【俺の妹】伏見つかさエロパロ20【十三番目のねこシス】

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 だが……、緊張が解けたら、足の痺れが一気にきやがった。

「高坂さん、大丈夫ですか?」

 傍目にもヤバイ状況なんだろうな。
 さっきまでは全然気にならなかったのに、今は膝から下が石みたいにコチコチで、全然感覚がねぇ。

 砂の上に緋毛氈が敷いてあったから意外にクッションがある感じだったが、その砂に膝頭が妙にめり込ん
で、かえって脚の血行を損ねたらしい。
 何よりも、保科さんに指摘された細身のズボンが仇になった。

「もう少しの辛抱ですから……」

 茶事はもう終わり、招待客たちは保科邸の中庭をめでながら四方山話をしている。
 その話題も、市の行政のこととか、寺での行事のこととか、聖俗ごちゃまぜでとりとめがない。
 取り敢えずは、俺にもあやせにも関係のない話題だから、もっぱら聞き役に徹することにした。というか、
全然話題についていけないし、何よりも足の具合が相当にヤバくて、じっと黙っているしかなかった。

「お兄さん……、お菓子でも食べれば、少しは気が紛れるんじゃ……」

「……そうだな、未だ落雁を食べていない」

 俺の状態が洒落にならないくらい宜しくないことが、あやせにも分かったようだ。
 そういや、こいつがこんな気遣いを見せるのは、これが初めてかも知れねぇな。

 そんなことを思いつつ、俺は懐紙で包んでおいた落雁を一口かじった。嫌味のないまったりとした甘さが
あって、今まで食べたどの落雁よりも、つまりは麻奈実の実家である田村屋のものよりも旨い。
 どうやら、普通の白砂糖ではなく、和三盆あたりの超高級なものを使っているようだ。

「この落雁、結構美味しいものなんですね」

 普段のあやせだったら、もはや宿敵の一人であろう保科さんを前にして、こんなことは言わなかっただろ
う。一応は、俺の気を紛らわせようということか。

「甘さが上品なのに加えて、粉っぽい感じがしない。相当な高級品だな」

 俺もあやせに相槌を打った。
 実際、あやせと何かしらの会話があると、束の間だが、石の様になっちまった自分の足のことを忘れられる。 
 そのあやせは、ちょっと保科さんの方を窺っていた。
 そして、今は彼女が招待客たちとの談笑に気を取られていることを確認すると、俺の耳元で囁いた。

「来てよかったですか……」

「……今はピンチだが、こうした茶事に出られるのは、一生のうちでそうそうないだろう。だから、来てよ
かった……」

「そうですね……。わたしも、ちょっとだけそんな風に思いました」

「……そうか、それなら救いがある……」

 空はうす曇で、暑くなく寒くなく、絶好の野点日和だった。
 気をしっかり保つために、俺は中庭の枯山水をじっと見た。実のところは、高さが子供の背丈にも満たな
い庭石がいくつかと、その庭石の間に白砂が敷かれているだけなのだが、箒目で水の流れを表現した白砂を
凝視していると、本当にそこに水流があるような気がしてきた。
593風(後編) 37/63:2011/07/18(月) 10:30:41.99 ID:8mgfk2k0
「でも、お兄さん。顔色が……」

「何、大丈夫だ」

 あやせにそう言われるとは、本当に状態が悪いんだな。
 枯山水を本物の水流と感じたのも、苦痛で錯乱しかけているためなのかも知れない。
 そろそろ、この野点が終わってくれないと、足どころか、頭もどうにかなってしまいそうだ。

「では、名残惜しいですけど、そろそろお開きに致しましょうか」

 唐突に響いた保科さんのその声で、俺は心底助かったと思った。
 時計を見ると、午後四時きっかりだ。招待状に書いてあった通りの時間で野点を終えたらしい。
 保科さんも俺の具合がかなり悪いことは知っているが、接待する側の手前、他の招待客を無視して野点を
早めに切り上げるなんてのはできないからな。

「母屋の一室にお酒と簡単なお料理を用意しております。宜しければ、そちらで暫しおくつろぎください」

 先ほど落雁を配ってくれた女性がそう言って招待客たちを母屋へと案内している。
 まず、お茶の先生が先に立ち、続いて市長、市長の夫人、坊さんといった具合に、各々が席を立って母屋
の一室とやらへ向かっていった。

 後に残るは、保科さんと俺とあやせだけだ。

「高坂さん、もう脚を伸ばしても大丈夫ですよ」

 そう言われても、感覚が失せた俺の下肢は、膝から下が石みたいだ。俺は、いざるように身じろぎして、
足の痺れをごまかそうとした。

「お兄さん、何を貧乏ゆすりしているんですか!」

 我ながら相当にみっともないことは自覚しているが、こんな風にしか動けないんだからどうしようもない。
 それでも俺は、どうにかして立ち上がろうと、恐る恐る腰を浮かせた。
 その瞬間、痺れを通り越した激痛が膝下からつま先まで襲ってきて、俺は堪えるために目をつぶった。

「もう〜、じれったい!」

 そんな状況で、あやせが俺の背中を両掌でどやしつけたからたまらない。

「バカ! いきなり何しやがる」

 俺はバランスを崩し、つんのめった。

「!!!!!」

 いきなり、ぐにょんとした弾力を顔面に感じ、ほんのりとした香りが俺の鼻腔をくすぐった。
 驚いて目を開けると、鴇色の着物と白い襦袢の重なりがあって、その隙間からは白い柔肌が……。

「あぅ! こ、高坂さん、い、いけませんわ、こんなことなんて……」

 ちょっと上ずった感じの保科さんの声が、すぐ上から聞こえてきた。
 あろうことか、あやせに背中を突き飛ばされた俺は、保科さんの胸元に顔面をダイブさせていたのだ。

「う、うわぁ! す、すいません」

 慌てて俺は保科さんの身体から離れようとした。だが、悲しいかな、膝から下の感覚が定かでない状態で
は、立つことすらおぼつかず、俺の頭は、そのままずるずると保科さんの胸元から腹部をなぞるように落ち
594風(後編) 38/63:2011/07/18(月) 10:31:57.10 ID:8mgfk2k0
ていき、ついには彼女の太腿の上へと滑り落ちてしまった。

「な、な、な、何をやってるんですかぁ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 背中越しにあやせの罵声が聞こえる。
 俺はというと、顔面を保科さんの股間の辺りにめり込ませるようにして、もがいていた。
 もがきながらも、『この鴇色の振袖と襦袢の下には、お嬢様の秘密の花園がある。お、思わず匂いを
……』とか一瞬思ってしまうのだから、我ながら浅ましい。だが、そんな場合じゃねぇよな。

「あ、あやせぇ、な、何とかしてくれぇ!」

 自分の脚が言うことを聞いてくれない俺は、恥も外聞もなく、自称俺の妹様に助けを求めた。

「もぅ、ふざけないでください。お兄さんは変態だから、わざとそんなことをしてるんでしょ?!」

「バカ、こうなったのは、お前が突き飛ばしたからだろうが! それに本当に脚が動かないんだよ! 
だから、早く何とかしてくれぇ!!」

 保科さんに対して、故意にこんな狼藉を働けるわけがない。
 彼女は、俺たちとは住む世界が違う、アンタッチャブルな存在なんだからな。

「本当に、もう、バカで変態で、世話が焼けるんだから……」

 襟首がぐいとばかりに引っ掴まれた。
 いてぇ! あやせの奴、どさくさ紛れに俺のうなじに爪を立てやがった。腹は立つけど、この状況から
脱するのが先決だからしょうがない。
 だが、あやせの奴は、俺の襟首を引っ掴んではいるものの、いっこうに持ち上げようとしないじゃないか。
 何事かと思い、横目でそっと窺うと、俺の襟首を掴んでいるあやせの手には、保科さんの手が添えられて
いた。

「あやせさん、そのように乱暴なのはいけません」

「で、でも、これは兄がわたしにそうしろと命じたから、その通りにしているだけです。何よりも、
このまま兄の失礼な振る舞いをほっとくわけにもいきませんから」

「そうかも知れませんが、高坂さんは足にかなりのダメージを負っています。無理に動かすのは宜しくあり
ません。ですから、このまま、わたくしの膝枕でゆっくり休んでいただくことに致しましょう」

「で、でも、それじゃ、保科さんにご迷惑がかかります。それに、これ以上、兄を甘やかすのは問題です。
兄は変態ですから、保科さんに膝枕をしてもらっている間に、エ、エッチなことを考えるし、も、もしかし
たら、保科さんによからぬことをするかも知れません」

 毎度のことだけど、ひでぇ言われようだな。少しでも俺に対する保科さんの印象を悪くしようって魂胆か。
今となっては、これ以下ってのはないぐらい、落ちるところまで落ちた感じだけどな。
 だが、さすがはド天然恐るべし。

「ほほほほ……、よいではありませんか。それでこそ殿方でしょう? それにわたくし自身が、高坂さんに
膝枕をしてあげたいのです。それなら何も問題はありません」

「そ、そのようなことをしていただく謂れはありません!」

「あやせさんにはなくても、わたくしにはあります。何よりも、高坂さんは足の痺れがひどくて、動けない
のですから、今しばらく、楽な姿勢で休ませてあげなくてはいけません」

「で、でも……」
595風(後編) 39/63:2011/07/18(月) 10:33:04.23 ID:8mgfk2k0
 やんわりとした口調だったが、あの強情なあやせが押し黙った。
 俺にも分かるが、保科さんの笑顔には、抗いがたい何かがあるんだよな。

「高坂さん……。宜しければわたくしの膝枕で暫しお休みください。でも、まずは、そのままお顔をちょっ
と、右に向けていただきますか? そのままだと、わたくしもちょっと恥ずかしいです」

 そういえば、俺って、保科さんの股間の辺りに顔面を埋めたままだったんだよな。なんてぇ醜態だろうね。
 俺は腕立て伏せをするようにして上体を持ち上げ、寝返りを打つようにして、うつ伏せから仰向けになった。

「取り敢えず、仰向けになりました。でも、これ以上、足が思うようには動いてくれません……」

 仰向けになった俺の後頭部は、保科さんの股間辺りにめり込んでいる。顔面がめり込んでいるよりもマシ
だが、依然として芳しい状況ではない。
 だから、保科さんが横にずれて、俺の頭を大腿部に乗せるようにして欲しかった。だが、保科さんは艶然
として、俺を見詰めていた。

「このままで宜しいではありませんか。こうした方が、高坂さんのお顔がよく見えます。それに、
わたくしも……」

 そう言いかけて、保科さんは、白魚のような指を俺の額に伸ばし、浮き出ていた脂汗を拭うように撫で回
した。

「あ、あの……」

「こうして、高坂さんのお世話をさせていただけるのは、正直うれしゅうございます」

 憂いを帯びた瞳が、俺をじっと見守っていた。その眼差しは、あくまでも優しく、柔和だった。

「保科さん……」

「高坂さんは、このまま楽にしていてください。何も考えず、何も思い悩まず、ただただ、緊張を解いて、
わたくしに御身を委ねてくださればよいのです」

「は、はい……?」

 そう言われても、襦袢と振袖の着物越しに、保科さんの温もりが伝わってくるじゃねぇか。しかも、その
温もりって、保科さんのオマタと太腿からのものなんだぜ。こ、これはヤバイ……。

「……お兄さん……」

 自称俺の妹様が、保科さんに身を任せている俺を、恐ろしい形相で睨んでいた。そんな剣呑な状況だって
のに、俺の股間のハイパー兵器は、保科さんからの温もりを受けて、ムクムクと怒張していく。
 その様は、あやせは勿論、保科さんからも丸見えだった。

「ま、まぁ!」

 保科さんが、頬を朱に染めて、驚いている。
 済みませんねぇ。おいらのハイパー兵器は、往々にして制御不能なんすよ。

「それ見たことですか! あ、兄はこのように変態なんです。その兄に膝枕だなんて、じょ、常軌を逸して
います」

 しかし、保科さんは、頬をうっすらと朱に染めていたものの、泰然としたものだ。

「よいではありませんか。殿方とは、このようであると、わたくしも伺っております。それに、高坂さんが
596風(後編) 40/63:2011/07/18(月) 10:34:03.64 ID:8mgfk2k0
わたくしを女として意識されて、かようなことになったとすれば、女冥利に尽きると申しますか、むしろ
光栄です……」

「ほ、保科さん……」

 仰天発言だった。てっきり俺を変態扱いするのかと思ったが、『女冥利に尽きる』とか、『光栄』とか、
エロ過ぎて、ヤバ過ぎる。
 そして、別の意味でヤバイのが俺の傍らに居た。

「う、ううううっ〜〜〜〜〜〜〜」

 自称俺の妹様が、目を吊り上げて、猛獣のように唸っている。もう、完全に怒り心頭。
 あやせからは、俺や保科さんへの怒りや敵意が、致死線量のガンマ線の如く放射されていた。

「あら、あやせさん……。どうかなさいましたか?」

 ド天然の保科さんは、磊落というか呑気なものだ。
 怒りで歪んだ面相を、ゆでだこのように真っ赤にさせているあやせにも、艶然とした笑みを向けている。

「あら、じゃありません! あ、兄が、こ、このような醜態を晒し続けるのは、妹として、が、我慢できま
せん。も、もう、膝枕はやめてください!!」

 そう言い放ったあやせの目が潤んでいた。こいつ、涙目で怒ってやがる。

「困りましたねぇ……。高坂さんは未だ動けるような状態ではなさそうですし……」

「あ、兄は、保科さんに甘えているだけです。これ以上、兄を甘やかされては、妹として保科さんに申し訳
ありませんし、あ、兄のためにもなりません」

「では、あやせさんは、高坂さんをどのようにすれば宜しいのですか?」

「そ、それは……。わ、わたしが……」

 あやせは、何かを言いかけたが、それを打ち消すように、瞑目して首を左右にブンブンと振った。

「……?」

 保科さんが、そんなあやせの反応を、笑顔ながら、小首を微かに傾げて怪訝そうに窺っている。

「と、とにかく、変態な兄に、保科さんの膝枕なんてのは、過分です。横になるのであれば、緋毛氈の上に
でも転がしておけばいいでしょう。がさつな兄は、そんな扱いで十分です」

 ひでぇ……。何なんだよ、この粗大ゴミ一歩手前の扱われ方は……。

「あやせさん……。足を痛めている高坂さんを、そのように扱ってはいけません。今の高坂さんに必要なの
は、いたわりと癒しです。あやせさんが高坂さんを緋毛氈の上に転がしておけばいいなんて思っているので
あれば、なおのこと、わたくしは高坂さんに膝枕をさせていただきます」

「うっ……」

 気丈なあやせが、餅を喉に詰まらせた時のように、苦しげに言葉を詰まらせた。
 言葉遣いこそ丁寧だったが、保科さんには有無をも言わせぬような威圧感がみなぎっていたからな。

「もっと素直になられたらいかがです? 高坂さんに対するあやせさんの刺々しい振る舞いは、あやせさん
が何か意固地になっているせいだと思われます」
597風(後編) 41/63:2011/07/18(月) 10:35:02.97 ID:8mgfk2k0
「そ、そんなことは、ありません!!」

「そうですか。そう仰せであれば、わたくしも、このまま暫し、高坂さんに膝枕をさせていただきます。
自分の気持ちに正直ではない人に、高坂さんを委ねるわけには参りません」

 恐る恐る、上目遣いで窺うと、保科さんは、相変わらず笑顔ではあったが、大きな瞳であやせの白い面相
を凝視している。
 あやせも、その保科さんからの視線を真正面から受け止めるかのように、鬼女顔負けの物凄い形相で睨み
返していた。

「あ、あの……」

 息苦しさに耐えかねて、俺は言葉を紡ぎかけたが、保科さんは俺の口元に白魚のような指をあてがい、
そっと撫で回した。
 『高坂さんは、口出し無用です』ということなんだろう。
 だが、保科さんの一連の行為は、対峙しているあやせにも丸見えだった。

「な、何をしているんですかぁ!! ほ、保科さんが、これ以上、兄をいいように扱うのを黙って見ている
ことはできません」

 いきり立ったあやせの絶叫が、中庭に響き渡った。その声で、何事か? とばかりに、様子を窺う人影が
母屋に認められた。
 それも、さっきの生臭坊主じゃねぇか!

「お、おい、みっともないから、そんな大きな声で喚くんじゃない」

「お兄さんは、黙っていてください!」

 うわ、だめだ。こうなると、あやせの暴走は止まらない。
 保科さんも保科さんだ。何でこんなにも意地を張るんだろう。
 二人の諍いが丸く治まるのなら、俺は緋毛氈どころか、地べたに転がされてもいい。
 だが、そんな風に自虐的なことを思っていたのがいけなかったのだろうか。
 あやせは、なおも保科さんと睨み合っていたが、やにわに俺の右足首を掴んできた。

「うわっ! い、痛いじゃないか」

 血の巡りが戻りつつある箇所を思い切り握られたんだから、たまったもんじゃない。電撃にも似た激痛に、
俺は身を捩じらせた。

「あやせさん! ダメージを受けている高坂さんの足を掴むなんて、非常識過ぎます」

 淑やかな保科さんも、堪りかねたのか、声を荒げた。
 その声で、あやせは、はっとしたように驚いて、そろそろと、俺の足から手を離した。

「い、今のは、兄に対して、申し訳ありませんでした。つい、感情的になって、考えなしに……」

「そうですか……。気持ちが昂ぶって見境がなくなるのは宜しくありませんが、それは誰にでもあり得る
ことでしょう。もしかしたら、わたくしにだってあるかも知れません……」

 これが大人の余裕ってやつなのか。ガキ丸出しのあやせとは大違いだ。
 だが、ガキ丸出しになったことで、あやせは開き直っちまったらしい。
 鼻息荒く保科さんを睨みつけ、あろうことか、保科さんの顔に人差し指を突きつけた。

「見境がなくなったという御指摘は、正直不愉快です。でも、これでわたしも吹っ切れました。兄を返して
ください。兄はわたしのものです! あなたになんか絶対に渡しません!!」
598風(後編) 42/63:2011/07/18(月) 10:35:45.04 ID:8mgfk2k0

 うひゃあ! 俺って、あやせの所有物なのか?
 もう、下宿近くの神社で強引にキスされたのが、年貢の納め時だったらしい。
 しかし、妹であるはずのあやせが、『兄はわたしのもの』なんて言うのを保科さんが聞いたらどう思うだ
ろうか。
 あやせのことを度し難いブラザーコンプレックスの持ち主と思うか、それとも……。

「………………」

 その保科さんは、能面のような硬い表情で、あやせと向き合っていた。こんな表情の保科さんは、初めて
だな。
 今まで以上に気詰まりな雰囲気が、保科邸の中庭に充満していた。
 もう、だめだ……。俺はいざってでも、この場を逃れたくなった。しかし、痺れが失せず、満足に動き
そうもない自分の両足がうらめしい。

「…………そうですか……」

 気詰まりな沈黙は、ため息交じりの保科さんの一言で打ち破られた。

「何が、そうですか、なんですか?!」

 相変わらず般若のように面相を歪めているあやせと違って、保科さんは、いつもの落ち着いた表情を取り
戻していた。

「高坂さんの肉親であるあやせさんが、高坂さんをいとおしく想っておられるのであれば、今は他人である
わたくしの出る幕ではありません。高坂さんはお返し致します」

「だったら、早く兄を返してください!」

 あやせは、保科さんに一歩近づき、彼女の前に立った。握り締めた両の拳が、ぶるぶると震えている。
 これじゃ、仁王立ちして武者震いをしている巴御前か何かだぜ。

「まずは、落ち着いてください。高坂さんはあやせさんに委ねますが、緋毛氈に転がすような粗略な扱いは
絶対にやめていただきたいと思います。その点は、宜しいですね?」

「も、もちろん、そ、そんなことはしません!!」

「では、まずは、わたくしのすぐ隣にお座りください。そうして、わたくしの膝の上から、あやせさんの膝
の上に、高坂さんを移します」

 あやせは、渋々といった感じで、保科さんの右隣に座った。

「こ、これでいいでしょうか?」

 苦手な保科さんに必要以上に接近したくないのか、保科さんとの間には握り拳分だけの隙間があり、なお
かつ、あやせは上体を右に反らせて硬直している。

「もっと、わたくしにぴったりとくっつくようにしてください。そうでないと、高坂さんをあやせさんの膝の上に移せません」

「い、いや、お、俺が動きますよ……」

 足は未だに不自由だったが、上体を起こすことはできる。それに、保科さんに近づきたくないあやせの
ことを、多少は慮ってやらないとな。あやせがヒスを起こすのを、もう見たくねぇ。

「無理はなさらないでくださいね……」
599風(後編) 43/63:2011/07/18(月) 10:36:36.98 ID:8mgfk2k0

 起き上がった俺の上体を、保科さんは両手で支え、右脇に控えているあやせの膝上に誘導した。

「あ、そ、そこは……」

 保科さんの股間の上に代わって、あやせの股間の上へ、俺の後頭部は納まった。

「わたくしと同じように、高坂さんを膝枕で休ませてあげてください」

「で、でも、膝枕って、こんなんじゃなくて、お兄さんの頭が、わ、わたしの膝に対して、よ、横向きに
なるんじゃないんですか?!」

 頬を染めているあやせに、保科さんは艶然と微笑んでいる。

「この方が、高坂さんの頭が安定します。それに、先ほどまで、わたくしもこの体勢で高坂さんを支えて
いたのです。わたくしにできたことは、あやせさんもおできになるはずですよね?」

「……は、はい……」

 声を震わせながら微かに頷いたあやせを認めてから、保科さんは、やおら立ち上がった。

「ほ、保科さん。どちらに?」

 俺の問い掛けに、保科さんは、一瞬だが、笑みが失せた憂いに満ちた表情を覗かせたような気がした。 

「ちょっと、母屋の方へ参ります。他のお客様のお世話をしなければなりませんから。今回は、和尚様の
ような、個性のある方がお出でなので、それなりの注意が必要です」

 母屋から、例の生臭坊主がこっちの様子を窺っていたことを、やはり御存知だったらしい。
 ド天然でも、女ってのは本当に勘が鋭いよな。
 それに、『それなりの注意が必要』ってことは、あの坊主に釘でも刺しておくのかも知れねぇ。

「では、わたくしは、暫しここを離れます。では、あやせさん、高坂さんのことを宜しくお願い致します」

 それだけ言い添えると、保科さんは、舞うような足取りで、母屋へと向かって行った。 
 これで中庭には、俺とあやせの二人きりだ。
 俺は、頭の座りを正すつもりで、首をちょっとだけ左右に振ってみた。

「あ、あうっ……。う、動かないでください……。そ、そこは……、だ、だめですぅ」

「あ、あやせっ!?」

 俺の頭は、あやせの股座をぴったりと塞ぐように置かれていることを思い出した。

「お、お兄さんの、あ、頭が、……に当たっているんです……」

 切なそうな声を上げて、あやせが身悶えていた。
 いつもなら、『ブチ殺します』とか何とか言っている口が、妙に艶っぽいことを吐き出していやがる。

 でも、俺も興奮ものだよな。布地越しとは言え、俺の脳天はあやせの恥骨のちょっと上辺りを押さえてい
て、後頭部は、あやせの秘密の花園に、ずっぽし埋まっているんだぜ。
 そんなことを考えていると、股間のハイパー兵器にエネルギーがチャージされ続けちまうんだがな。
 俺とは別の生き物のように、むくむくと持ち上がるそれをごまかそうと、俺は未だに痺れが失せない足を
だましだまし動かして両膝を持ち上げ、できるだけ内股になった。だが、

「……お兄さん。また、おっきくなってるじゃないですか。この、変態……」
600風(後編) 44/63:2011/07/18(月) 10:37:34.12 ID:8mgfk2k0

 自称俺の妹様の目は欺けなかった。

「し、しかたないだろ。こんな体勢で……」

 そう言うあやせだって、目を潤ませて、自分の胸元を揉むように押さえているじゃねぇか。
 布地越しには秘密の花園、そして、妙にエロいあやせの表情やしぐさを見せつけられたんじゃ、ペニスを
大きくするなってのが酷な話だ。
 それに、俺にも言い分はある。

「変態とか何とか、俺を罵っていながら、お前だって、いやらしいことを考えているんだろ? 態度で丸分
かりだぞ」

 途端に、俺を見下ろしているあやせの表情が、『心外です!』と言わんばかりに険しくなった。

「お兄さんがそうだから、わたしも同様だと思うのは、それこそ失礼じゃありませんか!」

「でもよ、お前って、さっきから、俺のズボンの膨らみをガン見して……、うぉ! 
い、いてぇじゃねぇか!」

 言い終わらないうちに、俺は脇腹を思いっきりつねられた。

「ガン見なんかしてません! いやでも目に入っちゃうから、困るんです」

「じゃぁ、目をつぶってろよ」

「いやです。私が目をつぶっている隙に、変態なお兄さんは、わ、わたしに、よ、よからぬことをするに
違いありません。ええ、きっとそうです」

 俺は、呆れて思わずため息を吐いた。

「じゃ、どうしようもないじゃねぇか……」

「そうですね……。でも……」

 ふと、あやせは、俺から視線を外し、顎を上げた。あやせの喉元が、初夏の淡い光を受けて白く輝いている。

「何やってんだ? お前……」

「空とお屋敷の後ろにある森を見ているんです。雲の切れ間から射し込む光が、森の緑を際立たせていますね」

 そう言われて、俺も目線を空に向けてみた。

「ほんとだ。薄雲の一部が切れて、そこから日の光が射し込んでやがる」

 夕方近くになって、いくぶん赤みを帯びた日の光が、灰色の雲の隙間から光の筋となって降り注いでいた。
 どっかで見たような構図だな、と思ったら、先週、黒猫や沙織と一緒にお茶を飲んだホテルの天井にあっ
たフレスコ画に似ている。

「あらためて見ると、お屋敷の背後にある森も結構な規模ですね」

「そうだな。保科さんの屋敷以外に人工的なものは全然ない」

 こんな光景、千葉市内には絶対にないだろう。
601風(後編) 45/63:2011/07/18(月) 10:38:28.12 ID:8mgfk2k0
 この森も保科家の私有地で、そのために乱開発を免れてきたに違いない。

「……綺麗ですね。なんてことはない雑木林なのに」

「新緑っていう時期はちょっと過ぎちまったみたいだが、それでも十分に美しいな。きっと、秋になったら、
紅葉が見事だろう」

 こんな自然に囲まれて、保科さんは生まれ育ってきたんだな。
 せせこましい街中で暮らしてきた俺やあやせとは、価値観やものの捉え方が違うのは当然のことなんだ。

「でも、もう、ここを訪れることはないでしょう……。少なくともわたしは……」

「そりゃそうだ。今回、俺たちがここに呼ばれたのは、何かの間違いなんだよ」

「そうでしょうか? 保科さんは、お兄さんに興味があるから、わたしたちを招待したんです。あの人は、
本当に油断がならない女です」

 保科さんを、俺にちょっかいを出す“悪い虫”と決めつけてやがる。
 常識的には、保科さんのようなお嬢様が、俺のようなどこの馬の骨とも知れない野郎を相手にするとは思
えないんだがな。それに……、

「さっき俺は保科さんの胸に顔面ダイブして、あまっさえ、彼女の股間に顔を突っ込んだんだぜ。こんな
無礼なことをやっちまったんじゃ、もうお仕舞いだろうさ……」

「……本当にお兄さんって、真性のバカですか?」

「また、バカ扱いか……」

「わたしは、その時の彼女の様子を一部始終見てましたけど、お兄さんがやったことは、彼女にとって
“ご褒美”って感じでした」

「嘘だろ……。あり得ねぇ」

「保科さんの胸元と股座に顔を突っ込んでいたお兄さんには、その時の様子は全然見えていなかったじゃ
ないですか」

「だが、彼女にとって“ご褒美”ってのは嘘くさい。お前が見た保科さんの様子はどうだったんだよ」

 空を見上げていたあやせが、膨れっ面で、俺の顔を睨みつけてきた。

「……それをわたしに言えと?」

 虹彩が失せた冷たい瞳が、俺を見下ろしていた。

「あ、ああ、いや、話したくないなら、別段無理に話さなくてもいいからさ、と、とにかく、落ち着こうぜ」

 あやせたん、マジこぇ〜。

「……そうですね。わたしは、あの女のことを考えただけでムカムカするんです。その辺は、お兄さんも察
してください」

「……そ、そうだな……」

 こりゃ、あやせと保科さんが和解するってことは絶対になさそうだな。保科さんにあやせに対する敵意は
窺えないが、あやせときたら、保科さんを親の仇ばりに嫌悪してやがる。
602風(後編) 46/63:2011/07/18(月) 10:39:26.68 ID:8mgfk2k0
 黒猫との関係もそうだが、こいつは本当に業が深いなぁ……。

「……うふふ……」

 そのあやせが、唐突に含み笑いをしてやがる。

「何だよ、変に笑いやがって、気持ち悪いな」

「だって、お兄さんの怯えた表情が可愛らしくって……」

「お、おい……」

 あやせは、細い指先を俺の額に当て、そのまま鼻筋をなぞり、俺の口元にその指を添えた。

「そのお兄さんは、わたしの膝の上で、わたしのなすがまま……。膝枕って、ちょっと恥ずかしいけど、
こうしてお兄さんと一緒に居られるのは、悪くないですね……」

「そ、そうなのか?」

 ビビリ気味な俺がおかしかったのか、あやせは一瞬、くすりと笑い。目をつぶった。

「目はつぶらないんじゃなかったのか?」

「……気が変わりました。それに、目をつぶっていると、風の音が聞こえるんですよ」

「風の音? 風なんか大して吹いてないぜ」

「お兄さんも目をつぶってみれば分かります……」

 暗に促されて、俺も瞑目してみた。
 目をつぶり、耳を澄ませていると、たしかに、風に揺れる木々のざわめきが感じられた。

「まるで、潮騒のようだな……」

「ええ……、不思議と落ち着きますね、この音は」

「こういうのも悪くないな」

「そうですね……。でも、お兄さん、足の具合はどうですか?」

 そうだった。保科さんとあやせの膝の上で、だいぶ長いこと寝っ転がっていたからな。
 俺は、両足の足首と膝を交互に動かしてみて、不快な痺れが残っていないことを確認した。

「おかげさまで、よくなったよ。もう、膝枕は要らないな」

 俺は、目を開けて、ゆっくりと起き上がろうとしたが、俺の両肩にはあやせの手がそっと添えられた。

「ど、どうしたんだ?」

「せっかくですから、もうしばらく、お兄さんに膝枕をさせてください」

 瞑目したままのあやせは、先刻のような膨れっ面ではなく、菩薩のような穏やかな表情を浮かべていた。

「い、いいのか? お前だって重いし、そろそろしんどくないか?」

「こんな機会は滅多にないでしょうから、わたしはもうちょっとこのままで居たいんです。だから、
お兄さんも目をつぶって、楽にしていてくださいね」
603風(後編) 47/63:2011/07/18(月) 10:40:11.04 ID:8mgfk2k0

「そういうことなら……」

 俺は再び瞑目した。木々の微かなざわめきが、潮騒のように聞こえてくる。


*  *  *
「お二方、そろそろ目を覚ましていただけないでしょうか?」

 鈴を転がすような優美な声で、俺とあやせは目を開けて、はっとした。

「あ、あれ?!」

 いつの間にか、俺もあやせも寝入ってしまったらしい。
 しかも、寝入ったあやせは、俺の身体に覆い被さるようになっていて、俺の鼻先にはあやせの下腹部が
あった。
 そして、あやせも俺と似たような有様だ。

「きゃっ! な、何で、お兄さんのお腹が、わたしの目の前にあるんですかぁ?!」

「知るか! そんなこと」

 “シックス・ナイン”ってこんな体勢なんだろうな。
 そんな有様を保科さんに見られちまったなんて、恥の上塗りもいいところだ。だが、

「今日は陽気が宜しいので、お二方とも、本当に気持ちよさそうにお休みでした。無理に起こすのも無粋と
思いましたが、もう、夕暮れ間近ですので……」

 ヤバイ状態で寝っ転がっていたことは突っ込まない。これも育ちのよさの賜物だろうか。

「うわ、もう、こんな時間?!」

 腕時計を見たあやせが、素っ頓狂な声を上げた。時刻は午後六時を過ぎていたのだ。

「そうですね、かれこれ、一時間半はお休みになっていたでしょうか」

「そ、そんなに長く……」

 あやせが絶句するのも無理はねぇな。俺もぐっすり眠っちまっていたのか、少なくとも一時間ほどの記憶
がまるでない。
 俺は、上体を起こして、辺りを窺った。
 薄暗くなった中庭に居るのは、俺とあやせと保科さんだけだ。
 母屋の方も静まり返っている。

『何だか、静か過ぎて、気味が悪いです……』

 あやせが、保科さんに聞こえないよう、俺にそっと耳打ちした。
 たしかにな。失礼ながら、その点に関しては、俺も同感だ。人の気配が全くないわけじゃないが、妙に静
か過ぎる。

「他の招待客の皆様は、どうされたんですか?」

「先ほど、皆様お帰りになられました」

「そ、そうですか……」
604編) 48/63:2011/07/18(月) 10:41:22.24 ID:8mgfk2k0
 そうだとしても、どうも納得がいかない。
 宴が終わったとしても、あれだけの人数分のもてなしをしたのであれば、その後片付けで多少はドタバタ
するはずだ。なのに、その気配がない。

『狐につままれたような気分だぜ』

 俺の囁きに、あやせは微かに頷いた。
 時刻は、ちょうど“誰そ彼時”。高校の時、古文の教師が、『妖怪変化が蠢き出す』と言っていた頃合いだ。

 不意に、保科家の祖先が鬼女の一族であることと、保科家の婿が早逝するという噂を思い出し、
俺は思わず身震いした。

「宜しければ、母屋に上がられて、あらためてお茶でもいかがですか?」

 俺とあやせは互いに顔を見合わせ、意見の一致をみた。

「せっかくだけど、そろそろおいとま致します。ちょっと長居し過ぎましたから……」

「そうですか。それでしたら、お車を用意致しますので、それに乗ってお帰りください」

「そこまでしていただかなくても、結構です」

「いいえ、お二方は、この街に不案内でしょうし、拙宅の周辺に人家はほとんどありません。最寄りのバス
停まで距離がありますし、バスの本数も限られております。もし、帰路、道に迷われたりしたら申し訳あり
ませんから、なにとぞ、拙宅の車でお帰りくださいませ」

 う〜ん、保科さんの言うことはごもっともだ。
 明るいうちなら、俺たち二人だけで何とかなったが、暗くなってくると、だいぶ勝手が違う。

「では、お言葉に甘えて、宜しくお願い致します」

 保科さんに借りを作りたくないであろうあやせも、これには何も言わなかった。
 何せ、保科邸が、この街のどこいら辺にあるのかすら分からないんだから、正直、どうやって帰っていい
のか見当もつかなかったからな。

「では、履物を履いて、わたくしについて来てください」

 保科さんに促されるまま、俺たちは歩いて行った。
 既に辺りは薄暗く、さらには保科邸の様子に疎いということともあって、俺もあやせもどこをどう通った
のかよく分からないまま、保科邸の駐車場らしい広場に着いた。

「あの車にお乗りください」

 広場には、既にエンジンがかかっている国産の中型セダンが停まっていた。
 ベンツとかBMWとかじゃないのが、かえってセンスがいい。やたら高級外車にこだわる成金とは違うの
だろう。だが、それにしても……、

『妙に手際がよすぎませんか? やっぱり変です……』

 あやせが眉をひそめて、俺に囁いた。
 全くだ。こうまで手際がよすぎると、たしかに気味が少々悪い。それに、俺は川原さんから、保科家の噂
を聞いていたから、なおさらだ。

 保科さんは、俺たちがそんなことを囁いていることを知らずに、すたすたと件の車に歩み寄っていった。
605風(後編) 49/63:2011/07/18(月) 10:42:24.70 ID:8mgfk2k0
「お嬢様。すぐにでも出発できます」

 運転席からスーツ姿の初老の運転手が現れ、保科さんにお辞儀をした。

「ご苦労様です。では、あちらにいらっしゃる二名のお客様を、ご自宅まで宜しくお願い致します」

「かしこまりました」

 運転手は保科さんにもう一度お辞儀をすると、後部座席のドアに廻り、そのドアを開けた。

「どうぞ、お乗りください」

 まずは俺が、次いであやせが、保科家の自家用車に乗り込んだ。

「これ……、特別仕様車でしょうか?」

「たぶん、そうなんだろうな」

 シートはベージュの総革張りで、ピラーやダッシュボードは、高級バイオリンを思わせるような、ニス塗
りの木でできていた。
 ベース車両は国産の中型車だが、すさまじく金をかけているようだ。
 そんなことに気を取られていた俺は、窓ガラスを軽くノックする音で、はっとした。
 俺が座っている側のすぐ傍に保科さんが立っていたのだ。
 運転手が気を利かせて、保科さんが立っている側の窓ガラスを開けてくれた。

「では、運転席の者に、行き先を伝えてください。そちらまでお送り致しますので……」

「分かりました」

 俺は、運転手に下宿の住所を告げた。
 運転手は、「かしこまりました」と頷きながら、何かを帳面に書き付けている。
 業務日報のようなものだろうか。それはともかく、

「何から何まで済みません。色々とありがとうございました」

 運転手に行き先を告げた俺は、笑顔で佇んでいる保科さんに軽く会釈した。隣のあやせも、申し訳程度と
いう感じではあったが、お辞儀をしている。

「いえいえ、わたくしもお二方とご一緒できて、楽しゅうございました。では、高坂さんにあやせさん、お気を付けてお帰りください」

 保科さんが見守る中、車は動き出し、ここへ来たときにタクシーの車中から見たものらしいゲートに差し
掛かった。
 そのゲートは完全に自動制御なのか、俺たちを乗せた車が近づくと、ゆっくりと扉が跳ね上がるようにし
て開いていった。

「何もかもが、あらかじめお膳立てされていたんでしょうか? 変な気分です……」

「段取りがものすごくいいんだろう……」

 保科家の関係者である運転手が居る手前、滅多なことは言うもんじゃないから、俺は、当たり障りのない
コメントで、お茶を濁した。
 だが、保科家の運転手は、後部座席の俺たちには委細構わず、夕闇が迫る中、車を走らせていた。


606風(後編) 50/63:2011/07/18(月) 10:43:53.74 ID:8mgfk2k0
*  *  *
 風呂から上がって自室に戻ると、二組の布団が敷いてあった。
 もちろん、一つは俺が寝る布団であり、もう一つはあやせが寝る布団だ。
 前回もそうだったんだろうが、俺が風呂に入っているうちに、あやせが勝手に敷いたんだろう。
 はじめから分かっちゃいたが、あいつは今晩はここに一泊するつもりでいる。

「だけどよ、年頃の男女が同じ部屋で寝起きするってのは、まずいだろ……」

 だが、自称俺の妹様が、そんな俺の懸念を慮るわけがない。
 年下の小娘のくせに、色香で俺を翻弄しようっていうことなんだろうか。
 あの女の考えていることは、どうにもよく分からない。

 俺は、いつも使い慣れている方の布団の上にごろりを仰向けになった。

「それにしても、保科さんってのは、何なんだろうな……」

 俺は保科邸に到着してから辞去するまでの一連の出来事を思い出せる範囲で反芻してみた。
 茶室での作法の手ほどきから、野点の本番、俺の足の痺れ、その後の保科さんとあやせによる介護、さら
には俺とあやせが、野点の会場でうたた寝したこと等々……、結局は、すべてが保科さんのシナリオ通りに
進行していたように思えてならない。
 俺の足が痺れるであろうことも、彼女には分かっていたはずだ。
 あの禅寺で野点の招待を受けた時、保科さんは、

『殿方はスーツで結構です』

 と言ったのではなかったか。
 長時間正座する茶事では、男性も和服が基本であり、洋服の場合であっても、流行遅れのだぶだぶした
ズボンでなければ宜しくないことは、茶事におそらくは数え切れないほど参加してきた保科さんなら当然に
分かっていたはずだ。

「それに、今の若者向けのスーツは、みんな細身なのを知らないはずがねぇよな……」

 にもかかわらず、何故に彼女は、俺にスーツを着るように指示したのか。足を痺れさせて膝枕をするため
か、それとも、俺を和服に着替えさせたかったのか。彼女の狙いは皆目分からない。しかし、入念な計画に
基づくものであるような雰囲気がぷんぷんする。
 保科さんの胸のダイブして、彼女の股間に顔面をめり込ませるというハプニングも、何だか彼女の
シナリオ通りな気さえしてきた。

「あやせといい、保科さんといい、訳が分からないぜ……」

 男にとって女ってのは、基本的に理解不能で面倒くさい生き物だ。

「明日は明日で、保科さんやあやせ以外の面倒くさい生き物と面と向かわにゃならねぇ……」

 明日の午前十時には黒猫と沙織がこの街に再びやってくる。
 何とも後味の悪い別れ方をした先週日曜日の仕切り直しのためだ。
 
「問題はあやせだ……」

 黒猫と沙織との面談というか、ネゴシエーションというか、洒落にならない雰囲気の話し合いに、あやせ
まで参戦されたのでは、たまったもんじゃない。
 明日の午前中は、大学の図書館で調べ物をするということにして、互いに別行動にしよう。
 要は、あやせを謀るってことだ。

「嘘も方便。もう、大嘘吐きでも何でもいいや……」
607風(後編) 51/63:2011/07/18(月) 10:45:05.79 ID:8mgfk2k0

 この街で、あやせと黒猫のガチバトルなんか願い下げだからな。
 
 俺は、布団の上に仰向けになったままで、瞑目した。
 保科邸での野点は緊張の連続だった。それのみならず、足が極度に痺れて身動きができなくなるという
アクシデントもあった。そのためか、俺はぐったりと疲れきっていた。
 大学の教室で保科さんに呼び止められ、同級生たちに変に注目されたのも結構なストレスだった。

「もぅ、身体がだるいし、眠くてかなわねぇ……」

 目を閉じていると、意識が朦朧としてきて、ふわふわと夢の中にさ迷い込んでしまいそうになる。
 野点の後、不覚にもあやせ共々、緋毛氈の上で居眠りしたが、中途半端な睡眠はかえって眠気を催させる
ものらしい。

 不意に誰かが頬を撫でてくれているような気がした。
 この柔らかな感触は、膝枕をしてくれた保科さんのものだろうか。
 果たせるかな、振袖姿の保科さんが、艶然とした笑みを浮かべて、俺の顔を覗き込んでいるような気がした。
 だが、突然、彼女の面相に憂いにも似た翳が浮かび、ためらいがちに顔をそむけて、視線を俺から逸らせ
てしまった。
 
「ほ、保科さん!」

 待ってください! あなたは、何で俺を、俺たちを野点に誘ったんです?
 あなたは、どうして、俺みたいな平凡な男にちょっかいを出すんですか?
 そして、あなたは、最終的には、俺をどうしたいんですか?

 呼び止めて、そう尋ねたかった。今、今なら、彼女に訊くことができるような気がした。

 だが……、

「何が、『保科さん』ですかぁ! ブチ殺しますよ!!」

 耳をつんざくような罵声と、頬に感じた痛みで、俺は我に返った。
 恐る恐る目を開けると、水色のパジャマ姿の自称俺の妹様が、恐ろしい形相で俺を睨んでいた。

「あ、あやせ……」

 しっとりとした髪からはシャンプーの香りが漂い、身体からは石鹸のものらしい清潔そうな匂いが漂って
きそうだった。
 だが、

「お、お前! 俺の身体の上に、馬乗りになってるんじゃねぇ!!」

 自称俺の妹様は、股で俺の胴体を挟むようにして、俺の臍の辺りにまたがっていたのだ。

「こうでもしないと、お兄さんにビンタできませんから。やむを得ません」

 こいつ、俺の寝言を聞きつけて、馬乗りになったのか。
 しかし、それにしても……、

「いきなりビンタってのは、ひでぇじゃねぇか。それに、この体勢だと、あやせが俺をレイプしているみたいだよな」

「レイプだなんて、破廉恥な! これはお仕置きです」
608風(後編) 52/63:2011/07/18(月) 10:46:19.67 ID:8mgfk2k0

 言うなり、怒りで形相を般若のように歪ませたあやせは、俺のスウェットの襟元を引っ掴んだ。
 『レイプ』の一言で、俺の身体から離れると思ったんだがな。
 自称俺の妹様はそんなうぶな輩じゃないらしい。
 それどころか、あやせは、俺の首を、スウェットの上から無慈悲にも締め上げた。

「うわ、いてててっ! ら、乱暴はよせ、麻奈実や保科さんは、ぜ、絶対に、こんなことはしねぇぞ!」

「あの女の名前を言うなって、何度言ったら分かるんですかぁ!!」

 あやせは涙目で、俺の首を、がくんがくんと、五、六回乱暴に揺さぶって、おもむろに手を放した。

「げ、げほ……、ごほ……、げほ……」

 俺はというと、仰向けに引っくり返ったまま、喘息持ちの爺様のように、ひとしきり咳き込んで悶絶した。
 いつもながら、こいつの暴力は、本当に洒落にならんなぁ。

「いつまで咳き込んでいるんですか、この変態……」

 咳が治まりかけて、薄目を開けると、相変わらず自称俺の妹様が俺の腹の上に馬乗りになったままだった。

「お前なぁ……。前にも言ったけど、これって傷害罪一歩手前の行為だぞ。それに、いい加減、どいてくれ
よ……」

 だが、あやせは意固地になったのか、股間を俺の腹部に強く押し付け、太腿で俺の胴体を締め付けてきた。

「うわぁ! いてててっ……」

 あやせの太腿で締め上げられ、内臓全部がでんぐり返りそうな苦しさだった。
 だが、あやせの股間が、あ、あそこが、俺の腹の上に密着し、あまっさえ、ぐりぐりと擦り付けられてい
る。こ、これはこれで、いい……、かな?
 てか、そんなことでプチ喜んでいる場合じゃない。
 自称俺の妹様は、怒りで歪めた面相を、だらしなく仰向けになっている俺の顔面に近づけてきた。

「明日のことで、お兄さんに確認をしておきたいことがあります。明日、お兄さんは何をするつもりです
か?」

 そらきた。こいつは、俺を監視するために俺につきまとう気でいる。だが、あいにくと、そうはさせねぇ。

「あ、明日は、午前中、大学の図書館に行って、判例の調べものだ。だから、明日の午前中は、あやせとは
別行動だな」

「図書館へは私も同行します。お兄さんの単独行動なんて許しません!」

 そうくると思った。だがな、俺が通う大学の図書館は、そうはいかねぇんだよ。

「お前、大学の図書館ってのは、県立や市立の図書館とは訳が違うんだぞ。その大学の学生や教職員じゃな
いと、利用できねぇんだよ」

「そんなもの、大学生の振りをしてれば大丈夫です。わたしは、これでも結構大人っぽい方ですから」

 自信たっぷりに言い切りやがった。たしかに、モデル業で揉まれてきただけに、高校一年生にしては、
多少は大人びているな。だが、大学生の振りをするのは、どう考えても無理がある。
 所詮はガキだ。いろんな意味で。それに、

「お前、大学の図書館が見た目だけで判断すると思うのか? そんなことをしたら、大学生じゃない浪人生
609風(後編) 53/63:2011/07/18(月) 10:47:33.28 ID:8mgfk2k0
や、下手すればホームレスとかが入り込んでくるじゃねぇか」

「うっ……」

 痛いところを突かれたのか、般若顔のあやせが息を詰まらせたような気がした。

「入り口で学生証の提示を求められるんだよ。で、学生証がなかったら、館内に立ち入ることもできねぇ。
少なくとも、俺の大学の図書館はそうしたところだ」

 授業料を払っていない者に大学の施設を利用させるのは衡平ではない。それ以前に、セキュリティの関係
上、身分が特定できない奴の入館を許すはずがないだろ? 社会の道理をよく分かっていないところが、
本当にガキだな。

「そうですか、なら仕方がありませんね。わたしは、大学近くの喫茶店かどこかで、お兄さんの調べものが
終わるまで待つことにします」

「何もそこまでしてくれなくていいぞ。お前も大変だろうから、下宿で待つなり何なりしてくれれば……」

「いいえ、お兄さんを護るために、わたしははるばる千葉から来たんです。そうであれば、明日はお兄さん
と一緒に下宿を出て、大学の図書館にお兄さんが入っていくのを確認した上で、わたしは近くの喫茶店か、
ファストフード店で本でも読んで待っています」

 しつこいな……。まさかとは思うが、明日の午前中に黒猫と沙織に会うってことを把握してやがるのか?
 いや、それはないか……。
 俺が嘘を吐いていることを知っていたら、もっと過激な手段で俺を責め立てるはずだからな。
 だったら……、

「いいだろう。俺は図書館の中で調べものをしているから、その間、お前は、喫茶店とはいわずに、学内の
どっかで待ってろ。俺の大学は建物はボロだが、敷地だけは公園並みに広いからな」

 このまま嘘を吐き通してやる。毒を食らわば皿までも、だ……。図書館に入ったら、裏口から抜け出て、
沙織たちとの待ち合わせ場所である中央駅前までタクシーですっ飛ばす。これで、あやせの目を欺いてやる。
 だが、

「……調べものは判例ですか?」

 あやせの奴が、じっとりとした疑惑の眼差しで俺を凝視している。何かヤバイな、しかし、ここまで来て
嘘を認めるわけにはいかねぇ。

「ああ、判例集が図書館にあるから、そいつでちょっと調べたい事件があるのさ」

 あやせの奴が、にやりと笑ったような気がして、俺は嫌な予感に襲われた。

「判例は……」

 俺に馬乗りになったままで、あやせは座り机の上のパソコンを指差した。

「あれを使ってインターネットで検索できるんじゃなかったんですか?」

 しまった。インターネットで判例を検索できることは、この前、俺自身がこいつに教えたんじゃねぇか!
 自ら墓穴を掘ってどうすんだ。

「い、いや……。インターネットでは公開されてない判例もあってだな、そ、それで図書館で調べなきゃな
らねぇんだ……」

 我ながら悪あがきっぽいが、一応は事実だ。実際、マイナーな判例や、古い判例は、裁判所の
610風(後編) 54/63:2011/07/18(月) 10:48:50.27 ID:8mgfk2k0
ホームページには出ていないことがあるからな。これであやせの追及を振り切っちまおう。

「そうですか……、でも、お兄さんの大学の図書館って、明日は休館日みたいなんですけどぉ……」

 いつの間にか、あやせの手にはスマホが握られていて、その画面には大学の付属図書館の予定が記された
カレンダーが表示されていた。

「げっ!」

「ここに、明日の日曜日は、空調設備の点検のため休館って書いてあるんですけど、お兄さんが明日利用
する大学の図書館って、どこの世界の図書館なんでしょうか、ね!」

 最後の『ね』にアクセントをつけたあやせは、今度は、襟ではなく、俺の首をダイレクトに締め上げてきた。

「ぐ、ぐるじぃ、じ、じんじばう……」

「大嘘吐きのお兄さんには、これぐらいの苦しみじゃ足りないくらいです! お兄さんは、明日、黒猫とか
いう痛い女や、沙織とかいうデカブツとデートするんでしょ? それもわたしに内緒でこっそりと!」

「う〜〜、う〜〜〜、う〜〜〜……、いぎが、で、でぎ、なび……」

 これが女子高校生の力かと思うほど、あやせの締めは激しかった。それこそ、鬼の形相で俺の喉を
思いっきり締め上げていやがる。

「わたしだって、黒猫とかいうあの女は要注意人物だから、その動向には常に気を配っているんです。
だから、明日、あの女がお兄さんに会いにやって来ることも、とっくの昔にお見通しだったんですよ!!」

 畜生。あやせの奴は、俺の嘘が破綻するように、俺を追い込んでいたんじゃねぇか。それに気付かず、
あやせをガキだと侮ってドツボに嵌った俺って、何てバカなんだ。
 俺は、苦し紛れに両手を虚空に伸ばした。溺れる者は藁をも掴むっていう喩えが身にしみて理解できたぜ。

「きゃっ! 何てとこ触ってるんですかぁ、この変態!!」

 俺の両手は、マシュマロのように弾力がある二個の物体を、むんずとばかりに捉えていた。他でもない、
あやせの左右の乳房だった。
 左手は右の乳房を、右手は左の乳房をそれぞれ鷲掴みにしていた。そして、掌には、ぷっくりとした
あやせの乳首が感じられた。
 こいつ、ノーブラじゃねぇか!

「わ、わたしの、む、胸なんか、も、揉まないでください。ブ、ブ、ブ、ブチ殺しますよ!!」

 あやせが一段と強く俺の首を絞めてきた。もう、本気で俺をブチ殺すつもりだ。
 こうなったら、俺だって必死だ。絶対にこの手を離すもんか!
 死ぬ寸前まで、あやせの胸を揉みまくってやる。これが末期のセクハラってもんだ。

 俺は、パジャマの上からあやせの乳首を摘み、それを引っ張ったり、乳房の中に押し込むようにして弄んだ。

「や、やめて、く、ください。そ、そこは、び、敏感なんです……」

 乳首を刺激するたびに、あやせは弓なりに背を反らせて身震いしやがる。
 まさかとは思ったが、エロゲのヒロインと似たり寄ったりの反応を示すんだな。
 それに、乳首をいじられると脱力するのか、俺への締めが手ぬるくなった。

「こうなりゃ、一石二鳥だぜ!」
611風(後編) 55/63:2011/07/18(月) 10:50:12.43 ID:8mgfk2k0

 あやせの胸を揉んで末期のセクハラに興じるのみならず、あやせにブチ殺されるのを免れることができる
かも知れねぇ。
 俺はあやせの乳を揉みながら彼女のパジャマの前立てをまさぐってボタンを外し、あやせの胸元に両手を
突っ込んだ。

「じ、直に触らないでください、わ、わたし、もう……」

 そう言いながらもあやせの奴は、股間を俺の腹に擦り付けるように、腰を前後に妖しくゆすっているじゃ
ねぇか。
 それでも、俺の首には、申し訳程度といった感じながら、あやせの両手が首かせのように嵌っていた。

「こ、これならどうだ!」

 俺はあやせのパジャマの前立てを左右に無理やり引っ張った。外していないボタンが一つ、二つ弾け飛び、
あやせの乳房が顕わになった。
 こ、これが、あやせの乳房か……。触ってみて大体は分かっていたが、控え目ながら、ちゃんと出るとこ
は出てるんだな。
 乳房が控え目なくせに乳輪は大きめだろうか。だが、そこがエロくて俺好みだ。

「お、おっぱい、見ちゃだめぇ〜〜〜!!」

 あやせは自分の胸を隠そうとしたのか、はたまた俺の目を塞ごうとしたのか、俺の首から両手を離した。

『今だ!』

 俺は、両腕をあやせの背に伸ばして彼女に抱き付き、ぶらぶら揺れる左の乳房の先端をぱっくりくわえ、
すすってやった。

「あ、あうう……。す、吸わないで、す、吸わないでぇ〜〜〜」

 あやせは身を捩じらせて抵抗したが、俺がベージュがかったピンク色の乳首を吸い続けると、ついには
「あぅ、あぅ」といううわ言のような声を出しながら、だらしなく涎を垂らし始めた。

「今度は右だ」

 こりこりに勃起した右の乳首を舌先で弄び、強く吸ってやる。

「あふ、あふぅ〜〜〜〜〜」

 もう、俺をブチ殺すどころの話じゃない。
 あやせの奴は、俺の後頭部を両手で支え、自分から俺に胸を突き出すようにしている。
 女って、あやせみたいなエロが嫌いな奴でも、乳首吸われるとエロゲのキャラみたいにおかしくなるんだ
な。エロゲやっといてよかったぜ。こればっかりは桐乃に感謝だ。

 てなことを思いながら、俺は両の乳首を交互に吸い、さらには軽く噛んでみた。

「あう、お、お兄さんやめてください。お、おかしくなっちゃうぅ〜〜〜」

「もう、十分におかしくなってるぜ」

 あやせは俺の軽口には反応せず、虚ろな目のまま、だらしなく口をぽかんと開けている。
 そろそろとどめを刺すとするか。
 俺は、あやせの乳房をすすりながら、右手をあやせの股間に伸ばしていった。

「あ、ああああっ! そ、そこはいじっちゃだめです」
612風(後編) 56/63:2011/07/18(月) 10:51:19.26 ID:8mgfk2k0

 布地越しにあやせの秘所の温もりが感じられた。
 パジャマも下着も薄手のものらしく、俺の腹の上でぱっくり広がっているあやせの割れ目が、はっきりと
分かる。
 割れ目をなぞると、布地越しにねっとりとした湿り気が伝わってきた。

「ぬ、濡れてるじゃねぇか……」

 女の身体に初めて触れた俺みたいな奴の不器用な愛撫でもこんなに乱れるなんて、あやせって根はすごい
スケベなのかもな。
 俺はぬるぬるした割れ目の端に、こりこりした突起を指で探り当てた。これがクリトリスなんだろう。
そいつを指先でぐりぐりと擦るように弄んだ。

「あ〜〜、う〜〜〜、そ、そこはらめれすぅ〜〜〜〜。ら、らめぇ、らめぇ〜〜〜」

 あやせは完全にぶっ壊れる寸前といった感じで、呂律も怪しくなってきた。やっぱクリトリスって、女の
身体で一番敏感だってのは本当なんだな。
 俺は、その突起を摘んで、こよりを撚るように軽く捻ってやった。
 同時に、乳首を吸いながら軽く噛んで引っ張ってやる。

「う、う、うっ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

 あやせは苦悶に耐える呻き声にも似た叫びを歯を食いしばるようにして絞り出し、背を反らせて全身を
ビクビクと痙攣させた。
 痙攣はひとしきり続き、それが治まると、あやせは俺の身体にもたれかかって、ぐったりとなった。

「ふぅ……」

 のしかかっているあやせをごろりと布団の上に転がすと、俺は自分の首を押さえてため息を吐いた。

「あやせの奴、イッたみたいだな……」

 布団の上に転がされたあやせは、快楽の余韻で頬を上気させ、はだけた胸元からは勃起したままの乳首を覗かせていた。

「こ、これで、終わりなんですか……?」

 エクスタシーに達したあやせの身体からは、甘酸っぱいような感じの女の匂いが、むせ返るほどにあふれ
ていた。
 そして、俺のリヴァイアサンは、かつて経験したことがないほどに大きく固く怒張している。

 これは、“据え膳食わぬは男の恥”って状況なのか?
 今のあやせだったら、このまま俺のリヴァイアサンをぶち込むのは楽勝だろう。
 だが……、

「……そうだな……、これでセクハラはお仕舞いだ……」

 さっきまで俺をブチ殺す気満々だった奴とセックスなんかできねぇよ。これって強がりみたいなもんだけ
どさ。

「……ひどいです、ひどいです、お兄さん……」

 あやせは、パジャマの前をはだけたまま、さめざめと泣き出した。
 あやせが俺をブチ殺そうとしたとはいえ、俺のやったことはセクハラどころかレイプ寸前の行為だったか
らな。気丈なこいつが泣くのも無理はねぇ。
613風(後編) 57/63:2011/07/18(月) 10:52:20.38 ID:8mgfk2k0
「あやせにひどいことをしたのは認めるよ。でも、お前だって、俺を殺す気だったんだし、お互い様だろう」

「……お兄さんを殺す気なんかありませんでした……」

 嘘つけ! さっきの首の締め方には殺意がみなぎっていたじゃねぇか、と言いたかったが、我慢した。

「そうかい……、俺もあやせを犯すつもりはなかったよ」

「……お兄さんなんか、大っ嫌いです……」

 あやせとは脈があったように思ったんだが、これで終わりかもな。男女の仲なんて、ちょっとした事件で
簡単にぶっ壊れちまうもんなんだ。

「さっきのセクハラと、黒猫のことを黙っていたのは、あらためて謝るよ。これは本当に済まなかった」

「い、今さら謝っても、お兄さんが嘘吐きな変態だってことに変わりはありません……」

「何とでも言え……。否定はしねぇよ」

「……嘘吐き」

 強がってはみたものの、今度ばかりはあやせの『嘘吐き』ってのが胸に痛い。
 だが、ここで挫けちゃいけねぇぜ。

「嘘吐きでも何でもいいさ。で、明日のことなんだが……」

「……嘘吐きお兄さんは、わたしのことなんか放っておいて、黒猫とかいう痛い女とデートなんでしょう……」

「違う。明日、黒猫に会うのは本当だが、何をあいつに告げるかはもう心に決めているんだ。友達ではある
が、もう恋愛感情はない。それをそれをはっきりさせてくるだけだ」

「……し、信じられません……」

「俺の言うことが信じられないようなら、明日、お前も俺と黒猫のやりとりを遠くから見ていればいいだろ
う。その時に、俺の言っていることが嘘じゃないってのがお前にも理解できるさ」

「……………」

 黒猫や沙織との面談をあやせにも見せるのはリスキーこの上ない。下手すれば、面談の場にあやせが乱入
して、黒猫と大乱闘になりかねないからな。何らかの策が必要だろう。

「ただし、俺と黒猫や沙織との面談をお前が監視するのには条件を付けさせてもらう。第一に、目立たない
格好で遠くから監視すること。第二に、面談の場に絶対に介入しないこと……」

「遠くから見ているだけなんて嫌です……。面談の風向きがおかしくなったら、お兄さんを護るために、
わたしも介入しなくちゃいけません……」

 そうくると思った。
 俺は、舌打ちしながら机の上に置いてあった携帯電話を手に取り、あるところに電話した。

「もしもし、高坂だ」

『おお、どうだった? 保科さんとこの野点は』