ガチャンと玄関のドアが閉じる重い音が遠く響いている。
その音を聞いた途端、緊張で強張っていたアタシの身体から力が抜けていく。
大好きな先輩がいつも寝起きをしているベッド。
そしてベッドと言えば、“そういうコト”をするところでもある訳で。
そんな場所に自分の身体を投げ出すのだから、緊張しないはずがない。
ベッドの上で転がってみたりと明るく振舞っていたけれど、
本当はベッドにダイブした瞬間からずっと緊張していた。
「先輩、出掛けちゃったんだ……」
口から零れ落ちた呟きには少しの安堵と、その倍以上の落胆の響きが含まれていて、
そこまで自分は期待していたのかと、思わず恥ずかしくなってしまう。
少し顔が熱を持ったのを自覚しながら、先程までのことを思い出す。
――寝たフリを続けていた自分。そんな自分のことを、じっと見詰めていた先輩。
実は起きているということがバレないように薄目しか開けていられなかったけど、
それでも先輩がアタシの方を真剣な表情で見詰めているのだけは、はっきりと分かった。
その視線を思い出して、思わず胸の鼓動が早くなる。
眠っている演技を続けながら、アタシは相反する気持ちの狭間にいた。
このままえっちなことをされるのではないか、という不安……そして隠しきれない期待。
心臓の音が先輩に聞こえちゃったらどうしよう。
……なんて有り得ない想像をしてしまうくらい、胸はドキドキとうるさかった。
だけど、先輩は結局何もしないまま出掛けてしまった。
枕元に置いてある、先輩が書き残して行った手紙を拾い上げる。
『少し出掛けてくる。起きて暇になったら、積んであるプラモの中から適当に組み立てておいて』
アタシの自意識過剰じゃないなら、先輩は迷っていたと思う。
けれど、最後には先輩はアタシに何もしないことを選んだ。
つまりそれは、アタシを大切にしてくれているということだろう。
そう思うと、やっぱり嬉しくなる。
でも、だけど――。
そういうことをされるのを全く期待していなかったと言えば、正直それも嘘になるわけで……。
わがままな自分の心に、思わず苦笑してしまう。
「せっかく買ったけど、今回は出番無しって感じだなぁ……」
一人呟きながら、片手で上着の裾をたくし上げる。
そうして視界に入ってくるのは、念の為にと気合いを入れて選んだ大人っぽい感じの黒色のブラ。
これまでずっと白や水色といった、どちらかと言えば子供っぽい下着ばかり付けていたから、
お店で買う時には少しだけ勇気が必要だったりした。
ついでに言うなら、必要だったのは勇気だけじゃなく出費もだったけど。
――それにしても。
「むむ……」
改めて、自分の胸元を見る。
寄せて上げての努力の甲斐あって、黒の下着の真ん中には、一応ながら谷間が出来ている。
でも、やっぱりボリューム不足感は否めない……気がする。
諦めて現実に向き合うならば、気がするのではなく、間違いなくボリューム不足だ。
「はぁ……」
思わず溜息を吐いたアタシの頭に、ふと二人の女性の姿が浮かぶ。
藤波先輩と、葛城先輩。
――そういえば、あの二人は結構大きかったよね……。
この年頃の一歳、二歳差というものは、大人のそれとは比べ物にならないくらい大きな差がある。
だけど、そうは言っても、仮にアタシが二年、三年生と進級していったとして、
あの二人のようになれるかというと、正直それはすごく疑わしい気がしてしまう。
「先輩も……大きい方が好きなのかなぁ」
無意識的に自分で口にしてしまった言葉に、自分で落ち込んでしまう。
『基本的に、男は胸の大きい女の子の方が好き』
クラスメイトの女の子が言っていたことを思い出す。
――も、もしかして、先輩がアタシに手を出さなかったのは、胸が小さいからなのではっ!?
思考がネガティブになり始め、そんな馬鹿げたことさえ考えてしまう。
「はぁ……」
また、溜息が漏れる。
やっぱりアタシとしては、あの二人くらいとは言わないまでも、
もう少しボリュームが欲しいというのが本音だったりする。
左手で上着をたくし上げたまま、露わになっている胸の膨らみへと右手を伸ばす。
ブラ越しに手のひらに伝わる感触は、とても慎ましやかなもので、
頭では分かってはいたけど改めてガッカリしてしまう。
片手で覆っただけで、すっぽりと綺麗に膨らみが隠れてしまうのは、
視覚的にも感触的にも、何とも寂しいものがある。
――でもでも。
ブラの下から手のひらを差し入れ、直に胸へと少し触れてみる。
胸の柔らかさに関しては、少しだけ自慢だ。
それに形も、ちょっぴり自信があったりする。あとは色……とか?
「先輩……」
半ば無意識的に呟いた自分の声を聞いて、思わず顔が赤くなる。
それはまるで、家で自分でいやらしいことをしている時のような響きを持っていたからだ。
「な、なんで……?」
そう疑問に思って、不意に自覚する。
そもそも今のアタシの状況は、そういう行為をしている状態そのものだということに。
先輩は留守にしていて、まだ帰ってくる気配はない。
その事実を再認識したアタシは、再び胸を手で弄る。
それは、これまでのような、ただ大きさを確かめるような触り方じゃなくて。
「ふぁ……っ」
手のひらの動きに合わせて、むにむにと形を変える胸の膨らみ。
確かに小さいけれど、でも、きっと触ったら先輩だって――。
胸の先を刺激するように、指先で軽く摘まんだり、擦ったりしていると、
やがて存在を主張するように、つんと起き上がってくる。
「あっ……はぁ……」
息を漏らしながら、一度アタシは胸元から手を引き抜いて、
今度は舌で指先を舐めてから、再び胸元に手を差し込んだ。
自分の唾液で濡れた指が這い回って、べたべたになっていく胸。
指先が乾いたら、また舌で舐めて、胸全体へと唾液を擦り付けていく。
――これは、先輩の舌。先輩が、アタシの胸を舌で舐めたりしてる……。
そう想像しただけで、激しく興奮が高まってくる。
「ひぁ……んっ……」
胸を弄っていない方の手の指先で、ショーツ越しに秘処へと触れてみる。
既に仄かに湿り、僅かに熱をもっていた其処を、
指先でゆっくりと撫でるようにして擦り、刺激を与えていく。
――先輩のベッドで自分の身体を触って、気持ちよくなっている。
今のアタシの姿を先輩が見たら、一体どう思うだろう。
いやらしい女の子だと、呆れてしまうだろうか。
それとも……。
アタシの破廉恥な姿を見て、今度こそ手を出そうとするだろうか。
「はぁっ……んんっ……」
その想像に興奮が増し、さらに指の動きが激しくなる。
こんな風に、先輩にされている想像をして、身体を触ったことは何度もあったけれど、
今日くらい快感を得られたことは今までに一度もなかった。
それはきっと、先輩のベッドの上でしているからなのだろう。
先輩が普段寝ているベッドで、自慰行為に耽っている。
自分のベッドと、先輩のベッド。
たったそれだけの違いなのに、もたらされる快感は全く段違いで止められなくなる。
「ん、うぁ……あっ……」
ベッドにうつ伏せになり、シーツに顔を押し付ける。
するとベッドに残った先輩の匂いが鼻腔をくすぐって、ますます先輩に触られているような感覚に陥る。
――気持ちいいっ、すごく気持ちいいです、先輩っ!
心の中で先輩に何度も呼びかけながら、胸と秘処への刺激を強くしていけば、
どんどん快感が高まっていき、何も考えられなくなってしまう。
ただ指先から得られる快感だけに集中して、そして。
「――ふぁあぁっっ!」
シーツに押し付けた口元から漏れる声。
絶頂と共に力の抜けた身体をベッドに投げ出して、荒く息を吐く。
カチャ、ガチャリ、バタン。
暫くベッドの上で絶頂の余韻に浸っていると、何かの音が耳に届く。
これ、何の音だったっけ?
ぼんやりして思考の纏まらない頭で考えて――。
――せ、先輩が、帰ってきたっ!?
我に返ったアタシは慌てて起き上がり、乱れた服装を元に戻す。
それが終わると次に髪を手櫛で直しながら、深呼吸をして荒い呼吸を整える。
一連の行動をアタシが完了するのと、部屋の扉が開くのは殆ど同時だった。
「起きてたんだ。マキ、おはよう」
「お、おはようございますっ!?」
ギリギリセーフだったこともあって、思わず返事の最後で声が裏返ってしまう。
そんなアタシを見て、先輩は不思議そうな表情を浮かべる。
「どうかした? なんか様子が変だけど」
「えっ!? いや、それは、あの…………」
先輩の疑問に何と答えるべきか迷い、しどろもどろになる。
正直に答える? ――そんなの絶対に無理だ。
先輩のベッドで、えっちなコトをしていました……なんて、とても言えるわけがない。
「マキ?」
中々答えが返ってこないからだろう。先輩がさらに追及してくる。
その表情には、少し訝しむような雰囲気があった。
「ひ、秘密ですっ!」
その視線に耐えかねて、気が付けばアタシは言い訳にもならないような言葉を口にしていた。
「秘密って……そう言われると気になってくるんだけど」
「気になっても駄目ですっ!」
「恋人同士の間に、隠し事は無しじゃないか?」
――先輩は、ずるい。
そんな風に言われたら、秘密にしていられなくなる。
でも、だけどっ、流石にこればっかりは正直に言えない……からっ。
「せ、先輩は秘密ポイントが足りないから、絶対に教えてあげませんっ!」
――秘密ポイントって、一体アタシは何を言ってるのっ!?
咄嗟に口にした言葉は、追い詰められて気持ちに余裕が無かったとは言え、
幾らなんでも余りに残念な発言だった。
「く、くくっ……なんだよ、その秘密ポイントって……」
事実、先輩も可笑しそうに笑いを堪えている。
「あ、うぅ……」
もう本当に恥ずかしくて、顔から火が出ちゃいそうだ。
自覚出来るくらいに熱を持った顔を見られるのが嫌で、思わず俯いてしまう。
「……と、マキをからかうのはこれくらいにして」
アタシの姿を可哀想に思ったのか、そんな風に話題転換をしようとする先輩。
「コンビニでケーキ買って来たんだ。今から一緒に食べよう?」
先輩は手から提げたビニール袋を揺らして音を立てる。
「は、はい……」
小さく呟いて、先輩からアタシの方へと差し出されたケーキを受け取った。
「お、美味しいですね、これ」
「そうだね」
テーブル越しに向かい合って、他愛もない会話を交わしながら、
二人してケーキを口に運ぶアタシと先輩。
そんな風にクールダウンする時間が与えられたことで、アタシは落ち着きを取り戻し始めていた。
ショートケーキの糖分も、それに一役買っていたかも知れない。
さっきまでかなり恥ずかしく取り乱してしまったけど、もう大丈夫だと思う。
「ところで」
最後の一口を食べ終わった後、先輩がおもむろに口を開く。
「なんですか?」
その頃にはアタシも冷静さを取り戻していて、何気ない口調で訊き返した。
それなのに……。
「で、秘密ポイントを溜めるにはどうすればいいの?」
終わったと思っていた話題が蒸し返されて、アタシは再びうろたえてしまう。
「そ、それはもう忘れてくださいっ!」
慌てふためくアタシを、楽しそうに先輩が見詰めている。
むむ、どうしてだろう。
――今日の先輩は、ちょっぴり意地悪です……。
おしまい。
42 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/18(火) 17:44:25 ID:AopDVXAL
乙
GJ! マキかわいいなあ
秘密ポイントwww
保守
保守
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49 :
名無しさん@ピンキー:2011/07/24(日) 02:15:38.20 ID:FkcH44dj
保守
50 :
名無しさん@ピンキー:2011/07/25(月) 19:48:54.18 ID:pzu1jHnf
ケータイ彼女終了
このタイミングで終わったことからあのゲームアナログだったんだな
51 :
風見:2011/07/25(月) 21:49:58.09 ID:GqB0gGAz
天才の俺、風見のSSを見るかい?抜けるぜ!?
ほし
ほ
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ケータイ彼女期待
なみいろか……
ケー愛
保守
hosyu
なみいろで書いてみようかな
期待
保守