【友達≦】幼馴染み萌えスレ24章【<恋人】

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550名無しさん@ピンキー:2013/12/01(日) 22:42:05.27 ID:6+wCR7B4
In vino veritasが良かったな

特に飲み屋の所が
551名無しさん@ピンキー:2013/12/05(木) 21:56:17.64 ID:YYA7S0j2
In vino veritasとシロクロは大好きですね。新作でないかな〜
552名無しさん@ピンキー:2013/12/06(金) 01:41:43.08 ID:koWYnnMK
保管庫覗くと面白いのいっぱいあるよなあ
自分もこれくらい面白いの書きたいと悔しくもなる
553名無しさん@ピンキー:2013/12/07(土) 17:08:50.10 ID:/3r5g8Gp
In vino veritasは作者のサイトにはバレンタイン編もあるな
554名無しさん@ピンキー:2013/12/07(土) 23:50:47.34 ID:uAnJ+EFP
>>553
まじで?
555理想と現実:2013/12/19(木) 07:32:16.17 ID:w1Q1Sduj
マンガみたいな恋がしたい。
しかしどうにもこうにも私の周囲は平凡で、ロマンチックとはほど遠い。
どうやら今年のクリスマスもまたトシと過ごすことになりそうだ。
トシとはお互いに覚えていないぐらい小さな頃からの長い付き合いの男だが、恋人ではない。
え、それはマンガ的な“幼馴染み”ってやつじゃないか、って?
いや、それとはあまりにかけ離れている。
たとえば、トシの部屋に上がりこんで「遅刻するわよー」なんてやったこともない。
どちらかというと現在は私がトシに起こされることのほうが多い。
トシの以前のルームメイトが実家に帰り、家賃の負担が大きくなってしまったところに私が転がり込んだのだ。
同棲?いや、単なるルームシェア。
別にそんな男と女などという関係では断じて、ない。
もう全裸で風呂から上がってもなんとも思わない。
身体に興味を持ったこともなかったわけではないが、ずいぶん前のことだ。
興味本意。高校を卒業した春だった。
カラオケ屋はどこも混んでいて、ラブホで歌うことを私が提案したのだ。
単純に、興味があったから。どうかしていた。
ねえ、お風呂入ろうよ。中学のときまでたまに一緒に入ってたじゃん。
トシは勃たなかった。
私も冷静になった。
この男を異性として見れない。
私じゃ不満か、インポ野郎。
それでもたまにオナニーはしているようだが。
バレバレだよ。
オカズの娘と私はどう違うのだろう。
誰だ、ちんちくりんとか言ったやつ。
ああ、今年こそはいい男見つけるぞ。
556名無しさん@ピンキー:2013/12/26(木) 01:15:03.89 ID:zxGx7OvQ
そしてクリスマスには何事もなかったとさ。
557名無しさん@ピンキー:2014/01/03(金) 15:05:15.42 ID:La/CuPnH
保守
558名無しさん@ピンキー:2014/01/06(月) 00:35:26.98 ID:0CDxOeDH
投下してみます


 高嶺の花、という言葉がある。ただ眺めているだけで、決して手に届かないもの。
 俺の幼馴染みは、案外その言葉がぴったりなのかもしれない。


「やっぱ超かわいいよなー、若菜ちゃん」
 グラウンドの片隅で準備運動をしている陸上部の女子部員を見て、先輩がため息交じりにそう言った。
「まあ、外面だけは、そうですね」
 夏の風になびく束ねられた長い黒髪、まるで子犬を愛でるのが趣味というような穏やかで整った顔立ち、
運動部に所属しているだけあってよく絞られたスレンダーな体型、だけど出ているところはしっかりと出ているボディ。
 一見なら清楚で健康的な美少女だと誰もが思うかもしれない。けど中身はただのお転婆だ。
 高校、いや思春期に入ってからはその本性を友人以外には隠しているから、あいつをよく知らない人はすぐその容姿に騙される。
 それで、可哀想な男たちが次々と若菜へアタックする。それでまた、見事に玉砕する。
「でも、中身はひどいんですから」
 俺は若菜に騙される犠牲者をこれ以上増やさないためにも、警告の意味を込めてこう言った。
「おうおう、昔からの友達は何でも知っているってか。羨ましいねぇ」
 先輩は恨めしそうに俺を見た。俺と若菜が保育園からの腐れ縁であることは、いつの間にか周知のこととなっていたのだ。
「そんなわけないですよ。ガキの頃からあいつにどんだけ振り回されて――」
 その時、突然俺の顔に至近距離からサッカーボールが飛んできた。当然よけられるはずもなく、痛みで思わず顔を押さえる。
「ちょっ、何するんですか!」
 ボールを投げた張本人は、悪びれる様子もなくにやにやと笑っている。でも目は笑っていない。
「おいおい、そんな反射神経でキーパーが務まるのか?」
「今のはどんな名キーパーでも防げませんよ」
「うるせえバカ。お前なんか、今日の夕飯で魚の骨がのどに刺さればいいんだ!」
 そう言って先輩はボールも拾わずにスタスタと俺から離れて行った。
「せ、先輩、シュート練習は!?」
「休憩だ!」
 そんな勝手なことしていいのか、と思いつつ、俺はその指示に従うしかなかった。


 夏にもかかわらず日が落ちてしまった時間帯に、サッカー部の練習はようやく終わった。
 うちの高校は強豪というわけでもないのに、いやむしろ弱小といっていいくらいなのに、練習はそれなりにハードだ。
 今年のインターハイには当然出られなかったし、もちろん選手権出場だって誰もが諦めている。実際、ほとんどの3年生は夏と同時に引退した。
 俺たち一年生も、きっと二年後の夏には同じようにしているだろう。
 サッカー部だけじゃない、俺の通う高校はどの部も大した成績を残していない。野球部も、剣道部も、吹奏楽部も、美術部も。
 まあ、つまりは至って普通の高校なのだ。
 そんな普通の学校に通う、これまた普通の学生である俺だが、ただ一つだけ普通じゃないとすれば、それは――。
「おーい、雄二」
 たった今出てきた校門から、一人の女子が俺の名を呼び、大きく手を振りながら走ってくる。
 それは、今日の部活中、ある先輩がかわいいと見とれていた陸上部の女子、若菜であった。
 そう、普通じゃないとすれば、誰もが羨むほどの美少女が幼馴染みであることかもしれない。
 だいたい、異性の幼馴染みなんてものは年をとれば自然と疎遠にあるものだ。
 だけど、どういうわけか俺には今も平気でつるむ女の幼馴染みは健在だった。
「ちょっと、何で待っててくれないわけぇ?」
 さすがに陸上部なことだけあって、結構な距離を走ってきたにもかかわらず若菜の息は全く乱れていない。
「何でって、別にそんな約束してないし」
 こんなセリフをウチの学校の男どもの前でいったなら、俺はおそらく袋叩きにされるだろう。
 だが幼馴染みとは不思議なもので、若菜がいくら美少女とはいえ、俺にとっては単なる昔からの友達でしかない。
 年頃の男女のように仲睦まじく帰りたいという願望など、こいつ相手には持てなかった。
 多分、向こうだって同じ思いなはずだ。
559名無しさん@ピンキー:2014/01/06(月) 00:37:03.77 ID:0CDxOeDH
「部活終わるのはほとんど一緒の時間じゃん。友だち甲斐がないなー」
 若菜はこう言うものの、当然本気で責めているわけではない。
「お前だって、一人でさっさと帰る時あるだろ」
 とはいえ、俺も何か反論しないと気が済まなかった。
「えー、だって観たいテレビとかあるし」
「俺もそうだとは考えんのか」
 ここで沈黙が流れる。どうやら相手は返事に窮しているようだった。が、
「ふーん、雄二って、暗い夜道を女の子一人で歩かせられるほど冷酷な人なんだねー」
 自分は勝手に一人で帰ることもあるくせに、そのことは棚に上げて、にやにやしながら俺を非難し始めた。
「はっ、誰が出てきても、逃げ足の速いお前なら平気だろ」
 真面目に取り合うのも馬鹿らしいので、俺は適当にあしらう。
「ふふん、まあね」
 自慢の足を褒められて嬉しいのか、若菜は急に上機嫌になり、なぜかその場で一回転した。謎の行動に俺は思わずドン引きする。
 ただ回転した時に、若菜の肩の下辺りまで伸びている長い黒髪の先っぽが、俺の鼻に当たっていた。
 そして、その甘くいい匂いを嗅げたのは、まあ、ラッキーであったかもしれない。
 部活の時と違って髪を縛り上げてはいないため、今の若菜は深窓なお嬢様といった雰囲気がより強く出ていた。
 男どもが狙うのも無理はない、と幼馴染みのひいき目なしでも思ってしまう。
 こいつは本当に、その見かけ通りおしとやかな女であったなら――。
「とうっ!」
 そんなことを考えていたら、いきなり若菜が俺の太ももを蹴りだした。
「痛……何すんだよ!」
「いま、『こいつは口を開かなければ最高の女なんだけどなー、ぐへへー』とか思ってたでしょ」
「か、考えてねえよ。つーか、自分で最高の女なんてよく言えるな」
 こいつに告白して玉砕した男たちは何て幸せなんだと思った。こんなナルシスト、彼女としては最低だろう。
 まあ、それにしたって、よく俺の考えていることが分かったな。俺ってそんなに顔に出るタイプだったのか。
 とはいえ、
「仮に考えていたとしても、何でいきなり暴力なんか――」
「あーーもうこんな時間、早く帰らないとママに叱られちゃう」
 わざとらしい口調で俺の抗議をさえぎった若菜は、急に俺の手をつかむと、そのまま引っ張るようにして歩き出した。
「ほら、早く早く」
「わ、分かったら、手ぇ放せよ、痛いって」
「あ、ごめん」
 俺は解放された手をいたわるようにしてさする。すると、若菜が心配そうにこっちを見つめていた。
 どうせなら手だけではなく、さっき自身が蹴った太もものほうも気にかけてほしかったが、あえて突っ込まないことにした。
「大丈夫だよ」
「そっか……悪い悪い」
「でもなんでいきなりつかんだんだよ。お前が歩けば俺も歩くって」
「うーん、昔の習性かな」
「だったら、すぐ直すことをおすすめするね」
 そういえば、中学のときも同じことがあった。しかもその時は、運悪くその現場をクラスメイトに見られてしまっていた。
 誤解はすぐに解けたのだが、それでもすでに広まっていた噂は完全に鎮めることなどできず、何人かは最後まで俺と若菜が付き合っていると勘違いしたままであった。
 俺も、そして若菜も、お互いをそんなふうに見たことなどないというのに。
「そうだね、また前みたいに勘違いされたら困るし」
 どうやら若菜も同じことを思っていたらしい。
「そうそう、ただでさえお前は、な・ぜ・か、男からモテるからな。誤解された日には、俺の身が危ないよ」
 俺は冗談交じりにこう言った。しかし、若菜は押し黙ったままであった。
「おい、若菜……」
「えっ、あ、そう、そうだね」
 明らかに俺の話を聞いていなかったらしく、若菜は適当に会話を流した。
 どことなしか、さっきよりも沈んだ顔つきになった気がする。
「あっ、そうそう、それよりさ――」
 若菜は笑顔で雑談を開始した。さっきの表情が見間違いであったとこちらが思うくらい、明るかった。
「じゃ、また明日」
 家の前に着くなり、若菜はこう言って自宅に入っていった。
 一人になった俺は、ここからわずか数分もかからない自宅に向かって、健康のために走ることにした。
 何だかんだと言っても、やはり昔からの友達はいいものだ。 
560名無しさん@ピンキー:2014/01/06(月) 03:25:08.52 ID:GQIn0SFt
続き全裸待機
561名無しさん@ピンキー:2014/01/06(月) 14:11:03.91 ID:7xxmAkUy
久しぶりの投下で続き読みたい欲がやばい
562名無しさん@ピンキー:2014/01/06(月) 23:33:51.86 ID:pePzJhZY
いいね〜
本当に匂わす程度の見え隠れするフラグ
早く気づいてあげて雄二

とにかく続き続き
563名無しさん@ピンキー:2014/01/14(火) 00:51:55.75 ID:SyjAuvhi
昨日で成人の日は終わってしまいましたが、ちょこっとだけ。
非エロです。



成人式。二十歳を迎えた儀式である。
中学卒業でバラバラになり、高校卒業でさらにバラバラになる。そんな連中が久しぶりに顔を合わす機会でもある。

今、俺の目の前にいるのも2年ぶりの再会相手である。
とはいえ、しょっちゅうメールしている気がして、ちっとも久しぶりな感じがしない。

「さっきは誰か、マジでわかんなかったよ」
「そんなこと言って、私に見とれてたくせに」
「バーカ、勘違いもいいところだ」
「あ、バカって言った!バカって言う奴がバカなんだよ」
さっきまで振袖を着ていた幼馴染―文香は、今はラフな格好で俺のベッドに腰掛けている。
「文香は変わんないよな、そういうところとか」
「隆ちゃんは…変わったのかな。なんか、かっこよくなったよね」
「なんだよ、いきなり」
「いや…見間違えるなんてことはないけどさ。隆ちゃんと幼馴染ってだけで、私も鼻が高いって感じ」
そう言って、笑顔で俺のことを見つめている。

…こいつ、こんなに大人っぽかったっけ。
なんでだろう。何が変わったんだろう。
つい、まじまじと文香の全身を眺めてしまった。
俺の視線に気づいて、きょとんとして…すぐに笑いだす。
564名無しさん@ピンキー:2014/01/14(火) 00:53:17.56 ID:SyjAuvhi
「ほら、やっぱり隆ちゃん私に見とれてる」
「…そんなことねえって」
「素直じゃないなあ」
ぽんぽんと文香が俺の頭を撫でる仕草は、十数年前と変わらない。
あの頃の文香はお転婆で、俺に対してもお姉さんぶろうとする。実際その頃は同い年の俺よりも少しだけ背が高いし、成績も良かったから、そんなのが板に付いていた気がする。
もちろん今は、俺のほうが背が高いし、どちらも相応のレベルの大学に行っているから、劣等感みたいなのはないんだけど。

「私、彼氏募集中だからね」
「ほー、誰か大学の友達でも紹介しろってか」
「それでもいいけどねー」
いいけどね、ってなんだ?
俺が思わずきょとんとしていると、急に思い出したように文香が立ちあがる。
「もうこんな時間だ。隆ちゃん、あとで迎えに来てよ」
「は?」
「忘れたの?中学校の同窓会でしょ。いくらなんでもこの恰好じゃ行けないし」
「いや、それじゃなくて、迎えに…って」
「どうせ一人で行くんでしょ、だったら迎えに来てよ」
やれやれ、とため息をついて、同意の手を振る。
見た目は綺麗になっても、俺に対する扱いは昔のまま、か。
565名無しさん@ピンキー:2014/01/14(火) 00:55:00.43 ID:SyjAuvhi
隆二の家を出てきて、隆二の部屋の窓を振り返る。
もちろん、見送ってくれるようなタイプではないんだけど。
うちまでは大した距離じゃないけど、その間に何度ため息が出たことか。

誰かわかんなかった、ってだけでも、嬉しかった。
きっと隆ちゃんの中では、私はいつまでもお転婆な女の子のまま。
高校まで、正直おしゃれとか気を遣ったこともあまりなかったし、一番長い間そばにいたから、今日みたいな化粧とか格好とか、初めて見たはずだし…。

でも一番衝撃だったのは、式の会場でもちらほらと、隆ちゃんのことかっこいいとか、昔好きだったなあとか言ってる声が聞こえたこと。
彼女がいるとかは高校までずっと聞いたことなかったんだけどな。
そんな声が聞こえてくるだけで、ちょっとドキドキしちゃってた。
当の本人は、周りの女の子の声はおろか、私の気持ちにだって気付いていまい。
566名無しさん@ピンキー:2014/01/14(火) 00:56:19.32 ID:SyjAuvhi
「私、彼氏募集中だからね」
「ほー、誰か大学の友達でも紹介しろってか」
「それでもいいけどねー」

…あそこで「私の気持ちに気づいて」とか「好きだったんだよ、ずっと」とか言えないのが、私の弱点。
あれくらいでは全く気付くそぶりもない鈍感だから、あのままじゃどうにもならないのはわかっている。
だけど…もし、ダメだったら。
「私、彼氏募集中だからね」とは言ったものの、隆ちゃんにもし彼女がいたら。
本当は私が知らなかっただけで、今日来てる中の誰かが、実は隆ちゃんの彼女だったりしたら。
そうやって考えだしたら、同窓会に行くのがちょっとだけ怖くなってきた。
見たくもないものを見てしまうことになるんじゃないか、告白をする前から振られてしまうんじゃないかって―。

弱気が気になりだすけど、そんな不安げな顔で行くわけにもいかない。
「ただいまー」
弱気を振り払った声で玄関を開けると、どう自然な感じで行ったらいいか…迎えが来るまでに考えなきゃ。そう割り切って、自分の部屋に戻った。
567名無しさん@ピンキー:2014/01/14(火) 22:23:52.39 ID:1od4q8m+
乙!
こういう大学生くらいになってお互いの関係性が揺れ動いてる幼馴染の話、好物ですw
568名無しさん@ピンキー:2014/01/15(水) 01:56:59.96 ID:uX9a5l2g
乙です
やっぱ誰かに取られるかもって焦りが関係を推し進めるよね
569名無しさん@ピンキー:2014/01/19(日) 11:28:02.96 ID:Xfp+BVmj
乙乙
570 ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:29:44.32 ID:Rii1bIez
てすと
571 ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:30:47.75 ID:Rii1bIez
こんにちわこんばんわおはようございます
お久しぶりの方はお久しぶりです、初めての方ははじめまして
幼馴染ネタを一本書いてきたので投下します

一応元ネタアリ。グロ、スカなどの特に忌避すべき要素はないと思います

ではどうぞ
572宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:32:35.66 ID:Rii1bIez
 スマホの向こう側から延々と怒鳴り声が響いてくる。
『聞いてンのか、参悟!』
「がならなくても聞こえるよ」
『だからその態度が――』
「――聞こえてるって言ってるし、今まさに家の前だって言ってるだろ!」
 電話の相手は父親であり、帰りの遅い俺へのお小言だった。
『知るか! 勝手にしろ!』
 電話を叩き切られた。

 そもそもの発端は俺が悪いのだ。
 一応門限が八時と決められていたにも関わらず、気が付いたら九時前。ゲーセンで遊び過ぎたのだった。学校
から直行して、最近新作が出た人気シリーズの筐体の前に居座っていたのが不味かった。今日はほとんど順番待
ちをせずにプレイすることが出来たのでのめり込んでしまったのだ。
「……勝手にしろ、ったって」
 鍵を持っていれば家に入れるが、今日はキーチェーンを忘れて出てきた。更に今のやりとりで、インターフォ
ンを鳴らしても相手をしてくれないだろうことは確定している。二階の自室に直接入るのは難しいだろう。仮に
屋根へ上がれたとしても部屋の窓も鍵は閉めていた気がする。
 季節が夏ならば、近くの児童公園で一晩過ごしても構わない。しかし今は真冬で、その上に空はどんより曇っ
ている。予報では今夜から降り出すらしい。今から急に友達に声をかけてもそうそう都合良くは行かないだろ
う。手持ちのお小遣いはそれなりにあるものの、学校の制服を着たままでカラオケやコンビニにいつまでも居座
るというわけにいかない。
 残るは一つしかない。俺は一度ポケットに仕舞い込んでいたスマホを再度取り出し、電話帳を呼び出した。

 * * * * * *

 幸運なことにダイヤル錠だった自分の自転車の鍵を開き、目的地へ走りだした。学校の制服で自転車を漕ぐと
あちこち隙間が出来て冷たい風が入り込んでくる。冷蔵庫に放り込まれた気分になりながらえっちらおっちら漕
ぎ進み始めると、急に目の前に人影が差し掛かった。慌ててブレーキを握り締め、両踵をつっかえ棒にしてなん
とか止まる。
「――っわ! ……宮本?」
「河合?」
 嫌な奴に行き会ってしまった。
「……そんな露骨に嫌そうな顔しなくていいじゃん」
「怪我は?」
 儀礼上一応訊いておかないといけない気がしたが、どこにもなんにもないのは明白だ。俺がブレーキをかけて
止まろうとしたのと殆ど同時に、彼女も飛び退っていたのだから。
「いや全然? 私運動神経いい方だし、頑丈に出来てるから」
「そう。じゃ」
 早く目的地に行きたかったので、彼女との会話もそこそこにまたペダルを漕ごうとした。
「ちょっと?」
 自転車の前カゴを抑えつけられて阻止された。
「どこ行くの、こんな時間に。しかも制服で」
「……河合にだけは言われたくないな」
573宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:33:21.62 ID:Rii1bIez
 彼女は俺の同級生である。もっと言うと、小学生から同じ学校に通い続けていたし、幼稚園のときはご近所さ
んとして遊んでいた記憶もある。仕方なく分類するならば、所謂幼馴染という奴である。
 とはいえここ5年はまともに話をしていない。小学校高学年くらいから交友関係が全く噛み合わなくなってし
まったのだ。俺は一人で人生を謳歌する孤高の存在――所謂『ぼっち』である――だったが、河合はやや不良な
連中と親しく付き合うようになる。彼女が俺と同じく今の学校に進むのを知ったのだって、入試会場で姿を見か
けたときに初めて気がついたくらいだった。
 昔はよく遊んだ記憶がある。この辺りは郊外と言えば聞こえはいいが、車がないとまともに移動も出来ない田
舎なのだ。近所に住んでいる同年代の子供なんて片手でもお釣りが来る。児童公園で毎日のように顔を合わせて
いれば、嫌でも友達になるに決まっていた。
 昔仲が良かったからこそ、今どう付き合えばいいのか困る。そういう相手だった。

「お前だって制服じゃないか」
「私はアンタと違ってフリョーだから」
 彼女は笑いながら首元にひっかかっていたリボンを毟り取った。
「今の今までショーコとチッハーとぉ……あとアサミとダベってたからねー」
 いやー楽しい時間はなんであんなに進んじゃうんだろうね、とか言っている。不本意ながらその点に関しては
全く同意だった。
「で、ウチまで辿り着いたのはいいんだけど、鍵、忘れちゃったんだよね。学校の下足ロッカーの中。親は今日
 夜番だからいないし」
 もう十時近い。今から学校に忍び込んだら警備会社がすっ飛んでくるだろう。つまり彼女も締め出しを喰って
いるのだった。
「それは可哀想に。じゃ」
「待ちなさい」
 再びペダルに足をかけたが、同時に彼女の、前カゴにかかったままだった両手に力が入った。
「アンタん家、近所でしょ? ココデアッタガヒャクネンメって言うし助けてよ」
 まさに地獄に仏といった顔をした彼女には悪いが反論する。思わず深い溜息を吐いた。
「……そんなことは言わないし、無理。俺も締め出されてる」
「え!?」
「門限を軽く二時間ぶっちぎって、電話口で親父と大喧嘩して、ついでに家の鍵は部屋に置きっぱなし」
 少し脅かしてやれば隙も生まれるかと思ったが、世の中はそうそう上手く行かなかった。彼女の腕はますます
カゴを握りこんだのである。
「だから」
「じゃあ、アンタはどうすんの?」
 一番訊かれたくない質問が飛んできた。
「……なんとかする」
「そのなんとかをどうすんの?」
「連れて行かないよ?」
「どっか行くつもりなんだ」
 いいことを聞いたとばかり、口の端をぐいっと持ち上げた悪い顔をする。……これ以上付き合ったら押し切ら
れる気がしてきた。
「……国道沿いのコンビニ。ジャンプ出たばっかだし、あったかいし」
「あそこ一昨日から改装中じゃん」
 適当な嘘を言ってごまかすつもりがむしろ墓穴を掘った。
「い、いやー、まいったなー。あそこがやすみだっ――」
「――で、どこに行くの?」
 彼女も必死のなのは分かるけど、なんで俺はこんなに懐かれているのだろう。頭の隅でそんなことを考えなが
ら、不毛に終わりそうな嘘と誤魔化しを始めることにした。

 * * * * * *

 目的地は隣町にある、おじいちゃんの――数年前に亡くなってからは叔父さんの――家だった。客間や余分の
布団くらいならあるだろうと考えて、連絡を入れたのだ。
 叔父さんは昔から俺達兄妹に優しかった。それもあってすぐに受け入れてくれたのだけど。
「もしもし、叔父さん? 俺」
<ああお前か。どうしたこんな夜中に? 分かった、義兄さんに締め出し喰らったんだろ。で、家追い出されて
 居場所がない>
「……正解」
<飲み込みの久太、ったら俺のことだからな。お前の母ちゃんから早合点が過ぎるってよく怒られたりしたけ
 ど>
 ガッハッハ、と豪快に一笑いしてそれから、ウチに来い、と言ってくれたのだった。
574宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:34:27.26 ID:Rii1bIez
 * * * * * *

「……というわけで連れて行きたくないんだよ」
「なんで?」
 結局言い訳タイムは五分とかからなかった。真冬の路上なんて場所でなかったらもう少し粘れたと思うけれ
ど。
「河合連れて行ったら間違いなく女連れだのなんだのって大騒ぎするに決まってるんだよ」
「そんなの、ちゃんと説明すれば」
「いっぺん飲み込んだモノをすぐに吐き出してくれればいいんだけどね」
 叔父さんに限らず、一旦飲み込んだ理解を取り替えるなんて難しいことだ。とりわけ叔父さんはなかなか頑固
に思い込むタチの人だった。
「勝手な思い込みを親戚中に言い回ったりしたこともあったし……」
「アンタ、アタシの身体と自分のメンツ、どっちが大事なの?」
「メンツ」
 彼女が無言で荷台に横座りになった。脇腹を殴られた。
「はい出発」
 こうなるともう拒否は出来なかった。

 * * * * * *

 途中、雨が降ってきた。しかも一気に本降りに変わった。
 最初のうちこそ「うわ降ってきた」「あとどれくらい?」「十五分くらい」「風邪引いちゃうよ」なんて会話
もあったが、本降りになってから五分とせずにそうした会話は無くなった。お互いにする余裕が無くなったの
だ。大したスピードを出しているわけでもないのにぜえぜえ言いながら自転車を立ち漕ぎで進めると、彼女も振
り落とされまいと背中にしがみついてくる。
 スピードもバランスも良くない。おまけに全身濡れ鼠。俺も河合もガタガタ震えながらどうにか到着する。ガ
シャン、と自転車を横倒しにすると、音に気がついた叔父さんがタオルを持って出てきてくれた。
「参悟か? いやあ、急に降りだし――」
 叔父さんが固まったのは一瞬だけだった。
「――彼女連れてくるならそう言えよ」
「違う! 彼女じゃない!」
 あまりに寒すぎてちゃんと説明している暇さえ惜しかった。叔父さんの手からバスタオルを奪い取るのももど
かしい。
「おい、彼女」
「だから!」
「待て! ほら彼女、使え。風呂沸かし直してくるわ」
 河合は腕で身体を抑えるようにしながら小さな声で礼を述べている。その姿を見ては、そのバスタオルは自分
のために持ってきてくれたのに、なんて冗談でも言う気にならなかった。
575宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:35:55.68 ID:Rii1bIez
 腹減っているだろう、とカップスープを叔父さんが出してくれた。ずぶ濡れの制服を脱ぎ捨てるのもそこそこ
にかき込む。ほんの一時間前にはこんな目に遭うなんて夢にも思っていなかった。
「……生き返った。ありがと、叔父さん」
「ならよかったが、彼女の調子はどうかな」
「だから彼女じゃないって」
「分かってる分かってる。姉さんには内緒にしてやるから、な?」
 全く分かっていなかった。本格的に抗弁しようとカップを置いて向き直ったところに、河合が戻ってきた。当
然のように先に風呂に入ったのだった。服装は叔父さんのスウェットの上下(叔父さん曰く『また二回しか着て
ない』)に変わっている。雨が滴っていたセミロングヘアはバスタオルで器用に包まれていた。
「あ、オジさん、ありがとーございますっ!」
 すぐにお湯に飛び込んだのもあって、もうすっかり大丈夫みたいだ。もう一回表で雨に打たれてきてほしいく
らい喧しい。
「いやいや、甥っ子の彼女なんだから大事にするよお」
 叔父さんも叔父さんで、目尻と鼻の下がデロデロに溶け出したような表情をしていた。
「だからさ、叔父さん」
「もういいじゃん、アタシが彼女ってことで」
 やぶにらみの表情で彼女が呟く。なんてことを言い出すのだ。
「これだけお世話になったんだから、もうめんどくさいよ。ですよねー」
「お、そうだよな! お前の彼女分かってるな!」
 両手で顔を覆ったまま身動きできない。寒空の下、あんなに必死で説明したではないか。彼女はなんでそれを
無為にしてしまうようなことを言うのだ!
「ほら宮本、お風呂入ってきなよ。彼女が入った後だよ?」
「……冗談でもやめてくれ」
「おいおい彼女、その前にオジさん入ってるんだぜ? 若い女の子だけの出汁だって勘違いしたらどうする」
「叔父さんも悪乗りしないで!」
 俺は早々にその場を逃げ出すことにした。

 甥っ子の彼女とかなんとか連呼する叔父さんの声から離れて、やっと一息つく。若い子が来たからってはしゃ
いで下ネタ言いやがって、あのオッさんはいつも以上にタガが外れている。そういうお店と勘違いしているん
じゃないか。
 脱衣所で下着やら肌着やらズボンやらを脱ぎ散らかしていく。じっとりと水を吸い込んだそれらをそのままに
しておくわけにもいかない、と適当に掻き集めて脱衣カゴに放り込もうとして固まった。
 先客がいる。
 言うまでもなく河合の脱いだものだった。ワイシャツに、見覚えのある模様のスカートに、レース生地のつい
たひらひらの下着……まで目に入ったところで、俺は腕に抱えた服を足元へ叩きつけ、浴室に、浴槽に飛び込ん
だ。
576宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:38:19.38 ID:Rii1bIez
 ふぅ、と溜息をつく。両手足の先に体温が戻ってきた。
 後で何を言われるか分かったものではない。学校のクラス内ヒエラルキーでは傍流の傍流である俺と、クラス
内どころか学年ヒエラルキーのトップグループに所属している彼女とでは喧嘩にさえならない。あるのは一方的
な虐殺である。俺はまだ社会的に抹殺されたくない。
 とはいえ、彼女がトップグループに所属しているのには理由がある。要は容姿がいい。異性受けするのだ。だ
から人が集まる。女子の評価などは分からないが、仲の良い女友達が沢山いるのだから性格も悪くはないのだろ
う。
 そこだけは昔から変わらないのかもしれない。小学校の頃はクラス委員なんて引き受けさせられていた。顔
いっぱいに『嫌々引き受けました』という困り顔を浮かべていた記憶がある。見ていて気分のいいものではな
かったから指摘したんだったっけ。やるんだったらちゃんとやれ、人前に出るんだから。その程度のことを言っ
たのだったか。
 その頃から思えば、彼女は随分快活になった。昔は私には出来ない、が口癖だったのだ。それが小学校の高学
年くらいからどんどん人前に出るようになった。友達も増えて、ヒエラルキーの上位に入り込むようになった。
「……何、考えてるんだか」
 独り言が口をついて出る。河合は俺の持ち物ではない。
 そもそも噂話程度にしか知らないが、河合は誰かと付き合っていたはずだ。バスケ部主将の仙堂だったか、不
良やってる浦飯だったか。どっちも河合に負けず劣らずの美男だと思う。
 こんなことに思いを巡らせているのは、あの薄ピンク色の薄っぺらい薄布のせいだ。あと自転車で抱きつかれ
たのが原因だ。
 ぜえぜえ言いながら必死で自転車を進めていた俺の背中には、彼女の身体がぴったりくっついていた。俺の身
体と同じく冷えきっていたはずなのに変に温かくて、柔らかかった。
 俺も健常な男子学生であるのでそういうことを考えなくもなかったのは事実である。しかし状況が悪すぎた。
五分で凍えだす大雨の中、女の子の身体だやったー、なんて無邪気にはしゃげるほどおバカに健康な身体は持ち
合わせていない。
 逆に言えばゆっくりお湯に浸かって体温と体力の回復に努めている今なんて、まさに格好のそういう状況であ
る。目を閉じれば網膜に焼きついた彼女の上下の下着。擦れて寄った皺の数までバッチリだった。自分の分身が
どんどん力を集めていく。
 これは自力で発散せねばなるまい。そう決心を固めたところ脱衣所に人の気配がした。
 突発的な集合はすぐさま離散した。発散の必要はなくなった。残念である。
 誠に残念であった。
577宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:39:26.18 ID:Rii1bIez
「何? ……叔父さん?」
 浴室内とはいえ裸の男がいる空間である。河合であるはずがなかった。きっと女子高生の着替え目当てのエロ
叔父に違いない。そう高をくくって呼びかけたが返事がない。
「おいもしかして――」
「み、宮本?」
 ――もしかしなくても河合だった。万が一叔父さんによる裏声声帯模写の可能性もあるが、それは今回考慮し
ないことにした。
「あ、あのさ」
「ウチの叔父さんとは仲良くやってるみたいだったけど」
「あ、うん、いい人でよかった。優しいし、明るいし」
「俺もそう思う」
 叔父さんの実の姉であり俺の母親である人物が言うには『アレは優しいのではなく人あしらいが上手なだけ、
明るいのではなく薄っぺらいだけ』らしいが、少なくとも俺は優しくて明るい叔父さんだと思っている。
「でね? 謝っとこうと思ってさ」
「……今更何を?」
 大体想像はつく。彼女も叔父さんの思い込みの強さを体感したのだろう。
「ほら、私、無理矢理ついて来ちゃったじゃん? オジさんのお宅に急にお邪魔することになっちゃったし、夕
 飯もご馳走になってさ」
「それは俺の管轄外。叔父さんに直接言いなよ」
 ついでに俺のメンツのために重大な誤解もしっかり解いてきてくれるとありがたい。
「言ってきた。そしたら宮本にもお礼言って来いって」
「俺に?」
「うん」
 俺への感謝なんて意外だった。せいぜい彼女を乗せて自転車漕いだくらいのことしかしていない。俺は叔父の
家へ夜中に電話をかけ、いきなり家に泊めてくれなんて無茶を言い出して、突然友達(しかも女)を連れてくる
ようなクソガキであって、誰かにありがとうなんて感謝の言葉を述べられるようなマトモな人間では全くない。
「何がありがたいんだかさっぱりだ」
「だってさ、もしアンタについて来てなかったら私、今頃風邪引いてるよ」
「かもな。でも俺には関係ないことだし、河合の運が良かっただけ」
 実際は嫌がる俺を押し切って無理矢理自転車に同乗してきた彼女の腕力が大きかった気もするが、まああの場
で俺に出会った幸運に感謝するのが一番妥当だろう。
「それでも言わせてよ。ありがとうございました」
 すりガラスの向こうで人影がお辞儀をした。背中がむず痒くなる。
「……いえいえ、どーいたしまして」
 なんと返してよいのか分からなくて棒読みでそう返すと、彼女がクスリと笑う。
「照れてんだ? ガラにもなく」
「べ、別に照れてなんかないし」
「昔からそんなんだったじゃん。お礼言われたりするの苦手でさ」
 人影がその場に座り込んだ。すりガラスを背もたれにしているらしい。入り口を塞いでくれたお陰で湯中りし
たらどうしてくれる。
「今でも変わってなくて安心した」
「そりゃ俺は昔から成長してないし」
 さっきまで浸っていた思い出をまた取り出す。その中から幼くて、自信がなくて、守ってやりたくなる彼女を
手に取った。
「第一、成長ったら河合は随分成長しただろう? 昔はクラス委員に選ばれて泣きそうになったりしてたじゃな
 いか」
「ちょ、それはやめてよー。マジでハズいからさー」
「その当時を考えれば随分社交的になっちゃって。みんなの人気者だし」
「……そう?」
 彼女は少し意外そうだった。自覚がないらしい。
「学年のあちこちに友達がいて、毎日遊んで回ってるイメージあるけど?」
「ま、その辺は間違ってないかな。でも人気者ってつもりは全然なかったなぁ。……そっか、宮本からはそう見
 えるんだ」
 最後にポツリと呟いたのが嫌に響いた。俺は事実しか言っていないのに、まるで俺が河合を傷つけてしまった
ようなリアクションだった。
578宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:41:36.21 ID:Rii1bIez
 しっかり温まってそろそろ風呂から出ようか、というときに叔父さんが俺を呼んだ。恐ろしいほどちょうどい
いタイミングだった。
 ちなみに河合は一足先に居間に戻っていた。暖房もない脱衣所にいつまでもいるわけにもいかないから当然で
ある。
「布団出しておいたぞ。仏間の隣の部屋な」
「あ、ゴメン。手伝わなきゃなのに」
「気にすんな。布団のある場所分かるの俺だけだし、俺もそろそろ出ないといけないし」
「え?」
「仕事だよ仕事。……決してお前達に気を遣って外に出るわけじゃないからな?」
 絶対俺達に気を遣って外に出るつもりだ。
「叔父さん!?」
「じゃあ俺は仕事に出かけるわ。どっかで朝まで時間潰してから出勤するから心配するな」
 ばははーい、なんて間抜けな言葉を残して人気がなくなる。
 ……ふつふつと怒りが沸いてきた。こうなることが見越せていた自分に対して、こっちの言い分を全く取り合
わなかった叔父さんに対して、誤解を加速させた河合に対して。一体何に対して怒りをぶつければいいのか。頭
が茹だってくる。
 真っ赤な顔をしながら風呂を出、タオルで全身を拭う。叔父さんは着古したスウェットの上下を用意してくれ
ていた。しっかりオジさん臭い。イライラのあまり床に叩きつけそうになったが思い直し、さっき床に叩きつけ
た制服をそのへんに放置されていたハンガーに引っ掛けてから脱衣所を後にした。
 ちなみに彼女の脱いだモノは片付けられていた。誠に遺憾である。
579宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:43:32.39 ID:Rii1bIez
 いくら腹を立てても空腹だけは忘れられなかった。昼からこっち、さっきスープを啜っただけだ。足音も荒く
台所へ向かうと河合が出迎えてくれる。
「あ、おかえりー。……何怒ってんの?」
「別に。叔父さん出てったろ?」
「うん。仕事だってね」
 雨音で気が付かなかったが、もう車を出した後だったらしい。
 雨は一時期に比べれば弱まっていたが、それでも家の外でアイドリングしている自動車のエンジン音が聞こえ
なくなる程度には降り続いていた。しかも時折雷の音が聞こえている。徐々に近づいていた。
 しかし彼女は鈍感なのか、そういう気候条件がどういうことなのか気づいていないらしい。結構な大声を出さ
なければ外部に助けも聞こえない、ということだ。そうでなければ――
「ちょっとはそういうの、気にしろよ」
 ――その気があるのか。当然万万が一にもあり得ないことなのは分かっている。
「そういうの?」
「俺と二人きりっての、気付いてる?」
 言っておきながら彼女を正視出来なくて、インスタント食品のストックを積み上げていた棚を漁り始めた。や
たらとチキンラーメンばっかり出てくる。
「……うん」
「あのバカ叔父、人の言うこと聞く気ないんだから」
 チキンラーメン、チキンラーメン、チキンラーメンごはん、チキンラーメン……。なんでこんなにチキンラー
メンばっかりなんだこの一帯は。
「河合もうんざりだったろ? 人の話はよく聞かないわ、思い込みで突っ走るわ」
 チキンラーメンばっかり食べてるから悪いんだ、たまには出前一丁も食べたほうがいい、ごま油は身体にいい
んだ、なんて話が大幅に脱線しかかった頃、河合が一言呟いた。
「……いいじゃん。そういうので」
 いつの間にか後ろに座り込んでいた河合が、俺の着ていたスウェットの裾をちょこんと摘んでいた。
 そういうのとはどういう意味か。問い質してもよかったが残念ながら空腹に勝る欲求なんてものはこの世に存
在しない。チキンラーメンの山の中から奇跡のように姿を現したサッポロ一番の塩を取り出してお湯を沸かす。
「そういや、河合は何か食った?」
「あ……、うん」
 なら好き勝手に飲み食いしてもいいか。冷蔵庫を覗くと予想していた通りナマモノはほとんどなかった。ズボ
ラで几帳面な叔父さんらしい。ナマモノを買ってきて腐らせるのが嫌なのだ。
 当たり前だが玉子もない。チキンラーメンを作り始めてから玉子がないことに気付くことほど悲しくなること
はない。チキンラーメンを避けておいてよかった。
「あ、のさ」
 さっきから掴まれっぱなしだった裾をくいくいと引っ張られる。
「宮本はさ、キョーミないの?」
「何が?」
「レンアイ、とか」
 レンアイ。憐哀。恋愛。頭の中で変換するのに時間がかかった。
「……あんまり?」
 大嘘だ。興味がないわけがない。
 だが相手がどこにいるのだ。仲の良い女子なんていない。クラスメイトと多少話をすることはある。しかしそ
こからどうやって恋愛に結びつければよいのだ。それならばハナっから興味がありませんと諦めておけば痛い思
いをせずに済む。負け犬の発想となじられようが、勝ち犬に負け犬の気持ちは分からないだろう。彼氏持ちの河
合に俺のこういう心持ちは理解できないに違いない。
「そっか」
 彼女の手が離れた。諦めたような、落胆したような、泣き笑いの表情でいた。何故だか胸が締め付けられた。
一体俺が何をしたと言うのだ。
580宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:45:02.42 ID:Rii1bIez
 いい加減夜も遅いし、と河合を布団を用意してあるという仏間の隣の六畳へ案内する。
「…………!」
「何? あっ……」
 襖を開けて、事前に確認しておかなかったことを後悔した。二組の寝具がぴったり並べて置いてある。
「……あ、あははは。冗談キッツいね」
「だから言っただろ。叔父さんはそういう人なんだって」
 少々面倒ではあるが、寝具一組を居間に運んで俺はそっちで眠ればいい。
「俺はあっちで寝るから」
「あ、う、うん――」
 ――ドカン、と凄まじい音がした。近所に雷が落ちたらしい、と判断するより先に、河合に布団の上に押し倒
されていた。
「ご、ごめ、ごめんね!? ちょっと転んじゃって! そう! 転んじゃったの!」
「……雷、怖い人だったんだ」
「そ、んなことないけど!? ――ひゃあぁあぁぁっ!」
 次の雷が落ちると彼女の全力の悲鳴が漏れる。それと同時に力いっぱい抱き締められた。
「お、おねっ」
 彼女がつっかえつっかえながら必死で訴えてきた。
「お願いがあるんだけど! い、一緒に寝てくれないかな!?」
「……何考えてるんだよ、河合」
 年頃の男女が一つ屋根の下。同じ寝具を使う。しかも彼女は彼氏のいる人間である。言うまでもなく色々不味
いではないか。
「べ、別に雷なんか怖く――きゃああぁっ!」
 ずぶ濡れで凍えていたときよりもガタガタ震えている。段々可哀想になってきた。
 しかしよく考えてみれば、こうした状況の時点で今更ではある。年頃の男女が一つ屋根の下。同じ部屋に寝具
を用意されている。河合の彼氏の存在は一旦脇へ置いておくとして、叔父さんでなくたって邪推をするには十分
だ。
「……じゃあ寝るまでな?」
 後から思えば、こう言わされてしまったのが運の尽きだったように思う。
581宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:46:13.09 ID:Rii1bIez
 窓の外はまだゴロゴロと呻いていた。
 河合は無言のまま、俺の背中にしがみついている。同じ布団に入って真正面を向き合うのは流石に不味いと
思ったので彼女に背中を向けて横になっていたのだが、その代償として叔父さんのスウェットは伸びきってい
た。時折、窓から稲光が差し込むと彼女は身体を更に固くしてスウェットを引っ張る。
 ちなみに部屋の電気は点けっぱなしだ。暗くしたら稲光が分かりやすくなって怖いから、という彼女の要望
だった。
「……河合」
 静かな空間に我慢しきれず話しかけてしまう。寝るまでは添い寝してやる、というのにこっちから話しかけて
覚醒を促してどうするのか。
「何?」
 少しだけスウェットが緩んだ。
「いや、無言で掴みかかられると怖いな、と思って」
「ゴメン。どうしてもダメなのよ、カミナリ」
 普段なら耳栓してクッション抱えてひたすら耐えてるんだけど、と彼女が言う。
 それほど嫌いなんて珍しい。理由までわざわざ詮索しないが、よっぽど嫌なことでもあったのだろう。
「しかしよく降るね。……もうヤだよ」
「そんなこと言われても、俺が降らせてるわけじゃないし」
「冷たいなー、宮本は」
 苦笑が後ろから漏れてきた。自分でも言い掛かりだと分かっているのだろう。もしかしたら異様に怯える自分
が滑稽と考えているのかもしれない。それくらい余裕を持っていてくれればもう離れられるだろうか。そんなこ
とを考えていたら窓の外が真っ白に塗り固められた。
 ……と思ったら物凄い音がした。家全体が揺さぶられるようなエネルギーに堪らず叫び声を挙げる。それと同
時に蛍光灯が消えた。この家のブレーカーが落ちたのか、近くの変電所がダウンしたのかは分からないが間違い
なく落雷の影響だろう。
「――っ、きゃあああああっ……!」
 俺の叫び声なんて比較にならないほど大きな声を挙げ、全身をガチガチに固めて抱きついてきた。
「み、みや……みやもとぉ……!」
 半泣きで縋りついてくるのを振り払うことが出来なかった。色気ではない。弱々しい河合に保護欲が刺激され
たせいだった。
 ……保護欲である。感じているのは間違いなく保護欲であり、断じて獣欲ではない。ええい、さっきは簡単に
離散したくせになんでこんなときに限って!
「みや、もと?」
「な、なんでもないデス!」
 声は裏返ってしまうし若干腰は引けているし、情けないことこの上ない。部屋の電気が消えたことだけは、表
情を探られずに済むので助かったかもしれない。
「……そう」
 彼女は縋りつきに来た不自然な体勢を一旦解き、改めて抱きついてくる。体温とか、胸の大きさとか、呼吸の
粗さとか、胸の柔らかさとか、色んな感触が背中に与えられる。あんまりはっきり分かるので、わざわざ押し付
けてきたようにさえ思えた。
「興奮、してんだ」
 図星を突かれて思わず振り返った。
「レンアイ、キョーミないって言ってたのに」
「こ、れは、生理現象ですので、見なかったことにして下さい」
「言われなくても真っ暗だけどさ」
 また窓の外が真っ白になる。さっきよりも離れたところに落ちたらしく、光ってから少し間を置いて窓が揺れ
た。
582宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:46:49.53 ID:Rii1bIez
 彼女は真正面から抱きついてきた。もう条件反射なのだろう。胸がおっぱいに押し付けられ、じゃなくておっ
ぱいが胸に押し付けられた。正直どっちでもいい話だが、どっちにしろ生理現象はますます加速するのだった。
「……お腹には、当たっちゃうんだよなぁ」
 反射的に腰を引いたが後の祭りだ。意味もなくジタバタしても彼女は腕を解いてくれなかった。
「か、河合、マジ止めろって!」
「なんで? 私は構わないけど」
「構えよ! お前彼氏の一人や二人いるだろ!?」
「え? いないけど?」
「い、いなっ?!」
 あまりにあっけらかんと言うので言い返せなかった。また窓が光った。音はやや遠ざかっている。それでも彼
女の身体には力が入った。
「……宮本は彼女とか、いるの?」
「いないに決まってるだろ」
 いたらレンアイにキョーミないなんて言えるものか。まあキョーミないからいないのか、いないからキョーミ
ないのかは彼女の判断に任せるが。
「じゃ、付き合おうよ。アタシも今、いないし」
 そっけない言い方だった。それなのに、真っ暗なのに、彼女が赤面したのが見えた。
「いいよね」
 返事もしていないのに河合は俺の頭を抱えると顔を寄せてきた。
「ガマン出来ないでしょ?」
「そ、そりゃあ……」
 生唾を飲み込む。変な想像ばかりが浮かんでは消える。
「そっか。うれし――」
 ――我慢の限界だった。文字通りに目と鼻の先だった彼女の唇へ自分の唇を押し付け、彼女の身体に圧しか
かった。
583宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:49:47.50 ID:Rii1bIez
 もしもこれが夢ならば、ここでお時間ですとばかりに目覚まし時計が鳴り響くだろう。しかし今夜は雷しか鳴
り響いていない。
 いい加減に闇に目が慣れてきた。薄ぼんやりとではあるが彼女の身体の輪郭は分かる。だがそれ以上に手慣れ
ていない、ぎこちない触り方だったらしい。
「……初めて?」
「……悪いか」
「ううん。だろうと思ってた」
 失礼な物言いである。実戦経験こそないが俺だって百戦錬磨、しかも日々鍛錬を怠らない勤勉で屈強な戦士で
ある。イメトレと素振りが主なメニューではあるが。
「チューくらい、して……?」
 河合としては少しでもムードを高めたいのだろう。対してこっちは身体の一部が高まっている。息も上がって
いた。ひとつ息を吐き、湧き上がる唾液を飲み込んでからまたキスを始めた。舌なんて突き出していいものか皆
目検討もつかないので河合の唇の柔らかい感触しか分からないが、それだけで十分だった。ようやく捉えた彼女
の着込んでいたスウェットの裾を捕まえてひん剥いて腕を突っ込んだ。
 ふんわり温かくてしっとり柔らかくて、女の子の肌としか表現できないお腹の触り心地に惚れた。ずっと触っ
ていたくなる。他のことなんてどうでもよくなってきた。
 ……だが待て、考えるんだ参悟。彼女はずぶ濡れで入浴して着替えはスウェット。下着も使い物にならなく
なっていたのを知っている。何せ脱ぎ置かれた下着をじっくり、もといちらっと一瞬よくしっかり観察したのだ
から間違いない。つまり彼女は上も下もノーガードということである。自分の叔父に女装癖でもあれば予備の下
着なぞいくらでも出てきただろうが、幸いなことにそうした逸般人向けの趣味は無いはずである。さっき背中に
押し当てられた感触は、彼女――の少なくとも上半身――はノーガードであることの証左でもあった。
 つまり目の前には淫夢にまで見た女の子の裸のおっぱいの現物が横たわっていることになる。
 そうと決まればやることはただひとつ。
「……み、みや、ふあぁっ!?」
 唇を離し、頂点にかぶりついた。かぶりつくと言っても本当に歯を立てるわけではもちろんなく、吸い付いて
舐め上げて舌で転がすだけだ。この辺りのイメトレは十分である。
「やっ、あっ、それぇ……!」
 彼女がよがる声だけで背中に電気が走る。ゾクゾクしてもっと夢中になった。河合の腰に腕を回して顔を埋め
るようにして弄り回す。彼女はどうやら着痩せするタイプのようだった。その思わぬ発見が嬉しい。
「みやぁ、きもちいぃ……」
 彼女にとっては何気ない発言だったのかもしれない。それでも俺の興奮を助長するのにこれ以上ない効果を発
揮した。
「河合、下、さわぅ、触るぞ?」
 この辺りのイメトレは不十分であった。カミカミであった。だがそれが彼女の警戒を解いたのかもしれない。
自ら軽く腰を上げてスウェットの下を脱いでいく。
「触る、んでしょ? ……結構、恥ずかしいんだからね、コレ」
 河合は仰向けのまま足を踏ん張った格好になる。真っ暗で輪郭しか分からないとは言えど、物凄い格好である
ことに違いはない。
 恐る恐る、また腹へ手を伸ばして今度は下へ。河合が小さく呻いた。指先にヌルヌルとした液体が絡みつく。
これがモザイクの内側だ。参考資料のように四角いモザイクに満たされているというわけでなくて安心した。
 指先で感じたのは、肉の裂け目、という単純な印象だった。やたらに熱を持ったそこの、肉の重なりが否応な
く快感を想像させる。
「ふ、うぁっ……、ん、んはぁ……」
 河合は全身を震わせながら弱々しい声を挙げていた。快感を覚えてくれているのか、それとも他人に触られる
ことが嫌なのか分からないが、溢れそうな反応を無理矢理押し留めているようだった。それならば明確に拒否さ
れるまで続けよう、と心に決めた。
「みや、それぇ、ダメ、だよ……」
 指先に馴染んできた粘液のお陰で随分動かしやすくなっていた裂け目へ指を一本、関節一つ分差し入れて捏ね
た。言葉でこそ拒否しているが特に身体を捩って拒否するといった素振りは見せていない。
 それならばもっとだ。せっかく弄り放題の身体が横たわっているのだ。上も下も弄り倒さなければもったいな
いではないか。下半身を弄るなら上半身は舐め回しなさい。そんなことを聖人が言ったかどうかは知らないが、
とにかく今はおっぱいだ。
「あ、う、み、やもとぉ……!」
 悪態をついているが言葉ばかりである。そんなに嫌ならば、俺に触りやすいように腰を持ち上げなければいい
のだ。彼女の好意には存分に甘えよう。
584宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:51:28.59 ID:Rii1bIez
 異様に喉が渇いていた。
「か、かわ……」
「うん?」
 嗄れて殆ど音にならなかった呼びかけを彼女が訊き返す。
「もう、その……いいか?」
「せっかち……だなぁ」
 息も絶え絶えで河合がそんなことを言う。触り始めと比べて湿度は段違いだ。多分十分なんだと思う、自信は
ないが。
「あ、その、まだシたほうが?」
「……そんなことない、と思うよ?」
 どうやら俺はからかわれていたらしい。こっちが童貞だからだ。対して彼女は多分経験があるのだ。さっきも
『アタシも今付き合ってる人はいない』って言ってたし、童貞野郎に身体を好きにさせてなお余裕があるように
見えるし。
 ……正直なところ、その辺りを確認するのは怖かった。経験があるならそっちのほうがいい。むしろないと困
る。俺と違って社交的な彼女が、初体験を俺のようなヒエラルキーの下層民と経験するなんてあってはならな
い。俺はそこまで立ち位置とか考えないタイプではあるが、それでも河合は高嶺の花だった。
 結局触っていた最中ずっと立てたままだった河合の腰の間へ進む。彼女自身に正対して、俺自身は早くも暴発
の危機に晒されていた。もう何度目になるのか分からない生唾ごっくんをやって、暗闇の中、手探りで自分の先
端を河合の入り口へと押し付ける。
「……ふっ、ん」
 外はすっかり雨音しか聞こえなくなっていた。それに彼女の力む声が混じって溶ける。
「か、わい」
「ん?」
「嫌か?」
 訊いてしまった。暗闇と言ってももう色味以外は分かるくらいに目が慣れていた。彼女は泣き出しそうな、笑
い出しそうな不思議な表情をしていた。
「ここまできて、ンなワケないじゃん」
「……そうか」
 それならもう気にすまい。入り口をこじ開けた。すんなりとは言わないが、思ったより抵抗は少なかった。カ
リが飲み込まれて、続けて竿の部分が沈んでいく。
「ふぅん、あっ……、み、みやもとぉ!?」
 河合がやけに慌てたような声を挙げる。しかし気にしないと心に決めたばかりだった。
「みや、やぁっ……!」
 彼女の呼びかけに応えるのは、最後まで突っ込んでからだ。そうでないとこっちだって余裕がない。ほんの十
数センチ、腰を前に進めるのにこんなに汗だくになるとは思わなかった。
「みやもと……っ!」
 全部すっかり繋がって動きを止めると、河合が抱きついてきた。彼女も汗びっしょりだった。
「はい、入った?」
「そういうの、分かるモンじゃないの?」
「分かるけど、自信ない」
 心なしか語尾が震えている。全部埋まったことを教えてやると大きく安堵の溜息を吐いた。
「……動いても?」
「も、ちょっと待って?」
 深呼吸をして、腹の底に力を込めたらしいことが伝わってきた。
「……いいよ?」
 背中に回されていた腕が解かれる。上半身を離してしっかり彼女の腰を掴む。河合の表情が歪んだ。また気付
かないふりをして腰をギリギリまで引いた。
585宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:53:20.29 ID:Rii1bIez
 途端、頭上でチカチカと何かが爆ぜたような音がした。すぐに部屋が明るくなる。電気が復旧したからだ、と
思い浮かんだのは急に照らされて真っ白になった視界が元に戻ってからだった。
 河合は天井を見上げた体勢だったせいで蛍光灯の光がまともに目に入ったらしい。両腕で顔を覆っていた。俺
に散々舐められていた乳首は光を反射してぬらぬら光っている。お腹はシミひとつなく真っ白なのだろうが、今
は過度に血行がよくなっているせいでほんのりとピンク色をしていた。そして――
「河合」
 ――俺が貫いている部分が、赤茶色に濁っている。血が出ている。
「お前……」
「何?」
 ようやく眩しさに慣れてきたのだろう、腕の隙間からこちらを窺っていた。
「……なんでもない」
 半端に引き抜いていた自分自身を彼女自身に再び収める。赤茶色の粘液から目を離せずにいた。
「……分かっちゃった?」
「な、にが?」
 腰をスライドさせる。誰も侵入したことのない彼女の聖域を俺が広げているのだった。そう思うだけで、スラ
イドの必要はなかった。もうあと三往復もすれば発射には十分だ。
「気にしないで」
 支えていた掌が汗で滑って彼女の腰が落ちそうになる。しっかり抱え直した。気にするなと言うなら気にしな
いことにする。分かっちゃったのか、なんて俺は訊かれていない。またそう決心して彼女の顔へ視線を移す。
「……ふ、へ、へへ……はじめて、だったんだ」
 泣きながら笑っている。決心が揺らいだ。
「宮本ならいいかって思ったからさ、気にしないで」
 気にしないで、というのはそういう意味だった。

「そんなの」
「ん?」
「出来るわけ、ないだろ……!」
 感じているのは自分への怒りだった。彼女が処女であるわけがないという勝手な思い込みと願望で、自分勝手
に弄って、突っ込んで、それで終わりだなんて。これ以上身体を動かせなかった。
「出来るよ。いい思い出だったって、いつか言えるよ。……言ってよ」
 突然何を言い出すのか。そんなところは重要ではない。俺の初めてが彼女というのが問題ではないのだ。彼女
の初めてが俺というのが問題なのだ。この二つには似ているようで厳然とした差があった。
「河合は、言えるのかよ」
「言えるよ?」
 嘘だ。それなら何故そんな泣き笑いの表情のままなのだ。河合はいつも、もっと快活で飄々とした顔をしてい
るではないか。
「……私、幼稚園のときに好きになって、小学生のときもずっと好きだった子がいたんだけどさ――」
 そんなに仲の良い相手がいたとは知らなかった。
「――中学になってなんとなく疎遠になったとき、一度は諦められたもん」
 だから宮本なら大丈夫、と彼女は根拠なくそう言った。強烈な予感がジリジリと背筋を焼くようだった。
「……一度は、なんだろ? 今は?」
「宮本ならずっと忘れてられるよ。私はなかなか切り替えられないタイプだけど、アンタはそんなことないで
 しょ?」
「そんなこと訊いてないだろ!」
 背筋を焼かれる痛みに耐え切れずに怒鳴ってしまった。
「俺は、そのずっと好きだった子を今でも諦めたままのかって訊いたんだ!」
 まだまだ萎えない自分自身を完全に彼女の身体に入れ込んでおいて、今更訊くことでもない。我ながら馬鹿げ
た質問をしたものだった。
「……言えるわけ、ないじゃん」
 だったら、そもそもそんなこと言うなよ。口をついて出そうになるのを必死で飲み込む。
「だって、もう、恋は叶ったんだから」
 そんなの、言ってるのと一緒だ。
「だからもう終わりなの。……好きだよ、宮本」
 いつも通りのからりとした表情で、彼女は一度だけ告白をした。
586宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:55:53.91 ID:Rii1bIez
「……ばかやろ」
 それならそれで順序ってものがある。ほんの少し余裕を取り戻していた腰をピストンさせる。
 俺だって諦めていたのだ。昔は仲の良かった幼馴染が、どんどん綺麗になって、社交的になった。しかし俺は
河合の幼い頃を知っている。まるでインディーズ時代から知っているメジャーバンドに対して『俺はコイツらが
売れない頃から知っているんだ』と言うような、厄介な自己満足さえ覚えていた。
 それを今更告白されるって、なんだよ。
「知って、あっ、知ってる、よ……? バカ、なの、わたしぃ……」
「そういう、ことじゃ……っ!」
 一旦小休止を挟んだが、限界が近いことは変わらなかった。こんなときでも興奮するなんて俺はなんて馬鹿な
んだろう。なのに腰が止まらない。
「かわ、いっ!」
「あ、ふっ……」
 河合を抱き締める。全身が密着した。せっかくのこの機会を手放したくなかった。
「……れもっ、お前のこと……っ!」
 限界を超えた。何も考えられずに欲望の赴くままに吐精する。腰を目一杯押し付けて、彼女の内部を自分の醜
悪な液体で汚していく。堪らない快感だった。
「……く、ふぅ! はあっ、はあっ……」
 無言で呼吸を繰り返す。何か喋ったら、このまま何かがダメになってしまいそうに感じた。このまま、ずっと
このままで固まっていたかった。

「……終わった?」
 河合がその何かをダメにした。力一杯抱きしめたままだったので苦しいだけなのかもしれない。そう思って抱
き締めを解こうとする。
「ダメ。もっとこうしてて」
 意外なことに、彼女から抱きついてきた。下になっているのに重くないのか、なんてピントのズレた考えが浮
かんだが、幸いそれを口に出す前に彼女が続けて静寂を埋めてくれた。
「……アンタも、なんだ?」
「……だな」
「あーあ、私馬鹿だなぁ」
 それならもっとムードのあるシチュエーションに持ち込めたのに、なんて言っている。
「片想いじゃなかったなんて意外」
「そりゃあこっちの台詞だ」
「中学で諦めたのはなんだったんだろ」
「俺は小学生のときにはもう諦めてたよ」
「えー、何それヒドくない?」
 軽い口調は行為が終わったことを示唆している。彼女の身体の上から退いて腰も離す。エロゲのように白濁が
溢れるなんてことはなかったが、糸は引いていた。少しくらい拭かないいけないな、なんて考えて軽く部屋を見
渡すと、枕元と足元にそれぞれ二つずつティッシュの箱が置かれていた。ふざけんなクソ叔父。
 手を伸ばして数枚引き抜いて、一言断ってから彼女の陰部を拭う。くすぐったそうに反応するのが、こちらと
してもむず痒かった。
「……ま、いいか。初恋は成就したんだし」
 ふにゃりと笑った拍子に鼻水が垂れた。さっきまでボロボロ泣いていたんだから当たり前だ。新たに数枚引き
抜いて渡すと派手な音を立てた。
「これで終わり、かな」
 突然に呟かれた言葉が、ズシンと響いた。
「明日からは、私は私だし、宮本は宮本。……それでいいね?」
 住む世界が違う、ということを気にしているのは俺だけではなかった。ヒエラルキーの下層民に懸想している
なんてあり得ないことだとでも思っているのかもしれないし、それ以外の理由があるのかもしれない。
 仮に二人が付き合ったらどうなる? 彼女の仲間内の評価はどうなる。俺の扱いはどうなる。今までと変わら
ず、とはいかないのだ。それが子供の残酷さだ、なんて訳知り顔で言う大人はいるかもしれない。でも大人か子
供かなんて関係ない。
 世の中ってのはそういう風に面倒に出来ていることくらいはもう十分学んでいた。
587宮本君と河合さん ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:57:54.83 ID:Rii1bIez
 部屋はしんと静まり返っている。雨もいつの間にか小降りになっていた。
「……それならそれで別に構わないけどさ」
 彼女はもしかしたら俺のことを気遣っているのかもしれない。でも――
「河合は興味ないか? 恋愛とか」
 ――それでも、俺はこの機会を手放したくなかった。
 彼女が気付いて慌てる。動揺を気付かれたくなかったのだろう、わざと蓮っ葉に応対してきた。
「ア、アタシ、そんなに恋に飢えてるように見えンの?」
「興味ないのか?」
 河合は何か言いかけて口を噤んだ。
「ならいいじゃん。俺達、付き合えば」
 顔から火が出そうだった。人生でも何度も経験しないだろう、クサい台詞だった。
「河合は付き合ってる奴、いるのか? いないんなら、それで――」
「――いるよ」
 構わないだろう、と言いかけた途端に割り込まれた。
 彼女の返答には落胆した。さっきまでのあれこれはやっぱり演技だったのか。さっきまでの彼女の反応を忘れ
て、そんなことが頭をよぎった。
「さっき、付き合い始めたんだ」
 恥ずかしそうに河合が言い放つ。瞬間意味が分からなかった。彼女に勢いよく抱きつかれて、押し倒されて布
団や枕を蹴飛ばしてしまってようやく理解する。
「ニブいよ」
「……失礼しました」
「こっちは、敏感なのにねー」
 抱きつかれたことでまた力場の収束が始まっていた。河合は先端を指で弾くようにしながらからかい笑う。愛
おしくて堪らなくなって逆に抱きつく。
「ひゃっ、あっ、ちょっ、みやっ……!」
 二人で転がりながら、俺は彼女の首筋に鼻を押し付ける。甘い匂いなんて分からなかったが、滑らかな感触が
肌に心地良かった。……それなのに、頭に何かが絡まった。
「……あ、コレ」
 さっきまで枕のあった場所に四枚綴りのコンドームが置かれており、それが絡まったのだ。あの自称『飲み込
みの久太』である叔父が枕の下に仕込んでいたに違いない。
 彼女と顔を見合わせ、今更出てきてもね、と苦笑したのだった。

 * * * * * *

 もうすぐ学年が上がる。
 河合は先程担任教師から呼び出しを受け、かろうじて進級を決めた事実ともっと勉強しろというお小言をたっ
ぷりもらっていた。
「ねー、参悟、今度勉強教えてよ」
「俺だってそんなに成績いいわけじゃないのに。ちゃんと授業出てればそれなりに取れるよ」
「サボってないよぉ、ただ分かんないんだもん」
 お気に入りのカフェのカウンターに陣取って、手元のハンバーガーを口いっぱいに頬張り実に幸せそうな顔を
して反論する。馬鹿面晒してるよ、と言ったら顔だけは引き締まった。
「だからさ、春休みにみっちりお勉強しよう。それで少しでも遅れを取り戻すのです」
 握り拳を作って力一杯宣言する。河合の中では既に確定事項になっているらしい。何が悲しくて春休みに勉強
しないといけないんだろう。
「いいじゃん、彼氏でしょ」
「そういえばそうだった、忘れてた」
 手元のミルクセーキを啜るともう空だった。カップから視線を上げるとガラスの向こうに河合の友達が通りが
かる。
「あ、チッハー、やほー」
 友人に手を振る彼女を横目に、俺はグーグル派だな、なんて蚊帳の外の考えを巡らせていると腕を引かれた。
彼女は腕を組んでピースサインを送る。
「ほら、参悟もピースして」
 促されて渋々ポーズを取ると、ガラスの向こうがスマホを構える。彼女はそれに満面の笑みで応えていた。
「これで忘れないっしょ?」
 俺は、この先もこうして振り回されるんだろうな、と溜息を吐いたのだった。
588 ◆6x17cueegc :2014/01/23(木) 21:59:07.03 ID:Rii1bIez
と以上です
もう少しレスごとの段落を調整すべきでした。読みにくくなってしまい失礼しました

「ロミオとジュリエット」と「ウエストサイドストーリー」くらいの関係性の二次作品です
これの続きを万一書く場合、元ネタ的にこのスレでは書けないような内容になるので、ここで終わっておきます

それでは、お読みいただきありがとうございました
589名無しさん@ピンキー:2014/01/23(木) 22:18:42.34 ID:TUwXNUl5
ほとんどリアルタイム遭遇だ…!乙です。

普段強がったりツンツンしてたりしてても、ひとつくらい苦手なのがあるのがいいですよね。
590名無しさん@ピンキー:2014/01/23(木) 23:16:47.36 ID:M00g78oS
うひょー、こういう凸凹コンビ的な幼馴染好みー
さくさく読めたし読み応えあったしで乙でした!
591名無しさん@ピンキー:2014/01/24(金) 03:24:46.93 ID:ahWASIVe
文章がうまくて読みやすいなあ
同衾からの最後まで行っちゃう流れが秀逸で読んでてニヤニヤできる
面白かったです乙でした
592 忍法帖【Lv=5,xxxP】(1+0:8) :2014/01/25(土) 00:02:09.22 ID:+lUe0VBu


ところで元ネタって何?
雷怖いってベタベタな気がするけど
593名無しさん@ピンキー:2014/01/25(土) 11:06:06.53 ID:CkOOBwOy
GJです!
叔父さんのお節介が功を奏してよかった
594 ◆6x17cueegc :2014/01/25(土) 17:30:17.05 ID:nfGZ9ncX
>>592
書き忘れてましたが、原作は古典江戸落語「宮戸川」の前半部分です
「お花半七馴れ初め」などの題でこの部分だけ演じられることも多い演目で、
私もこの部分まではそれなりに好きな演目です。展開自体はド王道ですし

なお後半はお察し下さい
595名無しさん@ピンキー:2014/01/26(日) 02:04:33.17 ID:XnU3bVmq

距離感できた幼馴染みGJ
バスケの仙堂都不良の浦飯にワロタ
596名無しさん@ピンキー:2014/01/29(水) 01:21:10.83 ID:qOn08yjl
GJ

そろそろ次スレ建てないとだな
ガラケーなんで誰か頼んだ
597名無しさん@ピンキー:2014/01/29(水) 17:25:27.12 ID:j3Oqu7ua
次スレ立てておいてみた
テンプレ修正などは特に聞かなかったけど、指摘があったらごめんなさい

【友達≦】幼馴染み萌えスレ25章【<恋人】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1390983387/
598名無しさん@ピンキー:2014/01/29(水) 18:28:52.15 ID:9iJG7/PZ
>>597
スレ建て乙
もう?って思ったら480K超えてたんだね
596にも乙
599名無しさん@ピンキー
>>597
立て乙
書こう書こうと思ってたらスレが終わってしまった…次スレこそ書き上げて投下するぞ