おつです
「絶対駄目。却下」
断定的に言われて自分が困り顔になるのが分かる。
「でもこれ便利なんですよ」
自分の格好は下がズボンの術衣の上に白衣、外科系の医師の一般的なものだ。あとは聴診器とPHSが標準装備だ。
この姿で彼の部屋に行くと駄目だしをされてしまった。
「そんな色気のない格好は嫌だ。絶対にスカートはいて」
それはセクハラでは。その思いが顔に出たのだろう、それでも彼は自説を曲げない。
「だって、ほら、すごく間抜けな格好になるけど? 」
その場面を想像する。上ははだけるだけでいいとしても下だけを脱がされた姿は確かに間抜けだ。
「全裸になるのなら話は別だけど。スカートなら下着をはずすだけで事足りる」
そんな理由で推奨されるのか。合理的なのか屁理屈なのか分からない。
「分かりました。では間抜けな姿は晒したくないのでこれで失礼します」
一気に言ってとっとと部屋を後にする。閉じるドアの隙間から待って、とか今度からで、とか聞こえた気がしたが、
うん、多分気のせいだ。
しかしスカートか。白衣に眼鏡にスカートなんてAVのザ・女医のテンプレのようじゃないか。
「それ、最高」
断定的に言われてそんなものかと思う。
「へえ、こんなのがあるんだ、便利さと色気が両立されている」
彼は私のストッキングにひどく興味をそそられている。腹部まではくタイプではなくガーターストッキングと呼ばれる
大腿のところの幅広の滑り止め加工のレースによって、ガーターベルトなしに止められるタイプのものだ。
下着にストッキングを重ねて蒸れるのも気になったし、なにより行為のたびに靴を脱いでストッキングを外すのは
彼の言い方でいえば合理的でない、から探してみたらこんなものが売られていたのだ。
これなら下着をはずすだけでいい。だが彼に関してはそれ以上に効果があったようだ。
「ストッキングをはいたままでか、実にいいね。肌とのコントラストも見ごたえがあるよ」
たまたまの黒のストッキングを絶賛されてしまう。
しかしこれこそAV女医だよな。そんな思考も彼の指に翻弄されると保てなくなる。
「いいな。すぐに触れる」
興奮気味の彼はショーツの上から手を入れて指をいれ、陰核を撫でさする。指で膣の中の上側を押されて軽く達した。
黒いストッキングをはいたまま、はよほど興奮を誘ったのか。彼に余裕がないように思う。
噛み付くように口付けられ、激しい抜き差しに自分を保つのが精一杯だった。
白衣の袖を噛んで声を抑えようとするけど、くぐもった呻きをあげてしまう。そのうちに体が震えて
「んんっ――、う、あぁ」
初めて彼によって中でもイかされてしまった。
瞬間、彼の腰をストッキングをはいたままの脚で締め付けていた。
落ち着いた頃に、これは危険な装飾品かもしれないと気付いた。だが彼は満足したらしい。
「今後は必ずそれで。あ、本物のガーターストッキングでもいいよ」
はあ、と間の抜けた返事になりながらどうやら彼のツボをついてしまったようだと思った。
終わり
>>1 新スレおつ
>>5 投下グッジョブ!
教授と助手シリーズ好きだいいねぇ〜AV女医に吹いたw
色っぽい恰好の理由がやっぱりクールというか淡々としているのがいいw
元彼とかが出てきたらどうなるんだろうというか
元彼ムカつくんでぎゃふんと言わせてほしいかも
これからも投下楽しみにしてます
7 :
一富士二鷹三茄子:2011/01/01(土) 19:17:20 ID:Fye1vZv3
あけましておめで投下。
いつも唐突で突然で、それがやや右斜め上なのが多嘉山家当主、多嘉山那須の特徴である。
「突然だが、僕の枕元に一晩侍れ。いや、僕の枕になれ」
「はい?……あの、理由を伺ってもよろしいでしょうか」
頓珍漢なお坊ちゃん……などと言ってはならない。
あくまでも「純粋で、素直すぎる一面がやや強い」所のある那須様は、
たまに目的設定とそれを実現する手順とが大幅にずれていることがあるのだ。
林檎をひとつ取るために林檎の木を根っこから切り倒せと命令するような突拍子も無さ、
と説明すればいいだろうか。
なので、那須様が何事か言い出した時には分かるまでじっくり話を聞く。
それが御当主付きのメイドとしては欠かせない資質であった。
「大したことではないのだが、初夢はこれからの一年を占う大事な物だと聞く。
今年始めてみた夢次第で今年一年の善し悪しが左右される物だそうだ。重要だ」
「はあ」
「何でも、枕の下に自分の好きな物を敷いて寝ると、それについての夢を見る確率が高まるらしい」
「はあ」
「そこでだ、真冬に僕の枕になってもらいたい。
いや、下に敷いて寝るのだったな。枕の下になって欲しい」
「………………えっと、それはご命令でしょうか」
そこで、からの話の飛躍にくらくらと眩暈をおぼえながら婉曲的に『嫌だ』の意を
伝えようとはするが、幸か不幸か那須はそんな真冬の心に気がつくことは無い。
むしろ『御主人様ノ許可ヲイタダキタイ』的な意味に取ったらしく、大仰に頷いている。
思考は既に明後日の方向へ、強風に煽られた凧のようにくるくる跳んでいるようだった。
「必要ならばそうしてもいい。
それと、枕の下に敷いて寝るのだからそれ相応に薄くなくてはならん。
しかしだ、古来より枕にするのは膝であると決まっている。太股ならばなおのこと良い。
だが、真冬の太股は枕の下に敷いて寝るには太すぎる」
「何気に喧嘩売ってますか、ご主人様」
「そう言うわけで真冬、太股を薄くしろ。しかし適切な弾力は残さねばならんぞ。
弾力は太股に必須事項だ」
「申し訳ありませんが方法を伺ってもよろしいでしょうか。
わたくしも、足を細くする方法についてはあながち無関心なわけでは御座いませんので」
「知らん。真冬が考えろ」
「っ……!!それが出来たらどんなにか!!!…………いえいえ、何でもありません」
真冬はついつい固く握りしめてしまった拳をスカートの陰にさっと隠した。
御主人様相手に暴力はいけない、暴力は。
我を忘れかけた心をどうにか落ち着かせて咳払いで誤魔化すと、ぴしりとひびの入った
微笑みを気付かれないように素早く修復してゆく。
この修復作業においては、真冬は誰にも引けを取らない一級の腕の持ち主である。
にこやかに、穏やかに、心がけるは天使の微笑み。
全てを包み込むような満面の笑みを浮かべると、その時だけは有り難いことに那須も思考を停止するのだ。
真冬は、その思考が停止した一瞬の隙を付いて那須の両の手を取ってそのまま胸に押し頂いた。
真冬の豊満な胸に両手を押し抱かれ、息を飲んだ那須へと距離を詰める。
間髪を入れず上目遣いの目線で見上げると、みるみるうちに那須の頬が赤くなっていく。
真冬は勝利を確信し、今度こそ本当に心からの笑みを浮かべた。
「ご主人様」
「なっ、何だ?」
「私の足を細くするより、まずは枕を薄くされる方をご検討頂けると嬉しいのですが」
「あ……そうか、成る程言われてみると尤もだ」
「それでは、そのように用意をして参りましょう」
言うが早いか押し頂いていた両手を放し、流れるようなお辞儀をする。
「あ……ああ」
「では、失礼致します」
狐につままれたような顔の那須を残して退出しながら、真冬はスカートの上から足をさすった。
この後、那須が寝るまで延々と膝枕をしなければならないのだ。
その荒行をこなした後に、足に襲いかかってくるだろうしびれを考えただけでも両足が引きつる。
8 :
一富士二鷹三茄子:2011/01/01(土) 19:22:51 ID:Fye1vZv3
爆弾処理班――。
ご当主付きメイドの事を、屋敷の者達は密かにそう呼んでいる。
真冬はそれを聞いた時、それまで腑に落ちなかったことの全てに納得がいったものだった。
でなければ、代々この家の使用人でもない真冬が御当主付きのメイドとなれるはずもない。
高給が約束された多嘉山家のメイドとなれたのは、果たして幸か不幸か。
真冬にはどちらとも判じがたい。
多嘉山家のお坊ちゃんのお相手をするのは真冬にとって骨が折れることだったが、
次から次へと頓狂な事を言う那須の傍にいると、毎日が驚くほど早く過ぎてゆく。
めまぐるしい日々は、真冬にとって有り難いものだった。
退屈は怖い。
特に、余計なことを考えてしまうような、何もない時間は真冬の一番恐怖するものだった。
だから、那須のことも最後の最後でどうあっても嫌うことが出来ないのだ。
ともあれ、爆弾処理班の夜は長い。
恐らく今年の初夢は見れないだろう事を覚悟しながら、『膝枕用の枕』なる物を作るため
真冬は裁縫箱を取り出した。
終わり。
>真冬の太股は枕の下に敷いて寝るには太すぎる
には「何気に喧嘩売ってますか、ご主人様」 と反応するのに
>枕の下に自分の好きな物を敷いて寝ると、それについての夢を見る確率が高まるらしい
>真冬に枕の下になって欲しい
は真冬さんスルーなんだなw
ある意味カナリ告白っぽいんだがw
>7-8乙
>10
自分もそれ気になったw
後半に勘違いオチがはいるのかと思ったのにスルーなんて可哀相過ぎるw
爆弾処理班、続きが楽しみだ
教授と助手、教授目線を投下
エロは朝チュンですまん
NGワードは「教授」で
欲しいものを手に入れるためには手段は選ばない自覚はある。
退屈は嫌いで面白そうなものには首をつっこむ癖がある。
必死に声を殺す彼女はすごく扇情的だ。眼鏡を外しその綺麗な顔を快楽に歪めている。
慌しい情交はいつもこの部屋の中で、というか中だけで行われる。
白衣に眼鏡で美人、と誰かの妄想のような姿の彼女は俺の今一番のお気に入りだ。
彼女のことは入局する時に医局長から熱心で優秀だ、とは聞かされていた。
挨拶に来たときも別段意識はしなかった。女性なのに物好きとは思った。体力が大事な科だからだ。
どうしてここにしたのか。まあ頑張って。
綺麗な女性は目の保養になるから嫌いじゃない、というか好きだ。
研修医を終えて彼女は戻ってきた。医局で、病棟で、手術室で時折彼女の仕事ぶりを見る機会があった。
ずっと昔に俺も通った道。一緒に入局した他の医師と比較してもまあ頑張っているようだった。
最近では更に細やかな動きが要求されるようになったこの科で、手先は器用そうで育てばいい戦力になりそうだ。
意外だったのは普段はクールな印象の彼女が、患者さんの前では笑っていることだった。
病棟での回診の後で患者さんに話しかけられた彼女が、柔らかな笑みを浮かべていた。
へえ、と思った。あんな顔で笑えるんだ。患者さんから慕われているようなら、良い医師になるかもしれない。
医局長達との会議の時に、若手医師についての話になった。
「かなり良い人材が入りました。学内からが結構多いので、その後輩の勧誘もしやすいです」
各々の名が上がる中で彼女も話題に上った。評価は概ね良い。でも、と誰かが言った。
「いつまで続けてくれることやら。結婚して辞めちゃいそうですよね」
まあそうかもしれない。
ある日手術で下っ端助手に付いた彼女と一緒になった。視野を確保するために彼女の手が近くにくる。
彼女はその目に焼き付けておくかのように、一心に執刀する俺の手元を見ている。
その視線の強さにマスクをしているだけではない息苦しさを覚えた。
術後、手術部内の控え室でソファに座り込んで一息つく。さすがに立ちっぱなしは堪えた。
そこに彼女も入ってきた。使い捨ての術衣を脱いで緑の術衣を着ている。半袖、ズボンの一般的なタイプだ。
コーヒーを紙コップに注いで彼女は向かいのソファの端に座った。
「お疲れ様でした」
俺を見て礼をする。汗で術衣の色が濃くなっていて、半袖から二の腕が見える。
帽子は今は外していてまとめた髪のほつれ毛がすんなりしたうなじに張り付いている。
彼女が眼鏡を外して机に置いた。鼻根部を押している。
眼鏡をしていた時にもだったが、改めてこの子美人だ、と思った。
濃い緑の術衣が色の白さとのコントラストをなしている。
コーヒーを飲んで退出しようとする彼女の体つきをチェックしているのに気付く。
胸は結構ある。腰は細い。俺好みだ。
でも好みの女性なら沢山いるし不自由しているわけでもない。
個人的に接触する機会も別になく、それきり彼女のことは俺の意識にのぼることもなかった。
だから、手を出したのも偶発的だ。
いけない、とどこかで警告が発せられる。でも彼女の耳の感触は心地いい。
教室の一員で俺の部下で年若いひよっこ。
勉強させて技術を身につけさせて一人前にしないといけない、そんな相手。それ以外の目で見るべきではない。
そんな思いも本能の前にはあっさりと崩れた。
後ろから抱きこんで手を重ね、赤面する様子に興味がわいた。目の前の美味しそうなご馳走を食べたくなるのは当然だろう。
彼女を目の前にしてとんでもない理屈で迫ったように思うが、どうにかして抱きたくて押し倒した。
嫌がりながらも彼女は反応してくれたように思えた。
初めて個人的に関わる彼女が肌を上気させてゆく様が俺を興奮させてゆく。
胸を愛撫したときに背をしならせたのが、彼女からはっきりとした反応を引き出したのが嬉しくてその様子が可愛くて
思わず『可愛い』と言ってしまっていた。
しかし彼女は何故か醒めてしまった。諦めたように俺を受け入れはしたが、意地のように声を殺し最後まで通した。
「鎮まりました? 」
問われて、俺が彼女に迫った言葉を思い出した。ああ、そっちは大満足。でもまずいことをやってしまったと思う。
謝罪を口にすべきだろう、そして今後は何事もなかったように教授と医局員としての関係に立ち戻るべき、だ。
それが一番面倒なことにならずに収まるはず。
だが俺の口は勝手なことを紡いでいた。そして口にすればそれが偽りない本心と気付く。
彼女を気に入った。面白そうだからこれからも関わりたい。
拒否して立ち去ろうとする彼女をだから言葉で縫いとめる。
「俺は続ける。分かったね」
あの時口走ったように彼女に全身全霊で教え込んでみようかと思った。
彼女を指導して一人前にする――まるで育成ゲームのようで、始めたら数年単位のことになる。
その間は退屈しなくて済むだろうか。
面倒くさがりだからか系統だって伝えていなかった知識や技術を彼女に集約するのは面白そうだ。
大学院に進学すると言うから最低でも四年は続けられる。彼女なら育て甲斐がありそうだ。
俺の連絡を無視し続ける彼女も、この提案には逆らえないだろう。逆らわせる気はもちろんない。
そして交渉の末、言い換えれば脅迫の末、彼女は俺に抱かれている。
完全に服を脱がす前に挿れてしまう性急さに我ながら笑ってしまう。時間が限られているから、といえばそれまでだが。
だけど必死に声を殺し、そして蕩けて締め上げてくる彼女の内部は実にいい。
食虫花のように蜜のような粘液をたたえて襞はうごめいて、奥に誘ってくる。
彼女のここがこんなに淫らでいやらしく反応するなんて、嬉しい誤算だ。
声を聞きたくて彼女の弱い部分を攻めたてる。中の特に弱いところを擦りあげると蠕動してきゅうきゅう締まって
こっちの腰が抜けてしまいそうになる。背中に回された手指に力が入り、上がる声に予想以上の満足感を覚える。
彼女には他所の女性と関係するのが面倒くさいからと言ってはいるが、本当に色々と手間をかけるのが嫌になって
彼女とするようになってから自然そっちとは疎遠になっている。
彼女なら緊急手術になっても、色々と忙しくしても理解してくれるし文句も出ない。
会う約束をしないので手配もいらないし、遅くなっただのすっぽかしただののトラブルにもならない。
同業だから話は通じるし何より同じ医局だから、動向の把握が容易で時間的なストレスは格段に軽減されている。
今の俺には彼女だけといってもいいくらいだ。
灯台下暗しか。こんなに近くに理想的な女性がみつかるとは思っていなかった。
だけど最近は単に気に入りで便利で退屈しのぎ存在から、それだけではなくなっている気がする。
彼女は俺があくまでもお手軽に欲望を解消するための一時しのぎで抱いている、と思っている。
そのはずだったのに傍にいてくれるのが心地よく、周囲にばれたらものすごく面倒なことになると分かっているのに、
分かっていながら手放したくなくなっている。
独占欲。それに彼女を可愛いと思う気持ち。
ゲームのつもりで始めたのに、予想外に生じたこの感情は厄介かもしれない。
彼女の奥に欲望を吐き出しながら面倒くさがりのはずの俺が、彼女ともっと近づきたい欲求に囚われる。
終わり
毎度のことながら鼻血モンでヤベエ……!!!
GJ!!!
エロくてGJ
ずっと読んでいたい
朝チュンなのに、このエロさ!!
いや、この文体だから、朝チュンだからこそエロくなるのか・・・
新年早々いいもの読みました。GJ
●「一富士二鷹三茄子」には続きがあるらしい
「一富士二鷹三茄子」は、徳川家とゆかりのある駿河国の名物であるという説が知られていますが、他にも「富士」は曾我兄弟の仇討ち、
「鷹」は忠臣蔵の主君浅野家の鷹の羽紋、「茄子」は鍵屋の辻の決闘の地・伊賀の名産品という説など、さまざまな言われがあるようです。
また「一富士二鷹三茄子」には「四扇五煙草六座頭(しおうぎごたばころくざとう)」という続きがあるのだとか。
JTのオフィシャルサイト「たばこのことわざ集」によると、「扇」は祭礼や舞踊の小道具、「煙草」は祭りなど人が集う席に欠かせないもの、
「座頭」は琵琶法師の通称であり、ハレの場で目にするこれらが縁起の良いものとして挙げられたとあります。
またWikipediaによれば、これらは「一富士二鷹三茄子」と対応しており、富士と扇は末広がり、鷹と煙草は運気上昇、ナスと座頭は毛が
ない(怪我ない)ので家内安全、という説もあるのだそう。
NAVERまとめ「初夢に出ると縁起のよいもの」には、このほかに運気上昇を暗示するという「オアシス」や、希望や目的に大きく前進する
ことを意味するという「パン屋」など、意外なものが挙げられています。
>>14 グッジョブ
しかしこれは朝チュンじゃないw
男主人は妻子が居るのに女従者に手を出すって展開が見たい
それって現代の不倫に簡単に置き換えられそうだな…
主人側がそれだと従者にはためらう材料が増えるだけ、つーか不倫メインになっちゃわない?
あ、妻が亡くなって子は母のように従者を慕っていて、
母代わりとして求められているんだと思って悩むとかも面白そうだ
逆に女従者に夫がいるとか、夫なくして子持ちとかのが萌えるな
余計つりあわないと気にして拒むとか子供をネタにして関係持つとかできそうで
王で政略結婚で王子とかの子供がいて
でも本命は女従者(宰相)とかいう展開なら不倫っぽくないかもな
国のために政略的に女の方が政略結婚を勧めて
もう、国のために高貴な子(自嘲)は成したんだから、好きにさせよって展開とか
「陛下!」
「聞かぬ」
短く言い捨て国王はその顔に不快な表情をのせる。年はようやく二十代の半ばを越したところだが、王位についてからの
年月と経験はは若者らしからぬ老成した雰囲気をもたらしている。
その国王の前に立つのはいくらか年若の宰相だ。地味に装ってはいるが美しい娘。
それが困惑をあらわに立ちすくんでいる。
「弟が成人し家名を継ぎました。私はもともと弟が成人するまでの暫定の宰相です。もう私の役目は終わったのです。
なのに何故宰相の罷免をしてくださらないのです」
「余の側を辞するのは許さぬ。そなたの弟が一人前になるまで補佐として伺候せよ」
宰相は妥協案を出そうとする。
「承知いたしました。では、私は城下の屋敷に下がり、そこから出仕いたします」
「それもならぬ。今までどおり余の隣の部屋に詰めろ。弟には余とは廊下を挟んだ部屋を用意する」
その夜宰相は、もう心情としては元・宰相は夜着に着替えて寝室の寝台に腰掛けていた。
宰相は国王と急に連絡を取る必要があったりするので特別に国王の隣の部屋を賜る。辞任を許されないとなって足取り重く
隣の国王の私室から自室に戻ったのが先ほどのことだ。
弟が一人前になるまで、それはいったいいつになるのか。それを見越してここ数年宰相見習いとして弟をつけて陛下の
側で教育と指導をしてきた。ようやく成人の儀を迎え、自分の目からも若干頼りないが手を離して本人の成長を促そうと
思えるほどになったのに。まだ陛下からは宰相としてはとても認められないと思われているのか。
自分が父について同じように陛下に仕え、女の身で宰相になったときより弟はよほどしっかりしている、と思われるのに。
国王の機嫌がよくなかったことや、自分や弟の行く末を考えると目がさえて寝台に横になったもののなかなか眠れなかった。
深夜寝室に人の気配がする。ドアの開いた音はしない。そもそもそちらには鍵をかけてある。
誰だ、と声をあげそうになった口を塞いだのは夜目にも間違えようのない、自分の主の姿だった。
国王の私室と宰相の部屋とは廊下に出なくても通じるドアが設けてある。これが使われるのはよほどの時だけだ。
「陛下、こんな時間に何事ですか。なにか大事でも生じたのでしょうか? 」
すぐに寝台から抜け出ようとしたその体は気付けば国王に組み敷かれていた。
「陛下? 」
「余の側を去るのは許さぬ。どうすれば繋ぎ止めるかと考えて、こうすることにした」
抑揚なく呟いた国王がいきなり手首を抑えて口付けてきた。なにが起こっているかわからない宰相はなすがままにされている。
それをよいことに口の中に入り込んだ国王の舌は、歯列を口蓋を好きに味わい宰相の舌に絡みつく。
「うん……ん」
ようやく唇が離れたときは宰相の力は抜けている。国王はその隙を逃さずに夜着をくつろげ宰相の白い肌に唇を落とし赤い痕を
散らしてゆく。唇が胸に来たとき宰相は我にかえって国王を押しやろうとする。
「陛下、お戯れはお止めくださいっ。私は」
「戯れではない」
ぞっとするような低い声だった。こんなに近くで聞いたこともない、見たこともない国王がそこにいる。
「そなたの薦める王女を后として娶った。王子もなした。有力貴族の娘も側室として抱いた。第二王子も、姫も産ませた。
もう血筋を残すという余の役割は果たした。――だから、好きにさせてもらう」
指先で先端をつままれ宰相は身をよじる。国王は片方を口に含んでなめしゃぶる。
「陛下、いけません」
「好きな女を抱いて、なにが悪い」
国王の言葉に宰相は動きを止める。今、なんと言われたのか?
「好き、な? 」
呆然とする宰相から紡がれた言葉に、国王は唇をゆがめる。
「余がそなたを好ましく思って、焦がれていたのに気付かなかったか? 好きな女から他の女を娶れだの進言された余の心情が
想像できるか? それでも宰相として側にいてくれればと我慢していたのにそれも辞するだと? ――許さぬ」
国王は先端を軽く噛みしこらせる。無理に足を広げその付け根を指で嬲る。
「あ、へい、か。お止めくださ、い」
宰相の懇願も聞かず、執拗に敏感な突起を刺激する。何度妄想のなかで宰相を裸にして抱いたことだろう。
后や側室を抱くときも頭の中では、宰相を抱いていた。寝台のなかで、腕の中で白い肌を上気させて愛撫にもだえる姿を想像した。
やがて突起はふくらみ赤みを帯びてくる。それとともに宰相の腰がゆれてとろとろと蜜のような液がもれ出る。それを指ですくって
突起にぬりつけくりくりと刺激する。
「あぁっ、ん、あぁ……」
想像よりも甘くかすれた声に国王のそれははちきれんばかりに反応する。指で広げたそこに先端をあてがい宰相に告げる。
「そなたは余のものだ」
そして腰をすすめ宰相を貫く。痛みに硬直し、涙を流す宰相を見ながら国王はぎちぎちと自分を食いしめる圧力に耐え腰を動かす。
なすすべなく国王に揺らされる宰相の中に国王は精を放つ。茫然自失な宰相をきつく抱きしめやっと手に入れた存在に満足する。
「子ができれば弟の養子とせよ。余の側室を降嫁させる。子は育てさせぬ。そなたを、わが子といえども取られたくはないからな」
後の歴史書には宰相であり、側室の立場ながら実質には国王の妻として遇された女の名が記されている。
終わり
若干、国王がヤンデレ気味になってしまった
お粗末
>>24-28 グッジョブ!!
まさか朝呟いた妄想が夜には読めるなんて28すごすぎるw
しかも妄想より漲るSS読ませてくれてありがとう
そして弟はいろんな意味で不敏なんで
前から好きであこがれていた身分違いの姫を払い下げられるといいよw
>>22 自分に妻子が居るのに女従者に関係を迫るのが良いんだよ!w
女従者の側に旦那が居たり既に子供が居たり
子持ち未亡人なのも良いなあ……
なんつーか男主人が権力を使ってみたいな話が良いなぁと思って
>>28 GJです
お姉ちゃん可愛いな
>>28 はげ萌えた!!
こういうちょっと不器用な主人好きだ。
耐えて耐えて・・・襲うときには一気にやる
みたいな感情の揺れっていうか爆発っていうか、いいよね。
>>30 主人が権力を使うと強引になるからなあ
鬼畜風味かヤンデレ風味になってしまいそうだ
>>28 GJでした。
* * *
純粋に言葉の使い方についてひとつ教えて欲しいのだが、「降嫁させる」という表現は側室に使えるもの?
ここでの意味は分かるが、本来は皇族王家の内親王や王女用の言葉だよね。
この側室は別国の王女ではなく有力貴族の娘らしいし。
この場合は「下賜」を使える?
>>32 鬼畜なのが良いんだよw
鬼畜でヤンデレ風味なのも良い
>>33 確かにこの場合は降嫁でないね
下賜で問題無い筈
>>34 どうもありがとう。スレ汚し失礼しました。
36 :
28:2011/01/12(水) 22:07:19 ID:ij8mWx9A
>>33 おう、指摘が
脳内設定で宰相の家柄を公爵にしていたんで、側室に小国の王女でもいれば
これをあてがえばまあいいか、と適当に降嫁をつかったけど
たしかに側室一般なら下賜だな
今度また書くときがあれば、下賜を使うよ
指摘してくれてありがとう
>>34 鬼畜ヤンデレ、女従者が涙目だな
>>30 権力を使って…ならそれ専用のあるけど
ここは両思いよりってことなのかな
前スレ完全に埋まってたな
>>37 ここの過去作品にも主人が無理矢理な話もあるよ
>>38 王様と書記官も最初は無理やりだったか
リトレさんがいじらしくてあのシリーズは好きだった
教授と助手、投下する
彼と『関係』するようになって分かったことがある。それまでも変な人とは思っていたが、彼はわがままで子供っぽい。
医師は医師免許をとったときから即先生、と呼ばれる。学生の時も他のアルバイトよりも効率のよい家庭教師なんかをやる。
必然的に世間知らずのまま社会人になってしまい、年齢の割りに社会性に乏しい印象になる。
教授になるような人はその中でも個性は突出しているように思う。
他の科にも色々な逸話を持つ教授はいる。英語でしか会話しないとか、弁当に嫌いなおかずが入っていたと早退したりとか、
愛車に情熱をささげていて医局員はその車種は所有できないとか。
冗談とも都市伝説ともつかない話がある。
それを思うと彼はまだましかもしれない。手術とその関連については熱心に取り組んでいる。
面倒くさがりだけど嫌々ながら最後はきっちり帳尻あわせをするし、気分次第で医局員に対する対応を変えたりや
ひいきなどもない、と思う。
私も教育と業務については他の人からみても厳しく指導されている、と言われるほどに鍛えてもらっている。
でも業務時間内と外のギャップは大きい。
今、私は彼の部屋でソファに座り、主を膝枕している。彼は雑誌の論文を読んでいて、時々書き込みをしている。
体勢は妙だけど勉強熱心なのは尊敬する。それなのに
「手がとまっている」
不満げに言われて我にかえる。右手は彼の胸に置いたままだが、左手で彼の頭を撫でるのを再開した。
膝枕をして頭をよしよしと撫でる。これが私の属する組織の主なのに一抹の情けなさを感じてしまう。これを可愛い、
と思う母性本能には私は恵まれていないようだ。
論文をチェックし終えた彼はそれらをサイドテーブルに置いて私に目を向ける。
「こうしてもらっているといつもより頭に入る気がするよ。毎晩やってくれたら……」
私の目線にブリザードでも感じたか、それ以上のたわ言は聞かずに済んだ。
「これは参考になるから読んでおいて損はない。書棚に関連資料もあるからもっていくといい」
「はい、お借ります」
合間に上司というか教官としても指導もしてくれるので、文句も言えない。
「あの患者さんの状態はどう?」
気になる患者さんのことを聞いてきたりもする。教授室から電子カルテで確認はできても、実際ベッドサイドでまでは
なかなか行けない彼に、病棟や手術室の様子を話したりもする。
私は彼に指導してもらい、彼は細かな情報を得る。ギブアンドテイクという状態か。
彼が私の眼鏡をはずすのが行為の合図のようになっている。彼にひきよせられて唇が合わさる。
「今日は口でして欲しいな」
頬が熱くなる。きっと真っ赤になっているだろう顔を見られると恥ずかしさ倍増なので、顔を伏せ気味にソファに座った
彼の足の間にひざまづく。ベルトを外し、ホックとボタンを外してジッパーを下げる。
「その嫌々感がいいねえ、別の嗜好に目覚めそうだ」
目覚めなくてよろしい。
下着越しにも彼のそれは固くなっているのが分かる。そっと指でさすると息をつめる気配がする。
形を確かめるように下から上になでてゆく。腰を浮かせた彼から大腿の辺りまで服と下着を脱がせる。
現れた彼のものを手にとる。こうやってこれを見たり、手にするのは恥ずかしくて未だに慣れない。
それに顔を寄せて唇を落とす。何度も場所を変えて触れるのが彼の好みだ。大事にキスされているみたいだから、と。
少しずつ一箇所への口付けの時間が長くなり少し唇を開いて舌でも触れて続いてちゅ、と吸い上げる。
右手は精巣をやんわりと下から持ち上げる。左手は根元の裏筋を親指でさすりながらひくりと動くそれを支える。
手でゆるゆるとしごいてみる。静脈への充血でこんなになるのが、人体の神秘だといつもながら感心してしまう。
先走りの液体が滲み始めたそこにも口付けて舐める。そして口に含む。
彼の指が耳や頭に触れていて、見られているかと思うととにかく恥ずかしい。含んだ彼のものに舌と唾液を絡ませる。
口の中で熱くかたいそれを深く含んで吸い上げる。
「はっ、」
彼から短い声が発せられる。舌を動かしながら奥まで咥え、ゆっくり頭を前後してゆく。強弱をつけたり角度を変える。
口元からじゅ、ちゅといやらしい音が上がる。
頭の片隅ではその姿を浅ましいと思うけど、実際には目の前の彼のものと彼の感じている様子に私は興奮している。
もっと気持ちよくさせたい、もっともっと追い詰めたい。どうやら私も別の嗜好に目覚めそうな感じだ。
この行為も彼のものにも不思議と嫌悪感はわかない。
どれくらいそうしていたか、彼の手が私の頭をおさえる。
「も、う、イきそう、だっ」
奥に彼が突き入れて腰がびく、とはね口の中に彼が放ったのを感じる。何度も脈打ち苦いような生臭い味が広がる。
「はぁ……え、と君、飲んだの?」
しばらく呆けていた彼が聞いてきた。手の甲で口元の唾液と少しこぼれた彼の精液を拭う。
床に座り込んで彼を見上げる。
「あぁ、はい」
目が合うと彼は決まり悪げに視線をそらし、次に下半身に目をやって服を整えた。
「その、口に出して、ごめん」
言われて初めてそうか、と思い至る。今までは口でしてもそれは前戯だったから。
眼鏡を外しているせいで薄ぼんやりとした輪郭の彼の顔は少し赤くて、口のなかで何か呟いている。飲んでくれるなんて、
と聞こえた気がしたけどはっきりしない。
時間も遅いのでこれで帰ることにする。
雑誌と資料を借りて出て行こうとすると、ソファに座ったままの彼からもう遅いから気をつけて、と声がかかる。そして
「また膝枕、して」
やっぱり彼は子供っぽい、と思う。
後日どうして飲んだのか、と聞かれそれが一番処理というか後始末が楽だから、と答えたら落ち込まれた。
男性心理は結構デリケートなようだ。
終わり
乙
段々教授が甘えたがりになっていって
主人公が振り回されているようでいて振り回しているのがいいw
御主人様×メイドコネタ投下。
「あ、あぁぁ、やあんッ!うんっ……ダメ、です、も……ぅ」
「くっ、お前の中は、心地いい、ソフィー」
この屋敷で一番いい部屋の寝室で、使用人がその主に組み伏せられていた。
地味なメイド服は肌蹴られ、むしろその野暮ったさが欲情をそそるかのごとく乱れている。
「はぁ…………あ、んっ!」
淫猥な水音と肌がぶつかる音がやけに耳に響く。
誰かに聞かれてしまうのではないかと、ソフィーは声を押し殺そうとするが。
中に打ち付けられている熱くて硬くて……愛おしいものに体全体を揺さぶられ、女としての快楽を引きずり出されている最中に、それは難しかった。
「ベイゼルさぁまぁんっ!!」
「ソフィー……ッ」
いつもベイゼル様にこうされると、頭が朦朧として何も考えられなくなる。目の前にいる愛しい人にソフィーは夢中ですがりついた。
正気ではできない大胆な行為。でもこの一時だけは、ソフィーは紛れもなく彼の恋人だった。
ここは数多くの別荘を持つフォルシウス家の別荘の一つ。
普段ろくに主人は寄り付かないカントリーハウスだったのだが、気まぐれにもこの社交のオフシーズンに次期当主のベイゼル様が立ち寄った。ベイゼル様は立派な馬を所有していて、その休養も兼ねてだったらしい。
ソフィーはこの屋敷のメイド頭の姪で、急に屋敷に来た主人をもてなすためには人手が足りないという事で臨時に手伝いを買って出た……だけのはずだった。
初対面で玄関にお出迎えしたときは、まるで絵本の金髪碧眼の王子様のような青年だけれど気難しい顔をして……寡黙な人だと思った。
それなのに、なぜこんなことになってしまっているのか……自分でも不思議だ。
初めは馬の鳴き声が気になって、厩舎に見に行ったことがきっかけだった。
そこで名馬のデュランダルに髪の毛をむしられそうになったところを、ベイゼル様に助けてもらったのである。
馬は愛情のあかしとして毛づくろいをしてくれる……つもりだったはずなのだが。
さすがにそんなことは知らないし、ご主人様の大事な馬ということでどうすることもできなかったソフィー。
それをからかうように助けてくれたのは、初対面とは別人のように打ち解けた表情をもったベイゼル様だった。
それから時折、散歩の最中や屋敷の中で会うとからかいながらも声を掛けてくれる主人。
そしてそれが恋に変わるのは……時間がかからなかった。
この恋は胸に秘めなくては……そう思っても、ベイゼル様は相変わらずこちらに声を掛けソフィーの心を知らずに揺さぶってくる。
一時期、ソフィーはもう限界で、ベイゼル様の視線から逃げ出した。視界に入らないように徹底的に彼を避けた。
気を抜いてばったりと顔を合わせた時、あからさまに逃げ出したソフィーを……ベイゼル様は追ってきた。
男と女のコンパスの差はいかんともしがたい。人気のない厩舎に差し掛かったあたりで、ソフィーはあっさりと彼の腕に捕まってしまった。
そこで、無理矢理キスされて……ダメだと思ってもその行動に抗えなかった。
ベイゼル様の方は肉体的にソフィーに引かれたのだろう。ひと時の気まぐれだろうけれど、でもその行動は紳士的で。
もとより身分違いの、恋。
愛人にもなれないであろう、圧倒的な身分の差に……自分がベイゼル様に与えられるのは体だけと、未婚の女性が犯していけないタブーをソフィーは差し出した。
初めはどんなに優しくされても痛くて仕方なかった行為が……今では乱暴にされても感じてしまうほど、ソフィーはみだらな女になってしまった。
そしていつ捨てられるか砂城のような脆い関係に……ソフィーは堕ちて行ったのである。
GJ!!
>>41 GJ
教授可哀想だなw
リトレさんは完全に強姦だったね
それが良かったけど
>>43 これは続きがみたい
GJです
>>41 教授w
まあ嫌いな奴のなら飲まないと思うので
嫌われてはいないような気はする
がんがれ
>>43 すごくいい!
続きが読みたい
47 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 00:05:46 ID:CCwVtIrA
投下期待
保守小ネタ
教授と助手、教授の出張編
NGワードは教授で
彼が海外の学会に行く。一週間ほど主が不在になる医局で、最近作ったデータベースに症例を記録していた。
完成すれば症例をまとめるのも論文や発表のネタ探しも楽になる予定だ。
彼が不在の間は大きな手術も入らないし少し時間に余裕がでる。入力をこの期間に進めるつもりにしていた。
そこに彼からの呼び出しがあった。きりのいいところでシャットダウンして彼の部屋へといく。
彼はパソコンの画面でなにやらチェックしている。机の前に立って、その様子を眺めていた。
彼も作業を終えてUSBにおとした後でこちらを向く。
「ごめん、お待たせ」
机の向こう側に招かれ彼のところにいく。彼は座ったまま私を引き寄せ腰に手を回す。
「何をしていた?」
「データベースに入力していました」
彼は、ああ、と頷く。
「あれはいい出来だと思う。完成したら随分仕事がやりやすくなるだろう。ご苦労だったね」
作成の労をねぎらわれると素直に嬉しい。知らず緩んだ頬に彼の手が触れる。
「一週間会えないから充電させて」
「普段でもそれくらいは会っていないです」
「……君は時々意地悪だ」
少しすねた口調で彼は私の眼鏡を外す。ことりと机の上に置いて、私をソファに導く。
三人がけの大きなソファは忙しい時のベッド代わりだと言っていた。毛布とクッションが置いてある。
唇を深く貪られながら胸をもまれて乳首をつままれるとひくん、と体が揺れる。
吐息は彼に絡め取られてしまう。
片膝は立てられて下着はとっくに脱がされている。随分と性急に体を開かされて、追い上げられる。
「入れるよ」
分け入ってくる彼に、いつも最初は圧迫感を感じる。そのうちにたまらない快楽の源になる。
バイオリンの弓と弦の角度を微妙に変えるように、彼は角度や深さを変えて私を翻弄する。入り口付近を
ぐりっとこねられると息が詰まりそうになるし、奥まで突かれると子宮口を刺激されて痺れる感じになる。
でも引く時に膣の上側の一点をこすられると、たまらなく良くて腰が揺れるのを止められない。その時には
膣が彼を締め付けて、我知らずもっととねだっているかのように反応してしまう。
ゆっくりと彼が動いて中の弱点を意図的に刺激され、それだけでもいいのに私から溢れた粘液を指に絡めて
彼が陰核をすり、と撫でる。
「ふっ、んう」
勝手に背がしなり腰が浮く。それをソファに押さえ込まれて奥へとねじ込まれる。逃げ場なく否応なく
繋がっている所を意識させられる。嬉々として彼を咥え込みうごめいて快楽を貪る器官を。
なんていやらしい。
でもこんな強烈な感覚は、快楽は彼しか与えてくれない。その快楽を逃すまいとするかのように、
彼の腰を膝で挟んで大腿に力をこめて、手も彼の背中に回し全身でしがみついてしまう。
もう、駄目。浮き上がるような落ちるような、相反する感覚の後に燃え尽きてしまった。
彼が早い心拍を確認するかのように横に向けた顔をのせる。その重みも心地よくて、彼の頭をかかえて
髪の毛の間に指をすべらせる。しばらくその姿勢でいた後で、彼が頭を起こして私の胸に唇をつけ吸い上げた。
胸に鬱血斑を認める。彼に痕を付けられたのは初めてだ。視線を向けると
「虫除けと置き土産。消えないうちに戻ってくる」
……私に言い寄る人などいないのに。普段と違って遠く離れることに思うところがあるのだろうか。
怒って消えるものでもないし、人目に触れない位置なのでまあ仕方ないか、と思う。
「お土産は何がいい?」
「いえ、別に何も」
張り合いがない、と不満げだがブランド品に興味はないし身に付ける場所もない。アクセサリーは仕事の
邪魔になるし、香水も付けられない。爪も短いのでネイルなども論外だ。本当に欲しい物もなかった。
「そうか。分かった。じゃあ行ってくる」
「お気をつけて」
戻った彼が土産だ、とくれたのは出版されたばかりの専門書だった。しかも著者である教授のサイン入り。
「二冊ちゃんと購入しようと思っていたのに、本人がくれた」
そう言って同じ本を見せてくれた。デジカメには仲良く二人で写っている姿までおさめられていて、
著者の教授を尊敬している私にとってはうらやましい限りだった。
「ありがとうございます。大事にします」
「ん、しっかり勉強して。いつか連れて行きたいから、向こうで発表できるように頑張りなさい」
教官の口調で激励してくれたのに、痕は残っている? と胸を覗こうとする仕草で台無しだ。
「俺がいない間、寂しかった?」
思いがけない質問にしばし詰まる。全然、ともすごく、とも言えなかった。
「……少し」
海の向こうというその距離感は私にも何らかの影響を及ぼしたようだった。本当は結構寂しかった気がする。
終わり
やっぱ可愛いなこの二人
いいな。この二人すごくいい
大好きだーーっっ!!
前スレだったかで王様と未亡人な年上祐筆におおお、となっていたのに
なぜか殿下の閨の指導をする年上未亡人の電波を受け取ってしまった
どうしてそうなった
だから年上未亡人を右筆とか側近に起用
しかも美少女な娘も居てその娘は忠誠心厚い女騎士
これで親子丼だね
しかも母親の主に猜疑心を持つ不忠者
だが娘の知らないとこで、娘を餌に母親を脅して無理矢理
娘は無邪気に慕って敬ってくれる
この妄想でご飯が一杯喰えるよ
年上未亡人の電波を受け取った53だが、54のような複雑な愛憎劇は書けなかった
名づけのセンスもないのでこれっきりの話だろうし登場人物は名無しでおいてゆきます
なんで皆かっこいい名前がつけられるんだろう
尊敬します
お茶うけにでもどうぞ
湯浴みをして寝台へと追いやられ、しぶしぶその身を横たえた時にノックの音がした。
「入れ」
ドアを開けたのは宰相だ。落ち着いた眼差しをしている。
「何用だ」
「殿下が十四歳になりましたので、新たな教師をつけたいと思いまして連れてまいりました」
こんな時間に教師だと? 眉根がよるのを自覚する。
第一もう寝る時間だ。明日にしてくれ、と言いかけたのを封じたのは宰相の影に隠れるような小柄な姿だった。
それはつ、と宰相の横に来て膝を深く折り礼をする。
「この者は?」
その言葉に許しを与える前に伏せた顔を上げた女はかすかに笑って口上を述べる。
「はじめまして。殿下の夜伽をつとめさせていただきます」
長いこと女を見ていた気がするが、実際にはそれほどでもなかったのだろう。
「……どういうことだ?」
宰相への質問に、彼は落ちついた口調でかえしてくる。父王の懐刀は自分の教師役でもある。
「聞いての通りです。殿下も十四歳、男女のことを知る年齢になったと判断いたしました。
この者がお教えしますので。では私はこれで失礼いたします」
そう言い置いて宰相は部屋を出て行った。あとには自分と女の二人しか残らなかった。
呆然としている自分に女が呼びかけてくる。
「殿下。勝手に発言するご無礼をお許しください。これよりしばらくの間、夜にお側にあがります」
「そのようなことは要らぬ。そなたも部屋を去れ」
女はしかしドアへは向かわずに寝台に寄ってくる。それをただ見ているしかなかった。
その女は自分より年上のようだ。美しい部類に入るだろう。今まで見かけたことはなかった。
「殿下に男女の理をお教えするのが私の役目です。殿下にお仕えいたします」
そう言って頬にのばされた女の手を一生忘れないだろうと思った。
「名はなんだ」
「ありません、好きにおよび下さい」
女は言いながら寝台に腰掛けて自分を抱き寄せる。身内以外の異性と接近するのに、緊張してしまう。
くすり、と笑われて頬に血が上る。
「女性を抱く時には雰囲気作りが大事です。相手が物慣れた方ならどうとでもなりますが、経験のないような女性なら
怖がらせないよう、ゆったりと抱き込んでください。決して力任せにしないように」
手本を見せるかのように背中に手が回る。
突然現れた正体のしれぬ女に主導権をとられるなど我慢ならないので、同じように女の背に手をおいて抱き寄せる。
力を入れないようにこわごわとだが、初めて異性を腕におさめる。
――女は柔らかく、華奢で甘い香りがした。
「お上手です。次には目を見て、相手を欲しいとお思いになり触れてゆきます。髪や頬を撫でるのは効果的です。
手はその段階では背中から腰までです。その下へは下ろしませんようにご注意ください」
女は髪をなでで手の平を頬に滑らせそして首筋におろした。そこから後頭部に手をもってゆく。
その顔が近づき、心臓が早鐘をうつ。こっそりと酒を飲んだ後のようなふわりとした気分になる。
「まずは口付けを交わします。唇同士を軽く重ねることから始め、何度かそれをしたら少しずつ深くしてゆきます」
下から女が少し顔を傾けて唇を合わせてきた。目は閉じている。それを見ながら女のまつげが長いと思った。
啄ばむように口付けられていたそれがだんだん強さを増してくる。息苦しくなってきたとき、唇が離れた。
「息を止めずに鼻で呼吸なさってください。あとずらした口からでも結構です」
そして深く口付けられ思わず開いた唇の間から女の舌が入り込んだのを感じた。舌は自分の唇を舐め、歯や歯茎を
さわり自分の舌に触れて絡みついた。目を丸くしていると女は目を開け、少し目を細めた。
絡んだ舌はぬめぬめと動き、唾液を飲み下す。その間に器用なことに女は自分の夜着に手をかけて脱がせてゆく。
舌を吸われめまいのような感覚に襲われる。
唇が離れたとき、大きな息をはいてしまった。
「今度は殿下からなさってください。同時に私の服も脱がせてください。姫君などは緊張なされているでしょうから
あくまで優しく、です」
そう言ってねだるかのように目を閉じた女に、唾を飲み込んで顔をよせる。さっきの女の舌使いを思い出しながら
震える手で女の服をくつろげてゆく。女は自分の首に指を這わせて撫でさすっている。
「あ……」
女が出した声で慌てて体を離す。女は苦笑していた。
「殿下、お上手です。気持ちがいいと女性は、男性もですが声がでます。演技なのか本心からなのか見極めることは重要です。
この時に声が出たことを女性に認識させるのも駆け引きの一つです。
羞恥心を煽ったり、今後への期待を持たせたりですわ。
可愛い、とかもっと聞きたいなどおっしゃるとよろしいかと思われます。
またその際も手は愛しげに相手の体に触れていてください。触れ合う場所が多いほど、殿下への親愛の情が増します」
女の唇が顎から首をたどって鎖骨に来る。同時に熱く湿った息も感じて自分の体が熱くなってくる。
手の平が胸をつつみやんわりともまれる。そして先端を指でいじられる。
「胸は女性の性感帯の一つです。柔らかくもんだり、適度に押しつぶしたりしてください。この先端は特に敏感です。
はじめは掠めるように、指でつまんだり撫でさすったりしてください。きゅっとつまむのも効果的ですが痛くしないよう
気をつけてください。ここは時間をかけて可愛がるとよろしいですわ。口でも、です」
平らな自分の胸を片方は指で、片方は口をつけて愛撫してゆく。もう片方の手はわき腹や背中、下腹を撫でさすっている。
確かに多方面から刺激されると気持ちがいいような気がする。
「余にもさせよ」
女の胸は大きくてやわらかく、手ですくうとふにふにと形が変わる。先端は自分のより大きいが綺麗な色をしていた。
それに口をつけると女が身じろぎした。
「感じると、そこはかたくしこります。試してみてくださいませ」
女の指導に従って胸を指や唇で試してみる。男にはない感触と反応に熱がだんだん下腹部に集まってくるのがわかる。
ここで女に押し倒された。
「足をなでて、ここ、に手を持ってきます」
下穿きの上を触られて体がはねる。自分のそれはもう固く反り返っている。それをゆっくりと上下に触られると腰に
電流が走る気がする。
「ふっ、くう」
「お可愛らしいですわ。まずは布越しにゆっくりと、時々強くしたり周辺を触ったり。口や手で胸や他の場所もずっと触って
いると相手の反応も確かめられて効果的です。よろしいですか?」
女の指使いは魅惑的で、上から見下ろす視線は自分を捕らえてはなさない。
指で胸の先端を弄ばれ、舌は臍を舐めている。布越しの自分は痛いくらいにはりつめている。根元をきゅっと握られ
たまらずに精を吐き出してしまった。
羞恥にまみれ荒い息がなかなかおさまらない。女を恨みがましい目で見つめてしまった。
女は下穿きをはずして布で始末する。女の目にさらされたことで再びそこに熱を感じ大きくなってきた。
「ふふ、お若いのでお元気ですね」
目を細めて女は手でそれを握り先端に口をつけた。温かくて濡れたものに包まれ呻きそうになる、腰が抜けそうに気持ちよかった。
唇で舌で包まれて吸われる。くびれや裏を丁寧に舌の先端で刺激され飲み込まれる。女の頭が上下して口全体で愛撫され
その気持ちよさに、初めて見る刺激的な眺めに目が離せなかった。
「私の口に出しますか?」
この淫らな申し出にごくりと喉がなる。それを見て女はうすく笑って自分を奥までくわえ込んだ。瞬間背筋に痺れるような感覚
が生じ女の口の中に出してしまった。脈動のたびに女がタイミングを合わせて飲み下す。
あまりの気持ちよさにものも言えなかった。
丁寧に最後まで飲み干すと女は愛しげに力を失ったそれを撫でた。
「これでこの後は落ち着いていられますでしょう?」
女は柔らかく言って手を夜着の、足の付け根に導く。下着ごしのそこは湿っていた。
「女性は反応したり感じたりすると、中から液がでてきます。少ないと男性にも苦痛となります。まずは液をあふれさせるよう
努力なさいませ。布越しの刺激、横から直接の刺激もよいのです。相手の反応を見ながら触ってください」
女に手を重ねられそこを触る。指のはらで、指先で、爪でいろいろと触っていくと湿り気が増して濡れたようになってきた。
うっすらと向こうの形が浮き上がってくる。
「こんなに濡れて、とか感じているなど耳元で囁くと女性の羞恥心を煽ります。腰を浮かせて下着を取ってください」
膝を閉じて抵抗しようとする場合の対処なども教えられつつ、女の下着を取り去る。夜着も脱がせて寝台に横たわる女の姿を
まじまじと眺める。女の裸はきれいだった。
女が膝をたてて足を開く。その付け根の自分とは違う器官を凝視する。複雑な形をしたそこは赤みを帯びて濡れ光っていた。
女が指で開くそこは扇情的なながめだった。
「ここに殿下は挿入されることになります。ただこの上にある小さな突起ですがここは女性にとって大変に気持ちのよいところ
です。胸の先端以上の性感帯です。経験の少ない女性はまずここで気持ちよくなります。胸と同様に優しくしつこく、せいぜい
可愛がっておあげなさいませ」
誘われるように女が指で広げて見やすくした突起とやらに顔を寄せる。
「ここも手や口でか?」
頷かれこわごわと触れる。赤い豆のような外観だ。さわっていくうちに胸の先のようにかたく大きくなってきた。
女は自分から出る液を指先にとってそれに塗りつける。その時女の腰が揺れた。
「こ、んなふうにして指で。口でされるときっと女性はよがります。そればかりは自分ではできないことですから」
身分を考えると滑稽な気がするが女の足の間に顔を埋める。そっとし舌の先端を付けると女はあ、と小さな声をあげる。
胸と同じように舐めたりかるく噛んだりすると女の様子が目に見えて違ってきた。
それまでの余裕のある物言いから顔を紅潮させて汗ばみ、身をよじっている。
「なるほど、よがっているのだな」
初めて主導権を握った気がして女を刺激するのに専念する。
「ああ、お上手です、そこを吸いながら、中に指を入れ、てかき混ぜてください。まずは一本から、です」
上ずりそうな女の声に惑乱しながら、指をそっと入れてみる。坩堝にいれたようにそこは熱く濡れていた。
外観もだが中も複雑な形状をしているらしい、襞やあちこちに盛り上がった壁を感じる。
「そう、ゆっくり往復させて、上下や左右をあちこち。中がなじんだら、指を増やしてください」
女のそこはきついように思えた。きゅうきゅうと動いて指に絡んでくる。
「こんなに狭いところに本当に入るのか?」
女に反応してまた大きくなっている自分のそれ、と女の中はあまりに不釣合いに思えた。
女は笑みを浮かべる。
「大丈夫でございます。はじめは痛いですが、そこは子供の通り道でもあります。殿下のものを受け入れられますとも」
その言葉に指を増やしてみる。
何度も往復させていると、女が指導してきた。
「中の腹側のほうに感じる場所がございます。指を少し曲げて、ざらついているところを探してください」
言われるまま指先を壁に沿わせる。女が息をのんだ場所を探り当てた。
「そう、そ、こです。あまり強くなくてよろしいのです。リズミカルに振動させて、あぁ、そう、んんっ」
女の感じている様子を見て、ますます自分が張り詰めてくる。その時には女のそこは液が溢れていた。
「殿下、もうそろそろ中に入れてもよろしゅうございます。初めての方相手には優しく、です」
女に導かれるままに女の中に挿入する。口よりも気持ちよく全体が包まれている。
「はじめはゆっくり、時々は少し乱暴でもよいですが、最奥は女性には慣れないうちは当たると苦痛ですのでお気をつけて。
そのうちに奥も良くなってまいりますので、そうなればもう女性は蕩けることと存じます」
女は腰を揺らし、自分に合わせてくる。その腰使いに長くは持たずに女の中に精を放った。
女が汗ばんだ顔をほころばせて自分を抱きしめ唇をよせる。その柔らかさに女の体に溺れそうな自分を感じた。
それから女は夜陰に紛れ部屋に来た。きっと宰相が人払いをしていたのだろう。
「あぁ、でん、か、私、もう、ああっ」
女が自分の腕の中で果てたのはいつごろか。その姿はひどく美しかった。果てるときの女の中の動きに我慢ができるはずもなく
中に勢いよく精を放ち、女の上にくずれおちた。
「お前は何者だ? 何故こんなことをする?」
今更ながらの疑問を口にする。名前も素性も明かさない、夜しか会えない謎めいた女。年上で初めてではなく物腰などからは
卑しからぬ身分の女に思える。
女は潤む瞳で見つめてくる。少しかすれた甘く低い声は耳に心地よかった。
「私は殿下にお教えするために遣わされた卑しき者にすぎません」
「余の側におきたい」
「身に余るお言葉でございます」
後始末をして、女は優雅に腰をかがめた。
「明日も参れ、待っている」
女は微笑んだ。それが最後だった。翌日からもう女がくることはなかった。
宰相に詰め寄って言われたのは冷徹な一言だった。
「あれの役割は終わりました。殿下には縁談がございます」
やりきれぬ思いだけ残し、女は消えた。
しばらく後に隣国の姫をめとり女の指導のせいか仲むつまじく過ごすことができた。
子も生まれ王位を継いで政務を果たす、そんな日が続いた。
宰相は自分の婚儀に先んじて再婚していた。相手を尋ねると年齢も離れておりますので、とはぐらかされた。子もできたとの
ことでそれを父王や自分にからかわれて、宰相には珍しく執務中に照れたような笑みを浮かべたのを覚えている。
そんな宰相が病に倒れたのは自分が王位について何年か経った頃だった。
見舞いに行くと病床にありながら恐縮され無理に体を起こそうとするのをとどめて色々と話をした。宰相は年の離れた妻と
まだ年若い子供の行く末が気がかりらしかった。安心させるつもりで二人の今後について手厚くすると約束した。
宰相の目には名状しがたい何かが浮かんでいた。
「くれぐれも、よろしくお願いいたします。陛下」
長くないと自覚していたのだろう、仕事や領地の引継ぎは完璧に済ませていた上で宰相は静かに息を引き取った。
その葬儀も終え、しばらくしてから再び宰相の家を訪れた。喪服に身を包んだ後妻が挨拶に出てきた。
「陛下にはご機嫌麗しく、ご尊顔を拝し奉ること恐悦至極に存じあげます」
非のうちどころのない口上と仕草の後妻に顔を上げるようにと、そしてそれに応えた顔はあの日の夜の女のものだった。
「そなた」
「お久しうございます。わざわざお越しくださりこの上なく名誉なことと存じます」
あれから何年経っていても女は美しかった。
「今度こそ身分を明かしてくれるか?」
「私は没落した伯爵家の未亡人です。本来なら一族全てが路頭に迷うところだったのですが、宰相様のご厚意で私がおつとめ、
をすることで爵位は返上、領地は没収ですが国内でたちゆくことができました」
側に控えている侍従に聞かれてもよいように話をぼかしている。頭の良い女だ。
名前を聞いてそういえばそんな伯爵もいたか、と思い出した。
「おつとめを終えたあと、宰相様にとどめおかれてそのうち求婚されてという次第でございます」
宰相とは随分年齢が離れているし、没落貴族の未亡人ということでひっそり再婚したようだった。
「幸せだったか?」
この問いに女、宰相の後妻は夢見るような眼差しになった。
「はい、とても」
それだけ聞けば十分だった。城に戻ろうとしたところに子供が母親の元によってきた。
「これ、陛下の御前ですよ。きちんとご挨拶なさい」
母親の顔になった女に注意され、少年になるかの子供が顔を上げる。そこに見た面差し。
愕然と女に目をやると女は微笑んだ。それは最後の夜に見せた全てを受け入れ明かさない笑みだった。
それで宰相はこの女を留めたのか。そして自分に妻と子供の行く末を託したのか。
「よい、顔だ。父のような立派な宰相になれ」
子供は頬を紅潮させて深く礼をする。
その子を愛しげに見やり女は礼をする。自分の初恋、自分のはじめての……
城へと奪い去りたい欲求を押し殺しきびすをかえす。
あの子供が出仕するその日まで国内を安定させるのが自分の義務だと心に誓った。
甘い香りがかすかに漂った気がした。それはあの日の女の香り。
終
以上です
きっと宰相は事前確認というか味見していると思うので
気が向いたらこれも書こうかと思います
>>62 GJ!!
こりゃ側室として連れ帰っても良いだろ陛下ー!!
再婚なら1回目も2回目も大して変わらん筈…
gj!
ちょ宰相味見したのかよ!とツッコミいれたw
そっちも楽しみにしてるんで是非気が向いてください
なんかせつなくていいな〜
未亡人は結局どっちが好きだったんだろう……っていうか普通に
より戻してもよいのにせつない
GJ!
余韻が残る素敵なお話でした。
美しい未亡人だな
>>62 GJこれは良い未亡人
ところで後趙の石虎さんは実にこのスレ向きのだと思う
ツンデレロリコン不良キャラな男主人のモデル的意味合いで
67 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/27(木) 17:59:43 ID:V1xJMmD6
期待age
宰相の味見編をおいていきます。
番外
年甲斐もなく、初めて見たときに欲しいと思った。
没落した伯爵家の未亡人が伝手を頼って現れた時、正直迷惑だった。自業自得としか思えない浪費での没落だったからだ。
だがその騒動の最中に当主の伯爵は突然死去し、後に残された若い未亡人は哀れではあった。
喪服に身を包んだその女は、深くうつむいてなかなかその顔を上げようとしなかった。
「このたびはお気の毒なことでした。今後どうされるおつもりか?」
婚家から実家に戻ってはと言外に匂わせたが、女はそれにはかむりを振った。
「もとより実家はないに等しい身にございます。私一人なら修道院へと思っておりますが。
亡き夫の一族の方の暮らしを算段せねばなりません。夫の妹君にはとても良くして頂きましたので、報いたいのです」
親子ほども、いや祖父と孫ほど年の離れた妻をめとったと当時噂になった伯爵だ。妹といってももうかなりの年だろう。
修道院の質素な暮らしは寒さなど厳しく、酷であろうとは想像できた。
目の前の女に興味を引かれる。婚家の者のためにすがりにきたか。殊勝なことだ。
だが、その身に何ができる? 女が働くといってもたかがしれている。
ましてや伯爵夫人としてきた貴族の女が何もできまい。
城内の仕事の推薦でも期待したか? 一人ならともかくそれでは他の人間は養えない。
住み込みの家庭教師? 悪くはないが……やはり賃金面では厳しいだろう。それに教えられる技量がないと話にならない。
侍女としては年と身分が邪魔をするだろう。あれは若ければ若いほど需要がある。
であれば、腐ってもの貴族をありがたがる成金や爵位の低い貴族に嫁ぐか。
――そうでなければ愛人になるか、娼婦になるか―― 己を売ることしかないと、この女は理解しているようだ。
まあ、その需要があれば、の話だが。
「顔を上げて」
うつむけた顔を上げ、だが黒いベールが女の顔を隠している。
「ベールもあげて。このままでは話がしにくい」
ほっそりとした手でベールがあがり、現れた顔に瞠目する。美しい女だった。
伯爵は浪費で没落するだけあって、美しいものには目がなかった。趣味も悪くはなかった。
妻もその審美眼で選んだようだ。
「夫の甥につきましては学校に入れることができ、どうにかなります。妹君にも小さな家は用意できました。でも……」
世に出すために甥の学費に有り金を使ったか。妹とやらの生活費が問題だと。
簡潔に要領よく話す女に知性を感じる。聞けば実家も格式は高かったようだ。
とはいえ相当に年の離れたところに縁組させるような実家だ。経済力などは推して知るべしなのだろう。
そこにふとある考えが浮かぶ。世継ぎの殿下のことだ。十四歳になり縁談もあがってきている。
男女のことを指南する必要性があると判断してはいたが、人選がなかなか難しかった。
――口がかたく、身分は卑しからず、教養があり、そして慣れている女。
口のかたさについては判断しかねるがその他は条件を満たしているかもしれない。
女の体つきを含め全身を検分するかのように見てしまう。
「秘密は守れるかな?」
唐突な質問にいぶかしげな視線を向けたが、すぐに反応する。
「必要でしたら」
答えに満足する。どうせ売るしかない身なら最高のところに売りつけるがよかろう。
「貴女に仕事を頼みたい。秘密を守ることが重要だが、夜の仕事だ。相手は特定の高貴な方になる」
覚悟はしていたようだ。少しだけ手が震え、そしてそれを押し殺しまっすぐ私を見る。
「――承知いたしました。この身がお役にたつのであれば、何でもいたします」
「承知してくれて嬉しく思う。では早速確認をとりたい」
近づいて女を立たせ手の甲に口付けをし、指先を口に含む。
女の頬に血の気がさしたが、体は後ろには下がらず手も振り払われなかった。肝も据わっているようだ。
商談成立。
殿下の側近くにあげるのだ。不具合があってはならない。確かめておく必要がある。
――いや、そんな口実をつけて私はこの女を抱きたいのだ。
女が来たことは案内をした忠実な使用人一人しか知らない。夜陰にまぎれて来たので他の使用人は皆もう休んでいる。
知られる恐れはなかった。
寝室にいざなう。喪服を脱がせると肌はきめ細かく極上の手触りだった。
「全部脱いで。私の服も脱がせて」
ためらいがちに身につけた全てを取り去るのを眺めるのは楽しかった。
羞恥と戦っているのだろう、頬がうす赤くなっている。
全裸になった女に再度感心する。優美さと色香を合わせもつ見事な体だった。
女が近づいてきて、ゆっくりと服を脱がせていく様は刺激的だ、
伏せた目元やかがめたことで複雑な陰影をつくる体の線はこの後を期待させるには十分だった。
女を抱きしめる。身を強張らせているが拒絶はしない。
「貴女は教える立場になる。私を誘惑してみてくれ」
ゆれる瞳をあげ女は両手で私の頬をはさんで顔を近づける。啄ばむように唇が重ねられそれが深くなる。
軽く開いた口からするりと舌が入り込んでためらいがちに私の舌に触れた後は、絡めて舌先で口内をなぞる。
片手は首の後ろに、もう片手は背をはっている。少女めいた外見とは裏腹の濃厚さに伯爵の丹精を思う。
さぞ、可愛がられたようだ。
女の後頭部に手を差し入れてより口付けを深くする。女は唾液を嚥下し、なおも舌を絡ませる。
手をまろやかな臀部におろしてもみしだくと軽く背をしならせる。
後ろから秘所へと手を伸ばすと、女は腰を私に押し付けた。
寝台に横たわらせると女の横についた腕に唇を這わせてくる。手は肩から脇にすべり腰をさすっている。
思った以上に巧い。
女の胸をやんわりもむと、熱いため息がもれる。先端に交互に口をつけてねっとりと舐めあげると身を震わせた。
――感度はよいようだ。
女の秘所はもう濡れそぼっていた。指を入れて慣らしてゆくと腰が揺れる。
甘い声と女から立ち上る甘い香りにめまいにも似た感覚を覚える。女は指を受け入れながら体をねじる。
中がうねって淫らな水音を立てる。襞は指に吸い付くようで締まりも悪くない。
敏感な突起の反応もよい。指でもいいようだが口でされるのが好きなようだ。
切なげに眉根をよせて体をひくつかせている。あともう少しの刺激で女は果てそうだった。
ここで果てさせてもよいが、目的は殿下の指南役として適格かだ。もう少し我慢して己を保ってもらおう。
再び指での愛撫にきりかえて中に指をいれつつ親指で突起をさする。
「ふ、あぁ……」
女の抑えた声から感じているのを知り、中の指を増やす。胸の先端もここも綺麗な色をしている。
指に絡む粘液が白くなってきた。相当に感じ入っている。
指を抜いて女の口元にもっていくとすぐにくわえ込まれて舐め吸われる。
唇と舌の使い方が巧く、そっと両手で包み込んでしゃぶる女の伏せた目元の長いまつげが隠微だった。
その目が私を見る。濡れたその目に女の望みが宿っていると思った。
「別のものをくわえたいのか?」
場所をいれかえ私が横たわる。華奢な手の平が胸から腹へと下がり、女の痴態で既に反応している私自身を包む。
「貴女の男性経験は?」
「夫だけです」
「……随分仕込まれたようだ」
それだけで通じたのだろう。羞恥に顔を赤らめて女は手の中のものを舐める。
柔らかく熱い感触に、この女の清楚な外見とグロテスクな行為の落差になんともいえない愉悦を感じる。
ここまでの女の行為は高級娼婦もかくやと言わんばかりだった。
無垢な女をここまで仕上げるのには随分と時間と労力を使ったことだろう。
そしてそれば己ただ一人のために費やした努力だ。
亡き伯爵とやらのこの方面への情熱には感心してしまう。突然の死も案外、女の上でのことかもしれない。
「ん、んう、ふっ」
鼻に抜けるような小さな声を出しながら女は私に奉仕している。
指をしゃぶったときのように口全体、手も使って快感を与えるべく頭を動かしている。
口全体で吸い上げられて腰に戦慄が走る。
腹筋に力をいれて女の口に出してしまいそうになるのをどうにかこらえる。
この女が花街にあれば、身分を隠した王侯貴族が夜毎通う売れっ子になるだろう。
いまや女は夢中で口を使っている。これ以上されればもうもたない。
女の脇に手を入れ上体をこちらに寄せる。
「挿れて見せてくれ」
口の端の唾液を拭い、女は私の腰を挟むように膝立ちになる。
腰を浮かせてさっきまで口で大きく硬くしたものを手で支えて秘所にあてがう。そして自身の体重で中へと沈ませる。
ぐ、と女の中へと入っていくとき壁にこすれ、少しきついところに包みこまれる快感に息を詰める。
――よい。私を包んでうごめく襞や肉は快感を吸い上げ搾り取ろうとするかのようだ。
「貴女の中の具合はよいようだ」
細い腰を支えて腰を押し付けると赤くした目元が艶な風情を一層たたえている女が、微笑んだ。
「それは、嬉しゅうございます」
腰をわずかにくねらせ同時に締め付けてきた。これはよいようだどころではない、よすぎる。
そろりと腰を浮かせて半分ほど抜き、またおさめる。ぐちゅぐちゅと卑猥な音が聞こえてくる。
女の中に出入りする私自身の濡れ光った眺めは随分と刺激的だった。女が腰を落とすタイミングで下から突き上げる。
「あああっ、おく、まで」
強い刺激だったのだろう、女は声を上げ身をよじる。その拍子にぎゅっと締め付けられ背筋があわ立つ。
後は我慢比べのように私の上で繰り広げられる淫らな踊りに耐えながら、女を屈服させるべく腰を使う。
女の全身を細かい震えが襲い肌が上気してきた。もう余裕をなくして女は涙目になっている。
「あぁ、あ、んん、や……だめ、もう」
「では、果てろ」
ひときわ強く突き上げると腰ががくがく揺れて女は喉を見せるほどのけぞった。
きゅうきゅうと締め上げられて私も女に精を放った。がくりと力を失い、私の胸にもたれかかったその体を抱きとめる。
女を知らない十四歳の子供に抱かせるのが惜しいほどだ。だがこれ以上の逸材はそうはいないだろう。
「私の体は、使いものになるでしょうか」
しばらくしてからぽつりと漏れたその言葉の中に女の不安と緊張を感じる。
「ああ、予想以上に貴女は素晴らしい」
本心からの言葉に女はほっとしたように微笑んで、だがその笑みは途中で消えて涙が浮かんだ。
夫に先立たれ、婚家の人間を抱え、途方にくれたまだ若い女の、貴族の身で己を売る羽目になった女の誇りを傷つけた。
更に弱みに付け込んで無体な振る舞いをした。
――だが、一目見たときから、私は。
涙を舐めとり耳に舌を這わせながら熱い息を吹き込む。
「報酬は十分に支払う。今から一ヶ月ほど私の領地の家で過ごして欲しい。その後に仕事をしてもらう。
妹君とやらに適当な手紙を書きなさい。金子とともに届けよう」
きちんと月のものが訪れて私の子供を孕んでいないのを確認した後、城に連れて行き当初の目的を果たした。
「せいぜい年若いあの方を可愛がって、貴女の全てを教え込んでやって欲しい」
女は最初の日、緊張のあまり顔色も悪く倒れそうな様子だったが、気丈にも踏みとどまり責務を果たした。
殿下の側から下がった後は私のところでその日何を教えたか、何をしたかされたか事細かに確認をとった。
そのたび身内にわく嫉妬としかいいようのない感情に支配される。
私が一夜しか抱いていないこの女を夜毎抱き、技巧の全てを教えられる十四歳の子供に対しての嫉妬だった。
「殿下に……」
男として一人前に振舞えるようになったとの女からの報告で、ようやくこの夜伽を終えることができた。
城から遠ざけ、最初に女を隠した家に再び住まわせる。
落ち着いたら報酬を亡き夫の妹と甥に届け修道院に入る、と言っていた女に変化があったのはしばらく後だった。
世話をさせていた侍女から報告を受けその家を訪れる。久しぶりに見る女は少しやせてはいたが変わらず美しく見えた。
「体調が悪いとか」
「ただの風邪のようです。ご心配いただくほどでは」
無理に笑おうとするその体を引き寄せ抱きしめる。最初の夜以来はじめて女に触れた。
「ごまかさなくていい。体の変化は知っている」
私の言葉に女は身をすくませる。
「どうされるつもりか」
「……どこか遠くへ行って」
「赤子を抱えては仕事もできぬ、生きてはいけない」
万が一の可能性を考慮して目的を果たした後も、監視のきくところに留め置いたのだ。
「公にはできない。その子供は貴女だけの子供だ」
「もとより承知しております。決して大それたことなど」
女はやはり理知的だった。けして父親に関わろうとしない、してはいけないと自覚している。
「女性が一人で子供を抱えては大変だ。――私のところで産んではくれないか」
胸元で女が顔を上げる。何故私がそんなことを言い出したのか分からない、といった表情だ。
「私に子供と、貴女をくれないだろうか」
「どうして」
腕の中の女に口付ける。目の届くところに女と子供を置いておく必要がある、建前はそうだ、だが、本音は
「貴女を私のものにしたい、それだけだ」
これも弱みにつけこむ行為だろうか。だが初めて見たときから欲しいと思った。だから。
「私の側にいて欲しい」
ふと意識が戻る、昔の夢を見ていたようだ。
この身は病に倒れ妻は手を尽くして看病してくれてはいるが、体調は私がよく分かっている。
陛下が見舞いに来てくれたのに、いささか慌てる。私が守り育てた殿下は立派な陛下になっている。
今も病床の私を案じて来てくれた。陛下なら残してゆく妻と子供も悪いようにはすまい。
「くれぐれも、よろしくお願いいたします。陛下」
ああ、きっと驚くだろう。だが私の家にも王家の血は流れている。先祖の血が濃くでたのだとごまかせると思う。
よろしく頼みます。
私の最愛の妻と子供を。
二人によってもたらされた幸福な日々を走馬灯のように思いながら私は目を閉じる。そこにはあでやかな妻の姿。
私を愛していると言ってくれた、愛しい女の姿を思い浮かべながら。
終
GJ!!
こちらもなぜか切なかったぜ。
これは女の本音が知りたい。
これは男を狂わす女だな
萌えるっ!!
感想ありがとうございます
女の本音になるかどうか、小ネタをおいていきます
番外2
女が妻となり側にいてくれるようになってから気付いたことがある。
妻の普段の様子が寝台の上とは別人かと思えるほど違う時があるだ。
礼儀作法や立ち居振る舞いに問題はない。どこに出しても恥ずかしくない優雅な物腰だ。
それは以前からよく分かっていたことで驚きには値しない。
何かの拍子に手が触れたり、軽い抱擁や唇以外の口付けなど夫婦であれば当たり前で、別段見られて困るほどでも
ない行為にひどく照れるのだ。特に手をつないだり指を絡めたりすると頬を赤らめて目が泳いだりする。
その夜も帰宅した際に迎えてくれたその頬に手をすべらせると、あからさまな動揺を見せた。
内心首をかしげる。
夕食を済ませ軽く仕事をして入浴後に寝室へと入る。夜着に身を包んだ妻は既に部屋にいた。
その腹部はまろやかに張り出して丸みを帯びている。その手を取って長椅子に連れて行き膝の上にのせる。
「あ、あの」
そんな妻に口付ける。妻はそれをとまどいながら受け入れる。
「貴女は私が嫌いか?」
妻の目が丸くなる。
「嫌いなはずはありません。何故そのようなことをおっしゃるのですか?」
間近の妻からの甘い香りはいつも私の心をくすぐる。妻を腕の中に収めるたびに手放せなくなっているのを自覚する。
「私は貴女の弱みにつけこんで結婚した。私が触れると落ち着かないようなので、嫌なのかと」
嫌と言うよりは照れているように見えていることは伏せて尋ねる。
はたして妻は目にみえて動揺した後真っ赤になった。少しもじもじした後で顔をあげて私をまっすぐ見る。
「貴方を嫌いなど決してそんなことはありません。あの、私、前の結婚生活で寝室以外では夫と触れ合うことが儀礼以外に
なかったものですから。人目を気にしてしまったり、どうしていいか分からなくてつい……」
妻の死別した夫、伯爵のことか。
少し寂しそうに妻は続ける。
「夫は、私を妻としてより自分の手で丹精して作り上げる作品と思っているようでした。昼は淑女として、夜は……別人に
なるようにと。夫は厳しくて気安い親愛の情には乏しかったのです」
女道楽を極めた伯爵の、生きた人間を使った遊びというのか。好みの妻に仕立てるように仕込んでいったと。
「私が触れるのは嫌ではない?」
そっと首に手がまわり柔らかい体が押し付けられる。
「貴方が私に触ってくれると、心があたたまって嬉しいのです」
額同士をつけて妻に口付ける。背をなでてうなじに手をすべらせて口付けをさらに深いものにする。
舌を絡めて唾液ごとすすり上げる。それだけで私の下半身にずくりと熱が集まってくる。
妻は抱きつく力を強める。唇がはなれ私の耳元に小さな声が聞こえる。
「私、貴方が私を野放しにできないから側に置かれていると思って。だから触れられていると嬉しいのですが、どうして
そんなことをするのだろうと真意が分からなくて不安でもありました」
今度は私が驚く番だった。
「監視するだけなら結婚などしない。私は貴女を愛しているから側におきたいと思ったのだ」
「嬉しい。私も……愛しています」
妻が潤んだ瞳で見つめてくれただけで、私はどうしようもなく幸せだった。
私の膝の上の妻が何かに気付いたようだった。私の中心が張り詰めて妻に触れているのだ。
「あ、いや、すまない」
妻は首を横に振ると私の張り詰めたものをあらわにして床にひざまづいて顔を寄せる。
「そんなことはしなくていい」
妻の腹に子供がいることが分かっているのでこの手のことはしないできた。
そんな私に妻は少しかすれた声で応じる。
「私が、貴方に触れたいんです」
口に包まれ愛しげにしゃぶられると快感が背筋を走る。昼は淑女、夜は……娼婦として丹精された妻の舌技は格別で、
奥までくわえ込まれて刺激れされると長くは持たずに口の中に出してしまった。
こくん、とそれを飲んで妻が膝に身をもたせかける。
「床は冷える。腹の子に障る」
妻を寝台まで連れて行き共に横たわる。最近は上向きになるのが辛いようで、横向きになる妻の背後を覆うように
身を寄せて腕枕をする。髪をすいてその中に顔を埋める。
「いつから私を愛していた?」
「今まで私は親や夫に従順に生きてきました。でも夫の死後、初めて己で考えて生きるために動きました。
己の身を売るのは情けなくて辛かったのですが、それ以上に殿下への指導を貴方に報告するのが辛くて苦しくて。
どうしてそう思うのかよく分からなかったのですが、殿下のことが終わった後抱きしめられた腕の中がとても温かくて。
いつまでもそうしていたいと思ってしまいました。
側にと言われた時、監視の意味合いと分かっていても嬉しかったのです。その時自覚しました。貴方は?」
「一目見た時からだ」
妻は腕枕をしている私の手にそっと手を重ねてきた。
「殿下のことはどう思う?」
その言葉に妻は反転して私の方に顔を向ける。
「殿下は……お可愛らしくて、まっすぐなご気性は眩しいほどでした。あの方の恋としかいえない感情は分かっていました。
ただ、私にとって殿下とのことは一時だけの、夢のような出来事です。
私が殿下を好ましく思っているのは間違いありませんが、恋や愛とは違うように思います」
しいて言うなら教え子を好ましく思う家庭教師の心情だ、との妻の言葉に私は今まで胸にわだかまっていた黒く重い塊が
霧散するのを感じた。あのまま殿下の側にいればその感情は恋や愛に変化したのかもしれないとは思う。
だがそうはならず妻は私を愛してくれた。
愛しい女を腕にして一緒にいられる。この上ない幸せに、夢よりも甘美な現実に陶然としながら目を閉じる。
その後、人前で妻に触れても動揺することはなくなった。嬉しそうに微笑む姿に一層の愛しさをつのらせる。
終
以上です
殿下への気持ちは恋になりかけだったかも、のレベルで
子供ごと受け入れくれた宰相へは愛だったのかな、と
GJ
お疲れ様
陛下の方がお邪魔虫だったのかw
こりゃあ宰相が死んでも側室にはならないな。
なんでかこのシリーズ幸せそうなのに切ないよ…
>>80 お邪魔虫というか相手は年下14歳だし、絶対近寄れない相手だし
死別したとはいえ夫持ちだったからややこしくなるだけなので
身の程知らずな夢を見るほど能天気ではないと
ただ殿下が不憫なので補完の意味で書くつもりです
いやだから、絶対恋愛対象外が
いい雰囲気な二人の間を邪魔をしたようにしか見えなくなったというかw
宰相も妻に好きって言われて男としてのライバル意識を陛下に殆ど持たなくなったからこそ
陛下の初恋の人を奪っても詫びたり悪いと思っているどころか
ぬけぬけと子供と奥さんの後頼みますとか言えたんだろうなぁって見えたんでw
宰相が味見していなかったら展開は変わっていただろうとは思います
最後の話をおいていきます
陛下の視点です
番外3
目の前にいるのは前の宰相の息子だ。城に上がりいくつかの部署を経て、現在の宰相の下で補佐の役についている。
髪の色は母親ゆずり、顔立ちはあの家に流れる王家の血が色濃くでたようだと言われている。
「母御は息災か?」
書類に目を通しながら執務中の青年に声をかける。側では宰相も本と書類を積んで執務の最中だ。
「はい、領地関連や細々したことで忙しいようです」
宰相が口を挟む。
「今でもお綺麗ですよ。両家で食事をした時など、ついときめいてしまいます」
宰相の娘と婚約している青年は、義父になる予定で、上司でもある宰相の言葉に複雑な顔をする。
「ほう?」
言葉の中の棘に気付かれないか?
「では、今でも誘いなども多いのではないか?」
宰相が死んだ後、領地と、息子が一人前になるまでと仕方なく色々な行事や式典に姿を現した美しい未亡人狙いで、
求婚者が殺到した騒ぎを思い出す。
女の前の夫の伯爵も宰相も、女を表に出すのを嫌がって避けていたらしい。
なので女が公の場に登場したときの衝撃は大きかったともいえる。
その騒動は結局王家が領地を一時預かりにして、息子が成人するまで管理するとした処置でようやくおさまった。
領地狙いはそれでよかったが、女狙いはそれからも長く続いたようだ。
「母は父の前にも夫と死別しているのでそんな気もないようです。父との思い出で過ごしていくと」
子供の目からもとても仲の良い夫婦に見えました、と続けた。その様子は容易に想像でき、胸に鈍い痛みを生じさせる。
何も知らない子供だった自分に鮮烈すぎる思い出だけを残して消えた女と、それを見守り女を手にした宰相。
全て宰相の手のひらの上かと悔しい思いもした。
今でも女の肌触りや息遣い、熱を思い出すことができる。
「そなたの父は随分といい男だったからな。余の憧れで目標だった」
子供で青臭い自分に比べ、大人の包容力とにじみ出る風格を持った宰相には到底かなわなかったと思う。
だが時が過ぎ、宰相の息子が式目前という状況は感慨深いものがある。
「まあ、早く家族を増やしてにぎやかにしてやればよい」
臣下の結婚式には参列できないのであとで祝いの品を贈ろう。かなうならば女と共に式の様子を見守りたかった。
女と自分の絆たるこの青年の晴れ姿を見てみたかったが。
照れて赤くなる青年と、花嫁の父の心情を早くも発揮した宰相に笑いかけてそれぞれ執務に戻る。
あのまま女を望んでも後ろ盾のない、没落貴族の未亡人では安寧に生きるのは難しかったと今なら分かる。
男児を産んだとしても、口さがない偏見に満ちた人間達から母子ともに傷つけられていただろう。
むしろ男児であったからこそ、国内の混乱の火種になっていたとも考えられる。
宰相はそれも見越して――それ以外の理由の方が大きかっただろうが、女と結婚したのだろう。
結果は、宰相の考えが正しかった。女は静かで幸せな日々を過ごし、子供は忠誠心に溢れた有望な青年に育ってくれた。
女を側に置く望みはかなわなかったが、自分の想いは実を結び密やかに受け継がれてゆく。
それも幸福の一つの形なのだろう。
――幸せになれ。それがあの女にも幸せなのだから。
花婿の父の心情で再び書類に目を落とす。
終
以上です
適当においた話に反応をもらえて嬉しかったです
ありがとうございました
乙乙
適当にかいてこの雰囲気…だと…wすごくよかったです
しかしNTR属性無い自分には陛下が不敏過ぎて宰相と夫人が鬼畜に見えるwww
普通なら合わせる顔が無いよな……どういう理由であれ捨てておいて
自分達は幸せ過ぎて自分達がしてきた事を忘れてんのかよ!みたいなw
陛下にとっては今でも心のなかで忘れられない人だということは想像もしてないんだろうなw
>>85 GJ!!
補完っていうから、陛下も陛下なりに家族を持って
それなりに幸せ・・・なのかと思ったら未練タラタラすぎて泣けたw
独り相撲すぎるけど度量の大きい男に育ったんだな陛下
でもまた未亡人が再婚したらと考えるとさらに不幸になりそうw
次の話の投下楽しみにしてるよ。
や、結婚して子供もいるし、殿下
それなりに幸せそうな描写あったよ
教授と助手の小ネタ
「どうにかして下さい」
彼女から言われた言葉に眉根を寄せる。抱き方が駄目だったか? 彼女もイかせたのだが。
まだ彼女は力が入らない様子で、それは俺の欲望を再び煽っている。
「入室のたびに施錠するのは他の人から不審を招きます」
彼女を自室に招き入れて体を繋げる慌しい逢瀬が終わり、俺は至極満足した時だった。
確かに彼女がくるたびにしばらくの間施錠している。
ここでしか彼女が許してくれないから、なのだが噂になるのは有難くないか。
「分かった、対処しよう」
だからもう一回、の要求は却下されてしまった。
彼女の時にだけ施錠するから問題なのだと、以後は部屋に誰かが入る度に施錠させるようにした。
あと一人のときにも無意味に施錠もしてみた。
理由を聞いた者には
「途中で誰かが来て話や仕事を邪魔されるのが嫌なんだ」
それで納得され、以後教授時室来訪者は施錠、という習慣になった。
これなら不自然じゃないだろう?」
彼女に口付けながら幾分得意げな口調になってしまう。
腕の中の彼女は少し呆れたような、でもしょうがないなとでもいうような雰囲気だ。
「そう、ですね。ん……」
彼女のそこはもう熱く潤んでいて、指を入れてこすると息を詰めて反応する。何度も往復するとびくびくして、
襞が指を締め付けてくる。ここは本当に素直だね。足を抱え込んで挿入する。
瞬間、彼女が無意識に漏らしたのだろう、
「あぁ……」
という、感じ入った艶めかしい声にそれだけで爆発してしまいそうになる。
彼女だけは用件が済んだらすぐに退散するべく入室しての施錠を嫌がる。
俺が呼び出して、つまりそのつもりだと分かっていても、だ。
施錠しないといけないのを一番理解しているはずなのに。
それを許すとでも?
なので彼女が入室すると俺自らで施錠している。――逃がさないよ。
終わり
>>89 補完っていうから、陛下も家族を持ってるから
そっちでそれなりに幸せ・・・をピックアップした
夫人への思慕とは関係なく今の家族と幸せだという話メインかと思った
というような意味あいだったw文章上手くなくてサーセンw
未練タラタラだから不憫に見えるんだよ、陛下w
>>90 待ってましたーGJ!!
いつも楽しみです
教授がどんどん深みにはまってしまってるのに対し
助手は(教授視点からは)クールすぎるのがいいです
連投すまん
教授と助手のバレンタインもの
助手が少し揺れているか
エロなしなので重ねて申し訳ない
「俺に頂戴」
義理チョコならぬ強要チョコ。
この時期になると赤いハートがやたら目につく。製菓業界の陰謀でもこの時期は美味しいチョコレートが一気に
でそろうので好きだ。人にはあげなくても自分用に生チョコを買ったりしていた。
今年は彼からチョコレートをねだられた。珍しく当日の夜に時間も指定された。
「俺、チョコレートは好きなんだ、あんまり甘くないのにして」
そうか、好きなのか。初めて知った。
バレンタイン前の休日に買い物に出かける。特設会場は女性の熱気にあふれチョコレートも溶けそうな感じだ。
誰もが真剣な顔でチョコレートを品定めしている。
沢山の種類のチョコレートが形やラッピングに凝った状態で展示されていて、見ているだけで楽しくなってくる。
義理用の個数の少ないのから大人数用のもの、そして本命用とされる値段も高いが見てくれも良いもの。
試食用のチョコレートをつまんでみる。苦味と甘みが舌の上で溶け出す。
彼は本命ではない。でも義理というのも違う気がする。どれにしようとなかなか決められずに色々悩む様子は、
傍目からは恋するなんとやらなのだろうか。
うろうろと会場をさまよって、結局最初の頃に気に入ったものにする。試食して美味しかったのもあるけれど、
落ち着いた色調のラッピングとリボンが彼のイメージに、あくまでも業務中の彼のイメージにあったせいもある。
ついでに自分用にも購入したのはお約束だ。
当日は医局内や病棟でもカラフルな包みがやり取りされる。
忙しくて食事が不規則だったりするので手軽に食べられるチョコレートや甘いものは人気だ。
なぜか私も結構な数をもらってしまった。友チョコのはずなのに大好きですと書かれていると複雑だ。
仕事を済ませて指定の時間に部屋に行く。ノックをして鍵の開く音の後、彼が顔をのぞかせる。
「今日は忙しかった?」
取りとめのない話をしながら二人分のコーヒーがソファテーブルに置かれる。ここでコーヒーを飲むのは好きだ。
忙しさや、人の命や健康をやり取りする緊張からつかの間でも解放されるような気がするからだろう。
落ち着いたところで彼に袋に入れた包みを渡す。期待に目を輝かせているように見えるのはうがちすぎだろうか。
でもありがとう、と嬉しそうで開けていい?とすぐに言われたので間違いではないようだ。
しなやかな指がリボンを解き、包装紙を開けてゆく。その手は大きく指はきれいで見とれてしまう。
――手は女性の目が向く男性のパーツだったっけ。男性的でセクシーで、彼の手は魅力的だ。
ぼんやり見ていると彼は箱を開け、中にきちんと並べられたチョコレートを眺めている。
「美味しそうだ。食べても?」
もちろん、頷く私に嬉しそうに笑って彼は一つつまんで口に入れる。試食したときの味が思い出される。
ココアパウダーの苦味と、程よい甘みですうっと口の中にとけてゆくなめらかな食感。
「……美味しい。どうもありがとう」
彼も気に入ったようで安心する。
「教授は沢山もらったんじゃないですか?」
聞くとまあね、とかえってくる。医局の女性スタッフや病院スタッフ、講義をする学年の学生さんなどから毎年
結構な数のチョコレートをもらうという話は聞いている。
実際に学生さんたちが連れ立って医局まで持ってきたのを目撃したこともある。
スタッフからは義理半分かもしれないが、学生さんは純粋に彼に憧れて好意を表すために持ってくるので、
その様子はほほえましくて少し眩しい。汚れた自分、が余計そう思わせるのかもしれない。
恋人ではなく、お互い独身なのだが愛人としかいいようのない状況に身をおく私は純粋になれない。
愛人ですらないか。ただの暇つぶしの処理係。
「君も食べたら?」
彼の言葉に我に返りチョコレートを眺める。敷石状に並べられたそれをつまもうとすると、その前に彼がそれをつまんで
目の前に持ってくる。口を開け入ってくるチョコレートを味わう。何故か試食したときよりも苦く感じる。
彼は指についたココアパウダーを舐めとろうとする。その手を両手で握り指先を口に含む。
ココアパウダーの苦味が舌にざらつく。
そのままソファに押し倒され彼がかぶさってきた。
背中に手を回して彼の首筋に指を這わせる。口の中に広がるのは熱い舌の感触とチョコレートの風味。
――彼はチョコレートのようだ。甘くて、苦くて。口当たりはいいが、溶けてなくなってしまう。
彼に乱されながら、ぼんやりと取りとめなくそんな考えが浮かんでいた。
終わり
VDよかったよ〜
しかし「何故私があげないといけないんですか?」みたいな
展開にならないなんてずいぶんと教授に浸食されていってるねw
これは二人が両想いになる日が近いのか
GJでした!
この思いがすれ違ってる感がすごく好きです。
また投下楽しみに待たせて頂きますね
結構途中で止まっている話があるけど続き読みたいぜ
あれからどうなった、とかいろいろ考えてしまう
確かに途中で止まってるのは気になる
自分勝手に続きを妄想してしまう
じゅうぶんエロかった
まぁ、投下までは待機だな……
規制解除まだかな
教授と助手
大学院生編
入局した翌年、大学院に進んだ。
博士号を取りたかったし、研究の合間に臨床もできるからと上から言われたせいもある。
学生になるので学費を払う。収入源をどうするかについては医局長に面談した際に提案していた。
「死んだ父の医院を今は他の先生がやっています。そこの手伝いをさせてください」
大学病院の手術日にはできるだけ入らせてもらう、ということで私の新生活は始まった。
「嬢ちゃんが先生か、こりゃ年とるわけだ」
父の頃からずっと通ってくれている患者さんの言葉に苦笑してしまう。
大きくはないがそれなりに患者さんがいる。院に進んでからは平日の一日、土曜日の午前中に診察に通っていた。
その日の土曜日午前の診療も昼にずれこんでいた。
次の方で最後か。新患さんだ。看護師さんが呼び入れてくれる間にカルテを見て、その名前にあれ? と思う。
「こんにちは」
そう言いながら入ってきたのは、見知った顔だ。
患者さん用の丸椅子に座り興味深げに診察室を見渡す姿は、ラフな私服ということもあり違和感を感じる。
「一体どうなさったんですか。どうしてここに」
声が裏返らなかっただけ、上出来か。
「頭痛がひどくて診てもらいに来た」
こちらの頭が痛くなりそうだ。薬など大学病院でいくらでも処方できるのに、何故わざわざここに?
「大学病院は土曜日はやっていないからね、救急外来に行くほどでもないから」
その姿勢は正しい。家庭医で対処できそうなものは開いている時間帯にそちらにかかってもらうのが有難いから。
「頭痛はいつごろからですか? 他の症状はありませんか?」
気を取り直して問診する。既往歴、基礎疾患、現病歴、家族歴。カルテに彼の情報を入力していく。
普段とは異なる状況が不思議でこそばゆい。体温と血圧には問題はない。次は……
「聴診します。あと口の中も見せてください」
綿のセーターをたくし上げて彼の胸に聴診器を当てる。呼吸音、心音。自分の耳に神経を集中させる。
「背中からもお願いします」
くるりと向こうを向いた彼の背中にも聴診器を当てる。うん大丈夫。でも自分の動悸で聴き取りにくい気がする。
聴診が済んだら口を開けてもらって中を見る。舌を押さえて奥を見るがそちらも大丈夫そうだ。
「発赤はないですね。鎮痛剤はいつも何をのんでいらっしゃいますか?」
彼の口にした薬剤を入力する。三日分を処方して診察は終了だ。
「ありがとう」
彼が立ち上がる。看護師さんはカルテを受付に持っていって診察室には二人きりになった。
「お大事になさってください」
診察室のドアを開けて送り出す。彼で最後だから入り口まで見送ろうかと思った。
「俺で最後か。君の業務は終了かな?」
彼にはい、頷くと開けたドアが彼の手で閉じられる。え、と思う間もなく彼に抱きしめられて唇を塞がれていた。
「んっ」
抗議の声はくぐもり彼に吸い込まれる。舌を絡められて吸い上げられていた。それほど長い時間ではなかったのに、
彼の唇が離れた時には頭がぼうっとしてしまう。
「……教授」
声は少しかすれてしまっている。彼は私を腕の中におさめたまま耳元で囁く。
「公私混同は嫌いだろう? だから君の仕事が終わってからと思ってね。頭痛は本当。この後会えないか?」
看護師さんや受付の人はまだ院内にいるので小声で会話する。
「困ります。学外では嫌だと言っていたでしょう。頭痛がするなら安静にしていてください」
私の言葉に、しばらく黙った彼は分かったと呟いて、腕の拘束を解いて診察室を出て行った。
会計を終えて彼がいなくなった。スタッフも身支度を終えて帰路につき私は一人きりになった。
公私混同は嫌いだ。
私と彼はつきあっては――いない。
連絡先をもらっても自分から利用したことはない。家に帰ってからや休日の誘いには応じない。
最初こそ彼は不満げだったが、これだけは譲れないとするとそれを尊重してくれるようになっていた。
だから今日の出来事には驚いた。学外で会おうなんて彼は何を考えているんだろう。
それこそ学内用の私ではなく他の女性と会うべきだろうに。
私は彼のことを頭から追い出して戸締りを始めた。
終わり?
壁に彼女を押し付けて唇を貪る。眉をひそめた彼女は俺を押しやろうとする。
ドアの側。声が大きければ気付かれるかもしれない。スリルと破滅が紙一重の刺激的な状況。
そちらを意識している彼女を無理やりにこちらに向かせるべく、舌を絡める。
ここにいるのに、俺以外に意識を向けるのは許さない。
「ん……ふ、」
くぐもる声も全部自分のものにしたくて唾液ごとすすり上げる。
彼女を相手にすると余裕なんてなくしてしまう。年下の部下相手に何やっているんだか。
分かっている。外では知らん顔の彼女への、八つ当たりみたいなものだ。
この部屋では何度となく抱いているのに、外にでると見事に単なる部下になる彼女に、俺が焦れている。
普段の冷静な女医姿もいいと思うが、腕の中にいる彼女はもっといい。
ブラウスのボタンを外してブラのホックを外す。彼女の胸はいつも温かくて柔らかくて手の平に吸い付く。
ついでに下着も膝までおろす。片方だけ足からぬいておくとすごく卑猥な眺めになる。
彼女の胸をもむとため息のような吐息にくすぐられて、理性のたがはあっさりはずれる。
もっと聞いていたいのに誘うような乳首に指や唇で触れてしまう。
その時の彼女の反応は鋭くて、今は肩を壁に押し付けて少し背をしならせている。
発する吐息も短くて、でも硬くなる乳首とは裏腹に少しずつ甘さを含んだ熱さが加わる。
彼女の足も気持ちいい。大腿の弾力は好みだ。手で足の付け根を覆い、手のひらでもむようにする。
「あ、きょう、じゅ」
必死に押さえた声は少し震えている。
手の平が濡れる感触。意地悪して中指は彼女の中に入り込む。またひくん、と体が動く。
左胸、乳首の下に感じる彼女の鼓動は早くて俺を熱くする。
中の指を曲げて膣壁で彼女の弱点をさすって指の腹で押す。添えられていただけの彼女の手に力が入り、
シャツごしの俺の背中にしがみつかれる。そうやってすがられると、それだけで嬉しい。
彼女の片足を持ち上げ俺の腰にまとわせる。
指を入れたままの彼女の中がうねる。襞が俺の指にからんですごく熱くなっている。
当たる位置が変わったのか彼女が息をつめると、きゅうっとそこが締まる。もうすぐにでも入れてしまいたい。
それを我慢して、密着していた手の平を離して親指で陰核を押す。中指は彼女の中にいれたままだ。
「あっ、ぁ」
俺の肩に口をおしつけて彼女が声を我慢する。そうされると余計に聞きたくなるのは俺だけだろうか。
陰核を円を描くように撫でて中の指を増やして引いて入れる。くちゅくちゅといやらしい音が響く。
彼女の粘液は俺の手から大腿へと伝っている。腰が揺れて俺に押し付けられる。
これを無自覚でやるから彼女はたちが悪い。
普段クールな彼女がこんなに淫らなんて誰が思うだろうか。いや美人で色っぽいって話は知っているけれど。
「もう欲しい?」
質問ついでに彼女の耳を攻める。ここもめっぽう弱い彼女は身を震わせる。涙の少し滲んだ目で見つめられると、
もっといじめたくなる誘惑に駆られるのを彼女は知らない。本当に俺って。
「でもまだ駄目だよ。俺の前でいって見せて」
陰核と中の刺激を強めると、彼女は目をぎゅっとつぶってかぶりを振る。どこかに感覚を逃がそうとしての
行為だろうが、それは俺の中の彼女を攻めたてたい気持ちを煽るだけだ。
最初のうちはまださらさらだった粘液は、その粘性を増して俺の指のたてる音もぐちゅぐちゅと卑猥だ。
「聞こえる? 君のここのいやらしい音」
彼女は我に返ったようだが、そこを逃さずに弱点をすりあげる。
中は彼女の弱点を押す。指先ほどの小さなポイントなのに、その効果は絶大だ。
「あぁ、だ、め」
彼女が中をひくつかせて細かく痙攣する。奥からまた粘液が分泌される。
俺にすがりついて身を震わせて、肌を上気させて俺の指でいってしまった。
なんて綺麗で淫らなんだ。
こんな痴態を見せられては我慢ができない。達したばかりの彼女の中に強引に突き入れる。
「うっ、んんっ」
声がもれないように口付けて上も下も俺で満たす。
立ったまま繋がる彼女の中は蕩けている癖に俺を締め付けてくる。とても貪欲で欲望に忠実だ。
俺の腰にすがっている彼女の足に力が入ってもっと、とねだってくる。
俺を包み込んで快楽を貪って、彼女のすすり泣くような声がどれほど俺を煽るか。
その押さえた声に、熱い息に俺もただもう彼女の中を往復することしか頭になくなってくる。
押し入る時も引く時も俺が彼女に与える快楽と、彼女が俺に与えてくれる快楽がどんどん二人を押し上げている、
そんな気がする。
ああ、彼女の中が広がる。もういきそうなんだ。でも俺もそろそろ限界。
奥に届けとばかりに突くと彼女が一瞬硬直する。
「あ……」
声はむしろ短かかった。その後で波のように、いや津波のように急激に収縮と弛緩が起こり俺は包まれ絞られ
その刺激に耐えられずに欲望を放つ。急激に上昇して放たれた欲望は余韻を残して潮が引いてゆく。
力の抜けた彼女を腕の中にずるずると床に座りこむ。
彼女が可愛くて、どこにもやりたくなくて抱きしめる。
射精すれば醒めるはずなんだが、彼女に対してはそうならない。
もうしばらくはこうしていたい、と抱く腕に力をこめる。
終わり
GJ
教授テラストーカーw
>>103 いつもながらいい仕事してますな
もう教授いい加減好きっていいなよ状態だw
小ネタ投下。
息子付のメイドを脅す最低な貴族の雇主。
「旦那様っ……おやめ……くださいっ……!!」
豪華な屋敷の一室。その施錠をしっかりされた書斎の年代物のカウチの上で、服を着たまま絡み合う親子ほど年の離れた男女。
男は女を逃がさないというかのように後ろから抱きしめ、メイド服のスカートをめくり上げて女の熟れた蜜壺を指で蹂躙していた。
「ここは、そうは言ってないようだね」
「あっ……んっ!」
そう嬉しそうに言って、男は女の蜜壺をかき回していた指をもったいぶって引き抜くと、女の前に持ってきて見せつける。
その指に絡みついている蜜はすでに粘着を帯びていた。女が感じているという動かぬ証拠。
「お願いですからっ……言いつけどおりあの方とは、別れたのに、止めてください」
「だから私は、君の望み通りに、リスティンには言わなかっただろう?」
リスティンとは男の息子。彼女はそのお付メイド。
男は悪びれた様子もなく、また蜜壺を味わうように、指で蹂躙する。そこはもうとろけそうに惚けていた。
いつまでも触っていたいという気持ちにさせるほどの柔らかさに、男はそこに別のモノが入れたくなる。
女の中は……指ではなく男の本物が欲しいというかのように、中がひくつく。
「まぁ、私もリスティンと親子げんかするつもりはないからね」
耳元でそう舐めながら囁かれると、ビクンと女の体がはねた。
「んんっ!!」
「リスティンはいい息子に育ったから、君が親友のロルフ君と別れた理由を知ったら……きっと私を嫌うだろうな、それだけは避けたい」
「んはぁ、はっ!! あぁ、だめぇ……だめですっ……あぁだめ、なのに」
「そうだよね、駄目だよね、でも私は君が欲しい、欲しくて欲しくて……君を脅迫するぐらいに」
彼女と男は初めは使用人と雇主という間柄だった。
なのに息子に献身的に尽くしてくれる彼女を見て、自分が尽くされたい、優しくしてもらいたいと思ったのは、なぜなのか。
小さいころから貴族としての両親の冷え切った夫婦関係を見て、そして自分も政略結婚で同じ轍を送ってきた。
幸いにも子供たちとは友好的な関係だったが、そんな男だったからこそ、家族的な温かいまなざしを向ける女につい目がいってしまったのだと思ったのだが。
――――違った。
ある日、彼女と息子の友人ロルフが淡い恋心をお互い抱き、交際を始めたことを知った。
息子の友人とはいえ、ロルフの家は代々続く医者の家系。名家ではあるが貴族ではなく……二人の間には障害もない。
そう理解した時、男は彼女を犯した。何度も何度も、調教するように。そして今では彼女は、嫌でも男の愛撫に応えてしまう。
――――男は、彼女を愛してしまったのだ。
ぎくしゃくしだした彼女とロルフの関係に、もうひと押し。
「別れなければ彼に自分との関係をばらす、それとも私としている所を彼にみせるかい?」
という一言で、彼女は涙ながらに彼と別れた。
こんな汚い――――私を彼には、彼にだけには知られたくないと涙ながらに語る。
一度は行為中に舌を噛み切ろうとされ、あわてて猿轡の代わりに、男は惜しみなく自分の腕を差し出した。
血が出るほどの深い傷に、女は我に返り。それからは、自害する気力も削がれたらしく、彼女はメイドの仕事をする以外はただの男の玩具に成り下がっていた。
「どう、したら……やめてくれ、ますか?」
涙ながらに、そう言い続ける彼女に、どうしたら彼女を愛することを止められるのか……それは私の方が知りたいと。
猛る自身を彼女に押し当て、貫き、これ以上拒否の言葉を聞きたくないと、彼女の理性を失わせる。
溶けそうに濡れそして絡みついてくる彼女の中。
男も理性を無くし、ただ男が動くたびに敏感に反応を返す、彼女の体に耽る。
その先に、暗澹とした未来しか見えないとしても、彼女を手放すことなんて男にはできない相談だった。
>>109 GJ!
権力+脅迫は主従関係のよいスパイス
坊ちゃまに目撃されるもよし、子供を宿すもよし
ベースが情欲ではなくで愛情だから手放せない主人がいい
そのうちに背徳感なしでは感じなくなるメイドになっちゃえばいいw
ひっそり投下
教授と助手の小ネタ
漠然とした未来予想
明かりもつけない部屋の中でソファに横たわって彼の下にいる。
胸のポケットの携帯が振動している。ちかちかと明滅するそれが布越しに存在を主張する。
「教授、携帯が」
携帯を取り出して彼が確認する。そして無造作にポケットに戻す。
「よろしいんですか?」
「……かまわない」
でも振動はしつこく続いている。見上げると彼はため息を一つついてソファに座り、携帯を操作する。
「もしもし。……何の用?」
向こう側からは女性の声が聞こえる。すっと体の熱が下がる気がした。
音をたてないように気をつけてそっと彼の様子を伺うと明らかに不機嫌だ。
かなり長い間、一方的な相手の話を聞いた後に彼は
「もうかけてこないでくれるかな。色々忙しいんだ」
そっけなく言って、会話を終えた。
これは、いわゆる……
「よろしかったんですか?」
彼は携帯をまたポケットに戻して私の手を握る。
「もういいんだ。終わった話だ」
不機嫌さを反映するかのように触れる彼の手は少し乱暴だ。
おそらく付き合いのある女性からだったのだろう。そして彼はその女性を切り捨てたというところか。
その人と彼がどんな間柄だったのかは分からない。でもその人はきっと彼のことが好きなのだろう。
人の上に立つ彼は、恋愛に関しても強者のようだ。
また携帯が振動する。でも彼はもうそれを気にするそぶりはない。
私と彼の間で響くその振動は私の中に波紋を広げる。
今の彼は私を抱いている。でも彼には他に女性は沢山いて、私は手軽がとりえの彼のお相手だ。
彼に触れられて一度下がった私の熱が再び上がってくる。そしてもっと熱い彼が入ってきた。
揺すられ快楽に溺れながら、彼からの連絡が、呼び出しが来なくなる日を想像する。
――いつかは私の番がくる。
その時私はどんな感情でいるのだろう。お役ごめんに安堵するのだろうか、それとも……
携帯は振動を止めていた。
終わり
ひっそり乙w
初めの頃の助手なら服装の時のように
部屋からあっさりと出ていきそうなのに
待ってるのがもう深みにはまっちゃってるなぁというか
段々と変わっていく二人の関係が楽しみだ
この話の教授視点読みたすぐるww
というか電話はお見合い進める母親とかかと初め思ってたw
>>113 母親w
連投すまん
教授視点の対になる話を投下
彼女はここにいるのに、俺のものにできる気がしない。
外からの光だけの暗い部屋で、彼女は白い肌を垣間見せる。久しぶりに彼女を腕にできるこの時を堪能していた。
口付けるとすこし唇をあけて応えてくれる。唇はしっとりと柔らかくいつまでも触れていたい。
その雰囲気をぶち壊すようにポケットに入れていた携帯が振動する。
仕事柄、俺も彼女も携帯の電源は切らない。たいていマナーモードにしている。表示される番号に内心ため息をつく。
――今頃、なんの用だ?
無視してポケットに入れたが、なおも呼び出しは続いている。
彼女が俺をじっと見る。
「よろしいんですか?」
こんな電話より目の前の彼女のほうが大事だ。
「……かまわない」
続けようとするのに、振動はしつこく止む気配がない。
彼女は完全に甘やかな情事の空気を消した。こうなってはさすがに出ないわけにはいかない。
電話の相手を半ば呪うような気持ちでしぶしぶ通話操作をする。
途端耳に飛び込む甲高い女の声。彼女が息を詰めたのを感じた。
きゃんきゃんと感情的な、そして一方的な発言に苛立ちが抑えられない。傍らの彼女は身動きをせず、音をたてないように
細心の注意を払っている。その冷静な対処の仕方に彼女が醒めたのを思い知らされる。
彼女を抱くようになってから疎遠になった一人だ。大抵は物分りの良い、あとくされのない女性と付き合ってきたが電話の
主は悪しき例外だ。本人は愛情というが、俺に言わせれば執着以外のなにものでもない感情で俺を縛りつけようとする。
甘え、媚びて、泣き落とす。感情に任せてヒステリックにわめく。
自分勝手な主張を聞いているだけでうんざりする。
俺と彼女の貴重な時間を邪魔する権利などこの女にはない。割り込んでくることすら厭わしい。
愛しているのなどと言いつのる相手に、嫌悪をこめて言ってしまった。
「もうかけてこないでくれるかな。色々忙しいんだ」
多分彼女の前でこんなことになった自己嫌悪も羞恥も混じっている。必要以上に相手に対して怒りを覚えたのはそのせいだ。
聡い彼女はおおよその状況を察したようだ。
「よろしかったんですか?」
この短い言葉にあろうことか電話の相手への気遣いと、ほんの少しの俺への非難をこめている。
その中には嫉妬などみじんもない。今更ながらに彼女は俺のことなどどうでもよいのだ、と思い知らされる。
それでも彼女を手放せない。彼女に触れていたい。彼女を抱きたい。
醒めた彼女を俺に引き付けるべく、失った時間を取り戻すかのように性急に彼女に触れる。
彼女の弱いところを攻めていく。
それなのにまた携帯が振動しだす。俺の邪魔をするな。俺が見ているのは、欲しているのは――彼女だけだ。
体は俺の意のままに開かれ蕩けていくのに、最後まで彼女の芯は冷たいままだった。
それが分かっていながらどうしようもない。体を繋げても俺と彼女の間にはどうしても越えられない壁があった。
携帯はようやく振動を止めた。朝になったら二度と俺に近づかないように対策を講じる。
俺の中から消去する。
どうすれば俺のものになってくれる?
体だけではなく。俺は彼女の心も欲しいと思った。
言えばいいのか? そんなことを言う権利のない俺が。
終わり
>>109 GJ!!
こういうの好きだし良いわあ
>>116 GJ!!
教授駄目な人だわストーカーだわで吹くw
相手が助手じゃなきゃ色んな意味で終了してるだろw
>>116 グッジョブ!
まさか教授視点も投下予定だったとはkwskしてすまんw
初めの頃は助手のそのクールで割り切った所が好きだったはずなのに
自業自得のジレンマでじれじれしてる
かっこいい教授の駄メンズっぷりがよすぎてツボすぐるwww
そして助手は教授がここまでしてるのに
「もしかして私の事好きなのかも?」とか思わないところがクールすぎて惚れるw
>>118 んにゃ、kwskされて調子に乗って書いたやつを投下したんで
整合性に欠けたかもしてない
本来の投下予定の話
教授と助手
院を卒業する春の話
助手の元彼出現
エロなしで少し長め
大学院の四年間は研究と臨床に明け暮れた。
研究棟の住人になって手術日と医局会、カンファランスに顔を出して『俗世』と関わるような日々だった。
卒論も仕上がり他科の教授を前にしての口頭試問もクリアして、やっと博士号が取れた。
長いようであっと言う間だった。春からは医局に戻って他の人より遅れた分を取り戻す日々が始まる。
彼は卒業を喜んでくれた。
『臨床、研究、教育』が柱になるのが大学だから、まあ当然か。
「四月から外の病院に出るかい? それともリハビリがてら大学病院でやってから出る?
どちらでもいいけど。まあ大学のいいところは医師の数が多いっていう程度だけどね」
院生四年の秋に漠然と進路について聞かれて、いきなり外で迷惑をかけるよりは、と大学病院を選択した。
彼はにんまり、と笑う。どうも彼のお気に召す答えだったようだ。
「じゃあ、春から君は助手だ。よろしく頼む」
――助手。彼の下で彼を支える医局の構成員。彼をトップとするヒエラルキーの底辺に近い側だ。
その役職の響きに早くもいいように使われる己が未来がうっすら浮かぶ気がする。
それでも。
「光栄です。頑張ります」
そう思うのも事実だった。
年度末、正式に院を卒業して現場復帰の準備をしていた。その夜は彼に呼び出されていた。
医局員はもう医局に残っていない時間だ。助手室に引越しをして荷物を整理して部屋の鍵を閉める。
春とはいえまだ寒さを感じる季節で、廊下はひんやりとしていた。
廊下を挟んだ彼の部屋へと向かいかけた足は、思いがけない、本当に久しぶりに聞く声で止まった。
「久しぶり、元気だった?」
もう忘れかけていた、学生時代の元彼だった。
外勤を経て大学に戻ってきたらしい。
太ったな。それが第一印象だった。白衣を着ているのにあまり清潔そうに見えない。
「お久しぶりです」
我ながら硬い声だ。元彼は廊下の左右を見て誰もいないのを確認する。
「お前、相変わらずだな。いや、少しは色気がでたか。学生の時はスカートなんて、はいてなかったもんな」
スカートは『彼』の要望。でも確かに女性を感じられるアイテムでもあるので今ではほぼスカート姿だ。
でも元彼にスカートや足を見られるのは不快だった。
「何の御用でしょう。お子さんはお元気ですか?」
元彼は不愉快そうな顔になる。学生の頃は数歳年上のこの人を大人、と思っていたのに今はそうは思えない。
わがままで子供っぽいけれど、その反面ずっとずっと大人、を知ったからだろうか。
「ああ、元気だよ。嫁は子供生んだら働かなくなって俺が大黒柱でやってる。
今はママ友とやらと毎日菓子を食いながらおしゃべりしている」
――確か、頼ってくれる可愛げのある女性って言ってなかったっけ。
――守ってやりたくなるんじゃなかったっけ。
昔の元彼の言葉を思い出す。私は、私じゃ駄目だったんだよな。
「大黒柱なら頼られているんですね。ご家族を守っていらっしゃるんですか。望んだ生活でしょう?」
「お前、相変わらず可愛げないな」
よく言えば落ち着いている、クール。悪く言えば愛想がない、冷たい。
他の人からも言われたからそれが私の印象なのだろう。
そんな自分が初めて付き合ったのが学生時代のこの人だった。
人とつきあって、自分のテリトリーに入れて。
戸惑いや違和感はあったけれどこれが付き合いというものだろうと思って、過ごしてきた。
自分なりにこの人をみればなんとなくあたたかい気持ちになったし、好意を示されて嬉しくもあった。
でも結局かわいらしくは感情を示せない私に不満で、さめて、他の人のところに行ってしまった。
追いすがりもせず、涙もでなかった私は、やっぱり可愛げがないのだと痛感した。
人として大事なものが欠落しているのかもしれない。
でも医師としては、状況に流されず冷静に的確に判断するのは悪いことじゃない。
適性としてはあってはいたのだろう。
幸いにも医局の同僚や先輩に恵まれ、人間関係で嫌になることもなく業務や研究をこなすことができていた。
大人数ではないけれど学生時代からの友人もいる。患者さんとも特にトラブルはない。
思いがけずに関わってしまった彼とだって、まあ色々あっても結局その関係を受け入れ続いている。
でも改めて言われるとやはりこたえる。
結局お前の本質はそれで他の人からは好きになってもらえることなんてないのだと。そう突きつけられた気がする。
可愛げない、か。
……そんなの言われなくても分かっている。黙った私に元彼はなおも言いつのる。
「その性格じゃどうせ付き合っている男もいないんだろ。素直じゃない、冷めた性格だしな。
院生って話は聞いていたけど研修医の間や院でもバイトして稼いでいるよな?
寂しいなら俺が慰めてやるよ。お前ならうるさいことは言わずに付き合ってくれるだろう?」
誰が誰を慰めるって? 誰が既婚者と付き合うって?
あまりに頭のよろしくない、自己中心的な発言に薄笑いが浮かんでくる。
――どうして別れた女が、いつまでも自分を好きでいるって思いこめるんだろう。ある意味幸せな思考回路だ。
ああ、こんな風に考えるから可愛げがないんだろう。
稼いでる云々からは、私が費用を出して彼は労力?をだすつもりのように聞こえる。
お笑いだ。
でも、その笑いは自分にも向けられる。
私はそんな風に思われているんだ。その程度の女なんだ。――都合のいい女。
「嫌です。そんなつもりは毛頭ありません。絶対に付き合いなんてしません」
「無理するな。寂しい独り身なんだろ、抱いてやるよ。だから今からお前の部屋でもホテルでも……」
彼はその続きを言えなかった。
廊下を挟んだ向こうから声がかかったから。
「俺の、に手を出さないでくれるかな」
彼がドアを開けて腕組みをして枠にもたれていた。いつの間に。私でさえ驚いたのだから元彼はもっとだろう。
「え? 俺の、って」
それ以上は言えず彼と私を見比べている。彼は真面目な口調だ。
「うん、俺の。彼女は医局員だ。医局員は医局のもの。この医局は俺のもの。だから彼女は俺のもの。分かる?」
なんだその俺様理論の三段活用は。強引すぎるにもほどがある。
元彼もこれを冗談ととったようだ。
「は、はは。それで教授のものって無茶苦茶ですよ。私は彼女と個人的な話をしているんです。
教授には関係のない話です。余計な口出しはしないで下さい」
彼に喧嘩を売った、ような気がする。
それがどれほど身の程知らずで、怖いもの知らずな行為か。私は内心冷や汗をかく。
彼はというと、この喧嘩をきっちり買うつもりのようだ。
表情が私の良く知る、例のにんまりと笑う、いうなれば鼠をいたぶる猫のようなそれになった。
この表情になる時の彼にかなう気はしない。公私ともにだ。
彼の口調は楽しげだ。
「個人的な話、か。もれ聞こえたところでは君は既婚者でどうやら子供さんもいるらしい。
それなのに嫌がる彼女に不倫の誘いをかけていたようだ。これを彼女が不快に思うなら立派なセクハラ行為だ。
俺は医局員にはそういう嫌な思いはして欲しくない。
それに随分と彼女を侮辱することも言っていた。――彼女は優秀で俺の誇る医局員だ。
あまり悪し様に言われると俺まで不愉快になる。見過ごす気にはなれないな。
君、どこの科の先生? セクハラ委員会からの呼び出しと、君の科の教授に苦情いれるのとどちらを選ぶ?」
彼の目が笑っていない。
これは怒っている、めちゃくちゃ怒っている。
元彼もまさか彼がここまで一医局員のことに首を突っ込むとは思っていなかったのだろう。
ようやく、自分がまずい立場にいることに気付いたようだ。
目が泳いでいる。おどおどと私と彼を見て
「あ、いや、そんなつもりでは。久しぶりに彼女に会えて嬉しくてつい……」
「ふうん。嬉しくて、既婚者なのに『抱いてやる』んだ。やっぱりセクハラ委員会か」
今からメールしようか? と彼は笑いかけた。
何か言えば言うほど墓穴を掘る。元彼は彼から距離をとろうと後ずさった。
「全部、冗談、冗談です。私はこれで失礼します」
慌てて廊下を去ってゆく。
呆気にとられてその後姿を見送る私の耳に、はああ、と大きなため息が聞こえた。
彼はわざとらしくこめかみをに指を当てている。
「あれ、が君の元彼か?」
事実なので頷くしかない。彼は救いようがないとでも言いたげに頭を左右に振る。
元彼の姿が廊下の向こうに消えたのを確認して、私の手首をつかんで部屋へと入った。
ソファまで彼の手首への力は緩められず、そこに座らされる。彼は横に座って黙って私を見つめた。
「……付き合っていた頃はあんな人とは思わなかったんです」
沈黙に耐えかねて私から言い出す。別れの時に幻滅して、今夜さらに上書きされた。
もう付き合った過去を抹消してしまいたい。
彼はそれでも何も言わない。いたたまれなくなって目線を組んだ自分の手に落とす。
「あの、教授……迷惑をかけて不快にしてしまって申し訳ありません。済みませんでした」
これ以上ここにいても彼には不愉快なばかりだろう。
腰を浮かしかけた私は引き寄せられて背後から抱きしめられた。
肩口に彼の顔がうずめられる。しばらくそうして彼は呟いた。
「随分お粗末な奴だけど、君が傷つく必要はない。君は素直だし冷たくもない。俺は君を誇りに思っている」
その言葉にこわばった体から力が抜ける。彼にそう思われたのが、言われたのが本当に嬉しい。
不覚にも涙が浮かびそうだ。
「聞いていいかな。あれ、と俺はどちらが期間が長い?」
もはや元彼はあれ、呼ばわりだ。
「……教授、です」
「どっちがいい男かな?」
「教授です」
二番目の質問に即答したことで彼の機嫌は直ったようだ。くすくす笑いながらぎゅうっと抱きしめられる。
「もう遅いから今日は帰りなさい。卒業と助手の就任のお祝いは後日にしよう」
頭に一つ口付けを落とされる。それに彼の優しさと気遣いを感じた。
気をつけて、と言われ彼の部屋を出る。
彼にとっても都合のいい女なのに、と思いながらもまだ彼のぬくもりが背中に残っているような気がした。
後日元彼は大学に戻ったにも関わらず、すぐに随分遠くのそんなところがあったのか、と別の意味で感心される
ような言うなれば僻地の関連病院に『とばされた』もとい赴任された。
彼は涼しい顔で
「名札で科と名前を確認して、ちょっと調べたら大学に戻る前の病院でも結構な醜聞を起こしていた。
あれ、の科の教授に軽く、本当に軽く言っただけだ。教授には隠していたらしくて怒りを買ったみたいだ。
まあ自業自得じゃないか?」
彼はこの喧嘩にかなりの代価を払わせたようだ。
元彼の科の教授が在任する限りはあれ、の出世は無理だろうと笑った。
どんな『軽く』だったのだろう。いや、世の中には知らないほうが幸せなこともある。
藪をつついて蛇を出すのはごめんだ。
私は余計な質問をせずに沈黙を守ることにした。
そして私は彼が後日に回した『お祝い』で、危うく次の日に腰がたたなくなりそうな状況に陥った。
終わり?
おまけ
「彼女が嫌がれば立派なセクハラ行為、か。どの口が言うんだ」
彼女の意向一つでセクハラ委員会どころか刑事事件にもなる行為をした自分に自嘲する。
そうは思うが彼女と関係したのも、今も関係しているのにも後悔や反省は全くしていない。
それに、あれ、の低俗ぶりは不快を通り越して滑稽でさえあるが、おかげで分かったこともある。
いや再認識したというべきか。
彼女は俺の大事な人だと。そして彼女は俺のだと。誰にも渡したくないと。
「男を見る目がないんじゃないか」
とは恐ろしくて言えなかった。今もそうだ、と返されたら多分立ち直れない。
はっきりと自覚したこの感情は、今まで持たれたことはあっても持ったことのないこの感情は俺を高揚させる。
同時に怖い、とも思わせる。
彼女に本気になったのに、彼女の体は手にしていても彼女の心は手にしていないから。
終わり?
おまけのおまけ
「いるんだよね。医師免許を取った途端に『お医者様』ってちやほやされて舞い上がってデビューしちゃう奴、が。
持ち上げられるだけ持ち上げられて自分はもてるって勘違いした挙句、百戦錬磨の女性にころりとやられてしまう。
彼女達はいろんな男を渡り歩いて、何も知らない研修医を手玉にとって落とすんだ。
知らぬは『先生』ばかりなり。何人も兄弟がいて失笑される、ってパターンなんだ。
あれ、のお子さん、ちゃんとお父さんに似ていればいいね。血液型は多分大丈夫とは思うけど」
笑いながら言わないで欲しい。病院の怪談よりもある意味怖い。
終わり
おお!ようやく教授の株が上がるイベントか?
彼女がすごく可愛いですね!GJでした!
>>119 GJ!!
kwskしてよかった悶え苦しんだw
そして教授の自覚キタ━━━ヽ(∀゚ )人(゚∀゚)人( ゚∀)ノ━━━ !!!
元彼をぎゃふんと言わせてほしいと思っていたが
まさかここまでぎゃふん通り越して恐ろしい事になろうとはww
しかもどの口でセクハラ委員会と言ってるんだって思ってたら
おまけでセルフツッコミしてて笑ったw
ダメンズって言っちゃってごめんよ
早く助手のコンプレックスを払しょくしてやってください教授ェ……
そして助手は可愛いよ、本当に本当に可愛いよ!!
教授wwww
「軽く」とか助手にはカッコつけながら
助手が帰ったあと全力で潰しにかかったんだろうな
その知略を助手を落とすのに何故使わないのかww
そしてお預けくらったぶんお祝いでハッスルしたのか
続き楽しみだ
>どうして別れた女が、いつまでも自分を好きでいるって思いこめるんだろう。ある意味幸せな思考回路だ。
あるあるあるーwてかそもそも男ってそういう幸せな思考回路を標準搭載してるもんなのかもな。
おまけのおまけ。
自分が掌の上で転がされているって自覚がある奴はまだマシだわな。
医者とか弁護士とか、ある意味専門バカだからいい獲物にされる。
本筋への感想だけど、体は繋がっていても心までは〜てノリ大好物です。
教授の悶々とする描写、大変美味しゅうございました。
130 :
無償の愛1:2011/02/20(日) 00:15:52.84 ID:/V8iMB15
>>110のレス見て思いついた息子視点エロなし純愛。
>>109の続きです苦手な人は回避お願いします。
2レス頂きます。
注意:メイドと旦那様の不倫。そしてそれを知ってしまった息子視点。
131 :
無償の愛1:2011/02/20(日) 00:16:36.31 ID:/V8iMB15
「どういう事なんだ、アーネ……」
青年は自分が見た光景が信じられなかった。
今でも夢でも見たのではないかと、幼馴染であり姉のようでもあるメイドに詰め寄った。
しかし、アーネはこの質問をするまで笑顔だった顔を、真っ青にし背けるだけで何も答えない。
――それもそのはずだ。
青年が質しているのは、妻も子供もいる男とアーネの不義。しかも、相手は青年の父親だった。
そして一昨日までは確かに、アーネは青年の親友ロルフと付き合っていたのだ。
だがアーネからソレを一方的に解消してくれと言われたと、ロルフから本当の訳を知りたいと詰め寄られた。
信じられなかった。二人は青年から見ても愛し合っていて、彼は真面目に結婚まできちんと見据えていたからだ。
それで、あまり知られたくない会話をしなくてはならなかったので、人目につかないようにと、夜分にアーネの部屋を訪れるようとすると。
アーネの部屋から人目を避けるように父親が出てきた……。
なにかあったのだろうかと、不安になり。そしてノックの音にも反応しない部屋の主に心配になり。
紳士としての禁をやぶり、ドアを恐る恐る少し開けるとそこには――誤解しようもなく、情事の後が色濃く残っていた。
使用人用の粗末なベッドに、放心しながら寝そべっているアーネの衣服は乱れ、普段は見る事ができない部分の肌をあらわにしている。
その肌は色香が香るように上気し……。目が奪われた。
しかし、すぐに我に返り、彼女に気付かれる前に、青年は自分の部屋に帰る。自分が動揺しすぎているので冷静になって改めて問い正す事にした。
今、目の前にいる彼女は清楚なメイド。あのベッドの上の艶めかしさとは別人で……。
そう考えてしまって、彼女に失礼だと青年は慌ててその想像を打ち消す。
「もしかして……父上との関係が先で、父上を忘れるためにロルフの気持ちを受け入れたの?」
考えられる筋書はこうだった。
父はもう四十近いが息子の目から見ても年を感じさせない魅力的な男で、親子ほど歳が離れていようとアーネが好きになってもおかしくはない。
父親の事は公私ともに尊敬するほど子供にはいい父だったが、母との関係は冷え切っていたのでいままで遊び相手が何人かいた事は知っている。
前に母の嫌いな婦人に手を出してしまい、怒らせてからは女性関係には最近はおとなしくしていたようだったが……。
父はアーネの気持ちを知って、母に知られないように手短な所で済ませたのだろうか。
メイドとの軽い火遊びは上流階級ではよく聞くことだった。
しかし二人の未来がある訳でもなく、アーネがロルフの気持ちを受け入れたのは、父を好きでも諦めようとしたという事だろうか。
でもそう推理しながらも、何かがおかしいと青年は引っかかっていたけれど。
「…………っ……そうです。私がすべて悪いんです。私が……」
長い間があってようやくアーネは肯定した。しかしアーネの様子はかなりおかしい。
青年は家族よりも長い時間一緒にいるのである、彼女の嘘を見抜いた。何かにおびえているような――その相手は一人しかいない。
「もしかして、無理矢理なのか?」
「……っ」
答えることが出来ないといって、顔をそらす様子が無言の肯定だった。
違和感の正体。それは彼女は本当にロルフに恋をしているようにしか見えなかったから。
「何時からなんだ」
「三月ほど前から……です」
それは忘れるわけもない。ロルフと彼女が付き合った頃で、彼女がそんな時にそんなことを持ちかけるわけがない。
父親の非道さを、再確認する。彼女はいつの間にか泣き出していた。
「戯れにしても度がすぎる……」
父の事は好きだ、好きだけれど……だからと言ってそれを肯定してしまえるほど、彼は父親に恭順しているわけではない。
彼女を抱きしめてその涙を止めてあげたい、しかしそれは自分の役割ではないとこらえて、青年は父に抗議しに行こうと思った。
「父に直接、質しに行く!!」
「おやめくださいっ……!」
「心配するな、僕が勝手に気づいたことにして、君には迷惑を掛けない。君とロルフに僕は幸せになってほしいんだ!」
そう言い捨てると、青年は父親が今時分ならいるであろう書斎に向かう。その足取りは青年の怒りの気持ちのままに乱暴だった。
「無理だ……と、思います」
取り残された部屋で、消え入るようにようにアーネがそう呟いているのも知らず。
彼はまだこの時は、自分の父親は"父"だと信じていた。
132 :
無償の愛2:2011/02/20(日) 00:17:37.92 ID:/V8iMB15
「父上、アーネと別れてください!」
言い辛い事は、遠回しな事をせず一気に行ってしまう方がいい。青年は父親に簡潔に用件のみを言った。
書斎の主は、書類から顔をあげると、顔をこわばらせる。
「なぜ知った?」
「偶然にも見ました」
「…………お前は、アーネを愛しているのか?」
「はい、勿論です。大事な幼馴染であり、姉でもあり、使用人以上に大事にしています。それは父上も承知でしょう?」
「……」
「雇いはじめた使用人ならともかく、アーネは大事な……家族にも近しい存在です。
だから先の見えない戯れで、彼女をこれ以上振り回さずに、私の親友のロルフとの結婚を認め――」
「先の見えない? 戯れ?」
父親は青年の言葉がとても可笑しいようで、言葉を遮った。
「私は、彼女を愛しているよ」
「だったらっ……」
父親の様子がおかしい。しかしそんなことは構ってられない。アーネとロルフの未来のためにはここは引けなかった。しかし――。
「私は息子のお前も、自分でも驚くぐらい愛している」
「……? ありがとうございます、父上」
この期に及んで、突然父親は何を言い出すのかと青年はいぶかしんだが、次の言葉と冷たい声音に背筋が凍る。
「けれど、アーネと私の仲を邪魔するというのなら、その愛は揺らいでしまうよ?」
「ち、父上……?」
「もう一度言う、私は彼女を愛している。お前にも、誰だろうが邪魔はさせない。邪魔をするというのなら……分かるね?」
「父上!」
その顔はすでに父親ではなく、恋に狂った男の顔だった。
狂気さえも孕んだそれは、男だろうが、親だろうが……ゾッとするように危険な魅力が漂っている。
それに魅入られるのは破滅だとわかっていてもなお、引きつけてやまない抗いがたい引力。
そしてその魅力を引き出したのはアーネ。
「愛しい人と抱き合うことがこんなに幸せな心地になるということを、私は初めて知ったんだよ」
――抱き合ってなどいない。
あのアーネの様子を見れば父上のは一方的な愛だ。そう言いかけたが、ある間違った意味でひたむきな父親に口を挟むのは躊躇う。
目の前にいるのは、誰だ。先ほどまで自分が秘密を暴き出すまでは確かに、父親だったのに。この歪な幸せを甘受している男は……。
「私はお前が可愛いんだよ、我が息子よ。だから、判るね?」
二度目の念を押す笑顔はとても昏い。壮絶な重圧を感じる。彼は聡かったのでその言葉に、隠された意味を読み取った。
自分は息子だから警告だけで済んだが――ロルフは違う、と言われているようなものだ。
父親は、ロルフの身さえも脅かそうとしている、だからアーネは逃げられない。やっとの事でこう頼む。
「お願いですからアーネに酷いことだけは……しないでください……」
「私が、まさか?」
何を言うんだ、と自分がしている事を全くわかっていない。その表情だけでこの目の前のただ恋する男に何を言っても、通じない事を青年は悟った。
父親の書斎を出て、盛大なため息をつく。
――――こんな事になる為に、思いをあきらめた訳じゃないのに。
青年はアーネが好きだった。幼い頃の淡い初恋。父親は使用人と親しくなることに、貴族としての自覚と公私を使い分ければ特に垣根を設けなかった。
しかし、母親は違った。貴族として当たり前だが使用人は道具で、必要以上に頼ることなんてしない。いくらでも替えの利く代替え品。
身分の違いは人としての尊厳さえも許されないというタイプだった。
だから、青年は幼いながらも自分が「好き」というとアーネを困らせることがわかっていたので……彼女への気持ちをあきらめたつもりだった。
そう、ロルフと彼女が出会うまでは。そして正式に付き合うと聞くまでは。胸が張り裂けそうに痛んだが、彼女を愛していたから、だからあきらめた。
万が一思いが通じ合おうと、自分では彼女を幸せにできないとわかっていたから。
それなのに、父親は愛の名のもとにあっさりとその垣根を破壊し――――ロルフを盾に無理やり彼女を。
気が付けばいつの間にか、こぶしを壁に叩きつけていた。どうすれば彼女が救われるんだ――連れて逃げるか。いいや、無理だ。
例え他国へ渡ったとしても、あの父親ならば狂気に駆られて地の果てでも追ってくるだろう。青年の手の内などすべて見通されてしまう。
それにしてもまずは、青年の答えを待っている親友に……何と説明していいのだろうか。
どう親友に伝えればアーネの心が少しでも軽くなるのか考えて、青年は打ち沈んだ心地で、約束の場所へと向かうのだった。
終。
GJ!
リステインなんていい奴なんだ
自分の思いをあきらめて親友を応援していたのに
父ちゃん……
息子に知られて開き直った旦那様の動向がこわい
そしてロルフがある意味いちばん被害者か
あ、アーネがいちばんの被害者だった
よいこなので救われてほしい
やっぱり身分差の絡んだ恋愛は興奮する
耐える愛
>>130-
>>132のメイド視点過去と続き。苦手な人は回避お願いします
3レス頂きます
注意:メイドと旦那様の不倫。凌辱されるメイド視点
136 :
耐える愛1:2011/02/24(木) 08:27:39 ID:LJwVXQfR
幼い頃、両親が流行病で死んでしまった少女は、運よく近所の人の世話で貴族の家の使用人になる仕事を紹介してもらえた。
紹介されたお屋敷は立派で、今まで見たことのない……絵本の中で見るような世界。
その屋敷の旦那様も奥様もお子様もとてもお美しくて、王様と女王様と王子様だと幼心に思うほどだった。
奥様はその美しさを反映するように冷たく厳しかったが、旦那様は目が合えば、使用人だろうと微笑みを交わしてくれ。
珍しいお菓子が手に入っては使用人にもくばってくれる、素敵なお兄さんのようで。
そして、アーネはそんな旦那様に年の近いリスティンさまをよろしく頼むねと、言われてお傍につくようになった。
初めて働くという事に、やはり戸惑いや失敗や、辛いことも多くあったが。
一つ年下のリスティンさまは優しくて姉のように慕ってくれ、使用人のみんなも優しく、メイド長はまるで母親のように少女を厳しくも優しく指導してくれた。
家族を亡くしてしまった幼い少女には、とても居心地がよく。他の家の使用人と話すと、自分が勤めている屋敷の待遇がいかに素晴らしいか彼女は知った。
そんな温かいお屋敷にしている旦那様を、雇主として尊敬していた。
季節は廻り、少女は大人になっていった。リスティンさまは寄宿学校に通うことになり、少しさびしかったが、手紙を書いた。
そんなリスティンさまの何度目の休暇で帰省した時の事だっただろうか。親友だと言って、紹介してもらった青年、ロルフさま。
初めは冷たい印象のする方だと思った。朗らかなリスティンさまの親友とは思えないぐらい寡黙でクールな方だった。
けれど、意外に甘いものが好きでいらっしゃるとか、ちょっとしたことで照れてしまうところとか、真顔でさらりと褒めてくれる所とか。
時折見せてくれる笑顔に――胸がときめいてしまうのを隠しきれなかった。二人でいるときの沈黙でさえも心地よかった。
何よりも、立派な医者になって貴賤の区別なく病気の人を直したいという情熱。それが幼い頃両親を失った少女にはまぶしくて。
季節の折に何かとカードのやり取りをし、それが手紙となって、定期的な文通となり。リスティンさまの帰省に合わせて必ず遊びに来てくれる。
そして一年後。スクールを卒業した彼に、恋人になってくれないかとさらりと言われた。首を縦に振るしかなくて、その時初めて触れるだけのキスをした。
リスティンさまにも「おめでとう、ロルフなら一安心だ」と笑顔で祝福をされて、人生で一番幸せだった。のに。
その数日後。私は旦那様に書斎に呼ばれ……愛していると囁かれながら犯された。
信じられない出来事に、体と心が付いて行かない。嘘だとただの戯れだと思っていたのに、旦那様はその日以来何度も何度も愛してると言って――。
何故自分なのかわからなかった。旦那様は魅力的な美丈夫で、年を重ねても幼い時の印象のままに素敵な方で。
相手が一介のメイドでなくても、戯れ相手は望めばいくらでも手に入るだろうに。尊敬していた旦那様の豹変と裏切りに、心が痛い。
ロルフさまに会いたい――でも会えない、こんな汚れた自分で会いたくない。
そんなジレンマと誰にも言えない秘密を抱えながら、恥ずべき事だとわかっていても、ロルフさまと会うことはやめられなかった。
そして抱きしめてもらうが、身勝手にもキスは拒否した。旦那様に口での行為も強要されていたから、キスなんてできなかった。
会う時は全力で笑顔を作って、そして彼と別れて一人になると自分を抱きしめながら泣いた。
重大な裏切り行為を働いている自分。こんなのは許されない。でも……彼に会う事だけが、支えだった。生きている理由だった。
本当なら、別れなければいけない。でも、その決心がつかなかった。臆病でずるい自分。
しかし、ロルフさまを愛しているからこそ、無理矢理開かれる体と心の均衡が取れなくなる。体は心を裏切って淫らに感じてしまう。
何度目かの旦那様の呼び出し。ベッドの上で組み敷かれながら、舌を噛み切ろうとした。
旦那様は強引に自分の腕で、それを阻む。肉を噛む嫌な感触と血の味が口の中に広がって、はっと我に返る。
自分がとんでもないことをしてしまったと気が付いた。しかし旦那様は腕の痛みを感じていないかのごとく、狂気と熱を孕んだ瞳で囁く。
「君が死んだら、私は何をしてしまうかわからない……」
そう言われると、もう自害は出来なかった。
137 :
耐える愛2:2011/02/24(木) 08:39:31 ID:LJwVXQfR
旦那様ははっきりとは仰らないが、もし自害でもしたらロルフさまを……という事だろうと。愛する人を守りたいという直感で気づく。
――死ぬことも、許されない、の?
段々と、旦那様の要求はエスカレートしていき、そして最終的にロルフさまと別れるように言われた。
しかし、いいきっかけだったのかも知れない、自分は彼にふさわしくないのだから。
ある日とうとうリスティンさまに、この背徳の行為を知られてしまった。
旦那様を尊敬している彼には、本当の事など言えるはずもなく。しかし長い付き合いだからかすぐに見抜かれる。
父上を諌めてくるといって怒って部屋を飛び出した彼だったが――苦悩の表情で帰ってきた。
やはり息子であるリスティンさまが諌めても、旦那様は変わらない。あのおぞましい行為を、やめてくれない。
ロルフさまだけにはおっしゃらないでくださいとすがった。リスティンさまに知られただけでも、今すぐにでも消え去りたいのに。
彼に知られると言う想像だけで、どうにかなってしまいそうだった。
お優しいリスティンさまは泣きそうな顔で「何も出来なくてごめん」と謝り、それに頷いてくれた。
それからはロルフさまの事を考えながら抱かれ続けた。目を瞑り、耳を塞ぎ、この快楽は愛しい彼に与えられているものだと。そう思い込む。
嫌がっていた時は乱暴だった旦那様も最近は、まるで恋人同士のように優しく抱いてくるようになったので、その空想の中に逃げ込むのはたやすかった。
そんな中でも、ロルフさまからの手紙が届く――――愛していると。
破り捨てようとしても、その筆跡だけでも愛しくて、恋しくて、旦那様には見つからないように隠し持つ。
屋敷の人達に、旦那様と関係したと知られてしまうのはすぐだった。
リスティンさまに露見してからは、旦那様はもう恐れるものはないかというごとく。朝も、昼も、庭園や厩舎などの人目のつかない野外でさえも求めてきたからだ。
使用人達は段々とよそよそしくなり冷たくなった。旦那様を誑かす同僚とはどう接していいかわからなかかったからだろう。
母とも言えるかわいがってくれたメイド長は、冷たくはなかったのだけれど。本当のことがいえず旦那様との関係を正そうとはしない私に愛想をつかした。
好色な目で男使用人からは見られ、誘いをかけてくる男たちもいたが……そんな使用人は気が付くと屋敷に居なくなっていた。
その後に使用人達の悪意から守るためだ、メイドの仕事なんてしなくていいと言って、比較的通いやすい領地に、ヴィラを用意すると旦那様は言い出した。
「そんな私ごときにいけません」
拒否すると旦那様はとたんに不機嫌になって、乱暴に私を床に押し倒し、服を破るように脱がせる。
前戯もなくまだ十分に濡れそぼっていない蜜壺を無理矢理貫かれて、旦那様は自身で痛いほど乱暴に貫きながら、耳元でささやく。
「アレが会いに来るのを期待しているのだったら……無駄だよ」
確かにこの屋敷にいればどういう形であれロルフさまとお会いできるかもしれない。けれど、でも、もう会う期待はしていなかった。
「そうではなくぅ……あっ、はっ、そんな、ことっされてはぁっ……!奥様に、申し訳が……」
「そう言って、会いたいのだろうっ……?」
正常位から、繋がったまま足を持ち上げられ旦那様は肩にそれを掛けた。
斜めに旦那様のモノが入って違う角度で内壁を蹂躙し、無理矢理入れられたはずのそこはもう潤ってきている。
痛いのにむずかゆく、そしてもっとついてほしいと、中はねだって、そして自然と身体が旦那様のモノをもっとよく受け入れたいと動き出す。
冷たく硬い床に押し倒されているというのに、その痛みさえも熱を煽っていく。
「ちがっ……!はぁっ!ん、ん!」
「アレは、外国に、援助して留学させたんだ、最近手紙が……こないだろう?」
「あんっ!!」
隠していた秘密を知られていた。その一瞬で彼を思い出し、ギュッと膣が締まり旦那様を締め付ける。
「図星か……」
旦那様は体の反応で、私の心を読み取ると、ロルフさまの事を忘れさせるかというように、さらに一段と激しく中を犯していく。
「愛している……君の全てが、欲しいんだよ、私は……っ」
胸を、心臓をわしづかみたい、心を奪いたいというかのごとく、乱暴につかまれる。度重なる行為の所為か、先もすぐに痛いほど硬くなる。
「旦那さ……まっ!あ、あ、私は旦那様のモノ、で……す」
――――心、以外は。
私は泣いた。でもそれは痛みの所為ではなく、どん底の中でも嬉しさを感じたからだ。
138 :
耐える愛3:2011/02/24(木) 08:49:46 ID:LJwVXQfR
父親の跡を引き継いで、医者になるのが夢だと言っていたロルフさまが語っていた夢は、最先端の医療を学ぶための留学だった。
それがこんな形でかなうなんて、なんて皮肉。それは私が彼のお側にいても、叶えて差し上げることが出来なかった有意義な事。
それから間もなく、私は連れ去られるようにヴィラに連れてこられた。
使用人としての仕事、忙しくしていれば何もかも忘れられる唯一の手段も封じられたが、私はこの檻にとらわれる事を選んだ。
旦那様は、こんなに頻繁に通ってきてもいいのかと疑問視するほどに、私の下に訪れた。
できるだけお仕事をしてくださるように――ご家族を大事に優先してくださるように、使用人としての態度を取ると、また不機嫌になるがそれだけは譲れなかった。
流石にとても大事な夫人同伴の夜会をすっぽかしたことで、奥様がヴィラにやってきて罵られ、鞭で叩かれたが……それでも、私は出てゆくわけにはいかなかった。
もう守るべきものがあったから。
ここに私が居るだけで、旦那様はロルフさまには悪いことをしないとわかったから。
私と彼を引き離すためだろうが、留学という形をとってくださったから。だから、旦那様を裏切るわけにはいかない。
それにどんなに酷いことをされても旦那様を嫌いになれなかった。幼い頃どれだけ優しかったかと胸に刻みこまれている。
二人の息子というのに、時折訪れるリスティンさまはアーネに優しかった。
彼の父、彼の母、彼の親友。そして彼自身。
彼の周りの人の心をかき回すような忌まわしい女なのに。彼の態度は昔と変わらない。
信頼と尊敬をしていた旦那様に脅され、組み敷かれる――空想の中に逃げ込むしかない地獄のような日々の中、彼と話すことだけが安らぎで。
だからつい、心の底にしまって、二度と口にださないと誓った事をつい漏らしてしまう。
「ロルフさまに……会いたい」
――手紙はもう、来なくなっていた。
こんなことを言ってはリスティンさまを困らせてしまう。そうはっと気がついても後の祭り。あわてて嘘ですと言いつくろう。
そんな事がわかれば、旦那様に何をされるかわからない。そして今更、どんな顔をしてロルフさまに会わせる顔があるのだろうか。
もう二人は別れたのだ、しかも一方的に。こんな自分の事など忘れてしまっているに違いない、それでいい筈なのに、胸が苦しくなる。
忘れてほしい、けど……忘れて欲しくない。そんな矛盾した、身勝手な心。
そんな自分に、苦しいからといって現実から逃避していたつけがまわってくる。
私は体調不良で倒れ、自分が懐妊したことを知った。
終わり。
おおおGJ!
アーネのいじらしさがせつねえ
そして旦那様吹っ切れぶりがいっそすがすがしいw
リスティンがヴィラを訪問しているのを知ったら
また騒動になるのでは?
奥様の出方も不安要素だし目がはなせない
本当にGJ
>>137GJ!
アーネの心情がすごく丁寧でひきこまれる
教授と助手
お祝い編
「じゃあ、改めて。卒業と助手の就任おめでとう」
元彼とのことがあってからだいぶ経っていた。新年度からの毎日はやはり私も彼も忙しかった。
春の学会を終え、病棟業務や手術のペースに体を慣らし、と私もあちこちを動き回る。
気付けば四月も終わろうかとしている頃だった。
その夜の彼はいつも以上に機嫌がよさそうだった。
やあ、来たねと背中に手をあてられエスコートのような形でソファのところまで移動する。
並んで腰を下ろしたところで、彼が包みを私に差し出した。
「形に残るものはどうしようかと思ったけれど、受け取ってほしい」
あまりに思いがけなかったので、手の中を包みと彼を交互に見てしまった。
この関係が始まったときに二人の間には何のやりとりもしない、と取り決めてあった。
実際には彼から本をもらったりはあったけれど、それは指導の意味合いもあって許容範囲内と思う。
私から彼にはチョコレートをあげたくらいか。形に残るものはあげていない。
だから彼からのプレゼントに驚きと、とまどいも感じた。受け取っていいのだろうかと迷いながらも礼を述べる。
「ありがとうございます」
どうしよう、この場で開けてもいいのだろうか。私に彼が笑いかける。
「開けてみて」
頷いてリボンをほどく。包装紙を取って中の箱を開けた。
そこにはシンプルな女性用の腕時計がおさめられていた。
デジタルではなくアナログで、脈を測定するために秒針がついたもの。
医師として必要な要素をおさえていて、私の好みのものだった。彼は私の表情をうかがっている。
「ちゃんと防水仕様になっている。気に入った?」
「教授、ありがとうございます。本当に頂いても?」
頷きながら、それでも彼に問う。
「良かった。もちろん。サイズを調節しようか。手を出して」
彼は私の手首に時計をはめる。器具を使わずにサイズ直しができるタイプのようだ。
男性のように手背側にフェイスがくる様に時計をはめる私の癖を知っていて迷うことなくその形で調整してくれた。
「これでよし、と。時刻をあわせようか」
彼は自分の時計を見ながら時刻あわせをして、もう一度私の手首にはめた。その手を持ち上げて検分する。
「よく似合う」
いつまでも見つめているので気恥ずかしくなってくる。ずっと彼に手をとられているのにも緊張してしまう。
満足したのか、彼は時計をはずし余った部品とともに箱に戻した。
そして引き寄せられ祝いの言葉を耳元で聞いた。
「ありがとうございます」
体勢は恥ずかしいが、祝いの言葉は嬉しい。
彼が柔らかく笑って唇を塞いでくる。眼鏡をはずされ密着すると体温が上がってくる。
彼は雰囲気をつくるのが上手だ。柔らかく啄ばむように何度も唇で触れて、徐々に時間が長くなってくる。
指先で耳をゆるゆると弄ばれて段々と力が抜けていく。
――彼に夢中になる人が多いというのが分かるかも。
学生の頃から、研修医の時も彼がもてていた話は聞いている。それも納得できる気がする。
こんな抱きしめ方をされて口付けられたら。
とても大事にされている気がしてしまうから。錯覚だと分かっていてもだ。
口付けが深くなって彼の舌が入り込む頃には、全身に熱がまわっていた。
彼の服をつかむと満足そうな顔になる。
彼の唇が首筋をおりて鎖骨をすべり、その間に器用に服が乱された。
首を痕をつけないように吸われて甘噛みされるといつも切ない、疼くような不思議な感覚にとらわれる。
彼の舌は胸をたどり乳首に吸い付く。下からすくうようにもまれて、乳首は吸われてちろちろと舐め転がされる。
かり、とそこを噛まれるとのけぞるような、電流のような快感が背をはしる。
その夜の彼の愛撫は執拗だった。
「んっ、教授……どう、されたんですか。今日、は、いつもより……」
たまらず尋ねると彼は胸から顔をあげ笑みを浮かべる。
「今日は君のお祝いだ。だから、ね」
そして胸への刺激が再開された。指も使って反応して尖りきった乳首を攻められ甘やかな感覚に支配される。
両方の乳首を口と指で嬲られ快感がある点まで引き絞られる。
口を両手で押さえて声を殺しながら、達してしまった。
「胸で一回」
ソファに横向きに沈んだ私に満足そうに告げて彼は私の足元に腰掛ける。
足首からなで上げられて、絶妙な力加減に体の中にさざなみが立つ気がする。
彼の指は危険だ。触れられるとその感触が私に浸透して、私を変質させる。私の奥深くが揺らいでしまう。
「いった君が、どんなに俺を誘惑するか知ってる?」
愛しげにさえ思える口調と視線で、彼は私の足を撫でさする。
「ぐったりしているくせに、目で俺を誘う。乱れた息で俺を誘う。君は本当に……」
その後の言葉は途切れた。
するりと下着を脱がされ足を開かされる。
そこにいきなり彼の息がかかり、あっと思った時には彼が顔を埋めていた。
熱くぬめる感触がすぐに襲ってきて達したばかりの私はすぐに追い上げられてしまう。
陰核を舐められすすられたかと思うと、尖らせた舌で嬲られる。中にまで舌が入り込み溢れた粘液をすくわれて、
ざらついた舌でまた陰核を舐めあげられる。
いやらしい水音が響く。それすらも脳が快感として捉えている。
舌をねじ込まれてすすられ、たまりかねて腰が浮く。
「あっ、やぁ、あぁ……」
手で押さえていてもくぐもる声は完全には抑えられず、体の中に孕んだ熱を逃がそうと捩ろうとする腰はがっちりと
彼の手で押さえられ、与えられる強烈すぎる刺激に喘ぐしかなかった。
陰核を吸われ笑ってしまうほど早く二度目の絶頂が訪れた。
胸とは違う、その余韻は長く続く。びくりびくりと止められない動きが我ながら淫らと思う。
彼が顔を上げた。口元が濡れていて私の羞恥心を煽る。
「口で一回」
指でもいくかい?彼の言葉に顔が引きつるのを感じる。前戯でこれ以上達したら自分がどうなるか分からない。
そんな私を彼は不思議な表情で見つめる。
「これからも、ここにいてくれ」
助手になるのだから、数年は大学を拠点に仕事をする。だからここにいるのは当然なのだが。
意図が分からず首をかしげた私を見てまた彼が微笑する。
頬に手を当て唇に触れるだけの口付けを落とした彼はベルトを緩める。
私の片足を肩に上げ、まだ力の抜けている私の中に入ってきた。
今日の彼は反則だ。私が彼の欲望を処理するはずなのに、私ばかりを気持ち良くするなんて。
でもこれが彼の言う『お祝い』なのだろうか。
貫かれる刺激に軽く達する。
彼の質量と熱が私の中に埋められ、その摩擦が私を支配する。
愛情も、生殖目的もなくただ刹那の快楽のためだけになされる行為。それに溺れてしまう。
「あぁ、くっ……そ、こぉ」
「感じる?もっと?」
いつもよりも執拗に感じるところを擦られ、閉じた目蓋に光が踊る。肩にあげられた足を下ろされ、大腿の裏に
手をかけられて体が折りこまれた。その体勢で深く突かれ、頂点へと押し上げられる。
背中が反るのを自覚した次にはもう、彼をのみ込んだまま痙攣していた。
「……中で一回」
彼はちゅっと口付けながら、律儀にカウントしている。一度彼が離れて体をひっくり返される。
息も整わないうちに体勢を変えられ大腿がまだ震えている。
スカートを腰までめくりあげられて臀部を晒される。腰だけを突き出す形になって、後ろから彼に挿入された。
最初から奥を突かれ目の前が真っ白になってしまう。
ただでさえ恥ずかしい体勢なのに、時々臀部をなでられ背筋に何かが走る。
「んうう……はぁ、あ、んっ」
繋がっている場所からの音と、彼が打ちつけるたびに体が触れてたてる音が理性を浸食していく。
下からまわした手で胸をもまれ、その後で陰核にも指が這わされて、もうどうしていいか、どこで感じているのか
分からない程彼から与えられる快感で乱れきってしまう。
ソファのクッションに口をあてて声を押さえるけれど、これがなかったらさぞはしたない嬌声を上げているだろう。
なのに彼は背後からかぶさって顎に手をかけて顔を上向かせる。
「いく時の顔、見せて」
「や、こえ、でる」
必死で声を殺しながら言葉を紡ぐ私のなけなしの理性を封じるように、ずくりと奥に突きたてられる。
「きょうじゅ、だ、め、いっちゃ、う……」
「いけ、何回でもいっていい。俺で――溺れろ」
中の彼を感じまた達してしまった。その時は彼に口を塞がれていた。ひくつく中に彼から注ぎ込まれるのを感じる。
「――二回目」
「もう、数えないで……」
ソファに脱力して沈んだ私に彼は、さすがに少し乱れた息で笑いかける。
「お祝いだって言っただろう。どこまで君に奉仕できるかな。本気でいかせてもらうよ」
その後も……もう数えたくなかった。彼の本気は私には……どこまで体力があるんだ。
翌日が祝日でよかった。そうでなければ私は情けない理由で遅刻だったかもしれない。
終わり?
おまけ
起き上がることができずに彼女はソファで俺に抱かれながら眠り込んだ。無理をさせすぎたか。
大人二人が眠るには狭いソファで横向きになって抱き込んだ彼女を見つめる。
――ここにいてくれ。
想いをこめた言葉だったが、わざと意味はぼかした。俺の側に、いつまでも。
好きだ、とも愛している、とも言えない。言えば上司と部下の関係が崩れてしまう。
彼女はそれを望んでいない。手軽な処理係としてこの関係を捉えているのを混乱させてしまう。
俺が好意を示したときの彼女の反応が恐ろしい。応えてくれるとは思えない。楽観するほど能天気ではない。
今だって彼女に俺の技術と知識を教えているからいてくれるのであって、教えるものがなくなったらその時には
彼女は俺から離れるだろう。
それが恐ろしいから必死に最新の知見を吸収している。新しい機器も率先して技術の習得に努めている。
彼女の前を走り続ける。傍目には余裕でこなしているらしいがとんでもない。
彼女の吸収力は素晴らしいからどんどん腕を上げている。おそらく同期の中でも出世頭にしても異論はないだろう。
彼女との関係が俺自身をも磨いて高めてくれる。今まで俺にこんな影響を及ぼした女性はいない。
いつまでも側には置いておけないかもしれない。彼女の自立は早いかもしれない。
それを一日でも遅くしたい。
一日でも長くこうして彼女を腕の中に留めておきたい。
せめて今だけでもと初めて見せてくれた寝顔と、無防備な温かさと柔らかさを堪能する。
仮眠用の毛布を二人でかぶり幸せな気分に浸る。
机の中には彼女に贈ったものの男性用の時計が入っている。人前ではつけられない。
ただ持っていたかった。
普段も時計しか見につけない彼女の手首を、俺の贈ったもので飾りたかった。
彼女に俺の物をつけさせることで密かな所有欲を味わいたかった。
彼女と同じ時を刻みたいだなんて、俺はたいがい彼女に囚われてしまっている。
終わり
gj!
まじでいつも楽しみだ
教授は想いを自覚したけれど
こんな動けない状態がどうやって動き出すのか楽しみ
>>140 いつもながらにエロくて二人の関係の変化も感じ取れてGJです!!!!!
好きだなんていえないとか……なんて言っている場合じゃないよ!教授
前回の敵は最低男だったから完全圧勝だったものの
助手にまともな男が言い寄ってきたらどうするんだ
美人で患者さんにも人気があって
クールなのにふとした瞬間可愛さがチラリと見えるだなんて
実は裏でモテモテだろうJK。
普通なら早く捕まえないとトンビに油揚げ攫われるぞ頑張れ教授w
まぁそういうのも大好物ですがw
そしておそろいの時計買っていたのかw
ちょっとずつ変わってきた二人の関係と思いがいいです!
GJ
最近旦那様→メイドモノを投下させてもらっている者なんだが
次作は旦那様の奥様(リスティン母)の使用人視点で
奥様←使用人になってしまったんだがこっちに投下していいものだろうか
書いた後に女主人スレに投下したほうがいいだろうかと気になったんで…
>>149 個人的にはここで読みたい気がする
もう少し意見を募ってからでいいと思うが
注意書きをしっかりすればおkと思う
ただ最近他でスレチで荒れたのも知っているから悩む気持ちは分かる
私的には長編の一部でスレ違いがあっても
その作品全体は「男主人・女従者」の作品であればいいと思うけど
一話完結みたいに書かれてるから
大事を取って女主人・従者スレの方がいいかもな
というかこのスレ人あんまりいないし
幅広い意見は聞けなさそうだが・・・
>>149 このスレの主旨にそった全体のお話の中の1エピソードなのでしょ?
ならば大丈夫ではないかと
事前に注意もされてるわけですし
別に前の大臣×未亡人←陛下も
大臣×未亡人は別に主従じゃないのに投下されてても文句でなかったから
本筋が男主女従なら許容範囲かと思ってたよ
メインテーマに付帯するってか補強する話しならここで良いんじゃない?
と、言うかここで読まないと向こうじゃ訳わかんなくなんね?
うん、ここででいいと思う
157 :
歪んだ愛:2011/03/04(金) 00:51:46.08 ID:JiFczF/k
>>150-156色々と意見をありがとう。
こちらでも構わないようなので投下させていただきます。4レス頂きます。
>>139の奥様は?というレスに応えられるかわからないが
>>136-132の奥様のお傍付使用人の過去から少し未来までの視点。苦手な人は回避お願いします。
注意:基本話はメイドと旦那様の不倫。旦那様の奥様付きの使用人視点。旦那様より病んでます。エロなし。
158 :
歪んだ愛1:2011/03/04(金) 00:54:26.24 ID:JiFczF/k
私のお仕えする侯爵家のお嬢様はとても美しく――そして高慢だった。
普通なら、現実に打ちのめされて自分勝手な我儘は許されないと言う事を学んでいくが、お嬢様は違った。
それだけの無理を通す財力が、侯爵家にはあった。そしてお嬢様自身の美しさと優雅さが周りが甘えを許し拍車を掛けた。
美しいというのはそれだけで、罪だ。私はその我儘さえも愛した。
こちらは有能で……使用人を使い捨てることも厭わない侯爵家の方々にすら頼りにされている上級使用人。
使い捨ての下級使用人とはご家族の態度は一線を画し、それが私の自尊心を保つといえど、身分違いの恋。
私はお傍に居られるだけで幸せだった。滅私で仕えていた。
そんなある日、社交界デビューを果たしたお嬢様が夜会から興奮した体で帰ってきて、私に言った一言。
「素敵な方を見つけたの!私の旦那様は彼しかいないわ!」
貴族年鑑も頭に入れていた私には、そのお相手の名前を聞き、今度の要求はいくらお嬢様でも無理難題のように思えた。
相手の方の家格はこの家と同格かそれ以上。
しかし、旦那様と奥様は何とかお嬢様とその殿方との縁談を取り付けた。
私がその方に会ってみると、なるほどと嫉妬心よりも納得する心のほうが大きいほどの、麗しい貴公子だった。
金糸の髪と吸い込まれるような青の瞳。その顔は美しく整っているが、だからと言って女々しくはなく、男らしさも備えている。
貴族的な優雅な振る舞いと、使用人だからと言って軽んじられることもなく話してみると頭の回転もよく、ユーモアも持ち合わせているようだった。
自分より優れた相手ではないと認められない、だからと言って優れた相手が本当に出てきたとしても、結局は認められないと思っていたが。
――完敗だ。
私は、どうせお嬢様を奪われるなら、より良い最高の相手にと、彼に嫁がせることに積極的になった。
「もちろん、ついてきてくれるのでしょう?」
嫁ぎ先へも、お嬢様は私を連れて行く気だった。そして私も当たり前のようについていく気だった。
この誰もが羨むほどの美男美女の待ち望んだ結婚は……
お嬢様にとっての不幸の始まりだとはこの時誰が予測できただろうか。
結婚生活は、最初の頃は表面上うまくいっているかのように見えた。
しかし派手な外見とは裏腹に温かい家庭を望む旦那様と、艶やかに派手に社交界をいつまでも騒がせたいお嬢様の結婚生活が上手くいくはずもなかった。
沢山子供が欲しいと望む旦那様に、体のラインが崩れるから嫌だと出産した女の体形の崩れる醜さを事あるごとに言っていた。
しかしそこはご夫婦、何度もベッドを共にするうちに……子供ができた。
それでもお嬢様は派手に遊びまわることを辞めず、流産しかけ、それを悪びれもせず自分の享楽を追い求めるお嬢様に旦那様は困惑気味だった。
旦那様は私のように達観してはいない。そのお嬢様の我儘についていけるわけはない。求めるものが違う。
二人の仲は急速に冷めつつあった。それも旦那様の方だけ。
お嬢様はなぜ自分の享楽に付き合ってくれないのか、本当に分からないようだった。
自分の夫なら自分に付き合うべきと、本当に愚かにもそう思っていた。
子供は男の子で無事に生まれたが、お嬢様は育児に関心がなく、貴族にあるべき教育姿勢で雇った乳母任せ。
自分が気が向いたときにだけ構うと言ったありさまだった。
それは社交を大事にする貴族の当たり前の母親像だったが、反対に旦那様は坊ちゃまを慈しむ。
そうこうしているうちに、旦那様はもうお嬢様には期待していないかというかのように浮気をし始めた。
お嬢様は内心は穏やかではなかったが、それを顔に出すことはプライドが許さない。
そして「浮気」だと割り切ってあきらめているようだった。
貴族では当たり前の遊戯。
むしろステイタス。
どうせ「浮気」なのだから、一番は妻である私――旦那様は必ず自分の下に帰ってくると。
それを現すかのごとく、旦那様はどんな愛人を持とうとも、妻であるお嬢様を優先させた。
そして、必ずお嬢様の下に返ってきた。
魅力的な夫を持つ、寛大で物わかりのいい奔放で美しい妻。理想的な夫婦。それがお嬢様お気に入りの風評だった。
159 :
歪んだ愛2:2011/03/04(金) 00:58:54.06 ID:JiFczF/k
お嬢様と旦那様は夫婦だったが、今やお嬢様の片思いだった。
――その気持ちはお嬢様が少し他者を思いやることで手に入れられたのに。
旦那様はお嬢様の本当の気持ちに気づかず、彼女は生まれながらの貴族でそれを期待するのは間違っていると。
坊ちゃまが大きくなるにつれ夫婦の溝は深まっていった。
しかし、表面上は変わらないのでお嬢様は気が付かない。
そのお嬢様上位の生活はある娘の所為で、一変することになる。
ある時から、旦那様が一切の女遊びを辞めた。
その少し前に、旦那様が火遊びを持ちかけた相手が、お嬢様の気に入らない夫人だったのでお嬢様には珍しく愛人の事で詰った。
お嬢様は旦那様が反省しておとなしくなったと思っていたようだが、私はその本当の理由を知っていた。
そんな事いつも旦那様を見ていればわかる。
――旦那様は本当の恋をしていた。
しかも相手は、坊ちゃま付きの親子ほど年下のメイド。
普通に見ればそれなりに可愛い少女であるが、お嬢様と比べてしまえば美しさは足元にも及ばない、野暮ったく、どこにでもいる普通の娘だ。
奥様が温室で磨かれて作られた大輪の薔薇ならば、野菊のような印象を受ける。
しかし、慈しむように微笑む顔や、献身的に仕える姿。そして旦那様を親愛と尊敬のまなざしで見る目。
惜しみなく注がれるそれは、家族に飢えている旦那様にはたまらなく魅力的に見えたに違いない。
今までの浮気相手にはなかった魅力……だからこそ、浮気は浮気で済んでいたのに。
旦那様はその気持ちを悶々と抱えているようだった。
良識が邪魔をして、自分の気持ちを誤魔化そうとしているのが私には手に取るようにわかる。それは他人事だから。
私はそんな旦那様を、ある感情から、お嬢様には内緒で追い詰めていく。
メイドへの気持ちを加速させていく手助けをした。
どうやらあれほどの戯れを重ねながらも、旦那様は人を好きになるということが初めての事らしく、それは愉快なほど簡単だった。
そして、私は旦那様に、お気に入りの娘が坊ちゃまの親友と交際し始めたと囁く。
――このままでは二度と手に入らない、と。
あとは予想通り、旦那様はメイドへの愛に歯止めがきかず暴挙にでた。
心が手に入らないなら、体を奪うなんて単純もいいところだ。
お嬢様にそのことが知れるのはすぐだった。
しかし、いつもの「浮気」だと思っているようだった。
使用人に恋をするなんてお嬢様は考えもしないのだろう。それは彼女にとって人が牛馬に恋をするほどの不可解な事だったからだ。
使用人の事は人扱いしていない、お嬢様は油断している。
自らの価値観がすべてでそれでしか見えない――愚鈍で可愛いお嬢様。旦那様の瞳はあの娘を常に追っているというのに。
正妻という揺るぎない地位で、今まで蔑ろにされたことがない経験で、高を括っていたのだ。
しかし旦那様はメイドに異常なほどのめり込んでいく。浮気ではなく本気なのだから当たり前だ。
寧ろ、旦那様の意識下ではすでに妻であるお嬢様の方が浮気相手であり、立場が逆転している事なんて夢にも思っていないだろう。
お嬢様もそれを無意識に感じ取ってか、比例して日に日に不機嫌になっていく、しかし矜持で堪えていた。
160 :
歪んだ愛3:2011/03/04(金) 01:04:04.66 ID:JiFczF/k
旦那様はメイドに誘いを掛けたという理由だけで、屋敷からその男使用人達を紹介状もなしに追い出した。
彼等は他の屋敷でも使って貰える事はもうないだろう……を見てもまだ危機感を持っていなかった。
次に旦那様はメイドのために不相応な規模のヴィラを用意した、そこに旦那様が入り浸る生活を続けても堪えた。
しかしある日。
旦那様はメイドの体調が少し悪いという理由だけで、お嬢様が重要視していた夜会のエスコートを断った。
生まれて初めて、あからさまに人に蔑ろにされるという経験。しかも大事にしている人に。
お嬢様を支えていたものが折れた瞬間だった。
旦那様の気持ちを手に入れるのには、自分が変わるしかなかったのに。それでも学習しなかった。そのツケがまわる。
そして愚かなお嬢様は、諸悪の根源はメイドの所為だと……自らを省みる事もせず。
旦那様が領地を治める関係で長期で不在にする時期。ヴィラに行きメイドをその美しい顔を歪ませて詰り、自らの手で鞭で打ち据えた。
初めは詰るつもりだけのはずが、鞭で打ち据えるほどの激情に駆られたのは、どれだけメイドが旦那様に愛されているか目の当たりにしたからだ。
ヴィラの内装は旦那様のセンスで、流行を取り入れながらも最上級の家具をそろえられ過ごしやすく改装されていた。
そしてなによりメイドの着ているドレスは、旦那様の親しくしているミルドレイク伯爵夫人のデザインされたドレスだ。
夫人のデザインするドレスは一流の証。王族でさえも半年待ちというほど大人気の夫人の例外が旦那様の頼みごとで。
お嬢様でさえめったに新作は作っていただけないモノだ。それを当たり前のようにメイドは着ていたのだ。価値も知らずに。
久しぶりに会うメイドは、旦那様の手で一流の淑女へと変貌していた。
お屋敷で働いていたころにはなかった頼りなさげな危うげな雰囲気が、男の劣情をそそる。
変われば変わるものだ。女という生き物は本当におそろしい。
しかし、幸せそうには見えないと言うことを、お嬢様は見抜けない。
メイドは自らの立場を弁え抵抗することなく、お嬢様の仕打ちに黙って堪えていた。
この分だと旦那様に告げ口をすることもないだろうが。それが益々奥様の心を苛立たせて行く。
その時のお顔は激しく、醜くもあり同時に美しかった。
長年の付き合いである私が、初めて見るお嬢様の新たな魅力に興奮してしまう。
私個人の感情としては、メイドに全く思うところはなかったが。この時ばかりはメイドに感謝したいぐらいだった。
そして散々打ち据えた後でもメイドは旦那様と別れるとは頑として受け入れなかった。
お嬢様の責めは鞭を振るだけでは飽き足らず……服も破き、髪も鷲掴みメイドを追い詰めるだけ追い詰める。
どんなことをされてもメイドが首を縦に振る事はないと「理由」を知っている私は、止めることにした。
これ以上やって、お嬢様が人殺しになってしまうのは好ましくないし、お嬢様がお怪我をしてもいけない。
何とかお嬢様を宥めて、屋敷に帰ると……お嬢様は苛々と爪を噛んで考え込んでいた。その姿も私には美しい。
その状態が続くこと数日、ある新興の企業家が開いた夜会に行って、さっぱりしたお顔をして帰ってきたお嬢様。
「偶然にも、今日珍しい方にお会いできたの」
話を聞いてみるとどうやら、夜会でフィアゴ伯爵に会ったという。
社交界でもごく一部の情報通な人間しか知らない、悪趣味な性癖を持つと名高いフィゴア伯爵。
彼を見て……彼にメイドを払い下げるという計画を立てたらしい。しかもすでに話はつけているとのことだった。
お嬢様はメイドさえ排除できれば旦那様が元通りになると信じて疑わないでいる。
「あの女さえ居なくなれば……目を覚ますでしょう」
伯爵と関係した女性は一月も絶たないうちに廃人になるとか……まことしやかな噂が流れている。
ただの人買いではなく、メイドの捨て先を伯爵にするなんて、お嬢様の深い恨みがうかがえるような気がした。
161 :
歪んだ愛4:2011/03/04(金) 01:21:16.52 ID:JiFczF/k
そのお嬢様の計画は、あっさりと失敗した――旦那様に露見したのだ。
旦那様は領地の中でも僻地にある屋敷に、お嬢様の生活の拠点を移すことにお決めになった。
何故ならその屋敷には……堅固な塔があり。高貴な者を幽閉するためには格好の場所だったからだ。
そこにお嬢様を対外的には病気のための療養という名目で旦那様は閉じ込める。勿論お嬢様に拒否権はなかった。
塔の中の部屋はそれなりに整っていたが、メイドに与えたヴィラとは過ごしやすさは雲泥の差だ。
それは、愚かなお嬢様にもはっきりと目に見える――愛の差だった。必要最低限の義務という名の。
そんなお嬢様には墓所ともいえる部屋を用意して、旦那様はお嬢様にこれからの事を告げる。
「君は何も心配しないでもいい。君は病気で……かつ懐妊しているので静養中ということにしているよ」
「懐妊?」
「ああ、君も知っているがアーネに子供ができた、その子も君の子ということにして私は正式に育てたい」
「そんな勝手な……嫌よ、絶対に嫌です!」
「君に拒否する権利があるとでも? 君は私の子供を産みたくはないと言っていたじゃないか」
「そ、それは……」
「これからは大丈夫だよ。君には期待しない、これからは彼女が産んでくれるから。
だから君は妻として美しく居続けてくれるだけでいい、ここで」
「あなたっ……」
そう昏く笑う旦那様の顔はどこまでも優しく――そして残酷だった。
お嬢様が幽閉される塔から私と旦那様は出ると、旦那様は心底ほっとしたようにつぶやく。
「よかったよ、君のような冷静な判断を出来る人間が彼女についていてくれて」
「恐れ入ります」
計画を漏らしたのは――勿論、私だった。
お嬢様にはもう真相を知る手立てはないのだから、伯爵側から計画が漏れたと説明している。
「かつては妻と思った人に酷いことはしたくないからね。リスティンも悲しませたくない
……彼女を失うことになったら私は何をしてしまうかわからないから仕方ない」
「寛大な処分に感謝を。私の方もお嬢様が旦那様に捨てられてしまうと大変困ったことになりますから」
恋に狂う旦那様の行動は、簡単に予測と誘導ができた。
メイドの危機を事前に防いだにも関わらず、この処分。
本当に計画が実行されていたら……私はお嬢様を一生失ってしまうだろう。
それだけは避けなければならなかった、お嬢様を裏切ってでもそれだけは譲れない。
「お嬢様の事は、今後すべて私にお任せください」
「ああ、頼んだよ」
旦那様は今までの働きの功績としてお嬢様の全権を私に託された。
手の中に握られた塔のカギ――それは、お嬢様は私のモノになったという事と同義だ。
お可哀そうなお嬢様。
自分がもう旦那様に、必要とされていないと今度こそはっきりと気づかされたのだ。
今頃、塔の中で泣き崩れている事だろう。そして私の事が無能だとでも罵っているのかもしれない。
それでもいい。
私はずっと……この愛が報われなくとも、私だけは最後までお嬢様のお傍におりますから。
だからご安心ください私だけの愛しい人よ。
終。
GJ!
冷静な視点とお嬢様への偏愛に萌えた!
おそろしく有能な人が本気になっている時のこわさがじわじわくる
「奥様」ではなくて「お嬢様」なんだ、その筋金入りが半端ねえ
ぞくぞくするわぁ……GJ。
教授と助手の小ネタ
教授外来編
エロなし
院を卒業し助手になった。今では病棟医長も兼任している。
病院業務として教授外来は週に一度、午前中に行われている。
その際は若手と中堅どころの医師が一緒について、カルテの入力や検査の手配などをやることになっている。
今日は私が中堅どころとして外来に付いた。
教授外来の日は、外来スタッフも患者さんも心なしか緊張しているように思う。彼は決して怖くない、はずだ。
なのに存在感はすごくて、入ってくるだけであたりを払う雰囲気が感じられる。
リスト順に患者さんをインターホンで呼び出し、彼の外来が始まった。
主に術後最初の外来の方、彼が医学的に興味を持っている方、そして紹介の方などを診察してゆく。
彼は患者さんにも態度を変えることはなく、気さくな態度で接している。
医局員には何を考えているのかと意図が読めずに不気味がられている点も、患者さんには偉ぶらずに接してくれる
有難い先生として映るようだ。
特に問題なく外来が終了してほっとした空気が漂ったその時に、私に他科の医師が相談に来た。
他科にすすんだ同級生だ。懐かしくて声が弾む。
「あれ? 大学にいるんだ」
「ああ、先月に戻ってきた。うちの科の患者さんの症状がどうもこちらの範疇らしいので、診てもらいたいんだけど」
同級生の要請だ。カルテを表示して確認する。症状や検査結果は確かにうちのようだ。
入院と緊急ないし準緊急の手術が必要と思われたので教授にも了承をもらって、病棟の空きベッドを思い浮かべる。
「じゃ、混合病棟のベッドで入院させます。落ち着いたら退院かそっちに転科でいいですか?」
「そうしてもらえると助かる。こっちの基礎疾患については薬剤は継続でかまわないから」
話はまとまり、師長に連絡して救急外来からそのまま入院の運びになる。主治医は私だ。
「そういえば、学内に残っている同級生で今度会おうかって話になっているけど来る?」
「うーん、どうなるか分からないけど連絡してもらえると」
「分かった。アドレスは変更ない? じゃそれに連絡いれる。お邪魔しました。よろしくお願いします」
元同級生はそう言うと忙しいのだろう。慌しく外来をあとにした。
入院の指示を入力しながらふと気付くと、腕組みをして不機嫌そうな顔がそこにいた。
「教授、なにか?」
普段なら外来が終わればさっさと引き上げる彼が珍しく残っている。
若手医師と看護師はすでに潮が引くようにいなくなっていた。
「あの先生ともつきあいがあったの? アドレス教えているんだ」
そう言われて目が丸くなる。
「え、と学生の時に講義や試験などの学内通達用に、大学から学籍番号を使ったアドレスをもらっています。
それのことですが」
今もそれに大学からの連絡などがメールされている。
私の返事に彼はちょっと慌てたようだった。
「あ、そう、なんだ。そっか。うん。じゃ、俺はこれで」
そそくさと立ち去る彼をコンピューターの前に座ったままで見送る。
らしからぬ姿に首をかしげるが、気を取り直して画面に向かう。
件のミニ同窓会は日時を知った彼のあてつけのような呼び出しで阻まれてしまった。
全くわがままで子供っぽい人だと思っていたけれど。
最近の彼は少し変かもしれない。以前から変ではあったけれどそれとは違うような気がする。
以前より感情の起伏が目に見えるし、なにより部屋での彼の振る舞いが……
抱きこまれる時間が長くなったり、そうかと思うと何も言わずにじっと顔を見たり。
なんとなくこちらの調子も狂ってしまう。
終わり
リアルタイムキターー
嫉妬してミニ同窓会に行くのを邪魔する教授……
ただそれだけの事なのに
>>164の教授と助手だとニヨニヨしちゃうぜGJ!!!
まったくニヨニヨのGJだぜ
ところで…、助手の経歴って
医大生(6年)→大学院(2年)→今ここ?
院と研修医ってどうなってるの?
教えてやさしいひと!!
>>168 医学生6年→研修医2年→入局1年→院4年→助手
なので年齢的は結構苦しい
そこには目をつぶってくれるとありがたい
連投すまんがエロなしであんまり短かったので投下
教授と助手
前半は教授が振り回され、後半は振り回す感じ
「ここの血管構築が良く分からないから読影室に行きます、今の時間なら講師の先生がいるはず」
待て、あいつは女に手が早い。学生の頃からだから筋金入りだぞ。
→医局に放射線科と同じ読影システム入れた。
「ここの組織どうなっているのかな? 医局の顕微鏡はいまいちだから、病理の教室に行ってきます」
待て、病理の准教授は離婚したてで飢えている。
→医局の顕微鏡を差し替えた。
「胆道内視鏡や治療内視鏡の勉強もしたいから、どこかに国内留学でも……」
待て、待ってくれ。
→通えるところの友人の専門医に話をつけた。週一で行けるように手配する。でも何で消化器内科?
「最近医局の設備がすごく良くなって、仕事や研究がはかどるんです。皆喜んでいます。ありがとうございます。
教授は医局員思いなんですね」
そうだね。君は個人的なおねだりとか一切ないけど。
実のところは歴代のどの女性よりも俺を振り回しているかもしれない。
昔、やらせはせん!だったかのセリフを言ったアニメかドラマがあったような気がする。
そのセリフを言った人物とは状況は違うだろうけど、心情は似たようなものなのだろうか。
終わり?
おまけ
「お前うちと同じシステム入れたんだろ。頼む、読影端末足りないんだ。ここで読影させてくれないか」
放射線科の講師で俺の元同級生がお願いに来た。
「お前の科の画像優先で読影するから、頼むよ」
別にそれはかまわないが医局に不特定多数の人物が出入りするのは好ましくない。
それには自分しか来ないようにする、というのでまあいいんじゃないかと了承した。
この話を医局でしていたら、彼女が話を聞いていた。
「あの、ご迷惑でなかったら読影の時に横についていていいですか?
細かいところとかPETやMRIの読み方を教えていただければ、勉強になるんですが。
読影されるときに呼んでください」
奴に否やはない。俺の目の前でPHSの番号を教え合う様子をぎりぎりする思いで眺めるしかなかった。
うん、勉強熱心なのはいいことだ、いいことだとは思う。思うけど。
これって策士、策におぼれるってことなんだろうか。
終わり?
おまけのおまけ
「随分仲よくなったみたいだね」
「え? ああ、やっぱり読影が緻密で、見逃しがちなところも丁寧に教えてくださるし、術前・術後で病理も
含めた検討会をどうかとも言われているんです。そうしたら随分と勉強になります。
それに、教授の同級生だったって、色々なことを教えてくれるんですよ」
この一言に彼の様子が変わった。
「へえ、色々か」
もしかして地雷を踏んだのだろうか。
彼は逃がさないかのように私を抱きこんで少し皮肉な笑みを浮かべる。
「まあ、別に知られてもかまわないことばかりだけど。君には、君しか知らない俺を『色々』教えているから」
頭と腰を抱かれて口付けられる。いつもより激しくて途中で立っていられなくなる。
「キスで腰砕けにさせたり」
彼は私を支えながら服の間から手を入れてくる。
乳首に快感と痛みを感じる境界の刺激を与えられる。
「胸だけでいかせたり」
言葉通りに胸だけで達してしまう。
「耳は舐めるのも噛むのもどっちも好きって思わせたり」
差し込まれた舌で直接脳を刺激されるような音と感触が与えられてぞくりとした快感がはいのぼる。
耳を甘噛みされる。スカートがたくし上げられ指がガーターと素肌の間をゆききする。
「大腿の内側は強く触っても弱く触っても、舌でなぞられてもぞくぞくするって。ああ、これじゃ俺しか知らない君か」
指先は下着の上にすべる。
「焦らせば焦らすほど、泣きそうになる君を見るのがたまらないとか」
するり、くるり。指先は思わせぶりに動いていく。
「濡れてきたら、もっと濡らしたくて色々頑張っちゃったり」
下着を紐のようにして引っ張られる。引き攣れていびつに刺激され思わず腰がくねる。
「本当はすぐに入れたくて仕方ないとか」
言葉とは裏腹に指は下着の上から上下に動いている。私をソファに横たえて彼は指で細かく陰核を揺らす。
指に翻弄されている私を観察するかのように彼は淡々と言葉を紡ぐ。
「でも指や口だけでいっちゃう君を見るのも好きだ」
指が下着の隙間から二本中に入ってばらばらと動かされる。そこは溢れるほどに濡れて、彼の指に歓喜している。
「腰が浮く君を押さえて他に感覚を逃がさずにしておきたい」
軽く指を曲げられ、膣前壁をくにくにと押される。声にならない快感に体が震える。
進行を解説しなくてもいいのに。
こんなことを考えながら私を抱いているのかと思うと、言葉にされるのがすごく恥ずかしい。
下着が脱がされ彼のものが入ってくる。入り口付近で焦らすように揺らされ、ゆっくりと埋め込まれてゆく。
「一気に奥までも好きだけど、ゆっくり君の中を味わうのもいいと思っているとか」
何度か往復して彼は切なげな顔をする。
「男のプライドにかけてもすぐにいかないように、少しでも長く君の中にいたいと思っている」
特に感じるところを攻められて私が身悶えると彼は腰を抑えてそこをじっくりといろんな角度で突いてきた。
「ここ、は押し入れても引いてもざらついていて刺激されて、すごく良くってたまらない」
あとは小刻みに揺すられたり大きく抜き差しされたり、私がもう許して、と哀願するまで彼に翻弄された。
腰に足を絡め彼を求める形になった私に、彼はきつく抱きしめたまま奥にと射精した。
力が抜けて余韻に浸る私の頭を抱きこんで彼が囁く。
「まだ知りたいか?」
ぼうっとしたまま彼に抱かれていた。聞くと戻れそうになく、聞かないと気になりそうな危険な誘惑。
「まだ言いたいことやしたいこと、言えないことやできないことがある」
いつか全部教えてやる、そう言う彼は少し、怖い気がした。
終わり
色々と先回りして助手の行き先を潰しまくる教授に萌える
助手にメロメロじゃないっすか
>>169 うわぉやさしいご本人ありがとうありがとう、そしてGJです。
やべー、どんどん狭まる包囲網w
そろそろ「契約」が首を閉め始めるか!??
>>169 GJ!!
教授の振り回されっぷりがいいね
そして頑張って包囲してるのにその手を自然にすり抜ける助手w
教授のお金ではないとはいえ一番貢いでるしww
>>169 GJです!!
教授の貢ぎっぷりパネエwww
>>157 全ての元凶はコイツか!!
お嬢様至上主義でメイド蔑ろすぎw
>>169 教授は始まりが始まりだからか
自分と同等の知識を持つ男との接触はとってかわられやしないかと極端に恐れてるんだなw
教授のお友達から見たら教授の変わりように驚きそうだ
>>157 使用人恐ろし過ぎる最強!!
でも奥様に同情できないのは自業自得な所もあるからだろうか
アーネはなぁ…
好きでもない男に犯されて、逃げられず、死ぬこともできず、好きな男の為に
それを受け入れる覚悟をして、それでも諦められずに苦しんで、犯され続けて妊娠
救いがなさ過ぎる
壊れてしまわないか心配だ
>>169 ニヨニヨが止まらない!萌え転げ過ぎて苦しいくらいだぜ!
>「まだ言いたいことやしたいこと、言えないことやできないことがある」
いつかだなんて遠慮せずにすぐさまどうぞw
皆大丈夫なのだろうか……
>>179 同意。元気でいてくれればいいんだが
保守をかねて
教授と助手
すこしだけ波風
エロなし
事後の濃密な空気の中で彼女に尋ねたことがある。
優秀な医局員として、助手として細々と働いてくれる彼女は、少し上気した頬と潤んだ瞳だけを情交の名残に、さっさと
服を着て俺の部屋から出て行こうとしていた。眼鏡をかけようとしたその手を止める。
「君はあの研究に夢中だね。あまり根をつめると体を壊すよ」
彼女は眼鏡のよく似合う怜悧な美貌でこちらを見やる。その視線はいつも俺の心臓に悪い、気がする。
「自分の体調は自分で分かります。大詰めでもう少しで良い結果が得られそうなのでつい」
研究熱心なのはよいことだ。けれどそのために俺の所へ来るのを渋られる。
元からあまり来てくれはしなかったのに、それが一層減っているのだ。
面白くない。
互いに多忙であまり顔も合わせないし、学外での誘いには乗ってもらえない。
以前誘ってみたことはあったが一刀両断だった。
「そんな気力体力は残っていません。そもそも休日や学外は約束には入っていないはずです」
連日午前様なのでこれは仕方ないかもしれない。俺の雑用もやってもらっているので文句も言えない、が。
「その研究成果でどこぞの大学の講師にでも転身するか? 外の病院の常勤の打診も知っているよ」
優秀な彼女だからその手の誘いは多い。時間や報酬など俺の下にいるよりも待遇も良くなるだろう。
俺もそうやって来た訳だし、彼女にもチャンスは生かしてほしいとは思う。
手放したくないのは俺の我侭だ。
抱いても自制して素直に声は上げてくれないし、終わるとすぐにいなくなる。するりと俺の手をすり抜ける。
アカハラ、パワハラ、セクハラ。
そう称される形で彼女と強引に関係を結んだので、彼女の心など望むべくもない。
この行為だって俺が迫って続けさせている。
上下関係にかこつけて彼女に付け入っている状態だ。
彼女は俺の言葉に少し困ったように笑う。
「考えたことはありません。ここで一人前になりたいんです。私の望みはあの研究が認められることです。
あれを応用した治療法で教授が後進の医師から尊敬の念を、そして患者さんから感謝の念を持たれれば、と」
思いがけない言葉に呆気にとられる。彼女も照れたのだろう常になく顔を赤くして出て行った。
仕事に関しては彼女は俺を尊敬して、立ててくれているのだ。
それは嬉しいがそれだけではもう満足できない。
そして。
彼女はもてる。それには歯がゆいくらい自覚がない。いや、あっても困るが。
「また患者さんから見合い話持ち込まれたんだって? 今度は誰?」
仲のよさそうな同僚を話をしているのを小耳に挟んだ。
「県議の息子さん、だったかな? 真面目に聞いてないからよく覚えてない」
彼女は気のないそぶりで答えている。
「私はどこかの社長って聞いたけど?」
「どこからそんな話になるんだろうね」
患者さんルートか。ぬかった。医師と学生ルートは根絶したつもりだったのに、思わぬ伏兵だ。
そんな俺の心情にも気付かず、彼女は同僚と会話している。
「でもそれより鬱陶しいのが、医師会とか開業医からの話でね」
しみじみ言う彼女に耳をそばだたせる。
同僚もその話に食いついている。いいぞ、もっと聞き出せ。
「開業医の先生とか、その跡継ぎとかからの、ね。父の知り合いとか今、医院を手伝っていて医師会と関わりがあるから、
そっちからとか。直接言い寄られているわけではないけれど」
父親の残した医院を手伝っている彼女は、必然的に地元の開業医ネットワークと深い関わりを持つ。
志望者が年々少なくなっている科でもあり、優秀なら引く手はあまた。
博士号もあり、しかも優秀で美人って世間的に見ても優良物件だ。
「悪い話じゃないと思うけど、その気はないの?」
彼女が苦笑している。
「結婚とか、そんなの考えられないし。もっとちゃんと出来るようにならないと、そっちの方で頭がいっぱい」
それに、世間的にはもういい年なんだけどね、と言いながら続ける。
「ここにいると下手に目が肥えてしまって」
「……ああ、最先端の技術と治療法の集約されている場所だし、医師は多いもんね」
同僚は同意しているが、彼女はもう何も言わなかった。
ややあって彼女達は移動した。
「教授がこんな場に出られるのは珍しいですね」
地元医師会主催の講演会、ずっと断っていたそれに講演したのだから不審に思われても当然か。
会の後の懇親会は大学と顔つなぎしたい開業医の先生方がひっきりなしにこちらに来る。彼女は大学関係者だが、医師会
とも馴染みがあっていろんな人から声をかけられている。
俺への仲介も頼まれているらしいので、結局彼女と一緒にいる形になった。
白衣じゃない彼女はスーツを着ていて、その姿もいいなと内心見惚れている。そして彼女に注目する人間を密かにチェック
している。もらった名刺とからめて頭に叩き込む。『教授』の観察力と記憶力を舐めるな。
会もそろそろ終わりそうだ、このままだとお偉いさんから接待と称されてどこかの店に連れて行かれる。
「そろそろ出たいけど付き合ってくれる?」
彼女に囁くと流れに気付いたのかこっそり耳打ちされる。耳に吐息が、ああ、全く。
「よろしいんですか? きっと綺麗なお姉さんのいる店だと思いますけど」
彼女の言葉に内心がっくりくる。それって俺が女好きでそういう店に行きたいと思っているって認識だな。
「もう、そういうのは十分だから、あんまり食べた気もしないし明日は手術だろう?」
俺の手術にかける真摯な態度は理解している彼女は分かりました、と会場の中でもお偉いさんと思われる人のところに
行って何か話しをしている。綺麗に笑って頭を下げ、俺に目線をよこす。
俺も彼女のところに行ってお偉いさんと言葉を交わして、人目を引かないように時間差でそっと抜け出した。
会場をでて、ほっと息をつく。
「お疲れ様でした」
「うん。やっぱり面倒くさいね、こういうのは」
俺の口癖のような『面倒くさい』に彼女は苦笑する。
「なにか、食べにいかないか?」
「約束には入っていませんが、業務関連の範疇ですか。 ――いいですよ、いきましょうか」
まさか彼女から承諾がもらえるとは思わなかったからつかの間固まってしまった。
「本当に? 好き嫌いは? 和洋中どれが好き?」
つい勢いこんでしまう俺に彼女はふわりと笑う。
「今の時間だとあまり重くない、小皿ででるようなところがいいのでは」
隠れ家のような創作料理店を念頭において、彼女の気が変わる前にとタクシーを拾う。
「酒が入っても大丈夫?」
調子にのりすぎかもしれないが尋ねる。一緒に外食も一緒に酒を飲むことも今までしたことがない。
俺は彼女の食の好き嫌いを知らない。彼女も同様だ。体は重ねているのにそんなところが欠落している。
「少しなら」
それから俺にとっては楽しい時間を過ごした。明日が手術だからと早めに切り上げられはしたが、幸せだった。
とりあえず敵も認識した。彼女を狙うやつは蹴散らしてやる。
彼女の注意をそらさないように手術には全力で望む。俺以外に目をやらないように。
終わり?
おまけ
彼はもてる。それを十二分に自覚している。
本当にここにいると下手に目が肥えてしまう。彼以上の知識と技量の持ち主など……
見合いの話はあるけれど、私というより私の条件が目当てなのが分かる。言いよる人はいない。
医局で症例検討用の画像を保存していると、彼もコーヒーを淹れに来た。
カップを片手に手近の椅子に座って指導をしてくれる。そこに。
「――教授?」
可愛らしい声に受付を振り返る。書類袋を持った他科の秘書さんが立っていた。
「ああ、お久しぶりです。今日はどうしました?」
珍しい彼の敬語につい聞き耳をたててしまう。秘書さんの顔を見て、ああと納得する。彼女は――
「父から書類をことづかってきました。また家においでください、父が喜びます」
彼女は学長の『お嬢さん』だ。白衣は着ているが医局秘書をしている。
白衣の下の服装から髪型も愛らしい顔に映える化粧も、女らしく手をかけているのが見て取れる。
微笑みながら彼に差し出す書類を持った手もすべすべで爪が控えめながらもネイルが施されている。
思わず、消毒薬や手術のたびにブラシでこすって荒れがちになる自分の手を意識してしまった。
「わざわざありがとう、今度うかがうとお伝えください」
彼がにこやかに書類を受け取り、彼女が頬を染めている。
ああ、そういうことか。
その後の二人の会話を意識から締め出して、目の前のモニターに集中する。
私よりずっとずっと年下の、感情を素直に表せる素直なお嬢さん。
ああいう人が、可愛い人、だ。――私とは違う。
終わり
>>180 ご無事なようで何よりですGJGJ!!
うわぁぁ波風が。
外でご飯という些細なことでウキウキ教授は
助手の周りにアンテナ張りまくってるのに
誤解フラグに気づかないのがまた。
それにしても立ち聞き教授やら
段々と最初のかっこよさが台無し教授が素敵すぎてヤバいw
職人さんは個別識別できるが
萌え語りレスしてた人達も無事でいてくれるといいなホント…
>>180 GJ!! & 御無事で何より!!
教授は片っ端から助手に色目使う奴らを敵認定ww
すれ違いっぷりが美味しいです!!
GJです!
教授大人気ないよ教授wktk
しかし作者さんが無事で良かった。
教授かんじんなところで鈍感だよ!!GJ!
みなさま無事で何より…まだレスしてないみなさまもどうかご無事で!!!
自分は関東だけど無事です。節電中だが教授助手萌えで充電できた!GJです!
教授の暗躍のせいでモテないと勘違いしてる助手ちゃん可愛い
しかし暗躍だけだと気付いてもらえないぞ教授w
めんどくさがりやな教授がこんなにアクティブにw
敵は助手周りの男達ではなく自分の女関係だと気が付く
波風の行方の続きを期待してます
美人な女騎士にセクハラ、パワハラしたり
未亡人な女貴族に関係を強要したりする皇帝とかがみたいです
戦国ランスを思い出したw
ウィキ頑張って更新しようとしたら
小説一覧ページ更新するだけで力尽きたw
職人さんや前後のレスとかの内容を反映したりしてるので
間違ったりおかしなところは訂正してやってください
ウィキ乙
陛下と女宰相
殿下と年上未亡人と宰相
は保管しないでくれるとありがたい
トリはつけていないので本人確認はできないが要望したい
ちょww
殆ど未補完だな、保管庫意味ないww
まぁあのリスト見てスレのログ確認するっていう目安でいいのか
>>194 今更ながらGJ
殿下と年上未亡人と宰相あれはいい意味ですごく嫌な鬱NTRだった。
もう嫌な余韻が残りまくる・・・だがそこがいいw
すごい文章が流れるようだし陛下がいい人だから
ただの人の気持ちを省みない未亡人と
陛下を軽んじてる宰相に振り回されて酷い事にしかなってないのに
陛下に美しい思い出と思われるような切ない作品になってるのがすごい・・・文章上手ェ・・・
保管乙
>>195 リアルタイムでも思ったけど自分はそのような受け取り方は全くしてなかったな
感じ入った方面が違ったのだろう
作者さまGJでした
保管乙
保管OKなの少なくて寂しいな…
自分は鬱ってよりも
回を重ねるごとに茅の外になっていくというか
独りよがりだった陛下にハッハワロスwって感じだったけどな
まぁ感情移入するかしないかしたとしても誰に移入するか
見方の違いだろうけどw
陛下から読んじゃうと陛下に感情移入しちゃうよなー
そして宰相パートの余裕のNTR感が凄い&宰相しか見えてない未亡人にウワァァってなる
んだなー、一作目が殿下パートだったからなー。
私は、あの未亡人はすごく素直で前向きで健気な人だと思ったよ。
最初の結婚相手にしろ、宰相のもとへ行った時にしろ、周囲の思惑で翻弄されてる
弱い立場なりに、できる限りのことを精一杯やってたところが。
そうしてようやく誰の目をはばかることもなく愛情を注げる存在=子供を得たのは
ある種のご褒美なのかな、と。
完璧に物事の道理わきまえすぎだーと思ってたので、実は宰相しか見えてなかったって
ことで、最後は殿下(陛下)のかませ犬つうか種馬っぷりに泣けたw
確かに初めに陛下視点を読んでいたせいで
未亡人は少しは陛下の事好きでいてくれたのかも……と思いきや
全く恋愛範囲外で宰相とラブラブだったんで
陛下のかませ犬っぷりがパネェwんだよなw
しかも宰相が『死んで』から陛下を頼ってくるってのが
拍車をかけてますます陛下が滑稽で笑えてくるんですがw
同じ作品でもいろんな見方があるんだね
>>196 いや、だってさ
好きだって言われても恋愛範疇外で何も感じず宰相好きで
何も言わずに陛下の元を去って
好きでもないのに陛下の子供勝手に生んで
傷心の陛下の事何も考えず自分は宰相とラブラブ生活
自分で陛下の元を去って産んでおきながら宰相死んで
困ったときだけ陛下に会いに来る厚顔無恥さに
陛下の事捨てたのなら最後まで捨てたままでいればいいのに
こいつはひでぇや……って鬱だったw
宰相は宰相で粋なはからいしたように見えて未亡人好きだったから
結婚してすべてうまくいったように見えてるだけで
自分が陛下から奪ったくせに
自分が死んだあと二人頼みますとか言っちゃうのに(゚Д゚)ポカーン
しかも二人の後を快く陛下が怒りもせずにうけとっちゃうっていうか
未だに未亡人の事好きだっていうのが鬱率上昇
二人とも陛下を陛下としては敬っていたけど男としては敬ってなかったっていうか
一個人としてはないがしろにしてたのが・・・
NTRはどれだけ心を蔑ろに踏みにじられるかがカギだと思ってるんで
踏みにじられまくった陛下はすごい素敵なNTR鬱でした・・・
解釈って色々あるんだな
縁談を控えた陛下のために宰相が気をまわして
閨の教師として未亡人を与えたわけで
宰相にしても未亡人にしても陛下との恋愛は論外じゃないか?
王妃を持たない王の愛妾が年上の未亡人ってのはなー
王妃として嫁いでくる相手に対して外聞悪いと思うよ
子供にしても、王家の血筋を簡単におろすわけにも
市井に流すわけにもいかないから宰相が引き取るってのは
自然だと思ったけどな、ラブラブなのは予想してなかったけどw
最近せつない系とすれ違いモノ多いから
>>7-8のようなバカップル主従がみたくなったぜ……
あとキミはともだちにシドニーと共に生殺しにされてるが……
続きまってます
>>203 おまおれw
同じく生殺しにされている素敵主従が複数いるんだ
続きが楽しみで仕方ないんだ
真冬さんの太ももの感触と夢見を確認したいよ
はぁ……従順でなんでも言う事を聞く美少女従順が欲しい
ちょフツーに美少女従者って読んでたらビミョーに違うw
その呟きで何故か行為によって課金される
格安レンタルメイドロボ妄想してしまったぜw
初めは普通にお手伝いさんとしてつかって請求された百円を払ってたんだけど
興味本位でエロいこと冗談で頼んだら金額によっては有りな事が判明!みたいな
>>206 美少女従者のつもりだった
ただの誤字ニダ
殿下と未亡人モノはなんかやり切れない切なさが残ると思っていたが
>>201-202を見て気がついた
殿下としては適切な処置がされていたが
同じ人間としては誠意の無い対応されていたからなのか…しょっぱいよ殿下…
同じ人間として誠意ある対応されてたら
最初から感情除外した閨の教師なんて付けないんじゃw
いつまでこの話題
褐色奴隷美幼女が欲しい
明るい主従を目指して書いたものを投下したい
エロはないというか事後設定
高杉悟は目覚めを迎えつつあった。頭はちょっとばかり痛むが、ひどく気持ちの良い何かを抱いている。
あったかくて柔らかい。こんな抱き枕持っていたかななど思いつつそれにきゅっと力を入れた。
横向きになって抱いているそれは、腹部から足の前面にまで温もりを伝えている。
やばい、気持ちよすぎるだろ。これ。
しかも音声機能付きなのか、近いところから呼ばれている気がする。
「……様。若旦那様。起きて下さい」
うわあ、この声真由にそっくりだ。なんて素晴らしいんだ。これを開発したひと天才だろう。
などど思いつつ、にやけながら再度夢の世界に陥りそうになった悟の耳には。
「いい加減起きて下さい、若旦那様」
地を這うような、低い低い起床を促す音声が聞こえた。
どすの利いたその音声にようやく目を開いて見たものは。
腕の中に後ろから抱き込まれながら首だけをめぐらして冷たい眼差しで見つめる真由本人。
「……え?」
「さっさと起きて、この手を離してください。若旦那様」
我が家の使用人の、いや昨日でその職を辞したはずの若宮真由が、どうして一緒に寝ている?
しかも二人とも裸だ。
事情を飲み込めずにしかし、腕の中の異性に固まってしまっている悟をねめつけ、真由は拘束するかのように腰に回されていた
腕をはずし、思いっきりベッドの端に寄った。
「さて、若旦那様。覚えておいででしょうか」
首だけを掛け布団からだした状態で真由が問いかける。なまじ整った顔だけに静かに怒っている様子がとてつもなく恐ろしい。
悟は訳が分からないながらも、ごくり、と唾を飲み込んだ。
「ええと、確か昨夜は真由が辞職する慰労会で、本来なら親が同席するはずだったのが急用が入って、俺が代わりに」
「そうです。ここでの最後の夜だからと恐れ多くも使用人の私を同席させてくださって、夕食をとりました」
思い出した。真由と二人で、料理人が真由のためにといつにも増して腕を振るった美味しい料理を食べて。
すごく楽しくて料理も美味しくて、色々話をしているうちにあっという間に時間が過ぎたのは覚えている。
「うん、あれは美味しかった。俺一人の食事とえらく違った気が、じゃなくって」
食事の後どうしたか? 普通ならそれでお開きのはずだが真由がいなくなってしまうのが寂しくて……
「確か、俺の部屋で軽く飲もうって」
そこまで言って、悟は真由の周囲の温度が下がった気がした。真由はうっすら笑ってはいるけど目が、目が笑っていない。
――すごく、怖い。美人が怒ると本当に怖い。
「ちょっと、そう、あれが若旦那様のちょっとなのですね。お止めしたのにボトルを二本空けられて、泣くは絡むは、あげくの
はては『これでどこにも行けないだろう』と」
そこまで言って真由はベッドの向こうを指差した。それを追っていくと床に散乱する真由と悟の服があった。
しかも真由のはボタンが引きちぎられたり、生地が破れていたり。これはもしや……
ぎぎぎ、と音がしそうな気になりながら悟は真由のほうを振り向く。
「え、と、俺は」
真由はゆっくりと頷く。しっかりはっきり、軽蔑と怒りを伝えて。
「――けだものでした」
一刀両断されてしまった。言葉で人は死ねるかもしれない、絶対胸に穴が開いたと悟は思った。
あろうことか勤めを終えて翌日には去っていく使用人を、酔ったあげくに手篭めにした、と。
赤くなったり、青くなったり悟の顔色は面白いように変わっていく。
知らず後ずさってベッドから転げ落ちたがそんなことはどうでも良かった。
「ま、真由、俺は」
「まずは服を着てください、若旦那様」
起きてからこっち真由は『若旦那様』としか呼ばない。人目がある時はこの呼び方だが二人の時は『悟様』と、悟が希望した
呼びかけをしてくれた真由が。これは相当に怒っているのだろう。
真由の絶対零度の怒りにおののきつつもとりあえずは言われた通りに服を着る。
「私のは二度と着られませんので、服を貸していただくか、私の部屋に取りにいっていただきませんと」
依然首から下は布団にもぐりこんだまま真由は淡々と言う。
真由と目が合った瞬間悟はベッドの脇で土下座をしていた。
「すまない、真由。何と言ってわびればいいか、本当にすまない」
「謝罪などいりませんよ、若旦那様。けだものに襲われただけです。犬に噛まれたとでも思っておりますので」
「で、でも、真由。故郷に帰るんだろう? あちらに婚約者とかいないのか?」
泣きそうな気分で悟は真由に尋ねる、
真由は行儀見習いのために家に来た娘だった。そんな娘は礼儀作法が身に付くと故郷に戻って婚約者と結婚するのが自然な
流れだった。つまり結婚目前の娘を無理やりに、というあるまじき行為をしてしまったのだ。
預かった大事な娘さんを傷ものにしたなど、いくらわびても取り返しがつかない。
真由は悟をじっと見て少し顔をゆがめた。辛そうな表情だった。
「そのような人はおりませんのでご心配なく。故郷に戻って両親とのんびり暮らす予定でしたのでお気遣いなく」
そこまで言うと真由は悟にコートでも貸してくれと頼んだ。それを着て自室に戻るから、と。
悟は正座したまま勢いよく顔を上げる。真由をしっかり見つめて再度土下座した。
「俺に責任を取らせてくれ」
「どう、責任をとるおつもりですか。腕のいいお医者様でも紹介してくださるのですか?」
「へ? あ、いや、あの、俺と結婚してくれと言いたかったんだが」
真由は悟の言葉にぐっと眉間にしわを寄せた。
「若旦那様。寝言は寝て言え、です。冗談もたいがいになさいませ」
「俺は本気で申し込んでいる」
言い切って悟は納得する。ああ、そうだ、ずっと真由のことが好きで去っていくのが寂しくて、いつまでも側にいてほしくて、
酔いにまかせて本心と本能を吐露してしまったのだと。
残念無念なことに昨夜のことを覚えていない。痛恨の極みだが関係を持ったのなら好都合だ。
真由に伴侶になってもらえたら、これ以上に幸せなことはない。
我ながらなんていい考えだと舞い上がる悟を前に、反比例するように真由の機嫌は降下していく。
「本気ならなおのこと救いようがありません。いいですか私は使用人です。主と結婚するなど許されるはずがないでしょう」
「もう使用人じゃない。真由は真由だ。俺はずっと好きだったんだ」
使用人としての真由は細々と働き、よく気がついて家の中を明るくしてくれるような娘だった。
何度も話しかけて人目がない時は友人として接してくれるようになって、しっかり者で優しい性質を見せてくれて、悟は
どんどん真由に惹かれていった。
両親からの結婚話をことごとく蹴散らし、最近では諦められている節まであるのも心に真由がいるからだった。
真由は悟の告白を聞いて泣きそうな顔になった。
初めて見る、真由の悲しそうな表情を見て悟は慌てた。
「ま、真由、俺が告白したのがそんなに嫌か? 当然か、俺は昨日真由を……」
「私は使用人です。職を辞しても若旦那様との立場の違いは変わりません。両家のお嬢様と結婚されるのが若旦那様の幸せです」
私は決して若旦那様の妻になれるような者ではありません、と言い切られる。
それきり壁のほうを向いて真由は悟の顔を見ようとはしなかった。
あれこれと言葉を尽くしても真由は振り返らない。
そのうち悟は焦りだした。その焦りがだんだんと自分勝手な怒りに変わってきた。
「真由は俺の幸せが分かるのか。俺の幸せは俺が決める、俺は真由以外考えたことはない」
着ていた服を再び脱いでベッドに上がり真由の後ろに膝をつく。
振り返った真由が裸の悟を見て悲鳴をあげた。
構わずに布団を引き剥がして真由をこちらに向かせる。
「真由は俺が嫌いか?」
「嫌い、だなんて、そんなことは……」
「じゃあ好きなんだな。両想いじゃないか」
じたばたともがく真由を抱きしめて耳元で真摯な気持ちを伝える。
「俺は真由がいいんだ。真由といるのが幸せなんだ。うんと言ってくれるまで」
「……どうなさるというんですか」
胸元でおそるおそる尋ねる真由にゆっくり、にっこり、はっきり告げる。
「うんと言ってくれるまでベッドから出さないぞ」
言うなり遠慮なく腕の中の真由を触り始める。よくやった昨夜の俺。頑張れ今朝の俺。喜べ未来の俺。
真由の抵抗を封じ、記憶の彼方の昨夜の出来事を取り戻すべく悟は想いをこめて真由を愛する。
「いや、ちょっと、止めて、っどこ触っているんですか?」
「ん? 真由はどこもかしこも柔らかくていい匂いがするなあ。うん、この揉み心地なんか最高だ」
「この……この、馬鹿旦那がああ!」
「ははは、真由は手厳しいなあ」
扉の向こうで悟の両親がぼんくら息子に気立てのよい嫁が来てくれる、と手を取り合って喜んで、お気に入りの真由に
逃げられないようにと外堀を埋めるべく色々な手続きを指示しているのは、人生をかけた攻防を繰り広げている二人には
知る由もなかった。
投下は以上
保管庫は見返すとたぶん悶絶すると思うので遠慮しておく
gj!手篭めだが、高杉家にとってハッピーエンドなのかw
頑張れ若旦那、喜べ未来の若夫婦。
これは…保管子遠慮なさらず!!gjです。
ちょいちょい小ネタ的にイチャイチャしてんのが読みたくなる若夫婦ですな
激同
二人の続きとか小ネタ見たいw
テンポいいしgjです
最近は保管庫NG作品多いからスレ保存をこまめにしてるぜ
教授と助手を投下する
教授の椅子と助手の葛藤
久しぶりの呼び出しに柄にもなく緊張している。そんな私に彼は笑いかける。――眩しい。
「こっちに来て、座って」
耳に熱い息と舌を感じて身を震わせてしまう。耳朶を噛まれて外耳を舐められるとぞくぞくする。
彼は背後から私を抱きこんでいる。はあ、とついた息が熱くて湿っている。体が――熱くなる。
背中に彼の体温を感じ、そして服の下でもまれている胸を思うとたまらない。
やんわりとでも絶妙の力加減で触れられ、時折掠める先端への刺激に息が詰まる。
彼は耳から唇を離し楽しそうだ。
「折り紙をやるよりも指先の鍛錬になるね、君の反応は実にいい」
乳首を指先で挟まれ揉みほぐされるとのけぞって、彼に体を預けてしまう。
晒した喉に服の下から彼の手がはいのぼる。
「……あ」
すい、と指が上行する。指先と爪の感触は掠めるようでそれよりは強い力だ。その掻かれる感覚に体が疼く。
彼に触れている手指に力が入る。
彼に抱かれるといつもこうだ。いいようにあしらわれてしまう。私の感じるところを私以上によく知っていて、繊細に、
でも時には少し強引に快感を引き出してゆく。
右手は変わらず胸を刺激しているが、左手は喉から体の前面正中をさがって腹部に下りている。
そこで服から彼の手が出てくる。
私を狂わせる、仕事の時には神の手と称される、大きくてしなやかな手。今だけは私のものだ。
スカートの上から大腿を手の平でなでられる。
右手が反対の胸に移り、彼は少し体をずらして私の右側から首筋に唇を滑らせる。
一箇所の刺激でも巧いのに、同時に何箇所もされると……
「あ……やっ」
とろり、と中から漏れ出るのを感じる。彼の膝の上で足を開かされ手がスカートの中に入り込む。
大腿を指先でかかれ少しずつ中心へと移動していく動きに、熱がそこに集まってくるのを感じる。
「座り心地はどう?」
快楽に蕩けそうな私に吹き込まれる問いに首をめぐらし彼を見る。
「俺の、教授の座り心地」
彼の椅子で背後から抱き込まれ彼の膝に乗っている。
「――『教授』も、『教授の椅子』も、どっちも……いい、です」
こんな関係でなかったなら決して座ることはない場所だ。ご褒美とばかりに彼の手が足の付け根に到達する。
布の上から上下に掻かれてびく、と体がはねる。何度か上下し、円を描くように動かされる。
濡れて形が浮き出た突起を爪先でなぞられる。
「ん……あぁ……」
「布越しでも分かる、随分濡れているね」
耳が熱い。きっと頬も赤いに違いない。布越しの刺激は、しかしそのうちに物足りなさで私を苛む。
彼の指が引っかくたびにその欲望が大きくなる。
「腰、揺れているよ」
揶揄するような彼の声に違う、とかぶりを振る。でも違わない。
もっと強い刺激を、もっと直接的な刺激を待ち望んでいる自分がいるのに否応なく気付かされる。
彼の指が下着の縁を思わせぶりに行き来する。
焦らすのが上手だ。分かっているくせにわざとやっている。
彼と私のどちらが、言い出すか行動にでるか。まるで我慢比べのようだ。
でもたいていは私が負ける。彼に体をおしつけて彼に触れている手にきゅっと力をこめる。
それだけで、彼が満足そうな雰囲気になって彼の指が下着の横から直に触れてくる。
「んっ……はぁっ、あっ――」
ぐち、と耳を打ついやらしい音も、彼の指の感触の前には何ほどでもなくなってしまう。
いつから、私はこんなになってしまったんだろう。彼に触れられて蕩けて呆けて。
中に入った彼の指でかき混ぜられて、こすられて。陰核にも刺激を加えられ彼の膝の上で達してしまう。
頭が真っ白になって体が痙攣する。
彼が片腕をぎゅっと胸周りに巻きつけ膝から転げ落ちないようにしてくれた。
でも中に入っている指は駄目押しとばかりに陰核を押しつぶす。
波が引いて少し動けるようになったときに、彼が下着を取り去る。
「まだひくついている、君のここ」
少し声が上ずっているようなのは、彼も興奮しているのだろうか。
促され今度は向かい合う形になって彼の大腿を外側から挟みこむ。
くつろげた彼の下半身から、固くなったそれを入り口にあてがわれる。快楽の予感に喉がなる。
「そのまま、腰を落として、ゆっくりと」
淫らな命令に逆らえずに自分の体重で彼のものを埋めてゆく。全て入った時に知らず詰めていた息を吐いた。
中に感じる彼は熱くて、その存在を主張している。
「気持ち、いいですか?」
彼は耐えるように眉根を寄せている。
「うん、すごく、いい。君は……可愛い」
「可愛くは、ないです」
「俺を疑うの?」
繋がったまま交わす言葉。この後はもう会話にならないのをお互い知っているから。
彼はゆっくりと私を持ち上げ落とす。私も体重をかけて結合を深くする。互いを求め一時なにかを共有する。
彼に貫かれ壁をこすり上げられる。腰がゆれて彼のものを中心にこね回すような動きをしているのに気付いて、恥ずかしいのに
奥からは粘液が溢れてくる。
「俺を咥え込んでいる」
彼の言葉に身を捩って逃げたいのに、少し角度が変わって中が刺激されるとそれがまた快感を呼び込む。
顔を見られるのが恥ずかしくて彼の首元に顔を埋める。
「顔、見せて」
ふるふると頭を振るのに彼が腰をつかんで下からぐり、と突き上げると呆気なく背中がしなって顔が離れてしまう、かすみそうな
視界に、彼の唇が笑みの形を作っているのが見て取れる。
「そんな顔も、そそる……」
自分でも定かではない気持ちの代わりにか私の中は収縮して、彼を少しでも留めようとするかのようにうごめく。
必死で漏れそうになる声を抑える。指でも噛みたいけれど傷を作ると感染源になるのでできない。
両手で口を塞ぐと彼の上から落ちそうで、片手を彼の首にまわしてこぶしを作った片手の甲を口に押し付ける。
自分ではうまく動けず、彼にゆすぶられている。
追い上げられて彼をくわえ込んでいる中が一瞬の弛緩の後に収縮する。
「――っ」
もう、いってしまう。
その時に声を我慢できたかはよく覚えていない。
彼にしがみついたのは、そして彼が何度か突き上げて脈動し、私の中が満たされたのはきれぎれに感じた。
荒い息が落ち着いて彼に体を預けているのに気付く。頭や背中に彼の手を感じ目を閉じる。
彼は抱きしめてくれて、撫でてくれて、柔らかく口付けをしてくれる。
「やっぱり、可愛い。すごく良かった」
どうして終わった後も彼は優しいんだろう。彼はもう目的を果たしたのに。
――気持ちが良くてずっとここにいたい。
でもいつまでもこうしてはいられない。動けるようになったら、彼から離れなければ。
終わった後の彼に、私は必要ではないから。
いまだ繋がっているそこにタオルをあてがい腰を上げる。
その時にはいつも虚無感におそわれる。温かいものが離れていく感覚。
後始末にティッシュは使わない。ゴミ箱にそんなものがあれば不審を招く。
とりあえず拭って服の乱れを整えた後でタオルを彼の部屋の洗面台で洗う。別の濡れタオルで彼と体液で汚れた椅子をふく。
それも洗って私は部屋を出る。
呼び出される時を別にして、私には用事がなければ近寄らない、近寄れない部屋を。
私はいつまであの部屋に行かなくてはならないのか――いや、行けるんだろうか。
いつまで彼の腕の中にいなければいけないのだろうか――いや、いられるんだろうか。
私には答えは分からない。ただ終わった後のむなしさだけが身内を浸す。
どうして彼の部屋に行くのを辛く、空しいと感じるんだろう。無意識に手首の時計に触れる。
彼が笑うたび、彼が笑いかけたあの可愛い人のことが頭に浮かんでしまう。
どうしてしまったのだろう、何やっているんだか。自嘲する思いがわきあがる。
私の中でなにかが変わってきている。
終わり
GJ!!
やっと助手の自覚症状が始まった!!
切ないんだけど教授の半端ない溺れっぷりを
知っている身としてはニヨニヨしちゃうぜw
しっかりすれ違ってる様にニヨニヨなんだぜ
ここからが教授の腕の見せどころだなw
いいねぇ
明るい主従を目指して投下した者だが
若旦那の話の続きというか、使用人視点で投下
どうしてこうなったのか、私は呆然としてしまいました。次いで後ろで聞こえる寝息に非常な腹立たしさを感じました。
私、若宮真由は高杉家での勤めを無事に終えました。旦那様や奥様に可愛がっていただき、同僚にも恵まれて楽しく過ごせたと心から
感謝しています。最後の夜は私のために主が一緒に食事をしてくださることになっていました。
本来ならそれは旦那様と奥様だったのですが、急用が入られたからとお鉢が若旦那様である悟様に回ってきました。
悟様は高杉家の跡継ぎとして、現在旦那様のもとで仕事を覚えていらっしゃいます。
ご本人は頑張っているのですが、生来の人のよさやあまり強く言えない性格などが災いしてやや軽く見られる節があり、旦那様からは
頼りない、と一喝されるような状況です。
でものびのびとお育ちになった悟様のかもし出す明るい雰囲気は、得がたいものと思っています。
ですから悟様をお嫌い、という方はごく少ないのではないかと思われます。
そんな悟様が、私のために夕食に付き合ってくださったのです。勤務の労をねぎらわれて、緊張と感謝や別離の寂寥などで胸がいっぱいに
なった私に優しく接してくださいました。
「真由、これとても美味しいよ、食べてごらんよ。料理人が随分と腕を振るったみたいだ。手間隙かかっているよ」
笑顔で勧められるとついこちらもその気になってしまいます。
本当に料理は美味しくて、悟様が話しかけてくださったこともありいつの間にか私の緊張は解けていました。
食事の終わり頃には私がここに来た当時のことや、数年過ごした中で起こった出来事などの思い出話になりしんみりしてしまいました。
明日には故郷に戻ることになっています。
私の父は高杉家の所有する山林の管理を任されています。木々の手入れや伐採、見回り、松茸の採取など山を知り尽くした父の仕事ぶりは
旦那様が全面的に信頼を寄せられるほどで、先代の旦那様が趣味で作られた窯をつかって陶芸にまで手を出していました。
小難しい物を作る気はない、と用の美を追求した実用品を作っている父ですが、その父の気質は私にも受け継がれていて私もどちらかといえば
実用品を好む傾向がありました。
まだ高杉家に来てそんなに経っていないころ、帰宅された悟様からいきなり花束を差し出されたことがありました。
思わず受け取ってしまい、悟様のお顔をまじまじと見つめたことを思い出します。
「これをお部屋に飾ればよいのでしょうか、若旦那様」
そう尋ねた私に悟様はにっこり笑われて、
「それは真由の部屋に飾ればいい、店で見かけて真由の顔が浮かんだんだ」
花束をもらうなど初めてで、しかもこんな綺麗な花を見て私を連想したなどと言われ、真っ赤になってしまいました。
花は実用からは遠いものです。
でも私は初めて実用でないものでも心を和ませ嬉しい気持ちにさせてくれるものがあるのだ、と気付かされました。
それからちょくちょく悟様は出先で買ったからと大げさでない花や、美味しいお菓子などくださるようになりました。
「皆の分はないから内緒だよ」
と言われましたが悟様の内緒など使用人にはばればれです。ですのでいただいたものは使用人の詰め所に置くようになりました。
悟様はまた、私が若旦那様と呼ぶのをひどく嫌がりました。
何度もしつこく言われてようやく二人の時には悟様、と呼ぶようになりました。
そう呼びかけると悟様は目を細めて、お笑いになるのです。心底嬉しそうに。
それがひどく眩しくて、妙に胸がどきどきするのです。胸が苦しくなるのです。
こんなに動悸がしてはとても仕事が果たせないと本気で怯えたこともありました。
私が仕事に慣れどうにか高杉家を見る余裕がでると、こんなに素敵な家はないのではないかと自慢したくなるほど魅力的な方々でした。
ちっとも偉ぶったところがなく、それなのに自然と敬う気持ちを起こさせるような旦那様と、優しくて、でもお茶目な奥様、
ぼんくらなどと言われながらも持ち前の明るさで人を惹きつける悟様。
本当にこの家に勤めることができて幸せでした。
これを悟様に申しあげた時の私は、少し涙ぐんでいたかもしれません。
悟様は笑顔を引っ込められて。真面目な顔つきをされました。
「……寂しくなるな」
そうおっしゃっていただいただけで私は果報者です。幸せで、でもすこし寂しい気持ちで夕食が終わろうとしていました。
「俺の部屋で軽く飲まないか? 真由に飲ませたいと思って買っていたものがあるんだ」
私のお馬鹿。この時誘いを辞して自室に戻るべきだったのです。
今の私が過去の私と話ができるなら、全力で止めたでしょうに。
でも別れの感傷に目がくらんでいた私はうかつにもその誘いに乗ってしまったのです。
悟様の出してくれたお酒は本当に、ええ本当に美味しかったです。
ここでも最初は思い出話でした。雲行きが怪しくなってきたのは悟様の飲酒のペースが随分はやくなってからでした。
「真由は明日出て行くんだよな」
なんとなく据わったような目で言われ、本当のことですので頷きました。
途端悟様の顔がくしゃり、と歪んだのです。普段笑顔か、真面目なお顔しかなされない悟様の表情に私は慌てました。
「悟様。どうされたのですか。ご気分でもお悪いのですか?」
水を、とグラスに注ぎかけた手は悟様によってとどめられました。
「何で俺を置いていくんだ。俺が都会っ子だからか?」
はあ? と悟様が何を言っているのか本気で分からずに私は首をかしげてしまいました。
「都会もなにも、悟様は高杉家の方で、ここで生きていかれる方です」
それを聞いた悟様は今度は泣き出したのです。悟様が泣くなんて。明日は雪か嵐かもしれません。
故郷に戻るのに悪天候は勘弁してもらいたいものです。
「真由は俺と会えなくなって平気なのか?」
つきり、と胸が痛みました。会えなくなって平気なわけはありません。寂しいに決まっています。泣きそうな気分です。
私も寂しいです、と言おうとした時、悟様が私の足にすがりつかれました。
高杉家の跡取りである悟様が私の足にすがっている? あまりなことに私は硬直してしまいました。
これは現実だと分かっているのに、なんだか脳が認識するのを拒否しているようです。
悟様は膝をあたりを抱きしめながら、腿のあたりに顎をおいて私を見上げています。目尻には涙がたまり、なんということでしょう
としか言えない状況です。
大の大人に、しかも主に泣きすがられて、私の方が情けなさに泣きたい気分でした。
そんな私の気持ちには気付かず悟様は繰言を述べられます。
「真由は俺を捨てるのか? 故郷で誰かと結婚するのか?」
「捨てるって、悟様。私は悟様を拾った覚えもなければ捨てた覚えもありません」
「俺を拾ってはくれないんだな。何故だ」
何故と言われてもどこの世界に主を拾う使用人がおりましょうか。
鼻をすすって悟様はテーブルに戻られましたが、おもむろに酒を注いで一気に飲まれています。
気付いた時には既に二本目でした。
「悟様、飲みすぎですよ。明日に響きます。これくらいでおよしになってくださいませ」
いくらお酒には強い悟様といえども飲みすぎのような気がしましたので、私は止めました。
悟様はグラスを片手に私を見ます。なんとなく目が血走って、いえ充血しているようです。
「明日に響く? ろくでもない明日など来なくていい」
こんなに酒癖の悪い方だったのでしょうか? 私は自分の酔いなどとうに醒めて悟様をいさめました。
「悟様」
「真由が行ってしまうのが悪い。悪い子にはお仕置きだ。どこにも行かせてなどやらん」
一体どんな思考回路なのでしょうか。もう私には理解できません。
空にした二本目のボトルがテーブルの上で横倒しになりました。
ゆらり、と立ち上がった悟様の目が据わっています。
何か得体の知れない恐怖を感じました。じりじりとドアの方へと下がる私を見据えながら悟様は近づいていらっしゃいます。
これ以上は耐えられなくて背中を悟様に見せて、ドアへと急ぎました。
もう少し、というところで急に後ろに引っ張られ倒れそうになりました。
でもそうはならず、悟様にすっぽりと抱きしめられていたのです。
「真由、逃げるな、行くな、ここにいろ」
頭一つ背が高い悟様の声が耳元で聞こえます。すこし語尾が震えています。
「悟様……それは」
手をはずそうとしましたが、さすがに男の人の力にはかないません。むしろ更にぎゅっと抱きしめられてしまいました。
「婚約者がいるのか?」
「そんな人は、いません」
これは本当です。しばらく親子水入らずでのんびりする予定でした。
「じゃあ俺が立候補する」
「はい? 今なんて……」
「真由の相手に立候補する、と言ったんだ」
私の肩に顔を埋めて悟様はおっしゃいました。吐く息は明らかに酒臭いです。私はため息をつきました。
「酔っていらっしゃいますね。冗談はやめましょう」
私の言葉に悟様はがばっと顔をあげました。前に回された腕に力が入ります。これは、苦しいです。窒息しそうです。
悟様の手が震えたと思うと私の服をぎゅっと握りました。
「どこにも行かせない。――これならどこにも行けないだろう」
え、と思うまもなく、悟様の両手が両脇に広がりました。私の服を握ったままで、です。
布の裂ける音とともに私のブラウスはボタンがはじけ前を広げられてしまいました。
私は頭が真っ白です。
ブラウスの前を開いて、悟様は私のスカートのファスナーに手をかけました。
ここまでくればさすがに私にも危機意識が生まれます。これはまずいです。非常にまずいです。
ファスナーを下ろされたら負けです。私は必死に抗いました。
それなのに、この酔っ払いの馬鹿力はまたしてもファスナーのところを力まかせに引っ張って破壊してくださいました。
スカートは重力に忠実にその場にふわりと落ちました。
そのまますごい力で引きずられます。この先にあるものはベッドです。
「さ、悟様。正気に戻ってください。冷静に、いいですか興奮するのはよくありません。速やかに私を解放してください」
「い、や、だ」
一言一言を区切って悟様はおっしゃいました。駄々っ子のようです。
子供の口からでれば可愛らしいと思いますが、いい大人でしかも酔っ払いの口から出ればただのたわ言です。
抵抗も空しくベッドに押し倒されました。酔っ払いの癖に逃げられないようにかしりませんが器用に体重をかけて、私の動きを
封じています。一体どこで覚えたんでしょうか。
その上で私のブラウスを剥ぎ取ります。ぽい、と投げ捨てられました。軽く殺意がわきます。お気に入りでしたのに。
「まゆ――」
甘えるように名前をよばれて、下着も取られてしまいました。
いよいよ危機です。
悟様は上からじいいっと私を眺めます。その視線怖いです。なんだか肉食獣のようです。
思わずごくり、と唾を飲み込んでしまいました。悟様はなおも見つめたかと思うと、
「真由ばっかり裸はずるい、俺も裸になる」
……ああ、酔っ払い。
「さとる、さまっ止めてください。酔っ払っていらっしゃいます」
「嫌だ、やめない。真由に触る。ずっとずっとずうううっと触りたかったんだから」
悟様にキスされて、ぼんっと私の体温が上がりました。何度か唇がくっついたと思ったら舌でつうっと唇をなぞられます。
その後でやんわりと唇を噛まれました。悟様の熱い指が耳たぶをなでています。
くすぐったい、でも嫌じゃない、変な感じです。
息が苦しくてぷはっと口を開けた途端何かが入り込みました。何これ? 熱くてぬるりとして……
悟様の舌でした。
目を見開いて悟様の肩を押しますが、がっちりと後頭部に差し入れられた手が離れずにむしろ密着しています。
舌が、悟様の舌が、口のなかに。それは探るように動いて私の口を混乱に陥れます。
ただでさえ悟様の体温を直に感じて身のおきどころがないのに。
悟様の手は私のいろんなところに触れました。首筋をなでおろされ、鎖骨に沿ってと思うと大きな手が胸を覆いました。
男の人の手、でした。はじめは置かれただけの手がむに、と胸をもみます。
親指と人差し指で先端をつままれて思わず体がはねてしまいました。
やんわりもまれているのに、指先で擦りあわされるようにされると先端がずきんとするんです。
「真由、ここ、かたくなった、可愛い、食べたい」
悟様の声に、ぞくりとしてしまいました。声に含まれる感情は今まで知らないものでした。
そして宣言通りに先端をぱくり、と口に含まれてしまいました。途端生じたものに私は身をよじりました。
「あっ、さ、とるさま、っあ」
あめを舐めるようにしゃぶられて、泣きたくなるような気分です。でも悲しいわけではなく、未知の感覚が怖いという方でした。
悟様に舐められるとどんどん力が抜けていくのです。それでなくても体格差や体力差があるのに、これ以上非力になったらもう
逃げられません。
片方は口で、もう片方は手でくりくりとされてそれだけでもいっぱいいっぱいなのに、悟様は私の片足をまげて足の間を触りました。
「ひゃっ」
我ながら間抜けな声です。でも人間、驚きすぎると変な声が出てしまっても仕方ありません。
悟様の指がつうっと上下しています。割れ目上のところで指が止まりました。胸の先端と同じようにくりくり、とされました。
途端はねた体は先程の比ではありません。そこは痙攣スイッチですか?
「真由。ここも食べるよ」
胸を含んでいた悟様の口が、舌がそこに触れます。さっきまで悟様に舐められた胸の先端はつん、ととがって濡れています。
でも胸を舐められたよりも今、悟様が水音を響かせながら口をつけている所への刺激の方が私には大問題です。
「綺麗な色だ、美味しそう」
食べ物ではありません。悟様、お気を確かに。そう言いたいのに、私の口からは甘い、甘ったるい声しか出ません。
そこは言語中枢も破壊するのでしょうか。
「……ん、あぁ、ん、さとる、さまぁ」
これでは悟様のことを非難できません。私の言い方も子供のようです。
悟様は飽かずに口で刺激しています。そして、指が、とんでもないところに入りました。
「いっ、っつう、」
男の人の指が私の中に、入ってます。ゆっくり入った指は少し動いては止まり、また進んでととうとう根元まで埋まってしまいました。
「すごい、真由の中、きつい、熱い」
ゆるり、と指が抜かれ瞬間私の中が指を追うようにざわめきました。指はひねられて中の側面をこすっています。
ぞわり、と背筋をはいのぼる何かがあります。悟様の指の動きにあわせてそのぞわぞわが強弱をつけたり、間隔を変えて襲っています。
「ま、ゆ、真由。どこにも行かせない」
熱に浮かされたように悟様が繰り返します。指が私の中をこすります。浅いところで指を曲げられ上側を擦られた途端に高い声が
出てしまいました。悟様は嬉しそうです。
「――見つけた。真由のいいところ」
それからは執拗にそこを擦られました。悟様がこんなにしつこい方とは知りませんでした。
「あぁっ、あぁ、ひ、さ、とる、さ……」
なんだかそこから漏らしたような感じのぬるついたものが出ています。ぬるん、と指がすべりまたさっきの場所に戻ってと私の中は
今や大変なことになっています。相変わらずぞわぞわは消えてくれません。
「指、増やすよ」
一本でも私には大問題だったのに悟様は二本入れてきました。また痛いです。悟様は意地悪です。
何で痛いことをしてくるのでしょう。そう言うと
「俺は悪くない。これは俺達の今後のためなんだ」
俺達の今後とは。悟様のベッドに引きずり込まれてから人が変わられたようです。
さっきまで泣いて絡んですがっていたのに、何だか強引で、でも子供っぽくて。
ようやく指が引き抜かれてほっとしていたのに、三度目に私の中に入ってきたのはとんでもないものでした。
痛い! イタイイタイ、痛い。それしか頭に浮かびません。
悟様の、その、あれが入っていました。
「……やっぱり、きつい。でも、すごく嬉しい、真由、真由」
すごく嬉しそうに、そして大事そうに名前を呼んでくださったので少し痛みが薄まった気がしました。
「俺のところにいてくれるか? どこにも、行かないで」
切なそうに言われて私の胸がまたつきん、と痛みました。
一度ぎゅっと抱きしめられた後で悟様がゆっくり動き始めました。……やっぱり痛い、です。
泣きたくないのに勝手に涙がでます。悟様は泣き顔を見ても嬉しそうです。やっぱり意地悪です。
「好きだ、真由、だいす」
私の顔の横に突っ伏した悟様が囁きました。私を好き? かぶさるように悟様がじっとしています。
溢れる感情で胸がいっぱいになりました。私にとってもいつからか悟様の笑顔は特別なものになっていました。
私の動悸だって悟様限定です。他の人にはあんなに胸が苦しくなるなど決してないのです。
気持ちを告げるなら今しかありません。
「わ、私も悟様のことをお慕いして……聞いていらっしゃいます?」
悟様は何もおっしゃいません。姿勢もそのままです。
「悟、様?」
返事のかわりにすう――という音が聞こえました。いわゆる、寝息、です。
この状況で寝るんですか。いやあれだけ飲めば酔って眠くなるでしょう。それは分かります。でも、でも
なんで今寝るんですか?
中に入ったままの悟様のものも眠ったのか、小さくなりました。それを引き剥がしました。
ずっとこのままだと重いので、体をずらしてどうにか下からは抜け出しました。
服は、ひどい有様です。悟様のシャツか上着でも借りて部屋に戻るしかありません。
そろそろとベッドからおりようとした私はまたすごい力で引かれました。本日二度目です。
悟様が起きたのかと首をめぐらせると、悟様は私を前に抱いて私ごと横向きになりました。
ご丁寧にも腕が、片方は腕枕をしてもう片方は腰に回されています。悟様は寝たままです。さっきのは寝ぼけての行動でしょう。
今や格闘技の固め技のような状態で拘束されています。寝ているくせに離してはくれません。
本気でどこにも行かせない気でしょうか。
こうして私は悟様の腕の中で眠れぬ夜をすごしました。
背後に聞こえる実に能天気な寝息や寝言にむかむかしながらです。
そして翌朝、悟様は覚えてはいらっしゃいませんでした。好きだとおっしゃったことも、私の返事も。
昨夜のことは全部、きっと酔った上での冗談だったのでしょう。
それを私は真に受けて振り回されたのです。
私は怒りもありましたがとても悲しくてやるせない気分でした。
ですのでつい言ってしまいました。途中までは――けだものでした、と。
それなのに、それなのに。
開き直ったかのような悟様は、私が結婚を承諾するまでと散々とベッドで……
今度は途中で眠ることもなく中をかき回されて、痛みよりも気持ちよさを覚えてしまい、何よりずっと耳元で名前を呼ばれ愛している、
どこにも行かないでくれと言われたら……ええ、私はほだされてしまいました。
疲れ果てた私がドアを開けるとそこには満面の笑みの旦那様と、少々複雑そうなお顔をした奥様がいらっしゃいました。
あの、まさか、ずっと聞いていらしたんですか? 呆然とする私の手を取って旦那様が
「真由、いいやもう使用人じゃないから真由さん、どうか、どうかうちの馬鹿息子と一緒になってほしい」
私、昨日まで使用人ですよ。そう言ってもお旦那様の耳には届いていないようです。
悟様が後ろから顔を出して、駄目押しをされます。二日酔いのくせして異様に満ち足りた表情です。
「真由は承諾してくれたよ。近いうちにご両親に話をするつもりだ」
旦那様の舞い上がり様ははっきり言って怖いほどでした。
それでいいのですか? 本当にいいんですか?
ただ、奥様は悟様の前に立たれると思いっきり頬を張り飛ばしました。叩かれた頬を押さえて呆然とする悟様と、奥様の暴力を
目撃してやはり呆然とする旦那様と私をよそに、奥様はおっしゃいました。
「真由がお前と結婚してくれるのは嬉しいけれど、若宮から預かった大事なお嬢さんに無体なことをした、己の所業は反省しなさい」
奥様が怒ると怖いと知りました。反抗する気は失せました。
主から包囲されて撥ね付ける気力はもうありません。
私はこうして高杉真由になりました。
そして気付いたことがあります。悟様が馬鹿旦那様であればその妻の私は馬鹿奥様なのだ、と。
仕事の上で悟様をそう呼ばせるわけにはまいりません。私生活で、特に二人きりの時にはその呼称はぴったりと思わざるをえない状況は
多々ありましたが。
私は発奮しました。その努力は旦那様と奥様を喜ばせる結果に終わりそうです。
……結局私はうまく転がされてしまったような気がします。高杉家の方々に。
投下は以上
あと保管庫NGにしたけどもし読みたい人がいたらと思うと
いけずな気がしたのでOKに変更したい
GJ!!
若旦那けだものすぎるw
初めメイドの拒否っぷりと淡々さに
メイドの方はそこまで若旦那の事好きじゃなかったのかと思ったが
237でそりゃあメイドも怒るよ…ってなったw
そして奥様は正論すぎるw
GJ!!!!
真由はできる子ですね!仕事の上で馬鹿と呼ばせるわけにはいかない!なんて。
こりゃ両親がほくほくしちゃうわけだ。
GJ!高杉家安泰やなw
保管庫許可もありがとう存じますGJ
243 :
渇いた愛:2011/04/11(月) 08:07:11.39 ID:/7ud5cwE
久々に投下させていただきます。10レス頂きます。
>>158-161の旦那様の過去からメイド出産後少しまでの視点。苦手な人は回避お願いします。
注意:基本話はメイドと旦那様の不倫。旦那様視点。狂愛。
244 :
渇いた愛1:2011/04/11(月) 08:10:33.98 ID:/7ud5cwE
商家の紹介で入ったという、両親を流行病で失った小さな少女。
元ガヴァネスの娘らしく躾が行き届き、年齢の割にはしっかりとした子で。
雇い入れる面接で彼女を初めて見た時は、こんな娘が持ちたいという印象を受けた。
私は沢山の子が欲しかったが、子供はただ一人息子のリスティンだけ。そんな息子に弟妹を作ってあげたかった。
しかし妻と私の描く家族の在り方は違った。妻はもう子など産みたくないという態度で。
息子を産んでから、ベッドの上での睦ごとは子供が出来ぬよう形骸化されていただけだった。
両親を失ってもなお、しっかりと生きようと「お役にたつように努めます」と年齢には不相応な礼儀正しさで、私に頭を下げた少女はいじらしく。
この少女ならリスティンの良い友達にもなってくれそうだと、私は思った。
面接のときの印象は当たっていた。少女は身分をわきまえ、息子に敬意と距離感を持つことも忘れずに。
しかし子供ならではの柔軟さでリスティンとまるで姉弟のように仲良く、ほほえましかった。
息子も少女を姉のように慕い、メイド長も少女をまるで自分の娘のように優しく、時には厳しく指導し、少女が段々と大きくなっていくのを――淡く父親のような気持ちで見ていた。
少女に姉のように尽くされる、息子を少しうらやましいと思いながら。
そんなある日。馬車で街から屋敷へと帰ろうとした私の目に留まったのは、大荷物を抱えてよたよたと轍の道筋を歩く少女だった。
御者に声を掛け、馬車を止め窓から声を掛けると、そんな大荷物を持っても尚、お辞儀をしようとする少女にほほえましさを感じる。
どうやら休日ということで、先輩メイドからついでに色々と買い物を頼まれたようだ。
少女も買いたいものをつい買ってしまって、乗り合い馬車に乗るお金もなかったらしい。
年頃の娘らしい、理由。無駄遣いはいけないな、と父親代わりらしく嗜め笑いながら馬車に乗せてあげた。
そのお礼にと、書架にいる私に少女は休暇中にも関わらず、お口に合わないかもしれませんがと前置きし、彼女が作ったという焼き菓子を持ってきてくれる。
それは私の大好物なエッグタルト。それはコックが作るような繊細な味ではなかったが、素朴さが美味しいと感じさせる。
それを茶うけに、二人きりになった。
探していた外国の本がなく、それもまた探すのを手伝わせてくださいと、にこやかに笑い手伝いを買って出てくれる。
少女は少し外国語が読める。それは亡くなった母親からの教育と、更にリスティンが復習と称して彼女にこっそりと教えていたのを黙認していたからだ。
私はこれ幸いと手伝ってもらうことにした。
「あ、旦那様。こちらにありました!」
その嬉しそうな言葉で振り向くと、少女は一生懸命に、溢れそうになるほどぎちぎちに詰まっていた本棚の本を、精いっぱい背伸びして取ろうとしていた。
すぽっと、その本が抜けた反動で、少女がよろめいた。バサバサと本と書類が舞い落ちてくる中。
私は彼女の体が――すでに少女から大人になりかけていることがわかるほどに抱きとめた。
密着している胸は意外と豊満で。そして図らずも触れてしまった肉付きのいい臀部。
私の腕の中で緑色の柔らかい目を驚きで見開き、途端にそれが涙で曇る。
自分の身よりも、私の心配をしてくれるのか?
掛け値なしに、心配されているそれは、何と、心地よい気持ちなのだろうか。
その心配げな言葉を紡ぐ唇に、キスがしたい。
自然と、手が少女の唇をなぞる。落ちてきた書類で切ったのだろうか、彼女の唇には血がにじんでいた。
きょとん、とした無垢な顔で小首を傾げられれば、ふと我に返って愕然とする。しかし何もなかったかのように体を離すと怪我をしていると誤魔化した。
本当はその血を拭うだけではなく、そのふっくらとした唇を舌で舐め、口の中まで蹂躙しようとしていたくせに。
少女は私のそんな邪心を知る事無く、その誤魔化しにあっさりと納得し、謝罪とお礼をいいつづける。
なんて純粋で、無垢で愛しい存在なのだろうか。
世慣れた宮廷夫人なら、今の仕種だけでこちらの欲望を読み取り、駆け引きが始まるだろうに。
245 :
渇いた愛1−2:2011/04/11(月) 08:11:41.08 ID:/7ud5cwE
私が大丈夫だとわかると、ほっとこちらが癒されるような笑顔になる少女。
その笑顔に衝動がまた沸き起こる。彼女をこのまま自分のものにしてしまいたい。このまま質素な服を剥ぎ取り、生まれたままの姿が見てみたい。
瞬間。下半身に熱が点り、その思いを行動に移しそうになる。
――何を、馬鹿な。
娘のように見守っていて、そして両親を亡くした少女にこっそりと親代わりだと思っていた。
そして少女も尊敬と信頼のまなざしを向けてくれる、のに。
そのはずの自分が、親子程年下の少女を不埒な目で見てしまった思考に、罪悪感を感じる。
何事もなかったように、探し物を再開しながら、私は混乱していた。しかしそんな心を表さぬように表情は平静を装える、貴族として生まれた私にはお手の物だった。
そして他愛無い話を沢山しながら……彼女が今日馬車に乗れなかった本当の理由を聞く。
彼女は相手が私だからと、気を抜いて話してしまったのだろう。
少女が無駄遣いをしてしまった理由は、自身の物を買ったからではなく、文通相手に送る誕生日プレゼントを買って送ったからという。
相手は何度か屋敷にも遊びに来たことがあるリスティンの友人の青年ロルフ――いつの間に。じりじりと、胸が焼けつくような気分に陥った。
それを隠し「大事な人なのかい?」と尋ねると「いいお友達です」と、恥らいながら少女ははにかむ。その心情が友情なのか愛情なのかは計り知れない。
彼女に男が近づくことが妙に気になるのは……親代わりが娘の将来を心配するのは当然の事だろう。
そう私は彼女に欲情したことを棚に上げ、無理矢理自分に言い聞かせた。
それからどれだけの時が流れたのか。彼女と、息子の親友ロルフの仲は気になっていたが、それを息子に尋ねるのは気が咎めた。
その間にもあの彼女との時間。その感触が、忘れられない。妻に期待しなくなってから何人かの女性と関係してきた。
それなのに、キスもしていないただ抱きしめただけのそれがいつまでも残っているような気がするのは、何故だろうか。
彼女の感触、温かさ、香水のように押し付けがましくないよい香り、そして何よりも慈愛溢れる眼差し。
それを忘れたい――私は彼女の親のつもりなんだから。娘にこんな感情を持つことは間違っている。
何となく彼女に会わせる顔がなく、屋敷を留守にし、社交にのめり込み色んな女性と関係した。
いつもの私なら妻を慮って乗ることはない妻の敵視している夫人の誘いにも乗ってしまう。
そのことで妻を不機嫌にさせてしまうだろうが、それはもうどうでもいいことに思えた。
私は違うものに溺れたかった。でも溺れようとすればするほど、本当に溺れたいものの価値を突きつけられてしまう。
246 :
渇いた愛2:2011/04/11(月) 08:12:52.24 ID:/7ud5cwE
妻の婚家から連れてきた使用人頭が、いつものように屋敷の使用人たちの勤務態度と品行を報告する。
この使用人頭は有能で、どこで調べたのかという程に様々な事情に精通し、事実を淡々と感情を交えることなく報告していく。
素行を探るというのは嫌な仕事だが、雇う側としてはこの家にふさわしくない人間をそのまま雇っているわけにはいかない。これは雇い側としての義務だ。
いつもと変わらぬ報告かと思えば今回はその報告に驚くべきものがあった。彼女が……男と交際している、と。
若いメイドが男と付き合って身持ちを崩し……その男に貢ぐため屋敷の金品を盗むなどの被害があったりするのはよくあることで使用人としてはマイナス要素だった。
使用人頭も彼女がそういった問題を起こすとは思ってもみなかったのだろう、珍しく私的な感想をこぼす。
「まぁ恋というものは時期を逃せば永遠に手に入らないもの……ですからね。
燃え上がってしまうのは仕方のない事ですが、こちらとしては急に駆け落ちでもされては困りますから、解雇されて次の使用人候補の面接を――」
「駄目だ」
鋭い声で、その提案を遮る。使用人頭は少し驚いたのか、目を瞬かせた。それもそうだろう、そういう報告は何度もあり、そして解雇を言い渡したことも何度かある。
今回は唯一の例外だ。私は雇用主としての顔を取り繕う。
「いや、彼女は両親を失い小さい頃から雇っている。解雇したら頼る当てもない……もう少し様子をみてやってはどうかな」
「旦那様がそう仰るなら」
すでに使用人頭は冷静な顔に戻って、次の報告を再開していたが、私の頭の中には入ってこない。
使用人頭が報告を終わり、部屋から出ていくと、私はすぐに子飼いの弁護士を呼ぶ。ロルフの身元調査をすぐにするように命じた。
次の日の夕方にはそろえられたそれは、清廉潔白でケチのつけようもなく、彼女との交際に何ら問題がない。
それどころか、彼女を妻と望んでも申し分ない身分だ。父親代わりとしては諸手を上げて送り出せる相手。
彼女を妻にして、ずっとそばにとどめ置くことが出来る権利を初めから持っているなんて。嫉妬に狂いそうだった。
しかしこの時までは、私は自分に父親代わりとして娘を心配していると……誤魔化せていた。
そしてその日の夕方、私は心を渦巻く何かを振り払うように散歩していた庭園で見た。
ひっそりと隠れるように密会している二人の男女。
彼女が幸せそうに……私が彼女から欲してやまない眼差しを、ロルフに与えている所を。
そしてあの時、渇望してやまなかった彼女の唇が青年のそれと重なる所を。
そしてそれが離れた時の、真っ赤になって恥ずかしがりながらも、恋するもの独特のとろけるように微笑む表情を。
一瞬、目の前が暗くなったような気がして、脳裏に使用人頭の言葉がふとよぎる。
――恋というものは時期を逃せば手に入らない。
このままでは二度と、手に入らない。
――では、自分で時期を掴みとることが出来たら?
もう認めよう私は彼女が好きだ……いや、愛している。そして、誰にも渡したくない。
年の差がなんだ。父親代わりとしての妻帯者としての公徳心も全てどこかへ吹き飛んでしまう。
私はその夜、誰にも気づかれないよう彼女を書斎に呼び出すことにした。
――彼女を自分のモノにしよう。
恨まれるかもしれない。しかし私は本気だ、本気で愛し続ければ通じるはず。
そう決心した自分が知らずに浮かべていた笑みが――どんなものなのか分らずに。
247 :
渇いた愛3:2011/04/11(月) 08:14:31.40 ID:/7ud5cwE
いくらリスティンが交際を認めていようとも、雇主は私と妻だ。
彼女を書斎に呼び出すと――あの男との交際を咎められると、覚悟をしていたようだった。
それでも尚、あの男と交際したかったのだという事実が私を苦しめる。
そしてお許しくださいと謝罪する彼女を、カウチにとりあえず座るように申し付け、そのまま押し倒した。書斎には招き入れた時、施錠している。
一瞬何が起こったかわからない顔で彼女から見上げられると、求めてやまなかったその唇にキスを落とす。
「あ、の……旦那……さま?」
「他の男の所になど、いかせはしないよ」
あの男とのキスを見ていた。触れるだけのキスだけであの初々しい反応。だったら全てを奪ったらどういう顔を見せてくれるのか。
茫然とした顔の彼女の唇に、またキスをする。今度は唇をなめとり、その反動で何か言おうと開いた口に舌を滑り込ませる。
「んっ……んん!!」
混乱している彼女の口内を蹂躙するのはいとも容易かった。舌を絡め……彼女の空気を奪い尽くす。
やっと口を離すと彼女のモノとも自分のモノともわからない唾液が糸を引いた。
肺の中の空気を吸われて、ごほごほと咳き込む彼女の肌は朱色に染まり、涙ぐみ霞む緑の目は欲望を掻き立てる。
そして彼女の火照った首筋に舌を這わせ、右手で胸のボタンを外し、左手ではスカートのすそを太腿に手を添わせ捲り上げていく。
「嫌っ……嫌ですっ!!」
下着を剥ぐと、ぷるんと、こぼれるような胸が現れた。
鮮明なピンクの突起が外気に触れたせいでつんと立っている。それを食む。
やはり、握れば意外と手に余るほど大きく、若いので張りのある硬さの弾力。
呼吸を整えた彼女は、さすがにこれから何が始まるのか理解して暴れ始めるが、上になった私を押しのけられるはずもない。
しかし暴れた彼女の爪が私の首筋をかすめて、血がにじんだ。自分が何をしたのか彼女ははっと我に返る。
「も、申し訳……」
彼女の瞳が罪悪感に曇った直後。私は彼女のひざ裏を掴み。両足を押し上げて開脚させる。弱い部分を全開にされて彼女は身動きが出来ないようだった。
靴下止めの間にあるのは、粗末な布の下着。薄く栗色の茂みが透けて見えるそこにすぐに触りたいが、その周りに口づけをし、舌を躊躇なく這わせる。
「や、やぁ……です。お許し、下さ……」
感じているというよりも、こそばゆいのと羞恥ためか、彼女は足をびくびくと震わせ体をくねらせた。
彼女のその何者にも染まっていない態度に喜びがおさえきれなくなる
粗末な下着を破るように脱がせると、後で最高級のモノを買ってあげようと囁く。イヤイヤと彼女は首を振った。
メイド服を全部脱がして堪能したかったが、彼女は処女だ。最初からそんなに要求するのはいけないと思い、胸と大事な所を露わにするだけで、作法通り着衣のままで妥協することにした。
勿論、私は今日だけで終わるつもりはなかったので、我慢できること。
彼女のそこは、まだ誰にも触れられていない証の様にぴったりと閉じられ一筋の線だった。
そして、純潔を表すかのごとく、色も初々しいピンク色。
「お、おやめ……くださいっ……そんなぁ! 場所は嫌っ……汚……ぃ」
足を閉じようとしても、小刻みに与える快楽で力が入らないのか。舌を惜しみなく使って奉仕すると、拒否する声音がまるで歌うようなソプラノに変化する。
その私の唾液で濡れた割れ目に指を入れ、中を慣らしていくが、あまり濡れない。それさえも痛がる彼女を見て、初めてだと身に染みて満足した。
蜜壺を徐々に慣らしながら指を増やす、顔をそむけて拒否する彼女をこちらを向けてキスをする。
彼女は茫然とした体で、抵抗はしないが受け入れてもいない。ただなすがままになっていた。段々と愛液があふれてくる。
ぎちぎちと狭い彼女の中に自分の形を覚えさせたくて、ゆっくりと突き入れた。誰にも侵入されていないそこは私だけの場所。
男性器と女性器を剣と鞘とはよく言ったものだ。彼女の中を私専用の鞘に作り変えていく。
「やめっ……か、はっ! んん」
痛みをこらえるためか、彼女は言葉を話すこともままならないようだった。目を硬くつむり、手もぎゅっと握っている。
その手で私に抱きついてほしかったが、私も彼女とつながっている。それだけで今までに経験したどんな交合よりも素晴らしい昂ぶりが収まらない。
年甲斐もなく、まるで盛りたての若者のように突き上げたい。しかし、痛がる彼女を見ているとそれも躊躇らわれる――が、難しい。
248 :
渇いた愛3−2:2011/04/11(月) 08:15:40.43 ID:/7ud5cwE
「や、やぁ……ん。ひっ! や、誰か……助け……母様、とうさま……痛っ……」
彼女が失ったという家族を呼ぶ声にさらに良心の呵責がこみあげてくる。しかし、そう余裕があったのは彼女の次の言葉を聞くまでだった。
「ロ、ル……さま……ん、ひっ! ひっん! はっ!」
あの男の名前を呼ぶ声に。もう一切の躊躇いを捨てて、私はその名前を聞きたくないとばかりに彼女に遠慮なく最奥まで突きつけた。
途中、引っ掛かりを覚えたが、彼女の中は形をとるかのように私を締め付け、襞でうねうねと蹂躙し、そして昂ぶりを推し進めて行く。
溶け合いたい、混ざり合いたいというかのごと、結合部からく響く水音。
夢中になって彼女と交わる。
――私のモノだ、私の……私の。
「私はっ……君を、愛してる……」
そう囁きながら、私は彼女の中に己のうちにある熱いものを気持ちとともに解き放つと。
まるで私の全てを受け取ってもらえたような錯覚を起こした。
破瓜の痛みでぼうっとしている彼女をつながったまま抱き起し、そのまま抱きしめた。
彼女の体は脱力し、まるで人形のようにカクリと、私にもたれかかる。
キッチリと結っていた豊かな栗色の髪はすでにほどけ、それを撫でて、何度もキスして……抱き合っていると、胸の中ですすり泣く音がする。
「どうして……こんな……旦那様、信じられ、ません」
「愛しているから」
両手で顔を覆う彼女の手をゆっくりと引き離す、乱れた髪が涙で張り付き、目は真っ赤だ。その涙を舌で拭い、まぶたにキスを落とす。
彼女が泣き終わるまで、私は子供をあやすように抱き続けた……その姿は淫らな姿のままだったけれど。
後ろめたさよりも彼女を手に入れたという充足感の方が強かった。むしろこれは必要な事だったのだ。
やっと泣き終わった彼女から精を吐き出し萎えた自身を抜いた。ゴポリと私の欲望と、彼女の処女の証が混ざった液体が彼女の中から出てくる。
その様子に怯えている彼女の処理を私がし終えると、彼女は焦点の合わない目で服を整え、私が声を掛けても無言のまま礼をして退出していった。
249 :
渇いた愛4:2011/04/11(月) 08:17:43.85 ID:/7ud5cwE
その次の日からは、彼女は急激な私の変化が信じられないらしく、私を泣きたそうな目で見るか、あからさまに避けた。
私には妻もリスティンもいるから、清純な彼女には私を受け入れるのは難しいのだろう。
しかし、そんなことは私は許さない。
勤務体制を少し書き換えて不自然にならない程……夜に私の世話を担当にした。
彼女は出来るだけ他のメイドと勤務を変えてもらっていたようだが、流石にそれも難しくなり私は逃げ腰な彼女を腕に閉じ込め、何度も何度も愛した。
毎日ベッドの上で睦合いたかったが、それは難しい事だった。二人の逢瀬は書斎のカウチの上でだけ。
他の人間にこの秘め事が気づかれて、邪魔をされるのだけは避けたかった。
――彼女のすべてを感じたい。
限りある逢瀬の時間。強欲から交わりに関わるすべての行為を彼女と経験したくて。
その可憐な唇で、男性器への奉仕も頼んだ。嫌がったが"お願い"すると、拙い舌使いで私の言う通りソレを舐め、咥え、扱く。
その後。そのまま口の中に出し、ケホケホと咳き込む彼女にキスをせがむと、精液塗れの口に軽く嫌悪感を募らせキスを躊躇っていた。
それは不快などころか、まだ閨での行為に染まらない清純さで、私はそれからの行為は必ず口での奉仕を頼んだ。
相変わらず、あの男と会った居るようだから。
そうすれば、彼女はあの男に――キスできない。
彼女を渡したくない。
あの男と会った後は、私は彼女の服を必ず破るように脱がした。
あの男に抱擁されたぬくもり、匂いを感じるのが不快だったから、その後は新しい服を用意する。
彼女は拒否していたが、私が脱がした服は着て帰れるものではないので、用意した服に躊躇しながらも袖を通していた。
メイド服は他のメイドと差別化するわけにはいかないので質素だが、下着は私好みの最高級のモノを用意した。私しか見ないのだから問題ないだろう。
そうやって彼女を私の色に染めていきたい。
挿入することには慣れ、痛がることは少なくなったが、まだ彼女をいかせた事はない。
そう日々、幸せを噛みしめ考える中……彼女の様子がおかしい事に気が付く。
彼女が荷物をまとめて出て行こうとしている。
そう気が付いたのは逃げる準備をしているのを偶然にも見たからだ。
逃げられると、思っているのか。逃げたとしても私は持ちうる全ての力を使って探し出すというのに。
この家に来た時と同じトランク一つを持って、びくびくしながら人目につかないように裏口から逃げようとする彼女。私は先回りした。
屋敷からでて、裏庭でほっと一息つく彼女に声を掛け、恐れる瞳を気にせず腰を抱き死角になる薔薇の茂みに誘導する。
「お見逃しください……こんな、こんな関係。いけないことです」
「そういう割には……君のココは私を喜んで迎え入れている」
服の上から彼女の下半身を触る。それは服越しだろうが野外という場所柄とても卑猥な行為だった。
彼女は羞恥のため首筋まで真っ赤だ。それに舌を這わせたい。ここがどこだろうが、私の欲は尽きない。
「そんな事……そんなあんまりな事おっしゃらないで下さい、旦那様」
「君こそ、何も言わず逃げるなんてあんまりじゃないかな?」
「そ、それは……でも。旦那様には奥様もリスティン様もいらっしゃいます」
250 :
渇いた愛4:2011/04/11(月) 08:18:48.24 ID:/7ud5cwE
彼女への愛を証明するためにどんな手を使ってでも、後ろ指を指されようとも妻とは離縁しようとした。
そして彼女を秘密裏にどこかの貴族の養女にしてしまえば、いい。
貴族の社会とはそう薄っぺらいものだ、身分という肩書さえどうにかしてしまえば問題は無くなる。
リスティンも話せばわかってくれるだろう。
しかし、少し考えてみると……彼女が私の正式な妻になるということは公的な場に出なければいけない。
貴族として生活をさせて、彼女が変わってしまうのは好ましくないと考える。
そして同時に押し寄せてくる彼女を他の誰にも見せたくない。独占欲が、沸き起こる。
公式な場に行くということは人々の目を集めるという事だ、しかも私の妻ならなおの事注目されるだろう。またロルフのような男が出て来たらと思うと。
彼女を独り占めするためには――妻には矢面に立つために居てもらわなければならない。そう考えたのだが。
「そんなに妻と別れろというのなら、別れよう」
「ち、違います……私はそんな恐ろしい事考えてはおりません」
「なら、今のままで。君が出ていくというのならここで抱いてもいいんだよ」
「そ、そんな……」
「どうして欲しい?」
私は別にここで彼女を抱いても一向に構わない。恥ずかしがり屋な彼女はそうではないだろうけれど。
「お屋敷に戻りますから。どうか、せめて……書斎で」
「書斎で?」
「わ、私を抱いてください……」
泣きそうな顔と消え入りそうな声で、少女はやっとそう言った。
その日私は彼女を執拗に休みなく追い込み、いつまでも解放しなかった。
その日初めて彼女は私と繋がりながら、快楽の頂点に上り詰めた。
それが嬉しくて、いったばかりの感じやすい体をさらに追い立てていく最中、舌を噛み切ろうとされたが、それを阻止し、彼女に囁く――。
「私は君を失うと何をしてしまうかわからない」
それは、彼女の行動を縫いとめる、とても便利な言葉。
勝手に最悪の想像をしてくれる。駆け引き。でも、嘘ではない。本当に何をしてしまうか私はわからない。
彼女がするその想像よりも遥かに罪深い事をすることさえも厭わない。
この関係が……とても神に背くことだとしても私の愛はもう止まらない。
彼女が私を――そう変えた。
幾度となく体を重ね、体が私を受け入れ喜ぶようになっても。
やはり妻と息子の名前をだし、行為をはねつけようとする彼女。
そんなに負い目があるのなら、愁いを無くすため、まずはリスティンに理解を求めようと言うと、彼女はとても嫌がった。
ではロルフに話そうか、この関係を見せつけてやろうかと言うと――なんでもしますからそれだけは、と懇願される。
「ではあの男と別れてくれるね……私だけを見て欲しい」
251 :
渇いた愛6:2011/04/11(月) 08:19:39.60 ID:/7ud5cwE
私の望むとおりに、彼女はあの男と別れた。
私は口での奉仕を辞めさせた。もう必要もない。それに口などではなく彼女の中に出したいからだった。
彼女との子供が欲しい。それも沢山。
一度女としての喜びを覚えた彼女の体は、彼女を存分に乱れさせ、そしてそれが私を煽る。
キスをするだけで熱を帯びるようになったし、初めは私を追い出すようだった締め付けが、今では奥へ奥へと誘うように解れ、私を夢中にさせる。
そんな淫らな彼女に、私をまた更に深い部分で受け入れてくれたと嬉しくなって逢瀬を重ねる。
場所は書斎だけだったのが私の寝室でもするようになり、彼女の部屋にまで行くようになった。
そしてある日、彼女の部屋での逢瀬を見られていたらしく息子のリスティンに、彼女との関係がばれてしまったようだ。
私には意外だった。彼女とこういう関係になってから、妻には何も詫びることなどない。
が、あのように彼女を脅しつけたが、息子には少し罪悪感を感じていたし、知られたくなかった。
彼女と息子を秤に掛けると……彼女の方を優先してしまうのは否めない。
しかし、出来るなら比べたくないのだ。それほど息子を私なりに愛している。
――もしやリスティンも彼女の事を?
息子ではあるが彼女に関しては譲るつもりはない。しかしどうやら息子は、家族として彼女の行く末を心配しているようだった。
その真っすぐな瞳に、少し動揺するが持ちこたえる。
彼女を愛しているのは揺るがないし、これは一時の戯れではなく、一生にしたいほどの本気で、心配することは何もないと言ってやる。
リスティンも母親について何か思うところでもあるのだろうが、私にはもう妻には思うところはない。
それは息子も感じ取っていただろう、だからこそ妻については何も言われる事はなかった。
今までも妻は気にしなかったのだ。これからも私が誰と関係しようとも気にしないだろう。
そして息子にこの関係が受け入れてもらってから、私は彼女への気持ちを抑えるのをやめた。
リスティンという心配の種がなくなると、私のタガはあっけなく外れる。
私と彼女の秘め事はもう秘密でも何でもなくなってしまったのだ。
まるで蜜月のように彼女を求めることばかりしか考えなくて。
彼女が屋敷の他の使用人から、どのような扱いを受けているか、辛い思いをしていることに迂闊にも気が付かなかった。それほど多幸感に酔いしれていた。
――彼女は妻子ある男を誑かす、身持ちの悪い女だと。
しかも私との関係で下種な勘繰りをした男使用人が、彼女に体の関係を迫っていたのを使用人頭からの風紀の乱れの忠告とともに報告される。
その男使用人達は、言い訳も聞かず即刻屋敷から追い出した。
しかし私の怒りはそれだけでは治まらず、彼等が他の屋敷では働けないようにさらに手をうって。
やはり彼女を人目に晒しておく訳にはいかない。
彼女を安全な場所に匿わなくては。
それはこの屋敷では難しい事に思え、彼女の為に屋敷から少し離れた領地に新しいヴィラを用意した。
一度同僚だった人間に仕えてもらうのは彼女も心苦しいだろう。信頼の置ける筋から彼女のための新しい使用人を用意し、彼女の為に新しい環境を整える。
私にはこの程度の出費など取るに足らない事だったが、慎み深い彼女は喜んでくれなかった。
それともあの男に会える可能性のある、この場所から離れたくないのだろうか。
別れたと言うのに未練たらしく彼女に手紙を出し続けていたようだったが、目障りなのでリスティンの手前、匿名の篤志家を装って海外に留学させた。
それでも頻度は落ちたが手紙は着ていた。私はそれを握り潰す。
彼女は私のモノだから、心を揺らす可能性の有るものは廃除したかった。
そして手紙はこなくなる。
――あの男の彼女への愛は、その程度だったということだ。
252 :
渇いた愛7:2011/04/11(月) 08:20:15.66 ID:/7ud5cwE
私は連れ去るように彼女をヴィラへと移した。そしてそちらにばかり、入り浸る。
もう、辛いメイド仕事などしなくても、優雅に私の傍で微笑んで過ごしてくれるだけでいい。
メイド服などではなく、着せたいと捧げたいと思った最高級のもので、惜しみなく彼女を飾る。
侍女も付け、身なりを整えた彼女は、どこに出しても恥ずかしくない淑女だった。
礼儀作法や趣味の教師もつけるし、望むものはなんでも与えよう――自由以外は。
この場所に連れてきてからは、彼女は従順で、私を迎え入れる。
温かい家庭を持ったように感じるが、いまだに彼女の心は、瞳は完全に解れていないことは薄々感じ取っていた。
これで子供さえ生まれれば……彼女の瞳は私に愛を向けてくれるだろう。
子さえ出来れば、優しい彼女の事だ。その子供を愛し、そしてその子を通じて夫婦らしくなっていくだろう。妻にはなかったその愛で。
「奥様はきっと旦那様の事が……お好きなのです」
ある領地見聞から帰ってきての久々の逢瀬。
あの冷え切った夫婦関係を見ていたのに。そんなありえないことを言うなんて、心優しい彼女はやはり妻に負い目があるようだった。
「妻と別れろというのなら別れよう、そんな泣きそうな顔をしないでくれ」
キスをしながら囁く。
「違います……。奥様は、旦那様の事を愛してらっしゃいます」
手首に舌を這わす。その行為を避けるように手を彼女は引くが私はそれを許さない。
感じているのか私の手が触れるたびに彼女はびくりと震えた。
その日は何故かこのヴィラにきてから初めて明確な理由もなしに拒まれた。
しかし、理由がないのなら……と、私は構わずに彼女を組み伏せる。
そして彼女の体に、転んだだけでは説明しようがない場所にある痣を見つけて、違和感が拭えなかったが、その疑問もすぐ解明した。
妻が私の不在中、このヴィラを訪れていたのだ。
一度夜会のエスコートを断った程度の事で、当て付けのように妻が彼女を売りとばす画策をしていたことを、使用人頭から聞いた。
――いつものように、好きなだけ勝手に社交にでも励んでいればいいものを。
これが妻の「愛」というのなら、私にはもう妻は不必要なものでしかない。厭わしい存在。
妻を私の邪魔をすることが出来ないように使用人頭に任せて対処すると、彼女には心配がなくなったと説明する。
「妻は夜会でたちの悪い病にかかってね、私の妻としての役割は果たせなくなったから君は何も気にしなくていいんだよ」
それを聞きなおも妻を心配し、お側についていておあげくださいと言う彼女。真に心配なのは彼女の方だ。
こんな心優しい彼女をいたずらに心配させるわけにはいかず。妻の掛かった「悪い病気」の真実など語れるはずもない。
彼女はどんなに酷い事をされても、妻の事を告げ口などしなかったのに。
それに妻には使用人頭が付いているからむしろ何も心配することはない。
ある日、彼女が倒れた、生きた心地がしない程取り乱した私に、医者からもたらされたのは――子を身籠ったという幸せだった。
待ち望んでいた、心躍る報せ。
その日、彼女を抱きしめて幸福に酔いしれて眠りたかった私は、お腹の中の新しい命の為に行為を拒まれる。
代わりに口でしますという彼女を制して、その唇は生まれてくる子にキスするための唇だと、ついばむようなキスをした。
初めてベッドを共にして愛し合わなかった。
しかし心は満たされる。
彼女を後ろから抱きしめながらお腹を撫でた。それはまだ、存在を感じれる程大きくはなかったけれど。
それから私は領主として彼女との時間を過ごすのがままならず。
比較的自由に彼女に会いに行け、かつ彼女の信頼を勝ち取っている息子に嫉妬と軽い苛立ちを覚えていた。
リスティンが彼女を姉だ家族だと主張して、そしてその気持ちが態度で目に見えるからこそ、彼女に会うのを許していたにも関わらず。
そして馬鹿な事を呟く。
――――もしかして、リスティンの子ではないか? と。
253 :
渇いた愛8:2011/04/11(月) 08:20:49.04 ID:/7ud5cwE
それを聞いた瞬間に彼女は驚きと絶望の為、真っ青になって私の腕からすり抜ける。
「私、私は、旦那様としかこういう事……して、ません」
少し嫉妬を含んだ冗談のつもりだったのに、彼女にそう震える声で反応されて、とっさに動けず。
彼女は自分の部屋へと駆け込むと、ベッドの上で忍び泣いていた。
私はその姿を見て、嫉妬に駆られて、愚かな事を口走ったと悟る。
今彼女は私の愛だけに支えられて、生活をしているのだ。私がそう囲い、すがれるのは私だけなのに。
そんな私だけになってしまった彼女に、彼女の不義を詰ることは彼女の全てを否定してしまうことに外ならない。
――しかしそれでもなお、彼女は私にはすがらない。
感じる軽い苛立ち。どこまでも追い詰めてしまいたい衝動にも駆られるが、それは意味のない事だった。
傍に寄ると伏したまま、顔を上げずに私に訴える。
「やはり、いけないことです、私を解放してください……こ、子供は一人で育て……」
「何を馬鹿な事を……言うんだい?」
「奥様にも、リスティンさまにも……顔向け、できません。これ以上は、どうか……この子は私だけの子で」
私は強引に彼女を抱き起こし抱きしめる。
けれど今までにないほど腕の中の彼女からは全身で伝わる拒否。子供を守ろうとする母親としての彼女だった。
私はその反応に狼狽えながらも、内心満足感を感じているのを否めない。
「やはり、妻やリスティンが邪魔かい?」
腕の中の彼女が、弾かれたように私を見る。その瞳は怯えていた。
「いいえ、いいえ……」
「では君は私から、子を奪うというのかな? 君の子というだけじゃない、この子は私の子でもあるのに」
首を横に振る彼女のお腹を優しく撫でながら、そういうと、彼女はびくりと震える。
私の胸先三寸で母子の未来は決まる。彼女は子の将来を不安がっているようだった。
このままでは私たちの子は不本意ながらも『愛人の子供』と、世間の非難を受ける事になってしまうだろう。
私生児には暮らしにくい世の中だ。
ならばその不安を消してやろうと、前々から考えていた事を口に出す。
「この子は私と妻の子……として育てよう」
「そ、それはっ……」
子供を取り上げられると思ってか、腕の中の彼女は更に身を硬くし瞳が益々不安げに揺れ動く。
「でも安心してほしい。それは表向きの事だよ」
私は彼女を安心させるように微笑んだ。
「子供はここで、二人で育てよう。妻は……子育てもできない状態だ」
「……」
「この子を……私生児にするわけにはいかないよ、私の子だ」
"私の子"という言葉に力を込めると、彼女は諦めたように首を縦に振った。
254 :
渇いた愛9:2011/04/11(月) 08:21:23.62 ID:/7ud5cwE
彼女はふさぎ込んでしまい、まだ迷っているようだった。
その間に、時折監視させていたあの男が結婚したと報告が届く。
彼女の外界との未練を完全に断ってやろう……そして私だけにすがってほしい。
腹の中の子が安定し、影響がない程度に、私はまた彼女と睦合う事を再開した。
彼女と睦合いながら、それを言うと「幸せに暮らしているのでしょうか」という快楽のために虚ろな問い掛けに「子供も生まれるらしい」と、私は上機嫌で答えた。
彼女の体も心も我に返ったように快楽から冷めるけれど、構わず私は彼女の体を弄ぶ。
――だから、もう君は私だけのものだ。
それで私の憂いはなくなった。
これで完全に彼女を手に入れたのだ。
彼女は子供を産むという初めての経験に、喜びよりも恐れと不安を抱き、不安定だったが。
段々とお腹が大きくなるにつれて、母親としての強さで落ち着いたようだった。
細くくびれていた腰が丸みを帯び、大きくなったお腹を摩りながら、子供に話し掛けたり、子守唄を歌っているその姿は慈愛に満ちた……私の欲していた妻そのもので。
この子が生まれさえすれば――すべてが上手くいく。
お腹の中の子が大きくなり、動きを感じるほど育ち始めると、その気持ちは段々と確信に変わっていく。
私はあまりにも幸せで楽観視しすぎていたのかもしれない。
彼女が臨月になると、私はほとんど彼女の傍から離れなくなった。
しかし王への謁見という、どうしても拒むことのできない貴族としての義務が、彼女のそばに居る事を許さない。
このところ体調が悪い彼女からはなれるのは、身を引き裂かれる想いだったが、彼女は微笑み見送ってくれる。
どうか私が帰ってくるまでは無事でいてくれと、腹の子にも彼女を守ってくれと祈り私は後ろ髪をひかれる思いでヴィラを後にした。
気もそぞろに儀礼をすませ、急ぎ帰った私に待っていたのは――埋葬も済ませたという赤子の墓だった。
どうやら一睡もせず亡骸から離れず泣き崩れる彼女を心配し、リスティンが私が帰るのを待たずに葬儀を済ませたらしい。
リスティンは私に一目でも会わせなかった事を苦しげな表情で詫びる。それもそうだろう、子供は息子の弟でもあったのだから。
私は息子の労をねぎらうと彼女の部屋へと急いだ。
ベッドで泣きじゃくり、赤ちゃんの事を詫び、ごめんなさいと誰ともなく何度も何度も呟く彼女。
その顔は憔悴しきっていて、私は言葉を掛けられず、ただ抱きしめる事しかできない。
医者の話では、次の子を産むのは非常に困難だと言う事だった。
それを聞いて不思議だったあれほど子供を欲していたのに。
彼女が無事だとわかれば、それはもうどうでもいいことに思えた。
彼女が産めないとわかっても失望などない。むしろ彼女を失うぐらいならいらない。
幸いにも、後継ぎはリスティンがいる。
泣き崩れる彼女を胸に抱き、私は思い至った。
――そうだ。煩わしいタイトルなど、息子に譲ってしまえばいいのだ。
王への謁見という煩わしい義務のせいで、彼女が子供を失うという大変な時に側にいれなかったのだ。
領地を潰そうともそれはどうでもいい事に思えるが、私が立派な公爵でありつづけなければ彼女が気に病むだろうからそれだけは避けたい。
それにはリスティンに任せてしまえばいいのだ。
妻の事は使用人頭にまかせればいい。
今だに妻をお嬢様と呼ぶあれは、やっと手に入れた妻を決して自由にはさせないだろう。私が彼女を手放せないのと同じく。
聡いリスティンには、その能力が親の欲目を引いても十分備わっている。
初めは世間を知るために、数年ほど外遊をさせようと考えていたが、その予定を繰り上げよう。
一人前にするには五年か、いや集中して教え込むのは一年でいい。段々と権利を譲っていきあとは相談に乗ってやればいいだろう。
私は隠棲して彼女との夫婦生活を想い描く。
そのためには何をする必要があるのか……と、それを実現させるための幸せな繁雑さに思いを巡らせた。
以上です。
長いと怒られて11レスになったり重複番号になったりしてすみません。
GJ!!!!
待ってましたー
旦那様の狂愛がすばらしく恐ろしい
冷静に溺れている様子がいい!
彼女のいじらしく可愛らしいところを長いこと見せられていたら
そりゃ惹かれると納得した
そしてご無事で何より
>>255 ご無事で何よりでしたそしてGJ!
使用人×奥様のSSでも感じましたが旦那が案外バカで嗤いが止まりません
歪んだ旦那ヴィジョンでどれ程のことが見落とされているかと思うと先が楽しみです
同じく、恋にトチ狂った愚かな男だね、旦那様……。
ロルフ、妻子持ちになったのか、まあ仕方ない。
まぁいきなり別れを告げられたとはいえど
振られた後アプローチしてもなしの粒手で
会える訳も無かったら諦めるしかないしな…
アーネ……不憫な子
>>243 無事でよかったGJです
裏で何かが静かに進行中……のような気がする
『ジェーン・エア』のロチェスター氏がものっそ偉大に見えてくるじゃないか!
(そもそもの状況からしてかなり違うけど)
意に沿わぬ妊娠をした身でロルフのことを聞かされるアーネを思うと、鬼畜やなぁ>旦那
自分の都合しか考えが至らないってとこは、旦那と奥様お似合いのカップルだと思うw
むしろそんなカップルから生まれた息子が一番の恋愛常識人w
ジェーンエア昨日エマのヴィクトリアンガイド読んでたら載ってたんで
気になってたんだが262が話題に出したことでますます気になってきたw
あらすじ見ると主人公も旦那様も美形じゃないとは珍しいな
>>263 ジェーン・エアはいいよ!
男の人にとっては「メロドラマw」とか「韓国ドラマかw」とか
失笑してしまうところもあるかもしれない。
でもすごくいいよ。
長距離フライトの時には必ず読む。もう何度読んだかわからないぐらい読んだけど
それでもドライアイにはならないw
自分語りだけど、私はわゆるイケメンとかスタイルいい人が好きじゃなくて
でかくてごつくて岩のような男の人が大好きなんだけど
たぶん、その理由はロチェスター様にもあると思うw
映画だと、最初に出てくるヘレンという
賢い美少女をエリザベス・テイラーがすごくかわゆい。
あのリズを見るだけでも価値はあるかもしれないぐらい、可愛いよ。
私の年上好みはロチェスター氏とジャーヴィ坊ちゃまの影響が多分にあると思う。
40前のおっさん(貴族)が雇い人である20前の若い子(家庭教師)にマジ惚れして
後追いかけ回す、てノリにピンときたらおすすめ。
おっさんが彼女を振り向かせるためいろいろ画策し駆け引きする姿はある意味笑える。
筋はどうみてもメロドラマですありがとうございました。なので思いっきり突っ込み
入れながら読むとよろしいかと。最初の方の学校時代はすっとばしておk。
更に言うと新潮文庫の大久保訳おすすめ。会話文が上品でロマンチックだからw
>>265 ジャーヴィ坊ちゃまといえばあれですか?
手紙のやり取りだけじゃ辛抱たまらんといとこをだしに大学生に近づく……
今考えるとストーカー?
だけどあのころは社会主義が最先端の思想だったのかと思うと考えさせられる
作者の挿絵が好きだった
そして自分もしっかり年上、貴族、インテリ万歳の洗礼を受けた
手紙はやり取りしていなかった
主人公が一方的に義務として送っていたんだった
前半は別に恋愛じゃないだろw
後半はおもいっきりストーカーだけどww
続編でサリーの話があったから
ジュリアの続編もあるかと期待していた時期がありました……
>>264>>265 おすすめdd大久保訳読んできた!
自分も大の大人が小娘に振り回される
ジャーヴィ坊ちゃんが好きだったからかなりツボった
しかし初めの押してダメなら引いてみろの
引いてみろすぎてあんまり萌えなかったんだが
プロポーズ後のメロメロっぷりや
再会前の宿屋の主人に小娘おっかけてたよ!とか聞くのがニヤニヤした
そんな私のお勧めは
ちょっとDLと閲覧がめんどくさいけどただ読み.NETで見れる「子爵の恋人」と
あと勝田文の昭和版あしながおじさんの「Daddy Long Legs」
殆どそのまんまなんだがおじさん視点からも見れていいんだこれが
子爵の恋人の内容書くの忘れてた…
子爵の妹の家庭教師になった主人公が
プロポーズされて一度は受けるけどいろんな要素で結婚前に子爵の前から去り
それを見つけ出した子爵と再会から始まるんだけどよかった!
教授と助手
たまには真面目な仕事編
エロなし
「クーパー」
「動脈切離」
「バイタルは安定しています」
器具の触れ合う音、電気メスの音と特有の匂いがするそこに、時折短い言葉が交わされる。
周囲の人間には肌寒いほどに冷房の効いたそこはライトの下の人間には暑い。
使い捨ての術衣を着こんでいるせいもあるけれど、緊張と高揚感からの汗も出る。
「ライトを調整してください。もう少し奥を」
術野から目を離さずに指示を出す。言いながら液体の吸引をする。にじみ出る体液をガーゼで押さえる。
助手として彼の仕事――手術に下っ端ではない助手としてつけるようにもなってきた。
彼が執刀する症例は一言で言って厄介なものが多い。
他所でお手上げと言われたとか基礎疾患が厄介で手術が困難な、とかだ。
いきおい時間はかかり難度は上がる。執刀するほうも、助手をするほうも気力体力を使う。
でもこのひと時は貴重だ。彼の手の動きも目線も私を捉えて離さない。
神と一緒の場にいられてその手技を誰よりも近くで見ることができる。
外からの検査でしか分からなかった病巣を目で見て手で触れて対処ができる。私には何よりの経験だ。
少し難渋はしたが病巣は摘出された。
止血後、周囲を郭清し術中エコーで追加処置の必要がないのを確認して彼が目を上げる。
「あとは任せる」
「お疲れ様でした。ありがとうございました」
彼に声をかけて後処置にうつる。彼は使い捨ての術衣を床に脱ぎ捨て、肩を揉み解しながら手術室を後にした。
手術開始とは逆に内から外へと閉じてゆく。
丁寧に、でも素早くと心がけて皮膚まで縫合して消毒し、ガーゼを当てる。
終了。
ほっとした空気が流れる。
「お疲れ様でした」
声が交わされ、患者さんの退出の準備や麻酔医のチェック、若手医師による病巣の計測や撮影、病理に提出するために割を
入れたりする作業など。緊張の解けた空間が一気ににぎやかになる。
私も心理的に重かった装備をはずして一息つく。そこに手術部の看護師がよってきた。
閉鎖空間のような職場にあって戦友のような存在だ。
「お疲れ様。教授と先生の手術はすっきり早く終われるから好き」
「そう? まあ教授が神業だからね」
彼女はそうね、と言いながら続ける。
「でも先生って次の器具とか手順や、細かいこととかの指示が早いし的確だし、教授みたいに手も早いし。あ、変な意味じゃなくて。
教授も手技だけに集中できるからか、普段でもすごいのにそれ以上に鮮やかにオペしているって、スタッフの間では言われているよ。
機嫌よさそうに見えるし。
教授の執刀だから結構大変な手術ななずなのに、患者さんの負担は軽くて済むし、周りは早く上がれるし。いいことずくめ」
そうなのかな、と思いながら術衣の上に白衣を羽織り、待機室のご家族に手術の説明をする。
数時間の緊張はご家族も同じ、いや普段身近ではないせいか緊張は大きいかもしれない。
それが解かれてほっとしたり涙を浮かべたりする方も多い。よい報告ができると私も嬉しい。
手術部でシャワーを浴びて医局へと戻る。これで私の今日の業務は一応終了だ。
手術に入った日だけは時間があればドリップコーヒーを淹れることにしている。
少しずつ落ちていくコーヒーの香りが神経をほぐしてくれるようで、もう儀式のようになっている。
手術記録を入力してカップを両手で持ちほっとしているところに彼から連絡が入る。
コーヒーを持ってきて欲しい、と。
飲みかけのカップとサーバーを持って彼の部屋へゆき、彼の部屋のカップに注いで机の上に置く。
「お疲れ様でした」
彼と手術に入った日はこうして一緒にコーヒーを飲んで手術のことを話し合う。
私の行動にも言及されて注意を受けたり、アドバイスをしてもらったり。
共通の困難な課題に立ち向かったせいか、達成感の後の二人の間に流れるこの空気は、好きだ。
飲み終えて出て行こうとすると決まって引き寄せられて軽く口付けられる。
「お疲れ、今日はありがとう」
その時の彼の口調は素直で、柔らかく抱きこまれて唇だけを合わせるのも、好きだ。
医局で洗い物をしてからICUへと足を向ける。
手術日だけは少量個別に挽いた自前の美味しいコーヒー豆にしているのを、彼は知っているだろうか。
彼と手術に入る、という私にとって特別な日のささやかな贅沢。
もっとこの機会と時間を増やせるように精進しなければ。
終わり
GJ!!
教授が実はかっこいいということを忘れがちな昨今ですがw
助手と一緒に手術するのが一番潜在能力を引き出され
失敗できないオペなんだろうな
コーヒー知らないわけがないとついツッコミ入れたw
>教授が実はかっこいいということを忘れがちな昨今ですがw
そう、本当にこのところその部分を忘れそうになっていました。申し訳ありません教授。
すぐ側で神とも崇めるような技を見せられては、毎回惚れ直しちゃいますよねー。
同業者ならではの結びつきがうかがえて、よかったです。
助手としての手際の良さも含めて教授と良いコンビと認識されてる…良かったな!!教授w
>>271さん、お疲れ様です。お忙しい中で投下有難うございます。
いつも教授と助手を楽しみに拝読させて頂いております。
こう申し上げたら失礼ですが、臨床医療施術などを見てきた様にお詳しいので
実際的で、しかも私好みのエロ描写、眼福で御座いました!
長くなりましたが、これからの二人の展開を楽しみにしております。
ほ
し
ゅ
よりもそろそろ上げた方がいいと思うのでage
教授と助手
医局の休日二景
「医局旅行?」
またベタな提案を。医局長はこの手の行事が大好きだ。
教授室までやってきて医局員の親睦を深めるとか日頃の疲れを癒すとか、医局旅行の意義について色々ともっともらしいことを
並べたてる。本音は飲んで騒ぎたいだけなんだろう。酒好きの医局なのは否めないが。
面倒くさい。面倒くさい。まったく気が乗らない。
「俺がいたら皆の気が休まらないだろうから……」
断りかけてはた、と気付く。
「これは全員参加かな?」
「あ、はい、その予定にしています」
聞けば近場の温泉旅館とか。いかにもな選択だが、旅館、温泉、全員参加か。
夜には宴会になるだろうし、そんな場所なら浴衣を着るだろう。それなら話は別だ。不承不承の体を装って頷く。
「分かった。予定を空けておこう」
医局会で告知がなされ宿の予約もされて当日を迎えた。大学組は医局に集合だ。
彼女も病棟に寄ったのか白衣を着たままだったがそこにいた。
貸切バスで移動だとか。顔が見られる近くの席だといい。
色々期待しながら、医局旅行も悪くないなどと思っていた。
出発時間になりバスに乗り込む。
あれ?
なんで彼女は乗らない? なぜ白衣を着たままなんだ? なんで手を振っている?
合点がいかずに医局長に尋ねる。全員参加、だよね。医局長は
「病棟医長だからって一人当直を引き受けてくれたんです。おかげで下の先生も参加できることになりました」
当直? ああ、そうだね、ここは大学病院で各科必ず当直体制だ。
下のことを考えるその姿勢はすばらしいよ。でもできれば俺のことも考えて欲しかったよ。
バスなので途中で一人抜ける訳にもいかず、翌日自棄酒で二日酔いの状態で戻ってきた。
教授の機嫌が悪くて翌年から医局旅行は中止になった、らしい。
あんな肩透かしを食わされれば、誰だって機嫌が悪くなると思う。
浴衣姿、見たかった。
終わり?
ほんのちょっと顔をだしてカルテのチェックをして、ボックスのあれこれを持ち帰るつもりだったのに。
彼に見つかってしまった。
休日出勤、仕事に熱心なその姿勢は尊敬できる。けれど今日の姿はあまり見られなくなかった。
彼は案の定、目を丸くしている。
「どうしたの? それ」
今日の格好はおよそ病院とか医局にそぐわない。
「友人の結婚式に出ていましたので」
とはいってもレストランウェディングだったので振袖でも訪問着でもなく、すこし改まった小紋だが。
眼鏡をコンタクトにして、化粧もして余所行きの顔になっている。
彼に上から下まで見つめられると気恥ずかしい。
「着物、着るんだ」
「あ、はい茶道をやっていたので着付けも自分で」
そう言った私に彼は目を輝かせる。
「助かった。君、英語はできるかな。ちょっと来て欲しい」
教授室に手を引かれて入るとスカイプで誰かとビデオ通話をしている最中だったようだ。
彼が早口で相手に何かを言っている、日本文化の体現とか聞こえた気がした。
「俺の部下を紹介するよ」
そう言って彼が私をカメラの前に立たせる。条件反射のように挨拶して自己紹介をし、相手を見る。
この顔は見覚えがある。世界的に有名な教授だ。どうしてこんな人とアクセスしているんだ、と思いそういえば彼もこの世界では
有名だったと今更ながらの事実に気付かされる。
あちらの教授はカメラの向こうで矢継ぎ早に質問してくる。それにできる限りの知識で答えてゆく。
「どうやってそれを着ているのか?」
そう尋ねられたとき彼から着付けを見せてやって欲しい、と頼まれた。
下が畳ではないしと渋るとシートを持ってくるから、とあちらの教授に5分ほど準備の時間を要求した。
あちらでもご家族を呼んでくるからということになった。
「シートのほかに何か欲しいものは?」
姿見になるような鏡があれば、あとは机もあるし大丈夫だろう。
彼に見ないで下さいと釘をさし長襦袢姿になる。
紐や伊達締め、帯揚げや帯締め、帯枕を順番に並べ、ご家族を連れてくるのを待った。
「これは長襦袢といって映画などではナイトガウン代わりに着られたりしています」
着物の色や模様について説明した後、襟を重ねていく。
丈を調節して紐と伊達締めで固定して視線を外していてくれた彼にもう大丈夫です、と合図する。
帯を見せるとその長さと模様に興味津々だった。
「結婚式に着たので吉祥模様という日本のめでたい柄になっています」
長さを調節して肩にかける。鏡を見ながら体に巻いてゆく。
カメラのほうに背中を向けて帯をひねり、おりあげてお太鼓をつくる。
向こうで折り紙みたい、と声が上がりくすりと笑ってしまった。
帯枕でふくらみをもたせて帯揚げで包み前で結んで帯と着物の間におしこむ。
「最後に帯締めで帯がゆるまないようにします」
きっちりと組まれた精緻な帯締めを後ろから前に渡して結んで、両脇にはさみこんで着付けは終わった。
あとは袱紗や扇子、懐紙や根付、かんざしなどの小物の説明をする。
ご家族はきゃあきゃあと歓声をあげている。彼にこれでよろしいでしょうか、と首をかしげてみる。
彼はゆっくりと頷いて流暢にあちらの教授と会話しだす。
「着物には日本文化のさまざまな要素が含まれている。それを着る女性も日本の精神性を表す素晴らしい存在だ」
彼の言葉に何かを感じてその横顔を見る。
「いや素晴らしかった。今度日本に行ったら是非実物を見てみたい。その時は案内をお願いするよ」
「彼女にはさせないぞ。大事な部下だ」
彼がぶっきらぼうに言ってあちらの教授が笑い、再会を約束して遠く離れた両者のやり取りが終わった。
「仕事の話のはずが雑談から、お互いの国の文化自慢になって。どちらも引くに引けなくなってしまった。
待ってろ、日本文化を見せてやるっていきまいて部屋を出たんだけど。学内で日本文化っていっても見当たらない。
さてどうしよう、って思っていたから本当に助かった」
拝まんばかりに感謝されてかえって面映い。気まぐれも役に立ったらなによりだ。
「それなら良かったです。では私はこれで失礼します」
部屋を出ようとすると引き止められた。
「髪の毛に何かついている」
そう言われ、立ち止まる。鏡を見ても自分では良く分からなかった。彼が背後から近づいて手を伸ばす。
うなじのあたりに彼の指が触れた、と思ったらつい、と耳たぶに触れられそこに唇が寄せられた。
「教授」
彼の片手が身八つ口から胸元に忍び込んだ。襟元からは手が入れにくい和服の構造を知った上での行動だ。
手はためらうことなく肌襦袢の上から胸をもんできた。指で乳首を挟まれて動きが止まる。
「やめてください」
机と彼に挟まれ逃げ場がない。
彼は片手は胸元に入れたまま、もう片手で器用に帯を固定していた諸々を外していく。
さっき着付けを見ていたからか脱がすのも手順が分かっているようだ。
「こんな姿を見せられて、我慢できるとでも?」
足元にほどかれた帯がしゅるり、と落ち、着物もはだけられた。
無理に抗うと着物が破れそうで、帯や小物を踏んで汚しそうで。
何より彼の目に宿る熱に射すくめられて動けない。
何故この人はこんなに器用なのか。その手際の良さにそんな場合ではないのに感心してしまう。
伊達に教授はやっていない、か。
着物を脱がすために彼は一旦手を抜いた。帯と着物を椅子にかける。長襦袢に手がかかる。
この時点で彼は私を向かい合わせにして唇を重ねてきた。
彼の口付けは気持ちがいい。うっとりとしているうちに長襦袢がはだけられる。
「これ、着たままでいい?」
襦袢を身に着けたまま? 洗える絹のだから大丈夫ではあるけれど。
補正のための布もはずされた。襦袢は伊達締めもはずされて紐一本だけでかろうじてまとわりついている。
私は足袋と長襦袢、肌襦袢を身に着けているだけになっていた。
裾を割られ彼の手が足の付け根をさぐる。彼の目が丸くなった。
頬が火照るのがわかり、横を向く。
「和服の時には下着はつけていないんです」
彼に触られたことでそこは既に反応し潤んでいた。彼の指を抵抗なく受け入れて淫らな音を立てる。
乳首を舐められ軽く噛まれるときゅっと彼の指をくわえこんだまま収縮してしまう。
開いた襟元、鎖骨に彼が唇を寄せて内側から外側へとなぞられる。軽く歯をたてられ息が止まる。
下ではくちゅっと音をさせて指が引き抜かれその液が入り口に塗り広げられる。
陰核に指が触れる。指先で嬲られ息が乱れていく。
「は、あっあぁ……」
ずるい、私ばかりが乱されている。
そう思うとたまらなくなり彼の頭を抱きこむ。彼が胸から顔をあげてまた口付ける。
彼の刺激で私の声は甘くなってゆく。それを彼に絡めとられる。
指が中で襞をこすって押し広げて、彼を受け入れる準備を整えると共に、私にこの後の指より――ずっと、もっと気持ちのいいそれ、
が入る心積もりをさせる。とろりと溢れる粘液に体が期待しているのを思い知らされる。
身をよじって彼から逃れようとするがわずかに口が離れただけだった。
「教授っ、お、願い、もう……」
初めて彼にねだってしまった。彼は息を飲んで私を机に浅く座らせて中に入ってきた。
「あぁ、あ……あっ」
その圧迫感に声が上ずる。いつもと違う状況だからか私もいつもより彼をはっきりと感じる。
熱くて硬くて、中を押し広げられる感覚にぞくぞくとした震えがはいのぼる。早く奥まで来て欲しい。私をいっぱいにして欲しい。
繊細な指でポイントを攻められたあとでの彼のものは私には圧倒的な存在感だ。
奥の子宮口をぐり、と押されてのけぞるとそのまま腰を回して入り口をこねられる。
同時に陰核を指で擦られて、ぎゅうっと彼を締め付けてしまう。中がひくひくと動いてそれは意志では止められない。
「そ、んなに、締めるな」
かすれた彼の声が私を煽る。
昼間の部屋は明るい。そこにこんな姿をさらして彼に見られるなんて。きっと濡れてすごいことになっている結合部を思うと
羞恥でたまらなくなる。彼にねだったのも恥ずかしいのに、いつまでも彼に穿たれていたいと矛盾する欲望が生まれている。
彼が小刻みに私を揺らす。
「ふぁっ、んう……ん」
抜かないで中を撹拌される感じに、締め付けてひくついていく自分に、粘液がまた出てくる感覚に淫らな自分を思い知る。
彼におぼれては駄目だ。そう思いながらも体は目の前の快楽にとらわれてしまう。
「君の中、すご、い。もっていかれそう」
彼の手が足袋と、足首をつかむ。机の上に押し倒され彼が奥まで突いてくる、それに感じてしまう。
彼はぎりぎりまで抜く時に私の中の弱い部分を狙ってこすりあげる。かき混ぜられて緩急をつけられて。
それだけで蕩けてしまうのを感じる。なんて、なんて……
「気持ち、いい?」
彼に尋ねられても、もう言葉では返せない。必死に頷いてしがみつく。膝で彼の腰をはさんでしまう。
足先の白い足袋が彼の動きに合わせて淫らに揺れて空間に踊っている。
おかしくなりそうだ。私が私でなくなりそうで、怖かった。
「き、教授。だめ、です。も、う、ああっ――」
その瞬間弓が引き絞られるように頂点へと急激に上り詰める。繋がっているところが痙攣する。
彼をはさむ力が強まる。目の前が白くなり、ただ気持ちがよくて私はその波にさらわれてしまった。
頬を柔らかくたたかれて覚醒する。私は……
「大丈夫? ちょっと意識が飛んでいたみたいだ」
まだ私の中にはいったまま彼が間近で見つめていた。
「あ……」
まだぼんやりとして彼を見上げる。彼は微笑んで口付けをくれた、それを素直に受け入れてしまう。
「俺もイっちゃった」
彼が始末をしてくれた。まだ私は力が入らずに机に横たわっている。
私を抱き上げてソファに座らせてくれた。なでてくれると、その手の感触に身を委ねてしまう。
ようやく人心地が戻ってきたように思えた。
「休日には、しないって決めていたのに」
ぽつりと呟くと背中を大きな手で撫でられる。
それが心地よくて私の中からゆるやかに何かが溶け出してしまいそうで、なぜか泣きそうな気になってくる。
――錯覚してしまいそうになる。とっさに口走りそうになりそんな自分にはっとする。
しばらくそうやって撫でられてようやく私は落ち着いて立ち上がり、着付けを始める。
髪の乱れも直して、草履をはいて元の姿に戻った。
「では、これで」
彼は私の頬に手をあてた。
「今日はありがとう。気をつけて」
彼に一礼して部屋を後にする。後日彼にバーのママが会いに来ていた、という噂がたった。
その方が都合がいいので話がでても何も言わずにいた。
陰干しと風通しのために吊るした着物を見ると、胸が苦しい。私は何を言おうとした?
終わり?
おまけ
しまった。良いではないかあれ――、とかやってみたかった。
彼女にうっかり言ってしまい、氷点下のような視線を浴びてしまった。
でも着物ってすごくそそる。あれもしたい、これもしてみたいって妄想を掻きたてられる。
衣擦れの音とか、色鮮やかな着物と帯を脱がせてゆく感じとか、病み付きになりそうなくらいに刺激的だ。
例の教授からは一度メールが届いた。
あちらの言語で書かれた和服の本を入手したことが書かれていて、続きに
『あの部下はとても魅力的だった、君の恋人か?』と。
俺と、彼女の関係か。少し苦いものがこみあげる。
終わり
本文長すぎと注意されたので細切れ投下になってしまってすまない
バーのママに間違えられた助手ちゃんがちょっと笑えるw
医局旅行は二年目も催行すれば今度こそ一緒に行けたんじゃないかな、教授w
和服エロ好きだからGJです!
助手を嫁に・・・と思ったけど教授の報復が怖いので止めておきます
毎度GJですな
教授にはぜひとも頑張って助手を妻として学会に着物同行させてほしい
通信相手側の教授視点がきになる
今まで特定の女いなかった知人に恋人発覚、wktkじゃないのか
グッジョブ!
休日は契約違反なのに
多分だからこそ助手は旅行も断ったと勝手に想像してたのに
ついに…契約という線引きも犯す重大な転機がw
続きも期待してます
しかし教授の事だから
今口説いてる最中なのさ()とか軽口言うと思ってたw
教授と助手シリーズ面白い
過去スレまで見にいってしまったよ
そこでやっと皆の言ってる契約の意味が分かった
作風(?)の「終わり?」と「終わり」に最初違和感あったけど、今は楽しんでいる
終わり? のときは、映画のエンドロール後のおまけの続きがあることが分かったようなwktkが芽生えるw
教授と助手はまさか続いてくれるとは思ってもみなかったんでいつもワクワクしてる!
早く両思いになってほしいがなったら終わっちゃうのかーとジレンマw
>早く両思いになってほしいがなったら終わっちゃうのかーとジレンマw
あるあるw
アーネが気になる
教授と助手
終わりの始まり
昼食はできるだけ医局で食べる。連絡事項や雑談を介して医局員とのコミュニケーションを取る目的もあるからだ。
その日は若手の男性医師の結婚話がでていた。
誰かから『男の方は結婚はいつでもできるが、女医さんは両極端だ』という話になった。
学生時代から付き合って研修医かそれが終わってすぐか、専門医や認定医、博士号などを取得して医師としてのキャリアが
ひと段落してから結婚するか、らしい。
そこに彼女が昼食をとるべく入ってきた。この話が向けられるとあっさりと肯定された。
「早めに結婚する相手は学生の頃からの同級生や先輩医師。ある程度たってからはむしろ年下の医師や男性看護師、
技師さん、MRさんなどの医療関係の人、あとは異業種の人とですね。同級生の女医を見てもそんな感じです」
草食系とか乙女系とか言われる男性からは女医は結構人気があるらしい、と笑う。
収入がそれなりにあって、女医の性格が気が強くて男らしいからでしょうかなどとも言っている。
昼食を食べながら次第にもやもやしてくる。
彼女はその分類でいくと後者。その志向でいくと俺は守備範囲ではない、ということになる。
急に彼女と関係してからもう数年になるのに気付かされた。
彼女は俺とのことを清算して、他の男と結婚するつもりはないのだろうか。
一応一人前の医師で、優秀でよく気が付いて美人で。つまりとても魅力的で。
群がる男共は彼女に知られないように秘密裏に排除しているけれど。
そう思うと堪らずに、彼女が来てくれた時に聞いてしまった。
「君は結婚するつもりはないのか?」と。
そんな相手がいるのだろうか。最初の時にお互い他の人に本気になったらやめよう、と約束している。
彼女はじっと俺を見て、真面目な顔で言う。
「お嫁さんが欲しいと思ったことはあります」
お嫁さん? 顔に疑問符が浮かんでいたのだろう、彼女は微笑する。
俺とこういう関係だけどそっちもいけるクチだったのかい?
「家に帰ると食事とかお風呂が用意されて、出迎えてくれる人がいたらいいな、幸せだろうな、と思います。
今は帰って寝るだけですから。だから奥さんが家にいてくれる男性の先生方が羨ましいです」
「えっと、女性と結婚したい、というわけではないのかな?」
「そちらの趣味はありません」
ほっとしつつ、今、俺は危険な方向に舵をきろうとしていると自覚する。内心がどうであれ冗談めかした、そして何故か
自信たっぷりな強気な物言いになるのは良い癖なのか、悪い癖なのか。
「君だったら相手は選り取り見取りだろう。草食系を捕まえるか?」
そう言う俺に彼女はさっきとは別の笑みを浮かべる。自嘲するような、皮肉めいた感じで目が笑っていない。
「可愛くないですから結婚には向きません。するつもりもないです。スタッフ曰く私は男前らしいですよ」
その言葉に眉が上がるのを自覚する。可愛くない? いやそんなことはない。
普段クールな彼女が俺に抱かれて始めのうちは声を耐えて乱れまいとするのに、それがかなわなくなってからは無意識に
すがり付いてきて全身で俺を受け入れ腕の中で登りつめる。
必死に押さえる声も、細かな体の震えも、上気して汗ばんでゆく肌も、俺を見て潤む瞳も可愛いと思う。
「いや、君は可愛いと思うけど」
「教授しかそんなことはおっしゃらないです。私は可愛げのない面白みのない、もういい年の人間です」
彼女はそう言いきると身支度を整えた。ドアノブを握ってこちらを振り返る。
「教授こそ、そろそろ落ち着かれたらいかがですか? いつまでもこんな関係を続けていても不毛ですよ」
俺の返事も待たずに彼女は部屋を出て行った。
一人きりになって、急に寒々とする。初めて彼女から踏み込んだ発言をされたのに気付く。
こんなに、何年も経ってから。
落ち着けだと? 不毛? ……とんでもない。
彼女の存在と関係は俺に良い刺激になった。彼女のおかげで人に関わる楽しみを堪能することもできた。
自分の感情がこんなに動いたのも初めてなら、大人気ない自分を自覚したのも、みっともない姿を晒したのも彼女ゆえだ。
いい年というが、彼女にはいつまでも清潔感があって、仕事はクールで十分大人なのに年より下と思わせる可愛らしさを
あわせもっている。言われて初めて彼女の年齢に思い当たったくらいだ。
それでも俺よりずっと若い。
「俺は彼女より忙しいし、家で出迎えてほしいクチだし」
第一結婚には向かない、しないと彼女は断言した。
好きも愛しているも言えない。まして、
「プロポーズもできないのか……」
考えても答えのでない問題に頭痛がしてくる。どうやら俺は地雷を踏んだらしい。
ずっと彼女に可愛いと言ってきたのに、彼女には届いていなかったようだ。それが彼女のコンプレックスだと分かっていた。
俺に言わせれば誰が見ても分かる可愛さより、冷静な中にふと垣間見えるそれがどれほど魅力的か。
冷静さを保てなくなった時のそれがどれほど俺を縛るか。どれほどそそるか。
その落差にどうしようもなく惹かれてしまうのに。
彼女は俺との付き合いを不毛、ととらえているのか。
こんな経験は初めてで一人きりの部屋で、珍しく頭を抱えてしまう。
面倒くさがりの常で人ときちんと向き合うのを回避してきたつけが一気に来た気分だ。
終わり?
おまけ
「結婚か」
その単語は古傷をえぐる。何年経っても否定された痛みは消えてはくれないらしい。
自分の進歩のなさ、成長のなさに全く呆れてしまう。同じところをぐるぐる巡っているようだ。
可愛げのない、面白みのない、庇護欲をそそらない。
彼はそんな私を素直だと言ってくれた。冷たくないとも言ってくれた。
可愛いと言われて嬉しかった。そんなことを言ってくれるのは彼くらいだったけれど。
さっき抱かれる時以外で初めて彼に可愛い、と言われたけど何故だか惨めな気分になる。
彼には誰から見ても可愛い人がいる。それを知らないと思っているのだろうか。
結婚する気がないのか、なんて。
彼にとっては私は都合のよい相手だったけれど。さすがに年を重ねたからそろそろお払い箱なんだろうか。
だからあんなことを言い出したんだろうか。関係を清算して欲しいのだろう、な。
「ちょっと長く続けすぎたかな。飽きて当然か」
彼がきちんと手間暇かけて口説く女性を料亭や高級レストランの料理とすれば、私はファミレスやコンビニの料理や弁当のような、
いや、彼の都合で呼び出されて出向くのだから宅配のピザのようなものだ。
手軽に空腹を満たせるけどそれだけの存在。
――手軽がとりえなのに、色々重くなってしまったのなら私にはもう価値はない。
彼が私に望むのは時間と手間の短縮で、口の堅い従順な部下であることで。――都合のいい女であること。
割り切ってその役回りを引き受けていたはずだったのに。
いつからかそれが辛く苦しいものになった。部屋での時間はともかくそこを出た後での空しさが無視できないほど大きくなってきた。
彼のまわりにいる女性から目が離せなくなったからだろうか。あの可愛らしい姿を、素直な口調を、引き込まれる笑顔を羨んでいる
ことに気がついた時、自分の立場を思い知らされた。
目をそらしていた現実がそらしていた分だけ重くのしかかる。その惨めさをやり過ごせそうにない。
もう潮時だろう。
引き際を見誤ってはいけない。不自然な形で始まったのだ、そしていつも終わりは心のどこかにあった。
彼の可愛い人の話も後押しになった。私の事情もよすぎるほどのタイミングだ。
そうでなければ彼にあんな口はきけなかった。
もう十分、長い時間を彼と関われた。もう十分、いやこれに関しては不十分だが誰よりも近くで教えてもらえた。
だから、もう……
終わり
>>309 切ない…
ハッピーエンドで終わることを切望しつつGJを
GJ
ついに終わりが始まったのか…
裏目、裏目に出る教授の行動だけど
一発逆転ホームランを期待してる!
切ない…
終わってしまうんだな
展開にドキドキ
頑張れ教授ー!
ああああ終わるのいやだー!!
でも教授の頑張りが報われるのも見届けたい!!!w
316 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:08:34.09 ID:EzrrvN5q
お待たせしてすんませんでした。
「っ……」
夜の静寂の中、僅かな吐息だけが部屋に響く。
きつく目を瞑り組み敷かれたミコトに、シドニーは触れるような口づけを繰り返した。
それは瑞々しい唇の弾力を楽しむような動きから、徐々に唇を啄ばむような、喰らうような
ものへと変えていく。
「ん……っ」
きつく閉じた唇を舌先で解き、熱い咥内に這い入る。異物の感触にミコトが息をつめる
のを感じたが、そのまま逃げようとする舌を絡めるとくぐもった声が咥内に響いた。
細い指が、落ちそうな身体を支えようとする時のようにきつくシーツにしがみついている。
背、腰と続く曲線を撫でていた手で、ミコトが深い口づけに気を取られていた間に器用に
それを外し、既に二の腕までずり下げていた衣服から腕を抜いた。
最後のステイズを取り去ると、下着などつけずとも美しくしなやかに括れた腰と、反対に
締め付けられていた乳房が零れて、自重で柔らかに撓む。
――きれいだ。
純粋にそう思い、シドニーは白い首筋から胸元へと唇を滑らせる。
「ひっ……!」
触れる度にびくびくと震える四肢を押さえつけ、柔らかな肌を味わう。舌先に感じる肌理の
細かなはだの感触とぬくもりが脳髄を甘く痺れさせていく。シドニーの紅い髪が白い身体に
垂れている様は血を流しているようにも見えて、獲物を食らう獣はこんな気分だろうかと頭の
端の方で考えながら乳房へと舌を伸ばす。
まだ誰の手にも触れたことのない白い二つの脹らみは、柔らかで、しかしまだ張りを残して
ぴん、とその頂をシドニーに主張している。舌先で転がすとおもしろいように組み敷いた身体は
跳ねた。放してやると、シドニーの唾液に濡れぬらりと淫靡に光り、シドニーを煽る。
317 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:09:51.29 ID:EzrrvN5q
「あ、っ……!」
空いたもう片方の乳房に手を伸ばし、掌に収まりきらないそれをゆるゆると揉みしだく。
頂を捏ねると、堪えていた口から甘さを含んだ声が上がった。
「や、だ……、シドニー……っ」
ミコトはうわ言のようにシドニーの名を呟きながら、ゆるゆると首を横に振る。
汗に濡れた黒髪が、紅潮した肌に張り付いている。誘うような熱さを含んだ吐息。 今まで
聞いたこともない声に喉が鳴る。
立場ゆえ自重していたので行為自体は久しぶりだったが、今まで女を抱いてきたことは
何度もあった。
だが、今までのどんなそれより、肌を伝う性感が心地いい。
――――こんなにも、違うのか。
求める女と身体を重ねることの快感に、シドニーは溺れた。
もうどちらのものかも分からなくなった唾液が、ミコトの口の端から零れて頬を伝う。
「……っあ……」
身体が、熱い。
逃れようと身を捩っても、燃えるような男の身体に強引に抱き戻される。
男の口が、舌が、指が、全身の肌が、ミコトの中も外も余すことなく這いずりまわる。
その度に悪寒に似た電流が背筋を走り、全身が震えた。だがその震えは寒さではなく
淫らな熱をもたらす。
じっとりと濡れた肌が、同じように汗に濡れた硬質な男の身体と隙間なく合わさる。逃げる
舌を絡め取られて吸われ、胸の飾りを指先で緩慢に愛撫され――無意識に内股を擦り
あわせている。
犯されていく。齎される快楽でぐちゃぐちゃになった頭でも、唯一それだけははっきりと
認識できた。
318 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:11:13.86 ID:EzrrvN5q
「ひゃっ!?」
いきなり耳朶をちろりと舐められ、びくりと肩をすくめる。驚いて見上げるとシドニーがじっと
見下ろしていた。
今まで見たことのない顔だった。いつもの無邪気な子どものそれでも、あの夜の冷徹な
貴族のそれでもない。熱が伝わってきそうな情欲を宿した目が、にミコトを見つめている。
――「男」の顔だ。
ミコトの中の「女」がそう囁く。
貴賎の差こそあれ、今までミコトはシドニーを上だとか下だとかに見たことはなかった。
だがこうして自分を組み敷く彼を見上げ、初めて女と男のそれを意識する。
シドニーは首筋に顔を埋め、舌で酷く緩慢に首筋を舐める。滑った感触が通り過ぎる度、
くすぐったさとも寒気ともつかないざわめきがミコトを芯から震わす。
堪らず押しのけようとするがっしりと四肢を抑えつけられどうにもならない。
「っ……ん、ぁっ……!」
目を瞑り耐えようとした。だが、却って目以外の感覚を研ぎ澄ませてしまう。段々と思考を
蝕んでいく熱に、自然と涙がこぼれる。
「やだ……こんなの、っやだ……!」
「本当に?」
ぞっとするようなやさしい声が降る。
見上げると、美しい人の形をした紅い獣がミコトを見据えている。
「本当に嫌か?」
嫌だと言いたかった。だが、喉の奥に石でも押し込まれたように声がでない。
319 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:12:13.92 ID:EzrrvN5q
「なら、なんでさっき逃げなかった?」
言い訳をしてしまいたい。だが、理由が浮かばない。
「本当に嫌なら、俺から逃げることぐらいお前には簡単なはずだろう?」
「それ、は……」
確かにそうだ。屋敷暮らしで身体がなまっているとはいえ、カゲの本性はミコトの中に確かに
根付いている。集団ならまだしも、体調が万全の今、男一人相手に後れをとりはしない。
ならどうして、逃げない。
自問の間に、顎に手をかけられ、長い指に口腔を犯される。舌を緩慢になぞられる度、酔った
ような気分になっていく。
「あ……」
「なぁ、ミコト」
瑠璃色の瞳に、知らない自分が映っている。
「本当に、嫌か……?」
耳元で吐息とともに囁かれ、背筋が粟立つ。
――魔性だ。
惹きつけ、絡め取っていく。その意味を、ミコトは肌で感じていた。
確かにシドニーの器量は友人のミコトでさえ見惚れるものがあるが、友人以上の感情を抱いた
ことはなかった。なのに今、ミコトは「男」としてのシドニーに恐怖さえ感じている。妖艶という
言葉が男にも当てはまるものなのだということをミコトは初めて知った。
知己の仲であるはずのシドニーが、全く違う何かに見える。
「舌、出して」
霞がかかった頭は何の疑問も持たず、言われるままにみずから揚げられた魚のように口を
あけて舌を差しだす。
自分のそれに絡みつく滑った熱い肉の感触に、思考が蝕まれていく。
320 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:14:13.21 ID:EzrrvN5q
二人の身体を覆っていた衣はいつしか、ベッドの外に追いやられている。
「ん……ふっ……!」
拙くシドニーに応える舌が心地いい。吸い上げると、必死になってしがみつく様が愛おしい。
「感じやすいんだな、お前」
「……? な、に……?」
熱に浮かされ潤んだ瞳に、どくりと怒張が重くなる。
「女」だ。今まで見知った姿からかけ離れた姿。
肌を紅潮させ、愛撫に甘い声で鳴き、柔らかな肉の体をくねらせる。
最早二人は友ではなく、単純な牡と牝でしかない。
「ここ、濡れてる」
「!? ふ、ぁあっ!」
いつの間にか下肢へ伸びていた手が、ぬちゃりと粘着質な音を響かせる。長い人差し指が
淡い茂みを分け入って濡れたすじをそっと撫で上げる。今までの愛撫の比較にならない性感に
ミコトの背が浮く。知らず、強請るように男の手に腰から下を擦りつける。
「! いっ――」
だが、指が穴に潜り込んだ途端、快楽に酔っていた表情が痛みに歪む。
――処女か。
拒むように締め付ける狭い内側の感触からシドニーは悟った。
321 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:15:19.14 ID:EzrrvN5q
身体を起こす。快楽から一時解放され、ミコトはほっと胸を撫で下ろしたのも束の間だった。
「ちょ……やだっ、なにを――!」
ミコトが油断している間にシドニーはその膝裏をひょいと持ち上げた。
「影」として修練を重ねたミコトの身体は柔軟だった。そのまま胸の辺りに膝が来るまでいとも
簡単に腿を押し上げる。自然、「そこ」が眼前に露わになる。
「や、やめ……っ!」
恥辱に耐えきれず、ミコトは目を背けて腕で顔を覆った。
空いた手で割れ目をそっと開く。紅色の複雑な粘膜が、蜜に濡れて蠢き淫靡に光る。
花に吸い寄せられる虫のように近づいて、舌を滑らせた。
「!? ゃあっ――・・・・・・!」
持ち上げた足がびくんと反応する。
一番敏感なそこに、男の舌が入り込んでいると分かってミコトの顔は更に紅潮した。やめてと
懇願されたが、シドニーはお構いなしに容赦なくミコトを犯す。
顔をのぞかせた陰核を舌先で嬲ると、腕で支えた身体が緊張した。
「ぁ、あ……!? や、あ、っ!」
髪を掴まれ痛みが奔るが、攻めは緩めない。敏感な芽を嬲りつつ、指をまだ誰も受け入れた
ことのない腔に埋め込んでいった。
「や、……、はぁっ……」
包皮を剥かれ、無防備なそこを嬲る。一番鋭敏な性感帯への刺激に、高い嬌声が上がり未だ
青い肉の鞘が、徐々に蜜に濡れていく。
舌の腹で撫で、指先で押しつぶし、舌先で擦る。自慰すらしたことがないだろうそこが、唾液と
混ざりあった愛液に塗れている景色は酷く淫らだ。
322 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:17:22.25 ID:EzrrvN5q
「――……ッ!? あ――!」
柔らかくなってきた咥内で指を折り曲げると、ある一点で押さえこんだ四肢が弾かれたように
跳ねた。
「ここ、いいんだな」
「や、ああっ!」
陰核と同時に責めると、嬌声が上がって指を更に愛液が濡らす。少し塩の味がするそれを
音をたててすすると、羞恥からか指を咥えた孔がひくりと震えた。
「あ、ぁ、っや、あっ――!」
中に入れた指を広げても肉の壁が抵抗の色を示さなくなったのを認め、シドニーは一気に
ミコトを攻め立てた。支える四肢が硬直し、声は悲鳴に近くなっていく。
止めのように指の腹で、陰核をぐ、と刺激する。
「――――っ……」
全身が震えて張りつめる。埋め込んだ指をぎゅ、と咥えこんで、ミコトは果てた。
「イったな」
指を引くと、くちゅ、と名残惜しそうに濡れた肉が絡みつき、シーツに透明な蜜が零れた。
「……はっ……あ、ぁ……」
初めての絶頂に、ミコトは陶然としていた。
シドニーの指と舌が離れても、秘所はまだ肉欲にひくついている。足を開いても抵抗の素振りも
ない。
すでに怒張は腹の近くまで反りかえっている。
323 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:18:25.46 ID:EzrrvN5q
「ん、っ……!」
先端を擦りつけると、誘うように腰が揺らめく。赤黒い肉棒が蜜に濡れる。
なるべく痛くしないよう、ゆっくりと腰を進めた。
「――!? あ、ああぁあ!」
雁首が入っただけで、たっぷりと時間をかけて塗り込んだ快楽も一瞬で消え失せたらしい。異物を
排除すべく、肉壁は再びきつい締め付けを再開する。
「〜〜……っ!」
声にならない叫びをあげるミコトの目じりからぽろぽろ涙がこぼれる。
「いたいっ……! シドニー、痛い!抜いてっ……!」
「ミコト、落ち着け。ゆっくり息しろ。そ、ゆっくり……」
荒い息を落ち着かせ、子どもをなだめるように頭を撫でる。
「痛いのは最初だけだ。俺が言うとおりにしてれば、だんだん楽になるから……ちょっとずつ、ちから
抜いてみな?」
触れるような口づけを、額や頬に繰り返す。
痛いほど勃った己を中途半端に挿れたままにするのは骨が折れたが、今までの豊富な性体験が
今、ミコトに苦痛を与えない方法を教えてくれた。
落ち着いてきたミコトに徐々に愛撫を再開する。舌を絡めて口づけ、胸の頂を舌で転がすと、頑なな
肉壺が少しずつ、少しずつ解けていった。その隙に肉の槍を、ミコトの中に押し進める。
長い時間をかけ、シドニーの全てがミコトの中に収まったころには、二人とも汗だくになっていた。
324 :
キミはともだち:2011/05/28(土) 03:19:35.78 ID:EzrrvN5q
「……ぜんぶ、入ったぞ。ミコト」
「うん……」
疲労からミコトの上に倒れ込んだシドニーは、柔らかな上肢を力いっぱい抱きしめた。応えるように
胸を上下させながら、ミコトもシドニーの背に手を回す。
感度がいいといってもやはり処女だったミコトは辛そうだった。本音を言えばすぐにでも奥底に剛直を
叩きつけたい衝動が腰のあたりに燻っていたが、内壁の具合から察するに、今そこまでしてもミコトには
苦痛でしかない。ここまでにしようとシドニーは堪えた。
「いたいか……?」
問いかけに、胸の中でミコトがこくりと頷く。
「……うごかないでいてくれるかい。ちょっと、つかれた……」
「わかった」
そのまま腕の中で、ミコトは眠りに落ちた。そういえば、長い付き合いなのに寝顔を見るのは今日が
初めてだった。額にかかった髪を払い、抱き直す。
――好きだ。
出会った日。シドニーの手をとり、助けてくれた女の子。
その子が今、腕の中にいる。
去来するのはずっとそうしてみたかったような、喜びと――永遠にそうなりたくなかったような、痛み。
――お前が好きだ、ミコト。
腕の中の体温を感じながら、シドニーも眠りに飲まれていった。
つづく
GJGJ!!
待ってた!シドニーとともにお預け食らってたw
体はつながっても心は微妙な関係のミコトとこれからどうなっていくのか気になる
GJ!GJ!!
生殺しくらっていたから感激もひとしおだ
心の距離感がせつない
今後が気になる
いよっしゃあ!お待ちしていた甲斐がありましたッ
眼福でございます!エロ表現もぱねえっす
つづいてくださいw
ロケットマンのアイエネスとジーハの主従関係に萌える……
ジーハ切ないよジーハ………
ロケットマン良いね!
どなたか書いてくれたら…実は私も楽しみにしてるw
教授と助手
二人の終わり
本棚の雑誌や本を整理していると乱暴な音がしてドアが開いた。目をあげると彼がそこにいた。
彼が興奮したり、ましてや乱暴な振る舞いをするのは見たことがなかった。
つかつかと私によってきた彼は、低い声で抑揚のない調子で質問をよこした。表情もない。
そこにいつもの面倒くさがりの子供っぽい彼はいない。
「助手を辞めるって?」
早耳だ。医局長に内々に言ったのはつい先程のことなのに。
「はい、あとで教授に正式に話をと思っておりました。報告が遅れ申し訳ありません」
総務から書類をもらって、彼の判がいる。
私の言葉は耳に入っていないようだ。手首を痛いくらいに捕まれる。
「どういうこと?」
「一身上の都合です。研究も論文にできましたし区切りがつきましたから」
「その都合は何だ。結婚か? それとも栄転か?」
手首が痛い。あざになるかもしれない。そこから小刻みな彼の震えが伝わる。――怒っている?
けれどなぜそんなに怒るのか分からない。雑用兼処理係を失うからか?
雑用係はいくらでも人員がいる。処理係は少し面倒かもしれないが、彼なら不自由はないはずだ。
いや、もう彼に処理係など必要はない。
「どちらでもありません」
「俺から離れる理由は何だ? そんなに俺が嫌か。まあ愛想をつかされても仕方がないかもしれないが」
「嫌だなんて、そんなことはありません」
「じゃあ何故だ」
乱暴に本棚に背中を押し付けられる。彼の顔が別人のように見えて怖いと思った。
「教授、やめてください。ここは助手室です。人が来ます。……父の医院を継ぐんです」
押さえ込む彼の力が緩んで距離をとる。髪が乱れて眼鏡がずれた間抜けな格好をつくろう。
「父の医院を継いでくださっていた先生が体を壊されて引退するんです。
あと一年で医院の土地の借地権が切れます。それを更新しないことにしました。
急に閉院すると患者さんが困ります。診療を続けながら段階的に縮小して閉院に持っていきたいんです」
それに。
「教授に学長のお嬢さんとの縁談があるのを知っています」
彼とは、私ともだが同じ大学の大先輩の学長だ。学長の娘婿になれば彼の地位は磐石になる。
ゆくゆくは学会長や学長の座も夢ではないかもしれない。
お嬢さんは女らしくて、小さくて可愛い、守ってあげたくなる人だ。
――私とは真逆の女性。年ばかり重ねて中身は一向に成長しない可愛げのない私とは。
彼にそんな話が出た以上、身辺整理をして身綺麗にしておく必要がある。
結婚すれば私は用済み。研究も一段落ついた今がいい引き際だ。
「教授の傍で手技が拝見できたことは幸せでした。どうぞお元気で」
そう言って彼に礼をする。
「君はどうしてこんな時まで……俺がなにを言っても、君はここからいなくなるのか」
それ以上は言わず、入ってきた時とはうって変わって静かに立ち去る彼の後姿を目に留めようとする。
彼の輪郭が滲んでぼやけた。
自分で終わらせることが、せめてものプライドを保つ行為だろう。
彼にすがりついて、しがみついて携帯の彼女のように迷惑がられる前に自分から終わらせることが。
ここからいなくなる。だから何も言えない。それは私も同じこと。
やっと気持ちに気付いたのに今更だ。本当に私は鈍い。
好きでなかったら何年も抱かれたりしない。彼じゃなかったら続けていない。そんな単純なことがようやく分かるとは。
いつからか私の中に芽生えていた感情はそれゆえに私を苦しめた。
――好きだから、処理係が辛くなった。
――好きだから、都合のいい女が惨めになった。
――好きだから、重荷に、迷惑になるのが怖かった。
最後まで口には出さなかった想いは私だけの秘密。
元彼との別れの時でさえ浮かばなかった涙も――秘密だ。
そして私と彼は終わった。これでよかったんだ、いずれそう思えるだろう。
私は彼のいない人生を歩む。時が経てば感傷も癒える、はずだ。
終わり
ええっ!?!?!?!?
え……ええっ!?
…………え!?ええっ
終わり!?
終わり?じゃなくて!?
うわ、すまない
教授と助手の最終話投下するわ
時期はずれで急な話でもあったので送別会などは辞退して、大急ぎで諸々の引継ぎや手続きを済ませてあっさりと大学から離れた。
彼とはあの時以来個人的な接触はしなかった。それでよかったと思う。
医院で外来や往診に追われ、そして他の病院への紹介状を書く毎日。
忙しくしていると気がまぎれた。
時折医局の元同僚からの近況伺いのメールが届く。それに医局の空気を感じていた。
あっという間の一年後、予定通り医院を閉鎖した。
忙しくしていたときはあれもしたい、あそこに行きたいと思っていたのに、いざその時間ができると何故かぽっかりと心に穴が
開いてしまって何もする気になれない。
燃え尽き症候群かなど思いながら無為に日々を過ごした。だけど貧乏性なのかそれにも飽きてきた。
仲の良かった医局の元同僚にそろそろ就職しようかと思う、と話をして情報を集めていた。
医局長に相談する気はなかった。幸いにも就職先には困らない。すっぱり医局と縁を切って就職するのがいいかと思えた。
――どこでもそれなりにやれる。彼の指導のおかげなのは少々皮肉だが。
冗談めかした元同僚からの『彼氏はできた?』のメールには『いない、いい人がいたら紹介して』と適当に返信した。
私の方に継ぐものがなくなったと知った開業医ネットワークからの、見合いのすすめがうるさい話もしていた。
そんな週末のある日思いがけない客が来た。――彼だ。
「職場といい人を紹介したいんだ。契約書も作ってきた。これが認証」
薄い紙とビロード張りの小箱。世間一般からしてそれは契約書や認証と呼ばれるものではない。
「なんの冗談ですか?」
「俺は本気。君を好きだし愛している。君を手に入れるのは合法的に縛るのが最善だから」
親の位牌に線香をあげてくれた後に訳のわからない言葉が飛び出した。合法的に縛る……って。
「学長のお嬢さんは」
「ああ、俺、他科のやつらと兄弟になる気ないから、断った」
テーブルの上に置かれたそれ、を彼の前に押しやる。情けないけれど手が震えた。
「君は俺が嫌いか?」
私は何も言えずに黙り込んだ。
「俺を好きか?」
ますます何も言えなくなってしまった。のどがひりついて言葉にできない。
彼はそんな私をじっと見ていた。そのうちに私のよく知る表情が浮かんでくる。にんまりと笑う、あれだ。
立ち上がって私の腕を引っ張り、彼は寝室のドアを開けた。
「ちょっ、教授、何を」
「ん? 実力行使」
ベッドに押し倒されて彼が覆いかぶさってきた。間近に見る久しぶりの彼の顔に動悸がする。
大学の外でこんな風になったことはない。いつも人目と時間を気にした慌しい情交だった。
彼の真面目な顔が降りてくる。私は反射的に目を閉じた。
一年ぶりなのに彼の唇と舌はすぐに私に馴染み、舌をからめて吸い上げられる。その熱と感触に息が苦しくなる。
幾度も角度を変え、彼に口付けられようやく唇が離れた時には私の力は抜けていた。
「なんで今頃、それもこんなに突然。訳が分かりません」
腕を目を上におく。自分の声はうめくようで低い。なぜ彼に振り回されなければいけないんだろう。
今の私の年を考えると気が重くなる。いい年をして、いまどきの高校生の方がずっと恋愛上手だろう。
彼が私を好きとか、愛しているとか唐突すぎて本当のこととは思えない。
私のことは手軽な相手だと、彼自身が言っていたのに。学内限定の欲望処理係として契約したはずなのに。
――別れた女がいつまでも自分を好きでいるとでも? 元彼の時には呆れていた理論なのに彼相手では……
実際好きでいる自分が悔しくて情けない。
彼は私の頬を両手で挟み、正面に向けさせる。
「君が落ち着くのを待ってゆっくり話を進めようかと思ったけど、俺待つの嫌いだしその気になったから」
見合いなんてとんでもない、彼はそう言ってまた口付ける。
待つの嫌いって子供か。その気って相変わらずの俺様理論だ。
彼は私のまとめた髪を解き、ゆっくりと服をはいでゆく。一糸まとわね姿にされてしまい羞恥心がつのる。
彼も全裸になった。互いに見る初めての姿に目が泳いでしまう。
「ずっとこうして君を抱きたいと思っていた。君は手軽な処理係じゃない。俺の可愛い、大切な人だ」
熱っぽい告白に目を見張る。
「教授なら女性に不自由しないでしょう。それに私はいい年で可愛くは……」
彼は耳を食む。首筋から鎖骨に唇を落とす。
「俺が可愛いと言えば可愛いの。いい加減受け入れろ。俺は君がよくて君しか要らない。――本気だ。
それを否定したり疑ったりするのは許さない。君より年上の俺はおじさんか、おじいさんか? 」
どうしてそこまで偉そうなんだ。俺様か? でも、本気?
「俺がわがままで欲張りなのは知っているだろう? 俺は君の一生が欲しいんだ」
その言葉に涙が滲む。私が憧れ心を奪われた彼の手指が慈しむように私の体をすべり刺激を加える。
もう何も考えられなくなる。時間をかけて丁寧に執拗にうごめく彼の指に惑わされて腰が浮き声が出てしまう。
「あぁ、き、教授」
「声、我慢しないで、俺に聞かせて」
耳元で囁かれてそれだけで感じる。彼の指で抜き差しされ、舐められて吸われると呆気なく達してしまった。
「んあぁ、や、あああっ!」
「ごめん、我慢できない」
そう言われて膝を抱えられ彼に一気に貫かれそこでまた軽く達する。熱くて太い彼のものに息が詰まる。
引き抜かれまた打ち込まれ、壁をこすられる。
胸に腰に足に直接触れる彼の肌が熱くて、のしかかる重みすら愛おしくて。
結合部からの粘液はいやらしく絶え間ない音を響かせ、途中では潮まで吹いたようでもうぐちゃぐちゃだ。
このままずっと溶け合ってしまいたい。その思いは双方ともの絶頂で割とあっさりと終了してしまった。
「こんなに早いのなんて、ガキみたい」
彼が呻くように言葉を紡ぐ。達した疲労感でぐったりしていると、中でまた彼が大きくなるのが感じられた。
「今度はこっちで」
うつぶせにされて体を起こされ後ろから貫かれた。
恥ずかしい体勢なのに感じて大腿に粘液が伝う。彼が背中にかぶさってきた。
「君の裸、背中も腰もすごく綺麗だ。もったいなかった。ずっとこれを見ないでしていたなんて」
言葉で嬲る趣味もあったのか。もう彼に翻弄されてしまうばかりだった。
結局彼が満足するまで何度もせめられ、私は精魂尽き果ててベッドに沈んだ。
「それで返事は? まあ承諾以外は聞かないけど」
腕枕をして髪を梳きながら彼が問う。自信たっぷりの物言いなのに少し瞳が揺れている気がする。
「弱気になったり、怖かったりしないんですか?」
「……内心はそういう時もある。でも人生楽しんだもの勝ち、と思っているから」
「他の女性は」
「君と関係するようになってから疎遠に、いやきっぱり手を切っている。もうずっと君しかいなかった」
俺の手術への情熱にかけて誓ってといわれると嘘ではないようだ。
そして私は一世一代の勇気を振り絞る。
「私でよければ。愛しています」
私の言葉に彼がぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。
幸せに目を閉じる私に彼は上機嫌で恐ろしいことを言ってきた。
「君の論文の治療法を試験申請した。名を残せるように頑張ろうね。嬉しいな……これで一生君といられる」
公私ともにサポートをよろしく。
きっとこれからも私を振り回すであろう彼の言葉に、大きな子供を伴侶にすることへの不安をちょっぴり、いや、かなり感じていた。
終わり?
おまけ
彼が契約書と言い張る薄っぺらい紙には、既に私以外の記入欄が埋まっていた。
証人欄に目を走らせ、そこに准教授と医局長の名を見出す。
「あの、お二人に証人になってもらったんですか?」
「ん? ああ君のに使うから書いて、って頼んだ。二人の顔面白かったよ」
こともなげに言う彼のけろりとした表情に頭痛を覚える。ペンは持ったもののそこで手が止まってしまった。
なぜ私の意思を確認する前に名前を出すんだ。
「私が断ったらどうするおつもりだったんですか」
「断られたとしても俺が恥かくだけだ。振られちゃったよって言えば済む」
今頃医局内には噂が渦巻いているだろう。
「でも断られたらきっと仕事なんか手につかないだろうからどこかに行ってしまおうか、とは考えた」
教授が、医局を放り出すだと? 呆れを含んだ視線を彼にあて、久々の感覚だと懐かしく思う。
彼はなにやら指折り数えている。
「認証を購入して、契約書を取りに行って、面倒くさい書式の通りに記入して、証人欄に書いてもらって、
一応二通用意して、仕事の都合を付けて、君の家にきた。そして全力で、本気で口説いた。
面倒くさがりは知っているだろう? 未だかつて俺が女性にここまで手間隙かけたことはない。
付け加えるなら一人の女性とこんなに長く付き合ったこともない。待つの嫌いなのに、一年も待った。
君に断られてもう一度初めからなんて面倒くさいことは考えるだけでごめんだ。
記入する様子が見受けられないけれど……よもや断るとかしないよね?」
脅迫が半分混じっているような気がしないでもないが、これこそ彼らしい話の持って行き方だ。
外堀を埋められたのか丸め込まれたのか。これからも彼には勝てる気はしない。
でも今、私は幸せだ。
――だから『契約書』に自分の名前を書き入れる。
完
教授と助手は以上だ
人生初SSを読んでくれて感謝する
SS投下なんて初めてだったから、保管庫になんておこがましくて収録を希望しなかったが
まさかこんなにだらだら続くとは思っていなかったし、過去ログから読んでくれた人もいたようなので
方針をころころ変えて申し訳ないが、保管庫OKにしたい
自分でもできれば収録作業してみる
まあ、この後も師匠と弟子なのは続くしネタには困らないがここで区切りにする
自分語りすまない、本当にありがとう
GJすぐる!
ありがとうございました!
もう既に続きを読みたいんだぜ!
妊娠とか、大きい子供と小さい子供に振り回されてるの、どこかで読みたいんだぜ!
面白かったよ!!
この後も色んなSS書き続けてもらえたら嬉しい
そして
>>334-337www
分かる、分かるよ…自分も「えーー???!!」ってなった
グッジョブ!!
よかった完結おめでとう
「終わり」に騙されたw
初めから読んでる身としては「完」の文字に感動もひとしおだ
おっきい子供と小さい子供に振り回される助手がみたい!
また気が向いたら投下楽しみにしてる!
GJです!!
教授1年も待ったのか、やるな
そして1年が放置プレイになってる助手可愛い
二人が幸せになってよかった、本当によかった
お別れendだったら数日間鬱るとこだった
ずっと楽しみによんでたので保管庫OKは嬉しいですよ!!
好きだアンタ愛してる!
やたら臨床的だわ医局描写が観てきたかの様だし最高です
次回作も勝手に期待致しております。眼福でした!!!1
>>344 GJGJGJGJ!!
お疲れ様でした。最初焦りましたがハッピーエンドよかったです。
保管庫OKもありがとうございます。
GJ!!!
いいもの読ませてもらえてよかった!
教授らしいプロポーズで締めで
ネタがあるなら投下してほしいというか
是非教授には温泉旅行のリベンジしてもらいたかったよ!w
二人が結婚で医局の皆がどんなに驚いたのかもw
お疲れ様でしたー次回作もできればこのスレにッ・・・・・!!
はぁ……それにしてもさみしいわ―
GJ!
感動しました。ありがとうございます。
本当に二人が幸せになってよかった
教授が尻に引かれるかなと思ったけど助手が振り回されるのか
結婚までの教授の心の内が読みたいな
気が向いたらお願いします。
GJ!毎回つづき楽しみにしていたが2人幸せになってくれてよかった…。自分も途中の終わりに度肝抜かれたがw
完結お疲れ良いSSありがとう!2人のその後とかも読んでみたいな
GJ!!
終わり、で鬱になりかけた
教授、よくやった。
教授の机にしまわれたままだった揃いの腕時計もようやく日の目がみれそうだ。
助手が愛されることに慣れて教授に素直に甘えられるようになるといい。
感動した!!!
たしかにえぇってなって完にじーんときたなw
また気が向いたら投下してほしいんだぜ
気になって保管庫にいってみた
なんか題名のところが黄色になっているやつがあるけど
なんであんな風なんだろ
クリックしても読めないし
それは編集してみればわかるけど
リンク張っててページがない状態
黄色い線引かれてる名前と同じページを作れば
自動的にそのページにリンクする
某所で見たんだが
>nhkの番組で 戦前の帝大生の初体験相手は統計的に、
>1位女中2位娼婦3位人妻
……このスレ向きの実にけしからん女中妄想がひろまってしまった
いいね、実にけしからん・・・
「ぼ、僕の筆おろしをしてくれないか?」
「筆ですか?あいた時間にやりますのでそのあたりに置いてください」
「ど、どうして服を脱いでいらっしゃるんですか?」
「全裸待機」
こうですか、わかりません
その女中さんの経験のあるなしで展開が変わるな
前スレだったかで強面で女の人に泣かれる、おびえられるネタがあったが
ついそれで書いてしまったので投下
目に涙を浮かべてぷるぷるするウサギのような秘書官とか祐筆を書くはずだったのに
ちょっと路線が違ってしまった
強面陛下と男装の医者の組み合わせ
国王、ユージーンは黙々と執務をこなしていた。
傍らには宰相が控えている。そこに書類の束を抱えた書記が入ってきた。
書記は顔面蒼白、全身は震え一言でいうなら怯えていた。声もそれにふさわしく震えている。
「へ、陛下。書類をお持ちしました」
その声に王が顔を上げると、書記はびくりと身をすくませる。
「分かった。こちらに持って来い」
別段おかしな命令ではないのに、書記は震えて足が進まない。見かねて宰相が書類を受け取って退室させる。
王は深いため息をつく。
「眉間にしわをよせると、人相が凶悪になりますよ、陛下」
宰相の指摘にますます不機嫌な顔になる。
「普通に執務をこなしているだけで、怯えられてみろ。気も滅入る」
王はその厳しい顔つきから強面陛下ともあだ名される人相だった。
泣く子も黙るどころではなく笑う子も泣くと評され、赤子と動物、老人には人気があるものの、子供と若者、特に
若い女性には普通にしていても怯えられ、避けられ、泣かれてしまうのだ。
笑っても駄目、無表情でも駄目。怒ったならその表情は最終兵器とも称され、実際先だっての戦ではそれが大いに役に
たったほどだった。勇猛果敢な軍事大国にあっても強面陛下の人相は鍛えられた体躯と優れた武芸とともに特別だった。
書類を受け取り、目を通してサインしていく。その執務が一段落した時、王宮の侍医長が執務室を訪れた。
「失礼いたします。新しい後宮付き侍医を紹介いたします。イリア・ユースタスです」
傍らにはドレスを着た娘が礼をしている。王はこの後を予想して内心ため息をつく。
――顔を上げて自分を見て、怯えて、そんな反応が不敬にあたると更に動揺して、退室した途端に職を辞そうとするのだ。
相手が若い女性ならもう何度となく繰り返されてきた初対面の儀式だ。
きっとこの娘もそうなのだろう、と気のない声で呼びかける。
「許す、面をあげよ」
だから、その娘、イリアが顔をあげて自分を見て――微笑んだのは何かの見間違いではないかと思った。女性が自分を見て
怯えずに微笑むなどありえない。よほど慣れ親しんだ者しか怯えずに接してくれる者などいない。
だが、娘は震えもせず、どもりもせず落ち着いた声で挨拶をした。
「はじめまして、陛下に対面できこの上なき幸せでございます。若輩ながら誠心誠意つとめさせていただきます」
「……あい分かった。しっかりとつとめるように」
型どおりの返事をすると、イリアはもう一度礼をして侍医長とともに退室した。
扉が閉まってもしばらくの間、ユージーンはイリアのいたところへの視線をはずさずにいた。
宰相の名を呼ぶ。宰相も表情には出していないが思いは同じだったのだろう。視線だけでこたえた。
「若い娘が、俺を怖がらなかったぞ。震えも泣きもせずに……見間違いではなかろうな」
「私も確かに見ました。陛下」
だから、王にイリアはつよい印象を残した。それが始まりだった。
後宮侍医は後宮の正妃や妾妃、女官や侍女をはじめとした人員の健康管理、病への対処をになう。場所柄女性が務めるのが望ましいが、
女性の医者はなかなかおらず、長い間空席になっていた。
やむなく侍医長が兼任していたが、後宮に入るのも何重もの手続きをしなければならず面倒なことこの上なかった。
後宮侍医が常駐してくれるのは、万々歳の大歓迎だった。
新しく侍医になったイリアは、医務室と隣接する居室を整え後宮の住人となった。
王が朝を迎えると、侍医が寝室に参上して王の健康状態を調べる。本宮でも後宮でもその診察はかわらない。
結膜を確認し、口の中をのぞき、心音と呼吸音を確認して、体温を測定し脈を測る。
その日の朝、王は後宮の寝台での診察をうけた。傍らには妾妃がいる。まだ正妃は娶ってはいない。
イリアは淡々と各種の診察をこなしていた。
だがその姿は最初の時のドレス姿ではなかった。
結っていた髪はひとつにまとめられ、ドレスの代わりにサイズは合わせているが男性の服を身につけている。つまり男装だ。
「そなた、なぜそのような格好をしている」
「お静かに、正確な音が聞き取れなくなります」
口調も丁寧ではあるがりりしくて、ユージーンは困惑する。だが侍女も妾妃もそんなイリアをうっとりと見ている。
後宮で朝食を済ませ、本宮に戻ろうとしたユージーンだったが、その足は医務室に向かっていた。護衛の兵士がその後をついていく。
ノックもせずに開け放った医務室には消毒薬の特有のにおいがして、その中にイリアがいた。
「これは陛下、ここに何の御用でしょう」
やはり恐れ気もなく見つめてくる。ちょうどお茶を飲もうとしていたようだった。
「あ、いや。久しぶりに後宮医務室が稼動したので様子を見に来た。――何を飲んでいるのだ?」
「薬草茶です。お飲みになりますか?」
頷くともう一つカップを出してそれに注ぐ。椅子にすわりそれを口元にもっていく。複雑な、だが不快ではない香りだった。
不思議な後味で意外にも悪くはなかった。
「そなた、何故そのような格好をしているのだ?」
朝と同じ質問をくりかえす。イリアは男装の己の格好を見て苦笑した。
「医学校時代の癖です。あそこで女性は私だけだったので男装して男言葉で過ごしたんです。何かあった時はこのほうが色々
動きやすくて便利ですから」
言い方もりりしくて、容貌は整っているのに男装すると中性的で、後宮の女性が見とれるのも分かる気がする。
初対面もそうだったがこの姿も新鮮でついじっと見てしまった。視線に気付きいぶかしげに見つめられる。
「陛下、なにか?」
「いや、何でもない、本宮に戻る」
イリアはご自愛ください、とにっこり笑いながらそう言うと臣下の礼をとった。
医務室を出て本宮へと戻る。無表情でいたが、内心は先ほどのイリアの笑みで動悸が治まらなかった。
「あれは何者だ?」
執務をこなしながら宰相に尋ねる。王に近づく人間は徹底的に調べ上げている宰相はよどみなく答える。
「公爵の先妻の娘です。何故か医学を志して医学校に入学して優秀な成績で卒業、軍医として従軍経験もあります」
出自に驚く。貴族の娘だったのか。それが医者になるなどはねっかえりも甚だしい。しかも軍医とは。
「軍医としても優秀だったとか。ただ、あの容姿に身分なので軍としても何か問題がおこってはと扱いに苦慮していたようです。
後宮ならば女性だけですので安心だと、これ幸いと送り込まれたようです」
あれが戦地にと想像する。きっと今朝見たような男装だったのだろう。戦場の緊迫した空気にその姿は似つかわしかったのか、
そうでなかったのか。
「気になりますか?」
宰相は目を細める。宰相や侍従長、女官長など子供のころからの自分を知っている人間には、感情を読み取られる。それらの
人物は付け加えれば自分を怖がらない。
長い年月を経てのことだが初対面で怖がらなかったのは彼女が初めてだった。
「珍しいとは思う」
言葉すくなにこの話を終わらせた。
それから王の行動に変化が見られた。毎夜後宮に赴く。だが妾妃を召さない。
一人で眠り、朝イリアの診察を受ける。朝食を後宮で取った後本宮へ戻るわずかな時間に医務室でお茶を飲む。
イリアは淡々と業務をこなし王を迎えた。恐れも媚もなくお茶を飲んで会話を交わす。
「そなたは何故医学を志したのか?」
この質問にイリアはカップを口元に持っていこうとした手を止めた。
「そうですね。母が弟を産んだときに亡くなって、弟も助からなくて。私には双子の姉がいるのですが病弱だったので近しい人を
失いたくない、助けたいと思ったのが最初です。幸いにも公爵家は子沢山ですから一人毛色が変わったのがいてもいいかと」
また別の日には。
「そなた、俺の顔が怖くはないか」
「いいえ。戦場では顔のひどく損傷した負傷者もいました。比べるのは失礼ですが陛下はお顔に傷などありません。
威厳のあるりりしいお顔と思っています」
そう言われておまけに微笑まれたのでユージーンは息が止まるかと思われた。
そしてどうしようもなくイリアに惹かれているのを自覚した。
だが後宮に通っていても妾妃を召さない王に対して周囲の目は冷ややかだった。妾妃とその侍女から発せられた不満や憶測は
後宮の侍女から女官長、ついには表の宰相にまで届くようになった。
宰相は情報を集め女官長や侍従長とも協議して、ため息をひとつついて事態の収拾を図るべく動いた。
いつものように。ユージーンの行動はもうそうとしか言えなかった。
後宮医務室でお茶を飲んでいるとイリアがつ、と顔を上げてユージーンを見つめた。変わらず男装してりりしさが前面に出て
いるが本質は公爵令嬢の気品を持ち美しい娘だ。そのイリアが静かにきりだした。
「陛下、もうここにはおいでくださいますな」
ユージーンは動きを止めた。何を言われたか分からなかった。
「どういうことだ?」
「ここは医務室で、病気の人間の来る場所です。陛下に病気を移すおそれがありますので」
ここでお茶を飲むようになってから既に三ヶ月になろうとしていた。何故今更そんなことを言い出すのか。
「今さらだろう? それに俺は丈夫だ。病など心配せずとも」
「万が一のことがあります。それに誰かがここに来たときに陛下がおいででは、その者が治療を受ける妨げになります」
自分がいるのが邪魔だ、言外ににおわされた意味にかっとする。
背後に控える護衛がはっとしたほどユージーンの雰囲気が変わった。強面陛下のあだ名の通り戦場で見る者を震え上がらせた
表情になった。並のものならこれだけで戦意を喪失し恐怖に怯える。
だがイリアは動じなかった。静かにユージーンを見つめている。
しばらくにらみ合いが続いた。
唐突にユージーンは立ち上がり扉へと向かう。イリアも立ち上がり深く礼をした。
それを無視してユージーンは医務室をあとにした。
それきり、ユージーンは医務室を訪れることを止めた。時折後宮を訪れて妾妃を召す。その翌朝はイリアの診察を受ける。
だがその雰囲気は一変し、診察の間中イリアをにらんでいる。その圧力に妾妃や寝室にいる侍女のほうが耐え切れず怯える
始末だった。イリアのみはそれに頓着せずに朝の診察をすすめる。
何事もないように測定項目をうめていくイリアと、その顔を敵のように見つめる強面のユージーン。
後宮の朝に異常な緊張状態をはらむ眺めだった。
医務室に訪問者を認めたイリアは苦笑した後、その人物を招き入れた。
「なにかお飲みになりますか?」
「ああ、では陛下が飲まれたという薬草茶を私にも飲ませていただけますか?」
丁寧な物言いで宰相は腰掛ける。そしてお茶の用意をするイリアを眺めた。
公爵令嬢で母親も国内の侯爵家の出で、血筋にも身分にも問題はない。酔狂にも医者になったが知性と美貌を兼ね備えている。
つつしみや恥じらいは見受けられないが、貴族令嬢のような媚や甘えも見せない。
――主たる国王の心を今一番乱している存在。
ことり、とカップと茶菓子の皿をテーブルに置きイリアは宰相の向かいに座った。二人してカップに口をつける。
「面白い味わいだ。これはなかなか」
「そう言っていただけると嬉しいです」
そして、イリアは目線だけで宰相を促す。茶をのみに来たわけではあるまい。
「――陛下のことです」
「これ以上私にどうしろと? ご命令どおりにここにお立ち寄りになるのを断りました。陛下が後宮にいらした時の診察しか
接点をもってはおりません。それも私情など交えてはおりません」
自分の仕事をしているだけ、と言うイリアに宰相は真面目に向き合う。確かにその通りだ。彼女は医者としての職務を果たしている、
その姿勢は誰もとがめることのできない立派なものだ。
だが。
「陛下のご様子がいらぬ憶測を呼んでいます」
「私が陛下のご気分を害しているのは分かりますが、理由は分かりません。私より周りの女性方の怯えようが気の毒になるくらいです」
イリアはため息をつく。後宮に国王が来るたびに敵のように、憎い相手を見るような視線を間近で受ける。
それに傷つかないわけではない。嫌われていると、最高権力者からの不興をかっていると思い知らされるたびに何か苦いものが
身内に蓄積されていく。それを職務の名の下にふたをしてやるべきことをやっているのだ。
ユージーンの内面に触れた後では、嫌われている事実は一層イリアを落ち込ませた。高潔で孤独で不器用なユージーンとお茶を飲んで、
会話をすることはいつしかイリアにとっても、楽しく貴重な時間になっていたからだ。
「いっそ後宮侍医の職を辞すればよいのでしょうか? 私はそれでかまいませんが」
おそらくそれが一番簡単な解決法だろう。不和の種を取り除く、そうすれば不和はおこりようがないのだから。
「辞めてどうなさるおつもりか?」
「そうですね、実家の侍医になってもいいですし、軍に戻っても、市井の医者になってもかまいません」
どこでどうしたって生きてはいける。結婚前は親に、結婚後は夫に依存するしかない貴族の娘の生きかたを軽やかにとびこえて
イリアは縛られない強さを獲得していた。
「そもそも、どうして陛下は私を厭うのでしょうか」
「ああ、あれは厭うというより……」
説明しようとした宰相は、しかし前触れもなく乱暴に開けられたドアの音と、それをした人物に言葉を途切れさせた。
「――随分と楽しそうだな」
低い声でユージーンが二人を見つめるというよりは睨み付けた。
「俺は出入り禁止で宰相はいいのか。ここで病が移ったら何とする?」
「陛下!」
宰相はいさめようとするがイリアはそれを制した。
「申し訳ございません。私の配慮が足りませんでした。宰相様も陛下同様こちらにおいでいただくような方ではございません」
かつての言い訳を非難材料にされても動じずに受け流すイリアに、ユージーンはかっと血が上るのを感じた。
同時に妙にさめた気分にもなる。
「二人して何を話していた?」
イリアはまっすぐにユージーンを見つめる。
「ここを辞する話をしておりました。私は陛下のご不興を買った身ですので、ここを去るのがよかろうと」
ユージーンはぽかんとした顔になった。イリアが後宮を去る?
自分の近くからいなくなる、だと。
そこまで考えたときに、唐突に嫌だという思いが湧きあがる。何が、何故嫌かなど分からず、とにかく嫌だった。
どうすればここに残らせることができるのか? どうすれば――
そして一つの答えにいきあたる。簡単だ、命令さえすればよい。
「後宮を去るのは許さない。お前を妾妃に召し上げる。俺の寝所にはべれ」
ユージーンの言葉にイリアはもちろんだが、宰相も固まる。イリアは戯れに召し上げるような軽い者ではない。
妾妃になるとしても、後宮に今いる誰よりも身分が高いのだ。
「陛下、よくお考え下さい。イリア嬢はグランドリー公爵家の令嬢です。無造作にお手をつけるわけには」
「後宮の女は俺のものだろう? 公爵家に急ぎ使いを出せ。夕刻までに承諾させろ」
宰相を封じるとユージーンはイリアに向き直る。
こんなことになっても泣きも怯えもせずに自分の顔を見つめる。得がたいと思い、いつしか執着した。イリアは硬い表情ながら
ユージーンに確認を取る。
「陛下は本気なのですね? 本気で私を妾妃にする、と」
「そうだ。女官長に連絡するからその指示に従え」
「私は医者です。思いもよらない病原菌をもっているかもしれません。陛下の側にはふさわしくありません」
どこまで思い通りにならないのだろう。ユージーンは内心歯噛みする。
「それに、どうして嫌いな私を側に置こうとなさるのですか?」
自分を怖がらないそのまっすぐな瞳に、素直に言えば良かった。俺を怖がらないお前を失いたくないのだと。
しかし口から出たのは別の言葉だった。
「……毛色の変わった妾妃も一興だろう」
その瞬間イリアの顔に浮かんだものが何だったのか。若い娘の心の動きなど理解できるはずもなく、ユージーンはだからそれを
とらえ損ねた。イリアは息を吸い込むと落ち着いた口調になった。
「ではせめて私を業務から完全に離した状態にしてください。でなければ危険です」
「それはどれくらいの期間だ?」
「そうですね、一ヶ月くらいは」
「待たない、二週間だ、それ以上は待てない」
それだけあればイリアの後宮入りも体裁が整えられる、宰相も手続きをと慌しく医務室を後にした。
ユージーンも部屋を出ようとして、その足を止めた。
「逃げようなどと考えるな。そんなことをすれば一族郎党に累が及ぶからな」
イリアは静かに答えた。
「……逃げません」
二人の去った医務室で女官長の訪問に備えて荷物を整理しながらイリアは呟いた。
「毛色の変わった、か」
そして手を胸のところできゅっと握りこんだ。
宰相が公爵家からの承諾をもぎ取り、正式にイリアが後宮入りしたのはきっかり二週間後だった。
イリアの病原菌云々の言い訳は、もともと後宮侍医としてユージーンの診察をしていたのだから病気がうつるならその間に
とっくにうつっている。二週間待ったのはユージーンからすればわがままを聞いてやったようなものだ。
俺を避けたくせに宰相は医務室に入れて、お茶をふるまって親しげに話していた。
ずっと孤独でいたのに、ある日温もりをもらった。それを取り上げられて、もう知らない前に戻れなかった。
気まぐれに俺に希望を与えてそれを取り上げた。その後もすました顔で接してきた。
どんなににらんでも動じないあの顔を、くずしてみたい。
自分の腕の中でその表情をゆがめさせたい。
執着にも似た感情の原点をユージーンは自覚していなかった。
後宮に入った夜にユージーンはイリアの部屋へと赴いた。入浴を済ませて夜着に身を包んだイリアは、応接用の部屋にいて
ユージーンを出迎えた。
そこには男装の中性的な姿はなく、美しい娘がいるだけだった。
「ようこそおいでくださいました」
へりくだった物言いをして、イリアは礼をする。許しがないと顔は上げられない。
ユージーンは長いこと許しを出さず、イリアに礼を強いた。ようやく許したかと思うと、イリアは肩に担がれて寝台に放り投げられた。
体勢を整える前にユージーンが覆いかぶさった。
噛み付くように激しい口付けを受けて反射的に逃げようとする後頭部をユージーンは抑えた。そのまま舌を口内にすべらせてイリアの舌に
絡めて吸い上げる。夜着を引きちぎらんばかりにはだけさせて、肌に手をすべらせた。
「んっ、ふ……んん」
苦しそうなイリアに構わずに舌をしごき、唾液を送り込む。むせそうになるのを許さずにこくり、と飲ませる。
口の端からもれた唾液を指でぬぐって、それを胸の先端にこすりつけた。
「んぅ、くうっ」
指で先端をつままれてイリアが身を捩った。ユージーンは許さずに口付けたまま、くりくりと先端を指で弄ぶ。そのうちにつん、とそこが
硬くなってきて存在を主張し始めた。それをみすまして、今度は指の腹で掠めるように撫でさする。
イリアはユージーンの指で胸をいいようにされていた。やんわりと揉まれたかと思うと、痛みを感じる手前までの強さの力を加えられる。
それなのに先端はますます硬くなって、そこから疼くような感覚が生まれている。
「ふ、あぁ……ん、ぁあ、」
声を確かめてユージーンは舌先で先端をなぞった。
「あっ」
鋭い声をあげ、イリアの体が跳ねる。舌先でちろちろと舐めていたものをねっとりとした動きに変える。イリアの頬が赤みを増した。
唇で挟んで吸い上げると肩に置かれた指先に力が入ったのをユージーンは感じた。夢中でしゃぶり、歯でしごいてそこを攻め続けた。
「へ、いか、んぁっ、や……だめ、です」
弱々しく押しやろうとするのを封じて、耳に舌を這わせる。舌先を中に入れうごめかせる。
「なにが駄目だ。ぜんぶ、よこせ」
滲んだ涙を舐めとってまた口を塞ぐ。胸をもみながら内腿に手をかけて、足を割り開く。体を間にねじ込んで足を閉じられないようにした。
指先で腹部をたどる。手の平で腰をなでる。熱くなって汗ばんだ肌が手に吸い付いてくる。
もっと欲しいという思いとまだ我慢していろという思いが、ユージーンの中でせめぎあう。
すぐにでも貫きたい、だがそうすると苦痛だろう。
無骨な指が思いがけない繊細さで秘所に触れてきて、イリアは塞がれている口からくぐもった呻きをあげる。
そっと触れた指は下から上へとゆっくりと動く。親指が恥骨を押したかと思うとその下の蕾をじんわりと圧迫した。
「んんっ、く、ふうぅっ」
腰が揺れた瞬間を狙い済ましたかのように、蕾をこすられてイリアは反応する。
同時にぬるりと、秘所から濡れた感触もした。
「ここを触られるのが、すきか?」
唇を離して掠れた囁きを落とされるが、親指は蕾を揺らし秘所にも入り込んでいた。無骨な指は一本だけなのに痛い。
ゆっくりと沈み込んだ指がそろそろと抜かれる。中を広けるように動かされて体が動いた拍子に、指を締め付けていた。
「指をくわえ込んだ。しばらくはこれに慣れろ」
強面と評されるユージーンの瞳には、濡れた欲がある。何度も出入りして指をぐるりと回す。そのうちに指の動きに合わせて襞が絡むようになった。
蕾もこすられ爪の先で軽く押される。そこからの疼きと中を指で犯されていることにイリアは何も考えられなくなっていく。
こうして妾妃にされたのも、ユージーンがただ自分を征服するためだけに抱いていることも。ユージーンに嫌われ、憎まれていることも。
「ふ……あぁ、あっあぁ……」
声が甘く乱れていって、秘所がとろとろになっていってもイリアはただ、ユージーンの指だけを意識した。
胸や鎖骨をきつく吸われて、ちりっとした痛みを生じても、秘所の中の指が襞をかきわけると腰が浮いて手に秘所を押し付けてしまう。
ユージーンも喘ぐイリアの姿に興奮する。普段静かなイリアが、顔を紅潮させて汗をうかべ、熱くぬかるんだ秘所に入れた指を締め付けてくることに。
中の、女のいいところといわれる部分を強めにこすると、腰が一層跳ねる。
そこと押して、蕾を爪でこすりながらイリアに問う。
「中と、こことどちらがいいか?」
イリアは涙を浮かべてすがるようにユージーンを見つめる。その表情に胸をつかれる思いがした。
「わ、わからな、い」
「どちらもよさそうに見えるぞ」
そう言ってユージーンは秘所への指を増やした。同時に顔をそこに持っていって蕾に舌をよせる。
「ひぁっ、あああっ」
舌先で蕾をしごかれて腰が跳ねる、その拍子に指が奥まで沈む形になった。
抜き差しするたびにぐちょぐちょと音がして、白く粘ついた粘液が指に絡む。ユージーンは指を抜いてそこに口をつけた。
すすり上げると腰がびくびくと揺れ、秘所がひくつく。舌を差し入れてうねうねとうごめかせて、イリアの味を確かめる。
もう、イリアはすすり泣いていて、内股は細かく痙攣している。
「感じやすいのか、男と経験があるからの反応か」
イリアが身を硬くする。ユージーンはそれに苛立った。前者ならいい、後者なら……許さない。
「まあいい、すぐに分かる」
両腿の裏側に手をかけて足の付け根を大きく割り開く。痛いほどに怒張して、先走りの液を漏らす己自身を秘所にあてがった。
先端をねじ込むように入れて、角度を合わせて奥に進める。中はきつく、熱く侵入を拒みながら、一旦入れると包み込んでくる。
イリアが涙をこぼして、何かに耐えるようにぎゅっと目をつぶっている。
ようやく奥まで入れてイリアの汗ではりついた額の髪の毛をのける。
ゆる、と己を引くと血が絡んでいる。それを見てばかげたほどの安堵を覚えた。
冷静に考えれば国王の妾妃だ、生娘でないわけはないのに。
再び奥に押し込んで抜く。それを繰り返しながら蕾に手を伸ばす。刺激すると面白いように中が締まり、気持ちがよくなる。
少しずつ動きを大きくしていくと、イリアの声が、表情が変わっていく。
苦痛一色だったのに、だんだんとそれが落ちついていくようだった。
「……ん、んぁ、ぁ」
律動に合わせて吐き出す息に小さな声が混じるようになってきた。中のいいところをこするとユージーンを挟む腿に力が入った。
そこに当たるように、腰を使って中をこね回す。
イリアの反応は初めてとしては上々だ。無意識に腰をおしつけて中を締め付ける。
我慢ができなくなって、大きく動く。急激に大きくなる射精感に、奥まで押し込めて腰を振った。
どくん、と心臓の動きに合わせるようにイリアの奥で射精する。どく、どくと長く射精感が続きユージーンは小刻みに奥を小突いた。
ユージーンの下でイリアがぐったりとしている。初めての女相手にかなり濃厚な攻めをしたのだから仕方がないか。
血と二人の粘液でどろどろな秘所を布でぬぐって、イリアを抱き上げて浴室に運ぶ。
温かい湯につかって秘所に指を入れ、中をかきだす。うす赤いものがでてきてユージーンは仄暗い満足感を覚えた。
これで完全に嫌われてしまったとも思った。
ユージーンのなすがままだったイリアがのろのろと顔を上げて、ユージーンを見つめた。
「陛下……何故泣いていらっしゃるのですか?」
言いながらのびてきた手が頬に触れ、ユージーンが身をすくませた。
「俺が、泣いているだと?」
目に手をやって、汗ではなく濡れているのを見て呆然とする。
イリアは頬に手の平をあてた。
「厭う私を抱いたからですか? 泣くほどお嫌なら捨て置いてください。毛色の変わった妾妃ですので放置なさっても非難はないでしょう」
「ち、がう。ちがう。嫌なのはお前ではない。浅ましい俺自身だ」
絞り出すように言うと、涙が流れる。泣いたのなどいつ以来だろう。記憶にないほど昔なのは確かだった。
嫉妬して、独占欲をむき出しにして、無理に後宮に入れてイリアを抱いた。
毛色の変わったなどと揶揄してイリアを傷つけた。
「俺が泣くなどおかしいだろう。鬼とも言われて他人を泣かす強面が、泣くなどと……」
イリアはもう片方の手もユージーンの頬に当てた。ゆっくりと近づいてユージーンの唇にそっと、唇を重ねた。
もう一度そうやって触れるだけの口付けをして、イリアはユージーンの目を覗き込む。
「おかしくなどありません。陛下が何を浅ましいと思われているかは分かりません。でも私は陛下を尊敬しています。
医者としてお仕えできて幸せでした。陛下に嫌われているのは悲しいですが、妾妃としてお仕えできるのなら本望です」
身を離そうとしたイリアをユージーンは抱きしめた。
「違う、嫌ってなどいない。俺を怖がらなかったお前が、俺を受け入れてくれたお前がいなくなるのが嫌で、医務室にもう来るなと言われたのが
腹立たしくてお前を妾妃として縛った。側にいてほしかっただけなのに」
頭の上からの声にイリアが顔を上げた。
「それは本当ですか? 私が都合のいい夢をみているのでは」
「違う。本心だ」
失う恐怖など二度と味わいたくない。
今度失ったら、もう耐えられない。
ただイリアを抱きしめていたユージーンはそっと背中にまわされた手に気付く。
イリアが抱きしめてくれている?
恐る恐る視線を合わせたユージーンは、微笑むイリアをみつけた。
「お慕いしています。強面なところも、お優しいところも、不器用なところも。側でお仕えしてもいいですか?」
信じられない思いでイリアを見つめる。
「また、薬草茶を飲ませてくれるか?」
「はい、陛下の体調にあわせて淹れます」
鬼の目に涙だろう。そう自嘲するユージーンに、イリアは微笑んで首をふる。
誰より側で強面の主に仕える。それがどれほど嬉しいことか。
この不器用な方がいつか理解してくれればいい。
強面陛下がめとったのは妾妃から王妃になった男装の医者。
珍しい組み合わせの二人はよく国を治めた。残る肖像画で国王の人相の悪さは伝えられているが、見た人の胸の中には不思議に
温かいものを生じさせた。史書には幸福だったと締めくくられる生涯が記されている。
終
GJGJ!
よかったよかった。じーんとしたよ。
>>360 ナイスな小ネタだなw
しかし筆おろしって普通にあの時代なら使われる単語だったろうから
新しく筆おろしたんだ〜とか語ると卑猥に聞こえてたんだろうかw
上位三位は全部合わせ技出来て萌えるな
人妻女中とか元しょうふ女中とか
375 :
sage:2011/06/20(月) 15:21:09.50 ID:TIKDNJoa
需要あるかわかりませんが投下
午後11時。厨房。
彼女は一人、儀式のように注意深く紅茶の葉を選んでいた。
午後11時半には必ず紅茶を。それが彼女の主の日課であった。
この時間になれば他の使用人たちはほとんど自室に戻り、ひたすらに広いこの屋敷は
建物ごと眠ってしまったかのようにひっそりと静まりかえる。
静かな書斎で一人、仕事を片付けている主に、彼女は、紅茶を運び、そして給仕をする。
そうして、彼女の一日が終わるのだ。
瓶に鼻を近づけ、中の葉の香りを確かめると、彼女は今日の紅茶を決めた。
当初、数多い使用人が代わる代わるに行っていたその役目は、なぜか今では彼女だけのものとなっていた。
主がなぜ取り柄のない自分を名指しするのか、メイベルにはわからない。
主は人目を引く端正な容姿をしていたため、他の年若いメイドたちは
特別な役目を与えられた彼女を口ぐちに羨んだ。しかし、寡黙なメイベルは黙って苦笑するだけだった。
「あんなにお近づきになれるのに、メイベルは旦那様に全然興味がないのね、もったいない」
他のメイドは言う。しかしその言葉に彼女は違和感を覚える。
自分はただのメイドであり、主人の身の回りの世話をする、ただの道具に過ぎない。
道具が主に興味を持つなどということが、許されるというようには、彼女にはどうしても思えなかった。
―だから、やめなくては。
彼女はティーセットを一式、ワゴンに乗せゆっくりと厨房を出る。
完璧な温度に温められたカップ。ポットの中では選び抜かれた葉がゆらゆらとたゆたっている。
―早く、やめなくては。彼のことを…思うのは。
11時30分。ちょうどの時間に彼女はその厚いドアを叩く。
ノックは決まって2回。
「旦那様、紅茶をお持ちいたししました」
メイベルが扉を開け、声をかけると、クリフは手元の書類に顔を向けたまま、上目づかいで彼女を見た。
「ああ、御苦労さま」
彼女はティーセットを載せたワゴンを室内に押し入れる。
大量の蔵書に壁が埋もれている暗い書斎。机上のランプだけが淡い光で室内を照らしていた。
クリフは机に向かい仕事の書類を整理しているようだった。
メイベルは手際良く、ワゴンを机の端にとめ、深々と頭を下げる。
そしてその端正な顔をいつものようにそっと盗み見る。いけない、と考えるが眼をそらすことはできない。
落ち着いた雰囲気と柔らかい物腰。そこにはある種の貫禄が感じられた。
「もうそんな時間になるんだね」
彼は書類から目を離すと、眼鏡をはずして両目頭を指で押さえた。
仕事のことで頭を悩ませていたのだろうか。
クリフに仕えて三年になるが、メイベルはクリフの個人的なことはほとんど知らされていない。
これだけの屋敷を、資産をどのような仕事によって保っているのか。
家族はどこでどうしているのか。聞いてみたい、知りたいという欲求はあっても、彼女はそれを口にすることはない。
「今日は、何のお茶?」
彼はまるでひとつひとつの言葉を訳していくように、丁寧な話し方をする。
「アールグレイでございます」
彼女は完璧な温度に温めておいたティーカップに、静かに紅茶をそそぐ。
ポットを置き、顔を上げた瞬間に、にっこりとほほ笑む彼と目が合うが、彼女は何事もなかったようなそぶりでそらす。
「いい香りだね」
低い大人の声色にそぐわず、少年のように屈託ない笑顔。
許されることではないと理解していながら、彼女は、胸がひとりでに高鳴るのを感じていた。
彼女が給仕をした紅茶に口をつけ、彼は眼を細めた。
「おいしい」
「ありがとうございます」
メイベルは深々と一礼し、ドアノブに手を伸ばす。いつも通りの無駄のない所作で今日の儀式がまた終わる。
しかし、彼の声がその一連の動作をおしとどめた。
「あ、ちょっと待って」
「はい」
彼女が背筋を伸ばし、答えると、彼は言いにくそうに笑った。
「うーん。ちょっと、聞きたいことがあるんだけど」
「なんでございましょう」
「…いいかな、聞いても」
「どうぞ、何なりと」
彼は、こともなげに言った。
「君は僕のことが…嫌いなの?」
それは意外な言葉だった。想像だにしなかった質問。
動揺した気持ちを無理やりに押さえつけ、彼女は必死に平静を装う。
「とんでもございません。私は旦那様にお仕えしている身でございます」
「でも、なんだか、いつもこっそり僕をじいっと、睨んでるみたいに見える。親の敵みたいに」
気づかれていた―メイベルは衝撃を受け、言葉を失う。クリフは驚いたように言う。
「おや、君でも顔色が変わることがあるんだ」
少し遅れて、かあ、と顔が熱くなるのを感じた。うまい言い訳も、言い逃れも思いつかず、メイベルは反射的に頭を下げた。
「申し訳ございません」
彼女は自分の目つきの悪さを密かに呪う。日頃から、いつも静かに射抜くように人を見る癖のある彼女は、
冷たい印象を人に与えることがよくあった。
「謝ることはないよ。ただ不思議だったんだ。職場環境について何か思うところでも、ある?」
足元がぐらつくような衝撃のあと、自分は使用人失格だ、と彼女は痛烈に思った。
彼女の思慕の視線は隠れてすらいず、不躾なものとして受け止められていた。
しかも彼は言葉を選び、使用人の自分が責められていると感じないよう、配慮しているように見え、それがかえって彼女を深く傷つけた。
主に気を遣わせている、どこまでも未熟な自分。
「親の敵っていうのは冗談だけど」
動揺している彼女の様子を見て、主は気分を害す様子もなく、のんびりした口調で言う。
「何か怒ってるわけじゃないんだね?」
「そんな…とんでもございません!」
思わず声が大きくなる。
「けしてそのような意味で拝見していたわけでは…」
誤解を解くには、もう正直に答えるほか、ない。
「あの…だ、旦那様の、お顔立ちが」
「ん?」
「その、す…、す…素敵でいらっしゃるので…」
彼女は頭を下げる。
「失礼と分かっていながら拝見しておりました。ご無礼をいたしました。申し訳ございません」
声だけはいつものように淡々としていたが、語尾は自然と震えていた。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
彼女は紅潮する頬を抑えることすらできず、その場から立ち去ることもできずにただ、
頭を深々と下げ続けた。困惑や侮蔑の言葉が沈黙を破る瞬間を思い、膝が小さく震える。
「メイベル」
苦笑するような声が、不意に頭の上からした。
「もういいから、顔をあげてごらん」
顔を上げた瞬間。
息がかかるほど近くにクリフの顔があった。
「だ、旦那様…!」
心臓が跳ね上がる。眼鏡の奥の、切れ長の目が静かに自分をとらえている。
瞳はこちらをとらえて離さない。
メイベルは言葉を発すこともできない。5・6センチ先にある、憧れ続けた人の顔。
「こんな顔でよければ、好きなだけ見るといい」
クリフは優しく見つめ、そっと、音も立てずに彼女の右腕をつかんだ。頭の中が、真っ白になる。
腕に伝わる、骨ばった手の感触と温度。まっすぐに向けられた、貫くような視線。
おぼろげなランプの光の中でもわかるほどの長いまつ毛と、彼のかすかな匂いに心臓が早鐘のようになる。
思わず顔を背けようとしたその瞬間、彼は独り言のように呟いた。
「キスしても、いいかな」
メイベルがその意味を理解する前に、彼はそっと唇を重ねた。
驚いて後ろにのけぞった頭が後ろのドアにあたって音を立てた。
後頭部に少し痛みが走り、彼女はこれが現実であることを知覚する。
彼はそんなことなどまるで気が付いていないというように、唇を押しあて続ける。
生ぬるい唇。吐息。唇を重ねるだけの、丁寧な優しいキス。彼の前髪がメイベルの額を撫でる。
仕立ての良いシャツの、クリーニングの糊の匂い。そして、微かな”男”の体臭。
クリフは唇をそっと離すと、ティーカップを置くようにゆっくりと優雅な動作で
彼女の後頭部をなで、のんびりとした口調で言った。
「…頭、ぶつけちゃったね。大丈夫?」
彼女は言葉を忘れ、ただぽかんとクリフの顔を見上げている。彼は可笑しそうにくすくすと笑った。
「…ようやく年頃の女の子の顔になったね」
その言葉でメイベルは我に返る。キスをされたこと。こんなにも近くで見つめられていること。
そして自分がひた隠しにしていた、見られたくないものを見られたような気持ち。
彼女はまた動揺し声をあげた。
彼は犬や猫をめでるような眼で、彼女の顔をしげしげと眺める。
「あ、あの、だ、旦那様…」
「ん?」
「お…、お離し、く、ださい」
とにかくこの視線から逃れたかった。胸が苦しい。つかまれたままの腕を振り払おうとしたが、
彼の手は思ったよりもずっと強く自分の腕をつかんでおり、びくとも動かない。
「あ、あ、あ、あ…あの、いけません。どうか。私は。旦那様。もうお許しください」
クリフは彼女の声が全く聞こえていないかのように落ち着き払っている。彼女の様子をみて満足そうにほほ笑んだ。
「僕もね、君のこと、よく見てたよ」
彼は、独り言のように呟いた。
「真面目によくやってくれているけど、いつもあんまり事務的だから。
最初は、どんな子なのかな、ってね」
メイベルは、その視線につかまったまま、茫然と立ちつくし動けずにいた。彼が話していることが、
自分に関係のない世界のように思えた。自分のことを見ていた?そんなことが、あるはずがない。
「でもずいぶん前、僕といないときの君を見かけて、ちょっと驚いてね。
いつも粛々と仕事をしてるけど、僕のいないところでは全然違うんだなって。何だか悔しくて。それからは、もう…」
そこまで話すと、彼は突然何かに思い当ったように言葉を止めた。
少しの間のあと、きょとんとした顔で言う。
「いい年して、何を言ってるんだろう、僕は」
「…はあ」
彼は困ったような表情を浮かべ、まるで第3者に相談するように言った。
「しかも突然こんなことしちゃったけどどうしよう。君に嫌われたかもしれない」
助けを求めるように視線を送られて、思わずメイベルは吹きだした。
「そ、それを私めに…おっしゃるのですか?」
それは今までメイベルの知らなかった主の一面だった。
いつも落ち着き払い、冷静で有能で―しかし目の前の彼はのんびりと、子供のような表情で困っていた。
この人は、こんな顔も、するんだ。彼女は胸の奥が締めつけられるような思いがした。
まっすぐにこちらを見据える、澄んだ眼。この視線につかまると、あっという間に息ができなくなる。
彼女は体中から絞り出すようにして、勇気を出して言った。
「嫌いになるなどということは…あ、ありません」
メイベルは、自分の心臓の爆発しそうな鼓動を抑えることもできず、
ただ顔中を真っ赤にしてうつむいた。
彼は屈託のない笑顔を浮かべ、息をついた。
「よかった」
間近で見ても隙のない笑顔にさらに彼女の動揺は激しくなる。
彼はドアごと彼女に覆いかぶさったような格好のまま、じっとメイベルを見つめ、手を離そうとはしない。
その温度。彼女はどぎまぎしながら言う。顔から火が出そうだ。
「だ、旦那様…」
「なに?」
「あの…もう、お願いです…お離しください、あの。もう」
「でも、君がこんなに動揺するところが見られるなんて、そうないし」
「…そんな…でも」
「もう一度、キスしても、嫌われない?」
彼は今度はメイベルの言葉を注意深く待った。
彼女は長い沈黙の末、ごく小さな声で、答えた。
「は、い」
そのとき、すうっと彼の瞳から笑みが消えた。真剣な眼差し。
―この人は、こんな顔もするのか。
そこまで考えたところで、キスが彼女の思考を分断した。
終わりです。
お目汚しすみません。
需要があればそのうちエロも投下します
Gjめっちゃ続きが気になる
GJですね
貴方が神か……
GJ!需要大有りに決まっているでしょう
GJ!
もちろん続きますよね
GJ! 続き期待しています
あるに決まっとるやないかーーー!
お願い。
GJです。続き、お願いします。
午後11時。書斎。
クリフは一人、書斎に篭り仕事を片付けていた。
埃臭く、大量の本に囲まれた壁。真ん中に据えられた、大きな古い机。年代物のランプ。
これといって魅力的なところは一つもないはずなのに、
ここはどんな場所よりも彼の心を落ち着かせた。
机に向かっていた彼は、契約書の束から目を反らすと、頬杖をつき、ゆらゆらとランプ中で揺れる橙をぼんやりと眺める。
―今日は彼女は来るだろうか?
昨日の出来事を思い返し、彼はため息をついた。
2度のキス。
自分でも驚きだった。
ろくに会話らしい会話を交わしたこともない、歳も一回りも離れてるような小さな女の子。
それも、使用人に手をつけるような真似をするなんて。
彼女が屋敷に来たのは三年前。
メイベルはいつも目立たなかった。しかし質の高いメイドだった。
他のメイドたちが時に必要以上の詮索をしようとするのと比べ、いかなるときにも黒子に徹した。
誰の目にも触れないところで、誰よりも丁寧に。
どんな些細な仕事にも、少しの手間も惜しまずに。
他の使用人が―もしかすると彼女自身ですら―気が付いていなかった彼女の優秀さを、
彼はすぐに見抜いた。
クリフはそういうことに長けていた。
何かを見抜くこと。そして、それに気が付いていないふりをすること。
―いつからだろう。
彼女の視線が気になり始め、落ち着かない気持ちになったのは。
乱れなく纏められた髪、ぴんと延びた背筋に、左右に引き結ばれた口。
あどけない顔立ちに不釣り合いな、喜怒哀楽を封じ込めた硬い表情。
自分はなぜあんなことを言ったのか。
クリフは自分の気持ちを正しくつかみかねていた。
メイドに徹し続ける彼女をただ少し動揺させてみたかったのかもしれない。
彼女の視線の意味など、もちろん分かっていたのに。
生身の彼女を見てみたかったというほんの好奇心。
そして、得られた想像以上の反応。
ぽかんと口を開けてこちらを見ている幼い顔。
そして顔を真っ赤にして訴えるぎこちない表情。
キスなんてするつもりなんてなかった。
しかし気がついたら、体は動いていた。
11時30分。ちょうどその時間に彼はその厚いドアが叩かれる音を聞く。
ノックは決まって2回。
*
「失礼いたします」
ドアを開けると紅茶を載せたワゴンとともに、彼女が入ってきた。
「よかった」
それは、本心だった。彼は息をつき、メイベルにほほ笑みかける。
「今日は来てくれないんじゃないかと思った」
返ってきた声は、意外なほど静かに言った。
「私にお申し付け頂いた仕事でございますので」
彼女は淡々と話したが、平静を装っていても、表情はいつもよりわずかに強張っている。
入口の近くで深々と一礼をする。動揺はない。むしろ不思議なほど落ち着いている。
どこか張りつめた空気の中彼女はワゴンを留め置くと、カップに紅茶を注ぎ始める。
「今日はなに?」
彼は普段通りを装って言葉をかける。
「ダージリンでございます」
机上のランプの淡い光で彼女のつるりとした顔が橙に染まり、眼鼻に陰影が刻まれる。
その顔は彼にいつもアンティークドールを思い起こさせた。
すこしひややかな雰囲気と簡単には人を寄せ付けないような宝石の眼。
そこからはいつもより色濃く、意志の固さが窺い知れる。
目の前に差し出された紅茶をクリフがすすると、彼女は時を待たずに行った。
「旦那様」
「なに?」
そして。
「辞めさせていただけないでしょうか」
彼女は、唐突に言った。
「これ以上、このお屋敷に置いていただくことはできません」
彼は驚かなかった。なんとなく想像はついていた。部屋に入ってきてからの、彼女の思いつめたような様子を見たときから。
真面目な彼女が、主と一時的にでも関係を持ったことに罪の意識を感じないわけがない。
彼女は責任をとろうというつもりなのだ、と彼は思った。
クリフは声色を変えずに言う。
「それは…昨日、僕が嫌な思いをさせてしまったからかな?」
うつむいたまま、彼女は動かない。
下を向いたまま、否定を続ける。白いうなじ。
結いあげられた髪はほころびの一つもない。
「そうではありません」
「じゃあ、どうして?」
「私は…自分を許すことができません」
そこからの彼女の言葉は、彼の予想から少し外れた意外なものだった。
「使用人の身でありながら旦那様をお慕いしてしまったことも
、不躾にじろじろと拝見してしまったことも、
分不相応に浮かれてしまったことも。
そして旦那様に…お情けを頂いたことにも…耐えられません」
彼女は顔をあげた。いつも通りの無表情だったが、
大きな目には涙がいっぱいに溜まっていた。
その言葉から、クリフは彼女の思考の道順を辿り、その意味を理解した。
彼女は、主と関係を持ったことよりも、むしろ使用人として相応しくない振る舞いをしたことが許せない、と話している。
そして、何よりも驚きなのが―
「情け?」
彼は軽い眩暈を覚える。
「要するに、君に気を使って僕がキスしたと思ってるの?」
彼は笑みを消し、静かに言った。メイベルはわずかに目をそらし、小さな声で言う。
「旦那様が、私のような者にあんなことをしてくださる理由が…他には思い当たりません」
自分のようなものが、主と釣り合う筈がない。
愛情を注いでもらえるわけがない。
その思いが、昨日の事象を歪め、彼女にその結論を掴ませた。
―あれは、自分を憐れんでの、キスだ。と。
「それは違う」
彼はいつしか自分が必死になっていることに気がついた。
使用人なんて、いくらでも代わりはいる。
なのにこの小さな娘を、今、引き留めようとしている。
「したいからした。突然あんなことをして悪かったと思っているけど、いい加減な気持ちじゃない」
自分でも驚くべきことに、その言葉に嘘はなかった。
メイベルの瞳に動揺が走る。信じたい気持ちと信じられない気持ち。
そしてその彼女の戸惑いに、安堵をおぼえている自分。
「君のことを見てたというのは本当だよ、興味があった。すごく、だから君の考えていることが聞きたかった。
メイドとしてじゃなくて、ただの、君の言葉が」
彼の中のもうひとりの彼は、本心とおぼしきものが自分の口から吐きだされるのを、問いところから、驚きをもって見ている。
「使用人じゃないほうの君のことが知りたいんだ。でも、そういうのは、君は嫌?」
メイベルは、彼の言葉に圧倒され、いつしか無表情から解放されていた。ぽかんと口をあけてこちらを見ている。事態がよくのみこめない、という顔だ。理解できないのだろう、と彼は思う。使用人としてでない自分に価値を置かれることを。
「なんだか昨日から、嫌かなって聞いてばかりだ」
クリフは自嘲気味に笑うと、混乱している彼女に向かって、噛んで含めるように話す。
「とにかく、余計な事は考えないで、僕の言葉はそのまま信じてくれないかな。
僕は、気を使ってもいないし、情けなんてかけてない。わかった?」
「は…はい」
彼は手を伸ばし、彼女の頬を両手で挟んだ。放心していた彼女の表情が、弾かれたように驚きに変わる。
「じゃあ、素直に答えて。君は僕と離れたい?」
「い、いえ」
「それなら、ここを出ていくことはない」
「…」
「返事は?」
「はい」
反射的に返事をしたメイベルの顔を覗き込み、彼はにっこり笑った。
彼の目に見つめられ、彼女の目がせわしなく瞬きを繰りかえす。
「よかった」
彼は大きく息をつき、言った。
「どうしようかと思った。いなくなっちゃったら」
メイベルは言葉を発せず、信じられないものを見るような眼で、ぼんやりとこちらを見ていた。
その頬がみるみる熱くなるのが、彼の手のひらに伝わる。頬の、きめ細やかな薄い皮膚。落ち着きなく動く、大きな瞳。
近くで見ると、驚くほど幼い顔をしている。小さな赤い唇がわずかに震え、息を漏らす。
舐めたら甘い味がしそうだ、と彼は思う。
「僕は、ずっとこうやって、触ってみたかったよ」
小さな赤い唇がわずかに震え、息を漏らす。舐めたら甘い味がしそうだ、と彼は思う。
彼は、彼女の顎に指をやりそっと上を向かせると、ゆっくりと顔を近付けた。
彼女はその意図を察すると、動揺を必死に抑え、ぎゅっと力をこめて目をつぶった。
恥ずかしさと緊張で力のこもった細い肩。不器用な所作。
その初々しい表情を眺めているうち、加虐的な気持ちがふつと湧きあがり、彼は囁いた。
「ねえ、君からしてくれる?」
彼女は驚き、勢いよくその目を開ける。期待通りのメイベルの反応に彼は満足感を覚えた。
いたずらっぽく言う。
「君がまた後悔したら困るから」
驚いたような顔がみるみる赤く染まり、恥ずかしそうな表情に変わる。
「だ、旦那様、そんな…」
「どうするか、自分で決めるといい」
困惑と動揺。彼は彼女から少し顔を離すと、黙って彼女を見つめた。
仕事中とはまるで違う、くるくると変わる表情は見飽きることがない。
しばらくの沈黙の後、彼女は決心したようにごくりと唾を飲むと、彼の両頬にゆっくりと両手を当てる。
背伸びをして唇が近づく。まるで、誓いのキスだ、と彼は考え、そして目を閉じる。
―俺は彼女のことを本気で好きになってしまったのだろうか?
小さな唇が触れた瞬間。違うと、彼は思った。
最初から好きだったのだ。おそらく。
2話目これでおしまいです。
まだエロもろくになくすいません。
続き、そのうちまたあげます。
ありがとうございます。
いいね!実にいい!!
続きを楽しみに待ってます!
おお…なんかすごいな
文が丁寧だ
まるでメイベルの仕事のように
すごくよかった!
いい意味で読んでるほうがドキドキした
続きが楽しみです
コメント頂けてありがたいです。
スレ汚しですいませんが、
3話目行きます。
「それでね」
椅子に腰かけながら、メイベルを膝の上に乗せ
後ろから抱きしめたような恰好のままで彼は言った。
ランプを一つ灯しただけの、薄暗い書斎。蒸らした紅茶の葉の匂い。温かく大きな腕。
「メイベル」
首の後ろに感じる、彼の吐息。
「…ちゃんと、聞いてる?」
主の声に彼女ははっとする。
「き、聞いて、ます」
こうして触れられても動揺しなくなったのは最近になってのことだ。
それでも時に、こうやってぼんやりと放心してしまう。夢ではないのか、と。
すぐ後ろで彼がクスクス笑った。耳元がくすぐられるようにぞくりとする。
静かな中で聞く、彼の囁き声。心臓に悪いと彼女は思う。
「それでその卵で、大きなパンケーキを焼くんだ」
「パンケーキ…、ですか」
「そう。それでみんなと大勢でパンケーキを食べる」
あれから、11時半は二人の逢瀬の時間となり、
彼女がワゴンに乗せて運ぶティーカップは二つに増えていた。
二人は、空白を埋めていくかのように、毎夜、こうして多くの話をした。
「それで、どうなるんですか」
「卵の殻に車輪をつけて、車にして、それに乗って帰る」
彼女は驚く。
「卵の殻で、ですか?」
「まあ、童話だからね」
「でも、鼠が2匹も乗れるのでしょうか?」
クリフは吹き出し、可笑しそうにくつくつと笑う。
「君は真面目が過ぎるね」
彼は博識だった。
仕事柄、色々な国に行ったことがあるらしく、
彼女の知らないような不思議な話もたくさんしてくれた。
たとえば、中東地方の変わったおまじないのこと。王族のわがままなお姫様の話。
寒い国での魚の獲り方。そして今日は、彼が昔に読んだ、絵本の話。
「つまんない話だと思ってる?」
「と、とんでもございません」
まともな教育というものを受けたことがなかった彼女にとって、
物語に触れるのは新鮮な体験だった。
そして、何より、それらが彼の口から語られることが、夢のような出来事だった。
「それならいいけど」
それに比べて、メイベルに出来る話はせいぜい一日の仕事や
使用人たちの間のささやかな出来事くらいのものであった。
彼女は、クリフを楽しませることができるかいつも不安に思ったが、
彼はいつも興味深そうに聞いてくれた。
そして彼は日中不在にしているとは思えないほど、
数多い使用人たちひとりひとりの名前や性格や癖をよく把握しており、
彼女の話も驚くほどよく理解してくれた。
「まだ慣れない?」
「そんなことは…」
メイベルが否定すると、彼はわざとそのまま黙って、彼女の言葉を待つ。
彼女はおずおずと訂正した。
「…申し訳ありません。まだ、少し、慣れません」
彼はよく、こうして、自分の思ったとおりの話をするように彼女に促した。
「やっぱり」
初めのうち、彼女は、緊張と恐れ多さでまともに彼に話をすることもできなかった。
彼はメイベルに多くの質問をし、少しずつ自発的に話すように促した。
こうして体を寄せ合うことが多いのも、自分への配慮でもあるのかもしれないと彼女は思う。
触れられているときは自分がただの小娘であることが実感できた。主に求められていることが分かる。そして、その温もりに甘えることができる。
体に深く染み付いた職業意識が吹き飛んでしまうくらいに。
彼には全てお見通しなのだろう、と彼女は思う。
「といっても、僕もまだ慣れないんだけど」
彼が、メイベルのうなじに唇を埋めて言う。
体ごと溶けてしまいそうだ、と彼女は思った。
彼は、彼女の頬に手を当て、優しく振り向かせる。
腕に抱きしめられたまま、見つめ合う形となるが、メイベルはまだ、近い距離で彼の顔を直視することはできない。
メイベルがどぎまぎしている様子を眺めると、彼は唇を近付け、挑発するように言った。
「どうしたの?」
クリフはときに、彼女の気持ちを分かっていながら、質問をする。主は見かけよりずっと意地悪だ。
しかし、彼が普段はけして見せない、その嗜虐的な目から目を離すことはできない。
彼女は胸の高鳴りを抑えることができず、思わずぎゅっと目を閉じる。
「君は本当に、可愛いね」
彼は低く笑うと彼女の頬を撫で、彼はキスをした。唇を割って、彼の熱い舌が分け入ってくる。
ゆっくりと口蓋をなぞられ、首を撫でられる。
何十回もキスをしてきたはずなのに、キスをされるたびに、気絶してしまいそうになる。
しかし、彼女はそれに溺れるたびに、自分の心の隅に巣くった不安の存在を意識した。
ざわついた気持ちを必死に抑えつけながら、この人の所有物になってしまえたらいいのに、と彼女は思った。
そして、いつしか彼女はひたすらに夜を待つようになっていた。
積み重ねるように行ってきた毎日の小さな仕事を、
もう以前のようにこなせなくなっていることに彼女は気がついた。
少し気を抜けば、目の前の時間の濃度はあっという間に薄くなり、
彼の事を思う。いけない、と彼女は思う。
家事労働すらまともにすることができない自分に、なんの価値があるのだろう。
しかし、そこから必死に自分を引きはがそうとしても、気がつけばクリフの事をぼんやりと考えてしまう。
彼女はこれまで、まるで恋というものに縁のない生活をしてきたため、それが自然なこととは思えなかった。
―しかし。
彼女は思う。考えてみれば自分は最初からそうだったのだ。
いけないとわかっていながら、彼を慕い、視線を送り続けていたのだ。
自分の思いを律することもできない、未熟な使用人。
どういうつもりで主が、自分との親密な時間を持とうとするのかはわからない。
気まぐれとしか、彼女には思えない。
しかし。彼女はその可能性に思い至り、恐怖にとらわれる。
―いつ、主の気が変わってしまうのだろう。
そして、時間とともに、メイベルの不安は膨らんでいった。
形のない闇が、実態をもって動き出すように、不安は悪意を孕んで膨れ上がる。
毎夜の逢瀬で彼のことを知れば知るほどに、そのしみのような闇は深まった。
彼の知識の量が、頭の回転の良さが、端正な顔立ちが、優しさが。
それを彼女に意識させる。
―自分なんかと。
それは心に深く根付き、刺し、彼女の耳元でこう囁いた。
―自分なんかと主が釣り合うわけがない。
そして、彼女はかつてからは考えられないようなミスをするようになった。
食器をとり落とす。ワックスをかけ忘れる。紅茶の量を間違える。
いままで完璧に出来ていたことが、手からすり抜けるようにして消えていく。
それは恐怖だった。
彼女が唯一、よりどころとしてきたものが、失われようとしている。
仕事が出来ない自分に価値があるとは思えなかった。
しかし彼はメイドでない自分のことが知りたいと言った。なぜだろう。理解ができない。
それでも彼女は彼のことを考えるのを、自分の意志で辞めることはできなかった。
気がつけば、進むことも戻ることもできないところに、彼女は迷い込んでいた。
そして、ある夜の11時半。
「ねえ」
紅茶を運びいれたメイベルに、彼は言った。
「どう考えても、おかしいと思うんだけど」
背筋を冷たい緊張が走る。ついに来た。彼女は思った。
死刑の執行日を待つ囚人のように、メイベルはこの瞬間を恐れていた。
「何がでしょうか」
「最近の君」
彼は覗き込むように彼女の顔を見た。
「元気がない。それに今だって。仕事用の顔になってる」
いつかこんな風に指摘されることが分かっていたはずなのに。
彼が自分の変化を見落とすはずはないのに。それでも彼女は見抜かれたことに動揺をする。彼は、メイベルの無表情を“仕事用”と称す。
彼女が仕事に徹するとき、考えていることを表に出すまいとする、顔。
「そのような事は…」
「顔色も良くない」
「…きっと、夏風邪をひいてしまったのだと思います」
彼女の思考はぐるぐるとめまぐるしく頭を駆け巡り、まとまらない。パニックになりそうな動揺と、ひた隠してきた気持ちを必死に押し込める。
「申し訳ありません。今日はこれで失礼いたします」
部屋を出なければ。考えるより先に彼女の体は動いた。ドアに。
しかし、それよりも早く、彼の腕が彼女の手首を捕まえる。
骨ばった華奢な、しかし大きな手の感触。
ぐん、と体ごと引っ張られ、彼女はすぐに彼の近くに引き戻された。
「なにかあると君は、すぐ逃げようとする」
彼の言葉に、彼女は金縛りのように動けなくなる。
クリフは石のように固まる彼女の横をゆっくりとすり抜けると、出口のドアに背中をもたせ、
退路を塞ぐ形で彼女に向きあう。
「でも今日は逃がしてあげない」
いつもと変わらない声であったが、彼の目はいつもと違って、笑っていなかった。
いつもと少し違う彼の様子に、胸の芯がぞくりと冷える。
恐怖。その感覚に、彼女は不思議な納得を覚える。
そうだ、自分は、いつも彼のことを怖がっていたのだ。
彼の優しさも、気まぐれも。いつ失われてしまうとも知れないことも。
彼は黙ってメイベルを見つめ、彼女が口を開くのを待っている。
少し空いたシャツの胸元から伸びる、長い首。
知的な印象を与える、眼鏡の奥の、涼しげな眼。
同じ人間のはずなのに、いつものランプの灯りに照らし出されるそれらは、
いつもと印象がまるで違う。
メイベルは、どうしていいのか分からなくなった。自然に足が勝手に震える。
彼を怒らせたいわけではなかった。しかし、自分の気持を言うことができない。
自然に目頭に熱がこもる。視界がぼやけ、涙が瞳いっぱいに溜っていく。
こぼれおちてしまわないよう、彼女は瞬きを抑えて懸命に耐えた。
「僕だった別に苛めようとしてるわけじゃない」
彼は静かに言った。彼女の顔を覗き込むかのように、少し首を傾ける。
「きちんと、話してごらん」
彼に隠し事ができるはずが、ない。彼女は観念した。
「…旦那様は、どうして私のような者に興味をお持ちになられたのでしょうか」
彼の表情が変わったのかどうか、メイベルの目は涙でぼやけ
はっきりと見ることができない。
「旦那様とのお時間はとても…楽しいです。
ですが、どう考えても、旦那様のような方には私は相応しくないと思うのです」
一度口を開くと、言葉はどんどんと吐き出された。
まるで、傷口から血が噴き出すように、溢れて止まらない。
目からはひとりでにぼたぼたと涙が落ちていた。
いつからこんなに泣き虫になってしまったのか、と彼女は思う。
彼のこととなると、自分はいつも泣いてばかりだ。
「私は生まれも育ちも悪いです。
ろくに学校にも行けず、家族もなく、何一つ秀でたところもなく、
このお屋敷を放り出されてしまえば、行くあてもないような者です。
本来であれば手の届かないような旦那様にお近づきになれたことは身に余ることでした。
とても光栄なことでした。ですが…」
そこでメイベルの言葉は詰まった。それ以上が続かない。
途中で言葉を奪われてしまったかのように、彼女は黙りこむ。
「ですが?」
彼はその言葉を繰り返す。
「これ以上は、続けられない、と言いたいの?」
それは彼女がけして口にできなかった言葉であった。
今の状況は苦しかった。しかし、自分から彼の手を離すようなことはできなかった。
たとえ彼の気まぐれであろうと、関係が苦しくあろうとも、彼を、失いたくないのだ。
しかし、今の彼女には、その言葉を否定することすらできない。
メイドである彼女にとって主は王も同然であった。
自分から言えるはずもない。
―自分の関係を終わらせないでほしい、などと。
黙りこむメイベルを見つめ、彼は言う。
「要するに…君は」
そこまで言うと、彼は額に手を当てた。涙を流したおかげで今は彼の表情が見える。
笑っている様子でも、不愉快そうな様子でもない。
それは完全な無表情だった。
「自分が僕に相応しくないから、身を引くと?」
彼はため息をつく。
「それとも、君は僕と居るのが嫌なのかな?」
「そんなことは…」
「僕に言わせれば」
彼女の言葉を彼は静かに、しかし乱暴に遮った。
「君の方が、ずっと手の届かない存在だ」
彼は射抜くような眼でメイベルを見た。その時、メイベルは気がついた。
彼は、声こそ荒げていないが。
―怒っている。
メイベルはその言葉にも衝撃を受ける。
手の届かない?何を言っているかが理解できない。
「君はいつもそうだ。引け目を感じてるのか知らないけど、思ってることも言わない。
不安も恐怖も隠して、表面上は何もないように見せようとする。
僕の言ってる言葉を信じてもくれない」
彼は普段よりも早口だった。
「僕は同情で君に付き合っているわけじゃない。軽い気持ちでもない。
使用人としてじゃなく、ただ君に興味を持って惹かれてる。
前にも似たようなこと言ったね?」
メイベルは、始めて生身の彼を見た気がした。
それは、いつも余裕があり、温和で優しく、彼女の気持を先回りして
気遣いをしてくれる彼とは違う貌だった。
「もともとの関係があるから、普通に振舞うのが難しいというのは分かる。
だけど、君がそうやって壁を作ってる限り、僕はどうやったって君に近づくことはできない。
関係を続けることも、できない」
彼の言葉に、頭を殴られたようなショックを受けた。
何もかもが衝撃だった。自分の態度が彼を傷つけていたこと。
こんな風に強く思われていたこと、そして彼もまた葛藤していたこと。
メイベルは、自分に立場を踏み越える覚悟も、互いに心を開く努力も足りていなかったことに気がついた。
ただいつも怯え、手を差し伸べられるのを待っていたのだということにも。
「…申し訳ありませんでした」
長い沈黙を破り、彼女の口から自然と言葉が出た。
「わたし…」
彼女は自分から口を開いた。心臓が早鐘のように鳴る。
こんなことを言うなんておこがましい、と感じてしまう気持を抑える。
向きあうことから逃げてはいけない。
「これからはもっときちんとお話しできるように、
旦那様のことももっと知ることができるように努力します。
だから、どうかもう少し…お傍に居させてください」
言わなくては。自分の気持を。
彼女は高いところから飛び降りるような覚悟をもって、それを口にした。
「旦那様のことが…、好き、です…。一緒に、い…いたいです」
彼女は口にしてから、恥ずかしさに赤面した。
「本当に、ごめんなさい…」
彼女は顔をあげていられなくなり、床に視線を落とす。
彼からの視線を痛いほど感じる。
流れる沈黙。どんな顔をして見ているのだろう。
「本当に反省してる?」
頭の上から、彼の厳しい声が聞こえる。
まだ怒っているようだった。それも無理はない、と彼女は思う。
「はい…」
「だったら誠意を見せてもらわないと」
「せ、誠意…ですか」
彼女は焦り、思わず顔を上げると、思いがけず近くにいた彼と目が合う。
「僕の言うこと、聞いてくれる?」
彼は腕を組み、難しい顔を作っていた。メイベルは泣きそうになりながら、答える。
「はい」
「来週から仕事で2週間ほど屋敷を開けるから。君も一緒に来るように」
その言葉に、彼女は拍子抜けした。それは意外にも仕事の話であった。
これまでも、クリフは、長く家を開けるとき使用人を連れて行くことがあった。
旅先での身の回りの世話をする人間が何人か必要なのだ。
そのうちの一人に、自分を選ぶというのだろう。
「かしこまりました」
すぐに仕事の思考に切り替わり、彼女は返事をする。
「それで許してあげる」
彼はそういうと、ようやく笑ってみせた。
思わず目を奪われるようなその笑みに、メイベルの緊張はようやく解ける。
そして彼は何かの確認のように、ゆっくりと彼女にキスをした。
広い肩に視界が覆われ、生ぬるい唇が唇に被さる。
彼女は目を閉じ、それを受け入れる。今までのどの口づけよりも、彼を近しく感じる。
その匂いにメイベルは泣きだしてしまいそうなくらいの安心感を覚える。
―なんて人を、好きになってしまったんだろう。
彼女は口づけに溺れながら、痺れる頭の片隅で思う。
「あ、そうそう。先に言っておくけど。今回の出張」
メイベルが退室する時に、彼はこともなげに言った。
「君ひとりだけで、ついて来てもらうから」
「え?」
メイベルはぼかんと彼の顔を見上げると、彼は口元に意味深な微笑を浮かべる。
「2週間、ふたりきりってこと」
クリフは顔を寄せ、彼女の耳元で低く囁いた。
「どういう意味か、よく考えておいてね」
(3話目・終)
終わりです。長々すいません。
SS書くの初めてで、
書きこむのも初めてなので勝手がわからず
連続投稿で何回も引っかかってしまって困ってます。
また書けたら、書きます。
初めてだって?
ポテンシャル高すぎですぅ
GJ
でもさいしょのぐりぐらにはちょっと笑ったw
>419
ご主人様は…‥・ほんとうにイジワルだなぁ
424 :
名無しさん@ピンキー:2011/07/07(木) 20:38:42.61 ID:K/8+16Yq
優しく見えて黒いご主人様いい!!
ぐりとぐらのその話好きだったわ
続き楽しみです
ぐりとぐらの者です。
続きを待っていていただけたのであれば本当にうれしいです。
レスありがとうございます。
4話目いきます。
彼らの滞在先は、少し人里から離れた小高いところにあった。
彼は夕食の後、応接間のソファに座り、仕事を片付けていた。
どこに行こうと仕事は山のようにあり、彼の後を追いかけてくる。
今ではそれを嘆くことすらなくなった。
ふと仕事の手を休め、窓の外をぼんやりと見やる。
無数の家々が立ち並んでいるのが見える。どこまでも連なる窓の灯り。
人の生活。
ぼんやりとここに来るまでの道行きのことを思い返す。
車は坂をずいぶん長い時間をかけて登った。
クリフは迎えの車の後部座席で、メイド服を完璧に着込んだ彼女が、自分の隣で景色を見ていることに不思議な感覚を覚えたものだ。
彼女に疲れなかったかと問うと、メイベルはそっと否定し、お気づかいありがとうございますと頭を下げた。
仕事中の彼女は影のようにどこまでも静かであった。
めったに屋敷から出ることがない彼女は窓の外の風景に、彼女はすっかり心を奪われていたようだった。
その瞳は無表情のまま、流れる景色を絶え間なく追っている。
ふ、と。そのとき窓から視線をはがした彼女と目と目が合う。
メイベルは、一瞬で表情を硬くすると、目を逸らし慌てて窓の方を見やった。
―ちょっと、いじめすぎたかな。
彼は部屋の高い天井を見上げ、胸の内で苦笑する。
彼女は一週間前のクリフの一言をずっと意識しているらしく、あれ以来、時々ああやって不自然な態度をとることがあった。
素直な子だ。自分のこととなると、すぐにパニックになってしまう。
その表情の変化が見たくなり、つい、からかいたくなってしまう。
彼女はクリフの中の実にさまざまな感情を掻き立てた。
自分にはあまりないと思っていた独占欲、嗜虐心。
とうに枯れたはずと思っていた、焦りや嫉妬心。そして。
彼は自分の変化を不思議に思う。
―もう、誰かのことをこんな風に思うことなんて、ないと思っていた。
そこまで考えたときに、ノックの音がした。
ドアを押しあけ、メイベルが紅茶を運び入れた。
その豊かな香りに、彼の意識が反応する。
「あ、紅茶」
「ええ」
「今日は何?」
「アッサムティーでございます」
彼女の給仕は、どこであろうと変わりなく、どこまでも淀みがない。
「おいしい」
「ありがとうございます」
つるりとした、作りたてのような白い頬。濡れたような瞳。
小さな唇にはまだ幼さが宿っており、思わず触れたくなるような魅力を放っていた。
今日の仕事は、ほとんど終わった?」
「全てというではございませんが、あらかたは」
「じゃあ、僕の話相手になってもらえる?」
ほほ笑みかけると、彼女は抵抗なく肯き、一礼する。
「はい」
座るよう勧めると、彼女は対面のソファに腰を下ろそうとする。
「あ、そうじゃなくて」
彼は努めて優しく、彼女に言う。
「横においで」
メイベルは少し頬を赤くし、黙って席を立つと彼の横に腰を下ろす。
仕事中から2人の時間への切り替えが彼女はいまだに苦手な様子だった。
どのように言葉を発してよいのか分からないのか、時に、こうして黙る。
彼はそんなところもほほえましく思う。
「遠くまできて、疲れた?」
「いいえ」
“仕事用”とおぼしき答え方に、彼はメイベルの顔を覗き込む。彼女ははっと気がつき、訂正した。
「すみません…本当は、少し、疲れました」
「だよね。僕も遠出はいまだに疲れる」
「でも、旦那様のお仕事なさっているところを拝見するのは初めてで…」
クリフは滞在先に荷物を置く前に、メイベルを連れ、仕事の取引相手の屋敷に寄っていた。
そこで、相手と商談をするのを彼女は見ていたのだ。
「どうだった?」
「…やはり旦那様はすごい方、なのだと思いました」
「君だって、相当すごいと思うけど」
彼女はその間、石のように微動だにせず、ドアのそばに控えていた。その完璧な気配の消し方に、彼は感心したものだ。
「私など、そんな」
メイベルは驚いたように否定する。不思議そうな表情。彼女はこの頃二人の時間に慣れ、こうして徐々に表情を示すようになった。
「何をやるにも丁寧でとても早い。何より控えめだし」
そこで彼女は顔を曇らせた。
「でも…今日は出すぎた態度であったのかと思い、反省しておりました」
「出すぎた?」
「あの、お屋敷を出るときに…」
彼女がくちごもると、クリフも先ほどの苦々しい出来事を思い出した。
話をまとめ、屋敷を出ようとした時に、その中年男はメイベルに視線をやり、まるで舌舐めずりをするようにして言ったのだった。
―良いメイドですな。
「ああ、あれ?」
彼女に向けられた脂っぽい目つきを思いだし、彼は再び喉の奥に不快感がせり上がってくるのを感じる。しかし、彼はそれを表に出さない。
「なにか、失礼をしたのかと…」
あの種の人間は、使用人を褒めるようなことはしない。
彼女はそれを知っていた。メイベルに性的な興味をそそられていたのに違いなかったが、彼女はそれには気がつかず、その言葉を何かのあてつけのように感じているでようだった。
あえて事実には触れず、彼は軽く笑ってみせる。
「実際君は、いいメイドだよ」
「でも」
「君は何も悪いことはしてない、褒め言葉は素直に受け取っておけばいい」
そうでしょうか、と彼女は視線を下に落とす。まつ毛の下に長い影ができる。
確かに。彼は思う。彼女は、このところ以前よりずっと美しくなったと。
揺るぎのなかったはずの堅い瞳は潤い、隙のなかったはずの視線は、蝶のように所在なく彷徨う。そこには不思議な色香が漂っていた。好色な中年の目にとまるのも無理からぬことかもしれない。
メイベルは、うつむいたまま険しい表情で考え事を続けている。
クリフは一人考えにふけっている彼女の顔を両手で挟み、顔を近づけて覗き込む。
「また君の悪い癖」
「だ、旦那様…!」
我に返って驚くメイベルの額に、彼は自分の額をそっとあてる。
「やっぱり自分が何か失礼をしたからだって考えてるね?」
彼女は自分に自信がないのか、自分の思い込みに必要以上にとらわれるところがあった。
言いあてられ、彼女はぎくりとする。
「言ったよね?僕の言うことをちゃんと、信じること」
「は…はい、ご、ごめんな、さい」
彼女は顔を真っ赤にし、どぎまぎと返答する。何度もこうして顔を近づけてきたはずなのに、彼女はそのたびにこうして恥ずかしそうにする。その様子は、何度見ても吹き出してしまいそうになるくらい微笑ましく、愛くるしい。
彼は口の端をあげて笑うと、囁く。
「大体、ここに連れてきたのだって」
彼女の唇を、親指で優しくなぞる。
「なんのペナルティだったか、忘れてないよね?」
彼女ははっとし、ただでさえ紅潮していた頬がますます赤くなる。
「…申しわ、け…ありません」
彼は自分にできる最上級の微笑を作ると、彼女に口づけをした。
彼女の唇から吐息が零れる。それが彼の気持を煽り、彼はメイベルの頭を片手で支えると、舌を絡め、さらに深く口づける。
メイベルは、小さく声を漏らし、それを受け入れる。クリフは長い時間、彼女の唇を貪るようにして、味わう。
唇を離すと、彼女は潤んだ目をわずかに開きうっとりとした表情でクリフの顔を見上げた。ぞくりとするくらい、色っぽい表情だった。いつから彼女は、こんな顔をするようになったのだろう。そう考えると、仄暗い欲望が、刺激される。
「ねえ、ちゃんと、考えてきた?」
その囁き声に、彼女はぎくりと反応し、体を堅くする。メイベルは彼の言葉の意味するところに、明らかに思い当っているようだった。1週間前の、彼の言葉。
―2週間、ふたりきりってこと。どういう意味か、よく考えておいてね。
「…あ、あの、それは、その…」
彼女はどぎまぎするが、そのまま言葉に詰まる。彼がしばらく黙って彼女の様子を見ていると、
メイベルはクリフのシャツの襟元をそっと掴み、目を潤ませながら、小さな声で抗議した。
「お願いですから…あまり…意地悪を、おっしゃらないでください…」
「僕としては、可愛がってるつもりなんだけど」
「私には、楽しんでいらっしゃるように、見えます…」
あの一件以来、彼女は今までよりずっとこうやって自分の話や気持ちを話すようになった。
その伝え方はいかにも意識的でぎこちなかったが、彼はその変化を快く思う。
「でもね、きちんと自分の意志で決めてほしかったんだ。
君が、僕の言われるままに流されてしまわないように」
彼はメイベルの頭を優しく撫でながら、ゆっくりと話す。
メイベルは、恥ずかしそうな表情で考え込み、ぐるぐると視線をあちこちに彷徨わせる。
「あの…私は…」
「ん?」
「…私は、旦那様を、お慕いして、います…ですから…嫌だとか…そういう、事は…」
言葉に詰まる。彼は苦笑すると、優しく彼女の頬に触れ、そっと訊く。
「抱いてもいいかな?」
彼女は視線を背け、恥ずかしそうに小さく肯いた。
「よかった」
クリフはにっこりと笑うと、独り言のように呟いた。
「嫌だって言われても、きっと、我慢できないと思ってた」
その言葉で彼女が表情を変えるよりも早く、クリフは彼女の体を抱えあげ、軽々と持ち上げた。
軽い、と彼は思った。彼女がただの小さな娘にすぎない事を思い出す。彼女を両手に抱えたまま、クリフは器用にドアの扉をあける。
「だ、旦那様…!待ってください、あの!こんな…い、いきなり…」
彼女は慌てて抵抗する。彼の足は寝室へと向かう。
「暴れると、落ちるよ」
「でも、あの。じ、自分で、歩けます、から!」
「嫌?」
「嫌ではない、の、ですが…旦那様に、こんなことを、していただくわけには…」
「メイベル」
彼は彼女の言葉を遮って言う。
「君の性格上、気にするなと言っても無理かもしれないけど」
彼女の目を覗き込み、言い聞かせるようにして、話す。
「二人でいるときは、僕は君のことを使用人とは思ってない。君もそうしてくれると嬉しいんだけど」
メイベルは、はっとしてクリフの目を見つめ返す。
何かを投げかけるたび、真面目な彼女はいつもこうして、立ち止まって考え、そして時間をかけて返答をする。
「…努力、します」
彼はにっこり笑う。自分の笑顔にいかにメイベルが弱いかを、彼は経験的に知っていた。メイベルが、おずおずと彼の首に両手を回す。
「よくできました」
そして彼女の体を、寝室のベッドの上にそっと下ろす。
彼女は、自分の体が、マットに沈むと同時に、ぎゅっと堅く目を閉じる。見るからに肩に力を込めたその姿に、クリフは苦笑する。
「そんなに緊張しないで」
「でも…あの、わ、私は。その。こ、こういうことは、その、初めてで…」
彼女は泣きそうになりながら、早口に、ひどく混乱した話し方をした。
彼女は泣きそうになりながら、早口に、ひどく混乱した話し方をした。
「あの、いいんでしょうか。わたしなんかが、あの、旦那様の…」
クリフは言葉を続けようとする彼女の唇を、キスでふさいだ。メイベルの肩がこわばり、びくりと大きく跳ねる。
彼はメイベルの体に覆いかぶさり、頭を優しく撫でながら長い時間キスをする。
遠慮がちに開かれた唇から舌を差し入れながら、手のひらで、出来るだけ優しく、首から肩にかけて、そっと撫でてやる。
か細い肩。震える白い喉。彼女の体から力が抜けたのを確認し、唇を離す。
「君こそ、僕でいいの?」
「…旦那様でなければ…困り、ます」
彼女は熱に浮かされたような、ぼんやりとした表情で彼を見上げた。
「君は、本当に可愛い」
クリフは冷静さを失いそうになりながらも、壊れものを扱うように丁寧に、彼女に触れる。
頬に、喉に、耳に、無数のキスを浴びせる。
メイベルは味わったことのない恥ずかしさにじっと耐えるようにして、口を左右に引き結び、それを受け入れる。
唇は首から鎖骨に降り、彼は、ゆっくりと彼女の制服の、ボタンに手をかける。
「あ、だ…旦那、様」
彼女は困ったような表情を浮かべる。
「嫌?」
「嫌では、ない、ですが…恥ずか…んっ」
首筋に舌を這わせると、彼女は言葉を続けることができず、ぞくりと体を震わせて声をあげる。
「可愛い」
クリフは耳元で囁くと、舌で耳を愛撫する。服を脱がせながら、熱を持った薄い耳に、舌を絡ませると、彼女の体は面白いようにびくびくと震えた。
彼女はされるがままになり、あっというまに下着だけの姿になる。
クリフは唇を離すと、熱のこもった目でその姿態を眺めた。
メイド服に守られていない彼女の体。細い手足。全く日に焼けていない白い絹のような肌。そして、小さな下着に無理やりに押し込められるようにしている、豊かな胸。
腰や、太ももの滑らかな曲線。
彼女の髪留めを外すと、長い髪が、こぼれおちるようにシーツの上に広がる。普段からは想像できないような姿。
「あの、あまり、見ないで…ください」
彼女がおずおずと口を開く。
「僕はずっと見たかったけど」
彼が言うと、メイベルの顔に恥じらいの色が滲む。クリフは彼女を安心させるように目を細めてほほ笑むと、彼女の指に指を絡ませる。
力を入れると簡単に折れてしまいそうな、小さく細い指。肩にかかる、彼女の髪に唇をつけながら下着の上から胸に触れる。
彼女の慌てるような声が聞こえると、彼は口づけをして塞ぐ。胸に触れると、早鐘のように鳴る彼女の鼓動と熱が伝わる。
下着をずらすとはち切れそうな胸が現れた。
「だ、旦那、様」
体つきからは想像できないような大きな乳房。彼女は顔を真っ赤に染め、泣きだしそうな表情でクリフを見上げる。愛しい女。
その視線につかまり、彼は頭の芯が痺れるようになり貪るように口づけをする。手のひらで両方の乳房を、優しく愛撫する。水風船のように柔らかく、熱い。
すこし触れられただけで、身体がびくりとこわばる。熱に浮かされたような瞳。
困惑したような表情を浮かべている癖に、その小さな甘い舌は物欲しそうに絡んでくる。
彼女の熱い吐息を感じ、胸の内に加虐的な欲望が湧く。
いっそのこと、めちゃくちゃにしてしまおうか。
無理に押さえつけて、激しく腰を打ちつけたら、どんな声をあげるだろう。
彼はよぎった考えに支配されるまいと必死に理性をつなぐ。
「あっ…」
キスで口をふさがれたまま、乳首を指で責められると、彼女は声をあげる。
これまでに感じたことのない、何かに貫かれるような快感。
クリフの舌と指先で責められると、メイベルは両手で口をおさえ、
その感覚に必死に耐えている。
「我慢しないで。声、出して」
「あ、で、でも…」
「いいから」
彼は両手を押さえつけると、乳首の先端を口に含み舌で転がすようにして責める。
「んっ…」
弾かれたように身体がびくりと震える。
「あ、だ、旦那さ、ま…!だめ、です…あぁ」
口を塞ぐ手段を失い、彼女は声を漏らす。
メイベルは自分の体が意志とは関係なく動くことに困惑しているようだった。
甘い痺れに翻弄され、彼女は身を捩る。
「…ぁ…はぁ…あっ…あぁ」
彼の指の動きは次第に激しくなる。
胸を上下に揉みしだき、舌先や指先でちろちろと嬲るように責め立てると、さらに彼女の息が荒くなり、乳首が堅さを増す。
「あぁ、はあ、あっ…」
彼は指を下腹部に伸ばす。下着の中に指を滑り込ませると、メイベルの表情が固まる。
「あ…あの、旦那様、そこ、は…」
「大丈夫。痛くしないから」
「で、でも…」
割れ目に添ってそっと指を滑らすと、指先が、ぬめっとした感触に行きあたる。
彼女が声をあげる。
「痛い?」
「…い、いえ…」
「力、抜いて」
クリフは彼女の体を抱きしめると、下着の中で指を滑らせる。初めは優しくなぞり、ゆっくりと感じる部分を探す。
メイベルは、クリフの肩にしがみつくようにして顔を押しあてる。膚にうっすらと汗が浮かんでいる。
「んっ…」
次第に彼女の奥が緊張からほぐれていくのを確認し、彼は、指を立てる。
「あぁっ…!」
爪先でクリトリスを刺激され、その瞬間、彼女はひときわ大きな声をあげる。
彼女は体に走った初めての快感に驚きを覚え、慌てて訴える。
「だ、だめです…そんな、ところ…」
「ここがいいんだ?」
低い声でささやかれ、彼女の体は、神経を直接撫でられているようにぞくぞくと震える。
「ん…っあ!あああ!あっ!だめ、だめ…ぇ!!」
与えられる快楽に、ただ呑まれることしかできず、体がビクビクとしなる。
摘まれ、指先で転がされるたびに、電気がはしるような感覚を覚える。
すでにメイベルはまともな思考ができなくなっていた。
彼は責め続けながら、激しいキスをする。唇を舐め、頬張るようにして口づける。
「ん、んん…!…ぁあ」
唇を離すと、生ぬるい唾液が混ざり合い、糸を引くが、彼女の口からは、おさえることのできない喘ぎが零れ続ける。
「感じやすいんだ?」
目にいっぱいに涙をためながら、彼女はクリフのシャツの襟元を握りしめ、いやいやをするように否定をする。
「そんな、こと…ぁ…ああ、あっ!」
「すっごく可愛い」
彼は言うと、指の動きを速めた。もう片方の手で乳房を責め、舌は耳を這う。
ねっとりとした刺激が絡み合い、何度も何度も、繰り返し、彼女の肢体を苛む。
「ん、あっ、あ…!旦、那さまぁ…わ、わたし…だめぇ、もう…」
彼女は助けを求めるように激しく体を捩り、クリフの首に腕を巻きつける。
「いやぁ、変に、なっ、ちゃう…!あぁ、もう…あ、ああ!だめ、だめぇ」
まるで溺れているような荒い呼吸。羞恥心と快楽が同居した淫らな表情。上りつめてゆく声。
次の瞬間、彼女の秘部がビクビクと激しく痙攣する。
「あ、あん、ああ、あああああああっ!」
叫びにも近い声をあげ、彼女は行き果てた。
(4話目・前編 終わり)
なんか長くなっちゃったので前後篇に分けることにしました。
いつも駄文をすいません。
ご迷惑になってないか心配です。
一応、もうすこし続く予定では、あります。
>>439 リアルタイムGJ!!
迷惑だなんてそんなことはない。
続き楽しみにしてる。
>>439 GJ! 続き楽しみに待たせていただきます
「あ、あ…」
天蓋付きの、豪奢なベッド。
自分が一生身を横たえることなどないと思っていた場所。
そして、自分の膚に唇を埋めているのは、手の届かない存在と思っていた、主。
「だ…旦那、さ…ま」
眼鏡を外した主は、いつもよりすこし若く見えた。女性のように長いまつ毛。
がっしりとした広い肩にはうっすらと汗が浮かんでいる。
彼は愛撫を続けながら、彼女の耳元に口を寄せる。
長くて華奢な指は彼女の皮膚を這いまわり、直ぐに彼女の敏感な個所を見つけだす。
その度に、彼女の奥は何度でも溢れ、とろけそうな感覚に苛まれる。
「可愛い」
彼の低い囁き声は、媚薬のように彼女の情欲を掻き立て、耳の奥でどろりと溶けてゆく。
「ん、んんっ…あ…」
指で、舌で、言葉で。時間をかけて快楽を刻みつけられてきた彼女の体は、
意志とは関係なく、敏感に反応するようになっていた。
今まで経験したことのないような、気の遠くなるような疼き。
限りなく優しく、そして執拗に、繰り返される刺激。
彼は指を差し入れる。ずぶり、と自分の奥に異物が入る感覚に、彼女は声をあげる。
「あ…っ」
すでに彼女の蜜壺は溢れ、彼の指の動きに合わせて物欲しそうな音を立てた。
幾度となく責められた膣の中は、すでに痛みを感じることもなくなっている。
「ん、あ、あああ…、あっ」
彼女は自分の体の変化に困惑しながらも、快感に揺られ、どうすることもできない。
指を立て、壁をこするようにして中をかき混ぜられると、体の芯に焼けつくような刺激が走る。
思わず腰が浮く。
「い、やぁ…あ、あ…ああ!」
クリフは舌を太ももに這わせたまま、上目づかいにこちらを見上げる。
その表情は、鳥肌が立つくらい艶めかしく、彼女の心をさらにかき乱す。
「ここがいいんだ」
「んあ…、ああ、あああっ」
「気持ちいい?」
「あ、あ…っ、もう、わ、たし…」
メイベルは快感から逃れようと、足を閉じ、膝と膝をこすり合わせる。
しかし、中に深く突き刺さった指は、彼女の敏感な部分を巧みに刺激しつづける。
ぐちゅぐちゅと音を立てて、彼の指が絡みつく。
「あ、だめ…だめ…です、あああああっ…」
彼の指は動き続ける。
どこをどんな風に触れば、彼女の体がどんな風に悦ぶかを知りつくしているかのように。
「だ、旦那さ、まぁ…あ、だめ、だめっ…!!」
快感が渦のように広がり、メイベルを高みへと導いてゆく。我慢が出来ない。
「ん、んんんんっ…!!」
メイベルはびくびくと手足を震わせ、何度目かの絶頂に達した。
夢なのか現実なのかもわからないまま、彼女の体は力が抜け、シーツに埋まる。
クリフはその様子を満足そうに眺めると、ゆっくりと、彼女に覆いかぶさる。
「…入れても、いいかな?」
ぼんやりと呼吸を整えていた彼女は、視界にはち切れそうな彼のものをとらえ、我に返る。
そそり立った主の男性器は想像するよりもずっと大きく、彼女は漠然とした恐怖を覚える。
「少し痛いと思うけど、我慢できる?」
彼の瞳はいつにない情欲に燃えた色を宿していた。
その野性的な視線に彼女の胸の奥はえぐられるように疼く。
こんなにも、わたしは旦那様のことが好きなんだ、と彼女は思う。
愛しい主を満足させたい。彼女は心から、思う。
「…はい」
彼女はこみ上げる恥ずかしさをおさえながら、小さな声で言う。彼は静かにメイベルの膝を割り、足を広げさせる。茂みの奥に屹立したそれをそっとあてがう。
「嫌になったら、ちゃんと、言うんだよ」
刹那。
彼女の体に、引き裂かれるような感覚が走った。
「…ん、ああっ!!」
鋭い痛みにメイベルは思わず顔を歪める。体が強張り、動かすこともできない。
「ごめんね、痛い?」
「…は、い…すこし…」
かつて感じたことのない痛みに冷たい汗が流れる。
「無理しないで。ちょっとずつでいいから」
先端を入れたまま彼は動きを止め彼女の頭を撫でる。
彼女は激痛の中ですら、その手の温度に、この上ない安心感を覚えた。
「旦那、さま…大丈夫ですから…」
「無理しないでいいよ、まだ痛いみたいだし」
「でも、一度に入れてもらった方が、きっと痛くないと…思います」
彼は苦笑する。
「ホントに君は真面目だね」
「だって…旦那様に、早く…」
彼女は小さな声で続ける。
「し…して頂きたい、です…」
彼はきょとんとした顔で彼女の顔を見下ろしている。
言ってしまってから彼女は、どうしようもなく恥ずかしくなり、目を背ける。
なんて、はしたないことを言ってしまったのだろう。
後悔し始めたとき。
ずん、とさらなる激痛が体を貫いた。
「ん、あああ…っ!」
彼女は叫びに近い声をあげる。
彼は体を密着させてメイベルを抱きしめる。その時、彼女はようやく、彼のものが奥まで埋まったのだと気がつく
「ごめん。あんまり可愛いから、我慢できなくて」
メイベルは意識が遠のくような痛みの中、体を締めつけるように抱きしめられたのを感じる。
「考えてみたらいつもこうだね」
彼は独り言を言うように、つぶやく。
「始めてキスした時のこと、覚えてる?」
メイベルは腕の中でがくんと頷く。きつく抱かれているので、彼の顔は見えない。
耳の横に感じる、彼の吐息。
「あの時も我慢できなくなってキスをした。君と居るとすぐ理性が利かなくなる。これでも冷静な方なんだけどね、俺は」
そして彼は。唐突に言った。
「愛してる」
メイベルは一瞬で痛みを忘れてぽかんとする。
それは、主の口から初めて聞く言葉。
―今、何て、言ったんだろう?
その言葉の意味を咀嚼することができず、完全に彼女の思考は停止する。
彼は腕の力を緩め、彼女の顔を覗き込むように見た。
「ごめんね、まだ、痛い?」
彼は困ったように言うと、そっと指で彼女の瞳の下を拭う。
そこでようやく、彼女は自分が。
涙をこぼしていることに気がついた。
「ごめんね、こんな思いをさせて」
主は、彼女の涙を痛みのためだと思っているようだった。
「慣れるまで、少し我慢して」
そうして、彼はゆっくりと動き始めた。
徐々に中の痛みは薄れ、その動きは滑らかになってゆく。
彼女は揺られながら、必死に思考を纏めようとする。
「…旦那…さま…」
「まだ、痛い?」
「…さっき、何て…」
何度も差し入れされ、彼女の秘部がじわりと熱を持ち始める。
彼は動かしながら、クスリ、と笑って彼女の目を覗き込む。
「わからない?」
彼の熱いものが、奥に当たり、膣の内側が擦れ、ぎゅうっと絞り出されるような快感が中を駆けた。彼の動きが少し早まる。何度も、繰り返される波のような快感。
甘いしびれが少しずつ、彼女を支配する。
「んっ…あ…」
「よくなってきたみたいだね」
「…う……っあの、あの…」
「どうしたの?」
「さっき、何、て」
彼女はもう一度、聞いた。すでに体は快感に呑まれ、感情がとめどなく溢れ、彼女はすっかり自分を見失っていた。
「愛してる」
意識がぐらつき、彼女は思わず、彼の肩にしがみつく。
「ん…あ、あっ!」
「気持ちいい?」
「は、…あっ……は…ぃ…」
彼の端正な顔は険しく乱れていた。荒い呼吸。
いつも静かで余裕のあったクリフは、今やただの欲情したひとりの男だった。その激しさに触れ、彼女は一層の愛しさを覚える。
「…あぁ、んっ…ああ、ああ!」
腕を伸ばし、彼の頭を抱きしめる。その髪は汗で濡れ、彼女の腕に張り付く。
快感と感情の高ぶりとがないまぜになり、彼女はわけがわからなくなって、主に訴える。
「わたしも、わたしも…すき…っ…すき、です、クリフ、さま」
溺れる者が必死に助けに縋るように。
「クリフ、さまぁ…」
自分のその声はまるで泣き声のように曇っていた。
彼女の吐き出すような言葉に、彼の動きが激しさを増す。
「あ、あ、ああああぁっ…!!」
悲鳴に近いような喘ぎ声が彼女の口から漏れるのも構わず、せきが切れるように。
彼はきつく腰を打ち付ける。
叩きつけられるような、激しいそれに、意識が薄れてしまいそうになる。
「…駄目だよ…メイベル」
彼女の華奢な体ががくがくと揺り動かされる。
「あ、あああっ…あああ!」
「そんな風に呼ばれて」
それは、妙に無感情な声だった。
「俺がまともで居られると思う?」
楔のように奥を打ち付けられ、意識が火花のように飛び散る。痛いほどの、強い抽送に、子宮の奥に何度も刺激が走り、前後すらわからなくなる。
「あ、あああああ…!」
「可愛い、おかしくなりそうだ」
彼の乱れた呼吸。甘い声。激しく、むちゃくちゃに動かされ、彼女は助けを求めるように喘ぐ。
胸を乱暴に掴まれ、激しく揉みしだかれる。強く吸われた皮膚が、焼けつくように熱くなる。
「可愛いよ、俺の、メイベル」
「…やぁ…!あっ、あ、あ!だんなさま…ぁ…!!」
「そうじゃ、なくて」
背筋がぞくぞくと震え、正気が保てなくなるような、絶え間のない衝撃。
「もう一度、名前で呼んで」
彼女は暴力的な程の快感にただ犯されながら、彼の名前を何度も呼んだ。
体の疼きが止まらない。呼吸も、声も、自分でコントロールすることができない。
シーツを掴もうとしても、その指先にももはや力が入らない。
「クリフ様…クリフ、さ、まぁ…!!あ、あ…あああああっ!!」
好きで好きでたまらなかった主の指に、唇に、舌に、皮膚に、匂いに。
激しく体を貪られて、どうしていいかわからなくなる。
自分のものとは思えないような声。彼女は逃げ場を失ったようにもがく。
瞬間、体がふわり、と浮くような奇妙な感覚を覚える。
一瞬の空白。
「いや、あ、あっ、あああああああっ!」
体に電気が走ったような衝撃を覚え、彼女は獣のように哭き、激しく達した。
薄れてゆく意識の中で、中にどくどくと、熱いものが注がれるのを、現実感もないまま感じていた。
4話目の後篇、おしまいです。
ようやくエロに辿りつけました。
楽しみに待ってていただけるなんて、ありがたい限りです。
4話目の後篇、おしまいです。
ようやくエロにこぎつけられました。
レスめっちゃ嬉しいです、ありがとうございます。
楽しみに待ってていただけるなんて、ありがたい限りです。
GJすぎる!
旦那様の余裕がないところがよかった
続き楽しみにしてます
GJ!!
可愛いメイベルに旦那様のほうもメロメロですね。
主従の垣根をこれからどうするつもりなのか。
455 :
名無しさん@ピンキー:2011/07/17(日) 19:46:34.40 ID:/+9zgi8+
夜明けよりもわずかに早く、メイベルの目は覚めた。
仕事はいつも日の出前から始まる、そんな暮らし以外を経験したことのない彼女は、
機械のようにこの時間にぴたりと覚醒する。
見慣れないベルベットの色の天蓋を目にし、彼女は一瞬で状況を思い出す。
違和感があるほど、なめらかな肌触りのシーツ。ただ眠るには広すぎるベッド。そして。
―そうか。私は、昨日…旦那様と。
横には主の寝顔があった。
彼女は思わず、その顔に視線を奪われる。
クリフは眠りこけていた。わずかに開いた形のいい唇、高い鼻梁。
改めて、美しい顔立ちだと思った。
メイベルは昨夜のことを思い返し、鼓動がひとりでにどくどくと高鳴るのを感じる。
今までに見たこともないような荒々しい主の姿。俺、という一人称。
経験したことのない甘い疼き。そして、体いっぱいになみなみと注がれる愛情。
―あんな風に求められるなんて。
彼女は一人、顔が熱くなるのを感じながらも、彼の寝顔から目をそらすことができない。
クリフは幼な子のように表情を緩め、すうすうと寝息を立てている。
彼女はしばらくの間、密かに慕っていた頃に戻ったように、クリフの顔を眺めていた。
彼の眼に見つめられると、動揺してまともに目が合わせられなくなってしまう。こうしてこっそりと、一方的に眺めていられる時間は、彼女としては得難いものだった。
彼は、背を丸め、横向きになった恰好のまま、呼吸するたびに胸を上下させている。
毛布から出た、裸の肩。彼の髪。愛しい、旦那様。鼓動が速さを増す。そっと触れてみようか。いけない。でも。
彼女が吸い寄せられるように指を伸ばした瞬間、外でスズメの鳴き声がし、彼女ははっと我に返った。
―仕事をしなければ。
彼女は自分を律し、体を起こした。鈍い痛みのために、思ったように動かない。
慣れない絹のシーツが、足にまとわりつくように絡まる。彼女はゆっくりと体を起こすと、床に散乱した、自分の制服を拾い上げ、音もなく部屋を出た。
彼女は使用人室に戻ると、念入りに体を洗い、髪を乾かした。
代えの制服を身につける。木綿のブラウス。黒いスカートとエプロン。頭飾り。
何回も洗濯され着古されたそれらは、膚のように馴染み、いつも彼女を安心させる。
鏡を彼女は眺める。彼とこんな風になるまでは、ろくに見もしなかった鏡。
これといって魅力があるとは思えない、堅い表情。表情のない瞳。
それでも彼は、可愛いと繰り返し囁いてくれる。
―可愛いよ、俺の、メイベル。
昨夜の声を思い出し、彼女の胸の奥がぞくりと、毛羽立つ。
鏡の中の女が頬を赤らめ、助けを求めるように、視線を彷徨わせる。
彼女は驚く。その表情が自分のものとは、およそ信じられない。
たまらず鏡から視線をそらすと、逃げるように台所に向かった。
食卓の上にナプキンを広げる。スープを温め、食器を並べる。
どんなときでも、炊事や家事を丁寧に行うと、それだけで彼女の気持ちは少し落ち着いた。
彼のことがとても好きだ。時間を重ねれば重ねるほどに感じる。
そして、彼は愛している、と言った。何度も、繰り返し。
彼との時間。体を重ねたこと。この上のない幸せだったのは間違いない。
しかし彼女は、自分がえも言われぬ罪悪感に打ちのめされていることを感じていた。
こうして早朝に眼が醒め、あの豪奢なベットに違和感を覚えるような自分。
何の疑問もなく、広い屋敷の中でただ秩序を守り、それだけのために生きてきた使用人。
今までに幾度となく感じてきた疑問。どんなに彼に否定されても拭いきれない不安。
主と自分の関係は、果たして許されるのだろうか。
―それに。
彼女には気がかりなことがまだあった。
自分が彼の個人的ことを、ほとんど知らないということ。
ここに来る前に、ベティに言われた言葉をメイベルは思い出す。
ベティはメイド長であった。初老と言ってよい年齢でありながら、今なお使用人たちを取り仕切り、いつも誰よりも大きな声を出す。
屋敷に仕えて20年来という彼女は、クリフから絶大な信頼を得ており、彼の身の回りのことをほとんどひとりで行っていた。
―紅茶だしのお前がね。
夜に紅茶を運ぶ役目を与えられていた彼女は、ときに、ベティにそう揶揄される。
今回の出張にメイベル一人が伴うとなり、ベティはなすべきことを厳しく、叩きこむように教え、必要なあらゆる情報をメイベルに与えた。
そして、彼女は絶望した。
彼の仕事のこと、一日の流れ、身の回りに必要なこと、彼の癖。
彼女を打ちのめしたのはその量の膨大さではなく、ひとつとして彼女が知っていることがなかったという事実だった。
自分は、と彼女は思う。彼のことをあまりに知らない。
―あの方は、いつまでたっても大きな子どもみたいなものだから。
ベティの言葉に、メイベルは胸の中のざわつきに蝕まれるような感覚を覚える。
子ども?それは、あの、穏やかで余裕があって理知的な、あの、主のことを言っているのだろうか?
そしてベティは言った。
―よく気をおつけ。
食卓の準備を終えると、彼女の体はひとりでに、主に運ぶ朝の紅茶の準備をする。
不安に簡単に脅かされる。きっとまた、主には怒られてしまうに違いない。しかし。
彼と自分に先があるのだろうか。
でも。
―好きだよ。
耳の奥に蘇る、低い囁き声。艶やかな視線。
彼女は不安と同時に、主の深い愛情を感じてもいた。
彼はいつも、メイベルを宝物のように丁寧に大切に扱ってくれる。
時に見せる意地悪な表情にも激しさにも、温かさがあった。
生まれて初めての誰かに必要とされるという感覚。
どうすればいい、と彼女は独りつぶやく。
紅茶を載せたワゴンを押し、彼女は混乱した頭を切り替えるため、大きく息を吸う。
いずれにせよ。彼女は寝室の前につくと、立ち止まって意識を整えた。
私はメイドだ。道具のように、今はただ、やるべきことをやるだけ。
他にできることなんて、なにもない。
メイベルは自分に言い聞かせると、静かにノックをした。
「失礼します」
ドアを開けると、彼は背を丸め、猫のように眠っていた。
先程あれだけ眺めたはずなのに、その表情に慣れることはない。彼女はどきりとする。
「旦那様、おはようございます」
返事はない。
メイベルは彼に近づき、もう一度声をかけた。
しかし、やはり彼は反応しない。
「旦那様?」
メイベルは、違和感を覚えた。何度も何度も、繰り返し呼びかけるが、主は全く動く様子がない。深く眠りに落ちたまま、呼吸を続けている。
―朝は必ず、予定の二時間前に、間違いなく、起こしに行くこと。
メイベルはベティの言葉を思い出し、はっとする。
その時疑問に感じた言葉。二時間前、の意味がようやくわかった。
主はおそらく。
朝にとても弱いのだ。
「だ、旦那様!」
彼女は面食らっている場合ではないことに気がついた。仕事は仕事であり、彼は今日も予定がある。
早く起こさなくてはいけない。
それにしても、主の寝起きがこんなに悪いとは。
意外に感じながらも、彼女は我慢強く彼を揺する。
「起きてくださいませ!旦那様!」
耳元で大声をあげ、がくがくと揺すり続けると、彼の表情にようやく変化が現れた。
「…ん…うん…」
クリフは眩しそうに眉間にしわを寄せ、長いまつ毛に隠れた眼をうっすらと開ける。
彼女は胸をなでおろす。
「旦那様!朝です。起きてくださいませ」
彼は眉間にしわを寄せたまま、焦点の合わない眼で彼女の方をぼんやりととらえる。
メイベルがそのまま反応を待っていると、ゆっくりと再び彼は眼を閉じる。
彼女は慌てて言葉を継ぐ。
「いけません!旦那様。起きてください。」
「ん…」
「旦那様!」
メイベルが必死に揺すると、彼は再び緩慢な動作で瞳を開ける。
「…ここ…?どこ…」
眼をこすりながら、彼はのろのろと口を開く。いつもの聡明さからは想像もできないようなその様子にメイベルは大きな驚きを覚えた。
しかし、仕事中だと言い聞かせ、彼女は冷静に、言葉を続ける。
「別荘でございます」
う少し、だけ…」
「いけません。起きてくださいませ」
「う…ん……」
「起きてください」
「…うー…もう、ちょっと」
「いけません。旦那様」
「…あれ?」
彼はメイベルの顔を見上げると、眼を細める。
「…メイベル?」
メイベルは、つきそうになったため息を必死に呑みこむ。
「そうです」
「…なんで…?」
「ただいま旦那様はご出張中で、ベティ様はいらしておりませんので。私が、代わりに…」
彼女の言葉が終わるのを待たず、がくり、と彼の頭が垂れる。
「いけません!旦那様」
彼女がひときわ大きな声で言うと、彼は顔を歪めた。
「ん…うるさい、なぁ…」
クリフはさも面倒そうに言うと、彼女の手を掴み、自分の方に引っ張った。
「きゃ…っ!」
寝ぼけているとは思えないような強い力で腕を引かれ、彼女はベッドの上に倒れこむ。
クリフは、そのまま、彼女の腰回りに腕を巻きつける。
「お、おやめください…だ、旦那様!」
彼女は頭が真っ白になり、必死に声をあげる。のしかかってくるクリフの体は重く、逃げることもできない。彼は胸元に顔を埋めると、甘えたような声でつぶやいた。
「ん…いい匂い」
メイベルは、かあ、っと体温が上がるのを感じた。
「だ、旦那様、だめ、です…!」
彼女は自分の声が、泣きそうになっていることに気がつく。
クリフが、耳の下にキスをする。
「…ひゃっ、そんな、駄目です…っ」
寝ぼけている時ですら、彼は彼女の弱い部分を外すことはない。
彼の唇の感触で、昨晩の出来事が蘇る。
いけない、今は何より、彼を起こさなくては。彼女は焦りを覚える。
「旦那様、起きてください!お願いですから!」
「…もう、いーから…」
「よくありません!旦那様!起きて、くださいませ!お仕事ですから…!」
「…おしごと…?」
始めて聞いた単語のように、彼は繰り返す。確かに大きな子供だ、と彼女は納得する。
「旦那様のです!それに、旦那様を起こしするのが、私の仕事です」
彼が寝ぼけた頭で考え込んでいるのか、眠りに落ちそうになっているのかはわからなかった。少しの沈黙を置いた後、のろのろと彼は、言った。
「んー…それって、そんなに大切?」
それ?
彼の言葉に、メイベルは意識に、視界が歪むような揺れを感じた。
仕事。それは今まで彼女の生きてきた全て。彼女にできる、ささやかで、唯一のこと。
それを、彼は確かに聞いた。
そんなに大切か、と。
「…旦那様は、わかってくださらないんですね」
喉から、驚くほど低い声が出た。
主の言うことだから、寝ぼけた人間の言うことだから。
そう言って、一笑に伏せるだけの余裕はその時の彼女には、なかった。
「私が、どんな思いで、旦那様にお仕えしているか」
一度言葉がでると、あとは坂を転がり落ちるように簡単に、彼女の自制心は決壊した。
「私のような者が、おこがましくも旦那様をお慕いして、愛して頂いて、信じられないほど幸せで、でも、同じくらい不安で心苦しくて。それでもどうしても、お傍から離れることができなくて」
ぐちゃぐちゃに絡まった思考が、整理されないままに彼女を突き上げる。自分でも何を言っているか、理解することができない。しかし、いったん開かれた口は、ただ感情の塊を、吐き出し続けることしかできない。勝手に眼から涙が零れる。
「私にはこれ以外には…何もないんです!!旦那様にお仕えして、仕事を続ける以外は、意味も、価値も…何も…!!」
涙で喉の奥がつんと詰まり、それ以上言葉を続けることができなかった。
主に感情をぶつけてしまったことを後悔する余裕もなく、彼女はただ絶望した。
こんなことを言いながら、今の自分には主を起こすことすらまともにできない。
いつもいつも、主のこととなると、直ぐに涙が出た。自分の惨めさ、浅ましさに吐き気がする。彼は何も悪くないのに。彼はこんなにも大切にしてくれているのに。時々どうしようもなく憎くなる。彼の余裕が。かけ値のない優しさが。立場の違いが。何より、自分の弱さが。
―もう、消えてしまいたい。
ひどく混乱した頭の中で、彼の声が聞こえた。
「…んー…なにー…むずかしい…」
彼女の動揺をよそに、どこまでものんびりした声。
クリフはいまだに寝ぼけている様子で、つぶやいた。
「そんなのより…おれはきみがすき…」
その瞬間。
彼女は我に返った。
「いちばんすき」
眼が覚めるように彼女の思考がクリアになる。
何が困るかでも何が不安かでもなく、大切なのは何が好きか。
そうだ。今の私の大事なものは、きっと仕事でも、立場でもない。
「わたしも…」
彼女はこみ上げる愛しさを必死に呑みこみ、涙声のままで、言った。
「旦那様が好きです。旦那様が一番、です…」
彼は、メイベルの首元に頭をこすりつけるようにすると、消え入りそうな声で言った。
「うん…いっしょに寝よ…」
こてん、と頭を揺らし、彼はそのまま動かなくなった。
メイベルは、彼を胸に抱いたまま、天井を眺めながら、気のすむまで涙を流した。
おそらく寝ぼけていたクリフは、メイベルの言葉をほとんど理解していないに違いない。
しかし、彼のシンプルな言葉は彼女を一瞬で負の感情から引きはがした。
こんな自分を、旦那様は、愛してくださっている。大切にしてくださっている。
これ以上、何が必要だろう?
―強くならなくては。
彼女は思った。
彼と過ごしたいのなら覚悟をしなくてはならない。たとえ失っても、傷ついても。
クリフを愛し続ける強さを持たなくてはいけない。不安に負けたりしてはいけない。
どんなに道のりが遠くても。逃げてはいけない。彼と対等な関係を築く努力を、していかなくては。
「クリフ様」
彼女は名前を大切に呼び、彼の髪を優しく撫でた。安心しきったような無邪気な寝息。
子供のような寝ぼけ方。
可愛い、と彼女は思った。
彼のことを知らないということは、こんな風に、まだ見ぬ彼の面をこれからも少しずつ知ることができるということだ、と思う。
それは無上の喜びでもあるに、違いない。
時計を眺めると、まだ少し時間には余裕があった。
「10分だけ、ですからね」
そして彼が眠りこけていることを確認し、彼女は彼の髪に口づけをし、そっと誓った。
「わたし、もう泣いたりしませんから」
第5話、おしまいです。
ちなみにこの後、
旦那様はやっぱりなかなか起きず、
また「ここどこ?」から始まってメイベルを困らせることになります。
多分まだ続きます、ダラダラとすみません。
どうやって投稿したら見やすいのかよくわからないので
何かした方がいいことがありましたら、教えていただけるとありがたいです。
いつもすいません。
とりあえず下げろ
GJ
タイトルに「旦那様×メイベル」ってあると見やすい
GJ!
寝起きの悪い旦那様可愛いじゃないか
旦那様ーーww
寝起きが残念…w
タイトルは作者さんが考えて〜
ていうかマジで文章つくるの初めてなの? 見えねぇーー
ご指摘ありがとうございます。
SSとか創作とかするのは始めてです。
自分でもこんなに長々続けて書けるとは思いませんでした。
誰かの反応があるといけるもんなんですね。
ありがとうございます。
6話目、いきます。
―失礼、します。
彼女が遠慮がちにそう言ったかと思うと、クリフの視界が突然暗くなった。
細い二の腕の感触、温かな体温。
彼はわずかな驚きを持って、自分が彼女の胸に抱きしめられているのだと気がついた。
細い指が、彼の髪を梳くようにそっと撫でる。
「…ご迷惑、でしたか」
クリフが何も言わないのを心配したのか、彼女はおずおずと言う。
「ううん、全然」
彼はその言葉に、思わず笑った。そのまま、確かめるように彼女の首筋に顔を埋める。
ほのかに香る石鹸と紅茶の匂い。
「なんだか、お疲れのご様子でした、ので…」
紅茶を運び入れてきた彼女は、彼の顔色を見て、そう感じたのだろう。
「ありがとう」
実際、その日の予定は少しハードで、彼はいつもより疲れていた。
彼女に抱かれるままに、眼を閉じて、その温度に溺れる。
不思議なほど落ち着いた。
座ったままの彼に対し、彼女はその傍らに立ったままであったので、彼は背中に腕を回し、ぎゅう、と力を込め彼女の胸元に顔を埋める。
「こういうのも悪くないね」
「そうですか?」
「うん。これからも、たまにしてくれる?」
「…はい」
二人で滞在して一週間。クリフは不思議な感慨にとらわれる。
多少の無理をして、連れてきた甲斐があったのかもしれない。
自分から抱きつくだなんて、かつての彼女からは考えられない。
彼女は少しずつであるが、確実に変化している。
「珍しいね。何か思うところでも、あった?」
「わたし、色々考えました。それで、決めたんです。もっと…」
柔らかい体の感触。彼女の声は、そこで詰まる。
「もっと?」
「…頑張ります。旦那様に、して、頂くだけじゃいけないって、思いました」
して、頂く、と彼は口の中で繰り返す。
「きみはわかってないね」
彼は息を吐く。
「君がどれだけ多くのものを俺に与えてくれているかってこと」
そして、どれだけ多くのものを、奪っているか。と彼は思った。
冷静さと慎重さ。理性と余裕。いままでの生活。そして。
「ん…っ」
彼が腕の力を強め、顔を動かすと、彼女は恥ずかしそうに、小さく声を上げる。
彼女のその声で、クリフの中のある種の感情が刺激された。
「どうしたの?」
「く、くすぐったいです、旦那様の髪の毛、が」
彼の顔はちょうどメイベルの胸のあたりの位置に来ていた。布を持ち上げている、二つの膨らみ。
服の上からでもわかる、豊かな胸に触れ、唇を押し当てる。
「う……あっ…だ、だめです…そんな…」
「君が、変な声出すから」
「…んんっ」
首筋に舌を這わせると、彼女は、そこから逃れようと、ぎこちなくもがいた。
彼女の背中に手をまわし、強く引き寄せる。
「ま、待っ…まってください。私は、そういうつもり、では…」
もう何を言われても無駄だ、と彼は思い、メイド服のシャツのボタンに手をかける。
自分の中のスイッチが入ってしまったのを感じ、彼は少し困惑する。
俺はいつからこんなに我慢が利かなくなったのだろう?
片手でボタンを器用に外しながら考えるが、彼女が声を震わせると、そんなことはどうでもよくなってしまう。
第一ボタンをかけたまま、第二、第三ボタンを外すと、シャツの前が菱型にはだける。
そこから、可愛らしいレースの下着におさまっている谷間が現れる。
「頑張らなくちゃって、もしかして」
彼は、はたと思い当り、彼女の顔を見上げる。
「これのこと気にしてるの?」
「…そ、それだけの意味では、ありません、が…」
その下着は、クリフが彼女に贈ったものであった。
メイベルが制服以外に着るものを持ってきていなかったこと、
あまりに小さな、明らかにサイズに合っていない下着をつけていたので、
見かねた彼が身につけるものを色々と注文したのだった。
日中、彼女が留守番をしている時に届くように手配しておいたのだが、
何もかもサイズがわからなかったので必要以上に多くの量が届いたらしく、
彼女がとても動揺していたのを思い出す。
「お気遣いを頂いて…ありがとう、ございました」
真面目な彼女は、受け取れないと頑なに拒否したものであった。
「でも、このことだけではないんです。旦那様のお陰で、変わらなくちゃ、って」
いいのに、と彼は思った。このままで、何一つ足りないところはない。
しかし彼はそれを口に出すことはせず、話を逸らす。
「それにしても、どうしてあんな小さなものをつけていたの?」
谷間に顔を埋めると、甘い匂いがした。きめ細かい肌。
「その…あまり、大きいと、恥ずかしくて…それに、邪魔なんです」
「邪魔?」
「その、家事をするのに」
彼はそれを聞いて可笑しくなった。年頃の女の子の言葉とは思えない。
もっとも、彼女にとっては、仕事は生き抜くための唯一手段で、よりどころだったに違いないのだが。
「君にはもう少し女の子の喜びというものを、教えてあげなきゃいけないみたいだね」
苦笑すると、柔らかなそこに唇をつける。
意味深な言い方に、彼女はびくり、と膚を震わせる。
「…申し訳ありません…私は、今まで、身なりに構うようなことは、あまり」
「そのままでも君は十分可愛いよ」
彼はさらに下のボタンを外す。
「俺としては心配なくらい」
そういうと、彼は指先をするりとブラジャーの中に滑り込ませた。
指が埋まるほど、柔らかい肉。彼女の敏感な突起をこりこりと刺激する。
「…っあ」
体の奥を突き刺すような甘い刺激に、思わず彼女の声が漏れた。
逃れようとする彼女の腰を強く引き寄せ、舌と指先で愛撫を続ける。
「い、や…こんなところで、だっ、だめです…!」
「硬くなってる」
「ち、違います……あ…おやめ、ください…」
顔を見上げると、メイベルは、むず痒いような恥ずかしがっているような表情を浮かべていた。
彼女は唇を震わせ、熱っぽい声をもらす。責め立てながらも、彼は細心の注意を払う。
なるべく丁寧に優しく、強引に事を進めながらも、傷つけないように。
「…おやめください、お願いですから…」
彼女のその表情にかえって加虐心を煽られる。
舌で首筋をねっとりと舐めると、彼女はまた声をあげた。
「ひゃ…っ」
「ほんとにそう思ってる?」
「…思って…ます…っ」
囁くと、彼は彼女の頭を引き寄せ、キスをした。口蓋や歯列をなぞる。
指を彼女の首から鎖骨そして乳房のほうにゆっくりと下ろしていく。
甘い吐息にうずもれ、窒息しそうになりながら、彼女は必死に呼吸をする。
その表情に無上の愛しさを覚えた。メイベルの体はいつも、彼の愛情に敏感に応える。
うっとりとした瞳。整わない呼吸。彼は自分の頭に血がのぼっていることを感じていた。彼女の乱れる姿を目にし、すでに冷静ではいられなくなっている。
彼は眼鏡を外すと机に置いた。その、かちゃ、という音に彼女はクリフの意図を理解し、顔色をさっと変える。
すなわちそれは、彼がここで、行為を続けようとしているということ。
「だ、だめ…ですっ!」
ブラジャーを上にずらすと、大きな乳房が零れ落ちるように現れる。
両方の乳首を刺激され、彼女は逃げ場を探すように顔を背けるが、
その表情には明らかに快感の色が浮かんでいる。いつもより反応がいい。
「知らなかった。こういう風にされるのがいいんだ」
彼の言葉に、彼女は赤面し、我に返る。
「そ、そんなこと…!い、や…っ…んっ」
「だったらもう少し抵抗してもいいような気がするけど」
彼女は今にも泣き出しそうな顔で、懇願するように言った。
「い、じわる…です…クリフさ…ま」
なんて可愛い生き物なんだろう、と彼は思う。いやらしく反応する体。
胸だけでこんなに感じている癖に。声が上がってしまうほど気持ちがいいのに、
必死にそれを抑えようとしている。
真面目な彼女は、人一倍羞恥心が強く、いつもこうして快楽に抵抗する。
生温かい舌に乳首を刺激され、彼女の足ががくがくと震えた。
力の入らない腕で、必死にクリフの頭を押さえ、自分の体から引きはがそうとしても、
ただ、彼の髪を撫でるような動きになってしまう。
もがくたびに豊かなふくらみが誘うように揺れる。
前がはだけたシャツが肩からずり落ち、肘まで落ちる。
「ん、んん…!」
彼はメイベルの体を後ろから抱きしめると、そのまま膝の上に抱いた。
膝上までの、黒いタイツに包まれた形のいい足。後ろから抱きしめると、彼女の華奢な体がすっぽりと収まる。
体のわりに肉付きのよい腿をねっとりと撫で、指が下着越しに秘部に触れると、彼女の体が跳ねるように動いた。
「あ…っ…ク、クリフ、さま」
薄い布越しに彼女の蕾を爪先でひっかくように刺激すると、愛液がじわりとにじみ出る。
そしてもう片方の手は、彼女の体を彷徨うように這う。鎖骨、胸、脇腹。
逃げられないように強く抱きしめながら、彼女のうなじに唇を押しあてる。
彼女の肢体が、抵抗を忘れて快感に捩じれる。彼女はどんな顔をしているのだろう。
細い指が、彼の腕にしがみつく。
「気持ちいい?」
その声に、彼女は我に返る。
「よ、…よく…なんて…っ」
「ない?こんなに濡れてるけど」
彼は耳元で囁きながら下着をずらすと、唐突に指を入れた。ちゅく、と淫靡な音が立つ。
「い、やあ!……も…だめっ…だめです」
「何?」
「やめて、ください…お願い…」
口ではそういいながらも、彼女の体は従順に反応する。
この一週間、幾度となく体を重ね、クリフが丁寧に、仕込んだ通りに。
「素直じゃないね」
クリフは、メイベルの顎を自分の方に向かせ、その顔を見つめながら指を出し入れする。
「んん…あ…あああ…あ、ああ…っ」
「いい?」
「ち、違…」
「すっごくいやらしい顔してる」
言葉で虐めるほど、彼女の密壺は熱さを増した。
彼女は唇を噛み、必死に耐えようとするが、自分の体を支えることができなくなり、彼の体にもたれかかる。
彼はその彼女の重みを感じ、さらに愛しくなる。指の動きを止めることができない。
ぐちゅぐちゅと音を立てて彼女の肢体が反応する。
乳房を下から持ち上げるようにして揉む。吸いつくような膚。
ぞくぞくと、彼の体の芯に仄暗い快感が走る。
耳を舐めると、彼女は絞り出すような声で言う。
「ん…もう、はぁ…お許しください……」
「駄目」
「…いや…ん…いや…いやぁ…!」
クリトリスを摘ままれ、ひときわ大きな声をあげた。すり潰すように指で挟む。
責め立てられるほどに溢れていく。
「い、やぁ…、あ、あ…ああ」
「可愛い」
「あ、あ…っ、もう、わ、たし…」
メイベルはびくり、とひと際大きく体を仰け反らせる。熱いぬめりが指先に絡みつく。
彼女の息がとまる。
「あ、だめ…だめ…あああああっ…」
その瞬間、彼はかき回していた指を唐突に止めた。
「あ…」
「君がやめてっていうから」
「…っ!」
メイベルはおもちゃを取り上げられた幼い子供のような表情を浮かべ、絶句する。
「…ん…っ…」
「どうしてほしい?」
彼女は顔を横に背け、何かを我慢するようにして眼と唇を堅く結んでいる。
欲しくて仕方がないくせに、彼女の理性はこんなときにも休みなく働いているようだった。
彼女は、淫らな表情を浮かべ、真っ赤なままでクリフの顔を見た。
「どうして…そんなに…い、じわる…するん、ですか…」
投げかけられた言葉に彼は立ち止まる。
それは、不思議な感覚だった。怒りにも似た、動揺にも似た、感情。
「わからないの?」
彼は感情的に口にした。その声は自分でも驚くほど冷たかった。
「俺をこんなにしておいて、わからないなんて」
彼は、指の腹で、中をつつくようにして、小さく動かす。
火照った体が、こんな刺激で満足できるわけがないことを知っていて、焦らすように。
「ん…っ……」
自分が何かに傷ついていることに彼はようやく気がついた。
こんなに人の心をかき乱しておいて、この娘はなんの自覚もなくこんなことを口にする。
自分の魅力にも、どんなに彼が想っているにもまるで気がついていないみたいに。
その無邪気さは時として、どうしようもなく彼を焦らせる。
「悪い子だね、君は」
こつこつ、と指先で中の壁を叩くと、そのわずかな刺激でも彼女の体は疼きを覚える。
「…ひ…ぁ」
子供のわがままだ、まるで。彼は自分の身勝手さに苦笑する。
しかし、暴れるような感情を自制することができない。
彼は自分の声をまるで他人のそれのように聞いていた。
「君が、死ぬほど可愛いからだよ」
しかしまぎれもなく、それは本心だった。
「…ぁ…クリフ、さ、ま…」
「どうしてほしいか、いってごらん」
彼女の頭を優しく撫でる。メイベルは、観念したように小声で言った。
「さ、さっき、み…みたいに…」
彼女は下を向き、おずおずと、口を開く。
「さっきみたいに…し、して…ください…」
彼は彼女の顔を横に向かせると、唇を塞ぐように貪るようなキスをした。彼女の体は、こうして虐められる程に悦ぶことを、彼はよく知っていた。中に入れた指を激しく動かす。メイベルのあえぎ声が、合わせた唇から漏れる。
「よくできました」
「っ!んん、んっ…!」
焦らされた分、感度はさらに増し、それらは渦のように広がり、メイベルを再び絶頂へと導いてゆく。
「ん、んんんんっ…」
メイベルはびくびくと手足を震わせた。
「あっ…あ。あん…あぁああああ!」
大声とともに、彼女は果てた。
激しい絶頂の後に、必死に呼吸を整えている彼女の体を彼は机の上にそのまま、うつぶせに押し倒した。
途中まで脱がされ露出している肩に後ろから口づけをする。
陶器のような肌はまだ紅潮して汗ばんでいる。後ろからスカートをめくり上げると、形のよい尻の奥で、茂みがぬらぬらと濡れているのがわかる。奥に唇を近付けた。
「あ…っ駄目…」
蕾を舌先で優しく舐め、奥に差し入れる。
達してしまったばかりなのに、彼女の秘部は直ぐに熱くなる。
「あ、あ…!…そんなところ…もう、私、ん、ん…」
ぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて舐めてやると、膣が締めつけられたように締まる。
「あ、もう…やぁっ…クリフ、様」
クリフは彼女の膚に溺れながら、考える。
彼女は変わりたいと言った。しかし。
自分はとっくに変わってしまっている。
感情をコントロールして、慎重に冷静に振舞うことで、
どうにかここまで生き延びてきた自分が。まるで彼女のこととなると見境がなくなる。
そもそもここに連れてきたこともそうだ。
彼女を連れていくと告げた時の、ベティの顔を思い出す。
勘がよい彼女のことだ。きっと、俺の考えていることくらい、簡単に察したに違いない。
少し先走りすぎたのかもしれない、と考えもした。しかし、止めることができなかった。
彼女を責め続けながら、この娘は気が付いているのだろうか、と彼は思う。
余裕があるように見せているだけで、自分の方がずっと深く深く、彼女に溺れているということ。そして。
―彼が、この上のない恐怖を感じていること。
彼がベルトを外す音で、彼女は肩越しに振り向く。
その顔は熱に浮かされたような色を持っており、ぞくりとするほど色っぽい。
「う、だめです…こんな、ところで…」
いやいやをするように、涙を目にいっぱいにためながら力なく首をふる。
「可愛い」
唐突に怒張したそれが後ろから挿しいれられると、彼女は背中を仰け反らせ、声をあげた。
「あっ…クリフ…さまぁ…だめぇ…!やめ…」
こんな風にじわじわと快感を刻みつけるのは、情欲に燃えているからという理由だけではない。
彼女の体を、自分なしでは居られなくするため。
「ああ、あ、あ!」
ゆっくりと奥まで突くと、子宮の奥がひくひくとからみついてくる。
ぐちゅぐちゅと音を立て、体がしなる。
彼女が嫌がってみせるほどに彼女の体は敏感になり、彼の動きに反応する。
普段はあんなに静かで冷たい雰囲気のこの娘が、自分の体の下で突かれるたびに
あられもない声をあげている。
「…あっ…ああ。あああっ、や、だんなさまぁ…あ…やめて」
快感に抗えず、隠しきれないことを戸惑っているような顔。
激しく腰を打ち付けると、彼女は我を忘れたように声を上げる。
動きは次第に激しくなり、彼女のやわらかく滑らかな膚が、こぼれおちそうな乳房がぶるぶると揺れる。
「あ、あ、やっ、いや…あ」
「…好き、だよ…」
「あん、旦那さま……あ、ぁあ!クリフさ、ま…っ!」
彼女の奥がきつく締まった。
「…ん…っ」
彼が呼吸を呑みこむと、彼女はびくびくと体を震わせ、叫んだ。
「あ、あああ…あ、あああああああっ!」
瞬間、彼は体を貫かれるような感覚とともに、達し、そして果てた。
汗ばんだ体を彼女の上におり重ね、抱きしめる。
呼吸を必死に整えながら、しばらくの間彼女はぐったりと机に体を沈める。
彼がそれを引きぬくと、彼女は自分のシャツの前を手で押さえ、
恨めしそうな顔で振り返り、彼を見た。
「…旦那様の……ばか…」
ぎこちない口調。珍しく、拗ねた様子の彼女にクリフは驚く。
彼女は口を尖らせて、怒っている。使用人とは思えない口のきき方。
彼女もまた戦っているのだ、と思った。自分との関係を正しい形で築くために。
「もう、絶対、なでなで…して、あげません…!」
もっとも、純粋に怒っているだけなのかもしれないが。
「嫌いになっちゃった?」
彼が聞くと、長い沈黙のあと彼女は聞こえるか聞こえないかの小さな声で言った。
「…そんなの」
彼女は顔を背けて、続ける。
「…なれる、わけ…ありません…」
彼は優しくキスをした。
純粋で、不器用で、素直じゃなくてどこまでも愛くるしい、この娘。
陽だまりのように温かく、ひたむきな思慕。守ってやらなければと彼は思う。
―嫌いになれるわけ、ありません。
しかし、彼の奥底の限りなく冷えた部分が、ごく小さな声で囁いた。
―本当に、そうかな?
初めてだと言うことを免罪符にはせずに
きちんと過去ログ見てどういう投下されてるか雰囲気を掴めばいい
教えてちゃんやら構ってちゃんは基本嫌らわれるよ
GjGj!!
身分違いの恋の葛藤って萌える。
いや、誰に言われなくてもちゃんと何話目で番号を振ってくれて
どこが投下終わりだってことを教えてくれるようになってるし、
全然問題ないよ。本当ありがとう。
GJ!
誰でも最初は知らなかったりわからなかったりするもんだよ
人に聞いたり自分で調べて馴じんでいけばいいと思う。
なんか何様?!みたいな感じになったけど
続き楽しみにしてます
おもしろかった〜!
この二人にぐんぐん引き込まれていきます
続き楽しみに待っています!
たまらん
旦那様がメイベルに、メリメリめり込んでるのがたまらん
超GJ!
夕方5時。
別荘の掃除を一通り終えたメイベルは、使用人室に戻っていた。
狭い面積に小さな机と、2段ベットが詰め込まれているだけの、まるで囚人房のような部屋。
しかし彼女は豪華な装飾のある客間よりも、この場所に落ち着きを覚えるのだった。
主人が戻ってくるまでにはまだかなり時間があったので、
彼女は、家事をするうちに乱れてしまったまとめ髪をほどいて、そこに櫛を入れる。
髪の毛を気にするということはかつての自分からはおよそ考えられないことだった。
彼女は自分の変化をまたひとつ噛みしめ、机に立てかけた小さな手鏡を覗き込む。
―美しくなるにはどうしたらいいのだろう。
並の女性よりもずっと美しい主の顔をそばで見ていると、
彼女はこうしてすぐに、自信を失ってしまうのだった。
彼女は小さくため息をつき、彼に思いを馳せる。
今頃は仕事の相手と、会食でもしているのだろうか。
別荘で過ごしたこの2週間。かけがえのない、夢のような時間。
―でも、それも、今日でおしまい。
明日になれば二人は多くの使用人が待つ、屋敷に戻らなくてはいけないのだった。
もとの生活に戻れるのだろうか、と彼女は思う。
そして、彼の愛情に浸りきるようにして過ごしたこの何日間。
しかし屋敷に戻ってからのことを不安に思っても仕方がない。
時間が過ぎるのを惜しんでいる暇は自分にはない、と彼女は思う。
これから考えなくてはいけないことは、山ほどあるのだ。
鏡に映る、飾り気のない顔が、決意を固めるように唇をかむ。
これからの主との関係のこと、自分のこと、そして―
「ただいま」
その時、耳元で突然声がした。
心臓の内側が違和感で、ぞわりと跳ねる。
「ひゃっ!」
彼女は思わず大声を上げて振り向く。
「だ…っ!旦那様!」
そこには主の姿があった。
クリフは、仕事のときいつもそうするように、上等なスーツに身を包み、
髪の毛をオールバックにしていた。いたずらっぽい笑みを浮かべている。
「びっくりした?」
びっくりしたなんていうものではない、と彼女は思い、混乱した頭で考える。
なぜ、こんなところに、こんな時間に、旦那様が?
「ど、どうして、こちらに」
「どうしてって」
可笑しそうに口元を押さえ、彼は笑う。
「ここは俺の別荘だったと思うんだけど」
「あの、お仕事は…」
「今日は早く帰ってきたんだ、君とここで過ごせる最後の日だし」
「でもあの…か、鍵がかかっていた、はずでは…」
どこの屋敷でも大抵そうであるように、この別荘の使用人室にも、一応の鍵がついていた。
申し訳程度の、かんぬきのようなごく簡単な、しかし、内側からでなければ空かない鍵。
「この手のカギはね、ちょっとしたコツがあるんだよ」
手にかんぬきを持って、彼は鈴のように振ってみせる。
メイベルは目を丸くする。
「旦那様が、お…お開けになったんですか?」
彼は笑うと、まだ動悸がまともにおさまらないメイベルをよそに、
部屋の中をきょろきょろと見回した。
クリフは2段ベットに腕をひっかけると、
長い手足を折り込むようにして器用に屈め、下のベットに腰かける。
みすぼらしい簡素なベットと古い毛布の上にあまりにそぐわない、
その洗練された姿を見ていると、彼女は不思議な気持ちになる。
彼はメイベルに向かって両手を広げる。
「ほら、おいで」
こうして見つめられ、優しく呼ばれると、彼女は逆らえなくなる。
メイベルがその腕におずおずと体を預けると、すっぽりとくるむよう抱きしめられる。
見た目よりもずっと広い肩。主の匂い。
「というわけで」
「はい」
「今日は、君も、これで仕事はおしまい」
「…と、言いますと…」
「一緒に夕食を食べようと思って」
「ゆ、夕食…ですか?」
メイベルはまるで初めて聞いた言葉のようにそれをくりかえす。
「うん。それとも、もう食べちゃったかな?」
「いえ、私は…その、夜は…食事は採りませんので…」
彼は驚いたように、目を丸くして、腕の中の彼女の顔を覗き込む。
「え?夕食を食べないの?」
「あまり食べるのは、その…得意ではないんです」
メイベルは答える。
彼女は食が細く、貧しい生まれの者にしては珍しく、食べることも好きではなかった。
「道理で痩せてると思った。良くないよ」
「使用人はみな、そのようなものだと思いますが…」
「いや、みんな、結構隠れて食べてたりするから」
「旦那様はなんでもよくご存じなんですね」
彼女が感心したように呟いた瞬間。
クリフは突然、彼女の体をベットに倒した。
「きゃっ…!」
体を滑り込ませるようにして、クリフは彼女に覆いかぶさる。
突然のことにメイベルの思考は追いつかない。
彼はいつもそうやって、彼女に考える余地を与えなかった。
突然で、唐突で、驚かせるようなことばかりする。
狭い2段ベットの下は薄暗く、彼の顔は良く見えない。
「そう、なんでも知ってるよ」
耳に彼の唇が近づき、吐息が顔にかかる。
「君の体のことも、よーく、知ってる」
その艶のある囁き声に、胸の芯が締まるような感覚を覚える。
たまらずに彼女はきゅっと目を閉じる。
「綺麗な髪」
ほどかれたままの髪の毛をゆっくりと撫でられ、彼女は梳かしておいてよかったと、心から思う。
落ち着いたはずの心臓が鼓動を速めていく。体の芯がじわりと熱を帯びる。
この2週間、余すことなく彼に愛でられてきた体が。はしたなく分別を失った体が。
細胞を震わせ、彼に触れられることを、もうすでに望んでいる。
「だ、だ…んな、さま…」
「何?」
彼の顔がゆっくりと近づいてくると、彼女は金縛りにあったように動けなくなってしまう。
キスをされる、と思った次の瞬間。
彼は、彼女の額にこつんと自分の額を当てた。
「ごはんを食べようか」
キスを待っていた彼女は予想外の言葉に我に返る。
ごはん?
「洋服に着替えてダイニングにおいで」
戸惑いと物足りなさに支配され、彼女は困惑する。
その表情をクリフは満足そうに眺めると、思わせぶりな微笑を浮かべ再び彼女の耳元に唇を寄せた。
「続きはあとで、ゆっくりしてあげるから」
彼は音をたてて耳にキスをすると、あっという間に彼女の体から離れ、部屋を出て行った。
残された彼女は、ぼんやりと2段ベットの天井を眺める。
体にわずかに残った彼の重さ、体温、匂い。そして、耳に残る感触。
いつか彼に心臓を破裂させられてしまうのではないだろうか。彼女は真剣に、そう思う。
食卓を埋め尽くす多くの温かい皿の群。
どの皿にも、宝石のように美しく盛り付けられた食べ物が乗っている。
その食べ物が、口にしてみても、肉なのか、魚なのか、野菜なのかも彼女にはわからない。
コックが作る料理を運ぶことは数え切れないほどにあっても、実際に口にしたことは一度もなかったからだ。
ただ、ひとつわかるのは、それが恐ろしく美味だということだけ。
「大丈夫?」
彼は楽しそうに笑う。
左と右に、順序良く並ぶナイフとフォーク。彼女はそれらをうまく扱うことができず、悪戦苦闘を続けている。
「申し訳ありません、あの…見苦しい食べ方を…」
彼女はナイフやフォークは使ったことがなかった。
使用人の食事は大抵、手づかみで食べられるパンや、スプーンで救えるものばかりだ。
「料理はおいしく食べれば、それでいいんだよ」
彼は、天使のような完璧な笑顔を浮かべた。
「それ、似合ってるね」
彼女はクリフに贈られたワンピースを身にまとっていた。
花柄のいかにも女の子らしい服。
「そうしてると、全然いつもと雰囲気が違う」
「あ、ありがとう、ございます」
ただでさえうまく使えないナイフとフォークが、動揺でさらにカタカタと震えるのを、彼女は隠すことさえできなかった。
「とても可愛い」
彼は褒め言葉を、相手の瞳をまっすぐに見つめて、なんのてらいもなく口にする。
言葉を発するときも、受け取る時も、とても丁寧だ。
育ちがいいというのはこういうことをいうのか、と彼女は密かに思う。
「いつものメイド服もいいけどね」
彼が目を細めて笑う。彼女は夢ではないだろうか、と思う。
―使用人が旦那様と食卓を囲むなんて許されることではありません。
使用人室を出た後で、彼女は繰り返しそう伝えその誘いを断ろうとしたのだが、
彼は顔色一つ変えずにこう言ったのだ。
―俺には好きな女を食事に誘う権利もないのかな?
なんてずるい人なんだろう、と彼女は思う。
そんな風に言われて断われるわけがないことを知っていて、彼は言う。
一見提案の形をとっていても、彼の言葉を注意ぶかく考えると、それは多くの場合、彼女に拒否権のないものばかりだった。
しかし彼女はそれを不快に思ったことはない。
むしろ、そこにどうしようもない心地よさを感じていた。
そこには必ず彼の配慮や優しさが宿っていたし、同時に、メイベルは
彼がけして普段は人に見せないようなそのわがままさをとても愛しく感じていたからであった。
彼女は優雅にフォークを口に運ぶ、クリフの表情を盗み見る。
彼は。
やさしくて、細やかで、博識で、とても頭の回転が良くて。
その実、周到で、気分屋で、わがままで、意地悪で、朝にめっぽう弱くて。
どれも、ただ仕えていたときには知らなかった彼の顔。
しかし知れば知るほどに、もっともっと、多くのことを知りたくなった。
クリフはたくさんの話をしてくれたが、いまだに個人的なことは進んで口にはしない。
彼のことを何も知らないと思い悩んだ時もあったが
今考えると主が自分の話をしないのは自分に気を使ってのことなのかもしれない、とメイベルは思う。
資産家である彼の経歴は恵まれたものであるに違いなかった。
そんな話をすれば、貧しい自分との身分の差がより浮き彫りになるのは明らかだ。
メイベルもまた、主人に聞かれたことがなかったため、自分の経歴について詳しく主に話したことはなかった。
それでも彼女は、彼が望むのであればどんなことでも正直に話そう、と考えていた。
―主との関係からけして逃げないと決めたのだから。
明日からはこんな風に、二人で過ごす時間もとれなくなる。それならば。
ふと顔を上げると主の視線とぶつかる。
「あの…」
彼女は勇気を出して、言葉にする。
「旦那様のことを、お伺いしてもよいでしょうか?」
彼は意外そうな表情を浮かべる。
「俺のこと?」
「もしも、ご迷惑でなければ、旦那様のことを教えて頂きたいのです」
彼は目に笑みを宿したまま、聞き返す。
「どうして?」
「考えてみますと、私は旦那様について知らないことがとても多いので…」
彼が何も言わないので、彼女は慌てて言葉を継ぐ。
「で、でも、あの、ご迷惑であれば、無理にとは…」
「知らないことが多い、か」
クリフは秘密めかした様子で呟いた。
「君は誰より俺のことを知ってると思うけど?」
その意味深な言い方に、彼女は自分の顔が熱くなるのを感じる。
「あの、でも、わからないこともまだ。たとえば、お年ですとか…」
「年?」
彼は苦笑する。
「うーん…あんまり言いたくなかったんだけど」
「あ、あの、お嫌であれば…別に」
「いいよ。33歳」
33歳。彼女は不思議な驚きを覚える。
落ち着きや貫禄がありながらも、眼鏡を外すと驚くほど幼い顔をしているため、
彼の年齢については、いつも疑問に思っていたのだった。
彼は意外そうな表情を浮かべる。
「俺のこと?」
「もしも、ご迷惑でなければ、旦那様のことを教えて頂きたいのです」
彼は目に笑みを宿したまま、聞き返す。
「どうして?」
「考えてみますと、私は旦那様について知らないことがとても多いので…」
彼が何も言わないので、彼女は慌てて言葉を継ぐ。
「で、でも、あの、ご迷惑であれば、無理にとは…」
「知らないことが多い、か」
クリフは秘密めかした様子で呟いた。
「君は誰より俺のことを知ってると思うけど?」
その意味深な言い方に、彼女は自分の顔が熱くなるのを感じる。
「あの、でも、わからないこともまだ。たとえば、お年ですとか…」
「年?」
彼は苦笑する。
「うーん…あんまり言いたくなかったんだけど」
「あ、あの、お嫌であれば…別に」
「いいよ。33歳」
33歳。彼女は不思議な驚きを覚える。
落ち着きや貫禄がありながらも、眼鏡を外すと驚くほど幼い顔をしているため、
彼の年齢については、いつも疑問に思っていたのだった。
「君から見たら、立派なおじさんだと思うけど」
「とんでもありません!そんなの、全然、気になりません」
彼は、大げさに眉間にしわを寄せ、わざと怒っているような表情を作ってみせる。
「ホントに気にならないなら、こんなこと聞くかな?」
「そうではなくて、あの、だ、旦那様のことなら…」
彼女はそこまで口に出してから、自分の言おうとしている言葉が
とても恥ずかしいものであることに気が付き、俯きながらそっと続けた。
「…どんなことでも、教えて頂き…たい、ですから」
彼はふっと微笑み、少し顔を傾けると、冗談ぽく言う。
「どうかな。何か聞いて、僕のことを嫌いになっちゃうかもしれないよ」
「そんなことありません…!私は…」
メイベルが思わず声を荒げると、彼は手を伸ばし、彼女の唇に立てた人差し指をそっとあてた。
「食事は静かにするものだよ」
突然唇に触れられたことに、彼の声色の艶やかさに、彼女は動揺する。
こういう一つ一つの所作が、いかに自分に効果的であるかを彼は知り尽くしている、
とメイベルは思う。
そしてその度に、彼は勝てないということを身にしみて感じるのだった。
「も、申しわけ、ありません」
小声で謝ると彼は余裕たっぷりに笑い、肯く。
彼はメイベルが満腹になったことを確認すると、皿を下げるようコックに命じた。
程なくしてデザートと紅茶が運ばれてくる。
生まれて初めて口にするケーキの美味しさにメイベルが大きな衝撃を受けていると、
クリフはもっと早くに食べさせてあげればよかったね、と笑った。
そんな風に主に言ってもらえるのなら、と彼女は思う。
もう二度とケーキが食べられなくてもいい、と。
「やっぱり君の淹れた紅茶の方が美味しいね」
彼は紅茶に口をつけ、しみじみと言った。
「とんでもありません、そんなことは…」
「だって、屋敷でも君の紅茶が一番美味しかったから、毎晩ああして頼んでるんだよ」
「あ…ありがとうござい、ます…」
彼女は何とも言えない喜びを感じ、下を向く。
「ベティの紅茶も美味しいんだけれど、彼女はちょっと口うるさいからね。
紅茶を持ってくるついでに小言をもらうことがあるから」
そこまで言うと、彼は思い当ったようにあ、と声を漏らし、付け足した。
「これはベティには秘密にしておいてね」
メイド長のベティは気が強く、主に向かっても必要と思われることは臆することなく口にした。
クリフは温和な主人であったため、ベティを特に咎めもしなかったが、
メイベルは初めて目にした時にベティの主人に対する物言いにとても驚いたものだった。
他の主人に仕えていたのであればとっくに彼女は、首を飛ばされている。
使用人にも厳しい彼女はメイドたちにも恐れられていたが、それと同時に、
あの大人数の使用人たちを、たったひとりで完璧に取り仕切ることは
彼女以外にはできないということを誰もが認めてもいた。
「お屋敷ではベティ様が、一番長いと聞いておりますが…」
「そう。仕えてもらってもう…今年で、そうだね、ちょうど16年」
「16、年…?で、ございますか?」
「そう。ベティはもう、半分母親みたいなものかもしれない」
使用人について主人がそんな風に口にすることにメイベルは驚いた。
母親みたいな、もの。それと同時に、今まで聞くことのできなかった疑問がひとつ湧く。
彼の、本当の母親は、家族はどうしているのだろう?
彼女は勇気を出して、それを口にする。
「あの、旦那様のご家族は…」
「いないよ」
彼はなんでもないことのようにけろりと言った。
「家族はいない」
しえん
ワッフルワッフル
彼女はその言葉に、大きな戸惑いを覚えた。
資産家というものは大抵、代々受け継がれた資産や屋敷を持っているものだった。
家族がいないのに、あの大きな屋敷を持っているというのは、どういうことなのだろう。
亡くなったということだろうか?それに、ベティが仕えたというのは―
彼女がそこまで考えたところで、クリフは言った。
「君がなってくれるっていうなら、別だけどね」
途端。
メイベルの頭は真っ白になった。
まるで停電を起こしたように、彼女の思考回路は急に停止する。
彼の言葉が理解できない。心臓が早鐘のように、鳴る。
いや、本当は理解していながらも、その意味がうまく、受け止められない。咀嚼できない。
それは?いまのは?聞き間違いなのだろうか。
―わたしが、かぞく、に?
クリフは何事もなかったかのように笑顔を浮かべると、言った。
「食事も済んだことだし、部屋に戻ろうか」
申し訳ありませんが番号振りとか失敗してしまいました。
>493は「7話目 前-5」でなく「7話目 前-7」
>495は「7話目 前-10」は間違って連投したものですので飛ばしてください。
いつもいつもすいません。
7話目は長くなったので前後篇になります。
稚拙な文章ですが
レス下さったみなさんありがとうございます。
とても嬉しいです。
>>501 おぉぅ、生殺しだよ…続きを全裸で待ってる
メイベル可愛いなぁ
そして旦那様も可愛く見えてきた
逃げないって決めても支配階級から抜け出すのは、世間的にも精神的にも難しいだろうね
二人で頑張って欲しいよ
ウェヒヒw
GJ!メイベル萌え!!
うーん
なんでこんなに達者なんだw
なんかドキドキするな!
続き待ち
彼女の髪から垂れ落ちた水滴が落ち、ぽちゃん、と音が響いた。
メイベルは俯いて膝を抱えたまま、その水滴が波紋となって広がるのを見ている。
「どうしたの?」
彼は、メイベルの顔を覗き込んで尋ねるが、彼女は下を向き、
目を合わせてくれようとはしない。
彼女の顔は見えないが、その耳は真っ赤。
「…やっぱり…あの…恥ずかしい、です…」
「何が?」
「な、何がって…」
彼女はそこでようやく少しだけ、目線をあげる。
「旦那様と、お風呂に、入るなんて…」
広い浴室で、二人は同じ湯舟に体を沈めていた。
人が泳げるほどの大きなバスタブ。
金持ちのための建物は、こうして不必要なところにやたらと面積を費やされるということを、彼はよく知っている。
メイベルは、大きなバスタブの隅で、膝を抱えて動かない。
髪を高くまとめ、タオルをきつく体に巻き付けている。
「風呂は嫌い?」
いつもの調子でクリフが言うと彼女は、むきになったように声を荒げる。
「そ、そういうことではなくて…!」
真っ赤な顔をあげるが、主と目があうと、
彼もまた何もまとっていないことを思い出し、慌てて視線をそらした。
「旦那様」
恨めしそうな声で、彼女は言う。
「わかってておっしゃってますね」
「うん」
クリフがにっこりと笑いながら答えると、メイベルは
どうしていいかわからないというような表情でうつむいた。
恥ずかしそうに両手で肩を抱き、湯船に顎先を沈める。
初心で真面目なメイベルは、何かあると大げさなくらいに、こうして恥ずかしがる。
クリフが一緒に風呂に入ろうかと言ったとき、
当然のように彼女は猛烈な勢いで拒否をした。
しかし彼がこんなことをできるのは今日くらいだから、というと
メイベルは時間をかけて悩んだ末、こう言った。
―眼鏡を外していてくださる、なら。
メイベルは、見られることをとことん避けた。
膝を抱えたままクリフの方を見ようとはしない。
彼女の横顔はのぼせたように紅潮し、すっと伸びたうなじや細い肩から濡れた水滴が流れている。
そして、その膚のあちこちには、毎晩のように彼が唇で刻みつけた淫らな跡。
「あまり、見ないで、ください…」
彼女は小さな声で抗議し、彼に背を向ける。
「見えていらっしゃらないとはいえ、やっぱりこちらを向かれると…なんだか」
「注文が多いなあ」
クリフは苦笑する。
「だ、だって…!」
彼は、その言葉を遮るようにして、後ろから抱きしめる。
彼女にしては珍しく丸まった背中がびくり、と大きく跳ねた。
「こうすれば、見えない」
濡れた腕で抱きしめるとぴったりと膚が密着する。思った以上に彼女の温度は高い。
「…だ、だんな、さま」
「何?」
「恥ずかしい、です」
「君はそればっかり」
彼女の顎を片手で支え、その細い首筋に垂れ落ちる水滴を舌で舐めると、彼女はくぐ
もった声をあげた。
「…んっ」
「他に感想はないの?」
クリフは低い声で聞く。
「…すき…です」
彼女は小さな声で繰り返した。
「クリフさまが、好きです…」
彼の体は気がつくと動いていた。メイベルを振り向かせ、強くキスをする。
何かを奪いとるような激しい口付けに、メイベルは一瞬体を堅くし、そしてすぐに受け入れた。
「ん…」
水音と体にまとわりつく湯気が、頭の中をぐらりと揺らす。
唾液を絡めるようにして舌を動かすと、苦しそうに彼女は呼吸を漏らす。
長いキスのあと、彼は額と額をくっつけたままメイベルを見る。
彼女の大きな目には、官能の色が、じわりと浮かんでいる。
「ねえ」
彼女の体に巻きつけられたタオルに人差し指をひっかけて引っ張ると、彼は囁く。
「これ、邪魔だと思わない?」
「だ!旦那様…だめです…っ!ここでは」
「なんで?」
「だって、もう、のぼせてしまいます」
真剣な表情で言うメイベルの顔は、確かに酔ったように赤い。
なんだか可笑しくなり彼は吹き出す。
「それもそうだけど」
「だから、もう、出ましょう?ね?」
子供をあやすようにして、メイベルは言う。
「その前に」
彼はそういうと、首から肩にかけてゆっくりと指を這わせる。
「見せて」
「い、嫌です…」
「どうして?」
「お見せできるような…ものでは…」
彼女がいつも恥ずかしがるのは、真面目であるからという理由だけではないのだろう、とクリフは思う。
彼女は自分に自信がないのだ。
仕事のためだけに生きてきて、誰かに愛されたような経験もなければ
身なりに気を配るようなこともなかった,
そんなこれまでの人生を顧みれば、それは無理のないことかもしれない。
「君はなかなか信じてくれないけど」
彼はいつものように、彼女を抱きしめて言う。
「君はとても可愛い」
彼女は腕の中でしばらく俯いていたが、やがて静かに顔を上げた。
その表情の艶めかしさに、彼はぞくりとする。
「旦那様がそう、おっしゃるなら」
いつもは恥じらいに顔を背ける彼女が、まっすぐに必死に、真っ赤な顔でこちらを見つめている。
「…信じます」
彼女はまるで、誓いの言葉のようにそれを言った。
クリフは彼女の純粋さに衝撃を覚える。
胸の奥にこみ上げる、驚きと愛しさ。
そして。
―寒気のするようなおぞましさ。
「あんまり可愛いこと言うと」
彼は薄ら寒い感覚が激しく心を掻き回してゆくのを、おくびにも出さずに言う。
いつでもメイベルはこうしてまっすぐで、つつましく、ひたむきで、素直で。
「ここから出られなくなっちゃうよ」
彼は言い、彼女の耳に唇を寄せ、焦らすように吐息を吐きかける。
傷口から吹き出した血のように止まらない不快感。
不安、困惑、焦り、そしてその奥に隠している。本当の自分のこと。
「…ん…っ」
彼女が声を漏らし、わずかに身を捩る。
メイベルは唇を噛み、物欲しそうな表情を浮かべる。
「どうしたの?」
彼は意地悪く微笑み、言ってみせる。
息を吸うように水を飲むように。
愛するメイベルにすら、たやすく彼は自分を偽る。
「旦那様は本当に、いじわる、です…」
「どうしてほしい?」
メイベルは、ぱくぱくと僅かに口を動かすが、恥じらいが邪魔をして、言葉を続けることができない。
白い膚、濡れた髪、潤んだ目、うっとりとした表情、半開きになった唇。
どうしてだろう、と彼は思う。
彼女の持つ一つ一つの物が、こんなにも自分を引きつけてやまないのは。
そして。
―自分がこんなにも醜いのは。
彼は抑えられなくなり、強引に、激しいキスをした。
タオル奪うように引きはがし、その体を求める。
「…や…っ、あ、…だ、だんな、さま……っ」
柔らかく、温かく、か弱いその肢体。
膝を割り、バスタブのヘリに彼女の体を押し付け、唐突に挿入する。
「あ、…んんっ!」
彼女は声をあげる。
「だめ、そんな…急に…」
言葉とは裏腹に、彼女の奥はとうに濡れ、彼の物を呑みこむようにするりと受け入れる。
淫らな声が浴室に響き、彼は中をかき回すように動かす。
彼女のことが好きだ。死ぬほどに。自分を保てなくなってしまうほどに。
しかしなんだろう。
覚めきった頭の芯を、この胸の奥を。
ざらざらと撫でる感覚は。この、せり上がる吐き気は。
―旦那様の、ご家族は?
心臓の奥に凍えた針が突き刺さるような感覚。
耳鳴りのような、金属的な不快感。
避けて通ることはできないと頭ではわかっていたはずの、自分の過去。
しかし。
「あ、ああ…いや、駄目です!クリフ、さま…」
切なげな表情を浮かべ、彼女はクリフにしがみつく。
快感と恐怖。そして愛しさ。腰を激しく動かしながら、頭の中は目まぐるしく回転する。
―知られる訳にはいかない。
自分がどういう人間なのか。何をして生きてきたか。それは、彼女には、絶対に。
「ねえ、メイベル」
目を閉じて、雑音を排除し、クリフは彼女の膚に溺れようとする。
「恥ずかしい?」
声はいつもと変わりないように、慎重にさりげなく。
「…あ、ああっ…」
メイベルは答えることもできず、力なくがくがくと首を振る。
胸に顔を埋め、優しく舐めながら、もっともっと、彼女の思考能力を奪う必要がある、と思った。
彼女が異変に気がつかないように。
自分しか見えなくなるように。
自分から離れられなくなるように。
「しょうがないね、君は」
口はどこまでも滑らかに、不誠実に動く。
「今日はたくさんしてあげる」
彼女の注意を上手に逸らすような、挑発的な言葉。
「この程度で恥ずかしいなんて言えなくなるくらい恥ずかしいことを、たくさん」
彼女の表情が、弾かれたように変わった瞬間に、キスをする。
可愛いメイベル。彼女が好きだ。今までにないくらい。経験したことがないくらい。
しかし、彼の頭の中心はどこまでも冷たく痺れ、彼女に浸りきることを許さない。
浴場で交わり激しく果てた後も、彼はメイベルを休ませることはしなかった。
彼女の体を抱きあげてベッドに運び、ろくに体をふくこともしないまま、激しく求め続ける。
「あ…いやっ…」
彼女の濡れた体と髪の毛が、彼の皮膚に縋るように張り付く。
まるで人魚だ、と彼は思う。
乱れたシーツの波に、打ち上げられた体。でも王子様は迎えにはこない。
―君は俺に捕まってしまったから。
「あ、クリフ、さ、ま…っ…わたし…」
クリフは彼女の言葉が終わるのを待たずに、指を差し入れる。
「んああっ…!!」
「ねえ、わかる?」
わざと音を立てて動かす。
「こんなにとろとろになってる」
「いっ…言わな、いで…ください…」
「言われるのが好きな癖に」
彼がぐっと指を奥まで差し込むと彼女はひときわ大きな声を上げる。
「う…あっ…」
彼女の両手を押さえつけ、逃げられないようにして、中をかき回す。
「…ん…ん、んんんんっ!!」
「君の好きなようにしてあげる」
反対の手で乳首を指でつまみ、すり潰すように刺激する。
その赤くなった耳を舌で舐める。
「どうしてほしい?」
感じるところを同時に責められて、彼女は我を忘れて声を上げる。
「ひ、あ…ああ、いやあ、いやっ…!」
メイベルは無意識に彼の背中に爪を立てる。ぐ、と食い込む鋭い爪の感覚。
しかしクリフはその痛みさえ愛しく感じる。
「君の願いはなんでも聞いてあげる」
「あ、あ…クリフ、さま…!」
彼は、メイベルの口から垂れる涎を舐めとる。
「だから俺に、君をちょうだい」
彼女の腰を引き寄せると、怒張したもので突きあげる。
「あ、あああああ…っ!!」
悲鳴に近い喘ぎが漏れる。
可哀想な、メイベル。彼は思う。
少し触れられるだけですぐに溢れるような。
いくら抑えても声が上がってしまうような。
乱暴に突かれるほど濡れてしまうような。
恥じらいさえ感じる余裕がなくなるほど、よがってしまうような。
こんな体に作りかえられて。
「…さしあげ、ます…クリフ様に、みんな…」
メイベルは絞り出すように、言葉を紡ぐ。
「ぜんぶ…あげ、ます…わたしを…」
そして彼女は囁くように言った。
「…愛してます」
彼は焼けつくような感情に振り回される。
―俺も、愛してるよ。
そう思った。
しかしなぜか、それは言葉にはならなかった。
また、番号振るの間違ってしまいました。
お恥ずかしい限りです。
>>512 は「7話目・前-1 」でなく、「7話目・後-7」 です。
もうちょっと続きます。
たぶん10話くらいでおわれると思います。
いつもすいません。
ありがとうございます。
>>515 これすら間違ってタイトル振っちゃいました・・・。
何をやっているんでしょうか本当に。
返って見にくくなってしまってごめんなさい。
GJ!
クリフの過去か……
そこになにがあったのでしょうね
文章の順番はあってたからいいじゃん別にww
クリフが黒くなり始めたから、これ続きあるなって分かって嬉しかったw
bbb
あああ楽しみすぎる!
GJGJGJ
午後11時。
彼は書斎にこもり自らの思考に沈む。
2週間前と何も変わらないこの場所で、彼はいつも、こうして物を考えてきた。
まるで現実感が湧かない、と彼は思う。
何もかもが他人事のように遠い出来事だ。
屋敷に戻ってきたことにも、
自分が情緒のコントロールを失っていることも、
そしてこれから―
自分が多くのものを失うであろうことも。
しかし冷え切った頭は不気味なくらいに回転する。
どこで道を間違えたのだろう?
彼は考える。
感情を押し殺し、彼はいつも色々なものを操作してきた。
最後には必ず自分にとって最良の結果が得られるように。
しかし今や自分は、子供の我が儘のような、この感情に抗うことがどうしてもできない。
道など間違えた訳ではない。彼は思う。
わかっていて、自分の意志で選んできたのだ。
時計を見る。
そろそろ紅茶の時間だった。
紅茶を運んでくるはずの、小さな愛しい影。
―嫌いになんて、なれるわけ、ありません。
彼はひどく醒めた目で、その記憶を眺めて、じっと待つ。
扉を叩くその音が聞こえるその時を。
数分後に聞こえてきたノックの音が
いつもと違う響きを帯びていたことに彼はすぐに気がついた。
クリフが状況を理解すると同時に、その扉が開いた。
「ちょうど良かったよ、ベティ」」
彼は笑いかける。
視線の先にあるのは、想像通り、メイベルではなく。
老いたメイド長の姿だった。
クリフはいつもと変わらない微笑を浮かべ、彼女を迎え入れる。
しかし彼女の目つきは明らかにいつもと違っていた。
「そろそろ君の紅茶も飲みたいと思っていたところだよ」
クリフの言葉にも彼女はにこりともせず、黙ってワゴンを室内に押しいれる。
―ずいぶん早かったな。
彼は思う。ベティに何か言われるであろうことは、想像がついていた。
しかし、こんなに早く、こんなにも怒っているとは、思わなかった。
「あの娘は来ませんよ」
ベティはつっけんどんに言った。
「あの娘?」
クリフは彼女の言わんとすることをわかっていて、わざと聞き返す。
「紅茶出しの娘」
ベティは、自分の下の使用人の名前などは呼ばない。
こうして揶揄した呼び名を与える、それは彼女のみに許された絶対的な権利であった。
出会った時と比べてずいぶん年をとった、彼女の顔。
猟犬を彷彿とさせる、厳しい口調。
眼の下の皮膚は長い年月を経て弛み、顔には深い皺とともに、
自分だけを頼りにのし上がってきた者だけが持つ、誇りのようなものが刻まれている。
ベティはカップに紅茶を注ぐと、彼の手元にそっと置く。
「どうして?」
クリフが笑うと、彼女は下から覗き込むような鋭い視線をただ向けた。
その静かな彼女の怒りに、彼は驚きを覚える。
短気で偏屈で、日頃から何かと言うとすぐに怒鳴りつける彼女が。
今、沈黙している。
「あの娘に、何をなさいました」
質問には答えず、ベティは静かに、言う。
クリフは眉ひとつ動かさず、答える。
「彼女が何か言ってたの?」
「あの娘のことなんて」
いかにもくだらない質問だ、と言わんばかりに、彼女は笑う。
「見ればわかります」
それは大したものだ、と彼は感心する。
―もう、ご出発なさいますか?
今朝のメイベルの澄みきった声を思い出す。
関係を持つ前となんら変わらない、その無表情。
彼女は、主とどんなに近しくなろうとも、仕事の時間は徹底して仕えた。
主との時間を持つのは、仕事の終わりを告げられた後、夜の時間だけ。
不器用で真面目な彼女は、自分との関係に甘んじ仕事の質を下げることをよしとせず、
彼が何と言おうと、その態度を改めることはついになかった。
―私は、旦那様にお仕えしている身ですから。
彼が嫉妬を覚えるほどのその変わらぬ顔。
その奥の彼女の変化を、ベティは、すぐに見抜いてみせたのだ。
「さすがだね」
彼の言葉を無視し、叩きつけるようにベティが続ける。
「まさか、貴方様がこんな真似をするなんて」
クリフは抑えきれず、クスクスと笑いを漏らす。
それは彼の悪い癖だった。
追い込まれるほどに、恐怖を感じるほどに。
彼は真剣味を失い、こうして笑う。
「あの娘を、囲うおつもりですか?」
囲う。
それはすなわち、彼女を妾にするのか、という質問であった。
「囲うだなんて、ずいぶん古い言葉を使うね、君は」
とぼけ続けるクリフにベティはさらに冷ややかな目を向ける。
「これでは、まるで」
ベティは裁くような声で言った。
「…あの方と同じではありませんか」
その瞬間。
クリフは、自分の表情から、張り付いた笑いがはがれたのを感じた。
ひきつるように、痙攣のように、跳ねる鼓動。
喉がからからに乾き、冷たい汗が噴き出る。
ぬるぬるとした生温かい不潔な手が、自分の心臓を握っているような、不快感。
「ねえ、ベティ」
それは、我ながらぞっとするような無感情な声だった。
「言葉には気をつけた方がいいよ」
彼女がクリフに仕えて16年。
絶対に口にすることのなかったその話題。
彼は、失いかけた理性の隅で、ベティが心の底から怒っていることを理解する。
「思ったことを言ったまでです」
ベティはひるむ様子もない。
「本気だと言ったら?」
「本気?」
彼がきくと、しわがれた声で、ベティは不愉快そうに吐き捨てた。
「こんなに目立つ真似をしておいて?」
今や彼女は不快感を隠そうともしない。
「主人に特別扱いされた者が、他の使用人たちからどんな目で見られ、どんな目に遭わされるか。
旦那様ならばようく、お分かりでしょう」
確かにそんなことはわかっていた、と彼は思う。
二人で屋敷を空ければ、嫌が応にも他の使用人たちの眼につくこと。
噂は瞬く間に広まり、そして多くの使用人の中で彼女は孤立すること。
ここに仕え続ける限り、その生活を彼女はずっと強いられること。
だから、彼は、その意味でも、彼女に考える時間をあえて与えたのだ。
―どういう意味か、よく考えておいてね。
賢い彼女が、そのことに思い至らないわけがない。
自分の立場がそのあとでどうなるかを、よく理解した上で。
自分の意志で、選ばせるために。
彼女に覚悟をさせた上で、自分以外の全てを、奪うために。
「見損ないました」
ベティは、臆することなく言う。
「ずいぶんあの子の肩を持つね」
彼が平静を装い続けるほど、ベティの怒りは増していく。
敵意に満ちた声が張りを増す。
「あの子は、多少は使える娘だった」
彼女は続けた。
「少なくとも―お前よりはずっとね」
かあ、と頭に血が登り、彼は我を忘れる。
心臓の、音。
雑音。奇妙な静けさ。
―ガシャン。
少しの空白の後、何かが割れる音がして、
彼は自分がカップを床に叩きつけたということに気がついた。
「聞こえなかったのか?」
声が喉から勝手に漏れる。
「口のきき方に気をつけろ」
視界が歪むような恐怖。
我を忘れるような激情。
制御できない程の、醜い怒り。
悪い夢を見ているような、感覚。
その一方で、奇妙に冷え冷えとしている頭。
「本性が出たね」
彼女はひるまずに、鼻で笑う。
厳しく、言葉が悪いその裏に、いつも愛情のあったはずの、視線。
いかなることがあっても、彼から離れることをしなかった、唯一の存在。
そのベティの視線は、今やどす黒い侮蔑に塗りつぶされている。
「誰もかれもが見せかけに騙されると思ったら大間違いだよ!」
彼女の鋭い怒鳴り声が、頭に反響する。
口が悪く偏屈で、どこまでも厳しくて、限りなく優しいはずの、彼女。
背中の丸まった、小さな、年老いたメイド。
彼女が。
―どうして、こんな眼で俺を見る?
「少しは立場を考えて、物を言ったらどうだ?」
自分の声をまるで他人のそれのように聞く。
どこまでも無感情な、死人のような、声。
そして、こんなときにすら、
自分の口元にはおぞましい笑みがこびりついたように残っている。
「その歳で路頭に迷いたくはないだろう?」
ベティの剥き出しの敵意が引き裂くように彼を蝕む。
さも気持ちの悪い物を見るような。
不気味なものを見るような彼女の眼を見て、彼は理解した。
彼女の心が、完全に自分から離れたことを。
「お前はそうやって脅してばかりだね」
最大限の侮蔑をこめて、彼女は言う。
「殴って黙らすような度胸もない。卑屈で、臆病で、そのくせ傲慢で」
割れたカップからは血のような色をした紅茶が、床に流れる。
石畳の眼に沿って、模様を描くようにして広がるその色。
「いつまでたってもお前は変わらない」
彼女は迷いなく、言った。
「…尻尾振りのままだ」
刹那。
―ねえ、クリフ。
闇のように冷たい感覚が心を貫き、
その言葉を合図にするように、
聞こえるはずのない、声が。
確かに聞こえた。
―どうしたの、クリフ?
「黙れ…」
容赦なく、抉るように揺さぶるその声に、彼は思わず叫ぶ。
「お前に何がわかる!」
ベティは眼を見開き、そして眉をひそめた。
「じゃあ、俺はどうすればよかったんだ…?!」
なんだ、この、痛みは。焼けつくような、感覚は。
どこに逃げても追ってくるこの声は。
―あなたは、何にも心配しなくて、いいのよ。
ベティの眼は、彼を捕えて離さない。
その眼にあるのは、侮蔑と失望と、そして。
深い哀れみ。
その眼に射抜かれ、彼は立ちつくし、叫ぶ。
「俺は…!」
呟くように彼は言った。
「あの時に死んでいれば、よかったのか!?」
「わざわざ死ぬことはない」
ベティは容赦なく言った。
「お前はとうに、死人も同然だ」
乙乙。
急展開ですな。
急展開だー
そして容量警告
えっ、何何、どうなんのこれ
びっくりした
おもしろ過ぎる
次スレ立てます
スレ立て乙
533 :
耐える愛U:2011/07/31(日) 12:51:06.40 ID:rm46lzoW
埋めついでに投下させていただきます。3レス頂きます。
妊娠発覚後のアーネ視点。今回はとりあえず書けた所まで投下しておきます。
注意:基本話はメイドと旦那様の不倫。恋人の身分を脅かされ軟禁状態で身籠ったメイド視点。
苦手な人は回避お願いします。
534 :
耐える愛U-1:2011/07/31(日) 12:52:01.32 ID:rm46lzoW
(どんなに酷いことをされても旦那様を嫌いになれなかった。幼い頃どれだけ優しかったかと胸に刻みこまれている。
長年失った父親の影を重ねていた旦那様。だからこそ、皮肉な事にも嫌いにもなれないが――女性として愛することは出来ない。)
そして、ロルフさまの事で、旦那様に献身的に仕えようと思った。使用人のように。
それがアーネにとってできる、旦那様への精一杯の恩返しだった。
そんな日々を送るうちにアーネは気が付かなかった。
目をそらしていても、精神的にこの状況は彼女には辛すぎて。
気づけば、心はあの方に飛んでしまう。
その原因である旦那様に頼れるわけはなく、一人ぼっちで耐えて、耐えて。
吐いては、食欲がなくなっていく……貧血を起こすのは食欲がないから、そう思って自分を誤魔化した。
倒れて目を覚ませば、このお腹の中に旦那様と自分の子供が宿っているという。
自分が妊娠しているという驚きの事実に、浮かぶのはリスティンさまと奥様に顔向けできず、産めるはずのない罪の子だということだった。
辛い時に励まして支えてくれたリスティンさま。
おこがましくも弟だと思っていた彼の……皮肉にも弟を身籠っている。
その事実が、さらにアーネを打ちのめした。
この子を、産んでは……いけない。
他のお屋敷ではよく囁かれていた噂話を思い出す。
旦那様や上級使用人、お客様から手を付けられ、孕んだメイドはどんな理由があろうとも解雇される事が多い。
なので仲間内でそのことを庇い合い、その間にひっそりと産むか――堕ろすのだと。
アーネにとってはショックなことで、方法はあまり覚えていない。
あのころのお屋敷はとても秩序ある場所で、その時はこんな事になるとは思ってもみなかったから。
アーネは日々悩んでいた。
産んではいけない、でも今お腹の中にいる子供を殺すという事は、一つの命が消える事で。
そんな大罪を……望まれぬ子だとしても犯していいのかと。
その苦悩の表情とは反対に、旦那様はアーネが身籠ったことをことのほか喜び、気遣ってくれる。
アーネが子供を産むべきだと、信じて疑わない。
あれほど拒否しても無理矢理抱かれていた夜の務めも、腹の子の為と言ったら、ただ抱きしめるだけの添い寝になり。
その抱きしめる手つきは柔らかくて優しくて……腕の中で泣きそうになる。
――本当に、旦那様は私と、お腹の子を愛している。
罪悪感に悩まされる。こんなに愛されているのに、のに。それでもアーネの望むのはたった一人だ。
そしてこの愛は本来向けられるべき人が居て、受け取るべきものでもない。
自然とお腹に手を置くことが増え始め、アーネは気が付いた。
私はこの子を産みたいと……思ってる。
許されない背徳の行為の為に出来て、産んではいけない初めての私の赤ちゃん。
心の痛手の為に狼狽して、そう思っていた――いや、思い込んでいた子供は。
「産みたくない」ではなく「産んではいけない」のだと。
子供の父親の事は愛していず、愛する人は――愛してると言う資格がアーネにはない人。
一人ぼっちで家族もいない、アーネにとって本当の意味でのたった一人の家族で……愛してもいい子供。
「私の、赤ちゃん」
そう囁き、お腹に手を当てるたびに、愛しさが募る。
いけないことだとは分っていても。
535 :
耐える愛U-2:
どうしていいかわからなかったアーネは、神様に救いを求めた。
愛人という立場上、日曜の礼拝に行くわけにはいかず……そして旦那様もアーネの外出を許さなかったので、遠ざかっていた場所。
外出を許されるはずがないとわかっていたアーネは、旦那様の留守時にこっそりと出かけることにした。
この屋敷に連れられてきたときに、両親の形見だから捨てないでくださいと、懇願した古ぼけたトランク。
そこの中に、昔母が着ていたドレスを仕立て直した服を入れていたので、それに着替えるとただの一介のメイドにしか見えない。
旦那様から与えられた豪華なドレスに身を包み、村の道を徒歩で通る勇気なんてアーネにはなかった。
その様子をこっそり見ていたメイドに、屋敷の裏門で追いつかれる。
使用人達は私語を厳禁されており、会話をしたことはなく、男性の使用人に至っては、近づくことも許されていなかった。
アーネより年下のメイドの少女は、出ていくのかと思ったのかアーネを止めたけれど。
しかし必死でアーネが教会に行きたいと懇願すると、明らかにほっとしたような顔を浮かべる。
顔に思ったことが出やすい、少女は普段からアーネに同情的だった。旦那様の帰宅予定は明後日だったが、予定を繰り上げる事は少なくない。
帰ってこないうちに、何事もなく帰ってこなければと、もしアーネが外出したと知ったら、教会であろうとも旦那様はお許しにならないだろう。
この少女に迷惑を掛けてはいけないとアーネは二人教会への道を急いだ。
やはり来てはいけなかったのかもしれない。
彼女には教会の入り口で待ってもらい、中に入る。厳かな雰囲気を醸し出している教会の中は、清らかで静謐で。
汚れているアーネにはここには居てはいけない、不似合いな場所に見えた。清らかなマリア像に、まるで責められているような気がして身が竦む。
そんな雰囲気の中人が入ってくる気配がして、アーネは不安から反射的に懺悔室に逃げ込んでしまった。
許しの為のストラが一瞬見えたような気がして、隠れてしまったことを恥じたが、しばらくすると、反対側の入り口から人の気配がする。
低く、硬く、どこか懐かしい響きを帯びる厳かな……声が、優しく訳を尋ねる。
聞いてくれる、私の話を。
その声にほっとして今まで誰にも言えなかった罪のすべてを、アーネは全て胸に残る毒を出すように話してしまった。
本当は愛している人がいるのに、愛しているからこそ、その方の心を踏みにじり別れた。
旦那様に、無理矢理強要された関係、そして授かった子供。
その子を産んでしまってもいいのか。
妻子もいる方、そして愛してもいない方の子を。
でも、子供は自分の子。今のアーネの支えで全てだと。
本当に愛してる人にはもう愛しているとは言えないから、愛を願ってはいけないから――だから愛する存在が欲しいと。
何と身勝手で、自分勝手で……生まれてはいけない、生まれたら旦那様の家庭に災いをもたらすとわかっているのに。でも心の底から誕生を祈ってる。
「貴女の事を神はお赦しになるでしょう」
あまりのふしだらな内容に、流石の司祭様も感情をあらわにするまいとしてか、声が震えていた。
しかし、本当に私は産んでいいのでしょうかと、不安と迷いの為、更に念を押して欲しくて尋ねる。
「貴方の子です……貴方だけの愛すべき存在です……生まれてくる子供に罪はない」
その返答に、涙がこぼれる。でもそれを拭うよりもお腹に手をあてた。
そう、この子は私の子。私だけの子――そう、子供には罪はない。
「たとえ、どんな困難が待ち受けても……生きていれば生きてさえくれていれば、変われる」
司祭様の声に失った思い出が鮮明によみがえる。ロルフ様もゆっくりアーネの言葉を聞いてくれて穏やかに言葉にした。
これは、天啓なのか。まるでロルフ様に励まされているように感じて、アーネは更に泣いてしまう。
泣き止んで懺悔室の戸を開けると、ステンドグラスの光を浴びたマリア様の像が、はじめと違って微笑んでいるように見える。
強くなろう、この子を……産むために。
そうマリア様に跪いて、祈る。それだけで、勇気づけられているように感じる。
心地よい静寂がアーネを包んで、暫く。
「こんな所で、君は何をしているのかな?」
アーネはそう声を掛けられて、怯えながら顔を上げた。
そこには笑顔だが、目が笑っていない、旦那様が立っていた。