402 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 23:33:40 ID:H+iJhB1O
このスレはとらドラを良く理解してる人が多いだろうから質問があるんだけど
みのりんは竜児が精一杯勇気振り絞って思いを伝えようとしたのを聞きもしないで断って
大河が隠しとうそうと決めた想いを無理やり吐かせようとしたって解釈でおk?
それはちょっと、実乃梨を悪役にしすぎでは…
>>402 周りの女は大河と竜児の互いの思いに感づいているが当の二人は気がついていないということなんだよ。
>>402 表現がちょっときついけれど、そういう解釈でいいのでは
大河の気持ちを知っていた実乃梨は竜児の告白をさせない事で、竜児との関係、大河との関係を現状維持したかった。
そして自分の気持ちを隠して、大河の竜児への思いを後押しする役に回った。
同じ内容なんだけど、言い方変えてみました。
あと、私見なんですが
実乃梨も、イブの日に大河がマンションから飛び出して号泣してるところに、たまたま遭遇しなければ
きっと、違った選択ができたんじゃないかなと思ってます。
406 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/21(金) 21:23:44 ID:+MYq5LKM
>>404 例えそうだとしても
竜児の告白を聞かない理由にはならないでしょ?
聞いちゃえば心も揺らぐほど惹かれてると、希望的観測
まぁ言わせてしまえば、断ろうと、今まで通りではいられなくなる、ってのが真実だろ
大河が隠し通そうとした、とかは実乃梨だって自分の気持ちは隠そうとしたが
素直にさらけ出した上で大河にも自分の決断を望んだんだし
そう非難されるやり方でもあるまい
大河のためを思えば、本意ではなくても竜児の好意を踏みにじらなければならない
でも両想いだと分かってる相手に対してそんな残酷な仕打ちをする勇気がどうしても出せなくて
もし本当に告白されてしまったら断れる自信がなかったのかも
もしくは敢えて告白させなかったことで大河に対して「イブの夜に呼び出されたけど何でもなかった」って
ウソくさい言い訳を事実として成り立たせようとした(=大河に譲る意思を実乃梨なりに示した)とか
スレも末期の様相
>>409 ゆゆぽスレなんだからまだまだだろう。
まだ現行作品ではパロも出来るほどネタがないってだけで。
まぁローマの祝日シリーズが完結するまでは維持でも保守る。
BD化するようだねえ。
みのりから受け取った逃走費用をかえす描写がないよなw
あまり使ってねーだろww
使ってないならなおさら返せよw
すみません。SS投下したいんですけど、すると480オーバーします。
けれど、次スレの立て方が解りません。立てられる方いるでしょうか
スレたてなら任せろー(バリバリ)
>>417 ありがとうございます。
もう少し見直しして、今晩にでも投下させていただきます
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」
Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」
Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」
Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」
Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」
Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」
QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」
Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
こんばんは。以下SS投下させて頂きます。
421様、スレ立てありがとうございました。
概要は以下です。よろしくお願いします。
題名 : Happy ever after 第11回
方向性 :ちわドラ。
とらドラ!P 亜美ルート100点End後の話、1話完結の連作もの
シリーズものの最終回なので今回だけだと解らない所があるかもしれません。
まとめサイト様で保管して頂いている過去のも読んで頂けるとありがたいです。
主な登場キャラ:竜児、亜美、安奈
作中の時期:高校3年 9月
長さ :16レスぐらい
前提:
竜児と亜美は交際してます
夏休み中、亜美は高須家に居候していました
Happy ever after 第11回
once upon a time
それはとある街での、とあるゴールデンウィークから始まるお話。
少年が少女に出会った理由は至極、平凡なもの。二人は共通の友人の紹介で出会った。
天然を装う女の子と強面の男の子。嘘つきの臆病ものと心優しい無粋もの。
その出会いはコメディ映画のように最悪で、
少女は田舎ヤンキーと陰で笑い、少年はそんな裏の顔を目の当たりにする。
ほどなくして、少女は危機回避の理由もあって友人と同じ学校に転校してきた。
当然、友人の近くには少年もいた。別に運命的な再会でもなく、偶然でもない。
少女は少年とクラスメイトという事もあり、同じ時間を過ごす事が多くなった。
その日々は毎日がイベントのような騒がしい日々だったが、別段、幸福な高校生の生活としては飛びぬけて珍しいものでもない。
ただ、普通の高校生とは違う点がいくつかあった。
少年は同年代の男の子よりも少しだけ思いやりがあって、世話焼きで、かなり目つきが悪くて、
その分、見た目で判断する事の残酷さを知っていて、表面と中身は別物である事を理解していた。
少女は他の女の子よりも、性悪で、意地悪で、嘘つきだと、自分とこの世界をそう思い込んでいて、
それゆえに、真実を見抜く事に必死だった。
だから、
出会ってすぐに、少女は少年の事を陰で笑うことをしなくなり、面と向かって馬鹿にする事をよしとした。
少年は初めから少女の裏の顔を認め、むしろ、彼女らしいと笑った。
いつのまにか少年と少女は仲良くなった。
そういうふうに、できていた。
「くそ……」
朝、七時三十分。天気快晴、ただし室内暗し。
木造二階建て、二階部分の借家。私鉄の駅から徒歩十分。南向き2DK。
「もうやめだ」
竜児は億劫を抱えながら、携帯を握り締める。
「いやだめだ。もう一回」
再度、かかるはずの無いナンバーをダイヤルする。
亜美の声が聞きたかった。
二学期が始って一週間、彼女が実家に帰ってから十日が立っていた。それは彼女と連絡が取れなくなった時間だ。
数日前の夏休みの終わり、竜児は亜美を送り出した。
亜美は親に話しをして来ると高須家を後にしていた。
僅か一ヵ月半程度の共同生活。それがあるから大丈夫だと彼女は言った。
その日々を大切にしたいからこそ、逃げ出すように家を出て、竜児の家にいた事を両親に詫びなければいけないと言った。
そうしたところで竜児との仲が祝福されるとは考えていなかった。
認めてはもらいたいが、解ってもらえる可能性は低いと考えている。
むしろ反対されるだろう、否定されるに決まっていると確信していた。
だからこそ、それは電話であってもいけないし、ましてや、メールや手紙でも駄目だ。
直接、会わなければいけない類のものだと思っていた。だから、家に戻ると彼女は言った。
亜美には心配事がある。竜児がどう思っているか。彼の事を気に掛けている。
彼の家庭環境。実家と縁を切った母一人子一人の家庭の起因は母親の駆け落ちだと聞いた。
別段、母子家庭と言う境遇を憂いた事もないと彼も言っていたし、実際、そうなんだろうと一緒に生活した彼女も確信している。
ただ時折、母親がどれだけ苦労したかを話す竜児。それに報いたいと言う竜児。、
例え、自分の親でなくても、竜児は亜美の両親の事を同じように考えるだろうと思った。
同じ事を繰り返してしまうような負の連鎖は彼を傷つけてしまう。そんな彼は見たくない。
少しでも上手くやって交渉まで持って行きたい。両親との妥協点は引き出したかった。
彼が悔いる道の先は彼女の幸せに繋がっていない。これは自分の為だ。
「二、三日ぐらいじゃ戻って来れないかもしれないけど、必ず帰ってくるから待っててね」
「安奈さん、解ってくれるといいな」
その竜児の言葉はやはり亜美の想定内で、けれど、そんな事はありえないと思っている。だから釘をさす。
自分たちの行動で損害を受けている人たちは存在するし、その人たちから非難を受けて当然なのだ。
善意のつもりでしている事の結果が別な人間には悪意になるという可能性などこの生まれながらの善人は思いもしないのかなと思った。
現実の不意打ちを受けて、苦しんでほしくない。準備はしておいて欲しい。自分たちは悪い事をしていると考えていれば痛みは減るだろう。
そう思って、皮肉交じりに言葉を返す。
「高須くんは甘いよね。現実は厳しいし、私たちがしてる事は、ママや事務所の人から見たら単なる我侭だよ」
竜児は苦虫を噛んだような表情をする。それでも亜美は続けようとした。
耳に痛い話だろう。いやみな奴だと思われるに違いない。けれど、それは自分の役目。
悪い未来、痛みを想定しておいた方が傷は浅くなる。竜児は頭をかきながら、
「迷惑は掛けちまってるな。けど、我は通す。自分がしたい事はする。その上で迷惑を掛けちまった人にはいつか其の分を返すように頑張ってみる」
「偽善者、卑怯者」
「まったく、その通りだな。我ながら勝手な奴だ」
と竜児は確信犯めいた笑いを浮かべてくれた。これなら大丈夫だと思った。
自分達の為に傷つく事も、迷惑を掛ける事も理解してくれてる。わかった上で愛してくれると言ってくれてる。
「ふ〜ん。高須くんも悪人だ」
安心した笑顔を亜美はうかべ、
「けど彼氏としては合格。私を幸せにしてくれそう」
その犯罪者顔にキスを一つした。
だから、「行ってきます」と一時的な別離を宣言し。
「言ってこい」との声を聞いて、戻る場所を確認した後、高須家を離れた。
それが十日前だった。
亜美は竜児に「待っててくれ」と言った、だから彼は待とうと思った。
彼女が実家に戻る事も亜美一人で決めたことではない、竜児も事前に話しを聞いている。
二人でしなくてはいけない事だと確認した。
彼女一人で背負い込んでいる訳でもない。竜児が背負うことも許してくれている。互いを対等と捉え、共に戦っている。
けれど、焦燥感はある。
三日が過ぎて、メールを送った。
五日目からは電話を掛けた。
しかし、返信は無く、呼び出し音はするも、繋がる事はない。それが彼の中の焦りを煽る。
二学期が始ってからは登校の際、亜美を探した。
学校に来るくらいなら、その前にメールくらい帰ってくるはずなのは解っている。
それでも亜美が来ているのではと首を振り、行きかう女生徒の中に亜美を探す。
その目つきで悲鳴を挙げられるが落ち込まず探す。落胆するのは彼女を見つけられない事が解ってからだ。
そして、教室に入り、席に座り、僅かな希望はあっさりと潰えた事を毎朝確認するのが日課となっていた。
休み時間には、木原麻耶、香椎奈々子が亜美の出席状況を教えてくれた。
彼女たちにしたって、いい知らせを伝えたいのだろう。それでも我慢強く、欠席という正しい情報を教えてくれる。
体は正直で胃の中は苦さで一杯になる。だか感謝しなければならないと強く思う。虚偽は敵でしかない。
今、欲しいのは残酷でも真実だけだ。
そんな日々が一週間。
そして、今、竜児は携帯を握り、別な手はないかと考える。
きっと、いい男と言うやつは
「信じてくれてるなら、あいつの行動を全て受け止める事しか出来ない」
なんて、相手を全肯定して、自分の思いを制せる奴の事をいうんだろうなと、亜美の癖が移ったような自嘲を浮かべる。
確かに、亜美を信じる事、待つしかないのが正解なのは解っている。
余計な事をすれば不必要なトラブルの種になる可能性が高い。足を引っ張るだけだ。
それでも何かをしたかった。好きだという気持ちが彼を急き立てた。
以前の彼から退化したのか、成長したのか、そんな事は自分でもまったく解らなかった。
行動する事、それは亜美を信じていないからか?。裏切り行為なのか?。
違うと竜児は思う。
彼は自分が幸せになる為に、自分の時間を使う事を大事な人に約束していた。
やれる事があるなら、行動してみたかった。ただ、亜美の為、なにより自分の為に何かしたかった。
以前のように、勉学に力を入れたり、学校行事に参加したりといった方法も戦いの手段だ。
つながらないと解っている電話を入れるのも、メールをするのも、その一つだと硬く信じる。
それが空高く飛ぶ爆撃機を地べたから竹で突付くような行為や厚い城壁を崩そうと壁を食むアリ程度の行為だとしても。
笑いたい奴は笑うがいいさと割り切る。出来る限りの事はしてみようと思う。手段は常に探している。
だから竜児は手の中の携帯電話を見る。亜美に繋がらないなら別な人間から繋がってみようと考えた。
「考えなしの行動だと怒られるかもしれないな」と、アドレス帳を開き、川嶋安奈の番号を探す。
やれる事があるなら、そのまま何もしないでいる事など出来ない。試してみる。
もちろん、安奈が陽気に電話に出てくれるなどとは思っていない。冷静に考えれば出てくれるはずもないだろう。
亜美へのコールと同じなはずだとは思っている。
けれど、まだ試していないのも事実。
可能性がある以上、電話してみる。落ち込むのはその後で十分だ。
数回の呼び出し音の後、あっさり電話は繋がった。
「…………」
安奈と繋がったことに驚きを隠せない。すぐに声が出ない。着信拒否をされて当然だと思っていた。
そうでなくても今の状況だ。着信名が出て、自分からのコールだと知ったなら、電話に出るはずが無いと思っていた。
もしかしたら登録すらされていなかったという事だろうか?と疑問を持つが、すぐにその回答がなされた。
「こんにちは、竜児くん」
感情の篭らない平坦な女の声が携帯から響く。
「お、おひさしぶりです。安奈さん」
「お久しぶり」
「なんで、出てくれたんですか?、電話」
竜児は気持ちそのままに疑問を口にした。
「出ないと思ってたのにかけたの?、竜児くんは」
「……は、はい」
正直に答える。
「根性無しのつまらない男」
声色に初めて感情が篭った。冷淡な、軽蔑の色がした。
急いで訂正しなければと言葉を捜す。
悪い未来を想定して、失望した場合の逃げ道を予め用意する余裕など自分にはない事に気づく。
「い、いえ。電話に出て頂いてありがとうございます」
「ふん、それで、何の用かしら?」
安奈が少しだけ興味を持ってくれたように感じた。
それを逃すまいと、気持ちをそのままにぶつける。
「か、川嶋…、亜美は今、そっちらにいるんですか?。連絡が付かなくって」
「いないと言ったら」
「夏休みの最後の日、安奈さんの所に帰ると言ってました。ご連絡しなくてすみません。
自宅の前に無事についたとメールが来たんです。だから亜美は戻ってます」
「そう。では訂正するわね。帰って来たけれど今はいないわ。
それと、亜美はあなたとはもう会いたくないって」
「嘘です」
「それで」
竜児は詰まる。何を安奈が言っているか解らないのだ。
彼女が嘘をついている確信はある。自信過剰だと言われようとも、亜美を信頼している。だから、安奈の嘘を指摘した。
けれど、安奈は微動だにしない。
「君が嘘だと思って、それを私に指摘して、それでどうなるの?。ぺらぺらと君に都合のいい話しでもすると思った?
それに私は本当の事を言っている。訂正する必要なんてないわね」
「は、はい」
安奈は容赦無く、切れ味鋭く言葉を返す。氷のようにつめたい。
「嘘だと断罪するのは、裏を取る努力をしたものが言っていい資格。解りなさい
それと、そう宣言した後、どう有利に話を持っていくかまで考えないと意味ないわ」
竜児を蹂躙する。厳格な教師が出来の悪い生徒を指導するように淡々と指摘を続ける。
「すみません」
彼女の言葉を聞き入るばかりだ、さきほどから安奈の迫力と言葉に打たれ続けるサンドバックを甘受する。
「それだけで言いたい事は終わり?」
言いたい事はある。胸のうちは亜美の事で一杯だ。が、声帯がいうことをきかず、声が出ない。
安奈に失望されたくないという気持ちも芽生えていた。叱責を受けないよう言葉を選ぼうとするが見つからない。
そもそも考えがまとまらない。
自分を不甲斐ないと思ってしまう。安奈はそんな沈黙を答えと受け取り。
「本当に、つまらない…」と言いかける。竜児が言葉を挟む。
上手く言葉を使えなくても、頭の良い言い方が出来なくても、亜美の事を安奈と話せる機会を失ってはいけない。
いくらでも言葉で殴れば良い。失望されるのは怖い。自分が絶望に向き合うのは恐ろしい。
けれど亜美はもっと大事だった。だから、
「安奈さん!」
「ん、どうしたの?」
「俺は亜美と付き事になりました」
竜児は亜美を思う気持ちと安奈に何かを言わなくてはいけないという焦りを同時に表現した。
「ふ〜ん、そうなんだ。それで、それを君を嫌っている亜美の母親に告げてどうるするつもり?」
その馬鹿みたいな発言にも、安奈は平然と受ける。
竜児も自分が愚かな事を言ってしまったと思った。それこそ、あいつに考えなしと怒られるだろうなと、
亜美の表情が心に浮かんだ。呆れたような、今にもため息をつきそうなそんな顔だ。
その顔に向かって「本当の事なんだ。隠すことないだろ。ましてお前のお母さんだ」と話しかけた。
すると、イメージの中の彼女は「しかたないな」と呆れ気味だが、優しい顔をしてくれた。
魔法のように、今までの緊張が解けていく事を竜児は感じた。現実に目を向け直す。安奈に向かって彼は
「亜美を俺に守らせてください」
安奈は、彼の声の響きに激昂するように声を大きくした。
「馬鹿おっしゃい。なに、都合のいい事言ってるの」
「都合のいい事言ってます。すみません。けど、俺と亜美は付き合う事を決めたんです。
付き合うって決めて、二人でいると、よくわからないんですが、そういう気持ち沸いてきて。
信念みたいなものにいつの間にかなっていて」
「訂正、つまらない以前に、心底、馬鹿な男のようね」
苛つきをもった声が返って来る。竜児はその通りだと、「はい」と肯定する。
「…あんた、周りに馬鹿ってよく言われるでしょ」
「はい。大…、妹みたいな奴と、それに亜美に」
「そうでしょうね。あの子、私と同じで馬鹿な男は嫌いだから」
「よく怒られます。竜児は馬鹿だから嫌いだって」
軽く見下すような笑い声がした。
「ねぇ、亜美が君の家にご厄介になる時、竜児くん、言ったわよね
責任をもって亜美を預かるって。その本人が手篭めにするなんて洒落になんないわね。嘘つきなんだ盛った雄犬くんは」
竜児は言われるままに、「すみません」とあやまる。
駆け引きなんて器用な真似は出る頭は無い。正直に話すのが自分の誠意だと思っていた。
「手出して偉そうな事言ってんじゃねぇんだよ、で、どこまでよ。まさか、中に出したりしてないでしょうね」
「キ、キスしました」
「それだけな訳あるかての。正直に答えなさい」
「すみません。一回だけじゃなく。何度か、いえ、付き合ってからは毎日、キス…」
「はぁ?」
その程度で済む訳がない。安奈は彼の家に亜美を預けた時からそんな事は信じていない。
高校生だ。そしてお互い好きあってると恥ずかしげも無く言い合うやつらなのだ。普通に考えてありえない。
彼女は竜児を確認しているだけ。どの程度嘘をつけるのか、高須竜児のふり幅を計っている。
川嶋安奈は亜美の上を行く嘘のスペシャルリスト。つく事も、見抜くことに対しても余人には負けないという自負を持っている。
「ふ、そう。最近の高校生は進んでるのね」
と小物を嘲笑するように言った。安奈は竜児の言葉を正確に捉えた。いい意味でも、悪い意味でも竜児の誠意は通じた。
「本当、すみません」
そんな野暮ったい言葉にさすがに呆れたと、駆け引きもせず、
「出鱈目言ってる訳じゃないみたいね。だったら中途半端な自白なんかしないか」
と思わずと言ったように、ケラケラと地で笑う。
竜児は意味が解らなかったが、自分が悪いとは思っていたので「すみません」を繰り返す。
「ねぇ、高須くん。スターの条件の話、覚えてる?」
「たしか、太陽みたいな子の話ですか?」
「覚えていなかったら電話切るきっかけになったのに残念。あれには続きがあるの。教えてあげる」
「それって何の話ですか。俺は亜美の話をしたくて」
「年上の話しは聞くものよ」
と強い声が返ってきた。竜児はまたもや「すみません」と謝罪をして、安奈の言葉を待つ。
「主役を張れるタイプ、私はもう一種類いると思ってる。
具体的に言うと。そうね。例えばサンタクロースをいつまでも信じていられるような人間」
「サンタクロースですか」
「そう、サンタじゃなくても言いのだけれど。自分が憧れる、夢をくれる存在が明確にあって、イメージをいつまでも持っていれる。
周りがどんなに存在を否定しても、自分では決して認めない。サンタが自分の家に来ない事に気づいても諦めない。
ならばと、自分がサンタのように夢を配る真似事をしながら、サンタを待ち続ける。そんな子。イメージ出来る?」
「純真な奴って事ですか?」
「それだけじゃないわね。意志が強くって、我も強くって。サンタの真似みたいな事も恥ずかしげ無くやれる子。
たぶん、そのサンタからプレゼントをもらった子供たちは、その存在を本物のサンタみたいだと思うでしょうね」
とクスリとした息遣いが携帯から聞こえてくる。
「つまり、そういう事。自分の考えを信じれて、行動出来ないと欲しいものは手に入らないわよ」
「は、はぁ」
「私が言いたい事は終わったわ、竜児くんが言いたい事がなければ、切るけどいい?」
会話を続けたいと竜児は思ったが、言葉が見つからない。
言いたいことは言った。亜美の事を確認したくてもただ質問するだけでは安奈が話す訳がないと理解した。ところで、サンタって何だ?
混乱している自分しか見つからない。ただ、時間だけがすぎる。
電話越しに安奈がこちらの言葉をいつまでも待っている気配がした。それに気づいた竜児は。
「ありません」
「そう。じゃあ、最後にもう一つ。私はつまらない男に割く時間は一秒たりとも持ってない。何も行動しない男もね。
そして、馬鹿な男は大嫌い。そういう奴はとことん苛めたくなるから、肝に銘じるように」
そう言って安奈は電話を切った。
******
亜美の実家は高級マンションだ。大物芸能人にして、資産家の彼女の親は都内に住まいをもっていた。
母の安奈の意向、馬鹿は嫌いだから高いところは嫌 という理由で、比較的低い層である三階に住まいを持つ。
その一室、亜美にあてがわれた部屋で、彼女は立てこもり引きこもる。所謂、引き篭もりと化して抵抗をしていた。
叔父の家を飛び出した理由は安奈に竜児へ近づこうとする事を否定されたから。
実家に戻ったのは、竜児の交際を少しでも認めて欲しいから。
誠意をもって、言葉を尽くして説明した。
彼女に甘い父親から説き伏せて、その協力を得て、事に当たるといった搦め手からも攻めてみた。
だが、安奈は折れなかった。
むしろ、力を尽くせば、尽くすほど、「小娘が騙されてる」といった格好を崩さなかった。
今は持久戦だ。譲歩してくれるまで、女優、川嶋亜美は仕事をしない。
彼女自身にとっても痛いが、おそらく、母親の方が痛手は大きい。
亜美のデビューに関して、安奈はその人脈、政治力、そして、資金力を駆使してバックアップしてくれていた。
事務所の役員としての立場もある。正直、恩には感じている。母にとっての仕事の重要さも知っている。
重要だからこそ、それは弱み。したたかに利用する。性悪、川嶋亜美の見せ所だ。
なので引き篭り。交渉の余地を残すため、安奈の目の前でストライキする事が重要なのだ。働いたら負けかなと思ってる。
食糧は父親からの補給線。トイレは隠れて行くか、最悪、緊急避難ですませる。
自分でも理不尽で、大人の対応ではない事は知っている。
喧嘩して家出、家出中は男の家に転がり込んで同棲みたいな事をして、帰ってきて、開口一番、その男と正式に交際するから認めろ。
親の立場から見れば、「いいかげんにしろ」だろう。その事は亜美もよく解っている。
それでも、本気なのだ。我ながら自分勝手だし、昔の自分ならもっと上手く、要領よくやれただろうにとは思う。
だがらこそ、今の自分だからこそ、正面から両親に話さなくてはいけないとも思ってる。きっと、あいつもそう言ってくれる。
「竜児色に染まっちゃったかな」なんて、ちょっと浮かれて、今日も今日とて部屋にいた。
台本を読み直したり、共演者が過去に出ているドラマの映像をチェックしたりして過ごしていた。
そんな時、何処かでコツコツといった音がした。ドアを見る。が違う。そちらからの音ではない。
たしかに考えてみれば、木製のドアを叩く音ではない。
もっと硬質で、衝撃を吸収する事なく跳ね返すような音、例えばガラスのような…
恐る恐ると窓を見る。あのストーカーの記憶が甦る。血の気が引く気がした。
去年の春、窓の外での物音を不審に思い、開けた窓。そこにはニタニタとげひた笑いを浮かべカメラを向けるあの気味の悪いストーカーの顔。
頭を左右に振って、浮かび上がったイメージを散らす。
竜児の前では、あの時のように、ストーカーのカメラを踏み潰すような強がれる彼女ではあったが、
実際の亜美は人一倍、臆病な女で、今だにあの嫌悪感を払拭出来ていなかった。
「まさか、気のせいだよね」と自分に言い聞かせるように、窓を凝視する。
なんの変化もないようだった。「やっぱり、大丈夫」と、ホッと胸をなでおろす。
すると目の前で窓が衝撃音と共に揺れた。ビクリと反射的に体をはねる。そんな弱虫な自分に怒り。
「ふん、負けるかっての」
と大またで窓まで歩み寄り、勢い良く開いて
「誰かいるの!」
と一括する。そして、実は閉じていた目をゆっくりと開くと、
「よう」
と木にしがみ付いて、木の実を片手にもち、こちらに投げようとしていたヤクザのような三白眼の男が挨拶してきた。
「高須くん?」
「悪い、川嶋。お邪魔していいか?」
******
「いや、まいった。大きな木の近くがお前の部屋だってのは解ってたんだが、いくつかあるのな。かなりあせったぞ」
竜児は窓から亜美の部屋にのり込むと、靴を脱いでやっと一息。たくと呆れ気味の亜美に促され、彼女のベットに腰を掛ける。
ベットに座るや否や、シーツや枕カバーが気になって、手触りをチェックしたり、洗濯時を確認したりするものだから、
余計、亜美を怒らせる。
「高須くんって本当、馬鹿。まさか運だのみの偶然だけでこの部屋見つけた?」
亜美は椅子の正面背面を逆にして座り、背もたれを両手で抱え込むようにしてもたれかかると不機嫌な表情のまま、呆れ顔で問う。
「そうでもないぞ。まえお前から聞いた話がヒントになったからな。木の近くに窓がある三階の部屋。
で、川嶋を尋ねてる訳で、お前がいないとしょうがないから明かりがついている所。
後はたしかに出たとこ勝負だったな。近くまで行って、カーテンとか、見えるものがお前の趣味ぽいかで見当つけた」
「そ、そう。私の好みで判断したんだ」
そうして、亜美は髪を掻き揚げ、時間を作った後、台詞を探し、馬鹿にするように話しかけ、やっとの事で抵抗する。
「やっぱり、高須くんストーカーの才能あるよね。何時の間に実家の場所調べたのよ」
「北村に聞いた」
「祐作のやつ。後でギタギタにしてやる」
幼馴染を悪役にすることでその動揺を抑える。
そんな彼女の内心に気づく事なく竜児は取り合えずと部屋を見渡す。
あるのはベットと机、それに椅子。テレビとかオーディオ機器。いくつかのペットボトル。それくらいだ。
後は大量の引越し業者のロゴ入りの箱。
「しかし、ダンボールだらけだな」
と何も考えずに質問する。と帰ってきた言葉は
「ママが叔父さん家から勝手に運び出しやがった。絶対これ、このまま送り返すから。だから開けたりなんかしない」
「負けん気の強いやつだ」と竜児は軽く笑う。同時に「じゃあ、あれはなんだろう」と思う。開けたダンボールが一つあったからだ。
「こいつは?」
「そ、それは、しょうがないじゃん。どうしても必要なものが、そう、生活必需品が入ってたんだもの」
と早口で亜美は言い返す。
「おう。そうなのか」素直に受け容れる竜児だが、
それなのに、亜美は勝手に盛り上がって、「疑ってる?」という風に尋ねてくる。
「いや、そんなことないが」
「そうだ。入ってた下着、付けてあげようか?。今、適当なやつしかつけてないから丁度いいし。
亜美ちゃんの生着替え、生亜美だよ」
なんて、首を傾けて、しなをつくって、竜児を見つめる。少し話しをずらしにかかる。
竜児もあっさりのって、
「馬鹿、そういう事しに来たんじゃねぇ」と真剣になって、否定する。
亜美はしめしめと心の中で笑った後、あえて「つまんないの」と不満の顔をして、
竜児が来るまで話し相手にしていたぬいぐるみを手に取ると、最近の癖でギュッと抱きしめた。
ヌイグルミのちびチワワが家に来てから、亜美はやな事があった時、不満を感じた時、こんな事で自分を慰めている、
けっこう寂しい娘だったりする。
今回はあくまで、演技だったので気分が落ちてる訳ではない。むしろ、ひさびさの軽口だ。テンションは上がってきている。
いろいろと面白くなってきて、亜美は自分自身、そらした話がなんだかすら忘れていく。
「たくさ、彼女の部屋に来て、やることとか他にあるんじゃない」
と、手に抱いたチワワのぬいぐるみを竜児にけしかけ、「ばう!」と鳴いた。
「おう、それって、俺が作った奴だろ。ちゃんと持っててくたのか」
竜児は嬉しそうにぬいぐるみの頭を撫でた後、「貸してみろよ」と亜美から受け取ろうとするが
「やだ」と亜美は素早く胸元に戻し、再びチワワを抱きしめる。
「いいじゃねぇか、減るもんじゃねぇし」
「へる!」
「プレゼントした時、お前、文句言ってたろ」
「それはそれ、これはこれ。この子はもう亜美ちゃん家の子。一度、自分のものにしたら、絶対、手離さないのが私の主義だもん」
とふざけてはいるものの、頑なに拒否する。
そんな態度に、「大事にしてくれてるんだろうな」と竜児も楽しくなる。しばらくぶりの会話だ。こういうおふざけも悪くない。
ならばとそのチワワは諦め、別なものはと見回し、ベットの隅の別なぬいぐるみを見つけた。
手を伸ばし、代わりにそれを手に取ろうとする。
「ぬいぐるみなんか自分のキャラじゃないとかいいながら他にあるじゃねぇか」
とその目つきの悪い、枕状のぬいぐるみを手を伸ばす。
「へなちょこ。お前に決めた」と、チワワとのバトルに挑もうとする。
手に取ったそいつは、ボロボロで、顔には噛まれた後が多数残る。体など何度もさば折されたかのように長い体にフニャとしたところも出来ている。
なにか人事じゃない気がして、バトルは取りやめようと思う。なんか、こいつではチワワに勝てそうに無い。
竜児がそのへなちょこを手に取る姿を見て、亜美は一瞬動きを止める。その後、目を大きくして叫ぶ。
「な、ちょ、ちょっと」
そして亜美は体ごとぶつけるようにして飛び掛る。竜児は不意打ちを受けて背中から後ろに倒れ込みんだ。
「なんだ、いきなり」
「これは駄目!」
竜児からドラゴンのヌイグルミを奪い取る。取り戻そうと右腕が伸びるが亜美はさせるものかとその手首を掴む。
その間に先ほどまで座っていた椅子の方向にヌイグルミを避難的に投げつけた。
ぱふと、椅子の下に転がったチワワにぶつかり、そこに落ちた。
すぐさま、空いた手で竜児の左手首を掴み、自由を奪う。
「乱暴だな」
「高須くんがデリカシー無いことをするから」
と言っても二人は怒っている訳でもなければ、不満を抱えている訳でもない。
ただ言葉を遊ばせ、感情を躍らせてみた結果に過ぎない。その結果のじゃれあいの末のレクリエーション。
気はつかっても、遠慮はしない。配慮はしても、自分が信じる行動は抑えない。行き着いた末の二人の距離だ。
言葉遊びをして、その場の流れに任せて気持ちを絡ませて、じゃれあっているだけ。
抑えている竜児の手首も、振りほどけないほどの強さでもない。甘つかみともいうべき程度。
押し倒されたといっても、そこはベットの上だ。衝撃などない。
亜美にしたって羞恥心はあったが、それは竜児を思ってこその恥ずかしさ。
実際、竜児の体に触れてしまえば、そんなものは吹き飛んでしまう。掴んだ指から体温を感じる。
気がつけば、息がかかるほどの距離に顔を近づけている。彼の体臭を鼻腔が捉える。そして、ここはベットの上だ。
「これから……乱暴…しちゃおうかな……」
彼氏、彼女の関係だ。少し位のスキンシップはいいのではないだろうか、自分への言い訳が立つ。
亜美は少しだけ舌を出して、唇を舐めた。
合理的な行動だと思った。
リップをしっかりつけていなかったせいか、カサカサになっている気がしたからだ。たぶん、このままじゃ痛い。
竜児もそんな感触なんかは楽しくないだろう。
そう思って、亜美は唾液を舌で運び、唇に塗った。
あえて、竜児の瞳を見つめながら顔を近づける。
「動揺したら可愛いのに」
そんな悪戯心をもって、ゆっくりと、出し惜しみをして近づけている。
のに、がっかりだと思った。
少しも慌てた様子がない、むしろ、竜児に瞳の底に劣情を感じた。竜児の了解の意思を感じ、それに亜美の女が反応する。
自分も欲情している事を知った。速度を上げて竜児の唇を奪う。
「ちゅ」と濡れた粘膜同士が重なる音がした。
最初は軽く唇を合わせる程度。二度、三度と笑顔をかわしながら繰り返す。ついで竜児の上唇を軽く噛む。
くわえた後、軽く吸いながらゆっくり引く。
彼の唇の厚みを確かめるように何度か繰り返す。そうする事で、竜児と自分に摩擦という刺激を与え続ける。
いつもまにか、キスの音は
「ちゅるちゅる」
という合わさる音と吸う音が重なりだす。
普段は外気に触れない唇の裏側がヒリヒリしてくる。当然だ。なるべく接触粋を多くしたいが為、二人はその奥まで使っている。
外気に触れない世間知らずなその皮膚は、苛烈な刺激にさらされていた。それが気持ちよく感じる。
後を引いて、もう一回、さらに一回とその皮膚が刺激を求めている。
そこだけではない、準備運動は終わっただろと、いつの間にか唇全体が快感を求めうずきだす。
少し口をあけて、彼の口自体を甘噛みするように口を合わせる。そして、ゆったりと閉じる。唇全体をこすり付けるようにあわせる。
しばらくしてから、また開く。なんどもお互いを重ね続けた。
亜美はキスというもの夢を持っていた。
ドラマや映画のラストシーンに相応しく、お互いの愛を誓うような、自分の恋心を愛をささげる様な行為であると思っていた。
情熱的なものや、淫微な激しいものにしたって、それは気持ちの表現なのだろう。
精神的な気持ちの共有みたいなものがその本質なのだろうと考えていた。
だが、それだけではなかった。想像するのと、経験するのとは大違いだ。この行為は性行為だ。
敏感な感触帯である唇を互いこすり合わせる行為。
快感を得たいが為、何度も何度も、こっけいに求め合う。
自分から、気持ちよくなりたいと唇を寄せる。男が自分に快感を求める事を実感して支配欲を満たす。
欲望に溢れるばかりの行動だ。
亜美は自分の行動をそう分析していた。
その実感を確かにした行為、
亜美は唇を開く時、竜児もそれに合わせてくれる事を確認して、ゆっくりと舌は伸ばす。
「高須、くん…」
「ん…川嶋…」
より敏感な器官をパートナーの口内に侵入させようとする。
果たして、愛を伝えるため舌を伸ばす必要があるのか、動物のようにぴらぴらと舌を揺らす必要があるのか。
否。それは気持ちを伝える為ではない、あなたと気持ちよくなりたいという合図だ。
高須竜児に川嶋亜美は快楽をせがんでいる。
その認識が彼女のひだをふるわせた。竜児の舌が欲しい。彼の舌で、自分の口を、舌を犯して欲しい。
少しだけ伸ばした舌を、彼の舌に会合させるため、もう少しだけ伸ばしてみる。
自分が男を求める女の一人にすぎないのは解っている。
それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。快楽に弱い女だとがっかりされたくないという少女じみた気持ちもある。
だから、隙あれば、「高須くんは女の子に幻想抱くタイプだよね」等と言って、予防線を張っているのだ。
けれど、もう唇だけのキスでは切ない。一度、知った感触と気持ちを忘れる事は出来ない。
舌をからませあった時の高ぶりを再び感じたい。あの熱を教えたのは目の前の男だ。
恥ずかしくても、高須竜児の熱を求めずにはいられない。
彼も同等の好意を持っていてくれると唇で確かめたい。特別なことをしたという事実を積み重ねたい。
亜美は舌を少しずつ伸ばしていく。
「あっ」
舌の先に、柔らかな感触を感じた。竜児が彼女を迎えるように自分の舌を伸ばしていたのだ。
快楽と共に安心感が後頭部辺りに電流のように走る。
ほんの数mm程度の表面積接触だというに体の芯から震えが来て、自分が濡れるのが解った。
その震えと安心感から、気を抜いてしまい、舌が内に引っ込んでしまう。
一瞬だけしか、あの気持ちは得られないのかと失望感が襲ってくる。
が、それは思い込みだった。
竜児の舌が彼女を追って口内に侵入して来る。
そして、逃げるなとばかり、絡めてつけてくる。亜美も追いかけてきたそれに報いようと精一杯、竜児の動きにあわせて舌を動かす。
男も、女も、ついこの前まで、軽めのキスしか知らなかった二人は、ぎこちなくも動かし、お互いを求める。
それは経験も技術もなかっただけに、乱暴で、原始的、そして本能的だった。
ぬめりと互い唾液を潤滑油にして、すべらせ、舌自身を舐めあう。
舌が一瞬はなれたかと思えば、歯の裏や、頬を、すべてを征服しようと舌を伸ばす。
けれど、もう一方がそれを許さない。追いかけ、求め、絡める。
捕まった方も、素直にそれを受け入れ、倍にして愛情を返した。
「ちゅ、ちゅっ…んんっ…高須くん…」
互いの唇と舌を貪る。飢えた獣のように貪欲に、鼠のようにねちっこく舌を絡ませる。
密着時間を少しでも延ばそうと 、息を止め、何十秒もお互いを求める。
「ふ…、は…はぁ、川嶋…」
粘着質の音と、息苦しい声だけが部屋の沈黙を埋める。
息継ぎをする為に唇を離し、互いの名を呼び合う。愛しさで胸をいっぱいいして、真っ直ぐに互いの瞳を見つめあう。
時間が惜しいと唇を吸いあう。
…んんん…ぢゅっ、んむ…ちゅ、ぱっ…はあ、あ、あは…
二人はただ、キスに没頭した。息遣いだけが部屋を満たす。
だが、ただのキスといっても疲労はする。
一日、部屋に篭城して、現在のしとねも、竜児に体を預け、上からキスを続ける亜美はまだしも、
竜児はただでさえ負荷の高い一日を過ごし、亜美の家まで駆けつけた。
現在もベットの上とはいえ、亜美の体を支え、重力に逆らって舌を伸ばし続けるのは相当な消耗だった。
竜児は舌を口内に納め、顔を離すと、新しい酸素を体に取り入れる為に深く息をすった。
だが、亜美は止めたくなかった。体力はある、それに川嶋安奈との孤独の戦いを強いられてきた彼女は、
表面上は強がっていても、温もりを求めていた。
そして、目の前には高須竜児。心の底から求める男の子。舌の動きを止めることが出来なくなっていた。
精一杯、自分の舌を伸ばした、竜児の舌を追う為に。
気づいた時には、そんな、発情した犬のように舌を伸ばす自分と、そんな大胆な行為をしている自分を驚きの目でみている竜児。
羞恥心が蘇り、急いで引っ込めようとするが、それも出来なかった。いつもの竜児の目、亜美にはおだやかに見える目をして、
亜美の舌を唇だけで噛むととゆっくり引く、まるで舌を愛撫するように何度もそれを繰り返す。
ちゅっ、ちゅっ…ちゅぶっ、るりゅ…
粘着質の音だけが部屋の沈黙を埋める。
亜美の舌が竜児の口の中で音を立てていた。それはやらしく、けれど、やさしく、亜美の脳髄をやいた。
いつまで、私は舌を出していられるのだろうか
一秒がもっとゆっくり流れてくれれば良いのに
あられもないと思いながらも、むしろ、舌を舐めてもらいやすいように真っ直ぐに伸ばして、
少しでも接触域を増やそうと精一杯伸ばす。
甘かった。純粋な味覚ではなく、空気が。熱かった。室温なんかじゃない。血液の温度が。
この一瞬に近い抱擁だけでも、登り詰めんばかりに酔いしれる事が出来た。
陶酔していく気分。反比例して力が入らなくなる肢体。力がはいらずとも動きを止めたくなくて舌を伸ばす。
頭がクラクラする。意識が飛んでしまうのではないかと思える。
それを察した竜児は、なんの予兆もなく行為をやめて唇を離す。
「止めないで欲しい」と強く思った。あと、もう少しで何かを越えられる気がしていた。だから言った。
「高須くん。私、すごく、喉が渇いてる」
舐め続けてくれた竜児の口内には沢山の唾液があるのは解っていた。
竜児が下で、亜美が上だったから自然な流れでそれが得られる事はなかった。
亜美は自分からねだった。もう少しで完全に染まる事が出来ると思った。
竜児は亜美の熱で朦朧となったような声に誘われるまま、体を抱きしめ、体制を逆にする。亜美が下で竜児が上。
上体をかぶせるようにして強いキスをする。彼の唇を彼女の唇にかぶせる様にして唾液を口移しする。彼女の口腔へと流し込んだ。
亜美の彼のつばをすする音が聞こえる。それが興奮を誘い、竜児の体の奥から、次から次へと唾液が沸いてくる。
フェロモン溢れた甘い唾液だ。
「飲んでくれ」
「んっ…。」
亜美は熱い吐息を鼻から漏らしながら、んく、んく…と小さく喉を鳴らして嚥下する。
彼の体から出た液体が意識を犯す。亜美を犯した。亜美の目はトロンとして色になり、媚びた光を浮かべる。
彼の色に少しでも染まれたような気がして、下半身の女が震える。
ゾクゾクと背中も揺れる。自然と身震いをしてしまう。下半身がむずむずとして太ももをすり合わせる。
目の前の男が欲しくなって彼の瞳を覗き込む。彼自身も求めてくれているように思えた。
このまま流れに身を任せてみたいとも思う。
けれど、ここで頭をもたげてしまうのが彼女の悪い癖。考えてしまった。
相手は…
問題無い。というよりも、これ以上何を望むのだろうか。
タイミングは…
それ程よくない。今は安奈との戦争中だ。そんな中、押しかけて来た竜児に言いたい事はたくさんある。
そんな最中だからこそ、来てくれた事も嬉しく思う。
そういう意味では悪いわけでもない。
場所は…
最悪だ。自分の部屋というのは悪くない。もっと掃除しとけばよかったとは思うが、それぐらいだ。
一流ホテルのスィートを用意しろと言うのではない。ふざけて言う事もあるが、けして真意ではない。
ただ清潔なベットがあって、身体を洗い流せるシャワーがあれば十分だ。
シャワーが欲しい。
体臭が気になる。立てこもりが五日間。その間、当然、お風呂はおろか、身体を拭くこともしていない。
コロンは部屋にあるが、この状態で、「ちょっと、待っててね」と言って、つけてから
「どうぞ」なんて言えるわけもない。「準備万端、いたしましょう」なんて恥ずかしい真似は出来ない。
でも、「意外と体臭きついな」なんて言われた日には。竜児を刺して、私も死ぬ!とさえ、突発的に思ってしまう可能性が高い。
特に下半身は蒸れた日だと自分でも解るくらい匂いが強くなる時がある事は確認すみだったりする。
こういう日を想定してのシュミレーションは欠かしていない。
自分からだと言うのも少しやだ。山の時とは状況が違う。なし崩し的にするよりは、出来れば男の意思で求められたいのが女心。
初めてなのだ。出し惜しみをする気はない。むしろ捧げたい。だがそれなりに誠意も示してもらいたい。
我ながら面倒臭い女だとも思う。
せっかくなのだ。最高のものにしたいという願望がある。
特に最初のキスがあまりにも大事な記憶になっているだけに、初めてのSEXで同じくらいのものを手に入れたいと願ってしまう。
最大の問題はドアの外、他の部屋に人がいるであろう事。彼女の説得ないし監視の為、見張りが常にいた。
行為の最中に入てこられたりしたら、竜児との仲を反対される強い論拠になってしまう。
冷静に考えれば、してはいけないと彼女の理性が判断していた。彼氏彼女の仲なのだ。機会などいくらでもあるだろう。
だが、それが解った上で、「どうしよう」と亜美は思い悩む。
体は火照っていて、本能は「どう」を放り投げて、「しよう!」と亜美の理性にささやき掛ける。
今なら、自然な流れな気がする。きっと、彼も「したい」と思ってくれている。
こいつが求めてくれるなら……
「高須くんがそうしたいなら」
だから、誘いの言葉を掛ける。
「いいよ」
「何がだ?」
帰ってきた言葉の意味を彼女は理解出来なかった。相手がもっと今の状況をよくわかってないという言葉だと気づいて、
「やぁー、もう!」
毛細血管が破裂しそうなほど怒りが沸く、恥ずかしさも吹き飛んでしまう。
「だから、この続き」
C
竜児は考える素振りを見せる。それだけで腹が立つ。忍耐で作れている彼女の心の我慢の袋が急激に膨らんでいく。
ここまで私がリードしてるてのに、普通は彼氏がやってくれる事だろう。
「今はやめとかないか」
「なんでよ!」
と「やりたい」と隠さずに言ってしまった事に気づいてと亜美は手のひらで口を押さえた。
竜児はそんな事が解っているのか、いないのか淡々と
「そりゃ、俺だって川嶋と先に進みたいとは思ってる。けど、それをしたくて来たわけじゃなかった」
「それなのにこんな事するんだ」
「ごめんな。突っ走ちまった」
竜児は後悔の念を顔に出して謝罪する。亜美はそんな顔を睨みつけていた。
腹が立っていた。
恥ずかしかった。
恥をかかされた…のとはちょっと違う。
こんなに自分は求めてるのに、こいつは同じくらい欲しいと思ってくれない。
そう感じて、腹が立って、恥ずかしくって、イライラした。
そんな亜美に気づかずに竜児は話続ける。
「俺はただ、お前の顔が見たかっただけなんだ」
「なに、たったそれだけの為に泥棒紛いな事までしたの?。いっそ、駆け落ちしようとか言うくらいの気概があってもいいんじゃない?」
亜美は気持ちを整理出来ずにいた。馬鹿だとは思った、大馬鹿だと思った、自分に会いたいが為だけにこれだけのリスクを侵す馬鹿。
嬉しかった。
自分でも訳が解らない。その勢いのまま暴言のような発言が口から出てしまっていた。
駆け落ち
亜美自身、駆け落ちといった手段が正しいとは思ってない。むしろ、そう竜児が言った時用に反論の用意をしていた。
「現実的じゃない」とか「無計画すぎる」とか。
それなのに竜児から不意打ちで混乱した気持ちのまま、自分からそんな事を言ってしまった。
高校生の駆け落ちなんて成功率が限りなく低い。
第一、反対する人間を切り捨てて、周りに迷惑を掛けて、二人は幸せになりました。それではあまりにも子供の振る舞いだ。
ただ、亜美が好きな竜児は、そういった情熱的な一面がある様に思えていた。
そして本気で竜児がそう言うなら、最後まで反対する自信は彼女にはなかった。
竜児はそんな亜美の言葉をいつもの冗談だと思って、軽く笑い。
「駆け落ちなんてお前が反対するだろ」
「当たり前じゃん」
「そんな大げさな事じゃないが、もう一つ目的があった。これこそ、お前をうんざりさせるかもしれない」
「これ以上、呆れることなんかないって、約束してあげるから言ってみて」
「その為に来たんだものな。えーとな。つまりだ。頑張ってくれてありがとうな。だ
俺が言うまでも無く、お前はしてくれてるだろうから礼だけでも。その上でお願いだ。
安奈さんに逆らうなんて大変だろうが、これからも頑張ってくれ。俺も頑張るから。
て既に頑張ってる人間に言う事じゃないな。悪い」
それを聞くと亜美は急に口をつぐむ。
「解ってくれている」
キュッと唇を強く結び、喉まで出掛かった言葉を外に漏れないようにする。
「その上で自分も頑張ってくれると言ってくれた」
瞳に力を入れて何かに耐えるようにする。しかし、体の芯から来る震えを今度は抑える事が出来ず、体を一度震わせて、
それでも、意地を張って
「バッカじゃないの。呆れて何にも言えない」
と一言だけ頑張ってみた。
「やっぱり怒るよな」と反省気味の竜児に、「大好きだよ」と言いたくて、言えなくて、亜美は別の言葉で彼に応える。
「あのさ、頑張ってくれるのはちょっとは嬉しいけど。でもね、あんまり無茶しないでよ。
泣いても、笑っても、後五日で決まるから」
「?、五日間でなにがあるんだ?」
「撮影が始まるの。夜十一時くらいのドラマだけど、それでも準主役。私にはすごく大きな仕事。
マネージメントに回ってるママにとってもね。つまり、それがリミット。その仕事をボイコットしたら引き返せない」
「引き返せないってどういう意味だ」
「つまり、それを超えたら女優、川嶋亜美は終了って事。これはママと私のブラフの掛け合い。
ママのカードは従わなければ芸能界から干すってカード。譲歩条件は高須くんと別れる事。有り得ないての。
私のカードはママが組み立てた仕事、ボイコットして、川嶋安奈の面目丸つぶれにするって札。譲歩条件は付き合うのを認める事」
竜児は顔色を変えて、
「だが、お前が俺の為に芸能界やめるてのは!」
亜美はにこやかに笑う。
「言ったでしょ。私は私の幸福の為に人生を生きて、自分の幸福の為に高須くんを愛してあげるって。
全ては自分の為にやってるの。高須くんの為じゃない」
「そうなんだろうが。けどな…」
亜美は今度は笑顔を辞め、真剣な表情で
「竜児。あんたは女優の亜美が好きなの?。それとも目の前の川嶋亜美が好きなの?」
その言葉に頭が下がり、
「すまん。お前を侮辱するような事言うところだった」
「大丈夫だって。心配してくれてありがとう。でも今回に限って言えば勝算十分。ママの方が分が悪い。
この仕事つぶしたら、ママが長年作った人脈と信用が大崩壊だもの。リスクが多すぎて、そんな賭けは出来ないはず。
私たちはこの簡単な勝負をクリアして、強い意志を示す。私達が譲歩する気がないって解らせれば目的達成、あとはママに従う」
「それならいいが」
亜美は竜児が安心するように言葉を掛けるが、考えている事は違った。
(どちらにしろ今回の仕事が終わったら、序序に手引いて、最終的に私は事務所から放逐なんだろうけど。
ママ、身内にも容赦ないし。どうせ、七光りだけじゃいつまでも仕事取れないし、そんなんじゃ芸能界じゃやっていけないもの)
なんて気持ちは竜児につげない。
「今日もけっこうヤバ目だったんだけどさ。キャストのクランクイン前の最後の顔あわせがあったんだ。サボってやった。
ママ、妥協案くらい出してくると思ったんだけど、何の反応も無し
昨日の昼までは、交渉ぐらいしたんだけど、夕方くらいからかな。急になにも言ってこなくなって。
さては何かあったか、て踏んでるんだけど」
「昨日の夕方?、俺、安奈さんに電話で怒らせちまった」
「え、ママ電話出たの?、私の前では高須くんに事、散々こきおろしておいて。言語道断。話す価値もないって言ってたのに」
「そんな風に言われてたのか」
「もう酷い言い方でさ。実際、聞いたら立ち直れないと思うよ。タイガーの悪口の比じゃないもの。
当然。私のかわいい憎まれ口なんか足元にもおよばない」
「川嶋の憎まれ口がかわいく聞こえるとしたら相当なものだな」
「なによ〜」
またじゃれ合いモードになりそうになるが、そんな自分に急ブレーキを踏む亜美。なにか引っかかる。
「ねぇ。高須くん。なんで私に会いに来てくれたの?」
「だから言ったろ。お前の顔見たくなって。なんの助けにもならないかもしれないが、何かしたくなった」
「そうじゃなくて、来てくれたのは嬉しいし、それだけで助けにはなるんだけど。どうして、そう思ったのかって」
「理由?、そう言われてもな…。急にお前に会って、礼言いたくなったとしか…」
「ごめん。ちょっと待ってて」
亜美はベットから立ち上がると、ゆっくりとドアを開いて外の様子を伺う。
少しして、竜児を部屋に残し外に出て行く。
「信じられない。誰もいない」
亜美は戻ってくると、驚きを竜児に伝える。
「留守なのか?。俺、いいタイミングだったな」
「あのさ、高須くんは最初から木登って、私の部屋に来ようとした?」
竜児は笑って
「さすがに最初は正面から入ろうとするさ。けど、マンションの玄関で駄目だった。
自動ドアは閉まってるし。インターホーンはあっても部屋番号は解らない。そもそも安奈さんに入れてくれなんて言えない。
一応、いろいろ入り口探したが解らくてな、最後の手段だって、木に登った。
俺、この目つきだろ。住んでる人にジロジロ視られて、通報されないか心配だった」
と冗談交じりでしゃべる。亜美は余計、真剣みをました顔をして
「ねぇ、竜児、今がチャンス。一緒にここ出よ」
「駄目だろ。それは」
「これはね千載一遇の機会なんだって。監視が誰もいないことなんて今まで無かった」
「いや、だが。安奈さんが心配するだろ。あの人は敵じゃないんだ」
「竜児は甘い。それに、私が竜児と別れなくてすんで、女優も続けられる絶妙なタイミングなんだって。
まだリミットまで五日間ある。三日ぐらい身をくらまして、ママに、私たちの本気とリスクを思い知らせる。
それで前日か、前々日に交渉するの。ママが考える時間。クランクインに準備する期間。両方ある」
竜児はその駆け引きがどういう効果を引き出すかよく解らなかった。
が、亜美が女優が続けられる見込みがあると聞いて、その案を受け容れる。
「わかった。お前のアイディアなら、俺が考えるより間違いない。いくぞ」
「うん」
と亜美は慈愛の女神の笑顔で応えた。
竜児は窓に片足を掛けると、亜美に手を伸ばす。
「俺がフォローしてやる。行くぞ」
だが、つがいの女の子は腕を組んで仁王立ち。
「亜美ちゃんがそんなとこから降りれる訳ないでしょ。第一、竜児のフォローなんて信用出来ない」
「外に行くんだろ?。それじゃどうするんだ?」
「正面から出ればいいじゃん」
「お、そうか」と間抜けな顔をする来た道でしか戻る発想のなかった竜児を尻目にコロンを入念に身体に纏うと、
「ちょっと待ってて」と家を歩きまわって準備をし、逆に竜児の手を引いてマンションを堂々と進む。
あまりの堂々さに竜児は不安になり、
「裏口からソロソロと出たほうがいいんじゃないか」とか「鉢合わせしないように急いだ方がいいんじゃないか」
等と言うが、まったく受け付けず、むしろ、誇示するように歩く。
「こういうのは、当たり前な顔して、堂々としてた方がいいんだって」との言葉に「そんなもんかと」と従う。
亜美はすれ違う住民たちには笑顔で軽く挨拶するくらいの余裕を見せる。
竜児はその度に、握った手を離そうとするが、それすら許さず。
「恋人同士なんだもん。それなりの態度とってよ」
と言い渡し、正面門から、威風堂々と勝者の歩みでマンションを亜美は後にした。
目指すはお気楽でゆったりとした憩いの我が家、高須家だ。
******
以上で今レスでは投下終了です。お粗末さまでした。
すみません、注意書きで書かないといけない事なのかもしれないんですが、
エロ有りです。微というかキスシーンだけですが…
閉め部分は次スレで投下させて頂きます。もう少し推敲してから投下させて頂きますので、
規制されない、且つ、他の投下と重ならなければ2、3日中にさせて頂きます。
読んでくださった方、どうぞ最後までよろしくお願いします
スレ立て、支援ありがとうございました。
お待ちしていました。
遂に終盤戦ですね。
楽しく待ちまーす。
GJ!
ワクワクして待ってます!
+ +
∧_∧ +
(0゚・∀・)
(0゚∪ ∪ +
と__)__) +
いつのまにかCV:釘宮のヒロインが「りゅーじ好き好き」言うアニメが始まっていた……。
そんな埋め。
kwsk埋め
ドラゴンクライシス
なんと
こっちは竜児
あっちは竜司
むしろ、「りゅーじ、すき」しか言わないから背中がむず痒い、そんな今日この頃。
埋め。
流動する情勢に従って株価はいとも容易く変動し、電気の信号は休まることなく通信の網を駆け巡り、目下のところニュースは食傷を訴えるぐらい飛び込んでくる。
何億年も前から降り注ぐ太陽光が大地を恵み、気温と湿度の相互効果で風向きは気まぐれに変わり、月欠け満ちて潮騒ぐ。
非常にどうでもいいことだ。どこか遠い世界の話だろうとさえ思う。
そう、そんなのは非常にどうでもいいの。昨日の天気よりどうだっていい。
わたしが今気にしていることはといえば、ただ一つ。
「心配ね、ブサコ。最近じゃ鳥もインフルエンザに罹るんだって」
インベーダーにしてプレデターたるあの抉れ胸から、いかにしてか弱いこの身を守り通せるかということに尽きる。
麗らかな昼下がり。いつものようにごはんを用意していた竜ちゃんは、途中でどこかに出かけていった。
たぶん買い物かなにかで、それはいいの。
よくないのは、これまたいつものように居座り、お客様気分全快でごはんを待っていた抉れ胸が、暇つぶしの材料としてわたしに目をつけたこと。
抉れ胸はポータビリティーで機能的、それでいて通気性のよすぎるわたしのお部屋を無造作にテーブルに置いてからというもの、なにが面白いのか、一方的に口を動かしている。
頬杖つきながらテレビを眺め、お里が知れるような品のなさでおせんべいを黙々と噛み砕いているだけだったらいいものを、出てくるのはせんべいくさい二酸化炭素と、わたしを震え上がらせるような意地の悪い台詞ばかり。
ひたすらに鬱だわ。いい加減本気で嫌になる。
我慢の限界はとうのとうに迎えてるというのに、一向に嫌がらせは終わらない。
「でもま、あんたには関係ない話よね。元々インフルエンザ拗らせてるような顔してるんだし」
本当にもううんざり。だいたい、それと病気と何の関係があるというんだろう。
どれだけこじつけてみようとしてみても、わたしにはこれっぽっちも納得いきそうにないというよりも納得いかないむしろ絶対納得なんかしたくない。
「にしても、おっそいんだから、竜児。もうお腹と背中がくっつきそうだわ」
五枚も六枚もおせんべい齧っといて、いや、七枚目に手を伸ばしておいて、いったいどの口が言うんだろうね。
ていうか、そのままおっぱいと背中がくっついて全てに絶望すればいいのに。
そんな風なことを考えつつ、憎しみで人がころっと逝っちゃうなら三回は逝かせられるだろうこと請け合いなくらい鋭さを増すわたしの視線は、
本人に直接ぶつけてやってもいいけど、合わせようものなら心臓麻痺を誘発させそうな抉れ胸の目つきは本能に訴えかけてくるくらい、怖い。
しかも彼我の体格差は絶対であり、圧倒であり、もし万が一相手の機嫌を下方修正させてしまった暁には、きっといたいけなわたしは強制的に巣立たされるか、はたまた、腹を空かせたそいつの胃袋に納められるかもしれない。
おぞましくって生々しい未来予想図に鳥肌が立つ。串刺しにされて火炙りにされるなんて真っ平ごめんだ。
仕方なしに窓に映る憎いヒンチチを睨んでやるしかなく、そして向こうが何をほざこうと無視を決め込んでやるのがわたしなりのささやかな反抗だった。
「なによ、珍しく静かにして。なんか喋んなさいよ。こっちは暇だしお腹へってしょうがないんだから」
隙間から進入してきた人差し指に、爪弾くようにして頭を小突かれる。
しまった。ささやかな反抗は微妙に裏目に出た。あちらは確実に苛つきの度合いを増している。
何をしても機嫌を損ねる上に何もしなくってもどっちみち機嫌を損ねるんだからこの女は手に負えない。
ああ、早く帰ってきて竜ちゃん。
じゃないとわたし食べられちゃう──猟奇的な意味で。
「たく」
さもつまらないと言わんばかりに、半円にまでなったおせんべいを放り込むようにして、一口で平らげた抉れ胸がふて腐れた声を出す。
「あんたはいいわよね。いくらブサイクで気持ち悪い顔してたってご飯は勝手に出てくるんだし」
だから顔は関係ねえっつってんだろ。あんまりしつこいとその内てめえのそのツラ啄ばむぞコラ。
あとさっきから失礼なことばっかり言って、わたし全然気持ち悪くなんかないんだから。
だって竜ちゃんが世界一可愛いって言うんだから、それがこの世の真理。
抉れ胸の美醜感覚が麻痺してるだけでしょ。
おっぱいだけじゃなくっておつむも可哀想なんだから、まったくやれやれだわ。
「それに、なんにもしなくったって、何があったってずっとここに居られるんだし」
ふいに、いたずらに突っついてくるだけだった指先が頭上までやってきて、振ってきた指の腹が触れると、前後にかすかに揺れた。
「あんたのご主人様だって、可愛がってくれるしね」
時間にしたらわずかに数秒のこと。
ちょっとだけ羨ましいわと、抉れ胸は柄にもないようなことを呟いてから、撫でつけるその指先を引っ込めた。
甚だ意外なことに、抉れ胸は留守を預かるこのたかだか十数分たらずで、寂しさから人恋しくなっちゃったみたい。
なんてお子様なんだろうか。見かけよりもよほど幼い精神年齢をしてるんだろうか。
まったく本当にやれやれだわと、心優しくて大人なわたしはその指を追いかけて、大きく嘴を開け、おもむろにかぶりついた。
そうして、普段竜ちゃんにしかしない愛撫を特別に披露してやる。
甘辛くてべたついているのはおせんべいのせいなんだろう。いささか不快な味と舌触りを、けれど目を瞑ってやり、優しく舌を這わせる。
ありがたく思いなさいよ抉れ胸。こんなサービス、滅多にしないんだからね。
と、そのとき玄関が開く音がして、いくらもせずに竜ちゃんが入ってくる。
「ただいま。なにしてるんだ」
「あっ、竜児。見てよこれ、こいつ噛みついたのよ。インフルエンザになったらどうしよう」
「はあ?」
いまのいままでの物鬱げな態度が嘘のように、抉れ胸はじゃれつく猫そのままに竜ちゃんに飛びついていった。
少しでも心を開いてやろう、慰めてやろうと思ったわたしがバカだった。
もしいつか本当にインフルエンザにでもなることがあったなら全身全霊でこいつにうつしてやろうと固く決意した、そんな麗らかな昼下がりの話。
〜おわり〜