【みなみけ】桜場コハル Part 13【今日の5の2】
藤岡は千秋の父親みたい
↓
大半の女性は無意識に父親に近い性格の男性を選ぶ
↓
つまり姉2人も…!?
投下します。本編から十年後の話です。
・藤岡×夏奈を交えつつ保坂×春香。とは言え今回はハルカの出番は無いので実質ふじかな
・エロ無し、六分割
・多少性格の変更あり
「あー、どうしよっかなー」
リクルートスーツを着たその女性は、姿見の前で髪を結んだり解いたりしていた。
「どうしたカナ」
眠たそうな目をした妹に聞かれ、その女性―南夏奈は振り返った。
「いやー髪おろした方がいいかなーってさ。藤岡以外からはその方が受けはいいんだよな」
「面接といってもバイトの面接だろ。そんなに気負わなくてもいいんじゃないか」
「そうかなー」
「面接官は藤岡じゃないだろ。だったら答えは決まっている」
「おー、そういえばそうだな。さっすがチアキ!」
「自分で答え言ってただろ、このバカ野郎」
あれから十年の歳月が過ぎたが、この姉妹の会話はさほど変わってはいないようだ。
チアキは21歳の大学生で絶賛就活中である。
高校辺りから胸が急成長し始め、昔からの毒舌ぶりとあわせて同級生の男子から陰で「悪魔」と呼ばれだした。
もちろん本人はそのあだ名を気に入っていないが。
24歳のカナもなかなか仕事が決まらずに面接を繰り返す日々。プロサッカー選手の藤岡とは高校の頃から付き合っている。
会社員のハルカ(27)はもう家を出たあとである。
「イタリア料理の店のウェイトレスだっけ」
「そうだ。活発で明るく美しい私にはまさに天職だな」
過去に恋人の藤岡に言われた言葉の受け売りだが、本人はそれをすっかり忘れている。
今のカナはかつての活発な魅力はそのままに、大人の色香をも身につけており藤岡以外の男から言い寄られることも稀ではない。
小振りだった胸も、毎日藤岡にマッサージさせることで並くらいにはなったようだ。
「それだけじゃ勤まらないぞ。やることは色々と―」
「分かってるよ。じゃ、いってきまーす」
イタリア料理店、フォレット。妖精という名を持つその小さな店は小さな街の一角に佇んでいた。
カナは腕時計を見る。約束の10分前だ。そろそろいいだろう。
面接の連絡を入れた際に電話で言われた通り、「定休日」の看板が下りているドアを開け店の中に入る。やはり鍵はかかっていなかった。
「すみませーん。面接に来た南でーす」
誰もいない店の中に向かって声をかけるカナ。しばらくの間、店の中を見渡してみる。
お洒落過ぎず、かといって汚さも感じさせない、気軽に入れる雰囲気の店のように感じられた。
『今行きます』
店の奥から男の声が聞こえた。カナが電話でやりとりした時の相手と同じ声のようだった。
時間はほんの少し遡る。
同じ店の事務室。この店の店主である保坂はパソコンでの会計処理を行っていた。
小さな店であるため、余分な人を雇う余裕はない。
イタリアでの修業を終え、日本に戻ってきたのが一年半前。
修業中に貯めた資金と、とあるパトロンの協力で一年前にこの場所に店を開いた。
見た目は、28歳になった今でも十年前とあまり変わっていない。彫りが深くなり、より精悍になった印象を受ける。
「南、か…」
これから面接に来る予定の女性の名をつぶやく。
保坂にとって特別な存在だった女性と同じ姓。
バレー部の後輩にも同じ姓の男がいたが、保坂はもっぱら下の名で呼んでいた。
「…まさか、な」
確かにこの店は保坂が通っていた高校から近い場所にある。
しかし、別に珍しい姓ではない。現に後輩のナツキも南だったではないか。
「全く。俺は何を期待しているんだ」
無駄にさわやかな口調で自嘲する。この空間には保坂以外いないというのに。
店の方でドアが開く音が聞こえた。
『すみませーん。面接に来た南でーす』
保坂は壁の時計に目をやる。約束の10分前だ。
保坂は会計ソフトを保存して席を立った。
「今行きます」
事務室を出た保坂は厨房を通り抜けてホールに出る。ドアの前に黒く長い髪の女性が立っているのが見えた。
保坂はその女性に向かって歩いていく。
「お待たせしました。私が店主の保坂で―」
女性の顔を見た瞬間、保坂は心臓に強烈なスパイクを打ち込まれたかのように固まった。
色こそ違うが長く美しい髪。大きくて円い綺麗な形の瞳。兎を思わせる愛嬌のある唇。
保坂の記憶の片隅にいた特別な人の姿が目の前の女性にオーバーラップする。
「南…ハルカ…!」
保坂は、たまらずその初恋の女性の名を口に出していた。
「へ?どうして姉の名前を?」
スーツの女性―南夏奈もその名を聞いて驚いていた。
その一言で保坂の体温はヒートアップしてしまう。
「あ……ね…?」
いつも通りにシャツのボタンを四つほど開けた胸元から大量の汗が湧き出てくる。
カナも、突然姉の名をつぶやいて大量の汗を流す大男を見て最初は驚いていたが、それでも保坂よりは早く冷静さを取り戻した。
ハンカチを取り出し、保坂の汗を拭いていく。
「大丈夫ですか?すごい汗ですよ…うーん、これハンカチで足りるかな」
案の定、ハンカチはすぐにびしょ濡れになった。
「あー、これじゃ足りなかったか。すいません、タオルか何かありますか。っていうかホント大丈夫ですか」
その言葉で保坂は意識を取り戻した。
「…あ…ああ、すまない、取り乱した…」
「それで、私の姉とはどういうご関係なんですか」
「姉…やはり君は…」
「はい、面接に来ました南夏奈です。南春香は私の姉ですが…」
「そうか、やはり妹か…道理で似ているわけだ…」
「それで、姉とはどういう…」
「俺にとっての…初恋の人だ」
保坂はすっかりいつもの調子を取り戻していた。
「ああ、すまない。面接だったな。さあ、席に座ってくれ」
いつの間にか丁寧語もやめている。二人は席に座った。
「それで、週何日出られる?」
カナが鞄から履歴書を出そうとするが、それを気にも留めずに聞く。
「えーと、何日でも出られます」
「そうか。では早速明日から来てくれ。前にやめた女の子の制服があったな。とりあえずそれを着てみてくれ。合わなければ新たに注文しよう」
保坂は矢継ぎ早に話を進めていく。珍しく相手のペースに呑まれ、浮足立つカナ。
「ちょ、ちょっと待ってください!私…採用ですか?」
「当たり前だ。君が南ハルカの妹ならば…その可憐な笑顔でこの店を優しさで包み、明るくもり立ててくれるだろう」
歯が浮きそうな台詞を真顔で言い放つ。
最近はモテるようになったとは言え恋人の藤岡以外の男性から、ここまでストレートに褒められることに慣れていないカナは真っ赤になった。
「あ、あの…採用されたのは嬉しいんですけど、…一応履歴書見てもらえませんか。それ書き上げるのに十日掛かったんで…」
「ふむ、そうだな」
カナから封筒を受けとった保坂は履歴書を取り出して広げる。
「"南夏奈"…なるほど、"南春香"と同じく季節の名が入っているのか。うむ、いい名だ」
(名前を褒められた…もしかして私を口説いているのか?!まさか初恋のハルカに似てるからか?)
「俺より四歳下…ということは南ハルカより三歳下か。なるほど、これでは娘であるはずもないな」
(娘?娘ってなんだよ?)
「中学高校も南ハルカと同じ。特技:美人、明るい。趣味:もてなし。うむ、ウェイトレスにはもってこいの特技と趣味だ」
(確かにいい男だけど、私には藤岡がいる…その気がないことをわかってもらわないと)
「あ、あの…」
「どうした」
「わ、私には付き合っている男がいまして」
「ほう」
「(あれ?反応薄いな)そ、その、サッカーの藤岡選手と付き合っているんです」
「藤岡選手…サッカーにあまり興味がない俺でも一応知っているあの藤岡選手か」
「そ、そう!藤岡選手です!ほら、その証拠に…」
携帯を取り出し二人で映った画像を見せる。
「ふむ、確かに藤岡選手だ。しかし参ったな…」
(藤岡が相手だと知って怖じけづいたか…?)
「見ての通り、小さな店でな。藤岡選手のような有名人が来ると騒ぎになりかねない…
すまないが、藤岡選手が店に来る時は変装して来てもらえないか」
「わ、分かりました。カツラとサングラス用意します」
(あれ?私を狙ってるんじゃないのか?)
「それで―」
カナの疑念は保坂の次の言葉で払拭されることになる。
「お姉さんは…南ハルカは元気なのか」
先程までの口調と少し違う。カナにはそう感じられた。近い例で思い浮かんだのは中学生の頃の藤岡だった。
「はい。元気ですよ」
カナもいつもの笑顔を取り戻して言った。
「そうか。南ハルカは元気なのか。それはよかった」
心からの笑顔。カナにはそう見えた。
カナはこれまでの保坂とのやりとりで「何を考えているのかよく分からない相手」だと思っていた。
しかし、今見せた笑顔の意味はカナにもすぐわかった。
(そっか。この人、今でもハルカのことを…)
「ってなことがあってさ」
場所は変わってここは藤岡の部屋。
足を崩してくつろぐ藤岡に、椅子のようにもたれかかっている女性がいる。
しかし、昔よく藤岡を椅子にしていたのとは別の女性である。
「そうなんだ。ハルカさんの先輩の人がシェフにねえ」
「そうなんだよ。それから小一時間ずっとハルカのことばっかり聞かれてさ。まあ面白い人だったけど」
それは面接帰りに藤岡の部屋に寄ったカナだった。
ヘアゴムの類を持ってこなかったため髪はおろしたまま、スーツを脱ぎブラウス姿になっている。
ここで現在の藤岡の紹介をしておこう。
Jリーグの地元チームに所属しているサッカー選手であり、その甘いマスクゆえ女性ファンも多い。
日本代表候補にも上がっているのだが、代表になればチアキから"日本代表カップル"呼ばわりされることだろう。
「なんでも高三の時にハルカに告白してフラれたんだってさ。あと、私とチアキのことをハルカの妹じゃなくて娘だと思ってたらしい」
「あはは。まあ娘っていうのはあながち間違いでもないんじゃない」
その藤岡の言葉でカナは何かに気づいたように一瞬目を見開き、そして考え込む。
「"カナ"、どうしたの?…もしかして怒った?」
「私とチアキが娘だとしたらハルカは母親だ。ハルカは母親であろうとするあまり、十代の多感な時期に恋愛を避けてきた…
ハルカが恋愛に奥手なのは、実は私達のせいなんじゃないか…っていうか恋愛の仕方を知らないんじゃないか」
カナはやけに真剣な表情だ。
「考えすぎじゃないかな。たまたまいい相手がいなかっただけで」
「藤岡」
「な、なに?」
カナは頬を藤岡の胸に寄せてつぶやく。
「藤岡が私を好きになってくれて…私、本当に幸せだ」
「ど、どうしたの?急に…」
「告白されても気づかないような鈍感な私のことを…私が藤岡を好きになるまでずっと待っていてくれて…」
その体勢のまま藤岡の服の胸元をぎゅっと掴む。
「カ、カナ?」
カナのいつもと違う様子に戸惑い、赤面する藤岡。
「お、俺もカナのことが―」
「だからさ」
「へ?」
急にトーンが変わったカナの声に拍子抜けする藤岡。
「ハルカにもそういう相手が必要なんだよ。私にとっての藤岡みたいな」
頬を藤岡の胸に寄せたまま、藤岡の顔を見上げながら言う。
「は、はあ…」
「一目で好きになることはなくても、ずっと一緒にいれば好きになることはあるかもしれないだろ。私みたいに」
「そ、そうだね…」
「なー藤岡。誰かいい相手知らないか」
「いや、俺に言われても…そうだ。俺とカナの時みたいにまずは友達から始めるっていうのは?」
「まずは友達から…か。なるほど。さすがは私が見込んだ男だ」
「はは…ありがとう」
カナの気まぐれや突拍子もない思いつきに振り回されるのは、もはや藤岡にとって日常茶飯事である。
しかし、藤岡はそんなカナの全てが愛おしく、カナもありのままの自分の全てを受け入れてくれる藤岡を愛している。
藤岡にとっても、カナにとっても、それはまさに―
「でもさ」
「なんだ?」
「俺がカナに出会えたみたいに、ハルカさんはそんなに都合よく運命の相手に出会えるかな」
今度はカナが真っ赤になった。
「バ、バカ!なんでお前はそんな恥ずかしい台詞をすらすら言えるんだ!」
「さっき俺の告白を聞いてくれなかっただろ。ちゃんと聞いて欲しかったのに」
藤岡は口を尖らせる。
十年もカナと一緒にいたおかげか、藤岡もそれなりにカナの対処法が分かるようになっていた。
「わ、悪かったよ…」
恥ずかしそうにうつむくカナ。
「それにチアキちゃんはいいの?」
「チアキなら大丈夫だろ。まだ21だ。チャンスはある」
「まあそうだけど」
「私とお前で手本を見せてやればいい。でもハルカはなあ。妹を見習うなんてハルカのプライドが許さないだろうな」
「まあ、ハルカさんはそういうの気にしそうだけどね」
「だからこそ、私達が影で動いて盛り上げてやらないと。さて、まずは何から始めるか」
顎に手を当てて考えごとを始めるカナ。
(また始まったか)
そんなカナを見つめながら藤岡は笑みを浮かべる。
今度はどんな風に振り回されるのだろうか。それを考えるだけで藤岡はニヤニヤが止まらなかった。
続く
乙
続くのか、とりあえずまとう
乙!
読みごたえあるなあ
両南家の同じ季節同士の絡みはあまりないな
ハルオとはほぼ話したこともないよな
大穴で実は藤岡の名前が冬に関係したものだったりして
じゃあミユキちゃんでいいな
そういえば藤岡とヒトミは"夏"に惚れているところも被ってるな
>>553 ただいまの最終回で初めて兄弟以外と絡んだな
熊「メガネ男子も悪くないな…どう?トウマ。お兄さんの将来性とか」
冬(腹黒いな…)
「保坂ー何それ」
「速水か」
「あんたいつの間にスマホなんて買ったのよ。で、何してんの」
「知りたいか」
「別に」
スマホをなでる保坂。
『ひゃっ!そ、そんなところなでたらダメだってば!』
「なんでスマホからハルカちゃんの声が?」
「嫁コレというスマートフォン向けのアプリケーションだ。
画面をなでたりキスをしたりすると画面の中のキャラクターがボイス付きで反応してくれるというものでな。
この度南ハルカが参戦したという情報を得て、早朝のバイトで資金を貯めてスマートフォン共々購入したわけだ」
「ふーん」
速水は保坂の手からスマホを奪い、色々といじくりはじめる。
「何これ。ハルカちゃんしか嫁がいないじゃない」
「当たり前だろう。俺が愛しているのはこの世で南ハルカただ一人だ」
「キスしたら何て言うのかな」
コマンドを選択して、画面に唇をつける速水。
『ふふっ、こういうことするの好きなんだね』
「やめろ、キスをするな」
「いつもアプリのハルカちゃんにキスしてるの?」
「当たり前だ。スマホを返せ」
「画面に唇つけて?」
「指先でタッチし続ける方が成功率は高いのだが、やはり俺の愛を伝えるためには唇でのキスに限るだろう」
「へーえ」
「何だよ藤岡。うちに来てまで勉強か。いつの間に真面目キャラになったんだよ」
「違うよ。次のテストでいい点数を取ったらスマホを買ってもらうって約束したんだ」
「不純な動機だなあ」
「お前が言うな」
(嫁コレに南が参戦した。嫁コレで遊ぶためにも絶対にスマホが要る…)
みらウソのネタが出ないな
関係があまり進展してないから想像しにくいのか
561 :
名無しさん@ピンキー:2013/08/26(月) NY:AN:NY.AN ID:NQwdhOhK
そうだろうな
ああ
563 :
名無しさん@ピンキー:2013/09/08(日) 00:19:56.45 ID:PHr3Gto0
保守
564 :
1/2:2013/09/15(日) 23:36:03.10 ID:OdV2K6E9
>>554-555 その設定、いただきました! ※独自設定あり
それは猛暑だった夏が終わり、秋らしい涼風の吹く穏やかな休日のことだった。
みなみけには三姉妹のほか夏奈の級友の藤岡、千秋の級友の冬馬が遊びに来ていた。
秋の味覚であるサツマイモの和菓子と熱々の番茶をお伴に、和やかな談笑が続いている。
そんな和気藹々とした雰囲気の中で長姉の春香が唐突に藤岡へある問いを投げ掛けた。
「そう言えば藤岡くんは下の名前なんて言うの?」
「えっ?」
唐突な春香の質問に藤岡本人はおろか、他の少女らも一瞬きょとんとした表情を浮かべる。
そして、一同はこれまで大分みなみけに馴染んでいた少年の名前を知らない事実に思い当った。
「そうだな、いつも『藤岡』って苗字で呼んでいて気が付かなかったよ」
「おいおい、今さら気付くなよバカ野郎」
次女と三女のいつものやりとりを藤岡は少し苦笑して見つめている。その横で冬馬が同じ質問を投げ掛けてきた。
「まぁ、あいつらは放っておいてオレも藤岡の名前が知りたいぞ」
「あはは…あまり自慢できる名前じゃないんだけど……」
少し困った表情でそう言いながら藤岡は胸ポケットから生徒手帳を取り出した。
「んっ、なんだ藤岡? 休日なのに生徒手帳を持ち歩くなんて意外と真面目なんだな」
千秋と言い争っていた夏奈が眉をひそめながらテーブルに置かれた手帳を覗き込む。他の少女も夏奈に続いた。
●●市立●●北西中学2年×組 藤岡 美雪
手帳の裏にはカードを差し込める場所があり、1学期に配られる顔写真入りの証明書が納められている。
「えっと…ふじおか…みゆき?」
名前の欄は手書きのため、振り仮名が振って無かった。だから春香の自信なさそうな言葉も無理もなかった。
「よく間違われるんですが…それで『よしゆき』って読みます。お祖父ちゃんが女の子が産まれると思って用意した『みゆき』の読み方を変えたらしくて……」
そう言いながら藤岡は照れ臭そうに頬を掻いた。心なしかその頬が朱に染まっている。
恐らく一見すれば女子で通ずる名前をからかわれてきたのだろう。藤岡の表情には照れと同時に寂しさも少し滲んでいた。
「へぇー、美雪か。良いじゃん、冬の名前を持つオレと相性ピッタリって感じで」
「…ありがとう冬馬」
嬉しそうな表情で冬馬が藤岡の膝上に乗りながら彼の顔を見上げる。快活な笑みを浮かべる冬馬の頭を、藤岡は優しく撫でた。
565 :
2/2:2013/09/15(日) 23:39:23.52 ID:OdV2K6E9
「なぁ、じゃあ今度から藤岡じゃなくて美雪って呼んでも良いか?」
「あぁ、いいよ冬馬」
「へへっ、サンキュー美雪」
そこには名前に一抹のコンプレックスを抱える者同士の、確かな絆があるようにも見える。
もっとも、藤岡の方は冬馬が少女だと知らないので、冬馬の心情を知る由もないのだが。
面白くないのはそのやりとりを傍らで見ていた千秋だ。藤岡に頭を撫でられる冬馬のくすぐったそうな顔を見て、無性に機嫌が悪くなった。
「おい冬馬、そこは私の席だといつも言っているだろ」
「なんだよ千秋、秋に雪は降らないだろ。オレはこれから美雪とJリーグの話題で忙しいんだ」
「むぅ、北海道なら秋でも雪が降る! それにさっきから藤岡に対して馴れ馴れしいぞ!」
「美雪が良いって言うんだから問題ないだろ。千秋も美雪って呼べば良いじゃん」
「そ、それは…その……な、なんだか恥ずかしいって言うか……」
冬馬の指摘に千秋は先ほどまでの威勢を失い、何故か頬を紅潮させ自身の髪の毛先を弄りながらもじもじしていた。
熊のぬいぐるみにも「ふじおか」と名付けるほどお気に入りの少年を苗字でなく名前で呼ぶ事で距離感が近しくなるのが千秋には非常に照れ臭かったのだ。
「ははっ、そんな無理しないでいつも通りで良いよ。ほら、千秋ちゃんもおいで…」
藤岡は愉快そうに笑うと胡坐の中に収まっていた冬馬を片脚の太腿へ移し、空いたスペースをぽんぽんと叩いて千秋を誘った。
いつもの横柄な態度は何処かへ忘れたのか、静々と歩み寄り千秋は藤岡の太腿へちょこんと腰掛けた。
片腕に抱かれるようにして華奢な身体を藤岡に委ね、少年の胸板に頭をもたれさせながら千秋は小さな声で呟いた。
「あ、ありがとう……ふじ……あっ、えっと……よ、よ、よしゆき……さん」
「おいおい千秋、顔が紅葉みたいに真っ赤だぞ。大丈夫か?」
「う、うるしゃい!」
怪訝な顔をして覗き込む冬馬に千秋は三白眼で一喝する。しかし緊張の為か舌がもつれてしまい言葉を噛んでしまった。
そんな姿を春香はほのぼのとした表情で見守り、夏奈は生温かい目線で見詰めていた。
「あらあら。千秋ったら舞い上がっちゃって可愛いわね〜」
「おーおー藤岡、懐かれているな。まぁ、私は関係ないな。どうせ夏には北海道でも雪は降らないし」
「えっ!? み、南そんな…」
本命である夏奈に愛想を尽かされたような言い草に藤岡が一挙に狼狽する。
そんなこんなで今日もみなみけの1日は平穏に過ぎていくのであった。【END】
乙!
男でミユキだと龍騎の手塚がいるか
関係ないけどカナが出ている某犬アニメでチアキが「紅葉」役になるというガセバレがあったな
みのりんのブログ(9/22)見て和んだ
投下します。大分間が空きましたが、
>>543-548の続きです。
・保坂×春香
・エロ無し、11分割
・話の展開も遅いですが、それ以上に執筆ペースが遅いです。期待はしないで下さい。
ホテルの一室。ベッドの上には一組の男女がいた。
壁にもたれ、赤ワインのグラスを傾けている男。その傍らに、寄り添うように抱きついている女。
「へーえ、カナちゃんが保坂の店でねえ」
「ああ、よく働いてくれている。明るく、そして美しい。さすがは南ハルカの妹だ」
男は保坂。上半身は裸になっている。そして女は―
「しかし速水。なぜ南ハルカの二人の家族が、娘ではなく妹だということをずっと黙っていた」
「だって、そっちの方が面白いじゃない」
保坂の同級生、速水である。こちらも上半身は裸である。
「それとも何?娘じゃなくて妹だったらあなたのハルカちゃんへの気持ちは変わっていた?」
「いや、それは些細な問題だ。そのことで俺の南ハルカへの想いは変わりはしなかっただろう」
過去形で言い放つ保坂。
「だがあれは、もう終わった恋だ」
保坂はワインを一口飲み、瞼を閉じた。
十年前。高三だった保坂は意を決してハルカを教室に呼び出して想いを告げた。
結果は玉砕。
「家族の世話が大変だから恋愛にかまけてはいられない」
それがハルカの返答だった。
「彼女の人生に俺という存在は必要なかったということだ」
「十年前のハルカちゃんにはね」
「…何が言いたい。速水」
速水は保坂の手からワイングラスを奪う。
「保坂。今は…、ハルカちゃんのことどう思ってるの」
グラスに口をつけ実に美味そうに飲む速水。
「今でも、俺にとっては特別な存在だ。彼女のおかげで俺は愛という感情を知り、彼女のおかげで、俺は料理を作る喜びにも目覚めた。
南ハルカと二人のむす…いや妹達には幸せでいてほしいと願っている」
「自分で幸せにしてやるっていう選択肢はないんだ」
「…俺が?」
それは保坂にとって意外な質問だったようだ。
「私が聞いたのは、今でも十年前と同じ気持ちでハルカちゃんを好きかってことよ」
「そんなわけはないだろう。俺は南ハルカに思いの丈を全てぶつけた。そして敗れたのだ。未練などない。
今の俺が愛するのは料理!俺の料理で客を笑顔にする。それが何物にも勝る喜びだ」
十年前、傷心の保坂が全力で打ち込んだこと。それが料理を究めることだった。
「今のハルカちゃんを見ても同じ台詞が言える?美しく成長して大人の女になったハルカちゃんを見ても」
「それは…」
速水はワインを飲み干しグラスを置き、保坂の逞しい胸に触れる。
「ま、そうなってくれた方が私は面白いんだけどね」
「速水、もし俺が再び南ハルカを愛してしまったらその時は―」
「分かってるわよ。あんたがそんなに器用じゃないのは知ってるしね」
保坂と速水の間に横たわるのはあくまで肉体だけの関係である。
「店を開くにあたってお前には本当に世話になった。開店資金まで協力してもらって感謝の言葉もない」
「ま、保坂が店を開くっていうのが面白そうだったからね」
「しかし速水、お前は俺とこんな不純な関係を続けていていいのか。真剣にお前を愛してくれる相手を探―」
速水の手刀が側頭部に落ちた。
「痛いじゃないか」
「いい?保坂。これは本番に向けての練習よ。あんたどうせ女とちゃんと付き合ったことないんでしょ。
ハルカちゃんにフラれてから恋愛らしい恋愛したことある?」
「いや、ないな。あれこそが生涯で唯一の、この胸を打ちのめすほどの激しい恋だった」
(打ちのめされて恋出来なくなったんじゃないのかしら)
「まあカナちゃんという接点が出来た以上、ハルカちゃんとの再会も遠くはないでしょうね」
「それはそうだが」
「再会が楽しみね、保坂」
速水は口角を吊り上げ笑みを浮かべる。
見ようによっては女神にも悪魔にも見える微笑みだったが、考え込む保坂の目には映っていなかった。
カナがフォレットで働きはじめて一週間が経っていた。元々ウェイトレスの経験自体はあったため、仕事にも比較的早く慣れたようだ。
時間は夜の六時。この時間から徐々に忙しくなっていく。
ドアの開く音が聞こえた。
髪を結ぶ位置をいつもより低くして、制服の白いブラウスと黒いパンツを纏ったカナが接客に向かう。
「いらっしゃいませ!ってハルカ。それにチアキも」
仕事と授業を終え、私服に着替えたハルカとチアキだった。
ハルカは現在27歳で会社員。
十年前の時点で大人びた雰囲気はあったが、まさに大人の女性となった今はその魅力の全てが以前よりも増している。
元々老けていたから年相応になった、などと言ってはいけない。
「カナがちゃんと働いてるかどうか気になって」
「つまみ食いとかしてないかどうか気になってな」
「失礼な!うちは結構忙しいんだぞ。冷やかしに来たんなら帰りなさいよ」
顔をそむけるカナ。
「客に対する態度がなってないな。早く案内しろ、バカ野郎」
「はいはい。三番テーブルへどうぞ」
カナが二人を席に案内し、二人は注文を選びはじめる。
「それではご注文がお決まりになりましたら声をおかけ下さい」
別人のように丁寧な口調になるカナ。チアキは"美少女モード"のカナを思い出した。
「店員さん、この店のおすすめってありますか」
ごく自然に目の前にいる店員に質問するハルカ。
「お、おすすめですか。少々お待ち下さいませ」
普段に近い口調に戻ってカナは厨房に向かっていった。
「ハルカ姉様。この店、そら豆とキャベツのペペロンチーノがあります」
メニューを見ながら言うチアキ。
「へえ、珍しいね。チアキはそれにする?」
「いえ、春限定のメニューのようです。私はミートソースにします」
子供っぽいチアキの味覚は十年前とさほど変わっていないようだ。
ハルカはメニューを見ながらカナが戻ってくるのを待つ。
テーブルに乗った料理の写真に、料理の名前と値段が書かれているだけのシンプルな構成。
店主の保坂がデジカメとパソコンで自作したものである。
ページをめくる度に様々な料理の写真が目に入る。
(これを全部保坂先輩が…)
嫌っていたわけではないとは言え、ハルカにとって保坂は一度振ってしまった相手である。
ハルカは最初、再び顔を合わせると気まずくなると思いこの店に来るのを渋っていた。
しかし知人に妹が世話になっている以上、顔を出さないわけにもいかない。
またカナから保坂は十年前の件を気にしていないこと、何より保坂の料理が非常に旨いということを聞いて一度行ってみることに決めたのだった。
知人とは言ったものの、二人の間の直接の接点はあまりない。
保坂が大量の汗を流している時にハルカが汗を拭いてあげたこと、
そして保坂が告白してハルカが振ったことくらいだ。
告白するまでずっとハルカを想い続けていた保坂はともかく、ハルカにとってはほとんど他人と言っても過言ではない。
保坂のことを思いだそうとすると脳裏によみがえるのは、必然的に告白された時のことであった。
(あの時は放課後の教室に呼び出されて―)
「ハ、ハルカ姉様…」
チアキの声でハルカは現実に引き戻された。
「どうしたの?チアキ」
「あ、あの大男…カ、カ…」
「か?」
「店長ー」
厨房に向かってカナが声をかける。
「カナ、言ったはずだ。俺が厨房にいる間は、シェフと呼べと」
カナを一瞥して再び鍋をかきまぜ続ける保坂。
「えーと…シェフ」
「どうした」
首をカナの方に向ける。
この人の面倒臭さはハルカがたまに見せる面倒臭さに似ている。この一週間でカナはそう感じていた。
「今、ハルカが来ましたよ」
「なにっ!?」
ホールにも聞こえるくらいの声で反応する保坂。
「う、うちのおすすめが何か聞かれまして…」
「おすすめか。分かった、俺が行く。よし、おすすめだな」
鍋を弟子であるもう一人のキッチンスタッフに任せ、保坂は厨房を出た。
(うーん。店長を行かせてよかったのか…?)
「南ハルカが来たのか…いや、決して不思議なことではない。妹の働く場所が安全なところなのかどうか、気になるのは当然だろう」
独り言をつぶやきながら店内を歩く保坂。
「しかし昨日の速水の言葉が気になる。南ハルカと再会したら、俺は再び南ハルカを愛してしまうのだろうか」
歩きながら胸のボタンを外していく保坂に、自然と客達の視線が集まる。
奇異の目で見つめる新規客もいれば、既に慣れている常連客もいる。
「カナから聞いた話では、南ハルカには今は特定の相手はいない。つまり、愛してしまっても特に問題はないわけだが―」
「カ……カレーの妖精!!」
不意に後ろから聞き覚えのある単語が聞こえた。
歩みを止めた保坂は声のした方向、すぐ後ろのテーブルに向き直る。
向かい合って座っている二人の女性客が保坂を見ている。保坂は髪が長い方の女性に目を奪われた。
少しくすんだ薄い茶色の綺麗な髪。カナと似ているがカナと比べて大人びた落ち着きのある目元。
そして、栗のように開かれた愛らしい唇。
「南…ハルカ…!」
今度こそは、見間違いではなかった。
「保坂…先輩?」
一際目立つ長身に整った顔立ち。そしてはだけた胸元から覗く鍛え込まれた肉体。
十年という歳月が過ぎたにも関わらず、ハルカにはすぐに相手が保坂だとわかった。
(こうして見るとやっぱり…)
ハルカはある人物を思い出していた。
(あれから十年の月日が経ったが…やはりお前は変わらず美しい。南ハルカ…)
保坂にとってはかつて一方的に愛した女性との十年ぶりの再会である。にも関わらず。
(しかし…なんだ?何かがおかしい…)
そのハルカを前にして保坂は奇妙な違和感を感じていた。しかし、それはハルカに対してではない。
「お久しぶりです保坂先輩。カナがいつもお世話になってます。ご迷惑かけたりしてませんか?」
緊張を隠して温和な笑顔を浮かべるハルカ。
「い、いや…彼女はよく働いてくれている」
ドアの前で入って来た客を案内するカナに目を向ける保坂。つられてハルカも同じ方向を見る。
笑顔で接客しているカナが視界に入る。やはり性格的に合っている仕事なのだろう。
「そうですか。これからも妹をお願いしますね」
再び微笑みかけるハルカ。
「ああ、こちらこそ…それで、おすすめの料理は―」
おすすめメニューの説明を始める保坂。どうやら料理の種類ごとにおすすめがあるらしく、一つ一つ詳しく説明していく。
カナに任せず自ら出向いたのはそれが理由だった。
ハルカの向かいに座るチアキはそんな保坂を凝視する。
(カレーの妖精がハルカ姉様の先輩で、よもや店を開くまでになっていたとは…)
チアキにとっては実に意外な再会であった。
「じゃあ私はあさりのヴォンゴレを。それからこの子にミートソ―」
「待ってください」
「ん?どうしたの?チアキ」
チアキは"妖精"を見上げて言った。
「メニューにはないけど実はカレーライスありますか」
九時の閉店時間を過ぎた店内。保坂とカナは片付けにかかっている。
「カナ、少しいいか」
「はい?」
テーブルを拭くカナに保坂が近づく。
「今日、南ハルカと会って話したのだが」
「はあ」
「美しかった…」
「はあ」
目を閉じ、陶酔した表情を浮かべる保坂。
「十年前と変わらず…いや、十年という時を経て更に美しさに磨きをかけていた」
「はあ」
「だが!」
急にトーンの変わった保坂に、カナは一瞬ビクッとなった。
「おかしいのだ」
「おかしいって…うちのハルカが?」
「いや、おかしいのは俺だ。南ハルカではない」
言いながら胸のボタンを外していく。
「まあ店長がおかしいのは知ってますけど…」
「十年前、初めて南ハルカを見た時…俺はこの胸が強く高鳴るのを確かに感じた。
南ハルカに告白した時もそうだ。初めて見た時よりも更に強く、この胸は激しく16ビートを奏でていた。
だが今回は…美しく成長して、大人の女になった南ハルカに会って会話もしたというのに…」
全てのボタンが外され保坂の逞しい胸板があらわになる。
「何も感じないのだ!俺のこの胸は!!」
「だからって胸を見せ付けないで下さいよ!」
「ああ、すまない。だがしかし何故だ…」
「十年も経ったんだし、そんなもんじゃないですか」
「そうかもしれない。だが、南ハルカは俺が生涯で唯一人、この胸を焦がすほどに愛した女だ。その南ハルカに会ったというのに…俺は…」
「うーん、それは多分…」
腕を組んで考えるカナ。
「恋の仕方を忘れたんじゃないですか、店長」
「恋の仕方…?」
「ハルカにフラれてから恋愛したことあります?」
昨晩の速水と同じことを聞く。
「いや、ないが…」
速水の懸念は当たっていたようだ。
「長いことしてなくて忘れたんじゃないんですか」
「なるほど、仕方を忘れたか…すまない、仕事に戻ってくれ」
保坂は厨房に戻っていく。
(恋の仕方を忘れたといえば…)
カナはとある身近な人物を思い出していた。
南家のリビング。ハルカとチアキは既に帰宅してテレビを見ながらお茶を飲んでいた。
時刻は九時半を過ぎている。
「ハルカ姉様、カレーリゾット美味しかったです」
「そう。よかったね」
結局カレーライスはなく、保坂にお勧めされた同じ米料理であるカレーリゾットを頼んだのだった。
「分けてもらったヴォンゴレもすごく美味しかったです」
「うん。カナが褒めるだけあって一味も二味も違ったね」
「しかし、カレーの妖精がハルカ姉様の先輩でカナの雇い主だったとは驚きました」
近所のスーパーでたまに見かける、料理に詳しくよく独り言を言っている大男。十年前、よくチアキからその話を聞かされていた。
そして妖精の言葉のおかげでチアキはある程度野菜嫌いを克服出来たのだった。
「さすがは妖精。よもや店を開くまでになっていたとは」
腕を組み、感心するチアキ。
「いつも妖精のまかないを食べられるとは、カナの奴がうらやましいです。今度また行きましょう、ハルカ姉様」
チアキは姉の妙な表情に気づく。
「どうしました、ハルカ姉様」
「ううん、何でもないの。そうね、また行こうね」
ハルカは、チアキにはかつて自分が保坂を振ったことを伝えていない。
振った理由は保坂でなく自分に原因があってのことだし、
そもそも恋愛に奥手なハルカは同じく奥手なチアキにそういった話をすることはない。
「ただいまー」
帰ってきたカナがドアを開けてリビングに入ってくる。
「おいカナ、あの店の大男はカレーの妖精だぞ」
五秒ほど、二人は身動きせず見つめ合った。
「チアキ、うちの店はカレーじゃなくてイタリアンだぞ」
カナが真顔で答える。
「違うよ!ハルカ姉様の先輩の人のことだよ!」
「保坂先輩がカレーの妖精の正体だったんだって」
「ハルカ姉様、妖精は学校ではどんな感じだったんですか」
チアキは目を輝かせながら尋ねる。
「どうって言われても…あんまり話したことないから。バレー部の部長ってことくらいしか知らなかったし」
「そうですか…」
かつて保坂に告白されたことはやはり言わない。
カナは二人のやり取りを見て口元をニヤリとさせた。
「なあチアキ、もし妖精がハルカと付き合うとしたらどうする?妖精はハルカに相応しいと思うか?」
「ちょっとカナ!」
ハルカは慌ててカナに詰め寄る。
「大丈夫だって。告白のことは言ってないだろ」
カナはハルカに耳打ちする。
「でも恥ずかしいでしょ!」
頬を赤くして反論するハルカ。
「私は妖精の人となりを詳しく知らないから何とも言えないな」
至極まっとうな意見である。
「そうよね。いきなりよく知らない人のことを言われても困るよね」
「でも―」
「どうした?」
「妖精は私の恩人だし、ハルカ姉様と仲良くなってくれるなら私は嬉しいぞ。
見た目も十分ハルカ姉様と釣り合いが取れているしな」
ハルカは更に赤くなる。
「もう、チアキまで…」
「お前と藤岡とは大違いだよ」
「おいおい、藤岡は結構女のファンも多いんだぞ。姉の彼氏に対して失礼じゃないか」
突っ込む気力をなくしたチアキは、
「先に風呂に入る」と言って部屋を出た。
「そういえば、どうして"妖精"を振ったんだ?」
しばしの逡巡の後、ハルカは更に頬を赤くしながら答えた。
「…別に保坂先輩に問題があったわけじゃないのよ。あの頃は、相手が誰でも同じ返事をしてたから」
脱ぎ癖は許容出来るようだ。
「子育てで忙しいって?」
「そう。チアキにそれを言ったら、自分のせいだと思って気にしちゃうでしょ。だからチアキには内緒」
「今はどうなんだ?私もチアキももう大人だ。まあ、少なくとも私はハルカに男が出来ても気にしないぞ。言い寄ってくる男とかいないの?」
「いなくはないけど…」
「けど?」
恥ずかしさの中から本音を搾り出す。
「私だって…付き合うのは本当に心から好きになった人とにしたいもの…」
やはりというべきか、生真面目なハルカは恋愛に対しても生真面目な考え方であった。
「カナだって、藤岡君のことが好きになってから付き合い始めたんでしょ?」
「あー、そういえばそうだったな」
カナはあっさりと同意した。
「ねえカナ。もし藤岡君からもらった手紙を果たし状だと勘違いしていなかったとしたら…どうしてたと思う?」
カナは藤岡と付き合い始めてようやく、最初にもらった手紙が果たし状ではなくラブレターだということを理解したのだった。
「うーん、どうだろうなあ。あの時は藤岡のことよく知らなかったし、付き合うってこともよく分かんなかったしなあ」
目線を上に向け、思い出しながら話す。
「連れ回してたら自慢出来るとか言ってなかった?」
ハルカはちょっとだけ意地悪に聞いてみた。
「あれは冗談だよ、冗談。本当にそんなことしたら他の女子からいじめられちゃう」
笑いながら否定する。
「本当はさ。心のどこかでは気づいていたのかもしれないな、あれは果たし状なんかじゃないって。
でも藤岡みたいな人気者が、がさつで色気もないような私のことを好きだなんて…あの時は信じられなくってさ」
結局はカナもハルカと同じく恋愛に対して不器用だったのだ。
「藤岡はずっと私を好きでいてくれたけど…
もし私が藤岡を好きになる前に、藤岡が私のことを諦めていたらって考えるとさ…」
そこまで言ってカナはあることに気づいた。
「…って、いつの間にか攻守交代してるじゃないか!やるなハルカ。
まあそんなに堅苦しく考えなくていいんじゃないか。私と藤岡みたいに友達から始めるのも手だし」
「友達、か…」
「友達になれそうな男は身近に誰かいる?共通の趣味があるとかさ」
ハルカはとりあえず会社の同僚の男達を思い出して見る。
「うーん…今はいないかな」
「よし!じゃあ私が見繕って来てやろう」
「カナが?」
「安心しろって、おかしな奴は選ばないから。それに恋人じゃなくてあくまで友達だ。
まあ、万が一ハルカが付き合うことになっても恥ずかしくない男を選ぶけどさ」
そう言って立ち上がるとカナはビールを取りに台所へ向かった。
カナの後ろ姿を見送って、ハルカはため息をついた。
カナに心配されてしまっている。
結局のところ、恋愛の仕方を知らないのではないかというカナの予想は当たっていたのだ。
とは言っても、人並み以上にモテるハルカとしては決して意図的に恋愛を避けてきたわけではない。
積極的に相手を探したりはしなかっただけで、男との出会い自体はそれなりにあったし告白も何度もされた。
付き合いたいと思う男が今までいなかっただけだ。
自分の気持ちに嘘をついたことなどなかった。
ただ、一度を除いて―
そして誰もいなくなった!
藤岡は千秋と冬馬のどちらと結婚するんだ
冬馬は渡さんぞ
最終的には千秋だろう
藤岡はハルカの父になりチアキの妻になるわけか
そして夏奈の嫁となるか…
ここは大穴で藤岡×アツコの可能性を
587 :
名無しさん@ピンキー:2014/03/06(木) 00:04:07.06 ID:NG8PTkQ0
過疎ってるな
鉄アレイのころが懐かしいな
589 :
名無しさん@ピンキー:2014/05/10(土) 23:40:49.27 ID:/wh5ZNSS
過疎ってレベルじゃねーぞ
590 :
名無しさん@ピンキー:
過疎