【俺の】結婚&新婚萌えスレッド第5夜【嫁!】

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511雪の日の夫婦:2014/02/09(日) 10:57:32.90 ID:AJiGjOQJ
右手で乳房を愛撫しながら空いている方の胸を口に含む。小さく肩が跳ねた。
毛布がずり落ちないよう手で押さえながら口を動かす。乳首を舌先でつついてやると頭が抱えられた。
乳房を舐めたり、唇で食んだり、指先に力を込めるたびにぴくりぴくりと身体が震え、少しずつ汗ばんでいく。
以前よりは上達したとはいえ、まだまだ未熟であろう己の手で偲乃が感じている。その事実は、彪に大きな喜びを与えた。

「っ…あき、ら…」
「…う、うん」
小さいおねだりに従い下側に手を伸ばす。本音を言うともう少し味わっていたいところだが、そんなことは望まれていないだろう。
しっとりと汗ばんだ身体を布団に横たえる。そろそろと手を寄せると秘部は十分潤っていた。
念のため愛液をたっぷり指に絡ませてから中に沈ませる。瞬間、
「――っ!」
偲乃の身体が弓なりにしなった。
いつもより早い、などと感動しつつ、余計な刺激を加えないよう頭を撫でる。

偲乃は少しの間荒い息をついていたが、ある程度落ち着いたのか彪に手を伸ばす。
「……ね、きて」
「平気?」
「うん…大丈夫、だから」
いつもは冷静な瞳を熱で潤ませ、上気した頬でこんなことを言われてはたまらない。

ズボンを脇に放って華奢な身体に覆いかぶさる。すらりとした足を割り、熱い秘部に剛直を押し当てると小さい深呼吸が聞こえてきた。
「…ちから、ぬいてね」
「……ん」
もう一度頭を撫でてなるべくゆっくり差し込んでいく。
最低限濡れているとはいえ、ただでさえ小柄な偲乃の中は大分狭い。熱く濡れた膣壁に締めつけられて、気を抜いたらすぐにでも達してしまいそうな刺激を受ける。

「っ…ぁ…ん…!」
「…っ…しの、さ…だいじょ、ぶ…?」
「ぅ…ぁっ…んぅ…」
「動く、よ」
宣言してから腰を軽く前後させる。
ゆっくり、ゆっくりと自分に言い聞かせているが、必死に声を我慢している偲乃を見ていると、理性を捨てて滅茶苦茶にしてやりたい衝動に駆られた。
それをどうにか堪え、なるべく優しく、緩やかに突き上げる。
「…っふ…ん…くぅっ、ぁ…」
「……かわいい」
「んんっ!」
ぎゅうと締めつけられる。

一瞬だけ咎めるような目が向けられるが、ぴんと立った乳首を弄るとすぐに顔を逸らした。両手で顔を隠し、自身の痴態を彪に見せまいと顔を背ける。
が、そんな努力もむなしく、偲乃の身体は淫らに動いて彪を喜ばせた。
身を引くと逃さないとばかりに絡みつき、突き入れるとぐちゃぐちゃにふやけて包みこんでくる。結合部は互いの愛液でびっしょりと濡れていた。

いつしか彪は気遣いを忘れ欲望のままに腰を打ちつけていた。
偲乃も、声こそ抑えているものの、がくがくと腰を震わせ、身をよじり、快楽を与えられる悦びに震えている。
「…ぁきらっ…も、ぁ…りゃ、めぇ…!」
「はっ…俺も、もすこし、だから…」
「ぅぅ、あ…も、だ…ひぁっ…ふ…ぅ…!」
「っ…偲乃さん…偲乃…!」
「ゃ、あ…ッ――!」
二つの身体が一際大きく震えた。何度も何度も吐き出される白濁液で、偲乃の身体を埋めていくのを感じる。
大きく息をつきながら、同じように息を吐いている偲乃の上に倒れ込む。互いの呼吸が重なるこの時だけは、感情のままに触れていたかった。
512雪の日の夫婦:2014/02/09(日) 11:01:03.63 ID:AJiGjOQJ
「……ん……」
まだ夜明け前の暗い中で偲乃は目を覚ました。手で探り当てた時計を見ると短針は4と3の間を指している。
起きるにはまだ時間があることを確認して、暖かい腕の中に身をひそめる。ぐっすりと眠りこんでいるのだろう。彪はぴくりともしない。

「…中々うまくいかないわ…」
小さく溜め息を零す。
結婚して6カ月も経つのに、体を重ねた回数だって両手の指を軽々と越えるのに、偲乃と彪の心は遠いままだった。
その原因は間違いなく偲乃にあるのだけれども。


愛情を求めていないと言ったのは本音だった。
実際、彪と暮らすようになってからも、彼に媚びたり、必要以上に頼ることはしないよう自制していた。
とにかく気が弱くてヘタレで女々しくて情けない相手なんて、そも好みですらないのだから、まかり間違ってもほだされたりはしないだろうとも思っていた。

――それなのに、こうだ。どうやら心というものは、自分で思っていた以上にどうしようもないものらしい。

彪を好きになるはずがない。そう思っていたはずなのに、いつの間にか、気付いたら彪を探すようになっていた。
いつの間にか、あの気弱な目に見つめられることが、優しい声で名を呼ばれることが、筋張った手に怖々と触れられることが、嬉しくてたまらなくなっていた。
いつの間にか、困ったような笑顔の持ち主が、欠かせない存在になっていた。

なんて勝手な話だろう。我ながらそう思う。散々我侭を押し付けておいて、自分が言ったことを反語にするなんて。
けれど、このままでは嫌だった。もっと求めてほしいと思った。偲乃の意思なんて捩じ伏せて、彪の好きなようにしてほしいと願った。
我侭だと呆れられてもいい。勝手すぎると怒られたっていい。
ただ、嫌いにならないで、離れないでいてくれれば、どんなに酷いことをされても構わないとすら思った。

「……直接言ったら、どんな反応するのかしらね」
想像するだけで悶死するほど恥ずかしいから、言えたとしても相当先の話になるだろうけれど。偲乃は目を閉じ夢想する。

不器用で、頑固で、偏屈で人見知りの上に、あんなとんでもない条件を突き付けた自分を受け入れてくれたのだ。
きっと、優しく笑って受け入れてくれるのではないだろうか。
そう思う一方で、流石に拒まれるのではと不安にもなる。
今まで彪に拒まれたことは一度もないけれど、ないからこそ、拒まれた時の自分が想像できなくて、偲乃は自分に対する呆れの笑みを浮かべた。

けれど、このままの距離ではもう満足できない。
どうにかして、彪のことをもっと知って、偲乃のことを知ってもらって、互いが互いを理解できるようになりたいのだ。

できないことはない、と思う。そのためのヒントも、今日、こっそりと聞けたのだし。
『夫婦円満の秘訣? うーん…ちゃんと話すこと、かなぁ』
『そうだな。自分の気持ちを言葉にして相手に伝えることは大事だ』
尊敬する先輩方の言葉を思い出し、少しだけ考えて気合を一つ。

「……大好きよ、あきら」

いつか直接言えますようにと強く願い、穏やかに眠る彪にすり寄って目を閉じた。
513434:2014/02/09(日) 11:04:19.69 ID:AJiGjOQJ
ここまで!

夫婦なのに両片思いとか、いつも頭に花生えてるようなのしか書いてないからたまには切ないのをとか思ったんですが…
これじゃないと叫びたい。俺には頭悪い話しか書けないのがよくわかった畜生め

色々な意味でいつも以上にひどい話ですが、少しでも暇つぶしになれば幸いです
514名無しさん@ピンキー:2014/02/10(月) 12:00:32.40 ID:Uj7WT2dx
>>513
GJGJ 変わらず本編で満足させた上に続きを期待させてくれる話です
素直になれた後を想像するだけでにやにやが止まりませんね
515名無しさん@ピンキー:2014/02/26(水) 10:44:35.90 ID:6nK+ADOB
>>434
茜可愛いよ茜
相変わらずGJ!
結婚式編楽しみにしてます!

「雪の日の夫婦」
GJ!続き読みたいなぁ
両片思い、切ないけど何処か優しい
踏まえたうえでの気持ちと心、身体の交わる姿が見たいです!
516434:2014/03/09(日) 21:22:22.82 ID:e2DX1qMl
藍沢夫妻の続きができたので投下します

エロ遠い、エロ薄い、本番あってないようなもの、人によっては不快になる表現あり
等々好き勝手やっておりますので「夫婦の墓参り」をNGでお願いします
517夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 21:26:25.89 ID:e2DX1qMl
藍沢彪は慄いていた。
別に辛いことや悲しいことがあったわけではない。むしろその逆だ。最近、
「……彪、起きてる?」
「あ、うん。どうしたの?」
「ええ、と…寒くて」
「そ、そっか。…あの、アレだ、そのー…に、人間カイロとかどうでしょう」
「……お願い」
気が強くしっかりしていて甘える姿など見せなかった筈の大事なお嫁さんが、藍沢偲乃さんが、
なんでだかやたらと理由を付けてくっついてくるようになったのである。訳が分からない可愛い。

「……あたたかい」
「よ、よかった。寒いのは辛いもんね」
「うん」
ちなみに本日の最低気温は6度だ。日中はうららかな春のぽかぽか陽気だった。当然夜もそこまで冷え込まない。
「今日は、なにをしてたの?」
「昨日と同じだよ。家事やってから将棋の駒作り。もう少しで全部そろえられるかな」
「そう。…ごめんね、おじいさん達が面倒なこと頼んじゃって」
「平気平気。細かい作業は好きだし、頼みごとをしてもらえるのも嬉しいよ」
「ならいいけど。…完成したら見せてね」
「うん」
「一番にね?」
「うん、分かってます」
言いながら、抱きしめた状態のまま頭を撫でてみると、偲乃は満足げに目を細めた。
日向で寝転んでるかゴロゴロ言いながら爪を出し入れしてる猫みたいだ、と呆けた頭の端で思う。
それ以外の頭の中は「偲乃さん可愛い超かわいいなんなのコレなんなんだよこれ」という言葉で埋め尽くされていたが。


どうしてこうなったのか、正直なところ、彪にはまったくもって覚えが無い。
この感情を伝えたわけでもないし、彼女からの印象が変わるような劇的な言動をしたわけでもない。筈だ。
ただ、思い返してみれば、偲乃がこのようにくっついてくれるようになったのは、二度目の雪の日からだったような気がする。

(いやでもあの時だって別に何もしてないよなぁ。
「自宅周りの雪かきしながら"恋人といる時の雪って特別な気分に浸れて僕は好きです"って言ってみろリア充どもーっ!」とか思いながら一日中雪かきしてただけだし。
 お客さんだって茜さん待ちの葵さんしか来なかったし。……そういえば、偲乃さんと葵さん、随分話しこんでたなぁ。何話してたんだろ。……もしや葵さんが何か言っ)
「ふぁっ?! ひ、ひのひゃ、にゃに?!」

正解に辿り着くよりも早く偲乃に両ほっぺを引っ張られ、彪は情けない悲鳴を上げた。
「今何か考えてたでしょ」
「か、考えてまひひゃけど!」
「私がいるのに」
「ひのひゃんのこと考えてひゃんだよ!?」
「…………」
「……し、偲乃さん?」
不意に頬が解放されて目を瞬いた彪の一方、偲乃は何かを堪えるようにぷるぷると震えている。
どうしたのだろうと顔を覗き込むと、驚くくらい真っ赤な仏頂面が目に入ってきた。どうしよう俺何かやっちゃったのかな。
518夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 21:29:07.24 ID:e2DX1qMl
「あの…偲乃さん…?」
「……もう寝る」
「う、うん…? て、あ、そうだ! 偲乃さんごめんちょっとお願いが!」
「……なによ、もう」
彪の胸に顔を埋めたままくぐもった声だけが返ってくる。眠いのだろう。
「ごめんね。でも、大事なこと思い出して」
「……なに」
「来週の日曜、休ませてもらってもいいかな。地元に帰りたくて」

 瞬間、空気が凍った、気がした。

「……ど、ゆう、こと?」
恐る恐るこちらを見た偲乃は何故だか表情を凍りつかせていた。あれその日用事入ってたっけ、と思い返しつつ、彪は呑気に言葉を続ける。
「いや、そのまんまの意味なんだけど…まずいかな?」
「…いや…まずいとか、じゃなくて…そりゃ、彪がそうしたいのなら私に止める権利なんて無いけど…」
「そうかな? いやでも、その日何か手伝うことがあるのならその次の週でも平気だよ?」
「次の週って…あの、あなたが忍耐強いのは知ってるけど、そこまで我慢しなくったっていいのよ?
 ていうか、わざわざ宣言するものでもないんだから…」
「え、宣言は必要じゃない? お店やってる日は無理だし、休みだって仕入れが入ることもあるんだからさ」
「お店って…まぁ確かに急にいなくなられちゃうと困るけど…でもそこまで律儀にならなくても…」
「いなくなる? 誰が?」
「……うん?」

どうも話が噛み合っていない。

「…待って、彪。来週の日曜、休みたいのよね? 地元に帰りたいから」
「うん。事前に言っておかないと、って思ったんだけど」
「…そう…よね。……その、帰ってきて、くれる?」
「えっ帰ってきちゃ駄目かな!?」
夜には帰ってこないと次の日辛いんだけど、と零すと、偲乃は少しだけ硬直して、次いで深々と息を吐いた。
「……馬鹿だわ、私」
「偲乃さんが馬鹿だったら俺は大馬鹿だよ!?」
「そっちの馬鹿じゃなくて。ていうかあなた馬鹿じゃないでしょ」
「…馬鹿だよー…体育と技術家庭科以外は全滅だよー…」
「だからそっちじゃなくて」
もう一度溜め息をついた偲乃は、どこか安堵した様子で彪にすり寄る。反射的に速まった鼓動を耳にした偲乃は頬を緩ませた。

「…まぁ、それなら、いいわ。ご家族に会うの? それともお友達?」
「いや、墓参り行こうと思って」
「……ご家族はご健勝よね?」
「うん。子どもの頃お世話になった小母さんの7回忌なんだ。
結婚してから行くのは初めてだし…あ、もしよかったら偲乃さんも行く? わりと遠いんだけど」
「行くわ」

即答であった。

その後は、少しばかり話をして、おやすみのちゅーとやらをしてから眠りに落ちた。これもここひと月程で築いた習慣である。


藍沢彪は慄いていた。
お嫁さんが積極的で、毎日が幸せすぎて、どんどん我慢が効かなくなっていて、慄いていた。
もしかしたら偲乃は、自分のことが好きなんじゃないかなんて、とんでもない勘違いをしてしまいそうで、怖くて怖くて仕方がなかった。
519夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 21:31:28.75 ID:e2DX1qMl
一週間はあっという間に過ぎていった。
朝起きて、昼間は懸命に働いて、夜、偲乃とのんびりした時間を過ごしてから一緒に眠る。
一日が過ぎるのが早くて、周りが猛スピードで進んでいるのに自分だけ止まっているような、そんな気分になった。
驚くほど幸せな筈なのに、何故か、置いていかれているような――そう、世界から置いていかれているような気がして、彪は酷く心細かった。

おかしなことを感じている自覚はある。
愛しい人が笑いかけてくれて、触れてくれて、触れさせてくれて、自分のことを知ろうとしてくれて、何が怖いんだと言いたくなる。
偲乃も自分を好いてくれたのだと、いっそ勘違いしてしまえば良いだろうにとも思う。
あの葵だって「恋はある種錯覚みたいなところがあるな」と言っていたのだから。

それでも、何故か、この状況を喜んで受け入れる気持ちにはなれなかった。
どうして偲乃がこうなったのか、自分は彼女に好いてもらえる人間なのか、分からないまま、ただずるずると流されるのはどうにも嫌だった。

「……うん」
完全に自己満足だけど。彪は思う。

きちんと偲乃に告白しよう。今までは、拒否されて、離れることになるのが嫌で考えないようにしていたけれど。
好きだと言って、受け入れてもらえたら万々歳。もし駄目だったら、これまでのお礼を言って潔く離れよう。
偲乃なら、彪がいなくなったって、すぐにもっと良い人を見つけられるから。
今までは、それを認めるのが嫌で、彼女の隣を他人に譲りたくなくて、夫というこの上なく強力な立場にしがみついただけだ。
そんなことはもう、止めにしなければ。傷付くのが怖くて逃げてばかりじゃ、彼女の隣にいることに負い目を感じてしまう。それは、すごく、辛いから。
520夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 21:34:47.01 ID:e2DX1qMl
「…偲乃さん、今平気かな」
「彪?」
というわけで、彪は初めて自分から偲乃の部屋を訪れた。
「珍しいわね、あなたが来るなんて」
「う、ん。あの、なんていうか…ええと、言わなきゃいけないことが、あって」
「……どうしたの?」
疑問9割怯え1割の光を目に宿した偲乃が対面に座る。
風呂上がり故か彼女の頬はうっすらと紅色に染まっていて、ああもうきれいだなぁと現実逃避をしたくなった。

「ええと、ですね」
「うん」
「あの、最近…じゃないや。えーと、わりとまえから、なんだけど」
「…うん」
「その…なんていうか…あの…」

しまった言葉が出てこない。

自分の語彙力の乏しさに泣きたくなった彪だが、偲乃はあくまでも真摯にこちらの話を聞いてくれている。
その、人にも仕事にもまっすぐな姿勢を最初に好きになったのだ、と思いだして、彪の口は自然と動いた。

「俺、偲乃さんのことが、好きです」
「うん、知ってるわ」
「…………はい?」

今なんと申されたか。

「えっ、ちょあの、待って。偲乃さんあの、知ってるって、え?」
「いやだから、彪が私のこと好きだってこと。それで、わざわざ宣言したってことはなにかあったのよね。どうしたの?」
「ま、待ってくださいちょっと待って。知ってるって、あの、えと、いつから?」
「確信したのは10月の半ば頃だけど…ってまさか、あなた、私が気付いてないとでも思ってたの?」

思ってました。

二の句が継げなくて黙り込んだ彪を見て、偲乃は思いっきり呆れ顔になった。
「あのねぇ…そりゃ、茜さんみたいに壊滅的に鈍感な人だったら気付かないでしょうよ。でも、生憎私は人の機微には敏感なほうなの。
 お客さんが本当においしいって思ってくれてるかなんて、言葉だけじゃ分からないんだから」
「……さすがです」
「どうも。で、あんたね、自分がすっごく分かりやすいってこと自覚したほうがいいわよ。
 まず第一に顔に出すぎ。目が合っただけで真っ赤になって嬉しそうな顔されたらすぐ気付くわ。
 あと、意図的にかどうか知らないけど言葉にも出てる。可愛いだのきれいだの凄いだの。確かに好きって言われたことはないけど、さすがに気付くわよ」
「……い、言ってましたか、俺」
「思いっきり言ってたわ」

うわー恥ずかしーはははー
(10月半ばって、それ俺が自覚するよりも早いじゃないっすか。なんつーか、もう、俺は駄目だははははー)
521夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 22:09:46.00 ID:e2DX1qMl
「……思いつめた顔して来るからなにかと思ったけど。もしかして、それを言いに来たの?」
「…うん…そうです…」
「私が気付いてないと仮定して。言って、どうしたかったの?」
「迷惑じゃないようなら今までどおり置いてもらって…迷惑だったら潔く実家に帰るかーと…」
「ふぅん。で、今はどうしたいの?」
「恥ずかしいので今すぐ逃げたいです…」
「却下」
即答だった。

「…だ、だめかな」
「駄目よ。絶対駄目。…大体、漸く言葉で言ってくれたのに、逃がすわけないでしょ」
偲乃の声は嬉しそうに弾んでいた。思わず顔を上げると、ほとんど同時にぎゅうっと抱きつかれる。
石鹸の優しい香りが鼻孔をくすぐって頭がくらくらした。

「……偲乃さん」
「そろそろ呼び捨てにしてほしいんだけど」
「え゛」
「同い年でしょ。誕生日だけなら私の方が遅いし」
「…し、偲乃さ…偲乃?」
「うん。聞いてる」
「……だいすきです」
「私もよ。……もっと早くに言ってたら良かったのにね。ごめん」
「偲乃が、謝ることは、ないと思うな」
「あるの。あんなこと言ったくせに好きだなんて、都合良すぎるって思ったのよ。でも、ちゃんと、言えばよかった」

震えた声に顔を覗き込むと、想定外に気弱な視線が返ってきた。
守りたいなぁ、とぼんやり思って、自分はそれを言うことが許されているのだと思いだす。胸の内が熱くなった。
「……偲乃?」
「なぁに?」
「あの…キス、してもいい、ですか」
「うん。…うれしい」
「……それ以上のことを、しても?」
おっかなびっくり求めた言葉は面白いくらいに震えていたが、偲乃は心底嬉しそうに微笑んだ。
「うん、して。たくさん、して」
522夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 22:13:07.47 ID:e2DX1qMl
熱に浮かされてるみたいだ、と彪は思った。頭の芯がぼんやりとぼやけて、なのに身体は燃えるように熱い。自分も、偲乃も。

「んっ…あきらぁ…そこばっか、ぅ…やだぁ…」
「…もうちょっと」
「も…っふぅ…ん…!」
偲乃の文句を先送りにして右胸にしゃぶりつく。甘い声が喉の奥で殺された。
もうかれこれ10分以上も上半身ばかりを弄っているのだから、いい加減焦れてきたという偲乃の気持ちも分かる。分かるのだが。
「…おちつく…」
「こっちはおちつかな、っひゃん!」
乳房をふにふにと唇で食んだり、乳首に優しく吸いついてみたりするのが想像以上に心地よくて止められないのだ。
それに、一々びくりと反応する偲乃を感じるのも楽しい。

「ぅ…もぉ…ばかぁ…!」
「どーせ俺は脳みそまで筋肉でできてますよー」
「そっちじゃっ…なぃぅんっ…やっ、あきら…そこ」
「ん、これ?」
うなじを指先でくすぐると偲乃は逃れるように身をよじった。どうもここが弱いらしい。
「ふぁっ!? あ、あきっ…ぅ…だめ、あきら、だめっ…」
「どうして?」
反射的に尋ねると、真っ赤な顔で涙に濡れた黒曜石の瞳が向けられる。
「…まだ、もらってない、のに…きちゃう、からぁ…」

理性という名のストッパーは吹き飛んだ。

「っや、まって、あきら…や…ぁっ――!」
弓なりにしなる身体を抱きしめる。口に含んだままのぴんと張り詰めた乳首を舌先でくすぐると、偲乃はいやいやと首を振った。
とはいえ、彼女の両手は縋るように彪を抱きしめているのだから、本当に嫌がっているわけではなさそうだけれど。

「まっ…ぁ、あきらっ、も…んぅ、んんっ、ゃだぁ…!」
「偲乃、ごめんね。もうちょっと我慢して」
「やぁっ…も、ほしぃのに…!」
「うん、ごめん。でも、偲乃、すごく可愛いんだ。もっと見たい」
そう言ってキスを落とすと、偲乃は泣きだしそうな顔で身体の力を抜いた。
ありがとう、と頭を撫でる刺激だけでも感じるのか、鼻にかかる声をもらす。

(おかしいなぁ…俺、Sじゃないはずなんだけど…すごいなかしたい。二つの意味で)
完全にいかれた思考の端で思いながら、今度は後ろから抱きかかえるようにして座らせる。
あぐらの間にすっぽりと納まった偲乃の、頬、耳たぶ、首筋にと唇を寄せて細いうなじに吸いついた。
「ぁっ、やぁぁっ! あき、ゃだ、そこやだぁ…!」
「分かってる。こっちもするから」
「ちがぅ、のっ…ぁ…ぁあ…」
どうやら声を押さえることも忘れてしまっているらしい。
愛らしい声を零す偲乃に口元を緩めながら、ちゅうちゅうとわざと音を立ててうなじを吸う。
時折なめたり、強く吸いついて赤い痕を残すたびに偲乃は大きく震え、両手で胸を転がすだけで背筋を逸らす。
自身に身を委ねきっている彼女が愛おしくて仕方なかった。
523夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 22:16:24.32 ID:e2DX1qMl
「…好きだよ」
「っや…ぁぅ…あきら…」
「うん、大好き。…ほんとに、俺は幸せ者だ」
「ぇ…ぁ…〜〜っ!?」
しみじみと呟くと偲乃の身体が大きく震えた。一瞬何が起こったのかついていけなくなる。
肩で息をする彼女が振り向いて、涙と色で潤み上気した表情を見せたところでようやく達したのだと理解した。

「…ほん、とに…?」
「えっ、えと、ごめんなにが?」
「ほんとに、しあわせって…思って、くれてる…?」
「思ってる! 思ってます! 俺以上の幸せ者はいないよ!」
脊髄反射で心の底から即答すると、偲乃は潤んだ表情のままふわりと微笑んだ。
力の入らない身体を引きずって、半ばもたれかかるようにして彪に縋りつく。

「…よかったぁ…」

耳元で、普段からは想像もつかないほど蕩けた声で、言われて。彪は自分の中の何かが致命的になってしまったことを、妙に冷静な思考で認識した。
「……偲乃」
「ん…なぁに、あきら」
「俺は、どうすればいいかな」
「…なにを?」
「どうすれば、この、偲乃が好きだー! って感情を、伝えられるかな」

この上ないほど真剣に言ったつもりなのに、きょとんとした偲乃は、次の瞬間たまらないというように噴き出した。
頭の上に疑問符を飛ばす彪の前で、くすくすとおかしそうに笑っている。
「……変なこと、言った?」
「ふふっ…ううん、ぜんぜん。でも、嬉しくて、笑っちゃったのよ」
納得はいかなかったが、楽しそうに目じりを下げる彼女を見ているとなんだかどうでもよくなってきた。一緒になって笑い声を零しながら偲乃を布団に押し倒す。

ズボンと下着を取り払うと秘部はしとどに濡れそぼっていて、またしても胸がいっぱいになった。
「…俺は、すごく幸せだよ」
「それ、こんな状況で言う台詞かしら」
「言いたくなったから言っちゃった」
「……私も、幸せよ」
「よかった」
どちらからともなく口付ける。互いの唇を夢中になって味わいながら、猛る剛直を秘裂に差し込む。

熱くぬめるひだは蕩けそうな喜悦を与えたが、彪はゆっくり労るように肉壁をこすった。
激しい快楽を得ることよりも、今は、互いの温度を感じていたかった。

「っは…あき、らぁ…」
「ん…好きだよ、偲乃」

偲乃は嬉しそうに笑っていた。彼女の目に映る自身も、この上ないほど能天気に笑っていた。

(ああ、しあわせ、だな)

深い喜びと思慕を携えて、二人はほぼ同時に天辺に達した。
524夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 22:21:20.67 ID:e2DX1qMl
「……本当に遠かったわね」
「そうなんだよ。もうちょっと来やすい所にお墓作ってくれたらよかったのにね」
次の日の昼すぎ。二人は彪の地元で一番高い山の頂付近にいた。

眼下の町のみならず遠い先まで見通せるその場所は、山の頂上にあるお寺に隣接する墓地だ。
計画通り墓参りを終えた二人は、椅子に座ってここまで登ってきた足を休ませていた。
天気は快晴。遠くの地平線には海も見える。空の蒼と海の藍が混ざり合ってまさに絶景だった。

「…でも…すごくいい眺め。冴子さん、この眺めが気に入ったからこの場所に決めたのかしら」
「どうだろう? "私が死んだら誰も来れないような場所で誰にも邪魔されず眠ってやる!"って豪語してたから」
「面白い人ね」
「そうなんだよ」

冴子――小田切冴子というのが、二人が弔った墓の主である。豪胆且つ口が悪く、性根は優しいのにそれを認めようとしない捻くれ者。享年93歳。大往生であった。

「…ほとんどの人に悪い人だって誤解されて、誤解を解く努力もしなくってさ。
 旦那さんもいないし、家族と縁も切れてたとかで…お葬式も、ほとんど人が来なくって。
 …あの時は悲しかったなぁ。人一人が亡くなったっていうのに、清々したなんて言う人もいたんだ」
「言っていいことと悪いことの分別が付かない愚か者ね」
「そうだね、今はそう思う。…けど、当時は高校生だってのに分からなくて、随分悩んだんだよ。教えてもらった遊びも手に着かなくなっちゃって。
 夏休み全部使って自転車旅行したこともあるんだよ」
「……初耳なんだけど」
「そうだっけ?」

穏やかな微笑に影はない。それを確認して偲乃は心の中で安堵の息をついた。
過去を引きずっているわけではなく、今と過去の区別を付けて、大切な思い出として語っている表情だ。

「言った気になってたなぁ。…なんか、なにをすればいいか分かんなくなってさ。どうにもこうにも混乱して、嫌になって"よし、走るか!"って」
「"よし、走るか!"って…すごい勢いね」
「あの時はわりと必死だったんだ。夏休みの前までバイトしてお金貯めて、夏休み全部の時間とバイト代をつぎ込んで、北海道一周旅行。
 …まぁ、ほとんど野宿だったし色々大変だったから、他人には絶対に勧めないけどね。て言うか止める」
「無事にここにいてくれてよかったわ。で、なにかふっきることはできたの?」
「ぜーんぜん!」

あまりにもあっさりと笑われて偲乃は少しだけ絶句した。呆然とした表情が可笑しかったのか、彪は無邪気な笑顔を見せる。
525夫婦の墓参り:2014/03/09(日) 22:23:33.89 ID:e2DX1qMl
「北海道一周しても、なーんにも変わらなかった。俺は落ちこぼれのままだし、冴子おばさんも嫌われ者のまま。でも、そういうもんなんだって分かったよ。
 周りが変わるのを待ってるんじゃなくて、変わらない世界の中で、どうやって生きていくかなんだなって思った。それで、少し楽になった」
「……そう」
なんとなく頭を撫でるとくすぐったいと笑われた。
それでも振り払うことはしない彪が、たまらなく好きなのだと伝えたら、どんな顔をするだろう。

「…それに、周りは変わらなかったけど、俺は変わったと思う。
 旅行から帰ってから、お父さんに"これ以上勉強でやってくのは無理だから高校出たら働く"って言えたんだ。最初は反対されたけど、結局あっちが根負け」
「あなたが、あのお義父さんに? すごいわね」
「我ながらそう思う。…色々大変だったし、散々迷ったけどさ。これでよかったんだなぁって思えるよ。…偲乃たちにも会えたし」
唐突に名を出されて偲乃は少しだけうろたえた。優しい微笑を湛えていた彪は、そういえば、と笑みを深くする。

「冴子おばさんに"お前は絶対に結婚しろ"って言われたことがあるよ」
「冴子さんに? ええと…どうして?」
「"私は一人の方が良かったし、一人でいるのを後悔したことはない。けどお前はよわっちいから、いい人を見つけて結婚しろ"って」
「……優しい人ね」
「俺はそう思う。…生きてるうちは無理だったけど、こんな素敵なお嫁さんを紹介できて、よかった。ありがとう、偲乃」

不覚にも。不覚にもその一言は、偲乃の琴線に触れた。
熱くなる目頭を押さえて俯くと、彪は仰天した様子で偲乃の肩を抱く。暖かい手の温度が優しくてますます涙が溢れてきた。

「……あきら」
「なっ、なに!? どうした!? なにか持ってくる!?」
「…ううん、いらない。…なにも、いらないから…傍にいて」
「わ、分かった!」

ぎゅうっと力強く抱きしめられてどうしようもなく嬉しくなる。大きな背中に手を回すと腕に込められる力が強くなった。

愛しい人の肩越しに見上げた空は、どこまでも深く青く澄んでいた。
526434:2014/03/09(日) 22:26:55.51 ID:e2DX1qMl
ここまで!
途中エラーが起こって投稿に間が空いてしまい、申し訳ありませんでした

本当はシリアスからのラブラブになるつもりで、そのつもりで書き始めたのですが
…最初っからお花畑全開でどうしてこうなったマジで。マジで

いつも閲覧・コメントまで頂きありがとうございます。嬉しく思っています
少しでも暇つぶしになりましたら幸いです
527名無しさん@ピンキー:2014/03/12(水) 23:44:10.52 ID:2goem3uU
超乙!
528名無しさん@ピンキー:2014/04/04(金) 06:33:44.80 ID:LgGWovz8
529名無しさん@ピンキー:2014/04/14(月) 06:50:55.84 ID:Ps/KqzqA
530434:2014/04/17(木) 21:16:31.22 ID:jN4WETeV
保守代わりに小ネタ投下
エロなしな上誰が得するんだって話なので必要に応じて「小ネタ」をNGでお願いします
531小ネタ:2014/04/17(木) 21:20:17.71 ID:jN4WETeV
「助かったよ、彪」
「いえいえ。こんなことで良かったらいつでも言ってください」
偲乃の祖父藍沢弘喜に彪は笑顔を返した。
ここは、定食屋"あいちゃん"から自転車で20分程の場所にある偲乃の祖父母の自宅である。

あいちゃんにも住む場所はあるのに何故こんな所にも家があるのか。それにはちょっとした理由がある。
あいちゃんは偲乃の曾祖母が始めた店だ。初代店主である曾祖母藍沢愛(あいざわまな)から、
2代目の祖父弘喜が後を継ぎ、3代目を父亮太郎が継ぎ、その後を継いだ偲乃は4代目になる。
店を始めた当初は利便性や金銭面等々の理由で自宅兼店舗の形にしたが、
幸いなことにあいちゃんは人気が出、跡継ぎも立派に成長したので改めて自宅を買い直したのだ。
自然に囲まれているこじんまりとした平屋の一軒家。老後を過ごすには最適だとか。

こんな理由で、彪はわりと近くに住んでいる義祖父母にも可愛がられているのだ。閑話休憩。

「…うん、きれいにできているね。彪に頼んで正解だった」
彪が渡した将棋の駒をしげしげと眺め、弘喜は満足げに頷いた。たこや切り傷が残る大きな掌には飛車と歩と角が乗っている。

以前ここを訪れた時に、困ったような笑顔の弘喜が頼んできたお願いが将棋の駒作りだ。
曰く、いつものように友人と打っていたところ、一つは猫にとられ、一つはまっぷたつに砕け、一つは焼け跡が付いてしまったらしい。
百歩譲って猫にとられたのは仕方がないとしても、後半二つは一体何をやったのかと問いただしたい衝動に駆られた。
新しい駒を買うのも考えたが、駄目にしてしまった三つの為だけに全ての駒をそろえるのは少々もったいない。
そこで、自覚はないが細工や絵画系が異様にうまい彪に声をかけたのだ。
彪も、将棋の駒ぐらいなら――勿論きちんとしたものを作るには素晴らしい職人芸が必要だ――なんとかなるかな
弘喜さんのお願いだし、と引き受け、きっちり完成させた次第である。

「そう言ってもらえると嬉しいです。他に、なにかできることはありますか?」
「いいや、平気だよ。どうもありがとう」
のほほんと笑われて彪の表情も緩んだ。弘喜の、どんな時でものんびりゆったりしている雰囲気が、彪は好きだった。
この穏やかさのおかげで、緊張しいな自分でもわりとすんなり藍沢家に馴染めたと思っている。
なにを隠そう、藍沢家で一番最初に親しくなったのも弘喜だったのだ。こんなこと天地が逆さまになっても偲乃には言えないが。
「そうだ。彪、昼ごはんはまだだろう?」
「へ? あ、はい。そうです」
「一人で来たということは、偲乃もいないんだね?」
「ええ。ご友人とお出かけで」
篠原茜から誘いを受けた時の「茜さんとお出かけしたいしお話もしたいけど彪と一緒にいれないのは寂しいどうしよう」
とでも言いたげな葛藤した様子を思い出しつつ、彪は答える。きのうのしのさんはすごかったです。
「なら、一緒に食べよう。お礼がてら作るから」
「え、いいんですか?」
「もちろんさ」
わぁい。
「…とはいっても、簡単なものしかないけれどね」
「嬉しいです!」
「じゃあ、作ろう。ちゃちゃっとやっちゃうから、洋子を呼んできてくれるかい」
「分かりました」

台所へ向かった弘喜を見送って、彪は裏庭へ回る。
532小ネタ:2014/04/17(木) 21:23:02.21 ID:jN4WETeV
裏庭では、白髪混じりの長い髪を一つにまとめ、紺色の作務衣をびしっと着こなした女性が小さな畑の世話をしていた。
「洋子さん」
声をかけると、女性は未だ衰えを感じさせない鋭い視線を彪に返す。しゃんと伸びた背筋や汚れを落とす機敏なしぐさは年齢を感じさせない。
「彪か。…弘喜がご飯を?」
「はい」
「では、戻りましょう」
そう言って凛とした笑顔を見せたのが偲乃の祖母の藍沢洋子である。
女性としては高い身長にすらりと長い手足、おまけに冷たい印象を受けそうなほど整った顔立ちはさながら宝塚俳優のようだ。
性格も、今は大分丸くなったらしいが強気且つ勝気。男勝りな性格で、学生時代は男性よりも女性からの方がより人気だったとのこと。
偲乃と亮太郎曰く「「私(俺)の性格はおばあさん(おふくろ)から受け継いだ」」らしい。そうかもしれない、と彪は思う。
ちなみにこの言葉は「「だからおじいさん(親父)には弱い」」と続く。確かにそうだ、と彪は思う。

「そうだ。将棋の駒のこと、ありがとうございました」
「いえいえ。あのくらいならいくらでも」
「あのくらいとは言うけれど、大変だったでしょう? なにかお礼をさせてください」
「弘喜さんのご飯が食べられますから」
「……それはお礼になるでしょうが」
困った様子の洋子を見て、彪は自然と笑顔になった。

居間に戻ると、机の上には既に美味しそうな料理が湯気を立てて並んでいた。
彪が洋子を迎えに行ってから戻ってくるまで10分もかかっていない筈なのだが、いつも通りのことなのでもう慣れてしまった。
「おかえり、二人とも。さあ、食べよう」
「ありがとうございます!」
「いつもありがとう」
各々席に座り、いただきますと合掌して早速箸を手に取る。
本日のメニューは、白米と玄米が混ざったホカホカご飯、鰹節の出汁が効いた筍の煮物、鰆の塩焼き、付け合わせに春キャベツとカブの甘辛炒め、
ジャガイモと玉ねぎと油揚げが入ったお味噌汁だ。全然簡単じゃないとか、あの短時間でどうしてこれだけのものができるのだとか、
突っ込みたいところは山ほどあるが、いつものことなので何も言わずに美味しく頂く。
「お味噌汁は今朝作ったもので筍は昨日沢山作っただけだから、そんなに手はかかっていないんだよ」
「心を読まないでください弘喜さん!」
「顔に出てたからねぇ」
「そんなに分かりやすいですか俺」
「…あなたの、素直で正直なところは美徳ですよ」
「……フォローありがとうございます」

何も言えなくなったので大人しくお味噌汁を口に含んだ。白味噌の柔らかい甘さと丁寧にとられた出汁が胃を優しく解していった。
「「……おいしい」」
煮物を食べた洋子と彪の声が被る。思わず顔を見合わせた二人を見て、弘喜は笑みを深くした。
「二人とも、喜んでくれるから作り甲斐があるよ。
 感想は強要するものではないし察することもできるけれど、言葉にしてもらえると、やっぱり嬉しいね」
にこにこ笑う弘喜を見て、洋子は恥ずかしさを誤魔化すように鰆を食べる。
しかし、どこか憮然としていた表情も、絶妙な塩具合の鰆を食べる頃には大分緩んでいて、それを見た弘喜はにこにこにこにこと笑っていた。
(お義父さんが同居をしない気持ち、ちょっとだけ分かるかもしれないなぁ)
いつだったか、あの二人は幼い頃からあんな具合なんだと遠い目をしていた亮太郎に思い馳せつつ、彪は筍を口に入れる。
一から調理するのは難しいと聞くが、流石と言うべきか、程良く柔らかくも噛み応えがある筍には出汁がよく染み込んでいて非常においしい。
こんな料理を無料で食べれるなんて得だ、と笑った彪は、ふとあることを思い出す。
533小ネタ:2014/04/17(木) 21:24:12.18 ID:jN4WETeV
「…そういえば、外でご飯食べるの久しぶりだ」
「そうなんですか?」
独り言は存外大きく響いた。
「あ、はい。いつも、偲乃さんが作ってくれるので」
「ああ。……そういわれてみると、私も最近外食をしていませんね」
「やっぱり、弘喜さんが?」
「はい、毎回。妻としてのプライドは大分昔に捨て去りました」
「あはは、なるほど」
料理ができないわけではないんですよ、と弁解する洋子に彪は同意する。
勿論作れと言われれば作るが、偲乃の方がはるかに上手だし、彪が申し出る前になんでもない顔で美味しいご飯が並べられているのだ。
作る機会が減っても仕方ないだろう。

「たまには変わろうかと言ってみても、平気平気の一点張りで」
「うん。それはそうだよ」
ため息交じりの洋子の言葉に、弘喜は柔らかく微笑んだ。
「せっかく料理が得意なんだからさ。大事な人のご飯を自分が作りたいと思うのは、自然な感情だろう」
「そうかもし……」
あまりにもあっさりと、さらりと言われて普通に同意しかけた洋子だったが、時間差で効いてきたようで言葉を止めた。
じわりじわりと頬を染め、丁寧に箸を置き、大きな溜め息をついて頭を抱える。
「…せめて人前では止めてくれと何度言ったら分かるんだ…!」
「事実だからねぇ」
「年齢を考えろ年齢を…!」
「事実だからねぇ」
真っ赤になったまま文句を言う洋子と、のほほんと笑いながら文句を受け流す弘喜を見て、彪は思う。
(お義父さんが同居できない気持ち、分かるなぁ)

塩が効いているはずの鰆は、何故かとても甘かった。


その日の夜、偲乃のご飯を食べながら弘喜の言葉を思い出して、目の前のどこか満足げな偲乃を見た彪は時間差で悶える羽目になるのだが、それはまた別の話。
534434:2014/04/17(木) 21:26:23.26 ID:jN4WETeV
以上!

いやほんと誰が得するんだって話ですが個人的に老夫婦がとても好きで
その思いが暴走した結果こんなことになってしまってそのすみませんでした
535名無しさん@ピンキー:2014/04/18(金) 09:24:59.00 ID:HdhJlalg
GJ!
年をとってもラブラブでいたいものです
見習わねば!
536名無しさん@ピンキー:2014/07/05(土) 00:09:20.80 ID:IlbZzWLf
537名無しさん@ピンキー:2014/07/07(月) 07:40:45.12 ID:uAgtvsWY
てす
538434:2014/07/12(土) 15:06:34.04 ID:+jGiZldD
台風が熱気を連れてきたので投下します

調子にのって夫婦2組ぶっこんだら1万字軽く超えてしまったので
微妙な区切りですが前半だけ投下させてください。すみません
葵茜夫婦で、エロ薄い、本番無し、山も落ちも意味もない話なので
必要に応じて「銭湯編」をNGでお願いします
539銭湯編:2014/07/12(土) 15:09:56.88 ID:+jGiZldD
昨晩の台風が嘘のような、台風一過の晴天が広がる土曜の午後。
一月ほど前に発売された、訳を担当した本の振り込みを確認して、
「……あ」
僕は小さな声をもらした。

僕の背中に寄り掛かるように座って、今朝届いた先月の結婚式のアルバムを眺めていた茜が、どうかしたのかという風にこちらを見やる。
いつもであれば即座に応えるところだが、僕は、何よりも先に残高の合計額を確認した。その金額を見て、頭の中で色々なことを計算する。
幸いにも茜の仕事は安定しているし、僕の方も、新しい文章を幾つか頼まれた。加えて、有り難いことに訳している小説の内、
とあるシリーズが大人気と言っても差支えない程人気になった。それを考えると……よし、計算終了。
「なあ、茜」
「うん。どうしたの?」
「子どもつくろうか」
「…………はい?」
僕の言葉を聞いた茜は、たっぷり間をおいて、呆然とした顔でこちらを見上げてきた。少し急すぎただろうか。
「子どもだよ、子ども。僕と君の、子ども」
「えっと……あおくんと……わたしの……こども……?」
「ああ」
「…………」
「………………」
「……………………」
「……茜?」
硬直したままの彼女を覗きこんでみると、茜は、とても混乱していた。やはり急すぎたようだ。反省。

「……ちょっ、ちょちょ、ちょ、ちょっとまってあおくん!」
あ、復活した。
「うん、どうした?」
「子どもって、あの、えっ、だって……えっと、待って待って、その、こ、こどもですか!?」
「そうです、子どもです」
「な、なんで!? いや、その、どうして急に!? せ、説明してください!!」
「承知しました。まずはこれをご覧ください」
おそらく言葉での説明は必要ないだろうと思いながら、先ほど記入してきたばかりの通帳を見せる。
最新の欄には、それなりに中々の額が記載されていた。茶色の目が何度も瞬き、確認するかのように金額を読む。
「……こういう時、なんていえばいいんだろ。目標額達成?」
「うん。それでいいんじゃないか」
「そっか……もう、こんなにたまってたんだ……」
「幸いなことにね」
感慨深げに頷く茜を軽く撫でる。
540銭湯編:2014/07/12(土) 15:12:50.68 ID:+jGiZldD
子育てには、お金が必要だ。
だから僕たちは、これだけ貯めたらある程度は大丈夫だろうという目標額を定め、それを達成するまではしっかり避妊をすることにしていた。
喜ばしいことに、つい先ほど、その目標額を達成していたことに気が付いたので、お誘いをしたわけだ。ということで。
「僕の言いたいことは分かったな?」
「うん。もっと時間かかると思ってたんだけど…すごいなぁ。さすが葵だね」
「そっちでなく」
「え? って、ゎひゃあ?!」
どこかずれている茜を抱きあげた。
目を見開いて、訳が分からない様子で固まっている彼女からアルバムを受け取り
――ちょうど、白いウエディングドレスの茜とタキシードの僕が、笑顔で寄り添っている写真だった。改めて見ると恥ずかしい――通帳を挟んで机に置く。

そのまま寝室の扉を開けたところで、ようやく僕の意図が分かったのか、茜は一気に顔を赤らめた。可愛い。
「あ、葵?! 葵さん、あの、ちょっと待ってください!」
「なんでだ」
「なんでって、だって、まだ明るいんだよ!?」
「大丈夫。それはそれで燃える」
「燃えないよ! あの、あと、私、今日、まだ、お風呂入ってない…!」
「大丈夫。今日は汗かいてないし、茜の匂いは大好きだ」
「全然大丈夫じゃない!」
あわあわと叫ぶ彼女をベッドに座らせ、その隣に腰掛けてなるべく真剣な顔で茜を見る。
「なあ、茜。僕の子ども、産んでくれないか」
「えっ…え、あの…えと…。……う、産みたい、です」
「話はまとまったな」
流れるように押し倒す。
「あああ私の馬鹿!!」
「……もしかして、嫌なのか?」
「そんなわけないでしょ! 産みたいよ! 産むよ! だけどちょっと待って心の準備が!」
「なるほど。なら、40秒で準備しな」
「囚われの女の子を助けに行くんじゃないんだから! それに微妙に違う!」
ツッコミを入れるのはそこか。
我慢できず、つい苦笑した僕の下で、茜はこの現状をどうにかしようと焦っていた。
顔を赤らめ、両手を手持無沙汰気味に漂わせ、なのに本気での抵抗はしない。ああ、なんて可愛くて、夫思いのお嫁さんなんだろう。
541銭湯編:2014/07/12(土) 15:16:05.24 ID:+jGiZldD
彼女の気持ちも分からないでもない。
普段、電気を薄く点けるのでさえ恥ずかしがる茜だ。こんな明るい時間からこんなことを始めるのに抵抗があるのだろう。
その気持ちは一応理解できるし、貞操観念がしっかりしているお嫁さんで大変喜ばしいのだが、
大好きな子を孕ますことをずっと我慢していた僕は、限界だった。

きっと、そんな気持ちが顔に出たのだろう。
僕を見上げた茜は、元々赤かった顔を更に赤くし、彼女を見降ろす視線から逃れようと目を逸らす。が、逃がさない。
「茜。僕はもう、わりと限界だ」
「っ……!」
「これでも、我慢していたほうなんだ。ここには僕と君しかいない。明るかろうがなんだろうが、今、抱きたい」
「だっ…!? あ、あおくん、おねが、ちょっと落ち着いて…?」
「無理」
二文字で切り捨てると、茜は言葉に詰まったが、不意に何かを思い出した様子で僕の肩を押さえる。
「そ、そうだよ、ほら、銭湯!」
「……銭湯?」
何故に今このタイミングでそんな言葉が出てくるのか。
「公園の近くに新しい銭湯ができたから、行ってみようって言ったでしょ?
折角の休みだし、早い時間から行けば空いてるだろうから、今から行ってみない?」
「…えー…」
「ほ、ほら! 最近色々あって疲れてるし、たまには温泉でリフレッシュするのも楽しそうだよ?」
「……否定はしないけどさ」

この状態でお預けなんて、中々に鬼畜なことを仰ってくれる。
だが、僕はともかく茜が疲れているのは確かだし、そもそも銭湯の話をしたのだって、彼女にリラックスしてほしいのが主な目的だ。
僕の欲求より茜の体を優先すべきなのは言うまでもない。
僕の勢いが減少したのを察したのか、茜は更に言葉を重ねる。
「その、そういうことをした後に、ちゃんと洗わないで外に出るのは嫌だし…色々、本末転倒でしょ?
だから、帰ってきてからならいいから、今は、行こう?」
茜の声は安堵の響きを持っていた。
考えるまでもなく、最後までやっちゃったら風呂に入ってからじゃないと外出できない。
銭湯に行こうって言っているのにそれじゃ、なんとも馬鹿馬鹿しい話だ。
茜がそういう目で見られる可能性を上げるのもどうかと思うし…とそこまで考えて、僕は天啓を授かった。

「なら、中にいれなければいいんだな」
「……え?」
「だって、そうだろ? 君だけなら、拭けば問題ないじゃないか」
言いながら覆いかぶさるようにして近付くと、予想だにしなかったのだろう、茜はとても慌てた。
「ま、待ってよ葵! それじゃ、意味ない…」
「子どもはあくまで結果だからね。今の僕の目的は、子どもを作ることじゃなくて、茜のやらしいとこをいっぱい見ることだ」
「ちょっ…ま、待ってくださいあおくん! だって、だって、こんな時間なのに!」
「僕は、朝昼晩関係なく24時間いつだって、茜を抱きたいと思ってる」
「少しは自重して!?」
「常に自重してるよ。…なあ、頼むから、これ以上焦らさないでくれ。本当に限界なんだ。つべこべ言わず抱かせろください」
「なんかそれちが、んんっ!」
これ以上押し問答をしても意味がない気がしたので、半ば強引に口を塞いだ。
当然、茜は非難がましい目で僕を見る。が、それには気付かないふりをして唇を割る。
舌を侵入させ、反射で強張っている彼女の舌を絡め取る。茜が僕の肩を優しく押したが、止まれなかった。
「ふ、んん…っは、あお、ぅん…!」
言葉も全部呑みこんでしまう。それだけ必死だった。茜に夢中になっていた。
そんな僕の様子が、言外の空気で伝わったのだろうか。
茜は仕方ないなぁと目元を緩めると、肩に触れていた手を首の後ろに回し、僕を抱きしめた。辛うじて残っていた理性が、吹き飛んだ。
542銭湯編:2014/07/12(土) 15:20:03.76 ID:+jGiZldD
茜に触れる時、僕はいつも思う。彼女以上に、柔らかくて、暖かくて、心地よいものが、この世に存在するのだろうか。
「んっ、は…ぅ、あお、いぃ…」
甘い吐息が混じった言葉を聞きながら、柔らかくも張りがある乳房をゆっくりしゃぶる。
茜は僕の髪をくしゃくしゃとかきまぜていたが、空いている手でおへその下を撫でると身を震わせた。
下腹から腰に、腰から足の付け根にと徐々に下がりつつ、口では彼女の胸を舐めたり、吸ったり、軽く噛んだりする。
……ああ、僕は、なんて贅沢なことをしているんだろう。
「あおいっ…ぁ、それ…や…」
「嫌じゃ、ないだろ」
言って、もう片方の胸をぺろりと舐めた。細い首が軽くそる。
その反応に気をよくして、控え目ながらも硬くなっている乳首を唇で食み、舌でこね、歯を当てた。堪えきれなかったのだろう、か細い悲鳴がもれた。
滑らかできめ細かな肌は仄かに染まり、じんわりと熱を帯びている。本当なら、強く吸いついて鮮やかな痕を残したいところだが、今は我慢だ。

形の良い胸を堪能しながら、逃げないよう片手で腰を抱いて、もう片方の手を秘所に寄せた。
茜の身体で一番熱いそこは、刺激を待ちわびるかのようにしとどに濡れそぼり、軽く指を動かすだけで水音がした。
「やっ…音、やだぁ…!」
「そうなのか? こんなに喜んでるのに」
「やだ、よ…恥ずかし…ぁんっ」
「ほら。ちょっと触っただけなのにくちゅくちゅいってる」
「ふぁっ…そ、それだめぇ…」
わざと音が出るよう指を動かすと、茜は恥ずかしがって逃れようと腰を引く。
もちろん逃がすつもりは毛頭ないのでしっかり抱き寄せ、中指と人差し指をそろえて秘部を撫でた。
茜はたまりかねたように顔を逸らし、秘裂からはとろりとした愛液が溢れてくる。
「茜、目閉じないで」
「ひっ、ん…だ…って、ぅぁっ…はずか、し、よぉ…」
「恥ずかしくないって。すごくかわいくて、きれいだよ。な、顔見せてくれ」
そう言って頬に唇をよせると、涙が滲んだ茶色い瞳が僕を見た。羞恥心の奥に、情欲や期待が隠されている。
543銭湯編:2014/07/12(土) 15:25:08.58 ID:+jGiZldD
いつもなら、じっくり時間をかけて羞恥心を溶かして欲しがってもらうところだが、今それをしたら僕の我慢が効かなくなるのは目に見えている。
そうなるわけにはいかないので、ついばむような口付けを落としながら、しっかり濡れている中指を一気に中へ突き入れた。
「んあっ?! ぁ、やぁぁあああっ!」
一拍置いて、茜の背中が弓なりにしなった。中指が柔らかく締め付けられる。
「…ぁ…あ…」
「…茜、すごく色っぽい」
言いながら、中指を抜き差ししてお腹側の壁を刺激する。
柔らかい襞の感触を楽しみながら探っていると、少しザラザラした一角を見つける。
軽く触れた途端、茜が小さな悲鳴を上げたが、気にせず指の腹で擦り上げた。
「ふぁああっ?! やっ、あおく、そこだめぇっ!」
「だめじゃないだめじゃない」
「だめっ…だめ、なの! んゃっ…きもち、よすぎる、からぁ…ひゃああっ」
そんなことを言われて止めるわけがない。
びくびくと震える茜の身体を撫でながら一瞬考え、今日はこっちがいいかな、と親指を陰核に寄せる。
半ば夢見心地の茜が気付くよりも早く、
「ひああっ!? あっ、やっ、ああっ、だめっ、あおくん、だめぇ…!」
充血してぷっくり膨れ、ひくひくと震える陰核を擦りあげた。

内と外を同時に責められ、強い刺激から逃れようと身をよじる彼女を押さえ込む。
半ば無意識だろう、しなやかな足を僕の腰に絡め、淫らな動きで腰をこすりつけ、上気した顔で僕を見る茜は、艶めかしい美しさに満ちていた。
「ほら、まだ終わらないぞ」
いいながら、中指を鉤型に曲げ、指の先でざらついた部分を小刻みに抉る。
再三、茜の身がしなり、甘い悲鳴が上がった。自然と零れた涙をなめて、柔らかい唇にかじりつく。
涙と色に染まった茶色の目に映る僕は、心底楽しそうな顔で笑っていた。
544銭湯編:2014/07/12(土) 15:28:01.89 ID:+jGiZldD
あんな茜相手でも堪えられるようになったなんて、僕は、理性が強くなってきたのかもしれない。
そう心の中で呟いて、隣の、楽しそうな茜に目を向けた。

風が涼しくなってきた夕焼け空の下を、僕たちはのんびりと歩いている。
茜が受け入れてくれたおかげで、まぁなんとかそれなりに満足をしたので、当初の予定通り銭湯に行くことにしたのだ。
茜が疲れているのは本当だし、新しくできた銭湯はスーパー銭湯というヤツで、温泉以外にも
食事を食べたりマッサージをしてもらえたりするらしいのだから、リフレッシュのため行かない手はない。
だが、昔の、それこそ結婚したばかりの僕であれば、銭湯の予定は次の日に繰り下げて、心ゆくまで茜のことを味わっていただろう。
そうせずに我慢できたあたり、理性が強くなったか、もしくは、
「……僕もそろそろ年かなぁ」
「ううん、それはない」
きっぱり即答された。

だけど、と茜を伺うと、彼女はいたずらっ子のような笑みを浮かべて僕を見る。
「いつも、私がもう無理って言ってるのに、全然聞いてくれないでしょ。
葵がさっき我慢できたのは、年のせいじゃなくて、銭湯で私の疲れを取ることを大事なことだって思ってるからです」
「…………」
つい、言葉に詰まってしまう。
年だという発言だけで、僕が思っていることをほとんど全部把握されて、狐につままれたような気分になった。
表情に出たのだろう。茜が笑みを深くする。
「十年以上、葵がなにを思っているのかなって考えてるんだよ? 私だって、たまには当ててみせます」
少し得意げな彼女を見て、僕は別の意味で目を逸らした。茜が可愛すぎて目が合わせられない。
「……もしかして、照れちゃった?」
「いや、その、まあ、それなりに」
ちょっと違うんだけど、とは言わずに認めると、茜は嬉しそうににこにこ笑う。
くそっ、昔の、それこそ結婚しばかりの茜ならば、気付いたとしても恥ずかしがって言わなかっただろうに。
月日を経るにつれ、段々と、恥ずかしがってばかりいた茜にも余裕が出てきて、可愛いだけじゃなく大人の余裕も兼ね備えてきたのだ。
どうしよう。最強じゃないか。
「……ああ、でも、茜はどんな時も最強か」
少なくとも、僕にとっては。
「あ。葵、あったよ。あの建物じゃない?」
本当に小声で言ったから気付かなかったのだろう。輝いた目で僕を振り返る茜に笑顔を返し、つないだ手に少しだけ力をこめた。
545銭湯編:2014/07/12(土) 15:34:57.69 ID:+jGiZldD
銭湯は、スーパーという形容詞が付くだけあって、広々としていた。
一階は駐車場になっていて、入口は二階にある。中に入ると、温泉特有の硫黄っぽいにおいが漂ってきた。
内装は和風で、柱が走っている天井は高く、開放感がある。お風呂は建物の奥にあって、それ以外の場所は、休憩所兼お食事処になっていた。
和風の扉の先にはマッサージ屋さんもある。
茜と二人、すごいすごいと喜んでいると、親切そうなスタッフのお姉さんがいろいろと教えてくれた。
食券を買うのと同じ要領で切符を買い、タオル等を受け取って、男湯の入り口前で茜と別れる。

時間が早いからか人の少ない更衣室で服を脱ぎ、荷物をロッカーに入れて中へ入ると、これまた凄い光景が広がっていた。
解放感のある空間には、複数のお風呂がどーんと構えている。手早く髪と体を洗い、さてどれに浸かろうかと首をひねる。
お湯は、基本的に源泉掛け流しらしい。熱いお湯と温いお湯、電気風呂にバブル風呂に…外には露天風呂と岩盤浴が出来る場所もあるらしい。
こんなに沢山のお風呂を用意してどうしろというのか。
内心ぼやきつつ、ひとまず、むわっとした熱い空気から逃れようと露天風呂の方へ向かう。
そこで、思いがけず知り合いを見つけた。
「やあ、彪じゃないか」
「…へ? あ、葵さん。こんにちはー」
定食屋あいちゃんの入り婿、藍沢彪だ。早い時間ではあるが、あいちゃんを閉めてすぐに来たのだろうか。

隣に座る了承を得てぬるめのお湯につかると、自然とため息がこぼれた。彪が力の抜けた柔らかい笑みを浮かべる。
「お風呂って、いいですよね」
「ああ」
「俺、結構のぼせやすいんで、普通のお風呂だとあまりのんびりできないんですけど、露天風呂だと長く浸かれるんです」
「それはいいな。今日は、偲乃も一緒なのか?」
「はい。ちょっと疲れることがあったんで、もう夜は怠けちゃおうかーって話になって」
「へぇ、珍しい」
思わず言うと、彪は少し困ったように笑って「偲乃、真面目ですからね。たまにはこんな日があってもいいかと思って」と言った。
僕が言ったのはそっちの意味ではないのだが、敢えて言わなくても良い気がしたので話を合わせる。
そこで、なんとなく違和感を感じた。なんだろうと考えて、つい、気持ち良さそうに目を閉じている彪を観察する。直後、気付いた。
普段は服を着ているから分からなかったが、彪は、意外と筋肉質で引き締まった体をしている。
身長は男性平均とさほど変わらず、そうでなくても気弱な性格の印象が強すぎて僕以上にひょろひょろなのではと勝手に思っていたのだが、
それは間違っていたようだ。顔立ちは柔和なままだが、しっかりした体躯と合わせると、どこか野性的な印象を受ける。これが違和感の正体か。

一人で納得し、彪と同じように目を閉じた。雨が止んだからか、どこからか鳥のさえずりが聞こえる。
「……そういえば」
「はい?」
「疲れたことって、なにがあったんだ? 君がそんなことを言うなんて、珍しいよな」
尋ねてみると、彪は穏やかな顔を苦笑させ、頬を掻く。
「実は今日、兄が来たんですけどね」
「お兄さんいたのか」
「あ、はい。兄と姉が一人ずつ。……言ってませんでしたっけ?」
「初耳だよ」
言った気になってました、と笑い、彪は続ける。
「兄さんが、9歳年下の金髪の美人連れてきて、その子と結婚するって言い出したんです」
その言葉は、彼を質問攻めし、ついうっかりのぼせさせてしまい、偲乃に睨まれる結果につながる程度には、衝撃的だった。
546434:2014/07/12(土) 15:50:14.47 ID:+jGiZldD
中途半端ですみません、しかも規制に引っ掛かって遅くなってすみません!
とりあえずここまでです!
投下した後で銭湯の影が薄いことに気付きました

相変わらず拙い作ですが、少しでも楽しんで頂けると幸いです
547名無しさん@ピンキー:2014/07/18(金) 20:14:30.85 ID:+aixK2um
>546
GJ!
548434:2014/07/20(日) 23:05:12.05 ID:H5UIrV1l
予定より遅くなってしまいましたが投下します

彪偲乃夫婦、エロまで遠い、微妙なSM表現と言っていいのか分からないくらい微妙なの、
本番なるのにエロくない!不思議!なので
必要に応じて「銭湯に行った夫婦」をNGでお願いします

あと、連投規制が怖いのでゆっくり目に投下します、すみません
549434:2014/07/20(日) 23:09:03.56 ID:H5UIrV1l
土曜日の午後二時。

お昼時をどうにかさばききったことや、あと二時間もすればお店を閉められることもあって、私は自分でも気付かないうちに長いため息をついた。
18の頃から五年間、もうすぐ六年目になるのだから、ある程度は慣れたとはいえ、
いつもより早い時間からお父さんの助けもなく厨房に立つ土曜日は、普段よりも疲労感が増す。
最後のお客さんを彪とともに見送ると、否が応でも力が抜けた。
「偲乃、お疲れさま」
「あなたも、お疲れ様。ご飯作るから少し待ってて」
「たまには俺がやるよ?」
「いいから」
気持ちだけありがたく受け取って冷蔵庫を開ける。
料理人が私生活でも料理を作るとは限らないし、彪の料理はおいしいことも分かっているけれど、彼のご飯は、なるべく私が作りたい。
唯一、これなら、と思えることなのだから。
冷蔵庫の残りを確認したら、鶏肉とうどんが多く残っていたので頭の中で算段をつける。
外はむしているから冷やもいいが、冷房は効いているので温かくするのも良いかもしれない。さて。

「はい、お待たせ」
「大して待ってないけど…」
「お父さんなら30秒は早いし、おじいさんなら2分くらい短いと思うわ」
「それは比較対象が凄まじいんです」
そうかもしれないけれど、だからって妥協するわけにはいかないでしょう。

言葉にしなくても伝わったのか、彪は困ったような笑顔を見せた。その反応は敢えて無視をして机の上に料理を置く。
だしの効いた温かいつゆに手延べうどんを入れ、その上に刻んだ水菜とネギ、鶏肉の照り焼きを乗せた即席のまかないと、おまけに茄子の煮浸しだ。
彪は、わぁい、と嬉しそうに手を合わせる。私の頬も自然と綻んだ。
料理人として、相手が誰であれ、作ったものを美味しいと言ってもらえるのは嬉しいことだ。それが彪なら、喜びは一層深くなる。
一年前、この人と初めて会った時は、自分がこんなことになるなんて想像すらできなかったのに、人の心とは不思議なものだ。

嬉しそうに食べていた彪は、けれど、私が自分の分を用意して隣に腰掛けると眉根を寄せた。
「……またそれだけなの?」
「十分よ」
彼の目は私の昼食――朝のうちに作っておいた梅むすびに薄味のだし湯をかけ、なすの煮浸しを添えたもの――に向けられていた。
「それとも、これじゃ不服?」
彪は口をへの字に曲げる。
「中身に文句があるわけじゃないよ。お米はお腹にたまるし、梅干しは疲れをとるし、水分も取れるしお湯なら体も冷えにくい。野菜だってちゃんとある」
「ならいいじゃない」
「量が少なすぎるんです、量が」
改めて自分の食事を見る。
小盛用の小さいお椀に一杯と小鉢に少し。確かに、世間一般の女性が食べる量と比べても少ない自覚はある。けれども。
「作ってるだけでお腹いっぱいになるんだもの。本音を言うなら食べたくないくらい」
「だとしても、もう少し食べてください。倒れるんじゃないかって不安になる」
「平気よ。これまでもこれで平気だったんだし」
「……だからこんなに細くて小さいんだよー」
「貧相な体で悪かったわね」
「そんなことは言っていない」
余計な遠慮のない会話に胸が暖かくなる。今までなら、こんなこと、お互いに言えなかったはずだ。
意図せず緩んだ目元を「真面目に言ってるんだよ」ととがめられたが、そういう彪の表情も柔らかい。
激しい言動がなくたって、互いが思いあっていることが伝わってきてなんとも嬉しかった。

そんな、穏やかな時だった。
「よお、こんちは」
「こ、こんにちは…」
「あ、いらっしゃいま…兄さん!?」
彪の兄で私の義兄、和泉樹さんが、どこからどう見ても日本人離れした美人を伴って店にやって来たのは。
550銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:14:01.13 ID:H5UIrV1l
「日本人離れした美人…ってことは、外国の人?」
隣で首を傾げる茜さんに、私は肩をすくめてみせた。
「ハーフみたい。父親がドイツ人なんだって。
 でも、生まれも育ちも日本育ちで、性格も、夫の三歩後ろに控えてる古き良き日本女性、って感じだったわ」

色々と面倒になってやって来たスーパー銭湯で偶然出会った茜さんは、その説明を聞いて楽しそうに目を細めた。
私より二歳年上だけど、十年程付き合ってきた今でもそのことが信じられなくなる。それくらい、茜さんは可憐な人だった。
「じゃあ、偲乃の二人目のお姉さんだ」
「年下だけど」
「そうなの?」
「しかもまだ学生よ。将来有望な二十歳」
「二十歳!?」
これには茜さんも驚いたようだ。その気持ちはよく分かる。私だって、危うく振っていた鍋を落としかけたのだから。

いくら茜さんとはいえ、この話は言わないつもりだけれど、
私の義姉になる予定の恵実・バイルシュミット・高坂さんと、お義兄さんが交際を始めたのは五年前だと言う。
当時、お義兄さんは24歳で、彼女は…計算するまでもない。
我慢できなかったのだろう、彪は「犯罪だ!?」と悲鳴を上げ「馬鹿言うな籍を入れるまで手ぇ出す気はねえ!」と言い返された。
「大体、外見だけ見ればお前の方が犯罪だ」とおまけまで付いて。
一瞬、鍋の中のレバニラ炒めに山盛りの唐辛子と山椒と柚子胡椒をぶちこんでやろうかと思ったが、プライドがそれを許さなかった。

「二十歳かぁ…。……私が自覚した年と同じだ」
「しかも私に指摘されてね」
「……その節は多大なるご迷惑を……!」
お風呂のせいだけではないだろう。茜さんは顔を赤らめ、ぶくぶくぶくとお湯に沈んだ。
その仕草だけ見れば愛らしい子どものようだけれども、髪をお団子にしているせいでちらりとのぞくうなじには色気が浮かんでいる。
葵も大変だ、と無責任に思う。
同時に、私も結べるくらいに髪を伸ばしてみようかと考えてみて、すぐに却下した。おそらく、似合わない。

「そ、それはそれとして! 彪のお兄さんって、そんなにすごいこと言いだす人だったっけ?」
「私も、彪も、あんなお義兄さん初めて見た」
お義兄さんは、私が見る限り、三兄弟の中でお義母さんと一番似ている。
明るく快活で直情的。少々型破りなところもあるけれど、兄妹の中では一番常識的で、いざという時は頼りになる、まさにお兄さんだ。
深く付き合えば付き合うほど、九歳年下の女の子と仲良くして、挙句結婚するなんて言い出すような人ではないと分かる。
…………そう、思っていたのだが。
「なんていうか……恋愛って、良くも悪くも人を変えるじゃない」
「ああ、それをもろに体現しちゃったんだ」
「凄いのよ、近年まれにみる真剣な顔で、
 “初めて会った時にこの人だと思った。その感情は日に日に強くなった。もう結婚するしかねえ!”とか言いきっちゃうの」
「ちょっ、ええっ!?」
すごいね、樹さん、と茜さんはのんきに笑っているが、実際に目撃したこちらからしたら、笑い事なんかでは断じてない。
あのお義兄さんがあんな顔であんなこと言うなんて、ちょっとしたホラーだった。

確かに恵美さんは美人だ。すらりとした長身でスタイルも良い。
金と焦げ茶のツートンの髪は複雑な色味できれいだったし、愁いを帯びた鳶色の瞳や大人しい話し方にも後押しされてとても大人っぽい。
私だって、言われなければ、二十歳で学生だなんて気付かなかった。
それでも、だ。
あの常識的でしっかり者のお義兄さんが、きっとそうは見えなかっただろうとはいえ15歳の女の子に一目惚れして、
結婚するなんて言い出すなんて。しかも、デレデレに惚れているだなんて。
551銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:20:36.03 ID:H5UIrV1l
言葉が見つからなくて大きなため息をついた私の頭を、茜さんが優しくなでた。
気恥ずかしいような嬉しいような気分で大人しくなった私に、柔らかい声がかけられる。
「そんなことがあったのなら、いつも以上に疲れたでしょ」
「そうなのよ。だから、もう、何もやる気が起きなくて」
素直に白状すると、茜さんは何故か笑みを深くする。
「偲乃がそんなこと言うなんて、珍しいね」
「……そう?」
「そうだよ。今までは、私や葵がどんなに言ったって、弱音もはかないし、頼ってくれないし、甘えてくれないし」
「……かなり、甘えたり頼ったりしてると思うんだけど」
認めるのは恥ずかしいが、そんな風に思われていたのかと少し慌てて言う。なのに、茜さんはいじけた様子で口を尖らせた。
「分かってるけど、素直に口に出してくれなかったでしょ。さっきみたいな話だって、最近になってやっと教えてくれるようになったし」
「そ、そんな…」

なんと言うべきか困っておろおろしてしまう。しかし、茜さんはそれ以上文句を言うことはせず、むしろ目を輝かせて、
「やっぱり、彪のおかげかな?」
「……え」
 私は言葉に詰まる。茜さんは、逃してくれない。
「だって、偲乃が初めて相談してくれたのって、夫婦円満のコツでしょ?」
「…………」
「彪との関係を、ただの同居人以上にしたかったから相談してくれたんでしょ?」
「…………」
「言葉で伝えるのが恥ずかしすぎるって葵に相談したのだって、彪に、自分の気持ちを分かってほしかったからだよね?」
「…………」
「沈黙は肯定ととるよ?」
「なっ……ぅ……」
肯定ととられるのは恥ずかしかったが、否定なんてするわけにもいかないので、答えに窮してしまう。顔が、熱い。

真っ赤になっているのであろう私を見た茜さんは、それはそれは楽しそうに、少女のように無邪気な顔で微笑んだ。
「恋愛って、良くも悪くも人を変えるよね」
「……そうですね!」
半ば自棄になって叫ぶ。嬉しそうな笑顔が見ていられなくてそっぽを向いた。
全身で、いじけてますこれ以上こちらの弱い部分に触ったら逃げますオーラを出していると、茜さんが笑う。
「ごめんごめん、ちょっとからかっちゃって」
その声は、いつものように、いや、いつも以上に優しい。
「偲乃って、頑張り屋さんで一生懸命だから、自分だけで全部やっちゃうでしょ?
 凄いなぁって思ってたけど、ちょっと心配でもあったんだよ。弱い所、全然見せてくれないんだもん」
そこで言葉を区切り、優しい手で私をなでる。
「だから、彪が来てくれて安心したんだよ? 彪といる時の偲乃、リラックスしているように見えたし。
 葵風に言うと、抜き身の刀だったのが、あるべき鞘を見つけて落ち着いたんだねって」
そう言う茜さんは本当に嬉しそうで、彼女が心から私のことを考えていてくれるのが分かる。
「……茜さん」
「うん?」
私は小さく息をついて、年下のようだけど頼りになる友人に振り向いた。
552銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:24:55.86 ID:H5UIrV1l
「何を企んでるの」
「やだなぁ、協力者の権力を使って偲乃と彪の話を聞き出そうだなんて、思ってないよ?」
「白々しいにも程がある」
「だって、気になるんだもん」
「あなたは、そんな、下世話な話に興味ないでしょ」
「偲乃は特別です」
「その特別扱い、全然嬉しくない」
「まあまあ。で、どう? 最近の彪とは」
「答えなきゃいけない義務はないはず」
「もちろん義務はないけど。いいの? 偲乃がこれまでしてくれた相談や、ノロケにしか聞こえない悩み事、全部彪に伝えるよ?」
「っ……!」
さらりと言われて、私は思わず戦慄した。茜さんは笑みを深めて、
「"彪は優しすぎる"とか、"人を疑うってことを知らない。無防備すぎ"とか、
 "人当たりが良いから好かれるのは良いけど…他に好きな人できちゃったらどうしよう"とか
 "どうすれば彪が喜んでくれるかしら"とか、"なんで私、彪のことこんなにす」
「す、ストップ! ストップ!!」
慌てて静止すると、さらさらととんでもない暴露をしてくれていた茜さんは、ふふふ、と笑い声をもらす。

訂正しよう。茜さんは可憐な少女みたいだ、と言ったのは嘘ではないが、純真無垢な少女にしては強すぎる。
出会った頃の彼女はもっと素直でからかいやすかったのに、どうしてこうなってしまったのだろう。
心の中で嘆きながら、嬉しそうに笑う彼女に視線を返す。
もう、こうなったら、仕方がない。覚悟はできた。なんでも聞けば良いのだ。どんな質問にもきっちり答えてやろうじゃないか。
よし、と気合を入れて、いつも通り、強気に宣言する。
「じゃあ――お願いだから、今度何かおごるから、ほどほどに、控え目に、無難な範囲内の質問でお願いします」
「はーい」
553銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:28:31.97 ID:H5UIrV1l
「ふー…今週もお疲れさま、偲乃」
「ん。あなたも」

結局、篠原夫妻と夕食を食べ、のんびり帰って来た私たちは、帰宅早々寝る支度を整えて布団の上に寝転んでいた。
一組の布団を二人で使うのは少し窮屈だけれども、不快な狭さではない。
のんびり笑う彪にくっついてみる。
しっかりした腕に頭を預け、引き締まった身体にすり寄ると、彪は顔を赤らめた。が、嬉しそうに微笑んで私を撫でる。
こそばゆい力加減で髪を梳かれ、体全体がじんわり暖まる。快楽と言うほど強くはないけれど心地よい。
多幸感にうっとりしながら彪を伺ってみると、柔和な表情の奥に仄かな熱量が見えた。それにつられて、私の奥もふるりと疼く。

我ながら、ずいぶんとまあ色好みになってしまったものだ、と内心苦笑する。
初めての時は、痛いし緊張するし疲れるしで、絶対好きになれないと思ったのに。
私の様子に気付いたのだろう。
彪は顔を更に赤くしながらも、ゆっくりと、どころかおっかなびっくり、私に覆いかぶさってきた。
私は彪のものなんだから、遠慮なんかしなくていいのだけれど、思いが通じても彪が遠慮しいなのは変わらない。
もしかしたら、地がそういう性分なのかもしれない。
それならそれでいい、とも思う。もどかしかろうと強引だろうと、彪がくれるものなら、どんなものでも嬉しいから。

両手を彼の頬に添えると耳まで赤くなって眉を下げた。情けないはずの表情が言いようもなく可愛らしく見えて頬が緩む。
ぴんぴん跳ねている柔らかい髪をくしゃくしゃと撫でてみたら、彪は恥ずかしそうに笑って唇を寄せてくる。
「あの……いい?」
「もちろん」
両手に力を込め、嬉しそうに笑う彪に私からキスをした。
554銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:32:31.25 ID:H5UIrV1l
身体を寄せあい、足を絡め、互いの呼気を交換するかのように口付けを交わす。
彪は、最初のうちこそ遠慮がちだったけれど、段々開き直ってきたからか、次第に積極的になってきた。
舌を押し付け合うだけではなく、下唇を優しく食み、上唇をちゅうっと吸う。
初めは私の方が押していたのに、彪に求められる内に、頭の中が朦朧としてきてなされるがままになってしまう。
優しい口付けが降ってくるたびに背筋が震え、筋張った手で撫でられるだけで肌が泡立つ。
彼の頭を撫でていた私の両手は、いつの間にか、縋るようにしがみついていた。
「…ふ…はぁ…」
「っ…偲乃、かわいい」
どこか堪えるように呟かれる。
恥ずかしさと反感が混じってつい睨んでしまうと、切羽詰まった、切実な目を返された。思わず言葉に詰まる。なんで、そんな顔をするの。
「偲乃…偲乃、好きだよ。好きだ」
切なげな声で何度も名前を呼ばれ、心が震えた。好きだよ、と囁かれるだけで、お腹の奥からどろりとした熱が零れる。
ほとんど触られてもいないのに、まったく、私の身体はどうなってしまったのか。

こちらの戸惑いには気付かないようで、彪は少し苦しそうな、けれど幸せそうな笑顔で私を見つめる。
なんだか待てをしている犬のようだ、と思って、現状と合わないにも程があるその発想に苦笑してしまう。笑い声の代わりに無駄に甘い声が零れた。
「偲乃、ねえ、もっと声聞かせて」
「っ、いやよ、ばか」
「そんなぁ」
そこをなんとか、とかなんとか言いながら、彪は私の寝間着を脱がせにかかった。
以前に比べればぎこちなさの抜けた手つきでボタンを外し、前をはだける。
好意的に表現しても控え目な胸があらわになって、私は、思わず目を逸らした。

それまでは、不便さは覚えつつも自分の身体に不満はなかったのに、想い人ができた途端に自身の貧相さが気になりだす。
そんな、ドラマや小説のような感情は、一生縁がないものと思っていたのだけれど。
「……ごめんなさい」
つい、思わず、考えるよりも先に言葉が飛び出した。何の脈絡もない発言に、当然、彪はきょとんとする。
「どうして偲乃が謝るの?」
「や…あー…その…」
「うん?」
とっさに誤魔化そうとするも、優しい力加減でそっと皮膚を撫でられると、どうにもまともな思考を保っていられない。
「……あの、ね?」
「うん」
「私の身体って、さわっても楽しくないから」
「そんなことないよ?」
「だって、ん…あなた、別に、幼児趣味無いっ…でしょ?」
彪は、私の言葉を真剣な顔で聞いてくれているけれど、その手は悪戯に動いてこちらを乱す。
緩やかな乳房をてのひらで包まれ、時折指先に力を込められるだけで、私の身体は面白いくらいに反応してしまう。
「もしかして、兄さんに言われたこと気にしてる?」
「べ、つに…っっ、そ、ゆうわけじゃ、ない…けど…」
どちらかといえば、大分前から気にしていた。彪と一緒に外を歩いていても、大体は兄妹に見られてしまうし。

彪はふっと目元を緩め、柔らかく口付けてきた。
深いものを期待した私に反し、数度軽くついばむと、頬から首筋、鎖骨へと舌を這わせる。
手とは違う熱いぬめりが体に触れるたびに鼻にかかった声がもれる。
「確かに、俺はどっちかっていうと年上のお姉さんがす――いたい、いたいです偲乃さん」
「自業自得よ」
「話は最後まで聞いてくださいって」
反射的に髪を引っ張った私に情けない笑顔が返された。
ふん、と息をつくと、ご機嫌伺いのように唇が寄せられる。今度は期待通り、深いものを。
小癪なと思いつつも、舌を吸われ時々噛まれ、混じりあった唾液を飲まされると、不満よりも喜びが勝ってどうでもよくなってきた。
555銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:40:58.53 ID:H5UIrV1l
否応にも力が抜けた。
ぼんやりとした視界に彪を映すと、彼は、普段は見せない満足げな目で私を見おろしている。
「人の好みって変わるじゃない。今の俺にとって、偲乃以上に魅力的な人はいません」
「……ロリコン」
ああ、また可愛くないことを言ってしまった。
「別にちっちゃい子には興奮しないからロリコンじゃないです。…それに」
私の答えに気を悪くした様子もなく、彪は片方の手を私の下着に潜り込ませた。
とっさに寄せた足を軽々と割り、既にびしょぬれになってしまっている秘所に触れる。
軽く動かしただけだろうに派手な水音が耳に届いて、一瞬で身体が熱くなった。
「…こんなにえっちなんだ。ちっちゃい子とは思えないよ」
「っ……!」
返す言葉が見つからない。ので、精一杯睨みつけてみても、彪は眉を下げるだけで動じなかった。

今までの彪だったなら、こんな、私の羞恥心と被虐欲を煽るような真似はしなかっただろうけれど。
これも、少しずつ遠慮が抜けてきた成果…だろう。多分。きっと。おそらく。
「ぐ、ぐだぐだ言ってないで、その…わ、分かったでしょ。もう、入れてよ」
「……ごめん、もうちょっと」
「ちょ、んぁっ」
言葉と一緒に秘裂をなぞられ悲鳴を上げてしまう。
とっさに口を押さえようと手を動かしたが、それより先に両手首を掴まれ頭の上に押さえつけられた。
「偲乃、声聞かせて」
「やっ…んん…!」
「…我慢強いんだもんなぁ…」
呆れとも感嘆ともつかない言葉を零し、彪は胸に口を寄せた。挨拶代わりに数度口付け、乳房を食み、ぴんと張っている乳首を舌でこねる。
空いている手で秘裂をくすぐり、気紛れに一番敏感な部分をつまむ。
私の弱点を知り尽くした、的確な愛撫だ。
なのに、どろどろした熱を孕み、彪を欲して震える奥には触れてくれない。一番、いちばん、さわってほしいのに。
「…っ…あき、らぁ…」
「んー?」
「も…ちゃんと、さわって…!」
「ん。これはどう?」
言って、乳首を強く吸う。同時に肉の芽を強くつままれ、私は、呆気ないくらい簡単に絶頂に達した。
背中が弓なりにしなり、腰が意思に反して小刻みに跳ねる。
手を押さえられているのがもどかしい。彪を抱きしめたくて手を動かすと、意外なくらいにあっさり解放された。
必死でしがみついた私を力強い腕で抱き返してくれる。心がきゅうっと締めつけられた。
「……偲乃、すごく、かわいい」
噛みしめるように言われ、大人しくなっていた火がまた燃え上がった。内に篭もる熱をどうにかしたくて彪にすり寄る。
556銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:44:08.90 ID:H5UIrV1l
彪は何度もキスをくれた。
嬉しそうな目に物欲しげな私が映る。羞恥心で顔が熱くなるが、それよりも、とにかく彪のことが欲しかった。
「あきら…あきらぁ…」
「うん…ほしいの?」
「ほしぃ…ほしい、のぉ…おねが、いれて…?」
「そうだね。俺も入れたい」
はしたなくすり寄る私を撫でさすり、彪は器用に剛直を取り出す。雄々しく立ち上がるそれが愛おしくて、お腹の奥から雫がこぼれた。

彪の名前を呼びながら何度も口付ける。熱い身体をどうにかしたくて、早く私の中を埋めてほしくて、とにかく必死だった。
「あきら…あきら、お願い…ちょうだい、ね、これ、ほしぃ…!」
いつもの私であれば、恥ずかしすぎて言えるわけがないことも言えた。すると、彪はふと目を細めて、口元の端を持ち上げる。
「そんなに、ほしいの?」
「ん…ほしい…あきら、おねがいぃ…」
「じゃあ、自分でいれてみようか」
「……え」
言われていることの意味が分からなくて戸惑う私に、彪は、いつも通り優しく微笑んで繰り返した。
「偲乃が、自分で、入れてみよう? 俺も手伝うから」
言って、彪は私の身体を持ち上げる。
あぐらをかいた彼の上に、膝立ちのような格好の私が乗っかったところで、ようやく彪の言いたいことが分かった。
同時に、どこかへ行っていたはずの羞恥心が帰ってくる。
「なっ…そんなのっ…!」
「無理?」
私を見上げる彪はどこか寂しそうで、そんな顔をされたら無理だなんて言えるわけないと泣きたくなった。
言葉に詰まる私に微笑んだまま、彪は私の腰の位置を調節して、物欲しげに震える秘裂に鈴口で触れる。
待ち望んでいた感触と、その先への期待とで胸が締め付けられる。あきら、と呼んだ私の声は、淫らな色に染まっていた。
「ね、偲乃」
「ふっ…うぅ…」
「俺も、しんどいんだ。お願いします」
「……ぅー……」

彪に支えられながら、慎重に腰を落とす。
ぐしゃぐしゃに濡れている秘裂は呆気ないほど簡単に剛直を呑みこんだ。張り詰めた怒張に膣が押し広げられ、彼の形を覚えこまされる。
待ち望んでいた刺激を得られた充足感と、愛しい人を受け入れている喜びで胸がいっぱいだった。
「…あ…あぁ…」
「……すごいなぁ」
熱くて狭い、としみじみ呟かれる。思わずぎゅっと締めつけてしまった私に、彪は心地良さそうに目を細めた。
「あき、らぁ…」
「ん?」
「すごぃ…の…いつもより、深く、て…んぁっ」
一物がひと回り大きくなって悲鳴がもれた。勝手に大きくしないでほしい、と彪を見ると、気まずそうに口付けられた。
「ふぅ…ぁ…」
「あのね、偲乃。そういうことを言われるとこっちも我慢ができなくなるっていうか」
「…がまんなんて、しなくていいのに」
私は、彪のものなんだから。
557銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:51:11.28 ID:H5UIrV1l
「…………あーもう」
彪は何やら瞑目する。何か、変なことを言ってしまったのだろうか、と不安になった私は、
「っや、ああっ!?」
けれど、その疑問を口にすることはできなかった。彪が私の腰をしっかりつかみ、より深くまで打ちつけたからだ。
ごりっと音がしたのではと錯覚するほど深く突き上げられ、目の奥で火花が散る。
待ち望んでいたところに強い刺激を与えられ、私は早々に高みへ押し上げられた。でも、彪は止まってくれない。
「ひっ、あああっ!? やっ、あきっ…あっ、まって、あきらぁっ!」
「っふ…偲乃、ごめんね、もうちょっと」
「い、ぁぁあああっ?!」
あっさりと二度目の絶頂を迎える。膣がびくびくと震え、彪の精を受け取ろうと何度も締めつける。けれど、
彪はきつく眉根を寄せて、
「ふわぁ!? あきらっ…まって、まってぇ! 強いのっ…また、またきちゃうからぁっ」
何度も何度も突き上げてくる。

力強い刺激に目の前が真っ白になる。暴力的なまでの快感から逃れようと、身体は意思に反して彪から逃げようとした。
腰が震え、背中が反り、両手は必死で彼の背中をかき抱く。
「偲乃…好きだよ」
耳元で低い声で囁かれ、再三奥がぶるりと震えた。
耳たぶを食まれ、耳の縁を舌で丁寧になぞられて脳髄が愛撫されているような錯覚を受ける。きもちよすぎて、おかしくなる。
情けない悲鳴が口からこぼれる。
私を好き勝手蹂躙しているモノがひと回り大きくなって、彪も限界が近いのだと分かった。
あきら、と名を呼ぶと、その声すらも呑みこんでしまおうと口付けられる。息苦しくて、彪が求めてくれるのが嬉しくて、涙が滲んだ。
「――く、うっ」
「ぁ、やぁ、ぁ――っ!!」
痛いくらいに抱きしめられ、奥深くで精が放たれる。
どくりどくりと脈打ちながら、お腹の奥が温かいもので満たされていった。
558銭湯に行った夫婦:2014/07/20(日) 23:55:15.95 ID:H5UIrV1l
ぼんやりと呆けつつ、びくびくと震えるそれの感触を楽しみつつ、今日は激しかった、と息をついていた私だったが、
「……ぇ? あ、れ?」
ゆっくりと押し倒され、阿呆みたいに目をしばたかせて彪を見た。
いつもなら、どんなに激しかろうとねちっこかろうと、彪が出してくれた時点で終わり、なのだけれど。
「え…と…彪?」
「ごめん。もうちょっと」
「え――」
直後、奥深くまで貫かれた。
達したばかりの敏感なところを強く突かれ、入口付近の敏感な場所をこすられ、息が詰まる。

「っあぁぁあああっ!?」
身体が反り、腰が跳ねた。頭の中が真っ白になって、現状を把握することすらできない。
強張った身体を布団に押さえつけられた。
閉じようとする足をこじ開けられ、何度も何度も打ちつけられる。ぱんぱんと肉同士がぶつかる音が、遠くなる意識の隅で聞こえた。
「……偲乃」
低い声が聞こえたと思ったら、首に硬い感触があった。
数拍遅れて、彪に噛まれたのだ、と気付く。ぼんやりしていた思考が明瞭になる。
「ひぁぁああっ! あっ、やっ、ああっ…んぅ、あぁぁあああっ!」
身体が震える。信じられない。笑ってしまうほど優しくとはいえ、急所を噛まれたのに、私は悦びに打ち震えていた。

滲んだ視界に彪が見える。
堪えるように目を細め、荒い息を吐く姿にどうしようもない悦びが込み上げてくる。私で、こんなに興奮してくれているのだ。
「偲乃…偲乃っ」
「あ、ふぁああっ! あきらっ、ああ、ぁ、や、くる、きちゃうっ…!」
「ん…大丈夫、だよ。そのまま」
「あきらぁ…っあ、もぉ…あ、あっ…ひっ――」
ごりゅ、と奥深くを突かれ、何回目かも分からない絶頂に達した。同時に、彪も目をつぶり、私の中に精を吐きだしていく。
勢いの弱まらないそれは、内を埋め尽くしただけでは飽き足らず、結合部から零れてきた。
少し、もったいないな、と思う。折角彪がくれたものなのに。

けれど、そんなことを考える余裕があったのもそこまでだった。
私の中のモノは、二回も出したにもかかわらず、硬い張りを取り戻していく。思わず頬が引きつった。
「……ちょっと」
「…はい」
「まだ、する気?」
「……できれば、もうちょっと」
言葉や言い方こそ遠慮がちだったが、彪の目は爛々と輝いていて、私の意思には関係なく食べられてしまうだろうと予想はついた。
が、それでも、黙っていられない。
「ちょ、ちょっと待って。待ちなさい。もう無理よ。絶対無理!」
「そこをなんとか。もうちょっとだから」
「何度目の"もうちょっと"よ?! 夜が明けちゃうわよ!」
精一杯強気に言うと、彪はいつものように、困ったように笑って一言。
「……ごめんね?」
「ごめんねじゃない! 可愛く言えば許されると思ってるでしょあんた!?
 って、ちょ…ま、まって、本当にまって! 無理だってば! もうむ、んっ、あっ…ば、ばかぁぁあああっ!」

結局、夜が更け、私が気をやってしまうまで、彪は解放してくれなかった。
559銭湯に行った夫婦:2014/07/21(月) 00:00:17.60 ID:tqXncdh9
「だるい」
「…はい…」
「腰も痛い」
「……はい……」
「……動けないんだけど」
「誠に申し訳ございませんでしたっ……!」
翌日、朝…というよりはもう昼に近い時間なのに、私は布団に寝転んで彪に文句を言っていた。
昨夜の閨事のせいで、見事なまでに腰砕けになり、起き上がることすらできないのだ。
犯人である彪といえば、布団の脇で正座をして、ひたすらぺこぺこと頭を下げている。これが、昨晩私のことを無茶苦茶にした奴と同一人物だなんて。
「動けないから、ご飯、作れないんだけど」
「不肖ながらわたくしめが作らせていただきます…!」
「掃除や洗濯も、できないんだけど」
「誠心誠意真心込めて、務めさせていただきます…!」
「……せっかくいい天気なのに、出かけることもできないんだけど」
「たまにはお家でのんびりするのもアリではないかと…!」
思いつくままに文句を言うと、土下座をしたまま返事をされる。

「……なんで、あんなことしたの」
「ぅ……や、やっぱり嫌だった?」
「そんなことは一言も言ってないでしょ」
疲れたけど嬉しかったし、と付け加えると、彪はガバッと顔を上げた。その表情は嬉しそうに輝いている。尻尾が付いていたら物凄い勢いで振ってそうだ。
「本当に!?」
「嘘言ってどうするのよ。で、なんであんなことしたの」
「うん! あのね、たまには偲乃に休んでほし……違う嘘なんでもない! あの、俺の理性が持たなかったんです!!」
「……休んでほしい?」
ああああ、と項垂れる彪を撫でながら、考えを巡らせる。
休んでほしい、と言われても、私はいつもきちんと休ませてもらっている。
彪が家事全般を受け持ってくれているから、仕事に専念できるし、休み時間だって取れるのだ。
むしろ、普段彪に任せっきりな分、日曜くらいは家事を変わろうと…とそこまで考えて、ふと、一つの仮定を思いついた。
「……ねえ、彪」
「は、はい」
「もしかして、営業日はずっと働いているから、たまの休日くらい仕事も家事もしないで、ただゴロゴロと休んでほしいと思ったの?」
「――っ!? ちっ、ち、違うよ! 違います! そんなことはない!!」
「で、普通にお願いしても聞くわけないから、あんなに激しくして私を動けなくしたの?」
「ちっ、ちがいます! 単純に俺の理性が」
「ついでに、いつも我慢してる分を発散しちゃおうかなー、とか思ったの?」
「マサカソンナ!」
つまり、そういうことだったのか。
挙動不審極まりない彪を見つめ、口からは自然と溜め息がこぼれた。
彪は、どうにかして誤魔化そうと、ああでもないこうでもないと首をひねっているが、その態度こそが何よりの証拠だとは気付いていないらしい。

自然と緩んだ表情はそのままに、彪の手に私の手を重ねる。
「ねえ、彪」
「な、なんでございましょうかっ!」
「おなか、すいちゃった。ご飯ある?」
「! あるよ! あります! フレンチトースト作った!」
「そう、おいしそうね。じゃあ、食べさせてくれる?」
「うん! ちょっと待ってて!」

ぃやっほう! と駆けていく彪を見送って、私はもう一度溜め息をついた。
「まったくもう…仕方のない旦那さまね」
その声が、心底幸せそうに蕩けていたのは、言うまでもないことだろう。
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ここまで!
題名ミスしてすみません!日にちまたいじゃってID変わってすみません!

あの、あれです、彪偲乃夫婦って、偲乃の心情が分かりづらい分色々唐突かと思って
彼女の心情を書きたかったんですが…どうしてこうなるのか…

あとそのですね、そろそろ自給自足には限界が…と言ってもいいだろうか…
とにかく、少しでも楽しんでいただければ何よりです!
お目汚し致しました!