かりめろのばら色帽子
とろける待降節
2010.12.11
幼い頃から待降節が嫌いだった。
主が降誕するまでのこの世を表現しようとミサでの聖歌は辛気臭く、聖堂内の窓には暗幕がはられ、聖堂内は蝋燭の数を減らし、暗い。
ただでさえ、ミサというものが好きでないところにきてそんな教会の演出にうんざりしていたし、
主の降誕になぞらえて自分の誕生について説教されることも待降節に嫌悪を持たせる大きな原因だったのだ。
もっとも。
成長するに連れ、待降節が嫌いな理由は大きく変わった。
待降節を毛嫌いするその理由は…。
「しかし、なんだな。」
「ん?」
三部会の警護の合間を合間をぬって、オスカルとアンドレは雪が舞う中、司令官室で書類の整理をしている。来週は、クリスマス…。
「待降節だというのに一度も教会には行けなかった。」
嫌なことを口にし始めたとオスカルの柳眉があがった。
「なんだ、アンドレ。お前、いつからそんなに敬虔なクリスチャンになったのだ?」
オスカルは、そう投げてから、知らん顔で書類へサインを書き続ける。すでにどんな内容の書類なのか、わからくなっている。
「なにを今更。俺は、昔から敬虔なクリスチャンさ。」
「ふぅ〜ん、初めて聞いた。」
オスカルは、にやけているアンドレを無視して、書き終えた書類を彼に渡した。
「冗談はよしてくれ。誰だ?ばあやに尻を叩かれながらミサに預かっていたのは!」
「待降節は特別さ。」
アンドレは、お前、しっているだろうと続けながら、オスカルから書類を受け取るとブロッターで余分なインクを吸い取りながら続けた。
「お前の場合、違う意味でこの季節は教会は特別だろう?」
「あぁ、うんざりする季節さ。待降節はな。絶対に行きたくない!」
ひったくるようにアンドレから書類を受け取るとオスカルは、その書類を木箱に入れ、窓辺に立った。
「ただでさえ、心が塞がるようなことばかりのこのおご時世に何もあのような演出をせずといいではないか!
大体、ろうそくの数を減らしてどうする!そして、私へのあてつけのような神父の説教!」
「わかった!わかった!」
アンドレはそう言いながら、両手をあげ、降参のポーズをした。
「しかし。数え切れぬほど、お前の待降節への恨み節を聞かさていると不思議なことに俺にとっては、
教会で飾られたクレッシュを見かけるよりもはるかに待降節の気分にさせてくれるよ。さて。
雪が積もりだす前に帰ろう。馬車を車止めまで持ってくる。支度をして来てくれ。」
「早くしろ!」
指令官室を出ていくアンドレの背中に向かって、本当の理由はお前自身にあるのだとオスカル舌を出した。
「おや、ボタ雪になっている。」
ふと、馬車の外をみたアンドレがオスカルに声をかけた。
「まるで、天使のはねのようだ。」
「大天使ガブリエルか?」
笑いながら答えるアンドレの言葉に、まだクリスマスの話題を口にするのかと、うんざりしながらもオスカルは、
口にしてはいけないことを口にしてしまった。
「ところで、どうして、ミサ嫌いなお前が私の大嫌いな待降節のミサにこだわるんだ?」
「その先にお前の誕生日があるからに決まっている。」
アンドレの即答にかオスカルの心のなかにわだかまりが芽生え、反論せずにはいられないなかった。
「奇妙なことを言うものだな。私の誕生日を祝ってくれるのなら、当日でいいではないか?」
「わかっていないな。」
ふぅとひとつ、息を吐くとアンドレは、前に座っているオスカルに向かって体をずいっと近づけた。迫力のある彼の様子にオスカルは、体を後ろにひいた。
「な、なんだ?」
「いいか、オスカル。この期間は人々にとっては主の降誕を待ち望む時期であると同時に一年間の贖罪の期間でもある。
懺悔によって、己の罪を償い、清い心を持って主の降誕を祝う。俺にとってはそれがお前の誕生日であるわけだ。」
何が贖罪だ、何が清い心だ、そんなことだからとオスカルは怒りに震え始めた。
そんな様子にまったく気がつかない様子でアンドレは益々、熱っぽく訴えた。
「愛してやまないお前の誕生日を迎える為に俺もまた人々と同じようにこの時期は贖罪の期間なのだ。
今までそうしてこの期間を過ごしてきた。」
だから、私はこの待降節が嫌いなのだ、とオスカルのいつの間にか作られていた、両手のこぶしがブルブルとふるている…。
「そんなものはいらない!そんなことで私との時間を犠牲にしてるお前が気に入らないんだ!」
そう叫ぶと今度はオスカルのほうがずいっとアンドレににじり寄った。
「私が待降節が嫌いな本当の訳を教えてやる!」
目をまん丸に見開いて、怒りで真っ赤になっているオスカルをアンドレもまた目をまんまるにして言葉を失った。
「今年こそ、忙しくて自由な時間がないけれど、この時期になるとお前は、暇さえあれば、教会に通い、
懺悔室に入りびたり。神父に何を吹き込まれたかしらんが、教会から帰ってきたと思ったら、部屋にこじこもる。
何も子供の時のように一緒にクレッシュを飾りたいだの、アンドバンズカレンダーをあけるだの、
そんなことを望んでいるわけではない!お前と一緒に主の降誕をそして、私の誕生日を迎えるための準備をしたいのに!」
アンドレに掴みかからんばかりに興奮しながらも、なおもオスカル続ける。
目だけではなく、口まで丸くしてアンドレは言葉を失ったまま。
「毎年、待降節が来るたびに憂鬱になるのは、私よりも教会をするお前の姿を見なければならないと思うからだ!」
オスカルが鼻息を荒くしながらいい終えると、二人は顔を見合わせた。
あ、と小さく呟いていから、みるみる間に耳まで真っ赤にするオスカルと、まめ鉄砲をくらった鳩のように目を丸くしたままのアンドレ。
二人の間に妙な沈黙が流れる。
その沈黙から逃れるように、オスカルは、窓の方に体ごと向けてしまった。
「あれ…?」
微かに見えるオスカルの耳が真っ赤になっているのを見つけたアンドレは、驚いた。
「オスカル、どうして真っ赤になっているんだ?」
「真っ赤になんかっていない!」
「おい、大丈夫か?風邪でもひいたか?」
アンドレは、心配になってオスカルの片手をとって彼女を自分の方に向けようとするけれど。
オスカルは力いっぱいになってアンドレに反抗してばかり。
「なんでもない!」
「なんでもないなら、顔を見せろよ。熱でもあるんじゃないのか?」
あまりにも反抗的なオスカルに号を煮やしたアンドレは、もう片方のオスカルの腕を取ると強引に自分にその顔を向けた。
「あ…れ…?オスカル…?」
いくら鈍感でもオスカルが真っ赤にしているのが風邪からくる熱ではないことくらい、アンドレにだってわかる。
「…もしかして…照れている?」
そんなアンドレの言葉にオスカルはうつむくと…。その脳天をアンドレの額にぶつけた。
「いったいんですけど!」
アンドレは自分の額を抑えて涙目でオスカルに訴えた。
「はん!これが今年のお前の贖罪だ!懺悔のあとの神父の話を聞くよりもよっぽどわかりやすい!」
あぁ、そうだ、待降節に私を今まで一人にしていおいた贖罪だと言わんばかりにオスカルは、アンドレをにらむけれど。
「へへへ。照れているんでしょ?」
痛む額に両手を当てながらも、こんな素直じゃないのがかわいんだよなつぶやきながら、顔全体の筋肉を緩ましているアンドレ。
シンシンと降り続いている雪は。二人の乗っている馬車の上で溶けてなくなっていった…。
INDEX 「記念日に寄せて」
シャングリラ
Will You Dance?
WILL YOU DANCE?
彼女の思い込みとそれを否定できない彼の苦悩
とろける待降節