【友達≦】幼馴染み萌えスレ22章【<恋人】

このエントリーをはてなブックマークに追加
524 忍法帖【Lv=18,xxxPT】 :2011/08/25(木) 18:01:18.08 ID:K7a9oPUF
個人的な話、私も二つ年上の幼なじみに「てっちゃん」と呼ばれていたのでした。
桜子お姉ちゃんがダブってしかたない。つまり激しく俺得だと言いたい。
GJ
525名無しさん@ピンキー:2011/08/25(木) 22:08:24.11 ID:03lDMtJy
>>521
Good Job!

相変わらず幼馴染み二人が可愛くて、本当にあなたの作品が大好きだ
エピローグが楽しみだけど、それだけに終わってしまうのが残念でもある
526名無しさん@ピンキー:2011/08/26(金) 05:31:23.13 ID:sdOUIoo5
やだ・・・本番無しでこんなにエロいなんて・・・
素晴らしすぎです
527名無しさん@ピンキー:2011/08/28(日) 22:13:51.78 ID:6XQLAmWA
ボーイッシュで活発で”女”であることを感じさせず兄弟の様に仲良くしていた幼馴染が、最近少しずつ女らしい体になってきた。
なのに本人は全く自覚が無いようで、今まで通りに無邪気にくっ付いて来たり部屋に遊びに来たりで毎日毎日理性との戦いの日々。


今までずっと兄弟の様に仲良くしてきた幼馴染、第二次成長を迎え体が少しずつ女らしくなると共に”男”として意識し出した。
しかし向こうは何時まで経っても妹、いや弟扱いのまま。
なんとか女の子として見てもらおうとちょっと過剰にスキンシップをしたり、薄着で部屋に遊びに行ったりしてアピール。


こんな感じで男女それぞれの視点を交互に、誰か書いて。
528 忍法帖【Lv=5,xxxP】 :2011/08/31(水) 00:05:29.81 ID:r5XBMw/g
っ「言いだしっぺの法則」
529名無しさん@ピンキー:2011/09/02(金) 12:41:48.60 ID:IF7vyq//
>>527
いいなそれ、まだ暑い日も続くから
全裸でゆっくり待ってるよ
530名無しさん@ピンキー:2011/09/05(月) 02:21:07.22 ID:SeNcyFdr
ふと立ち寄ってみれば中々な……GJだぜ。

過去スレの作品も読もうと思うんだが、名作と言えばこれ、ってのなにかある?
531 忍法帖【Lv=19,xxxPT】 :2011/09/05(月) 20:14:40.82 ID:wnJcPyYf
>>530

とりあえず三つ程。結論から先に言えば『Scarlet Stitch』、『青葉と創一郎』、 『In vino veritas.』 が個人的にお気に入り。
長文が多いです、申し訳ない。

◆NVcIiajIyg さんの『Scarlet Stitch』。
どこか物憂げで気だるげで、だからこそ艶美な雰囲気はこの頃から。
現在投下中の 『所有権は義務を伴うらしいのです』が気に入ったなら、こちらもどうでしょう。
『所有権〜』ももうすぐエピローグくるらしいので、それまでに予習がてらにでも。

◆ZdWKipF7MIさんの『青葉と創一郎』も良作。
幼なじみで恋愛物で、そういった物を読みに来た人が期待するであろう要素をちゃんと押さえた王道のシナリオ。
王道というのは案外に難しいので、これを巧く書けるのは見事だと思う。
ヒロインの青葉の可愛らしさに悶えるがいいさ。

かおるさとー ◆F7/9W.nqNYさんの 『In vino veritas.』 は少しだけ苦いお話。
ある過ちからヒロイン華乃に負い目を感じつつも、けれど手放しも出来ない。
そんな主人公の後ろめたさ交じりの慕情や、それを受け入れるヒロイン華乃の強さと依存性にニヤニヤ出来ます。
面倒くさい女が好きなら、きっと気に入ってくれるハズです。

長々と失礼しました。
532名無しさん@ピンキー:2011/09/06(火) 22:52:41.97 ID:8sH31zu7
>>531
青葉と創一郎おもしろすぎた・・・
タイトルだけだとわからないことが多いから助かる
533名無しさん@ピンキー:2011/09/07(水) 22:10:24.20 ID:7XesO2kX
>>530
どれも素晴らしいけどシロクロが一番のお気に入り

青葉も面白かったけど那智子の話が未完っぽいから続き書いて欲しい
534名無しさん@ピンキー:2011/09/08(木) 00:34:38.29 ID:kVfwFAwY
那智子の話は確かに気になってる。もう続きないのかね…。

>>530
「まゆとみいちゃん」が好きかな。設定特殊だけど、まゆたんがエロかわいい
「それはまるで水流の如く」はエロ無しだけど面白かった。綺麗に完結してるのも良い。
535名無しさん@ピンキー:2011/09/09(金) 18:43:30.85 ID:3NIbib/o
>>533
あと1.2話だったのに続きが欲しい
文才が全くない私が言うべき台詞じゃないけど
またカワサキ夫妻のように全く別の場所にあっても繋がってるのもありますね
536名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 01:27:16.84 ID:oHaDFtb7
上に書いてある作品+
ヤトとなつみ、コトコのハナシ、乃理歌と和義
も個人的にオススメ
537名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 02:36:20.94 ID:1SH5q+lE
梅子と孝二郎もすばらしい作品だと思う
幼馴染系としてはちょっと特殊な設定だけど、物語に引き込まれる要素がある
男側のツンデレモノがすきならお勧め、でもイラッとくる要素が多々ある、そんなお話
他には、個人的に続きが気になって仕方ない、Snow Dudk
いまいち、方向性の定まらない二組の幼馴染
内側から見た関係と外側から見た関係は全く別物、んで色々メンドクサイそんなお話
後は、幼なじみが出てこない幼なじみモノ(仮)シリーズだな
端からみたら、幼馴染って奴は厄介でめんどくさいけどうらやましい、そんなお話
538名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 09:59:46.33 ID:+QqkG85R
お気に入りなのは、絆と想いだな
いまだに続きを待っている作品の一つだけど、もう来ないのかなぁ
539名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 11:23:34.40 ID:Cib0wzJk
「青葉と創一郎」の青葉と那智子の姓名って重巡洋艦から取ってるのか、それとも普通に山からかな。
初めて気付いた。
540名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 11:27:26.12 ID:Ft+uQH+W
そういえば昔、ツアーパーティー卒業旅行に行こうというゲームがあってな…
541名無しさん@ピンキー:2011/09/12(月) 00:55:21.63 ID:PdbUh9EQ
『祐助と凪子』の続きを今でも待ってる俺
542『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 19:57:35.97 ID:mpwLZMaR
>>511-521の続きです。多分10レス弱くらい。
543『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 19:58:43.60 ID:mpwLZMaR
九話 (8月6日)


河原から少年達の声がする。
空は真っ青、川向こうから白い峰が沸き上がる。
土手の匂いは露と夏草。
小石を飛ばせば光を含んだ水が弾けた。

「てっちゃん、てっちゃん。見て!五回も跳ねた!」
「そろそろ戻らねえと不味いんじゃねえの」

振り返ると幼馴染の大学生が午前中の日陰になった。
ペットボトルのレジ袋を土手に置いて手頃な小石を探し、真似をして投げる。
横っ跳びに三回跳ねて、白い小石はちゃぷんと消えた。

「くそ、負けた」
「はい私の勝ち」
「うるっさいな。もう一回だけやる」

くすぐったい。
水切りなんて久々だ。
ふと気づくと、向こうの方でも水がパチャパチャ跳ねている。
キャッチボールしていた小学生がつられたらしく、グローブを放り出して水切り合戦を始めていた。
隣の六号棟の兄弟だ(言っていなかったけれど、私とてっちゃんは五号棟である)。
無鉄砲なお兄ちゃんと、大人しくてマイペースな弟くん。
広場で遊んでいたから見覚えがある。
いつ見ても、昔の石川兄弟を逆転したようで微笑ましい。

「何笑ってんの。桜子」
「あーれ」

指さしてくすくす笑うと、てっちゃんも同じことを思っていたらしい。
何か言おうとしてからやめ、決まり悪げに明後日を見た。
八月初旬の午前中は晴れ、コンビニへ買い出しの帰り道。
あまりに天気が良くて気持ちがいいので、今日は土手道を通らずに、橋の脇から階段を降りて、 川沿いをのんびりときたのだった。
544『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 19:59:31.62 ID:mpwLZMaR
グラウンドから川岸の階段へ、遊び仲間なのだろう、競いたがりの少年たちが石を拾ってまた幾人か走っていく。
総勢で十人ほどが集まって、わあわあと力いっぱい押し合いへし合い危なっかしい。
よく見れば女の子が一人だけ混ざっているのが、優しい帽子の色で分かる。

懐かしい光景だった。
あんな風にして私も男子に混ざり、懸命に白球を追いかけて遊んでいたのだ。

見守りつつも私たちは水切りをやめて帰ろうとしていた。
グラウンドを横切り子どもたちの後ろを通って、公営住宅へと足を向けるだけだった。

それが、声の届く距離に来たあたりで様子が変わってきた。
気になったので、てっちゃんの袖を引き、立ち止まって耳を傾ける。
出来た出来ない、ヘタクソ生意気エトセトラ。
なぜだか喧嘩になっている。
女の子が俯いている。
あげく誰かが元気の良い女の子の帽子を取りあげて、水切りの要領で川へと投げるふりをした。

「あー」

てっちゃんが、後ろでやっちまったと呟いている。
取り上げた子も、本気で投げるつもりはなかったのかもしれないけれど。
折悪く川風が吹き荒あがり、帽子は弧を描いてフリスビーのように飛んで、川の中程、流木と岩の茂みに落下した。
短い髪の女の子はついに、声をあげて泣き出した。

「わああ、ひ、ひどい。てっちゃんひどいよ」
「ええなに俺がひどいの……?」

腕を掴んで揺すると困った声が返ってきた。
子どもらからも気まずそうなため息があがる。
花模様の優しい帽子はゆらゆらと揺れて、岩の引っ掛かりから今にも流れて行きそうだ。
女の子はうずくまって泣いている。
私は服装を確認した。
ぐっと伸びをするとトントンと爪先の様子を確認、泣かせたとか誰のせいとか、責め合いのはじまった小学生達の方へと早足で向かう。
洗いざらしの長Tシャツに短パン。
濡れても惜しくない、いける。

「ちょ、さくっ」

後ろからはてっちゃんが慌てた声でついてくる。
肩に手をかけられたので振り返って見上げた。
心配そうなのが可愛くて自然に微笑う。
545『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:00:19.91 ID:mpwLZMaR
「あの子の帽子取ってくるだけだってば。流れも遅いし大丈夫。てっちゃんは、男の子たち叱ってあげて?」

ね?と手を振ればいつもなら引き下がってくれるはずだった。
今日は暑いし、きっと川は冷たくて気持ちいいだろう。
そう思っていたのに肩を掴む指はなぜだか離れない。

「嫌だって。待てよ」
「なんで?」
「そういうことなら俺……うっわやべぇアレ」
「ああっ!」

気を取られているうちに急展開。
六号棟のお兄ちゃんの方が『まかせろ!』などと叫びながら川に入り、ざぶざぶ中洲に向かっている。
ダメだ。
止めなくちゃ。
この川は、入ったことがあるから分かる、大人はまだしも小学校低学年には途中からが深すぎるのだ。
間に合わずぞぼんと音がして飛沫が跳ねる。
慌てて助けなければと靴を脱ぐ。

「てっちゃん待ってて……、え、ええ?ちょ、ちょっと、徹哉!てっちゃん!」

何と思う間もなく、てっちゃんが私を押しやって躊躇なく少年を追い、夏の川に勢いよく踏み込んだ。
完全に先を越されて、よろけたまま背を見送る。
案の定、すぐに溺れかけてパニックになっていた少年を水面下からぐいと引き上げて抱え上げ、息をあげて岸に戻ってくる。
ぼたぼたと少年とからもむき出しの腕からも大粒の水が落ちていた。
我に返り、鞄を投げ出して走り寄る。

「徹哉、大丈夫!?」
「桜子、叱っといて。ついでに帽子も取ってくるわ」
「う、うん。分かっ、た……」

川に足をつけたまま、てっちゃんがあまり普通に笑うので、吃った。
両手で少年を抱きとめる。
また心臓が頑張っている。
……きっと暑いのは真夏日だからだ。
泣きたくないのだろう、歯を食い縛って涙を浮かべた少年は冷たくて服が水を吸って、想像よりも腕にずしりと重かった。
てっちゃんをしばらく見送ってから、六号棟のお兄ちゃん、名前は知らないけれど――を地面に下ろして、怪我がないかをよく見ようとする。

「うるせえ、さわんな!」

生意気にも手を振り払おうとしたので拳骨した。
さらに泣きそうになっているけど、命に関わることなので、ここは心を鬼にする。

「さわんな。じゃないでしょうがっ!!あのまま溺れてたかもしれないの、君は!」

体育会系で小中高と鳴らした声量は、そうそう衰えるものじゃない。
びりびり痺れたように、周囲の子まで息を呑む。
涙目のまま口を噤んだ体をあちこち見て念のため手を取って触る。

「本当に勇気ある男の子なら、『触るな』の前に、助けてもらった人に言うことがあるでしょ……ここ痛くない?」
「うん。ご、ごめんなさ……」
「あ、り、が、と、う、でしょ。ごめんなさいはそのあと。分かった?」
「あ、あり……が、と。……っ、う」
「はーいよく言えました。泣かないのは頑張った、強いエライ。怪我もないみたいだし、もう無茶しちゃだめだぞー」

ぐしゃぐしゃに濡れた小さな頭に、手持ちのハンカチを被せて水を拭く。
プロ野球ロゴのTシャツで青空の下、泣くのをこらえる少年は誰かさんを思い出させて愛おしい。
546『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:01:04.10 ID:mpwLZMaR
そうしている間に、大きくなった誰かさんは、ずぶ濡れになって帽子を掲げて帰ってきた。
ツンツンした茶色い髪もぺたりとなっている。
大人の腰くらいの深さの川なのに頭まで濡れているのは…多分濡れた岩で滑ったのだろう。
仲良くなったあの頃のように。
かっこいいのに格好つかないなあ、と忍び笑う。

「おかえり。徹哉」

人前ではできるだけということなので、約束通りに名前を呼ぶ。
てっちゃんは困ったように頭を掻いた。
それでも、男の子たちをちゃんと叱って、少女にお礼を言われて帽子を返す幼馴染の姿は、
びしょ濡れのままでも、やっぱり素敵なお兄さんだった。

変わらないように見えて、私も彼も、こうして毎日少しずつ、大人になっていくのだろう。

橋と川だけは昔のままでそこに在り。
一筋の飛行機雲が対岸の土手の下から伸びていた。


***


少年達を送り届けて(弟くんがお兄ちゃんにひっついて泣いていた)、
着替えのために一度お互いの家に戻った。

軽くシャワーを浴びてタオルを巻き、水色のカットソーを洗濯ものから引っぱり出していると、母が呆れた顔で笑った。

「まあたびしょ濡れになって。雨に濡れるだけじゃ足りないの」
「だって小さい子が溺れてたんだよ?いい事したんだってば。あ、あと今からてっちゃん来るから」
「本気で付き合ってるの?てっちゃん、まだ若いし就職だって四年後でしょ。あんたその頃いくつ」
「もーいいじゃんほっといて」

分かってるそんな事。
カットソーを被りながら居間に出ると、母が化粧をしに入れ違った。
珍しく休日出勤らしい。

ところで。
我が家には公営住宅の狭い空間にふさわしくない、どんと大きなテレビがある。
働き出してから母を説得し、八割以上を出資した大画面の地デジ対応テレビは私の密かな宝物だ。
映像もきれいでメニューも充実、スポーツ観戦にぴったりなのである。
積み重なったスポーツ誌の山を崩しながら、ちいさなテレビのリモコンを探す。
リモコンに鈴がついていればいいのに。

「桜子の事だから好い加減なことはしないって信用してるけど。
 てっちゃんあんたのことずうっと好きだったんだから遊びとかそういうのだったら失礼よぉ」
「う、何それ……だからもーほっといてってば!」

顔を背けながらも、思わぬ新情報に頬が緩む。
てっちゃんは、決まり悪そうに呟くだけで、あまりちゃんと言葉にしてくれないけれど。
本当にずっとそうだったのかな。
そうだったらものすごく嬉しい。
547『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:03:34.29 ID:mpwLZMaR
ようやく見つけたリモコンを操作し、テレビの解説をBGMに台所を覗く。
溶けかけたアイスと炭酸飲料のレジ袋を冷凍庫にまとめて突っ込んでいたのを取り出し、枝豆を茹でる準備をする。
唯一まともに作れる料理が枝豆の塩茹でなので気を遣って塩揉みをした。
くつくつ火が換気扇と混ざる先、母が隣の玄関脇から顔を出す。

「ちょっと打ち合わせに顔出すだけだから、お昼過ぎには帰るからね」
「はーい」
「ご近所に顔向けできない事はしないのよ」

お母さんの口癖だ。

「……はーい」

うるさいなぁもう。
応援しているんだか反対なんだかはっきりしてほしい。
そもそも、すぐ下の階段で指を舐められたりしたあれは、既にご近所さまに顔向けできないのかもしれない。
まあいいか。
そんなことを考えながらお湯をあけた。
湯気をたてる枝豆の鮮やかな色が居間に山と盛られた頃になって、ようやく、呼び鈴がいつものように二度鳴った。

「あれ、早百合おばさんは?」
「ちょっとだけお仕事だっ……あー、もーてっちゃんたら、髪乾かさないで来たの?」
「時間ねんだから仕方ないだろ」

てっちゃんは頓着しないでソファに座り、試合前の解説や予想を、麦茶を注いで眺めている。
髪からぽたぽた雫が垂れてTシャツの肩が濡れている。
こういうところはちっとも変わっていない。

「てっちゃん。風邪引くよ」
「桜子だっていつもこんくらい大雑把じゃん。夏なんだから乾くだろー」
「私はちゃんとタオルで拭いてるからいいの。もー、クーラー使ったら冷えちゃうじゃない」

ああ、解説を聞き逃しちゃう。
慌てて洗面所から洗濯済みのタオルを持ってくる。
ドアは開けっ放しだけど許してもらおう。
パタパタと居間に戻ると、ソファの背もたれから濡れた髪が見えた。
立ち止まる。
……急に驚かせたくなった。
振り返る前に後ろから、大判タオルを後頭部にばさりとかぶせて視界を塞ぐ。

「えいっ 」
「わ、何」

そのまま背後に立って屈んだまま、さっきの少年にしたように、タオルで髪をぐしゃぐしゃする。
あ、いいかも。これなら一緒にテレビが見られる。

「なんか理容室みてえ…」

てっちゃんは抵抗をやめて、ソファに背を沈めた。
その言い方が可愛い。
548『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:04:42.12 ID:mpwLZMaR
「かゆいところはございますかー?」

なんて笑いながら、水気をタオルで吸っていく。
お日さまの匂いだったタオルがしっとり濡れて柔らかくなる。
シャワーを浴びたばかりだからか石鹸の匂いがした。

川の匂いもまだかすかに、残っている。

吹き込む夏風に、髪をかき回す力を弱くする。

「てっちゃん。さっきはどうして止めたの?冷たくて気持ちいいし、私、川に入るの嫌じゃなかったのに」
「や。……その、」
「うん?」
「やっぱ、ほら。ああいう場面で川に落ちるのは桜子より俺の役目かな、とか」

タオルに隠れた表情はみえなかったけれど。
ぼそりという幼馴染は、とても、その。
年下には見えなかった。
髪にかぶせたタオルを握り、固まる。

――ああ、もう、年下の男の子って、皆こんなに成長しちゃうものなのかなあ。

「てっちゃん、ずるい」
「何で」

――かっこいい。
なんて、恥ずかしくて、耳が熱くてとても言えない。
また髪をぐしゃぐしゃとしながら天井を見る。

「……ひみつ」
「聞きたい」
「ダメ」
「最後のマッサージ券の回数無限にしていいから」
「もっとダメ、それは」

使おうとして使いづらくて、マッサージ券は最後の一枚がずっと棚上げになっている。

あんなことになってしまったら、だって、
本当にマッサージしてほしいと思ってお願いしても、違う意味に聞こえてしまう気がする。
多分、もう最後の一枚は永遠に使えないだろう。
まあ、てっちゃんとの約束がずっと終わらず残るなら、それはそれで悪くない。

「桜子」
「んっ、」

タオルに重ねた手を掴まれて、急に手首の裏に口づけられた。
落とした雫が染みになって広がるように、皮膚の感覚がそのあたりから甘くなる。

「ちょ、ゃ……」
「あのさ、桜子」
「う、うん」
「俺、来週から海にバイト行ってくる。夏休みいっぱいは留守にするからさ」
「あ、ふぁ……え、そうなの、なんで?」
549『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:05:29.21 ID:mpwLZMaR
急な話に目が覚める。
そもそも社会人の私にとって夏休みはお盆に四日のみなので、平日いないくらいなら、気にはならないのだけど。
土日もずっといないのだろうか。
後ろから覗き込むと、てっちゃんは目を逸らした。

「なんでって金貯めるんだよ。桜子が言ったんじゃねえか」
「あ……うん…」

てっちゃんのお金というのは、(彼がバイトでもしない限りは)即ち石川のおばさんが働いてくれた分と
徹君の仕送りのお金なのだと、確かにこの前、私が言った。
そのお金で、ちょっとお茶するくらいならまだしも、その、いくら実家同士で自由がきかないからといっても、
特殊なホテルの代金に……というのは、さすがに石川さんのうちに顔向けができないと思ってしまう。
母の刷り込みは根強い。
……あと、ええと、私の心の準備もあるといいますか。
とにかく、どうしても行きたいならてっちゃんが半額分を自分で稼ぐのなら考えてもいいよ。と
当たり前のことを言い張って譲らなかったら、彼が拗ねてしまったのだ。
社会人と大学生の経済観念の違いは思ったよりもずっと大きい。

ちゃんと考えてくれたのは、成長しているんだなと分かって、嬉しいけれど。

「で、でも夏休みって九月まででしょ?ずっとだなんて、長、や……ふぁ、あ!?
 長い、ん、じゃ…ぁ、こ、こらっ。真面目な話してる……のにっ」
「駄目?」

まだ髪を拭き終わっていないのに、手を取られて掴まれて、腕の内側を言葉の合間にキスされ吸われる。
それだけで脚の力が抜けて崩れてしまいそうになる。

「だ、だめ……」

てっちゃんが本気になる前に引っ込めて、タオルからも手を離した。
この体勢は危ない。
てっちゃんは、テレビの方を見たままだ。

「あのさ。桜子」
「ぅ、ん」
「俺も真面目な話、したいんだけど」
「……ん」

手を抱いて回り込んで、少し離れた隣に座る。
横の大窓からはぬるい風が吹き込んでいた。
そろそろクーラーをいれようか。
スタンドを映すテレビ画面を眺めつつ、頭を掻きながら言葉を探す、幼馴染のことを待つ。
枝豆おいしい。

「桜子」
「はい」
「えっと、」

さっきからこのやり取りは三度目だけど、それが楽しい。
三度目の正直か、ようやく、続きの言葉が見つかったらしかった。
550『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:06:46.72 ID:mpwLZMaR
「えっと……俺、バカだけどさ」
「うん?」
「勉強も嫌いだけどさ。その、ちゃんと卒業する。バイトして金も貯めて、奨学金とか、早く返せるようにするよ」

最後の発想はてっちゃんオリジナルじゃないな、徹君だろうなぁ、と思いながら、苦笑して頷く。
そういうことは、おばさんに言ってあげた方が喜ぶんじゃないだろうか。
アイスの実おいしい。

「うんうん。てっちゃんなら大丈夫だよ、頑張って」
「頑張るよ。……その、なんだ」

盛り上がるアナウンサー。
西日本の空の映像。
その間を、おいて、てっちゃんはようやく次の言葉を口にした。

「桜子から見たら、ガキで呆れるかもしんないけどさ。追いつくから待っててくれよ。
 その……俺が、……社会的に、桜子のこと俺のものにできるためなら、なんだってする」

耳には歓声。
超満員の甲子園、第一試合のプレイボール。
楽しみでしかたなかった一瞬に、テレビから目を離した。

あの頃のように髪を濡らしてタオルを被って、気まずい顔で私を見つめる生意気な少年が大人の顔で目の前にいた。

少し離れた距離をずりずりと詰め、ペットボトル片手に寄りそうようにして、またテレビに目を戻す。
大人になった腕に触れた。
温かい。
てっちゃんは拍子抜けしたみたいに困った顔をしていて申し訳ないけれど、この一戦だけは外せない。

ごめんね。
……うまく反応できなかったけれど。
ちゃんと、聞こえていたから分かってる。
551『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:08:19.90 ID:mpwLZMaR
窓の向こうは眩しい盛夏。

私は冬のコタツも春の桜も初夏の新緑も好きだけれど、夏休みだって大好きだ。
なんといっても甲子園が熱い。
枝豆の塩茹で、冷たいアイス、麦茶に炭酸飲料にスナック菓子。
下の階に住む石川さんちのてっちゃんを誘って、二人でたくさん盛り上がるのだ。
クーラーをつけなくちゃいけないのに、もうしばらく離れたくない。
寄り添ったまま、汗ばんだ手を重ねる。

「てっちゃん」
「ん」
「バイト、気をつけてね。連絡先も教えてね」

球児が土煙をあげて走る。
芯にあたった、伸びやかな音。
白球を追うグローブが空をさす。

「分かってるよ、で、その、」
「……ちゃんと待ってるから」

指を絡めて握り返された仕草で、ちゃんと伝わったのだとわかる。
指切りげんまんのよう。
こんな約束の仕方もあるんだなあと思う。
かすかに、握る指から甘い刺激が伝わるけれど気づかなかったふりをした。
グラスの氷が溶けて、軽やかに澄んだ音を鳴らす。

「浮気しちゃだめだよ」
「しねーよ。……さ、桜子だって」
「どうしよっかなぁ……冗談、冗談!ね、落ち込まないで、ほら。ほら、また打ったよ!」

画面向こうは一回の表。
全国的な快晴の八月六日はお昼前。

試合はまだまだ始まったばかり、私たちもこれからだ。






おわり
552『所有権は義務を伴うらしいのです』 ◆NVcIiajIyg :2011/09/12(月) 20:12:04.98 ID:mpwLZMaR
以上です。

お話はここで終わりですが、えろいの書き足りないので、できればそのうち番外編で延長戦を書ければと思います。
(えろいのといっても、多分、手だけになりますが)
お付き合いありがとうございました。
553 忍法帖【Lv=20,xxxPT】 :2011/09/12(月) 20:22:51.60 ID:aplkC2IR
>>552
GJ
延長戦にも期待しています。


んー、◆NVcIiajIygさんも頑張ってるし、俺もそろそろ本気出す。
554名無しさん@ピンキー:2011/09/12(月) 20:31:49.71 ID:Utb/NeQ2

本番なしでココまでエロいのが書けるのはあんただけだGJ

番外にも次作にも期待してる
555名無しさん@ピンキー:2011/09/12(月) 22:34:40.24 ID:DkvvT/ZX
純粋なエロだったな
今度は濃いエr(ry
556名無しさん@ピンキー:2011/09/12(月) 22:41:54.21 ID:qVeFhmdH
ああもうGJすぎてたまらない。
ありがとう。そして、ありがとう。
557 忍法帖【Lv=7,xxxP】 :2011/09/14(水) 00:30:47.39 ID:OhN9ywuf
ああ気づくのが遅れた
乙 そしてGJ
558名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 06:18:07.48 ID:yuVj458l
年の近い幼馴染と、年の離れた幼馴染み、どっちが萌えますか?
559名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 08:04:01.76 ID:3k94K9mA
>>558
どっちもいい
560名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 10:14:15.88 ID:jEQlrleo
>>558
どちらも好きだけれど、個人的に少しだけ年上。二歳くらい。

時にぼちぼち次スレの季節だのう。
561名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 10:28:59.70 ID:2tGA7R0t
ほいさっさ
23スレ目
【友達≦】幼馴染み萌えスレ23章【<恋人】
http://pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1316049934/
562名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 18:51:35.67 ID:M6pmpj2X
>>558
和風スレにも書いてたよなw
向こうはあまりにも人がいなくて寂しい…
563ただの埋めネタ:2011/09/18(日) 20:49:46.17 ID:F400gmy0

アナタにとって『幼馴染』とはどんな存在ですか?
その問いに私は答えることが出来ない

あるものは家族の様なものと答えるだろう…
また、あるものは守るべき日常と答えるだろう…
あるいは、幼馴染の存在こそが、己の存在の証明であると答えるものもいるだろう…

では、『幼馴染』にとってのアナタは?
ただの腐れ縁?
気の置けない友人?
あるいは、今だ昇華しきれぬ初恋の人?

ここで私がいくら憶測を立てたところで、それは机上の空論であろう
実際に私がその『幼馴染』に聞いたことなど無いのだから

だが、世界にある『幼馴染』の物語を見てわかることもある
所詮は空想の話であれど、そこにある『幼馴染』のココロは本物で、確かにそこにある

彼女の彼を思う心も、彼が彼女に捧げる想いも
『幼馴染』故に何も出来ない状態に縛られていることも
『幼馴染』だからこそ、いえること、言えないことも
『幼馴染』と言う呪縛にとらわれ続けるしかない状況もあることも

『あなた』に伝えたい思いを、隠さなければならないことも
『アナタ』が言いたがっている思いを隠させていることも

全ては、『幼馴染』と言う言葉に縛られているのかもしれないね?




追伸
いい加減、覚悟決めろバカ
                                                                   未来のアナタの妻より
564名無しさん@ピンキー:2011/09/18(日) 23:42:29.02 ID:v+Mad244
>>563
最後にワロタw
GJ!
565名無しさん@ピンキー:2011/09/19(月) 02:01:34.15 ID:LZiXGUQD
>>563

 自分の筆不精を言い訳にするつもりはないけれど、そもそも電話をはじめメールが発達した現代では手紙なんて書く機会はついぞこの歳になるまでなかったのだから、君が書くほど情緒も何もないのを先に謝っておきたい。
 もっとも、その電話やメールでさえロクに、君相手でさえしなかったことも謝らなければいけないのかもしれないけれど。
 初めから謝罪ばかり並べてしまう卑屈な私に辟易としているかもしれない。また一言で済むはずのことを長々と書く文章力のなさにも。
 どうしても言い訳がましくなってしまうが、これでもう六枚もの便箋をムダにしてしまった。
 言いたいこと、言わなくてはいけないこと。
 聞きたいこと、聞かなくてはいけないこと。
 心にはたくさん浮かんできて、とてもじゃないか私には上手くまとめられそうにもない。
 ただ私は。
 私、と書く時点でなんだかもううそ臭いから、俺と書かせてもらう。
 俺は君の問いに答えたい。
 口に出来ないことも、文章でならば伝えやすくなるとは確か小さい頃に学校の国語の先生に教えてもらったこともあったように思うけれど、確かにその通りだった。
 先ほど六枚も便箋をムダにしてしまったと書いたが、そのどれもに我ながらどうかと思うような、芝居がかった、うそ臭い、歯の浮くような言葉を並べてしまったのだから。
 だからこそ、俺は君の問いに文章ではなく、自分の言葉で答えたい。
 たくさん待たせて、確かにバカだとは思うけれど、俺は君に言いたいことが確かにある。
 君が思うよりは多分単純な、つまらない理由で隠していたことが。
 君の言う物語の中の『幼馴染』達のようにきれいにはいかなかったけれど、せめて最後くらい、格好付けさせて欲しい。
 これでも俺は男だから、女の子の前で格好つけたいと思うのだから。
『幼馴染』なんて言葉に縛られて、そして単に照れくさくて、臆病になって隠していたことを。

 追伸
 これ読んだら窓を開けて欲しい。

 いまはただの君の『幼馴染』より
566名無しさん@ピンキー:2011/09/20(火) 05:14:15.99 ID:Xm5OYE7W
埋め
567名無しさん@ピンキー:2011/09/20(火) 13:16:22.00 ID:EHPeu166
>>563
>>565
GJ!
568雨の日:2011/09/20(火) 20:55:08.71 ID:XlEcl/kJ
いいよいいよー
569ありふれ話題 と 埋め:2011/09/21(水) 00:12:58.66 ID:lATgSwnT
この歳になって夜行は寝られないと駄々をこね、
朝七時の電車で遠い下宿に戻る。
金はケチりたいから特急も使わない。
そんなことをした朝。

別の大学に通う女と、電車が重なった。
久しぶり、そんなことから言い始める。
どのみちあと40分で別れてしまう。
友達以上なだけの彼らにはその時間は長かった。
気まずかった。苦しかった。楽しかった。嬉しかった
二人して少しずつ話した。
教授がどうとか、サークルがどうとか。

大学生になるとはすごい。奥手の男女二人でも恋愛の議論が出来る。

二人は今は恋人が居ないと言った。
互いに子供の時から片思いの相手が居ると言った。

しかし40分は短かった。
互いに想い人の名前を言い出すに至らなかった。

相愛と知らずに。
570名無しさん@ピンキー:2011/09/21(水) 01:03:54.19 ID:hSIMd/4N
終わりかな?
GJ
571埋めネタ「カッター」:2011/09/21(水) 02:49:15.80 ID:6BBnkJvO
 野球にはカットボールという変化球があるという。
 どういう球かというと、打つ直前にバッターの手元で微妙に変化をするらしい。カーブ
のような傍目にもわかる大きな変化ではなく、ストレートとほとんど区別がつかないくら
いの微かな変化であるため、観客どころか打つバッターでさえ見極めが難しい球だという。
アメリカではカッターと呼ばれていて、絶妙に芯をはずすその効果から、多くのバッター
が苦しめられているのだそうだ。
 幼馴染みの受け売りだ。
 隣の家に住む男の子は野球が大好きで、その手の話をしばしば私に語っていた。私は楽
しそうに話す彼の笑顔にため息をつきながらも、一応はうんうんと相槌を返していた。
 野球はあまり好きじゃない。
 小さい頃、お父さんがよく巨人戦の中継を観るためにテレビを独占していたせいか、私
にとっては邪魔な存在でしかなかった。私が観たいのは歌番組やドラマであって、試合の
勝敗やリーグの順位なんてどうでもよかったのだ。いつも中止になればいいのに、と思っ
ていたし、どんな土砂降りにも揺るがないドームの難攻不落ぶりも憎らしかった。だいた
い、お金で強い選手を集めるなんて卑怯じゃないか。優勝を逃したときは、ざまあみろと
思ったものだ。あ、でも高橋由伸はかっこよかった。
 中学に上がる頃から、だんだん中継の数は減っていって、お父さんの寂しそうな顔に反
比例して、私のテレビ視聴時間は増えていった。そのときには歌やドラマへの興味は正直
薄れていたのだけど。高橋も昔ほどかっこよくはなくなっていった。
 とにかく、私は野球が好きじゃない。
 昔ははっきり嫌いだったといえる。中継の少なくなった今でも、嫌いまではいかなくて
も、好きとは言いがたい。
 でも、幼馴染みの彼は大好きだという。
 おかげでうちのお父さんとは話が合うみたいで、今でもたまに庭先でリーグ戦の展望や
期待の若手選手について議論を交わしていることがある。
 そんなに好きなら自分もやればいいのに。
 前にそう言ったことがあるが、彼はあははと笑って答えた。
「当たったら痛そうだしなあ」
 ヘタレ。
 思わずつぶやいたが、彼はただ笑っていた。
 まあ野球好きなのはいい。もっぱら観戦のみで、いろいろ論をぶつのも別にかまわない。
 問題は、彼が好きすぎることだ。
 はっきり言って彼はオタクである。
 CS放送を録画して、過去数年間の試合を全部保存しているくらいだ。彼の部屋は野球
関連の本やグッズであふれかえってるし、各チーム・選手のデータ・成績をサイトにまと
めたりしている。毎日の習慣らしい。
 国内のプロ野球に限らず、大リーグや韓国、台湾リーグにまで触手を伸ばすというのは
もはや病気の類ではなかろうか。評論家にでもなるつもりか。
 そんなことだから、彼は私を当然軽んじている。
 いや、軽んじているというのは正確ではないかもしれない。しかし彼の中では間違いな
く、「野球>私」の構図が出来上がっている。
 その証拠に、高校に上がってからは、同じ学校に通っているにもかかわらず、全然話し
かけてこない。
 中学までは野球のいろんな話を聞かせてきたくせに。
 きっと、私が野球嫌いだから、私のことを軽視するようになったんだ。
 私と彼はただの幼馴染みで、それ以外に何か特別な関係なんて持ってないが、だからと
いって野球より下に見られるのは、納得がいかない。
 地上波放送も減ったくせに。
 時間延長さえさせてもらえないくせに。
 高橋だって、いつまでもかっこいいままじゃいられないのだ。
 野球だけじゃなく、少しは私のことを見てもいいはずなのだ、彼は。
 だから、
 だから私は、
572埋めネタ「カッター」:2011/09/21(水) 02:52:44.94 ID:6BBnkJvO
 
          ◇     ◇     ◇

 私は勝手知ったる隣家に勢いよく乗り込むと、二階東側にある彼の部屋に向けて、ずん
ずんと階段を上がった。
 そして部屋の前に立つと、ノックもしないでドアを開け放った。
「へ?」
 幼馴染みはベッドの上に寝転がり、何かの本を読んでいたようだった。大方野球関連の
本だろう。私が入ってきたことにひどく驚いたようで、目を丸くしている。少しだけ溜飲
が下がった。
 しかしそれくらいじゃ私は止まらない。そのままベッドに近づいて、じっと彼をにらみ
つけた。
「……えっと、どうしたの?」
 とぼけたようなのんきな声に、私はふん、と鼻を鳴らした。
「野球っておもしろい?」
 私の問いに、彼はますます目を丸くした。
「は? え……いや、なに? どうしたの、怖い顔して」
「答えてよ」
「う、うん。おもしろい、よ」
「私とどっちが上?」
「……はい?」
「どっち?」
「……ホントどうしたの? 何かあった? いやなこととか……」
「君のせいだ!」
 私は窓を震わすくらいの大声を発した。
 自分の耳にびりびりと痺れが残るほどで、直後に一瞬の静寂が訪れる。
 彼は困ったように頬を掻き、それから体を起こした。
 じっと私の顔を見つめる。
 その目は、存外に真剣だった。
「説明してほしいんだけど」
「……」
 私は迷った。当初の予定では、ここから有無を言わさずアレを実行するつもりだったの
だが、彼の目が思いのほか鋭かったために、ひるんでしまった。
 仕方なく、私はベッドに腰を下ろした。
「……」
 しかし、すぐには口を開かない。ただじっと彼の困惑した顔を見やる。
 彼はわけがわからないといった様子だったが、何も言わずに静かに私がしゃべるのを待
っていた。
「……高校に上がってさ、ちょっと気に入らないことがあって」
「うん」
「私、あんまり野球は好きじゃないの」
「う、うん」
「で、君は昔から野球が好きでしょ」
「……うん」
「それは別にかまわないんだけど、私、一応君の幼馴染みじゃない。なんだかんだで仲良
くやってきたから、ずっとそうありたいと思ってる。なのに、最近の君は私を軽んじて
る」
「うえっ!?」
 素っ頓狂な声を出して、幼馴染みは目を剥いた。
「な、なにそれ!? 軽んじてるなんて、そんなつもりはないよ!」
「あんまり話さなくなったじゃない」
「いや、それは、」
「野球と私、どっちが上なの?」
「はあ!?」
 わかっている。私だって、馬鹿な問いかけをしていることくらいわかっている。
 だけど、それでも私はそれが知りたかったのだ。
 私は矢で射抜くように、まっすぐに彼を見つめた。
573埋めネタ「カッター」
 彼はそっとため息をついた。
「……ぼくはこんなやつだからさ、つい野球の話ばかりしちゃうんだよね」
「……うん」
 それは知ってる。
「だけど、女の子にそういう話ばかり振るのは、さすがにどうかと思ったんだ」
 呼吸が一瞬止まった。
「かといって、他の話題なんて持ち合わせてないし、だからその……ごめん」
 私は無言で彼の下げられた頭を眺める。
 軽視していたわけではないらしい。
 むしろ彼なりに気遣ってくれていたらしい。
 女の子に、と彼は言った。
 私はてっきり、女と思われていないんじゃないかとさえ思っていたから、素直にうれし
かった。
 彼の不器用さ加減にはため息しか漏れないが。
「あのね」
「うん……」
「私は確かに野球は苦手だけど、疎遠になったりよそよそしくなる方がもっといやだよ」
「……」
「だから、野球の話題を通してでもいいからさ、私のこと、ちゃんと見てほしいな」
「――」
 彼が呆けたように顔を上げた。
「ん? どうかした?」
「……いや、なんでもない」
 彼の口に笑みが浮かんだ。
 私もそっと口元を緩める。
 さっきまでかなり怒っていたのだが、彼の率直な気持ちを聞いて、怒りはすっかり収ま
っていた。
 人の気持ちや考えを見極めるのは難しい。
 特に彼みたいに、偏った趣味嗜好を持つ人間とあればなおさらである。それこそカット
ボールのように芯を外されて、ペースを狂わされることもある。
 でも、それが彼なわけで。
 私の幼馴染みなわけで。
 こうなったら繰り返しぶつかっていくしかない。何度も何度も繰り返していけば、いつ
か彼の球も打ち返せるかもしれないから。
 私はにっこり笑って言った。
「最後にひとつ、いい?」
「ん、なに?」
 小首をかしげる幼馴染みの少年。
 その、彼の緩んだ口元に、私はそっと唇を重ねた。
「!?」
 接触は一瞬で、すぐに離れる。
 目を白黒させる彼を見て、私はからから笑った。
 君が私の芯を捉えるのは、いったいいつのことになるだろうね。