【朝ドラ】ゲゲゲの女房でエロパロ5【いちせん】

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556553:2012/02/12(日) 20:20:22.38 ID:oDw1vaTY
>>554
なんかストレートにエロすぎて躊躇ったw
レポだんだん!ポスターとか写真良いなあ…!今度絶対行こうと決めたよ!
自分は以前リアル水木家周辺をうろついた事があるw
ほんとにドラマみたいな行き止まりで裏にお墓があって感動と妄想が入り混じった気分になったw

>>555
ドンマイですー
個人的には保守して使いたいけど今ここの残りが50kbだから保守しきれるか不安…
557名無しさん@ピンキー:2012/02/12(日) 21:29:38.22 ID:zie0md7n
ここんところ職人さんも忙しいのか、なかなか投下こないけど、
春になったら再放送あるし!
それまでは妄想の切れ端をちょっこしずつ落として我慢だ。
558名無しさん@ピンキー:2012/02/12(日) 22:25:17.42 ID:/7a5kTj/
>>557
奈緒ちゃん好きな人は「早海さん」にハマってて、ムカイリ好きな人は「ハングリー」にハマってるから過疎ってるんじゃね?
559名無しさん@ピンキー:2012/02/13(月) 07:55:36.72 ID:3BhdWUGs
どちらも好きだし観てるけど、ハマれないなぁ…。
560名無しさん@ピンキー:2012/02/13(月) 15:02:17.04 ID:X9Tvd34O
>>557
今書きかけのがあるんですが、時間がとれなくてなかなか完成できません。
そのうえ異様に長いので、スレ終盤になったら入りきらないかもしれないw
このスレが終わって、もしも次スレが立たなかったら、もう潮時ってこと
かなあ…と思って寂しかったので、新スレ立ててやろうという方がいてホッ。

>>555さんの新スレのサブタイどおり、再放送も始まることだし、またのんびり
まったり楽しんでいきたいですね。
561名無しさん@ピンキー:2012/02/13(月) 23:00:59.21 ID:PWqAtnUd
お待ちしてます。
もし新スレが落ちてしまっても、スレ立てなどお手伝いさせていただきます。
なんたって再放送〜。
562名無しさん@ピンキー:2012/02/14(火) 01:26:28.46 ID:niSJPmX+
待ってます!!

自分を含め、早く読みたい人も沢山いると思うので、
何回かに分けて連載 っていう手もありますです♪
563名無しさん@ピンキー:2012/02/14(火) 21:46:39.74 ID:udfBdu74
綾子さんがチョコは貰ってばっかりで、あげるのはゆうちゃんが初めてとかだったら萌え死ぬなぁ
ベタに、あんまり上手に出来なくて、でも全部食べるとか
自分的に佑綾は思いっ切りベタな妄想を当て嵌めたくなるカップルw
564名無しさん@ピンキー:2012/02/15(水) 00:22:37.85 ID:v7THQcg+
>>560
楽しみです!

>>563
バイト仲間達が、立派な手作りチョコを祐ちゃんに渡しているのを見て、
「こんなの渡せないや…」と、しょんぼりしている綾ちゃんを想像したよ〜
(一方、家では、平泉パパが“昨日、台所で四苦八苦して綾子が作っていたチョコは誰の手に渡ったたんだ――(`へ´)”と、やきもき中)
565名無しさん@ピンキー:2012/02/16(木) 23:09:36.07 ID:laUmkg7g
ゲゲふみのバレンタインは時代的にも経済的にも熟年いちゃいちゃ期向けって感じだね

>>564
頭の中でゆうちゃんがしょんぼりしてる綾子さんを目敏く見つけて二人になれる空間を作り出す策士になりつつあるw
566名無しさん@ピンキー:2012/02/17(金) 12:27:34.27 ID:Y3HkgIqd
>>564>>565
妄想リレー?
まざりたいけど自分じゃ力不足。
バレンタインに誕生日も絡まないかなあ…
チョコのほかにももうひとつプレゼントがあるんだって。
567名無しさん@ピンキー:2012/02/18(土) 22:49:50.79 ID:4uj48pvA
付き合い初めてからそのもじもじっぷりをからかわれて真っ赤になりながら言い訳する綾子さんと
それをニヤニヤ見ながらでれっでれなゆうちゃんを妄想w

付き合う前に励ました時に『祐一くん』でいちせんの時には『ゆうちゃん』な過程が知りたくてたまらんですよ…
568名無しさん@ピンキー:2012/02/19(日) 23:20:16.50 ID:RmaEttcb
>>565
ゲゲふみだとバレンタインとズレるけど、熟年期だとお歳暮とかに先生の好みを知らない若手編集者がチョコレートボンボンを送っちゃって
あら大変とふみちゃんが隠したらゲゲさんのお菓子センサーに引っ掛かって見つけられて
風邪気味で鼻が詰まってて酒臭さに気づかずに食べちゃってほろ酔いで久しぶりにイチャイチャとか…w
569名無しさん@ピンキー:2012/02/21(火) 18:33:03.20 ID:PcvIyybF
藍子が中学校卒業する頃に使わない制服をクリーニングに出す前にちょっこし着てみて
当然しげーさんに目撃され真っ赤になるふみちゃんを妄想
570名無しさん@ピンキー:2012/02/21(火) 20:54:26.79 ID:jyZ9D8vV
>>569
おっ、ええな。
571名無しさん@ピンキー:2012/02/21(火) 21:07:19.39 ID:csDHIUl9
>>570
ゲゲ乙
572名無しさん@ピンキー:2012/02/22(水) 21:02:35.62 ID:AbzRVpFj
>>569
制服と恥じらう姿のコラボレーションとは素晴らしいな
ゲゲさんが鍋蓋で練習の時みたいな反応をした後で仕事始めたら案外頭から離れなくて夜は…w
573名無しさん@ピンキー:2012/02/23(木) 18:35:08.66 ID:POKLBmRE
流れ豚切で投下、とかいってエロなしショートでスマソ
新スレ立ってるみたいなんで、スレ埋めに
574生命継ぐ者 前:2012/02/23(木) 18:37:07.31 ID:POKLBmRE
その後ろ姿を見て、布美枝は軽く噴き出した。

腹ばいに寝そべり、曲げた両足をそわそわと交差させながら、
頬杖をついた顔は、藍子に喰いつくかのように、その鼻先で微動だにしていなかった。
(子どもみたい…)

抵抗などできるはずもない生まれたばかりの娘は、
ざらざらの無精髭にやや顔をしかめながら、それでも、
眼前の父の温もりと匂いに、安らぎを認めて泣きもせずじっとしている。

「何しとるんですか?」
布美枝の問いかけに頬を緩め、茂は戦時中の話をしてくれた。
「生命の匂いだ」
赤子特有の香りを、茂はそう言った。
ああ、言い得て妙だなと布美枝は思った。

飽きもせず、茂はずっと藍子の香りを嗅いでいる。
時折頬や鼻先を啄ばんで反応を見、くすくすと笑った。

この男がこんなにも、我が子に対して相好を崩して接するとは思いもよらなかった。
妊娠を告げたときのあの素っ気なさを、映写機にでもかけて見せてやりたいと、
少し憎らしく思う程に。
藍子も藍子で、まだ笑うことはできないものの、決して泣き出すことはなく、
不思議そうに茂の眼を見つめ、触れられれば小さく「きゃ」と啼いた。

布美枝はぽつんと座り込んだまま、しばらくふたりの様子を伺っていた。
こうなると妙な気持ちになるもので、知らず知らず「ほう」とため息を吐いたところ。

「なんだ」
茂がひょいと振り返った。
「疲れとるなら寝とってもええぞ」
「いえ…そげでなくて」
「ん?」

何と言えばいいのか、布美枝にも解らなかったけれど。
稚拙な言葉を使うなら…
「…ええなぁ、と思って」
「何が」
「…」
嫉妬、とでも。

尖らせた唇の向こう側に、いささか不服言があるのを見て取った茂が、ぷっと噴き出した。
「拗ねとるのか」
「もうっ」

茂はごろりと仰向けになり、布美枝の膝枕から膨れっ面の頬を軽く捻った。
優しく微笑むその表情は、藍子に向けられていたものとはまた少し違って。
575生命継ぐ者 後:2012/02/23(木) 18:37:54.98 ID:POKLBmRE
「――― お前は」

一瞬、布美枝の胸がどきっと高鳴った。
ときめいたというよりは、驚いた。

「すぐに妬く」
呟きながら、肩からしだれたまとめ髪を、さらりと撫でられる。
布美枝の鼓動は高鳴ったまま、まるで初めて会った頃のように。

けれど理由は茂の微笑みの所為だけでなく。
「お前」と呼ばれた、初めての声音に戸惑ったからだ。
不快などではなくむしろ、高揚感に逆上せてしまう程だ。

用があるときにでも名前などもってのほかで、茂が布美枝を呼ぶのは常に「あんた」。
他人行儀な気がしなくはない、けれど、男性というのはそういうものかなとずっと思っていた。
けれど「お前」は全然違う。
言うなれば、父、源兵衛が母をそう呼び、兄が邦子をそう呼んでいたように。

特別の、証。

「だら」
布美枝の髪の毛先をくるくると弄び、怒るわけでもなく独りごちた茂に、
ふいに布美枝は口づけた。

衝動は、彼を愛しいと思うたびに、しばしば布美枝の理性を奪って身体を乗っ取る。
けれど茂はたじろぐこともなく、それを受け止め、むしろ利用するように甘い時間を紡ぎ始める。
愉しんでさえいるような、したり顔が憎らしい。

「正月は明後日だ。餅を焼くにはまだ早い。まして自分の娘にはな」
そのからかい口調に、また拗ねてみせると、茂は可笑しそうに小さく肩を震わせた。
そして顎でちょいと合図をしてみせ、布美枝を呼び寄せる。

触れ合う唇からわずかに藍子の香り。
茂が生み出し、布美枝が育んだ生命の香りが。
合わさって、交わし合う、言葉にはならない、最上の睦言。

「…おとうちゃん?」
「ん」
「藍子に見られとるね」
「…ま、それも教育だ」

やっと照れてみせた茂の表情に、ふっと頬が緩む。
不思議顔の藍子にふたりして微笑みかけ、まだ薄い髪を撫でた。

愛しい男の生命を継ぎ、愛しい娘が温かな鼓動を打つ。
どうぞこの時間が、永遠のものでありますようにと、布美枝は誰にともなく祈った。


おわり
576名無しさん@ピンキー:2012/02/23(木) 18:55:46.50 ID:oZwvBowd
>>574
GJです!
この、親子のシーン大好きなんです!
可愛くてほんわかしました(*´∀`*)
あーがとございます!
577名無しさん@ピンキー:2012/02/24(金) 09:36:45.21 ID:SmF5wgwV
>>574
スレ埋めなんてとんでもない!良作をありがとう
この短さの中に、あの空気感があふれていて、初心に還らされました
エロなしと言いながらちゃんとエロい上に初めての「お前」呼びまで・・・
子供が生まれてからなんだよね、そう言えば
578名無しさん@ピンキー:2012/02/25(土) 03:50:33.13 ID:MuOTv4hQ
>>574
すごくイイ!
自分もこのシーン大好きだ〜
嫉妬ふみちゃんもかわいいし
お前呼びはやっぱり萌える(*´д`*)GJ!
579名無しさん@ピンキー:2012/02/26(日) 16:25:20.48 ID:bd33Br3p
>>574
家族かわいいし夫婦エロいし!
ほんにGJでした!

再放送の正式発表もやっとwあったし
また萌え転がれるかと思うと楽しみだ
580名無しさん@ピンキー:2012/02/27(月) 23:58:11.23 ID:St7RUoZU
>>574
村井家っぽくありながらもなんとなくエロいw
空気感が好きだーGJ!
581名無しさん@ピンキー:2012/02/28(火) 19:11:57.46 ID:eZDP/WMX
エアひな祭りとゲゲさん誕生日の季節になりましたね
ゲゲさんが催眠にかかりやすいタチで、飲んだつもりで酔ってくれたら良かったのにw
ゲゲさんは催眠とか効かなそう
ふみちゃんはかかりやすそうw
582名無しさん@ピンキー:2012/02/29(水) 16:08:14.00 ID:Ej5n+QV5
書きかけのがあると書いた>>560です。
いちせんパロです。興味のない方はスルーでお願いします。
>>452の『ニューイヤーズ・イヴ』の続編になりますが、前作を読んでなくても
だいたいわかると思います。

50KBオーバーしてしまい、とても一度には投下できないし、読まれる方も
大変かと思い、前中後編に分けました。>>562さんもありがとう。
2、3日中にはまた投下予定ですが、スレをまたぐことになるかな?
最近、ほのぼのしたいちせん妄想ネタが多いのに、なんだかアダルト風味に
なってしまいました。不快に思われた方はごめんなさい。
583小さい男 1:2012/02/29(水) 16:09:23.54 ID:Ej5n+QV5
「・・・綾ちゃん?」
「あ・・・佐古さん?」
食事を終え、店を出てきた綾子に、男が声をかけた。
「あれ・・・なんか今日、いつもより背、たかくない?」
退社する時、綾子はデート用に普段履かないハイヒールに履き替えていた。
佐古と呼ばれた男は、綾子にかなり近づいて少し見上げるように背をくらべてみた。
・・・ちょっと接近しすぎ、と綾子が思った時、向かい合った佐古の視線が綾子の
後ろに泳いだ。綾子が振り返って見ると、そこには少し遅れて出て来た祐一が
立っていた。佐古はあわてる風でもなく、綾子との距離を元に戻した。
「あ・・・祐ちゃん。あの・・・こちらは会社の同僚の、佐古さん。」
「佐古雄一郎です。あゃ・・・平泉さんには、いつもお世話になってます。」
「・・・どうも。」
「ぇと・・・お、友達の・・・佐々木、祐一さんです。」
綾子がなんとなく気まずそうに祐一を紹介する。すぐさま営業用の笑顔を浮かべ、
はっきりと自己紹介した佐古とちがい、祐一は無言でうっそりとうなずいただけ
だった。
「じゃ・・・平泉さん、またね。」
佐古はそれ以上よけいなことを言わず、サッと歩み去った。それを見送っていた
綾子も、祐一にうながされて歩き出した。

 金曜日の夜。どう見てもデート中のところを、会社の同僚、しかも男性に
出くわすのはかなり恥ずかしい。食事が終わったら次はベッド・・・そう決まっている
ものでもないけれど、休みがズレている上に仕事が忙しいふたりは、会うたび
求め合わずにはいられない。
げんに今夜も、ふたりの足取りは自然とホテル街に向っていた。佐古も、それを
想像しただろうか?・・・そう思うだけで、いたたまれなくなる。
584小さい男 2:2012/02/29(水) 16:10:14.89 ID:Ej5n+QV5
「あ、あの人ね・・・佐古さん・・・あ、今の人・・・。」
ちょっと白けた雰囲気を破るように、綾子が今の人物について説明を始めた。
「中途採用でウチに来る前は大手にいたとかで、才能もあるし、いずれ独立する
 だろうって言われてるの。入社したのは私より1年あとだけど、祐ちゃんより
 年上だし、私みたいなヒヨッコとは雲泥の差で、いつも助けてもらってるんだ。」
なんとなく気まずい空気をまぎらすため、綾子はいつになく饒舌だった。
「そんなデキる人なのに、な〜んか軽いから『残念なイケメン』とか『バブルの
 忘れ物』とか言われて気の毒なの。でも、頭イイ人だから、敵をつくらないように
 計算してわざとそう振舞ってるのかも・・・。」
「・・・綾子、どこ行くの?・・・着いたよ。」
祐一に言われてハッと気づくと、そこは二人が何度か夜を過ごしたことのある
ホテルの前だった。いつもにも増して綾子は、人目を避けるように目を伏せて
祐一の後から建物に入った。 
 この種の目的のホテルはみなそういうシステムになっているのか、誰とも会わずに
チェックインでき、料金も前払いなのだが、それでも綾子は誰かに見られている
ような気がして、廊下を歩いている間も落ち着かない気分だった。
「・・・ここだよ。」
祐一にうながされて部屋に入る。この手のホテルにありがちな淫靡で安っぽい
雰囲気は微塵もない。シンプルなインテリアに、リネン類は清潔で、アメニティも
豊富だった。
「・・・!」
コートも脱がないうちに、祐一に抱きしめられる。外を歩いてきて冷たくなった
唇と唇がかさなり、熱が生まれる。
「・・・ん・・・待・・・って・・・ゆ・・・ちゃ・・・。」
きれぎれに抗う綾子の声、服と服のこすれあう音しか聞こえない、閉ざされた静かな
空間・・・。佐古と言う『日常』と出会ってしまったために醒めてしまった綾子の心が、
祐一との『夢』の時間に切り替わっていこうとしていた。 
585小さい男 3:2012/02/29(水) 16:11:17.98 ID:Ej5n+QV5
「・・・会社では、ヒールじゃないんだ?」
祐一がふと唇を離し、綾子の足元を見下ろして言った。官能に身をまかせつつあった
綾子は、急にまた話を会社に戻されてすこし戸惑った。
「え?あ・・・うん。お客様を見下ろしちゃダメだって・・・佐古さん・・・がアドバイス
 してくれて。」
「ふーん・・・あいつのためでもあるわけ?」
佐古は、綾子がフラットな靴にすれば、綾子よりほんの少し低いくらいの身長だった。
「べ、別にあの人のためじゃ・・・他の人だってみんな、目線が合って話しやすいって
 好評なんだよ。」
「・・・俺は、こっちの方がいいな。」
言いながら、祐一がジッパーを下ろして、綾子のスカートだけをするりと落とした。
「ゃ・・・だ。」
続いてコートも脱がされる。ピンと糊のきいた白いシャツに、小さなビジューの
いっぱいついたモカブラウンのカーディガン・・・上品な上半身と対照的に、下は
ガーターとストッキングとショーツ、そしてハイヒールという、かなり羞ずかしい
格好になった。つづいてカーディガンのボタンにも指がかかる。
「ま・・・って・・・シャワー、浴びてくるっ!」
綾子はあわててスカートを拾いあげ、逃げるようにバスルームに飛び込んだ。       

(あいつ・・・さっきからなんかそわそわしてるな・・・。)
綾子がこうした場所にいつまでも狎れないことは、祐一にとってそれはそれで嬉しい
ことだった。綾子のそういう初心なところが好きだし、羞じらう綾子を徐々に乱して
いくのも楽しい。
(けど、今日のはちょっと度が過ぎてるな。)
さっき会った男が原因だろうか・・・?綾子とずいぶん親しそうだった。綾子の口ぶりに、
あの男に対する敬意と、そこはかとない好意がにじむのも面白くない。
(そんな気分じゃなくなった・・・とか?)
まだあの男の空気が残っているうちに、祐一に抱かれるのが恥ずかしいのだとしたら、
それは綾子が、あの男を男性として意識しているということではないのか?
(・・・まあいい。あんな奴のこと、消し去ってやる。)
「あ・・・アレ、切らしてたんだっけ。」
祐一は立ち上がってキーを取ると、部屋の外へ出た。廊下の一隅の、死角に隠れる
ような場所に、ぼんやりと灯のともった小さな自販機があった。
586小さい男 4:2012/02/29(水) 16:12:22.43 ID:Ej5n+QV5
 綾子が出てくると、入れ替わりに祐一がバスルームに入った。
(ゆうちゃん・・・今日、なんか機嫌わるい?)
綾子はますます身の置き所が無くなる気がした。本当は、素裸になってベッドで
待ってたりするといいんだろうけれど・・・。なんだか今日はそれも羞ずかしくて
たまらない。
(あ・・・明日の資料、目を通しとかなきゃ。)
所在ないまま、綾子はバスローブ姿のままソファに座り、バッグから仕事関係の書類を
出して読み始めた。
「・・・仕事?」
濡れた頭をゴシゴシ拭きながら祐一が覗き込んだ。
「あ・・・うん。明日、会議なんだけど、今日は時間無くて読んでられなかったんだ。
 明日の朝も、読む暇ないだろうし・・・。」
「それって・・・朝起きられないくらい、してほしいって意味?」
「ち・・・ちがうよ!」
祐一は資料をそっと取り上げてサイドテーブルの上に置くと、わざと綾子の膝の
間に身体を割り込ませて膝立ちし、顔を寄せて唇を奪った。   
「・・・ん・・・っふ・・・。」
バスローブの下には何もつけていない。大きく開かされた両腿の間が、早くも
溶けはじめる。                                              
 紐を解いてバスローブを左右に拡げると、白いパイル地にくるまれ、祐一が贈った
プチネックレスだけを身につけた綾子は、祐一のためだけのプレゼントのようだった。
「・・・んゃっ・・・ぁ・・・ん・・・。」
 ネックレスに口づけてから、その下のふたつの宝石にも交互にキスをする。
吸い込むように口に入れては出してみたり、強く舌で転がしてみたり・・・。
「・・・ゆ・・・ぅちゃ・・・キ、ス・・・して・・・。」
綾子にキスをせがまれ、顔を上げて下からくわえるように口づける。綾子が両手で
祐一の顔をはさんで、舌を入れてきた。祐一の指は、なおもふたつの尖りを責め
つづけている。綾子は耐え切れなくなって唇を離し、身をよじって顔を俯けた。       
「どうしたの?珍しくあやの方から舌を入れてくれたのに・・・。」
キスを続けられないほど弄っておきながら、祐一がとぼけて聞いた。おでこを
くっつけて顔を押し上げ、目をのぞきこむ。にらみながらも綾子の目元は官能に
染まり、涙でいっぱいの瞳にはどうしようもなく情欲がにじんでいた。
587小さい男 5:2012/02/29(水) 16:13:24.46 ID:Ej5n+QV5
 すくいあげるようにキスしてから、祐一が立ち上がって綾子の手をとった。
「ゃっ・・・ある、けな・・・。」
引っ張られて腰をあげたものの、脚に力が入らない綾子を支えながら、祐一が
ベッドに座らせる。並んで腰かけた祐一が、綾子の両脚を抱え上げてベッドに
抱き倒した。火照った身体にシーツの冷たさがここちよく、これから刻み
込まれる絶頂の予感に胸が苦しくなる。

・・・ここからが長いのはいつものことだ。けれど、今夜の祐一はいつにも増して
意地悪だった。綾子の弱いところばかりを執拗に責めて、肝心の部分には触れもしない。
横抱きにして肩をぎゅっと寄せられ、長い指でふたつの尖りを同時に責めながら、
口中を犯される・・・快感が絶え間なく綾子の全身を駆けめぐり、ふさがれた唇からは
せつないあえぎが切れ切れに洩れつづけた。
(・・・ゆうちゃんだって・・・こんなに・・・。)
綾子の腰に押しつけられた男性は、充分に怒張している。いつもは握らせて
くれるそれにそっと手を触れると、やさしくその手をつかんで押し戻された。
(ひどい・・・ゆうちゃん・・・。)
ここに至って綾子はようやく、すこし様子がおかしいと思い始めた。祐一に優しく
虐められることで綾子がより感じてしまう・・・というのは、ふたりにとって
お約束のプレイのようなものなのだけれど・・・。                   

 綾子のあえぎが、泣き声に変わりそうになるギリギリのタイミングで、祐一が
手と唇を離した。向かい合った綾子の目を見て、無言でそっと頭を押し下げる。
綾子はもうろうとした頭で、言われるまま痺れる身体を持ち上げて下へさがった。
祐一の脚の間にひざまずき、中心にそびえる塔に顔を寄せる。             
「・・・あっち向いて、して・・・?」
充血しうるんでいる秘唇を、祐一に見られるのは耐え難いほど羞ずかしいけれど、
綾子は何でもいいから今の状況から先に進みたかった。
 祐一に臀を向け、脚を大きく拡げてまたがると、疼きすぎてズキズキ痛むほどの
秘唇が祐一の眼前にさらけ出された。その一点に意識が集中し、カッと全身が燃える。
火照る頬を雄芯にすりつけ、浮かび上がる血管に口づけた。手を添え、頭を傾けて
横咥えに口に含むと、固い芯と表皮をずらすように唇でしごく。
588小さい男 6:2012/02/29(水) 16:14:16.10 ID:Ej5n+QV5
「・・・ふぅ・・・あゃ・・・。」
祐一の声が少しかすれている。先端に少し露を含むほど昂ぶっているのに、祐一は
ただ綾子の臀から大腿を撫でさするだけで、シックスナインすらするつもりは
ないらしい。綾子は身体の内に燃えさかる情欲の炎から意識をそらし、雄根に奉仕
することだけに没頭しようとした。
「あや・・・すごいよ。したたり落ちそう・・・。」
突然、燃えるような花芯に、冷たく硬い無機質なものが当たり、綾子は祐一のものを
深く呑みこんだまま固まった。これを・・・挿入れるつもりなの?まさか・・・けれど、
冷たい塊はぐるりと輪を描くように周縁をなぞり、哀れな花唇がこぼしつづける
涙をすくいとっただけだった。
「・・・・・・?!」
ホッとしたのもつかの間、いちども侵入をゆるしたことのないもうひとつの孔に、
その無粋な人工物がつぷり、とすべり込んだ。
「・・・ゃっ・・・な・・・に・・・?」
綾子は思わず口を離し、身を固くして、その侵入物がもたらしたなんともいえない
異物感に耐えた。                                  
「ん・・・ちょっと思いついてさ。ここ、こんなのも売ってるんだね。」
綾子が正視できなかった、アダルトグッズの自動販売機・・・あそこでわざわざ
こんなものを・・・?綾子は羞ずかしくて振り返ることも出来ず、固まったままだ。     
「・・・あや、口がお留守になってるよ?」
カチリ、と音がした。「ブゥゥゥンン・・・。」鈍いモーター音と共に、綾子の体内の
異物が、邪悪に身を震わせはじめる。                        
「いやっ・・・やめてっ・・・!!」
綾子は祐一の身体から横に這い下り、自分で異物をとろうと手を伸ばした。
「ダメダメ・・・動いてる時に引っ張ったりしたら、切れちゃうかもよ?」
せめて振動だけでも止めようと必死で臀の周囲を見ても、それらしいものはない。
祐一の手に握られたリモコンに気づいて奪い取ろうとする綾子の両手をとらえ、
祐一は子供をあやすように抱きかかえて耳に囁いた。
589小さい男 7:2012/02/29(水) 16:15:11.75 ID:Ej5n+QV5
「力を抜いて、身を任せてみて・・・きっと快くなるから。」
淫らな蠕動に馴らされ始めた内奥の感覚が、綾子の四肢から力を奪っていく・・・。
「ちょっと我慢して・・・あやをもっと可愛くしてやるからさ・・・。」
祐一が手を離して起き上がり、力なくシーツに突っ伏した綾子の腰を抱えて大腿を
開いた。拡げさせられた脚の中心に、あれほど渇望した刀身がつきつけられる。
 挿入れられる・・・そう思ったとたん、綾子は力を振り絞って祐一の手から逃れた。
「いやっ・・・!!」
祐一を怖いと思ったのは初めてだった。彼のもとめを拒んだことも・・・。
 我慢してこのまま受け入れてしまえば、きっと自分はいつものように乱れ、
啼かされ、何度も何度も達するだろう。あるいは新しい快楽の地平を見られる
のかもしれない・・・。
 今までも、愛し合う流れの中でみちびかれ、時にはやさしくなだめられて、
綾子は戸惑いながらも新しいことを覚え、さらに深い悦びと結びつきを得てきた。
けれど今夜はなぜか何かが違う気がして、この羞ずかしい仕打ちをすんなり
受け入れることができなかった。もしもこのまま許してしまったら、綾子自身も
ふたりの関係も、取り返しのつかないことになるような気がした。          

「本当に・・・いやなの。とって・・・ください・・・お願い。」
自尊心を奪ってしまいそうな未知の感覚を必死でこらえながら、綾子は祐一の方に
向き直り、震える声ではっきりと言った。大きな瞳から、ぽろぽろと涙が
こぼれ落ちた。                                      
 祐一はハッとしてすぐにスイッチを切った。綾子が大切な存在であることを
やっと思い出したかのように、優しく身体を押さえながら異物をそっと引き抜いた。
「私、帰る・・・ね。」
身体に残る不快感を振り払うように立ち上がり、綾子は小走りにバスルームに
駆け込んだ。呆然としていた祐一がようやく我に返った時、綾子は早くもブラウスと
スカートを身につけてバスルームを出て来た。
「待って、綾子・・・送ってくよ。」
「いい・・・大丈夫だから!」
綾子はソファのそばにあったバッグとコートをつかむと、部屋を飛び出した。
590小さい男 8:2012/02/29(水) 16:21:32.54 ID:Ej5n+QV5
「おねえさん、どうしたの?・・・ひとり?」
ホテルを出て歩き出した綾子に、一台の車が近づいてきた。無視して足を速める
綾子に、ゆっくりとした速度で着いてくる。
「ねえねえ。そんな寒いカッコでどしたの?・・・彼氏とケンカしてホテルから
 飛び出してきたとか?」
都会の真ん中だというのに、ぬぐったように人がいない。人目を避けるカップルに
優しいつくりの建物の並びは閉鎖的で、もともと道行く人も少ない通りだ。
表通りの灯はまだ遠い。急に方向を変えて別の道をとるべきか、でも車を降りて
追ってこられたら・・・綾子は全身をハリネズミのように緊張させながらひたすら
歩いた。
「おい!・・・さっきから話しかけてんのに返事くらいしろよ!お高く止まってても、
 どうせ男とヤろうとしてたんだろ?」
男が車を止めて降りて来た。綾子は足がすくんだ。走り出そうとして、前に立ち
ふさがられ、今にも身体に触れられそうになった時、背後に力強い足音を聞いた。
「彼女に何か用か!」
祐一が綾子をかばうように男との間に割って入った。こうして見ると、男は意外と
背が低く、綾子よりも小さかった。
「ちぇっ・・・なんだよ。そんなデカい女、用はねえよ。」
男は捨てゼリフを吐くと、車に乗って走り去った。                  

「大丈夫?・・・綾子。ひとりで飛び出したりするから・・・。」
怖かった・・・祐一の胸に飛び込んでワッと泣き出したい綾子を、もうひとりの綾子が
押しとどめた。
「ごめんなさい・・・でも、もう大丈夫だから。」
やっとのことでそれだけ言うと、クルッと踵を返してスタスタと歩き出した。
祐一が慌てて追いかける。
「待てよ!・・・悪かった、謝るよ。だから、ひとりで帰るのはやめて?」
大慌てで服を身につけて来たらしい祐一は、上半身は半そでのTシャツだけ、
ベルトはちゃんと通っていず、とりあえず引っつかんできた服を両手にいっぱい
抱えていた。
591小さい男 9:2012/02/29(水) 16:22:44.35 ID:Ej5n+QV5
 綾子は何も言わず最後のブロックを歩ききり、表通りに出た。祐一が先んじて
タクシーを拾った。ドアが開き、綾子は素直にそれに乗り込んだが、祐一が続いて
乗り込もうとするのを目顔で止めた。
「さっきは、助けてくれてありがと。・・・でも、今はひとりになりたいの。」
綾子の口調と表情はむしろ悲しそうで、怒っている風ではないのが、かえって
祐一の心を凍りつかせた。思わず身を引いた祐一の前でドアが閉まり、綾子が
行く先を告げると、車は静かに走り出した。
「待って、綾子・・・忘れもの!」
祐一が抱えあぐねているたくさんの衣類の中に、綾子が浴室に忘れていった
カーディガンがあった。上質のニットの軽くなめらかな手ざわりが、綾子の
しなやかな裸身を思い出させる。今、手をすりぬけていった人の面影のような
それを握りしめ、祐一はいつまでもそこに立ちつくしていた。

 タクシーの中で泣き崩れてしまいそうになるのを、綾子は必死で堪えた。
家に着くと、ルームメイトがまだ帰宅していないのを幸い、自室のベッドに
倒れこんで思い切り泣いた。
(ゆうちゃんのこと、怖いと思うなんて・・・。)
何よりも、それが悲しかった。
(いつも意地悪してくるけど、怖いなんて思ったことなかったのに・・・。)
 綾子を焦らしたり、羞ずかしい言葉でかき乱したり・・・ひと筋縄ではいかない
祐一の愛し方だけれど、それを越えてふたり登りつめる高みのことを思うと、
こんな時でさえ幸福感に胸がいっぱいになる。それにひきかえ、あの無機質な性具が
もたらす感覚は、祐一の指や舌、そして祐一自身が与える体温のある責めとはまるで
違い、ただ冷たく虚しいだけだった。
(もう私のこと、大事に思ってくれてないのかな・・・?)
祐一に拓かれ、馴らされ、知り尽くされてしまっている綾子の身体だった。
急に自分の素肌が無防備にさらされているような恥ずかしさと寂寥感に襲われ、
綾子は両腕で自分を抱きしめた。
592小さい男 10:2012/02/29(水) 16:29:21.98 ID:Ej5n+QV5
『どうせ男とヤろうとしてたんだろ?』
さっきの男の下卑た台詞が耳にのこる。あんな時間にあんな場所を、彼氏と
ケンカして飛び出して来たことが丸わかりの薄着で歩いているから、つけこまれ
たのだ。実際、その直前まで綾子は素裸で祐一に苛まれ、あまつさえ恥ずかしい
場所に恥ずかしい玩具を埋め込まれていたのだから。
 さっきの異物が与えた、たやすく快感に変わってしまいそうな違和感が、
身体の奥に怪しくよみがえり、みじめな気持ちになる。
(ゆうちゃんを信じてる・・・信じたい・・・のに・・・。)
 恋人とは言っても元々は他人同士、ふたりきりの密室で素肌をさらし、男性に
身をゆだねるということは、考えてみればとても危険なことなのだ。だからこそ、
二人の間には深い信頼と思いやりが必要なはずだった。

『綾子。本当にごめん。許して欲しい。』
『電話に出て下さい。そして謝らせて。お願いします。』
『今から謝りに行ったら・・・迷惑?』
さっきから鳴り続けている祐一からの電話に出られないでいたら、今度は次々と
メールが届き始めた。矢継ぎ早な謝罪のメールには、祐一の誠意と必死さが表れていた。
 さっき変な男にからまれた時、助けに来てくれた祐一のことを思い出すと、
胸が高鳴ってしまう。綾子は今怒っているはずなのに、恋しくて気が狂いそうだった。

『今夜はもう寝ます。家には来ないで。』
恋しくてたまらない気持ちと不信感とに引き裂かれる思いの中で、とにかく頭を
冷やそうと、綾子はいささか冷淡ともとれる返信をした。
 電源を切ろうとした瞬間、再び着信音が鳴った。手の中で明滅する祐一の名が、
綾子の心臓を跳びあがらせる。
『わかった。行かないからゆっくりやすんで。でも木曜のこと忘れないで。』
 木曜のこと・・・それは、祐一の家の近所の神社で行われる酉の市のことだった。
そのお祭りには、毎年祐一の店が手焼きせんべいの出店を出す。祐一の父が病に倒れた
去年の大晦日、綾子は祐一に「今年の酉の市には店を手伝ってほしい。」と頼まれたのだ。
(酉の市・・・どうしよう・・・。)
よりによってこんな時に・・・。食事をしながら、当日の仕事の内容や服装についてなど、
ふたりで楽しく打ち合わせしたのがもう何年も昔のような気がした。

『小さい男』前編 おわり
593名無しさん@ピンキー:2012/02/29(水) 17:11:11.41 ID:4CrLbVRS
>>583
投下、お待ちしていました!
前中後編の大作なんて嬉しいです!

ゆうちゃんの嫉妬が思いがけない方向に…。
帰った部屋で泣く綾ちゃんが可哀想で( ; ; )あぁっどうなってしまうの?
続きも楽しみにしています。
594名無しさん@ピンキー:2012/02/29(水) 17:43:09.90 ID:13OkSAVZ
GJGJ!
ドSのゆうちゃん好きだけど、度が過ぎちゃったよー!
ここで前編終了とか>>582さんもイケズw
続き、お待ちしています。
次スレも立ってますしねw
595名無しさん@ピンキー:2012/02/29(水) 20:27:02.19 ID:56jFJl+y
>>582
描写とか丁寧ですごく読み応えがありました
が、こんな状態の二人にしたまま数ヶ月放置だけはご勘弁を〜(泣)
早く仲直りさせてあげてください
中編・後編楽しみにしています
596名無しさん@ピンキー:2012/03/01(木) 12:28:51.22 ID:B7RtmTeM
>>582
新作ありがとうございました!
ドS全開すんごくエロくて なのに真っ最中にキモチがすれ違ってしまうなんて…
早く仲直りする二人を読みたいです!
正座で続きをお待ちしてます!
597名無しさん@ピンキー:2012/03/02(金) 11:44:05.28 ID:cPZ8WUFy
>>582
いいですねえ、祐ちゃんと綾子
ありがとうございました
中・後編が待ち遠しいです
598名無しさん@ピンキー:2012/03/02(金) 21:57:54.86 ID:FcsHhtSe
『小さい男』中篇です。
内容でなく容量でだいたい三つに分けているだけなので、ストーリー豚切り。
そのうえ、スレをまたいで読みにくくなりますが、あんまり間を空けるのも
なんなので・・・。
599小さい男 11:2012/03/02(金) 21:59:43.78 ID:FcsHhtSe
 月曜日。土日を泣き暮らした綾子は、泣きすぎて重く感じる身体を引きずって
出社した。
「綾ちゃん・・・なんか元気なくない?」
会議室に向うため廊下を歩いていると、佐古が話しかけてきた。この人には特に
泣き腫らした顔を見られたくない。あの後何かがあったと思われるのが嫌だった。
「い・・・いや、そんなことないですよ・・・。あ、私ちょっと忘れ物・・・。」
忘れ物をとりに行くふりをして佐古を振り切ろうと急に向きを変えたとたん、ぐき、と
足をひねってしまった。
「・・・い、痛・・・。」
「大丈夫?」
「だ、大丈夫ですよ〜。これくらい。」
痛みをこらえ、なんでもないふりで綾子は自分のデスクに戻ったが、歩こうとすると
足首ににぶい痛みが走る。会社の入っているビル内のクリニックで診てもらうと、
軽い捻挫と言われ、松葉杖を貸してくれた。
「松葉杖なんて、大げさだなあ・・・。」
「捻挫はこじらせると面倒だよ。2、3日はなるべく歩かない方がいい。」
綾子は遠慮したが、周囲のつよい勧めで、佐古に会社の車で送ってもらうことになった。

「待って。杖出してあげるから。」
綾子のマンションの前に着くと、佐古が車の後ろをまわってドアを開けてくれた。
「あ、ありがとう・・・。」
元はと言えば佐古に顔を見られたくないがためにこんなことになったのに、手を貸して
くれようとしている佐古と超近距離で目が合った。慌てて立ち上がろうとして、
痛いほうの足をついてしまい、バランスをくずして佐古に身体を支えられた。
意識しすぎて失敗が続き、かえって佐古とからむ機会を増やしてしまっている・・・綾子は
気まずい思いで手を貸してもらって身体を起こした。
「も・・・もう大丈夫だから、手、はなして・・・。」
だが、佐古は手を離さない。真剣な顔をした佐古は『残念なイケメン』から残念の
二字がはずれて、綾子の胸は妖しく高鳴り始めた。 
600小さい男 12:2012/03/02(金) 22:00:51.13 ID:FcsHhtSe
「・・・大丈夫じゃないよ。今朝からずっと様子が変だし、ほっておけない。」
心臓がドキドキしてくるのをさとられたくなくて、綾子が振り切ろうとした手を、
佐古はさらに強い力でつかんだ。
「・・・あいつのせいなのか?俺・・・綾ちゃんにそんな顔させとく奴に、君をまかせて
 おきたくないよ。」
「ちっ、ちが・・・。」
綾子が痛みに顔をしかめると、佐古はハッとして手を離した。               
「ごめん・・・こんなことしたら、俺も偉そうなこと言えないな。でも、俺ずっと
 綾ちゃんのこと・・・。」
綾子は思わず後ろの車の座席に座りこんだ。佐古が心配そうにかがみこむ。
「ごめん・・・弱ってるところにつけこむつもりじゃないんだ。でも・・・俺ならもっと、
 綾ちゃんを大切にするよ。」
佐古はくるりと背中を向けると、背に沿わせた手をおどけた調子で振って手招きした。
「どうぞ。お姫様。」」
「やっ、やだ・・・いいですよぉ。」
佐古はしゃがんだままもう一度振り向くと、下から綾子を見上げた。
「・・・下からのキスっていうのも、萌えると思うんだ・・・試してみない?」
(バ・・・バブルの忘れもの・・・。)
真剣に迫っておいて、このセリフ・・・綾子は脱力してしまった。けれど、軽い言葉とは
裏腹に真剣な佐古の目が、視界の中で急速に近づいてきた・・・。

「バタン!・・・ブゥーッッ・・・。」
どこかでドアが閉まり、車が走り去る音がした。綾子ははじかれたように立ち上がった。
車の後ろ姿を追いかけようとして転びそうになり、がっくりと膝をついた。
 見慣れた黒のSUV・・・どうして一番見られたくないシーンを見られてしまったのか。

「大丈夫?・・・今の車って、もしかして・・・。」
助け起こすと、綾子の瞳からは涙が流れていた。佐古は松葉杖を取って来てやり、
黙って部屋まで送った。                                  
「ごめん・・・俺、悪いことしちゃったな。」
「・・・いえ・・・佐古さんのせいじゃないんです・・・送ってくださって、ありがとう。」
佐古は何か言いたそうなのをぐっとこらえた表情で、
「・・・足、大事にしろよ。」
とだけ言って帰って行った。
「おやすみなさい。」
綾子は涙をぬぐうとそっと玄関を閉めた。ルームメイトのサチが松葉杖姿を見て
心配していろいろ聞いてくるのに笑顔でこたえ、自分の部屋に入るとくず折れるように
ベッドに顔をうずめた。
601小さい男 13:2012/03/02(金) 22:01:49.52 ID:FcsHhtSe
 水曜日。綾子はずっと前から酉の市のために木曜日は有給休暇をとってあった。
(やっぱり、明日は行こう・・・約束したんだもん。そして・・・。)
祐一と仲直りしたい。佐古とのことも、誤解を解かなければ・・・。たった五日、
それも綾子から連絡を絶ったというのに、祐一と意思の疎通ができないこの日々、
綾子は心にぽっかり穴が開いたようなさびしさに耐え切れなくなっていた。
「平泉くん。足の痛いとこ悪いけど、明日出てもらえないかな?」
退社時刻も近づいた頃、部長のデスクに呼ばれ、同僚のピンチヒッターを頼まれた。
「山脇くんね、家族にご不幸があって急に田舎に帰らなきゃならなくなったんだ。
 彼女が担当してる資料、僕の明後日の商談にどうしても必要でね。君が代わりに
 作ってもらえないか?」
山脇は綾子の二年先輩で、日頃世話になっているし、元々急な代打や休日出勤など
日常茶飯事の職場だった。綾子は何も言わずにその仕事を引き受けた。

 その夜。少しでも早く仕上げて、明日たとえ遅れてもいいから祐一の元に駆けつけ
ようと、綾子は徹夜を覚悟でPCに向かっていた。
「もう11時だよ・・・いったん帰って、明日ゆっくりやったら?俺も手伝うからさ。」
誰もいないオフィス。コーヒーを片手に佐古が声をかけてきた。
「部長は明日出張だから、明後日の朝、説明すればいいんですよね?私、明日
 どうしても行かなきゃいけない約束があって・・・。今夜じゅうに仕上げちゃい
 たいんです。」
「徹夜してでも行きたい約束って・・・もしかして、あの彼?」
「え・・・は、はい。」
「前にも言ったけど・・・俺、綾ちゃんが無理してる感じなのが嫌なんだ。急な仕事で
 行けないって説明してもわかってくれないような奴なのか?」
「ち、ちがうんです。私、ゆうちゃんと・・・あ、彼・・・とケンカしちゃって・・・。
 でも、 明日は彼がお祭りに出すおせんべいの出店を手伝うって、ずっと前からの
 約束なんです。」
去年の大晦日、父親が急病に倒れ、心細そうだった祐一を思うと、愛しさがつのる。
「お父さんが年末に倒れちゃって、彼独りでお店出すの初めてなんです。だから
 私、役に立たないかも知れないけど・・・そばにいてあげたいんです。」
602小さい男 14:2012/03/02(金) 22:02:44.77 ID:FcsHhtSe
「ふうん・・・。」
佐古は苦い顔をして聞いていたが、ふっと笑って自分のパソコンを開いた。
「じゃ、俺のPCにデータ送って。二人でやれば明日の朝までには間に合うだろ。」
「え・・・で、でも、そんなの悪いです。」
「言ったろ?綾ちゃんが悲しい顔してるのは嫌なんだって。ほら、さっさと送れよ。」
「佐古さん・・・。」
「この間、彼氏に誤解させるようなことしちゃったから、お詫びだよ。」

 朝。同僚達が出社する時間にはまだ早いとは言え、街はもう目覚め始める時間。
佐古のサポートのおかげで資料は無事完成した。
「あ〜あ。やっぱり完徹になっちまったな。」
「佐古さん・・・ありがとうございました。」
「”ゆうちゃん”によろしくな。・・・まあ、俺も”ゆうちゃん”なんだけどさ。
 ・・・忘れてるみたいだけど。」
「・・・あ。」
また微妙なことを言い出す佐古だったが、綾子はその軽さになんとなく救われる
思いで会社を出た。
 約束の時間に間に合わせるには、もう家に帰っている暇はない。綾子はそのまま
祐一の家に向かった。最寄の駅を出ると、神社のある町は、祭りの準備に心なしか
浮き立って見える。綾子は逸る心を抑え、傷めた足を気づかいながらも足早に歩いた。

「・・・ゆうちゃん。」
「・・・綾子?!」
店の前で、器材や商品をワンボックスカーに積み込んでいた祐一が、驚いて顔を上げた。
「今日、手伝う約束・・・でしょ?」
「あ・・・うん!ありがとう。・・・でも、そのカッコ・・・?」
会社から直行してきた綾子は、かっちりしたジャケットにブラウスというOLスタイル
のままだった。 
603小さい男 15:2012/03/02(金) 22:04:04.35 ID:FcsHhtSe
「あ、あの・・・会社から来たから・・・。」
「下はパンツだからいいとして・・・じゃ、上脱いでこれ着て。ずっと外だと冷えるから。」
祐一は一瞬怪訝な顔をしたが、綾子が会社から来たわけについて深く考える暇も無いらしく、
自分が来ていたパーカを脱いで、エプロンと一緒に綾子に渡した。                 
「え・・・でも、ゆうちゃんは?」
「俺はずっと火の前だからじき暑くなるし、もう時間ないからとりあえずこれでいいや。」
白い仕事着の上に、車内に置いてあった○○農協とネームの入ったカストロコートを
羽織る。
「これ、いいだろ?ウチがせんべい用の米買う契約してる農家のじいちゃんが、
 寒いだろってくれたんだ。」
「なんか・・・妙に似合うね。」
綾子の言葉に、祐一がニヤッと笑った。祐一の笑顔を、ずいぶん久しぶりに見た気がした。
(もぉ・・・何着てもカッコいいんだから・・・。)
かなり微妙なスタイルでも素敵に見えるのは、働く男の魅力か、綾子の惚れた弱みか・・・。
時間がないおかげで、気まずい思いをしている暇もなく、二人は車で神社に向った。      

 境内の指定された場所にテントや机を組み立て、開店の用意をする。商品を並べながら
祐一が説明してくれた、せんべいの種類や値段、販売の段取りを綾子は一生懸命覚えた。
 せんべいを焼く器械に火が入り、香ばしい匂いが漂いはじめる。
「わあ、おいしそう。一枚ください。」
境内が活気に満ちてくる。一日かぎりの「せんべい ささき」の支店の開店だ。
 客は切れ目なく訪れ、祐一は汗だくになってせんべいを焼いている。
(やっぱり、無理しても来てよかった・・・。)
客から受け取った代金を箱にしまいながら、ふと祐一の店で一緒に働く自分を思い浮かべ、
綾子は真剣な顔でせんべいを焼いている祐一をみつめた。
「ん?・・・なんだよ。ボーッとしてて、おつり間違えんなよ。」
「だ・・・大丈夫だもん!」
「あ、そうだ・・・。これ、今のうちに食っとけよ。」
渡されたレジ袋には、祐一が握ったらしいおにぎりと、水筒に入ったお茶。物陰で
流し込むように交代で昼食を済ませ、二人は午後もめいっぱい働いた。
604小さい男 16:2012/03/02(金) 22:07:08.68 ID:FcsHhtSe
「いらっしゃい。」
「あの・・・ユウお兄ちゃんは?」
晩秋の日が落ち、店々に灯が入り始めた頃、超有名校の制服を着た女子高生が店の前に
立った。真っ黒な髪のバングスが印象的な、かなりの美少女だ。
「え・・・お、にい・・・?」
「おう!マユリかぁ。お前学校は?」
「もう終わったよ!・・・塾はサボったけど。」
「サボったぁ?・・・んなことじゃ、東大入れねーぞ!・・・あ、こいつさ、俺の幼なじみの
 ケンスケの妹で・・・。」
「ユウお兄ちゃんの幼なじみの!長谷真百合です。」
「俺が子供の頃は、お前は赤ちゃんだったっつーの。・・・ケンスケって、綾子も会ったこと
 あるだろ?ほら、フットサルの試合の時・・・。俺とは家が近所でサッカー仲間でさ。
 真百合には小さい頃よく勉強教えてやったもんだけど、とっくの昔に追い越されたな。」
綾子がふと視線を感じて真百合を見ると、ジトッとした表情で綾子をみつめている。
「・・・お兄ちゃん、もしかしてこのひととつきあってるの?」
「え・・・?・・・い、いや・・・まあ・・・。」
「私との約束、忘れてないよね?」
「・・・は?・・・約束ってなんだよ。」
「私を!お嫁さんにするって!」
「それはお前が一方的に宣言しただけだろーが。しかも7才の時に。お前、来年受験
 だってのに、こんなとこで油売ってちゃだめだろ?・・・さあもう帰れ!」
祐一は帰りしぶる少女にわれせんをいっぱい渡し、なんとかなだめて帰らせた。
「ふーーーん。ゆうちゃんって、ほんっと守備範囲広いよね・・・。」
「おま・・・あんな子供の言う事本気にしてんの?だいたいあいつは俺の中学はじまって
 以来の秀才で、せんべい屋の女房なんてなったらもったいないって・・・あ。」
「ふーーーーーん。私ならもったいなくないんだ・・・。」
「だーかーらー。」
いつの間にか、以前のような気の置けない言い合いが復活していた。わだかまりが消え、
ふたりの間の親密な空気がよみがえってくる。
605小さい男 17
「あ・・・綾子・・・今日、さ・・・。」
祐一が綾子の目をじっと見つめ、商品の陰に隠れてギュッと手を握った。もしかして、
この間のことを謝ろうとしているのだろうか・・・?心よりも先に身体が強烈にあの日の
記憶を呼び覚まし、綾子は身をすくませた。けれど、祐一の温かい手と強いまなざしを
離すことができない。
「ちょっと・・・ザラメせんべい下さい。」
「あ、は、はいっ・・・!」
握っていた手がパッと離れ、綾子は慌てて客に応対した。
「それは生姜せんべい・・・ザラメはこっちでしょ。まったく・・・ゆうちゃん、
 お嫁さんになる人には、もっと教育しとかなきゃ。」
「あ、元木さん、いつもありがとうございます。・・・いや〜、コイツ初めてなもんで、
 長い眼でみてやってくださいよ。」
(ちょ・・・ゆうちゃん、もうヨメあつかい?)
祐一が身内あつかいしてくれたことはちょっと嬉しかったけれど、それにしても
今日はこの手の客が少なくなかった。祭りだけの常連にしろ、店の方の常連にしろ、
こうした年配の女性客たちは、まるで綾子が息子や孫の嫁のようにチェックを入れてくる。
「なんか・・・アウェー感ハンパないんですけど・・・。」
うるさそうな客が去った後、綾子はちょっと憂鬱そうにため息をついた。
「まあまあ・・・客商売なんてこんなもんだよ。じいさんの代から来てくれてる
 人たちなんだから、大事にしなくっちゃ、ね。」
さっき祐一が言いかけたことはなんだったのか・・・それきり二人はまた少し増えてきた
客の応対に追われ、祭りが果てるまで懸命に働いた。