【俺の妹】伏見つかさエロパロ15【十三番目のねこシス】
「ふう……」
夕食を終えて自室に引っ込んだ俺は、畳の上に仰向けになって、天井の木目をぼんやりと眺めながら、ため息を吐いた。
とにかく、昨日今日と色々なことがありすぎて、俺の頭の中は混乱していた。
突然の思いがけないあやせの訪問、それに禅寺での保科さんとの、あやせをからめてのセッションは、こっちに来て
からというものの、下宿屋の女主人としか会話らしい会話がなかった俺にとって、良くも悪くも久々に感情を交えたやり
とりが出来たひとときだった。
あ、赤城との電話もあったな……。
だが、麻奈実の一件があるから、あいつとの間柄は微妙なものになっちまった。
「あいつと麻奈実が付き合っているってことよりも、遠慮なく言い合える悪友が居なくなっちまった方がキツイぜ……」
そんなことを呟きながら、俺は目をつぶった。相変わらず俺のことを嫌いだと言い放ちながらも、強引にキスをした
あやせの姿が脳裏に浮かび、次いで和服姿の保科さんの姿が浮かんだ。
いつもなら、『ブチ殺しますよ!』と喚くはずのその口が俺の唇に吸い付いてきて、さらには、大胆にも舌まで絡めて
きたんだから、驚きだ。
そのひと時は、紛れもなくうつつだったんだが、あまりにも突飛な展開で、未だ何かに化かされていたんじゃないか
という気持ちが捨てきれない。
保科さんとの一件もそうだ。
大学でさして目立たない俺に、彼女のような超絶美人の令嬢がわざわざ興味を示すなんてことは、どう考えても
あり得ないことだった。
「う、何だ?」
結論が出そうにないことを、物憂げに思案していた俺は、シャツの胸ポケットで着信音を奏でている携帯電話機で
現実に引き戻された。
誰からだろうと思って液晶表示を見れば、それは親父の携帯端末からだった。
「もしもし……」
だが、相手はお袋だろう。
『ああ、京介ぇ?』
案の定だ。
俺の携帯は、実家からの電話を着信拒否に設定させられている。桐乃の携帯電話からのも同様だ。そのため、お袋
からの電話は、親父の携帯からというのが常だった。
高坂家での長男に対する扱いのひどさってのは、実際どうなんだろうね。別段、今に始まったことじゃないんだけどさ。
「…………」
しかも、お袋が口にするのは、桐乃、桐乃、桐乃、の一辺倒。
何でも、高校でも成績優秀で、陸上競技部の一年生エースだとかで、親として鼻が高いんだとさ。
そりゃ結構なことで。
だがな、その桐乃が変に色気づいたから、俺は故郷から遠く離れたこの街に追いやられたんだぞ。分かってるのか?
昔からそうだが、デリカシーのない女だな。
『でね……』
当然に俺の心情などは、お構いなしのお袋は、散々に桐乃、桐乃、桐乃とまくし立てた挙句に、とんでもないことを
抜かしやがった。
『桐乃は間違いなくT大にも合格するし、陸上競技でも相当なところまで行くと思うのよ。
でね、そのために色々と物入りで、悪いけど京介、今からでも育英会の奨学金を申請してくれないかしら』
「どういうことだよ」
敵の魂胆は読めていたが、こっちから結論を急がないことにした。そうしたからって、結果は変わらないんだけどな。
『う〜〜ん、奨学金が出るようになれば、その分、仕送りが少なくなっても問題ないでしょ? そういうことよ』
「そういうことって……」
分かってはいたが、いざ聞かされると、本当にむかつくな。携帯電話を握る左手が、怒りでぶるぶると震えている。
たしかに桐乃の成績だったら、T大も楽勝だろうさ。陸上競技だって、超高校級かも知れねぇ。
だが俺だって、そこそこ自慢できる大学に合格した身だ。あんたの息子にしては上出来過ぎるほどだろう。なのに……、
『出来の悪いあんたと違って、桐乃は高坂家の誇りなんだから。あんたも桐乃のために我慢なさい』
あっさりと抜かしやがった。畜生め……。
『ふざけんな、バカヤロー!』と、思いっきり怒鳴りつけてやりたい衝動を何とか抑えて、俺は努めて冷静を装った。
だが、こうまで言われっぱなしだと、嫌味の一つも言いたくなるよな。
「もう、ご自慢の娘さんの話は聞き飽きた。どうせなら本人の声を聞きたいな。居るんだろ? 家にさ。
桐乃に代わってくれよ」
その途端、ブツッ、という無愛想な音とともに、通話は一方的に打ち切られた。
「けっ、ガチゃ切りかよ……」
俺は、舌打ちしながら起き上がり、携帯電話機を座り机の上に置いた。
久しぶりにあやせに会えたっていうのに、全てがぶち壊しになった気分だな。それにさっきのお袋の様子じゃ、奨学金
の申請が通るか否かにかかわらず、仕送りは減額されるだろう。
「地獄だな……」
何だか、事態はどんどん悪い方へ転がって行きやがる。
その悪化していく状況に、俺自身では歯止めを掛けられないんだから、たまったもんじゃねぇ。
仕送りが減額されることは確実とみて、明日にでも学生課に赴き、奨学金申請の手続きをするしかない。
それと、奨学金の申請が認められなかった場合にも備えて、何らかのアルバイトをすることも覚悟しておいた方が
いいだろう。
「金はない……。知人も居ない……」
これが、いわゆる五月病って奴なんだろうか。背伸びして難関大学に合格したものの、講義についていくのが精一杯。
仕送りは最低限で、身の回りの物も十分には賄えない。
そして何より、家族からは見放されたも同然で、周囲には女友達はおろか、相談できる男友達も皆無と来たもんだ。
ゴールデンウィーク明けに、大学生とか新社会人の自殺記事が新聞の片隅に載ることがあったが、
今の俺にとっちゃ他人事じゃないわな。
自殺する奴の気持ちが、痛いくらいによく分かる。
だがよ、お袋がいかに俺をボロクソに扱おうが、俺はこの程度でくたばるようなタマじゃねーんだよ。
昨日今日はあやせがはるばる来てくれたし、つい数時間前だが、信じられないことに、濃厚なディープキスを交した。
あやせの本心は未だ不可解だが、俺のことを憎からず思ってくれていると信じたい。
『桐乃は間違いなくT大にも合格するし、陸上競技でも相当なところまで行くと思うのよ。
でね、そのために色々と物入りで、悪いけど京介、今からでも育英会の奨学金を申請してくれないかしら』
「どういうことだよ」
敵の魂胆は読めていたが、こっちから結論を急がないことにした。そうしたからって、結果は変わらないんだけどな。
『う〜〜ん、奨学金が出るようになれば、その分、仕送りが少なくなっても問題ないでしょ? そういうことよ』
「そういうことって……」
分かってはいたが、いざ聞かされると、本当にむかつくな。携帯電話を握る左手が、怒りでぶるぶると震えている。
たしかに桐乃の成績だったら、T大も楽勝だろうさ。陸上競技だって、超高校級かも知れねぇ。
だが俺だって、そこそこ自慢できる大学に合格した身だ。あんたの息子にしては上出来過ぎるほどだろう。なのに……、
『出来の悪いあんたと違って、桐乃は高坂家の誇りなんだから。あんたも桐乃のために我慢なさい』
あっさりと抜かしやがった。畜生め……。
『ふざけんな、バカヤロー!』と、思いっきり怒鳴りつけてやりたい衝動を何とか抑えて、俺は努めて冷静を装った。
だが、こうまで言われっぱなしだと、嫌味の一つも言いたくなるよな。
「もう、ご自慢の娘さんの話は聞き飽きた。どうせなら本人の声を聞きたいな。居るんだろ? 家にさ。
桐乃に代わってくれよ」
その途端、ブツッ、という無愛想な音とともに、通話は一方的に打ち切られた。
「けっ、ガチゃ切りかよ……」
俺は、舌打ちしながら起き上がり、携帯電話機を座り机の上に置いた。
久しぶりにあやせに会えたっていうのに、全てがぶち壊しになった気分だな。それにさっきのお袋の様子じゃ、奨学金
の申請が通るか否かにかかわらず、仕送りは減額されるだろう。
「地獄だな……」
何だか、事態はどんどん悪い方へ転がって行きやがる。
その悪化していく状況に、俺自身では歯止めを掛けられないんだから、たまったもんじゃねぇ。
仕送りが減額されることは確実とみて、明日にでも学生課に赴き、奨学金申請の手続きをするしかない。
それと、奨学金の申請が認められなかった場合にも備えて、何らかのアルバイトをすることも覚悟しておいた方が
いいだろう。
「金はない……。知人も居ない……」
これが、いわゆる五月病って奴なんだろうか。背伸びして難関大学に合格したものの、講義についていくのが精一杯。
仕送りは最低限で、身の回りの物も十分には賄えない。
そして何より、家族からは見放されたも同然で、周囲には女友達はおろか、相談できる男友達も皆無と来たもんだ。
ゴールデンウィーク明けに、大学生とか新社会人の自殺記事が新聞の片隅に載ることがあったが、
今の俺にとっちゃ他人事じゃないわな。
自殺する奴の気持ちが、痛いくらいによく分かる。
だがよ、お袋がいかに俺をボロクソに扱おうが、俺はこの程度でくたばるようなタマじゃねーんだよ。
昨日今日はあやせがはるばる来てくれたし、つい数時間前だが、信じられないことに、濃厚なディープキスを交した。
あやせの本心は未だ不可解だが、俺のことを憎からず思ってくれていると信じたい。
それに、束の間ではあったが、学内随一の超絶美人である保科さんと、一緒にお茶を嗜むこともできたんだ。
彼女を女友達とみなすのは恐れ多いが、とにかく、地元出身の学生と初めて会話らしい会話が出来たんだ。
一大収穫と言っていい。
「居場所を作ることだな、俺にとってのここでの居場所を……」
あやせとの遠距離恋愛も、保科さんとの会話も、ここで単身頑張っていく励みにはなったが、それだけでは足りない。
「赤城のようにバカを言い合える友人、麻奈実のように気軽に話せる女友達、そうしたもんがないとな……」
本当に信頼できる友人知人は、一朝一夕には見つからないだろうが、それも運次第だろう。
何かがきっかけとなって、事態が思いもかけない方向へ転がり出すかも知れないからな。
「もう寝るか……」
時刻は、午後十時前だったが、今日は本当に色々なことがあり過ぎて疲れた。
明日は明日の風が吹くって言う訳じゃねぇが、日々、頑張っていくしかない。
俺は、明日提出の民法のレポートと、英文法と第二外国語のドイツ語の予習がどうにかなっていることを確認すると、
布団を敷いて横になった。
「こっちの布団は、昨夜、あやせが寝ていたやつだ……」
ほんのりと感じるのは、彼女の残り香だろうか。
だが、心底疲れていた俺は、その残り香が気になったのも束の間、泥のような眠りに落ちていった。
* * *
長いようで短かった連休が明けた五月六日。俺はいつも通り、法学部の教室の隅っこの方にぽつねんと座っていた。
教室の前の方には、華やいだ雰囲気を醸している女子の一団が陣取っていて、その中には、昨日、禅寺で思いがけ
ない出会いをした保科さんが居た。
和服姿だった昨日とは違い、腰の辺りまで届く艶やかな黒髪をストレートにしている。枝毛が全くなさそうな、こんなに
もしなやかな髪は、俺の知っている限りでは、他には黒猫ぐらいだろうか。面立ちは、瓜実顔とでも言うべきか。色白で
鼻筋が通り、やや面長な印象だ。まるっきり丸顔な桐乃はもちろん、桐乃ほどではないが、どちらかと言えば丸い印象の
あやせとは完全に趣を異にしている。桐乃やあやせと似通っているのは、ほっそりとした体型ぐらいだろう。背は、もしか
したら、あやせの方が少しだけ高いかも知れない。
「隙がない美人って、居るんだなぁ……」
単にルックスがいいとかってレベルじゃなくて、その存在に華があるとでも表現すべきか。
この地方屈指の名家の令嬢ってのは伊達ではないらしい。おそらく、幼少時から、躾や習い事とか勉強とかで
磨かれてきたんだろう。それでいて高飛車なところが全くなく、いつもにこやかに微笑んでいる。
「昨日のことは夢だったのかもな」
同級の女子と楽しそうにおしゃべりしている保科さんは、当然のように、俺が居る教室の隅っこの方には目もくれない。
でも、これが現実なんだ。
彼女とは昨日、禅寺でたまたま出会った。
そして、俺が、それなりの美少女であるあやせと一緒だったから、俺にも一時的に興味を持った。
さらには、俺が彼女と同じ大学の同じ学部の同級生で、今日これから提出するレポートを読んでいたから、俺と暫し
話し込んだだけなんだ。
「それに、何の取り柄もない俺なんかに、変に目線向けられたら、ヤバいことになっちまう」