続きを読むためにはどうすれば…わっふるわっふるって書けばいいんだっけあー可愛いなあもう!
こんばんは。
毎度レスをいただけて嬉しいです。
濡れ場が出来ましたので6レスほどお借りして投下します。
昨今の高校生カップルというのがどういう事をしているのか、よくわからない。事実、
俺の学校でもそういった関係の生徒も多くは無いけど存在するし、例に漏れず俺も先日、
ずっと両思いだったらしい幼なじみ、茉莉に思いを告げることが出来、無事に結ばれた。
純粋に交際をするだけというのなら今までと同じように接していけば良いのだろうけど、
俺の胸に1つの言葉が引っかかって邪魔をしていた。
お互いの思いが通じた直後の事。幼なじみから彼女になった茉莉が俺の頬に口付けをし
て「次は部屋で続きをしよう」という旨の言葉を発した。
高校生にもなれば男女の交わりについての知識はあるけれど、上手く出来なかったらと
いう心配は尽きない。噂に聞いたところによると、初めての行為が上手く行かなかった事
でそこから関係に不調を来すカップルもいるらしい。そんなのは嫌だ。
だったらもう、最初からそういう行為に至らなければ良いんじゃないか。その考えから、
彼氏彼女の関係が始まってからこの1週間、茉莉から誘われた勉強会には「見たい本があ
るから」と図書館に行ったり、欠点を取りそうな友人の神田や充への勉強と称して学校に
残る事で応じてきた。
「あのさ、そろそろやめようよ」
2クラス合同で行われる体育の授業中に隣のクラスの充から言われた。
「何を?」
「何を、って……雪。鼎ちゃんと付き合ってから意図的に2人の時間を減らしてるだろ?
……どうせ何年も自分の気持ちに気付かなくて告白出来ないグズでヘタレの雪の事だから、
2人になるのが怖いとか言い出すんだろうけど」
図星を付かれて言葉が出ない。いっそのこと相談しても良いのだろうかと思ったが、友
人に男女の交わりに関して知られるのは何だか恥ずかしくて、できるだけ避けたい。
「正直さ、鼎ちゃん相当怒ってるぜ? 神田ちゃんすら気付いてるくらいだし。『言葉を大
切にするんだ』ってモノローグでお前言ってただろ?」
モノローグとかメタ発言をするな。しかし、茉莉の機嫌が悪いのは確かに感じている。
毎日の登下校は共にしているけれど、何も話してくれない時間も存在する。
「デートだってしてないんだろ? ちゃんと彼氏をやってやんなきゃ。『君の瞳はダイヤモ
ンドより美しい』とか言ってチュー……レロレロって」
「そうだなー……ってする訳ないだろ!」
黙って聞いている内にどんどん酷い言い様になる充の頭を叩いた。やっぱりこいつにだ
けは相談してはいけないと痛感した。
○
「せっちゃん。今日はうちで勉強しよう」
体育の後の昼休み。昼食を一緒に食べている茉莉はいつにもなく饒舌に話した。むしろ
発する言葉に迫力すらある。
「わわっ、良いなー。鼎ちゃんの家に私も行ってみたいけど今日は先約があるからなー」
茉莉の言葉を受けてその隣で昼食を摂る神田が言った。その言葉は今までに経験した事
のないレベルの棒読みだった。
「いや、神田。なんでそんな棒読みなんだ」
「うらやましーなー。でも今日は約束があるからなー」
「せっちゃん。良いよね?」
俺のツッコミを無視して続ける神田に、目だけ笑っていない茉莉。わかった、降参だ。
彼女のそんな顔は見たくない。
「……わかった。直接行けば良いか?」
「うん、一緒に」
力強く言葉を返す茉莉。おそらくこれは逃がさない為という意味も含まれていそうだ。
「ちなみに佐野は今日私と用事があってねー。2人の方が効率も良いと思うよー。頑張っ
てねー」
相変わらず棒読みで続ける神田。もしかしたらこれは2人――いや、神田にそんな能力
があるとは思えないから充の入れ知恵かも知れない。それが杞憂に過ぎないと願うしか今
の俺には出来なかった。
○ ○
「ただいま」
「おじゃまします」
授業を終えて茉莉の家に着く。1週間前に茉莉が俺の家に来た時とは逆の言葉を言って
いるんだという事が俺を緊張させた。更に、いつもは反応のある茉莉の母親の返事が聞こ
えない事に不安を覚える。
「茉莉。今日おばさんは?」
「婦人会」
俺の問いかけに対してぶっきらぼうに答えると、茉莉は「早く」と言わんばかりに自室
への道で手招いた。
久しぶりに入る茉莉の部屋は、昔と違っているようでそれでいて懐かしい感じがした。
例えば、少し毛のぼやけたクマのぬいぐるみは見覚えがある。あれ、確か小さい頃の誕生
日にあげた奴だったかな。
「どうしたの?」
幼なじみの部屋に見入る俺を不振に思ったのか、茉莉は怪訝な顔をしている。
「いや、懐かしいなって思って」
「せっちゃんがずっと来てくれないから、そうでしょうね」
思い出に浸っていることを告げて和ませようとしたものの、皮肉を言われてしまった。
「ぐ……じ、じゃあ勉強をし――」
「せっちゃん。そこに座って」
どうやら主導権を取る事に失敗したらしい俺は「正座で」と付け足す茉莉の言いなりに
なるしかなかった。勉強机の椅子を引いて掛ける茉莉の前で正座をした。
「せっちゃん。何か言うことはない?」
こちらから見上げる態勢になる茉莉の顔は角度の都合上、翳りが入って見えて怖い。
「あります」
語調が強く、すらすらと話す茉莉には慣れていなくて敬語で対してしまう。
「約束してたのに先延ばしにしてすまん」
「うん」
「いざって思うと緊張して……」
「わたしもあの時緊張した。でも伝えたい事は伝えるって約束もしたし、楽しみにもして
た」
「……すまなかった」
ゆっくりと相槌を打って聞いていた茉莉は、俺の反省をわかってくれたのか呆れてなの
か小さくため息をついた。
「じゃあ、いつやるの?」
「今から、全力で」
「どうぞ」
俺の言葉に答えると茉莉は椅子から腰を上げて、少し両手を広げる。それに応える為に
俺も立ち上がって抱き締める。
「ふぅ……」
「痛いか?」
息を吐く茉莉に確かめると小さく首を横に振る。その顔は先ほどまでの厳しいものでは
なく、穏やかなものになっていた。
「せっちゃん」
茉莉が目を閉じて俺を呼んだのに合わせて唇を重ねると、瑞々しくも柔らかな感触に押
し返された。それは焦らされた事への抵抗かも知れない。
少しの間交わして離す。いつもの天使の微笑みが見えて安心する。
「すまない」
改めて謝罪の意を告げると、茉莉は首を横に振ってから「もっと」と返す。それに応じ
てもう一度唇を重ねる。
前言撤回。この子は悪魔かも知れない。この甘い感覚だけで思考がとろけてしまいそう
だ。なんて考えていると俺の身体が反応を始めた。愛する恋人の身体に密着しているから
か、口付けによる性的興奮からかはわからないけれど、確かに誇張を始めていた。
「せっちゃん……」
気付かれない内に腰を後ろに引こうと考えたが遅かったらしい。目の前の茉莉は顔を赤
くして戸惑っていた。
「悪い……」
今日で何度目の謝罪だろうか。繰り返し過ぎて形骸化しかねないと俺自身思ってしまう。
……なんて問題じゃない。この愚息をどうすれば良いものか。
「……お母さん、夕飯はせっちゃんのお母さんと食べようかなって言ってた、よ」
「そ、そうなのか?」
「……うん。帰りは8時くらいかなって」
薄く笑む茉莉。……もしかしてこれは母娘の計画した据え膳だと言うのか。そうだとす
ると後の反応が怖いんだが……。
「続き、しないの?」
すっかり語調も話し方も普段のものに戻っている茉莉。その上で俺にけしかけるという
事は、きっと恥ずかしい感情を抑えて話しているんだろう。
「手加減、出来ないかも知れないぞ」
腹を括った俺は茉莉の身体を抱えてベッドへ運んだ。
○ ○ ○
雑誌なんかで得た知識を総動員して、仰向けに寝かせた茉莉の頬に手を触れた後で首筋
へ、胸へと動かす。茉莉はくすぐったそうな表情をしながらも、その頬は上気しているよ
うだ。今まで意識して茉莉の身体に触れる事など無かったからどうにも緊張して力を緩め
過ぎてしまうらしい。
右手がたどり着いた茉莉の左胸で少し力を入れると、小柄な体型ながらも掌にちょうど
収まるほどの大きさが感じられた。
「制服、脱がせるぞ」
その先にある物が見たくて、茉莉が頷いたのを確認してからセーラー服のネクタイを緩
める。茉莉はそれすらもくすぐったそうにしながら手助けしてくれる。開いた胸元から見
える、学校規定である無地のキャミソールごと茉莉の身体から引き抜くと薄桃色の可愛ら
しい下着が姿を現す。誇張の過ぎないフリルが茉莉の性格を表しているようにも思える。
手の止まった俺に不安を覚えたのか「変?」と短く聞く茉莉に「可愛いよ」と言ってや
る。照れながらはにかむ顔も可愛い。もしかしたら勝負下着というやつだろうか。後で聞
いてみても良いかも知れない。
背中に手を回すと少し上体を起こして隙を作ってくれる。両手で手探りにホックを外し
て、再び身体を楽にさせる。何も隠す物がなくなった上半身の膨らみの上を向いて誇張す
る紅い実に、俺は吸い寄せられるように顔を近付けて口に含んだ。
初めての感覚に驚いたのか茉莉は身体を強張らせたが、それを無視して少し吸ってみる。
もちろんミルクなんかは出ないが、少し汗ばんだ女子の甘い匂いがなんとも言えない。そ
のまま先端部分を舌で攻撃すると、茉莉は僅かながら声を出し始めた。
「痛いか……?」
「聞か、ないで……」
心配になって口を離して確認する俺の目には、これ以上なく顔を赤くした茉莉が映った。
「気持ち良い?」
少し意地悪がしたくなって聞いてみる。細い腕で顔を隠しながら、少しだけ頷いてくれ
た。そんな姿を見せられたらもっと頑張りたくなる。
もう一度、今度は反対の胸に舌を這わせながら右手で茉莉の腿に触れる。新しい刺激に
また、茉莉は身体を震わせる。少しずつ内股を撫でながら右手を身体の中心に向かわせる。
スカートの内側に潜らせた瞬間、何故か興奮した。
まずは後ろ側。下着越しに柔らかな白桃を撫でながら、その中に手を入れる。産毛の生
えていない瑞々しい肌が手に吸い着く名残を惜しみながら、そのまま下着を足首に向けて
下ろしていく。
「うぅ……」
恥ずかしさ余って呻く茉莉には悪いけど、流石にここでは止まれない。脚の付け根に手
を戻すと、少し潤った部分に触れる。そのまま入り口の裂け目を人差し指でなぞると、茉
莉の身体はまた震えた。
少し指に力を入れると、そのぬめりから飲み込まれていく。しかし、指を追い出そうと
するもあった。指を進めて、退けているとまた茉莉は声を出す。
更に親指で茉莉の蕾を探る。裂け目の近くに見つけたそれを軽く擦る。
「ひっ……ん」
先ほどまでと違った高い声が出る。茉莉の弱点を見つけた気分で嬉しくなり、繰り返す。
「やっ、だめ……おかしく、なる……」
この時点で俺は、茉莉の身体を都合3ヶ所同時に攻めていた。どんどん声を出してくれ
るのに対して気を良くした俺は、手と唇に少し力を入れる。
「ひゃっ……!」
その瞬間、茉莉の身体が大きく跳ねた。継続してしばらく震えている事から、絶頂にた
どり着いたのだろうか。
「……せっちゃ……ん」
「茉莉……大丈――」
顔を茉莉に合わせると、真っ赤になりながら泣きそうになっていた。慌てて心配するけ
れど、首の後ろに回された腕と重ねられた唇で言葉は遮られた。
「気持ち、良すぎて、怖い……」
口付けの後、表情の意味を教えてくれた。
「もう、やめとこうか?」
「……やだ。今度、いつになるか、わからない」
行為の中断を提案したが、皮肉を込めながら却下された。
○ ○ ○ ○
着ていた服を脱いで、鞄の中の財布に入れていた小袋を取り出す。その最中を茉莉に見
られているのは少し気恥ずかしかったが、先ほどの仕返しだと言わんばかりの目線に反論
はしなかった。
茉莉の待つベッドに戻って小袋の端を破る。茉莉が見ている前で付けるのはある意味、
選手宣誓のような気分であったり、お互いに確認したから大丈夫だと安心できればと思っ
た。
「準備、良いね」
茉莉の言葉は感心のものであって、決して皮肉では無いと信じたい。
「俺もこうなりたかったから」
俺の言葉に小さく頷く茉莉。やっぱり緊張しているんだろう。
「痛かったら言うんだぞ?」
「……うん」
茉莉の脚を持ち上げて左右に開く。薄く揃った黒い絹の下に照準を合わせて、ゴムに包
まれた下半身を進ませる。先ほどたっぷりいじめた甲斐もあってか茉莉の秘裂は潤いを保
っていて、滞りなく先端が入った。ただ滑りやすいだけではなくかなりの締め付けも共存
しているので少しずつ、少しずつ、茉莉の身体に割り入る。出来るだけ痛みを生まないよ
うに配慮をして。
「っ……」
でも、ある程度進んだ所で茉莉の表情が変わり、心配して身体を止める。
「とめ、ないで」
「でも……」
「おねがい。わたし、待ってたから」
茉莉は無理をしている顔をしているけれど、それと同時に「覚悟はしてるから」と言い
たげな顔もしている。茉莉も勇気を出してくれてるんだ。
茉莉の身体を背中から抱き抱えて、腰を進める力を強くする。やはり痛むのだろう、茉
莉の目尻に涙が浮かぶ。
「やった……うれしい」
最後まで進んだ頃、俺を心配させないようにしているのか少し引きつった笑顔を見せた。
「せっちゃん、きもちいい?」
「うん、いい」
正直言って、入る時からかなり締め付けられている分、すぐにでも果ててしまいそうだ
った。なんというか、茉莉の秘裂の中にある襞が俺の息子に絡みながら吸い付いている感
じだ。
「よかった……。もっと、きもちよくなって」
どうしてこの子はこんなにも俺の喜ぶような事を言ってくれるんだろう。
「じゃあ、ちょっと動くぞ」
「う、うんっ」
腰の動きを付けた瞬間に話したもんだから、ダイレクトに喘いでしまう茉莉。声のいや
らしい感じがなんだか嬉しい。
ゆっくり引き抜いて、ゆっくり差し込むと段々と耽美な声が漏れ始める。
「茉莉も、気持ちいい?」
「わからっ、ない。……けど、ぞくぞくすっ、るぅ……」
声の反応を聞くに茉莉は1番奥を突かれるのが好きなようで、そのタイミングで声が上
擦ってしまうらしい。ピストン運動の距離を奥の方で狭めてみると、高い声の間隔が早く
なる。……そろそろ俺も限界だ。
「茉莉、もう……」
「うんっ……出してっ」
腰を出来るだけ奥へと突き出して、俺はゴム越しに茉莉の中へ欲望を吐き出す。よほど
気持ち良かったのか快楽の波が1度、2度と続いて、3度目で出し切った感覚を得る。
「せっ、ちゃん……」
まだ息の整わない茉莉が俺を呼ぶ。その表情は激しい運動をした後のようでありながら
穏やかなようにも見えた。
「ん?」
「大、好き」
「俺も。茉莉が大好きだ」
返事に満足したのか茉莉の表情がさらに柔らかくなる。その笑顔に俺は口付けをした。
○ ○ ○ ○ ○
「白いね」
ゴムを外して処理をする様子を楽しそうに見ている。こういうのはあんまり恥ずかしく
ないんだろうか。
「茉莉の身体も真っ白で綺麗だよ」
「それと比較されても、なんかやだ……」
俺の褒め言葉はタイミングを間違えたのか、シャットアウトされてしまった。
「茉莉の高い声、可愛かったよ」
別の所を褒めると照れて反応に困っているようで、ベッドの掛布団を使って表情を隠し
た。やはり声を出すのは恥ずかしいのだろう。
「茉莉にばかり勇気を出させて悪かった」
「本当に」
この1週間、茉莉の誘いを蔑にした事を謝ると即答される。短い言葉だと茉莉もすんな
り話してしまうから余計に辛辣に感じる。
「でも」
「ん?」
「我慢しないって、決めたから」
茉莉の決意に対して男の俺が強かだなぁと思うのは間違ってるかも知れない。でも、そ
れが俺の幼なじみから彼女になった鼎茉莉の成長なのだとすると、パートナーとして負け
ていられなくなる。
「また、しようね……?」
そんな俺の気持ちを置いて、笑顔で話す茉莉に垣間見える悪魔がどんどん成長していき
そうなのが今から不安で、でも楽しみで。
「わかった」
今後どうなるかはわからないけれど、俺と茉莉は次回の約束をしてからまた口付けを交
わした。
【了】
以上です。
きちんとエロければ良いなと心配ですが、楽しんでいただければ。
一応これで一区切りですが、ちょこちょこ書きたい事もあるので、
何度か寄らせていただこうかなと思います。
茉莉さんが依存しぎみかと思いきや、尻に敷いてるのが幼なじみらしくて微笑ましいです
小悪魔かわいい
こちらは非エロですが、ファントムペインを投下させていただきます
卒業、おめでとう
これまで、ありがとう
これからも、いつまでも
*
『――――以上をもちまして、第32回、某市北原学園高校卒業式を終了いたします』
壇上の老紳士がそう締めくくると、講堂の中は万雷の拍手に包まれた。
周りを見回すと、所々涙を浮かべている顔まで見受けられる。
俺はと言えば、周囲に合わせて手を叩きながらも、何処か他人事の様な、半ば白けた気分が抜けなかった。
だが、膝の上にある卒業証書を収めた黒い筒を眺めていると。
色々な事があった、高校生活の3年間が終わるのだと、否が応にも思い知らされる。
在校生や保護者達の拍手の中、講堂を辞する卒業生の列に紛れて、見知った顔を探す。
3年間で最も強い印象を俺の中に残した彼女。
右手にも、左手にも、見知らぬ大人と印象の薄い下級生の顔ばかり。
見回している内に列は前へ前へと進み、結局目当ての顔を拝めないまま俺は講堂の外に押し出されていた。
照度が一気に上昇し、眩しさに目を細める。
光の中に、小さな人影が浮かぶ。
「ヤスミ」
探していた人は、目の前にいた。
その華奢な手に、白い花を一厘を携えて。
「卒業、おめでとう」
何時も通りの制服に身を包んだ彼女。
絵麻は普段と変わらない。
天使などでは、断じてない。
「?」
「あ――――、否」
まさか見惚れていた等と言う訳にも行かず、俺は言葉を濁した。
「有難う」
礼を言いつつ、受け取った花を何処に仕舞うべきかと弄ぶ。
制服の胸ポケットに丁度差し込む余裕があったので、入れて見たものの、何だか気障ったらしくて据わりが悪い。
ふと、絵麻が俺の上着に目を向ける。
上から2番目のボタンが外れ掛けていた。
「ああ、気にしないで良いぞ。
どうせ今日限りでお役御免だ」
「だめ」
絵麻は有無を言わせず俺を往来の邪魔にならない場所に引っ張って行くと、何処からともなくソーイングセットを取り出す。
「おい、気にするなと……」
「じっとする」
彼女の頭が丁度俺の胸に当たる位置に来る為、立ったまま作業は進む。
手早く針に糸を通し、ほんの数十秒程で、ボタンは元通りの位置に落ち着いていた。
鮮やかな手際に唸るしかない。
「大したもんだ」
絵麻は満足げに笑う。
思わず頭を撫でようと手を伸ばしかけるが、さすがに思いとどまった。
周りを見回す。
部活棟を隔て講堂前の広場からは死角になっており、人目がない。
絵麻に視線を戻すと、彼女もそれに気づいたようだ。
一寸顔を赤らめて、何かを期待する様な。
素早く、屈み込んで、顔を寄せる。
日陰に居ても光を反射する黒目がちな目が、瞼の裏に隠れる。
一瞬だけ、唇が触れ合う。
強いアルコールが喉を通ったみたいに、全身がかっと熱くなった。
学校でキスなんて、滅多にしない。
それも、もう今日しか機会がなさそうだ。
顔を上気させた絵麻と、暫く見つめ合う。
もう一回ぐらい出来るだろうか。
タイミングを見計らっている内に、背後に感じる通行人の気配。
名残惜しいながらも、身を離す。
絵麻は気恥ずかしさを振り払うように首を振ってから、俺の上着を撫でた。
3年間着倒して来たそれには、所々僅かな解れも覗いている。
「……おつかれさま」
「全くだな」
こうなったら、今日一杯は役割を全うさせてやらなければ。
「誰かに第2ボタン強請られも、応えられそうにないな」
絵麻は首を傾げる。
「妖怪ボタンむしり?」
「なんだそりゃ」
卒業式で卒業生の第2ボタンを云々と言った習慣は知らない様だ。
俺は肩を竦めた。
「元々俺のボタンなんぞ欲しがる人間は居ないだろうがな」
「いや、わからんで」
唐突な声に振り返ると、俺と同じく卒業証書を携えた同級生が腕組みをしていた。
「なんやしらん、ヤスミン昔はアレでもてとったからな」
絵麻は首を傾げて俺を見る。"もてる"と言う日本語の意味が良く判らない様だ。
俺は溜息を吐いて同級生に反駁した。
「あれはもてていたとは言わないだろ。有る事無い事吹き込むな、北大路」
髪を頭の後ろで括った眼鏡の女、北大路侑子は中学に入ってからの知り合いだ。
彼此6年もの付き合い。知られたくない事も、知りたくもない事も、互いに持っている。例えば。
「忘れたとは言わせへんで。ラブレター焚書事件」
「ああ、そんな事もあったな……」
中学2年生の何時だったか。
朝登校したら下駄箱に無署名の小奇麗な封筒が一通。
周囲の目撃者が鬱陶しかったので、即座に安物ライターで焼却処分した。
言い訳しておくが、ライターは俺の物ではない。
不良でもないのに煙草を持ち込んだ同校の生徒から巻き上げたものだ。
「あれはラブレターじゃないだろ。
送り主として思い当たる女なぞいない。
多分、俺をからかう目的の偽物か、果たし状か何かだ。
カッターの刃か、血文字で呪いの文章か何かが入っている。きっと」
「そんなこと言うて、"ひそかに憧れの伊綾先輩のこと電柱の中からずっと見ていました"なんていう健気な下級生がおったらどうするん」
そんな奴が居たら、純粋に、怖い。
「頭を診て貰う事をお勧めする」
「だめだよ」
絵麻は何故か腰に手を当ててご立腹の様子。
「手紙、ちゃんと読んであげなきゃ」
「だよなー。ひでーよな、伊綾」
会話に何の前触れもなく入り込んで来る快活そうな男。
北大路より長い、6年以上の付き合いがある。
「果たし状であれ、ラブレターであれ、相手の気持ちをちゃんと受け止めたうえで、お断りするのがスジだろーが」
「手紙に記名しない様な失礼も、筋が通らないと思うぞ、渡辺」
渡辺――渡辺綱は尚も減らず口を返して来る。
「失礼に失礼を返して良い道理もないぜ」
「失礼が服を着て歩いている様な奴に言われたくないな」
「なんかすっげえシツレイなこと言われたような気がするんですけど――!?」
何時もの様に馬鹿な遣り取りをする男二人を尻目に、絵麻が北大路に尋ねている。
「そのあとは?」
「ん? ああ、ラブレターの件やね。
灰にされた直後、ヤスミンの後頭部に、駆け付けて来た渡辺兄貴の飛び蹴りが炸裂。
送り主不明のまま、北原校恒例のヤスミンVS渡辺(馬鹿な方)・ノーロープ電流爆砕デスマッチROUNDだいたい66くらいが……」
北大路は真剣に耳を傾けている絵麻を見て、ニヤリと笑う。
「あ、やっぱり気になるん? ラブレターの送り主」
照れる素振りも見せず頷く絵麻を見て、北大路は肩を竦めた。
「誰かまでは知らんけど、心当たりは何人かおるで。
何だかんだ、このガッコ、マジメな優等生ばっかやしな。
不良生徒で通ってたヤスミンに勘違いした憧れあったんやろ」
絵麻は一時考え込む素振りを見せてから、躊躇いがちに口を開いた。
「……ひょっとして」
「ん?」
「その送り主って、侑子さんだったり」
「ブぼォ――――ッ!」
北大路は思い切り吹き出す。
余りに女の子らしくない音に、俺と綱も振り向いた。
「あほかァ――――ッ!
なんで! わたしが! こんな凶暴インケン偏執ドS眼鏡男にラブレターなんぞ送らにゃならんねん!」
突き付けられた人差し指を払い除けながら、話の筋を察した俺も同調する。
「そうだな、こいつが送って来るとしたらもっと迷惑な……時限発火装置付き小包爆弾とかだろう。ガラスの破片入りの。
カミソリ入り恐怖の手紙なんて生っちょろい物で終わるとはとても思えん」
「いつの間にかカミソリ入りが前提にされとる……」
綱が不満げに呟く。
「それに、もともと俺と北大路は仲が悪かったぞ」
「北大路と伊綾が、ってより滝口と伊綾の仲が悪くて、北大路が滝口の肩持ってた感じかなあ」
そうなの? と訊きたげに絵麻は北大路を見る。
滝口とは北大路の友人の女子で、名を睦月と言い、何をとち狂ってか綱に懸想している物好きだ。
北大路は絵麻の耳に口を寄せて囁いた。
「ヤスミンもムッキーも友達少ないからな。
ようするに、数少ない友人である渡辺兄を巡っての三角関係や」
「聞こえてるぞ」
北大路は小さく舌を出す。
俺は溜息を吐いた。
「まあ、その三角関係とやらも、今日で晴れて解消だな。
俺はこっちの大学だが、渡辺と滝口は東京の方だろう」
絵麻は意外そうに呟いた。
「滝口さんも東京行くんだ」
綱の方の進路は知っていたが、滝口の方は知らなかった様だ。
「北大路はどうすんだっけ?」
「わたし? 家業継ぐはめになったからな。
実家にかえらせてもらいます」
北大路の実家は県内でも西の外れで、此処からバスを何度か乗り継がなければ行けない場所に在ったと記憶している。
「と言う事は、この中で近所に残るのは俺と絵麻だけか。
俺の他の知り合いも大方他の大学だしな」
「わたしの方も、お仲間はだいたい進路別やな」
絵麻は俯き呟いた。
「なんだか……」
3人の視線が少女に集まる。
「さびしい」
俺達は、顔を見合わせて、少しだけ笑った。
確かに、寂しい。
けれど、別れを惜しむ程に、彼女と友達であれたのだ。
「だーいじょうぶだって!」
綱は絵麻の背中を痛くない程度に(まあ、彼女の場合痛くする方が難しいだろうが)叩いた。
「長期休暇には、みんなぜったい帰って来るって」
北大路も頷く。
「いやだゆうても、しょっちゅう遊びにきたるからな。
メールもスパム登録せんかぎり、メモリの容量埋まるまで送り付けたる」
やめてくれ。
「それに」
綱は、歯を剥き出して笑った。
「絵麻ちゃん、きっとこれからも友達いっぱいできるぜ」
絵麻は自信なさげに首を振る。
「……これから、なんて」
これからなんて、彼女に有るかどうか判らない。
でも。
「できるさ」
俺も、断言した。
「お前が、自分から友達を作ろうとする限り、な」
絵麻は俯きながら呟く。
「どうやって作れば、いいのかな」
綱は笑いつつ、人混みの向こう側に向けて手を振った。
「こっちこっち、結――」
遠くの方で別のグループの輪にいたセミショート頭の少女が、一礼して輪から抜けると此方にやって来る。
結、綱の双子の相方である渡辺結は、俺達に軽く頭を下げて挨拶した後、綱にアイコンタクトで説明を求める。
言葉に不自由のある結に代わり、綱が彼女の肩に手を置いて喋り出した。
「結、隣の県の大学行くから。
偶にはこっちに遊びに行くっていてるし。
伊綾も、絵麻ちゃんも、今後とも変わらぬおつきあいをよろしくお願いするぜ」
「マジかよ」
これは一寸意外だった。
隣で絵麻も吃驚している。
結はにっこりと笑って、携帯電話を差し出した。
『私も春から友人が減って寂しいので。よろしくお願いしますね』
結と絵麻は手を握り合って、ぶんぶんと上下に振り回している。
何か、俺には計り知れない何らかの方法でコミュニケーションを取っているのだろうか。
唯一通訳者足り得る綱は2人の横で、嬉しそうに頷いている。
「んじゃ、明日ぐらいに、さっくりお別れ会っちゅーか、バーベキューとかやろうぜ。
みんな集めてさ」
「わたし、ええ場所しっとるで」
北大路が取り出したスマホに、絵麻と綱が群がる。
それを眺めながら、俺は結に小声で問いかけた。
「良かったのか」
結は、何が?と言いたげに首を一寸傾げた。
「兄貴に付いて行かなくて、平気なのか」
結は微笑んだまま、携帯液晶に文字を打ち込んだ。
『会いたい時は、会いに行けますから』
何と言うべきか。
俺は少女とも女とも言えない同級生を眺めた。
出会ったばかりの頃の彼女を覚えている。
自らのハンディキャップに怯え、兄に依存し切っていた。
人は、変わる。
結は、強くなった。
俺は、彼女の半分も成長出来たのだろうか。
「伊綾さん」
感慨に耽っていると、突然背後から名前を呼ばれる。
振り向いた先には見知らぬ下級生らしき、おかっぱ頭の女子。
何故か、俺の顔を見て吃驚した様子でいる。
「何か?」
「い、いえ。用事があるのは……」
「ひーちゃん」
後ろにいた絵麻から声が上がる。知り合いらしい。
「ごめん伊綾さん。ちょっと用事、いいかな?」
"ひーちゃん"は俺の方をちらりちらりと見ながら一礼し、絵麻と共に1年生らしき女子グループの方へと向かった。
2人の後姿を見送り、結は俺に笑いかける。
綱も同調する様に頷く。
「何だかんだ、絵麻ちゃんも上手くやれてるじゃん」
「判らんぞ。この後校舎裏に連れ込まれ、陰惨なリンチが待ち受けているのかもしれん」
幾ら何でも、その可能性はないとは知っていつつも。
「矢張り気になるな。
ハブられていないと言うだけで、虐められていないと言う事にはならん。
馬鹿にされていても、自覚すらしていない可能性もある」
結は溜息を吐いて携帯電話の液晶を示した。
『過保護です』
「ほんま、子煩悩やな。ヤスミンパパ」
「あんなデカいガキを持った心算はない」
俺は憮然と言い返した。
北大路は笑いながら言った。
「でも、相手があの子やったら、きっとええパパになれるやろ。ヤスミン」
「それはないな」
俺が父親になる事は、有り得ない。
思わず零した言葉に、北大路は意外そうな顔をする。
俺は誤魔化す言葉を探した。
「まあ、何だ。
式も子供も当分先だろうが、籍を入れたら一応連絡する」
「お、まさかの学生結婚」
「あいつが20歳になるまでお預けだがな」
形式上の親権者の許可を得ているとは言え、この歳で結婚は流石に無理がある。
せめて、俺が独立してからの方が良い。
「それまでせいぜい愛想尽かれんよう、がんばりや」
「言われる迄もない」
そこで、北大路は思い出した様に言った。
「いちおう、とはいえ、連絡くれるんやね」
「まあ、お前にも色々と世話になったからな」
と、何故か彼女は目を見開き、街中で珍獣を見掛た様な顔で俺の方を見た。
後ろを見ても、誰もいない。
「何だ?」
一転、北大路はにんまりと笑うと
「べっつに〜〜い?
ただ、ようやっとかって思っただけや」
そう行ったきり、鼻歌交じりに渡辺きょうだいの方へ向って行った。
訳が判らない。
「何だ?」
一人残され、考え込んでいると綱達の方から声が掛かった。
「おーい、伊綾――」
いつの間にか絵麻も合流している。
その手は、そこそこの値段がしそうな一眼レフカメラが。
「何だ、それは」
「カメラ」
見れば判る。
「卒業アルバム用に使うんだと。
卒業生の写真を集めんのだってさ」
と、綱が補足する。
それを聞いて、何を思ったか、北大路が挙手する。
「はいはーい。わたしカメラマンやりまーす。
撮るなら、あっちのベンチがええな。
おむすびと絵麻嬢すわり。渡辺兄貴とヤスミンそのうしろや」
何故か絵麻まで一緒に撮られる事になっている。
「聞いてなかったのか。卒業生の写真を撮るんだぞ」
結、携帯を素早く操作して表示。
『テーマは卒業生と在校生の思い出、ですから』
「そうそう。なんなら、渡辺家と伊綾家の合同写真会ってことで」
俺は思わず目を顰めた。
「俺も撮られるのか」
「とうぜんや」
北大路に向けて手を伸ばす。
「カメラを貸せ。俺が撮る」
「えー。わたしのどんな写真がほしいゆうんや。
ま、まさか脱げと。公衆の面前でッ! 変態! この変態ッ!」
くねくねと気持ち悪く身を捩る北大路から目を逸らした。
「よし、こいつは要らないな。
絵麻、渡辺とその妹、こっちに並べ」
結が苦笑しながらフォローに入る。
『折角だから、厚意に甘えましょう。
これが最後の機会かもしれませんし』
携帯の文字を見ながら、俺は逡巡した。
「ん――? 伊綾なんか撮られたくないとかあんの?」
「否……」
正直に言うと、写真は苦手だ。
その時は良い思い出に感じても、フィルムに焼き付けて後で見返した時、後悔や郷愁、虚しさしか残っていないような気がして。
「ヤスミ」
俺の心中を知ってか知らずか、絵麻が俺の袖を引っ張る。
何かに期待している時特有の、目の輝き。
絵麻も乗り気のようだ。
諦めるしかない。
半ば引きずられる様に、ベンチに座っている絵麻の後ろ、綱の隣に立たされる。
結が絵麻の隣に座り、4人が縦長構図に収まる格好になった。
気を取り直した北大路が、5メートルほど離れてカメラを縦に構える。
「じゃあ、撮るでー」
前列の女2人が頷く。
「いつでもOKだぜ」
「はーい。では…………チーズ!」
「古いだろ、それ」
呆れる俺を余所に、何回かシャッターを切る音が響く。
「よし、ご苦労さん。
もう動いてええで」
4人が北大路のもとに集まり、カメラの背面を覗き込む。
緊張気味な絵麻と結の営業スマイル、Vサインで笑う綱と俺の仏頂面が並んでいた。
「お、上手く撮れてるじゃん」
「ほんまや。わたしカメラマンの才能あるかも」
カメラの自動化の御陰だろ、と思ったのは黙って置く。
一頻り写り映えをチェックした後、北大路は俺にカメラを差し出した。
「じゃあ、ちょっとカメラ預かっといてくれへんか」
「? 今度はお前が撮られるんじゃないのか」
「そうやけど、せっかくやしムッキーとか友達も連れて来るわ」
そう言うなり、俺にカメラを渡し、教室の方に走って行く。
「まだ撮影会が続くのか……」
肩を落とす俺に向かって、結が携帯を示す。
『今のうちにデータ転送しちゃいましょう』
「あ、さっきの写真のデータか。俺も欲しい」
綱も自分の携帯を差し出した。
絵麻も慣れない機械操作に悪戦苦闘しながら、データ受け入れの準備にかかっている。
「判った」
カメラにwi-fiが付いていたので、そのまま3人の携帯にデータを送る。
暫くして、軽快な音と共にデータ送信が完了した。
携帯を大事そうに仕舞いながら、絵麻が口を開く。
「ヤスミ」
「何だよ」
「結さんに、綱さんも」
「ん――?」
渡辺2人の顔が此方に向く。
絵麻は恥ずかしそうに笑いつつ、言った。
「またみんなで、写真撮りたい」
暫く3人で顔を見合わせる。
そして、3様に応えた。
「仕方ないな」
「ろんのもちだぜ」
『ぜひ、お願いします』
それは何か月後、何年後になるかはわからないが。
「少なくとも、それまでは元気でいないといけないな」
俺の言葉に、絵麻は頷いた。
「うん、約束」
何時か、また4人で集まる時。
どんな未来になっているだろうか。
恐怖がなくなってはいない。
絵麻の命は相変わらず、数年毎に賽子の目次第で、消えてなくなる。
けれど、少なくとも。
此処にいる4人、健康なまま再会できる可能性はあり。
その可能性を楽しみにしている自分がいた。
「ああ、約束だ」
綱と結が笑いながら、無言で掌を差し出した。
意図を察した俺と絵麻も自分の手を伸ばす。
何だか恥ずかしいが、今日位は、まあ良いか。
絵麻の掌の熱を自分の手の甲に感じながら。
4人の掌が重なった。
投下、終了です
次回、最終回です。番外編入れない限り
本当に次回で終わるのか? ちゃんと風呂敷たためるのか? 唐突に夢オチとかギャグ回でお茶を濁したりしないだろうな?
……フフフ、やだなあ。大丈夫ですよきちんと終わらせますよ。たぶん、きっと、できれば
風呂敷については自信有りません
乙です。
最終回ですか…。展開楽しみにしております。
>>179 GJです!
これはいい関係ですわ。あと親友がいいやつらばかりでいいですねw
>>192 GJです!
最終回だと…?全裸待機の時間だな
ところで双子の話も終わりなんでしょうか?こっちもいろいろありそうでしたけど
>>192 お褒めいただきありがとうございます。
魅力的な子が多いので毎回楽しみにしております。
少しだけですがまたトリセツ話を書きましたので、投下させていただきます。
宣伝乙なのですが「なろう」にて個別保管場所を作りましたのでURLも貼らせていただきます。
この話の前身になる番外編なんかも置いておりますので、よければどうぞ。
ttp://xmypage.syosetu.com/x5022i/ 全部で5レスお借りします。
「茉莉……」
「ん、せっちゃん……」
日曜日のまだ日の明るい時間から、俺たちはお互いの名前を呼びながら唇を啄み合って
いた。唇から漏れる名前の間に吐息や、唾液が舌で運ばれる音が混じっているのが聞こえ
て更に興奮が高まっていく。
母さんが父さんと出掛ける予定のある今日を見計らって、茉莉を部屋に呼んだ。
いつもの2人での登校時間に「次の日曜日、親が遅くまで帰らないらしくて」なんて誘
い文句を放った瞬間に茉莉は顔を赤くして、首をコクコクと素早く縦に振った。きっと俺
の言いたい事を悟ったのだろうと思うと嬉しくなった。
「ん……」
名前を呼ぶ事を辞めた俺たちは唇を重ねたまま、隙間から挿し入れた舌を絡め合う。息
継ぎと共に漏れ出る鼻にかかった声がいやらしい。
お互い背中に腕を回して密着しているにも関わらず、まだ足りないと言わんばかりに身
体を擦り付け合う。茉莉の柔らかな胸が押し付けられるのを楽しみながら、俺はジーンズ
の下で膨らんでいる物を押し付けてみる。自らに当たる硬い違和感に気付いたらしく、茉
莉は身体全体でぴくりと反応した後も腰を押し付けて返してくれる。
なんだか今日の茉莉は積極的だ。それは俺の部屋に入った途端に抱き締めて来た事から
わかっていたが、それ以上だと思う。
ふと、ここ最近頻繁に見る、茉莉の淫らな姿の夢を思い出してしまって後悔する。
夢の中で茉莉は誰だか解らない男と行為を致していて、普段は言わない、しないような
言動行動を取る。俺はそれをビデオカメラ越しの映像の様に客観的に見ているだけ……。
目覚めた時に、朝の生理現象が起きてしまうのだが、あまりにも倒錯した夢の世界の出
来事に興奮してしまっているのかと考えてしまう。もちろん、俺には茉莉を取られたいだ
とか、他の男としている所を見たいだなんて欲求は無い。ただし、夢の中で茉莉が卑猥な
言葉をその小さな唇から放つ事に興奮している気はする。勿論、現段階で俺はそんな言葉
を教えた事が無いからあり得ない。あり得ない事だからこそ、興奮するのかも知れない。
「どう、したの?」
考え込んでいる俺を不審に思ったのか、茉莉が問いかける。いつもと同じ、いやらしい
言葉など言いそうに無い可憐な俺の彼女の表情に安心する。
「茉莉、愛してる」
「せっちゃ……わたしも、あいして、る」
頬や額、唇を啄み、舌を絡めながら愛を囁く。愛情は穏やかな感情だと聞くのに、どん
どんと気持ちは高ぶっていく。
白いブラウスを着ている茉莉の背中に右手を潜らせて下着のホックをずらす。身体の締
め付けが減って気が緩んだ茉莉の右手を導いて、俺の息子に触れさせる。硬い布地の上か
らではあるが、柔らかい掌の感触がわかる。
「せっちゃん、今日、すごい……」
顔を火照らせながら囁いた茉莉が腕を動かし、掌を擦り付けてくる。その手つきはさな
がら、電車で痴漢を働く悪漢の様にも思える。
「茉莉……それ、良い」
絶妙な力加減に思わず声が出る。それを見て茉莉は「そう?」と薄く笑んで擦り続ける。
「痛く、ない?」
「……ちょっと」
衣類の下から誇張する息子を気にした質問に答えると、茉莉はジーンズの前ボタンを外
して、器用にジッパーを下ろした。思い通りに直下しないジーンズを無理やりずらすと、
ボクサーパンツの前にある重なった布地を両脇に開いて俺の下半身を露呈させる。
「ねぇ……せっちゃん。すごく、硬いよ?……どうしたら良い?」
愛撫に続けて、茉莉は言葉でも積極的に迫ってくる。まるで俺が見た夢の様に。もちろ
ん、今この身に起きている感覚は事実の筈で、また夢を見ている訳では決してない。
どうして、突然この様な言い方、触り方が出来るようになったのか……。
「……んっ」
考え事をしている間に茉莉は足下に跪き、俺の息子を口唇でくわえ込んでいた。柔らか
く暖かな感覚にとろけそうになりながら、唇を窄め、頬を凹ませ、頭を前後に動かす事で
俺を喜ばせようとする茉莉の淫靡な表情に気を取り直す。
「茉莉……」
いつもと確実に様子の違う彼女の姿に疑惑を抱く。もしかして、俺の知らない間に変な
男に調教されているんじゃないか、と。
「ん……せっちゃん、大きくなったね」
息子の様子を唇で、舌で感じた茉莉が顔から離す。もはや茉莉の奉仕で興奮したのか、
茉莉が別の男にヤられている姿の妄想で興奮したのか、自分でもわからない。ただ、その
まま立ち上がった茉莉が俺の耳元で「せっちゃんの、ちょうだい……」と囁いた時点で俺
の理性は切れた。
○
「あっ、せっちゃ……いいっ」
茉莉をベッドに向かって押し倒して後ろから息子を挿入した。身に付けていた黒のスカ
ートは腰まで捲り上げ、初めて見る水色の下着は履かせたまま横にずらした。ゴムは、し
ていない。
いつもより荒々しく腰を動かしながら、茉莉の弱点を突くことは忘れない。
「茉莉、何が良いのか言ってみろよ」
きっと、俺の求めている答えを知っている。そう確信しながら問い掛ける。
「せ……せっちゃんの……」
「俺の?」
「お……ちん、ちん。きもちい……」
激しいピストンを受けて息を切らせながら、期待通りの言葉を返して来る。いや、厳密
に言えば少し惜しい。
「俺のちんぽ、好きなのか?」
言葉の違いでサイズの差を感じてしまうのはつまらないプライドだろうか。そんな事を
考えながら確認をする。
「せっ、ちゃんの、お、おちんぽっ、すきぃ」
肉の薄い茉莉の尻と俺の腰が当たって乾いた音が続いている中、俺と同じ方向に顔を向
けていて表情の見えない言葉が返ってくる。
堪えている様な情景に嗜虐心が沸き、濡れそぼって色の濃くなった水色の下着を捲って
尻の真ん中に指を当てる。
「せ、せっちゃんっ、そこ、だめっ」
もしかしたらもう開通しているかも知れない、まだ見ぬ道を進むべく両手の指で穴を左
右に開いていく。
「お、おしり、だめぇ……」
指を少し進ませると、ただでさえ狭い秘裂が更に締まっていく。どうやらここも茉莉の
「当たり」らしい。呻くような喘ぎ声を出しながら身体を震わせ、俺の息子を締め上げて
いく。
「今、生でやってんだぞ。そんなに締め付けたら中に出ちまう」
指と腰を止めずに、一応の確認をする。もちろん抜くつもりは無く、完全に俺は茉莉を
孕ませるつもりで行為に至っていた。
「あ……あんっ……いいっ、よ」
否、少しだけ拒否される事を期待していた。その方がまだ、清純な茉莉を感じられたか
も知れないし、そんな茉莉を汚す事で俺の嗜虐心も満たされただろう。
俺の前で四つん這いの姿勢で腰を振る彼女は依然として、顔を下に向けたままだった。
「ははっ、茉莉は淫乱な彼女だな」
表情が見えない事に腹を立てて、左手で茉莉の尻を叩いた。茉莉は少し顔を上げながら
「あぅ」という短い悲鳴を喘ぎ声に混ぜる。
「ごめっ、なさい」
こういう場面で謝られると火に油を注ぐ事になる。2度、3度と左手を茉莉の尻にぶつ
けるとその度に喘ぎ声が揺れる。
先ほどから続けている尻穴への攻撃も相俟ってか、依然として茉莉の秘裂は潤いを増し
ながら締め付けてくる。こうなったら快感に興奮しているのか、痛みに興奮しているのか
どうかわからないし、もしかしたらわざと俺に尻を打たせる様な態度をしているのかも知
れない。
「茉莉、もう出そうだ」
ラストスパートとばかりに、息子の先端を茉莉の奥へと擦り付けながらピストンを早め
ると、茉莉の声も早く、高くなる。
「あん! せっ、ちゃ……」
「ん?」
もう少し。もう少しで茉莉を孕ませられる。競り上がる快感を味わいながら、強引にさ
れても尚俺の名前を呼ぶ茉莉の声に耳を貸す。
「せっちゃんの、おちん……だいっ、すき!」
茉莉が顔を上げながら叫んだ。ようやく見えたその表情は、いつもの恥ずかしがり屋で
えっちな行為や言葉に耐性がなく、それでも伝えたいが為に話す時の紅潮した顔付きだっ
た。
それを見て俺は、瞬間的に茉莉の秘裂から息子を抜き出したが、黒いスカートを大きく
汚す様に精液を吐き出してしまった。……中にも少し、出てしまったかも知れない。
○ ○
「はぁ……はぁ……びっくり、した……」
整わない息のまま、茉莉が姿勢を崩して突っ伏した。その声には心なしか喜びの感情が
入っている様にも思える。
「大丈夫……か?」
「腰、抜けちゃった……」
彼女に乱暴をした罪悪感から心配をする俺に、茉莉は照れ笑いをしながら答えた。
「とりあえず拭くよ」
楽な姿勢を自由に取れる様に、これ以上汚さない様に、茉莉の衣類を脱がせると「あり
がと」とくすぐったそうに笑って俺を見た。
「やりすぎ、ちゃったね……」
「あぁ……」
悪意を咎められる子どもの「反省のポーズ」と捉えられかねないが、頭を垂れて茉莉の
目線に合わせる。
「ごめん、ね?」
ベッドに身を預けたまま、茉莉が謝罪を言葉にする。姿勢は横になった状態ではあるが、
茉莉の表情から「本当に申し訳ない」という感情が読み取れる。
「どうして茉莉が謝るんだよ。謝るのは俺だろう?」
「わたしが、せっちゃんを焚き付けたから……」
俺の反論はすぐに却下された。どうやら俺の理性が切れた原因は把握されているらしい。
「内緒にしてたんだけど……」
嫌だ。聞きたくない。嫌な予感しかしない。
以前の行為よりも上手くなったオーラルセックスも、躊躇いなく出て来る卑猥な言葉も、
きっとその理由を話されるのだろう。万が一、他の男に汚されたと言うなら俺はもう……。
「せっちゃんの部屋のDVD、見ちゃった」
照れ笑いである「えへ」という言葉が続いている中、俺の思考が止まる。
「は?」
「あの、ね? この前せっちゃんの部屋に来た時に、お母さんから隠し場所を……」
「はぁぁ?!」
一気に情報が入ってきて、理解出来なくなる。俺の部屋のDVD? もしかして「淫語
エッチ」とか「痴女モノ」のあれを? 母さんが知ってた? それを茉莉が見た?
「せっちゃん……?!」
余りの事に気が抜けて、その場に足から崩れ込んだ。茉莉が心配しているが身体はまだ
動かないらしく、精一杯伸ばした掌で俺の頭を撫でてくれた。
「せっちゃんの、強引なのも……きもちよかったよ?」
「避妊せずにっていうのは決して褒められた行為では無いんだが」
「大丈夫。無い方がきもちよかった」
「そういう問題じゃない!」
反論しながら、アフターピルの処方をしてくれる医者はどこにあるんだろう、と考える。
「せっちゃん」
「ん?」
「せっちゃんになら、何でも……してあげるからね?」
汗をかいた満面の笑みで放たれる言葉に、俺は安心した。勿論、いつもの純粋な茉莉を
感じた事と、俺だけの茉莉なのだという事の2つの意味で。
[了]
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
以上です。
GJです!
せっちゃんの青少年らしい早とちりが微笑ましいw
ファントム・ペイン、最終回になります
非エロです
――――――――――――――――
また、あえるよ
飛行場から足を踏み出すと、むわりとした湿気が俺を出迎えた。
地球温暖化のせいか、ヒートアイランドのせいか、それ以外の複雑な気候変動によるものか、年々暑くなっている気がする。
これで、まだ6月だ。
水蒸気に覆われた白い空を見上げ、少し憂鬱になった。
と、頬に冷たい感触を覚え、掌を掲げてみる。
疎らな水滴が、ぽつりぽつりと皮膚を濡らす。
一滴、薬指にはめた銀の指輪にかかる。
細かな傷がいくつも付いた金属の表面が、そこだけ鈍く光った。
*
彼女に初めて出逢ったのも、こんな雨の日だった。
*
バスに揺られ、ぼんやりと外の景色を眺める。
微かな雨霞に煙る故郷は、何処か非現実的で。
取り壊された古い商店、新しくできたコンビニ、耕地だった場所にそびえる立体駐車場。
見慣れているようでいて、些細な記憶との違いが、違和感として頭の中に張り付いて離れない。
ふと思い立って、俺は目的の停留所より随分手前で、降車ブザーを鳴らした。
料金を払い、運転手に礼を言って、バスを降りる。
かつて住み慣れた、住宅地にほど近い一角。
鞄の中の折り畳み傘は仕舞ったまま、周囲を見回しながら歩く。
雨粒が少しずつ頭と肩を濡らす。
そう、あの日も確か、こうして雨が降っていて。
行きつけのスーパーからの帰り道、大荷物に文句を垂れながら、夕飯の心配をしていた。
そして、あの角を曲がった所に。
「…………」
俺は誰もいない、雨に濡れる歩道を前に、立ち尽くす。
昔タバコ屋だった商店には、シャッターが下りていて。
俺の視線は、あの時から少しだけ高くなっていて。
勿論、彼女は、ここにいない。
俺は首を振って、再び歩き出す。
昔の面影を探しながら。
彼女と帰宅した道を、時には横に並んで、時には手を繋いで歩いた道を、辿りながら。
子供の頃遊んだ児童公園は、遊具が撤去され。
昆虫参集ができた雑木林は、住宅になっていて。
そして。
俺は、8年前まで住んでいたアパートを見上げる。
築数十年の武骨な灰色のプレハブ住宅は、瀟洒な高層マンションに置き換わっていた。
ガラス張りのエントランスはオートロックのようで、住民以外が入る事はできない。
「……ただいま」
俺は小さく呟いた。
勿論、誰も答えるものなどいない。
*
そのケアホームは、さらにバスを乗り継いだ先の町外れにあった。
あまり物々しくならないよう配慮しているのか、塀は生垣の中に隠れ、建物も窓が多くて開放的に見える。
守衛に予約した者であることを告げゲートをくぐり、受付で必要な書類に記入して、面会に指定されていた部屋に向かう。
広く明るいエントランス、綺麗に掃除された廊下、病院を思わせる消毒臭。
途中、何人か入所者とすれ違うが、小さく会釈しても反応は帰ってこない。
階段で3階まで上り、305号室とプレートの貼られた部屋の前に立ち、ドアをノックした。
どうぞ、と声がして、俺はノブを回す。
ベッドと机と小さな箪笥、最低限の物しかない小奇麗な部屋。
初老の男が、机に向かって折り紙を折っていた。
ウサギ、朝顔、亀、やっこ、手裏剣、連鶴、カメレオン。
赤、黄、緑、青、紫、市松、矢絣、七宝。
様々な色と模様。
男は折りかけの猫らしき動物から手を離し、俺の方を見上げた。
前会った時から、髪がまた薄くなり、皺も増えている。
「伊綾、靖士さんですね」
「え――と、どなただったかな?」
男は微笑んだまま首を傾げる。
何度聞いても、この言葉は慣れない。
俺は溜息を隠して、何でもない風を装った。
「伊綾、伊綾泰巳と言います」
「伊綾」
男はちょっと驚く。
「意外だね、僕も同じ苗字なんだ。珍しい名前だから、滅多にいないと思っていたよ」
「親戚なんですよ、あなたと。ご存じないかも知れませんが」
ああそれで、と、男は納得したように頷いた。
俺は座るよう促され、スプリングがきしんだパイプ椅子に腰かける。
「ところで」
男は、今更気になったように周囲を見回した。
「ここはどこだったっけ。なんで僕はこんなところにいるのかな」
「病院ですよ」
俺は、何度目になるか判らない嘘の説明をまた繰り返した。
「あなたは頭にちょっと怪我をして、入院しているんです。
記憶の混濁が見られるから、暫くは混乱するかもしれませんが、じきに落ち着きます」
「入院……」
男はその言葉で何かを思い出したのか何事か考え込んだ。
「美奈子さんが、妻も入院しているんです。
どうして今まで思い出さなかったんだろう。
子供が生まれるんですよ。
出産はまだ先のはずだけれど、大丈夫かな」
「大丈夫です」
俺は落ち着くよう男の肩を抑えた。
「あなたが入院して、まだ2日です。
奥さんにも連絡は行っていますし、体調も問題ないと伺っています」
「そうか、よかった……」
男はそれを聞いて安心したように笑った。
「きみは、それを知らせにわざわざ?」
「ええ、まあ、そんな所です」
俺は目を逸らした。
「でも不思議だな」
男は俺の様子に気付かないまま喋る。
「ちょっと前まで自分は子供だと思っていたのに、会社に入って、結婚して、次は子供ができる。
なんだか、あっという間だったよ。
三十路にもなって、こんな自覚がちゃんとできていない父親で、大丈夫なのかな」
「大丈夫ですよ」
俺は、男の目を見て、先ほど同じ言葉を言った。
「あなたは、きっと、いい父親になります」
そうさ、あんたは良い父親だ。
そうに決まっている。
だから、俺は自分のことを、もうこれ以上嫌いにはならないと決めているんだ。
男は、恥ずかしそうに頬を掻く。
「うーん。はじめて会う人にそんな事を言われると、なんだか恥ずかしいな」
と、突然その手を止め、俺を凝視して何事か考え込み始める。
「えーと……。きみは、誰だったかな」
俺は極力何でもない風を装って、何度目になるかわからない自己紹介をした。
「伊綾泰巳と言います。
あなたの親戚です」
「あ、うん。うん。
そうだった、かな? ごめん、どうも最近物忘れが激しいようなんだ」
「大丈夫です」
俺は何度"大丈夫"と言ったのだろうか。
ここに来ると、いつも、いつも、嘘をつくしかない自分に嫌気がさす。
「事故の影響で混乱しているだけです。
じきに良くなりますよ」
俺は、失礼、と言って、席を立った。
「あれ、もう帰るの?」
「ええ。奥さんの体調に問題がないことを、お伝えしたかっただけですから。
お騒がせして、すみません」
「いやいや。こっちこそ、なんのお構いもできなくて申し訳ないね」
俺は一礼してドアノブに手をかける。
「…………ありがとう、ございました」
「ん? ああ、うん」
戸惑うような声を背に、俺はドアを閉めた。
そのまま壁に寄りかかり、目頭を押さえる。
どうして伝えたい言葉は、口に出そうとした時には、いつも遅すぎるんだろう。
*
親父が脳卒中で倒れたのは3年前の事だ。
一時は意識不明で生存すら危ぶまれたが、何とか身体的には後遺症なく回復した。
精神的には、無事ではすまなかったが。
自分の30代以降の記憶をすべて失い、新しい記憶を一定期間維持することもできない。
コルサコフ症候群類似の重度健忘。
日常生活は不可能になり、以降ずっとケアホームに入所している。
彼の認識では、新婚の働き盛りだったはずなのに、目を覚ませば見知らぬ病室。自身は初老まで老けていて、周囲には見知らぬ人ばかり。
最初は記憶の不整合に混乱してばかりだったが、やがて矛盾を意識しないことに慣れていった。
物事を記憶することはできないはずなのに、こういうことは学習できるようだ。
それでも、俺の事を思い出すことはない。
いくら息子だと説明しても取り合って貰えず、その説明すら数分後には忘れてしまう。
良い面がないわけではない。
少なくとも、彼はもう、妻と死別することはないのだ。
いつまでも、恐らく最後まで、もうすぐ子供が生まれる人生の盛りにいるつもりで、ちょっとした休憩を続ける。
安らかな人生の黄昏。
けれど。
もう、誰からも何の言葉も届かない。
有難うと告げても、何の意味もなさない。
何の孝行も、してやれないのだ。
*
「…………そう」
一通り俺の近況を聞き終えて、小奇麗な格好の中年の女性は、温くなりつつある紅茶を喉に流した。
「大変だったのね、色々」
「いえ……」
俺は恩師に相槌を打ちながら、窓の外を眺めた。
中学と高校時代を過ごした母校。
卒業から10年余りたち、所々様変わりしている。
俺が在籍していた頃は男女別クラスだったが、今では完全に共学になったらしい。
「先生は最近いかがですか」
「制度が変わるたびに、忙しくなるばかり。
――――御免なさい、愚痴を言うつもりじゃないのよ」
「問題ないです」
同窓会を欠席した負い目もあるので、愚痴くらいは聞く義務があるだろう。
恩師は俺を見て目を細めた。
「それにしても、随分変わったわね、伊綾くん」
「そうですか?」
「ええ、落ち着いた、というか、丸くなったわ。
中学の時と比べると特に」
中学生の時分は……思い出したくない。
あの頃は本当にガキだった。
「大人になったのでしょうね。勿論いい意味で」
「だと良いですが」
その分、色々な物をなくしていった気がする。
俺は冷めきったコーヒーを飲み干して話を切り出した。
「で、先生。ご用件を伺っていなかったんですが」
「ああ、そうだったわね」
先日、できれば直接渡したいものがあると連絡をもらっただけだ。
恩師は脇に置いた紙袋から黒い筒を取り出した。
長さ30センチほどの細長い円筒形の入れ物。
"卒業証書"と文字が彫ってある。
「これは……」
「彼女の分よ。
結局卒業する前にあんなことになってしまったけれど。
中退でなく、正式に卒業扱いにすることが決まったから」
結局彼女は、卒業式に出る事はなかった。
だからなのか、俺の中で彼女は、いつまでも高校生のままで。
けれど、こうして卒業証書を前にすると、その高校生活がすでに終わっていることを思い知らされてしまう。
「有難うございます」
俺は受け取った証書を、持参した鞄の中に仕舞った。
「あいつも、きっと喜びます」
*
変わるものがある一方、変わらないものもある。
こいつは、本当に、変わらないものの代表例みたいなやつだった。
「おーい、伊綾。こっちこっち」
駅前の待ち合わせ場所に時間ピッタリ足を運ぶと、先に到着していた男が、俺を見るやぶんぶんと右手を振って俺に呼び掛ける。
ジーパンに珍妙なプリントがされたTシャツ姿。
左腕にギプスを巻いて吊り下げているのが目に付く。
「相変わらずだな、渡辺」
「おう、相変わらず元気してるぜ。
伊綾は――――ちょっとやせたか?」
目の前の男、渡辺綱は小学校から高校まで、同じ学校で同級生だった。
当時はそれなりに親しく、今でもこうして時折会うことがある。
「大した問題じゃない。それより……」
俺の視線に気付いた綱は、これ? と訊きながら左腕を持ち上げた。
「ま、立ち話もなんだし、どっか茶店でも寄るか。
伊綾、時間あるんだろ」
「まあ、構わんが……」
男二人で連れ立って、長居して駄弁るのにちょうど良い店を探す。
結局、コーヒーはまずいものの、安さと完全分煙に定評のあるチェーン店に落ち着く。
早速チョコレートパフェ(大)を注文しながら、綱は怪我の経緯を白状した。
「ブチハイエナに噛まれた」
何かの比喩なのだろうかと一瞬疑う。
「いやー。エチオピアでフィールドワークに熱中してたらうっかり襲い掛かられて。
人間襲うのは珍しいんだけど、そいつどうも悪い病気もってたみたいでな。変なよだれたらしてたし。
なんとかやっつけたはいいけど、それから1週間、原因不明の高熱にうなされるハメになった」
「やっつけたのかよ……」
綱は今では考古学者として、採掘や調査に世界各地を飛び回っているらしい。
どちらかと言うと地味で、根気のいる仕事のはずだが、機嫌よくこなしているようだ。
俺は薄いコーヒーをすすりながら、三途の川の向こう岸が見えたぜ、などと呑気に笑う綱を見やった。
最初見たときは変わっていない、と思ったが、高校時代より、身長は少し伸び、肌は日焼けして、体格も更にがっしりして見える。
一方の俺は、身長こそ僅かに伸びたかも知れないが、日がな研究室に籠りきりでは日焼けしそうもなく、肉も落ちた。
昔は目の前の男とこのもやし男が、取っ組み合いの喧嘩をしていたなどと、誰が信じられるだろうか。
「……お前は」
「うん?」
大盛りのパフェをひしひしとたいらげていた綱は、口の端にクリームを付けたまま顔を上げた。
「変わらないな」
「そっかなー?」
口を拭け、と言いたいのをこらえる。
「ああ、馬鹿な所とか」
「それ言うなら、伊綾も変わってねえじゃん。
口悪いとことか」
うっかり学生時代のノリで喋っていたことに気付く。
「TPOくらいわきまえるさ」
すまし顔でカップを傾ける俺を見て、綱は笑った。
「伊綾も、元気そうで安心したぜ。
絵麻ちゃんがいなくなった時とか、心配したんだけどさ」
「情けない姿をさらすようでは、合わせる顔がない」
「親父さんも元気か?」
「相変わらずだ」
訊き難い事でもさらっと聞いてくるあたり、こいつらしいと言うか。
「お前の方こそ、妹は元気か」
「おう、仕事の方も頑張っとるみたいだ。
この間はこの怪我の件でめっちゃ叱られたし、元気も有り余っとるよ。
こないだ実家帰った時なんてさ――――」
ああ、本当に、10年前もこんな奴だったな、などと思いながら。
つきもせぬ長話を聞き流しつつ、俺は冷め切ったコーヒーを喉に流し込んだ。
*
ふと窓の外を見ると、辺りは暗くなりかけていた。
随分と話し込んでいたことになる。
俺はレシートを持って席を立った。
「さて、俺はそろそろ帰らせてもらう」
「あれ? 伊綾予定あんの?」
「荷物の受け取りがある。
明日からは仕事の引継ぎと、"解凍"の確認」
「あ、いよいよか」
スプーンを咥えたまま、綱は腕組みして感慨深そうに呟いた。
「頑張れよ。
俺らも手伝えることはやってやるから」
「お前は、いつ位までこっちに滞在する予定なんだ?」
「だいたい1か月くらいかなあ。
あと、結もしばらくは急な休みも取れそうだってさ。
"解凍"には間に合う予定」
頭の中でカレンダーを確認する。
日程は流動的で、1か月では間に合わない可能性がある。
「無理して付き合う必要はないぞ」
「俺らにとっても大事なことだ」
社会人にもなって、個人的な事に巻き込むのに抵抗はあったが、その言葉は素直にありがたかった。
「まあ、予定が決まり次第連絡する」
「頼むわ」
勘定を済ませ、店を出る。
雨はまだ降り続いていた。
*
天気はなかなか戻らず、長梅雨の様相を呈していた。
本格的に降ることは滅多になく、ぐずぐずと落ち着かない空模様が続く。
久しぶりの休日に訪れた霊園は、天気のせいか閑散としていた。
伊綾家代々之墓、と彫られた、幾分小さめの墓石に傘を差し掛ける。
訪れる人がいなくなってずいぶん経つその墓所は、管理も行き届いていないのか、随分と汚れていた。
小雨に濡れながらも、黙々と掃除していく。
一通り清掃を終え、雨で消えないかひやひやしながら線香に火をともして合掌し、しばし黙祷。
「何と言うか」
自然と、墓の向こうの誰かに語り掛けていた。
「悪いな、なかなか来れなくて」
墓石は黙りこくったまま、何も答えない。当たり前だ。
「親父は、相変わらずだ。
でも、機嫌よく毎日を過ごしている。
心配いらない。
俺も元気でやっているよ」
元気ではある。けれど。
「……一人は、いつまで経っても慣れないよ」
突然、胸ポケットに振動を感じる。
俺は携帯端末を取り出して、かけてきた相手を確認する。
そのまま通話ボタンをONに。
「もしもし…………何?」
俺は思わず傘を取り落した。
動悸が激しい。
深呼吸して何とか冷静を保つ。
「判った。すぐそっちに向かう」
俺は通話を切ると、急いで借りてきた掃除道具を取りまとめた。
最後に、墓の方に振り向いて一礼する。
「せわしなくて悪いな。
また来るよ。
今度は、きっと――――――」
俺は駆け足で霊園を後にした。
*
バスを待つのももどかしく、タクシーを捕まえたは良いものの、渋滞に巻き込まれ、途中下車して徒歩で目的地に急ぐ。
目的地に着くころには、シャツは雨と汗でぐっしょりと濡れていた。
某総合医科学研究所、と書かれた門をくぐり、実験棟に入る。
パスを見せ関係者以外立ち入り禁止のゲートを通り、エレベータで地下3階に。
「伊綾!」
複雑な廊下を進んでいくと、数週間前に顔を合わせたばかりの綱に呼び止められた。
その隣で、久しぶりに見る穏やかな風貌の女がこちらに向けて会釈している。
兄と同様、外見は殆ど変っていないため、直ぐに誰かわかった。
「すまない……おそく、なって……」
俺は彼らのもとにたどり着くと、膝に手を当てて荒い呼吸を落ち着かせる。
と、頭に綺麗なタオルが被せられた。
「大丈夫だから、まずは頭拭けよ」
俺は礼を言って、大分乱れてしまった身だしなみを整えた。
「預かります」
聞きなれない声にびっくりする。
綱の隣にいる女、彼の妹の結は、構音障害を負っていたはずだ。
ブラウスの胸ポケットにごく小さなマイクが見える。
そこから声を出しているようだ。
俺は戸惑いながらもタオルを彼女に返す。今気にするべきことはそこじゃない。
「経過を説明するな」
綱がA4位の紙の束を手に喋り出す。
「2日前マイクロマシン治療が大方終わったのは知ってるだろ」
当然だ。
仕事先の研究所に無理を言って、色々な規制をゴリ押しし、研究途上だった医療用マイクロマシンの臨床試験を押し通したのだ。
彼女の体内に巣食うウィルスを駆除するには、それしかなかった。
実用化を待つ間、ウィルスの助けを借りつつ、常人では不可能な"冬眠"、仮死状態でとどめておく。
危険な賭けではあったが、ウィルスのせいでがんを発症するリスクよりは大分歩が良かった。
9年前、彼女は周囲と話し合って、賭けに乗った。
「本来1週間かけてゆっくり"解凍"していく予定だったんだけど。
5時間前、突然被験者の心拍を確認。
再度冬眠させるのはリスクが高いと判断して、"解凍"を前倒しで行うことが決定。
体温摂氏10度の状態から、徐々に全身の加温を開始。
予想以上に速く代謝が進んで、4時間20分後30.0プラスマイナス1度まで上昇。
自力で呼吸を開始したため、一般病室に移して現在まで回復を観察中。
ついさっき意識が戻ったそうだ」
意識が、戻った。
俺は安心のあまり、その場に倒れ込みかける。
とっさに、結が後ろに回って支えてくれた。
「っつーわけだから」
綱は書類から目を離すと、一歩横にずれて道を作った。
そっと背中を押される感覚。
「行ってこい!
やっぱり面会者第一号はダンナさまじゃないとさ」
にっと笑いながら、綱が俺の背中を叩く。
「きっと、彼女も貴方を待っています」
後ろの結も、微笑んで頷いて見せた。
「お前ら……」
俺は言うべき言葉が見つからなかった。
本当に、何から何まで、世話になりっぱなしだ。
「ありがとう」
俺は一礼して、彼女のいる病室へと向かった。
*
真っ白な部屋だった。
ベッドと、計器と、電話くらいしかない。
リノウム張りの床は綺麗に磨かれている。
鼻をつく薬品の匂い。
明るい照明が目に痛い。
ベッドの上には、彼女がいた。
一時期長かった髪をショートボブまでざっくりと切り、白い検査衣を身に着けて。
飾り気と言えば左手の薬指にはめた銀の指輪くらい。
最後に見た時と寸分違わない姿で。
「絵麻」
彼女に歩き寄る。
一歩ずつ、近付いて行く。
「エマ」
彼女が振り向く。
黒目がちな瞳が、俺を映す。
「えま」
最初に、何を言うべきか、ずっと考えていた。
でも、何一つ言葉にならない。
俺は馬鹿みたいに繰り返し彼女の名を呼びながら、ベッドの傍までたどり着いた。
痩せこけた躯、青白い血色、弱弱しい呼吸。
でも、生きている。生きて俺の目の前にいる。
彼女は、上体を起こして、微かに笑った。
「やすみ」
掠れた声。
次の瞬間、俺は彼女に覆いかぶさっていた。
まだ体温の戻りきらない、儚いいぬくもり。
でも、微かな鼓動は、彼女が生きている確かな証拠だった。
小さな頭をかき抱く。
彼女の顔をもっとよく見たかったが、どうせ目はぐずぐずに濡れていて、使い物にならない。
「馬鹿。一体どれだけ待たせる気だ」
やっと出てきたのは、そんな言葉。
「お前が寝ている間に、俺はこんなおっさんになっちまったぞ」
胸の中で彼女が首を振る感覚。
「……かっこよく、なったよ」
「んなわけ、あるか」
かつて、彼女と共に過ごした日々が。
彼女がいなくなってから起きた様々な事が、胸中を渦巻いていた。
ゆっくりと、時間をかけて、少し落ち着いてから体を離す。
宝石の様な瞳が、目の前にあった。
彼女が口を開く。
「ヤスミの話、ききたい」
聞かせて、なにがあった?
一つ一つ、離れ離れになっていた9年間を、言葉で埋めていきたい。
また、いっしょに歩くために。
「ああ、いろいろ、あったんだ。
本当に、いろいろ」
さて、何から話そうか。
話したい事は幾らでもあった。
これから一緒にやりたいことも、沢山あった。
同時に、なさなければならない事も沢山あった。
どうにもならない事は山積みだった。
けれど、まずはこの言葉で始めよう。
本当は、最初に言っておくべきだった言葉を。
「おかえり、絵麻」
「ただいま、ヤスミ」
投下終了です。
こんな長ったらしい上にエロも薄い作品にお付き合いくださり、ありがとうございました。
以下のアップローダにあとがきにすらなっていないチラシの裏書きを投げておきましたので、気が向かれた方は読んでやってください。
http://kie.nu/1-Ym
乙です!
今まで毎話楽しく読ませていただきました
ありがとうございました
お疲れ様です。
最後に目が潤んでしまいました。
良いお話を読ませていただきありがとうございました。
完結おめでとうございます!
長い間楽しませていただきました。
双子のお話もいつかまた読みたいです。
それにしてもヤスミくんずいぶん丸くなっちゃって……エマちゃんはいつもあざとかわいくて素敵でした。
二人の未来に幸あれ、です。おつかれさまでした。