エロなしですみませんが、芽衣子につきまとう男性客に真島嫉妬&ボディガードな設定です。
今日もペットサロンに預けているアンを迎えに行く。
それを理由に彼女に会えるのがほの嬉しい自分に苦笑しながらも、
初恋のように、甘く鈍く己の胸を打ち鳴らす何かに心が逸る。
「あら、真島さん!こんばんは。」
店内に入ると、彼女の同僚の彩乃に出迎えられた。
「アンちゃんですよね?ちょっと待ってくださいね。」
彩乃が隣の部屋からアンを連れてくる間に、
無意識に彼女の姿を探す。
「はい、アンちゃんお迎えですよー。」
「あ…今日は…野上さんは?」
そこにいると思っていた彼女の姿は無く、
それを探している自分を彩乃に悟られることに一瞬躊躇したが、
聞かずにはおれなかった。
「気になりますぅ?」
意味深な笑みを浮かべながらアンを手渡してくる彩乃に
「いや、この時間ならいつもいたから…」
と弁解してはみるが、こんな言い訳は意味を成さないようで、
彩乃はからかうような表情を変えない。
「それじゃ…」
アンを受け取り踵を返そうとした時、奥の部屋からオーナーの琴美が顔を出して呼び止
める。
「あ!真島さん!お待ちしてたの。
お話したいことがあって…今お時間少しいいかしら?」
「ああ、かまいませんが。」
ソファに促されて掛けると、
「琴美さん、もしかしてあのことですか?」
「ええ、真島さんには伝えておいた方がいいかと思って。」
一見真剣な琴美と彩乃の表情に、先ほどの彩乃に見たからかうような楽しげな色が見え
る気がして、
直感的に芽衣子に関係することかと己の心が音を立てる。
「あのね真島さん、最近ご贔屓にしていただいてる男性のお客様がいるんだけど、
どうも芽衣子ちゃんを気に入ってるみたいなの」
「え?」
胸の奥がざわめく。
「お店の前で待っていたり、電話やメールがしょっちゅう来てるらしくて…。」
何だと?
「そう!この間もお店が終わって帰ろうとしたら、
その人が門の前で芽衣子さんをしつこく食事に誘ってて。
私あわてて「芽衣子さん今日は私と先約があるんですー」って追っ払っちゃいました
。」
得意げに言う彩乃にお手柄だったなと思うも、胸のざわめきは消えない。
「芽衣子さん実はかなりモテるんですよ?
今までも男性のお客さんで、芽衣子さんに気があるっぽい人は何人もいたけど、
こんなにストーカーちっくな人は初めてで、琴美さんも私も心配してるんです。」
なるほど確かに。
俺をこんなに夢中にさせる彼女に、他の男が落ちても不思議はない。
ともすれば俺だって、アンの送り迎え以外にも
彼女に会うためだけにこのサロンを訪れたい衝動に駆られる時がある。
彼女を抱き締めた時も、あのまま全てを己のものにしてしまいたくなった。
俺がそれをしないのは、かろうじて理性で踏みとどまっているに過ぎない。
彩乃の「ストーカーちっく」という言葉に自分も紙一重であることを自覚する。
と同時に、ふとこの理性が途切れた時、芽衣子をどうにかしてしまうだろう自分と、
同じ感情を持った輩がいつ芽衣子を奪っていくかも知れないと思うと、
どうしようもない焦りのような、怒りのような、今までに感じたことのない思いが湧き
上がる。
「実害があったわけじゃないから、お客様に対して強くも言えないし、
でも何かあってからじゃ遅いし…。
特に芽衣子ちゃんはお客様を大事にする誠実な人だから、
困惑しながらも受け流すしかできなくてね。
芽衣子ちゃんはよく残業してくれて遅い時間までお店にいるから、
余計に心配なの。」
「だったら、帰りは俺が彼女を送ります。
俺がアンを迎えに来るのを待って遅くなってるようなもんだし。」
ついそんなことを言ってしまった。
俺はよっぽど彼女を他の男に奪われたくないらしい。
とたんに琴美と彩乃がぱぁっとうれしそうに顔を見合わせる。
「真島さんなら、ぜーったいそう言ってくれるって思ってました!」
「よかったわ!真島さん、芽衣子ちゃんのこと、よろしくお願いしますね」
何やら2人の思惑が見え隠れしないでもないが、
彼女と帰り道を共にできるのは悪くない。
その一方で、見知らぬ男の存在が神経をざらりと逆撫でする。
「ただいまー」
「芽衣子ちゃん、ご苦労様。」
聞き覚えのある声に心が跳ねる。
「あ、真島さん。アンのお迎えですか?」
「ああ」
先ほど探していた彼女の微笑みを見つけ、
温かいものに、ゆるく、心地よく締め付けられる。
「芽衣子ちゃん、最近何かと物騒だから、今日から帰りは真島さんに送っていただきな
さいね。」
「え…?で、でもそんな…迷惑なんじゃ…」
彼女がそう言うだろうことは予想できていた。
「俺ならかまわない。アンの迎えのついでだ。」
すかさず出た言葉は我ながら素直じゃない。
「じゃあ、真島さん、芽衣子ちゃん、気をつけて帰ってね。」
「芽衣子さん、お疲れ様でした。」
琴美と彩乃がひと足先に店を出ようとする。
すれ違いざまに彩乃が「真島さん、がんばって!くださいねっ!」
といたずらっぽく小声でエールを送ってくる。
「お疲れ様でした」
彼女の声と共に扉が閉ざされ、サロンに彼女と2人残された。
彼女が閉店後の後片付けをしている間、ソファに座って待つ。
2人きりだと思うと落ち着かなく、傍らにいるアンをくしゅくしゅと撫でる。
「真島さん、お待たせしました。
戸締りを確認して行くので、先に出ててください。」
「ああ」
アンを入れたバッグを持って、門の脇で塀に寄りかかった、その時、
「きゃあぁぁぁ!」
彼女の悲鳴が静かな闇をつんざく。
それに突き動かされるように走り出し、入り口の扉を開けるのももどかしく店内に飛び
込むと、
床に押し倒された芽衣子と、その上に覆いかぶさる男が目に映る
その瞬間、さっきまでふつふつとは感じていた見知らぬ男への怒りが、一気に燃え盛る
。
「何してる!?彼女から離れろ!!」
怒鳴りながら駆け寄る俺に驚いた男は、すぐ側の開いていた窓から素早く逃げ去って行
った。
男を追いかけてとっ捕まえたいのはやまやまだったが、彼女の方が心配だった。
彼女は床に座り込み、ボタンのちぎれ飛んだシャツを胸の前でつかんでガクガクと震え
ている。
「おい、大丈夫か!?」
彼女の目線までしゃがんで問うが、よほどショックが大きいらしく俯いたまま震えるば
かり。
「怪我は!?何をされた!?」
彼女の頬を両手で包んで俺の方へ向けさせると、ようやく目線が合う。
「だ、い、じょうぶ…です…大丈夫…なにも…」
大きな瞳に涙をたたえて、声にならない声で答える。
「真島、さん…真島さん!…真島さん!」
彼女は突然俺の胸に飛び込んでしがみつき、何度も俺の名前を呼んだ。
「芽衣子」
震える体を思い切り抱き締め、
「もう大丈夫だ。何も心配しなくていい。」
腕の中の狂おしいほど愛しい存在、おそらくもう、己より大切な。
「お前を傷つけるどんなものからも、俺が…守る!」
それに答えるように、彼女は俺の胸に深く顔をうずめる。
「芽衣子、愛してる」
彼女の頭を片手で包むと、その黒髪にそっと口づけた。