『教えてあげるから!』
春菜は、衣替えしたばかりの夏のセーラー服を風に翻らせ、学校帰りに公園を歩いていた。
ここは広くて緑が豊かで、とても気持ちがいい。まだ暑い季節でもなく、服がさらさらする感じも好ましい。
そういうわけで、よく遠回りをしてここを通るのだ。
と、生け垣の隙間に、見知った顔を見付けた。近所に住む10歳の少年、誠だ。
春菜は、家が近いこともあり、小さい頃から頻繁に彼の家を訪れていた。
誠の母親は、彼を産み落とすと同時に命を落としていた。そのため、近所でその家の手伝いをしていた。
春菜も小さいながらそれに加わっていて、幼稚園児が乳児のおむつを交換するなどということをして見せていたのだ。
春菜は、4歳年下の誠が可愛くて仕方がなかった。そのため、今も彼を見付けて、その僥倖に感謝した。
(ああ、可愛いなぁ。いつまでも見てたいなぁ……)
が、今はそういうわけにもいかないようだ。何故なら、誠の表情が冴えないから。
どうやら、生け垣に隠れて見えない位置にもう一人いて、言い合いをしているらしい。
「だから、俺は母さんから直接話を聞いたし、傷の痕も見せてもらったんだから、間違いないんだよ」
「でも、僕だって……知ってるんだよ。穴があって、そこから」
(何の話だろう? 誠クンが攻め立てられてるって感じ?)
「しょーがない。もうわかったよ。赤ちゃんの生れ方なら、女の方が知ってるだろ。クラスの女子に体見せてもらおうぜ。それなら確かだ」
(な、なんて話をしてるの! ……でも、クラスの女の子に? 誠クンが?)
春菜は、それは嫌だ、と思った。
ただでさえいつも一緒にいる女の子が、そんな風に秘密を共有する仲になったら……!
ちゃんと考える前に、春菜は行動してしまっていた。
「だ、だめー! 誠クン、それはだめ!」
「は、春菜ちゃん?」
「なんだ、誰だよ。誠、お前の知合いか?」
「それなら、あたしが見せてあげるから!」
「は?」
「お?」
春菜の頭の中には、誠と見知らぬ女の子のことしかなく、自分がしようとしていることは認識していなかった。