やがて、薄桃色の小さな果実を俺が堪能し尽くす頃には、ユリーシアは軽く達してしまったようで、トロンとした目に幸福そうな光を湛えて甘い溜め息を漏らしていた。
「大丈夫か?」
「──え? あ!? は、はい!」
どうやらしばし忘我の状態にいたらしい。未熟な俺の愛撫で、そこまで感じてもらえたなら光栄の極みだな。
「大丈夫なら、続けようと思うけど……」
どうする? 視線で問いかけると、彼女はコクンと恥ずかしそうに頷いた。
浴衣の帯を解いて、ソコを目の当たりにした時、思わず俺は「うわぁ」と感嘆の声を漏らすところだったが、何とか喉の奥でそれを阻止する。
浴衣の下に下着を着けていないために、そこには、まばゆい程に白く神々しいユリーシアの裸身があった。
まがりなりにも淫「魔」であるはずの女性にその形容はどうかとも思うけど、藍色の浴衣の地とのコントラストで、その白さがいっそう引き立っており、思わず目を奪われる。
「そ、そんなじっと見つめないでくださぁい」
「す、すまん」
ちょっと泣きべそ気味な彼女の言葉に、反射的に謝りながらも、視線をソコ──彼女の女性器から外せない。
朱鷺色──ベイビーピンクってのは、こういう色のことを言うんだろうなぁ。
あまりに初々しく、無垢な色をしたソコに、俺なんかが触れていいのか躊躇われるが、それでも「ままよ」と決意を固めて底に手を伸ばす。
うわ……この感触をどう形容していいのかわからん。作家のハシクレとしては失格かもしれんが、この指先にまとわりつく柔らかさと心地よさを上手に形容できたら、それだけで賞のひとつやふたつは取れそうだ。夢中で2本の指を蠢かせる。
「はぁ、はぁ……やは、ん……」
時折、弱弱しい制止の言葉は混じるものの、彼女も感じてくれているのは確かなようだ。
本来は、もう少し時間をかけてほぐすべきなのだろうが、すでに彼女のそこもトロトロに出来あがっているし、何より俺の下半身が結構ヤバい。
手早くトランクスを脱ぎ捨てて、膨張しきった自分のモノを彼女のソコにあてがい、まだ入れずにヌルヌルとした滑りの上にこすりつけて楽しむ。
「か、神無月さん……わた、くし……も、もぅ……」
切なげな色を瞳に浮かべて懇願する彼女がたまらなく愛しい。
「じゃあ、ユリーシア。一緒に気持ちよくなろう」
──ズブズブッ……
これまでの前戯で襞の奥まで濡れそぼっていたせいか、呆気ないほどスムーズに、ユリーシアの秘裂は俺の逸物を受け入れる。
サッキュバスに処女膜はないのか、あるいは何らかの理由ですでに破られていたのか、いずれにせよ途中に抵抗感もなく、彼女の胎内の奥に俺の分身はヌルリと飲み込まれていった。
「っ!! ああぁぁぁぁっ……! ひぅンッ……!!」
それでも、敏感な彼女の身体には、かなりの刺激をもたらしたらしい。
顔を真っ赤にして息を荒げ、目じりから涙を零しつつ視線も定まらず、だらしなく口を開いて口の端からわずかによだれを垂らした様子は、さすがに「純真無垢」とは言い難いが、それでも俺には愛らしく見えた。
「あぁ……かたい……それに……おっきぃ……。と、殿方のモノって、こんなにスゴいんですね」
褒めてくれるのは有難いが、俺のは標準だと思うぞー。まぁ、そんだけ感じてくれてると思うと俺としても嬉しいけど。
「じゃあ、本格的に動くよ?」
断わりを入れてから、ゆっくりとピストン運動を開始する。
予想してた通り、彼女のソコはいわゆる名器というヤツで、本来の俺ならさしてモたないはずなんだが、ココは俺の夢の世界だ。
強く意思さえ持てば、多少のムチャは効くはず……!
その考えは正解だったようで、じゅぶじゅぶと彼女胎内を掻きまわしながらも、俺にはまだ多少の精神的余裕があった。
時折、深く付き込むことで、彼女の深奥部──いわゆる子宮口を俺のモノの先端が叩いていることもわかる。
「ふ…あ……ああン! く……ひ、っ……はぁああ……」
対称的に、ユリーシアの方は余裕がなさそうだ。目をキュッとつぶりながら首をのけぞらせ、その挙句、意味不明の言葉を漏らすことしかできていない。
まぁ、初エッチの女性ともなれば、そういうものだろう。
優しい笑みを浮かべつつも、俺は手加減せずに、腰を前後に揺すり続けた。
「……っ、あ……!! あぁ……また……イク……イッちゃいますぅぅぅーーーッ!」
程なくユリーシアは、俺の下で心底幸せそうな表情を浮かべながら……未踏の高みへとのぼりつめたのだった。
#力尽きたので、ピロートークとエピローグは次の機会に。
乙
<彼女の追想>
人間はもとより、天界の住人でさえ誤解されている方が多いのですけれど、わたくしたちサッキュバスは(ハイ種だけでなくレッサーも含めて)、決して「殿方の精を四六時中求めるだけの痴女」ではありません。
──いえ、確かに満月の夜などは、レッサー種の方は繁殖期の動物にも似た疼きをその身に抱えられるとは聞いていますけど、それ以外はごく普通に会話や文化活動、あるいは戦闘行動なども可能なのです。
こう言ってはなんですが、一部の血の気の多い獣人族や鬼魔族の方々に比べれば、魔族の中でも比較的理性的で、温和な種族と言えるかもしれません。
喜怒哀楽は元より、親子夫婦間の情愛だってあります──無論、それが人間や神族のそれとまったく同じものか、と問われれば無条件に肯定はできませんが。
神無月さんにも説明したとおり、わたくしたちハイサッキュバスに至っては、吸精行為すら生きていくうえで必須ではありません。
とは言え、吸収した精気をダイレクトに魔力に変換できるのがサッキュバス族の特性ですから、そうした方が強くなれるのも確かですが。
それなのに、サッキュバスの成人儀礼として「人間の男性との性行為を通じての吸精」があるのは……「それが伝統だから」と言うのが、一番わかりやすい理由でしょうか。
日本人の方にわかりやすく言うなら、そうですね……成人式、と言うよりはむしろ高校の卒業式あるいは卒業試験って感じですね。
その例えで言うなら、この歳になっても男性から吸精行為をした経験のないわたくしなどは、20歳過ぎても留年して高校に居座っているようなものでしょうか。
無論、分家とは言え名門の端に連なる者としては大変な不名誉です。
故に、ごく一部の理解ある縁者を除いてわたくしに対する風当たりは強く、まさに針のむしろめとも言うべき状態でした。
幸い、人間界への留学経験がある本家のメルヴィナ様とリアリィ様、そしてお二方の御母堂である伯爵様は、わたくしの小娘じみた感傷にも理解を示してくださいました。
とはいえ、わたくしがこのような心境に至ったのは、かの御方達からいただいた書物が元凶なのですから、ある意味、卵と鶏の論議のような気がしないでもありませんが……。
ええ、そうなのです。
本、とくに読み物好きなわたくしは、現在も頻繁に人間界に出かけられることの多いお二方から、現在アチラで流行っている小説や「漫画」と称する絵物語の類いを貸していただく機会が多々ありました。
魔界(コチラ)にはない文化の数々、とくに少女向けのそれらにすっかり魅せられたわたくしは、いつしか「初めては好きな殿方と結ばれたい」と言う、サッキュバスとしてはかなり異端な感慨を抱くようになっていたのです。
もっとも、わたくしがいくら夢想家だとは言え、普段は魔界に住む身で人間の殿方と情熱的な恋に落ちるだなんて、都合のよいハプニングがありうると思うほど、浮世離れはしておりません。
けれど──ある時、リアリィ様から戴いたとある本、お二方の人間界での学友であられた方が書かれた一連の小説に、わたくしはすっかり入れ込んでしまいました。
そしてその熱は、いつしか物語自体だけでなく、それを書く方への興味にまで拡大してしまっていたのです。
この素敵なお話を書いているのは、どんな方なのだろう?
どういう暮らし、どういう人生を歩んできて、このような優しい物語を書くようになられたのだろう?
著者の方と比較的親しかったというリアリィ様から、その方──神無月優伍様のお話を聞く機会もあって、わたくしの頭の中で、神無月様の存在が、少しずつ大きくなっていきました。
いい歳して小娘のような恋煩いに捕らわれたわたくしを案じた伯爵様は、魔王様とかけあって、人間界への短期滞在を許される「人材交流会」のメンバーに、わたくしをねじ込んでくださいました。
「えぇか、ユリちゃん。好きな男が出来たら、その胸に思い切って飛び込んでみるのも、女の甲斐性ってヤツやで。ふぁぃとや!」
そんな暖かい激励の言葉までくださいました(メルヴィナ様は、「ママはおもしろがってるだけよ」なんて呆れられていましたが)。
100日近くにわたる講習(人間としての常識や基礎知識を身に着けるものです)の後、いよいよわたくしは他のメンバー共々人間界に降り立ち……。
三日間ほど遠巻きに観察した後、神無月様が、予想していた通りのお優しい方であったことを確信したわたくしは、ついに今晩意を決して、かの方の夢の中にお邪魔したのです……。
* * *
「あ〜、つまり……ユリーシアはストーカーだった、と」
結局、夢の中では抜かずの3連チャンでやりっぱなしで、さらに明け方目が覚めた時に、同じ布団の中に彼女の姿があると知った瞬間、自制しきれずに再び今度は現実で励んだ結果、当然俺の精力は見事にempty状態、そのままダウンとあいなった。
ユリーシアによると、彼女も経験が浅い(て言うか初めて)だけに、生身での吸精の加減が上手くいかず、思ったより大量に吸い取ってしまったらしい。
もっとも、昨夜の約束通りユリーシアが、布団から出るのも億劫な状態の俺を、甲斐甲斐しく世話してくれているため、別段後悔はしてないけどな!
で、布団から半身を起して、彼女が作ってくれたおじや(予想に反して味は悪くない……てか美味い!)を「ふーふー&あ〜ん」して食べさせてもらった後、彼女からの懺悔というか打ち明け話を聞かされた俺の第一声が上のものだったわけだ。
「か、神無月さん、ヒドいです〜」
さすがに温厚なユリーシアも怒ったのか、拳でポカポカ叩かれた。
「や、ごめんごめん。冗談だって。むしろ、単なる偶然じゃなく、俺を初体験の相手に選んでくれたことを光栄に思うよ」
即座に謝罪したのでユリーシアの機嫌も直り、今は何となくイチャイチャと言うかまったりしてるんだけど……。
「えーっと……」
「あ、あの!」
いかん、カチ合っちまったな。
「じゃ、じゃあ、ユリーシアから」
「い、いえ、神無月さんこそ」
あー、やっぱしこうなったか。ま、それならお言葉に甘えて。
「えっと、さ。さっき聞いた話だと、そのぅ「人材交流会」とやらで、しばらく人間界(こっち)にいるんだよね? 住む場所とかは、もう決まってるのかな?」
無論、俺が言外ににじませた意味を、彼女はしっかり読みとってくれた。
「えっ……その、まだです。これからステイ先を探すつもりでした」
そう言いつつ、伏し目がちにした視線をチラチラとこちらに投げかけてくる。
はは、飼い主に「撫でて撫でて」と期待する仔犬みたいで、わかりやすいなぁ。
一瞬、トボけてみようかと言う悪戯心が頭をもたげたが、自粛しておく。そんなにコトしたら、彼女、マジ泣きしそうだし。
「だったら、ユリーシアさえ良かったら、ここで俺と一緒に住まないか? 少々ボロいが、君の分の部屋くらいあるしな」
俺は、木造築30年で猫の額ほどの広さとは言え、一応二階建ての一軒家を借りて住んでいる。もっとも、一階は居間と台所とトイレ、二階も部屋が和室と洋室がひとつずつあるだけの、下手なマンションより貧相な住まいだけどな。
二階の部屋の和室を寝室、洋室の方を物置にしてるが、洋室は整理したら空けられるだろう。
「はいっ、ぜひお願いします!」
パァッと大輪の花がほころぶような笑顔を見せるユリーシア。
……うん、まぁ、思いがけない美女とのアバンチュール(?)に浮かれて、馬鹿な事をしてるという自覚は、俺にもある。
彼女はどうやら俺のことを気に入ってくれたみたいだし、俺もその点は同様だが、ちゃんとした恋人同士になるには流石に障害が多すぎるだろう。
仮に種族の差とやらを気合いで乗り越えたとしても、彼女いわく「人間界へは短期滞在」らしい。森鴎外の「舞姫」よろしく別れなければいけない事は今から明白なのだ。
「ステイ先を探す」と言ってたくらいだから、滞在期間が1週間未満ってことはないだろうが、1ヵ月か、それとも1年か。あるいは、一般的な留学と同様3〜4年か。
いずれにしても、遠からず「別れ」が来ることは目に見えているのだ。
「「それでも……たとえ一時でもいいから、君と共に歩みたい」……ですよね?」
「うっ! 『七彩城物語』も読んでたのか」
自分の著作から登場人物のクサい台詞を目の前で引用されると言うのは、たまらなくこっ恥ずかしい体験であるということを、俺はたったリアルで理解したよ!
「読んだ時はいまひとつピンときませんでしたけど……今なら、あのアルバート少年の気持ちが理解できます」
俺の身体に負担をかけないよう、膝まづいてそっと首に抱きついてくるユリーシア。
しなやかで暖かな体の感触と、ほのかに鼻をくすぐる女らしい香りが、俺の中の頑迷な部分をたちまち壊してしまう。
「──ああ、あんなことを書いた俺も、今初めて実感したよ」
認めよう。そもそも俺は彼女にひと目で心を奪われたじゃないか。なのに、いまさら変な意地を張ってもしょうがないだろう。
どちらからともなく唇を重ねる俺達。
このキスが、「美人で愛らしく淑やかな淫魔」という矛盾した魅力を兼ね備えた彼女との、同居……いや「同棲」契約締結の証となったのだった。
-ひとまずFin-
209 :
はこいりの人:2011/05/07(土) 22:07:47.03 ID:0DZOpJL+
#以上。難産なわりにイマイチなデキで申し訳ない。前回のエロシーンで、イマイチ盛り上がれなかったのが敗因でしょうか。
#とりあえず、当面は、他の方のすばらしい作品で、この白けた雰囲気の打破を期待します。
<オマケ>
「ところで、短期滞在って具体的にどれくらいなんだ?」
「そうですね、コチラの暦で言うところの……おおよそ30年くらい、でしょうか」
「ぜ、ぜんっぜん、短期じゃねぇ!!」
不覚。羽さえ出さなければ人間ソックリの外見に油断して、人間との寿命、ひいては時間感覚の違いに思い至らなかったぜ。
「戸籍や住民票も登録しましたから、婚姻届もちゃんと受理してもらえますよ?」
……まぁ、30年あれば余裕で子育てもできるから、いいんだけど、な。
GJです。
30年後も今と変わらぬ姿で怪しまれるユリーシアさんを幻視したり。
_、_
( ,_ノ` ) n
 ̄ \ ( E) グッジョブ!!
フ /ヽ ヽ_//
とりあえずGJ!
さぁ続きを書く作業に戻るんだ
エロパロ板で忍法帳に何の意味があるんだろうな
まあ2chだし
深く考えても意味は無いと思う
保守
NINJA
#保守代わりにネタ投下。以前某所に投下して流れたモノの加筆修正版ですが。
#元々は「大神の恩返し」を書くような犬好きの私ですが、この板の25-529氏の「猫が恩返し」に触発されて、「主人に懐く犬っぽい猫もいいかも」と思い、書き始めた作品。
#ただし、背景設定などは特にそちらを借りているワケではありません(むしろ、私の他の作品と共通の世界観の話です)。
『「にゃん?」〜恋猫曜日〜』
たとえば、たとえばもし、だ。
長年可愛がっていた飼い猫が、ある日姿が見えなくなったかと思うと、3日程したら玄関にいきなり自分と同年代の可愛い娘が現れたとしたら?
その娘が自称「飼い猫の転生した姿」で、美人なだけでなく、ちょっと天然気味だけど性格もよくて、さらに家事もそれなり以上にこなせたら?
なおかつ、自分のことを「大好き♪」と慕ってくれていたら?
まぁ、「それなんてエロゲ、もしくはラノベ?」なんてシチュエーション、普通はあるワケないんだけどさ。
でも、仮にあったとしたら……大部分の若い男は諸手を挙げて歓迎するんじゃないかね。
ああ、俺も健全な男子高校生で、彼女いない歴=年齢の寂しいシングルメンだ。
そんな美味しい状況に遭った以上、「キタコレ!!」って小躍りして喜びたかったさ。
「うにゅ? れんたろー、調子悪い?」
「あ〜、いや、そんなコトないぞ。元気げんき」
心配げに顔を覗き込んでくるコイツ──珠希(たまき)を安心させるように笑ってみせる。
「なら、いい。元気がいちばん」
ニコッと、俺なんかとは比べ物にならない可憐で無垢な笑顔を向けてくれる珠希。すごく癒されるんだが……。
「今日は、ママさんに習って、たまご焼きときんぴらを作った。自信作」
「お、美味そうなだな。さっそく戴こうか」
食卓について、珠希と差し向かいで朝飯を食べる。
正直、すごく美味い。この家に現れた、いや「帰って来た」頃(って言っても、たかだか半月程前だが)は、ロクに米を炊くことも出来なかったことを思うと長足の進歩だ。
コレだけ優秀な教え子なのだ。お袋が、上機嫌でコイツに家事その他を仕込むのもわからないでもない。
「母さん、義娘と並んで台所に立つのが夢だったのよ〜」という台詞はあえて聞こえないフリをしておく。
容姿端麗・純真無垢・春風駘蕩……と、褒め言葉を連発しても決して大げさでない美少女が、自分に懐いてくれてるんだ。俺だって素直に喜びたいのは山々なんだが……。
「ふに? れんたろー、急がないと、学校に遅れる」
「おっと、そうだな」
慌ててメシをかき込みながら、目の前の珠希の顔をソッと盗み見る。
色白で滑らかな肌。日本人には希少だが見事な銀色の髪。小作りで整った顔立ち。華奢な体つきと、対称的にその存在を主張する胸。
(くそぅ……何べん見ても、俺のツボにクリティカルヒットだぜ)
それなのに俺が、いま一歩踏み出せないのは、コイツが元猫だからって理由じゃない。
──我が家の飼い猫だったタマの性別は、(去勢してたとは言え)れっきとした牡、つまり男だったからだ!
「にゃん?」
時間がないながらも、せっかく珠希が作ってくれた朝飯なので残さずしっかり平らげる。
「旨かったぞ」という礼とともに珠希の頭をポンポンと撫で、飼い猫時代と同じく嬉しそうに目を細める珠希の様子にホワンと和みかけ……たが、登校時間の件を思い出して、慌てて珠希の手を引いて家を出る。
「れんたろー、早く早く!」
玄関出た途端に逆に俺が引っ張られてるが。
「ちょ、ちょっと待て、飯食ったばかりだから……おぇっぷ」
「れんたろー、なんじゃく者。そんなコトではせいきまつを生き残れない」
いや、もうとっくに21世紀になってるから。てか、オマエの中の世紀末はどんだけ物騒な世界なんだ……。
「かくのひにつつまれ、おぶつがヒャッハー」
「北斗●拳」かよ! そんなんなったら、俺みたいなモブは、どの道モヒカンに瞬殺されちまうって。
「大丈夫。れんたろーは死なない、珠希が守るから」
……どうも、誰か(つーか犯人の目星はついてる)のせいで、珠希は急速にダメな知識を吸収しつつある気がしないではないな。
「ふにゃ……れんたろー、迷惑?」
「普通は女の子を護るのが男の役目だろ?」とか「だが、(そもそもコイツは)元男(オス)だ!」とか、いろいろな葛藤が脳内を駆け巡ったんだが……。
「……ばーか、んなコトあるわけないだろ。いつもありがとな」
──こんな極上の美少女に不安げに小首をかしげられて、そのままにしとくなんて真似、ヘタレな俺に出来るワケがないのだった。
さて、もう少し詳しく事情とやらを話そうか……断じて、上機嫌で俺の右腕にヘバリ着いてきた珠希の柔らかくボリューム豊かなナニカの感触に意識がいかないよう、気を逸らそうとしているからじゃないからな!
事の発端は、3月も残すとこあと数日という時期になった今年の春休み。
10年来の我が家の愛猫であるタマが、姿をくらませたのだ。
一日目は、別段とりたてて心配しなかった。これまでも、それくらい家から離れていることは多々あったからな。
二日目は、少し心配になって夕方から近所の公園や猫の溜まり場を見て回ったりした。
三日目は、これはただごとではないと確信し、本格的にタマの捜索にとりかかった。幸いにして長期休み中で、かつ高校進学を控えた俺は、とくにやらなければならない急務もなかったからな。
わざわざ知人の手まで借りてのタマ捜索は、しかしはかばかしい成果を得られず、俺は随分落ち込むハメになった。
手を借りた知人のひとりが漏らした「そう言えば、猫の寿命って10年くらいらしいな」という言葉も、グサリと俺の心に刺さった(迂闊な発言者は、他の知人ふたりがボコしてくれたが)。
「象の墓場」じゃないけど、やっぱり動物って自分の死期がわかったりするんだろうか?
いや、しかしタマに限って言えば、ここ最近だって、とても人間換算で55歳オーバーとは思えぬほど元気だし、あいかわらず機敏に動いてたんだけどなぁ。
身体能力もそうだけど、タマはとても頭がいい。普通は犬でよくやる「取ってこい」とか「お手」、「伏せ」なんかも簡単に覚えたし、ドア開け、窓開けなんてお手の物。
(「あおずけ」だけは、それに従った時のタマの目があまりに切なそうだったので、二度とやってない)
俺がテレビゲームしてる横で、飽きもせずかといって邪魔もせず画面を眺め続けてたくらいだから、子猫のような好奇心と、老猫ならではの落ち着きを両立させている稀有な例と言っていいだろう。
無論、世の中に絶対はない。ないが、およそ交通事故とかのアクシデントに遭うようなイメージは皆無だ。
事故でなく故意、たとえば誘拐とか? うーーむ、確かにアビシニアン系にしてはかなり珍しい銀に近い色合いをしてるが、どのみち純血種じゃないし去勢もされてるから、「商品」としての価値は皆無だと思うんだが。
余談だが、去勢手術については、俺に無断で親父が受けさせやがったのだ。あとで知った俺と大ゲンカになったが、文字通り後の祭りだ。うぅ……すまん、タマよ。
──ピンポーン!
そしてタマ失踪から4日目の朝。くしくも4月1日、すなわちエイプリルフールの日の早朝に、我が大滝家のチャイムを鳴らす存在があった。
「ふわ〜〜ぃ」
今日もタマの行方を捜す気満々で、早起きしてパソコンで尋ね猫のポスターまで作ってた俺は、なにげなくドアを開け(あとで考えれば不用心だ。先に覗き穴から確認するべきだった)て来客を見て、即座に硬直するハメになる。
なんとなれば。
そこには白一色の着物──俗に言う白無垢を着て、ご丁寧にも綿帽子まで被った妙齢の女の子が、古風な唐草模様の風呂敷に包んだ大荷物を背負って、玄関のドアの前に立っていたのだから。
「ただいま、れんたろー」
無垢なる白に包まれた美少女の第一声は、可憐な見かけから予想したよりは幾分低めのハスキーボイスだったが、十分に涼やかで甘く、聞く者を心地良い気分に……。
って、待て待て。
いま、この子、「ただいま」とか言わなかったか? しかも、俺の名前付きで。
年頃の女の子の顔をジロジロ見るのは少々無作法かとも思ったが、しかしパッと見た感じでは俺にまったく見覚えがないのだ。
マンガとかでありがちな話だと、彼女は小さい頃に一緒に遊んだ幼馴染で、相手の方がどこかに引っ越して長い間離れ離れになっていたけど、偶然(あるいは意図的に)この町に戻って来た……ってのが、セオリーだ。
もっとも、俺に関して言えば、同年代の幼馴染は思いつく限り全員近所に住んでるし、そのほとんどと腐れ縁として現在も付き合いがある。
あるいは小学生の時のクラスメイトで転校していった子とか?
とは言え、その年代の男の子のご多分にもれず、俺も当時仲良くしていた女友達なんて(ごく少数の例外を除き)いないからなぁ。とうぜん、甘酸っぱくも懐かしい思い出なんてヤツとは無縁だ。
……自分で言ってて、無性に悲しくなってきたぞ。
以上のような論理展開に従って、その時の俺は、極めてオーソドックスかつ芸のない質問を、眼前の少女に投げかけざるを得なかった。
「えっと……どちらさま?」
「タマ」
──は?
いや、確かにウチのタマは現在絶賛行方不明中ですがね。
「だから、タマ。この家で十年間れんたろーと一緒に暮らしてきた、タマ」
俺の間抜けな反応にいら立ったのか、目の前の少女──自称「タマ」は、荷物を下ろして腰をかがめると、いきなり俺の脇腹に顔をこすりつけて来た。
「わわっ! なんばしょっとですかい!?」
思わず父さん譲りの似非方言が出る。
って、待てよ。このポーズ、もしかしてタマがいつも喉を「撫でれ」とおねだりするときの……。
「ほ、ホントにタマなのか!? いや、しかし……」
信憑度0から半信半疑、いや3信7疑くらいになった俺は、とりあえず詳しい事情を聞くべく、「タマ」を名乗る女の子を、家にあげることにしたのだった。
「タマ」は、俺に続いて家に入ると、玄関の脇に目立たないように置かれた雑巾で足を拭こうとしかけて、自分が裸足じゃない(白い草履を履いていた)コトに気づいたらしく、ちょっと戸惑っている。
(やっぱり、タマなのか?)
タマは綺麗好きで、猫にしては珍しく風呂にも嫌がらずに入ったし、外から戻って来たときは必ず雑巾で足を拭いてから家の中に上がるのを習慣にしてた。
それを知ってるのは、ウチの家族を除けば、それこそ本人(本猫?)くらいだろう。
ちょっと手間取ったものの無事に草履を脱いだ少女は、おっかなびっくり床に足袋を履いた足を載せ、けげんそうな顔をしている。
「どうした?」
「これが、人間が床をふむときの感しょく……ちょっとふしぎ」
──ヤバい。マジなのかもしれん。
「あら、廉太郎くん、その娘さんは? もしかして、ガールフレンド?」
幸か不幸か、お袋はすでに起き、呑気に台所で朝飯の支度をしているところだった。
……いや、朝っぱらから花嫁御寮姿の女の子を目にして、ほとんど動じてないのはある意味スゴいけどさ。ちっとは疑問を抱けよ!
ところが。
「にゃあ……ママさ〜ん!!」
これまでおとなしかった少女(自称・タマ)が、台所から現れた母さんの胸に飛び込んだのだ!!
「あらあら……もしかして、タマちゃん?」
見知らぬ(はずの)女の子に突然抱きつかれても、慌てることなく「よしよし」と優しく抱きしめるお袋。て言うか、普通に正体見破ってる!?
「なんで、いきなり分かるんだよ……」
「うーん、なんとなく、かしら」
だってタマちゃんはもうひとりの我が子みたいものだし、とニッコリ微笑むお袋には諸手をあげて降参するしかない。
確かに、生まれて間もなく捨てられていたタマを拾って来たのは、幼稚園の頃の俺だが、そのタマを成人、いや成猫に育てあげたのはお袋にほかならない。
いっしょに過ごしてきた時間は、学校に通ってた俺よりずっと長いし、勘(霊感?)の鋭いお袋は、ときどきタマと会話してるみたいに意思疎通できてたし。
「しっかし……お袋の目から見ても、やっぱりその娘、タマなのか?」
跳びついた時に被っていた綿帽子が脱げた少女は、北欧系さながらの見事な銀髪だったが、頭頂部近くの髪が左右にピョコンと尖っていて、猫の耳に見えないこともない。
「れんたろー、うたがい深い」
「そうねぇ、廉太郎くん、お兄ちゃんなんだから、弟分を信じなくてどうするの?」
──いや、そのりくつはおかしい。
飼猫がいきなり人間になってたり、そこは百歩譲ったとしても「牡のはずがなんで女の子になってるの?」とか「なんで花嫁衣装なの?」とかツッコミどころ満載だろーが!
「言われてみれば……確かにそうね」
ふぅ、万年能天気なおふくろも、ようやっと気づいてくれたか。
「女の子になったんだから、弟分じゃなくて妹分よね」
そっちかよ!?
「なんだ〜? 朝っぱらんらエラく騒がしいじゃないか」
ああ、ただでさえ収拾つかないのに、また厄介な人間が……。
「あ、パパさん」
ノソノソと居間に現れた親父の姿を見て、ポツリとタマ(の化けた?娘)が呟いたんだが、当の親父は雷にでも撃たれたみたいに硬直している。
「パ、パ…………ソコの君、もう一度呼んでみてくれないか!?」
「?? パパ、さん?」
「おぉ、なんたる心洗われる響きなんだ! 君のような愛らしい娘さんにパパと呼ばれるとは、もはや我が生涯に一片の悔いなし!!」
──クソ親父、お前もか。いや、期待はしてなかったけどさ。
「……で、この娘さんは誰なんだ? お前の許婚か、廉太郎?」
右手を天にかざすあのポーズでしばし浸っていたクソ親父は、我に返った途端、俺に向かってそんなコトを言ってきやがった。
「あのなぁ……バカ言うなよ。俺はまだ高校生になったばかりだぜ?」
「ふむ。しかし、江戸時代の男子の元服は普通15歳だ。お前の歳でも立派な一人前だぞ」
「今は平成だっつーの」
ところが、親父の言葉を聞いたタマが、ピクンと身じろぎして俺の方にジーッと熱い視線を投げかけてきた。
「いいなずけ……つまり、れんたろーの嫁?」
「そうね、正確には「近い将来にお嫁さんになる人」かしら」
お袋がタマの言葉を微修正すると、タマはちょこんと首を傾げた。
「──だったら、タマは、れんたろーのいいなずけ」
ハァ!? 一体、どうしてそんな結論に行きつくんだよ??
「そもそも、今までスルーしてたけど、お前さんが本当にタマだとして、どうしてそんな姿になってるんだ?」
「そうね、タマちゃん。母さんもソコのところは興味があるわ」
俺に続いてお袋もそうフォローしてくれたことで、タマはようやく事情を説明してくれる気になったようだ。
「タマが人間になったのは、猫仙人のおかげ」
……さて、またしてもトンデモワードが飛び出しましたよ、奥さん。
「仙人」なんて言うだけでも十分アヤしいのに、頭に「猫」の一字なんてついたら、怪しささらに倍率ドン! だ。
とは言え、今はコイツの言葉にしかこのハプニングの手がかりはない。とりあえず、一通りタマの話を聞いてみることにした。
「はじまりは、タマのしっぽが割れたこと」
はァ??
「なるほど。「十年生きた猫は尻尾がふたつに分かれて猫又になる」と言う言い伝えがあるからな」
胡乱な顔つきをしている俺と対照的に、腕組みしてウンウンとうなづいている親父。
くそぅ、まがりなりにも物書きだけあって、くだらない雑学知識はいっぱい持ってやがるな。
──ちなみに、親父の職業は自称「推理作家」だったりする。
この場合、自称というのは「本がロクに出ないから自称w」なのではなく、「ミステリーはもとよりSFや歴史物、ドラマの脚本、さらに最近はラノベに至るまで節操無く書いてるから」だ。
有名作家というにはほど遠いものの、一応、親子3人+猫一匹が何不自由なく暮らしていける程度の収入は得ているのだから、その点は感謝するべきなのだろう。
閑話休題。
親父の話によれば、「化け猫」が生まれた時から「猫の姿をした妖怪」なのに対して、「猫又」は年経た猫が「成る」モノらしい。
「パパさん、正解。だから、タマ、この近くの親分さんのトコに相談に行ったら、猫仙人を紹介された」
幾分舌足らず気味なタマの言葉を意訳整理するとこうだ。
・猫仙人は、年齢1000歳を超え、すでに猫又を通り越して神仙の域に達した存在。
・猫仙人には、紹介者のツテがないと会えない。
・猫又化をはじめとする猫のその筋の相談に応じてくれる。ただし、要報酬。
・タマが相談に行くと、いくつかの質問をされたので、タマは正直に答えた。
・その結果、タマは人間の少女に生まれ変わり、この家に戻ってきた。
──たいたいこんなトコロだろうか。
「おおよその経過はわかったけど……どんなこと聞かれたんだ?」
「えっと……最初に、人間の姿になりたいかどうかをきかれた」
それにどう答えたのかは、今のタマの姿を見れば一目瞭然だろう。
「次に、「家族の中で、誰が一番好きか?」ってきかれたから、れんたろーって答えた」
う! 正体がタマだとわかっていても、これだけの美少女に「好き」とか言われると、結構照れるな。
「あ〜、背後で「あらあら」と微笑んでいるお袋と、「パパはダメなのか〜!?」と嘆いているクソ親父は無視していいぞ、タマ」
「?? わかった。
そのとき、れんたろーのこともいろいろ教えろと言われた」
むぅ……タマがどんな風に答えたのか、すごく気になるぞ。
「そんなにたくさんは話してない。16歳のオスで、やさしくて、あったかくて、頼りになる人間だって答えただけ」
うわ、タマさん、無表情に近いのにそのセリフの最後に「ニコッ」と微笑むのは反則ですよ!!
「最後に、れんたろーのそばにいるために人間として暮らす修行をするかどうかきかれて、うんって答えた」
なるほど。この3日間は、その修行とやらに費やしていたのか。
ようやく合点がいった俺がウンウンと頷いていると、タマは首をフルフルと横に振る。
「3日じゃない。ひと月」
──は?
「人間の姿には、その日のうちになれたけど、人間としての知識とか習慣はいっちょういっせきでは身につかない」
そりゃまぁ、そうだろうな。
いくらタマの頭がよくて、俺ん家の家族として暮らしていたからって、言葉の問題とかもあるだろうし……。
「? 人間の言葉は前からわかってたよ?」
いぃッ!? マジですか??
「マジ。文字も、難しい漢字以外は読める」
なんてこった、「足し算ができる犬」どころの騒ぎじゃねーぞ。
「あら、廉太郎くんは知らなかったの? 母さん、タマちゃんとよくお話ししてたじゃない」
アレはてっきりデムパなお袋の特技か思いこみだと思ってたぜ。
「ウンウン、昔話でも猫又の類いは頭がいいってコトになってるからな」
したり顔で言うなよ、親父! いい歳して、なんでそんなに頭が柔軟なんだよ。
けど……だから、俺がゲームやってる時に飽きもしないで画面覗きこんでたのか。
「ん。だから、れんたろーの好みが「おしとやかでオッパイが大きい子」だってのも知ってる」
ぐわ……なぜソレを!? って、そうかギャルゲーとかやってる時の攻略順でバレたのか。
「それと本棚の裏の……」
わーわーわー! それ以上言わんでイイ!
うぅ……いくら元愛猫とはいえ、同い年くらいの女の子(にしか見えない存在)に、お宝本の趣味まで把握されてるのは、ちと凹むなぁ。
「そ、それで、どうして修行日数が1ヵ月なんてコトになるんだ?」
強引に話題を元に戻す。
「よくは知らない。猫仙人は"せーしんとときのへや"とか言ってた」
──ド●ゴンボ○ルかい!? てか、猫仙人って、カ●ン様かよ!
要は時間の進み方が普通とは違う空間ってコトだよな。
「ん。そこでひと月、勉強してた」
かの猫仙人いわく、ローティーン程度の女の子としての常識と、中学生3年生程度の学力は、なんとか詰め込めたらしい。
まぁ、そのヘンを1から教えなくて済むのは助かるけどな。
「ところで、タマ。猫仙人に色々してもらった以上、なにがしかの"代償"が必要になったのだろう?」
親父の言葉に、俺はハッと目を見開き、タマの目を凝視する。
そう言えば、確かに「猫仙人は報酬をとる」とか言ってたよな!?
「ん、パパさんの言うとおり。でも、だいじょぶ。もう支払い済み」
タマはそう言うものの、俺達としてはやはりその「代償」の中味が気になる。
「ねぇ、タマちゃん、何を仙人さんに渡したのか、教えてもらえないかしら?」
お袋が優しく尋ねると、元から隠すつもりもなかったのか、タマはあっさり答えた。
「猫としてのタマの存在」
へ?
「猫又は、ホントは人の姿にも猫の姿にもなれる。でも、タマはその猫になる力を、猫仙人に渡してきた」
えーっと……ソレって結構重大なコトじゃないか?
「別に、いい。タマは、人としてれんたろーの傍にいたかったから」
う……だから、平静っぽい顔つきながら、微かに頬を染めたその表情は反則だって!
親父とお袋もニヤニヤしながらコッチ見んな!
「あ……そーだ」
俺の葛藤も知らぬげに、タマはパンと掌を胸の前で打ち合わせると、それまでの横座りからキチンと正座し直すと、三つ指つきつつ俺に向かって深々と頭を下げる。
「──ふつつかものですが、よろしくおねがいします」
そしてその瞬間、俺の人生に退路がなくなり、両親公認の俺の許婚が誕生したのだった。
#とりあえず、今回はココまで。ただ、エロが出てくるのはえらく先なので、続きを投下してようものか悩むところなのですが……。
ワッフルワッフル
>226
#ぅぅ、その反応だけでもありがたいです。
#とりあえず、キリのいいトコロまで投下します。
その後、皆でタマが持って来た(正確には、猫仙人とやらに持たされた)風呂敷包みの中味を確認したところ、おそるべき事態が発覚した。
着替えの服と下着類。これはまぁ、いいだろう。
しかし、その次に広げられた書類は……戸籍謄本!?
「あら、コレがタマちゃんの人間としての戸籍なのかしら?」
「そうみたいだな。しかもコレを見ろ」
親父の指差す先には、「伊藤珠希(いとうたまき)」とある。タマだから「珠希」か。安直だなぁ。
「ふに……ダメ?」
あ、いや、ダメってことはない。むしろ、可愛らしい響きだと思うぞ。
「♪」
「あ〜、イチャイチャするのは構わんが、ワシが言いたいのはソコじゃない。ホレ、珠希ちゃんの父母の氏名の項目を見てみろ。
えーと、「父・伊藤元治、母・伊藤真理」って、コレは!?
「? どーしたの、れんたろー?」
「タマちゃん、元治さんはね、パパから見て従兄にあたる人なの」
北海道の伊藤おじさんには、親戚の集まりとかで俺も何度か会ったことがある。
──もっとも、去年飛行機事故で亡くなったんだけどな。
「ふむ……どうやら、伊藤夫妻亡きあと、その娘が俺達大滝家に引き取られたって体裁みたいだな。しかも、伊藤夫妻の実子じゃなく、身寄りのない娘を養女にしたってコトらしい」
うわぁ、なんたるご都合主義。
でも、元治おじさんには子供がいなかったのは確かだ。「亡くなる寸前に引きとった」って言えば、親戚と面識がないことの言い訳もたつのか。
にしても、「仙人」って割には俗っぽいコトにも気が回るんだなぁ。
「猫仙人の家、えあこんもぱそこんもげーむもあった。ねっとは光けーぶる。趣味はえふぴーえすとえむえむおーだって言ってた」
なに、そのハイテク&ゲーオタ臭は!?
「わはは、最近の仙人は、ネトゲ厨なのか。ワシと話が合いそうだな」
あ〜そーでしょうよ、この不良オタ中年!
さらに、俺が通う4月から通うことになっている恒聖高校の、女子制服と生徒手帳も入っていたんだが、国家機関のデータベースすらいじれるのなら、もはや驚くには値しないだろう。
「これで、れんたろーと同じ学校に通える♪」
俺にペトッと寄り添って嬉しそうに俺を見上げてくる美少女の愛らしさに、俺の理性はノックダウン寸前だ。
「あ、あぁ、そうだな。一緒に行こうな」
「にゃん♪」
こら、そこのバカ親! いつの間にかハンディカム取り出して俺達のコト、撮ってるんぢゃねぇ!!
「あら、残念。せっかくの我が子の成長記録なのに」
「成長じゃなく、「性」長かもしれんがな、ガハハ!」
黙れ、セクハラ下品親父!!
* * *
ともあれ、こうした経緯で、タマ改め珠希は、再び俺の家で今度は俺と同い年の少女として暮らすことになり、あまつさえ俺と同じ高校に通うことになったワケだ、まる。
「?? れんたろー、せんせー、来たよ」
おっと、回想してる間に、いつの間にか教室に着いてたらしい。
「みんなおはよ〜! 休んでる子はいないよね? いたら返事してー」
教師に入って来た我がクラスの担任──小杉真紗美教諭(国語担当・24歳・独身&恋人なし)が、いつもの如くまるで小学生に話しかけるような口調で、出欠確認する。
──シーーーン……
「うん、全員出席と」
……相変わらずシュールな光景だ。コレがウケを取るためのギャグとか言うなら、まだわからないでもないが、この人、正真正銘マジだからな。
家が近所で、物心ついた頃からの知り合いだなんて、ある種の腐れ縁的関係にある俺は、そのことをよ〜く知っている。
「今朝の伝達事項はとくになーし! それじゃあ、みんな、今日も一日頑張ってねー!」
能天気な声をあげると、小杉先生は元気よく教室を出て行った。
「……おかげで、ウチのクラスのHRって、いっつも時間が余るんだよな」
「ふにゅ? まさみセンセは、いい人」
まぁ、善か悪かで二分すれば、前者であることは間違いないけどな。
あのアバウトさで、いつか身を滅ぼすのではないかと、他人事ながら一応弟分的立場の身として、時々心配になるんだよ。
「ハッハッハッ大丈夫だろ。真紗姉が「後悔」なんて高度な感情を持つ日が来るなんて、オレには想像できん」
その言葉、そのままソックリお前に返してやるよ、哲朗。
「まぁ、そう褒めるな。ハハハ」
……いや、全然褒めてないんですけど。
この「どこからどう切っても体育会系脳筋馬鹿」丸だしの男は、山下哲朗。
一応、コイツも日本語の定義的に「幼馴染」の範疇に入らなくもない。そんな関係の友人だ。
小杉先生が「大雑把(アバウト)」なら、哲朗(こいつ)は「考えなし(ノーシンキング)」を地でいく男だ。
フォローする者の身にもなってほしいが……まぁ、無理だな。そんな高等技術、一生かかってもコイツが習得するとは思えない。
「おはよう、てつろ」
ウチの両親を「ママさん」「パパさん」と呼ぶ珠希にとって、コイツは俺以外に名前を呼ぶ数少ない人間のひとりだ。
さっきも言った通り、俺達──俺と哲郎と小杉先生ことマサねぇ、そしてココにいないもうひとりは幼馴染で、小さい頃から、互いの家をよく行き来してた。
当然、ウチに遊びに来た時は、タマだった頃の珠希とも頻繁に顔を合わせており、自然と(あくまで猫と人間という範疇だが)仲良くなっている。
──ちなみに、その3人は、ウチの家族以外で唯一珠希が元タマであることを知っている。嘘が苦手な珠希があとでボロを出すとマズいので、下手に隠し事するよりはと、家に呼んで真相を説明しておいたのだ。
まぁ、この「牡猫が美少女になった」という非常識事態をどこまで信じてくれたかは、本人達のみぞ知るだが、表立っては3人とも了解して、いろいろフォローや協力をしてくれることになった。
「グッドモーニング、珠希ちゃん! あいかーらず可愛いな!」
「てつろも、すごく元気。元気なのは、いいこと」
「うむ、俺サマから元気を取ったら何も残んねーからな!」
「──それ、自分で言っちゃうのかよ……」
はぁ……ま、哲朗らしい、っちゃらしいが。
「お、なんだなんだぁ? いくら頭脳労働担当だからって、朝っぱらシケた顔してると、嫁さんが悲しむぞ!」
「余計なお世話だ!」とか「まだ嫁ぢゃねー!」とか言い返したいのは山々だが、俺としても珠希をショゲさせるのは本意じゃない。
「こちとら一般人なんだ。お前さんみたく筋肉神「のみ」に愛されたセントマッスルと比べんな」
と言い返すにとどめたんだが……。
「おぉ! やっぱり俺の筋肉美は、神の祝福を受けていたのか! 廉太郎、その神さんを祀るには、何したらいいんだ? プロテインでも供えるのか??」
しまった。自分に都合よく勘違いしてやがる。
──もっとも、ナルシス一歩手前(もしくは半歩踏み越えかけ)のマッスルフェチ野郎に、うっかり「筋肉」のことを話題にした俺が間違いだったのかもしれんが
「……皮肉や諧謔って、受け取る側にも一定の知的レベルがいるんだなぁ」
ガックリ肩を落とす俺を、ワケがわかってなさそうな珠希が、それでもポンポンと肩を叩いて慰めてくれたのは、ちょっと泣けた。
まぁ、そんなクソくだらない雑談を交わしてるうちにチャイムが鳴り、今日も授業(おつとめ)が始まったワケだ。
大学にまで行けば多少は違うのかもしれないが、この国では小中高と学校に於ける授業風景なんて、合計12年間ロクに変わり映えしないのがお約束だ。
俺達学生の側からすると、ありていに言って「つまらない」。
無論、中には「古典文学が好きで古文の時間が待ち遠しい」とか「科学者になるのが夢で理科の時間がおもしろくて仕方ない」などというケースもないワケではないだろう。かく言う俺も、歴史や地理の時間は結構好きだし。
しかし、それを踏まえても大半の授業ってヤツはやっぱり退屈だと言うのが、ほとんどの学生の本音だろう。
エスケープは論外としても、高校生ともなれば、教師の目を盗んで、居眠りや内職、早勉、メル打ちなどで時間を潰す人間は少なくないし、俺みたく一応板書だけは書き写しているものの、授業内容の大半は右から左という人間は、さらに多い。
ところが。
「みゅう……」
教師の授業内容に可愛らしい耳(ちゃんと人間のソレだぞ、念のため)を熱心に傾けつつ、懸命にノートを取っている珠希のような存在を間近で見せつけられると、テキトーに授業を聞き流すのは、自分が汚れた人間になったような気がして、どうにも居心地が悪い。
結果的に、俺もそれなりに真面目に授業を受けるハメになってるのは、良かったんだか悪かったんだか……。
「かーーーっ! さすが彼女持ちは言うコトが違うねぇ」
ようやっと午前中の授業が終わり、一緒に昼飯を食うべく、俺達は弁当を持って中庭のカフェテラスへと向かっているトコロだ。
「意味がわからん。それより、哲朗、お前さんこそ授業中に大いびきかいて寝るのはやめれ。英語の高梨先生が泣きそうになってたぞ」
俺達みたくつきあいの長い人間から見れば、コイツは「頭はアレだが気のいい大男」なんだが、190センチ100キロオーバーの全身マッチョな角刈り男をよく知らない奴らが見ると、世紀末覇王の如き威圧感を感じるらしい。
今年から教師になったばかりで、いかにも気が弱そうな高梨女史なんか、注意するどころか声をかけるのさえ、多大な勇気を要する行為なんだろう。
それなのに、「あの……山下くん、起きて……」と言う女史の声なぞ一向に気にも止めずに、コイツはグースカ寝てやがったのだ。教師の面目丸潰れな高梨先生が涙目になったのも無理はない。
「おぅ、ことりちゃんを泣かしちまったのか。そりゃまた悪いことをしたな」
高梨ことり、23歳。身長152センチとやや小柄だが、某アキバ系アイドルのひとりと似たルックスと、推定Dカップの胸、そしていかにも良家のお嬢さん的なか弱い系のオーラで、男子生徒の大半からはアイドル的な人気がある。
え、俺? 俺は別に……。ルックスは、珠希やマサねぇやアイツの方が上だし、ああいったお上品過ぎる女性はイマイチ好みじゃないしな。
「先生のこともあるが、お前さんの成績の方が俺は心配だよ」
言うまでもないと思うが、体育以外のコイツの成績は限りなく低空飛行している。中学までと違って、高校からは成績次第では留年とかもあるんだがなぁ。
「てつろ、授業中にねるの、よくない」
珠希にまでたしなめられて、流石に哲朗もバツが悪くなったようだ。
「いや、俺ぁ、どうも英語の長文読んでると、すぐに眠くなんだよ……お前ら、よく平気だなぁ」
「まぁ、気持ちはわからんでもないが……慣れだ慣れ。さもないと、下手すりゃ試験の最中に寝ちまって白紙のまま、ってコトも考えられるぞ?」
「さすがにそりゃ勘弁だな。とは言っても、こればっかりは、中学3年間で半分習慣になっちまったからなあ」
「んなコトだから、定期試験のたびに俺とか小杉先生に泣きつくことになるんだよ。
て言うか、今年は担任なんだから、小杉先生には頼れねーぞ? 依怙贔屓になっちまうし」
「ゲゲッ!」
どうやら気づいてなかったらしい。
「だから、せめて授業中は起きてノートくらい取れって」
「ぐぬぅ……それが出来りゃあ、そうしてるわい!
にしても、自称頭脳派の廉太郎はともかく、珠希ちゃんはよく辛抱できるな。これまで学校の授業なんて受けたことないんだろ?」
あ、ソレは俺もちょっと気になってた。
俺と哲朗の視線を受けて、珍しく珠希がモジモジしている。
「にゃあ……だって珠希、知らないことだらけだから。れんたろーといっしょに進級するためにも、お勉強、がんばらないと……」
け、健気だ! そして、ちょっぴり頬を赤らめてるのが、めっさかわえぇ〜。
人目があることも忘れて、思わずモフモフしようと手を伸ばしかけた俺だったが……。
「やぁ〜ん、タマちゃん、らぶりーですわ〜!」
目の前で、隣りのクラスに所属する、もうひとりの幼馴染にかっさらわれた。
珠希に背後から抱きついて頬摺りしている黒髪美人の名前は、武ノ内まりや。哲朗と同じく幼稚園時代からの友人かつ同級生で、当然タマ=珠希とも面識はあるし、俺では教えられない「女の子のアレコレ」的な面では世話になっている。
──まぁ、コイツから教わるというのも、ソレはソレで複雑な気もするが。
「ふみぃ……まりや、はなして〜」
「コラコラ、そんな羨ましいコト、おにーさんは許しませんよ!」
「あら、フィアンセの廉太郎ならともかく、あなたの許可は必要ありませんよ、マッチョダルマ」
そう言いながらも、本人も苦しがっているようなのでアッサリ離れる。その辺の絶妙な距離感の見極めは、流石まりやならではだ。
左を腰にやりながら、腰まである艶やかな黒髪をサラリと右手で掻き上げる仕草は、コイツが元演劇部である事をさっ引いても芝居気たっぷりで、そのクセおそろしく様になっている。
あ、今も廊下を歩く男子生徒が数人、見惚れて顔を赤らめている。まだ入学一週間目だから、コイツの正体知らんのだろうなぁ。
「誰がマッチョダルマだ、誰が!」
哲朗にしては珍しく、レスポンスが早いが……。
「もちろん、あなたです」
「てつろ、まっちょだるま?」
「まぁ、知り合いで該当しそうなのはコイツしかいないな」
俺達3人に即答されてあえなく撃沈する。
「まぁ、そんなコトはさて置き……」
「さておくな〜!」と言う声はアッサリ無視して、ちょうどカフェテラス前まで来てたので、空席を探す。
「まりやも一緒に昼飯食うつもりだろ? この時間で4人分まとめて座れるとこがあるかね?」
カフェテラスは、当然ながら昼飯時の人気スポットなので、少し出遅れ気味な今日なんかマズいんだが。
「ご心配なく、私が先に確保しておきましたから……。そこの動く蛋白質塊も、床でいぢけてないで、さっさとお昼を摂らないと、ご自慢の上腕二頭筋と僧帽筋が衰えますよ?」
「なにっ!? ソイツは、マズいな。廉太郎、さっさと飯食おうぜ!」
その如才なさと言い、哲朗の扱いと言い、流石まりやだな。
俺達4人はいずれも家から弁当持参なので、まりやが確保した席に着いたら、即食べることができる。
とは言え、一応飲み物は必要だろうと、俺は給湯器から熱いお茶を4人分確保してくることにした。
トレイに4人分のお茶を載せて戻ると、友だち甲斐のない哲朗がガツガツ食べ始めているのは、まぁいつものコトだ。
「あら、タマちゃん、このコロッケ、もしかしなくてもお手製かしら?」
「うん、カニクリーム。れんたろー、このあいだ作ったら、よろこんでくれたから」
「あらら〜、恋するお嫁さん候補は、けなげですねぇ」
「でも、ママさんの足もとにもおよばない……。まりやの肉まきごぼうもおいしそう」
「うふふ……そりゃあ、乙女歴は私の方がずっと上ですもの。まだまだタマちゃんに負けるワケにはいきませんわ」
美少女ふたりがお弁当を広げて仲睦まじくプチ品評会している様子は、傍目には微笑ましいんだが……。
これで、このふたりが、元男と男の娘ってのは、ある意味詐欺だよなぁ。
武ノ内毬哉。日舞の家元・武ノ内家の跡取りで、そちら方面での評判も高い御令嬢……ではなく御子息。
ただし、幼い頃から、服装・外見・声・立ち居振る舞いから性格に至るまでほぼ完全に女の子で、学校にも女子制服での通学が認められている。
一応、クラスで自己紹介した時は、男であることをカミングアウトしたらしいが、本人の意識も周囲の扱いも、ほぼ完全に女生徒へのソレだ。着替えも女子更衣室でして、誰も咎めないらしいし。
「なんで、俺の周囲には、こういう濃いメンツが集まるのかねぇ」
いいヤツであることは確かなんだが……と、コッソリ溜息をついてしまう俺だった。
「ところで、皆さんは、どのクラブに入るか、もう決めましたか?」
学校生活のささやかな楽しみである昼飯を、ある者はガツガツと、ある者はパクパクと、いずれも健啖な食欲を見せて平らげ、ひと息入れてるところで、俺達3人の顔を見回してまりやが尋ねてきた。
「クラブ……部活かぁ。その辺はあんまり考えてなかったなぁ」
と言うか、色々あってそれどころではなかった、という方が正解だろう。
珠希の方に視線を投げると、わかっているのかいないのか、きょとんとした顔で俺を見つめ返し、すぐに「ホニャッ」とした笑顔を向けてくる。
激しく癒される反応だが、ここでかいぐりモードに突入すると、おそらく昼休みが丸々潰れると思うので、我慢我慢。
「哲朗は、運動部ならよりどりみどりだろ? どうするんだ?」
「うむ。しかし、俺の神聖なる筋肉を特定のクラブのみに捧げてよいものか、悩むところだ……」
脳味噌に行くべき栄養素や経験値の9割方が首から下にフィードバックされたんじゃないかと思う哲朗の運動能力は、身内の贔屓目を除いても、およそ人間離れしているからな。たいていの競技や球技も優秀な成績を叩きだすし。
「空手部や柔道部などには、いきませんの?」
まりやがそう聞いたのは、哲朗の実家が古流武術の宗家だと知ってるからだろうが、哲朗はあっさり首を横に振った。。
「うんにゃ。入学式の翌日に行ってみたんだけどな」
肩をすくめる哲朗の様子からして、おそらくは期待外れだったのだろう。
──こんな人類の規格外を相手にさせられた先輩諸氏に、俺は心底同情するが。
なにせ、中1の時に道で後ろから外車に3メートル程跳ね飛ばされたにも関わらず、アスファルトの上からケロッとした顔で起き上がってきたからなぁ。
本人いわく、「受け身さえとれば、この程度の衝撃、問題ない」って言ってたけど……背後から跳ねられて無傷とか、どんだけ〜。
そのタフさを別にしても、純粋なパワーとスピード自体も桁外れだ。それだけでも脅威なのに、まがりなりも一つの流派の跡取りとして、小さい頃から仕込まれてるし。
武道以外の球技なんかでも、コイツのパワー&スピード&スタミナは遺憾なく発揮される。まぁ、「バカ」だから時々ルールを忘れるのがネックだが、そこは「バカ」だから仕方ない。
「……何やら、ひどく「バカ」にされたような気がするんだが」
珍しく鋭いな、哲朗。
「安心しろ。事実を端的に述べただけで、誹謗中傷は一切してないから」
「む、ならばよし!」
ウムウムと腕組みして頷いてる哲朗と肩をすくめる俺を、まりやはアルカイックな微笑を湛えて見守り、一方珠希は困ったような顔をしている。
やっぱり珠希はやさしいなぁ。
「珠希は、何かしたいこととかないのか?」
「ふみ? うーーん、「やきぅ」とか「さっかー」には、ちょっときょうみはあるけど……」
コイツが言ってるのは、間違いなく観戦じゃなく実地の方だよな?
生憎、ウチの学校には女子野球部も女子サッカー部もないからなぁ。無論、マネージャーにして他の男の着たモン洗濯させるのは論外だ。
「だったら、れんたろーといっしょの部がいい!」
そう言ってくれるのは有難い限りだが……。
「その運動能力を活かさないのは、もったいない気もするな」
元猫・現人(猫又)という経歴のおかげか、珠希もまた運動能力全般がハンパじゃなくいいんだよな。
「あら、でしたら、廉太郎が何か運動部に入ればよろしいのではありませんか?」
よしてくれ。俺は、このグループでは頭脳労働担当って決まってるだろ。まぁ、悪知恵関係では、まりやに勝てる気がしねーけど。
「ヒドい! 偏見ですわ。わたくしは、こんなにも素直で純粋ですのに……」
よよよ、と泣き真似をするまりや。
「確かに、「自分に」素直で、「おもしろい事に」純粋だわな」
「……ストレスを溜めないことが、美容の秘訣ですのよ?」
その分、周囲にしわ寄せがイッてる気もするけどな!
と、いつものようにオチがついたトコロで、まりやが少しだけ声色を改めて、俺達に問いかける。
「──わたくしと廉太郎の見解の相違はさておき、もし皆さんが特に入る部活を決めてらっしゃらないようでしたら、わたくしの設立する予定の同好会に入っていただけません?」
?
「同好会って……お前、演劇部はどうするんだ?」
中学時代のまりやは、看板女優兼脚本家として、それまで無名だったウチの学校の演劇部を、市のコンクールで優勝させた手腕の持ち主だ。
当然、高校でも演劇部に入るとばかり思ってたんだが……。
「それが……現在、恒聖高校には演劇部は存在しませんの。なんでも昨年度末、あまりに幽霊部員が多いうえ、残った部員も真面目に活動してなかったために、廃部になったそうですわ」
明度100%を絵に描いたようなまりやも、流石に少し沈んだ声になっている。
「そりゃまた災難だったな、まりや」
「まりや、ふぁいと!」
俺と珠希が慰めるが、まりやは微笑って、首を振る。
「いえ、確かに残念ではありましたけど、コレもよい機会かと思うのです。
舞台に立つことは好きですけど、わたくし、それ意外にも以前から温めてきました腹案がありますの」
「へ? 同好会って、演劇のじゃねーのか?」
哲朗が口にした疑問は、俺も同感だった。てっきり、無くなった演劇部の代わりを作るとばかり……。
「違いますわ。第一、演劇サークルを立ち上げ、3人が協力してくださるとしても合計4人。これでは普通の劇の上演は難しいでしょう?」
まぁ、そう言われれば、確かに。
劇については素人だからあまり詳しいことはわからんが、上演時に照明と音楽がひとりずつ必要として、残るふたりで俳優をすることになる。
俳優ひとりふたりの舞台も中にはあるんだろうけど、役者の少なさは確実に足枷になるだろうしな。
「わたくしが考えていますのは……端的に言えば「応援部」でしょうか?」
「えーと、応援団つーかチアリーディング部は、すでにあるみたいだが。それとも、学ラン着て太鼓叩くアレの方か?」
確かに、哲朗ならそういう格好がいかにも様になるだろーが…。
「はなのおーえんだん?」
──誰だ、純真無垢な珠希に、あんなオゲレツ漫画読ませた奴は!? いや、ウチの親父以外にありえねーけど。
「? まんがじゃなくて、びでおだったよ?」
映画版かよ!? 漫画以上にニッチだな。まぁ、平成版の方ならB級バイオレンスアクションと言えないこともないが……。
いずれにしても、帰ったら親父に3回転半捻りでバカルン超特急をキメることを決意しつつ、俺はまりやに続きを促す。
「いえ、言い方が悪かったでしょうか。もっとわかりやすく表現するなら……そうですね、さしづめ「お助け部」とでも言うべきクラブですわ」
まりやの説明したサークルの主旨は、要するに「人手が足りなくて困っている部活を臨時でサポートする」というものらしい。
「要は人材派遣会社みたいなモンか?」
「的確なたとえですけど……その言い方は夢がありませんわ」
と、まりやはムクれたものの、「だいたいあってる」というコトなんだろう。
「筋肉男とタマちゃんが所属してくだされば、男女とも運動部へのサポートは完璧でしょう? 芸事関係はわたくしが、それ以外の文化部関係は廉太郎が担当すれば、十分機能すると思うのですけど」
その布陣だと、俺はオマケのいらない子に聞こえるんだが……。
「いえいえ。むしろ、ある意味万能ユニットとして貴方の活躍に期待してますのよ?」
要するに器用貧乏ってコトね、ハイハイ。
結局、俺達3人は、まりやの思惑に乗ってみることにした。
なんだかんだ言って、中学時代は、それぞれ別個の部活──まりやは演劇部、俺は電脳部、哲朗は帰宅部?──に属してたから、一緒に行動する機会は限られてたからな。
それに、このふたり相手なら、珠希の件で俺もヘンに気を使わずに済むし。
「それじゃあ、同好会成立のための手続きは、わたくしお任せください。放課後までに書類を書いて、生徒会に提出しておきますわ」
------------------------------------------
#とりあえずは、ここまでが第1章。ちなみに、珠希(タマ)の外見イメージは「迷い猫オーバーラン」の希だったり。あの子は絶対猫の化身だと思ってたのになぁ。
エロは第何章くらいですか(*´Д`)ハァハァ
ヒロインが可愛いっぽいから期待してるけどさすがにちょっと状況説明が長すぎだと思う
エロシーンまで行けるのか?
238 :
235:2011/05/26(木) 01:39:17.16 ID:hWm9FSNx
>236、237
あ〜申し訳ない。おそらく未遂じゃないHは4章目くらい。まぁ、元々「エロシーンのあるラノベ」のつもりで書き始めたんで・・・。この程度でも長過ぎると言うのでしたら、投下はあきらめます。
>>238 別にいいんじゃないか?
いろんな意見があるのは当然だし
続きまってるぜ
つい先日PSPで発売された「AKIBA'sTRIP」ってゲームに出てくる陰妖子(カゲヤシ)と呼ばれる人に似た種族が、
・日光に弱く ・吸血し ・コウモリを操る
というまさに吸血鬼なんだけど、ココってそういうゲーム由来のSS投下すんのOK?
ヒロイン(世間知らずの正統派ヒロイン)とか、その親友(ゆるふわ系おっとりさん)とかが、そのカゲヤシの穏健派
(人間と共存したい連中)なんで、彼女らとチュッチュするような話書きたいんだけど、流石にエロパロスレはないんで……。
いいんじゃない
一応二次創作と書いておけば
243 :
241:2011/06/06(月) 21:24:52.94 ID:QD3CoYjZ
ごめん、挫折しました。
別の所で同原作の一般作SS書いてて、ソレのアフターストーリー的なエロ外伝をココに書くつもりだったんだけど、
なにせ反応薄すぎて……70000本クラスのゲームは、やはりマイナー過ぎたか。
他の作家さん、カムカム!
ま、そういうこともあるさ
忍法帳の関係で次スレが立てられん。
できる人、頼ム
247 :
245:2011/06/17(金) 11:43:42.27 ID:B1zX/ttN
スレ立て乙です!
さっそく埋め用に1本。ちなみにどこかのマンガで見たような設定なのは「仕様」です。
『ルキア先生の憂鬱』
英雄とも呼ばれた今は亡き大魔法使いロカを父に持つ少年ルカくん。幼い日に見た父のように偉大な魔法使いになろうと、ウェールズの隠れ里にある魔法学校で懸命に学び、スキップしまくりで11歳で魔法学校卒業となったのですが……。
最後の卒業課題として出されたのが、「日本の中学校で1年間先生をすること」。
はたして、彼は無事に卒業課題をクリアーできるのでしょうか?
──というわけで、やって来ました関東某県にある"間寺刈(まじかる)学園"。
ルカはここの女子中等部で教鞭をとることになっていたのですが、赴任早々……というか赴任してくる日の朝にポカをして、魔法を使っているところを教え子(予定)のふたりの女生徒に見られてしまいます。
どんより落ち込んだルカを迎えた学園長は、歓迎の意を述べつつも、先刻の魔法バレについて咎めます。
目撃した女生徒は学園長の孫とそのルームメイトだったのが不幸中の幸い。ふたりに口止めして魔法のことが広まることは阻止できたのですが……。
「しかし、何もお咎めなし、というわけにはいかんのぅ」
「はい……(うぅ、魔法バレって、確か小動物にされて半年間魔法界のために無料奉仕、だよね?)」
「時に、ルカくん。キミはイタチとキツネとウサギ、どれが好きかね?」
「(来たっ!)あのぅ、それじゃあ、できればキツネで……」
「ほほぅ、なかなかマニアックじゃな。ホレッ!」
──ポンッ
学園長の魔法が杖から放たれた瞬間、お子様には似合わぬスーツに身を包んだルカの姿は煙に包まれ……煙が晴れたときにはそこには狐耳&狐尻尾のついたミニスカ和服姿のルカ少年、もとい少女が立っていました。
「ホッホッホッ、可愛いキツネっ娘の一丁できあがりじゃ。我ながら上手くいったわい」
「あ、あの〜、学園長、これは?」
「うむ。知っての通り、魔法バレは本来小動物化の末、1年の無料奉仕じゃ。しかし、今回の件はそこまでするほどのことではないでな。戒めのため少しだけケモノの要素をお主に付加したわけじゃ」
「それは何となくわかりますけど……でも、なんで女の子なんですか?」
「バッカモン!! ケモノ耳と言えば美少女か美女と相場が決まってるじゃろーが!」
なんだか訳がわからないものの、「萌」について力説する学園長の迫力に負けてうなずくルカくん。
「は、はぁ、そういうものですか」
「なあに、心配するな。この学園を去る時には、キチンと元の姿に戻してやるわい」
「で、でも、こんな姿でみんなの前に出るのは……」
「ああ、それも心配ない。この木の葉を頭に載せて、バック転してみなさい」
「ええっ、そんなの無理ですよ!」
12歳の少年としては、結構運動能力は高めのルカですが、いきなりバク宙ができるほどではありません。
「いいから、ホレ、やってみそ」
妙にカル〜い、学園長の言葉に従い、渋々渡された葉っぱを頭上に載せて、トンボをきるルカ。バク転、難なくできちゃいました!
──ドロン!
「うわっ、なんですか、これ!?」
煙の中から現れたのは……やっぱりルカくんです。
ただし、三角のキツネ耳とフサフサしたしっぽはなくなっており、着物ではなく半袖ブラウスにエンジ色のブレザーと同色のミニスカートという格好──ありていに言うと、女子中等部の制服姿でした。
「おお、よう似合っておるぞ」
「え? ええっ!?」
「ははは、日本ではキツネは人間に"化ける"という伝承があってな。お主もキツネ娘のはしくれになった以上、そのように人間に擬態する能力が使えるわけじゃ」
「あ、それは聞いたことがあります。けど、なんで制服なんでしょーか?」
「ああ、それは周囲の環境からしてもっとも違和感のない姿に擬態したのじゃゅろう」
なるほど、その理屈には一応納得がいきます。
「ふむ、ちょうどよいか。ルカくん……いや、その姿で男の名前は変じゃな。よし、これから当分はルキアと名乗りなさい」
「は、はぁ……なんか、死神だったりクイズの学校にいたりしそうですが」
いろいろあり過ぎて頭がテンパり状態のルカくん改めルキアちゃんは、力なく答えます。
「後者はキミも似たようなもんじゃろう? ともかく、ルキアちゃん、キミは当面3月まで、女子中等部の英語の教育実習生と働くと同時に、授業をする時以外は2−Aに転校生として編入してもらう」
「ええっ、そんなの無茶ですよ! 第一、ボク、まだ11歳になったばかりですし」
「(その12歳で教壇に立とうとしとったぢゃろーが)その点は心配ない。自分の体をよく見てみなさい。何か違和感を感じないかね?」
「違和感って言われても……女の子になってるし、スカートはいてるから違和感ありまくりですよォ〜。あれ、でも、なんだかちょっと背が高くなったような?」
「うむ。それにホレ」
──ツンツン……ポニョン!
「キャッ、何するんですか、学園長先生!」
思わずつつかれた胸を押さえて後ずさるルキアちゃん。
「(ほぅ、自然と女の子らしい仕草が身についとるようじゃな)見たところ身長は155センチ前後、バストの方もBの70といった感じじゃろう。それなら中学2年生の女の子として問題ないと思うがの」
「ふえっ!? 5センチも身長伸びちゃったんだー」
「いや、悩むべきところはそこじゃないだろう!」とツッコミたいところをあえて自重する学園長。
「でも生徒と先生の兼任なんてできるんですか?」
「大丈夫じゃ。我が学園には"準教師"という制度があっての。特定の分野に特に秀でている生徒は、その教科に関してのみ"講師"として教師に準じる立場で教壇に立つことできるのじゃ。講師として教えている科目については、自動的に単位修得できることになっておる」
似たようなことを大学過程で行っている学校はあるが、中学生でそれは普通ないだろう。
「無論、君が受け持つ英語以外の教科では、他の一般生徒同様に授業を受けてもらうので、そのつもりでな」
「そ、そんなのでいーんですか?」
「ま、とりあえず3月までの話じゃ。それまでで無事に先生をしていけるとわかれば、4月からは正規の教員として取り立てよう。それに、日本にまだ慣れておらぬキミにとっても、ちょうどよい研修期間じゃと思うがの」
「……と、まぁ、おおよそそういった事情があっての。ほのか、アスミちゃん、ルキアちゃんの学園生活を助けてやってもらえんかね?」
孫とそのルームメイトを呼び出した学園長は、ルカ──ルキア・オータムリーフのフォローを、ふたりに依頼します。
ただし、魔法の事は極力簡単に説明し、またルカくんが魔法で女の子の姿になったのではなく、元々女の子だったのが魔法で男の子の格好をしていたかのようにあえて誤解させるような言い回しを使用して。
「いいですよ。困ったときはお互い様ですし」
「ウチも構へんで〜」
そのため、ふたりは「ちょっと訳あり(実は魔女っ子?)な転校生の世話」を頼まれたと思い込み、快く引き受けます。
「じゃあ、改めて自己紹介するわね。あたしは、神室坂明日美。アスミって呼んでね」
「ウチは、穂村焔乃香。ほのかでエエよ」
「る、ル…キア・オータムリーフです。よろしくお願いしますぅ」
ルキアちゃんは、ふたりのクラスメイトがいい人そうなのでホッとすると同時に、なんだか騙しているようで(実際にそう誘導したのは学園長ですが)、ちょっと申し訳ない気分になっているようです。
<オマケ>
「そうそう、ルキアちゃん。魔法を使うときは変化の術が解けて耳と尻尾が出るので、注意せんといかんぞ。
それと、キミの先生としてまた魔法使い見習としての行動は、逐次監視させてもらうからの。もし、そこで不適切もしくは不注意な行動をとるようなら、キミの「キツネっ娘ポイント」が溜まる仕組みになっておる。現在はとりあえず50じゃが、これが100になると……」
「ひゃ、100になると?」
「本体が完全にキツネ(妖狐)になる。まぁ、その状態でも人間に化けることはできるから当面問題はないが。逆に0になったら、完全な人間の姿に戻してあげるので、頑張るようにな」
「は、はいっ、がんばります!」
──バタン!
ふぅ……行ったか。ところで、気づいておらんのじゃろうのぅ。
首尾よく春に正規教員になれればよいが、もし準教師のままじゃと、「1年間先生をした」とみなすには、今から大体高等部を卒業するくらいまでこの学園にいる必要がある計算じゃということに。
まあ、ワシとしては半人半妖獣耳の可愛い魔女っ娘が、それだけ長く学園に留まってくれるのは嬉しい限りじゃが(ニヤソ)。
ネギツネとかあったなそういえば…