配そうにこちらを見つめる姿でさえ、可愛らしいと感じてしまう。
そんな感情を悟られないようにそっと純子に背を向け、解錠に使用した器具を片づけ始めると、恨めしそうに純子がにらんできた。
「私はいつも榎本さんに驚かされてばかりなのに……榎本さんが驚くことってあるんですか?」
「……どういう意味でしょうか?」
「初めて榎本さんにお会いした時、それはそれは驚きましたよ。あんな大きくて頑丈な銀行金庫のカギを、30分もかからずにたった1人でいとも簡単に開けちゃうし」
質問の趣旨が今一つ見えないまま純子の言葉に首を傾げていると、当時のことを思い出しているのか純子は感慨深げに頷いている。
「その後は、私や芹沢さんが積極的に巻き込んでいったとはいえ、密室事件を立て続けに解決しちゃうし。
鍵と防犯と密室が好きなだけかと思いきや、科学とか将棋とか蜘蛛とか犬とかあらゆることに造詣があるし。そうそう、それに!」
わざとらしく言葉を切り、榎本をちらりと横目で見る。どう対応すれば良いのか分からず黙っていると、純子は大げさにため息をついた。
「ベイリーフの事件で榎本さんが警察に拘束された時ですよ。 いくら榎本さんが殺された社長と以前面識があったからって、
いきなりあの場で『署までご同行願います』は無いですよね。目の前には弁護士である私と芹沢さんがいるのにですよ。
それなのに、榎本さんはそのまま大人しくついていっちゃうし。
自分が潔白ですぐに釈放されることが分かっていたとはいえ、突然の圧力に対しては、少しくらいは驚いて抵抗してしまうのが、人間の当然の心理だと思うんですけど」
と、1人でぶつぶつ言っているかと思うと、急にまた表情が変わる。恨めしそうだったのが、今度は明らかに怒りをあらわにしていた。
「そういえば榎本さん、今日私が来た時も、まったく驚きませんでしたよね」
155事実と真実 3:2012/07/05(木) 03:41:49.01 ID:+zaD2nRI
「何のことですか」
きっ、と睨んでくる純子に対して榎本はようやく口をはさむことが出来た。
純子の中ではどうやら完結して一貫している思考のようだが、榎本には純子が一体何を考えて何を思い出して何に怒り出したのかがさっぱり分からない。
だから榎本にしてみれば、この言葉以外言いようがなかったのだが、純子は榎本の言葉が不満そうなのか悔しそうな顔をする。
「解錠している最中の榎本さんの目をいきなり手で覆ったのに、声一つ上げませんでした」
今から約1時間前、有名パティシエの夏の新作スイーツを片手にやって来た純子は、ふとした悪戯心で、ノックをしないまま備品倉庫室のドアをそっと開けた。
頭だけを中に入れて部屋の様子を窺うと、いつもの席に座っている榎本の後ろ姿が見えた。耳からは愛用のイヤホンのコードが下がっているのを確認し、
音をたてないように静かに部屋に入る。足音にも気をつけながら近づいていくと、予想通り榎本は解錠作業中だったので、
後ろからそっと榎本の目を手を隠して、だーれだ?をした。
そして「こんにちは榎本さん。いきなりで驚きました?」と言うと、榎本は「はい」と頷いたものの、
続けて「いきなり目隠しをされたことは驚きましたが、お菓子の甘い匂いがしてきたので、いらしたのが青砥さんであることにはドアが開いた瞬間に気づいていました」
と言ったのだ。その反応が、純子はご不満だったらしい。
「『驚いた』と口では言ってましたが、実際は声一つ出さなかったし、肩がビクッとかもなりませんでしたよね。もう、どうやったら榎本さんをあっと言わせられるんでしょうねー」
「……僕が驚かないことが、なぜそんなに不満なのでしょうか?」
「だって、私ばっかりが榎本さんに驚かされて、不公平じゃないですか」
これが理論を武器に日々戦っているはずの弁護士が言う台詞か、と榎本は少し呆れたが、大人しく黙って純子が言葉を続けるのを待つ。
「と、いうわけで。これからは私が榎本さんを驚かせます。もう今後は、絶対に榎本さんには驚かされませんからね」
「はぁ。それは面白いですね」
「ふふん。私が驚きそうなことを何でも言っていいですよ。私は驚きませんから」
不敵に笑いながら挑発的な目で自分を見てくる純子に、榎本は無意識に右手を耳の横で回し始めた。
回しながら、さぁどうぞ!と無言で訴えてくる純子を見ているうちに、ふと、自分の気持ちを言ったら彼女はどう反応するのだろうか、と疑問が頭に浮かんできた。
そして榎本は、そんな疑問が浮かんできたことに心中驚く。常ならば決して自分の気持ちを言ってみようなど微塵も思わないのだ。
それなのに何故そんなことを思ったのだろうか。少し考えるとすぐに理由が分かった。
今ならば純子に拒絶されても『純子を驚かせるための冗談』として言い訳することが出来るからだ。失敗した時の逃げ道が用意されている、そのことを無意識のうちに察していたのだ。
そして、逃げ道があると意識した途端、榎本は気持ちを伝える決心がついていた。
逃げ道が無ければ自分の気持ちを伝えられない己の女々しさに情けなさを感じつつも、その逃げ道に縋りながら気持ちを伝えようとしている自分の図々しさに、
榎本は苦笑せずにはいられなかった。

「……では。青砥さん」
「何ですか?」
わくわく、という言葉が似合う程に純子は身を乗り出して榎本の言葉を今か今かと待っている。榎本は小さく深呼吸をして目を瞑った。
「好きです」
「え?」
純子の言葉に目を開く。純子はまさにハトが豆鉄砲を喰らったかのような驚いた顔をして自分のことをポカンと見ていた。榎本は詰めていた息を吐き出し、本気なのだが冗談とも取れる口調で、驚いている純子にも分かるように、もう一度ゆっくりと口を開いた。
「ですから、青砥さんのことが好きです。今すぐここで押し倒してしまいたいほどに」
156事実と真実 4:2012/07/05(木) 03:44:00.34 ID:+zaD2nRI

「………………本気、なんですか?」
「はい」
さぁ、ここでなじられたり笑われたりしたら、すぐに冗談だと言ってしまおう。そう構えていると、純子が一歩近づいてきた。目は真剣そのものだ。
「本当の本当に本気なんですか?」
「……驚かないんですか?」
予想外の反応に榎本が困惑していると、純子は少し首を傾げてから、小さなため息をついた。
「榎本さん、ちょっと目を瞑っていただけませんか?」
「なぜそのようなことを?」
「いいから。すぐに済みますから、お願いします」
一体なにがなんだか分からないまま、榎本は大人しく純子の言う通りに目を瞑った。少しして、カツンと純子のヒールがなる音がする。
風を頬に感じた次の瞬間、唇にやわらかいものが押し当てられた。
「青砥さん!?」
榎本が驚いて目を開くと、純子がにこにこしながら顔を離しているところだった。
「驚きました?」
「さっきのは一体何なんですか!?」
嬉しそうに尋ねてくる純子に、榎本が多少語気を強めて言うと、純子は眉をしかめた。


「……だって、榎本さんが私を好きって言ったんじゃないですか」
「た、たしかに僕はそう言いましたが…」
榎本が珍しく言い淀んでいると、純子は困ったような顔になり、そしてオロオロと周りを見回し始めた。
「え、あれは冗談だったんですか? でも私はちゃんと事前に榎本さんに本気ですか?と聞きましたよね。
何回も確認しました。榎本さんは本気だっておっしゃったし」
自分は悪くない、悪いのはそっちの方だ、と言わんばかりの目でこちらを見つめてくる。榎本は驚くというよりも混乱してしまった。
そもそも、榎本の予想の中には「純子が自分を好きである」という項目は存在せず、
良くて「これまで通りの関係でいられる」悪くて「さようなら」の二項目以外はなかったのだ。
純子は一体どういうつもりなのだろうか。自分に都合よく解釈すれば純子も自分のことを好きだということになる。
しかし今までの純子にそれらしい様子は見られず、そして今自分に向けられている顔もいつもと同じで、甘いものなど感じられない。
考えても分からなかったので、榎本は考えること自体を放棄した。
純子が自分のことを好きでも嫌いでも、どういうつもりでこんなことをしたのか、そんなことはどうでもいい。
純子は自分を拒絶しない。そして純子からキスをした。真実はさておき事実はとりあえずそれだけでいい。そう思った。
そして榎本は、じっと睨んでくる純子に問いかけた。
「青砥さんが嫌でなければ、もう一度していただけませんか」
ふざけて言ったのに、純子は笑いながら「いいですよ」と答えた。
純子が嫌がるそぶりを見せたらすぐに止めようと思いながら、先ほどのキスとは違い、純子の口内に己の舌を入れて絡める濃厚なキスを仕掛けたが、純子は嫌がらなかった。
嫌がらないのをいいことに榎本は彼女を押し倒し、身体をまさぐったが、やはり純子は嫌がらず、にこにこと笑っていた。

そうしてそのまま、榎本は純子を、抱いた。
157事実と真実 5:2012/07/05(木) 03:45:39.19 ID:+zaD2nRI
それから、純子とは友人なのか仲間なのか恋人なのか、どれともハッキリつけられない関係を続けてきた。酒を飲み、ふざけ合い、最後には寝る。その繰り返しだった。
純子は一度も榎本に好きだとかそういった類のことを言ったことはなく、榎本は彼女が自分をどう思っているのかが分からなかった。
何度か純子にどういうつもりなのか聞こうとしたことがあったが、純子の真実を知るのが怖くて、
純子の口から「何となく」とかそんなのどうでもいいと言わんばかりの意味合いの言葉を聞くのが嫌で、純子が自分に抱かれる、という事実にのみ縋ってきたのだ。
だが、情後にうつぶせで寝ている純子の肩を撫でていると虚しさがわき上がってきた。汗はひき、さらりとした純子の肩の感触は榎本の手によく馴染んでいて、
純子の身体は自分のものであるのに、心は自分のものとは限らない。そのことが、ひどく虚しい。
榎本は撫でていた手を止め、静かに寝息を立てている純子の横顔を眺める。すると、見られていることに気づいたのか純子が目を開け、
こちらに顔を向けて「どうしたんですか?」と声をかけてきた。黙っていると目でうながされ、榎本は今まで聞きたくても聞けなかった疑問を自然に純子に投げかけていた。
「青砥さんは、どうして僕に抱かれるのですか」
「……はい?」
純子は眉をしかめて、大仰に聞き返してきた。
「ずっと不思議でした。どうして貴女は僕に抱かれるのを拒まないんだろうかと」
「榎本さん、何を言ってるんですか? 好きだからに決まってるじゃないですか」
大げさにため息をついて、純子はあからさまに呆れた口調で続ける。
「私は好きでない人とキスをしたり身体を重ねたりできるような、そんな器用な女じゃないですよ」
分かりきったことを聞かないで下さいよ、失礼ですね、と純子は鼻を鳴らした。

「そうですか…青砥さんは僕のことが好きだったのですね」
真実と事実が同じであったことに喜ぶよりも、呆然として榎本が呟くと、純子はさっきまで頭に敷いていた枕を手に取り投げつけた。
「青砥さん、痛いです。いきなり何するんですか」
「罰ですよ、罰。そんなことを聞くなら、じゃあ何で榎本さんは私を抱いていたんですか?」
純子の質問に「好きだからです」と即答すると、当たり前ですとうなづかれた。
「……1人で考えてないで、さっさと聞いて下されば良かったのに」
怖かったんですよ、という小さな呟きは届かなかったのか、純子は聞き返してきた。だが、そんな自分が怖がっていたことなど純子に知られたくなくて黙っていると、
純子は枕を再び手に取り、榎本の顔を狙って投げてきた。
「なんでもありません。青砥さん、人の話を聞いて下さい。枕を投げないでください」

その声に純子は手を止め、その代わりに榎本の目をじっと見つめてきた。言うまで逃すつもりはない、と言わんばかりの強い視線に、榎本は小さく息を吐き、渋々口を開いた。
もちろん自分が怖がっていたことを言うつもりはなく、別のことを口にする。
「すみません。青砥さんは一度も僕のことを好きと言って下さらなかったので」
「榎本さんだって、最初の1回以来言ってませんよ」
拗ねるような榎本の口調がおかしかったのか、純子はにこにこしながら身体を起こして、榎本の前に正座した。
「言わないから分からなかったんですか? しかも、分からないままずっと不安になっていたんですか? 言ってほしければ『言ってくれ』と言えばいいのに」
「……すみません。何せ、鍵と防犯と密室にしか興味を抱いてこなかったものですから」


「もう謝らなくていいですよ。こんなに身体を重ね合ってから、ようやくお互いの意思が疎通されたなんて、何だかおかしな話ですね」
完全に拗ねた口調の榎本に、純子はクスクスと笑いだした。そんな純子を見て榎本はまた一つ小さなため息をつく。
これまでの間、自分が悩んできたのはまったく無意味だった。何てことはない、蓋を開けてみれば事実と真実は同じだったのだ。
榎本はもう一度小さくため息をつくと、まだ笑っている純子を引き寄せ、キスをした。それは初めて純子にされたような触れるだけのもので、すぐに顔を離した。
「榎本さん、大好きです」
目を開いてすぐにニコニコと笑いながら言われたその告白は、榎本がようやく得た真実であり、望んでいた事実であった。

<終>
158名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 03:54:26.45 ID:onxextju
お二方、GJ!
159名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 07:02:58.77 ID:BmAjTXBe
2作ともよかったです。GJ!
160名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 07:32:33.41 ID:DleOTgHV
>>150
監禁生活…!(*´Д`)ハァハァ
エロブラックなえのもっちゃんに禿萌え〜
GJです!続きが楽しみです

>>157
甘酸っぱい二人のやり取りに2828が止まらん
素敵でした!キュン死にしてしまった
GJ!

お二方とも素晴らしいクオリティですね
ご馳走様です
161名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 07:48:56.06 ID:IXQfLx9z
>ぼくのもの(前編)
期待を上回るGJ加減に鼻血が出てます。
5レス分あるからとのんびり読んでたらあっという間に読み終わってしまった。
もっとこの榎本を頂戴!と咽喉から手がぐんぐん伸びてる今です。
私も正座してお行儀良く待ってます!

>事実と真実
もう1の段階で胸きゅんが・・・。
真意が良く分からないまま突き進むって大人の関係の中では結構ありそうですよね。
ほのぼのだけど甘くてほんのりビターで…美味しくいただきました♪
意外に恋愛にドライな青砥さん、も面白いですね。
この後きっと榎本さんはそんな青砥さんに振り回されちゃったりするんでしょうね(笑)
162名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 13:46:41.37 ID:uCj8dnYW
>>150
意外に監禁に対して受け入れがちな青砥wやっぱ相手が榎本だから!?
続きが楽しみでしょうがない!!!一体何をやっちゃってくれるんだろうw
よろしくお願いします!

>>153
か・・かわいすぎる!純子も可愛いが榎本も可愛いったらない!
一線を超えてもナァナァになってない2人ってのが大好物w
榎本告白後の二度目のキスのシチュが最高です。
榎本のあのキャラでDキスてのがまたギャップあっていいんだよな〜。

お二方ともまた投下待ってます。
某サイトも覗いてるけど、ここに投下された作品を読むドキドキ感はほんと格別。
質が高すぎる!
163名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 18:21:26.61 ID:Sr4gd1RT
書き手の皆様GJでした。皆さん独創的ですごいですね。
クオリティ高すぎて自分のようなワンパターンが気はずかしいですが
短いの書きましたので投下さしていただきます。
神作品の再登場までの前座って感じで読んでいただければうれしいです。

7話の長野が舞台です。ドラマ榎本・青砥です。
164計画1:2012/07/05(木) 18:31:43.66 ID:Sr4gd1RT
怖い怖い怖い・・・寝られる訳ない。どうしよう、怖い、怖い!
純子は背筋が凍りついたような恐怖のど真ん中にいた。あれが見えたのだ。狐火が。

*****

旅行中の榎本が長野に居るのをこれ幸いに密室事件の解決を依頼したは良いが、まさかクライアントの家に
泊まることになるとは想定外だった。依頼主の遠藤夫妻は世話好きらしく至れり尽くせり食事や風呂の
世話まで焼き、遠藤婦人は「若いお嬢さんにご不便おかけして」と着替えやなにやら万端整えてくれた。
しかし榎本と自分の仲をどう解釈したのか、ご丁寧に襖一枚隔てたあちらとこちらに布団を敷いてくれる
気の遣いようである。
こんな状況になっても榎本はいつもと変わらない。さっさと風呂に入り「おやすみなさい」を言うでもなく
寝てしまったようだ。
 純子の洗い髪を乾かすドライヤーの音がうるさかったのか、襖の向こうから静かな音楽が聴こえていたが
それもじきに聴こえなくなっていた。
 「榎本さん、寝たんですか?」何やら心細くなって声をかけるが返答はない。
風が強いらしく廊下側の窓が時々ガタガタと音をたてるのにビクビクしながらも純子は眠りについた。

*****

「あ、私寝ていたんだ・・・」布団に入ってどの位時間が経っただろう。漆黒の闇に思えた日本家屋の一室に
朧月の弱い明かりが差し込んでいる。「お月様、綺麗」そう思い廊下の方に目をやったのがいけなかった。
夕方西野家で見たものと同じ青い火の玉が見えた・・・。

怖い怖い怖い・・・寝られる訳ない。どうしよう、怖い怖い!
恐怖心が恥じらいを軽く上回った瞬間、純子は襖を開け榎本の寝ている布団に突進していった。

*****

「榎本さん!榎本さん!お、起きてください!榎本さん!」
「・・・どうかしましたか?」
「どうしたもこうしたもありません!き、き狐火が・・・。狐火が、あそこに!」
榎本は純子の慌てっぷりを見て半ば呆れつつも狐火が出たという方を見てみる。が、そこにはなにも無い。
「僕には何も見えませんが」そう言う榎本の後ろに周り肩を掴んでいる純子の手が震えている。
「青砥さん、夕方、西野さんのお宅で見た狐火があんまり怖かったから夢をみたんじゃないですか?」
「いいえ、夢じゃありません、本当に狐火だったんです。」
榎本は自分の肩を掴む純子の手に更に力がこもってきたのを感じたのと同時に背中に純子の胸の膨らみ
が背中に当たるのを感じた。風呂に入ったんだ・・・石鹸の香りがする白い手首。噛んでしまおうか。
165計画1:2012/07/05(木) 18:40:40.36 ID:Sr4gd1RT
大変申し訳ありません。計画2と3があるのですがなぜかコピペが出来なくなりました。
何度やっても計画1がコピーされてしまいます。
引き続きやってみますが書かれる方いらっしゃいましたらどうぞお先に。
なんでかな・・・。
166名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 18:48:19.57 ID:IXQfLx9z
>>165
選択して右クリックでコピーしてみたらいかがでしょう?
Ctrl+Cができなくてもマウスは利くときありますよ。
167計画2:2012/07/05(木) 19:01:09.39 ID:Sr4gd1RT
「青砥さん、今のこの状況で貴女が本当に怖がらなくてはいけないのは何でしょうか?狐火ではない
ことくらいは分かりますよね?」肩越しに手首を掴まれる。
「え・・・」
「風呂上りの浴衣1枚纏っただけの女性が男の布団の上にいる。これが男にとってどんな意味を持つか
貴女はわからないんですか?」
「・・・・・」
「分からないのですかと聞いています」
「あ、いえ・・・私、わたし、今、たった今分かりました・・・。私、私、ごめんなさい。軽率でした。」
「『ごめんなさい、軽率でした』それで僕がハイ分かりましたとでも言うと思いますか?貴女は男というものを
ご存じないらしい。僕が鍵や錠前だけに四六時中頭を巡らせているとでも思っていましたか?」
「いいえ、そんな風には思っていません。ただ、榎本さんはいつもどんな時も紳士だから・・・」
「紳士?いつもどんな時も・・・。そうですか。お褒めに預かり光栄ですね。しかし、本当の紳士なら深夜にわざわざ
男の寝床に入ってくる女性を手ぶらで帰しはしないはずです」ふっと笑みが漏れる。

榎本はそう言うと純子を布団に押し倒しするすると浴衣の帯を解き純子の上に覆いかぶさった。
「ああっ!」思わず叫んだ純子の口元は榎本の掌に覆われた。
「このような事態に陥った時、大きな声を上げないのが淑女というものです」
力任せに浴衣の前身頃を開くと小さな胸のふくらみが現れ、榎本は小さな果実のような乳首を口に含んだ。
ハンカチのような桜色の下着の奥に榎本の指が届くと純子の体から感念したように力が抜けてゆく。
榎本の指は鍵穴をピッキングする時と同じようにソロソロと純子の秘部を愛撫する。優しく薄い2枚の花びらを
開きその中心に指を差し込むと、純子の口から思わずため息が漏れ始めた。
「ゆる・・・して」
「許しませんよ、気を失うまで我慢なさい」
浅く指を動かしているうちに次第に純子の秘部はしっとりと潤い始め榎本の指を濡らしてゆく。
下着を素早く脱がせるとゆっくりと純子の両膝を開く。榎本の舌と唇に吸い取られた蜜がその動きに合わせて
奥から滲み出す。
「女性の身体はこんなに正直なものです。貴女が僕を嫌いでも貴女の身体は僕を受け入れようとしているんです」
「ち・・・がい・・ます」
純子を背後から抱きしめ片脚を前に持ち上げ榎本は己の昂まりを純子の秘部に埋め込んだ。
「いやぁ・・・いやぁぁあ・・・」
ゆっくりと律動が始まると榎本の荒い息が純子の耳元で木霊する。
「え・・・のもと・・・さんえの・・・も・・・とさん」
「何ですか、僕ですよ・・・僕を全部・・・受け入れてくださいね」
次第に律動が激しくなり、とうとう純子の秘部が榎本の昂まりを総てその根元まで受け入れた。
乳房を揉みしだいていた榎本の両手が純子の腰を掴み力を入れて引き寄せると繋ぎ目が更に密着の度を深めた。
首筋に激しく口づけをすると純子の体が密やかに震え始め、榎本はその震えに合わせるように
純子の柔らかな襞の奥に放出した。

168名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 19:02:14.55 ID:Sr4gd1RT
>>166
ありがとうございます。いつもその方法でやっていますがなんか変でした。
3は短いです。
169計画3:2012/07/05(木) 19:13:24.85 ID:Sr4gd1RT
なんて綺麗な顔立ちなんだろう。寝入った榎本を純子はじっと見つめる。
やっぱりこの人は私の気持ちに気づいていなかった。毎日用もないのに地下倉庫に通い
うたた寝をするふりまでしてあげたのに、手を出すこともなかった。
私は美しい男が好き。賢くて狼のような。そんな人には初めて会ったの。だから決して放したくなかった。
だから考えたの。じっくりと。
旅先・狐火・二人きり・石鹸の匂い、それに今朝の基礎体温は受胎日を示していたから。
私でも知っているんですよ榎本さん。男の人の怒りが憎からず思っている女性の前では簡単にセックスに変換されること。
これでも知恵を絞ってみました。

あなたは3週間後、一体どんな顔をするかしら。

純子は静かに微笑んだ。


おわり。
170名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 19:15:27.32 ID:Sr4gd1RT
3はコピペ出来なくて書き込みました。
時間とってごめんなさい。汗汗(~_~;)
171名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 19:33:13.54 ID:IRG55oaM
みなさん投下GJ

>>162は一生ROMってろ
172名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 19:54:20.58 ID:onxextju
>>170
ドンマイ
妊娠狙う榎本がとても良かったよ、GJ!
173名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 19:55:40.00 ID:IXQfLx9z
>>171
え?なんで?
>>162って変なこと書いてた?
174名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:06:12.82 ID:62ju4Vkl
いやぁ、変態真っ黒榎本、素晴らしい。
考えてみれば榎本にはまさしく!な盗聴、監禁物ってこのスレで初?
全裸で正座待機。変態は正義だな。
175名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:06:15.43 ID:DleOTgHV
>>170
うはー、乙でした!
今度はブラック純子ですなw
最初は純情な純子カワユスと思ってたら、見事にやられたw

ここ数日投下の頻度が多くてうれしい!!
職人さま、ありがとうございます。
でも、無理せず、ご自分のペースで構いませんから、しんどかったら休んでくださいね〜
176名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:14:55.90 ID:kvW4jCQy
ここでわざわざヨソの事書く必要はないだろって話。
一部特殊なとこは除いて、2やPINKは外部サイトには
触れない暗黙の了解があるからなー。慣れない内は下手に
書き込まず、ROMって空気読めるようになれって事さ。
177名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:15:32.66 ID:IRG55oaM
>>173

>某サイトも覗いてるけど、ここに投下された作品を読むドキドキ感はほんと格別。
>質が高すぎる!

某サイトに誘導するなとか色々あったのにわざわざ話題に出しながらつつ
某サイトに投稿してる人とここの職人さんを比べて貶めてる
こっちの職人さんにもその某サイトやらの投稿者にも失礼すぎるだろ
178名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:22:05.69 ID:kvW4jCQy
>>176>>173宛ね
179名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 20:42:56.58 ID:uCj8dnYW
>>176>>177
あ、そっかごめんね。投下が嬉しくてはしゃぎすぎちゃったかなと思った。
前に話題に出てたから書き手さん戻ってきてくれて嬉しいって意味で書いたんだけど
軽率な発言でしたごめんなさい。乏してるつもりは一切無いです。
しばらく大人しくROMります。すみませんでした。
180名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 21:15:17.03 ID:OHd1pOUg

>>150GJです!!
監禁榎本ヤバイ、エロいです!後編待ってます!!

他の書き手さん達もGJです!
色んな榎青が楽しめてここは最高のスレだ
181名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 21:27:37.87 ID:Q2YCYpbI
皆さん本当にGJ !
毎晩寝る前にここの作品を読んで萌えながら寝るのが至福です。
書き手さんリクエストにも迅速に答えて下さってありがとうございます!
182名無しさん@ピンキー:2012/07/05(木) 23:37:34.96 ID:IXQfLx9z
>>176->>178
ああなるほど。説明ありがとうございます。
3回くらい読み直したのにその部分は目が滑って読んでなかった。
こんな適当な読み方じゃー自分もROM修行必要ですね。
183月光 1:2012/07/06(金) 00:40:38.34 ID:B07jaqV0
「事実と真実」を書いた者です。
たくさんの嬉しい感想をありがとうございました。

少し前に投稿された原作榎青に触発され、自分も書いてみました。
一応エロだけど、そこまでのがっつりエロではないかも。

ドラマ派の方には、榎本も青砥も違和感ありまくりな雰囲気だと思うので、
苦手な方は「月光」でタイトルよけして下さい。
******************************************

ちょうどいい空調にされた部屋の中、純子は閉じていた目をゆっくり開けた。
あまり眠れないまま疲れた身体を起こして隣りを見ると、丸まった姿で眠る姿があり、普段の生活では聞くことがない他人の寝息の音が変に気にかかる。
隣りを起こさないようにこっそりとベッドを抜け出した純子は、乱れ気味の髪を掻きあげて寝室を後にする。
迷った末に純子は主に黙って借りたシャワーを済ませ、リビングに足を運んだ。べたつく様な汗を流し、さっぱりしたもののベッドに戻る気にもなれず、
純子は冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターに口をつける。乾いた喉に滑り落ちる感覚が、何とも言えず、気持ち良い。

カーテンの隙間から漏れてくる月光に目をやる。少し冷たい部屋は、温まった身体に心地よくて、近くのソファに座る。
自分は一体何をしに来たのだろうかと少し自己嫌悪に陥りながら、
倦怠感の残るだるい身体は簡単にソファに沈み込み、疲れのたまっていた純子はぼんやりとしている間もなくうとうとし始めた。

「純子さん」
気配も感じずに不意に声をかけられ、驚きを隠せずに身体をびくつかせた純子は、振り返ろうとしたけれども、背後から抱きつかれた手に阻まれて思うように動けなかった。
「榎本さん?」
そのまま何も言わずに後ろから抱きつくだけで、動きを止めた榎本に不信を抱き、純子は声をかける。
顔を見ることも出来ない体勢だが、不機嫌なオーラだけが後ろから伝わってくる。
「起きたら隣りに純子さんはいなくて、ベットが冷たくなっていました」
「シャワーを借りに行ってたのよ」
「えぇ。髪がまだ濡れています。ちゃんと乾かさないと風邪をひきますよ。ただでさえここは寒いんですから」
微かに湿気を残す髪を見て榎本は、近くに置かれていたタオルを、逃げようとする純子の頭にのせてかき回した。
長い指が髪に触れられるのが気持ちよくて、そのまま身を任せそうになって思いとどまる。
「榎本さん、放してってば」
純子は榎本から逃れようとしたが、失敗に終わる。
嫌がる純子の髪の湿気を取って多少はご機嫌になった榎本は、抱きしめる腕を弱めるどころか逆に強くして、純子の髪の中に顔をうずめる。
「止めてって言ってるでしょう」
「どうして。変な気分にでもなってしまいますか?」
184月光 2:2012/07/06(金) 00:41:31.57 ID:B07jaqV0
純子はその言葉に答えず、自分の顔を覗き込んで薄く笑う榎本からもう一度逃れようと、自由に動く足をバタバタさせて抵抗の意志を見せた。
しかし榎本はそれを全く気にせずに純子の髪に口づける。
「いい匂いですね」
自分の肩に顎を乗せて言った榎本に対して、純子は冷めた視線を送る。
「あなたのシャンプーを借りたんだから、あなたと同じ匂いでしょうが。そんなに言うなら、自分の髪でも嗅いでいたら?」
身をよじって言った純子に、榎本は目を開けてじろっと見つめ返す。
「純子さんの匂いだからいいに決まってるんですよ。分かってないですね」
「……そんなこと、分かりたくもないわ」
純子がため息と共に出した言葉は、もはや諦めにも近い。すると突然、髪をくいっと引っ張って榎本は純子を自分の方へと向かせた。
「ったぁ…急に何をす……っ」
続きを言わせずに、榎本は口づける。間近に顔を寄せられ、唇が離れた後も純子は言葉をつまらせる。
キスを浅く深く繰り返される内に、熱が冷めきっていない純子の身体に再び熱が送り込まれ、寄せられた身体に鼓動が一つ跳ね上がった。
背もたれ越しにソファに純子を抑え込んだ榎本が、その上に圧し掛かる体勢になる。見つめ上げるその感覚がさっきまでの感覚とリンクして、純子は頬を朱に染めた。
抵抗する言葉が、キスにのみ込まれていく。
ボタンを外され、はだけた胸元のシャツの布を握りしめて睨みつける瞳が、相手を煽り立たせる効果を持つ。
けれども本人はそんなことには気づかず、榎本を見据えたまま、必死に理性を保とうとしているのが一目でわかる。
「このままだと、風邪をひきそう」
だから止めてほしい、と願う言い訳じみた視線は、榎本の笑みに一蹴され、かき消される。
「せっかくシャワーを浴びたのに…」
「じゃあ、次は一緒に入りますか?」
ふいっと横を向き、絶対に嫌と答えた瞬間に、榎本の唇が頬に寄せられる。
そのままゆっくりと頭が下がっていく。もう、抵抗を見せることが出来ない。
一度陥落しきった身体は普段以上に誘惑に弱くなっていて、純子は簡単に榎本の唇に手に雰囲気に籠絡される。
諦めたといっても、どうしても悔しい気持ちはやっぱりあって、仕返しとばかりに引き寄せた榎本の首筋に純子は濃厚なキスマークをつけ返す。
「積極的ですね」
驚いた表情を一瞬見せた榎本がそう言って、くすりと笑う。その肩を叩いて照れ隠しに反撃するが、それすらもこれからの行為の一部となる。
素肌を擦られる手の感触が、たまらなく熱を誘う。そして狭いソファの上で、いつもと違う肌触りが、余計に純子の感情を高ぶらせて榎本のされるがままの状態になる。
「ん…っ」
投げ出していた足を榎本の手に取られて、その内側に唇を落とされる。そしてその狭い間に指を伸ばされ、純子は身体を揺らした。
回数を重ねても、指が侵入するという違和感はどうしても消えない。後に起こる自我を忘れるような感情があると分かっていても、恐れだけは未だ拭い去ることが出来ない。
榎本を自分の上から退かせようと必死になってもう一度あがく。
「目を閉じて下さい」
自分をじっと見つめる純子の目を榎本は冷静に見つめ返して、キスを送る。
名前を呼ばれ、舌が伸ばされてきて、純子は自然に口を微かに開かせた。熱が溶けあうようなキスは身体を痺れさせ、翻弄させる。
けれどもさっきまでのベッドとは違うスプリングの感覚が、ここは別の場所だと純子に思い起こさせる。両手をつっぱねた純子は、榎本を自分の方から引き離す。
「榎本さん、嫌だってば」
「何がですか?」
まだ余裕の顔つきでそう問いかける榎本に、一人だけ煽られて潤んだ純子の瞳がにらみ返す。
「ここじゃ嫌」
「止めてあげません。たまにはこういう所も楽しいと思いますよ。今から寝室のシーツを換えるのも面倒ですし」

漏れてくる月の明りに照らされて見える肌は、普段とは違う色合いを見せる。
185ぼくのもの(後編) 1/7:2012/07/06(金) 00:41:37.98 ID:YrsiSMsx
コメントくださった皆様、ありがとうございます。

>>146-150

の続きです。
前作に続きブラック榎本です。こういった榎本は見たくない! という方はご注意ください。
エロシーンは割とあっさりめになってしまいました……ワンパターンで申し訳ありません。

××××××××

 幼い頃から明晰な頭脳を持っていた榎本にとって、「理解できないこと」が珍しかった。
 思えば、開錠作業に興味を持ったのもそういった性癖が影響を与えたのだろうと思う。
 榎本は、純粋に開錠することが好きなのであり、その錠の内部構造にはあまり興味がなかった――もちろん、職務上、必要に駆られて知識は豊富に得て来たが。内部構造を知ってからの開錠作業は、あまりにも簡単すぎてつまらない。
 誰も知らないその錠の構造を、手探りで解明し、解きほぐす――理解できないものを理解することは、榎本にとって至上の幸福であり、最高の娯楽だった。
 その意味では、他人というのは、榎本にとって十分に興味深い対象の一つだった。
 自分に理解できることが理解できない、自分にとっては何の意味も無いことに深い意味を見出す――考え方や価値観の違う人間は、榎本にとって常に興味の対象であり、できることなら理解を深めていきたい、と。昔は、そう思っていた。
 けれど、榎本にとってはそうでも、他人にとって、榎本は決してそのような対象になりえないこともまた、随分早くから理解していた。
 人は、あまり他人の内面、奥深くには立ち入りたがらない。ひとたび関わりあいになった瞬間、あまりにも鋭くその全てをえぐり取り――同時に、自身の全てをさらけ出そうとする榎本は、人にとって「恐怖」の対象でしかない。
 そんな榎本に近づこうとする人間は、あまりいない――無口、無愛想、オタク、根暗――多種多様な表現で持って、榎本を異物と判断し、遠巻きに眺めるばかりで。
 職務等で関わらざるを得ないときは、己の不運を嘆きながら、当たり障りのない言葉で持って手短に用件を済ませ、足早に去っていく。
 かつては、それを悲しいと感じたこともあったが。どんな苦しみも、人は、いずれは慣れてしまう。榎本は、早々に「他人とはそういうもの」と諦め、いつしか、人とコミュニケーションを取ることを避けるようになっていた。

 彼女に会うまでは。「わかりませんか」という問いに「わかりません」と素直に答え――こんな自分をまっすぐに見つめ、頼り、積極的に関わろうとする女性。青砥純子に会うまでは。

 榎本に、キスされた。
 それはある意味、どんな密室殺人よりも難解で、理解に苦しむ出来事だった。
 いや、いや、頭ではわかっているのだ。こうして目の前に榎本が立っていて、意識を失う寸前、部屋の中に榎本しかいなかった以上。今、自分をこうして拘束しているのは榎本以外にはいないのだと、頭ではわかっている。
 それでも、理性が、感情が、それを認めたがらない。
「榎本さん……」
 かしゃん、という音と共に、榎本の眼鏡が、傍らの机に置かれた。
 いつか、イヤホンを取ろうとしたときにも見た素顔。寝顔を見たときにも思ったが、こうして起きているときの素顔を見ると、とても30を超えているようには思えない童顔で、あどけなさすら残っている。
 人畜無害な少年……そんな印象の残る顔立ちに、鉄壁の無表情は妙にアンバランスで。ぞくり、という寒気が走るのがわかった。
 先ほど、一瞬だけ見せた笑顔……いや、あれを笑顔、と称してもいいのか? 悪魔的な笑みを思い出す。
 榎本は、一体何をするつもりなのか?
 その答えは数秒後に訪れた。
「きゃあっ!?」
 伸ばされた指が、純子の顎を撫でて。そのまま、ブラウスにかけられた。
 ボタンが外されていく。涼しい空気が入り込んできて、純子は、たまらず絶叫した。
「ちょっと、榎本さん!? な、何、するんですか……」
「服を脱がせています」
「ちょっ……や、やめて……」
186月光 3:2012/07/06(金) 00:42:04.70 ID:B07jaqV0
全てを知られた身体は榎本には従順で、思うがままに反応を素直に示す純子に満足して、榎本は純子の胸や背中に口づけ跡をいくつも散らばせる。
「あ…っ」
そのうち小さく上がった声は、いつもの声音とは全く違って高く掠れる。それを今さら隠すことも誤魔化すことも出来ずに、純子は口元をおさえた。
「さっきまで散々そんな声ばかりあげていたのに、今さらですよ」
そう言われて振り返って見た目の端に映る榎本は笑っていて、けれども普段の表情とは微妙に違い、確実に熱をはらんでいた。もう何も答えられずに身を任せる。
散々指に慣らされた後、体勢を変えられぐっと進められた榎本の身体から無意識に逃れようと純子は身動きをした。
しかしそれを許さずに榎本は純子の肩を無理に押さえつける格好となった。
滲んだ涙がまつ毛を濡らす。
ゆっくりと寄せて返す波のような律動が、純子の身体の強ばりを溶かしていく。
しかし少し前に感じた快感とは違った緩やかな仕草は、今の純子には全く物足りなくて、ただ焦らされているとしか感じられず、
我慢できなくなって自由になる首を左右に振って嫌がる態度を見せる。
抱えられた足ごとおさえこまれて苦しい姿勢で頬に手を寄せられる。
「もう…嫌だってば」
「止めてほしいということですか?」
耳に顔を寄せられてそう問われた純子は、今となってはもう頷けるはずもない。榎本は動くことを止めて純子の答えを待っている。
答えない限り自分の望むことをしてくれないと悟っている純子は、羞恥を感じつつもその言葉を口にする。
小さく呟いたせがむ言葉に、榎本は笑ってキスで返事をする。
「お望みのままに」
動く度にソファがきしむ音がだんだんと激しくなっていく。
そして助けを求めるように空を掻く純子の腕に肩を貸した榎本は、喰い込んでくる指の強さに眉根を歪めたものの、それを止めさせることなく純子の上げる声を全て奪う。
熱は冷めることも引くこともありえない。ただ熱い時間だけが心に残る。鼓動が激しく胸を打って心を奮い立たせていく。熱に支配されて無意識に触れて世界が変わっていく。

そして窓からは月光。それだけが二人を照らしていた。

<終>
187名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 00:42:28.90 ID:YrsiSMsx
ぎゃあ、被った!? リロードしてなかった、すいません!!
こっちが後なので待ちます。本当にすいません!!
188名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 00:43:41.40 ID:B07jaqV0
うわぁ〜!
まさかのブラック榎本とかぶってしまうなんて…
お邪魔しちゃってごめんなさい…
189ぼくのもの(後編) 2/7:2012/07/06(金) 00:45:02.48 ID:YrsiSMsx
あ、完結されましたか……割り込み本当に本当に失礼しました!!
原作榎青、後でゆっくり読ませていただきます。
すいません、こっちの続きもとっとと投下してしまいます。

××××××××

 それが何か? とでも言わんばかりの口調に絶句する。だが、そんな純子の様子に構うことなく、ブラウスはあっという間に全開にされた。
 女性としてはいささか寂しい胸を覆っている下着。それをちらりと一瞥して。次に、パンツスーツのベルトに手をかけられた。
 今度こそ、全力で抵抗する。自由になる左手と右足を使って、何とか榎本を押しのけようとするが。小柄で華奢な体躯からは想像もつかないほど、榎本の力は強かった。
 それでも、諦めるわけにはいかない。ここまでされれば、榎本が何をしようとしているかくらいはさすがにわかる。それは最後の一線であり、それを超えてしまえば、もう戻れない――それを直感的に悟って。純子は、必死に抵抗した。
「榎本さんっ……お願い、やめてください……」
「お断りします」
「榎本さん! 駄目っ……それ以上はっ……」
 今なら、引き返せる。今なら、まだ引き返せる。全てを悪い冗談と流して、約束をすっぽかす形になった彼に仕事のトラブルがあって、とでも謝罪のメールを打って。全てなかったことにして、明日から、またいつもの日常に戻ることができる。
「駄目っ……」
 よどみのない手つきでベルトを外され、そのまま、パンツスーツをひきおろされた。
 手錠で半端に拘束されているため、完全に脱がせることはできない。けれど、目的を遂行するには、十分だろう。
 自分がどれほどあられもない姿をさらしているか、を自覚して、絶望的な気分になる。痛みに目をやれば、暴れたせいか、手錠の下で、手首が傷だらけになっているのが見えた。
 ああ……榎本さんは、本気なんだな……
 今更、そんなことを思い知った。日頃の榎本なら、手錠など使えば当然こうなることは予測できていたはずだ。無口で無愛想だが、好んで人を傷つけるような人ではない。榎本は、そういう男だ。
 とてもわかりにくいけれど。とても、優しい男だ。そのはず、だったのに。
「ひっ……」
 下から差し入れられた手が、強引にブラジャーをたくしあげる。
 ぎしり、という音と共に、榎本の身体が、のしかかってきた。
 とっさに脚を閉じようとして、榎本の片膝に阻まれた。せめてもの抵抗に、目を閉じて顔を背けたが。榎本は、それに構うつもりはなかったらしい。
 降って来た唇が、ゆるゆると純子の身体を撫でた。半端にさらされた素肌に余すことなく触れて行き、その熱を、確かめていた。
 純子とて、経験がないわけではない。どれほど心で拒絶していても、男の手に触れられることで、かつて味わった官能がよみがえってくることを、止めることはできなかった。
「あっ……はあっ……」
 自然に熱い吐息が漏れた。
 レイプの加害者から、嫌になるほど聞かされた身勝手な理屈がよみがえる。女だって感じてた。犯されてる自分に酔って受け入れてた。口では嫌だと言ってたが最後には悦んで腰を振ってた。だからこれは合意の上だ――
 聞かされるたびに嫌悪感で吐きそうになったものだが。今、純子の身体は、その加害者の言い分をまさに体現しようとしていた。
 榎本に犯されようとしていながら、口では嫌だやめてと言いながら。その身体は、確かに榎本の愛撫に感じていた。
「うっ……」
 舌で、胸をついばまれた。
 指先が器用なことは知ってましたが、舌もですか。そんなの反則です……
 じくじくした感触に、ぞくり、と肌が粟立った。器用に転がされているうちに、胸の頂が固く尖っていくのが、自分でもはっきりとわかった。
 唇をかみしめる。自然と溢れて来た涙は、悲しみのせいか、悔しさのせいか。あるいは怒りのせいか、自分でもよくわからない。
「うっ……ひっく……」
「…………」
 ちらり、と、視線を向けられた。純子が泣いているのを見て、榎本はわずかに眉を寄せたが。それで行為を止める気はないらしい。
190ぼくのもの(後編) 3/7:2012/07/06(金) 00:46:09.99 ID:YrsiSMsx
 そのまま指が滑り降りて行った。ショーツに手をかけられたとき、もう一度抵抗を試みたが。それは、自分でもはっきりとわかるくらいに弱々しいものでしかなかった。
 そのままずりおろされる。膝の辺りまで引き下ろしたところで、ひやりとした感触が股間に走った。
「ひっ! やっ……やだっ……見ないで、触らないで! お願いっ……見ないでください。お願いっ……」
「……青砥さん」
「やっ!」
 ぐちゅり、という音と共に、榎本の指が沈められた。
 男性にしては、細くて長くて、おまけに綺麗だ……と感心していたあの指が、純子の内部に潜り込んでいる。
 想像しただけで赤面してしまう淫猥な図に、とても目を開けてはいられない。
「感じているんですか」
 ぐじゅ、ぐちゅ、ぐじゅ……
 指が踊るたびに、恥ずかしい水音が響いた。溢れる滴が榎本の指を汚し、太ももを伝い落ちていくのが、感覚でわかる。
「気持ちいいですか?」
「…………」
 淡々とした質問に、答えるような気力はない。
 全身が熱くほてるのがわかった。何をした、というわけでもないのに、漏れる吐息は荒い。
 脚をばたつかせて、まとわりつく下着に阻まれる。それに気づいたのか、榎本が、ショーツから右足をひきぬいてくれた。
「え、えのもと、さん……」
 潤んだ目で、榎本を見上げる。
 その服装には全く乱れはなく、表情も平静そのものだった。純子を見下ろす目に熱い欲情のようなものは見えず……もっと言えば、開錠作業に夢中になっているときと同じような、そんな顔に、見えた。
 何だろう、この表情は。
「榎本さん……」
 どうせ逃れられないのなら。どうせ避けられないのなら。
 それなら、せめて早く楽にしてほしい。これ以上、淫乱によがる姿を榎本に見られたくはない。
「榎本さんっ……」
 熱い想いをこめて、榎本を見上げる。
 そんな純子を見下ろして――
「……え?」
 唇を、塞がれた。
 それは、先ほどの深いキスとは違った。ただ触れるだけの軽いキス。けれど、先ほどの、無理やり舌を絡められた深いキスよりも、余程熱い……そんな、キス。
「榎本さん?」
 ふっ、と、視界から榎本の顔が消えた。
 何を……と思った瞬間、中心部に走った熱い刺激に、思わず絶叫した。
「やだっ……それは、それは嫌っ! 榎本さんっ……えの、もと……」
 とても、堪えることなどできなかった。
 指と、舌で。純子の昂ぶりはたやすく絶頂へと昇華した。目の前が真っ白になるような衝撃と、自然と背が弓なりになるような、激しい快感――
 堪えることができず。純子は、意識を手放した。
191ぼくのもの(後編) 4/7:2012/07/06(金) 00:47:31.46 ID:YrsiSMsx
『そうそう。すっごくいい感じの人! 素のわたしを見て、綺麗だって言ってくれたの!』
 はしゃいだ純子の声に、自然と身体が強張るのがわかった。
 今夜の電話の相手は水城らしい。お節介にも、純子に合コンを世話している女性。
 以前、殺人事件に巻き込まれた際は、彼女自身に嫌疑がかかるところを晴らしてやったというのに何ということだ。こんなことなら、あらゆる証拠をねつ造して彼女を監獄に送ってやるべきだったか。
 いや、今からでも遅くは……
 脳裏で水城の住所を知る術はあるだろうか、と考えている間も、純子の無防備な会話は続く。
 食事に誘われた、会ってみるつもりだ。本当にいい感じの人。メールも電話も楽しい……
 そんな内容に、眉間にしわがよるのがわかった。とりあえず水城は後回しだ。構っている余裕などない。
『うん、ごめんね、遅くに。じゃあ、また明日ね』
 電話が終わった後、純子はいつものように、風呂に入り持ち帰った書類に目を通し、日付が変わる頃に眠りにつく。
 イヤホンから流れる純子の寝息をBGMにしながら、榎本は、指をすりあわせながら考えていた。
 週末、彼女は男と夕食の約束をしているという。その口ぶりからすると、男は随分と彼女にご執心のようだ。
 素のままの純子を気にいってくれた――と、彼女は喜んでいたようだが。榎本にすれば何を当たり前のことを、と思う。
 そんなこと、男の人から言われたのは初めて――という言葉に、胸がえぐられるような痛みが走った。純子にとって、榎本は男の範疇には入っていないらしいということを、まざまざと見せつけられた。
 週末を迎えれば。きっと、純子はその男と、交際を始めることになるだろう。
 そうなったら、二度と榎本の元へは来てくれないかもしれない。
 純子自身は気にしなくても、男の方が嫌がって止めることは十分に考えられた。
 例え彼女が意識していなくても、世間的にみれば、榎本は立派な成人男性で。榎本一人きりしかいない空間に、自分の彼女が出入りしていたら、面白くはないだろう――ということは、対人関係の薄い榎本にも、容易に想像がついた。

 純子を失うことになる。下手したら、永遠に。

「……それは、困ります」
 その男にとって、女性は純子一人ではないだろうが。榎本にとっては彼女しかいないのだ。
 自分のことを受け入れて、榎本の世界に踏み込んできてくれて、そして笑ってくれた女性は、彼女しかいない。これまでも、きっとこれからも。
 だから。
「すいません、青砥さん」
 本当は、こんな強引なことはしたくはないのですが。
 でも、しょうがないですよね。あなたが僕から離れて行こうとするのなら。
192ぼくのもの(後編) 5/7:2012/07/06(金) 00:48:41.10 ID:YrsiSMsx
 ぴぴぴぴぴ――という微かな音と共に、純子は、目を開いた。
 身を起こす。周囲を見回す……昨夜の出来事は夢だったりしないか、という願いはあっさりと裏切られて。自分の身体は、相変わらず手錠に拘束されてベッドに横たえられていた。
 おそるおそる身体を見下ろす――乱れに乱れていたはずの服は脱がされていて、代わりに、だぶだぶのパジャマを着せられていた。
 これは、まさか榎本の――
 ふと気づく。手錠で傷だらけになっていたはずの手首、そして足首に、包帯が巻かれている。これも、榎本が――?
「……おはようございます、青砥さん」
「ひっ!?」
 すぐ真横で聞こえてきた声に、純子は思わず悲鳴を上げた。
 振り向く――同じベッドの中に、身を寄せるようにして榎本が横たわっていることに気付いて、思わず悲鳴をあげた。
「え、榎本さんっ!?」
「はい、何ですか」
「何ですか、って……」
 言いたいことは山のようにあるが、喉が強張ってうまく声にならない。
 榎本もパジャマ姿だった。服装と、眼鏡をしていないことを除けば、全くいつも通りの榎本に見える。
 純子の身体をまたぐようにしてベッドから降りる。相変わらずの無表情と、無駄にキレのいい動き。視線の動きを追うと、壁の時計が目に入った。時刻、6時半――
「あの、榎本さ……」
 バタン! という音と共に、榎本は部屋から出て行った。次に戻って来たとき、その姿はいつもの――つまりはシャツにネクタイにサマーセーターという普段の服装に変わっていた。
 出勤準備を整えていた、ということに、遅ればせながら気づいた。
「あの……」
「どうぞ、朝食です」
「いえ、どうぞって」
 がちゃがちゃと手錠を揺らして抗議すると、榎本は、ちらりと視線を動かして……
 いともあっさりと、手首の手錠を外してくれた。
「え?」
「お腹が空いたでしょう。食べてください」
「あ、ありがとうございます……」
 礼を言ってる場合じゃないだろう、と自分に突っ込んでみるが。空腹を感じているのは事実だった。
 腹が減っては戦ができぬ……と言い訳を繰り返して、トーストとサラダとハムエッグという簡単な朝食をぱくつく。
 食べ終わって一息ついたとき。榎本は、眼鏡とショルダーバッグを担いで、出て行こうとしていた。
193ぼくのもの(後編) 6/7:2012/07/06(金) 00:49:34.03 ID:YrsiSMsx
「ちょ、ちょっと待って下さい榎本さん!」
「……何か」
「何か、じゃないです! これ……どういうことですか」
「…………」
「手錠、外してください。わたしも、仕事がっ……」
「安心してください」
「え?」
「芹沢さんにはメールを入れてあります。ご実家の両親の容体が思わしくないので、しばらく休みます、と」
「はいっ!?」
「ですから、安心してください――足首の手錠の鍵は、机の上に置いてあります。手の届く範囲に置いてありますから、ゆっくり探して下さい。家の中では、自由にして下さって結構ですから」
「ちょっ……榎本さん! それって」
「では、行ってきます」
 バタンっ! という音と共にドアが閉じ――それっきり、何の物音もしなかった。
 わけがわからなかったが、とりあえず、差し迫った問題に駆られ――純子は、必死に机の上をまさぐった。
 幸いなことに、鍵はほどなく見つかった。足首の拘束を解いて、ようやくベッドから降りると、ドアに突進する。
 部屋の外は、オーソドックスなマンションの一室……といった光景が広がっていた。3DKくらいだろうか? 独身男性の一人住まいとしてはいささか贅沢な気がするが、そんなことに構っている余裕はない。
「ま、間に合った……」
 トイレにとびこんで、大きく息をつく。最悪の事態だけは何とか免れて――改めて、気を落ち着かせる。
 トイレから出た後、改めて部屋の中を歩き回った。純子が寝かされていた寝室、キッチン、リビング、トイレにバスルーム……
 異様だったのは、玄関に通じるであろうドアが、どうしても開かなかったこと。外から封鎖されているらしい。これも、榎本の仕業なのか?
 ならば、とベランダの方に向かえば。ガラス戸はいくつもの鍵で固定されていて、とても動かせそうになかった。
 窓から見える光景からすると、かなりの高層マンションのようだから、どちらにしてもベランダからの脱出は不可能だったろうが――
「と、閉じ込められた……?」
 薄々察してはいたが、認めたくはなかった。慌てて自分の荷物を探したが、脱がされたスーツがきちんと畳まれて置いてあるだけで、鞄の類は見当たらない。もちろん、携帯も。
 榎本は、芹沢にメールを打った、と言っていた。恐らく、純子の携帯は榎本が所持しているのだろう――
「どうしよう……?」
 部屋の中に固定電話はない。パソコンも見当たらない。外部と連絡する手段が、ない。
 逃げられない。
「どうしよう……」
 これから、どうなってしまうのか。榎本は、何を考えているのか?
 漠然とした不安にとらわれながら。純子は、その場にへたりこんだ。
194ぼくのもの(後編) 7/7:2012/07/06(金) 00:51:20.50 ID:YrsiSMsx
 榎本が純子に抱いている感情に、欲情、劣情と呼ばれるものは含まれていない――と思う。
 純子の生活の全てを拾い集めている限り、当然のように着替え、トイレ、風呂といった、男の下心を刺激するような音はいくつも耳にしていたが。それによって、榎本が純子に卑しい妄想を抱いたことは一度もなかった。
 他者と関わりの薄い榎本にも、相応の性欲は備わっている。経験がないわけでもなく、恐らく世間一般の男からすれば頻度は低いだろうが、自慰行為も当然のように行っている。
 だが、その行為によって、純子を汚したことは、ただの一度もなかった。
 抱きたくないのか、興味がないのか? と問われれば、それははっきりと否定する。
 榎本は純子の全てを手に入れたいと願っていたし、最終的には、そこには肉体的な繋がりも含まれる。それは男として当然のことだと思っている。
 これまで、純子をそういう対象として見ようとしなかったのは、結局のところ、純子を一方的に汚したくない――それだけ特別な対象だからだろう、と。自分の感情を、そのように理解していた。
 そして、そんな悠長なことを言っていたからこそ、他の男に横からかっさらわれそうになり、このような事態を招いたのだ、ということも。
 ここに至って、榎本は悟った。多少強引な手でも使わなければ、純子を手に入れることなど叶わないのだ、と。
 今の状況で合意を得るのは難しかろうが、純子の性格上、榎本と関係を持ってしまえば――もうそれだけで、他の男の元に行くことはできないだろう、と。半ば以上確信していた。
 抱いてしまえばいい。無理やりにでも。それだけで、榎本の目的は達せられる。
 なのに。
(……何故)
 東京総合セキュリティの地下備品倉庫にて。
 いつものように開錠作業に没頭しながら、榎本は、解けることのない疑問にさいなまされていた。
(何故、抱けなかったんだろう)
 純子を手に入れ、その身体を手に入れようとした。初めて唇を重ねた瞬間は喜びを感じ、初めてその肢体を見たときは、無表情の裏で確かに欲情と呼ばれる感情を抱いていた。
 それなのに。最後の最後で、榎本の身体は反応できなかった。
 仕方なく、指と舌で純子を満足させてみたが。榎本の心は、満たされなかった。
(……本当に、あなたは不思議な人です、青砥さん)
 がちゃ、がちゃと開錠作業に没頭しながらも。イヤホンから流れてくる純子の声は聞き逃さない。
 どうやら、今現在はマンション内の探索を諦めて、大人しくソファに座っているらしい――
(あなたと関わると、想定外のことばかり起きる)
 昼食は冷蔵庫の中に作り置いてきたが。果たして純子は気づくだろうか? 夕食は、少し豪勢なものを用意した方がいいだろう――
 定時を心待ちにしている自分に気付いて。榎本は、静かに頬を緩ませた。

〜〜終わり〜〜

×××××××××

「月光」の作者様
いえ、邪魔をしてしまったのはこちらです。あなた様が謝る必要など全くありません!
大変失礼致しました。
以後気を付けます。
195名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 01:11:43.47 ID:NpRt0lsj
凄い凄いすごーーーーーーいいいい!!!!
神が二人もいる!
「月光」の作者様はやはり映像美がお得意なんですね。
「ぼくのもの」はコレクターという映画を観ているような錯覚に陥りました。
こんな凄い文才の方が鍵部屋を愛して作品を作って下さっていることに感謝です。
はー自分はどんな頑張ってもこんなハイレベルなモノは書けません。
お二方、お疲れ様でした!
196名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 01:26:48.50 ID:B07jaqV0
>>194
「ぼくのもの」完結お疲れさまでした!
ブラック榎本の監禁生活(主にエロ)を楽しみにしていたので、
リアルタイムで投下に立ちあえて嬉しかったです。
酷いことをしたのに、実は一線を越えていない…という辺りが何ともグッときます。
この榎本×青砥だと、色々な意味で2人が「結ばれる」日がなかなか遠そうで、
妄想が拡がりますね。

>>195
さっそくの感想ありがとうございます。
自分はどちらかと言えば「事実と真実」みたいなトーンの方が書きやすいので、
「月光」に対して映像美を感じていただけたなんて、光栄です。
197名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 02:21:02.47 ID:NLhOhryp
GJ!GJ!GJ!
「月光」も「ぼくのもの」も素敵でした!
他の方も言ってたけど、「月光」は映像がありありと頭の中に浮かび上がりました。
同じ方が「事実と真実」も書いていたとは驚きです。
そして「ぼくのもの」の寸止め感がたまらん!読み手を焦らしまくっちゃって下さいなw
198名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 07:43:44.34 ID:YexaFxyb
朝か二つもら神作品を読めて、幸せ〜♪

「月光」
「事実と真実」もそうでしたが、キュンキュン度半端ない!
文章がとても美しいな〜と思います
GJでした!よかったらまたお願いします!

「ぼくのもの」
エロあっさり目とのことですが、は、鼻血が止まらん…
ブラックでも純子の周りのすべてに嫉妬するなんて榎本かわいいよ榎本
素晴らしい作品ありがとうございました!
199名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 07:50:09.36 ID:YexaFxyb
興奮して何書いてんだ…自分…orz
朝か二つもら→×
朝から二つも→○

スレ汚しスマソ…
200名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 08:55:28.24 ID:cofZWXm0
>月光
「事実と真実」みたいなほのぼのも大好きでしたが、
原作テイストの榎×青素敵すぎる!!!
互いに異性の扱いに慣れてる風の大人な2人もいいなぁ。。
直接的な表現は少ないのに、雰囲気がとてつもなくエロくて、素晴らしい文才に嫉妬です。
また新作期待してます。(がっつりエロは書かれないのでしょうか。。。)
GJ&ごちそうさまでした!
201名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 09:27:15.84 ID:i3fafohe
月光
美しかったー!

ぼくのもの
おもしかったー!続きおねがいします!
202名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 10:30:01.37 ID:ot36qB3D
>ぼくのもの
ブラックなのに肝心なところで反応しない榎本www
監禁された純子がどうやって彼を許すのかが気になります。
お忙しくなければ続編希望です!
203194:2012/07/06(金) 19:24:20.10 ID:ch5tS8Fn
続き読みたい、という声を頂きましたので、監禁生活完了まで書いてみました。
今回は前編です。後編も近日中に投下します。
ブラック榎本貫こうと思ったのですが……ハッピーエンドを目指したらどんどんへたれ化していきました。
どこまでも黒い榎本を期待された方、申し訳ありません。
また、監禁がぬるい! と思われた方も申し訳ありません。
もっと黒々しい監禁ネタがある! とう書き手さんは、どうかネタかぶり等遠慮なさらず投下しちゃってください。
204すれちがい。そして、ぼくのもの 1/6:2012/07/06(金) 19:25:45.78 ID:ch5tS8Fn
 何もできないまま、夜になってしまった。
 ガチャンッ! という音に振り向けば。どうしても開かなかったはずの玄関に通じるドアが開かれていて。両手にビニール袋を下げた榎本が、無表情に立っていた。
「榎本さん……」
「ただいま戻りました」
「え!? あ、お帰りなさい……」
 何を呑気な、と頭を抱えたくなったが。純子がそこにいることを当然、といった様子で受け止めている榎本を見ると、自分の方がおかしいのでは? と思えてくるのが不思議だった。
 実は、自分の認識がずれているのだろうか。自分は何かの理由があって、こうして榎本と同居を始めることになって。仕事を休むことに決めたのも自分の意思で……
 って、そんなこと、あるわけないでしょう!
 頭の隅で浮かんだ弱気な考えを、必死に追い払う。
 ここで思考を放棄してはいけない、絶対に。それは、自分はもちろん、榎本のためにもならない。
 考えよう。榎本は何を思ってこんなことをしているのか。人を一人監禁するというのは、並大抵のことではない。そこに至るまでには周到な準備が必要だったはずなのだ。その場の思いつきでできることではない。
 榎本は、ずっと以前から自分をこうするつもりだった……何故? どうして?
「青砥さん」
「は、はいっ!?」
「昼食は、取られましたか」
「はあ……?」
 昼食、と言われて、改めて空腹を思い出す。今更だが、榎本に朝食をもらった後、台所で水を飲んだきり、何も口に入れていない。
「いいえ」
「そうですか。冷蔵庫の中に用意しておいたのですが、お伝えするのを忘れていました」
「はあ、それはどうも……って榎本さん!」
「冷蔵庫の中のものは、自由に食べてくださって構いませんから」
「いえ、あの」
「すぐに夕食の用意をしますので、少々お待ちいただけますか」
 駄目だ、会話にならない。
 純子の問いに一切答えようとはせず、ただ自分の言いたいことをひたすらしゃべり続ける……それは榎本のいつものスタンスではあるが、いつもと決定的に違うのは、そこに明確な意思を感じることだろう。
 純子の言葉に耳を傾けまいとする、意思。
(聞こえてはいるはず……訴え続ければ、そのうち)
 と言って、何を訴えればいいのか。家に戻してくれ、解放してくれ、と言えばいいのか?
 榎本は言った。自分は、榎本のコレクションになったのだ、と。
 正直意味がわからない。榎本のコレクションと言えば、まず浮かぶのはあの数々の錠前だが……その中に自分が並んでいるというのは、どんなジョークよりも笑えない。
 ただ、外に出してもらえないことを除けば、榎本の純子に対する扱いは丁重と言えば丁重だ。風呂もトイレも自由に使えるし、食事も用意してもらえている。ただ……
(…………)
 ちらり、と様子をうかがう。台所から響いているのは水音。何かを調理しているらしい。
 足音を忍ばせて、先ほど榎本が現れたドアに近づく。昼間、自分が開けようとしたときはどうしても開かなかったドアだが……
(……駄目か)
 ガチャン、という音に、早々に諦めて手を引いた。
 どうやっているのかはわからないが。このドアは榎本の意思で自由に閉鎖できるらしい。純子を逃がす気はない、ということか。
 そして、榎本が本気になれば。自分程度でその拘束から逃れるのは不可能だろう、ということは、考えるまでもなかった。
205すれちがい。そして、ぼくのもの 2/6:2012/07/06(金) 19:26:52.27 ID:ch5tS8Fn
(どうしよう)
「青砥さん」
「は、はいっ!?」
「食事の用意ができましたが」
「あ、ああ……す、すいません。何から何まで」
「いいえ」
 純子の問いに、榎本は素っ気なく答えた。
「お気になさらずに。僕が好きでやっていることですので」
「…………」
 それはそうでしょう、と心の中でつぶやいて。純子は、うながされるままに食卓についた。
 並べられたのは、細身の榎本を考えると少し意外なくらい、ボリュームのある夕食だった。昼食を取っていない純子を気遣ってくれたのだろうか。
「……あ、美味しい」
「そうですか」
「これ、榎本さんが作ったんですか」
「はい」
「意外です。料理、上手なんですね」
「…………」
 思わず漏れた素直な褒め言葉に返事はない。視線を上げれば、顔を伏せた榎本の耳が、わずかに赤くなっているのがわかった。
(……こういうところは、普段の榎本さんのままなのに)
 それなのに。あなたは何でこんなことをしたんですか……?

 お風呂どうぞ、着替えはこれをどうぞ……と促され、風呂場に向かう。
 そこそこに広い浴槽は湯が満たされていて、タオルも新品のものが用意されていた。
 ここまで来たら意地を張っても仕方がない、と、遠慮なくシャンプーや石鹸で身体を磨き上げ、湯船につかる。
 ちなみに、パジャマこそ榎本のものだったが、下着は、どこで調達したのかは謎だがきちんとサイズのあった女性用だった。
 特に華美でも派手でもないシンプルなものだが。あの榎本がこれをどこで買ったのかは興味が尽きない。
 などと笑っている場合ではない。
(まずい。流されそうになってる)
 榎本に囚われてから、既に丸一日が経過している。メール一本で休むと告げられて、芹沢はさぞ困惑していることだろう。何とか連絡を入れたいところだが……
 本気で怒って泣いて暴れれば、榎本とて鬼ではないだろうから、何らかの進展にはなるかもしれない。きっと、榎本には、純子を傷つける意思はないだろうから。
(…………)
 湯船の中で、じっと下半身を見下ろす。
 昨夜、ここに何が触れたのか、を思い出して、一気に頭に血が上った。よもや、榎本からそのような感情を向けられようとは想像もしていなかっただけに……そして、いわゆる「絶頂」というのを迎えたのは、正真正銘初めての経験だけに。身体が熱くほてるのがわかった。
(何でっ……榎本さん、どういうつもりなんですかっ……)
 感覚で、わかる。自分と榎本は、最後の一線は超えていない。
 あれだけのことをしながら。結局、榎本は自分を抱かなかったのだ……どうして?
 いっそ、抱かれていれば。無理やりに犯されていれば。
 榎本を、憎むことも嫌うこともできたのかもしれないが。
206すれちがい。そして、ぼくのもの 3/6:2012/07/06(金) 19:28:36.59 ID:ch5tS8Fn
 そして迎えた夜。連れ込まれた寝室にて。純子は、ベッドの上に正座をしていた。
 正面に立つのは榎本。昨夜と同じ、眼鏡を外したパジャマ姿で。相変わらず、何の感情も読めない目で、純子を見下ろしていた。
「……寝ないんですか」
「寝ますよ。けど、寝る前に、一つ教えてください、榎本さん」
「何でしょうか」
 考えに考えた結論は、「わからない」というものだった。
 結局、自分が榎本の思考を読むなど無理な話なのだ。数ヶ月程度の付き合いでは長いとは言えないだろうが。その数ヶ月で、自分が榎本の考えを読み取れたことなどほとんどないのだから。
 だから。
「今日も、わたしはここで寝るんですか」
「はい」
「榎本さんも、ここで?」
「……はい、そうですね」
「そして、また昨日と同じことを繰り返すんですか?」
「…………」
 手錠こそ外されたが。自分の身柄は、相変わらず榎本に拘束されている。
 このまま黙って状況に流されていれば。そのうち、それを「当たり前のこと」と感じ、何の疑問を抱かなくなり、全てを受け入れてしまう。
 それは嫌だった。それが怖かった。
 だから、聞こうと思った。榎本が何を考えているのか。教えてもらえないのなら教えてもらえるまで。何度だって繰り返し聞こう。
「榎本さん。何を考えているんですか?」
「…………」
「どうして、昨日、わたしを抱かなかったんですか?」
「…………」
 ふいっ、と、視線をそらされた。
 その反応に、疑問を覚える。当然、榎本のことだから。何かそれらしい理屈をまくしたてるか、あるいは純子の言葉など全く無視されるか、そのどちらかだろう、と思ったのだが。
「榎本さん?」
 疑問は、無理やり押し付けられた唇で封じられた。
 とっさに抵抗しようとして、逆に手首をつかみあげられた。その握力の強さにぞっとしながらも、必死で身をよじる。
「榎本さんっ……お願い、答えてください!」
「…………」
「わたしをあなたのコレクションに、って。どういうことですか!? 榎本さんは、何をっ……」
207すれちがい。そして、ぼくのもの 4/6:2012/07/06(金) 19:29:43.53 ID:ch5tS8Fn
 何を考えているんですか、あなたは。わたしをどうしたいんですか。
 パジャマがはだけられる。肌に散らされたのは、自分が榎本のものになろうとしている証。
 性急で痛みすら感じる愛撫にも、身体はしっかりと反応してしまう。それが悔しかったが、二度目ともなれば、衝撃も薄れる。
 榎本に力で敵わないのは昨夜でよくわかった。この状況では、逃れることはほぼ不可能。
 それなら――
「っ…………!」
 昨日に比べて、手つきが荒いような気がした。榎本も焦っているのか……何に?
「い、いたっ! 痛いっ……」
 荒っぽく差し入れられた指。わずかに潤ってはいるが、まだまだ反応の鈍いそこを、強引にかき乱された。
 たまらず悲鳴をあげる。榎本の胸元にすがりつくようにして、必死に懇願する。
「痛いっ……榎本さん、えの、もとさん……」
「…………」
 ぎくり、と、榎本の身体が強張った。
 ぼろぼろと涙を零す純子の顔を見て。その顔に、動揺の色が走り抜けた。
 昨日は、あんなに平然としていたくせに。自分が泣いても、まるで無視していたくせに。
「逃げませんから……」
「…………」
「逃げませんから。だから、優しくしてください……」
「…………」
「痛いのは嫌です。せめて優しくしてください……」
「……すいません」
 耳に届いたのは、微かな謝罪。
 引き抜かれた指が、優しく頬を撫で。そのまま口づけられた。
 そのキスは優しかった。昨夜よりも、ずっと。

 ――そして、結局。その日も、榎本は純子を抱かなかった。

『もしもしーえのもっちゃん? 芹沢ですけど』
「こんばんは。お久しぶりです」
 着信相手は予想通りの相手だった。
 純子の携帯の電源がオフになっていることを確認し、応答する。芹沢の声は、いつも通りの軽い声に聞こえたが。その奥底に別の感情が見え隠れしていることを、榎本は見抜いていた。
208すれちがい。そして、ぼくのもの 5/6:2012/07/06(金) 19:30:50.04 ID:ch5tS8Fn
「本日は、どのようなご用件でしょうか」
 開錠作業の手を止め、慎重に応答する。芹沢の目をごまかすことなど造作もないが、疑いを持たれるのは得策ではない。
『あのさあ、えのもっちゃん。一昨日、うちの青砥がそっちに行ったと思うんだけど』
「はい、いらっしゃいました」
『あっそう。青砥さあ、何時にそこを出た?』
「…………」
 とっさに考えたのは、芹沢は、純子が合コンで知り合った男と会う予定だったことを知っているのか? というもの。
 結論はすぐに出た。
「7時過ぎだったと思います。その後で、どなたかと約束があるとおっしゃっておられました」
『……ああ、そう』
 例え芹沢は知らなくても、水城は知っている。ならば、とぼけても意味はない。
 一昨日、もし自分の手に堕ちなければ純子が帰宅したであろう時間を説明してやると。芹沢は、納得がいかない、といった様子でつぶやいた。
『青砥からメールが入ってな』
「はい?」
『実家の両親の具合が悪いから、しばらく休ませてくれって』
「そうですか。心配ですね」
『心配だよ。その後いくらメールしても返事がない。電話したら、電源が入っていないの一点張りだ』
「……病院にいらっしゃるのでは? それでしたら、携帯の電源を切っていても不思議はないと思いますが」
『それは、そうだけどな』
 そう言って、芹沢は、ため息をついた。
『青砥らしくないなあ、と思ってな』
「…………」
『えのもっちゃんも、そう思わない? あの真面目な青砥らしくないって』
「……ご両親のことが心配なのでは?」
『榎本も、らしくないね』
 かけられた言葉に、ひやり、と背筋が冷えた。
『榎本のところには、何の連絡も入ってなかったのか』
「……ええ」
『あ、そう。本当に青砥らしくないね』
「それは……僕に伝える必要が無いことだからでは?」
『何だか、お前もらしくない反応だね』
 心なしか、電話口の声が低くなった。
「……それは、どういう意味でしょうか?」
『いつものお前なら、そうですか、の一言で終わってそうだけど。もっともらしい憶測を返すなんて、お前らしくないね』
「…………」
『榎本は、いつも、いいかげんな憶測は言わない奴だから』
「……そうですか」
『…………』
 電話口の芹沢は、無言で。それに、無言を返す。
 しばしの沈黙。やがて――
『悪い、変なこと言った。青砥からそっちに連絡があったら、俺にも教えてもらえるか』
「はい」
『じゃあ』
 ぶつっ! と、会話は途切れた。
209すれちがい。そして、ぼくのもの 6/6:2012/07/06(金) 19:31:57.88 ID:ch5tS8Fn
 静かになった電話を見つめ、握りしめる。とっさに叩きつけようとして、そんな自分に、自分が一番驚いた。
 苛立っている。何に? 芹沢に?
 芹沢ははっきりと疑いを抱いていた。昨夜から、純子の携帯は、合コンで知り合った男と芹沢にメールを打ち、そのまま電源は切りっぱなしにしているが。それがまずかったのか。
 着信に応答するわけにはいかないとしても。経過報告のメールくらいは打っておくべきだったか?
(いや、多分無駄だっただろう)
 純子の性格なら、そんな重要な報告をメールで済ませるわけがないのだ。電話をかける暇くらい、その気になればいくらでも作れる。例え両親が本当に危篤状況にあったとしても、必ず芹沢に直接説明を入れていただろう。
 けれど、疑惑は疑惑だ。確信ではない――今はまだ。
 そう遠くない将来、芹沢がここに直接訪れることは明らかだった。本心を隠すことについてはそこそこ自信があるが――
 だが、純子の実家を調べるくらい、芹沢にとっては造作もないことだろう。早晩、その嘘は明らかになると思った方がいい。
 そうなったとき、純子の扱いは「失踪」となる。そうなると、真っ先に疑われるのは?
(……こんなはずじゃ、なかった)
 開錠作業に戻ることもできず、うなだれる。
 こんなはずではなかった。いつまでも人を一人監禁しておくことなど、できるわけがない。ましてや、純子は会社勤めをし、友人知人とも付き合いのあるごく普通の女性だ。
 例えば、失踪したのが自分であるならば、会社の同僚に少し「おかしいな」と思われてそれで終わるかもしれないが。純子の場合はそうはいかない。こうして、探そうとする人物が必ず現れる。
 そんなことはわかっていた。当初の計画では、純子の身も心も手に入れることができたなら、そのときには解放する予定だった。

 わかっていますよね? 僕とこうなってしまった以上、あなたは、もう僕から逃れられないって。

 その一言で、純子を縛るには十分だったはずだ。なのに。

 榎本は、いまだに純子を手に入れることができない。心では抱きたいと願っているのに、どうしても、最後の一線を越えることができない。
(どうすればいいのか)
 電話のために外したイヤホンを、もう一度装着する。
 マンションの中で、純子はどうやら掃除をしているらしい。監禁生活も二日目となると慣れてくるのか。あるいは、何もすることがない、というのが苦痛なのか。
 どちらにしろ、暴れて騒ぐつもりがないのは確かなようだった。それはありがたいことではあるが、同時に奇異なことだと思う。
 純子は、榎本のことなど何とも思っていないだろうに。それなのに……この生活を受け入れようとしているのか?
(本当に、あなたは不思議な人ですね、青砥さん)
 今日は抱けるだろうか。彼女の身体を手に入れることはできるだろうか?
 イヤホンに耳を傾けながら。榎本は、答えの出ない問いに苛まされていた。

〜〜後編に続く〜〜
210194:2012/07/06(金) 19:33:42.03 ID:ch5tS8Fn
終わり。
次回、後編は純子の反撃、もしくは監禁編完結編です。
そちらはちゃんとエロありです。
211名無しさん@ピンキー:2012/07/06(金) 20:56:09.04 ID:i3fafohe
>すれちがい。そして、ぼくのもの
ううう。なんか現実が突きつけられて榎本と一緒に苦しくなってきた。
ハッピーエンドに向かっているという言葉に救われます。
芹沢の疑惑や純子の感情がどう動いていくのか、完結編が楽しみです。
212名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 02:05:04.35 ID:wZZv8rke
ノーー!!ばかーーストーーリーー
213名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 06:11:34.03 ID:cPVs7G+r
まさかの、素早い続編とても楽しませて貰いました。続きを全裸待機。
そして意外に鋭い芹沢さん、侮れないwそんな芹沢さんもまた良い。
病んでる黒いエロっていいものですね
ここは色んな榎青が妄想出来る、まさに良いスレ!!!書き手さん方、いつもありがとう。
214名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 06:44:23.23 ID:xIsHhGDH
職人さま、仕事早っ!
そして素晴らしいクオリティです!!
やはりブラックでもブラックになりきれないところが榎本らしいw
あと、以外に鋭い芹沢に何故か萌えてしまった〜
続き楽しみにしてます
215名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 06:54:59.94 ID:lM5g1EUl
流石職人、良い仕事だww
216名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 09:05:51.81 ID:hxgZN/Fb
ブラックになりきれない榎本よかったです。
苦悩しているのいいわーw
青砥もただ流されないのがいいですね。
続き楽しみにしています。
217194:2012/07/07(土) 13:16:49.97 ID:3f5AMw8t
コメントくださった皆様、ありがとうございます。
ブラック榎本監禁編、完結させましたので投下します。
ブラック榎本のはずが完璧にただのへたれになってしまい申し訳ありません。
次は榎青の明るい話考えます。
218すれちがい。そして、わたしのもの 1/7:2012/07/07(土) 13:18:14.16 ID:3f5AMw8t
 弁護士という仕事は、思考放棄してはおしまいだ……と、尊敬する上司に教えられた。
 残念ながら、弁護士は純粋なる正義の味方とは言えない。依頼人を助けるのが弁護士の仕事ではあるが、依頼人は必ずしも善人ばかりとは限らないのだ。
 依頼人が全員冤罪であり、その無罪を証明するのが仕事の全てならば、それは誇れる仕事となるだろうが。生憎、現実にはその逆で。そして、その犯罪に巻き込まれた人達から見れば、弁護士は悪の手先となるだろう。
 それでも、弁護士は社会に必要な存在だ。自分達がいなければ、誰も加害者の訴えを聞くものはいなくなり、その犯罪の裏にどのような思惑が、事実が潜んでいたのか、知る者は誰もいなくなる。
 だから。
 例え被害者が自分という状況下でも。単純に加害者を憎んで終わるわけには、いかないのだ。
 榎本がいない間。マンションに一人取り残されている間。暇つぶしに掃除をしたり本を読んだりしながら、純子は、必死に考えていた。
 榎本が何を望んでいるのか。何が目的なのか。何度も何度も問いかけて、断片的に得た情報から、自分なりに納得いくストーリーを組み立てようとした。
 そのストーリーがあっているか間違っているかは、この際どうでもいい。自分自身が納得できればそれでいい。
 納得できないまま状況に流されるよりは。例え自意識過剰でご都合主義なストーリーであっても、納得して身を任せる方が余程マシだ。
(榎本さん)
 わたし、あなたを信じたいんです。あなたを嫌ったり憎んだりはしたくないんです。
 だって、わたし達は……

 監禁二日目。その日も、榎本は昨日と同じ時間に帰宅し、同じように夕食を用意してくれた。
 思いついて自分がやると申し出てみたが、「結構です」と突っぱねられてしまった。
 それが、純子に申し訳ないと思っているからか、あるいは料理の腕を信頼されていないのか。その反応から図ることはできなかった。
 今日はちゃんと昼食を頂きました、と伝えると、相変わらず「そうですか」と素っ気ない返事がとんできたが。「美味しかったです」と続けると、昨日と同じく、照れたように顔を伏せられてしまった。
 思った通りだ。状況を除けば、その反応は普段の榎本と何ら変わるところはない。榎本の本質は、何も変わっていない。
 だったら。
「――榎本さん」
「はい」
 夕食と風呂の後、寝室に引っ張り込まれたのは、昨日と同じ。
 無表情に自分にのしかかってくるのも、昨日と同じ。そして、恐らく。このまま黙ってされるがままになっていれば、やはり結果も同じになるのだろう。
 榎本は自分を抱かず、指と舌で満足させられて、それで終わり。そして、明日も、明後日も、きっと同じことの繰り返し。
「榎本さん……」
 覆いかぶさる榎本の首に両腕をまわして、そのまますがりついた。純子の反応に、榎本は一瞬驚いたようだが、行為はすぐに再開された。
 パジャマをはだけられ、風呂上がりの、下着もつけていない素肌をその目の前にさらす。最初のうちこそたまらなく恥ずかしかったが、三回目ともなればいい加減慣れてくる。
 繊細な愛撫に耐えながら、純子は、必死に冷静さを保とうとした。欲情に押し流されてはいけないと、唇をかみしめて、必死に耐えた。
 目の前の胸板に指をはわせ、お返しとばかりに、パジャマのボタンを外した。意外なまでに筋肉質なその身体に思わず目を見張る――視線をあげれば、積極的な純子に、榎本も驚いているようだった。
「榎本さん」
 ぐいっ、と上半身を持ち上げ、初めて、純子の方から唇を重ねた。
 一瞬の硬直。純子が待ち望んでいた、榎本の隙――
「!!」
「……榎本さん」
 おそるおそる手を引いた。柔らかいパジャマの生地の上からでは、間違えようもない。生々しい感触に手が震えたが、それを汚いものとは思わなかった。
「やっぱり……」
「青砥、さん」
219すれちがい。そして、わたしのもの 2/7:2012/07/07(土) 13:19:21.84 ID:3f5AMw8t
「やっぱりそうなんですね。あなたは……」

 わたしを抱かなかったんじゃなくて、抱けなかったんですね。

 そうつぶやくと、榎本の表情から、一切の感情が消えた。
 それは男性にとっては相当に屈辱的な指摘だったのではないか、と思うが、構ってはいられない。純子だって必死だった。この状況から逃れるために必死に考えた。
 拘束され、監禁された。自由を奪われ、身体を弄ばれた。
 そう聞けば、誰だって、純子は榎本に強姦されたのだと――監禁もそれが目的だったのだと、思うことだろう。実際、純子も最初はそう思った。
 けれど、違った。それはきっと、大きな勘違いだった。
 初めて触れた榎本の下半身は、純子の裸を前にして、好き勝手に弄びながら、男としての反応を何一つ見せていなかった。
「――榎本さん」
「…………」
「手で、してあげましょうか」
「……は?」
「それとも、口の方がいいですか」
「何を言っているんですか、あなたは」
「何を? まさか、30にもなって意味がわからないとか言わないでください」
「意味はわかります。わからないのは、あなたが何故そんなことを言いだしたのかです」
 震える手で、肩を捕まれた。痛みに顔をしかめる。榎本の顔は相変わらずの無表情だが、その中に微かな揺らぎ……「怒り」が見え隠れしていると。そんな風に思うのは、きっと勘違いではないだろう。
「あなたは」
「馬鹿にしてるわけじゃないです」
 ぴしゃり、と榎本の言葉を封じて。純子は、まっすぐに榎本を見つめた。
「馬鹿にしてはいません――まあ、わたしの身体って、そんなに魅力ないかなあって、ちょっとショックだったりはしますけど」
「…………」
「わたしを抱きたいんじゃないんですか。それが目的なんじゃないんですか」
「……青砥さん」
「だったら、そう言って下さい。手でも口でもしてあげます。そうして、できるようになったら、どうぞわたしを抱いて下さい。どうせ逃げられないんだから、榎本さんの好きにして下さって結構です。
その代わり、目的を果たしたらちゃんと家に帰して下さい。仕事もたまってるでしょうし、芹沢さんも心配してるでしょうし」
「…………」
「ほら、さっさとしましょう。ズボン脱いでもらえますか。それともわたしが脱がしましょうか!」
 バンッ! と、大きな音に身がすくんだ。
 一瞬、自分が殴られたのかと思ったが――違う。榎本の拳は、壁に叩きつけられていた。
「違います。そんなことがしたかったわけじゃない」
「…………」
「僕は――」
「――そうですよね」
 その反応が、見たかった。
「そうですよね。榎本さんは、そんな人じゃないですよね――あなたは……」
 自意識過剰と笑われても構わない。どうせ、ここには自分と榎本しかいないのだから。
「わたしのことが、好きなんでしょう」
「…………」
「榎本さんは、今まで、人を好きになったことがありますか」
 何気なくつぶやいた問いに、「ありません、多分」という頼りない返事が来た。
220すれちがい。そして、わたしのもの 3/7:2012/07/07(土) 13:20:57.00 ID:3f5AMw8t
 きっとそうだろうと思う。初恋というのは厄介なものなのだ。自分の感情が理解できなくて、どう対処すればいいのかがわからなくなる。年齢を重ねれば重ねるほどに。
 自分の感情よりも、理性と倫理が優先されるようになればなるほどに。
「だから、あなたのコレクションですか。わたし、鍵と同じ扱いですか。鍵に対する『好き』とわたしに対する『好き』を同じものだと勘違いされたんですか」
「…………」
「――わたしを、手に入れたかったんですか? あなただけのものにしたかった。そういうことですか?」
 純子の言葉に、榎本はぎこちなく頷いた。
 初めて、主導権を握れた。これまでずっと、榎本にされるがまま振り回されて来た純子が、初めて反撃に回れた。
 それが嬉しいと言ったら、笑われるだろうか?
「榎本さん」
「……何ですか」
「何であなたがわたしを抱けなかったのか、教えてあげましょうか」
 抱くことそのものが目的だったのではない。抱くことで、純子を自分のものにしたかった。きっと、そういうことなのだろう。
 だったら。
「――嫌われるのが怖かったからですよ」
「…………」
「無理やり抱いて、身体だけ手に入れても、心はきっと離れてしまう。榎本さんは頭のいい人ですから。意識していなくても、きっとそれをわかっていたんです。だから抱けなかったんですよ」
「青砥さん」
「不器用な人ですね、榎本さんて。手先はあんなに器用なのに……おかしい」
 笑みを零す純子を、榎本は、呆然とした顔で見つめていた。

××××××××

 それは、いつかの話。長野で起きた旧家の殺人事件に巻き込まれた直後の話。
「聞いてよー里奈ちゃん。わたし、そんなに魅力ないかなあ?」
「どうしたんですか、青砥先生」
「榎本さんとね」
「あ、この間、長野で二人でお泊りだったんですよね? どうでした? どうでした?」
「……何にもなかった」
「ええっ!?」
「ふすま一枚しか挟んでない部屋で寝たんだけど……なーんにもなかった」
「そ、それは……ええと、榎本さんが紳士だってことですよ! そうに違いありません!」
「頑張ったんだけどなあ。怖い怖いっていっぱいアピールして、そっちに行ってもいいですか、とか、色々言ってみたんだけど。きっぱり断られちゃった。『幽霊なんていません』って」
「ああー……」
「諦めた方がいいのかな、やっぱり」
「……榎本さんですもんね。すいません、申し訳ないんですけど……あの方、女性に興味なさそうですし……」
「ですよねー。わかってますよ、そんなことっ」
 わかっていたのだ。無謀だろうな、ということは。
 初めて会ったときから惹かれていたのだ。あの小柄な体躯で、「無理に決まっているから帰れ」という銀行員を一顧だにせず、わずか十数分で大金庫の錠を開錠してみせたあのときから。
 芹沢に冷たくあしらわれ、自殺に決まっている、と言われた案件の話を聞いて。「それが人間の作った密室なら、破れない密室はない」と言い切られたあのときから。
 自分の仕事にプライドを持ち、自分の能力に自信を持ち。それでいて、対人関係にはひどく不器用なそのアンバランスさに、ずっと惹かれていた。
 けれど、どれだけ頑張ってアピールしても、榎本が自分に振り向いてくれることはない。そのことが、この長野の旅行でよくわかった。
221すれちがい。そして、わたしのもの 4/7:2012/07/07(土) 13:23:53.52 ID:3f5AMw8t
「諦めるしかないよね」
「ええ、諦めちゃうんですか!?」
「だって、見込みのない恋なんて引きずっても辛いだけだし……下手なこと言って、気まずくなりたくはないし。それならきっぱり諦める。榎本さんの迷惑にはなりたくないし」
「青砥先生……」
「しょうがないよね。榎本さんにとって、わたしはアウトオブ眼中だった、ってことなんだもん。しょうがない。ごめんね里奈ちゃん。もう言わない! 頑張って、新しい恋を探すことにする。
 榎本さんとはただの友人。そう思って、忘れることにする」
「応援します、わたし。青砥先生って、やっぱり素敵な女性だと思います! きっとすぐにいい人が見つかりますよ!」
「ありがとう、里奈ちゃん。わたし、頑張るね!」

 惹かれていたのは、きっと初対面のときからだろうと思う。自分の話を真面目に聞いて「わからない」と答えてくれたあのときから。自分の開錠の腕に、不気味がるよりも素直に感心してくれて。そして自分を頼ってくれたときから。
 けれど、最初は、その思いは胸に秘めておくつもりだった。いくら何でも立場が違いすぎる。
 それは、彼女の上司の家に忍び込んでよくわかった。彼女の傍に常に立つ男。それが気になり、後をつけ、家に忍び込み――そのあまりにもレベルの違う暮らしぶりに目を見張った。
 さすがにまだ若輩の彼女はここまでではないだろうが、そう遠くない将来、彼女もこのような豪勢な暮らしをすることになるのだろう。
 何だか悔しくなって、思わず時計を失敬してしまった。まあ、きっと彼の経済力ならいくらでも取り戻せるだろうと思えば、あまり胸も痛まない。
 それよりは、「悔しい」と思ったことの方が意外だった。自分は嫉妬しているのか。誰に? ……年齢さえ考慮しなければ、十分に彼女と釣り合いが取れるであろう、そして彼女の信頼を得ているであろう、彼女の上司に、か?
 わからなかった。自分の心もわからなかったが、彼女の本音もよくわからなかった。
 それから、加速度的に彼女が訪れる頻度は高くなった。最初のうちこそ、事件に協力してほしい――という名目で、上司を伴って現れていたが。すぐに、彼女一人で、雑談のために現れるようになった。
 何をしに来たんですか、と問うても、「別に用はない」とあっけらかんと言う彼女の本心が全くわからなかった。
 自分のようなつまらない人間と話をして、何が面白いのか。何が目的なのか?
 決定的だったのは、いつかの長野の事件のときだろう。
 容疑者の友人である遠藤宅に一泊することになり、ふすま一枚隔てただけの部屋で寝る羽目になった。
 それだけでも十分に理性を揺さぶられたが、あろうことか、彼女は「幽霊が」「狐火が」と言い出した挙句に、同じ部屋で寝たいなどと訴えてきた。
 さすがに無理だと思った。彼女がどう思っているかは知らないが、自分は相応に男としての欲望を持ち合わせている。けれど、それ以上に、本心もわからないまま関係を変えることを恐れる程度には、臆病な人間だ。
 必死の思いで断った。彼女は残念そうな顔をしていたが、最後には納得して、ふすまの向こうに戻ってくれた。
 安堵の息をつきながら、同時に疑問を感じていた――彼女は、いささか天然で抜けているところはあるが、若くして弁護士になったくらいだから、頭は悪くない。
 自分などよりよほど世間慣れをしていて、若い女性が、男の布団に潜り込もうとする危険性を認知していなかったとは、とても思えなかった。
 まさか、覚悟の上だったのか? それとも、自分にそんな度胸はないと思われていたのか?
 わからなかった。けれど、どうしても知りたかった――そのときには、きっと、自分の心は彼女に囚われていたのだろうと思う。
 長野から戻った後、すぐに彼女の家に侵入し、いくつかの盗聴器を仕掛けた。罪悪感はあったが、彼女の本音を知るためだ、と自分に言い聞かせた。
 そして、結果に失望した。無防備な彼女は、電話で自分の本音を吐露していることが多い。
 その相手は学生時代の友人だったり、あるいは水城だったり芹沢だったりしたが。その会話の中に色恋絡みで自分の名前があがることなどついぞなく、むしろ、合コンなどで積極的に恋人探しをしているような節すらあった。
 やはり、彼女にとって、自分は男の範疇にすら入っていなかったのだ。長野の一件も、ようするに自分に手を出す度胸などないと見抜かれていたか――もしくは、自分には性欲など存在しないとでも思われていたのだろう。
 納得すると同時に腹立たしくなった。当初は、本音を知ったら盗聴器は回収するつもりだったが。彼女の恋人探しの結果が気になることもあり、そのままにしておくことにした。
 そして、そのまま、やめることができなくなった。
222すれちがい。そして、わたしのもの 5/7:2012/07/07(土) 13:25:26.23 ID:3f5AMw8t
「してあげますよ」
「青砥さん……」
「逃げるためじゃありません。してあげたいんですよ、わたしが」
 うろたえる榎本を押しのけるように身を起こす。パジャマと下着に手をかけ、いまだ萎えたままのそれを、両手で包み込んだ。
 はっきり言って大して経験など無いのだが……まあ、何とかなるだろう。
 爪を立てないように、力を入れ過ぎないように気を付けながら、ゆっくりとしごいていく。
 びくり、と榎本の身体が震えた。肩をつかれ、突き放そうとしてきたが。首を振ると、すぐにその抵抗も止まった。
「榎本さんは、勘違いしてます」
「……勘違い?」
「女は、そんなに都合のいい生き物じゃありません。いくら脅されたって、力づくで征服されたって、相手のことが嫌いだったら、絶対に相手のものになったりはしないんですよ。世の中、お金のためとかでそうなっちゃう人もいますけど……わたしは、そんな女に見えますか?」
 きっ、とにらみつけると、すぐに首を振られた。
 そうだろう。以前、蜘蛛の事件のとき、榎本は言ってくれたのだ。金目当てに夫を殺害したあの女性と純子は違う、と。
「何で、言ってくれなかったんですか。こんなことになる前に。こんなに、追い詰められる前に」
 言いながら、大きく口を開けて、ソレを含んだ。
 根本からなめあげる。歯を立てないようにじゅぶじゅぶと口内で舌を這わせていると、徐々に、硬度が増してくるのがわかった。
「っ……あ、青砥さん……」
「……信じてくれる気に、なりましたか」
 一度ソレを解放し、そっと口づける。ちろちろと舌先で弄んでいると、頭上で、荒い吐息が漏れた。
 上目づかいに見上げる。潤んだような目が、じっと純子を見下ろしていた。
 笑顔を返す。これは決して、嫌々やっている行為ではないと……自分が望んでやっているのだ、と。万感の思いをこめて、見つめた。
「ねえ、知っていましたか、榎本さん。わたしはずっと、あなたが好きだったんですよ」
「…………」
「見込みがないと思って、諦めようとして、色々と頑張ってみたんですけど。それでも諦めきれないくらいに……
 こんなことされて、いきなり監禁されて怖い思いもいっぱいして、それでもあなたを嫌えない、憎めないくらいに、ずっと、ずっと、あなたが好きでした……好きです。好きなんです、榎本さんのことがっ!」
 言いながら身を起こす。抱きついて、強引に口づけると、遠慮がちに回ってきた両腕で、力いっぱい抱きしめられた。
 自らの意思で舌を絡めると、ぎこちない反応が返ってきた。
 自分が無理やりしてきたときとは随分違うじゃないですか、と笑いたくなったが。後が怖いので、その言葉は呑みこんで、代わりに積極的に攻めた。息苦しくなるほどにキスを繰り返し、そのまま、首筋に強烈な痕を残してやった。
 押し倒される。手錠で拘束されて無理やりされたときとも、恐怖に支配されながら身を任せたときとも違う。純子を見下ろす榎本の顔は、どこか穏やかで。満足げにすら、見えた。
 はだけていたパジャマはそのままに、中途半端なところで止められていた愛撫が再開される。この三日で、嫌というほど榎本に開発されてきた身体は、すぐさま素直な反応を返し、自然と吐息が荒くなっていくのがわかった。
「もう……指とか舌だけじゃ、嫌ですよ?」
「わかってます」
「ちゃんと、榎本さん自身で満足させて下さいね?」
「わかってます」
223すれちがい。そして、わたしのもの 6/7:2012/07/07(土) 13:26:29.26 ID:3f5AMw8t
 同じ言葉を繰り返すときの榎本は、大抵動揺しているときなのだが、大丈夫だろうか。
 そんな心配は杞憂に終わり。首筋に顔を埋めて来る榎本の手つきに、よどみのようなものはなかった。
 自然と脚を開く。差し入れられた指が、純子の内部をくすぐり、そのまま、手際よくほぐしていった。
 溢れる滴が腿を伝う。響く淫らな音が恥ずかしくてぎゅっと身を縮めていると、「ふっ」という、小さな笑い声が聞こえた……ような気がした。
「榎本さん?」
 顔を上げる。唇を奪われる。反射的に目を閉じた瞬間――

 貫かれたときの衝撃は、思ったよりもあっさりとしていた。濡れそぼったそこは、榎本をやすやすと受け入れ、そのまま、奥深くまで呑みこんだ。

「あっ……うっ……」
「……痛いですか」
「全然……ひっ!」
 ぐじゅぐじゅと、結合部から響く大きな音。羞恥に目をそらそうとしても、榎本はそれを許してはくれない。
 そのまま、高みまで上り詰めた。絶頂というものを、この数日でどれだけ体験したか、覚えてはいないが。初めて榎本を受け入れて迎えた絶頂は、それまでのどの経験とも違った。
 幸せだ、と。
 そう思えたのだから。

「今日は泊めてください。もう遅いですから。明日帰ります」
「……わかりました」
「帰りますけど、また来ます。あの備品倉庫にも、ここにも」
「…………」
「いけませんかっ」
「……いえ、別に……」
 ベッドの中で身を寄せ合っているという状況下。純子の言葉に、榎本はいつものぶっきらぼうな様子で答えていたが。
 見下ろせば、にらみつける純子の視線が予想以上に鋭くて、慌てて前言を撤回した。
「嬉しいです」
「よろしい」
 何故だろう。すっかり立場が逆転している。こんなはずではなかったのだが。
「後、携帯返してください。芹沢さんにすぐに連絡を取ります」
「……わかりました」
「両親、元気になりました、って。嘘はつきたくないですけど、この場合は嘘も方便ですよね」
「…………」
 これは皮肉だろうか。自分は謝罪すべきなのだろうか。いや、謝罪は必要だろう、当然。けれど、何をどう言えばいいのか。
「後……」
「まだ、何か」
「質問なんですけど。この着替え……下着なんですけど。一体どうやって手に入れたんですか」
「……通販です」
「サイズもぴったりなんですけど。どうやって知ったんですか」
「…………」
224すれちがい。そして、わたしのもの 7/7:2012/07/07(土) 13:27:10.12 ID:3f5AMw8t
 あなたが水城さんに無防備に電話で暴露していたでしょう、とは言い辛い雰囲気だった。盗聴のことは、恐らく知られない方がいいだろう。多分。いや絶対に。
「見ればわかります」
「はいっ!?」
「目測でサイズを測るのは慣れていますので」
「なっ……もう何ですかそれっ! 信じられない!」
 信じられないのはこちらの方だった。世の女性とはあんなにもあっけらかんと下着のサイズなど話し合うのかと、初めて聞かされたときはカルチャーショックを受けたものだ。
「……質問は、以上でしょうか」
「以上ですよっ」
 そう言って、純子は、ぎゅっと榎本の身体にすがりついた。
「……この三日間、怖かったです」
「すいません」
「榎本さんが何を考えているかがわからなくて、本当に怖かったです」
「…………」
「よかったです、知ることができて」
 すいません、とつぶやくと、許しません、と囁かれた。
「これからいっぱい償ってもらいます。いっぱいデートしてもらいます。いっぱい恋人らしいこと要求しちゃいます。きっと、榎本さんにはかなり恥ずかしいことも含まれると思いますけど、嫌とは言わせません」
「…………」
「返事は?」
「……わかりました」
「よろしい」
 笑顔の純子を見て。それが彼女の本心なのだとわかって――小さく、息が漏れた。
 女性を好きになるというのは、何と大変なことなのだろうか。物言わぬ鍵とは全く違う。その心を開くのに、これほど苦労させられるとは思わなかった。
 とりあえず、悟ったことは――
「あ、あの食事に誘ってくれた男性。ちゃんとお断りのメールしておかないと」
「…………随分、あっさりと言うんですね」
「いい人でしたけど。いい人だから好きになれるとは限りませんよね」
「…………」

 あなた、その男性のことを随分褒めちぎっていませんでしたか。素の自分を褒めてくれたって喜んでいませんでしたか。食事に誘われたって浮かれていませんでしたか。

 やはり、盗聴器の回収はやめておこう。純子の言葉を信じないわけではないが、この思い切りの良さがいつ自分に返ってくるかわからない。
 きっと、彼女のことだから。自分が何か失礼なふるまいをしたら、それを水城や芹沢に遠慮なく愚痴るだろう。その動向は把握しておかねば、いつ何時、自分が捨てられる立場に回るかわかったものではない。

 彼女を失いたくはないから。

 そう決意して。榎本は、純子の身体を、そっと抱き寄せた。

〜〜END〜〜
225194:2012/07/07(土) 13:28:11.63 ID:3f5AMw8t
終わり。本当に長々と失礼しました。
明るい榎青か、あるいは本気でBADEND迎えるくらい真っ黒な榎本ネタでも思いつくまで
読み手に戻ります。
226名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 13:37:03.93 ID:OwWjJuA1
この作品にリアルタイムで出会えた幸せ♪
最高でした。ありがとうございました。

ID:3f5AMw8tさんの作品、
「明るい榎青か、あるいは本気でBADEND迎えるくらい真っ黒な榎本ネタ」
でないものも好きです。
くくりをつけず、気が向いたら投稿してくださると嬉しいです。
227名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 14:10:04.50 ID:eEtA4GgJ
>>225
ひどいことしてるのに榎本に感情移入できて・・潤子もまたそういう理由でコンパにいそしんでいたのかと。
スリリングなのにほっとさせられましたー。おもしろかった。
書き手のみなさん方のおかげでドラマの余韻を楽しめています。
228名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 16:12:04.55 ID:OwWjJuA1
鍵のドラマスレでここのネタになりそうな妄想が色々でてるw
229名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 17:50:57.21 ID:lM5g1EUl
その妄想ネタをSSにする仕事に戻るんだw
230名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 18:25:23.20 ID:OwWjJuA1
>>229
その腕があれば><
自分で萌えを生産したい。
231名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 18:44:21.11 ID:kwBs2tWr
直前に投下されてるSS無視して別のSSよこせとかw
どんだけwww
232名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 18:58:51.50 ID:lM5g1EUl
>>231
直前のSSのGJは、>>226が十分過ぎる程してるからなwww
あれ以上のGJなんて出来んww
233名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 19:06:06.46 ID:OwWjJuA1
自分がGJした後だったから、つい流れよまずにドラマスレの話を出しちゃった私がいけないんだよね。
もう少しGJの流れを確認した後書けばよかった。

ちなみにドラマスレの投稿でありそうだったのこれ↓

200 名前:名無しさんは見た!@放送中は実況板で[sage] 投稿日:2012/07/07(土) 15:14:50.04 ID:PfSVhmCh0 [5/5]
(パーティーに)カップルで行かないといけないんですぅ。榎本さん一緒に行って下さいよぉ。
とか言われてキョドる榎本が見たいw
234名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 22:03:26.39 ID:xIsHhGDH
>>225
長編お疲れ様でした!
上手にハッピーエンドにまとめるなんてさすが!
とてもおもしろくてぐいぐい引き込まれてしまいました
ありがとうございました

ところで、ここって榎青以外もアリなんだろうか
一応椎名章×純子書いてみたんだけど、
スレ汚しになったら申し訳ないな〜と思って、投下をためらっているのだが
235名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 22:21:43.18 ID:07KK38vc
>>225GJ!
いいもの見せてもらってありがとう

そして>>231はID見てみるといいよ全く無視してないからw
236名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 22:27:16.40 ID:+2zcfaee
>>234
全力で読みたいです!!
237名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 22:29:33.23 ID:kwBs2tWr
読み終わって戻ってきたらスレが流れててびっくりした
>>225
GJ!
長編お疲れ様でした!

>>235
え、229(=232)が=227でもあるの?
それはすまんかった
226=228=230はわかってる
238名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 23:01:40.87 ID:07KK38vc
>>237
228→229のやりとりはエロパロ板の様式美だろw
直前に投下されてるSS無視とは違うと思うけど…って意味だったんで
226にクレクレしてると言ってるんだと思ってた正直すまんかったw
239名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 23:55:32.28 ID:1kRxile+
ぼくのもの、お疲れ様でした。
ぼくのもの、の職人さんに限らず、人が感情移入出来る程の文章を書けるって素敵。
そんな文才があれば1人で書いてほくそ笑みながら楽しむんだけどww
榎青…に限らず、鍵部屋の色んなエロパロが読みたい!!
240名無しさん@ピンキー:2012/07/07(土) 23:58:49.65 ID:OwWjJuA1
>>234
どうぞよろしくお願いしますです。
2411/3:2012/07/08(日) 04:38:27.43 ID:dA7xUxVY
こんばんは。
前作「月光」にもたくさんの嬉しい感想をありがとうございました。

がっつりエロのご希望があった(?)ので挑戦してみましたが、
どうも私の中にある根本的な榎青イメージと「エロ」は相性が悪いらしく、
結果、かなりひっどい捏造エロになってしまいました。
本当は「Face Down」をイメージして書きたかったんだけどなぁ…どうしてこうなった。

エロというよりも、何かひたすら痛い話です。
タイトルは浮かばなかったので、カウントだけ書いておきます。

*****************************************

「青砥さん…愛してますか?」
息もつけないほど追い上げられて、突き落とされてはまた追い上げられる。
シーツの海に伏せながら、私はそれでも答えようとして口を開く。
「好きです…好き、です、えのもとさ……っあぁっ」
しかし返事の代わりに口からこぼれたのは、耳を塞ぎたくなるような嬌声だった。

* * *

どうしてこんな風にしても、この人は『壊れない』なんて言えるんだろう。
胡乱な意識の中で、榎本は考えていた。それはこのような行為の最中に、いつも榎本の頭の中にわき起こる疑問だった。
この優しさが、強さが、時として自分に窒息させるほどの惨めさを与え、追い詰める。その憧憬と反動的に燃え上がる嫉妬に、引き起こされる憎しみに、焼き尽くされそうになる。
「嘘をつかないでください。本当は、僕の身体が欲しいだけなんでしょう?」
冷たく嘲るような口調で、榎本は囁き、それを聞いて、純子は懸命に首を振る。
「青砥さん。貴女は僕が欲しいだけなんですよ。だから僕に『好き』とか言えるんです。突き込まれてぐちゃぐちゃに犯されて……違いますか?」
榎本の言葉の中に自嘲にも似た響きを感じ取り、純子は必死で反論を試みる。
しかし榎本は純子に言葉を続けさせないように、背後から貫いたまま強引に彼女の身体を裏返した。足首をつかんで足を大きく広げさせられ、無理矢理な体勢に筋肉がピンと張る。
太ももの内側を撫で上げると、純子が背中を弓なりに大きく反らせる。
素直な反応に、憎しみにも似た激しい感情を刺激され、榎本は足を折り込むかのような体勢のまま再び純子を貫く。
「――っ!!い…っ……たぁ…ぃ」
2422/3:2012/07/08(日) 04:39:17.51 ID:dA7xUxVY
* * *

必要なのはそこだけ、と言わんばかりの榎本さんの抱き方。腰をきつく掴まれて掻き出されるように内部を抉られる。限界まで広げられた局部に、焼けつく様な痛みを感じる。
しかし、榎本さんの欲情の証が、心の一部が、自分の身体の中に入り込んでいるかと思うと。それだけで狂気にも似たような破戒的な快楽を感じてしまう。
過激になった内側は一層蠢いて、榎本さんを取り込もうとする。激しい痛みと、相反する暴虐の快楽。
たとえこのまま榎本さんに壊されてしまっても、今ならもう、それでもいい、とまで思えてしまう。

けれども、私には壊れることが出来ない。
もし私が壊れてしまったら、一体誰が、私の愛しい彼を守ってやれるのか? 誰が、暴走する榎本さんの心を受け止めてやれるというのか。
それは、私にしか出来ないことなのだ。

* * *

「終わりにしましょう」
榎本がぽつりと告げた。
何のためらいもなく純子の中から、熱く強いままの己を引き抜いた。その摩擦で、純子は背を仰げ反らせて崩れ落ちる。
「な…んで……どうして…」
「別に理由はありません。たとえあったとしても、それを貴女に言う必要がありますか?」
自分に抱かれて感じ、気持ち良さそうに行為に没頭する純子を見ると、榎本は心のどこかがざわめく。暖かい何かが胸の中にポット生まれてくるような、そんな気分になりかけるのを殺して、彼女をもっと汚さなくてはと焦る。
(もっと要求させ、喘がせ、狂わせ、溺れさせなくては―――)
「やめないで……こ、んな、途中で……っん…」
ひとりでに腰をうねらせて悶えている純子は、どうしようもなく淫らがましい。
「榎本さん、好きです…榎本さんだけですから、私にはあなただけですから……して、ください…」
(―――やはり、まだ足りない)
「では、態度で示して下さい」
榎本は全てをさらしたまま、ベッドヘッドにもたれ掛った。
「言葉なんてもの、信用できるわけありませんから」
どうするのか、と目だけで問いかけると、荒く短い呼吸をしながら、純子は濡れたシーツの上を榎本に向かって這い寄った。
手を差し伸べ、怒張した榎本のそれを優しく握る。少しの間黙って見つめていたが、やがて目を伏せて顔を寄せる。
舌を伸ばして丁寧に舐めあげると、すでに熱く硬かったものが、さらに硬度を増して大きくなる。純子は舌を巻きつけそれをなぞり、再び自分を犯すものとなるまで繰り返し続けた。

親の言いつけを守る子どもの様に一途な純子の表情を見下ろしながら、榎本はまた胸に柔らかいものが生じようとしているのを感じていた。
さらさらと動く純子の髪の毛に指を絡め感触を味わいたくなる。
(愛している――と声をかけたら、貴女はどんな顔をするのでしょうね?)
思わず手が動きそうになり、純子の首をつかんで固定して、腰を前に突き出した。榎本のそれを口に含んで愛撫していた純子は、いきなり喉の奥深くにまで詰め込まれて奇妙な声を漏らす。
喉の奥が収縮して榎本を締め付ける。口を閉じられない純子からは唾液が流れ出て、榎本を伝い、またシーツに新たな染みを作った。

2433/3:2012/07/08(日) 04:40:02.13 ID:dA7xUxVY
* * *

榎本さんのそれを近くで見ると、私は何も考えないようにして行為を営んだ。そうしなければ、また考えたくないことを色々と考えてしまうからだ。
口内に引き入れ吸い上げていると、前触れもなく奥にまで押し込まれる。首を抱えられ、呼吸も出来ないほどいっぱいまで、私は榎本さんをのみ込む。意識が、一層不確かなものになる。

―――わかっている。
榎本さんは、もっと私に要求させたいのだ。もっともっと私を狂わせ、自分を必要とさせなければ気が済まないのだ。
理性的な考えの一方で、身体の方はどんどん抑えがきかなくなる。私は重たくなった腰を揺らせながら彼を愛した。

可愛そうな榎本さん。結局彼は誰のことも信用することが出来ないのだ。
それは、私に対しても同じだ。私のことすら、彼は本心からは信用できない。そしてその不安の鬱積が限界を超えると、こんなやり方で榎本さんは私を抱く。
肉欲にとらわれた私が、それだけの理由でも彼を必要としている。そう思いこんで、そう願って、間違った榎本さんは私を抱く。
そう、全ては間違っている。いずれにせよ彼が気づかないだけで、私は榎本さんのものなのに。

ぎしぎしと音がする。榎本さんの指が身体のあちこちに触れているのが分かる。抜き出ては貫かれる度に、彼自身がさらに加速して力を増して膨れ上がる。
限界が近くなり、口からはもはや声にならない叫びしか出てこない。
「青砥さん……―――――っ!」
榎本さんが言ったことが聞き取れない。しかし、私の意識はすでに手を離れてしまい、もはやどうしようもない。

* * *

榎本は白く染まった純子の身体をじっと眺めていた。純子の焼けていない身体に、その濁った色は浮き出して穢れを主張する。
それでも、今の純子は清らかに見える。普段は感じられない聖性すら帯びて感じられることがある。
気絶したまま裸の純子を優しく抱き上げ、抱きしめる。榎本はいとおしい思いを込めて、純子の身体をなぞる。涙で腫れあがった瞼、指の跡が青く残った手首、そしてどんな暗闇からでも榎本を救い出す言葉をつむぐ唇に、口づけた。

「愛しています、青砥さん……大切にしてさしあげたいのに、どうして僕は、こういう方法でしか表せないのでしょうね…」

声を震わせながら、榎本は純子の名前を繰り返す。
その腕の中で、純子は薄く目を開けていた。まばたきをすると、その瞳からは雫が一つ、汚れたシーツへとこぼれ落ちた。

もちろん榎本は、それを知らない―――

<終>
244名無しさん@ピンキー:2012/07/08(日) 09:33:37.75 ID:3PUtNjoM
>>241
うああぁぁ。切ないよぅ。

榎本はどうしても自分が愛されてるって信じられないんだね。
自分のことを憎んでるんだろうか。
成長過程に自分が愛されるわけないって信じさせるに至る要因が何かあったんだろうか。
その傷を癒す鍵を見つけることが純子にできるんだろうか・・・。
245名無しさん@ピンキー:2012/07/08(日) 16:44:13.00 ID:o8pBtBMM
>>241
続々と新作投下ありがとうございます。
たしかに主題歌のイメージとは違うかもしれませんが、
これはこれで素敵なシリアスダーク榎青だと思います!
榎本は「愛してる」と言うのに、
純子は「好きです」としか言わないのはわざとですか?

この榎本が真の意味で救われるまでを見たいような
これはこれで完結でいてほしいような。

とにかくGJでした!また新作楽しみにしてます!
246名無しさん@ピンキー:2012/07/08(日) 18:09:24.39 ID:d/bDQseZ
>>241
GJGJGJ!
深いですねー。榎本さんの苦悩と渇望、青砥さんの赦し・・・。
なんか凄すぎます。すとーりーの切り口が秀逸!

足元にも及びませんが平凡な榎本さんと青砥のある一日を書きました。
もし良かったらお読みください。
原作の二人の話で青砥に惹かれてまっとうな人生を考え始めたかもしれない
榎本さんを父性愛の視点から描きました。
247ある日の二人:2012/07/08(日) 18:10:10.10 ID:d/bDQseZ
もうひと月以上榎本と会っていない。明日から3連休だというのに何の連絡も伝えないケータイに
ひとしきり文句を言い仕方なくオフィスのドアを滑り抜けると、純子は代わり映えのしない足取りで
家路を急ぐことにした。
喉の奥がジリジリと焼けるように痛い。風邪をひいてしまったらしい。散々な休暇になりそうだ。

電車を乗り継ぎ、それでも3日間日をしのげるだけの食料や飲み物を買って駅からの10分を歩くと
既に喉は悲鳴を上げ、ざわざわと悪寒がしてくる。「最悪、最悪!」そのままソファに突っ伏してしまう。

それからどの位時間が過ぎたのか、ふと耳を澄ますとバッグの中で虐げられ苛められたケータイが鳴っていた。
「ハイ、青砥です」
「榎本です」
「なんでしょうか?」
「何ということもありませんが、これからお会い出来ないものかと思いまして。それにしても今日は随分な
ハスキーボイスなんですね」
「元々悪声ですが、何か?」
「ひと月も連絡しなかったからご機嫌を損ねましたか?それともブルーデーですか?」
「ったく・・・そんなの貴方に関係ないでしょう」
「食事がまだでしたら、何か美味そうなものを見繕って行きますが」
「ありがとう、でも悪いけど、また今度」
電話が済むまで堪えようとしていたのにゴホゴホと咳をしてしまう。
「青砥先生、大丈夫ですか、風邪をひかれた?鬼の霍乱というやつですか?」
体調の優れない女をからかうなんて、何て嫌味なんだろう。性格が悪いとは思っていたけど意地悪な男だわ。
「そうですとも、鬼とでも悪魔とでもお好きなように、では、さようなら」

++++++++++++++++++++++

ピンポンと遠くで来客を告げる音がする。宅急便なら明日でもいいか。
「配達の方ごめんなさい。でも寒くて寒くてそこまでいけません。ごめんなさい」
そう独り言ちると玄関の向こうに居るはずの宅急便の人がすぐそばで返事をした。
「いいんですよ、お客様。私はこの程度のセキュリティであれば鍵要らずの人間ですから、お気になさらず」
この声は・・・。熱に浮かされぼんやりとした頭の中に運輸会社の制服を着た榎本が伝票に受け取りの
サインを要求する姿が浮かんで消えて行く。
「榎本さん、転職したんですか?」
ーまた随分な転身ぶりですね。泥棒よりはずっとお堅い仕事です。良かった。良かったって、何がー
誰かが優しく手を握った。誰だろう?このあったかい手は・・・。
248ある日の二人2:2012/07/08(日) 18:18:50.99 ID:d/bDQseZ
「榎本さん、あなた・・・なの?」
「ハイ、私です。残念ながら転職はしていませんが」にっこりと微笑む榎本の額から汗が吹き出している。
「汗、かいているの?こんなに・・・寒いのに?」
「暖房を入れたんですよ、それと加湿器、まだ悪寒がするのでしたらこれからもっと熱が出ますからね。
少し頑張って着替えましょうか」
そう言うと榎本は、純子を抱き起こし慣れた手つきで純子から戦闘服のようなスーツとシャツ
ブラを取り上げた。ベッドの足元に脱ぎ捨ててあったパジャマがアヒルの柄であったことを口惜しいと
頭の片隅で思いながらも、それを着せられると安心したように榎本の胸に顔を埋めた。
「まだですよ、青砥先生。これをお飲みなさい」
白湯と風邪薬を促される。喉が渇いていたらしく貪るように白湯を飲み干すと前後不覚にベッドに倒れ込んだ。


閉塞していた鼻の通りが良くなって純子はずっと開けていた口を閉じることが出来た。

ー誰かが胸にスースーしたジェルのようなものを塗ってくれている
 「お母さん?お母さんなのね。小さい時もこうやってくれたわね」ー
母と人違いされた榎本は純子の頬に優しくキスをした。「おやすみなさい、純子さん」

+++++++++++

ふと目覚めると隣には榎本の寝顔があった。どうしてここで寝ているのだろうかと訝りながらも
昨夜帰宅した後の記憶を辿ると、余りの気だるさと悪寒で着替える余裕もなくベッドに潜り込んだこと
榎本の額の汗、差し出された湯呑のお湯をがぶ飲みした場面が蘇る。
部屋の片隅にはタオルやスーツ、恐らくは榎本が着替えをさせただろう下着が小さな山になって
テーブルの上には体温計や風邪薬の壜、メントールのジェル、洗面器にポカリスエットの缶となぜか哺乳瓶。
「鍵もドアチェーンもしていたのに・・・」どうやって部屋に入ったのかという言葉を飲み込んで我に返る。
恐らくは電話のこちら側の声の異変を察した榎本が、自分の身を案じ自慢の腕でピッキングしたに違いない。
そういえば母がいたような気がしたが、あれが榎本だったのだろうか。
何やらおかしくなってうふふと笑い、かすかな声で話しかける。
「母さんの正体見たり榎本径」
そっと榎本に布団をかけようとすると目をつぶったまま低い声がした。
「母上に間違えられていたとは光栄ですね」

母上に間違えられた光栄ついでに・・・と言った榎本は「昼前から外せない野暮用がありまして」と前置きし
純子の夕食までの準備をし、散らかった洗濯物をランドリーボックスに放りこみ、あちこちを片付けると
急かされるようにベランダでタバコを一本吸い純子を抱きしめキスをして脱兎のごとくマンションの外に
駆け出して行った。
「どんな野暮用なんだか・・・。ネズミなんだから脱兎っていう表現じゃないわね」
榎本の準備してくれたお粥を口に運ぶ。「美味しい・・・あなたには、勝てないわ」純子は思わず
小さなため息をついた。
249ある日の二人3:2012/07/08(日) 18:20:52.40 ID:d/bDQseZ
そう言えば「野暮用」とやらがいつ終わるのか、いつ戻るのかも尋ねたわけではなかった。その夜
榎本は遂に帰らず、純子は昨夜のようにまた罪のないケータイに悪態をついて寂しい眠りについた。
翌朝になるとすっかり体調は回復し、そうなると榎本がどこに行ったのか何かあったのではないかと
そんなことばかりが頭をもたげる。もしかすると先日の密室事件の貿易会社に行ったのでは?
そこで89・・いや貿易会社関係者と何かトラブルになったのかしら?今頃東京湾に投げ捨てられて
居るんじゃ・・・。いやいや、そんなことは。
まったく「恋人が病気だというのに、一体どこをほっつき歩いているんだか」夕べの恩も忘れて
ブツブツ文句を言いながら汗臭い下着やいまいましいアヒルの柄のパジャマをビートウォッシュの洗濯機に
放りこむ。
こんなにいっぱい着替えたんだわ・・・。ダラダラと汗をかき体に張り付いた下着を剥ぎ取られ
熱いタオルで体を拭かれたような記憶が浮かんでくると同時に純子の頭に「負け」に似た文字も
浮かんで来る。汗臭い2枚のショーツを洗濯物の中に見つけたからだ。
深夜12時を少し過ぎる頃ピンポンと来客を知らせる音が鳴った。
「私です」

「もう帰ってこないのかと思ったわ」
「まさか」
純子が抱きしめると、榎本は抱きしめられたまま純子の唇を優しく奪った。
「お風呂に入ったんですか?」
「・・・キレイにしておきたかったから・・・」
榎本の熱っぽい瞳に見つめられ、純子ははにかむように目を閉じた。
++++++++
柔らかい乳房に口付の雨を降らせていた唇が純子の耳元まで上り耳朶をくすぐる。瞼に首筋にと唇が這うと
ひと月も愛を受けなかった純子の身体は容易に薄紅色に染まり甘い声が溢れる。
壊れ物を扱うようにそっと純子のそこに侵入した指がゆっくりと蠢き始めると、柔らかな襞の奥から
しっとりとした蜜がわき出し、榎本の指の動きを更になめらかにしていく。純子の反応を確かめながら
柔らかい内壁を探っていた榎本の指は、一番甘い声を上げる場所を見つけると一心にその部分を擦り上げる。
「貴女はここでしたね」
ーーアナタハココデシタネーーーふと榎本の口から漏れた言葉の端に違和感を感じたが内壁を攻め上げる
心地よさが勝る。
「青砥先生、貴女の一番可愛らしいところを私に全部見せてください」
「・・・(もう、何度も見ているじゃないの)・・・」
「いつも私があなたの体を開くから・・・そうではなく貴女の方から体を開いて欲しいんです」
そうだったかしら?純子は考えてみるが答えが分からない。
「見せてください」
その声に促されるように純子はおずおずと榎本の前に両膝を割った。
「貴女のはどうしてこんなに美味しそうな色なんでしょう?」
ーーアナタノハーーどう言う意味だろう?まあ、いいか。
「私の色?」
「はい、貴女の一番可愛らしい所が水蜜桃のようなものですから。貴女は見たことがないでしょう?」
「あ、あああああるわけないでしょう」
「でしょうね」
桃色の花びらを割り、舌でついばむように榎本が愛撫すると、純子は腰から下がとろけていく感覚に襲われ
切ない切れ切れの声がこぼれ落ちる。この男は手先だけでなく舌先まで器用すぎる。色んな意味でアヤシイ。
繊細かつ丹念に動き回る舌の感触がたまらなく純子の秘部の疼きを誘う。
「榎本さん、え・・・の・・・」
「はい」
「わ・・・たし・・・もう・・・・」
「もう、何ですか?」
榎本の慈しむような目に捉えられ、純子は自分が総てを男の目の前にさらけ出していることに痺れるような
快感を覚えた。
「貴方がほしいんです」
「私もですよ、青砥先生」
「こっちに、来て」
純子が手招きするように榎本の肩に手を伸ばすと、榎本は純子の中心にゆっくりと入っていった。

250ある日の二人4:2012/07/08(日) 18:24:38.13 ID:d/bDQseZ
両膝を腕に抱いて胸まで押し上げ、浅く深く榎本の律動が繰り返し繰り返し純子を波のように襲う。
あまりに緩やかなその動きが純子を戸惑わせる。
「うん・・・あぁ・・・どうしてこんな・・・」
「貴女をたくさんたくさん味わいたいんです。美味しいんですから」榎本は微笑みながらそう答える。
榎本のその言葉が純子の体の芯を更に熱くさせ、榎本の男性を包み込んでいる湿った襞がふるふると震え出す。
純子の体が震え出すと榎本は暫し動きを止めた。
「まだですよ、青砥先生」
その言葉も虚しく、純子は胸がいっぱいになるような快感に堪え切れず極みに達してしまう。
「あ・・・ぁぅ・・・」
「ふふ・・・一人でイってしまいましたね。私は置いてけぼりでどうしたらいいでしょう?」
「どうって、どうしたらいいの?」
「そうですね、こんなのは・・・お気に召しませんか」
榎本は体を引き抜くと、純子に両手両足を着かせるようにし背後から抱きしめた。乳房をまさぐりながら
うなじに肩に唇を滑らせる。背骨をなぞるように口づけされると純子の体は自然と後ろから榎本を受け入れる
体制を取り、しなやかに榎本の体を迎え入れた。
榎本の息づかいが次第に純子の背中で激しさを増していき、律動もそれに同調していく。
強く弱く純子の内部を襲ううねりが律動が二人の間の水音を大きく響かせる。
「え・・の・・・・とさん・・・」
「はい」
「あ・・・あ」純子はもう涙声になっていた。
純子のくぐもった声を聴くと榎本も耐えかねたように息を吐く。後ろから力いっぱい純子の背中を抱きしめ
純子の奥の奥まで密着させ突き動かす。榎本の体が躊躇いのない激しさで純子の全てを奪いにかかる。
「もう、ダメ・・・」
「今度は一緒にですよ。いっしょに・・・」
強烈に収縮を始めた純子の温かい襞の動きを感じたその刹那に、榎本は総てを放出した。
++++++++
榎本が純子の潤んだ瞳を見つめている。
「少々乱暴だったでしょうか?」
「少々じゃないわ」
「それはどうも、つい」
「つい、何なの?」
「・・・つい、貴女の何もかもを奪ってしまいたくなりました」
「・・・(もう、奪っているじゃないの)榎本さん、あなたは奪うのが得意じゃないですか」
「どう言う意味でしょう?」
「わからないんですかね」
「ええ、まるで見当がつきません」
「なら、いいです」
「いいんですか?」
「いいですよ」
どちらからともなく唇を重ね合い、舌が甘く絡み合う。
どちらからともなく見つめ合う。
どちらからともなく微笑みを交わし合う。
「そうだ、榎本さん、あの哺乳瓶は何なの?」
「あれは・・・・・・」
榎本が答えようとすると、すうすうと寝息が聴こえてきた。
榎本は笑いを噛み締めながらベッドサイドの仄かな灯りを消した。
ー青砥先生、私は最近こんな夢を見たんです。仕事を終えたら私たちの子供を保育園に迎えに行きます。
貴女は遅くなってゴメンごめんと言いながら帰って来た。子供は母が仕事にかまけているのが不満で貴女に
強烈にあたるんです。父さんが好きだよ。父さんはいつも美味しいご飯を作ってくれる。遊んでくれる。
ねんねの時絵本を読んでくれる。父さんがいれば良い。母さんは仕事だけしてればいいんだ。父さんとなら
一緒に家を出て旅をするよって。でも私は娘か息子をこう諌めるんです。
「母さんは海賊のように世間の荒波を渡っているんだよ。我慢しなさい。父さんがいるじゃないか」とね。
でも私はそんな健気な子供が可愛く、母より父が好きと言われ嬉しくて愛しくて仕方がなく頬ずりをするんです。
こんな夢をみたのは初めてなんですよ。
こんなことを言ったら貴女はどんな顔をするでしょうね。
まあ、夢を見るのは勝手ですからね。けれど私はこの2日で、二人の女性に別れを告げてきました。
永遠にサヨナラとーー

お・わ・り
251ある日の二人:2012/07/08(日) 18:28:52.42 ID:d/bDQseZ
長々と失礼いたしました。書き慣れていないのでコピペする時に
「改行が多すぎます!!」と叱られビビリました。
大事な文がとんでしまい少々消化不良気味です。
読み手に戻ります。
252名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 01:29:35.50 ID:/m9+t4+z
GJ!GJ!
エロ本さんたらっ、もうっ!
どんだけ港があったんすか?w
253榎本に奉仕する純子 1/3:2012/07/09(月) 02:29:47.05 ID:oRnHHU1O
べただけどこんなのどうだろう。

××××××××

「すいません榎本さんっ! わたしのせいで本当にすみませんっ!」
「…………」
 無言を貫く榎本の前で、純子は90度に腰を折り、謝罪を繰り返していた。
 その態度をどう取ったのか。純子は今にも泣きそうな声で「すみません、ごめんなさい」を繰り返す。
 ため息が漏れた。別に純子に腹を立てているわけではない。強いて言えば、自分の愚かさに腹を立てている。
 視線を落とす。その先にあるのは自分の右腕。ギプスと添え木で固められ、三角巾で吊られた腕。
 単純骨折。全治一ヶ月……というのが、医者の診断だった。後遺症の心配はまずない。折れた骨さえくっつけば、元の通り腕を動かすことができるだろう。
 神経を傷つけている様子もないので、完治さえすれば指の動きなどにも何の支障も出ない、と言い切ってもらえた。軽傷とは言えないだろうが、重症と言うにも大げさな、そんな怪我。
 だが。開錠作業が趣味であり仕事でもある榎本にとって、利き腕が使えないというのはかなりの致命傷であるとも言える。
「榎本さあん……」
「……もう結構です。過ぎたことですし。管理の仕方を誤った僕にも責任がありますから」
「な、何でですか! 榎本さんは全然悪くないです! お願いですからわたしを責めてください。さあ、遠慮なく!」
「…………」
 純子を責めればこの怪我が治る、というのなら考えないでもないが。そうでない以上、それは全く意味の無い行為ではないだろうか。若くして弁護士になるほど優秀な頭脳を持つ彼女が、何故、そのような非合理的な提案をするのか。
 そんなことを真剣に悩みながら純子を見つめるが、その泣きそうな表情から回答を推察するのは難しそうだった。
 何故、こんなことになったのか。そこに複雑な事情など何もない。
 いつものように、榎本が勤務する東京総合セキュリティに純子が遊びに来た。開錠作業に没頭する榎本そっちのけで、手土産の菓子を食べ、お茶を飲み、愚痴を漏らし。そして、新しい鍵が増えてます! などと言いながら、備品倉庫をうろうろと探索し始めた。
 そして。不用意に棚の奥にある錠に触って腕を拘束され、パニックになって暴れた瞬間、棚の最上部に保存されていた荷物が落下してきた――
 悲鳴を聞いた榎本が、すぐに歩み寄ろうとしてくれていたのが幸いだった。
 落ちて来た荷物は、とっさに純子をかばった榎本の腕に当たり、その骨をばっきりとへし折ったが。もし榎本がいなければ、それは純子の頭に激突し、骨折どころではない大惨事を引き起こした可能性が高い。
「青砥さんが謝る必要はありません」
「榎本さん……」
「整理の仕方が悪かった、僕の責任です。これほど重量がある荷物を、不安定な棚の上部に仕舞うべきではありませんでした」
 それに、純子を助けたのだって、いわば反射的な行動だった。頭で考えるより先に――「危ない」と意識するより前に、純子を押し倒していたのだ。純子が助けてくれ、と頼んだわけではない。
 これは自分が勝手にやったことなのだから、純子が謝る必要などどこにもない。強がりではなく、榎本は本気でそう考えていた。
 が。どうやら、純子の目には、そうは映らなかったらしい。
「……榎本さんは優しすぎます」
「はい?」
「何でそんなに優しいんですかっ……利き腕ですよ? お仕事にも支障が出るし、あんなに好きな鍵を触ることだってできなくなるのに、どうしてっ……」
「仕事のことは気になさらなくて結構です。どうせ有休が溜まっていましたので、それを消化する形で許可をもらいました」
「でも!」
「左手だけでも開錠作業はできます。むしろ鍛錬になります。本当に気になさらないでください」
 榎本の言葉に、純子はうーうー唸っていたが。
「じゃ、じゃあ! わたし、今日から榎本さんの家に通います!」
「……はい?」
「利き腕が使えないんじゃ、家事が色々滞ると思うんです! それをお手伝いします!」
「あの、青砥さん」
「お願いします、それくらいさせてください。お料理とかお掃除とか、何でもやりますから!」
「…………」
 確かに自分は一人暮らしだ。右腕が使えないとなると、色々と支障は出るだろう、と思う。
 だが、一人暮らしの男の家に無防備に来るというのは、結婚前の女性の行動としてはどうなのだろうか?
 そう聞いてみたいところだが。そんなことを聞けば、よからぬことを考えています、と宣言しているようなものだ。それはそれでまずいような気もする。
254榎本に奉仕する純子 2/3:2012/07/09(月) 02:33:39.51 ID:oRnHHU1O
 どう言ったものか、と悩んでいる間に、純子は勝手に倉庫の片づけを行い、榎本の鞄を担ぎ上げた。
「さあ、榎本さん、行きましょう! まずは夕ご飯ですよね。何が食べたいですか?」
「…………」
 自分は日頃からコンビニ弁当や外食で済ませているので、左腕だけでも何とかなります。
 という榎本の訴えは、聞き入れてもらえる様子はなかった。

 自分の家に若い女性が訪れるのは、これが初めてではないだろうか?
 必要最低限の家具しか置いていない1LDKのマンション。リビングのソファに腰かけて、榎本は、頭を抱えていた。
 純子は、甲斐甲斐しく家事をこなしてくれた。
 帰宅するなり、誕生日ですか、と突っ込みたくなるほど豪勢な料理を作り、ふるまってくれた。
 料理の味には何の不満もなかったが、「はい榎本さん。あーんしてください」などと言い出したときは、どうかお願いですから放っておいてくださいと土下座したくなった。
 料理の後は、掃除をしますと言い出して部屋中を磨き上げてくれた。大変ありがたいことだが、大掃除でもあるまいし、家具の裏側まで掃除機をかける必要はないだろうと思う。
 掃除が終わると洗濯をしましょう、と言い出した。仮にも若い独身女性が、彼氏でもない男の使用済み下着を触るのはいかがなものかと思うのだが、榎本の認識がおかしいのだろうか。
 夜中に洗濯機を回すのは近所迷惑になるので、とやんわり拒否したが。では明日の朝にやります、と返されて、本気で問いただしたくなった。
 ――あなたは、まさか今夜、うちに泊まっていくつもりなのですか……?
 とうに終電など終わった時間。風呂を洗うだのトイレを洗うだのと動き回る純子を見やって、榎本は深い深いため息をついた。
 責任感が強いのは美徳であると思うが。ここまでされると、自分は全く男として認識されていないのか、と腹立たしくなる。
「榎本さんっ! お風呂掃除もトイレ掃除も終わりました!」
「……ありがとうございます」
「次、何をしましょうか? 何でも言ってください。何でもやりますからっ!」
「あの、青砥さん」
「榎本さんは、明日からお仕事はお休みなんですよね?
 じゃあ、早起きする必要はないですよね。朝食、何が食べたいですか?
 わたしは仕事に行かなきゃいけませんから、作って冷蔵庫に入れておきますね。後は……何がありますか? 本当に、何でも言ってくださいね!」
「…………」
 まさかと思ったが、本気で泊まり込む気のようだ。頼むから勘弁して欲しい。純子がどう思っているのかは知らないが、榎本とて男である。若い女性が傍にいれば、相応に変な気を起こすこともある。
「……あまり、そういうことは、軽々しく口にされない方がいいと思います」
「はい?」
「男の家にあがりこんで、何でもします、などと、軽々しく口にしない方がいいと思います。そんなことを言って、では性欲処理を手伝ってくれ、と言われたら、どうする気ですか」
「はい??」
 榎本の言葉に、純子はきょとんとして――ついで、顔が真っ赤に染まった。
「え、え、ええとっ……あのっ……」
「…………」
 はあ、とため息をついて、目をそらす。
 さすがにこれだけ言えばわかっただろう。榎本は純子が思っているほど聖人君子ではない。女性と鍵とどちらかを選べと言われたら鍵を選ぶかもしれないが、それは女性に一切興味が無い、という意味ではないのだ。
 とりあえず、今日は速やかにお帰り願おう。タクシーを呼んだ方がいいか。ここからだと純子の家までタクシー代はいくらかかるだろうか……
 と、榎本がそんなことを考えていたときだった。
「あ、あのっ」
「……はい?」
「榎本さんが、そうして欲しいとおっしゃるなら!」
「はい??」
「わ、わたしでよければっ! 榎本さんが、それをお望みなら! お手伝いしますけどっ!」
「あの……何を、ですか?」
255榎本に奉仕する純子 3/3:2012/07/09(月) 02:34:38.55 ID:oRnHHU1O
 自分で言ったことを忘れたわけではないが。純子の反応があまりにも意外すぎて、思考がついていかなかった。
「ですからっ……せ、性欲処理、です! そうですよね。榎本さんだって男の人ですもんねっ……そ、そういうことだってしますよね? いいですよっ。何でもします、って言ったのはわたしですから! 自分で言ったことの責任は取ります!」
「…………」
 数分前の自分を殴り倒したい。
 榎本の心の叫びが、純子に通じる様子はなかった。

 いえ冗談です結構ですお願いですからやめてください――という榎本の悲鳴は黙殺された。
 強引に風呂場に連行される。さあ、服を脱いでください――と言われ、勘弁してくださいと本気で頭を下げた。
「すいません。先ほどの発言は忘れてください。あくまでも例え話です」
「遠慮なさらずにっ! 大丈夫です。以前、仕事で風俗に勤めてらっしゃる女性と話をしたことがあります。そのときに色々教えていただきましたので」
「何を教えていただいたのかは知りませんが結構です。お願いですから」
「……わたしじゃ不満でしょうか」
「…………」
「確かに、わたし、同世代の女性と比べて胸もあんまりないし、すごく美人とか綺麗ってわけでもありません。榎本さんの趣味からは外れてると思いますが……」
「何故、そこで僕の趣味の話が出るのでしょうか」
「ベッドの下から、そういった雑誌を見つけました。榎本さんて、胸が大きくて色っぽい女性が好みなんですよね? すみません。わたしなんか、榎本さんの好みとは正反対ですよね……」
「…………」
 しつこいようだが、榎本とて男である。世間から鍵と防犯にしか興味がないと思われ、変人、オタクと呼ばれていても、別に性欲が無いわけではない。
 咳払いをして、気まずい空気を振り払う。どうやら、榎本が考えているよりは、純子は男の生理現象に理解を示していたようだが。だからといってそれとこれとは話が別だ。
「そういう意味ではありません。青砥さんは、僕の恋人でもなければ妻でもない。ましてや、金銭を得てそういった奉仕をする職業についているわけでもない。そのような方にそんなことをお願いするわけにはいかない、ということです」
「…………」
「怪我について責任を感じて下さるのはありがたいですが。だからと言って何もかも面倒を看ていただく必要などありません。お願いですから」
「……わたしがしてあげたい、って言ってもですか?」
「はい?」
 純子の発言が、脳に浸透し、意味を理解するまで、長い時間が必要だった。
「わたしがしてあげたいんです。榎本さんのためにしてあげたい。それじゃ駄目ですか?」
「あの、青砥さん」
「わたし、知識を持っているだけで、経験はあまりありません。だから、榎本さんを満足させてあげられるかはわかりませんけどっ……でも、してあげたいんです。助けてもらったからじゃありません。わたしは……」
「…………」
「わたしは……」
 うつむく純子の顔は真っ赤になっていて、けれど、どこか期待をこめた視線が、ちらり、ちらりと向けられる。
 榎本は人の機微には疎い方だが。さすがに、これだけ言われれば、純子が何を言いたいのか、は伝わってきた。
(……何故?)
 浮かんだのは純粋な疑問。どうやら、彼女は自分に好意を抱いてくれているらしいが。自分などのどこがいいのだろうか?
 弁護士の彼女に比べて、一般企業の平社員であり、目を見張るほど外見がいいわけでもなく、話が面白いわけでもない。日々、鍵や防犯のことばかり考えている自分の、何がいいのだろうか……?
 いや、とりあえず。それは悩んでも仕方のないことだろう。榎本が彼女でない以上、彼女の本心など、わかるはずもないのだから。
 ただ、一つ確かなことは――
「……では……お願いしてもよろしいですか……?」
 彼女の好意を、榎本は迷惑だ、とは思っていない。
 つまりは、そういうことだ。

××××××××

 べたシチュ妄想でした。
256名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 03:08:41.95 ID:ZyHw1x7K
眠れなくて、このスレ見に来て正解だった!
ベタ最高!!
257名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 06:18:57.83 ID:8VpQA0sS
え?これ続くんだよね?
258名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 07:40:42.44 ID:QtEW90bz
>>255
やーん、いい!GJ!
続いてほしいわ〜!
259名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 09:21:08.08 ID:6aDg013q
これから投下するのは「硝子のハンマー」以降の話です
別れてからやっと関係が進むので二人は初めて同士にしました
二時間サスペンスっぽくなったので興味がない方は飛ばして下さい
2601・9:2012/07/09(月) 09:21:54.68 ID:6aDg013q
大学生活に慣れた頃榎本はバイト探しを始めそれを知ったゼミの教授から勧められたのが東京総合セキュリティであった
教授からの紹介状を持参して訪問すると渡し主である社長(現在は会長)に気に入られてバイト決定で卒業後に入社する運びになった
「そして今はこの会長さんがいるフランスに榎本さんもいるのですか…」
「この国のよりも凄い鍵の博物館を造るのが僕と会長の夢でしたからね」
スカイプを使いフランスにいる榎本と日本にいる青砥が会話をする
「それではチーム榎本は当分お休みですね。日本に戻ってきたら美味しい和食のお店に案内しますね」
そう言って青砥は時差の事を考え会話を自分のほうから終わらせた
「(榎本さんいきなり空港から電話された時は驚いたけどそういう事情があったのね)」
何も知らない青砥は呑気に笑った
「もう会う事もないでしょう、青砥さん」
電源を落としたPCに向かって榎本が呟いた
密室殺人事件を解決するうちに二人の間には友達とか仲間以上の関係になりたい気持ちが生まれてきた
しかし榎本のほうが距離を置いてそこまでは至らなかった次第である
こうして日本ではお盆が過ぎた頃だと青砥との交流も次第にスカイプから絵手紙にそれは変わっていた
(これで良かったのだ)
同級生に誘われて軽井沢に行って楽しかったと伝える青砥の言葉を見てそう思った
だがそれは間違いだと気付いた
ある日突然立川から電話があって青砥が行方不明になったと知らされた
「今更言っても仕方がないけど、榎本お前が日本にいたら彼女は無事だったと思うよ」
立川のその一言が耳の奥で何度も繰り返され榎本は受話器を握り締めた
(おい、こんな事をしている場合か!)
茫然とする自分を奮い立たせて会長に事情を打ち明けると快く帰国の承諾をくれた
そして青砥の秘書も務めている水城に半日後の成田に着くと連絡したら彼女ではなく多忙のはずの芹沢が榎本を出迎えてくれた
「お帰りなさい、榎本さん」
「お久し振りです、芹沢先生」
再会の会話が淡々としていたのは青砥が生きていると確信があったからであった
(真の狙いは僕の開錠技術か)
立川から事の詳細を聞いた榎本は今フランスにいる自分を呼び戻してでも破りたい密室があるとわかった
「密室は僕が必ず破ります。そして青砥さんを攫った事を死ぬまで後悔させてやります」
いつもの無表情で榎本は答えた



2612・9:2012/07/09(月) 09:22:36.24 ID:6aDg013q
話は行方不明になった七日前の夜に戻る
青砥は荒神村に赴き明日香を西野から遠藤の娘にする手続きを完了させた
「(明日は西野さんと面会して明日香ちゃんは元気ですと伝えてあげよう)」
帰りのバスの中で青砥は考えていた
「ふぁぁ、何か眠い…」
ここ最近仕事が忙しくて疲れているのかなと感じていた青砥はどうせ終点まで乗るのだからと眠ってしまった
バスにはこの時何人か乗客がいて眠る青砥の姿を見ていた
そして全員が途中下車した為この後バスごと消えるとは誰も思いもしなかった
翌朝バスと運転手は発見されたが青砥の姿はなかった
「運転手は終点の一つ前の停留所で客を乗せた際にスタンガンで襲われ気絶した」
事務所で芹沢が榎本に状況を説明する
「その客が青砥さんを攫っていった」
青砥の持ち物はバスに残されていたのを渡された資料から榎本は知る
「気になるのはピルケースの中身ですね」
そこにあるはずのピルがなくて代わりに青砥の弁護士バッチがあったと記されていた
写真にはバッグとペットボトルの水が写っている。この水から睡眠薬が検出された
一緒に行動していた所為か芹沢だけではなく榎本も青砥が午後七時になるとピルを飲むのを知っている
「これ飲むとニキビが治るのです!」
「何だ!情けないね〜、好い男の為に飲めよ、純子ちゃん〜」
などと青砥をからかう芹沢の姿が榎本の脳裏に蘇った
「ペットボトルは青砥が都内で購入したもの。攫った奴は青砥の行動を一部始終観察しどこかで薬物を混入させたって訳だ」
おそらく青砥の腕時計がバスの中で時を告げピルと一緒にこの水を飲んだ
「これが単独犯だとしたらそれは女性ですね。芹沢先生思い当たりませんか?密室のプロが芹沢先生ではなく実は僕であると知っている女性…」
「ああ、一人だけいるな」
バッチとケースにあった誰かの指紋には前科がありそれは女性であった
それは榎本を備品倉庫室に追いやった女性…
強欲なパトロンから大金を盗みその罪をよりによって榎本に被せた所為で逮捕された女性である
ハッキリ言ってこれは逆恨み以外の何者でもない。でもそれだけに恐ろしい
「出所したベイリーフ前社長の元愛人が青砥さんを攫ったのならば前社長が隠した財産はまだ残っていたのですね」
冷静に見えるが榎本の心は怒りで燃えていた



2623・9:2012/07/09(月) 09:23:20.47 ID:6aDg013q
その夜青砥は空を眺めていた
「うわぁ、綺麗な星空」
久し振りに雨が上がってふと窓の外を見ると半月が明るく庭を照らしていた
バスの中で眠りこけた青砥はいきなり女性に起こされフラフラのままバスを降りた
そして何故かそこから数十キロ先にある隣県のこの村で一人暮らしの老女と暫く同居する羽目になっていた
あの女性が用意したのか老女の家には新品の青砥向きの服や下着が幾つもあった
「(彼女が私を軟禁した本当の目的はあの蔵にかけられた鍵を開ける為だわ)」
庭の向こうには大きくて古い蔵がある
老女の話だと中には何もなくて解体したいが金がかかるから放置しているそうだ
鍵も紛失したままで探す気もないらしい
よく見ると錠前が備品倉庫室にあったものとそっくりである。今はフランスにいる榎本がいれば直ぐに開く代物だろう
「(あの中には何かが隠されている)」
老女の姓は頴原でベイリーフの社長とは親戚関係だとわかった
あの女性は五年前に榎本を苦しめた前社長の愛人で窃盗犯なのだろう
迂闊に動くと老女の身が危うくなると青砥は考え何もしないで時が来るのを待っていた
「ほぉい、純子や。浴衣が出来たぞぃ」
老女は青砥を何故か孫娘と認識してこの村でもうすぐ行われる星祭の為にここに来たのだと村人に吹聴していた
「あ、ありがとう、おばあちゃん」
にっこりと笑って青砥はパジャマを脱ぎ浴衣に着替えた
「ほぉ〜、別嬪さんだぁ。これなら純子の彼もイチコロだわぁ」
ニコニコと老女が笑うのを見て青砥も微笑む
「(彼かぁ、そんな人いないわ)」
何故かふとフランスにいる榎本の顔が浮かぶ
そして胸の奥が少し痛くなった
密室事件が相次いだ時には仲良くなっていたのは確かだが友達以上恋人未満で終わった
「ちょっと散歩してくるね」
「彼と仲良くしぃ〜」
家にいるのが辛くなって外に出て取り敢えず星祭が行われる会場に行ってみる
当たり前だが誰もいない。道路の両脇に屋台が立つらしくあれこれと置いてあった
星祭とは毎年旧暦の七夕に行われる祭で今年は今月の二十四日に行われる
「織姫様は旦那様に会えるのか。良いな〜、羨ましいな〜」
足のサイズが偶然同じなので老女から借りた下駄をカランコロンと鳴らしながら浴衣姿の青砥が夜空に向かって叫んだ
「へ〜え、あの二人は夫婦だったのですか」
不意に背後から榎本の声が聞こえてきた



2634・9:2012/07/09(月) 09:24:07.32 ID:6aDg013q
「え、え、え、の…も、と、さん?」
「お久し振りですね、青砥さん」
驚きの表情が隠せない青砥とは裏腹に榎本は感情を表には出さない顔をしていた
少し向こうに東京総合セキュリティのワゴンがあるのが見えた
調べてゆくうちに榎本は頴原姓の社長の親戚がこの村に一人いるのを知った
もうすぐ星祭が行われるのも知って元愛人はおそらくそれに便乗して榎本を呼び寄せ蔵の鍵を開けさせるのが目的だと推理した
そこで芹沢がここの警察に伝え元愛人は見事逮捕されたのを青砥はまだ知らない
「私が、ここに…」
榎本に対してどうしてここにいるのかを尋ねようとしたが強く抱き締められ出来なかった
「無事で良かった」
「……」
榎本の手が震えているのを見て何も言えなくなってしまったのであった
明日の朝は警察に行く為に成り行きで榎本も老女の家に泊まる事になった
すると今度は何故か老女の中では榎本が青砥の夫と認識されてしまった
「純子と旦那さんはこっちで寝やぁ〜」
榎本が風呂に入っている間に老女は母屋ではなく離れに寝る用意をしていた
二つの布団がくっ付いて敷かれていた
「(ちょ、ちょっと、おばあちゃん!!)」
(お婆さん、GJ!)
顔を真っ赤にして焦る青砥に対して風呂から出た榎本は母屋にいる老女に向かって親指を立てた
「あの、青砥さん」
「は、はい!」
Tシャツにジャージという今迄見た事がないラフな姿をした榎本に話しかけられる
一方の榎本も浴衣を着た青砥を見て少し緊張しているが相変わらず顔には出ない
「左手を出して下さい」
「こ、こうですか?」
言われた通りに青砥は左手を出した。すると榎本はその薬指に指輪を填めた
「え?これって…」
「僕は貴女が好きです」
素直な気持ちを榎本は青砥に告げた
「これは今迄それを黙っていたお詫びです」
ピンク色のダイヤモンドが付いたプラチナの指輪は青砥の薬指には少し大きかった
「(あのぉ、それなら中指に…)」
いきなりの告白に驚く青砥は少しだけ抜けた事を考えてしまった
「僕と結婚して下さい」
ストレートに気持ちを伝えた
「は、はい!」
反射的にそう答えた青砥の顔は戸惑い過ぎて困ったように見えた



264名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 09:24:18.36 ID:6FHTD7O9
>>250
GJです!!
原作終わるときは榎本さん足洗って青砥先生とくっつかないかなーと妄想してる自分にはおいしかったです
プレイボーイが一途になるっていいですね…!

>>255
GJ!ベタでも良かったです!自分も続き読みたい…!

あと遅くなったけど>>234もぜひ読みたいのでお願いします…!
2655・9:2012/07/09(月) 09:24:49.55 ID:6aDg013q
そこにいきなりキスをされる青砥であった
大学生の時先輩から自分と付き合って欲しいと言われて以来である
それから付き合うようになったのだが先輩は青砥よりも友人や就職活動が大事になり自然消滅していった
まぁ早い話青砥にはキス以上の経験はない。このままいくと榎本が初めての男になる
「(えっ、これって…)」
ふと、『何だ!情けないね〜、好い男の為に飲めよ、純子ちゃん〜』とぼやく芹沢の声が頭の中に蘇った
睡眠薬が完全に切れてここの家の母屋で目を覚ました青砥はカサッと音がして横を見るとピルがそこにあった
「何でこれがポケットに?」
バスの中で腕時計のアラームが鳴ってピルを飲む時間だと教えてくれたからピルケースをバッグから取り出して一錠口に入れて都内で買ったペットボトルの水と一緒に飲んだ
そして残りのこれはピルケースに戻してから個人的なメモに飲んだ事を記しておいたのも覚えている
「あっ、そういえば!」
そういえばこのスーツの襟に付けたバッチが外れそうになっていたから落とさないようにピルケースに入れようとしたが二つは入らなかったなと思い出した
このピルケースにピルとバッチが入らないというのが青砥を攫った元愛人を若干混乱させ逮捕のきっかけとなるのだが今は関係ない
天の川を挟む彦星と織姫が一年に一度七夕の夜に愛し合うようにフランスと日本に離れていた榎本と青砥が今夜結ばれるのであった
母屋の老女は既に就寝している
青砥よりも背の高い榎本が蛍光灯から下がる紐を引っ張って消す
星祭に相応しい銀河の明かりが離れを照らす
敷かれた布団の一つに青砥をそっと寝かせてその浴衣を脱がせてゆく
榎本のほうも自らTシャツを脱いで体と体を重ねようとする
「名前で呼んでいいですか?」
「ど、どうぞ」
心臓がバクバクしてどもりがちな青砥に対し榎本のほうは冷静そのものに見えた
でもそれは青砥の思い込みで榎本は榎本なりに緊張していた
あれだけ浴衣を脱がす時は大胆だった両手が白くて薄い下着に触れると震えていた
榎本のほうも性知識だけはあるが女を抱くのは初めてであった
(ここまで来て彼女に嫌われたくない)
だから鍵を失った古い錠前を開ける時以上に緊張するし興奮もする
星明りだけの薄ぼんやりとした世界なら多分上手くやれると考える榎本であった



2666・9:2012/07/09(月) 09:25:42.35 ID:6aDg013q
「ん、は、あ…」
浴衣を着る前に飲んだピルの一錠が安心感を与えるのか青砥の口からはあられもない声が上がりまくる
「あぁぅ〜〜〜」
それが耳に届く度に榎本の雄の部分が漲ってくるのを知ってか声は益々大きくなる
「そろそろ行きますよ、純子さん」
「……は、…い」
いつの間にか眼鏡を外した榎本がもっと愛しあいたくて合図を送るのに小さく肯く
「うぐっ、い…あぁ〜」
繊細な動きをする指とも荒い息遣いを伴う舌とも違う異質なものが青砥の中に入ってくる
(ゆっくり、ゆっくり)
生娘と経験した男の感想を参考にしてみても目の前にいる青砥が苦しがっているのを見ると気が引ける
でもその一方で獣のように青砥の体を貪りたい欲望に駆られる榎本であった
ぬむっといやらしい音がする
ぴぴっ!と裂けてぴゅぅと何かが噴き出る音もする
「あぁぁっ、らぁぁめぇぇ!」
初めて男を受け入れる青砥のそこは痛みしかまだ感じないのだが大好きな榎本のものだと思って必死に堪える
そのやる気を削ぐ口を自ら塞ぎ歯を食い縛る
「うぉ!あの…、痛いです」
「え?あっ、ごめんなさい!!」
余計な力があそこに入ってしまい榎本のほうも痛かったらしい
しかしそれが功を奏したのか奥まですんなりと入った
「は、入ったぁ」
「私たち、一つになれたのね」
「あぁ」
そう言うと榎本は青砥の唇に唇を重ねた
最初のそれとは違う口の中を貪るような舌を絡め合う激しさがある
「はぁ、径さん…」
ようやく離されて息が出来るようになった時青砥のほうも榎本を名前で呼ぶようになった
「きゃあぅ、はぁぁん!あぁぁん!!」
この一言がきっかけになったのか榎本のものが青砥の中というか胎内で暴れ始めてまるで獣のように激しく責め立てていった
「(これが、径さんの本質なのかもしれ…ない……わね)」
かつて拳銃を突き付けられても怯まなかった榎本の姿が青砥の頭に蘇った
獣の頂点に立つ王と呼ばれる雄は如何なる事にも動じない強さを持っている
そうでなければ獲物に舐められる
だからその王が本気になる時が怖いと聞いた事が青砥にはある
「(ならば、骨まで…喰われてみたい)」



2677・9:2012/07/09(月) 09:26:23.55 ID:6aDg013q
怯えると同時に悦びも青砥は感じてしまう
脚を持ち上げられ繋がりが深くなった
「あひゃうぅ、あぁん、あんん!!」
案外筋肉質な背中に青砥が腕を回してそこに爪を立てて引っ掻く
(うっ…!)
ついさっきまで生娘だったとは思えない青砥の行為に余計燃えてしまう榎本であった
こうして夜は更けていくのだが二人の時間はまだまだ続くのであった
「ん……、もう朝か」
そろそろ老女が起きる時間だなと思い青砥が布団から身を起こそうとするが起きられない
「重い…」
自分の体の上に榎本が覆い被さって寝ている
何とか横に体をずらし起き上がろうと試みるが無駄だった
「ちょっと、起きて下さい!」
ポカポカと背中とか軽く叩いて榎本を起こしてみるがそれも無駄に終わった
「(こうなると…)」
下半身を刺激すればと思い手を伸ばしてみる
「(でも、だからって前は…、触れない)」
躊躇っていると榎本の体が動いてやっと起き上がる事が出来た
「ええっと、何か羽織るものは…」
周りをキョロキョロ見回してみると脱がされた浴衣が榎本の向こう側にあった
それで榎本の体越しにそれを掴もうとするとまた覆い被されてしまった
「もう、何なのよぉ〜」
いつまで経っても起き上がる事すら苦労する青砥であった
(ふっ、可愛い人だ)
紅い花びらみたいな跡の残る乳房に顔を埋めながら榎本は優しく微笑んだ
そんな狸寝入りにまだ青砥は気付かずにいた
結局老女が食事の支度が出来たと告げるまで裸のままでいた二人だが食事をした後はあれこれと直ぐに行動した
「開きましたよ」
ものの数分で蔵の鍵は外れて重たい扉が開かれるほうに時間がかかった
「何にもなぁ〜よ」
老女の言う通りで蔵の中には何もなかった
「隠し財産は本当にあったのでしょうか?」
青砥は自分をここに軟禁した元愛人の勘違いなのではと思った
「それは…、これの事ではないでしょうか」
一応蔵の二階部分も探した榎本が細長い箱を一つ発見した
中には宝石が入っていた
「ダイヤの首飾りですか」
よく見ると細く折り畳んだメッセージカードも添えられていた
広げて読んでみると『愛する照子へ』と書かれていた



2688・9:2012/07/09(月) 09:29:11.67 ID:6aDg013q
その二日後青砥は椎名に面会していた
「それに見覚えがあります。母が持っていた首飾りです」
「そうでしたか」
首飾りは椎名の父親が贈ったもので子どもの頃椎名は何度か見た事があった
前社長は昔椎名の母親に惚れていたがそんな高価な物が贈れない自分が情けなくてやがて椎名の父親から大金を騙し取ったのであった
金が無くなれば愛情も無くなると思ったのだろうが椎名の母親はそんな事はなかった
おそらくはこの首飾りを渡す事で騙し取った大金を返して欲しいと訴えたのであった
「これは一億円するそうです」
だから元愛人は何としても手に入れたかったのであった
「お母様が亡くなった今は貴男のものです。真面目に罪を償ってこれを受け取って下さい」
「わかりました。ありがとうございます」
椎名は素直に答えた
(刑を終えたらもう一度やり直そう。そしてアイツみたいに好い女性と一緒に生きよう)
実は椎名は榎本と面会していてその時首飾りの話を聞いていた
犯行はあくまでもこの首飾りを取り戻す為に行ったと裁判で主張しろと榎本は助言した
「どうしてそこまでする。もし出所した俺があの美人弁護士を口説いたらどうする?」
椎名は密かに青砥に魅かれていた。その事は無論榎本は気が付いていた
「僕が青砥さんに失恋した後なら構わない」
そう言って榎本は青砥に渡したあのダイヤの指輪を椎名に見せた
その指輪が青砥の左手の薬指にあるのを見た椎名は自分の失恋に気付いた
(お幸せに。青砥、いや榎本さん)
心の中で椎名は祝福した
その夕方事務所を出た青砥は宝石店に寄って指輪を直して貰った
「榎本さんでも目測を誤るのですね」
この宝石店を紹介した水城が言う
「そうね」
そもそも手を握った事など漫画家が殺された時の一度だけであった
しかも榎本が右手の指をスリスリするいつもの癖を止めただけであった
「(あんなので判ったら怖いわ)」
そう思わずにはいられない青砥であった
「それでまぁ結婚後はフランスに支社を置く会社を芹沢さんから任されたからフランスで暮らすわ」
「純子さんが辞めなくて嬉しいです」
水城が笑顔で言うと指輪が戻って来た
「(わぁ〜、本物のピンクダイヤだ。いいなぁこれ百万円はするのよね〜)」
流石に会長お気に入りのエリート社員は違うなと水城は思った



2699・9:2012/07/09(月) 09:29:53.78 ID:6aDg013q
更に数時間後ウィークリーマンションの一室では青砥の喘ぎ声が響いていた
一億円の首飾りを手に入れる為に青砥の部屋には盗聴器が幾つも仕掛けられていた
「そんな物騒な部屋で寝起き出来ますか?」
この榎本の一言で青砥はここに引っ越した
「(どのみちフランスに行くから引き払うのが早くなっただけよね)」
昼間はお互い仕事で会えないからか同じ部屋にいるとする事は一つしかない
「行きますよ…」
おそるおそる榎本のものを自分のそこに当て中に誘導すると体の重みもあってズルッ!と音を立てて入っていった
「ひぐっ!もう無理…」
カリの部分が入っただけで青砥が降参と音を上げるのだが榎本が思いっ切り腰を引き寄せるとミチミチと根元まで咥え込んでいった
「あぁあ!あぅん!」
胎内で蠢くものにもう悲鳴を上げる
「純子さんは思ったよりもHですね」
青砥のほうは勘弁して欲しいと訴えているのも見方を変えるともっと淫らに狂わせてよとおねだりしているようになるらしい
「いっあ!ぁぁあ」
下から上にと突かれると青砥の敏感な部分を刺激するらしく甘々な声を上げる
「(もう!径さんの意地悪!!)」
今にも泣きそうな困った顔をする
お互いこういう事には慣れてない試行錯誤であれこれやっている訳である
「ふぁぁ、んっ、は…」
「むがぁ、ぐぅ、んん」
体を前に倒して口付けをする。舌を出し舐め合い強く吸う間も下の口もガンガンと責める
自分の胸にあたる青砥の柔らかい乳房の感触がムニュムニュとして気持ち良い
「ひゃぅ、あぅ!」
体を起こすと乳房を掴まれ丸くて可愛らしい乳首を弄られる
(ここが感じ易いのかな…)
錠前よりも複雑な青砥の女心を読み取るかのように榎本の繊細でしなやかな指が動く
すると青砥の中がきゅうぅと締まって当たりだと告げる
「やめ、やだ、おかしく…、やらぁぁ!」
そろそろ青砥に限界が近付いているのを知り動きが更に激しくなると達したらしく榎本の肩に縋り付きそして榎本も胎内に放った
(やり過ぎたかな。でも欲しいからな…)
自分の横でスヤスヤと寝息を立てている青砥の腹に榎本がそっと手を当てた
きっと助けが来ると思って青砥が飲んでいたピルはもう止めていた。赤ちゃんが授かるのは時間の問題だと思った

〈おそまつ〉



270名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 11:57:58.28 ID:amZiucTj
小学生の頃、句読点て習わなかった?
ただでさえ読みずらい文章が、更に読む気を萎えさせる…。
271名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 12:09:03.39 ID:kWsS+JNx
ごめん、萌えない
272名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 12:36:03.08 ID:aJ5eQJsx
あああ。一日覗かなかったら、すごいスレ伸びてて驚いた。
まとめてでごめんなさいですが、職人さんたちGJ!
どの作品もバラエティに富んでて、面白かった!
美味しくいただきました。ありがとうございました。

先日、椎名章×純子のことを聞いた者ですが、読みたいと言ってくださる方がいらっしゃったので、投下します。
需要は少ないと思うんで、前半端折って、エロの部分からです。
榎本から椎名章が犯人であると聞いた純子は、夜遅くに章の事務所を訪ね、自首を勧める。
完全犯罪を自負していた章は激高し…といった設定です。

*******
「俺は殺してないって言ってるだろ!じゃあ、証拠を見せてみろよ!」
章は純子の手首を荒々しく掴み、デスクの上に組み敷いた。
純子の顔にしまったと焦りの表情が浮かぶ。
「そんなことをして脅しても無駄です!どうやって殺したか、トリックはすでにわかっているんです!」
「ハッタリも大概にしろよ!じゃあどうやったって言うんだ!?」
「…そ、それは…」

榎本には犯人と思われる名前しか聞いていない。トリックについては明日話すと言われただけだ。
不遇な生い立ちを気の毒に思い、早く自首させるため、事を性急に進め過ぎたと純子は後悔した。

「やっぱりハッタリじゃないか!」
「それは、榎本さんが…」
純子が口にした名前に章の動きは止まる。

榎本径。憎々しい名前だ。
この女弁護士さんは知らないらしいが、アイツだって人にこき使われ、下層の位置に存在する人間じゃないか。
それなのに、アイツときたらピカピカに磨かれた革靴を履いて、ガラスの向こうでこんないい女といちゃいちゃしてやがる。
俺はいつだって小汚いスニーカーを履き、ガラスの内側の生活に憧れながら、窓拭きに精を出しているというのに。
悔しい――悔しい。
273名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 12:38:36.26 ID:aJ5eQJsx
「アイツと何が違うって言うんだよっっ!!」
章は声を荒げ、ブラウスを力任せに引き裂いた。
「いやぁぁっ!!やめてぇっ…!」
章は純子の叫びを無視するかのように、露わになった白い肌を舌でなぞる。
「お願いです!やめて!こんなことしても…」
「好きなだけ叫ぶがいいさ。この事務所は入り組んだ路地裏にあるし、こんな時間だから人の通りも滅多にない。誰も助けに来ないよ。」
章はくつくつと笑うと、純子の首筋から耳朶までねっとりと舐めあげた。
純子は小刻みに体を震わせ、必死で体をよじる。
しかし、連日の労働で鍛え上げられた肉体の前では純子の非力な抵抗など何の意味もなさない。
章は両手で掴んでいた純子の手首を、片手で纏めると、彼女の頭上でデスクに押さえつけた。
無駄に宙を掻きながら闇雲にもがく純子の両足は、自らの下半身でがっちりと拘束する。
こうして、純子の体の自由をすべて奪い終わった後、純子のパンツのファスナーを下ろし、空いている方の手を下着の中へすべり込ませた。
下腹部の茂みを不器用に弄る。
襞を探し当て、丹念に押し開いた後、敏感な花芽に触れた。
「きゃあ…!」
純子が体をピクリと震わせた。その反応が章の欲望をさらに燃え上がらせる。

女の肌に触れたのは久しぶりだ。しかもこんな極上の女は初めてかもしれない。

章はいやらしく微笑むと、純子の花唇に中指を強引に飲み込ませていく。
そして、そのまま内部を犯した。
「きゃああっっ!い、いやあーーっ!」
純子の内襞が章の指をきゅうと締め付ける。指だけでもこれほどまでに窮屈なのだから、己を突き立てた時どれほど感じるのだろうか。
章は激しく高揚した。
拒絶する純子の言葉とは裏腹に、章の指先には淫らな蜜が絡みつく。
「…感じてるじゃないか。」
「ちがいますっ…!やぁ…は…ん…!」
純子はぱくぱくと口を動かし、大きくわなないた。
それを見て、わざと聞こえるように一層激しく掻き乱し、水音を響かせる。
「ほら…聞こえるだろ。もうぐちゃぐちゃだ…」
「い、いやっ!…は、あぅ…!…し、椎名さ…だ…め…」
回転を加え、奥まで強引に挿入した後は、指を曲げて側壁を擦りながらぎりぎりまで抜去する。
感じているためなのか、それとも拒絶しているのか、純子は顔をゆがめながら身をよじった。
274名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 12:40:09.63 ID:aJ5eQJsx
目には大粒の涙が溢れ、長い睫毛と滑らかな頬が濡れている。
綺麗にまとめられていた髪はひどく乱れ、汗と涙でぐっしょりと湿っていた。
そんな痛ましい姿で純子は切実に懇願しているというのに、狂気が入り混じった欲望に支配された章には、罪悪感を覚える余裕は微塵もなかった。
耐えきれなくなった章はジーンズを下ろし、怒張した己を取り出す。
それを見て、純子は「ひっ…」と声を上げた。
「――怖いか?」
「…怖いですっ、怖いに決まってます!でも…」
「でも?なんだよ?」
「…椎名さんがそれで救われるなら…あなたの闇が…少しでも晴れるのなら…好きにしてください…」
「なっ…!!何言ってんだよ!アンタ、犯されてるんだぞ!」
「椎名さん…。もう自分を解放してあげてください。あなたはずっと逃げられない過去に囚われていて…。もう全てを清算して、自由になってください…。」

いつしか純子の中には、章に対して同情以上の感情が芽生えていた。
家は裕福で、学業は優秀。あのまま行けば、今とは全く異なるエリートの道を歩んでいたであろう青年。
歯車が狂ったせいで、両親を死に追いやられ、真実の自分と決別する羽目になってしまった。
それから彼はずっと闇の中にいたのだ。誰にも見つからぬよう息をひそめて。
順風満帆に思える純子の人生も、何かの歯車が違えば、章と同じような人生を歩むことになったかもしれない。
そう考えれば、自分にだって人を殺めてしまう危険はすぐそこに潜んでいたのだ。

何とか彼を救いたい。本当は彼だってこんなことを平気でするような人間じゃない。
温厚で思いやりのある青年だったはずだ。

「うるせぇ!!わかったような口利くな!」
自分の心の中を見透かされた気がして、章は叫んだ。
再び荒々しく純子の手首をデスクに抑えると、己を純子の内部に向かって突き立てた。
固く閉ざされていた純子の最奥が、そそり立つ屹立に引き裂かれていく。
「ああぁーーっっっ!!」
苦しそうに眉根を寄せる純子をよそに、ただがむしゃらに腰を動かした。
自分の欲望だけを満たすために。
275名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 12:41:40.38 ID:aJ5eQJsx
純子は為されるがままで、抵抗もしなかった。
自分勝手に繰り返される抽送に対し、苦痛の表情を浮かべながら章のすべてを受け入れようとしていた。
その表情とは対照的に内襞の刺激は予想以上で、章の屹立をきつく強く締め付ける。
長らく女の体を味わっていないことで、すぐに限界に達しそうになるところを必死で耐えた。
章はこの快楽をずっと感じていたいという邪欲とせりあがってくる高揚感との間で翻弄される。
しかし、次第にその均衡は破れ、猛烈な衝撃が全身を突き抜けた。
そうして章は果てた。

欲望が満たされた章は上がった息を整えるため、ぐったりと純子の胸に顔を埋める。
純子の微かな息遣いと鼓動が肌を通して伝わってきた。
その時、不意に純子が声を発した。
「椎名さん…。最後のお願いです。自首してください。これ以上自分を苦しめないで。」
その言葉にはっとしたように顔を上げると、純子は穏やかな慈愛に満ちた表情で見つめていた。
章の心が深くえぐられる。

俺は本当にこんなことがしたかったのか?
不浄な欲望と怒りに任せて、彼女を汚すことが俺の望みだったのか?
これじゃあ、あの頴原社長と同じじゃないか。

傍らにあった上着を純子にかけてやった後、章は手早く服を整え、事務所を出て行く。
「…ありがとう。」という言葉を残して。

外は静かな闇。しばらくすると雲の間から満月が覗き、辺りが少し明るくなった。
まるで純子のようだ。章は思う。
心の闇を照らす光。穏やかで静かで優しい光。
章は月を眺めた後、自らの罪を告白すべき場所を求め、ゆっくりと歩を進めた…。

*******
以上です。
読んでくださってありがとうございました。
276名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 15:22:57.46 ID:OsOks6P0
>>272
包容力のある純子と自棄っぱちな章が、切ないけど良い
GJでした!
277名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 15:34:52.98 ID:pIa8sgQg
職人さんたちGJ
278名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 15:40:53.99 ID:q0bcfSXe
>>272
GJGJ!
章の悲痛な様子が切ない
ドラマでもあった榎本との靴の対比がリンクされててうまいな〜
こういう章×純子と言った違ったシチュもいいね
乙でした!

279名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 15:51:14.40 ID:8VpQA0sS
>>270>>271
少なくともひとつ前のよりは読みやすかったよ。
GJしないなら発言しなければいいのに。

ごめんその下のSSはまだ読んで無いからあとで読みにくる。
楽しみ。
280名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 16:18:47.07 ID:jqGK+pZY
>>279
そういうお前は>>255に対して>>270>>271と全く同じこと言ってるだろうが
281名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 20:00:46.67 ID:dD2iRGR3
>>280
続きが見たいって言う意味かと思ってた。
282名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 20:17:54.79 ID:pIa8sgQg
>>281
自分もそう思った
283名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 20:19:49.32 ID:QtEW90bz
>>281
>>257(=279)の発言じゃなくて
「ひとつ前」の作品が255になるので
ひとつ前のよりは読みやすかったに対していってるんじゃない?

284名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 20:38:21.41 ID:8VpQA0sS
>>281>>282>>283
非難のほうがあってると思います。フォローごめんなさい。


椎青、最後の最後にやっぱり自主を薦めている青砥さんにきゅんとしました!
285名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 20:38:55.33 ID:jqGK+pZY
>>283
言葉足らずで申し訳ない
あなたの解釈で正しいです。

>少なくともひとつ前のよりは読みやすかったよ。
>GJしないなら発言しなければいいのに

一行目の発言は余計だろ、と思ったもので
286255:2012/07/09(月) 21:55:26.30 ID:tvQVKfLm
>>253-255 書いたものです。
見苦しいものを、しかも未完のまま投下してしまい申し訳ありませんでした。
続き読みたいというお言葉を真に受けて書きかけていたのですが
279さんのように不快に思ってらっしゃる方もいるようなので
投下はやめておきます。
スレ汚ししてしまい申し訳ありませんでした。
287名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 21:59:06.74 ID:8VpQA0sS
>>286
あれ?ごめん。ひとつ前って>>255のベタな設定だけどさんだった?
間違えたかも。
>>255さんは続きがよみたいと真剣に書いたつもりでした。
ちょっとノリがピクシブのブクマ的になっちゃって申し訳なかった。
ごめん。順番が頭の中で変になってたんだね。

私がひとつ上といったのはどっか別の作品だったみたいですね。
288名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 22:02:57.95 ID:8VpQA0sS
>>286
ごめんほんとにもう今ここ見て無いで気づいてもらえないかもだけど、
私はもう余計なこと書かないから
是非皆さんのためにも(私のためにも)続きかいてください。
289名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 22:10:50.19 ID:zi49En8L
>>286
ええーそんな全然スレ汚しなんて言わないでくださいよ。
色々行き違いとかあるかもしれないけど気になさらず投下してください。
待ってますよ。(*´∀`*)
290名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 22:15:09.52 ID:QtEW90bz
>>286
うぅ・・・私も待ってますよー。あんな萌える設定。
これで終わっちゃうなんて残念すぎます。
お願いしますうぅ。
291ペナルティ 1/2:2012/07/09(月) 22:18:29.55 ID:MdLn1Pvi
流れ断ち切って申し訳ないですが、原作榎青を投下します。

何となく>>183-186「月光」前の一戦のつもりで書きましたが、
今回もがっつりエロではないです。

ドラマ派の方には榎本も純子も違和感ある性格設定だと思うので
苦手な方は「ペナルティ」でタイトル避け願います。

******************************************

沈み込むようなスプリングの利いたベッドの上におろされて、眠っていた純子はふっと意識を戻した。
ここまで運んできた榎本の手がまだ純子の背中に触れていた。純子は榎本の顔に手をかけて、いまいち呂律の回らない口調で話しかける。
「……榎本さん? どうしたの?」
ぼんやりした瞳を開けた純子が見た榎本の表情は、半分呆れていて、その残りは面白がっていた。
「純子さんが眠ってしまったからですよ」
「え?」
純子はろくに現状を理解できないまま、こしこしと目元を擦る。横になっていた身体を上半身だけ起こして、ベッドへとかがみ込んでいた榎本に視線を合わせる。
そして純子は、ここが自分の部屋ではなく、榎本の部屋であると今になってようやく気づく。
「………」
榎本は答えてくれる気が無いらしく、純子自身で思い出せと視線だけで促す。
たしか、と純子は今日の昼間からの自分の行動を思い起こしてみる。
どこで何の「仕事」をしていたのやら、榎本はこの一週間近く店の管理をアルバイトに任せていた。夕刻にかかってきた電話で、ようやく今日帰ってきたからと一緒に夕食の約束をした。
食べに行ったはいいけれど、自分自身も数日前に依頼されたばかりの密室殺人事件の調査に追われ、徹夜に近い状態の寝不足で―――

「…もしかして、眠ってた?」
「ええ。食べるだけ食べたら、車の中でそれはもう気持ちよさそうにぐっすりと。いくら名前を呼んでも、ここへ運んでくるまで全く起きませんでした」
純子は下からチラリと見上げて、榎本の表情をうかがった。
「あのまま車に置いてきても良かったんですが、ここで悪戯した方が楽しいかなと思いまして」
「……っ! 悪戯って何よ!?」
赤くなりながらも食って掛かってきた純子に、榎本はにやりと笑みを返す。
「こういうこと」
そう言ってすぐに、榎本は純子の襟元を引き寄せてその首元に跡を残す。そして思い通りに出来たその跡を眺めて、榎本は艶めいた笑顔を浮かべる。
「何でそんな風に聞いたりするかなあ。もしかして、誘ってますか?」
「違いますっ!」
勢いよく榎本に背を向けてベッドから出ていこうとすると、腕を掴まれた。
「まあ、誘ってくれなくても勝手にするから構いませんけど」
絶対に後ろを振り向くまいと心に決めて、ぎゅっと身を固めたが、うなじにキスをされて、純子は身体を震わせた。
後ろから回された手にジャケットのボタンを外される。それを止められず、純子はなされるがままになってしまった。
292ペナルティ 2/2:2012/07/09(月) 22:19:36.61 ID:l0jIB9A1
「純子さん、こっち向いてください」
一人で眠るには広すぎるベッドの上、榎本に背中を向けて腰掛けていた純子は、背後からキスをされて反射的に目を閉じた。
そうして着ていたシャツを榎本に脱がされて、ベッドの下に落とされる。床に服の山が作られていくのを純子は眺めていた。
明かりの消された部屋は二人の吐息だけがあって、他の音が聞こえることはない。
「ねえ、純子さん」
榎本の唇が背骨に沿ってゆっくりと下っていく度に、ざわりとした感触を感じて、純子は仰げ反るように振り向く。
「私は、こういうことをしに来たんじゃないのに…」
榎本の指に肩を触れられて、二人は向かい合ったまましばらく時間が止まる。だがすぐに目線をしっかり純子に合わせた榎本が傲慢に言い放つ。
「ここまで来て、何を言ってるんですか」
嘲笑を含んだような声音が純子の耳に響き、片目を半眼させて睨んだ先の榎本が、これまた不敵に笑っているのが余計に腹立たしい。
む、とした顔をする純子に、榎本は音が立つほどにキスをする。唖然とした表情で固まった純子を見て微笑む。
「だって、密室事件の相談に乗ってくれるって言うから…!」
喚き立てる声を気にも止めずに、榎本はその身体を抱き込んだ。
「じゃあ、貴女の仕事に役立つ貴重な情報を教えて欲しいなら、黙って」
だって、と口答えする純子を、ほぼ無視する形で榎本は自分が思う通りに行動する。
「榎本さん…嫌だってば」
「眠ってしまった純子さんが悪いんですよ。ペナルティだと思って大人しくしてください」
「横暴よ」
「文句は言わない。でないと、もっとひどいことをしますよ―――青砥先生」
二人きりの時には決して使わない他人行儀な冷たい呼び方に、純子はぐっと詰まる。
「それに、今更もう止められないでしょう?」
ね、と笑顔で同意を求めて、榎本は後押しに甘いだけのキスをする。
純子はけれども首を左右に振る。
「意地っ張り。久しぶりなのに、暴れても知りませんからね」

榎本に開かされた下肢に手を伸ばされ、どれくらいか振りの施しを受ける。
最初、純子は堪えるような声しか出さなかったが、徐々に小さいが抑えるような声へとゆっくり変化していった。
引き寄せたシーツは、純子の手で握り締められて、幾重にもしわを作っていた。
滑らかな布地が素肌に気持ちよくて、背中を預けきる。
「榎本さん…」
身体の中に他人の熱を感じて、無意識に出る声や言葉が、榎本の動きと合わせるように激しくなっていく。
甘くて甘くてどうしようもない気持ちが溢れ出るような時間が過ぎる。
「や…あ……っ」
意味の無い言葉が、純子からつむがれる。
「純子さん」
かすれ気味の声に呼ばれた純子は、朦朧とした意識のままに声を掛けられた方へと視線をやった。
そして、息が詰まるようなキスをされて、そのまま一気に高みに押し上げられる。しかし次の瞬間に失墜するような感覚に捕らえられて、声にならない声をあげた。
そんな純子の姿態に満足したかのように、榎本も後に続く。

流れた汗が冷え始めた頃、ようやく離れた榎本は、純子の身体を抱きしめたまま眠りについた。
いつもとはどこか違う榎本に少し戸惑った純子は、隣りで静かに眠る姿を見る。
しかし、そうしていてもはっきりとした答えが出るはずもなくて、考えることを放棄した純子は、榎本の肩を枕にして疲労のまま瞼を閉じた。

<終>
293名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 22:19:56.05 ID:j69r+d1g
>>286
私は骨折の話とても好きでしたよ。
純子を庇って怪我する設定もかなり萌えました。
もちろん続き読みたいと思ってたから投下して下さると嬉しいです。
でも言うとクレクレになるのか?と思い我慢してたんだすけど、
折角続き書いてくれてたみたいなので、是非お願いしたいです!
294名無しさん@ピンキー:2012/07/09(月) 22:21:10.30 ID:l0jIB9A1
遅ればせながら前作>>241-243に感想くださった方、ありがとうございました。
この路線での続きは、技量もネタも無くてとても書けなさそうなので、一応あれで完結にします。
がっつりエロは向いていないことが分かったし、今後は他の職人さんの投下を大人しく待ってます!


ごめんなさい、お1人だけ個レス返しさせて下さい。

>>245
「愛している」と「好きです」は、わざとです。
完全に個人的趣味の裏設定だったのに、まさか気づいて下さる方がいらして嬉しいです。
295名無しさん@ピンキー:2012/07/10(火) 08:35:17.21 ID:FNgY/7Tf
>>286
私もご奉仕青砥さんの続きを期待している1人です。
作者さんの創作意欲が消えてないなら、ぜひ投下お待ちしてます!
296名無しさん@ピンキー:2012/07/10(火) 08:46:29.27 ID:1d/3Eds9
>>291
新作キター!
相変わらず綺麗な文章で、読んでてキュンキュンしちゃいました。
今さらですが、前作も素敵でした。がっつりエロも向いてると思いますよ

いつもごちそうさまです&GJでしたm(__)m
297名無しさん@ピンキー:2012/07/10(火) 21:58:21.89 ID:FapTQn2t
298名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 09:29:05.93 ID:XDPWEENg
エロは同人ぽい表現だと萎えるのね…
女はアレの時、実際そんな声出さないから。
台詞じゃなく小説っぽい描写に女は共感するんだわ。
299名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 09:34:08.33 ID:buTaIazv
>>298
えー。
主観に偏りすぎてませんかね?
自分が萌えないからって他の人も萌えないって決め付けるってどうなんでしょ?
それに自分が声出さないだけじゃないの?
300名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 09:38:14.83 ID:BF2dU4fv
だかしかし、らめぇ、とか、ひぐぅとかは萎える
301名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 10:35:50.85 ID:Ok8/RWAX
>>300
言われて初めて気が付いた!
自分もそうかも。


素敵な後編、続編、正座でお待ちしておりまする!
302名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 10:53:30.02 ID:5rAG4u+1
エロマンガをそのまんま文章化しても萌えない、てのは一理あるね。

でもここの場合、「らめぇ」みたいなビッチ台詞が、単純に青砥さんのキャラに合わないだけじゃないかな。
特にドラマの青砥さんは処女or非処女でも経験は少なくて、行為に慣れていない、という設定の人が多いし。

原作の青砥先生はそれなりに経験ありそうだから、ベッドの中では淫乱てのもありかもしれんが、
需要は少なそう。
303名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 11:09:19.49 ID:0cqR+TPc
>291
GJ!
いやいやご謙遜を、がっつりエロも上手いですよ。
続きを楽しみにしています!
>300
ひゃぁぁん!とかもね。
誤ってしっぽ踏んだ時に、うちの犬がこんな声出すなあと冷静に思ってしまう。
逆に地の文での描写がダルいと感じる人もいるんだろうなぁ。
304名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 11:26:14.66 ID:buTaIazv
そりゃ自分だってらめぇとかには決して萌えられないけれどもっ!
できればあぁ・・ん・・・とかのほうが読みやすいけれどもっ!
305名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 13:57:27.44 ID:XDPWEENg
同人っぽい表現はあの絵ありきだと思う。

背中とか耳とか責められて押さえても声出ちゃうって感じが
個人的にはベストシチュ。
純子は背中綺麗そうだし。
306名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 15:40:49.09 ID:D6dfrv1s
個人的な好みを言えば書き手さんは寡黙なほうが良い
読み手さんもここで気に入らない書き手さんの悪口は言わないほうが良い
どちらも年齢だけは成人している中身が幼稚な人にしか思えないからね
307名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 17:07:09.46 ID:5rAG4u+1
>>286さんはもう降臨無いのかな?
ベタシチュとはいえ、あれだけ萌えるものを書ける人が、
ごく一部の声で引っ込んでしまうなんて、つくづく惜しい。

個人的には>>291さんみたいな良作をハイペース投稿出来る人が鍵部屋を好きでいてくれて嬉しい。
308名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 17:26:13.47 ID:R5YI410v
何か自作自演っぽいレスが続くな
309名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 17:30:16.61 ID:9L3VCFag
310名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 17:33:01.47 ID:9L3VCFag
ごめんなさい間違えました
311榎本に奉仕する純子 4/6:2012/07/11(水) 23:02:38.19 ID:qNRXPMKn
286です。

>>253-255 の続きです。

××××××××

 右腕をラップやビニールで厳重にガードした上で、服を脱いで、バスルームに入った。
 目的を考えれば全裸になる必要はなかったかもしれないが。一部だけ露出しているという状況がどうにも気恥ずかしくて、「どうせ風呂には入るつもりでしたので」と言って、全部脱いだ。
 対する純子も、裸。
「わ、わたしも脱いだ方がいいんでしょうか!?」
「……できれば、お願いします」
「うー……笑わないでくださいね?」
 とは、純子の弁だったが。何を言っているのか、というのが、榎本の正直な感想だった。
 思わず喉を鳴らす。華奢な体形なのは、服の上から想像していた通りだったが。傷一つない滑らかな肌と、色白なそれを羞恥に染めている様子は、十二分に魅力的だと思った。
 正直な反応を返す自分の身体が呪わしい。もっとも、ここで何の反応もしないようなら性欲処理など不要だっただろうから、助かったと言えば助かったのか。
「じゃ、じゃあ、榎本さん」
「……はい」
「マットとかローションとか、あります?」
「……青砥さんがその女性に何を教わったのかは聞きませんが、普通、一般家庭にそのようなものはありません」
「ええ!? そ、そうなんですか?」
「少なくとも僕の家にはありません。……普通にお願いします」
「は、はい。じゃあ……」
 ごくん、と息を呑んで。純子は、そろそろと視線を落とした。
 思わず目をそらす。思い切り男であることを主張している下半身に、純子がどのような感想を抱くのか、知るのが怖かった。悲鳴をあげられたらどうすればいいのか?
 が、幸いなことに、その心配は杞憂に終わった。
「あの、失礼、します」
 ぎこちない手つきで、触れられた。
 瞬間的に暴発しなかった自分の理性は褒められてもいいのではないだろうか?
「っ…………」
「え、榎本さん!? どうされました? 痛かったですか!? もしや傷に障りました!?」
「いえ……大丈夫です。お気になさらずに」
「でも……」
「いいから……続けて下さい」
 こんなところでやめられるなど、冗談ではない。
 という本音を包み隠して。榎本は、歯を食いしばってその快楽に耐えた。
 緊張しているのか。純子の手は、いつもより体温が高いように感じた。女性らしい、たおやかな手が、榎本のソレを根本から握りこみ、ゆるゆるとしごき始めた。
 手つきはぎこちない。恐らく初めて……なのだろう。そう思いたい。
 直視できないのか、やや伏し目がちに、けれど決して手を休めることなく、一生懸命榎本のために尽くしてくれるその姿に、胸が苦しくなるような思いを感じた。
312榎本に奉仕する純子 5/6:2012/07/11(水) 23:04:06.53 ID:qNRXPMKn
「青砥、さん」
「すいません……こんな感じで、いいんでしょうか? ……胸でできたらいいんですけどね。わたしの大きさではちょっと……」
「そんなこと望んでませんから」
 きっぱりと言い切る。
 純子にその知識を授けた、風俗業の女性とやらを問い詰めたい。一体、何を思って彼女にそんなことを吹き込んだんですか、と。
「十分ですから、本当に」
「榎本さん……」
 右腕が使えないことを、今ほど悔やんだことはない。両腕が使えたのなら、純子の身体を思いきり抱きしめているところなのだが。
 できないことを言っても仕方がない、と、左手で、純子の髪に触れる。きょとんとした目を向けられて、苦笑が漏れるのがわかった。
 こんな行為の最中でも、あなたは変わらないんですね、本当に。
 そのまま髪を――頭を撫でると、幸せそうな笑みを向けられた。そのまま――
「っ――!! あ……」
 ふっ、と、唇で、触れられた。
 視線を落としても、純子の頭が邪魔で、何をされているのかがわからない。けれど、感触でわかる。榎本のソレを這っている、生暖かい感触。根本から先端に向かって、そしてまた根本に向かって。余すことなくなめあげ、そして――
「うっ……」
 ぴちゃり、という微かな音と共に。口内に、呑みこまれた。
 息が荒くなる。正直に言えば、自慰行為の経験はあるが性行為の経験は無い榎本にとって、それは初めての経験であり――これまで味わったことのない快感に、背筋を這うような衝撃が走り抜けた。
 じゅぷ、ぐちゅ――という淫靡な音と、微かに揺れる純子の頭。姿勢を支えているのが難しくなり、無意識のうちに、左腕で純子の背中にすがりついていた。
 肌と肌がふれあい、純子の身体がびくりと震えた。それに構わず、榎本はその首筋に顔を埋め――
 失策に気付いたのはその直後。
「あっ――」
 暴発は、一瞬で訪れた。
 身体が震える。奥底から上り詰める精を止めることができず、榎本は、欲望の赴くままにそれを吐き出していた。
 そして――
「っ……あ、青砥さん……」
「…………」
 身を起こす。純子の呆然とした表情が目に入った。
 その頬や口元に飛んでいる白濁色の汚れに、とりあえず数秒前の己を全力で殴りつける。
 突き放すべきだった。純子の好意に甘えて、到底「お詫び」などという言葉では足りない行為を強いておいて――最後は、これだ。
 ひょっとしたら、純子はその瞬間、身を引くつもりだったのかもしれない。けれど、できなかった。榎本が覆いかぶさっていたから。逃げることもできず、榎本の汚い欲望を、純子は口で受け止める羽目に――
「すいません青砥さん。いいから吐き出してください。風呂場ですから後で洗えば済む話です。青砥さん――」
「…………」
 榎本の言葉に、純子は涙目で首を振った。
 唇からこぼれる粘液を手で押さえるようにして、何度も何度も首を振り――
「っ…………」
 それを、嚥下した。
「青砥さん……」
「汚く、ないですよ」
 美味しいはずがない――もちろん、榎本自身は未経験なので味など知るよしもないが。それはいわば排泄物のようなものであり、例えその種の職業の女性であっても、そこまでしてくれるかどうか――
 なのに、純子はためらいもせず、それを飲みこんだ。
313榎本に奉仕する純子 6/6:2012/07/11(水) 23:05:48.03 ID:qNRXPMKn
「汚くないです――榎本さんですから」
「…………」
「あの、わたし……お役に立てましたか?」
 相当苦しかったのだろう。その目には涙が浮かんでいたが、それでも、純子は健気に問いかけて来た。
 ああ。
 本当に、何故なんだろうか。彼女は、どうして自分などに、こんなにも純粋な愛情を向けてくれるのか――
「青砥さん」
「はい? あ、そうだ。せっかくだから、そのまま髪と身体も洗っちゃいましょう。わたし、お手伝いしますね。お風呂――は、ギプスが濡れちゃうといけないから我慢してくださいね。じゃあ、榎本さん、背中向けてください。まずは、頭を」
「頼んでも、いいでしょうか」
「はい?」
「――手や、口なんかじゃなくて」
 それでも、十分に満足できた。純子が奉仕してくれた、それだけで十分に満足だったが。
「青砥さん自身で――お願いしてもいいですか」
「…………」
 子供じゃないのだ。わかるだろう。榎本が、何を言いたいのか、は。
「この腕ですから。青砥さんに、色々とご迷惑かけることになるとは思いますが」
「…………」
「駄目でしょうか?」

 ――あなたの想いを、受け止めたいんです。

 そんな榎本の本音が、通じたのかどうか。
「いいですよっ」
 わざとなのか。明るく弾んだ声で、純子は、言った。
「いいですよ、もちろん。何でもします、って言ったのはわたしですから。わたし、弁護士です! 自分の言葉には責任を持ちます!」
「……あなたらしいですね、本当に」
「ええっと……わ、わたしが上に乗れば……いいんですよね? 榎本さんは座っててください。それなら、きっと右腕が使えなくても大丈夫ですよね? 初めてですけど――わたし、頑張りますからっ!」
 初めて、って。それは上に乗るのがですか。それとも、男とこうなるのが、ですか。
 などというツッコミが瞬時に浮かんだが。それは、聞かない方がいいだろう、きっと。
「青砥さん一人に、辛い思いはさせませんから」
 自由になる左手で、そっと純子の頬を撫でる。
 溢れる涙をすくいとって、そのまま、首筋、胸、腹部へ――と、手を滑らせていった。
「せめて、準備は手伝わせてください」
「ふふっ……榎本さんらしい。本当に、榎本さんらしい言い方ですねっ……嬉しいです。わたし、嬉しい――」
 泣きながら笑う純子を片腕で抱き寄せて。
 その耳元で、そっと――本音を、囁いた。

〜〜END〜〜

××××××××

続き読みたいという声をたくさんいただき驚きました。
申し訳ありません。お騒がせしました。
314名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 23:07:19.83 ID:F1BU2XfS
リアルタイムGJ
315名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 23:12:30.15 ID:buTaIazv
ああよかった。戻ってきてくれなかったらどうしようかと思った。GJ!
316名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 23:15:50.85 ID:Z4VqxkzP
GJ&お帰りなさい!
ご奉仕シーンは言わずもがなだけど、
ラストの2人の感じに萌えました。
317名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 23:35:41.79 ID:dT5tTZlF
GJ!!!
つ、続きは無いのですか???
完治とまでは行かなくても、
もう少し見てたいなぁと。
318名無しさん@ピンキー:2012/07/11(水) 23:46:07.71 ID:miFEyu0A
>>313
いいわぁ。GJ!です。
作品書くって、けっこう勢い的なとこもあるでしょうから・・・心配してました。
あした音沙汰なかったら、
あれからもう3日ですよ。255さんどこにいるんでしょうねって書こうかと思ってた。
(いや不謹慎ですね・・・ごめんなさい)
また、ネタが降ってきたら投下してくださいね。(続きも見たいです)
319名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 00:26:18.50 ID:uOVu+UPZ
>>313
GJ!投下してくれてありがとう!
純子が上、というシチュエーションをひそかに待ってましたw
もしよろしければ313の続きを(勿論新しいお話でも)、また読ませて頂きたいです。
320名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 01:38:21.07 ID:jJ4RWmZH
続きありがとうございます!
スレが止まってる時に投下が来ると本当に神かと思うよ。
それでまた勢いが戻ったりするから。
健気な純子かわいいなぁ。
手が治ったらえのもっちゃんお礼に攻めまくりだねw
321名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 07:02:22.59 ID:t/w2KtdN
健気な青砥に萌えるわGJ
322榎本に奉仕する純子 7/12:2012/07/12(木) 18:49:45.23 ID:Wjk3Ia0q
コメントくださった方、ありがとうございます。
続きってこんな感じでしょうか?

××××××××

 一度抜いたばかりなのに素早く復活する己の身体に、榎本は自身で驚いていた。
 世間から変人のレッテルを張られていようが、榎本とて男である。同年代の男と比べれば著しく薄いだろうが、性欲そのものはそれなりに備わっている。
 だが、自身で処理する際のそれは、一度抜いたら早々に鎮まる程度のものでしかなく。また、それをおかしいとも思っていなかった。
 雑誌や映像で処理する場合とは全く違う。目の前に魅力的な女性がいて、その女性が笑顔で欲望を受け止めてくれる。それがどれほど、男として幸せなことなのか――を、自身の身体が、教えてくれた。
 右腕が動かせないのがひどくもどかしい。左手で彼女――純子の頬に、身体に触れると、「ふふっ」と微笑まれた。
「でも――もうちょっとだけ、待ってくださいね」
 やんわりと左手を取られる。
 そのまま、背後に回られ、背中に抱きつかれる。肌に直に触れる柔らかな感触に、一瞬にして血が上る――いや下がるのがわかった。
 つまりは、下半身に集中した、ということだが。そんな苦悩など露知らず、純子は笑顔で残酷な台詞を吐いた。
「先に、お風呂、済ませちゃいましょう――いつまでもこうしてると、風邪ひいちゃいます」
「……はあ」
「それに、やっぱり、お風呂場じゃ狭いですよね」
 その言葉には、頷かざるを得ない。当たり前だが、大手とは言え平社員の榎本に、大人二人が十分に動けるような風呂場つきのマンションなど住めるはずがない。
 窮屈な洗い場の中で、純子が四苦八苦しながらシャワーに手を伸ばした。邪魔にならないように、頭を下げると、上からお湯が降り注いで来た。
「大丈夫ですか、榎本さん。熱くないですか? 冷たくないですか?」
「ええ……大丈夫です」
「そうですか! 辛かったら言ってくださいね。まずは頭から洗います。右腕、お湯がかからないように注意してください」
「…………」
 できれば、先にこの下半身の始末からしてほしかったのだが仕方がない。
 言われるがまま、姿勢をずらすと。背後から伸びて来た手が、柔らかく髪に触れた。
「わあ! 榎本さんて、髪、綺麗ですねえ。さらさらっ!」
「……そうですか」
「それに、色も。これ、染めてないですよね? いいなあ。染めてないのに、真っ黒じゃないんですね。羨ましい」
「…………」
 何が? と問いたいところだが。さっさと終わらせて欲しいので黙っていると、「失礼します!」という言葉と共に、冷たい感触た頭に落ちて来た。
「シャンプーしますね。かゆいところがあったら言ってください」
「はあ」
「気持ちいいですかー?」
「…………はあ」
 わしゃわしゃと髪を泡立てられる。理容院でいくらでも経験しているはずなのに、洗ってくれているのが純子だ、というだけで、妙に気持ちいいのは何故だろうか?
 榎本が無言を貫いていると、純子の言葉も少なくなっていった。今更羞恥心が沸いてきたのか、鏡に映る色白な頬に、朱色がさしている。
 改めてその顔を注視すると、視線を感じたのか、目が伏せられた。シャンプーを綺麗に洗い落とし、リンス。ドラッグストアで適当に買った安物だが、純子は「これが綺麗な髪の秘訣なんですね!」と、わざとらしくはしゃいでいた。
 ――可愛い。
 と、つぶやいたらどんな顔をするか、見てみたかったが。そんな台詞を臆面もなく吐けるようなら、この年まで童貞で過ごしてはいない。
323榎本に奉仕する純子 8/12:2012/07/12(木) 18:50:35.60 ID:Wjk3Ia0q
「じゃあ、榎本さんっ! 身体……洗いましょうか」
「はい」
「榎本さんて、ボディソープ派なんですね! 意外です。石鹸派かと思ってました!」
「そんな派閥があるんですか?」
「いえ、何となく……芹沢さんは絶対ボディソープですよね、きっと。わたしは石鹸なんですけど!」
 言いながら、タオルの上でボディソープを泡立てる。女性に背中を流してもらう――というのは、多分、男にとって憧れのシチュエーションではあると思うが、まさかこんな形で実現するとは思わなかった。
「じゃあ、榎本さん」
「はい」
「……前、向いてもらえますか」
「…………」
 くるりと向き直る。力いっぱい自己主張している下半身から思い切り目をそらしている姿は初々しいが、先ほど、その手と口で触れましたよね? と問うのはまずいだろうか、やはり。
「青砥さん」
「は、はいっ!」
「……自分でやりますから」
 左手を伸ばすと、「いえいえいえ、そんなっ!」と首を振られたが、強引にタオルを奪い取る。
 ここで彼女に洗ってもらったら、二度目の暴発を誘発しかねない。それはまずいだろう、さすがに。何のために洗ったのか、という話になる。
 背中と左腕はともかく、それ以外の箇所なら左手だけでもどうにかなる。わしゃわしゃと乱暴に身体をこすると、純子は「わあ」と、目を見開いた。
「意外です」
「……何がでしょうか」
「いえ。やっぱり、男の人って、洗い方もワイルドですよね、何となく」
「はあ。そうなんですか……あんまりじーっと見ないでもらえますか。さすがに落ち着きません」
「ああっ! す、すいません! 流すのはわたしがやりますね!」
「ええ、お願いします」
 シャワーを構える純子に頷きかけて――榎本には珍しく、悪戯心とでも呼ぶべき考えが浮かんだ。
 自分は散々に醜態を見せる羽目になったのだ。その上、関係を持つことをOKしながらお預けを食らうという生殺しにまであっている。これくらいは、許されてもいいだろう。
「お返しに、洗いましょうか」
「はい?」
「ですから。色々やって頂いたお返しに、青砥さんの身体を、洗ってさしあげましょうか」
 さすがに、髪は片手では難しいですが。身体だけなら――と続けると、純子の顔が真っ赤に染まった。
「そそそそんなお気遣い、いいですよっ!」
「いいんですか」
「ええっ! わたしは自分のことは自分でやりますからっ! そ、そんな……」
「僕がしたいと言ってもですか」
「はっ!?」
「僕が、青砥さんのためにしたいと言っても、駄目ですか」
 先ほどの純子の台詞を、そっくりそのままお返しすると。「そんな言い方、ずるいです」と上目づかいに睨まれた。
 その目つきは反則だろう。止まらなくなる。
 タオルに手を伸ばす。抵抗が無いのを肯定、と受け取り、膝の上でボディソープを泡立てた。
「青砥さん」
「……はい」
「背中から行きましょうか?」
「ううう……ほ、本当に恥ずかしいのでっ! 絶対、絶対笑ったりしないでくださいよ!?」
「笑いませんよ」
324榎本に奉仕する純子 9/12:2012/07/12(木) 18:51:16.30 ID:Wjk3Ia0q
 こんなに綺麗なのに、という本音は胸の内に留めて。向けられた背中に、視線を落とす。
 驚くほどに白く、滑らかな背中だった――タオルを滑らせて、力を加減しながら流す。榎本の手が触れるたびに、いちいち身体が強張るのが面白くて。つい、からかってみたくなった。
「きゃあっ!?」
 指で背筋をさすると、甲高い悲鳴が漏れた。そのまま、尻のあたりまで一気に指を滑らせると、「榎本さんっ!」と、可愛らしく睨まれた。
「な、何やってるんですかあ」
「失礼、手が滑りました」
「どう滑ったらそんな……ひっ!」
 そっと肩甲骨の辺りに口づける。力を込めると、赤い、小さな痣が、浮かび上がった。
 自然と口角が上がる。この綺麗な身体を、これから自分のものにできる――傷つけたくはない、という思いと、徹底的に汚したい、という、相反する感情が、せめぎあった。
「青砥さん」
「は、はいっ……何ですかっ……」
「前、向いてもらえますか」
「前はいいです前はっ!」
「僕がしたいと言っても……」
「わわわわかりましたっ。向けばいいんでしょう、向けばっ!」
 ううう、といううめき声と共に、向き直る。全裸での対面に、双方視線が泳いでいるのが、お互い、初心者である証なのだろうか。
 ともあれ、どうせ「準備」で必要なのだから――と言い聞かせ、純子の首、胸、腹部へと、視線を走らせる。
 腹部よりさらに下――生で見るなどもちろん初めてな、未知なるその箇所は、とりあえず後の楽しみで置いておいた方がいいだろうか。
「洗いますよ。痛かったら言ってください」
「はい……あの、すいません。胸があんまりなくて……」
「僕は別に大きい方が好きなわけではありませんのでお気になさらずに」
「だってベッドの下の」
「忘れて下さい」
 きっぱりと言い切って、まずはタオル越しに肌に触れる。
 確かに、雑誌などを飾るグラビアアイドルに比べれば、彼女の胸は小さいだろうが。大きさなど問題ではないのだ、と、榎本は心の底から実感した。
 華奢な彼女の身体は、肉感的な魅力はほぼないが。その分、少女のような瑞々しさに満ちていた。まさか処女ではないだろう、と思うが。男の手が触れたことなどないかのような白さ、滑らかさに、無表情の下で大いに欲情を煽られた。
 鎖骨、胸と、優しく撫でる。そのたびに、ぴくりと反応する様が、どこまでも愛おしい。
「青砥さん」
「は、はい?」
「立ち上がってもらえますか?」
「はいいい!? な、何で何で何でっ」
「いえ、座ったままだと色々と洗いにくい箇所があるもので」
「どこですかそれはっ! そ、そんなところまでいいですよっ」
「青砥さん」
 じーっとその顔を見つめる。負けることはあるまいと思っていたが、榎本の勘は正しかった。
 数秒と持たず、純子は目をそらしたまま立ち上がった。座ったままの榎本の前に、見事な脚線美が披露される。
 日頃、パンツスーツばかりなのが実にもったいない。スカートをはけば、周囲の反応も随分違ったものになるだろうに……いや、余計な虫がつかないのは、結構なことなのだが。
 ふくらはぎから膝、太ももへと手を滑らせていく。無用となったタオルは放り出され、泡まみれの身体を、直に撫でていく。
325榎本に奉仕する純子 10/12:2012/07/12(木) 18:52:07.84 ID:Wjk3Ia0q
「ひゃんっ……」
 滑りがよくなった肌に手を這わせながら、じっと一点を注視する。
 もじもじとすりあわされる腿と、震える肩。真っ赤に染まる頬。自分の愛撫に感じてくれていることは明らかで、我知らず、笑みがもれた。
 正直に「初めてです」と言ったら、彼女は何と言うだろうか――まあ、あまりみっともいい話ではないので、言わないが。
「青砥さん」
「は、はい」
「脚、開いてもらえますか?」
「…………」
 もう、彼女は抵抗しなかった。
 ゆっくりと腿が開かれる。身体を支えていられなくなったのか、唇をかみしめながら、手を壁についた。
 腿に伸ばしかけた手を止め、やんわりとその身体を自分の身体にひきよせる。もたれかかるように、と指示すると、純子は、素直にそれに従った。
 背中に腕が回されて、抱きつかれるような格好になる。窮屈と言えば窮屈だが、全身で彼女を感じられるのだから、悪いことばかりではない。
 腿の間に手を滑らせ、ゆっくりと中心部に触れた。
 小さな悲鳴を聞き流し、ゆるゆると指を動かす。表面をなぞっているだけなのに、溢れる滴が指を伝って手首にまで滴り落ちてくるのがわかった。
「ううう……は、恥ずかしいです」
「さっき、僕はもっと恥ずかしい思いをしたんですが」
「す、すいません」
「いいえ。怒っていませんので安心して下さい――そのかわり。わかりますよね?」
「ううう……」
 わかっているのか、いないのか。まあ、どっちでもいいが。
 散々に表面をなぶった後、ゆっくりと指を潜らせる。既に十分に潤っていたソコは、難なく榎本の指を受け入れながらも、適度な締め付けで抵抗してきた。
 ぐちゅぐちゅという湿った音と、ため息のような、悲鳴のような吐息の二重奏が響き渡る。内部の感触を慎重に探り、やや硬い箇所を擦り付けると、「や、や、やっ! そこ、そこ駄目ですっ!」という高い悲鳴が漏れた。
 ……指だけで満足されても、面白くない。
「青砥さん」
「ううっ……な、何ですか?」
「乗ってくれますか?」
「…………」
 榎本の言いたいことが伝わったのか。純子は、抱きついたままの姿勢でぼそぼそとつぶやいた。
「こんな狭いところで、うまくできる自信、無いです」
「失敗してもいいですよ。後でいくらでもやり直してもらいますから」
「……意地悪……」
 自分は意地悪なのだろうか。心外だ。精一杯、優しく頼んだつもりなのだが。
 榎本の不満を察したのかどうか、純子は、一度身を離すと、もぞもぞと足を開いた。
 そのまま、榎本の膝の上にまたがってくる。相変わらず自己主張激しい下半身にちらりと目をやって、そのまま、慎重に腰を落として来た。
326榎本に奉仕する純子 11/12:2012/07/12(木) 18:52:47.24 ID:Wjk3Ia0q
「――あ、すいません。聞き忘れてました。安全日ですか」
「直球すぎます! オブラートに包んでください!」
「すみません。――青砥さんがあまりに素直にお願いを聞いて下さったので忘れていました」
「わ、忘れないでくださいよそんな重要なことっ!? ううう……わ、わたし、ピルを飲んでるので……その、それは気にしなくて大丈夫です……」
「ピル……経口避妊薬ですか……」
「そんな言い方しないでくださいよっ!? べ、別に、そのために飲んできたわけじゃないですよっ!? 生活が不規則で周期が乱れがちだから、そのっ……」
「いえ、よくわかりました。続きをどうぞ」
「ううう。じゃあ、いきますね……」
 とんだ中断が入ったが、確認しておいてよかった、と、心の中で安堵する。
 生で挿入できる……という喜びももちろんあるが。それ以上に、純子の身体を致命的に傷つけることはなさそうだ、ということに、素直に安堵した。
 単純に、性欲解消の道具として利用したいわけではない。純子だから、抱きたい――ならば、その心配をするのは、男として当然の義務だと思う。
 驚くほど間近に、純子の顔が迫ってきた。そのまま腰を落とされる――最初は、滑って失敗を繰り返していたが。やがて、収まるべき場所に収まったのか、純子の表情に苦痛の色が走った。
 処女ではないだろうが、久々だったのは、確かなのだろう。
 ゆっくりと彼女の身体の中に己の一部がのみこまれていく。一気に昂ぶる欲情を制御しながら、左手だけで、ぎこちなく彼女の身体を支えた。
 両肩に置かれた手に力がこめられる。爪が立てられ、痛みが走ったが。彼女の苦痛に比べれば、大したことはないだろうと我慢する。
「青砥さん」
「は、いっ……」
「力、抜いてください」
 耳元で囁いて、やんわりと背中を抱きしめた。
「力を抜いて、身体を預けてもらえますか……そのまま、腰を落として」
「…………」
 榎本の指示に、彼女は素直に従った。
 膝の上に体重がかかる。奥深くまで貫いたところで、大きなため息が、同時に漏れた。
 ぎこちなく腰をゆすられる。快楽、という意味では、手や舌で抜いてもらう方が上からもしれないが。満足感は、全く違う。
「うーっ……む、難しいですっ……」
「焦らなくても大丈夫ですよ。時間はありますから」
「ひゃっ! え、榎本さんは動かないでくださあい……抜けちゃったら、わたし、もう一回なんて自信ないですからっ!」
 今にも泣きそうな顔で、必死に身体を持ち上げては、沈める。小動物のようなちょこまかとした動きが何とも可愛らしくて、もっと、ずっとこのままでいたい――と、痛切に思った。
 まあ、そんなわけにはいかないが。
「青砥さん」
「はい……?」
「顔を、あげてもらえますか」
「え?」
 振り仰がれる。その唇を自身のそれで塞ぐと、焦点が合わないほど間近に迫った瞳が、大きく見開かれた。
 そのまま、強引に舌をこじいれる。感じる苦味は――これは――
「だ、駄目ですってば、榎本さんっ」
 ぶんっ、と顔を振って、純子は必死に言った。
「わたし、さっき、口で榎本さんの――」
「……忘れてました。でもまあ、自分で出したものですから」
 言ったはずです。あなた一人に、苦しい思いはさせないと。
327榎本に奉仕する純子 12/12:2012/07/12(木) 18:53:39.68 ID:Wjk3Ia0q
 逃げる唇を追いかけるように、もう一度強引に塞ぐ。無理やり舌を絡めると、ぎこちなく、動きを合わせてきた。
 リズムをつけるように、腰を揺らす。舌で感じる快楽と合わせて、一気に欲情が昂ぶり――
「くっ……」
 そのまま、内部で思い切り吐き出した。口の中で果てたときとは、違う。罪悪感なく吐き出せたソレは、一気に締め付けられ、残らず搾り取られた。
 荒い息をついて、目の前の華奢な身体に顔を預けると。両手で、そっと頭を抱えられた。
 髪を――頭を撫でられているのは、さっきのお返し、なのだろうか?
「榎本さん」
「――はい」
「腕が治るまで、一ヶ月、でしたっけ? その間、いっぱい不便なことはあると思いますから――わたし、今日からここに泊まらせてもらいます。いいですか?」
「…………」
 駄目だ、と言ったら引き下がるのですか、あなたは。
 そう問うてみたくなったが、答えはわかりきっていたので、口をつぐむ。元より、それは榎本の望むところでもあったから。
「うちは、ベッドは一つしかありませんが」
「一緒に寝ればいいじゃないですか」
「青砥さんの職場から遠くなりますよ」
「うちはフレックスタイム制ですっ! 朝が遅くなっても問題ありませんから」
「……甘えても、よろしいですか?」
「はいっ!」
 満面の笑みで頷かれた。
「明日、仕事帰りに着替えとか取ってきますねっ!」
「わかりました」
「何でも……言ってくださいね。何でも、やりますから」
「…………」
 赤らんだ頬を見れば、それの意味するところは明らかで。あの純子が、これほどまでに大胆な発言ができる、というのが、驚きでもあった。
「では、ベッドの上でもう一度」
「はいっ! わかりました!」
「……あまりにあっけらかんと頷かれると、複雑な気分です」
「だってしょうがないじゃないですかっ! わたし……嬉しいんですからね? 榎本さんから、そんな対象に見てもらえて。本当に……嬉しいんですからっ……」
「青砥さん」

 ――それは、こっちの台詞です。

「では、まずは泡を洗い落として――風呂から出ましょう」
「はい、わかりましたっ! シャワー出しますよっ。ギプス、気を付けてくださいね」
 降り注ぐお湯の中で。この腕は、一生このままでもいいかもしれない――などとあるまじきことを考えながら。
 榎本は、小さく微笑んだ。

〜〜END〜〜

××××××××

終わり。長々と失礼しました。
328名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 18:58:30.93 ID:t/w2KtdN
エロおやじになってる榎本さんGJ
329名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 21:28:14.39 ID:IVmrCOGI
か、神がいる・・・
330名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 21:30:30.28 ID:gmNm9H0L
続きキター!
とてもGJです!ご馳走様でした!
331名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 21:46:53.63 ID:a9pbAbwZ
ニヤニヤが止まらないよ!なんて幸せな展開なんだろう。
無邪気で積極的なのに初々しくて可愛い青砥最高ですた・・・ありがとう。
332名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 21:48:29.24 ID:xRO/l7et
ベッドの下の・・を気にしてる純子がかわいいよw
333名無しさん@ピンキー:2012/07/12(木) 22:35:43.95 ID:owl/GQdk
書くの早いですね〜
たのしーい!GJ!
334名無しさん@ピンキー:2012/07/13(金) 02:45:30.65 ID:sf5UhZuB
職人さんいつもGJです!


弁護士は言葉を武器に戦う職業だから、言葉攻めするドS純子…を想像したが難しかったw
純子は裏表がない感じが魅力なんだなーと思ったよ
335名無しさん@ピンキー:2012/07/13(金) 23:20:47.09 ID:bUhsVSL+
書き手の皆さんいつもありがとう
大袈裟でもなんでもなく、
ドラマ終わった寂しさをこのスレが埋めてくれてる
これからも時々で良いので萌え作品お願いします
336327:2012/07/13(金) 23:46:33.75 ID:eEdotYVT
コメントくださった方々ありがとう
何となく続きを書くとしたら
このままずるずる同棲生活が続くものの
お互い「好き」とか「付き合って」とか言わないまま身体の関係が先にできちゃったものだから
やがて榎本が不安を感じて――
で、

>>241-243

状態になる
な展開妄想してみました。
今更ですが、>>241-243 には素晴らしく萌えさせて頂きました。
続きが非常に気になるところなので完結されているのが残念です。
337名無しさん@ピンキー:2012/07/14(土) 00:18:07.46 ID:PvmJ4qMS
>>336
なるほど、そんな意図があったんですね。面白いわー。
続きの投下前、私は
「謝罪じゃなくて、彼女としてお世話してもらえませんか」的な妄想してました。←安易


338停電の夜 1/5:2012/07/14(土) 21:52:04.86 ID:jgNY4Rgf
こんばんは。
>>291-292にコメント下さった方ありがとうございました。

原作の青砥先生への萌えが止まらず、懲りずにまた原作榎青投下にきました。
ドラマ派の方には榎本も純子も違和感ある性格設定だと思うので
苦手な方は「停電の夜」でタイトル避け願います。

******************************************

いきなり鳴った電話の音に、青砥純子弁護士は、数日後に控えた裁判の資料をめくる手を止めた。
一般的に真夜中の電話は不吉だと言われているが―――少し考えて、時間ではなく誰からかというのが問題などだという冷静な答えが出た。
着信音からいって、電話の相手はだいたい想像がついている。
このまま無視してやろうかとも思ったが、数度のコールの後、純子は嫌々ながら着信ボタンを押した。
こちらが何かを発するより先に、嫌というほど聞きなれた榎本径の声が聞こえてきた。

『こんばんは、まだ起きていたんですか?』
「……今、何時だと思っているのよ」
『あからさまに嫌そうな声ですね。そんな風に電話に出られると、傷つくのですが』
「はいはい、じゃあこれ以上傷が深くならない内にさっさと切りますよ」
『人がせっかくお電話したのに、その対応も無いと思いますけれど』
電話をかけてきてくれなんて、一言もお願いした覚えは無い!
ただでさえ仕事を家に持ち帰る羽目になって疲れているのだ。榎本相手に媚を売るような余裕など、今の純子は1ミリグラムも持ち合わせていない。
「……で、ご用件は何?」
気まぐれにカーテンをめくれば、夕方から暗雲が立ち込めていた空から、大粒の雨が容赦なく降り続いていた。
窓をたたく音は、うるさいくらいに激しい。電話を切ったら雨戸を閉めようと算段しながら、返事のない榎本に向けて言葉を続ける。
「こっちは裁判直前で忙しいのよ。用があるなら早く言っていただけない?」
『冷たいですね。こちらも一人で仕事を頑張っていたのに、そんな突き放して言われたら、寂しいですよ』
こんな遅い時間に、一介の防犯ショップの店長に、一体どんな「仕事」があるというのだ。
またこの男は不法侵入の現場から自分をからかっているな…と純子が押し黙ってしまうと、そこで何かに気づいたかのように、榎本が声を出した。
『そちらの方は雨なんですか?』
「聞こえるの? 夕方からずっと空模様は怪しかったけれど、まさか夜中に雷まで鳴り出すとは思わなかったわ」
外では時折、稲妻の閃光が走り、後を追って音が辺り一帯に響き渡っている。
受話器越しでも雨音が聞こえることに驚きつつ、そちらの方、と表現するくらいだから今回の榎本はずいぶん遠い場所で「仕事」をしているのだな、と純子は推察した。
その直後、かなり大きな稲妻が光り、すぐさま後を追うようにすごい音量と振動を感じた。これはどこか近くに落ちただろうと思った数秒後、電源が全て消えた。
339停電の夜 2/5:2012/07/14(土) 21:53:16.54 ID:pqr8PWY5

「きゃあっ!」
思わず驚愕の声を出してしまって、あわてて携帯電話を持つのと逆の手で口を塞ぐ。
電気がショートしたのかと思ったが、窓の外を見れば先刻までついていた街の明かりも消え、辺り一帯が暗闇となっていた。
荒れた天気は変わることなく、強い雨を地面に叩きつけている。
『青砥先生? どうかしましたか?』
向こうからは先刻までと何ら変わりない声が聞こえた。どうやら榎本の方では何ともないらしい。
「あ、えっと…停電した、みたい…」
暗闇に未だ目は慣れず、部屋の中は本当に真っ暗で、携帯電話の画面だけが一筋の明かりになっていた。
懐中電灯も無いし、この停電が復旧するまでどうしようもないか、と早くも諦める。
ふうんと電話の向こうから、嫌な雰囲気の声が聞こえてきて、純子は思わず身構える。
『その暗闇の中、どうされるんですか? もうお仕事は出来ませんよね。停電が直るまで、しばらくの間お付き合いいたしましょうか?』
「……ただ単に、自分が暇なだけなんでしょう?」
『暇ではないですよ。まだ仕事も残ってますし』
機械越しに聞こえる低めの声が笑う。
「……私はもう寝ることにします。どうせ仕事が出来ないなら、潔く体力回復に努めたいですし」
『でもたしか、青砥先生は真っ暗だと眠れない方でしたよね。どうせすぐには寝れないのだし、お望みとあれば添い寝に伺いますよ』
純子は思わず、携帯電話を壁に叩きつけたい衝動にかられる。


ベッドに入ってからも睡魔が来ることはなく、横に転がっているだけ、という状態になってしまった。
辺りは今も暗いままで、目を閉じても、逆に目を開いても、あまり変わり映えがしない。
空は今も思い出したかのように時折雷を落とし続け、停電はまだ直りそうもない。
仕事のことを考えようとしても集中できず、何度目かの寝返りをうつ。
榎本と電話をしている時は大丈夫だと思っていたが、やはり真っ暗闇の中ではなかなか寝つけず、一人でいることも相俟って段々に意識が変わってくる。
ピンポーン、とチャイムが鳴ったような気がした。
時間的にも状況的にも全てが違和感だらけで、そんな音が聞こえるはずがない、空耳に違いない、と耳を塞ぐ。
しかし、気づいてしまった緊張に敏感になった耳は、一向にやまない雨の音を拾い続ける。
このまま眠ってしまえばいいのだと、ギュッと目を閉じる。ただでさえ最近は寝不足なのだから、こうしていれば眠れるはずだと無理矢理に言い聞かせる。

「青砥先生? やっぱりまだ眠れてなかったようですね」
笑いを含んだ聞き慣れた声が聞こえ、布団を飛ばす勢いで純子は上半身を起こした。
「榎本さん!?」
ありえない人物がそこにいることが不思議で、恐怖のためではなく、少し上ずった声が出た。
「はい」
姿ははっきりと分からなくても、聞き間違えることのない声は、正真正銘、榎本径本人である。
今までの緊張感が一気に消え、その分、怒りが倍増する。
「な…何でこんなところにいるのよ! 勝手に人の部屋に上がり込んで!」
榎本がベッドに腰掛けて横座りしたらしく、ぎしっとベッドが軋んだ。
「私がチャイムを押しているのに、出てきてくれないからですよ。このひどい雨の中、ここまで来たのに」
「だからどうしてここにいるのよ! さっき電話してきた時、あなたは一体どこに…」
「青砥先生が怖がっていないかなと思いましてね」
「…それだけのために、ここまで来たってわけ? さっきの電話からして、ずいぶん遠い『お仕事先』にいらしたみたいなのに、わざわざご苦労様なことで」
「何のことですか? うちの店からここまでは、そうかかりませんよ」
「はい?」
「在庫整理で残業していましてね。青砥先生に電話を切られた後、急いで片づけてこちらにはせ参じたわけです」
340停電の夜 3/5:2012/07/14(土) 21:54:26.92 ID:pjxWlY/b

―――やられた。
まるで雨が降っていない場所にいるかのような会話で、てっきり二県くらい離れた所にでもいるかも思いきや、
実際は車で二十分程度のF&Fセキュリティ・ショップにいたわけだ。
よく考えてみれば、榎本の「仕事」は暗闇であることも多いし、多少の停電など、何の支障もきたさないはずだ。
飄々とした、かみ合わない会話に腹が立ちつつも、一番根底にあるのが自分の勘違いであるために、
どのように返せばいいか純子が慎重に言葉を探しあぐねていると、くいっと顎を持ち上げられて、顔を榎本に向けるしかなくなる。
「停電の中、暗闇の恐怖に泣きじゃくる青砥先生の顔が見たくなりまして」
「誰が停電くらいで泣くものですか。そもそも何でそんなものを見たいとか言うのよ」
「青砥先生のを見ないで、一体誰のを見ろっていうんですか」
顎にかけられた手を離させたものの、言い返す言葉を無くしてしまった純子は、何も榎本に言えない。
「でも、眠れなかったのは事実でしょう?」
ふふん、と鼻から息をもらして笑うのが、明りのない状況のままでも分かった。
「私が眠らせてさしあげましょうか?」
「はぁ?」
榎本の言葉に隠された意味を感じて、純子は思わず後ずさる。
「そういえば、鍵もチェーンも掛けてたのに、どうやって入ってこれたの!?」
「こんなの余裕です。あの程度のセキュリティなんて、一分かからずに突破できますよ」
あっさりと犯罪行為を白状され、怒りやら驚きやらで、純子は口をぱくぱくさせるしかなかった。

ふいに榎本の顔が近付き、雨に濡れた匂いに鼻孔をくすぐられる。
それとわずかな体臭。慣れた匂いは次の行為を予想させる。鼓動が早くなり、身体が自然に変わっていく気がしてならない。
「雨の中から来たので、寒いんですよね」
頬に触れてきた榎本の手は本当に冷えていた。
「榎本さん、冷たいわ」
そう言って純子は榎本の方を見やる。微かに見えた表情は笑みを浮かべていて、じっと純子を見据えていた。
「だったら、貴女があたためて下さい」
自然の流れでキスを送られる。手とは違い、舌と口腔は確かな熱を持って純子を翻弄し始める。
榎本を仰ぎ見る状態になっても、なぜか抵抗を起こす気になれなかった。
341停電の夜 4/5:2012/07/14(土) 21:55:55.56 ID:pjxWlY/b

稲妻が光り、二人を照らす。一瞬だけ彩色された世界は、いつもと違う状況で、一層と気分を煽りたてられる。
下着と共に脱がされた服は、ベッドの下に散らばっている。
氷のように冷たかった榎本の手には既に純子の体温が移り、違和感が無くなっている。
下腹部を撫でていた指がそのままスライドされ、ピクッと純子は身体を震わせた。
「……いいですか?」
答えられるはずもない質問に言い淀み、視線を感じて純子は横を向く。
答えが無いことに榎本は純子をじっと見つめ直し、敏感になっている部分を指で執拗に触れる。
「榎本、さん……いやぁ…」
名前を呼び、惰性の様に左右に頭を振る。それでも喘ぐ声を我慢できずに、漏れる。
榎本は、嘘つき、と小さな声を耳元で呟き、そして口づけを身体のそこかしこに落としていく。
体温を上げた肌は欲にも染まり始めている。
「……んっ…」
伸ばされた指に下を慣らされていく。その感覚だけは、おそらくどれだけ身体を重ねても、慣れることはないだろうと思う。
榎本のシャツをつかみ、キスをねだると、笑った感じがした後に軽いものを与えられる。
それと共に胸に手を這わされ、緊張を溶かすように、直接触れられて、自然に声が出る。
「…あっ…やぁ…」
声をおさえることが出来なくなり、すがる腕を榎本の首にまわして、頬をすり寄せる。

不意に腰を抱き込まれて、弛緩した瞬間に、ぐっと押される圧力を純子は強く感じた。奔放に放たれていた声は途端に消え入る。
腰に手を合わされ幾度か揺さぶられた後、体勢を入れ替えられる。急なその動きに耐えられなくて、苦しげな声が漏れた。
今度は仰向けになった榎本を見下ろす体勢になって、瞬間的に理性を取り戻した純子は、何とか手を動かして榎本の胸を叩く。
その抵抗に榎本は言葉で答えることなく、動き触れた部分から濡れた音をたてさせ、抵抗する気を無くさせる。
上半身を起こした榎本に耳にささやかれた言葉に微かに頷く。
流れ落ちる汗に、負荷にかかる圧迫感に、自ら揺らめく身体に、止まらない声に、もう何も分からなくなる感情に、
相手に無言のままで伝える行為に、のめり込んでいく。
体温を交換するようにして接触して、溶けるかと思えるくらいに、身体を重ね合わせる。

自分の思うままに解放して、やがて純子は失墜の中に完全に意識を飛ばした。
342停電の夜 5/5:2012/07/14(土) 21:57:37.05 ID:C5C++SLG



―――眠れない。
隣りには気持ちよさそうな顔でぐっすり眠る榎本がいる。
狭いベッドの上はあまり離れることもままならず、どこかしらが榎本に触れていることになる。
嫌ならばベッドから出て仕事の続きをすればよいのだろうが、あいにくとそんな気分にはなれず、そのままだらだらと朝を迎える羽目になった。
本当に、何のために榎本がここに来たのか、不思議でならない。
そうして結局、彼がすることなんか分かるものかと、考えること自体を諦める。
いい加減仕事に戻らなきゃ、と考え直した純子は、ベッドから降りようと身体を移動させる。
しかし少し動いただけで、それ以上が動かない。見れば榎本にお腹を抱え込まれていて、身動きがとれない。
「…………」
榎本の方に向き直り、意趣返しとばかりに鼻をぎゅっとつかむ。苦しくなったのか、寄せてムッとした眉が楽しくて、純子から小さな笑いが自然と漏れる。
指を離し、榎本を見下ろして、ふっとため息を落とす。
これでは起きることもままならないし、眠ることもできない。しかし、ここで起こしてしまえばどうなるだろうか。
ふと見やった榎本は微かな笑みを浮かべていて、幸せそうなその頬を軽く叩くのみで済ませた純子は、これから数時間はこのままか…と、今度は深いため息を出した。

<終>
343名無しさん@ピンキー:2012/07/14(土) 22:23:29.08 ID:LUMRAOdb
何だかヤンデレ榎本が結構需要があったみたいなんで書いてみた
もっと容赦のないヤンデレパターンで
プラス、>>144 のアクション榎本のリクにも答えてみました。
長くなりすぎてエロシーンばっさりカットしてしまった……実力不足ですみません。
それでもOK、という方のみお願いします。
344純子の危機 1/7:2012/07/14(土) 22:24:52.17 ID:LUMRAOdb
 最初は、気のせいだと思った。
 帰宅途中、いつも同じ足音がついてくるような気がした。最初は、近所の住民だろう……と思っていたのだが。純子が立ち止れば足音も止まり、早足になれば早足になる。
 わざと道を変えてみたり寄り道をしたりしたが、足音は常にぴたりとついてくる。
 家に帰っても落ち着かなかった。どうも、誰かに見られているような気がする。もちろん、家中を見て回っても、誰が潜んでいるわけでもない。家具が動いているわけでも、不審なレンズが見つかったわけでもない。それでも、誰かの視線を感じる。
 極め付けはあれだろう。仕事から帰った後。もしくは休日、朝寝坊をしているとき。純子が必ず家にいるときを見計らって、非通知や公衆電話から、携帯に電話がかかってきた。
 相手は何も言わない。名乗りもしない。誰ですか、と問うても、警察に通報しますよ! と叫んでも、見事なまでの無反応を貫いている。
 けれど、電話は決して向こうから切られることはない。聞こえてくるのは微かな呼吸の音のみで。別に「はぁはぁ、姉ちゃんパンツ何色?」みたいな卑猥な言葉をかけられるわけではないが、気持ち悪さで言えば、むしろこちらが上だろう。
 たまらず電話を切ってもかけ直してくる。思い余って非通知と公衆電話を着信拒否にしてみたが。今度は、見たこともない電話番号から電話がかかってきた。
 それは固定電話だったり携帯電話だったり色々だったが、着信拒否にしても二回目からは別の電話番号でかかってくるためきりがない。
 いっそ無視してしまいたいが、仕事上、覚えのない番号から電話がかかってくる可能性は常にあるため、そういうわけにもいかない。
 怖い。気持ち悪い。最初は気のせいだと思いたかったが、ここまで来るとさすがに無理があるだろう、と。純子は、思い詰めた挙句、職場の上司に相談することにした。

「……って感じなんですけど」
「うーん……」
 純子の訴えを聞いて、芹沢は、難しい顔で腕組みした。
「足音とか、視線とかは、気のせいと言えないこともないけどなあ。電話は黒だな、さすがに」
「……やっぱりそうですよねえ」
「警察に言ったのか?」
「まだですけどっ。でも、ストーカー被害って、警察は実質、何もできないじゃないですか」
「まあな。あいつら、事が起きないと何もしてくれないからな」
「警察に訴えたせいで、逆上されたパターンもあるって言うし……それに、もしかしたら、何か理由があるかもしれないじゃないですか」
 部下の思いのほか冷静な判断に、芹沢は素直に感心した。
 ストーカーの気持ちなど、はっきり言って本人以外の誰にも理解できないだろうが。確かに、この純子に通常の意味でのストーカーがつきまとうというのは、どうもピンと来ない。
 お世辞抜きに外見はそこそこに整っていると思うが、いかんせん、何もかもが地味だ。
 男を引き寄せるオーラなど皆無というか。地味でも「守ってやりたい」系の地味な可愛さではなく、仕事でなめられまいと虚勢を張っている系の地味さというのがいただけない。
 どちらかと言うと、弁護士という職業柄、仕事上で何かの恨みを買っている、という可能性の方がまだありそうだが。
「そうだな。とりあえず、あまり一人で出歩くな。時間が合うときは、俺が送っていってやるから」
「……すいません」
「けどな、青砥。悪いが、俺は忙しい」
「それは……よくわかってますけど」
「だから、専門家を頼れ」
「はい?」
 警察に訴えろ、ってことですか? という純子に指を振って。芹沢は、窓の向こうに目をやった。
「盗聴とか盗撮とか、そういうのが得意そうな知り合いがいるでしょうが、俺達には」
 なるほど、と納得する部下に早く行け、と手を振って。芹沢は、「まあ、あいつがいれば大丈夫だろ」と、無責任な台詞を吐いた。
345純子の危機 2/7:2012/07/14(土) 22:25:50.18 ID:LUMRAOdb
「……っていう状況なんです。でも、できれば、あんまり事を大きくしたくないので……警察には訴えたくないんですよ。榎本さん、助けて下さい! お願いします!」
 東京総合セキュリティの地下備品倉庫にて。
 純子が頭を下げると、部屋の主は「はあ」と言いながら、顔を上げた。
 仕事そっちのけで開錠作業に集中しているのは相変わらずだが、防犯に関して、榎本以上に詳しい人間を純子は知らない。
「ストーカー、ですか? 何か、狙われるような心当たりでも?」
「わかりません……最近、仕事が忙しくてあんまり出歩いていませんし……無言電話だから相手の声とかも全然わかりませんし……でも、いたずらって言うには、ちょっとしつこい気がするんです」
「確かに」
 純子が差し出した携帯電話の着信履歴を見て、榎本の眉がひそめられた。
 それはそうだろう。毎日のように、数分感覚で知らない番号から電話がかかってくるのだ。改めて見直して、純子自身、背筋が総毛だった。
 もしかして、自分は呑気過ぎたのではないだろうか? もっと早くに相談すべきだったのではないだろうか?
「あの、榎本さん。どうしたらいいと思いますか……?」
「今日は、芹沢さんは?」
「今日は、大事な商談があるって……あの、図々しいお願いで申し訳ないんですけどっ! その、芹沢さんが、自分が送れないときは榎本さんに送ってもらえ、って……」
「…………」
「あの! ……防犯アドバイスの依頼、っていう形で……相応の依頼料は、お支払しますから」
「別に、そんなものはいりません」
 言いながら、榎本は手早く部屋を片付けた。
 ピッキングツールその他、見慣れない道具を鞄に放り込み、立ち上がる。素早い動作にポカンとしていると、「行きましょう」と声をかけられた。
「あの、榎本さん?」
「何ですか」
「行くって、どちらに……」
「青砥さんのお宅です。一人で帰らないように言われているんでしょう。ついでですから、部屋の中をチェックさせて下さい。盗聴器や盗撮カメラが仕掛けられている可能性がありますので」
「榎本さんっ……!」
 わずかなためいらもなく動いてくれた榎本に、純子は素直に感動した。
 言ってしまえば、榎本には何の関係も無いことなのに、何の見返りもなく動いてくれる。チーム榎本、などと勝手に言っているものの、榎本自身は迷惑に思っているのではないか、と心配だったのだが。どうやら、それは杞憂だったらしい。
「ありがとうございます、榎本さんっ! やっぱり、榎本さんて頼りになりますねっ!」
「……いえ……」
 純子の素直な賞賛に目を伏せて。
 榎本は、すたすたと歩き出した。

 帰宅途中の道すがら、榎本の目つきは鋭かった。
 家に帰るなり厳重に鍵をかけ、室内を見て回る。
 もともと、いずれはチェックしてもらうつもりだったため、ある程度片付けてあったが、まさか今日の今日で見てもらえるとは思わなかった。わかっていたら、もっときちんと掃除したのに……と、純子が密かに悔やんでいると。
「青砥さん」
「はいっ!?」
「見つかりました」
「はい? 何が……」
「これです」
 言うなり、小さな機械がいくつも目の前に散らばった。
 パっと見ただけでは、それが何なのかはっきりしない。精巧に組み合わせられた金属片の塊、のように見えるが……
346純子の危機 3/7:2012/07/14(土) 22:26:54.15 ID:LUMRAOdb
「あの、これは」
「こちらが盗聴器、こちらが超小型カメラになります」
「えええええええっ!?」
「もう起動しないように破壊してありますので、声を出してもらっても問題ありません」
「い、いつの間にっ……」
 散らばった機械の数に息を呑み、一体いつ仕掛けられたのか、と身震いし、ついで、それを即座に見つけてみせた榎本の手腕に感嘆した。
 やはり、こういったことは専門家に頼むべきなのだ。警察など、当てにできない。
「ありがとうございます、榎本さんっ!」
「これだけで安心されては困ります。鍵の状況を確認させて頂きましたが、特にピッキングの痕は見当たりませんでした。ひょっとしたら、犯人は合鍵を持っている可能性が考えられます」
「えっ……」
「青砥さん。この際だからはっきり言っておきますが、どんなに精巧な鍵をつけても、それが人間の作ったものである以上、人間に破れない鍵はないと思ってください。手間と暇を惜しまなければ、大抵の密室は破れます」
「そんな……」
「犯人が青砥さんにどのような感情を抱いているのかはわかりませんが。何らかの強い執着心を抱いている場合、必ず、次の手を考えてくると思った方がいいでしょう」
「…………」
 淡々とした声音に、ぞくり、とした寒気が走った。これまで「気のせいだろう」と呑気に構えていた自分をはたき倒したい。事は、ひょっとしたら命に関わるかもしれないのだ。
「助けて……」
「…………」
「た、助けて下さい、榎本さん。わたし、何でもしますからっ……どうしたら、どうしたらいいですか?」
「……そうですね」
 純子の言葉に、榎本は指をすり合わせながら言った。
「一時避難で言うならば、ホテルなり、友人の家なりに泊まるという方法もありますが、根本的な解決にはなりません。まずは、犯人を捕まえることを考えましょう」
「犯人を?」
「はい。そのためには、これがただのストーカー……犯人が、青砥さんに恋愛感情を抱いているのか。あるいは恨みを抱いているのか。それらを見極めることが、大切だと思います」
「……どうやって?」
「…………」
 純子の言葉に、榎本はしばしの沈黙の後、言った。
「青砥さん」
「はい?」
「僕が、あなたの恋人……では、不満でしょうか?」

 まさかの台詞に大い動揺したが、ようするには恋人の振りをするのだ、と言われて納得した。
 なるほど。もし、犯人がどこかで純子を見初めて一方的につきまとっている場合、恋人らしい若い男が傍にいたら、平常心ではいられないだろう。
 芹沢では年齢的に無理がある……いや、世の中年の差カップルという言葉もあるくらいだから、探せばいなくはないだろうが。やはり、つり合いとしては、榎本の方がその相手にふさわしい。
「全然、不満なんてないです! 榎本さんこそっ……すいません、巻き込んでしまって」
「いえ」
「本当に、榎本さんて頼りになりますねっ! あのっ……明日から、よろしくお願いします」
「いえ、こちらこそ」
 榎本の言葉は素っ気なかったが、その耳が微かに赤らんでいるのを、純子は見逃さなかった。
 あの榎本が、照れている。それが何だかおかしくて。状況も忘れて、笑みが浮かぶのがわかった。
347純子の危機 4/7:2012/07/14(土) 22:28:10.90 ID:LUMRAOdb
 それから数日の間、純子は、榎本と行動を共にした。
 事情を話すと、「なら、俺はもう用済みだよな」と芹沢にすねられたが。それでも「榎本なら大丈夫だろう」と言葉を返す当たり、この上司も榎本には全幅の信頼を置いているんだな、と実感できて。純子の恐怖心も、少しは和らいだ。
 毎日、榎本の元に通い、家まで送ってもらった。これだけのことをしてもらって申し訳ない、と、純子は正式な依頼扱いにしたいと申し出たが、「僕が好きでやっていることですから」と、きっぱりと拒否された。
 ならば、と、夕食をふるまうと、素直に「美味しい」という感想をもらえて、やけに胸が騒いだ。
 何だろう。榎本さんて、地味で無口で、パっと見はいわゆる「アウトオブ眼中」な人だと思っていたのに。頼りになるし、優しいし……よくよく見れば、顔立ちはとても整っているし。実は、すごくいい男なんじゃ……?
 一年近い付き合いの中で、今更、そんなことを実感していると。
 事態は、急展開を迎えた。

 榎本と恋人同士の振りを始めてから、ちょうど一週間後。
「あれ? 荷物が届いてる……」
「荷物?」
「はい。宅急便が……でも差出人が。誰だろう?」
「ちょっと見せてもらえますか」
 マンションの宅配ボックスに届いていたのは、平たい荷物だった。
 持ってみると、割と重い。とりあえず部屋に持ち帰り、荷札を確認してみたが。宛先は間違いなく純子になっているのに、差出人は全く覚えのない名前だった。
「ま、まさか……爆弾、とか!?」
「青砥さん、落ち着いて下さい。さすがにそれはありません。中から何の音も聞こえませんし」
「で、でもっ」
「開封します」
 榎本の口調が落ち着いていることに安堵して、その手元を見守る。
 ガムテープをはがし、段ボールを開けると。中から出てきたのは……
「え、アルバム?」
「……のようですね。お友達か、ご家族の方ではないですか?」
「いえ、差出人には、本当に心当たりが……あ、手紙が入ってる」
「確認して下さい」
 榎本の言葉に頷いて、純子は、そっと手紙を開封した。幸い、いきなり剃刀の刃が飛び出てくるようなことはない。
「――え……」
 手紙は、パソコンで打ち出されていた。その内容を読み進め、純子は、顔から血の気が引いていくのを感じていた。
「榎本さっ……」
 振り向いて絶句する。榎本は、アルバムを開いていたが。その中身は――
「きゃあああああああああああああああ!? み、見ないで! 見ないでくださいっ!」
「す、すみませんっ」
 あの榎本がうろたえている。それは非常に珍しい事態だったが、呑気に楽しんでいる余裕などない。
 アルバムの中には、純子の写真がびっしりと貼られていた。それは通勤途中だったり、家の中でくつろいでいたりと、実に様々な場所で様々な角度から撮られていた。
 服装もばらばらで、一体、どれだけの期間に渡って盗撮されていたのかと、今更のように恐怖心がこみあげてきた。
 写真の中には、下着姿や全裸に近い写真……風呂場やトイレで盗撮されたと思しき写真も混じっており、こんなものを榎本に見られたのかと思うと、羞恥心で死にたくなった。
「え、え、榎本さあん……」
「すみません……泣かないでください。青砥さん、手紙には、何て書かれていましたか?」
「うっうっ……こ、これ……」
「…………」
348純子の危機 5/7:2012/07/14(土) 22:29:05.25 ID:LUMRAOdb
 手紙を差し出すと、榎本の顔がはっきりと強張った。
 中には、無機質な文字で「よくも俺を裏切ったな」だの「俺にこれだけの痴態を見せておいて」だの「ぶっ殺す」だのと言った内容が、ありとあらゆる語彙を駆使して書き連ねられていた。
 手紙によれば、男は純子の恋人で、純子の全てを余すことなく知っているらしい。榎本の存在に激怒しており、裏切り行為だと罵り、最終的には淫乱女には死の制裁を! という言葉で締めくくられていた。
 他人から、ここまで悪意を向けられたのは初めてのことで。吐き気にも似た衝動が、襲ってきた。

 ――怖い。気持ち悪い――

「青砥さん」
 そっと、榎本に肩を抱かれた。反射的にしがみつくと、優しく抱き止められた。
「どうやら、犯人の目的ははっきりしました。後は、警察に任せた方がいいでしょう。これは立派な脅迫です」
「榎本さん」
「大丈夫です。これだけ証拠があれば、警察ならきっと犯人を見つけてくれるでしょう。僕の役目はここまでです。青砥さ――」
「行かないでっ」
 ぎゅっ、と、腕に力をこめる。硬直する身体にしがみついて、純子は、心の底からつぶやいた。
「行かないで、傍にいてくださいっ――榎本さんっ……」
「青砥さん……」
「一人にしないでください。お願いっ……」
「…………」
 榎本の手が、ぎこちなく背中に回された。そのまま体重を預けると、「傍にいます」と囁かれた。
 ああ……もう、大丈夫だ。榎本さんが、いてくれるから……
 優しく唇を塞がれても、嫌悪感のようなものは全くなかった。むしろ、純子から積極的に求めさえした。

 その日、初めて、榎本は、純子の家に泊まって行った。

 翌朝。同じベッドの中で目を覚ましたとき、気まずさのようなものが全くないことに、純子は心から安堵した。
 こうなってよかった。自分は、きっとこうなることをずっと前から望んでいたんだ――と、そう思った。
「榎本さんっ、おはようございます」
「……おはようございます、青砥さん」
「今日、警察に行きます。芹沢さんにも許可をもらいました! だから、朝はちょっとのんびりできますよ――榎本さんは?」
「半休を取りましょう。差し迫った仕事は入っていませんので、問題ありません」
「ありがとうございますっ」
 仕事よりも、迷わず純子を選んでくれた――そのことに素直に感謝しながら、二人で朝食を食べ、連れ立ってマンションを出た。
 最寄りの警察署までは、大した距離ではない。110番通報するほどのことでもないだろう――というのが、油断だったと言われれば、言い返せない。
「純子おっ!!」
 後数分で、警察署につく――というところで。
 突然叫ばれた名前に、純子の身体が強張った。
 とっさに、傍らの榎本にすがりつく。榎本の視線も鋭くなっていた――場所は、住宅街。通勤、通学時間からずれている今、人通りは――ほぼ、無い。
349純子の危機 6/7:2012/07/14(土) 22:30:05.17 ID:LUMRAOdb
「純子おっ……てめえ、てめえっ! 何だよお、その男はあああああああああああああっ!」
 後になって考えても、全く見覚えのない男だった。
 一体、どこで知り合ったのか。偶然、街ですれ違ったのか――純子には全くわからなかったが。男は、確かに純子をまっすぐに見つめており、その顔には狂気の色が浮かんでいた。
 手に握られているのは、バタフライナイフ――ぎらぎらした目つきで睨みつけられ、全身がすくみあがった。助けを呼ばなくては、とわかっているのに、喉が強張り、声が出ない。
「お前、お前っ、純子の何だよっ! 俺の純子に何すんだよっ! よくも、よくもおっ……」
「青砥さんは、あなたのものではありません」
 対する榎本は、全く動じる様子はなかった。
 純子を背中に庇ったまま、鋭い目つきで男をにらみすえ――ナイフを目にしても、怯えた様子など、一切見せず。
「青砥さんは、僕の恋人です」
「てめええええええええええええええっ! ぶっ殺す! ぶっ殺してやるううううううううううううう!!」
 悲鳴が漏れた。逃げて下さい、と叫んだような気がしたが、声になったか、自信はない。
 衝撃を感じた。榎本に突き飛ばされた――ということに気付いたのは、数秒後。
「榎本さんっ!」
 突進してくる男、突き出されるナイフ。対して、榎本は――
「っ!!」
 すっ――と、榎本の身体が右に流れた。
 そのまま、男の腕に手をかける。力を入れた様子など一切見せていないのに、その瞬間、男の身体が宙を舞った。
 叩きつけられる身体。素早くその身体に馬乗りになると、手首の関節を絞め、ナイフを叩き落とした。
「うがあっ!?」
「失礼、痛かったですか――ですが、これ以上やると言うのなら、もっと痛い目にあってもらいます」
「でっ、でっ、でめえっ……こんなっ……」
「青砥さん、警察を。110番通報してください」
「は、はいっ!」
「待てっ……ちがっ……純子っ……」
「あなたのような存在に青砥さんの名前を呼ばれるのは不愉快です。大人しくしていてください」
「ぐがあっ!?」
 榎本の腕が男の首に回り、そのまま、一切無駄のない動きで頸動脈を締め上げた。
 男の顔が真っ赤に染まり、いわゆる「落ちる」まで、数秒とはかからなかった。

「いやあ、よかったなあ、青砥。これでようやく、夜もゆっくり寝られるだろ」
 男を警察に突き出した後。迎えに来てくれた芹沢に報告すると、満面の笑みで肩を叩かれた。
「はいっ! 本当に助かりましたっ!」
「榎本もさんきゅーな。いやあ、面倒かけたな。危ない目にも合わせちまったし。青砥につきっきりで仕事にも支障出たんじゃないのか? やっぱ、正式な防犯アドバイス料払うって。遠慮なく言ってくれ」
「いえ、結構です」
 そんな芹沢の申し出に、榎本は素っ気なく答えた。
「お礼なら、もうもらってますから」
 そう言って、視線を純子に向ける。
 相変わらずの無表情ではあるが。その視線に何となく熱っぽい色を感じて、純子は、一人赤面した。
 お礼って。お礼って、もしかして……
「ん? 何だ何だ、お前ら怪しいな。おい、まさか……」
「ご想像にお任せしましょう」
「隅におけないねええのもっちゃん! ま、お前のおかげで今回は助かったからな! うちの青砥をこれからもよろしくな!」
「はい」
 芹沢の言葉に、うっすらと笑みを浮かべて。
 榎本は、頷いた。
350純子の危機 7/7:2012/07/14(土) 22:30:53.63 ID:LUMRAOdb
 指定の口座に金を振り込み、榎本は、大きく息をついた。
 相手はよくやってくれた。所詮、ネットの怪しい広告に釣られてくるような男だ。どこまで信頼に足るかは不安だったが、期待以上の演技力を見せてくれた。
 敬意を表して、提示していた金額をかなり割増して振り込んでおいた。もっとも、相手が監獄から出てくるのは、当分先になるかもしれないが。
 男は、警察相手に「操られた」「ネットで指示されただけ」「言われた通りにやっただけ」と訴えているらしいが、男の家のパソコンを漁っても、そのような履歴、痕跡は一切なく。ストーカーの妄想で片付けられているらしい。
 男の家のざるのような警備を思い出す。自分が犯罪に加担している、という自覚が無いのだろうか。パソコンのパスワードが安易に誕生日に設定されていたのには、さすがに苦笑が漏れた。
(あなたはよくやってくれました、本当に)
 男はネット越しの依頼人など顔も名前も知らないし、知るためのスキルもない。榎本のことがばれる可能性は、まずないだろう。
 作業を終え、立ち上がる。明日は、純子が初めて榎本の家を訪れる予定となっている。その前に、色々と掃除をしなければならない。
 純子の家の盗聴記録や写真のネガなどを、まとめてゴミ袋に放り込む。少し惜しい気もしたが、何から足がつくのかはわからない。パソコンの中に保存されている動画なども、全て削除した方がいいだろう。
 自然と口角がつりあがっていくのがわかった。純子は疑わない。心から榎本を信じ、その身も心も、全て榎本に捧げてくれた。
 こうでもしなければ、彼女が榎本を相手にすることなど一生ありえなかっただろう。彼女の中では、榎本など男として認識されていたかどうかも怪しい。それを思えば、罪悪感も薄らいだ。
(あなたは困った人です、本当に)

 僕を、ここまで本気にさせるなんて。

 愛しい恋人の顔を思い浮かべながら。
 榎本は、ゴミ袋を焼却炉に放り込んだ。

〜〜END〜〜
351343:2012/07/14(土) 22:32:53.42 ID:LUMRAOdb
終わり。
長々と失礼しました。
352名無しさん@ピンキー:2012/07/14(土) 23:48:54.74 ID:rZ2/yFR1
神ktkr
いつも萌えをありがとうございます
ブラック榎本が好きすぎる
DT榎本さんもブラック榎本も原作榎本もみんな良いから困る/(^o^)\
353名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 00:06:50.11 ID:77ur0U4f
>>338
がっつりエロGJでした!

>>343
6までは、なんて俺得設定!?と舞い上がっていて7でぶっ飛んだwwwwww
ヤンデレってそういや書いてたっけとあとで思い出した。
超GJです。
354約束・Departure:2012/07/15(日) 02:31:25.19 ID:6TizCPnk
前スレで『約束』を、当スレで『Departure』を投下したものです。
これまでの私の作風が苦手という方は
『Welcome To The Edge』でタイトル避け願います。

このタイトルは最近ラジオで偶然聞いた古いドラマのエンディングから拝借しました。
『鍵のかかった部屋』とは全く趣を異にするジェットコースタードラマですが
改めて歌詞をきちんと聞いてみると、自分の中の榎青の世界観にぴったり嵌りました。
よろしかったら、曲だけでもネットで探して試聴して頂けたらと思います。

尚、こちらは一応、『約束』の続編という設定で、ティストとしては原作寄りです。
例によって、エロに辿り着くまでの前段が長すぎる為、今回も三分の一程削っていますが
その部分のあらすじは以下の通り。



・・・・・・・・・・

帰国した榎本は青砥には連絡を取らずにセキュリティショップを立ち上げる。
青砥はある密室殺人事件の真相究明の為に、榎本の店を訪ねるが
お互いにわだかまりがあり、素直に自分の気持ちを表すことが出来ない。
その一番の原因は、青砥の同僚今村の存在にあった。
今村は、たった一晩きりとは言え、青砥と関係を持った相手である。
しかも青砥はその夜、榎本から渡された例の指輪を失くしてしまっていた。
密室の解明の為とは言え、自分を執拗にマークする鴻野や、
青砥に相応しい社会的地位と才覚を持った今村の前で、マンションの壁の登攀や
タイムラプスビデオの監視を逃れる早業等、泥棒稼業のパフォーマンスを
やってみせなければならない状況に苛立つ榎本。
青砥はそんな榎本の背中に、形容しがたい愛おしさと切なさを改めて感じるのだった。


・・・・・・・・・・・

連投等の規制にひっかかるやもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。
355Welcome To The Edge 6-15:2012/07/15(日) 02:33:38.67 ID:6TizCPnk
打ち上げをしようという今村の誘いを固辞して、径は白いジムニーを停めたスーパーの駐車場に戻った。
当然のようについて来た青砥が、あっ、と、何かを思い出したように声を上げる。
「あの、私スーパーで何か買い物して来ます。このままじゃ、無断駐車になっちゃいますから。お店の人にも悪いし…」
だから先に帰ったりしないで下さいと懇願して駆け出した細い後ろ姿を見送りながら、径はあの頃と変わらない青砥の不器用な誠実さを想った。

青砥純子はその名の通り純真な女性だ。
だが時に純真さは鈍感さという針のムシロにもなる。
今日のこの1時間程度の検証で、青砥は自分を鴻野と今村の前で丸裸にし、あまつさえ、今村の弁護士としての技量を見せつけてみせたのだ。
それが本人の意図するところではなかったとしても。
径は思わず鳩尾のあたりに手をやった。
胸の内側と、そして外側からも、径が青砥に傾けた想い分だけ、刺が深く突き刺さっていく。
そんな痛みだった。

空の遠くを径は見上げる。
分厚い雲が再び広がり、誰かがつつけば、今にも雨が落てきそうな色だ。
クリスマスイブの夕まぐれに、最も愛しい者と二人でいながら
どうしようもなく一人きりでしかない現実。
サンタクロースは現れない。
それは、子どもの頃からずっと変わらない事実。

「お待たせしました」
駆け寄る青砥の手に下げられたレジ袋には、赤ワインのボトルとチーズが入っているようだった。
一人で飲むには多過ぎると思われるそのボトルを、助手席の青砥は大事そうに抱えている。
ジムニーを発進させ、ラジオをつけると、スピーカーからはまたも、先ほどの曲が流れて来た。

――You are my chance
  To be somebody new
  Whatever the risk
  I'm ready now with you
  I'm not afraid to fall
  Love will see us through
  Together

押し黙ったままの二人を乗せて、径の白いジムニーは、イルミネーションがまばらに点滅し始めた街を、もと来た方向にと走り続けた。
356Welcome To The Edge 7-15:2012/07/15(日) 02:34:37.10 ID:6TizCPnk
「あの…もし良かったら、少し寄っていきませんか?」
何気なさを装うつもりだったのに、純子の声は滑稽な程裏返っていた。
「クリスマスだし…と思って買ってみたんですけど、一人ではとても飲みきれそうにないですし…」

申し出を一蹴されるだろうことは想定済みだったが、意外にも榎本は素直にマンションの駐車場に乗り入れると、住人の誰かが契約していると思しきスペース…18番に白いジムニーを停める。
「あ、でも、ここの契約者が戻って来るかも…」
純子の心配をよそに、榎本はさっさと車を降りるとスタスタと歩き出した。
初めてこの場所を訪れたとは思えない榎本の足取りに、純子は更に不安を覚える。

「最上階です」
純子の言葉に、榎本はエレベーターの7階ボタンを押す。
室かごの上昇と共に胸が高まるのを純子は感じた。
成就せずに終わった恋は、何年経っても色あせはしないのかもしれない。

終わった恋…
果たしてそうなのだろうか?
終わったのだとしたら、いつ始まったのだろうか?
純子は自分と同じ高さにある榎本の横顔をまっすぐに見た。
そんな彼女の動きに気づかないのか、榎本はエレベーターの現在位置を示す表示ランプを目で追っている。
やがて室かごは最上階につき、二人は廊下を辿って、純子の部屋に到着した。

「あの…すぐに用意をしますから、その辺に腰掛けて待っていて下さい」
二人がけのカウチを榎本に指し示し、純子はキッチンへ入った。
ワイングラスとオープナー、カッティングボードとナイフ、ボトルを冷やす為の氷と容器等をいそいそと用意する。
もしかしたら来客があるかもしれないと、部屋を片付けておいて良かった。
こんなに心が震えるクリスマスイブは、一体何年振りだろう?

「榎本さん、お疲れ様でした。今日は本当にありがとうございました。
では!メリークリスマス!!」
純子は、榎本の隣に腰掛け、ワイングラスを一気に空けた。
緊張からくる喉の渇きのせいでもあったが、それ以上に、
榎本と二人きりでいる高揚感に、いつもの注意深さを奪われていたのかもしれない。
恐らく普段の半分程の観察力があれば、榎本の鳶色の瞳の底に広がる
空洞(うろ)のような暗い情熱に気がついていただろう。
357Welcome To The Edge 8-15:2012/07/15(日) 02:35:40.21 ID:6TizCPnk
純子が注いだワインに一口も付けないまま、榎本はグラスをテーブルに置いた。
「あ…飲んだら飲酒運転になっちゃいますもんね。私ったら気がつかなくて…」
冷蔵庫に確かペリエが…、と立ち上がった純子の手首を榎本が掴んだ。
振り返り見下ろした榎本の目には、怒りの焔が見え隠れする。
純子は急に怖くなった。

「あなたはどこまで僕を馬鹿にしたら気が済むんですか?」
かすかに首を振る。
「今日みたいな日に男を部屋に誘い込んで、『飲むだけ飲んだらはいさようなら』
なんて、そんな簡単で都合のいい相手だと思われていたんですね。僕は」
今度ははっきりと首を振る。
「体格はあなたと変わらなくても、膂力まで女性並だと思って貰っては困ります」
純子はちぎれる程に首を振った。
榎本の華奢な肉体に隠された爆発的な力を誰よりも理解しているつもりだ。
だが今夜の榎本は、その力を言葉ではなく行動で示そうと決めているように見えた。

ぐいと思い切り腕を引かれて、純子は榎本の膝の上に腰から落ちた。
榎本は純子にバランスを取り直す猶予も与えず、そのまま抱え上げる。
そして、まるで純子が汚いモノでもあるかのように、乱暴にカウチに投げ捨てると、うつぶせになった純子の上に、後ろからのしかかった。
「…っつ…やっ…」
押さえつけられて声も出ない。
誤解を解きたい。
この胸の内を伝えたい。だのに…

でも何を?
何を伝えたいというのか?

ずっと榎本のことが好きだった。
榎本だけを待ち続けられると思っていた。
それなのに状況に流されて、今村をこの部屋に招き入れてしまったのだ。
お互いしたたかに酔っていたから、最後まで遂げられることはなかったが、そんなものはただの結果論でしかない。
自分はあの時、確かに榎本を裏切ったのだ。
そして、命の次に大切だと思っていた、あの指輪さえ失くしてしまった。
こんな自分を、榎本が軽蔑するのは当然だった。
寧ろ、榎本に罰せられたかった。
忘れ去られるくらいなら、憎まれた方がいい。
どんな感情でも、榎本が自分に向けるものなら、無関心よりはずっといい。
358Welcome To The Edge 9-15:2012/07/15(日) 02:36:38.93 ID:6TizCPnk
こんなになっても、こんな風でも、榎本に恋している自分を知って、純子は涙が止まらなかった。
「好きです…」
絞るように訴えた純子の言葉を、榎本は鼻で笑う。
「法学部ではそういう交渉術も学べるんですか?」
言いながら、純子の両腕を後ろ手に絞り上げると、彼女の白く細いうなじに、榎本は唇を這わせた。
懐かしい繊細で柔らかなその感触に、純子の首筋は、みるみると紅く染められていく。
榎本は右手で純子の両腕を制すると、自由になった左手を、うつぶせになった純子の下腹部に滑り込ませ、ジッパーを開けるとと同時に、強引にショーツごとスラックスを、彼女の膝まで引き下ろした。

剥き出しになった白桃のような双丘の窪みで、純子の秘部は蛍光灯の強い灯りに照らされ恥じらっている。
自分でも、濡れているのが判っていた。
「…や…やめてくださ…い…」
懇願したのは、自分の為にではない。
こんな風に繋がったら、榎本はもっと傷つくだろう。

だが、榎本は純子の耳元で短く嗤った。
「どうしてですか?もう、こんなになってるのに?」
そう言いながら榎本は、彼女の濡れそぼった花弁に指を滑り込ませる。
しとどに濡れた彼女自身は、彼の長い人差し指をやすやすと飲み込み締め付ける。

「…はっ…ぁっ」
抑えきれない吐息が純子の官能から漏れる。
準備が整ったことを確かめて、榎本は彼自身のベルトに手をかけた。
バックルがカチャカチャ鳴る音を、絶望的な思いで純子は聞いた。

嫌。
やっぱり、こんなふうにはされたくない。
せめて、表情(かお)を見せて欲しい。
「やめてっ…!」
渾身の力を振り絞って両腕を捩ったら、幸運にも右腕が自由になった。
反動をそのまま利用して上体を捻り、仰向けになって榎本と対峙する。
榎本は咄嗟に純子の右手首を左手で押さえた。
まるで磔刑に処せられたキリストのような姿勢に純子がなった時、彼女に馬乗りになっていた榎本のシャツの襟から、何か。
ペンダントのようなものが滑り出た。
359Welcome To The Edge 10-15:2012/07/15(日) 02:37:43.31 ID:6TizCPnk
榎本の…そして純子の動きが止まる。
純子には、前髪で隠された彼の表情を窺い知る事は出来なかった。
だが、そのペンダントトップには見覚えがあった。
あれは…まぎれもなく、あの日榎本から受け取った「約束の指輪」だ。
今村とのことがあったあの夜、いつの間にか失くしていたあの…

ありとあらゆる思いが、純子の脳裏を駆け巡った。
それでは、あの夜榎本はこの部屋に来たのか?
アメリカでの約束を果たす為に?
そして見たのか?
不実な自分の姿を?
だから帰国の知らせも、開店の案内状も、何もよこさず、他人のふりを決め込んだのか?
だからもう、私のことを愛せないというのか?

自分一人の胸に抱えていると思っていた秘密が、彼を打ちのめす一撃であった事実を思う。
ずっと無視されていると思っていた。
簡単に手に入った、安い女だと飽きられたのだと。

今さらのような後悔の涙が、溢れては純子の耳朶を濡らす。
そして気がついた。
未だスーツを着ている純子の胸元を、一つ、また一つと、榎本の顎から伝う雫が濡らしているのを。
それは彼の汗だろうか?
―――違う。

「榎本さん…顔を見せて」
榎本は動かなかった。
「顔を見せて!!」
純子の慟哭に、一瞬榎本の力が緩み、純子は自由になった両手の、震える指で彼の頬を撫でる。
純子が掻き上げた前髪の下には、自分にもどうにもならない想いに潤む榎本の目があった。
360Welcome To The Edge 11-15:2012/07/15(日) 02:38:40.40 ID:6TizCPnk
悪戯を咎められた子どものように泣きじゃくる榎本を、純子はしっかりと掻き抱く。
もう誰にも渡せない。
榎本にさえ返さない。
この愛おしい生き物の、全てが私のものだと強く思う。
サンタクロースがいるなら、この人を私にください。
消して解けない鍵のように私たちを結びつけて。
二人でいられるなら、どこに追放されても構わないからと。

「好きです…榎本さん」
榎本は答えなかった。
無理もない。
信じて貰えなくても仕方がないのだ。
だから、一生をかけて償おう。
この人のそばにいて、愛していると言い続けよう。
たとえ報われることはなかったとしても。

純子は榎本の頬を軽く両手で挟んで、覗き込むようにキスをした。
跳ね除けられることを覚悟していた純子の背中を、榎本の腕が強く抱きしめた。
絡めても絡めてもその舌のもっと奥深くを味わいたくて、貪るようにお互いの唇を与え合い奪い合った。
息がつげなくて、荒くなったお互いの呼吸の音が扇情的で、余計に欲望を掻き立てられて、何度も求め合う。

私たちは傷つくことだけ一人前な子どものように、全てを一からやり直した。
ボタンのはずし方も忘れたかのように、もどかしくお互いの服を剥ぎ、初めて見る秘密のように、お互いの形をなぞり合い。
そして何度でも確かめ合う。
愛していることと、愛されていることを。


窓の外は雪に変わったのか、聖夜の街は静寂に包まれている。
ふと、純子の胸に、数時間前にラジオで聴いた古い洋楽のメロディが蘇った。


No more secrets kept
Give with no regrets
Right here on the edge of love


ここは楽園の果て。
祝福されない恋愛のきざはし。
ようこそ、愛の縁(ふち)まで。
361Welcome To The Edge 12-15:2012/07/15(日) 02:39:38.32 ID:6TizCPnk
恋人がシャワーを浴びる音を、満たされたまどろみの中で聞く。
純子は幸福だった。
やっと榎本の素顔に触れた。
自分たちには、幸福な未来が待っている。
それが世間の基準で計るそれとは、いささか趣を異にしているとしても。

だが…
ふと純子の胸に不安が兆した。
シャワーの時間が長すぎる。
というか、さっきから聞こえてくるのはお湯の音だけで
浴室に人がいるような生活音がしない。

純子はベッドからまろび落ちるようにしてバスルームに駆け寄る。
だが、やはり…。
そこには、お湯を放出するシャワーヘッドがあるだけで、榎本の姿は掻き消えていた。

純子は急いで裸の上にフリースのロングプルオーバーを頭からかぶり、
カシミアのコートを羽織って部屋を飛び出した。
体の震えは寒さではなく胸騒ぎのせいだ。
このまま彼を行かせてしまったら、もう二度と会えないのではないか?
そんな不安に、エレベーターのボタンを狂ったように押した。

――と、その時。
エレベーターの昇降口脇にある非常口付近が、雪で濡れているのに気がついた。
純子は狂おしくドアノブに飛びつくと、重い扉に体重をかけて押し開く。
予想通り非常階段には、屋上へと足跡が続いている。

榎本の書き置きのようなその足跡を純子は蹴散らすようにして駆け上がった。
木枯らしのようなビル風さえも今は気にならない。
手遅れになる前に、あの人を捕まえなくちゃいけない。

屋上に上がると、純子の恋人は、屋上の柵の向こう側に―――僅か30〜40cmの幅の、ビルの縁(ふち)に佇んでいた。
362Welcome To The Edge 13-15:2012/07/15(日) 02:40:34.42 ID:6TizCPnk
「そんなカッコで…風邪をひきますよ」
榎本は微笑んだが、その眼は何故か悲しげだった。
「何をしてるの?そこで?」
じりじりと間を詰めながら、純子は訊いた。
無理に近づいたら、飛び降りてしまうような気がしてならない。
榎本は、突風でもひと吹きしたら命取りになりそうな場所に立っている。
せめて、柵の縁(へり)なりを掴んで欲しいのに、榎本は両手をズボンのポケットに突っ込んだままだ。

「何を見ているの?」
純子はもう一度訊いた。
訊かれて彼女の恋人は、夢見るような視線をはるか下方の国道を走る車の列に投げかけて答えた。
「別に、ただ…道路を見ているだけですよ。テールランプがまるで夜の川のようで…あの川を渡ったら、どこかに辿り着けそうで…」

「また…、置いて行くの?」
私を、という言葉を、かろうじて飲み込んだ。
榎本は、苦しそうに顔を歪めた。
「どうしてもあなたを幸せに出来る気がしないんだ…」
絞り出された答えには、絶望の響きがあった。

「僕という人間とあなた達の間には、どうにも出来ない隔たりがある。
体の一線は越えられても、心のそれはどうしようもありません」
「そんなこと…そんな一線なら、私はとっくに超えたつもりで…」
必死の言葉を遮るように、榎本は純子に背を向けた。
そして…
ポケットから両手を出すと、思い切り反動をつけて宙に舞い、1m程離れた隣りのビルの屋上にひらりと降り立った。

二人は今や、ビルの淵を挟んで彼岸と此岸に別れている。
その物理的な距離を、純子は睨んだ。
ここで怯むわけにはいかない。
私はもう、彼を離さないと決めたではないか?
彼にさえ、彼を離さないと。
363Welcome To The Edge 14-15:2012/07/15(日) 02:41:28.22 ID:6TizCPnk
純子は意を決して屋上の柵に脚を掛けた。
「なっ。おい、何してる?無茶なことはよせっ」
今度は榎本が慌てる番だった。
純子の中の反骨心が首をもたげる。
雪に濡れた手すりは、氷のように冷たく滑りやすかったが、純子は構わず反動をつけて柵を乗り越えた。
ビルの端からの見晴らしは、想像以上だ。
下を覗かなくても、屋上の上に吹く風にさらされるだけで脚がすくむ。

だが、自分以上に怯えた目をしているのは榎本の方だった。

「わかっ…わかったから戻るからっ…頼むからそっ…」
焦る榎本の制止を振り切って、純子は思い切り良くビルの屋根を蹴った。


広がるカシミアのコート


榎本に差し伸べられた細い腕が


冬の虚空を掴む


榎本は右手で鉄の柵棒を固く握り


もう一方の腕を千切れんばかりに伸ばして


純子の


細い手首を


逃さず捕まえた
364Welcome To The Edge 15-15:2012/07/15(日) 02:42:47.23 ID:6TizCPnk
かろうじてビルからの転落をまぬがれた命知らずの女性弁護士は、恋人の胸で、自分の無謀さを思い知り小鳩のように打ち震えた。
「馬鹿か、あんたはっ!」
榎本のこんな昂った声を、初めて聞いたと純子は思う。
「なんの訓練もしていないあんたがビルを飛び移るなんて…っ!気合だけで跳べるんだったら、誰だってスーパーヒーローなんだよ!こんな無茶なことをして、落ちたら一体どうするつも…」
「死んだほうがましなんです!」

声を荒げる榎本の胸に、純子は飛び込んだ。。

「死んだほうがましなんです…。生きていきたくないんです。あなた無しなら…あなたのいない毎日なら…」

我ながら身勝手な言い分だと思った。
自分の気持ちばかりで、相手の事はおかまいなしだ。
だが、それより他に何があるだろう?
馬鹿の一つ覚えのように、好きな気持ちを繰り返しぶつけることでしか、この人を地上に引き止めておく術が何かあるのだろうか?

全身で自分の首にしがみつく愛おしい者を、榎本は泣きそうな顔で抱きしめ返した。
「…そんなことは言わないでください…あなたにもしものことがあったら、僕だって…僕だって、正気ではいられません」


榎本の肩に、純子の髪に、雪は静かに降りかかる。
恋人達は聖なる夜の一部になって、今日の、明日の、明後日の
自分たちの幸福な未来を思った。
そんな彼らを目撃出来たのは多分、光速の4割の速さで
街にプレゼントを配って回る、赤い服の使者だけかもしれない。



〜fin〜
365Welcome To The Edge 終わり:2012/07/15(日) 02:48:28.43 ID:6TizCPnk
伏線を一つ(駐車場に停めたジムニー)回収しそこないました。
また、イメージが湧いたらエピローグとして消化出来ればと思います。
カットした前半は、『約束』同様の扱いとなります。
エロは全くありませんが、原作榎本の離れ業がお好きな方に
お読み頂く機会があることを願っています。それではロムに戻ります。
366名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 03:12:37.71 ID:QR1RP7aP
GJ!
初めてリアル投下に遭遇しました!
切ない〜、二人ともお互いを思っているのに、心が通じ合わなくって。
今村って原作では青砥に何かっていうと絡んでいるし、なんかの拍子に・・・って
ありそうだなぁ。
でも、やっぱり榎本と青砥にくっついて欲しいってのを実現してくれました。
367名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 03:36:01.60 ID:wqp5A9JV
ちょっとブラックな榎本さんに翻弄される青砥さんを書いてみました
作中登場するドラマは他局なので曖昧にしましたが「相棒」です
青砥さんを伊丹好きにしたのは愛嬌だと思って下さい
良かったら読んでみて下さい
368お土産1−4:2012/07/15(日) 03:37:16.41 ID:wqp5A9JV
鍵と密室にしか興味を示さなかった榎本に、青砥という彼女が出来た。その所為か何処に行っても、この彼女が好きそうなものに目が行くなどと、心に変化が表れてきた
先日急に名古屋へ出張した際も、こんな事があった

仕事が無事に終わり、地下鉄の駅に向かって歩いていると巨大なデパートがあって、そこでは今榎本が好きなドラマの催し物が行われていた
(予約した新幹線まで、二時間はある…)
都内で催された時、一人身だったから何度も行った事があるのだが、名古屋では行ってないので足を運んでみた
すると平日の昼間なのにカップルが多かった。大半は中高年の夫婦だが、男一人で見に来た榎本は浮いている感じがしないでもなかった
見終わって会場を出ると、エスカレーターで降りてゆく
すると、女性の浴衣や小物を扱うコーナーが目に止まったので、その階に降りてみた

「それでこれも買ったのですか?榎本さん、わざわざありがとうございます」
榎本の部屋で青砥がデパートの包み紙を開けそう言った。その中には白い髪飾りがあった
「防犯効果が高そうな、怖い顔の刑事さんのクリアファイルもありますよ。こうしてみると、魔除けにもなりそうですね」
「防犯とか魔除けとか、私の好きな刑事さんに、酷い事言わないで下さい!」
冗談で言った榎本に対して、真顔で怒った
(そこまで言わなくてもいいのに。何というか真面目過ぎる)
同時にそこまで夢中にさせる存在に、嫉妬を覚えてしまい、早速ファイルに私物を収める彼女の後ろに回って抱き締める

369お土産2−4:2012/07/15(日) 03:38:07.83 ID:wqp5A9JV
「いきなり過ぎ…、あぁぁ!」
ソファに押し倒され、スーツも強引に脱がされる。汗ばんだ下着をずらされ、乳房が露わになり、ベッドでと訴えたが無駄だった
性欲に火が点くと、気が済むまでやり捲る
丁寧な言葉使いとは反対の激しい責めをする
される青砥の口から普段と違う言葉が出るのが、とても心地好いらしい
「そうでしょうか?躰のほうは、とても喜んでいますよ」
「ひっ!!やめぇ…」
榎本の右手の人差し指と中指が、青砥の股間の敏感な部分を刺激する
下着の上からなので、余計に感じてしまう
「今の貌、とても可愛いですよ」
ボタンを外したから目に入るようになった、水が溜まりそうな鎖骨の窪みに、榎本の熱い息がかかる。そして舌を出してそれをなぞる
「もう…、やだぁ…」
更にキスをされてゾクゾクする
撫で肩にかかる頼りない紐を外すと同時に、シンプルなブラウスも腕から離す
「勘弁してぇ!」
「厭です」
「あぁっ!そんなぁ」
床にブラウスと下着が落とされる
上半身裸にされ、恥ずかしさに思わず乳房を腕で隠す
「綺麗ですよ…」
シミ一つない白い肌が榎本の眼を楽しませる
「その貌が、その躰が、僕を狂わせるのです」
「やあぁ…」
躰と躰を重ね合うのに邪魔な服を榎本も脱ぐ。力仕事をしている所為か意外と筋肉が付いた腕や胸が、抵抗するのを諦めた華奢な青砥の躰にまた触れた
後ろで一つに束ねた髪が解け、その姿が違う女に見えて、榎本を益々狂わせていく


370お土産3−4:2012/07/15(日) 03:38:54.46 ID:wqp5A9JV
髪飾りとファイルが乗ったテーブルの向こうで、一糸纏わぬ姿の男女が絡み合っている
「あぁん、あんあん、はぁっ!」
ソファの肘掛けに頭を乗せた青砥が喘ぐ
エアコンからの涼風でも消せない汗が、乳房の谷間に流れ玉になって肌を弾いた
「随分と、締め付けてくれますね」
「そんな!はぁ!!」
分身だけでなく、言葉でも責められ堪らない。思わず顔を背けると、顎を捉えられ唇を強く吸われる
「むぐ、んん…」
息が苦しくなり閉じた唇を開けると、そこに舌を捻じ込まれる
すると締め付けが更に強くなり、胎内を貪る分身の動きもつられて激しさを増してゆく
「はぁ、もう…、離し、て…」
躰の向きを変える為に、重なり合っていた肌が離れる。眼鏡に天井の灯りが反射し、その表情が読めなくて後退りする
すると、胎内から分身が抜けた
「離しませんよ」
「やめぇ、ぁあ…!あん!」
直ぐに躰を捉えられて、今度は後ろから責められる
「あぅ、ぁぁん!」
乳房を掴まれて、乳首も弄られる。何十分も続けられる行為に、青砥の気力も体力も限界が近付いていた
「も…、無理…!ああっ!」
感じ過ぎた躰が絶頂に達し、意識を手放す
(また、やり過ぎたかな…。気を失うとは、思わなかった)
もう少し楽しみたかったと、残念そうな貌をみせた後で、胎内に精を放った
汗で髪が濡れて、眼鏡もずり落ちてはいたが、ソファに躰を休める彼女とは対照的に、まだ躰の奥に火種が燻っていた

371お土産4−4:2012/07/15(日) 03:39:42.45 ID:wqp5A9JV
「…ん、…」
青砥が目を覚ましたのはベッドの上だった
隣には眼鏡を外した、素の貌を見せる榎本が眠っている。起きる気配はなさそうで、つい安堵してしまう
(シャワーでも浴びて、汗とか流そう…)
そっとベッドから出て、何も羽織らぬままで浴室に向かう

「あ〜、さっぱりした」
榎本の彼女になってから頻繁に来る所為か、ここに置いてある自分用のバスロープを着てベッドに戻ろうとする
「あら?私の服が無い。どうして?」
スーツの上下はハンガーに掛けられているが、ブラウスとか下着とかが見当たらない
(ひょっとしたら…)
静かな音を立て動いている洗濯機を止めると、その中に探し物があった
「これだと、乾燥が終わるまで着られない」
今日はお土産を貰ったら帰るつもりだったので、成り行きで泊まる事になり、困った貌をする青砥だった

(少し意地悪が過ぎたかな。まぁ、いいか)
シャワーの音で目を覚ました榎本が心の中で呟いた
彼女が出来てからというもの、仕事でも私用でも、一人でいるのが寂しいと感じるようになった。それで小学生みたいだが、気を引く作戦につい出てしまう。今日のお土産もそれが目的と言える
(ここに戻って来たら、さっきの続きといくかな…)
その期待で胸だけでなく、違う場所も膨らむ。それまで寝たふりをする榎本だった


372名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 08:57:32.45 ID:6TizCPnk
test
373名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 09:26:20.72 ID:77ur0U4f
>>354
やー、もうめっちゃドキドキ!榎本アクションktkr!
ってか「何の訓練もしてない」ってあーたどんな訓練してきたのかほら白状してみなさい!?
きゃーー!

>>368
なんか小学生の悪戯みたいな榎本可愛いwGJ!
374名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 10:18:33.08 ID:aPKWoPAZ
>>354
GJ!
今回も素敵ですね。はぁ、うっとり。
心をつかまれてしまいました。今日一日ぼーっとしてしまいそう。

>>368
GJ!絶倫な榎本さんいいよぉー!
性欲薄そうと思ってたけど、興味を持ったものには積極的だから、
実際は、こんなかもしれないですねw

ああ〜好みなのが連続投下されてて、幸せな朝だわ。
375名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 10:57:11.72 ID:/9YPK53N
>純子の危機
やーらーれーたー!
途中まで普通に榎本さん格好いい!と思わせておいて、
ラストでのブラック降臨。
最後まで一気に楽しませていただきました。
376名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 10:58:13.47 ID:dwzh9vUA
>停電の夜
新作お待ちしてました!
「月光」を読んで以来、あなたの書かれる原作榎青が大好きです。
強気なのに、暗闇が怖くて寝られない青砥先生、超萌えました。
377名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 11:29:04.77 ID:W6hX4D/X
378名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 11:59:21.62 ID:bA3qhdY0
>>377
同一人物かもしれないし別人かもしれない
そこにこだわる必要はないだろ
379名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 12:04:09.53 ID:aPKWoPAZ
>>377
378に同意。気分悪い書き込みだな。
380名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 12:06:49.17 ID:77ur0U4f
いっつもマナー的なものを注意ばっかりしてる人いるけど
悪意がこめられてて余計雰囲気悪くなるからやめて欲しいとは思っている。
381名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 12:20:02.38 ID:vKST5oSQ
>>380
同じ人とは限らないジャマイカ。

続編的なものを書いてくださる職人さんが多いので、トリップを
付けてくれたらありがたいと思うことはある。
382名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 12:41:25.86 ID:6TizCPnk
自治について考える時期に来てるのかもしれません
383354−362,382:2012/07/15(日) 15:23:09.62 ID:6TizCPnk
書き込み途中で誤送信してしまってました…orz

気を取り直して…
GJ下さった方、本当にありがとうございました。

>>366
>今村って原作では青砥に何かっていうと絡んでいるし、

原作では、元彼なんですよね>今村

>>373
>榎本アクションktkr!
私は原作のアクション榎本萌えなので、実は割愛した前半はもう
ずっとアクションのオンパレードです。
映画化があったら、その辺の要素を是非盛って欲しい!
…ま、少数意見かもしれませんが…

>>374
うっとりだなんて言って頂いて、凄く嬉しかったです。

全レス申し訳ありません。
僅少GJにつき、お目こぼしの程を。

それでは再びロムに戻ります。
384名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 15:38:11.57 ID:e7ewu7TA
素敵作品ラッシュでGJが追い付かない…でもさせて下さい!

>>338
夜這い榎本さん良かった…!強引だけど青砥先生ちょっと嬉しかったと思う
雷や暗闇にびびる青砥先生も可愛い!

>>344
うおおこれはいいヤンデレ…!
怖いけどそこまで強くなってしまった榎本さんの想いに萌えました…!

>>354
思い合ってるのにすれ違い…切ない…
必死に繋ぎ止めようとする青砥先生にキュンときました…!

>>368
性急で貪欲なエロ本さん…
ぞっこんっぷりが伝わってきてニヤニヤしました!ほんと絶倫だw

どれも榎本さんの想いが強くて個人的においしかったです
職人様方ありがとうございました!全レス長文失礼しました
385名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 16:07:09.06 ID:AwANLlIN
>>383
あれだけ荒れたのに全レスとか二度と止めてくれ
386名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 16:11:19.26 ID:AwANLlIN
連投になるけど
なれ合いたいのなら例の投下するところとやらに投下すればいいし
2にこだわる必要がないだろう
それでもここに投下したいというのなら
愚痴スレとか作家スレとかいろんな所読んできて勉強してくれ
387383:2012/07/15(日) 17:49:13.66 ID:6TizCPnk
386も383宛でしょうか?
勉強不足でご不快な思いをさせてすみません
今後投下等は控えます
大変失礼致しました
388名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 18:08:50.20 ID:UfnV4huO
ここは馴れ合いが苦手な人がサッと投下してサッと読む感じなんだよね
某所より冷めてるというか、でもそれがいいと思ってる人が来る場所のような
だからって初心者は来るなと言う訳ではなくて郷に入っては郷に従えということ
初心者や某所に慣れてる人からしたら冷たいと感じるかもしれないけど、もともとそういう場所なんだ
389名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 18:35:00.43 ID:6TizCPnk
なる程
自分は某所がどこを指すかも判りませんし
作家でも職人でもないので完全に場違いでしたね
教えて下さり本当にありがとうございました
390名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 18:38:55.91 ID:UfnV4huO
2はとにかくROM専が多い
書き込んでる人の数倍か数十倍はいる
>>389さんの密かなファンだってたくさんいる
投下を控えることで残念がる人はかなりいるかと
391名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 18:45:49.06 ID:z1woRoig
>>389
時々投下してますがあなたのような格調高い文章はそう書けるもんじゃないです。
投下控えるとか言わないでください。ファンたくさんいると思いますよ。
392名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 19:09:59.75 ID:77ur0U4f
>>389
そこまでレスすることが否定されるとは意外でした。
私はレスしてもらってうれしかったし。
ならば是非pixivというサイトに前半割愛したという
アクション盛りだくさんのお話投稿してください。
ものすごく読みたいです。お待ちしてます。
393名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 19:20:45.76 ID:N1/crPRe
>>389
作品を投下した時点で立派な職人ですよ

前にもこんな流れがあったような気がするけど
某所を薦めてここが過疎るというのは勘弁してほしい
全員が某所を見てる訳じゃないんだし、毛嫌いしてる人もいるから

みんな鍵部屋が好きでこうして集まってるんだから
マナーであれこれ言いたくないし、揉めたくない
394名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 19:29:38.93 ID:77ur0U4f
>>393
自分も同じ意見だったんだけど、
そのせいで「投下やめろ」とか、結果「投下やめる」とか言われるんだったら
あえて他のサイトをすすめるのもありかと思いました。
貴重な作品を表に出さないで埋もれさせるのが一番もったいない。
395名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 20:12:06.13 ID:JKJ803IT
こういうこと言うと、性格悪いなって言われそうだけどw
注意される→投下やめます→やめないでの流れにちょっとうんざり
書き手の投下やめる宣言があると、注意した人が悪者扱いになるよね
貴重な書き手だからって何でも許されることはないよ
スレや板の雰囲気やルールはある程度理解してほしい
読み手も最低限のマナーを守るのは当然のことだけど
396名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 20:25:11.31 ID:aPKWoPAZ
>>395
今回、注意した人を悪者扱いしてるレスは無いと思うけど。
389さんだって素直に聞いてるしなぁ。
397名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 20:51:14.34 ID:jSMFt7ON
>>395
同意
辞めます辞めないでの流れが一番ウザい
398名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 21:53:32.58 ID:N1/crPRe
ここにうんざりした書き手や読み手は影も残さずエスケープして構わない
それで某所で投下なり何なりすればいい
たまにふらっとここへ来てくれて燃料を落としてくれたら満足
2なんて便所の落書きと言われてるし
399389:2012/07/15(日) 23:29:00.27 ID:6TizCPnk
なんだか色々済みません
自分はここのふらっと来てふらっと去る雰囲気が結構好きです
でも、自分が投下するとなんだかスレが変な空気になるので
ご指摘頂くまでは「なんでかな?」と思ってました

普段滅多に物語を書く事もないので(今回はたまたまです)
これからもロムを楽しむつもりですし、うんざりもしていないので
この件はこれで終わりということでどうぞ宜しくお願いします
400名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 23:47:31.84 ID:/eCnsPIU
自分は書き手だけど
上で「トリップつけてほしい」みたいな意見があったけど絶対嫌だ
理由は、トリップつき・コテハンつきの書き手は
名無しの書き手に比べて圧倒的に叩かれやすいから(別スレで経験済み)
よくも悪くも、ここは書き捨てしていく場所であり
名前名乗ってファン作って馴れ合いする場所ではないと思う
401名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 00:23:47.41 ID:pqK8ZU2r
>>396
>>394みたいなのが注意した人を悪者にして一番タチ悪いな
>そのせいで「投下やめろ」とか、結果「投下やめる」とか言われるんだったら
>あえて他のサイトをすすめるのもありかと思いました。
元レスは別に投下止めろとは言ってなくて
全レスやめろマナー勉強してこい(誘導)ってむしろ親切なのに


全レスなんでダメなん?という日和見は本当に愚痴スレ見てくるといいよ
少しは板ルール勉強して来いよ
402名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 07:58:48.40 ID:VkMQ4GOB
自分だけの意見だけど、書き手は投下するスレでは前置きとSSだけをレスして
後は全くレスしないのが一番好きだな
その理想に近いのが「お土産」を書いた人かな
403名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 12:32:35.53 ID:4KGKYmH9
理想の書き手とか、そういうのいりません。
勇気いるかも知れないけど、この流れをぶった切ってくれる職人さん待ってます。
404名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 15:22:49.52 ID:wG9JfeAS
はーい。
芹沢さん良かったなぁ。という想いも込めて。読みたい時に読む。書ける時に書く。

My precious 1

榎本が忽然といなくなってから、1年が経っていた。
純子は、一時期は物思いにふける様子が見られたものの、次第に元の生活を取り戻していった。
いやむしろ、それまで以上に仕事にのめり込んで行ったというのが正しい。
芹沢は、そんな純子を何も云わずに見守っていたのだが、流石にその痛々しさが看過出来なくなってきた。
とある夜、チョット一杯付き合うよう芹沢から誘われた。
「青砥ぉ、お前ここんとこずっと働きづめじゃないの?元々ウチの事務所はさぁ、ホラ企業法務専門なんだから、そこまで頑張ってくれなくても…。このままそんな感じで、いきなり倒れられても困るしさぁ。」
「何言ってるんですか!芹沢さんがテレビに出て以来、クライアントが一気に増えたんですよ。
ルーティーンな業務だけでもさばいてくのが大変なんですから。
芹沢さんだって、3ヶ月先までアポぎっしりじゃないですか。
大丈夫ですよ。体力には自信あるんです私!」
「俺の事はいいんだよっ。ちゃーんと、プライベートを楽しむ術を心得ているんだ。
ついさっきも来月2日ばかり休んで、おねえちゃん達と京都に行く約束をだ…。
いやっ、俺が言いたいのは青砥ももっと人生を楽しめって事だよ。
最近のお前さん見てるとだなぁ、何かこぅ…。このまま仕事に埋れてそのまんまバアさんになっちまいそうでだなぁ。」
「芹沢さん、明らかに問題アリですよ、今の発言。」
「…青砥……答えたくないなら、それでも良いんだけどさ。…お前…榎本の事好きだったのか?」
「……なっ、何言い出すんですか突然!」
「まぁ、聞けよ。前に俺が、お前の為にアシスタント入れようとしたら、
結構ですっ、自分でヤらないと気が済まないんですっ!って言ってたよなぁ。
でも明らかにスタッフに廻せる実務もぜーんぶやってるじゃないか。
何かアイツの事忘れようと必死にもがいてる感じがしちゃってさぁ。
それじゃ、幾つ体があっても足りないぞ。
…それに何かこっちまでガムシャラに仕事やんなきゃ…って雰囲気になっちゃうんだよ。
それじゃ、廻りも疲れちゃうだろ。そう思わないか青砥?」

「…すみませんでした…芹沢さんにそんな風にご心配おかけしてたなんて…。」
「わかってくれれば、良いんだよ。 んで早速だが、お前に紹介したい奴がいるんだ。」
「はいぃ?」
「いやさぁ、こないだxyz物産ですれ違った俺の後輩覚えてるか?」
「あぁ、確か松井さんでしたっけ。」
「おっ、そうそう。そいつがさぁ、青砥に興味持ったみたいでさ。今度皆で一緒に食事でもどうかって。昔から女の趣味はチョット変わってるんだが、イイ奴だ。」
「…どーゆー意味でしょうか?」
「まっ、兎に角そーゆー事で、今週金曜の夜明けておいてくれ。」

そーゆー事がどーゆー事なのか釈然としないが、芹沢が自分の事を心配してくれて、彼なりの方法で自分を励まし、何とかしてくれようとしてくれているのは十分に伝わってきた。
(芹沢さんらしい) それは本当にありがたい。
多忙な芹沢や、事務所のスタッフに余計な心配をかけるのは勿論本意ではない。
(確かに…たまには息抜きも必要かもしれない。)
405名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 15:24:45.27 ID:wG9JfeAS
My precious 2

松井との食事会 …それは芹沢の介入により飲み会 。とどのつまりは、弁護士同士の愚痴大会になっていった。
「いやぁ、やっぱり先輩と飲むのが一番楽ですよっ!無理に虚勢張る必要も無い、専門用語噛み砕いて説明する必要もない!ねっ、青砥さん!」
「…そう言われれば…そうですね。」
「何だ、俺はお前達の保護者じゃないぞ! 」と言いつつ、芹沢も満更でもない様子だ。
「もし青砥さんさえ良ければ、また飲みましょう。」
「えっ、あぁそうですね。是非また今度。」
「おうっ!そうだぞ青砥。そうやって小さい事からアクションを起こして、前向きに生きるんだ。」
「小さい事って…それはナイですよ先輩っ!」
「なんだ松井、細かい事にこだわるな。まあ飲めっ!」
「違いますよ、小さい事ですっ!…って、あれ何だかポイントがずれてますね。」
「ふふっ。 …何か面白いですね…松井さんて。」
「えっ、そうですか?至極マジメなつもりなんだけどなぁ…。
でも、面白いは好きの始まりって言いますからねっ。」

(そうだったかな?)
久し振りの楽しい夜に、純子もしたたかに酔ってしまった。
帰り道、送って行くと言い張る松井を何とか振り切り、千鳥足で駅から歩く。
ほぼ満月が、こちらを静かに見下ろしている。
(何処かでこの月を見ているのかな…榎本さん。)
榎本 径。幾度となく忘れようとした名前。
3人で同じ目標…いや正確には、榎本は密室の、芹沢と青砥は真実の解明に向けて各々が役割りを理解し、解決を目指した。
無意識に、いつまでもチーム榎本が続くような気でいた。
(そんな訳ないよね。)
(松井さんは良い人そうだ。…でも、榎本さんじゃない…。) 当たり前の事が、心に重くのしかかる。
榎本の、行動・思考・分析その全てが純子にとって未知な領域で、都度驚かされずにはいられなかった。 勉強だけでは得ることの出来ない、卓越した能力。

(…でも、一番惹かれたのは…)
彼の目だった。眼鏡の奥底にあるあの目。
考え込む時の伏せ目がちな時、微動だにせず相手を見つめながら説明する時、ふと寂しそうに一点を見ている時…。
他人を寄せ付けない…それでいて、差し伸べられる手を待っているかのようなその背中。
榎本と、イイ感じ的な瞬間は…無かった。らしい事をほのめかされた記憶もない。
でもだからこそ、この想いを断ち切る事ができないのだ。芹沢にも、どう説明して良いのか。
(あの日…どうして空港から電話くれたのかなぁ)
とくに名残惜しそうな声でもなく、いつも通りの口調だった。
全てが謎のままで、只純子の廻りを漂っている。

マンションのドアの鍵を開けながら、つい泣き言が出る。
「ぁあー!ダメだ。芹沢さんの言うとおり、こんなんじゃ先に進めない!」
「先って、どこですか?」
「えっ?」目の前にいる人物を認識するまで数秒かかった。
「松井さんっ?…どうしてここに…。」
考える隙を与えず、そのまま部屋の中に押し込められてしまった。
「えっ! 松井さんっ!ちょっと…何するんですかっ!」
と、いきなり唇を塞がれて、悲鳴をあげようにも勝手に喉がつまって、
しまいには身体が硬直してしまった。
(嫌っ…やだっ…助けてっ!) ドアは静かに閉まっていく…。
406名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 15:58:29.69 ID:O1kXKF98
t
407名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 16:05:45.28 ID:vyBC+726
>>405
とりあえず松井のばかー!って叫んどく。
続き待機中。
408名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 18:59:56.19 ID:gxDA1Wjs
これでおしまいですかね?あれれ
409名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 19:29:57.84 ID:BuKq8K7y
連投で引っかかった?
続き期待
410名無しさん@ピンキー:2012/07/16(月) 20:17:05.45 ID:OgIVz69X
わーん。405さんどこ行っちゃったんでしょうね。
いくら「書ける時に書く。」ていっても・・・
411名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 08:21:25.96 ID:pIpfM5af
>れてそのまんまバアさんになっちまいそうでだなぁ
の「でだなぁ」が「だでなぁ」に読めた自分は三世代同居組orz
412名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 09:46:50.98 ID:oWSLu3Uq
だからなに?
413名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 10:00:46.66 ID:pIpfM5af
なんにも
414名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 15:38:34.44 ID:oWSLu3Uq
じゃあチラシの裏にでも書いてろ
415名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 15:55:07.09 ID:pIpfM5af
怖っw
416名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 16:53:49.60 ID:bJsZ4Vl2
ここの住人は書き手にはマナーマナーうるさいくせに
読み手はマナーも何もあったもんじゃない
書き手待ちの間の雑談くらいいいだろ
嫌ならスルーしろよw
417名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 19:07:05.45 ID:HPGfyIId
流れぶった切ってすいません。
残り100k切ってますので書き手様、長編投下時ご注意下さいませ。
次スレはいかが致しましょうか。
418名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 19:07:58.52 ID:9ZPMVsWH
立ててほしい。
419名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 19:10:49.94 ID:R60AeqPu
じゃあ、やってみるね
420名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 19:19:05.94 ID:R60AeqPu
421名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 22:15:43.20 ID:G/wryyXf
>>420
スレ立て乙
422名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 22:40:41.87 ID:YpgEWLGx
>>420
スレ立てありがとうございます。
上手く進めば、日付変更前後に1本投下できると思う。
423名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 22:43:21.48 ID:9ZPMVsWH
>>422
待ってる!

>>420
おっつ!
424名無しさん@ピンキー:2012/07/17(火) 23:07:23.10 ID:B0s9cI7d
もう4なんだ、早いね〜
425名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 02:06:30.12 ID:oXD6ZWwT
ちょっと長いかなーと思って新スレの方に投下したら、
たった12KBしか無かった…

すみません、こっちを埋める際は必ずお手伝いさせていただきますので。
426名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 09:51:29.92 ID:ENIgfWn2
兎に角、埋めてゆこう
427名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 10:40:15.33 ID:TQxUSD+H
来たばかりなのに、もうスレ終了か
次スレに行く前に、頭からざっと読んでみた
以下、印象深かった作品を

>鍵師の怒りと罰ゲーム
何度読んでもニヤニヤが止まらんw GJ

>Five Years After
デジャブが何度もアップサイダウン♪

>鍵師の災難、上司の受難
またもニヤニヤが止まらん! GJ!

>事実と真実
ニヤニヤさせられ、キュンキュンさせられ…
つくづく巧い!巧すぎる!!

>計画
ニコニコ家族計画怖すw
ブラック青砥ww

>ぼくのものわたしのものシリーズ
うーん。☆島を思い出す…

>241 :1/3
男はロマンチスト、女はリアリスト


自分の中のNo.1作品は『事実と真実』だな。
職人としても多作な上粒ぞろいでどんな作品でも高水準

…とか書くと、またぞろ「馴れ合い!」とかマナーがどうとか非難轟々かw
くわばらくわばらw
428名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 11:39:54.20 ID:ticwS7LU
自分のやりたいようにやって、批判は受け付けないタイプは面倒くさいわ。
429名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 16:08:31.11 ID:ft8HEtbx
>>427
感想の部分までは普通に読んでたのに。
最後の一文を書くような流れは、新スレには持ち込まないでね。
430名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 17:39:26.19 ID:DLdLJKP3
新スレ立てるの早すぎだろ、今さらだけど。残り100KB切ってるって、どんな大長編期待してるんだw
どうせならがたがたマナーにうるさい奴が多いから
1に書く注意書とか、過去スレとかのテンプレとか
そういうの相談してから立てればよかったのに。
431名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 17:53:59.53 ID:TQxUSD+H
それはそうと405さんはどこ行った?
終わってんのか続きがあるのか、せめてそれくらいは知りたい。
432名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 18:36:14.01 ID:7hKbnYLX
>>430
417にて次スレについて触れた者です。
前スレも書き手様が投下途中に512k超え確認し
成り行き上当スレ立てた経緯も有り中途半端に気になっていました。
残り推定100レス位で埋まるだろうと思い、
その間にテンプレ等議論頂ければと考え触れましたが
言葉足らずでこのような状況になってしまいました。
無知な上にしゃしゃり出てしまい、申し訳ありません。

長文失礼。
以下名無しに戻ります。
433名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 19:30:24.61 ID:DLdLJKP3
>>432
普通は、書き込みがなければ一週間? くらいで自動削除対象になる480KBオーバー、もしくは900レス〜980レスくらいが次スレ移行タイミングになることが多い。もちろんスレによるけど。
今のタイミングだと、どっちのスレも中途半端に残り続けて「1作品(1作者)につきスレは原則1つ」という板ルールに抵触する。
かくなる上はこのスレをとっとと埋めるしかない。書き手さんは余程の大長編でもない限りまずこっちに落として、と新スレに注意書でもする?
普通は一回書き上げてから投下するだろうから、自分のSSがスレ内におさまるかくらいわかるでしょ
434名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 19:38:04.20 ID:j24trKS4
ストックある作者さん(おーい!)に短めの落としてもらえたらいいですね。
435名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 19:53:51.34 ID:oXD6ZWwT
エロ無しorぬるエロ程度の小ネタで良いなら、いくつかあるにはあるので
書き上げる時間が取れ次第、すぐに投下しますね。



>>427
拙作を気に入っていただいて、恐縮かつ光栄です。
嬉しい感想ありがとうございました。
436名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 19:59:41.49 ID:OGnmsmIL
>>434
あるよ。昔、他の書き手とネタ被ったから途中で放り出した奴が……

……って言おうと思ったら書き手さんいらっしゃったね。
適当にまとめた奴だから出来がアレなんで、>>435さんの投下を心待ちにしておきます。
437名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:06:03.63 ID:oXD6ZWwT
>>436
あ、いえいえ。
私も他の書き手さんとかぶって途中放棄したネタですし…

そもそも今日明日中にまとめられるかも分からないので、
既に作品が仕上がっているなら、ぜひ投下お願いします!
438名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:12:38.01 ID:j24trKS4
>>435>>436
ありがとうございます。お待ちしております!
439風邪ひき榎本ネタ 1/3:2012/07/18(水) 20:13:22.52 ID:OGnmsmIL
じゃあこんなの。
穴埋め目的なんでエロなしはご容赦を

××××××××

 何となく、朝から調子が悪いとは思っていた。
 妙に身体がだるい。頭が痛い。最初は暑さのせいだろうと思っていたが、空調が完備された地下備品倉庫に入っても状況は変わらず、むしろ悪化の一途を辿っていた。
 幸いなことに、急を要するような仕事はなかったため、業務に支障が出ることはなかったが。時間が経つにつれ、頭痛、悪寒と言った諸症状はひどくなる一方で。昼休みに突入する頃には、自身が風邪をひいている……という事実を、認めざるを得なかった。
(しまった)
 昼食も取らないまま、午後の勤務が始まったあたりで、榎本は己の失策を悟っていた。
 体温計など無いため、正確なところはわからないが。どう考えても、発熱している。微熱というレベルではない。薬を飲んで安静にしていなければならないレベルで。できれば医者にかかった方がいいレベルで。
 普段、滅多に体調を崩すことなどないため、たまに崩すと加減がわからなくなる。気がついたとき、既に、榎本は立ち上がることすらできない状態で、机に突っ伏していた。
(……まずい)
 身体が動くうちに早退しておくべきだった……と後悔しても後の祭り。
 備品倉庫に内線電話などというものはない。オフィスに戻るのも面倒で、まあ定時までは持つだろう、と軽視した結果が、これだ。
 のろのろとポケットの携帯を取り出す。助けを求めようとして、指が強張るのがわかった。
 誰に助けを求めればいいのか?
 会社の代表番号にかけて事情を話せば、さすがに誰かは助けに来てくれるだろう……と思う。だが、顔と名前が一致するかどうかも怪しい同僚に、今の情けない姿をさらすのは、どうにも抵抗があった。
 いっそ、救急車を呼んだ方がいいだろうか、と考え、即座に却下する。
 たかが風邪くらいであの榎本が救急車を呼んだ――人にどう思われようと気にする性質ではないが、さすがに、自分から噂の種をまく気にはなれない。
(……誰か)
 指で画面をまさぐる。着信履歴、発信履歴――最近の履歴は、どちらもたった一人の名前しか出て来ない。
 けれど、彼女はまだ勤務中だ。こんな時間に電話をかけられても困るだろう。第一、榎本は彼女の家族でもなければ恋人でもない。助けてくれ、などと、言える義理ではない。
(…………)
 結局、発信ボタンを押すことはできないまま。
 榎本の意識は、遠ざかっていった。

 目を覚ましたきっかけは、額に乗せられた冷たい感触だった。
「…………?」
「榎本さん! 大丈夫ですか!?」
「……あおと、さん?」
 ぼやける視界の中で。最近、毎日のように顔を合わせていた女性弁護士が、泣きそうな顔をしていた。
 何故、と言いかけて、思い直して視線を巡らせる。
 見慣れた天井が目に入った。ここは地下備品倉庫だ、間違いない……いつものように、彼女が、ここに来てくれたのだ。そして、気を失っている榎本を、見つけてくれた。
 助かった……と安堵して。そして、熱と関係なく、頬が紅潮するのがわかった。
 無様な姿を見せてしまった。いい大人が……それも、30にもなろうという男が、風邪で動けなくなるなど。
 けれど、純子の顔に馬鹿にするような色合いは一切なく、榎本を見つめる目には、不安の色しか浮かんでいなかった。
 心配してくれている。こんな自分を。
「青砥さん……どうして」
「どうしてってこっちの台詞ですよ! どうしてこんなになるまで放っておいたんですか!? びっくりしましたよ!」
「……いえ……」
440風邪ひき榎本ネタ 2/3:2012/07/18(水) 20:14:25.34 ID:OGnmsmIL
 聞きたいのは、どうして僕を心配してくれるのですか、ということなんですが。
 だが、それはきっと愚問なのだろう。純子は優しい人だ。誰であろうと、目の前で人が倒れていたら心配せざるをえない、そういう人なのだ。それが榎本かどうかなど、大した問題ではない……そういうことだろう。
 ぐるりと周囲を見回す。壁にかかった時計は、午後七時を指していた――自分が気を失ってから、たっぷり五時間は経っている。彼女は、何時にここに来たのだろうか。
 手を伸ばして、額に触れた。純子のハンカチ……あるいはタオルだろうか? 冷たく濡らされた布が、額に置かれていた。
「榎本さん、動いちゃ駄目です。すごい熱なんですよ! あ、お薬とかスポーツドリンクとか、色々買ってきました。喉、乾いてないですか? お腹空いてないですか? っていうか、お食事は最後、何時に取られました?」
「…………」
「お腹が空っぽの状態で薬を飲むのはよくないんですよ。きついかもしれないけど、何か胃に入れてください。フルーツの缶詰、ありますよ? どうです?」
「……ええ……」
 食欲など微塵もなかったが、純子が本気で自分を心配してくれるのがわかって、自然と頬が緩むのがわかった。
 無理をしてでも食べねば。これ以上、彼女に心配をかけるわけにはいかない。
 そう考えて、身を起こそうとして――
 己の置かれた状態に気づいて、榎本の身体が、固まった。
「榎本さん! 駄目ですよ、無理しちゃ! あ、でも寝たままじゃ食べられないですもんね。ほら、わたしの腕に、身体を預けてください。大丈夫ですよ! 榎本さん、小柄だし華奢だし、わたしでも支えられます」
「…………」
「榎本さん? 榎本さーん! だ、大丈夫ですか!? 顔が真っ赤ですよ!?」
「……い、え……」
 榎本の身体は、椅子の上に寝かされていた。倉庫にあるありったけの椅子を並べたのだろう。何とか、小柄な榎本が身を丸めることなく横たわるだけのスペースは確保されている。
 身体の上にかけられているのは、純子のものらしいスーツの上着。それはいい。そこまではいい。
 問題は……
「榎本さんっ」
「…………」
 目を開ければ、真正面に純子の顔があった。覗き込まれていることがわかって、反射的に目をそらした。
「榎本さんっ! しっかり、しっかりしてください! 大丈夫ですか!?」
「……だい、じょうぶ、です……」
「本当に大丈夫ですか!? また熱が上がったんじゃないですか? わっ、熱いっ! ど、どうしよう、どうしよう!?」
 榎本の頬に手を触れて、純子がおろおろと周囲を見回したが、立ち上がる様子はない。
 それはそうだろう。彼女の膝の上に、榎本の頭が乗せられているのだから。
 ――これは、あれですか。もしかして、噂に聞く膝枕、という奴ですか。僕の後頭部に触れてるこの柔らかい感触は、彼女の太ももですか、もしかして――
 ぼんっ! と、血液が集中するのがわかった。何だこの状況は。何故、よりにもよってこんなことに。寝かせるなら遠慮なく床にでも転がしておいてくれればよかったものをっ……
「すいません……起きます……」
「だ、駄目ですよっ! ほら、わたしの身体に捕まってください!」
「いえ……結構ですから、本当に……」
 伸ばされる手を払いのけようとして、さらに気付いた。
 榎本の身体には、純子の上着がかけられていた。今の彼女は、薄いブラウス一枚という実に無防備な姿になっている。
 ――そんなあなたに、身体を預けろ、と言うのですか。わかってますか。僕は一応男なんですが。しかも、この倉庫に訪れる人間なんて滅多にいなくて。ここには僕とあなたの二人しかいないんですが――
「青砥さ」
「よいしょっ! 榎本さん、辛くないですか、大丈夫ですか?」
「…………」
 無理やり身体を起こされた。
 全身で榎本の上半身を受け止めるようにして――見方を変えると抱きしめるようにして、純子は、榎本の耳元で囁いた。
441風邪ひき榎本ネタ 3/3:2012/07/18(水) 20:15:23.36 ID:OGnmsmIL
「何が食べたいですか? フルーツと、ヨーグルトと。おかゆも買ってきたんですけど冷めちゃいました……すいません。あ、それとも、飲み物が先の方がいいですか?」
「…………」
「榎本さん!?」
 ぐたり、と机に身を預け、榎本は、必死にある一点に集中しようとする血流を散らしにかかった。
 背中に感じた柔らかい感触、耳に吹きかけられた吐息。
 そう言えば、風邪のときほどかえって性欲が高まる――それは種を残すための生存本能だ――などという説を聞いた覚えがあるが。あれは本当らしい。
 普段は意識したことのない純子の肢体を全身で感じて――榎本は、本日二度目となる逃避行動を行った。つまりは、意識を手放した。

 次に目が覚めたとき、場所は、見覚えはあるが見慣れた覚えはない場所に変わっていた。
「あ、気がつきましたか?」
 ひょい、と顔を覗き込んでくるのは純子。これは先ほどと変わらない。
 違うのは、今度の自分はベッドに寝かされている、ということ。
 視線を巡らせる。まさか、とは思ったが……生憎、人より優れている自負のある記憶力が、間違いない、と太鼓判を押してくれた。
「……ここは」
「わたしの家ですよー! 病院に運ぼうかと思ったんですけど! 時間が時間で。救急病院に行こうかとも思ったんですけど、榎本さんの保険証が見つからなくて! しょうがないから、タクシーを呼んで運ばせてもらいました!」
「…………」
「あ、大丈夫ですよ! わたしはソファーで寝ますから、今日はこのベッドで休んでください! とりあえず、一晩ゆっくり休んで様子を見ましょう。結局何も食べられませんでしたけど……お食事、どうされます?」
「……いえ、結構です……」
「風邪のときって、食欲なくなりますよね、わかります。ここにスポーツドリンク置いておきますから、喉が乾いたら飲んでくださいね」
「青砥さ」
「じゃあ、わたし、お風呂に入ってきますね。上がったら、また様子を見に来ますから」
「…………」
 とんでもない爆弾を投下して、純子の姿は、ドアの向こうに消えた。
 思わず枕に突っ伏しそうになり、それが純子の枕であることに気付いて、慌てて仰向けになる。
 何を考えているのだ、彼女は。いくら風邪で弱っているとは言え、若い独身女性が、一人暮らしのマンションに男を泊めるなど……いや、彼女らしいと言えば、彼女らしいのか。
 おそるおそる下半身に神経を集中してみる。幸いなことに、今は落ち着いているようだが。気を失ったときはどうだっただろう。いや、いくら何でも、そこが見苦しい有様になっていたら、彼女とてここまで無防備には……
 ……彼女なら、素で気づいていなかった可能性も考えられるのが恐ろしいが。
 それより、問題はこれからだ。
 頭を抱えて布団に潜り込む。忘れてしまえ、何も考えるな――と言い聞かせ、眠りに身を委ねるべく神経を集中させる。
 風呂に入る。純子が。壁一枚挟んだ向こう側で。風呂ということはつまり、今の彼女は――

 榎本の風邪と本能と欲望の戦いは、まだまだ、終わりそうになかった。


〜〜END〜〜

××××××××

終わり。
これで9KBです
442名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:31:24.83 ID:j24trKS4
面白かった!よかった!萌えた!続きよみたい!
443名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:40:46.87 ID:htjugymn
>>441
GJ!いいよー。ほんと続き読みたい。
こんな萌えるのをさっと落とせるなんて素敵!
444名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:46:53.44 ID:u2e5UySw
>>439
GJ純子視点も見たくなった!
というか読み始め純子視点かと思ってたw

>>430はマナーのない無法地帯にでも行ってれば?
マナーもルールもなければ書き手も保護できないだろうに
445名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 20:58:08.72 ID:TQxUSD+H
逆だろ?
430の言いたいのは、マナーやルールを
テンプレ化したらどうか
その内容をスレの残りを使って固めたらどうかって
そういう提案をしたんじゃないの?
自分にはそう読めたけどね
446名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:01:06.02 ID:ENIgfWn2
>>441苦労が絶えませんなGJ
447名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:02:08.93 ID:htjugymn
>>444
>純子視点。自分もそう思った。なんでだろw
でもマジあそこで倒れてたら数日気づかれ無さそうだね。
純子来てよかったよーうぅ・・。
448名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:02:30.74 ID:u2e5UySw
>>445
>がたがたマナーにうるさい奴が多いから

マナーについて言ってる人馬鹿にしてるじゃん
こいつらがいるから仕方なくテンプレ化しようって言ってるんだし
449名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:14:48.68 ID:DLdLJKP3
>>448
そうだよ。
何故なら、新人書き手に対して、理由も説明せずに一方的にわめく奴がほとんどだから
愚痴スレ見に行け! 勉強しろ! って意見を何回も見たけど
いざ行ってみたら「俺がうざいと思うから」みたいなことしか書いてない。誰かがうざいと思えばそれがマナーかよ馬鹿馬鹿しい
過去スレ見ろってあの膨大な過去スレを全部読むのにどんだけ時間かけろって言うんだ。
注意する方が正しいというのなら、それにふさわしい言い方ってもんがある。
それができないで一方的に書き手を叩き出す奴が多いから、最低限、書き手はこれに注意しとけってルールだかマナーだかを1に書いとけば、って言ってるんだよ
450名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:24:18.73 ID:ENIgfWn2
もっとも、マナーやルールがわかってないのは一人だけなんだけどね
451名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:28:02.32 ID:j24trKS4
>>450
おなじ意見です。
452名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:34:06.15 ID:TQxUSD+H
ま、基本文章力のある奴が住人だから、読み物としては面白いけどな<愚痴スレ
あれ読んで職人さんは非常に繊細な生き物なんだなと再確認出来たわ
GJ無いとくじけるけど、「続きを早く読みたい」ってのもプレッシャーなんだと
あと、投下された全SSにGJするのもタブーらしい
他にも色々あるらしいから、やっぱ1にテンプレは必須だわ
でないとレスするたんびに冷や冷やビクビクしてなきゃならん
453名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 21:34:17.26 ID:htjugymn
>>449に同意。
454名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:10:34.78 ID:u2e5UySw
>>449>>453は正直2に向いてないと思うの…
455名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:16:37.63 ID:j24trKS4
>>454
2chでも普通にあってしかるべき意見だと思う。
456名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:17:41.40 ID:htjugymn
スルーできないお前も向いてないな
457名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:20:05.55 ID:htjugymn
>>456は454へ
458交渉 1/4:2012/07/18(水) 22:31:10.10 ID:qdW/nGVp
流れ豚切りスマソ。
原作榎青投下しますので、苦手な方はスルーください。
二人は何度か体の関係あり、お互いに好意を持っているのだけど、純子の方は今一歩踏み込めないといった感じです。
榎本がセクハラ全開のエロもっちゃんになってしまいました。ごめんなさい。

**********

昼下がりのレスキュー法律事務所。
そこには、いつになく真剣な顔で鍵を交換している榎本の姿があった。
純子はデスクの縁に軽く腰掛けながら、その様子を観察している。

こうして見ると、仕事に打ち込んでいる姿はお世辞抜きで本当に素敵だと思う。
でも、弁護士の恋人が泥棒だなんて問題よね…。

そんなことをぼんやりと考えていると、榎本が不意に振り向いた。
目が合ってしまい、どきりとした純子は慌てて目を逸らす。
「終わりました。これで、空き巣にやられることもなくなるでしょう。」
「ご苦労様でした。やっぱりプロは仕事が早いわね。」

この事務所が空き巣に入られてしまったのは、つい先日のことだ。
幸い金目のものは置いてなかったため、大きな被害は免れたが、今後のためにもセキュリティ強化が必要と判断し、榎本にお願いすることになった次第である。

「これが、今回の請求書です。」
榎本は純子に歩み寄ると、一枚の紙を手渡した。
それを見て、純子は目を丸くする。
「ええっ!こんなにするものなの!?」
「はい。最新の錠と防犯カメラを設置したので。」
「ちょっと、安くならない?ほら、お友達価格として。」
「なりませんね。」
「ケチ。榎本さんのこと、見損なったわ。」
「場合によっては安くならないこともないですが。」
「何かしら?」
「……体で払えばいいんです。」
「えぇと、体で払うって?あなたがもし捕まるようなことになったら、私が弁護を引き受けるとか?そういう交換条件でいいの?」
「いえ。そうではなくて…」
榎本としてはストレートに言ったつもりだが、やや天然なところがある純子にはうまく伝わらなかったようだ。
榎本は少し困ったように微笑むと、純子の耳元に唇を寄せ、何かを囁いた。
今、事務所にはこの二人以外の人間は誰もいないにも関わらず。
とたんに純子の顔が真っ赤になる。
「え、榎本さんっ!?何言ってるの?いやですっ。」
「だったら、交渉決裂ですね。正規の値段を払ってもらうまでです。」
「くっ…。ちょ、ちょっと待って!……わかったわ。今日は仕事も早く終わると思うから、お店が終わったら、私のマンションまで来てくれる?」
「それだとしたら1割引きまでですね。半額にする方法がありますよ。」
「え?なあに?」
「それは…。」
そう言ってまたも耳元で囁く。
純子の顔がさらに赤くなった。
「ええええっ!ここでなんて…そ、それは、ちょっと…。」
「それはもったいない。こんなお得な話、そうはありませんよ。誰だって“即金払い”の方が嬉しいでしょう?」
「いや、だって、あの…誰かが来たら…。」
「…そのために簡単には破れない錠を設置したんじゃないですか。」
榎本は純子の手を握ると、熱っぽい目で見つめてきた。
心がぐらりと揺れる。
459交渉 2/4:2012/07/18(水) 22:34:04.64 ID:qdW/nGVp
「さあ…どうしますか?」
榎本は純子の首筋に唇を当て、ゆっくりとなぞる。
「…は…そ、そんなバカげたこと…」
「バカげたこと?誘ってくるあなたが悪いんじゃないですか。」
器用な指先がブラウスの上から純子の肩口を撫で回す。
「さ、誘う?私、誘ってなんか…!」
「あなたのこの瞳、その唇…全てが僕を誘うんです。僕が欲しいって…。」
「そんなこと…!んんっ!」
純子は唇を思い切りふさがれた。続いて、強引に割り入ってくる舌。
全てを拭い去るかのように絡みついてくる。
流されてはいけないとわかっているのに、濃厚なキスは媚薬のように思考を麻痺させた。
拒もうにも、腕にも足にも力が入らない。
それに、自分の体は榎本とデスクに挟まれ、逃げ場を完全に失っている。
純子は為されるがままだった。
肩口を彷徨っていた手は純子の胸を揉みしだき始める。
「…ぅん…だ、だめよ…こんなところで…」
「大丈夫ですよ。この錠は…僕にしか破れません。」
いつの間にかブラウスのボタンはすべて外され、榎本は露わになった鎖骨に口づけていた。
その唇は徐々に下降を始め、ブラジャーの下に隠れていた白く柔らかな乳房を探し当てる。
中心で赤く主張している蕾の周りをゆっくりと舌が這った。
あくまで蕾は刺激しない。
その上で、スカートをたくし上げた右手で純子の太腿を優しく撫で回した。
じらされている…。
純子にはそう感じられた。
我慢できなくなり、榎本にしがみつく。
「…い…意地悪…」
「意地悪?僕がですか?」
「こんな風に…じらすなんて…。」
「まだ、お返事を頂いてませんから。交渉が不成立ならば止めますが?」
「…もう…いや…。こんなんじゃなくて…。ちゃんと…して…。」
「わかりました。では、お望みの通りに。」
榎本はひょいと純子を抱え上げ、デスクの上にしっかりと座らせた。
足を軽く開かせると、下着の中に指を滑り込ませる。
巧みな手つきで秘部を苛んだ。
「あっ…はぁ…っ…」
体の中を微弱な電流が流れるような錯覚。
職場でこんなふしだらなことをしているなんて、自分でもおかしいと思う。
何よりもモラルを重んじてきたにもかかわらず、榎本のいいように振り回されているのはなぜだろう。
それは――
私がこの男に身も心も入れ込んでしまっているからだ。悔しいほどに。
そして、この、勘のいい男はそのことに気付いてしまっているから一層タチが悪い。

せめてもの仕返しにと純子は自分の舌に絡ませている榎本のそれを噛んでやった。
「…つっ!」
榎本は唇を離し、少し驚いた顔をして純子を見る。

ザマーミロ。

純子は心の中で舌を出した。
思わずしたり顔になる。
密かな仕返しに感付いた榎本は、それに応戦するかのように腰をぐいっと抱き寄せた。
460交渉 3/4:2012/07/18(水) 22:35:51.18 ID:qdW/nGVp
「きゃ…!」
「お返しです。」
耳元で意地悪そうにささやくと、立ったまま純子の中に侵入してくる。
「はっ…ぅ…ん」
いきなり最奥を刺激され、体が、かあっと燃え上がるように熱くなった。
榎本がふっと息を吐き、一瞬腰を引いたかと思うと、今度は強く突き上げられる。
「ぁあんっ!」
突然の強い刺激に頭の中がびりびりと痺れる。
そして容赦なく、またすぐに襲ってくる刺激。
何度も何度も突き上げられ、体がバラバラになりそうだ。
うまく息ができない。
純子は無我夢中で榎本にしがみついた。
「お、お願いっ。やめてっ…壊れてしまいそう…!」
懇願しても榎本からの返答はない。
返ってくるのは荒く乱れた息遣いと自分の中を強く激しく掻き乱す律動だけ。
「やあっ…私、もう…!」
純子は小さく叫ぶと、榎本の腕の中であっけなく果てた。

何事もなかったかのように傍らで服を整えている榎本とは対照的に、すっかり力の抜けてしまった純子はソファで体を休めていた。

ずるい。
私をこんな風にさせておいて、自分だけは涼しい顔だなんて。

恨めしそうに見つめる純子に、榎本は気付いていない振りをして笑顔を返す。
「…今日は仕事も早いんでしたよね。」
「え?ええ…。」
「では、また今晩伺います。」
榎本はそう言うと、純子の頬に手を添え、唇に触れるだけのごく軽いキスをした。
テーブルの上に新たな請求書を残し、榎本は事務所を後にする。
請求書には約束通り、半額に値引きされた価格が書き込まれていた。
またしても榎本の画策にあっさりと乗せられてしまった純子は大きな溜息をつく。
法廷で学んだ戦術的な駆け引きも論理的な思考力も、あの男の前では全く役に立たない。
これが惚れた弱みなのか。敏腕弁護士も形無しだ。
純子は気怠い体に鞭を打ちながらよろよろと起き上がると、夜までに仕事を片付けるため自分のデスクに戻った。
461交渉 4/4:2012/07/18(水) 22:37:30.56 ID:qdW/nGVp
そうこうしているうちに、共同経営者兼同僚の今村がクライアント先から戻ってくる。
「びっくりしたよ。廊下の防犯カメラもドアの電子キーもすごいじゃないか。」
「そうね。」
子供のようにはしゃぐ今村を尻目に、誰のおかげだと思ってるのと内心苛立った。
「これ、請求書。」
純子は書き直された請求書を今村に渡す。
帰ってきた答えは意外なものだった。
「へぇ。見積もり通りだね。あまりにも安いんで、後でぼったくられるんじゃないかと少々不安だったんだ。」
「え?見積もり?」
見積もりなんて初耳だ。
「あれ?榎本さんから聞いてない?昨日、見積書を持ってきてくれた時に、榎本さんは君にも渡したと言ってたけど。」
真実を話すと今村にいろいろと突っ込まれそうなので、適当に話を合わせる。
「あ…ああ、そうね。聞いてたわ。私、見積書を自宅に忘れてきちゃって…。見せてもらってもいい?」
「いいよ。どこに行ったかな。…あった、あった。これだよ。」
今村が見せた見積書には、榎本が最初に請求してきた値段の半額がすでに明記されていた。
「いやぁ。君のおかげで助かったよ。榎本さんが青砥さんの顔を立てて、お友達価格にさせていただきますって言ってたから。」
「そ、そう…。」
「やっぱり、榎本さんに頼んで正解だったなー。」
上機嫌な今村は気づいていない。
見積書を持つ純子の手が震えているのを。

何よ!
ここであんなことしなくても最初から安くする気満々だったんじゃない!
今夜やってきたら思いっきり問い詰めてやるんだから!

しかし、榎本にとっては、鼻息荒く息巻いている純子のことなど想定の範囲内である。
今夜ものらりくらりと詰問をかわされ、またもベッドの中でお相手をさせられることになるであろうことを純子はまだ知らない――。

**********
以上です。
お目汚し大変失礼いたしました。
462風邪ひき榎本ネタ 4/7:2012/07/18(水) 22:41:42.14 ID:OGnmsmIL
あ、被った。
すみません、風邪ひき榎本ネタ、続きが読みたいと言ってもらえたので突貫で書いてみました。
べたネタでお約束END失礼

××××××××

 榎本は悟った。
 人間というのは、考えまいとすればするほど、そのことについて考えてしまう生き物なのだ、と。
「…………これは、危険です」
 布団の中で、無意識のうちに指をすり合わせる。
 純子の家の間取りははっきりと記憶していた。自分がいるのは寝室。純子のいる風呂場からは壁を数枚隔てており、その音や声など聞こえるわけがない。
 ついでに、当たり前だが、榎本に透視能力のようなものは備わっていない。
 にも関わらず、風呂場の純子の様子が脳内に描けてしまうのは何故なのだろうか。
 もちろん、榎本は純子が服を脱いだところなど見たことはない。風呂場を覗いたことも誓ってない。なのに、その肢体の様子から風呂場でのあられもない姿まで、リアルに描けてしまうのは何故なのか。

 ――これが、妄想、という奴なのですね。なるほど。

 などと納得している場合ではない。
 ふらつく身体を必死に制御しながら、ベッドから下りる。そこで気がついたが、榎本は、シャツとズボンのみの姿で寝かされていた。
 純子が脱がせてくれたのだろうか。……ということは、気を失ったとき、自分の下半身は彼女の目に余るような様子ではなかったのだろう、きっと。
 今とは違って。
 手探りをベッド脇のテーブルをまさぐると、眼鏡が手に触れた。
 それを身に着け、とりあえず視界を取り戻す――畳んで置かれていたニットを被り、ネクタイをポケットにつっこむ。傍らに、自分の鞄が立てかけてあるのを見つけ、必死に肩にかける。
 純子には申し訳ないが逃げよう。いくらかかってもいい。タクシーで帰ろう。でなければ、彼女の身が危険だ。
 幸いなことに、いくらかでもベッドで眠ったことが効いたのか、熱は多少引いたらしい。
 よろめきながら立ち上がる。そのまま、玄関に向かおうとして――

 バタンッ!

「……榎本さん?」
「…………」
「榎本さん!? な、何やってるんですか!? 駄目ですよ、大人しくしなきゃ!!」
 この世に神はいないのですね――と、榎本は、天に向かって呪詛を吐いた。まあ、元より信じたことなど一度もないが。
 ちょうど風呂からあがったところらしい純子が、榎本の元に駆け寄ってきた。
 湯上りで濡れた髪をアップにまとめ、ほんのりと桃色に染まった肌が何とも扇情的で。とっさに鼻血を噴かなかった自分の理性は大したものだ……と、とりあえず自分を褒め称えた。
「榎本さんっ!」
「…………」
 ぐたり、と、腰を落とした。というよりも、落とさざるを得なかった。
 抱き起こそうとする純子の手を払いのけ、必死に後ずさる。
 風呂上りだから、だろう――ついでに、季節は夏で、かなり暑いから、だろう。
 彼女は、バスタオル一枚という、何とも目のやりどころに困る格好で、榎本に詰め寄って来た。
「榎本さん、大丈夫ですか!? わっ! また熱が上がってません!? もうっ! どうして大人しくしていられないんですか!」
「…………」
「ほら、わたしの肩につかまってください! ベッドに戻りましょう? ……って、これ、鞄? もしかして帰ろうとしたんですか? 駄目駄目、駄目ですよっ! せめて今夜一晩は安静にしてください! 榎本さん、一人暮らしでしょう? 困ったときはお互い様ですから!」
「……あおと、さん」
「はい?」
463名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:41:48.84 ID:u2e5UySw
エロもっちゃんGJw
自宅一割引きでオフィス半額って…どんだけオフィスシチュ好きなんだw
原作読んだことないけど原作ではえのもっちゃんは犯罪者確定なの?
464風邪ひき榎本ネタ 5/7:2012/07/18(水) 22:44:20.21 ID:OGnmsmIL
 とん、と、力のこもらない手で、彼女の身体を突き放す。
 視線を床に固定し、ぼそぼそとつぶやく。
 何が何でも、彼女から離れなければいけない。このままでは、自分は、決定的に彼女を傷つける。
「お願いです……余計なことは、しないでください」
「榎本さん……」
「迷惑、なんです」
 嘘だ。本当は喜んでいた。親元を離れてからこれまで、誰かに心配してもらったことなど一度も無い。親しい友人もいない、同僚もいない、こんな自分を気にかけてくれる人など、もう誰もいないと、そう思っていた。
 だから、彼女の好意が何よりも嬉しかった――嬉しかったからこそ、彼女を傷つけるわけには、いかなかった。
「すみません」
 壁に手をつき、根性で立ち上がる。だらしなく羽織ったニットで下半身を隠さなければならないのが情けないが、見られるよりマシだと言い聞かせ、玄関に向かおうとすると――
「っ!!」
「…………」
「青砥、さん?」
「……榎本さんにとっては迷惑でも! 放っておけませんからっ!!」
 背中に抱きつかれた。そのことに気付いた瞬間、足が、動かなくなった。
「だって放っておけるわけないじゃないですか! 榎本さん、わたしがどれだけ怖かったか、わかってますか!?
 今日、倉庫に行ったら、榎本さんが倒れてて……いくら声をかけてくれても、全然目を開けてくれなくて! まさか、死んじゃったんじゃないかって――わたしがどれだけ怖かったか、わかりますか!?」
「…………」
「榎本さんの意見なんか知りません! これはわたしのわがままです。これで榎本さんがわたしを嫌いになっても仕方ありません。
 このまま、榎本さんを見殺しにするよりずーっとずーっといいです! だから、離しません、帰しませんっ! 何が何でも、ベッドに戻ってもらいますからっ……」
「…………」
 ああ。
 彼女は、本当に強くて優しい人なんだな――と、熱に浮かされた頭の中で、つぶやいた。
 これだけ言われれば、人間関係には疎い榎本でも理解できた。彼女は自分に、何がしかの好意を抱いてくれている。
 それが友情なのか、あるいは愛情なのか、単なるチームメイトとしてのものなのかはわからないけれど。どんな意味であっても、大切に思ってくれていることには変わりはない。
 ならば、自分はそれに答えなければならない――中途半端な嘘は、彼女に対して失礼だ。
「すみません」
「榎本さん?」
「迷惑なんて言ったのは――嘘です」
「え?」
「違うんです。このままだと、僕は――あなたを傷つけそうだから」
「はい? な、何でわたしが傷つくんですか? そんなわけないですっ! 榎本さんがわたしを傷つけるなんて、そんな」
「青砥さん」
 名前の通り、あなたは純粋な人ですね、本当に。
「僕は、男ですよ」
「はい?」
「あなたがどう思っているかはわかりませんが――男です」
「はあ……それが」
「今のあなたの格好を見て、何とも思わない――そんな男が、いると思いますか?」
「!!」
465風邪ひき榎本ネタ 6/7:2012/07/18(水) 22:45:27.74 ID:OGnmsmIL
 そこまで言われて、ようやく、気づいたらしい。榎本が何を言いたいのか。先ほどから、不自然に腰が引けているのは何故なのか。
「え、え、榎本、さん……」
「……すいません。熱のせいか、考えがまとまりません……でも、これだけは言わせてください……あなたは、魅力的な女性です、本当に……僕のような男でも、惹かれてしまうくらい、に」
「え……」
「風邪にかこつけて、あなたの親切につけこんで……あなたを汚すようなことは、したくないんです……だから」
 逃げようと、したんです。
 そうつぶやいた瞬間、榎本の身体は、白く華奢な腕の中にいた。
 視線を落とす。バスタオルから覗く谷間に目がいく男の性が、今は呪わしい。
「青砥さん、ちょっと……」
「榎本さんは、勘違いしてますよっ……」
「はい?」
「この状況で、何とも思ってもらえない方が、女は傷つきます」
「…………」
 顔を上げる。純子の視線が、榎本の目をまっすぐに射抜いた。
「女として何の魅力もない――そう思われる方が傷つきます。好きな人に、そんな風に思われたら、わたしなら立ち直れません」
「……はい……?」
 好きな人。
 それは、誰のことですか――?
「嬉しいですよ!? そりゃまあ、体調悪いのに大丈夫ですか、とは思いますけどっ! わたしのこと魅力的って言って下さって、男性としてわたしを求めて下さって、わたし、すごく嬉しいですからね!? 全然傷ついてなんかいません! どうか安心してください!」
「あの、青砥さ……」
「いいですよ。榎本さんなら、全然構いません。さあ、ベッドに戻りましょう――今日は、わたしが一晩中看病しますから。傍にいますから」
「…………」
 脇の下に身体を差し入れて、無理やり立ち上がらされた。
 ほぼ、ひきずられるような格好でベッドに連行される――顔を上げようとすると、頬を挟まれ、無理やり唇を塞がれた。
「ぐっ!?」
「…………」
 何を、と言いかけて。流し込まれた冷たい液体を、反射的に飲み下した。
「……まずは、水分を取らないと」
「…………」
「後、お食事。おかゆ、あっため直しますね。それから、お薬を飲んで――今日は、寝ましょう」
「……はい」
 母親からだって向けられた覚えはない、優しい笑顔に――榎本は、素直に頷くしかなかった。
466風邪ひき榎本ネタ 7/7:2012/07/18(水) 22:47:24.59 ID:OGnmsmIL
 翌朝、目が覚めたとき。ベッドにもたれかかるような格好で眠っている純子に仰天した。
 思わず飛び起きる――彼女の看病が効いたのか、薬が効いたのか。熱は、ほぼ下がっているらしい。
「青砥さん!?」
「ん……あ、榎本さん……」
「青砥さん、まさか、ずっとここに……?」
「……そうですよお……」
 寝起きのせいだろうか。
 いつもよりしまりのない、擬音をつけるとしたら「へにゃり」とした笑顔を浮かべて、純子は頷いた。
「だって、榎本さんが心配でしたから」
「…………」
「熱は、下がりましたかあ?」
「ええ。おかげさまで」
「よかったあ……」
 両腕を伸ばされ、首にすがりつかれた。熱い吐息が耳朶に触れ、かっ! と身体が燃え上るのがわかった。
「青砥さん……」
「榎本さん……」
 すきです……という微かな囁き声が、最後のとどめ。
 反射的に彼女の腕をつかんで、そのままベッドにひきずりこんだ。思った以上に細い身体を抱きしめ、パジャマのボタンに手をかける。
 純子は、一切逆らおうとはしなかった。実に幸せそうな笑みを浮かべたまま……
「……青砥さん」
「はい?」
「熱いです」
「えへへへへへ……榎本さんにこうしてもらえて……幸せ、だからでしょう……」
「違います!」
 布団をはねのけるようにしてとびおきる。純子の額に手を置くと、驚くほどの熱が伝わってきた。
「何をやっているんですか、あなたは……今日は大人しく寝ていてください。お詫びに僕が看病します。芹沢さんにも連絡を入れますから」
「榎本さん……さっきの、つづき……」
「しません!」
 頭を抱えてしまう。何だこのオチは。これがお約束と言う奴か。この昂ぶりをどうしてくれる。
 だが、まさかこの状況で純子に相手をしてくれなどと頼めるわけがない――彼女の気持ちは、十分すぎるほど伝わってきた。今は、それで満足するとしよう。
「えのもとさあん……今日は、ねかせませんよお……?」
「そうですか。確かに僕は寝れないかもしれませんが、あなたには寝てもらいます」
 手早く薬と朝食の準備をしながら。
 榎本は、きっぱりと宣言した。

〜〜END〜〜

××××××××

おしまい
書き手意見だけど、1にはスレ内ルールがあった方がありがたいです
結構、スレによってこれはOK、あれはダメって違うので。
勝手な意見、失礼しました。
467名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:48:43.76 ID:TQxUSD+H
どろぼーさんは確定だよ。

いやしかしGJ!
ドラマ榎本ファンには申し訳ないがメンタリスト榎本で
脳内再生させて貰った
こういうのバンバン読みたいね!マジで神!!
468名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:48:51.41 ID:u2e5UySw
>>466
GJ
すまん被ったorz
まさかすぐ投下くるとは思わず
469名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:53:52.04 ID:j24trKS4
>>462
すごい。すばらしい。萌えるしスピーディーだし幸せだし。
これを突貫で書き上げる力量!


スレルールを冷静に話し合ってテンプレ作るのは賛成です。
470名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:56:30.71 ID:TQxUSD+H
>>467>>458宛GJ

だけど
>>462もGJ超(大野厨はこういう言い回しをするらしいw)
こちらはドラマ榎本で脳内再生されたw

いや、楽しいな>投下祭り
471名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:57:26.85 ID:htjugymn
>>466
こんなにすぐに読めて幸せ。
いやーもうかなり好み。GJ!です。ありがとう。
すぐにとは言いませんが、続きを期待しちゃいます。
(すいませーん)
472名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 22:57:55.04 ID:u2e5UySw
>>467d
ドロボーさんは確定なのかー

そういえばテンプレもだけど
保管庫もどうするって前出てたよね
473ゲーム 1/3:2012/07/18(水) 23:22:41.84 ID:oXD6ZWwT
435です。
いつの間にか投下祭りが始まってて楽しいですね!
自分も遅ればせながら投下をば。

最初はドラマの榎青で書いていたんですが、
純子が積極的になりすぎたので、原作の榎青に急遽設定変更しました。
スレ埋め目的で書き殴ったので、エロは大ざっぱです。

ドラマの榎青派の方は、「ゲーム」でタイトル避け願います。
************************************************


その日、青砥純子弁護士は珍しく暇を持て余していた。
仕事をする気にはなれないし、未読の本も無いし、テレビは既に見飽きた。
純子はため息をついて、ソファに座っている榎本径に声をかけた。
「榎本さん、まだかかるの?」
「まだかかりますね」
予想通りの答えが返ってきただけで、面白くない。しかもこちらを見向きもしないのだ。

人の家に昨日から来ているくせに、榎本はパソコンに向かったまま何かの作業を続けている。
何だか面白くなくて、先ほどからずっとちょっかいを出しているのだが、応えてくれない。
恋人の家に遊びに来た時くらい、仕事のことは忘れなさいよ…と心中で毒づくが、いい年した大人が「構え」と口に出すわけにもいかない。
恥ずかしいし、何よりも悔しいから。
世間話でもしようも、「すみません。今は手が離せないので、後で」と言われてそのまま。
「『後』っていつですかー? もうかれこれ2時間近く放置ですがー?」と、つい心の中でつっこんでしまう。

純子は既に空になったコーヒーカップをくるくる回して考える。
榎本さんの気を引けて、かつ自分の持て余している暇を有効活用すべき手段はないだろうかと。
榎本を見ると、柔らかそうな髪から耳がちょっとだけ覗いていた。
榎本さんて、指だけじゃなくて、耳も綺麗な形しているな…と、ついつい純子は見とれてしまった。
あの耳をいきなり舐めたら、いくら榎本さんでも驚くだろうか? 何となくそんなことを考えていたら、ふと面白いことを思いついた。
これなら榎本さんの注意も引けるし、自分の暇も解消できる。
純子はニヤリと笑って椅子から立ち上がり、榎本の後ろに立った。

―――榎本さん、ゲームをしましょう。
474ゲーム 2/3:2012/07/18(水) 23:23:39.75 ID:Xkmr7yfI

純子が後ろに立った気配を感じたので、榎本は振り向こうとした。
しかし、それよりも先に純子が榎本の顎をつかんで、上を向かせ、キスをする。榎本の下唇を甘く噛んでから舌でなぞる。
榎本が舌を入れてこようとする前に唇を離し、下から見上げてくる榎本にクスリと笑うと、純子はぐるりと回って榎本の隣りに座った。
榎本は純子が何をしたいのか分からないらしく、不審そうにずっと観察している。純子は明らかに「何か企んでいます」という顔をしていたのだ。
嫌な予感がして、榎本はいぶかしげに純子に尋ねた。どうせロクなことを考えていないのでしょう、という思いを言葉に込めて。
「……青砥先生、何を考えてるのですか?」
「榎本さん、ゲームをしませんか? 余裕が無くなった方が負けですよ」
純子についていけなくて、ますます不審そうな顔をしている榎本にはお構いなしで、純子はゲームに勝つべく行動を起こした。
右手を榎本の頬に寄せ、左手で横の髪を耳にかけて、形の良い耳を露わにすると、カプリ、と噛みついた。そして、舌でペロッと舐めあげる。
榎本の身体がピクリと動いたのを感じて、喉の奥でクスクス笑うと、軽い舌打ちが聞こえた。
「あの」
「何ですか?」
「何をされているのでしょうか?」
「ですから、ゲームです」
榎本に対して適当に答えながら、今度は首筋に顔を埋める。動脈の辺りを舐めて、噛みついて強く吸う。唇を離して、跡がついたのを確かめるともう一度舐めた。
榎本はため息をついただけで、ちっとも乗ってこない。ならばと、純子は口で耳と首筋を攻めながらも、右手でやんわりと榎本に触れた。
あからさまに榎本の身体が一瞬固まる。その反応に純子は気を良くして、撫でては揉んで、微妙な力加減で榎本を刺激していく。
表面上は全く動じていないように見える榎本だが、身体は正直だ。純子は再び喉の奥でクスクス笑うと、とどめをさすべく榎本の首に手を回し、耳元でわざと甘く囁いた。
「榎本さん……」
榎本の身体がまた固まり、耳がみるみる間に赤くなっていく。どんな愛撫よりも、榎本には自分が名前を呼ぶ方が効果があるのだ。
純子が「私の声が一番気持ち良いだなんて、榎本さんたら私にメロメロなのね」とわが身を棚に上げて悦に入り、余裕綽々で首に手を回したまま榎本の反応を待っていると、
榎本は思い切り純子を睨み、ソファに押し倒した。
「私の、勝ちね」
純子がにっこり笑いながら目の前にある顔を見て言うと、榎本は舌打ちしてムッとした。

「それはどうですかね」
「素直に負けを認めなさいよ」
榎本の言葉がどう見ても負け惜しみにしか聞こえず、純子は思わず声を出して笑いだした。
(何だかんだ言っても、榎本さんも可愛いのね―――)
純子はそんなことを考えながら、自分の首筋に埋まっている頭をそっと抱きしめた。
475ゲーム 3/3:2012/07/18(水) 23:24:44.41 ID:oXD6ZWwT

最初は勝者の余裕に満ちていた純子だったが、榎本の愛撫はだんだん本格化して、余裕も無くなってきた。
胸の突起を口に含まれ、舌で転がされ、甘噛みされ、手では摘まれて、捏ねられ、執拗に攻められながら、空いている方の手で濡れ始めた茂みを弄られる。
「んっ…や…ぁっ…」
首を振り拒絶を口にしても、それは裏を返せば次への催促になる。純子からとめどなく溢れ出る滴りを、榎本は全体に塗りつけるようにしていく。
かさついた榎本の冷たい手の感触が、ぬるぬるとした暖かいものに変化する。そのぬめりを借りて、さらに榎本は純子を煽っていく。
「あっ…あんっ…」
口を閉じることが出来ず、息を吐くのと同時に声が出る。その純子の口に、榎本は先ほどまで胸を散々弄っていた指を入れた。
この後、この指が自分にどんな快楽を与えるのか知っている純子は、口の端からだらしなく唾液がこぼれるのも気にせずに熱心に指に舌を絡める。
そんな純子の様子を見て榎本は笑うと、口から指を引き抜いて、その指を純子の中へと這わせた。
「んっ」
入口付近に指を這わされただけで、純子の身体は次にもたらされるであろう快感を予感してピクリと震えた。
榎本は純子の額や瞼にキスをしながら、まずは一本差し込んだ。
「いやぁ…や、だ……」
「嫌じゃないでしょう? 私の指を必死に中に飲み込もうとしていますよ」
「う、るさい……んっ」
揶揄うような榎本を純子は睨みつけるが、逆に返り討ちにあってしまった。
絶えず入口を弄られ、中には次第に増していく圧迫感。良いところばかりを攻められて、純子の頭は真っ白になった。
イくのと同時に榎本の指を締めつけてしまい、それが恥ずかしくてふいと横を向く。そしてそのまま指が引き抜かれ、榎本自身が挿れられるのを待った。
しかし、いくら待っても榎本は指を抜こうとせず、挿れていない親指で、入口付近の壁を器用に撫でていた。
それだけでもいくらかの快感はあるのだが、足りるはずがない純子は、榎本を睨み、まだ整わない息のまま問いかける。
「なんで…焦らすの…?」
「別に焦らしてなどいませんよ」
いけしゃあしゃあと答える榎本を、もう一度強く睨むが、もちろん効果などありはしない。
短くない付き合いで、榎本が自分に何を言わせたいかは分かっているが、それを言うのは恥ずかしくて、いつも足掻いてみる。
―――足掻いてみるのだが、結局は自分が我慢できなくなり、今日もいつものように潤んだ瞳で榎本に訴える。

「もう、榎本さん……いれ、て…」
「私の勝ちですね」
純子のその言葉を聞くと、榎本はニヤリと笑って指を引き抜き、スラックスから自身を取り出した。そして猛った自身をゆっくりと純子の中に沈めていく。
自分が言いだしたゲームのことなどすっかり忘れて、何が「勝ち」なのかよく分かっていない顔をしている純子に、榎本はついばむようなキスを送りながら
「余裕が無くなった方が負けでしたよね」
と言った。言われた瞬間にハッと表情を変えた純子を見て、榎本はもう一度ニヤリと笑う。
純子が悔しそうに「勝負はついたはずよ!あなたの負けよ!」と文句を言おうとする前に、榎本は腰を使い、抽挿を開始した。
「あ…っ…んん…っ、はぁ……っ」
待ち焦がれていた快感を突然与えられ、喉からせり上がってくるのは意味をなさない嬌声だけだったが、最後の理性を振りしぼって純子は叫んだ。

「ずるい!」と。

<終>
476名無しさん@ピンキー:2012/07/18(水) 23:33:22.96 ID:ENIgfWn2
今日はGJを花火みたいに連発したくなるね
どの職人さんもGJです
477名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 00:18:20.28 ID:i/rZ3LoE
>どんな愛撫よりも、榎本には自分が名前を呼ぶ方が効果があるのだ
この一文に全米が濡れた!GJ!
478名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 02:24:15.56 ID:b1eLUeCd
GJ!!

とりあえず案を簡易に作ってみたんで
これたたき台に案出して削ったり増やしたりしてくださいな


------------------------

こちらは
セキュリティシステムを知り尽くした奇才の防犯オタクが
あらゆる分野の豊富な知識と鋭い洞察力で事件を解明する
密室トリックにこだわった内容の本格謎解きミステリー。
鍵のかかった部屋のSSを投下するスレです。

榎本径×青砥純子が投下多めですが
芹沢豪、水城里奈、鴻野光男…等鍵部屋の登場人物の妄想なら
エロでもエロなしでも投下可能です。

ドラマでも原作よりでもどちらでもOKです。

『スレ内でのお約束』

「基本sage進行です。(メ欄に半角小文字で「sage」と記入する)
「他スレ、他サイトの紹介・誘導は禁止です。
「半生なので中の人の話題はほどほどに、801は厳禁です、板違い。
「投下する方は事前の注意書きをお願いします。注意書きがあるのに読んで泣かない。
「書きながらの投下は禁止。書き上げたものをコピペしてください。
「作品には1/2・2/2のようにナンバリングするか、作品の最後に「終り」「続く」等入れて終了の合図を。
「リクエスト・続き希望は節度を持ち、行き過ぎたなれ合いは控えましょう。
(誤爆スレや愚痴スレ裏話スレをうまく使う事)

「嵐、煽りは華麗にスルー・他人に注意をするときは、丁寧な言葉遣いを心がけましょう。

過去スレ:
479名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 03:04:05.33 ID:yheQ/gCH
あのう、初心者なんですが愚痴スレってなんですか?
検索したらすごい数のスレがあってどれを指してるかわかりません
どなたか教えて下さい
「計画」「ある日の二人」書いた者です
480名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 03:07:43.88 ID:2Mbd1BR9
2ちゃんでそういう言い方する板があんのは知ってるけど今がたたき台なら言わせてほしい。
スレを荒らす人を表現するのにドラマ版中の人のグループ名使わないでくれませんか。
見かける度にもにょってるんで。
きもくてすいませんけど。
481名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 03:14:25.67 ID:nbVOb+Qh
478は誤変換だと思うんだが。
「嵐」じゃなくて「荒らし」じゃね?

>479
エロパロ板内で「愚痴」で検索。
482名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 03:18:16.73 ID:yheQ/gCH
>>481
ありがとうございます
483名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 07:34:18.08 ID:6gltHSdu
>>478

次スレは>>980か480KBあたりで立ててください
  
 も、入れてはどうでしょう
484名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 07:53:07.38 ID:ck3JyrFl
自分も中の人の所属しているGを荒らしの伏字と使うのは反対ですが、
それ以外はよくまとめられてて素晴らしいと思います。

続きの催促については、一番はじめの感想のときは良いかなと思うのですがどうでしょう?
二回三回とつづきまだー?と過剰に催促するのはやめたほうがいいと思いますが、
読んだ人間が続きを望んでいるということは伝えてもかまわないと思います。
書き手さんたちはどう思われますか?
485名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 08:21:54.53 ID:rLWcvfen
>>483
今はスレに勢いがあるから>>980には到達しない気がする

>>484
続きの催促はしないのがこの板での常識
486名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 08:33:30.64 ID:i/rZ3LoE
全レスは書き手は勿論読み手も厳禁、ってのも入れたらいんじゃね?

ちょっと前に全レスで叩かれた新人がいたが
彼(彼女)がレスしたのは3人だけだったのに
その後に続いた読み手の全レス(5〜6人宛)の分まで
頭ごなしに責められていた印象がある

あくまでサラっと読んだ印象だけど
487名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 09:00:49.32 ID:RHGVkzYK
>>484にちょっと賛成。
各々最初のGJレスに続き読みたいって書くくらいはダメかな?

自分もあまりそういうのは書かないようにしてたんだけど、
何人かの書き手さんは「続きが読みたいとの声がありましたので」って続きを投下してくれてるんだよね。
やっぱりそれも節度あってこそだけど、好評ならまた書きたいって思ってくれてる書き手さんへの応援になるんじゃないかと。
488名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 11:07:51.48 ID:i/rZ3LoE
でも一部の書き手にはプレッシャーになるらしい>続きが読みたい
でもって、そのコメントが欲しいのにつかない書き手は
他の書き手へのコメントを読んで落ち込むらしい
かと言って、誰にでもそのコメントがつくようになると
今度は「糞作品にも言ってる」「誰にでも言うんでしょ」と
シニカルな気分になっちまうらしい

だから、続きの催促はやめておけ、と

あ、これ、ソースは愚痴スレね

要は読み手の側からリクエストするなってこと
「続き読みたい」も「これこれこういうシチュで」も
自分好みの話を書かせようって点で根っこは同じだしな
489名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 12:37:58.35 ID:G1FeRbxD
>>486
あの人、好き嫌いが激しくて、その人が嫌いらしい書き手が投下している最中にそれやったから
自分は全部NGにしているわ
490名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 13:10:20.91 ID:fzmsARjQ
>>489
え?
それって、気に入らない書き手の邪魔するためにわざと全レスしたってこと??
それはマナーがどうとかいう以前の問題だと思うけど
491名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 13:11:38.14 ID:i/rZ3LoE
あの人て?
486で話題にしたのは『お土産』の人の直前に投下した書き手だよ
(英語のタイトル)
愚痴スレに質問に来てたけど気弱な印象だったけどな
全レスした時も直前の投下が終わってから半日経過して
スレの動きが止まってた時みたいだったし
嫌がらせでやったんじゃないかとか、なんで思ったの?
492名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 14:46:16.19 ID:5dArYWxZ
>>489
性格悪そうだねあなた
493名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 15:02:29.13 ID:6M/8ktf5
>>491
>>377があの人だろ
494名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 17:04:15.63 ID:i/rZ3LoE
377が「あの人」なんだとして、じゃ、なんで>>489
>>486にレスつけてんだ?
377も全レスやって揉めたことがあるとかそういうこと?
495名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 17:18:26.76 ID:rLWcvfen
まぁ実際にマナーやルールがわかっていない書き手がここに一人いるから
それを読み手として嫌う人がいるのはあるかもね
496名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 19:24:11.22 ID:exwO2JVg
「ドラマ、原作どっちもOK」ってのはみんな承知なの?
最初はここドラマだけのはずだったけど。 

どっちもOKにするなら、私は表示してほしい。
497名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 19:49:37.63 ID:qn+6lgCn
>>496
自分は、原作を含める場合、貴志先生の他の作品のエロパロって扱いどうなんの?
っていうのが気になる。
上の方で1作品(1作者)につきスレ1つ、って板ルールがあるって書いてあるし。
正直、原作の榎本・青砥はドラマとキャラが違いすぎるから
原作見てない自分は違和感ばりばりなんでスレ分けてほしい気もする
498名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:08:07.15 ID:rLWcvfen
>>496-497
原作あってのドラマだからか
投下する時に原作の榎×青ですと前置きすればOKって
読み手の意見が出て承知されていたよ
読みたくない人はそれで判断すると良いよ
499名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:08:15.60 ID:exwO2JVg
>>497
私も分けられるんなら分けてほしい。
うっかり読んだ時、詐欺にあった気分半端ない。

板ルール的にはどう解釈したらいいのだ?
500名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:14:20.69 ID:exwO2JVg
>>498
でもちゃんと話し合ったわけじゃないのでは。
なし崩しだったような・・・。

どっちもOKになるなら
どっちなのか表示する事をお約束にいれてほしい。


501名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:30:01.47 ID:JhQGPDbM
スレタイに【ドラマ】とあることもあって、
自分が原作榎青を投下する時は必ず最初にその旨明記しておくようにしていたけど、
それじゃダメだったのか…

今書いたのがちょうど原作榎青だったんで、
スレの見解がまとまるまでは投下見合わせておきますね。
もしくは、小ネタ話なんでドラマ榎青でリメイク出来そうなら、直してから投下します。
502名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:34:53.39 ID:6gltHSdu
自分もドラマと原作で、もし分けられるなら、分けた方がいいと思います。
原作未読の人にとっては、原作にしか出てこないキャラ出されても、?ってなるだけだろうし、
分けてしまえば、原作のネタバレに絡んだSSも気にせず投下できて、いいような気がする。
ただ、どちらでも脳内再生できそうな作品もあるんで、どちらに投下するか迷うことはあるかもしれない。
他の方の意見はどうでしょうか。
503名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:35:11.22 ID:rLWcvfen
>>501
読みたくないと言ってるのは一人ぐらいだから別に投下は構わないよ
このスレではなくRoom#4に投下すれば良いと思うよ
504名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:42:08.80 ID:6gltHSdu
>>501
自分は原作榎青も大好きなんで、>>503さんがおっしゃられるようにRoom#4に投下してほしいです。
せっかく書いてくれた作品を直すなんてもったいない。
505名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:50:30.95 ID:fzmsARjQ
それはつまり、次スレから正式にドラマも原作もOKにしよう、ってこと?
結構、原作の投下も多いから分けても問題ない気もするけど
板ルール的にはどっちが正解?
上で指摘あった、原作者の他の作品の扱いは?
506名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 20:51:42.27 ID:i/rZ3LoE
分ければ確かにすっきりするのかもしれないがスレが過疎る心配もある
自分が前に楽しんでいたところは最早死に体だし
ここは来たばかりだけど神作品多いし、もっと盛り上がって欲しい
投下する時その旨を明記してあればいいんじゃないだろうか?
ぶっちゃけ自分は物語として面白ければなんだって良い派
507名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 21:05:50.41 ID:56ZdrOij
自分は無理に分ける必要無いと思う。
原作榎本×ドラマ青砥とか、その逆パターンとか
ドラマ榎本がエロシーン入ったら原作榎本に…とかだったら
どっちに投下していいか分からなくなりそう
508名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 21:06:56.14 ID:rLWcvfen
>>505
要は面白ければ良いので、原作とドラマの両方OKにした訳
他の作品は無しだろ
509名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 21:20:22.71 ID:ck3JyrFl
自分も原作設定ですって明記してくれれば投下OKにしてほしい。
投下の絶対量が増えたほうが長くスレがもつと思う。
原作のほうはドラマ版よりたしかに自分にとってハードル高いけど
読んで面白かったのも沢山あるし。
510名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 21:47:29.91 ID:b1eLUeCd
突然ですが478です。
すみません、単に嵐は荒らしの誤字です
話合いしようとはいっても何も進まなかったので
きっかけになればとテンプレを作ってみたのですが
色々考えて他のスレ参考にするだけで精一杯で
誤字等のチェックは甘くなってました
でも嵐ファンの方には不快にさせてしまったみたいでごめんなさい
こんな自分の作ったテンプレだと申し訳ないので
>>478はスルーして他の方が一から新しく作って使わないでやってください

自分がスレを見た頃は原作も普通に投下されていたので
原作もOKと表記していました
この場合は投下前に注意書きしてスルーするという方法をとればいいと思うのですが
>>497の言うとおり、1作品(1作者)につきスレ1つという
ローカルルールを破ることになるのはさすがにまずいと思います
511名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 22:01:24.21 ID:2MCFbDhc
ローカルルールを遵守するならば、ここを原作もドラマもOKにするしかないんじゃない?
「原作パロは投下前に一言添える」を書き手に徹底してもらうのは当然として。

幸いというか、現状では貴志先生作品を扱ったスレは他に無いわけだし、
ここら辺が落とし所な気がする。
512名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 22:07:48.95 ID:qn+6lgCn
>>511
いや、ローカルルール的には
「(ドラマ)鍵のかかった部屋」
「貴志祐介総合スレ」
になるのかな、って思ったんです。
まあ現状では貴志先生の他のパロはないみたいだから、OKにしても今は問題なさそうだけど
「新世界より」と「悪の教典」がアニメ化・映画化するみたいだから
今後需要が出てくる可能性もあるけどそのときどうするのかな、と
「新世界より(アニメ・原作OK)」みたいに、作品ごとにスレッドが立つのかな?? 作品単位と考えればそれもOKなのか
似た系統でいうと「謎解きはディナーの後で」も、原作ありきのドラマ化作品だけど
あっちはどうなってるのかな。
まあ、あっちは原作もドラマも設定同じだからどっちでも違和感ないのか
513名無しさん@ピンキー:2012/07/19(木) 22:54:13.76 ID:izUGZGWq
高橋留美子の犬夜叉とらんまのスレが同時にあるんだから問題ないんじゃね?
中身は見てないけど。

514名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 00:49:25.05 ID:bS0jrgOG
結局のところ、>>478を「荒し」に直したもので落ち着くんじゃないかな?
515名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 00:52:03.53 ID:t3bvN4xA
原作設定、死ネタ、不幸ネタ、ホラーネタには注意書きをつける。


ってのを入れてもらえませんか。
516名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 01:16:56.21 ID:ovBOjxGM
>>514
>>478はスルーして他の方が一から新しく作って使わないでやってください
って使うなっていうんだから
誰か他の人がまた1から作らないといけないだろう

っていうか2じゃ誤字脱字なんて当たり前なのに
作ってもらったのに何もしないのにネチネチ文句言うなんて
蛇オタこわい・・・お前らが代わりに作ってみろよ
517名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 02:23:05.61 ID:flzd2FqV
>>893
さとしもにのたんも小食だよ。
518名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 06:24:40.46 ID:omZW1sv8
それじゃあ、改訂版


こちらは、セキュリティシステムを知り尽くした奇才の防犯オタクが
あらゆる分野の豊富な知識と鋭い洞察力で事件を解明する
密室トリックにこだわった内容の本格謎解きミステリー、
鍵のかかった部屋のSSを投下するスレです

榎本径×青砥純子が投下多めですが
芹沢豪、水城里奈、鴻野光男…等鍵部屋の登場人物の妄想なら
エロありでもエロなしでも投下可能です

ドラマでも原作よりでもどちらでもOKです

『スレ内でのお約束』

・基本sage進行です(メ欄に半角小文字で「sage」と記入する)
・他スレ、pixiv、他サイトの紹介・誘導は禁止です
・半生なので中の人の話題はほどほどに、801は厳禁です、板違い
・投下する方は事前に、原作設定、死ネタ、不幸ネタ、ホラーネタの注意書きをお願いします
(注意書きを読んでから、読むのをお勧めします。それを読まずに読んでも泣かない事)
・書きながらの投下は禁止です。書き上げたものをコピペしてください
・作品には1/2・2/2のようにナンバリングするか、作品の最後に「終り」「続く」等を入れ終了の合図をお願いします
・リクエスト・続き希望は節度を持ち、行き過ぎた馴れ合いは控えましょう
(誤爆スレ、愚痴スレ、裏話スレを上手く使う事をお勧めします。名前欄に過去の自分のレスを入れるのはなしです)
・荒らし、煽りは華麗にスルーして、他人に注意をする時は丁寧な言葉遣いを心がけましょう

前スレ

519名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 06:31:39.81 ID:yZRK9yAH
>>516
ネチネチ文句言ってる人はいないと思うけど。
誤字は直した方がいいでしょう?
普通のレスじゃないんだから
520名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 07:00:14.59 ID:yZRK9yAH
>>518
乙です。

ところでスレタイはroom4からすでに「ドラマ」が外れてますが、
ドラマの方を書く場合は「ドラマのほうです」って入れなくていいのかな・・・。
そもそもスレタイは考えなくていいのかな。

出勤の時間になってしまったので、またあとで。

521名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 08:46:59.04 ID:RAZ/mHtB
>>520
・投下する方は事前に、原作・ドラマ設定、死ネタ、不幸ネタ、ホラーネタの注意書きをお願いします
にして 原作榎×青とかドラマ榎×青とかの注意書きでいいと思うけど
スレタイは 少し考えてみてもいいのかな
鍵のかかった部屋 はドラマよりのタイトルになるのかな
原作の 密室探偵榎本シリーズ のお話の一つのタイトルだし
って それはドラマにおいても同じかぁ〜
鍵のかかった部屋 って雰囲気的にも大好きなんだけど
522名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 09:58:11.41 ID:zCTV2FUd
ドラマから派生したスレだからスレタイはそのままでいいと思う
523名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 13:44:56.17 ID:xeZkOFra
スレタイ変えるの反対。
524名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 16:59:11.17 ID:omZW1sv8
そこは最初にこのスレを立てた人に敬意を払って、『鍵のかかった部屋』のままで行きましょうよ
原作者の他の作品が映像化され公開された時に、またスレタイについては変えるかどうか話し合うだろうしね
525名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 17:13:16.79 ID:ugsRXXnI
スレタイ変えるくらいならここはドラマオンリーにして
原作榎青は別スレでやってほしい
526名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 18:11:17.98 ID:iPRBgmeh
>>525
過疎になるのと差別はいかんから却下だな
SS投下時に原作榎青ですと注意書きすれば良いと過去に決めたからそれで行こうよ
527名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 18:33:31.45 ID:FPIuJt7E
自分は原作未読だけど注意書きがあれば分けなくていいと思う
528名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 18:51:53.85 ID:OiE8uFQb
自分もそれで賛成。
ドラマも終わってしまった今は原作版でもドラマでもたくさん投下があった方が活性化するし。
529名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 18:54:53.80 ID:qdXGOdSD
スレ分けもスレタイ変更もしなくていいと思う。

ここで神SSに出会って、原作の榎本×青砥にもハマった身としては
スレ分け推奨派が意外といることに正直ビックリ。
530名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 20:54:35.77 ID:ovBOjxGM
使うなっていうのに改訂版ってアホなの氏ぬの?>518
531名無しさん@ピンキー:2012/07/20(金) 20:55:30.17 ID:ovBOjxGM
流石にマナーの悪い半生スレだぜ晒しアゲ
532名無しさん@ピンキー
520です。(スレタイを考えた方がいいのかなと書いたものです。)

スレタイについてですが、最初
【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#?○  でしたが

既にたてられている次スレは
鍵のかかった部屋でエロパロ Room#4  に変更されています。

変更しない方がいいという意見は元に戻すという意味なのか、
変更したままでいいという意味なのか、どっちでしょう。

原作OKにするなら
【ドラマ】鍵のかかった部屋でエロパロ Room#○【原作】
みたいにした方がいいのかなとも思いました。

それによってお約束の書き方も違ってくるかと・・・。