キモ姉&キモウト小説を書こう!part32

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68代理投下 ◆j3gvf0a2hI
避難所の作品を代理投下

143 : チョ・ゲバラ 2010/09/21(火) 22:51:05 ID:4/uKqcvU

規制が解けないのでこちらに投下いたします。
「うわッ!」
 奇妙な夢に悩まされていた俺――乃木涼介は、軽い悲鳴と共にベットから跳ね起きた。
「はぁはぁ……はぁ……、夢か……」
 部屋は真っ暗。まだ深夜だろう。パジャマの中はしっとりと汗で濡れていて少し気持ち
悪かった。
「そうだよな……そんな馬鹿なことあるわけないよな……」
 本当におかしな夢だった。
 こともあろうに、実の妹と主従関係を結んでしまうというトンデモナイ夢を見てしまっ
たのだ。俺がご主人様で妹の真帆奈が奴隷。もうなんと言っていいのやら。いくらなんで
もアホすぎるわな。ハハハ……。いやいや、兄としてこんな夢を見てしまって本当に情け
ないよ。でも、もの凄くリアリティーのある夢だったような気がするんだけどな……。
「う〜……。どうしたの、お兄ちゃん……?」
「あっ、ごめんな。起こしちゃったか? いやー、なんか変な夢見ちゃってさ」
「怖い夢だったの……?」
「うーん、怖いと言えばある意味一番怖い夢だったのかもしれないな」
「だいじょーぶだよ。お兄ちゃんのそばには、ずーっと真帆奈がついててあげるからね。
来て、お兄ちゃん。真帆奈がぎゅーってしてあげる」
「そっか、ありがとな。でも大丈夫だよ。たんなる夢の話だからな」
「だめだよー。怖い思いをしたお兄ちゃんを慰めるのは妹の努めなんだから、ちゃんとぎ
ゅーってしないとだめなの」
「つーか、本当はお前が単に甘えたいだけなんじゃないのか?」
「エヘヘ……ばれたか。でもでもお兄ちゃんを慰めてあげたいのはほんとだよ。それでお
兄ちゃんも真帆奈も幸せになれるんだから一石二鳥だよ。だからぎゅーってしないとだめ
なの」
「まったく、しょうがない奴だな。ちょっとだけだぞ」
「やったー。だからお兄ちゃん好き〜」
 真帆奈は俺の首に両腕を回し、ぎゅーっと身体を密着させてきた。
「こらっ、そんなにくっついたら寝られないよ」
「このくらいでは真帆奈のお兄ちゃんへの愛情はまったく表せないのだ。うにゃ〜、お兄
ちゃ〜ん……お兄ちゃ〜ん……だい好きだよ〜……」
「いつまで経ってもお前は甘えん坊だな。さぁ明日は学校だしもう寝よう。起こして悪か
ったな」
「そんなことはどうでもいいんだよ。お兄ちゃんだったら真帆奈はなにされても許しちゃ
うんだからね」
「大げさな奴だな」
「大げさじゃないよ。真帆奈は本気なんだよ。だからお兄ちゃんも真帆奈に遠慮なんかし
たらだめなんだからね」
「はいはい、わかったわかった。じゃぁおやすみ」
「うん。…………ねー、お兄ちゃ〜ん」
「んー?」
「おやすみなさいのキスは?」
「馬鹿なこと言ってないでさっさと寝なさい」
「うー、いつもはブチューってしてくれるのに……」
「そんなことした覚えないよ。全部お前の妄想だから。つーか、もうホントに寝ようよ。
明日起きられないぞ」
「うー、わかった……。おやすみなさい、お兄ちゃん。だい好きだよ」
「はいはい、おやすみ……」
 明日というか今日は、早く起きて弁当を作らないといけないからな。さっさと寝ること
にしよう……。
「――って、おいッ!!」
 俺は勢いよく布団から跳ね起き電気を付けた。
「なんでお前が俺のベットで寝てるんだよ!?」
「くー……」
「こらっ、寝るな! 起きろッ!」
 隣でもう熟睡状態に入ろうとしている妹を起こす。
「な、なんなのお兄ちゃん? 寝ろとか寝るなとか、真帆奈はいったいどうすればいいの
かわかんないよ?」
「なんでお前がここで寝てるのかって聞いてるんだよ!」
 寝ぼけていたせいで、無駄に長いノリツッコミをしてしまったじゃないか。
「なんでって……? お兄ちゃんはもう真帆奈のご主人様になったんだから、一緒に寝る
のなんて当たり前じゃない」
 俺の実の妹――乃木真帆奈は、こんなの初歩の初歩だよ、と呟きながら再び船を漕ぎ始
めている。
 つーか、あの夢は現実だったのか。どおりで生々しい夢だって思ったよ。 
 実はここだけの話だが、俺は妹との真帆奈と主従関係を結んでいる。
 いや、正確には結ばされたと言った方が正しいだろう。
 内容も分からない書類に軽々しくサインをしてしまい、それが奴隷契約書なるものだっ
たのだからさぁ大変。ダルマ蔵相で有名な高橋是清も若い頃に騙されて奴隷契約書にサイ
ンをしてしまい、誰も知る人がいない海外で相当な苦労をしたらしいのだが、俺の場合は
少し違う。
 騙されてサインをした俺の方がご主人様で、騙した真帆奈が奴隷というなんとも奇妙な
契約だったのだ。
 世にも不思議な話があったもんだろ。
「兄と妹が一緒に寝るのは当たり前のことじゃないの。わかったらさっさと自分の部屋に
戻りなさい」
「えー、なんでなんでー? 妹だからだめだって、そんなの人種差別なんだよ。だいたい
真帆奈はお兄ちゃんの妹である前に忠実な下僕なんだから、いつなんどきでもお兄ちゃん
の近くにいなくちゃいけないのだ」
 かなり眠いらしく、真帆奈は目をゴシゴシさせながら持論を力説する。
 その姿をよく見たら、お腹のあたりがスケスケになったらフリフリのキャミソールにタ
ップパンツという、ちょっとというかかなりエッチないでたちだった。
「ちょっ、なんなのそのパジャマは!」
「お兄ちゃんのために通販で買ったんだよ。可愛いでしょう。エヘヘ…‥」
 どうだー、とばかりにベットの上で自分の姿を兄に見せつけてくる真帆奈さん。
 確かに、まぁなんというか……その、よく似合ってはいた。
 新雪のような白い柔肌、愛らしく整った眉目、小柄で華奢な体格、そして、シーツの上
に扇のように拡がった黒絹のような長い髪。
 実の兄である俺が言うのもなんなのだが、こいつは相当な美少女なのだ。
「今なら出血大サービスで、先着一名様にもれなく真帆奈を独り占めだよ、お兄ちゃん」
 早く早く、と両手を広げて兄を誘惑する真帆奈。
 ヒョイッ、ポイッ、バタン。
「うにゃー!」
 真夜中にこれ以上無為な時間を費やさないためにも、とっとと実力行使に出た。 
「うー! なんでこんな酷いことするの! たとえお兄ちゃんでも、こんな人道に反する
行為は許されないんだよ!」
 扉の向こうで真帆奈が騒ぐ。
 去れ!
「はっ!! わ、わかったよ、お兄ちゃん! これは放置プレイなんだね? 放置プレイ
の一環なんだね!?」
「真夜中にわけのわからないことを叫ぶと近所迷惑ですから! もういいからさっさと自
分の部屋に戻って寝る!」
「こんなのないよー! 詐欺だよー! インチキだよー!」
 暫くの間、真帆奈はギャーギャーと喚きながらドアノブをガチャガチャやっていたが、
すぐに俺の断固たる意志を悟ったらしく、
「うー! お兄ちゃんのバカーッ!」
 と、捨て台詞を残して自分の巣に逃げ帰った。
 真夜中に余計な体力を使ったせいですっかり目が冴えてしまった。
 時間を確認してみると深夜二時過ぎ。
 俺はしみじみと嘆息してから、自分のベットに潜り込んだ。ベットの中には、まだ真帆
奈の甘い体臭の香りが残っていた。


『俺の妹がこんなにとびっきりに変態なわけがない2』


 欠伸を噛み殺しながら駅のホームで電車を待っていた。
 周囲を見渡すと、経済新聞を読んでいるサラリーマンや、携帯電話を見ながら忙しなく
指を動かしている女子高生などがまばらにいた。この時間帯は、ちょうど人が少ない穴場
時間なのだ。次の電車あたりから一気に人が増え始める。だから俺は早めに家を出るよう
にしているのだ。少し早起きしてでも快適な通学ライフを送りたいからな。しかし、そん
な小市民のささやかな計画の邪魔をしようとする人物が我が家に約一名存在する。もちろ
ん妹の真帆奈のことだ。昨晩に引き続いてまた早朝からごねやがった。
 真帆奈曰く、
「お兄ちゃんは、ご主人様としての自覚をもっと持たなくっちゃだめだよ!」
 だそうだ。
 朝起こしに行くと夜中に部屋から追い出された鬱憤が溜まっていたらしく、真帆奈はか
なりご機嫌ななめだった。その他にも、「一人で寝るのは寂しかった……」とか「これな
ら下僕としての責務が果たせないよ……」などとグチグチ言っていたが、真面目に相手を
するほど暇を持て余しているわけではないので、「まだ話は終わってないんだよーっ!」
と憤る真帆奈を振り切って家を出てきた。
 で、俺の哀れな携帯電話に先程から執拗に愚痴メールが入ってくるというわけだ。
 噂をすれば再び携帯電話がブルルと振動した。
 メールを確認する。
『今日学校に穿いていくパンツのことなんだけど、お兄ちゃんは青と白の縞々とピンクの
ハート柄のどっちがいいと思う?』
『どっちでもいいよ! そんなことでいちいちメールしてこないでよ!』
 と、すぐさま返信した。
『お兄ちゃんが真帆奈のお話をちゃんと聞かないで学校へ行っちゃうのが悪いんだよ。ど
っちがいいのか早く決めて』
 兄はそこまで妹の面倒を見ないといけないものなのだろうか? つーか、家で洗濯して
いるのは俺なわけで、真帆奈がどのパンツのことを言っているのかある程度わかってしま
うのがなんだかもの凄く嫌だった。
「まもなく二番線に電車が参ります。危険ですからホームの内側までお下がりください。
二番線に電車が――」
 ホームに独特の口調のアナウンスが聞こえてくる。
『縞々にでもしときなさい』
 と、メールを送信してから携帯電話の電源を切った。
 電車に乗る時はいつもそうするようにしている。こういうことは、一人一人のマナーが
大切なのだ。
 スピードを落としてホームへと侵入してきた電車がゆっくりと停車し、俺の目の前でド
アが開いた。
 べつに深い意味はないのだが、俺はいつも先頭車両に乗ることにしている。それで電車
に揺られながら本を読むのがちょっとしたマイブーム。車内に入りいつもの指定席に座ろ
うと歩を進めると、そこで意外な人物に遭遇した。
 緩やかにエアウェーブした長い黒髪、造形美の頂点を極めた秀麗な顔立ち、スーパーモ
デルのような抜群のプロポーション。そして、眼鏡属性。
 高千穂学園が誇る不動のナンバー1アイドル、東郷綾香その人だった。
 頭脳明晰、運動神経抜群という文武両道の才女で、これでオマケに俺のようなクラスの
モブキャラにでも優しく接してくれるマザーテレサのような博愛精神の持ち主なのだから
始末に負えない。人間なにか一つくらいは欠点があるものだが、彼女からそれを見つける
ことは不可能であった。
 さて、俺はどうするべきだろうか。どうやら東郷さんは本を読むのに熱中していて、こ
ちらにはまったく気付いてないようだ。やはりクラスメイトとしては、挨拶くらいはして
おかないといけないよな。……やばい、緊張してきた。ちょっと落ち着けって俺。なんで
こんなにドキドキする必要があるのだ。ちょこっと行ってちょこっと挨拶するだけじゃな
いか。よ、よしっ……まずは深呼吸をしてから、自然にさりげなく行こうじゃないか。
「と、東郷さん、おおお、おはよう!」
 うわっ! 完璧に声が裏返った。最悪だ……。
「……乃木くん?」
 不審者から声を掛けられたのかと思ったのか、東郷さんは一瞬だけ怪訝な表情をして目
をパチクリとさせていたが、すぐに俺だと気付きニッコリと微笑んで、
「おはよう、乃木くん」
 と、挨拶を返してくれた。
 それだけで俺の体温は、二、三度ほど急上昇してしまう。
「え、えっと、奇遇だね。東郷さんもこの電車だったんだ?」
「いつもはもっと遅い電車なんだけどね。私、今日は日直だから早く家を出てきたのよ」
 なるほど。どおりで今まで一度も会わなかったわけだ。日直グッジョブ。
「乃木くんは、いつもこんなに早いの?」
「うん。電車混むのいやだからね。やっぱり朝は座って学校に行きたいし」
「そうなのよね。この時間って本当に人が少ないのよね。吃驚しちゃった。これならいつ
も早起きすればいいんだけど、私は朝が苦手で……」
 どうやら東郷さんにも意外な弱点があったようだ。
 身近に似たような人がいるから一気に親近感が湧いてくるな。
「うちの妹と同じだね」
「乃木くんの妹さん?」
「そっ。うちの妹も朝が苦手でね、俺が起こさないと絶対に自分では起きないんだから。
休みの日なんかは、お腹が空くまでずっと寝っぱなしだよ。ホント、冬眠中のクマみたい
な奴なんだから」
「ふふっ、そんなこと言ったら妹さんが可哀想よ」
 東郷さんは、クスクスと楽しそうに笑っている。
「ところで乃木くん」
「なに?」
「席も空いてるんだし座ったらどうかしら」
「えっと……横に座っていいの?」
「どうぞ」
 ニッコリ。
 朝からそんな笑顔を見せられたら惚れてまうやろーっっ!!
「じゃぁ、お言葉に甘えて失礼します……」
 俺は失礼がないように、一人分ほどの空間を開けて東郷さんの隣の席に座った。
 同時に静かに電車が発車する。
 車両の窓から長閑な田園風景が走馬灯のように流れていくのが見えた。電車は並走する
乗用車を追い越しながら徐々に加速していき、一路都心へと向かうのだ。
「乃木くんの妹さんって、きっと可愛いいんでしょうね」
「可愛い? そ、そんなことないよ。普通だよ普通」
「でも、乃木くんに似てるんでしょう」
 俺にはあんまりというか、全然似てないような気がするな。あいつは完全に母親似で、
俺はどちらかというと父親似だからな。つーか、俺に似てたら可愛いのか?
「まぁ、あいつは外見よりも中身の方に問題があるからね。最近なにを考えてるのかよく
わかんないし……」
 鬼畜系エロゲーの趣味があったりとか、奴隷契約書にサインをさせられたりとか、夜中
にベットに忍び込んできたりとか、ここ最近は兄の理解の範疇を軽く突破している。
「妹さんはお幾つなの?」
「十三歳だよ。来月で十四歳になるね」
「その年頃の女の子って、凄く多感で繊細な時期なのよ。私がその時の頃を思い出すわ。
乃木くんも色々戸惑うことがあるかもしれないけど、できるだけ優しく接してあげて欲し
いな」
 あれでも繊細というものなのだろうか? かなり図太いようにも思えるのだが。まぁ、
うちの妹は特質系の能力者だから、一般論はまったく当て嵌らないような気がする。まし
てや東郷さんと比べるなんて恐れ多すぎるっつーか。
「色々気は使ってるよ。なんせ今は俺しか保護者がいないからね」
「ご両親はいないの?」
「うん。親父が転勤になったから母親も一緒について行ったんだよ」
「そうなんだ」
 東郷さんは、得心いったように静かに頷いた。
「それだとなにかと大変ね。ご飯とかは妹さんが作ってるのかしら?」
「いや、俺が作ってるよ」
「乃木くん、料理できるんだ」
「まぁ人並みにはできるよ。その他の掃除や洗濯も全部俺がやってる。真帆奈はなーんも
できないからね」
「そっか、偉いんだね」
 東郷さんに褒められた。
 なんだか背中のあたりが無性にムズムズしてくるな。
「べ、べつに偉いとかじゃなくて、俺しかやる人間がいないから仕方なくやってるだけだ
よ。真帆奈も少しは料理くらいできるようになってくれればいいんだけどね。あいつの将
来が心配だよ」
「ふふっ。乃木くんって、妹さんのことが本当に好きなのね」
 やや揶揄する口調で東郷さんが言った。
「えっ!? そんな……や、藪から棒になに言ってるのさ。こっちは毎日、苦労させられ
てるんだから」
「だって妹さんの話しをしている時の乃木くんって、凄く嬉しそうな顔をしてるんですも
の」
 マジデ!? 
 俺はそんな恥ずかしい顔をして、真帆奈のことをペラペラと話してたのか。
「変なこと言わないでよ、東郷さん。そ、そんなこと全然ないんだからね!」
「ふふっ、ごめんなさいね」
 東郷さん、クスクスと楽しそうに笑っている。
 やべ、マジで可愛いな。クソッ。
「でも、嬉しそうな顔をしてるのは本当のことよ。乃木くんの妹さんが羨ましわ。私は一
人っ子だから兄弟とかに憧れちゃうな」


 まったく。誰でもかれでも俺のことをシスコン扱いするんだから。俺はシスコンじゃな
いっつーの。とにかくこの話題はちょっとマズイな。早急に会話を逸らさなければならな
いぞ。
「と、東郷さんは兄弟いないんだ」
「そうよ。だから乃木くんみたいな優しいお兄さんが欲しかったわ」
 あうっ、強烈なカウンターが入った。
「もうっ、あんまりからかうのはやめてよ」
「からかっているつもりは全然ないわよ。全部本当のことですもの。ふふっ」
 つーか、たった今気付いたんだけど、俺と東郷さんって結構雰囲気よくね。周りから見
たら絶対にいいよね。もしかするとフラグ立ってるんじゃないかな。
 さっきから対面の男子高校生らしき人物が、しきりにこちらをチラチラと見ている。き
っと内心では、そんな美人と朝からイチャイチャしやがって、と歯ぎしりの一つでもして
いることだろうよ。もしも立場が逆だったら、俺だってそう思うはずだから間違いない。
なんだか軽い優越感が湧いてくるな。
 とはいえ、これ以上真帆奈の話をするのはよろしくない。なにかいい話題はないものだ
ろうか。……あっ、そうだ。
「そういえば東郷さん、さっき小説読んでたけどなに読んでたの?」
「えっ、さっきの小説……えっと……」
 妙な反応だな。
 もしかして聞いたらまずかったのかな。
「いや、べつに言いたくないんだったら無理して言わなくてもいいんだけど」
「そんなことないのよ。実はこれなんだけど……」
 東郷さんは、鞄の中にしまっていた先程の小説を渡してくれた。
 小説にはカバーがしてあったので、中を開いて確認してみるとあら吃驚。
 なんとライトノベルだった。
『烙印の紋章』
 中世ヨーロッパ風のファンタジーで、主人公の若い奴隷剣闘士が魔法によってその国の
王子と瓜二つに整形され、クーデターを企む貴族達に利用される。が、主人公は頭が切れ、
オマケに戦争の天賦の才まで持っていたため、逆に貴族たちを利用し本物の王子として成
り上がっていくというお話だ。
 俺もゴゾゴゾと自分の鞄をあさり、一冊の本を取り出して東郷さんに見せた。
「ジャーン!」
「あっ!」
 まったく同じ本――『烙印の紋章』の新刊なのだ。
 俺と東郷さんは、奇しくも同じ本を読んでいたわけだ。
 そして俺達は、顔を見合わせて一緒に吹き出してしまった。
「東郷さんがこういう本を読んでるなんて意外だね」
 巷ではあまり話題になってないかもしれないが、かなり面白い作品なのだ。ただ東郷さ
んなら、てっきりお固い純文学なんかを読んでいるのかと思ってたよ。
「乃木くんも読んでたんだね。よかった。子供っぽいって笑われちゃうかもしれないと思
ったから――あっ、べ、べつに乃木くんが子供っぽいってことじゃないのよ」
 失礼なことを言ってしまったと思ったらしく、東郷さんは慌てて訂正する。
「わかってるから大丈夫だよ。だいたい俺は読んでなかったとしても人の趣味を笑ったり
はしないよ。小説なんて面白ければなに読んだっていいんだから」
「……そうよね。ありがとう、乃木くん」
「い、いいんだよべつに」
 メガネの奥の彼女の瞳は優しく澄み切っており、見詰められてしまうとかなり恥ずかし
かった。
「東郷さんは、他にどんな本を読むの?」
「私、本が好きだから、あまりジャンルにこだわらないで読むのよ。最近読んだのは、ジ
ェイムズ・ジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』とか、塩野七生の『わが友マキアヴェ
ッリ』とか、『ラブクラフト全集』とか、『ゼロの使い魔』とかかしら」
 本当にこだわりがないようだ。
 本人にそのつもりはないのだろうが、みごとに最後でオチている。
 一度、東郷さんの家の本棚を見てみたいな。もの凄く混沌のような気がする。
「俺も『ゼロの使い魔』だけは読んでるよ。あれ面白いよね」
 デルフも生き返ったしな。
 つーか、最初の本は聞いたことすらないよ。
「でもそんなに色々読んでるのって凄いね。もしかして自分でも小説とか書いたりする人
だったりして」
「えええっ!!」
 吃驚した。
 なにげなく聞いただけなのに、東郷さんの驚き方はハンパなかった。車内の人達も不審
な目でこちらを見ている。まるで俺がおかしなことでもしたかのように……。
「あっ、ごめんなさい……」
「えっと……なにかあったの?」
「な、なんでもないのよ。気にしないで。急に大きな声を出してごめんなさいね」
 東郷さんがなぜあんなに驚いたのか少し気になったが、そんなことよりも恥ずかしそう
に頬を染めている彼女が可愛すぎてもうそれどころではなかった。
「い、いや、なにも気にしてないから。ハハハ……」
 そういえば、東郷さんとこんなに会話をするのなんてあの日以来だな。それ以降は、ほ
とんど挨拶くらいしかしたことなかったからな。このまま電車が環状線になって永遠に回
り続けてくれればいいのに、と思わずにはいられない。
 が、もちろんそんなことが起こるはずもなく、無常にも電車は数分の遅れもなく目的の
駅へと到着するのだった。


『今日のお弁当も美味しいよー。お兄ちゃんの愛情がいっぱいだよー』
 昼休みになると早速、真帆奈からメールが来た。
 添付されていたファイルを開けると、麗ちゃんと一緒に弁当を食べている画像だった。
 とうとう恐れていた真帆奈のメール病が再発してしまった。
 このメールで本日もう二十通目だ。
 以前にあんまりしつこくメールをしてくると着信拒否にするぞ、と忠告してから少しは
減っていたのだが、先日の一件でどうやら箍が外れてしまったらしい。緊急時に備えて本
当に着信拒否にするわけにもいかず、また無視して返信しなければもの凄い勢いで拗ねる
ので後々めんどくさいのだ。
「なんだ。また愛しの真帆奈ちゃんからラブメールか?」
 サンドイッチを齧りながら悪友の黒木貴史が言った。
 まるでメールの内容を知っているかのような口振りだった。
「アホか。そんなんじゃねーよ」
「じゃぁ誰からのメールなんだよ?」
「……」
「ほら見ろ。やっぱり真帆奈ちゃんからじゃねーか」
「だ、だから、ラブメールとかそういうんじゃないって言ってるんだよ」
「だったらメールを見せろよ」
「それは断固として断る!」
 とても人に読ませることができる内容ではないので、俺は激しく拒否した。
「お前は我々の聖天使、真帆奈ちゃんを独り占めする気か! なんと罪深い男だ! お前
なんかメギドの雷に撃たれてショック死してしまえ!」
 我々ってどこのどいつらのことだよ。もしかして真帆奈関係でおかしな団体でも作りや
がったのか。この男も色々と正体不明なところがあるからな。
 実は先日、こいつと一緒に聖地巡礼に行った時にこんなことがあった。

「やぁ藤井くん。しばらく」
「これはこれは黒木閣下ではございませんか! いらっしゃるのならば一言ご連絡下され
れば、こちらからお迎えに参上つかまつりましたのに!」
「いやいや、気にしないでいいから」
「すぐにVIPルームをご用意いたしますので、暫くお待ちいただけますでしょうか」
「いや、今日はちょっと友人と買い物に来ただけだから、楽にしいて構わないよ」
「そうでございましたか。どうぞごゆっくりお楽しみ下さいませ。それで、こちらの方は
同志の一員でございますでしょうか……?」
「ああ、彼は将来の幹部候補だ」
「そうでございましたか! 乃木様でいらっしゃいますか。わたくしコミックと○のあな
秋葉原店の店長をやっております藤井と申します。マイスターには日頃からそれはもう大
変お世話になっております。むさ苦しいところではございますが、どうかごゆるりとお寛
ぎ下さいませ。もしなにかございましたら、この不肖藤井めに遠慮なくお申し付け下さい。
ラトゥ、プライ、ヴェルヘル……」
 と、だいたいこんな感じだった。
 普段あんまり聞かない単語やあやしげな呪文まで飛び出す始末で、「いいかげんにし
ろ!」と喉仏辺りまでツッコミが出かかっていたのだが、あえて我慢した。ろくでもない
人間を。つーか、勝手に俺を同志とやらの一員にするのだけは金輪際やめてもらいたい。
 で、またメールが来た。
 ややうんざりしながら確認すると、当然ながら真帆奈からだった。
『学校だとお兄ちゃんに会えなくて寂しいよー。早くお兄ちゃんに会いたいよー。学校が
終わったら寄り道しないで、一刻も早く真帆奈とお兄ちゃんの愛の巣に帰ってきてね』
 そんないかがわしい巣を作った覚えは一切ない。
 黒木の冷たい視線が身体に染みる。
「と、ところで黒木よ。お前はゴールデンウィークの予定は決まっているのか?」
「ああ、旅行に行くことになっている」
「へー、どこに行くんだよ」
「熱海だ」
 なるほど。
 彼女と仲良く熱海旅行イベントというわけだ。
「なんだったらお前も一緒に来るか? ダブルデートということでもべつに構わんぞ。も
ちろん泊まる部屋は別々になるがな」
「いや、遠慮しとくよ。邪魔しちゃ悪いからな。二人っきりで仲良く行ってくれ」
 ぐっと涙を堪えながら俺は言った。
「そうか、気を使わせて悪いな」
「いや、いいんだよ。俺もその時は旅行に行くかもしれんからな」
 そろそろ五月会の行き先をちゃんと決めないといけないよな。週末に色々あったからす
っかり忘れてたよ。ちなみに五月会の説明を簡単にしておくと、うちの近所の五月生まれ
のみんなで一緒に遊びに行く会のことだ。今年は暫定的に温泉に行くと決定している。果
たして今からでも宿は取れるのだろうか?
 で、またまたメールだ。
『言い忘れてたけど、今日はお兄ちゃんのだい好きな縞々にしたからね♡』
 添付ファイルを開けるとさぁ大変。
 たくし上げたスカートから丸見えになった、真帆奈の縞々パンティー画像だった。
「ブーーッ」
 お茶吹いた。
「お前はなにをやってるんだ?」
「ゴホッ、ゴホッ、す、すまん……」
 女の子がこんないやらしいメールを送ってきて! もうっ、ダメなんだからね! 家に
帰ったら絶対に説教してやるんだから!
 と思ってたら、今度は麗ちゃんからメールだった。
『おにーさんは縞々が好きだったんですね。それならそうともっと早く言ってくれればよ
かったのに。私も幾つか持ってますから、今度、ドッキリ縞々画像を送っちゃいます
ね』
 麗ちゃん、頼むから真帆奈が馬鹿なことしてたらすぐに止めてよ!
「お前はいいご身分だな」
「だ、だから、そんなんじゃねーってばよ!」
 俺の悲痛な叫び声が教室に木霊した。
78代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/09/23(木) 00:06:27 ID:+iXOWgTo
153 : チョ・ゲバラ 2010/09/21(火) 23:07:27 ID:4/uKqcvU

続きます。
いつになったら規制解けるのかな……
後、どなたか転載よろしくお願いします。
79代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/09/23(木) 00:06:55 ID:+iXOWgTo
155 : チョ・ゲバラ 2010/09/22(水) 18:13:40 ID:Qe3/MfB6

すいません。あまりにも読みにくかったのでもう一度貼ります…

現在、三カ月以上に渡って規制が続いており、今後も規制が解除され
る見込みはない模様です。一時はこちらの避難所で連載を継続しよう
と考えましたが、やはり永遠と転載をお願いするのは心苦しく、また
色々と不都合を感じるところもあり、誠に勝手ながらこちらでの連載
は、これで終了させて頂くことにいたしました。このような結果にな
りまして慚愧に耐えません。以上のことにより、昨日投下いたしまし
た作品の方は、本スレの方に転載しないようよろしくお願いします。
重ね重ねお詫びいたします。なお、こちらでの連載は終了いたしまし
ても、他所の方で連載は引き続き継続いたしますので、御指導、ご声援
のほどを頂ければ幸いと存じます。もし規制が解除されましたら、また
新たな作品を投下してみたいと思っております。
80代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/09/23(木) 00:07:15 ID:+iXOWgTo
以上で投下終了です。
81代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/09/23(木) 00:09:29 ID:+iXOWgTo
ぐあ、申し訳ないあとがききちんと読んでませんでした。
転載申し訳ありません。