Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた
※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません
・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる
・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
逢坂さんはとても未練がましそうにその包みを抱きしめると、それを高々と掲げる。
櫛枝さんと川嶋さんの挙動がぎこちなくなって、なにやらわたわたとしだす。
なんなの、いったい。
私の方からはあちらが丸見えだが、何を話しているのかまでは聞きとりきれない。
興味本位も手伝い、それまで閉じられていた窓を全開にする。
開け放した窓からは澄んだ空気が入ってきて、暖房に当たりすぎた体には心地よかった。
「お、落ち着いて話し合おうよ、大河、ね? ほら、あーみんも」
「ぐ……あ、亜美ちゃんもね、さっき髪引っ張ったの、あれ謝るわよ」
「私もちょっちしつこすぎたよ。ごめん」
「あ、あと、弾みでよ? あくまで弾みでだけどガチでビンタしたのも、まあ、悪かったわね」
「うんうん、あーみんなおっとなだな〜。大河もここは落ち着いた大人レデーになったつもりでさ、ね? ね? だから」
「あんたが高須くんに変な入れ知恵したのも、亜美ちゃんにマジ蹴り入れてきたのも今日のとこは特別に水に流してあげるから。
ここは一先ずお互い様ってことで」
「もうっ、うるっさあい!」
やかましく鼓膜を叩く怒鳴り声が爽快さなんて打ち消してしまったけど。
固唾を呑んで見守っていると、あれはどうやら、何かをやめるように説得しているみたいで、だけど逢坂さんは頑として聞き入れない構えのよう。
おもむろに深く息を吸い込み、そうして、お腹から搾り出すように絶叫。
「ああーっ! あんなとこに竜児の手作りマシュマロがー!」
わざとらしいことこの上ない棒読みだった。
それも今の今、そのマシュマロの入った包みを放り投げようとしているのは、他ならぬ逢坂さん。
あの包みを囮にして逃げる時間を稼ごうという腹づもりは、誰がどう見ても明白だった。
そんなこと百も承知で、それでも反応せずにいられない人たちが。
「ええっ!? どこどこ!? どこいった!?」
「なんてことすんのよてめえ!?」
あんな幼稚な手によくまああれだけ真剣に引っかかってあげられるものだと、逆に感心してしまう。
流れ星でも降ろうものなら一秒間に十回は願い事を唱えられそうな勢いで、二人は血眼になって宙を見つめている。
北村くんから聞いた限りでは既にそれぞれ貰っているはずなのに、にも関わらずこの調子。
マシュマロ、恐るべしだわ。
いえ、真に恐いのは手作りという言葉の魅力かもしれない。
かくいう私だって、正直その魅力に目が眩みそう。
それはそうと、櫛枝さんも川嶋さんも、自分たちが見当違いの方向へ目を配らせていることにまだ気づかないのだろうか。
いくら待っても投げられた包みが彼女たちの頭上に降ってくることはない。
何故なら、こんな場面で逢坂さんは包みを手放す瞬間に足を滑らせてしまい、大暴投をしてしまっていた。
つるんと踏み込んだ足が滑り、体制を崩した拍子にくるりと反転。
逢坂さんが倒れるのと時を同じくして、手にしていた包みが空へ飛び立つ。
見た目どおりに軽そうなそれは、むしろ軽すぎたためかけっこうな高さまで上がっていく。
二階の廊下、その窓辺から見ていた私の目線よりも高かったのだから相当なもの。
しかも気のせいか、風に乗ってこちらの方へと落ち始めているような。
思わず窓から身を乗り出して手を伸ばす。
ないない、そんな上手くいくわけない。話ができすぎている。
そうは思いつつ構えていること数秒。
ぽすっと見た目どおりの軽い音を立てて、面白いぐらい簡単に、その包みは私の手の平に落っこちた。
かつてこんなに都合の良かったことが私の人生にあっただろうか。
ないわよ。え、ないわよ?
断言できてしまう自分にへこみそうだけど、そんなことよりもこれ、勝手に貰っちゃってもいいのかしら。
どうしよう。
「あっ!? ひょっとして大河、捨てたふりしてまだ持ってんじゃ!?」
起きたことがにわかには信じられないでいる私が硬直している一方で、櫛枝さんがしまったというように振り返った。
「はあぁ!? ちっくしょ、亜美ちゃんをハメるなんてあんにゃろういい度胸してんじゃ……なにしてんの」
はっとし、つられて振り返った川嶋さんの鬼のような顔が見る間に怪訝そうになる。
その視線はずっと下、俯けになり大の字になって地面で寝ている逢坂さんに注がれている。
声をかけられた逢坂さんが力なさ気によろよろ起き上がった。
「うう〜……つちたべちゃった……」
制服に付いた埃を払い落としながら、ぺっぺと口に混じった砂利を吐き出す逢坂さん。
顔も袖でぐしぐし拭って、そこで不思議そうに両手を眺める。
握って開いて数回繰り返してから、彼女は仰け反りそうな勢いで天を仰いだ。
「なあぁぁぁああああぁぁああぁあい!?」
校外にまで響き渡るような、今日一番の大絶叫。
耳を塞ぐひまもなく、間近で耳にした櫛枝さんと川嶋さんがしかめっ面になる。
離れていた私でさえも軽く耳鳴りがしているくらいだから、二人なんて相当なものに違いない。
そんな櫛枝さんたちに、逢坂さんが押し倒さんばかりに食いついた。
「どこ!」
いろいろと簡潔すぎるけどそこはそれ、言いたいことはきちんと伝わったようだ。
呻り声までもらす逢坂さんに、しかし別段怯むでもなしに、二人がジト目を返す。
「そんなの私が聞きたいよ。大河が持ってたんじゃん、でしょ?」
「仮に知ってたとしても、あたしがあんたに教えてやるとでも?」
もっともな指摘を冷ややかに言い放たれ、早くも逢坂さんの気勢が削がれる。
今朝発覚した逢坂さんの暗躍に端を発して生まれた確執。
加えてひたすら続いた追いかけっこ。
彼女たちもそれなりに我慢の限界にきているのだろう、その上言いがかりまでつけられようものならどうなるか。
それがわからないわけじゃあないみたいで、そうなると強い態度を維持することも難しい。
逢坂さんはぐぅの音も出なくなってしまったらしく、口を噤んでしまう。
「さあてっと。そんじゃ大河、もう鬼ごっこはお終いにしよっか」
「ふぇ? ……はうっ!?」
いやに良い笑顔をした櫛枝さんが口調だけは穏やかに話しかける。
呆けたような声を出した逢坂さんが、それが終了を意味するのではなく、お仕置きの執行を意味することを悟ると目を見開く。
下手に出る理由がなくなったのだからそうなるのも必然だ。
「み、みのりん、待っ、きゃあっ」
一歩後ずさる逢坂さんが背後にいた誰かとぶつかった。
振り返る間もなしに脇の下から腕を差し込まれ、そのまま胴を抱きしめられる。
傍からは仲の良い友達同士のスキンシップに見えるかもしれないけど、顔色を悪くさせる逢坂さんからはとてもそういう風には感じられない。
「さっき今日のことは水に流してあげるって言ったわね。あれは嘘よ」
「な、ななななによ、ばかちーの方からお互い様だって言ったんじゃない! 言ったのに! 嘘つき!」
何か言い繕う隙を与えさせないよう、川嶋さんが間髪入れずに言う。
目に見えて逢坂さんの狼狽ぶりが濃くなった。
抜け出そうともがくものの川嶋さんに上半身を、そして櫛枝さんに下半身を持たれてしまって、正しく手も足も出ない状態に。
ほとんど丸太かなにかのような扱いだ。
「や、やだ、降ろしてっ! やだってば! あ、だめ、待って待ってほんとに待って、み……見えちゃってるからあ……ぐす……」
スカートが捲りあがって下着が露わになってしまっても自分で直すこともできない逢坂さんはもはや半泣きだった。
幸いにも他に人の気配はしないけれど、そんな問題じゃない。
なんとも恥ずかしい格好にされ必死に訴える逢坂さんを無視して、櫛枝さんと川嶋さんが行き先について検討し始めているようだ。
人気のない場所に連れて行かれたらそれこそ何をされるんだかわかったものではない。
なりもふりも構わず、逢坂さんが手当たり次第に体をくねらせる。
それに合わせて頭も右に左に忙しなく揺れまくる。
と、そうかと思えば、逢坂さんが突然ピタリと動きをとめた。
偶然見つけてしまった人影──私に視線を固定したまま……。
いきなり大人しくなった逢坂さんを訝しんでいた櫛枝さんと川嶋さん。
彼女たちが何かあったのかと尋ねる前に、「あれ」と逢坂さんが抑揚のない声で促す。
揃ってこちらに首を巡らせた彼女らは、滅多にお目にかかれないような無表情を貼り付けていた。
「ほほーう」と何故だか頷きつつの櫛枝さん。
「ふうん」とこれまた何かを含ませている川嶋さん。
担がれていたままの逢坂さんのと合わせて三人分の視線が痛いぐらいに突き刺さる。
正確には私と、間抜けなポーズで持ったままでいた包みを、それはもう穴でも空けそうなほど凝視している。
唇がすっかり乾ききっている。冷たい汗がとまらない。とうとう膝が笑いだした。
何か、なんでもいいから何か言って、加速の一途を辿る彼女たちの誤解というか、いえまあ誤解じゃないんだろうけど、とにかく負の感情に歯止めをかけなければ。
逢坂さんたちを宥められるような上手いことを、早く、早く、早く。
「あ、あの、違うのよ。これは落し物というか、棚ぼたというか、その……ごめんなさい」
蚊が鳴いたようなか細い声が届いたとは考えづらい。
でも、言い終えると、妖しく目を光らせた逢坂さんは櫛枝さんたちの拘束を力尽くで振りほどき、どこかへと走り去ってしまった。
櫛枝さんと川嶋さんもその後を追う。
どこかであるところ、つまりここまで来るのに、あれならものの一分もかからない。
まったく、なんて一日なんだろう。
都合よく手の平に降ってきた小さな幸運をため息と共にその場に置いていき、鉢合わせないことを切に、切に願いつつ、私は職員室へと早足で歩き出した。
「いたっ! ちょっと待ちなさあいっ!」
願いも虚しく、全速力で疾走してくる逢坂さんにあっさり発見され、昼休み中追いかけられる目になったのは言うまでもない。
そうして結局、学校にいる間、私が高須くんから何かを貰うということはなかった。
……ほんとう、なんて一日。
***
放課後になる頃には日も沈みかけ、辺りはすっかり暗がりを濃くしていた。
大盛況とはいかずとも、そこそこ賑わいをみせる商店街には、まだ制服のままの生徒がちらほら。
そんな中、向こうから声をかけられれば遅くならない内に帰るように一言添えたりしながら、私は商店街を歩いていた。
別段当てがあるわけでもないのに。
用がないのならまっすぐ帰ればいいものを、自然と足が向いていたのだ。
いつからか日課と呼べるものになっていたそれが、今日に限っては、少し憎かった。
終業式もそう遠くないこの時期。
片付けておきたい仕事もないことはなかったし、職員会議だってあったのだけど、どうにも押し寄せる疲労感に体が持ちそうになかった。
思い返してみるとただでさえ寝不足が続いていたのに、昨夜にいたってはほとんど寝てない上、食事すら満足に摂っていない。
そういった状態でありながら、昼間のあれで底に尽きかけた体力を使い切ってしまったのが原因だろう。
眠気と空腹に加えて疲労感が留まるところを知らない。体調なんてもう最悪。正直、いま鏡の前には立ちたくない。
気分がすぐれないという理由ですんなり会議を欠席できたのは、そういったような、生気が抜けきった顔をしていたからだろう。
だから、そのことが、その時だけはありがたかった。
あくまでもその時だけは。
「こ、こんばんは……高須くん」
会釈を交えつつ反対側から歩いてくるのは、よりにもよって高須くんだった。
声をかけると私の前で歩みをとめる。
「こんばんは。買い物ですか、先生も」
「え? え、ええ、そう。お夕飯、どうしようかなあって。高須くんも?」
「はい」
トートバッグを提げ、制服から私服に着替えている。
いつものように買い物の最中だというのは一目でわかった。
ただ、いつもと違うところもある。
「……ところで、逢坂さんは一緒じゃないの?」
珍しいことに隣に逢坂さんはおらず、高須くん一人で買い物をしている。
しかし物陰からいきなり飛び出してこないとも言い切れないので、私は内心穏やかではいられない。
なにせ昼間の追いかけっこでは、幸か不幸か逢坂さんからギリギリで逃げ切ってしまったのだ。
そうでなくても櫛枝さんや川嶋さんと相当ギスギスしていた逢坂さんだ。
捌け口を失ったフラストレーションが全て私に向けられていることだろうから、できることなら、ほとぼりが冷めるまでは可能な限り彼女の目につきたくはなかった。
「大河なら、用事があるとかで櫛枝たちとどっか行きましたけど」
「そ、そう。そうなの」
よかった。少なくともこの場で顔合わせになることはなさそう。
ほっと一安心するのも束の間、私は挙動不審にきょろきょろ泳がせていた目を、頭ごと下向きにさせた。
なんだってこんな、見られたくないような顔してるときに。
「先生? どうかしたんですか」
「な、なんでもないのよ。なんでもないから、どうか気にしないで」
「いや、でも」
怪訝に思われるのも無理はない。
それを差し引いてもこんな有様を、こんな間近でなんて。
第一、面と向かっているとどうしても意識してしまいそうになって、そんな姿、なおさら見られたくない。
今日のこととか、逢坂さんたちが揉めていた原因であるあれのこととか、要らないことを聞いて惨めな思いをするのも御免だった。
でも他になにを話していいかわからないから、何かボロを出してしまわぬよう、このまま俯いてやり過ごそう。
高須くんだってよっぽど暇でなければ、押し黙る私に付き合って、いつまでも油を売ったりなんていうことはしないはず。
だからあとは、せいぜい二言三言交わして、当たり障りのない挨拶をして、お終い。
それで、今日が終わる。
ぐううぅぅぅ〜。
そう思っていた矢先、「ぐううぅぅぅ〜」といったようなそれはそれは大きな音が鳴る。
地響きのようなその音は雑踏が犇く往来であっても掻き消されることなくはっきりと聞こえた。
大急ぎで両手でお腹を押さえつけるも時すでに遅く、一拍置いてから、くぅ……と微かに鳴いたのを最後に、お腹の虫が静かになる。
「あ、う……」
今度という今度こそ、ほとほと自分の間の悪さに嫌気が差した。
最高に最悪で最低。
首まで赤く染まっている私は言い訳もろくにできないほど混乱して、ただただ恥ずかしいやらみっともないやら、そんなことばかりでまともに思考が働かない。
なんにも考えられないから、後悔の度合いが増していっても、どうする手立ても思い浮かばない。
道草なんてくわずにさっさと帰ってればこんなことにならなかったのに。
いいえ、それよりも、いい歳にもなってやれホワイトデーだなんだって、そんなのに浮かれていたのがそもそもの間違いだったのよ。
変に期待して、その末路がこれだ。
ばかみたい。
「え……?」
過ぎたことを嘆いて自己嫌悪しての私の手を誰かがとった。
軽く面食らっている私をよそに、なんの説明もなしに勝手に商店街の出口方面へと進み始めた。
疎らになりがちな歩調もなんのその、力強い歩みに引っ張られ、私の足も動きをとめることはない。
おずおず視線だけを上げてみれば、手を引いているのは高須くんで、その背中が見える。
想定外のこともここまでくると不意打ちだ。
何故こんなことになっているの? 高須くんの意図はなに? どうして私はされるがままで、この手を振りほどこうとしないんだろう?
疑問の種は尽きることなく芽を出していく。
高須くんは尋ねればちゃんと答えてくれるかもしれないけど、口を開くと繋いだ手がほどけそうで、そうするのが憚られた。
手を握られた程度でドキドキしてしまいそれどころじゃなかったのも、なきにしもあらずだった。
商店街を抜けてからしばらくして、あまり馴染みのない住宅地に入る。
さらにしばらく行き、奥まった路地を歩いた。
日も暮れきった頃合で、どこの家々からも明かりがもれ出ていて、街灯に手伝い道路を照らしている。
気温が下がり始めたようで、吐息がだんだんと白みを帯びている。
肌にかかる風が、漂う沈黙と同じくらいに冷たくなってきたところで、よどむことなく歩を進めていた高須くんがやっと立ち止まる。
重なっていた手がすっと離れていった。
しばし所在なさげにそこにあった手も、それまであった温もりが冷めていくのがもったいなく感じられて引っ込めた。
辿り着いたのは木造二階建ての古びたアパートだった。
隣接する大きくて真新しいマンションとの対比がすごくて、一瞬戸惑うほど。
どうやらここが自宅のようで、高須くんは階段を上ると玄関を開いてくれた。
あがれと受け取っていいんでしょうけど、でも突然お邪魔してもいいのかしら。
お家の方だっていらっしゃるだろうし。
と、玄関先で遠慮がちになり固まっている私に、高須くんが言う。
「こんなとこじゃ何なんで、どうぞ」
「は、はい。あの、じゃあ、お邪魔しますね」
こうしていても埒が明かないし、体は冷える一方だし、そろそろ失礼にもあたるだろう。
ちょっと緊張しつつ、私は高須くんの自宅へ足を踏み入れた。
促されるまま居間に通され、立ち尽くしているのもまた余計な気を遣わせてしまいそうなので適当に腰を落ち着ける。
いくらもせずに高須くんが盆に急須と湯飲みを乗せてやってきた。
対面に座ると、お茶を淹れた湯飲みを私の前に置いて、ぺこりとお辞儀。
「すいませんでした。大河が、なんか迷惑かけたみたいで」
昼休みでのことを、逢坂さんに代わって高須くんが謝る。
そりゃあ学校中を所狭しと走り回っていたのだし、知らないわけがないだろう。
でも、そのことで高須くんが頭を下げる必要はないのに。
やけに雰囲気が重々しいというか、真剣すぎるのも気になるところだ。
「いいのよ、もう。それに高須くんが気にやむことじゃ」
「そういうわけにもいかないですよ」
私の言葉を遮るようにきっぱり言って、高須くんは深いため息。
「あいつ、この一ヶ月くらい機嫌悪くて」
一ヶ月というと、バレンタインが過ぎてからずっとということになる。
確かに私も例えようのない圧力を逢坂さんから感じていたけど、高須くん相手にも当り散らしていたのだろうか。
さすがに私に対してのそれよりかは、まだヤキモチらしいものだったとは想像がつくけど。
「それも先生のこととなると特に荒れるんですよ」
昼休みでのあのしつこさは櫛枝さんたちとのこともさることながら、積もり積もったものからも来ていたみたいだ。
憂さが晴れるまで、逢坂さんの荒れ模様はまだまだ続きそう。
それを思うと恐々となる私に、精一杯眦を下げた高須くんが、申し訳なさそうに続ける。
「それでその、今日、先生が大河にちょっかいかけられてるって春田に聞いたんです」
「春田くんに?」
意外といえば意外な人物の名前が出てくる。
聞き返すと、高須くんが頷く。
「ええ。かなり参ってる様子だったから、なんかしてやった方が絶対良いとか、そんなことも言ってて」
「そう」
「で、まあ、だからっていうんじゃないですけど」
「うん」
目線は微妙に外し、少し言いづらそうにしながら、高須くんは小声で言う。
「晩飯、食ってきませんか?」
こんなことしかできなくてだの、逢坂さんのせいで昼もとれてないんじゃないのかだの、その逢坂さんも帰りが遅いらしいからせっかく買ってきた材料が余って困るだのと、ごにょごにょ後付していく。
突飛ではあるが現金な話、冗談じゃなく意識がたまに飛びかけるほど空きっ腹を抱えている私には願ったり叶ったりの申し出だった。
私はぽかんと口を開けたまま、内心では高須くんにこうまで言わしめた春田くんに舌を巻いていた。
昨日言っていた応援とは、ひょっとしてこのことなのだろうか?
さすがに考えすぎかしらね、それは。
まさか春田くんもこうなるなんて思ってなかったでしょうし、でも、もしこうなるようにと目論んでいたなら私は彼への評価を改める必要がある。
にしても、能天気でお調子者、しかも大雑把な春田くんだけに、誇張や脚色も相当だったのだろう。
何をどう煽りを交えながら言ったのか定かじゃないけれど、どうりで深刻な表情をしていたわけだわ。
いろいろと責任を感じているのだろう、それも勝手に、やりすぎた逢坂さんの肩代わりをしてあげるほど。
そんなことしなくったってあの逢坂さんに何かするなんてことあるわけないのに。
あんまりにも損な性格してる高須くんがいっそ笑えるぐらい可笑しくって、けど、きっと私の表情は柔らかいものではなかったと思う。
高須くんの唐突で強引な行動も、そのわけも、やっとわかったから。
私を自宅に招いたのも、食事をごちそうしてくれるというのも、なんてことない、全部逢坂さんのためにしてること。
ただそれだけ。
だってそうでしょう? 逢坂さんのことがなければ、そのことを知らなければ、高須くんがわざわざ私を自宅に連れてくるなんてこともなかった。
夕飯だって、逢坂さんのおかげで昼食を食べそびれた私が、無様にお腹を鳴らせたのを聞いたものだから、親切心とそれに同情も手伝って勧めてくれているに過ぎない。
だから、ただそれだけ。
それだけだというのに、肩透かしだって嫌ってほど慣れてるのに、なんだって私はこんなに落胆してんのだろう。
どうしてここまで、認めたくなんてないのに、嫉妬心が湧き上がってくるんだろう。
なにがそんなに、悲しいんだろう。
無性に虚しくって、いたたまれなくなってきた。
胸がつっかえて息苦しくてしょうがない。耳の奥でしてる轟々といったような音がとても騒々しい。お腹なんてもう引き攣りそうで、眩暈までしてくる始末だ。
もう、帰ろうかな。
そんなことを考え始めた矢先、
「それに今日ってホワイトデーじゃないですか。お返しさせてくださいよ、こないだの」
「お、おかえしって……私に……?」
ビックリして、私は俯いていた顔を上げた。
ホワイトデー、お返し。
ホワイトデー、お返し。
ホワイトデー、お返し。
高須くんの言葉を口の中で反芻してると、当の彼は困ったような面持ちになる。
「用意はちゃんとしてたんですよ。ただ、あれ、あんまり喜ばれるものでもなさそうだったっていうか。
それに知らない間に失くなっちまってたんだよなあ、確かにカバンに入れといたのに」
探してもどこにも見当たらないし、家に忘れたわけでもなかったしと、変なことが起こったものだと疑問符を浮かべる高須くん。
けれど、何故だか私にはその用意されていたというものに、貰ってもないのに身に覚えがあったりした。
今朝から昼間にかけての出来事を思い出す。
喜ばれるものじゃなかったというのは、手作りしたマシュマロのことだと見て間違いないはず。
櫛枝さんと川嶋さんの受け取ったときの微妙なリアクションから、チョイスに失敗したのだと思ったのだろう。
そしてそうするように仕向けたのは、他の誰でもない逢坂さん。
高須くんからそのことを聞き出して怒涛のように怒りを燃やす二人に、自業自得とはいえ逢坂さんはしつこく追いかけ回されていた。
その彼女が持っていて、一度は私の手に廻ってきたもう一つの包み。
あれは、本来なら私に渡されるものだったのだ。
裏から手を回すだけじゃ飽き足らず、高須くんの目を盗んで渡しそびれていた包みまで取っていくだなんて、逢坂さんの暗躍ぶりといったら凄まじすぎて、それ以上に呆れてしまい物も言えない。
しかし呆れるといえば私も私だ。
知らなかったとはいえ、逢坂さんらの迫力に屈したとはいえ、なんて間抜けでもったいないことをしちゃっていたのよ私は。
せっかく手に入れたプレゼントを廊下なんて寒々しいところに放っぽりだして、あのまま貰っていても誰にも文句を言われる筋合いなんてなかったのに、あれじゃあ自分から捨てたも同じことじゃない。
しかも逢坂さんには休み時間中追い回されて、もう踏んだり蹴ったり、散々にもほどがある。
頭を抱えて気の済むまで掻き毟りたい衝動に駆られたが、高須くんのいる手前なんとか堪える。
恥の上塗りはもう充分重ねたけど、重ねないようにできるならそれに越したことはない。
「……けど、お返しなんてそんな……だって、あれは」
口止め料という形で贈ってもらったのだ、そういう類のものにお返しもなにもないだろう。
でも、私が言い切る前に、高須くんが被せて言う。
「貰いっぱなしも嫌なんですよ」
「で、でも、逢坂さんが……」
咄嗟に口をついて出たのはこの場にいない逢坂さんの名前だった。
うしろめたさからではなく、大概の例にもれず、私もずるい大人だから。
期待を滲ませた瞳は前髪で隠し、さり気なく上目遣いをする。
真正面からしっかりと私を見据え、高須くんは言い切った。
「大河は関係ないですよ。俺がそうしたいからそうするんです」
言葉以上の意味はないってわかってる。
言わせるように誘導じみたことをしている自覚もあった。
でも、言葉自体に意味がないわけじゃなくて、言ってくれるだけで、そんな僅かな虚無感も一つまみ分の罪悪感もどうでもよくなって、もう何もかもがだめになる。
逢坂さんのことは、少なくとも今だけは、関係ない。
高須くんがそうしてくれるのは、他の誰かじゃなくて、私のため。
それだけでもう、だめ。
「……ほんとうに、いいの?」
最後確認はゆっくりと慎重に、慎ましく。控えめなのも忘れずに。
逸る気持ちは押し留めて、早打つ鼓動を胸の上から撫で付けて、はしたない様を見せないようにしながら待つ。
「あのチョコ、うまかったですよ、すごく。ありがとうございました」
「うん」
「だから、そのお礼なんです。よかったら、受け取ってください」
背すじを伸ばして佇まいを正すと、私は高須くんにしっかりと向き直った。
「はい」
心もち柔和な表情になった高須くんが鷹揚に頷いた。
前言撤回ならぬ、前考撤回だ。
帰るなんてとんでもない。
ああ言ってしまった以上、ご馳走になるまでは梃子でも動かない所存で、高須くんのご厚意に全力で甘えさせてもらうことにしましょう。
それに逢坂さんにもやられっぱなしで、このまますごすご引き返せない。
……こんな機会、もう来年には来ないかもしれないもの。
「それじゃ、ちょっと待っててください。腕によりかけて、すぐ作ってくるんで」
普段よりもずっと機嫌の良さそうな空気を放つ高須くんが、台所へと入っていく。
エプロン姿も実に板についた様子で、所帯じみているというか家庭的というか、ともかくこれが高須くんの日常の生活といった感じがする。
これはこれで、最近の悩みの種である夢で見たような光景、けれど夢では到底出せない現実味に、幸福感が鰻登りの青天井だ。
が、ただ眺めているだけというのもちょっと肩身が狭い。
「高須くん、私もなにか──」
お手伝いしましょうか。
言いかけた言葉は声になることはなかった。
視界が電気を点けたり消したりしたように急激に明滅する。ぐにゃりと大きく像が歪む。
一瞬強烈な耳鳴りがしたかと思うや否や三半規管がまったく働くなってしまっていて、上と下の区別もつかなくなる。
意思の糸が切れた体が前のめりに倒れこんでいるのだと悟ったときには、もう浮遊感が終わりかけていた。
貧血だろうか、それとも過労か、はたまた寝不足か、あるいはそれら全部故か、立ち上がった拍子に立ち眩みを起こしてしまったみたい。
そのことがわかったのは、がだあんという近所迷惑な音が響き、自分が俯けに寝そべっているのを把握した後だった。
でも、どういうわけだか、思っていたような衝撃も、打ちつけたような鈍痛も一向に感じない。
胸の辺りに、蠢くような、くすぐったいような不自然な圧迫感があるだけだ。
ぎゅうっと瞑っていた瞼をおそるおそる開く。
「むぐ、ぐ、う、ぶはっ」
「あ、ん……はあぁ……」
胸の間から黒々とした髪の毛が跳ね出て、左右に揺れるその動きに合わせて、くすぐられるようなむず痒い感触も増減する。
時折苦しそうな、呻き声ともつかない荒く湿った呼吸に、知らずこちらも変な声が出てしまう。
視線を下へと移すと、床と私との間に何かが挟まりクッションの代わりになっている。
高須くんだ。
私が倒れきる寸前に受け止めようとしてくれていたみたいで、けど勢いのついてしまった私はそのまま高須くんを押し倒してしまったらしい。
ご丁寧に、彼の頭を離さないようガッチリかき抱いて、胸に埋めさせている。
と、胸に伝わる感触が一際強いものになる。
ずりずりと這い登ってくるような動きに、腰の奥が痺れを訴えわなないた。
「ふあ、ん……高須く、んぅ……くすぐったい」
ひょっこりと頭を出した高須くんが乱れた息をついている。
三白眼を殊更に鋭くさせて、これまで顔を覆っていたものがなんだったのかを、ぼんやりとしながら見つめている。
自分の置かれている状況を理解していくにつれ、その表情はかちこちに強張っていった。
かなり混乱しているみたい。
「えっと、怪我は……」
それでもまずはこちらに大事がないかを確認してくれる。
腰の奥に走る痺れが、だんだん疼きに変化していって、いつ腰砕けになってもおかしくない。
「あの、とりあえず離れませ、ん、うお……」
怪我らしい怪我はしていないようで、なのに不穏な沈黙を保ちつつじっと自分を見下ろす私に、動揺の色が見え隠れしている。
いろいろと不都合がでてくるこの体勢に、高須くんがたじろぐ。
このまま離れてしまうのが嫌で、さっきのそれよりももっとキツク抱きしめた。
肌に当たる熱くて湿り気を孕んだ吐息に、たった数センチ先で暴れている心臓が、痙攣したかのように一段と不規則に跳ね上がった。
「だいじょうぶ。だいじょうぶだったから──」
──だからもう少し、このままで。
そんなささやかな願いも、いくらもかからず無残に砕け散る。
「ぐっ、ひっぐ、ただいま……ねえ、聞いてよ竜児。あのね、みのりんとばかちーがね、二人して私のこと悪者みたいに言ってね、ひどいこといっぱ、い……」
鍵がかかっていたはずの玄関を開け、べそをかいた逢坂さんが入ってきた。
ボロボロになっているところから察するに、酷いことをされたというのは疑う余地はない。
反撃に打って出たかどうかは、逢坂さんと、それに櫛枝さんと川嶋さんのみが知るところだけど。
ぐしぐし袖で目元を擦るその小学生チックな動きも、台所で重なり合っている私と高須くんを見ると石像のように微動だにしなくなる。
まだ手にしていた合鍵が、カチャリと小さな音を立てて土間に落ちる。
「もぉ〜、さっきっからなぁにぃ? やっちゃんもちょっと寝たいのにぃ……はれぇ? だぁれ? 竜ちゃんになにしてるの?」
襖の向こうからしょぼしょぼとした顔を覗かせた女性は、間延びした子供っぽい口調とは不釣合いな、とてつもなく強烈な色気を振り撒いていた。
ジャージの胸元が下から盛り上がっているなんてよほどのことだ。
家庭事情はいくらか聞き及んでいたので、おそらくあの厭味のするほど艶っぽい方が、高須くんのお母様なのだろう。
だいぶお若いようだけど、いくつぐらいなのかしら。
年下ということはないでしょうが、それほど年齢に開きがあるとも思いづらい。
「インコちゃ〜ん、竜ちゃんが知らない女の人にてごめにされちゃう〜。そんなのやっちゃんやぁだぁ、ねえどうしよぉ」
「イ、イイッイ、イイ、イ、イイィーッ!」
「いくないよぉ、ぜんぜんいくないよぉ」
その高須くんのお母様が、ふらふらと居間の奥へと歩いていき、窓際にかかっていた置物からシートを取り払う。
置物は鳥かごで、中にはいたのは、あれはインコなのだろうか? そのまんまインコちゃんと呼ばれていたし。
不気味な、じゃない、ちょっと個性的な感じの容姿をしたインコちゃん相手に、高須くんのお母様はけっこう過激なことを交えつつ相談している。
けれども奇声を上げたインコちゃんの、言葉とも思えない言葉に、お母様はいたくご不満そうだ。
チラチラとこちら、私と、私が抱きしめている高須くんに目をやっては、どうしようどうしようと、忙しなく家中を動き回っている。
「……なにやってるのかしら」
背後から、石化から解けたらしき逢坂さんが、ぼそり。
泣き腫らした顔が別の理由でみるみる赤みを増してゆく。
手足が錆びついたようにぎこちない動きをしているのは、渾身の一撃を見舞うために溜めを作ってるからだろうか。
「あ、れ、だ、け、私がわからせてあげたっていうのに、それなのに、いったい、ひとん家でなにやってるのかしら」
みしみしと床板が悲鳴を上げて軋んでいる。
この場の誰よりも体重が軽いはずなのに、逢坂さんの立っている辺りが今にも陥没でもしそうな、耳障りな音を立てている。
「いま私、すんごく機嫌悪いの。そんでもってドアの前に立ってるわ。あんたたちに逃げ場はないし、絶対逃がさないわよ」
逢坂さんの言うとおり、外に繋がるほぼ唯一の出入り口は、彼女が背にしている。
ここは二階なのでその気になれば飛び降りれないこともないけど、きっとその直前、背中を見せた時点で待っているものは決まっている。
かといって、このままこうしていたところで事態が好転する兆しもない。ジリ貧だ。
どの道逢坂さんから無事に逃げられないなら、だったもう、やりたいようにしてみよう。
私にだって、意地はあるもの。
「さっ、竜児? まだ間に合うかもしれないわよ? ちゃあんと事情を話して、それからそこのをどっかその辺にぽいしてくれば、私だって鬼じゃないもん。
だからまずは私のとこに来てよ来なさいって大丈夫もう怒ってないからほら来てってば早く来てって言ってるでしょねえちょっとなんで来てくれないの!
そんなにぶっ飛ばされたいの!? ……そんなにそっちのがいいって言うの? 私より? そうなの? ねえ、竜児ぃ……」
「た、大河? おまえ何言って……せ、先生?」
無理やり立ち上がろうとした高須くんを、無理やり引き止めた。
何か言っているようだけど、胸に顔を挟み込ませると静かになる。
それを目の当たりにしていた逢坂さんは、髪の毛を逆立てそうなほど激怒した。
「あああもうっ、邪魔しないで! だいたい、いつまでそうしてんのよ! いい加減竜児から離れなさい! 離れて!」
まったく、良いところまで行っていたのに、逢坂さんが帰ってきた途端これだ。
この分じゃ、高須くんのお返しも、また貰い損なってしまうかもしれない。
それは嫌。
そんなのは一度でたくさんよ。一度この手にしたものを、もう諦めたりなんてしたくない。
そうよ、もう手にしてるんだもの。前へ進むなら、今しかないじゃない。
私は腕に力を込めて、足まで絡めあわせて、精一杯強く、強く高須くんを抱きしめた。
そうして、夢の中であてつけがましく言われた台詞を、今度はそっくりそのまま言い返す。
「渡さないんだから。なにがあったって、絶対」
でも、ただマネをするだけじゃ芸がない。
目を瞑る瞬間、人差し指を伸ばした逢坂さんがどもったりつっかえたりしながら何事か喚き散らしているのがチラリと見える。
知ったことじゃない。もう戻る気なんて更々ない。後のことなんてどうにでもなれ。
周りのことなんて一切構わずに、私は高須くんの「お返し」を、心行くまで存分に堪能させてもらった。
離れ際、名残惜しさを表すように架かった透明な橋を余さず舌ですくい取り、そして耳元で囁く。
「ごちそうさま」
真っ赤になった高須くんの唇は、マシュマロのような甘い味がした。
〜おわり〜
おしまい
ゆりちゃんキター!!
GJ!!
>>13の174さんGJ
久しぶりに長いのが来たので端末に入れてお風呂でぼんやり読んでたが
最後に暗黒と対峙して欲しいものを掴んだゆりちゃん先生がかっこよかった。
まさに正ヒロインと言える、が寸止め(´;ω;`)
この世界の亜美ちゃん様はともかくみのりんの動きがよくわからん。
大河のいたずらに腹を立てて茶巾絞りにするのけ?
>内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
胸糞悪い
最近、ゆりちゃん好きなんすね。
いや、読めない展開でした。GJ
ゆりちゃんかい、GJ過ぎる。
19 :
名無しさん@ピンキー:2011/08/22(月) 20:49:28.14 ID:0u+V/Osl
GJ!けどお願いだから改行して。
20 :
名無しさん@ピンキー:2011/08/23(火) 18:30:16.66 ID:lwAnjbTq
さあ出番だぞ保管庫
正直この人、もう筆折ったとばかり思ってたから投下きてて凄いビックリしたわ
何はともあれGJ
しかし補完庫ももう半年も更新してないんだな
まあ投下も無いし人もあんまりいないようだから仕方ないのかもしれないが
(・ω<)
>>22 みんな更新できるのに他人まかせのやつしか居ないだけ
小ネタSS投下
「あふたーだーくあなざー」
二月十四日、バレンタインデー当日の夜のこと。
点けっぱなしのテレビをぼんやり眺めていると、階段を上る足音が聞こえてくる。
立ち上がりざまに時計を見れば、もう七時を軽く回っていた。
ちょっと買い物をしてくるからって家を出て行ったのは二時間も前。
たいして時間はかからないって、出掛けにそう言ってたのに、すっかり待ちくたびれちゃったじゃない。
顔を見たら文句の一つでも言ってやろうかしら、もう。
「おかえり、竜児」
ドアが開くのと同時に言うと、ノブに手をかけたまま、竜児が目を丸くした。
普段はすごいツンツンに吊りあがっているからか、私はこういう角がとれたような感じの目が可愛く思えて好きだった。
「なんだ、大河、そんなに腹へってたのかよ」
出迎えた私がよっぽどお腹を空かせているように映ったみたいで、竜児がプッと噴出す。
少しむっとしたけど、実際お腹は減っていただけに言い返せない。
「わるいわるい、すぐ飯にするから」と竜児はむくれている私の横を素通りする。
なによ、人のことこんなに待たせといて。二時間よ、二時間。そりゃお腹だって空くわよ、誰だってそうでしょう。
自己主張の激しいお腹の虫も、同意権だと頷くようにぐうと鳴ってみせた。
と、そんなとき。
「あれ? それなに、竜児?」
シンクに置かれたスーパーの袋から手早く引き抜かれた、見慣れない包装をした小さな包み。
明らかに晩御飯のおかずに使うようなものじゃない、けっこう値段の張りそうなそれを、まるで私から隠そうとするみたいに後ろ手に持ったまま、竜児がそそくさと自室へ入っていこうとした。
呼び止めると、ビクッと肩が跳ねる。
あやしい、あからさまにあやしい。
「……ねえ、ずいぶん遅かったみたいだけど、どこ行ってたの」
ケータイには何度も何度もかけたけど出てくれなかったし、メールもいっぱい送ったのに一通も返信してくれなかったし。
だいたいちょっと買い物に行くくらいで、何だってこんなに時間かかってたのよ。
スーパーの袋は商店街にある店のやつだから、そんなに遠くまで出かけていたとは考えにくい。
荷物だって、どう贔屓目に見たって片手で足りるような量。
何かあったって思うじゃない、普通は。
「どこって、べつにただ買い物してただけだぞ。ほら、いつものスーパーで」
そのことは疑いようがないけど、しっかり目を合わせようとしないし、やっぱり竜児はどことなく変。
嘘は言ってないと思うけど、本当のことを全部言っているようにも思えない。
「そっ。買い物だったんだ」
「おう」
「じゃあ、そのチョコも買ったの?」
「お、おう。まあな」
自分を落ち着けるために深く深呼吸をする。
そうでもしないと、まだ決定的な核心に触れていない内に、はぐらかそうとしている竜児をぶん殴ってしまいそうだったから。
「へえ、やっぱりチョコだったのね、それ」
「は? え、あ、いや」
途端に竜児の歯切れが悪くなった。
カマをかけてみたら案の定、私の目から遠ざけようとしていたものの正体はチョコだった。
この時点で、買ってきたものだなんて真っ赤な嘘だってわかった。
沸々とお腹の底から熱いなにかが込み上げてくる。
これが他の何でもない日だったらまだ納得できないでもなかったけど、なんていったって今日はバレンタインデーなのよ?
そんな日に自分でチョコ買ってくるなんてさもしくって虚しいこと、竜児がするなんてとても思えない。
絶対誰かから貰ってきたはず。いったい誰なのよ、人に断りもなくそんなことするのは。
「だれ。誰から貰ったのよ。言いなさい、竜児」
語気を強めにして言う。顔を逸らされた。
一歩前に出れば一歩後ろへ下がられて、お互いの距離は変わらない。
なんか、もっとムカついた。
「しらばっくれてもわかるんだから。素直に白状しないと後が恐いわよ」
凄んでみても、おどかしてみても、竜児は口を割ろうとしない。
もう一歩前へ出れば、もう一歩下がった竜児が襖にぶつかる。
私はさらにもう一歩踏み込んで竜児との距離を完全に潰した。
見上げると、そこにはツンツンとも違う、角が取れてもいない、形容しがたい竜児の目が見下ろしてくる。
なのに、その目に私は映ってないように思えてしまって、腹立たしさが加速していく。
このままお見合いしててもきっと竜児は答えようとしない。
そういうやつだってわかってるから、だから私は、とりあえず当てずっぽうを言ってみた。
「みのりん?」
まずありえそうなところを挙げてみる。
すると竜児は妙な否定の仕方をした。
「いや、櫛枝からのは」
あっと声に出して、そこで口を両手で覆うけどもう遅い。
みのりんからのは? 今みのりんからはって言った? 言ったわよね、みのりんからのはって、そう確かに。
みのりんからはって言ったってことはつまり、竜児が持ってるそれ以外のでならみのりんから貰ったやつがあるってことよね。
いつの間にそんなことを。みのりん、バレンタインデーなんてすっかり忘れてたくらいだよって言ってたのに。
「違う、大河、今のはそういうんじゃなくてだな」
竜児が慌てて取り繕おうとする。
失言に少なからずショックを受けつつ、と同時に嫌な予感もしたので、一応確認のためにもう一人頭に浮かんだいけ好かない名前を言ってみた。
「なら、ばかちー?」
横一文字に口を引き結んでいた竜児はあさっての方へ目を逸らした。
否定も肯定もしない、ただただ逃げの姿勢。その反応だけでも充分だったかもしれないけど、今ひとつ腑に落ちない。
理由はうまく言えないんだけど、なんか勘が騒ぐのよね。
あ、こいつまだ隠し事してるな、って。
その勘に従って、私はもう一度カマをかけてみることにした。
ふうっと少しばかり気勢を和らげてみせ、余裕があるように演じてみる。
「なわけないわよね。その時のは私、この目で見てたんだし」
すると、竜児の顔色ががらりと変わった。
信じられないというように目を見開いて、半ば呆然としている。
「おまえ、どっから見てたんだ」
「気づかなかったの? すぐ近くにいたのに」
「すぐ近くって、自販機のとこで気づかないわけ……はっ!?」
自販機の置いてある踊り場、ね。ずいぶんと大胆なところでやってくれんじゃないのあのばかばかちー。
再度のカマにそれはそれは見事にあっさり引っかかった竜児に、冷ややかな視線を叩きつけてやった。
だらだらと大汗を掻きだしたその顔は、青かったり白かったりたまに土気色してたりでこっちまで気分が悪くなってきそう。
かくいう私の顔色といえば、竜児とは正反対の真っ赤っかだっただろうけど。
甘かった。目を光らせていたつもりだったのに。
しかし過ぎてしまったことをとやかく言っていてもしょうがない。
没収するのはさすがに気が引けたし、そんなことをすれば竜児に本気で怒られそうなので取り上げるようなことはしなかった。
その代わりに、あの二人には今度必ず何らかのお返しをしようと、そう固く心で決意した。
でも、こうなるといよいよわからないのは、今竜児が背中に隠しているチョコの存在。
あれは誰があげたのよ?
私の思いつく限りではみのりんとばかちーくらいなものだったので、それ以外の相手となると推測のしようもなくなってしまう。
ぱっと見たとこあんまり安っぽくはないし、ちゃんとしたお店で買ったような感じがする。
手がかりといえばその程度で、他には、そう、におい。
「な、なんだよ」
訝しがる竜児を無視してお腹の辺りにおもいっきり顔を埋めた。
さっきまで外にいたおかげで心もち冷たくって、その奥はほんのりあったかい。
鼻先をぴったりくっつけて、そうして深く息を吸い込んだ。
「やっぱり」
聞かれないようぼそりと呟く。
微かだけど、竜児のとも、私のとも違うにおいが鼻腔をくすぐる。
香水みたいだったから最初はやっちゃんのかとも思ったけど、やっちゃんが使ってるような、あんまり強い香りのするタイプじゃあないみたい。
少なくともこの家にいる誰のものとも違うにおいなのに、それにしてはどっかで嗅いだような覚えがあるような気もする。
どこだったっけ。
ここじゃないとすれば他に可能性があるのは学校しかないし、たぶんそれは合ってると思うんだけど、肝心なところではっきりと思い出せない。
残り香を頼りに記憶の糸を手繰り寄せてることに躍起になっていると、時間が経ちすぎたためか次第にその残り香が薄まっていってしまう。
もうちょっと濃いものだったならまだしも、なにぶん染み付いたそれは本当に微かなものだったし、だんだんと竜児のにおいの方が強まってきた。
少し汗が混じった、男の人のにおい。竜児のにおい。
そのまま顔を埋めたままでいるとなんだか頭がくらくらしてきて、息ができないわけでもないのに息苦しい。
呼吸の仕方を忘れてしまったみたいで、ひたすら空気を吸い込んでばかりいた肺が破裂しそうだった。
「なあ、いい加減にしてくれよ。いつまでそうしてんだ、大河」
「ふみゅ」
ふいに息苦しさから開放される。それと共に、温もりも遠のいていく。
ぷはあと堪らず肺いっぱいの空気を吐き出すと、靄が晴れていくように徐々に思考が鮮明になっていく。
誰かのにおいを追っていたはずが、いつしか竜児のにおいに夢中になってしまっていた私を、気味悪そうな顔した竜児が引き剥がした。
思い返してみると我ながら恥ずかしげのないことをしちゃったけど、我を忘れてしまっていたんだからどうしようもないじゃない。
それに、そうよ、これは竜児のせい。
いいにおいのする竜児のせいなんだから、そんな顔されるいわれなんてないもん。
ううん、それにしても。
「むうー。あとちょっとで誰だったかわかりそうだったのに」
薄ぼんやりとして特定まではできなかったけど、確かにあれは私たちのごくごく身近にいる誰かのにおいだった。それは断言できる。
続けざまに二度もカマに引っかかり、失言に次ぐ失言でただでさえ立場のない竜児が、私の言葉で明らかに狼狽した様子を見せた。
それを悟らせまいと、ごほんとわざとらしい咳払いをひとつ。
「だから、これは買ってきたもんだって言ってるだろ。何がそんなに気になるんだ」
「自分で買うのにラッピングする? 冗談でしょ。そもそも竜児、みのりんとばかちーから貰ったのだって私に内緒にしてたじゃない」
「それは……とにかく、このことはもう聞くなよな」
ぴしゃっと乾いた音を立てて襖が閉じられる。
これ以上の追及はごめんだという風に、私が何か言う前に竜児は自室に篭ってしまった。
不機嫌さも滲ませていたあの様子じゃあ、これ以上しつこく尋ねるのはやめておいた方がいいかもしれない。
不満は残るけれど、それで竜児とケンカしてしまうのは本望じゃないもの。
特に今日は、そんなこと絶対したくないんだから。
険悪な雰囲気の中で一緒にいて、ギクシャクしたまま過ごすだなんて、そんなのそれこそ望んでない。
ぺらぺらな紙と木でできた薄い襖の向こう側にいる竜児に、渡さなきゃいけないものがある。
一旦台所へ行き、冷蔵庫に入れておいた小箱を取って戻ってくる。
意を決すると、私はそこに居るだろう竜児に語りかけた。
「ねえ、竜児」
本当は一番に渡したかった。
なかなか上手にできなくって、何度も失敗しちゃって、結局こんなに遅くなっちゃった。
出来栄えだって思ってたようにはぜんぜんなってくれなくって、味も自信ないし、胸をはれるようなものじゃないけれど。
「出てきて。渡したいものがあるの」
しばらくそこで待っていると、むすっと仏頂面を提げた竜児が顔を出した。
なんだよとでも言いたげな、ツンツンを通り越して刺さりそうな目も、差し出されているそれを見て角がとれていく。
「竜児がそうしろっていうんなら、今日はもうなんにも聞かない。だから、ね? これで仲直りしよ?」
さっき竜児が持っていたそれと比べたら手抜きと言われてもしょうがない簡単な包装を解いていく。
上蓋を開けると、中には少しだけ歪な形をしたハートが、箱の大きさに比べたらややこじんまりと収められている。
こんなのしか作れなくて、呆れられたらどうしよう。笑われたりしたら、やだな。
でも、竜児に喜んでもらえたなら、それはなによりも嬉しいと思うから。
「あのね、そのね……ハッピーバレンタイン、竜児」
緊張してどもってしまわないよう、唇に震えが走っているのを我慢して、精一杯の笑顔でそう言った。
竜児は私と、私が手にしているチョコとを交互に見て、たっぷり時間を置いてから口を開いた。
「貰っていいのか、これ」
遠慮がちな竜児からは戸惑いの色が浮かんでいる。
つい五分ほど前までとは打って変わった私の態度に、何か裏があるのかもって思ってるのかもしれない。
もう、変な心配なんかしてないでこんなときぐらい余計なこと言わずに受け取りなさいよ、ばか。
しげしげとこっちを眺めているに留まっている竜児に、私はふて腐れたように頬を膨らませた。
「なによ。べつに、いらないんだったらそれでも」
「おい、待てよ。誰もいらねえなんて言ってないだろうが」
「ムリしなくっていいわよ。どうせ私のなんて欲しくないんでしょ」
と、引っ込めかけた私の手を竜児が掴む。
力が入りすぎていて、掴まれた部分が痛いぐらいだった。
見上げれば、射抜くように鋭い目から、目が離せなくなる。
「……貰ってくれる?」
おずおず尋ねると、真剣な顔をした竜児が言う。
「おう」
「……うれしい?」
「当たり前だろ」
それなら、いい。
言いたいことがないわけじゃないけど、そんなのどうでもよくなった。
貰ってくれて、うれしいって言葉にしてくれたんだから、それでいい。
できるだけ穏やかに、そして明るい声色で「それじゃ、仕切り直しね」と私が告げる。
それから笑顔でもう一度。
「ハッピーバレンタイン、竜児」
〜おわり〜
おしまい
>>31 GJです。
落ち着いた後の大河が怖いです。
GJ!
かわいいじゃん、やきもちタイガー。
まさかとらドラでくんかくんかを見るとはな(´▽`*)くんかタイガーかわえぇぇ
大河視点だとまだ可愛い嫉妬で話が終わってるけど、
この後の大河って竜児が独身チョコを食べてるのを目撃しちゃうんだよな…
>>35 174さんSSの独身のヒロイン力は異常だから仕方ない
独身、俺がもらってやりたいぜ
でも貰っちゃうと、独身じゃなくなって魅力半減だから、やっぱいらない
>>36 独身本人は結婚したくてたまらないのに、なんて皮肉な話なんだ…
まあこの独身はその内自力で竜児をモノにしそうだよな
最後に濃厚なキスかましたし、大河に負けじとアタックかけてる内に余裕で一線越えそう
38 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/03(土) 20:03:47.87 ID:x98fEucf
うぷ
小ネタSS投下
「夜のコール」
最後のお客さんを見送ってから、もうだいぶ時間が経った。
活気に欠けたお店には、素面のままで退屈を持て余すはめになったやっちゃんだけ。
それもまあ、仕方ない。
昼となく夜となく、ここのところひっきりなしに降り続いた長雨でただでさえお客さんの足も遠のいていたし、それにつけても特に今夜の荒れ模様は酷いったらない。
ニュースでしきりに台風がどうのって言っていた。
バケツをひっくり返したような土砂降りだったり、かと思えばひたすら風が吹き荒れてたり、静かになったと思いきや、ピカッとどこかの空が光る。
傘なんて使い物にならないほどの風雨が、夜がふけても弱まることなく、絶える間もなしに降りしきっている。
おかげで通りに立て掛けていたお店の看板が危うく吹き飛んでっちゃうところだった。
今だって、大粒の雨が窓を叩く音がしている。
今度のは大きい上にゆっくりゆっくりのんびりと進んでいくそうだから、この分じゃあ晴れてくれるまでにはまだまだかかりそう。
他の子たちは早めに帰してあげてよかった。なにかあったら大変だ。
これで後の心配事といえば、ただひとつ。
「はふぅ……どうしよ」
やっちゃんは、これからどうしたもんだろう。
傘なんてない。
来るときに使っていた、コンビニで五百円もしたマイビニール傘は、置き去りにしていた傘や忘れ物の傘と一緒にお客さんやお店の子たちに貸してあげた。
あってもあんまり意味がないし、まあ、しょうがないや。
自力で帰れないならタクシーを呼んじゃおうとも考えて、寒い財布と熱ーく相談した結果、あえなく断念。
深夜料金で割り増しになってるだろうなあと思うと、なおさらだ。
無駄遣いするなよってあれだけ口すっぱく言われていたのが今さらながらに身に沁みる。
帰りがけにプリンとか買ってくの、明日からは控えようかな。
「うん、そうしよ。えっへんやっちゃん節約のできる二十三歳〜。アハハ、ハハ……はぁ」
遅まきの後悔と、どうせ守れないに違いない決意を、手慰みにむにむにと柔めな感じで固めていたときのこと。
ドン、ドン、ドン。お店のドアがノックされる。
ノブを回して、鍵がかかってるとわかると、さっきよりも少し強めにドンドンと、大きな音を立ててドアが叩かれた。
看板もしまっていて、外の明かりは消してある。明かりが点いているのはカウンターの中だけだ。
店じまいに気づかないほどへべれけなお客さんが、雨宿り代わりに来たのかもしれない。
こんな酷い天気で雨ざらしのままじゃ可哀想だし、このまま知らんぷりしてるのも気が引けて、とりあえずは居れてあげようと腰を上げかけたら、タイミングよくケータイが着信音を鳴らした。
手にとって、そうしてる間にもドアを叩く音は重く響くように強くなる。
心なしか雨足も激しくなってきたようだった。
まだ鳴り続けるケータイを持ったまま、万が一のためにチェーンはしてから鍵を解く。
その瞬間、嫌な金属音がした。
ドアがすごい勢いで引っ張られて、かけたばかりのチェーンが悲鳴を上げた。
ガチャ、ガチャガチャンって、不安を煽るような甲高い悲鳴。
やっちゃんはといえば辛うじて悲鳴は上げなかったものの「ひっ」と息を飲んで、ドアの前で硬直していた。
まさか。そんな嫌な予感が駆け巡るのに、時間はたいしてかからなかった。
いくらなんでも考えが足りなさすぎたかもしれない。無用心にドアを開けてしまったことを後悔する。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。どうしよう。
怖い。怖い。怖い。
こういうお仕事してたらそりゃあ恐そうな人たちだってお客さんとして迎えてきたけど、そういう人たちにはもう慣れてたし、深く関わろうとさえしなければべつに向こうだって変なことはしてこなかった。
たまにあしらえない人もいるにはいて、そんな時はお酒の席で絡まれるのは避けては通れないしって我慢してきた。
ちょっと体とか触られたりしたって、嫌だけど、ぐっと堪えた。
その甲斐あってこれまで大きなトラブルが起きたことはなくて、だから、いつものことだったらどうにでもなるって思ってたのかもしれない。
特に根拠なんてないのに、そんなことありえないって頭から決めつけて。
でも、いまは、そんなことないって言える自信がない。
外は滅多にないほどの台風のおかげですごい暴風雨、しかも深夜だから人通りもろくにない。
お店の中だって、やっちゃん一人しかいない。
もし、本当にもしも、なにかあったら……。
「怖いよぅ……竜ちゃん……」
脳裏を過ぎる想像に、知らず知らず震えていた。
泣きそうになって竜ちゃんの名前を呟いて、その声に被さって、鳴りっぱなしの着信音を耳が拾う。
あんまり動揺していてすっかり頭から存在が抜けていた。
悴んだようにうまく動かない指で開くと、画面には思いがけない名前が浮かんでいる。
竜ちゃん──電話をかけてきていたのは竜ちゃんだった。
途端に安心感が湧き上がる。それまで、あれだけ不安に押し潰されそうだったのが嘘のように一変する。
こんな時間にどうしてと不思議に思うよりも、その時はもう、ただただ声が聞きたくなってたまらなかった。
「りゅ、竜ちゃん、竜ちゃん竜ちゃん、あのぉ、あのぉ……竜ちゃあん、助けてぇ」
順序だてる以前に、考えることもぜんぜんできない。
突発的な言葉が口をついて出ていくのが、どこか現実味がなくて、自分が言ってるはずなのに何を言っているのかよくわからない。
とにかくスピーカーをめいっぱいくっつけて、竜ちゃんの名前を何度も呼んで、その第一声を待つ。
だけど聞こえてくるのはザーザーっていうような水音や、ゴウゴウと吹き抜けるような雑音ばかり。
さすがに不信に思い始めた頃。
「助けてやるからまずはここ開けてくれよ」
ドアの向こうからそう言われてすぐ『助けてやるからまずはここ開けてくれよ』と、通話先からもまったく同じことを言われた。
呆れたような、ぶすっとしたようなその声は、紛れもなく竜ちゃんのだ。
いくら雑音が酷くったって、やっちゃんが間違えるわけないよ。
ケータイも、通話中の相手の名前は竜ちゃんのまま。
なにより、中途半端に開いているドアの隙間からこっちを覗き見るその目つき。
あんなに吊り上がった三白眼をしてるのなんてこの辺じゃあ竜ちゃんぐらいなもの。
となると、もう疑う余地はない。
一旦ドアを閉めさせてもらってからすぐにチェーンを外す。
「ちょっと待っててね、いまタオル持ってくるね」
「いいよ、すぐ帰るんだから。どうせ濡れちまうんだし」
天気の崩れ具合をありありと物語るように頭のてっぺんから爪先まで、まるで泳いできたようにずぶ濡れの竜ちゃん。
ぴったり肌に張り付いたシャツをぱんぱんと叩いて、その度滲み出て粒になった水が滴り落ちている。
風邪でもひいたら大変だよって、そう言って心配するやっちゃんを無視して、竜ちゃんは店内をぐるりと見渡す。
残っているのがやっちゃんだけなのを確認すると、なんだか複雑そうな顔をした。
「ずっと一人だったのか」
「え? う〜んと、途中まではね、お客さんとかもいたんだけど、その後はそうだよ。やっちゃんだけ」
「どのくらいだよ」
「ええっとぉ、よくわかんない。たぶん、三時間くらいかなぁ」
だんだん顔を顰めさせていく竜ちゃんがはあと深いため息をこぼす。
それから力なさげに手招きをして、なんだろうって近づいてきたやっちゃんのほっぺにおもむろに触れる。
ひんやりと冷たくなっていて、まだ濡れている指先がつうっと肌を滑るのがこそばゆくって、なんだかドキリとした。
「あ」とか、「んぅ」とか、そんな声にならない声がもれそうになって、それも束の間。
「いひゃ、いひゃい、いひゃひゃひゃひゃ。りゅうひゃんいひゃいよ〜ひゃめへ〜」
抓りあげられたほっぺたが焼けたように痛い。
たまらず竜ちゃんの手を払いのけて、抓られてひりひりする部分をさすりつつ上目遣いで睨んだ。
「なにするのぉ?」
赤くなったほっぺたを膨らませたやっちゃんの抗議に、竜ちゃんがジト目で返す。
「あのなあ、台風だぞ台風。もう客なんてこねえだろ。それだってのにおまえ、三時間もなにしてんだよ」
叱るような口調の竜ちゃんは、つまり何でさっさと帰ってこなかったのかって、それが気に食わなかったみたい。
その言い分だってわからなくはないし、どころか、もっともだって思った。
できることならやっちゃんだって早く帰りたかった。なにも好き好んで三時間もぼけっと座ってたわけじゃない。
理由は竜ちゃんも言ったけど、台風が酷かったから。
一人で帰るには躊躇しちゃうこの荒れ模様のせいで、帰るに帰れなかった。
せめて出歩けるぐらいには天気が穏やかになるのを待っていて、そうしたら、いつしかこんな時間になっていた。
それなのに、やっちゃんにだって事情とかあるのに、いきなりほっぺた抓られて、しかもそんな頭ごなしに怒られたら、いくらなんでもちょっと理不尽だとも思う。
でも、それを表に出しちゃうのはできないよ。
「たく、人がどんだけ心配したと思ってんだ。だいたい泰子、いつも言ってんだろ、なんかあったら連絡の一つでもよこせって。
一人で帰れねえなら帰れねえでもっと早く言ってりゃあこんな時間になる前にだな、って。おい、聞いてんのか泰子?」
ぷりぷり小言を並べる竜ちゃん。
冷め切っていた手の、その感触を思い出すと胸が絞めつけられる思いがした。
「うん……ごめんね、竜ちゃん。心配させちゃって」
心配かけちゃった上に、こんな遅くに台風の中、こうして迎えにまできてくれた竜ちゃんに向かって、そんな釈然としない気持ちをぶつけるのは、筋違いも甚だしい。
それにこういうときは何を言っても言い訳がましく聞こえてしまいそうで、ここは素直に謝った。
竜ちゃんは後頭部をぽりぽり掻く。
「あー、いや、おう。まあ、わかればいいんだけどさ」
と、そこでこほんと一つ咳払い。
目線を外してあらぬ方を見つめる竜ちゃんが、やたらと神妙な感じで言う。
「助けてとか言うもんだから、一瞬何事かと思ったんだからな」
要らない心配まで余計にかけていたみたいで、不機嫌さの理由はこれにも関係ありそうだった。
ちゃんと経緯を話とかないと、変な誤解を招きそう。
「あれはね、そのね、早とちりっていうかね」
「なんだそりゃ」
きょとんしている竜ちゃんに、さっきのはこれこれこういうことだったんだよと説明する。
手振りも交えて、それにあのとき、どれだけやっちゃんが怖い思いをしたのか。
それを話している間、真剣に耳を傾けていた竜ちゃんは、話し終えると同時にプッと噴出して、それから堰を切ったように笑い出した。
なんで笑われるんだろうって不思議がっているやっちゃんに、竜ちゃんが「心配して損した」だって。
なんだかやっちゃんばっかりがおかしいみたいで、それがやっちゃんにはぜんぜん可笑しくなくって、笑わないでって言ってもクスクスなんていう含み笑いはなかなかとまらない。
ひとしきり笑って、そうして何事もなかったように帰り支度を始めた竜ちゃんの背中にこう言った。
「でも、竜ちゃんが来てくれて、やっちゃんすごくほっとしたんだぁ。今だってね、心配してくれてて、うれしい」
聞いているんだからいないんだか。背を向け続ける竜ちゃんからは、そのことすらもわからない。
それでも、照れてるのかなって、なんとなくそんな気がしたのは、無言で繋いできた手がほんのりと温かみを持っていたから。
最後に記憶にあるときより、また少し大きくなっている。
そのことが実感できて誇らしくって、この手がまた冷めてしまわないよう、簡単に離しちゃわないよう、ぎゅっと握り返した──。
「うおっと。大丈夫か? 足元、滑るから気をつけろよ」
戸締りをしてお店を後にすると、いくらも進まない内に突風と横殴りの雨に見舞われた。
折れそうな勢いで木がしなって、電線がたわんで、看板や標識、信号までが大きく揺れている様子は、普段の見慣れた街並みとはぜんぜん違い、さながら別世界のようだった。
とはいえまともに目なんて開けていられない有様で、水溜りも同然、むしろ浅い川のようになっている道路で足を滑らせたところを、隣を歩く竜ちゃんに抱きとめられて事なきを得る。
「うん。それにしても、ほんとにすごいねぇ」
「おう。台風、今度のは相当でかいらしいからな。また洗濯物が溜まっちまうよ。あとカビも手強くなるしよ」
「ううん、違うの、そうじゃなくってぇ」
傘を差しながら、転びそうになったやっちゃんを軽々と抱きとめて、そのままぐいぐい先を進んでいく竜ちゃんがすごい。
そう言おうとするよりも早く、どんよりとした靄が目に見せそうなほどのため息を竜ちゃんがした。
「はあ。とりあえず、さっさと帰んねえとだな。ああ、ちょうどいいからそのまま掴まってろよ、泰子」
「あっ、りゅ、竜ちゃん? やっちゃん一人で歩けるよ? ……それに、ちょっとはずかしい」
「どうせ見てるやつなんて誰もいねえし、こっちの方が早えだろ?」
実際それは本当だった。
竜ちゃんのペースに合わせようとどんなにやっちゃんががんばっても、向かい風や水溜りに足を取られてどうにもこうにもうまく進めない。
だからって、甘えちゃってもいいのかな。
本音を言うと甘えちゃいたいのはやまやまで、正直かなり迷ってしまう。
「……いいの? やっちゃん、重かったりしない?」
どうするか決めあぐねた末に、これも竜ちゃんに丸投げ。
「いいよ。べつに重かったりもしねえから、気にすんな」
「……うん……じゃあ、おねがい」
事もなげにしている竜ちゃんに、やっちゃんはもう文字通りのおんぶに抱っこの状態だった。
しかも傘まで持ってもらってる。こんなに至れり尽くせりでいいのかな。
竜ちゃんは出掛けに傘を二本用意していたらしい。
でも、お店まで来る途中で、それまで差していた傘が一際強い横風を受けて裏返ってしまい、壊れて使い物にならなくなってしまったそう。
残った方の傘を、ないよりはマシだろうって竜ちゃんにやっちゃんに差し出してくれた。
それはいいんだけど、やっちゃんが差してても、ちょっとした風ででもすぐ傘が飛んでいっちゃいそうになる。
結局それも竜ちゃんに差してもらって、挙句に抱っこなんていうこの体たらく。
お母さんの面目丸つぶれだ、これじゃ。
「ふふ」
「なんだよ」
「なんでもな〜い」
でも、そんなことも、もうどうでもいっか。
なにも今に始まったことじゃないし、つぶれるような面目があったのかさえ疑わしいし、それに竜ちゃんがいいって言ったもん。
だからもう面目とか、そんなのどうでもいい。
こうしているのが思ってたよりもずっと心地いいから。
「ねえ、竜ちゃん」
「ん?」
こんな酷い雨の日も、たまにだったら意外と悪くないのかもって、そう思った。
「だいすき」
こんな酷い雨の日だから、雨音で掻き消されたりしないように。
唇が触れるまで顔を近づけて、そっと囁いた。
〜おわり〜
おしまい
46 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/04(日) 14:10:52.07 ID:B/K6wGDX
あなたが、貴方が神か・・・!
GJ!!!
やべえ何これ
やっちゃん可愛すぎるでしょこれ
もっとやれいややって下さいお願いします
174さんの三十路以上のキャラが魅力的で困る
>>49 この人、三十路組のこと大好きだよな
ゆりちゃんは元よりやっちゃんまでめちゃくちゃヒロインしてるし
ごめん間違えてageてしまった
174 ◆TNwhNl8TZYの名前を見て、「お、独身か!」と思ったら母だったでござる
しかもこれまたほのぼのした良作・・・乙である
174さんの名前を見ると真っ先にハーレム物が思い浮かぶな
性別が♀ならモブからインコちゃんまでもっていう徹底ぶりが印象強い
というかインコちゃんが騒動の元凶だったっていう話が強烈すぎてそれが未だに頭に残ってる
竜児が記憶喪失で妊娠させまくる話かw
あれは傑作だったwww
ゴールデンタイムの SS はまだかね?
どっかで既視感あると思ったらうさぎドロップ(アニメ)の主人公大吉が竜児だ。一度そう思ったらもうそれにしかみえない。
独身のままおっさんになるぐらいなら、
そその前に亜美ちゃんや独神を嫁にもらえばいいのに
結婚できず、子供を作るでもなく、独身のままおばさんになってしまったゆりちゃんにも色んな意味で辛いアニメだな
>>54 しかしこの説明だけだと竜児が凄い鬼畜に見えるな
小ネタSS投下
「N.G.S」
なんでも行き当たりばったりで、何事も先延ばしにしてしまうような性格を恨めしく思うのはこれで何度目になるんだろう。
特に考えもせずその場のノリで決めてしまったのが二週間前。
まだまだ余裕あるから後に回しても大丈夫って気楽に構えてたのがちょうど一週間前。
さすがにヤバイと本気で焦りだしたのは、提出日のたった三日前のこと。
いくらなんでも遅い、遅すぎる。そこから挽回するのだって、大変なことは充分わかっていた。
少なくとも、そのつもりだった。
それだってのにとうとう明日が期限だというところまで日々を無駄に浪費してしまったのは、ひとえに自分の責任だ。
もし時間が巻き戻せるんなら、あたしは二週間前のあたしを絶対引っ叩いてやる。
泣いて謝ったって許してやらないんだから。
こんな穴だらけの指になりたくなかったらもっと楽にできて、かつすぐ終わらせられるようなもんにしときなさいよねって、おもっくそ嫌味ったらしく言ってやる。
「痛っ」
まただ。余計なこと考えてるからそうなるのよ、それ見たことかって、心の中で自嘲気味に呟く。
人差し指に走った痛みにいい加減辟易する。刺さってしまった針先を慎重に引き抜くと、遅れて傷口から薄っすらと血が染み出す。
隣に座っていた、それはそれは目つきのおっかない男子が、すかさず絆創膏を貼ってくれた。
「ああもうっ。もう嫌、やってらんないわよこんなの」
「落ち着けって。さっきまでと比べりゃだいぶ上達してるぞ」
高須くんはそう言うけど、あたしにはとてもそうは思えない。
度重なるミスのおかげで左手はとっくに絆創膏まみれになっている。
今の今増えたのも合わせると、自分自身に針を刺してしまった回数は片手じゃ数えられない。
始めてからもう一時間。それだけ費やしてこの有様だ。
経験値に直したら少しはレベルが上がっていていいはずだってのに、まるで立体感のない、ぺちゃんこのクマだか狸だか判然としない形の布切れからは、上達のじょの字も感じられない。
「やめてよ、お世辞とか。なんか、逆にムカつく」
一向に終わる気配がしてこない、苦痛まで伴う地道な作業の繰り返しに、あたしはもうすっかり嫌気が差していた。
こんなもの放り出して帰りたいのに、けどそうもいかなくて、やらなくちゃいけないのもわかってるし、でもやりたくない物はやりたくないんだもん、しょうがないじゃん。
それにもう、どうせ間に合いっこないよ。
勝手に八つ当たりして、勝手に諦めムードを漂わせていると、高須くんがはあとため息。
「そんなんじゃねえよ。ほら、木原、まっすぐ縫えるようになってきてるだろ。ちゃんと上手くなってるよ」
「なってないってば。だってさ、こんなにやったのに、ちっとも高須くんみたいに上手にできないし。きっと才能ないんだよ、あたし」
始める前、一通り高須くんに実演してもらったのを思い出す。
淀むことなく綺麗に繕うその様子をお手本にしていたのに、いざ自分が針を持つと勝手が違って、まったくお手本どおりにならない。
あれだけ要点とか注意とかを教えてもらったのにもかかわらず、最初の方に縫ったのなんか糸がよれよれで蛇行しまくりだ。
それでも何度か練習して、やっと本番に取りかかって、なのにずっとこの調子。
自信があったわけじゃないけど、こうも上手くいかないんじゃあ気落ちするなっていうのも無理な話でしょ。
そうやってうなだれているあたしに、高須くんがフォローを入れた。
「才能なんて関係あるか。誰だって始めたばっかじゃこんなもんだ。俺だってそうだ」
「でも」
あたしは高須くんとは違うから、高須くんみたいにできないよ。
そう続けようとした言葉を遮られる。
遮ったのはもちろん高須くんだ。
「わからなけりゃ何回だって教えてやるし、難しいとこは手伝ってやるよ。だから木原も、もうちょっと続けてみないか」
そうまで言われて、ううん、言わせちゃって、これで諦めて帰るだなんてこと、できるわけない。
それでなくったって頼み込んで手を貸してもらっているんだから、一方的なわがままで終わらせるのって、高須くんにすごく悪い上に失礼だ。
いくらか冷静さが戻ってきたのもあって、高須くんの説得により、止めようという気持ちはだんだん霞んでいった。
それでも引っ込みをつけるのが苦手なあたしはそっぽを向き、
「わかったわよ。やればいいんでしょ、やれば」
と、可愛らしさの欠片もないふて腐れた返事をする。
他の人だったら愛想をつかされててもおかしくないのに、高須くんは「おう」とだけ言って、何事もなかったようにしている。
自分でもさすがにあれはないんじゃない? と思っただけに、あっさりとしすぎる高須くんの反応が意外で、肩透かしを食らったようにさえ思える。
まあ、あれだけ素直じゃないタイガーを相手にしてるから、慣れちゃってるってのもあるのかな。
それが一番ありえそう、それだけいつも一緒にいるんだろうなって、そう思った次の瞬間。
「痛っ」
チクリ。今度の針は、今までのよりほんの少し深く刺さった。
「なあ、慌てなくていいんだからな」
「うん」
絆創膏が、また一枚。
気を取り直して再開させた、その矢先にこれなんだから。
先が思いやられるなあ、もう。
そもそもこんなに難しいと知っていたなら家庭科の裁縫課題、適当に雑巾とか、そういう簡単そうなのにでもしとくんだった。
亜美ちゃんに奈々子、それにほとんどみんなが「可愛いからこれにしよ」って盛り上がってるとこに、ノリで便乗しちゃったのが最初にして最大の間違いだ。
ぬいぐるみなんて可愛らしくって複雑なもの、どうせあたしにできっこないってのにさ。
まったく、何やってんだか。
「あーあ、男子はいいよね。こんなめんどいことしなくっていいんだから」
あっちはあっちでレポートの課題がある。
といってもたいしたことはなく、ただ教科書の内容を丸写しにして出せばいいだけ。
それに引き換え、女子にはこういう実技課題が出されているんだから、やっぱ不公平だ。
同じ家庭科だってのにこの違いはなんなのよ、男女平等社会じゃねえのかよ。
裁縫なんて、そんなのが得意な女子高生なんて今どきいるわけないでしょ。
もしいるんだったらここまで連れてきてみろってえの、たく。
だいたいさあ、こんなぬいぐるみもどきを作れたとして、それが将来なにかの役に立ちそうってわけでもないし、ほんと、何の意味があるんだかわかりゃしない。
ちくちくちくちく危ない手つきで縫いつけながらのあたしの、その投げやりな気持ちがめいっぱい込められたぼやきに、隣で見守る高須くんが首をかしげた。
「そうか? 俺はそっちの方がいいけどな」
今どきの男の子がいくら大人しいったって、ここまで女々しいというか、所帯じみてもいないでしょうよ。
少なくともあたしの身近に高須くんほど家庭的という言葉が似合う男子は思い当たらない。
女子をひっくるめても辛うじて奈々子ぐらいなものかな、当てはまるの。
つくづく見てくれとのギャップが激しい高須くん。
そのことに何ら驚きもしなくなっている自分を悟られるのがなんだか恥ずかしいことのように感じられて、そうならないよう冗談めかして言う。
「なら、いっそ代わる? でさでさ、あたしがやったげるよ、高須くんのレポート。ね、そうしよ」
「ああ、名案だなそれ。だけど生憎ともう書き終わってるんだ、レポート。気を遣わせたみたいで悪いな、木原」
そっか。それじゃあ残念。
体よく押し付けようとするあたしをひらりとかわした高須くん。
さすがにそこまで甘やかしてはくれないか。
でもまあ、それも当たり前だよね。ていうか、そうでなくちゃあ都合がよすぎるってものだもん。
ただ優しいだけの男よりもよっぽど好感が持てる。そういう男はつまらない。
何故だかそんなことを考えている自分を見つけて、不思議なことにその理由もわからず、あたしはあたし自身に対して首を捻る。
「手、止まってるぞ」
目ざとく指摘されて、あたしはぎこちなく指を動かした。
が、ものの数針縫ったところで、すぐまたピタリと止まってしまう。
「どうしたんだ」
「え、あ、その。ちょっとここの部分、むずいかなあって」
咄嗟に思い浮かんだことをそのまま言う。
高須くんは平然としているけど、実はさっきからたまに落ち着かない時があった。
場所は放課後の教室。窓から差す夕焼けが眩しくて、居残ってる生徒は誰もいない。
あたしと高須くんの二人きり。
意識しまいとしていたのに、変なことに気がいったからか返ってそのことをより強く意識してしまい、あたしはいまいち集中しきれずにいた。
まるで告白か何かのようなシチュエーションもそれに拍車をかけている。
おかしいな、べつにあたし、高須くんのこと何とも思ってないのに。
「そこか。よし、任しとけ」
そうだ、あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。
「た、た、た、高須くん!? ちょっと!?」
でも、だからって、こんなことされていつもどおりにしているなんてできないわよ!?
「いいから。少しの間じっとしててくれよ」
いいも悪いもない。動くなって言われたって、微動だにできやしない。
ひょっとしてこいつわざとやってんじゃないの。
そう疑ってしまうのは、何もあたしが自意識過剰だからじゃない。
誰だって背中から抱きすくめられたら似たり寄ったりな反応をするはずだ。
「でな、そうしたら、次はここをこうやっていって、と」
いや、抱きすくめられてってのはいささか御幣があるかもしれない。
高須くんはたんにあたしの背後から腕を伸ばして、布と針を握るあたしの手に自分の手を重ねて、難しいと言った箇所を縫ってくれてるだけ。
ただそれだけで、そんなのは充分理解してるのに、どうにも動揺を隠せない。
自分の手をすっぽり覆う高須くんの硬い手の感触に、目の逸らしようがないぐらい、これが異性の手なのだということを実感させられてしまう。
椅子に腰を下ろしているあたしに合わせて腰を屈めている格好のため、密着度合いはそこまでではないものの、コツやら何やらを解説するたびに首筋にかかる吐息がむず痒くってしょうがない。
「あとは玉止めにしてやれば、ここの部分は出来上がりだ。他もこんな感じでやってけば、っておい、木原」
「ふぁ」
肩を揺すられて我に返る。変な声が出てしまったのは、この際気にしてもいられない。
あたしは振り返り、ちゃんと聞いてたのかよみたいなことでも言いたげな視線を寄越す高須くんを力の限り睨みつけてやった。
こっちの取り乱しようなんてちっともわかっていないだろう訝しげな顔が益々憎らしい。
いったいぜんたいどういうつもりなのよ、いきなり、あ、あんなことしてきて。
冗談にせよそうでないにせよ、たち悪いってば。
不覚にも、その、ドキドキしちゃったじゃないのよ、くそぅ。
言いたいことは山ほどあったのに、いざ高須くんを目の前にすると口だけがパクパク動くのみ。
そんなあたしの言葉にならない言葉が伝わったのかはさて置いて、高須くんが言った。
「わかり辛かったんなら今のとこ、もう一回やってみるか?」
少しくらいはって、そんな期待に微塵も応えない朴念仁ぶりを発揮されて、人のことをなんにもわかってくれない高須くんにほとほと呆れかえる。
しかも完全に素のままもう一回、だって。
いくらなんでもあんな心臓に悪いのをそう何度もやられたんじゃ、向こうはともかくこちらの身がもちそうにない。
でも、先に言わせてもらうけど、断じてあたしは物覚えが悪いわけでも、バカでも、ましてや裏口入学疑惑のかかるようなアホじゃあない。
どこにでもいる模範的な今どきの女子高生で、ただ、他の人よりちょびっとだけ手先が不器用なためにこんなことになっているのだ。
差し迫った提出期限まで、もういくらも猶予が残されていないってのもある。
上手な人に教えてもらえるというのなら、それに越したことはないじゃない。
その上教え方が懇切丁寧ならなおさらのこと。その申し出を突っぱねる理由もない。
そうそう、だからあくまで、あくまでこれは仕方なくなんだから。
「それじゃ、あんまり動かないでくれよな」
「高須くんこそ。針、刺したりしないでよね。けっこう痛いんだから」
「おう」
しばらく逡巡したそぶりを見せてから頷くと、高須くんの腕が肩越しに伸びてくる。
大きくて硬い手にされるがまま、クマだか狸だか判然としないぬいぐるみもどきに針を入れつつ、チラリと窓の向こうに目をやった。
せめて、あの夕日が落ちきるまでには、完成させないと。
「痛っ」
言ったそばから指先にチクリとした痛みを感じたけど、よそ見をしていたあたしの注意が足りなかったんだから、これは不可抗力だ。
「もうっ、刺しちゃやだって言ったのに」
だけど、敢えてそれを口にすることはしなかった。
最後までそうだとは気づかなかった高須くんの平謝りを聞き流しつつ、また増えた針傷に絆創膏を貼ってもらった。
***
翌日の昼休みのこと。
「そう。大変だったのね、麻耶」
「ほんとだよ。おかげでこんなになっちゃった」
隙間もないほど絆創膏で埋め尽くされた、変わり果てた姿になってしまった左手をひらひら翳してみせる。
奈々子が痛々しさに眉根を寄せた。
だけどもこれ、大げさなわりにもう痛みも引いてるし、自分の不器用ぶりをわざわざ自慢して歩いているみたいで少し恥ずかしくもある。
たった一箇所を除けば全部自分のせいだからそれも仕方のないことなんだけど、逆に考えればこれって努力の証なんだし、頑張ったからこそって思えばそこまで嫌なものでもないかな。
「でもよかったわね。課題、ちゃんと間に合ったんでしょう」
「まあね」
でなけりゃこうしてのんびりお昼ごはんなんか食べてらんないわよ。
だから本当、高須くんには感謝しなくっちゃ。
ぬいぐるみもどきから、ようやくぬいぐるみとして及第点をあげられるくらいになったあのクマも、手元に帰ってきたら記念に飾っておこう。
「奈々子もありがとね」
「どういたしまして。といっても何もしてないんだけどね、あたしは」
とんでもない、奈々子の言葉がなかったら、あたしは今頃針と糸相手にまだ悪戦苦闘していたはず。
昨日、提出期限直前になっても右往左往していたあたしに「高須くんにお願いしてみたら?」と勧めてくれたのが奈々子だった。
はじめあたしは奈々子に泣きついたんだけど、間の悪いことに昨日はどうしても都合がつかなかった。
他力本願なことこの上ないけどいよいよヤバくなった時は頼ろうと決めていた頼みの綱は、いとも容易く千切れてしまった。
こんなことならもっと早く相談していれば、ううん、それよりもちゃんと自分でやってきていれば。
そうして途方に暮れていた時だ、見かねた奈々子が助け舟を出してくれたのは。
その奈々子の勧めに一も二もなく飛びつき、藁にも縋る思いで事情を説明すると、高須くんは嫌な顔一つ見せず、むしろどことなく乗り気な体で快諾してくれた。
得意なことで頼られたのが案外嬉しかったらしいのは、熱心に付き合ってくれていたあの様子を見ていればわかる。
ただ、高須くんに頼ることに問題がなかったわけでもなくて。
「それにしても昨日のタイガー、ずいぶん大人しかったけど。何も言ってこないのも、なんだか怖いなあ」
心底意外そうな奈々子の言うとおりだ。
たしかにあたしが平身低頭にお願いしていたその時、高須くんの横では、機嫌の悪さをありありと滲ませるタイガーがいた。
「それなんだけどさ、あたし聞いてみたんだよね、高須くんに」
「そうなの? それで高須くん、なんて?」
あんまり大きな声で喋っていると本人の耳に入ってしまうかもしれない。
高須くんとタイガーの二人は少し離れたところで机を並べて、櫛枝と、まるおと、それに亜美ちゃんも交えてお弁当を広げているんだから。
あたしは小さく手招きをし、心もち身を乗り出した奈々子に耳打ち。
「なあんだ、そういうこと」
奈々子が納得がいったという表情を浮かべる。
そりゃああれだけ大雑把で、しかもドジを踏みやすいタイガーだもん。
一人で針仕事なんてさせたらどうなることやら。
なんてことはない、タイガーとあたしは同じ穴の狢ってだけだった。
だからあたしにもしていたような、その、背中から抱くようなあれは、元々はタイガー相手にしていたんだと思う。
ああして教えてあげれば針が指に刺さるようなことも少ないし、口で説明するよりかはまだわかりやすいだろうって、たぶんそんな風に考えたんだろうね、高須くんは。
本当のとこはどうだか知りようがないけど、事実として、あの方法は思いのほか捗る。
ぶっちゃけ高須くんがやってくれてるようなもんだしね。
とまあ、そういった具合に高須くんにかなりの手助けをしてもらったから、タイガーも取り立てて何も言わずにいてくれているっぽい。
こっちとしてもそれは同じで、だからこういうのもお互い様、ってところなのかな。
「それだったら、楽しそうだから麻耶と一緒にあたしも教えてもらえばよかったかも。ふふ」
種がわかって、奈々子がくすくす笑って茶化してくる。
そつなく課題を終わらせておいてよく言う。
でも、人のことをとやかく言えないあたしは、とりあえずパックのジュースを啜って聞いていないフリをした。
「でも麻耶、意外と気が多いのね。北村くんにも、高須くんにも、なんて」
「ぶっ。けほ、こほ」
おもいっきり咽た。
咳き込むあたしを、何が面白いのか、腹黒い考えなんて欠片もなさそうでいてその実ありまくりの笑顔をした奈々子が見つめている。
なにを言い出すのよやぶから棒に。
「どうしてそうなんのよ。まるお、今の話と関係ないじゃん」
「べつに。ただ高須くんとのこと、ずいぶん嬉しそうに喋ってたからなんとなく。違うの?」
小首をかしげる仕草が可愛らしくて小憎らしい。
それがめちゃくちゃこっちの癪に障るは神経逆撫でするはって、わかっててやってるんだから、ほんと奈々子っていい性格してるわよ、マジで。
「違うっつーの。誤解しないでよ、もう」
「じゃあ高須くんのことは何とも思ってないのね」
性悪ぶりを全開にさせる奈々子はすんごく鼻持ちならなくて、だけどその口から出てくるのは、昨日のあたしの気持ちだった。
あたしは高須くんのことをどうこう思ってるわけじゃない。
ぜんぜん、まったく、これっぽっちも意識なんてしていない。
いたって普通の友達関係、それ以上でも以下でもない。
これまでだって、これからだって。
何が起ころうとそのはずで、なのに。
「い、良い人だとは思ってるよ? だってほら、課題、手伝ってくれたし。話してみると、見かけよりずっと普通だし」
思わず言い返していたのは、きっと今のあたしの気持ちだと思う。
いまいち確証が持ちきれないというか煮え切らないというか、そういう類のはみんな奈々子のせいだ。
底意地の悪いことばかりする、奈々子のせい。そうに違いない。
「そう。良い人なんだ、高須くん」
とうの奈々子はというと、いやらしい笑みを深めるばかり。
居心地の悪さに縮こまるあたしをにやにやと見ている。
その内コウモリみたいな真っ黒な羽でも生やして、お尻からも矢印のように尖った尻尾が出てくるんじゃないの。
小悪魔系ってよりもずばり悪魔そのものだ。
「で、麻耶はどっちにするのかしら」
「な、なにがよ。意味わかんないんですけど」
「もぅ、ほんとはわかってるくせに」
いやらしい悪魔が興味津々と尋ねてくるのをひたすら知らん振り。のらりくらりと受け流す。
意地でもわかってやらないんだから。そりゃ、何を言いたいのかなんてわかってるけど、絶対わからないで通してやる。
いくら奈々子だって、なんでもかんでも本音を教えてしまうとか、そんなのたまったものじゃない。
一方的にというのもずるい。せめて奈々子の秘密と交換じゃないと割に合わない。
まあそれでも、奈々子が聞きたがっていることを打ち明けるというのは、まずありえない。
曖昧で定まらない、捉えどころだってないその気持ちをはっきりとした言葉にすることなんて土台できない話なんだから。
「わかんないわよ、ばか」
だからせめて、それが何なのかってはっきりするまでは。
回答は、先延ばし。
〜おわり〜
おしまい
GJ!!
まやドラなんてめずらしいカプでにやにやさせやがって
で、続くんですよね?ありがとうございます
>>50 174さんはもともとやすドラ!?っていうのが初投下作だからね
やすこ大好きなのは間違いないよ
もし未読ならお勧めだよ
69 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 21:55:25.33 ID:KFdijMKm
よし続けたまへ
あいかわらずの安定感(´▽`*)
人が減ってるだけに定期的に、しかも短編を投下してくれるのは
読むという意味でも、また新しい人が来てくれないかな、って期待する意味でもありがたや
放課後の教室で背中から抱きしめるとかそれ絶対告白より更に上のシチュだろ
これはもう今どきの女子高生も意識せざるを得ないね
そしてこれからがすごく気になるね、GJ!
>>68 なるほどそうだったのか、教えてくれてありがとう
補完庫にはないみたいなんでちょっと探してみる
ゴロゴロゴロゴロ
〃∩ _, ,_ /) 〃∩ _, ,_ /)
⊂⌒( `Д´)ミ( ⌒ヽつ⊂⌒( `Д´)ミ( ⌒ヽつ 麻耶キタ━━━━━━━━!!!!!!
`ヽ._つ⊂ノ⊂( ,∀、)つ.`ヽ._つ⊂ノ⊂( ,∀、)つ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ミ
| 〃 ∩ 。
| ⊂⌒从ヽ从゜o ザバーン
| 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
|
ヒッヒッフーヒッヒッフー!!
すげーな。スレの流れが活発で嬉しい
74 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/11(日) 18:15:20.44 ID:1tHRFUSQ
いい流れぢゃないか。
荒ぶる174氏
もっと荒ぶってくれてもいいのよ
BD-BOXの発売日がやっと決まったみたいだな
この一ヶ月コンスタントに投下があるし、良いことって続くんだなってわりとマジで思った
78 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/12(月) 09:20:12.92 ID:LlJ5km67
↑激しく同意
そういえばアニメ化してからもうまる三年にもなるのか
ちょっとビックリだな
補完庫更新されてたんだな
管理人さんお疲れ様です
本当だ
まとめ管理人も乙
今週は174さん来ないのか…
さすがに毎週あの量をってのは無理でしょw
でも期待
85 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/19(月) 08:23:10.32 ID:F8c/d3o1
亜美ちゃんSSマダー?
大河SS新しく投下されないものか
さすがにもう新規職人さんの食指は動かないのかねぇ…
翼を下さいの続きが読みたい…
活気が出てきたと思ったらまたこういう流れかよ
ゴールデンタイムのry
保管庫、更新したはいいけど保管漏れ多くね?
日記。。徒然に。1〜20ってもう読めないの
>>93 元の目的は保管庫の補完だから基本的には1が保管していたものは保管していないんだよなあ。
>>91 みんな更新できるから気付いた人がやるといい
ななこいと我が家の腹黒様の続き読みたいな…
98 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/25(日) 05:57:20.32 ID:bFHQdhxD
それはさておき
久々に見たら投下されてたw
面白かったよー174氏乙
てか、未完の奴は全部続き読みたい
そりゃみんな一緒だよw
174さんまだ?
98VMさーん
お元気ですかー
あ、うん、それは判ってるけどたまには些細な雑談でもいいから
安否情報が欲しいなー・・と
アホくさ
110 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 10:33:51.32 ID:hrcvca+M
しょくにいいいいん!!!
ゴールデンタイムのスレって無いよね?
え?
未だに日記の続きを待ってるのは俺だけでないようだ。
俺も読みたい
が
諦めた
ななこいは完結すべき
あれを読んで以来奈々子×竜二しか考えられなくなった
作者さん責任とってくれ
117 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/09(日) 10:32:35.70 ID:HeMT6MqV
まとめサイトにアップされてからでさえ既に三年たってるからなぁ
エンドレスあーみんも続き読みたいなぁ
ノリが軽めでわりと好きだった
クソ作者が痛い自演を繰り返しているのは
ここですか?
タイトルのあがってないSSの作者か、それともただのツンデレか
自演じゃないにしても相当気持ち悪いけどな
何年も続きのこねえ話にどんだけ粘着してんだよ
BD化もあって最近また脚光を浴びてるみたいだから読み始めましたっていう新参じゃないか?
見事な自演三連発w
>>123 いや、エロパロの世界をつい最近知ったからたぞ? 俺の場合は。
つまり新参
そんな人のための補完子さん。
コメントつけられるのもそのためなんです。
小ネタSS投下
「アフターダークアフター#」
閉じていた瞼をゆっくりと開く。
まず目に飛び込んできたのは、今にも唇同士が触れ合いそうな至近距離にいる高須くんの、その唖然と困惑とをない交ぜにした真っ赤な顔。
放心している、といっても過言じゃないかもしれない。
いつもは鋭い双眸もこれでもかと丸くなっていて、瞳に映る私も彼ほどではないが首筋といい耳元といい、それ相応に赤らめている。
頬なんてもう、ちょっとでも気を抜いたらにやけてしまいそうだ。
あくまでこの状況で気を抜けたならの話だけれど。
名残惜しむように最後にもう一度視線を絡ませると、私は高須くんを抱きしめた格好のまま横を向いた。
まるで時間が止まってしまったかのように、指を突き出したまま硬直してしまっている逢坂さんがそこに呆然と佇んでいた。
あれだけ血気盛んだったのが嘘みたいに微動だにせず、肌なんて蒼白になっていて、普段振りまいている威圧感どころか存在感すらも希薄だ。
ともすればこのまま消えてしまいそうな、そんな儚げな逢坂さん。
その焦点の合わない虚ろだった目と、私の目が虚空でぶつかり合う。
欠片も覇気がないのに睨みつけられたような気がして、と同時に、高須くんをより一層抱き寄せる。
胸にしっかり埋めるように。見せつけてやるんだと言わんばかりに。これから何が起きようとも離さないように。
そして、渡すものかと絶対の決意をこめて。
息を飲んだのは誰だったのだろう。私か、高須くんか、それとも。
びくん。それまで沈黙と停止を守っていた逢坂さんが跳ねるような勢いで大きく体を震わせる。
爪先から頭頂部までを一瞬で駆け抜けていったその衝撃は眠れる逢坂さんを呼び起こすには充分だった。
「んな、ななな、なあっ、なにしてんのよお!」
どこを見ているのかも定かではなかった瞳に強烈な意志を宿した光が戻ってくる。
能面のようだった無表情が一変し、表情筋の悉くがそれこそ引き千切られんばかりに強張っていく。
怒髪天を衝くとはあながち比喩ではないのかもしれないと、風もないというのにゆらゆら揺らめき立っているふわりとした長髪を見て思った。
黙っていれば人形のように可愛らしいのに、こんなに険しい形相では整った顔立ちも台無しだ。
烈火の如く怒りを燃やす逢坂さんが、ひたすら私と高須くんを睨みつけている。
いつもならそれだけで怯むところだが、ここで退るわけにはいかない。
「ちょ、ちょっと! だからなにしてんのっつってんで、ふえぇ!?」
てっきり竦みあがるものと思っていた私の予想外の行動に、逢坂さんは素っ頓狂な声を上げ愕然としている。
「ん……」
余韻の残る、互いの唾液で湿り気を帯びた唇にそっと口づける。
二度めのキスは啄ばむように軽めのもの。
だけどその威力は、深く長く、濃厚なものだった最初のそれと比較しても遜色のないほどの重さを持っていた。
高須くんは言うに及ばず、逢坂さんも再度目を白黒させている。
かくいう私自身も、少しだけ戸惑っている。
最初のあれは、高須くんからのお返しだ。
誰が何と言ったってあれはホワイトデーのお返しとしてのものなのだから、かなり苦しいとはいえ言い訳も立つ。
二度めのこれは、してしまったからには、もうそんなことは許されない。
しかも誰あろう逢坂さんという、言い逃れのしようのない相手の目の前でだ。
これまでとこれからとが明確に変わってしまうことに、幾ばくかの戸惑いと不安を感じていることは否めない。
一応これでも、曲がりなりにも私はセンセイだから、逢坂さんもそうだけど、高須くんとの関係には分厚い隔たりがある。
のみならず歳の差という耳に痛い問題もあり、そういうものなんか他にも挙げればキリがない。
だからなんなのよと、戸惑いと不安を力尽くで捻じ伏せ、怖気づきそうになっている自分を叱咤した。
初めから分が悪いのは百も承知のはず。
意地と勇気を見せるのはここからでしょう。
「高須くん」
揺らぐ内心をおくびにも出さず、地に足をつけ、落ち着き払った声で言う。
上の空だった高須くんは微かに反応を示し、ただでさえ小さな黒目を点のようにした目でおずおずといった風に私を見やる。
いうなれば、そう、決意表明だ。
これからするのは決意表明であり、これはその儀式。
いつかの夢でのことのように、通過し終えて初めて意義がある。
順序が逆になってしまったような気がしないでもないけれど、ううん、それでもきっと大丈夫。
最難関は既に達成してあるもの。
その感触が冷めない内に、逢坂さんに付け入られる隙を与えぬよう、続けざまに私は告げた。
「結婚してください」
瞬間移動か加速装置でも使ったかのような素早さでもってして、高須くんを抱きしめる私を引き剥がそうとする誰かの手が伸びてくる。
物凄い力で引っ張られるも、私は頑として高須くんを離さない。
突然の告白に、いの一番に異を唱えるべく声を荒げるその誰かは、やっぱり逢坂さんだった。
「なんでそうなるの!? ねえなんでそうなるのよ、おかしいでしょ!?
竜児がけ、けけ、けこけ、結婚なんて、そんなの絶対おかしいもん、やっちゃんだってそう思うわよね!?」
これまで蚊帳の外で石化していた高須くんのお母様が逢坂さんの声で我を取り戻すとこくこく頷く。
眦にじんわりと涙まで浮かべ、もはや半泣き状態だ。
「竜ちゃんが知らない人のお婿さんなんてやっちゃんやだよぉ……チュウまでして……竜ちゃんにチュウした……」
「ぐええぇ、ぐへえぇえ」
できそこないのトリッピーみたいな手の平サイズの怪鳥、もとい、鳥かごの中にいるインコちゃんもヘッドバンキングのようにがくんがくんと首肯するような仕草を見せている。
逢坂さんはもうどうしようもないとして、あのような様子の高須くんのお母様をあまり無視し続けると後々の印象がより悪くなりそうだ。
面倒の種は作らないに越したことがないのは当たり前のことで、だけど、それも今さらかもと開き直る。
逢坂さんを筆頭にした抗議の声をできる限り意識の外へ追いやり、私は高須くんに向き直る。
ぐびりと唾を飲み込んだ高須くんが何か言おうと口を開いた。
「先生、俺は、その」
「待って」
その先の言葉を制する。続けざまに私は言う。
「なにも言わないで。今はまだ、なにも」
そこで一度区切りを挟む。
答えを聞くのが怖かった。
だってそうでしょう、いきなり求婚を迫られて即承諾するなんてこと、よっぽど睦まじい間柄でなければありえない。
私と高須くんの仲がそこまで進展しているかと問われれば、生憎とそんなことはなく。
だから。
すうっと小さく深呼吸をし、淀まぬよう静かに語りかける。
「あと一年もすれば、高須くんたちは卒業します」
ちょうど来年の今頃になる。
来年のバレンタインはまだ猶予期間中、でも、ホワイトデーには確実に彼らの籍はない。
どうこうしたところでそれは覆しようがない。
でもその後の在り様を決定付けるのは、これからの、あと一年という時間の積み重ね。
「その時がきたら、また尋ねますから──それまでは、今日のことは、胸にしまってください」
言い切ると、返事を聞く間も惜しんで高須くんに覆いかぶさる。
それまでお預けになってしまうから。
もしかしたら、これが最後になってしまうかもしれないから。
くまなく口膣を舐めあげ、丹念に舌を絡めあわせ、啜り、どろどろに溶け合って泡にまでなった唾液を熱く湿った吐息と共に送り、溢れ出たしずくをすくい取る。
今日のことをうやむやにするための、回答を先送りにするための、有無を言わせないための、そして骨抜きにするための三度めのキスは、かつて覚えのないほどの情熱を込めた官能的なもので。
「そこまでよ」
珍しく怒鳴らないのは、逆にそれだけ溜め込んでいるというところだろうか。
怒気をめいっぱい孕んだ逢坂さんにより、中断を余儀なくされる。
物足りなさは感じるものの、これ以上続けていると歯止めが利かなくなりそうだったのもあって私は逢坂さんに従う。
少々刺激が強すぎたようで、起き上がろうとする高須くんの動きは緩慢だった。
そんな高須くんに、逢坂さんが冷厳に言い放つ。
「竜児、大切な話があるの。二人っきりでね。だからあとで私ん家まで来なさい」
びくりと肩を震わせる高須くんの額に大粒の汗が滲み出す。
「な、なあ大河。話ならべつにここでだって」
「なあに、そんなごにょごにょ言って。言いたいことがあるんならちゃんと言いなさいよ、浮気者」
「浮気っておまえ……い、いや、なんでもありません」
関節からごきんごきんと音を鳴らし、うっ血するほど握りこまれた拳は腕の一本ぐらいなら易々とへし折ってしまいそうで、身の危険を感じるのには充分すぎるほどだ。
脅える高須くんに、逢坂さんは唾棄するような目つきを投げかけると、一転してにっこり微笑んだ。
「安心してよ、なにもとって食おうってんじゃないんだから」
そう、逢坂さんは紛れもなく笑顔で、口調も茶目っ気を含んだような朗らかなもので、なのに受け取る印象は完全にその真逆だった。
高須くんが萎縮してしまうのも無理からぬこと。本音を言えば私だってそう。
しかしだ。
「竜児が今日のことで悩まないように私が忘れさせてあげるだけよ。大丈夫、ひどいことなんて絶対しないから、ほんと。
それに、そ、そにょ、なんならね? 竜児がそうしたいんなら、あのね、あにょ、ああ、あああ、あんなのよりももっと」
「逢坂さん」
「あ゛? 横からなによ、私は竜児と話してるの。邪魔しないで」
言いたいことがあるのならちゃんと言えと言っていたのは、さて誰だっただろうか。
どもりまくり、不穏なことを身悶えしながらのたまっている逢坂さんに声をかける。
案の定彼女は私には黒々とした敵意と女性特有の嫉妬心を剥き出しにした表情を隠そうともしない。
太陽光にも引けをとらない、そのくせお日様のように優しくはないだろう実に熱い視線に晒されながら、それでも一歩も下がらずに言った。
「そういえば、先生も逢坂さんにお話があるんだけど」
「ふうん、あっそ。奇遇ね、話なら私もないことないけど、また今度にするわ。だからさっさと帰ってよ、ここは竜児と私の家なんだから」
こうまで独占意識を前面に押し出してくるなんて普通はなかなかできない。いっそ天晴れと言える。
まったく可愛げのない逢坂さんは呻り声まで上げて挑発と威嚇とをいっぺんに繰りだしてくる。
そういったふてぶてしい態度も、私の次の言葉でなりを潜める。
「昼間のあの包み。あれ、高須くんのカバンから黙って持ち出したものでしょう?」
「はぅ……ど、どうだったかしら。ちょっとよくわからないわ」
嘘だ、逢坂さんは傍目に見ても明らかに動揺している。
ありありとしまったと書いてある顔をぷいっとそっぽに向かせ、知らぬ存ぜぬを貫くつもりだ。
「そう」とだけ言って、私はそれ以上逢坂さんに非難めいたことを言うのをやめた。
洗いざらいを追及して詳らかにしてもよかったのだけど、牽制としてはこんなもので充分でしょう。
私に贈られることになっていたらしいマシュマロが入っていたあの包みを、与り知らないところで勝手に拝借されていたのを考えると甘すぎる気がしないでもない。
が、それにしたってこれはこれで甚だ大人げのないやり方であり、当然いい気分はしてこない。
とはいえ、これで逢坂さんもみだりにちょっかいをかけてこられなくなったはずだ。
彼女にもあったというお話につき合わされたら、さすがにこちらの身がもたない。
結果としてフラストレーションは溜まるだろうけど、そういう不本意な思いを抱えてるのはなにも逢坂さんに限ったことじゃない。
お互い様よ、お互い様。
表面上大人しくなった逢坂さんは、不用意に刺激しなければ取り立てて何かしてくることはないだろうと判断し、その後ろからじーっと様子を窺っている、ある意味最も厄介な相手である高須くんのお母様へと向き直る。
「あの、お母様、少しよろしいでしょうか」
「う〜ん。名前も知らない人にお義母様呼ばわりされる覚えなんて、やっちゃんないんだけどなぁ」
逢坂さんほど顕著に表さないまでも、やっぱり高須くんのお母様が抱いている私の印象はかなり悪いものとなってしまっているようで、これっぽっちもとりつく島がない。
この分じゃあ雪解けにはまだまだ時間がかかりそうだ。
「ご挨拶が遅れてすみませんでした。私、恋ヶ窪と申します。高須くんと逢坂さんの担任をしていまして、それで本日は、その」
「へえ。そっかぁ、先生さんなんだ。じゃあ今日はかてーほーもんかなにかなのかな?
でもチュウまでするなんて最近のかてーほーもんってずいぶんエッチぃ感じなんだねぇ〜、やっちゃんの時じゃ考えらんないや」
口調はともかく、高須くんのお母様は物腰は柔らかいながら、その言葉には棘が含まれていた。
とりあえずは歩み寄るところから始めないといけないとと思ってみたけれどにべもない。
一歩詰めれば三歩は下がられるようなこの距離感。どうにかするには骨が折れるに違いない。
にしても、保護者の方から向けられるものにしてはいやにヤキモチっぽいというか、逢坂さんのと大差ないような嫉妬を感じるのは私の気のせいだろうか。
「……この件に関しましては、後日改めてご説明に参ります」
生半可な言い訳だと高須くんのお母様には楽々見透かされそうで、それに何か言っても裏目に出たらしょうがないので、結局この日はお茶を濁した。
堂々と高須くんに会いに来れる口実ができた、なんていう下心が無きにしも非ずだけど。
「むぅ〜、なんかやっちゃん変な気持ち」
「なんなのよもうっ、調子に乗って。竜児は私のなのに」
さすがに収まりがつないらしくて、なおも納得のいかないという面持ちでいる高須くんのお母様と、それに睨みつけてくることだけは忘れない逢坂さん。
そんな二人の存在を感じつつ、私は高須くんに言う。
「ところで。ねえ、高須くん」
「なんですか」
若干疲れた顔をしている高須くんが私を見つめる。私も高須くんを見つめる。
「お夕飯、ご馳走になっていってもいいのよね」
悪戯っぽく微笑んだ私に、高須くんがどう応えたのか。
食卓に漂う空気が団欒とは呼べないほどギスギスしていたとだけ言えば、あとはもう語るまでもないでしょう?
〜おわり〜
おしまい
「やすドラ?」から書き始めて、早いものでもう三年にもなりますか。
まさかそんな昔の話を覚えている人がいるなんて驚きました。
他の投下物も含め、こんな空気書き手の誰得な駄文を読んでくれてありがとうございます。
補完庫の管理人さんにも、保管していただくたびに感謝しています。
鼻血が止まらない
ごめん、独身の話だけど大河にも同じくらい萌えた
やっぱええのう
当然これから卒業するまでの一年間をやってくれるんですよね?
卒業前のバレンタインにプロポーズの返事を聞くんですよね?
174さんgj。とらドラは爽やかさとドロドロさが無いと面白く無いね
174さん早く来てくれ
ここもいよいよ終わりかな
別に週刊誌の連載ってわけじゃないんだから、忙しい時もあるだろ。
まったり待とうぜ。
頼むからあの人だけはもう来ないでくれよ
よくわからんがゴールデンタイムの SS を待ってる
どの人かと思ったらあの人だった
>>141 でも、また半年も音沙汰なかったりして…
147 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/28(金) 23:01:27.68 ID:VPC7Ibe3
あげぽよ
まったりまったり。
誰得な発想だがこんなストーリーが思い浮かんだw
3年に進級する際にクラス替え無し、木原と能登が付き合ってる設定。
当然バカップル連中(竜虎・バカと美大生・木原と能登)はクリスマスでうわつく…。
そんな様子を見て川嶋が中の人的に「高須君を諦めた私ってほんとバカ…。あいつら他人の気も知らずにいちゃつきやがって…。」とふてくされ気味。
そこに櫛枝が「心配すんなよあーみん。クリスマスに一人ぼっちは寂しいもんな…。いいよ、一緒に居てやるよ。」といいデートを企画
なぜか北村も強制的に参加することに…。
でもってうっぷん晴らしに横浜(カップルが集まりそうな場所)へ3人で飲みに行き、酔った勢いでカップル達の性なる6時間をブチ壊すストーリー。
誰か書いてくれな…、やっぱいいやw
良く見たらエロパロ板でこのストーリー誰得だし…。
ちょっと投下します。
ななこい5話
大河の右手には、木刀が握られていた。獲物を狙う鷹のように鋭く尖った目で、大河は竜児を見下ろしている。
木刀の柄が砕けそうなほど強く、大河が木刀を握り締めた。
奈々子はぼんやりとした視界の中で、木刀をゆっくりと振り上げる大河を見上げていた。
竜児に好きだと言われて、竜児の家で、竜児の体に馬乗りになって竜児を求めた。待ち焦がれた言葉を耳にして、頭が沸騰し泡立つ。
心臓が爆発しそうで、止められなくて、竜児を求めた。もっと体を重ねて、密着させて、竜児の体温も、吐息も、視線もすべて自分に注いでもらいたい。
そう思っていたところに、闖入者だった。
細く、色の薄い髪がふわっと広がっている。大河の髪は、その毛先にまで怒りが広がっているようだった。
「た、大河っ?!」
竜児が声をあげる。
「あんた……」
大河の表情が、すっと消えうせる。同時に、大河が木刀を頭上へ滑らせた。
「うおおっ」
木刀が、振り下ろされる。渾身の力が込められた一撃は、竜児の顔のすぐ傍を通り、畳に突き刺さった。
竜児が体を捻っていなければ、その刀身は竜児の額に当たっていた。竜児は、顔を引きつらせながら、ばたばたと立ち上がろうとする。
奈々子の体が上に乗っているのに気づき、竜児は奈々子の肩を押して、一緒に立ち上がらせる。
目の前で木刀が振り下ろされても、奈々子はまだぼんやりとしていた。竜児に貰った言葉が、まだ頭を茹で上げている。
竜児に体を支えられて立ち上がっても、まだ状況が上手く掴めずにいた。
部屋を包んでいた静寂は、大河の怒気に取って代わられる。一撃を外した大河は、一度舌打ちをしてから顔をあげた。
「おお、お前、何しに来たんだよ?!」
竜児の声が自然と大きくなる。大河と竜児の視線がぶつかって、竜児の肩が一度跳ねる。
大河が、細い眉を吊り上げ、目を細め、静かに木刀を構えなおす。
「みのりんが、泣いてた……」
かぼそい小さな声に、竜児は目を見開く。
「それでいいの大河? って、泣いてた。あんたのせいよ」
「ちょっと待てよ大河、お前」
「……どうしてあんな酷いこと言ったの。あんたは、みのりんのことが好きなんでしょ。あんたが、みのりんを泣かせた」
大河は、木刀を上段に振りかぶると一足で距離を詰めて竜児の頭に向かって木刀を振り下ろした。
「うおわっ」
竜児が身を捻ってかわす。同時に、竜児は奈々子の体を壁に向かって突き飛ばした。押されるがままに、奈々子は壁際に背中をぶつける。
「お、落ち着け大河」
横に薙がれた木刀を一歩引いて避ける。大河はなおも木刀を振るっていた。歯を食いしばり、木刀を強く握りなおす。
木刀が、壁にぶつかった。鈍い音を立てるのと同時に、大河の手から木刀が跳ね飛ぶ。がらんと音を立てて、木刀は卓袱台に当たり、部屋の隅へ転がっていった。
車に撥ねられそうな猫を助けに行くような勢いで、竜児は木刀を拾い上げた。
「あ、あっぶねぇ。大河、お前、何してんだよっ!?」
大河が舌打ちをする。木刀を失っても、大河は研がれたばかりの刃物のような鋭い瞳で竜児を睨み付けていた。
ぼんやりと、二人の争いを見ていた奈々子だったが、この時になってようやく意識がはっきりしてきた。
そうだ、これから竜児と愛し合おうという矢先に、大河が乱入してきた。わけのわからないことを叫びながら、竜児を傷つけようとしている。
茹った頭はすでに冷め、代わりにその熱は怒りとなって臓腑に宿る。煮え滾るような怒りが腹の底に沈み、奈々子は唇を噛んだ。
「タイガー、何しにきたのよ」
「黙れエロボクロ。お前のせいで……」
瞋恚の炎に焼かれながらも、奈々子は冷静でいようと頭を落ち着かせる。どうして、大河ここに来たのか。どうして大河は竜児に怒りを向けているのか。
「櫛枝に、なにか言われたんでしょ」
「だから、黙れよ」
大河が目を尖らせて奈々子を睨む。奈々子も怯まなかった。内臓を燃やし尽くすような怒りの火が、奈々子を支える。
狩野すみれと正面からやりあった凶暴な虎を前にしても、奈々子は負ける気がしなかった。
そう、竜児が自分を好きだと言ってくれたのだから。負けるはずがない。
「親友が振られたから、その仇討ちにでも来たの? それとも、自分の好きな人があたしに取られたと思って乗り込んできたの?」
奈々子の言葉に、大河が一度だけ頬を震えさせる。
「バッカじゃないの、私はね、みのりんを泣かせたこの駄犬を躾に来たの。ぼっこぼこにすれば、こいつもちょっとは心を入れ替えるわ」
「あら、どうして櫛枝が泣くの? 櫛枝はね、竜児くんのこと、別になんとも思ってないのに」
「……そんなの……、あんたには関係ない。っていうか、消えろ、うざい」
「関係あるわよ。だって、竜児くんはあたしの恋人だもの」
「はぁ?」
大河が視線を竜児に向ける。
「どういうことなのよ竜児。あんた、みのりんのことが好きなんでしょ。なんでこんな乳だけ無駄にでかい馬鹿女に恋人呼ばわりされてんのよ」
「うふふ、それはね、あたしが竜児くんに好きって言って、竜児くんもあたしのことを好きって言ってくれたから」
「あんたには聞いてない」
大河は苛立ち紛れに、舌打ちをした。
「それで、タイガーは何しにきたの? 恋人同士の語らいを邪魔してくれちゃって」
「うっさい、いい加減黙れ」
「櫛枝に言われたから来たの? 竜児くんを傷つけるように言われた?」
「みのりんがそんなこと言うわけないじゃない」
奈々子は自分より背の低い大河を見下ろしながら、首を振った。
「ああ、じゃあタイガーは、大好きな竜児くんをあたしに取られたから怒ってるの?」
「はぁ? 馬鹿じゃないの。あんた頭おかしいんだから黙ってて」
大河が拳を握り締める。
「櫛枝はね、別に竜児くんのこと、なんとも思ってないんだって。あたしが直接聞いたもの。竜児くんもね、櫛枝のことを好きではいられなかった」
そう、そこに大河が入る余地なんかない。
「よかったわね、大好きな親友が、好きでもない男子に言い寄られなくなって」
くすくすと笑いながら、奈々子は怒りに震える大河を見る。
「違うっ、みのりんは、本当は竜児のことが好きなの。竜児も、みのりんのことが好き。だから、二人は付き合うべきだったのよ。なのに、あんたが邪魔して、全部おかしくなった」
「櫛枝が竜児くんのことが好き? そんなこと、言ってなかったわ。何回も訊いたのに。竜児くんも、櫛枝のこと、好きでい続けられなかった」
「それは……、言えなかっただけ。みのりんは、竜児のことが好きなの」
大河が、声を詰まらせて震える。
>>150 ベイの身売りにオカンムリのみのりん
全裸でバッターボックスに立つ北村
えげつないヤジを飛ばすあーみん様。
そんなクリスマスイブですね。
二人の諍いを見ていた竜児が、二人の間に割って入ろうと片手を挙げる。
「ま、まぁお前ら落ち着けよ。もう遅いしだな、大家さんにも迷惑だし」
「竜児っ! あんた、みのりんのことはどうしたのよ。なんでこんな女と一緒にいるのよ。どうせ、あの馬鹿乳にエロ犬のあんたがふらふら吸い寄せられただけでしょ。今だったら、許してあげる。こんな奴ほっといて、みのりんと一緒になれるようにがんばりなさい」
胸を反らして、大河は竜児にそう言い放った。竜児が眉を寄せて、難色を示す。
「ほら、どうしたのよ竜児」
「それは、できねぇよ」
「……違うでしょ竜児。あんたはね、ちょっとこの女の色気に参ってるだけ。目を覚ましなさい。ほんっと、しょうもないエロ犬なんだから」
「俺は、櫛枝じゃなくて、奈々子のことが好きなんだ……」
その言葉に、大河が大きく震えた。視線をうろうろと彷徨わせ、高い木に登って降りられなくなった子猫のように落ち着きを無くす。
「はぁ? 何言ってんのよあんた。あんたは、みのりんのことが、好きなんでしょ。応援してあげるって言ってんの」
「もう、いいんだ大河。櫛枝とは、もう決着が着いた。俺は、あいつに告白して、振られた。櫛枝も、俺と付き合う気はない。一緒には、いられない」
分厚い雲に覆われたように、大河の表情が曇っていく。奈々子は、弱っていく虎を見ながら、追い討ちをかけた。
「そういうことよ。櫛枝は竜児くんを好きじゃなかった、竜児くんも櫛枝のことを好きでいられなかった。だから、竜児くんが何しようと勝手じゃない。どうしてタイガーが絡んでくるの」
「違うの」
大河は落ち着きを無くして、自分の唇に指を当てながら息を吸った。
「わかるわ。タイガーは、本当は櫛枝のために乗り込んできたわけじゃないものね。本当は、自分の為なんでしょ」
「違うッ!!」
拳を握り締めて、大河は吼えた。細い首にはいくつもの筋が浮かび、絞られた喉からは歪んで割れた声が飛び出す
「竜児なんか、どうだっていい! 私は、ただみのりんが傷ついてるから、みのりんが傷つけられたから!」
「だから、櫛枝は竜児くんのことどうとも思ってないんだって。タイガーが出てくる必要なんか、無いの。ほら、早く帰ったら?」
奈々子は唇の端を横に引きながら、震えている大河を見下ろした。
「もう、いい加減にしろよ」
急に肩を掴まれて、奈々子は目を見開いた。竜児が、鋭い視線を自分に向けていた。瞬きすらせずに、竜児は奈々子の肩を強く掴む。
「言いすぎだろ。もう、いいじゃねぇか」
竜児は唇を少し噛んで、視線を落とした。
「どうして? なんであたしが竜児くんにそんなふうに言われなきゃいけないの?」
今、怒りを向けるべきは、二人の恋路を邪魔して、竜児に暴力を振るいに来た大河のほうじゃないのか。
奈々子は竜児から突然向けられた怒りに驚き、唾を飲み込んだ。
「とにかく、奈々子も落ち着けよ」
「あたしは落ち着いてるわよ。タイガーが、人の家に勝手に上がりこんで暴力を振るいに来たから、追い出そうとしてるんじゃない。何がおかしいの」
奈々子は声を強めながら、竜児に向かってそう言った。
段々と、腹が立ってきた。どうして大河を庇うようなことを言うのか、理解できない。
大河さえ来なければ、竜児にとっても、とても嬉しい時間が訪れたはず。
きっと大河は、実乃梨が傷ついたことよりも、自分の好きな男が、竜児が取られたのが嫌だったのだろう。実乃梨は、もう竜児と一緒にいる未来を諦めていた。
けど、竜児と大河が一緒にいることは望んでいた。それが叶わなくて、実乃梨は大河に連絡をしたのだろう。
卑怯者。
大河のことが大事なら、自分で大河を幸せにしてやればいい。
それができなくて、竜児に押し付けた。自分は竜児を何度も何度も傷つけていたのに。
「……竜児、あんたは、それでいいの……?」
大河の弱弱しい声に、竜児が俯いて前髪に触れる。
「ああ、俺は、奈々子のことが好きだから」
顔をあげながら、竜児は大河の目を見た。大河は、突然舞台に放り込まれたかのように落ち着きを無くし、隠れる場所でも探しているのか視線を彷徨わせた。
もう、逃げることなんてできない。
堂々と舞台に立つ俳優のように、竜児は胸を張り、低い声で言葉を紡いだ。
「これは、俺が選んだことだから」
大河の唇が震える。瞬きを繰り返し、ほんの少しだけ首を傾げた。竜児の言葉を信じることができないのだろう。
よろめくように、大河は一歩後ろに足をついた。
「あっそ、あんたって、そんなヤツだったわけね……」
大河の言葉に、竜児はわずかに表情を強張らせた。蛍光灯の明かりの中で、竜児の顔に陰が出来る。
「もっと……、マシだと思ってたけど、所詮、犬は犬だもんね。盛りのついた馬鹿犬だもんね」
大河は罵りの言葉を吐きながら、後ろへと足を進めていた。顔の表情は強張ったままで、細い顎の先が震えていた。
爛々と研ぎ澄まされていた瞳は、夜露に湿った草のように濡れていて、今にも雫を落としそうだった。
強気な言葉を発しながらも、大河の足は崖の上でも行くかのように不安定に揺れていた。一歩でも踏み外せば、落ちてしまいそうなほど危うい。
「そう……、あんたは」
大河は、それ以上何も言わなかった。ただ振り返って、来た時の騒々しさが嘘のように、背を向けて玄関から出て行った。
つい先日、竜児が自動販売機の間に座り込んでいたのを見たけれど、それの再来のようだった。
竜児は部屋の隅っこでうずくまり、膝を抱いている。うああああ、と意味不明な呻き声をあげながら、竜児は深く息を吐いた。
また落ち込んでる。
奈々子も、つい溜め息がこぼれた。けれど、気分が重いわけじゃなかった。むしろ、軽いくらい。
竜児が、自分を選んでくれた。それも、大河にちゃんとそれを告げた。それが嬉しくて、すぐにでも抱きつきたいくらいなのに。
「どうしてそんなに落ち込んでるのよ」
強引に、奈々子は竜児の隣に腰掛ける。体を縮こまらせて膝を抱く竜児。その隣に座って、奈々子は竜児の横顔を伺った。
「なんでこう……、上手くいかねぇんだろ」
またか。どうしてこんなことで後悔するのだろう。
「何が? ぜんぜん問題なんかないじゃない」
そう、問題なんかない。竜児は、ただ好きな人を告げただけ。それはとても正しいことだと思った。
わけのわからないことを言って乱入してきた大河が、一番悪い。それを追い払ったのだから、何も落ち込むことなんか無い。
だから、落ち込んでいるのだとしたら、竜児は、大河と離れたくなかったんだと思えた。
これからは大河とも以前のように接することはできない。それが悲しいのかもしれない。けど、そんなものは奈々子には関係が無かった。
「……大河は、俺のことが……、好きなんだ」
竜児の口から出た言葉に、少しだけ胸が痛む。竜児にしては、随分とはっきりした言い方だった。それは、直接告白でもされたことがあるのだろうか。
「どういうこと?」
「いや、修学旅行の時……、遭難したあいつを助けにいって、それで、あいつ、意識が朦朧としてたんだろうな。北村と俺を間違えて、そんで、俺のことが好きだって」
「……そんなことがあったの」
奈々子は、唇の端がぴくぴくと動くのを感じていた。大河には悪いけれど、奈々子は喜びがぐつぐつと沸いてくるのを実感していた。
竜児は、大河の好意を知っていても、それに応じようとは思わなかった。今まで通りの関係でいようと望んでいたのだ。
それはある意味、実乃梨と同じことをしていた。竜児は、そのことに気づいていたのだろうか。
けれど、今はそんなことは関係ない。
大河に好意を向けられていると知っていても、竜児は自分を選んでくれた。そのことが嬉しくて、奈々子の心の中は喜びで満たされていた。
もう大河も去ったことだし、二人きりだ。気分を沈ませている暇があるのなら、自分と一緒に楽しく会話でもしたほうがよっぽどいいに違いない。
「ほら、もう終わったことなんだから、気にしちゃダメよ」
「……とはいえ、なぁ……」
前髪を触りながら、竜児は深く息を吐いた。大河と竜児の間に、どれだけの絆があったのかはわからない。
けど、もう忘れてしまえばいい。兄妹か、父娘のように仲良くしていたかもしれない。けど、結局は他人なのだから。
そんな過去よりも、二人でいる未来のことを思っていればいい。
そう、亜美も、実乃梨も、大河も、竜児に想いは通じなかった。ほんのちょっと前までは、これだけのライバルがいて、竜児の愛を勝ち取ることができるのかどうか不安で泣いていた。
けれど、今竜児の隣にいるのは、自分だけ。竜児に、好きだと言ってもらえた。
この恋は、ついに実ったのだ。
奈々子は、隣で座り込んでいる竜児の横顔を見た。ヤンキーだと言われ恐れられたこの顔も、今では随分と男前に見える。
趣味が変わったのか、恋で目が眩んだのかはわからない。どっちにしても、ずっと見ていたいくらい魅力的だった。
「ねぇ、いつまでも落ち込んでたら、あたしまで気が沈んじゃうじゃない」
「ああ……」
「あたしが、慰めてあげるわ」
奈々子は、竜児の腹に手を這わせて、服の上から撫でた。
「おおうっ」
驚いたのか、竜児が大きく震えて声を出した。
「あら、かわいい声出しちゃって」
「ちょっと待てって奈々子、いきなり何を?」
「ねぇ、今、二人きりなのよ。あたしは、竜児くんのことが大好きで仕方ないのに、竜児くんったら、他の女の子のこと考えて落ち込んじゃって」
「いやそれは……」
竜児の体に、ぴったりと自分の体を寄せる。
「あたしのことも、考えてよ。あたしのことで、頭いっぱいにして」
「お、おい……、奈々子」
竜児の腹部を撫でていた手を、ゆっくりと上げていく。胸板に手を這わせて、撫でる。
抱きつくように、奈々子は自分の胸を竜児の腕に押し付けた。それだけで、奈々子は体が熱くなったような気がした。
心臓の音がどくどくと強くなる。その音を竜児に伝えたくて、奈々子は胸を強く竜児の体におしつけた。
自分の肌が、竜児の体に当たっている。ただそれだけで、全身がふにゃっと溶けていくような気がした。
「好きよ」
竜児の顔を見ながら、奈々子はそう言った。
これだけ素直に好きだと言える。こんな日が来るだなんて、想像もできなかった。
嫌われてしまうかもしれない。結局振られて、悲しい日々を過ごすのだろう、そう思っていた。
でも、今は隣に竜児がいる。竜児の声が聞きたい。好きだと言ってほしい。何度も何度も、繰り返してほしい。
「ねぇ、好きなの。竜児くん……」
「お、おい……。ちょっと待てって」
竜児の手が、空中に差し出されて止まる。行き場の失った手を、奈々子は左手で捕まえて、ぎゅっと握り締めた。
「あたしのこと、好き?」
「おう……」
「じゃあ、言って……。ちゃんと、好きって言って」
言葉にしてほしい。きっと、照れ屋だから、素直に言うのに抵抗があるのかもしれない。
だからこそ、竜児の口から、その言葉が聞きたかった。
竜児が一度唾を飲み込む。視線が重なり合った。今の自分は、どんな顔をしているのだろう。
奈々子は両足をぎゅっと閉じて、太ももをこすり合せた。体を捻って、竜児の体に抱きつく。息が浅くなっていく。
目前にいる竜児の顔が、時々滲む。きっと、だらしない顔をしてる。そう思うと、自然と唇が開き息が漏れる。
「お、俺は奈々子のことが好きだ」
意を決しての言葉に、奈々子の心が撃ち抜かれる。
「あたしも、竜児くんのことが好き。大好き」
竜児のことが、欲しくてたまらない。そっと首をあげて、奈々子は竜児の唇に自分の唇を重ね合わせた。
驚いたのか、竜児の体が一瞬硬くなったのが、胸に置いた手に伝わってきた。
すぐに、竜児の体から力が抜ける。
ああ、自分を受け入れてくれた。そう思うと、さらに切なくなる。
啄ばむように、軽く唇を合わせていたが、それでは足りなくなる。
もっと、竜児のことが欲しかった。竜児の胸を撫でていた手を滑らせる。胸から肩へ、肩から首筋へ、首から後頭へ。
竜児の硬い髪に触れながら、奈々子は竜児の唇を強く求めた。舌を差し出して、竜児の唇を舐める。
勢いに押されたのか、竜児の顔が逃げていく。そして、竜児は壁に後頭をぶつけた。奈々子は竜児の頭に回していた手を、頬に回した。
耳に触れ、くすぐるように指先で撫でる。体が熱くて、竜児に肌を合わせたくて、体を竜児に押し付けた。
頭の中身が煮崩れを起こしていく。ぐつぐつに煮え立った脳が、理性を失わせていく。目を閉じて竜児を求め、唇の端から涎を垂らしながら舌を差し出す。
竜児の唇から現れた舌に、奈々子は唇で吸い付いた。伸ばして硬くなった竜児の舌。濁った水音を立てながら、時々荒い息を漏らしながら、竜児の舌を求めた。
キスだけで、奈々子の体は火照りを帯びていく。胸の奥がきゅんと痛くて、もっと欲しくなる。
ダイエット中に見るスウィーツよりも、長距離走を終えた後の水よりも、竜児の存在に対して渇きを覚えた。
飢えを満たしたくて、奈々子は両足を開き、足を竜児の足に触れ合わせた。竜児の足に絡みつく。触れた肌がピリピリと粟立つ。
スカートの裾がめくれ上がった。合わせた唇の端から、こぼれた唾液が垂れて奈々子の顎を伝う。
ワンピースの胸元をはだけさせながら、奈々子は舌先で竜児の唇をなぞった。
もっと深く体を合わせたい。そう思って、奈々子が竜児の体に圧し掛かろうとした時だった。
竜児が、両手で強く奈々子の体を押し返した。触れていた唇が離れ、唾液が飛び散る。
「ちょっと待てって奈々子! こ、これ以上は無理」
慌てた様子で、竜児が奈々子の手を振り払った。
「どうして? あたしじゃダメなの?」
「そ、そういう意味じゃねぇよ。つーか、ほら、早すぎるだろ、俺たち付き合ってまだほんと間もないし」
「時間なんかどうだっていいじゃない……」
「っていうか、俺、アレ持ってねぇし!」
「アレ? ……ああ、ゴムのこと」
「そう、だから……。それに、もうなんつーか、これ以上続けると俺の理性が……」
顔を真っ赤にして、視線を逸らす竜児。
「我慢なんかしなくてもいいのに」
「いやいやいや、ダメだって。だから、と、とりあえず終わりにしようぜ、な?」
ここで終わりなんて、奈々子には耐えられそうになかった。
体は火照って熱い。空腹の時に、少しだけ物を食べたら余計にお腹が空くように、奈々子は竜児に飢えていた。
けれど、竜児は本当に困っているのか、何を言われてもいいように、必死な形相で頭を回転させていた。
「ふぅ……。ごめんなさい。少し、頭を冷やすわ」
「お、おう……。言っとくけど、別に奈々子のことが嫌いだとか、そういうんじゃなくて、ほんとに、俺はその、魅力的だと思うしめちゃくちゃ気持ちよかったし続けたいけど」
「いいのよ。そんなに気遣ってくれなくたって。あたしだってすごく気持ちよかったし……」
本当に気持ちよかった。キスしているだけであれだけ気持ちいいのだとしたら、お互い裸になって体を合わせたらどれだけ気持ちいいのだろう。
いけない。想像してしまうと、また体が熱くなる。
「そうね、焦らなくたっていいわよね」
「お、おう」
自分で焦りという言葉を口にして、奈々子は少しだけ驚いた。
焦りというものが自分の中にあったのだろうか。もう、大河も実乃梨も亜美も、自分の敵ではない。
竜児が好きだと言ってくれたのは自分で、竜児の気を引くために体を使う必要もないはずだった。
まだ、自分の中に、竜児を失うかもしれないという恐れがあるからだろう。
落ち着いて、ゆっくりと付き合っていけばいい。竜児も、自分のことを好きだと言ってくれたのだから。
何も不安になる必要はない。
竜児が目をギラギラとさせながら、スーパーの中を歩いていた。奈々子も、その隣を歩く。
そろそろ閉店時間が近いこともあって、値引きされているものが多い。それらを見て、竜児はニタリと笑みを浮かべる。
爆弾でも仕掛けていきそうな顔つきで、値引きされた鶏腿肉を凝視していた。
「これなんかいいんじゃねぇか?」
「……そうねぇ」
竜児が送っていってくれるというので、奈々子は竜児と二人で家に向かっていた。
明日、竜児のために料理を何か作ることになっていたので、その食材選びのためにスーパーを訪れた。
ついでだから竜児も何か買っていくつもりらしい。二人でカゴを持って店内をうろついていた。
もう客も少なく、仕事帰りのような人だけがぽつりぽつりと、疲れた顔で歩いているだけだった。
竜児の薦めに従って、鶏腿肉をカゴの中に放り込む。明日は、グラタンかドリアでも作ろうと思っていた。
それというのも、竜児の家にオーブンが無いことに気づいたからだった。普段はオーブントースターで代用しているのだろう。
寒い日が続いているのだから、熱々の料理を出せば少しは喜んでもらえるかもしれない。
スーパーの食品売り場を歩いていると、竜児が饒舌になる。
食材の選び方とか、こういう料理作ると美味しいなどと、捕まえたカブトムシを自慢する子供のように目を輝かせていた。
「本当に詳しいのね。頼りになるわ」
「いやぁ、別に詳しいってわけじゃねぇけどよ。やっぱ普段からやってるし」
口ではそう言いながらも、竜児は褒められて嬉しそうだった。前髪を軽く触りながら、視線を逸らす。
竜児が語ったものの中には、奈々子も知っているものもあったが、知らない振りをして聞き入った。
「そうそう、生クリームなんかに味噌を合わせても意外と美味いぞ。肉なんかにつけて食べると美味いんだ」
「生クリームに味噌を合わせるの?」
「おう、味噌の堅さっつーか、刺激が和らいで、そんで結構コクがあってな、胡椒を足して、そんで薄口もちょっと足して」
「なんだか想像つかないわね……。食べてみたいわ」
奈々子はふぅ、と息を漏らしながら視線を棚に移した。
「じゃあ今度作ってやるよ。牛肉とか豚肉より、鶏肉によく合う気がするな。ああでも、牛肉とかでもヒレ肉なんかだと結構合うかも」
竜児のことだから、こう言うと思った。奈々子は内心の喜びを顔に出さないように唇を結び、竜児に向かって微笑んだ。
「あら、本当? 楽しみにしてるわ」
二人で歩いていると、カゴの中についつい食材が増えてしまう。
竜児は、重たくなった奈々子のカゴを見て、手を差し出した。
「いいわよ、自分で持つから」
「重たいだろ、貸せって。足だってまだ痛むんだろ」
「もう殆ど痛くないわよ」
「ダメだって、治りかけの時こそ気をつけねぇと。また痛めるぞ」
半ば強引に、竜児は奈々子のカゴを持ち上げる。両手にカゴをぶら下げて、竜児は歩き出した。
本当に世話焼きね。
そういうところは好きだったけれど、何もかも一人で背負ってたら、疲れるだけだと思う。
奈々子は竜児の隣に並ぶと、自分の分のカゴを手に取った。
「おいおい、だからいいって」
「半分だけ持つわ。ほら、これでいいでしょ」
ひとつのカゴを二人で持つ。奈々子はレジに向かって歩き出した。
「横に並んでたら邪魔じゃねぇか?」
「大丈夫よ、人だって少ないじゃない」
夜空の雲が、地上からの光を受けてぼんやりと白い輪郭を浮かび上がらせていた。雲間から見える星の数は少なく、奈々子でも名前を知っているような星くらいしか輝いていない。
天気がよくなったものの、寒さは鋭く、渇いた風が顔を刺した。スーパーを出た後、二人で並んで歩く。
竜児と荷物を半分ずつ持って、吐く息を白く染めながら他愛もなく話を続けた。
料理の話ばっかりだったけれど、奈々子はそれで構わなかった。
本当は、他に話すことが沢山あったはず。実乃梨のことや、大河のことも。
大河のことだって、竜児の中ではまだ決着がついていないのかもしれない。
その話題に触れてほしくないから、料理の話を続ける。そんなところなのかもしれない。
「いやぁ、楽しみだな、奈々子の料理か」
「だからあんまり期待しないでね。竜児くんにガッカリされたら凄くショックだし」
隣の竜児を横目で見ると、少し嬉しそうに微笑んでいた。気分が悪いわけではなさそうだ。
「いやいや、しねぇって別に食えないもんが出てくるわけじゃないだろうしよ」
「砂糖と塩を間違えて出されたりするかもしれないわよ」
「そんなことあるわけねぇ、だろ……」
急に、竜児の表情が曇って奈々子は首を傾げた。
「なに? 砂糖と塩を間違えたことがあるの?」
だとしたら、意外だ。けれど、料理し始めのころにそういったミスがあったのかもしれない。
「いや、砂糖と塩を間違えてクッキー作ったヤツがいてな」
「砂糖と塩を間違えて……? そんなの、食べられるものじゃないわね」
塩のような砂糖より強い脱水作用があるものを大量に使えば、まともなクッキー生地になるわけがない。
砂糖は焼き色にだって関わってくるから、綺麗な焼き上がりも期待できないし、何より塩が強すぎて食べられたものじゃなくなる。
塩と砂糖を間違えた時点で、生地はまったく違うものになるし、そこで失敗に気づきそうなものだけど。
「……もしかして、それ作ったのってタイガー?」
「おう……」
竜児は前を見据えながら、そう答えた。
「で……、もしかしてそれを竜児くんが食べたとか」
「しょっぱかったぞ。つーかそんな次元を超えてた。ありゃ病気になる」
「ふーん。よくそんなの食べられるわね。あたしだったら、一口食べてもう吐き出しちゃうわ」
クッキーと同じ量の醤油を飲み干すほうが、まだ楽かもしれない。
「いやまぁ、色々あったからな……。もう食いたくねぇけど」
「そうね」
喋っているうちに、奈々子の家の前まで着く。どうやら、父はまだ家に帰ってきていないらしい。
車庫は空っぽのままで、家は薄暗かった。もうここで竜児とお別れかと思うと、息が漏れてしまう。
「あっ、そうだ……。携帯のアドレス教えてよ。まだ交換してなかったじゃない」
「そういやそうだな」
竜児は荷物を脇に抱え、ポケットの中から携帯電話を取り出した。
未だに連絡先すら知らなかった。すぐに電話の赤外線通信をしようとしたが、やめた。
「おう、じゃあこれで確か送れるはずだ」
竜児のほうは準備が整ったようで、携帯電話についている赤外線ポートを奈々子のほうへ向ける。
「ごめんなさい、実は通信の仕方ってよくわからないの。口で言ってくれる?」
「ん? そうなのか、えーとじゃあ」
「ちょっと待って、登録するから、えーと、じゃあ電話番号とメアドと誕生日と血液型と」
「そこまで登録すんのかよ」
「当然じゃない。ほら、教えて」
わかったよ、と言ってから、竜児は自分のプロフィールを喋りだした。奈々子はその情報をひとつひとつ携帯に打ち込んでいく。
「うふふ、ありがと。これでちょっとは竜児くんのことが知れたわ」
携帯電話を操作して、奈々子は自分の番号やメールアドレスなどを入れたファイル竜児にメールを送る。後はこれを開けば勝手に登録されるはずだ。
どうやらすぐに届いたらしく、竜児の携帯が鳴った。竜児は携帯を開いて、届いたメールを確認している。
「おう、ちゃんと来てるぞ。後で登録しとく」
そう言って竜児は携帯を閉じてポケットにしまいこんだ。すぐに登録してくれればいいのに、と思いながら、奈々子は自分の携帯も鞄の中に仕舞った。
竜児もそろそろ家に帰らなければいけない時間なのだろう。少しだけ会話が途切れて、竜児は夜空に視線を移していた。
「なんか不思議な気分ね。あたし、彼氏ができちゃったんだから……」
「お、おう」
照れているのか、竜児は頬を掻きながら夜空を見上げていた。
「それで、あたしは竜児くんの彼女なんだ……。なんか、すごいわ。竜児くんの女なんだ」
自分でそう口にしてから、奈々子は唾を飲み込んだ。なんていい響きなんだろう。
言葉にして、奈々子は顔が紅潮するのを感じた。竜児にとって、世界で一人だけの彼女。
それが自分だということに、胸が熱くなる。
「ま、まぁ付き合い始めだから、その、俺もどうしたらいいかわかんねぇし、のんびりやろうぜ」
「そうね……。それでね、えっと」
奈々子は視線を道に落として、髪を弄りながら上目に竜児を見た。空気の冷たさに体が少しだけ震える。
「アレ、買っておいて欲しいの……」
「ん? プレゼントが欲しいのか? アレってなんだ」
「違うの、別にプレゼントじゃなくって、あたしが欲しいんじゃなくて、その……。アレを買って欲しいの」
「アレってなんだ?」
「それは、アレよ」
「いやわかんねぇよ」
少しくらい察してくれてもいいのに。奈々子はそう思ったが、竜児は見当がつかないらしく、怪訝そうに眉を寄せていた。
軽く溜息を吐いてから、奈々子は竜児の傍に寄る。服の袖を摘んで、竜児の耳元に口を寄せた。
「ゴム……。買っておいてね」
竜児の耳元から顔を離して、竜児の顔を伺う。きょとんとしていた竜児だったが、奈々子の言葉を飲み込み終えた途端に、顔を背けるようにして隣の家を見る。
「あ、ああそういうことか……。いや、確かにまぁ、うん」
「ちゃんと買ってね。帰りにどこか、コンビニとかドラッグストアーに寄って。それで、明日持ってきて」
「ちょ、ちょっと待てよ奈々子。さっきのんびりやろうって言ったばっかりだし、その」
「いいじゃない。いつかは必要になるんだから。ずっと持ってたら?」
「そうかもしれねぇけど……」
今更渋らなくたっていいのに。
「だから、お願いね。お金は渡すから」
奈々子は鞄の中から財布を取り出そうとした。竜児のことだから受け取らないだろう。
「いやいや、いいって! さすがにそれはいいって」
「そう? ちゃんとお金足りる?」
「足りる、と思うけど……。すまん、その、値段とか知らねぇし」
「やっぱり渡したほうがいいんじゃない。足りなかったら困るでしょ」
「そんなもん、奈々子のお金で買いたくねぇよ。自分で出すから」
お金を出そうとすれば、竜児のことだからそう言い出すだろうと思った。
「そう、じゃあお願いね。ちゃんと持っててよね」
「お、おう……」
声を詰まらせる竜児を見ていると、自然と笑みがこぼれてくる。
ああ、あたしこの人の彼女なんだ。そう思うと、嬉しくてたまらない。
「竜児くん」
名前を呼んで、そっと竜児の手を取る。そして、一歩だけ竜児に近づいて、軽く上目に竜児の顔を見た。
「……奈々子」
名前を呼ばれて、奈々子は竜児の手を少しだけ強く握った。
心臓が大きく跳ねる。冷たい空気に晒されているのに、体が熱くなっていく。
「……」
「…………ん?」
じっと奈々子を見ていた竜児が、首を傾げる。
まさかとは思うけど……。奈々子は少しだけ熱が冷めるのを感じた。
「竜児くん」
少しだけ声が尖ってしまう。
「どうした?」
「もうっ、どうしたはこっちのセリフよ。なにぼーっとしてるの。ここはほら、キスするところじゃないの」
「ええっ?! そうだったのか」
そうだったのか、じゃないわよもうっ。
「お、おお俺でいいのか?」
「もう馬鹿ね、なに言ってるのよ」
こういう時はやっぱり竜児のほうからキスしてくれないと。
「竜児くんじゃなきゃダメなの」
「わ、わかった……」
そう言ってから竜児が急に辺りを見渡す。誰かに見られてないかと確認しているんだろう。
けど、そこに誰がいたって関係ない。そんなことは気にせずに、キスしてほしいと思ってしまう。
「あっ」
竜児に抱きしめられて、奈々子は小さく声をあげてしまう。どうして、竜児の体温はこんなに体を火照らせるのだろう。
奈々子は竜児の胸元に額を当てた。すると、竜児の手が、奈々子の頬に伸びてくる。
顔が竜児に向いていく。竜児の手による誘導なのか、それとも自分が顔をあげたのかはわからなかった。
急に緊張してきて、奈々子は目を閉じた。瞼が震える。唇を閉じた。タコみたいに唇を突き出したくなったけれど、変な顔になりそうなのでやめておく。
なんの音もなく、竜児の唇が自分の唇に触れる。
秒針が一度音を立てるか立てないかという短い時間だけ触れ合って、竜児の唇が離れていく。
そんな軽いキスだったけれど、ぼーっと頭の中が靄がかってくる。
つい、自分の唇に指先で触れてしまう。
「奈々子……。えっと……、好きだ。これからも、よろしくな」
不意な追い討ちに、奈々子の頭にかかった靄が吹き飛ばされていく。
奥手でシャイなくせに、急にこんなことするんだから。
「じゃあ、俺、行くから。明日、楽しみにしてるぞ」
「え、うん。……じゃあまた明日ね」
「おう」
自分がすごく特別なものになったような気がして、奈々子は体の底から次々を湧き上がる喜びを抑えるのが大変だった。
台所に立って、鍋の中身をヘラでかき回す。集中しなきゃダメなのに。そう思っても、ついつい頭の中には竜児が浮かんでくる。
バターで小麦粉を炒めて、そこに温めた牛乳を加えてかきまぜていく。
こういうことをしている時間は好きだった。鍋をゆっくりかき混ぜながら考え事をしたりする。
「うふふ……」
一人でにやにやしながら、奈々子は鍋をかき混ぜ続けた。
竜児の彼女。それが今の自分。小学校から中学校に上がった時の心境よりも、今の自分の変化のほうが強い気がした。
思えば、竜児の彼女になるまでは大変だった。
あの雨の日、竜児に助けられるまで、奈々子は竜児を意識したことはなかった。ヤンキーだと噂されていて、そういう人だとも思ってたこともある。
クラスメイトになって、そういう人ではないということはわかったけれど、それだけ。
そう思っていたのに、竜児の優しさに、誠実さに触れてしまった。ささやかな気遣いができるのに、肝心なところでは鈍かったり。
この人と一緒に人生を歩めたら、幸せになれる、そんな確信が生まれた。
コンロの火を弱めて、ルーの中に牛乳を加えていく。
少しずつ牛乳を加えたから、ホワイトソースの中にはダマもない。考え事をしながら作ったにしては、なかなかだと思う。
竜児の家にオーブンが無い。だから、オーブンを使った料理にしようと思っていた。あまり得意ではないけれど、鶏ときのこのドリアを作ろうと思っていた。
「うふふ、喜んでくれるかしら」
竜児のために、今こうやって料理をしている。本当に幸せな時間だった。
「お前なにやってんだ?」
「きゃあっ?!」
急に声をかけられて、奈々子は目を瞬かせた。誰かと思えば、父だった。
「いきなり声かけないでよ、びっくりするじゃない。っていうかいつ帰ってきたのよ」
「おいおい、ちゃんとただいまって言っただろうが。お前がぼけっとしてたんじゃないのか」
多分、父親の言う通りなのだろう。なので、何も言い返すことができない。
「ん、ベシャメルソースなんか作ってなにやってんだ。グラタンでもするのか?」
「違うわよ。そんなことより、ご飯作っといたから、暖めて食べて」
奈々子はキッチンのカウンターに置いた料理を指差した。白菜やきのこで適当に作った中華風スープと、鶏腿肉の照り焼き。
父はカウンターに置いてあった皿を取って、レンジの中に入れる。
「ああ、それと奈々子、お前ちゃんと戸締りしろって言っただろ。今日も鍵開いてたぞ」
そういえば、鍵をかけるのを忘れていた。本当に、ぼーっとしていたらしい。
「しかし、ベシャメルソースねぇ」
レンジアップまで暇だったのか、父は鍋に指を突っ込んだ。指先についたソースを口に含む。
「ちょっと、やめてよ」
父は奈々子の抗議も聞かずに、感想を述べる。
「お前これ、小麦粉の炒め方が全然足りてないぞ。粉っぽい」
「えっ? そうなの」
奈々子は戸棚からスプーンを取り出して、鍋の中のソースをすくって口に含んだ。
確かに、少し粉っぽいというか、ざらつきがある。
「ほら、ちょっと粉っぽいだろ。小麦粉炒める時間が少ないからだ。別にオーブン入れて一時間もやれとは言わないけど、せめて10分くらいは火にかけたり外したりして炒めてやらないと。これほとんど炒めてないだろ」
「い、今更そんなこと言われたって遅いわよ」
「まぁ確かに。でも別にいいだろ、多少粉っぽかろうが、食えるし」
「はぁ、もう一回作り直すわ」
「別に作り直さなくたっていいだろ。これで十分食えるって」
「じゃあお父さんが食べたら?」
「投げやりなヤツだな……。別にこれくらい大丈夫だって」
「もういいでしょ。ほら、レンジ鳴ったわよ。早く食べたら」
「まぁいいけど。とりあえず、その失敗したベシャは置いといてくれ。なんか適当にするから」
レンジの中から皿を取り出して、父はテーブルに向かって歩いていく。
まだ食材はあった。奈々子は一度出来上がったホワイトソースを横におしやって、新しく作り直すことにした。
下拵えはまだ後少し残っている。今日中にちゃんとやってしまおう。
翌日になって、奈々子は料理の準備を終えた。後は料理をオーブンに放り込むだけだ。
そろそろ午後に差しかかろうという頃になって、家のチャイムが鳴った。その音に、奈々子の心臓が一拍だけ強く高鳴る。
「大丈夫……」
それとなく、かわいい服に着替えた。その上からエプロンを羽織っている。家でスカートなんて変に見えないだろうか、ちょっと胸元の開いたセーターとか変じゃないかな。
悩みに悩んだけれど、今更どうしようもない。ポケットからリップクリームを出して、唇に薄く塗る。
玄関の扉を開けると、道路に竜児が立っていた。竜児も少し緊張しているのか、奈々子の姿を見たのと同時に一度だけ肩を跳ね上げた。
「よ、よう!」
片手をあげて、竜児がぎこちなく笑みを浮かべる。奈々子は竜児の曖昧な笑みを見て、顔を綻ばせた。
「いらっしゃい。さ、上がって。すぐ準備するから。お腹空いてる?」
「お、おう。なんでも持ってきてくれ」
どうやら、竜児は自分を意識してくれているらしい。少しぎこちない態度から、なんとなく読み取れる。
この分だと、アレもちゃんと買ってくれているだろう。そう考えて、奈々子は唾を飲み込んだ。
外の冷たい空気を遮るように、奈々子は扉を閉める。竜児が靴をちゃんと揃えて、奈々子の家にあがった。
さて、竜児が自分を意識してくれているのはわかった。けれど、まずは料理からだ。
そういう約束だったし。
テーブルに竜児を座らせて、奈々子はキッチンへ戻る。
「寒かったでしょ。先にこれ飲んでて」
マグカップに入ったスープを、竜児の前に置く。
「なんか、結構ちゃんと用意してあるなぁ……。すげぇ楽しみになってきた」
カトラリーの並んだテーブルを見て、竜児が目を瞬かせる。
ランチョンマットの上に、ナイフとフォークを並べておいた。こんなものを引っ張り出すのは本当に久しぶりだった。
マットの上に置かれたマグカップを見て、竜児がそれに口をつける。
「いきなり美味いな」
「大袈裟ね。ただのオニオンスープよ」
「いやいや、ここまで玉ねぎ炒めるのって大変だろ。それに、濃さもちょうどいいし」
さっきまで堅かった竜児も、スープが出てきてからは落ち着いたようだった。
「もう、そんなに褒めてもたいしたもの出ないわよ。こんなのだって適当に並べただけなんだから。スープから出る時点で変でしょ」
「いやいや、なんか楽しみになってきたぞ。それに寒い日にこれが出てくるのはありがたい」
スープひとつでこんなに褒められても困る。奈々子は気を引き締めようと謙遜してみるが、それでも喜びが沸いてくるのを抑えることができない。
「用意するから待っててね」
そう言って、奈々子はもう一度キッチンに戻る。
オーブンの予熱はすでに済ませていた。まずは前菜代わりのものから。
薄く切ったナスとズッキーニを油通しして、ナスの上にはトマトソース、ズッキーニの上にはホワイトソースを乗せた。
ナスにはハムとシュレッドチーズ、ズッキーニの上には半分に切ったミニトマトを乗せていた。
その隣に軽く茹でておいたアスパラガスを並べて塩コショウをかける。
オーブンで焼いている間に、皿の用意と、サラダの準備を始める。
ガラスの皿に、サニーレタスとグリーンリーフを置く。ゆで卵とトマトを櫛形に切って並べ、シーザードレッシングをかけた。
クルトンと粉チーズを散らしてとりあえずサラダは出来上がった。
「お待たせ。まずは前菜みたいな感じなんだけど」
竜児の前に、サラダを置く。焼きあがった野菜も、小さな白皿に見栄えよくなるように盛り付けた。
「おう。綺麗だなこれ」
「そう?」
「これはナスか。ちょっとピザっぽい感じをナスの上に作ったのか。こっちはなんだ? ミニトマトと」
「そっちはズッキーニね」
「へぇ、こっちはグラタンっぽくしてんのか。それとこれはアスパラか」
「うん。オーブンに入れて焼いただけだけどね」
「いやいや美味そうじゃねぇか! すげぇな奈々子」
きらきらとした瞳で、竜児は奈々子を見た。その瞳だけで、奈々子はキュンと胸が締め付けられる。
「と、とりあえず食べてみて」
「奈々子はどうすんだ?」
「もうすぐドリアが焼けるから、それが出来たら一緒に食べるわ」
「いや、でも先に食べるのもなぁ」
竜児が少し渋る。しかし、熱々のうちに食べてもらいたい。
「すぐに出来上がるわよ。だから先に食べてて、ね?」
「おう、いいのか?」
「もちろん」
竜児のランチョンマットの端に乗っているワイングラスに、奈々子がオレンジジュースを注ぐ。
さすがに未成年なのでワインはよくないだろう。竜児のことだから、拒否するのが目に見えている。
「うまいっ!」
「そう? そうかしら」
無邪気に、竜児が喜びの声をあげる。この声だけで、奈々子は苦労した甲斐があったと感じた。
「わざわざナスのあくも抜いてんのか。甘みがじわって出てきて、そこにトマトソースだろ。トマトとナスは相性いいしな」
「そうね」
「そこに、もったりとしたチーズと、カリッと香ばしい粉チーズ、そんでこれはハムか。こんな小さな一品なのに、面白いな」
「ちょっと、さすがに褒めすぎよ……。なんかもう、やだもう」
奈々子はそっぽを向いて、顔の横にかかった髪に触れようとした。しかし、料理の邪魔になるからと後ろですべて束ねていたので、そこに髪はなかった。
頬が少し赤くなる。
「サラダもうまいな! 歯ごたえとほろ苦さ、クルトンのカリカリさとか」
「ちょっともうっ、そんなの誰だって出来るわよ。別にあたしの力っていうわけじゃないし」
好きな人が、自分の作った料理を食べてくれている。さらに、その料理で喜んでくれている。
「いやいや、サラダって簡単そうでちゃんとやったら難しいだろ。これだってちゃんと水気も取ってある」
サニーレタスとグリーンリーフは冷たい水の中にしばらくつけてから一枚一枚丁寧に洗った。
葉がシャキッとしたところで一枚ずつ丁寧に水気を拭き取る。そうすることで、ドレッシングの絡みがよくなるのだ。
レタスを千切る時も、細胞を潰さないように指の腹で優しく摘んで行った。
普段だったらやらないような面倒なことも、竜児のためだと思えば出来た。
そこに、気づいてくれた。
「奈々子の愛を感じるなこりゃ」
「あ、あいって」
奈々子の顔がさらに赤みを増す。竜児はそんなことにも気づかずに、サラダの歯ごたえを楽しんでいた。
話しているうちに、オーブンが焼きあがりを告げる音を鳴らした。
ドリアが焼きあがったらしい。奈々子は慌ててキッチンに戻り、ミトンの手袋を手にはめる。
オーブンを開けて、焼き上がりを確認する。どうやら、いい感じに焼きあがっているようだ。
先に電子レンジで全体を暖めておいたから、中が冷たいままということもないだろう。
オーバルのグラタン皿を取り出して、下皿の上に置く。上に乗せたチーズも、こんがりとキツネ色に焼けている。
「はぁ……。マジで美味かった。ごちそうさま」
ドリアが出来上がってからは、二人で一緒に食べた。
竜児は食べるのに夢中で、あまり会話はできなかった。それでも、目の前で竜児が自分の作った料理を頬張っている姿を見るだけで、奈々子は目が細く垂れていくのを止められなかった。
口元には笑みが自然と浮かび、自分が食べるのもついつい忘れてしまう。
おかげで、ドリアもまだ少し残っていた。
「まったく、期待しないでとか言ってたのに、すげぇじゃねぇか。いやほんと、こんだけ美味いもの作るとは思ってなかったぞ」
「そう言ってもらえると、がんばった甲斐があったわね」
オレンジジュースをお代わりしている竜児を見ながら、奈々子は微笑んだ。
「ピラフの下に、まさかマッシュポテトが敷いてあるとはな。ほくほくしてるし、こう、ジャガイモのダマが残ってるのがにくいな」
「そのくらいのほうが、なんとなく手作りっぽくていいかと思って」
「おう。それに、ホワイトソースも美味かった。ちょっとだけコンソメとか入れてんのか、味がしっかりしてたし」
「鶏腿も先に皮がカリッってするように焼いてみたんだけど、やっぱり中に入れちゃうとちょっと萎びちゃうわね」
「いやでも、もも肉のほうは黒コショウで焼いてんだろ? 丸みのあるソースの中で、結構パンチ効いてて面白かった」
竜児が、奈々子の作った料理に対して感想を述べていく。その殆どがべた褒めで、奈々子は段々とむず痒い気持ちを覚えた。
料理を作った自分より、これだけ料理に対して物を語れる竜児のほうが凄いのではないかという気がしてしまう。
奈々子も料理を食べ終えた。自分のグラスにオレンジジュースを注ぎ、喉へと流し込む。少し緊張しているのかもしれない。
喉がごくりと鳴って、奈々子は眉をしかめた。
「それでね竜児くん。実はデザートがあるの」
「デザートまであんのかよ?!」
「うん。そうなの。それなんだけどね、デザートは、あ・た・し」
奈々子は両手の人差し指で自分の頬を指差し首を傾けた。
「……」
竜児がパチパチと瞬きをして動きを止めた。奈々子もつい固まってしまう。
さっきまで盛り上がっていただけに、竜児のきょとんとした反応がさびしい。
このノリなら言える! そんな気がしていたけど、やっぱりまずかったかもしれない。
「な、なにか言ってよ」
「いや、待ってくれ……」
「ちょっと恥ずかしいじゃない! あたし、別にそういうノリの人じゃないし、結構がんばって言ってみたんだけど」
「そうじゃなくて、別に奈々子のギャグがどうとかじゃなくて、俺、今マジでデザートまで出るのか、って感激してたから急な展開に追いつけなくてだな」
奈々子は唇を尖らせて、うろたえる竜児を見た。じとっと目を細めて、テーブルに乗り出して竜児の顔を見る。
わずかに赤い竜児の顔が近づいて、奈々子も顔を赤らめた。
っていうかギャグって。ギャグだと思われた? 結構というかかなり本気だったのに。
「そ、それはともかく、竜児くん。あのね、アレ、買った?」
「アレって……。ま、まぁ一応……」
竜児は頬を掻きながら視線をテーブルに落とした。
「そうなんだ……」
よかった。
食器などをシンクに放り込んでから、奈々子は手を洗った。
竜児は座ったまま、頬を少し強張らせている。グラスに残っていたジュースを、思い出したように飲み干してから竜児が息を漏らした。
少しは落ち着いたのかもしれない。そう思って、奈々子が声をかける。
「えっと、あたしの部屋に、来て」
「あ、ああ」
視線を逸らしながら、竜児が返事をする。
捻った足は順調に回復しているようで、歩くくらいならなんの問題も無かった。
後ろをついてくる竜児が、奈々子の足の調子を心配しているのか、いつでも手を差し伸べられるように奈々子の歩調に合わせていた。
こんな時でも、竜児は自分を気遣ってくれている。そう思うと、嬉しかった。自分の選んだ人は、これから自分を預ける人は、間違ってなかったと思えた。
「ちょっと待っててね」
奈々子は自分の部屋の扉を開けて、壁際のスイッチに指先をかけた。昨日の夜に、ざっと部屋を掃除したから今は綺麗になっている。
「入って、座るところないから、そこのベッドに座っててくれたらいいから」
「え? あ、ああ、いいのか?」
振り付けを間違えたダンサーが動きを確かめるようなたどたどしさで、竜児は奈々子のベッドの横まで歩いてきて腰掛ける。
一度両手で腿をさすり、それから思い出したように奈々子の部屋を眺めた。
「やっぱ、女の子の部屋、って感じだな」
少し感動したように、竜児が目を瞬かせる。
「そう? 自分じゃよくわからないわ」
奈々子が竜児のすぐ左隣に座る。ベッドがぎしっと音を立てて沈み、竜児の肩がぴくりと跳ねた。
頬を掻きながら、竜児は小さな声で言った。
「……な、なんか緊張するな」
「そうね」
確かに、緊張はする。けれど、気分が悪いわけではなかった。
隣に竜児がいる。緊張のせいか、落ち着きなく唇を噛んでいた。
「あのね、その緊張って、どういうもの?」
「ど、どういうって、どういう意味で?」
「あたしと一緒にいると緊張するのかな、って。確かに、あたしもね、ちょっと焦ってたところもあるわ。だって、タイガーとか、櫛枝とか、その、竜児くんがね、えっと」
そこで一度言葉が出なくなる。横にいる竜児の顔を伺うと、驚いたように眉を上げていた。
「ちょっと、積極的に迫りすぎてるかな、って少しは思うのよ。竜児くんを取られたくないな、って」
「お、おう……」
竜児は再び視線を逸らして、頬を掻いた。照れているようだ。それから、一度唾を飲み込む。
喉仏がぐっと上がってから、元の場所に落ち着いた。竜児が、手を伸ばして奈々子の手の上に重ねる。咳払いをしてから、竜児が奈々子にまっすぐ顔を向けた。
「お、俺は、好きなのがお前だから。えーと、その、ああ、あ」
竜児の顔が赤くなっていくのと同時に、竜児の口から言葉が消えうせていく。
その顔を見た奈々子の唇が、淡く横に引かれて小さな息を漏らした。
竜児が重ねてきた手の上に、奈々子は左手を重ねた。そして、竜児の顔に、自分の顔を近づけて、竜児の頬に唇を触れさせた。
「そう言ってくれて、嬉しいわ。大好きよ」
「え? あ、おう……」
きょとんとしている竜児の生返事に、苦笑が漏れる。
「と、いうわけで。じゃあ今度は竜児くんがあたしに向けてる想いとか、そういうのを見せてほしいな」
「えっ、見せるって、何を?」
「あら、竜児くんの中には、あたしに対する好意とか、色んな感情とか、そういうのが無いの?」
「そういうわけじゃねぇよ。そりゃ、色々あるけど」
「たとえば、あたしの胸に触ってみたいとか?」
くすくす笑いながら、奈々子は包みこんだ竜児の手を、自分の胸に持ってきた。
「うっ……、こ、これは」
「触りたい?」
そう尋ねると、竜児の顔にさらに赤みが差した。奈々子の頬も、白い肌を押しのけて朱色が顔を覗かせている。
奈々子の瞳が潤む。
「正直な、竜児くんの気持ちが知りたいの」
「……触りたいです」
何故か敬語で答える竜児に、母性本能のようなものがくすぐられた。
「うふふ。好きなんだ、大きいの」
「いや、大きいとか小さいとかそういうのじゃなくて……。ごめんなさい、大きいほうが好きです」
「正直でよろしい」
にんまりと笑ってから、奈々子は竜児の唇に唇を重ねた。
「少し、照れるわね。なんだか、恥ずかしくて」
「あ、ああ。っていうか昼間だしな。なんかあれだな」
「そうね、ちょっと待ってて」
奈々子は竜児の手を胸元からどけて、立ち上がる。部屋の扉の前まで行き、明かりを消した。
カーテンから漏れる光だけが、竜児の横顔を仄かに照らしている。
奈々子は再び竜児の隣に座って、照れ笑いを浮かべながら竜児の顔を覗きこんだ。
竜児とこんなことになるなんて、少し前の自分では想像もできなかった。あの雨の日、竜児に助けられてから、竜児に恋をして、ここに辿り着いた。
好きな人が隣にいる。そして、今から好きな人に抱かれる。
あと数十分か、数時間か、時間はわからないけれど、その時には自分は処女ではなくなっていて、竜児の女になっている。
心臓の鼓動が、ハードロックでも演奏しているかのように激しくなった。
そう、今から竜児にすべてを見せて、そして、竜児の欲望に貫かれる。
愛しい人が、今、自分の体で興奮している。
奈々子は竜児の太ももを手で撫でた。それだけで、竜児の肩がびくりと持ち上がる。
そっと手を這わせて、竜児の股間のほうへ向かっていく。同時に、大きな膨らみが指先に触れた。
竜児が、今隣にいる自分に興奮している証。自分を欲しがっている気持ちの現われ。
「おおきく、なってるわね」
「と、当然だろっ!」
少し怒ったように竜児が声をあげる。
さらに、形を確かめるように、奈々子は指先を這わせた。大きく盛り上がったそこを確かめて、それから撫でてみる。
「ちょ、ちょっと待ってくれ奈々子」
竜児が奈々子の手を掴んで、動きを止める。
「えっ、うん……。えっと、痛かったの?」
「違うって、いや、めちゃくちゃ気持ちよくて、触られただけで、その、こんな気持ちいいとは思わなくってだな。その、俺も初めてであれだけど」
「あたしも、初めてだから、あんまりよくわからないけど……。気持ちよかったら、して、あげたいな」
そう言ってから、奈々子が再び竜児の股間を撫ですさる。少しだけ力を入れてみると、竜児のそれは奈々子の指を硬く押し返した。
「うっ!! だ、ダメだ奈々子!」
「どうして? 気持ちよくないの?」
「違う! 気持ちよすぎて、出そうになったんだよ!」
半ば怒鳴って、竜児は奈々子の手首を掴んだ。
「で、出るって、その、あれが……?」
薄い闇の中で、奈々子の頬がぽっと赤く灯る。
「ああ、そ、その通りだ」
「そ、そうなの……。でも、そんな簡単に出るものなの?」
「いや、だから、想像以上に気持ちよくてだな、自分でもビックリだ」
奈々子の手を掴んだまま、竜児が早口でまくしたてる。
「そ、そうだったの。え? 今、想像以上って言ったわよね。想像って?」
「今そこに突っ込むのかよ!」
「想像って、何を想像したの? ねぇ、それってあたし相手?」
「そうだよ! 奈々子相手だよ! い、いつかこういうことになった時のためのイメトレというか、別にやましい理由でというか、やましいことはやましいけど、とにかく想像はした!」
開き直るように竜児が目を閉じながら言う。
竜児にとっては、罪の告白のような意識で言ったのかもしれないが、奈々子には愛の告白のようにしか感じられなかった。
奈々子の頬が緩む。竜児が可愛くて仕方ない。
「ふーん。そうなんだぁ……。へーぇ、そうなんだぁ」
「う、ううう……」
「嬉しいわ。竜児くんのことだから、失敗しないように、あたしが傷つかないように、ってそういう意味で考えてくれてたんでしょう。ただ、その、性欲だけじゃなくて」
「ま、まぁそういうのもあったかもしれないけど。別にそこまでかっこいいもんじゃねぇよ」
「あら、照れなくてもいいのに。竜児くんだから、嬉しいの。竜児くんがあたしのこと想ってくれたんだなぁ、って。ほんと、竜児くんだけなんだから」
「う、うああああああああああああ。なんか、すげぇ恥ずかしい」
竜児がベッドに倒れこんで、頭を抱えた。
「ちょ、ちょっと、もうっ! そんな恥ずかしがらないでよ。あたしだって恥ずかしいんだから」
奈々子は、竜児の隣に寝転んで、竜児の顔を伺う。
「もうっ、ほら、顔上げて。ね、そんなの全然恥ずかしくないんだから」
「いや、恥ずかしすぎるだろこれ。なんで本人の前で、本人のエロいこと考えてましたとか告白してんだ俺」
「えーー? あたしはその告白聞いて、すっごく嬉しかったのに」
竜児の体に圧し掛かりながら、奈々子は竜児の耳元でそう言った。
「エロすぎる! エロすぎるんだよ奈々子は! もうっ、こっちは大変なんだぞ」
「もうっ、エロいだなんて失礼ね。あたしだって、初めてで緊張してるんだから」
竜児のわき腹をくすぐる。
「こらっ、やめろって」
「だぁめ。ほら、体は正直じゃない」
奈々子が竜児の股間を撫でた。そこはさっきと変わらず、大きく膨張したままだった。
「言い方がエロ親父じゃねぇか! それは男のセリフだぞ!」
「あらぁ? じゃあ、竜児くんがあたしに言ってくれるの? 体は正直だなって。そこまで、めろめろにしちゃうつもりなんだ」
「ちょ、奈々子、お前ほんとセクハラ親父みたいになってるぞ! っていうか、触りすぎ、マジでやばいからっ!」
じゃれあっているうちに、少しずつ緊張もほぐれてきた。
竜児の反応が可愛くて、ついつい苛めてしまった。素直に、欲望をぶつけてくれたらいいのに。そう思いながら、奈々子は隣で寝転んでいる竜児の顔を真上から覗き込んだ。
「あとどれくらいの時間が経ってからかはわからないけど、竜児くんのこれが、あたしの体の中に入ってくるのね」
奈々子の呟きに、竜児の目が見開かれ、唇が硬く閉ざされる。つばを飲み込んだ竜児が、そっと奈々子の頬に手を伸ばしてきた。
「あのな、男の俺にはわかんねぇけど……。やっぱ、痛いんだろうな。今更、こんなこと言うのも遅いかもしれねぇけど……」
「あたしのこと、そこまで気遣ってくれなくていいわよ。いつかは、その、することだと思うし、その相手が竜児くんなら、最高だと思うし、竜児くんじゃなきゃ絶対に嫌だもの」
「あー、その正直言ってだな……」
「正直言って?」
「ここでやめたくねぇ。っていうか、ほんとに、我慢の限界だ。奈々子が欲しくて、奈々子に触りたくて、マジでもう、限界だ」
奈々子は竜児の上に覆いかぶさったまま、じっと竜児の顔を見つめた。さらに竜児が言葉を続ける。
「頭ん中、ほんとなんていうか、奈々子でいっぱいで、あれだ、ヤバイんだよ。メロメロだ。緊張してたのは、エロいこととか抜きに、自分を抑えられるかどうかわかんなくてだな。でも、もう無理だ、俺は、お前が欲しい」
言葉はたどたどしかったけれど、奈々子の心には竜児の言いたいことが伝わってきた。真剣な表情で、竜児は奈々子を見つめている。
竜児に求められて、背骨が溶け落ちそうになる。竜児の体の上に落ちるように体を合わせて、そして耳元で囁いた。
「うん……。竜児くんの、想像みたいに、して」
とりあえず今回はここまでです。
次は多分エロくなると思います。
>>175 GJ。菜々子様キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
ななこいだと……
おお、まさかななこいが来るとは
ちょうど昨日読み返したところだよ
ああでも今から出かけなきゃいけない、帰ってきたら読みます
179 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/10(木) 10:30:37.98 ID:jUeN+0qU
...え?ガチでななこいキタ?嘘だろ?ちょっ、スクリーンがかすんで文字が見えないんだけど;;
SLさんも来れば完璧
とらドラ復権あるで!!
ななこい作者、データ消失にもめげず…
来るとは思わなかった。
やべぇまじでななこいかよ…
これからじっくり読ませてもらいます!!
ずっと待ってた甲斐があった…
マジおつです
乙です
奈々子SSの未完伝説を破る勇者が現れたようじゃな…
・・・え・・・ええええええ???本当?本物?な・・・マジ?
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
本物なわけないだろかたんなよ
ななこいはもうすでにオワコンなんだよ
うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!
きたぁぁぁぁ!!
ななこい復活!?
やべえ、マジで涙が出てきた
どれほど待ち望んだか……
そして相変わらずGJ
乙
現スレになってから同じ奴しか投稿しなくて飽き飽きしてたんだよ
ついに奈々子未完シリーズの一角が復活したか
あーみん未完シリーズの復活も期待せざるを得ない
我が家の腹黒様も復活してくれー!
息災でしたか、安心しました
続き待っております
ななこい作者さん乙です
待ち望んだ復活、嬉しい驚きでした
積極的で熱烈な奈々子様が眩しいですw
奈々子パパからイケメン臭が漂っててまた良いですね
近いうちに続きが投下されることを楽しみにしてます!
確かに日記の奈々子パパとはえらい違いだなw
日記の奈々子パパはダメ親父そのものだからなあwww
やっぱ実力のある書き手は人気が凄いな
駄文ばかり投下されてた時とは勢いが違うよ
他の書き手を駆逐するような荒し目的のレスはスルーで
でも、ななこいGJ
ななこい作者様乙
やっぱり料理描写があるSSはクオリティ高いね
わたしたちの田村くんの原作読んだら面白くて好きになったんだけど
電撃コミックスの方はどうかな?
オリジナルに忠実に描かれてるだけですか?
それとも漫画だけで描かれてるオリジナルシーンとかありますか?
原作のその後(個人的にまだ終わってなくて続き出せると思うんだけど)とか描かれてたら迷わず買いたいんですけど・・・
尼のカートに4冊入れてあとはポチるだけなんですけど
持ってる人の読んだ感想聞かせてください><
あ、とらドラは当然で、原作のゴールデンタイムも全部揃えて続き楽しみにしてますw
>>200 アニメイト限定版のカバー絵が水着でエロうございます><
ななこい読み終わた。続きが楽しみだよ作者さんGJ!
>>200 順序変更はあるが、たしか基本的に原作に忠実だった気がする
マンガ版には文庫化されて無い話(非オリ)の収録があるよ
204 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/15(火) 09:56:07.82 ID:AdWigyCT
ななこいさいこううううううううううううううううううう
奈々子のウンコ漏らしネタ書いてもいいでしょうか?
官能的な漏らし方なら歓迎
下品なだけならノーサンキュー
エンドレスあーみんマダー?
>>206 >>205は情熱という荒らしだからレスしない方がいい
アイマススレをスカトロAAと邪神SSで荒らしてた
しかし、ななこい投下後にこれだけの反応があるってことは見てる人は多いんだよな
良作に反応が集中するのは当然
その辺上にある糞SSと比べるとよく分かるだろ
あまり触るとホントに降臨するぞ
シカトされてるのに投下しに来るとかどんだけ惨めなんだよ
スレが異常に進んでるとオモタラ数年振りのななこい新作キター!作者さん乙です!
リクエストしたかいがあったぜ!
我が家の腹黒さまも新作こないかなー。。。
ビーチボーイズの「スマイル」を待ち続けたポップスファンの心境
ななこい新作、面白かったです。
流れ切って悪いが、昔ここに投下された“ドラゴン食堂へようこそ”のアフター持ってる人居ない?
過去ログのアドレスだけでも良いんだけど
やたら無性にあれが読みたくて仕方ないんだけど、まとめサイトが消えちゃってるみたいで……
>>219 感謝!
もうこれはテキストで保存しとこう。
ドラマCDもそろそろ出るし、ななこい様もまさかの新作だし、
他の書き手さまも里帰りしてくれないかなあ・・・
戻ってこなくていい連中もいるけどな
誰とは言わないけど
>>215 便乗しちゃうけど、おいらは「ななどら。」の続きが読みたい。
ななこ人気杉ワロタ
情が深そうでエロくて竜児との相性も良いそうだからな
おひさしぶりです。明日の亜美ちゃん主役扱いのドラマCD発売が嬉しくって
久々にSS作ってみました
概要は以下です。よろしくお願いします。
題名 : In Other Word
方向性 :ちわドラ。
時期:とらドラ!P 亜美ルート後の話、竜児と亜美は交際中が前提
主な登場キャラ:竜児、亜美
エロ:無し
長さ :3レスぐらい
次レスから投下いたします。
In Other Word
今年は9月12日だった。大きく開かれた窓の外には雲一つ無い満天の夜空、そこに満月が浮かんでいる。
窓の前には丸い月見団子と兎を形作った饅頭。横には花瓶に入ったススキ。
外から部屋に入ってきた風がススキを揺らし、亜美の長い髪をそよがす。
家主である目つき悪の少年ははそんな姿を眺めていたが、はたと目をそらす。
見ていたのはやまやまだが、気づかれて、からかいの種にされては後が大変だ。
悪意が無いその姿は可愛いとも思うし、いい女だとも思うのだが……
「どうしたの高須くん?」
「どうしたって、なんだよ」
「今、亜美ちゃんの事、じっと見つめてたでしょ。なに?、見とれちゃった?」
けれど、現実は非常だ。
中身は性悪で意地悪でいたずら好きで、可愛げなどないくらい手ごわい。
下手を打つと男の純情をからかって、ズタズタにしかねない。
「見てねぇよ」
「なんでよ。亜美ちゃん、写真だけでお金取れるくらいのモデルだってのに、他に見るものある?」
「月があるだろ、月が、なんたって今日はな」
「はいはい、十五夜だよね。なんで、亜美ちゃん、こんな地味なイベントしてるんだろ。
高須くんって本当、こういう季節の風習好きだよね。爺クサ」
亜美はうんざり気味に竜児を鑑みる。この場合、竜児の知る彼女の行動は大きく二つ。
1に、楽しんでるくせに、派手な事が好きな亜美ちゃんを演じて、天邪鬼に文句を言ってる。
2に、鈍感な竜児の態度に業を煮やしている。
言い換えれば
竜児は亜美の機嫌、良いか、悪いかまったく解っていなかった。
わざわざ、高須家に来てくれた事、ちょっとお洒落もしてくれているし楽しみにしてくれているはず
そう思い、亜美が機嫌がいい方に有り金、全額、ベット。覚悟を決めて竜児は強気で押す事にする。
「地味たってな。平安時代なんかは貴族達の一大イベントだったんだぞ」
「ふ〜ん。貴族って、よっぽど娯楽がなかったんだね」
「……この現代っ子」
そりゃものが溢れた現代と文明初期の平安時代は比べ物にならないだろう。
が、冷静に考えたらすごく贅沢な事ではないかと彼は思う。
なにせ、星という壮大なものが一年で一番美しい時を楽しむ事が出来るのだ。
日本の風習は自然という人の手では創れないものを慈しみ、寄り添うように暮らす文化だ。
おせいじにも贅沢な家庭で育ったなかった竜児はものごとの本質を知り、季節の豊かさを楽しむ術を知っていた。
その喜びを伝えたい気持ちがありこんな準備をしたし、自ら、亜美を誘った。そういう楽しみを知って欲しいという思っている。
自身の価値観を押し付けるなんて我侭だよな とは思うけれど、解って欲しかったし、自分がいいというものを見せたかった。
「でもさ、表情見てると飽きないけどね」
「なんのことだ?」
「月、月のこと。うんうん。さすが十五夜だね。すごいまんまるお月さま」
慌て気味の亜美の言葉に竜児の薀蓄の虫がリンリンと音を立てた。
「川嶋、十五夜だからって、必ずしも満月って訳じゃないんだ」
「え、そうなの?」
「太陽と月の角度、地球から観測点から観月に十五夜が最も適しているのは確かだが、それと満月であるかは関係無い。
たとえば前に満月だった十五夜は2005年なんだ。しかも、こんな晴天なんて滅多に無ぇえ」
「へー、そうなんだ、けど、それはどうでもいいんだけど……」
「おもしろいだろ、満月の月相は14と言われててるが、月齢は月と太陽の角速度が変動するんで、実は一定しないんだ」
「だからさ、それはわかったって、せっかく二人なんだし、もっと面白い話をさ……」
「まぁ厳密に言えば14.8日だ。つまり満月が15日の夜くらいが多い事は確かだけどな」
「……うざ」
亜美の顔つきが露骨に不機嫌になっていた。これは竜児でも解る。イライラしている。
なにか別な手をと思い用意していた他の薀蓄を捜すことにする。残念な事に太陽暦とか太陰暦は川嶋亜美は好きでは無いらしい。
はたして元嘉暦の方が良かったのかもしれないと少し反省。
「そういう話、豆知識なんてどうでもいいから、もう少しロマンチックな事しよ」
竜児は言葉につまる。亜美好みの話題……
「……あのよう、Moon Riverって知ってるか?」
「え、なに?」
「いや知らないかならいいんだ。それより月見団子どうだ。けっこう美味いぞ」
毒入りじゃないことを証明するために一つ摘んで頬張ってみる。
やはり伏見屋の月見団子は絶品だった。奮発した価値がある。
しかし、彼女にとってはあまり価値がないらしく、もったいないことに無反応。
「タイガーじゃないての。食べ物でつられてないんです亜美ちゃんは。団子より月だから」
「お前、月見、地味だって言ってたじゃないか」
「そうそう、地味で、生活感あふれてる月みたいな奴を、あたし、からかっって、観察するのすごく好きなんだ」
「趣味悪いな」
「男の趣味悪いってよく言われま〜す。それよりさっきの続きして」
ニコニコとした天使亜美ちゃん裏の、黒チワワ引かない雰囲気にしぶしぶと竜児は応じることにする。
「いや、すげー昔の曲なんだが、Moon Riverてのがあってな」
「知ってる。たしか古い映画で使われた曲だよね。へー、以外、高須くんの口からそんな名前が出るんだ」
「なら、この話も知ってるかもな。それにやっぱり俺みたいなキャラが話す話じゃないし」
「ううん。聞きたい。聞かせて」
「面白くないかもしれないぞ」
竜児は予防線を引いた上で話し出す。
「あの歌のシーンな、実はカットされそうになったらしんだ」
「名シーンなのに?」
「映画会社のお偉いさんはそう思わなかったんだと。
歌は浪々にと歌うものてのがその時代の常識だったからな、そもそも音が少し外れてた。
感情を出して歌うってるからって、少々の音ズレがなんだって役者の主張もあったが、
売れなきゃどうしようもないてのが上の言い分。たしかに主演女優は寂しげに語るような歌ってた」
「でも大ヒットしたよね」
「ああ、よかったと思う。歌なんだから、メロディラインとか、演奏が上手いとか、それが評価されるのが正論なんだろうが、
そういう、がんばりとか、思い入れとか喜ばれるのはな」
「彼女が公衆の場で激慌するなんてめったにないんだもの、気合はいってたんだろうね」
「……お前、やっぱりこの話知ってるだろ」
亜美は悪びれることもなく、当たり前と
「もちろん、亜美ちゃん、プロの女優だよ。彼女の映画、古典の必修科目だし」
「知ってる話なんか面白くないだろ」
「お話の価値って、情報が新しいとか、興味を引く所があるかとかそれだけじゃないんだって、
がんばりとか、思い入れとか、あの唐変木がどんな顔して、月ってつく曲のエピソード調べたんだろうとか」
「……似合わなくって悪かったな」
「お礼いってるんだから、素直に喜んでよ」
「お前のお礼がひねくれてるんだよ」
竜児は照れ隠しのむくれ顔、亜美はケラケラと楽しそうに笑う。笑いながら、
「じゃ、率直に文句をひとつ、あのさ、誘ってくれるなら、今度からもっと早く言ってくれない?」
「そうだったか?、そういえば直前か、すまん」
「高須くんがなんとなく準備してるのは知ってたから、スケジュール調整してたけど、
なんにもなかったら、OFFの時間、すげー寂しそうとか思ったんですけど」
「わりぃ。おまえ、仕事で忙しいもんな」
「まだまだ小さな仕事ばっかりだけどね。下手したら読モの時の方が雑誌の表紙とか、派手なの多かったかも」
「嫌なのか」
「別に、駆け出しだし、でもペコペコしてばっかでストレス溜まるかも、だからかな、こうやって息抜きするのも重要」
「ああ、お前詰め込むとこあるからな。しかしだったら、もっとメシとか豪華にすればよかった」
「あたしはティファニーで朝ご飯を食べた後でも、高須家の食事でおいしいって思ってるよ」
竜児は口下手の顔を見せ、朴訥に「お、おう、すまん」と応答し、口ごもる。
そんな顔を見て亜美は欲張りになる自分を認識してしまった。やはり、お団子だけでは口寂しい。
「やっぱりさ、ご褒美ちょうだい」
「調子のるなって」
「あ、口だけなんだ」
「……今月苦しいので、なるべくリーズナブルなものだとありがたいです」
「だ〜め。亜美ちゃん、高級品だし、そうだな、月旅行。今すぐあたしを月に連れてって」
「!、て、高すぎだろ」
竜児は亜美の唇を見つめて答える。
「そうじゃなくてさ、いろいろ曲しらべたんでしょ、あ、わかってる顔だ。あかいもの」
「……そんなうまかねぇぞ」
誰か見てないか周りに視線を配れば、満月が煌々と夜空を照らしているのみ、
竜児は言い訳を失い諦観して、目を閉じて待つ亜美の顔に唇を寄せた。
End
以上で投下終了です。お粗末様でした。
亜美いらね
奈々子様はやく
奈々子厨は本当にろくでもないな
他の書き手達を追い出すような真似して楽しい?
GJ
含蓄あるなあ……
オチへの持っていき方が上手い
ばかちー可愛い
乙乙また投下お願いします
乙
オチを少し解説して欲しいんだが
237 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/23(水) 19:29:23.41 ID:oYOQ4hny
>>236 233じゃないけど
Fly me to the moonって曲の詩を調べてみると分かると思うよ
全部書いちゃってもいいけど自分で調べてみたほうが楽しいと思う
>>237 調べてみた トンクス
陳腐なことしかいえんが うまいな
改めて乙
ロマンチックな話だなぁ
240 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/25(金) 12:36:17.27 ID:wB+NWNR6
こう気になった作者様がいらっしゃったとして、その人の他の創作物を知りたい時はどうすれば良いのだろう…?
下の3つをググるべし
竹宮ゆゆこ 保管庫
竹宮ゆゆこ 補間庫
竹宮ゆゆこ 補完庫
コテついてるならぐぐれば出てくる可能性もあるけど
そうじゃないなら基本的に無理じゃないかな
気になる人ほどコテもトリも無いし素っ気無い
244 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/28(月) 06:02:39.28 ID:KvTCeQEm
コテありだろうが、無しだろうが、我がスレは良質な書き手沢山いた
昔は、さすがに生き残りは少ないけど、まとめサイト乙
245 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/02(金) 05:19:13.72 ID:hq4rrGFx
あみちゃああああんん!!
SS投下町
駄作が投下されたら叩いてやんよ
ななこいマダー?
>>247 余計なことはしなくていい
お前はここに来るな
... -‐ ( ,'::.::::::>
. :´ > ⌒丶. . - 、
/ / ヽ \
, ' / 、
, ' / . :/ \
/ / : :/ ヽ.
/ / / /. :.,' ノ : .
.′,′. :i ,' : : ! /! ! i
| . :| . :八 /=ミ |' |/メ、| | .: | ト、
i : :i : :{ . :Y rぅ ヽ! ゝイ,.==ミ、 i .::: !リ>― 今日は子供たちを預けてきたから
_.人 八: :ハ : :j ゞ' rし 》′ . :.:::ノ´:::: ̄ 明日はパパ(竜児)と二人きり〜
ノし...ィ.. -‐::´::::::::::::::::/::::::ヽ: :{ヽi ⌒ , 、ゝ゚' / /..:イ.::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::iヽ八  ̄厶ィ´ 彡'.:::::::::::::::::::: 久しぶりに水いらずで過ごせる……にへへ
:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::. . -‐ "´乂____ヽ マ::::::.....、 ノ.::⌒`ヽ:::::::::::::::::
:::::::::::::::::::::::::.. -‐ "´ 丶.二二ノし'.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::
:::::::.. r<´ ノし(ノ`.::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::>
´ >ー(\ ...:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::. ´
. ノノ 7 ) (ヽ . . ..::::´:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::. ´
___ ノ ノ ノ<:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::> ´
. ゝ--、 ´ /ヽ. ヽ:::::::::::::::::::::::::::::::::::. ´
ヽ / } j::::::::::::::::::::::.. ´
ゝ--――j__ノ:::::::::... ´
`  ̄
_ /⌒\_
´: : : : : : : :〉`丶、
/ : : : : : : : : :>⌒ヽ^ヽ
,′/: : /: : : : : : : : '; : \
| :/ : : : : : : / : : : : : : j : : : ヽ
|/ : : /: : : / : :/| : : : / : : : : :'.
j: : : /.: : ://厶jノ:_:厶イ : : :j | 竜児ったら……
,′: ;′: :.{.//////////{:/j 八|
/: : : {八 : 丶 /゙)ー‐、ィ}_:イ ノ
/: : : : {\ヽ〈 `Y´ 二フ: ∧\
/: : : : :/V´ヽ:.∨⌒`< ̄}: /ハ : ヽ ムフフフ
/: : : : : /:{ ⌒∨ 〉/:./┴、L; : )
(: : : : : : :{ : ', /⌒\__/ {: :ハニ. Y∨
、: : : : : : : : ∨ / / O{: {├--〈 }ヽ
\: : : : : \∨{ /|| ∨ j\\\/
ノ: : : : : : : j{ ∧|| O || } 〉 〉 〉
( : : : : : : : 〈 \_,/ || || { / / /
\: : : : : :/ ー=|| ||==} / /
、__):ノ: :/ヽ /|| O || |___/
落とすには惜しすぎるスレ
頼む
続いてくれ
とらドラはキャラスレだけなん?
言ってる意味が正確に把握出来ないから答えになってないかもだけど
他のスレってと、本スレがけっこう盛ん。空気が合わない人もいるみたいだけど
VIP系に頻繁に立つみたいだし、他にもいろいろあるよ スレ検索してみたら?
>>254 ゴメン分かりにくかった
カプのとらドラのssが少ないからさ
アニメキャラ板の大河×竜児スレだけなのかと
>>255 ありがと
ほしゆ
保守
BD買った人、どうよ新作は
「俺の弁当を見てくれ」らしいじゃん
260 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/22(木) 00:56:16.24 ID:kKEzqcU8
スゲー良いぞ
詳しくは本スレ見てみ
1話に3万は後悔しない。していない。
オチはスピンアウトと違ったみたいだねえ。
BD良かったよな 久々にきたよ
菜々子様で盛り上がったのが懐かしい
ななこい来てたのか、ありがたすぎる
とらンスはよかったな
268 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/26(月) 02:07:13.43 ID:9sKoytN5
Happy ever after の作者様は今何をしていらっしゃるんだろう...
Happy Everydayとか題してHappy Ever After完結後の現在進行形のイチャイチャな
日常SSを書いてくれないかなー(チラッチラッ
このタイトルに異論は認める
乞食しかいねえのな
と、乞食がもうしておりますw
さらに乞食で申し訳ないんだが保管庫にあった話のログの在り処を知ってたら教えてほしい
たしか竜児と亜美の話で、竜児が学校で高熱出してるのに平気で大河の世話焼いてて
亜美が家に帰って母親とその話をして、家族ごっこじゃなかったのか〜みたいな話になって
居た堪れなくなって?亜美が転校しようとするのを、竜児が引き止めるような話があったはずなんだが
誰かログを持ってないだろうか?
G/Wさんの"そんなこんなとらドラ"やね
BDの新作アニメ記念に、ここはひとつSL66氏にSSを…
>>273 やっぱりこれであってたのか
補間庫にある”そんなこんなとらドラ”がそれっぽいなと思ってたんだが
どうやらまとめられてるのは続編の”そんなこんな昼ドラ”かららしくて
覚えてた部分が見つからなくて混乱してた。
探してもどこにもなさそうなんで、スレの過去ログ直で見てくる。
ありがとう。
新作アニメやっと観たが、アニメだと竜児ウザさ倍増だな
怖顏は良かったがw
オチが竜虎らしくてCPスレの連中は狂喜乱舞していただろうな。
亜美ちゃんにはワンチャンスすらなかったが(´;ω;`)
そんな傷心のわたしは98VMさんのローマの休日の新作を待ち望んでいます。
いい加減しつけえ
保管庫の本音サミットという作品を見て思った
これ書いた作者は良く訓練され過ぎだろ。良い意味でマジキチ
>>279 同意wwwキャラクタの思考とか発言がそのまんま本家www
ただしその人気ぶりを妬んで作者さんにいつまでも粘着&ディスりまくる真性キチが
生まれたのが唯一残念なところ(サミットの作者さんには何の落ち度もないのに)
作者というか儲がきめえんだけどな
いやあ、実際に作者をディスりまくってたよ
他の執筆者がうpした直後に現れるとかさ
駄作だとかさ
あんな書き込みして何が面白いのかスゲー不思議だった
荒らしは荒らしに来てんだから仕方ない
お前らが話題にしてるからとりあえず見て来たけど言う程面白いじゃん
選ばれなかったパターンのオチが中々秀逸だった
あけおめ保守
287 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/05(木) 18:30:29.53 ID:finMbfXn
ことよろ保守
田村くんかゴルタイの SS まだ?
保守
保守
キャラ板の竜チワスレ落ちたみたいだぬ( ・´ω・`)
そうなんだよね。まぁ、書き込みしてても急に他のスレも落ちだした感じだし
みのりんやあの大河スレでさえ途中で落ちたからね
けど、スレの立て方が解らないので復活の仕方がわからない!
私にもいれてよぉ
大河スレの人は良い人だあ
ありがとうございます
>>294 俺でいい?
>>293 いつの間にか落ちていたのか
スレ立て乙
297 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/18(水) 23:39:06.54 ID:x+3957MO
あげぽよ
良質な書き手が一杯いて賑わい、作品の終わりと共に廃れていく
7年くらい前のスクランスレを思い出すなぁ…
スクランは原作漫画しか読んでなかったなあ
せっかく亜美ちゃんスレ立ててくれたのに規制された
台本SSはあっちにしか落とせないし
こっちは書けるかな?
どうぞどうぞ
お願いしますけん
誘い受け乙
305 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/24(火) 22:16:54.69 ID:p8tiwBUh
本当にここは名作が多いよな、書き手のみなさんががんばってくれたおかげで
>>305 何で過去形なんだよ
ここはオワコンだっていいたいのかよ
ゴールデンタイムはもうちょっと話しが進まないと、妄想が湧いてこない…
制服がない大学生というネタがネック
なあいまさらだけど結局北村と会長はなにもなかったの?ゲームとかでも
ない。残念ながら
彼女にとらドラ!見せたらキタムラの裸のことしか話さねえ・・・
10巻で北村がお金貯めてる描写があったけど
渡米用に準備してたんじゃないの
>>312 それを何かあったとは言わんだろ
その後、何かあったかもしれんが劇中では何もない
313 名前:名無しさん@ピンキー [sage] :2012/01/26(木) 15:59:09.67 ID:JcSHdD3c
>>310、12、13
d
ないかー妄想で補完するか
とらドラPに北村が会長と一緒にNASAに入るってルートなかったっけ?竜児付きだけど
身内の結婚式に出席するため一時帰国したすみれと北村をくっつけようと亜美と竜児&大河が暗躍するルートがある
その中のエンドのひとつで竜児がすみれに気に入られて「生徒会で北村を支えてやってくれ」と頼まれるものがあって、
すみれは竜児と北村に生徒会の職務をまっとうして卒業したらアメリカに来いと誘い、二人は約束を果たしてNASAの職員になる
そして北村とすみれの関係も新たな進展を迎えて竜児はその立会人という形で終わる
てすと
久しぶりです。前回の応援ありがとうございます。ちょっとした小ネタを投下します。
・奈々子×竜児
・竜児陵辱のテーマは相変わらず
・ちょっとした自虐ネタも含めた戯言
ただ、楽しんでいただければ幸いです。
町のどこかにある、古いアパートの一室。
壁の向こうから響いてくる、市街地を纏わる何の変哲もない雑音。
ブラインドの隙間から零れる光もまた無色であり、極めて味気のないものだった。
「…なあ、香椎…そろそろ出してくれないか…」
ベッドの上で拘束される竜児はそう懇願したが、その声は発条が軋む音に埋まれそうだった。
「うふふ、慌てなくて良いわ、今出させてあげるから。」
「ち、ちがう…!」
奈々子は彼の質問に直接応えず、ただ腰を振り続け、その願望を拒絶する意思を体に刻み付けていた。
清楚な顔立ちにそぐわぬ、欲望に満ちた胸元の果実が、下半身の蠢きに続いて、生き物のように跳ね回る。
「う…うっ…俺は…また…」
そして間もなく、奈々子の予告通りに、竜児は彼女の中に果ててしまった。
「ん、はぁん…これでようやく、今日の一番搾りね。」
情欲に燃える心、そして火照る肌。
吐き出される精液に腹の奥の神経を触れられ、一粒の汗が額から頬に流れ、顎の柔らかな輪郭をなぞって、竜児の胸板に零れ落ちる。奈々子から温もりを吸い取った水玉が不気味に生温く、それを疎ましく感じた竜児はぞっと身震いをした。
奈々子はゆっくりと体を引き離し、緩々と萎えていく竜児の陰茎を解放した。その後に体勢を変え、両手で竜児の股を開き、次回の交わりのために生気を与えべく、再び彼の物を持ち上げた。
彼女はまず先端部を唇で挟み、首を伸ばして口元をゆっくりと前進させ、巻き戻しつつある包皮をまた剥き始める。
皮の裏に残る二人の味に反応し、奈々子は無意識に股を擦り合い、仄かな快感で快楽への欲望を満たそうとしていた。鴆を飲みて渇を止むがごとき、かえって彼女の腹の中に痒い温もりが広げるばかりであった。
しかし彼女はそれでも冷静さを失わないで居た。彼女は性器に付いた液体を吸い取りながら、唇で柔軟な海綿体に按摩を施し、敏感になっていく神経に過度な刺激を与えることなく、舌先で亀頭を優しく愛でる。
「香椎…頼むから、俺を外に出してくれ。俺は…俺は主人公やらなきゃダメなんだ。
ここに篭り続けると、このスレはつぶれてしまう。頼む…香椎…」
腫れ上がっていく欲望の塊に警戒しつつ、竜児はもう一度香椎に懇願した。
疲れと諦めの色に曇っている故、その顔から微細な感情表現が判別できない。
しかし、火を見るよりも明らかに、彼には奈々子を受け入れる意思がなかった。
「だーめ。
あたしヒロインじゃないから、高須くんに主人公やらせたって、なんの得もしないもの。
こないだ野放しにした結果、また手乗りタイガーとイチャイチャしてたんでしょ?」
「それは…俺が大河のこと好きじゃなかったら、そもそもとらドラは成立しなかったんだ…」
「童貞奪ったの、あたしなのにね。
その『好きな人』があたしだったら、こういう目に遭わなかったじゃない。」
「俺は、香椎のことも…結構好きなんだ。好きなんだけど…俺には…大河が…」
「んっ、ぐ、あぁ……はぁん……不本意にもその言葉だけで軽くイっちゃったぁ。
うふふ、ありがとう高須くん。
でもね、あたしのこと『が』好きって言ってくれないと、あたし満足しないよ?
ちゅっ、ちゅ、ちゅる、ちゅ」
奈々子のやや否定的な言葉とは裏腹に、竜児の股間にキスの雨が降り注いだ。
上機嫌に竜児の男性器に付いた汚れを舐め取った奈々子は、突然竜児から離れ、
そっと扉の方向に――――――――
――――こんなところで覗きなぞしていた貴方に――――
――――ゆっくりと迫ってきた。
「貴方、何時までここに居座るつもりなの?」
貴方は恐怖に襲われ、ここに居た堪れなくなり、座り込む姿勢から慌てて立ち上がった。
身体を冷たく矢抜く視線に、貴方は怯えて、逃げだそうとした。
しかしその震える両足で走り出せるわけもなく、立ち上げた途端にその場で倒れ、
一歩も走り出せないまま、また座り込んだ。
奈々子の目に直視することできずに、足元に視線が逃げた。彼女の言葉を待つ他なかった。
「あたしの身体と、エッチでイくところはね。高須くんにしか見せたくないの。」
貴方は床に水の気配に気づいて、その途端に内股の部分から垂れる白濁の筋を目にしてしまった。
片手を腰に当てて仁王立ちする彼女の花びらから、ドク、ドクと精液が零れ落ちる。
ニーソックスしかつけていない無防備な下半身にも、驚きを隠すことなかった。
少しだけ頭を上げると、とっさに身に付けた男物のワイシャツから零れそうな肉感的な乳房が見えた。
未だに硬いままの乳首が薄い布を突き上げ、うっすらと形を現した。
「……いやらしい目付きね。そういう目で私を見て良いのも高須君だけよ。やっぱり目玉潰した方が良いかしら」
そう脅されながらも、貴方は奈々子の体に視線を釘付けた。
自らの最期が迫りくることを感知し、この光景を一瞬たり見逃すことが惜しいように、目を離せなかったのだ。
「…そうね。ここで見たことを忘れて、代わりにあたしが高須くんとイチャイチャする話をSSにしてくれたら、許してあげるわ。」
そして決断する時が来た。決断する機会を与えられたのだ。
「――――ねえ、どうする?」
貴方は
1. 帰ってオナニーしてSSを書く
2. 奈々子様のエロい格好を高速で嘗め回すように鑑賞しながら殺される
前に書きかけた物の続編はまた…今度で…。Orz
では。
ごっつあんです V
GJ!
ああ……久しぶりにSSで抜いt……(;´Д`)ハァハァ
いや、お久しぶりです。
以前季節タイトルの竜児達の晩年を描いていたお方?
あれ良作なのでまた続きを読みたいです。
GJ
面白い構成w
くそつまんねえ
GU !
BJだKS
悩ましげなエロさGJ
びびったwwwワロスwwww
文章そこそこ巧いけどくだらねえwww
これでオナニーできるとかどんだけ早漏なのかはちょっと瑞々しくていいな。
他作品の他キャラやオリジナルで済むものをとらドラ!に沿わせて書ける神経は厚かましくてまたそれもいい。
恥ずかしいと自覚してないのが若さだからなw
こんなのにGJだの面白いだのとお世辞レスがつきまくる程過疎なんだな
確かに
>>332-333 じゃあ本当に面白いSSの投下を頼む
リスペクトしてる続編希望のエタSSの続きでも良いよ
IFルートって感じで
スルーをお願いしますけん
高須棒姉妹の続き見てえ
>>336 あれそんなに良かったかなあ
タバコは百歩譲って良いとしても(細かいことを言えば違法だから良くはないが)、
竜児のセックス中の女の子の扱いがぞんざいで悪い印象しかないや
336じゃないけど
良いか悪いかなんて、そんなん人それぞれでしょうが…
〇〇の続きまだとか、バカみたいに同じこと繰り返してるしつこい奴ってバカなの?
奈々ドラとかの続編を作者さんが書いてくれた事もあるし
いいんでない?
BDで新作が出るから作者のモチベーションが出ただけなんじゃないかなあ
きっかけとして、公式でまた何らかの新作が出ないと更なる続きを書いてくれるとは思えないよ
こう考えると本当にオワコンなんだな……
相馬って田村が松澤と結婚しても離婚するの待ってそうだな
偶然同じ大学に入学して偶然同じ会社に就職して偶然隣家に引っ越してきて
おひげガール読み返すと、そこまでキテいないといいつつも壊れ始めているように見える
自分は松澤の方が心配かな。
松澤は、田村と結婚できなかったら独身かお見合い結婚になる気がする。
相馬は新しい人を見つけて幸せになれそうな気がする
やはり過疎化してんな…
久しぶりに書こうかな
相馬か大河でたのむ
誘い受けうぜえ
田村くんか GT の SS を
GTって世間的にも地味だね。やっぱアニメ化が必要なのか
ネットイナゴ的に
題材が大学生という時点で人気は出ない
何というか題材が何も思い浮かばないんだよGTは
巻数進んでも書けるか疑問…
そういう書けるんだけど〜アピールして何がしたいの?
そこを何とかお願いしますとでも言われたいの?
純粋な意見かと、おねだりした俺が言ってます
>>352 すみませんでした
>>353 そうだな思わせぶりは良くないな
けどこんなのどう?的な空想もでないと言いたかったんだ
お前の無能ぶりをアピールされてもだから何だよとしか言えねえんだけど
ほ
359 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/20(月) 16:54:08.21 ID:xtYTI5/y
いーじゃんこっちにものせるべし
360 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/20(月) 17:32:01.98 ID:m9PXw1yF
何これ
レス少ないと思ったら規制中か
単に過疎なのと
>>358が普通に面白くないからじゃないの
会話だけなぞらえられてもねぇ…
最後のやつだろ
まぁ、それでも及第点くらい、乙って感じ
いいすぎた
読み返したら嫌いじゃないなと思った、なんか来るものがある
勢いで書き散らかした感はあるが
tesu
解除されてた!つうわけで投下します。
タイトル とちドラ!
時期 2年の始業式(物語の最初から)
設定 あのキャラが最初からいたら・・・のIF話です。
では投下します。
「こんなもん、うそっぱちだ」
鏡の前に立つ少年はそうぼやく。
進級、新学期を迎えるにあたって彼、高須竜児はイメチェンを考えていた。
『人間外見より中身が大切』なんて言われるが、
人は、特に初対面の時はどうしても外見で印象を決めざるを得ない。
とりわけ思春期の高校生は身だしなみに過敏だ。
竜児はそんなに着飾ったりするタイプではない性格だが、イメチェンをしなければならない理由があった
悪いのだ。目つきが、物凄く。
彼の鋭い三白眼の印象はすさまじく、ひとたび目が合えばどんな相手もうろたえる。
ただ道を歩くだけで人々に避けられ、肩がぶつかろうものなら財布を差し出され、
買い物をするだけで万引き犯と誤解され、先生に会いに行けば脅迫と勘違いされる等々・・・
「おう!?カ、カビてる・・・カビてるぞ。くっそ」
しかし彼はそんな外見とは裏腹にすごくまじめで誠実な少年なのだ。
無遅刻無欠席で勤勉、さらに趣味は掃除、洗濯、料理等の家事、と
いたって普通で優しい少年なのだ。
幼少期に『極道君』なんてあだ名をつけられても、きっと中身を理解してくれる人がいる。
そう思って生きてきた。そんな少年の別の物語・・・・
今日は新学期、2年生に進級した竜児にはクラス替えというイベントが待っていた。
竜児にはひそかに同じクラスになりたいと願う人がいた。
そしてその名前と自分が同じクラス欄あった時、竜児のテンションは一気に上がった。
クラス替えということでその結果に一喜一憂、悲喜こもごもで騒がしく、いろいろな声が生まれる。
「おい!見ろよ2−Cんとこのこの名前!!」
「うっそ!!なんで!?同姓同名!?」
「なんで俺はC組じゃないんだああああああああああ!!!!」
「おおおおおお!!!マジ俺勝ち組ぃぃぃぃ!!!」
2−Cは竜児が所属することになるクラスだ。
しかし今までも自分と同じクラスと決まったと知ったとたん落ち込む奴もいたし、
それにこの学校には『手乗りなんとか』という自分とは別の有名人もいるらしい。
さらに竜児はうれしさのあまり周りの声が耳に入っていなかった。
そして気付かなかった。いつもと喧噪の雰囲気が違うことに。
新しいクラスに意気揚々と入ろうとしたのだが、2−Cの前には人だかりができていた。
すれ違う人は
「マジ本物!?うそーーーーー!!」
「ああ・・・俺死んでもいいかも・・・」
「やべええ!!他の学校の友達に自慢しよう!!!」
「ちっ・・うざ。なんなのよこの騒ぎ」
一部違う声もあるが、2−Cに何かあるらしい。
どうしようか立ち尽くしていると
「よう高須!なんだ?こんなところでつっ立って?」
「お、おう。北村か。いや…なんだか入りづらくてな・・・」
「なんだ、俺たちのクラスじゃないか。何やら騒がしいが入ろうとしよう。」
去年、そして今年も同じクラスの丸メガネに坊ちゃん刈りの親友、北村祐作と共に教室に入る。
教室の1番窓側の隅っこの人だかり、未だに状況につかめない竜児は北村に質問する。
「なぁ北村、この騒ぎはなんだ?」
「ああ、俺の幼馴染が転校してきたんだ。」
「幼馴染!?なんでお前の幼馴染が来ただけでこんな騒ぎになるんだよ?」
そう声を荒げる竜児、確かに北村は生徒会役員でこの学校ではちょっとした有名人だが、
その幼馴染が来ただけで人だかりができるだろうか。
「いや、幼馴染って説明じゃ不足か。それより実際に会った方が分かりやすいな。
おーい!亜美!」
その一言でクラスが静かになる。そして皆の視線が転校生からその子を呼び捨てにした野郎に集まる。
「あっ、祐作おっそ―い」
「えっ!えええええっ!?まるお、亜美ちゃんと知り合いなの!?」
北村の呼びかけに転校生が反応すると、話しかけていた女子が驚く。
そして転校生を囲っていた円が北村の方だけ開く。そこに現れたのは美少女だった。それもかなりの。
無邪気にこちらに手を振る美少女は可愛くもあり綺麗、まさに『美少女』という言葉にふさわしい子だった。
そして流行り事や芸能にあまり興味のない竜児でも見覚えのある顔だった。
「川嶋亜美、モデルをやっている子で今年から転校してきた俺の幼馴染だ。みんなも亜美と仲良くしてやってくれ」
「もう・・・祐作ったら・・・皆さん、こんな私でよかったら仲良くしてくださいね。」
北村の紹介に天使のような笑顔を見せる亜美。それに「当然だぁぁぁ」などという声があちこちから生まれる。
なんて礼儀正しく綺麗な子だ、などと竜児があっけにとられていると
「もしかして祐作の友達ですか?亜美です、よろしくね!」
と話しかけられ手を握られる。突然のことに竜児は『お、おおう・・』としか声が出なかった。
握られた手の感触はあってないような位に竜児は動揺した。
そして竜児は異性に慣れていない。そんな男が世間も認める美少女から手を握られてしまった。
これでときめかなかったら男子高校生ではないだろう。
「亜美、いきなり手を握られたから高須もびっくりしてるじゃないか」
「やだあ・・・!あたしったら・・・。初対面で馴れ馴れしいよね・・・
高須君!でいいんだよね?気を悪くしたらごめんなさい・・・。」
北村がそう言うと亜美は握った手を慌てて離す。
亜美の謝罪にも竜児は「いや・・・そんなことは・・・」とつぶやくしかできない。
『むしろ嬉しいよ』などと気の利いたことを言う余裕などない。
「また失敗しちゃったあ・・・今度こそクールで知的なおねぇ系を目指そうと思ったのに・・・
こんな天然なあたしでよかったらよろしくね!高須君!」
と天使のような笑顔で手を振り元の所に亜美は戻っていく。
話していた女子に「高須君、怖くなかった?」なんて聞かれているが「ううん。全然!なんで?」
なんて言ってくれるのも嬉しい。
「北村!なんなんだよあの子。すごくかわいくて、すごく性格いいし、緊張して意味不明になったぞ」
「そうか。確かにかわいのは俺も認めるが・・・性格がいいか。そうか・・・」
いまだ興奮冷めやらぬ竜児に北村は口ごもる。その理由を聞こうとしたのだが
「いくらヤンキーとはいえいきなり亜美ちゃんに手を出すなんて・・・」
「羨ましい、羨ましい・・・」
「俺も手握りてえええええ。おのれ高須め・・・」
などと生まれて初めてかもしれない殺意のこもった視線を浴びる。
居心地の悪くなった竜児は追求をやめ「トイレ行ってくる。」と北村から離れる。
『あんな子と1年間過ごせるのか』と夢見心地で教室を出ようとする、とぼふんと腹部に軽い衝撃があった。
「っつ・・・?」
何かがぶつかったようなのだが、目の前にはなにもいない。辺りを見回すと
「高須くん・・・亜美ちゃんの次は手乗りタイガーか・・・」
「一気に頂点を目指すのか・・・さすがだな」
なんて言う声が聞こえてくる。わけがわからない竜児が首をひねっていると
「…ひとに、ぶつかっておいて、謝ることも出来ないの…?」
怒りをかみ殺したような静かな声が聞こえてくる。恐る恐る声の聞こえてきた方
視線を下におろすと、そこに居たのは『お人形』のような小さく、美しい少女。
だが彼女がまとう雰囲気はどう猛な肉食獣のようなもので
「手乗りタイガー?」
周りから聞こえてきたそのフレーズが、ぴったり目の前の少女に似合う。
手乗りサイズの小ささ、そして野生のトラのような・・・・
「……!」
気が付いたら竜児は天井を見つめていた。そして遅れて感じる頬の痛み。
『ああ、殴られたんだな』と、竜児は感じる。
「ったく…どいつもこいつもほんと腹が立つ・・・」
そう吐き捨てた手乗りタイガーがその場を去る。
『手乗りタイガー・・・ぴったりじゃねえか』、と竜児が感心していると
「大丈夫?」
と声を掛けられる。
その声の正体は、大橋高校に舞い降りた天使、川嶋亜美だった。
「!?」
殴られた後で未だ状況に整理がつききっていないところに先ほどの天使に声を掛けられた竜児は声が出ない。
「大丈夫?立てる?今の子ひどいよね?ぶつかっただけなのに高須君を殴るなんて・・・」
『ぷんぷん』とかわいらしい声が聞こえてくるような怒り方
未だ声の出せない竜児だが顔が、体全体が熱くなるのを感じる。
『かわいすぎる』
今まで抱いていた恋心を忘れ、新たな恋心を抱くには十分だった。
亜美に手を差し伸べられ立ち上がると
「また手を握っちゃったね。」
なんて微笑みかけられる。
「亜美ちゃん優しいね…」
「ほんとにいい子だよ」
「やはり最強は手乗りタイガーか」
「またしても高須・・・万死に値する」
「っていうか高須って見た目怖いだけでいい奴だぞ?」
といろいろな声が聞こえてくる。
他方から「やっほう!たいがあ!」なんて声も聞こえたが竜児目には目の前の天使しか映らなかった。
2−Cでの生活に慣れ始めた4月のある休み時間
すっかり2−Cの人気者になった亜美の周りにはいつも人が集まっている。
「しかし川嶋さんもすっかりうちの学校に馴染んだな。あれだけいい子だし当然か」
「なんだ、高須は亜美のことが気になるのか?」
「そう言うわけじゃないけどよ。ただなんとなくだ」
そう竜児と北村が話してる。
「高須は亜美と話したりするのか?」
「いや…軽く挨拶するくらいだな。川嶋さんとは・・・」
始業式から数日経ったがあの騒動以来、竜児は特に亜美と話すことはなかった。
朝や放課後にあいさつしたり、すれちがったときにふと目があったりとその程度の関係。
もともと気軽に女子に話しかけられる性格でない上に、相手はどんな男子も狙う人気者。
北村以外と親しそうな男子がいないのが救いだが、常に他の女子といるため話すこともなかった。
「そうか、まあ亜美は・・・」
「なあに?あたしの話?」
「おう!?」
北村が何か言おうとしたとき、不意に声を掛けられる。
「ひどいな祐作・・・あたしの陰口?」
「そんなことないって」
亜美の追及にそう北村が苦笑いしながらかわす。
「高須君と2人であたしの話・・・?なんだか恥ずかしいな・・・」
「いや・・・川嶋さ・・・」
「亜美・・・って呼んでほしいな」
「っつ!?」
当然の申し出に困惑する竜児だったが、亜美のチワワのようなまなざしに赤面し、
「あ、亜美ちゃんは人気者だなって。」
「うふ・・・ありがとう・・・ってそんなことないよ・・・
むしろこんなあたしと仲良くしてくれるみんながいい子だよ」
やけくそ気味に名前を呼ぶ竜児に笑顔で謙虚な対応をする亜美だが、
「・・・!!」
亜美はなぜか辺りを見渡す。それに竜児も感じた。熱いというか何か鋭い視線を・・・
「そろそろ次の授業が始まるから戻るね・・・またね、祐作、高須君・・・」
「ああ」
「お、おう」
そそくさと自分の席に戻る亜美、竜児も周りを見たが今の視線の正体はわからず、
「そうだな、俺達も次の授業に用意をするか」
「ああ」
なにも気付かない感じの北村がそう言う。
竜児も次の教科書を取るために廊下に出ると
「ちっ」
「おお…」すれ違いざまの舌うちに竜児は反応できない。
舌打ちしたのは手乗りタイガーこと逢坂大河。あの後いろいろな話を聞いたが、
相当な有名人で、相当凶暴で、相当な美少女。
新学期の一件以来、竜児は逢坂大河の知り合いになったようだ。
知り合いといってもすれ違ったり、目が合うたびに舌打ちや睨まれるだけなのだが…
温厚な竜児からしたら出来れば近づきたくない相手。
だがあの後、特に殴られたり何かされたわけではないので大人しくしていれば問題ないだろうと竜児は思う。
「じゃあ竜ちゃん、インコちゃん!行ってきまーす!」
「イッイイ・・・イテラ・・・」
「気をつけてな」
「は〜い」
いつもの高須家の夕方、職場に向かう泰子を送り出す。なんとなく玄関から外を見ていると
「おう、あれは・・・」
辺りはすっかり薄暗くなっていたものの、あの髪形、恰好は川嶋亜美のものだった。
「亜美ちゃん・・・だよな・・・こんな時間まで制服で何していたんだろう?
それになんでここに?この辺に住んでるのか?」
見上げると隣には10階建ての豪華マンション。亜美のようなセレブが住むには十分なマンションだが…
「まさか、な・・・さて、家に戻るか」
そんな出来事があっても竜児は亜美に『昨日、遅くまで歩いていなかった?』なんて聞ける性格でもない。
今日も彼女はクラスで主に女子たちと仲良く話していた。
その日の放課後・・・
竜児は担任の先生に呼ばれていつもより遅くまで残っていた。
担任の恋ヶ窪ゆり(29)に怯えられたため少し長引いたが用も済んだ。
しかし、考えてみればクラスメイト達から誤解が解けるのがいつもより早い気もした。
去年から同じクラスの人の達のおかげでもあるし、更に、
周りが大人に成長していき、より内面を見てくれるようになったからであろう。
だが大きいのはやはりあの2人の存在だ。
自分より強い存在、自分より目立つ存在がいるのは誤解を解く上でありがたいことだった。
逢坂大河はともかく川嶋亜美には本気で感謝している。そう思う竜児であった。
帰るため、カバンを取りに教室に向かうと声が聞こえた。それは聞きおぼえがあるようでない声だった。
「あらぁ・・・どうしたの逢坂さん・・・そこ・・・逢坂さんの席じゃないでしょう?」
聞こえるのは甘い声、しかし竜児の知る彼女の声、というには口調と雰囲気が違った。
そしてどうやら逢坂大河もいるらしい。すると
「…!?なんでお前がいるんだ!?」
「なにを言ってるの逢坂さん。あたしもこのクラスの人間よ?自分のクラスに居て、なにかおかしい?」
すっかり教室に入りづらくなった竜児。何やら険悪な雰囲気である。しかし疑問である。この2人、仲が悪かっただろうか?
確かに大河は1人を除いて誰も寄せ付けない雰囲気を出しているし、亜美は誰にでも笑顔を振りまいている。
対極的な2人であるが、特に揉めたりしたことはなかったはずだ。
しかし何だこの雰囲気は。まさに一触即発、いてはいけないような気もしたが、竜児の足は動かなかった。
「そ・れ・に・・・今後ろに隠したものはなにかしらぁ・・・」
「なんでもいいだろ!寄るな!くそ女!」
「高須君の席で・・・今後ろに隠したもの・・・うふふ・・・さては・・・」
「えっ!!高須!?嘘・・・だってここは・・・」
お、俺の席・・・?動揺する竜児。より一層聞き耳を立てる。
「逢坂さんって・・・高須君のことが好きなのかしらぁ?」
「な・な・な・・・・」
「おう!?」
「・・・!?誰!?」
「やばいっ!?」
なんとも衝撃の一言に、つい言葉を出してしまった竜児。亜美に気づかれたようで慌ててその場を離れようとしたが・・・
「!?高須君!?ちょっと待って!?」
と、追ってくる。しかし竜児は言葉も発さず一心不乱で逃げる。理由は思いつかなかったが、逃げないといけない気がしたからだ。
竜児も体力に自信はあったが、カバン片手の亜美を振り切れない。
すると目の前には見知った眼鏡の生徒がいた。
「祐作!!高須君を捕まえて!!」
「?ああ、こうか?」
「おう!?・・・って離せ北村!」
さすがの反射神経というべきか、全力疾走中の竜児を片手一本で難なく捕まえる北村。
振りほどこうとしたものの逃げられない。そして亜美に追いつかれる。
「はぁ…はぁ…もう・・・なんで逃げるのかな?高須君・・・?」
息を整え、いつもの笑顔、いつもの口調で竜児に迫る。亜美。だが、
「・・・!!」
息をのむ竜児、なぜかこの時、竜児は亜美のことを怖いと思った。
「あたしと逢坂さんの会話聞いてたのかな?」
「・・・いや・・・聞いてない。」
「・・・じゃあなんで逃げだしたの?高須君・・・?」
「っ・・・」
亜美は笑顔で竜児に聞くのだが、竜児は気押され、苦し紛れの嘘も意味がなかった。
無言のまま嫌な沈黙が続くと・・・
「なんだ、亜美の本性を知って高須が逃げ出したんじゃないのか」
「!!ゆ!、祐作〜何を言ってるのかなぁ…亜美ちゃんわっかんな〜い」
一瞬亜美の顔がゆがんだが、すぐにいつものスマイル、「本性?」と竜児が不思議がっていると
「亜美はな・・・」
「ちょっ!祐作!何を言おうとしてるの!?」
明らかにうろたえる亜美。そして
「甘ったれでわがままで横暴、更に意地が悪い、わがままお姫様っていうのがが本当の亜美だ。
クラスでの『みんなに好かれるいい子』ってのは亜美が『演じてる』姿だ。」
「ゆうさくぅ〜なんでそんなこと言うのかなぁ〜たしかに昔はそういう面もあったけど、今はもう違うんだよ」
「・・・」
否定する亜美だったが北村はあきれたのか憐れんだのか分らないが言葉を発さない。
すると
「北村!まだやることがあったのを思い出してな。すまんが戻ってきてくれないか?」
姿は見えないがやたら男前な女性の声が聞こえる。
「はい!わかりました会長。」
その呼びかけに身を返そうとすると
「ちょっと祐作!まだ話は・・・」
「すまない、話はまた今度な!」
亜美が引きとめようとするが北村は来た道を引き返していく。どうやら生徒会の用がまだ終わってなかったようだ。
よして残されたのは竜児と亜美。
「ねえ高須君・・・今の祐作の言ったこと・・・信じる?」
竜児に背を向けたまま、亜美はそう問いかける。
「俺には何が何だか・・・すまん、わからない・・・」
「そう・・・わからないんだ・・・」
状況がよくつかめない竜児はどう答えたらいいかわからず、うつむきながら、お茶を濁すような答えしか出せなかった。
対して亜美の口角が上がる。そして振りむき、いつもの笑顔で
「わからないならいいや!じゃあね高須君!また明日!」
「お、おう、じゃあな」
完璧な笑顔で去る亜美、竜児は出す言葉に窮し、去りゆく少女の背中を黙って見つめるしか出来なかった。
その後、竜児はカバンを取りに教室に戻る。亜美のことはあまり考えないようにして・・・
教室にはすでに逢坂大河の姿はなかった。
(そういえばあいつ・・・)と逢坂のことは気になったが、いない奴のことを考えても仕方ないと思い帰途についた。
今回分はこれで終了です。しかし長い付き合いになりそうな・・・
よかったらこれからお付き合いください。それではまた!
乙!
乙です!いやあ続きが楽しみだ
みのりんが空気ってレベルじゃないなw
>>358 >>376 GJ乙。
久しぶりにスレを覗いてみたらあーみんが居て嬉しいよ
もっと書いていいぞー
乙!面白かった
確かにこれは長編になりそうだねw
応援してるよー
>>376 GJ、おもしろかった。キャラが書けて良い感じ
是非長く居てくださいな
話はもっとゆっくりでもいいかんじ、先に進みたいならエピソード端折るかでしょうか?
>>358 こっちも面白かったよ。こっちにも投下してね
383 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/25(土) 23:20:13.34 ID:Um6w6diN
ほしゅ
384 :
田村昇士:2012/02/26(日) 13:34:32.08 ID:X+xhHoJb
えーと意味がよくわからないんだが
PIXVにここのSSを転載して、あなたの挿絵を付けてくれるって話?
具体的に説明してくれ
>>385 野球とパワプロの絵見せられてもよく分からんわな
>>386 違う
ここに投下されたSSを元に俺が絵を描くだけ
10枚ぐらいうpされてないと評価もくそも。
>>882 各作者に聞いとくれ
過疎ってるここでやって意味があるのか?と思うが
そもそもSS作者もゆゆこ先生にいちいち承諾受けてるわけじゃないから勝手に描いて勝手に上げればいいと思うのだが過疎ってるry
つかローマまだなのか?
SSを転載しない、ここで宣伝しない限りは挿絵描くのなんて自由だろ
ここでSS書くやつが文句をいったら、そもそもSSかけなくなる
>>388 たしかに自由じゃないか?、SSからの3次創作って話だし
SS自体二次創作だもの
保守
お久しぶりです。「とちドラ!」続きいきます。
前作は
>>375までを参照に
それではいきます。
「「逢坂さんって・・・高須君のことが好きなのかしらぁ?」」
この言葉は竜児の頭から離れなかった。家に帰り、泰子を送り出し、勉強もして、あとは寝るだけ!なのだが・・・
(寝れる訳ねぇ・・・逢坂が俺のことを好き?いつも俺のこと睨んでいるのにか?
それに亜美ちゃんの本性?本人は否定してるのにか?ああもう、訳がわからん。)
考えても結論が出るものでもなかった。時刻は2時になろうかというところだが、寝れる気はしない。
(仕方ねえ…こういうときは!)
結局竜児は下駄箱の掃除をし、寝付いたのは3時過ぎだった。
しかし・・・
『ドシン!!!』
「おうっ!!!」
竜児の部屋に隣接しているベランダに何かが落ちてきたような音がし、竜児は飛び起きる。窓に目をやるとまだ夜は明けてない。
「な、何なんだ一体・・・」
部屋の明かりを付けずに恐る恐る窓を開け外の様子を伺うと・・・
「!!!」
いきなり何かに突き飛ばされ、混乱する竜児。部屋は暗いままだが、棒らしき何かが自分に向かってくるのが分かった。
「うわああああ!」
慌てて飛びのき自分に向けられた一撃を交わす。もと居たところに振りおろされた棒はもう一度振りあがり自分に向かってくる。
「くっ!!!」
『やられる』そう覚悟した竜児だったが、身構えても次の一撃は来ない。聞こえたのは「ぼすっ」という音。
(なにもこないなら今のうちに!)と竜児は素早く部屋の電気を付ける。
そこに居たのは布団に足を取られ、うつぶせで倒れている小柄な少女だった。そして横には木刀が転がっている。
そしてこの髪形に見覚えのあった竜児は
「逢坂・・・?」
と問いかけるが、
へんじがない ただのしかばねのようだ
でなくきちんと返事があった。
彼女のお腹の方から、『ぐぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜』という気の抜けた音が・・・
(おいしそうなにおいがする・・・)
朦朧としていた大河の意識が戻った時、最初に感じたのはおいしそうな食べ物の匂いだった。
ふと顔をあげると見知らぬ部屋、そして見覚えのあるようなないような男の背中が見えた。匂いもそこからする。この匂いは・・・
「ちゃーはん?」
「おう?起きたか逢坂?そうだチャーハンだぞ。」
まさに盛り付けの瞬間であり、目覚めた大河の反応は早かった。瞬時に立ちあがり竜児の方へと向かう。
「ちゃーはん、チャーハン・チャーハン!」
「お、おう、待て待て、ちゃんと机の上で、『頂きます』してから食べろ!」
「いただきます!」
「まだ用意出来てないのにいただきますを言いうな!」
そんなやり取りののち大河はチャーハンを食べる、それも猛烈な勢いで。
「おかわり」と作った分だけ全部食べた。竜児も多めに作ったのだが大河は2合を完食したのだった。
そして食べ終わった大河は
「なんでチャーハンなのよ?」
「なんでって・・・ボリュームあって1番早く作れるのがチャーハンで・・・ってそうじゃねえだろ!
いきなりうちに来たのはお前だろ!なんで・・つかどうやってうちに来たんだよ?」
「え・・・それは・・・ってあんた!私の木刀どこやったのよ!」
目的を思い出したのか竜児を睨みつける大河。ほっぺにご飯粒が付いているものの、竜児は指摘できない。
「木刀はここに・・・」
「っ!!返せ!!」
「おう!!」
手元にもっといた木刀を出すと机越しに大河は手を伸ばしてくるものの慌てて遠ざける竜児。
とてもじゃないが今の大河に木刀は渡せない。
「その前に訳を話せ!あと頬にご飯粒ついてるぞ!」
「・・・っっ!!!」
顔を真っ赤にし、慌ててティッシュで顔を拭く大河。
亜美の言葉もあり、大河にどう接したらいいか困っていた竜児だったが、いつも通りの大河を見て
(『俺のこと好き』だなんて気のせいだな)と思うことができ、落ち着けた竜児。大河も少し冷静になったようだ。
お互い机越しに腰を落ち着け、竜児が切り出す。
「で、なんでうちに来たんだよ?」
「あんた聞いてたんでしょ?私とくそ女の話!」
「それって・・・」
口に出していいのか迷う竜児。しかし黙っていてもらちが明かないので口に出す。
「お前が俺のことを・・・」
言いかけた瞬間・・・
「違あああああああああう!!!!!!!!やっぱりそんなこと考えてやがったか!!」
大河がそう叫ぶ。どうやら違ったようだ。
「そんなくだらないこと考えてないかと思うと夜も眠れなくて!
(そういえばあのヤンキー隣のボロ小屋に住んでたな)と思い忍び込もうかと思ったら、
あんたなかなか寝ないし、飛び降りるの怖かったし、失敗するし!!・・・ぶうぇくしゅん!!!」
「お、おう・・・!?」
最後の方は愚痴になっていたがどうやらあれは亜美の勘違いらしい。
鼻をかむ大河に困った竜児がふと時計に目をやると時刻はもうすぐ4時。高須家の深夜4時は・・・
「そりゃあチャーハンは」
「分かった。俺は勘違いしていたようだな。すまんな逢坂。謝るよ。それで、今日はもう遅いし・・・」
「あんた!・・・私の話聞いてる・・・?とにかく私は・・・」
「頼む逢坂!帰ってくれお願いだから!!」
手を合わせ、頭を下げ、必死に頼み込む竜児。しかし大河は
「はぁ?何言ってんのあんた?そんなのが謝罪になってると思ってんの?あと木刀返せ。」
「うっ・・・」
帰って欲しいものの木刀は渡しにくい。しかし時間は刻々と・・・
「ガチャ、竜ちゃ〜ん!!たっらいま〜!」
「!?」
「お。おう・・・」
帰ってきちまった・・・と頭を抱える竜児。いつも通りの深夜4時。高須家の大黒柱、やっちゃんこと泰子のおかえりである。
静かな居間に「う〜ん」という声が布で覆ってある籠から響いた。いつもと違うのは見知らぬ少女がいることだけである。
「あれ〜〜〜明るいよ〜竜ひゃんおひてるのぉ?」
泰子が居間に入ろうとする。いつも以上に呂律が危ないことから相当酔っ払っているらしい。
そして竜児はとっさに
「潜ってろ!!」
「ちょっ!」
大河をちゃぶだいに隠そうとする竜児。なすがままに隠れる大河。むき出しのちゃぶだいで隠れられるのか疑問だったが
「あれ〜る〜ひゃん・・・なんれまらおひへるのぉ〜」
居間に来た泰子は起きている息子に疑問を問いかける。この時間、当然いつもは寝ている。
「それに〜おさらあるよ〜」
「ああ、少し腹が減ってな・・・それより今日は随分酔っぱらってるな・・・化粧落として早く寝ろよ。」
「ふぁ〜い、あふぉ〜やっふぁんおひすほひぃ〜〜」
隠れている大河は(オフィス?)なんて思ったが、竜児が「はいはい、水な」と台所へ向かう。よくわかるなと感心しつつ、黙って息をひそめていた。
「わかったから、ああ、おやすみ。」
今の女の人が入った戸を閉め、「逢坂、もういいぞ。」と声を掛ける竜児、泰子に気づかれずに済んだようだ。
「あんた・・・今のは・・・」
「勘違いするなよ、今のは俺の母親だ。」
「え!!母親!?」
「しーっ!声が大きい。ばれるだろ!」
大河の問いになれた反応で返す竜児。驚いた大河が大声を出すも、竜児は小さい声で注意する。
「そう、なんだ・・・父親は?」
「・・・いねえ、顔すら見たことねえし・・・」
「そう・・・」
気まずい静寂が流れる。そして
「ごめんね。なんか」
「いや・・・別に・・・」
「『私があんたのこと好きじゃない』って勘違いも解けたみたいだし、もう帰るね。」
「あ、ああ。これ木刀な。それより送っていくか?こんな時間だし。」
「いい。こいつがあるし。じゃあね。」
侵入者ではあるが、女子高生である大河にそう問いかけた竜児だったが、受け取った木刀をみせ大河は帰って行った。
結局多くの疑問を残したものの大河は帰って行った。疑問は解けたものの、竜児はすぐに寝ようとは思えなかった。後片付けのついでに台所の掃除をしたため、結局寝たのは5時頃だった。
そんなことがあっても翌朝は来るし、学校だってある。それに家事をするので竜児の朝は普通の高校生より早い。
たとえ前日の夜遅くまで起きていようとも竜児は起きなければならない。
「っくあー眠い・・・おはようインコちゃん・・・」
朝一、いつもどおり愛するペットもとい、家族の一員であるインコちゃんの餌替えをしようと布を外すと
「・・・。・・・・。・・・・。」
寝ていた。止まり木に行儀よく立っているのだが、だらんと伸ばしている羽、
くちばしは閉じているもののなぜか横を向いている顔、と安らかに寝ているはずなのだがなぜかただものでないオーラを感じる。
「・・・・」
いつもなら不気味ながらもかわいいペット、いや家族に声を掛ける竜児だが眠気や朝の忙しさもありそっとしておくことにした。
寝不足のけだるさもあるものの、いつも通りに洗濯、自分と泰子の朝食、昼飯の用意をする。
昨日の来客?のおかけで材料がギリギリだったものの、常に万全の冷蔵庫にしているので少々大食いの来客があっても食事のクオリティは下がらない。いつもよりはやや遅れたものの、いつも通りの家事を完璧にこなし学校に向かった。
自分の教室についた竜児。登校時は相変わらず周りにビビられまくっているものの、クラスではあまり恐れられていないようだ。
そんな竜児の目についたのは・・・
「もう!亜美ちゃんそんなこと言わないでよ!おかしすぎて・・・あははは」
「うふふ、亜美ちゃんってそういうことも言うのね」
「そんなことないよ〜もう・・・2人とも笑いすぎ!」
昨日の今日だが亜美は変わらず仲のいい女子と話している。大河の件もそうだが、亜美の本性のことも竜児はまだ整理が付いていない
なんとなく亜美たちの方を見てると・・・・
「・・・?」
「・・・!」
亜美と目が合ってしまう。慌てて眼をそらし、その後、もう1度亜美の方を恐る恐る見るとこちらの方は気にせずに会話に戻っている様子。
そして未だに眠気の取れない竜児は眠気覚ましにと自販機の場所へ向かう。
1人彼の後を追っていることに気づかずに・・・
基本的に竜児は節約家だ。家計を預かる身として当然であり、朝、昼、晩と3食きちんと食べていれば日頃運動をしない竜児は間食をする必要もない。
育ち盛りの高校生とはいえ、あまりお腹がすくことがないからだ。
しかし飲み物は違う。常にお茶を持ち歩いているとはいえコーヒーや紅茶を飲みたくなることだってある。
それに眠気覚ましにコーヒーがよく効く。自販機の前で飲んでいると
「へぇ・・・こんなところに自販機あったんだ・・・」
「・・・っ!!」
「ふふっ、おはよう高須君。目があったのに無視するなんてひどいなぁ」
突然話掛けられコーヒー缶を落としそうになった竜児。それは突然話しかけられ驚いたのでなく、意外な人に話しかけられたからだった。
昨日の放課後に会い、先ほど目が合ったクラスのアイドル、川嶋亜美。
「お、おう、おはよう・・・・・川嶋」
「かわしま・・・ねぇ・・・」
竜児はつい名字で呼んでしまう。昨日の件以来なんとなく名前で呼ぶのがためらわれたからだ。
すると亜美の目が細まる。
「やっぱり高須君はあたしのこと変って思ってるんだ・・・聞いたよ高須君のことをいろいろと、
外見は怖いけど中身はまじめとか、優しいとか・・・へたれとか」
また昨日のあの感覚が帰ってくる。『怖い』笑顔の亜美を前に再び竜児は言葉を失う。
「その外見に負けないためにそんな性格になったんだろうけど・・・高須君もあたしのこと、とやかく言えないよね?」
「・・・どういう意味だ?」
「そういう性格なのは『自分は悪い人じゃないぞ』っていう気持ちがあるからだよね?
つまり人からは『外見で判断してほしくない』って感情があるんでしょ?
けど高須君は今朝楽しそうに話していたあたしを怪訝な顔してみてたし、それに呼び方も変わった・・・
たしかに仲良しの祐作と転校生のあたしとどっちを信じるかといったら祐作だよねぇ?」
「なにが言いたいんだ?」
(怪訝な顔をしたつもりはないんだが)と思いながらいまいち容量の得ない話を聞き返す。
「高須君だって外見で人を判断してるじゃん?あたしのこと。『自分を隠してる妙な女』とか思ってるんでしょ?」
「そ、そんなことは・・・」
亜美と竜児の距離が近づく。竜児は自販機を背にしているので動けない。目をそらし亜美をかわそうとするものの、亜美に視線を合わせれてしまう。
「ふうん、じゃあなんで今朝目をそらしたの?なんで亜美って呼んでくれないの?」
ささやくような声で竜児に問いかける亜美。距離感、声色、はたから見えば恋人同士にも見えなくないが当の2人にそんな空気はない。
「なにも言えないんだ・・けどいいや。高須君が亜美ちゃんのこと知ってても。別に影響ないだろうし、高須君があたしのこと言いふらすとも思えないしね。」
「・・・もし言ったらどうする?」
言いたい放題言われていた竜児だったが、ほのかに反撃してみる。
「そ・の・と・き・は・・『亜美ちゃん高須君に襲われちゃった〜』とか言っちゃうかも?」
「なっ!!!それは・・・!」
ただでさえ誤解の受けやすい外見、先生にだって未だに竜児のことを不良という目で見ている先生もいる。先生受けのよさそうな亜美がそんなことを言ったら・・・
「あはっ。そんなにおびえなくても大丈夫だよ高須君。
今のあたしならそんなこと言われても大丈夫だろうし、高須君だって平和に楽しい学校生活を送りたいよね?」
吐息がかかる距離で亜美はそう言い放つ。(今の亜美は天使ではない。悪魔だ。)と竜児は感じた。
キーンコーンカーンコーン
「チャイムなったね。じゃあね高須君。これからも仲良くしようね。うふふふ。」
笑顔でそう言い去っていく亜美。朝のHRがあったが竜児は動けなかった。まじめな竜児でもHRがどうでもいいと思えるくらいに脱力していた。
そして2−Cではもう1人HRに居なかった生徒がいた。その生徒も飲み物を買いに行っていた・・・
(はあ・・・)
1時間目には自分の席につき授業を受ける竜児。寝不足はすでに吹っ飛び、先ほどのことが頭から離れない。
(確かに川嶋の言う通りだ。俺だって人を外見で判断している。)
いい子のふりをしている川嶋亜美だけでない。逢坂大河だってそうだ。
凶暴で傍若無人なキャラで通っているが(現に夜中に侵入してきたが)どうやらただの暴れん坊ではない様子だった。
結局外見、見た感じや、少し会話しただけじゃ見えないことだってたくさんある。
それを隠すことやよく見せようとすることは悪いことではない。
(と言うか川嶋にはいい子のふりをしているのを悪いなんて言った覚えはないのだが・・・)
その人に触れて実際話さなければわからないことなんて山ほどある。
だから会話や行動は大事な行動だ。外見よりその人の性格がよく見えるからだ。
そして行動は中身を隠せる。例え亜美が『うぜえなこいつら』とか思っていても笑顔で話していれば『いつも笑顔ないい子』と言うことになる。
それに亜美は外見と行動が伴っている。『美人で性格いい子』の方が『外見ヤンキーの優等生』より違和感ないだろう。
けど人と接するにあたってそんな中身など重要視しない。見える外見と行動しかわからないからだ。
(そう考えると・・・)
自分が憧れている女子もいつも明るくて元気な子ではないのかもしれない。
実は空元気であったり、何かに負けないため、隠すためにいつも笑顔を見せているのかもしれない。
(はぁ・・・)
なんだか自分の憧れが冷めていくのが分かる竜児だった。
素直な感情は大人になるにつれて出さなくなっていく。
皆内心自分のことビビっていても他の人が大丈夫なら自分も・・・と我慢して自分に接してくれてるのかもしれない。
(・・・わけがわからん・・・)
結局人とは何だろう。そんなことを1日中考えていた竜児であった。
「高須〜ほんとにいいの?俺ら帰っちゃっても?」
「おう!あとは俺に任せろ!」
「さんきゅ〜、助かるよ〜またな〜」
あれこれ悩んでいた竜児だったが悩んでも仕方ないと思い、放課後の掃除に向かった。
一般的な男子生徒、いや高校生にとって清掃など退屈で面倒なものでしかない。
当初、班で分けられた何人かの生徒がいたものの、あまりの非効率、やる気のなさに竜児が奮起、他の生徒に「俺に任せろ!」と言い、長身、ロン毛の生徒を中心に皆喜んで帰っていった。
落ち込んだ時、悩んでいるときは何かの行動に没頭するのがいい。
「ククッ・・・ここであったが100年目!今日こそ貴様らを殲滅してやる!」
決して彼は帰ったクラスメイトを殲滅しようだなんて考えているわけではない。
ツラ、行動は完全に凶悪犯のものだが、彼はまじめに殲滅している。カビを。
学校の施設、ましてこの高校は設備も古く、業者を呼んで掃除することなどほとんどない。
そして徹底的に掃除する生徒がどれだけいるだろうか、いやいない。
いつもの竜児も学校の施設にここまでしないが、今日はストレス発散のためにカビに殲滅してもらうことにした。
「おい高須竜児!あんたに話がある!」
「ん?」
殲滅作戦の最中に声を掛けられた。ここにいないはずの女子の声だ。
「なんだ逢坂か。ここは男子トイレだぞ?お前は隣だ。」
「そうじゃない!私はあんたに用が・・・」
急がしい竜児は場違いな大河に構う気はない。そして大河が話そうとすると
「あーっ逢坂さんが来たぁ!来てくれないかと思ってたけどよかった!はいこれブラシ。」
「えっ・・・ちょっ!ちがっ!!」
どうやら大河も掃除当番だったらしくトイレ清掃の女子に連行される。それを確認した竜児は再び殲滅作戦を再開した。
「あいつは・・・いた!高須竜児!今度こそ話を聞いてもらうわよ!」
「なんだよ逢坂。俺は今忙しいんだ。そっちはもう終わったのかよ?」
「トイレ掃除なんてどうでもいいのよ!それより」
「どうでもいいとは何だ!学校のトイレは毎日のように使うんだぞ?感謝の意味も込めてちゃんと・・・」
「トイレのことはどうでもいいのよこのエロヤンキー!それよりあんたに話があるって何度言わせるのよ!」
作戦に没頭している竜児は作業しながら大河の話を聞く。怒らせてしまったがどうやら話があるらしい。
「わかった。少し待ってろよ」
「少しってどれくらいよ?」
「いいから少し待っててくれ!!」
「っ!!わ、わかったわよ早くしなさい」
早く終わらそうと集中している竜児は気付かなかった。大河が黙った理由はあまりの剣幕の表情に驚いたことに・・・・
(ここまでか)
本当はもっとしたかったのだが用があるので仕方なく切り上げる。トイレの前で待っていた大河のもとへ向かうと
「すまん、待たせたな」
「ぶぇくしょん!!」
大きなくしゃみをした。
「なんだ?花粉症か?」
「こんなところに居るからよ!とりあえず別の場所に行くわよ!」
向かった先は校舎裏。確かにここなら誰も来なそうだ。
「あんた、川嶋亜美と何を話していたの?」
「なんの話だ?」
「今朝のことよ。自販機の前でなんか話してたでしょ?」
「なんで知ってるんだよ?」
(あの場所には誰もいなかったはずなのに!)と思いながらも見られてしまったものは仕方ない・・・などとは思いづらい。
「ネタは上がってるのよ・・・話さないと・・・知らないわよ?」
拳を握りしめながら睨む大河。逢坂大河は平常運転のようだ。
「わかったよ・・・話せばいいんだろ。にしても川嶋となんかあったのか?」
「なんでもないわよ・・・ただ・・・むかつくのよあの女・・・
あいつが来たおかげでやたら人が集まるし、あのぶりぶりした感じがむかつくし
それに・・・・・む・君と仲いいし・・・とにかくむかつくのよ!」
途中聞こえなかったが、とにかく大河が亜美のことが嫌いということが分かった。
竜児が微妙な顔してると、大河は思いついたように
「そ、そうあと恩返しよ!」
「恩返し?」
天下に轟く手乗りタイガー様に似合わない単語が出てきたため、さらに微妙な顔になる竜児。続けざまに
「あんた、ばかちわわと話した後に魂が抜けたようになったでしょ?」
(ばかちわわって・・・)誰だか分かるし、ばかはともかくちわわは上手いなとも思ってしまう竜児。
「それでそう!あんたにチャーハンごちそうになったでしょ?そのお礼よ。」
胸を張りそう断言する大河。どう猛な獣でも飯の恩に関しては敏感なのだろう。
まあ確かにごちそうしたことには変わりないが。
「しかし、なんで川嶋のことを話すことが俺に対する恩返しになるんだ?」
「あんたばかちーになんかひどいこと言われたんじゃないの?」
(なんか略されてる・・・)まあこのままではらちがあかなそうなので今朝のことを話すことにした。
亜美の本性のこと、ばらしたらどうなるかと脅されたことを。
「ふん!やっぱりぶりぶりしてたのね。けどその本性・・・クラスの連中の前で引き出せたら面白そうね・・・
決めたわ。ばかちわわの本性さらけ出してやるわ!」
舌なめずりするような笑みを浮かべる大河。これはやばそう!と感じた竜児。
「そうか。じゃあ頑張れよ!」
と帰ろうとしたものの
ガシッ
「なにを言ってるのかしら・・・私があんたのためにわざわざ協力してあげるのよ?それなのに帰ろうなんていい度胸してるわね・・・ぶぇくし!!」
頼んだ覚えはないのだが・・・あと大河のつばが思いっきり竜児にかかる。
(くしゃみをするときは口を塞ぐかせめて俺の方を向くな)
「あんたも性悪ちわわの本性を晒したいでしょ?」
「いや・・・俺は別に・・・」(つかまた呼び名変わってるし)
「晒したいでしょ!?」
「はい・・・」
もはや頷くしかなかった。こうして2人の『ばかちわわ本性晒し作戦(大河命名)』という共同戦線が始まったのである。
以上です。本当は定期的に更新したいのですが遅筆もありどうにも・・・
あとみのりんは次回出ますwwではまた。
GJ まってたよ
気長にまってるので、是非完結を目指してください
GJ!
>>404 このスレをチェックする習慣が復活したぜ
続き楽しみにしてるよ
竹宮作品で一番かわいいのは相馬。
だれか相馬×田村で書いてくれ〜(´・ω・`)
わたしたちの田村くん
ドラマCD買ったんだけど
相馬さんが紅月カレンだったw
そしてジノな田村くん
「高須君、あなた何人くらいの女の人と寝たの?」
と亜美がふと思いついたように小さな声で聞いた。
「童貞です」と僕は正直に答えた。
実乃梨さんが練習をやめてバットをはたと床に落とした。
「あなたもう十六歳でしょ?いったいどういう生活してんのよ、それ?」
亜美は何も言わずにその澄んだ目でじっと僕を見ていた
かと言って、僕は……、言い慣れない事は使いにくい、俺にさせてくれ
俺はどんな反応をしていいのかわからん
どうせ、川嶋が馬鹿にしたような事を言うに違いないと思うのだが、じっと見つめてきたまま
こいつはやはり川嶋ではなく亜美なのだろうが、どうも勝手が違う
なにか俺のリアクション待ちのような表情、俺が「ならお前が卒業させてくれ」とでも言ったら、マジで
「あたしでいいなら、別にいいけど」
とか、視線をそらして応えそうな雰囲気。そんなの腹黒なあの女じゃねぇ、まるで恋する乙女だ
と櫛枝が
「てっきり、大河とすぐ仲良くなるのとか、女の子関係かなり得意なのでは!
と実乃梨姉さんは心配してたのだよ」
「み、実乃梨さん?」
「ほら、ヤンキー高須とか悪い噂聞いてたからさ」
「違う!、それは根も葉ない噂で、お前だけには誤解されたくないんだ!」
「そうなのかい?、でも、十六歳で大河と一緒にずっといて、そんな気になったりしないのかい」
「ば、馬鹿言うなよ。大河は家族みたいなもので、俺は本当は櫛枝のことを」
「なに?」
「なんでもねぇ」
「さては自信ないんでしょ。なら大河のためにも櫛枝姉さん人肌脱いじゃおうかな」
「なんだそりゃ」
「みのりんがお相手申そう、そしたら大河とももっと仲良くなれるよ
それともあたしじゃ嫌かい?」
「いや、俺は櫛枝のことが……、だが、そういう事は」
「男は度胸。いろんなことチャレンジしないと、ねぇ、あーみんも協力してくれるっていう顔してるし」
「な」
驚いて川嶋の方を向く、さっきまで指を咥えそうな表情で俺達の会話を聞くだけだった川嶋は
これまた、いつものあいつらしくなく、目をそらしてコクリと頷いた
二人はおもむろに服を脱ぎだした
面白いと思ってんのそれ?
お久しぶりです。「とちドラ」3回目の投稿です。
ホントに長くなりそうですが完結できるように頑張ります。
ってもまだ原作1巻の内容が終わりませんが・・・
ではいきます。前作まではこのスレを振り返ってください。
そして協定?を結んだ翌日、朝のHR後
「おい、ちょっとつら貸しな!」
「…!分かったよ。」
あの後どうしたらいいか。と言うことを話し合ったのだが、あまりいい案は出なかった。
困った竜児が「晩御飯の用意をしないと泰子が困る」と言ったら『翌日までに考えてくること』を条件にすんなり帰らせてもらえたのだ。
そして、その考えを披露しなければならない時が来てしまった。教室から離れる2人。
そして2人は気付いていない。危ない2人がなぜか話すようになったことに驚くクラスメイト達のことを。
もっともクラスの1人は驚きでなく興味深そうに2人が去った影を見ている生徒もいたが。
そして人気のない踊り場・・・
「で・・・何かいい案は思い浮かんだのかしら?」
鋭い目つきで竜児を見る大河。明らかに恩返しをする感じでない。
「いや・・・こういうのは恩返しをすると言った方が提案するんじゃ・・・」
「ああん!!!協力っていうのは2人対等にやることでしょ?それともなに?
まさか・・・何も考えてこなかったんじゃないでしょうね?」
大河の背後にオーラのようなものを感じるようになる。まだ子虎の扱いに慣れていない竜児はただ気押されるだけだ。
特にまじめに考えてこなかった竜児は答えに困るが
「そ、そうだこんな作戦はどうだ。本性ってのは、急な出来事の時とっさに出ちまうもんだろ?」
「まあそうね。で?」
「それでだ・・・そうだ!体育!今日はバスケだろ?急にボールをぶつけるとかどうだ?」
「なるほどねぇ・・・確かに急にボールをぶつけられたらそいつのことぶっ殺したくなるわねぇ・・・」
明らかに人でなく猛禽類の目をする大河。たまたまいつかテレビであったことを思いついてよかった、と胸をなでおろす竜児。
この際、今の言動、目つきは無視だ。今の大河の様子を見る限り、
気に入らないことを言ったら何されるかわからない。
キーンコーンカーンコーン
そして始業のチャイムが鳴り響く。
「確かにその作戦で大丈夫そうね。じゃあ頑張りなさいよ。」
と教室に戻っていく大河。そして1つの疑問・・・
(えっ!?俺がやるの?)
本日の体育は2時間目、竜児は先ほどのことを確認しに大河のもとへ向かおうとするが・・・
「よっしゃあ!次は体育だ!大河〜行くぜ〜!!」
「うん!行こう!みっのり〜ん!」
と、早々と行ってしまった。
男子は教室、女子は更衣室で着替えることになっている。フライングしてしまうと
「ちょっとまるお〜!!まだ着替えないでよ!」
「すまんすまん。俺も櫛枝同様、はやる気持ちを抑えきれなくてな!だが俺は気にしないぞ」
「やだもう!祐作ったらセクハラ〜さて私達も遅れないうちに早く行こ?」
親友の痴態やら今回のターゲットはいつも通りなどいろいろあったが竜児も早く着替えて体育館に向かうことにした。
「ドリブル〜〜〜シュウ!!いよし!入ったぁ〜〜〜」
「さすがみのりん!!」
「よーし!もう一本!!」
「おい。逢坂!」
早めに体育館に来た竜児。まだ女子もあまり来ていなく、ボールを触っているのも1人の女子生徒だけだ。
そしてその様子を見ていた大河に声を掛ける。
「ん?なによあんた?何か用?」
「なんか用か?じゃねえよ。か・・・あのこと。俺がやんのかよ?」
「他に誰がいるのよ?」
「さも当然のように言ってるんじゃねぇ!」
結局恩返しなんてのは建前で自分が亜美のことが気に入らないからではないか。
別段自分は亜美に何かされたわけでもないし、恨みがあるわけでもない。
むしろ余計なことをして亜美に目を付けられる方が嫌なのだが・・・
「とにかく俺は」
「わかったわよ!一緒にやればいいんでしょ?ボールでも何でも投げてやるわよ!」
「なんだい大河!?今日は高須君と一緒に準備運動するのかい?」
「えっ!?」
「なんだよ高須、俺というものがありながら・・・まあだが、お前が女子と仲良くするとは・・・やるな!」
「え・・・?」
いつの間にか時がたっていて皆が集まる時間になっていた。そして授業の初めは2人1組の準備体操時間だ。
担当の先生は常に自分の筋トレに勤しんでいるので時間になったら自主的に生徒は準備運動を始める。
そして時間になったので竜児と大河、それぞれいつもの準備運動のパートナーがやってきたのだが・・・
「み、みのりん?なんで私がこいつと!?」
「だってさっき一緒にやるって言ってたじゃん?寂しいけど今回は大河の旅立ちを見送るぜ!」
「ああ、他にやる奴がいるなら仕方ないな。櫛枝。振られ者同士一緒にやるか。」
「おうとも!ソフト部同士、ガチな準備運動をしようぜ!」
「はっはっは!お前のガチはハードだからな。お手柔らかに頼むぞ!」
そんな2人を呆然と見送る大河と竜児。そりゃそうだ。あんなに大声で話していれば他の人にも聞かれるだろう。
そして大河は大声で竜児と一緒にやると言ってしまった。
高校生の体育など練習などはせず試合を多くやるのが常だ。ただ準備運動はやらなければならないので、開始後、柔軟、軽いパス練習などを2人組で行うことになっている。
この2人組は誰とやってもいいので、たいていは友人同士でやっている。
友人と言えば多くの人は同姓とやるのだが異性とやってはいけないという決まりはない。
いつも準備運動している人が大声で他の人と『一緒にやる』なんて言っていたら『その人とやるんだ』と、思うだろう。
そんなわけで竜児と大河は(大河は『なんでみのりんが・・・』)とぼやきながらしぶしぶ2人で準備運動をやることにした。
そしてこの時間は、この流れで男女のペアで準備運動をやることになった。
女子の1人木原麻耶は「まるおが取られた・・・」と落ち込みながら「男子とやるなんて恥ずかしいな・・・」と言う亜美とペアを組んだ。
「まったく・・・なんであんたなんかと・・・」
「文句言っても仕方ないだろ。それに作戦立てるいい機会じゃないか?」
と言うわけで準備体操の時間、成り行きでペアを組みことになった2人は片や文句を言いつつ、片や受け入れながら体操をしていた。
「だいたいボールをぶつけるって言ってもいつやるんだ?普通にやってもばれるだけだろ?」
「そんなのわかってるわよ!それを考えるのがあんたの役目じゃない?ボールぶつけるって言ったのはあんたでしょ?」
「ぐっ・・・」
そうだ。見切り発進だったのだ。ろくな案も練らずにクラスの人気者の化けの皮をはがそうなどやはり甘い考えだったのか
その後黙々と続ける2人。そして2人で柔軟体操をする時間が来る。1人が座り、もう1人が押す体操だ。
(逢坂の奴全部俺に押しつけやがって・・・しかし逢坂の背中小さいな・・・女の子っていうのはみんなこんな風なのか)
共同戦線を張っているとはいえ、2人親しくなったわけではない。作戦等の目的がなくなると話すことがなくなる。
なので2人は黙ってしまう。竜児も勝手な大河にいらつき半分、あまり同世代の女の子に触れたことがないので戸惑い半分で体操を続ける。
(いかんいかん。集中しないと・・・えっと・・・準備体操が終わった後は・・・パス練習か・・・ボールに触れるな・・・)
「ちょっ・・・あんた押しすぎ・・・」
(2人1組のパス練習・・・そこでなんかできねえかな?)
「ねぇ・・・き、聞いてるの・・・?」
大河の体を意識しないよう作戦のことを考える竜児。そしてこの後ボールに触れる機会があることを思い出す。
2人でパス練をしたらその後は男女に分かれて試合だ。そこが最後のチャンスだと思い、竜児は真剣に作戦について考える。
真面目だから!大河と柔軟をやっていることを忘れながら・・・
(けど普通にやったらばれちまうよな?いかに人数が多いとはいえ・・・)
「ちょっ・・・く、苦しい・・・」
(だがもし川嶋の隣に行ければ!隣で逢坂に『手が滑った!!』とかでミスらせれば!!)
「あっ・・・ぐっ・・・うぅぅぅ・・・」
「よし!これでオーケーだ!!」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「聞いてくれ逢坂!・・・ってどうした?そんなに気合い入れて柔軟したのか?」
「・・・(ギリツ!)ええ少しね・・・それより次、あんたの番よね?変わりましょうよ?」
大河の柔軟をやり過ぎたのも関わらず変わった様子に気づかない竜児。
思いついた名案もやる気満々?な大河に言われるがまま座り、大河の手が背中から離れる。
「・・・?やらないのか逢坂?」
なぜか竜児の背から離れ距離を開ける大河。そして駆け出す。
「おい待て!まさか・・・」
「ぬおおおりやああああああああああ!!!!!」
駆け出した小さな体は加速し空を駆ける。そして伸ばした足は寸分違わずに竜児の肩甲骨の間に向かう・・・
そしてクラスメイトが目にしたのは腰を抑えるヤンキーと勝ち誇り腕を組む手乗りタイガーの姿だった。
そして柔軟の時間がもう終る頃・・・
「まだ腰が痛てえぞ・・・」
「男のくせにぐだぐだうるさいわね・・・私だって同じような痛みを受けたのだからお互いさまよ!」
「ったく・・・と、それより作戦思い付いたぞ!」
「あらそう?言って御覧なさい?」
退屈な柔軟が終わり、ボールを使う時間に移る。やはりボールを使う時間の方が楽しいのか多くの生徒が我先にと、ボールの籠に向かう。
そんな中、大河は足を止め竜児の話を聞く。
もともと『体育なんかめんどくさい』なんて思っている大河は別にボールに強い関心はない。
「川嶋たちの隣でパス練習をするんだ。そうすればぶつけても不思議はない。」
「ばかちーの隣ね!?分かったわ!みのり〜ん!!」
(なぜ櫛枝の元に?)なんて思ったが「はい、大河たちのボール。」と、実乃梨にボールを確保して貰っていたようだ。
そしてそのまま、すでにパスをし始めている、実乃梨、北村コンビの隣に陣取る大河。
そしてその隣には「麻耶ちゃん行くよ?」とパス練を始めようとする川嶋亜美がいた。
(う・・・この状況は・・・)
確認しておこう。確かに大河は亜美の隣に陣取った。竜児の言う通りに。
そして竜児は大河と対面することになるので両隣りは麻耶と北村となる。
竜児の作戦は大河を亜美の斜め向かいに対面させ、ボールをぶつけるというもの。
しかし斜め向かいに対面するのは大河ではない、竜児だ。
まだ竜児は大河とパスができる位置にいないものの、大河は実乃梨とあらかた話した後、
「ちょっとー、早くしなさいよね!」
と、こちらを呼んでいる。大河と普通に話せる実乃梨が隣にいる以上、そこを動かすのは至難の業だ。
そして真隣にいる亜美にボールをぶつけさせるのも至難の業だ。隣の人にぶつけるなど『わざと』としか言いようがない。
ということは誰がやる?そんなことを確認する必要はないだろう・・・
そしてしぶしぶ(腰はまだ痛い)大河と対面する。北村に「どうだ?逢坂の相手は?」などといわれるが、(変わって欲しいなら変わるぞ?北村?)
「ふん!!」
「おう!?」
大河からパスが竜児の元にくる。そしてパスにはメッセージがこもるらしい。パスというのは味方にするもの、自分で出来ないことを味方に託すのだ。
そして竜児にもメッセージのこもったパスが来た。『殺意、やれ!』と、いうようなメッセージのこもった・・・
現に大河はあごを亜美の方に振っている。仁王立ちしながら。
「・・・・(汗)」
こんな作戦考えておいてはなんだが、バスケットボールを他人にぶつけるのは非常に抵抗がある。
そりゃ普段温厚で、暴力など振るわない(外見ヤンキーの)竜児でも、ふざけて軽くド突くぐらいのことはしたことはある。
だがそれは親しい人に対してだけだ。この外見で気軽に他人をド突こうものなら、半泣きで土下座されること必死だ。
しかも相手は女子だ。それも学校、いや世間も認められる美少女に・・・
それに亜美とはそこまで親しくない。もっとも、この前軽く脅迫されたから怖がられることはないだろうが、正直仕返しの方が怖い。
なので小心者の竜児は・・・
「へ、へい。パス・・・」
普通に大河にパスをする。受け取った大河は・・・
「ちっ!」
「おう!!??」
(何私にパスしてんのよ!?)という視線から、パスというよりドッジボールのような勢いで投げ返してくる。竜児ははじいて勢いを止めるのに精一杯だ。
「はっはっはっ!威勢がいいなお前らは!ほら高須!次はちゃんと取れよ!」
竜児が散れなかったボールを拾い渡してくれた北村。(いや・・・そう言うわけではないんだけどな・・・)と思う竜児。
北村達に目をやると
「うぉおおお!これが俺の全力だぁ!!」
「おおっと。さすがの球威だな櫛枝!手が痛いぞ!これは俺も受けて立つしかあるまい。」
など、体育会系らしい非常に暑苦しいパス練習をしていた。
しばらく隣を見ていた後、自分もパス練習をしていた事を思い出し
「ほら逢坂、パスだ。」
「もう片方の隣も女の子同士楽しそうにやっている。(女子にボールをぶつけることは出来ない)このまま時間を潰してやりきろうと考える竜児。
そして気付かなかった。相方も隣の方をぼーっと見てたことに・・・
「えっ・・・!ぶっしゅっ!!」
あれだけ竜児に『亜美にぶつけろ!』と、促していた大河だったが、しばらくはおとなしかった。それは竜児同様、北村達の方を見ていたからだ。
そして急に投げられ反応しようとしたときにくしゃみが出た。生理現象は避けられない。
竜児の血が引いていくのと同時にボールは大河の方へと向かって行く。
「だっっ・・・」
ダン・・・ダン・・・ダン・・・
と、ボールが虚しく体育館に転がる。竜児の放ったボールは大河の顔面にヒット。
体育館に広がった光景は転がるボールの横に倒れる少女と、ボールを投げた姿勢のまま、気まずそうに固まっているヤンキーの姿だった。
「高須君が手乗りタイガーを仕留めたぞ!!」
「あの時のリベンジってことか・・・さすが高須君だな・・・」
「どうした大河!?立つんだジョー!?」
「なにがあったんだ?無事か逢坂?」
クラスメイトや隣のソフト部コンビが大河の元に寄る。それに
「大丈夫?逢坂さん?」
と亜美も大河を案ずる。遅れて竜児も恐る恐る「すまん逢坂・・・わざとじゃないんだ・・・」と、寄ると
「う、う〜ん・・・」
と、起き上がる。どうやら大丈夫のようだ。しかし大河がみんなに顔をみせると
「わーお、鼻血だ。」
そして場所は保健室、鼻血が出てしまった大河が処置をされている・・・
当然、実乃梨が付いていこうとしてものの
「もうすぐ試合が始まるし〜女子が2人抜けるよりは男女1人づつの方がいいよ・・・
それに・・・ぶつけた人が責任を取った方がいいよ・・・ね?高須君?」
と今やクラスのまとめ役的存在までのし上がった亜美がそう言ったのだ。
実乃梨も
「そうだね。高須君も大河に謝りたいもんね。大河を頼むよ!」
なんて言い出すものだから竜児は断れなかった。大河の鼻血は軽いものではなく、上を向いて勢いを止めるのに精一杯だった。
なので保健の先生に『しばらく安静にしててね』と言われ向かい合って座る2人。
「私にぶつけてどうするのよ?この顔面凶器!!」
「悪かったって。急にくしゃみするとは思わなかったんだ。」
「なに?私のせいだって言うの!?」
大河は安静にしてるしかないので竜児にやることはないものの、大河の機嫌が収まらないため必死の弁明中、いうわけだ。
「まぁあんたに期待した私が間違いだったわ・・・ぶしゅん!!あ、取れた」
「取るな、まだ詰めてろ。」
くしゃみで止血してた綿が取れるが竜児は新しいのを用意する。罵詈雑言を言われても大河は怪我人だ。放ってはおけない
「ふ、ふん!まあいいわ!菩薩のごとき寛大な私はあんたの過ちを許してあげるわ!」
「そりゃどうも・・・」
寛大かどうかはさておき許してもらえたようだ。どの道授業もあと数分で終わる。今更戻ろうとは竜児は思わなかった。
「さて・・次の作戦は・・・」
「まだやるのかよ!?」
「当然じゃない?1度の失敗で諦める私じゃないわ!」
(諦めてくれよ)竜児はそう思いながらも大河はやる気満々だ。鼻血は出ているが・・・
「次の作戦は私が立てるわ。あんたが立てると失敗するってわかったのが今回の唯一の収穫ね。」
「それで、逢坂が立てる『成功する作戦』ってのはどんなんだ?」
皮肉を込め竜児がそう問う。確かに竜児の作戦は場当たり的なものであったが大河だって何も考えてなかった。
それに既に(最初から?)竜児にやる気はない。大河の作戦に適当に付き合い、飽きてくれるのを待とうか、という考えだ。
「相手の行動パターンを考えなかったからいけないのよ!罠に欠けるなら相手を誘い込まないとね」
「そしてその誘い込むための具体案と、川嶋に掛ける罠は?」
「策は考えてるわよ・・・あんたの協力でね!」
「また俺かよ!?」
(使えないだのさんざん言われたのにまだ俺がやるのか?)不平を言う竜児だが
「大丈夫・・・同じ轍は2度踏まないわ・・・それにとっておきの道具を持っているのよ・・・みのりんが!」
「櫛枝がかよ!!」
驚きと不安を感じ再び声を荒げる竜児だった。
そしてその日の昼休み・・・
「よう能登!お昼一緒にどうだ?」
「ん?高須じゃん!もちろんいいよ。今春田が昼飯を・・・って春田も一緒で大丈夫?」
「おう。もちろんだ!むしろ春田・・・君は俺と一緒でも大丈夫だろうか?」
「大丈夫だよ!春田はそんな奴じゃないし。『ぜんぜんお〜け〜』とか言ってくれるよ。」
竜児は去年からのクラスメイト、能登に昼の誘いだ。能登とは去年も同じクラスで仲も良く2−Cになってから初めて昼を共にする。
という間柄でもない。竜児にとってはなんてこともない事。しかしこれも大河の作戦のうちだ。
「高須!?そ、そこは亜美ちゃんの席だぞ!?」
「ん?ああ、そうだったな。だが昼時に席を借りるくらいいだろ?」
能登が裏返った声で竜児に指摘する。そう、これも大河の作戦の一環なのだ。
能登は亜美の隣という幸運(しかも亜美は窓際なので他に隣はいない)を手にしてる。
・・・だからといって亜美と親しいわけではないのだが・・・残念ながら
(*席割はアニメと同じです。知らなかったらググって下さい)
それはさておき能登は
「けど大丈夫なのか?亜美ちゃん達はいつもこの席で昼飯食べてるぞ?」
「1日くらいなら大丈夫だろ?それにここがダメなら他の・・・たとえば木原のとこにでも行くだろ?」
竜児は頭の中で今回の作戦のことを反芻する。
「いい?今回は私の席に仕掛けをするわ」
「お前の席に仕掛けをしてどうすんだよ?」
「いいから最後まで聞きな。ばかちーはいつも自分の席で取り巻き共と昼を過ごしてるわね?」
「まあ・・・そうだな」
最初は女子からも多くの人に話しかけられた亜美だったが、今では交流も出来上がった様子。
他の人と話さないわけではないが、特に木原麻耶、香椎奈々子と仲良くしているようだ。ちなみに2人ともかわいいと評判の女子だ。
取り巻きではないと思う、きっと・・・正直竜児に女子のことはよくわからないが
「あんた確かばかちーの隣のメガネと仲良かったわよね?」
「能登な・・・確かにそうだが・・・というかクラスメイトの名前覚えろよ?」
「ふん!いちいちモブキャラまで覚えてられないわよ」
(モブって・・・)
「で、能登と何の関係があるんだ?」
「そいつと一緒にご飯食べなさい。それでばかちーを自分の席に来ないようにしなさい。」
「つまり俺が川嶋の席で昼飯を食べればいいのだな?」
「そう!あんたのお昼はどうでもいいけど、とにかくばかちーが自分の席に来れない状態にすればいいわ!」
高校生の昼食は自由時間も同様だ。昼ごはんだってどこで食べようが生徒の自由。
仲のいい友達と一緒に食べるためにその近くの席を借りることは日常茶飯事だ。
「了解。それぐらいなら簡単にできそうだが・・・具体的に何をするんだ?」
「あんたに言うと失敗しそうな気がするから言わない」
「・・・なんだよそれ?」
「とにかく!あんたは自分の役目をやりなさい。いいわね!」
ってな具合で大河に求められた通り亜美の席に着く竜児。
再びクラス中から怖い視線が集まった気がするが、気のせいということにしておく。
そして能登と話しながら春田を待つ。ちなみに大河の姿は教室にない。これも作戦なのだろうか。
「さーて!おっ昼〜っと・・・あれ?」
亜美たちが買い物から帰ってきたようだ。いつもの場所に行こうとしたものの鼻歌交じりに教室に入った麻耶がは亜美の席が空いてないことを確認する。
竜児も彼女たちが来たのは気付いているが能登との会話に集中し、周りを見ないようにする。竜児も『どいて』と言われたら断る術はない。
「亜美ちゃん。席に高須君がいるよ?」
「ホントね?代わってもらうように言ってみる?」
一緒にいる奈々子もそう言うが・・・
「いいよ。高須君も友達と話してるみたいだし邪魔しちゃ悪いよ・・・そうね・・・あっ実乃梨ちゃん?」
「んん!?亜美ちゃんじゃないの?どうしたい?」
女子としては珍しく1人で弁当を食べている実乃梨に声を掛ける亜美。意識は亜美たちに向けていた竜児はこのことに驚く。
「よかったら実乃梨ちゃんも一緒にお昼どう?」
そういいながら実乃梨の隣の席に腰掛けようとする亜美。ちなみに実乃梨の隣は大河だ。
しかし亜美は椅子を引いただけで手を止め・・・
その席の斜め前。麻耶の前の席に着く。
「おおこれはこれは!亜美ちゃんさまの誘いは断れねえぜ!」
と弁当箱を片手に大河の席に着く。そして
「ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」
まるでおならのような低重音が実乃梨のお尻・・・でなく大河の席から鳴り響く。
「おおお!!??なんだ!?こりゃーーー!??」
クラスのみんなが言葉を失う。麻耶と奈々子は軽く引いている。亜美は「もう、実乃梨ちゃんったら〜」なんて茶化す。
「櫛枝・・・変な奴だと思ってたけどこのギャグは・・・高須もそう思うだろ?」
「いや・・・まぁな・・・」
(まさか・・・逢坂の仕掛けって・・・)
今の音はおならにしては大きすぎる。陽気でよくネタに走る実乃梨でもここまではしないだろう。
「ったく大河の奴・・・『ブーブークッションを貸してほしい』なんて言うから貸してやったのに・・・置きっぱなしにされたおかげで私が恥をかいたじゃないか」
「ぶ、ブーブークッションだったんだ・・・」
「けど櫛枝?なんでそんなものを持ってるの?」
「いや〜この前ソフト部連中とゲーセン行ったときにゲッツしたんだけど使い道がなくてね・・・
んで大河が急に『貸して』って言うから貸したんだけど・・・」
「へえ〜逢坂さんが・・・ねぇ・・・」
亜美の目が再び細まる。竜児は実乃梨の声が聞こえて以降、亜美の方を見れない、怖くて
「まったく大河め・・・あとでとっちめてやらないと!」
冗談だか本気なんだか実乃梨が機嫌を悪くする。そして
「まぁまぁ・・・それより実乃梨ちゃん?一緒にご飯を食べてくれるよね?」
「いいとも〜!」
それと同時だった。
「おっ待たせ〜〜いやぁ〜今日の購買も混んでたぜ〜。あれ今日は高須も一緒なの?能登ぉ?」
間抜けな声と共に春田が教室に帰ってきたのは・・・
「くっ・・・みのりんを犠牲にするとは・・・そのままみのりんに嫌われるがいいわ!」
「いや・・・その後何事もなかったように楽しげそうに話してたぞ。」
あの後、自販機の所でどこにいたかは知らないが大河に事後報告。
上手くいかなかったうえに、実乃梨と亜美が仲良くなった?ことも大河の怒りを加速させる。
「というかブーブークッションっていつの時代の手段だよ・・・?」
「なに言ってんのよ?ばかちーがクラスでするなんてシュールじゃない?」
「おならがか?」
「ふんっ」
「・・・がはっ」
竜児は殴られる。
「恥ずかしいこと言ってんじゃないわよ!方向性は間違ってないと思ったのに・・・みのりんが誤算だわ・・・」
「なあ・・・そろそろ諦め・・・」
「こうしちゃいられないわ!次の作戦の前にみのりんを奪い返さないと!みーのりーん!!」
竜児を置いて大河が走り去る。竜児は当然追うこともせず、殴られた腹をさすった後、
自販機からジュースを買おうとコインを入れ、ボタンを押そうとすると・・・
「おっ先〜!」
「なっ!」
押そうとしたボタンでなく別のボタンが押される。顔は見えなかったがこの女の声は聞き覚えがあった。
「川嶋か・・・紅茶も悪くないが俺はコーヒーの方が好きなんだ。」
「やあねもう!軽いいたずらじゃない。高須君の分を買ってあげるから怒らないで?」
やはり亜美だった。怒っているわけではないのだが、やはり竜児の顔つきは常に怒っているように見えるのだろうか。
「コーヒーでいいんだっけ?これ?」
「ああ、それでいい。」
ガシャン。器械的な音と共に出てきたコーヒーを「はい」と、笑顔で手渡される。
亜美にこうされたらやはりドキドキしそうなものだが・・・
「それで・・・何しに来た?」
竜児もドキドキしてる。ときめきより緊張的な意味で。
「なにって・・・飲み物飲みに来ただけだけど・・・なぁに?『あなたに会いに来た!』って言って欲しかった?」
「そんなんじゃねえよ・・・ただ・・・お前とはよくここで会うな。って・・・」
「そう?というか同じクラスじゃん?いつも教室で会ってるじゃない?」
「いや・・・そうなんだが・・・」
同じクラスとはいえ『会う』のと『話す』のは違う。現に同じクラスとはいえ話したことのない人など珍しくない。
亜美とだって大河と話していた放課後のことをのぞかなければ話すこともなかったかもしれない。
「それより高須君、最近逢坂さんと仲いいよね?何かあった?」
「・・・別に何でもねえよ。特に仲良くなったわけでもねえし・・・」
そう、決して仲良くなったわけではない。ただ協定を結んでるだけだ。亜美には言える訳ないが
「そう?最近いつも一緒にいるし?・・・もしかして・・・!?」
「ちげえよ。つかお前があの時逢坂に『俺のこと好き?』とか言うからこんなことになったんじゃねーか?」
「そうだったっけ?亜美ちゃんわっかんな〜い。」
「お前な・・・というかお前も大河のこと嫌いなのか?」
やはりクラスでの亜美とは様子が違う。しかし今日はそんなに怖かったり変な亜美ではなく、竜児も違和感なく会話をする。
笑顔でとぼける亜美に1つ疑問だったことを聞いてみる。
「嫌いも何もあんだけ敵意丸出しにされたら仲良くも何もないじゃない?確か『手乗りタイガー』だっけ?
そんなあだ名つけられてる通りみんなに噛みついてるみたいだけど、
亜美ちゃんに対しては一層きつくない?常に睨んでくるし!あたしが何かしたのかよ?!」
笑顔をゆがめ思いっきり愚痴をこぼす。
確かに大河は亜美のことを嫌いと言っていた。とにかくむかつくとか何とか。
確かに自分を嫌っている人を好きになれというのは無理な話だ。
「あのちび・・・いい子で可愛い亜美ちゃんを目の敵にしやがって・・・
亜美ちゃんを敵に回すとどうなるか思い知らせてやるわ・・・うふふふふ・・・」
どっかで聞いたような1人語り・・・実は似たもの同士なんじゃないかと竜児は思う。
「それで・・・高須君は逢坂さんと何をたくらんでるのかな?」
「な、何もたくらんでねえよ!!」
急な亜美の言葉にとっさに否定したものの誰がどう見ても・・・
「思いっきり顔に出てるよ?そんなに慌てて否定されたって誰も信じないよぉ?」
「う・・・そんなことないぞ・・・俺はただ・・・逢坂の相談に乗ってるだけだ。」
「ふうん・・・逢坂さんが高須君に相談ねぇ・・・」
とっさの言い分を考えついたものの、亜美は全てを分かったような余裕の笑顔。竜児は気まずそうにうつむいてたが・・・
「まあけど2人は楽しそうで羨ましいな。うん!亜美ちゃんも協力してあげる!」
「お、おう・・・」
まぶしい笑顔でそう言い放つ亜美。しかし竜児と大河の協力するということは自分を貶めることになるのだが・・・
「じゃあね高須君!紅茶おいしかったよ!よかったらまた話そうね!」
「おう・・・じゃあな・・・」
昼休みが終わるまであと数分。亜美は上機嫌で自販機から去る。竜児は未だに残っている
コーヒーを飲みながら・・・
(あれが川嶋の本性ってやつなのか?確かの誰にでも優しいクラスでの川嶋とは違うが、そんなに悪い奴には見えないけどな・・・
確かに脅迫はされたがクラスで『川嶋亜美は性格悪いぞ〜』なんて言って欲しい人んなんかいねえよな。
本当に性格悪いんだったら北村が放っておくわけねえし、逢坂は・・・まぁ相性が悪い人なんていくらでもいるだろう
『常に笑顔のいい子』って訳ではないだろうがあれくらいのいたずら心をもった子なんていくらでもいるだろうしな・・・』
コーヒーを飲みほし1つの結論を出す竜児
(逢坂には断るか。上手くいきそうにねえし、そもそも川嶋の本性を暴きたいだなんて思ってねえし。)
空き缶を捨て教室に戻る。『川嶋亜美は少し意地が悪いかもしれないが問題なし。』
それが竜児の結論である。
そしてこの時知る由もなかった。何故、『計画に協力してくれる』といったのか。
そして性悪ちわわの本性を・・・
放課後、再び竜児は大河に呼び出された。
「あの泥棒ちわわ!みのりんもあんな奴と仲良くしなくたって・・・!」
「なあ大河・・・話が・・・」
「ふうん、あんたもようやくやる気が出たようね!いいわよ、言ってみなさい」
「もう止めねえかこんなこと・・・川嶋もそんなに悪い奴じゃないみたいだし・・・」
「・・・なんですって」
どうやら実乃梨はすっかり亜美と仲良くなったようだ。大河からしたら唯一の友人が自分の気に入らない奴と仲良くなるのが許せないのだろう。
そして同士だと思っていた竜児のこの一言。当然大河は
「へえそう。しょせんあんたも川嶋亜美ちゃんをちやほやしてる有象無象の下僕どもと一緒ってことね!?」
「意味わかんねえし、そんなんじゃねえよ。確かに川嶋に脅しのようなことはされたが、
こっちから何かしない限りなにもされなそうだし、お前と組んであれこれする方が目を付けられそうで怖いっていうか・・・」
「要するに『こっちが何もしなければあいつも何もしないだろ?』ってこと?」
不機嫌そうな表情は相変わらずだが、話は聞いてくれるようだ。
「そうだよ。川嶋だって、なにもされなきゃ俺たちのことなんて放っておくだろ。
つか、向こうもお前が睨むからうんぬんとか言ってたぞ?」
その一言を聞いたとたん、大河の瞳孔が開く。
「やっぱり懐柔されてるんじゃない!この鈍感!いい!?
あの女はそんなに生易しくないわ!化けの皮知ってんでしょ?油断してると痛い目に会うわよ?」
(痛い目はお前のせいで十分遭っているんだが・・・)
心の中で思う竜児、もちろん口にはできないが・・・
「どれだけ川嶋のこと嫌いなんだよ?そもそも、嫌いならかかわらなければいいじゃねえか?」
「そうしたいのは山々だけど、そうはいかない事情があるわ。それに私の勘が『あいつは危険』って言ってるのよ。」
(お前の勘だと誰でも危険って言うだろ?)
再び心の中で突っ込む竜児、大河に面と向かって言い返す勇気はない・・・
「もういいわ!とにかく、あんたはもうやらないってこと?」
「・・・ああ。」
「そう・・・もういい!あのちわわに何されても知らないからね!?」
そう捨て台詞を吐いて去る大河。
(川嶋には何もしなきゃなにもされないよな。逢坂には悪いが共同戦線はここまでにさせてもらおう。)
そして翌日から逢坂とは話すことはなくなった。・・・話すことはなくなったが、前回より殺意の視線とすれ違うたびの舌打ちが強くなった。
そして川嶋とも特別仲良くなったわけでもない。あの放課後より前と同じ生活に戻ったのだった。
今回分終了。もうすぐで1巻分が終わる!はず!
ネタつまらなくても怒らないでください。みのりんファンの人許して下さいm(−_−)m
みのりんって書くのむず・・・ry)
ではまた次回!ノシ
おおスレチェックしてる回があったぜ
会社から帰れたら読ませてもらうよ! ・・・仕事終わる目処は立たないけど
GJ!
続きまってるよ
()
434 :
412の続き:2012/03/20(火) 20:04:34.15 ID:tNisBccX
保守がてら
実乃梨は興味深々な様子で竜児に顔をよせる
「はいは〜い、じゃ、たかすくん、チューしよ」
舌で上唇をなめると竜児の顔を両手で固定する。
「て、まて櫛枝、動けねぇ」
ぴちゃり
竜児の唇がなる。実乃梨が舌でなめつけたのだ
ペロペロと舐めつける
「ま、まってくれ、櫛枝、それはキスじゃ」
「なんか、おいしそうだったから」
「ま、まってくれ」
竜児が制止のことばを伝えようと口をひらき、踊る舌に実乃梨の舌がからみつく
ぺちゃぺちゃとなる舌と舌
竜児は制止の言葉をはなてなくなる、頭に血が上っていた
「うふ」
実乃梨は本能のまま、竜児の舌を甘噛みし、はむはむと唇での愛撫を開始した
435 :
名無しさん@ピンキー:2012/03/21(水) 01:19:39.59 ID:lbtcQJQ/
おひげガールズafter書いてくれよ
秘密メランコリーも頼む
保守
てす
イナイレと被せてもなぁ……。
誤爆した……。
もう田村くんSS書いてくれる人っていないのかな、
名作だし結構需要あると思うんだけどな
ずっと待ってる。松澤と田村くんのエロを読みたい
ナナドラ!
a
久しぶりです。「とちドラ」4回目の投稿です。前作まではこのスレを振り返ってください。
ではいきます。
ある日の放課後、竜児はスーパーでの買い物後の帰り道、
「お?」
「ちっ」
「おい待てよ逢坂。前々から思ってたが、顔合わすたびに舌打ちするのをやめてくれ!」
「うざ・・・」
「おい!逢坂!・・・」
偶然会った大河に声を掛けるものの、舌打ち後に無視、学校では諦めていたが今は追いかけることにした。
「なにかしら高須君?私は忙しいのだけれど!」
「なんだよその態度はよ?」
恭しく、ながらもいらつきながら大河は言葉を発する。軽く声を掛けた竜児も意地になり
「なんだよ?軽く挨拶しただけじゃねえか?そんなんだからお前が友達が」
「あん!?いつあいさつしたのよ?それに余計なお世話よ?
クラスの連中と仲良くしなきゃいけない決まりでもあるわけ?それと付いてくるな!このストーカー!」
「うっ・・・って違えよ!俺んちもこっちなんだよ!・・・つか、お前も俺の家知ってるだろ?」
「ちっ・・・」
『そう言えばそうだった』いった感じで舌打ちをする大河。竜児は大河の家を知らないが、
大河は竜児の家を知っている。侵・・来たことがあるからだ。
「今帰りか?」
「うっさい。あんたに言う必要はない」
もう日も傾こうかというところ。学校とは別の所から商店街とは別の方向に向かう大河。竜児と共に歩いてはいる。が、会話はしてくれないようだ。
そして大河の手元を見てみるとスクールバッグとは別にビニール袋が1つ
「お前も買い物するんだな?惣菜屋か?もしかして料理するのか?」
「・・・っ」
「お、おい!逢坂?」
怒りというよりは苦虫をつぶしたような顔をした後、歩く速度を速める。
「ぶしゅ!」とくしゃみをしても、「パシャ!」というシャッター音のようなものがしても歩く速さは遅くならない。
「なあ気に障ること言ったなら謝るって。だから」
「付いてくるな!って言ってるでしょ?それとも何?私とあんたは友達にでもなったの?
違うでしょ?あのちわわとでも仲良くしてればいいじゃない?」
「もしかして川嶋と何かあったのか?」
「なにが『こっちがなにもしなければなにもされない』よ!この狼男!」
(嘘つきはオオカミ少年だろ?)
「なんかあったのか?俺は特になんともないんだが・・・」
そう。大河と決別した後は亜美とは何もない。何かされることはもちろん、自販機の前で話すこともない。
「私のみのりんにちょっかい掛けやがって・・・あのちわわ・・・殺す・・・」
あの時の奪還作戦は未だに上手くいっていないようだ。だが
「そうか?お前ら一緒に行動してるじゃねえか?川嶋だって櫛枝とそこまで多く一緒にいる姿は見ねえし。」
竜児的には何も変わっていないように見えいてる。大河と仲がいい、というかまともに話せるのは実乃梨のみ、
亜美だって男女かかわらずにいろいろな人と話しているが、主に共にいるのはやはり麻耶と奈々子だ。
「みのりんってば私があいつに舌打ちするたびに『クラスメイトに舌打ちしたらめ!だよ!』っていうのよ?」
「別に普通じゃねえか!!」
思わず声をあげてしまう竜児。そんなこと、例え亜美と面識がなくても怒られるのは当然だ。
「くっ・・・あんたと違ってみのりんは私の味方だと思ったのに!!」
「いや・・・それは味方とか以前の問題だろ・・・つか櫛枝はお前と川嶋が仲悪いこと知ってんのか?」
「そんなのどうでもいいでしょ?あんたはいつまでついてくる気?」
「違うって言ってんだろ。お前こそ家はこっちの方なのか?」
「・・・そうよ?悪い?」
「悪いってことはねえが・・・そうなんだな・・・」
確かに大河は家が別方向だったら竜児と一緒に帰るのはあり得ないだろう。
現にさっきから見せている行動は早歩き位、竜児の家の場所を知ってかつ、同じ方向に向かって歩いている。
もう商店街も抜け、見える景色は連なる家々のみ。どこかの家が目的地でない限り来ないような場所だ。
「なあ、もしかしてお前の家って俺の近くだったりするのか?」
夜中に侵入、いくら無敵の手乗りタイガーといえわざわざあんな時間に遠方から来るだろうか?
そんな竜児の推理を聞いても
「・・・」
黙りこんでるのか、無視してるのかはわからないが返事はない。
竜児の家はもうすぐだ。
「なぁ逢坂?」
「ちっ・・・そうよ、私の家はこっちの方!じゃあね!」
「お、おう・・・」
ともうすぐ竜児の家。というところで大河は曲がってしまう。当然付いていくわけもいかず、2人はここで別れる。
「ったく・・・なんであいつに会うのよ!・・・遠回りになるじゃない・・・」
そうぼやきながらゆっくりと遠回りして帰って行く大河。そして
「ふうん・・・面白いもの見ちゃった・・・どうしようかなぁ・・・これ。」
そしてその2人を見ていた人影があった。その人の携帯のディスプレイには黙って見つめあう小柄な少女と強面の少年が映っていた。
「たしかに一時期仲良さそうに一緒にいたけど、そういう関係には見えないなぁ・・・」
「ご主人様と下僕!って感じ!」
「そう!そんな感じ!まああの逢坂さんが男子と仲良くしてる時点で意外だけどね。」
「それは高須君にも言えるな。あいつが女子と仲良くしてるの初めて見たな。」
朝のHR前の2−Cの様子。クラスの話題は有名というか問題?の2人。
意外な組み合わせであり、2人行動が増えたときはもしかして?なんて思ったが、
最近はあまりかかわっていない様に見える。短期間で別れたのか?それとも・・・なんて時に
「みんなおはよー!ってあれっ?みんなして何を話してるの?」
亜美がやってきた。当然何か話しているクラスの面々に興味を持つ。
「あ、亜美ちゃんおはよー!今はあの話だよ!『高須君と逢坂さんは付き合っているのか』だよ?」
「そうそう!亜美ちゃんはあの2人は付き合ってるって思ってるんだっけ?」
麻耶と奈々子が話の輪に亜美を迎え入れる。どうやら3人でもよくこの話をしているようだ。
亜美は一瞬口元を緩めた後、携帯を取り出し
「それがね、昨日こんな光景見ちゃったんだよねぇ〜」
携帯の画面を見せる亜美、そこに映っていたのは
「えっ!まじうっそーー!!」
「本当に昨日の写メ?」
「うん。ここに取った日の日付があるでしょ?」
奈々子の疑問に亜美が答える。それを見たクラスメイト達も亜美の携帯の画像を見る。
「仲がよさそうって感じには見えないけどなぁ」
見た1人がそう疑問を投げかける。確かに映っている2人は片や気づかって話しかけているような伺った表情、
片や不機嫌なのかはわからないが、少なくとも楽しそうには見えない表情の少女が映っている。
恋人同士、と呼べる雰囲気に見えないのは確かだ。
「でも付き合いたてならこんなものじゃない?きっと最近校内で仲良く見えないのは照れ隠しじゃないのかな?」
亜美がそう付け加える。するとクラスの面々も
「たしかにそうかもな」
「タイガーはともかく高須君は付き合うの初めてだろうしね」
と、同感の声を得られる。すると
「ったく!早く入りなさいよね!」
「わかったよ!そうせかすな!」
ガラッ!ッと扉が開きズバリ話題の2人がやってくる。当然クラス中の視線を集め、
「お、おはよう。ん?どうしたみんな?」
「なにみてんのよ?なんだってのよ!?」
注目はいつも浴びてる2人だがさすがに慣れつつあるクラス中の視線に不審がる2人。
すかさず亜美が「ううん、なんでも。」と、言うか言わないか同時に
「ちょっといい?・・・2人とも?」
そう声を出したのは櫛枝実乃梨。親友の噂話を無言で聞いていたが2人の登校と共に席を立つ。
「俺も?」と竜児が自分のことも指をさす。「そうだよ」と実乃梨に言われ。大河は「ちょっみのりん?」と手を引きずられ3人は教室を後にした。
HR前(始まっているかもしれないが)3人は屋上に立っていた。
「風は・・・今日も元気だな・・・」
フェンス越しに外を見ながら実乃梨はそうつぶやく。連れてこられた2人は
「なあ・・・櫛枝はなんで俺たちを連れ出したんだ?」
「そんなの私も知りたいわよ」
大河も知らないようだ。ひそひそ話をする2人に実乃梨が振り向く。
「そう言えば高須君と面と向かって話すのは初めてだったね。ごめんね、いきなり連れ出して。
同じクラスで、大河の親友の櫛枝実乃梨です。これからよろしくね!高須君!」
「お、おう。高須竜児です。・・・でどうして俺たちを屋上に呼んだんだ?」
言われてみれば竜児が実乃梨とこういう風に話すのは初めてだった。けど実乃梨のことはよく知っている。
といってもいろいろあってそのことはもう過去のことなのだが・・・
「そうだね、本題に入ろうか。大河!」
「はいっ!ってどうしたのみのりん?」
「私に隠し事はない?」
大河をじっと見据え問いかける実乃梨。いつものような陽気な雰囲気はない。
「なんでみのりん?そんなことはないよ?」
「好きな人とかいない?」
「!!??い、いないにょ?そんな人!」
(わかりやすい奴)ついあきれてしまうほど慌てる大河。そんな大河の態度を見れば実乃梨も・・・
「そう。けど今の反応で分かっちゃったんだ。」
(まぁそうだろうな。しかし・・・『好きな人』というのは誰なんだ。
川嶋は俺だと言っていたが、逢坂本人が否定したからな)
(なぜ櫛枝がそう言うことを聞くんだろう)という想いもあったが、
(逢坂に好きな人なんているのか?)という想いもよぎる。というかそんなことを聞くならなんで竜児も呼ばれたのだろうか。
「大河。もう隠さなくていいよ。私はもう分かってるから。」
「な、なにが・・・?」
実乃梨は一呼吸し、
「大河は高須君のことが好き・・・というか付き合っているんだよね?」
「・・・」
「・・・」
「ええええええええ!!!!」
2人して黙った後に同時に叫ぶ。
「えっ、ちょっ、なんでこんな奴と」
「待て櫛枝!俺たちは付き合ってなんか・・・」
「「そうか!そんなことになっていたのか!」」
「この声は・・・」
いきなりの実乃梨の発言。なんのことだかわからず固まり、2人して否定しようとする。
すると別の方から声がする。竜児にとっては非常に聞き覚えのある声だった。
「北村!?」
「逢坂と一緒にいることが多いなと思ってはいたがそういうことかぁ!いやあ、めでたい。」
屋上の入り口の上に立ち、「はっはっはっ!」と高笑いしながらそう言う北村。それを聞いた瞬間
「・・・」
「おい!逢坂!しっかりしろ!」
崩れ落ちる大河をとっさに支える竜児。そして
「高須君!大河は本当にいい子なんだよ。大河を悲しませたら・・・許さないよ。」
「お、おおぅ・・・」
まじまじと実乃梨にそう言われる。大河を支えながらということもあり、竜児は適当な返事をすることしか出来なかった。
そして北村の高笑いも続いていた。
1時間目の授業にやたら満足げな北村と実乃梨、やや疲れ気味の竜児と、
その竜児に担がれ放心状態の大河が遅れてきたときはどうしたと思ったものの、
休み時間に北村、実乃梨に話を聞くと、「あの2人を温かく見守ろう!」との答え。
そうして迎えたその日の昼休み。話題の2人は共に教室にいない。北村、実乃梨もだ。
「ほんとに付き合ってたんだね〜あの2人。このクラスになってまだ1カ月もしてないでしょ?展開早いよね〜」
そう話すのは木原麻耶、すっかりおなじみとなった3人での昼休憩。
「でもいいじゃない?このクラスからカップルが生まれるなんて。ふふっ、ちゃんと応援してあげないとね。」
「ねぇ麻耶ちゃん、奈々子ちゃん。」
奈々子がそう言うと、亜美が2人に向き合う。しかし
「ううん、いや何でもない。それよりジュース買ってくるね。」
何か言おうとしたものの、思いなおしたのか言い淀み、
「いってらっしゃ〜い」、と言われ、亜美は席を立つ。向かうのは当然自販機の間のスペースだ。
そして飲み物を買った後、自販機と自販機の間に座りこむ。他には誰もいないようだ。
(にしてもあれだけのことで本当にみんな信じるとはねぇ・・・祐作まで信じるとは思わなかったな。
あのときは高須君にああ言っちゃったけど、タイガーは高須君が好きじゃなかったんだよねぇ・・・
タイガーがあたしのことを敵対視してた理由もなんとなくわかってきたし。まぁあたしにはそんな気はないけどね。
あれは軽い仕返しのつもりだったけどちょっと予想外の方に進み過ぎちゃったなあ・・・
けど『悪戯』ってことにすれば高須君は許してくれるかな・・・それともそのまま上手く言ったりして。
ふふ、どうなるかな?あのときは2人して楽しそうにしてたけどね。
けど当初はあたしになんかしようとしてたみたいだけど、高須君とあの時話してからコンビは解散したみたいだしねぇ・・・
けどまぁ2人ともクラスに馴染んでなかったし有名な2人だから『仲がよさそうならくっつけちゃえ』って流れがあったのかねぇ。)
ジュースを飲みながら亜美はそう思案する。それに『性格も容姿もいい子』というのを演じるのはやはり疲れる。
1人、息抜きをしないとやはり持たないようだ。不思議とこの自販機は人通りが少ない。この隙間に座っていると落ち着くのだ。
(あのことも今んとこ転校してからは大丈夫だし、このままここでおとなしくしていればいいのかな?)
ジュースは飲み終えた。しかし彼女の足はまだ動かない。
(ここでのんびりしてるとよく来てくれるんだけどなぁ・・・さすがに都合よく来てはくれないか。
今は教室に居づらいからここに来るかなとも思ったんだけどな。やり過ぎたかな。
けどまぁ別にあのくらいならそんなに問題ない・・・よね。果たしてどうなるかな。)
来るか来ないか分からない人を待っても意味はない。友達の待つ教室に戻ることにした。
カラスの鳴く夕暮れ時、特に河原の夕焼けは非常に綺麗に映る。そんな綺麗な夕日の中、
「はぁ・・・」
「・・・」
2人して隣り合って座っている。そんな2人はクラス公認で付き合っている出来立てほやほやのカップル。
けれども甘甘なような、初々しいような雰囲気は一切ない。むしろお通夜のような雰囲気。
それもそのはず、2人に付き合う気、というか好意は一切ない。一緒にいたのも作戦を共に実行しようとしただけだ。
それも最近は共に行動はしてなかったのだが・・・どうしてこうなった。
「なんていうか・・・まぁ・・・元気出せよ逢坂・・・」
今日1日放心状態だった大河もようやく口をきけるようになった。しかし未だに落ち込んでいる様子。
「俺は『お前と恋人同士!』なんて思ってねえし、こういうのは外野を気にせずに当人同士で解決すればいいんじゃねえの?」
竜児からしたらこの手の騒動は2度目だ。そのことが原因で大河が家にやってきてこうやって話すようになった。
そしてその時に、『大河から竜児への好意はない。』というのは分かったはず。
クラス中に誤解されるのは慣れている。それは大河も同様だ。今更気にすることではないような気もするのだが・・・
「あの時・・・」
「ん?」
大河が突然口を開く。放心状態はだいぶ戻ってきたとはいえ、まだ立ち直ったようには見えていない。
「私があんたの席を間違えなければ少なくともあんたは巻き込まれなかったのにね。」
「どういうことだ・・・?」
「あんたが私と川嶋亜美の話を聞いた時、私はその・・・ラブレターを入れようとしたの。」
「おう!?お、俺じゃないんだよな?」
「何度も言わせるなこのニワトリ野郎。私が渡そうとしたのはその・・・隣よ・・・」
「隣って・・・」
竜児の席は窓際でも廊下側でもない。隣は2つあるが片方は女子つまりもう片方の隣、その人は・・・
「北村か!?」
「・・・コクリ//」
「そうなのか」
顔を真っ赤にしてうなずく大河、それに対し当然驚く竜児。大河に好きな人がいた!というだけで驚くところだが、
相手が自分のよく知る北村、という点も驚く。そして何より、
「聞いちまってこういうのは難だが・・・俺に言っていいことなのか?櫛枝は知ってるのか?」
『大河が人にこう言った秘密を話す』という点に驚く。人に心を開かない大河はこういうことは口には出さないと思っていたが・・
「みのりんには言ってないよ。それにあんたなら・・・いい。あんたも普通じゃない方だ。し。」
「普通じゃない?」
「そう。あんた母親しかいないんでしょ?」
「ああ、うちは母子家庭だが・・・『も』ってことはお前もそうなのか?」
「ううん、私の両親は両方・・・い・・・いないようなもんだね。」
「いないようなもの?」
目を伏し、話し続ける大河、未だに話をつかめていない竜児は大河の話に聞き入る。夕日はまだ沈まない。
「うちの両親離婚したんだ。それで父親の方に引き取られたんだけど再婚相手の方と上手くいかなくてさ・・・ぶしゅん!」
「大丈夫か?冷えたか?」
「大丈夫、いづものこと。
ズズッッと鼻をすすり話を続ける。
「それで今は1人暮らしをしてる。あんた家の隣のマンションで。」
「ってあのマンションでか?」
「うん。そうよ。」
(どうりで・・・)
それなら行きや帰りでよく見るのも、あの日、『1人で帰れる』と言ったのも納得できる。
「それで泰子の話の時はやたら素直だったんだな。」
「うん、大事にしなよ。たった1人の家族なんでしょ?」
「ああ、もちろんだ。・・・で、なんでこんな話になってるんだ?」
大河の好きな人の話をしていたはずだが、何故か、家庭事情の話になっていた。話を戻そうとする竜児。
「なんであんたにこの話をしたかってことよ。あんたは普通じゃない。あんたが私に近いものがあると思ったからよ。」
大河が多くの人に噛みつく理由が分かった気がした。竜児自身も幼いころから『普通の家庭』ではない。
母が非常に若く、それにお水系の仕事をしていた、更に自分の顔が幼いころより極道顔をしていたせいもあり、
『普通じゃない』として距離を置かれることが多かったが、これを『可哀そう、不憫』と言う人もいた。
学生のうちに身ごもり、それから1人で竜児を育ててきた泰子。当然苦労は多く、苦しい環境であるのは確かだ。
しかし、『可哀そう』などと言う視線、言葉は貰っても迷惑なものでしかない。そんな風に接してこられても困るからだ。
若く、更に朝帰りをしてきた泰子を見て、大河はなにか感じたのだろう。
「だからあんたにならしても問題ないって思ったのよ。あんたはしょせん他人なわけだし。」
「他人って・・・」
「それよりあんたはいないの?気になってる人とか?」
「・・・いねえな」
(正確には『いた』だがな)
ポエムや、デートを想定してドライブのプレイリストをうっかり作ってしまうほど好きな人がいたが、
この一ヶ月ですっかり冷めてしまった。「つまらない奴」と大河に言われても、いないものはしょうがない。
しえん
てす
「それでお前が落ち込んだ理由は・・・」
「まだ気付かないの?あんた本当に鈍感ね?」
半目でにらみながら大河は
「き、北村君に聞かれたからよ!あんたと付き合ってるってこと・・・」
「なるほどな・・・」
そりゃ好きな人に『別の人と付き合ってる』なんて思われたらショックだろう。
それに北村は俺たちのこと祝福してたし・・・
「全く・・・北村も櫛枝も勝手だよな。俺らの話を聞かないで勝手に付き合ったなんて思いこむし。」
「ホントよ!」
急に大河が立ち上がり竜児にそう叫ぶ。
「みのりんも北村君もみんなもパパもママも・・・私のこと全く分かってくれない・・・」
「お、おい・・・」
1人心地に愚痴を言いだす大河、声も涙声になっていき焦る竜児に
「全く全部・・・むかつ!ぶうぇくしゅん!!」
「・・・」
むかつくと叫ぼうとしたんだろう。くしゃみで台無しになり竜児はあきれるが
「むかつくんだぁ〜〜〜」
と叫び、全力で川に石を投げ込む竜児。鼻をすすった大河は
「どういうつもり?」
「お前が言ったんだろ?俺とお前は似てるって。俺だって勝手な憶測されるのはもうこりごりだ。」
「ふん、勝手にすれば。」
そう言う大河の顔は笑っている。
「変な名前で悪いか!」
「顔怖くて悪かったな!」
「ちびで悪いか!」
「喝上げなんてしたことねえ!」
「え?まじ?」
「ねえよ!」
もう沈みかけの夕焼けの川に向かって、叫びながら石をガンガン投げ込む2人。
おかしい人に見えるか、青春してる人に見えるかは人次第。そして周りに手ごろな石がなくなった頃
「これで最後にしてやらぁ!」
「ってまじかよ!?」
大河が持ち上げようとしているのはカバンくらいあろうかという大きな石。
「ぬおおおおりやあああああ!!!」
大きな石が宙を舞い、ドッボーン、と、ひときわ大きな音がする。水しぶきもひときわ大きい。
「お前・・・すげえな・・・」
一際手乗りタイガーのパワフルさを実感する。
あの小さな体で自分でも持ち上げられるか分からない大きさの石を投げ込めるとは・・・
「決めた!私告白する!」
「告白・・・するのか・・・?」
自分も分かる。ただでさえ恥ずかしい行為なのに、あまり話をした事のない人にするのはなおさら難易度が上がることを。
「うん!この誤解を解くのにも1番いいしね!」
そして2人は帰途につく。竜児も今日は買い物をする予定がない。大河も今日は一緒に帰るのを許してくれるようだ。
「にしてもどうしようか?」
「何がだ?」
「あんたとの関係よ?恩返しも終わったし、今は・・・」
「なんだ、そんなことか。」
「そんなことって何よ!?」
鼻で笑いながら返す竜児に若干苛立つ大河。
「そんなことだよ。別にどうでもいいじゃねえか。俺らの関係なんて。」
「どうでもいい?」
「ああ、ただのクラスメイトでも赤の他人でも。話したかったら話せばいいだろ。」
「・・・ふ、ふん!あんたなんかに話す用なんてないわよ。」
「・・・かもな。」
そうして2人はそれぞれの家に帰るために分かれる。片方が晩御飯を買うのを忘れてもう一度外出するのは秘密の話だ。
そして・・・
「なんで一緒に帰ってんのあの2人!わけわかんねぇ!ほんとにくっついたとか!?」
その2人を見ていた人がいたことも秘密だ。
翌日、登校してきた竜児。そして彼が2−Cで見たものは・・・
「よ、よう高須・・・」
やたら怯えきった能登が竜児を迎える。怯えてるのは2−Cクラス一同だ。そして教室は軽く荒れている。
「どうしたんだこれ?」
「それがな・・・」
当然事情を聞く竜児。能登は言い淀み、そして
「大河がね、『高須竜児とは付き合ってない!それに高須君は怖い奴じゃない。
これ以上変な噂流したらお前らもこうしてやるぞ!』って怒ったんだ。私が止めても聞いてくれなくて・・・」
実乃梨が申し訳なさそうにそう説明する。
(大河が・・・か・・・)
「それでね、北村君がきた瞬間、『話がある』って言って2人でどこかに行っちゃったんだよね。」
「!」
(そうか・・・)
大河なりにけじめをつけたんだろう。そう竜児は察する。そして今頃大河は・・・
「そ、そうか。確かに俺と逢坂はそういう関係じゃねえ。けどまぁみんなが分かってくれたんならなによりだ。
先生が来て騒ぎになる前に早く教室を戻そうぜ。」
「・・・高須君、本当にごめんね。」
実乃梨を始めクラスメイト達に次々に頭を下げられる竜児。はたから見れば・・・いや考えるのは虚しいからやめよう。
「気にするな。それより早く直そうぜ。」
「うん、ありがとね、高須君!」
(今頃逢坂は・・・いや)
自分にできることはない。自分にできるのはせいぜい大河の舞台を邪魔しないことだろう。
結果を案じつつ、竜児は教室を直していくのであった。
「今日は遅れちゃったなぁ・・・」
遅刻ギリギリアウトのタイミングで亜美は登校する。
(あたしが神経質すぎるのかなぁ・・・けどこっちに来ないとは限らないし・・・
どうしても意識過剰になっちゃうんだよねぇ・・・
さすがに学校に来れば大丈夫だろうけど・・・裏門から来る必要はなかったかなぁ・・・)
亜美は登下校に非常に時間を掛けている。部活で朝早く練習してる子並みの速さで家を出ているのだが、
学校に着くのは多くの生徒と同じか、あるいはギリギリになる。もっとも今日は間に合わなかったが・・・
有名人と言うこともあり、人目を気にしている分『いつもの道』というのを作るわけにはいかない。
遠回りしてでも毎日ばらばらの道順で行っているが、今日は遠回りしすぎたようだ。
(さすがにこの時間は誰も・・・ん?)
「わ、わたし北村君のことが・・・好き!!」
「うわっ!」
慌てて隠れる亜美。どうやら誰かいて立て込み中のようだ。
(何?告白!?もうHRの時間でしょ?って・・・北村?)
聞き覚えのある声に聞き覚えのある名前、恐る恐る覗いてみると・・・
「1ついいか?・・・逢坂は・・・高須と付き合ってるんじゃなかったか?」
(ええっ!?マジで!?)
同じクラスの見知った顔、逢坂大河が同じクラスで自身の幼馴染である北村祐作に告白している。まさに真っ最中だ。
(タイガーが祐作のこと気になってるのは分かってたけど、まさか告白するなんて・・・)
当然亜美はその場に残り、その告白の行く末を見守る。
「高須君はそういうのじゃない。ただあいつは・・・」
「あいつは?」
そう言う大河の言葉が止まる。
(祐作も何聞いてんだよ・・・けど・・・どう答えるかな?)
「そう!あいつは、私の味方になってくれた!あいつは私の話を聞いてくれるし・・・今こうして告白してるのも・・・
ってあれ?って私何話してるの?そう!今は告白!だから私は!ぶしゅん!」
「大丈夫だ逢坂。お前の言いたいことは・・・ちゃんと伝わった。覚えているか去年のこと?」
「っ、覚えてる・・・あんな変な告白して来たの北村君だけだもの。」
(去年?告白?まさか祐作!?)
「あの時の逢坂はまっすぐで魅力的だから告白した・・・けど最近のお前はさらに魅力的だ。
高須に会って以降、逢坂は面白い顔をすることが多くなったからな!」
「お、面白い!?わたしが?大丈夫?変じゃない?」
(どういう告白だよ、どういう返事だよ・・・)亜美はあきれながらも2人の話は続く。
「ああ、大丈夫!そんな逢坂に好かれることができて俺は嬉しいぞ!」
「!!それじゃあ・・・」
「ああ、俺と逢坂は『いい友達』になれる!」
「えっ・・・ともだち?」
(まぁ・・・結果は見えてたけどね・・・祐作には夢中になってる人がいるし・・・)
「そうだ、友達だ。」
「っ・・・けど私は・・・」
そんなときチャイムが鳴り響く。
「おっといけない。HRをさぼってしまったな。恋ヶ窪先生はお怒りだろうか。ほらっ!逢坂も教室に戻ろう!」
そう声を掛けられた大河だが・・・
「うん・・・私はもう少ししたら戻る・・・来てくれてありがとうね、北村君・・・」
「ああ!これからもよろしくな逢坂!お前も遅れないように戻ってこいよ!」
走って去っていく北村を手を振り見送る大河。
(いくらタイガーと祐作とはいえ振られる姿を見るのはいい気分はしないわね。
って言ってもくっつかれても困るんだけどさ。
にしても、祐作ももっとうまい断り方なかったのかね?タイガーの告白の言葉もあれだけどさ。
タイガー・・・ひょっとしたら・・・あれ?)
ふと大河の方を向いても大河はいない。辺りを見回すと「ぶえっくしゅん!」という声。
「帰るの・・・か」
大河は校門へと向かっていた。もう表情も見えない距離まで離れてしまった。
(ま、タイガーはこれくらいじゃへこたれる奴じゃないだろうしね。明日からはちょうどよく連休だし、そしたら帰ってくるよね。)
4月ももう終わり、桜もすっかり散り、これから夏に向かう季節だ。
(あたしはいつまでここにいるのだろうか。早く戻りたい・・・のかな?)
そうして亜美も教室に向かう。1時間目も遅刻だろう。それでも亜美には授業をさぼる理由はない。
『モデル』である前に『女子高生』という役目を全うするために、亜美は教室に向かった。
というわけでようやく1巻分終了・・・こんなに長いとは思わなかった・・・
規制やらなんやらでこんな時間に書き込まざるをえなかったし・・・
更新頻度は2週間に一度出来るよう頑張ります!
では次は2巻、5月の物語、原作と色がガラッと変わるのは次の騒ぎが終わってからですね。
ではまたノシ
GJ いつも楽しく読ませていただいています
いつもありがとう、楽しみにしてるんだからね
漫画版の単行本が同時期に発売された訳だが
久々に見たら、面白いのが来てた
またちょくちょく見に来よう
規制やっととけた
tes
俺も規制とけた。 itscom ......
468 :
名無しさん@ピンキー:2012/04/01(日) 20:11:24.02 ID:A4hZsGE0
保管庫仕事しろやあああ!!!
保管庫はともかくとして、いつ掲載先が消えてもいいように
お気に入りはクラウド化してバックアップとってる
>>469 面白いとおもった作品が消えるのは忍びないし、他の人にも見てもらいたいと思うし
気持ちは解る
>>468 ログは拾ってるけどなかなかめんどうで(´・ω・`)
まったり行きましょう
>>472 生きてましたか、よかった
まとめサイトがあるとスレが落ちてもSS書く続ける気になるんでマイペースでがんばっていただけるとありがたいです
保守
『みんな幸せ』
『みんな幸せ』それが俺の高校2年生の時、進路希望で書いた内容だ。
皆に苦笑いをされたりもしたが、それが掛け値の無い本当の気持ちだったんだから仕方ない。
そして、その思いを俺は夢物語だけでは終わらせなかった。
大河とは今では本当の家族となり、自分の隣に居てくれている…。
そして、それは俺自身や泰子の幸せにもなった。
櫛枝の夢を叶える為に栄養士の資格を取り、完璧な食事管理で櫛枝は最後まで投げきった…。
今では女子1部リーグの花形選手として活躍している。
北村の想いを叶える為に、アメリカへも行った…。
入国審査で4時間も足止めをくったのも、今となってはいい思い出だ。
川嶋の仕事のマネージャーをした事もあった…。
ヤクザ役の役者と間違えられて映画に出演した事は大河達には秘密だ。
能登と木原をカップルにするのはホントに時間が掛かった…。
どんだけ奥手なんだよ、能登。
春田が無事卒業できたのは奇跡だった…。
まさか、脳みそが豆腐で出来ている人間が居たとは驚きだ。
香椎がまさかあんな企みを抱いていたとは…。
おっと、これ以上は喋れねぇ。
皆の願いや希望の手伝いをしてきて、あと一人の幸せを叶えればみんなが幸せとなる!
しかし、ここに来て俺は挫折を味あう事となった。
一筋縄ではいかない事は判っていた積もりだったのだが、現実は甘くかったとしかいう他ないだろう。
俺だって社会に出て色々な人達に触れ、理想だけでは物事が進まない事を知っていたさ、この顔出しな…。
ここまで来たんだ「やってやるさ」という思いはあったが、こうも苦労する事になるとは想像もしていなかった。
川嶋のコネや康子の店に来る客、果てはじいちゃんの知り合いまで手を尽くしたが上手くいかない。
売り込みのポイントを増やす為に料理はいうに及ばず、高須式家事術全般を全てを完璧に仕込んだ。
『人力だけで足りないというなら神力もだ!』と、いうことで願掛けも兼ねて出雲大社にも連れて行ったし
これだけは勘弁してくれと駄々をこねられたが、むすび鈴だって2個も買って身に付けさせてる。
本人にやる気だってあるのに何故なんだ。どうして、どうして上手くいかない…。
「諦めなさいよ、竜児。世の中は出来る事と出来ない事があるのよ」
「なんで、結婚出来ないんですかね……」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁん!!」
恋ヶ窪ゆり、三十◯歳独身の春
おわり
乙。
竜児動き過ぎだぜw
独身が上手く行かないのは本人は真剣だろうけど、
ギャグっぽくできるから良い。
というか本編や番外でやっていたみたいに教え子と交流を続けられるのは
それなりに幸せなことなのではないかと思う。
個人的に一番厄介なのは大河と竜児両者の父親がらみだと思う。
乙〜\(^o^)/
田村くんも書いていいんやで?
ほしゅ
480 :
名無しさん@ピンキー:2012/04/12(木) 13:02:56.59 ID:z7iQ7LjT
おいみんなどこいったんだよ;;
居るでよ
GTで書き手さんが増えないと、流石に過疎る…
田村くんと GT の SS を読みたい ><
いるけど読み専だからなあ〜
SL早く来い
とらドラも受付けておるで
tesu
こんばんは。とちドラ!5回目の投稿です。今までの話はこのスレを振り返ってください。ではいきます。
GW
といっても特にやることのない竜児はいつもより勉強し、いつもより手の込んだ掃除をするだけだ。
と思っていた。
朝一でやることは洗濯だ。自室からつながるベランダに置いてある洗濯機のスイッチを押す。
そしてふと外に目をやると
1人の少女がふらふら歩いていた。「ぶうぇくし、ぶうぇくし!」とくしゃみを連続させながら・・・
「・・・」
表情を固めたまま竜児は固まるが
「やれやれ」
この世話焼き体質はあの母親と共に暮らしているからだろうか。
そして足は昨日、学校を休んだクラスメイトの方に向かう。なんだかんだでほっとけない。
「なんであ゛んだがごごにいる゛のよ」
「ぶぅぇくしゅん」とくしゃみをしながら思いっきり鼻声で毒づく大河。
「お前・・・そんな声で言っても説得力ねえぞ?風邪でも引いたのか?それで昨日学校を休んだとか?」
「うるざい、ぶしゅ・・・昨日はなんとな゛ぐ帰っだだげよ・・・ぎのう1にぢいえにいだら、ごうだっだ」
「ほらティッシュな、とりあえず鼻をかめ。病院1人で行けるか?」
『んん゛ーーーー』と鼻をかみ
「別に風邪じゃないわよ・・・ただ家にいると気分が悪くなるだけ・・・ほら・・・収まっ・・・ぶしゅん!!」
「治ってねえじゃねえかよ・・・つかお前、頻繁にくしゃみしてたな。体調悪そうではないのに」
思い返せば学校でもそれなりにくしゃみをしている。しかし教室で暴れたり、
大きな石をぶん投げられる奴が風邪とは考えにくい。
「ただのハウスダストよ。しばらく家にいなければ収まるわ。う、ティッシュもう一枚頂戴?」
「ハウスダスト・・・だと・・・」
その言葉を聞いた瞬間、竜児の瞳孔が開き、全身に身震いがする。ハウスダスト・・・その言葉は・・・
「ねえティ、!!ひゃぁぁ!!な、なんて顔してんのよ!?」
ハウスダスト?そんなもん家ごと焼き払っちまえ!!ふはははは!なんて考えているわけではない。
『この顔にピンときたら』系の顔はしているが竜児が考えているのは
「逢坂!!」
「な、なによ・・・」
手乗りタイガーもビビる竜児の顔。唇を舐めながら
「俺に、掃除をさせてくれええええええええ!!!!!」
「は・・・・?ぶしゅん!」
GW初日の住宅街に、女子高生相手にそう叫ぶ不審者がいるという噂が流れたり流れなかったり・・・
「隣に住んでいたのか・・・というか、3階の全部のフロアがお前の家かよ・・・」
「なんか文句あるわけ?・・・それよりあんた・・・うちで変なマネしないでしょうね?」
大河は竜児に自室の掃除をさせることを了承したのだ。
『ハウスダストが出るほどの汚れとはどんなものだろう』と痛烈な興味を持った竜児がお願い倒した。
大河も学校での竜児の異常な掃除好きなどを思い出し、無償でやってくれるとのことで許可したのだった。
「変なマネ?」
「考えてみればうら若き乙女の住処なのよ?何かしたら殺すじゃ済まないわよ?」
唸りながら大河が言うものの、
「なにもしねえよ。それに女のだらしない点なんて泰子で見飽きてる。」
「う・・・」
納得してしまう大河。泰子を見たのは1度だけだが、夜の仕事の朝帰り、
更に帰ったらすぐに寝るところを見ると、細かいところに気を使う人には見えなかったからだ。
「まぁ任せろ?今日は時間は大丈夫か?埃一つないくらいに綺麗にしてやるぜ?」
「わかったわよこの掃除マニア。ほら着いたわよ。」
「おう、腕が鳴るぜ。」
そして大河が自分の家の扉を開ける。
「おう!?」
とっさに鼻をつまむ竜児。何か臭う・・・
「なんだ!?この臭いは!?」
「におい?なんかする。」
「するわ!あがらせてもらうぞ!」
竜児は走って異臭の元を探す。大河は黙ってリビングへ向かう。
「なんいという・・・」
根源を見つけた竜児はその場で立ち尽くす。その元に来た大河は
「ああそれ?なんか面倒だからほっといちゃった。」
竜児は黙ってその場でうつむく。目の前にあるのは見るのも恐ろしいほどに汚れのたまったキッチンシンク。
他にここに来るまでいくつか部屋も覗いたが、どの部屋も清潔には程遠い。
「・・・・・」
「ちょっと・・・どうしたのよ」
竜児の沈黙を不審がる大河。すると
「クク、クククククク」
「ちょ!どうしたのよ?」
肩を震わせ笑う竜児に珍しくうろたえる大河。すると急に竜児は振り向いて玄関の方に向かう。
「なっ!逃げ出すつもり!?」
大河の問いかけに竜児は足を止め、顔だけ振り向き、
「違えよ・・・こいつは俺の想像以上だ・・・
俺の手に馴染んだブツじゃねえと戦えなさそうだ・・・家に戻って用意してくる・・・」
のちに大河は語る。後にも先にも恐怖で背筋が凍ったのはこの時だけだと・・・
温厚で知られる竜児だが、この時は血に飢えた獣、味方の敵打ちに行くヤクザの顔をしていた。
「残念だな!今日まではお前らの好きにやれただろうが、相手が悪かったなぁ・・・
俺に見つかったのが運の尽き!さあ観念しろよ・・・」
「ちょっとあんた!!」
「待ってろ逢坂!お前の部屋も驚くほどきれいに・・・」
「違う!いつまでやってるつもりよ!」
「いつまで?そりゃあ全部の埃を・・・」
あごを時計の方に向け「一晩中やるつもり?」
「一晩中?っておう!!もうこんな時間なのか!」
時刻はすでに夕方の6時過ぎ、日ももう落ちかけている。
泰子には出掛けると告げ朝から掃除開始。途中大河は昼ご飯を食べたものの、竜児は昼も抜きに掃除に没頭、
今の今までキッチン、そしてリビングの隅から隅までを一心不乱に掃除していたのである。
「やべえ、泰子の晩飯を・・・っと、ん?」
まったくもって気にしていなかった携帯を見るとどうやらメールが来ていた。
「おう!なんという・・・」
「ちょっと・・・どうしたのよ!?」
ただ事ではない落ち込みをする竜児に大河も若干つられて動揺する。
「かのう屋のセールをやっていたなんて・・・この情報を逃すとは・・・何たる不覚・・・」
「はぁ・・・母親はいいの?」
「おう!そうだったな。っと・・・泰子からのメールも来てるな。
おお、今日は晩御飯食べてから出勤するみたいだ。時間は気にしなくていいみたいだな。」
「けど今日はここで終わりよ。お腹もすいたし。」
ぐうぅぅ〜〜〜〜という音が鳴り、顔を赤らめる大河。竜児も昼を食べていないので腹が鳴ってもおかしくない。
「そうだ!あんた、家での支度しなくていいならここで晩御飯を作ることを許可するわ!」
「許可って・・・お前・・・今日俺が掃除してやった恩を忘れたのか?」
「は?してやった?恩?あんたぼけてるの?」
竜児の言葉に大河が反論する。
「『掃除させてください』いいって言ったのはあんたよね?むしろ私が感謝されてしかるべきよ!」
「う・・・」
たしかにそうだ。掃除をさせてくれと頼んだのは紛れもなく竜児。
大河も空気洗浄機も効かないほどの部屋で苦しんでいたのは事実だが、竜児に頼むそぶりはなかった。
それを思い出した竜児は悔しげに
「わかったよ。1度このシステムキッチンも使ってみたかったしな。
けど材料買いに行かねえと・・・お前も一緒に来るか?あと金はその分貰うからな?」
「ほんとに主婦みたいなやつね・・・まあいいわ、お金も出してあげるし買い物にもついていってあげるわ。」
「やたら上機嫌だな・・・」
まぁたしかに大河も声の通りも良くなっている。天気もよかったので換気もばっちりだ。
「そうと決めたらさっさと行くわよ。早く支度しなさい!」
「へいへい。」
手早く道具を片づけ2人は晩御飯の買い物に向かった。
「そういえばあんた、チャーハン以外に何が作れるの?」
大河も竜児が家事が上手というのはある程度分かっているが、竜児の料理はあの夜のチャーハンしか食べたことはない。
「ある程度だったら何でも作れるぞ。まぁ『俺が掃除をさせてもらったお礼』っていうならお前の食べたいものを作ってやるぞ?」
「なかなか分かってるじゃない。そうね・・・食べたいのは・・・肉ね。」
「肉か・・・なに肉だ?」
「牛ね!」
「分かった。それで考えてみるか。」
そして2人で買い物へ向かう。誰にも見られなかったのは幸いなのだろうか。
「ちょっと!もうこんな時間じゃない。早くしなさいよ!」
「早くって・・・お前がいろいろ買っていたからだろ?」
「あんたが口出しするからでしょ?たしかに今晩は作ってもらうけど、私の食生活に口出しされる所以はないわ。」
明日も休み、なので竜児は家の掃除の続きをやる予定だ。大河も家にいなければならない。
そこで大河もしばらく外出しなくて済むように食品を買いこもうとしたのだが、
スナック菓子やインスタント麺を大量に買い込もうとしたのだ。が、
それを見た竜児が『体に悪いだの』『手抜きにするならせめて冷凍食品にしろ』と口出ししたため時間がかかったのだ。
「あんたがいなかったらファミレスや弁当屋にも行ってるわよ。
これから休みの間ずっとうちにいるんでしょ?そのために買い込んだだけよ。」
「それは分かってるが簡単でもいいから自分で料理をしてみたらどうだ?女の子な訳だし。」
「はぁなにそれ?セクハラじゃない?私が何を食べようと勝手でしょ?」
「あのなあ・・・お前また倒れるぞ?」
「あたしがいつ・・・ん?」
「どうしたんだ?」
「あれ・・・?」
喧嘩を中断し大河はある方向を指差す。そこにいたのは全身ジャージ姿で、帽子にサングラス、更に両手に大きな荷物を持った女性?だった。
髪が長いから女性だとは思うが正直顔は全く分からない。
「いかにも不審者って感じだな・・・あんまり関わらないほうがいいだろ。」
「・・・そうね。ここで関わる必要もないわね。さっさと帰ってご飯にするわよ?」
「お、おう。」
歩くスピードを速め2人は大河の家に向かう。
結局、連休中はずっと大河の家で掃除をしていた。ついでに食事の面倒も見ていたので、
泰子と共に3人で食べたりもした。
(大河呼んでももいいのだろうか)なんて思ったりもしたが、泰子は
「ぜ〜んぜん歓迎、大歓迎だよお〜竜ちゃんの料理とっってもおいしいし、1人でも多い人数で食べた方がおいしいよぉ〜」
と言い何事もなく受け入れた。大河の食生活も気になるので竜児も勧めたところ、
「たまになら行ってやってもいいわ」と、若干照れくさそうに言っていたのだった。
そして連休も終わり、明日からは学校が始まる。竜児は自室のベランダから大河のマンションを眺めていた。
(近くだと思ってはいたが、まさかこのマンションに住んでいたとはな・・・
ここからなら侵入・・・)
ふと大河の部屋である3階を見上げる。電気が付いているということはどうやら起きているらしい。
竜児の部屋の目の前がマンションの2階部分、3階部分はここからだいぶ高さがある。
(あのとき『ドスン』って音がしたから上から来たんだよな?よく降りてこられたな・・・)
さすがは手乗りタイガー!ということなのだろうか。
(にしても2階のこの向かいの部屋は誰が住んでいるんだろうな?)
大河の部屋である3階からは明かりがともっている。明日学校とはいえ時間はまだ9時。寝るには早い。
そしてこの向かいの部屋から明かりが灯ったことがない。毎日見れているわけではないが、
カーテン越しでも夜になれば隣の明かりが付いているかどうかは分かる。
昼間は見ていないので向かいの部屋に誰か住んでいるかもしれないが、少なくともここしばらく明かりが灯ったのを見たことはないのだ。
(まぁ誰か住んでいるにしても逢坂のように知り合いの可能性は非常に低いだろう。)
そうして竜児は明日の仕度と勉強をして眠りに就いた。
連休明けの2−C、もちろん終わってしまった一時の休みを惜しむ声が多い。
けれどもそんな話は朝の一時で終わり、すぐにいつもの光景に戻る。
そんなおり、移動教室の移動中、
「よう高須、おはよう!この前はすまなかったな!」
「おう北村。この前って何のことだ?」
北村に話しかけられる。何かを詫びてるようだが、正直心当たりが思い付かない。
「お前と逢坂のことだ。俺も早とちりしてしまったようだ。そのことをお前に詫びたくてな。」
「そのことか。それはいい。大丈夫だ。それより・・・」
「ん?なんだ?」
そういえばと竜児の言葉が詰まる。休み前の最終日、つまり大河が北村に告白したであろう日、
大河はHR以降姿を見せなかった。北村ともなんとなく話す機会がなかった。
でも気まずかったとかそういう感じではない。ただ機会がなかったのだ。
そしてその日、大河は告白したはず、しかし大河はそのことは口にしなかったし、北村も気にしてるそぶりは一切ない。
(そういや告白したんだよな)というのが頭によぎったのだが、聞きづらい。
「いやなんでもない。」
結局その言葉は竜児自身で飲み込むことにした。
「しかしお前に先を越されたと思ったんだがな!あの逢坂と一緒にいる機会増えていたし、亜美もそう言ってたしな!」
「先って・・・へ?川嶋!?」
「ああ、一緒に帰ってたのを見たって言ってたし、2人はお似合いとも言ってたな!はっはっはっ!」
「なん・・・」
恋人騒動に犯人がいたことが驚きだ。もっとも大河には絶対にばれないようにしないと・・・
そしてその犯人様は楽しそうに話しながら移動教室に向かっていた。
「川嶋ぁ!!!!お前ってやつは!!」
「あら高須君、あたしを探してくれたの?けどそんなに大声出さなくても聞こえるわよ?」
「たしかに探したが・・・ってもどうせここだろうとは思っていたが。」
「ふふっそう?そんなに息を荒くして・・・あたしを口説きに来たとか?」
「違うわ!お前なぁ!変な噂流してるんじゃねえ!」
「なんのことぉ?亜美ちゃんわっかんな〜い。」
昼休み、ようやく時間が出来たところで竜児は亜美に文句を言いに行った。
言ってどうこうなるとは思ってはいないが、何かを言わないと気が済まなかった。
予想通り自販機のすきまで座っていた亜美、なにごともないように竜児の文句を受け流す。
「『俺と逢坂が付き合ってる』なんて噂流したのお前だろ!?」
「そうだよ。っていうかさっきから『お前』って言うのやめてくれない?
あたしには・・・『亜美ちゃん』って言う可愛い名前があるんだから!」
「悪かったよ川嶋。っていうかさりげなく認めてるんじゃねえ!
「あくまで川嶋・・・ね・・・」
「なんだよ・・・」
「べっつに〜〜。それより文句はもうおしまい?」
「はぁ・・・なんかおま・・・川嶋を見てたら怒る気が失せてくる・・・」
「そうでしょ?亜美ちゃんの可愛さがあればどんな争いごともなくなるし!」
「そうか・・・」
すっかり怒気のそがれた竜児。そしてジュースを買い、
「にしても、ほんと、今の川嶋は教室で見る姿とは違うよな?」
「それは当然じゃない?高須君はあたしのこと『性格悪い』って思ってるみたいだけど、
相手と場所によって表情や言動が変わるのは普通でしょう?高須君だって今と教室と家では見せる表情は違うでしょ?」
「それはそうだが・・・川嶋の場合極端と言うか・・・」
「そう?あたしはこの学校を楽しんでるよ?みんなも良くしてくれるしさ。」
「その割にはこんなはずれの自販機の間に挟まったりしてるけどな。」
「それは・・・知りたい?」
「・・・おう」
亜美は一呼吸置き、上目づかいで
「高須君を待ってるからだよ。ここにいれば高須君と2人っきりでお話しできるからだよ」
「なっ!!おま!それは・・・」
顔を赤くして照れる竜児。亜美とはいえこんな美少女にそう思われているとは・・・
「なんて言ったら高須君は喜んでくれるのかな?」
「っ!?お前なぁ!!」
からかわれたようだ。一瞬でもときめいてしまったことを悔やむ竜児。
「ごめん、ごめん。そんな怒らないでよ?」
「知るか。」
笑いながら亜美が謝るものの、照れてしまった分、竜児のへそは曲がったままだ。
「ごめんって。そうね・・・高須君、今日の放課後暇?」
「暇といえば暇だが晩飯の買い物しないとけねえけどな。」
「それって駅の近くのスーパー?」
「ああ」
機嫌は直ってはいないが亜美の問いには答える。
「偉いね。高須君が買い物するんだ?」
「ああ、家事全般は俺がやってる。」
「そう・・・ならあたしもスーパーについていってもいいかな?」
「それは別にかまわないが・・・いいのか?」
「なにが?」
「2人きりでいると『付き合ってる!』とかいう噂を広める奴がいるかもしれねえぞ?」
皮肉をこめて竜児は言う。と、
「そうかもね。『亜美ちゃんと恋人に』ってなったら高須君、学校中から嫌われちゃうかもね?」
「う・・・」
亜美に好意を持っている奴は多いだろう。そうならなくもないのが怖い。
「まぁそんな噂、亜美ちゃんが否定すれば『あたしは』問題ないけどね。それで、一緒に行ってくれる?」
「そんなんで『一緒に行く』って言うやつがいるのかよ?」
「ここにいるじゃない?」
竜児を指差し、亜美が言う。
「ったく・・・わかったよ。買い物くらい一緒でもいいだろ。」
「うふっ。ありがとう。じゃあ放課後・・・校門のところで待ってて?」
「俺が待つのかよ・・・?」
「当然じゃない?まさか亜美ちゃん待たすつもり?」
「わかったよ。また放課後な。」
そう言って竜児はこの場から去ろうとする。と、
「高須君と話したいな。って思うのはホントだよ?」
「はいはい。分かったよ。」
背を向ける竜児に亜美はぼそっと言う。竜児はまたからかわれているだろうと思い適当に流す。
「高須君と話すのは楽だしそれに・・・」
それ以降の言葉は聞こえなかった。
しえん
「お待たせ高須君。待った?」
「ああ、待ったよ。これもからかわれたかと思って帰ろうかと思ったところだ。」
「ごめんごめん、ちょっと話が長引いちゃって。じゃあ早速行こうか。」
放課後、竜児は校門で待っていたが亜美はなかなか来なかった。
言った通り、先に行ってしまおうかと思ったが、亜美が来て一安心、2人はスーパーへと向かった。
2人でスーパーに向かっているのだが、亜美はなぜか一言もしゃべらなかった。
女子と2人きりに慣れない竜児もなかなか言葉を発せず、無言なまま並んで歩く。
そんな中、亜美が何やらそわそわしている。後ろなどあちこち気にしている様子。
「なあ」
「!なに高須君?」
「いや、そんなに周りを気にしても仕方ねえんじゃねえ?見られたらそれまでなわけだし。」
結局亜美も自分なんかと一緒にいるところを見られたくないのか。竜児がそんなことを思っていると、
「そう言うわけじゃなくて・・・そう!この辺も変わったなぁ〜って」
「そう言えばお前昔はこの辺に住んでたんだったな。」
「うん、だから祐作とは昔馴染みなわけだし、けどあんまり長くいなかったからよくは覚えてないな」
「そう言えばなんで川嶋は、言っちゃあれだがこんなはずれの町に来たんだ?モデル業も都心の方がやりやすいだろ?」
「えっと・・・」
亜美が言い淀む。聞いてはいけないことだっただろうか。
「言いたくないことならいいぞ。なんかその・・・すまん」
「いいの。気にしないで。わけは・・・今は言えないかな。ごめん。」
「気にするな。言いにくい事情は誰にでもある。」
自分だって、大河だって。事情は人それぞれだ。
再び無言になる2人。やはり亜美は周囲をよく見回しながら歩いていった。
「ここがこの町のスーパーだ。値段も安いし、たいていのものはここで集まる。
品質はもう少し行ったところにあるかのう屋の方がいいな。だが値段も高いからさすがに通うのは厳しいな。
何かいいことがあったときや、セールの時に限る。・・・ああ、思いだすだけでこの前のセールを逃したのが悔やまれる・・・」
「主婦的情報ありがと。高須君ってほんとに主婦やってるっていうか、おばさん臭いっていうか・・・」
「ほっとけ。それより川嶋、お前買うものはあるのか?」
「そうね・・・あたしも今晩の買い物をしようかな?」
「買い物?川嶋んちの飯の支度、お前がしているのか?」
「う、うん、『今晩は』1人なんだ。」
「そうか。・・・川嶋って料理できるのか?」
「・・・あんまり得意じゃないかな。今日はなんとか乗り切るよ。」
大河のように飯の面倒を見るのはまだ早いだろうか。亜美におせっかいをするのはためらわれた。
だが、
「たしかに冷凍物は手軽でいいが、いくらなんでもそれは・・・お前モデルじゃねえのかよ?」
亜美が手にしたのは冷凍食品・・・それにピザやポテトといった脂っこいものばかり。
「別に大丈夫だよ。亜美ちゃん太りにくい体質だし!」
「いや、体質うんぬんとかより栄養バランスとかな・・・」
「べっつにいいもん。亜美ちゃんが何を食べようと勝手でしょ?それに時間、やばいんじゃないの?」
「うっ・・・」
待ち合わせが遅かったり、ゆっくり歩いたり、買い物に時間が掛かったりで泰子の出勤時間が近づいている。
「わかったよ。もう口出ししねえよ。」
「そうそう。あんまり口うるさいと女の子に嫌われるよ?」
「・・・川嶋はどの辺に住んでるんだ?」
「あら、あたしの家を知りたいの?高須君、あたしに興味あるんだぁ?」
「別にそこまでの興味はねえよ。ただ家まで送って行ってやろうと思っただけだよ。」
「へぇ・・・優しいんだね、高須君。」
「もう日も暮れるし女の一人歩きはあぶねえと思っただけだ。その感じなら余計なおせっかいか?」
「ううん、ありがと。お言葉に甘えさせてもらうわね。」
5月になったものの、日が傾くと若干まだ寒い。そんな中を買い物帰りの2人が歩く。
「荷物、持たなくていいのか?」
「ふふっ、大丈夫よ。そんなに重くないし、これくらい運動にちょうどいいしさ。」
「それよりもう周りは確認しなくていいのか?」
行きは常に周りを見回していた亜美だが帰りはそんな素振りはない。
「うん。今日はいないみたいだしね。」
「今日は?」
「うん。だから早く帰ろう?高須君も早く帰らないといけないんでしょ?」
「おう、そうだったな。川嶋はこっちの方でいいのか?」
「うん。こっちで大丈夫よ。高須君は頼りになるね。」
「頼りにって・・・別に何もしてねえぞ?」
「大丈夫、十分役に立ってるからさ。」
そして竜児の家に近づいたころ、
「ここで大丈夫よ。今日はありがとう高須君。また明日ね。」
「ここでいいのか。なんなら家まで行くか?」
「いいよ。本当に近くだからさ。」
「そうか、また明日な。じゃあな川嶋!」
「うんじゃあね高須君!」
その笑顔はとびきり可愛かった。若干の性格がどうでもいいと思うようになるほどに。
(そういえば以前、逢坂と別れたのもこの辺だったな。)
帰りがけに通りかかる。大河の住んでいるマンション。それを見て以前大河と帰ったことを思い出す。
(案外川嶋もこの近く、このマンションに住んでたりしてな!ってもそれは偶然が出来過ぎか。
同じマンションなら逢坂が気付くだろうし。)
そんなふうにその豪華マンションを眺めていると、
(ん?)
1人の男が出てくる。大河の部屋を見る限り、このマンションは比較的裕福な人が住みそうなマンション。
しかしこの男からはそんな感じがしなかった。それよりも普通の服装にやたら目立つしっかりとしたカメラ。
(写真関係の仕事の奴か?まぁ俺には関係ないか。それより本格的に時間がやべえ)
最近泰子への食事の支度がおざなりになりつつある竜児だった。
今回分以上です。規制開けてよかった。順調に書いていけそうです。ではまた来ます。
まってたよ、楽しんで読ませていただきます
501 :
名無しさん@ピンキー:2012/04/16(月) 18:21:19.68 ID:+ZIpHlgn
SS補完計画はどうなってるんだ
お疲れさん。続きが気になるぜ
堪能させていただいております。続きがきになるなあ
ゴールデンタイムのエロパロもここでいいの?
いいエロパロが読めるとそれを更に楽しもうと原作を買う。
原作を面白いと思うからエロパロが読みたくなるのか、エロパロを面白いと思って原作を読みたくなるのか。
ラノベはあまり読まない人だったんだけど
とらドラはアニメ→エロパロ→原作 だった
あらすじと各キャラのビジュアルから興味もって、wikiを覗き
エロパロ保管庫→アニメ数話(レンタル)→小説→アニメ完遂
という変な流れだったw
このスレのSSはレベル高いと思う
あれ?
金時(勝手に略語w、とりあえずゴールデンタイムの事ねw)のエロSSって未だに無かったの?
ここ稀にしか覗かないから…
エロ抜きでさえ、見たことないっすw
みないなあ。多分アニメ化されたら投稿もされるのだろうが・・・
たまたまチャンネルがあったアニメのOP曲で引き込まれて見始めたのは俺ぐらいか
ゴールデンタイムかー
「じょしこおせえ」という価値が付随しないから難しいんじゃないかなー
香子がチンポに囲まれ、全孔をチンポで蹂躙、全身をザ―汁で濡らしながら
淫悦な嬌声あげてヨがる姿が見たい…
合コン→誰かが持ってきた新種の脱○ハ○ブ展開w(幻覚及び男女ともに強力な催淫効果)→
済し崩しに大乱交!w…しかしその場にいた女子は香子だけだった…w、
そして獣欲全開の雄達は目前の旨そうな雌に群がり…
で、ネタ振りしたんで誰か「香子・薬物幻覚二穴・三穴輪姦物」頼むw
期待
520 :
名無しさん@ピンキー:2012/04/30(月) 09:03:41.38 ID:xQapGfy+
おーい...
初GTは誰が書くのだろうか
つか書かれるのか?
終盤近くになれば、少しは増えるんでないの?
正直、今の時点ではなんとも書き辛いというか…
新刊でた直後の話題の少なさ含めて、単に人がいなくなってるだけの気もするが
すいません。新参です。
なぜか思い立ったので投下。とらドラで竜児×奈々子です。非エロなんで。軽くスルーお願いします。
かのう屋での買い物を終えて、商店街を大河と帰る、この時間が竜児は好きだった。
灯り始めた街灯は、夕焼けの中でやさしく光る。大河の、少し赤くなった頬が、
この街すらも優しさで包むようで。そんな当たり前の毎日が、高須竜児の何よりの幸せだった。
大河が母親の元へ行ってしまって、春がやってきた。3年生になって迎えたゴールデンウィーク、
竜児は今、その思い出の商店街を、香椎奈々子と歩いていた。
「でも、高須君って浮気性なのね。逢坂さんというものがありながら、私と買い物デートなんて」
「ちょ、俺はたまたまかのう屋でお前を見かけたから、声をかけただけだろうが」
「去年たまたま同じクラスになっただけの元クラスメートの女の子になんて、普通声かけないわよ」
そう言って並んで歩く二人を包み込むように今日もまた、商店街の街灯は灯り始める。
竜児はふと思った。大河がいなくても、世界はほとんど変わらない。変わらなくって、平凡で、平和で。
普通に美しかった。
期待支援
奈々子が天使のように無邪気に笑う。本当に、大河でなくても良かったんじゃないのだろうか。
確かに、高須竜児は逢坂大河という女の子に恋をした。
高校二年の春の夜、電柱を蹴りつけて本音で語り合ったのは大河だった。
クリスマス前にドーナツを天使の輪に見立てて竜児に微笑んだのは大河だった。
バレンタインの教室で、竜児が追いかけて走りだした先は、確かに大河だった。
でも、去年恋をしていたのは櫛枝実乃梨で。
今年も同じクラスになったのは川嶋亜美で。
今たまたま隣にいるのは香椎奈々子で。
考え込んで無言になる竜児を、奈々子が屈んでのぞきこむ。
「高須君?」竜児はなおも黙りこむ。
変わらないものなんてないって、だから変えていこうって、櫛枝との仲を進展させようとした。
変わらないものなんてないって、だから変えていこうって、大河は母親の元へ歩み寄った。
変わらないものなんてない。でも、もしかしたらそれって、
大河との関係にも言えることなんじゃないだろうか。
大河以外の女の子を好きになることはないなんて、大河とは永遠だなんて、どうして分かるのだろう。
現に、香椎奈々子は。週末になって気温が上がったから、長い髪を後ろで束ねて。
買い物バッグを体の前で両手で抱えて。前髪は眉にかかるくらいで揃えて。
「きれいだ……」
「えっ?」
「おぅ!?あ、いや、その、だな……」
「ふふっ、高須君って、まさかほんとに浮気性?」
「……。い、ぁ……」
竜児膠着。
「……はぁ。あのね、高須君。女子と男子の友情って、あると思う?」
「はぁ?なんだよ、いきなり」「亜美はね、『そんなのありえない』って言うんだよ。
『仲のいいオトモダチなんて言うのは、うわべだけで、ほんとは下心ありありだ』って。
高須君はどう思う?」
奈々子の質問に、竜児は目をそらして、答える。
「ええとだな、まず今ふと言ってしまったのは、別に下心があるわけじゃないんだ。その、本当に香椎が綺麗だったからで、って、そうじゃなくて……。あ、いや、
綺麗だったけどそうじゃなくて……」
頬を赤らめてそんなことを言いだす竜児に、奈々子は思わず笑ってしまう。
「ふふふ、高須君、かわいいね」
「お前なぁ、純情な同級生をからかうんじゃねぇよ」
「ごめんごめん。でも高須君ったら、必死になっちゃって。全然気にしてないのに。
あ、でも、私も一応言わなくちゃね。ありがとう。綺麗って言われて、うれしかったよ」
「お、おぅ……」
一言で言うと、いや、一言では言えなかった。この瞬間の香椎は、きれいだったし、
かわいかった。竜児は言葉が出てこなかった。
ちくしょう、なんで元クラスメート相手にこんなに緊張してんだよ。
「……。かしぃ、香椎はどう思ってるんだよ」
ほら、声も裏返る。だけど、奈々子は今度は微笑むだけで、優しく流してくれた。
「男女の友情のこと?そうね、私はあると思うな。そもそも、友情が恋心に変わるのって、
いつなの?気がついたら恋に変わってるし、気がついたら恋が終わってると思うの」
竜児は不思議な気持ちで聞いていた。確かに、その通りだ。櫛枝への恋心は、いつ終ったのだろう。
クリスマスイヴに拒絶された時ではない。修学旅行でも、ヘアピンをつけた櫛枝に対する
あれは、確かに恋心だった。
でも、夜に大河を探しにゲレンデに出た時、櫛枝と手を握り合ったが、
その時は既に大河のことでいっぱいで、櫛枝との関係は頭になかった気がする。
本当に、いつ恋は終わったのだろう。
C
「だからね。結局恋がどうだの、友情がどうだのって、実際に起こらないと分からないと思うの。
恋はいつだって結果論よ。もしかしたら、私たちだって明日付き合うかもしれないし、
今日を境にまったく話さなくなるかもしれない。
10年後もこうやってお友達でいられるかもしれない。あ、私はそれがいいな」
竜児は大河と実際付き合っている。でも、これも、暫定であって、すぐに終わるのだろうか。
明日には、明後日には、大河のことを愛せない日が来るのだろうか。もしそれが明日だとしたら、―
「大切なのは今だよ、高須君」竜児の思考を奈々子が遮る。その声は、柔らかく、
それでいて力強かった。竜児は思わず顔を上げる。
「高須君、逢坂さんのことで悩んでるんでしょう。
いつか気持ちがついてこなくなるんじゃないかって、それを恐れてる。違う?」
その問いかけに、竜児は。
「俺は……そう、だと思う。大河でなくても、その、香椎と付き合う可能性も
あったんじゃないか、って。現に、今歩いてるこの道、半年前は大河と一緒に帰ってた道なんだ。
でも、今は香椎と歩いてる」
竜児はおもむろに本音を漏らし始めた。奈々子とは去年、特別に仲がいいというわけではなかったが、
不思議と紡いだ言葉は収まらなかった。
「大河は遠くに行ってしまったけど、俺の毎日は、ほとんど変わってない。
大河がいなくても、北村がいて、櫛枝がいて、川嶋がいて」
「大切なのは、今だよ。」奈々子が言葉を重ねる。
「明日どうなろうと、それで今の気持ちが変わるわけじゃないでしょう。高須君は、
今の自分に、自信を持てばいい。そうやって、また明日も、明後日も、その時々で『今』
好きでいられたら、それが積み重ねになる。
それとも、もし逢坂さんじゃなくても一緒だなんて思うなら、いっそ私と付き合ってみる?」
そういうと奈々子は、竜児に笑って見せる。本人は悪戯っぽい笑みのつもりなのだろうが、
周りから見れば、優しい微笑みにしか見えなかった。はっきり言って、似合ってない。
「あ、あのなあ……。そういうのは川嶋の領分だろうよ」竜児が受け流す。
「ふふっ、そうだね」奈々子も笑って受け流す。
でも、内心こんなにもドキドキしていることを、竜児は言えなかった。
「ありがとな。お前に話して、ちょっと楽になった」
「それはよかったわ。私に助けられることなら、いつでも言ってね」
「おう。じゃあな。香椎も、気を付けて帰れよ」
そう言って、竜児は奈々子に背を向ける。軽い足取りで歩きだす。
それは、この胸の高鳴りを、知られないようにだろうか。
自分でも、このドキドキが何なのか、分からなかった。
ただ一つ竜児にとって確かだったのは、香椎奈々子と話して、純粋に楽しかったということだ。
奈々子の声は、竜児の心を、確かに楽にした。
そうして、この街にまた、暖かな光が灯る。竜児は、いくぶん気が楽になって、
家へと帰っていった。その姿を、奈々子はじっと立ち止まって見つめる。
「十年後もこうやってお友達……か。ごめんね、高須君。……嘘、ついちゃった」
それは、許されざる恋心をかくす、淡い。ささやかな。臆病な。
嘘だった。
以上です。
ご支援本当にありがとうございました。
ゴールデンタイムを書くつもりだったんですが、
ゴールデンタイム→ゴールデンウィーク→(中略)→奈々子様
になってましたww
普段は『竜児には亜美ちゃん以外あり得なくない?』とか思ってるんですが、
初めて挑戦したSSがこの展開とはこれいかに……。奈々子様パワーすげえ。
>>538 GJ過疎スレだから作品投下はありがたい!
読み終わった、おもしろかった、奈々子様いいね
今度は亜美ちゃんもお願いします
541 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/02(水) 01:22:27.04 ID:BJ4VXnRL
相馬SSお願いしますm(_ _)m
GJ!!
GJ 満足感が‥ふぅ‥‥いいSSでした
竜児×奈々子はやっぱりいいな
544 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/02(水) 21:44:34.86 ID:b2RKtQ6P
保管庫頼むぜ。ここだとやっぱ見にくいんだよ;;
アク禁…だと…
原作、アニメ共にほとんど描写されてない割りに奈々子SSって人気あるよな
ななこいの続きこないかなー
tesu
a
やっと書き込めた!
毎回の励ましレスありがとうございます。
お待たせしました!「とちドラ!」6回目の投稿です。
今までのお話はこのスレをさかのぼって下さい。
ようやく原作で言うと2巻半ばの話。
あらすじ
ある日、ある晩、運命の出会いを果たした竜児と大河。最初は気持ちがすれ違うものの徐々に距離を縮めていく。
そして上手くいき始めた2人に割って入ろうとする亜美、天然美少女のアプローチに竜児も徐々に亜美に惹かれていく・・・
果たして2人の恋の行方は
「なあ・・・全く違うあらすじ紹介するのやめてくれねえか?櫛枝?」
「ふふふ・・・そんなこと言ってもこの実乃梨の目はごまかせないぜ?」
「何がだよ?」
「この物語は高須君による大河とあ〜みんのハーレム作品じゃなイカ?」
「違う!そんな要素はねえだろ!?」
「なにを言うんだい高須君?だってこの物語・・・・」
「おう・・・」
「ほとんど大河かあ〜みんと話してるだけじゃないか!?」
「・・・・ようするに自分の出番がないのを指摘してるのか?」
「違いま〜す、いくら第5回にも出番がないとはいえ、みのりんはそんなことじゃすねたりしませ〜ん」
「・・・安心しろ!この回にはきちんと櫛枝の出番がある!」
「それは本当かい!?イこう!早くイこうぜ!!」
「お、おう・・・」
それではいきます。
いけねええええええorz
なんで一回だけいったんだよ畜生…
書き込め次第投下したいです…
あわてんぼさんめw
書き込めてる以上なぜ投下しないか意味がわからんが、期待してまってるよ
つまんねえ上にうぜえな
>>550 何を言いたいのかさっぱりだが、神IDであることは認めようw
亜美ifとはよくできてやがる。
ご迷惑おかげしましたm(_ _)m
投下します
亜美と買い物に行った翌朝、登校前に大河に会った。
「あ、不審者だ。」
「第一声から人聞きの悪いこと言ってるんじゃねえよ。いつから俺が不審者になったんだよ!?」
「最近そういう掲示があるのよ。『この辺に不審者が出ます』ってやつ。あんたじゃない?」
「俺を不審者に仕立ててどうするって言うんだよ。ってか、お前はそういうの気にしないと思ったが。」
「あんたの顔を見たらそう思っただけよ。」
「失礼にも程があるわ!!」
朝一から大河は絶好調のようだ。竜児には疲れる朝になったのだが。
「にしても不審者か・・・」
「あんたにも関係ないんじゃない?それとも通報される前に逃げるとか。」
「警官に職質は受けたことはあるが、学生証見せればわかってもらえるからな。」
「職質!?なにそれ!?ほんとに受けたことあるんだ!!ひーっお腹痛い!!」
「腹抱えて笑うんじゃねえ!それに関係あるのは俺じゃない!泰子だ!」
つぼに入ったのか爆笑する大河。竜児の声量も上がっていく。
「なるほど、やっちゃんね?たしかに気をつけないとだわ。ぶふっ!」
あまり回数は会っていないが大河はもう『やっちゃん』と呼ぶ仲になっている。
あと大河の笑いは未だに収まっていない。
「夜に出歩くことが多いしな。だが毎回タクシーは家計に痛いな・・・」
「あんたってそういうのから離れられないの?」
「俺がそういう考えから離れたらうちの家計は終わる・・・」
「・・・そうね・・・」
泰子に任せたらどうなるか・・・大河にも理解されてしまうのが悲しい。
なんてやりとをしながら2人して歩いていると
「な!な!な・・・」
こちらを指差して固まってる女子高生が1人。
「うおおおおおおおおおおおおおおおぅ!!!!!!やっぱり、やっぱりぃ!!!」
朝から近所迷惑レベルの声で叫んでいるのは
「あ、みのり〜ん!おっはよ〜!」
実乃梨である。大河に飛びつかれるものの、未だに実乃梨は固まってる。
「おはようじゃないよ大河!2人してあれかい!?『私達は2人で旅立ちます』って挨拶か!?みのりんを置いてかないでくれよ〜〜」
「違うよみのりん。あいつには・・・つけられていたの!」
「違うわ!」
会話に入るタイミングをうかがっていた竜児も突っ込みを入れる。
「えっ!?そうなの高須君!?たしかに大河は食べちゃいたいくらい可愛いから気持ちはわかるけどね・・・」
「その気持ちは分かって欲しくないよ・・・みのりん・・・」
「落ち着いてくれ櫛枝。俺たちは偶然会っただけだ。なぁ逢坂?」
「遺憾だわ・・・」
「遺憾ってどういうことだよ!?」
そんな2人を実乃梨は黙って見つめる。その口元は緩んでいる。そして
「そうなんだ。いやあ2人とも悪かったねぇ・・・色恋沙汰になるとつい早とちりしちまうんだぁ!
それはともかく3人仲良く登校しようじゃないか!」
大河が『ええ〜こいつも?』という顔をしたものの、実乃梨は「クラスメイトなんだからいいじゃん!」
とたしなめながら学校へ向かう。
『見つめるだけでドキドキ!』という感情は生まれてこないが、やはり『実乃梨はまぶしい存在だ』と、思う竜児だった。
「おハローみんな!」
クラスに着き、開口1番実乃梨がそう挨拶するが、
「亜美ちゃんなんで!!どういうことなの!?」
「なんで亜美ちゃんがぁ・・・」
「どういうことだこれは・・・」
クラスみんなが固まっていてそんなことを男女問わず口々にそう言っている。
「ちょっとあんた。早く入りなさいよ。」
そのみんなの状況を見た瞬間竜児の動きが止まる。なんせ昨日、クラス、
いや学校どころか世間のアイドルである亜美ちゃん様と2人で買い物をしたのだ。2人きりでいると『あの2人は付き合ってる』
なんて噂を立てられるのは大河の時で経験済みだ。去年までそんな噂とは無縁の竜児も(世間体のよくない噂なら山ほどたてられたが・・・)
好きでもない人との噂は大してして嬉しくない。それよりも頭の中でよみがえるあの言葉
『「そうかもね。『亜美ちゃんと恋人に』ってなったら高須君、学校中から嫌われちゃうかもね?」』
始業式の日に亜美と手を握っただけであの視線を浴びたのだ。ようやくクラスに慣れ始めたと思ったのにこんな噂が流れでもしたら・・・
「早く入りなさいよこの愚図!!」
「おぅ!」
竜児に入り口をふさがれていた大河が痺れを切らし竜児をけり倒す。それと同時に竜児は教室にうつぶせで飛び込む。
(終わった、俺の学校生活・・・)
なんて思っていたが
「けど亜美ちゃんにも事情はあるんじゃない?そうじゃなきゃ引っ越してまでここには来ないだろうし」
「良く考えれば亜美ちゃんが学校にいる時間が増えるってことじゃないかこれは?」
「そうかもしれねえ!亜美ちゃんと一緒にいる時間が増えるううう!」
「男子共うるさい!自分のことばっか考えない!!」
「おはようみんな!・・・?なにかあったのか?」
「あ、まるお〜。まるおなら何か知ってるかも?」
竜児が倒れている扉とは逆の方から北村が登校してきた。さすがクラス委員というべきかクラスの異変に気付く。
そんな北村に麻耶が話しかける。「ちっ、あのギャル女・・・」という声は誰にも聞かれていないだろう。
「亜美ちゃんがモデルやめた理由知ってる!?」
「なっ?」
未だに床で倒れ込んでる奴は安堵したのか、新たな悩みを生んだのか、その胸中は本人にもわからない。
ただ新たな問題が起きていることは確かのようだ。
「だめ・・・電話も繋がらないし、メールも返ってこない。麻耶は?」
「あたしもだめ。まるおもわからないって言ってたしどうしちゃったんだろう。」
亜美はこの日、学校を休んだ。音信不通の行方不明。というわけでなく学校には欠席の連絡はあったらしい。(朝、独身担任がそう言っていた)
しかし麻耶や奈々子が心配してメールを送るも返事が来ないのだ。
「病気の欠席なら仕方ないが、木原達にも連絡しないとはらしくないな」
「・・・」
「高須?」
「お、おう!だな。心配だな」
もちろん竜児は気にしていた。昨日亜美と最後に会ったのは確実に竜児だろう。あの後体調壊した。
とは思いにくいほどに亜美はいい表情で別れたのだ。自分のせいではないとは思うが気になるのは仕方ない。
個人的に連絡しようにも亜美の番号は知らない。北村と2人で昼を過ごしているもののどこか上の空だ。
「まるお!」
「ん?木原か。どうした?」
そんな時、麻耶と奈々子が北村の所に向かう。
「今日亜美ちゃんのお見舞いに行こうと思うんだけど亜美ちゃんの家を教えてくれない?」
そう言う麻耶に続く奈々子も不安そうな表情でうなずく。幼馴染の北村なら亜美の家を知っているとの考えだったが、
「俺も教えてやりたいんだが、あいにく今あいつがどこに住んでるか知らなくてな・・・」
いわく、こっちへの引っ越しは急に決まったらしい。本来ここ、大橋に住んでいるおじとおばを頼る予定だったが、
折悪く遠くへ赴任中だったのだ。だが引っ越す必要はあるので仕方なく1人暮らしをしているとの話だ。
「『このことは言うな』と亜美に言われているんだが状況が状況だしな。
お前たちなら大丈夫だろうと思って言ったんだ、このことは誰にも言わないでくれ。もちろん高須もな。」
「お、おう・・・」
「まるお君もわからないんだ・・・ゆりちゃんに言って連絡取らしてもらうしかないのかな?」
「力になれなくてすまないな。俺からも連絡してみたが・・・望みは薄いだろうな・・・」
「気にしないでまるお!事情話してくれてありがとうね!・・・奈々子職員室行こう!」
2人が去った後、竜児も北村に問う。
「川嶋って1人暮らしなんだな。前に聞いた時はそんなことは言ってなかったんだが。」
「言いたくなかったんじゃないか?言って回るようなことでもないしな。
それより高須はいつの間に亜美とそんな話をする仲になったんだ?」
「それは・・・いろいろあってな・・・」
「・・・そうか」
(川嶋の話題はやめよう)そう思う竜児だった。
そしてその日の帰り、今日は買い物もない。学校で掃除を堪能した後の帰り道。大河の住んでいるマンションの前に行くと、
「まてやぁぁぁぁおらぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
大河が見知らぬ男を追いかけていた。放課後も手乗りタイガーは健在のようだ。
「てめんめぇぇぇ!ただで済むと思!!あだっっ!!!」
こけた。それを男が確認し走り去る。その瞬間、男の首から掛かっているカメラが見える。
(あれってたしか・・・?)
そう思いながら、膝を抑えている奴のそばに寄って行き、
「ほら逢坂、立てるか?」
「なによ!?・・・ってなんだ。やっぱり不審者じゃない。」
「放っておいた方が良かったか?」
「ふん。本当に助ける気があったならあの不審者捕まえなさいよ!そうすればあんたが不審者じゃないっていう証明ができたのに。」
「俺のことを不審者だと思ってるのはお前だけだ。それに突然過ぎて反応できなかったんだよ!」
「あんたってほんとにへたれね・・・」
「ほっとけ、あと本当に憐れんだ顔すんな。」
そんなやり取りをしてから大河を立たせる。
「で、あの男何物なんだ?追いかけるってことは何かされたのか?」
「いきなり私をカメラで撮ってきたのよあいつ!どうやらあいつがほんとの不審者のようね。」
「いきなり?けどそんな不審者いるのか?」
「道端で声もかけずにいきなり写真撮ってきたら十分不審者よ。ストーカーとかそうじゃない。」
「ストーカー・・・お前にか!?」
「ふん!!」
「うぐっ・・・」
大河の一撃が竜児をとらえる。
「お前なぁ・・・」
「私にストーカーがついたらおかしいのかしら?まあ私をストーキングする奴がいたら潰してやるけど。」
「だよな・・・。ストーカー・・・あいつストーカーなんだろうか?」
「そんなの知らないわよ。同じ者同士あんたの方が通じ合うんじゃない?」
「違げえって言ってんだろ!けどストーカー・・・多くはアイドルとかにつきやすいよな?」
「さあね、ストーカーには詳しくないし。」
「お前、このマンションに知り合いがいたりしねえか?」
出来れば個人名を出したかったのだが機嫌を損なわれそうだったのでやめた。
「いないんじゃない。そもそもどんな奴が住んでるかどうかも知らないし。」
「お前・・・ご近所さんと少しは仲良くしろよ・・・」
「いいのよ。同じ階には私しかいないんだし!・・・それじゃあね。早くやっちゃんに晩御飯作ってあげてね。」
「おう。またな。」
そして大河はマンションへ入っていった。こいつには心配する必要はないだろう。
だがストーカーを気にしなければならない奴が1人。
そいつはタイミング良くかはわからないが学校を休んでいる・・・
結局亜美が学校に姿を見せたのは3日後のことだった。
「みんな心配かけてごめんね・・・本当に体調悪くて・・・
でもみんなの励ましのメッセージは届いてたから!本当にありがとう!私、また学校頑張るね!!」
久しぶりの学校で亜美はもちろん質問攻めにその答えとして
モデルのことも疲労での体調不良なのでしばらく休みたいとか、みんなに会えずに寂しかったとか
この健気さ、何より亜美の復帰に男子も女子も大歓喜。すっかり『クラスの人気者の亜美ちゃん』は帰ってきた。
しかし・・・
「高須、亜美の様子だが、何かおかしくはないか?」
昼休み、再び竜児は北村と共に昼ごはん、北村は再び自らの幼馴染のことを竜児に話す。
「おかしいか?川嶋ならいつも通り昼飯を食べてるだろ?」
麻耶、奈々子と3人で昼ごはん、というよりは昼休みのように話で盛り上がっている。
といっても竜児だって亜美がいつも通りだとは思っていない。実際、話をしようと自販機の場所に何度も行ってる。
だが亜美はいなかった。来なかった。おかげで今日1日で缶ジュースを2本も買ってしまっている。
亜美が体調不良?になる直前に会った身としてはやはり気になってしまうのは仕方ないことだ。
しかし、教室では常に麻耶らとずっと一緒にいる。それも常に楽しそうに。
そこに割って行くのも気が引ける。なんとなくだが亜美と話す場所は自販機ぐらいしかない。
というわけで『川嶋に何かを聞きたいがわざわざ聞く必要はないのか?』なんて思いながら悶々と昼を過ごしていた。
晩御飯を買った後の帰り道、見知った後ろ姿が前を行く。
「おう逢坂、お前も帰りか?」
「ちっ・・・またあんたなの?本当に付けてるんじゃないでしょうね?」
「付けてねえって言ってんだろ?同じ学校に通って近所に住んでんだから会うにきまってんだろ?」
いつも通り偶然会うことを歓迎してくれないようだ。だが大河とて嫌なわけではないだろう。
嫌な相手だったら大河の場合舌打ちなり威嚇して終わるからだ。
「ふん・・・まあいいわ!その代わり明日にでもあんたんちにごちそうになってやるわ!」
「・・・まあ泰子が喜ぶからいいけどよ。それよりようやく川嶋が登校して来たよな!
やっぱりあいつがいると教室の雰囲気が違う・・・よな・・・」
思っていることは口に出てしまうものだ。大河相手に亜美の話をすればどうなるかぐらいわかるだろうに
恐る恐る大河の方を見ると
「そうかしら?まぁ私はどうでもいいけどね。」
以外と普通な反応、しかし目が笑ってない。
「お前はまだ川嶋と仲悪いのか?」
「まだも何ももともと私とあいつとの間に関わりなんてないわよ!
どうでもいいのよあんな奴。北村君とも関係ないみたいだし・・・」
「・・・なんで北村が出てくるんだ?」
なんて話をしていたら
「高須君!!!助けて!!」
「おう!!」
後ろから誰かが竜児にしがみついてくる。知らない人だったら慌てるところ、しかしこの声には覚えがあった。
「川嶋!?」
「ちっ!」
突然竜児にしがみついてきたのは亜美だった。しかし顔をあげると亜美は笑顔で
「や、や〜ん、もう竜くんてばぁ〜わたしを置いて先帰るなんてひ〜ど〜い〜」
「・・・」
突然な亜美の変わりように絶句する竜児。そして亜美の顔が竜児に寄る。
「川嶋!お前!!」
「お願いだから話を合わせて。」
と耳打ち。とりあえず竜児は
「す、すまんな。お前も用があると思って先に帰っちまったよ〜(棒)」
「も〜竜くんってばぁ〜そんなんじゃ亜美ちゃんの彼氏失格だぞ!」
「わるいわるい、もうしないから許してくれよ〜(棒)」
「今回だけは特別だからね!」
「なんなのあんたら、頭おかしいわよ。」
非常にぎこちないカップル?を演じてる2人。しかしはたから見てる限りは大河の言うように妙にしか見えない。
「だいたい私まで変に見られるじゃないの・・・!?あいつは!?ぬおおぉぉぉ!!待てぇぇぇいつかのストーカーぁぁぁ!!」
「うわぁぁぁ!いつかの子!わぁぁ!!」
気が付けば後ろにいたのはいつかの不審者。前に大河が『写真を撮られた!』とかで騒ぎ立てた奴。
大河がそいつを追いかけると亜美は力が抜けたようにその場にへたり込んだ。
「ちっまた逃がした・・・今度こそとっちめてやるわ!」
「あんまり無理するなよ?相手は何してくるかわかんねえんだしよ」
「・・・」
とりあえず亜美を落ち着かせるために近くの自販機でジュースを買い共に黙って過ごしていた。
そして残念そうに大河が帰って来たのだ。未だに亜美は口を開かなかったが、
「で、川嶋、お前はあいつがなんなのか知ってるんだろ?」
「はぁ?ばかち〜の知り合い?ろくな知り合いいないのね。」
「いや・・・どう考えても違うだろ。あれは」
「ストーカー・・・ってやつ・・・ね・・・」
「おう・・・」
「・・・ふん」
亜美が重い口を開く。竜児には予想できたものだが改めて言われると言葉を失う。大河もかける言葉が見つからないようだ。
「あたしはモデルっていう、人前に出る仕事をしてるし、こういう奴がいるっていうのはわかってたんだ。
被害にあったモデル仲間もいるし、あたし可愛いから少しはこういうのもいるだろうし、我慢できるかな?って思ってたんだ。」
竜児は無言で、大河は舌打ちをしながら不機嫌そうに聞く。
「けど今のあいつは・・・この業界でも有名な奴でね、あたしたちを撮った写真とかを送ってポストとかに入れてくるの。
最初は気にしてなかったんだけどだんだんエスカレートしてきて、ひどい日にはほぼ1日の行動をまとめた日もあったの!」
あまりのことに言葉を失う竜児、とっさに
「警察に相談したらどうだ?」
と、聞いてみても
「ストーカーに関しては実害がない限りそう簡単に動いてくれないの。
確かにされてることは写真撮られて送られてくるだけ。郵便でなく投函で。だけどね。」
・・・たしかに直接的にはなにもされてない。だが男の竜児でさえこんなことをされたら気味が悪い。
「こっちに越して来て、しばらく落ち着いたと思ったらまた来るし!もう、どうしたらいいかわからない・・・」
そこにいたのはクラスでの気の優しいいい子でも、少し意地の悪いお姫様でもなく、1人のか弱い女の子だった。
対応に困り、どうしたらわからない竜児。すると、
「ふん、アホくさ・・・私は帰るわ。」
「おい逢坂、いくら川嶋のことが気に入らなくてもその態度はないだろ!?」
「別に、だいたい警察が何もできないことを私達がどうにか出来る訳ないでしょう?」
「それもそうだが・・・」
「それにあんたの母親は女優でしょう?この危機を救ってくれないような親なの?」
亜美の母親は川嶋安奈。ドラマにも頻繁に出るので知らない人はいないだろう。
「ママは撮影が忙しくて帰ってくるのがたまにで、この件について知らないと思う。マネージャーには口止めされてるし・・・
『今は大切な時期だから余計な心配は掛けないほうがいい』って。パパも一緒。あたしに構ってる暇はないのよ・・・」
「ふ、ふん・・・」
諦めたような口調で淡々と話す。
さすがの大河もバツが悪そうだ。有名人は、金持ちはそれなりの事情があるようだ。娘の一大事も知れないくらいに・・・
「私は・・・」
大河が何かを言い出すのと同時に、竜児は頼りになる友のことを思い出す。
「北村に相談しよう!」
『自分ではどうにもならない』そう言っているようなものだがこの際仕方ない。
目の前で泣きそうな少女は自分だけでは救えない。これがいい方法と判断した竜児だった。
「祐作は来るって?」
「ああ、『お前に一大事だ』って言ったら『すぐ行く!』って言ってたぞ!幼馴染同士、絆で結ばれてるんだな!」
竜児は明るい顔を作りそう言うが
「・・・そうだね。」
と亜美はすっきりしない顔。何か言い淀んだ気もするが亜美の口は動かない。
「もしかして行くのはスドバ?」
「ああそうだ。そこが話すのには1番いいって北村も言ってたしな。」
ちなみに大河もいる。『北村と解決策を相談する』といった後、
「まぁいくらあんたでもクラスメイトが被害者としてでもニュースになるのは目覚めが悪いわね。
仕方ないから私も手伝ってあげる!それにあの不審者には痛い目にあわせてやりたいし・・・!」
と。意気込み始めた。やはり北村が来るからだろうか?それと告白はどうなったのだろうか?
「おう!待たせたな!高須!亜美!ん?なんだ?逢坂もいるのか!!これは心強い。強力な援軍だな!」
「そ、そうね!クラスメイトの危機は放っておけないもの!」
(よく言うよ・・・)心のこもっていないだろう声に竜児がそう言おうと思った瞬間、
「大河!あんたがそんなことを言うようになるなんて・・・お母ちゃん嬉しいよぉぉ〜(泣)」
「みのりん!?」
「く、櫛枝!?」
意外な人物に驚く2人
「北村君がナイスな全力疾走してるからよぉ、うっかり競争しちまったわけよ!ダイエット戦士のハートにも火が付いたしね!
噂の『脱いだら凄い』と評判の北村君のBodyはこうして作られてるのはと思いきや、あ〜みんの非常事態ときたもんだ!
この櫛枝もひと肌脱がしてもらおう!ってわけよ!」
「さすがみのりん!そこに痺れる憧れるぅ!!」
「よせやい大河・・・俺に惚れたら後悔するぜ・・・」
「なに言ってるのみのりん!もう私はみのりんのものだよ!」
「・・・とりあえず中入るか・・・」
笑いあう2人。満足げな表情で眺める北村。『このメンバーで大丈夫か?』そう思ったのは確実に竜児だけではない。
「ストーカー!?そんなこと一言も言ってなかったじゃないか!越して来たのも
『今の学校が合わない』とか『モデル業疲れた』や『家にも誰もいない』とかが理由じゃなかったのか!?」
「随分多い理由ね・・・」
そう思うのはあきれ顔で言う大河だけではないかもしれない。
「ストーカーとか言ったら祐作も心配するでしょ?それにこっちに来ればさすがに追ってこないだろうと思ってたのよ。」
「それは当然だが・・・ってそんな中で1人暮らしか!?本当にお前は無茶をする・・・」
「仕方ないでしょ!おじさんもおばさんもいないとは思わなかったのよ!」
「おお!あ〜みんは1人暮らしなのかい?」
「ふん!1人暮らしなんてやろうとすれば出来るわよ!」
(出来てねえじゃんお前・・・)
なんてことは言えなかった。
「しかし厄介だな・・・ストーカーは簡単には警察は動いてくれないと聞く。やめさせるいい手段はないだろうか?」
北村はこの手の話に知識があるようだ。脱線しかけた話が進んでいく。
「簡単じゃないそんなの?ようは不審者を倒せばいいんでしょ?私1人じゃ逃がしちゃうけどこれだけ人数がいればできそうね!」
「!そんな危ないことは・・・」
「そうだ逢坂!俺たちはただの・・・」
口の端を釣り上げ大河がそう言うとすかさず亜美が止める。
竜児も『ただの高校生じゃないか!』と、言おうとしたが
ここにいるのは
被害者であるが人気絶頂の現役高校生モデル、川嶋亜美。
運動部に所属し、スポーツマンらしい筋肉を誇る次期生徒会長候補、北村祐作
ソフト部で関東大会出場に大きく貢献、女子高生離れの身体能力を誇る、櫛枝実乃梨
説明不要、手乗りタイガー、逢坂大河
一瞬の間の後
「大丈夫よ。こっちには犯罪者顔のこいつがいるんだから」
その瞬間、亜美がコーヒーを吹く。
「はっはっはっは!高須!その目つきも役に立つ日が来たようだな!」
「そんな役の立ち方嬉しくねぇ!!」
ダン!とテーブルを叩き抗議すると、
「おおう!いいよ〜高須君!その表情ならストーカーもイチコロだぜい!」
「うっ・・・」
さすがに実乃梨には反論できない。
「良かったわねぇ!あんたの力を発揮できる時が来て・・・」
そう大河が呟く。なんだこの流れ・・・
「よし決まったな!このメンバーで亜美のストーカー退治だ!」
「「おおーー!!」」
「返事が足りないぞ!亜美はともかく、高須!お前の協力が必要なんだ!」
「そうだとも高須君!共に女の敵を打ち取ろうじゃないか!!」
「たまにはお尋ね者のあんたも役に立ちなさい?」
「もう一度行くぞ!やるぞぉ!」
「「「おおっー」」」
(いいのかこれ・・・)
北村の呼びかけに1人はやる気がないものの、店内ということで、周りから睨まれたせいかこれで良しとされたようだ。
(本当に大丈夫なのか?これ?ともかく俺だけでも冷静にならねえと・・・
そうしねえと・・・ストーカーが危ない!警察沙汰にならねえよう俺だけでもまともにならねえと!)
すると亜美が顔を寄せてくる。
「高須君がいるなら安心だね?亜美ちゃんのこと・・・しっかり守ってね♡」
「お、おう・・・」
すっと耳打ちしてきた亜美に顔を赤らめ返事をする竜児。
「待ってなさいストーカー・・・今度会ったらぶちのめしてあげるわ・・・」
「ふふふっ・・・大河よ・・・この実乃梨めにも手柄を取っておいてくだされよ?」
『無事に終わるのだろうか?』そう不安に思う竜児であった。
「さあて次回予告のコーナーだ!」
「唐突だなおい」
「いよいよ次回!あ〜みんのストーカー編完結!」
「いいのか?そんなこと言って、終わらなくても知らねえぞ?」
「いよいよストーカーとの直接対決!対する高須君はどう出るのか?」
「対するの俺なんだな・・・まぁわかってたけどよ・・・」
「そして高須君に迫る第3の刺客!」
「刺客!?誰だそれは!?」
「それは・・・・・俺だ俺だ俺だぁ!!!!」
「お前かよ!?つか、この予告本当なんだろうな?」
「このおまけはフィクションです。」
「だよな・・・じゃなければ俺が櫛枝にこんなに突っ込むことねえもんな・・・」
「そんなことないよ高須君。1モブキャラにはこの程度の扱いで十分さ・・・」
「いや櫛枝はモブじゃねえだろ?他にも出てない奴なんかいくらでもいるし・・・」
「ふっ・・・気づかいはいらねえよ・・・だって今後の展開でメインキャラにのし上がるのは!!」
「ストップだ櫛枝!えっと・・・ではまた次回!!」
「ここでも言動の自由をもらえないのかぁ!モブキャラの扱い酷過ぎじゃねぇ!!??」
以上です。半端に投下出来てしまったので急遽スマホで投下…ご迷惑おかげしましたm(_ _)m
まぁあらすじと予告はそんな間が差した落書きです。次回やるかは分かりません;;
あと昨日IDはいらない演出だったなぁ…
ではまたノシ
いつも楽しみにしてます。 投下あざーす
朝からGJ
ずいぶんと間があきましたがななどら。の続きを投下させていただきます
はじめに注意事項を少々
奈々子→竜児の話です。
エロなしです。
続き物なので以前の話をしらないと厳しいかもです
時間軸で行くと5巻途中ですが多少の矛盾を感じるかもしれません
ここまでで嫌悪感を覚えた方はスルーかNGでお願いします
570 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 15:56:21.07 ID:QapYN7pt
「高須くんには関係ない!」
「お前にはもっと関係ねぇよ!」
文化祭前日、お祭り前の独特の喧騒を突然の怒鳴り声がきりさいた。
いきなりの出来事にクラスは静まり、視線は声のした方へ。
あたしもみんなに釣られるようにそっちをむく。
声の主に驚きながら。
「……櫛枝? どうしたの? なんか……」
「……今怒鳴ってたのって高須……?」
クラスきってのムードメーカーと、ちんぴら風正統派おかん系男子の
諍いにみんなも似たような感想をもったみたいで、睨みあう二人に戸惑いを隠せず、
目の前で起きた事を確認するかのように、ぽつりぽつりと口にだす。
それがクラス全体にざわめきとして広がった頃タイガーが動いた。
夫婦喧嘩を見る子供のような不安げな顔で。
それでも必死に取り繕ったであろう笑顔で。
「りゅ……竜児! みのりん! 握手ー!」
二人の手首をつかんで、無理やりに握手させようとする。
だけど硬く握られた手はぶつかる。
ガツンという音が響いた。
その瞬間、その子の顔が大きく歪んだ。ふたりの手をつかんでいたはずの両手が
力なく離れる。右手と右手がぶらんとたれた。
解放された高須くんは教室を飛び出していき、櫛枝は床をじっとにらみ続ける。
時間にしたら一分にも満たないこの出来事にクラスのみんなは呆然としていた。
571 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 15:57:17.56 ID:QapYN7pt
「……高須くんって怒るとあそこまで怖い顔になるんだね」
「……櫛枝もよくあの顔にビビらねぇよな。スゲー根性」
驚きはあたし達を離してくれず、こんな声があっちこっちでちらりほろり。
それにいたたまれなくなったのか、櫛枝はカバンを持つと、
「……私、帰るよ。明日はちゃんとくる。何か変わったら、連絡して。……ゴメン、ほんとに……」
らしくもなく、真面目な顔してあやまると、そそくさと足早にその場を離れていく。
「あっ、みのりん待って!」
高須、櫛枝、なんて単語が聞こえるたびに、まわりをにらみつけていたタイガーが、
慌てて追いかけたんだけども、滑って、転んで、顔は半泣き。
まわりのみんなはそんなタイガーの様子を遠巻きから眺めるだけで、近づこうとは誰もしない。
――もう、仕方ないわね。
こんなことを思いながら一息つくと、あたしはこけたタイガーのもとまでむかうと
「大丈夫? タイガー?」
って、声をかける。
タイガーは、あたしの声には反応せずに迷子のような表情で、櫛枝が逃げ去った
方向を見ていた。
見ると膝がずりむけている。
「あら、これはひどいわね」
あたしは大げさに顔をしかめると、
「ねぇ、すこし練習抜けていいかな? タイガーを保健室つれてきたいの」
ウインクひとつとばして、春田くんに問いかける。
「じゃ〜あ、タイガーは奈々子様にまかせるとして〜、たかっちゃんとタイガーが戻ってくるまで
きゅ〜けいと個人作業ってことで。そうそう実はさ〜、おれず〜っとしっこ我慢してたんだよね〜。
ってことでみんないっしょにトイレいこうぜ〜」
「おいおい春田、みんなでトイレ行く必要はないだろ。まっ俺はいくけどさ」
春田くんと能登くんのやりとりに空気がすこしゆるんだのを確認して、タイガーを外に連れ出した。
話したいこともあったし。
572 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 15:58:14.60 ID:QapYN7pt
保健室に着くと先生は不在。
救急箱からオキシドールをとりだして、しょぼんとしているタイガーの膝へ。
しみたのかすこし顔をしかめると、声をあげる。
「……いたっ! あんたもうちょっと優しくできないの」
ただ、その声にもいつものキレはない。
「ちょっとだけ我慢してね。あっ、そうそう……」
めったにない二人っきりのチャンス、これを逃す手はない。
「あたし、タイガーに聞きたい事があるんだけど……」
「あん、なによ?」
猫科の動物らしく馴れない人にはとげとげしい。
「高須くんとつきあってるの? ほら、いつも一緒にいるじゃない?」
「はん、エロぼくろつけた口でなにいってんの。私と駄犬がつきあうなんて
そんなことあるわけないじゃない」
タイガーは質問につまらなそうに答えた。
予想通りの答えを。
だからあたしは用意してた言葉を口にだす。たのしそうな顔をして。
「そうよね。タイガーちゃんはまるおくんが好きなんだし」
そう、高須くんをいつも見ていたあたしは知っていた。
タイガーが北村くんとしゃべる時に緊張して上手くしゃべれてないことを。
視界に嫌でも入ってくるから。
「な、なんで知ってじゃなくて、わ、私が北村くんをす、好きっていう証拠でもある
の!?」
「うふふ、女のカンってやつかしら」
そんなに狼狽えてたら証拠もなにもないきがするけど、ここは笑ってやりすごす。
「残念ながら、そのカンはハズレね。あっ、でもいい機会だから言っとくけど、
あんたの友達のギャル女、北村くんに馴れ馴れしくしすぎ。あれじゃあ、北村くん
もいい迷惑ね」
恋敵が相手とはいえずいぶんと勝手な事をいう。
麻耶がどれだけテンパって話しかけてるかも知らずに。高須くんなんていうずいぶんと
でかいアドバンテージも持ってるくせに。
少しだけイラッとしたあたしは、口調は変えずに問い詰める。
「んっ? まるおくんが迷惑だって言ってたの?」
ギャルっぽくて、軽そうだなんて色眼鏡で見られがちな麻耶、あるいは見るからに
ヤンキーな高須くんをまるまる受けとめるまるおくんに限って、そんな小さな事は
言わないはずだもの。
573 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 15:59:00.36 ID:QapYN7pt
案の定「ん〜」と唸るタイガーに今度は利己的な反撃を。
「それに、タイガーだって高須くんにべったりじゃない。あれだって高須くんの事を
好きな女の子がみたらどう思うかしら」
あわよくば、少し離れてくれるよう。
「あれはあの犬があたしの世話をしたいって泣きつくから傍にいさせてあげてるだけ。
それにあんな目付きの悪い犬のこと好きになる女なんているわけないじゃない!」
「あら? 高須くんっていい男だと思うけど……。あたし高須くんとならつきあってもいいかな」
「はん、くだらない冗談はやめといたら」
この言葉に、膝にあった視線をあげ、あたしはタイガーの目を強く見つめる。
そうしてほんの少しの間の後、真面目な顔して、切り返した。
「ねぇ……本気だとしたら?」
空気が冷える。
……狙い通りに。
「ダメよ!」
「ん、なんで? タイガーと高須くんはつきあってないんでしょ? 」
突然のあたしのあるいは空気の変化に、タイガーはあわてたのか、あせったように
言葉を投げた。
「だって竜児はみのりんが好きなんだから!」
「ズキリ」と、心臓がつかまれる音がした。
……予想はついていたのに。
高須くんが櫛枝にしゃべりかける前に、毎回小さく息をついている事や、櫛枝に
いきなり話しかけられた時に、少しキョドりながらも、すごくうれしそうな笑顔になる
事を知っていたから。
ただ事実は予想以上の衝撃であたしを襲う。
これだけのショックを受けたことに、ここまで高須くんを好きになってる事に、
自分でも驚いていた。
ただ、あたしの顔の筋肉はそんな心の動きを無視して、なんとかにやけた笑みを
つくっていた。
574 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:00:24.50 ID:QapYN7pt
「へぇ〜、高須くんって櫛枝の事が好きなのね」
瞬間、タイガーは顔をあぶあぶさせる。
「騙したわねこのエロぼくろ」っていう声が今にも聞こえてきそう。
心外ね。嘘なんてかけらもまじってないのに。
その顔が見れて満足なあたしは意識してつくった悪戯っぽい顔をやめて、
なにもなかったかのように膝の治療にもどると、
「で、なんで高須くんはその好きな櫛枝とケンカしたのかしら?」
不思議に思っていた事をたずねる。
あの温厚な、日溜まりのような高須くんが激昂したわけがしりたくて。
「わかんない。竜児があんなに怒鳴ってるとこみたことないし、みのりんだって……」
ここまで言うと、タイガーはなにか思いついたのかハッとした顔をした。
「心当たり、あった?」
「……ん、あるにはあるんだけど……」
しかめつらして言葉をにごす。
「話しづらいなら話さなくてもいいけど、口に出したら整理できることもあるわよ。ねっ」
あたしが優しく話しかけても顔はしかめつらのまま。
――まっ、しかたないかな。話したくないことの一つや二つ誰にでもあるし。
なんて事を沈黙の中思っていると、小さなうめき声が聞こえてくる。
タイガーの心の動きはわからないけど、話してくれる気分になってくれたみたい。
小さな声ですこしずつ、ぽつりぽつりと言葉が落ちる。
両親が別れてて、タイガーは現在、一人暮らしだということ。
最近、お父さんとよくでかけるようになった事。
高須くんがそれを喜んでいる事。
櫛枝はタイガーのお父さんをあまりよく思っていない事。
素直じゃない語り口だから、ところどころわかりづらいところもあったけど、
まとめればこんな内容を。
話を聞きながら、うなずける部分があった。もちろん納得できない部分もある。
それでも、話を聞けてよかった。
話のとおりならあたしでもタイガーをフォローできることがありそうだから。
そしたらきっと高須くんもタイガーをフォローする機会も減るだろうから。
二人きりのみでのガールズトークの戦果に満足したあたしは、しばらくまえに消毒が終わっていた
擦り傷をガーゼにテープでおさえてあげる。
これで密室に二人でいる必要はもうない。
「はい、おしまい。あたしカバンとってきてあげるから、今日のところは帰ったら?」
「っ、でも!」
「大丈夫。春田くんにはあたしが言っとくし」
「……うん、そうする」
「あっ、それとシャワー浴びたら高須くんにもう一回消毒してもらってね。
家、すぐ近くなんでしょ?」
あたしの言葉に、タイガーは眉をひそめる。
なにか気に入らない事実があったみたい。
「なんで、あんたがそんな事知ってんのよ」
「あら、知らなかったの? あたしと高須くんってメル友なのよ」
「……っ!」
575 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:01:10.56 ID:QapYN7pt
驚いた顔までかわいいタイガーは、表情を強ばらせ
「ねぇエロぼくろ、それも冗談?」
と、あたしに聞く。
「よくメールするのは本当よ。ウソだと思うなら聞いてみたら? もっとも高須くんは
メル友とは思ってないかもだけど」
「あのエロ犬だれに断っ――」
なにかを喚くタイガーを無視して、言葉を続ける。
「あっ、ちなみにさっきのも冗談なんかじゃないから」
「さっきのって?」
不安げなタイガーの言葉に対して、あたしの口からでる言葉はどんどん熱を帯びていく。
おかしい。こんなのあたしのキャラじゃない。
「高須くんとならつきあってもいいっていう言葉。ううんこれじゃ、ちょっと違う……かな」
ここであたしはタイガーの目をまっすぐ見据える。
「あたしは高須くんとつきあいたい」
少しゆれている瞳に向かって真正面から言葉をはく。
「好きなの、高須くんの事が」
あたしの言葉は迷わない。
「……でも、竜児はみのりんの事が……」
「そんなの、高須くんが、今、誰が好きとか関係ない。振り向かせればいいだけでしょ?」
さっきまで、狼狽たえていたあたしはどこにいっちゃたのかしら。強気な言葉が口をつく。
そんなあたしの剣幕にタイガーはすこし押されているみたい。
「……で、でも」
「だから、応援してとまでは言わないけど、あんまり邪魔はしないでね」
「…………」
「そのかわりまるおくんとタイガーの邪魔もしないから。麻耶がいるから応援はできないけどね。
ねっ、お願い。」
タイガーの首が縦にこくりと揺れた。
それに、満足したあたしは上機嫌で歩き出す。
「じゃあ、ちょっといってくるわね」なんていいながら。
576 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:01:56.39 ID:QapYN7pt
タイガーを昇降口で見送った後もあたしは上機嫌のままだった。今日のタイガーとの
おしゃべりの成果と、タイガーが帰り際に言った精一杯の「……ありがとう」が悶絶する
ほどかわいくて。
そんないい気分にひとり浸りたくて、教室へはまっすぐ帰らず遠回り。いつもはあんまり
いかない自販機置き場へよることにする。喉もすこし渇いていたし。
いい気分などすぐに吹き飛ばされることなどしらずに。
「……っ!」
見た瞬間に驚きで息をのんだ。そしてそのまま足が止まる。
壁の向こうには、亜美ちゃんと高須くん。
表情のさえない高須くんに対して、普段飲んでるところを見たことのない缶コーヒーを
口に運ぶ亜美ちゃんの表情は悪戯っぽくくるくる変わる。
でも、そんな亜美ちゃんの雰囲気はあたしのしってるものではなくて。
だから、なんとなく入りにくいようなそんな空気が流れていた。
なんていうか、亜美ちゃんには「無邪気な」なんて形容動詞はつくことがないって
半ば勝手に思っていた。
亜美ちゃんは本音っぽくいうことが上手な人だと思う。自分の思ってることに、何割かの
思惑をのせて、それを上手に隠しながらお話しするのが上手な人だと。
逆に言えば、思ったことをそのまま言うってことはしないってことで、すべての言葉が
計算づく。しかもより効果的になるように声色、表情、仕草なんかで磨きあげちゃったりまで
しちゃって。
こう思うと嫌な子っぽくなっちゃうけど、亜美ちゃんの本当にすごいところはそれが嫌味なく
できちゃうってとこで、人の何倍も繊細に周りの空気を読みとって、父親が読んでるボクシング
漫画のイケメンカウンターパンチャー並に相手との距離をつかめちゃうからこそできる芸当で。
それはきっとモデルっていう無垢なままではやっていけないような世界で身に着けた武器
みたいなもので、亜美ちゃんから醸し出される大人っぽさの要素の一つなんだと思う。
そんなモデルで大人な亜美ちゃんが高須くんと話している今この時は取り繕ってる様子もなく、
小説なんかでよくある表現になっちゃうけど、「ただの女子高生」川嶋亜美だった。
577 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:02:45.05 ID:QapYN7pt
そして、素の川嶋亜美が落ち込んでいる高須竜児を励ましているという情景は、なんだか
とってもしっくりときて、他の者の介入は許されないように感じちゃって。
そこに割り込むには、きっとなにか代償が必要で、それがわからないまま踏み込むのは、
とても勇気が必要だった。
臆病なあたしにそんな勇気はあるはずもなく、かといってその場からすっと離れられるほどの
潔さがあるわけでもなく、結局その場にとどまり盗みぎき。
高須くんをなだめ、励まし、立たせ、からかう亜美ちゃんを見て想いを馳せる
ふたりの関係性のこと。そこから少し進んで高須くんは亜美ちゃんをどう思ってるか。そして
亜美ちゃんが高須くんをどう思っているのか。
お付き合いってわけではないって思う。そもそも高須くんの好きな人が櫛枝だってことは、さっき
タイガーから教えてもらったし。
それに高須くんの亜美ちゃんへの態度が、ぶっきらぼうとでもいうのか、まるおくんといるときに
近いような気がする。たぶん女の子といるっていう感覚よりは友達といるっていう感覚のほうが強い
んじゃないかなっておもえるようなそんな態度。
それに比べて亜美ちゃんは、少なくともあたしの見たことがない亜美ちゃんで。でもその亜美ちゃんを
高須くんは戸惑うことなく亜美ちゃんって認識してる。この亜美ちゃんが高須くんの中では当たり前で、
つまり、亜美ちゃんにとって高須くんは素を見せる事ができるくらい気のおけない人。
考えを進めてくほどに心臓が落ち着かなくなっていく。この先を考えるのは正直怖い。
それでも、見て見ぬふりをきめこめるほどの些事ではないことは、なんとなくながらわかってて、
掘り下げずにはいられなかった。
きっと、たぶん、いやほぼ間違いなく特別な人。うん、そうよね、そうじゃないと説明がつかない。
亜美ちゃんは、わたしの思う川嶋亜美はそう簡単に胸襟をひらくようなそんな安い女じゃない。
高須くんのことが好きなんだ。男性として見てるかまではわからないけど。
今度は心臓が大きくはねた。
かわりに大きなため息が口を吐く。
ただでさえ好きな女の子がいる男の子っていうだけで見込みの薄い恋なのに、同じような立場に
こんな超絶美少女。
さっきタイガーに啖呵をきった時のような気持ちにはとてもなれず、ため息がもれた。
そんなあたしとは対称的に亜美ちゃんは、きっぱりとした声で言う。
「あたしは、川嶋亜美は、高須くんの同じ地平の、同じ道の上の、少し先を歩いて行くよ」
そして、最後に優しく笑って
「……さぁ、教室に帰ろう。練習しなきゃね、明日は楽しい文化祭。本番なんだから」
なんて言い、そのまま歩き出す。惚れ惚れするほどかっこよく。
先に行かれた高須くんは歩き出すこともなく、じっと足元を見つめていた。
「亜美ちゃん、先いっちゃったわよ」
「……香椎、見てたのかよ」
そんな高須くんの横にすっと並んで話しかける。並ばれたほうはびっくり顔に非難の目。
「ずっとってわけでもないけどね。で、この缶コーヒーどうしたの? これってカロリー
高いのよね」
なんて言いながら五本きれいに並んだコーヒーのうちの一本を手に取る。自販機がへこんでる
のが目についた。
あたしはそのへこんだ自販機によさりかかって高須くんとおしゃべりを続ける。歩幅でいうと
大股で一歩ぐらい、これが今のあたしと高須くんにとってのちょうどいい距離。
さっきも似たようなこと言われたななんて苦笑いする犯人は
「……大河、保健室に連れてってくれたんだってな、傷は?」
あたしの尋問には答えずに自分のききたいことばかり。
「ただの擦り傷。大したことはないけど、今日はそのまま帰らしちゃった」
プルタブをあけ、コーヒーを一口
「そっか。……ありがとな」
甘くて、苦い。まるでこの空間のよう。
「どういたしまして。でも、高須くんがお礼を言う必要はないんじゃない?」
「いや、まぁ、そうか。あぁ、でもな……」
「それにタイガーにもありがとうっていわれちゃったし」
「あいつがか?」
驚くような声。
「うん、ほんとにちっちゃな声だったけどね。顔真っ赤にして、ちょーかわいかったわよ」
「……そっか、大河がなぁ」
ぽつりとつぶやくその顔はうれしさをかみ殺しきれなかったような笑顔で、あたしがはじめて料理を
作った時の父親の顔を連想させた。
「ふふ、高須くんってタイガーのお兄ちゃんみたいね」
「おう、なんでだ?」
「うーん、なんでかしらね。なんとなく……かな」
説明するのがわずらわしくて、魔法の言葉「なんとなく」ですましてしまう。きっと距離感と雰囲気
っていっても伝わらない気がするし。
「で、あのこの傷口だけど一応の処置的なことはしておいたから、お風呂からでたらまたお願いね。
おに〜さん」
「ああ、わかった。ありがとな」
「ほら、またありがとうって」
「でも、ありがたいって思った時に他にいう言葉なんてないだろ」
あまりにもらしい言葉に頬がゆるんだ。
「高須くんってそういうとこ、素敵よね」
この人のこういうところがすきなんだなっておもって、胸があたたかくなった。
579 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:08:25.40 ID:QapYN7pt
「いこっ、あんまり遅いと亜美ちゃんが心配して戻ってきちゃうわよ。あっ、せっかくだし
手つないで帰ろうか、あの時みたいに」
「つながねぇし、つないだこともねぇよ」
「でも、一緒に戻らないと覗いてる人にまた捕まっちゃうかもしれないわよ」
「覗いてた張本人がなにを言ってやがる」
少し疲れたようにつっこむこの高須くんがあたしのしってる高須くん。やっといつもの調子が
でてきたみたい。
「ふふっ。そんな感じでもどったらいいのよ、何事もなかったみたいに」
「でも、俺が戻るとクラスの雰囲気が――」
おそらくネガティブな言葉がつづくであろう高須くんをさえぎって、
「大丈夫、高須くんはきっと高須くんが思っている以上にあのクラスのみんなから信頼されてるから。
なにもむやみやたらに声を荒げるような奴なんかじゃないって。顔が怖いだけでほんとは心の優しい
いい奴だって。ねっ、だから大丈夫」
精一杯の笑顔で言葉を紡いだ。できうることなら慈愛に満ちた笑顔なんて形容してもらえるよう
に頑張った笑顔で、必死に紡いだ。支離滅裂になっているのは自覚しながら。
「ほら、一緒に戻ろう。もし高須くんがいずらい空気になったら、あたしがみんなをコラって
しかりつけてあげるから」
「香椎って怒ってもあんま怖くなさそうだよな」
「あら、そんなことないわよ。いがいと怒らせると怖いんだから。高須くんもあんまりあたしを
怒らしちゃだめよ」
「おう、そうだな」
「……」
「……」
ここで一旦会話が途切れた。高須くんは少しだけ自分がへこました部分をながめた後、
「はぁ」って、大きく息を吐き、
「……じゃあ、行くか」
とぽつりといった。
あたしに言ってるのか、自分に言ってるのかわからないぐらいのトーンで。
そしてもう一度、今度は四つに並んだ缶コーヒーにちらりと目をやる。
580 :
ななどら。よん:2012/05/08(火) 16:09:38.24 ID:QapYN7pt
「……なぁ、なんで香椎も川嶋も俺なんかにここまでしてくれるんだ?」
「ふふっ、ここまでってあたしはなんにもしてないわよ。ただ美女とヤンキー面した男の子が逢引
してたからのぞいて、その子がおいていかれたから話しかけただけだもの」
「いや、そんなことは」
「それと亜美ちゃんの気持ちは亜美ちゃんにしかわからないわよ? ただあの亜美ちゃんが
そこまでしたのは高須くんにそこまでする価値があったからだと思うな。だからなんかなんて
言っちゃだめ」
「そうか……。ああ、そうだよな」
高須くんの顔があがった。なんとなく三白眼にも力が戻った気がする。
うん、きっともう大丈夫。
「よし、そろそろ行くか。香椎は?」
ほら、声だってあたしの大好きな声にいつものトーン。
「行くわよ、もちろん。これももう飲んじゃったしね」
缶コーヒーを横に振り、ないことをアピール。そのままゴミ箱へ捨て、流れのままさらりと
高須くんのとなりへ。さっきよりほんの少しだけ近い距離。
「ほら、一緒に戻ろう。あっ、そういえば」
な〜んて、わざとらしい明るい声で
「春田くんが高須くんが帰ってくるまで休憩って言ってたわよ」
「おい、お前、そういうことは早く言えっての。おれのせいでみんなの時間が」
「でも、大丈夫よきっと」
「おう。なんでだ」
「春田くんお花摘みに行ったから、そのまま忘れちゃってるんじゃない? ほら、春田くんって、頭にも
お花咲かせちゃってるところあるし」
「さりげに酷いな」
「そうね。事実って残酷よね」
なんて、いいながらあたしたちは二人並んで教室へむかう。
高須くんが躓いた時には支えてあげられるよう、転んだ時には歩き出すまで見守れるように。
隣を歩く高須くんを見ながらあたしは思った。
あたしは、香椎奈々子は、高須くんと同じ地平を、同じ道の上を、手をつなげるぐらいの距離でずっと一緒に歩いていきたい。
宣言なんかはしないけど。
そうなりたいって強く思った。
以上になります
ありがとうございました
このとりを次回からつけます
ちなみにすみれきたなんていうのも投下してます
長く間を開けてすいませんでした。
次回はもっと早く投下できるように頑張りたいと思います
おー、復帰されましたか。
とりあえず、乙でございます。
これって、鎌倉ダブルデートの話の続きかな?
おお、ななドラではないですか! 再開嬉しいです
>>566 亜美ちゃんの話、大好物です。 GJ
会話に緊張感があって面白かったです。
しかし、割とおっとりめ奈々子かと思いきや
じわりじわりと黒くなってきましたねw
……ところで保管庫とかどうなってんの?
大元の保管庫は消えた
他は管理人待ちでないかな
実質機能してるのって、大河スレのヤツだけじゃないの?
GJ
588 :
◆nw3Pqp8oqE :2012/05/14(月) 09:34:02.08 ID:YUx0AWZk
ほす
>>566 >>567 GJ 面白かったよー
最近結構投下もされてるし前みたいな良い雰囲気が戻ってきたねぇ
しかし、GTはネタはこないのであった…
ゴールデンタイムは人気ないのかねぇ
ついでにそろそろななこい来ないかしら
594 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/16(水) 21:15:24.90 ID:e6Q/0I9q
...ななこいがついでだと??やつこそが本命だろう
きめぇ
どっちにしろGTはもう少し話が進まないと書き手さん達も
書き辛いんでないかな
とらドラが刊行時に私はココ来てなかったから分からんけど
当時はどんなもんだったんだろ
やっぱり物語後半から書き手さんも増えたのかな?
根本的に書きづらいと思うけど、他のキャラが動いてないからね
598 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/17(木) 00:17:35.72 ID:x2pJ6z2i
田村君ssって需要ある?
誘い受け(笑)
>>596 とらドラは原作3巻あたりからじわじわ増えてきたっけ?
アニメ化で一挙に増えてた
そしてアニメ終了と共に急激に減っていった
アニメ終了後に沈静化するのはある程度仕方ないやろね
SSとか書いてる人の中には単に流行りアニメを追いかけてるだけの人も居るらしいから
602 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/20(日) 01:23:09.66 ID:yBeOo8tk
てす
>>601 ななこいの新作がまさにそんなタイミングで現れたな
ということはもう続きは無いということかな
一応、ななこいの作者さんはblog更新してるから
そのうちにくればいいかなと期待している
てす
こんばんは「とちドラ7」を投下します。
以前の話はこのスレを振り返って下さい。
作戦会議は実乃梨がバイトをしているレストラン『ジョニーズ』に場所を移して継続中。
会議はもちろんだがまだ1人になりたくない亜美の意向もあるだろう。
今晩も泰子の晩御飯が外食なるのを気に病む竜児だが、事が事なだけに帰れない。
「ほら亜美・・・熱々のポテトだ・・・食べな!」
「!熱っ!!や、や〜ねえ実乃梨ちゃん、熱くて食べられないよぉ・・・」
「失敬、失敬。いやぁしかし、あ〜みんは私が思っていたような子とは違うみたいだねぇ・・・可愛いのは確かだけど!」
「なんのことかなぁ実乃梨ちゃん!私にはわからないなぁ?」
「む〜!みのりん!そんな奴じゃなくて私にも!」
「いやぁすまないねぇ!しかし嫉妬する大河も可愛いじゃないか!」
亜美は一応いい子モードなのか?竜児と北村以外ではそうらしい。
まあ嫌われてる大河と、そういうのを気にしなそうな実乃梨ので猫かぶっても意味はないような気もするが
「にしてもいいのか?相手がストーカーしてきてるとはいえ、さすがに手を出すのはまずいんじゃねえのか?」
ストーカー行為は許される行為ではないが、そんな相手でも暴力行為はまずい。
こっちが訴えられてしまえば退学処分もあり得る。特に大河はそういう加減をしなそうな性格、合法的な手段を考える必要があるだろう。
「ドリンクのおかわりを持って来たぞ!よし!それじゃ作戦会議を本格的に始めよう!作戦は挟み撃ちだ!」
「「「挟み撃ち?」」」
亜美以外が口をそろえてそう答える。
「ああ、逢坂が追ったらすぐ逃げるという話を聞くと、やはり向こうも負い目があるということだろう。
そこでだ、俺達で挟み込んで向こうが逃げれないような状況を作る。」
「その後どうするんだ?」
「俺が話を付けてみるさ。亜美を守る奴がいるっていうのが分かれば向こうもやりにくくなるだろ?」
「話し合いってどうするつもり?ストーカーしてるような奴とまともな話し合いが通じると思ってるの?」
亜美がそう声を荒げる。迷惑行為をしている奴だ。言って止めるならここまで苦労はしない。
「そこでだ、相手はカメラを常に持っているんだったな?」
「そうだけど・・・」
「相手のカメラを奪う。何、話しあった後に返せば問題ない。」
「けどカメラは奴の大事なものだろ?簡単に奪えるものか?」
「たしかにな。そこで逢坂の出番だ!」
「わたし?」
竜児の問いに北村がそう答える。
「俺が考えている作戦はこうだ。高須と亜美が2人で歩く。当然そこでストーカーも付いてくるだろう。
そこを俺と逢坂と櫛枝の3人でカメラを奪う。その後の話し合いだ!」
「おお、奇襲戦法かい?いいねそういうの!wktkするじゃないの!」
「さすが北村君だわ!なるほどねぇ・・・カメラがターゲットなら大きな問題にはならないわねぇ・・・」
(壊したら器物損壊にはなるんだがな)
女子2人は賛同する。人に危害を加える気がない分ましかもしえない。と思ってしまった竜児だがあることに気付く。
「って俺と川嶋が2人かよ!?」
「あら高須君・・・あたしと2人きりは嫌?」
「嫌ってわけじゃねえが・・・俺より北村の方がいいんじゃねえか?」
なんとなくだが竜児はこう考えた。確かにストーカーは亜美の写真を撮るだけ、亜美の身には危害が加えられたことはないが、
自分より頼りになる奴の方がいいのではないかと考えたからだ。
「いろいろ考えたのだが俺は後方部隊にいた方がいいと思ったんだ。作戦の指示もそっちの方がやりやすいしな。」
「なら女子3人で固まった方がいいんじゃないか?」
「奇襲をするなら身のこなしが軽い逢坂は必要だ!ソフト部で鍛えてる櫛枝も同様にな。」
「つまり鈍くさいあんたは戦力外ってことよ!大人しくあいつと餌になりなさい」
笑顔でそう言う大河。罵ることに関しては上手なようだ。
「憧れのモデルにまさかの恋人発覚・・・ストーカーのテンションも上がるんじゃないのかい?」
「だ、だな!そうなったらまずいんじゃ・・・」
「はっはっはっはっ!そのためのお前だ。その目で一睨みしてストーカーをビビらせてくれればこっちのものだしな!」
「なっ・・・それは・・・」
言い淀む竜児に更に反論が・・・
「というか何気に高須君ひどくない?そんなにあたしと2人っきりは嫌?」
「そうだぞ高須君!あ〜みんとデートできるなんて全男子高校生の憧れじゃないか!?」
何か言おうとしたものの、実乃梨に言われたら仕方ない。
「わかったよ、川嶋、頑張ろうな。」
「なんか冷たいなぁ・・・高須君、あたしのこと嫌い?」
「嫌いじゃねえが・・・」
「まあまあ、あ〜みん、思春期特有の照れ隠しってやつだよ!あ〜みん相手だから高須君も照れてるんじゃないのかい?」
「なるほど・・・確かにあたし・・・男の子と話すの慣れてないし高須君もそうなのかなぁ〜?」
「ふふん、まだ仮面ははがれないかぁ・・・」
実乃梨がそうつぶやく。亜美と2人きりは何とも言えない違和感があるが作戦の関係上、
自分が亜美と2人になるべきだろう。と思った竜児。亜美のそばということは大河の暴走を防げない可能性もあるがその所は北村達に任せるとしよう。
無難に追われ世帯と祈り竜児。もっとも亜美がストーカーという被害に遭っている以上、無難に終わることなはいのだろうが。
そしてその後の帰り道。竜児は1人ではなかった。帰る方向が違う実乃梨と北村とは別れた。
そして家が隣の大河は分かる。しかしもう1人住所不定の奴がもう1人。
「高須君が送ってくれるなら安心だね・・・それに、ここにもあたしのこと襲ってきそうな奴もいるし。」
「へぇ襲われ願望あったんだ・・・まさかあのストーカーも頼んでやってもらってるんじゃないの?」
「そんなわけないじゃない?亜美ちゃん可愛いからああいうのにも狙われちゃうの・・・ガキなあんたには一生ないでしょうけど。」
「厚化粧して大人ぶってるよりはましよ。あんたが隙だらけだから狙われるんじゃない?」
「化粧してもちびは隠せないから可哀そうよねぇ・・・」
「んだとこらぁ!わたしと同じ身長になるまで縮ませてやろうか!?」
「高須くぅん・・・怖い人が襲ってくるよぉ・・・助けて?」
つまり3人で帰っている。よりによって大河と亜美と。実乃梨のようにこの2人をなだめるなど竜児には無理だ。
それにうかつに口出しも出来ない。(本当はこの2人仲がいいんじゃないか)と竜児が思うほどに途切れなく言い合っている。
正直、竜児は関わりたくない。現に2人の一歩後ろを歩いている。
「聞いてる高須君?亜美ちゃんこのままじゃ襲われて、それを守れなかった高須君は世間から非難されながら生きることになるんだよ?」
「ふん、そんなことしなくてもこいつは常にお尋ね者じゃない?」
「世間は俺が川嶋を守ってることなんて知らねえよ。あと逢坂、いい加減俺を犯罪者扱いするのはやめろ。」
「そうね・・・それに高須君よりあたしの方が犯罪者かもねぇ・・・だって・・・亜美ちゃん可愛過ぎて、絶対世間に迷惑かけてるし!」
「「・・・・はぁ」」
珍しく竜児と大河の意見が合った。竜児も2人分突っ込むのはいい加減疲れてきた。早めに帰ろうと歩調を早めようとすると
「そういえばさ、あんたら2人って仲いいの?クラスでは全く話さないけど、今日の帰りとか一緒に話してたし。」
「それをお前が言うのか?」
「どういう意味よ?」
大河の手前、あの噂を振りまいた張本人が亜美とはいえない。確かに竜児と大河の関係は説明しにくい。すると
「そうね・・・下僕と主人ってところね。」
「おい!その言い方はないだろ!?」
「っとすると・・・主人は逢坂さん?」
「当然じゃない?あたしが下僕なんて状況はありえないでしょ?」
「俺が下僕・・・っていうのはあり得るんだな・・・」
「「うん」」
「お前ら・・・(泣)」
恐らく最初だろう、大河と亜美の意見があったのは。
「けどなんで下僕?高須君・・・逢坂さんに何をさせられてるの?」
「なにって・・・」
「わたしの部屋の掃除、ご飯の用意ね!」
「え・・・それ本当?」
「・・・間違ってねえな」
事実ではある。連休中に大河の部屋の大掃除をしたし、それ以来大河は高須家の世話になる日もある。
現に明日も行く。という話をさっきもしたばっかりだ。
「本当なんだ・・・高須君・・・逢坂さんに弱みかなんか握られてるの?」
「そういうんじゃねえよ。たまたまこいつの家が隣で見かねて世話してやってるだけだ。」
「よく言うわよ。『掃除させてくれ!!』って朝から道端で叫んだのは誰だったかしら?」
「っ・・・まぁ家事は好きだし『こき使われてる』とは思ってねえよ。」
「なるほどね。主婦みたいな高須君らしいね。」
「ほっとけ」
本人たちにも自分たちの関係の説明を求められても無理だろう。だがあの夜から続く妙な繋がりは今日も続いている。
「付き合ったりしているわけではないんだぁ?」
「あんた・・・まだそんなつまらない事を言うなら本当に怒るわよ?」
「ふふっ冗談よ。逢坂さんの好きな人は他にいそうだしねぇ?」
「!!それ以上口を動かしたら殺すわよ?」
まぁ大河の好きな奴は北村だろう。どういう関係になったかはわからないが、今日の見た感じはなにも変わっていなさそうだった。
「や〜ん、高須君こ〜わ〜い〜。」
「あんた!そこをどきなさい。じゃないとそこの性悪女を殺せないわ!!」
竜児を盾に亜美が隠れる。怒った大河がそう威嚇する。
「川嶋もいい加減にしとけって。あんまり逢坂の機嫌を損ねると作戦に協力してもらえなくなるぞ?
あと逢坂、気に食わないのは分かるが、その言葉はまずいんじゃないのか?」
「ふん!こいつがそれくらいでビビるわけないじゃない?まぁさっきまでガタガタ震えてたようだけど!」
「ふん!もう大丈夫だっての!だって・・・あたしには高須君がいるんだもん!」
亜美が言うこういう言葉、どこまでが本当なのだろう?
「そうだな明日は任せろよ・・・川嶋。」
その言葉が真実でも嘘でも、あの時、垣間見えたか弱き少女を救いたいという心情は消えない。
亜美が竜児のことをどう思っていようとも、竜児は亜美の力になりたいと思う。
『誰かのためになりたい』それが竜児の想いであり、信条だから
「ほら逢坂、家に着いたぞ!川嶋も、ストーカーがいるなら今日は家まで送るよ。」
そう言う竜児。だが亜美の返事は意外なものだった。
「大丈夫だよ高須君。だって、あたしの家ここだし。」
「「なっ・・・」」
「まぁあたしの朝は早いし、帰りもいつも遅めだしねぇ。
ああ、逢坂さんが同じマンションで、高須君が近所に住んでるのは知ってたよ?」
「「・・・」」
その事実に2人の言葉は出ない、見つからない。
「そういう訳。送ってくれてありがとうね高須君。ついでに逢坂さんも。また明日・・・明日はよろしくね?」
「お、おう・・・」
「・・・」
2人には、オートロックを開け、中に入っていく亜美の後ろ姿を黙ってみることしか出来なかった。
そして翌日の作戦決行日。今日は土曜日で午前授業・・・さらに雨だ。
「本当に今日やるのか?なにもこんな日にやらなくてもいいんじゃねえの?」
「ひどいなぁ高須君・・・あたしにストーカーに怯えながら更に休みを過ごせっていうの?」
「そうだよ高須君!あ〜みんの平穏を1日でも早く取り戻したいとは思わないのかい?
それに今日は雨で部活も休み、バイトも夜からだ!わたしの準備が整うのは今日だけなんだよ!」
「ちなみに昨日のカフェでの写真もファミレスの写真も今朝うちに届いてたよ・・・」
「ほらこれ」と亜美が広げた写真は紛れまなく昨日の話し合い、食事風景。亜美の写真だが周りの奴もとぎれとぎれに映っている。
5人は皆食事を持ち合い残っている。昼過ぎの2−Cにはこの5人のみ。雨はそれなりに強く窓を叩いている。
「だが亜美、昨日よりはすっきりした顔をしているな。木原達にもそんなに心配されていなかったようだしな」
だが昨日のような、どこか怯えたような姿はない。今朝も相変わらずの被害を受けているのに平気そうな表情をしている。
「大丈夫・・・あたしはもう負けない・・・」
「ああ、そうだとも!いつでも俺が付いてるぞ!」
「水くさいなぁあ〜みんは!『いつだってお前のそばにいてやるから』なんてね。」
「おう!頑張ろうぜ」
「・・・ふん。」
亜美の言葉に各々が反応する。1人はつまらなそうに鼻を鳴らしただけだが。
「ほら大河!?そんなんじゃ気合い入らないぞ!?」
「そうだぞ逢坂?俺たちの連携がカギを握るんだ。心を一つにしなければ!!」
「・・・っわかったわよ!打倒!!ストーカー野郎!!!」
「「おおおーーーーーー」」
さすがに実乃梨と北村にたしなめられては大河も分が悪い。やけくそ気味に掛け声出すも、答える声は2つ。
「ほら!高須君にあ〜みん!!『心を一つに』だよ?」
「お、おう!」
「なんであたしまで・・・」
「櫛枝の言う通り『心を一つに』だ。よし、掛け声いくぞ!えいえい・・・」
北村が定番のあいさつの掛け声を入れる。亜美が『マジかよ』という顔をしたもののしないとあと後面倒になりそうなので
「「「「「おおおおーーーーー」」」」」
全員の息の合ってるのか合っていないのかの声は雨にかき消された。今日は傘を差しても濡れそうな雨だ。
「高須、ちなみにこれがお前たちに言って欲しいルート、『凸道』だ」
「「凸道?」」
北村の問い疑問を投げつける2人。亜美と竜児は知らないようだ。
「うん、学校帰りの住宅街にそういう道があるんだよ!ブロック塀が凸のような並びで並んでいてね、
なんとなく歩いてるとあら不思議!迷いこんだら抜け出せない、涼しげな瞳の奥に迷いこむんだぜ?」
「いや、瞳ってなんだよ・・・」
「まあストーカーを迷いこますのが目的だからな。お前たちも迷子になってもらうぞ!」
「迷子にさせるのかよ・・・」
笑顔でそう言う北村。ノリノリなのか黒いのか、分からなくなってくる。
「迷子になっても大丈夫なんだろうな?俺たちまで迷子とかシャレにならねえぞ?」
「プチサバイバル気分が味わえるね!」
「味わいたくねえよ!」
「はっはっはっ。心配するな高須!迷ったってすぐにわかるところだ。無論、俺と櫛枝はその辺を把握しているから安心しろ!」
作戦を決めてもらった以上あまり文句を言う訳にもいかない。無謀であったり、
成功の望みが薄い作戦ではないので、北村と実乃梨の作戦を実行することにした。
「雨は嫌だよね・・・濡れるし、歩きにくいし・・・高須君もそう思うよね?」
「おい川嶋・・・」
「なあに?高須君?」
「なんでこんなに密着して歩いてるんだ?」
そして作戦開始。外は出るのをためらわれるほどの雨が降っていたが、作戦がなくても下校するため外に出なければならない。
これはただの下校でなくストーカーを撃退するための作戦だ。少しでも身軽な方がいいのだが傘を差さないわけにもいかない。
そして2人は1本の傘に入っている。いわゆる『相合傘』状態だ。
「なんで傘が1本なんだよ!?おかしいだろこの状況!?」
傘をさしても全く濡れないという訳でない。1人の時でさえ、雨、風が強いと足元であったり濡れてしまう。
それが2人で1本を使うことになったらなおさらだ。なので2人は密着している。しかも心なしか必要以上に。
なので竜児には当たっている、感じている。亜美の柔らかいあんな部分やこんな部分が。当然竜児はこんなことに慣れてはいない。
「あらぁ・・・高須君?亜美ちゃんと密着して興奮中?亜美ちゃん襲われちゃう〜」
「お、襲わねえよ!」
案の定からかわれる。だが平常心を保ててないのは事実。感覚、触角、嗅覚。
五感に訴えかけてくる亜美の魅力。なんだかんだ言っても亜美は可愛い、美人だ。
まともに亜美の方は見れていないが亜美の魅力は十二分に伝わってくる。
「どう・・・?亜美ちゃんの感触?雨に感謝だね」
竜児も離れろとはいえないし離れるのも妙だ。だがこれなら雨に濡れる方がましかもしれない。
「けどお前もいいのかよ?」
「何が?」
「俺とこんなふうに歩いてるとこを撮られていいのか?こんなふうにしたら・・・恋人に見られるかもしれねえし。」
少々どもりながら竜児は亜美に反論、すると
「怒ったストーカーが週刊誌に投稿『あの有名女優の娘の清純派美少女現役女子高生モデル、恋人はヤンキー!?』って見出しが躍るかな?」
「・・・よく笑顔でそんなことが言えるな。そうならなくもねえんじゃねえのか?」
アイドルではないが恋愛沙汰のスキャンダルは是が非でも避けたいところだろう。
外見で釣りあう相手ならともかく、誤解されやすい外見の竜児相手ならなおさら警戒する必要があるはずだ。
「今までそう言うことはしなかったけどね。前にも言ったっけ?オフの日でも1日中付けられてた日もあったって。
プライベートの買い物や前の学校での生活、ナンパされたとこの写真も送られたこともあったな。
けどスキャンダルにしようとすればいくらでもできた。それだけの材料があったはず。けどそういうことは起きなかった。今だって・・・」
そう言う話をする亜美の顔はやはり浮かない。いかに長く悩んでいたかがうかがえる。
「・・・今も付けてるのか?」
「わからない。あたしも探しながら歩いてるんだけど見つけられる日はほとんどないね。写真は毎日のように来るのにな」
竜児が「そうか・・・」と言うかと同時に携帯が鳴る。北村から着信のようだ。
「もしもし。」
「おう高須か?作戦は順調か?」
「まだ順調も何もないだろ」
「はっはっはそうだな。そしてストーカーだがちゃんと・・・と言っては何だが付いてきてるぞ。」
竜児たちからは確認できないもののストーカーはきっちりいるようだ。ほっとしたような不安なようななんとも言えない感情が出てくる。
ちなみに電話越しに「大河隊員、目標はきちんと張っているか?」「当然であります、みのりん軍曹!」
なんて声が聞こえてくるがあえて触れないようにする。
「まぁそういうことだ。作戦は事前に指定した場所で行う。あくまで『自然体で』頼むぞ。亜美にもそう言っておいてくれ。」
「わかった。そっちも頑張れよ。」
「ああ!健闘を祈る!」
そして電話が切れる。北村達の方も準備はできているようだ。
「祐作はなんて?」
「ちゃんと付いてきてるようだ。だから普通に歩いてなるべく油断させてくれってさ」
そう竜児が言うが亜美からの返事はない。竜児が「川嶋?」と聞くのと同時に
「!?お前!」
亜美がさらに密着してくる。ぐっと体を寄せてほとんど抱きついてる状態だ。
「川嶋!自然に!って言っただろ!?」
先ほどまでは近いと言っても歩くと当たるほど。だが今は本当に密着している。まるで恋人のように
当然竜児の顔は火照る。といううか耐えられるかどうかやばい。
「ふふっ、どう亜美ちゃんの体の感覚は?心地いいでしょ?」
「おまっ!!そんなこと言ってる場合じゃ・・・」
「感想言ってくれたらさっきまでの距離に戻してあげてもいいよ?」
亜美がそんなことをささやく。竜児は亜美の顔を見れていないので表情は分からないがやたら色っぽい。
「そうだな・・・なんつうか柔らかいな・・・」
声がふるえながらもそんなことを言う竜児。亜美の返事は
「それは胸のことかなぁ・・・?高須君やらしいなぁ・・・」
「そ、そこだけじゃねえぞ!なんつうか全体的にだな。」
「ぜ、全体的に!?」
突然大きな声を出す亜美、それと同時にパッと体が離れる。そして亜美は何か考えている様子。
「川嶋?何か気に障ることを言ったんなら謝るが・・・」
「ん、ううん!なんでもないよぉ!!けど亜美にちゃんに体当てられてうろたえる高須君なんか可愛かったなあ・・・女の子に密着されるのは初めて?」
「っつ!そうだよ!つかあんなに密着しやがって!?」
「興奮した?」
「違う!北村とかも見てんだぞ!?それにストーカーも・・・」
「見られて困る人でもいるのかな?」
亜美の口調が変わる。からかっているような口調でも、色っぽい口調でもない真剣な声色。
「べ、別にいねえよ。」
「ふうん・・・高須君ってさ・・・気になってる女の子とかいないの?あんまり女の子に慣れてないようだけど」
「こんなツラしてるからな。女子どころか男にも怖がられるわけだし、あんまり女子と話したことはねえんだ。」
「そうなんだ。けど逢坂さんとは仲よさそうに見えるけどなぁ・・・」
「何度も言ってるだろ、逢坂とはそういう関係じゃねえって!まぁ、あいつが他の女子とは違うみたいなのは確かだがな。」
大河は竜児より強く、自分の外見に怯えるどころか逆に喧嘩を吹っ掛けてきた。そんな人間は恐らく初めてだったかもしれない。
竜児は気の優しい小心者だ。相手がビビってしまっていると申し訳なく思い、さらに委縮してしまうのが竜児なのだから。
「そういえば川嶋も俺の外見にビビったりしなかったよな?」
「あら?ビビって欲しかった?」
「違えよ。やっぱり芸能界とかにいると俺みたいなのに慣れるのか?」
「あはっ何それ?そんなんじゃないって!高須君にはオーラっていうのかな?
確かに最初顔を見たときは『ヤンキー?』なんて思ったけど高須君からは怖い人のオーラが出てなかったもん!」
笑い飛ばしながら亜美は言う。
「そんなので分かるものなのか?」
「うん。よーく人の仕草とか見てみれば『その人がどんなものか』ってわかるものだよ?」
亜美が大人びてるように感じてるのはそういう理由もあるのだろう。外見だけでなくないろんな面もよく見ようとしている。
「それに、高須君の内面を見ようとすればするほど楽しいしさ。高須君と話すときはなんか自然なあたしになっちゃうんだよね。」
そう言って苦笑いする亜美。そこに竜児は違和感を覚える。
「ならそうすればいいじゃねえか?確かに仕事の時は仕方ねえオフの時、学校の時くらいは素の川嶋になっていいんじゃねえのか?」
そう言った後亜美はうつむく、そして一呼吸置いた後、話始める。
「あたしってさ・・・可愛いじゃない?」
「なんだよいきなり・・・」
「モデルをやってる可愛い子、そんな子が性格悪かったらどう思う?」
「そんなのわからねえんじゃねえの?性格なんて人それぞれだし・・・」
「普通の子だったらね。けどあたしがやってるのは客商売。確かに写真や映像じゃ性格は分からない。
だからこそいろんな想像をされるの。それでその想像をされて一番まずいことはわかる?」
「えっと・・・」
竜児自体アイドルなどにあまり興味を持たないからわからないかもしれない。そして亜美は言葉を続ける。
「期待、想像が裏切られること。そこで興味持たれなくなるだけならいいんだけどそこで嫌われたら最悪。
今はインターネットとかも流行ってきたでしょ?そこでの評判も無視できないのよ。
だからあたしは『可愛い、いい子』を演じないといけないの。」
「けどプライベートくらいは!?」
「前にさ、あたしが外で出歩いてる時の写真を見たの。どこから撮られた写真か分からないけど
その時は『亜美ちゃん相変わらず可愛い』って思ってたのよ。」
「お、おう。」
竜児は適当な相槌しかできない。
「けどその写真をじっくり見るとさ、亜美ちゃん凄い顔してるの。
なんていうか眉間に凄いしわ寄せてさ、すごく不機嫌っていうか、ぶすっとしてて、ものすごく性格悪い子に見えたんだよね。
『こんな顔をしているのがあたしなの?』ってすごくショックを受けてさ。
『もうこんな顔を世間にさらしたくない』って思って『可愛い子にならなくちゃ!』って思うようになったの。
性格悪くても私は笑顔を!可愛い顔を作らなくちゃいけないの!」
ある意味プロ精神と言えるだろう。プライベート時も気を抜かず、誰に見られてもいいような表情であり続ける。
芸能人とはそういう運命を背負っているのかもしれない。が、竜児はこう思ってしまった。
「辛くねえのか?」
社会に出て活躍しているとはいえ、亜美はまだ高校生。まだ子供だ。
確かに学校では大人びた雰囲気を出しているがその中身は少し意地悪などこにでもいる女子高生なのだから。
「辛いとかは関係ない!あたしはそうじゃなきゃいけないの。それがあたしの道だからさ・・・」
「川嶋・・・」
「さて着いたね。ここかな?祐作の言ってた凸道って。」
目的の場所にたどり着いたため亜美が話を切る。明確な場所は分からないがこの道をぐるっと回ればいいのだろう。
2人は相合傘で変わらずに歩き続ける。
「高須君はさ」
「ん?」
再び亜美が切り出す。
「あたしの性格のことをけっこう言うけどならどうしてあたしに構ってくれるの?
『妙な女』なんて思っているなら構わなければいいのに・・・もしかしてあたしのことが好きだとか?」
真剣な表情から一転、亜美から意地悪な表情が出てくる。
「違えよ。ただ・・・気になるだけだ。」
「気になる?」
「川嶋自身は違うみたいだが俺はお前の隠したがってる素の状態の川嶋の方が好きだな。
そっちの方がそうだな・・・飽きねえっていうか面白いっていうかだな。」
「面白い!?それって亜美ちゃんに言う言葉じゃなくね!?・・・けど面白いねぇ・・・」
「なんだよ。川嶋は表情がよく変わるからって意味だぞ?」
「そうじゃなくてさ、逢坂大河もそうなのかなって。」
「逢坂か・・・確かにそうかもな。あいつもよく表情変わるしな。」
「あの子はさ・・・いいよね。」
「逢坂がか?」
再び亜美は真剣な表情、しかし亜美が大河を羨ましがるとは意外だ。
「あの子はほら他人に一切取りつくろうとはしないじゃない?それでいても受け入れてもらってる。
実乃梨ちゃんに・・・君もだね高須君。」
「櫛枝はともかく俺は違う気もするが・・・」
そして亜美が何か言おうとした瞬間、携帯電話が鳴り響く。
「おっと電話か。もしもし」
「もしもし高須か?」
「おう、どうした北村?こっちは予定通り凸道に入ったぞ!」
「そのことなんだが・・・高須、作戦は失敗だ!」
「はぁ!?おい北村!どういうことだ!」
「まず櫛枝が戦線離脱した!」
「え?」
「バイト先から緊急招集が掛かったらしい。櫛枝隊員は
『これより私は戦略的撤退をする。みんな!私の魂を引き継いでくれ!・・・ほんとマジですいません、この埋め合わせは必ずするので許してください。』
と言い残し去っていった。」
「・・・逢坂はどうした?」
「逢坂は・・・」
北村が言い淀む。まさか何かあったのだろうか?
「2人でも作戦を決行しようとしたんだが逢坂が濡れた地面に足を滑らせてな・・・」
「おう・・・それでどうなった?」
大河はドジだ。北村の口調的に嫌な予感しかしない。
「そのままたまたま開いていた排水溝の水路に落っこちてしまった・・・うわっ!!!!」
「北村!?どうした?」
「ねえ・・・もしかしてまずい感じ・・・?祐作たちに何かあったの?」
すぐ隣にいる亜美にも電話越しからの危機感は伝わってくる。そして聞こえる北村の叫び声。
「すまない高須・・・俺もどぶにはまった挙句眼鏡を落としたようだ・・・ここで戦線を離脱する・・・」
「北村!?おい!北村!!」
竜児の叫び声もむなしく電話が切れる。そして恐る恐る亜美は
「ねぇ・・・祐作・・・なんだって?」
「3人とも・・・リタイアした・・・」
「嘘!?じゃあどうするの!?」
「どうするって・・・おう!?」
「どうしたの高須君?・・・!あいつ!!」
今日は雨だ。なので必然と傘をさす。写真を撮るストーカーは傘に邪魔をされて思うような写真を撮れないはずだ。
亜美の長髪は目立つにしろ、頭部が映らない後ろ姿はさして意味がないだろう。
しかしストーカーは竜児たちの前に現れた。そのかっぱ姿は竜児たちにばっちり見られているはずなのだが、
お構いなしに亜美のほうに携帯電話を向ける。
「なによあいつ・・・なんなのよもう・・・」
「お、落ち着け川嶋!い、一旦逃げよう!な?」
亜美の震えが隣にいる竜児にも伝わってくる。自分などアウトオブ眼中なストーカーには唯一のとりえ?である眼力も通用しない。
竜児も腰は引けてるものの、かろうじて冷静を保つ。北村たちの助太刀も期待できない今、一旦逃げることを提案するが
「逃げるってどこに?亜美ちゃんわざわざこんなところまで逃げてきたんだよ?
けどあいつは追ってくる!もうどこに逃げればいいのよ!!」
「か、川嶋?」
亜美もなかなかまずい状況のようだ。錯乱気味の亜美をどう落ち着かせようか考えてると
「逃げてもだめ、祐作達に頼ってもだめ・・・もう・・・もう・・・どうでもいいや・・・」
「川嶋!?」
竜児の問いかけにも答える余裕はないのか。そう思っていると
「ねえ高須君?高須君は素のままの、ありのままの、自然なあたしでいいって言ってくれたよね?」
「お、おう・・・そうだな。」
亜美の不思議な気迫に押される。ただ頷くことしかできない。
「もうこそこそ逃げ回って、それでも逃げ切れなくてストレスでお菓子とか食いまくっちゃって・・・
けど何も変わらないじゃない!もう!こんな生活はこりごりだっての!!」
「か、川嶋さん・・・?」
亜美の様子が明らかに変わる。目の前にいるのは美少女清純派モデルでも、誰よりも可愛い亜美ちゃんでも、
人のことをからかうわがままお姫様でもない。今の亜美はまるで
「そういえばタイガーはあのストーカーのこと追いかけまわしてたねぇ・・・あたしもそうすれば強くなれるのかなあ・・・」
手乗りタイガー。逢坂大河のようなオーラをまとっていた。
「高須君、もうあたし我慢するのやめるね・・・もう疲れちゃった・・・だからね・・・
この性根の悪いツラのあたしで生きてやるよ!!」
「ちょ・・・川嶋!!」
そう叫んだ瞬間、亜美は竜児の元を離れストーカーに全力疾走で向かっていく。
「うおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」
「え?亜美ちゃん!?ええええっっ!!!!」
雨もお構いなしの突進。ストーカーも驚き回れ右。追う側と追われる側が完全に入れ替わる。
「待てやああぁぁぁぁおらあああああ!!!!!!!
「わあああああああ!!!!」
「おい川嶋!くそ!」
ストーカーを追う亜美はどんどん竜児の所から離れていく。
竜児も必死に追いかけるものの傘が邪魔して上手く走れない。
「くそ!こんなもん!」
傘を捨て竜児も全力疾走で亜美を追う。どこへ行ったかは声で分かっていた。
竜児が追いついたころ、決着はほとんどついていた。腰を抜かし座り込むストーカーに
カメラをアスファルトに叩きつける女子高生。その近くには真っ二つに割れた携帯が転がっていた。
「ねえ、これで全部だよね?まだ隠してたらお前ごとぶっ壊してやろうか!?」
「ひいぃぃ!もうないよぉ・・・もう全部出したから許して下さいい!」
「もうあたしのそばに近づかないって誓える?」
「誓うも何ももうこりごりだよぉ・・・あんたは俺の亜美ちゃんじゃない!
俺の亜美ちゃんはもっと大人しい子で、鬼の形相で迫ってきたりこんなヤンキーと付き合わないよぉ・・・」
(こんなヤンキーって・・・)
まぁこのことに関しては今更なのだが
「あんたなんか亜美ちゃんじゃない!」
ストーカーも涙目で叫ぶが
「何言ってるの?こんなに可愛い亜美ちゃんはここにしかいないよ?
性格悪くても、ヤンキーと付き合ってても亜美ちゃんはこんなに可愛いんだもん?」
この際口を挟むのはやめることにした。だが確かにこの時の亜美の笑顔はとびきり輝いてた。
「ほら!着いたぞ川嶋このマンションがおまえんちなんだろ?」
「高須君・・・ぐすっ・・・まだ・・・」
「うーん・・・なら一回俺んちくるか?」
そう聞くと亜美は小さく首を縦に振る。今の亜美はまともに口を聞けない。
ストーカーを蹴散らした後、傘も失ったので家路へと向かった2人。竜児は濡れないように走ろうとしたのだが、
亜美の足取りは重かった。声を掛けると亜美は泣き崩れたのだ。勇敢に立ち向かったように見えたが、
やはりストーカーは怖かったようで1人ではまともに歩くことも出来ず竜児が亜美を抱きかかえながら連れ帰ったのだ。
迷い道も1本道を出ると竜児も十分知ってる道だったので迷わず帰ってこれた。
亜美のマンションに連れていこうとしたが亜美はまだ1人にできる状態でもない。
(昼過ぎなら泰子もいるだろう)という考えで高須家に亜美を連れていくことにしたのだった。
C
「泰子ー?帰ったぞ?っていないのか?」
「お邪魔しま〜す・・・」
亜美を連れて自宅に着いたものの明かりが付いていない。天気が悪いとはいえまだ夕方にもなっていないが、
隣もマンションのせいで暗いこのアパートは昼からも明かりを付けるのが常だ。
「ほら川嶋、着いたぞ。この辺にでも座ってくれ。」
「高須くぅん・・・ゆっくりね・・・」
竜児にしがみつくように歩いてた亜美は竜児から手を話すのも手も言うことを聞かず、一苦労のようだ。
亜美を何とか座らせたが亜美はまだ涙目で嗚咽も止まってない。そして竜児も落ち着かない。
泣いてる女の子を落ち着かせるためといえ連れ込み、何をすればいいのかわからない。
とりあえず濡れた体をふくためタオルを亜美に渡し、
「飲み物でも飲むか?」
「うん、おねがい・・・」
こういうときには何か口につけた方がいい。こういう時に落ち着くものは
「ほら牛乳だ。それとも他のが良かったか?」
「ううん、これで大丈夫、ありがと・・・甘いね、これ。」
「おう、蜂蜜入れてるからな!もっと入れるか?」
「うん・・・高須君こういうのよく飲むの?」
「いや俺じゃねえよ。逢坂がこういうの好きみたいでさ。」
「逢坂、さんねえ・・・ほんと不思議な関係だよね。」
「不思議?まぁ確かに前にも言ったが説明しにくい関係ではあるな。けど付き合ったりとかはねえからな!」
「わかってるよ。もうそのことは言わないよ・・・あ〜あ、けどガタブルだったのばれちゃったね。なんかかっこ悪いな。」
「恰好悪くなんかねえよ。俺なんかお前が震えてる時も駆け出した時も何もできなかったんだ。
恰好悪いのは俺の方だな。こんな時くらいこの目つきも役に立てくれてもいいのにな。」
「あはっ自分で言っちゃう?でもそんな高須君だから頑張れたのかも。」
そう言って亜美は竜児の顔を覗き込む。
「お、おい・・・川嶋・・・」
照れる竜児に亜美は
「確かに目つきは鋭いけど瞳や目元は優しい目をしてる。あたしみたいな人を見下すような眼はしてないよ。」
そう言われたので竜児も照れながら至近距離で亜美の目を覗き込む。
確かに今の亜美の眼はチワワのような可愛らしい目ではない。何か暗い影を感じる。
けどそれでも『綺麗だ』と思えるのは美人たるゆえんか。
そしていったん亜美も竜児と距離をあける。
「逢坂さんも高須君と関わるようになってから変わったよね?前より楽しそうだしさ。」
「そうか?俺は前の逢坂をあまり知らねえからよくわからねえが・・・」
「なんか高須君といると安心するんだよね?こんなあたしでも受け止めてくれたでしょ?」
「俺だけじゃないだろ。北村だってお前の性格を知っててもストーカーって聞いた時には真っ先に駆けつけてくれたじゃねえか。」
「そうだね。けど祐作はだめだよ。もう夢中になってる人がいるからさ。」
「えっ・・・」
それは誰だ?という言葉が口に出そうになった。大河の恋心を知ってるからなおさらだ。それは自分の知ってる人なのだろうか。
「それに祐作は昔からの付き合いであたしのことをいろいろ知ってる。『モデルの可愛い子』
って前提がないからあたしの性格が悪くてもただの性格の悪い子。
けどこれからあたしを知る人は『モデルの可愛い亜美ちゃん』って前提があるでしょ?
今日のストーカーもそう。亜美ちゃんが可愛いから好きになってくれたけどあたしの本性知ったらあの通り。
みんなあたしの本性知ったら離れていっちゃう。」
「そんなことはねえんじゃねえの。限度はあるが、怯えずに自分を出していった方がお前も楽になれるだろうし。」
「・・・そうだね。あたしもうん!見てくれる人が1人でもいるって心強いことだしね!」
それと同時にアパートの階段を上がる音が聞こえる。そのあと
「高須〜いるのか〜!?」
「ばかち〜?いるの〜!?」
外から声が聞こえる。途中まで共に作戦を実行していて、雨の中どぶにはまった2人だ。
「2人が来たか。ありがとね高須君!これは亜美ちゃんからのお礼。」
「!」
竜児は返事をすることができなかった。なぜなら口を塞がれたからだ。亜美の唇によって。
「・・・・・・」
「ふふっ、シャワー浴びたいから帰るね。じゃあね!高須君!」
竜児は動けない。まるで時がとまったように。残っているのは唇に残る。暖かいような、柔らかいような感覚。
「あ、ばかちーだ。ここにいたんだ。」
「おお亜美!無事で何よりだ。高須もいるのか?」
「うわっ!2人とも汚!あと逢坂さん?『ばかちー』ってあたしのこと?」
「うん!」
「意味わかんねえあだ名つけんな!」
「はっはっは!亜美もすっかり元気になったみたいだな。と言うことは解決したのか?」
「うん。高須君のおかげでね!」
「ふうん、あいつもたまには役に立つのね。」
「さすが高須だな!俺の見込んだ男なだけはある。」
「じゃあ亜美ちゃんシャワー浴びたいから帰るね。」
「そうね。私もドロドロ・・・あんたたちの無事も確認したし私も帰るわ」
「俺もシャワーを浴びたいが家までは遠いな・・・亜美、シャワーを使わしてくれないか?」
「絶対嫌!」
「昔は一緒に・・・」
「入ってねえよ!勝手に記憶作るな!」
「き、北村君・・・わ・・・こいつの家でシャワー借りたらどう?」
「それは名案だな。高須ー?」
「ああ祐作、今は高須君のお母さんが入ってるみたいだよ?」
「なんと!泰子さんが入ってるなら仕方ないな。家まで帰るとするか、雨もやんだようだし。」
「大丈夫北村君?そんなずぶ濡れで?」
「大丈夫でしょ?祐作は無駄に鍛えてるし。」
「ああ、心配してくれてありがとな。大丈夫!亜美の言う通り俺は丈夫だからな!ソフト部部員たるものこれくらいで体調を壊すわけにいくまい!」
(しばらく余韻に浸らせてあげるね、高須君!)
ドアの外で交わされたこのような会話も竜児の耳には一切入らない。
「以上、ばかちーの妄想でした。」
「妄想じゃねーし!・・・もしかしてぇ高須君を取られてタイガー嫉妬中?」
「ふん、この作品じゃこいつは・・・私の犬ね・・・まあ見てなさい!次は私のターンよ!」
「次は・・・ああ、プールの話かぁ!タイガーの可愛いらしい水着姿が見れるのね!」
「あんたのぶよぶよな腹もね。」
「ぶよぶよじゃ・・・ねえよ・・・ないよね?」
「それではまた次回」
「これ予告だったの!?」
「ああ予告ね予告。次回「とちドラ」『ばかちーダイエット作戦!』」
「えっ!?マジで?前回の予告みたいにフィクションよね?だって亜美ちゃん太ってないし。」
「それではまた次回お会いしましょう!」
「嘘よねぇ!?ねえ!?」
以上です。途中支援ありがとうございました。
さて次回からは原作と大きく変わり始めます。
まだまだ長い付き合いにあると思うので是非お付き合いくださいませ
ではまた次回お会いしましょうノシ
gjです!
亜美ちゃんまじかわEEEEEすぎます!
GJ,オリジナル部分が増えてくると大変かと思いますががんばってください
楽しみにさせていただいています。応援してます!
>>598 あるに決まってんだろ早く書けやゴラァ! いや書いてくださいおながいします (´・ω・`)
保守
おもしろかったです。GJ
保守
629 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/27(日) 11:42:44.61 ID:ArmrUJxk
ちい、なぜ保管庫は動かない...
そういやそろそろ次スレか
上限近いね
SSあげる方はご注意を
上限は何KBだっけ?
あ、480KBが近づいたらって
>>1にあったすんまそん
500KBで打ち止め
保守
こんばんは。以下SS投下させて頂きます。
題名 : 生きてる生きてく
方向性 :ちわドラ。
主な登場キャラ:麻耶、奈々子、竜児、亜美、大河、実乃梨、北村
作中の時期:文化祭前くらい
長さ :6レスくらい
ガラリと教室の引き戸が開く音がして、昼休みを無駄にしたくないと体力系2−c男子が廊下に飛び出していく
教室に残るは昼休みは知的遊戯に使うべきとインドア系男子、及び昼食をスローフードよろしくまったりもったり過ごす女子たち、
キャッキャ、ウフフと音が鳴る。
その中の一角、クラス女子ルックススリートップ(逢坂大河はルックス以前に特殊スキル:手乗りタイガー伝説で暴力に怯える男子たちの中で世紀末覇者枠)
亜美、香椎、木原が囲む机があった。
「ねぇ、亜美ちゃん。この曲聞いてみて」
木原麻耶がipodを差し出しながら言った。
「へ〜、おもしろいね。なんかあたしが聞かないような感じの曲」
「でもでもいい曲でしょ」
「うん。明るい曲。なんか歌詞もおもしろいかんじ。誰の曲?」
「福山雅治」
「あれ? 麻耶ちゃんってその人のファンだっけ?。最近話してたの能登君とかが好きそうな音楽ばっかりじゃなかった?」
「!!、の、能登は関係ないって、だいたいだい…、えーと、あ、あれはさ……、そう!、能登の奴が無理やり貸すから…、
あいつがいけないの。そりゃ、一回くらい聞いたりはしたけど……」
木原麻耶は慌てて否定し、困りだし、言い訳を続ける。
「昔から特別好きなアーティストとかいないし、お父さんにやっと買ってもらったipodだから使わないともったいないし
しょうがないから、いいなって奴だけダウンロードしたりしてただけで…、以外と音楽に関してはあいつ趣味いいし、
て、違うの!、だって、だってこの曲はちがうんだもん。能登と好みおんなじとかじゃないもん」
そこでにこやかに話を聞いていた香椎奈々子が、しょうがないなあと助け舟を出すように話に入ってきた
「そうね。この曲もたまたま見てたテレビで聞いて、気に入って買ったんだよね。麻耶ちゃん」
「へー、そうなんだ。何見てたの?」
亜美が聞くのをさえぎるように麻耶が
「し、奈々子」
と呼びかけるが、優しいそうな笑みを浮かべながら奈々子は話を続ける。
「ドラえもん見てたんだよね。麻耶ちゃん」
「なな〜こ〜」
木原麻耶は地方都市、その上、進学高校の大橋高校でクラスで一早く髪にカラーを入れたり、
話題の小物をいつも気にしたり、スカートの短さの限界に挑戦していたりと、
亜美の目から見ても流行をつかむ努力をしている女の子に見えている。故に、あれっと思い、聞き返す。
「…ドラえもん?」
奈々子が返答する前に、いや、させじと麻耶が早口でしゃべりだす。
「あれはね! たまたまチャンネルがあってて、夕飯の時、うちテレビつけぱなしでしょ! だから、だから〜」
「でも麻耶ちゃんが一番感動した映画って今でも、のび太と恐竜 じゃなかったっけ?」
「そ、そうだけど、でも」
「北村くん、高須くんと同じで世話役の好きだから、そういう風に子供ぽく攻めるのも手だとおもうけどな」
「こ、こどもぽい…」
絶句する麻耶(今年の目標は大人のかっこいい女になってまるおに褒められる事)の後に続くように亜美が
「子供?、こどもかぁ」
と嘆息するようにつぶやくのを聞いて麻耶は涙目となり
「う、ううう」
明確にしゃべれなくなる。香椎奈々子は聖母のように優しい笑みを浮かべていた。
そんな木原麻耶のいつも昼食が終了し、その日の放課後、亜美はアンケート集計役と化していた。
case1:北村祐作
「ねぇ、祐作。あたしって、どちらかというと大人?、子供?」
「なんだ、藪から棒に?」
「ちょっとね。で、どっちよ」
「そりゃ大人の方だろ、そもそもお前は子供のころからませてたしな。妙に子供ぽくない子供だったな、はっはっはあ」
「まあ、そうだよね」
case2:櫛枝実乃梨
「えーとさ、実乃梨ちゃん、あたしって大人ぽい?、子供ぽい?」
問いかけられた実乃梨はきょとんとした。ゆっくりと首を傾げ…
突然、くわっと目を見開き、口を開き、雷に打たれたような表情をした後、
今度はすわ人間コンピュータというように考え出す。
「カチカチカチ」
「み、みのりちゃん?」
実乃梨は左腕を腰に、スィと右腕は伸ばし、腕が綺麗に伸びきった後ついで、すっと亜美を指さす
「大人じゃ〜ん」
「み、みのりちゃん?」
実乃梨は期待がこもった眼で、ちら、ちらっと亜美を見つめ、再度、
「大人じゃ〜ん」
亜美は迫力に負け力なく拍手をしてみた
パチパチパチ
case3:逢坂大河
「ちびトラ、あたしって、あんたから見て大人にみえる?、子供にみえる?」
「ばかちーはババァ!」
「ころす!」
以下、チワ喧嘩
以下、略
case4:高須竜児
亜美はいつものように、かなりの距離から竜児を視認すると
ニギニギと両てのひらを握って開いて、撮影前と同じように大きく深呼吸
歩幅に注意しながら近づいて
「高須くん?、なんか落し物?」
「いいや、そんなことねぇが」
「そう?、廊下睨みつけるように見てたから、てっ〜きり♪」
ニコニコ顔の亜美と三白眼の竜児
「いつもの目つきだろ」
「あは♪、そうだよね。高須くん、いつも目つき悪いもんね」
「川嶋は、いつも性格悪いよな」
ははは↓、うふふ♪、と普段のあいさつをする二人
「それで、なんかようか?」
「ううん、べつにないけど、高須くんからかってあげただけ」
亜美はなんとなしに会話は引き伸ばしたくなって、質問を後回しにした。
「だったら、俺は行くぞ。忙しいんだ。今晩の大河のオーダーがわけわからん」
「またタイガーのお世話焼き?」
亜美は不思議とムスッとする自分になっていることに気づき慌てて表情を作る。
「……って料理をどこかで見たらしく、食いたんだと。レシピ調べなきゃなんなくてな
川嶋、知って…る訳ねぇーよな。だから、これから図書館いかないとなんねぇ」
それなら調べるの一緒に手伝ってあげようか!
と言いそうになって、慌てて口を噤む。今日はこれから仕事があるのだ。
あと、長くても20分くらいで学校を出ないといけない。
最初に質問するのを高須竜児にすればよかった。失敗した。
「どうした?」
「なんでもないけど」
少し悔しさがあって亜美は平静を装う。
「おう、そういう訳だから、じゃあな」
「てっ!、ちょっと待って」
「用ないんだろ?」
「あ、ある。……一個。一個聞きたいことがあって」
「また、からかう気じゃねぇだろうな」
「そうじゃなくて、あ、あのさ」
「?」
「えーと、あ!、あたしって大人?、子供?」
竜児はなにか引っ掛けかとも思ったが、簡単な質問では在ったことでとりあえず答えることにした。
まあ、基本、嘘つき亜美だが愉快犯がせいぜいで、悪意ある嘘はあまり聞いたことがない。
しょせんは子供の悪戯、つまり、
「こどもだろ」
「なんで!?」
「なんでって、そのままだ」
「て、スーパーの時とかもそうだけど、意味わかんない」
竜児は、亜美はもしかして頭が悪いのではないだろうかと、小学生の授業のように説明することにした
「いいか、第一に、大人はいつでも悪戯しようとなんかしねぇえ。
俺を見たらすぐに悪ふざけしやがって。人の身にもなってみろ」
「それは…、でもさ」
「そうなんだよ。あとな大人ってのはもっと落ち着いているもんなんだ。お前はいつも浮ついてるというか」
「あたしが?、このクールビューティの亜美ちゃんが?、嘘? 浮ついてる?」
「そうじゃねえか。言い換えるとだな、何っていうか、テンション高いというか…
??、なんだ、確かに違和感があるが、
いや、確かにスーパーの時だってそうだったぞ。お前はニコニコしてたと思ったら、ムッとしたり、急に真面目な顔したり。
ああ、そうだ。俺の部屋の時だってそうだったし、洞窟だってそうだ。ぜんぜん落ち着きってもんが無ぇえ」
竜児は亜美に口で言い勝ったと思い、負けん気がある亜美が悔しそうな顔をしているだろうと
視線を戻すと
「ふ〜ん、そっか。高須くんはやっぱりそう思うんだ」
なんだか嬉しそうに見えた。
「高須くんって、かなり世話焼きだよね」
「ん?、能登とか春田にはよく言われるが」
「よし。なんか今日はすごくいい仕事出来そう。じゃあね、高須くん」
そう言って、上機嫌で去る亜美を見送り、意味がわからん。やっぱり川嶋って子供みたいに情緒が不安定だよなあ
感慨に耽る竜児であった。
その日の晩、竜児は台所で悪戦苦闘していた。いくら高校生にして主夫生活十数年の彼でも
初めて作る料理はすんなり作れるものではない。いつも午後6:30には取る夕食が遅れていた。
けれど、大河は竜児万能の信頼をもっているし、なんでも作ってくれるとも思ってる。味に対する期待もたっぷり。
それが、遅くなった夕食に腹を立たせる原因にもなっていて、居間から響く逢坂大河作詞作曲の腹減ったの歌Ver今日
(明日になると歌詞も曲も変わる一期一会の楽曲)がボリュームを増し響いていた。
「プレッシャーなんだよなあ」
それが7:00を超えると歌声が止まった。
飢えた虎はテレビに映る青狸の物語に心を奪われている。
しめた時間がかせげた。藤子不二雄先生は偉大だ。プレッシャーから解放され手を早くした竜児は仕上げに入る。
料理の完成というゴールまでもう少しとなればテンションもあがる。
テレビから流れる歌を鼻歌混じりにつぶやいてみた。完成まであと少し。
「「あれこの歌、そういえば昼間似たような話、川嶋としたよな。なんだっけか」」 もしかしたらもう少し
曲はただテレビから流れている。
♪ 不思議なものだ 子供のころは 大人になんてなれないのに 大人になれば
ときめくだけでいつでも子供になれる ♪
彼が彼女の気持ちに気づくまであともう少し
END
以上で終わりです。
この後、いろんな作者様が作られるチワドラの世界につながればいいなっと
読んで下さった方、ありがとうございました。5レスしかいりませんでした。ごめんなさい
>641 乙
キャラ同士のからみ合いがとても上手く書かれてるなあ。
脳内アニメで再生できた。GJ
ベリーグッド
ちょおGJ!
ネタがそこかしこにあってどこから突っ込めば良いやらwww
生き生きしていてすんばらしーです!
>>637にて誤字
×世話役の
○世話焼くの
保守
保守
アニキャラ個別のあーみんスレが落ちた〜・・・・orz
まあ、誰も書かねえんだもん仕方がない
落ちたものは仕方ないから、こっちに駄SS書き込むか
とらドラよりもゴールデンタイムを……
ゴールデンタイムもいいけどエバーグリーンも……
エバーグリーンもいいけど、とらドラも……
tesu
こんばんは。容量間際ですが「とちドラ」8回目の投下です。これまでの話はこのスレを読み返していただければ・・・
次スレからはどうしましょうか、投下します。
(『ありがとね高須君!これは亜美ちゃんからのお礼。』)
「ねえあんた、さっきからぼーっとしてるけど手進んでるの?」」
約束通り大河が高須家にやってきた土曜の夜、竜児は晩御飯の用意をしているのだが・・・
「ちょっとあんた!聞いてんの?」
「あれあれ〜?どうしたの大河ちゃん?」
「あっ、やっちゃん。さっきからこいつなんも反応しないのよ。」
「カ、カラ!カラぺコ!ペコペコ!」
「ああっ!竜ちゃ〜ん!インコちゃんもお腹すかせてるよ?」
何気に初登場の高須家のペット、もとい家族であるインコちゃんの餌箱も空。泰子の呼びかけに竜児は
「あ、ああ・・・入れておいてくれないか逢坂?」
「はあ?自分でやりなさいよ?あんたのペットでしょ?」
「そ、そうだな。」
料理の作業を止め餌を取りにいこうとするが・・・
「竜ちゃん!ひ!ひ!」
「ひ?」
「火を点けっぱなしなのよ!あんたほんとに大丈夫?」
「おう!?す、すまん!」
慌てて火を消す竜児。大河の言う通り今の竜児は『心ここにあらず』と言ったところだ。
「う〜ん・・・熱はあるようなないような・・・風邪ってわけじゃないのかなあ・・・?」
「おう!って泰子!?」
竜児の額に手を当てる泰子。いきなりのことなので少し驚いたようだ。
「あれくらいの雨で風邪をひくなんて軟弱な奴ね!北村君を見習いなさいよ!」
「風邪じゃねえよ・・・別に体調も悪くねえ・・・」
「じゃあなんだってのよ?ブサ鳥もお腹すかしてるんだし早くしなさいよね?」
「竜ちゃ〜ん・・・無理はしなくていいよ?晩御飯もなんとかなるからさぁ〜」
せかす大河とは裏腹に泰子は竜児を案じるが・・・
「大丈夫だ・・・飯は作るからインコちゃんを頼む!」
「仕方ないわね。今日だけよ?」
「本当に大丈夫なの・・・?やっちゃん心配だよ〜・・・」
大河も気を使うほどの竜児の状態。原因はもちろん先ほどの出来事だ。
ついさっき終わった亜美のストーカー騒動。その後憔悴しきった亜美を自宅で介抱したのちにキスをした。
された。と言った方が正しい形だったが、これが竜児のファーストキスだ。しかも清純派美少女現役腹黒女子高生モデルにだ。
今の竜児に想い人はいない。進級するまでは実乃梨に憧れていたが。
今では会話する機会も出来、あいかわらず実乃梨は輝いて見えるが、『表面だけでは見えないものもある』
と言うことを亜美や大河から教わったせいかあれだけ焦がれていた恋心がなぜか冷めてしまった。
そして今の現状。竜児はなぜか亜美にキスされた。繰り返すが超美少女の亜美にだ。
目を引く容姿なので他クラス、他学年の男子生徒からもアプローチを掛けられているのも見たことはある。
だが亜美はすべて断っているようだ。どんなイケメンからもどんなモテてるやつからもだ。
竜児を除いて親しげに話している男子生徒は北村のみ、そんな子からのキスだ。
だが亜美の男性関係はそんなに知らない。モデルをやっているのだ。そっちの方面に恋人などいるのかもしれない。
それにあれだけモテる亜美だ、まさか『自分とがファーストキスではあるまい』などと竜児は思案している。
亜美が『余韻をあげる』と気を使って竜児を1人にしたように、竜児は泰子が買い物から戻るまで、大河が晩御飯を食べにくるまで、
ずっとそんな風に呆けていたのだ。もっとも2人がいても呆けているが・・・
なので得意な家事も手に付かない。他のことに気が回らない。何が起こったかもまだ把握しきれてない。
そしていつもより時間をかけて作った晩御飯、今日は泰子も休みなので時間に追われることはなかったが、いつもよりすごく時間が掛かった。
ちなみに今晩はハンバーグだ。特に理由はないが来客である大河が肉系を所望したのでこれになった。
「「いただきま〜す」」
「おう・・・すまんな遅くなって・・・」
「全くよ・・・んぐんぐ・・・待ちくたびれて腹が鳴ったわよ。」
「竜ちゃんも調子が悪い日もあるよねぇ?う〜ん!ん・・・?」
「どうした泰子?」
いつもの泰子ならここで『やっぱり竜ちゃんの料理はおいしいねぇ』などと竜児を褒めるはずだ。
しかし泰子の口が止まる。箸が止まる。最初はがっついていた大河の箸も止まる。
「なんか変ね・・・今日のあんたの料理・・・」
「変・・・だと?」
「なんかねぇ・・・やっちゃん上手く言えないんだけど・・・へにょへにょなの。」
「へにょへにょ!?」
思わぬ感想に声をあげる竜児。手際は遅かったが味見はしたはずなのに!
「やっちゃんの言う通りね。『へにょへにょ』って言うのは的を得てるわね!」
「なっ・・!!そんなことは!」
2人のよくわからない感想に納得がいかず、慌てて自分も自作の料理を口にする。そして感想は・・・
「・・・へにょへにょだな・・・」
改めて食べるとこの感想しかない。他のおかずも満足のいく味になっていない。
「お、俺としたことが・・・」
「竜ちゃ〜ん、ほんとに体調大丈夫ぅ・・・?」
「こんなに落ち込む元気があるなら大丈夫でしょ?それよりどうしようかしらこれ?」
「作り直すか?」
「ええっ〜〜もったいないよぉ!」
「だよな・・・」
『もったいない』という言葉に作り直すという選択を捨てる竜児。どうしたもんかと考えていると
「そうなのよねぇ・・・捨てるほど『まずい』って味じゃないのも困りものよね。」
「そうだよ竜ちゃん!まずくて食べられないわけじゃないんだよ?
ただ〜・・・『いつもの竜ちゃんの料理』に比べると味は劣るけど・・・」
「そ、そうか・・・ならどうするんだ?」
「そのためにこれがあるんじゃない。」
「なっ!それは!!頼む逢坂!それだけはやめてくれ!!」
大河が手にしたものそれは・・・
「ソース、ドバドバぁ〜〜〜」
「あああああ!やめてくれぇ!!!」
調味料のソース、自慢の手料理を穢され取り乱す竜児。更には
「マヨちゃんにょろにょろ〜〜〜」
「泰子ぉ!お前もかあ!!」
更に泰子までもマヨネーズをかける。大量に。
「うん!こうすれば結構おいしいわ!やっちゃん!わたしにもマヨ頂戴?」
「は〜い!大河ちゃんにも・・・にょろにょろ〜〜!!竜ちゃんもいる〜?」
「いや・・・遠慮しとく・・・」
「何落ち込んでるのよ?結構おいしいわよ?この味付け。」
「・・・」
料理を作らない大河にはわからないだろうこの気持ち。料理に絶対の自信を持っているはずなのに調味料をあれだけ使われる、
ということはその味付けをを否定されたも同然。そんな敗北感を感じながら味のない晩御飯を食べた竜児であった。
「う〜んなんだかんだ満足だったわ!ごちそうさま!」
そんな食事でも大河は満足したようだ。泰子も満足げな様子、たまの休みを満喫してるようだ。
まぁ相変わらずへこんでいる竜児はいつもの行為か、あるいは気を紛らわせるためか食後のお茶を用意している。
「元気出してよ、竜ちゃ〜ん?たまに失敗する日もあるよ〜やっちゃんもよくお店で失敗するし〜」
「あんたは料理の前からしょぼくれてたけどね!ばかちーとなんかあったの?」
今から話しかける2人。大河が亜美の名?を言った瞬間
「熱っ!!」
お茶をこぼし、竜児は手に引っ掛ける。
「竜ちゃん!?大丈夫!?」
「ねえ・・・ほんとにおかしいわよあんた・・・」
泰子は慌てて心配、大河はため息をつきながらそう発する。確かに竜児がここまでドジなミスを続けるのは考えにくい。
「ああ、大丈夫だ。少し手にかかっただけだからさ・・・今入れ直すから待っててくれ」
水で手を流しながら2人にそう話しかける。あのことは考えないようにしているつもりだがやはり上手くいってくれない。
どうしても頭に引っかかって、残ってしまうのだ。
もう一度お茶を入れに行く竜児を黙って見つめる大河、
そしてようやくお茶を入れて今に戻ると
「へぇ〜そんな子がいるんだぁ〜」
「そうそう、いっつもぶりぶりしてて、化粧くさくて気に食わない奴よ」
何やら楽しげに話している様子。楽しげにと言うよりは大河が愚痴をこぼしているようだったが
「お待たせ、何だ?川嶋の話か?」
「そうそう、『ばかちーちゃん』だっけ?そんな子がいるってこと竜ちゃんおしえてくれないんだもん」
「言っとくがそんな呼び方してるの逢坂だけだからな」
「ふん、私が流行らすわ!」
胸を張って言う大河。だが亜美相手にそんな口がきけるのも大河くらいなので流行ることはないだろう。
「う〜ん、やっぱり大河ちゃんがいるとふういきが明るくなるよね〜!」
「そうね、こいつがいると暗くなるだろうしね!」
「カリ・・・アカリ・・・カ、カリ・・・ユーカリ!!」
好き放題に言う2人。そんな2人に触発されてかインコちゃんがコアラになろうとしているようだ。
確かに今日の竜児は暗いと言われても仕方ないのだが
「泰子、『ふんいき』な、それと逢坂、少しは他人の家にいるという自覚を持てよ。」
言われ放題の竜児がそう反論するが
「ええっ〜そんなことないよ?大河ちゃんはぁ〜もう立派に我が家の一員なのです。だからぁこれから毎日来てもいいからねぇ〜」
大河が来ると泰子は毎回のようにこう言う。大河はこう言われた後は毎回『そうねぇ〜悪くないかもしれないわ!』と、
いわゆる保留のようなあいまいな返事をし続けてきた。『今回もそう言う答えを出すのだろう』そう思ってお茶をすすっていた竜児だが
「そうねぇ〜うん、これから毎晩来ようかしら!」
『ぶほつ』笑顔で言った大河の言葉に竜児はお茶を吹きだす。
「汚・・・あんた本当に変よ?異常なまでの潔癖症のあんたがさっきから部屋を汚しまくるなんて」
「竜ちゃぁん・・・明日は学校お休みだし早めに寝た方がいいよぉ・・・1晩ぐっっっすり寝ればよくなると思うよ?」
今日何度目だろう。確かに今日の竜児はおかしいが・・・さすがに今の件に関しては竜児にも言い分がある。
「だから体調が悪いわけじゃねえ!つか逢坂!毎日来るつもりかよ!?」
「何か問題でも?」
「そうだよ竜ちゃん!大河ちゃんはぁ〜もう」
確かにこの家の家主と稼ぎ主は泰子だ。泰子がいいと言えばいいのだろうが
「家族なんだろ?けど・・・いいのか?」
高須家の晩御飯は6時半と決まっている。それは泰子が夜の仕事に着いているからだ。
7時ごろには家を出なければならないので竜児の食事途中に家を出るのも珍しくない。
つまりそこからは2人きりになるわけだが・・・
「?何よ。」
食後のお茶をすすりながらせんべいを食べる女子高生を見つめる。
ふわふわのワンピースを着てはいるものの、ちゃぶだいに頬杖をつきながら自分の家のようにくつろいでいる。
「まぁ大丈夫か。」
「何よあんた、何か失礼なことを考えてない?まぁ・・・
私はあんたの家事能力だけは買ってるのよ?毎晩おいしい食事を用意しなさいね?」
「・・・お前なぁ・・・」
遠慮とかはないのか。そう言い掛ける竜児だが大河にそんなことを求めるのはお門違いだろう。
息子にそんな暴言を吐かれているのに当の母親は
「ぜんぜん、遠慮せずにうちでくつろいでくれていいんだからね〜。なんなら朝御飯も来ちゃう!?」
「うん!それもいいかもね!朝食用意する手間も省けるし!ありがとね、やっちゃん!」
「いいよ、いいよ〜大河ちゃんはかわいいからぜ〜んぜん歓迎だよ〜」
(飯作ったりするのは俺なんだがな・・・)
そんなことを思っていても言えないのが男の悲しさか。先ほどまでの悩みは今は忘れることができているが。
翌日は日曜だったものの、予告通り大河は朝食を食べに来た。その後帰宅し再び夕食時にやってきて夕食を共にした。
傍若無人ぶりは相変わらずだったが妙に生き生きしていたのは事実だった。
そして食後、泰子も既に出勤し2人きりの空間、皿洗いなどの家事を終えた竜児が居間に戻ると、
「ああ終わったの、お疲れ。」
「・・・ああ。」
相も変わらず振り振りの可愛らしいワンピース姿の大河。普通にしていればさぞ可愛いだろうが
「・・・」
今の大河は座布団を布団代わりに寝転がりながらファッション誌?を読んでいる。
ロングスカートのためだらしないところは見えないようにはなっているが、見ていて気分のいいものではない。
「なあ逢坂、」
「?なによ。」
そんな大河に声を掛ける。竜児が聞きたいことは
「どうしてうちに来る気になったんだよ?」
「なに?まだ迷惑だって言うの?」
確かに竜児は大河が家に来るのをあまり歓迎してない様子。昨日だって竜児は賛成を口にしていない。
だが竜児の真意は違った。
「違えよ、今までは泰子に誘われても『どうしようかな』とか『そのうちね』とかはぐらかしてくせに、
急にうちに来るようになるなんてどういう風の吹きまわしだよ?」
今までは来ても週に1度とか本当にたまにだった。
ふとしたきっかけで高須家に来るようになった大河。泰子にもすぐ気にいられ、『毎日来なよ〜』と催促はされていた。
だけど大河は毎に来ることに一度も首を縦に振らなかった。理由は分からないが家事能力がないにもかかわらず竜児に頼ろうとはしなかった。
もっとも頼ろうと思うほど信頼してないからかもしれないが。
「そうねぇ・・・しいて言うならなんとなくね。」
「なんとなく?」
「そう!そろそろあんたの家に世話になってもいいかと思ったのよ。それに楽だし!」
「そりゃ飯とか用意するの俺だしな・・・」
竜児若干間嫌味っぽく言うが、大河の反応は違った。
「別に楽なのは料理だけじゃないわ?」
「料理だけじゃない?」
家事以外のことで大河が楽になることなどあるのだろうか。意外な言葉に次の言葉が出ない竜児。
「・・・あ〜あ〜、やっちゃんいないと退屈だし、ブサ鳥はきもいし、今日は帰るわ!」
「お、おう。そうだお前、弁当いるか?」
「ブ、ブサドリ!ブ、ブサブサッ!」
ブサの意味を分かっているのかいないのかわからないインコちゃんを尻目に竜児はそう提案する。
竜児は毎日自分用の弁当を作っている。あと泰子の昼ごはんも。ついでに1人分増えるのくらい大差ないのだろう。
「あんたようやくご主人様にどんな対応をすればいいかどうか分かってきたようね!ふふん、もちろんいるわ!」
「違えよ、ついでだついで!」
と言い合う2人の表情は晴れやかであった。そしてあまり遅くない時間に大河は帰っていった。
そして大河の帰宅後、いつもの夜のこの時間、机に向かい勉強をしている時間なのだが・・・大河が去り現実に戻る。
明日が学校という現実に。
確かに今まで程竜児は避けられたり、妙な噂で遠ざけられていない。それの時に比べたら今の学校生活は楽しいものなのだが、
学校へ行くということは彼女と顔を会わせることになる。
『川嶋亜美』
振り回されながらも大河のおかげで昨日のことは1度頭の隅に追いやれた。今日の料理の出来は
『これなら毎日通っても何も問題ないわ!』とあの大河が褒めるほどの出来だった。昨日のようなドジをせずに済んだのだ。
その後も食後のお茶だの何だのなんだかんだでやることが多かったので昨日のことを考える暇もなかったのだ。
昨日の夜?料理を失敗した悔しさでまた眠れなかったが・・・
とまあじっくり考える暇が生まれたのは今。特に亜美になんだという感情はなかったが、
この休みでめでたくファーストキスの相手になったのだ。意識するなと言う方が無理だ。
「べ、別に何かが変わるわけでもねえんだ・・・そうだよな!」
されたのはキスのみ、芸能界では挨拶とかお礼とかそういうたぐいなのかもしれない。
月曜夜にやっている国民的アイドルの料理対決だって勝った方にゲストの女優とかがキスをしている。きっと亜美だってそんな感じなのだろうが、
「けどなあ・・・」
あの番組は頬にしていたと思う。アメリカ人だって挨拶のキスを口に、マウスにしないだろう。
だからといって『告白されて恋人同士』なんてことはないだろう。うんきっとない。
亜美の連絡先を知っているわけでもないし、家を知っているとはいえ、気軽に訪ねる訳にもいかないだろう・・・
結局掃除しか手に着かなかった竜児は深夜遅くまでトイレや洗面台の掃除をしたのだった・・・
そして翌朝
「あいつ・・・今日は来ねえのか?」
通う高校まで十分あるいていける距離とはいえ8時頃には家を出ないとまずい。しかし7時半を回っても大河はやってこない。3人分の朝食を作ってお弁当を作って準備完了にも関わらずだ。
「うにゃ〜いい匂い〜・・・あれぇ大河ちゃんは?」
「知らね、どうしてるんだろうな・・・」
「大河ちゃんこれから朝御飯も来てくれるって言ってたのにぃ〜」
朝食の準備ができたと同時に泰子が起きてくる。そして来るはず新たな家族のいない食卓を見てそう言う。
「そうだな、昨日は来てたしな・・・電話してみるか!」
ちなみに大河の連絡先は知っている。電話してみると
「なかなか出ねえな・・・寝てるんじゃ・・・お、出た。もしもし逢坂?は?今何時だと思ってる?お前こそ何時だと思ってるんだよ?遅刻するぞ?」
そんなことを竜児が言うと一瞬の間のうち・・・
「うなあああああああ!!!!!」
竜児が電話を耳から話す。どうやら大河は寝坊をしたようだ。悲鳴ののち大河と電話を続けようとしたが
「ひょっとして〜大河ちゃん寝坊しちゃったの〜」
「そうらしいな。仕方ない、2人で食べるか。」
「仕方ないよね〜やっちゃん寂しいけど〜いただきま〜す!インコちゃんもほらぁ〜いただきま〜す」
「イ、イタダキ、ダキ、ダ、ダキ・・・ダキシメタイ!」
「や〜ん、インコちゃんだいた〜ん!!」
「・・・いただきます。」
まあ今日は落ち着いた朝食が過ごせそうだ。
「いってらっしゃ〜い!」
「おう!」
泰子の見送りをを背に今日も学校へ向かう。そして住んでるアパートを出ると見えるのは隣にある高級マンション。
それを見上げながら学校へ向かっていく。その時彼が思ったのはどっちのクラスメイトだろうか?
続く
「あれ?あたしの出番は・・・?この作品のメインヒロインはあたしじゃないの?」
「あ〜みんよ、真のヒロインは我慢が必要なのだよ?」
「いやいや、本編から完全に外れてる実乃梨ちゃんと違ってあたしは中心人物でしょ?」
「ふふん、甘いなあ〜みん・・・ここからは私の巻き返しが・・・」
「いや、ねえよ・・・なんかこのままじゃタイガーがメインヒロインになりそうじゃん!前回の予告は!?」
「このコーナーを真に受けるとはそなたも青いのう・・・このコーナーはただの雑談なんだから!!」
「じゃあいらな・・・」
「ちなみにタイトルはけっこう悩んだんだぜ?そして落ち着いたこのタイトル、
気にしてる方はほとんどいないと思うケド「とちドラ」は虎と、ちわわとドラゴン・・・って私ハブかーい!!」
「あれっ、並び的にあたし・・・?」
「また次回!!」
「ああ、丸投げ?」
「つ、次こそは私の出番あるんだからね(泣)」
今回はここまです。ここまで続くとは開始時は思わなかった・・・
最終回を何月にするかはもう決めてます。ですが2カ月たたせるのに同じ時間、
今年中に終わればいい方になりそうです。駄文ですが引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。
ではまた次回ノシ!
お疲れ様です!
乙
おっつ〜
おっつ
面白かった〜、オリジナル展開興味深々、次回も楽しみにしてます
ふむ、話が面白い。Gjである
連続書き込みですまんが、予告編にあるとおり次回は亜美ちゃんの活躍はあるの?
てか、幸せな亜美ちゃんお願いします
保守
次ぎスレいったら、ちょい長めのSS投下しようと思っていたが
思ってたより進行が遅い罠
AA職人さん、お願いします!
なにー、急いで埋めるか?、先に次スレ作る?
あと23KBかー
677 :
sage:2012/06/18(月) 01:28:53.76 ID:OGU5lrC0
梅梅
梅
ゆりちゃん先生の中の人結婚おめ
相手、山ちゃんかよw
独神もその位の年齢の人なら…
ゆりちゃん、日記の奈々子父なんかどうよ!
ゆりちゃんの話でオススメとかある?
保守
685 :
名無しさん@ピンキー:2012/06/21(木) 22:11:35.57 ID:JBkpFeor
ななこいの続きが気になって夜も眠れない
ブログの方も更新されとらんね…
晴れてリア充になった元独身の充実した日常をひとつ
>>683 ありがとう、読みごたえもあって面白かった!
いっそこのまま三年生編として続いてくれてもいいのに
加賀香子他の男にNTRされてほしい
>>688 そこのまとめWikiで「ゆりちゃん」とかで検索すれば色々出てくるよ
手当たり次第に読んでみるのをお勧め
あと暇があれば2chの過去ログを2chログ変換サイトで復元させてPCに保存してから探すとかね
代々のこのスレは読まずに捨てるには余りに勿体無い遺産がいっぱいある
691 :
グンタマ:2012/06/23(土) 04:17:35.71 ID:nZSR96eL
ようやく、ようやくこのスレを再発見いたしました…。
携帯から投稿していて、突如はじかれ投稿できず早数年。
その携帯も壊れ、書き溜めが全て飛び早数年。
見つけたテンションで、執筆再開でございます。
容量がないので、次スレから投稿していきたいと思います。
独神は人生
おおおおおおおおおグンタマ氏だああああああああああああwwwwwww
作品を待ってます!待ってますよ!
後20KBが遠いいな。
一週間以上余裕でかかりそうやね。
作品投下には少し足らないしな
新スレ出来たらそこそこラッシュありそうだが
オススメの独神ねえ……ポータブルの独神ルートベースで恋人になってからしばらく経って自分のような三十路が
若い竜児の未来を奪うようなことがあってはならないと思いつめて別れようとするけど、竜児の方は諦められず
愚直に愛情と膣内を貫いて命ある形を成して責任を取ろうと頑張る話かな。問題は本文がまとめサイトではなく
俺の脳内にしかないであろうことだが。
誘い受けがうぜえ上に何の捻りもなくてつまんねえよ
701 :
グンタマ:2012/06/25(月) 03:34:11.06 ID:wwjAv6Oq
埋めも兼ねて、思いつきで書いた1レス小説投下します。
タイトル:いつもの二人
702 :
いつもの二人:2012/06/25(月) 03:34:46.43 ID:wwjAv6Oq
「大河、今日の晩飯は何がいいんだ?」
「肉!」
「…いや、お前はそれしかねぇのかよ…。もう少し具体的に言えって」
「チッ、使えない駄犬ね…ご主人様の一で十を知りなさいよ、全く。……鶏肉!!」
「お前、それ絶対家の中で言うなよ。インコちゃんの毛が抜ける。
しかも結局一しか分からねぇじゃねぇか!」
いつもの会話。いつもの絡み。二人にとって、そんな程度のもの。
それを少し遠目からみている女子が四人。
二人は、微笑ましそうに。
一人は、微笑ましく見つつも、ほんの少しだけ、憂いをおびた笑顔で。
一人は、何か届かない、遠くを見つめる様に。
「……多分気付いてないんだろうね。高須くんも、大河も」
何を、とまでは実乃梨は言わない。だが、その言葉だけで三人は理解する。
ただ会話をしているだけなのに、お互いがあれだけ優しい笑顔を浮かべている。
それが、どれだけ珍しいことなのかも分かっていないんだろう。
『あの』手乗りタイガーが、『あの』ヤンキー高須が。
二人の間には、誰にも裂く事の出来ない絆が確かにある。
他愛もない話をしている二人を見るだけで、それを感じ取れてしまうのだ。
「…あたしにも、向けてくれないのかな」
亜美は誰ともなく、ぽつりと呟いた。それは、ふとした拍子に出た想い。
そして、それをバッチリ聞いた人物がいた。二人も。
「……………(にやにや)」
「フフッ、にやにや」
「…ち、違うからね、今のは。てか、奈々子!口に出して言ってんじゃないわよ!!」
亜美は顔を真っ赤にしながら否定するも、台詞といい態度といい全く何も隠せていない。
麻耶と奈々子は、顔を寄せ合いながら口元を手で押さえ、にやにやと亜美を見やる。
「その顔やめろーーー!!」
「何を騒いでるんだ、あいつら」
「さあ?ばかちーがキャンキャン吠えてるだけじゃない?」
「聞こえてんぞ、ちびとら!!」
今日も2−Cは平和です。
703 :
グンタマ:2012/06/25(月) 03:37:12.19 ID:wwjAv6Oq
以上です。あーみん書くの難しい。
もう一回とらドラ読み直さないと、性格捏造とかやばそうです。
おつGJ。俺も二巻を三十回ぐらい読み返したけどそろそろまた読み直そうか
ほのぼのGJ
ニヨニヨGJ
動けスレ!何故動かん!
何故このタイミングで大河バニーフィギュア……
実乃梨バージョンもでるんかな?
どっかのポスターで2人セットで描かれていたからみのりんも出るかもね
中々埋らないので。つい出来心でやった。反省はしていない。
ななどらで「」竜二『』 奈々子です。
「そ、それじゃいくぞ」
『ええ、お願い。最初は優しく…ね』
ごく。っと喉を鳴らす音が聞こえる。触れる肌から彼の鼓動が早くなっていくのを感じる。
高須君の熱を帯びた手とじっとりと汗をかいている手のひらから彼の緊張が伺える。
「こ、ここでいいのか?」
『ん、もうちょっと下…ん、あぁそうそこ…お願い。優しく…ね』
「お、おう。それじゃいくぞ。痛かったら我慢なんかせずに言えよ」
『えぇ。…あ…んん…思ったより…ん…痛くないから…もう少し強くてもいいわ…』
高須君は無言で押し付ける力を強くし、空いている指でその周辺も撫でてくれる
『んぁ…だめぇ…そこ気持ちいい…ぁぁ、気持ちいいよ』
高須君は更に力を強め、そして空いている指で私の敏感な部分を的確に揉みしだき私に更なる快感を与えてくれる
『…ん、っあ』
声を耐えようとするが、来たる快感には逆らえず口から漏れ出してしまう
『た、かす…くん』
あまりの快感に高須君を仰ぎ見る。目には涙が溢れているはず。優しい高須君は多分勘違いするだろう
「だ、大丈夫か香椎?やっぱ痛かったのか?」
ほらね。あまりにも予想通りの反応。それでも心の中が暖かくなるのを感じる。
ここでこの優しさは反則よね…照れ隠しに意地悪の一つでも言ってやろうかと思うが折角のいい雰囲気が台無しになってしまうと思い、思い止まる。今はこの快感に酔いしれたい
『大丈夫だから、ね、続けて。物凄く気持ちいいの』
自然と笑顔がこぼれてしまう。「お、おう」と相づちを打ち顔を真っ赤にさせる高須君が可愛くて、また意地悪をしたくなる。私ってSなのかな?
などと身もフタも無いような事を考える
『あ、ふっ、んん…』
高須君はゆっくりと優しく徐々に力を込めていってくれる
『本当に上手ね、高須君。なんでこんなの上手なの?』
「あーそれは康子…っと、母親だな。毎日してやってるからな」
『いいわね…羨ましい』
つい本音が出てしまう。この目つきの悪い心優しいクラスメートは本当に天敵だと思う。幾重にも張り巡らせてある心の殻を意図も容易くぶち破ってくれる
「流石に毎日はしてやれないけど、時々ならいいぞ。香椎も辛いだろうしな」
『え?ホントに?』
「おう。胸がでかいと大変だってのは身内で分かってるしな。肩もみ位いつでもやってやるぞ」
以上、肩もみでした。
ななエロ乙
しかし、ななこって設定では巨乳だけれど漫画やアニメ含めたビジュアルでは
そんな大きくかかれないよなー、残念
ななドラGJ。
奈々子さんエロすぎです。それに平然としてる竜児さんぱねぇっすw
抜いた
次スレってどのタイミングで立つの?
500KBに近づいたら立てる
奈々子って確か原作では巨乳って設定じゃなかったんだよねw
「肉付きが良い」ぐらいのやんわりとした表現だったのがエロパロスレで極端にディフォルメされた
どこで巨乳だと定着したのかよく判らんけど
>>717 とらドラジオでは亜美ちゃんよりでかいって言ってたぞ
原作はしらんが、少なくともアニメではキャラクターの設定の項目に
Wクラスで一番大きなバストを持っているWって書いてあるぞ
実際そのキャラ表の奈々子は胸デカイ
はやく次のスレが立ってSSが読みたい
俺も新スレ待機中
立てられないから他力本願…
とらドラジオ懐かしいねー
今でもたまに聞いてるけど
次スレ待ちもいるんだし立てていいんじゃね
オレは今帰省中で携帯なんで無理だけど
今電車の中で一本小ネタを書き上げたんで、自宅帰ったら投下します。
スレ埋めの足しにでも
>>724に期待しつつちょっくら新スレいってくるお
建てれなかったらごめんね
んでは、単発小ネタいきます。
2スレほど頂きます。
携帯で書いてたんで改行が特殊で申し訳ございません。
『突発性三十路脅迫観念症候群』
それは六月十七日、梅雨も開けきらぬジメジメとした、とある日の事。
大橋高校を卒業して、大学生となった竜児達はファミレスの中で試験対策をしながら、
何時もの様に、何時もの面子で平和な時を過ごしていた。
六人掛けのテーブルには、竜児、大河、北村が並んで座り、向かい合った反対席には、
亜美、木原、能登が座っていた。ちなみに、櫛枝はウエイトレスとしてバイト戦士として、
今も忙しそうに動き回っている。
黙々と試験範囲のノルマをこなしていく、竜児、北村に比べて、他の四人は脱線気味に
おしゃべりの花を咲かせていた。
共に勉強をしているが、そもそも皆が同じ大学でもないし、学部も違う。当然、試験の
内容やレポートの対策にも限界があるというのに、こんな気の緩み様では大丈夫なのかと
他人事ながら竜児は心配してしまう。
あまり細かくは言いたくないのだが、これもみんなの為と、心を顔と同じく鬼と化して
声を掛ける。
「おまえら、もうちょっと真面目にやらないと、あとあと苦労する事になるぞ。一年の時
からちゃんとやっておけば、単位の所得も……」
「竜児っ!!」
ここまでは予想通り、大河が俺の発言を煩く思うなんて既に日常の小事、反論される事
など既に折り込み済みだ。
「今すぐ結婚するわよ!」
「おう……、って何ぃ!?」
唐突に大河の口から出たその言葉に、予想していた反論の煙の様に霧散し、呆然とした
まま大河を凝視する。
大河は拳を握り、断固とした態度で俺を睨んでいる。また突拍子もない事を思いついた
のかと思いもしたが、その表情には冗談の欠片も見当たらない位、真剣そのもの。
いや、そりゃ、結婚の約束はしているが、それは大学を卒業して就職したあとの話し。
晩御飯のメニューを決める様な感覚で、突然そんな事を言われても……。しかも、みんな
の目の前で。
状況についていけず、周りのみんなも固まったまま。しかし、この混乱はそこで収まる
所かより一層加速していくのであった。
「はっ、あたしにもなんか降りてきたかも! 能登、あんたでいいから結婚してあげる」
「えっ、ええー!」
能登はアイスコーヒーが気管に入ったらしく、苦しいそうにむせている。
そこに山盛りポテトを抱えた、櫛枝が丁度いいタイミングでやって来た。
「櫛枝、こいつらの様子がおかしいんだ。なんとかしてくれ!」
「まかしておくれよ、高須くん。とりあえず、この大盛りポテトは櫛枝からの結納の品と
いう事で、受け取ってくれい」
「おまえもか!!」
「高須くん……」
「か、川嶋」
気がつくと川嶋が俺の手を握っていた。何時の間に席を移動していたのか、絡ませた腕
ごと引き寄せられる。憂いをを帯びた瞳で見つめられ、淡いピンクのルージュが艶かしく
耳元で囁いてくる。
「高須くんは私が本当の自分を見せたら、どうする? 好きになる……ねぇ? 答え次第
ではさ……、亜美ちゃんお嫁に行っちゃうよ?」
肘に当たる柔らかい感触に、ドギマギとしかけるが、虎の殺意に満ちた波動に、一瞬で
目が覚める。
「ばかちー! 人のモンに手を出すなー!!」
「まだ、結婚した訳じゃねーだろがー!」
「二人とも店の中で、暴れるんじゃなーい! ここはひとつ、高須きゅんはこのみのりん
に任せるという事で」
大河と川嶋の壮絶な戦いに、櫛枝までが混ざり始めた所で、事態の沈静化を諦めた俺は、
こっそりと逃げ出して北村に声を掛ける。
「どういう事になってるんだ? 大河や櫛枝だけならいつものおふざけで理解もできるが、
川嶋に木原もとくれば、冗談とは思えないぞ?」
「全く持って理解はできない。高須は俺の嫁さんだと云うのに……」
「こんな時にたちの悪い冗談はやめろ!」
そこにまるで測ったかの様なタイミングで、俺と北村の携帯電話が同時に着信音を鳴り
響かせる。
『高っちゃ〜ん、瀬奈さんが急に結婚しようって言ってきたんだけど、とりあえず教会に
行けばいいんかな〜?』
「ま、待て。まず、役所行って婚姻届けを……。いや、違う! その前に親御さんにって、
どういう事だよ!!」
はっ、として俺は北村の様子をうかがう。
「加納先輩が今すぐ会いたいから、アメリカに来いとの仰せだ……」
「何がどうなってやがるんだ……」
この日、全世界に於いて確認された現象は、後に突発性三十路脅迫観念症候群と名付け
られた。三十歳以下の結婚適齢期を迎える女性が、異様な焦りと負けん気を覚え、結婚に
対して異常とも云える行動力を発揮するのである。
ワクチンや精神療法といった類の物は一切効果を示さず、唯一この症状から脱する方法
は二つだけ。結婚するか、三十路を過ぎ去るかの二択のみ。
しかし、この草食系男子全盛の日本に於いては、需要と供給のバランスは完全に破綻し
ており、緊急の対策が求められた。
平日の日中の於いて、未婚者狩りが行なわれまでに至った時、この異常な自体に日本国
政府は緊急措置として、独身税の導入と重婚制度を認めるという、思い切った対処でこの
ピンチをなんとか乗り切ったのだった……。
「あたしの中の本能がね、負けちゃいけないって、そう囁くのよ!」
「そうそう、それに一人で居ると死にたい気分になってくるのよね。亜美ちゃん、こんな
可愛いのにそれはないんじゃねって」
「おいらの中の獣の槍が、高須くんを逃すなと囁き続けたんだよ。独り身は滅すべしと」
「ねぇ、アナタ(((ご飯まだ〜?)))」
「お、おぅ。今できる」
− おわり −
独身(30)の中の人、おくればせなから御結婚おめでとうございます。
>>726 新スレ乙です
ゆりちゃんの本来の年齢とズレがあるのは大目にみてください
>>730 乙です。笑わせて貰いました。
こ…これが独神の呪いか…
GJ
でもあれ、これってむしろ独神の結婚にマイナスなんじゃry
スレ立ても乙!
新スレに投下も来てるし梅
あと5KB
うめうめ
737 :
名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 20:38:34.17 ID:xQAASZD2
しかし奈々子って SSだと人気あるよねww原作ももっと出番ふやしてくれればいいのに...
察しがよいグラマーキャラというだけで、ご飯三杯はいけるからな
SSでも便利な立ち位置で使えるし
ただ、原作だと亜美ちゃんと特徴が被りすぎててだめだと思う
原作だと唯一恋愛描写ないからね。想像を広げやすいんだろうな
奈々子も親に何かしらの事情あったけ?
そう考えたら掘り下げの余地はあったんだよな…。
公式で片親設定
742 :
名無しさん@ピンキー:2012/06/29(金) 22:25:29.80 ID:22ZO2ovF
公式だったのか。ここの奈々子SS質いいから、原作とごっちゃになってる
ゆゆこは作風なのか、脇の設定とかふれない所には一切ふれないからなぁ
片親という一言で読者の想像力に任してるのかもね、俺は好きだけど
プロットだか、ボツ原稿であった川嶋母のくだりとかも読んでみたかったとは思うが
埋めテスト
/ ││ ∨ | | ヽ \ ヽ
/ l ││`"^^^"´| | |: | ヽ
′ l ││ | | j: | '. |
,′ | | l | |│ | /| / :|
l_.斗lートヘ| `ヽj/|ー∧ /│/| |│
| | |\| \| // l/ j∧| |│
l |ィ行ラ弌ヾ ィ行う弌_ | |
│ ヽ 小 ト゚:::ハ ト゚::::::j-} ノ ' /
. 丶 \'. V辷ソ V辷.ソ / /_ イ
\ |\ ∧\.:::::::::::: , .:::::::::::::::∠ イ |/ :| |
| ヽ| | ヘ / ! |
| | 、 / │ |
| | i\ ‐‐- 、 个 | :|
| | | 丶、 _ <|┐| | |
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/ :| l/: \__ __/ l | |
/__.. -‐| | / ∨ヽ │ :|>、_|
/´ ̄ | | 人r'トーヘ │ :| /  ̄`丶、
投下ラッシュすごいな。おかげで投下しにくいw
/ \ / : : : : ヽ:/: : : : : :``: : :/⌒ ヽ:冫´  ̄ ヽ
/ /⌒` / : : : : : : : ,' : : : : : : : : : : : : : : : : : :ヽ/⌒` 、ヽ
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埋め梅
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