【ドラマ】流れ星でエロパロ

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90名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 01:07:17 ID:xxvCwg93
71の続き

2012.3.10 21:21 藤沢大学病院内科病棟505号室

「岡田さん」
上杉紗綾が、入口から顔だけを覗かせて笑顔で呼びかけた。
健吾が歩み寄る。
紗綾は軽く会釈すると、『仲がよろしいんですね』と健吾の耳元に囁いた。
そして、ベッド脇まで来ると覗き込むような姿勢で梨沙に声をかけた。
「眼が覚めましたか?」
両腕でカルテを抱きしめている。笑顔が近い。
梨沙は、キスの痕跡を探されているような気がして顔を背けた。
「梨沙、担当の上杉先生」
「どうも・・・」短く抑揚のない挨拶が返る。
「上杉です。痛いところはありませんか?」
言いながら、上杉紗綾が背筋をのばす。身長が隣に立つ健吾とあまり変わらない。
「右腕がすこし、それに動こうとすると胸とお腹が・・・」
「そうですか、腕にはけっこう深い傷があって十針ほど縫いました。胸と腹部が痛いのは
 打撲によるものだと思います。それと、少し内臓が弱ってるかな・・・」
そこまで言うと、コールボタンを押して、
「上杉です。505の岡田さんのところへ、ソセゴンとアタラックスPを15o、注射器に入れて
 持ってきて」と指示を出した。
「点滴に鎮痛剤を少量入れますね」紗綾が健吾を見て言った。
「先生、鎮痛剤とか、赤ちゃんに・・・」梨沙が心配そうに聞いた。
「大丈夫ですよ。この程度なら、煙草やお酒のほうが何十倍も悪いんです」
「奥さん、あまり我慢しないでくださいね。痛みは回復を遅らせます。」
「わかりました」答えたものの梨沙の瞳には不安の影があった。
91名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 01:08:44 ID:xxvCwg93
2012.3.10 21:25 藤沢大学病院内科病棟ナースセンター

北村詩織が指示を受けた。
中島留美が処方を確認する。
“ソセゴンとアタラックス”消炎鎮痛剤と鎮静剤。
量も組み合わせも極一般的。副作用の危険度(リスク)も小さい。
「いいわ、持ってって、合わせて15oよ」
「はい」詩織が薬品保管庫へ入っていった。
その背中を追いながら、思いすごしかな?、と留美は考えた。
病状説明の時の上杉紗綾の態度に少々引っ掛かるものを感じていた。
とかく噂のある女性(ひと)だから・・・
確かに、あのルックスで言い寄られて、拒める男性は少ないだろう。
その上、自分が相手にどう見えるかを知っているから始末に負えない。
まあ、駄メンズ好きの私から見ても、健吾さんは素敵だけどね。
でも紗綾ちゃん、あの二人はだめよ。
「それだけは、私が許さない。」
留美は一人きりのナースセンターで呟くと、業務日誌に眼を落した。
92名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 01:11:45 ID:xxvCwg93
2012.3.10 21:30 藤沢大学病院内科病棟505号室

「上杉先生」
北村詩織がトレイに乗せた注射器を差し出しベッドを盗み見た。
梨沙は窓の外を見ている。
傍に立つ健吾の右手が梨沙の左手を握り、親指が手の甲の上で円を描いていた。
その光景を見て、綺麗だけど、“凄く”という形容詞は似合わないなと詩織は思った。
顔を構成する一つ一つのアイテムはごく普通の作りなのに、
それが、絶妙な大きさの中にバランス良く配置されて、見る者に魅力的な印象を与えている。
言ってみれば、上杉先生とは真逆のタイプ。
色が白く実年齢より若く見えるのも、岡田さんのように穏やかな年上の男性に
好かれる理由かな、と詩織は考えた。
「ありがとう、もういいわ」
紗綾が注射器を受取り詩織に言った。
トレイをベッド脇のテーブルに置くと、詩織は小走りに出て行った。
針からキャップを外す。溶液の量を見て一瞬“おやっ?”と思った。
しかし、すぐに気を取り直して点滴の所まで来ると、
サブラインを使わずラクテックのパックに直接刺して薬剤を注入した。
“なるほど、留美さんが居るのね”
針だけを残し注射器を回収する。そして、点滴の速度を調整(おと)した。
「これで治まらないようなら呼んでください。今日は当直ですから院内にいます」
「はい」健吾が答えた。
「腕のほうは明日の朝、もう一人の担当の深沢が診(み)にくると思います」
「骨折はありませんので、数日で痛みも無くなると思います」
「奥さん、安静にしていてくださいね」紗綾が梨沙に向かって言った。
「はい」返事をした梨沙の顔が、なぜか朱くなった。
「では、お大事に」
病室の入り口に向かう紗綾の瞳が健吾に廊下に出るよう告げていた。
「梨沙、ちょっと・・・」そう言って健吾は廊下を指差した。
「うん」
出て行く二人の後ろ姿を梨沙の眼が追った。

「奥さまの検査結果をみますと、体脂肪率や血中酸素飽和度などから考えてあきらかに痩せすぎです。
 過度なダイエットは控えるように、御主人から言われたほうがよろしいと思います」
「いえ、妻はダイエットをしていた訳ではないと思います」
「と言いますと?」
「なにか、特別な御事情でも?」紗綾が覗き込むような風情で健吾を見て言った。
「・・・」
この医師(せんせい)は本当に何も知らないのだろうかと健吾は訝った。
谷中先生や留美さんは、話してはいないのだろうか?
だとしたら、どこまで話せばいいのだろうか、と健吾は思った。
「わかりました。では、これを・・・」
黙っている健吾を見て、紗綾は名刺を取り出すと裏側に自宅と携帯の番号を記して差し出した。
「なにかありましたら、何時でもかまいませんので連絡してください」
「あっ、それから、差し支えなければ岡田さんの携帯番号を・・・」
「はい、090‐1xxx‐6xxx」
紗綾が左手の甲に番号を書いた。
93名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 01:13:15 ID:xxvCwg93
2012.3.10 21:42 藤沢大学病院内科病棟廊下

「困った顔もすてきよ、岡田さん。いえ、健吾・・・さん」
上杉紗綾は医局に戻る廊下で、ひとり呟いた。
“知ってるにきまってるじゃない。二人のいきさつも、貴男が奥さんを、
 梨沙さんを本気で愛しているわけじゃないことも、全部知ってますよ・・・
「Nature」に掲載(の)った貴男の論文は読ませてもらいました。
 専門外なので内容は理解(わか)らなかったけれど、貴男にはもっと相応しい
 地位も名誉もある女性が必要なことは良く判りました。・・・例えば私のような“
「ふふっ」
左手の甲に書かれた携帯電話の番号を見て、上杉紗綾は含み笑いをもらした。
94名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 01:14:55 ID:xxvCwg93
2012.3.10 21:43 藤沢大学病院内科病棟505号室

「なんか、色気ムンムンの先生だね」
病室に戻った健吾に梨沙が呟いた。
「そうかな」
健吾の態度も返事も、あっさりしたものだった。
“そうだった”・・・健吾を見つめながら梨沙は思った。
この男(ひと)は、私の愛した男(ひと)は、とても不器用な人。
一つの事が心を占めると、それ以外の事に関心が無くなってしまう。
いまは、・・・梨沙はそれが自分の事であることを祈った。
「梨沙」健吾の眼が燃えていた。
「んっ」
答える間もなく、唇を塞がれていた。
梨沙は眼を閉じると、自由になる左腕を健吾の首に廻した。
95名無しさん@ピンキー:2011/02/15(火) 03:34:26 ID:ToqPZrF+
健吾と梨沙という同じ名前の人が出てくるだけの別物だな

とにかくもう梨沙を悲しませる展開にしないでくれ
96名無しさん@ピンキー:2011/02/18(金) 21:38:05 ID:o6JSNsbH
cofee-brakeU

2014.07.1x.19:10 沖縄県慶良間諸島渡嘉敷島

渡嘉志久(とかしく)の海には色がないと、梨沙は思った。
これまで、海の色といえば青とオレンジくらいしか思い浮かばなかった。
あっ、それと、家から見える夜の相模湾の黒。
しかし、この海はありとあらゆる色に変化した。
高く澄み渡った空の碧(あお)、その空に浮かんだ雲が映す乳白(しろ)。
茂る木々の翠(みどり)、島影が織りなす濃淡のある墨(くろ)。
何色にでも染まるのに、本質は決して変わることがない透明性。
それが、渡嘉敷島の海なのだと、思った。
「お腹、冷えてない?」
左上から声がして、梨沙の夢想は破られた。
「うん、大丈夫」見上げながら答えた。
健吾の右手が梨沙の左手を優しく包んだ。
「冷たいよ」
梨沙は、手を開くと指を絡めるようにして強く握りなおした。
「平気、こうすれば、すぐに温(あった)かくなる・・・」
ダイビングスーツに身を包んだ二人は浜辺をコテージに向かい歩いていた。
健吾が左腕のダイバーウォッチを見た。
「少し長く潜り過ぎかな」
「心配し過ぎ、三人目だよ、もう安定期に入ったし」
「それに、やっと見れたじゃん」笑顔を向けた。
「そうだね、・・・ようやく約束を果たせた」
「んっ?」
「まえに梨沙が言ってた新婚旅行・・・」
「うん」嬉しかった。
四年前、半ば冗談で言った約束を健吾は忘れないでいてくれた。
「なにを願ったの?」
「ひみつ・・・」
乾いた海風が南国特有の甘い香りを運んできた。
梨沙は、『消えない流れ星』に願ったことを思い出した。
“お腹の子が男の子でありますように・・・”
上の二人は女の子だった。佳奈と早李、健吾と私の二つの宝石。
でも、家の中に自分以外の男性が居ないのでは健吾が少し可哀想な気がした。
「なんかさぁ、あたしって結婚してからお腹に子供がいない時間のが短い気がする」
「そうかな」健吾が嬉しそうに微笑んでいる。
「おかげで、お酒に弱くなったし・・・」
コテージが近付いた。海に向かって建つ家のウッドデッキで、
義母(はは)が早李を膝に抱き、籐椅子に腰かけていた。
和子の傍らで佳奈が手を振っている。
二人は顔を見合わせ、あいている方の手を振り返した。
「パパ、ママ、見てぇー、オレンジ色の海だよ・・・」
佳奈の言葉に振り向いた二人の眼に夕日に染まり始めた東シナ海が映(み)えた。
その色は、オレンジというよりは、むしろ紅色(あか)に近いと、梨沙は想った。

97名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 02:34:14 ID:BvN5Wh7x
> オレンジ色の海だよ・・・

いいですねぇぇぇぇ
98名無しさん@ピンキー:2011/02/24(木) 12:10:22 ID:PTk4hDvb
梨沙が5人ぐらい子供うむって発言は生かされるのかw
99名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 11:28:35.14 ID:BSfgw4Bl
94の続きまだぁ〜?
ラブラブ展開希望。
100名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 11:59:57.40 ID:8L95DgEJ
職人降臨待ち
101名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 11:22:44.14 ID:LhzkPIZ0
85の続き

2011.12.16.17:55  東京上野広小路交差点

『気をつけて帰っておいで』
健吾の低く柔らかな声が梨沙の耳に心地よく響いた。
その言い方が健吾らしいと思った。
「うん」少し含羞んだように頷いた。
「お兄ちゃん、何だって?」
マリアが携帯を閉じた梨沙に聞いた。
「気をつけて帰って来いって」
中折れ式の白い携帯電話にぶら下がったピンクのクラゲが笑っていた。
「心配性だなぁ」
「あぁ・・・でっ、なに食べる?」
「うーん、何がいいかなぁ」
「肉でも中華でも、何でもいいよ、まだ二万五千八百円も残ってる」
「じゃあ、回転寿司!」
梨沙とマリアは腕を組んで中央通りを上野駅に向かって歩いて行った。
大都市の夜空には星がなかった。
102名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 11:25:18.49 ID:LhzkPIZ0
2011.12.16.18:05  日本通運横浜支店藤沢センター

「ねぇ真絵美、あんた岡田さんとどうなってるの?」
自転車に乗る岡田健吾の後姿を見送りながら、福永美緒が二宮真絵美に声をかけた。
「どうって?」
聞き返す真絵美の眼は心なしか潤んでいるように見えた。
「付き合ってるんでしょ?」
「付き合ってるわけじゃないよ」
「だって、家まで行ったんでしょ?、夕飯を一緒に食べたんでしょ?」
「そうだけど・・・」
「なにっ?」歯切れの悪い答えに少し苛つく。
どうしてこの娘はもっと自分に自信を持たないんだろう? 
あんたは去年のミス湘南なんだよ。この10年間で一番だって言われたんだよ。
その気になれば、男なんか幾らでも捕まえられるのに・・・そう言ってやりたいと美緒は思った。
二人は同期ではなかったが、年が近いこともあって仲が良かった。
性格が正反対なことも二人にとってプラスに働いていた。
大人しい真絵美が岡田さんに好意を持っていることを知って、
『罠』と言ってもいい計略を巡らし二人を接近させたのも美緒だった。
真絵美が岡田さんの家で夕食を御馳走になったと聞いた時は、思わずガッツポーズが出た。
しかしそれきりだった。岡田さんの態度は同僚に接する以上にも以下にも変化しなかった。
故意に噂を流したこともあった。けれど、会社を休んだのは真絵美の方だった。
“年は離れてるけど、こういう娘には、岡田さんみたいな温和な人が合うと思うんだけどなぁ”
美緒は、あらためてそう思った。
103名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 11:29:31.75 ID:LhzkPIZ0
102の続き

「妹さんの眼が笑わないんだ・・・」
突然、真絵美が小さな声で言った。
「妹って、なにそれっ、なんか言われたの?」
「ううん、明るくてとっても感じの良い子。
 映画の事とか好きな物の事とか、いっぱい話したよ、
 頭、良いんだ、それに顔がすっごく可愛いの。
 一瞬、こんな妹がいたらいいのにって本気で想ったよ。
 でも、眼が笑ってくれないの・・・」
「どういうこと?」
「私の話を真剣に聞いて、冗談を言って顔は笑うんだけど、瞳が冷静なの・・・
 本当は、聞いてないし、笑ってもいない感じ」
「ははぁ、その子ってブラコンなんだ」美緒が断定的に言った。
「えっ?」
「ほら、岡田さん家ってお父さんが亡くなられてるじゃない、
 小さい時からそばにいる異性が兄貴だけだったりすると・・・
 よく聞くじゃないその手の話しって、あんたにお兄ちゃんを盗られると思ったんだよ」
「ううん、そういうんじゃないと思う」
「だったら、なに?」
「うーん、なんて言ったらいいんだろう・・・
 そう、私の肩越しに誰かをみてる、そんな感じ?」
「やだっ、心霊(こっち)系?」
美緒が両手を胸の前でダラリと下げた。
「そうじゃないよ、ブラコン(そっち)でも心霊(こっち)でもないよ。
 でも、誰かと比べられてた気はする。」
「そんなぁ・・・」
「その椅子に座る女性(の)はあんたじゃないよって、そう言ってる眼だった。」
「てっ、なに、岡田さんには彼女が居るってこと」
「うん・・・『居た』なのかもしれないけど・・・」
「あんたってそういうとこ、鋭いもんねぇ・・・」
“だから、彼氏が出来ないのよ。こんなに美人なのに・・・”
美緒は真絵美の整った横顔をじっと見た。
“あの妹(こ)が心の底からの笑顔を向ける相手って・・・どんな女性(ひと)なんだろう?”
二宮真絵美は健吾の背中を追うように、夜の闇の一点を見つめていた。
104名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 11:33:20.17 ID:LhzkPIZ0
2011.12.31.16:00 岡田家 台所

大晦日の夕方、岡田家の台所では和子が年越しの準備をしていた。
車のドアが閉まる音と同時に梨沙とマリアの笑い声が聞こえた。
どうせまた、マリアが健吾の昔話を面白可笑しく脚色して、
梨沙さんを笑わせているのだろうと和子は思った。
「ただいまー」
玄関が勢いよく開き二人の声がした。
「おかえり」
両手にエコバックを下げた二人の娘に和子が顔を向けた。
「混んだでしょう?」
「すごかった、134号は1号との合流まで滞(つな)がってるって」
「そう」
首肯したものの、和子には道路のことは良く分からなかった。
「レジで10分も待たされちゃったよね」マリアが梨沙を見て言った。
「どっちに行ったの?」
「結局、さいか屋まで行った」
テーブルの上に買ってきたものを並べながら梨沙が答えた。
「お餅はあった?」
「あった」生餅の入ったパックを和子に見せる。
「でも、あんまり高いんでびっくり」
「まあ季節ものだからね」
「あれっ・・・まだ?」
コートを脱ぎながら、梨沙の眼が健吾を探して部屋を見廻した。
「さっき電話があって、6時過ぎるって、携帯にかけたみたいよ」
梨沙が携帯電話を開いた。
「なあに、お兄ちゃん今日も仕事なの?」
健吾からの不在着信が二件あった。
スーパーの雑踏のなかで気付かなかった。
「あたしの事で何日も休ませちゃったから・・・」
携帯を閉じた梨沙がすまなそうに言った。
「さあ、二人とも手伝って」
和子が台所から梨沙とマリアを呼んだ。
105名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 11:38:43.70 ID:LhzkPIZ0
2011.12.31.17:45 岡田家 台所

「お義母さん、これ全部入れていいの?」
梨沙が皿に盛られた黒砂糖を見て尋ねた。
「そうよ、入れたら落とし蓋をして弱火にしてね」
「はい」
「あっ、これも入れて」
和子が綿布に包まれた棒のようなものを手渡した。
「なに、これ?」
「釘」
「くぎ?」梨沙が聞き返す。
「そう、錆びた五寸釘」
「五寸釘(こんなもの)、いれるの?」梨沙が驚いた顔で和子を見た。
「艶が出るのよ。それに女性に不足がちな鉄分も・・・」
「へーえ」梨沙は感心したように呟き、鍋に釘の束をそっと沈めた。
「ねえ梨沙さん、梨沙ん家のお雑煮ってどんなの?」
「どんなって?」
「だから、お餅は丸いとか、白味噌仕立てとか・・地域で色々あるでしょ」
「どんなんだったんだろう、憶えがないなぁ」
一瞬遠くを見つめた梨沙が、記憶の糸を探るように言った。
和子が“しまった”という表情で梨沙を見た。
隣で灰汁(あく)をすくっている梨沙の横顔にはなんの変化もなかった。
「お正月らしいことなんか何(なん)もしなかったから・・・」
梨沙がひとり言のようにつぶやいた。
「そうなの。岡田家(うち)はね、下町風なのよ。あっ、さっきのお鍋に差し水して」
「はい、・・・下町風って?」
梨沙は既に用意してあったコップの水を鍋の中に静かに廻し入れた。
それを見て和子は、“やはりこの娘には料理のセンスがある”そう思った。
「鰹節でとった出汁(だし)にお醤油とお酒とみりん、
 焼いた角餅、鶏のもも肉と小松菜に紅白の蒲鉾、その上に三つ葉とゆずを散らすの」
「ふーん、旨そう」
食材からおおよその味が想像できた。それは梨沙の好みにぴったりだった。
「お餅、好き?」
「うん」
「健吾もマリアも大好き、二人とも食べすぎるから気をつけてね」
「わかった」
「元旦(あす)の朝、作ってみる?」
「なにを?」
「お雑煮」
「いいの?」確認するように和子の方を見た。
「いいわよ、貴女はもう岡田家の若奥様なんだから、すこしづつ憶えてね」
「うん」梨沙が大きく頷いた。

94の続きは次週くらいから・・・
106名無しさん@ピンキー:2011/03/02(水) 14:21:12.05 ID:Olv+VYhA
103 の続き気になるわぁ
一騒動ありそうw
健吾に華麗にスルーしてもらいたい・・・
107名無しさん@ピンキー:2011/03/05(土) 23:59:02.10 ID:lyRvvc5f
106<81を見てください。

2011.12.31.19:40 岡田家 居間

「では、母さん」
健吾の言葉に、和子が背筋を伸ばしてその場に座りなおした。
健吾とマリアが炬燵を出て正座した。
梨沙は最後の料理を並べると、健吾のすぐ横に座った。
「今年も色々あったけど、こうして、無事に年の瀬を迎えられました。
 健吾、梨沙さん、あらためて結婚おめでとう。
 マリア、来年は受験ね、頑張ってね」
家長である和子が、一年をそう締めくくると、
「母さんも健康で・・・乾杯!」
健吾がグラスを上げた。
「かんぱーい!」
三人の女性が唱和し、それぞれのグラスを合わせた。
「梨沙」
健吾が隣からビール瓶を向けていた。
梨沙がグラスを差し出した。
「あんたにお酒を勧められるなんて、初めてだね」
健吾の顔に苦笑気味の笑顔があった。
ビール瓶を受取り健吾のグラスにも注ぐ。
「はい、お義母さんも・・・」
「おいしい」
注がれたビールを一気に飲み干し和子が言った。
「お義母さんも呑めるんだ」
「健吾より強いかもよ」
和子が息子夫婦を見て笑った。
「このカニ玉、めちゃめちゃ美味しい!」
「それ、梨沙さんが作ったの」
和子が我がことのように喜んだ。
「こんなの誰でも作れるって」
梨沙が含羞み、和子が作った鳥の竜田揚げを箸でつまんだ。
「そうなの、じゃあこんど教えて」
梨沙を見るマリアの瞳が期待を膨らませていた。
「うん、いいよ」
梨沙は一瞬、視線を健吾に向けると柔和な笑みを浮かべた。
健吾はささやかながら満ち足りた幸せを感じた。
母、妻、妹、大晦日の夜に自分にとってかけがえのない三人に笑顔がある。
今年は良い年として記憶されるだろう。
誰も見ていないテレビで、紅白歌合戦が始まっていた。
浜崎あゆみの高い声が、ゆったりとした曲を奏でている。
その曲名を健吾は知らなかった。
108名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 00:04:42.02 ID:lyRvvc5f
皆さんに質問です。

105で梨沙と和子が作っていた料理はなんだと思いますか?
107で最後に梨沙が並べた料理はなんだと想像しますか?
109名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 04:18:53.90 ID:K9XN8o5X
105は 黒豆
107は カニ玉?
110名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 14:33:16.30 ID:13kzTe6D
105→黒豆or昆布巻き
107→カニ玉
111名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 15:04:10.70 ID:KLIUrTW9
オレも同じ
105→正月の準備しかも釘を入れるので"黒豆"(姉貴に聞いたんだけど^^)
107→流れから"カニ玉"しか思いつかない
112名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 21:11:13.98 ID:m/uVPfX2
質問しっぱなしですか
113名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 21:32:54.41 ID:SP7000J+
114名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 14:27:28.10 ID:b84ECue6
先日の地震でPCが破損しました。
暫らくの猶予を・・・
105→黒豆
107→かぼちゃの煮物
を想像して書きました。
115名無しさん@ピンキー:2011/03/21(月) 17:33:51.08 ID:Gi4A7j0i
りょうかい!
116ノリスケ ◆lOJY1pnaB. :2011/03/21(月) 21:45:44.09 ID:2nbysv76
了解
117名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 01:30:35.46 ID:3q88fdIb
>>114
「このカニ玉、めちゃめちゃ美味しい!」ってあるから
普通に考えてカニ玉だと思っちゃうけど

続編気長に待ちますよ
118名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 22:31:10.69 ID:Sl2UpcsH
お待ちしてます(。・_・。)ノ
119名無しさん@ピンキー:2011/04/05(火) 00:33:14.74 ID:LdqzcdaA
続き気になるー


楽しみにまってます
120名無しさん@ピンキー:2011/04/10(日) 19:43:50.76 ID:V0EZqXFy
DVDまであと10日ー
121名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 08:09:17.32 ID:0kILNFeO
ご無沙汰しています。
PC、修理不能でデータの復旧もできませんでした。
書き溜めてあった文章もすべて無くしました。
これも、目を盗んで会社で書いてます。
OsがWinでもMacでもないので使い方が良くわかりません。
ということで、軽めのものから書いてみました。
122名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 12:36:02.61 ID:0kILNFeO
cofee-brakeV
2011.10.7.19:40 岡田家和子の部屋

「お母さん、これとこれしかないよ?」
マリアが部屋に入るなり和子に言った。
「うわー、なに?」
部屋に拡げられた純白のドレスを見て、驚きの声を上げた。
「どお?」
和子が立ち上がり、ドレスを体に当てポーズを取りながら言った。
「素敵・・・でも、どうしたの」
「私がお父さんと結婚したときに着たものよ」
ビーズとレースをトップにあしらった肩ひものないウエディングドレスは、
ウエストのタックがふんわりと膨らみ、ボックスプリーツのスカートが優雅なラインを作っていた。
「へえー」
お母さんが着たドレスなら、相当昔の物のはずなのに少しも古めかしく見えなかった。
『流行は循環し、普遍的な美は時の浸食に揺らぐことがない』
美術の先生の言葉を実感するとともに、若い頃の母はスタイルが良かったのだと思った。
「直しておこうと思って・・・」
「梨沙さんに?」
「そう」
「そっか、でも帰ってきてくれるかなぁ・・・」
マリアが寂しそうにに呟いた。
「ほら、採寸するから」
梨沙が残していった二着のワンピースをテーブルの上に広げた。
微かに残った梨沙の香りがした。
「ねえ、お母さん」
「なぁに?」
「私、最近想うんだ」
「梨沙さんがドナーになってくれたのって、お金の為でも、お兄ちゃんの為でもないんじゃないかって・・・」
「そうね」
「どうしてるんだろう・・・」
「携帯も接続(つな)がらないし」
「大丈夫」
「健吾が梨沙さんじゃなきゃだめなように、きっと梨沙さんも健吾でないとだめなのよ」
「あの二人は出会った瞬間(とき)から、そう決まっているの」
和子の言葉は、不思議な自信に満ちていた。
マリアは、改めてウエディングドレスを見た。
このドレスを着た梨沙さんが、正装したお兄ちゃんの隣に立つ時・・・
マリアは、その日が近いことを強く願った。
123名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 12:41:43.73 ID:ApHri7Nj
お待ちしてました

素敵なシーンですね♥
124名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 12:48:38.57 ID:0kILNFeO
cofee-brakeW

挫けた心を再起動するために、
皆さんのイメージを教えてください。
俳優さん、女優さんならば誰を想像しますか?
()内の年齢は参考です。(堀館長を除く)

上杉紗綾(31)
藤沢大学付属病院産婦人科医師、梨沙の主治医、思い込みが激しく惚れっぽい
深沢 茂(36)
藤沢大学付属病院循環器内科医師、梨沙の主治医、12.03.11朝、登場予定だった
吉村林太郎(67)
東京海洋大学海洋科学科海洋生物学部教授、健吾と川本の恩師
上村夏実(30)
東京海洋大学海洋科学科海洋生物学部講師、健吾の論文の追試で徹夜した
佐伯ひかり(26)
東京海洋大学職員、吉村教授の秘書
二宮真絵美(25)
日本通運藤沢センター職員、2009年ミス湘南
福永美緒(26)
日本通運藤沢センター職員、真絵美の親友でおせっかいやき
北村詩織(27)
藤沢大学付属病院内科病棟看護師、噂話が大好き
大貫柚月(26)
藤沢大学付属病院内科病棟看護師、詩織の同僚
堀由紀子(71)
新江の島水族館館長(実在人物)、傾きかけた水族館を建直した傑物

書き出してみて、気付いたのですが、
新しい登場人物が少ない事と、女性が多いことに驚いています。
125名無しさん@ピンキー:2011/04/13(水) 00:22:34.74 ID:NS1Dtcx4
>>124


> 上杉紗綾(31)→黒谷友香
> 深沢 茂(36)→要潤
> 吉村林太郎(67)→山本圭
> 上村夏実(30) → 片瀬奈々
> 佐伯ひかり(26)→貫地谷しほり
> 二宮真絵美(25)→綾瀬はるか
> 福永美緒(26)→石原さとみ
> 北村詩織(27)→加藤ローサ
> 大貫柚月(26)→満島ひかり
> 堀由紀子(71)→白川由美、加賀まり子あたり

>こんな感じはどうですか?雰囲気で考えてみましたー

126名無しさん@ピンキー:2011/04/13(水) 16:34:46.77 ID:SvzRhWaJ
上杉紗綾のみですが小西真奈美のイメージかな
127名無しさん@ピンキー:2011/04/19(火) 10:58:38.09 ID:X7bGqhaY
ありがとうございます。

黒谷友香さんは、映画”shinobi”の時の妖艶な感じが紗綾のイメージに合うと思います。
小西真奈美さんもWOWOW版”マークスの山”の記者役が良かったですね。
綾瀬はるかさんは、整った容姿と少し天然で、おっとりした感じがピッタリ。
片瀬奈々さんは、文句を言いながらも与えられた仕事をきっちりこなしそう。
それ以外も、素敵な人選だと思います。
因みに、私は
紗彩と真絵美は、それぞれ吉瀬美智子さん、満島ひかりさんのイメージで書いていました。
吉瀬さんは、その美貌と身長で・・・年齢が少し上ですが・・・
満島さんは、いま、面倒くさい女をやらせたら最高に上手い人だと思います。
二人以外は、モデルは特になかったので、参考にさせていただきます。
128名無しさん@ピンキー:2011/04/21(木) 06:29:39.26 ID:r3GULULf
2011.12.20.16:55 国道134号線鎌倉海浜公園前

平日の国道134号線は、夕方の混雑が始まる前の静けさの中にあった。
黄橙色が水平線を縁取り、夜の帳が富士山の柔らかな稜線を覆いはじめていた。
月の居ない空で、宵の明星と木星とがその輝きを競っている。
もう少し夜が深くなれば、二つの惑星(ほし)の間に天王星と海王星が連れ人のような姿を見せるだろう。
健吾はシエンタの前照灯を点けた。
淡い光の束が、夕闇の国道を上下に切り分けた。
「はい」
助手席の梨沙が、駅前のスターバックスで買ったコーヒーをカップホルダーに挿した。
「市役所の人、驚いてたね」
カフェミストを両手で包み健吾を見た。
「そうだね」
「やっぱ、憶えてたのかな」
「同じ人だった」
健吾が思いだしたように笑った。
二人の名前と顔とを何度も見直していた係員は、
それでも最後は“お幸せに”と婚姻届を受取ってくれた。
“?”付きの笑顔と、擦れた声で・・・
129名無しさん@ピンキー:2011/04/21(木) 06:31:14.81 ID:r3GULULf
車は七里ケ浜高校の前を過ぎ、行合橋を渡った。
「あれ、どこいくの?」
梨沙が、後方に流れてゆく信号機を眼で追いながら言った。
家に戻るには、いまの三差路を川に沿って北に昇らねばならない。
「水族館」
「もう閉館時間だよ」
「わかってる」
左前方に見える江の島展望台に灯りが点った。
「なんかあんの?」
「到着(つい)てから・・・」
一瞬、梨沙の方を向いた健吾の口元には微かな笑みがあった。
「うん」
”健吾(このひと)が私にする事は全て、優しさに裏付けられた意味がある”
離れていた一年の時間が、そのことを梨沙に教えてくれた。
”安心して隣を歩いていけばいい”
カフェミストを一口飲んだ。
ふわふわのミルクが口いっぱいに拡がった。
”今度こそ、幸せになれる”
確信に近い予感がある。
梨沙は、ハンドルを握る健吾の横顔を見つめると小さく頷いた。
130名無しさん@ピンキー:2011/04/21(木) 06:33:17.40 ID:r3GULULf
2011.12.20.17:25 新江の島水族館

職員用のドアは鍵が掛っていなかった。
”ここから入るのは、三度目”と梨沙は思い出した。
コンクリートの通路の両側には、たくさんの水槽が並び、色とりどりの魚が飼育されていた。
その大半は見たこともない魚だった。
水を循環させるポンプや発電機の低く唸る音でバックヤードは騒がしかった。
見なれた水槽があった。
しかし、その大きさとクラゲの数に圧倒された。
「梨沙」
水槽の前で立ち止まっていると、健吾に呼ばれた。
通路の先で健吾が振り返り、手を差し伸べていた。小走りに後を追う。
手を掴んだ健吾の顔には、いつもと変わらぬ穏やかな表情があった。
「行くよ」
展示場に通じる鉄の扉が開いた。
131名無しさん@ピンキー:2011/04/21(木) 06:34:48.24 ID:r3GULULf
展示室は水槽の明かりも消えて暗かった。
室内にはピアノが奏でるゆったりした曲が流れている。
天井のミズクラゲの形をした照明だけが青く点り、
グラスタワーを柔らかな光で浮き上がらせていた。
ワイングラスの中でクラゲが窮屈そうに揺れていた。
「きれい・・・」
タワーの発する幻想的な光と影に梨沙の眼が吸い寄せられた。
「ねえ」
「んっ?」
「クラゲ(このこ)たちって、展示が終わるまでずっとこのままなの?」
「そんなんことないよ」
健吾が背後から梨沙の肩を抱いた。
「毎日、選手交代する」
「よかった」
梨沙が健吾の顔を見上げた時、光と音が爆発した。
全ての水槽が光を発し、クラッカーの破裂する音が室内を満たした。
梨沙は驚き、あたりを見廻した。
「おめでとう!」
部屋のいたるところで祝福の声が聞こえた。
132名無しさん@ピンキー:2011/04/21(木) 10:10:20.43 ID:XVlGc1KE
ありがとうございます。

読んでいて胸がいっぱいになりました
涙うるうるです

又つづき書いてくださいね
133名無しさん@ピンキー:2011/04/30(土) 22:46:51.67 ID:zGIlo923
職人待ち
134名無しさん@ピンキー:2011/05/01(日) 23:07:28.76 ID:7Ab52S44
んーーー
待ち遠しい
135名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 22:50:41.46 ID:/HzORrVh
4月29日のロイヤルウエディング、素敵でしたね。という事で131の続きを・・・

2011.12.20.19:05 新江の島水族館クラゲ展示室

職員の手で展示室は教会に姿を変えた。
ミズクラゲの水槽の前に小さな祭壇が設けられ、
十字架を背に立つ堀由紀子が周囲(あたり)を睥睨し、厳かな雰囲気を作っている。
再び照明が弱められた室内には、
わずかに差し込む白色光が海水に反射して、
四方の壁にゆらゆらとした陰影を映していた。
「はーい、お出ましですよー」
厚手のカーテンで仕切られた一画からマリアが良く通る声を発した。
祭壇に続く絨毯の両側に並ぶ全員の眼が、一斉に声の方を向いた。
川本千鶴と佐伯ひかりがカーテンを左右に引く、
淡い光の中に梨沙が佇んでいた。

136名無しさん@ピンキー:2011/05/02(月) 22:52:56.94 ID:/HzORrVh
ビーズとレースをあしらった肩ひものないウエディングドレスは、
ウエストがキュッと締り、裾の長いプリーツのスカートが膨らんで
痩身の梨沙を少しだけグラマラスに見せた。
オレンジ色の薔薇のブーケが純白のドレスによく映えた。
花弁の上で小さな雫が微かな光を放つ。
隣で和子が頭を下げた。
燕尾服姿の吉村林太郎が梨沙の手を取ると、赤い絨毯の上をゆっくりと歩き始めた。
マリアと瑞希が一歩後ろに付き従う。
梨沙はわずかに顔を上げると祭壇で待つ健吾を見た。
初めて見るタキシード姿の健吾は、ベールを通してさえ眩しく思えた。
青く輝く水槽のなかで、ムーンジェリーが柔らかなダンスを踊っていた。
137名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 11:25:10.41 ID:ev7+kTcd
続き待つ
138名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 14:38:27.62 ID:rMid79+G
もう職人さん来てくんないかな?
一応保守
139名無しさん@ピンキー
ネタ切れ?