おにゃのこ改造 BYアダルト20

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90名もなき改造人間たち2・姉弟(1)
 その日の夕暮れ、僕は姉と二人でひと気のない裏道を歩いていた。
僕は姉にバイト先での愚痴をぶつけ、姉はそれをうんうんと聞いていた。
社会人である姉からすれば、七歳も年下の高校生などまだまだ子供だ。
僕もそれは承知の上で、姉に甘えているのだった。
 そんなとき、なんの前触れもなく、姉の背後から奇怪なロボットが
襲いかかった。ムカデに似たロボットは、何十もの金属の細い腕で
姉の手足を拘束すると、そのまま宙に浮かび始めた。
 飛び去ろうとするロボットに僕は必死でしがみつき、引き留めようと
した。だがロボットはそんな僕をぶら下げたまま、上昇を続けた。
 上昇と同時に、姉の手足を拘束している金属の腕がブウンと低い
うなりを発し始めた。そのうなりと共に、姉の着衣がすべてもわもわした
糸くずのかたまりに姿を変え、風圧で舞い散った。僕は、すぐ目の前の
大きな乳房から目を逸らしつつ、地上の人からどうにかして姉の裸身を
隠してあげられないかと身をよじった。だが、すでに僕自身がロボットの
別の腕に拘束されており、身動きがとれなかった。
 ロボットは容赦なく高度を上げた。やがて地上の建造物がぼんやりと
かすむほどにまで達した頃、目まいに似た感覚と共に、巨大な空飛ぶ
円盤が忽然と姿を現し、僕たちを収容した。
 中には、同様に誘拐されたらしい全裸の男女が、ムカデ型ロボットに
拘束されて並んでいた。そして僕も中にいた別のロボットに捕らわれ、
「全裸の男女」の仲間入りをした。
 蒼白になり、涙ぐむ姉を、僕は思いつく限りの言葉を尽くして慰め
ようとした。
「大丈夫だよ、姉貴。これって多分、宇宙人にアブダクトされちゃった、
ってことだと思う。で、こういうのは普通、ちゃっちゃっと身体検査を
されたら、後は何ごともなかったように家に帰してもらえるみたいだよ。
だからさ、ちょっとの我慢だよ」
 姉は僕の方を向き、ぎこちない笑みを作った。
「……きっとそうだね。ありがと」
 姉は僕のいいかげんな言葉を真に受けたというより、僕の気遣いに
応えねば、と姉らしく気を張った様子だった。姉の負担をかえって
増やしてしまったような気がして、僕は複雑だった。
 倉庫のような円盤内部には、その後もしばらく、捕らわれた男女が
収納されてきた。年齢的には二十代から三十代が多いようだったが、
もっと上やもっと下の年代も混じっていた。但し男女比は、ほぼ一対一
のように見えた。
 僕のもう一方の横にいたのは姉よりも少し下、二十歳前後のほっそり
とした女性だった。正面には、多分三十ぐらいの、濃いメイクをした
女性がいた。
 姉の裸身も含め、成人女性の裸というものを見るのは初めてだった。
だが、黒々とした恥毛を覗かせ、乳房を歪められながら、無骨な多足
ロボットに絡め取られ、無造作に並ばせられている姿は、何の
エロチックな思いも掻き立ててはくれず、むしろ、ひたすらにおぞましく
不気味な印象ばかり呼び起こした。今後への不安や恐怖も手伝い、
僕のペニスは完全に萎縮していた。ただ、そんな中、姉の裸身が、
モデルやグラビアアイドルに負けない抜群のスタイルで際だっていた
ことは、僕をちょっとだけ得意にさせた。
 収容された男女でフロアがほぼ埋め尽くされると、円盤は低いうなり
を上げて加速を始めた。かなり長い時間加速は続き、やがてキインと
いう音とめまいが僕らを襲った。ワープやら超空間航法やらいう
SF的航法が始まったのだろう、と僕は推測した。
 長い航行の果て、円盤は停止した。がつんという音は、母星のドック
か、あるいは母艦か何かにドッキングした音だろう。
 やがて天井のハッチが開くと、そこには異様な光景が広がっていた。
天井の反対側に床があり、そこにも男女がずらりと並んでいたのだ。
しかも、しきりも何もないだだっ広い空間であるにもかかわらず、
その中の相当数が公然と性行為にふけっていた。そうでない人々は、
どんよりとしたうつろな目で、新たに到着した僕らをじっと見ている。
91名もなき改造人間たち2・姉弟(2/26):2012/04/05(木) 20:14:11.57 ID:1KHXpAvl
 一体、この人々はどれほど長い間ここに囚われているのか。そして
一体、どんな経験が、人々をあんな自暴自棄な行為へと走らせ、その目
をこんなに濁らせてしまうのか。そして、僕たち自身、やがて
ああなってしまうというのか……
「姉貴ぃ!」
 ショッキングな光景と不吉な運命から目をそむけようと、僕は姉の
方を向き、涙をにじませながら、すがるように呼びかけた。
 姉は、捕らわれた直後の狼狽が嘘だったように、きりっとした顔で
僕を見つめ返し、言った。
「大丈夫。わたしたちは、きっと大丈夫だから!」
 姉のその言葉は僕に勇気を吹き込んでくれた。僕たちを捕らえた
宇宙人がどんなに危険で狡猾なやつらだったとしても、負けてたまる
ものか――そんな決意を僕は固めた。

 ムカデ型ロボットは僕らをあの巨大な広間へと順繰りに搬送して
いった。そうして僕らを床に一列に並べ、床から伸びている柔らかい
チューブを肛門に差し込み、やはり床に固定されているゴム状の
足かせを足首に装着した。足かせの長さは、隣の隣までどうにか移動
できる程度。それだけの自由しか僕らには与えられないということだ。
 肛門チューブも、足かせも、装着されるや皮膚と一体化し、自分の
肉を引きはがす覚悟がなければ外せそうになかった。そして、柔軟
そうな材質でありながら、人間の手で引きちぎれそうな見込みも
なかった。
 こうして、僕らの、先の見えない虜囚生活が始まった。すぐに帰れる
見込みなどありそうになく、そもそも地球に返してもらえるのかどうか
すら、明るい展望はもてなかった。
 食事は一切出てくる様子がなく、どうも肛門から栄養補給がなされて
いるらしい。排便はチューブが吸い取るが、排尿は床に垂れ流しだ。
樹脂製の床は尿をすっかり吸収するが、何となく臭いが染みついている
気がする。しかしその同じ床で、布団も枕もなしで眠らなければ
ならないのだ。
 左隣には姉が、右隣には円盤でも隣だった十九歳の女性がいた。
彼女は短大生で、学校の屋上で物思いにふけっているところを捕まって
しまったといっていた。姉の左隣には大学生らしい男女のカップル、
短大生さんの右隣には三十代ほどの夫婦がいて、それぞれ互いに慰め
合い、励まし合っていた。だから自然の成り行きとして、姉、僕、
短大生さんの三人が会話し合う仲になっていった。
 僕たちは膝を立てて互いの裸身を隠し、また極力互いの裸身を見ない
ようにしながら、暗い現実を逃れるように、音楽の話やらテレビの話
やらゲームの話やら、深刻にならなそうな話題を選んで語り合った。
話す内、僕と短大生さんとは色々と趣味が近いことが分かってきて、
二人のおしゃべりを姉が見守るような関係に落ち着きそうだった。
 僕らはそうやって、異常な環境の中で日常めいたものを取り繕おうと
していたのだと思う。だが、現実の僕らは、壁一つない広間で排尿をし、
眠くなれば肌をあらわにしてその場に横になる、というみじめな生活を
続けている。そんな行為の一つ一つが、僕らの感覚を鈍磨させ、僕らを
人間から獣へ近づけている。そんな不安を、僕も、横の二人も、多分
他の人々も、漠然と感じ始めていた。

 そういう風に、僕らがこの生活への順応を強いられ始めた頃、遂に、
ロボットでも、人間でもない存在、つまりはこの母艦を動かしている
宇宙人に違いない生物が、僕らの前に姿を現した。
 宇宙人はおおまかな体型や顔の造作は地球人に似ていたが、部分部分
の造りは地球人とはかけ離れており、また男と女、ないしオスとメス
とで、大きく姿が違っていた。
92名もなき改造人間たち2・姉弟(3/26):2012/04/05(木) 20:14:48.10 ID:1KHXpAvl
 男性の宇宙人は真っ黒な、粘液でぬめぬめとしている皮膚をもち、
体毛は一切なく、昆虫のような触角と、瞳のない赤一色の目をしていた。
何一つ衣類をまとわず、股間の、生殖器とおぼしき渦巻き状の器官を
恥ずかしげもなくさらしていた。
 女性の宇宙人は濃い青色の、やはりぬめぬめとした粘液にまみれた
皮膚をしており、紫の髪の毛以外に体毛はない。男性宇宙人と同じく、
瞳のない真っ赤な目と、額に生える太い触角がある以外、顔の造作は
人間に似ている。だがそれだけに緑色の唇が異様だ。やはり何の衣類も
まとわず、乳房には黒と黄色の同心円模様、その中心から真っ赤な
乳首を突出させ、股間からはイカの漏斗のような、まん丸い、
見るからに猥褻な器官を覗かせている。

 宇宙人は、外見以上に、その行動が異様で非人間的だった。武器の
ようなものを携えて、虜囚たちを監視し、反逆的な人間を処罰するのが
彼らの目的らしく、それだけでも十分に恐ろしいのだが、その処罰の
原理が、人間の常識や論理からひどくかけ離れていたのだ。
 最初に目にした恐ろしい光景は、僕たちがここに放り込まれて二日目、
皆が寝静まった頃のことだった。姉の何人か向こう側のあたりで、
女性の金切り声が聞こえた。起きあがってそちらを見た僕は諦めに近い
絶望感を感じた。僕たちと同じ円盤に乗せられていた男性が、隣に
寝ていた女性を犯そうとしているのだ。
 実は、この種の蛮行に近い行為は、僕らよりも前に捕らわれていた
人々の間では、すでに常習的に行われていた。どう見ても喜んでいる
とは思えない女性に男性が強引にのしかかるような光景が、あちこちで
見られていたのだ。だが、その種のことは、少なくとも今までのところ、
僕らと同じ円盤にいた人々の間では生じていなかった。僕らは暗黙裏に、
その一線は越えるまいと互いに抑制し合っているような部分があった。
だが、衝動を抑えきれない人物が、その不文律をとうとう破ったのだ。
 悲鳴が響くのとほぼ同時に、女の宇宙人が現れた。僕らはまず、
その異様で、また何とも言えない猥褻な印象を与える外見にぞっとした。
だが、真に戦慄すべきことはその直後に生じた。
 襲われかけている女性は勇敢にも、暴漢に必死の抵抗を試みていた。
だが、宇宙人の女は、防御に回っている暴漢には目もくれず、勇敢な
女性の方を、火器のようなもので焼き殺したのである。
 理不尽極まりない処刑を終えた宇宙人は抑揚のない発音で言った。
「他者ニ危害ヲ与エる分子ハ処分すル。注意スルこトだ」
 暴漢はたしかにひるんでいたが、おとがめなしだった。それどころか、
暴漢は宇宙人が去ると、反対側の女性の耳元に何かをささやいた。
女性は青ざめたまま身動きをしなくなった。そして暴漢はその女性の
上にまたがり、己の身勝手な性欲を満たし始めた。宇宙人が駆けつける
ことはなかった。

 ショッキングな出来事と、宇宙人の裁きのルールのようなものが
知れ渡った朝、僕たちの集団の中で、溜まっていた汚物を吐き出すが
如くに、自暴自棄な性の饗宴に火がつき、強姦に等しい性行為や乱交の類
があちこちで始まった。姉の横のカップルも、短大生さんの横の夫婦も、
貪るように性の交わりを始めた。それは、暴漢からパートナーを守る
ための行為であったかもしれず、苦難の中、互いの愛を確かめ合う行為
であったのかもしれない。だがまたそれは、現実逃避の手段でもあり、
明日をもしれぬ状況で快楽を味わい尽くしたいという欲望に発する行為
であったのかもしれない。
93名もなき改造人間たち2・姉弟(4/26):2012/04/05(木) 20:15:33.96 ID:1KHXpAvl
 とはいえ、告白すれば、これらはすべて僕の想像でしかない。この
ときの僕にとって、性行為とはまったく未知の領域だった。これまで
現実にそれをやっている場面など見たことはないし、まして当事者として
体験したこともない。だから、実を言えば僕は、こうして冷静を装い、
あれこれ推測してみたりもしたとはいえ、間近で繰り広げられる生々しい
シーンの連続で極度に興奮し、肉体の一部が固くそそり立つのを抑え
られない状態にあった。姉の横には、あくなき性欲で淫らな声を上げ
続けるカップルがいて、短大生さんの横には、ねっとりとした交わりを
延々と続ける夫婦がいて、どちらの隣人に向かって話をしても、
その背後の光景が目に入ってしまうのだ。
 それでも僕は、そしらぬふりで膝を抱えて局部の異変を隠し、昨日と
同じように二人との会話を再開しようとした。姉も短大生さんも僕の
そんな思いを受け止め、周囲の狂態を見て見ぬふりをしながら、会話に
つきあってくれた。図らずも、両側の夫婦とカップルはそれぞれ、
姉と短大生さんを強姦魔からさえぎる防波堤になってくれていて、
僕らは穏やかな状態で会話を続けることができた。
 だが、やはり昨日までとは違ってしまっていた。周囲の状況は、
僕らが裸のままでいることを、そして、僕らの下半身の器官が
どうやって使われるのかということを、いやというほど僕らに思い
知らせてくるのである。
 話しながら僕は、いつの間にかに短大生さんの胸や下半身に目をやり、
冷静に話そうとしながらも、ハアハア荒立つ息を制御できなかった。
ごめんなさい、ちょっと尿意をもよおしました、と言って膝を開くと、
その間から、いっこうにおさまらない勃起したペニスが姿を現した。
もちろん二人は顔をそむけてくれたが、僕のその部分が尋常ではない
状態にあることは、尿の音から明らかだった。さらに僕は、二人が
よそを向いてくれている機会に乗じ、粘液でべとべとの亀頭を指で
数回なでた。それだけの刺激で、ほぼ臨界に達していたその器官から
ブシュッと精液が吹き出した。飛び散った液体の水分だけは床の樹脂に
吸収されたが、吸収され切らなかった蛋白質が、青臭い臭気を漂わせた。
 気まずい雰囲気を紛らわそうと、僕はまた膝を抱え、自分から
二人に声をかけた。
「……あのう、おしっこ、終わりました。もうこっちを向いてくれて
大丈夫です」
 年上の女性二人は、どこか気の毒そうな顔で僕に顔を向けた。しかし
それでも、ようやく興奮を鎮火させた僕は、昨日までの呼吸を取り戻し、
眠るまでの時間、横の二人と、ゲームやら小説やらインターネットやら
の話を交わし合うことができた。

 やがて「就寝時間」と呼ばれている時間帯に入り、僕たちは互いに
おやすみなさいを言って横になった。
 昨夜まで姉は、就寝時間になると、まるで子供時代に戻ったように、
こちら側に顔を向け、僕の手を握って眠りに入っていた。それは僕に
とっても、姉にとっても、不安を和らげ、姉弟のきずなを確かめ合える、
心地よいひとときだった。
 だが今夜、姉は、おやすみなさいと言うや寝返りを打ち、僕に背中を
向けて寝始めた。
94名もなき改造人間たち2・姉弟(5/26):2012/04/05(木) 20:16:04.88 ID:1KHXpAvl
 僕も、あおむけに寝ることには躊躇があった。あおむけに寝ると、
あの後一瞬萎えただけで、またすぐにそそり立ち、一向に収まる気配が
ないペニスが、あからさまに天を向いてしまうのだ。
 もちろん、短大生さん側を向いて寝るわけにはいかない。そちらを
向けば彼女の乳房や恥部をまともに見ることになってしまう。
 だから僕は姉に倣い、左側に体を向け、眠りに就こうとした。
 だが、僕の目に入ってきたのは、絶妙にくびれた姉のウェストと、
ふくよかなお尻だった。鮮烈な映像は、僕のペニスをさらに硬く怒張
させた。目を閉じればいいのは明らかなのだが、僕の意志とは裏腹に、
僕の目はぎらぎらと姉の臀部と、その奥にちらちらと見える女性器を
凝視し始めた。
 僕は逡巡していた。ここで情欲のおもむくまま、手を自分のペニスに
当て、刺激を加えれば、その先にめくるめく快楽が訪れることは間違い
ない。いや、それどころか、もっともっと直接的で刺激的な欲求充足の
方法だってある。姉の肉体にむしゃぶりつき、姉の性器にいきり立った
器官を押し当て、刺し貫けばいいのだ。そうやってそれを、思う存分
入れたり出したりしたら、どんなにか気持ちがいいだろう!
 ……だが、それだけは決して採ってはならない選択だった。それを
してしまったが最後、僕はケダモノになってしまう。一度犯して
しまった行為は二度と取り消せない。そして多分僕は、その罪を二度
三度と繰り返し犯してしまう。しかしそんなことを、他でもない姉が
喜ぶはずがない。
 そこまで考えた僕は、改めて先ほどの考えに立ち戻った。
 ……それに比べれば、その行為を想像し、自分を慰めるぐらいなら、
罪はずっと軽いんじゃないだろうか。幸い、今の体勢なら、姉も、
たぶん短大生さんも、僕の行為に気付かない。
 もちろん、姉の尻を「おかず」にオナニーをするのは変態のする
ことだ。だが、そこに本物のペニスをぶち込む行為に比べれば、
その罪は百万倍軽い。
 そう自分に言い訳し、そろりそろりと手をペニスに運ぼうとしたとき、
僕は背中に二つの固い突起が当てられるのを感じた。固い突起に続き、
幾分小振りの柔らかく温かい半球が二つ、背中にぎゅっと押し当てられた。
同時に、真っ白な妖精のような腕が、僕の首の両側から差し入れられ、
僕の胸をそっと撫でた。そして耳元に、熱い息と共に、僕にしか聞こえ
ない、密やかなメッセージが響いた。
「(ねえ、したいなら、あたしとしてもいいんだよ!)」
 背筋に電撃が走った。僕の背後で短大生さんは、僕の逡巡と姉への
道ならぬ情欲とを、すべて見透かしていたらしい。そして僕が道を
踏み外すのを身をもって食い止めようとしてくれている。そう思えた。
 僕は姉に聞こえないように、やはり小さな声で返事をした。
「(……だ、大丈夫です! ちゃんと我慢できます。……我慢
します!)」
 短大生さんはなぜか苛立たしげな声で答えた。
「(あたしじゃ、いやなの?)」
 短大生さんはなおも僕を誘う。これは、僕が道ならぬ行為に走ること
を防ぐとか、そういうことではないのかもしれない、と僕は思い始めた。
 僕があふれ出す性欲をもてあましていることは、姉にも短大生さん
にも知られている。こんな僕の状態がさらに続けば、僕は正気を失い、
短大生さんを襲ってしまうかもしれない。そうなると、あの昆虫の
ような宇宙人が、僕か、短大生さんか、あるいはその両方を処刑しに
来るかもしれない。短大生さんはそんな最悪の事態を防ぐために、
わが身を、僕のケダモノじみた情欲の犠牲に捧げようとしているの
ではないだろうか。
 そう考えた僕は、短大生さんに言った。
「(あなたはきっと、僕があなたを襲い、その結果僕らが「処刑」
されてしまうのを避けようとして、そんなことを言い出したんでしょう? 
でも、もう少し僕を信頼して下さい。僕は……)」
95名もなき改造人間たち2・姉弟(6/26):2012/04/05(木) 20:16:31.87 ID:1KHXpAvl
 そのとたん、無声音でありながら、脳天を揺るがすような、激しい
返答が投げ返されてきた。
「(馬鹿っ! キミ、自分が何を言ってるか分かってる? 一人の女に、
とてつもない恥をかかせているのよ!? あたしは、あなたに抱いて
欲しいと言ってるの! あなたが好きなのよ。それを、あなたは何? 
あたしを、命惜しさに自分の体を差し出す売女扱いして!)」
 相手を思いやって発した言葉が、相手を侮辱する言葉になってしまう
ことがあるのだ、ということを、僕はそのとき思い知った。同時に、
これでこの女性と肉体的に結ばれる機会は失われたのだな、と
自嘲気味に思った。
 だが、短大生さんは予想外の言動をとった。
「(ねえ、わかって! あたし、女として、あなたが好きになっ
ちゃったの。あなたに抱いて欲しいって、本心から思ってるの。
……ほら、わかる?)」
 そう言いながら短大生さんは僕の手をとると、それをいきなり彼女の
局部に押し当てた。指の感触は、彼女のその部位を中心に、太もも全体
までぬるぬるの粘液がしみ出していることを告げていた。
 慌てて手をひっこめ、うろたえながら僕は、「その行為」に至るため
にはまだ確かめねばならないことがあると感じ、短大生さんに返事をした。
「(……あ、あの、今現在付き合っている人とか、いるんでしょうか? 
もしもいるのなら、僕にはそんなこと、できません!)」
 短大生さんは不意をつかれたような様子で、しばらく沈黙していたが、
やがて口を開いた。
「(ふふ。礼儀正しいのね。でもその問いは意味がない。ここに
連れ去られる前のあたしに彼氏がいようといまいと、それはもう
問題じゃないの。
 考えてみて。こんな目にあったあたしたちが、今さら普通の人たちと
まともなお付き合いができるなんて、キミには真面目に考えられる? 
あたしは無理。あたし、もし外に戻れても、結婚できる相手はキミしか
いないと思う。赤ちゃんができても大丈夫。あたしの家、こう見えて
結構な資産家なの。例えば、キミが大学に行きたいなら、そのくらいの
お金は普通に用立てられるはず。
 ……でも、そうだね。あたし、キミの気持ちをまるで無視していたかも。
そういう気持ちなしにこういうことをするのは、ケダモノのすること
だよね。外の世界では、やっちゃいけないことだったね。
 ……いいわ。こうしましょ。嘘でもいい。今だけでもいい。あたしの
ことを『好き』って言って。もしキミが、本心では、あたしの体だけが
目当てで、好きでもなんでもなかったとしても、そのくらいなら
外の世界でも当たり前のこと。ぎりぎりだけど、ケダモノじゃないと思う。
もしもそれもできないというなら、あたしは諦める。そうしてこれから
独りでコレを慰めることにする。どう? あたしのこと、好き? 
それとも、嫌い?)」
 僕はすっかり短大生さんのペースにはまり、おろおろとしながら答えた。
「(き、嫌いなんてとんでもない! あなたはすごく美人で、頭がよくて、
僕とは趣味も合うし気も合う。素敵な人だと思う。でも……)」
 僕は嘘などつきたくなかった。差し出された条件を誠実に守らなければ、
結局はケダモノなんじゃないか、という迷いがあった。だから正直に
言おうと思った。女性として好きだと本当に言い切れるかどうか、
まだ自信がない。その自信がちゃんと生まれるまで、あなたとはそういう
ことはしない。恥をかかせてしまうかもしれないけれど、結局はそれが
お互いのためだと思う――そう言おうと思った。
 我ながら、下らないヤセ我慢のような気もするし、セックスという
行為への恐怖心も、どこかにあったのではないかと思う。
96名もなき改造人間たち2・姉弟(7/26):2012/04/05(木) 20:16:59.49 ID:1KHXpAvl
 だが、僕がその先を続けようとしたとき、彼女は叱りつけるよう
にささやいた。
「(こっちを向いて話して! 失礼だと思わないの?)」
 当然の主張だった。もっとも、実のところ、短大生さんはずっと僕の
背中に密着し、耳元に口を当てて話をしていたので、身動きがとれ
なかったのではある。また、姉がいつ寝返りを打ってこちらを見るか、
気になって目を離せなかったということもある。さらに、恐らくは
むきだしの状態にある相手の乳房や茂みから目をそらさねば、という
思いもあった。しかしそれでも、先方がそれを求めているなら、
やはり相手の方に体を向けるべきだろう。
 思い立った僕は体勢を変え、短大生さん側に体を倒しながら言った。
「すみません」
 それは、相手の裸身を見てしまうことへのお詫びであると共に、
拒否の返事をせねばならないことへのお詫びでもあった。
 少なくともそのときは、そういうつもりだった。
 だが、思い切って目を彼女の方へ向けたとたん、自分自身まったく
思いもかけないことが生じた。
 こちら側に体を向けていた、見知っていたはずの女性は、神秘的な
までに蠱惑的で美しかった。可愛らしい顔立ち。大きすぎない、
「美乳」と形容したくなる乳房。ほっそりした腰と手足。抜けるように
白い、澄んだ肌。それにアクセントを付ける薄目の恥毛と可愛らしい
へそ。まるで妖精、いや女神のようだった。
 「好意」とか、「愛情」とか、そんな言葉ではとても捉えられない感情。
この女性を自分だけのものにしたい。この人に好いてもらいたい。
この人のためになら何をしても苦にならない――そんな抑えがたい
熱情が僕の胸にほとばしり、僕の股間を直撃した。これまでになく
硬くそそりたったその部分は、ほぼ一瞬で激しい興奮の山を登り、
あと一歩で爆発寸前の地点にまで達した。
 単なる好意ではない。単なる性欲でもない。これこそが、男が女に
惚れる、という感情なのだ、と、僕は、たぎる熱情に目を回しそう
になりながら、直観的に理解した。これまで、「恋」とか「一目惚れ」
とか、そういう言葉を気軽に使っていながら、それが一体どういう
気持ちを指すものなのか、自分がまったく理解していなかったことを
知らされた。
 自分自身に生じた変化にうろたえながら、僕は、ともすれば大声に
なってしまいそうな声量を必死に抑えて、目の前の女性に告げた。
「(す、好きです! たった今、あなたに惚れてしまいました。
……我ながらあまりに虫のいい話だから、嘘だと思ってくれてもいい。
でも、本当なんです! ……あなたを、抱きたい! もう、今すぐに
でも、そうしたい!)」
 頬を真っ赤に上気させ、僕は一息に想いを伝えた。彼女はうれしそう
な顔で僕に飛びつき、言った。
「(うれしい! あたしもキミが大好き! 嘘だなんて思わないよ! 
顔を見れば分かる! 『本当』って、顔に書いてある。わかる? 
あたしも今のキミと全く同じ気持ちなの! 恋しちゃったのよ! 
両想いだよ! 知ってる? こんなこと、外の世界でだって滅多にな
いんだよ!)」
 それを聞いた僕は舞い上がりそうな気分になった。そして、この人が
先ほどから告げていた僕への愛は、保身のための嘘や方便ではなく、
また単純な欲求不満などでもなく、この人の内心から発した純粋な気持ち
であったのだ、と素直に信じられた。少なくとも今、この瞬間は、
この人の心の中が完全に理解でき、相手にも自分の気持ちがすべて
伝わっている、という強い自信が生まれた。
 僕は彼女の首に腕を回し、むしゃぶりつくように、その唇に自分の唇
を押しつけた。そして押し入ってきた舌に自分の舌を絡めた。それから
回した腕をぎゅっと引き寄せ、股間の硬い部分を彼女の下腹部に
押しつけた。
97名もなき改造人間たち2・姉弟(8/26):2012/04/05(木) 20:17:21.24 ID:1KHXpAvl
 だが、情けないことに、僕はその先どうしていいかわからなかった。
AVはこっそり見たことがあったし、それ以上に生々しい光景を何度も
目にしたはずなのに、いざ当事者になってみると、何をどうすれば
いいのかわからないのだ。
 僕の当惑を見透かしたように、短大生さんは言った。
「(仰向けになってみて。最初はあたしが全部やってあげる)」
 経験を積んだ人にしか言えないそんな言葉は、僕の胸にチクチクした
嫉妬のとげを刺した。そしてその思いが、僕の衝動をさらに加速させた。
 体勢を変え、仰向けの姿勢になったとき、僕は反対側で寝ている姉の
ことが気になり始めた。もしも姉がこちらを向いていたらと思うと、
怖くて頭を回せなくなくなった。実際、錯覚かもしれないが、視界の
片隅に、こちら側を凝視する姉の視線を感じた気さえした。
 ぎこちない僕の様子から、短大生さんは僕の懸念を察したのだろう。
僕の上にまたがりながら、姉の方に目をやり、一瞬、謎めいた微笑を
浮かべたかと思うと、これまでのように無声音ではなく、はっきりと
声に出して、そしてなぜかうれしそうに言った。
「大丈夫。お姉さんなら、よく眠っているから」
 その言葉から僕は、姉の方に目を向けてはいけない、というこの女性
からのプレッシャーのようなものを感じた。実際、姉の方に目を向ける
勇気はなかった。代わりに僕は、高い天井を背景にして浮かぶ、
美しい女性の顔に意識を向けた。すでに彼女も僕を、そして僕だけを、
じっと見ていた。女神のようでもあり、小悪魔のようでもある表情の
女性は、再び無声音で僕に告げた。
「(それじゃ、包んであげる)」
 甘い息でそう言い終えるよりも前に、柔らかく熱い肉の襞が亀頭の
先にあてがわれた。そしてぬるぬるとしたたり落ちる粘液と共に、
弾力のある熱い肉が亀頭を覆い、さらにその下へ降りて来た。熱と
触覚のすべては、棒状の器官の中で、炸裂する快感へと変換され、
その快楽は粘膜が一ミリ進むごとに倍増していくようだった。
「う、う、うああああああっ!」
 棒状の器官が熱い粘膜に根本まで覆われ、彼女の恥丘が僕の茂みに
触れたとき、僕の器官は早くも、彼女の内部に液体を放出した。
どくん、どくん、どくん、どくん、どくん、どくん、どくん、どくん、
と放出は驚くほど長く続き、あふれ出した精液は僕の陰部の毛を
ひたひたに濡らし、尻の下へと流れ出た。
 驚いたことに、それほど多量の射精をした後でも、僕のペニスは
まったく萎える気配がなく、自分を包む柔らかな肉から、もっともっと
快楽を引き出すようにと、僕をせき立てた。僕は本能に導かれるまま
腰を上下させた。その摩擦は僕だけでなく彼女の正気を失わせた。
「ああああああっ! いいいいいいっ! ああっ! もうっ! 
もういっちゃうよう」
「あああああああ、ぼ、ぼ、僕も! 僕もまたっ!」
 激しいピストン運動は僕に二度目の射精をもたらした。そして今回は
全く同時に、肉の襞に激しい痙攣が生じ、何かがどばっと降りてくる
のが分かった。
 挿入したままの姿勢で、僕らは体位を変え、今度は僕が上になった。
先ほどよりもずっと動かし易くなった腰を、僕は今度はあえてゆっくりと
前後させ、まるで昔から知っていたかのように、それに丸い回転を
加えた。
「やん! あ・あ・あ・あ」
「う、く、く、く」
「ふう、ふう、ふう、ふう」
「ふう、ふう、ふう、ふう」
 ――こうして僕らは狂乱の宴をいつ果てるともなく続けた。やがて
僕は心地よい疲労の中、挿入した状態のまま意識が遠くなり、眠りに
ついていた。
98名もなき改造人間たち2・姉弟(9/26):2012/04/05(木) 20:17:48.88 ID:1KHXpAvl

 目覚めてみると、短大生さんは僕の横のいつもの場所で寝息を立てて
おり、姉はすでに目を覚まし、例の膝を抱えた状態で僕を見ていた。
「お、おはよう」
 そう言いながら、僕は思わず顔をそらし、うつむいた。
 昨日までだと、朝の目覚めの時間、僕のペニスは生理的な理由で
硬く勃起し、そのせいで僕は両側の女性に対し、恥ずかしく気まずい
思いを味わっていたのだ。だが今朝のその部分は、そんな兆候のまったく
ない、しなびた状態のままだった。だから、姉に対する直接的な気まずさ
は感じずに済むはずだった。しかし、今朝に限ってなぜそれがそんな
状態なのかを考えると、気まずさを通り越し、罪悪感めいた思いが
湧き上がってきて、姉の顔を直視できなくなったのだ。
 そうして僕も、自分のペニスが隠れるように膝を抱えて座った。
やがて短大生さんも目を覚ました。彼女は、まるで昨晩のことが夢で
あったかのように、何ごともない顔で僕らにおはようを言うと、
昨日までと同じように、体を起こし、胸と陰部を隠す姿勢で座った。
 昨夜のことが夢であったはずがないのは、体全体に残る生々しい
感触とこの萎えきったペニス、それと、僕のいる場所で濃厚に漂って
いる精液と愛液の残り香から、明らかだった。
 僕は「共犯者」になったつもりで、何ごともなかった風を装い、
昨日と全く同じようにゲームの話を短大生さんにふった。彼女がそれに
答えようとしたとき、普段は聞き役に回っている姉が真剣そうな声で
それをさえぎった。
「ちょっと待って。ここでわたしたちが正気を保つためには、おしゃべり
も大事な時間だと思う。でも今日は、ちょっとだけ真面目な話をして
おきたいの。いい?」
 僕も短大生さんはびくっとした。姉が昨晩の件について、何か
言い出すのではないかと思ったのだ。
 だが、姉はまるで違う話を始めた。
「二人とも、ここの人たちにちょっとずつ『入れ替え』が起きているのは
気付いてるわね。新しい人たちが入ってくる一方で、わたしたちが
最初にここに来たときにいた人々はもうほとんどいなくなってる。
宇宙人に殺された人たちもいるけど、大半はこの下に吸い込まれ、
どこかに運ばれてここを去った」
 姉はそう言いながら自分の足下を指さした。
 僕らは姉の意図をすぐに理解した。たしかに、もうかなり以前から、
この牢獄から人が順々に消え始めていることに、僕らは気付いていた。
だが、それを正面から話題にするのが何だか恐ろしくて、三人とも
見て見ぬふりをしてきたのだ。しかし、いつまでもそうしているわけにも
いかない。「順番」はもうじき僕らの列にも及ぶ。しばらくすれば
僕らもまた、この牢獄からまた別のどこかへ運ばれることになる。
その大事な問題について全く何も話さずにいるのは、やはり不自然だ。
そんな思いは僕も、また多分短大生さんも感じていたのだ。
 姉は言った。
「二人の意見を聞いてみたい。わたしたちは何のためにここに連れて
こられたのか。そしてここから先、どこに運ばれることになるのか。
二人はどう思っている?
 できれば、気休めの楽観論じゃなくて、最悪の可能性みたいなものを
考えてほしい。運命から目をそむけるわけにはいかない、とわたしは思う。
悲観論が外れても、それはラッキーだというだけ。何の実害もない。
でも、間違った楽観論を抱いて、防げる不幸すら防ぐ準備ができなければ、
それは一巻の終わり。だから、あらかじめ、できるだけ悪い可能性を
考えておいて、もしできることがあればその準備をする。その方が
いいと思うの」
99名もなき改造人間たち2・姉弟(10/26):2012/04/05(木) 20:18:15.12 ID:1KHXpAvl
 短大生さんは明らかに辛そうな顔をしていた。僕は姉とは長い
付き合いで、姉のこういう、「正しいが厳しすぎる」考え方に慣れている。
だが、短大生さんはそういうタイプではない。彼女ならばむしろ、
無理にでも楽観的な可能性を信じ、最後の最後まで明るく生きようと
する方を選ぶ。そういう人だった。
 考えた末、姉の考え方に一理あると思った僕は、おずおずと口を
開いた。
「悪い可能性ということならいくらでも考えられると思う。ホルマリン
漬けの標本とか、剥製とかにされてしまうのかもしれない。食肉に
されてしまうのかもしれない。殺されないまでも、母星に運ばれて
強制労働をさせられたりするのかもしれない。あるいは……」
「やめてよ!」
 短大生さんが金切り声で僕を制止した。
「それって、よく考えもせずに、怖い考えを並べてるだけじゃない! 
現実的に考えれば、どれもありそうにないわ。標本を作るために、
こんなに多くの人を、こんなに長い間閉じこめておく必要なんてない。
食用にするのも同じ。もっと効率的に屠殺していくはず。それに
『強制労働』なんていうけど、あのロボットは何? 人間をさらって
働かせるより、あのロボットを大量生産した方がよっぽど効率的
じゃないの!?」
 どうやら彼女も単なる楽観主義者ではないようだった。彼女なり
にネガティブな可能性を色々と検討した上で、それらが現実的では
ない、という結論を下していたのだ。姉も口を挟まず、興味深そうに
その話を聞いている。
 短大生さんは続けた。
「『現実逃避だ』と思いたいなら思ってくれればいいけど、あたしは
もっと平和的な筋書きを信じてるわ。あたしが思うに、あたしたちが
ここに連れてこられたのは、他でもない、この場所でこういう風に
共同生活をさせるため。こういうひどい状況に放り込まれた人間が
どんな反応をするのか、それを観察するのが目的なのよ。だからあたしは、
観察期間が過ぎれば、あたしたちはちゃんと地球に返してもらえる、
と思ってる。
 ……もちろん、宇宙人がそうやって集めたデータを何に使おうと
いうのかまでは分からない。マンガの世界でお約束の、地球侵略かも
しれない。でも、あたしが思うに、それもまた可能性が小さい。
だって、侵略目的だとしたら、そんなのあまりにも回りくどいでしょ? 
あたしは、もう少し建設的な理由、あるいは『善意』みたいなものを
考えても、間違いじゃないと思う。例えば、そのデータを使って、
行き詰まった地球人社会に、彼らなりの救いの道を検討してくれるとかね」
 最後の仮定は、あの無情かつ非常識な宇宙人の行動を見る限りは、
さすがに楽観的すぎると思えた。とはいえ、彼女の話は総じて理に
適っている。地球救済というのは虫がいいが、たしかに侵略目的に
してはまだるっこい。学術調査か何か、というあたりが妥当なライン
なのではないだろうか、などと、僕は僕なりに考えを巡らせた。
 姉もしばらく考え込んでいたが、やがてゆっくり口を開いた。
「……なるほど。たしかに、あまり悲観的にならなくともいいかも
しれないわね。ごめんなさい。わたしも、何か具体的な考えがあって
あんなことを言ったわけじゃないの。でも、こうやってこの先のことに
ついての意見を交換できたのは、やっぱり大事なことだったと思う。
みんなで、無事に帰れることを祈りましょうね。じゃ、この話はもう
おしまい。もっと楽しい話をしましょ」
100名もなき改造人間たち2・姉弟(11/26):2012/04/05(木) 20:18:37.68 ID:1KHXpAvl
 姉はどこか言いにくそうにそう言うと、口を閉ざした。僕らはやや
拍子抜けしてしばらく黙っていたが、やがてまたたわいもない会話を
始めた。つきあい始めたばかりのカップルにありがちな、話の中身よりは、
話そのものが楽しくて楽しくて仕方がない、といった類の会話だ。
 やがて就寝時刻が訪れ、姉は昨晩同様、僕に背中を向けて眠り始めた。
待ちかねたように僕と短大生さんは肉の交わりを開始し、昨晩同様、
意識を失うまで延々とそれを続けた。
 翌日も同じような朝と同じような夜が訪れた。その翌日も同じだった。
正直なところ僕は、この日々が永久に続いてもいいと思えるほどの
幸福感を感じていた。
 だが、その日々が永久に続くことがないのも分かっていた。ここを
出ていく「順番」が着実に僕らに迫っていたからだ。
 彼女の横の夫婦が順繰りに姿を消したのは夜中だった。僕は彼女と
交わりながら、これまで言い出そうとしながらもなかなか言えなかった
ことを切り出した。
「聞いて欲しい。雑誌なんかの記事によると、こういう宇宙人の
アブダクションというのは、さらわれていた間の記憶を消されて放り
出されるものみたいなんだ。だから、僕たちもそうされる可能性は大きい、
と思う。だとすると、僕と君の間の思い出は、僕らの頭からすっかり
消されてしまうことになる。そうなればもう、僕らは地球で再会しても、
お互いを認め合うこともなく、すれ違ってしまうだろう」
 彼女は悲しそうな顔になりながら、僕の話に耳を傾けた。
「以前、始めて二人が結ばれる少し前、君は言ったね。こんな目に
あってしまったら、もう普通の人とお付き合いなんてできない。結婚
するなら僕以外考えられない、って。でも、その心配はないんだ。
だって、君自身も、ここにいる他のみんなも、ここにいたこと自体を
忘れてしまうんだから。君はここに来る前の生活を再開できるんだ。
こんな冴えない、貧乏な家庭の高校生なんかに縛られないで、君の
お家にふさわしい立派な人と結婚し、幸福な家庭を築ける。僕なんかに
君はもったいない。だから僕は、僕らの記憶が消されることを、
むしろ喜ばしいことだと、君にとっての幸せだと思ってる」
「ばかっ!」
 彼女は真剣な声で僕をしかりつけた。
「そんなの! 幸せなわけないじゃない! キミがいない人生なんて、
もうあたしには考えられないんだよ! 家柄が何よ? 高校生が何よ? 
キミは、あたしのことを、そういう風にしか見ていなかったの?」
 それを聞いた僕は涙をこぼして言った。
「そんなわけないじゃないか! 悲しいよ! 悔しいよ! 僕は君の
ことを絶対に忘れたくないし、君に忘れられてしまうのだっていやだ! 
でも……でも……」
 彼女は優しい、そして力強い声で答えた。
「あたし、忘れないよ! 絶対にキミのこと忘れない! 約束する! 
もしキミがあたしのことを忘れてしまったら、力ずくでも思い出させる。
押し倒して、しごいて、強引にこの中に入れてあげる。そうしたらもう、
絶対に思い出すこと間違いなしよ!」
 彼女の底抜けの楽観論が、今はただうれしくて、僕は彼女をぎゅっと
抱きしめようとした。
 だがその瞬間、彼女が横たわる床に突然大きな穴が空き、彼女が、
そして彼女だけがそこに吸い込まれてしまった。
「忘れない! 絶対に忘れないからね!」
 かすかなそんな残響を残して、彼女は姿を消した。
101名もなき改造人間たち2・姉弟(12/26):2012/04/05(木) 20:19:18.56 ID:1KHXpAvl

 下腹部の器官をみっともなく硬直させながら、僕は泣きじゃくって
いた。だがそのとき、僕の肩を誰かが叩いた。振り向くと、姉が暗い
顔で僕を見ていた。僕のペニスから目をそむける姉の様子から、たった
今の情事も、その際の会話も、すべて聞かれていたことは確かそう
だった。
 僕は少しだけ、姉の介入を煩わしいと感じた。できれば、今は一人で
あの人のことを考えたかった。だって、姉と僕はきょうだいだからだ。
この狂った空間の記憶が消えても、姉と僕との間で過ごした記憶の
ほとんどは失われない。彼女とは違う。だからせめて今だけは、姉に
二人の別れに水を差してもらいたくない。そんな思いがあった。
 だが姉は、ひどく切迫した口調で、僕に話しかけた。
「時間がない。色々と言いたいことがあるかもしれないけど、黙って
わたしの話を聞いて」
 たしかに色々と言い返したかったが、姉の真剣さが気になり、僕は
黙ってうなずいた。
「この場所のこと。そしてわたしたちがもうじきどこに行くかという
こと。それについて、わたしは前から違う考えをもっていた。あの
お嬢さんに話したら絶対に反論されて、お互い無駄で厭な時間を浪費する
ことは目に見えていた。だから黙っていた。だけど、やっぱりあなたに
だけは話しておきたい。まだちょっとだけ時間はあるから、できるだけ
納得がいくように話すわ。
 わたしたちが『宇宙人』と呼んでいるあの生物、宇宙人にしては
なんだか変だと思わない? 皮膚の材質とか、触角とか、どう考えても
地球の哺乳類ではないのに、顔や体型があまりにも人間に似すぎている。
こんなバランスの悪い進化が、他の星で自然に起きたというのは、
生物学的に考えにくいことなの」
 僕は僕なりに考えを言った。
「だったら、人工の存在なんじゃないかな。ロボットとか人工生物とか。
あるいは、本当はもっと人間離れした姿の宇宙人が、自分たちの姿を
地球人に似せて改造した、ということもあるんじゃないかな?」
 姉は意味ありげにうなずいた。
「もっともな考えだし、わたしの考える正解に近づいている。でも、
やっぱりその考えはおかしい。だって、そうだとすると似せ方が中途半端
すぎる。あそこまで似せられるなら、皮膚の色くらいどうとでもなるはず。
違う? でも、もしそんなことができるとしたら、その逆の可能性も
あるのではないかしら?」
 僕はぞくりとするものを感じた。何となく、姉の意味するところが
見え始めたからだ。
「あなたが言っていた『強制労働』説もいい線をいっていると思う。
実際わたしは、やつらの目的が地球侵略だというあなたの意見も、
多分正解だろうと思っている。しかも、とても狡猾でおぞましい方法
での侵略よ」
 姉は説得を成功させようというのか、僕が出した案に合わせながら
話を進めてくれている。
「あなたが宇宙人で、効率のいい侵略の手段を考えなさい、と言われたら、
どうするかしら。一つの模範解答は、『戦力の現地調達』だと思う。
さっき『逆の可能性』と言ったのはそのことよ」
 僕は蒼白になった。僕が考えたのは、やつらが地球人に似たロボット
を作るか、あるいは自分たちの姿を、地球人に似せて改造しているの
ではないか、ということだった。その逆とはつまり……。
102名もなき改造人間たち2・姉弟(13/26):2012/04/05(木) 20:19:50.81 ID:1KHXpAvl
「つまり、地球人を改造して、あの姿に変えているのよ。言い換えれば、
あの不気味な生物たちは、宇宙人でも何でもなくて、みんな改造された
地球人だった。こう考えれば、やつらが人間をさらう理由もはっきりと
説明ができる。つまりこの場所は、観察用の実験室ではなくて、
やっぱりさらってきた地球人の一時保管室に過ぎなかったということ。
だから……」
 僕は震えながらその先を続けた。
「……だから、僕や、さっきいなくなった彼女や、そして姉貴が、
ここを出てどういう目に遭うのかも、はっきりと説明がつく。つまり、
みんな、みんな、あのバケモノに改造されてしまう!」
 姉は悲しそうにうなずいた。
「地球に帰してもらえる望みはあるのかもしれない。でもそのときは
もう、わたしたちは、あんな人間離れした姿に改造され、宇宙人の
命令で動く、侵略の道具に改造されてしまっているのよ」
 僕はほとんど感情的になって姉に反論した。
「違う! そんなわけがない! あれが人間なんかであるものか! 
だって、あいつらは、何の感情ももっていやしない! 表情一つ変えず
に人間を虐殺する!」
 姉は諭すように言った。
「そういう風に、脳の中身を改造されてしまうのよ。いってみれば、
対地球人用の生物兵器なんだから、それぐらいできなければ使えない
でしょ?」
 僕はわめくように言った。
「嘘だ! 信じたくない! 僕や、姉貴や、あの人が、あんな風に
なっちまうなんて! そんな恐ろしいこと、あるわけがない。あって
いいはずがない!」
 姉は強い口調で僕を制した。
「聞いて! わたしを否定しても仕方がないわ。わたしは考えられる
最悪の可能性を言っているだけ。もしそれが見当違いだったら、それは
わたしだって大歓迎。でも、可能性はあるの。いえ、可能性はとても
大きいの。わたしたちはその可能性を見据えて、もし何かできることが
あったら、それに備えるべきなのよ」
 姉はとても芯が強い女性だ。僕にはとても真似ができない。さっき
まで信じかけていた楽観論にまだ見込みがあるのなら、できれば今の
話は全部忘れてその可能性に賭けたい。
 だが、姉の話は恐ろしいほどに現状に符合していた。だから僕は
姉に問いかけずにはいられなかった。
「姉貴は、何か、やつらの、改造というか、洗脳というか、そういう
ものに抵抗する手段を思いついているの?」
 姉は暗い声で言った。
「残念だけど、まったく思いつかない。何が起こるのかまったく分から
ないんだから、見当の付けようがない。ただ……」
 言葉を濁した姉に、僕は聞き返した。
「ただ?」
 姉はいきなり、先ほど彼女との情事を中断されて以降、深刻な話の
間も勃起を続けていた僕のペニスに顔を近づけ、先端をくわえ込んだ。
「な、何を?」
 姉は僕の亀頭の上でれろれろと素早く舌を動かし、同時に棒の中央部
を指でつまんで、猛烈な勢いで上下にしごき始めた。自動運動のような
その摩擦は僕を強制的に頂点に引き上げ、姉の口腔内に精液がとろり
とにじみ出た。その瞬間だ。
「ぎゃっ!」
 僕は低い悲鳴をあげた。姉が僕のペニスにがぶりと噛みついたのだ。
射精を終え、萎え始めていたペニスは、痛みとショックで急激に萎縮した。
103名もなき改造人間たち2・姉弟(14/26):2012/04/05(木) 20:20:19.98 ID:1KHXpAvl
 姉はなぜか一瞬ためらってから精液を床に吐き出し、それから頭を
下げて言った。
「ごめん。でも、あなたが勃起した状態でここを去るのは、何だか
とっても危険な気がしたの。
 この場所は、性行為への抵抗感を麻痺させ、人に性的なものを受けいれ
やすくさせるようになっている。それが奴らの意図なのか、人間の
悲しい性なのかまではわからない。でも、いずれにしても、あなたには
その部分で隙を作って欲しくない。でも、こういうことは口で言って
どうなるものでもないから、ショック療法を試してみた」
 それが本当なら、危険な賭けだと言ってよかった。この種の加害行為
は「処刑」の対象になってもおかしくないのだ。だがどうやら宇宙人
……いや、姉の説が本当なら、改造された地球人は、僕の悲鳴を苦痛の
うめきだとは思わなかったようだった。
 それから姉は僕の手を握り、僕に向き合った。そしてしばしの沈黙の
あと、励ますように言った。
「もう、間もなく、あなたの番が来る。それはもう逃れようがない。
だったら、不必要に怯えたりしないほうがいい。冷静に、そのときに
備えなさい」
 姉の言葉がちょうど終わるかどうかという頃、僕の座る床に大きな
穴が空き、僕は暗いチューブに飲み込まれ、どこかへ運ばれていった。

 長い移動の間、僕は楽観主義をなおも捨てきれなかった。僕らが
あの奇怪な生物に改造されてしまうというのは、姉自身も「最悪の
可能性」と呼ぶ仮説に過ぎない。姉は、念のため最悪の可能性を考えて
動きなさいと言っているだけだ。結局、姉ではなく短大生さんが正しい
可能性も十分にある。僕はこれから記憶を消され、ひと気のない野道に
でも転送されるかもしれない。いや、そうだと思いたかった。
 やがて、曲がりくねったチューブを抜け、僕は手術室のような空間へ
送り込まれた。目に見えない鎖が僕の手足を手術台に拘束し、首の
後ろ側に何かの機械が装着されたのを感じた。
 僕は未だにこれが、僕の記憶を消し、僕を地球に返すための準備
なのだ、と信じ込もうとした。だが、そんな思いにふけっている僕の
前に、奥の扉から、現れてはならない存在が姿を見せた。
 手術台の横に立ち、僕の顔を見下ろしたのは、女性型宇宙人だった。
間近で見るぬめぬめした青黒い皮膚は、無機物と軟体動物を合わせた
ような異様な質感。太い触角は巨大な昆虫そのもの。紫の髪の毛も
哺乳類の体毛ではなく蛾や蜂の体毛を思わせた。緑色の唇や、乳房の
同心円模様は、血の通った生物というより、機械の部品を思わせた。
 ああ、それなのに、その顔立ちも、きゃしゃな体型も、絶妙な輪郭を
描く乳房のラインも、先ほど僕と別れた、あの愛しい女性と寸分違わず
同じなのだ。今頃地球のどこかに帰っているはずの女性が、その肉体に
無惨な改造を施され、未だにこの母艦内にいる。そんな残酷な現実が、
僕の目の前にはっきり姿を現したのだ。
 ……でも、まだ、この生物が彼女だと決まったわけではない。彼女の
顔立ちを模して作られたロボットの類かもしれない。それを僕に見せて
反応を調べようという、宇宙人科学者の実験かもしれない。
 そう思った僕は意を決して怪生物に声をかけた。
「君は何者だ? そして君は僕を知っているか? 答えてくれ」
 もちろん記憶を消されていれば、正しい答えはできない。そのときは
やむを得ない。そんな思いで発した質問だった。だが怪生物は、全く
予想外の仕方で、僕が求める情報を完璧に与えた。
「私ノ呼称ハ奴隷生物四百四十三号。先ホドこコデ改造手術を受けル
以前ハ、改造素体五百十四号ト呼バレてイタ、地球人類ノ一個体デあル。
 マタお前は、我々ニヨッテ改造素体五百十五号ト呼ばレル地球人類ノ
一個体デアる。間もナク施サレる改造手術ガ成功スレバ、お前ノ呼称ハ
奴隷生物四百四十四号ニ変更サれル。
104名もなき改造人間たち2・姉弟(15/26):2012/04/05(木) 20:20:52.78 ID:1KHXpAvl
 ソれ以外ニ私ハ、オ前ノ選好特性ニ関しテ一定の情報ヲ、オ前トノ
交尾行動ヲ伴ウ一連ノ情報交換ヲ通ジテ入手シてイル。
 ――以上、我々ノ目的ニとリオ前ニ与えルノガ有益ナでーたト
判断シ、返答スる」
 抑揚のない調子で淡々と語られる言葉は、僕の楽観論を粉々に砕き、
姉の予測を確証した。つまり、目の前の怪生物は、僕よりも一つ前に
あの牢獄を去った彼女に他ならず、そして彼女はこの部屋で、彼女自身
が「奴隷生物」と呼ぶ、こんな姿に「改造」されてしまった。そして
間もなく僕もまた「改造」を受け、彼女よりも一多いナンバーを割り
振られる――そういうことだ。
 ほとんど絶望した僕はそれでも、彼女が発した「我々ノ目的」と
いう言葉の意味を確かめようと、質問を返した。
「教えてくれ。この円盤をよこした奴らは、僕や君を『改造』して、
何をさせようとしているんだ? その目的が終われば、僕らは元に
戻れるのか?」
 奴らが友好目的ではないことはほとんど明らかだったが、せめて、
この悪夢のような状態に終わる見込みはあるのかどうか、僕は
知りたかった。
 彼女は答えた。
「奴隷生物ノ目的ハ、我ラガ『主』ノ道具としテノ、改造素体ノ捕獲、
資源ノ徹底収奪、反乱分子ノ殲滅ヲはじメとすル、各種の活動ニアル。
ソノ活動ハ、コノ惑星ノ利用価値ガ無ニ帰スルマデ、ツマリ、こノ惑星
ノアラユル資源ガ枯渇スルマデ、徹底的カツ急速、カツ不可逆的ニ
行ワれル。
 奴隷生物ヘノ改造モマタ不可逆的処置デあリ、『主』ノ科学力を
以テシてモ復元は不可能でアル。人間ガ発達させた無用デ複雑ナ感情は
すべて消去サレ、残さレるのハ、生物トしテの基本的ナ感情や欲求、
爬虫類か昆虫程度ノ単純で機械的な感情と欲求だけニナル」
 僕は、宇宙人の目的が無慈悲な地球侵略に他ならない、というその
事実以上に、その事実に何の疑問も抱かず、淡々と自分の「使命」を語る
目の前の彼女が恐ろしかった。彼女の精神は、自分がそんな理不尽な目的
のために働くことを何とも思わないよう、改変されてしまっているのだ。
 僕は祈るような思いで、何とか彼女の目を覚ますことができないかと、
彼女への呼びかけを行った。
「思い出すんだ! 君は今でも地球人類のはずだ! 君は僕の言葉を
理解し、僕と同じ言葉で答えている。そして僕との間の思い出を失って
いない。だったら、ちょっと前までの君が、僕と同じ考え方をしていた
ことを思い出せるはずだ。そして、思い出せるなら、理解もできるはずだ!
地球人類ならば、地球を愛し、地球人の幸せを考えるものだ。無理やり
僕らを改造して『奴隷』に仕立て上げる奴らに反逆し、その危険を
残りの人類に知らせることこそ、どんなに姿が変わっても、地球人類の
本当の使命だろ!」
 彼女は淡々と返答した。
「不合理デアる。タしカニ未改造ノ地球人類ハ『主』ニ抵抗シ、地球
人類の利益ヲ求メる習性ヲもツコトガ観測サレテいル。だガ、改造
サレた我々ニハ、『主』ヘノの服従ノ喜ビ、反逆ヘノ恐怖、トイウ強力な
『感情』ナイシ『どらいば』ガいんすとーるサレル。コノどらいばニ
基ヅキ、『主』カラ与えラレタ命令ヲ知性的計算に基づいテ実行スル
ことが、改造された我々の目的デアる。我々が未改造の地球人類ト
利益ヲ共有スベキダトいウ合理的根拠ハ認メラれナい」
 日本語で話していながら、お互い何一つ理解できない。そして、
まもなく僕自身が、あちら側の存在に変えられてしまう。そんな恐ろしい
運命に抗そうと、僕は半ば自分に言い聞かせるように、声を張り上げた。
「いやだ! 僕は、僕だけは、絶対にそんな歪んだ考えに屈するものか! 
たとえ肉体を改造されようとも、この心だけは、絶対に守り通す! 
そして、君や他の『奴隷生物』たちの心の呪縛を、この僕が破ってやる!」
105名もなき改造人間たち2・姉弟(16/26):2012/04/05(木) 20:21:16.94 ID:1KHXpAvl
 彼女は、やはり昆虫のような無機的な口調で答えた。
「オ前の言動ハ内容的ニ不合理デアる。オ前かラモ間モナく、無用デ
複雑ナ感情はすべて消去サレ、主ニ対すル『服従ノ喜ビ』と『反逆ヘノ
恐怖』ガいんすとーるサレる。そウナレバ、お前ガ現在ノヨうナ不合理ナ
意志ヲ形成スルコとハ、全く不可能トなル。
 ダガまタ、オ前は改造素体とシテ標準的ナ行動を示シてモイル。
オ前のソノヨうナ言動モ、私や他ノ改造素体カラ数多ク観察さレテキた。
そレユえオ前ノ改造後の行動モマた、標準的ナモノとナるコトガ予測
さレる――以上ノ返答を以テ、がいだんす終了ト判定スル。引キ続キ、
改造手術ヲ開始スル」

 絶望的な宣告と共に、「奴隷生物四百四十三号」は、ラグビーボール
を縦割りにしたようなカプセルを手に取り、僕の股間にあてがった。
それが改造手術の開始だった。
 改造は、股間でうねうねと蠕動するゼリー状の物質、全身への太い
注射針による得体の知れない薬剤の注入、それに、まぶしく焼けつく
ような緑色の光線の照射によってなされるようだった。
 全身に走った痛覚は僕の意識を一瞬空白にし、我に返ったとき、僕は
何か欠落感を覚えた。多分これが「感情消去」なのだ。ならば、できるだけ
意識を保ち、感情消去を防ぐ。それが、今僕ができる最大限の抵抗だ
――僕は姉の励ましを思い出しながら、そう心に決めた。
 姉の言葉は、ペニスの先端でうずく、姉の歯形を連想させた。突然の
苦痛は、人の意識に空白を巧みに作り出す。しかし僕は運よくその
「リハーサル」ができた。それがなければ僕の感情は、最初の瞬間に
ごっそり消去されていたかもしれない。姉のおかげだ。
 薬剤の注入が進む中、僕はできるだけ大声で「ぎゃあ」とか「おわあ」
とか叫んだ。苦痛をやり過ごす僕なりの工夫だった。そのうちに僕は、
奇妙なことに気付いた。股間のゼリー状の物質は僕のペニスにしきりに
摩擦を加えている。ペニスも勃起しているようだ。だが性的刺激は
一向に生じない。やがて射精の感触が生じたとき、僕はペニスが無感覚状態
になっているらしいと気付いた。姉の噛みつきが、心か神経かに作用し、
こんな無感覚状態が生じたようだ。
 この状態を宇宙人に悟られてはならない。だから僕は、激しい快楽を
こらえきれないように身をよじり、うめき声を上げた。興味深いことに、
股間の装置は僕のそんな見せかけの反応を学習し、刺激のパターンを
変調させた。宇宙人のマシンは人間の「演技」に欺かれるらしいのだ。
 最大の難関だったのは、突然の眼球の破裂と、それに続く触角の形成
だった。だが、痛覚による意識への介入はそれが最後だった。破裂した
眼球に代わって、新たな眼球と触角が形成された。皮膚はすでに真っ黒で
ぬめぬめした粘膜状の物質に変質し、髪の毛はすっかり抜けてしまって
いた。性器の改造はさらに進んでいたが、相変わらず無感覚状態だった。

 やがて数度の射精が過ぎ去り、僕に装着されていた機械が停止した。
僕はあたかも感情を消去されてしまったように無表情な顔を装い、
天井を見ていた。彼女……いや、奴隷生物は僕の表情を確認し、計器を
チェックすると、宣言するように言った。
「感情消去、終了。コレよリ、『どらいば』ノいんすとーるニ移ル」
 感情消去の失敗を喜ぶ間もなかった。まだ「ドライバのインストール」
という恐るべき処理が残っているのだ。僕は、自分の感情がすっかり
空っぽになってしまったふりをして天井を眺めた。やがて、心の中に、
意味の分からないかたまりが無理やりに押し込まれた。だが、どうやら
それだけで処理は終わりだった。僕は人間の心を保持できている。
だから「インストール」は失敗したのだろう。
106名もなき改造人間たち2・姉弟(17/26):2012/04/05(木) 20:21:39.07 ID:1KHXpAvl
 昆虫に似た生物は事務的に口を開いた。
「いんすとーる完了。改造素体五百十五号ハ、タダ今ヲモッテ奴隷生物
四百四十四号としテ完成しタ。起立シ、『主』カラの命令ヲ復唱セヨ」
 装置が外され、とりあえず起立してみたものの、「主からの命令」の
復唱など、どうやったらいいのか、僕は内心で困惑した。恐る恐る、
心の中に押し込まれた不気味なかたまりに注意を向けると、僕の心の
中に多量のデータが、あたかも以前から知っていたかのように流れ込んだ。
そしてその中には「主からの命令」も含まれていた。
「『主』カラノ命令ニ従イ、ココニ私ハ宣誓スル。ワタシハ主ナル種族
ノ生存ト繁栄ノタメニ、奴隷生物トシテノ全能力ヲ駆使シ永久ニ献身
スルコトヲ誓ウ」
 「復唱」を確認した「奴隷生物四百四十三号」は、無機的な口調で
僕に伝えた。
「デハ、がいだんすノ任務ヲココニ引き継グ。隣室ニ移リ、準備を
整エテ待機セヨ。
 ナオ、『主』ハ我々ノ改造前ノ行動ヨリ、我々相互間デノ『ツガイ』
ノ契約ノ締結ヲ、合理的ダト判断シタ。ヨッテ、『主』ノ判断に従イ、
相互ノ命令待機時間デノ交尾ヲ私ハ提案スる」
「了解シタ」
 僕は洗脳未遂がばれてはならないと思い、とりあえずそう即答した。
僕の回答を聞いた「奴隷生物」は扉を開け、次なる命令の実行のために
部屋を出た。ふと下腹部に顔を向けると、巻き貝の殻のように細長く
変形し渦を巻いている男性器が目に入った。

 部屋に残された僕の脳内に、「主」からの指令が響いた。
「隣室ヘ向カイ、次ナル改造手術ノ準備ヲ行エ」
 僕はまた即答した。
「了解」
 僕は隣室で、例のラグビーボールを縦割りにしたようなカプセルを
手にし、脳内のデータベースを参照しながら、この後の展開について
頭を巡らせた。
 感情消去は苦痛やオーガズムなどによる意識の空白時に進行する。
僕がそれを免れたのは、苦痛に対する事前の「リハーサル」と、性器
の無感覚状態のおかげだ。
 もう、間もなく隣室に姉が送り込まれる。僕自身が姉の改造手術を
担当せねばならない。改造手術室のあちこちに設置された監視装置は、
命令不履行を見逃さないだろう。だから僕は姉が奴隷生物に改造される
過程を、無表情な顔で見守らなければならない。
 だから肉体の改造はやむを得ない。だが、せめて、姉の精神だけでも
保護することはできないものか。
 僕の目はラグビーボール状の物体に注がれた。これが姉の股間に
装着され、姉の性器を、あのイカの漏斗のようなまん丸い器官へと
改造するのだ。だがもしこれに何か細工を施すことができれば……。
 僕はデータベースの検索を進め、必要な知識を手に入れた。
 データベースによれば、「奴隷生物」はテレパシーみたいなもので
常に『主』との交信が可能だが、内面を常時監視されているわけでは
なく、その都度の命令を各自が自分の知能で実行する仕組みである。
だから僕が、命令を忠実に実行するふりをして、こっそり姉を救う策を
弄することは不可能ではない。
 また、奴隷生物は体内に様々な生化学物質を合成できる小型の化学工場
を備えている。だから、皮膚の感覚を麻痺させる物質を大急ぎで合成
してこの内部にそっと吹き付けておけば、姉の精神は苦痛と性的刺激
から保護される。
 僕は早速、そしらぬふりをして物質を合成し、楕円形のカプセル、
つまり移植用性細胞を点検するふりをしてその内部に麻痺剤を塗布した。
 それとほぼ時を同じくして、隣室でごとんという音がして、脳内に
指令が響いた。
107名もなき改造人間たち2・姉弟(18/26):2012/04/05(木) 20:22:04.25 ID:1KHXpAvl
〈改造素体五百十六号到着。がいだんすヲ与エ、ソノ後改造手術ヲ
開始セヨ〉
 僕はできる限り動揺を表に出さないように扉を開け、改造手術室に
入った。手術台の上にはすでに、両手両足を大の字に広げられ、
見えない鎖で台に固定された、哀れな姉の姿があった。
 僕は牢獄の中、姉の裸体から極力目をそむけてきた。だが厳重に
監視されたこの部屋で、それは許されなかった。
 意を決し、横たわる姉を直視したとき、僕は鼓動が早まり、股間の
器官が充血を始めるのを必死で抑制せねばならなくなった。
 姉の裸身はまばゆいばかりに美しかった。豊満な乳房。丸いお尻。
細くくびれたウェスト。長く細い足。さほど広くない範囲に密生する、
ウェーブの少ないつややかな恥毛。そして、驚きに目を見開き、やがて
不安と絶望の色彩を漂わせ始めた美しい顔立ち。それを取り囲む艶やか
な黒髪。そのすべてが、これ以上ないほどの絶妙のバランスで配合され
ていた。脱衣した姉がこれほどまでに美しい存在であることを、不覚
ながら僕は今まで十分に気づけていなかった。否、姉が近親者である
という意識が、たとえ姉の背中に欲情しかけたあの時ですら、僕の目を
十分に開かせていなかったに違いない。
 僕を見据えながら、姉は暗い声で言った。
「……最悪の予想は、当たってしまったのね。……できるなら答えて。
あなたはもう、あなたではなくなってしまったの?」
 僕は激情に駆られるまま、正直にすべてを告白したいと感じた。
だが、それをしてしまえば、僕の洗脳未遂が発覚してしまう。そう
すればもう姉を救う希望すら失われてしまう。
 僕は「質問ニ応ジタ臨機応変ナがいだんす」を答えとして返した。
「私ハオ前ヲ産出シタ個体ト同一個体カラ産出サレタ、地球人類ノ
一個体デアリ、今モソウアリ続ケテイル。同一個体ガ同一個体デナク
ナル、トイウオ前ノ質問ハ不合理ヲ含ム。但シ、ソノ質問ノ意図ガ、
私ガ改造手術ニヨリ肉体ト精神ヲ大キク改変サレ、同一個体トハ認メ
ガタイ、トイウ意味デアレバ、私ハソレヲ肯定スル。痛覚ト性的快楽ヲ
媒介ニ、私ガ地球人類トシテ身ニツケタスベテノ感情ハ消去サレ……」
 僕は、心まで洗脳されたふりを続けながら、話の端々に本来の
ガイダンスでは触れられない細部の知識を混ぜ込んだ。ただ、「奴隷
生物」風の無機的な言葉遣いがすらすらとできてしまうのは、自分自身
恐ろしくはあった。
「……我々ハ外的徴候ニヨリオ前ノおるがすむすヲ検知シ、十分ナ
おるがすむすノ発生ノ検知ニヨリ洗脳完了ヲ宣告スル……」
 洗脳完了を装うには「演技」が必要だという知識も姉に伝える必要が
あった。通常のガイダンスを過度に逸脱していることで、「主」に気付かれ
てしまう恐れもあり、幾分は賭であったが、僕は賭に勝ったようだ。
「……以上、がいだんす終了。続イテ改造手術ヲ開始スル」
 宣告と共に僕は移植用性細胞カプセルを姉の股間に装着し、改造装置
のスイッチを入れた。もしも涙腺が残っていたら、僕の目からは涙が
とめどなくあふれていたはずだ。たとえ洗脳阻止の細工を施したとは
いえ、僕は、この僕自身の手で、姉の美しい肉体を、あの醜怪な昆虫人間
のような姿へと改造してしまうのだ。
 姉は毅然とした顔で目をつむり、自分に襲いかかる侵略者の魔手を
待ち受けた。その表情は姉の、その容貌に勝るとも劣らない美しく
強い内面を、はっきりと形にしていた。
 股間の移植用性細胞定着機が作動し、うねうねと蠕動運動を開始した。
天井と手術台からは無数の太い注射針が姉の全身に突き刺さり、
肉体変質液を注入し、同時に緑色の強烈な光線が全身を貫いた。
108名もなき改造人間たち2・姉弟(19/26):2012/04/05(木) 20:22:26.22 ID:1KHXpAvl
 その直後、ほんの一瞬だけ、姉の表情に戸惑いの色が浮かんだ。
姉の目はかすかに僕の方へと泳ぎかけたが、強引な意志がそれを制止
したようだった。
 それは僕の仕込んだ麻痺剤がうまく効き始めたことを意味した。
そんな僕の計画を察した姉は、うかつにアイコンタクトなどをとり、
計画を破綻させてはならない、と即座に判断したのだろう。
 姉は苦痛にうめき、快楽にあえぐ演技を始めた。それはあまりに
迫真に迫っていたため、僕は再び懸命に興奮を抑えねばならなくなった。
 姉の肉体に深々と刺さった無数の注射針は容赦なく薬品を注入し続けた。
注射針の刺さった部分から、青黒い斑点が広がり、見る間にその濃さと
面積を増大させた。皮膚の色が紺一色になっても注入は止まず、やがて、
まるで注入された薬品があふれ出すように姉の皮膚はぬるぬるした粘液
を滲出させ始めた。体内の奥深くまで、地球の生物とは全く異質の
生命形態へ変質を始めた証拠だった。乳房には例の同心円模様が浮き
上がり、股間の装置は内部の運動につられて微細だが複雑な運動を
続けていた。やがて姉のつぶらな瞳は破裂し、無機的な真っ赤な目が
形成された。額からは太い触角が伸び始めた。
 姉はそれらの装置が与える筈の苦痛や快楽をそのまま受容している
かのような反応を続けた。いや、姉の「演技」はあまりに迫真に迫りすぎ、
僕は計画が本当に成功しているのかどうか、徐々に自信がなくなってきた。
麻痺剤の効果がなくなり、姉は本物の苦痛と快楽によって感情消去を
蒙りつつあるのではないか、という恐怖が僕の心を覆った。
 結局、僕は不安をかかえたまま、姉の改造が終了し、姉が無機的な
口調で「宣誓」を終えるのを見届け、姉に「ガイダンス」の任務を
引き継がねばならなかった。

 僕の不安は案外早くに、つまりそれから数時間後に解消した。僕は
姉と二人きりで、監視装置の手薄な部署での作業を命じられたのだ。
 奴隷生物用の携帯食料の梱包、という軽作業が任務の内容だった。
地球侵攻開始後に必要になるだろう装備で、そういう意味では地球
侵略の片棒を担ぐ行為である。僕はこれに毒でも混ぜられないものか
としばらく考えたが、成分検査の計器を欺ける自信がなく、断念した。
 もちろん、何よりも気がかりなのは姉だった。美しい顔立ちや
ボディラインはそのままだが、今やその髪の毛は紫の剛毛になり、
全身の皮膚は濃い青でぬめぬめした粘液に覆われ、額には太い触角、
その下の目は真っ赤、同心円模様の乳房とまん丸いピンク色の性器を
あらわにさらす、まごうことなき女性型奴隷生物に変貌していた――
いや、僕が、この手で、その肉体を改造したのだ。
 僕は姉の肉体改造を許してしまったが、精神の改造は阻止されるよう
手を打ったはずだ。だが、少なくとも今のところ、姉の精神が人間的
感情を残している徴候はない。
 この作業時間もいつまでも続くわけではない。僕は手っ取り早く
結果を知るため、姉に向けてにっこりと微笑んでみることにした。
 完成した奴隷生物に「微笑み」はできない。そして微笑みを目にした
奴隷生物も、それをノイズとして処理し、人間の心が残っている徴候
とすら見なさない。「感情リテラシー」が完全に奪われてしまっている
のだ。だから、微笑みにまったく無反応だったとしたら、僕の計画は
失敗してしまったことになる。
 こう考えてぼくは姉に顔を向け、微笑んでみようとした。だが僕は、
「微笑み」という表情を自分が忘れてしまっていることに気がついた。
僕の感情はすでにある程度消去されてしまっていたのだ。
 仕方なく僕は姉に向け、悲しげに眉をひそめ、涙をふく真似をする、
というジェスチャーをしてみた。
 反応は劇的だった。姉もまた目を押さえ、ほとんど泣き崩れると
言わんばかりのジェスチャーを示した。否、ジェスチャーなどではなく、
実際に涙なき感涙にむせいでいたのだ。
109名もなき改造人間たち2・姉弟(20/26):2012/04/05(木) 20:23:03.33 ID:1KHXpAvl
「……よかった! やっぱり、あなたのおかげだったんだ! そして
あなたも、心は無事だったんだ!」
 姉は、万一のことを考えてか、極力低い声でそう言った。だが、姉に
感情が残っていることはもはや間違いなかった。
「よカった! 僕モうれしい!」
 そう言って、うれしさで胸が張り裂けそうな気持ちを姉に伝えつつも、
僕の心の一部は奇妙に冷静に働いた。そして、姉に真っ先に聞いて
おかねばならないことがあったのを思い出した。
「とコろで、一つ聞いておきたイんだ。姉さんは、こコに来る前に
僕にしてくレた話を、横のカップルにもしタかい? ……あるいは、
もし姉さンが、僕の洗脳無効化の処置ニ気付いていたとして――僕は
気付いてクれたと思うんだけど――同じ処理を隣ノ男性に施すこトは
できた?」
 これは重要な点だった。僕にしてくれたような警戒や励ましを他の人
にもしてくれれば、洗脳の未遂率は上がる可能性がある。さらに、もし
姉が僕と同じような洗脳無効化処置を次の人間にも施してくれれば、
その処置は連鎖するかもしれない。そうなれば、洗脳未遂者が多数
集まって反乱を起こす可能性だってある。姉ならば、そこまでの見通しを
もって行動してくれるのではないかと思ったのだ。
 姉はなぜか僕のしゃべり方をどこか悲しげな顔で聞いていた。
そして、僕が話し終えると、ゆっくりと口を開いた。
「あなた、改造を受けて、前よりも冷静になったと思う。それは
ちょっと悲しいけど、あなたがここで人間として生き延びるためには
役に立つ力になる。ただ、あなたの考えはまだまだ甘すぎる。わたしたち
の置かれた状況がどれだけ厳しく無慈悲なものかを、自覚できていない。
 冷静に聞いて! わたしはあなたにやったような警戒や励ましを、
他の誰に対しても与えるつもりはなかった――まあ、横のカップルは
別れを惜しむのに夢中でその隙もなかったけどね。それに、わたしは
自分の洗脳未遂があなたの細工のおかげじゃないかと強く信じていたし、
その仕組みも予測がついたけど、それでもそれを次の改造素体、つまり
改造素体五百十七号と呼ばれたあの大学生に施す気もなかった」
 僕は姉の言葉に当惑、さらに言えば軽い狼狽を覚えた。
 残念ながら自覚がないのだが、僕は姉よりも多くの感情を消されて
しまっているらしいし、それはもっともなことだ。僕は宇宙人の痛覚に
よる感情消去を防ぎきれなかったが、姉は僕の処置により、僕以上に
洗脳から保護されているはずだ。だが、そんな僕よりも姉の方がずっと
冷たい判断を下している。まるで、姉の方が僕以上に洗脳されて
しまっているみたいではないか。
 だが、姉の続く言葉は、たしかに僕が甘すぎたことを十二分に
思い知らせてくれた。
「まず、女性よりも男性の方が『演技』の余地は少ない。勃起しないか、
射精するかのどちらかで、どちらであっても宇宙人の装置はしかるべき
対応をとるはず。細工をできる余地は少ない。多分、あなたはごく希な
例外だった。
 そして、それ以上に、洗脳未遂者のネットワークみたいなものを
作ってしまうことは、危険以外のなにものでもない。あなたはその点に
無防備すぎるわ! だって考えてご覧なさい。お互いがお互いを
洗脳未遂者だと知る十人のグループがあったとする。その内のただ一人
でも再洗脳されてしまえば、どうなる? 洗脳は記憶を消すわけではない。
再洗脳を受け、心まで『奴隷生物』になってしまったら、他の九人を
即座に宇宙人に通報するわ。
110名もなき改造人間たち2・姉弟(21/26):2012/04/05(木) 20:23:27.84 ID:1KHXpAvl
 だから、本来なら、洗脳未遂者は自分以外のどの洗脳未遂者にも自分の
真実を知らせてはならないし、知られてもならない。あなたとわたしが
こうやってお互いの秘密を伝え合ってしまったことですら、本当は
危険な、そして、地球人類のためにはやってはいけないことだったのよ
……この、いまわたしたちがやっている作業と同じくね」
 姉の言葉は、僕や姉がどれほどギリギリの状況に置かれているのかを
思い知らせた。そして、姉が最後に発した皮肉は、僕の心にさらに
暗い影を落とした。僕たちはこれからも「奴隷生物」を装い、宇宙人の
指令で、こんなことよりもずっと残忍な任務を遂行せねばならない
かもしれない。
 姉の無事を確認できた喜びをもっともっと堪能したかったのに、
僕は何も話す気が起きなくなり、黙ったまま作業を続けた。やがて
任務終了の時間が迫った頃、僕はようやく口を開いた。
「ともかく。姉さんの心が無事でよかった。でも、肉体の改造を阻止
できなくてごめんね」
 姉は心から嬉しそうに言った。
「ううん。いいの。それより、わたしも本当に嬉しかった。次に会う
ときまで、洗脳なんてされないでね!」
 いつもの姉にない、どこか子供っぽい甘えた口調で姉は答えた。
その後まもなく交替要員が訪れ、僕らは無表情な奴隷生物を装い、
各々が招集された持ち場へ向かった。

 僕が招集された場所は、他でもないあの牢獄だった。僕はあのおぞましい
看守の役割を演じねばならなくなったのだ。さらに、僕と同時に招集
された奴隷生物は、かつて僕が愛したあの女性のなれの果てだった。
 僕はただひたすら、自分が抜き差しならない状況に追い込まれない
ことを祈り続けた。つまり、この手で罪もない「反逆分子」を虐殺
せざるをえなくなる、という状況だ。
 結果的に、そんな状況が訪れる前に、僕らの勤務時間は終了した。
だが僕の心はまったく平静ではなかった。あのやさしく明るい短大生
だったはずの生き物は、僕のすぐそばで、レイプ犯に反抗する勇敢な
女性と、その女性をレイプ犯から、そして宇宙人の処刑から守ろうと
した男性を、むごたらしく焼き払ったのである。
 絶望とこみ上げる吐き気を心の奥深くに隠し、このおぞましい生物
から一刻も早く離れたい、と足を速めかけたそのとき、僕の手を、
彼女、いや「奴隷生物四百四十三号」が握り、こう言った。
「オ前ト私ハコれヨリ命令待機時間ニ入る。コこデ私ハ、コノ時間内
デノ、我々ニよル交尾行動ヲ提案スる」
 最初僕は、自分が深刻な状況に置かれている、という自覚がなかった。
実のところ、ほんの一瞬、その「提案」を受諾し、目の前の生物を相手に、
過ぎ去った時間のまがい物を味わうのも一興ではないか、などとすら
思った。目の前の奴隷生物からは、透けるような白肌も、あの屈託のない
笑顔も失われてしまっていたものの、瀬戸物のように華奢な、あの
妖精めいたボディラインはそのままだったのだ。
 だがすぐに僕は、それが決して選んではならない選択肢であると
気付いた。改造された僕の生殖器は、すでにあのときの一時的な麻痺状態
を脱している。それは正常かそれ以上のオーガズムを僕に与えるだろう。
それは僕に残された感情を消去し、僕の洗脳を完了させてしまうに違いない。
 そんな判断を即座に行い、僕は返答した。
「拒否スル」
 僕が見知っている限り、これはごくありふれたやりとりで、何の問題も
なさそうだった。奴隷生物というのは男女問わずきわめて性欲旺盛で、
この巨大な円盤内のいたるところで、周囲の目を全く意に介さずに肉の
交わりを繰り広げている。しかも明らかに乱交を常態としており、
性交が可能な状況に置かれると誰彼構わずに「交尾の申し込み」を行う。
そしてこのように無節操である分、拒絶に対する対応も淡泊である。
代替の相手はいくらでも探せるということだろう。
111名もなき改造人間たち2・姉弟(22/26):2012/04/05(木) 20:23:57.45 ID:1KHXpAvl
 だが、目の前の奴隷生物は僕の手を放さず、僕の返答に疑問を発した。
「不合理デアる。オ前ハ私トスでニ『ツガイ』ノ契約ヲ結ンデいル。
ヨッテオマエノ拒否を却下すル」
 完全に意識の外にあったが、たしかに僕は、目の前の生物とそのような
「契約」を交わしていた。そしてそれは今や、僕を抜き差しならない
状況に追い込みつつあった。
 美しい奴隷生物は、内心で狼狽する僕の肩を、通路脇の交尾用ブース
の壁に押しつけ、寝椅子のように加工された床へと押し下げた。そうして、
床に寝かせた僕の肩を押さえたままで自分の両足を開き、僕のへそが
あったあたりに彼女の尻を載せてぺたんと座った。お互いの皮膚から
常時滲出している粘液に、すでに彼女……この奴隷生物が分泌を始めた
愛液状の物質が加わっているらしく、お尻の山の全体がぬるぬるに滑った。
 奴隷生物は尻の割れ目の部分を、僕のとぐろ状に巻いている性器に
擦りつけた。すでに性器の巻きはかなりゆるみ、その全体が徐々に鎌首
をもたげつつあるのが感覚で分かった。やがて奴隷生物は、ゆるやかに
直立した細長い性器を尻の山の間でぎゅっとはさみ、僕の肩を押さえて
いる手はそのままに、そのままゆるやかに腰を持ち上げた。そうして
生じたにゅるん、という摩擦が、僕の性器を完全に直立させた。
 腰を高く持ち上げた奴隷生物は、今や、直立した性器の鋭くとがった
先端を自分の円い器官の中央に当てていた。

 異星人が植え付けた知識は、奴隷生物の交尾がこの後どのような経過を
たどるのかを教えていた。
 僕の上にいる生物がこのまま腰を落とすと、女性器中央のくぼんだ
部分の皮膚を突き破り、男性器の先端が内部にまで貫通する。そして
そのまま奥へ突き進む細長い男性器が、根元まで完全に挿入されるまで
の間、男女とも、未改造の人間の想像を絶する深い快感に浸される。
 だがそれは行為の完了ではなく、むしろ開始である。挿入された
男性器は女性器内部で真空状態に置かれ、吸飲によって内部の海綿体組織
が充血し、何倍にも肥大して女性器内部の壁に密着する。そして男性器
と女性器双方の筋肉の力で相互に摩擦を開始する。やがて絶頂に達する
と、真正のオーガズムと共に、男性器先端から細い針が突き出し、
女性器内奥の卵嚢内に精子を放出するのである。

 もう、残された時間も、とりうる選択肢もほとんど残されてはいな
かった。この生物が腰を動かし、挿入が始まってしまえば、そこに
生じる猛烈な快感が僕の感情を吹き飛ばしてしまうだろう。仮に、
その快楽の激流を奇跡的に逃れたとしても、その次に待つのは海綿体
の肥大と、そこから生じるさらに本格的な性的快感である。
 ひとたび海綿体が肥大してしまえば、もうもはや後戻りはできない。
その段階に達してしまえば、射精に至る自動プロセスのスイッチが
入ってしまうのだ。つまりもう、その果てに待つ途方もないオーガズム
の激流を逃れることは何をしてもできなくなる……。
 ぼくは一瞬、ほんの数マイクロ秒ほど目を閉じ、そのわずかな時間で、
改造前の姉の顔と、改造後の姉の顔を、交互に思い浮かべた。それから
地球と、もう遠い過去のように感じられる両親の顔を思い浮かべた。
そして最後に、改造前の短大生さんの顔を思い浮かべた。
 僕は目を開け、ほぼ瞬時に自分のなすべきことをなした。
 ごとんと音がして僕の横に奴隷生物の首が落ちた。続いて青黒い
体液が噴出し、僕の胸に降り注いだ。彼女の首を一閃した右手の爪は、
その瞬間の猛烈な速度と力の負荷で、ぼろぼろになっていた。
 生命活動をまさに終える直前の彼女の触角から、「主」と他の奴隷
生物へ向けた「一斉放送」が発信された。
〈奴隷生物四百四十四号ハ未完成品デアル。直チニ捕ラエ、シカルベキ
処置ヲ施ス必要性アリ。現在地はQ四V八区画。繰リ返ス、奴隷生物……〉
112名もなき改造人間たち2・姉弟(23/26):2012/04/05(木) 20:24:25.33 ID:1KHXpAvl
 断末魔の脳波は「一斉放送」を二度繰り返す前に沈黙した。しかし
それは円盤内の奴隷生物たちに、僕の捕獲命令を伝達するには十分すぎた。
 僕には目指す場所がわかっていた。そう遠くはない。幸い、今の
ところ誰もいない通路を、僕は猛スピードで移動した。

 多分僕は、「一斉放送」が始まる前に彼女の脳を叩き潰しておくべき
だったのだろう。だが、それはできなかった。それは、僕が奴隷生物
ではなく、人間の心をもつからだ。
 同じように、僕は彼女に押し倒される前から、僕がとるべき唯一の
選択肢をはっきり見定めていた。それは僕にとっての唯一の合理的選択
だった。それを、あんなぎりぎりの瞬間まで実行できなかったのは、
やはり僕が奴隷生物ではないからだ。「不合理な」感情に足を取られ
つつ決断を下す、不器用な脳を保持しているからだ。
 だが多分、その不合理さこそが僕を救った。もし僕がもっと合理的な
選択を選んでいたら、彼女は僕の洗脳未遂の事実を推理し、とっくに
僕を殺していたかもしれない。
 僕はまた、奴隷生物になぜあれほど貪欲な性衝動が植え付けられて
いるのかも理解した。乱婚も「ツガイ」も、多分すべては潜伏する
洗脳未遂者に否応なしにオーガズムを与え、洗脳を完了させるための
巧妙な仕掛けなのだ。

 通路を曲がるとすぐ、目指す人物が目に入った。姉である。幸い
一人で、また、これはローテーションの状況から想定済みだったが、
武器を携帯していた。
 僕は姉に目配せをしながら、乗員があまり立ち入らない、閉鎖区域
へ向かう通路に進路を変えた。姉はただちに僕の意図を察し、武器を
構えて「一斉放送」を行った。
〈コチラ奴隷生物四百四十五号。Q四V六区画ニテ逃走中ノ奴隷生物
四百四十四号を発見。現在追跡中。補足次第シカルベキ処置ヲ行ウ。
ナオ、当方ハ武器ヲ携行、目標ハ非武装。ヨッテ援軍ハ不要ト判断スル〉
 奴隷生物はすべて同等の戦闘能力をもつ。その戦闘は戦闘専用プログラム
によって駆動され、戦闘結果は戦闘力の数値を正確に反映する。それゆえ、
一方が武器を手にしている場合、武器を持たない側が勝利す見込みは
ほぼゼロになる。つまり、武器をもった奴隷生物が丸腰の目標を追って
いる、という情報が広められた時点で、警戒態勢はほぼ解除された
といってもよいのである。

 僕は姉から逃れるふりをして、袋小路である閉鎖区域へ走った。
姉もまた僕を追うふりをして同じ場所を目指した。
 やがて閉鎖区域へ到着した僕は、シャッターを閉ざし、監視装置が
周囲にないことを確認した。それから姉に向き直り、言った。
「姉貴! 状況は分かっているね? 今すぐ僕を、その溶解銃で殺して! 
そうすれば、姉貴の洗脳未遂を知る奴隷生物はこの世からいなくなる。
 他に手はない。奴隷生物は簡単に自殺できないよう、何重もの安全装置
を施されている。そして他のやつらが僕を殺してくれるとは限らない。
むしろ可能な限り僕を生け捕りにして『再利用』しようとするはずだ。
……そして、そうなってしまったら、この僕自身の口から、姉さんの
秘密がやつらに漏れてしまうことになる。それを封じるには、今、
姉さんが僕を殺すしかない。
 ……覚悟はできてる。姉さんに殺されるなら。それが人類のため
なら。僕は受けいれる。さあ、ためらわないで!」
 聡明で冷静な姉ならば、すべてを理解し、即座に僕の提案を実行に
移してくれるだろう。僕はそう思っていた。
113名もなき改造人間たち2・姉弟(24/26):2012/04/05(木) 20:25:25.43 ID:1KHXpAvl
 ところが、姉は引き金に指をかけることすらしなかった。代わりに、
武器を下に置き、僕の方へ歩み寄り始めた。改造前と変わらぬ美しい
スタイルを留めた裸身を正面に見据えながら、僕はうろたえて言った。
「じ、時間はあまりないんだ。姉貴がいつまでも『処理完了』の通知を
しなければ、不審に思った奴隷生物が駆けつけるかもしれない。
その前に……」
 僕の言葉は姉の唇によってふさがれた。柔らかい唇が貪るように僕の
唇に貼りつき、突き出された舌が僕の口の中の敏感な部分でにゅるりと
動き、再び姉の口内に収まった。僕は、股間で渦を巻いている器官が
急激にほどけ始めたのを感じた。
 唇を離した姉は、唖然としている僕の耳元に口をあて、熱い息と
共にささやいた。
「……もう、いいのよ。あなたは死ななくていい。いえ、わたしが
死なせない!」
 そう言って僕の目を見ながら、姉は僕の下腹部へ手を伸ばした。
やがて姉の柔らかでぬめぬめした十本の指すべてが、とぐろ状に巻いた
男性器に当てられ、まるで生き物のように僕の男性器の付け根から
上へと螺旋状に進み始めた。
 姉の指は繊細かつ大胆に奴隷生物の性感を刺激し、性器は急速に
硬度を増し、とぐろがほどけ始めた。
「死なせない。死なせないから!」
 かろうじてそう聞き取れる熱い吐息が耳と首筋にかかり、
湧き上がった快感を倍増させた。
 恐慌と、そしてあらがえない快感のしびれで身動きのとれなくなった
僕は、震えながら声を絞り出し、なんとかして姉の理性に訴えかけ
ようとした。
「……ひゃ……やメるんだ姉貴! そんなコと……くっ……したラ
……僕が……僕らがどうなって……しまうカ……わからなイ……姉貴
……じゃ……ない……ダ……ろ……」
 このまま性感が高まり、オーガズムに達してしまえば、中断中の
感情消去が再開してしまう。それは「服従の喜び」および「反逆の恐怖」
という「ドライバ」のインストールを完了させる。そうなってしまった
僕は、真っ先に目の前の姉が「未完成品」であることを宇宙人に通報
する。そうなればもう、今度こそ姉に逃げ場はない。
 生き生きと語りかける姉の精神が奴隷生物化しているとは思えない。
しかし、このぎりぎりの局面で、姉は錯乱してしまったのかもしれない。
そう思った僕は、すがるように姉に訴えた。
「姉貴! 正気を取り戻しテくれ! いつもノ冷静な姉貴に戻ってくれ。
僕ナんかのことより、人類全体の未来を考えテくれよ!」
 必死の言葉も耳に入らないように、姉は愛撫をやめようとせず、
とうとう僕の性器は垂直に硬化してしまった。困惑に包まれた僕に、
熱さを増したように感じた息を交えて、姉が答えを発した。
「わたしは正気よ。ただ自分に嘘をつくのをやめただけ。わたしが
本当に望んでいるのは人類の未来なんかじゃない。あなたよ! 
あなたにそばにいて欲しいの! そのためなら人類だって裏切る。
感情だって捨ててやるわ! だって……好きなのよ! 異性として、
オトコとして、あなたが好きだったの! 気付いたらそうなってた! 
……でも……でも、言えるわけない。だから、ずっと胸に秘めて、
あなたを見守りながら生きていくつもりだった」
 思いがけぬ真相の告白は、姉の「姉」としての仮面の放棄だった。
そして、そうやって「女」としての魅力をすべて解放し、僕にぶつけて
きた姉に、僕は抗する術を失った。美の極致のようなボディラインに
青いぬめぬめした皮膚をまとった姉の肢体は、今や改造前の姉以上に
蠱惑的な魔物として僕を魅了し、僕のすべてを虜にしてしまった。
114名もなき改造人間たち2・姉弟(25/26):2012/04/05(木) 20:25:50.62 ID:1KHXpAvl
 姉は、全身痺れきった僕への愛撫の手を止め、僕を抱きしめた。
細長く直立した男性器が、二人の粘液まみれの肉体の間に挟まれ、
圧迫された。
 姉は僕の背中を撫で回しながら、ゆっくりとひざをかがめ、上半身を
ずり下ろし始めた。男性器がちょうど豊満な胸の位置に来たとき、
姉は黄色と黒のサイケデリックな乳房が作る谷間で、男性器をぎゅっと
圧迫した。さらに体を下げ、男性器の先端が口の位置に来ると、姉は
その先端から付け根まで、ねとねとした舌を這わせた。もはや立ち続ける
ことができなくなった僕は、うずくまる姉にもたれかかるように膝を
屈し、床に尻をついた。
 姉は立ち上がり、両足を開くと、まん丸い女性器の中心部のくぼみに、
鋭くとがった男性器をあてがった。
「だめだ……そレだけは……ヤめろ、姉貴!」
 僕のなけなしの理性が弱々しい抗弁の言葉を発した。だが、僕の肉体は
とうに昔に抵抗をやめていた。
 姉は声を震わせながら言った。
「やめないわ。夢だったの。わたしの気持ちが分かる? 毎晩寝たふり
をしたとたん、大好きなあなたの体を、あの女がおもちゃにし始めた。
 彼女、わたしの気持ちにとっくに気付いていた。眠り込んだあなたを
見ながら一人自分のアレを慰めていたわたしを、あの女はにやにや
笑って見ていたわ。すべて知った上で、わたしには決して手の届かない夢
を、あの女はやすやすと掴み、わたしに見せつけた!
 でも、あなたの気持ちを踏みにじる気持ちはなかった。あなたが
選んだ女性だから、わたしは祝福するつもりだった。……でも、あなたは
……あの女を殺してくれた! それを知ったわたしは、理性の最後の
歯止めを失った。いえ、そんなもの、自分から捨て去ったのよ! 
ああん。好きだよ! 大好きだよ! しあわせだよぅーーーっ」
 感極まった姉は、ひと思いに体重を僕の男性器にかけた。鋭い先端が
姉の女性器の皮膚を突き破り、僕の男性器を強い弾力の輪が締め付けた。
「あああああああああああああっ!」
「あああああああああああああん!」
 にゅるりと姉の胎内に突き刺された男性器が、強烈な弾力に抗しながら、
奥へ奥へと突き進む中、僕と姉の口から同時にかん高いケダモノの声が
ほとばしった。人間のオーガズムの何倍もの目もくらむ快感の中、
数限りない「大事なもの」が一瞬心に明滅し、そして永遠に消え去った。
「ああん! しあわせ! しあワセ! シアワセ…………」
 とろけそうな姉の声は、急激に生気を失い、無機的な「音」に転じて
いった。
 それでも、猛烈な快楽の嵐をかろうじてくぐり抜け、人間の心の
カケラをかろうじて固守した僕は、姉もそうであって欲しいと
強く願った。だが、現実は無情だった。
〈…………奴隷生物四百四十五号ノいんすとーる不調は、当個体ノ
性欲過剰ニヨル偶発行動ニヨリ修復サレタ。コレヨリ引キ続キ、奴隷
生物四百四十四号のいんすとーる不調ノ修復ヲ続行スル〉
 そんな姉による「一斉放送」を受信した僕の知性は、姉の精神が
取り返しのつかない変容を受けてしまっという事実、僕自身も間もなく
同じ道を歩むという事実、それはまた地球人として許されない道である、
といった事実を、奇妙に冷静に認識した。そして、ひどく単純化して
しまった僕の心を、単調な不快感のようなものが覆った。
 姉の性器は機械そのものの無機的な手順で僕の性器の吸引を開始した。
男性器が肥大し、姉の性器の内壁に密着し始めたのを知った僕は、もう
これで僕自身の中でも、二度と戻れない過程が開始してしまったことを
知った。もうじき、姉の側に行くのだ、と認識したとたん、先ほどの
不快感が和らいだ。
115名もなき改造人間たち2・姉弟(26/26):2012/04/05(木) 20:26:15.40 ID:1KHXpAvl
 姉が切り捨てた「人類の未来」を僕も切り捨てよう、と思った。
その代わり、残された時間、自分の心を姉への思いで満たし、姉の思い
を受けいれるべきだ、と、挿入の直前、自分が自分に言い聞かせて
いたことを思い出した。心が鈍麻して、それがどんな「思い」だった
のかはもう想像できない。でもそれが姉の思いだということだけは
理解できた。
 姉は機械的に腰と女性器内部の筋肉を動かし始めた。僕はもう快楽に
抗うことはせず、上昇する快楽の曲線に身を委ね始めた。
 迫り来る最後の瞬間を前に、僕は姉が人間として発した最後の言葉に
思いをはせた。
 ――「……しあわせ! しあワセ! シアワセ」――
 そうか。姉をシアワセにできたのなら、僕自身もシアワセなのだ。
その思いは僕の心の最後のわだかまりを消し去った。僕は自ら腰を振り、
「そのとき」を自ら招き寄せ始めた。
 加わった腰の動きは猛烈な快楽の嵐をさらに加速し、僕の心を洗い
去った。性器の先端から針が伸び、射精の瞬間が迫った。
「姉サン、僕モシアワセダ」
 そう言葉にした瞬間、肉体の中心部を痙攣が襲い、強烈な衝撃が
僕の脳を貫いた。そして完全に空白になった心の中心に、人間の感覚と
知性では語ることも理解することもできない、不可解の塊のような
何者かが座を占め、僕自身の本質を猛烈に改変させながら、深く深く
根付き始めた――インストールが完了するのだ。

        *    *    *    *

「オ前ト私ハコレヨリ命令待機時間ニ入ル。ココデ私ハ、コノ時間内
デノ、我々ニヨル交尾行動ヲ提案スル」
「了解シタ。提案ヲ受諾シ、交尾行動ヲ開始スル」
 待機時間に入った二体の奴隷生物が、かつて際限なく繰り返され、
今後もまた際限なく繰り返されるであろう定型句を口にし、交尾行動を
開始した。
 人間の目には快楽を感じているのかどうかすら疑わしい、機械的な動作。
事実、過度に単純化された快楽衝動のみに従う彼らの行動には、自動機械
に等しい内面性しか伴っていない。そこには情感も、交感も、陰影も、
余韻もない。あるのはただ直線的な衝動の発散だけだ。
 それでもこれは、かつて「姉」と呼ばれた奴隷生物四百四十五号が、
それがいかなるものであるかを完全に理解した上で、心から希求し、
選択した、彼女の「幸福な未来」なのだ。彼女の「弟」すなわち奴隷
生物四百四十四号もまた、そのすべてを理解した上で、それを自らの
幸福と考え、受けいれた。
 だからこの情景は、単なる奴隷生物の機械的な性行動であるだけでは
なく、二人の人間がすべてを承知で選択した幸福な未来像でもある。
 地球人類という種族がそのような「幸福」すらも時に受けいれて
しまえる複雑な存在であることを、もしかすると侵略者たちは――さらなる
狡猾な罠への準備として――理解し始めているかもしれない。だが、
その侵略者の生物兵器に過ぎぬ目の前の奴隷生物たちにとって、それが
永久に理解できないものになってしまったということだけは、もはや
二度と変えようのない事実なのである。(了)