451 :
ぶたにく:2011/01/31(月) 17:27:12 ID:LFVzxBGs
「たっだいまー……」
居間を覗くように入ってきた芯子の声で、うたた寝していたみぞれが目を開けた。時計を見れば、十七時。
「おかえりぃ、芯子姉ェ……頼んだの買ってくれた?」
「んー? うん。……何んな所で突っ立ってんの、入ればいーじゃん」
芯子は、玄関に向かってそう言うと便所便所、とトイレを目指す。一方、客人かと眠い目を擦りながら玄関を見たみぞれは、そこに立つ見知った顔を視線に捉えてその瞳を丸くした。
「角松さん?」
「あ、ども」
「え、なんで……あ、とりあえずどうぞ入って! 芯子姉ェ! なんでお客さんに荷物持たせてんのー!」
と、トイレに居る姉に向かって叫んだみぞれは、はたりと動きを止める。
てっきり姉は、誰か、と夜を過ごしたのだと思っていた。そしてその誰かは、恐らく、工藤優なのだろうと早合点していた。しかし、昼間家に来た優の様子は思っていたものとは違い、なにより、姉が一緒でなかった。
では、姉は今まで誰と一緒に居たのか? 母と首を傾げた疑問。その答え、もしかしてもしかすると…?
「みぞれ、何叫んでんだい全く……あら、あれあれ、芯子の勤め先の……」
みぞれの声はどうやら母まで届いていたようだ。啄子はそれをたしなめるように居間に入ると、一郎の姿に目を止めた。
「あ、角松です」
「あれまあこんな寒いのに、それもしかすると、芯子に頼んだ……」
「あぁ、はい」
「本当にすみませんね、まったく……芯子! お客さんに何持たせてんだ!」
角松から荷を預かった母も、トイレに続く廊下に向かって芯子を怒鳴った。よく似た母子である。
角松は、荷を渡してしまうと所在なさげに立ったままで、やはりトイレの方を気にする。と、芯子がやっとトイレから出てきた。角松の表情が心なしか和らぐ。
452 :
ぶたにく:2011/01/31(月) 17:28:50 ID:LFVzxBGs
「あースッキリした。……ったくかーちゃんもみぞれも、人が用足してる時にガーガーガーガーうっさいってのー」
「うっさいじゃないだろう全くこの馬鹿は、誰に似たんだかねえ」
芯子は、卓袱台の前にどっかり腰を下ろすと、突っ立ったままの一郎を見上げる。
「シングルパーはいつまで立、ってん、の」
「いや、タイミングがな」
居心地悪そうにしていた一郎は、とりあえず芯子の隣に腰を落ち着けた。
「ああ、パーといえば芯子、昼間に優君がうちに来たんだよ。用があるとかで直ぐ帰ったけど」
「え? ……あー、あとであれだ。連絡する。うん」
目を背けながら卓袱台の上のせんべいを取って弄ぶ。都合が悪くなった時の芯子のごまかしかただ。
啄子は、息を吐くと芯子の隣に座る一郎に視線を移した。
「それで、角松さんは何かうちに用事かなんかで? あ、もしかしてうちの馬鹿がまた何か!?」
啄子の言葉に、芯子が憤慨する。
「またってなんだよ人聞きわりーな、それじゃまるでアタシがいつもいつもコイツにメーワク掛けてるみたいじゃん。違うっちゅーの」
「何が違うもんかね、掛けてるだろ、迷惑」
「だから、そっちじゃなくてー……」
「じゃあなんだい」
だからぁ、その、と、芯子は煮え切らない。ここは俺がちゃんと説明すべきか、と一郎が口を挟もうとする。と。
「あの〜……」
「あーアンタは口開かなくていー! ややこしくなる!」
芯子は、一郎の口に食べかけのせんべいをぐっと押し込んだ。一郎はぐふ、だか、ぶは、だか呻く。
「何すんだ!」
「あーもーうっさいうっさい」
「……お母さん、なんか、二人とも妙に仲良くない?」
「……うん」
そのやりとりを見ていた啄子とみぞれがそれぞれこっくりと頷き、居住まいを正した。
実際はこのじゃれあいはいつでもどこでも年中無休だが、そうとは知らない二人から見れば、上司と部下にしては仲の良すぎる光景に見える。
「……芯子、もしかして」
「ん?」
「芯子姉ェやっぱり……」
「な、なに」
『こっちのパーなの!?』
途端に芯子の顔にバッと朱が差した。
へぇ……はーあぁそうなんだ、と何やら完結している二人に、芯子が食ってかかる。
「なになになになんか文句あんのー!?」
「いやいや、文句なんか言ったら罰当たるよ、アンタ」
「ハァ!?」
「角松さん、芯子姉ェをよろしくお願いします」
453 :
ぶたにく:2011/01/31(月) 17:31:46 ID:LFVzxBGs
あ、はい、とみぞれと啄子に返した一郎に、芯子が鼻を鳴らす。
「何照れてんの芯子姉ェ」
「ばっ、照れてない!」
「本当だよいい歳して赤くなって」
「いい歳って何だよ!」
散々二人にからかわれた芯子は、バン、と卓袱台を叩くと勢いよく立ち上がる。そのまま、もーいい! と二階にドタバタ駆け上がってしまった。
ちょっとやりすぎたか、とみぞれが追いかける。
……。
「あのー角松さん」
「はい?」
二人が出て登って行った方を見つめていた一郎に、啄子が声をかけた。向き直った一郎に、啄子が頭を下げる。
「芯子のこと、よろしくお願いします。……あんなんですけど、根は、いい子ですから」
「……わかってます」
此方こそよろしくお願いします。
挨拶を終えた二人が、上で叫ぶ姉妹の声に、どちらともなく顔を見合わせ、笑った。
454 :
ぶたにく:2011/01/31(月) 17:37:56 ID:LFVzxBGs
毎度の事ながらお粗末様です!
>>444 試験ですかお疲れ様です^^
私は実習なうです。合間の息抜きが二次創作w
>>447 噴 い た w
ピンポイントで正確すぎw
久しぶりの新作ありがとうございます!
芯子の素直じゃない所を角松が受け止めててイイですね〰
ダサ格好いい三枚目の角松が素敵だ
444です。
ぶたにくさん、久しぶりの豚更新ありがとうございました!!
やっぱり豚の2人も大好きです。『こっちの〜』って突っ込まれた時にバッと顔を赤くする芯子姉が可愛すぎるぅ…!
試験乙ありがとうございました。ぶたにくさんも実習、お疲れ様です。
私も新年度から実習始まるのですが、もしかしたら同じような系統の方なのかもですね!
二次創作、楽しいですよね〜♪これからも楽しみにしています。
ありがとうございました。
また呟きのネタなんですが…
『相手の肩にもたれかかって眠ってしまった』『東海林と春子』を描きor書きましょう。
『間接キスを変に意識してしまう』『角松と芯子』を描きor書きましょう。
なんか、いつもちょっと萌なシチュを出してくれる気がしますww
職人さん新作待ってますよ・・
スレチな話題ですが・・
篠原さんが2月に北海道ロケするそうです
しかも大泉さんも同じ頃に北海道ロケ・・
メルアド交換して今でもコンタクト取ってるなら是非何らかの形で演技抜きの素の2人のトーク見たくないですか?w
例えばラジオとかテレビゲスト等で
天然の篠原さんに突っこみまくる大泉さんみたいなw
プライベートで仲が良かったら良いのですが・・・
>>459 大泉の映画の原作に「春子」さんがでてくるんだよね
ほんの少しの出番しかないはずなので
カメオ出演してくれればいいのに…
規制が酷い…
職人さん方の作品読み返しながらお待ちしてます
あ、書き込めたw
>>459 洟垂れとか燦々に篠原さん来てくれたらいいなあ!
原田知世さんは2度ラジオのゲストに来てるのにね〜
ハナたれのゲストとか良いですよねw
バラエティーに出てる篠原さんってドラマのキャラと真逆で面白い
職人さん達待ってるよ〜ノシ
ほしゅっ
466 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 10:37:47.88 ID:0WzwyREv
ほすほす
保守
ぶたにくさんたちはもう来ないんだろうか
ハケンも豚も読みたいです
468 :
名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 06:23:09.17 ID:chVBgTYM
ほ
469 :
名無しさん@ピンキー:2011/05/24(火) 21:44:54.25 ID:DIVhUunc
す
ほしゅっ
保管庫消えた…(´・ω・`)ショボーン
豚の公式HPの写真見たら萌が・・・・・・・(*´д`;)…金田
474 :
ぶたにく:2011/09/17(土) 23:50:21.59 ID:/F31weOj
チラッ|ω・´)
誰かいらっさるかしら?
います!
まってました!!
476 :
ぶたにく:2011/09/18(日) 12:00:10.02 ID:xyHqlNhl
おお!いらっさるなら書きますww
手直しして挙げに来まーつっ。
楽しみにしてます
うわー
はまったのが遅かったので過去ログ見ながらwktkしてました
是非是非お願いします
479 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 18:51:26.20 ID:ng29/zy4
以前投下いたしました豚の続きです。どうまとめようとしたのか忘れてしまったのでgdgd感満載ですが、暇つぶしにでもなれば幸いす。
480 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 18:56:23.81 ID:ng29/zy4
「僕じゃ、駄目ですか」
そういうことじゃない、と思った。アンタだから駄目で、アンタ以外だからいいなんてそんなことじゃあ、ない。
※※※
芯子は、優を家の近くの公園に呼び出した。
『わかりました。十時に公園ですね』そう確認した電話越しの声は、少し堅かったような気がした。
時刻は午前九時半。芯子は待ち合わせの三十分前から、まだ誰も居ない公園のブランコに腰掛けていた。
年の瀬で、子どもを公園に連れてきて遊ばせる余裕もないのかもしれない。
かと言って子どもだけで遊ばせるには危険なのだろうか。
もう少し早ければ、犬を散歩させる老人なんかも居ないわけではないと思うが、閑散とした公園は、寂しい。
「……」
工藤優。キャリアの若造。舐めた辛酸はまだまだ金田にも角松にも、そして芯子にだって依然として及ばない。
しかし、確かに成長はしていると思う。
会計検査庁に芯子と時期を同じくして入職した優の当時といえば、正義という旗を振り仰ぐのが好きな甘ちゃんだった。
結局自らが掲げた正義に押しつぶされて、泣きべそを掻きながら電話を寄越し、挙げ句の果てには自殺までしようとした。
それが、今は少しだけ懐かしい。
優の掲げる正義という言葉は、あまりに脆く、腐敗しやすい。
それでいて、掲げて直ぐは真っ直ぐで、研ぎ澄まされていて、だから厄介なのだ。一度折れないとわからない。
芯子は優が正義を主張する度に悪態をつき、芯子自身を護ろうとした優の行為に息を吐いたこともある。
もっとも、考え方、価値観の違いと言われればそれまでなのだけれど、やはり芯子は、正義が善であるなんてとてもじゃないけれど言えない。
優はそんな善にならない正義を見て、変わったと思う。
変わりたいと、変わろうと、工藤優が決意したからだ。それがどちらに転ぶかは、これから。
481 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 18:58:04.33 ID:ng29/zy4
「芯子さん」
後ろからかけられた声。物思いに耽っていた芯子は我に返った。振り向けば私服姿の優が立っている。
「……おーはよん。早かったじゃん、まだ十時じゃないんじゃない?」
「芯子さんをお待たせするわけにはいかないと思ったんですけど……」
芯子さんこそ早かったんですね、と言外に言われ、少し首をすくめた。
「ま、いっつも待たせてるから、偶にはな」
いつも、とは、毎朝、だ。優は芯子が出所してからも、以前と同じように朝迎えに来てくれる。でも、それも、終わり。
「話って、なんですか、ね?」
切り出したのは、優だった。
芯子は、うん、と一つ頷く。
「昨日、うちに来てくれたんだって?」
「はい」
「私用のついで、でしょ?」
「……いいえ、本当は、芯子さんに会いに行きました」
心臓がドキリと高鳴る。ときめきではなくこれは、これは例えるなら、悪戯が見つかった時の罪悪感に似ている。
「……そっか。……なんか、あった?」
「好きな人に会いに行くのに、理由が要りますか? ……なんて……」
「……」
「補佐と、居たんですか?」
確信を突かれて、少し返答に詰まった。
「はっきり訊くね」
「芯子さん、回り諄いの嫌いだから」
時と場合に寄るだろう、とは言えない。
「まー、な」
「今日は、返事を聞かせてください」
何の? なんて訊けるわけがない。優が芯子に聞きたい返事なんて、一つだけだ。
そう思って、はたと気付いた。そういえば、自分はなんと断る心算だったのだ?
「……」
「……なんて、意地悪でしたか?」
「え?」
「そんなに断りの文句に悩まなくていいですよ、芯子さん」
「べ、別に……悩んでなんか……」
ものすごく悩んでいた。
「じゃあ、どうぞ」
482 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 19:03:27.29 ID:ng29/zy4
そんな風に言われると、困る。だって芯子も何故一郎なのかわからないのだ。ただ、一郎の側に自分がいてやらないとなんだか駄目な気がして……否、それも言い訳だ。逃げ、だ。
「……」
大体、優ではいけない理由なんか、一つもない。一つも、ないのだ。
同じように、一郎でなければならない理由だって、一つもない。
でも。
……。
芯子は、すう、と一つ深呼吸をした。
「優君はいつ見ても私服の趣味いいよねえー」
「え?」
唐突な言葉に、優が瞠目する。
「頭のてっぺんから、足の先まで隙がないカンジ」
「芯子さん?」
「詐欺師が最初に金を持ってるか持ってないか判断するとき、相手の靴を見る。……んー、いい靴履いてるね」
「……」
話についていくことのできない優は、ただただ芯子を見つめた。
「アタシが、初めてアイツと会った時、擦り切れたような靴履いててさ、ま、普段なら絶対声掛けたりしなかったんだけど、なーんでかねえ……」
「掛けたんですか? ……芯子さんから」
キィ、とブランコが鳴く。
ブランコの上にトンと立てば、優の顔が少し下に見えた。
「……アンタみたいなカオしてたんだ」
「僕……みたいな?」
「一年前のアンタの今にも自殺しそうな、あのカ、オ」
「……」
「思い詰めて、思い詰めて、死にそうですってカオしてたから、話し掛けたんだよねえ……」
「……」
ではそれが、最初から優だったなら、今選ぶのも優だったのか? それはわからない。
あれが優ではなかった、だけ。
「……僕じゃ、駄目なんですか」
そういうことじゃない。アンタだから駄目で、アンタ以外だからいいなんてそんなことじゃあ、ない。
ただ、ね。
「なんか、アタシ、さ」
「はい」
「信じたくないんだけど」
「はい」
「……どーも、惚れてるらしいんだよ、な……角松一郎、に」
483 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 19:05:54.49 ID:ng29/zy4
趣味が悪いと思う。これだけ自覚しているのだから、端から見ればそれこそ本当に……否、皆まで言うまい。
結局、芯子はどうあってもあっちのパーに惚れている。それが事実だから。
「アンタの方が顔良いし、キャリアだし? 優しいし、まあ多分頭だって悪くないんだよな。でも、なんでだろ……な」
微笑んだ芯子は、漕いだブランコからひょいと降りる。
「あっちのパーじゃなきゃ、ダメなんだ、多分」
優だからダメなんじゃあない。優以外なら良いんでもない。運命なんてアホくさいことを言うつもりもない。
ただ、せっかく惚れた相手なら、しっかり、愛してやりたいと思う。
「だから、……うーん、悪い、ね」
イタズラっぽく笑う芯子に、優はうなだれる。
「……ズルいですよ、芯子さん」
そんな風に言われたら、何も言えなくなる。と、優はふてたように呟く。
「詐欺師だからね」
「……」
はぁ、と息を吐いた優の額をピンと弾いて、芯子はうーんと伸びをした。
「隙があったら奪いますって、補佐に伝えておいて下さい」
「……アンタも腹黒くなった、な」
大きめの声音で謂った言葉は、きっと、木陰に隠れているつもりのパーにも伝わっただろう。
がさがさ揺れる茂みを見て、二人は顔を見合わせ、腹を抱えた。
484 :
ぶたにく:2011/09/20(火) 19:09:49.44 ID:ng29/zy4
おそまつさまでした。最早口調もワカンネ\(^q^)/
これsageられてるんかな…?不安だ…。
もしやと覗いてみて良かった
>>484 乙です!ちゃんとsageになってますよ〜
ぶたにくさんの芯子もこっちのパーもあっちのパーも好きだぁッ
486 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/09(日) 13:37:44.63 ID:45oyUoa3
くわあ、中々覗けなかったのに久しぶりに覗いたら…!やっぱりぶたにくさんのお話大好きです。ありがとうございました。
保守してみる
保守
489 :
!omikuji !dama:2012/01/04(水) 20:07:36.27 ID:7xi/6clP
ほす
ほしゆ
ぶたにくさん、新作を書いてください!
ほしゅ
ほしゅ
ほしゅ
保守しとく
ほす
ほしゅ
498 :
名無しさん@ピンキー:2013/02/28(木) 15:54:08.88 ID:oZOCS6z9
ほしゅ
きてくれー><
ほっしゅ