秋桜館学園の放送部室は、割と設備が整っている方だと小野原芽衣は思っていた。
というのも、放送部が唯一校外での活動としている放送コンテストの参加校の生徒たちが、こぞって秋桜館の放送設備に目を瞠るからだ。
芽衣自身は他校の音響機器が如何なものか知る由もないが、名だたる常連校にさえ羨まれるくらいなのだから、そうなのだろう。
春の入学式からすでに三ヶ月――そうとは思えないほどに過ぎし日のなんと早いこと――経っており、初夏の空気が校内にも手を伸ばしていた。
今年二年生になった芽衣は、晴れて放送部の部長となっていた。三年生はほとんどが受験によって部活を引退し、新入生が入学後の学生生活の青写真を選定し終えた時期である。
秋桜館学園放送部は数年前まで全国大会に名を連ねていた、いわゆる古豪という奴だ。それも今では鳴りをひそめ、ただ学内での連絡事項や昼の放送などを任されるのがほとんどだ。
単なる雑用のための部としての認識が近年では強まっているのも理由の一つで、新入部員はまだ名をあげてこない。見学には来たのだが。
四時限目の授業を終えた芽衣は、指定鞄から小さな弁当包みを取り出すと、赤チェックのスカートを翻して教室を後にし、ここ放送部室に来ていた。
それから放送機器を待機状態にし、あと数分で昼の放送――主に流行りの音楽をただ流すだけで、ときおり生徒の呼び出しなどを請け負う――を始めなければならない。
「ふう、ええと……あと二分ね」
芽衣は下敷きを団扇代わりに扇ぎながら、僅かでも夏から遠ざかろうと風を送る。
部室にはストーブはあれど、クーラーはおろか窓すらない。基本的に入口のドアは放送中に雑音を入れないための防音使用になっており、機器の使用中の開扉は原則禁止だ。
さてあと一分というところで、その扉が静かに開く音が室内に流れてきた。
「?」
扉の方に視線を向けた芽衣は、思わず顔を顰めて、鍵を閉めておけばよかったと後悔した。
重厚な扉を開けて入って来たのは、一つ上の先輩――木村遼だった。短髪で身体つきは運動部のようにいいのに、なぜか放送部に在籍している変わり者だ。
この人が、部員が入ってこないもう一つの理由だった。
とにかく顔が怖い。彼をカッコいい、男前だと捉える人は少なからずいるようだが、芽衣にはそうは思えなかった。
また、とにかく彼は手が早く、女子部員へのセクハラがあったという噂が後を絶たない。とは、もう引退した先輩の女子の言だが。
強面のセクハラ野郎とくると、欠かせない部員源である女生徒はおろか、放送部に入ってくるような小心者風の男子も臆病風に吹かれて入ってこない。
畢竟するに、木村遼は放送部の厄介者だった。
「……どうしたんですか、もう引退した方がこんな所に」
芽衣はおよそ目上の人に対する敬意を微塵も感じさせない、醒めた声音で詰問した。言外に避難の色が混じっているのは言うまでもないだろう。
そんな態度で応対されたことをちっとも気にしてないのか、へらへらとした笑いさえ浮かべながら遼は口を尖らせて言った。
「いやー○○ちゃんと一緒にご飯食べる約束だったんだけどさ、ちょっと不機嫌になって居心地悪くなっちゃってさあ」
彼が口にした人を知りはしなかったが、おそらくボディタッチでもされたのだろう、心の中で同情しておいた。
木村遼の女遊びは激甚なものだ。なまじ顔がいいだけに、学内は無論、学外でも手当たり次第声をかけているらしく、校内で浮名をこれでもかというくらいに流している。
「お、もう時間じゃないかな?」遼が壁に掛けられた時計をちらりと見て言った。「パンクチュアルな芽衣ちゃんにしては、少し遅れるなんて珍しいね」
「……だれのせいですか」
白々しく言ってくる遼をひと睨みして、すぐさま放送機器のスイッチをオンにし、マイクに向けてルーチンワークになっている定例句を言う。
「お昼の時間になりました。本日はみなさまからのリクエストにより――――」
一般生徒からリクエストされていたMDをセットし、回した。しばらくするとドラムの心地よいリズムが耳を叩き出し、そこにギターとベースの音が複雑に絡み合っていった。
マイクの電源をオフにすると、一息ついてから背後に立っている遼に向き直る。
「先輩、何か用ですか? 用がないなら出て行って欲しいんですけど」
「可愛い顔してつれないなあ、芽衣ちゃんは」
遼が値踏みするようにパイプ椅子に座る芽衣をじろじろと眺めてくる。
肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪はゆるく三つ編みにし、秋桜館の夏制服――白いブラウスに赤チェックのネクタイ、それに同色同模様のプリーツスカート――を着ている芽衣を、彼は可愛いと言う。
芽衣は自分を可愛いとは思っていなかった。お嬢様然とした人間や、スポーツ推薦で入って来た人たちに比べれば、地味で暗い方だという自覚があった。
それに、すぐに可愛いとか綺麗とかいう賛辞の言葉を女性に投げる男を、芽衣は心の底から不審に思っていた。
「……用がないなら、出て行ってください。まだ、仕事はあるんです」
本当はこれでほとんど終わったようなものだ。後は少ししてから教師から頼まれた連絡事項を一、二点伝えるだけだ。
一人の時間を過ごせるはずだったのだ。それを、この男が壊した。
「ちぇっ、ホント、冷たいなあ。少しは慰めてくれてもいいと思うんだけどな」
そう嘯きながら、遼は部室を辞するどころか、芽衣に近づき馴れ馴れしく肩に手を置いてきた。
「やめてくださいッ」
「おお、こわこわ」
咄嗟に払い除けても、当の本人はへらへらとまるで反省がない。暖簾に腕押し柳に風だ。
「一体何がしたいんですか……!?」
芽衣は弾かれたように立ち上がり、自らの胸を掻き抱いている。立った反動でパイプ椅子は倒れ、二人の間で横たわっている。遼は無言のまま素早く腕を広げると、そのまま芽衣を抱き締めた。
「――ッや、放してください!!」
遼の腕の中で芽衣は顔を振って暴れた。腕は締め付けられるように彼の胸に収められているから動かせない。そうだ、と思った時には、すでに膝で彼の股間を蹴り上げていた。
「イ゛ッ…………っ!?」
右膝におぞましい感触が残ったが、それも束の間、ゆるんだ腕を押し退けて彼を突き飛ばすと、身を翻して脇目もふらずに入口へ向かう。
ドアは内開きだったが、引いても引いても開かなかった。はっとして鍵を見ると錠が下りていて、それを上げようとしたところで襟首を掴まれ室内に引きずり込まれた。
「……っ、いやあ!」
「いってて…………芽衣ちゃんさあ、ちょっとじっとしててくんねえかな。俺、今むしゃくしゃしてるんだわ」
後ろへ尻もちをつく寸前に見上げた遼の口元は笑みに歪んでいたが、その目は笑っていなかった。カーペット敷きの床に引き倒された芽衣は、息をつく間もなく身体を捻られ、うつ伏せにさせられる。
遼が圧し掛かってきて、その重さに呻き声を上げる。叫ぼうと思ったのに、怖くて口が震えるばかりだった。彼は芽衣の両手を取ると、後ろ手に何かできつく手首を縛った。
襟首を掴まれて引き起こされた。ここまで僅か二十秒の出来ごと。
「いや…………先輩、やめて…………」
か細く震える声音で芽衣が言っても、遼は聞く耳を持っていないのか、背後に回って抱き締めてきた。
あひる座りで後ろ手に縛られている芽衣は、耳元にかかる熱い息に身を震わせた。ひと房にまとめた髪をそっと持ち上げられるのが、堪らなく嫌だと感じた。
「綺麗な髪してるよなー芽衣ちゃん」すんすんと匂いを嗅いでいる音が聞こえ、背筋に冷たいものが走った。「おっぱいはどうかな」
言うが早いか、遼はためらいもなくブラウスの上から芽衣の膨らみに手を当ててきた。
「いやッ……やだ…………」好きでもない男に触れられると、芽衣の生来の反骨精神が立ちあがる気配があった。「こんなことしてただで済むと思ってるんですか!!」
胸元で蠢くごつい手に不快感を覚えながらも、芽衣は声を張り上げて遼を詰る。
「触らないでッ……!! やめてったら、いい加減にしてよ!!」身を捩って腕から逃れようとし、腕を出鱈目に動かして拘束を解こうとするも、どちらも大して意味を成していなかった。
「結構、胸あるんだね。Cくらいかなあ、俺の見立てによると」
下劣な笑みをこぼしながら楽しげに遼が話すのを聞くと、抵抗心よりも恐怖心の方が次第に膨れ上がっていった。
「じゃあ、邪魔な布は脱ごうかあ」
間延びした気色悪い声を出すと、遼の手がブラウスのボタンを上から一つずつ外していく。
「や、やだやだ、やめて、お願い、もう…………やめて」
なおも膝を立てて無理に立ち上がろうとしたり、肩を怒らせたりしてみるのだが、男の力の前では火事場の馬鹿力といえども効果を見せない。
やがてブラウスのボタンが全て外されると、ゆるゆると脱がされていった――手が縛られているので、腕のあたりでブラウスは手つかずのまま残ることになる。
「お、可愛いブラしてんね」
「……最低、こんなことして…………恥ずかしく、ないんですか…………!?」
下唇を強く噛みながら、糾弾するように声を絞り出す。
「はは、震えたまま言われても、全然怖くなんてないよ?」
しかし彼はとりもなおざすに、芽衣の水色の水玉模様の入ったブラジャーの上から、小さ過ぎず大き過ぎずの胸をやんわりと揉んできた。胸の間に残ったままのネクタイが垂れている。
「……ッ」
自分でだって揉まないのに、と臍を噛む。
遼は左手で胸を揉みながら、空いた手で芽衣の鎖骨やうなじ、腹部をさわさわと撫でさすってくる。肌の上を走る無骨な指の感触に、怖気と若干のくすぐったさを感じ取り、身を捩らせる。
それをどう考えればそうなるのか分からないが、「気持ちイイの?」と遼がにやけ混じりにささやいてくる。
「そんなわけないでしょ……」
歯を噛み締め、俯きながら必死に耐える。
背中を走る指の感触が、水気のある肉感的なものに変わると、
「ひゃうっ!?」
意識せずとも声が出てしまった。彼は芽衣の背中のくぼみを執拗に――おそらく舌で舐めてくる。
ぞわぞわと耳の後ろで鳥肌が立った。
「肌きれいだねえ、くすみ一つないじゃん」
じゅるっじゅるっという音が背中で起きるたびに、耳の中で虫が蠢いているような寒気に襲われる。あらかた背中を舌が這い回った時には、芽衣は肩で息をしていた。
「こんなんでそんなになってたら、先が思いやられるなあ」
「ッ……はあ…………も、もうやめて……」
遼の手がブラのホックに伸びると、いとも簡単に胸の覆いがストンと太ももに落ちる。異性の前で胸をさらされ、言いようもない羞恥心が芽衣の中に込み上げてくる。
「いや――ッ!!」
しかし芽衣の嫌悪の声も空しく、遼の手は蛇のように身体中を撫でまわしていく。
手の中にすっぽりと収まった胸を、上へ下へ、右へ左へ、斜め上へ斜め下へと、むちゃくちゃに揺すられた。とたんに乳首を抓まれると、熱い感覚が一瞬だけ火花を散らした。
「ぁッ――」
思わず身を折り曲げてしまい、それを遼が目ざとく嘲笑うように指摘する。
「あれ、今、もしかして感じた?」
「違うッ……!」
「そう、じゃあもっと――」
遼の指捌きはピアニストもかくやというもので、乳首を内側から外側へ引っ掻くように弾き、時には強く時には弱く親指と人差し指で挟んでくる。
「ッ――うっ……あっ…………ゃぁ」
太ももを力一杯閉じ身体を折り曲げて刺激に備えているのに、遼は一瞬の隙を突くように乳首を責め立ててくるから、しばしば仰け反ってしまう。そこをさらに息をも吐かせぬ勢いで攻撃してくるのだから、意地が悪い。
じわじわと胸が痺れてくると、見計らったかのように手の動きがぴたりと止んだ。
「……っ、はあ」
止めていた息を再開すると、大きな空気が塊となって体外に出て行った。身体は仄かに火照っていて、夏ということも相俟って熱かった。
「熱い?」遼は太ももや尻をさすりながら芽衣に訊ねてきたが、それは無視した。
「放して……お願い…………」
涙交じりに懇願しても、彼は何とも思わないのか、取り合ってはくれなかった。それどころかスパイスのように感じているようだった。
「こっちはどうなってるかなあ〜?」
おどけた風に笑うと、遼の手がスカートの中に伸びてきた。さしもの芽衣も、これには喚き立てて抵抗した。
「放せッ!! いや、いやあああ!! 触るな――触んないでよ…………ッ!」
決死の力で開くまいとしているのに、彼は軽々と芽衣の太ももを押し開いていく。頭を振ってせめて鼻面に当たれと願うのだが、風を押しやるだけだった。
割られた太ももの間からぬっと、男の手が潜り込んでいく。内ももから焦らすように、徐々に昇ってくる不快感に、芽衣はうっすらと瞳に涙の膜を張っていたが、それを破るまいと堪えていた。
指の腹を押し付けられただけでも、どうしようもない拒絶感が芽衣を絡め捕る。嫌だ、嫌だと強く念じているのに、身体が竦んで動いてくれない。
周章狼狽して視線を泳がせると、隅に時計をはっきりと捉えたが、音楽を流し始めてからまだ十五分ほどしか経っていないことに、軽い眩暈を覚えた。昼休みはあと五十分ほど残っている。
下着越しに股間を擦り上げられると、少しの痛みと共に得も言われぬ衝撃が芽衣の身体を駆け巡った。
「つあッ!!」
短く、鋭い戦慄だった。今までに感じたことのない刺激が、電撃のように一瞬で身体を通り抜けた。
肌という肌が粟立ち、冷や汗がどっと吹き出るのを感じる。可及的速やかに逃げなければならないと本能が言っている。形振りになど構っている場合ではないぞ、と。
「い、い…………や…………や、や、やめて、ください、お願い、します」
歯をカチカチと鳴らしながら、訥々と芽衣は切願した。身動きの取れない自分では、遼の人間としての良心に手を合わせるしか方法が見つからなかった。
股間を弄る手は止まらず、いよいよ以って激しい手つきに移行していく。
「あんッ――!」
何かをピンと弾かれると、隠忍し難く声が口を衝いて出た。
遼はここぞとばかりに、その何かを突いたり抓んだり弾いたりしてくる。触れられるたびに身体が否応なしに跳ね上がり、下着の中が疼きを増していく。
「や、これ、だめッ……!」
先ほどまでとは毛色の違う感覚に、芽衣は忌避感以上の戦慄を極限まで高めていた。
「ダメッ――いや……いやあッ!! ああっ、お願いします、やめて、くださいいっ!!」
ぺたんと床についていた脚も、気がつくと立て膝のようになっていた。その脚に挟まれても、遼の手は小刻みに動く。
「やめてって……芽衣ちゃん」遼は息を吹きかけるように耳打ちしてくる。「こんなにすっごく濡れてるのに、やめてはおかしいんじゃないかなあ」
一瞬、頭の中が真っ白になって思考が停止した。
次に芽衣を揺すったのは、信じられないという悲愴感だった。
「う……そ…………」芽衣が呆然と呟いている隙に、遼は下着をずらして直に大事な部分に指を触れさせた。「うそ……うそ、うそうそうそ!!」
直截に彼の指が谷間をなぞると、首の後ろがぞくっという冷気に舐められ、不意に身体を仰け反らしてしまった。やにわに、彼の無骨な指が割れ目を押し広げてくるのを、肌身を以て感じた。
芽衣はたちまち暴れ出し、どうにかこうにか指の侵略を留めようとするのだが、遼の身体が邪魔してこれ以上後退れず、万事休すだった。
蠢きながら自分の中に入ってくる指が、まるで蛇か何かのように感じられ、全身が恐怖で竦み上がった。杭を打ち込まれるのを待っている心境だった。
指がすっぽりと収まると、どうして、という悲哀に満ちた自問が湧きあがってくる。どうして、どうして、どうして受け入れてしまうの。
「ぬるぬるだねえ、するりと入っちゃったよ」
歓喜するような口調で状況をいちいち説明してくる遼を睨み返すことも出来ぬまま、芽衣は彼の指の動くままに身体をくねらせるしかない。
指が中で曲げられると、そちらに引っ張られるような感じだった。指が動いた分だけ膣壁が広がるのが、意思に反してのことだと切実に自らに言い聞かせた。
しばらくすると、彼の手つきが労わるものから激しいものへとシフトしてきた。
「うああっ――――――!!」
親指で萌芽を押し付けられながら、指が中を擦ってくる。内臓が引っ張り出されてしまいそうで、総毛立った。やがて水の弾けるような音がしたかと思うと、動きはよりスムーズかつ熾烈なものになっていった。
「あっうあっ――くうぅッ!! ンッああっ」
仕舞には一本の指では飽き足らずに、彼はもう一本も押し込んできた。最初は裂けそうな痛みに慄いたのに、いざ頭が入って来たら途端にするりと呑み込んでしまった。
二本もの指を受け入れたという恥辱と屈辱に、芽衣は泣くのを堪えて下唇を噛み千切らんばかりに口の中に巻き入れた。
本数を増した指はそれぞれが交互に動いたり、時には同時に膣壁を押し上げてきたりする。その一つ一つに、芽衣は顕著な反応を隠し果せない
「あッ――――――…………」
立てた右膝に額が付くくらいに身体を曲げて痙攣させていると、いいように遊ばれているようで惨めな気持になった。
「二本も入れられてるなんて、芽衣ちゃんは淫乱だなあ〜。もうびちょびちょだしねえ」
冷笑するように、見せしめるように、彼は指を引き抜いては濡れたそれをまざまざと芽衣の眼前に掲げる。二本の指を開いたり閉じたりすると、指の間で透明な液体が糸を引いていた。
「違う……違う違う違う…………」
目を閉じてふるふると頭を振っても、何かが変わるわけではなかった。開いた口に、遼がその指を突っ込んできた。
「ンッ、いひゃっ!!」
指に付着した液体を塗りつけるように、彼の指が舌などに触れてくる。
――いや……自分のなんて。
引き抜かれた指を見ると、いっそ殺して欲しいとさえ思った。
「芽衣ちゃん可愛いなあー……俺、すっげー興奮しちゃったよ」
遼は愉快気に、後ろ手に回された芽衣の手に何かを押し当ててくる。芯のある硬さと柔らかい感触が一度に手のひらに広がると、逡巡ののちにそれが何であるのかを悟る。
「い、いや……気持ち悪い」
手首の動きだけで押し払おうとするのだが、彼はさらに擦りつけるように密着してくる。
「そう、俺は芽衣ちゃんの手で触られて気持ちいいんだけど」
悦に浸るような遼の言い様に、怫然と怒りが湧いてくるのを芽衣は感じて立ち上がろうとしたのだが、彼に脚を取られて頭から床に倒れ込んでしまった。
「自分からお尻を突き出すなんて、分かってきたじゃん」
「ち……違っ」
起き上がろうにも、腕は依然として縛られているから簡単に上体を起こすことが出来なかった。遼の手がスカートを捲り上げ、芽衣の下着が露わになった。
「いや――見ないで…………」
床を舐めさせられ、挙句の果てに尻を突き出している――そんな自分の哀れな姿に、泣き出したくなってくる。
遼の手が下着に伸びると、制止する時間もなしにずり下げられた。
「へえー、きれいなま○こだね。はは、下着が糸引いてぐしょぐしょだ」
あられもない姿に、顔から火が出てしまいそうな恥ずかしさだった。悲憤と暗澹な気持で頭がどうにかなってしまいそうだ。
「お願い……もう…………」
きつく目を瞑って哀願するも、遼は飄々と聞き流している。
「すごい匂いだな……」お尻に鼻頭が当たっているのが分かり、悔しさが込み上げて来る。
いきなり啜り音が耳を打った。
「――え……な、何やってるの…………?」
恐る恐る口に出すと、遼は何でもないように言いのけた。
「何って、舐めてる。芽衣ちゃんの汁、飲んでるの」
「……いやあ…………そんなこと、しないで……」
あそこに口をつけられているという醜悪な絵面に、生理的な嫌悪が生じた。股間が唾液と愛液でべとべとにされていく――
「あっ……いや、だめ…………ッ!!」
「んん、んむ、じゅるるるるる」
遼は貪るように激しく口と舌を総動員して股間を嬲ってくる。舌が割れ目や萌芽をなぞった時は血の気が引いた。彼が満足するまで、芽衣は尻を突き出す格好で股間を舐られていた。
「はあ、はあ、はあ、はあっ――――――」
支えられているからうつ伏せになることも出来ず、芽衣は尻を突き出したまま息を荒げる。
「俺ももう我慢できそうにないや……」
一息で急くように呟くと、後ろの方でカチャカチャと音が鳴る。見なくとも、何をしているのかははっきりと分かった。
「いや……お願いします…………それだけは…………それだけは、いや………………いやあ」
啜り泣きながら嘆き願う。体裁などを取り繕っている場合ではなかった。
遼はしばし沈黙していると、立ち上がって倒れたパイプ椅子を元の場所に戻した。
芽衣を膝立ちにさせて椅子の前にまでやってくると、遼はそのパイプ椅子にどかりと腰かけた。机の下に入れられた芽衣の目の前には、グロテスクなものがそそり立っていた。
「…………」
俯いて視線を外していると、頭上から威圧的な遼の声が降ってきた。
「すぐに犯っちゃってもいいんだけどさ、チャンスをあげるよ」弾むように言葉は続く。「今、ええと三十分だから、四十五分までに俺を気持ちよくさせてよ」
「な、にを……」
「だから、芽衣ちゃんが俺を満足させられたら、これを入れないであげるって言ってるの」
そんなこと、と芽衣はわなわなと肩を震わせる。
「そんなこと……出来る訳ないでしょ…………」
「そう? まあ三十五分までなら待ってあげてもいいけど、それを過ぎたら……分かるよね?」
にこりと笑みを浮かべてくる。芽衣は悲愴感を漂わせた。
「……どうすれば、いいんですか…………」
「それは、自分で考えてもらわないと」
けんもほろろな応対に、芽衣ははらわたが煮えくりかえりそうな思いだった。
ブラウスもブラも手に引っ掛かったまま、後ろでしわを寄せあっている。パンツもさっき引き抜かれていた。今芽衣が身に着けているものと言えば、スカートと膝下の紺のソックス、それにネクタイくらいだ。
こんな身なりで貶められて、どうして私がこんな最低な奴を気持ち良くさせなければならないのか。
すぐさま立ち上がって無様に晒している遼の股間を蹴り上げてやりたかったけど、机の下に押し込まれている今では、それも叶わない。そんな状況で、一体何をすればいいのだ。
脳裏を掠めた考えに、芽衣は自分で落胆する。手が使えればと思うのに、手首に回る彼のネクタイはちっともゆるむ気配を見せなかった。
この状況で芽衣に出来ることなんて、一つしかなかった。
憤然たる面持ちで遼を睨み上げる。制服はほとんど脱ぎ散らかしていて、胸まで開けられたワイシャツだけが彼を覆っていた。陶酔しきった眼がこれ以上となく憎たらしかった。
芽衣は大きく息を吸い込むと、丸出しの彼の下半身にそろそろと顔を近づける。
こんなことはやりたくなどない。でも、待っていてもただ好き勝手にされるだけだ。澱のように溜まった反抗心が、芽衣をそうさせている。
凄まじい臭気を放つ一物をひと舐めすると、嗚咽が込み上げてくる。気持ち悪く、壮絶な吐き気で胃が痙攣する。
ちろちろと舌を伸ばして、蛇の頭のようなものを舐める。上目遣いで遼を見上げると、あくびをして余裕そうな態度だった。芽衣が憤慨するのも無理はないだろう。
遼越しに見える壁の時計は、すでに三十五分を回っていた。後十分近くもこんなことをしなければならないのかという嫌気と、たった十分で彼を満足させられるのかという不安が渦を巻いた。
舌の動きを早めても強めても、彼はうんともすんとも態度や表情を変えなかった。それがいっそう、芽衣を当惑させた。
断腸の思いで臨んだ行為が無駄だとは考えたくもない。
芽衣はある種の諦観を抱えて、戦慄きながら口を開いていく。一杯に口を開けて、覚悟を決めてペニスを口に含んだ。瞬間の鼻を衝く匂い、喉を圧迫する味、ゴムのような感触が、芽衣をどん底まで貶めた。
涙を流しながら、男性器を奥まで咥える。舌を動かしてやっと、頭上の遼が僅かな呻き声を上げたのを聞いて安堵してしまい、複雑な気持ちで胸が一杯になった。
鼻で息をしながら、芽衣は我も忘れて舌を動かし続けた。目もきつく瞑り、自分のしている行為を視界から追い出す。あらゆる感覚を遮断して、全部を擲ってしまいたい。
ふやけるくらい舐めているのに、遼はちっとも声を荒げない。何がいけないのかもさっぱり分からないまま、芽衣は自分を信じて舌を使い続けた。
ずっと顎を開けているというのはひどく疲れるものだ。舌だって無窮に動ける訳ではない。
顎が外れそうな感覚に、芽衣はペニスを口から吐き出した。噎せ返り、口の中に広がる男の味を感じないように意識する。
「はあっはあっはあっ…………」
薄ぼんやりとした視界の果てに見た時刻に、芽衣は絶望にも似た感情を抱いた。
あと二分ほどで、約束の時間になってしまう。
「芽衣ちゃんにはちょっと難しかったかなあ?」
最初から知っててやらせた癖に、と内心で毒づきながらも、芽衣は泣き笑いのような顔を遼に向ける。
「お願い……何でもするから…………これだって舐めるし、何してもいいから…………だから………………入れるの、だけは」
いまさらになってもう遅いだろうが、芽衣は倒錯したように彼の一物に舌を這わせアピールする。藁にでも縋りつきたい心境で、遼の人間としての道徳深や慈悲に訴えかけようとする。
分針があと一分を告げると、芽衣はますます気を動転させる。
「……お願いします、何でもします……だから…………だから」
しかし遼は一言も発さず、時間は無情にも刻一刻と進みだす。
約束の時間になると、遼は芽衣の脇の下に手を入れて机の下から出させた。そして後ろを向かせると、彼の上に座らせようとする。芽衣は身を捻らせて必死に抵抗を試みる。
「いや、いやっ――!」髪を振り乱しながら暴れる。三つ編みがぶんぶんと尻尾のように動き、時折彼に当たる。「やだっやだあああ!!」
膣口に肉棒が宛がわれると、実にゆっくりと芽衣の腰が下ろされていく。どうにか踏ん張って立ち上がろうとするのだが、腰を掴まれていてはうまくいかない。
「うっ――うう……」
棒の形に膣壁が広がっていくのが分かる。じわじわと入ってくるの感覚は、まるで注射されるのを今か今かと身構えているようだった。
徐々に裂けるような痛みが膣を走り、疼痛に芽衣は伸吟する。ぼろぼろと涙をこぼしながら、歯を食いしばってなおも抵抗しているが、腰は確実に落ちていっている。
「そら、全部入るぞ……」そこまではじっくりと焦らすようだったのに、ある一点で彼は力一杯に芽衣の身体を引き落とした。
「うああああああああああああッ!?」
一気に膣が押し広げられ、一瞬息が出来なくなった。身体中に焼けた杭を押し付けられているような痛みが芽衣を襲う。
「おお、全部入ったねえ」
「あっ…………かはっ……」
芽衣は驚愕に目を瞠り、ぱくぱくと口を動かしている。息も絶え絶えといった様子で、今何かすればすぐに狂ってしまいそうだ。
「動くぞ」
遼はそんな芽衣の状態をこれっぽっちも気にせず、自らの腰を突き上げた。
「あああああああああああッ――――……」
一度突かれただけで、張りつめた緊張の糸がプツンと切れてしまった。
太ももがぶるぶると震えだし、身体中に広がってくる。一石を投じられた湖面さながらだった。
「おいおい、一度突いただけでイったのか?」
にやけながら遼が耳元でささやいてくる。今はそれさえも、身体をぞくぞくさせるものでしかなかった。
遼は芽衣の胸を揉みながら、身体を揺すってくる。膣の中で前後に動くペニスが感じられて気持ち悪い。
芽衣の身体を持ち上げて落とす、という動作を彼は好んで行った。自重がかかる分、芽衣の身体への負担は相当なものだ。
「うっあうっあっあっんンっ――……っああっ」
こうなってしまっては罵りの言葉を上げることも許されなかった。何かを発しようと口を開けると、刺突によって遮られ、出てくるのは喘ぎ声ばかりだ。
まさに死命を制せられたという有様だった。
ペニスが奥深くに当たると、膣から何かが溢れ出て止まらない。息をするのもつらく、抗う気持ちはどこへやら、一転して芽衣は彼が与えてくる性的な刺激に身をくねらせている。
そそり上げられ、下ろされ、壊れてしまいそうだった。
「お、何だこれ……」遼が机の上にあったプリントを手に取る。「へえ連絡事項か」
遼の腕が机上の機器類に伸びると、腐っても放送部員、器用にダイヤルなどを調整して、マイクのオンオフのスイッチに手をかけた。腰の動きが止まると、芽衣の荒い息遣いが室内にわだかまっていた。
「はあっ……はああっ…………?」
虚ろな瞳で肩越しに遼を見た。彼はプリントを掲げて、とんでもないことを言い放った。
「芽衣ちゃん仕事はちゃんとしないとね」彼がマイクスイッチの傍らにあるボタンを押すと、ずっと流れていた音楽が中断されてチャイムのような軽快な音がスピーカーから流れてきた。
連絡事項の前に流すチャイムだった。
「まっ待って――」
「ほら、早く読んで」
遼は芽衣の制止を振り切って、マイクのスイッチをオンにした。唸るような音がスピーカーから漏れ、マイクが声を拾う準備を整えた。
芽衣は痙攣する手でプリントを何とか掴むと、艶っぽい声で訥々と連絡事項を読み上げていく。
「に、二年……B組の、○○、くん……□□先生がお呼びです……っ――至急、教員室まで、起こし、くださいッ…………」
何とか読み上げて顎でスイッチを切ろうとした刹那、遼が烈しく腰を突き出してきた。
「あうううううッ……!!」
突然の衝撃に、芽衣は身体を仰け反らして、果てた。
全校生徒が放送を聞いている前で入れられていた。その屈辱感と羞恥心、そして恐怖心が否応なしに芽衣の快楽の度合いを高めていたのだ。そして、一突きで絶頂を、あろうことかマイクのスイッチが入ったまま迎えた。
――うそ……これ、放送……されて、る……?
信じられないことに、マイクのスイッチは入ったままだ。芽衣は慌てて切ろうとするのだが、顎でやるのも難しく、また遼が椅子から立ち上がって後背位で腰を打ちつけて来るため、うまくいかない。
「ちょ――まっ」
小さな声で彼を諭そうとするのだが、遼は聞く耳持たずに芽衣の腰を掴んで恐ろしく早く強くペニスを抽出してくる。
「まっ――ああああッ!! イッ……!! ふああッ」
流れてる。私の声が、校内に……。全校生徒に、聞かれてる――。
あられもない喘ぎ声を、犯されているのを、嬌声をあげているのを、聞かれている。
芽衣はあるまじき事実を嫌忌するのに、そのスリルが作用して昂じていく。聞かれているのを考えただけで、どうしようもない快感が生み出されていく。
「はは、お前聞かれて感じてんのか? とんだマゾだな」腰を動かしながら、彼がマイクを芽衣の口元まで伸ばす――金属の太いワイヤーのようなものが机から伸びているのだ。
「ほら、もっと声聞かせてやれよ」
「あっ、イヤ、やだあ――……」
ふるふると首を振っても、快楽は去ってはくれない。突かれる度に身悶えして、甲高い悲鳴を上げてしまう。聞かれていると分かっているのに、声が、快感が止まらない。
もう何度果てたか分からない。ただでさえいいようにあしらわれているのに、声が流されていると思うと、嫌なはずなのに余計に感度が上がってしまう。
「俺、もうイきそう」
遼は待て暫しのない性格だ。芽衣は首を捻って肩越しに彼に振り向き、すかさずに声を荒げる。
「な、中は、やめてッ……!!」
「さすがに俺も中出しはしねえって――」遼は振り向いた芽衣の顔を慈しむように手で撫でる。「可愛い顔に出してやるから」
たちまち芽衣の顔が悲嘆に歪められる。
「それとも口に出してやろうか?」
ぞっとした。芽衣だって男が出すものが何かなんて知っているが、あんなものを顔に……ましてや口になんて、冗談じゃなかった。
でも、芽衣の喉は嗄れ、満足に侮蔑の言葉も吐くことが出来なかった。否定も肯定の意思表示も及ばぬまま、ひたすらペニスを突き立てられる。
「っ――イ、く」
膣内で一瞬、ペニスが膨らんだ。かと思うと、勢いよく引き抜かれる。芽衣の身体が支えを失ってくずおれる前に、遼は肩を起点に身体を捻らせ、髪を掴んで顔を上向かせた。
「おら、口開けろよ!」
小作りの綺麗な顔に向けて、遼は欲望を迸らせた。
芽衣は彼の激高したような大声に、防衛本能から口を開けてしまった。
口の中にどっぷりと精液が放出された。顔にも粘っこい白濁がしたたかに打ちつけられ、みるみる芽衣の顔と口が夥しい量の精液で汚されていく。
「はっ――くうっ」
口から溢れた精液が口元から顎にこぼれて、胸にまで垂れてくる。顔はもう、精液のせいで凄惨たる様相を呈していた。
勢いが弱まったかと思うと、最後に口に一滴、精液が落ちてきた。それで、やっと長い苦痛の時間が去っていった。
芽衣は目も開けられぬまま、口も閉じられぬまま、鼻腔を突く生臭い異臭に顔を顰めていた。顔には精液が張り付いていてひどい状態だ。口の中は白濁で埋め尽くされている。
吐きそうだ、そう感じた時、遼が芽衣の口を無理やりに閉じさせ、居丈高に言い放った。
「飲め」
ふざけるな、と声を荒げたかったが、鼻の穴が精液で塞がっていて呼吸が満足に行えず、空気を求めて必死に口の中のものを嚥下した。
喉に張り付くし、どろっとしているしで、全部を飲むのに苦労した。およそ人間の飲むものではない、ぞっとする感触が口と喉の内側に広がっていった。
「よくできました」
遼は労いの言葉を投げると、芽衣のゆるく編まれた髪を手に取り、それで何かを拭いた。おそらく、引き抜いたペニスだろう。なんてことをするのだと、悲憤慷慨した。
それを終えると、遼は芽衣の束縛を解いた。もう腕を振り上げる力もなかったから、手はだらんと垂れさがったままだ。
「それじゃ、俺もう行くわ。あ、ティッシュ置いておくから顔拭いておけよ」
衣擦れの音がし、遼が空々しく、
「気持ち良かったよ」
と言い残すと、防音扉の開く音とともに、室内には芽衣の息遣いだけが残った。
ティッシュで顔を拭き終えた芽衣は、死んだ魚のような目で呆然と宙を見つめていた。
口の中はまだ生臭さと精液の味がこびりついているし、顔だってまだねばねばしたものが載っている感触が拭いされない。何といっても、股間の異物感はひとしおだった。
まだ中であれが蠕動しているように思え、膣がひくひくと動いているのを感じる。下着は着けていたが、遼の言う通りぐじゅぐじゅで気持ち悪かった。
――もう、生きていけないよ……。
私は嫌がっていたし、不本意の行為だった。でも、放送を聞いた生徒たちはどう思うだろう? 部員が乱れているとしか思わないのではないか。
芽衣は顔を覆って泣き出した。
純潔を奪われ、身体を汚され、全生徒に見られたも同然のことをされた。
得も言われぬ絶望感と無力感に苛まれて、もう怒りすら湧いてこなかった。
昼休みの終わりを告げるチャイムが空しくなり響くと、芽衣は機器類を止めるために立ち上がって、それに気がついた。
マイクで声を流す時、どこに流すかは任意で行える。マイクのスイッチはオンのままだったが、それはどこにも流れてはいなかった。
芽衣は流れていると思い込んで、遼のいい玩具にされていたのだ。
それを見て――遼への憤りよりも、安堵感の方が芽衣を包んだ。
良かった……そう思ったのも束の間、良くはないと思いなおし、芽衣は一人、さめざめと泣くのだった。
以上です。いかがでしたでしょうか?
しかし文章書いてると、プロってすげーなーと思うわけで、まあ状況だけを描く難しさを痛感させられます。
なにかアドバイスとかあったら教えて欲しいです。