「タマミ…!」
「にゃひっ!?」
俺は彼女を抱きしめる。力いっぱい。想いを込めて。
そして口づけを…
「…とと」
「んみゃ!?」
がらがらがっしゃーーーん!
…しようとして、バランスを崩した俺たちはテーブルをひっくり返し、
タマミは食事の残り物を頭からかぶる羽目になった。
「う、うぇええ…気持ち悪いよぉ」
「…タマミ」
「な、なに?」
「風呂、入るか?一緒に」
「うみゃみゃ!?」
「だ、だめ…?」
真っ赤になってうつむくタマミ。
「お、おにいちゃ…あたしと一緒に…入りたい?」
「う、うん…いや!タマミがいやならいいんだ!」
「い、いやじゃないもーーーーーーーーーーー!」
頭にお椀を乗せたまま、彼女は必死の叫びをあげる。
「あ、あたしは…あたしはおにいちゃんのものだもーーーー!!」
うわ。うわうわうわ。その宣言に、激しく感動。
「だ、だから!おにいちゃんがしたい事をしていいんだもん!」
おにいちゃんがしてほしいこと、いっぱいしてあげたいんだもん!」
俺はあの時、欲情してた。したくてしたくて、仕方なかった。
だって。
俺は彼女が大好きだから。だから。
好きだから…したいんだ。好きだから、するんだ。
気持ちを確かめ合うために。胸の奥の熱を、さらに燃え上がらせるために。
※ ※ ※
「うにゃぁ!や、やっぱり、恥ずかしい…
こ、こんな明るいところで…ぜ、ぜんぶ見えてるし…」
部屋についてた個室露天風呂。
月光が降り注ぎ、湯面を輝かせる。
立ちこめる暖かな湯気の中、タマミの裸体が浮かび上がる。
上気した頬、潤んだ瞳、震える唇。
ほわほわのくせ毛、ぴょこぴょこ動く猫耳。
控え目な胸のふくらみ。細い腕、華奢な腰。
しなやかな脚の間に息づく茂み…柔らかな恥毛、
全てが、愛おしい。
「い、いやじゃ、ないも…
おにいちゃんがみ、見たいなら…い、いっぱい…見て欲しいも…!」
「…いいコだ」
「!?な、なにするの!?」
俺はそのまま、じっと彼女の顔を見詰めたまま…彼女の股間に口づけた。
「ふ…ふぁああああああああああ!ダ、ダメダメダメ…ダメーーーー!!」
小刻みなキスを繰り返す。そのリズムに合わせて、タマミの身体が震える。
「や、やらぁ!そ、そんなとこ、汚…」
「そうだよ…だから、綺麗にしなくちゃ」
「ひゃぅ!?」
「ぬるぬる、全部、綺麗に舐めとってあげる」
「…ひやぁああん!は、はずかしいよぉ!!」
「大丈夫…」
舌を突き出し、入口をこじ開ける。
「!!はぅ…っ!んはぁあぁあああ!」
「恥ずかしがってる余裕なんか…すぐ無くなるから」
ゆっくりと舌先を侵入させる。俺の唾液と彼女の愛液が混じり合う。
「あ…んは!はぅ…!!ひあ!お、おに…ちゃ…!あ、あ、あ!」
「おかしいな…どんどん…どんどんぬるぬるが溢れてくる」
「い、いやぁ!だ、だってだって…!」
「これじゃいくら舐めとっても…きりがないぞ?」
「だってだってだって…んひゃぅ!」
「だって?」
「だって…だって…き…」
「き?」
「気持ちいいんだもーーーーーーーーー!!」
良かった。感じてる。もっと感じさせたい。
このまま、イカせたい。
指を添えタマミの好きな所…そう、クリトリスの皮を剥く。
そして剥き出しになった陰核に…そっと舌を這わせる。
「!!!!!!!」
ビクビク!っと激しく身体を痙攣させるタマミ。
身体の隅々まで快感の電流が放たれたのか、猫耳が大きく震える。
のけぞり、大きく口を開け、息を吐くが声にならない。
核を慈しむように含み、アメをしゃぶるように刺激を加えた。
「あ…うぁ…ぁぁぁぁ…はぁ!!!!!」
「…ひもひ、ひい?」
「ひぅ…あ!あ!あ!うぁあああ!」
クリトリスにしゃぶりつきながら質問するが、答える余裕はないようだ。
「おに、ちゃ…!あ!ひぁ!そんな、くちゅくちゅしちゃ…!はぅ…ん!!」
俺は無我夢中で、溢れる蜜を味わい続けた。
「んん!んは!は…ん!き、きも、ち、いいい!おに、ちゃ!あ!あ!あ!」
俺はあえて、わざと喉を鳴らして、タマミの愛液を飲み続ける。
「ひやっ!ひやらぁ!そ、そんな…お、音、立て…ないで!」
「だって…(ゴクゴク)どんどん(ングング)溢れて
(ンン…ゴクリ)くる(ングング)から…」
「ひあ!あぅ!うひぁ!だ、だって…!んあ…っ!あ!あ!ああ!」
そうこうしてるうちにタマミは限界を迎えつつあった。
カクカクと身体中を小刻みな痙攣が襲う。
「イキそうなの?イキたい?」
「イ、 イク…!イッちゃう…!も、もう…!」
「じゃあちゃんとお願いして?でないと止めちゃうからね」
「ひぅ!だ、だめ!や、やめ、ない、で!やめちゃ、だめぇ!!
イ、 イキたいの!イキたいよぉ!イ、イカせて…!!!」
カクカクと腰を振り立てながら哀願を繰り返す。
「お願い、イカせて!イク!イッちゃ……!」
俺はこれが仕上げ…とばかりに、陰核を甘噛みし吸い上げた。
「んはぁああああああああああああああああああああああ…っ!」
激しい痙攣とともに、タマミのアソコから液体噴出。
「うわっぷ!?」
「あ、あ、あ…で、でちゃ…な、なにこれぇえ!?ふぁ…あああああ!?」
ぷしゃぁあああ…と、まるでシャワーみたい。
「こ、これ…お、おし…こ!?や、やだ…!やだやだやだぁ…!」
それはとても薄味で無色透明で…どうみてもおしっこじゃなかった。
「どうも違うみたいだ」
「ふ、ふぇ?」
「女の子はいっぱい感じると…こうなるんだよ」
「!!わ、わかった…しおふきだ!」
「あ、そ、そうだ…ね」
この耳年増め。
「いっぱい…いっぱい感じて、いっぱいイッちゃったんだね…
い、いやらしいな…タマミは」
「おに、ちゃ…!いやらしいコ、きらい?」
「いや…そんな事、ないぞ…!」
「じゃ、じゃあ…あたし、いやらしいコになって、いい?
もっといやらしいコに、なって、いいの?」
うわああ!うわ、うわ、うわ!
媚びるようなその笑顔。堪らない…!
「い、いいとも…!もっと、もっとやーらしくなれっ!」
「うん…っ!」
※ ※ ※
「き、来て…!おにいちゃんの…おっきいオチン●ン、
タマミの、タマミのオ●ンコに、頂戴…!」
うるんだ瞳で、上気した頬で、うなだれた猫耳で。
自ら指を沿え、開いたオマ●コで、俺を誘うタマミ。
…は、鼻血出そう。
「あ、ああ…いま…すぐ…!」
もう焦らしたり意地悪する余裕なんて、俺にも無かった。
突き入れたい。いますぐ、大好きなタマミの中に。
「い、いくよ…」
「は…ぅ…!んはぁああ!!」
俺はその小さなタマミ自身に、肉棒の先端をあてがう。
と、不意に俺は恐ろしくなった。
そこはとても小さく繊細で。いっぱい涎を垂らしてはいるけれど。
改めて思う。彼女はやっぱり、かなり無理をしていたんじゃないか?
しかし同時に、俺の中には早く、早くと、急き立てる獣がいた。
タマミを犯したい、早く彼女の小さくて狭い中を味わいたい、と。
傷つけたくない、むちゃくちゃに犯したい。
壊したくない、でも壊したい。
二律背反するふたつの感情に、俺の動きが止まる。
しかしその躊躇いを感じ取ったかのように、猫耳がぴくりと震え、俺の方に向けられる。
「おに、ちゃ…おねがい…」
「タマミ…」
「大丈夫、だから…おにいちゃんの…頂戴?タマミの中に…入れてほしいの」
荒い息をつきながら、情欲に目を潤ませながら、タマミが乞う。
その様に、俺の理性は脆くも決壊。そうだ、彼女が望んでるんだ…
「ん…っ!ひぁあああああ…!」
狭い膣を肉棒で広げられて、タマミは悲鳴にも似た声を上げた。
「く…し、締まる…!」
タマミの膣内は…とても狭くてキツい。
ただ入れただけで、すでに俺は腰が砕けそうだ。
…未成熟な肉体を征服する喜びに、躊躇など、あっけなく消し飛んでいた。
「い、いく…ぞ…動く、よ…!」
「うん…い、いいよ…来て…来て来て来て…!
タマミの中、いっぱいに…いっぱいにして…!」
期待にはずんだ声。そうだ、彼女も求めてる。俺を、求めてくれている。
「ひぅ…っ!あ!ん…くは…は、はげし…ひぁ!」
身体ごと突き上げ、揺さぶる。タマミはただただ嬌声を上げるばかりだった。
「は、はぅ…あ!こ、こわれちゃ…う!おにいちゃ、の…はげしく、て!
んはぁああぁ!あ!す、ご…く、て!は!あ!あ!あ!」
「すご、いよ…くっ…締めつけて、くる…!」
「ひぅ…!ひゃぅ…んん!だ、だって…だってぇ!あ!あ!あ!」
「それに…どんどん溢れてくる…!ほら…!音、聞こえる?」
「んはぁ…!き、きこえ、る…えっちな音…すごいぃ…!」
激しい突き上げに、膣内から掻き出された愛液が
じゅぶじゅぶ、ぐじゅぐじゅと音を立てて泡立つ。
タマミの幼い性器が、身体が、俺の突き上げに応え、悦びの声をあげている。
その事が俺を感動させ、昂奮させる。タマミが感じてくれている事が、嬉しい。
でも、俺だけが気持ちよくちゃいけない。彼女も気持ちよくさせてやらなきゃ。
「…あ、ひぅ!お、おに、ちゃ…!んはぁあ!あ!あ!」
指先でタマミの陰核を責める。つまみあげ、捏ねまわす。
強烈な刺激を加えられタマミはどんどん高まっていく。
「ら、らめぇ!お、おに、おに、ちゃ…!も、もう…!」
タマミの艶を帯びたよがり声、快感にだらしなく蕩けた表情、
かぐわしい香りの汗が吹き出し、月光をあびて輝く裸体。
「タマミ…!お、おれも…俺も…い、イク…!」
「うん…ちょうだい!おに、ちゃ、の…せーし…!
いっぱい…ちょうだいちょうだいちょうだい…!」
「くっ…うううう!」
「あ…ひぁあああ!
おにいちゃぁあああ…ああああああああああああ!!」
絶頂により、これまで以上の収縮をみせるタマミの中。
それはとんでもない快楽で、俺を強烈に締め付け、責め立てた。
俺は、こらえきれずにタマミの中に射精した。
「くぅ…あ、あ、あぁああ…!」
どくどくと注ぎこむ、その鼓動に合わせるかのようにタマミの中が収縮し
俺の精液を根こそぎ絞り取っていく。その快感たるや…この世の物とも思えなかった。
「…ふにゃぁ…出、出てる・・・タマミのオマ●コに、
おにいちゃんの精子、いっぱい、いっぱいだよぉ…」
絶頂の余韻にうなされながらタマミが呟く。
「タマミ…」
「お、おにいちゃ…気持ち、良かった?」
「あ、ああ…最高だ」
「はにゃぁ…!良かった」
こんな小さな身体で、俺の全てを受け止めてくれる。
その健気さ、その愛情、その献身。
俺はそっと、可愛い猫耳と髪をなでる。
「タマミ…可愛い」
「は、はにゃ!?」
「感じてるタマミ、タマミのイク所、すっげー可愛い
俺、すっげー感動して、すっげー昂奮、した…」
俺の素直な気持ち。いまの気持ち。
タマミは頬を真っ赤に染めて、絶頂の余韻に身体を震わせて。
「は、恥ずかしいけど…すごく恥ずかしいけど…
でも、すっごい幸せだも…」
「…俺もだ」
「えへ、えへへ…」
俺はもうブレない、揺るがない。
彼女への想いを、彼女の想いを、改めて確信したから。
俺はタマミが大好きなんだ。
※ ※ ※
翌日。俺たちの前に姿を現したのは。
「タヌキさん!ヒトミ!?」
「いい所ねぇ」
「まぁまぁ!海?これが海ですか?すごーい!」
あ、タマミと同じリアクション。
俺たちを追ってきたのか?
「ちゃんとケリを付けなきゃね」
ヒトミがそういい、タヌキさんが力強く頷いた。
そうだ。俺は、彼女たちの想いに、答えを出さなきゃいけない。
深く深呼吸をする。タマミの手を握りしめると、握り返してくれた。
胸の奥に炎が灯る。熱い、熱い炎。その熱が俺の力になる。
「タヌキさん、俺を好きになってくれてありがとう。
ヒトミ、ずっとそばにいてくれてありがとう」
返事は無い。二人は静かに、俺の言葉を聞いている。
とぎれとぎれに言葉を紡ぐ。言葉の間は、潮騒が繋いでくれた。
「二人の気持ちに答えを出すのが遅くなってごめん。
二人の想いに答えられなくてごめん。でも、それには理由があったんだ」
タマミが顔をあげる。俺の顔を見る。
「それは…タマミに出会うため」
俺は彼女に目で答える。
「俺はタマミに出会った。そのために生まれてきた。
今は、そう思える。そう信じられるんだ」
再び深呼吸。俺の心を、気持ちを、皆に伝えなきゃいけない。
「俺は彼女の、タマミの居場所になる。そして、彼女が俺の居場所だ」
潮騒が聞こえる。誰も言葉を発しない。タヌキさんの目から、ポロリと涙が零れる。
「…好きなんですね、彼女が」
「ああ」
「誰かを心から好きになる気持ち、私…よく、よ〜く解るつもりです」
タヌキさんの言葉が俺の胸を刺す。この痛みも受け止めなきゃいけない。
…彼女の痛みに比べればささやかな痛みのはずだ。
と、大きく息を吐く音が聞こえた。ヒトミ。ヒトミの目も潤んでる。
鼻をすすりあげたりもして、でも、その表情は晴れやかで。
「…よし、許す!」
タヌキさんは遠くを見て目を閉じ、そして優しい、優しい笑みを浮かべて。
その目から零れる涙をぬぐおうともせず。
「良かったですね、タマミちゃん」
きっぱりと、言い切った。
その言葉が、泣き虫のタマミの涙腺を刺激する。
「おねえちゃ…ぐすっ…あ、ありがとーーー!!」
海からの風が、一陣。少女達の髪を嬲る。俺はタマミの頭を撫で続けていた。
ぴくぴくと動くネコ耳の暖かさを感じながら。
いつまでも、いつまでも。
………
……
…
「ところで、キツネくん」
「…ん?」
「2号って知ってます?」
「…はい?」
「うふっ」
タヌキさんはようやく流れる涙を振り払い、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「私、キツネくんの2号さんに立候補します!いっぱいサービスしますわ!」
サ、サービス?サービスって何!?
まさか、あんな事やこんな事!?
「お、おにいちゃん!鼻の下っ!」
「ちょ、あ、あんた何言ってるの!?」
「あ、ヒトミさんは3号さんですね」
「ま、待て待て!!なんで私があんたより格下!?」
ちょ、ちょっと待てー!
「ダメー!おにいちゃんはあたしの!あたしのだもーーーー!」
「まぁ!生意気ですわ!お姉ちゃんに逆らう気ですの!?」
「い、いくらお姉ちゃんでもダメなものはダメーーーーー!」
えっと。まぁなんだ、その。
「おにいちゃんはっ!」
「わっと!?」
「誰にも渡さないもーーーーー!!」
「こ、こら!私たちの前でそういう事する?ねぇ!」
「3号の言うとおりですわ!こっちにもおすそ分けしなさい!」
「誰が3号か!おすそ分けて!日本語おかしいし!」
なんでみんな笑顔なの!?そんな楽しそうなの!?
「おにいちゃん!大好きーーーーーーーーー!!」
「お、俺だって!!」
俺も。
俺もタマミが大好きだ。
きっと、ずっと、ずーーーーっと。
<仔猫ちゃんルート、おしまい>
思ったより長くなってしまいました。ごめんなさい。
もしお許しいただけるなら引き続きタヌキさん編と
ヒトミさん編も投下させていただきたいと思います。
…ヒトミさん編の絡みは人間同士って事になるからスレ違い、なのかな?
>>355 よろしければどの辺が気にいらなかったか教えて頂けませんか?
今後の参考にしたいので。
はよはよ
>>387 叩かれたからって煽るなよ。耐性ないな
あと聞くまでもなくスレ違いだろ
390 :
387:2012/08/30(木) 21:59:00.80 ID:bMdMNNw1
>>389 煽りのつもりはなかったんですが
そう感じられたのなら申し訳ありません。
ヒトミさんルートは書き終えたんだけど
タヌキさんルートはまだしばらくかかりそう。
書き終えたらまた来させていただきます。
狐娘さんとモフモフする話マダー
キキーモラさんの話待ってるんだけど…
393 :
キキーモラの人:2012/09/05(水) 23:33:38.64 ID:/NvA8CJP
>392
すみません、早ければこの週末あたりに何とか……まぁ、あと1回で完結するかは微妙ですが。
(
>>333からの続きです)
第五話 キツネくんの秘密と木常神社の過去と未来
じりじりと包囲を狭めてくる「守る会」の連中。
一体何をしようというのか?連中の意図が読めない。
「まあ待て。まずは…話し合いと行こうじゃないか。一体、何が目的だ?」
「もしかして…またキツネくんのお話しを聞かせていただけるんですか?」
そうだ。連中は以前、俺の過去の恥ずかしい話をネタに、
タヌキさんの俺に対する興味を削ごうと画策したんだっけ。
「キツネくん!今度は一緒にお話しを伺いましょ?ね?いいでしょ?ねーねーねー」
そんなに目をキラキラさせないでー!
「俺たちが用があるのは木常です!」
「キツネくんにお話し?」
「そう、キミから手を引くよう、話を付けるんです。
木常!お前の望むとおり話し合いだ!」
って、指ポキポキ鳴らしながら言っても説得力無いですー!
「キツネくんが私から手を引く…?そんな事、ありえませんわ!」
言い切られちゃったよ。ヒトミが睨んでるしー!
「でも、もし。万が一。数百兆分の一の確率でそんな事になったとしても、私の気持ちは変わりませんから!キツネくんをお慕いする事を止めるなんて100%ありませんから!」
またしてもきっぱりと言い切られた。
…俺はそんな彼女の気持ちに応えられるのか?彼女はタヌキだぞ。でも、でも…
「あ、これお返ししますね」
呆気に取られた親衛隊員たちに山のような手紙を押し付けるタヌキさん。
「行きましょう!キツネくん!」
「あ!ちょ、ちょっと待って!」
未練がましく追いすがろうとする親衛隊を歯牙にもかけず、
タヌキさんは俺の腕を取り歩き出した。
「あそこまで言い切るかしら、ホントに…ふん!負けるもんか!」
「ヒ、ヒトミさん?」
「たまには部活でよっと。弓ひいてれば憂さも晴れるかもしれないし」
「ヒ、ヒトミさん!ご一緒します!」
「別にあんたたちのために行くんじゃないからね!勘違いしないよーに!」
※ ※ ※
俺はタヌキさんに導かれるまま歩き…そのうち通学路を外れ、住宅街を抜け…
「ど、どこまで行くの?」
「い・い・と・こ・ろ、ですわ(ハート)」
辿り着いたのは、俺たちの街が見渡せる小高い丘の上だった。
傾き始めた太陽が優しい光を投げかける。
その光を受けて、金色に輝くタヌキさんの髪。
「綺麗ですね」
「う、うん」
「私、景色を見てそんな風に思えるようになれて嬉しいんです。
キツネくんとお話ししたり、ヒトミさんと言いあったり、
学校に通ったり、学食でお食事したり、こうして景色を見たり、
そんな色々な事が出来るのがとても嬉しい、楽しい、幸せなんです」
とても満ち足りた表情で、そんな事を言うタヌキさんの横顔を。
俺はかける言葉もなく見ていることしかできなかった。
彼女が人間になって、ここにいる事。
それが彼女にとって幸せな事だっていうのはとても喜ばしい事で。
でも。
「後はキツネくんが、私の気持ちに答えてくだされば…
私、もう何も思い残すことはありません…」
え?
なにそれ。
思い残す事ないって…なんか…死期が近いみたいな言い方じゃないか。
「タ、タヌキさん…!」
「はい?」
振り返ったその表情。
…心なしか、やつれてるような。
もしかして、いや、しなくても。
タヌキが人間になるのって、実はすごく身体に負担が掛るんじゃないのか?
実は彼女には、あまり時間が残されていない、なんて事が…?
俺はこれまで考えた事もなかった。
いつの間にか、彼女がいる事が当たり前になっていた。
だから、答えを先延ばしにしてきた。タヌキさんへの答え、ヒトミへの答えを。
名前を呼んだきり、押し黙った俺を、不思議そうに見ているタヌキさん。
何か言わなきゃ。でも、何を言えばいい?
俺はまだ答えを出していないのに。
俺は口を開き、言葉を紡ごうとした。
しかし、その俺の表情を見て、彼女は。
「いいんです」
「…え?」
「キツネくんが迷ってる事、真剣に考えてくださってる事、私、ちゃんと解ってますから」
「…タヌキさん?」
「急かすつもりなんてありません。いつか、答えを出してくださると信じてますから」
「…」
「その時まで、私の気持ちは変わりません。
それだけを改めてお伝えしておきたかっただけですわ」
…俺にそれ以上、何かを問う資格があったか?
彼女の想いに、強い強い想いに、俺はどう答えるべきなのか。
まだ答えは出そうにない。
※ ※ ※
日も落ちて、俺たちは帰路についた。
朝、タヌキさんが言ったようになんとなくデートっぽい時間を過ごし、
帰ってきた俺たちを待ちうけていたのは。
「お帰り」
「あ!おにいちゃんやっと帰って来た―!」
もちろん、ヒトミと仔猫ちゃん。
「仔猫ちゃん、どこ行ってたの?」
「お友達と遊んでた!みんな、離してくれないんだもーん」
という彼女の周りには野良猫がわらわら。
「な、なるほど」
「で?デートはどうだった〜?」
…なんだか言葉に棘があるような気がします、ヒトミさん!
「ええ!それはもう!うふふ!」
「にゃ!?なにそれなにそれ!?デートって何!?」
「えへへ…うふふ…きゃっ(ハート)」
「こ、こら!?な、何があった!」
「な!何もしてません!信じて!]
「やだ…うふふふふふふふ…」
「アレは!?あのタヌキの舞いあがりっぷりをどう説明する!?」
「タ、タヌキさん!止めてー!!」
と、その時だった。
ざわ…と、鎮守の森の木々が鳴った。そして。
「あら、賑やかな事ね」
風が止んだ時、そこに立っていたのは、赤い袴の巫女服。
「あ…」
流れるような濡れ色のロングヘアー、
巫女服の胸元を押し上げる圧倒的なボリューム感、
切れ長の眼は怪しい色香を湛え、
ぽってりとした唇は満開の薔薇のよう。
どこか妖艶な雰囲気をまとったその人は。
独善と傲慢をも感じさせる高貴さをも併せ持っていた。
タヌキさんが太陽なら、彼女は月光だった。
ヒトミが春の風なら、彼女は秋の黄昏だった。
とにかく、なんというか、それは怪しい魅力を持った絶世の美女。
タヌキさんやヒトミとはまた違う魅力を持った…艶やかな花。
「は、鼻の下!」
いや、まぁ、その。
「あはん、お帰り。お父様がお待ちかねよ」
おとうさま?うちの神社の関係者か?いや確かに巫女服来てるけど…会った事無いぞ?
「だ、誰よあんた!?」
それは本能が為せる技だっただろうか?
この妖艶な美女を敵と認識したのか、例によって喰ってかかるヒトミ。
そしてタヌキさんは。
「あ…あ…」
…怯え、てる?
タヌキさんだけじゃなく、仔猫ちゃんも。
ケモ耳の美少女二人は、この女性に何かただならぬものを感じているようだった。
「この人…この人は…」
「お、おねえちゃん…!」
なんだ?眼の前の美女に、何がある?
「さ、行くわよ」
彼女らの事など歯牙にもかけず、巫女服の美女が言い放つ。
ツカツカと俺に歩み寄り、腕を取った。
「ちょっとキツネくんに何を…!」
「…」
巫女服の美女の視線が、ヒトミにちらと向けられる。
刹那。
「きゃっ!?」
「ヒトミさん!」
激しい風。つむじ風が、前触れもなくヒトミを吹き飛ばす。
「ヒ、ヒトミ!…うわっ!?」
閃光、そして衝撃。
………
「キツネくん!き、消えちゃった…!?」
「今のは…今のは…」
「おねえちゃん…あれは…あのヒトは…!」
「ちょ…何なのよ?何か知ってるの?ねぇ!」
「し、知りません!でも…でも…!」
「とにかく!どこに消えたのか、捜さなきゃ…!」
………
閃光と衝撃。そして。
「…親父?」
いつの間にか、俺の前に親父がいた。
「さて、お前にこの木常神社の成り立ちについて話す時が来たな」
今日は俺の誕生日。前々から言われていた。
木常神社に関する秘密をその日、俺は知る事になる、と。
もったいぶった口調で親父は話し始めた。
「そもそも我が木常神社の起源について教えよう…
木常神社を興したのは、実は人間では無い。狐だ」
「は?」
えーっと。その。
「…それは確かに秘密にしておいた方がいいよなぁ」
「あ、お前!?冗談だと思ってるだろ!?信じてないな!?」
いや、あっさり信じてるよ?
何しろ人間になれるタヌキとネコを知ってるし。
「んと、つまり…木常神社の、キツネ家のご先祖様は本物の狐って事?
つまり俺はキツネの血を引いている、と?」
脳裏にタヌキさんの顔が浮かぶ。
そうか、キツネと人間のカップルがOKならタヌキとだってOKだな。
ん?キツネの血を引いた人間とタヌキ…か。すげー混血だな。
…などと考えていると。
「いや、ご先祖様は普通の人間だ」
木常神社の始祖…つまり俺のご先祖様は、ただの人間。
しかし、その人間に、この地に神社を建立する指示を与え、
自身を祀らせたのが「お狐様」…神通力を持つ狐だったのだという。
なんだ。よくある神話・伝説の類じゃないか。
狐を祭る神社は国内にいくつもある。狐は神格化されている。
神話的な伝説・伝承がこの神社にあったっておかしくはない。
「とにかく!お狐様が神通力を我がご先祖様に与えてくださり、
ご先祖様はその力を使って近隣の人々に施しを与え、
木常神社は後利益のある神社として名を知られる事になった。
お狐様の力添えがあったればこそ、
我が木常神社は繁栄と存続を約束されたのだ」
…その割には現在ずいぶん寂れているように見えますが?
「でもその…お狐様?とやらはなんでご先祖様に協力してくれた訳?
自分を祀らせる事が目的?それとも他になんか見返りが…」
「そこだ」
「…どこ?」
「これまで黙っていたが、お前には許嫁がいる」
「はいーーー!?」
許嫁?それってつまり結婚を前提にしたお付き合い!?
俺の知らない所で俺のお嫁さんが決まってるの?ねぇ!
「いまの話が…狐がうちの神社の成立に関わってたって話が
なんでいきなり俺の結婚話に繋がる訳!?」
「いま自分で言ったろう、見返りだ」
は?
「お狐様には一人娘がいた。そしてその一人娘が一人前になる頃、
我が木常神社の跡取りに娶らせよ、というのがご先祖様に力を与える条件だった」
親父は一枚の紙を取り出した。墨で何事か記されている。
「そして先日、その娘が適齢期を迎えたという連絡があった」
「え?え?狐からお手紙?なにそれ…で、タイミング的に俺?
俺が娶るの!?娶らなきゃならないって事!?」
「そういう事になるなぁ」
えっと、ウチの神社が出来たのって何百年前だっけ!?
その頃すでにいた一人娘が適齢期っていったいそのコ、今いくつ!?
「さ、参考までに伺いますけど…どんなコ?」
「いや、まだ会って無いんだ。狐の一族のお姫様で…
なんでも尻尾が九本あるとか」
「って妖怪?それって妖怪じゃないの!?ねぇお父様!?」
なるほど、妖怪変化なら何百年も生きててもおかしくないねって…!!
もしかして…!
振り向くとそこには。
「うふ」
あのゴージャスな美女。
「ま、まさか…君が…君が!?」
「あはん?」
艶然とほほ笑む美女。その頭からキツネの耳が生え…
背後には1、2、3…9本の尻尾!!
「改めて…よろしくね、キツネくん。
私の事は…そうね『ヒメ』とでも呼んでもらおうかしら?」
艶然とほほ笑む巫女服の美女。
俺の許嫁だと言う彼女は…ケモ耳と9本の尻尾を持つ、九尾の狐。
「まぁそんなわけだ。後は若い者同士で話し合ってくれ」
お父様!?若い者ったって、彼女、妖怪ですよ!?
齢1000年を超える九尾の狐ですよ!?
そそくさと部屋を出ていく親父。
あの野郎、厄介事を俺に押し付けたな!?
「キツネくん」
…ゾクリ、と背筋を何かが這い上がる感覚。
なんだろうこの感覚。恐怖?違う、そうじゃない。
艶を含んだ彼女の…ヒメの声は…
「突然だから混乱するのは解るけどね、喜びなさいな
こんな高貴な美女を娶れるのよ?嬉しいでしょ?ん?」
目をきゅっと細め、唇を笑いの形にゆがめて、俺に迫るヒメ。
鼓動が速くなる。その声、その表情、彼女が俺に与える影響。これは…
俺はその何かを振り払おうとかぶりを振った。
気を取り直して、狐の姫に相対する。
「いや、その、ていうか、あなた妖怪ですよね!?」
「あら?化け狸や化け猫と付き合ってる貴方がそんなに驚くとは思わなかったわ」
そうか、タヌキさんや仔猫ちゃんも広義では妖怪みたいなもんか。
でもあんなに可愛いしなー…って、そういう問題じゃなくて!
「ま、いいわ。気になるならしまっておくから」
ケモ耳と9本の尻尾がすっと消える。
完璧なコントロール。ほとんど猫耳出しっぱなしの仔猫ちゃんや
動揺すると狸耳が出ちゃうタヌキさんとは、格が違う…?
その時。
バン!と襖があけ放たれて…
「キ、キツネくん!見つけた!」
ヒトミが飛び込んできた。
「あら、お嬢さん。よくここが解ったわね」
「今おじ様とすれ違ってね、吐かせたのよ」
さすがヒトミ。
いや「おじ様に聞いた」じゃなくて「吐かせた」って言葉遣いが。
「で?何をしに来たのかしら?」
「あ、あなたが突然現れてキツネくんを連れ去ったから!捜してたんでしょうが!
タヌキさんも仔猫ちゃんも怯えてるし…あなた一体何者!?」
「…無礼な小娘め」
空気が変わる。
「立ち去れ!下郎が!」
「きゃっ!?」
強風。いや、爆発的な勢いの…空気の塊、爆風がヒトミに叩きつけられた。
「ヒ、ヒトミ!?」
ヒトミはふすまを突き破り、廊下に転がった。
「ヒ、ヒトミさん!」
廊下の向こうで、タヌキさんが立ちすくむ。
「下賤の輩が我に触れる事能わず!」
「な、何するんだ!」
「ふん、怪我はあるまい。そんな事より…」
妖艶な笑み。再び俺の背筋を不思議な感覚が駆けあがる。
「あはん(ハート)」
俺を見るその瞳。そこにあるのは…情欲?
「行きましょ?ダーリン」
「ちょ…!!」
またしても衝撃、閃光。
※ ※ ※
こ、ここどこー!?
それは豪奢なベッドだった。
俺はキツネ耳と9本の尻尾を持つ巫女服の美女に組み敷かれていた。
「キミを見てたら…昂奮してきちゃった」
「は、はいーーーーーー!?」
「ねぇねぇ、私たち夫婦になるんだからぁ…いいよね?ね?ね?」
「な、なんかさっきまでと雰囲気違いますけど!?
そ、それに、いいいいいい、いいよねって何が!?ねぇ何が!?」
「んもう!解ってる、く、せ、に(ハート)」
「そりゃ解りますけどまずいですってばーーーーー!!」
って何?俺ってケモ耳の呪いでもかかってんの!?
ご先祖様のバカー!ハゲー!オタンコナスー!!
「くすん…私、魅力、無い?」
そ、そういう訳じゃありません!!
言い訳!なんか言い訳考えろ、俺!
「お、お。俺は…!!」
「おお、俺には!す、すすす、好きな子がいるんですぅう!!
だ…だから、ダメーーー!!」
「私という許嫁がありながら!?」
知らなかったもんーーー!俺に許嫁がいるなんて!
「その女は!狐族の長たるこの九尾よりいい女だと言うのか!?」
うわ、豹変。さすがの貫禄です、お姫様。
突如、一陣の風。
俺の身体はその風に吹きあげられ宙に舞う。
「うわ!?うわわわわ!?」
気がつけば空の上。上空からウチが…木常神社の敷地が見える。
その参道に、3人の少女の影。
「タヌキさん…ヒトミ!仔猫ちゃん…!」
俺の傍らにはヒメが浮かび、地表を鋭い目で睨みつけている。
「どれだ?あのちっこいのか?あの垂れ目狸か?それともあの人間か?
ふん、どいつもこいつも…私の魅力の脚元にもおよばぬわ!」
力強い宣言と共に急降下。まさにフリーフォール状態。
「ちょ…うわーーーーーーーーーーー!?」
「キツネくん!?」
地表スレスレで急減速。ふわりと地面に舞い降りる俺とヒメ。
…地に足がつくって、いいもんだな。
ヒメは眼前の3人の少女を睥睨する。
タヌキさんは怯えつつもその視線を真っ向から見据える。
ヒトミは腕組みをしてヒメをにらみ返している。
…脚が震えているように見えるが。
仔猫ちゃんは二人の後ろに隠れおずおずとこちらを見ている。
「ふん…お主らも引くつもりはない…か」
「当然、ですわ」
タヌキさんが震える声で、でもきっぱりと言い切る。
その横でヒトミが頷いて見せる。
「お主らに試練を与えよう。愛の力で乗り越えてみせい!」
…なに、それ?
「さすれば、我もキツネくんから身を引こう。正々堂々たる勝負じゃ!」
気迫のこもった先刻と共に、ヒメの頭部から狐耳が生え、さらに9本の尻尾がのたうつ。
「九尾の狐…!?や、やはり…タダモノじゃなかったんですわね…!」
ヒメが尋常ならざる存在である事を最初から察知していたらしいタヌキさん、
ようやくヒメの正体を知り、合点がいったようだ。
「九尾…て!よ、妖怪じゃないのよー!?な、なにされるの!?試練て何ー!?」
「た、確かに…わ、私などとは…力が違う…!まぁ可憐さでは負けてませんけど(うふ)」
「ほざくな!下郎が!」
ヒメの一喝。びくりと後じさるタヌキさんたち。
ああ、すっかり怯えてるよ。仔猫ちゃんなんて今にも泣きだしそう。
「ご、ごめん!」
思わず割り込むように声が出た。黙っていられなかった。
ヒメがタヌキさんやヒトミに敵意を剥き出しにするのは…
どうやら俺の不用意な一言のせいらしいんだから。
「ごめん、俺のせいだ!
俺が、その、好きな子がいるなんてって言っちゃったから…」
ぴくり。
と、ヒメの剣幕に怯えを隠せずにいた、タヌキさんとヒトミの様子が一変した。
そして。
彼女が俺を見る。俺も彼女を見る。目と目が合った。
第五話、了。
次の第6話で最終回(タヌキさんルート)の予定です。
よろしければいましばらくお付き合いください。
ワッフル
407 :
キキーモラの人:2012/09/09(日) 20:08:52.59 ID:mtYFXiVx
#キツネくんの話の人、乙です。いよいよ終盤戦ですね!
#そして私の方も、週末を約束していたブツを投下します。もっとも、リハビリを兼ねて再開で、Hシーン直前までしかたどりつけず。
#さらに今回は、本人達より隊長達がでばり過ぎかも。
『つくしんぼ通信〜彼女はキキーモラ〜』(後編1)
辺境警備隊に所属するジェイムズの家で、キキーモラのピュティアがメイドとして住み込みで働くようになって、およそ半年の時が流れた。
キキーモラの少女は、当初は自分でも認めていたとおり、掃除と裁縫を除く家事はあまり巧くなかった──というか、むしろ下手な部類に入った。
しかし、その生真面目な性格から、日々精進を繰り返すことと主婦業ン年のゲルダに教わることで少しずつ上達していき、数ヵ月経つ頃には、家事全般を預かる者として遜色ない技量に成長することができた。
家主であるジェイムズも、文句も言わず(いや、不味い料理は「不味い」と正直に告げたが)、彼女が家事を行う様子を寛大に見守り、今では安心してすっかり家の中のことを任せきりにしている。
その彼自身も真面目な性格が幸いしてか、ケイン隊長に剣技その他の稽古を熱心につけてもらった成果が上がり、警備隊の中でもメキメキ腕前を上げていた。
もともと、ケインが隊長として着任した地方の警備隊は、彼のシゴキと指揮のおかげでそれまでとは段違いに強くなるのが常だったが、その例に照らし合わせても、ジェイムズの伸びっぷりは頭2つ、3つ飛びぬけている。
(たぶん、無意識に妖精眼を使いこなしてるんだろうなぁ)
打ち込んでくるジェイムズの剣を、木剣でいなしつつ、そんなコトを考えるケイン。
「っおりゃあっ!」
気合いとともに放たれた神速の縦切りを半身をズラしただけでかわし、そのまま軽く足払いをかけるケイン。
たまらず、ジェイムズはすっ転び、手から武器を落としてしまった。
「ほい、チェックメイト。最後の唐竹割り以外はなかなかよかったぞ」
「あっつつ……うーん、イケると思ったんですけどねぇ」
「阿呆。決めの攻撃の時に大声あげたら、「今から行きます!」って相手に教えてるようなモンだろうが。それに剣筋が素直なのはいいが、素直過ぎて逆に読みやすい」
反省点を指摘しつつも、ケインはジェイムズの動きそのものには舌を巻いていた。身体を無理なく自然に動かすことで最高の力を引き出す、というのは言うのは簡単だが実際に実現するとなると、かなり難しいのだ。
「まぁ、初級基本編は卒業して、これからは中級応用編にお前さんも進まないといけないってことだ」
師匠っぽくエラそうにアドバイスするケインだが、彼の言う「中級編」に進めた者は、これまでに指導した100人近い教え子の中でもわずか数人なのだから、それだけでもジェイムズの優秀さはわかるというものだ。
408 :
キキーモラの人:2012/09/09(日) 20:09:19.91 ID:mtYFXiVx
「で、そっちはいいとして、あの子達の仲の進展具合はどうなのよ?」
顔全体に「ワクワク」という擬音を貼り付けたような表情で、夕食の席で妻のゲルダに問われ、ケインは苦笑する。
「ヲイヲイ。そのテの噂話に詳しいのは主婦の特権だろうが。むしろ俺の方が聞きたいぞ」
「まー、そりゃ、そーなんだけどねー」
苦虫を半匹くらい噛みかけたような微妙な顔つきになるゲルダ。
「微笑ましいというか、カマトトってゆーか……」
ひとつ屋根の下に、互いにそれなりに好感を抱いている男女ふたりが数ヵ月共に暮らしていれば、いわゆる「男女の仲」になっても別段おかしくはない。
なのだが……最初の出会いが出会いだったせいか、ジェイムズとピュティアは、半年経った今も、非常に遠慮勝ちな距離を保っていた。
無論、一緒に暮らしている以上、「着替え中にドアを開けて慌てて謝罪」、「ベッドに起こしに来たら、男の生理現象がニョッキリ」、「水仕事で濡れた服が透けてドッキリ」といったハプニングはあるにはあったが、そこから先に進まないのだ。
初心で微笑ましいと言えないコトもないが……。
「すみません、ご主人さま、お疲れのところを買い物につきあっていただきまして」
「なんの、力仕事は男の領分さ。それに、ピュティアさんにはいつも家のコトをやってもらってるから、たまには恩返ししないと」
隊商(キャラバン)によって村の広場で開かれている市場に、ふたりは連れ立って来ていた。
辺境にほど近い村ではあるが、それでも半年に一度くらいのペースで、このような十数人単位の小規模な隊商が訪れ、この辺りでは手に入らない物品を購入する機会があるのだ。
警備隊は安月給だが一応固定の現金が支払われる上、ここ数年はジェイムズが人に貸している畑も豊作でそれなりの地代が入っているので、慎ましい暮らしながらそれなりに蓄えはできている。
「そんな! 私こそ、お世話になりっぱなしで……」
紙袋を抱えたまま、申し訳なさそうに頭を下げかけたピュティアが、"路面の一部が濡れていた"せいか、つるりと足を滑らせる。
「あっ!」
「おっと!」
素早く手にした荷物を置き、彼女の身体を抱きとめるジェイムズ。さすがに慌てていたせいか、力の加減ができず、彼女の身体を自らの腕の中にすっぽり抱きかかえるような姿勢になっていたが……。
「よしよし、そこでブチュッといきなさい、ブチュッと!」
「いや、デバガメみたいなコトはやめようぜ、ゲルダ」
物陰から、部下にして弟子でもある少年達の様子を、隊長夫妻がうかがっている。
「ああっ、何でそこで手を離すのよ! ピュティも、もっと積極的に!」
「無責任に煽るなって。そもそも、あそこに氷張ったのお前の仕業だろ。アイツが助けるのが間に合ったからいいものの、転んで頭でも打ったら危ないじゃないか」
「妖精──それも"地"に属するキキーモラが、転んで頭ブツケたくらいでどうにかなるモンですか! あ〜、もぅじれったいわねぇ」
(お前は、知り合いにやたらと見合い話を斡旋するオバちゃんか)
溜め息をつきながら、そんな感想を抱いたものの、さすがに口には出せない。
女性に年齢を感じさせる単語、とくに「オバちゃん」なんて言葉は禁句なのだ。さすがに夫婦生活が長い(とある事情から、このふたり、見かけの倍は生きてるのだ)ので、そのくらいは彼も理解している。
「あの年頃の少年少女って言ったら、逢う度にキスだの抱擁だのを繰り返して、そこから先の一線をいかに越えるか、互いに色々模索してるモンでしょーが!」
「いや、まぁ、確かにそれはそうだけどな」
妻のエキサイトっぷりを「どうどう」とケインはなだめる。
「ま、あのふたりは、なまじ一緒に暮らしているぶん、「家族」って気持ちが強いのかもな。こういうコトは自然に任せるのが一番いいと思うんだが」
「そりゃね、わたしだって、あのふたりが人間同士、あるいは妖精同士なら、こんなに気を揉まないわよ。でも……」
妻の言いたいことは、ケインにもわかった。
おそらく、ふたりの姿に、在りし日の自分達の不器用な恋愛を重ねているのだろう。
「はぁ……仕方ない。ちょうどいい機会だから、ちょいと爆弾投下してみるか」
王都から届いたある手紙の文面を思い出して、ケインは久々にかつての上司の手を借りることを決意するのだった。
* * *
土を踏み固められた10ヤード四方くらいの小さな広場──警備隊の訓練場で、ジェイムズは、久々に隊長のケインとの「真剣勝負」を取り組んでいた。
これは文字通り、木製などの練習用ではなく、本物の武器で打ち合う形式の試合を指す。無論、殺し合いではなく寸止めするルールだが、普通の練習に比べて格段に危険性は高い。
もっとも、警備隊付き修道女のシビラとケインの妻ゲルダも立ち会っているので、仮に負傷しても魔法ですぐに癒すことは可能だが。
「どうした? 来ないのか?」
しかも、ケインに至っては、本来の得物である長槍を手にしているという気合いの入りようだ。
最近では、彼から3本に1本程度はとれるようになったとは言え、それらはすべて剣対剣での話だ。ただでさえ、剣対槍では後者が有利だと言うのに、一体隊長は何を考えているのだろう?
そう思いつつ、ジェイムズもここは引く気はない。
「本当に隊長から3本中1本でも取れたら、給料上げてくれるんでしょうね?」
──まぁ、そういうコトだ。
「うむ。男に二言は無い。ま……」
ニヤリと笑った次の瞬間、あり得ない踏み込みの早さでケインの槍が、正眼に構えたジェイムズの剣を下から叩いて、少年の腕ごと大きく上に跳ねあげていた。
「流石に槍を手にした状態でヒヨッコに負ける気はないがね──コレでまずは1本だ」
完全に無防備になった少年の頬を、冷たい槍の穂先がピタピタと撫でる。
「くっ……!」
温厚とは言えジェイムズも、警備隊所属の兵士である以上、武人のハシクレ……という自負がある。遅まきながら、少年らしい負けん気に火が点いたようだ。
すぐさま跳び退って再び剣を構える。
その姿からは、先程までは感じられなかった殺気にも似た気合いが立ち昇っているのがわかった。
そこからのジェイムズの動きは目を見張るようだった。
上段からの打ちおろし、左から右の横薙ぎに続いて右斜めに袈裟掛け、その真逆に下からの切り上げ、さらには連続の三段突き……と剣術の教科書に載せたいくらい見事な動きで、ケインを防戦一方に追い詰める。
──いや、そう思えたのだが。
「前に教えただろ。理に適った動きは強力だけど、その分読みやすいって」
わずか半呼吸の隙を突かれて(いや、おそらくは最初からそれを狙っていたのだ)、あっさり逆転される。
「ふむ……見込み違いか。どうやら、まだ応用編をものにできていなかったかな?」
クルリと回した槍で、トントンと自分の肩を叩いている隊長を見て、少年兵は唇を噛んだ。
最初から敵わないだろうことは正直理解していた。
けれど、このまま一矢も報いないで終わるのは、目をかけてくれた隊長本人に対しても、自分自身のなけなしのプライドに対しても──そして、こっそりゲルダさんの背後から見学しているピュティアへの見栄の面からも、我慢ならない。
彼女の心配そうな姿を目にした瞬間、脳内のどこかでがカチリと何かがズレたような気がした。
スーッと深呼吸をすると、パチリと剣を腰の鞘に納める。
「ん、どうした? 降参か?」
「はは、まさか……僕なりに奇策を弄してみようかと思いまして」
そのまま左手で鞘ごと腰から外し、右手を剣の柄にかける。
相応の知識がある者が見れば、それは東方の剣技で言う「居合」の型と似ていることがわかったろう。無論、ケインにもその知識はある。
「ほぅ……おもしろい。だが、付け焼刃でそれができるかな?」
ニィと男臭い笑みを口元に浮かべたケインが、それでも先程よりも慎重に槍を構える。
できるはずがないとは思う反面、この若者ならやらかしてくれるんじゃないか、と期待する部分があった。
「勝負ッ!」
鋭い呼気とともに裂ぱくの気合いをもってそのまま踏み込むジェイムズと、それを迎え撃つケイン。
そこにいる誰もが、その姿を予想したが……。
「……え?」
少年は、踏み込みかけた姿勢のまま、強引に足を止めていた。
優れた武人は、相手の次の動きを自然と予測し、それに対応し、凌駕するべく動く。
ケインも当然、その「優れた武人」の範疇に入る存在だ。まして、彼もまた「妖精眼(グラムサイト)」持ちであり、人の気の流れなど手に取るようにわかる。
しかし、この場合、それが裏目に出た。
いや、正確には少年が足を止めようとした瞬間それを察知し、すぐさまソレに対応しようとしたのだが……。
槍の間合いの半歩外から放たれたジェイムズの「居合」もどきが、予想外の結果をもたらしたのだ。
居合とは、刀を鞘で滑らせることによって本来の抜刀速度以上のスピードで放たれる抜き打ちの斬撃だ。西方の剣技しか知らない者からすれば、特に初見だと魔法か手品のように見えるが、原理的には神速の抜刀術、それに尽きる。
とは言え、確かに長剣や大剣の大ぶりな動きに慣れた者からすれば、そのスピードは脅威だ。
しかし、ケインは本物の東方剣士と撃ち合った経験もあり、その速度への対応も十分に可能だと自負していたのだが……。
Q.片刃で緩く剃りのあるカタナでも難しい居合を、両刃で肉厚の長剣で実行できるものか?
A.無理。
そう、ジェイムズは、神速の抜刀術を仕掛けようとしていたのではない。
そう見せかけて、そのまま剣を振り抜き、鞘を飛ばして来たのだ。思わずそれを槍で弾いて隙ができたケインの懐に入り込む。
剣に対する槍の優位の7割は、その間合いの広さにある。強引に近づくことで、その差を少年は埋めようとしたのだ。
その試みは半ば成功したかに思えたが……。
「ふぅ〜、あっぶねぇ」
咄嗟に槍から利き手を離したケインが抜いた短剣で、ジェイムズの渾身の一撃は受け止められていた。
「くうっ! これでも届きませんか」
「生憎、これでも前大戦経験者でね。生き汚いのが身上だからな。とは言え、70点ってところか。ギリギリ合格だな。
──辺境第23警備隊隊員、ジェイムズ・ウォレス!」
「は、はいっ!」
姿勢を正したジェイムズに、ケインは思いがけない言葉を告げた。
「貴殿を王国軍第八戦士団の正隊員推薦する──来月から、いっぺん王都まで行って来い」
「……へ?」
-つづく-
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#まぁ、ありきたりですが、じれったい恋人未満をくっつけるには、別離を演出するのが早道ってコトで。
ワッフルワッフル
「キツネくんとタヌキさん」第六話・前篇を投下させていただきます。
11レスあります。本当に長々と申し訳ないです…
第6話 キツネくんとタヌキさん
目が合った途端、彼女の愛らしいケモ耳がぴょこんと立ち上がる。
「キツネくん…」
ヒメに対して怯え、震えていた表情が一変する。
頬を紅潮させ、優しい頬笑みを浮かべる。
「好きなコがいる」苦し紛れに言い放った言い訳。
でもそう言い放った時、脳裏に浮かんでいたのは…彼女の顔。
頭で考えたんじゃない。それは心で感じた、俺の本心。
優柔不断な俺は、あんな切っ掛けでも無ければ、
自分の気持ちに気付く事もできなかったんだ。
頭部のケモ耳が、ピクピクと動く。その様が愛らしく思える。
そう、彼女はタヌキだ。
彼女が怯え恐れる九尾の狐…ヒメ。
しかし彼女も同様…ヒトならざる者なのだ。
俺は、目を逸らす。逸らしてしまった。
「…あ」
落胆の…声。見なくてもその表情の変化は解る。
その時。
「ま、まてまてまてーーーー!」
「ヒ、ヒトミ!?」
ヒメの前に立ちはだかり、睨みつける。
「試練ですって?何をさせようって言うの?
何をすれば…あんたはキツネくんから手を引くの?」
「…お前が試練を受けて立つと?」
「いけない!?私は…キツネくんが」
一瞬の躊躇。しかし。
「キツネくんが好き。一番、好き」
「ヒトミ…!?」
「キツネくんも、きっと…きっと私を!」
ヒメがにやりと笑う。
「ほぅ…キツネくんの想い人が自分だと、言い切れる自信が?」
「…ええ」
…この期に及んで。
俺は何をしている?俺がすべきは。俺が言うべきは。
俺が好きなのは、誰なのか。
いま、はっきり言うべきなんじゃないか?
なのに、俺は…俺ってヤツは。臆病者の、卑怯者だ。
俺は、一番好きなコに、好きだって言うのが…怖いんだ。
だって、彼女は。
ヒトじゃ、ない。
「で?何をさせようって言うの?」
「あはん♪そうねぇ…愛し合う二人の絆を見せて欲しい所ね」
先程までの威圧感溢れる「狐の女王」の姿は成りを潜め、
俺を誘惑する時の悪戯っぽい、でも艶のある目つきと態度。
「きずな…?どうやって…?」
「そうねぇ私の目の前で…Hするとか」
はぁ?
「で、出来るかー!!」
ふざけてる!このメギツネ、ふざけてやがる!?
そんな事出来るわけないだろ、人前で、その…するなんて!
「や、やってやろうじゃないの!」
こらこらこらーーーーーーーーーーーーーー!!
「ヒ、ヒトミ!?」
「あはん?出来るの?今すぐ?私はいつでもいいわよ〜」
ぐっと詰まるヒトミ。無理するなっての!
しかしヒトミは。
「あ、あすの夜!!待ってなさい!」
「え、ちょ、あの…!!」
目が据わってるーーー!?
俺は心臓が爆発しそうで言葉が出ない。
ヒトミと、その、する?ヒメの、目の前で?
なにその露出羞恥プレイ!?その、刺激が強すぎて眩暈がしますーーー!
ヒトミはヒメを、そして俺を睨みつけ、踵を返す。
「あ、明日の夜だからね!忘れないでよ!」
と、捨て台詞を残し走り去った。
「やだーあのコ、本気?あはん、面白いモノが見れそうねぇ〜
他人のする所見るのなんては・じ・め・て♪」
ちょっと、ヒメさん!?あなたの性癖ってどんだけ懐が深いんですか!?
「ヒ、ヒトミさん…キツネ、くん…」
事の展開についていけないのか、タヌキさん、オロオロ。
「明日の夜が楽しみね♪じゃ、おやすみ〜」
ざざっ…!
「うわっぷ!?」
またも風が吹き荒れ、ヒメはその風と共に姿を消した。
「キツネくん…わ、私…」
「おねえちゃん…?」
タヌキさんが、俺を見ている。頭部にはケモ耳。
傍らには仔猫ちゃん。こちらも頭部にケモ耳。
「キツネくんは…やっぱり…ヒトミさんが…」
「タヌキさん…」
「私じゃ…やっぱり…ダメ…ですか…」
今の俺には…返す言葉が無い。
ついさっき、目を逸らしてしまったから。
タヌキさんの…耳から。
彼女は人間じゃない。とても可愛いのに。
…俺は彼女が、好きなのに。
でも。
「あ!おねえちゃん!」
踵を返し走り去るタヌキさん。仔猫ちゃんが後を追う。
俺は一人取り残され…誰を追う事も出来なかった。
※ ※ ※
長い長い夜がようやく終わって。
翌日。今日は祝日。
しかし俺は、朝から何をする気も起きないでいた。
日が高く昇っても何をするでもなく過ごしていると…
ヒトミが訪ねてきた。
「ヒトミ…」
「ん、入っていい?」
「あ、ああ…」
部屋に入ってきたヒトミはしかし無言で。
張りつめた空気。
その空気に耐えきれず、俺は、
言うべき言葉も見つからないまま言葉を発していく。
「あ、あの…」
「…」
「本気じゃ、ない、よな?」
「…」
「なんていうか、その…えと…」
再び、沈黙。しかし。
「ヒ、ヒトミ…!」
「キツネくん」
意を決したように、ヒトミが口を開く。
「夜まで待ってたら…あいつが来ちゃうから」
「え?」
あいつって、ヒメの事か。
「ちょ、ヒ、ヒトミ!?」
い、いきなり!ヒトミは立ちあがり、その…!
きていた服を脱ぎ出した!
「ま、まて!ヒトミ…!あ、あいつの…
ヒメの口車に乗せられちゃダメだぞ!?」
「違うわ、別に…あいつにしろって言われたからじゃない」
「…え?」
「キツネくん」
にっこりほほ笑んで。
「…誕生日おめでとう。一日遅れたけど、私からのプレゼント、受け取って」
「プレゼント?」
「うん」
…って、ま、まままま、まさか!?
あのベタな台詞を!?
「プレゼントは…私」
うわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
すっかり服を脱ぎ捨てたヒトミが俺に抱きついて来た。
腕の中に、生まれたままの姿のヒトミがいる。
「ヒ、ヒヒヒヒヒ、ヒトミ、さん!?」
「私を…あげる」
「いや、その、あの」
しどろもどろ。事の展開についていけない。
「あいつに言われたからじゃない。見せるつもりもない。
でも、私は…キツネくんが好きだから。だから、
たとえ…キツネくんの心が誰に向いてても」
「…え?」
「キツネくんが…タヌキさんの事、好きなの、解ってる。
解っちゃったもん。でも、だから」
ヒトミの身体が…震えてる。その目から、涙が零れる。
「こんな事しても無駄かもしれない。でも。でもでもでも…!お願い…私を…見てよ…!」
「お、おれ…おれは…!」
ドキドキしてる。昂奮してる。
このままヒトミを…抱いてしまいたいと思う。
その欲望を否定できない。でも。
「ダ…ダメだって!」
「キツネくん…!」
それはもう、とんでもない自制心が必要だった。
ヒトミは可愛い、魅力的だ。おまけに…その、裸で迫られて。
ああ、正直に言おう。むちゃくちゃ昂奮してる。
ああ、勃起してるとも!むちゃくちゃしたいよ、やりたいよ!
バカだと思う。むちゃくちゃしたいくせに。やせ我慢して。
だらだら汗かいて、勃起させて我慢汁たらしてるくせに!
「か、かっこつけるつもりはないけど、でも!」
でも!でも…!!
「やっぱりダメだよ…俺、いまの気持ちのまま、ヒトミを抱くなんて出来ないんだ」
「キツネ、くん…?」
「ごめん、ヒトミ。こんな事させて…ごめん。俺は…俺はタヌ…」
「言うなーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
ぱあああああん!!と、激しく頬を張り倒された。
「…ってー…」
「解ってるよ!解ってたよ!」
「ヒ、ヒトミ…」
「言われなくたって…知ってるよぉ…」
ぼろぼろと涙をこぼして。子供みたいに泣きじゃくるヒトミ。
「キツネくんのバカーーーーーーーーーーーーーー!!」
※ ※ ※
ヒトミは泣きじゃくりながら服を着て、部屋を出て行った。
その間、二度と、俺の顔を見る事は無かった。
俺もヒトミにかける言葉を持たない。持てなかった。
「なかなか面白い見世物だったわねぇ」
「!!」
窓辺に、巫女服の美女。ヒメ。
「いつの間に…」
「あはん、彼女が来る前からいたわよ?」
…気配を消し、姿を消す事なんて朝飯前って事か。
「悪趣味だな」
「必死の思いでやってきた女の子を
あんな風に振っちゃう貴方のが悪趣味(ハート)」
「…それだってお前のせいじゃないか!」
「違うと思うけどなー」
「な、なに?」
ヒメがひらりと、まるで重力を感じさせない動きで舞い、俺の脇に立つ。
「女の子が涙を見せるのは、全部、男が悪いの」
「い、一方的すぎるだろ!?」
「ううん、女の子を泣かしたら、全部、男が悪いの」
…なんなんだ、こいつは。
俺を誘惑し、ヒトミを扇動し、男を非難する。
「ま、それはともかく」
「くあ…!」
「んふ♪こんなにしておきながら、よく我慢できたわねぇ?」
こ、股間を撫でさすりながら舌舐めずりするなー!
「ほらぁ昨日の続き、しよ?してあげる」
「だ、だめだってばーーーーーーーーー!」
再び、理性を総動員。自分で自分をほめてやりたい。
しなだれかかるヒメを突き放す。
「やん」
立て続けの誘惑に、俺は耐えきった。
「…そんなにあのタヌキが良いわけ?」
「…え?」
「女の子にあそこまでさせておきながら拒み、
私程の美女を拒む程…あのタヌキがいいの?」
「お、おれは…」
「ふん!もう時間なんて無いのに」
「…え?」
時間が、無い。
それとても不吉な予感を呼び起こさせた。
「…どういう、事だ?」
「タヌキが、ケモノが人の姿になる。
それにどれくらいのエネルギーが必要だと思うの?」
…そんな事、考えたことも無かった。
「長くないのよ、あのタヌキ」
なにその設定!?聞いてないよ、伏線も無かったし!
「…あ!」
『後はキツネくんが、私の気持ちに答えてくだされば』
『私、もう何も思い残すことはありません…』
あの時の言葉…思い残す事がないって…死期が近いみたいな言い方。
「長くないって…どういう事だ!ま、まさか…い、いのちが!?」
「さぁ?直接聞けばいいじゃない。フン!」
「ヒ、ヒメ!待って!」
「私を振った男に教えてなんかやらないわよ!べーーーーっだ!」
…子供か!似合わないぞ、そういうの!
とにかく思わせぶりな捨て台詞だけを残して、ヒメは消えた。
残された俺の脳裏には、ヒメの言葉がぐるぐると飛びまわる。
時間なんて無いのに時間なんて無いのに時間なんて無いのに
時間なんて無いのに時間なんて無いのに時間なんて無いのに…
どういう事だ?
タヌキさんは…どうなるっていうんだ?
※ ※ ※
俺は思わず飛び出していた。
目指すは田貫家…タヌキ理事長の、タヌキさんの、家。
「タヌキさん!」
「キツネ、く…ふああああ!」
き、緊張感の無いあくび。
「ね、眠いの?」
「あ、あのその…昨夜は寝付けなかったもので…」
…そうか、それも俺のせいだったな。
「あ…」
「ちょ…!」
突然、タヌキさんがふらつく。俺は慌てて支える。
「ご、ごめんなさい、えへへ」
「い、いや…」
ほんとうに、ただの寝不足なのか?それとも…
「タヌキさん…あの…」
ヒメの残した言葉…時間が無いって言葉の意味。
その事についてタヌキさんに尋ねようとした、その時。
「にゃー」
足元に擦りよる一匹の仔猫。
こんな時に…って、あ、あれ?
この猫…も、もしかして!?
「こ、仔猫ちゃん!?どうして…猫の姿に?」
「んにゃー」
悲しげな泣き声。この声、この姿。
間違いない!この仔猫は…!!
タヌキさんも気付いたらしい。顔面蒼白で仔猫を見つめる。
「今朝から姿が見えないと思ったら…!も、戻れないんですか?」
これか?これなのか?ヒメが言っていた「時間が無い」という言葉の真意。
時が来れば…仔猫ちゃんが…タヌキさんは…元の姿に戻ってしまう!?
力の…限界。そういう事、なのか…!?
そして、仔猫ちゃんの様子を見てタヌキさんは動揺している。
と言う事は、彼女自身も気付いてない。
いつか、時が来れば。元の姿に戻ってしまう事を…?
いや、待て。じゃあ理事長はどうなんだ?
タヌキさんの伯父にあたる、元タヌキ。
学園の理事長という職につくにはそれ相応の時間が必要だったはずだ。
あの人もいつか時が来れば狸に戻るのか?それとも…
元の姿に戻らずにすむ方法があるのか?
「タ、タヌキさん!伯父さんは…理事長は!?」
「え?あ、あの…お仕事で…しばらく家をあけると…ご出張だそうですわ」
くそ、こんなときに…!
どうする?その時は突然来るのか?
それとも…今度タヌキになったら戻れなくなるとか、
変身できる回数に制限があったりするのか?
ルールが、法則が解らない!
「タヌキさん…最近、タヌキの姿になった?」
「も、もうなりませんわ!私、人間ですのよ?(ぷぅ!)」
といいつつ耳が飛び出す。
「あ、あら?おかしいですわね?えいっえいっ」
戻らない…戻せない、のか?
「こ、困りましたわね…」
もし…もしも。
このままタヌキさんが…元の狸に戻っちゃうとしたら。
俺に何が出来る?俺は…何をすればいい?
「…ちょっと待ってて!」
俺は辺りを見回し、帽子屋を発見。
タヌキさんに似合いそうなのをひとつ。
タヌキさんの元に戻ってそれを差し出す。すると。
「まぁ…」
「ど、どうしたの!?」
「う、嬉しいんですわ…キツネくんからの…初めてのプレゼントですもの」
んと、投げ売りで千円しなかったんだけど。
「そういう問題じゃありません!」
なんで怒られるんだよぉ
「えへ…えへへ…えへへ…」
帽子をかぶり、にやけるタヌキさん。
まぁ…なんというか、そんなに喜んでもらえて嬉しいよ。
ケモ耳は帽子にすっぽり包まれ、外からは見えなくなった。
タヌキに戻ってしまうかもしれないタヌキさんに
俺が出来る事なんて…この程度の事なのかもしれない。
でも。
後悔したくないから。今出来る事をしよう。
「…行こう」
「ど、どこへですか?」
「タヌキさんの行きたい所。行ってみたい所。
昨日、言ってたじゃないか、デート、しよう」
「ま、まあ…」
タヌキさんが驚いてる。ちょっと、唐突だったかもな。
「で、でも…あ、あの…ヒトミ、さんは…そ、それにあの、仔猫ちゃんも…九尾が…」
「…いいんだ」
残酷かも知れない。でも。
「今は…ヒトミの事も、仔猫ちゃんの事も…ヒメの事も、全部、どうでもいい」
「キ、キツネくん…?」
「俺は今、タヌキさんとデートしたいんだ」
タヌキさんの頬が真っ赤に染まる。
「…ホントですか?」
「ほんとほんと!」
精いっぱい、明るく。内心の不安を気取られないように。
「じゃ、じゃあ!」
「ほい?」
「私!うみが見たいです!」
「海…まだ寒いよ?」
「でも、私見た事ないんですもの!」
少し離れた塀の上で。
「にゃー」
小さな仔猫がひと声鳴いて、さっと身をひるがえした。
あっという間にその姿を見つけ出す事はできなくなった。
※ ※ ※
という訳で、海。
「まぁまぁまぁ!これ全部水ですの?すごいすごいすごーーーい!」
海からの風に飛ばされないように、帽子を押さえて波打ち際ではしゃぐタヌキさん。
あの耳さえなければ、ホントにただの…ただの可愛い女の子。
俺の理想を体現したかの容姿で、俺に好意を寄せてくれている。
これ以上、何を望む事がある?彼女の気持ちに答えない理由なんてあるか?
…彼女は人間じゃない。だけど。
「キツネくん!えいっ!」
「うわぷっ!?」
楽しそうに笑いながら、タヌキさんが波打ち際でジャンプ。
飛び散った塩水のしぶきが俺を襲う。
「あはは!水しぶきくらいでそんなに慌てなくてもいいじゃありませんかー」
「いや、ただの水じゃなくて…しょっぱいんだぞ!?」
「え?しょっぱい?」
しゃがんで、海水を指先に付けて、その指をぺろりと。
「んひゃっ!?な、なんですのこれ…お塩、効き過ぎですわ!?」
…料理じゃないんだから。
「ぷっ」
「あー!お笑いになりましたね!?えいっ!えいっ!」
「うわ!?だ、だから!しょっぱいってば!」
タヌキさんが盛大に海水をこちらに飛ばしてくる。
「こ、この!お返しだ!」
「きゃっ!?」
「こら!逃げるなー!」
まだ夏の遠い季節。
人気の無い海岸で。逃げるタヌキさんを追う。
これまで追い掛けられてきたから、追うのは新鮮な気がするな。
そう。タヌキさんはずっと俺を追いかけてきてくれた。
タヌキの姿を捨てて人間になってまで、俺の傍にいようとしてくれた。
だから、今度は。
俺が彼女を追いかける。俺が彼女を捕まえる。
なんて物思いにふけっていた隙をつかれた。
「…とぉ!」
「うわっ!?」
逃げていたタヌキさん突然、反転。
俺に飛びかかってきた。バランスを崩して転倒。
「わぷっ!?」
砂にまみれて海岸を転がる。
「タ、タヌキさん!?」
「あはは!つーかまえたっ!」
にこにこと笑うタヌキさん。頭から帽子が落ちていた。
ケモ耳がぴょこぴょこと動いている。
彼女はタヌキだ。人間じゃない。
だけど。
俺はようやく自分の心に正直になれる気がした。
俺は。
俺は、彼女が大好きなんだ。
※ ※ ※
彼女とすごす時間はいつだって輝きに溢れていた。
彼女の笑顔は俺を幸せにしてくれる。
ちょっと常識はずれな所だって(元タヌキだから仕方ない)
彼女のチャームポイントのひとつだ。
俺は西日さす浜辺をゆっくりと歩いていた。
後ろからタヌキさんが付いてきてくれている。
俺は立ち止まり、振り向かず、話し始めた。
「タヌキさん」
返事は無い。
「今日は…とても楽しかった」
俺は、ようやく、素直に俺の気持ちを口にする事ができた。
「いや、タヌキさんが俺の前に現れてくれてから…
毎日がすごく楽しかった。君と一緒にいる時は…いつも」
迷いはもう、無い。
「俺は。俺はタヌキさんが…!」
振り向いた。そこにいるはずだったのに。
「…え?」
タヌキさんがいない。
いたはずの場所…そこには、タヌキさんの服が、服だけが落ちていた。
「タヌキ、さん…?」
俺の呼びかけに応えるかのように、落ちていた服がもぞもぞと動く。
そして、そこからひょっこりと愛くるしい顔を見せたのは。
一匹のタヌキ。
茶色い毛皮を身にまとった、ただの狸。
その毛が、夕陽を浴びて金色に輝いているのを俺は呆然と見ていた。
(後篇に続く)
次の後篇で終わります。ご容赦のほどm(_ _)m
おふたかたともぐじょーぶー!
まー厳密に言ったらヒトミたん人間だけど
ヒト同士の絡みでは前スレで投下された「月下奇人」の例もあるし、
(※人間ヒロインが"マミー"にえっちないたずらされたりしつつ
最終的に人間な彼氏とえちする展開。(注:ホラーゲーム二次創作らしい)
ヒロインが超能力を持っていたりと人外ぽい?面はあるが)
そのつまり、この際まとめて投下しちゃっていいんじゃないかと。
そうか!ヒロインの中で1人だけ人間だから ヒト ミなのか!
初体験で手枷目隠しプレイ ハァハァ