12時20分。
3時間目の地理を終え、ケータイを起動すると琴姉ぇからのメールが届いていた。
やはり着信時間は12時ぴったり。
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From:琴姉ぇ[
[email protected]]
Subject:ヒデ君、2つ目の3の倍数の時間だよ!
本文:
ヒデ君、12時だよ!
とりあえずお昼休みが20分からだからちょっとずれ込んじゃうけど……。
昼休みは屋上に来てね!
お弁当用意して待ってるっちゃ!
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(お弁当か、いいな)
購買部にパン争奪戦に行こうとしてた俺には朗報だった。
琴姉ぇのお弁当ならかなり期待できる。
……朝みたいに妙な献立じゃなければいいが……。
「おい、ロリヒデ」
声をかけられた方を向けば、今朝のロリコン疑惑の元凶となった田上だった。
やたらニヤニヤしているのが気持ち悪い。
「ロリコンのことだったら誤解だぞ」
俺は屋上に行くために適当に話を切り上げるつもりで席を立ち上がった。
が、田上はなれなれしく俺と肩を組むようにしてそのまま俺の耳に顔を近づけるようにして囁いた。
(おい、あの古典の授業中に見てたの、野母崎のハメ撮りか?)
ちょ、見えてたのかよ!
俺は言葉には出さず心の中で焦る。
……ということはこいつはあの写真を知っていた上でロリコン呼ばわりしてたわけか。
こいつ、いつ殺そう。
(……で、野母崎をハメ撮りする関係になってる、と言うことはもうデキてんのか?
それとも何か弱みを握ってるわけ?)
……まずい、こいつが絡むといろいろ面倒になる。
適当にごまかさなくては。
(言っとくが、あれは琴姉ぇじゃないぞ)
(へ?
で、でもあの三つ編みはどう見てものもざ……)
(そこだよ、琴姉ぇにそっくりな三つ編みのエロ画像を拾ってきたんだ。
琴姉ぇよりスタイルよかったろ?)
(……そういやそうかも……)
いや、実際さっきの直撮り見たら俺も初めて琴姉ぇが着やせするタイプだと知ったんだがこいつはそんなこと知る由もないだろう。
(だろ?
いつもドタバタに付き合わされてる仕返しに、琴姉ぇも悔しかったらこんなにグラマーになってみろ。
そんなちんちくりんじゃ男にも相手されないぜ、って言ってやるつもりなんだ)
(なんだ、そんなことか、わははは)
……田上が単純な奴でよかった。
(よし、俺もネットで三つ編みのエロ画像拾って野母崎からかってくるか)
ひそひそ話をやめて田上が顔を離す。
「じゃな、ロリヒデ!」
ようやくうっとおしい悪友が去っていった。
余談だが、田上はこの数日後琴姉ぇにエロ画像見せてぶっ飛ばされることになるのだがそれはまた別の話。
そして、このときの会話が余計俺を面倒なことに巻き込む由になるとは俺もこのときはまだ知らなかった。
俺はペットボトルのお茶だけを握りしめ、屋上に向かう。
階段を上りきると、屋上へのドアが見えた。
しかし、そこには普段は見ない『立ち入り禁止』の立て看板が。
(……今日は入れないのか?
それとも琴姉ぇが奥にいるのか?)
ドアの透明プラスチックの窓から屋上を覗くと、そこにはこちらに向かって手を振る琴姉ぇの姿が。
(入って大丈夫そうだな)
俺は躊躇なく屋上へのドアを開けて青空の下に出た。
今日は秋晴れと呼ぶにふさわしい快晴で、空気も乾いていて夏独特のじっとりとした蒸す感じもない。
また、照りつける日差しは少し強いがほどよい風が吹いていて、絶好のお弁当日和だといえる。
「琴姉ぇ、来たぞ」
「ヒデ君、待ちくたびれたよ〜」
琴姉ぇの方を見ると、ずいぶんな荷物だ。
屋上の床に広げたビニールシートの上に、風呂敷で包まれた弁当箱が2つ。
そしてその横には小型のクーラーボックスもあった。
「クーラーボックス?
飲み物か?」
「うん、飲み物も含めていろいろだね、ささ、くるしゅうない、ちこうよれ」
「へいへい」
俺はビニールシートの半分から手前側に靴を脱いで座る。
琴姉ぇは奥側半分にちょこん、と女の子座りで座り込んだ。
「しかし……琴姉ぇ朝から俺の家で朝ご飯作ってなかった?
弁当なんていつ作ったんだよ」
「うん?
昨日の夜に下ごしらえして、朝から朝ご飯作る横でちゃちゃっと作ったよ?」
……すごい、さばけてる。
昔からお母さんの手伝いで家事をかなりやっていたので琴姉ぇの家事のスキルはかなり要領がいい。
……しかし、スッポンのにこごり作りながら弁当を作る女子高生はなかなかいないだろう。
「また妙な弁当じゃないだろうな」
俺は琴姉ぇにジト目を向ける。
「ぶー、疑ってるな? いいよ、耳の穴かっぽじってよく見るべし!」
「いや、耳掃除しても視力は変わらないから」
といいながらも、俺はかわいいピンクの風呂敷に包まれた弁当箱を受け取る。
細長い長方形の弁当箱で、2段組のようだ。
俺は早速風呂敷を解き、上の段から開ける。
「おお、綺麗だな」
思わず口笛をその場で吹くような気持ちになるほど、見事な手作り弁当だった。
卵焼き、鳥の唐揚げ、人参と里芋の煮物。
空いたスペースをレタスの葉やトマトで彩り、おまけにタコさんウインナーまで入っている。
(田上の奴が知ったら嫉妬で血の涙を流すな……)
ちょっとだけ、あのうっとおしい悪友に優越感を覚える。
「下の段はご飯か?」
カパ、と下の段を開けた俺に衝撃が走る。
彩りのいいご飯だ。
ご飯の上におかずが乗ってる。
右半分はそぼろ。
左半分は正方形の形に周囲に炒り卵がまぶしてあり、中央に、
「なんでハートマークなんだよ!」
鮭フレークでハートマークがかたどられていた。
流石に動揺した俺を見て琴姉ぇはけらけらと笑う。
「あはははは! ヒデ君めっちゃ動揺してる!」
「う、うるさい!」
俺は動揺を隠すように割り箸を割るとまずそのハートの部分のご飯をがつがつとかき込む。
「あ〜〜〜〜〜っ!? 味わって食べてよ!」
とりあえずその言葉を無視してハートを崩すまで一気食い。
その後、もちろんせっかくなのでゆっくり頂くことにした。
「唐揚げ、うまいな。
うちの味付けにそっくりだ」
「だってヒデ君のお母さんに教わったもん」
「そっかそっか、うちのお袋に……はぁ?!」
聞いてねーぞそんなこと。
「ヒデ君のお母さん、うちの味付けに興味があるんだったら教えてあげる、っていろいろ教えてくれたよ」
俺はしばらく出張で仙台に行ってるお袋がいつの間にか琴姉ぇとそんな会話をするようになったかという事実に驚いた。
単身赴任で遠方にいる親父よりかは家にいるが、お袋だってそんないつでも家にいるわけではないのに。
そんなことを思いながらも、琴姉ぇに料理の感想を言いながら弁当を食べ進めていく。
正直、琴姉ぇは料理上手だから文句のつけようがなくおいしい。
「唯一不満を述べるなら唐揚げが2つしか入ってないことかな。
俺みたいな男子にはちょっと肉が食べ足りない」
俺は軽く笑ってそう伝える。
「え、そうなの?
じゃあヒデ君に私の分をあげるよ」
琴姉ぇはその言葉を受けて箸で自分の唐揚げを摘む。
「いや、いいよ悪いから」
「遠慮しなくていいよ。
女の子はお肉や油ものそんなにいらないし」
琴姉ぇはにっこり笑う。
「そうか、じゃあ……」
俺は弁当箱を差し出すが、内心琴姉ぇが『はい、上げたー』なんて言って唐揚げを高く上げた後自分で食べる、なんて流れでからかわれるんじゃないかと思ってた。
だが現実は違った。
「はい、あーん」
「え?」
「聞こえなかったの?
ほら、あーんして」
……あーんって、あれだろ。
都市伝説だろ。
いちゃいちゃしたバカップルがするアレじゃないのか。
なんで琴姉ぇが俺にやってるんだ。
「ヒデ君?
食べないの?
美味しくなかったのかな……」
琴姉ぇが上目遣いで少し悲しそうにこちらを見る。
くそ、これじゃ俺が悪者じゃねぇか。
俺はおそるおそる近づいて、目をつぶって琴姉ぇの箸から唐揚げを食べた。
「ふふっ、餌付け成功♪」
琴姉ぇが微笑む。
「餌付けっておい……」
「あはは、でも小さい頃のままごとみたいだね」
「……そうだな」
小さかった頃のお互いの遊びを思い出して少し懐かしく、俺は微笑んだ。
「さて、ヒデ君。
9時のイベントの感想を聞こうかな?」
弁当を終えて、風呂敷を結んでいると唐突にその時間は訪れた。
琴姉ぇはニヤニヤしている。
「いや、感想はメールで聞かせただろ」
俺はその話を打ち切ろうとそう言った。
琴姉ぇは残念そうにしていたが、
「じゃあ、聞き方を変えるよ」
そう言って、
「私のセミヌードどうだった?」
「〜〜〜〜〜〜〜っ!」
少しだけ艶っぽく笑った。
俺は顔が熱くて言葉が出なかった。
「ふーん、まんざらじゃなかったんだね?」
「いや、ビックリしただけだし!
急に授業中にあんなメールが来たから!」
「じゃあじっくり見てないの?」
「見るか!
何が悲しくて古典の授業中に自分と幼馴染みが主人公のエロ小説読みつつ挿し絵よろしく添付されてる幼馴染みの卑猥な写真を見なきゃいけないんだよ!」
「ちぇっ、その方法はダメだったかぁ」
「何がだ」
「ううん、別に」
琴姉ぇは残念そうにため息をつく。
俺のリアクションが小さかったからか?
「でもいいよ、とりあえず。
ヒデ君、デザートにしよ」
そう言って琴姉ぇはクーラーボックスを開ける。
「うん、賛成だ」
俺も食後の甘いものは楽しみだった。
だが、俺は完全に忘れていた。
12時もまた3の倍数だったということを。
「はい、とりあえずバナナ」
琴姉ぇはクーラーボックスからバナナを取り出す。
「おっ、程良く冷えててうまそうだな、いただきます」
俺は早速皮をむいて食い始める。
横で琴姉ぇもバナナをむいて口にくわえた。
……明らかに食い方がおかしい。
「んっ、んむっ、んちゅっ、んふっ……」
明らかにバナナを食べる音ではない卑猥な音を立てて琴姉ぇがバナナを食い始めた。
左手でバナナに手を添えて、右手はおさげともみあげをかき上げながら。
眉根を寄せて、目をつぶり、ちょっと切なそうな表情で。
その仕草に、俺も男だしついついフェラを連想してしまい少し股間が硬化する。
俺はできるだけ意識しないように自分のバナナに集中する。
が、隣にいる琴姉ぇは相変わらず、
「んん、ふっ、ふっ、ちゅっ、ん……ん……」
バナナに口を占有されているため鼻で少し息を荒くして食べてるんだがねぶってるんだがよくわからない動作を続ける。
一瞬、琴姉ぇが俺のものをくわえているところを想像してしまい、不謹慎だと思い必死にその想像を霧散させた。
「ふぅ、おいしかったねバナナ♪」
「あ、ああそうだな……」
琴姉ぇは何事もなかったかのように食べ終わって微笑むので俺は少しひきつって答える。
「デザートまだあるんだよー」
そう言って琴姉ぇはクーラーボックスをゴソゴソする。
「いや、バナナはもういいから!」
俺は慌てて琴姉ぇに伝える。
すると琴姉ぇは、バナナはもうないから大丈夫だよー、なんて言うから俺は安心していた。
……油断した。
「ジャジャジャジャーン、アイスキャンデー!」
またも未来の猫型ロボットのような効果音で琴姉ぇがアイスキャンデーを取り出す。
「夏の定番!
ラムネ味だよ!」
「……さいですか」
俺はアイスキャンデーを袋から取り出し、食べ始める。
確かにまだ暑いし、屋上で食べるアイスキャンではめちゃくちゃおいしい。
で、琴姉ぇの方はやっぱり予想通りだった。
「ん、んちゅっ、ふっ、ふっ、んむっ……」
また片手で髪をかき上げながら切なそうに眉根を寄せて、目を閉じてアイスキャンデーを舐め始めた。
しかも、食べるだけのバナナと違い、舐めて食べられるものだけだから余計エロい。
アイスキャンデーが琴姉ぇの口から出たり入ったり。
時々アイスキャンデーの汁が琴姉ぇの唇から垂れるのがまたいやらしかった。
「ん、んぅ、んむっ、ん、ひ、ひでふぅん……」
アイスキャンデーをくわえたまま名前を呼ばれて俺のドキドキが最高潮に達する。
「な、なんだよっ」
「ん、んふっ、ふーあーふっ、ほっくふのなふぁに、まふぁえーと、あるかふぁ、ふっ」
どうやらクーラーボックスの中にまだデザートあるから、と言いたいらしい。
くわえたままだから言葉になってないけど。
俺は琴姉ぇを見ないようにクーラーボックスの中を覗き込む。
そこには2本、紙パックの飲むヨーグルトが入っていた。
「あっ、このヨーグルトね!
もらうな!」
できるだけ大きい声を出して琴姉ぇのなんちゃってフェラが聞こえないようにしながら俺は紙パックを開けてヨーグルトを飲む。
「う、うまいな。
やっぱりビフィズス菌は最高だぜ!」
動揺してるので自分でも何を言ってるかよくわからない。
ようやく琴姉ぇもアイスキャンデーを食べ終わってくれて、俺の股間も落ち着きを取り戻しつつあった。
「やー、やっぱり健康にはヨーグルトだよねぇ」
琴姉ぇはヨーグルトを開けると口をつけて一気飲みの要領で飲み始めた。
「おい、そんなんしてたらむせるぞ」
「こほっ、けほけほっ」
「ほら、言わんこっちゃ……ッ?!」
案の定むせた琴姉ぇを気遣おうと近付こうとして俺はまたも硬直した。
琴姉ぇの口の周りが飲むヨーグルトで白濁し、唇の端からセーラー服の胸元まで白い液体が一条、二条の線を作って垂れている。
さっきまで疑似フェラしてた直後にまるで口から白い液を垂らしているようで、ようやく落ち着きかけた俺の股間はフォームチェンジしようとしていた。
「ははははハンカチあるからっ!」
完全に動揺した俺に対して、琴姉ぇは
「いいよ、汚れちゃったから少し脱ぐよ」
そう言って俺が止めるまもなくセーラー服の上を脱いだのだが。
琴姉ぇはノーブラだった。
とっさに後ろを向くことで完全に裸を拝むことはなかったのだが、乳首の先端こそは見えなかったものの、片方の胸の乳輪は明らかに見てしまった。
「は、ハンカチ貸すから拭いたら早く着てくれ!」
俺は後ろ手にハンカチを渡す。
「どうしたの、ヒデ君?
私の裸なんて昔見たでしょ?」
「何年前の話だよ!
幼稚園の時とかじゃねーか!」
俺は完全に動揺してたが琴姉ぇはそれ以上は追求せず、布と肌が擦れる音が少し響く。
琴姉ぇが俺のハンカチで肌を拭いているのだろう。
その直後、むにゅ、と背中に柔らかいものが2つ触れる。
俺がそれが琴姉ぇの胸だと気付くまでそう時間はかからなかった。
「ちょ!
こ、琴姉ぇ!
当たってる!」
「んー?
何がー?」
「わかってんだろ!
胸だよ!」
「当ててるんだけど?」
「とりあえず離れろ!」
なんとか琴姉ぇは離れてくれ、衣擦れの音が少し響いた後、もういいよー、と声がかけられたのでおそるおそる振り向くと琴姉ぇはもうセーラー服の上を着ていた。
「さて、そろそろ13時!
エッチなタイムは終了だよ!
残念だったねヒデ君!」
琴姉ぇはからからと笑う。
時計を見れば、確かに13時2分前。
次の授業、4時間目は13時20分からだ。
「ヒデ君、この後の時間割は?」
「俺か?
4時間目が芸術、5時間目が……」
と言いつつ、俺は一瞬考える。
4時間目が13時20分から14時20分。
5時間目が14時30分から15時30分。
つまり、次のエロくなる3の倍数である15時は5時間目だ。
そしてその5時間目は……。
(体育じゃねぇか!)
別々のクラス、教室で教師が来て授業を受けるより琴姉ぇが何か企む可能性が高い。
これはまずい。
「5時間目は数学だな」
俺はしれっと嘘をついた。
「あれ、ヒデ君5時間目体育、6時間目化学だよね?」
あっさり看破された!
「知ってて聞いたのかよ!」
「ふふふー、幼馴染みなめるんじゃないよ?」
「別になめてませんけど……」
「じゃあ15時は楽しみにしててね。あでぃおす!」
琴姉ぇはビニールシートや弁当箱、クーラーボックスを片づけるとささっと退散した。
(まずい、このままエスカレートするとマジでまずい)
俺は2時間後、15時のことを考えて気を揉んでいた。
幼馴染みの琴姉ぇのはずなのに、明らかに性の対象として気になり始めた。
何が何でも15時には琴姉ぇに捕まらないようにしないといけない、と俺は固く決心した。
まもなく、4時間目始業のチャイムが鳴る。