うむ。のちの展開にきたいです。
GJ
オブリビオンwww
マニアックすぎてわからないネタがあるが、基本GJだ
笑わせてもらった
GJ
遅くに失礼いたします。
ラ・フェ・アンサングランテ第十六話、投下いたします。
前回、リディさんが覚醒したため、今回から以前とは比べ物にならないほどの暴力描写や殺人描写が入ります。
そういった類のものが苦手な方は、お手数ですが読むのを避けて下さい。
人気の少ない裏通りの一角に、その古びた酒場はあった。
街外れの酒場の中でも一際古く、また治安の悪いことでも有名な場所だ。
酒場の中では男達が、めいめいに酒を飲んでいる。
どの者の顔を見ても、過去に何かしらの悪事をしでかしてきたであろう、強面の連中しかその場にはいない。
女もいるにはいるが、派手な化粧をして男に色目を使っているような者ばかりだ。
中には娼婦と思しき者も混ざっており、露骨に男の股間にあるものを撫でたり、その腕に抱きついて甘い声を出していたりした。
汗と油と酒の匂い。
それらが混ざり合い、酒場の中には独特のきつい臭気が溢れている。
慣れた者でなければ、こんな場所ではまともに食事も摂れないだろう。
ならず者たちの天国。
この酒場を一言で表すのならば、まさにそれが相応しい。
だが、そんな酒場の中において、今日は明らかに場違いな人間が店の中を歩いていた。
豪快な笑い声と共に肉を食いちぎり、酒を飲み干す男達。
そんな彼らを避けるようにして、その女性、リディ・ラングレーは店の奥へと足を進めた。
テーブルの横を通り過ぎる度に、彼女に好奇の視線が向けられる。
こんな場所に、堅気の女が何の用だ。
そう言わんばかりの眼差しで、男も女もリディのことを訝しげに眺めた。
もっとも、それさえも何ら意に介さず、リディは無言のまま店の一番奥にあるテーブルについた。
そこには既に先客がいたが、リディは構わず相席の形をとった。
「あん……?
なんだ、お前は……?」
先ほどまで、一人で酒を飲んでいたのだろう。
席に座っていた男が顔を上げ、実に不可解だと言わんばかりにリディを見る。
その顔にはあちこちに傷があり、表の世界の住人でないことは一目瞭然だった。
「失礼するわ。
あなた……今は一人なのかしら?」
「なんだい、姉ちゃん。
ここは、あんたみたいな堅気の女が来るところじゃねえぞ。
さっさと帰らねえと、今にその辺の野郎に犯されちまいかねないぜ」
「あら、心配してくれるの?
見た目と違って、意外と優しいのね」
男は面倒臭そうな顔をしてリディを追い払おうとしていたが、当のリディはまるで聞いていないようだった。
そればかりか、どこか挑発的な態度を織り交ぜながら、時に誘うような目で男を見る。
「ところで……あなた、仕事を引き受けてみる気はない?」
「仕事だぁ……?
どうせ、下らねえ仕事だろ。
言っておくが……俺は金にならん仕事はしない主義でね。
何をして欲しいのかは知らんが……二束三文で俺を雇うつもりなら、他を当たりな」
「二束三文ねぇ……。
なら、これを見てもそう思う?」
店の中に運び込んだ鞄から、リディは思わせぶりに一つの袋を取り出した。
それをテーブルの上に置くと、なにやら重たい音がしてグラスが揺れる。
袋の紐を解いて中を見せると、そこにはぎっしりと硬貨が詰まっていた。
「これでも、二束三文のはした金って言うつもり?」
男の前で袋の中身を見せつけながら、リディがにやりと笑う。
さすがにこれには驚いたのか、男も辺りの様子を気にしつつ袋の中を覗きこんだ。
「ほぅ……こいつは凄えな……」
「でしょ?
今までコツコツと貯めて来た、私のヘソクリよ。
とりあえず、ここにあるので半分って感じね。
後の半分は、仕事が上手くいったらってことでいいかしら?」
「ふん……やるじゃねえか、姉ちゃん。
ただの堅気の娘だと思っていたが……意外と交渉ってやつに長けているみたいだな」
「悪いけど、誉めても報酬は増えないわよ。
それよりも……私の仕事、受ける気ある?」
「まあ、内容によるな。
いくら金を積まれても、俺の手に負えん仕事なら受けるわけにはいかねえ」
そう言いながらも、男の目は完全に袋の中の硬貨に釘づけになっている。
袋から一枚の硬貨を取り出すと、男はそれを片手で弄びながらリディを見た。
「どうやら、交渉成立ってことでいいみたいね。
だったら、私のやって欲しい仕事の内容を話すわ。
お金をあげるのは、その後よ」
リディの手が、男の手から素早く硬貨を奪い取る。
そして、呆気にとられている男を前に、彼女は淡々とした口調で仕事の内容を話し始めた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
リディが酒場で仕事を頼んだ男と再び会ったのは、それから数日の間を挟んでのことだった。
所詮はならず者。
約束など守らず、金を持ってとんずらする可能性もある。
そう思っていたリディだったが、どうやら相手もそこまで非道な男ではなかったようだ。
もっとも、単にリディの出した前金に目が眩み、更なる欲に突き動かされてやってきただけかもしれないが。
今、リディと男は暗く湿った地下の一室にいた。
そこは、リディの経営する宿場の地下。
普段は酒樽などを置いている、一種の物置である。
「よう、姉ちゃん。
約束通り、あんたに頼まれたものを持って来たぜ。
こっちが薬で……それから、こっちが例のものだ」
「ありがとう。
持ってきた物は、その辺に置いておいて。
あっ……でも、袋の中身がここで逃げ出さないようにしておいてよ」
「そいつは心配要らねえよ。
こいつらの袋の縄は、きっちりと閉めてあるんだからな」
そう言って、男は自分の手にある袋に目をやった。
中には何か生き物が入っているらしく、常に忙しなくもぞもぞと動いている。
「それじゃあ、残りの報酬を渡すわね。
でも……実は、その他にも貰って欲しいものがあるんだけど」
「貰って欲しいものだと?
言っておくが、下らねえもんだったらお断りだぜ」
「あら、失礼ね。
下らないかどうかは……それは、あなたの目で確かめてみればいいことよ」
リディの顔に、一瞬だけ妖艶な笑みが浮かぶ。
それは思わず魅了されてしまいそうな程に美しいものだったが、同時に病的な禍々しさも含んだものだった。
「あなたに貰って欲しいのは……この、私よ」
自分の胸に手を添えて、リディが男にゆっくりと近づく。
初めは彼女の言葉の意味がわからなかった男も、すぐにそれに気づいて笑みを浮かべた。
「ほう……そういうことか。
だが、どうしていきなり、そんなことを言い出した?
まさか、お前……好き者なのか?」
「いいえ、違うわ。
でも……あなたの仕事、私の思っていたよりも早かったから。
そんな人に追加で報酬をあげたいって思うの、普通じゃないかしら?」
「なるほど、それがあんたの身体ってわけか。
まあ……俺もそういうのは嫌いじゃないが……どうしてまた、こんな場所を選んだんだ?」
「宿の部屋だと、他のお客さんに聞かれるかもしれないでしょ?
でも、この地下室なら、どんなことをしても誰かに聞かれる心配はないわ。
それに……こういう雰囲気の中でするのも、悪くないと思うけど?」
「へっ、やっぱり好き者じゃねえか。
だが、俺もそういうのは嫌いじゃねえぜ。
あんたが抱いて欲しいって言うなら、俺もとことんお付き合いさせてもらうぞ」
男の顔が、欲望を丸出しにして醜く歪んだ。
今にもこの場で服を脱ぎ出しそうな勢いだったが、済んでのところでリディがそれを制した。
「待って……。
さすがに、いきなり脱ぐのは無粋ってものじゃない?
夜は長いんだし、ゆっくり楽しみましょうよ」
「そうかい?
だったら、あんたが俺にご奉仕してくれるってことで構わないか?」
「ええ、それでいいわ。
でも……自分が脱ぐところを見られるのは恥ずかしいから……ちょっと、後ろを向いていてくれるかしら?」
「おいおい、なんだそりゃ?
だが……まあ、俺としちゃあ、あんたを抱ければそれでいいからな。
それに、お楽しみはじっくり味わった方が、昂奮するってもんだ」
にやけた笑いを浮かべながら、男はそのままゆっくりと後ろを向いた。
彼の後ろでは、何やら服が擦れるような音がする。
きっと、リディが彼女の衣服を脱ぎ棄てているのだろう。
布が床に落ちるような音がして、男はリディの準備が十分に整ったことを悟った。
「おい、そろそろいいか?
なんだか、あんたの脱いでいる姿を想像しただけで、こっちも我慢できなくなってきたぜ」
「そう、焦らないで……。
えっと……もう、大丈夫よ。
こっちを向いて、私を見て……」
「ふふふ……。
それじゃあ、いよいよいただくとするか。
しっかし……まさか、こんな場所であんたみたいな上物が抱けるなんて、俺も思っていなかったがな……」
もう、欲望堪えることなどできはしない。
そんな表情を浮かべつつ、男はゆっくりとリディの方へ向き直った。
「がっ……!?」
次の瞬間、男の頭に何やら固い物が振り下ろされた。
それは一撃で彼の頭を割り、額からおびただしいまでの鮮血がほとばしる。
「あら、ごめんなさい……。
一発で楽にしてあげるつもりだったのに……手が滑っちゃったわ」
目の前で頭を押さえて呻く男に、リディが冷ややかな眼差しを送りながら言い放った。
その瞳には光はなく、口元には氷のような微笑が浮かんでいる。
一糸纏わぬ姿の彼女の手には、薪割りの際に使う頑丈な鉈が握られていた。
「あ……あぁ……」
血だらけの頭を押さえ、男が縋るようにしてリディに手を伸ばす。
だが、そんな男の手を一蹴すると、リディは再び手にした鉈を振り下ろした。
「がはっ……!!」
鉈の強烈な一撃が、今度は男の首筋に食い込んだ。
頸動脈を叩き斬られ、首元から赤い液体が凄まじい勢いで噴出する。
その返り血を全身に浴びながら、リディは実に冷徹な顔をして男が絶命するのを眺めていた。
「ふん……馬鹿な男ね。
あんたみたいな薄汚い野良犬に、大切な私の初めてをあげるわけないでしょう……。
それに……あんたが私の頼みを聞いて仕事をしたことが他の人に知られたら、私の計画も台無しになっちゃうからね」
既に物言わぬ肉の塊となってしまった男の頭を、リディは軽蔑するような目で見ながら踏みつけた。
用が済んだ者は消えればよい。
ならず者にかける情けなどない。
そんなことを思いながら、リディは再び手にした鉈に力を込める。
ガッ、ガッ、という鈍い音がして、男の身体に鋼の刃が食い込んで行く。
幾度となくそれを叩きつけて行くと、やがて肉の千切れるような音がして、男の右腕がゴロリと身体から離れた。
「はぁ……はぁ……。
これ、結構大変ね……。
でも……このままだったら、隠そうにも隠せないわ……」
切断された男の腕を見ながら、リディは肩で息をしながら呟いた。
全身は男の血で真っ赤に染まっていたが、そんなことは気にする様子もない。
床に置いた鉈を拾い、今度は男の右脚にそれを振り下ろすリディ。
次いで、左脚、左腕と、その刃を乱暴に叩きつけて行く。
最後に頭を切り落としたところで、ようやくリディは鉈を放り出して床に座り込んだ。
「ふぅ……。
とりあえず、これでいいかな?
後はこれを空いている樽に詰めれば、とりあえず問題ないわね」
両腕と両脚、それに首と胴体に分けられた男の身体を見て、リディは何ら悪びれた様子のない口調で言い放った。
そして、床に転がった男の部品をかき集めると、それを空いている酒樽の中に器用に詰めて行く。
最後に別の樽の中に入っていた酒を注ぎ込み、そのまま蓋をして口を封印した。
こうして酒に漬けて口を封じてしまえば、死体の臭いもある程度はごまかせる。
いずれは捨てに行かねばならなくなるのだろうが、今はまだ、そんなことに時間を使っている場合ではない。
汲み置きの水を床に巻いて、リディは辺りに飛び散った鮮血を丁寧に掃除した。
最後に自分の身体についた血も洗い流し、あらかじめ持ち込んでいた布で身体を拭く。
幸い、洋服に返り血がつくことはなかったようで、身体を拭き終わったリディは素早くそれを身にまとった。
「うふふ……。
待っててね、ジャン……。
今、私があなたのために、あなたを癒す下ごしらえをしてあげるわ……」
先ほど、男が部屋に持ってきた二つのもの。
その内の一つ、薄汚い革袋を手にすると、リディはそれを持って地下室を出た。
袋の中では何かがゴソゴソと動きまわっていたが、リディはまったく気にかけない。
もっとも、彼女自身、その袋の中に入っているものを知っているのだから当然だ。
階段を上がり、裏口を抜け、リディは夜の街に繰り出した。
そのまま闇に紛れるようにして、人のいない裏路地を駆け抜ける。
目指すは自分の生まれた場所、この街の南部に広がる貧民街だった。
ジャンやリディの生まれた街は、南に行くほど貧しくなる。
特に、南部の貧困は深刻で、仕事を失った職人や土地を失った農民たちが集まる場所となっていた。
貧民街が近づくにつれ、リディの中で忌まわしき幼少の記憶が蘇る。
今でこそ一人前に宿場の経営などしているが、もともとリディも、この貧民街の生まれだ。
(嫌な空気……。
昔も今も、この場所の不潔な風だけは変わらないわね……)
貧民街の生まれであることで、幼い頃より周囲から差別されて育ってきた自分。
そんな自分を庇ってくれたのは、他でもないジャンだ。
だが、そのジャンも、今では完全に別の女に骨抜きにされてしまっている。
このまま放っておけば、彼は永遠にリディの手の届かない場所へと去ってしまうことだろう。
寝静まった貧民街の路地裏を、リディはそっと足音を忍ばせて歩いて行った。
時折、浮浪者のような人間が寝ているのに出くわしたが、彼らはリディのことなどまるで気にしていなかった。
他人のことを気にかけている余裕など、恐らく彼らにはないのだろう。
程なくして、貧民街の中央にやってきたリディは、そこで手にした袋の口を徐に開いた。
すると、今まで中に閉じ込められていた者たちが、いっせいに外の空気を感じ取って飛び出してくる。
「さあ、行きなさい……。
こんな薄汚れた街……あなた達の力で、さっさと消してしまいなさい……」
きぃきぃという鳴き声を上げながら、袋の中にいたもの達が街の方々に散って行く。
その姿を眺めながら、リディは実に満足そうな顔をして笑っていた。
貧民街など、自分にとっては辛い思いでしかない場所だ。
この地域で暮らしていた時の思い出など、酔った父に暴力を振るわれた程度の記憶しかない。
辛く、悲しい記憶しかない場所になど、二度と戻らないと思っていた。
だが、そんな場所でも利用価値があるならば、今のリディは感情を殺してまで舞い戻る決意ができていた。
その結果、例え自分が間接的に多くの者を殺めることになったとしても、彼女の中に躊躇いはない。
自分がジャンを手に入れるためには、手段など選ぶつもりは毛頭なかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
冬の街が悲鳴に包まれたのは、それから程なくしてのことだった。
暮が近づき、新年を祝うような空気に満ち溢れていてもよさそうなものだが、今年に限ってそれはない。
街にあるのは重たく暗いのしかかるような空気と、悲しみに暮れた人々の顔だけだ。
「なあ、聞いたか……。
南のスラムの方で、また例の病気で死人が出たらしいぜ」
「おお、嫌だねぇ。
こちとら清潔にしているからいいものの……それでも、いつこっち側に飛び火するのか、気が気じゃないよ」
「まったくだ。
これがパリの街中なんかだったら、まず間違いなく全員お陀仏だからな。
日頃から暮らしている場所を清潔に保つってことの大切さを、今になって知った気がするよ」
外套姿の男達が、街の通りを歩きながら話していた。
彼らの口にしている病とは、過去にも幾度となく多くの命を奪った恐るべき疫病のことだった。
全身に黒い痣ができ、早い者では感染よりおよそ一週間で死に至る。
歴史を揺るがすような大流行が確認されたのは既に400年もほども前のことだったが、それでも病気そのものがなくなったわけではない。
現に、山を越えた隣の街では、既に百人以上の死者が出ているとのことだった。
山の向こう側の隣街で流行っている疫病が、なぜ今になってこちらの街にやってきたのか。
それは、誰にもわからないことだった。
山向こうの街は、ここより山間部にある田舎の街。
衛生状態は都市部と同じく決してよいとはいえないが、それだけに、好んで街に向かう者もいない。
山に阻まれたその街からも、人が訪れることはほとんどなかった。
もとより閉鎖された環境で流行っていた疫病。
それが、なぜ山という障壁を越えて、この街に突然やって来たのか。
そのことを説明できる者は、今の街にはいなかった。
向こう側の街から感染者が流れて来たのか、それとも風に乗って病が街まで運ばれて来たのか。
そのどちらにせよ、恐ろしい疫病が街を蝕んでいるという事実には変わりがない。
既に病はスラムを抜け、街のあちこちにまで広まっていると聞く。
聖夜が近いにも関わらず、教会から聞こえてくるのは讃美歌よりも鎮魂歌の方が多いというのだから悲惨なものだ。
外套の首元を手で抑えながら、ジャンは重苦しい表情で街の大通りを歩いていた。
この街を抜ける冬の風は冷たいが、街を歩いていて感じる寒さは、決して風のせいだけではないだろう。
自分がルネと暮らすようになってから程なくして、街では疫病が流行り出した。
それは医師であるジャンにとっても他人事ではなく、昼間から夕方にかけて街に往診に出かける日々が続いていた。
いずれは伯爵家の婿養子として迎えられる立場とはいえ、医者として病に苦しんでいる人間を放っておくわけにはいかない。
それに、伯爵もルネも、ジャンが街の人を助けたいということに関しては快く賛同してくれた。
既に先代ほどの力を失ったとはいえ、腐っても彼らは貴族である。
中には過去の栄光にしがみついて己の至福を肥やす俗人同然の人間もいるが、本来、貴族とは『高貴な行い』をする者に与えられる称号だ。
心に剣を持ち、弱き者の盾となる。
戦が始まれば自ら剣を持って先頭に立ち、領民が飢饉に苦しんでいれば、彼らを救うために自らの私財を投げ打ってでも援助を惜しまない。
このような貴族など見かけなくなって久しいのだが、本来の貴族とは、こういった行いができる者のことを指す。
領民から税をむしり取るだけむしり取っている今の貴族達など、所詮は名ばかりの貴族に過ぎない。
テオドール伯はこの土地を治めているわけではなかったが、それでも彼の中には、未だ古き良き時代の貴族の考え方が根付いていた。
街の者が疫病で苦しんでいるのであれば、それを救うために動くのが貴族の務めである。
ジャンが医師として街の人を助けるのに賛同したのも、当然と言えば当然であろう。
だが、そんな彼らの気持ちとは反対に、街を歩くジャンの心は暗く沈んでいた。
疫病など、治す方法は存在しない。
全身に黒い痣が現れたところで、その患者は既に末期である。
ジャンにできることと言えば、そういった患者を部屋の一室に隔離して、これ以上の犠牲者を出さないようにさせること。
それ以外には、気休めの薬を渡して患者を慰めることだけだった。
医師として、目の前の患者を見殺しにすることしかできない現実。
そのことは、ジャンの中に凄まじい焦燥感をもたらした。
それは、ルネを助けられないで悩んでいたとき以上に大きなものである。
自分の目の前で人が死んでゆくのを、指をくわえて眺めているしかない。
あまりにも無力な自分自身に、ジャンは早くも限界を感じつつあった。
往診をしたところで、患者を救えるわけでもない。
自分には、病が広がるのを防ぐための手立てもない。
唯一、屋敷で待っているルネの存在だけが、今のジャンにとっての癒しだった。
彼女と毎晩の如く愛し合うことでしか、卑小な自分を慰めることができなかった。
(ルネ……。
僕は本当に、君に相応しい男なのか……)
答えなどわかりきっているはずなのに、ついそんな言葉が頭をよぎってしまう。
ルネが惚れたのはジャンという人間そのものであり、そこに付随している能力ではない。
自分がルネに抱いている感情も、また同じだ。
考えていても始まらない。
自分は医者として、できる限りのことをするだけだ。
迷いを振り切るようにして頭を上げると、ジャンは気を取り直して歩を進めた。
いつしか辺りには雪が降り出し、街をゆっくりと、しかし確実に白く染め上げてゆく。
肩にかかった雪を払いながら、ジャンはクロードの用意した馬車の待つ広場へと急いだ。
この角を曲がれば、もうすぐ広場だ。
待ち合わせの時間には早かったが、ジャンはともすれば足早になって道を歩いた。
この雪の中、いつまでも冷たい風に当たっていたいとは思わなかった。
「ねぇ……」
ジャンが曲がり角を曲がろうとしたその時、後ろから唐突に彼を呼ぶ声がした。
名前を呼ばれたわけではないので、一瞬、自分が呼ばれたことに気づかなかった。
が、それでもジャンは足を止め、声のする方へとゆっくり振り返る。
「あっ……」
自分の目の前にいる相手の姿を見た途端、ジャンは言葉を失った。
肩にかかる、丁寧に結ばれた赤い髪。
こちらを見据える二つの瞳は、薄暗く淀んだ色を湛えている。
目の下には未だうっすらと隈が残り、あまり寝ていないのだということが直ぐにわかった。
心なしか、顔も少しだけやつれているような気がする。
単に疲れていると評するには、あまりにも雰囲気が変わり過ぎた幼馴染がそこにいた。
「リディ……」
「ジャン……。
久しぶりだね……」
どこか力のない、乾いた声だった。
以前の彼女が持っていた、明るくはつらつとした様子はまるでない。
「ジャンは……今日は、何しにこの街へ来たの……?」
「な、何しにって……。
僕は医者だからね。
街が疫病で大変なことになっているって聞いて、往診に来たんだよ。
僕にできることなんて限られているけれど……それでも、何もしないよりはマシだろうから……」
「そうなんだ……。
偉いね、ジャンは……」
虚ろな瞳でジャンを見ながら、リディはゆっくりと近づいてきた。
普通に歩いているだけなのに足音さえ立てず、その身体はゆらゆらと風に揺れている。
まるで、目の前にいるのは生きた人間ではなく、幽霊の類ではないのかと思ってしまうほどだ。
「ねえ、ジャン……」
「な、なんだい……?」
「ジャン、往診で疲れているんでしょ……。
もしよかったら……私のところで、ちょっと休んでいかない……?」
「えっ……で、でも……」
「休んでいくよね?
休まない理由なんてないよね?
ジャンだって……疲れたまま往診なんてしていたら、今に病気をうつされちゃうよ……」
既にリディは、互いの顔が触れるほどの距離にまで近づいてきていた。
彼女の手がジャンの肩をしっかりとつかみ、灰色に濁った瞳がジャンに向けられる。
はぁっ、という音と共に白い息をかけられると、それに混ざって何やら甘い香りがした。
ルネのつけていたものとは種類が違うが、どうやらリディが使っている香水のようだった。
「ねえ……休んで行くよね、ジャン……。
それとも……私の宿で休むのは、そんなに嫌なのかな……?」
「い、いや……。
別に、そういうわけじゃ……」
「だったら、休むってことで決定ね。
ジャンにも帰りの時間があると思うけど……それまでは、お茶でも飲んでゆっくりしましょう……」
虚ろな瞳を携えて、リディはジャンに病的な笑みを投げかける。
そんなリディの言葉に対し、ジャンは無言のまま頷いた。
いや、頷くしかなかった。
ここで断れば、何をされるかわからない。
そんな恐怖にも似た感情が、ジャンの心の中に湧いてきた。
それだけリディの全身から放っている空気は異様であり、相手に反論をさせないだけの強烈な圧迫感を持っていた。
リディにその手を引かれるまま、ジャンは雪の降る街中を歩きだす。
こんな形でリディの宿場に戻るとは思っていなかったが、彼女の手を振り払って逃げ帰ることさえも、今のジャンにはできそうになかった。
今回はここまでです。
コミカルな作品も多い中、自分の作品だけ容赦ない展開が続いていますが……。
今後も悲惨な暴力描写や悲劇的な展開が続くと思われますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
ここまで読んでいただけた方、ありがとうございました。
投下を終了します。
GJ
リディ本気出し過ぎ…
533 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 01:09:32 ID:6eTMcc7L
gj
GJ!リディの逆レイプくるか…!?
gj 楽しみだ
GJ!!悲劇的な展開というがネトラレだけは勘弁な!!
537 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 04:01:57 ID:pAdcdRCJ
GJ
>>536まだ‥そのネタを言ってるのか、
ひつこいぞGJ職人に嫉妬する
職人崩れの劣等人種消え失せろ!
お疲れ様です
ついに佳境……
みんなが笑顔で大円団にならなくても、最高のフィナーレが見れそうで楽しみですな
黒い痣ってもしかして黒死病なのかな?
あえて言おう、GJであると
GJ
>>538 ネズミが媒介してる辺りペストだろうね
>>540 情報サンクスです
ペストやばすぎるよペスト
>>533,537
今度から下げて、お願いだから…
次の作品投下まだかな?
結構間があいちゃいましたけど、三話投下します
今度は出かけている魔王視点です
「結婚、ですか?」
「はい」
「僕が?」
「はい」
「誰と?」
「我が国の姫、私の娘とです」
「あの、僕子持ちなんですけど」
「存じております」
「会ったこともない人と、突然結婚というのはどうかと」
「我ら人間と、あなた方魔族の共存のためです」
「でも、そのお姫様も嫌がるんじゃないかな」
「それが、魔王様の評判を聞く限り、とても乗り気なのです」
「は〜……こう言うのもなんですけど、物好きな方もいるんですね」
出張先の砦で待っていたのは、この砦の防衛部隊長のマグマシャーク
それと、とある人間の王国を統治しているという王、ライフレット・シャルルノージュ・レイルトロン・セリク(通称セリク王)だった
マグマシャークは彼のの知り合いらしく、部下の指導をエレキインセクトに丁重に頼むと、僕は背を押されて個室に連れ込まれてしまった
元々人間の中にも魔族と懇意にしている者がいるって話は聞いてたけど、まさかいきなりこんな話になるとはね
思ってもみなかったよ、ほんと
「これ、政略結婚ってことですよね」
「はい。しかし、これは必要なことなのです」
「と言うと?」
「恐れながら魔王様、と言うよりも先ほどお会いしたエレキインセクト様は、あの大国を解体される原因をお作りになりました」
「……ええ」
部下のエレキインセクトにまで様付けするような丁寧な口調ながら、そこにほんの僅かこめられた苦味を感じる
「そのせいで、我々の主義主張は真っ二つに別れてしまったのです
我らのまとめ役であった王を殺した魔族に徹底抗戦を主張する者と
温厚で戦いを好まないという噂の魔王様に対し、我々のように共存を申し出る者です」
「待ってください。まとめ役、とはどういうことでしょうか? 貴方も王なのでは?」
そう言うと、彼は苦虫を噛み潰したような表情で、吐き捨てるように言った
「……私の国を含め、奴の領地のほとんどは軍事力で奪い取った植民地なのです
私の民も重税を課せられ、飢えで死ぬものまで現われました
ですからあの暴君が魔物との戦いで殺されたと聞いたとき、我々は開放の喜びからカーニバルを開いたほどです
しかし隷属国ではなく、もともとあの家に仕えていた軍人どもは今も魔物への復讐心に燃えているのです」
「なるほど」
「その勢いを塞き止めたいと我々は常々思っているのですが、我々は人間であり、表立って魔族の側に立ち諌めることは難しいのです
下手をすれば、心情的には味方である他国からも村八分にあってしまう可能性も無いとは言い切れないのです」
「ふーむ」
ヘタに隠し立てをしないで語るところは好感が持てる
もっとも、魔族と初めに手を組んだ国としての利権を狙ってなどいない、というほど聖人君子にも見えないけどさ
「けれど、どうして今なんですか? あの戦いからもう八年近く経つんですよ」
「おっしゃるとうりです。しかしその理由に関してはまたもエレキインセクト様が絡んでくるのです
魔王様、ランサザードという家をご存知ですか?」
「ランサザード? ええ〜っと……聞いたことがあるような気はするのですけれど……」
「爵位はないものの莫大な資金と広大な領地を抱えており、現在親魔派の筆頭になっている家です
家名を継ぐ唯一の生き残りであるご令嬢はお嫁に出て行き、今現在は前党首の秘書が継いでおります
そしてそのご令嬢は、エレキインセクト様の奥様です」
「ああ、ミリルさんでしたか。お恥ずかしい話ですけれども、僕の行う政治の半分くらいはミリルさんに頼っているんですよ」
恥の上塗りみたいな話だけれども、発布は姫に任せている
僕が言うよりもずっとずっと効果があるのだ
みんなが纏まっていくのを嬉しく思う反面、僕自身の無力感に悩む今日この頃だ
「そのミリル嬢が魔族、しかも魔王様のお傍近くに使える将軍と懇意になり、ここに魔族と人間の繋がりが強固になったと言っても過言ではありません」
「そして次は魔王である僕自身が人間と婚姻に至れば、名実ともに魔族と人間の同盟関係が確立される、というわけですね」
「はい。我らもあの王国の領土やランサザード家の財力には及びませんが、かなりの国力を持っていると自負しております
この婚姻が成れば、きっと人間と魔族がともに手を取り合って生きていけることでしょう」
それは素晴らしい とは思っても口にしない
こんな席でそんなことを言えば、そのままこの場で婚姻が成ったということにされかねないし
いちおう僕が魔族のトップなんだから政略結婚っていうものは世の常なのかもしれないし、別に不満があるわけじゃない
………もちろん、気立てが良くてかわいい娘だったらいいな なんて贅沢なこと考えたりもしちゃうけど
でもそれ以前に、僕には家族がたくさんいるんだ
地方に散らばった者。産業に従事する者。畑仕事に精を出す者。戦いに備える者。僕を守ってくれる者
全ての魔族は僕の仲間であり、家族なんだ。彼らに報告もなしに勝手に婚姻なんて考えられない
それに、一番報告しなければならない愛娘
何も言わず勝手に[お母さんができたよ!]なんて言えるわけもない
姫、賛成してくれるかなぁ
もしもそうなったら、もう少し距離を置かなきゃ駄目かも
ちょっと寂しいけど、年頃の娘のそばにお父さんがいつもくっついてるわけにもいかないしね
「お話はよく分かりましたし、賛成です。しかし私も魔王として、独断で事を運ぶわけにはいきません」
「ごもっともです」
「ですので今日はこの辺にして、後日もう一度会談の席を設けるということでどうでしょうか」
「わかりました。それでは、娘を連れてきます」
「え?」
話、繋がってなくない?
「会談がいつになるかは別としても、顔見せもせずにいるというわけにはいきませんぞ」
「ああ、なるほど」
「それに、エリスに魔王城に連れて行っていただかなければなりませんので」
「はい?」
やっぱり、話繋がってないよ
「ああ、まだ言ってはおりませんでしたな。ライフレット・シャルルノージュ・レイルトロン・エリス。18歳。私の娘です」
「僕の娘と二つしか違わないんですか……いえ、そうではなくて。連れて行くって、何のお話ですか?」
「魔王様、先ほどの婚姻に賛成していただいたということは、そういうことなのです」
「え、いや、あの」
「マグマシャークさん、エリスを連れてきてください」
「わかった。魔王様、おめでとうございます」
「その、えーっと、ちょっと」
「魔王様、今日は我々の共存の道を歩む記念すべき日になりますぞ」
「…………」
「私はこれで退散いたしますが、娘をよろしくお願いいたします。それでは」
「どうよろしくすればいいのか分かりません」
ああ、まだ娘さんが来てないのに行っちゃった
気が弱くて口下手な自分を恨むよ
僕は次にしようって言ったじゃない。マグマシャークも気づいてよ、ほんと
でも、どんな娘かなぁ………じゃなくて
「魔王様、奥さんを連れてきました」
「いや、まだ違うからね」
「……………………」
黒い髪のセミロング
体系は姫とおんなじくらい……まぁ、察して知るべしだよ
マグマシャークの手を取ってついて来た女の子は、目を閉じていた
やっぱり魔物が怖いのかな? と思ったけれど、そうじゃないみたい
逆の手には使い続けてきたような年季の入った杖
そうか、この娘目が見えないんだ
「…………」
僕に向かって深々とお辞儀
かわいい、年齢よりも幼く見える笑顔を僕に向けてくれているけれども、硬い
あきらかに作った表情なのが分かる
「怖がっています。彼の言うように、婚姻を喜んでいると言うわけではないみたいですね」
「こらっ! そんなこと本人の前で」
「魔王様、エリスちゃんは目が見えないのと合わせて、耳も聞こえないんですよ」
「……………」
たしかに、目を閉じたまま表情を崩さないところからして変だ
怯えながら暗闇の世界で耐えているんだろう
「彼は点字を使って伝えてたけど、目も見えないんで教えるのが大変だったって聞きました
けれども彼にはエリスちゃんしか子供がいないし、政略結婚を申し込むならこの娘しかいないんですよ」
「…………」
「……ねえ、この娘の目と耳は生まれつき? それとも後天的なもの?」
「ええ〜っと、たしか耳は生まれつきですけど、目は子供の頃に高熱を発して光を失ったって言ってましたよ」
「そっか。それならきっとどうにかなる」
「へ?」
目を丸くするマグマシャーク。硬い表情で笑顔を崩さないエリスちゃん
いや、君はもういいから
肩を軽く掴んで座らせてあげようと思ったけれども、軽く触れた瞬間に、怯えてビクッと震えられてしまった
「怯えてますね」
「うん。でもきっとこの眼は治せるよ。エレキインセクトとスカルエンペラーが最近協力して良い蟲ができたんだ」
回復魔法のエキスパートであるスカルエンペラーが、エレキインセクトにもらった超微細蟲を使ってできた治療法
スカルエンペラーが教育したアリの触角よりも小さい蟲を体に入れ、巡回させることで悪い部分を癒す蟲
外傷や死人を治すといったことはとてもとても手は届かないけど、内傷や失われた器官の回復には劇的な効果を発するという報告が出てる
もっとも、まだ動物実験の段階だけれど
「マグマシャーク、エレキインセクトを連れてきて。この娘を連れて城に戻るよ」
「分かりました。それで、披露宴はいつですか?」
「だからまだそういう段階じゃないんだってば」
「なあ魔王、マジか?」
「? なにが?」
「……いや、わかんねえならそれでもいいんだが」
エリスちゃんと僕を背中に乗せて、人間よりも一回り以上大きなカブト虫の姿をとったエレキインセクトが飛ぶ
僕の結婚というのは寝耳に水だったみたいでマグマシャークの頭を殴りつけてたけどね
それでもエリスちゃんを怯えさせないように振動を起こさないようにゆっくり飛んでいるのを感じると、エレキインセクトも変わったと思う
もともと[唯我独尊]が座右の銘だったのに、姫やミリルさんの影響かな
「結婚なんて俺は反対だぞ。姫ちゃんはどうなる」
「僕もまだ結婚なんて考えてないよ。姫だっていきなりお母さんができましたなんて言われてもきっと困惑しちゃうしさ」
「そういう問題じゃねぇ。姫ちゃんはあんたのことが好きなんだぞ」
「嬉しいこと言ってくれるね。でも、姫もそろそろ父離れしなきゃいけない年頃だよ」
「だからそういう問題じゃなくてだな……ああもう、どう言ったもんかわかんねえよチクショウ」
「?」
「…………(ガクガク)」
「だいたいなんでその娘連れてくんだ。すげえ怯えてる上に、姫ちゃんにもんのすげぇ怒られんぞ」
「だって、新しくできた巡治蟲を使ってみたいって言ってたじゃない。結婚云々は置いとくとして、治せるものは治してあげたいんだ」
「……はぁ。先代だったらその場で殺ってたぜ。親子でなんでこうも性格が違うかね」
「父も家では優しかったよ」
「……(ガクガク)」
必死でエレキインセクトの背中にへばりつくエリスちゃん
空を飛んでいるっていうことは風を感じて分かると思うけれど、この震えは尋常じゃない
ずっと怯えてるんだ
「ちょっと、ごめんね」
「……!?」
体を起こして、後ろから抱きつくようにして体を固定させ
そのまま、ちょっと失礼かなと思いながらも子供をあやすように背中を優しくポンポンと叩いてあげる
姫はこうしてあげると落ち着くって言ってたから、少しでも気持ちが緩和されるといいんだけど
「………(ぎゅっ)」
「よしよし」
すると、僕のシャツの裾を掴んで体を預けてくれた
よかった、害意は無いって分かってくれたんだ
「魔王、連れて行くのは手伝う。巡治蟲で眼の治療に当たるのも手伝う。しかし姫ちゃんに説明すんのは自分でやれ。絶対だ」
「うん。そのつもりだけど……なんで?」
「うるせえ、俺が何でこんなに念を押してんだか帰ったら分かる。嫌ってほどな」
「???」
冷たい風が止みはじめた頃、首をかしげる僕の腕の中で、エリスちゃんは小さく寝息を立て始めていた
支援
投下終了です
ようやく話に入るための下地ができた、といったところです
まだしばらく続くことになりそうですので、できればお付き合いいただければと思います
あと、まとめに載せていただいたのを見て気がついたのですが、
[弱気な魔王と愛され姫様]、これで十話目です
長々と続いておりますが、拙作につけていただいたレスを読むとまだまだやる気が湧いてきます
本当にありがとうございました
お疲れ様ですこれからいいヤンデレ展開が見れそうで楽しみw
二作品ともGJ
どちらも次回が楽しみだ
554 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 00:16:10 ID:VUoFxjcy
今ガチで楽しみにしてる作品
555 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 00:20:29 ID:VUoFxjcy
今ガチで楽しみにしてる作品
>>551 GJですよ
心情的にはエリスを応援したい…
GJ!
gj!
前作といい、魔王の作者さんは主人公よりヒロインが年下なのが好きなんかな(笑)
姫もエリスも激しく萌えなのは事実だが(きり)
559 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/29(土) 15:38:11 ID:T/8tXaR3
キャラクター紹介のコーナー
・バング=シシガミ
真の主人公。
カグツチ忍者集団首りょ。きっしゃああん!
・如月更紗
蒼い子みたいなコスをしてからとゆーもの最高にハイになりすぎて死んでしまいまった。
きっと本体は4次元帽子の中に非難させてある。
・須藤幹也
某魔法少女の出来の悪さに絶望。行方不明に。
・眠らないヤマネ
ロリ。以上
・如月姉
噛ませ。以上
・神無士乃
ロリ巨乳。多分ジェネラルストーンで若返ってる。 超人パワー1200万。
・里村春香
さいきょうの姉。薩摩大人衆のモヘエさんみたく念とか送る。くわーーーっ。
・須藤冬華
ロリ分にやられ退場と思いきやファイレクシアで改造されちった。
多分サイズは7/4ぐらい。
・チェシャ
トキワの風が似合うおなべ。
弟者のイズナドロップ(コマンド:レバー1回転+P)でKO。
・水無月亜李簾
変態に脱衣されて大変だった人。あの後鴨川ジムの門を叩きました。
・里村冬継
超人類の薬とか呑んでTHE BEAST覚醒。捕獲レベル86。
ヒラコー風にやってみた。
こんばんわ。この間寝たの何時だっけってくらい仕事に追われてました。
べ、別に失踪とかそういうんじゃないんだからね!
……キモくてすいません。
日常に潜む闇 第11話 投下します。
〜side of Misae and Seiji〜
「あの、美佐枝さん」
「どうした? そんな改まる必要はないぞ?」
戸惑う久坂誠二に対して、天城美佐枝は優しく、しかし凛とした口調で語りかける。
二人はいま学園の商業区にいる。
しかし場所が問題だった。
「ところで誠二、これなんかはどうだろうか」
「いや、あの……」
美佐枝に尋ねられるが、誠二はまだ何かを言いたそうに口ごもる。
それもそのはず。彼らは服飾店にいるのだ。それもただの服屋などではない。ドレスを取り扱う専門の店だった。
別に大したことはないと思うかもしれない。確かに、ただ単にドレスを品定めに、買い求めに来たのならばそうだろう。
ところが美佐枝が欲していたものはただのドレスではなかった。
「そう照れられると、私も恥ずかしい気分になってしまうのだがな」
「う……ごめん」
視線を横に逸らしつつ、誠二は窮する。
正視すれば、彼女の姿が見えてしまうからだ。
漆黒の、しかし細かい意匠が施されたドレス。いや、むしろドレスと呼んでよいかも疑わしい。
もう少し生地が薄く、彼女の肢体を覗き見得るようなことになればベビードールと呼んで差し支えない気がする。
「でもさすがに露出が激しいのはちょっと……それに、その……胸が……」
「私が前に屈んだりすると上乳が見えてしまう、ということか? それとも横から眺めると横乳が見えてしまうということかな?」
「…………敢えて指摘しなかったところを、口に出して言わないでください」
顔を真っ赤にして抗議する誠二。しかし他の人がいるということもあり、声を大にしては言わない。
店内には何人かの女性スタッフや女性客がいるが、初々しい言動を見せる誠二にくすくすと笑っていた。
「別に外で着るわけじゃないさ。夏向けの、ちょっとした部屋着だよ」
「部屋着にドレスですか?」
美佐枝の説明に、外出用に着るわけじゃないから安心しろという意味が込められていると考える誠二は疑問を呈する。
普通ドレスというものは、女性にとってのいわゆる晴れ着というやつではなかっただろうか。
「それは人によりけりではないか? それとも衆人環視の中これを身につけて、他の男どもに視姦されろとでも言いたいのかな? 誠二に命令されるのなら、私としては仕方なくそれを甘んじて受けるしかないのだが、な」
「ちょ……! なに言ってるんですか。冗談でもそういう変なこと言わないでください!」
誠二の慌てた様子に美佐枝は満足したように笑みを浮かべた。
「なに、ちょっとした悪戯心だよ。それに誠二がそんな下卑た真似をしないことくらい分かっているとも」
そんなことを言う美佐枝に、誠二は冗談じゃないと胸の中で呟く。
こんな下着みたいな格好で出歩けば、間違いなくガラの悪い連中に連れ去られるし、公然猥褻物陳列罪あたりで手が後ろに回ってしまうだろう。
「冗談でも止めてよ、美佐枝さん……さすがにそれは冗談とは言えないよ」
「ふふふ。そんなに怒らないでくれ、誠二。少し私もやり過ぎた。で、だ。そろそろ評価を聞きたいのだが?」
「いや、だから露出が激しいって。それに黒だなんて……」
ため息をついて誠二は先ほどと同じような答えを返す。
「扇情的か?」
「うん」
似合うかどうかを評価するのだから、さすがにこれ以上は恥ずかしがってなどいられない。
誠二は恥じらいを捨てて、評価に徹することにした。
「色は黒がいいと思うんだがな」
「でも美佐枝さん。露出は控えめにしたほうがいいと思うよ」
「どうせ部屋着といっても寝るときくらいしか使わないだろうから、これくらいでいいと思うのだが?」
「でも洗濯物とか干すときにベランダに出るでしょ?」
「私は部屋干しをするが?」
「うーん……。それならいいかもしれないけど……」
「基本的に窓はカーテンで閉め切っている。それに寝室でしか着ないさ」
「…………寝間着用ってこと?」
「ある意味そうとも言う」
「……最初からそう言ってよ」
「ふむ……説明が少し欠けていたか?」
「少しどころか、かなり」
「それはすまなかった。それで、これでいいだろうか?」
「……やっぱり寝間着なら普通のパジャマとかのほうがいいんじゃない?」
「私は苦しいのは苦手なんだ。やはりこれくらい開放的なのがいいと思うんだがな」
美佐枝はそう言って、胸のあたりの布地をひらひらと振り、開放感をアピールしてみせる。
が、誠二からすれば、普段は制服越しでしか分からない彼女の胸が見えたり見えなかったりの繰り返しなので、精神衛生上あまり好ましくない状況だったりする。
ちなみに美佐枝は着やせするタイプらしい。普段は制服で隠されているが、どうやら胸は大きめのようだ。
「美佐枝さん、このドレス? いやなんていうかベビードールとしか思えないんだけど。とにかく露出が激しいからあんまり胸元をパタつかせないでね」
さすがに勃起しかけたとは言えない。
誠二の注意に、美佐枝は一瞬だけ思案するような表情を浮かべ、すぐに納得した。
「つまり妖艶だと言いたいのだな? ふふ。素直で可愛いな、誠二は。私はそんな君が、やはり好きだ」
言われて、誠二は自分の顔が熱くなるのを感じた。
美佐枝は、これを買おう。と言って試着室へ籠もってしまった。
「最近の高校生って、大胆よねえ」
「そうよねー。私もあれくらい度胸があればなあ」
会計の後、店員が背後でそんなことを言い合っているのが耳に入り、誠二がまた真っ赤に茹であがってしまったというのは全くの余談である。
「ところで美佐枝さん」
「ん? どうした?」
歩きながら、誠二は美佐枝に話しかける。
「どうして僕を連れてドレスを買いに?」
「それはどういう意味かな?」
彼の問いに美佐枝は何か含みのある笑みで逆に問いかける。
「寝間着を買いに行くなら別に連れて行かれる理由はないと思って」
「ああ。そのことか。それはな……秘密だ」
「秘密?」
「そう。秘密だ」
そう言って美佐枝は誠二の正面に立った。
つられて、誠二も立ち止まる。彼女の真摯な眼差しに、胸がざわつくのを禁じ得ない。
「さあ、私について来てくれ」
美佐枝は誠二の腕を掴み、小走りで進み始めた。
いきなりの展開に誠二は躓かないでついていくのが精いっぱいで美佐枝に引っ張られる形となる。
「み、美佐枝さん!?」
「ほら、早く行くぞっ!」
なぜか嬉々とした表情ではしゃぐ美佐枝。
雑踏の中をまるで水を得た魚のように移動して二人が向かった先は――美佐枝の家だった。
「さあ入ってくれ!」
美佐枝は誠二に入るよう促すように彼の背に手を伸ばして歓待の体勢をとった。
しかしそれは穿った見方をすれば、彼を逃がさないためとも言える。
「え、あ、えーと、おじゃまします」
戸惑いを隠せないままに誠二は靴を脱ぐ。
正直、友里との一件があったために怖い。もし、美佐枝が友里と同じような行動に出た時、果たして自分は逃げることができるのか。
逃げれば、心の拠り所を失う。しかし逃げなければ、自分が自分であることを失ってしまう。尊厳を自ら潰してしまうということだ。
「ふふっ。そんなに畏まらなくてもいい。ここは私の家。そして私の家ということは、ここは誠二の家でもあるんだぞ?」
「う……じゃあ、ただいま」
「ふふ。おかえり、誠二」
美佐枝に言われ、ならばと意趣返しで言ってみたら、逆に彼女の言葉にどぎまぎしてしまう誠二。
しかし美佐枝は一枚も二枚も上手だった。
「まるで恋人か夫婦になったみたいだな。ご飯にするか? 風呂にするか? それとも、私を食べるかい?」
「っ……! なに言ってるんだよ!」
反射的に声を上げ、ムキになる誠二。顔が急激に熱を帯び始めたのが分かった。
「くくく。冗談だ。私としても実に惜しいことではあるが、とにかく居間へ来たまえよ」
愉快だと言わんばかりの表情を浮かべ、美佐枝は誠二をダイニングへ案内する。そして着替えて来ると言って、自室へ向かってしまった。
手持ち無沙汰な誠二は、きょろきょろと居間を見回す。
美佐枝の居室は学園大学部の経済学部が実習で行っている不動産が管理している小規模なマンションの一室のようだ。
というのも、彼女の居室は玄関から入るとまず目の前に廊下が伸びており、すぐ左脇には居間が、さらに廊下を進んで左に曲がってすぐに彼女の個室、その奥にトイレと風呂場がある。
またいちいち遠回りになる廊下を使わなくてもいいように居間から個室のある廊下側へ往来ができるようドアが設けられている。
最も、ドアを除いた後半部分は憶測にすぎないが。
しかしこれだけ一部屋あたりを広く作っている所は学園内において、学園組織が運営する学生寮には存在しない。
学生寮ならば、配置こそそれぞれで違うものの、往々にして、入ってすぐに調理場、反対側にトイレ、風呂場。奥の部屋が居間で、そこが言わば個室となる。
「広いなあ」
思わず感慨深げに呟いてしまう。
このリビングもそれなりに広い。なにせシステムキッチン、テーブルの他、今彼が座っているソファまでもが置ける。
確かに誠二は自宅からの通学で、学園外に住んでいる。一軒家なのだからここ以上に広いが、自分だけの空間というわけではない。
自分の部屋の広さという点では、美佐枝の居室のほうがはるかに広いのだ。
「待たせたな」
そう言って、美佐枝がショートカットの経路を通ってやって来た。
が、彼女のほうに視線を向けて、開いた口が塞がらなかった。
「ふふ、どうした?」
「どうしたもこうしたも……その服って」
「そうだ。誠二、お前が私のために選んでくれたドレスだ」
美佐枝はあのベビードールまがいの黒のドレスを着ていた。
誠二とは対照的に、落ち着きのある態度でキッチンへと足を運ぶ美佐枝。
「いや、でもそれは寝間着用だって……」
「部屋着、とも言ったはずだが?」
ああ言えばこう言う、と言った風に言い返すと彼女はこちらに向かって来た。
「さあ、執行部入部祝いだ。と言っても、菓子の類で実に粗末なのだがな」
美佐枝はいたずらっぽく微笑み、誠二の目の前のテーブルに皿を置いた。
ワンホールの大きなケーキだ。見方によっては小さなウェディングケーキとも言える。
確かにささやかな祝い事にケーキと言う選択はなかなかに良いものだろうが、いかんせんその大きさはささやかどころではなかった。
「美佐枝さん、これ作るの大変じゃなかった?」
目の前のケーキは、ソファの高さに合わせてある脚の低いテーブルに置かれているというのに、胸の下あたりまでの高さがある。
大きさに圧倒され、思わず尋ねてしまう誠二。
「いや? 誠二のためにと思えばこれくらいなんてことはないさ。愛すべき者に食べてもらうんだ。これしきのこと、雑作もない」
取り皿に切り分け、美佐枝が差し出す。
上下二段で構成されているケーキだが、上段部分だけを上手く切り分ける技術にまたしてもちょっと驚く誠二。
「いただきます……」
フォークで切って、一口。
「……ん、美味しいよ。見た目とは裏腹に甘さ控えめでいいね」
誠二の言葉に美佐枝は嬉々とした表情を浮かべる。
「気に入ってくれたようでなによりだ。私としても嬉しいよ、誠二」
そう言って美佐枝は誠二の隣に腰を下ろした。
「どれ、私にも食べさせてくれないか?」
「え……?」
美佐枝の要望に、誠二の思考が固まる。
「自分が作ったものだが、私も是非とも食べたい。しかしフォークは一本しかない。だから、食べさせてはくれないか? 誠二」
「だ、だったら取りに行けばいいんじゃない?」
恥ずかしいとは口にできず、誠二はそんなことを言って抵抗を試みる。