=◎= 遊★戯★王 で エロ談戯 =◎= |ドロー21|

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952駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:28:46.42 ID:Q7NupOma
「・・・」
「・・・これじゃあ、不満なの?」
イングリットは困ったように眉をよせた。まだ、誰と戦うかを聞いていないが、
ナチュル・エクストリオを出されれば、まず、どんな奴でも2つ返事でOKを出すだろう。
だが、今回ばかりは、カードを報酬にするわけにはいかない。俺にはもっと欲しいものがあるのだ。
「・・・仕方ないわね」
一向に首を縦に振らない俺を見て、イングリットは何かを諦めたように肩を落とした。
そして自分のデッキケースをそのまま、こちらに差し出した。
「私のデッキから好きなカードを抜いていいわ、でも、ごめんなさい、
ナチュル・エクストリオ以上のレアカードは入ってないの、
・・・だから、満足してもらえるかどうかわからないけど・・・」
報酬の足りない分を、デッキを全て渡す事で補おうとしたらしい。
どうやら、イングリットはかなり本気で俺に助けを求めているようだ。
そういえば、タッグを組んだときに確認したが、イングリットは【ナチュル】の使い手だった。
ナチュル・エクストリオもきっと彼女の切り札的なカードなのだろう。
それを他人に渡すことを躊躇しないほど、イングリットは切羽詰まっているのだ。
俺はイングリットの目を見た。彼女の目は潤んでいる。
もし、これで俺が断ったら、きっと泣いてしまうだろう。
953駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:29:32.19 ID:Q7NupOma
「・・・いや、これはいらない」
俺は差し出されたデッキケースをそのままイングリットに押し返した。
「そんな!?」
イングリットの大きな瞳がさらに大きく開いた。目から涙がこぼれおちる寸前である。
「勘違いするなよ、・・・カードはいらないって意味だ」
「・・・え?」
そう、報酬なんて始めから断っているのだ。しかし、イングリットの方から、
それでは納得がいかないと言ってきた。だから、その言葉に甘えさせてもらおう。
「俺にはカードの代わりに欲しいものがある」
「・・・カード以上に欲しいもの? それは一体・・・?」
イングリットはゴクリと唾を飲み込んだ。デュエリストとして、
カード以上に価値のあるものなんてなかなか存在しない。何を言われるのか、戦々恐々としている。
「・・・俺が欲しいもの、それは・・・」

「さあ、行きましょうか、具体的な話は歩きながら話すわ」
「・・・」
「聞いてるの?」
「・・・」
「ちょっと!」
「・・・報酬を忘れてないか?」
「え? う・・・」
「俺は報酬を貰えるまでここから動かんぞ、一歩もな!」
「・・・言わなきゃダメ?」
「当然だ、人に労働を強いるのならば対価を支払わねばならない、
これは契約の基本中の基本だ、立派な大人なら契約は守らなくちゃな、
・・・そう、立派な大人ならば絶対に契約を守らなきゃいけないんだ」
大事な事なので2回言いました。
954駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:30:01.87 ID:Q7NupOma
「・・・うぅ」
普段から大人であることを強く意識しているイングリットにとって、
『大人』という言葉はかなり強い意味を持つ。時として、自分のプライドすら曲げてしまうほどの強い意味を。
「・・・さっさと行くわよ、お、お・・・」
「お?」
ぐぐぐ、と、イングリットは唇をかみしめる。よほどこの言葉を言うのに抵抗があるらしい。
「・・・さっさと行くわよ、・・・・・・・・・お兄ちゃん」
「ヒャッホー! この世の春が来たぜ! さあ、イングリット、
お兄ちゃんになんでも任せな! 今なら、デュエルキングにだって勝ってみせる!」
テンションだだ上がりの俺と対照的にイングリットのテンションは目に見えて落ちている。
「悔しい・・・、こんなダメな大人に屈するなんて・・・、
・・・でも、我慢よ、あいつらを倒すまでは・・・」
イングリットは、自分に言い聞かせて、自分自身を誤魔化そうとしているようだ。
「どうした? テンション低いぞ、イングリット! お兄ちゃんがいるから安心しろ!」
「・・・はあ」
イングリットはため息をつき、肩を落としながら、俺の部屋を出ていく。
俺もその後について行き、部屋から出た。
955駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:30:37.85 ID:Q7NupOma
俺がイングリットにお願いした報酬は、俺の事を「お兄ちゃん」と呼ぶ事だ。
彼女はこれを聞いた時、ポカーンとした顔をしたが、すぐにこちらを睨みつけながら全力で拒否してきた。
しかし、先に全ての交渉カードを切ってしまった彼女にとって、俺の要求を拒否するすべがない。
彼女自身もそのあたりは自覚していたようで、俺の「じゃあ、傭兵デュエリストやらない」の一言で折れた。
イングリットと俺は部屋から出ると、そのまま歩き出した。
「で、俺達はどこに向かっていて、俺は誰を倒せばいい?」
「私達が向かっているのはシティ繁華街、そして、あなたが倒すのは地上げ屋よ」
「地上げ屋?」
「最近、旧サテライトの開発が進んでいるでしょ? シティから沢山の企業が乗り出しているのよ、
でも旧サテライトだって無人の地じゃないわ、人だって住んでいる・・・、
でも連中はそんなのお構いなしに、住んでいる人たちを無理やり立ち退かせて、
旧サテライトの土地を手に入れようとしているのよ」
「ほう、つまり、イングリットの住んでいるところにもその地上げ屋がやって来たわけだ・・・、
あれ、お前、旧サテライトに住んでたっけ? 前に会った時はシティ出身だって・・・」
「ええ、そうよ、私は旧サテライトには住んでいないわ」
「じゃあ、なんで?」
「友達よ」
「友達?」
「地上げ屋が取り上げようとしているのは、旧サテライトの私の友達の家なの」
「なんと、それじゃあ、お前はその友達のために一肌脱いでいるわけか」
「まあ、そういう事ね」
956駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:31:12.69 ID:Q7NupOma
つまり、イングリットは友達を助けるために、自分のデッキケースまで差し出そうとしていたわけか。
デッキといえば、それはデュエリストの魂といっても過言ではない。
彼女がデッキケースを差し出した時、彼女はデュエリストをやめる覚悟があったという事だ。
自分のためではなく、友達のために魂すらもささげる覚悟があったなんて、
・・・イングリット、良い娘過ぎるだろ・・・。
「イングリット!」
俺はこの少女が急に愛しくなった。いや、いつも愛おしいと感じていたが、
このイングリットの一連の行動を見て、ますますその思いが強くなった。
そして強くなりすぎたこの思いを、イングリットを抱きしめることで発散しようと考えた。
「な、ちょっと、いきなり何するのよ!」
「イングリット、好きだ、イングリット!」
「はあ!?」
俺はイングリットを後ろから抱き締めるとそのまま、頬をスリスリする。
幼女の肌はすべすべで気持ちがいい。
「は、離して、・・・だ、誰か! ここに変態が!」
イングリットの首元からかすかにコロンの香りがする。
最近の子供は香水までつけるようになったのか、けしからんな。
俺はイングリットの首元に鼻を近づけるとクンクンと嗅いで、その匂いを堪能する。
「ひ、・・・誰か、セキュリティを!」
セキュリティという言葉に反応して俺は腕を開いた。
イングリットは走って俺から離れると、震えながら道端にへたり込んだ。
957駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:31:45.21 ID:Q7NupOma
おおっと、いかん、いかん、ついついイングリットへの思いが暴走してしまった。
「いや、悪かった、許してくれ、イングリット」
にこやかな笑顔で近づくが、イングリットはまだこちらを警戒している。
「・・・あなた、本物の変態でしょ、セキュリティに連絡するわ」
「ほう、いいのかな?」
「え?」
「今、セキュリティに連絡したら、間違いなく俺は逮捕されるだろう、
・・・だが、俺が逮捕されて一番困るのは、はたして誰なんだろうな?」
「あ、・・・く」
今、俺がいなくなって困るのは誰よりもイングリット自身だ。
地上げ屋がどれほどの実力かは知らないが、イングリットは自分では敵わないと思って俺を頼りに来たのだ。
肝心の俺がいなくなれば、地上げ屋を倒す事が出来なくなり、
旧サテライトに住むという友達の家も地上げ屋にとられてしまうだろう。
「わかったかな?」
「・・・事が全て終わったら、絶対にセキュリティに突き出してやるんだから」
イングリットはしぶしぶと立ち上がると、また歩き出した。俺もその後に続く。
気のせいでは無く、明らかに早足のイングリットと共に繁華街へ向かった。
958駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:32:14.39 ID:Q7NupOma
「そういや、なんで繁華街なんだ? 取られそうな場所は旧サテライトなんだろ?」
「打ち合わせみたいなものよ、事情は私から話すより当人から聞いた方がいいでしょう?」
「なんだ、わざわざ、友達は旧サテライトからシティまで来たのか」
「もともと、あの子達が私に相談しに来たのよ」
「あの子達・・・」
「ええ、私と同い年だからまだ子供でしょ? どうすればいいのかわからなかったみたいね」
「お前と同い年ならお前も子供じゃないのか・・・?」
あれから少し時間が経って、イングリットの警戒も、ちょっとはほぐれたようだ。
ちゃんと俺と話をしてくれるようになった。しかし、歩く速度は変わらずで、
俺は、イングリットの帽子を見ながらだが話している。
詳細はそのお友達が教えてくれるらしい。確かに色々と聞きたい事はある。
そもそもなぜ、同い年のイングリットを頼らねばならないのか、
いくらイングリットが年不相応に大人びていても、まず頼るとしたら親だろう。
それにイングリットは「あの子達」と言った。どうやら地上げ屋に困っている子供達は複数人いるようだ。
そうこうしているうちにシティ繁華街に到着した。
イングリットはキョロキョロしながらあたりを見回している。お友達を捜しているようだ。
「どこかしら? あまり遠くに行かないでって、言っておいたはずなんだけど・・・」
俺も捜すのを手伝おうとしたが、繁華街は親子連れで子供だらけだ。そういえば今日は日曜日だったっけ。
959駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:32:40.14 ID:Q7NupOma
「・・・ああ、いたわ」
イングリットはその友達を見つけたらしい。カードショップの前にあるスロットに駆けていく。
スロットには生意気そうな目つきをした男の子が立っていた。
・・・男の子だと?
「捜したわよ、手島君」
「おお、マイか、悪いな、あゆみの奴がトイレに行きたいって言うもんだからよ」
なんだ、この少年はなんだか知らないが俺のイングリットとすごく親しそうだ・・・。
というか、マイって誰だ。イングリットの事か? もしかしてイングリットの愛称なのか?
・・・もしかして2人は愛称で呼びあえるほど親密な関係なのか?
「いかん、いかんぞ」
俺も彼女たちの元へ駆けて行った。
「・・・ん、そいつは?」
「彼が例の傭兵よ、・・・安心して、変態だけどデュエルの腕は本物だから」
少年がこちらを睨む。なんだ、やろうってのか。
「・・・イングリット、これはどういう事なんだ?」
「え?」
「その男の子は一体誰だ? どんな関係だ!?」
「いや、だから、私の友達よ、ここに来るまでに話したじゃない」
「ダメだ!」
「はあ?」
「お前に彼氏なんて・・・、お兄ちゃん許さないぞ!」
「・・・おい、こいつ何言ってるんだ?」
「ごめんなさい、私にもわからないの・・・、多分、精神的な病気なんだと思うけど」
「おい、少年!」
「あん!? なんだよ!」
「もし、イングリットと付き合いたければ、お兄ちゃんである俺を倒してからにしろ!」
「おい、こいつ本当に訳分からない事言ってるぞ!」
「・・・やっぱり、この人に頼ったのは失敗だったかしら」
960駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:33:10.08 ID:Q7NupOma
そこへショップの中から1人の少女が出て来た。
「ごめんね、手島君、お待たせしちゃって、・・・あ、マイさん、戻って来たんですか?」
「ああ、瀬良さん・・・」
「少年、君の名前は何て言うんだ?」
「俺か? 俺様の名前は戦士手島だ」
「よし、戦士手島、イングリットを賭けて俺とデュエルしろ!」
「え? なんですかこれ?」
「・・・なんなのかしらね」

「なんだ、手島君はイングリットの彼氏じゃなかったのか、先に行ってくれよ」
「だから、てめえが勝手に勘違いしただけだろうが!」
あやうくデュエルの一歩手前までいったが、
手島とイングリットが口と手に物をいわせて俺を説得してくれた。
「それで、君が瀬良あゆみちゃんか」
「はい、・・・あの、この度は本当にありがとうございます、その、お礼については・・・」
「ああ、いらん、いらん、もうイングリットから貰っているから」
「え?」
「余計な事は言わないでくれるかしら?」
イングリットが俺の足を踏みつける。
いくら体重をかけられても少女程度の体重では痛みなど感じない。
「マイさん?」
「あなたは気にしなくていいのよ、私が勝手にやっている事だから」
「でも・・・」
「いいから! ・・・それよりも本題に入りましょう、
瀬良さん、彼に事情を教えてあげてくれるかしら?」
961駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:34:01.10 ID:Q7NupOma
「は、はい、まず、事の発端は私の住んでいる孤児院に旧サテライトを開発しようって言ってきた人が来た事なんです・・・」
孤児院か、なるほど、親がいないからそもそも頼る大人がいないのか、
それに孤児院がなくなれば、その施設に住んでいる複数の子供が路頭に迷うだろう。
これで俺の先ほどの疑問点は解決した。
・・・それにしても、旧サテライトの孤児院ねえ。
「その人の話では・・・、あ、その人と直接話したのは私じゃなくて、
孤児院で私達の面倒を見てくれている人なんですけど、
・・・私、その2人の会話をこっそり聞いちゃったんです」
地上げ屋と孤児院の代表者との話を盗み聞きしていたわけだ。
「その、陰でひっそりと聞いていたから、よく聞こえなかったんですけど、
相手の男の人がこの土地を開発したいから立ち退いてほしいって言ってきたので、
マーサが・・・、あ、マーサっていうのは私達の面倒を見てくれる人です、
・・・マーサが絶対にここからは出ていかないから、アンタ達が出ていきなって、
すごい声で怒鳴って、それで・・・」
やはり、マーサハウスの話か、旧サテライトの孤児院だから、恐らくは、と思っていたが、ドンピシャだった。
そして、それからあゆみは必死に事情を説明してくれた。
子供らしく、時折話が飛んで所々要領を得ないところもあったが、
その度に手島やイングリットが補足説明をしてくれた。
962駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:34:27.25 ID:Q7NupOma
話をまとめると、こうだ。
『マーサハウスに、ある日、地上げ屋が押しかけて来て、立ち退きを要求してきた。
しかし、マーサはそれを受け入れず、逆に地上げ屋を追い返した。
地上げ屋は、その日は大人しく帰ったが、また別の日に今度はデュエリストを連れて押しかけて来た。
地上げ屋曰く、「立ち退き料は相場の額を用意する、
もしそれでも立ち退くつもりが無いのなら、デュエルで決着をつけよう」と。
無論デュエルを引き受ける理由が無いマーサはこれも断ったが、
その日以来、地上げ屋は毎日マーサハウスを訪れるようになり、
また、マーサハウスには度々嫌がらせをするようになった。
これにマーサは頭を悩ませており、それを見たあゆみはマーサハウスを助けるため、
友達の手島と共に地上げ屋に対抗できる強いデュエリストを捜しにシティまで来た。』
ひどい話だ。セキュリティに通報した方がいいんじゃないのか。
「セキュリティは民事不介入が原則よ、それに嫌がらせしている連中はセキュリティに注意されると、
すぐにいなくなるんだけど、またすぐにやってきて、嫌がらせをしてくるんですって」
「それに今、WRGPとかいうのが開催されているんだろ? 
そっちにかかりっきりでセキュリティも手が回せないんだとよ、
毎日パトロールでもしてくれれば大分違うんだろうけどな」
セキュリティはあてにならないか。・・・まあ、仕方ないか。こっちでなんとかしよう。
963駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:34:56.56 ID:Q7NupOma
「よし、話は大体わかった、早速マーサハウスに向かうぞ」
「はい! 引き受けてくれてありがとうございます」
あゆみはペコリと頭を下げた。
「まあ、これで何とかなりそうね」
イングリットもうれしそうだ。先ほどまで険しい顔をしていたが、一転して顔が綻んだ。
「おい、ちょっと待てよ!」
そんな中、まだ、難しい顔をしている少年が1人。
「・・・マイ、こいつは本当に信用できるのか?」
「手島君?」
「マイのことは信じているが、こいつはいまいち信用できない」
どうやら、先ほどの事を未だに根に持っているようだ。男なんだから細かい事は気にするなよ。
「お前、俺様とデュエルしろ! 俺様に勝ったらお前の実力を認めてやる」
さっきと立場が逆転してしまった。まあ、手島の言う事も一理ある。
見ず知らずの男に、友達が住む孤児院の運命がかかっているのだ。
俺だって手島の立場なら手島と同じ事をしているだろう。
「いいだろう、手島君、俺とデュエルしよう、あゆみちゃんもいいね?」
「え、え? で、でも・・・」
「いいじゃない、やらせておきなさいよ」
「マイさん・・・」
「瀬良さんもよく見ておいて、この男があなたの孤児院を賭けてデュエルをするのにふさわしいかどうかを」
「・・・うん」
外野も納得してくれたようだ。
「じゃあ、準備はいいかな、手島君?」
「いつでもいいぜ」
お互い同時にデュエルディスクを構えた。
「「デュエル!」」
964駄目な大人 前編:2011/11/26(土) 06:35:24.74 ID:Q7NupOma
「いいデュエルだったな、手島君!」
「・・・ああ」
「え、えーと・・・」
「まあ、勝ちは勝ちよね・・・」
どうしたんだ、テンション低いぞ3人とも。
「さあ、手島君、いや、手島と呼ばせてもらおう、これで俺達は仲間だ」
「仲間?」
「ああ、一度でもデュエルすればもう仲間、・・・俺の友達のゆまってやつが言っていたんだ」
あれ、ゆうまだったか? 
・・・まあ、どっちでもいいか。
「仲間か・・・」
「そうだ、お前の信じる仲間を信じろ」
「・・・よくわからないけど、俺様に勝ったのは事実だ、
・・・男に二言はない、俺様はアンタを信じるぜ!」
俺と手島はがっちりと手を握る。俺達はデュエルを通して厚い友情で結ばれた。
「まあ、これでマーサハウスに行けるわね」
「・・・でも、あんな勝ち方いいんでしょうか?」
「・・・勝てばいいのよ、多分、きっと」
外野はまだ俺のデュエルに疑問があるようだが、これが俺の戦い方だ。
まあ、大船に乗ったつもりでいてほしい。
965名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 06:36:49.20 ID:Q7NupOma
前編は以上になります。
後編は旧サテライトに出向いからの話です
966名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 07:48:34.82 ID:Q7NupOma
すみません、後編はちょっと29レスあるので、
先に新スレを立てていただけると、埋めネタ代わりに投稿できるんですが
967名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 08:13:02.40 ID:j3ZPQVlF
んじゃ立ててくるかね
968名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 08:15:45.64 ID:j3ZPQVlF
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1322262903/
次スレにかっとビングだぜ俺

んじゃ続きどうぞ
969名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 08:53:59.60 ID:sB+qjRm1
普通のSSってあんまり見れないから結構楽しみしてるよ
970駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:06:59.69 ID:Q7NupOma
4人で歩き、ほどなくして旧サテライトのマーサハウスに着いた。
なるほど、マーサハウスの周りにはガラの悪い連中がたむろしている。
これではマーサハウスの子供達は外で遊べないだろう。なんとも幼稚な嫌がらせである。
しかし、子供達にとってはそのガラの悪い連中でも十分脅威だ。
あゆみは手島の後ろに隠れ、イングリットも一歩後ろに下がった。
どれ、ひとまず・・・。
「そこのアンタ」
「あん、なんだてめえは?」
俺はガラの悪い連中の1人に話しかける。
「あ、手が滑った」
「うがっ!」
そいつに右ストレートを叩きこんだ。綺麗に入ったらしく、一発で伸びてしまった。
「え? 弱すぎ・・・」
・・・疑ってはいたが、やはり、こいつらサテライトの人間じゃないな。
争い事と隣合わせで生きて来たサテライトの人間がこんな弱いはずがない。
なによりもサテライトの人間はマーサハウスに手を出さない。
例えるならここは戦地の赤十字のようなもの、暗黙の了解というやつだ。
「て、てめえ、なにしやがる!」
「や、やっちまうか!?」
ガラの悪い連中は俺を囲む・・・。囲むだけで何もしてこないけど。
挨拶代わりに一発殴ってみたが、予想以上に効果的だった。
「おい、アンタら地上げ屋だろ?」
「な、何の事だ?」
「とぼけるなよ、アンタらの雇い主に伝えてくれ、
デュエルを受けてやるからさっさとデュエリストを連れて来いってな」
「・・・」
ガラの悪い連中はお互いに顔を見合わせると、伸びている仲間を抱き抱え、一目散に走り去って行った。
971駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:07:36.00 ID:Q7NupOma
「すげえ・・・、アンタ強いんだな」
「あいつらが弱すぎるんだよ、・・・多分シティの不良を金で雇ったんだろう、
サテライトで生まれ育ったんなら、もう少し骨があるはずだ」
「・・・いきなり暴力を振るうのは感心しないわね」
「まあ、いいじゃないか、痛い目をみないとわからない連中だろうし」
「なんだい、なんだい、これは何の騒ぎだい」
マーサハウスから大柄の女性、マーサが出て来た。
その後ろにはマーサが面倒をみているのだろう、数人の子供達がいた。
「おや、アンタは・・・」
「久しぶりだな、マーサ」
「え? マーサとお知り合いなんですか?」
「ああ」
「うん、あゆみ? アンタどこに行ってたんだい!? 心配したんだよ!」
「ご、ごめんなさい、マーサ・・・」
「まあ、まあ、怒らないでやってくれよ、彼女はこのマーサハウスのために頑張っていたんだから」
「・・・一体どういう事だい?」
「詳しく話そう」
俺達4人はマーサハウスに入り、そこで俺はマーサに今までの経緯を説明した。
972駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:08:26.44 ID:Q7NupOma
「そんなことがあったのかい、あゆみがこの孤児院のためにシティに行ったなんて・・・」
「勝手に外出したのはごめんなさい・・・、でも、私、マーサハウスが無くなるなんて考えられなくて・・・」
「マーサ、怒るのなら、あゆみじゃなくて俺様にしてくれ、あゆみをシティに連れ出したのは俺様なんだからな」
「手島君、でも・・・」
「うるせえ、お前は黙ってろ」
手島はその悪い目つきであゆみを睨んだ。そして、マーサの方を向いた。
どっからでも来い、という気構えのようだ。
「・・・ふぅ、まあ確かに無断で外出したのはいけない事さ、
・・・でも、あんたがこの孤児院を思う気持ちはよくわかったよ、あゆみ、ありがとうね」
マーサはそう言ってニッコリほほ笑むとあゆみの頭を撫でた。
あゆみは怒られなかったことへの安堵か、それともマーサから感謝されたことへの照れか、
くすぐったそうな顔をした。
「手島、あんたもよくあゆみに付いていてくれたね、
・・・あゆみ1人じゃどうなっていたかわからないからね、
あんたにもお礼を言わせてもらうよ、ありがとう」
「・・・な、なんだよ、これくらい普通のことなんだからな!」
手島は感謝されるとは思わなかったらしく、照れるのを誤魔化すように生意気を言った。
973駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:08:59.79 ID:Q7NupOma
「・・・それにイングリットちゃん?」
「呼び捨てで結構です、マーサさん」
「なら私の事もマーサと呼んどくれ、あんたにも世話になったね、
この孤児院のために一肌脱いでくれて、ありがとう、
・・・シティに比べればみすぼらしいかもしれないけど、精一杯もてなさせてもらうよ」
「いえ、友達のためですから・・・、それにみすぼらしいだなんて思いません、
私を歓迎してくれた事を感謝しています」
イングリットの答えは如才ない。
マーサもイングリットに感心したようで、シティの子供はしっかりしているんだねえ、と驚いている。
「どれ、今日は2人もお客さんが来てるし、豪華な昼食にしようかね、
外にたむろしていた連中もいなくなったし、久しぶりにお外でご飯を食べようか」
「本当に、マーサ?」
「私、卵焼きが食べたい!」
孤児院の子供たちが騒ぎだす。
「はいはい、待っとくれよ、手島にイングリットも食べるだろう?」
「お、おう、食べるぜ!」
「ご馳走になります」
974名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 11:09:22.18 ID:Q7NupOma
「こりゃ腕によりをかけて作らなきゃね、すぐに作るから少し待ってて・・・」
「・・・おい、マーサ」
なんだか、話がどんどん進んでいる。
いや、イングリットと手島が歓迎されていることは全然いいのだ。だだ・・・
「マーサ、誰か忘れてないか? 感謝するべき人間はあと1人いるはずだ・・・、
そしてそいつは何故か、先ほどのマーサの発言でお客さんに勘定されていなかった気がするんだが?」
「あら、あんたもいたのかい?」
「ちょ、ちょっと待て、一応外の連中追っ払ったのは俺だぞ! 
あと、あいつらが連れてくるデュエリストを倒すのも俺なんだぞ!?」
「ごちゃごちゃうるさいね・・・、とっとときな、あんたも昼食の支度を手伝うんだよ!」
マーサは俺の耳を引っ張るとそのまま、台所に連行していった。
まったく、マーサの肝っ玉母さんぶりは全く変わっていない。
そういえば、ガキのころも悪戯されるたび食事の手伝いをやらされたっけ・・・
俺は過去を振り返り、一瞬懐かしい気持ちになったが、
「ボサッとしない!」
マーサが耳を引っ張る力を強めたので、その気持ちもどこかに吹き飛んだ。
マーサは本当に変わっていなかった。今度、遊星達にも教えといてやろう。
975駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:10:06.66 ID:Q7NupOma
________________________________________
「ねえねえ、イングリットちゃん?」
「何かしら?」
マーサハウスはシティ出身の私を受け入れてくれるようだ。
正直、そこが少し不安ではあった。
瀬良さんや手島君は友達だが、孤児院のみんなが彼女達と同じように私と接してくれるかは未知数だったからだ。
「ふふ〜ん、ちょっと聞きたいんだけどさ〜?」
「・・・」
この猫目の少女の名前は河合都。瀬良さんはこの娘をミャーコと呼んでいた。
確かに言われてみると、どことなく猫っぽい。
「あの男の人とどんな関係? まさか・・・、恋人とか?」
まったく、なにを聞くかと思えば・・・。
この年頃によくある、異性との知り合い=恋人関係、という変な感繰りをしているようだ。
「・・・違うわよ、彼とは以前にタッグを組んだ関係なの、その時にデュエルの実力を知ったから、今回の事に適任だと判断したわけ」
「ふ〜ん?」
まだ、何か言いたい事があるようだ。
「まあ、いいや、いずれちゃんと聞かせてもらうから」
ちゃんとも何もないのに・・・。
私は彼の事を思い浮かべる。
都にも言ったが、彼に頼ろうと決心したきっかけはタッグデュエルの大会での彼の実力をみたからだ。
あの大会での彼のプレイングは寸分の隙もなく、完璧だった。
・・・大会中、幾度となくセクハラされたが、それを差し引いても素晴らしかった。
976駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:10:45.91 ID:Q7NupOma
「ていうか、イングリットちゃんじゃなくて、あの人に直接聞いてみればいいんじゃない、
私ってば名案思いついちゃった」
「それはやめておいた方がいいわ」
あのセクハラ大魔神は相手が女性ならば誰にでも興奮する変態である。
無闇やたらと貞操を危機にさらすものではない。
「え、なに? 聞かれたら困るの?」
「いや、そういうわけじゃなくて・・・」
「おーい、昼飯できたぞ、みんな外に出ろー」
間が悪く台所から彼が帰って来た。
「あ! ねえねえ?」
「うん? 君は確か、河合・・・」
「都だよ、ミャーコって呼んでね!」
「じゃあ、ミャーコ、外に出るぞ、他の子たちにも声かけておいてくれ」
「それよりも聞きたい事があるんだけどー?」
「・・・なんだ?」
「イングリットちゃんとどういう関係なの?」
「え?」
彼にとって、この質問は予想外だったらしい。眉をひそめて考えている。
彼のこの反応は私にとっても予想外だった。てっきり、恋人だとか、婚約者だとか、
下らない事を即答してくるかと思った。
「難しい質問だな・・・」
「そうなの?」
「ああ、俺の個人的な意見としては妹的立ち位置なんだが、
そうすると血の繋がっていない妹という事になるし、・・・やっぱり妹は血が繋がっているべきだと思うんだ」
「・・・何言ってるの?」
ああよかった、彼は私の予想通りだった。予想通りのただの変態だった。
なおも語ろうとする彼を台所からこちらの様子を見に来たマーサがゲンコツで黙らせた。
________________________________________
977駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:11:19.91 ID:Q7NupOma
昼下がり、ピクニックシートを広げ、外で食べる昼飯というのも悪くない。
「うまいな、太陽の下で飯を食べるってのも、たまにはいいな」
「普段からちゃんとご飯食べてるのかい? あんたはずぼらだからねえ」
「食べてるさ、コンビニ弁当とか、お菓子とか」
「自炊くらいしな、なんのために自立してるんだい」
マーサは母親のように俺に説教してくる。
まあ、本当に俺の母親代わりだから間違いじゃないけど。
「久しぶりに食うマーサの飯はうまいな、遊星達にも食べさせてやりたいな」
このままだと、食事中までマーサの説教を聞くはめになってしまう。
それを避けるために話をそらした。
「遊星ね、あの子達もたまには顔だしてくれればいいのにねえ」
「・・・なあ、思うんだが、デュエルの件は遊星に任せりゃよかったんじゃないか? 
あいつ曲がりなりにもデュエルキングだろ?」
あまり話題に上がらないが遊星はデュエルキングだったはずだ。
あいつの事だから今回の事件を聞けば、マーサハウスに飛んできただろう。
「あの子達は今、WRGPにかかりっきりさ、邪魔しちゃ悪いだろ」
「あいつら、そんなの関係無しに助けに来ると思うぞ」
「・・・だからこそさ、もしこの一件のせいでWRGPがおろそかになったらいけないだろ? 
あの子達の夢は壊せないからね」
そういえば、遊星はWRGP出場選手だったな。
978駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:11:45.53 ID:Q7NupOma
「そういえば、雑賀は? こういう面倒事を処理するためにあいつがいるんじゃないのか?」
「雑賀さんには動いてもらってるよ、地上げ屋は何度追い返してもまたやってくるからね、
あの人は今、地上げ屋が誰に言われてここにちょっかいを出しているのかを調べているのさ」
なるほどねえ、このままではイタチゴッコだから、そもそもの禍根を断つつもりなわけだ。
「マーサ、ご飯、おいしかったよ!」
「おう、うまかった、また食いたいぜ」
「ご馳走様でした、マーサ、とてもおいしかったです」
どうやら子供達はご飯を食べ終えたらしい。
「おやおや、もう食べ終わっちゃったのかい? もっと作っておけばよかったねえ」
食べる前は山盛りにあったはずの料理が今はきれいさっぱり無くなっている。育ち盛りの食欲は凄まじい。
「大丈夫かい? みんな、まだお腹は減っていないかい?」
「満腹だよ」
「もう食えねえよ、腹一杯だ」
「十分です、お気遣いありがとうございます」
「俺は少し足りないかな・・・」
「そうかい、みんな満足してくれたみたいでよかったよ」
見事に俺の意見は無視してマーサは満足そうにほほ笑んだ。
「マーサ、そりゃないぜ、・・・俺は今から一仕事あるんだからさ」
「・・・何だって?」
俺は立ち上がると、デュエルディスクを腕にはめた。
979駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:12:08.70 ID:Q7NupOma
「・・・」
先ほどまで談笑していたマーサや子供たちから笑みが消える。
「・・・来たのかい」
「ああ、・・・まあ、そこで見てなよ」
向こう側から車が一台やってくる。そしてその車はマーサハウスの前で止まった。
中から恰幅のいい男と優男が出てきた。
「聞きましたよ、マーサさん、デュエルを受けてくれるそうですね?」
恰幅のいい男が話しかけてくる。こいつが地上げ屋か。
「ついでにうちの若いのを痛めつけてくれたようで・・・、
まあ、そのあたりはいいでしょう、で、誰がデュエルするのですかな?」
「俺だ」
「ほう、あなたですか、・・・まあ、あなたがどの程度の腕かは知りませんがね、
サレンダ―は早めにお願いしますよ」
丁寧な口調だが、こちらを完全に馬鹿にしているようだ。
「そうそう、今日は書類も持ってきたので、とっとと書いてくれますかね?」
「まだ、明け渡すと決まったわけじゃないよ」
「ああ、そうでしたか、・・・まあ、時間の無駄にならないように提案したつもりなんですがね」
980駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:12:30.09 ID:Q7NupOma
「・・・この野郎!」
手島が飛び出そうとするが、肩を握って押さえた。
「威勢がいい子供ですね、ですが、礼儀を知らないようだ」
「礼儀を知らないのはそちらの方でしょ?」
「何?」
イングリットが前に出た。
「あなた達のせいでここの人達がどれほど迷惑したと思っているの? 
土地を渡さないから嫌がらせをするなんて発想が幼稚すぎるのよ、あなたそれでも大人なの? 
体は立派に肥えているみたいだけど、頭の方には全然養分が行きとどいていないみたいね」
大人に対して物おじせずにここまでいえる子供はそうはいない。そして言う事は実に的を得ている。
「な、・・・言わせておけばこのガキが!」
地上げ屋は顔を真っ赤にすると怒鳴り声を上げた。メッキがはがれて本性がむき出しである。
俺は前に出て、地上げ屋の怒鳴り声に驚いてたじろぐイングリットを背に隠した。
「・・・あ」
「大丈夫だ、イングリット、俺が守ってやるからな」
「・・・」
イングリットは無言で俺の服を掴んで顔を伏せた。
981駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:12:54.30 ID:Q7NupOma
「俺を侮辱しやがって、許さんぞ! この土地が手に入ったらそのクソガキも覚悟しておけ!」
「・・・全く、俺が言うのも何だが、アンタ、大人げなさすぎるぜ、
それと、このデュエルは俺が勝つから、この土地が明け渡される事は無い、絶対にな」
「・・・へえ、大した自信だね、ミーを倒すつもりかい?」
優男が会話に入って来た。こいつが、地上げ屋が用意したデュエリストか。
「だが、それは難しいかな、・・・何といってもミーは負け知らずだからね、
ユー達の事情はよく知らないけど、こちらも本気でいかせてもらうよ」
事情をよく知らない、ということはこいつも雇われデュエリストか。
「・・・ふ、そうだったな、田中、こいつをぶちのめしてやれ!」
「はいはい、そんなにシャウトしなくても聞こえているよ、
・・・ミーの名前は田中康彦、一応ユーの名前も聞いておこうか?」
「・・・デュエルが終わったら教えてやるよ」
・・・このデュエルが終わっても俺に名前を聞く気力が残っていればの話だが。
俺と田中はデュエルディスクを起動した。
「「デュエル!」」
マーサハウスの命運をかけたデュエルが今、始まる。
982駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:13:28.15 ID:Q7NupOma

「さあ、カードを引くといい」
「・・・ミーのターン、ドロー、なにもせずにターンエンド」
田中は手札からカードを1枚捨てた。枚数オーバーによるディスカードだ。
「おい、これは、どういう事だ!」
地上げ屋はさっきから騒いでいる。だが、デュエリストでないのなら黙っていてほしいな。
・・・とは言ったものの、地上げ屋の気持ちもわからないでもない。
なにせ、俺達は先ほどから、お互いに何もせず、ただドローとディスカードを繰り返しているだけなのだから。
「・・・ちょっとサイレントになっててくれるかな」
田中も田中でこの状況にストレスが溜まっているらしい。
まあ、10ターン以上もドローとディスカードを繰り返していたら不機嫌にもなるだろう。
「ねえ、これはどういう事なんだい? 
私、デュエルの事はよくわからないけど、何で2人共なにもしないんだい?」
「なにもしないんじゃなくて、なにも出来ないんです」
俺の代わりにイングリットがマーサの質問に答えた。
「どうして?」
「・・・全ては彼が発動した罠カード、宇宙の収縮にあります」
983駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:13:52.43 ID:Q7NupOma
そう、この状況を生み出したのは誰であろう俺自身、
俺のフィールドには宇宙の収縮と心鎮壷と生贄封じの仮面が表側表示で発動しており、
田中のフィールドには魔法・罠ゾーンにセットカードが2枚と、おジャマトークンが3体並んでいる。
「俺もやられたぜ、このコンボ、なにもできなくなっちまうんだ」
そういえば手島にも繁華街でこのコンボを見せたっけな。
コスモロック、と呼ばれる俺のデッキはその名の通り相手をロックしてしまう事を目的とする。
このデッキの恐ろしいところは一度コンボが決まると、まずロックを破ることができない、という点だ。
「俺のターン、ドロー、・・・ターンエンド、手札を1枚捨てる」
「いい加減にしろ! なんだこれは?」
「・・・じゃあ、サレンダーさせてくれるかな?」
「ふざけるな! なぜ、ライフが1ポイントも減っていないのに降参するんだ!」
「・・・ファック・・・」
田中が小さな声で悪態をついた。
984駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:14:12.84 ID:Q7NupOma
実をいうと、このコスモロックは開始4ターン目で完成していた。
田中は素早く状況を理解し、サレンダ―しようとした。
・・・しかし、それを地上げ屋が止めたのだ。地上げ屋の言い分は先ほどと同じで、
ライフが減っていないのだから戦え、というものだった。
田中は雇われている身分のために、自分からサレンダ―を実行できない。
あくまでクライアントの意向を尊重しなければならないのだ。
田中は助けを求めるようにこちらを見た。
どうやら、さっさと勝ち手段をドローして俺を倒してくれ、と言っているようだ。
「ミーのターン、ドロー、ターンエンド、カードを1枚捨てる」
もはや、惰性でターンを進行している。
「・・・俺のターン、ドロー」
俺はカードを1枚ドローする。・・・やっと、田中の期待に応える事が出来そうだ。
「俺は手札から魔法カードを発動!」
「・・・やっと、終わるのかい」
「ああ、待たせたな、俺は手札から、終焉のカウントダウンを発動!」
「・・・ファック・・・」
そんな事言われても仕方ないじゃんか・・・。
985駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:14:39.55 ID:Q7NupOma
あれから20ターン後、俺は見事にデュエルに勝利した。
もっともそのころには田中は精根尽き果てていたようで、
LOSEの表示を確認した瞬間に食い気味で手早く手札と墓地のカードをデッキにしまうと、
デュエルディスクの電源を切った。
地上げ屋もあれから20ターンの間、田中を叱咤しつづけるのは無理だったらしく、
10ターン目を過ぎたあたりから座り込み、勝負がついた今は、ただ茫然としている。
マーサを始めとする子供達も単調なデュエルに飽きてしまったらしく。
マーサの膝上で眠る子供も出る始末だ。
「さあ、俺の勝ちだ、ここから去ってもらおうか!」
この場にいる中で俺が一番元気だ。高らかに勝利宣言をした。
「・・・そうさせてもらうよ」
田中は座り込んでいた地上げ屋を無理やり起こすと、車に押し込んだ。
田中も一緒に乗り込むと、車は急発進して逃げるように走り去って行った。
・・・そういえば、あいつ、結局俺の名前聞かなかったな。
986駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:15:10.49 ID:Q7NupOma
俺は後ろを振り向く。
「みんな、勝ったぞ!」
孤児院を守った英雄に子供達が群がって・・・
「ふえ、勝ったの?」
「さあ? 眠ってたから見てなかった」
「・・・あ、ごめんなさい、その、お腹一杯になったら眠くなっちゃって」
「まあ、俺様と戦った時と同じだしな」
「時間をかけ過ぎよ、もっとスマートに出来なかったのかしら」
ひどい、1人くらい褒めてくれてもいいじゃないか。
「さあ、みんな、そろそろ暗くなるし、家に戻ろうね」
「マーサまで・・・」
「・・・ちょっと意地悪しすぎたかね、あんたがこの孤児院を救ってくれたのは事実さ、
さあ、みんなお礼を言っとくれ」
987駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:15:34.30 ID:Q7NupOma
マーサの言葉に子供たちが俺の周りに集まった。
「ありがとう!」
「ありがとね!」
「ありがとうございます!」
「へへ、お前ならやると思ってたぜ!」
これだ。俺が思い描いていたのはこういう展開だ。
「いやいや、これくらい朝飯前さ、
・・・そうだ、もしよかったら、サインの1枚でもプレゼントしよう」
「さ、みんな、家の中に入るよ、外から帰ってくる時は手を洗うんだよ」
マーサが子供達を促してマーサハウスに戻した。
そして、俺は外に1人残された。
「・・・別に寂しくなんかないもん、英雄は常に孤独なものだから・・・」
「何を1人でブツブツ言っているのよ?」
「イングリット・・・」
どうやら、イングリットはマーサハウスに戻らずに残っていたようだ
「あなたを選んだ私の目に狂いはなかったようね、
あなたのおかげで、マーサハウスは無事だし、地上げ屋も追い返せたわ」
「イングリット・・・」
「クライアントとしては労をねぎらってあげないとね、御苦労さま、・・・お兄ちゃん」
「イングリット!」
俺はイングリットに飛びかかって抱きしめた。
988駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:15:54.08 ID:Q7NupOma
「きゃっ」
イングリットが可愛い悲鳴を上げるがそんなのお構いなしだ。
「はぁはぁ、イングリット、可愛いよ、イングリット」
「・・・やめて、この痴漢!」
イングリットが肘で俺の顔を押し退けようとするが、いかんせん腕力が足りない。
俺はイングリットの頬に思いっきり吸いついた。
スベスベの肌が舌に心地いい。幼女の頬は美味しいな。
「きゃあ! 誰か!? 誰か来て! あ、そこのおじさんこの変態を何とか・・・」
人なんて来ないさ、俺とイングリットを邪魔することなんて誰にもできな・・・
ゴス!
頭に痛みと衝撃が同時に走り、地上が揺れた。
・・・どうやら、俺の頭を誰かが鈍器のようなもので殴ったようだ。
薄れゆく意識の中で、声が聞こえてくる。
「・・・犯罪の匂いがしたから殴っておいたが・・・」
「・・・グッジョブよ、・・・ありがとう、おじさん・・・」
ああ、・・・この声は・・・さい・・・が・・・。
989駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:16:15.69 ID:Q7NupOma
寒い、そして固い、俺のベットはこんなに寝心地が悪かったっけ?
・・・違う、ここは俺の家ではない、・・・そうだ! 
俺は確か先ほどまでマーサハウスの前で、イングリットをペロペロしていたはずだ。
・・・イングリット? そうだ、彼女はどうした。
「イングリット!」
まだ、混濁する意識の中、立ち上がる。しかし、頭に激痛が走り、フラリと足がもつれる。
「おやおや、大丈夫かい? まったく、この季節に外で寝てたら風邪ひいちまうよ」
「え? マーサ、・・・イングリットは?」
「・・・私に何か用?」
やっと意識がはっきりしてきた。どうやら、ここはマーサハウスの中のようだ。
イングリットとマーサと雑賀が椅子に腰をかけている。
子供達は見当たらない。別室にいるのだろう。
「俺は一体・・・」
「もしかして、記憶が無いのか?」
「ああ、イングリットをペロペロしていたと思ったら、急に意識が・・・」
3人は顔を見合わせた。
「・・・どこで踏み外しちまったのかねえ、
この子がまだここにいた頃は、悪戯坊主だったけど、純粋ないい子だったのに・・・」
「お嬢ちゃん、セキュリティに通報しておいた方がいいんじゃないか? 
俺の知り合いに女性のセキュリティがいる、君も相手が女性なら相談しやすいだろ?」
「雑賀さん、お気遣いありがとうございます、
とりあえず、後でその女性の連絡先を教えてください」
990駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:16:40.50 ID:Q7NupOma
なんだ、なんだ、踏み外したってどういう事だ? 俺は健やかに成長しているぞ。
それと雑賀、イングリットに御影さんの連絡先を教えるのはやめて下さい。割とマジで。
「というか、雑賀、お前帰って来たのか、・・・地上げ屋の調査をしにシティに行ってたんだって?」
これ以上俺のロリコン疑惑が掘り下げられると、確実に火傷しそうなので、さっさと話を変えることにする。
「・・・まあ、座れ、・・・俺がいない間に地上げ屋の連中を追っ払ってくれたそうじゃないか」
「あの程度なら余裕さ」
雑賀に勧められた席に座る。・・・気のせいかもしれないが、イングリットから一番遠い席だ。
「それで、雑賀さん、どうなんだい、情報は集まったのかい?」
そういえば地上げ屋を追い払っても、
旧サテライト開発計画そのものをなんとかしないといけなかったんだっけな。
「ああ、おおよそは把握できた、
・・・今回の開発計画だが、大元を辿るとどうも喜多嬉グループが関わっているようだ」
「喜多嬉グループ? どこかで聞いた事があるねえ」
「シティの大企業ですよ、・・・しかし、そこが絡んでくるとなると、まずいですね」
「なんで?」
何をそんなにビビる必要があるんだ。・・・喜多嬉って、あの喜多嬉だろ?
「そんな事もわからないの? あなた、本当に大人?」
「イングリットは大人にもわからない事ぐらいあるってことを知った方がいいな」
991駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:17:02.91 ID:Q7NupOma
「・・・喜多嬉はネオ童美野シティでかなり有力な大企業だ、
最近、内部抗争でゴタゴタがあったらしいが、それをうまく治めたやつが今のトップを務めている、
・・・その新社長がやり手でな、今回のサテライト開発も新社長が直々に進めようとしているらしい」
「これでわかった? 今回はデュエルで解決できけど、次回もそれが出来るとは限らないわ、
・・・所詮個人の力には限界があるしね、シティ有数の大企業に敵うわけないわ」
「向こうが本腰入れてきたら、こっちは鼻息1つだろうしな・・・」
「・・・困ったねえ、やっぱり、ここ以外の場所を見つけるしかないのかねえ」
みんな難しく考えすぎじゃないか?
「大丈夫だって、なんとかなるだろう」
「・・・あなたってなんでそんな能天気なの? そういうところが大人に見えないのよ」
手厳しい意見だな。
イングリットは先ほどからの俺の発言にイライラが溜まっているようで、
親指の爪を噛んでこちらを睨んできた。
「・・・それじゃあ、俺がなんとかしてみようか?」
「え?」
「なに?」
「はあ?」
「だから、俺が何とかしてやるって、・・・ここが無くなるのは俺も困るしな」
3人は不安そうな顔をしている。なぜ俺を信用してくれないのか。
992駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:17:26.82 ID:Q7NupOma
「あなたの日頃の行いを考えれば、信用されないのは当然でしょ・・・」
「まあ、それならそっちでやってみてくれ、・・・マーサ、念のため俺も動く」
「そうだね、最悪、新しい孤児院を建てなきゃ・・・」
いや、だから、信用してくれよ・・・。
「・・・あ、もうこんな時間、夕食を作らなきゃ」
マーサの言葉に俺は窓の外を見た。夕焼けの色が濃くなり、日が沈みかけている。
「もうそんな時間ですか? ・・・それじゃあ、私はそろそろ、お暇させてもらいます」
「帰っちゃうのかい? 夕食もどうだい、帰りは男共に送らせるよ?」
「いえ、そこまでお世話になるわけには・・・」
「マーサ、明日は平日だぜ、イングリットにも予定があるのさ」
「あ、そうだったねえ、ごめんね、引きとめちゃって・・・」
「そんな事ないです、マーサのご飯は美味しいので夕食を頂けないのは本当に残念です」
イングリットは帰る支度を始めた。俺も椅子から立ち上がる。
「イングリットは俺が送っていくから安心してくれ」
「・・・それが逆に不安だな」
「イングリットちゃん、何かされそうになったら急いで戻ってくるんだよ?」
「はい、そうさせてもらいます」
やっぱり、俺は信用ないな・・・、いや、こればっかりは自業自得か・・・。
俺とイングリットがマーサハウスの玄関まで来ると、
マーサハウスの子供たちと手島、マーサと雑賀が見送りに来た。
「マイさん、今日は本当にありがとうございました」
「別にいいわ、友達として当然の事をしたまでよ」
「マイさん・・・」
「イングリットちゃん、またいつでも遊びに来ていいからね」
「はい、いつかまた、お邪魔させてもらいます」
「じゃあね」
「バイバーイ」
手を振って見送る面々に背を向け、俺とイングリットはシティに帰って行った。
993駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:17:51.23 ID:Q7NupOma

最近の朝は本当に寒いな。
布団を頭までかぶり、寒さに凍えていると、玄関のドアが開く音がした。誰か来客のようだ。
玄関からの足音が俺のベットの前で止まった。誰だろう?と思った矢先、俺は布団の外から突つかれた。
「起きてる? 起きてないかしら?」
この声は、イングリットだ。来客は彼女だったようだ。
そして彼女は棒のようなもので外から布団の中にいる俺を突いているらしい。
なるほど、一定の距離を置いて俺を起こす事で、
布団の中に引きずり込まれないようにしようと考えたのか・・・。
ツンツンと突かれる。どうやら、彼女は俺が起きるまでそのまま、突き続けるつもりのようだ。
・・・突かれて、5分程経ち、いい加減、鬱陶しくなったので起きることにした。
「あ、起きた」
「さっきから起きてたけどな」
「あ、そう」
イングリットの手には金属バットが握られていた。
「お前、それどうしたんだ?」
「あなたの事をセキュリティのお姉さんに相談したの、
そしたら、彼の部屋を訪ねる時は持っていきなさいって言われたの」
御影さんめ、俺の事を何だと思っているんだ。
「最悪、殴っても正当防衛って事で処理するから、殴るときに遠慮はいらないわ、とも言われたわね」
セキュリティが犯罪を勧めてどうする。
994駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:18:15.43 ID:Q7NupOma
「・・・それで、今日来たのはなんだ? 
また、俺を雇いたいのか? ・・・そうだな、今度はお兄ちゃんじゃなくて旦那様って呼んでくれ」
「馬鹿じゃないの?」
真顔で言うなよ、傷つくだろ。
「今日来たのは事後報告、マーサハウスの件よ」
「・・・ああ、アレな」
あれから1週間ばかり経ったか。
「瀬良さんの話だけどね、一昨日、喜多嬉グループの社長自らマーサハウスに謝りに来たんですって、
・・・そちらの事情も考えずに勝手に話を進めて申し訳ない、
もうこの土地を無理やり奪おうとはしないっていう念書も一緒に持ってきたそうよ」
「ほう」
「・・・これってあなたがやったのよね? 
マーサも雑賀さんも身に覚えが無いって言っていたらしいし」
「まあな」
「・・・どうやってやったの?」
「うーん、・・・秘密」
「ちょっと、何よそれ、マーサと雑賀さんにも教えていないんでしょ? なんで誰にも教えないのよ」
「まあ、いいじゃないか、その女社長が直々に謝りに来て、無事解決ってことで・・・」
「・・・なんで女社長って知っているわけ? 私は話してないわよ」
「だから、気にするなって、その現役デュエルアカデミア生の女社長に免じて・・・」
「もう、完全にわかってて言っているでしょ!?」
995駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:18:39.70 ID:Q7NupOma
「・・・そんなに俺が何したか聞きたい?」
「・・・ここまで引っ張られたら誰だって聞きたくなるわよ」
「やれやれ、仕方ないな」
俺はベットの上に寝転がると、ポンポンとベットを叩いた。
「何?」
「ベットの中で教えてあげよう」
俺の言葉に応えるように、イングリットがバットを振り降ろしてきた。
「危ね! 冗談だっつの!」
間一髪で避けたがバットの風圧が俺の額をかすめた。
「・・・はあ、もういいわ、そもそもあなたとまともに会話する事自体が無理なのよ」
イングリットは、まるで聞きわけの無い子供を相手にした時のお母さんのようにため息をついた。
本当に特別な事はしていないから事実を聞いても拍子抜けするだけだと思うけどな。
デュエルアカデミアに行って、マーサハウスの事情をメイに説明しただけだし。
「マーサハウスのみんなは、あなたに感謝しているそうよ、よかったわね」
「それはよかった、いい事をした後は気持ちが良いな」
「さっきまでグースカ寝ていたくせに、・・・マーサハウスの事何てとっくに忘れていたんでしょ?」
「まあね、解決するってわかってたし」
俺の言葉にイングリットは少し悲しい顔をした。
996駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:19:00.31 ID:Q7NupOma
「どうした?」
「・・・別に、少し悔しいだけよ」
「悔しいって・・・、何で?」
「だって、私は結局何もしてないもの、デュエルをしたのもあなた、開発をやめさせたのもあなた、
私は瀬良さん達が追い出されたらどうしようって、当事者でもないのに不安がることしかできなかった・・・、
普段から大人ぶっているくせに、いざという時に役に立たないんだもん」
イングリットは自嘲気味に笑った。
「そんな事ないだろ」
「そんな事あるわ、・・・正直言うとね、私、あなたのことを本当に駄目な大人だと思っていたの、
学校にいくわけでもなく、定職につくわけでもない、昼間から寝てる駄目な大人だって」
耳が痛い。精神的な意味ですごく痛い。
「でも、蓋を開ければ、この結果でしょ? 結局、私は駄目な大人にすら及ばないのよ」
「あー、イングリットは何か勘違いしているな」
「・・・勘違い?」
「ああ、・・・聞くが、なぜマーサハウスは立ち退きを逃れられたんだ?」
「・・・それはあなたが・・・」
「そこだ! お前はそこを勘違いしている!」
「え?」
「その話の大元を思い出せ、なぜ、俺がその問題に関わるようになったかを」
「なぜって、それは・・・、私が?」
「そう、お前だ、イングリット、・・・お前は大前提を忘れている、
そもそもイングリットがここを訪れなければ、この問題は解決されていない、
きっと今頃マーサ達は立ち退きさせられて、路頭に迷っていたはずだ」
「でも・・・」
997駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:19:24.51 ID:Q7NupOma
「・・・あのな、イングリット、前々から思っていたけど、
お前は大人ってものに幻想を抱き過ぎているぞ」
「・・・そうなの?」
「そうだとも、何でも出来る大人なんているわけない、
・・・地上げ屋だって、自分じゃ出来ないからガラの悪い奴らを雇ったり、デュエリストを雇った、
・・・謝りに来た社長も、やり手って言われながら、自分の下部組織のことを全然把握出来ていなかった、
・・・それにマーサや雑賀だって、俺から見ても立派な大人だが、今回の問題を自力で解決出来なかった」
「・・・」
「なんでも出来るわけじゃないから、自分の代わりに出来る奴を頼るんだ、これが大人の世界ってやつさ」
「・・・」
「長ったらしくなったけど、つまり俺が言いたいのは、今回のMVPはイングリットだったって事」
俺はそこまで言って布団を被った。柄にもなく喋りすぎてしまった。
なんだか説教を垂れてしまったみたいで恥ずかしい。
「・・・今日はもう帰るわ」
イングリットの声が聞こえる。俺は答えない。今、声を出すと、変に裏返りそうだ。
「・・・ありがとうね、慰めてくれて・・・、
もしまた困った事があったら頼りに来るわ、・・・じゃあね、お兄ちゃん」
「何!?」
最後に聞き捨てならない単語が聞こえた。お兄ちゃんだと? 
もうあの契約は切れていると考えていいから、
イングリットは自主的に俺の事をお兄ちゃんと呼んだのか!?
イングリットは俺の部屋から出ていく寸前だった。
998駄目な大人 後編:2011/11/26(土) 11:19:47.90 ID:Q7NupOma
「イングリット、お前・・・」
「・・・私の事はマイって呼んで、・・・私と親しい人はみんなそう呼ぶから」
「マイ!」
マイがとうとう俺に心を開いてくれた。よっしゃあ、今日は寝かさないぜ!
帰る寸前のマイはその手にあの金属バットを握っていなかった。
これはチャンスだとばかりに抱きつこうとする、しかし、その瞬間・・・
プシュー!
マイがポケットからスプレーを取り出し、俺の顔面に吹きつけた。
俺の顔面に強烈な痛みが走り、目が開けられなくなる。
「いでででで!」
「護身用の唐辛子スプレー、御影さんに持たされていてよかったわ」
バット以外にもそんな物を渡していたのか、御影さんめ・・・。
「まあ、最後はしまらなかったけど、その方がお兄ちゃんらしいわね、
・・・あらためて、バイバイ、お兄ちゃん、・・・また、ここに来るから」
のたうち回る俺を尻目にマイは俺の部屋から出て行った。
せ、せめて、濡れたハンカチでも置いといてくれよ・・・
痛みにのたうち回りながら、洗面所に向って這いずる俺の姿は、誰がどう見ても『駄目な大人』だった。


END
999名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 19:13:01.85 ID:A6mMr6T7

埋め
1000名無しさん@ピンキー:2011/11/26(土) 19:27:53.10 ID:Q7NupOma
新スレありがとうございました。
埋めますね。
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