【貴方なしでは】依存スレッド8【生きられない】

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1名無しさん@ピンキー
・身体的、精神的、あるいは金銭や社会的地位など
 ありとあらゆる”対人関係”における依存関係について小説を書いてみるスレッドです
・依存の程度は「貴方が居なければ生きられない」から「居たほうがいいかな?」ぐらいまで何でもOK
・対人ではなく対物でもOK
・男→女、女→男どちらでもOK
・キャラは既存でもオリジナルでもOK
・でも未完のまま放置は勘弁願います!

エロパロ依存スレ保管庫
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前スレ 【貴方なしでは】依存スレッド7【生きられない】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1273827110/
2名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 11:42:49 ID:Kjm3PENh
3名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 17:03:53 ID:HY4blH7O
>>1乙っ
4 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 17:33:53 ID:cRrlCLtq
>>1
お疲れさまです。

8スレ一発目夢の国投下します。
5名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 18:32:01 ID:Ubb7mMh6
規制かな?
6名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 19:09:00 ID:zg1YUuih
だろうなあ
7夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:51:14 ID:cRrlCLtq

昔父から聞いた事がある――。
女の恐ろしさとは、その女の身体に触れないと男は気づく事ができないそうだ。

人間、男より女のほうが強い。
それは力では無く、心の面で。
稀に力で男に勝る女がいるのだが……今、目の前に立っている女もその一人だろう。
身体を我が血に染めながらも、此方へ剣を構えている。

「アルベル様!ティーナ!」
一部始終見ていたルディネ姫が此方へと駆け寄ってきた。

「姫様…雨に濡れます…」
小雨が降っているので、城内へ戻るよう伝える。

綺麗なドレスが汚れてしまう……。

しかしルディネ姫は私の言うことを無視し、私の元へとたどり着くと私とティーナの間に立ち、私の方へと目を向けた。

「もう、やめてください!ティーナもやめて!」
雨とは違う目から流れる雫を流しながら、私にしがみついてきた。

本来ならここで抱きしめるべきなのだろうがそれはできない。
こんなこと言えばまたルディネ姫に文句を言われるかも知れないが、抱きしめる事はできないのだ――。

「このままじゃ、ティーナもアルベル様も死んじゃう!」
わんわん泣くルディネ姫…いつもの様に頭を撫でてやることが一番いいのだろう…だけど無理だ。
8夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:52:37 ID:cRrlCLtq


ルディネ姫をずっと守って来た…それが私の役目だと思っていたからだ。
ルディネ姫を傷つけ無い力が欲しかった――だからこの歳になるまで剣では負けた事が無かった。





ただ――相手が悪かっただけ…。

ティーナが相手じゃ五体満足で終わらない事は、試合する前から分かっていたこと。
戦神に持っていかれた身体――もう戻ってこないだろう…戻って来たとしても騎士ではいられない。

「もうやめましょう!早くお医者様に見せないと腕が!」
そう…私はルディネ姫を守る腕を――騎士の命である両腕を切断さたのだ。
腕を無くすと言うことは騎士として死ぬと言うこと…。
小さい頃から剣を握ってきた…。まさか、手負いの女にやられるなんて……まぁ、戦神だからしかたないと諦めるしか無いだろう。


「私はこれで終わりです……腕が無くては騎士は務まりません…」

「嫌です!私は貴方を失いたくないのです!ティーナもお願い!私の言うことを聞いて!」
私の胸から離れ、ティーナへ近寄ろうとする…。

「姫様ダメです…今のティーナに近づいてはいけません」
無い腕で姫様の前を塞ぐ。

「何故ですか…?」

「…彼女が剣に愛された戦神だからです」
9夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:53:10 ID:cRrlCLtq
今にも斬りかかってきそうなオーラを醸し出しているが、此方が近づかない限り攻撃してくる事は無いだろう…。
条件反射で攻撃してくるだけ…騎士の鏡と言えば綺麗に聞こえるだろうか?

同じ騎士として尊敬に値する…。


「はぁ…優秀な部下を持つと苦労するなぁ、ティーナ?」

「………」
私の声にピクリともしない。
私の声が聞こえていない…無視をしている訳ではない。


単純に彼女は立ったまま気絶しているから反応しないのだ――。
何度攻撃しても倒れず、向かってきた。
剣の腕前なら間違いなく、私の方が上だ。
それなのに私は腕を斬り落とされた…多分、心情の問題だろう。
ティーナは始めから私を殺す気で向かってきた。
だから私も本気で相手した……後半ティーナの殺気に足が勝手に一歩後ずさった。
その瞬間、自分の腕が空に舞うのを見た。
どう斬られたかなんて分からない……ただ、私の騎士人生が終わりを迎えたんだと一瞬で悟った。

「ティーナ……お前の勝ちだ。私は騎士団長を辞める。お前が騎士団の団長だ」
それだけを伝えると、膝から崩れ落ち、地面へ倒れ込んだ。
どうやら、血を流しすぎたらしい…。
10夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:53:48 ID:cRrlCLtq

「アルベル様!?アルベル様!」
意識を手放す瞬間聞こえたルディネ姫の声は、私が一番聞きたく無かった悲痛混じりの涙声。




――本当…優秀な部下を持つと苦労するよ




◆◇◆†◆◇◆

「ありがとうございます!これでやっとこの町にも活気が戻ってきます!」
町長が人目も憚らず頭を下げる。
本来、町の長ともなると町人の前では軽々しく頭をさげないものだ。
その町長が町人に囲まれている真ん中で俺に頭をさげている。

周りの町人も町長に続いて丁重にお礼を伝えてくれた。
ただ、外壁に鉄線を張ることを提案し、亀裂の入った壁の復旧を手伝い、町の男達と一緒にボルゾを駆除して回っただけなのだが…。

それに、町の皆で作業したため2日で壁の修復や鉄線張りは終える事ができた。
町に住むボルゾはその日にすべて駆除するか、森へと追いたてた。
もう、戻ってこなければいいのだが…

泊まる場所は町の皆の願いもあり、俺が住む予定だった写真に写ってある家に泊まる事になった。

新しい木の匂いに、生活感がまったくない部屋。
立派な家だった。

断ったのだが、あの家は俺の家だからいつでも使っていいそうだ。
11夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:54:39 ID:cRrlCLtq
もし、またユードへ戻ってくる事があれば使わせてもらおう。

「それじゃ、頑張ってください。」

「ライト様また来てくださいね!?」

「ライト様の家は絶対に守りますから!」

「身体に気をつけて!」
港に集まった村人達に手を振り替えし、ユードを後にした。
久しぶりの故郷…良い息抜きになった。

なんかこう…心の靄が晴れたような…。
どう言えばいいか分からないが、とにかく気分は晴れやかだった。

「英雄は大変だね?」
カバンの中に紛れ込んでいたティエルがカバンの隙間から顔を出す。

「はは、ライト様って呼ぶの止めてくれってお願いしたんだけどな……」
英雄扱いされるのは正直疲れる…アルベル団長がノクタールの英雄と言われているが、団長は疲れないのだろうか?
いや、団長は英雄と言われるほどの器を持っているので違和感などないのだが、俺は所詮庶民。
どこまでいっても上に立つ人間には敵わないのだ…。



「それで、教会で何か手掛かりは見つかったかい?」
小旅行どころでは無い大荷物を抱えたハロルドが話しかけてきた。
ひ弱な身体のクセに頑張るから、フラフラしている。
12夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:55:10 ID:cRrlCLtq

「あぁ、ホーキンズの家で見つけたようなヒントじゃねーけど、こっちも写真と手紙見つけたぜ」
教会にある神父の机の中から見つけた手紙と写真をハロルドに手渡す。
勝手に持って来ていいのか迷ったのだが、なにかヒントになるかも知れない。
神父も許してくれるだろう。

「ふむふむ……この人達は誰なんですかね…」
ハロルドが写真を見て頭を掻いている。
写真に写っている人物…それは神父と幼い子供、三十歳前後の男女二人の四人だ。

見た感じ、家族+神父と言った所だろう…そして一番前で無邪気な笑顔を咲かせる幼い女の子――この女の子は間違いなく、メノウだ。
目や髪に面影がある。

そうなると、メノウの後ろで優しい表情を浮かべている男女がメノウの親か親類…。

メノウを捨てた者達なのだろうか?
写真でも分かる、メノウを見守る太陽の様な雰囲気…。
この人達がメノウを捨てたとは考えにくい……いや、考えたくない。

「ふ〜む…手紙は…見てもいいですか?」

「あぁ、いいぞ。…ほら、ティエル写真だ」

「はいよっと」
ハロルドから写真を受け取り、ティエルに渡す。
ティエルは世界各国を回って来たらしいので何かに気がつくかも知れない。
13夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:56:23 ID:cRrlCLtq

「この手紙は…僕には分からないですね」
一通り目を通したハロルドはそれだけ言うと、俺に手紙を渡してきた。

手紙を再度読んでみる。

『安全になったなら迎えに行く。それまでよろしく頼む親友よ。』
それだけしか書いていない…。
安全になったら迎えにいく?メノウを迎えに来るという意味だろうか…。
だとしたらやはりあの写真に写る二人は…。

「この写真…どこで撮ったんでしょう?」
ティエルと一緒に写真を眺めていたハロルドが一言ボソッと呟いた。

「どこって何が?」
手紙をポケットにしまうと、再度写真に目を向けた。

「ほら…これって普通の部屋では無いですよね?」
ハロルドが写真に写る風景に指をさす。
確かに…普通の部屋ではない。
ティーナの部屋で見たような…いや、それ以上に豪華な装飾品の数々。
多分家一軒軽く買えるであろう部屋の置物。

間違いなく、貴族の……王族が許される世界だ。

だけどなぜこんな場所にメノウと神父が…?



「…この後ろに写ってるの旗?」

「旗?……あっ、本当だ、旗がある」
装飾品ばかりに目がいっていたので気がつかなかったが、神父の後ろに旗が飾られてある。

国旗だろうか?
14夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:56:54 ID:cRrlCLtq

城の絵に3つの赤い流れ星…そして――。





「……妖精?」
そう…国旗には妖精が描かれていた。

「ティエルなにか分かるか?」
妖精が描かれているのだから、妖精に聞くしか無いだろう。

「う〜ん…なんかこの国旗見たことあるような…ないような…」
ティエルは世界各国の旗を見ているはず…その中から一つの旗を思いだすのは難しいかも知れないが、なんとか思い出してもらいたい。

「ちょっと思い出せないわ……ごめんなさい」

「そうか…はぁ…」
ティエルが分からないのなら…行き止まりだ。
後はノクタールの書物庫へ行き、手掛かりを探すしか――

「思い出せないけど……この赤い流れ星は私が住んでいた場所の言い伝えからきてるんだと思う…」

「マジか!?」
それが本当なら有力な手掛かりだ。

「私が住む森や近くの集落には古くから言い伝えがあるの…『影が太陽を覆う時、神の怒りが地上に降り注ぐ』」

影が太陽を覆う時、神の怒りが地上に降り注ぐ?
意味がわからん…。

こういった類いはハロルドの方が得意だろう。
期待の眼差しをハロルドに向けた。

「簡単に考えると……太陽を影が覆う時…と言うのは日蝕のことでしょうね」
15夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:57:56 ID:cRrlCLtq
「日蝕って…昼なのに暗くなるっていうあれ?確か月が太陽を覆うんだっけか?」

「えぇ…後は神の怒りが地上に降り注ぐ…赤い流れ星……神は怒りを覚えると血の涙を流すと言われていますが…それと関係するのでしょうか?」

「そうなのか?そんな話し初めて聞いたけど……何かの宗教か?」
赤い涙を流す神?
そんな神存在するのだろうか?

「確かに、宗教信者の根強い土地で聞いた話なのでかなり怪しいですけどね…」

「それは何処の土地なんだよ?」

「此処から西へ500キロほど行った土地なんですが……あっ!たしかその辺りにバレンがあったはずです!」
思い出したように、声をあげると確信したように俺の方へと視線を向けてきた。

「ティエルの故郷ってどこだ?」

「え〜と、私もバレンの人間に捕まってここまで来たから距離や場所は分からないけど人間の間では“忘る森”って言われてる森ね」

「忘る森?」
どこかで聞いた事がある。
どこだろ……自分がまだ子供の時誰かから聞いたような――

「忘る森…と言うのはおとぎ話『新天地』の中にでてくる森の事でしょうか?」

「ッ!?」
忘る森…そうだ……思い出した。
16夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:58:58 ID:cRrlCLtq
母が毎日話してくれたおとぎ話『エンジェル・アイランド』のおとぎ話にでてきた森だ。

「えぇ、有名なおとぎ話になってるみたいね……ものすごく綺麗な所々よ?」
懐かしむ様に空を見上げると、ハロルドの肩へと腰を落とした。

「あっ…ほら、私が巣でドラゴンからライトを助けた時あるじゃない?あの時、ペンダントに入ってた花びらは私の森にしか咲かない花なのよ」

「そ、それじゃ、本当に俺の先祖は忘る森へ行ったのかッ!?てゆうか新天地って存在すんのかッ!!?」
興奮する気持ちを押さえられず、ハロルドの肩へ座るティエルへ顔を近付ける。
子供の頃、いつもこの話を町の皆に話すと嘘つきだの作り話だの散々言われてきたので、悔しい思いをしてきた。
ティエルが言う話が真実なら母が毎日礼拝堂で祈ってきた行為も無駄では無かったと言うことだ。

「ちょ、ちょっと!」
びっくりしたように背中を反ると、肩から飛び立ち俺から距離を取った。

「そ、そんなに嫌がるなよ…」
さすがに傷つくぞ?

「嫌がってないわよ!た、ただびっくりしただけよ!」
そう顔を真っ赤にし怒鳴ると、今度は俺の肩へと腰を落とした。

いったいなんなんだ?
17夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 20:59:52 ID:cRrlCLtq

「まず、整理しましょう」

「あ、あぁ…そうだな」
そうだ…まずホーキンズ達を助けないと。

三人で話の整理をしていく。

「まず、ハロルドが残した手紙と鷹の文字…。
そして貴方が教会で見つけた手紙と写真…。
そしてティエルが聞き込みで仕入れた情報。

確か禍者が人間を担いで森から出てくるのを見た方がいらっしゃったんですよね?」

「えぇ、もう会いたくないけどね…」
昨夕、ティエルが聞き込みから戻ってきた時、何故か疲れきった表情を浮かべていた。
聞き込みで疲れたのかと聞くとそうではないらしい…なんでも頭に吸い付かれたとか…。

「この際、先ほどの神の話は置いときましょう」

「そうだな」
確かに今、言い伝えや神の話は置いといたほうが整理しやすい。
まず、ホーキンズ達の居場所、そして拐った理由だ。

「数々の情報から、ホーキンズ達はバレンの者に拐われたと考えるのがもっともかと…」

「意義無し」

「同じく」
ハロルドの解説にティエルと一緒に頷く。

「理由は多分、メノウちゃんの存在…メノウちゃんは写真で見る限りかなり上位に位置する貴族のご令嬢かと……写真に写る旗から察するに、バレンの領土近くにある城のね…」
18夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:00:40 ID:cRrlCLtq

「あぁ…」

「そしてホーキンズ達が拐われた理由…それはご令嬢のメノウちゃんを傷つける事無く運ぶのにどうしてもアンナさんやホーキンズを連れていかないとダメだったから…」

「…」
ホーキンズはどうか知らないが、確かにメノウはアンナさんがいないと暴れる可能性がある…。
そうなれば怪我をさせてしまう恐れだって大いにあり得るのだ。


「そしてメノウちゃんを拐った理由ですが…多分、政治か戦争の犠牲になると考えた方がいいでしょう…」

「…」
ハロルドの話に自分自身かなり取り乱すと思ったが、たいして取り乱すような事は無かった。
相手国のご令嬢を拐う理由は戦争か政治の優劣に決まっている。

だとすればメノウは捨てられたのでは無く、信頼できる神父に戦争が終わるまで預けられたのか?
それだとあの手紙も納得できる。

「今現在無事かどうか分からないですが…早く助けないと」

「あぁ、絶対に助けるさ。だけどまず、ノクタールへ戻ってティーナに伝えなきゃならない」
ティーナも幼なじみ。
黙ってることなんてできない。
それにティーナの手を借りられれば百人力。

早くノクタールへ戻ってティーナにホーキンズの事を教えなければ――。
19夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:03:53 ID:cRrlCLtq

◆◇◆†◆◇◆

「いつまでこんな所々に閉じ込めておくんだよ?」
扉の向こう側にいる男に声をかける…が返事は返ってこない。

――かれこれもう、2日は小部屋に閉じ込められている。逃げる場所なんて何処にもないのだから、船の中を歩き回るぐらい許してほしい…。

「アンタあんまり相手を挑発するような事言わないでよ?何されるか分かったもんじゃない」
眠るメノウを膝に乗せて、疲れきった表情を浮かべるアンナがめんどくさそうに呟いた。

アンナも気が滅入っているのだろう…。

「はぁ…ったくなんだよこれ」
その場に寝転び低い天井を眺める。

――夕食を取っている時、いきなり知らない四人組に襲われた。
狙ったのか、偶然なのか運が悪い事にアンナとメノウが家に来てる時に狙われたのだ。

なんとか抵抗して二人だけでも逃がそうと頑張ったのだが…あっけなく捕まってしまった。
と言うか四人組は俺など目もくれず真っ先にメノウを捕まえようとした。始めからメノウが目的のように…。

全員が捕まり、いよいよヤバい事になってきたと思っていたのだが、メノウに何か薬品が入った小瓶の匂いを嗅がせると、メノウを眠らせ俺達に荷造りをするよう命令してきた。
20夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:04:58 ID:cRrlCLtq
命令されるがまま、服やらなにやらをカバンにいれていると、 男の右腕に彫ってあるタトゥーに目がいった。

男の右腕には鷹が彫られていたのだ。
一人だけでは無い、四人すべての腕に鷹が彫られていた。

そしてあのタトゥーには見覚えがあった……三年前、ユードで見せ物としてティエルで金儲けをしていたバレンの人間の腕にも彫られていたのだ。

だから荷造りをしているフリをして、わかりやすい証拠を残してきた。
ハロルドならすぐに分かってくれるはずだ。

「はぁ……それにしてもライトのヤツなにやってんだよ……」

「……?」

「あら、メノウ起きたの?大丈夫?気分悪くない?」
俺の声に反応したのか、眠っていたメノウがパチリと大きな目を開け、周りをキョロキョロと見渡している。

夢でも見ていたのだろうか?
耳を立て、何かを探しているようだ…。




「……ライトはいないわよ?」
そうアンナが優しくメノウに伝えると、ピンッと立っていたメノウの耳が項垂れ、またアンナの膝の上に頭を置き、眠ってしまった。

起きたのは俺が口にだした“ライト”の名前に反応して起きたようだ…。
21夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:06:55 ID:cRrlCLtq
「メノウはね…ライトが連れていかれる日までは毎晩のように夢で『お母さん…お父さん…』ってうなされてたのよ…」
母のようにメノウの頭を撫で、小さな声で話し始めた。

「毎晩、毎晩……涙を流しながら泣いていたわ」
たしかメノウは今年で17歳。
三年前の話だから、14歳か…。
普通の女の子なら14歳にもなると親離れしていく年頃なのだが、メノウは何らかの病気で知能が普通の人より低いらしい…。

「それがね…ライトが居なくなった夜からピタリと泣かなくなったのよ」

「へぇ〜、ショック療法か?」

「療法?そんな良いもんじゃないわよ――メノウはね?寝ている時……寝言でライトの名前を呼ぶようになったの。無邪気な笑顔を浮かべてね…」

「ライトの…?」

「えぇ…失った声でライトの名前を口ずさみ私達に見せなくなった笑顔で微笑むの……夢でライトと遊んでるんでしょうね。寝ている時のメノウは本当に幸せそうな表情をしているわ…」

「…」
そう言えばライトが居なくなってからメノウは寝ている事が多かった気がする。

「私はこの子の母親にはなれないのかしら…」
ボソッと呟いたアンナの声になんて返したらいいか分からず口ごもってしまった。
22夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:07:55 ID:cRrlCLtq

アンナがメノウの為に母親として頑張ってきたのはよく知っている。
いつもメノウの事を頭で考え、行動する…。
母親なら当たり前のことだろう…だけどアンナはメノウの母親では無い。

自分の娘が夜中、親の名前を呟く。
だけどメノウが夢見る親はアンナでは無い。

辛かっただろう…悲しかっただろう…。

「アンナ…」

「……それ以上近づいたら殺すわよ?」
抱き締めてやろうと近づいたのだが、睨み付けられ一蹴りされてしまった…。

「ちっ、可愛くない女だな…そんなんだから結婚できねーんだよ…」
アンナに聞こえないよう、小さく吐き捨てると二人に背を向けた。




「……可愛くなくて悪かったわねぇ?」

「…」
そう言えばミクシーは耳が人より聞こえやすいんだったか…。
アンナがミクシーだということを忘れていた…。後ろから女独特のどす黒いオーラを背中全面に感じる。
23夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:10:49 ID:cRrlCLtq

受け流したいのだが、光線の如く一直線に打ち込まれる視線からは逃げられそうにない…と言うか閉じ込められている身なのでハナから逃げ場など無い…。

「しっかしこの部屋暑いよなぁ、アンナ(どうしよ……殺されないよな…)」

「……」
後ろでアンナが立ち上がる気配がする…。
メノウはどうしたメノウは…お前の膝枕でぐっすりだっただろ。


「いや、なぁ?どうするかなぁ…はは…(あぁ…ヤバい…)」

「ホーキンズ…」




「はは…は………すいません…」
俺は……この船から出るまでに一度死にかけるだろう…。
いや、二度、三度死ぬかもしれない。


――だから、親友達よ。



頼むから。




――頼むから俺が息をしている間に助けに来てくれ。




マジで。
24 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/09(木) 21:14:24 ID:cRrlCLtq
投下終了です。
遅くなって申し訳ないです。何故か書き込めなかった。

今回はティーナあまりでてこなかったですが、次はティーナ盛りで。
25名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 21:30:40 ID:HY4blH7O
>>24ティーナ成分補給のため全裸ハチマキで待機開始
GJだったぜ
26名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 21:54:55 ID:jBA7u0Wi
GJ!
次回も待ってます。
27名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 22:03:19 ID:T3y69q+H
乙であります
アルベル様…(ノД`)
この場合命が助かった事だけでも喜ぶべきなのだろうか
まだ助かったって決まったわけじゃないけど…
28名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 22:12:51 ID:T3y69q+H
おっと誤字指摘すんの忘れてた
>>8
〜両腕を切断さたのだ。
29名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 22:20:58 ID:cRrlCLtq
>>28
あっ、ほんとだ…“両手を切断されたのだ”ですね。申し訳ないですが頭で変換して読んでください。

あと書き忘れましたが、続きは明日の夜か明後日には投下できるかも知れないです。
読んでいただいてありがとうございました。
30名無しさん@ピンキー:2010/09/09(木) 22:21:41 ID:cRrlCLtq
sage忘れ申し訳ないです。
31名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 00:34:21 ID:TR3iqKZl
gj
32名無しさん@ピンキー:2010/09/10(金) 01:20:06 ID:5GbSesVU
>>24新団長になったティーナ様に超期待
ぐっぢょぶb
33 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:08:26 ID:9zw1+IDo
短いですが夢の国投下します。
34 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:09:25 ID:9zw1+IDo

静かだ…。

何も聞こえない。

身体が動かない…。


また、金縛り…。

「……(ここはどこだ?)」
目だけで周りを見渡すが、見たこと無い風景が広がっている。

それに私はアルベル将軍に試合を申し込んだはず。

勝ったのか?

負けたのか…?

早くこの金縛りから解放されて、勝敗を確かめたい。





――ガチャッ



「?……(誰か入ったきた…)」
一つの影が扉から入ってきた…。
またあの影かと思ったのだが、違うようだ。

――あの影達は嫌悪感しか感じられなかったが、この影は違う。

何故か、安心する。

影に触れたいのだが、指が動かない。

近くに歩み寄ってくる影……近づくにつれどんどん暖かくなっていく。

ここは寒い…だからあの影に触らないと…。

無理矢理動かそうと指に力を入れるが自分の身体じゃないように力が入らない。

なんとか指を動かそうと努力していると、不思議なことに影から私の手を握ってきた。

「…(暖かい…この温もり…)」
握られる手に全神経を集中させ、影を感じる。

今ならあの影達が来ても大丈夫だ……この影が私を守ってくれる……。


「ッ――(え……なッ、ま、待て!)」
35 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:10:36 ID:9zw1+IDo
影が突然、私の手を放して扉の方へと歩きだした。

「ッ、ッ…ッ(違う!今のは違うんだ!別に私は守られたいとかそんなつもりで言ったんじゃないんだ!)」
声にならない声で弁解するが、影は私からゆっくりと離れていく…。

「…(待ってくれ!私を一人にしないでくれ!私はお前をッ!)」




「……(お前を失いたくないんだ、ラ―――――――イ―――――ッ―――――――――――



◆◇◆†◆◇◆


「おっ、起きたか?」

「…ラ…イト?」
包帯姿のティーナが此方を見ている。
状況をあまり把握できていないようだ。

「傷痛むか?」
一応、ティエルから貰った薬を塗ってやったから大丈夫だと思うのだが、まだ万全とはいかないはずだ。



「傷は大丈夫だが……私は……おい…何手を握っている…」
俺に握られた手に目を向けると、嫌そうに俺の顔を睨み付けた。

「別に握りたくて握った訳じゃない。ただ、お前が寝ている時いきなり苦しそうに何かを掴む仕草をしたから手を握ってやったんだ」

悪夢でも見ていたのだろうか?
涙をポロポロ流しながら手だけが何かを掴もうと必死に動いていたので、仕方なく手を繋いでやっただけだ。
36 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:11:22 ID:9zw1+IDo
手を繋ぐと安らかな表情を浮かべ、また眠りについていた。
なのに何故睨まれないといけないのか…。

「そうか…やっぱりライトか…」
そう呟くと握った手を振り払うこともせず、逆にギュッと握り返してきた。
やっぱりライトか…とはどういう意味だろうか?
ティーナに聞いてもいいのだが、聞いた所でまともな返事は返ってこないだろう。
だから理由を聞き返す事はせず、ティーナに微笑んだ。
よく分からない表情を浮かべ、俺を見ている。



「なぁ、ライト……私はどうなったんだ…?」

「ん?どうなったって…俺も詳しい事はわからないけど、お前アルベル将軍と試合したんだって?」
ユードからノクタールへ戻ってきたら、町中や城内がその話で持ちきりだった。
俺が英雄だなんて始めからなかったかのように、ティーナとアルベル将軍の話で盛り上がっていた。
まぁ、別にいいのだが……なんか変な感じだ。

「あぁ、それで私とアルベル将軍どっちが勝ったんだ…?」
ティーナの唾を飲む音が俺の耳まで聞こえてきた。
試合を申し込むほど、ティーナは本気だったのだろう。

「さぁ、自分で確かめた方がいいかも知れませんよ?騎士団団長ティーナ様?」
37 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:12:11 ID:9zw1+IDo

「ッ!?」
びっくりした表情を浮かべると、いきなりベッドから立ち上がろうとした。
慌ててティーナの肩を掴んで、ベッドへ寝かせる。

「私は勝ったのか!?アルベル将軍に勝ったのか!!?」

「傷に触るから、大声を張り上げるな。勝ったよ…アルベル将軍は騎士団長から退くことになった。お前の怪我が治り次第、王様から騎士団長任命式が執り行われるらしい」
本来なら前団長も出席しなければいけないのだが、アルベル将軍は命に別状はなくても両手を斬り落とされたのだ。
重傷にら変わりない。

義手をつけるそうだが、満足に手を動かせるまで何年かかるか。
しかし、そこは真剣勝負。
逆にティーナが両手を失っていた可能性もあり得るのだ。

だから、アルベル将軍に対して同情はしない。
騎士であるアルベル将軍にはそれが侮辱に繋がるから…。

「私が騎士団の長…私が…」
噛み締める様に現実を口に出して、天井を眺めている。

アルベル将軍同様、ティーナは剣の才能がずば抜けていた。
凡才の俺からすれば光って見えるほどに…。

ただ、天才では無い。

当たり前の様に産まれた時から剣の才能があった訳ではないのだ。
38 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:13:20 ID:9zw1+IDo
ここまでくるまでに血の滲むような努力を重ね、上を目指して頑張ってきたのだ。
これは凡才の俺が誉めていいのか分からないが、俺は誉めてやりたい。





――「凄いなティーナ…頑張ったじゃないか」

ゆっくりとティーナの頭に手を乗せる。
その瞬間、ティーナの身体が電気ショックを浴びせられたようにビクついた。
目を見開き、俺の顔を凝視している…。
やはり勘に触ったのだろうか?

恐る恐る手を頭からどけると、ハッとしたように素早く俺の手を掴んだ。

「わ、私は頑張った…?」
俺の手を掴み、力一発引き寄せ、問いかけてきた。

「頑張ったんじゃないか?アルベル将軍を倒すなんて凄いじゃないか。」

「そうか?そうだろ?私は強いだろ!?」
子供の様に俺の手を掴んだ状態でブンブンと手を振っている。

アルベル将軍に勝った事が本当に嬉しかったらしい。
東大陸の英雄と言われた人を倒したのだからそりゃ嬉しいか…。

「そうか…私は頑張ったのか…。頑張ったんだろ?だからもっと私を誉めていいぞ?」
キラキラした目を向けてくるティーナ。

「はは、ティーナは偉いな」
頭を撫でると、猫のように俺の手に頭を擦りよせてきた。
39 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:14:24 ID:9zw1+IDo
こんなティーナを見たら騎士団の連中は卒倒するだろう。
ファンクラブができるかも知れない。
いや、使用人の間ではもうできてるだろう…。

「あっ、そうだ。ライトの部屋で見つけた手紙にホーキンズの事が書いてあったけど、あれはなんだったんだ?」

「……」

「ライト…?」

「いや、なんでもない……ただの風邪だってさ。病気にかかったって聞いたからユードまで行ったのに、アイツ笑って女口説いてんだよ。ははっ、一発殴っといた」

「ふふ、アイツらしいな…」



――言えない…団長になったティーナに手を貸してくれなんて言える訳が無い。
団長になると言うことは騎士団のすべてを任されると言うことだ。

ティーナはノクタールを民の命を背負う立場に立ってしまった。
ティーナにホーキンズの事を伝えると、ティーナまでホーキンズを助けに行くと言いかねない。
ユードを出るまではティーナに手を借りてホーキンズ達を助けようと考えていたのだが、ノクタールに帰って…アルベル将軍に会って考えが変わった。

騎士団初、女性副長のティーナは世界各国に名が知れ渡っているのでバレンの人間にも顔を知られているだろう…。
40夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:14:59 ID:9zw1+IDo
そして、アルベル将軍に勝利し、騎士団長になったティーナは今以上に世界の注目となるはずだ。

そうなると、ノクタール対バレンという図を作りかねない。
ティーナの団長の地位を剥奪される可能性だって出てくるのだ。

ティーナには迷惑をかけられない…だからホーキンズ達は俺達が助けにいく。
幸い俺の顔はノクタールとユードでしか知られていない。
顔を見られてもノクタール兵だと気づかれないだろう。
そしてアルベル将軍に言われたのだ、『仲間を助けに行くのは許可する。だがノクタールの名前をだすのは許可できない。ノクタール兵の証拠になりそうなモノは絶対に持っていくな』と…。

それに関してはアルベル将軍を恨んだりしない。
むしろ許可がでた事に対して驚いた。
絶対に反対されると思っていた…。反対されても助けに行くつもりだったのだが、一応騎士団の団長であるアルベル将軍には話を通しておかないと、と思い話したのだが…。

仲間は大切にしろ、とだけ言うとベッドに横になり眠ってしまった。

昔なにかあったのだろうか?
長い間騎士として前線で戦ってきたのだから、悲劇の一つや二つあったのかも知れない…。
41夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:15:38 ID:9zw1+IDo
それ以上何も話す事は無く、眠るアルベル将軍に頭を下げ、ティーナの元へと駆けつけたのだ。

「…怪我が治りきっていないんだから、もう寝たほうがいい。」
はだけた掛け布団をティーナにかけ直す。

「あぁ、団長になれば忙しくなるからな。ふふ…私が団長になればお前が副団長だぞ?お前もせいぜい身体を休めておけよ。私は手加減を知らないからな」

「分かった、分かった…分かりましたから早く寝てくださいよ団長様」
このまま喋らせるといつまでたっても寝ない気がするので、喋らせないように口まで掛け布団を上げて、頭を撫でてやる。

「私は幸福者だな…」
掛け布団で隠れた口から漏れた言葉は多分ティーナの心の声だと思う。
その言葉に返事を返すでもなくティーナの頭を撫で続けると、次第に目を閉じて小さな寝息を立て始めた。


「……ごめんな?」
ティーナの頭から手を離し、静かに椅子から立ち上がる。
絶対に俺がホーキンズを連れて帰る…それまで団長として踏ん張ってほしい。

「じゃあな、ティーナ…」
寝てるティーナを起こさないよう、そっと病室から外にでて、宮廷を後にする。

これで俺は今から騎士団では無い……ただ、友達を助けにいく平民だ――。
42夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:16:24 ID:9zw1+IDo

◆◇◆†◆◇◆

「アルベル様、身体の具合はどうですか?食欲があるなら、料理を作らせましたので私が食べさせますけど…」
侍女達が運んできた料理がテーブルに並べられる。
どれもこれも高級食材を使われているのが見ただけで分かった。

その料理を一つ一つ、食べやすい様にルディネ姫が並び替えている。
別に使用人達の気が効かないのでは無く、料理を運ばせテーブルへ置かせると、ルディネ姫がすぐに皆を部屋から払うのだ。

「…私如きにルディネ姫が看病などされては、周りに噂が立ちますよ?」
甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは物凄く有り難いのだが、大国の姫様が兵の看病など聞いたことがない。

「これは、私が勝手にしている事です。人の目や耳が気になるなら扉の前から皆を退かせますけど?」
扉の前には多くの兵と多くの使用人達が待機しているに違いない。

私の為ではなく、ルディネ姫の為に待機しているのだ。

「さぁ…どの料理にしますか?」

「それなら…パンとスープを少しだけ…」
あまり食欲は無いのだが、食べないとルディネ姫の機嫌を損ねかねない。
仕方なく、ベッドから立ち上がり椅子へ腰かける。


「それでは、あ〜ん。」
43夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:17:16 ID:9zw1+IDo
ルディネ姫が手でちぎってくれたパンを口元まで持ってくる。

「あ、あ〜ん…」
30歳になってまさかこんな恥を晒さなければならなくなるとは…。
両手が無いので、仕方なく姫様に助けてもらっているが、今度から使用人に頼むとしよう…。

「あ、そう言えばさっきライトさんがいらっしゃってましたよね?」

「あぁ、来てましたね。なんでも長期休暇が欲しいそうで…」
二時間ほど前、ライトが私の元へとやってきた。
私の姿を見て、驚いていたが笑いながら手をライトへ向けると苦笑いしながら私の元へと歩み寄ってきた。

雑談でもしにきたのかと思っていたのだが、真剣な表情でライトが話す内容を聞き、私は顔をしかめた。
ライトが言うにはユードに住む幼なじみと知り合いの三人が何者かの手によって拐われたという話だ。
拐ったヤツらはバレンの人間。
奴隷商売を縄張りにしているタメ、よくバレンが人拐いをしているという噂を耳にする。

しかし、ユードは海門内。人拐いなどできるはずが無いとライトへ言ったのだが、拐ったヤツらは人間では無いらしい。
なんとなくライトが言いたい事は分かる。
バレンは裏で何をしているか分からないのだ…。
44夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:18:17 ID:9zw1+IDo
バレン船を調べた時、見たことも無いような生物が収納されていた。
見た目はボルゾなのだが、ボルゾとは違うなにか…。
あのようなモノを作り出すバレンとはあまり関わりを持たないほうがいい……もし戦争になれば何かしらの兵器を持ち出しかねないからだ。
だから私はライトにノクタール兵の証拠になるようなモノはすべて置いていくよう、命令した。

ライトが捕まり、ノクタールに繋がる何かを持っていると火種になりかねない。
ライトを見捨てるようで、申し訳ないのだが、国の為。
そしてもう一つの理由…それは一度、ライトとティーナを引きはなそうと考えたからだ。

一度、ライトとティーナは距離を置いたほうがいい…。
嫌がらせなどではなく、ただティーナはライトのためなら騎士団を犠牲にしてしまいそうだからだ。

ティーナは騎士団を背負う存在。
これからノクタールを、ルディネ姫を守っていくのはティーナ率いるノクタール騎士団。
騎士団はライトの為にある訳では無いのだ……それをティーナに知ってほしい。

「あ、そう言えば腕の怪我が治りしだいお父様からアルベル様に話があるそうです」

「……王様が私に?」
王が私に話――多分私のこれからの事だろう…。
45夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:18:58 ID:9zw1+IDo

騎士として役に立たないのなら、私の利用価値は無い。多少政治の上でも顔は立つが、政治なら私ほどの人間腐るほどいる。
十五歳の時からノクタールの壁として、自分の職務をまっとうしてきたつもりなのだが……私も用無しということか…。
長いようで短かった騎士人生――。


「はい、あ〜ん」

「あ、あ〜ん…」
――天使のように微笑むルディネ姫の笑顔を絶やさない為に私ができること…それは残された数日間、ルディネ姫の話し相手になることぐらいしかできないようだ。

「どうしました?」
ルディネ姫が可愛らしい顔を傾げ、此方を覗き込んでくる。


「いえ、それよりパンばかりなのでスープを飲ませてください」
そうルディネ姫にお願いすると、嬉しそうにスープの入ったお皿を持ち上げ、スプーンでスープをすくい、私の口元までスプーンを近づけてくれた。
それを首だけ前に動かしスープに口をつける。

これはこれでいいかもしれない……最後の仕事がルディネ姫の相手なら…。


「ありがとう、ルディネ姫…」

「え……は、はい!」
姫の笑顔は母国平和の証。
この笑顔を忘れないように、目に焼き付けよう。
そうすれば、私の余生も多少光が射すはずだ―――。
46夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 22:20:33 ID:9zw1+IDo
ティーナ盛りにならなかった……投下終了です。
次はティーナのターンです。
47 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/11(土) 23:18:09 ID:9zw1+IDo
書き忘れました、ここで物語の二つ目の区切りとなります。

まだまだ先は長いですが、最後まで読んでくれたら嬉しいです

それでは。
48名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 23:44:11 ID:ms62tbZs
GJ!
次も楽しみにしてます!
49名無しさん@ピンキー:2010/09/11(土) 23:58:53 ID:ngV9oq4d
騎士団全滅フラグ?オラ、ワクワクしてきたぞ!GJ!
ちなみに物語は長くてもかまわない、むしろ嬉しいご褒美です
50名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 00:57:22 ID:RwJY3xYr
ティーナ可愛すぎる…頼む………幸せになってくれぇ。だからライト…生きて戻って来いよ!
51名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 01:46:52 ID:O2rzIGOc
gjgjgjgj
52名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 20:07:07 ID:7KuUTj+d
投下早い
おもしろい
まじGJ
53 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/13(月) 18:28:28 ID:o0SRA5kP
ちょっと聞きたいんですが、ここはレイプとか寝取り系完全NGなんですかね?
ちょっと前投下した部分にティーナが夢の中でレイプされるって感じの書いたんですけど…まぁ、書いた後に聞くことじゃないかも知れないけどね。
俺が書いたのはセーフなのかアウトなのか知りたい。
54名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 20:23:10 ID:A4mhilOX
NGではない…NGではないが

俺が死にたくなる
55名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 20:26:56 ID:kLCX+8C/
んなこたぁねえでしょ
嫌いな人もいるから、注意書き入れるのが好ましいってぐらいで
それだって、ネタバレ回避のためなら無しでもいいと、個人的には思う

ただ、自分の趣味に合わないSSを、スルー出来ない奴もいるんだよな
まあ、ナチュラルにしても、確信犯(誤用w)にしても、荒らしに気を使う
必要は無いわな
56 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:53:52 ID:rndCQT6v
投下します。
57 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:54:52 ID:rndCQT6v

「あ……黒田、君」
「おう、まだ残ってたんだな。もうそっち講義中じゃないのか」

 一時過ぎ。
 ここしばらく掛かりきりになっていた課題を終えて遅めの昼をと、久しぶりに人もまばらなテラスへ出ると、
いつものテーブルでいつものように相席していた顔が、この日は珍しくノートを広げ長居を決め込んでいた。
 普段なら開始五分前には教室へ戻っている優等生なだけに、稀な事である。

「別に。今日は試験前って事で実質自習みたいなものですから、少しでも落ち着く場所でやってるだけです」
「ああ、宮原のとこはもうそんな時期なんだ」
「うちというより、あなたのところ以外は、でしょう?
 気まぐれで試験直前まで日程が不明なんてあの教授ぐらいじゃないですか」

 掛けていた眼鏡を外してケースに仕舞い込むと、宮原はテーブルに広げたノートやら筆記用具やらをまとめ、
一人分のスペースを空けてから椅子に背を持たれかけて一息ついた。

「いいのか? 何なら他の席行くけど」
「――どうせもう休憩する所だったから、丁度良いです。それに、ここが良いんでしょう?」
「まあね」

 後ろを振り返る表情に、つい笑みが漏れる。
 一番奥の特等席から閑散としたホールを眺めていると、まるで見える景色の全てが自分の庭になったように
思えて気分が良い。

「そういや、眼鏡なんて掛けてたんだな」
「これは勉強中だけです。……放っておいて下さい」

 せっかくなので素直に椅子を引いて座る傍らぽつりと呟いた言葉に、宮原は少しだけ決まりの悪い顔をする。
 ……普通に似合ってたと思うけどなあ。
 相変わらず少しでも人目のあるところではクールというか、気を抜かない奴だ。
 アイスティーを口にする姿を横目に、こちらも買ってきたカツサンドにかぶりつく。
58「恋の永久就職先」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:56:13 ID:rndCQT6v

「……
 …………
 ………………あ、あの」

 静かなテラスにしばらく無言の時間が過ぎた頃、次第にそわそわと落ち着かない素振りを見せだした宮原が、
痺れを切らしたようにそう切り出した。

「今日は、うちに寄らないんですか?」

 それじゃ久々にお邪魔しようかな。
 キリよく食事を終えて、そう返したのが三時間ほど前の話。
 最後の講義から開放された俺が他より一足先に教室を抜け出た所を――同じ時間まで講義があった筈だが――
待ち構えていた宮原に捕まり、流れるような早さであいつのマンションまで連れて行かれ今に至る。
 玄関入って五秒でキスは、流石に驚かされた。

「黒田君、黒田君、黒田君!」

 ドアの鍵を閉めるや否や、靴も脱ぎ終わらない内に肩を掴まれ唇を奪われてしまった。
 半開きになった口へ強引に舌を捻じ込まれ、吸われ舐められ大変だったのが少し前。
 今は部屋の床に押し倒され、その上に跨った宮原にきつく抱きしめられている。

「毎日待ってたのに! どうしてずっと来てくれなかったんですか!
 大学ですれ違っても挨拶だけしてメールも電話も一切無しってどういうことですか!?」

 一息に捲くし立てると、掻き抱く手に更に力が篭った。

「わたしの演技わかってるくせに、素っ気ない態度しないでください!!」

 まるで小さな女の子が、遅れて迎えに来た親にするように。
 それまで見せていた知的で冷静な雰囲気とは打って変わった態度は、そんな姿を思わせた。
 宮原は、決して他人に弱みを見せようとしない。

「バカ! バカ! どうしていつもそうやって……っ」

 正確には、俺以外の、となるが。
 そんな相手となぜ付き合えたのか、思い返すに大した理由でもなかった気がする。

「最近課題増えてたから、しばらくは寄れないって言っただろう。
 ほら、もうそれも終わったから……な」

 付き合いだしてからもう三年、この辺りのやり取りは慣れたものだ。
 背中に回した手をぽんぽんと何度も優しく叩いてやると安心するらしく、段々と文句の口数が減ってゆく。
 ここまでの流れが作れれば最初のステップはクリアだろうか。

「……ん……ふ……」

 耳に触れる吐息に甘い色が出始めたら、今度はもう少しハードルが上がってくる。
 声の調子からすると、そろそろだろうか。
 経験からそう感じた俺の予想通り、両肩へ置いた手にわずかに力を込め、宮原が潤んだ瞳と紅潮した表情を
こちらに見える距離まで引いた。
 こいつが自分から行為を求めてくる事は無い。
 我慢できなくなって、さっきみたいにキスして舌を絡める程度がせいぜいだ。
 反面こちらからの要求は何時でも決して拒まないあたり、そういうのが好みなんだろう。
59「恋の永久就職先」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:56:51 ID:rndCQT6v
「ぁ……」

 俺の右手がするすると下がっていく感触に、期待の混じった声が漏れる。
 それでも、腰は行為が始まるまでは動かない。

「やるぞ」

 いつもの通り、返事は聞かずに手を差し入れた。 




『ふぁっ、じ、実況? はぅっ、はい、わかりましたぁっ。
 ん、ん、あんっ、あ、ああ…ひ、ぁっあああ。
 ごっごめんなさ……ぁんっ。
 あぅ……だっ、だって、二週間も放ったらかしにされてたから、わたし、あっ、あっ。
 ……ぇ? ぁひっ、そ、そんなこと言えない……んあああっ言うっ、 
 言うからそこだめっ、オマンコ指でズリズリしちゃらめっ、またイっちゃうからあ!
 クリトリスぐりぐりもらめぇ!
 あっぁぁ、しました!
 うちに置いてある黒田くんの着替えで毎日オナニーしてましたっ。
 は、歯ブラシ……は、ああぁん、ぁ、ひあ、はいっ、使いました。
 黒田くんの歯ブラシも使ってましたっ。
 同じの買って、次の日から取り替えてHな事に使ってました!
 ごめんなさいっ、ごめんなさいっ。
 あぃ、いいっ、おっぱい抓らないでぇ……っ。
 ゃ、やっだめ、だめなのっ。
 乳首、カリカリされたらどんどんHな気分になっちゃうのぉ。
 うぁっぁ、ぁ、オマンコの中ズリズリと一緒はらめっ、ぜったいしちゃらめ!
 帰ってこれなくなっちゃうからぁっ、ゃっ! ぃ、イクっ、イクイクっ。
 ぁ、ぁ、ぁぁぁ!
 そんなふうにオマンコの入り口、開いたり閉じたりしたら潮吹いちゃうっ。
 弱いとこぐいぐい押してかき混ぜられて、何も考えられなくなるっ。
 ひっ! イクっ、ずっとイキっぱなしになってるのに、ごしごしされてまたイク!!
 んぁ…ぁ! 出ません、もう何も出ませんからっ。
 これ以上オマンコ弄っちゃだめぇっ。
 あうっ、ん、んんっぁ、あ、ぁーーーー!!
60「恋の永久就職先」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:57:22 ID:rndCQT6v
 はっ……は……
 ……ぁ…………ぇ?
 あん、ゃ、やだっ、まだ入れないでっ。
 腰、抜けちゃって全然動けないの。
 だから……ぁ、やっ、やめて、この抱っこだめっ。
 ちっちゃい子のトイレみたいに持ち上げないで、子供抱っこ恥ずかしいからだめ!
 ――んあひぃっ!
 っは、っはわ、ぅあっ、ぁんっ。
 ぁ、奥の方まで、ズンズン、って割り広げられてるっ。
 戻ってくるカリが何度も弱いとこコスり上げて……お、おかしくなるっ、何も考えられなくなるっ。
 あぃっ、ひっ、ひ!
 す、すごいですっ。黒田くんのオチンチンすごすぎますっ。
 にゃぁぁぁっ、そっ、そんなに激しく突き上げないでくださいっ!
 敏感になってるのにハメ回さないでっ。
 オチンチンの先っぽにゴスゴスいじめられて、子宮引きずり下ろされちゃう……っ!
 あぅ、あぅっ、ぁっぁ。
 ひ、ひどい、子宮狙い撃ちされてるっ、どんどん下りてきてる……っ
 わたしの身体っ、両手でがっちり固定されて身動きできないのに、パンパンしないでぇっ。
 んぁっ、精液、出てっ、出てるのに腰止まらない!
 だ、だめ、だめっ、それ、頭真っ白に、バカになっちゃうっ。
 びゅ、びゅって出しながら子宮ズンズン突き回されて、オチンポの言いなりになる……!
 ぁ、ぁ、ぁ……。
 何でもいいです……っ、も、もう何してもいいですからっ。
 お口もオマンコも、ぉ、お尻の穴もっ、オチンポで好きなだけ使ってくださいっ。
 すっ、好きですっ、愛してる、愛してますっ!
 学校の中でもっ、お外でもっ、いつでもどこでも使っていいですからっ。
 だからっ、黒田君もわたし以外でしないでください……っっ!
 他の子にはキスも、デートもっ、オチンポもあげちゃだめですっ。

 あっ、好きっ、好きっ、黒田くんっ、シンくん大好きっ――!!』




「もうお風呂が沸けましたから、先にちゃんと入っちゃってください。上がったらご飯もすぐですので」
「んー」
「今日はシン君の好きなもの、いっぱい作りましたから。あ、お酒もありますよ」

 いつもの通り、行為を全て終えた後。
 ベッドに寝ているだけの俺に対し、宮原は実に甲斐甲斐しく世話を焼く。

「…………なあ、何か手伝う事とか」
「いえ、シン君はそこに居てくれれば良いんです」

 無駄だと知りつつも口に出かけた申し出は、当然のように一言で却下されてしまった。
 きっぱりと言い切る表情は、傍目にも至福といった具合である。

「わたしのお料理を食べてくれて、わたしと一緒のベッドで寝て、起きて。
 それで、とってもHにしてくれたら、それだけで良いんです」

 ――やっぱり、こいつは男を駄目にする女だ。
 卒業まであと少し。
 どうにかして仕事にありつかなければ、そう切実に思う九月の事であった。
61 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/13(月) 23:58:32 ID:rndCQT6v
終わりです。
62名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 01:00:39 ID:bTFisbzX
エロくて怖い……なんだ、このもやもやしたうらやま同情心は

GJです
63名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 04:40:13 ID:UFHYHSlz
良作来てた!GJ!
64名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 13:45:07 ID:7JrQZSGh
>>61
Gjです!

>>54
夢の国の話ではないので大丈夫ですよ
>>55
OK、激しい内容のモノは書くことないですが、短編を投下する時、話の繋ぎ程度に入る可能性があるので…。
65名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 15:53:21 ID:rCPzPANE
GJ!
66 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:04:02 ID:RqSOoOEG
皆が夢の中へ旅立ってるこの時間帯に、夢の国投下します。
67夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:05:05 ID:RqSOoOEG

――夢を見た。


小さな子供二人とライトと私の四人でテーブルを囲んで団欒している夢。
子供達は料理に手を伸ばしながら、大袈裟に今日あった出来事を私やライトに話している。

――お母さん聞いてる?

お母さん?
私の事だろうか?

「えぇ、聞いてるわよ?」
子供の頭を撫で、笑顔で返事を返す。
私がこの子供達の母親……夢だからか母親という立場に違和感は無かった。

「ははっ、お母さんは疲れているんだよ。」
隣に座るライトが、もう一人の子供に料理を食べさせている。
状況から察するにライトが子供達の父親であり、私の夫……。
左手に視線を落とす。

薬指には綺麗な指輪が光っている。

ライトの指に視線を向けると、ライトの薬指にも同じ指輪が光っていた。



「どうした、ティーナ?」

「え…いえ、なんでもないわ…」
なんだろうこの気持ち……嬉しいような、くすぐったいような。

「ねぇ、アナタ」
大胆にライトに話しかけてみる。

「ん?なんだ?」
驚いた素振りも見せず私の顔を見ている。

ライトの顔に自分の顔を近づけ、キスをする。

――あぁ〜、お母さんキスしたぁ〜!お父さんとお母さんラブラブ〜!

――ラブラブ〜!
68夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:06:30 ID:RqSOoOEG
「早く飯食べろ!」
恥ずかしかったのだろうか?
顔が真っ赤だ。
多分私も顔が赤いだろう…。
夢なのに自分でも顔が熱くなるのが分かった。

私とライトが結婚すればこんな暖かい家庭が持てるのか…。
いや、これは私が願っている願望にすぎない。
現実ではどうなるか…。
いや、現実では結婚なんてできないだろう。

だから…。



「ねぇ、アナタ。ご飯食べたら少しだけ買い物いきましょうか?」

「そうだな、天気もいいし…よし、お前らも早く食べろよ!」

――わ〜い!お買い物だぁ〜!

――お買い物、お買い物〜!

夢の中ぐらいは女の幸せを感じていたい…。
   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


「ティーナ様、ティーナ様」
聞き覚えのない声で私の夢は醒めてしまった…。
短い夢……幸せな夢ほど長続きしない。
悪夢はあれほど長く感じるというのに…。

「なんだ…?」
不機嫌な声を隠す事もせず、扉の向こう側にいるであろう人物へと返事を返した。

「身体の具合はどうですか…?」
そんな事を聞くために私の夢の邪魔をしたのか?

「大丈夫だ…用はそれだけか?」
今寝たらまた同じ夢を見れるかも知れない。
69夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:08:13 ID:RqSOoOEG
早く外にいる輩を部屋前から離して、夢の続きを――。

「あの……アルベル様がお呼びです」

「アルベル将軍…?」
用?私に何の用だろうか?
腕を切り落とした手前、あまり顔を合わせたくないのだが…。

「はい、今日王様から任命式が執り行われるので、その話かと…」

「任命式?私は何時間眠っていたのだ?」

「えっと…二日ほど」

「私は二日も眠っていたのか…」
幸せな夢は短いのではなく、時間を忘れさせるようだ。
どうりで身体がダルい…目覚めも悪い…だけど、怪我は完治しているようだ。
切傷の後は多少残っているが問題は無い。
そう…女を捨てた私に身体の切傷など……。

――左手の指に視線を落とす。
当たり前の事だが薬指には何も無かった。

「はぁ……分かった…すぐに行く」
ため息を吐き捨て、ベッドから立ち上がる。

外の者が居なくなるのを確認し、部屋を後にすると自分の部屋へと向かった。

私はノクタールの騎士団長…こんな病人が着るような服装で城内を歩き回る訳にはいかない。
部屋へ到着すると早速鎧を身につけ、アルベル将軍の部屋へと向かった。


――コンッ、コンッ。

「アルベル将軍いらっしゃいますか?ティーナです」
70夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:09:24 ID:RqSOoOEG
「あぁ、入っていいぞ?」

「失礼します…」
扉を開け、アルベル将軍の部屋へと入った。
一度頭をアルベル将軍へ下げると、そのままアルベル将軍が座る机の前まで歩き、立ち止まる。

「身体の具合はどうだ?」
書類に目を通すのを止め、私に目を向けてきた。



「私はもう大丈夫です…大丈夫ですが…」
なぜアルベル将軍の隣に姫様がいるのだろうか?
アルベル将軍が見てる書類を姫様が一枚、一枚処理している。
本来ならアルベル将軍付きの使用人がする仕事をなぜ姫様が…?

「今日、国王陛下から直接ティーナへノクタール騎士団長任命式が執り行われる。それはもう聞いているな?」

「はい、ライトから聞いています…」
アルベル将軍の話を聞きながら、私の目は姫様に向いている。
姫様は何も言わずに淡々と補佐の仕事をこなしている。だからだろうか?私に一切目を合わせようとしなかった。
いや…そんな理由では無い。
多分、私が姫様の目の前でアルベル将軍の腕を切り落としたのがまずかったのだろう。
姫様に恨まれたかも知れない…。

「……ルディネ…もういいよ。今日は終りだ」
アルベル将軍がそう伝えると、姫様は手を止め、机の上を片付け始めた。
71夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:10:29 ID:RqSOoOEG
「悪いな、ティーナ」

「い、いえ…」
アルベル将軍が何に対して謝ってるのかわからなかったが、そんな事はどうでもいい。

今、アルベル将軍は姫様の名前を呼ばなかったか――?
はっきり、ルディネと…。

「よし、それじゃあ城前の広場までいくか……騎士団の皆もノクタール兵もお前の為にすべて集まっているぞ?」

「は、はい…分かりました」
正直何がなんだがまったく分からない。
昔から姫様とアルベル将軍の仲が怪しいと思っていたが……周りに隠すのがめんどくさくなって開き直ったのか?
王の耳に入ればアルベル将軍の首が飛ぶのでは…。
いったい何を考えているのだろうか。




「そうだ……言い忘れていたがライトには長期休暇を言い渡した」







「……は?」
長期休暇?いきなり何を言い出すのだろうかアルベル将軍は。

「だからライトは居ない――」
ライトがいない?
何故?
長期休暇?

「長期休暇……とはなんですか?」

「休暇日数は無期限…一週間、1ヶ月…一年先かも知れない」
淡々と話すアルベル将軍の話に私はついていけなかった。

「意味がよく理解できないのですが…詳しく話してもらえますか?」
私の手が震えている。
72夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:11:49 ID:RqSOoOEG
なんの震えか分からない…分からないが私は震えていた。

「ライトは……船に乗り旅に出たと言うことだよ」

「旅?どこにですか?」
駄目だ、落ち着け。
アルベル将軍の隣には姫様もいるのだ。
私が今、腰にある剣に手を伸ばせばすべて終わってしまう。

「それは、教えられない」





――私の中で何かが弾けた。



真っ赤になる頭で制御できる訳もなく腰にある剣へと手を伸ばすと、勢いよく引き抜いた。

「ティーナッ!!!」
降り下ろす剣先が間に割って入った姫様の頭上で止まる。

「姫様…」
私が正常な意識を取り戻さなければ姫様もろともアルベル将軍を切り捨てていたであろう。
ただ、真っ赤に染まった頭の中が一瞬で青くなる訳もなく、冷静になんてなれなかった。

「アルベル、お前はもう騎士団の団長では無いはず。何故、私の団員に勝手な休暇を取らせた?」
姫様から剣をどけ、なるべく冷静になったフリをする。
アルベル将軍が姫様を手で横にずらし、前にでてきた。

「まだ、お前は団長では無い。今日の夕方、王様から任命式があると言っただろ?それが終わればお前が団長だ。それまでは腕が無くても私が団長だ」
73夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:12:22 ID:RqSOoOEG

「ほざけッ!お前は私に負けたのだからさっさと隠居しろ!!!」
手では無く、首を飛ばしとけばよかった。

「ティーナ、口を慎みなさい!貴女の目の前にいる人は貴女が頭をあげて話せる人ではないのですよ?」
力一杯私を睨み付けた姫様が私に詰め寄ってきた。

アルベル将軍に私が話しかけられない?
意味が分からない。
私が勝ったのだから私が上に決まっている。

「アルベル将軍は……いいえ、アルベルはこの国の次期国王になられる方です。」

「国王?」

「私とアルベル様は婚約致しました。父の承諾も頂いてます」
アルベル将軍が姫様と婚約…?
だから、名前を呼び捨てにしていたのか…。

「そうですか…おめでとうございます。
ですがまだ、王になられた訳では無いのですよね?私が“騎士団長”になっていないのと同じで」

「それは…そうですが…」

「姫様と口喧嘩をするつもりはありません。アルベル…もう一度聞く。ライトは何処に行った?」
これで教えなければ、本当に首を切り落としてやる…。

「周りが見えていないのも、ライトの影響か?後ろを見てみろ」
アルベル将軍が私の後ろに目を向ける。
それに反応した私は反射的に後ろへ振り向いた。
74夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:14:42 ID:RqSOoOEG
頭に血が上りすぎて、まったく気がつかなかったが、いつの間にか私の後ろには数十人の兵士が立っていた。
ノクタールの兵士で姫様直属の兵士達だろう…姫様とライトが話している時、ライトに向けて一際殺気を放っていた兵士達だ。

姫様を守る為なら自ら死を選ぶ集団…か。

「くく……あはは…はははは」
今度は私がライトと同じ状況か……だか一つだけ違う事がある。




「お前達…何をそんなに怯えている」
そう、私を前にして誰一人殺気を向ける者がいないのだ。それどころか殺さないでくれと目で訴えかけてきている。

皆分かっているのだろう。私には絶対に勝てない事を。



「アルベル、これが最後だ!よく考えて答えをだせよ?ライトは何処に行った!」
剣先をアルベル将軍に向け、問いかける。
ここでアルベル将軍を切り捨てれば、私はノクタールに居られない。
だが、この剣を戻す事はできそうに無い。


「お前はライトに何も聞いていないのか?」

「どういう意味だ?時間稼ぎなら無駄だぞ」
意味深な発言に眉間にシワがよる。

「アイツはバレンに行った…それだけしか言えない」

「バレン!?」
バレンと言えば犯罪都市とまで言われたあのバレンか?
75夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:16:06 ID:RqSOoOEG
何故ライトがそんな場所に?
観光目的でバレンに行くなんて聞いたことがない。
だとすると他に目的があるはずだ。

「何故、そのような場所まで?」
疑問に思った事をそのままアルベル将軍に問いただす。

「さっきも言っただろ?それ以上は言えない」
これ以上聞いても何も吐かないだろう。
アルベル将軍とはそのような男だ。

「チッ、いつもそうだ!私とライトは共に生きていこうとしているだけなのにッ!周りの人間がそれを壊す!」
そう…アルベル将軍にしろあのライトの部屋にいた白衣の男にしろ私達の邪魔をするのは決まって周りにいる人間達だ。

「私がお前達に何か迷惑をかけたのか!?私とライトが一緒に居る事で迷惑をかけたなら言ってみろ!」
大声を張り上げ、アルベル将軍に詰め寄る。
今度は姫様も割り込んで来なかった。

「それでは聞くが…お前は何の為に私を倒し騎士団長になったのだ?」

「そんな事は決まっている!私が団長になればライトがッ!」
ライトが私を見てくれる……そう言いかけて止めた。

「ティーナ…お前はライトに特別な感情を抱いているのは分かっている。だがな?ライトと騎士団は別モノだ。お前が団長になるのはこの国を守るからだ」
76夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:17:11 ID:RqSOoOEG
「そんな事は始めから承知している!」
そう…私はノクタールを守る。
今までだってずっと守ってきたのだ。
その為に騎士団へと入ったのだから。


――「もし、ライトがノクタールへ戻ってこなくてもか?」

「な…なにを…」
ライトがノクタールに戻って来ない?
そんなことはあり得ない――。
私が騎士団長となればライトは副団長だ。

ライトがノクタールに戻ってこないなんて…。


「ティーナ…冷静になれ…ライトが戻ってきた時にお前が騎士団長として胸を張っていなければライトだってガッカリするぞ?」

「……黙れ」

「それとも、騎士団長の座を捨ててライトを追いかけるのか?」

「黙れと言っているだろ!」
そんな事は分かっている。
私が団長の座を捨ててライトを追いかけてはいけない事…。
私は追いかけてはいけないのだ。

だから、騎士団長として新たに前を歩こうと決めたのに……決めたのに前にいる人間達が妨害するのだ。

「ライトに何かあればアルベル将軍…貴方の責任ですよ?」

「あぁ、分かっているさ…」
アルベル将軍の返答に反応するでも無く、踵を返し、広場へと歩きだす。



――クソッ…ふざけるな…ふざけるなッ!
77夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:18:08 ID:RqSOoOEG

今やっと分かった気がする。
――私の邪魔をするのは、身近にいる味方のフリをした人間達だと言うことを…。


「ティーナ!」

「……」
姫様の呼びかけに足が止まる。

「私は貴女を尊敬しています!貴女は私の護衛でもあり、憧れの女性でもあり……大切な親友だと思っています……だからティーナ……」

「……」

「私やアルベル様を敵視しないで…私達はいつまでも貴女の味方だから」

「……失礼します」
早々に姫様とアルベル将軍の前から離れる事にした。

本心ではアルベル将軍も姫様も信頼できる人物だと理解している。

だけど、駄目なのだ……ライトを引きはなそうとする輩はすべて拒絶反応がでてしまう。

多分、私は金輪際アルベル将軍や姫様に心を開く事は無いだろう。

「ライト…頼むから…」
歩きながら考えること…それはライトの事ばかり――。
ライトがノクタールに来るまで、すべて一人でこなして来たのに…。

「うぅ……駄目だライト…私は…」
一度、人に触れる優しさを感じてしまった私は昔の私を取り戻そうにも心がそれを拒否していた。


「はぁ、はぁ、はぁッあ!」
流れる涙を拭く事も忘れ、走り出す。
78夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:24:27 ID:RqSOoOEG
人に頼られる事はあっても頼ったことなんて無い。

――ずっと一人で頑張ってきた…。

強く…強く…

だけど私だって人間なのだ…。

誰かに頼れるモノなら頼りたかった……だけど……





――「私はッ、私は誰に頼ればよかったんだッ!!ずっと一人だったんだぞ!
ずっと、ずっとッ…ッ他人に頼る方法なんて知らないんだよ!!」
廊下を走り抜け、外へと飛び出す。

「城でぬくぬく育った姫様とは違う!アルベル将軍のように将来有望視されて産まれて来た訳じゃない!私は…私はただの…」
フラフラと階段の手すりにもたれ掛かり、階段の段差へ座り込むと、声を出して泣いた。

――一人が好きだった訳じゃない……剣を振っているといつの間にか一人になっていた。


――ティーナは強いから大丈夫だろ?

“そんなこと誰が決めたんだッ”

――副長ならまだまだ上にいけるさ

“なら、どこまで行けば私は休んでいいんだ…ッ”

――副長には弱さは似合わない

“お前達がそう仕向けたんだろッ”



――だから私は強がるしか無かったのだ。

それもこれで終わりだと思っていたのに…。
79夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:25:17 ID:RqSOoOEG
ライトがこの町に来てやっと私も私で居られると思ったのに。





「ううッ、あぁぁッあぁぁぁッ――ッ―!」
――私の希望は他人達の手によって、脆くも崩れ去っていった。


   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇





ティーナが走り去った後の廊下は静まり返っていた。
周りにいる兵士達は助かった安堵からだろう……ルディネ姫を前にしていることも忘れ、その場に座り込むヤツまでいる。

「ティーナはどうしてあのようになってしまったんでしょう…」
ルディネ姫も怖かったのだろう…ティーナに立ち向かった時は弱気な部分を一切見せなかったが、今になって手が震えていた。

「女が男を変えてしまうように、男が女を変えてしまう事だってあると言うことだよ」

「ライトさんですか……無事に帰ってくるでしょうか?」
ルディネ姫にもライトの事情はすべて話た。
ルディネ姫もライトの事が心配なのだろう。

「帰ってこなければ私の首が飛ぶだけさ」
もし、ライトが死にその事実がティーナの耳に入れば間違いなく、ティーナは私を殺しにかかるだろう。
手の無い私はティーナの剣を防げない。
80夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:26:02 ID:RqSOoOEG
「そんな事はさせません。貴方はこの国を担う存在なのですから…」
何故かルディネ姫が胸を張って豪語した。

「はは…私がこの国の王か…」
今でも実感が沸かない。
私は覚悟を決めて王の元へと向かったのだが、王の口から出た言葉は私の予想とはまったく違う言葉だった。

それはルディネ姫と婚約し、王位継承者としてルディネ姫の傍で国を守れというものだ。
なんでもルディネ姫が私以外と一緒になる気は無いと陛下へ直々に申し立てたらしく、国王陛下も私なら問題無いと淡々と話は進んだそうだ。

私がルディネ姫と一緒になり、王座に座る権利をもらえるなんて一度も考えた事が無かったので、年齢の差を理由に断ろうとしたのだが、陛下から頭を下げられたら承諾するしか選択肢は無かった。
別にルディネ姫が嫌いな訳では無い。
腕がない私がルディネ姫の隣にいると、どうしても見栄えが悪くなるし、副長に負けた団長が王位継承者になると、周りの国の悪評判にも繋がる。

一晩中ルディネ姫と話し合ったのだが、ルディネ姫は折れる事なく私との婚約を望んでくれた。
だから私も決心がついたのだ。
81夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:28:44 ID:RqSOoOEG
私と同じ位を持つ者の中には納得いかない者もいたらしいが、陛下が直々に私を指命した限りは、何も言えないだろう。

「ティーナの心が壊れないように私達がティーナの味方にならなきゃ……私達の責任でもあるのですから…」
ルディネ姫の言う通り、ティーナをここまで追い込んだのは私達かも知れない…。

「そうだな……私達も広場へ向かおう。お前らも立ち上がれッ!姫様の前で何をだらけている!」
ティーナが残した殺気が消えずに漂っている廊下、へたれている兵士に活を入れ、広場へと歩きだした。

――今、ティーナが壊れるような事があればノクタールの壁は薄っぺらい紙へと変わってしまう。
私とティーナが事実上ノクタールの壁だと言っても過言ではない…しかし、私は手を失った。
この国は今、騎士団新団長ロゼス・ティーナという名の脆くも頑丈な新しい壁に守られているのだ。

そう…ルディネ姫や陛下だけでは無い。
国民すべてがティーナに期待するだろう。

国王陛下に関してはティーナに対して多大な信頼をよせているはず…

その重くのし掛かる期待に押し潰されなければいいのだが…。
82 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/15(水) 01:30:30 ID:RqSOoOEG
ありがとうございました、投下終了です。
83名無しさん@ピンキー:2010/09/15(水) 03:39:10 ID:dbL9IGC7
GJ
ライト早く戻れよ!
84名無しさん@ピンキー:2010/09/15(水) 23:46:16 ID:NVmr0xw1
GJGJ!!
85名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 01:03:41 ID:PZTmao/q
>>72
>アルベル将軍が姫様を手で横にずらし、前にでてきた。

ど、どうやって? ……と思ったが、なんか、「典子は今」的な「肩からずっぱり」以外を
想定していない自分に気づいた
86 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/16(木) 01:17:10 ID:QQyC3dfe
>>85
投下した後に自分も気がついたんだけどねw

「無い腕で姫様を横へずらし」…て書いたほうが分かりやすかったかも知れないですね。
表現不足でした、すいません。
87名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 01:22:06 ID:QQyC3dfe
>>85
肘の関節から下を斬り落とされたと考えてくれたら嬉しいです。
88名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 06:27:47 ID:NRF/6HyV
男には第三の手があってだな
89名無しさん@ピンキー:2010/09/16(木) 18:42:25 ID:3FoRL7Qv
ライトのばぁぁぁあああか!!!!!!
90名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 00:33:29 ID:qNeEIJkx
祝!保管庫10万ヒットだってさ。
まさか8スレまでいくとは…。少し前までこんなに伸びるとは思って無かったw

10スレ目指して頑張ってください。
91名無しさん@ピンキー:2010/09/17(金) 09:33:36 ID:nQs2DvSR
メノウ派なんで、ティーナは割とどうでも
92名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 00:07:47 ID:AvCgz0Mj
メノウいいよねw
93名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 07:27:18 ID:Q/IXcxf+
義手義足を付けるとき関節(肘、膝)が残っていればかなり違うらしいな
94名無しさん@ピンキー:2010/09/18(土) 22:06:44 ID:q+tgngoL
関節が基点になって大分動かしやすくなるからな
95名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 15:43:04 ID:dvtNJq4J
ここ良スレなのに活気がないからなぁ…。
96名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 23:31:02 ID:ygfx/LG+
投下ない時死んでるよな
97名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 00:27:43 ID:ghzAmL3L
それでいいと思うけど
くだらない雑談なんていならいし
98名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 02:09:24 ID:H8hNcCUQ
雑談からいんすぴれーしょんが湧く事もあるんじゃね
99名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 07:02:00 ID:fstlqTxb
雑談は控える方がメリットが多いと思う
レス数が投下の有無の目安になるし、荒らしの目に付きにくい
書き手も投下のタイミングが取りやすい等
100名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 12:09:54 ID:X0jS1e05
依存スレへの思いがあれば、おk
101名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 13:20:53 ID:H8hNcCUQ
前スレうめろよ
102名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 14:55:20 ID:PSKepCmg
480KB越えた放っておけば落ちるスレを、態々下らないレスで延命させる必要はあるの?
103 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:07:08 ID:VyW1lxi/
投下します。
104「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:08:18 ID:VyW1lxi/
――ちょっとオジサン! 痛いじゃない!
何すんのよいきなり!
ヘンタイ! 触らないでよね!

いたっ、は、はなしてよ!

……え?! 泥棒? なっなんのこと?
知らないわよ、そんなの。
何かの見間違いじゃないのかしら。

ちょ、ちょっと! 勝手に人のカバン開けないで……あ、あらら。
……
…………そ、そうなのっ。実はあたし、あなたにこれ渡そうと思ってたの!
ショーケースに置いてあった時計が床に落ちてたから、お兄さん困るだろうと思って。
大事そうな物だったからつい入れてたんだけど。
紛らわしいことしちゃってごめんなさい。
ね、許してくれる……?

ありがとうっ!
信じてくれるんだ。
お兄さんてとっても優しくて良い人ね、うれしい♪
それじゃ、今度は落とさないように気をつけてね!
バイバイ。

? どうしたの?
え……忘れ物がある? なになに……?
あっ。
お、お兄さん何するの!? それあたしのカバン!
……
…………
………………あ、あはは。
こっちの指輪とネックレスも返すの忘れちゃってたかなあ? なんて。

あっ、ちょっとやだ!
どこ連れてくつもりっ!? 変態!! ヘンターー……むぐぐ!



何よ、こんな店の奥に小さい女の子引っ張り込んでどうするつもり?
ひょっとしてお兄さんてばそういう趣味でもあるのかしら。
言っとくけど、悪戯したら犯罪なんだからね!
いたっ?!
105「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:08:49 ID:VyW1lxi/

な、なにすんのよ! 頭叩くなんて!!
え? 「お前が言うな」?
あたしはただ落し物を拾ってあげただけよ、何も悪くなんてないわ!

! やっ、何よ!? もう何も持ってないわよ!
動くなって……ひゃう?! ちょっとちょっと、どこ触ってるの!!?
女の子の胸に軽々しく……あうっ。

わわっポケットの中に手入れないでよ!
あ、あっ……!
っ……くう……んっ。

う、後ろを向けって!? 
やっやだ! このスケベ!! ロリコン!!
離してっ、ど、どきなさいよ!

ぁ……も、もおー!
や、やるなら早くやんなさいよ!!
はあ……はあ……。
あうっ! そっ、そんなに乱暴にしないでったら。
バカ……ん、んん…っ!

はっ、はあ……どう、これでもう十分でしょ。
気が済んだならさっさと……え?

きゃーーー!!! 何でスカートめくってんの!?!?
「お仕置き」? お、「お尻叩き」って……何すんのよヘンタイ! 死んじゃえ!!
わ、わ、だめ、そっちは絶対ダメ!
はっはなしてよ! やだ、パンツ下ろさないでったら!

あぅ、あぅ……。
謝るっ謝りますからっ!
ごめんなさい! ごめんなさい!!
もうしませんから、許してくださいっ。

あっ
や、やだっやだ!
ひぁっ、ぁ、ぁぁぁー…………!!



すん、ぐすん……っ。
106「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:09:14 ID:VyW1lxi/
ひどい……こんなこと……。
あたしだって好きでやってるわけじゃ……。


な、なんでもない! オジサ……ごほん、お兄さんには関係ないことよ!
ほっといてちょうだい!!

…………ぐぅー

っ!? ちがっ、違う! あたしじゃないわ! 
別にお腹空いてなんてない!
空いてなんて……
空いて…………
………………はい、いただきます。



――おいしいっ!
お兄さんてば見かけによらず意外と料理上手なのね!
いたっ、痛いったら。もうー。

えへへっ。
こんなきちんとした食事、久しぶり。
ね、ね、お兄さん。
ここのお店って人手足りてる?
あたしが手伝ってあげよっか。
「間に合ってる」? またまたー。
あたしみたいな可愛い子が店番してた方が、きっと繁盛すると思うなー。
お店のお掃除だってちゃんとするし、目利きだってこれでも結構いいんだから。
年なんて、親戚の子ってことにしちゃえばOK!

ご飯食べさせてくれればお給料もほんのちょっとあれば良いから、ね?
それに、お兄さんにだったら……サービスしちゃうよ……?
いたっ! たた!! もっもお、何すんのー!?
ちょ、ちょっとー、ねえ、良いでしょー? 働かせてよー! ケチー!



ありがとうございましたー♪
……あ、お兄さんおはようっ。
ダメじゃない、開店時間なのにいつまでも寝てたりしてちゃ。
こういうお店だからって、基本はしっかり守らないと。
さっきまでだってお客さん何人か来てたんだから。
わかった? はい、よろしい。
107「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:09:47 ID:VyW1lxi/
あ、そうだ。
見てみて、壁に予備のがあったから着けちゃった、エプロン。
えへ、似合ってるかな?

…………いったーい! だからぶたないでよ! バカ!
だってこうでもしないと働かせてくれないじゃないっ。
「どうやって入った?」って、もう、お兄さん油断しすぎよ。
お店の方が閉まってても、二階の窓が開いてたんじゃあっという間なんだから。
ふふっ、でもあたしがいるからにはもう大丈夫。
絶対に泥棒なんて入って来させないわ!
いたっ!! いたいいたいごめんなさいー!



わぁ! これってすき焼き?
あたし食べるの初めて、おいしそー♪
「そうだろうと思って買ってきた」って……も、もうーバカにしてぇ!
いただきます!
……
…………!
あつっ、あっ……!? わ、笑わないでよ!
わ、わっ、ちょっと待ってよ、食べるの早いってば!

あ、ビールお代わりするの?
ご飯は? うん、わかった。
待っててね、今持ってくるから。
はい、コップ出して。
あたしがお酌してあげる。
ふふふ、どう? うれしいでしょ。
……ん♪ どういたしまして。



んー、大漁大漁。
今回のバザーは大当たりかも。
みんな優しいから、ちょっとおねだりしたらあっさり譲ってくれちゃって。
価値を知らないとほんと簡単ね。
もっとも、無愛想なお兄さんじゃ頑張っても難しいかもだけど。

そ、れ、で?

目利きに自信満々だったお兄さんは、成果のほどはどうですかー?
108「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:10:15 ID:VyW1lxi/
……
…………あはっ、やっぱり。
ね、あたしがいて良かったでしょ?

うんうん、よろしい。
それじゃお給料と今日の夕ご飯は期待してるからねっ。
あっ、お兄さんストップ! あっちの方にもちょっと高いけど良い物あったの!



ただいまー。
外、すごい降ってたね。
これだと今日はもうお客さん来ないかも。
うん、こっちの買い物袋の中身は守れたけど、傘がもう全然役に立たなくて。
あっ……い、いいよ。自分で拭くからっ。
わぷ、あう……ぅー……。
〜〜も、もういい、もういいってば! ……くしゅん!

お、お風呂? もう沸いてるの?
え? 「どうせ濡れて帰るだろうと思って」って。
そ、そうなんだ……。

……
…………ねっねえ! いっしょに入ろ?

な、なんでよぉっ。
だってお兄さんも濡れてるのに、ほっといたら風邪引いちゃうじゃない!
大丈夫なんて言って後で熱でも出たら、責任感じちゃうもの!
……ほ、ほらっ、早くいこ?
喋ってる間に身体が冷えちゃうんだから!



あ……あんまり見ないでね。
振り向いたりしたら、ダメだからねっ。
絶対だよ?
お兄さんは前科一犯なんだから!
……よろしい。
それじゃ今日は特別に、あたしが背中流してあげちゃうぞっ。

ごしごし、ごしごし
109「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:10:40 ID:VyW1lxi/

お兄さんて背中おっきいね。
男の人ってみんなこうなのかなー、なーんて。
あはは。
…………も、もうっ、何か言ってよー。
これじゃあたしが変な人みたいじゃないー。
え? もういいの?
ふ、ふーん、そう、ならいいけど。

あのさ、その、あの……。
え……?
…………
………………う、うん、全部洗って。

ごしっごしっごしっごし!

あうっ! 力強いよー。
お兄さんたらいつもそうやって洗ってるの?
女の子の髪なんだから、もっと優しく扱ってよね。
あうっ、いいよ。
まだちょっと強いけど……そんな感じで。
……終わった? うん。
そしたら、次は身体、洗って。

ごしごしごしっ、ごしっ、しゅしゅっ

ん、ん…………えへへっ。
楽しいね。
なんか、本当の兄妹みたい。
二人でお店で働いて、ご飯食べて、お風呂入って。
あたしの家とは大違い。
……そのうちお金とか全部持って消えてやろうなんて思ってたんだけどさ。
なんかね、悪いことしたくなくなっちゃったんだ。
こんなのって初めて、すごく不思議な気分。



あっ、ココア。
うれしいな、ありがと。……あちちっ。
もう! また笑った、バカ!
110「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:11:28 ID:VyW1lxi/

あ……うん。
雨、まだ弱まってないみたいだね。
さっきテレビで、台風が一日早く来たみたい。
これから明日にかけてピークを迎えるでしょう、って
看板とかびゅんびゅん飛んだりするのかな?
あたしも、早く帰らないと。

……
…………
………………ふふっ。やっぱり言ってくれた。

お兄さんてば結構乱暴でよく頭叩いてくるし、お店屋なのに口下手だし、
顔もまあ、不細工ってほどじゃないけど、あんまりハンサムな方でもないじゃない?
だから、もしこの先お嫁さんに困るようだったら……あたしがなってあげてもいいかなー?

いたっいたいいたいっ。ごめんなさいー! えへへ。
111「泥棒娘にお仕置き」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/20(月) 19:12:11 ID:VyW1lxi/
終わりです。
112 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/20(月) 19:20:31 ID:7cURIA2O
>>111
GJです!短編みたいですが、次も楽しみにしています。



夢の国今書き終わったけどひと足遅かったなw
また後日来ます。
113名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 20:49:50 ID:961LJo9u
>>111
GJ
なごむわ
114名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 21:23:51 ID:I5MnFx+r
GJ
続きマダー?
115名無しさん@ピンキー:2010/09/20(月) 22:35:58 ID:X0jS1e05
>>111
ニコニコしてた自分キモスってことでGJ!
続きを期待したい所存です
116名無しさん@ピンキー:2010/09/21(火) 01:37:32 ID:KyXhhMPM
>>111
GJ
続き期待


前スレってまだ生きてるの?
117 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:19:56 ID:Ij8G39Kx
夢の国投下します。
今回、病みは無いです。(違う意味の病みはあるかもw)
話の繋ぎだと思って読んでください。
118夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:21:08 ID:Ij8G39Kx
森には絶対に侵入してはいけない――。
法律でも無いのに罪事の様に全世界共通、皆が守っている事だ。

勿論ボルゾの存在が原因。

森はボルゾの住処…。

――しかし、ボルゾが住む場所はなにも森だけでは無い。
もう一つ、森と同じようにボルゾが住む場所がある。

それは、海だ。

しかも、大型ボルゾの殆どが海に住むと言われている。
大型ボルゾの肉は高級な食材として貴族料亭や王族の食卓へ並ぶ事があり、それを目的に漁師は大型ボルゾを狙って大海原へと向かうのだ。

だが、狙う獲物が高価なほど狙う側の命の危険も上がるというもの…。
海へ出たきり、戻ってこないなんて話は尽きる事が無い。

そして、森と海の決定的な違い――――それは逃げ場が無いと言うことだ。
森の中では逃げようと思えば走って逃げれる。
しかし、海の上……船の上では逃げる事は愚か選択肢なんてモノは存在しない。

漁船だろうが民間船だろうがコンテナ船だろうが大型ボルゾは船の区別なんてしないのだから、引きずり込まれる時は運が悪かったと諦めるしかないだろう。
ただ、悪あがきぐらいは俺達だってする…。





「前方百メートル先にオケアドスが姿を現しました!」
119夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:25:58 ID:Ij8G39Kx
船の甲板に居た船員が大きな声をあげ、ボルゾの存在を皆に知らせる。
その声を聞いた他の船員が、雑談をやめて自分の持ち場であろう場所へと慌ただしく移動し始めた。

「客人達を皆、船内へと避難させろ!」

「はい!皆様、危険ですので今すぐ船内へと避難してください!」
数日の船員達が客人達を船内へと誘導しだした。
殆どの人達はそれに従い船内へと戻るが、中には例外も居るらしい。



――「おぉ、これまたでっかいオケアドスだな!」

「おら、さっさと殺ってこい!客人を怖がらせるんじゃねーよ!」
ガラの悪い集団が船員達に絡んでいる。

こういった輩は大型ボルゾ=アケアドスが獰猛では無い事を知っているのだろう。
アケアドスとは海に住む大型ボルゾの種類で東海で良く見かけるボルゾの一種だ。
全長四十メートルほどで、黒い色をした鯨の様な体型をしている。

危険性はあまり無く、温厚な性格から人に襲いかかる事は産卵期以外、ほとんど無いそうだ。

そしたらなぜ船員達は慌ただしく動くのかと言うと、船員達は襲われる事を恐れている訳では無い。
このまま真っ直ぐいけばアケアドスと正面衝突し、沈没してしまう可能性があるからだ。
120夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:26:35 ID:Ij8G39Kx
それを知ってか知らずか、ガラの悪い男達は船員達をバカにしたように笑っている。


「なんなのアイツら。うるさくて臭くて…鼻がもげそうだわ」
ティエルが鬱陶しそうに鼻を摘まむと、ホーキンズの胸ポケットへと隠れてしまった。
臭いと言うのはお酒の匂いだろう…。
先ほどからお酒を浴びる様に飲んでいる。

「おいおい!逃げるのかよ!」
船がゆっくりと右へ逸れていく。

それが気に食わないのか、男達は酒瓶をアケアドスの方へ投げ出した。
船員達が慌てて止めようとするが、客人という立場を利用している為、男達は行為をやめようとしない。

「あ、クソッ!逃げやがった!」
一人の男がドカッと床を蹴る。

アケアドスは船に見向きもせず、また住処である海中へと戻っていった。

「皆様、もう大丈夫ですよ。甲板の方にどうぞ」
船員が客達に向かって安全だと伝えるが、誰も甲板へと出る者は居なかった。
あのガラの悪い男達を見て、出ようとは思わないのだろう。
各々自分の部屋へと戻って行く客が目につく。

「ライト、どうする?」
隣で座っているハロルドが俺を期待の眼差しで見つめている。
121夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:27:32 ID:Ij8G39Kx
男なんかに見つめられても嬉しく無いのだが、ティエルもポケットから小さな顔を出して、ハロルド同様期待の眼差しを向けている。

甲板に出て注意をしに行けという意味だろう…。
注意ぐらいいくらでもできるのだが、ここはまだノクタールからそれほど離れていないので、顔を知られている可能性がある。
騎士団の名前を使えたら一番手っ取り早いのだが、今俺は騎士団の団員では無い。

「俺は顔を知られている可能性があるから無理だよ。ハロルドお前が行け」
座るハロルドの手を掴み立たせると、肩をポンッと叩いてノクタールの市場で買った安物の剣をハロルドへ渡した。

「ぼ、僕はその…あまり争い事は」
剣を持ったまま、オドオドしている。

「はぁ…お前本当に大丈夫か?これからバレンに向かうんだぞ?」
犯罪が多発している国で、剣を使えないのはかなり危険だ。
それにホーキンズ達を助けるのにバレン兵と一戦交える事になるかも知れない。
そうなればハロルドだって立派な戦力だ。
向こう側は一千五百万人という兵力を持っている。
ノクタールはすべての兵をかき集めても兵力は七百万ほど。
ノクタールの方が圧倒的に少ないぐらいだ。

それに比べて此方は俺とハロルドの二人。
122夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:28:02 ID:Ij8G39Kx
ティエルを入れても三人…。
ホーキンズを助けて仲間に加えても四人だ。
女二人を守りながら戦える相手では無い。

いや、メノウとアンナさんが居なくても戦えない……バレンと真っ向から対立する…即ちそれは死を意味するのだ。
だから極力姿を見られない様に行動しなければならない。

もうすぐ、バレン城の近くにある港へつくはずだ。
こんな所で騒ぎを起こせば、目立ってしまう。

「分かりました…」
そう言うと剣を俺に返し、ガラの悪い男達の方へと歩きだした。
剣も持たずに何をするつもりなのだろうか…。
説得とかだったら笑えるな。


「き、君たち」
男達の前に立つと、座り込む男達を見下ろし声を掛けた。

「あぁ?なんだお前は?」
リーダー格の男が酒瓶を手放し、床から立ち上がると、ハロルドに近より胸ぐらを掴んだ。

「この船は君たち専用じゃないんだ!もう少し落ち着いて行動できないのか!」

「なんだテメェ!殺されてぇのか!」
周りにいた仲間達が殺気立ちハロルドを囲む。



「チッ、あのバカッ!」
笑える…と思ったのだが、笑えなかった。
ハロルドは本当に説得する気だったようだ。
123夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:29:01 ID:Ij8G39Kx
あの口の聞き方なら相手を逆撫でるだけ…それにハロルドは忘れている――ハロルドの胸ポケットにティエルが居ることを。






「ちょ、ちょっとッ苦しいでしょ!このっ、ヒゲだるま!」
苦しそうに胸ポケットから飛び出したティエルがリーダー格の男の額に飛び蹴りを食らわせた。
嫌な予感が的中してしまったようだ…。


「な、なんだコイツ!妖精!?」
飛び蹴りをされた男は蹴られた額を手で押さえ、ティエルを凝視している。

「妖精だからなによ!あんたらギャーギャー五月蝿いのよ!」
周りを気にせず男に詰め寄り怒鳴り散らすティエル。
男も妖精に怒鳴られている現実から逃げようとしているのか周りの仲間に助けを求める様に目を泳がせた。

「ほ、本物かコレ!?」

「わからねぇ…妖精なんて初めて見たから…」
仲間達もティエルに近づいてきた。

「なんだ、なんだ?」

「妖精だってよ!確かユードの町でバレンの人間が見せ物小屋で妖精を見せてたって…」

「あぁ、あれ本当の話だったのか。」

「うわっ、可愛いな!」
騒ぎを聞き付けた客人達が船内から甲板へと出てくる。
これはもう収集がつかないだろう…。
124夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:30:51 ID:Ij8G39Kx
妖精である当の本人は目立っている事が嬉しいのか、客達の頭上を鼻歌混じりに飛び回っている。
これはますます俺が出る訳にはいかなくなってきた……。


「ハロルドッ…早くティエルを連れて船内へ戻れッ…」
遠くから小さな声でハロルドに話しかける。

「分かりました…ティエル早く此方に戻りなさい!」
ハロルドも危機感を覚えたのか、一度だけ此方にコクッと頷くと、ティエルに戻るよう伝えた。

「なによ、ハロルド如きが私に命令?蹴り飛ばすわよ?」
ハロルドの話を聞く気がないのか、ハロルドの言葉を無視して客達の歓声に答える様に空を飛び回っている。

ハロルドとティエルではティエルの方が序列は上のようだ。

「早くしろハロルドッ、無理矢理でもいいからティエルをカバン中に放り込めッ」

「空を飛んでるティエルに手は届きませんよッ…」
早くティエルを何とかしないとマズイ事になる。




「おいっ、あの妖精を捕まえて売ればかなりの高値がつくんじゃねーか?」

「そうだな…あんな珍しいモノ貴族どもが欲しがるに決まってる」
案の定男達は分かりやすい企みを口に漏らした。
後、30分程で港に到着するはず。
それまでに何とかしないと……。
125夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:31:40 ID:Ij8G39Kx
「しょうがないな…」
持ってきたカバンから布のフードを取り出すとそれを被り、客人達に紛れた。

ティエルが捕まるとは考えにくいが、ハロルドの胸ポケットから飛び出したティエルは、ハロルドと繋がりがあると気づかれているだろう。
ティエルを捕まえる為ならハロルドに危害を加える可能性だってあるのだ。

ゆっくりと人混みを掻き分け、ハロルドの背後につくと、ハロルドに後ろに下がるよう伝える。
俺の声に反応したハロルドはゆっくりと後ろに下がり人混みから離れていく。
それを見送った後、上で飛び回るティエルに目を向けた。

「ティエル…早く此方に戻ってこい」

「なんだお前は?白衣の男は何処に行ったよ?」
俺に気がつくと男達はそれぞれ武器を手にした。
ティエルを奪いに来る気満々だ。

客達も空気を察したのか俺達から離れていった。
そっちのほうが有り難い。

「お前達に言う必要は無い。ティエル、さっさとハロルドの元に行け」

「ふんだッ……わかりましたよっ!」
ふてくされた様に呟くと、ハロルドが待つ場所へと飛んでいった。

「逃がすか!」
男達がティエルを追いかけようとする。
126夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:32:20 ID:Ij8G39Kx
「行かせるかよ」
男達の進路を塞ぎ、剣を構えると男達の殺気はすべて俺に向けられた。


「上等だッ!お前らやっちまえ!」
カシラであろう男の声と共に武器を持った男達が此方に向かっていっせいに突っ込んできた。





――「海賊だ!海賊が出たぞ〜!」
俺の剣と先頭に居た男の剣がぶつかり合う寸前、船員の大きな声が海に響いた。

「チッ、海賊だってよ」

「…」
ピタッと止まった剣先をお互い下ろすと、海賊船らしき船を探す為に周りを見渡した。

何もない海に一隻だけ大きな帆船が浮いている。
帆には大きなドクロ…間違いなく海賊船だ。
この海域ではよく出るらしいが海賊船を見たのは初めてだ。

「妖精は後回しだ…あの海賊船…此方に向かって来るぞ」
殺気が薄れたと同時に皆が武器を下げ、海賊船へと目を向けた。

共闘しろという意味だろう…。
先ほどまで敵同士だったのだが仕方ない…さすがに海賊船まで出て来ると小競り合いしている暇はなさそうだ。

「あの船…何人居るんだよ…」
ボソッと呟いた男の声に誰も返事は返さなかった。
船を見る限り船員の数は軽く二百以上いるはずだ。
此方の数は船員あわせて五十人といった所だ…かなり分が悪い。
127夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:32:51 ID:Ij8G39Kx
海賊と言えば客船や商人船に乗り込み金品強奪を目的とする輩達なのだが、最近では道楽の為に船に乗っている船員達の命まで奪っていくほど滅茶苦茶するらしい。
殺されない為の共闘……これが終わればまた絡んで来るだろう。

しかし、今は目の前の大きな敵だ。

剣を握りしめ、来る敵が乗る船を睨み付けた。






「……」

「おい…」

「あぁ…」
おかしい…海賊船から人が出てくる気配がしない。
と言うよりあの海賊船……此方に進んで来ると言うより、漂っていると言った方がいいかも知れない。

男達も異変に気がついたのだろう……剣を構える事を止めて漂う海賊船を観察する。

このまま通り過ぎてくれれば助かるのだが…。


「おい、人が出てきたぞ!」
一人の男が指をさす先に、人影が見えた。

「此方を見ているな……女かアレ?」
人影の正体……それは一人の女性。
それも見たことも無いような美形の。
離れていても分かるほど綺麗な長い銀髪にすらっとした細い身体。


メノウやティーナ、アンナさん達で綺麗な女性には慣れていたつもりなのだが…なんて言えばいいのか…。

「なんだアレ…本当に人間か?海の女神とかじゃねーだろーな…」
128夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:33:41 ID:Ij8G39Kx
そう、人間離れしているのだ。

見とれる程に…。

夕日を背に立つ女性は此方に目を向けたままピクリとも動かない。

「てゆうか他のヤツらどうしたんだ?あの女だけか?」
そう、一番の疑問はそれだ。
こんな大きな船に女性が一人なんてあり得ない。
隠れて此方のスキを狙っているのかも知れない…。
一応船から身を乗り出し、海へと目を向ける。
小舟で乗り込んで来るかもしれない。



「あの女…なに持ってるんだ?」

「持ってる?」
男の声に反応した俺は再度女に目を向けた。

両手に何か持っている…。

「なんだあれ…武器か?」
女の右手には槍のような武器が握られていた。
見たことも無い武器だ。
それに左手に持ってるモノ……あれは…。

「ひッ、顔!?」
そう…男の生首だ。

斬られたであろう首から血が滴り落ちている。
殺されてまだそんなに時間が経っていないようだ。

持っていると言うことはあの女性が殺したのだろうか?
それとも他の人が切り落とした首を持っているだけ?
それでも十分に気が狂っているのだが…。

「ライトなにしてるの?」
何処からともなく飛んできたティエルが俺の肩へと座ってきた。



「ティエル…」
129夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:34:26 ID:Ij8G39Kx
あれほどハロルドの元へ行けと言ったのに…と文句を言いかけたがハロルドも此方へと歩み寄ってきたようだ。

「なんだいあれは?」
歩み寄って来たハロルドが俺の横へと来ると、船の手すり手を掛け、海賊船へ目を向けた。
それにつられて、客人達も次々に甲板へと出てきた。
危険性は無いと勝手に判断したのだろう…。


「さぁな…攻撃してくる様子も無いからどうにもできない」
向こうから攻撃して来ない限り此方から攻撃することは無い。
意味のない争いなどしている暇はないのだ。

「へぇ〜、でっかい船ねぇ………んっ?」
ティエルが何かに気がついたのか、俺の肩から飛び立ち、空へと飛ぶと、上空から海賊船をジーッと見つめだした。

いや、海賊船を見ていると言うよりあの女性を見ているのか…。



「おっ、女が動いたぞ!」
男の声に皆がざわめき立つ。

ピクリともしなかった女性が空を見上げている。
ティエルを目で追っているようだ…。

「ッ!?」
女性を眺めていたティエルが慌てたように空から降りてきた。

何故か顔が真っ青だ。
知り合いなのだろうか…?

「よ、妖精食いエルフ来た!」
それだけ言うと、俺の服の中へと潜り込んでしまった。
130夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:34:58 ID:Ij8G39Kx

「妖精食いエルフ?なんだそれ?」
話を聞くため、服を捲り上げティエルを引っこ抜くが、俺の手から離れると今度はハロルドの服の中へと避難してしまった。

なんなんだ一体…。
ティエルの様子から察するにティエルとあの女性はあまりいい間柄ではなさそうだが…。

ティエルから目を離し、女性へと目を向けた。


「あれ…あの女は?」
先ほどまで甲板の先端に居たのだが、いつの間にか居なくなっている。
船内へ入ったのだろうか?
周りを見渡し辺りを確認する。








「――どこ―?」



「なっ!?」
船上に居た人達すべてが背後から聞こえてくる声に心臓を跳ね上がらせたであろう。

あれだけイキッていた男達も腰を抜かしたのか、その場に座り込んで後退りしている。


「ど、どうやってこの船に!?」
皆が驚いている理由――それは何故か海賊船に居たはずの銀髪女性が此方の船へと移っているからだ。

船との間は70メートルほど離れている。
小舟を使って渡るにしても、10分はかかるだろう。
ましてや人間なら飛び越えるなんて絶対にできるはずがない。


そう…人間なら絶対に…。
131夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:35:50 ID:Ij8G39Kx
此方側の混乱とは裏腹に銀髪女性は周りの目を気にすることなくキョロキョロと何かを探している。

「な、なぁ、あんた…」
一人の男が恐る恐る銀髪女性へと声を掛けた。
男の声に反応する素振りすら見せず、まだ周りをキョロキョロしている。

「おい、どうするよ…」

「どうするって…なぁ?」
銀髪女性の目的が分からないので俺達は何をどうすればいいのかまったく分からない。
危害を加えてくる様子も無いので大丈夫だと思うのだが…。


「……」
それにしても目の前に立つ銀髪女性――かなり身長が高い。
180センチ以上軽くあるんじゃないだろうか?
その高身長に似合いすぎる銀髪…そしてやたら長い武器……先ほどまで持っていた生首は持っていなかった。

ティーナ同様やたら気の強そうな顔立ちをしている。

「――?」
キョロキョロしていた銀髪女性は、何かを見つけた様にある場所へと歩きだした。


「あ、あの…」
銀髪女性が行き着いた場所……それはハロルドが居る場所だ。

オドオドするハロルドを何も言わずにジーッと見つめている。
もしかしてハロルドに気があるのだろうか?

そうなると違う意味でハロルドは男達に攻撃されるかも知れない。
132夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:36:32 ID:Ij8G39Kx
「ちょっ!」
銀髪女性がおもむろにハロルドの服の中へと手を勢いよく突っ込んだ。
此処で始める気だろうか?それならとんだ変態だが…俺の予想は軽く外れてしまった。

「――みつ―けた―」
「は、放しなさないよ!」
ハロルドの服から引っこ抜いた銀髪女性の手の中にはティエルが捕らえられていた。
銀髪女性の目的――それはティエルだ。




「ティエルを放せよ…」
そうなれば話は変わってくる。
ティエルは俺達の仲間だ。
どんな事情があるにせよ、仲間の危険を見過ごす事はできない。

銀髪女性は俺の声に反応したのか、ティエルと俺を交互に見ている。
言葉が通じないのだろうか…だが、先ほど片言ではあるが言葉を話していた。
だとしたら俺の話している言葉も分かるはず…しかし、俺の声を聞く気が無いのか返事は返ってこない。
それどころか、ティエルを掴んだまま歩きだしてしまった。

「おい!ティエルを放せ!」
次は少し強い口調で話しかけてみた。


「――イヤ―」
それだけ吐き捨てると、突然走り出した。
不意を突かれた俺は走り出す銀髪女性をただ見ている事しかできなかった。
いや――船の上だから逃げ場なんて無いと勝手に決めつけていたのだ。
133夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:37:07 ID:Ij8G39Kx
銀髪女性は俺達が見ているなか、船縁へと足を掛けると、そのまま海へと跳んだ。

それもティエルを掴んだまま――。


「ティエル!!」
海へと飛び込むなんて考え始めから頭に無かった俺は簡単にパニックになってしまった。

自殺でもしたかったのだろうか?
それなら一人ですればいい…わざわざ人の胸ぐら漁ってティエルを道連れに自殺する必要は無いはずだ。

なんとかティエルだけでも助けなくては…そう思い上着を脱ぎ捨て海に飛び込む為に船縁へと足を掛ける。

「ライト!海ではありません!上です!」
飛び込む寸前、ハロルドの声に身体が急ブレーキを掛けた。
意味が分からず、ハロルドの言うように空へと視線を上げる。





――そこには綺麗な曲線美の残像を残す様に空高く飛んでいる銀髪女性の姿があった。

羽なんてついていない……ただ、空を飛んでいる。

ふと、船縁がへこんでいることに気がついた。
あの銀髪女性が踏み込んだ場所――だとするとあれは跳躍力なのか?
ますますあり得ない。

見とれている間に銀髪女性は岸へとたどり着いてしまった。

「おい、俺達も追いかけるぞ!船を寄せてくれ!」
134夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:37:48 ID:Ij8G39Kx
船員に声を掛け、荷物を取りにいく。早くティエルを助けなければ…。




「?おい…早く船を岸に寄せてくれって…」
荷物を手に取り、戻ってきたのだが、何故か船員誰一人動こうとしない。
そうこうしている間に銀髪女性は森の中へと入っていってしまった。

「おい!早く船を岸に寄せろ!」
早くしないと見失ってしまう。

「あそこには船は寄せられない…エルフの森があるから我々にも危険が及ぶ」

エルフの森?
聞いたことがある…。
確か数十年前にエルフ狩りが行われたって場所だった気がする。
だから皆、こんなに怖がっているのか。

「分かりました、では小舟を貸してください」
こればっかりは仕方ない。
他の客も居るのだから危険な目に合わせることができないのだろう。
小さな小舟を借りて、船から離れる。

「ライト…後ろからあの男達がついてくるよ?」
後ろを確認すると、確かにハロルドが言うように後ろから同じような小舟で我々の後を追ってきている。
手助けをしてくれる雰囲気ではなさそうだ。

「ほっとけ、まずはティエルを助けてからだ!」
そう…ゴロツキなんて後からどうにでもなるのだ。
135夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:42:17 ID:Ij8G39Kx
それよりも早くあの銀髪女性を捕まえなければ…目的がわからないので、焦りも増してくる。


「よしっ、行くぞハロルド!」

「はいっ!」
――岸に到着すると、船を岸に繋げる事もせず銀髪女性を走って追いかけた。
もうあの船は戻ってくることは無いだろう…。
この小舟も俺達を置き去りにする為の対価のようなモノだ。
ティエルを助けた後、そのまま歩いてバレンまで向かえばいい。
小舟で港を目指すより周りを見渡せる広野を歩く方が危険性も低い。
とにかく、まずはティエルを助けなくては…。



――銀髪女性と同じように森に入って20分…足場の悪い森を走り続け、木の根に躓きながらも森の奥へと足を踏み入れていた。

四方八方樹海のように同じ風景が広がっている。



「はぁっ、はぁッ、ライトッ!」
息を切らし、隣を走るハロルドが前を指差した。
50メートルほど前に歩く銀髪女性の背中を視界に捕らえた。

「おい!」
銀髪女性に追いつくと、腰から剣抜き銀髪女性に向けた。
ハロルドもカバンから怪しいボールのようなモノを取り出し、銀髪女性に投げる仕草をしている。

「――?」
俺達の声に反応した銀髪女性は歩くのを止めて、此方に振り向いた。
136夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:42:48 ID:Ij8G39Kx
――やはり何度見ても綺麗な顔立ちをしている…。

「ティエル無事ですか!?」
手に握られているティエルに向かってハロルドが話しかける。

「早く助けなさいよ!食べられるでしょ!」
銀髪女性の手の中でジタバタと暴れている。

あれだけ元気があれば大丈夫だ。
もう少し銀髪女性に握らせておけば落ち着きのある性格になるかもしれない…。
そんな冗談を頭の中で考えられるのは、目の前にいる銀髪女性が此方に敵意を向けないからだ。

「お前はいったい何がしたいんだ?その手に握られている妖精は俺達の友達なんだ…だから放してくれないか?」

「――?」
首を傾げ、ティエルを握りしめている手を此方に向けた。

「そう、それだ。それは俺達の仲間なんだ…だから放してくれ」
敵意が無いなら、話し合いで解決できるかも知れない。
剣を腰に戻し、ゆっくりと銀髪女性へ近づく。

近づくにつれ何か行動を起こすと思ったのだが、やはり銀髪女性から敵意は感じられない。

「さぁ、早く返してくれ…」





「―――ッ!!?」
俺が手を差し伸べようとした時――銀髪女性が勢いよく此方に一歩踏み出してきた。
137夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:45:47 ID:Ij8G39Kx
突然の行動に驚いた俺は攻撃してくる事を予想して咄嗟に剣を握り、後ろへと跳躍する。

あの長い武器で突かれたら終わりだ。
剣を引き抜き構えると、攻撃に備えて体制を整えた。




――しかし、その予想は大きく斜め上へとハズレる事となる…。




「――ぴょん――ぴょんっ――」

――攻撃してくるどころか武器を投げ捨て、四つん這いになると、ピョンピョンと跳ねだしたのだ。
意味の分からない行動に、ハロルドに助けを求めるがハロルドもポカ〜ンとしている。


「――ぴょん―ぴょんっ――ぴょんっ―」
自分自身が飛ぶ度、わざわざ口でぴょんぴょん呟く銀髪女性。

なんだろう…。
メノウとは違う……ティーナのような気の強い女性がメノウと同じような行動をしている……そう言えば分かりやすいだろうか…。
とにかく、あまりのギャップに俺とハロルドは思考停止状態に陥っていた。

「おい…なんだこれ?」
剣を地面に突き刺し、ハロルドの方へと歩み寄る。

「さぁ…ただ、此方よりあれを追いかけるのに必死みたいですよ?」

「あれ?」
銀髪女性が跳ねる姿をもう一度見てみる。

銀髪女性の前を小さな何かが跳ねている。


あれは…。
138夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:47:36 ID:Ij8G39Kx

「カエル…ですね…」
そう…緑色のカエルが逃げる様に銀髪女性の前を必死に飛び回っている。
先ほどから銀髪女性がぴょんぴょん跳ねているのは、あのカエルを追いかけているからなのか…。

「てゆうかティエルはどこだよ?アイツもうティエル持ってないぞ?」

両手をしっかり地面に付けて跳ねているのでもう銀髪女性の手の中にはティエルは居ないだろう。

周りを見渡しティエルを探すと、簡単に見つける事ができた。
木根の間に挟まっている…投げ捨てられ挟まったようだ。

「大丈夫か?」
挟まっているティエルをつまみ上げると、ハロルドの手の上へと座らせた。

「大丈夫じゃないわよ!あぁ…羽根が…」
長時間握られていたので、羽根がシワシワになっている。
これじゃあ暫くの間空を飛べそうに無い。



「――?――???」

「おい、跳ねるのをやめたぞ…」
カエルを追いかけるのが飽きたのか、銀髪女性が跳ねるのを止めて立ち上がり、自分の手を凝視しだした。
ティエルを探しているのだろうか?
自分が投げ捨てたくせに…。


「――」
自分の手の中にティエルが居ないと分かると、今度は周りをキョロキョロ探し始めた。
139夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:49:20 ID:Ij8G39Kx

「ライト…今のうちに逃げましょう…」

「あぁ…」
ティエルをカバンの中に隠すと、ゆっくり銀髪女性から離れる事にした。

これでやっとバレンに行ける…。




――そう思ったのだが簡単には森から抜けさせてはくれないようだ。
俺達が銀髪女性から離れる為に走り出す瞬間、見計らったように木々の影から複数の人影が飛び出してきた。



「はっ、逃がさねぇよ!」
すぐに俺達の後を追いかけて来たのだろう…目の前に先ほど船に居た男達が武装して立っていた。
後ろには銀髪女性…前には八人の武装集団。
旅をして間もないのにいきなり大ピンチのようだ。

「ホーキンズ…ちょっと遅れるけど我慢しろよ!」
地面に突き刺した剣を引き抜き、男達と対峙する。
この人数相手に剣で勝てるか分からないが、こんな所で足止めを食らっている暇は無い。

作戦など一切考える事無く男達へと斬りかかった。





「――かえして―」

透き通った無機質な声――。

感情がまったく感じられない声が背後から聞こえてくると同時に、後頭部に強い衝撃を受けると、そのまま視界が一回転し、勢いよくしなる鞭のように地面へと叩きつけられた。
140夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:50:44 ID:Ij8G39Kx

「ぐッ、ぁッ!!」

身体の中にある空気をすべて奪われたように息が止まる。

何をされたかなんて分からないが、多分銀髪女性から攻撃されたのだろう…。

ボヤける視界の中に、綺麗に輝く銀の髪が揺れていた。




――その後の事はあまり覚えていない。地面に横たわる自分の身体を動かせず、強制的に男達の悲鳴を子守唄にさせられ、目の前で次々に飛んでいく男達の腕や頭を気絶するまでただ唖然と見つめることしかできなかった。

長い武器を使い綺麗に舞う銀髪女性――その姿はやはり人間には見えなかった。

気絶する直前…ただ、一つ。
ティーナとどっちが強いのだろう――そんな子供のような純粋な考えが頭の中に浮かんで、すぐ意識の底へと消えていった。
141 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/21(火) 19:55:19 ID:Ij8G39Kx
投下終了です、ありがとうございました。
次も病みが少ないかも…。

前スレ>>795さん。
注意書きさえすれば大丈夫みたいですよ。
142名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 13:19:51 ID:lQ/nHB+v
GJ
とりあえずオケアドスかアケアドスかはっきりさせてくれ
143 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/22(水) 15:38:18 ID:DUuyKcbQ
オケアドスです……すいません。
144名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 17:53:01 ID:ohk7dVEH
GJ
145名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 22:34:00 ID:EFcAoFyU
GJ!
エルフ怖いw
146名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 00:34:46 ID:GA7RG4W2
GJ 毎度楽しみにさせてもらってます
>>120 「ホーキンズ」の胸ポケットへと隠れてしまった。
誤字かな?
147 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/23(木) 00:47:03 ID:7Xql81Cj
>>146
あぁ、まただ…すぐハロルドとホーキンズ間違えてしまう。
教えてくれてありがとうございます。
保管庫管理してる方も何度も申し訳ありません。
>>120に書いてある
「ホーキンズの胸ポケットへと隠れてしまった」の部分はホーキンズでは無く、ハロルドです…。
次から何度も読み直して投下するように心がけます。
148 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/23(木) 18:10:27 ID:pEomqPwQ
投下します。
149「男の子モンスター イケメン」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/23(木) 18:11:47 ID:pEomqPwQ
ここは人間の女の子と、男の子モンスターと呼ばれる生き物が共存する世界。
女の子達は野生の男の子モンスターを捕まえて、戦わせあったり、一緒に生活したりしている。
これはそんな世界に生きる、ある一匹の男の子モンスターの話。



「まてー! こら、まちなさーい」

 どことも知れない草むらの中、ミニスカートの女の子が息を切らして俺を追いかける。
 本来であればすぐに振り切れる程度の速度だったが、連日、度重なる戦闘による激しい消耗が
両の足からその俊敏さを奪っていた。

「やっと見つけた伝説のレア男の子! 絶対、ぜったい逃がさないんだからっ」

 手持ちの男の子を全て倒されたにも関わらず、女の子は果敢に距離を縮めてくる。
 伝説のレア男の子――どうやら俺の事らしい。
 誰かに使われるのが嫌で追われては逃げ回り、挑んでくる手合いを打ちのめしていく内に、
いつの頃からか人間達の間でそう呼ばれるようになっていた。
 曰く、彼女達の社会ではそうした捕獲難度が高いとされている固体を手に入れる事は一種の
ステータスとされ、強さ、容姿と並んで評価の基準に置かれているようだ。
 この辺りの町で上手く周囲に紛れ込んで穏やかに過ごせていた俺も、どこから嗅ぎ取られたのか
一人の男の子使いにバレたのを契機に、今ではこの有様である。

「こっ、の、いっけー!」

 ミニスカートの女の子はこちらが間合いに入ったのを見計らい、捕獲用に作られた特殊な痺れ粉の
入った袋を全力で投げつけてきた。
 避ける事も破裂させずに払いのける事も、今の俺には難しい。
 果たして痺れ袋は背中へ命中、潰れて飛び出た粉に触れた部分から全身に即効性の痺れる感覚が
広がってくる。
 持続性には欠けるものの、それを見逃す男の子使いはいない。

「えーい!!」

 すかさず背後から飛び掛ってきた女の子に圧し掛かられ、俺は受身も取れず地面へ倒された。

「あんっ、もっ、大人しくしなさい……っ!」

 振動による痛みで痺れを一瞬振り切り、気力を振り絞って抵抗したがそれも空しく、女の子に後ろから
ぴったりと抱き抑えられる。
 いかなる習性か、弱った男の子モンスターは人間の女の子に抱き締められると徐々に反抗心を失い、
最終的にその相手を自分の主として認めるという。
 限界まで疲弊した身に、まして痺れ粉までもらった状態での脱出がほぼ不可能である事は言うまでもない。

「やった……やったやった! とうとうゲットしちゃったー!」

 ミニスカートの女の子に跨られ、ロープで縛られた俺はそのまま意識を失った。
150「男の子モンスター イケメン」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/23(木) 18:12:37 ID:pEomqPwQ



 気絶してから、どれだけの時間が経ったのだろうか。
 ふと意識を取り戻すと、視界は薄暗いどこか知らない部屋。
 最初に目に入ったのは天井に貼られた大きなポスター……写っているのは俺だ。
 面食らって身じろぎすると、今度は思うように身体が動かない事に気がついた。
 両手足は柔らかい布を挟んだ上でロープに縛られ、それぞれどこかへ繋がれている。

「すー……すー……」

 そして仰向けになった身体には、先ほどのミニスカートの女の子が乗り掛かり、静かに寝息を立てていた。
 こちらが目覚めた事を察する気配は無い、おそらく疲れているのだろう。
 改めて周囲を見渡すと、六畳ほどの空間に女の子らしい色合いの生活感ある家具が並んでいるのがわかる。
 どうやらここは彼女の住む部屋で、俺は彼女と同じベッドに寝かされているらしい。
 捕獲したばかりの野生の男の子はコントロールがまだ不安定であり、それだけではまだ本当の意味で
男の子を捕まえた事にはならない。
 そこから完全に言う事を聞くようになるまでの間、使い手の女の子は肌身離さず行動を共にするという。
 町に住む仲間から話に聞いただけで実際にこうなってしまったのは初めてだが、こちら側にとって
猶予期間とも言えるこの状態をみすみす過ごす手は無い。

 すり、すりすり

「……ん、うふふ……」

 捕獲達成の余韻に浸っているのか、女の子は俺の胸に頬ずりしながら嬉しそうにしている。
 その姿を見て、どこかから逃げよう、抗おうという意志がじわじわと削られていく。
 俺は、捕まりたくはない。



「ふあ……ぁ。
 ………………あっ!」

 朝。
 ミニスカートの女の子があくびしながら目をこすり、寝ぼけ眼に俺の姿を認めると一気に飛び起きる。
 身体が離れてもこちらは身動きできないので、焦らずにじっくりと相手の様子を伺う。

「お、おはよう」

 おおよそ数秒ほど固まってから、ようやくあいさつを一言。
 照れているのか視線をあちこちにさまよわせている女の子に、努めて明るく微笑んでみた。

「……う、うん」

 予想外の反応だったらしく、彼女の顔が目に見えて赤くなっていった。
 なかなか面白い。
 ただ、この位置からだと天井のポスターとも目が合うため、自分で自分に微笑んでいるような構図に
なるのが何とも言えない気分である。
151「男の子モンスター イケメン」 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/23(木) 18:13:06 ID:pEomqPwQ

「? あ、そっか」

 俺の視線の先を追った女の子は、貼られた大きなポスターに目をやると納得したらしい。

「えへへ、わたしってきみの大ファンなんだ。
 これからは沢山アルバム作っちゃうんだから、一緒の写真も撮ろーね?」

 途端に満面の笑顔を見せる彼女に、こちらもそれに応えるように笑顔を浮かべる。
 あいにく、その希望を叶えてやるつもりはない。



「カンクロー! うんっ、きみの名前はカンクローに決まり!
 ね、いいかな? …………やった!」

「ごはん食べよ。ね、カンクローは何が好きかな? ……って、言っても答えられないよね。
 あはは、それじゃ今日は色々作ってあげちゃうから楽しみにしててね!」

「へえー、カンクローってきのみとか野菜が好きなんだね。
 じゃあ今度お散歩に出かけるときは、ニンジンとかきのみのパイを沢山作っちゃおう!
 あ、喜んでるの? そっか、うん、がんばるからね!」

「どうしたの? そんなにキョロキョロして……ひょっとして、他の男の子を探してるのかな?
 えとね、あのとき連れてたのは捕獲用にレンタルされてた子達なんだ。
 あんなに多くの男の子はお世話できないし、そのっ、わたしはカンクローしか欲しくないし」

「わあ! カンクローってやっぱりすっごい髪きれいだね!
 さらさらしてて、野生だったのに友達が持ってる男の子達よりもずっと良いよ!
 ……わっわ、だめってば、わたしの髪は嗅がないでいいよっ」

「あの、ごめんねカンクロー。ほんとは一緒にお風呂に入ってきれいにしてあげたいんだけど、
 一応まだ期間中だから、あう、ごめんねっ。
 代わりにお湯タオルだけど、ちゃんときれいにしてあげるからっ」

「ねえ、この服って自分で作ったの? すごーい! わたしが作ったやつでも着てくれるのかな?
 え? いいの? やった! うれしいな、そしたら何から作ろっかな! えへへ」

「あ、もう眠いのかな? ご、ごめんね、何だか昨日からずっと興奮しちゃってて、
 ……えっとね、また添い寝するね。
 おやすみカンクロー、大好きだよ……」



『どうも! □□地方、本日の主なニュースです。まず最初はこちらの素敵なニュースから!
 レア男の子を狙った強盗グループが昨夜一人暮らしの少女の家に押し入り、寝ていた少女から男の子や
 現金などを奪い取ろうとしたところ、少女の持っていた男の子が見事に強盗を撃退して見せました。
 付近の住民にそのときの様子を――』
152 ◆yNwN3e7UGA :2010/09/23(木) 18:14:10 ID:pEomqPwQ
終わりです。
153名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 20:02:57 ID:cwNq3g3V
投下乙
こういうのも好きだww
どんどん投下してほしい
154名無しさん@ピンキー:2010/09/23(木) 21:08:10 ID:X4TK0WmN
>>152
新しい発想、おもしろかったGJ!
155名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 21:50:34 ID:V3R2AaSB
GJ!
その発想はなかった
156名無しさん@ピンキー:2010/09/25(土) 22:54:16 ID:L5ACytvM
>>152

できれば続き希望ノ
157名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 19:07:02 ID:Jp7+acNk
急に閑散としてきたな。
158 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:41:20 ID:PmV+e9zW
夢の国投下させてもらいます。
159夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:42:07 ID:PmV+e9zW
――夢を見た。

ユードの花畑で母に膝枕をしてもらい、甘えている夢。
母が嵐の乱で死んでから、母の夢は見たことが無かったのだが…。

――どうしたの?きょとんとして。

優しい笑顔を浮かべ、母がお腹をさすってくれた。
幼少の頃、いつもこうしてもらわないと寝られなかったからだ。

恥ずかしい話、ティーナやホーキンズにバレて、からかわれる8歳まで、母と同じベッドで寝ていたのだ。

――もうすぐティーナ達が来るかも知れないわよ?

「別にいいよ…今はこうしていたいから…」
久しぶりの母の膝枕。

暖かい匂いがする…。

この暖かさをもう少し感じていたい。



「あれ……雨?」
額にぽた、ぽた、と冷たい滴が落ちてきた。

――あら、本当。

母も上を向いて片手を広げている。

――それじゃ、家に帰ろっか?今日はティーナが泊まりにくるんでしょ?


「あぁ…でもアイツ一緒に寝たら俺の指加えて放さないんだよ?朝起きたらふやけてるんだ」

――ふふ、ティーナも一人っ子だから寂しいのよ。さぁ、早く夕飯の支度しなきゃ。

「うんっ!今日はご飯なにかな?」

――そうねぇ…それじゃあ……。






――――毛虫なんてどう?
160夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:42:52 ID:PmV+e9zW

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇


――「ぎぃやぁあぁぁぁぁあぁぁあぁぁぁぁッ!!!」
自分でも驚くほどの叫び声を張り上げ飛び起きた。
幸せな夢から一転、母に毛虫を何百ぴきと口の中へ押し詰められ、口を押さえつけられた。
悪夢どころの話では無い……もし母が生きていた頃に今の夢を見ていたら間違いなく母に対して多大なトラウマを持っていただろう。

背中が汗でびっしょりだ…。




「んっ?……なにしてんだ?」
ティエルが寝ている俺の胸の上に立ち、此方を見て固まっている。

俺に何かしようとしていたのだろうか?

手にはなにか……うねうねと…。




「てめぇ!」

「きゃはははははは!」
ガバッと起き上がり、ティエルを捕まえようとすると、手の隙間を掻い潜りスルスルッと飛び立ってしまった。

「ライト、寝すぎだよ!」
手に持っているうねうねした気持ち悪いモノを投げ捨てると、此方へ急降下して俺の鼻先でピタッと止まり、鼻を小さな指でツンッと突いてきた。

「…ったく」
鼻を押さえティエルを睨み付けた。
ティエルが変な行動を起こさなかったら、まだ夢の中だったはず…。
161夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:43:36 ID:PmV+e9zW
久しぶりに母の顔を見たのに…。

「ライト一日ぐっすり眠ってたんだよ?ライトが起きないから私達も仕方なくこの森に居なきゃいけないし…」

「森?あっ、あの銀髪は!?」
そうだ――確か俺は銀髪女性に背後から攻撃され気絶したんだった。
周りを見渡し、銀髪女性を探す。

「――おはよう―」

「うおッ!?」
背後から聞こえてくる声に身体が跳び跳ねた。
後ろを振り返り、体制を整えると、指先に当たった地面に落ちている剣を掴んだ。

銀髪女性が座り込んで此方に目を向けている。
近くには武器は無いようだ…いや、手になにか持っている……うねうねとした…。

「お前もかッ!?」

俺の反応を見た銀髪女性は手に持っている毛虫をポイッと捨てると“私は何も知りません”的な顔を作り俺から背けた。

「ふふ〜ん、ライトが気持ち良さそうに眠ってるから早く起こす為に仕方なくやったのよ?」

「それは――しかたない―」
ティエルが銀髪女性の肩に座り同意を求めると、銀髪女性もティエルに顔を向けコクッと頷いた。

「お前ら…」
まさかティエルと銀髪女性が手を組んで悪夢を見せていたなんて……とゆうかいつの間に仲良くなったんだ?
162夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:44:17 ID:PmV+e9zW
「あっ、ライト気がつきましたか?」
木々を掻き分け、草むらの中からハロルドが姿を現した。

「なんじゃ?シュエットに一撃食らわされてよく一日で目を覚ましたのう」
そのハロルドの後ろから白髪ヒゲの爺さんがヨタヨタと姿を現した。

「ハロルド…誰だこの老人は?てゆうか状況を把握したいから俺が気絶した後の事を話してくれ」
今の状況を寝起きの頭を使って自分一人で答えを導き出せるほど、頭の回転は早く無い。

「分かりました。まず、此方に居られるご老人はこの森に住むエルフの里の長老様です。名前は……え〜と…」

「シェダじゃ」

「シェダさんです。そして此方に居る銀髪の女性はエルフの里に住むシュエットさんです」

「――クー―」

「クー?」

「この森では梟の事をクートゥと呼ぶんじゃよ。梟に見守られ産まれた子…だからクーじゃ」

「あぁ、確かシュエットは梟の事だったっけ?だからクーか…」

銀髪女性の女性に目を向けると、何故か無表情でピースをされた。

クーと呼んで言いという意味として受け取っておこう。

「それで…俺が殴られた理由は?」

「あぁ、それは単純にティエルを隠したからみたいですよ?」
163夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:44:55 ID:PmV+e9zW
「それじゃ…」

「えぇ…頭を殴られただけでよかったですね」
俺が死ななかったのはただ運がよかっただけなのか…。



「―ティル――ティル――」

「私ティルじゃくてティエル!何度も言わせないでよ!」
二人してキャッキャッはしゃいでいる。

「てゆうか大丈夫なのか…?あの銀髪……クーとか言う子、滅茶苦茶強いぞ?」
意識が無くなる直前までクーが武器を片手に舞っていたのを覚えている。
あれは人間ができる動きでは無かった…。


「人間…?てゆうかあの女の子人間じゃないのか?」
聞き流したが、さっきエルフの里がどうたらって話が…。

「えぇ…この森に住むエルフらしいですね。我々がスケイプと呼ぶ存在です」

「そうか…だからあんなに強いのか…納得したよ」
少し痛む頭を擦り、クーに目を向けた。

あれがエルフ……。


これと言って驚きや感動は無かった。
人間に近い姿をしているからだろうか?

「スケイプなんて言葉は人間が勝手に作った言葉じゃよ…」
シェダが俺の横に腰を降ろしてきた。

「ワシらは人間の核戦争より遥か前の時代から生きておる…。本来我々エルフやそこを飛び回っている妖精などは人間の目には写らない存在じゃ」
164夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:45:25 ID:PmV+e9zW


「……」
確かにシェダが言うように妖精やエルフは人間の妄想だと言われ続けてきた。
人間の目に写るのは自分自身信じているモノだけ…それが人間の心理であり、絶対に越えられない壁でもあった。

人間の目に写るのは自分自身信じているモノだけ…それが人間の心理であり、絶対に越えられない壁でもあった。

「中にはワシらと話せる稀な人間も居ったがのう……それが人間が起こした核戦争のせいで、我々と禍者達が同じ生物だと認識されだした頃から、我々の姿が人間の目に写る様になってしまったんじゃ…」
400年前の核戦争で変わったのは何も人間や動物だけでは無かったのか…。

「我々はただ自然と静かに暮らしたかっただけなのに……20年前…此処にエルフ狩りだと人間達が押し寄せてきてのう……多くの仲間達が死に、数少ない仲間達は人間達に連れていかれたんじゃ」


「…」
なにも言葉にして返せなかった。
俺達人間がしでかした罪は計り知れないほど大きい……被害を受けた森の民はすべての人間が同じように写るはずだ。

俺だって昔はそうだったから…。


「妖精に免じてお前達は助けてやる…だから一刻も早くこの森から立ち去れ」
165夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:45:59 ID:PmV+e9zW

それだけを伝えると、俺の横から立ち上がりクーの元へと歩いていってしまった。

「ライト…」

「……早く、この森を抜けてバレンに行こう」
剣を杖にして立ち上がると、木に立て掛けてあるカバンを手に取った。
俺達人間がこの森に居ちゃいけないんだ…。

ただ、居るだけで森を汚している――。

「ティエル…早く行くぞ」
ティエルに声を掛け、歩きだす…しかし、ふと違和感を感じて立ち止まった。
違和感を感じる足に目を向けると自分が靴を履いていない事に気がついた。


「なぁ…俺の靴は?」

ハロルドに靴の有りかを聞くためハロルドに目を向けると、ハロルドが苦笑いしながら上へと指差した。

それにつられて目線を上にあげると、木に何かぶら下がってるのが見えた。
目を凝らしてよく見てみる…。

「俺の……靴か?」
木にぶら下がってるのは間違いなく俺の靴だ。

あんな事するのはティエルぐらいしか思い付かない。
ため息を吐き、ティエルに目を向ける。

「あれ、私がやったんじゃないわよ?クーが寝ているライトから脱がしてくくりつけたのよ」

「――」

「いや、ピースされても……悪いけど取ってくれるか?」



「――いや―」
166夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:47:33 ID:PmV+e9zW
完全なる拒否…プイッと顔を背けると地面に座り込み、拗ねたように草を引き抜きだした。

俺が癇に障る事を何かしたのだろうか?


「なぁ、ティエルからも頼んでくれないか?」
今一番親しんでるのはティエルだ。
ティエルから頼んでもらえればなんとかなるかも知れない。

「う〜ん…私から頼んでもいいけど…」
何故か口ごもる様にクーの方へと視線を向けた。

「ティエル…早くホーキンズ達を助けないといけないんだ」
そう…俺達の目標はバレンなのだ。
バレンを目の前にして足踏みをしている訳にはいかない。

「クー…友達が悪い人間達に捕まっちゃったのよ…だから靴返してもらっていい?」

「――」
返答は無い。
しかし、ティエルはそれを返事として受け取ったのだろう。
クーの背中に一度だけ「ごめんね」と謝ると俺の靴がぶら下がる木へと飛んでいった。

「多分…シュエットさんは嬉しかったんだと思いますよ」
荷物を背負い旅立つ準備を終えたハロルドが話しかけてきた。

「嬉しかった…?」
ハロルドに目を向けずクーの背中を見ながら返事を返す。

「仲間達が連れ去られて……ずっとこの森でシェダさんと二人で過ごしてきたそうですから」
167夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:48:25 ID:PmV+e9zW

「…」
この森で二人か…確かに広すぎるかも知れない。

「はい、ライト…」

「お、おう…ありがとう」
何処と無く元気の無いティエルから靴を受け取りそれを履く。

「ワシとクーが出口まで案内しよう…久しぶりの客人じゃ…短い時間じゃったが楽しかったぞ」

「あぁ…此方こそ勝手にあんたらの森立ち入ってすまなかった…」
シェダは俺の言葉には何も触れず、森の中を歩きだしてしまった…。
やはりエルフと人間は馴れ合うべき存在では無いのかも知れない。

後ろから少し離れ、クーもついてきた。
ティエルとお別れを言うためだろう…。

「ティエル……この場所に残りたかったら残っても…」
前を飛んでいるティエルに向かって、何故か口から思っても無い言葉が出た。


「ライト…怒るわよ…」

「……すまん…」
流石に言ってはいけない言葉だった…。
そのまま皆が無言のまま、森の出口へと到着した。


「シェダ…クー…もう一度謝る……本当に申し訳なかった…」
後ろを振り返り見送る二人に頭を下げた。

俺一人の謝罪などで、どうにかなるとは思っていない…だけどこの世界を変えたのも――平和に過ごしてきた者を追いやったのも我々人間が原因なのだ。
168夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:49:07 ID:PmV+e9zW
「もうよい…お前達が悪いとは思っとらん…」
それだけ言うと、また森の中へと戻るべく森へと歩いていった。




――その場にクーを残して。



「シュエット、どうしたんじゃ?」
一人だけで森に帰るつもりでは無かったようだ。シェダが此方に振り返り、クーの背中に話しかけた。





「――クーも―いく―」
クーの口から飛び出た言葉に一瞬時間が止まった気がした。

勿論俺達は驚いた――それ以上にシェダが驚いていた。


「だ、ダメじゃ!ダメじゃ!!」
よぼよぼの身体に鞭を打ち、此方に走り寄ってくるとクーの前へ立った。

「お前はアホか!?人間の世界に行くなんて許せる訳ないじゃろ!」
ひげを振り乱し、クーに向かって怒鳴るが、怒鳴られている当の本人は怒られてる意識があまり無いのか、俺の顔をジーッと見ている。

「俺達は今から仲間を助けに行くんだ…ただの旅ならいくらでも連れていってやれるけど……今は無理だ」
関係の無い者を巻き込む訳にはいかない…。
それだけを伝えると、シェダに再度頭を下げ、歩きだした。

「――クーも―」

「シュエット!お前はダメじゃ!」
シェダの言葉を無視して俺達の後をペタペタと追いかけてくる。
169夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:50:02 ID:PmV+e9zW

「ライト、どうしますか?」

「はぁ…どうするって…」
走って逃げれる相手でも無いし、力づくなんてまず無理だろう…。



「このッ、バカ孫が!」
そうクーへ怒鳴ると、クーに背中を向け俺達の方へと目を向けた。

てゆうか、クーはシェダの孫なのか…。

「お前達…とくにお前ッ!」
俺に指差し、睨み付けてきた。

「シュエットを…孫に手を出したら殺すからな!」

「いやっ、だから俺は連れていかないって…」
変な方向へ話が進みだした…。

「多分クーがついて来ても邪魔にならないわよ?それよりかなりの戦力になると思うわ」
満面の笑みを浮かべたティエルがクーの頭に乗ると、楽しそうにクーの髪で遊びだした。ティエルもクーについてきてほしいようだ…。

「クー――つよい―つよい―」
自信に満ち溢れた目を此方に向けてくると、ティエルが引っ張る髪の方向に合わせて、持っている武器で見えない敵と戦いだした。

これは…本当に連れていかなきゃいけない雰囲気なのか?
確かにかなりの戦力にはなってくれるはず…だけど……本当に俺達の私情に巻き込んでいいのか?
170夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:50:54 ID:PmV+e9zW

「心配せんでもクーは人間なんぞに殺されん…。孫として心配じゃが…お前達は他の人間達と少し違うようじゃしなぁ……まぁ、クーを任せたわい」

「いや、任せたわいって…そんな簡単に…」
もしクーに何かあったらどう顔向けすればいいのだろう…。
今から戦う相手を考えると、どうも悪い方へて考えてしまう。

「それにお前らが今から行くのは、この近くの城じゃろ?」

「えっ?あぁ…そうだけど?」

「エルフ狩りをしたのもその城の連中達じゃ。」

やっぱりバレンの人間達か……そんな事をするのはバレンぐらいしか思い付かない。

「あと、お前らが目指すバレン城にはもう誰一人としていないぞ?」

「はっ?」
シェダの言葉に思考がストップする。
バレン城に誰一人としていない?

「もう20年ぐらい前にあの城から新しい城へと移ったようじゃ…。」

シェダの言葉を聞いた俺はハロルドに目を向けた。
ハロルドも知らなかったらしく、ビックリしたようにシェダに再度聞き返していた。

「その新しい城ってどこだ?」

「詳しいことは分からんが……西大陸のホムステル港と言う港近くだそうじゃ」

「マジか…」
西大陸……軽く目眩がした…。
171夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:51:53 ID:PmV+e9zW
此処から船で2ヶ月ほど航海しなければ、たどり着けない大陸だ。
しかも大型ボルゾの巣が腐るほどある大海を抜けて…。

「ホーキンズ達はそっちの城に連れていかれたのか…」

「間違いなく、そうでしょうね…」
今から追いかけても、ホーキンズ達の船と差が縮まる事は無いだろう…。
だが、迷っている暇は無い。
ティーナや騎士団の皆にも迷惑を掛けてしまうが、ホーキンズを助けた後、ノクタールへ戻ったら雑用でも何でもしよう…。

「本当にクーを連れていって大丈夫なんだな?」

「あぁ…カワイイ孫には旅をさせろって言うしのう…ただ、一つ覚えておけ。
シュエットは将来ドングリになりたいそうじゃ…。お前はドングリと結婚する勇気はあるかの?」
将来ドングリってなんだ?
生き物ですらないだろ…

「よし、それじゃまず近くの港へ行って、また船に乗ろう。そして西大陸に向けて出発だ」
シェダの発言を無視し、港へと歩き出す。


「オッケー!船は嫌いだけど、ホーキンズ達を助ける為なら余裕よ!」

「私もホーキンズを助ける為なら…」

「――ホキンズ――だれ―?」

みんな?の目的はただ一つ、ホーキンズ達を助ける事だ。
そう、なんの濁りもない…。
172夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:52:26 ID:PmV+e9zW



「―ぺこぺこ――」

「本当ねぇ……ねぇ、ライト!お腹すいた!肉が食べたい!」

「にく?――ちっさいティルたん―ツン―ツンライトたんたたん―もじゃ―もじゃハロドうんたん―♪」

「きゃはははは!なにその歌〜」

「――みんな―の―うた――クーが―つくっ―た―」

「なんか…ピクニックみたいですねぇ…」

「……」

そう…濁りは無い……はず。




◆◇◆†◆◇◆



東大陸海門には、いろいろなモノが流れ着いてくる。
人間達が捨てたゴミ、大型ボルゾの死骸、嵐の影響で流されたであろう大木や民間の屋根なども流されてくる。

そんなモノは日常茶飯事なのだが、時には珍しいモノが流れ着く事があるのだ――。

「なんだよ、コレ……うぷッ!」
一人の団員が座り込み、海へと嘔吐する。
無理もない……こんな光景誰が見ても気が狂いそうになるだろう。
――海門に流れ着いたモノ――それは一隻の大きな帆船。
真っ白な帆に大きな骸骨の顔が描かれている。一目で海賊船だと理解した。

初めは海門を突破して東大陸に侵入してくるのかと思ったのだが、ゆっくりと流れる様に此方に向かってくる海賊船に人の気配がまったくしなかったのだ。
173夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:53:02 ID:PmV+e9zW

海賊同士の争いに敗れたか、皆が餓死して流れ着いたかのどちらかと考えていたのだが、海賊船に乗り込んで頭が真っ白になった。

――甲板の上に百人近くの首無し死体が転がっていたのだ。
切口を見てみると、どの死体もすべて一撃で切り落とされたように綺麗に神経が見えていた。
私は血に対して多少耐性があるので大丈夫だが、それでも目を背けてしまうほど現実離れしている…。



かなりの剣術の使い手……これが海賊対海賊なら、もう一隻の海賊船はかなり強い者達の集まりなのだろう…。


だが…。



「これ処刑されたって感じですけど…相手はどんな海賊なんですかね?」

「いや、これをやったのは海賊じゃないだろう……」

「え?」

「海賊の間には掟があってな……海賊同士の戦争では敵船皆殺しご法度なんだよ。敵船の負けが分かれば勝鬨をあげて、敵船から金銭を奪う。それで終わりだ」
そう、海賊同士の争いではここまでいかないはず。
最近では過激な海賊船が増えているようだが、掟は基本破らない。

それに斬られた首を見る限り、すべて同じ武器……しかも切口から察するに同人物が切り落としたと見て間違いないだろう。
174夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:54:03 ID:PmV+e9zW
そう考えると、海賊が戦意喪失するほど相手側の人数が多く、処刑されるしか選択肢が無かったか……個人で海賊船に乗り込んで皆殺しにしたかのどちらかだろう……。

個人で海賊船に乗り込んで、しかも敵だらけの海賊船で、百人近くの首を切り落とすなど考えにくいが、あのドラゴンの一件以来広く視野をもつようになった。
もしあのドラゴンの類いなら簡単に人間の首を跳ねるなど容易い…。

「ティーナ団長!」

「なんだ?」
青ざめた団員が船内から飛び出してきた。

「せ、船内に大量の首が…それにまだ死体も五十近くあります…」

「…そうか」
甲板にある死体の首はすべて船内にあるようだ。それに死体が五十体か……。

「分かった…沖まで船を牽引し、船ごと死体を燃やしてやれ…」
海賊は海と共にある……陸で火葬されるより船の上で火葬されたほうが本望だろう。

「はい、分かりました。」
数人の団員が、海賊船に大きなワイヤーを繋ぐと、ノクタール船に繋ぎ、沖へと牽引していった。

「もう、ノクタールへ戻りますか?」

「いや…帰るのは二時間後だ。」
それだけ団員に伝えると、海賊船を見送った後、ため息を吐き捨て、海門の見張り棟の屋上へと上がった。
175夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 20:54:50 ID:PmV+e9zW
別にサボっている訳では無い。

いや、騎士団の連中からすれば、サボっている事になるのかも知れない。

――最近、毎日の日課として見張り棟の屋上で二時間、ライトの帰りを待つようになってしまった。

海門を通る船を見ては、見張り棟の屋上から海門まで走り降り、船を調べる。
荷物を調べるフリをしてライトを探しているのだ。
一人一人の顔を調べて回る。
これも日課になってしまった…。

自分の部屋も払って、今はライトの家に住んでいる。
女々しいと罵倒されるかも知れないが、私の中にある何かが壊れてしまったのだ――。


剣術だけを伸ばし、今まで過ごしてきたが、それだけではダメだ…。
私が強くなっても意味が無い。
それどころかライトは私から放れていく…。

だから、料理を勉強している。
化粧だって不慣れではあるが人前に立てるほどにはできるようになったつもりだ。
服装だって気を使う様になった。

ライトが帰って来た時、前の私とは違う所を見せたい…。

それでライトが私を見てくれないのなら……考えたくはないが、後は泣きつくぐらいしか方法が思い付かない。


「私がライトに泣きつく…?ははっ……は…」
そんな事は考えられない。
176夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 21:02:14 ID:PmV+e9zW
しかし、ライトを目の前にして自分を保てるか分からない……いや、多分我慢できないだろう。


「はぁ……どうすれば正解なんだ…」

――私はライトを追いかけてはいけない…。そんなことは分かっている。



だけど…。




だけど、待つことも許されないのだろうか?

それすらも…許されないのだろうか……。



「んっ?……船…」
数キロ先に小さく船が見える…。
船を見る限り、海門を目指しているようだ。

ゆっくりと腰を上げ、冑を手に取る……。

「……」
冑を被り下に降りようとしたのだが、思い直してまた冑をテーブルに置き直した。

「うん…大丈夫だ…上手くできてる…」
壁に掛かってある鏡で顔を確認する。
今の私は軽くだが、練習程度に化粧をしている…。
あの船にライトが乗っているかも知れないのだ…。

――変化した私にライトは心揺れてくれるだろうか?

――それ以前にライトは化粧している私に気がつかないかも知れない…。


期待と不安に心を乱し、見張り棟を後にした。
177夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/09/26(日) 21:02:48 ID:PmV+e9zW
ありがとうございました、夢の国投下終了です。
178名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 21:44:43 ID:hKScEvHJ
>>177
新天地へって感じでGJ!
ティーナがいつ爆発するか期待w
179名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 22:06:45 ID:s0ngCpIJ
読んでないんだけど、これまだ続くの?
180名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 22:19:02 ID:p5PqF7oQ
>177
今後のエルフに期待できる…きっとかき乱してくれる…!
ティーナかわいいよティーナ
181名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 02:20:43 ID:zUBWF92+
健気に待つティーナ萌え
182名無しさん@ピンキー:2010/09/27(月) 17:55:34 ID:DZ5BW9m+
GJ
面白すぎてやばい
ティーナ可愛くなりすぎて俺もやばい
183名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 00:15:27 ID:7bwkPW+u
あの劇団の話はどうなったんだよぅ
184名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 00:50:43 ID:08Q/nZ0z
劇団ってティエルが捕まってた?



ライト達が船に乗り込みティエル救出。

船員二人に見つかり、一人に顔を見られる。

その二人がライトの家を調べて乗り込みライトを殺害しようと企むが、居合わせた神父を殺害し、家に火を放ち逃亡。

全焼したライトの家から神父の死体が見つかり、ライトが容疑者扱い。

倉庫に監禁されたライトを狙いバレンの二人組がライトを殺害しようとするが、ティーナに見つかり殺される。

翌朝、劇団船から団員二人が行方不明だと騎士団に報告するが、ティーナからこのご時世、人が二人行方不明になるぐらい当たり前だと突っぱねられ、ライト達に妖精が盗まれた事も、見せ物として商売していたことがバレるのを恐れて騎士団に言えず、泣く泣くバレンへ帰還。



劇団ってこの話しかな?
間違ってたら申し訳ないです。
185名無しさん@ピンキー:2010/09/28(火) 01:21:21 ID:7bwkPW+u
手間かけさせて申し訳ない、この流れで言ったらそうとられるよね
夢の国は夢の国で楽しませてもらってますがこの場合は「蜘蛛と蝶と良人と蟷螂」
の事でした。
その上今チェックしてみたらそんなに間隔空いてるわけでもなかった…
186名無しさん@ピンキー:2010/09/30(木) 00:47:31 ID:7j2NcrEG
保管庫更新乙です。
187名無しさん@ピンキー:2010/09/30(木) 13:29:49 ID:sXEmfkfY
投下乙です
188名無しさん@ピンキー:2010/10/01(金) 22:20:53 ID:LjqgYBMV
皆さん乙です。
189夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 16:54:08 ID:O+dsnauL
夢の国投下します。
190夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 16:55:41 ID:O+dsnauL


「クー、こっち見ろ!」

「―――プイッ―」
拗ねた様に小さくそう呟くと、頬を膨らましたクーは俺の声を無視して背中を向けてしまった。

「はぁ…」

参った…。

――今俺は船内の小部屋で、クーに人間社会の最低限常識を教えていた。
メノウに教えていたので人に教える事は自分でも慣れていると思っていた…いや、得意だとさえ思っていたのだが…。

「なぁ、クー…もうすぐホムステルに到着するんだ…だから少しでいいから俺の言うことを聞いてくれないか?」

「――クーきいてる――ライトの―はなし―きいてる―」
完璧に拗ねてしまったようだ…一切此方に顔を向けようとしない。

クーは話は真剣に聞いてくれるのだが、俺の話す常識はすべてクーの疑問に繋がるようなのだ。

「店に並んでいる食べ物を勝手に盗っちゃダメ。あれは売り物だから」そう幼児に話しかけるように教えると、「――なぜ―?」と返ってくる。
そうなると、お金がなにか…店とはなにか…そんな事から話さなければいけなくなるのだ…。
クーも一生懸命覚えようと頑張っているのだが、常に首を傾げている状態になってしまう。
それで、頭がこんがらがって投げ出す…。
191夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:00:02 ID:O+dsnauL
エルフの里近くの港から出港して、ずっとクーに勉強をさせてきたのだが…今日で五十日…。
もうすぐ西大陸のホムステル港に到着する。
五十日でクーに教えれた事は、たったの3つ。

一つ目、知らない人間についていったらダメ。

二つ目、町にある食べ物は勝手に盗っちゃダメ。

三つ目、人間に対して「ジュリアとマドリアーヌ」を向けたらダメ。
このジュリアとマドリアーヌと言うのはクーが持つ武器の名前らしい…。

ジュリアと言うのは長い槍のような武器の名前……ハロルドから聞いた話なのだが、薙刀という和の国の武器らしく、戦に使う武器では無いらしい。
(それでもクーが使うと、やたら強い武器に見える…使い手の問題という事だろう)

そしてもう一つの武器であるマドリアーヌ…それはクーの背中に掛かってある弓矢だ。

なんでも矢に梟の羽根がついているらしく、放った瞬間まったく音がきこえないそうだ。

一度、クーが矢を放つ瞬間を見せてもらったのだが、無音に近い音で…しかも矢ではありえない軌道を空中で描くと、対岸にある一本の木を的にしてくれた。

驚きよりも感動のほうが大きかったのを覚えている。
192夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:00:43 ID:O+dsnauL
とにかく、この最低限の3つだけは絶対に守るよう約束させた。

今のクーを見てそれを守ってくれるか、ものすごく心配なのだが…。





「うおッ!?」

「キャッ!なに!?」
突然、激しい音と共に、船が大きく揺れた。

慌てて皆と一緒に甲板へと出る。
すると数人の船員達が身体を船から乗り出して、下を覗きこんでいる姿が視界に入ってきた。

「申し訳ないですが、一度近くの港へ寄らせてもらいます。大型ボルゾが船に激突したみたいで」
慌ただしく、動き回る船員達を眺めていると、この船の船長らしき人物が歩み寄ってきた。

早くバレンへとたどり着きたいのだが、 今のはかなりの衝撃だった…どこか損傷したのだろう。
仕方なく、我々客を乗せたまま、近くの港へと船を進めた。

――港へと到着すると俺達客は皆港へと降ろされ船の復旧を待つことになった。
その間に、俺達は客の群れから離れて違う船を探して回ることにした。
何人かの船乗りに話しかけて聞いたのだが、この港へ来る船は三日に一度らしく、次来る船は二日後らしい…。
ホムステルは目の前なのに……。

「はぁ…こりゃあダメだな…船底イカれてらぁ…」
193夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:01:18 ID:O+dsnauL

ひげ面の船員が顔を黒くして船から降りてきた。
顔だけでは無い…服も手も炭で汚れている。
「……修理にはどれぐらいかかるよ?」
船長が吸っていた煙草を海へ投げ捨てると、船員へ歩み寄る。

「早くて一週間…遅くて二週間ぐらいか…」
船員が小声で状況を船長に伝えると、大きなため息を吐き、俺達が待つ場所へと歩み寄ってきた。

「申し訳ない…聞いての通り、船の船底に大きな穴が空いてしまって…修理に一週間以上かかってしまうんです……ですから四日後、別の船を用意しますのでそちらの船で移動させてもらいます」
それだけを伝えると、船員達が客達を宿へと誘導しだした。
渋々皆が船員達についていく…。


「どうしますか?」

「どうしますかって……四日も待ってられるかよ」
そう…ホムステルはもう目の前なのだ、こんな場所で立ち止まってることなんて絶対にできない。
194夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:02:32 ID:O+dsnauL

神様の嫌がらせか、目の前にしてまさかの足止めを食らってしまった…。
今俺達が居る場所はホムステルから数十キロ南下した場所にある小さな港町。
四日船を待てば、ホムステルに到着するのは五日後……かなりのタイムロスとなる。


「……森を抜けるか」
最短でホムステルに到着する方法はそれしかない。
それなりの危険を伴うが、到着が長引くにつれてホーキンズ達の危機度も上がるのだ。

「私達がいれば森なんて楽勝よ!ねっ、クー?」

「――クー―まけたこと―ない―つよい――つよ―い―」
フラフラしながら後をついてくるクー。
怪我を負っている訳では無い。
ただ、船酔いで気分が悪いのだ。
森に住む住人なので長時間、海の上は疲れるらしい。
航海をしてる最中、時折クーが姿を消す事があったのだが、どこにいってたんだ?と聞くと、ただ一言「――もり―はいってた―」

多分、岸近くを通る時、船から対岸に飛び移り森に入っていたと言うことだろう。

森に入り無傷で帰ってくる所を見ると、ボルゾごときではクーの相手は務まらないようだ。




「そうだな……分かった…森を抜けてホムステルを目指そう。ハロルドもそれでいいな?」
195夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:03:19 ID:O+dsnauL
「はい…少し怖いですが、多分大丈夫です」
ひきつった笑顔を浮かべ、震える手を俺に見えないよう隠した。
無理もない…普通の人間なら森に侵入するなんて、一生の人生の中で経験する事はまず無いのだ。
俺は騎士団で慣れているから問題は無いが、ティエルやクーのように、のほほんとした気持ちで森に足を踏み込めないのだろう。

「大丈夫だって…山道もちゃんとあるみたいだし、道を歩いてたら危険は少ないよ。それにクーや俺も居るんだ…大丈夫だって」
緊張をほぐす為に笑いながらハロルドの肩をくむ。
クーやティエルもハロルドに近寄り、励ましている。

「それじゃあ、行こうか」

「ライト――まえ―ダメ――わたしの―うしろ―みんな―クー――のあとに―ついて―きて―」

「私が隊長なんだから私が先頭に決まってるでしょ!?さぁ、いくわよ!」

「クーが―でかい―わたしが―まえ―ティル―ハロドの―ぽっけ―のなか―」
ギャーギャーと騒がしい声と共に森に続く道へと足を進めた。


◆◇◆†◆◇◆



「では、アルベルよ。ティーナ団長にもそのように伝えてくれ」

「はっ、承知致しました…」
国王陛下に頭を下げ、一室を後にする。
196夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:04:21 ID:O+dsnauL

――今私は陛下の命令により、陛下の元へと足を運んでいた。
ルディネ姫の事で何かあるのかと思ったのだが、まったく関係無かった。
いや、私も関係無かった…。
そう、騎士団団長を退いた私には…。


「ふぅ……これは…ヤバいな」
義手の中にある小さなプレートに目を向ける。

金色のプレートに文字が彫られている…。

最重要事項を国から他国へと届けられるモノなのだが…。
他国の王から我が国に宛てられた手紙と言えば分かりやすいだろうか…?

私や王に宛てたモノでは無く、ノクタール騎士団に宛てられたモノだ。

内容は、婚姻ノ儀の招待状…。




主は……。

「バレン国……ゾグニ帝王…か」
ゴールドプレートの裏に名前が彫られている。


他国の王から直接招待状…そんなこと聞いた事無いが、間違いなくこんな悪趣味なプレートを届けるのはあの国だ。
私も騎士団長になった時、バレンへの招待状としてこの金プレートを貰った。
金プレートだけで家が何件買えるだろうか?

当時、金プレートを売ってやろうという気持ちもあったのだが、王の命令もあり、仕方なく金プレートを持ってバレンに行く事に…。
197夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:05:01 ID:O+dsnauL

バレンにはいくつもの仕来たりがあり、ゾグニ帝王と面会できるまで三日掛かった覚えがある……バレン大国ゾグニ帝王と初めて対面して、感動…なんて事は無く、小太り髭面の暑苦しい見た目が印象的で、終止ゾグニ帝王から若干目を反らして会話をしていた。

ただ、一度見たら忘れられないほど強烈的な雰囲気を醸し出していた気がする。
一時、ルディネ姫がゾグニ帝王の元へと嫁ぐという話がでた事があるのだが、その時は流石に斬首覚悟で陛下に抗議した。

まだ十にもならない姫様を脂ぎったオッサンの元へなんて……今考えても寒気がする。

そのゾグニ帝王がなんでも婚姻ノ儀をするそうだ。
確かもう五十近いはず……何人目の妻なのだろうか?
一夫多妻も結構だが、良い年した中年が女漁りなど……西の大陸では妻が多い事が権力の象徴になるらしい。

「今度はティーナでも狙ってるのか?」
ティーナがあの男になびくとは到底思えないのが…。

「いや、今はそんなことどうでもいい…」
そう、一番の問題はティーナがバレンに招待されているということだ。
そう、バレンにはライトが居る…。
198夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:05:42 ID:O+dsnauL
ライトは、バレンで揉め事を起こすだろう…その時、もしティーナとライトが鉢合わせでもすれば…。
考えたくは無いが、今のティーナは、間違いなく目立つ行動を取る。
バレン領土内で他国の兵が剣を抜く事はご法度…争いの火種だけは絶対に作ってはいけないのだ。
しかし、この招待状をティーナに見せない訳にもいかない…陛下の命令もある。

「仕方ない……ティーナの元へと行くか…」
大きな不安を抱え、ティーナが居る訓練場へと向かう事にした。




――訓練場へと到着すると、訓練する団員に混じって剣術を教えているティーナを発見した。
見慣れた風景……私が立っていた場所にティーナが立っている…。

団長として違和感はまったくなく、数年前から団長だったんじゃないかと思わせるほど、団長らしく振る舞っていた。

「ティーナ、ちょっといいか?」
ティーナに近づき話しかける。
私が話しかける前から私の気配に気がついていたのだろう…私が訓練場に足を踏み入れた時からティーナは此方に目を向けていた。

私の存在に気がついた団員達も、皆剣を止め此方に膝まずいている。
1ヶ月前まではこんなことは無かったのだが…。
199夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:11:01 ID:O+dsnauL
やはりルディネ姫との婚約が決まった時から私と騎士団は対等に話せなくなってしまったようだ…。

「なにか御用ですか?今は訓練中なのですが」
剣を近くの団員に渡すと、此方に歩み寄ってくることもせず私に問いかけてきた。

ティーナだけは私が王位継承者になろうが、私に対する対応を変える事は無かったのだが、それは表面上のこと。

ティーナの目からは私に対しての拒絶がハッキリと感じ取れた。
私だけでは無い……ルディネ姫に対しても義務的な会話だけを心がけ接している。
前まではルディネ姫の雑談にも笑顔を見せ対応していたのだが……。

ティーナから一方的に完全なる上下関係を作られてしまったルディネ姫は、悲しい表情を浮かべる事が多くなり、ティーナに話しかける事も挨拶程度になってしまった。

「陛下からの命令でな…ティーナ率いる騎士団にコレが届いた」
プレートをティーナに手渡す。

プレートを受け取ったティーナは、プレートに彫られている文字を数秒見つめると、プレートの後ろを確認し、差出人名が彫られている所へと目を向けた。

「ゾグニ…?ゾグニって確か……バレン国の帝王…」
ティーナも知っていたようだ。
200夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:11:51 ID:O+dsnauL
「そうだ。そのゾグニ帝王からティーナに宛てられたプレートだ……なんでも婚姻ノ儀を催すそうだ。お前達騎士団がノクタール代表として招待されているってことだな」

「私がバレンに…ですか…」
プレートを見つめたまま動かない…何を考えているのだろうか?

やはりライトのことだろうか…。

「あぁ……婚姻の儀があるの八日後だ、だから明日の朝にノクタールを発て」

「八日後?ノクタールからバレンまで八日では無理ですよ?最低でも40日はかかります」
ティーナが金プレートから目を放し、私に呆れたように問いかけてきた。
確かに船を使ってノクタールからバレンまでとなると長い航海になる。
しかし交通手段はなにも船だけでは無いのだ。


「その辺は問題無いよ。バレンから迎えが来るから」

「?…そうですか。分かりました…それでは訓練に戻りますので」
私の話に少し首を傾げたが、興味が失せたように私に背を向けて、歩きだした。


「ティーナ!」

「……」
ティーナが私の呼びかけに足を止める。


「ルディネともう少し話してやってくれないか?お前も分かっていると思うが、あの子は友達と言える人間はお前ぐらいしかいないんだ。だから頼む…」
201夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:13:29 ID:O+dsnauL
ティーナの背中へ深く頭を下げた。

私情になるが、ルディネ姫の悲しい顔を見続けるのはやはり滅入ってしまうのだ。それにギクシャクした関係のままと言うのも国としてあまり良く無いだろう。


「…訓練がありますので、失礼します」
私の気持ちとは裏腹に、突き放すように私へ言い放つと、此方に振り返る事もせず団員の指導へと戻っていった。

やはり終止拒絶の意を緩める事は無かったか……。


これ以上私がこの場所に居ても邪魔になるだけだろう……仕方なく、訓練場を離れる事にした。




◆◇◆†◆◇◆


「はぁ…」
――鎧を脱ぎ捨て、ベッドに倒れ込む。
毎日行われる三時間の訓練を終え、今帰宅したのだが、いつもの解放感は無く、私の頭は悩まされていた。
私が悩む理由はただ一つ…ライトの事なのだが…。

先ほどアルベル将軍に渡されたプレートに目を向けてみる。

「バレンから我々騎士団に招待状…か…」

そう…ライトが居るであろうバレンから私達宛てにプレートが送られてきたのだ。

これはノクタール騎士団として行かなければいけない……だけど、ライトに会った時、ライトを追いかけて来たと勘違いされないだろうか?
202夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:15:57 ID:O+dsnauL
もしその勘違いでライトを怒らせ、私とライトの間に修復できない亀裂ができれば…。

「嫌……だけど王からの命令…」
そう…王からの命令は絶対だ。
ただ、バレンに行ってライトに会った時、私はどうすればいいのだろうか?

騎士団の団長として接すればいいのか?

幼なじみとして接すればいいのか?

――女として接していいのだろうか。


ライトのベッドに顔を埋めて目を瞑る。
ライト匂いが薄くなってきている…。
あれだけ濃くライトの匂いが染み付いていたのに…今では私の匂いのほうが強くなっているぐらいだ。

本来なら家に帰ってきたら真っ先に汗をかいた身体を洗うのだが、今はその時間も勿体無い。


「ライト…ライト…すぅ〜…はぁー…」
ライトの枕に鼻を押し付け、自らの指を陰部へと滑り込ませた。


「あっ、ライト…そこ…」
湿った音が部屋中に響く…。
微かに残るライトの枕の匂いを嗅ぎ、頭でライトを思い浮かべる。

最後にライトに触れられたのはもう何ヶ月前になるだろうか?
私の心だけでは無く、身体を満たしてくれていたのに…私がライトを満たしていると勘違いしていた。

「はぁ、ライト、ライト…ハァ、あぁッ、ライトっ!」
203夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:16:50 ID:O+dsnauL
徐々に動かす指を早め、気持ちを高ぶらせていく。
ライトの枕に舌を這わせて、もう片方の手をライトの手だと頭で想像し、胸を強く揉む。
股からは粘りのある液体が止めどなく溢れ、私の指の動きと合わせて、イヤらしい音を発している。

「あッぁ、んーッ…ん…ッ!」
枕に歯を立てて一際激しく指を中へと侵入させると、身体に電気を流されたように全身が痺れ、絶頂を迎えた。

漏らした様にベッド一面生暖かいモノが広がっていく…。

「はぁ…はぁ…」
ゆっくりと指を引き抜き、息を整えると、そのまま掛布団にくるまり目を瞑った。





――じゃあな、ティーナ。






「うぅッ…ライト…グスッ……会いたい…ッ会いたいよぉ…ライト」
あれだけ火照っていた身体も今では氷を流し込まれた様に冷たくなっていた。


「な、なんで?なんでライトは私から離れようとするの?…ねぇ…ヒッ…うぇ、わだ、し悪いごとしだッ、の?謝るがら…謝るからぁ…」

――溢れ出る涙は悲しみの涙?
分からない…だけど、一つだけ自分自身でも分かる事がある…それは…。





「もう……追いかけるのも…待つのも…疲れたよ……」

私の心は酷く壊れている――。
204夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:17:45 ID:O+dsnauL


◆◇◆†◆◇◆


――ホムステル港。
西大陸最大の港町でバレン城の城下町になっているそうだ。

人口はやく八百万人。

かなり大きな町のようだ。
そのホムステルの町に俺達は森を抜けてたどり着いたのだが、一日もかからずたどり着いてしまった。

山道を歩いていてもボルゾに遭遇する事が無かったので、ボルゾがいないのかと思ったのだが、ボルゾの鳴き声はしっかりと聞こえていた。

夜になり、危険性も上がるはずだったのだが、夜中もボルゾに遭遇することなく今朝、ホムステルへと到着したのだ。

理由は前を意気揚々と歩いているクーの存在。
なんでもクーが居ると大抵のボルゾは近づいてこないそうだ。


それを早く教えといて欲しかったのだが…ビクビクしながら歩く夜道の山道は心臓に悪かった…特にハロルドは俺の服を掴んで放さなかったので、かなり怖かったのだと思う。

まぁ、男に服を掴まれるのも生理的に嫌だったのだが、流石に放せとは言えなかった。



「大きな町ですねぇ…コンスタンと同じぐらいでしょうか?」
ハロルドは港へたどり着いて安心したのか、いつものハロルドに戻っていた。
205夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:20:56 ID:O+dsnauL
ティエルはと言うと、この町には何度も来たことがあるらしく、ティエルが住む“忘る森”もこの近くだそうだ。
それならなぜ妖精の森でシェダがホムステルの名をだした時、聞いたことがないと言った感じで一緒に首を傾げていたのかと問いかけると、「町の名前なんか一々覚えてられるか!」だそうだ…。

とにかくやっと目的地であるホムステルへと到着したのだが…これからどうすればいいのだろうか?

まず、情報を聞き出せる場所を探さないと…。

「それにしても賑やかですねぇ…いつもこんな感じなんでしょうか?」
ハロルドが周りを見渡し呟いた。
確かに、ハロルドが言うように港には人がごった返していた。

港でこれなら町中も人で溢れかえっているのだろう…。


「いつもはこんなんじゃないわよ?なにかあるんじゃないの」

「そうなのか?じゃあなにか催し物があるんだな…」
多分国の生誕祭とかだろう…しかし、こうも人でごった返していると何処を歩いているのかさえわからなくなる。

絶対にはぐれない様にしなければ…




「……って、クーは?」

「え……あれ?」

周りを見渡しクーを探すが、人混みで探せる状態ではない。
206夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:22:26 ID:O+dsnauL
「敵陣にて早々一人迷子ですか……手分けして探しますか?」
探さない訳にもいかないだろう……

「そうだな…ティエルは空から…俺は町中…ハロルドは港を探してくれ。それじゃ、見つけたらこの時計台に集合な」
ティエルとホーキンズと別れてクーを探すため、町中へと足を進めた。


◆◇◆†◆◇◆


「――?」

「な、なんだねキミは?」

「――ハロド?――かお―かわっ―た―?」

「し、知らないよキミなんて!放してくれないか!」

「――?」
おかしい。
クーはハロドの後を追いかけてきた。
なのに知らない顔に変わっていた。

「おか―しい――」
白い服…ハロド…白い服…。

「―みつ―けた―」

「きゃっ、なにするのよ!?」

「―ハロド―ちが―う――」

また違った。


「―にんげん―いっぱい――」
分からない…ハロドもライトも…どれがハロドかライトか…分からない。


「もしか―して―――まい―ご―?」




――ハロドとライトとティルが迷子?


「クーが――みつ―ける―」




「おいっ、そこのおまえ!」
207夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:23:09 ID:O+dsnauL
変な人間が話しかけてきた。

なんか…ごちゃごちゃしてる…。

「――クー?」

「そうだ、お前だ!なんだその武器は!?ホムステルに武器を持ち込む事は固く禁じられているだろ!」

「――――クー?」

「だから、お前だと言っているだろ!」

「ぶ―き――ジュリアさん―?」

ジュリアさんを人間に向ける。

「貴様ッ!反抗する気か!」

「――?」
人間うるさい…早くみんな探す――。

「まて、逃がさんぞ!」

「――クーにげない――ともだ―ち―さがし―て―ます―」

「逃がさん!」
人間がクーの腕を掴んでる…。

「――いたい―はな―して―」

「まだ抵抗するか!」

「クー――みんなと―やくそく―した―」

「はぁ?」

「にんげんに――ジュリアさん―つかっちゃ―だめ――だから―はなし―て―」
みんなと約束した…だから人間に攻撃しない…。


「さっさと来い!」

「や――いや―いや―ッ―」


「貴様ッ!腕を切り落とされたいのyガハッ!?」

「――?」
人間飛んだ…。

「クーさっさと来い!」
またクーの手掴まれた…今度は誰?

「はぁ、はぁ、大丈夫か?」

「――ライト?」
見つけた…ライト見つけた。
208夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:24:16 ID:O+dsnauL

「――ライト――かってに―あるいちゃ――めっ―」

「はぁ?ったく…それじゃ早く戻るっ、てなにすんだ!?」
ライト迷子になる…探すのめんどくさい…だから抱っこする。

「恥ずかしいから放せ!」
ライトが飛び降りた。

「――はず―かしい―?」
恥ずかしい?
恥ずかしいってなに?

「早く行くぞ!」

「―わかっ―た―」
よく分からない。
だけど、ライトの顔覚えられなかった…だから匂いで覚える。

「ライト―つか―まえた―」

「ひょっ!?今度はなんだ!」
ライトの頭の匂い嗅ぐ。
……複雑な匂いする。


「やめろって!先に行くからな!」

「だめ――クーのうしろに―ついて―きて――また、まいごに―なる―」
ライトの匂い覚えた。
後でハロドの匂いも嗅ぐ…。

それにティルも……味見する…。



これで、間違えない。
209 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/03(日) 17:25:24 ID:O+dsnauL
ありがとうございました、投下終了します。
保管庫更新乙です。
210名無しさん@ピンキー:2010/10/03(日) 18:34:29 ID:jC7hkcwL
おおおGJ!

ライトのばかっ
211名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 00:53:09 ID:bi+C2J30
ティーナがどんどん依存してってるな
面白かったですGJ
212名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 01:31:58 ID:cyF1HrNl
クーが良い感じでほのぼの、ティーナは女の子でライト寂しい状態
つまりGJ!だということだ
213名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 18:10:36 ID:ZW0ERfvg
クー対ティーナある?
214名無しさん@ピンキー:2010/10/04(月) 18:39:37 ID:NuK8XsgR
GJ!
ティーナの依存っぷりが素晴らしいな
215名無しさん@ピンキー:2010/10/05(火) 23:57:21 ID:+k3StDiX
保管庫見てる人は増えてきたのに、書き手増えないな…。
216名無しさん@ピンキー:2010/10/06(水) 01:23:01 ID:g9IkFe3n
ティーナ可愛いすぎんだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!GJ!
217名無しさん@ピンキー:2010/10/06(水) 23:12:00 ID:NhYvu/LA
投下GJ!
218夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 01:54:40 ID:mFNXIlps
夢の国投下します。
219夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 01:55:25 ID:mFNXIlps
幼少の頃、教会裏の花畑から小さく見えるノクタール城を見て、いつかノクタールに行ってみたいとずっと思っていた。

いや、ノクタールに限らず見知らぬ土地なら何処へでもいいから行ってみたかった…。
しかし、一人での生き方を知らない子供の私は、自分自身の足で移動できる距離はユードの町中と制限されており、この丘から空を飛んで渡り鳥の様に見知らぬ土地へと行けたら……そんなおとぎ話のような考えを常に頭で考えていたのだ。
いや、夢見ていたと言ったほうが可愛いげがあるだろうか?

しかし、そんな夢のような妄想も歳を取るごとに色褪せ、現実をイヤというほど叩きつけられた私は空を飛ぶことを自然と諦めていた。
それが、大人になると言うことだと気づかされたのは、やはりノクタールに来た当初だろうか…。
だが、ノクタールへ来なかったら今でもあの小さな町で過ごしていたと考えると、私の判断は正しかったと言えるだろう。
ノクタールへ来てから多くのモノを手に入れた…それと同時に多くのモノを失った。

空を自由に羽ばたく鳥を見ても何も思わなくなった。
鳥は空を飛ぶ生き物…人間は地面を歩く生き物。
そう、諦めか達観か分からない感情を持っていたのだが…。
220夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 01:56:34 ID:mFNXIlps

――私の目の前を鴎が楽しそうに列なって飛んでいる。
ある日、突然私の背中に白い羽根が生えたとかそんな乙女チックなモノでは無いのだが、私は間違いなく鳥と同じ目線で地平線を見渡していた。

「どうですか?私達の国の技術は?」
浅黒い肌の男性が、私の横へ歩み寄ってきた。
浅黒い肌に神父が着ている“アルバ”と言われる真っ白な衣装を身に纏っている。
一目見てバレンの人間だと分かった。

西大陸の人間は皆、浅黒い肌をしており、バレンの人間の八割が黒色人種となっている。

「そうですね、空を飛ぶ日がくるなんて夢にも思わなかったです。」

「ははっ、そうですか。ノクタール騎士団長様にそう言って戴けると技術者達も喜びます」
礼儀正しく、爪先を揃えて、深々と頭を下げた。
私も同じように頭を下げる。

バレンの技術…それは私が今乗っている、乗り物の事。
どういう原理で動いているのかまったく分からないが、船が空を飛んでいるのだ。

まさに、飛行船…。

この飛行船がノクタールへ来た時は皆が慌てふためき、田舎者のような反応を見せていた。
技術面ではバレンの方が一歩も二歩も進んでいるということだろう。
221夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 01:57:46 ID:mFNXIlps
なんでも、大昔の技術を忠実に再現して作ったそうだが……数百年前まではこんなモノが空を飛び回っていたのかと思うと、近未来にも多少希望が湧くというものだ。

「もうすぐバレンに到着しますので、準備をお願いします」

「はい、分かりました」
再度お互い一礼すると、アルバ姿の男性は船内へと入っていった。
男性を見送り終え、船から下を覗き込んでみる。
数百メートル下にはバレンの大都市が広がっている。

「ここにライトが居るのか…」
ライトがノクタールからいなくなって2ヶ月経っているので、もうライトもバレンに到着しているはずだ。


しかし、この大都市でどうやってライトを探せばいいのか…探して回る時間は限られている。
建前上、私はこの国にライトを探しに来た訳では無いのだ。
ゾグニ帝王との面会が終わり、翌日には婚姻ノ儀が執り行われるそうだ。
二日間の婚姻ノ儀を終えると、我々ノクタール騎士団はすぐ国へと帰らなければならない。
ノクタールの盾である、我々が長い時間留守にする訳にはいかないのだ。

そうなると、ライトを探すのは今日かバレンを離れる昼までの二回となる…。

「はぁ、ライト…」
腰にある剣をギュッと握りしめる。
222夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 01:58:57 ID:mFNXIlps
今、私が持っているのはライトが使っていた剣だ。
使い込まれていないのか、手入れが行き届いているのか、サビや傷は無い。

寝るときも、この剣を抱き締めて寝ているのだが、やはりライトの代わりにはならないようだ。

弱い…本当に弱い…。


私がこうなったのも全部ライトが…


「なにを考えてるんだ私は…」
頭に浮かんだ悪念を振り払い、街から目を背けた。




――「よう、団長さん」
アルバ姿の男性とすれ違いに船内から出てきたのは、やはり西大陸特有の浅黒い肌の人間。肩部分に鷹が彫られているので、バレン聖騎士団の騎士のようだ。
着用している鎧は身軽なレザーアーマー…血を吸ったような赤い鎧を身に纏っている。

ボルゾの革を使っているのだろうか?かなり珍しい鎧だ。



「あんた、えらく強いんだってな?」
馴れ馴れしく私へ話しかけてくると、先ほどのアルバ姿の男性同様、私の隣へと歩み寄ってきた。

「いえ…」
相手の対応に合わせて、礼儀も適当に返事を返す。

「謙遜すんなよ。あの、アルベル将軍倒したんだろ?」
向こうも私の返答に気分を害する事は無かったようで、気にした様子は見せず、私の顔を見ながら薄ら笑いを浮かべている。
223夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:01:43 ID:mFNXIlps

「アルベル将軍を倒したのは事実ですが、剣術に関しては将軍の方が上です。ただ、私の方が“本気”だっただけです」
“必死”だったと言ったほうが的を獲ているかも知れない…。
実際ライトに教えてもらうまでアルベル将軍に勝った事も知らなかった。


「“本気”だったねぇ?女が本気を出す理由はかなり限られてくるけど……あんたぁ…」
見透かしたようにニヤニヤとした表情を浮かべている。
短い黒髪に整った顔はかなりの美形、さぞかしモテるだろう。私も男なら見とれる事もあるだろうが、私は男では無い。それに、同性騎士として多少親近感が湧く事はあっても、この騎士とは性格上私と合わない気がする。
先ほどから私の神経を逆撫でするように挑発してるのが見え見えなのだ。

「べつに理由は無いですよ?ただ、純粋にアルベル将軍と対決したいと思ったから剣を向けました。それでは準備がありますので、失礼します」
それだけを伝えると、無駄な話を切り上げ、船内へと歩きだした。

――「くくっ、綺麗な顔してるクセにやたら気が強いんだな?女には興味ないけどあんたには不思議と興味が湧いてきたよ。今、俺が斬りかかればアンタの首は簡単に落とせるぜ?やってみようか?」
224夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:03:34 ID:mFNXIlps

――剣を抜く音がする。

「どうぞ、ご自由に。しかし、斬りかかってくれば私も剣を抜きますよ?私は敵に対しては“手加減”なんて言葉を知りませんから」

「上等だよ…」
騎士から殺気を放たれた瞬間、背中越しに感じていた騎士の気配が一瞬で私の後ろへ近づいた。
咄嗟に、後ろへ振り返る。



――「遅い…一度、死んだぜ?団長さんよぉ」
赤い騎士が持つ剣が私の喉スレスレに止まっていた。
普通の人間なら何をされたか分からないほど早かった…。






「ふふっ…」
そう――普通の人間なら。

「なにが、おかしい…」
勘に触ったのか、苛立ったように眉間にシワを寄せた。

「貴女はバレンでは強いほうなのですか?」

「はぁ?いきなりなんだよ。まぁ、聖騎士団の中では俺が一番かもな…」
私の質問にまたも眉間にシワを寄せたが、素直に私の質問に返答した。

「そうか…ならバレンもたいした事は無いな」
それだけ言い捨てると、赤い騎士の剣を手で掴み、横へとずらした。

「あっ?なら、剣抜けよ。どっちが強いか確かめようぜ」
再度、私に剣を向ける。
周りのバレンの人間も止めようとしない所を見ると、この赤い騎士と私を戦わせたいようだ。
225夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:07:19 ID:mFNXIlps
私に勝って名を挙げて多少なりと優位に立ちたいのだろう。

「ふぅ…めんどくさい黒猿だな。ちゃんと教育を受けなかったのか?」
腰から剣を引き抜き片手で構える。

「おまえは人をイラつかせるのが上手いんだな?今、ものすごくイラついてるよ……」
両手で剣を握りしめると、私の懐へ潜り込もうと体制を低くして突っ込んできた。
今度は間違いなく、殺しに来ている。
私もその方がやり易い。
片手で掴んでいる剣を潜り込んでくる赤い騎士へ振り下ろすと、スレスレで横へ飛んで回避し、横から斬りかかってくる。
それを剣で受け止め、後ろへ突き飛ばす。

「おらっ、死ね!」

「……」
同じような攻撃をかわしては、弾き返す。それを何度か繰り返していると、私の異変に気がついたのか、赤い騎士は剣を下ろし私を睨み付けた。

「てめぇ…ふざけてんのか!」
剣をだらしなく下げたまま、ツカツカと私に歩み寄ってきた。



「……お前は素人か?」
剣を逆刃に持ちかえて、近づいてくる赤い騎士の胴へと勢いよく剣を叩きつけた

「がはぁッ!?」
ドスッという鈍い音と共に赤い騎士はその場へと倒れ込む。
無防備に近づいてきてくれたので的確に鳩尾を狙う事ができた。
226夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:08:41 ID:mFNXIlps

「赤い騎士殿……私が本気なら貴女は一度、死んでますよ?」
赤い騎士を見下ろし、おうむ返しの様に吐き捨てる。
赤い騎士は間違いなく強い部類に入る騎士だろう…バレンで一番強いと言うのも頷ける。

だが……あまりにも経験値が少なすぎる。
戦に出た事がないのだろう…ライトと戦っているようだった。

「おまえぇッ、殺してやるからなぁ!」
まだ立ち上がる事ができないようだ。
地面に横たわり腹部を片手で押さえ、剣を握りしめて私を睨み付けている。

「いつでもいいですよ?これで私に勝てないと分かったのなら次から不意打ちでも構いません。出来る限り手加減してお相手しますので」
剣を鞘に戻すと、赤い騎士の前から踵を返し、船内へと戻った。




◆◇◆†◆◇◆

「おっ、もう戻ってきてんな」
――クーを捕獲し、ホムステル港の時計台前に到着すると、すでにティエルとハロルドは戻ってきていた。

「コラー!勝手に離れちゃダメだって言ったでしょ!」
ティエルがクーの鼻先へ詰め寄る。

「――クー―おこった―かお―きら―い―――プイッ――」
そう呟くと、怒ったようにティエルからと顔を背けた。
227夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:11:13 ID:mFNXIlps
自分が迷子になったという自覚が無いらしい。

「あ、あんたねぇ!」

「まぁ、もう見つかったからいいじゃねーか」
クーの態度に怒るティエルの羽を掴み、ハロルドの肩にティエルを乗せる。
私を雑に扱うな!と怒りの矛先を俺に向けてきたが、それを軽くあしらい、これからどうするか話を進めた。

「クーを探し回ってる時、確か町中に酒場があったな…あそこならなにか情報があるかも知れない」
酒瓶の画が描かれた看板が立てられていたので、多分酒場だろう。

「それじゃ、酒場の方へ足を運びましょうか。あっ、それと先ほど聞いたんですが、この騒ぎはなんでもバレンの国王であるゾグニ帝王が御婚約されたので、その催し物があるそうです」

「ゾグニ帝王?」

「知りませんか?バレン国の国王で西大陸全土を統べる、神だそうですよ。なんでも二十年で西大陸を我が領土にしたとか……まぁ、僕も今聞いたばかりなんですけどね」

「二十年前って…そのゾグニ帝王って歳いくつだ…?」

「さぁ…多分五十前後じゃないですか?今回のゾグニ帝王の相手は第六夫人になられるそうです」
第六夫人…すでに妻が五人もいるのか。
228夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:12:18 ID:mFNXIlps
「ふ〜ん、んじゃ結婚する度、他国から人を呼び寄せてはパーティーしてんのか?」

「それは違うみたいです。なんでも今回は特別みたいで、御結婚する相手もかなり位の高い人だと聞きました」
だからこんなに人が集まってきているのか…。



「あっ――クー―みんな―いいもの―あげ―る―」
なにかを思い出したように突然クーが自分自身の胸元に手を突っ込みだした。
唖然としながらクーを見ていると、胸元から曲がった木が四つ出てきた。
3つは同じ大きさなのだが、もう一つは人差し指ほどの大きさしかない。

「これ、なんだ?」

「これ?――これ―は――き―」

「いや、木は見たらわかるよ…だからなんだこれ?」

「これは……ブーメランですか?」
ハロルドがクーから受け取った木を眺めながら懐かしそうに呟いた。

「ブーメラン?」

「えぇ…元々は狩りなどに使われていたモノなんですけど、子供の頃よくこれで遊びましたよ…」
ブーメランか…狩りに使うというぐらいだから、気絶されるほどの殺傷能力はあるのだろうか?

「武器になるのかコレ?」
見た感じ子供の遊び道具にしか見えないのだが…。
229夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:13:32 ID:mFNXIlps
「さぁ……多分使う人によれば…私も遊び程度にしか使った事がないので」

「そうか…てゆうか使い方、俺知らないんだけど」
ブーメランを軽く振って、人を殴る仕草をしてみる。
これで殴れば多少ダメージを与えられるかも知れないが…それなら剣で斬った方が楽だろう。

「ムフー、―――クーの―みて―て―」
自信満々に鼻息を吹き、胸を張って海の方へと歩きだした。
ブーメランの使い方を教えてくれるのだろうか?
クーに貰ったブーメランを片手に俺達もクーの後を追う。
港の端へと到着すると、 クーがブーメランを片手で掴み素振りをしだした。
やはり殴るモノなのだろうか?

「――それじゃ――いき―ます―」
此方へ頭をペコッと下げると、再度海の向き直り、勢いよくブーメランを放り投げた。

「おぉ!」
ブーメランはクルクルと回り、勢いを増しながら飛んでいく。

――そのまま、真っ直ぐ飛んでいくと、何事もなく海の中へと沈んでいった。

「へぇ〜、投げるモノなんか……んっ?」

「――?」
クーが横を向いて首を傾げている。

「どうしたんだ?」

「―クーの―ぶーめ―らん―は?」

「は?いや、海に落ちたじゃねーか」
230夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:15:30 ID:mFNXIlps

「―?――?――?!」
オロオロと周りを見渡し、なにかを探している。
先ほど投げたブーメランを探しているのだろうか?

「いや、だから海の中へ落ちたって…」
再度ブーメランが落ちた海へ指差しクーのブーメランの在処を教えてやる。

「?――?!――グスッ――うぅ―」
俺の言葉を聞いた瞬間、目に涙を浮かべプルプルと震えだした。

「お、おい、クーどうしたんだ?(ヤバイ、泣きそうだ!)」
プルプル震えるのは、かなり高い確率で、大泣きする前兆……メノウは大泣きする時、決まってプルプル震えていたのだ。
そう考えるとクーも泣き出す可能性がある。

こんな場所で泣かれたら人の目につく。
何故、クーが泣きそうなのか分からないが、なんとかしなければ。


「ブーメランというのはですね…投げたら自分の手元に戻ってくるんですよ。まぁ、戻ってこないブーメランもありますけどね」
ハロルドのなんでも辞書からブーメラン知識を教えられやっと状況が把握できた。
簡単な話、クーが投げたブーメランは本来クーの手の中へと戻ってくる予定だったのか…。
しかし、反抗期を迎えたブーメランは海の中へと姿を消し、二度とクーの手の中には戻ってこなかったと…。
231夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:17:16 ID:mFNXIlps
「クー、俺のをやるよ」
泣き出す寸前のクーの目の前にブーメランを差し出す。

「でも―これはクーが―ライトに―あげたもの―」
涙目上目遣いならぬ、見下ろし涙目を俺に向けている。

「いいよ、また作ってくれたら」
それに、このブーメランを使う事は俺にはなさそうだ。
飛び道具なら鞄の中にボーガンが入っている。

――クーは俺のブーメランをオズオズと言った感じで受けとると、自分自身が作ったにも関わらず「ライトに―もら―た―」と自慢気にティエルに見せびらかしだした。


「あっ――クーも―ライトに―おかえし―」
そう言うと、胸に輝いている青い石が入ったネックレスを差し出してきた。
お返しと言われても俺から何もクーに対してあげてないのだが…。

「なんだ、これ?」
ネックレスを目の前にかざして見つめてみる。
青い石の中で、なにか揺らいでいる…霊魂のような白い煙がゆらゆらと…。

「それは――クーの―――たから―もの―」

「宝物なら、大切なモノなんじゃないのか?俺なんかにくれていいのか?」

「いい――それは―ライトを――守って―くれ―る―」
確かに……先ほどのブーメランよりは不思議な力を感じる石ではある。
232夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:18:33 ID:mFNXIlps
「―だけど――」

「ん?」

「ぜっ―たいに――こわしちゃ―だめ―」
クーの顔色が変わった…。
壊したらダメ?この石を割ったらダメと言うことか…。

「壊したらどうなるんだ?」
もしかして、エルフの大群が襲いかかってくるとか…。
生唾をゴクッと飲み込みクーへ聞き返した。





「――?――クー?」

「いや、クーだよクー」
首を傾げ、私に聞いてるの?と自分の顔を指差すクー。

俺とクーが会話をしてるのだから会話の流れからしてクーからの返答待ちだと分からないのだろうか。

「クーは――しらない――シェダから―もらった―」

「そうか…まぁ、壊さなきゃいいんだな?」
俺の返答に無言でコクッと頷くと、会話をやめてハロルドの髪で遊びだした。

はぁ〜、とため息を吐き捨て再度青い石に目を向ける。

こんな石初めて見た。
なにか特殊な原石なのだろうか?
クーは俺を守ってくれる石だと言っていたが…。


「よし、それじゃ酒場へと向かおうか」
クーから貰ったネックレスを首に掛けると酒場へと足を進めた。
233夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:20:45 ID:mFNXIlps


◆◇◆†◆◇◆


「ふっ……懐かしいモノだな…」
近くに落ちてある木刀を手に取り、軽く振ってみる。
多少痛みはあるが、ライトから貰った秘薬のお陰で義手が馴染んできたようだ。
腕を無くして二ヶ月と十五日。本来なら義手を装着する時、かなりの痛みを伴うそうなのだが、旅立つ際にライトから貰った二つの小瓶のお陰で普通の生活ができる程に回復していた。
なんでも、高い治癒力がある薬らしく治りも早まるそうだ。
実際2ヶ月で傷は完璧に塞がってくれた。


「ア、アルベル様…?何をされてるんですか!?」
場内からルディネ姫が飛び出してきた。
荒い息を吐き、私を睨んでいる。

「いや、久しぶりに身体を動かそうと思ってね」
周りを見渡してみる。

私は今、訓練場まで足を運んでいるのだが、風景はまったく変わっていないようだ。
とは言え、先ほど懐かしいと口に出てしまったが三ヶ月前までは私もここで皆と剣を交えながら訓練に励んでいたのだ。

たったの三ヶ月……その三ヶ月で懐かしいと想わせるほど、私の意思を置き去りにして話は進んでいくのだ。
肩を並べて笑いあっていた仲間達が方膝を地面につけ、頭を下げる…。
正直うんざりしていた。
234夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:23:50 ID:mFNXIlps
「ダメです!アルベル様はもう剣を握らなくてもよいのですから!」
私の手から木刀をもぎ取ると、木刀を投げ捨て、私の手を掴んで城内へと歩きだした。

剣を握らなくてもいい…か…。
数ヶ月前までは剣しか無かったのだが……剣がなくなれば私に何が残るのだろうか…。


「アルベル様…?」
引っ張るルディネ姫の手をそっと引き剥がす。

「私はどこまで行っても騎士…剣を握れなくても…騎士心を忘れた事は一度もありません」
騎士人生に悔いは無い。
だが、騎士の心を忘れたらもう私ではなくなる。
王になるため新しい自分を見つけなければいけない、そんなことは分かっている…分かっているのだ。

「ッ…アルベル様はこの国の王になられるのですよ!?剣を捨て、王座に座り、国民の皆が安心できるようにノクタールが掲げる平和の象徴をお守りください!それが王の役目でしょう!」
ツカツカと私に近づくと、再度私の腕を掴み今度は抜け出せないように抱え込んだ。
今度は振り払う事はせず、ルディネ姫の後を引きずられながら歩く事にした。
後々ルディネ姫の機嫌を取るのは他でもない私なのだから…。

「姫様…」

「ッ、ルディネと呼んでください!!」
235夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:25:07 ID:mFNXIlps
此方へ振り返ることなく、声を荒げる。
ルディネ姫が声を荒げることなんて滅多に無いのだが…何か不都合でもあったのだろうか?

「アルベル様は今、環境の変化に戸惑っているかもしれません」
歩くのをやめると、立ち止まり此方へ振り返る。
ルディネ姫の強い目力に隠れて微かに濁りが見える。
最近、ルディネ姫は私のする事に一から十まで口を出し始めた。
周りの人間達は私の妻になるから張り切っているのだと思っているらしいが。



「だけど、すぐに慣れます。私はずっと城の中で暮らしてきたのですから……だから…」

――私には死ぬまで“他人事”だと思っていたのだがな…。


「私と一緒にずっと…幸せにこの城で生きていきましょう」
そう呟くと、ルディネ姫は私の胸へと抱きついてきた。


ルディネ姫の世界――それは東大陸にある一つの城の中…。
あまりにも狭く、冷たい石の籠はルディネ姫に孤独を強要し、自由の憧れを強めた。

そして成長していくにつれ自由を諦め、共存者を求めた。
それが私なのだろう…。
いつかルディネ姫をなんの柵もない世界へと連れていってやりたいものだ。



――「そう言えば、ティーナは何処へ行ったんですか?」
236夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:26:44 ID:mFNXIlps
私の胸に顔を埋めていたルディネ姫が目線を上げて問いかけてきた。
目に掛かっている細い髪を人差し指で退けて、ルディネ姫の肩を掴み少し距離を置く。
長時間、抱き合ってる訳にもいかないので近くにある椅子に腰を掛ける事にした。

「ティーナはバレン王の御婚儀の為、バレンに向かってます」

「バレン?あっ、そう言えばバレン王国のゾグニ様が御結婚されるとか…相手は確か水の町があるフォルグ王国のお姫様ですよね」
ルディネ姫が言うフォルグ王国とは水に愛された雪国であり、自然と共に生きてきた“愛”を掲げる緑豊かな国だ。

――東に正義のノクタール。

――西に脅威のバレン。

――南に政治のフォルグ。

この世界は三大国で成り立っていると言っても過言では無い。
我が国、ノクタールと西のバレンは多大な戦力を盾にできるのだが、フォルグの戦力は微力。
そのかわり政治面での力はかなり強い。
誠実なフォルグと同盟を組む国も数多くいる。
そのフォルグがバレンに……話を聞けばフォルグがバレンの下につくらしい。

しかも、まだ18にも満たない姫様を政治に使う所を見ると、私が知っているフォルグはもう存在しないと考えた方がいいかもしれない…。
237夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:27:39 ID:mFNXIlps
あの国は好意を持てる数少ない国の一つだったのだが…。
他に理由があるのかも知れないが、これでフォルグについていた同盟国は数多く離れていくだろう。
我が国も…付き合いを考えた方がいいかも知れない。


「私、幼少の頃に一度だけフォルグ王国のお姫様と会った事があるんです」

「えっ?そうなんですか?」
長年ノクタールに居るが初耳だ。

「一度だけ、フォルグ国の王様がノクタールへ来たことがあったじゃないですか?あの時会ったんです」
そう言えば、十四年ほど前に世界国会議がノクタールで行われた時、フォルグ王がノクタールへ来たことがあった。
当時、私はまだ騎士団に入ったばかりで新米兵として日々雑務に追われていたので、他国の王と面会などできる訳も無く、勿論ご令嬢とも顔を合わせる機会は無かった。

「ものすごく可愛らしいお姫様で、綺麗なグリーンメノウが胸元で光っていたのを覚えています」
グリーンメノウとは、フォルグ領土原産のパワーストーンの一種だ。
色々な効果があるらしく、何かの記念事があるとグリーンメノウがフォルグから贈られてくる事も多々ある。
238夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:31:22 ID:mFNXIlps
「フォルグの姫様の名前にも入ってましたよね?」

「えぇ…たしか―――」
一時期、フォルグ王国に天使が舞い降りたと大騒ぎになった事がある。
綺麗なその薄い緑の目は汚れたモノをすべて浄化し、無に還す。
グリーンメノウの原石のような心で救われざる者に手を差しのべる女神になるはずだと…。

「あっ、思い出しました!」
椅子から立ち上がり一歩前にでると、勢いよく此方へ振り返り、フォルグ国の姫様の名前を呟いた。





「ルフェリオット・シェナ=メノウ様ですよ」



――ルフェリオット・シェナ=メノウ――


そう――それがフォルグ国の希望にして、平和の女神になる姫様の名前だ。
239夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/09(土) 02:35:43 ID:mFNXIlps
ありがとうございました、投下終了です。
240名無しさん@ピンキー:2010/10/09(土) 02:38:10 ID:1mvUaCRk
リアルタイムで読んだよw gj
241名無しさん@ピンキー:2010/10/09(土) 05:19:27 ID:IgkXiN1R
おおおおおおおおおおおお!これは続き気になるな!
242名無しさん@ピンキー:2010/10/09(土) 22:39:24 ID:avzK4VB8
いろいろとライトが危ないなwって思ったGJ!
243名無しさん@ピンキー:2010/10/11(月) 02:12:44 ID:ez1DNfDK
クーがかわいくてたまりません
244名無しさん@ピンキー:2010/10/12(火) 00:59:33 ID:lPPBSpjB
続きが気になる!
GJです
245名無しさん@ピンキー:2010/10/12(火) 01:13:09 ID:kwt2CRvU
さてメノウ救出作戦が始まるわけか
246名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:33:29 ID:MIvAxEft
前スレ>>709の続き
247名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:34:32 ID:MIvAxEft
日の学校ではうつらうつらと取り込む様に迫る睡魔と闘いながら俺はボンヤリと窓の外を見ていた。
 自宅に帰った俺はすぐに優香にメールをした。 遅くなってしまった以上寝てしまっている可能性もあるからだ。 
無神経に眠っている彼女を起こして話をすることは俺の中ではありえないことだ。
 最悪な男だからこそ、普通以上にそういうところには拘っていきたいと思っている。 全く無意味な自己満足ではあるけれど……。
返事はメールではなく電話で帰ってきた。 着信を示す項目に浮かび上がる優香の文字が今はすごく儚く見える。 
先ほどの謎の女から知らされた事実が原因なんだろうか?
 だが……、だが俺はそれを責めることも怒る資格もあるはずが無い。 
 俺はゆっくりと通話ボタンを押す。 そしていつもどおりに穏やかに電話口に出る。 
そのゆったりとした行動が俺自身の覚悟を示すものだと思って……。
 会話の内容はわざわざ言うこともない程度の内容、俺の言葉で奮起して頑張って話したよとか部活でやる演劇の打ち合わせ等、どうでもいい内容だった。
 だが俺はその言葉一つ一つに一喜一憂して大げさに騒ぎたて、そして最後に優香を優しく静かに褒め称えた。
電話の向こうで優香の嬉しそうな顔が思い浮かぶ。
きっと彼女も俺の表情を想像していたことだろう。もっとも実際の俺は無表情で、あの女のことだけが脳内の大部分を占められていた。
248名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:35:16 ID:MIvAxEft
そして普通の恋人同士がするようにおやすみを言って電話を切った。 ちなみに東田からのメールは無かった。 まあ来てもうざったいだけなんだけどさ。 
 フワリとあくびが出た。 それを手のひらで隠しながら相変わらず俺は窓の外を見ている。
 俺の席は教室の一番奥の隅で、いまやっている授業の内容は古文であるので、教室内は教師のブツブツという呪文めいた教科書の朗読が奏でられていて
大多数のクラスメイト達は俺と同じように睡魔と闘い、そして一部の生徒は見事ノックアウトされて机に突っ伏している。 
 半分ふやけた頭であの女が何をするのかということを考えつづけていたが、やはり思いつかない。 当然だ。 俺はあの女ではないし、予想するには情報が足り無すぎる。 
何の装備も持たされないで海底に放り込まれたようなもんなのだから。
 ここはきっぱり思考を切り替えるべきではあるが、倒れたら熟睡してしまうほどに弱りきった状態ではそれすら出来ない。 ただただ漫然と攻撃終了の合図を待つだけだ。
 そのときポケットに入れておいた携帯メールが震える。 小さく数回震えて止まったところを見るとメールを受信したようだが、一体誰だろう?
 優香である可能性は……無い。 なぜなら俺の携帯は受信相手によって着メロとバイブのパターンを変えられるのでこの震え方は優香のものではない……では東田か?
それもまた別のパターンで登録しているので不正解だ。 ということはこのメールは登録していないアドレスから来たということだが、迷惑メールだろうか?
 壊れたテープレコーダーのようにブツブツと音を発する教師の目を盗んで、ポケットから携帯を取りだして開く。 
 やはり知らないアドレスからで、何の文章もつけられていない……ただ添付ファイルが添付されており、それを開くかどうかで一瞬迷ったがボタンを押し込んでそれを開いた。
 受信中の表示が出た数秒後、開かれた画像を見て俺は天井を見上げる。
 そうか……わざわざあそこに現れたのはこれもあったのか……。
 しばらく目を瞑り、小さく息を吐いてきゅっと口元を閉める。 時間を見ると時刻は11時45分、授業の残りはあと五分だ。 そしてその後には昼休みが待っている。 
 ああこれからの一時間はおそらく人生の中で最大限の注意と覚悟、冷静さを持って対処しなければならないだろう。
249名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:35:56 ID:MIvAxEft
授業終了を示すチャイムが鳴ったとほぼ同時に教室から飛び出し、すぐに優香の居る教室へと向かう。
 優香の居る教室まではざっと数十メートル、そこに到達するまでにすべきことを超高速で組み立てる。 
まず彼女を教室からすぐに離れさせる。 優香の教室には演劇部の部員がかなりの人数居る。 
おそらくはあのメールは演劇部員全員に発信されたことだろう。 そうなれば……。
 頭の中でカッと火がつくイメージが沸いた。 奥歯を強く噛みこんだせいで頭痛がする。
ああどうしよう俺はいま信じられないほどに、理不尽なまでに怒り狂っている。
 あの女の首を締め上げて、叩きつけて、頭を砕いてやりたいと本気で思ってしまっている。 
そんな自分自身も同じようにしてやりたい気分だ!
 俺が心を震わせるのは優香だけのはずだ!俺が本気で心から考えるのは優香だけだ!
 どんな理不尽で、腹の立つことがあっても俺は優香以外に心を動かされてはいけないんだ!
 それがたとえ喜びでも怒りでも悲しみでも楽しいという感情さえも全て俺の中のそれは全て優香のためだけに存在している!
250名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:36:37 ID:MIvAxEft
 そういう約束を……契約をしたんだ……あの日彼女に言われて……。
 教室から出てくる同級生達の驚く姿を交わし続け優香の教室に到着する。 すぐに全力の力で教室の扉を開き、名前を叫ぶ。
「優香!」
 教室内でポツリと椅子に座っていた優香が振り向く。 呆けたような、驚いたように大きく瞳を開いている。 
「恭……くん?」
 彼女の姿を確認すると同時に走り出して優香の手を引っ張って教室外へと引っ張り出していく。
「えっ?ちょ…ちょっと…ど、どうしたの!」
 疑問符を上げ続ける優香の声を無視して俺は学校の廊下を走り続ける。
 燃え上がった脳内で静かなところを探し続ける。 すれ違う奴らが驚いたように振り替えるところを見るとよっぽど今の俺は血走った目をしているようだな。 
 一つの場所を思いついて俺はそこまで優香を引っ張っていく。 この頃になると優香は何も言わず黙って俺の引っ張る方向へと共走り出していた。
 強く握り締める俺の腕を強い力で……。
 やがて目的の場所に着いたことで俺は掴んでいた優香の腕をやっと放した。 
手のひらにはじっとりと汗をかき、強く握ったためかジンジンとした痺れと優香の細い腕の感触だけが小さく残っていた。
「ど、どうしたの?いきなりこんなところに引っ張って……」
「あ、ああ……じ、実は……」
 そこで口が一旦止まる。  まずどういう風に話をするかを考えなくてはならない。
 一旦周囲を見渡し、しばし考える。 
幸い俺が優香を連れてきた場所は移動教室ばかりが集められた校舎裏で、掃除の時間等以外で人が来ることは滅多に無い場所なので、例の画像のことを聞きに来る人間はまず来ないはずだ。 
251名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:37:09 ID:MIvAxEft
よく考えてみたらあの画像を見た後はどうやって優香を連れ出すということしか思っていなかったことに気づき、どう説明しようかというのを忘れていた。
「い、いやあ……ちょっと……優香と話したくてさ」
「……?」
 とりあえず考えがまとまるまで話を伸ばそう。 そのためにもまず誤魔化すためにこのことを言っておかないと、
「だって最近東田と三人でお昼食べてただろう?たまには……その……二人で……過ごすのも悪くないと思ってさ」
 やや照れたようなニュアンスを含ませる大事なところに少しだけ間を空ける。 
「あ、ああ……そ、そうだったんだ。わ、私も……たまには……二人もいいなって思って……たから……嬉しいな」
 モジモジと少しだけ頬を紅色に染めて、優香がつつと俺の隣に来る。 そしてチョコンと俺の制服の袖口を持って照れたようにニッコリと笑った。 
「……とりあえず座ろうか?」
 コンクリート部分の上に載っているホコリやらゴミなどを払って促す。 
「う、うん……」
 ややぎこちない返事をして優香が座ったのを確認してから俺も隣に座る。 やや間が開いてしまったので取り繕うように話を始めた。 
とりあえずは取り留めの無い話をしながらゆっくりと説明を考えるとしよう。
「急に教室に行ってゴメン……なんというか……ちょっと焦ってたというか……なんというか」
 ポリポリと頭をかきながら照れ笑いを表情の表層に浮かべる。 これは事実であり、 確かに俺は焦っていたのだから?は言っていないのだ。 
「う、うんちょっとだけ驚いたけど……」
 優香が黙る。 何か落ち込んでいるように俯いているように見える。
「だ、大丈夫?」
 心配して声をかけると、何か泣き笑いのような表情を出して、
「嬉しかったの……学校であんな大きな声で名前を呼ばれて……それで腕を引っ張っていかれて……それで私と二人になりたかったって言われて……凄く嬉しいよ」
 涙を浮かべて、特別綺麗な笑顔を浮かべた優香は美しかった。 基本的に優香に対しては冷静に接している(虫ケラである俺が見捨てられないために)がその姿は反則だった。
252名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:38:07 ID:MIvAxEft
 心臓がドクリと高鳴る。 ああマズイ、止められない……止められそうに無い……だってこんなにウツクシテクカワイクテキレイナカノジョヲミタラ……。
 ブーンブーンブーンブーン。 ブブブブッブブブ。
 頭の中の固い物が融解しそうになった瞬間、俺と優香の携帯が同時になった。
 その瞬間、はじかれたように俺は後ずさってあわててポケットの中を探る。
 優香も一拍遅れてスカートのポケットに手を入れている。 
 取り出した携帯の画面には知らない番号。 一体誰だろうとは思わなかった。 
この携帯の持ち主は十中八九あの女だ。 おそらくは俺に昨日の時の様に挑発の電話をかけてきたのだろう。 
いま俺の後ろには優香が居る……出ても大丈夫だろうか?
 チラリと振り返って優香を見ると、彼女も気まずそうにこちらを見ていた。 
そして視線が合った瞬間にあわてて視線を前方に戻し、電話の相手と話をする。
 その仕草に違和感を感じたが、こちらも着信が来ている以上どうしたものかと思った瞬間に携帯の振動が止まった。 つまりは着信が切れたということだ。 
 液晶画面に映る不在着信の文字と見たことの無い電話番号が名残惜しげに画面に表示されていた。
 かけ直すか? 迷う俺の後ろから優香がオズオズと声をかけてくる。
「ご、ごめん……わ、わたし……その……急用が……できちゃった……だから、ちょっとまた後でメールするね」
 心底申し訳なさそうに、でも劣情を刺激するような切なそうな顔で優香が用事あると宣言する。 
「……わかったよ、でもまた近いうちに今度こそ二人っきりで昼食を取ろうよ……約束だよ?」
 理解ある男のように振舞って、またご機嫌取りも兼ねた小指を繋いでの約束を促して優香はその場を後にした。 
その後姿が遠くなり、そのまま消えてしまうまで俺は彼女を見張って、すぐに謎の番号へと電話をする。
253名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:39:16 ID:MIvAxEft
 プルルルル……プルルルル……。 
 無機質な呼び出し音を耳にしながら、心の中で何度も落ち着くように自身をなだめる。
プルルル…プルルルっ……「ハイモシモシ……何か用かしら?」
やっと電話に出た受話器の先にある相手は落ち着き払っていた。 その落ち着きぶりに無性に腹が立ち、
「何か用じゃない!何なんだあの画像は!」
 ここ何年も出していない怒鳴り声を思わず出してしまう。
「……ずいぶんと慌てているわね、少しは落ち着いたらどうなの」
たしなめるような言い方に冷静さを取り戻す。 
「……急に怒鳴って悪かった……でもあの画像を一体何のつもりで送ってきたんだ?」
「変なところで素直なのね、クスクス……変な人。」
 笑う相手の挑発に乗らないように一度落ち着いてから再度問いかける。
「あの画像は一体どういうつもりなんだ?何人にばら撒いたんだ?」
「あら……いつ私が貴方以外に送った何て言ったの?」
「……そ、それは……」
「あらあらそれで勘違いしてあんなに走っていたのね……私の親友さんを奪うように引っ張っていて……まるで囚われのお姫様をさらう王子
……もしくは悪役ね、どんな気持だったの?私がほんの気まぐれで送ったあの画像を見て
、学校では必要以上に交流しない自身の約束を破ってまであの娘の教室までまっしぐらに走っていったときは?
聞かせて?ねえ聞かせて?聞かせて聞かせて……ふふふ……ねっ? 聞〜か〜せ〜て」
「……挑発には乗らないよ……まあ君が想像している通りだろうがね」
「直接口から聞かせてくれないとつまらないわ……大事な言葉はいつだって素直に告白するものよ?特に女の子相手にはね」
 何が女の子だ! ドロドロの真っ黒に染め上がった内面をした奴が女の子だって? 
そんな奴と話すのなんて冗談じゃない……ましてや優香の傍にそんな存在が居るなんて優香が穢れてしまう!全く……そんな存在は一人だけで十分なんだよ!
「とにかくそれ以上くだらないことしか喋らないなら切るぞ」
「自分からかけてきたくせに……自分勝手な男ね」
 やや拗ねた言い方に幾分毒気が抜かれたが、気を取り直して
「とにかく……もう切るぞ!」
「どうぞご自由に……私もそろそろ忙しくなるころだから」
「……?どういう意味だ?」
「別に……こっちの話よ。とりあえずもう切るわよ。ああそうそう……頑張ってね」
 それだけ言うと女はあっさりと電話を切ってしまう。 もう一度かけなおそうと思ったが、何か足元を見られるような気がしてそれは出来なかった。 
 電話をポケットにしまいこみ、俺は校舎の壁に背中をつけてズルズルとそのまま座り込み視線を上げる。 
 どうもいけない。完全にいけない。 俺はあの女に完全に手玉に取られている。 確かに相手はこちらを知っているが、
こちらは女のことを知らない、それ以外の……例えば先ほどの頭に血が昇っての強引な優香の連れ出しは完全に不味かった。
 優香は内心喜んでいたようだが、そんなことはどうでもいいことだ。 問題はまんまと踊らされてしまったことなのだから。
254名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:40:18 ID:MIvAxEft
 ふぅと大きく息を吐いて、そのまま引きずられるように横になって空を覗き込む。
 視界の左半分を校舎が右半分を樹木に遮られ、まるで切り取られたような空の青さを見て自分自身の青さとどっちが上なのだろうと馬鹿なことを考えていた。
255名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:41:31 ID:MIvAxEft
 校舎裏から教室に戻ってくると、まるで練習したかのようにクラスメイト達がこちらへと向き直る。 全くなんだっていうんだ……他人の行動がそんなに珍しいのかよ、まあ確かに珍しいことをやったわけなんだが……。
 何人もの視線をそ知らぬ顔でスルーして席に着く。 そして次の授業の準備を始める。
その間にも肌に直接感じることが出来るほどに強く見られているのに気づいているが、反応はしない。 
とにかく早く授業が始まることを祈るだけだ。 
 しかし教師は中々来ない。 そういえばこの授業の教師は少し遅れて教室に来る人だった。
 ため息と内心のイライラを我慢するために強く歯を食いしばり、頭を冷静に戻すために先ほどのメールを見直す。 
そこに写っている画像を見て、そしてそれが広まった時を想像して胸を痛める。 
 これが皆に見られてしまったら優香はどうなってしまうのだろう?
 心の苦痛に顔を歪め、怯える表情がはっきりと想像できる。
 全く一体どこの誰が優香を苦しめる権利があるんだろうか?
 俺は卑劣な男だけれどサディストではない。 何の意味も無く彼女を苦しめることなんて決して出来ない。 
 けれどもあの女は違うようだ。 昨夜見たあいつは造形こそ綺麗だったが、ターゲットをいたぶって悦に浸るような下衆な心性が見て取れた。 
 俺のもっとも嫌いな人間だ。 何の意味も無く、理由も無く、強い喜びも、小鳥の羽程も慈悲すらなく、ただただ消費するだけの存在。
 そして俺はそんな人間を……ブブブッブブッブブ。
 メールを受信した表示が出て、携帯が震える。 差出人は例の如く先ほどの画像を送ったアドレスと同じだ。 無感情にメールを開く。
『ちゃんと教室に戻れた? さっきの画像なんだけど、よく撮れているから演劇部の皆にも送ろうと思うんだけどどうかしら? 貴方の意見を聞きたいわ』
 意見だって? 分かりきったことを聞く女だ。 そんなことはさせないに決まってるじゃないか! 
 無視して携帯を閉じようとするが、下にまだ文章があることを示すカーソルが右隅に表示されている。 
最初に読んだ文章の下に空白部分があり、その下にもまだ文章があるようだ。 
カーソルをスクロールダウンさせていき、そこにあった言葉に全ての終わりを覚悟させた。 

 
256名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 00:43:50 ID:MIvAxEft
今日はこれで終了……また続きが出来たら投下します。 
257名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 01:05:52 ID:pexjGZwL
>>256
GJ

…毎回楽しく読んでます!
これからも頑張ってください!
258名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 06:49:04 ID:4dn5G1Xg
最悪!でも不思議、それがいい!GJ
259名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 19:57:13 ID:vRdSO+eD
投下乙
続き気になるなあ
260名無しさん@ピンキー:2010/10/14(木) 03:01:20 ID:quGCWrBo
>>256
GJ!
待ってたぜ
261名無しさん@ピンキー:2010/10/14(木) 17:08:05 ID:lI1MJ+JP
262名無しさん@ピンキー:2010/10/15(金) 21:05:48 ID:W1oVMg0S
263名無しさん@ピンキー:2010/10/16(土) 03:05:42 ID:IAyZqOPt
264名無しさん@ピンキー:2010/10/16(土) 21:01:13 ID:TzkqxGtr
げげげのげ〜♪
265名無しさん@ピンキー:2010/10/18(月) 15:06:40 ID:xfc1A7yj
保管庫更新まだなのか…忙しいのかね
266名無しさん@ピンキー:2010/10/18(月) 20:24:23 ID:xfc1A7yj
保管庫更新乙
267名無しさん@ピンキー:2010/10/20(水) 11:57:33 ID:D5wuhJ7/
更新なしでは生きられない・・・

依存スレッド・・・意味を理解した
268名無しさん@ピンキー:2010/10/22(金) 12:34:55 ID:DI/nrqzr
E-ZONE
269名無しさん@ピンキー:2010/10/25(月) 20:07:21 ID:dVU6ZaFH
過疎ってるな

誰もいないのか?
270名無しさん@ピンキー:2010/10/25(月) 23:31:30 ID:dSk+6Z+d
うん!だれもいないよー
271名無しさん@ピンキー:2010/10/26(火) 07:28:04 ID:AAXXnb9I
職人に依存
272名無しさん@ピンキー:2010/10/26(火) 13:10:50 ID:hj6/R0v1
短編でもいいから書いちゃいなよ。
273名無しさん@ピンキー:2010/10/28(木) 00:43:07 ID:nRJ10CFT
過疎だね
274名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 00:50:18 ID:alwjGZ09
275夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:14:56 ID:rzpB5DT8
遅くなって申し訳ない、夢の国投下します。
276夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:16:23 ID:rzpB5DT8
此処から北へ少し行った場所にティエルの故郷である“忘る森”と言われる樹海がある。
その森は入る者を拒まず、出る者を許さない別名“死神森”とも言われているそうだ。
だからなのか、欲深いバレンの人間でさえ近寄ることはしないらしい。
忘る森の中を通り抜け、最奥地へ到達すると“新天地”エンジェル・アイランドが存在する……おとぎ話ではそうなっているのだ。
世界で数少ない人間の手が届かない自然として、法王庁からも直々に近づくことを禁じられている。
まさに世界が認める“本当の自然”がそこにあるのだ。
その忘る森出身の妖精、ティエルは人の欲を肌で感じたり、自分の言葉を直接人間の能へ送る事がができるらしい。
俺とティエルが初めて出会った時も、ティエルから念話をされたのだが、その時は意味が分からず、ただ怯えることしかできなかった。
そして、“欲”なのだが、あまりにも人の欲が強烈だと近づいただけで体力を消耗するのだとか。

「ティエル、大丈夫か?」
鞄を開き、中を確認する。鞄の中へ布を敷いただけの即席ベッドの上でティエルが弱々しく寝ている。

「うん…少し気分が悪いだけ」
俺の声に少し反応を見せたが、また項垂れ目を瞑ってしまった。
277夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:17:07 ID:rzpB5DT8
――今、俺達は情報収集の為に酒場まで足を運んでいるのだが、慣れない酒の匂いにティエルがダウンしてしまったのだ。
祭効果なのか普段からこうなのか、酒場は酔ったオッサンで溢れかえっていた。
小さなテーブルを囲み昼間から酒を浴びるように飲んでいる…ノクタールでもよく見る光景だが、正直あまり慣れない。
クーも、鼻を摘まんで険しい表情をしている。
鼻のいい妖精やエルフはアルコールを含んだ人間の体臭がなにより嫌いなんだそうだ。


「――ライト――ここ―きらい―」
俺が酒を飲もうと酒の入ったコップに口をつけるとクーが嫌そうな顔を浮かべて、睨んできた。

「我慢してくれ…酒場に来て酒飲まない客なんていないんだから…」
飲む仕草だけをして、コップをテーブルに置く。
ハロルドも同じように飲む仕草だけしているようだ。
コップの中にある酒がまったく減っていない。


「よう、お前ら綺麗な姉ちゃん連れてんなぁ!」
汚れたオッサン二人が肩を組ながら千鳥足で此方へ歩み寄ってきた。
明らかに酒に酔っている。

「…」
ハロルドに目で合図すると、何も言わずにコクッと頷いた。

「あの〜、すいません…」
278 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:20:48 ID:rzpB5DT8
「なんだよ?」
ハロルドが片方のオッサンへ話しかける。
するとクーから目を離し苛つき気味にハロルドの方へと顔を向けた。

「此処だけの話、私達は人売を商売にしている商人なんですよ…。だからその…商売道具に手をだすような事は避けて頂きたいのですが…」
“人売”という言葉にオッサン二人は緩んでいた表情を強張らせた。

「…あんたら、バレンの人間じゃねぇよな?」
違うテーブルから椅子を引き寄せ、此方のテーブルへと移ってきた。

思い通りの展開だ。


「えぇ…バレン商人と繋がりが無くてね……高く買ってくれる店を探しているのですが知りませんかね?」

「まぁ、知らん訳でもないんだけどなぁ…あんまり目立つような事してるとバレン兵に捕まるぞ?それに俺達もただって訳じゃあなぁ…」
クーを舐め回すようにイヤらしく足から頭にかけて眺めている。

「それでは、試しに使ってみますか?まだ処女なので前は無理ですが、後ろなら…まぁ、情報によりますけどね。
まだ誰も使った事ないので汚れはないですよ?」
ハロルドがクーの肩を抱き寄せ、男達ににやけて見せた。

「マジか!?ウヘへ…こんな美人と……よっしゃ、俺が情報屋に取り次いでやるよ」
279 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:21:46 ID:rzpB5DT8
焦るように椅子から立ち上がると、我慢できないと言わんばかりに二人は先頭を切って店から外に出ていった。

「シュエットさん、すいません…馴れ馴れしくしてしまって」
男達が店を出るのを確認すると、ハロルドがクーに申し訳なさそうに頭を下げた。

「?―――」
不思議そうに一度首を傾げると、クーもハロルドに向かって頭をペコッとさげた。

何故謝られてるのか分かっていないのだろう。
メノウも純粋無垢だが、クーも純粋無垢らしい……いや、ただの天然か…。

「それにしても…えらく簡単に仲介者が見つかったな?」
俺の予想では丸一日費やすと考えていたのだが…。

「はは、簡単な事ですよ。あの男達の首見ましたか?」

「首?え〜と…たしか刺青してたような気が…」
あまり見ていなかったが、首の回りになにか見えたような気がする。

「そうです。あの男達の首には刺青が…首輪の刺青が彫られていました」

「あぁ、確かに首輪だったな」
ハロルドに言われて思い出した。
オッサン二人の首には首輪の刺青が彫られていた。
オッサン二人で趣味の悪い…あっち系の人間か?

「あの刺青は奴隷の印なんですよ」

「…奴隷?」
280夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:23:13 ID:rzpB5DT8

「えぇ、周りの者達の首を見てください…」
ハロルドが周りを見渡す仕草を見せたので、同じように周りを見渡してみた。
確かに首に首輪の刺青をした輩が数多くいる。

「皆、奴隷ですよ…服装からして、近くに炭鉱でもあるんでしょうね」

「へぇ…でも奴隷にしては自由すぎるんじゃねーか?」
奴隷と言えばすべてにおいて制限と監視がつくモノだと思っていたのだが、普通に酒を飲み女を口説き笑いあっている。

「奴隷売買とは、人間を“物”として扱う商売です。このバレンの軍資金の殆どがこの奴隷商売から成り立っていると言っても過言では無いでしょう…。単純な話、軍資金はバレンの奴隷が稼いでいるんですよ。少ないですが奴隷者に対して給料も出るそうです」

「奴隷に給料?」
そんな話し聞いた事が無い。

「この町には奴隷者が何十万人といます。その何十万人という奴隷者達に反乱でも起こされたら、ひとたまりもありませんからね……だから無理矢理にでも雇っているというこじつけを奴隷者達の能に植え付けたいんでしょう」

「あぁ…そういうことか。でも、それなら奴隷達はバレンから逃げたいほうだいじゃないのか?」
281夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:24:07 ID:rzpB5DT8
ホムステルの町を柵で囲ってる訳でも無いので、逃げようと思えば逃げられそうだが…。

「逃げても行く場所がないですからね…別の町に行っても首の刺青があるだけで奴隷だとスグにバレてしまいますし……故郷に帰っても奴隷という証があるだけで毛嫌いされたり……逃げた奴隷が仕事をして成り立つのは盗賊業ぐらいじゃないですかね?」
少しの苦笑いを浮かべると、酔っ払い奴隷達がたむろするテーブルへと視線を流した。


「なぁ……お前はなんでそんなに詳しいんだ?」
――いつも疑問に思っていたのだが、ハロルドは四方八方にやたら知識が豊富だ。
極度の知りたがりなんだなぁ、と簡単に考えていたのだがハロルドの場合何故か言葉に重みを感じてしまう。
雰囲気作りが得意とかでは無く、本当に聞き入ってしまうのだ。

「はは……まぁ、私も同じでしたから…」
そう小さく呟くと、徐に白衣の襟を人差し指で引っ掻けると、白衣をずらした。

「おまえ、それ…」
ハロルドの白く細い首回りにうっすらと首輪のような跡がある。
薄いが、周りの者達と同じような刺青の跡が…

「ここまで、消すのに二年かかりましたかね……」
282夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:25:21 ID:rzpB5DT8
そう小さくボソッと呟くと、襟を手で押さえて直し、椅子から立ち上がりスタスタと酒場の外へと歩いていってしまった。
クーも何かを察したのか、無表情で俺の顔をジーっと見つめていたが、その場の空気に耐えきれ無くなったので俺はクーに何を言うでもなくハロルド同様椅子から立ち上がり、酒場を後にした。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇



――「ようこそ我が城へ参られたな、ノクタール騎士団長殿」

「ご招待して頂き、誠にありがとうございます」
目の前で王座に腰を掛け、ふんぞり返る太った男に方膝をついて頭を垂れる。



――今私は、バレンの一室である極の間と言われる部屋でゾグニ帝王と面会していた。

初めて顔を見たが、見た目は…あまり良いとは言い難い。
いかにも王と言った出で立ちに伸ばしきった無精髭。
お腹はバンパンに脹れ、腕や首についている飾物は外の者との格差が滲み出ているかのようだ。
正直、バレンの国王でなければ関わりたく無い部類の人間。

「此方の大陸まで団長殿の武勇伝が轟いているぞ……それに噂に違わぬ美貌を持っておるな…さすがは戦神……戦場に舞う女神よ」
283夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:26:30 ID:rzpB5DT8
自分の無精髭を撫で、くっくっくと下品な含み笑いをしながら、私を見下ろしている。

「いえ、その様なことは…ありがとうございます」
一応、再度頭を下げ床に顔を近づけた。

「団長殿は客人。畏まらなくてもよい……それより、我が兵が飛行艇にて団長殿に剣を向けたそうだな?私から謝ろう……申し訳なかった」
ゾグニ帝王が私に向かって頭を下げる。
周りのいた大臣達が慌てた様にゾグニ帝王へ歩み寄った。
自国の王が他国の騎士団長へ頭を下げる事が許せないのだろう。しかし、ゾグニ帝王はそれを片手で制止、話を続けた。

「下の者への躾がなっていなかった…恥ずかしい限りだ」

「いえ、私も剣を抜きましたから…」
そう…どちらかと言えば私が処罰されても不思議では無い状況だったのだ。
他国の飛行船で剣を抜き、他国兵士の胴へと剣を叩きつけたのだから…。


「くく…団長殿といいアルベル将軍といい…ノクタールは硬化な盾に守られておるのう……おぉ、そう言えばまだ紹介していなかった……おい、此方へ連れてこい」
何かを思い出した様に呟くと、扉近くに居た一人の大臣に指を向け、誰かを連れてくるよう命令した。
284夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:27:06 ID:rzpB5DT8

誰とも言わず分かるのだろうか?
大臣は此方へ頭を一度下げると、そのまま扉の外へと出ていった。

「お待たせ致しました。さぁ、此方へ」
――数分後、大臣は数人の兵士を引き連れて姿を現した。
何事かと思い、身体を少し強張らせたが大臣の隣にいる少女を見て状況を把握する事ができた。
綺麗なドレスに身を包んだミクシーの少女。
綺麗な薄緑の瞳、栗色の細い髪にまだ幼さが残る口元。
ドレスを着ていると言うより着せられていると言った方が正しいか…。
間違いない…この少女がゾグニ帝王の結婚相手だ。

「スグリッヒよ…我の元へと連れてこい」
ゾグニ帝王が近くの大臣に命令すると、その大臣は少女の背中へ手を置き前へ歩くよう促した。


「……」
しかし、少女は微動だにしない…。
下を向いたままドレスの端を掴み、震えている。

「……スグリッヒ、アレを連れてこい」
少女が近くへ来ない事に苛立った様子を見せる訳でも無く、また大臣へ誰かを連れてくる様に命令した。

数分後大臣と共に姿を現したのは、別のミクシーの女性だった。
今度は少女では無く二十歳半ば程の女性だが…
この女性…どこかで見たことがある気がする。
285夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:28:58 ID:rzpB5DT8

思い出せないが…数年前にどこかで…。


その女性が少女の肩を優しく抱きしめると、ゆっくりゾグニ帝王の元へと歩み寄っていった。
少女付きの侍女だろうか?
なら、私の勘違いかも知れない。
私自身、フォルグ国と何の繋がりも無いのだから。


「――紹介しよう…フォルグ国の姫であり我が正妻となるルフェリオット・シェナ=メノウ王女だ」

――やはり、そうか…。
ゾグニ帝王が結婚する相手――フォルグ国の姫様であり、神に愛されて命を宿した少女――ルフェリオット・シェナ=メノウ姫。

まだ十七になるかならないかの少女と五十を超えた男が結婚か…誰がどう見ても政略結婚だ。
可哀想だが、運命だと諦めるしかないだろう。
しかし、正妻とは基本的に第一夫人に与えられるモノではないのだろうか?
一夫多妻制をとる国で後妻として入ってきた少女がいきなりバレンの王女?
確かにフォルグ国はバレンやノクタールに並ぶ大国だが、確か第一夫人のベルッチとかいう女も南の大陸に位置するかなりの豪族出なはず…。

それだけゾグニ帝王がこのメノウ姫に入れ込んでいる証拠か…。
286夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:30:18 ID:rzpB5DT8
「これを機に、我が国とフォルグは絆を深めるであろう…ノクタールとも良い付き合いをしていきたいものだなぁ?…くっくっく」

「そうですね…」

挑発しているのか?鬱陶しい奴だ……戦争を仕掛けてくるなら、いくらでもヤってやるが、アルベル将軍を欠いた今、流石にバレンとフォルグが相手では分が悪い。
私個人の問題では無くなるし、姫様とアルベル将軍が婚約されたばかりなのだから、問題を起こす訳にもいかない。




――「そう言えば、ノクタールには英雄が二人いるそうだな?」

「英雄…ですか?」

「あぁ、一人は誰もが知っているアルベル将軍…もう一人は数ヶ月前に伝説のドラゴンである赤い悪魔、ドラグノグ殺しを成し遂げた青年だとか…それは事実か?」

「えぇ、それは私の隊の部下です」
ライトの話題に胸がギュッとなった。
今ライトは何かの事情により、この城の外に広がる城下町にいるはず…。
ライトはスグに自然と厄介事に首を突っ込む性格をしているので、問題を起こさなければいいのだが…。

「さすがノクタール騎士団とでも言おうか…。ノクタール初代団長しか成し得なかったドラゴン殺しをまたも、やって退けるか……兵に恵まれて羨ましい限りだ」
287夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:31:30 ID:rzpB5DT8


「ゾグニ様にそう言って頂けたら、私達も鼻が高いです」

「そう、何度も頭を下げるな。先ほども言ったが団長殿は大切な客人。それでそのドラゴン殺しを成し遂げた青年の名は何と言う?」


「我が隊の副隊長――ライト・レイアンです」









「…………ライ…ト?」
――どこからともなく聞こえてきた綺麗な声に、自然と顔を上げてしまった。
今の声…前から聞こえてきたが…。
声の主を探すために目線を上げて確かめる。

ゾグニ帝王は隣に目を向けている。
後ろにいる侍女?に限っては目を見開き、何故か唖然と私の方を見ていた。


「…ライト……ライト…」
また聞こえた綺麗な声…しかし、今度は声の発信者をすぐ見つける事ができた。

声の主…それはゾグニ帝王の隣に腰を掛けるミクシーの王女――ルフェリオット・シェナ=メノウ姫だった。
288夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:33:51 ID:rzpB5DT8


「どうした?ライトと言う名前に聞き覚えでもあるのか?」
ゾグニ帝王が微かに眉を潜めると、メノウ姫に聞かずに、何故か後ろにいる侍女へ問いただした。

「い、いえ…私は知りません」
侍女も様子がおかしい…明らかに動揺した表情を浮かべている。

「お姉ちゃんライト、知ってるの?」
メノウ姫が椅子から立ち上がり、ドレスを引きずり此方へと歩み寄ってきた。

「え…は、はい…私の部下ですから…」
なんだ?ライトの知り合いか?
いや、ライトの知り合いなら私も大体把握している。
それに一国の姫とライトが知り合い?
あり得ない。ライトをノクタールへ連れてきてから私はライトの周りには目を光らせていた…しかもフォルグの姫となんて…。


「ライトは…ライトはどこ!?」

「ッ!?」
膝まずく私の肩を勢いよくガシッと掴むと、私に向かってメノウ姫が声を荒げた。

「ねぇ、ライトは!?ねぇ!」

「メ、メノウ!やめなさい!!」
後ろにいた侍女がメノウ姫の肩を掴み私から引き剥がした。
いや、侍女では無いみたいだ…今、姫の事をメノウと口走った。侍女が姫に対する口の聞き方では無い。
289夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:34:41 ID:rzpB5DT8

「おい…部屋へ戻してやれ…」

「…」
メノウ姫付きの女はゾグニ帝王をキツく睨み付けると、何も返答さず、メノウ姫の肩を掴んだまま極の間から姿を消した。
メノウ姫はと言うと、部屋から姿を消すまで、終始ライトと言う名前を口ずさんでいた…。

私の知るライトでは無いと思うが、メノウ姫の瞳……光を失っていた瞳がライトの名前を聞いた途端、薄緑の瞳に光が灯った。
希望を見つけたかの如く輝いたのだ。

「申し訳ない…メノウ姫は少し情緒不安定でな……許してくれ」
メノウ姫が部屋から出ていくのを見送ると、ゾグニ帝王が私に謝罪した。

「いえ、少し驚きましたが私は大丈夫です…」

「そうか……今日の夕刻、メノウ姫を民衆に披露する事になっている。それまでホムステルの町でも周ってみては如何かな?大したモノはないが、気晴らし程度にはなると思う。」

「はい、分かりました。それでは…私はこれで」

「うむ…明日には祝祭も開かれるので楽しんでいってくれ」
再度ゾグニ帝王に頭を下げ、極の間を後にした。
…これでやっとライトを探しにいける。
そう考えると、自然と私の足は歩くスピードを速めていた――。
290夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:35:36 ID:rzpB5DT8

◆◇◆†◆◇◆

――「スゲー所まで連れてこられたな…」
窓の外に広がる町。
俺は見慣れた町とは違う新鮮な景色に少しだけ感動していた。
理由を聞かされぬまま拐われて数ヶ月間の航海の末、西の大陸まで連れてこられたのだが、28歳にしてまさかバレン城に居座る事になるなんて…。
拐われた理由はバレン兵から西大陸に到着した時に教えられた。
メノウがバレンの王女になる――正直信じられなかったが、実際こんな場所まで連れてこられたのだから、信じるしかないだろう。

反論しようにも、右も左も分からない町で俺達の味方になる者などいるはずがなく、俺達は完全に孤立していた。

メノウをここまで連れてくる事に成功したのだから、俺やアンナは用済み…なのだが、何故かまだ生きている。
アンナはメノウ付きの侍女として使えるかも知れないが、俺はメノウと仲がいい訳でも、剣の腕がある訳でも無い。
ただ、パンが焼けるぐらいだ。

「はぁ…マジでどうなるんだよ俺ら…」
近くにある椅子に腰を落とす。
船に乗ってる時、何度も逃げようと試みたが、大海原に浮かぶ船からどうやって逃げれるのか…。
291夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:36:49 ID:rzpB5DT8
バレンに到着した時も何とかメノウとアンナを連れて逃げようと色々考えたのだが、実行する暇さえ与えてくれなかった。
そして今の現状に至るのだが…。



「ホーキンズ!!」

「うぉっ!?ビックリした!」
バンッと勢いよく扉から姿を現したのは、メイド服に身を包んだアンナと綺麗なドレスに身を包んだメノウだ。

メイド服は別にアンナの趣味とかでは無く、この城に来た時に渡されたモノだ。
メノウも同様、王の隣に座る存在が平民と同じような姿をしていると威厳に関わるとして、堅苦しいドレスを着せられているのだ。

「な、なんだよ…お前らさっき何処かに連れていかれたんじゃねーのかよ?」
先ほど数人の兵士達が部屋に入ってきてメノウを連れていってしまったのだ。
アンナと俺も着いていこうとしたのだが、兵士に止められ着いていく事ができなかった。
数分後、今度はアンナが連れていかれ、俺が一人この部屋に残されたのだが…。



「あんたの幼馴染み、ここに来てるわよ」

「ライトか!?」
椅子から立ち上がりアンナに駆け寄る。

「違うわよ…ノクタール騎士団長さんのほうよ」
慌てて走ってきたのだろうか?はぁ、はぁ、と疲れたように息を吐いている。
292夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:37:57 ID:rzpB5DT8
「騎士団長?アルベル将軍とは一度も話したことねーし、真っ正面から顔を合わせたことすらねーよ」
ユードに来た時に野次馬に紛れて見たことはあるのだが、兜で顔は隠れていたし、数十メートル離れていた。
しかも、俺の記憶ではアルベル将軍とはその一度しか見たことが無いはずだ。
決して幼馴染みと言われる関係では無い。

「違うわよ!ティーナって名前の女よ!」
苛立ったように眉を歪めると、俺の横を通り過ぎ、メノウをベッドへと寝かせた。


「ティーナは騎士団の副長だろ?」

「理由は知らないけど、あれは間違いなくあんたの幼馴染みよ…団長としてこの国に来てるって事は、アルベル将軍が団長の座から退いてティーナさんが団長に…」

「ティーナが…マジかよ…」
流石に尊敬するとしかいいようがないだろう…。
どういった理由でアルベル将軍を退け団長まで登り詰めたか知らないが、幼馴染みとして誇りに思う。

「それとライトなんだけど……あの子東大陸で伝説のドラゴンって言われてるドラグノグを殺したそうよ?今ゾグニとティーナさんが話してたわ」

「はっ?ドラグノグ?あのおとぎ話のドラゴンか?そんなもん存在すんのかよ?」
293夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:39:51 ID:rzpB5DT8

ドラグノグと言えば赤い悪魔で有名なおとぎ話に出てくるドラゴンだ。
東大陸の何処かにいるとは言われていたのだが…。

「本当か嘘か分からないけど、ライトはノクタールを救った英雄として名誉を手に入れたみたいね…ティーナさんも本当だって言ってたわ…」

「……そうか…」
幼馴染み二人が有名になった――本来なら嬉しいはずなのだが、なんだろう…素直に喜べない自分がいる。

ティーナはともかくライトは常に俺と同じ目線で歩いている部類だと信じきっていたのだ――。

「……ライトもこの町に来てるかも知れない」

「…」
察したのかアンナが此方へと歩み寄ってくると、後ろから優しく抱き締めてきた。

「…大丈夫よ…貴方も頑張ってるんだから…私達をちゃんと守ってよね」

「分かっるよ…」
ライト対して、ただ幼馴染みが離れていく事の寂しさを感じていたのか……大国の騎士としてティーナと肩を並べて活躍するライトに妬みを感じていたのか…。
自分自身でも分からない気持ちが、心の中で渦巻いていた――。
294夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:44:07 ID:rzpB5DT8
ありがとうございました、投下終始します。
295 ◆ou.3Y1vhqc :2010/10/30(土) 19:44:37 ID:rzpB5DT8
投下終了しますですねw
296名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 19:59:17 ID:S031eXRt
ワロタwGJ!
ライトの周りが地雷原に
メノウの追い上げに期待したいなw
297名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 20:37:30 ID:VQ2NR8Yn
乙です
298名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 21:49:09 ID:MKnm7//V
>>295
ドジっ子乙

主要キャラが一つの所に集まって何も起こらない事はないですよね、期待です。
299名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 21:51:01 ID:FnZRoSS0
更新乙です。
誤字発見
>>276 自分の言葉を直接人間の「能」へ送る事がができるらしい。
   能→脳
300名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 01:08:42 ID:l2gBehcG
>>アルベル将軍を欠いた今、流石にバレンとフォルグが相手では分が悪い。

誰のせいだと思ってるのかこのヒトは
301名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 10:10:49 ID:tyX06zsi
これからのメノウの活躍に期待
302名無しさん@ピンキー:2010/10/31(日) 17:40:06 ID:jgbaTWRZ
すごい続きが気になります
とにかくGJ!
303名無しさん@ピンキー:2010/11/04(木) 21:40:59 ID:fnl+Cpkd
304名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 17:20:56 ID:HjIN+a3q
305名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 17:22:22 ID:K9IKX2ek
306名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 21:21:47 ID:no6rv/A2
307名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 22:48:28 ID:hUg7w69P
ヤンデレスレややこしい事になってんなぁ…
308名無しさん@ピンキー:2010/11/05(金) 23:47:13 ID:1DVc6ozv
キモウトスレが無事なだけまし
309名無しさん@ピンキー:2010/11/06(土) 15:01:01 ID:j/N8f8H3
あの修羅場スレの連中が来てるからなぁ
いつまで持つか
310名無しさん@ピンキー:2010/11/06(土) 19:52:37 ID:sjfCSXwX
今北産業

向こうのログあさったけど
イマイチよくわからん
311名無しさん@ピンキー:2010/11/06(土) 23:30:46 ID:cUr3cAF2
よくわからないけど荒れるから
よけいタチ悪い
312名無しさん@ピンキー:2010/11/07(日) 00:58:15 ID:F7Pcgedt
ここは今日も平和ですね。
313 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:45:23 ID:ie3O728o
夢の国投下します。
314 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:47:52 ID:ie3O728o

「クー、もういいぞ…」

「――わかった―」
俺の声に反応したクーは、男の胸ぐらから手を放し無表情のまま此方へと歩み寄ってきた。
クー手から解放された男は、人形の様にズルッと崩れ落ちていく。

「はぁ…無駄な時間を使わせやがって…」
地面に這いつくばった血だらけの男達を見下ろし呟く…が男達からの返答は無い。
気絶しているようだ。

「どうするよ、これから?」

「どうしますかね……困りました」
流石に何でも知ってるハロルドも手詰まりのようだ。

――目の前に倒れている二人……先ほど酒屋で情報屋の仲介になってやると言っていた男達なのだが、情報屋に連れていくどころか細い路上に連れ込みクーを拐おうとしたのだ。

クーの喉元にナイフを当て、「近づいたらこの女殺すぞ!」と喚き散らし、人質に取り逃げようとした。

だから、仕方なくクーに攻撃する許可をだしたのだが…。
まさか、あそこまでボコボコにするとは思わなかった。

まず、ナイフを素手で掴みクルッと半回転すると男の顎めがけて肘を叩きつけた。その時点で男の顎は不自然に歪み、その場に倒れ込む……と思ったのだが、そこから人間とは違うクーの無邪気さというか残酷さというか…。
315 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:48:57 ID:ie3O728o
個性と言えば受け入れやすいだろうか…。
倒れ込む寸前、男の腕を掴み、無理矢理立たせると、顔を鷲掴み壁に叩きつけたのだ。

血だらの男を片手で引きずるクーを見たもう一人の男は腰を抜かし、その場に座り込んでしまった。
それから数分…クーの手によって制裁を加えられた男二人は、地面に転がり空を見上げることなく地面に熱い接吻をしている。
少し可哀想だと思ったが、運が悪かったと悔いてもらうしか無いだろう。
死にはしないだろうから、その場に捨てて路上を後にした。


「また、振り出しに戻ったな…」
広場にある石の長椅子に腰を掛けため息を吐く。
俺に続き、クーとハロルドも隣に座る。
こう見れば俺達かなり怪しい集団なんじゃないだろうか?
白衣に身を包んだ男に高身長の美人。
フードで顔を隠した男に、妖精…。
ティエルはバレてないにしても、これだけ個性が強い見た目が揃うと、やたら人の目につく。
案の定先ほどから通り過ぎる者達からチラチラと横目で見られているのを感じる。

「――ライト――ライト―」
隣に座るクーがクイッと服を引っ張ってきた。

「んっ?どうしたんだ?」

「――あれ―なに?」
クーが広場の中央辺りに指を差した。
316夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:50:32 ID:ie3O728o
ハロルドもつられたようにクーが指差す場所へと視線を向ける。

「なんだ、あれ?」
まったく気がつかなかった……広場の中央にやたらデカイ木の建物が組み立てられている。

「誰か、位の高い人が演説でもするんじゃないでしょうか?」

「位の高い人?貴族とかか?」

「えぇ…しかし、かなり大きいですね…もしかしたら王族に当たる方かも知れませんね……てゆうか、あれじゃないですか?ゾグニ帝王が御結婚されるとかいう話があったじゃないですか」

「あぁ、そうだったな…そしたらゾグニ帝王が見れるのか?」

「多分、見れると思いますが…こんな町中に国王が姿を表すのでしょうか……」
確かに…国王が下町に降りてくる事はあまりないと思うのだが…。

「まぁ、他国の姫様が自国の王女になる訳ですから、民衆に姫様の姿を見せていたほうが多少なり民衆の不安は拭えるかも知れないですね…。どんな人が自分の国の王女になるのか、民からすればやはり気になる所ですよね」

「まぁ、不細工なら嫌だよな」

「はははっ、そうですね」
ハロルドと向かい合い、声をだして笑った。
些細な事だが、久しぶりに笑った気がする…。
317夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:51:31 ID:ie3O728o
ハロルド達を助ければ、また数ヶ月船に揺られる生活が始まるのだが、それは苦痛になることはないだろう。
ハロルドがいてメノウがいてアンナさんがいて俺達がいる……逆に楽しみなぐらいだ。

「ふぅ…何をにやけてんのよ?」

「おぉ、もう大丈夫なのか?」
カバンの中から顔をだしのは、酒屋で気分を悪くした妖精のティエルだ。
顔を見た感じ、顔色はよくなった気がする。

「元気満々よ!今ならクーにでも勝てるかもね!」

「ムー、――クーまけない――」
ティエルの安い挑発に対して、頬をプクーと膨らまし、ティエルを睨んでいる。

「ふふっ、ボコボコにしてやってもいいけど…そうねぇ…口喧嘩で勝負よ!」

「むっ――わかった―」
クーと殴り合いしたらティエルが1秒で再起不能になるからな…クーは空気を読むとかそんなこと考えてないかも知れないが、ティエルの口喧嘩に乗るつもりらしい。

「おい、おい…あんまり騒がないでくれよ?」
カバンの中から顔をだしてるティエルの頭を軽く撫でる。

「な、撫でんな!私はあんたより年上なんだからね!」
カバンから飛び出しそうな勢いで乗り出して睨み付けてくる。何処と無く頬が赤いのは病み上がりだからだろうか?
318夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:52:28 ID:ie3O728o

「口喧嘩はまた後にしてください。始まるようですよ?」
ハロルドがクーとティエルの間にスッと片手を差し入れ、もう片方の手で先ほどの高台に指差した。

他のベンチに座っていた者達が立ち上がり、中央へと歩き出した。

俺とハロルドも一応立ち上がり、高台に目を向ける。

城から繋がっているであろう、一本道から豪華な馬車が二台、高台に横付けされた。
馬車の周りにはバレン兵が何十人と囲んでいる。いや、何十人どころではない……馬車の後ろから列を成してゾロゾロと姿を現した。

何人かの騎馬兵の手には真っ赤な旗が持たれており、高々と掲げられている。
真っ赤な旗の真ん中にはバレン城らしき城が描かれており、鷹の絵も描かれている。
間違いなくバレン国の旗だ。

「あれは、多分バレンシア聖騎士団ですね」

「バレンシア聖騎士団?なんだそりゃ?」
隣にいたハロルドが知ったように口を開いた。

「えぇ…バレンは始め、バレンシアという名の国だったんですよ?」

「へぇ…なんで、バレンに変わったんだ?」

「古代兵器の開発に失敗して一度バレンは滅びたから、新しく国を作る際、バレンシアからバレンに変えたとか…まぁ、噂程度ですけどね」
319夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:53:21 ID:ie3O728o

「古代兵器の開発?なんか嫌な響きだな…」

「まぁ、兵器に良いことなんて一つもないですからね…そんな感じでバレン国になったんですが、その兵器開発の悲劇で唯一生き残ったのがバレンシア聖騎士団とゾグニ帝王だったそうです。だからバレンシアという名を歴史に刻む為に聖騎士団の名を残したんでしょう」

「ふ〜ん……一家に一台ハロルドだな」
本当にハロルドがいると、助かる。
知らない事なんてないんじゃないだろうか?

「誉め言葉として受け取りましょう。ありがとうございます」
わざわざ此方へ深々と頭を下げると、また高台へと目を向けた。

同じようにハロルドから目を離し、高台へと目を向けると、馬車の周りを取り囲んでいた兵達が高台の前へと並びだした。
それと同時に民衆のざわつきが消える。

誰もいなかった高台の上にはいつの間にか数人の人影が遠目でも確認できた。
皆が静まり返る中、数人の人影の中から一人が前へと踏み出した。

「お、おい…なんだ?」
人影が前へと踏み出した瞬間、多くの人々が膝まずき、地面へと頭をつけた。

すべての人では無い…浅黒い肌をした者だけが、神に祈りを捧げるかの如く高台の上にいる人物に頭を下げているのだ。
320夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:53:55 ID:ie3O728o
一目で分かること…それはバレンの人間だけが膝まずいていると言うことだ。
立っている者達はオドオドするだけで、何が起きているのか分からないらしい。

「あれが、ゾグニ帝王ですよ…」
ハロルドが俺の耳元で呟き、人影に指差す。
少し遠いので分かりにくいが、目を細めてどんな人間かたしかめてみる事にした。

帝王…と言われるだけあって、確かに雰囲気はある。
小太り…の域は越えているな……美味い物をたらふく食べてる腹を偉そうに突き出してるあたり、この国の王族と言うのも頷ける。
偉そうな無精髭に衣服も何やら豪華なモノのようだ……俺から見たらただ光っているだけなのだが…。


ゾグニ帝王が片手をスッと掲げると、膝まずいていた人間達は一度頭を地面へつけると、次々に立ち上がり出した。
ハロルドが言ってたように、やはり宗教色が強い国のようだ…。

「何か喋ってるな…」
ゾグニ帝王が民衆に向かって何かを話しているが、まったくゾグニ帝王の声が聞こえてこない…ゾグニ帝王の声を聞こうと皆が高台の前へと押し寄せている。
それをバレン聖騎士団が押し返す…。


「…こうも人が多いと近づく事は無理かも知れないですね…」
321夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:55:03 ID:ie3O728o

「まぁ、いいよ。こうなってくれたほうが逆に動きやすい」
今この町にいる殆どの者はこの大広場に集まっているだろう。
今なら他の場所を探るのに人目につきにくいはず。
ハロルドにまた酒場へと戻り情報を仕入れようと話しかけ、広場に背を向けた――。




その瞬間、地響きを引き起こすような歓喜の声が地面を伝い、身体全体を震えさせた。
何事かと、思い後ろを振り返る。

「な、なんだいきなり?」
高台の前に集る人だかりが高台の上に向かって手を上げ気絶しそうなほどの大声を張り上げている。

歓喜…いや狂気に近いほどだ。

クーも両手で耳を塞ぎ、眉間にシワを寄せている。


「なんでしょうか…少し近づいてみませんか?」
ハロルドにそう促され、仕方なく人混みのほうへと向かう。
クーは五月蝿いから近づくのがイヤらしい…その場に根を生やしたように動かなくなってしまったので、俺とハロルドの二人で様子を見に行く事にした。

人混みに近づくにつれ、民衆の声も大きくなっていく。

「何を興奮してんだコイツら…」

「なんでしょう………あっ…ゾグニ帝王の隣」
何かに気がついたのか、ハロルドが高台の上を指差した。
322夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:56:09 ID:ie3O728o
夕陽が逆光になり、二つの影が照らし出されている。

一つはこの国の王であるゾグニ帝王――。

そして、もう一つ……小さな影が夕陽を浴びてキラキラと輝いている――。




何故か分からない――心臓が激しく、勢いよく鼓動を刻んだ。




「…」

「あれが、女王になられる方なんでしょうか?此処からでは少し見にくい…で………」
ハロルドも気がついたのだろう……普段のにやけた顔が一瞬にして凍りついたのが分かった。
イヤ、多分俺はハロルドより酷い顔をしているに違いない。
目の前で起こっている現実に目を背けようにも、目が高台の上にいる小柄な女の子から離れてくれないのだ。

何度も頭で整理して、考えてみる……が、やはり麻痺しているようだ。

「な、なんでアイツがあんな場所に立ってんだよ…ハロルド…」
唖然とするハロルドに問いかけても返答が返ってくるはずかない。

流石のハロルドもこればっかりは理解できないのだろう。

高台に立つ小柄な女の子は、数分間民衆の前に立つとゆっくりと後ろへ下がっていった。


「ぁ……メ…」
それを見た俺は、何を考えたのだろうか?
多分後から考えても自分の行動に対して理解できないだろう…。
323夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:56:58 ID:ie3O728o





「メノウッ!!」
――自然と一歩前へ踏み出し、高台から消えていく少女に向かって大きく声を張り上げていた。

「ちょっ!?ライト、ダメです!」
慌てたようにハロルドが俺の口を押さえにかかる。


「今、メノウちゃんの名をだせば我々が危険に晒されます!」
瞬時に自分が犯した失態に気がついた俺は、ハロルドに向かって二度頷いた。

そうだ――今問題を起こす事は俺達の死を意味するのだ。

「幸い民衆の声にかき消されたので良かったですが…気を付けてくださいね」
我を失って声をあげてしまったが、今は何千人と居る人の声により俺の声は目の前にいる人間にすら聞こえていなかったようだ。



「あぁ、悪い…次からは気…を……?」

ふと、何かの視線を感じて再度高台に目を向けた――。
いつの間にか、後ろへ下がったはずのメノウがまた民衆の前へと姿を現していた。

しかし、何をするでもなくジーッと見ている。



そう……此方の方へと一直線に……。


「ヤバい…メノウに気づかれた」
隣にいるハロルドに小さく呟き、教える。


「えっ、無理ですって!此処に何千人いると思ってるんですか!?ライトを見つける事なんて不可能ですよ!」
324夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:58:00 ID:ie3O728o
不可能かどうかなんて知らないが、間違いなくメノウは俺の声を聞き、俺を見ている…。

「とにかく此処から離れよう……不自然にならない様に…」
そうハロルドに伝え、後ろへと下がる。




――ッ!!

「ライト、振り向いても…走ってもダメですからね…」

「ッ…分かってるよ…分かってる…」

――な―ッで!?まってラ―ッ―よッ!

メノウの悲痛な声が民衆の声に紛れてもなお、俺の心臓へと突き刺さる。



――私もつ―れ―ッ!良い子に―ッ―から、おい―ッ―ないで!


「メノウッ…ごめん…ごめん…」
まただ――また、俺は何もできない――。
目の前にして、何もできず背中を向けることしかできない……。



やだぁ―!―ッ―ラ―ト―ッ――!―――ッ―、――――――……




「……ッうぅ…」
――メノウの声が完全に聞こえなくなった瞬間、俺は膝から崩れ落ちその場へ力なく座り込んでしまった…。
ハロルドが話しかけてくる声も耳に入らず、頬を伝う涙すら拭えず、身体を震えさせる事しかできなかった。

――そう……子供が声を殺して泣くように、悔しさを隠すことなく小さく震える事しかできなかったのだ…。
325夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 18:59:09 ID:ie3O728o


◆◇◆†◆◇◆

「何の騒ぎかしら?」
クーが持つカバンから飛び出し、クーの頭の上へと飛び乗る。
高台の上で何やら騒いでいるようだ。

「クー、見える?」
確かエルフは視力が良かった気がする。

「にんげんの―こ――たお―れた―」

「人間の子が倒れた?高台から落ちたって事?」

「―ちがう――パタッ―て――たおれ―た―」

「あぁ、その場に倒れたって事ね…」
何かあったのだろうか?
ライト達は無事なのだろうか…?
まだ、二人とも戻ってきていない。

「ハロド――きた―」
クーが言うように、真っ正面からハロルドが此方の方へと走りよってきた。

「ティエル、あなたの力をかしてください!」

「わ、私の力?なにすんのよ?」
かなり切羽詰まった感じだ。
何か良からぬ事が起きたのだろうか?
それにライトが見当たらない。

「高台の上にいるドレスを着た少女が、この後バレン城へと連れられて行くはずです。何処に連れられて行くか、後を追って確かめてください!」
高台の少女?先ほどクーが倒れたって言った子の事だろうか?

「後を追えばいいのね?」
事情を聞いてる暇はなさそうだ。
クーの頭から飛び降り、羽根を使って空へ舞う。
326夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:00:18 ID:ie3O728o
「上手くいけばホーキンズ達も見つけられるかも知れません!我々は一度港へと戻りますので、お願いしますよ!」

「オッケー、任せときなさい!」
力一杯羽根を羽ばたかせ、高台へと向かった。
高台の上へと到着すると、真っ先に暑苦しいオッサンが目にはいった。一目で分かる…この男は欲にまみれている…。
その男から目を背け辺りを見渡すと、ドレス姿の少女が兵士達に抱き抱えられ馬車へと連れていかれる所だった。
栗色の髪に幼さが残る表情…胸元には綺麗なグリーンメノウが輝いている。間違いなくこの子だ。
それにこの女の子…ユードでも確か見たことがある。
よく、ホーキンズの家に女性とパンを買いにきていた子だ。
無表情で女性の後ろへ隠れていたから逆に印象的だったのを覚えている。

「てゆうか、船でライトからこの子の写真を見せられたような記憶が…あるような、無いような……まぁ、良いか。この子がメノウね」
昔の事は別にいい、今を生きる!それが私。
メノウが馬車の中へと運ばれるのを確認すると、その馬車の屋根にしがみついた。別に飛んで追いかけてもいいのだが、疲れるし、めんどくさい。
――数分後、私とメノウを乗せた馬車は走りだし、広場を後にした。
327夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:01:15 ID:ie3O728o

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「いきましょうか、シュエットさん」

「――わかった―」
馬車と共に広場から出ていくティエルを見送ると、僕はシュエットさんと広場から直ぐ様離れる事にした。
長々とこの場所にいると危険があるかも知れない。それにライトも長い時間一人にすると危ないかも知れない。

正義感の強いライトはメノウちゃんを目の前にし、助けられなかった事が余程ショックだったようだ。
涙を流し、放心する彼は役に立たないと判断して広場へ戻ってきたのだが、彼はちゃんと港へ降ってくれたのだろうか?
少しの間冷静になる時間を与えれば、ライトの事だからすぐに立ち直ると思うが…。





「おい、白衣のおまえ」

「えっ、ッぐ!?」
――後ろを振り返った瞬間、顔に強い痛みと衝撃を感じ、勢いよく後ろへと倒れ込んだ。

「うっ、ぐぅッ…」
何をされたのだろうか?
意識が遠退きそうになるのをなんとか踏ん張り、視線を上にあげる。




「おまえ、ライトの家にいた男だな?」
綺麗な金色の髪に、細い瞳…その目には怒り色が燃えるように色づいている。
328夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:02:23 ID:ie3O728o
何故この町にいるのか理解し難いが、ライトが会わなくてよかった…。ライトがこの人と遭遇すれば、間違いなく三人を助け出すのに支障を来す。
そう…ライトの幼馴染みであり、ノクタール騎士のロゼス・ティーナ団長には――。

鎧などを身に付けていない所を見ると騎士団の任務などで来た訳ではなさそうだ…もしかしてライトを探しに来たのだろうか?
よく分からないが、彼女の手からは血が滴り落ちている。それを見て初めて殴られたと理解した。

「いきなり、なにするんですか?」
血がとまらない鼻を押さえ、よろめきながら立ち上がる。

「ふんっ、ライトは何処だ?」
顔色を変える事なく僕の方へと歩み寄ると、僕の胸ぐらを掴み、引き寄せられた。

「し、知りませんね…僕はただ、観光目てッ!?」
僕の言葉をすべて聞く前に、腹部へ彼女の膝がドスッと突き刺さる。

「うぷっ!」
胃から胃液が上がってくるのを我慢できず、そのまま嘔吐し、地面を汚す。

「お前の戯言に付き合うつもりはない…もう一度聞くぞ?ライトは何処だ!」
胸ぐらを掴む力が強くなった。
僕は彼女の怒りを知らない間に煽ってしまっているようだ…。
329夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:03:19 ID:ie3O728o
「ぐ、うぅッ…(どうしよう…振り払って逃げ…れないようですね…)」
彼女の後ろには人が来ない様に、ノクタール騎士団兵と思われる仲間が見張りをしている。

「くっ……(万事休す…ですか…)」






「―――ハロド―から―て―はなして―」
僕の胸ぐらを掴む彼女の手を掴み、睨み付けるのは先ほどまで黙って見ていたシュエットさんだった――。
僕の為に怒ってくれているのだろうか?
だとしたら、純粋に嬉しい。

だが…。

「シュエットさん…ダメです」
そう…ここで争い事を起こせばバレン兵も集まってくるかもしれない。
我々が捕まれば、ライト一人にすべてを任せる事になってしまうのだ…。
それだけは避けないと…。

「別にお前達はどうでもいい…何処へでもいくがいい…だがライトの居場所を吐いてから行け」
睨み返し、シュエットさんから腕を引き剥がした。
本当にライトの居場所を教えないと此処から離れられないようだ……。



「――ライト――こうげき―しても―いいって―いった―」
ボソッと一言呟くと、薙刀を力強く握りしめ、刃部分に巻かれてある布を取り外した。

ライトから攻撃の許可を貰ったということだろうか?
330夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:04:03 ID:ie3O728o
多分、男二人組を倒した時の事を言ってるのだろう……シュエットさんの中では一時的なモノでは無く、あのライトの言葉で人間に対する攻撃の解放を許されたと勘違いしているようだ。

「シュエットさん…ライトはそういった意味で言った訳ではy「気安くライトの名前を口にするな…」
ライトの名前を聞いた途端、彼女の目付きも変わった。
僕の言葉を遮り、腰の剣に手を掛けると、シュエットさんと対峙した。

「シュエットさん、あなたは逃げてください!」
人間では無いシュエットさんが負けるとは思えないが、こんな場所で薙刀なんて振り回せば、間違いなく僕達は捕まる…。



なんとか宥めようと試みたのだが、残念ながら僕の言葉が届く事はなかった――。



「ふっ!」

「――ッ―!」



一瞬――ほんの一瞬の出来事だった。
何が起きたか分からない程の速さで二人の影が重なったと思うと、片方の影が方膝を地面へつけた。






「――クー、つよい―つよい―」
無表情で此方へピースするシュエットさん――そう……膝をついて口から血を流すのは騎士団長のロゼス・ティーナだ。

「ぐ……おま…え…ッ」
331夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:05:02 ID:ie3O728o
喉元を押さえ苦しそうにシュエットさんを睨み付けるロゼス・ティーナ……彼女の喉元には赤い痣のような跡がくっきりとついていた。


「――あれ?―まだ―しゃべ―ってる――」

首を傾げ、彼女を見下ろすシュエットさん。
シュエットさんにしか当てはまらない無邪気な無表情と言えばいいのか……あの騎士団長、ロゼス・ティーナ相手にシュエットさんは遊んでいるのだ。

「ゴホッ、ゴホッ、喉を潰しにッ…くるとは…ッ…殺す気満々だな…銀髪」
体制を調えた彼女が立ち上がる。
まだ目から光が消えていない所を見ると、まだやる気らしい…。

本当に厄介な人と遭遇してしまった――。

「―なんかい―やっても―いっしょ――クーが―つよいつよい―」
本当に余裕なようだ…薙刀を地面へ突き刺し、今度は此方へ両手でピースして見せた。


「ほざけ!」
彼女は引き抜いた剣を構え、シュエットさん目掛けて踏み込んだ。


「――よゆう―」
シュエットさんへ剣が届く寸前、半身を後ろへ少しずらし避けると、薙刀を使わず彼女の腕を掴み、腹部へと蹴りを放った。

「がっ!?」
332夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:05:53 ID:ie3O728o
その蹴りが彼女へと直撃すると、数メートル後ろへ吹き飛び民家の壁へと激突した。
くの字になり、その場へと倒れ込む彼女に追い撃ちをかける為にシュエットさんが彼女に近寄る。

「―あやま―って―」
彼女を見下ろし、僕に謝るよう伝える。
僕の為に戦ってくれるシュエットさんに少し泣きそうになった。


「―はやく――クーに―あやまっ―て―」
……僕の為にとは少し違うようだ。

「グッ…くそ!おまえ本当に人間か…?」
壁に手を掛け立ち上がると、剣を杖にしてシュエットさんに問いかけた。

「――にんげん―ちがう―クーは――クー」

「……そうか」
シュエットさんの返答に少しの笑みを浮かべ、またも剣を構えた。

まだ、戦う気だ…。
今の戦いを見て明らかにシュエットさんの方が一枚上を行っていると素人目には思える。
シュエットさんも少し後ろへ下がり、構える事なく両手を広げた。シュエットさんなりの挑発なのだろう…どこからでも攻撃してこいといった態度で彼女の前に立ちふさがっている。
333夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:07:07 ID:ie3O728o

「行くぞ!」

「――いいよ―」
再度、凡人には見えない程の速さで、二つの影が重なった。

綺麗な銀と金が一瞬混ざると、一つの色が地面へと崩れ落ちる――。








「――クー、つよい―でしょ―?」
立っていたのは、やはりまったく髪の乱れを見せない“銀”だった――。
334夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/07(日) 19:08:07 ID:ie3O728o
ありがとうございました、投下終了します。
335名無しさん@ピンキー:2010/11/07(日) 19:36:08 ID:mzdcySxx
クーつええww
336名無しさん@ピンキー:2010/11/07(日) 21:27:01 ID:q7mvhqgq
ぎゃー、ティーナとメノウが危険域に達しそうだなwGJ!
337名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 00:44:11 ID:Do+va/sf
ついにクーとティーナのバトルきたー
メノウにライトに・・・面白すぎるGJ!!
338名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 01:44:48 ID:7LYmXbrJ
ティーナもメノウも幸せになってくれ…
339名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 20:57:17 ID:IffNmKLZ
てぃーなと花火見に行きたい
340名無しさん@ピンキー:2010/11/08(月) 23:58:10 ID:maijvU0H
>>339
恥ずかしがるティーナに浴衣着せてかー!?
341名無しさん@ピンキー:2010/11/10(水) 23:40:07 ID:u039is/m
胸ぐら捕まれた相手から腹に膝を入れられ、耐えきれず嘔吐しちゃったら
掴んでた相手に最初に引っかけてしまうのではなかろうか

クーもライトにデレてくれると嬉しい
342名無しさん@ピンキー:2010/11/12(金) 21:58:14 ID:c5+pwwjb
あの圧倒的な強さをもつティーナを、
いとも簡単に倒してしまうクー・・・。
…恐ろしい子ッ!
343名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 12:21:00 ID:UvMHL3j9
保守
344保守:2010/11/21(日) 17:11:32 ID:PwfkVN9C
依存してる? そうかもね
だけど、私は関係をやめるつもりは毛頭ないし
二時間も離れてたら、私発狂しちゃうからね
出会いは何時かって? んーと、あれは十五年前だったかな
私がまだ高校生だったころに、先輩に呼ばれてね
そのときに紹介されたんだ
親からはなんども反対されたけど、続けちゃったし
もう長いつき合いだから
私の体の何割かは、あれで出来てるかもしれないね
まあ、それでも止めないんだけど

もう、あなた無しでは生きていけないわ

そう言うと、女は煙草に火を付けた
345夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:13:07 ID:isCYtSEv
「ティーナ団長大丈夫でしたか!?」
数人の仲間達が私の元へと駆け寄ってきた。

「あぁ、大丈夫だ…それよりあまり大声をだすな。周りに迷惑だ」心配してくれるのは有り難いが、今の私には多少鬱陶しく感じる。

「は、はい…すいません」
頭を下げる仲間達の間をすり抜け、建物を後にする。

――今私はホムステルの町中にある、とある診察所へと足を運んでいた。

――理由は腹部の痛み…。
あの銀髪に腹部を蹴り飛ばされた痛みが治まらないので診察所へと来たのだが…。


「はぁ……まったく…」
悩みの種が次々と沸いてくる。
それに、あの銀髪……口振りから察するにライトの知り合いだと思うのだが、あれほど強い者と戦ったのは初めてだった。
アルベル将軍もやたら強かったが、あの銀髪は強いとかそんな次元では無く、人間離れしていたようにさえ感じた。
一瞬「逃げた方が良いんじゃないか?」と弱気になってしまうほどに…。

「…次会ったらどうするか…」
今の私ではあの銀髪相手に勝てるとは思えない…。




そう――このお腹に宿る命を抱えて戦う事は――。




「本当に…困ったな…」
まさか、私が母になるとは夢にも思っていなかった…。
346夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:14:21 ID:isCYtSEv
診察所の医者が言うに、妊娠4ヶ月だそうだ…正直まったく気がつかなかった。
この4ヶ月の間にドラゴンとも戦った…アルベル将軍とも戦った…先ほどの銀髪にも腹部を蹴られた……よくお腹の子供が無事でいられたものだ。
普段神などは信じはしないが、今日ほど神が存在するんじゃないかと思った日はないだろう。

「……ライトはどう反応するか…」
勿論、この子はライトの子供だ。
私は今までライト以外の男と関係を持った事がないのだから。

「……ライトが父親…」
そして私が母親…。

なんだろう…不安になってきた。

ライトの事だから、多分責任を感じて私と結婚すると言い出すと思うのだが…。
――また、私は同じことを繰り返そうとしているんじゃないだろうか?
ライトは私に“女”を求めていない……直接聞いた事はないのだがそう感じる…と言うか恥ずかしい話、拒絶されるのが怖い。

ライトが私のお腹に宿る命に対して嫌悪するなら、私は間違いなくお腹の子を亡き者にするだろう……一番の理想はライトと家庭を築く事なのだが…。

「…アホらしい…私とライトが結婚だと?バカも休み休み言え」
自分の安い未来予想図に薄ら笑いを浮かべ、悪態をつく。
347夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:15:32 ID:isCYtSEv
ライトの前を歩く存在で居続けると豪語したくせに、少し不安になるとすぐに女の幸せを求めてしまう。
こんな矛盾した自分の考えが実に腹立たしい…。

「ティーナ団長!」
一人の男が人混みの中から姿を現した。私の名前を呼ぶと、駆け足で此方へと走りよってくる。
平民の服装をしているが、我がノクタール騎士団の団員だ。

「あの連中達、今は港にいますよ」
あの連中…とは銀髪と白衣の男のこと。
銀髪との戦闘を終えた後、私は近くに居た団員に二人の後をつけさせたのだ。


「そうか…あの二人の他に誰か居たか?」

「はい、顔を隠していたのでよく分からなかったですが、フードを被った男が一人」

「フードを被った男…か……今はまだ港か?」

「はい、ホリックに見張らせてます」
ホリックとは隊長の名前だ。
身長が低いのでアイツならバレる事はないだろう。

「分かった…アイツらの行き先が分かり次第、私に報告しに来い」

「はい、失礼します」
私の命令に頭を一度下げると、また人混みの中へと団員は姿を消した。
多分、何処かに宿をとっているはずだ……その場所さえ突き止めればライトも見つけられるはず。
348夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:16:36 ID:isCYtSEv

「お前は、産まれてくる事ができるのかな……まぁ、どうなっても私を恨むなよ?」
赤ん坊を撫でる様に優しくお腹を撫でながら、バレン城へと足を進めた。


◆◇◆†◆◇◆



「はぁ!?ティーナとやり合ったぁ!?」
人が居なくなった港で俺は無意識に大きな声をあげていた――。
倉庫に囲まれた港に俺の声が反響する。
遠くにいた整備員が何事かと此方へ顔を向けたが、またすぐに船の中へと消えていった。

「僕は何もできなかったんですがね…シュエットさんが私を助ける為に仕方なく…そうですよね、シュエットさん?」

「うん―しかたなく――だからクーは――わるく―ないよ。――ライト―おこってる―?」
説教されると思っているのだろうか?
ハロルドの背中に隠れて此方の顔色を伺いビクビクしている。

「いや、怒ってはないけど……まぁ、いいや。てゆうかティーナのヤツ、バレンに来てるのか…何しに来たんだアイツ?」
まさか俺をボコボコにする為に捕まえに来たとか…。
ティーナならあり得る。


「多分、招待されたんじゃないでしょうか?」

「招待?あぁ…アレか」
先ほどの広場の出来事が脳裏に過る。

ゾグニ帝王とメノウが結婚か――。
349夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:18:27 ID:isCYtSEv
どんな事情があるのか知らないが、メノウが結婚を望んでない事はスグに分かった。
あんなに綺麗だったメノウの瞳が泥のように濁っていたから…。

「まぁ、ティーナと会ったら俺がなんとかするよ…それよりまず、メノウ達を助け出さないと…」
後々ティーナに事情を話せば半殺しぐらいで許してくれるだろう。

「やっぱり、ライトですね……メノウちゃんなんですが、既にティエルに尾行させてます。もうスグ、戻ってくるんじゃないでしょうか……って来ましたね」
やっぱりライトですねの意味が分からなかったが、掘り返すような引っかかる言葉でもなかったので触れずにハロルドが指差す空へと視線を向けた。
ハロルドが言うように、町の方からティエルが飛んでくるのが視界に入ってきた。

「ティエル様のお帰りよ!膝をついて崇めなさい!」
俺の頭へと舞い降りると、ハロルドとクーに向けて手をかざした。

いつもの流れなら、この後数十分ティエルの芝居に付き合わされるのだが(付き合わないと一日機嫌が悪くなる…)今回はその芝居をする前にティエルが驚いたように叫び声に近い声をあげたので、自然と芝居の流れは断ち切られた。
350夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:19:53 ID:isCYtSEv




「クー、あんたなんでそんなにボロボロなのよ!?」
俺の頭から飛び降り、クーの元へと向かった。
――そう、ティエルが言うように、クーの身体のあちこちから、血が滲み出ているのだ。

ハロルドの後ろへ隠れていても、目立つ程の傷なので気になってはいたのだが…。

「あんた達、クーをボコボコにしたわね!?女の子に手をあげるなんてサイテー!クーが無口だからイジメたんでしょ!?このっ、このっ!」

「んなことするか!てゆうか、やめろ!」
ティエルが俺の頭をゲシッゲシッと蹴るので片手で鷲掴み動きを封じた。

「男どもー!わだじが、クーのがだぎをとっだるー!」
俺の指を噛み、腕の中で暴れた倒す。
コイツの場合、本気か冗談か区別がつかないので、口から冗談だと漏らすまで動きを封じないとメチャクチャするのだ。

「シュエットさんを傷つけたのは僕達ではありませんよ?」

「ふーッ、ふーッ!……ふぇ?」
俺の指を噛みきろうと、かじったり舐めたりしていたティエルがハロルドの声を聞いた途端、噛むのをやめた。

「やっぱり、ティーナと戦った時の傷だったのか…」
薄々感ずいてはいたが、まさかクーがここまでボロボロになるなんて…。
351夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:21:10 ID:isCYtSEv
かなり激しい戦いだったのだろう……そうなるとティーナも怪我を負っている可能性がある。
ティーナが心配になってきた…。

「えぇ…それにしても彼女…本当に人間ですか?」
複雑そうな表情を浮かべ、ハロルドはボリボリと頭をかいた。

「ははっ、まぁ言いたい事は分からんでもないけどな…で、どっちが勝ったんだよ?」

「まぁ…見ての通りですよ…」
ハロルドが申し訳なさそうにクーに目を向けた。
クーはティエルに傷を治してもらっている最中で、俺達の話を聞いていたのか、目に涙を溜めている。


「そうか…」





クーが負けたのか…。

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「初めはシュエットさんが優勢だったんですよ?いや、一度は彼女を地面へ沈めたんです」
僕は先ほど、シュエットさんとロゼス・ティーナの戦いをライトに一部始終、伝えていた。

「へぇ、ティーナに膝を地面へつかせたのか…それだけでもスゲーぞ?俺が知る限りティーナは人間相手に膝をついた事は無いはずだからな」
何処と無く嬉しそうだ…彼女がシュエットさんに勝った事が嬉しいんじゃなくて、純粋に彼女が“負けなかった事”が嬉しいのだろう。
352夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:22:00 ID:isCYtSEv
シュエットさんは悔しそうにライトを見ている。

「でも、どうやってクーが負けたんだ?正直、クーが負ける絵なんて頭に浮かばないんだが…」
僕もシュエットさんが負けるとは、まったく考えていなかった…始めの競り合いを見てシュエットさんに余裕があると思ったぐらいだ。

「えぇ…それなんですが……」

「ちょっと待て…俺が当ててやる」
僕の言葉を遮り、ライトがニヤッと笑みを浮かべる。





――「アイツ、目隠しをしたんじゃないのか?」

「えっ!?な、なんで分かったんですか!?」
ライトの言葉に僕の口から驚きの声が飛び出した。
――彼女が地面へと倒れた後、僕達はその場を一刻も早く離れようとしたのだが、驚く事に彼女はフラフラと立ち上がり、徐に布を取り出すと一度此方を睨んだ後、目を布で被いだしたのだ。
意味が分からず、唖然とする僕達に彼女は先ほどと同じように剣を向けてきた。

何も言わずにシュエットさんが彼女の前に再度立ち塞がり、手を大きく広げ、挑発する……ここまでは同じ事を繰り返しているだけなのだが、戦神は此処からが違った――。
何故か彼女からの攻撃は一切無く、ただ此方へ剣を構えているだけなのだ。
353夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:23:26 ID:isCYtSEv
我慢できなくなったシュエットさんが彼女へと攻撃を仕掛ける……次の瞬間、シュエットさんが大きな音を立てて地面へと叩きつけられていた。

――そこからは、ずっと彼女の一人舞台だった。
何をしてもシュエットさんの攻撃が彼女へ当たる事はなく、シュエットさんの攻撃が当たる寸前、水のように無軌道な軌道を描き、舞い避ける。
彼女が避ける瞬間、どう攻撃されているのか分からないが、シュエットさんが地面へ倒れ込む。
何をされているのかまったく分からないといった感じでシュエットさんがパニックに陥り、薙刀で攻撃するも、それすら払われる。

目隠しをしている事を逆手に取り、隙をついてシュエットさんの腕を掴みなんとか逃げてきたのだが、「――ピカピカ―にんげん―こわい―いたい―」と泣きだすシュエットさんを連れて港まで降るのにどれだけ苦労したか…。


「ははっ、それはティーナがどうにもならなくなった時に使う手だよ」

苦笑いを浮かべ、シュエットさんに目を向けた。
シュエットさんはライトに目を向けられた瞬間、勢いよく目を反らした…。
ライトが怒っているとまだ思っているようだ。

「どうにも…とは?」
354夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:24:12 ID:isCYtSEv
「ティーナの力は何も剣の才能だけじゃねーんだよ。アイツは人の動きを目を閉じて感じ取る事ができるんだ……たしか、心眼っていったか?」
心眼…確か肉眼に頼らず、相手の気配だけで動作を予測したり感じ取る一種の超能力のことだった気がする。
玄人の域になると、相手の気を感じ取れる間合いを三メートル近く持ち、目が見えなくても、何処にいるか…何をしているのかも分かるそうだ。

「いったい、彼女はどの辺まで目隠しで相手の気配を感じ取れるのでしょうか?」
純粋に知りたくなってライトに問いかけた。






「う〜ん…俺が知る限り、軽く十メートルは目隠しでなんでもできるんじゃねーの?」

「はは…は…十メートルですか…」
腰を抜かす様に近くにあった椅子へと力なくへたりこんだ。
それならシュエットさんの様に近づいて攻撃するのは無理みたいだ。
十メートルも自分の間合いを持っているなら、彼女の一〜二メートル範囲内は正しく手の平の上と言うことになる。

どうりで、何をしても当たらないワケだ…。
命があるだけでも、儲けモノと思ったほうがいいかも知れない。

「そんな事より、メノウはどうなったんだ?ティエルが見に行ってくれたんだろ?」
355夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:25:05 ID:isCYtSEv
ライトが思い出した様にシュエットさんから目を放し、ティエルへと視線をずらした。

「メノウの居場所ならちゃんと分かったわよ。てゆうか私を誰だと思っているのよ!ティエル様よティエル様!私に不可能は無いわよ!」
シュエットさんの治療を終えたのか、再度ライトの頭へと飛び乗った。

「よし、なら一刻も早く助けにいこう!」

「ちょっと待ってください」
逸る気持を押さえきれないといった感じで走り出そうとするライトの肩を掴み、止める。

「ティエル…ホーキンズはいましたか?」

「ホーキンズはいなかったわ…アンナとかいう女なら居たわね」

「……ホーキンズを探しましたか?」

「は?いや、探してないわよ?」

「何故ですか!?」
ライトの頭の上へにいるティエルへと詰め寄る。

「な、なぜって…メノウの居場所を調べてこいって…」
僕の声にビックリしたティエルはライトの髪に目をギュッと瞑りしがみついてしまった。

「ティエルなら、城内を探す事なんて容易いでしょう!?何のために城に入ったんですか!」
何をこんなにイラついているのだろうか?
そう思いながらも、僕の口は止まらなかった。
356夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:25:54 ID:isCYtSEv
「そ、そんなこと言ったって…遅くなると皆が心配するかと思って…」
ティエルの声が小さくなり、涙声へと変わる。

「心配する!?半日だけでですか!?ホーキンズ達は何ヶ月ッy「ハロルド!!」
怒りの混じったライトの声にハッと我に返った。

「少し落ち着けって……上手くいかないのは分かるけど、ティエルにあたってもしかたないだろ?」
ライトが僕を諭すように肩に手を乗せる。
そうだ…今は仲間内で争っている場合では無いのだ。
カッとなってティエルを責めてしまったが、メノウちゃんの居場所を見つけてくれただけでも感謝しなければ…。


「…そうですね……ティエル…申し訳ありませんでした…許してください」
ティエルに向かって頭を下げる。

「……」
しかし、ティエルは僕の謝罪に反応する事はなく、ライトの髪にしがみつき顔を伏せたまま動かなかった…。

「んで、どうするんだよ?」

「え……あっ、はい、明日の昼頃から祝祭が行われます。大半の兵士は規制の為に町へ行かざるえないでしょう。その隙を狙って、森側の城壁からバレン城内へ忍び込みます」
流石にバレンも森から人間が侵入してくるとは思っていないだろう。
357夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:26:30 ID:isCYtSEv
見張りが数人いるだろうが、此方にはシュエットさんがいる。
多少の兵士なら楽に侵入できるはずだ。



「でも、明日は城内にメノウもゾグニ帝王もいるんだろ?流石に王がいる城を手薄にはしねーだろ?」
確かに、王が滞在中の城をほったらかしにして、民衆達を優先する兵士はいないだろう。

「いえ、城内と言っても敷地内にある宮殿へ祝祭時は移動するようです」
聞いた話ではその宮殿で他国の重役達を集めて、宴会をするらしい。
そこで再度メノウちゃんの紹介と、二人の婚儀の際の説明などが行われるそうだ。

「そうか、なら明日行動に移すか…今日はもう動くのをやめよう。あまり目立ちすぎるとかえって危ないからな」

「そうですね…それでは宿を探しましょうか」
ライトの言う通り、他国の人間が町をうろつきすぎると、バレンの人間の目につきやすい。
もう少し情報収集したかったが、今日はもう身体を休める事に徹した方が賢明な判断と言えるだろう。

それに、早くティエルと仲直りしなければ今後の作戦もガタガタになってしまう恐れがある…。

「ハロド―おこったら―めっ――」
後ろに居たシュエットさんが怒ったように頬を膨らませ、僕の頭を軽く叩いた。
358夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:27:24 ID:isCYtSEv

「はは…そうですね(後でもう一度謝りますか…)」



◆◇◆†◆◇◆

――昔、親父がコンスタンでパン屋を経営していたと聞いた事がある。

ユードに移り住むまでコンスタンの町で経営していたらしいのだが、ユード出身の母と結ばれる為にユードへと店を移したとか…。
親父のパンはコンスタン一と言われるぐらい評判がよく、コンスタンの客は店がユードへ移ってもなお買いに来ていたのを覚えている。
だが、親父が病気で死に、数年後に母が後を追うように他界した後、俺が後を継いだのだが、親父のパンの味を再現できずにコンスタンから買いに来ていた客は次々と離れていってしまった…。
それが悔しくて、悔しくて……いつしか親父のようにコンスタンで店を開く事が俺の夢となっていた。
そんな事を考えながらユードでパンを作り続けて八年…。

ティーナのように死ぬ気でコンスタンへと渡る根性があれば俺も親父みたいにコンスタント一と言われるパン屋になれたのかも知れないのだが…残念ながら俺にはそんなたくましい思考は持ち合わせていなかった。
そんな簡単に夢を実現できるとも思っていなかったし、何時しか小さなパン屋で満足してしまったのだ。
359夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:28:33 ID:isCYtSEv
――毎朝母親のお使いでパンを買いに来る小さな女の子。
――仲良く手を繋いで買いにくる、ユードで一番仲がいいおしどり老人夫婦。
――仕事帰りにラム酒とミックスピザを必ず買って帰るユード一の変人。

――夕方に寂しいので夕食を一緒に食べてくださいとクソ恥ずかしい事を口走る白衣姿の友人。

――金を払わずタダでパンを食べにくる幼馴染み…。


いつしか俺の世界がそこに作り上げられていた。
だから俺はその小さな世界で生き続けるモノだとばかり思っていたのだが……世の中何が起こるか本当に分からない。

今俺がいる場所は、平民は入りたくても入れない、宮廷にある一室。
様々な料理器具がぶら下げられており、中には見たことが無い器具も数多く存在する。
簡単に言えば宮廷の調理室だ。


塵ひとつないこの場所で、本当に料理が行われているのか疑わしいが、毎日ここで王族と言われる者達の料理が作られているらしい。
そんな場違いな所になぜ俺が居るのかと言うと…。





――「早くしろ!」
後ろで偉そうに座る赤い毛皮のような鎧を身に纏ったヤツが俺の背中にゴミを丸めたモノを投げつけてきた。
360夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:30:36 ID:isCYtSEv
軽いモノなので別に痛くはないのだが、年下にここまでされるとイラつきも増してくると言うものだ。
この赤い鎧を来た人間…なんでもバレンの騎士団に所属する騎士らしく、剣の腕も立つそうだ。

名前はフラン・ミア。
ミアは俺達が拐われた時に数ヶ月乗った船に監視役として同行していたのだが、コイツのおかげでじめじめした数ヶ月間の船生活で気が狂わなかったと言っても過言では無い。

拐ったヤツに感謝する気は無いのだが、今俺達が何の危害を加えられなく過ごしているのもミアのおかげなのだ。
どういう事かと言うと…

「早くしろって、ホーキンズ!」
満面の笑みを浮かべ、子供のようにテーブルを両手でバシバシと叩いている。

「ったく…ほら」
オーブンから焼きたてのパンを取り出し、包丁で薄く切ると、ミアが座るテーブルへと差し出した。
ミアがキラキラと輝いた目をテーブルの上にあるパンへ向ける。

「食べていいか?」
パンから目を離さず許可を求める。許可を得なくても食べるくせに。


「おう、喉つめんなよ」
俺の声を聞く前に、パンへとかぶりつくミア。
それを見た俺は、咎める事なく近くにあった椅子に腰を掛けエプロンをテーブルの上へと放り投げた。
361夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:32:51 ID:isCYtSEv
聞いて分かると思うのだが、俺達が普通に暮らせる理由――それは単純な話、俺がミアに気に入られたからだ。
何が気に入ったのか分からないが、俺とアンナにやたら東大陸の事を聞いてくるのだ。
なんでもミアはバレン領土から出たことが無かったらしく、俺達を拐った時に初めてバレンから遠出したらしい。
外の世界がバレンとどんな違いがあるか気になるようだ。

聞かれる度、あまり変わらないと返答するのだが、それでもしつこく問いただしてくる。

そんなことが数ヶ月間続いて、いつの間にか俺はミア直属の料理人となっていた…。
いや、直属の料理人と言っても豪華な料理を作る訳では無い。
東大陸の基本的な家庭料理を振る舞っているだけだ。

正直拐われた側からすればバレンの人間にこんな事したくないのだが、何故かコイツは憎めなかった。


「あぁ、そう言えばお前の国の騎士団長さんよぉ…」
無言のまま焼きたてパンを綺麗に平らげたミアが、木のコップに入っているミルクを飲み干し、話しかけてきた。

「団長?ティーナの事か?アルベル将軍か?」
ミアが食べ散らかしたパンカスを掃除し、食器を洗い食器棚へと並べた。
362夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:39:09 ID:isCYtSEv
俺の片付ける姿をぼーっと眺めるんならせめて自分が使った食器ぐらい洗ってほしいものだ。

「あっ?女のほうだよ」
イラついたように頭をかくと、椅子に片足を乗せて此方を睨み付けてきた。

「ティーナか…それがどうしたんだよ?」

「アイツって強いのか?」

「はぁ?なんだよ、いきなり…」
水で手を洗い先ほど腰を掛けた椅子へと再度座り直す。

「いいから!強いのか!?」
此方を睨み付けたままずいっ、とテーブルを越えて身を乗り出してきた。

「顔を近づけんな……まぁ、強いんじゃねーの?てゆうか俺が知ってる人類では一番強いな、間違いなく」
最近のティーナはどうか知らないが、噂を聞く限りノクタールでは負け知らずらしい…。

「ふ〜ん…俺とどっちが強いと思う?」
頬を吊り上げ、ニヤリと笑うミアの頭の上に手の平をポンッと乗せ、耳元で俺は呟いた。


「間違いなく、ティーナだ」
俺の声を聞いた瞬間、ニヤケ面が怒り顔へと豹変し、俺の手を頭から振り払うと、テーブルを乗り越え俺に掴み掛かってきた。

「ふっざけんな、アホホーキンズ!てめぇ、俺があんな女に負けると思ってんのか!」

「負けるどころか殺されるわ!」
363夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:39:54 ID:isCYtSEv
二人で地面に転がり、顔を引っ張り合う。

「はぁ?殺されてねーだろ!今現にこうやって生きてんじゃねーかよ、ハゲ!」

「ハゲてねー!てゆうか、お前もしかしてティーナとやり合ったのか!?ボコボコにやられたんだろ!だから、イラついてんだろ!」

「ボコボコにされてねーよ!女だからって手加減したんだ!そしたらアイツ、隙ついて腹殴りやがったんだ!」

「ぶはっ、ほら見ろ!やられたんじゃねーか!小便チビったんだろ!?」
床を転げ回り、壁へと激突する。
上から器具がガラガラと落ちてきたが、そんなことお構い無しに殴り蹴り合う。

「てめぇ、俺を怒らせたな!」
俺の上で馬乗りになっていたミアが徐に自分のズボンのベルトへと手を伸ばすと、カチャカチャとベルトを外しだした。

「おまっ!?何考えてんだ!俺に興味ねーって言ってたじゃねーかよ!」
俺を押さえつけ器用にズボンを脱ぐミア。
身の危険を感じた俺は何とか逃れようとジタバタと暴れるが、華奢な身体をしているクセにミアをまったく動かせなかった。

「俺は童顔の男しか興味ねーんだけどよぉ…お前でもヒーヒー言わせるぐらいはできるんだぜぇ?」
俺の耳元に顔を近づけ悪魔の囁きを呟くミア。
364夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:41:03 ID:isCYtSEv
これが可愛い女ならどれほど嬉しいか…。
別にミアが不細工だと言ってる訳では無い。
十分綺麗だし、男ウケもいいだろう。
今こうやって股がられるだけでも少し変な事を考えてしまうほどに…だけど無理なのだ。
絶対に…。






「離せ、ホモ野郎!」
そう…正真正銘コイツは女の顔をした男なのだ。
下には立派なモノがついている立派な雄だ。

「んじゃ、さっきの取り消せ!あの女より俺の方が強いだろ?」
ミアがそう呟くと、今度は俺のズボンへと手を掛けた。

「わっ、分かった!お前の方が強いって!だからやめろ!(コイツ目が血走ってる…)」

「あぁ!?ダメだな!お前の目は嘘ついてる!ヒーヒーの刑だ!」
笑いながらそう声を荒らげると、一気に俺のズボンを膝下までずり下げた。



「わかっ、分かった!お前に童顔のツレ紹介してやるよ!」

――自分可愛さに出た言葉だった――。


「……」
俺の言葉にミアの手がピタッと止まる。

「俺は普通だからなんとも思わねーけど、多分お前は気に入ると思うぜ!なんせ、あの騎士団長が惚れた男だからな!」
ミアの肩を掴み俺の上から退かすと、素早くズボンを履き直した。
365夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:43:31 ID:isCYtSEv

「へぇ……本当だな?嘘ついたら、寝てる時に後ろからガバッと…」

「マ、マジだよ!」
罪悪感が込み上げてくるが自分の身を守る為だ。
しかたない。


「ふん…まぁ、いいや……元々お前なんて興味ないし。
んじゃ、腹もいっぱいになったから戻るわ!ちゃんと部屋に戻れよな!あっ、あと約束ちゃんと守れよな!」
無邪気な笑顔を此方へ見せると、足取り軽く部屋から出ていった。

「うぅ、ライト……すまん……」
この町に居るであろうライトに心の中で謝罪する。
ミアと鉢合わせする事なんてないと思うのだが…まぁ、その時はライトがミアと戦えばいい。そして大切なナニかを守ればいい。




「はぁ……戻るか…」

汗を手で拭い、調理室を後にした。
366夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:44:24 ID:isCYtSEv
ありがとうございました、投下終了します。

投下予告忘れた、申し訳ないです。
367名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 03:46:08 ID:PHRw70YN
リアルタイムGJ
ティーナに赤ちゃんができたなんて・・・
これから先の展開が本当気になります
次回の投下も楽しみにしてますね
368名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 03:48:15 ID:isCYtSEv
>>341
膝蹴りされた時にハロルドが上半身だけくの字に曲がったと脳内で考えてくださいw
申し訳ない。
369 ◆ou.3Y1vhqc :2010/11/22(月) 03:51:34 ID:isCYtSEv
保管庫更新感謝します。
370名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 06:53:38 ID:aqt/6fWY
ハロルドォッ!お前て奴はwGJ!
371名無しさん@ピンキー:2010/11/22(月) 22:38:34 ID:9hYS0sCf
GJ!
妊娠か、ていうかあれだけ出していたら当然の結果ですね。
・・・そして、ホーキンズもとうとう大人の階段を。
372名無しさん@ピンキー:2010/11/23(火) 00:18:00 ID:daFTj3l4
うおおお gj!
373名無しさん@ピンキー:2010/11/25(木) 16:41:27 ID:J1ush1GU
gj!
ちょっとティーナを超人にし過ぎかも?
でも続き楽しみにしてます。
374名無しさん@ピンキー:2010/11/26(金) 01:10:41 ID:yw4EIA33
ティーナ頑張れ!
375名無しさん@ピンキー:2010/11/27(土) 04:29:17 ID:XGWbLmhL
GJ!
376名無しさん@ピンキー:2010/12/01(水) 18:00:28 ID:7oSMOI5a
ここのスレ的におすすめの作品は?
377名無しさん@ピンキー:2010/12/01(水) 18:23:24 ID:n21DbSxU
>>376
途中で止まってる作品も多いからなぁ…。
378名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 15:22:44 ID:IJKBM3qT
>>377
スマソ
言い方悪かった

媒体問わず商業作品では?
379名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 16:00:35 ID:8EW9sHcn
鬼うた
380名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 16:20:40 ID:oXVrf38R
ゲーパロさんの社長秘書ってヤツと続編の繋がれた犬ってやつ。
短編だけどね
381名無しさん@ピンキー:2010/12/02(木) 16:21:48 ID:oXVrf38R
>>378
あぁ、そういう意味かwごめんごめんw
382名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 04:04:55 ID:NRmuMw+m
383名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 13:41:45 ID:u7Gpg6E/
ゲーパロさんのつながれた犬の話は良かったなあ
たまらんわ
384名無しさん@ピンキー:2010/12/10(金) 23:13:19 ID:v+UMZbvJ
わたしの棲む部屋の人とか、無題シリーズの人とかの作品もまた読みたいのう
385名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 12:32:42 ID:RdWpJcJI
わたしの棲む部屋の人は今色々やってるからな
386 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:16:09 ID:XUuBhQ3V
夢の国投下します。
387 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:16:39 ID:XUuBhQ3V

『港で待つ』
小さな紙切れにはペンでそれだけ書かれていた。

「亭主…これはいつから?」
カウンターテーブルの上にある紙切れを後ろに立っていた亭主に渡す。

「書き置き?いや、先ほどまでは無かったから多分貴方を呼び出した女性が書いたんじゃないか?」

「そうですか…分かりました。いつ戻って来るか分からないので、扉に内鍵を閉めてもう休んでくれていいですよ。帰ってきたら中に居るツレに内鍵を開けてもらいますので」
紙切れを亭主から受け取り、それをポケットに突っ込むと、表扉を開けて港へと向かった。
――数十分歩き港へと到着すると、まず視界に入ってきたのは大きな時計台。
と言うか時計台しか無い。
昼間はあれだけ人でごった返していたのに今は猫一匹いない。
昼夜逆転で此処まで世界が変わるものか……知らない土地の夜というのは本当に幻想的に感じる。

暗闇の中をゆっくりと歩いていく。
目的地は時計台。
そこにしか光がないからだ。


「誰か、居ないのか?」
周りを見渡し人の気配を感じなかったので、呼びかけてみた。
すると、闇夜の中からコツコツと小さな足音が聞こえてきた。

足音が聞こえてくる方向へと身体を向けて、待ち構える。
388 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:17:50 ID:XUuBhQ3V
誰が来るかなんて分からないが、だいたい予想はつく。





――「ふふ…久しぶりだな?ライト」
闇夜から姿を現したのは、暗黒に負けない金色をなびかせた美形の女性。

「やっぱりお前か…ティーナ」
俺の幼馴染みであり、ノクタール騎士団長となったロゼス・ティーナだった。

◆◇◆†◆◇◆

――他国の夜風というのは何故かやたら冷たく感じる。
肌寒いというより、心の面で。

「ふ……バカバカしい…」
心の面で?
最近私はおかしい…いや、ライトが居なくなってからおかしい。
正確にはライトをノクタールへ連れてきてから…だ。
夜というのは闇の世界。
その闇の世界で剣を持たないと言うことは、騎士として死ねと言うことだ。
今、賊が現れても私にはどうする事もできないだろう。

剣を手放した私には…。

今の私は剣どころか騎士の盾である鎧すら身に纏っていない。

そう…ただの女だ。
剣しか能力が無かった私が剣を捨てこの場所へと立っている。
理由は“騎士”では無く“女”としてアイツに話があるからだ。

アイツ…とは言わなくても分かると思うが、ライトのことだ。
389 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:18:48 ID:XUuBhQ3V
ライトが宿泊している宿の亭主にライトを呼び出してもらい、カウンターに書き置きを残してきたのだが、私が書いたと分かるだろうか?

もし、ライトが来なかったら…。

「……」
もうこのお腹の子には諦めてもらおう。
ノクタールへ戻ったらライトが気がつく前に…。


「はは……ごめんな…?」
聞こえるはずか無いのだが、自分の腹部を優しく撫で、謝罪した。

他人を殺す事には躊躇はしないのだが、私に宿っている命を殺すには、やはり抵抗がある。
母性でも芽生えてきたのだろうか?
たかが数時間前に母になったと宣告されたのに、こんなに早く母性というものが芽生えてくるものなのだろうか…。
母になった事が無いので分からないが、胸の中にモヤモヤとした感情が小さく渦巻いているのは確かだ。



「ん?あれは…」
町から誰かが降りてきた……フードを被って居るので誰か分からない。
自然と時計台の灯りから遠ざかり、灯りから距離を取った。

フードを被った者が此方へと歩いてくる。
身構え本来剣がある腰へ自然と手を掛けていた。

「……(そういえば剣は持ってきていなかったったな…)」
なるべく気配を消し、闇に紛れる。
390 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:19:26 ID:XUuBhQ3V
武器は持っていないようだが、身体の殆どが布で隠れているので分からない。

フードを被った者は時計台の下へとたどり着くと、キョロキョロと周りを見渡しだした。誰かを探しているのか?そう思い、私も周りに誰か居るのかを確認する。



「誰か居ないのか?」
――その声に私の身体が反応した。
聞き慣れた声に私の胸がざわついたのだ。
勝手に進む足を止める事ができず、私も時計台へと足を進めた。

数ヶ月ぶりに聞く声は、私が思っていたより私に影響を与えたようだ。

「ふふ…久しぶりだな?ライト」
フードで顔が隠れているが、顔を見なくても分かる。聞き間違える訳が無い…ライトの声を。

「やっぱりお前か…ティーナ」
フードを脱ぎ、顔が露になる。



――露になった顔を見た瞬間、予想通りのはずなのに、顔をひきつらせ驚いてしまった。
久しぶりに見たライトの顔は、何処か男らしくなっていたからだ。
犬じゃあるまいし数ヶ月で人間の顔つきなど変わるワケがないのだが、どこか雰囲気が違っている。

ライトは私の横をスッと通り過ぎると、時計台前のベンチへ腰を落とした。
私も座るかどうか迷っていると、ライトの方から「座らないのか?」と聞いてきた。
391 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:20:13 ID:XUuBhQ3V
慌ててライトと距離を空けてベンチに腰を降ろす。
不自然に空いた私とライトの間にできた空間に視線を落とし、座る場所を間違えた事に気がついたが、私からライトにすり寄るのもおかしな話なのでその場に留まる事にした。



「悪かったな…お前に黙ってこんな場所まで来て」
数分の沈黙の後、ライトが闇の中に目を向けたまま謝罪の言葉を口にした。

「別に問題無い。おまえ一人いなくても普段通り騎士団は機能する」
嘘は言っていないが言葉を口にした後、言い過ぎたかと少し後悔した。ライトの表情を伺うべくチラリと視線を横へずらす。

「はは…まぁ、そうだよな」
苦笑いを浮かべ、指で頭を掻いている。
機嫌を損ねていない事に内心ほっとした。
数ヶ月会っていなかったので、ライトとの距離感がイマイチ掴めない。
数ヶ月前までは普通に接していたのに、ライトをノクタールへ連れてきた時みたいに、変な距離を感じる。


私はこの距離が嫌いだ…。




「は、話辛いからそっちへ寄るぞ」
ライトの許可を取る前に、素早く距離をつめた。

「お、おい、落ちるって」
ライトがグイグイと逆に押し返してきた。
392 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:20:53 ID:XUuBhQ3V
少しイラッとしたが、ライトのお尻が半分浮いているのを見て口からでそうになった言葉を飲み込んだ
勢いよく距離をつめすぎたようだ……ライトがベンチからずり落ちそうになりながらも、なんとか体制を整えている。

「ふん…」
少し横へずれてライトが座れるスペースを作ってやると、ライトは小さなため息を吐いた後、ゆっくりと腰を落とした。



ライトがこの場所に来るまで、ライトと会ったら私はどうなるのだろうか?そんな事を考えていたが、荒れるような心情の波は襲ってこなかった。
いや、むしろ穏やかだった。

だから何時もの私を保っていられたのだろう…。


――肌寒い闇夜の中、私とライトは普段とまったく変わらない会話を長々と話していた。

逆に不自然なくらいに。



「それで…お前は騎士団の仕事を休んで何故こんな場所にいるんだ?」
会話が途切れたのを切っ掛けに、私が一番知りたかった事をライトに聞いてみた。


夕方会った銀髪の女が一瞬脳裏に過ったが、すぐに無理矢理消し去ってやった。


「あ、あぁ……明日はほら…祭があるだろ?」

「祭?あぁ、祝祭か………ってお前は祝祭目的で休暇を取ったのか!!?」
393 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:21:31 ID:XUuBhQ3V
勢いよくベンチから立ち上がり、ライトを睨み付けた。

「いや、悪かったって!ほ、ほら…お前俺の友達と会っただろ?」
危機を感じたのだろうか?
慌てたように両手を前に差し出し、私と距離を取ろうとした。

ライトの行動は正解だ。
私の事をよく分かっている。

ライトが両手を前に差し出すのが後一秒でも遅れていたらライトを殴り飛ばしていた。


「友達?あぁ、白衣のアイツか…」
空をさ迷う拳を納め、渋々ライトの隣に再度腰を落とした。


「アイツがこの大陸の出身でな、俺アイツに誘われてたんだよ…一度俺の故郷に来ないかってさ。それで西大陸の門である、此処に来たんだ。そしたら祭をやるって聞いて…んじゃ祭も楽しんで行こうぜって感じで今に至るんでした」
ふざけたように話したので、頬を掴んで引き上げてやった。

「いででででッ!ごめんって!行くときお前に知らせようとしたんだけど、怪我で寝てただろ!?だからアルベル将軍に許可をもらっッいだいいだい!」
不自然にライトの顔が歪んだが、気にせず引っ張り続ける。

「お前のせいで周りがどれだけ混乱したと思ってるんだ、このバカ!」
394 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:22:20 ID:XUuBhQ3V
「周りがって、さっき俺が居なくても騎士団は機能するって言ってたじゃねーか!」
ライトの頬から手を放すと、目に涙を浮かべながら頬を擦りベンチへ倒れ込んだ。

「ぐッ、うるさい!生意気な口を叩くな!」

――私一人が混乱していたなど、口が裂けても言えない…。

「ったく…人騒がせなヤツだなお前は…」
倒れ込むライトの頭を軽く叩くと、頭を押さえて私の隣に座り直した。
しかし、今思うとあの感情はなんだったのだろうか?
私に近づいてくる人間をすべて敵視し、自分から遠ざけていた。武器を持ってようが持ってなかろうが、女だろうが子供だろうが…。
何故か分からないが、ライトが居なくなると途端に周りが敵に見えてくるのだ……やはりまだライトを盾として諦めきれていないからか…。

「ところでお前はいつまで此方にいるんだ?」

「私か?私は明日の夜には此処を発つよ」
あまりノクタール城を離れる訳にもいかない。
アルベル将軍が居るにせよ、あの人はもう剣を握る事はできないのだから…。

「……はぁ、そうだ…忘れてた」
頭を抱えて項垂れた。
ノクタールへ帰れば、嫌でも“あの二人”と顔を合わせなければいけないのだ…。
395夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:23:31 ID:XUuBhQ3V
姫様やアルベル将軍にあれだけ言いたい事を言ったのだ……“すいませんでした”ですむ話では無い。

「大丈夫か?頭痛いのか?」
項垂れる私の背中を、不安そうな表情を浮かべたライトが優しく擦る。
手から伝わるライトの温もりが少し心地よい。

「…ったく……なんでもないよ…」
お前のせいだよバカと言いたい所だが、次私が殺気を見せるとライトは走って逃げかねない。
それに私は喧嘩をするためにライトを呼んだ訳では無い。
このお腹に宿る命を知らせに来たのだ。

だが、やはり本人を目の前にするとどうも口が固くなる。

簡単な話なのだ。
ライトに妊娠している事を伝えるだけ。
それでライトが一瞬でも嫌な顔をすれば子供は殺す。
ライトが受け入れてくれたなら産む。

それだけなのだが…。

「い、いやぁ……今日は一段とひえっ、冷えるなぁ…はは…」
まずは、遠回りでもいいから様子を見ようと口を開いたつもりなのだが…。
自分でも笑えるぐらい声が上ずっている。

何を緊張することがあるのだろうか?

たかがライトだ。

目の前に居るのは位が高い貴族でも王族でも無い。
平凡を代表とした“あの”ライトだ。
396夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:24:29 ID:XUuBhQ3V

「そうだな、まぁ季節が季節だからしょうがない」
私の声に違和感を感じなかったのか、ライトは顔色を変えず何時もののほほんとした表情を浮かべ普通に言葉を返してきた。

そうだ…私も自然体で話せばいいのだ。
なにもライトに結婚しろと迫る訳じゃない。

大丈夫――私はノクタール大国騎士団長ロゼス・ティーナだ。



「な、なぁ、ライト?」
さりげなく…さりげなく…さりげなく………ん?なにをさりげなくなんだ?

あれ?何をライトに言うんだっけ?

あぁ、そうだ。子供だ子供。

「なんだよ?」
夜空を眺めていたライトが私の声に反応し、此方へと振り返る。







「え?あぁ、子供ができたんだ」
――私の声は清みきった夜風を鎌鼬の如く綺麗に切り裂いた。

「……こど…も?」
ライトの表情が笑顔のまま一時停止のようにピタリと止まる。

――初めて空気が凍りつく音を聞いた気がした。


空気の悲鳴……幻聴だろうか?いや、単純に耳鳴りだな…うん…死のう―――――――――――――。
397夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:25:20 ID:XUuBhQ3V

   ◇   ◇   ◆   ◆   ◆   ◇   ◇   ◇

「……こど…も…?」
今、ティーナは子供ができたと言ったのか?
ティーナに子供?
誰の子だ?

「だ…誰の?」
その言葉を吐いた瞬間、見えないスピードでティーナのビンタが飛んできた。

「……殺されたいのか?」
ティーナの顔がみるみるうちに怒り色へと変わっていく。
なぜ殴られたのだろう…そんな考えが数秒脳裏に浮かんだが、ティーナの顔を見て子供の親父が誰なのか理解した。


「お…俺の子なのか?」
確認の為に再度殴られるであろう言葉を口にした。

「当たり前だ!私はお前としかしてないんだからな!」
飛んでくる拳を警戒していたのだが、ティーナからの攻撃は無く、スカートのはしをギュッと掴み俺から目を反らしてしまった。

「ん?スカート履いてるんだな」
普段の俺なら絶対に気がつくはずのティーナの変化に今初めて気がついた。
普段ゴツゴツした鎧を身に纏っている事が多いのでティーナのスカート姿がえらく新鮮に感じる。
落ち着いた色のロングスカートに……よく分からないが小綺麗にオシャレを意識している。町娘が良く好んで着ている…確かディアンドル?だっけか。
398夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:26:05 ID:XUuBhQ3V

あのような感じだ。

何故か違和感を感じなかったので、普通に接していたが…。

「え…あっ、まっまぁ私も女だからな!その…他国に来るんだから…身嗜みも気を付けないと…」
語尾がやたら小さくなったが、どうしたのだろうか?

しかし、こう見ると本当に綺麗だと思う。
この姿で町を歩けば、数メートル間で男に声をかけられるんじゃないだろうか?


「あれ?ティーナお前化粧もしてるのか?」
服装ばかりに目がいっていたので顔を見ていなかったが、うっすら化粧をしている様な感じがする。

「だから…さっきも言ったが身嗜み程度にはやるさ……お、おかしいか?」
上目遣いでモジモジしながら、スカートの上を人差し指でくるくると円を描いている。

「いや、物凄く似合ってるけど…」
似合ってるけど……誰だコイツ?と言いたくなってくる。
ティーナってこんなにも女女してたか?

あの傲慢なティーナの影がまったく見えない。

「私の服装はどうでもいいだろ!それより…その…子供なんだが」

「ん?あぁ、子供なぁ」
そう言えば子供の話をしていたんだ。
俺とティーナの子供か…どんな子供が産まれるのだろうか?
ティーナに似て凶暴にならなきゃいいが…。
399夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:27:15 ID:XUuBhQ3V
「まぁ、私は団長だし騎士団の時間を削られるのもあれだからな……どうする?」

「どうするって?」

「いや、だから産むのか…その…おろすのか…」
今度は真剣な表情を作り俺の目を真っ直ぐ見てきた。

「おろす?そんな選択肢はねーよ、アホティーナ」
ポカッとティーナの頭を軽く叩くと、ベンチから立ち上がり背伸びをした。

「じゃ、じゃあ産むのか?」
同じように立ち上がると、俺の背中へと声がかけられる。
――その声は風にかき消されそうなほど小さかった。

「……お前は嫌か?」

「嫌じゃないけど…産んでいいのか?」

「産んでいいのかって…俺とお前の子なんだろ?俺は産んでほしい…お前も産みたい。
それで成立してんだろ。
父親と母親が子供の誕生を願ってるのに誰が邪魔できるんだ…よ…?」
後ろに振り返り、ティーナに視線を向ける。

――ティーナの様子がおかしい…。
小刻みに震え、下を向いたまま黙っている。
何か気に触る事を言ったのだろうか?そう思いティーナに近づきティーナの顔を覗き込んでみた。





――乾いた石畳に、一粒の滴がこぼれ落ちた。
その滴を石の隙間が浸透するように吸い込む。
400夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:28:04 ID:XUuBhQ3V
その一粒の滴が切っ掛けとなり、次々と大粒の滴が地面を濡らしだした。
その滴の正体は、ティーナの瞳から流れていた。

「お、おい、なに泣いてんだよ?」

「ぇ……泣い……っ!?」
自分でも気がついていなかったのだろうか?
自分で頬触って濡れている事に驚いている。

「なんだこれは?全然止まらッないっ…うぅ…」
目を何度も擦り、涙を止めようとしているが、溢れ出す涙を止める事はできず、顔を両手で隠し涙を見せまいと俺に背中を向けてしまった。




「ティーナ」
背中を向けるティーナに近づき、肩に手を乗せる。
全身をビクつかせ、俺の手から逃れようとするティーナを後ろから優しく抱き締めた。


「っ……さわっ、るな゛ッ」
数分俺の手から逃れようと暴れていたが、諦めたのか俺の腕に顔を埋めて声を殺して泣きだした。

皆がティーナを特別だと思っていた…。
あれは剣に愛された鬼神だと皆が崇めるようにティーナの力にすがった。

特別?違う…。




「はは……元気な子が産まれるといいな」

「う゛ん…げんぎなッ子が、いい゛……ひッ…う゛ぇっ、うぅッ――」

…特別なんかじゃない。
401夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:29:11 ID:XUuBhQ3V
周りとなんら変わらない、普通の幸せを憧れるように求めただけ。

ただ…不器用なだけなんだ。



◆◇◆†◆◇◆

――翌日、俺達はホムステルの町を後にし、城裏にある森へと足を運んだ。
ティーナとは昨日の夜、“ある約束”をして別れた。
一緒にノクタールへ帰れと命令されたのだが、俺は目的を果たすまで帰れないので、友の故郷へ立ち寄って帰るから先にノクタールへ戻るよう伝えた。
数十分ほど一緒にノクタールへ帰ろうと粘っていたのだが、長い説得の末、渋々だが頷いてくれた。
次会うときは、皆一緒だ――。

「――だれも―いない―よ〜―」
数十メートルある城壁の上でクーが此方へ手を振っている。

「静かにしろッ……ったく。それじゃ、俺から行くからな?」
ハロルドに武器を手渡し、クーが繋いでくれたロープに手を掛けると、壁伝いに上へ登っていった。
何度か足を滑らせ落ちそうになりながらも、なんとか城壁の上へと到着すると、小さくだがホムステルの町が見渡せた。
数キロ離れたこの場所でも、町の騒がしい声が聞こえてくる。
今、町は祝祭で賑わっている真っ最中だろう…この城を守っている兵は数少ないはず。
402夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:29:54 ID:XUuBhQ3V
もうすぐ陽も沈む…そうなれば、後戻りはもうできない……この城を離れる時、それは皆を助け出した時だけだ。

「早くあげてくださぁ〜いッ…」
城壁の下でハロルドが大きく手をあげて、ロープを要求している。

「ほらよ」
ロープを投げ、ハロルドに渡す。
するとそのロープを腰に巻き付け、再度大きく手を開いて見せた。
引き上げろと言っているのだろう…。

まぁ、ハロルドが上れるとは思っていなかったが……仕方なくクーと俺で数十分かけてハロルドを引き上げてやった。

「ふぅ…腰にロープの痕がついてしまいましたよ…」
服をまくりあげ、くっきりとついたロープの痕を見せつけてきた。

「はぁ、はぁっ、知るかッ」
コイツを此処まで連れてきたのは間違いかも知れない…。
しかし、四人を助け出すのに俺とクーの二人では少し心細い。

いや…三人と一匹か…。

「……はぁ」
ため息を吐き捨て、城を見上げた。


――今朝、俺のカバンから一通の手紙が見つかった。

差出人は、ティエル。

ティエルは昨夜から姿が見えなかったのだが、単純にハロルドとのいざこざで一時的に姿を消したとばかり思っていた。
403夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:32:04 ID:XUuBhQ3V
朝になれば布団に潜り込んで寝ているだろう…深く考えず、眠りについてしまったのだが、今朝になってもティエルは姿を現さなかった…。
仕方なくクーを宿に残し(クーを外に出せばまた迷子になる可能性がある)昼までティエル探しに費やしたのだが、それでも見つからず、宿へ戻り出発の支度をしているとカバンから手紙を見つけたと…。

内容は『ホーキンズの居場所を探してくる』ただ、これだけだった。

しかし、その短文ですぐにティエルが単独でバレン城へ向かったのだと分かった…。
そして、憶測だがティエルはかなり高い確率で此方へ戻れない状況へ陥っているのだろう。

早く助け出さないと…。


「それでは、城内へ忍び込みましょうか」
一度此方へ微笑むと、城内側へとハロルドはロープを垂らした。

ハロルドは今でこそ平常心を保っているが、ティエルの手紙が見つかった時のハロルドの狼狽えようは見るに耐えなかった。
僕のせいだ僕のせいだと一時間も自分を責め身体を丸め小さくなった姿は、鬱陶しいことこの上なかった。

森へと来るまでになんとか普段のハロルドに戻したが、「ティエルは僕が助け出します!」といつも以上に気合いが入っているのが逆に不安だ。
404夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:34:45 ID:XUuBhQ3V
先に城内側へ降り立ち周りを見張っていると、数秒後クーが上から飛び降りて来た。
クーのような身体能力があればこんな手間をかけずにすむのだが、俺とハロルドは人間…数十メートル上から飛び降りたり飛び乗ったりできない。

だからこそクーの力は必要不可欠なのだ。

そして、ティエルの力も…。

「よし、それじゃいくか」
最後にハロルドが降りてくるのを確認すると、ロープを茂みの中へと隠し、敵の巣窟であるバレン城へと侵入した。

まずは、メノウが監禁されている場所を知っているティエルを探さなくては――。
405夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/13(月) 17:40:03 ID:XUuBhQ3V
ありがとうございました、投下終了します。

あと、別に短いモノを書いてみたので、時間があればそれも投下させてもらうかもしれません。
406名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 18:02:32 ID:MElZygXc
ティーナ可愛すぎYABEEEEEEEEEEE
ティーナ可愛すぎやべぇGJ
407名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 19:39:25 ID:7SOR64UJ
まってたよおおgj
408名無しさん@ピンキー:2010/12/13(月) 21:13:17 ID:DmUVQkX8
GJ
メノウはどう動くんだろう楽しみ
409名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 01:43:37 ID:PLkJzLb5
ティーナやべぇな…ライト頼むぞ…
410名無しさん@ピンキー:2010/12/14(火) 11:24:04 ID:rDKvPWIU
ティーナ可愛いすぎだろ…
Gj!
411名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 18:03:56 ID:H/RlF4Fm
ティーナやばいキュン死するとこだったGJ
412名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:34:41 ID:RcEdSMGj
>>255の続き
413名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:36:17 ID:RcEdSMGj
放課後の部室内は騒然としていた。 
部員数とは不釣合いの小さな部室にはそれこそ満員電車のように人々がひしめき合って
、ある一点を見つめ、ある人間は悲鳴を、ある人間は怒声を上げて様々な感情の発露を発していた。
 しかしその感情の源はその全てがネガティブあるいは一部の人間にとっては途方も無いほどの悪意と言っても過剰ではないほどに強く煮えたぎったものだ。
 俺はというとその集団の姿を部室の端っこで放心したように座り込んで、無感動に眺めていた。 やがて噂を聞きつけたのかある人物が走ってくる。
 ああ……終わりの始まりが来た。
414名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:37:10 ID:RcEdSMGj
「こ、これは……」
 予想以上に群がっている人々の姿を見て東田は言葉を失っていた。
 そしてその人々が彼が到来したことを知り、振り返って見せたその表情と感情に更に言葉を失っていく。
「……これはどういうことなの!」
 誰かがヒステリックに叫んだ。 
 まるで子供を殺された母親のように半狂乱となったその問いかけに一瞬気圧されながら反論をこころみる。
「こ、これ……は何かの間違いだよ……た、確かにこのときは二人でいたけど……い、いつもは三人で……」
 救いを求めるように東田が俺を探す。 
しかし怒りと嫉妬そして『二人』という単語を聞いてしまった件の女生徒は声にもならない金切り声と論理のともらない文句を焼却炉の煙突から出る煙のように
その黒い感情を東田にぶつける。 彼女だけではなくてその女生徒の友人達(まあ同じく東田に好意を抱いていたであろう女狐たちだが)も『ひどい』
だの『裏切られた』等の東田本人からしてみれば夢にも思わなかったであろう言葉の艦砲射撃を続けている。 
415名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:37:39 ID:RcEdSMGj
理不尽で論理の欠片もない言葉の石礫を、おそらくは初めて浴びせられ、東田は悪意の前に軽口も叩けずにただ受け続けている。
 その間にさえも東田に好意を持っていたであろう女生徒達の責めは続いている。
 一方的な好意を勝手に抱き、そしてそれを無下にされた(本来なら責められる立場にはないはずなのに)ときには今度は一方的な怒りを覚えて相手を責める。
 そしてそれが相手にとってどれほど不快で自分自身がどれだけ醜いかも気づかずにまるで性欲処理をするためだけに性行為をしたがる男ほどに自分勝手だということにどうして気づかないのだろう。 
416名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:38:19 ID:RcEdSMGj
 ため息が出そうなこの情景に少しだけ視線を逸らして天井を見上げる。 
 優香の顔が一瞬浮かんだ。 
今からでも遅くはないから彼女をこの悪意と嫉妬に煮込まれた鍋底のような地獄から離すべきなのではないだろうか?
 しかし俺の心の片隅にだけ一滴残ったその善意は圧倒的なまでのエゴと絶望に飲み込まれてしまう。
 所詮、今日逃がしたところで結局明日になればその鍋底に引きずりこまれてしまうのだ。 
いやむしろ丸一日煮込まれたその悪意達はより熟成されて優香を飲み込んで跡形もなく溶かしてしまうのだろう……その精神を。
 逃れることの出来ないのなら少しでも熟成が進む前に放り込むに限る。 たとえそれが刹那の可能性だとしてもだ。 
 俺は彼女を突き落とすだろう。 そのまま壊れてしまうことが分かっていても……。
417名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:40:15 ID:RcEdSMGj
自分自身のエゴで最愛の人間を苦しませることに対して
俺の中に一滴だけ残った善意はエゴイズムのスープの中でも決して溶けずに、吐き出してしまいそうな程の苦味となって今もそしてこれからも、
さらに言うならば刹那の可能性を潜り抜けた最高の未来の中でさえもいつまでも心の口内に残り続けるだろう
……わかっていてもそれを俺は止める事はしないのだ。
 東田への責めはまだ止まっていない。
 しかしやっと落ち着いたのか彼女たちの言葉が途切れ始めた。
 さすがに弾切れをおこしたのか?
「まあ……東田君だけが悪いじゃないし、むしろ主役の一人なのに全くやる気が見えなかった上にこういうことだけは熱心なあの子の方が問題よね……そう思わない?みんな」
 最初に東田を罵倒した女生徒が半ば強要するように同意を周囲に求める。
 彼女の剣幕に圧倒されたのか、それとも何だかんだと男女供に好意を抱かれている東田を庇うためなのか何人かの男女が小さく同意する。
 それだけでそれは十分だった。
418名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:42:07 ID:RcEdSMGj
ニンマリと意地悪く笑ったその女生徒はまるで演劇の台詞のようにゆっくりと歩きながら更に皆を扇動する。
「そうよね?よくよく考えてみたら東田君は転校してきたばかりで学校のことが良くわかってないから瀬能さんに色々質問したり聞いてみたりするのは当然だものね
……ごめんね、東田君。私、言い過ぎちゃった
……でもね?わかってもらいたいのは私、ううん私達はっそれだけ次の演劇祭に向けて頑張っているの
!だからこそ強く言いすぎてしまったのよ」
 ああ思い出した。 この女生徒は二年の先輩で優香が入部するまでは主役級を担当していた人だ。 
つまりは恋慕の嫉妬以外にも役を奪われたことの嫉妬もあるのか……それにしても、
「だから悪いのは東田君よりも瀬能さんの方よね?演技のときに対して何の意見も出さない。こちらの意見と指示を待っているだけで何もやる気が見えないもの
……それなのに異性交遊だけは熱心なんてどうしようもないじゃない?そう思わないの!みんな」
 最後の言葉をより張り上げて彼女は聴衆達にアピールする。 
なるほど昨年まで主役を張っていただけあって頭も悪くないし、度胸もあり、顔も世間一般的に見れば美人でもある。 
なにより声が大きいので、元々演劇に興味があって入部したのではなく優香を見て入部したものが大多数の彼らのような所謂にわかにとっては声高に大きく主張されて一部の人間が賛意を表明した以上何の異論もないだろう。 
 東田も先ほどまで一方的に罵倒されていたせいか、わざわざ異論を挟んで波風を立てることもしないようだ。  
 場の趨勢は決した。 すでに判決は下りたのだ。 後は囚人がやってくるのを待つばかりである。
 無実の罪を何の打ち所も無いであろう人間が裁かれてしまうのは昔からよくある事、要はそうならないように目立たず立ち回るかもしくはその無実の人間を陥れる側の人間になればいいのよ。
 あの人の言葉を思い出した。 真っ白なシーツを乗せたベッドに座ってあのおっかない瞳で見下ろしながら……。 そしてその後に続いた言葉は……たしか……。
419名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:42:34 ID:RcEdSMGj
「お、おはようござい……ます」 
 静かにでも煮えたぎった悪意のこもった部屋ではコーヒーに垂らされたミルクのようにはっきりと見て取れるほどの存在感を出しながら未だ自分の罪を知らない囚人がやってきた。
 その後のことはまさに地獄。 ただその一言だけだ。
420名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:51:24 ID:RcEdSMGj
俺は誰も居ない部室の片隅に立ち、窓から外を見ていた。
 外はまるで洗い流すかのような大雨で、たまに思い出したように雷が遠くの空で何瞬か光っている。
 数日前のことを思い出して、ぎゅっと胸を押さえる。 
 あの十分に用意された公開処刑の場で優香が見せた表情が涙が思い出され、そしてそれらが自業自得の心に傷を負わせ続けていく。
 あの時俺は恐怖と救いを求めるようにこちらを見た彼女に駆け寄るべきだったんじゃないだろうか? 
 あの恐ろしい絶望と理不尽に襲い掛かられ、誰も助けてくれない孤独に退路を断たれた彼女の側に立って
恥じも外聞も無くただただ優香を抱きしめてあの悪意の矢面に立ち、手を取って自分がいるよと言えば……あるいは……。
そこまで考えたところで首を振った。 
421名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:52:11 ID:RcEdSMGj
 そんなことは出来なかった。 確かにあの場で彼女の手を取って件の先輩である女生徒を喝破してその場から立ち去ることは出来ただろう。
 そしてそれが優香にとっての救いであることも確かだ。
 それでも……ああそれでも……! それは優香の幸せであって俺の幸せではない。  
 俺の幸せは優香が自分自身の価値に気づかず、俺を、どうしようもなく駄目な俺を唯一の人間として俺以外に惹かれず、媚びず、心を開かないで一緒に過ごすことなのだ。
 そう、あの追及の場で優香を助けることは彼女にとってのナンバー1の幸せかもしれないが俺にとってのナンバー1の幸せじゃないのだから。
 ダカラアエテカノジョヲタスケナカッタ
 俺の一番の幸せを持って優香にはオンリー1の幸せ(それ以外の選択肢を与えない、考えないようにして)を甘受してもらいたかった。
 そしてそんなエゴ丸出しの自分自身の所業を反省はしても後悔はせずにまるで自己満足のようにあの時の情景を思い浮かべながら一人俺はこうやって傷ついているのである。
422名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:53:17 ID:RcEdSMGj
それは何の意味も無い、ただの欺瞞であるけれど、そうやって少しでも自分自身に罰を(この場合は果たして罰になるかはわからないが)与えつづけるんだ。
 優香が立ち直って学校にやってくるようになるまでは……。
 大きな光と同時に雷鳴が耳をつんざく。 まるで世界が光で包まれたような錯覚に陥るほどに視界が白く包まれた。 
 ああ大分近くに落ちたな。 無関心にそう呟く。
「雷雲が大分近づいてきたわね」
 振り向くとピンク色のカーディガンを着て髪を後ろに縛った眼鏡の女性が俺に話しかけていた。
「ああ大隅先生、こんにちわ」
「ええこんにちわ……ええと近藤……君、だったかしら?」
 自信なさ気に問いかけてくるその答えに俺は少し口角を上げて、
「ええ、そうです……近藤です。どうしたんですか?こんなところで」
 精一杯の笑顔を向ける。
「部活の連絡があるから貴方を探しに来たのよ、一応全員そろってからじゃないと話できないですからね、一応副とはいえ顧問ですから」
 そういってぎこちなく笑う。
 今年新任として赴任してきた大隅先生は演劇部の副顧問として五月に任命された。
 本来の正顧問は授業の担当もあり、また増えすぎた演劇部を一人でまわすことは大変だと校長に直訴してまだ担当教科の無い彼女を副顧問にねじ込んだらしい。
 真面目でおっとりとしているが、言い回しが上手く、やや不良の生徒でさえ彼女の言うことは聞くらしく、生徒間の評判では話もわかり人柄も良いので人気は高いようだ。
「ああ、すいませんちょっと小道具の調整をしていまして……」
「そうなの、それは悪いことをしてしまったわ。ただ?はいけませんね。先生は数分前から近藤君のことを見ていましたけどずっと屋外観察をしていましたよ」
「いえ、屋外観察をしながらどういう風に調整するかを考えていたのです」
423名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:53:56 ID:RcEdSMGj
 大真面目に冗談を言う俺に先生は一瞬呆気に取られたような表情をしてからニッコリと笑い、
「そうですか……それでは歩きながらも話を聞きながらも調整出来るでしょうから先生と一緒に体育館に行きましょう。
まさか雷鳴轟くなかでも調整できる貴方がそれが出来ないわけはないでしょう?」
 小首を傾げて問いかけるその仕草に少し笑ってしまいそうになりながら俺はコクリと頷いて先生と一緒に演劇練習している体育館に向かう。
「そうそう、先生……近藤君に聞きたいことがあったのですけど」
「……はい、何でしょうか?」
 ここから体育館まではざっと五、六分かかるだろう。 
あまり人と話をするのは苦手なのだけれどそれくらいなら何とか耐えることが出来るだろうから適当に相手するとしよう
424名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:54:26 ID:RcEdSMGj
「瀬能さんは一体どうしたのかしら?」
 ギクリとして一瞬立ち止まってしまう。
「……何でそんなことを俺に聞くんですか?」
「あら、だって近藤君と瀬能さんは幼馴染なんでしょう?」
「ど、どうしてそれを……」
「私、変なこと聞いたかしら?部活の連絡網に書かれている連絡先を見たら貴方と瀬能さんの家が近かったからそうなのかと思ったのだけど……」
 小首をかしげて不思議そうにこちらを見る大隅先生の態度に自分自身の反応にバツが悪くなってそっぽを向く。
 気持ちを落ち着けてから出来るだけ冷静に、
「確かに幼馴染ですけど最近はあまり付き合いが無いんですよ、ああそれなら同じ主役を張っている東田君の方が詳しいんじゃないんですか……まあ仲がいいかは今はわからないですけど」
 とりあえずこの話題を避けるためにあえて東田の名前を出した。
425名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:55:06 ID:RcEdSMGj
「うーん、東田君ね〜、確かにルックスが良いから女の子の人気はありそうだし、実際に仲は良さそうではあったんだけどね〜、どうも彼に話しかけると部員の子達がね」
 少し困ったように頬に手をつけて考え込む。  
 ああ嫉妬の感情に生徒も先生も、年齢も関係ないのだろう。 兎にも角にもあの感情をむき出しにしても恥ずかしいとは思えない図太さは素晴らしいとは思う。
 真似したいとは思わないけどね。
「それでも近藤君は瀬能さんのことが心配なんでしょう?」
 当たり前のように問いかけられるが、驚いた顔で
「えっ?そんなことは無いですよ、まあ急に来なくなったからどうしたのかなと思ったことはありますけどね」
 意外そうに答えておいた。 
「う〜ん確かに最近はふさぎこみ気味だったから心配はしていたんですけど、急に学校をお休みするようになるなんて思わなかったわ」
 ええ僕もこんなことになるなんて想像もしていませんでしたよ
 喉まで出掛かった言葉を飲み込んで曖昧に返事をする。
426名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:56:13 ID:RcEdSMGj
 あの魔女狩りのようなおぞましい糾弾の場から逃げ出した後に優香は学校どころか部屋から出なくなってしまっていた。
しかしそんな状況になっても教師達は原因を把握しておらず
むしろ例のあの彼女をもっとも強く非難した生徒の女子特有の底意地の悪さと彼女自体のずるがしこさを持って
部活にやる気の無い瀬能さんを注意したらふてくされて来なくなってしまったという真実からは程遠い説明を聞いて
瀬能優香と言う人間を誤解したままでいた。
 部活仲間からはその説明に対して反論は出なかった。 確かに優香の消極的な態度はやる気が無いように見えていたし
何より彼らが所詮は他人の彼女の為に積極的な擁護に動くはずが無かった。
 唯一、東田だけはそのような誤解を解こうとしようとしていたが、あいつ自身生まれてはじめての悪意を全身に浴びせ続けられ
一種の心理的外傷になったようで、表立って例の彼女たちに逆らおうという素振りは見せられないでいる。
427名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:57:25 ID:RcEdSMGj
瀬能優香の味方は誰一人として居なくなってしまった……というよりも中立的な人間すらいないのだ。 
入部当初からは信じれないことに彼女の存在は禁じられた悪魔か何かのように不自然なまでに部員達の口から発せられることが無くなった。
 有名な少年漫画の台詞から言わせれば人間は人々がその人物を忘れ去らなければ決して死ぬことは無いとあるが
逆に言えばまるで居なかったかのように最初から扱われている優香はこの彼女自身の栄光の場であったこの部室、部員達からは死んだということになるんだろう。 
 あるいは殺されたというのが正解か?
 主役が来ない以上ヒロインである役はあの扇動家の女生徒が当然の如く代役となった。  
 おそらく彼女自身もまた俺自身も思うとおりに代役ではなくそのままヒロインを演じ続けることになるだろう。
 大隅先生の部員全員集めての連絡はヒロインの交代といくつかの瑣末な連絡事項だった。
つまりどうでもいい話だ。 
ただ満面の笑顔で白々しい台詞を並べ立てて意気込みを皆の前で語る女の姿と苦渋の内面を知らずに出して本人としては歓迎の表情を出しているつもりの東田の表情だけが印象強く残った。 
 ああそうそう、そのときになってやっと件の扇動女の名前が柳井奈美だと言うことを知った。 これもどうでもいい話だけれども
428名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:58:05 ID:RcEdSMGj
そう……柳井先輩が私の代役になったの……」
 カーテンを閉め切った電気もつけない薄暗い部屋の中で機械のようにそう発声した。
 時刻は午後五時半を過ぎたところ、まだまだ外は明るいがそれでも夜に向けてヨチヨチと歩き始めたところだ。
「後は……その……いつもと変わらずさ」
 言葉を慎重に選びながら無理やり地雷原を進まされるような心境で次の言葉を捜したが、どうにも出てこない。
 暗い静かな部屋で居心地悪く沈黙していると、優香は何も言わず、蛇のようにスルスルとベッドから腕を出して俺の手首を掴む。
 学校に来なくなってからまだ数日なのにぎょっとするほどに細くまた死人のように冷たい腕だった。
 俺は何も言わず掴まれた腕とは逆の手で彼女の細いそれを自分の体温を送りこむようにそっと手首から肩口までスーと軽く握って滑らせた。
 自分と同じ生物とは思えないほどにそこは冷たく無機質で、先ほどの動きとあいまって本当に爬虫類科の変温動物を触っているかのような錯覚さえ覚える。
429名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:58:56 ID:RcEdSMGj
後はお決まりだ。 数ヶ月前から何度も、でもしかし数日前からは同じコトでも意味合いと氷柱に包まれているような寒々とした虚しく心を腐らせるような行為を始める。
「あっ……」
 か細く出されたその声はベッドがきしむ音と同じくらいに無機質だった。
 彼女の敏感だったピンク色の突起にぬくもりを与えるように口に含んでも、彼女が恥じらいと快感の相乗効果でいくら舐めても取り切れないほどにあふれさせたオーラル行為
優しく唇と口内にもぐりこませてしがみついてきたキスと同時に自身が侵入する前の偵察行為である指入れも何もかもが馬鹿馬鹿しい行為と思えてくる。
 確かに優香は反応していた。 寧ろ今までよりもなお淫らに貪欲に求めているように見える。 だが俺は気づかないフリをしているが、それらは塗りたくられた厚化粧や命惜しさの追従だった。
 なぜなら俺が何かをするたびに、情熱的に濡れそぼった瞳のその奥には反応を見逃すまいとする意識だけがありありと見て取れるからだ。
430名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 20:59:29 ID:RcEdSMGj
 まるでレイプ……殴りつけて罵倒して無理やり足を開かせて挿入し、下卑た笑いで髪の毛を引っ張り上げ、頭を打ちつけながら無理やり卑猥な言葉を言わせているような最低の愛情確認行為。
 全ての尊厳と誇りを打ち砕くような……人間を止めるような……虫ケラ以下のような……そんな言葉が次々と頭に浮かび、視界が赤く、体中の内臓を全て吐き出したくなるような吐き気にさえ襲わされる。
 そしてそんな拷問を受けているような状況の中で俺は優しく、全身全霊で彼女に対する最大限の愛情と喜びを限界を超えて表現しなければならない。 
 優香がレントゲン写真のように無機質に観察していて、もし俺がこの行為に欠片ほどでも何かを見せてしまったら間違いなく彼女は存在を自ら消してしまうだろう。
 彼女がこの世から消えることが問題なんじゃない。 今回のことが無くても俺は優香がもし事故や病気によって死んでしまったら躊躇することなくこの世から消えることだろう。
死後の世界や生まれ変わりを信じているわけじゃない。 ましてや愛とやらに殉ずるわけでもない。 
ただ彼女が存在しない世界で自分が存在していいはずが無いからだ。
431名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 21:00:01 ID:RcEdSMGj
だがこんなのは嫌だ。 こんなのは駄目だ。 あってはならないんだ。 
 俺はこんな彼女を見たいんじゃない。
 機械のように観察して俺が喜ぶように演技するだけの人形なんて嫌なんだ!
 存在しない神とやらの為に何の疑問もわかず正しいとされる行為だけを歯車のように続ける存在になっては駄目だ!
 愛情だけを貪欲に欲しがって何の葛藤も無く心が揺らぐことの無い人間には優香は絶対なってはならないんだ!
 人形にされることも歯車にされることも葛藤が無くなる事も、それらが本人の内面を形成して居る以上そうなることは優香を全否定することになる。
 俺は優香の外見も内面もそれら全てを愛している。 だからこそ彼女を形成するそれら全てを俺の考えなしに変えることは許さないし、許すことは出来ない。 
 つまりは俺の許す範囲で優香に影響を与えることはそれが良いことでも悪いことでも許すことは出来ないのだ。
432名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 21:00:40 ID:RcEdSMGj
「……愛してる……愛してるよ……恭……君……」
 呪文のように唱え続ける愛の言葉の裏には愛してるよね?私を愛しているんだよね?
という呪詛にも似た問いかけが込められていることを感じながら俺は内心の焦りと怖気を心の一番底に沈み込ませて
世界を敵に回しても、破滅してもという前詞が着く様な発声で、「うん……俺も優香を世界で一番愛しているよ」
 人生最大の大嘘をついた。
433名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 21:01:02 ID:RcEdSMGj
今回はこれで終わり、また考えてきます。
434名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 21:59:15 ID:na8trEYn
書いてる人に悪いけど、この主人公軽く殺気わくな。
435名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 22:19:02 ID:RcEdSMGj
むしろそう思われるように書いているのでその反応は嬉しいです。
個人的に自分自身のクズさを自覚していて、それでもそういう行動をするキャラが
好きなもんで……ただ気をつけないと読んでる人間に不快感しか残さない話に
なりそうなんでかなり怖いところではありますけど。
 
436名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 22:52:53 ID:na8trEYn
>>435
まぁ、楽しみにしている作品の一つなので完結はしてほしいです。
続きも楽しみにしてますので、頑張ってください。
437名無しさん@ピンキー:2010/12/15(水) 23:09:27 ID:8OnZDc8u
>>435
GJ!
この苛々感と焦れったさと綱渡り感がたまりませぬ
438名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 01:02:26 ID:m0ERBLwC
いいねいいね〜
439名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 03:20:47 ID:hNjQf8X5
GJ!
そういえば2話くらいにこの主人公に告白した女の子はどうなったの?
440名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 10:08:15 ID:B1mRXums
お亡くなりになりました
441名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 21:54:19 ID:zoRfnPyZ
あすかとマリア
442名無しさん@ピンキー:2010/12/16(木) 23:28:16 ID:B1mRXums
>>441
なんですかそれ?
443名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 21:01:28 ID:W6ZWgTId
>>435
待ってたぜ!
GJ!

俺はこの主人公すきだけどな
正直最近のラノベとかの煮え切らない
主人公とかよりよほどいい
444名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 22:13:41 ID:jPVXf023
とあるSSの続きを投下するにあたって聞きたい事があるけど、このスレ的にバッドエンドはNG?
445名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 22:28:46 ID:K5IiJZ1M
注意書きあればいいんでない

俺はハッピーエンドがいいけどなあ……
446名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 00:30:01 ID:lWDZWSo6
BADエンドの内容にもよるんじゃない?
最終的に寝取られ事なら書き手が泣くまで叩き続ける所存ですけどね、俺は。
447名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 00:36:49 ID:lWDZWSo6
>>445
てゆうか物語の後編や途中でBADとかHappyとか書くヤツいんのか?
散々見た挙句、最後になってBADなので注意してくださいなんて書かれたら、痛さ爆発でGJなんてとてもじゃないけど書けないぞ?

書き始めに最後の結末書かれてもおかしな話だしな……まぁ、書き手が書きたいように書けばいいよ。
それで叩かれたなら、仕方ないこと。
448名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 00:42:04 ID:lWDZWSo6
俺めっちゃ良いこと書いたな。
今日は保管庫の依存SS読まずに寝れそう………かな?
449名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 00:49:52 ID:xXtzl9xT
>>448
そういうことわざわざ書き込む時点で寒い‥‥‥

それに書き手が書きたいように書けばいい、とか言ってるわりには寝取られは叩くんだなww
450名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 01:00:27 ID:lWDZWSo6
>>449
まぁ、風邪ひくなよ。

そりゃ嫌いなものがきたら叩くよ、画面を。
451名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 09:06:09 ID:51zC2xRk
画面をかよww

>>444
バットエンドも捉え方によるしな〜
下手したら依存してる時点ですでにバット

なんにせよ投下は楽しみにしてる
452名無しさん@ピンキー:2010/12/21(火) 02:33:31 ID:g9L4O/AV
個人的にはバットエンドでも本人たちが生きてて幸せならいい
たとえイカれてようが
453名無しさん@ピンキー:2010/12/21(火) 07:58:39 ID:H29Ud508
>>452
BADエンドに幸せってあるの?
454名無しさん@ピンキー:2010/12/21(火) 13:03:44 ID:sq3fYNva
野球をすると言う意味のバットエンドなら大丈夫
455 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 00:59:35 ID:fSYN47Wb
夢の国とは別に短編を書いたので、投下します。
一応BADエンドの部類に入るのかな?
まぁ、注意書きは一応します。
456切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:01:17 ID:fSYN47Wb

「由美子さん、お願いですから私の話を聞いてください」
スーツを身に纏った十代後半の男性がしつこく話しかけてくる。
見た目は…男前の部類に入るのではないだろうか?
「話すことはなにもありません」
その男前を無視して目線を流す事もせずツカツカと歩き続ける。
その後ろからスーツ姿の男性とは違う男が追いかける。
服装はこの町の有名な高校の制服。
見た目は……分からない。
何故分からないのかと言うと、単純にその学生服姿の男は僕だからだ。
前を歩く女性…由美子様も同じ制服だ。
何故同じ高校の生徒に様付けなのかというと、この方は町の最高権力を誇る坂崎家の一子であり、僕が代々坂崎家に使える使用人の出だからだ。

産まれた時から決まっていた自分の人生……両親を恨む暇もなく、幼少の頃から由美子様に使える事だけを教えられて生きてきた。
由美子様付きの使用人になったのは八歳の時、それまで由美子様に近づく事を禁じられていた僕は由美子様がどんな方なのか想像することしかできなかった。
そんな事が溜まりに溜まって、初めて由美子様と対面した時、緊張して礼儀を欠いた僕は当たり前の様に由美子様に握手しようとしてしまった…。
457切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:01:54 ID:fSYN47Wb
結果、近くにいた黒スーツの男に腕の骨を折られた。

痛みで泣き叫ぶ僕を見下ろしながら由美子様が無表情で「今から、学校へ向かいます。貴方もついてきなさい」と言い放つと、僕の横を通り過ぎ歩いていってしまった。
その日僕は折れた腕の痛みに耐えながら、由美子様のお世話をさせていただいた。
それが初めての僕の仕事となった。
それから今まで僕はずっと由美子様の使用人として過ごしてきたのだが、それももうすぐ終わる…。

「しつこいですよ?貴方、私が婚約してる事を知らないの?」
キッとスーツ姿の男性を由美子様が睨み付ける。
「えぇ、婚約!?」
慌てたように後ろへ飛び上がると、僕の方をチラリと見てきた。
婚約相手を僕だと思っているのだろうか?
だとしたら見る目が無い。

「それは私の使用人です。婚約相手は別にいます」
スーツ姿の男性の考えてる事を見透かしたように、吐き捨てた。

「そ、それじゃ私にだってまだチャンスがッ」
ホッとしたような顔を由美子様に向けると、由美子様の肩へと男性が手を置いた。

その瞬間、由美子様が此方へ視線を向けてきた。



「痛ッ!?」
男性が地面へうずくまる。
458切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:02:52 ID:fSYN47Wb
「なにをする!」
そう肩を押さえて、僕の方へと声を荒げる男性、それを無視して男性の腕を捻り上げた。

ゴキンッと鈍い音と共に男性の断末魔のような叫び声が、響き渡る。
「すぐに病院へ行けば、治りますよ?」
そう男性へ伝えると、何事もなかった様に数メートル先を歩く由美子様の元へと急いで追いかけた。
曲がり角を曲がり人目につかない場所へと足を運ぶと、由美子様が突然立ち止まり此方へと振り返り、僕の頬めがけてと力強く平手打ちしてきた。
誰もいないからだろうか?
バチンッと頬を叩かれる音で鼓膜が破れるかと思った。

「私に触れる前に対処しなさい」
それだけ言うと、またもと来た道を戻り帰り道の方へと歩いていった。
それをまた追いかける。
これが僕と由美子様の基本的な上下関係だ。
由美子様が亡くなられるか、由美子様ご自身から任を解かれるまで僕は由美子様付きの使用人。

しかし大学卒業後、由美子様は婚約者と結婚してしまう。
由美子様の御父様である、当主様からも由美子様が大学へ進学すると同時に僕が解任されると言う話を一昨日の夜聞かされた。
僕の仕事はあと7日間。いつも通り由美子様に使えて短い間の仕事を全うするはずだったのだが…。
459切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:04:32 ID:fSYN47Wb
ある日の夜、当主様の書斎から由美子様と当主様の声が離れにある僕の部屋まで聞こえてきた。
かなり大きな声なので何かあったのかと思ったのだが、使用人の僕が口出す訳にもいかず気になりながらも部屋に留まっていると、けたたましい足音と共に由美子様が部屋へと入ってきた。
由美子様が此方の離れへ来ることは滅多にないことなので、戸惑い色を隠せない表情で由美子様を見ていると、部屋のカギを後ろ手で閉め僕の方へと近づいてきた。

「今すぐ、私を抱きなさい」
その日、僕は初めて由美子様の涙を見た。

そして、何も言わずに由美子様と繋がった…。
身体の関係は由美子様が大学卒業するまで続いたが、由美子様の結婚と同時に無くなった。

そして、僕はというと……。
何故か由美子様の傍で使用人として使えていた。
あの日、当主様と由美子様の間にどのような話があったのか分からないが、その次の日には解任の話自体が無くなっていた。
そして当主様から結婚した後も由美子様の傍で使用人として働くよう命令された。

命尽きるまで由美子様の傍で生きろと…。



月日は流れあれから十五年…今でも僕は由美子様の傍にいる。
460切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:05:21 ID:fSYN47Wb
旦那様と由美子様の間に産まれた茶菜様と湯也様もすくすく育ってくれている。



――そんな幸せが溢れる日々の中、突然由美子様が倒れられた。

坂崎家の息が掛かった病院へすぐに運び込まれ、精密検査が行われた。
結果、肺癌……我慢していたのだろうか?もう手の施しようがないそうだ。
一番身近にいたのに由美子様の異変に気がつかなかった…それがなにより許せなかった。
由美子様が病院での入院を拒み、自宅での療養生活を望んだので、その日から由美子様の闘病生活が始まった。
お風呂や食事…すべてを僕一人がお世話し、一日も離れず由美子様の傍で過ごした。


そして運命の夜…。
その日は突然やってきた。

由美子様が突然苦しみだし、家族以外の使用人すべてが大広間へと集められた。
すべての使用人が手を合わせ、神に祈る。

勿論僕も神に祈った。
何を祈ったのだろうか?
分からないが、懸命に祈った。


「佐久…来い」
扉から姿を現したご主人様が僕を呼んだ。
他の使用人は何も言わない…。
何故何も言わないのか……それは唯一、僕が由美子様の部屋へ入る事を許されている使用人だから。
特別な“使用人”だからだ。
461切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:06:41 ID:fSYN47Wb
由美子様の部屋の前まで来ると、湯也様と茶菜様が目を真っ赤に充血させぐったりと椅子に腰を掛けているのが視界に入ってきた。

「お母様をお願いね?」
茶菜様が僕の背中を優しく押してくれた。
こういった小さな優しさをずっと忘れないでほしい…。

「佐久…お前は嫌いだけど……頼むよ」
疲れたように椅子に座り込み項垂れる湯也様。
湯也様は由美子様が僕の名前を呼ぶ度に、「なんで佐久ばっかり!」と怒っていた。
子供心に由美子様のお世話をしている僕の事を嫉妬していたのだろう。
少し精神的に弱い部分があるが、いざとなれば強くなるはず。
茶菜様を守ってほしい。

「じゃあ、頼むぞ?」
ご主人様が由美子様の部屋の扉をわざわざ開けてくれた。
ご主人様には本当にお世話になった。
結婚当初、由美子様の傍にいる僕を鬱陶しがる素振りすら見せず、ずっとこの家で働かせて頂いた。
今の僕があるのも、ご主人様のおかげでもあるのだ。

「はい、それでは……由美子様、只今参りました。」
ご主人様に頭を下げ、由美子様の部屋の中へと入った。
462切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:07:39 ID:fSYN47Wb
僕が毎日過ごしていた由美子様の部屋……今はもう医療器具に囲まれたベッドしか無いのだが、数十年過ごしてきた部屋だけに多少見慣れない器具が部屋を占領しても、僕にとっては変わらず由美子様の部屋なのだ。


「佐久?早く此方へ来なさい…」
弱々しい声で名前が呼ばれる。
急いで由美子様が寝ているであろうベッドへと歩み寄った。


「皆は何処に?」
荒い吐息を吐き、虚ろな瞳で僕を見上げている。
「部屋の外にいます。お呼びしますか?」

「いいわ…もう話はすんだから」
呼びに行こうとする僕の腕を掴む。
その細い腕は壊れそうなほど小さく見えた。
あの綺麗な指が、今は血の気を失っている。

「佐久…近くに」

「…はい」
近くの椅子に腰掛け、由美子様の口に耳を近づけた。


「私が居なくなった後、私の机の中を見なさい…貴方に必要なモノが入っているわ…それで、わた―――って――なさい。貴方は私の使用人……佐久、分かったわね?」

「……はい」
――僕の耳元で短い言葉と小さな笑みを残した後、由美子様はゆっくりと目を閉じ長く深い眠りについた。

幸せだった?
よく分からない…だが、不満は一切なかった。
463切れない繋がり ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:12:19 ID:fSYN47Wb
何をするにも由美子様の事を第一に考え生きてきた。
これからも、それは変わらないだろう…。

――由美子様が亡くなられて数日後、僕は一人由美子様の部屋へ訪れていた。
圧迫していた器具は撤去され、昔と同じ真っ白な部屋にベッドと小さな机というシンプルな部屋へと変わっていた。

由美子様の机に近づき、引き出しを開ける。
中には数多くの由美子様の私品が入っていた。
それをすべて机の上に出し、由美子様が言っていた“モノ”を探し出す。
数分、指で大切にかき分けながら一つ一つ確認していくと、小さなビンが目に止まった。

一目で由美子様が言っていたモノだと分かった。
由美子様がいつも使われているベッドへ腰掛けると、何の躊躇もせず、それを飲み干した。

「まっ…てて…ださい今…すぐ…」
由美子様のベッドに横たわり、天井を見上げる。
すぐに視界が暗くなってきた…。

これが終わり?
違う…僕は由美子様専用の使用人。
主人の願いは絶対。

何度も最後の由美子様の言葉が頭に流れる。




『私の後を追ってきなさい。』

意識が遠退く最中…やはり思い浮かべるのは由美子様の顔。

由美子様の笑顔を頭に描いた後、僕は意識を手放した――。
464 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:14:17 ID:fSYN47Wb
ありがとうございました、短編終了です。
夢の国もなるべく早く書きますね。
465 ◆ou.3Y1vhqc :2010/12/23(木) 01:15:02 ID:fSYN47Wb
保管庫更新感謝します。
それでは
466名無しさん@ピンキー:2010/12/23(木) 01:25:50 ID:GMClAtpF
GJだがKOEEEEEE
467名無しさん@ピンキー:2010/12/23(木) 03:45:25 ID:SxB0DxQ6
Gj
まるでモノのようにただ忠実な使用人に依存する雇い主か
歪んでるけどそれがいい
468名無しさん@ピンキー:2010/12/27(月) 14:36:48 ID:2WqxpUlE
貴方なしでは生きられないどころか貴方なしでも死ねないのか
469名無しさん@ピンキー:2010/12/27(月) 19:05:43 ID:5XlDEAY5
早い保管庫更新乙。
470名無しさん@ピンキー:2010/12/30(木) 20:08:55 ID:u5fGt8pR
ほす
471名無しさん@ピンキー:2011/01/02(日) 00:57:48 ID:cMSf75I1
472名無しさん@ピンキー:2011/01/02(日) 01:32:12 ID:MR2yPRW2
473名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 01:09:14 ID:jhU0mGmq
474名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 02:05:49 ID:NbwMhsla
475名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 02:28:07 ID:f2Ko07h+
476名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 09:53:57 ID:FT2v1o7u
477名無しさん@ピンキー:2011/01/03(月) 12:39:26 ID:efl48hIg
478名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 14:20:37 ID:cJoitGlY
479名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 14:56:08 ID:5ruj6enz
480名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 15:02:38 ID:tyWn6y/F
481名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 15:06:54 ID:UKDHMo5r
482名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 16:16:33 ID:VhByIHs+
483名無しさん@ピンキー:2011/01/04(火) 17:44:24 ID:2sledtdu
484名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 00:36:14 ID:7BQ2YIIX
485名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 00:38:09 ID:nlr2WaDa
ちゅ。
486名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 08:40:17 ID:lbMXC0Y4
えっ
487名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 09:00:39 ID:WR5mgpAc
488名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 10:05:59 ID:iWmreOXk
スレ伸びてるから誰か投下してんのかと思った…
489名無しさん@ピンキー:2011/01/05(水) 22:06:29 ID:AC4gkNpp
同じく…
490名無しさん@ピンキー:2011/01/09(日) 21:04:09 ID:f0N+7tv+
491名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 00:54:23 ID:zKaeOLuo
過疎だなあ
俺もパソコンは規制だしもしもしで投下はきついし
避難所っていうか代行スレ欲しい
492名無しさん@ピンキー:2011/01/11(火) 00:56:26 ID:zKaeOLuo
wikiに直貼りしてurlを書き込むってのもいいかも
でもここの編集出来ないんだよな……
493名無しさん@ピンキー:2011/01/15(土) 21:21:40 ID:OZAmZtEn
494名無しさん@ピンキー:2011/01/15(土) 21:58:59 ID:r4RWfTrV
495名無しさん@ピンキー:2011/01/17(月) 16:52:06 ID:84KPMucr
夢の国の作者さんはいるのだろうか。
496 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:33:50 ID:xOjEiNPr
遅いですが、新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくって事で今年一発目投下します。
497夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:35:04 ID:xOjEiNPr
「クー、分かるか?」
目の前を壁伝いに歩くクーに小さく問いかける。

「――うすい―でも――だいじょ―うぶ―」
そう返事を返すと、また鼻を前に突き出しクンクンと匂いを嗅ぎだした。
城内に侵入してやく三十分経つが、未だに敵兵に見つからないのは鼻が効くクーのおかげだ。
兵が近づいてくる前にそれをクーが察知し、その近辺から離れる…それを繰り返してティエルが居るであろう場所を探しているのだ…まぁ、完全にクー頼りってことだ。

「しかし…気味の悪い城ですねぇ」
後ろを歩くハロルドが周りを見渡しながら呟いた。
ハロルドの言うように確かに気味が悪い…。
やたら宗教臭がする銅像が立ち並び、明るい色のモノが皆無に等しい。
本当にこんな場所で生活できるのだろうか?
普通の人間なら精神を壊すんじゃないだろうか。
それに地面から何やら変な音が響いているのだ…。

何かの叫び声のような…。

「――このなか―いる―」
クーがある部屋の前で止まった。

「居ますかね…?」
ハロルドがクーに聞こえないように俺に話しかけてきた。
しかし、クーにはバッチリ聞こえていたみたいだ。信用できないのか…と言った感じでハロルドを睨んでいる。
498夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:35:57 ID:xOjEiNPr
「居るだろ…クーが言うんだから」
と言うか何百とある部屋を素通りしてここまで来たのだ…居なきゃ困る。

階段を何階登ったか覚えていないが、かなり上に登ってきたので時間もかなり使ってしまった…もうすぐメノウも戻ってくるはず。
早くティエルを助け出さないと。

「クー、中に何人居るか分かるか?」

「ティル―だけ――」
親指をビシッと立てて此方へウィンクをして見せた…無表情で。
たまにだが、クーは突然人間臭い事をする時がある。
どこで覚えたのか聞くと、町を歩いてたら見かけるそうだ。
町中で親指立ててウィンクする人間…あまり考えたく無いが、何故かホーキンズが頭に浮かんだ。

「はは、クーは面白いな……それじゃ中に入るぞ」
軽い苦笑いをクーに返すと、クーは満足したのかハロルドにフフンと鼻を鳴らし自慢気な顔を見せた。
ハロルドより自分の方が優れていると言いたいようだ。

こんな緊迫した状況で小さな笑いが生まれてしまったが、そのおかげで肩の力が良い感じに抜けてくれた。
ハロルドにドアを開けるよう指示し、俺とクーは中へ飛び込む為に武器を構えた。
別にクーを信用していない訳では無いのだが、念には念をだ…。
499夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:36:50 ID:xOjEiNPr
「開けます…」
ハロルドの言葉に頷き、唾を飲み込んだ。


ハロルドが勢いよくドアノブを回し、ドアを開ける。
真っ先に中へ飛び込んだのはクー。その後に俺が続き部屋の中へと足を踏み入れた――。

「な、なんだ、おまえ!?」
部屋の中に居たのは、ティエルでは無く一人の人間の男だった。

「――そっ―こう―」
その男を見るや否やクーが男にタックルをかます。
いきなりの出来事に無防備の男はクーにあっけなく倒された。

「クー!お前は何してんだ!」
部屋のど真ん中でクーと男が転がっている。

「ティル―つか―まえた―」
そう呟くと、男の上に股がり押さえ込んでいたクーが男の胸ぐらを掴み立ち上がった。

「おい、それティエルじゃねーだろ!」
クーの肩を掴み、男を突き飛ばす。

「いってぇ!?」
俺に突き飛ばされた男はまたも地面に倒れ込み、頭を強く打ち付けた。

ヤバい…まさかクーが間違えるなんて思ってもみなかった。
クーに頼りきっていた俺が言える事じゃないが、流石にこのミスは間違えたですまされない。

「クーどけ!」
クーを横へ強引に退けると、剣を男へと向けた。
此処で殺さないと間違いなく俺達の計画は失敗する。
500夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:37:47 ID:xOjEiNPr
「ま、待ってください!」
剣を構える俺の腰へハロルドが強くしがみついてきた。

「なんだよ!早くしないと!」

「顔を見てください!」
必死に俺にしがみつくハロルドにそう言われて、男へと視線を落とした。



「てめぇ、くそライト!幼馴染み突き飛ばして、そんなあぶねーもん向けるんじゃねーよ!」
剣先を横へずらし男が立ち上がると、俺を睨み付け頭を平手で力強く叩かれた。
叩かれた衝撃か、別の衝撃か分からないが、クラッとよろめき近くの椅子へと腰を落としてしまった。


幼馴染み…そう、幼馴染みだ。


「久しぶりだな?ライト」
そう俺の名前を呼ぶと、椅子へ座り込む俺の頭を先ほどとは違う優しい手先でくしゃくしゃと撫で回してきた。


「あぁ…本当に久しぶりだよ……アホホーキンズ」

やっと見つけた…。

年相応に少し老けたが、見た感じ怪我や病気と言ったモノは負っていないようで安心した。

「ホーキンズ!」
ハロルドが感極まってホーキンズへ駆け寄る。

「男に抱きつかれる趣味はねぇよ」
しかしホーキンズは抱きつかれると分かったのだろう、走り寄ってくるハロルドの頭を鷲掴みベッドへと放り投げた。

「それより…ライトよぉ」
501夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:38:32 ID:xOjEiNPr
ベッドに投げたハロルドを無視し、俺の肩に手を回すと、耳元でひそひそと話し出した。

「あの美人銀髪ねーちゃん…どうしたんだ?」

「銀髪ねーちゃん?あぁクーのことか。別に、お前ら助けるのに手伝ってくれてる仲間だよ。人間じゃなくてエルフなんだ」
隠そうかどうか迷ったが、ホーキンズは妖精であるティエル見ているので多分驚かないだろう。

「へぇ……だからあんな綺麗なんだな……ティーナに言ってやろ」案の定驚いた様子を見せる事はなく、嫌味たらしくそう耳元で呟くと、俺から離れてクーの元へと歩み寄っていった。
別にティーナに言われても問題は……無い…と思うのだが…。
と言うか、必死こいて助けに来たのにホーキンズやたら元気じゃないか?
感動の再会になるはずだったのだが……まぁ、涙流して抱きついてこようもんなら拳を叩きつけていたかも知れないけど…。

「なぁ、銀髪エルフさん。あんなチビより俺と遊ばねーか?この城の一階にちょうどいい感じのベッドがある部屋があるんだが」
誰がチビだ…。
それに状況を把握してるのかコイツ?普通にクーを口説きだした。

「――ティル―おおきく―なった―?」
クーはホーキンズの頭をポンポン叩いている。
502夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:39:26 ID:xOjEiNPr
まだ、ティエルだと思っているようだ。

「あれ…そう言えば、なんでこの部屋にホーキンズが居ること分かったんだ?てゆうかなんでホーキンズとティエルを間違えたんだ?」
確かクーはティエルの匂いを追いかけてきたはず。
それなのにホーキンズの居場所を見つけた。
意味が分からない…。

「――?――ティル―こっちにも―ティル―」
ホーキンズの頭を叩いて遊んでいたクーがベッドの横にある小さなカバンへと目を向けた。
確かあのカバンはホーキンズのカバンだ。

「カバンにティエルが居るのか?」
カバンに手を掛け、中を確認する。
カバンの中には汚れた衣服が詰め込まれているだけだ。

「はぁ?ティエルなんていないぞ?てゆうかティエル来てんのか?」

「あぁ、来てるんだがはぐれてな……クー、ティエルいないぞ?」
クーへカバンを手渡すと、カバンに顔を突っ込んで匂いを嗅ぎだした。
ホーキンズの服が入っているのによく匂いなんて嗅げるなと思ったが、ホーキンズが居る前で口を滑らせるとややこしい事になりそうなのでやめた。

カバンから顔を引っこ抜くと、クーは首を傾げ俺の顔をジーっと見つめてきた。
クーもよく分からないらしい…。
503夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:41:14 ID:xOjEiNPr
「ティエルの匂いがするのか?そりゃ、よくティエルが潜り込んでたから匂いぐらいはするかもな」
ホーキンズが部屋の外を確認すると、カギを閉め此方へ歩み寄ってきた。
そうか…クーはホーキンズのカバンについたティエルの匂いで此処にたどり着いたのか…。
ラッキーと言えばラッキーか…。

「おいライト、ほらよ」
ベッドに腰掛けると、カバンから小さな紙切れを取り出し俺に手渡してきた。
それを受け取り紙切れに目を通すと、何やら文字が書かれていた。

此方の文字だろうか?初めてこの土地に来た俺は、まったく読めなかった。

「言葉は通じるくせに文字は違うだってよ…ややこしいよな」

「あぁ、んでこれはなんだよ?」
人差し指と中指で挟んだ紙切れをピラピラと揺らし、ハロルドの前へ差し出した。
ハロルドなら分かるかもしれない…そう思いハロルドに渡そうとしたのだが…。
クーが俺の手から紙を奪っていった。
奪った紙をジーっと見つめたと思うと、今度は困ったように眉を潜め俺の顔を見てきた。

「なんだよ?早くハロルドに渡してやれよ」
俺の言葉に反応したクーは渋々ハロルドに紙切れを渡すと、ふてくされたようにベッドの毛布へ頭から潜り込んだ。
504夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:49:18 ID:xOjEiNPr
なんなんだいったい?

「ふふ…貴方に頼ってほしいんですよ…シュエットさんは」
笑顔を浮かべながら、くしゃくしゃになった紙切れをゆっくり広げ、中を確認した。

「頼るって…頼りきってるだろ」
クーの力がなければ、ホーキンズを見つける事もできなかったし、況してやこの城へ侵入することもできなかった。
感謝してもしきれない程だ。

「それをシュエットさんに伝えてあげてください。言葉にして」
言葉に?流石にそれは恥ずかしいのだが…。

「はぁ……クー」
仕方ない、言わなきゃ伝わらない事もあるだろう…。
毛布をめくり、クーの頭をだしてやる。

「――」
ふてくされている…と言うより落ち込んでいるが正しいのか…。

「クー…お前のおかげで随分助かってるんだ。ホーキンズを見つけてくれてありがとな。」
頭を撫で、礼を伝える…すると突然ベッドから起き上がり、気合いの入った目付きでジュリアで素振りしだした。
やる気をだしてくれたようだ。
単純と言うか純粋と言うか…。

「なぁ、俺を無視してイチャイチャしないでくれるか?」
ホーキンズが此方へジト目を向けてきた。
そういえばホーキンズを助けにきたんだった。
505夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:50:54 ID:xOjEiNPr
「わるいわるい…まぁ、半分は目的達成したようなもんだからな。後はアンナさんとメノウとティエルだ。まずはメノウの居場所を知ってるティエルだな。」
余裕を見せる訳では無いのだが、かなり早い段階で一人を助け出せた。
この勢いで皆を助け出したい。

「メノウの居場所は俺が知ってるぞ。此処で二手に別れるか?」
そう言いながら、ホーキンズはベッドの下から剣を引きずり出してきた。

「……お前なんで剣なんか持ってんだよ?」
ふと疑問に思った事を口にだした。
普通、拐った人間の身近に武器なんか置いとくか?
と言うか何故ホーキンズは城内の一室に居るんだ?普通拐って来た人間に王族が住む様な部屋が用意されるか?

それにこの部屋…入って来た時カギすら掛かってなかった…。
拐ってきたわりにはあまりにも開放的すぎる。

「あぁ、それなんだが…実はこの城の中で俺達の味方ができたんだ」

「味方?バレンの人間なのか?」
ホーキンズはこんな短時間で敵を味方に引き入れたのか?
考えにくいがホーキンズが嘘をつく理由は無い。しかし、それならかなりの戦力になるかも知れない。
506夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:51:50 ID:xOjEiNPr
「あぁ…その紙切れにこの城の脱出経路が書かれてるんだとよ…だけどこれ書いた仲間っていうのが頭悪くてな。口にだすと聞かれたらマズイとかでこの紙を渡してきたんだが……まぁ、読めるわけないわな」

ホーキンズの言うことが本当なら頭は良く無いらしい…大丈夫なのだろうかその仲間とやらは…。助けどころか足を引っ張られてはティエルの二の舞になる。
別にティエルが足を引っ張ってると言ってる訳では無いが、その仲間とやらがもしおかしなことになっても助け出せるか、かなり危うい…。
俺達の目的は出発時から変わらずホーキンズ、アンナさん、メノウの救出なのだ。されにティエルが追加された……流石にいっぱいいっぱいだ。

「とにかく…此処で別れて探したほうが早いぞ?どうするよ?」
そうだ…今は考えるより動けだ。

「それなら、俺とホーキンズがメノウとアンナさんを助けよう。クーとハロルドはティエルを助ける。それで大丈夫か?」
次こそクーならティエルを探してくれるはずだ。
それにハロルドもティエルを助けたいと言っていた。

「えぇ…僕は大丈夫ですが…それよりこの紙なんですけど」
メガネを頭に乗せて、紙切れを此方へ見せてきた。
507夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:52:47 ID:xOjEiNPr
そういえばハロルドに脱出経路が書かれている紙切れを渡していたんだった。

「地下にある礼拝堂に城の外へ抜ける隠し通路があるみたいですよ?」

「「え?お前読めるのか?」」
ホーキンズと顔を見合わせ、声をハモらせた。

流石にハロルドでも困難すると思っていたのだが…。
クーはそれが気に入らないのか、ジュリアでハロルドのお尻をつついている。

「よし、それじゃ見つけたら地下にある礼拝堂に直行してくれ。本当にヤバくなったら俺達を置いて脱出してくれても構わない…だから絶対に死ぬなよ」
ハロルドとクーの肩を掴み、抱き寄せた。
ハロルドは困惑したような表情を浮かべていたが、すぐに元の表情に戻り任せてくださいと俺から離れた。
クーは一向に俺から離れる素振りを見せないのでハロルドが強引に引き剥がし、二人仲良く手を繋いで部屋を出ていった。
頭が回るハロルドとクーの力があれば大丈夫…。

「んじゃ、もうすぐメノウ達も戻ってくるはずだから先回りするか。
はぁ…この部屋ともこれでおさらばか…短い貴族生活だったなぁ………クソつまらなかったけど」
扉の前に立ち部屋の中を眺めるように振り返ると、名残惜しそうに呟いた。
508夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:55:25 ID:xOjEiNPr
確かにこんな生活一度はしてみたいモノだ……まぁ、クソつまらなそうだけど。

「はは、世界一のパン職人になれば豪邸ぐらいあっという間だよ。」
ハロルド達が出ていった数分後、俺とホーキンズはメノウとアンナさんを助ける為に後宮へと足を進めた。



◆◇◆†◆◇◆

「団長最高っすよ!!」
一人の団員が歓喜の声をあげた。
歓喜の声と自分で言うのは抵抗あるが、正真正銘歓喜の声だから仕方ない。

「いや、団長は昔から美人だと思ってたけどここまでとは……俺とダンス踊ってくれませんか!?」
違う団員が横から割り込み私の前に立つ。
それを見た他の団員達も私の前に立とうと押し合い掴み合いをしだした。

「静かにしろ!周りに笑われるだろ…ノクタールの代表で来てるんだから、周りの目を最大限意識しろ。それに私はダンスなど踊れないし、女なら腐るほど周りに居るだろ……そっちいけ」
手のひらを団員達の目の前でヒラヒラと揺らし、散るように急かした。
こんな機会私に訪れると思ってなかったので、ダンスの練習などしていないのだ…私が恥をかく=ノクタールの恥となる。

そう、世界中から王族達が集まるこの社交の場では…。
509夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:56:35 ID:xOjEiNPr
町でも酒を飲み踊り明かしているのだろうが、雰囲気は間違いなく違うだろう。
平民の皆はこの場を憧れるだろうが、私は町で行われている宴の方が数倍魅力的に感じる。
それはライトが今この瞬間も、たった数キロ離れた町中で友人達と酒を飲んでいるであろう姿を想像できるからだ。

周りに目を向けて見る。
様々な豪華ドレスを着飾った貴婦人達が他国の者と手を取り合い踊っている。
貴族だから見栄えもいいのだろうか?
だとしたら今私が着ているこのドレスは皆の目にどう写っているのだろう…。



「心配しなくても、似合ってるぜ?何処かの姫様じゃねーかってぐらいによ」
後ろから聞こえた声に反射的に振り返る。

「……あぁ、貴女でしたか」
何処からともなく姿を現したのは、タキシード姿に身を包んだバレン騎士団の……

「フラン・ミアだ。自己紹介を忘れてたな…ミアと呼んでくれ。
口より手がでる性分なんで悪く思うなよ」
子供の様に小さく笑うと、此方へ歩み寄ってきた。

「私はロゼス・ティーナ。ノクタール騎士団の団長を任されています」
多分知っているだろうが、一応礼儀として此方も軽く自己紹介をした。
510夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:57:47 ID:xOjEiNPr
「あぁ、知ってるよ。それでティーナ団長殿…いや、今はティーナ嬢と言ったほうが正解か?」

「ティーナで結構です。」
正直、ライト以外に女扱いされるのは背筋にぞくぞくしたものが走る。
ミアは私の声に肩をすくめて苦笑いを浮かべると、私の後ろに群がる騎士団の団員達へと目を向けた。
団員達も満更では無いと言った感じで表情を作っているが、この中からダンスの相手でも選ぶのだろうか?
と言うか何故ミアは男装をしているのだろう…。

「何故貴女はタキシードを…?」
団員を見渡すミアについ気になって聞いてみた。

「はぁ…?ぷぷっ」
私の質問に疑問を張り付けた様な表情を数秒浮かべると、突然含み笑いをしだした。

「ははっ、俺は女じゃねーよ。まぁ、この顔でバレンじゃあ待遇はいいけどよ」
間違われるのは日常茶飯事と言った感じだ。多分本人も満更ではないのだろう…。
しかし、バレン騎士団は女人禁制だから男装している…と思ったがミアは男だったのか。

ミアの言葉を聞いた団員達は見たことも無いような顔を私に見せてくれた。この顔は何年も一緒に過ごしてきたが初めて見る顔だ。
驚愕、落胆、喪失感…色々な表情がピカソの様に並んでいる。
511夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 15:59:14 ID:xOjEiNPr
「それで私に何かご用意でも?それとも私の団員をダンスに誘いに来たのですか?」
わざと意識するように団員達に流し目をしてミアに問いかけた。
団員達はいっせいに目を背け…と言っても何人かはまだ顔を作っている。
男でも構わないと言うことか…我が団に限ってとは思っていたが貴族は変態が多いと言うのは本当のようだ。

「あぁ…あんたの部下に興味があってね。」
皆の目がいっせいに輝いた。
全員変態だったようだ…。

「誰でもいいですよ?一晩と言わず貴方が選んだ団員を差し上げます」

「「「だ、団長!?」」」
驚きの声をあげる団員達を無視し、横にズレ片手で団員達を差し出すようにミアに見せた。
本気で言ってる訳では無いが、一晩団員貸出しであの船の出来事がチャラにできるなら安いモノだ。
わざわざバレンに争いを求めて来たのでは無いのだから、ここは穏便にすませたい。


「なら……副長のライトってヤツを貸してもらおうか?」

そう…穏便に…。

「だ、団長!?」
一人の団員が私の腕を掴んだ。
意味が分からず、団員が掴む腕へと視線を落とす。
――私の手には何故か調理用のナイフがしっかり握られていた。
512夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:01:14 ID:xOjEiNPr
「……」
テーブルの上にあるナイフを無意識のうちに手にとっていたらしい。

「おいおい…そっちが誰でもいいって言ったんだぜ?」
手を広げ、団員の方へと歩み寄っていく。
私はそれを片手で制した。

「なんだよ?」

「何故、ライトを知っている」
別にこの中から誰を連れていこうとも構わない。

近づくのも勝手だ。

しかし、ミアの口からでた名前の持ち主を探しているなら話はべつだ。
私は“近づく可能性”をすべて潰す。

「なぜって…ドラゴン殺しをしたヤツなんだろ?多分世界中に知れ渡ってるんじゃねーか?」
ミアが呆れたように首を傾げた。
そう言えばライトは私達と肩を並べる程名前が知れ渡っているのだった…。
バレンの人間に知られていてもおかしな事では無い。

「そうですか…おい、ドラゴン殺し…呼んでるぞ」

「え…俺っすか?」
後ろに立っている隊長の一人を呼びつけた。
ドラゴン殺しと言われた隊長は何がおきてるのか分からないと言った感じでオドオドと私の隣へと歩み寄ってきた。
周りの団員達も私の異変に気がついているだろうが、誰一人口を開く者はいない。


「おい…まさか、このヒゲヅラの大男がドラゴン殺しだって言うのか?」
513夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:03:29 ID:xOjEiNPr
「えぇ、そうです。これならドラゴンの一匹や二匹殺せそうでしょう?」
隊長の背中に手を置き一歩前へ出るよう急かすが動こうとしない。
少し力を強めて押しても動かないので、仕方なく右手で持っていたナイフを隊長の背中に軽く突き刺すと、身体をビクつかせ前へと大きく出てくれた。

「……ライトってヤツは小柄な優男だと聞いていたが?」
めんどくさそうにミアはわざわざ前に出た隊長を横に押し退け私の前に立った。

「そうなんですか?噂と言うのは怖いモノですねぇ……これがドラゴン殺しですよ?たくましくて男らしいじゃないですか」
私の隊の中でも一番大柄な団員だ。
この男ならドラゴン相手に……四秒ぐらいはもつんじゃないだろうか。

「男臭いの間違いだろ?……見た感じライトってヤツはいないようだな……ッチ、あいつ俺を騙しやがったのか」
イラついたように舌打ちをすると、頭を掻き地面に視線を落とした。
いったい何を考えているのか分からないが、ライトと接触したがっているのは分かった。

「残念ですが、ライトはいないですよ?休暇を与えているので、バレンに来たのは我々だけです」
初めからこう言えばよかったのだ。
514夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:05:02 ID:xOjEiNPr
本当はすぐ下にあるホムステルの町にいるが、この広い町中でライトを探すのは皆無に等しい。
私も偶然あの白衣の男を見つけられたからライトと再会できただけで、本来ならライトと顔を会わさずノクタールへ帰っていただろう。

言わば私は運命的にライトと再会を…。



「な、なにニヤついてんだよ?」
ミアが怯えたように私に話しかけてきた。
意識が違う方向に飛んでいたようだ…。

「い、いえ…ですからライトの事は諦めてください。此方のライトでしたらいいですよ?」
表情を戻し、再度偽ライトである隊長を差し出す。

「いらねーよそんな暑苦しいの!あぁあぁあぁ〜あのクソボケ!殴り飛ばしてやる!」
誰の事を言っているのだろうか?
まぁ、これで安心だろう。
今日ライトはこの町を離れると言ってたし、私も夜には飛行船に乗ってバレンともおさらばだ。
もう会うことも無いだろう。
会うとしたら次は戦か…。


――「ミア、騒がしいですよ?」

「あぁ!?」
透き通る様に聞こえてきた声に、雑音に近い声で返すミア。
私もその透き通る声に自然と目を向けていた――。


真っ白なタキシードを身に纏い、貴婦人の群れを引き連れて此方へ歩み寄ってくる男性。
515夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:06:06 ID:xOjEiNPr
無意識に私は腰へと手を伸ばしていた。
本来剣があるはずの腰へと…。
無論ドレスを着ているのだから剣など身につけていない。しかし、何故か剣を引き抜こうとしてしまったのだ。

「…レムナグ」
白タキシードの男の名前だろうか?
嫌そうに目を背けるとミアは私を一度見た後、何も言わず去っていってしまった。

「申し訳ありません……教育不足で。申し遅れました、バレン国王軍総統指揮官をしているレムナグと言います」
貴婦人達を侍らせているのに嫌味たらしく見えないのが不思議だ。

「いえ…大丈夫です。私はノクタール騎士団の団長を任されているロゼス・ティーナと言います」
ドレスの端をつまみ上げ、腰を屈める。
礼儀と分かっていながらも、自分が“女”をしている事に笑いそうになった。


「突然で申し訳ありませんが、私と踊っていただけませんか?」
周りにいる貴婦人達が、いっせいに私に目を向けた。
その目は嫉妬一色。


「申し訳ありませんが…私は踊れませんので、貴方に恥を欠かせる事態を招く可能性があります。周りにいらっしゃる方々と踊ってください」
少しトゲがある言い方になってしまったが、わかりやすい拒絶ほど向こうも退きやすいだろう。
516夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:07:38 ID:xOjEiNPr

「そうですか……貴女ほど綺麗な方に会った事が無かったので多少浮かれてしまいましたね。申し訳ない…気を害さず楽しんでください。それでは。」
それだけ言うと、貴婦人達を引き連れアッサリとまた中央へと戻っていった。
粘られると思っていただけに少し拍子抜けしたが、逆に楽でよかった。

「気に入らねぇヤツっすね…総統指揮官とか言ってましたけど……あんなヤツ始めて見ました」

「あぁ…そうだな」
男の嫉妬は見苦しいぞ?と言いかけたが、女の嫉妬も十分見苦しかったので口には出さなかった。

それにしても……先ほどのアレはなんだったのだろうか?
無意識とはいえ私が剣を引き抜く動作に移るなんて…。

それにあの男……生命感を一切感じられなかった。
人間には隠しきれない生命感というものが少なからずあるのだが、あの男にはそれが感じ取れなかった。
そう……まるであの銀髪の女を相手にしている時と同じような危機感を覚えたのだ。
そう言えば先ほどの男も髪が…。

「ふぅ…考えても仕方ないな。おい、私は少し疲れたから先に戻っているぞ。お前達もあまり酒に酔うなよ」
517夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:08:41 ID:xOjEiNPr

「え?もうすぐ、姫様やゾクニ帝王も出てきますよ?」
ビックリしたような声をあげると、数人の団員が私を止めにかかった。

「ふん…私は一度対面している。お前達は興味があるなら見ればいいさ」
正直、ゾクニ帝王とはもう顔を合わせたくない。
メノウ姫は気になるが、話す機会ももうないだろう。
それに腹部を締め付けるドレスをあまり長時間着用したくないのだ。
この子に何かあるとライトに怒られる…。

団員達を横にずらし一声かけると、早々と宮殿を後にした。
518夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/18(火) 16:10:26 ID:xOjEiNPr
ありがとうございました、投下終了です。
指が霜焼けに依存されているので書き辛いですが、次はなるべく早く来ますね。
519名無しさん@ピンキー:2011/01/18(火) 22:51:10 ID:GT0vyeaq
今年一発目乙です。
520名無しさん@ピンキー:2011/01/19(水) 00:30:29 ID:Wrn9q3zp
GJです!
521名無しさん@ピンキー:2011/01/19(水) 02:47:49 ID:hvNmK8lz
いつもいつも夢の国は面白いよおおおおおおおおおおおおおお gj
522名無しさん@ピンキー:2011/01/19(水) 19:07:42 ID:mQaCP+hw
なんかこう、なんかこう……

いろんな意味でライト逃げてぇぇぇぇぇ
523名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 11:55:06 ID:91Dl33v5
ライトが掘られる

ティーナ怒り狂う

男食い\(^o^)/

の展開を待ち望んでるのは俺だけではない筈!!!
524名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 03:19:16 ID:quWyT8PF
>>523
バカじゃないの?てかバカじゃないの?
525名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 06:39:28 ID:mr+e1l3D
>>523
しね
526名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 15:52:06 ID:jHx6SGzT
しねは書きすぎ。
せめてチンカスぐらいで止めとくべき
527名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 19:36:08 ID:nds/0Vfg
スルーでいいと思う
けどそんな展開は嫌だね確かに
528名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 23:22:24 ID:MApHmX4y
投下させていただきます。

流血、ちょっと猟奇はいってます。
苦手な人はスルー推奨。
えっちはまだないです。…スミマセン。
529傷ナ:2011/01/22(土) 23:23:18 ID:MApHmX4y
 薄暗い部屋にぴちゃぴちゃという水音が響く。
 窓も、カーテンも閉まっている。
 熱気で、部屋が蒸し暑い。
 その中に全裸の男女が一組、影絵のように浮かんでいる。

 俺はベットに腰掛け、目の前に跪くような格好をした少女が、止
めどなく流れる俺の"それ"を、舐めとっていく。
 時折漏れる、はぁという息継ぎの音が艶めかしい。
 チロチロと時折覗く舌は、赤く、妖艶で、"それ"を舐め取るたび、
赤さを増していく。
 少女の肌はしっとりと汗ばみ、美しく長い黒髪が数本、頬に張り
付いている。
 カーテンを通して差し込む、薄い太陽光に透けるよな肌。
 その上に、珠のような汗が浮かんでいて、ひどく、淫らだ。

 少女の瞳は陶酔しているように濁り、一心不乱に"それ"を舐めと
っている。
 時折、股をこすり合わせるように足を蠢かせる。
 年不相応の、卑猥な姿。
 部屋にこもった熱気と、自分の娘と言ってもおかしくない歳の少
女に跪かせている状況に、頭が、クラクラとする。
 少女の、妄りな熱が伝わり、勃起する。
 それを見た少女が一層、舌を使い"それ"を舐め取る。

 ゴク。
 自分の唾を飲み込む音が、異様な程大きく聞こえる。
 静かな部屋の中で、少女の周囲が熱で、揺らめいて見える。
 少女の体は幼く、しかし女性的な丸みを帯びていて、黒髪から覗
く無防備に晒されている細く滑らかなうなじが、脆く、白く、壊し
しまたい程、美しい。

 少女が、止めどなく溢れる"それ"を舐めとり、にちゃにちゃと口
内で、味わう。
 少女がこちらを見上げ、視線を、絡める。
 淫欲が渦巻いている幼い瞳は、吸い込まれそうな程、淫靡だ。

 上目遣いで、魅せつけるように、視線を絡めとりながら、ゴクン
と喉を鳴らす。
 それに合わせるように、ビクンとベニスが跳ね上がる。
 それを見て少女が、にやっと口元を歪める。
 元々、つり目がちの眼が、さらにつり上がり三日月のようだ。
 少女がゆっくりと、瞳を閉じる。
 口元は歪めたまま、少女の美しい顔が、近づいてくる。

 口付けを、交わす。
530傷ナ:2011/01/22(土) 23:23:59 ID:MApHmX4y
 少女の、熱い舌が口内に侵入し、蹂躙される。
 くちゃくちゃと卑猥な音が、部屋の中に鳴り響く。
 鉄錆の味が、口いっぱいに広がる。

 顔を顰めると、それに気付いたのか、少女が唇を離す。

 赤い、唾液が糸を引く。

 「ふふっ」
 人の顔を見て満足気に微笑むと、また"血"を舐め始める。

 左腕を取り、手の甲の方から一周するように下を這わせる。
 少女の、柔らかく、熱く、弾力を持った舌に背筋が痺れる。
 
 「ふふっ、おいし」
 そう言って、少女が妖艶に笑む。
 
 少女が俺の左腕をしっかり掴んで、傷口に赤い唇を近づける。
 少女が一舐めするごとに、そこから全身に電流が走る。
 その信号は一度脳に入り、快感という信号に変換されて、身体中
に染みいっていく。

 少女の舌が一層深く、俺の中に侵入する。
 息が、止まる。

 「…ふぅぅ」
 ゆっくりと、張り詰めた空気を外に逃がす。
 少女は一瞬だけこちらに視線をやり、すぐに"血"を舐める作業に
夢中になる。

 電流が全身を駆け巡るたび、首の裏あたりが痺れるようで、鳥肌
が立つ。
 腹の底辺りに澱が、降り重なっていく。
 その感覚が心地良い。

 「…は〜〜」
 ゆっくりと、息を吐き出す。
 ひと舐めされるごとに走る痛みが、少しだけ薄れる。

 少女は、ただピチャピチャと卑猥に、俺の"血"を舐め続ける。
 先程からずっと、少女は俺の左手首につけた、一筋の傷跡を舐め
続けている。

 少女の舌が傷口から、俺の中に、入ってくる。
 異物の侵入による不快感と、痛みを、感じる。
 それが最高に、感じる。
 ペニスははち切れそうな程、勃起している。

 少女が一度口を離し、ごくんと口内に溜まった、赤い、血液を飲
みこむ。
531傷ナ:2011/01/22(土) 23:24:48 ID:MApHmX4y
 「すぅ」
 と少女が酸素を吸い込む。

 期待で、ペニスが跳ねる。

 そのままゆっくりと、傷口に、ちゅっと口付けを落とすと、一気
に血液を吸われる。

 自分が、なくなっていく錯覚。
 少女に、自分の全てを持って行かれる感覚。
 喪失感に頭が真っ白になる。
 それと、凄まじいほどの痛みと、快感。
 それらが、一度に背筋を脳髄を駆け上がる。
 腰が浮き上がる。

 視界が真っ白に染まる。
 思わず瞼を閉じてしまう。

 痛みが、限界値を突破する。
 射精する。
 ビクビクとペニスが大量の白濁を撒き散らす。
 少女が"血"を吸うのをやめても、まだ精子は吐き出され続ける。

 永遠にも思える刹那の、快感が終わる。
 身体中が倦怠感と疲労感に包まれる。
 真っ白だった視界に、闇が戻ってくる。
 目を開けるのも、億劫だ。

 「暁人(あきひと)」
 機械で作られたような声。
 少女が、俺の名を呼ぶ。

 「秋那(あきな)」
 名を呼び返し、ゆっくりと目を開ける。
 目の前には、白濁にまみれた美しく、幼い少女の顔。
 名前で呼ばれたら、名前で呼び返さないと叱られるのだ。
532傷ナ:2011/01/22(土) 23:25:26 ID:MApHmX4y
 少女の、透けるような白い肌にも、長く美しい漆黒の髪にも、精
液が降り掛かっている。
 二の腕にこびり着いた精液を掬い取り、血で赤く染まった唇に持
っていく。
 少女が、視線を逸らさず絡め取りながら、赤い赤い舌で、チロっと
舐め取る。

 欲望を吐き出したばかりのペニスが、硬度を取り戻す。

 クチュクチュと、ゆっくりと魅せつけるように咀嚼する。
 時折、見える舌が赤く、赤く、妖艶だ。
 ゴクンと体の一部にする。

 「やっぱり美味しくないね」
 ぇへっとまるで別人のように、幼さを残したあどけない笑顔で微
笑む。

 心臓が跳ねる。
 いや、体のほうもビクっと跳ね上がったかもしれない。
 中学生の時、好きな娘に話しかけられた時のようにドキドキと
心臓が脈打っている。

 「えっち、する?」
 舌っ足らずな喋り方は歳相応で、急に幼くなったようだ。
 先程までの淫靡さも卑猥さも妖艶さも、微塵も感じられない。
 そんな無垢そうに、全裸で精液を身体中に貼りつけて、そんなに
純真な顔で聞いてくるする彼女は、ひどく倒錯的で目眩がする程に、
愛おしい。

 時計を見る。
 カーテンを通して、柔らかくなった太陽光が、薄く部屋を照らし
ている。
 その光さえ今は刺激的で、目を細める。
 7時10分。
 半には出ないと余裕がなくなる。
533傷ナ:2011/01/22(土) 23:26:19 ID:MApHmX4y
 「いや、いい」
 できるだけ、冷静に返す。

 「そう?」
 こくんと、小首を傾げてちょっと不満げなとこは、歳相応の少女
のものだ。

 「シャワー、浴びいこっか?」
 それ程時間に余裕はない。
 秋那が座った状態から、ぴょんっと飛び跳ねる。
 髪がばさっと烏の羽のように広がり、その衝撃で精液が飛び散る。
 帰ってきたら掃除してやらないとな。

 「いくー」
 血を飲む時以外は本当に、歳相応に子どもっぽい。
 そういえば、この娘の実際の年齢を俺は知らない。
 見た目は小学生高学年くらいに見えるが、最近の子供は大人っぽ
かったりしてよく分らない。
 この娘は、学校も行ってないし、本当に分からない。

 「なぁ、秋那は今幾つなんだ?」
 精液を身体中につけたまま、元気良く振り返る。
 掃除する場所が増えた。

 「へへへ、な・い・しょーー」
 ぱたぱたと浴室に走り去ってしまう。
 まぁ、いいか。
 彼女の苗字も知らないのだ。
 あまり、深入りすべきでもない。
 それより、いくら気にならないからって精液をつけたまま走りま
わるなと、注意しないと。
534傷ナ:2011/01/22(土) 23:27:22 ID:MApHmX4y
 ヴーヴーヴーヴーヴー。

 はっ。
 意識と視界が、開ける。
 ポケットの携帯の、バイブを止める。
 座っている席から、一定の眠気を誘う振動が伝わる。
 案の定眠ってしまったようだ。

 安堵する。
 アラームを入れておいてよかった。
 後一駅で降りなければいけない。
 頭を振って、眠気を払う。

 朝の通勤時間だが、電車の中は満員とはとても言えない。
 この街の人口自体、少ないのだ。
 電車の窓から差し込む明るい朝日が、嘘くさい。

 あの後、さっとシャワーを浴びてマンションを後にした。
 秋那は今頃、寝ているだろう。
 日中寝て、夜中起きてるのが彼女の生活スタイルだ。

 「ふわ」
 あくびが漏れる。
 最近はそれに合わせた生活をしているから、寝不足気味だ。

 左手首を右手で包み込むように握る。
 傷跡の部分はYシャツの袖で隠れているし、用心を重ねて本当に重り
の入っているリストバンドを着けている。
 意外と、30過ぎのおっさんがリストバンドなんてものをしていて
も、何も言われないものだ。
 同僚の骨のような男の山見に、メタボ対策ですかと揶揄された程
度だ。
535傷ナ:2011/01/22(土) 23:28:06 ID:MApHmX4y
 惚けっとした頭で周りを見渡す。
 どれもこれも、一様に眠そうな顔をしている。
 この電車内で誰が、30過ぎの普通のサラリーマンのおっさんが、
10代前半位の少女に毎朝血を与えて、その代償として卑猥な行為を
していると思いつくのだろう。
 そんなことを知られれば、10人中10人が警察に通報するか、避け
るかするだろう。
 いや、両方実行されるか。

 俺みたいな、1,2ヶ月前は普通の独身のサラリーマンが、今は犯
罪者のようなことをしている。
 人生何があるかわからないものだ。
 いや、ような、ではなく実際に犯罪者なのか。
 彼女の親がいないことをいいことに、家の中にまで上がり込んで、
自分の娘くらいの年齢の女の子と関係を持っているのだ。
 ばれたら、いつ手が後ろに回ってもおかしくない。
 そんな人間が当たり前のように会社に行き、当たり前のように生
活している。
 おかしなものだ。

 一目でおかしいとわかるような人も、普通の人も内容物は一緒だ。
 そこには多分、違いはない。
 大事なのはあくまで中身。
 ファクター。
 しかし良く良く考えてみれば、見た目でおかしいと判る人は避け
ようもあるが、外見は普通で中身がおかしい人は避けようがない。

 あぁ、だから他人には極力干渉しないような風習みたいのが、現
代に出来ていったのか。
 納得だ。

 そんな下らないことを考えていたら、聞き飽きたお決まりの、ウ
ケ狙いだかなんだか分からない放送がかかる。
 目的の駅に着くらしい。
 俺はこの放送が意外と好きだ。
 ひどく公平で平等な気がする。

 こんな自殺志願者のような傷を持っている俺が、うまく社会に溶
け込めるように背中をそっと押してくれる気がする。

 電車が止まる。
 ドアが開く。
 立ち上がり、鞄を抱え社会の一員としての自分を起動させた。

536傷ナ:2011/01/22(土) 23:28:41 ID:MApHmX4y
 聞き飽きたお決まりの、ウケ狙いだかなんだか分からない放送が
かかる。
 目的の駅に着くらしい。
 俺はこの放送が意外と好きだ。
 ひどく公平で平等な気がする。

 こんなびっちりとスーツを着た普通のサラリーマンに見えるの俺
を、元の汚い醜いグロテスクなどこにでもいる人間に戻れるように
背中をそっと押してくれる気がする。

 電車が止まる。
 ドアが開く。
 立ち上がり、疲労を抱えながら社会という柵から少しだけ、はみ
出した。

 空は真っ暗で星はひとつも見えない。
 しかし、外は薄明るい。
 街灯が地上の太陽か月か星の役割をまっとうしようと、佇んでい
る。

 久しぶりの残業で、随分と遅くなってしまった。

 彼女のマンションに、行くべきかどうか悩む。
 けど、行ったところで今日はナニをしようという元気もない。
 なによりも、今日は早く帰って寝たい。
 もう日付も変わっているし、いつも通り朝方行くだろうから今日
はいいかと考える。

 彼女と出会ってからは、毎日のように通っている。
 いや実際、毎日夕方と早朝2回行っている。。
 泊まることもたまにあるが、大体は夜行って、秋那を起こして、
夕飯を作って、一緒に食べた後帰って、寝る。
 そして朝早く起きて、血を与えて、時間があったらエッチな事を
して、会社に行く。
 というサイクルを、ここ最近は繰り返していた。
537傷ナ:2011/01/22(土) 23:30:14 ID:MApHmX4y
 夜の、蒸し暑い空気を押しのけるように歩く。

 あの娘は、血を吸わないと生きていけないらしい。
 そう自分で、…言っていた。
 今までは自分の血を吸っていたらしく、秋那の左腕には今の俺と
同じリストカットの醜いミミズのような跡が、無数にある。
 当たり前だがそんな設定、俺は信じてはいない。
 中二病のようなものだと解釈している。
 実際、俺も中二の頃はダークな感じのものに憧れたものだ。
 秋那も、そういう年頃なのだろう。
 まぁ、本当に秋那が中学2年生、だったら驚きだが。

 それでも、リストカットが出来る程度には思い詰めていたという
ことだ。
 俺も、出来れば力になってやりたいと思う。
 それで今の関係いうのが、笑えない。
 いや、笑い話なのかもしれない。

 最初は、彼女の美しい姿と声に惹かれてついて行って、魔が差し
た。
 次に、血を啜られる感覚と、彼女の年不相応の淫らな姿に惹かれ、
最後に、幼さと淫靡さを宿した矛盾と、一緒にいると暖かくなれる
彼女の存在そのものに惹かれた。
 今では時折、思春期に初恋をした少年の時のような、懐かしい感
情を彼女に覚える。

 まったく、30を超えたおっさんが一体何をしているんだか、と自
分でも思わないでもない。

 しかし正直、秋那と出会ってからは、本当に、日々が楽しいのだ。
 一緒に夕飯を食べるのも、一緒に深夜の通販をただじっと朝まで
見るのも、彼女に血を吸われるあの儀式も、彼女とするエッチも、
彼女と過ごす時間総てが楽しい。

 それに最近は、秋那のおかげで良い流れに乗っている気がする。
 今日の残業だって、久しぶりに仕事の充実感みたいなのを得た気
もする。

 街灯に見送られて、家路を急ぐ。
 疲労のせいか、頭がよく回らない。
 このまま、今は何も考えず、このいつか、必ず終わる、甘い毒の
ような関係を享受していこう。
 そう思って、今にも消えそうな鋭く尖った月を、見上げた。

538名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 23:30:38 ID:MApHmX4y
了。
お粗末様でした。
まだ少し続くやもしれません。
539名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 23:53:07 ID:Hs78tXIC
ちょっと改行の位置が気になったけどGJ
540名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 22:44:53 ID:vEQAHYCr
541名無しさん@ピンキー:2011/01/23(日) 22:49:01 ID:OUlM/a7c
GJですー
542名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 00:10:44 ID:LUzIX0ca
>>538
GJです!続きもまってますので頑張ってください!

此方も夢の国投下させてもらいます。
543夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:11:39 ID:LUzIX0ca

暗い――息苦しい――寒い――。

まただ…また、私を鉄格子が囲んでいる。
見慣れた光景…絶対に戻りたく無かった場所。
やっと自由になれたのに…自分から戻ってしまった。
意地を張らず皆と一緒にくればよかった…。

「よぉ…元気ないな?」
目の前にある扉から一人の人間が姿を現した。
私を捕まえた人間だ……それに変な鎧…真っ赤に染まっている。

「元気だせってのも無理な話か。まぁ、運命だと思って諦めるんだな」
運命?絶対に嫌。
やっと自由に空を飛べたのに…友達もいっぱいできたのに。

「だしてよ!ここからだっ、痛ッ!!!」
鉄格子に手が触れた瞬間、焼けるような痛みに襲われた。

「その鉄格子には銀が混じってるらしいから、お前ら妖精は触らない方がいいってよ」
手には鉄格子の跡が火傷となってくっきりと残っている。
この人間の言うことは本当らしい…。
私達妖精は銀の混じったモノを触れないのだ。
触ると肌が爛れてしまう。
それに銀で負ったキズは自然治癒でないと治せないのだ。
だからやたら時間が掛かってしまう。

「早く帰らないと皆が待ってるのよ!早くここから出しなさいよ!」
544夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:13:24 ID:LUzIX0ca
目の前にいる人間に声を荒げてみるが、薄ら笑いを浮かべるだけで私の話を聞こうとしない。

「仲間がいるなら助けにきてくれるかもな……まぁ、頑張れや」
ケラケラ笑いながら扉から姿を消した。

「助けに来るわよ!あんたらなんかぼっこぼこなんだから!私の友達なめんな!」
人間の気配が無くなった後も私は扉に向かって声を出し続けた。
そうしないと、この暗闇に私の心が押し潰されそうだったから…。

「あんたらみたいな卑怯者達には絶対に負けないわよ!ライトもクーも強いんだから!ハロルドだって!ハロルドだって……いざとなったら強いんだからぁ!!!」
私の叫び声は虚しく闇の中へと吸い込まれた。


「うぅ……グスンッ…やだぁ…ひっ…助けてよぉ…う…ぇ」
頬を伝い涙が落ちる。
もう会えない?
皆ともう旅できないの?
楽しかったのに…楽しかったのに…。

羽根を動かす事をやめ、その場に降り立つと、膝を抱えて目を瞑った。
頭に浮かぶのは皆と旅をしてきた思い出……早く皆に会いたい。


また一緒にみんなと…。






「―――ティル―みっけ――♪」
545夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:14:07 ID:LUzIX0ca



◆◇◆†◆◇◆

「おい……どうするんだよ?」
壁に背中を預け、廊下を見張るホーキンズに問いかける。

「どうするって……どうするかな…」
ホーキンズもこの状況を打破できる頭脳を持っていないのか、お手上げのポーズを見せ首を横へ振っている。

「くそっ…目の前にメノウ達がいるのに…」
剣を壁に立て掛け、その場に座り込んだ。

別に休んでいる訳では無い。
すでに俺とホーキンズはメノウとアンナさんが居るであろう部屋の数十メートル付近まで足を運んでいるのだ。

助けられるモノなら今すぐ走り出して助けてやりたいのだが…。


「凄い兵の数だな…」
ホーキンズが再度首を横に振り、小さく呟いた。
俺達はメノウ達がいる部屋前廊下の突き当たりの曲がり角に姿を潜めているのだが、廊下を数多くの兵士が占領しているため近づくに近づけないのだ。
と言うか、先にも後ろにも動けない状況と言った方が正しい。
ホーキンズと俺でメノウが帰ってくるであろう後宮へ侵入したまではよかったのだが、メノウ達が帰って来ると同時に何百という兵も後宮へ雪崩れ込んで来たのだ。
流石にこの数の兵士を相手にするには無理がある。
546夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:15:04 ID:LUzIX0ca
それにメノウ達と再会してもここから抜け出せるとは思えない…。
しかし、早くなんとかしないと俺達が見つかるのは時間の問題だろう。
早くなんとかしないと…。

「ライト、俺に良い考えがある」
隣で見張りをしていたホーキンズが俺の横へ腰を落とした。

「良い考え?なんだよ」

「俺一人ならメノウの部屋に近づくのは問題ないんだよ」

「はぁ?なに言ってんだ?」
ニヤけながら何を言うかと思えば……コイツはこの数の兵士が見えないのだろうか?今出ていくのは間違いなく自殺行為だ。

「まぁ、見てなって」
俺の頭に一度手を乗せると、そのまま立ち上がり何食わぬ顔で廊下に出ていった。

「え………ちょっ!?」
突然の出来事に思考が停止した。
ホーキンズを止めようと思ったのだが時既に遅し…兵士が群がるメノウの部屋へとツカツカと歩いていった。

「くっ……何考えてんだあのアホッ…」
剣を引き抜き、いつでも助けに行ける体制で待機する。
何を考えているのか分からないが、ホーキンズを信じるしかない…。


「ん?おい、止まれ」
メノウ達の部屋へと近づくホーキンズに巡回している兵士が気付いた。
その声に数十人の兵士がホーキンズに目を向ける。
547夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:15:50 ID:LUzIX0ca

「っ…(どうすればいいんだよ!!)」
剣を握りしめ、飛び出す機会を伺う。
もし兵士の一人でも剣を抜く者がいればホーキンズを助けに行こう…そう自分に言い聞かせ、ホーキンズがいる方角へ目を凝らす。


――い、―ま―ッ―

――い――ぜ――ッ


何か会話をしているが、ここからではまったく聞こえない。
しかし、兵士は剣を抜く気配はみられないので動くこともできない……。

「……ん?アイツ普通にメノウの部屋に入っていきやがった…」
数分間兵士達と会話した後、何事もなくメノウの部屋へと姿を消した。
ホーキンズと兵士とのやり取りの数分間がやたら長く感じたが、ホーキンズはメノウ達と簡単に接触する事ができるようだ。

「しかし…これは本当にキツいな」
俺が見える範囲でも兵士が20人近く居る。
メノウの部屋の前に鎧を身に纏った兵士が五人。
多分騎士団の連中だ。
他の兵士は武装という武装はしていないが、数が多すぎる。
窓から外を見下ろしても、松明の火がいくつも確認できる。
この後宮が兵士に囲まれていると言うことだ。

「ホーキンズ頼むぞ、マジで……」
願うように剣を握りしめ、気配を消し様子を伺う。
548夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:16:39 ID:LUzIX0ca




「賊が侵入したぞー!!!」

「なっ!?」
――突然の敵兵の声に心臓が跳ね上がった。
耳鳴りのような警告音が鳴り響き、兵士達がメノウの部屋の前へと集まり出す。

「ク、クソッ!」
賊というのは間違い無く俺達の事だ。
今出ていけば間違い無く殺されるが、部屋の中に居るホーキンズ達を助け出さなければ。

「賊どもは極館に居るぞ!目的は分からないが今朝捕まえた妖精が盗まれたらしい!後館に侵入してくるかも知れん。お前達は後館の警備を最大限まで引き上げて警戒しろ!」
それだけ伝えると、数人の兵士が後館から出ていった。

「……見つかったのはハロルド達か…」
安心している場合では無いが、目の前の危機は何とか回避できたようだ。

しかし、このままでは状況は悪化するばかりで助けに行くどころでは無い。
騎士団の連中もすでに武器を抜いている。

メノウ達の救出を後回しにして、ハロルド達を助けに向かうか?
しかし、そうなれば今日メノウ達を助ける事ができなくなる。いや、今日助け出さなければもうチャンスは無い。

「考えろ…考えろ…考えろ」
ハロルドにはクーがついている…なら大丈夫なはずだ。
クーは人間が何人来ようが、問題無い。
549夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:18:03 ID:LUzIX0ca
――だけど、ティーナみたいに力を持った人間がいれば…。

「だ、ダメだ!やっぱり助けに…でもメノウ達も…ホーキンズだって」
パニックに陥る頭で考える事は難しく、その場に身を隠す事しかできなかった。
ホーキンズを待とう…クー達なら大丈夫。
そう自分に言い聞かせ、全神経をメノウ達が居る部屋へと向けていた。

「…」
だからだろう……自分の背後に気を配る事を忘れ、迫る気配にまったく気がつかなかった。


「賊がいるぞッ!!!」
背後から聞こえてきた声につられ後ろへ振り返ると、槍を此方へ向けて走り寄ってくる二人の兵士が数メートル先まで距離を詰めていた。

「ッ!?」
慌てて剣を兵士へと向ける。
本来なら槍を持った兵士が向かってくる時、最大限まで引き寄せ、懐に潜り込むのが基本的戦法なのだがあまりにも突然の出来事に身体が勝手に動いてしまったのだ。
案の定、俺の剣を見た兵士達はある程度の距離を取り、立ち止まってしまった。

「もう、逃げられないぞ!!」

「抵抗しても無駄だ!武器を捨て降伏せよ!!」
他の兵士に聞こえるように、大きな声をあげる。

「くッ!」
槍の先が此方へゆっくりと近づいてくる。それと同時に俺も後ずさる。
550夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:19:07 ID:LUzIX0ca
この間合いはダメだ。完全に敵兵に間合いを作られている。
声を聞き付けたのか、廊下側からも複数の足音が近づいてくる。

「終わりだ!さっさと降伏しろ!」

…万事休すか。





「ライトこっちだ!!」
突然、後ろから肩を掴まれ勢いよくひっ張られた。
頭をぶつける勢いで後ろへ転がると、小さな炸裂音と共に目の前が真っ白な煙で覆われた。

「な、なんだこの煙?」

「お前の鞄に入ってたヤツだよ!さっさと行くぞ!!」
そう言えば、確かハロルドからもらった丸い玉が何個か入ってたっけ…。
あれって煙玉だったのか…。
それにしてもなんの煙だろうか?死ぬほど目と喉が痛いんだが…。

「って、ホーキンズ!?」
布で顔を隠したホーキンズが目の前に立っている。

「なに寝てんだ!さっさと脱出するぞ!!」
腕を掴まれ無理矢理立たされると、突然走り出した。

「脱出!?ちょっと待てよ!まだメノウやアンナさんを助け出してねーだろ!!」
そう、目的はまだ達成されていない。
このまま逃げれば、わざわざバレンまで何をしにきたのか分からない。
メノウ達を目の前にして、逃げ出す訳にはいかないのだ。


「大丈夫だ!俺についてこい!」
551夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:20:10 ID:LUzIX0ca
布を顔から剥ぎ取り投げ捨てると、階段を飛び降りる勢いで降りだした。
明らかにメノウ達の部屋から離れている…。
何か作でもあるのだろうか?


「居たぞー!!!」
一つしたの階に降り、長い通路を走っていると、目の前から三人の兵士が此方へ突っ込んでくるのが視界に入った。

「はぁ、はぁ、ライトッお前の出番だぞ!」ホーキンズがその場に立ち止まると、突然横にある部屋へと飛び込んでいった。

「はぁ、はぁ、俺の出番って、はぁっ、無茶言うなよ!」
鞄からボウガンを取り出し、兵士の足を狙う。

「ぐあっ!!」
先頭に居た兵士の脹ら脛に矢が突き刺さる。

矢が突き刺さった足で踏ん張る事ができずにその場に倒れ込む。

「なっ!?」
その兵士につまずき、後ろに居た兵士が地面に倒れ込む。
すかさず冑の上から首筋を足で強く踏みつけと、小さな悲鳴をあげて気絶した。

「くっ!此処にいるぞー!賊が此処にッ!?」
後ずさる兵士の腹部へと剣を叩きつける。
先ほどの兵士と同じように数秒悶えると、そのまま地面へと倒れ込んだ。

「ふぅ……ったく」
ホーキンズは少し勘違いをしているんじゃないだろうか?
552夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:21:28 ID:LUzIX0ca
ボルゾ相手ならともかく、俺も人間相手に剣を振る機会なんて滅多に無いのに…。
それに俺は人を殺めた事など…。

「ライト早く来いって!」
ホーキンズが部屋の中へ入れと手招きをしている。
急いでホーキンズが居る部屋へと俺も飛び込んだ。
扉の鍵を閉め、ホーキンズが窓側へと走る。

「おい、ホーキンズ!こんな所に居たら捕まるぞ!!」
扉の外から兵士の足音が聞こえる。
此処に潜んでいるのを気づかれるのも時間の問題だ。

「捕まらねーよ…おい、ライトこっちだ」
窓を開けて外へと出る。
小さなベランダになっているようだ。

「おい…ここから脱出するのか?」
ベランダから下を見下ろす。
高さは…20メートルといった所か…。しかも小さな松明がいくつも散らばっている。
こんな高さから飛び降りたら絶対に死ぬ。

奇跡的に死なず、降り立っても間違いなく取り囲まれて殺される。

「バカ、どこ見てんだよ…上だよ上」
ホーキンズが俺の肩を掴み空へと指さした。

ホーキンズが指差す空へと目を向ける。
なんの事ない…綺麗な星が空を埋め尽くしているだけだ。
意味が分からず、再度ホーキンズに視線を戻すと、ため息を吐かれ今度は少し指を傾けて見せた。
553夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:22:22 ID:LUzIX0ca
傾いた指先を見つめ、再度見上げる。

ホーキンズが指差す場所に、小さな窓があった。…あれがどうしたのだろうか?

「…おい、顔をだせよ!」
突然ホーキンズが窓に向かって話しかけた。いや、窓の向こう側に居る人物にだろう…。

「おい……ホーキンズ」

「あ、あぁ…おい、早く顔をだせって!!」
何度となく呼びかけるが、なんの変化も見せない。
ホーキンズの声は虚しく夜空へ吸い込まれるばかり。


まさか……。

ホーキンズもかなり焦ったように声を荒げるが、ホーキンズの大声は危険が増すだけで、脱出の糸口をまったく感じさせてくれない。

「おいっ、この中に居るのは分かっているぞ!!さっさと開けろ!!!」
ホーキンズの声を聞き付けたのか、兵士に気づかれてしまった。

「お、おい、こんな所でマジかよおまえ!!」

「ちょっ、黙ってろ!おい、マジで早く顔出せって!!」
ドンッドンッと扉を破ろうとする音が俺達の焦りを煽る。

「ホーキンズ!アイツら入ってきたら強行突破で抜けて戻るからな!!」
ここまで来たらもう逃げられない。
また階段を上がってメノウ達を助けるしか無い。
554夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:24:17 ID:LUzIX0ca
「頼むよ!ライトが助けにきてんだぞ!さっき説明したじゃね…………そうだ……ライト、上の窓に向かってお前が叫べ!」

「叫ぶ!?何をだよ!!」

「なんでもっ…てか名前を叫べばいいんだよ!!」
意味が分からない…。名前?誰の名前だ?
しかし、今こんなところで言い合いしている暇はなさそうだ。

息を大きく吸い、窓に向かって頭に浮かんだ名前を叫んだ。






「メノy「ライト!!!?」
言葉をすべて発する前に、小さな窓が勢いよく開かれた。
部屋の明かりが窓から闇へ射し、窓を開いた人物の影を照らし出している。

「よぉ…久しぶりだな…」
――小さな顔に大きな瞳…薄い緑に淡い栗色の長い髪――。
少し大人びただろうか?
懐かしさが思い出のように込み上げてきた。

「……メノウ」
名前を呟き大きく手を広げる――。

「ライト!」
それを見たメノウはなんの躊躇も無く窓から飛び降りた。
本来のメノウなら間違いなく飛び降りれる高さでは無い…。

落ちてくるメノウを力強く受け止め、優しく抱き締めた。

「うわぁぁあぁぁぁぁぁん!!ライトのばかぁぁあぁぁぁあぁぁ!」
小さな手で何度も胸を叩くメノウの手を掴み、頭を撫でる。
555夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:25:53 ID:LUzIX0ca
バカ…と言うのは少し引っかかるが、多分あの広場での事を言っているのだろう。

「あぁ、悪かったな…来るのが遅れて…」
泣きじゃくるメノウを落ち着かせる為に背中に手を乗せる。
ふと何気無しにホーキンズの方へと目を向けた。

「…」
何とも言えない表情で此方を見ている。

「ったくよぉ…俺が呼んでも無視しやがった癖にライトが呼んだら白い鳩の如く顔だしやがって」
一瞬見たこと無いような表情を浮かべたが、またいつも通りのおどけた表情に戻っていた。

「おい、アンナさんはまだ部屋の中に居るんじゃ無いのか!?」
メノウと合流する事に成功した喜びで一瞬安堵していたが、まだアンナさんを助け出せていない。

「……アンナなら問題無い。アイツはもう安全な場所に避難している」
剣を手に取り部屋の中へと入っていくホーキンズの後を追って俺達も部屋の中へと戻る。

「そ、そうか…なら安心だな。それで、これからどうする」
メノウを助け出せた…アンナさんも安全な場所に避難している。
しかし、ここから脱出しないと完全に助けた事にはならない。
ここで死ねばすべてが終わりなのだから…。

「もう終わりだ賊ども!首を落としてやるから覚悟しろ!!!」
556夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:26:35 ID:LUzIX0ca
蹴破られた扉が部屋の中へと崩れ落ちる。
それと同時に数十人の兵士が部屋へと雪崩れ込んで来た。

「ホーキンズ!後ろへ下がれ!」
メノウを手で隠して兵士達の前に立つ。

運が悪いのか、雪崩れ込んで来たのはすべて身を鎧に包んだバレンシア聖騎士団の連中だった。

「やだっ!ライト!!」
メノウが身体をビクつかせ腰にしがみついてきた。
メノウを守りながらコイツと戦うのか?絶対に無理だ。
なんとか逃げないと…なんとか…




「くっ…下がれ!全員下がれ!!」
回らない頭で突破方法を考えていると、突然兵士達が部屋の外へと後退りしだした。

何が起きたのだろうか?
兵士達が同じ方向に視線を向け、剣を構えている。

「な、なんだ…?」
意味が分からず、兵士達の視線を追ってみる。
兵士達の視線の先に居たのはホーキンズ。

そう……メノウの首筋に剣を当てたホーキンズだった。

「オラッ!この姫さん殺されたく無かったら全員武器捨てて下がれ!!!」
そう兵士達に怒鳴りつけるとメノウの手を強引につかみ、俺からメノウを引き剥がした。

「きゃっ!?やだっライト助けて!!!放して!」
メノウがホーキンズの手から逃れようと暴れる。
557夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:27:22 ID:LUzIX0ca
思考が遮断されたように固まってしまったがメノウの悲鳴で我に返った。

「な、なにやってんだホーキンズ!!おまえ正気か!?さっさとメノウを放せ!!」
気が狂ったのかとホーキンズの肩を掴み、此方へ強引に引き寄せた。

「………うるせぇよ」
俺の目を真っ直ぐに睨み付け、小さく呟くと、悲鳴をあげ続けるメノウの手を掴み部屋の外へと出ていった。



「……待てよ、ホーキンズ!」





◆◇◆†◆◇◆

「はぁ、はぁ……くっ!」

「どうするよ盗賊?逃げられないぜ?」
紅い鎧を身に纏った男性(女性?)が僕の目の前に立ち塞がり見下ろしている。
鎧の肩部分に鷹が彫られているので、多分バレンシア聖騎士団…。

僕では勝てないだろう…。
だけど、ティエルだけは助け出さないと…。

「ホーキンズ大丈夫!?」
僕の手の中でティエルが心配そうに声をかけてきた。
手の中といってもティエルが閉じ込められているカゴを抱き締めているのだ。

ティエルを探しだしたまではよかったのだが、このカゴ……特殊な鍵がついていて、開ける事ができないのだ。

仕方なくシュエットさんに壊してもらおうとしたのだが、もたもたしている間に見つかってしまった…。
558夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:28:15 ID:LUzIX0ca
人間の兵士如きシュエットさんの力があれば蹴散らす事など造作も無かったのだが……兵の中に二人だけ、強兵が混ざっていた。
その一人が今、僕の前に立っているこの人間……。
騎士団の兵に命令を下していたので騎士団の中でも上の人間のようだ…。
まだ若いのだが、剣の腕はかなりいい。
多分ライトも手こずるだろう…。

そして、もう一人の強兵。



「―ッ――ッ!」
今まさにシュエットと戦っている男…。
見た目は優男…と言った感じだがシュエットさんと戦っている姿を一目見てすぐに分かった…。

間違いなくあれは人間じゃない――。

目の前で起きている出来事……瞬きすれば見失ってしまう程の速さで銀と銀が交差する。

その瞬間、キンッと耳鳴りのような音が鳴る。
互いに姿を現したとおもえば、お互いどこか血を流している。

戦っている姿に目を奪われる…意味的には強い兵が数々の敵兵を切り捨てる一騎当千の様な事を言うのだろうが、目の前で戦っている二人はどこか“舞い”を見ているよう…まるで一つの絵を見ているようなのだ。

「あの女もエルフか…」

「も…と言うことはあの男性もエルフですか」
やはり人間離れしたあの身体能力は聖物のモノ…。
559夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:29:00 ID:LUzIX0ca

「まぁ、いいや…お前らここに抜け道があるのを知ってて来たんだろ?誰に聞いたんだよ?礼拝堂にある抜け道は俺達騎士団の幹部とゾクニ閣下しか知らないはずだぜ?」
紅い剣士が剣を肩に乗せ、此方へ歩み寄ってくる。
対応するべく此方も鞄から武器を取り出し構える。
勝てないかも知れないが、ただで負ける訳にもいかないのだ。
我々が見つかった事により、ライト達が居る後宮はメノウちゃんを守る敵兵の波が押し寄せているだろう。

早く逃げ道を確保し、ライト達が此方へ来た時素早く脱出できるようにしなければ。
その最低条件がこの二人を倒さなければならないのだから困難だ…。

「ハロルド!奥にある像の下から森の空気が入り込んでるわ!」
ティエルが鉄格子に触れない様に奥にある女神像へと指差した。

「……」
ティエルの声を聞いた紅い剣士の表情が強張る。
あの下に抜け道があるようだ…。

「僕だって皆を助け出すのに、役立ちたいんですよ……悪いですが何をしても勝たせてもらいますよ」
560夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:29:48 ID:LUzIX0ca
「上等だよ…今日は苛立つ事があったから気晴らし程度に踏ん張れよ?……俺はタイプの男には優しいけど、そうじゃない男にはちょっとキツいから死んでも文句言うなよ!!」
肩に乗せていた剣を構え此方へ斬りかかってくる紅い剣士。一度や二度斬られても死なないだろう…それに僕が死ぬときは相手も道連れだ。

「覚悟しろ!タダじゃ死なないからな!!」
覚悟を決めて紅い剣士に目掛けて走り出した。
皆も命をかけて戦っているんだ…逃げるだけではなく、僕も戦うんだ。
微力でもいい…少しでも皆の力にならなくては――。
561 ◆ou.3Y1vhqc :2011/01/24(月) 00:32:14 ID:LUzIX0ca
ありがとうございました、投下終了です。
どのスレもSS自体ちょっと落ち目な感じになってるけど、今年は作品を書いてくれる人が増えるといいですね。
562名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 01:06:06 ID:idt++9pI
GJ!ライト良いとこなしだなw
563名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 01:12:56 ID:LUzIX0ca
すいません…>>557に書いてある
>「ホーキンズ大丈夫!?」
の所ホーキンズでは無くハロルドです…


>「ハロルド大丈夫!?」に変えて読んでください。
564名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 04:12:51 ID:IxWo/ymN
gjgjj
565名無しさん@ピンキー:2011/01/25(火) 03:14:08 ID:RYQjPGq8
GJ!
メノウかわゆす
566名無しさん@ピンキー:2011/01/26(水) 00:19:58 ID:2Oj6mj9s
GJ!
567名無しさん@ピンキー:2011/01/27(木) 16:27:03 ID:xSPjVuj0
人少なぁいですぅ
568名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 23:58:33 ID:CVnO6qjS
まぁそう言うなですぅ
569名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 20:45:02 ID:1XOwtpeF
GJ!
にしても人少ないなぁ
570名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 20:55:58 ID:+xM0EwsY
一言Gjだけ書けば続き書くんだろ?みたいなヤツが多すぎるから寂れていくんじゃない?
活気あるスレは感想もちゃんと書かれている。
多分このスレで途中で辞めていったヤツらもそれが原因。
571名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 22:37:53 ID:Y5w+f7dg
感想って欲しいものなのかな?
それなら感想希望ですとか一言書いてくれれば
なんかひねって出すけど
572名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 23:13:18 ID:+xM0EwsY
>>571
あのさ…他のスレでも自分からそんなこと書いてるヤツいんの?

そんなもん自分から書くことじゃないでしょ。
このスレに限らず書いてる人間殆どがほしいに決まってんじゃん。
自分勝手に書いてるけど、評価がなけりゃわざわざこんな所に自分の妄想書き込まねーだろ。
まぁ感想なんて書いてられるかってヤツが殆どだと思うけどね。

ただ、書き手からすれば「見てるヤツいないからもう辞めるか…めんどくさくなってきたし」って書くこと自体億劫になる。
簡単な話、スレは書き手と読み手で盛り上げなきゃ過疎って当たり前って事だ。
573名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 23:17:59 ID:/o5APdDQ
まあ、こんなレスされると投下しづらいな
574名無しさん@ピンキー:2011/01/31(月) 23:26:35 ID:+xM0EwsY
>>573
過疎ってんだから問題ねーだろ。
間違いなく僅かに残ってる書き手もすぐに居なくなるよ。
575名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 01:06:33 ID:7FTqL8qe
作品投下待ってるぜ
576名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 08:07:05 ID:JoYR/usG
>>574
アホか
577名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 11:44:58 ID:RDTxvcX/
正直GJがどうだ感想がどうだより依存っていうのがマイナーで人が集まりにくい上に
実際に書こうとするとやたらと書きにくいのが一番の原因だと前から思ってる
578名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 20:05:52 ID:DHDz8csi
依存が書きにくい?
分かりやすいぐらいなんじゃねーの?
579名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 20:55:22 ID:QgoD4fKN
めんどくさい雑談すんなよ
580名無しさん@ピンキー:2011/02/01(火) 23:00:34 ID:xUV3ymS+
前書こうとしたけど何回話考えても他の人のと殆ど同じになっちゃってまともに書けない
パターンが限られてるとでも言えばいいのかな
581名無しさん@ピンキー:2011/02/02(水) 07:08:07 ID:yYxChx5b
俺なりにこのスレが過疎な理由を考えてみた
・過去作が神すぐる
・まとめwikiが優秀
・ROM専ばっか?
・住民が微妙にキビシイ希ガス
・小ネタ職人がいない
・依存メインの話のネタがつくりにくい
・いい依存を書くのが難しい
582名無しさん@ピンキー:2011/02/02(水) 11:06:13 ID:fKXO1N5W
>>581
過去作が神?だからってなんで過疎るの?
保管庫見て俺にはこんなもの書けない…って感じで萎縮するってか?
583名無しさん@ピンキー:2011/02/02(水) 20:57:03 ID:AdYNTNsl
>いい依存
ちょっと笑ってしまった
584名無しさん@ピンキー:2011/02/02(水) 23:35:41 ID:cYMiiWiq
確かに依存の時点でいいじゃないなwww
585名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 00:24:22 ID:lby16Lnb
保管庫更新乙です。
586名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 03:24:48 ID:9OGKHuU3
>>582
そうそう、そんな感じ
後なんて言うか、住民の目が肥えるとか
こう、このスレならこの位の上手さはほしい的な

まぁ私見だけど
587名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 07:42:29 ID:tdrVORvf
波長と言うかベクトルと言うか、そういうのがここの傾向と合わないって人が居たな
そういう意味では、傑作では無く怪作や鬼作が必要なのかも知れん
幅やバリエーションを増やす意味で
588名無しさん@ピンキー:2011/02/03(木) 18:31:33 ID:nJLBfbjx
ぶっちゃければレス欲しいし、感想だったらなお良い
ってか、レスが無いとスルーされてると感じ、投下する気力が無くなるし、
逆に、反応の多いスレだと、刺激され頑張る気にもなる
これは、ほぼ共通する、書き手の心理であることは間違いない

とはいえ、このスレの空気は悪くないし、単に皆、忙しいだけじゃね?
規制に嫌気が差し、住人自体、減ってるってのもあるが……

ちなみに、感想を催促するのは「レス乞食」と呼ばれ、戒められている行為である
589名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:14:10 ID:kMTNCU3t
ここでコーヒーブレイク

二つ依存っぽい作品を紹介
・りりかるって何ですか?
場所:arcadia
じゃんる:リリカルなのは二次
概要:オリ主がリリカル世界に転生。幼稚園時代からなのは達と交流し初代リリカルストーリーを展開していく。
主人公に依存が二名。純粋な恋が一名。なのははちょっとヤンデレ入ってるがな
リリカルなのはを知らない自分でも読めた。おすすめ

・東方典型録
場所:小説家になろう
ジャンル:東方二次
概要:オリ主が月に人類が移住する前の大昔に迷い込み。東方キャラと次々に出会っていき依存されていく。
6話までは迷い込んであたふたするだけなのでそこまでは我慢。
590名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 00:21:51 ID:WNFes41W
確かにあまり感想かかないな・・作者さんごめんね。 
でもいつも楽しませてもらってます!
591名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 05:51:43 ID:5XQzTsjO
規制はマジで大きいだろうな
どのスレも勢い半分以下だ
592名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 13:30:20 ID:2NUbGELU
保管庫見に来てる人はいっぱい居るのになぁ…。
593名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 14:25:53 ID:EK8DNdBp
内容的にはこのスレでもいいものが他のスレに投下されてるだけだと思うよ
594名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 14:31:04 ID:8WVu+A0u
>>592
しこしこ書いてても規制でレス出来ないとかもうね
595名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 16:38:26 ID:5yKDmVKm
規制ってそんなにひどいのか?
カキコあまりしないから良く解らん
596名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 20:34:13 ID:8WVu+A0u
俺のプロパイダは去年から未だにずっと規制
しかもそれが他のプロパイダでも珍しくないから困る
携帯が解除されたから良かったが
携帯からうpする気力はねえ
597名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 23:04:49 ID:2NUbGELU
俺はいっつも携帯からだけど、そんなめんどくさいって思ったことないけどなぁ…やっぱりPCに慣れてる人はめんどくさいモンなんだね
598名無しさん@ピンキー:2011/02/06(日) 00:54:06 ID:NtuJYEkO
というかこの質問自体今規制食らってる人には意味ないのか……

まとめから代理スレみたいなの作れないのか?
需要あるのかどうかは微妙そうだが
599名無しさん@ピンキー:2011/02/06(日) 02:04:00 ID:dWT3v/ho
2ch規制が厳しくなったとは色んな所で聞いたが理由って結局なんだったっけ?
600名無しさん@ピンキー:2011/02/06(日) 22:57:22 ID:L5IYTmpZ
理由は分からないけど、どのスレも人はかなり少ないな。
書き手もこれにめげず書いてほしい。
601名無しさん@ピンキー:2011/02/07(月) 20:56:23 ID:0/picq+u
末尾P買うくらいなら普通に全年齢版を書きなおして普通の投稿サイトに投下した方が楽だしな
602名無しさん@ピンキー:2011/02/08(火) 00:37:22 ID:jBVC1CkB
避難所兼代行スレ立ててみたー
俺もなるべく代行するよ
ttp://jbbs.livedoor.jp/bbs/read.cgi/movie/2964/1297092836/
603名無しさん@ピンキー:2011/02/08(火) 00:44:16 ID:oWyZqnE1
>>602
GJ

これで投下も増えればいいのだが…
604名無しさん@ピンキー:2011/02/08(火) 00:52:29 ID:K5wPhXnB
>>602
超GJ!
これで作者増えると有難い…。
605名無しさん@ピンキー:2011/02/08(火) 22:29:29 ID:LDX3sngk
>>602

時間ができたら1度くらいは挑戦してみたいな
606名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 17:51:40 ID:6HQo/YeD
これで投下が増えなきゃ、残念な事にただ人気無いだけなんだな。
607名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 19:59:19 ID:x0mHrVoM
書き込めたらなんか書こうかな
608名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 20:01:08 ID:x0mHrVoM
oh…orz
609名無しさん@ピンキー:2011/02/10(木) 20:31:40 ID:ZWfYgQ0D
>>608
期待してますよぉ?
610名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 19:18:24 ID:4u63VqSy
今の流れなら、レスたくさん貰えますぜ。ダンナァ
611名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 21:52:34 ID:cLwfsi52
何だかSSを書けそうな気がするー
612名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 21:57:02 ID:yF1k1TG4
書けぶぁー?
613名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 03:39:27 ID:Qcehd2Oq
明日には書けそう
614名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 03:47:51 ID:5BfSA3Nv
マジで?なら全裸で待ってますよ
615名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 10:37:57 ID:/3wCGbuC
OCN全規制だと……
616名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 19:47:44 ID:5BfSA3Nv
規制多いよね…
617名無しさん@ピンキー:2011/02/16(水) 03:03:29 ID:a21pGmop
依存ってなに?
618名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 01:49:23 ID:utxIIRU3
レス
619名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 06:46:05 ID:JGohB+L7
依存ものの醍醐味はやっぱり捨てられる恐怖に
打ちひしがれ、それでも縋らずにはいられない
おにゃのこの愛らしさだと思うのですよ
620名無しさん@ピンキー:2011/02/17(木) 13:36:51 ID:GFkeJjve
投下無ぇ…
621名無しさん@ピンキー:2011/02/18(金) 02:35:33 ID:ZMy9bmHz
考えてみたが長い方がいいというか自分の能力では中編ぐらいないと無理。
せっかくなので筋だけ作ってみたが軽い依存程度で終りそう。
>>619のような可愛らしさなんか全くない…難しいよ、依存。
622名無しさん@ピンキー:2011/02/18(金) 19:35:54 ID:vTalFOoT
依存は、軽めの方がいいだろ
あまり重症だと、病んでしまう
まあ、たいして差はない気もするから、ヤンスレと食い合いになるのだ
623名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 00:21:09 ID:OWfvCcpq
今そのヤンデレスレがかなり危機的な状況なんだよなぁ

まあ規制でPink自体過疎ってるのもあるが
624名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 01:37:35 ID:HfivwWjW
まぁあれは荒れるべくして荒れたって感じだけどね。
いつかは終わりを迎えるもんだ。
625529:2011/02/19(土) 15:52:51 ID:vQBG+fol
傷ナ、投下させていただきます。
626傷ナ:2011/02/19(土) 15:53:30 ID:vQBG+fol
 最後に秋那(あきな)と会ったのはいつだったか。
 帰り道を一人歩く。
 生暖かい空気が素肌に纏わり付く。
 春が終わり、暑い夏の始まりへ日々は移りゆく。
 季節の移ろいを感じながら記憶を探る。

 一昨日の夜は、そのまま自分のアパートに直帰して独りで寝た。
 翌朝は最近の早起きが祟ったのか、血を抜きすぎて体力が低下していたのか、
久々の寝坊をした。
 目が覚めたら7時半を過ぎていて、支度も程々に会社に急いで。
 その日も会社が忙しく、よく働いて疲れ果てすぐに帰って寝てしまった。
 今朝もまた寝坊してしまい7時に起きて、彼女のマンションには寄る余裕も
なく会社に行った。
 結局、2日も会っていないのか。
 その事実に自分で驚く。
 出会ってからは毎日のように会っていたから、2日も会わない日が
続いたのは初めてのことだ。
 一人街灯に見送られ静かな道を歩く。

 「はぁ」
 今日はまた一段と忙しかった。
 出社して直ぐに部長に呼び出され、又仕事が増えたのかと思い憂鬱な気分で
行くと、転勤を言い渡された。

 北海道へ。
 半年間。

 それで、今日は仕事の引継ぎやらなんやらで一層疲れた。
 引越し費用は会社で出してくれるらしいし、向こうにある格安の独身寮へ
入寮させてくれるらしい。
 それに転勤手当もつく。
 詳しい日程はまだ決まっていないが、遅くて1ヶ月後というところらしい。
 向こうへ行ったら半年間、そう簡単には戻っては来れないだろう。
 しかし半年程度で、これが終われば昇進もあり得るらしい。
 こんな風に仕事を任せられるのは入社して初めてだ。

 やはり、良い流れに乗っている。
 これも秋那と出会ったおかげだろうか。

 そのせいで今日も残業で、既に日付もまわっているし身体も疲労を
訴えている。
 布団に入ってしまえば、すぐにでも眠れるだろう。
 それでも足は彼女のマンションへ向かっている。
627傷ナ:2011/02/19(土) 15:54:07 ID:vQBG+fol
 「ふわぁ」
 欠伸が一つ漏れる。
 身体は疲労を感じているが足取りは軽い。
 明日は日曜で会社も休みだしこの時間なら秋那も充分起きているだろう。
 これからもう何度、この逢瀬を重ねられるかわからない。

 半年。
 多分あっという間だ。

 しかし秋那にとってはどうだろう。
 自分があのくらいの年齢の時の半年は長く、大きかった気もする。
 どうだろうか。
 もうよく覚えてはいない。

 秋那は、俺が会社で仕事を任されたと言ったら喜んでくれるだろうか。
 そんなこと、彼女は興味ないだろうか。
 久方ぶりの良い出来事を彼女に伝えたい。
 彼女に一言、よかったねと言って欲しい。
 この喜びを彼女と共有したい。
 独り身でろくに人間関係を築けない俺には、喜びを共有できるような
相手はいない。
 不思議な関係の、独りだった少女以外。

 あの娘は2日も行かなかったことに怒っているだろうか。
 半年も会えなくなることを怒るだろうか。
 寂しんで、くれているだろうか。
 忘れられは、しないだろうか。
 久しぶりに秋那に会えるのが嬉しい半面不安もある。

 不安と喜びがグチャグチャに混ざり合って、深夜の道路で叫びだしたく
なった。
628傷ナ:2011/02/19(土) 15:55:24 ID:vQBG+fol
言い忘れてしまいましたが、流血猟奇表現注意です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 こんな所で悩んでいてもしょうがないと足を進める。
 それに、彼女がちゃんと食事を摂っているかも心配だ。
 これからまた独りで生活していけるのかも心配だし、彼女を独り置いて
いくことに罪悪感もある。

 まぁそれでも、俺と会う以前から一人で生活していたらしいし、
それは心配することでもないのだろう。
 半年間、彼女は一人でやっていくのだろう。

 臓腑を引き絞られるような感覚。
 身勝手な感傷。
 独身寮に彼女は連れていけない。
 それに秋那が俺に付いてくるわけがない。
 また、腹の底に嫌な物が積み重なっていく。

 思考を無理矢理にでも切り替える。

 深夜にもかかわらず光々と光るコンビニに吸い込まれる。
 明るい店内をひと回りして、プリンやケーキをカゴに放り込んでいく。

 これで秋那のご機嫌が取れるだろうかと考える。
 ブリンもケーキも以前に買っていったら、子供らしく喜んでくれた。
 まぁ秋那に言わせると俺の血が一番うまいらしいのだが。
 甘い物が好きなくせにあんな鉄分たっぷりの液体のどこがおいしいと言えるの
だろうか。
 旨い旨くないという以前に、あの娘もよく他人の血液なんて飲めるものだ。
 そんな下らないことを思考しながらレジに通す。
 色褪せた財布から、折り目がついた千円札を出しお釣りを受け取る。
 コンビニの外に出ても夜の町は足元に困らないくらいに明るい。
 病気の感染という観点から見れば、彼女の行為はへたな性行為よりも危険だ。
 そう考えれば随分危なっかしい娘だ。
 考えれば考えるほど、心配事は積み重なっていく。
629傷ナ:2011/02/19(土) 15:56:53 ID:vQBG+fol
 今となっては意味のなさない心配をしながら、人の少ない夜道を歩く。

 秋那が一人で住んでるマンションに辿り着く。
 外観は綺麗で、俺が住んでるアパートなんかより随分値が張るだろう。
 しかしオートロックなどはついていない。
 俺にとっては面倒がなくて有難いが、秋那のことを思うとかなり心配だ。
 小綺麗なエントランスをつっきりエレベーターまで行く。
 上、のボタンを押す。
 ボタンは上下に2つ付いていて、秋那くらいの身長でも手が届く位置に
一つ余分についている。

 3階にあった箱が音もなく下りてくる。
 間抜けな電子音が鳴り、目の前の扉が開く。
 乗り込み最上階のボタンを押し、ドアが自動的に閉まる僅かな時間さえも
待てずに閉のボタンを押してしまう。

 エレベーターの箱の中は静かで、心臓がドクドクと煩い。
 壁に寄りかかってみたり、離れて鏡の前にたって髪を直してみたりする。
 鏡に映った顔は間抜けで表情は固い。
 また壁に寄り掛かる。

 ……落ち着かない。
 今の俺をはたから見れば、まるで緊張しているようだ。
 全く、何度も通っているというのに笑える。
 どうも俺はここにきて緊張しているらしい。
 たった2日会っていないだけなのに、こんなにも不安になる。
 胸が苦しく、何時もしている呼吸の仕方さえ忘れてしまったようだ。

 彼女が俺のことを忘れていたら、嫌われていたら、いなくなって
しまっていたらどうしようかと不安に思っている。
 自分勝手な理由で会わなかったのは俺なのに。
 あの娘より、仕事をとるのは自分だ。
 思考が負の方向にグルグルと螺旋を描く。
 現実的に将来を考えれば、仕事を選ぶのは当たり前だ。
 いやそれよりも、普通は得体の知れない他人より自分のことを優先するのは
何も悪いことではなく自然なことだ。
 他人の子どもを置いていくのに罪悪感を覚える必要はない。
 そう、自分に言い聞かせる。
630傷ナ:2011/02/19(土) 15:57:40 ID:vQBG+fol
 チーンと、間が抜けた電子音が鳴る。
 ドアが自動的に開き、夜の闇とそれを隈無く照らす人工の光。
 空は黒く街の灯りに負け、星ひとつ見えない。
 冷たい空気が入り込んでくる。
 思考の回転が止まる。

 「すぅ、はぁー」
 こんな事を考えていてもしょうがない。
 箱の中から出ると空気は冷たく、頭が冷やされる。
 ゆっくりと、人工的に造られた空中の地面を歩き出す。

 彼女に会ったらまず、謝ろう。
 何日も連絡もせずに来なかったこと。
 2日間もご飯を作ってやれなかったこと。
 2日間も一緒にいてやれなかったこと。
 半年も、会えなくなること。
 彼女を、置いていくこと。

 そうしよう。
 きっと、彼女は笑うのだろう。
 いつも通りの幼い笑顔で。
 少し淋しげな顔をして。

 もしかしたら、気にもしないかもしれない。
 所詮行きずりの関係だ。
 幼い少女のごっこ遊びだ。
 半年の間に忘れてしまうかもしれない。
 …それはそれで寂しい物があるが、それが一番いいことなのかもしれない。

 一番奥の部屋に辿り着く。
 そういえば、冷蔵庫の中に豚肉が余ってたな。
 賞味期限もうだめかな。
 秋那は料理、できただろうか。
631傷ナ:2011/02/19(土) 15:59:41 ID:vQBG+fol
 インターフォンを押す。
 別段鍵は掛かっていない。

 それは、…買い物から帰って来ない母親のため、なのだろうか。
 それを聞いて最初は困惑して憤りもした。
 しかし今、自分は同じことをしようとしているのだと思い出す。
 ぎゅうぎゅうと心の隙間に罪悪感が入り込んでくる。
 また思考が良くない方に向かっていると、自覚する。
 彼女に会ったら謝ろう。
 そう決めたばかりだというのに。

 ドアの向こうに反応はない。
 いつもはインターフォンが鳴ると、トタトタと急いでやってきてドアを
開けてくれる。
 少し前までは俺の顔を見ると一瞬少し淋しげな顔をした後の笑顔になるのが
見てて辛かった。
 最近は最初から笑顔で、淋しげな顔をすることもなくなった。

 少し待ったが、ドアが開く気配はない。
 物音も、…しない。
 冷たい風が、ひゅうひゅうと不安を急き立てる。
 また、どくどくと心臓が騒ぎ出す。
 煩い。
 グルグルと取り留めのない思考が踊り出す。
 ドアノブに手をかける。
 案の定、すんなりと回る。
 勢い良くドアを開け放ち、お邪魔する。

 「秋那?」
 ……返事がない。
 いつも名前を呼んだら名前を呼び返してくれるのに。
 いつも通り暗く電気も点いていない廊下が何処か、いつもより冷たい。

 「秋那!」
 靴も荷物も放り出し一番奥の部屋に走る。
 ぶち壊すかのように扉を開ける。
 暗い部屋。
 一日中カーテンが引かれ、いつも部屋を照らすのは小さなテレビの画面だけ。
 そのテレビも今はただ沈黙している。
 目が慣れるのを待ち、耳を澄ませる。
632傷ナ:2011/02/19(土) 16:00:47 ID:vQBG+fol
 「…ぁ、……はぁ」
 微かに息遣いが聞こえる。

 「秋那?」
 そこで電気を点ければいいことに気がつく。
 いつも秋那が照明器具を嫌うのだ。
 手探りで照明の電源を探る。
 スイッチに手が触れ、カチッと音が鳴り部屋が白く染まる。
 蛍光灯の白い光が目を差す。
 ゆっくりと目を開ける。

 白い壁、白く分厚いカーテン。
 壁際にはテレビが置かれ、隣に勉強机が置かれている。
 反対側の壁側には白いベット。
 それと、瞳を閉じた人形の素体のような全裸の少女。
 傍らに刃まで赤い、愛用のカッターが転がっている。
 少女の両の手があるところの白いシーツが真っ赤に染まっていて、
少女の白い手も夥しい赤に染められている。

 「秋那!?」
 足をもつれさせながらもベットに走りよる。
 傍らに膝を付く。

 左腕には何本もの古傷に混じって新たに数本、鮮やかに赤い筋が
走っている。
 今まで白く、傷ひとつなかった右腕には一本の線が周囲の肌を
赤く染め上げている。
 近くで見た少女は蒼白で、今にも消えそうで、口元だけが
血のルージュで赤く。

 「秋那」
 名を呼ぶ。
 ゆっくりとした動作で眩しそうに瞼が開く。
633傷ナ:2011/02/19(土) 16:02:54 ID:vQBG+fol
 「あき、ひと?」
 「あきな?」
 「暁人」
 少女の声は弱々しく、顔色は蒼白を通り越して、真っ白だ。

 「どうしたんだ?」
 「ぇへへ」
 弱々しく笑う姿は心を抉られるようで。

 「あのね、…だめ、なの」
 「なにが?」
 「えっと、ね。そのね、自分のじゃ、だめ、だった」
 少女はゆっくりと、もどかしくも言葉を紡ぐ。

 「暁人のじゃないと。なんかね、いっぱいにならないの」
 少女は無理に笑顔を造る。
 泣きそうな顔で。

 「たりないの。…からっぽなの。…ここら、へんが」
 億劫そうに血だらけの左手を持ち上げ、胸の真ん中あたりを指さす。

 「すごく、たり、ないの」
 心をガリガリと穿っていくような笑い顔。
 必死に造られた笑顔はもう笑顔の様をなしてなく。
 そう言って力尽きたように手を血溜まりの中に戻してしまう。
 手を下ろしたさいに、ビチャっとひとつ音が鳴る。
 痛みでか、少女の顔が一瞬歪む。
 その拍子に、一筋だけ少女の瞳から滴が溢れる。

 「……さみ、しい、の」
 小さな、耳を澄ませても聴こえないほど小さな、少女の本心。
 それを吐き出した途端、少女の瞳から涙が溢れる。
 母親が消えても、今まで一度も言わなかった言葉。
 耐えて、溜め込んだ感情が瞳から溢れ出す。
 秋那の濡れた瞳が俺の視線を絡めとる。
 赤い左手が俺の頬に添えられる。
 冷たい、手。
634傷ナ:2011/02/19(土) 16:05:15 ID:vQBG+fol
 「泣いて、るの?どこか、痛いの?」
 自分だって泣いている癖に。
 自分だって痛い癖に。
 本当は辛かった癖に。
 自分のことを省みず俺なんかのことを心配してくれる。
 言われて目元に手をやると、熱い滴が後から後から途切れることなく流れていた。
 何故なのだろうか。
 そんな資格もない癖に少女に同情しているのか。
 自分も少女を置いていく癖に。
 また少女を独りにする癖に。
 独りは淋しい事を知っている癖に。

 今更ながらに気づく。
 実感する。
 ああ。
 こんなにも。
 俺は、この少女が大切で。
 少女を独りにしたくない。
 俺も、もう独りは嫌なんだ。
 小さな幼い少女には傍に誰かが必要で、俺ももうこの少女と、離れられない。

 ベットに放置されていた、カッターを右手で取る。

 「ああ、俺も痛いよ。此処が」
 少女の愛用のカッターで、胸の真ん中をさす。

 「いっしょだ」
 本当に嬉しそうに微笑む。
 秋那の微笑む顔が、とても愛おしい。
 視界がよけい滲んで目の前が見えなくなる。

 カチカチと刃を出し、左手首を、力強く切り裂く。

 「あっ」
 熱い。
 痛い。
 彼女との情事とは違って、気持ちよくも心地よくもないただの痛み。
 涙と同じように、後から後から血が流れ落ちる。
 彼女の口元に持って行くと、舌を伸ばし舐め取る。
 少女の舌が触れる度、背筋が痺れる。
 痛みという、快感という信号。
 冷たい両手で左腕をつかまれ、血を勢い良く啜られる。
 体内の血が抜けていくようだ。
 喪失感と充足感。
 誰かに必要とされている与えてるという満足感。
 この少女を自分の色で染め上げていくという背徳感。
 気が遠くなるような痛みがそれをより鮮明にしてくれる。
 自分で作った痛みとはまったく異なる。
 射精して、しまいそうだ。
635傷ナ:2011/02/19(土) 16:05:48 ID:vQBG+fol
 「はぁ、はぁ」
 「ふぅ」
 気が遠くなるような甘く重い時間。
 何時間も経ったような気もするし、実際は数秒しか経過していない気もする。
 彼女は傷口から唇を離すと一息ついた。
 流石に血の抜き過ぎでナニも萎んでしまった。
 クラクラとする。
 涙が止まって、目元に怠い熱が溜まっている。
 身体が疲労と水分不足で、重い。
 心臓が血液を作り出そうと痛いくらいに動いている。
 全力疾走した後のように鼓動が鐘を衝いている。
 心なしか脇腹も痛い。

 「ごちそうさま」
 少女が口元を血で真っ赤に濡らし、妖艶に微笑む。
 女の涙は幻のように消えてる。

 「はぁ、はぁ、はぁ」
 血の抜き過ぎと痛みで頭がぼんやりとしてくる。
 死ぬ、死ねる。

 ぼんやりとした頭で秋那の両手に包帯を巻いてやる。
 包帯も用意はしていたらしく、ベットに転がっていた。

 ぐぅ〜、音が鳴り響く。

 「ぇへへ」
 「…ハラ、減ったのか?」
 「うん!」
 人の元気も吸いとっていったのか、さっきとは別人のように元気に返事をする。
 簡単に包帯を巻き終える。

 「一昨日から血しか飲んでないんだもん」
 拗ねるように口を尖らす。

 「っ?!なんでそんなことしてるんだ」
 しかもその血も自分の血だろう。
 よく生きていたなこの娘は。
636傷ナ:2011/02/19(土) 16:06:43 ID:vQBG+fol
 「だって、だってなんか足りなかったんだもん!知ってるでしょ。
 私は、血がないと死んじゃうんだよ。それなのにその血で満足
 できなかったんだもん!」
 相変わらず良く解らない理由だ。
 いや、それだけ俺が必要とされてたってことなのだろうか。
 右手で顔を覆う。
 本当に仕事なんてしてる場合じゃなかったと後悔する。
 会いに来てやればよかった。
 顔を合わせられない。

 人の気も知らず、今度は秋那が人の腕を取り手際よく包帯を巻き始める。

 「ねぇ、おなかへったー」
 「ふっ。あぁはいはい、そうだったな。ちょっと待っててな」
 つい笑ってしまう。
 こちらの悩みなんてお構いなしだ。
 立ち上がると、フラっと揺れる。
 左腕は秋那によって素早く、俺よりも数段綺麗に包帯が巻かれている。
 玄関まで戻って落したままのコンビニの袋を持ってくる。

 「プリン位だったら食べれるか?」
 2日もろくに食べていないんだ、消化に悪いものは戻してしまうかもしれない。

 「うん!プリンすき〜」
 しかし何故この娘は全裸なのだろうか。
 血で汚れるから血を飲む時は服を脱ぎなさいって言ったのは俺なのだが。
 暖かくなって来たと言っても、まだ季節的には春だ。
 風邪を引かないとも限らない。
 それに、目のやり場に困る。

 「ほら。そのまんまだと、風邪引くだろ」
 プリンとスプーンとついでにとってきた俺のTシャツを渡す。
 もともと白いYシャツは血液でプリントがあるところが真っ赤に染まってるので、
汚れてもいいものとして再利用している。
 「ありがと〜」
 受け取ったYシャツを被る。
 襟元以外のボタンは掛かっているがサイズの合っていないため余裕を持って
少女の小さな頭は通る。。
 袖も長すぎて余っていし、それ一枚で膝近くまで覆い隠してくれるが、
その姿は何故か扇情的だ。

 秋那が早速プリンのフタを開けて、フタの裏を舐める。
 舌は血で赤黒く、ドキッとさせられる。
 視線を剥がしてコンビニの袋を漁る。
 確かもう一つプリンを買ってきた筈だが。
 奥のほうに入っていたプリンを発掘する。
 俺も血を抜きすぎて何か栄養がほしい。
 フタを開ける。
637傷ナ:2011/02/19(土) 16:07:07 ID:vQBG+fol
 「じー」
 秋那が擬音付きでこっちを見ている。

 「じーー」
 秋那の手の中の容器は既に空だ。

 「ふぅ。ほら、食べるか?」
 プリンを差し出す。
 全く、この娘には敵わない。

 「ありがとー」
 パッと笑顔が咲く。
 こっちまで笑顔になってしまう。
 本当にこの娘には敵わない。

 袋の中から鉄分たっぷりらしい携帯食をだし咀嚼する。
 パサパサと口の中の水分が奪われる。
 一緒に袋から出した栄養ドリンクで口内を潤す。
 血を吸われる事自体は覚悟の上だった。

 旨くも不味くもない携帯食を胃におさめる。
 いつの間に袋から出した出したのか、秋那がケーキと紅茶で
食欲を満していた。
 よくそんなに食べれるものだ。
 30過ぎてからは、食欲も落ちてきて人が食べるのを見るだけで満足してしまう。
 ボロボロとベットを汚しながら、ケーキをおいしそうに食べている。
 紙パックの紅茶が今にも倒れないか心配だ。
 食事をとってる様は、本当に子供っぽい。
 こちらの視線に気づく。

 「おいしいよ?食べる?」
 そう言って一欠片、今にも落ちそうなケーキを差し出す。
 苦笑し、シーツを汚す前に差し出されたフォークに食らいつく。
 甘ったるい。
 この甘さは少し辛い。

 「おいしい?」
 「ああ、おいしいよ」
 「うん!よかった」
 にこっと笑う。
 じんと胸が暖かくなる。
 もうこの笑顔なしでは生きていけないかもしれないと錯覚する。
 秋那がケーキを平らげ、紅茶も飲み干す。
638傷ナ:2011/02/19(土) 16:07:34 ID:vQBG+fol
 「ふぅ」
 ひと心地着いたのか、ころんとベットに寝転がる。
 そこら辺に放置された容器やらのゴミを集める。
 秋那はじっと手伝いもせずに見つめている。
 ゴミをまとめて、コンビニの袋に入れてしまう。
 床に落ちたままのカッターも危ないので片す。
 視線がこっちの動きを追う。

 「ねぇ暁人」
 背中に声がかかる。
 振り返ると、ベットに横になったままの秋那と視線がぶつかる。
 ドキリと、高鳴る。

 「どうした?秋那」
 「えっち、して?」
 食欲の次は性欲か。

 ベットにゆっくりと歩み寄る。
 跪き、目線を合わせる。
 吸い込まれるように顔を近づける。
 何も、余計な事はもう何も考えないようにして、唇を重ねた。
 ふんわりとした感触。
 ただ合わせているだけの唇が、じんわりと熱い。
 顔を離し見つめ合う。
 秋那の瞳は既に潤んでいて。

 「ねぇ。…しよ?」
 唇が甘い言葉を作る。
 ベットにあがり、邪魔な服を脱ぎ捨てる。
 幼い少女に馬乗りになる。
 潰さないように気を使いながら。

 先ほど着せたばかりの秋那の服を脱がしにかかる。
 一つ一つのボタンを外すのが嫌になるほどもどかしい。
 少女の裸体があらわになる。
 人工の白色光に照らされた病的なほど白い肌。
 全体的な肉付きは薄く。
 体付きは本当に幼い。
 膨らみかけの小さな胸。
 少女の秘部はぴったりと閉じていて、幼いそこはつるんとしている。
 細い、か細い手足。
 握れば壊れてしまいそうな小さな手。
 両腕に巻かれた血を吸って赤い、純白だった包帯。
 その手が俺の頭を抱く。
 少女の顔が目前に迫る。
 影に覆われた中、瞳が妖しく煌めいて。
 甘い香りが思考を焦がす。

 「キス、しよ?」
 握りつぶせそうなほど小さな頭をかき抱き、唇を貪る。
 唇を押し付けて。
 前歯を舐め上げて。
 舌を絡めて。
 唇を吸って。
 舌を食んで。
 唾液を交換する。
639傷ナ:2011/02/19(土) 16:08:12 ID:vQBG+fol
 「ん…っぁ……はぁ」
 少女の口内は甘く、甘く、熱く、蕩けそうで。
 頭が溶けていくよう。
 何も考えられなく、なってゆく。
 息が苦しくなり口を離す。

 「ふぅ、はぁ、…はぁ」
 秋那の瞳は濁り、息を荒らげている。

 「はぁ、…暁人の、唾液もおいし」
 艶美に微笑む。
 少女の香りにあてられて、クラクラとする。

 「秋那」
 そのまま喉に口付けを落とす。
 首筋からは、柔らかい甘い匂いが漂っている。

 「んっ」
 鎖骨に沿って舌を這わす。
 熱い体温。
 少女の平熱が高いのか、身体が昂っているのか。

 「ふふっ、くすぐったいよぉ」
 身を悶えさせる。
 ゆっくりと下に下がっていく。

 「あっ」
 薄い胸に口付けを落とすと、僅かながらに背筋を反らす。
 片方の胸をマッサージするように手の平で捏ねる。
 少女の胸はほんの少しだけ柔らかく、指を押し込むとすぐに固い骨を感じる。
 その奥には鼓動を感じる。
 何故か少し速いその鼓動に安心する。
 桜色の蕾を口に加える。

 「やっ、ぁ」
 ぎゅっと小さな手のひらで頭を押さえつけられる。
 口内できゅっと尖った乳首の感触を楽しむ。

 「きゃん。あっ、やぅ。ふふ、暁人、赤ちゃんみたい」
 楽しそうに少女が笑う。
 「秋那」
 右手で固く凝った乳首を軽く摘む。

 「やんっ、はっぁ」
 背筋が弓なりに反り返る。
 左手は背中に回し、滑らかな肌と絡みつく絹糸のような髪の感触を楽しむ。
 ひと通り反応を楽しむと、さらに下へと進んでいく。
 ぷっくりと柔らかく、幼く滑らかな腹。
 小さく窪んだ臍を舐め上げる。
 少女の熱い身体をかき抱き、何度も何度もキスを落とす。
 その度にもどかしげに身体をくねらせる。
 手を下に滑らせ、若く淑やかな足に触れる。
 肌は滑らかでしっとりと手に吸いつく。
640傷ナ:2011/02/19(土) 16:08:42 ID:vQBG+fol
 「あ、…ふぅ…はっ…ん」
 くすぐったいのか、身を捩るように悶える。
 ゆっくりと、ほぐすように腿を撫ぜる。
 少しずつ少しずつ、つけ根に向かっていく。
 同時に小さな臍に何度もキスをする。
 じっくりと愛撫を重ねる。

 「やっ、はっ、ん」
 反応に艶が交じる。
 手にぬるっとした液体が触れる。
 顔を離す。

 「はぁ、はぁ、はぁ」
 少女は両腕で顔を隠し、首まで真っ赤に染まっている。
 まだ幼い秘めやかな丘は、ひくひくと愛液で艷めいている。
 可愛らしい耳にキスをする。

 「濡れてるな。えっちな娘だ」
 耳元で囁く。

 「はぁ、ぁ、んぅ、やぁ」
 蚊の鳴くような声。
 しかし、両腿をもどかしそうに蠢かせている。

 「弄って、欲しいのか?」
 「……」
 コクンと微かに頷く。
 少女の固く閉ざされた秘所に口を付ける。

 「あっ」
 筋に沿ってゆっくりと舌を這わす。

 「やぁぁ」
 言葉とは裏腹に、腰を浮かせ押し付けてくる。
 じゅっと蜜を吸い取る。
 ほぐすように舌で柔らかな陰唇を何度も撫ぜる。

 「ん、はぁ…」
 包皮に包まれたままのちいさな固く尖ったクリトリスにキスを落とす。

 「やっ」
 一層強く少女の手の平に力がこもる。
 小さな蕾を舌で転がし弄ぶ。
641傷ナ:2011/02/19(土) 16:09:28 ID:vQBG+fol
 「やっ、そこっ、だっ、めっ」
 舌がそこに触れるたび、声が跳ねる。
 軽く優しく歯をたてた。

 「やっ!んっ、ーーーーーーー」
 腕の中でビクン、ビクンと熱い身体が跳ねる。
 口を離す。

 「やっ、ぁ…」
 秋那は両腕で顔を覆ったままで、表情は伺えない。
 その手はぎゅっと、固く結ばれている。

 幼い少女が絶頂に達する。
 一体どんな表情をしてるのだろうか悪戯心が頭をもたげる。
 包帯に巻かれた両腕を掴み、広げる。
 イッたばかりの身体には力が入ってなく抵抗もない。

 「やぁ…」
 呆けて快感に濡れた瞳。
 蒸気した頬。
 口は半開きで赤い舌と口内が覗き見える。
 イッたばかりの、幼い蕩けた顔。
 頭が、白熱する。
 痛い程に勃起したそれを秘部に押し当てる。

 「ぁ…する、の?」
 返事の替りに濡れそぼったそこに擦りつける。

 「やっ、あ…はぅ」
 「はぁ、はぁ」
 先端をワレメに割り込むように当てる。

 「ふふ。…いいよ。ちょーだい」
 差し出される両手。
 小さな指に大きく硬い指を、絡める。
 少女の手は熱っぽく、火傷しそうで。

 幼い姫穴にグロテスクな怒張を挿し入れる。
 どちらの熱さかわからない程に融け合う。
 狭い膣内を媚肉を掻き分けるように侵入する。
642傷ナ:2011/02/19(土) 16:10:07 ID:vQBG+fol
 「いっ、あ、ぁ」
 少女の顔が歪む。
 少しずつ、少しずつ少女のなかに押し入る。
 少女の腟内は熱く、きつく、少しでも気を抜けば射精してしまいそうで。
 少女の姫穴が亀頭を完全に咥え込む。
 ぎちぎちと痛い程に締め付けてくる。
 膣内は狭くそれを切り拓くように無理矢理にも腰を進める。
 毎回、幼い秘部は壊れてしまうんじゃないかと不安にさせる。
 それでも最後には包み込まれてしまうのだから、不思議でならない。

 「っーーー」
 焦り焦りと媚肉を掻き分け、コツンと最奥に到達する。

 「うっ、くっ、はぁ」
 無意識に止めていた息を吐き出す。

 「は、はい、った?」
 涙目で見つめてくる。
 触れるだけのキスをして。
 首を縦に振る。
 声を出せばそれだけで果ててしまいそうで。

 「うご、いて、いいよ」
 涙目で、それでも繋がって嬉しそうに微笑む。
 今はただ、この少女が何よりも、愛おしい。
 ゆっくりと傷つけないように腰を引く。

 「あっ、ぁぁ」
 ゆったりとしたストロークを繰り返す。
 少しずつ少女の膣内が解れていく。

 じゅぶじゅぶと水音が響く。
 愛液で動くやすくなった、少女の膣が絡みついてくる。
 先程まで固かった少女の姫穴は、今は柔らかく、熱っぽく絡みつく。

 少女の熱い身体を抱きしめる。
 胸元に少女の顔が押し付けられる。
 背中に小さな手のひらを感じる。
 逆にぎゅっと抱き締められる。
 腕の中の少女は熱く、身体が融解して混じり合ってしまうんじゃないかと。
 きゅっ、と空気ですら二人の間に入らないようにきつく、きつく抱き合う。
 何も考えず、唯々腰をふる。
643傷ナ:2011/02/19(土) 16:10:36 ID:vQBG+fol
 「やっ、っ、あっ、はっ、ぁ」
 絶頂に向けて少女を犯す。
 混ざり合って溶けてしまえと腰を叩きつける。
 2人で欲望を貪り合う。
 先端にコツコツと最奥になんども当たる。

 「あっ、はっ、やっ、あきっ、ひとぉ」
 「あき、な」
 反射で名を呼ぶ。
 こちらを見上げる瞳と視線が絡まる。

 少女の中の怒張はもう限界で。
 もう少しこのままでいたくて。
 限界を越えるようにひたすらに腰をふる。

 「いっしょ、にぃ。…ずっ、と、いっ、っしょ、にぃ」
 心臓を鷲掴みにされる。

 「きすぅ、してぇ」
 何も考えられず、唇を奪う。
 がむしゃらに唇を押し付ける。
 カツンと前歯が当たる。
 少女の膣内がきゅっと締まる。
 背筋を反らし、ぎゅっと一層強くしがみつく。
 頭を痛いほどに抱き締められる。
 最奥に自身を捩じ込む。

 「んぅ」
 舌が絡め獲られる。
 少女の身体を壊すように思いっきり抱き締める。

 思考が真っ白に染まる。
 限界を突破し果てる。
 唇を合わせたまま、白濁を注ぎ込む。
 息を止めて。
 何度も。
 ありったけの精を少女に吐き出す。
 射精がおさまる。
 顔を離す。
644傷ナ:2011/02/19(土) 16:11:47 ID:vQBG+fol
 「はぁはぁはぁ」
 「はぁはぁ、はぁ、あつぅぃ」
 果てたベニスが引き抜ける。

 「あっ」
 「はぁはぁはぁ」
 酸素が足りない。
 身体中が燃えてる。
 思考は霞がかってて。
 少女の隣に倒れこむ。
 向かい合うようにして、少女が横になりこちらを見上げる。

 「はぁ、はあ、いっぱい、だしたね?」
 息も荒く、少女が嬉しそうに囁く。
 この行為の意味も知っているかも微妙な、幼い少女が下腹部を赤い包帯を
巻いた手で慈しむように撫でる。

 「ふふ」
 陰唇から溢れ出した精液がひどく淫らで。
 その仕草にどきっとさせらせる。

 「はぁはぁ」
 まだ返事をするほどの余裕が無い。
 年か。

 「ふふふ」
 それを見て、少女が笑む。

 「暁人」
 「はぁ、はぁ、あき、な?」
 首に腕が回され、唇を奪われる。
 柔らかく頭をとろけさせるような感触。
 さらに思考が鈍る。

 「おやすみ。……今、だけでも、何処にも行かないで、ね?」
 最近は見せなくなった淋しげな顔。
 ぼやけた頭ではその意味すらろくに理解できずに。
 そう言って、返事も受け付けずに少女は眠りについた。
645名無しさん@ピンキー:2011/02/19(土) 16:14:19 ID:vQBG+fol
了。
お粗末様でした。
長くてすみません。

叩かれるのを覚悟で言ってみます。
感想、意見批評でもお待ちしています。
646名無しさん@ピンキー:2011/02/20(日) 00:27:58.42 ID:r0jYjmqB
GJ
他の物じゃ代用できないと求められるのはいいなあ
647名無しさん@ピンキー:2011/02/22(火) 18:55:09.19 ID:8ZE6RJK2
遅れてしまったGJ
648名無しさん@ピンキー:2011/02/22(火) 21:48:22.36 ID:8YGNT/On
人すくないなぁ…規制か
649名無しさん@ピンキー:2011/02/23(水) 02:15:49.59 ID:nkcHQkaO
「ね……、ねえ
私の……、いい?」
いつも彼女は、愛の言葉を催促してくる
怖ず怖ずと、自信なさ気に……
どんなに愛しても、僕の心は通じなかった
口の重い僕には、言葉を紡ぐことは大きな負担になる
「よかったよ」
から
「わかってるだろ」

何時しか
『わかれよ』
と思うだけになっていた

それでも彼女は、頑張ってくれていた
高まるだけの僕の要求に、無償の愛で……
イヤ、無償と思いたかっただけなのだ
通じ合っていると言い訳して、伝える努力もしないまま

いつの間にか、彼女は消えていた
彼女に応える者を求めて

彼女の消えたスレを、僕はただ、虚しくクリックし続けた
650名無しさん@ピンキー:2011/02/23(水) 11:35:23.14 ID:9toWHi6D
>>649
虚しすぎるぜ…
651名無しさん@ピンキー:2011/02/25(金) 20:13:14 ID:qwkL6+aF
復活したか?
652名無しさん@ピンキー:2011/02/27(日) 12:14:34.19 ID:P7VnF6ic
ここ書き手いないのか?
653名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 02:40:40.78 ID:1wjoFR4E
夢の国来いっ!!!
654名無しさん@ピンキー:2011/02/28(月) 23:41:39.10 ID:VugPuKBE
>>463
こんな感じの依存が好み。
歪んだ関係だけど誰も間に入れないみたいな
655夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:36:35.96 ID:bDIlopgh
作品無いのは規制ですかね?
投下します。
656夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:37:28.89 ID:bDIlopgh
夜空に浮かぶ満月が近い…手を伸ばせば触れるんじゃないかと錯覚するほどに。
実際はいくら手を伸ばしても届くはずないのだが、分かっていても自然と手を伸ばしていた。

「満月ですか……綺麗ですね」
風に紛れて聞こえてくる声に空気の中をさ迷う私の手がピタッと止まった。
どこから聞こえてきたか分からず、左右をキョロキョロと見渡す。
人の姿は無いので、後は後ろだけだ。
手を下げて後ろに振り向く。

「お邪魔でしたかな?」
浅黒に肌に神父服であるアルバを身に纏っている男性が、私と同じように満月を見ながら呟いた。
確か私がバレンに来る時もこの飛行船に乗っていた神父だ。

「いえ、神父様も月見ですか?」

「えぇ…雲の上から月が見れるのは飛行船の上でしかあり得ませんからね。それに今日は満月…月見にはもってこいです」
私の隣に並ぶと、今度は空から下へと目を落とした。
飛行船の下には大海原が広がっている。


「普段なら見れませんが…ほら…水面を見てください」
神父が指差す場所へと目を向ける。

「凄いですね…」
海の真ん中には綺麗な満月が小さく揺れながら映っていた。
657夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:38:02.18 ID:bDIlopgh
「海では本来見れない光景なのですが…風も無く雲も無く、凪の時間が重なると見れる景色です。何故か私に悲しい出来事があると、綺麗な水月を見せてくれるのです」
船の手すりに手を掛けると、なんとも言えない表情で再度空の満月へと視線を上げた。

「悲しい事…ですか?」
同じように手すりに手を掛け、神父に問いかけた。
少し前までは雑談でもバレンの人間というだけで聞く耳すら持たなかったのだが、何故か神父の話を聞いてみたくなった。
いや…聞いてやりたくなった…多分心に余裕が出来てしまったからなのだろう。
先ほどもそうだが本来の私なら神父が話しかけて来る前に神父の気配を感じとり、対峙する形を取っていたに違いない…だけど私は話しかけられてやっと神父の存在に気がついたのだ。
それどころか神父がどこに居るかすら分からなかった。
実際私の命である剣も今はもう私の元には無い。
私は騎士から女へと変わったのだ。

「罪の告白や人生の相談など人種の垣根を越えて色々な人々が私を頼ってくれます。
私もそれが使命だと思っていますし、天職だと思っています…。
だが、聖職をしていると……自分の悩みを打ち明ける人が皆無なのですよ。」
658夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:38:42.97 ID:bDIlopgh
小さくため息を吐くと、月から目を背けその場に座り込んでしまった。
確かに神父という職業は自分の悩みなど口にしてはいけない職業だ。
神に使える身ならそれを自覚してその道を選んだのだろう…だが、やはり神に使える者とはいえ所詮人間。
神に直接使える天使などになれる訳でもない…。

「私でよければ…話ぐらいは聞きますよ?」
神の使いの悩みなど私が解決できるとは思えないが、人に話す事ですっきりする事もあるだろう…。
一度頭を深く下げてから神父の隣に腰を落とした。

「そうですか?いや、身内の人間やバレンの人間には誰にも言えなくて…面識が殆ど無い貴女なら話しやすいです…」
小さく微笑むと、自分自身の溜め込んだ悩みを少しずつ吐き出していった。

家族の事…バレン商人の事(人拐いの事だろう…)接点がまったくない私だからこそ、話せる内容ばかりだった。
別に悩み相談をしている訳では無い…ただ神父が話す言葉を聞いているだけ。
いくつかの悩みを吐き出した後、最後に神父が口にした悩みに私は顔が強ばってしまった。

神父の話す内容の中に私の知人の名前が出てきたからだ。
659夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:39:18.92 ID:bDIlopgh
「貴女の国の領土内にあるユードという小さな町に私と同じ聖職者が居るのをご存知でしょうか?」

「え…えぇ、有名な方でしたから」
神父が言うユードに居る聖職者と言うのは、間違いなく私が知っている神父の事だろう。

「ユードのフロード神父と言えば世界の貧困国を回っている数少ない聖職者の一人です。数多くの国がフロード神父の教会を支援しているのは有名な話ですよね?」

「はい…我が国もお世話になっていましたから」
私自身もよく教会に入り浸っていた時期があった。
ライトと喧嘩した時などは、教会に籠城したりもした。
今思えば私やライト、ホーキンズの三人はあの教会を大きな秘密基地のように扱っていたかも知れない…。
しかし神父は私達を怒る事なく、寧ろ私達と同じように遊び回っていた印象が強い。
私達にとっては第二の父のような存在だった。

「フロードは私の旧友でした…大切な親友だったんです…大切…な…」

「そうですか…」
その言葉を最後に神父は喋らなくなってしまった。
下を向き私に見えないようフードを被って…。
この神父が話した事に真実があるかなんて分からない…だけど、フードの隙間から見える頬を伝う涙が真実だと訴えていた。
660夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:39:46.96 ID:bDIlopgh



◆◇◆†◆◇◆

「絶対に近づくなよ!近づいたらこの姫さん殺すからな!」

「このっ!賊風情が!」
一定の距離を取りながら後をついてくる兵士。
後宮に居た時は数十人の兵士だったのに今では数百人に囲まれている状態だ。
メノウを放せば間違いなく八つ裂きにされるだろう…。

「ライト…怖い…」
俺の手を力強く握り締め、不安いっぱいの視線を向けてくるメノウ。

「もう少しだ…もし少しだけ我慢してくれ」
そう小さな声でメノウに伝えると、剣を兵士達に向けながら少しずつ地下へと向かった。

「おらっ!近づくなよ!近づいたら殺すからな!(しかし…ホーキンズのヤツ突然だから本当にヒヤヒヤしたな…)」
ホーキンズと同じようにメノウを殺すと叫びながら敵を威嚇し続ける。
――これがホーキンズの作戦だったのだ。

始めは本当に気が狂ったのかと思った…だけどホーキンズの目を見て分かった…何か考えがあるのだと。
それがこれだ……メノウを人質にして、この城から脱出するのだ。

向こうの兵士達は絶対にメノウを傷つけられない。
何故ならバレンの王女になる人物だからだ。

「……」
ホーキンズが俺に向かって目だけで合図する。
661夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:40:46.07 ID:bDIlopgh
数メートル先に扉が見えた。

「あれが礼拝堂か…」
あの先に抜け道が…。

「おい、聞こえなかったのかよ糞ども!全員離れろっていってんだよッ!それ以上近づいたらマジで殺すからなぁ!!」
ホーキンズが一際大きな声を荒らげメノウを引きずるように前に差し出すと、周りの兵士が慌てて後ろに後退りだした。

「よし、ホーキンズ!早く中に入れ!」
礼拝堂の扉を開けると、ホーキンズに中へ入るよう急かした。
兵士達の後ろに弓矢隊がいる…。
俺はティーナやクーのように弓矢隊の遠距離攻撃は防げない。

「一人でも中に入ってこようとしてみろ!スグに殺すからな!」
数百人の兵士に最終通告を伝えた後、メノウを掴んだまま礼拝堂の中に潜り込んだ。
その後俺もスグに礼拝堂の中へと入り扉に施錠する。

「はは…もう大丈夫かッいてぇ!?」
メノウがホーキンズの手に噛みつき強引に手を振りほどくと、俺の元へて走りよってきた。
胸へと飛び付いてきたメノウを受け止め、ホーキンズに目を向ける。

「お〜いて…本気で噛みやがった」
メノウに噛まれたホーキンズの腕には歯形がくっきりとついており、血が滲み出ていた。
かなり強く噛みついたようだ。
662夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:41:52.37 ID:bDIlopgh
「ホーキンズ悪かったな……変な悪役させて」
あの場面で俺がホーキンズと同じような行動に出ても効果は無かっただろう。
脅えるメノウの姿が必要だったのだ。
俺がしても多分メノウはキョトンとするだけ…ホーキンズだからこそあの作戦ができたのだ。

「問題ねーよ。それより早くここから抜け出そうぜ…てゆうかハロルド達はどうなったんだ?まさか間に合わなかったっていうオチじゃねーだろうな」

「分からねぇ…クーがいるから兵士ぐらいじゃ問題無いと思うけど…とにかく抜け道を探すか…」
周りを見渡し確認する。
薄暗いが、天井部分には大天使である聖ミカエルが描かれている。
真っ赤に燃えた剣を天にかざし、周りに群がる天使を導いているのだろうか?
どこか神秘的な雰囲気のある絵だ…。

「しっかし大きな所だな…城内になに建ててんだよ」
ホーキンズが言うように礼拝堂というより大聖堂といった感じだ。

先ほど俺達を囲んでいた数百の兵士より、なぜか四方八方から威圧してくるような空気がこの礼拝堂には流れている。



「ライト…奥から声が聞こえてくるよ?」
腹部にしがみついていたメノウが耳をピクピクさせ、礼拝堂の奥に目を向けた。
663夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:49:38.93 ID:bDIlopgh
冷たい風が奥から流れている…すきま風だろうか?

「ハロルド達か?」

「それ以外いねえだろ。確かこの礼拝堂は騎士団の連中とゾグニ帝王しか入れなかったはずだし。早く行こうぜ!」
ホーキンズが無防備に奥へとズカズカ進んで行く。

「お、おい!まだ分からねーだろ!」
慌ててメノウの手を掴みホーキンズの後を追いかける。
いつもそうだがホーキンズは大切な場面で雑な行動を起こす事が多いのだ。

「おっ、明かりだ」
数分通路を進むと、明かりが視界に入ってきた。
松明だろうか?
壁に立て掛けられた明かりがぼんやりと揺れている。

「ほらっ、やっぱりハロルド達じゃねーかよ!」
ホーキンズが嬉しそうに此方に振り返り、礼拝堂の奥へと指差す。
松明の明かりでぼんやりとしか見えないが、確かにハロルドだ。
しかし、様子がおかしい…フラフラと身体を揺らし今にも倒れそうだ。
それにハロルドの隣にいるはずのクーが見当たらない…。
クーの代わりに見知らぬヤツが立っている。
鎧を見る限りバレン騎士団か…。
メノウの手を放して、剣を構える。

「違う違う!アイツだよ仲間になったっていうヤツ!」
ホーキンズが慌てたように俺の前に割って入ってきた。
664夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:50:15.08 ID:bDIlopgh
あれがホーキンズが仲間に引き入れたっていう……バレン騎士団のヤツだったのか。
しかし本当に信用していいのだろうか?
アイツがもしはめようとしてるなら、俺達は言葉通り“終わり”だ。

「おい!お前早かったじゃねーか!」
ホーキンズが“仲間”と言っていた人物に近づく。

「ホーキンズてめえ……これはどういう事だッ!!」
“仲間”と言われていた人物が走りよるホーキンズの目先に勢いよく剣先を向けた。
その顔は何故か怒りに満ちている。

「ちっ、ホーキンズ離れろ!」
咄嗟にホーキンズを横へとずらし、ソイツと対人する。
敵か?味方か?区別がつかない。
もしあの紙切れに書かれている事が本当なら抜け道が…。

「え…ライトなの?あれっホーキンズもいるじゃない!助けてよ!」

「はっ?ティエル!?」
ハロルドの後ろに小さなカゴに入ったティエルが見えた。

「お前なにしてんだよ!?勝手な行動するから捕まるんだろうが!」

「うっ…それは…ごめんなさい……ってそんなこと言ってる場合じゃないのよ!早くそいつやっつけちゃってよ!」
ティエルが妖精とは思えない顔つきで赤い鎧を身に纏った騎士に指をさした。

やはり敵か?
665夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:51:12.96 ID:bDIlopgh
「落ち着けって!コイツは味方なんだって!」

「何が味方よっ!私を捕まえたのもそいつなのよ!?それにハロルドを見なさいよ!ボロボロじゃない!そいつがハロルドをボコボコにしたんだから!」

「おいハロルド…マジか?」
ホーキンズがハロルドに問い掛ける…が返事は無い。
立っている事が精一杯のようだ。

「そいつをボコボコにしたのは俺だよ?だからなんだ?城に侵入すりゃ排除する…常識じゃねーかよ」
当たり前のように白状した。
そりゃそうだ…自国の城に侵入者を許す兵士なんてあっていいもんじゃない。
だが、それを聞いてはっきりした。

こいつは敵だ。

「メノウ…少しだけ離れてくれるか?」
手を握るメノウを椅子に座らせると、腰を落としてメノウに話しかけた。

「ライトどっかいっちゃうの?」

「ん?どこにもいかないさ…ちょっとそこにいる友達を助けにいくから、見ててくれるか?」
涙目になるメノウの頭を撫で何処にもいかないことを伝えると、再度騎士と対峙した。
ホーキンズには悪いが、黙って見過ごす訳にはいかなくなった…向こうも俺達を逃がすつもりなどないだろう。

「マジで待てって、おいミア!意味が分からないぞ!」
666夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:52:25.59 ID:bDIlopgh
ホーキンズも何が起きてるか理解できていないようだ。
剣を構える騎士…ミアと言われる人物に無防備に近づいていく。

「ホーキンズ!俺はお前とアンナを逃がしてやるとは言ったけどな、だけど姫様まで一緒とは一言も言ってねぇだろ!」
ホーキンズがミアの目の前まで再度歩み寄ると、ミアは剣を腰にあるホルダーに差し込みホーキンズの胸ぐらを鷲掴み、力強く引き寄せた。
ホーキンズに対しては危害を加えるつもりはないようだ。

「……ミアなんでだよ?理由を話してくれないか?」
捕まれている手を胸ぐらから放して優しく問いかけた。
確かにこのミアという人間は何かワケがありそうだ。

「おい…おまえハロルドとホーキンズから離れろよ」
だが、話を聞いてる暇など無い。
ミアがハロルドに手をだしたという事実は消えないのだから。

「はぁ?んだよコイツ?」
めんどくさそうにホーキンズから目を背け此方に目を向けてきた。
それを見たホーキンズが何故かミアの耳元でヒソヒソと話し出した。

何をしているのだろうか?


「……へぇ…コイツかぁ…確かに…見た目はど真ん中だなぁ」
ニヤァと歪ににやけると、ホーキンズを横へずらし此方に歩み寄ってきた。
667夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:53:23.33 ID:bDIlopgh
「おい…立ち止まれ!斬るぞ!」
威嚇するように剣先をミアに向ける…だが、抜刀した状態で近づいてくるならまだしも、無防備で近づいてくる人間を斬ることはできない…。

「ははっ…やってみろよ」
はったりと見抜かれたのだろうか?
剣を抜く素振りすら見せず、歩くスピードもそのまま此方へツカツカと歩み寄ってくる。
後退る俺を無視し、俺の懐まで潜り込んでくると、何故か俺の顔をジーっと見つめてきた。

「うん…決めた…お前を俺のモノにする」

「はぁ?なにいってんだおまっむぐッ!?」
突然服を掴んで引き寄せられると、口を強引にこじ開けられ舌をねじ込んできた。

「ん、はっ…うッ、んちゅっ」
俺の頭を押さえ込み吸い付いてくるミア。
かなり強い力で俺の髪を掴んでいるので引き剥がそうにもなかなか引き剥がれない。

「やめてッ!ライトから離れて!!」
いつの間にかメノウが俺とミアの間に割って入っていた。
微かにできた隙間に手を差し込みミアを突き飛ばす。
かなり強い力で突き飛ばしたので華奢なミアは背中から勢いよく転んだ。

「お前なにするんだよ!?」
ミアの意味の分からない行動に頭がパニっクになる。
何故突然キスをするのだろうか?
668夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:54:20.86 ID:bDIlopgh
ただの淫乱なら俺じゃなく違う人間を選んでほしいものだ。

「ラ、ライト大丈夫?メ、メノウも…」
おどおどとメノウが俺の口に手を伸ばそうとしている。
口に触れる寸前にメノウの手を掴み大丈夫だと伝えると、何故かメノウは耳を項垂らせ、下を向いてしまった。

「いきなり突き飛ばすんじゃねーよ!」

「突き飛ばされるようなことするからでしょ!?」
珍しくメノウが声を荒らげた。
いや…珍しくと言う言葉は間違ってるな…三年以上も会っていなかったのだ。メノウだって変わるだろう。
身体つきも女の子らしくなっている。




「お〜い、お前らがイチャイチャしている間にティエルとハロルド助けたぞ〜」
いつの間にかホーキンズがティエルのカゴとハロルドを担ぎ上げている。
俺を囮に使ったのかコイツ…。


「てめっ、ホーキンズ!」
ホーキンズの方へと走りよるミアを後ろから羽交い締めにする。

「おっ?なんだよ、いきなり抱きつきやがって」
後ろ手に優しく俺の頬を撫でるミア。
俺が受け入れたと思っているのだろう…。

「くくっ、やっぱりお前も俺が気に入っぁッが?!」
再度口を近づけてきたので、なんの躊躇も無く首に腕を巻き付け締め上げた。
669夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:54:58.96 ID:bDIlopgh
「ぐ、がっあッ!!?」
突然の出来事にパニっクに陥ったのか俺の腕を引き剥がそうと暴れるが、俺より華奢なミアには外せないだろう。頸動脈を強く圧迫しているので気絶するのは時間の問題だ…。

「おい、ミア…お前が心配している事は分かる……騎士団の連中の事だろ?大丈夫だ。お前は絶対に死なせないから」
ホーキンズがミアに近づき話しかけると、暴れるミアの頭を軽く撫でた。
その瞬間、ミアの身体が一瞬大きくビクついた後、全体から力が抜け落ちその場へと倒れ込んだ。
倒れ込むミアの上にホーキンズが上着を被せると、奥にある銅像の前へと向かう。

「この下から森の風が流れてるわ」
ティエルが銅像の下を指をさした。
手をかざして確認してみると、確かに銅像の隙間から隙間風が漏れているのを確認できた。
だとするとこの銅像を動かせばいいのか…。

「ホーキンズ動かすぞ」

「あぁ…」
ホーキンズと一緒に銅像を押してみた。
すると、重々しい銅像が簡単に後ろへと移動してくれた。
銅像の中身は空洞になっているようで、二人がかりなら楽で動かせるようになっているようだ。

「おぉ…本当に抜け道だ」
銅像の下部分には階段があり、通路が長々と続いていた。
670夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:55:47.66 ID:bDIlopgh
コケや蜘蛛の巣などを見る限り、かなり長い間誰も通っていないことが分かる。
これを通れば森に抜けられるのか…。


「てゆうかクーはどうしたんだ?」
クーはハロルドと共に行動していたはずなのだが…。

「あっ、そうだ!クーは敵と外に行っちゃったのよ!めちゃめちゃ強いヤツでクーも危ないかも!」
ティエルが思い出したように窓の外を指さした。
クーが危ない?
まさか…クーがやられる訳ないと思うのだが…。
礼拝堂の窓ガラスから外を確認して見る。

「……全然見えない」
何かと何かがぶつかりあう音はたまに聞こえるのだが、クーの姿が見えない。
窓を開けて確認するが、やはり音だけしか聞こえない。

「クー居るのか!」
敵と戦っているのかすら分からないが、一応呼び掛けてみた。

「――なに?」

「うおっ!?ビックリした!」
目の前に突然クーが姿を現した。

「っておまえ血だらけじゃないか!」
身体のあちこちから血が滲み出ている。
ティエルが言っていたようにやはりクーが戦ってるヤツっは強いのか…。

「クー早く逃げるぞ!目的は達成した!」
クーの手を掴み礼拝堂に引きずり込むと、メノウの手を掴みそのまま階段を走り降りた。
671夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 14:58:35.35 ID:bDIlopgh
「はぁ、はぁ、クーが戦ったやつは強かったのか?」
通路を走りながらクーに問い掛ける。
もし追い掛けてきたら戦わなければならない…それにクーが苦戦する相手なら俺やホーキンズなら歯がたたないのは目に見えている。

「――つよい―でも―たぶん―いまは―たてない―」
自信満々に胸を張ると、俺の前に頭を差し出してきた。
走りながら器用な事するなぁ…と思ったが一応軽く頭を撫でてやった。
物凄い目付きでメノウが睨んでいたが、今は相手をしている暇は無い…早くこの城から抜け出さないと。

「ひぃひぃ、お前ら俺がハロルド担いでること忘れてんじゃねーだろうな!」

「分かってるよ…だからお前を先頭に走らせてんじゃねーか」

「変わるって選択肢はねーのか!」

「はいはい…」
三十分ほどホーキンズの戯言を無視して走り続けていると、出口らしき錆びた小さな扉が視界に入ってきた。
何十年も開けられていないのだろう…錆びで赤くなっている。

「あれが出口か、よし早いとこ抜け出そうぜ!」
扉前に到着すると、ホーキンズがノブに手を掛け扉を開けようとした…が開かない。
錆びで機能を失っているようだ…。

「クー頼めるか?」

「――うん―」
672夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 15:01:05.08 ID:bDIlopgh
扉の前に立つと、くるっと半回転し蹴りを放った。
クーの周りだけ風が巻き起こる。
錆びた扉がクーの蹴りの衝撃で、勢いよく吹き飛んでしまった。
まぁ、開けばいいので吹き飛んでも問題無いのだが…。

――吹き飛んだ扉の出口から外に出ると、一面木々に囲まれた場所が姿を現した。
間違いなく“森の中”だ。
ここまでくれば大丈夫だと思うが、念のため森の中へと身を隠したほうがいいだろう…。
クーを先頭に通路出口から離れるように森の中へと深く入っていくことにした。
本来夜の森というのは絶対に入ってはいけない場所なので、兵士達も追ってこれないはず…。

「ここまでくれば大丈夫か…」
草木をかき分け、城から数キロ離れた森の中へと到着すると、近くにあった木の根に腰を落とした。
メノウも同じく俺の隣に腰を落とすと、肩に頭を乗せてしがみついてきた。
やっと一息つける…ずっと気を張っていたので今になって身体の至るところが痛くなってきたが…安堵からか、眠気のほうが強かった。

「ライト…会いたかった…」
メノウが小さく呟く。

「あぁ…迎えに来るの遅れて悪かったな」
メノウの頭に手を乗せて空を見上げる。
673夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 15:02:39.84 ID:bDIlopgh
綺麗な満月が木々の隙間から顔を覗かせていた。

「これからどうするんだ?」
ハロルドを地面に寝転ばせティエルをクーに預けると、ホーキンズも同じように空を見上げた。
満月が珍しいのだろうか?確かにユードに居る時はあまり満月というものを見たことが無かった気がする。

「確かここから数キロ離れた場所に小さな港町があるそうなんだ…そこで一隻船を盗んでこの大陸から脱出しようと思う。それでアンナさんはどこに居るんだ?早くこの大陸からおさらばしたいんだが…」
敵地に長居する理由はもう無い。
夜明けと共に何千万という兵士がメノウを探す為に放たれるはずだ。いや…もうすでに町はバレン兵で埋め尽くされているだろう。
だから朝までにアンナさんと合流して、さっさと港町まで移動したいのだ。
バレン兵に港町を押さえられる前に行動しなければ…。

「あぁ…それなんだが、アンナは俺が連れていくよ。お前らはその港町に向かってくれないか?」

「え…なに言ってんだよ?アンナさんが何処に居るか知らないけど、町は多分バレン兵だらけだぞ?」
今ここで別行動をとれば、捕まる可能性も高くなる。今度ホーキンズが捕まった時助けられるかかなり危うい。
674夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 15:03:59.00 ID:bDIlopgh
「大丈夫だって。大人数で歩くからばれるんだよ。俺一人なら問題無いさ。町の近くまで送ってくれたら後は俺がなんとかする。アンナは俺が助けると約束したからな…それにミアの事だってある」

そう言えばホーキンズがミアを死なせないとか言ってたな…。助けるという意味だろうか?
だが、どうやって助けるのだろう?
またホーキンズに何らかの作戦があるのなら是非聞いてみたいのだが……危険か安全か判断しないとやはりホーキンズの一人行動は危ない。

「あのさ…どうやってy「ほらっ、グダグダ言ってないで早く行こうぜ!」
俺の質問を強引に遮ると、ホーキンズは町の方角へと歩いていってしまった。

「クー…ティエルのカゴを壊してからホーキンズの前を歩いてやってくれ」

「――わかった―」
俺の言葉に一度うなずくと、ティエルのカゴを掴み両手で力一杯抉じ開けようとした。
普通なら曲がることすらないであろう鉄のカゴがグニャリと歪に曲がる。
その隙間からティエルを取り出し、頭に載せるとホーキンズの後を追い掛けた。
675夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 15:04:27.02 ID:bDIlopgh
「…アンナさんを迎えにいく為だもんな…よし、ハロルド行くぞ!」

無言で頷くハロルドを担ぎ上げ、メノウと一緒に俺達もホーキンズの後を追った。
大きな不安が胸を締め付けたが、ホーキンズに何か考えがあるのだろう…。
大丈夫…皆の力でここまで来たのだ。
皆一緒に帰ろう…誰一人欠けること無く…。


町の前に到着すると、ホーキンズは何も言わず町の中へと姿を消した。
ホーキンズの後ろ姿に、引き止めたい気持ちが溢れだしそうになりながらもそれを押さえつけ、俺達は港町に向けて出発した。


――ホーキンズが何を考えているのか、長年幼なじみをしていてもまったく分からなかった…。
大切な幼なじみなのに……あの透けたような後ろ姿を思い出すと、何故かホーキンズを遠い存在に感じてしまう…。
俺達から離れていくような…そんな言い知れぬ恐怖が頭を支配した。
676夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/03(木) 15:05:15.73 ID:bDIlopgh
ありがとうございまさち、投下終了します。
677名無しさん@ピンキー:2011/03/03(木) 18:29:00.51 ID:5b1G0F9W
GJ
やっぱメノウかわいいなぁ
678名無しさん@ピンキー:2011/03/03(木) 22:12:02.87 ID:ylP6M61f
まじで待ってました
gj
679名無しさん@ピンキー:2011/03/03(木) 23:38:10.82 ID:bxTOPufM
クーかわいいよクー

ライト、いっそのこと一緒にドングリになってあげなさい
680名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 02:14:10.56 ID:75Zejjmi
あああヒロイン3人がかわいすぎてどうしよう
gj
681名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 12:18:38.50 ID:DlWcWmY4
うわああぁぁ
誰エンドになっても、もやもやしそう
今後の展開が楽しみ
682名無しさん@ピンキー:2011/03/04(金) 14:11:02.86 ID:ueUTqR2o
うおぉぉぉGJ
683名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 00:33:27.42 ID:C7fdJhzw
夢の国おもしろいなあ。
亀レスながらGJ!
684名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 09:29:17.64 ID:LIpoZSwl
保守
685名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 20:58:19.15 ID:Blaa3h4K
地震と津波
686名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:28:10.21 ID:tCiEJ4Ue
今日はこのスレで紹介されてた「リリカルってなんですか?」を読んでたんだが、地震以降にアルカディアに繋がらなくなった。
サーバーが東北だったのかなあ、うぅー地震こえーよ。
687 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:35:01.60 ID:F6+xOrwO
夢の国投下します。
688夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:36:05.89 ID:F6+xOrwO


「……ん…ッ…あ…れ?」
痛む頭を押さえて、身体を起こす。
何が起きたのだろうか?
ホーキンズがメノウ姫を連れて…それからライトってヤツに会って…それでライトに後ろから抱きつかれて…

「あ………思い出した…」
たしかライトに落とされたんだった…。

「あのクソ野郎ッ」
石畳を拳で叩き、ヨロヨロと立ち上がり目眩が治まるまで壁に寄りかかり周りを見渡す。

マリア像が動いている……逃げたのか。

「はぁ、ちゃんと逃げれたかな…アイツら…」
ポツリと呟いた自分の言葉に自然と笑みがこぼれた。
俺が人の心配をするなんて…絶対にあり得ないと思っていたのだが…。
人間、変われば変わるものだ。
今は少しだけ後悔している…ホーキンズと親しくなった事を。
あのパンが恋しいが、もう食べる事は無いだろう。
メノウ姫が拐われた今、俺達騎士団の未来はもう決まったも同然。

騎士団の下の人間は助かるかも知れないが、俺は間違いなく処刑されるだろう…。

「レムナグは…アイツは一人でも逃げれるか…エルフだし…」





「逃げる?エルフだろうと、神だろうと私の目からは絶対に逃げられん」
突然ドアが開き、兵がなだれ込んで来た。
689夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:36:46.19 ID:F6+xOrwO
中心には我が国の王であるゾグニ帝王……その目は怒りに満ちている。

「メノウ姫を賊ごときに拐われおって…我が軍に役立たずは不要」
ゾグニ帝王が兵を引き連れマリア像の前へと歩いていく。
抜け道を数秒眺めた後、此方へ目を向けてきた。

「……お前もこうなりたいか?」
そう呟くと、ゾグニ帝王は右手で何かを此方に投げてきた。
地面を転がり俺の指先にコツッと当たる。


「レ、レムナグ…」
ゾグニ帝王が投げたモノ…それはレムナグの頭だった。

「弱っていたからな…簡単に首を切り落とす事ができた」
ゾグニ帝王が歪んだ笑みを浮かべレムナグの頭を踏みつけた。
レムナグが人間の兵士ごときに負けるとは思えない……だとするとあの銀髪の女か…。
先ほどゾグニ帝王はレムナグの事を弱っていたと言っていたが、あの銀髪女との戦いでボロボロになったレムナグの首を切り落としたらしい。

「レムナグ…」
踏みつけられたレムナグの髪に触れてみる。細い糸のような銀髪が、今では血でべっとりだ。
気に入らないヤツだったがレムナグは俺の直々の上官になるエルフ…。
たまにどこからか飛んでくる梟に独り言の様に話しかけていた…。

気に入らなかったけど…。
690夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:38:27.96 ID:F6+xOrwO
「足をどけてください…ゾグニ帝王」

「なんだ?今、私に指図したのか?」
レムナグの頭を蹴飛ばし、此方へ近寄ってくると俺の顔に足を押し付けてきた。

「ッ…ぐ…ぅ」
それを払い除ける事もせず、されるがまま地面に這いつくばる。
この国ではゾグニ帝王が絶対の存在。
ゾグニ帝王がすることには素直に受け入れ、どんな無謀な任務でもやって退けなければならない。
失敗すれば当人は勿論のこと、家族や親類すべて死刑…この国はゾグニ帝王自身が法律なのだ。

「お前はたしか、地下出の人間だったな…」
地下…ゾグニ帝王からでた地下と言う言葉に心臓がはね上がる。


「ま、待ってください!あそこだけはっ、あそこだけには戻りたく無い!」
ゾグニ帝王の足にしがみつき、慈悲を乞う様に地面に頭を擦り付けた。
冷や汗が身体中から吹き出し、身体の芯が大きく震える。
あの地獄だけには絶対に戻りたく無い…あの化け物達が居る場所には絶対に…。

「ふん…変態貴族どもには人間と“アレ”の交尾は好評だからな……可愛がってもらえ」
俺の言葉に聞く耳を持たずしがみつく俺の手を振り払うと、数名の兵を残し礼拝堂から出ていった。

「おい、口に布を噛ませろ」
691夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:39:23.90 ID:F6+xOrwO
「やめぅッ!?」
残った兵士が俺を押さえつけ口に布を押し込んでくる。
これで舌を噛みきれなくなってしまった…。手足を縛られ二人の兵に担がれると、そのまま礼拝堂から出て地下へと連れていかれた。

――ジメジメとした空気に、地鳴りのような唸り声…“地獄”が脳裏に蘇る。

「ぐむっ、うぅぅぅッうッ!!」
なんとか逃れようと暴れてみるが、手足が封じられているので逃げる事は愚かまともに動く事すら儘ならない。

「安心しろ。メノウ様の捜索が終わるまでは地下牢で人間として生活できるさ。まぁ、地下牢でも時々兵達の精奴隷として頑張ってもらうかもしれんがな…」
地下牢に到着すると、手足が動けないように木製の拘束具を付けられ放り込まれた。

「ん…っうぅ…ッ!!
(またあの地獄に?…嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だッ!!絶対に嫌だ!誰か助けて!誰かッ…ホーキンズ助けてくれ!!!)」
逃げたホーキンズの名前を頭の中で何度も唱える。
無論ホーキンズに届くはずが無いのだが、頭に浮かんだのが何故かホーキンズの顔だった。
拘束具が腕を締め上げ、それを強引に動かすとミシミシッと骨が音をたてた。

「暴れても逃げられねーよ、もと奴隷の騎士団幹部さん」
692夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:40:09.85 ID:F6+xOrwO
見張り兵の嘲笑う声が耳に入り込んでくる…普段は顔色ばかり伺っている癖に…。

「ぅう…(なんとかあそこに連れていかれる前に死なないと…)」
何かないかと周りを見渡してみる。
隅に小さなトイレがあるだけで、石の壁で囲まれているだけ…。
仕方ない…兵が居なくなる時を見計らって壁に頭を叩きつけるしか……。




「おい!姫様を連れ去った賊を捕らえたぞ!」
――扉から勢いよく飛び込んできた兵の声に耳を疑った。

「むぅッ!!(捕まった?!嘘だろ!?なにやってんだよホーキンズ!)」
芋虫のように地面を這い鉄格子にもたれ掛かると、額を鉄格子に叩きつけた。
何度も何度も。

「おいっ!なにやってんだ!」

「グッふっむぅ!(ふざけんな!なんのために抜け道教えて逃げ出す手助けしてやったと思ってんだ!!!)」
牢屋に入ってきた兵に鉄格子から引き剥がされ地面に押さえつけられた。

「ふぅ…お前が死んだら俺らの首が飛ぶんだよ。大人しくしてろ……それでメノウ様は?」

「それが…メノウ様と一緒について来た男居るだろ?アイツ一人だけ城に戻ってきたんだよ」

戻ってきた?アイツ一人で…?
捕まったんじゃないのか。
でもなんで…。
693夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:40:50.91 ID:F6+xOrwO

「……(そっか…アンナか…)」
そう言えばあの場にアンナの姿が無かった…。
おかしいとは思っていたのだが、確かアンナは別の部屋に軟禁されていたんだった。
ホーキンズはアンナを助ける為に戻ってきたのか…。
いや…助けるためじゃなく一緒に…。

「今からそいつを拷問にかけるらしい。早くメノウ様が何処に居るか吐かせないとな」

「ふぅ…ふぅ…ッ(わざわざ戻ってきたんだ…そんな事で吐くかよアホども)」
心の中で悪態をつき、静かに目を閉じた。
ホーキンズは始めからこれが目的だったのか…始めからアンナと打ち合わせしてメノウ姫を連れ出すのが…。

「ぅう…」

「へぇ…お前も泣くことあるんだな?」
上から聞こえてきた兵の言葉に、再度目を開けた。
泣いてる?俺が?人の心なんてとうの昔に忘れたはず…なのになんで涙なんて…。
なんとか止めようと目に力を入れてみるが、溢れだす涙を止める事など自分自身で制御できるものではなかった。
694夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:41:23.79 ID:F6+xOrwO




◆◇◆†◆◇◆

「遅い…ホーキンズのヤツちょっと遅すぎないか?」
立ち上がりホムステルの町の方角へと目を向ける。
今俺達は、ユニと言われる小さな港町まで足を運んでいた。
正確にはその港町近くの森…。
ティエルの故郷である忘る森まで足を運んでいた。
見たこと無いような木々や植物が鬱蒼と茂り、生命を一切感じさせない不思議な森だ。
死の森と言われるだけあって、神秘的を通り越して少し怖い。

それにこの森に入ってから、クーに貰ったペンダントが弱々しくだが不気味に光っているのだ。
元々青い石の中に霊魂のような光があったのだが徐々にその光が強くなっている…。
クー本人も光るところを初めて見たらしく、キラキラした目を見開き「―それクーの――かえして―」と強引に俺の首からネックレスを引きちぎろうとしたので強く怒ってやった。
それが気に食わなかったのか、一睨みした後おもむろに草むらに飛び込むと、周りにはえている植物を次から次へと引き抜き子供のようにジタバタと駄々をこねだした。

呆れて「返してほしければ返してやるよ」とクーにペンダントを手渡すと、何故かクーの手に戻ると光りが消えていくのだ。
695夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:49:32.83 ID:F6+xOrwO
「ッ!?――ッ―ッ!!」

「クー暴れるなって…仕方ないだろ?俺もどうなってるか分からないんだよ」
地面に倒れ込みう〜う〜唸るクーの手を掴み抱き起こしてやる。
光らないペンダントには興味が無いのかペンダントをいらないとでもいうようにぽいっと俺に投げた。
確かクーの宝物だと言っていた気がするが…。

「はぁ…害が無ければいいんだけどな…」
ティエルにもこれが何かと聞いてみたが「ん〜…光る玉…なんか大昔に聞いたことあるような…ないような…確か何かの目だったような…ん〜、分かんない!」と曖昧な事しか言わなかった。
流石にハロルドもこれに関しては見たことが無いらしい。
ペンダントを上にあげて、太陽光にあててみる。
吸い込まれるような光…メノウが言うようになにかの瞳に見えてきた。

「ん?メノウどうしたんだ?」
隣に座るメノウが空におずおず手を伸ばしている。
メノウが手を伸ばす先…には空を飛ぶティエルの姿。
そう言えばメノウはティエルを一度見てるだっけか…あの時は弱ったティエルを強引に見せられたようなもんだったから元気に空を飛んでるティエルが気になって仕方ないのだろう。


「ティエル、ちょっと降りてきてくれないか」
696夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:50:06.95 ID:F6+xOrwO
飛び回るティエルに声をかける。

「んっ?なによ?」
俺の声に反応したティエルは素直に飛ぶのを辞めて、俺の肩に降りてきた。

「ティエル…この子メノウって言うんだけど…良かったら友達になってくれないか?」
メノウの手を掴みティエルに近づけてやる。
するとティエルがメノウの手の平の上にピョンっと飛び乗ってくれた。

「ふふっ…私の奴隷になりたいですってねぇ?いいわメノウ!貴女を私の別荘第三号に任命します!」
メノウの手の平で偉そうに胸を張ると、手の平からメノウの頭に飛び移った。
始めはオドオドしていたメノウもティエルの気さくな性格に打ち解けたようで、二人で仲良く会話をしている。

「――むぅ〜―」
それが気に入らないヤツも…まぁ、居るわけで…。
ティエルの第一別荘であるクーの威厳に関わるのか、わざわざ俺の隣に座り腕の隙間からメノウを睨んでいる。
ちなみに本家が俺のカバンの中で、第二別荘がハロルドの胸ポケットの中となっている。

「クーもメノウと仲良くしてやってくれよ」
クーの頭にポンポンっと手の平を優しく乗せると、クーも会話に加わるようメノウの前に移動させた。
697夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:51:28.59 ID:F6+xOrwO
メノウは友達と言える人物が数少ない…親しく話せるのはアンナさんと俺ぐらいのもんだ。
これを機に友好関係を広める勉強になればいいのだが…。

それから一時間ほど会話の勉強をしていると、ユニの方角から誰かが此方へ歩いて来るのが見えた。
クーの肩を叩き、歩いてくる人物を指差す。
クーは数百メートル離れた場所に居る人物の匂いをかぎ分けられるらしい…エルフは皆そうなのか?と思ったがクーが特別なんだそうだ。

「――ハロド―かえって―きた―」
鼻をくんくんさせたクーが、歩いてくる人物に手を振る。
小さくだが向こうも手を振っているのが分かった。
確かにハロルドのようだ。

「どうだった?」

「いえ、まだでしたね…それに港にもバレン兵が数多くいましたよ…流石にキツイです。それにしても…どうしたんでしょうかホーキンズ」
ハロルドが心配そうに呟き来た道を振り返った。
ハロルドにはホーキンズが来た時の為にユニの町にある港で待機してもらっているのだ。
団体で行くとバレる可能性が高いので、白衣を脱がせて俺の服を着てもらっているのだが……ホーキンズは一日経った今でも姿を現す事は無かった。
698夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:52:04.64 ID:F6+xOrwO
ホーキンズを待っている間に港にある使われていない船を一隻盗んで小さな入り江に隠しておいた。
だから後はホーキンズとアンナさん待ちなのだが…。

森から顔を出して海に視線を向けてみた。
ここから見ても海にやたら船が浮いているのが目についた…恐らくバレン船に間違い無いだろう…。
多分この大陸の港町はすべて押さえられている…もう港に行くのは身体が小さく尚且つ空を飛べるティエルにしか頼めなくなってしまった…。

「とにかく…もう少し様子を見て港町にホーキンズとアンナさんが姿を現さなかったら…もう一度俺一人でバレンに戻って二人を探してみるよ」
やっとの思いで逃げ出して来たので戻るのはかなり危険な行為だと把握しているのだが、もしホーキンズの身に何かあったのなら…。

「ライト?胸のペンダント…なんか凄く光ってますけど…」
ハロルドに言われて胸元に目を向けた。
明らかに先ほどより光が増していた。

「いや…俺も分からないだ…この森に来てからずっと光ってんだよ」
ペンダントを首から外してハロルドに手渡す…すると微かに光が弱まった。
クーの時は完全に消えたのに…ハロルドの時は微かに光が揺れている。
699夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:53:00.36 ID:F6+xOrwO
「――かしてっ―」
クーがハロルドの手から強引にペンダントを奪い捕ると、再度ペンダントが光るように両手でペンダントを握りしめた――。






「―――ッ?!―う〜ッ!―ッ―ッ!」
ペンダントを放り投げ、またジタバタと暴れだす。
結果、先ほどと同じようにクーが握ると光が消えてしまったのだ。

「なんか不思議な石ですね…これはやはりライトが持っていた方がいいのかもしれません」
そう言うと、クーが投げたペンダントを手に取り俺の首に掛けてきた。
確かに…この石は俺に反応している気がする。

「まぁ、いいか……それよりティエル…頼んでいいか?」
メノウの頭でくつろぐティエルにホーキンズの待ち人をお願いする。

「オッケ〜、ホーキンズ見つけたらすぐに連れてくるから!あっ、後絶対に奥に入っていっちゃダメだからね?帰れなくなっちゃうから」
森の奥へと指差し忠告すると、メノウの頭から飛び降り、ユニの町へと羽ばたいていった。
心配しなくても樹海の奥へ入るなんて自殺行為は天地がひっくり返ってもしないだろう。クーですらこの森の奥へと入りたがらないのだから…。


「メノウどうだった?ティエルやクーは面白いだろ?」
700夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 15:53:54.88 ID:F6+xOrwO
ティエルを見送った後、先ほどまで楽しそうに話していたメノウに声をかけた。

「うん!普通の人と違ってティエルちゃんやクーちゃんは話せたよ、メノウ偉い?」
丸い大きな目で俺の顔を覗き込み、ニコッと微笑んだ。
その顔を見て、三年前と全然変わらないなぁと心で感じた。
見た目は年相応に変わっているのだが、内面は俺が知ってるメノウ…。
嬉しいのだがその反面、この先大丈夫なのだろうかと少し不安になる。
ホーキンズやアンナさんと合流した後、俺達は皆でユードへと帰るのだが、俺は騎士団の仕事があるのでノクタールへと行かなければならない。

それに俺はティーナと約束したのだ。





――俺が戻ってきたら結婚してくれと。

子供もあと数ヶ月すれば産まれる。そうなると俺はティーナと子供を守る為にノクタールに永住することになるだろう…。

しかしメノウをノクタールへ連れていく事は出来ないのだ。勿論ユードにもメノウを置いておけない。
だからメノウにはノクタールの城下町であるコンスタンで生活してもらう事になるだろう。コンスタンの平民に混じり生活すれば、もうバレンの人間に見つかる事は無いはず…。
701YUKI ◆5SfUPe28t2 :2011/03/12(土) 16:02:55.47 ID:F6+xOrwO
そうなればメノウは文字通り自由…ティーナにも事情を話してかくまってもらう事もできるし、金銭面での問題も解消するだろう。

しかしずっとメノウと一緒に居れる訳では無い…。
メノウには少しずつでも“自立”を目指してほしいのだ。
俺やアンナさんが居なくても生活できるだけの力が…。

「メノウ…」

「ん?なぁに?」
無邪気な笑顔で俺の膝に頭を乗せると、甘えるように頬を擦り寄せてきた。

「おまえ…ちゃんと一人で寝れるようになったか?」
その言葉を聞いた瞬間、メノウの猫耳がピクッと反応した。


「…なんでそんなこと聞くの…?」
頭を持ち上げ俺の顔を見上げている…。
その目は不安色で濁ったように淀んでいた。

「いや…ほら、メノウも大きくなっただろ?大きくなったら一人で寝るもんだからさ…今日から一人で寝れるよな?」
メノウの肩を掴み、座らせると子供に教える様に伝えた。
それが間違いだったのかも知れない…いや、先走ったと言ったほうが正しい。
メノウだってまだ不安定な精神状態…それを察する事ができなかった。



「分からない…分からないけどね?メノウね?勉強いっぱいできるようになったの」
702夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 16:12:55.16 ID:F6+xOrwO
突然立ち上がると、地面に落ちている木の枝手をかき集めだした。
かき集めた木の枝を一本一本丸太の上に並べていく。

「これはね…8本。それからこっちが…じゅっ、17本かな…?そ、それをたすと…えっと…いち…にぃ…さん…」
丸太の上にある枝を両手使って数えている。
このやりかたは、俺がメノウに勉強を教えていた時に使った勉強法だ。

本来ならテーブルの上に食器を乗せて、そこから足し算や引き算を教えてやったのだが。
それを木の枝に変えて今俺に見せているのだろう。


「えっと……にじゅう……さん…?」
恐る恐る答え合わせを求める…。

「――にじゅう――ご―?」
すかさずメノウの後ろで一緒に見ていたクーが答えた。

「……クーが正解…」

自信満々に頭を差し出すクーの頭を軽く撫でてメノウに目を向けた。
慌てたように丸太の上に並んでいる枝を再度数えだした。しかし数秒後、こんがらがった頭で計算できる事ができなくなったのか、数えるのを辞めて助けを求めるような目で此方を見つめてきた。
助けを求められても、状況が今一分からないのでどうすればいいか分からない。
メノウはいったい何をしたいのだろうか?
703名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 16:13:30.46 ID:0+IUUkfp
支援
704夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 16:13:34.60 ID:F6+xOrwO
「メ、メノウ本当にちゃんと勉強してたんだよ!?クーちゃん今メノウが勉強してるの!」
クーを一度睨むと、また枝を集めて丸太に乗せた。枝の数を増やしてクーよりできる事を証明したいのだろう。

「えっと…こっちが12本で…こっちが28本でy「――よんじゅう―」
メノウが数えるまでもなくクーが答えた。

自慢気にメノウを一度見下ろすと、俺が正解と言う前にクーが再度頭を差し出した。
ため息を吐きクーの頭を撫でてやる。
頭を撫でてもらう事が気に入ったのか、何かする度に頭を撫でろと差し出してくるのだ。
クーは古典的な誉めて伸びるタイプらしい…。
しかしクーはいつの間に勉強したのだろうか?俺が教えている時はここまでできなかったのに…。

「ライトはモテモテですね〜、軽く殺気がわきますよ」
ハロルドが微笑ましいものでも見るように笑顔で話しかけてきた。

「お前みたいた人間がそんなこと言うと逆に怖いからやめろ…」
それを軽く流し再度メノウに目を向ける。

「ラ、ライトッ…お願いだから…」
ふらふらと立ち上がり俺の膝の上に腰を落とすと、力強く首に手を回して抱きついてきた。
長い髪が頬を撫でくすぐったい…メノウの髪を掻き分けてやる。
705夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 16:15:06.10 ID:F6+xOrwO

「ちゃんとお料理も…お勉強も頑張るから…だからライトとずっと一緒に居たい…。
なんでも…ライトが願うことなんでもするから…。お願い…メノウを置いていかないで」
俺の耳元に口を近づけ震える声で呟くと、小さな声で泣き出してしまった。

「あぁ…分かったよ…(まいったな…アンナさんに相談するか)」

「ライトと一緒に…ライトが居てくれたら…それで…」
数十分泣いていると、泣きつかれたのか俺の胸にしがみつき小さく寝息をたてはじめた。

メノウも疲れていたのだろう…ずっと気を張っていたのだ。

「まぁ、これからのことはユードに戻ってから考えれば……あれ?」
ふと森の外に目を向けてみると、ユニの方角から此方へ飛んでくる小さな光が視界に飛び込んできた。

ティエルだ。

「なんだアイツ…やたら早いな」
ホーキンズが来たのだろうか?

「どうしました、そんなに慌てて。ホーキンズ来ましたか?」
慌てたように飛んできたティエルにハロルドが問いかけた。
息が整わないのか、ハロルドの手の上で息を吐き続け苦しそうに胸を押さえている。





「ホ、ホーキンズがっ、ホーキンズが!」
ハロルドの手の上で涙をポロポロと流すティエル。
706夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 16:15:44.23 ID:F6+xOrwO

その姿を見た瞬間、頭の中を嫌な靄が覆った。
――あの透けたホーキンズの背中…なぜ俺はあの時、無理矢理にでも止めなかったのだろうか?
あの時のホーキンズには違和感しか感じなかったのに…。
理由が分からないホーキンズの強気な発言…。
本当は助けを求めていたんじゃ…。


「……ぁ…ッ…そう…だよ…なんで…なんで気がつかなかったんだ…」
他の人には絶対に分からない…幼馴染みの俺だからこそ分かる、アイツの本当の気持ちが全面に溢れていたのに。


あの泣き虫のホーキンズが強気に見せている時は決まって――。





「ホーキンズが捕まってッ、公開処刑って!!」


誰よりも“弱気”になっている時なんだ――。
707夢の国 ◆ou.3Y1vhqc :2011/03/12(土) 16:17:21.77 ID:F6+xOrwO
ありがとうございました、投下終了します。

地震と津波凄いですね……テレビ見た時背筋が凍りつきました。
助かった人達には頑張ってほしいです。
708名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 20:20:41.84 ID:Qq3Il2/f
GJ
思いがけない展開だな
709名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 21:20:05.09 ID:kOZmMR7c
gj 相変わらずの面白さ
710名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 01:09:33.67 ID:umRs5Svo
夢の国きてたー
メノウ可愛いぃぃ
すごく面白いですGJ!!!!!
711名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 02:16:50.09 ID:A1Vv6k6r
GJ
メノウへの庇護欲がとまらない
712名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 09:06:08.21 ID:rBFyA657
GJ
メノウが可愛すぎて生きるのが辛い
713名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 13:37:36.41 ID:aBJlAVQn
これほど続きが気になる作品は滅多にない!
GJ
714名無しさん@ピンキー:2011/03/18(金) 08:47:59.08 ID:6FMmWmfB
ぁあああぁ!
クー良いよ可愛いよ
この子もがっつり依存しちゃうんだろうな!
715名無しさん@ピンキー:2011/03/19(土) 22:38:39.08 ID:mfEicohp
ここって書き手少ないから保管庫更新も遅いのな。
716名無しさん@ピンキー:2011/03/23(水) 19:13:34.43 ID:wRirhvdj
ほしゆ
717名無しさん@ピンキー:2011/03/26(土) 15:08:25.60 ID:b+/VVahS
ほす
718名無しさん@ピンキー:2011/03/30(水) 20:45:14.25 ID:zl2yT1MU
保守
719名無しさん@ピンキー:2011/03/30(水) 21:47:59.28 ID:JgphEmoP
一年ぶりに規制が解除されたし続きに取り掛かるとしよう
720名無しさん@ピンキー:2011/03/30(水) 21:57:44.55 ID:l9YCOFjn
>>719
期待
721名無しさん@ピンキー:2011/03/30(水) 22:02:16.10 ID:cs5MuR1v
>>719
wktk
722名無しさん@ピンキー:2011/04/01(金) 21:42:17.69 ID:vtVyQhZe
弟に依存する姉の話
723名無しさん@ピンキー:2011/04/04(月) 21:35:09.67 ID:nLR+XX56
避難所誰も使ってないじゃん。
7243スレ目の180番目の書き込みをした変態:2011/04/06(水) 00:28:51.59 ID:q4wJtBv8
誰も居ない…いまや誰も覚えていないだろう自分の駄作を投下するなら今のうち
7253スレ目の180番目の書き込みをした変態:2011/04/06(水) 00:32:12.18 ID:q4wJtBv8
書くと言っておいて書かなかったり途中でエタったり
そもそも書かないという輩が多い原因を俺はつかんだんだ!
依存物を書こうとしていたとある友人の、とある店での会話を録音したICレコーダを手に入れたんだが
そこには悪魔とその友人の会話が録音されていたんだ。
その恐るべき内容を手帳に書き上げるぞ…

「依存SS作家が少ない理由」
――あら?ようこそお客様。ここはお客様の欲望を叶えるお店。代価は、
叶えた欲望の内容についてエロパロ板の該当スレッドにてお話して頂く事。
そう、貴方のお友達から聞いた「依存物を書くのネタとして実体験させてくれる場所」っていうのは
ここの事よ。――そのお友達が入院して再起不能寸前ですって?あらあら…やりすぎちゃったのね。
――いいえ?私は彼の欲望を叶えただけよ。彼はある欲望を叶えたがった、私はそれを手伝った。
それだけ。ふふっ……腎虚で入院なんてなかなか出来る事じゃないわよ?この現代ではね。
それに、彼には美幼女が10人で"付きっ切りで看病"してるんだから彼にとっては幸福でしょう?
で、貴方が書きたい―叶えたい欲望は、何?

――では処置の内容を説明するわ。貴方の精液を麻薬化する、それだけ。――それだけかって……
ふふっ、それはね、最高の麻薬なのよ?一度摂取したら、どんな女性も貴方の精液の虜。
圧倒的な多幸感と精神依存と、恐ろしい禁断症状で貴方の精液無しでは一日たりとて生きていけなくなる。
しかも肉体的に無害で絶対に検知出来ない。これで彼女は貴方無しでは生きられなくなる。
サービスで超絶絶倫にもしてあげるわ。…貴方の、高嶺の花を摘みたいって欲望も、これを利用すれば簡単よ。
一度でも飲ませれば、そのお嬢様はすぐに貴方の物になるわ……。
彼女は貴方の精液を得るためならどんな事だってするでしょうね。そう、どんな事でも……。
ただし、あまり大勢の女の子に飲ませちゃ駄目よ?――どうしてって……やらなければ
問題ないわ。忠告は良く聞いて置く事ね。貴方のお友達のようになりたくなければ、ね。
7263スレ目の180番目の書き込みをした変態:2011/04/06(水) 00:35:10.43 ID:q4wJtBv8
――あらいらっしゃい、ずいぶんご機嫌な様ね。それで、近況を聞かせてくれる?
――そう、手に入ったのね。毎日どころか毎時間せがんで来て大変?うっとうしい?
手に入った途端にそれではお嬢様も可哀想ね。――そう、美人の従業員を集めさせて
手を出してるの。へ〜……、言う事聴かなきゃ精液は上げないって脅かして?
私、言ったわよね?大勢の女の子に飲ませちゃ駄目って。――ふふっ遠慮しとくわ。
貴方の精液は私には効かないわよ?私が施術したんだもの、そのぐらいの予防はしてあるわ。
――そう、これからメイドや料理人から警備員に至るまですべて美女にして
そんでもってお嬢様のご学友にまで手を出すって……忠告が聞き入られなくて残念だわ。
――ええ、さようなら。同じ轍は踏まないって言ったけど、貴方のお友達も同じ事を言ってたのよ?

――あらあらまあまあ、そんなに慌ててどうしたの?――元に戻してくれって……
まあ良いから紅茶でも飲んで落ち着きなさい。最近紅茶に凝ってるのよね。
――20人のお嬢様とそれぞれの部下達に追いかけられている?今まで監禁されて常時数十人に囲まれて
搾り取られていた?あら、全員美女や美少女で貴方好みの気品あふれる貴方のお好みの女性達じゃない。
世の男性が聞いたらリア充爆発しろって怒るわよ。それともMO・GE・ROかしら。
――俺の言う事を聴かないって……そりゃあそうでしょ。彼女達にとって大事なのは貴方でも
貴方の意思でもなく、貴方の精液だもの。貴方の意思が搾精の邪魔になるならそりゃ
無視するわよ。。――もういやだって……それは無理よ。もう二度と戻らないわ。
貴方の精液の性質も超絶絶倫も、狂ってしまったお嬢様方もね。ほら、店の入り口に貴方を
呼んでる人たちが沢山居るわよ?――何を怖がってるのよ、これが貴方の望んだことでしょう?
可憐で清楚で大金持ちのお嬢様達が貴方の精液に夢中なのよ?そんな恐怖に満ちた顔をしてないで、
笑顔で出て行ってあげたら?ほら、手伝ってあげるから…・・・(ガチャ)皆さんのお待ちの物ですわ。
これをあげますから店の前で騒がず立ち去ってくれるかしら。これじゃ商売上がったりだわ。
……あらあら、運ばれてる途中でもう搾精が始まってるわ。
……これじゃ、依存スレッドに体験を書き込むなんて無理そうね。代価をいただけないんじゃ
別のもので支払っていただくしかないわ。……貴方の魂で、ね。
7273スレ目の180番目の書き込みをした変態:2011/04/06(水) 00:37:23.48 ID:q4wJtBv8

 今まで依存物を書いていたり書こうとした連中はおそらく、ネタを出すためにこの悪魔に接触
しちまってたんだ。道理で誰も依存スレに書き込まないわけだぜ。書き込む前に依存娘達に
囚われて書き込めない状態になってしまうんだからな!
このICレコーダを持ち主である友人は、今もとある屋敷の地下で監禁されている……。
 この情報をつかんだ俺ももう逃げ切れないだろう。この悪魔からもらった、飲んだら爆乳化し
母乳がたっぷり出て俺しかその母乳を搾れないようにして依存させる飴玉を小○生から
熟女にまでばらまいてしまったんだ。追っ手はすぐそこまで迫ってきている。飴玉は母乳を出す時に
膨大な快楽と多幸感を感じるようにするし、母乳をそれだけ飲んでれば栄養学的にOK
と言う風に変化させるって代物だから、俺はこれから一生彼女らの乳搾りと絞った母乳を飲む作業
に励まなければならないだろう。
 この手帳を見た者は、これから依存物を書こうって者はけっしてあの悪魔に接触してはならない。
でなければ俺達のように依存娘に
(これより先は白い…母乳の染みで読めない)
7283スレ目の180番目の書き込みをした変態:2011/04/06(水) 00:40:24.49 ID:q4wJtBv8
以上


作品投下が無いからむしゃくしゃして書いた
依存物ならなんでも良かった
今は駄作だったと反省している
729名無しさん@ピンキー:2011/04/06(水) 00:57:29.93 ID:XakBz8D2
母乳の染みクソワロタw
久しぶりの投下GJ!
730名無しさん@ピンキー:2011/04/06(水) 18:54:30.60 ID:2Ti5D5+1
クソワロタwww
ちょっとその悪魔探してくるノシ
731名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 07:33:18.96 ID:pdXTzH7x
ほす
732名無しさん@ピンキー:2011/04/14(木) 14:53:54.44 ID:jBS22CTA
>>719
口だけいっちょまえか!
733名無しさん@ピンキー:2011/04/14(木) 19:27:13.54 ID:4cs1Dj/s
たまにはage
734名無しさん@ピンキー:2011/04/15(金) 01:28:52.27 ID:iw0BEHwl
このスレって誰もあげないですよね
依存と独占は似ているようで別のものですかね
735名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 00:10:56.27 ID:Srw+zqR3
別な気がする
オレの妄想内だと依存は最悪何かの片手間でも自分の事を
気にかけてくれるならセーフ独占はアウトそんな感じになってる
736名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 00:55:02.40 ID:6HvVgsDZ
俺も依存と独占は別の認識だなぁ
どちらかというと依存は共有モノってイメージが強いな

依存で独占というと、「相手を独占したい」より「自分を独占して欲しい」って感じしか俺には想像できん
737名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 13:33:15.64 ID:G+9cF91z
依存と独占の違い。

依存は独占されたい。

独占は単純に相手を独占したい。
738名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 23:54:31.38 ID:XvTXTRCc
依存は最悪他の人のことが好きでも一緒にいたいって感じで独占は自分以外の人が好きなんて許さないって感じするな
739名無しさん@ピンキー:2011/04/19(火) 23:06:50.91 ID:B0f3oXpI
740名無しさん@ピンキー:2011/04/19(火) 23:52:36.30 ID:KPpJ9biF
741名無しさん@ピンキー:2011/04/19(火) 23:53:59.59 ID:IP8vXvJe
742名無しさん@ピンキー:2011/04/20(水) 00:08:16.83 ID:II/3RnSp
743名無しさん@ピンキー:2011/04/20(水) 13:26:16.93 ID:UjyHQWCU
   ノ从从ヽ
  / ___ \
 / /   \ ミ
 フ|==- -==|<
 レ|ヽ・Y・ノ|ソ
 |(  /   )|
 丶Y  L_) Yノ
  |  _  |
  丶<―>ノ
   |\二/|
  /丶__ノ\
744名無しさん@ピンキー:2011/04/24(日) 09:56:11.16 ID:rmAUVWTf
過疎だ保守。
745名無しさん@ピンキー:2011/04/28(木) 02:20:11.39 ID:rfz73san
KASO
746名無しさん@ピンキー:2011/04/30(土) 04:53:07.81 ID:7ahrJd04
おにんにん、おっきしたおwww
747名無しさん@ピンキー:2011/05/03(火) 18:56:01.07 ID:ThIgiBEW
投下無さすぎて死にそうなんですけど?
748名無しさん@ピンキー:2011/05/03(火) 22:10:58.32 ID:H1ARh/6f
スレに依存してるな
749名無しさん@ピンキー:2011/05/03(火) 22:14:47.88 ID:Qa5ey52J
書こうと思ったこと先にかかれててワロタ
まぁ、依存してくれる相手か依存できる相手を探せってことだよ
750名無しさん@ピンキー:2011/05/03(火) 22:18:06.56 ID:ek8uooVi
依存娘のごとく毎日更新してるよ
751名無しさん@ピンキー:2011/05/03(火) 22:31:37.71 ID:ThIgiBEW
人気でてもいいようなスレなんだけどなぁ…
752名無しさん@ピンキー:2011/05/04(水) 01:55:10.22 ID:1Vh8Ove/
もはやヤンデレでもなんでもないSSが投下されてる某Yスレが絶賛稼働中だからな
しゃーない
753名無しさん@ピンキー:2011/05/04(水) 13:57:50.05 ID:Bzb/6hrQ
随分と棘のある言い方だな

あっちは荒らしのせいで潰れかかってるじゃない
まぁ、あっちが潰れたところでこっちが賑わうわけでもなし、作品でも書きゃ良いんじゃね
754名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 00:18:17.62 ID:fO1jjXaH
絶賛稼動中(荒らしが)ってことだろ

次のターゲットはこのスレにでもするつもりかねぇ
755名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 08:41:21.17 ID:IvkF6LuH
荒らされるほど賑わってないぞw
756名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 09:54:28.85 ID:H+9HL5V8
そもそもYスレとこのスレ何の接点もないだろ
スレが賑わないのは何度も言われてるけどマイナージャンルだし書くのが難しいから仕方ない
757名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 13:09:18.74 ID:Y9oAE87a
>>752
あのスレも他のスレを馬鹿にして荒れたんじゃなかったか?
どうせ両方の住人なんだろうからいい加減にやめろよ
758依存スレの永遠に秘密兵器 3-180:2011/05/05(木) 23:39:33.56 ID:4ep5CvW4
殺伐とした依存スレに救世主が!


こんな依存もありだよな


 私は魔法が使えない
 魔法を使える者が貴族として振舞うこのハル○ギニアにおいて、公爵の娘にも関わらず
"失敗魔法さえ出せない"私は子供の頃から見捨てられていた。
一族の物は全員強大な魔法によって大貴族として認められているのに自分だけ魔法が使えず
使用人や親兄弟からでさえ人と認めてくれなかった。

 公爵の娘だという面子を保つそれだけの為に、魔法が使えないと言うのに魔法学院に入学
させられてから周囲からの嘲笑や侮蔑の目はより一層強くなった。金や権力にまみれた
貴族にとって、他人の不幸は最大の娯楽なのだろう。
陰口をたたかれるのはもちろん、持ち物を盗まれたり傷つけられたり、直接的な
暴力を受けた事さえある。しかし教師など学校側に相談しても下卑た笑みを浮かべるのみで
なんら対応してくれなかった。それどころか、同級生から受けた暴力を
抗議した時には公爵の娘だからその程度ですんでるんですよと言われ部屋に逃げ帰り
枕に顔を押し付けながら泣いた事さえあった。

何故自分は魔法が使えないんだろう。家族の皆は使えるのに。
魔法さえ使えれば、そんな思いをしながら何度泣いた事だろう。
ふと扉に目をやる。魔法が使えない自分には分からないが、自分は四六時中
監視されているのだ。入学前に入学を拒否して自殺騒動を起こしたからだ。
もし今再び自分が自殺しようとすれば、両脇の部屋で待機しているであろう
学生(と言う名の実家から送られた監視役。いじめにも参加してるのに!)が
あの扉から入ってくるのだ。
759依存スレの永遠に秘密兵器 3-180:2011/05/05(木) 23:42:32.94 ID:4ep5CvW4

何故自分に魔力が無いのか。自分の胸を見る。二人居る姉は皆巨乳と言うより
爆乳である。母に至っては奇乳である。なのに自分だけ胸が無い。全くのゼロだ。
学園に居る生徒達も皆そろって胸が大きい。
何故自分だけ魔力が無いのか。何故自分だけ魔法が使えないのか。何故自分だけ胸が無いのか。
        ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
―――――何故魔力が胸の大きさに依存するのか
その内私は考えるのをやめた。



タイトル「魔力が胸の大きさ依存」〜ただし物理的な力は尻の大きさ〜


補足
・この主人公であるル○ズはその後貧乳属性のサ○トを召喚し、こんな自分を認めてくれる唯一の存在故に
 存分に依存して虚無(ゼロ)に目覚めたとかなんとか
・男の場合魔法攻撃力は一物の太さ、物理攻撃力は一物の長さに依存する
・巨乳万歳
760名無しさん@ピンキー:2011/05/05(木) 23:51:22.30 ID:ZUmlyJM/
すんごいアホ臭いGJw
761依存スレの永遠に秘密兵器 3-180:2011/05/05(木) 23:52:34.17 ID:4ep5CvW4
以上

タイトル自体がネタばれなため本文の後に出すという暴挙
この前書いた>>724->>728以上の駄作でもこの過疎なら許される     多分
762名無しさん@ピンキー:2011/05/06(金) 23:45:24.85 ID:z5vq2lXR
ぼっきageヽ(`Д´)ノ
763名無しさん@ピンキー:2011/05/09(月) 00:23:39.52 ID:0dVxaqdZ
本気投下待ってます
764名無しさん@ピンキー:2011/05/10(火) 05:11:11.35 ID:TmbxTA81
>>759
>・巨乳万歳
絶対に許さないよ
765名無しさん@ピンキー:2011/05/11(水) 23:46:26.14 ID:Nx6BvKfj
投下無さすぎ。
まだ作品途中の作者はどこに行ったんだ。保管庫からすべて作品消してやろうか
766名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 00:59:18.72 ID:u/1DEmhW
えっ
767名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 03:28:29.15 ID:JE+gulap
消す?ご乱心か?
768名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 05:45:21.35 ID:+e2gq+SO
>>765
ちょっと落ち着け。
769名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 05:50:03.15 ID:MvbhzGwU
ロウニンギョウにしてやろか!
770名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 09:13:17.03 ID:pFJn+lQa
消してやろうかキリッ
だっておバンバン
771名無しさん@ピンキー:2011/05/12(木) 22:10:42.38 ID:cxLPWzhi
これが噂の読者様か
772名無しさん@ピンキー:2011/05/13(金) 01:24:06.06 ID:+un1Xu55
保管庫がないと生きられない
773名無しさん@ピンキー:2011/05/14(土) 02:15:23.80 ID:6oI6iJ5g
同じく保管庫がないと生きられない
だって依存しちゃってるんだもん!
774名無しさん@ピンキー:2011/05/14(土) 05:18:39.23 ID:Q7Ea+QT0
てゆうか管理人以外消すなんて事ができるの?
775名無しさん@ピンキー:2011/05/14(土) 09:04:12.54 ID:GM4HMMtQ
ページ自体は消せなくとも白紙にするぐらいなら誰にでも
776 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/15(日) 23:05:56.37 ID:jBac2Hur
近い内に夢の国の続き連続投下させていただきます。
あと盲目女の子か車椅子女の子かのちょっとした短編を書かせてもらえたらなと思ったんですが、どっちがいいですかね?
777名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 23:24:17.71 ID:sg4yk/0q
後者きぼんぬ
778名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 23:24:20.62 ID:0SrVEbla
どっちでもまったくおkだ!!むしろ両方みたい
779名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 23:52:16.76 ID:z0Z+S96U
車椅子は個人的トラウマがあるので盲目の女の子を所望する
780名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 17:38:26.06 ID:0UiBEomU
それじゃ夢の国書きながらですが両方書いて見ます。

盲目は一話〜二話完結
車椅子は長作品にならない程度に(五話〜八話ぐらい)書いてみます。
まぁ夢の国を進める事が大前提なので、気長にまっていてください。盲目は完全短編なんで夢の国投下ついでに投下させていただきます。

それでは、失礼します。
781 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/16(月) 17:44:25.26 ID:0UiBEomU
>>779
トラウマですか…?なら一応投下する前に注意書きをさせてもらいますね。
782名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 20:14:06.83 ID:0VWTp7Cy

では、保守がてらお茶請けでも。

ぬるいエロ、高校生×先生。



 先生と出会ったのは、小学生の時。癇癪持ちだった俺を宥める優しい手が大好きで、彼女と一緒に生きたいと思った。
「ん、んぐ、ぅん…っ」
「ほら、先生…濡れてきてる」
「んぅ、い…言わないでぇ…っ」
 先生の形のいい胸は手のひらに吸い付くように滑らかで、乱暴に揉みしだいてもしっかりとした弾力を持って跳ね返ってくる。股を濡らすのは、汗ではないものだとすぐにわかる。
「ごめん、ごめんね…卓也君……」
「そうだよ、先生が悪いんだ…」
 先生の一番は俺じゃないと駄目なんだ。遠足で、課外授業で、手を繋いで歩いた道を忘れることなんて赦さない。
 卒業式の日の告白は子供の戯れ言とあしらわれた。隣の敷地の中学校からの帰り道、校庭で生徒と笑い会う先生に腹がたった。
「あんなに可愛がってくれたじゃないか。俺が好きだって、卓也軍だけだって、いったよね?」

『こんなに優しくするの、卓也君にだけだからね?』
『卓也君、飴食べる?…皆には内緒よ?』
 癇癪持ちの子供のご機嫌をとるための言葉だったと本当はわかっている。でも、あのときの俺には、彼女が俺に特別な愛情を向けてくれているとしか思えなかった。
「ん…」
「ねぇ、はっきり答えなよ」
「う、ぐっ!?」
 先生の栗色のポニーテールを掴んで顎を上向かせる。
薄桃色の唇から飛び出した俺の精器が勢いよく跳ね返り、白濁をほとばしらせてよだれにまみれた先生の顔を白く汚す。それでも鳶色の瞳は美しくて、愛しいと思う。
「あ…たくや、だけ、よ…」
「聞こえない」
「あ、あたしは卓也君だけの、ものなのぉ…っ!!」
「…そうだよ、先生は俺だけのもの。わかってるよね?」
「ぅん、うん…っ」
 教育実習生に恋をしたのは小学校低学年の時。正式な先生として再会したのは、高学年になってから。
 彼女を想って初めてヌイたのは、彼女と手を繋いだ日の夜。先生と…初めて身体を繋いだのは、高校生になった今。
「俺、もうすぐ卒業なんだよ、就職も決まってる。先生は俺が働いて食べさせてあげるから…可愛がってあげるから。だからもう、教師なんてやめて?」
 その手で誰かの頭を撫でないで。その唇で誰かの名前を紡がないで。
「わかっ、た…わ」
「俺が帰ってくるまでどんな男にも会わないで。欲しいものはなんでも買ってあげる、だから先生は美味しいご飯作って待ってて、一緒にお風呂入って、一緒に寝るんだ。」
 素直に頷いたから髪を放してあげる。糸の切れたマリオネットみたいに崩れ落ちた先生の身体を抱えあげて、自分で襞を開くように促した。
「解るよね?あと少しで俺達は元教え子と恩師じゃなくなるんだ。愛し合う恋人同士になるんだよ、先生……いや、ゆかり?」
 先生の理性は業と残したまま、でも、彼女の答えは解り切っているから俺は聞いた。先生は俺を選ぶ。先生にとって、俺は最愛の男なのだから。
 逆らえば、小学生のころとは比べ物にならない暴力という名の恐怖が、彼女を襲うのだから。
「…ね、がい……っ」
 掠れた声は、聞いたことがないくらい色を含んでいた。
 震える唇、青ざめた、けれど女の身体の火照りを隠しきれない身体。今でさえ俺の下半身を刺激して止まない彼女は、俺を求めてやまない身体になったとき、どのような表情を浮かべるのだろう。
「貴方が…好きよ、卓也…っ!」
 後は二人、どこまでも墜ちていこう。
 最愛の人を抱きしめる俺の唇には、薄い笑みが、拡がっていた。
783題名が思い付かない:2011/05/16(月) 20:17:20.32 ID:0VWTp7Cy
おそまつさまです
依存が少し薄かったかな?
784名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 20:26:26.89 ID:0VWTp7Cy
すみません名前欄が残ってた…
携帯から連続投稿失礼しました
785名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 20:30:32.06 ID:WcPlHdfr
乙!

なんという男の執念……執着心。
むしろ、それからの女先生が男の愛と暴力で依存していくような気がしてならないw
DV夫とそれに付き従う妻とかよくあるし
786名無しさん@ピンキー:2011/05/16(月) 20:45:55.44 ID:0UiBEomU
>>782
年上好きの俺からしたらなんという俺得SS!GJ!
787 忍法帖【Lv=1,xxxP】 :2011/05/17(火) 09:47:16.98 ID:JEMbrmIR
そろそろ次スレ建てないとスレ落ちるな
俺はLv足りなくて建てられないとか言われたから誰か頼む
788名無しさん@ピンキー:2011/05/17(火) 15:42:24.62 ID:i/BtTn4Q
次のスレで投下するか
789 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:14:55.17 ID:h/oYapM1
投下させていただきます。
名前は闇と夜で。
注意※身体障害者(足が不自由な)がヒロインです。
790 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:15:42.54 ID:h/oYapM1
「須賀くんありがとねぇ…わざわざワガママに付き合ってもらって」
「いえいえ。また何かあったら声をかけてくださいね?僕でよければ駆けつけますんで」
「えぇ、ありがとう。それじゃ気を付けてね」
「はい、失礼します」

玄関を閉めて内側から扉の鍵を掛けるのを確認すると、玄関前から歩きだし家を後にする。

「はぁ…」
ため息を吐き空に目を向けると、いつの間にか太陽は沈み小さな星が空一面にちりばめられていた。
雲一つ無い夜空に光輝く星達、ムード満点の夜空だが今僕は一人…いや、家に帰っても一人なのだが…。

「痛たた…ちょっと運動しなきゃダメだな」
明日間違いなく筋肉痛になる腕を擦りながら今日の出来事を思い出してみる。
仕事帰り、呼び止められたのが七回…。
その七回すべて老人や主婦からお願いされる雑務だった。
この島に越してきて一週間経つのだが、住人は皆優しく気さくな人ばかりだ。
朝だろうが夜だろうが誰も家に鍵を掛ける者は居らず、他人が当たり前の様に家の中へと入ってくる。
都会なら絶対にあり得ない事なのだが、この島ではそれが当たり前。
数年住めばそれなりに馴染んで行くのだろうが…既に都会が恋しくなってきている自分が居た。
791夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:18:06.53 ID:h/oYapM1

「明日は確か一時間目から体育…大丈夫かなぁ」
僕の仕事はこの島に一つだけある学校の教師。
都会にある学校から一週間前にこの学校へと来たのだが…まさか都会からこの島への交通手段が一日だけの渡舟だけとは流石に思わなかった…。
僕の言葉から察する事ができると思うが、この島…人口400人と小さな島なのだ。
名前を尾美島と言い、島の周りが海で囲まれており、外部との接触が殆ど出来ないほど孤立した島となっている。
かと言ってよそ者に対して態度を一変させるような人間は居らず、皆仲良く小さな島で暮らしている。
引越し初日島人総出で港で僕を迎え入れてくれて、今の今まで人の優しさに触れて一週間過ごしてきた。
だけどやはり周りになんでもあった都会っ子の僕にはこの島は合わないような気がしてきたのだ。
コンビニ一つ無いこの島での生活は少し窮屈に感じてしまう。

「まだ一週間だもんな……やって行けるのか俺?」
自分に問い掛けるように呟いた声は、虚しく闇に吸い込まれて消える。




「須賀くん?…こんな道端でどうしたんだ?」
792夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:20:31.77 ID:h/oYapM1
突然声が消えていった闇の中から俺の声とは明らかに違う女性の声が返ってきた。
おもわず身体を強張らせ、一歩後ろへ後ずさる。
「だ、誰?」
恐る恐る声が聞こえた方向へ声を掛ける。
「すまん、驚かせたか?」
外灯の光に照らされ姿を現したのは、ショートヘアーが似合う小さな顔に大きな瞳の綺麗な女性。
「あ、藤咲さんでしたか…どうされたんですか?こんな夜に」
藤咲守夜(ふじさき すや)さん。僕の仕事場の同僚であり先輩になる女性だ。
僕がこの島に越してきた当初港で皆から一束の花を貰ったのだが、花束を俺に手渡してくれたのがこの藤咲さんだった。

「私か?私は夜風が気持ちいいから散歩だよ……んっ?散歩って言っていいのか?」
おどけたように笑みを浮かべると、自分の膝を叩いて見せた。
藤咲さんの下半身へと目を向ける…いや、会った時から俺の目は藤咲さんの下半身へと向かっていた。

「あの……車椅子って夜道に危なくないですか?」
そう…彼女は車椅子に頼らないと移動できないのだ。僕が出会った時にはすでに彼女は車椅子を愛用していた。

なんでも昔漁師をしていた事があり、漁船と漁船の衝突事故に巻き込まれて下半身不随となってしまったとか…。
793夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:20:59.19 ID:h/oYapM1
今でも身体のあちこちに大小様々な傷があるらしく、基本衣服は露出が少ないものを着ている事が多い。
と言っても後二ヶ月で7月…夜はまだ肌寒いが昼は長袖を着ていると汗ばむほど暖かくなってきている。

「あ、そうだ。藤咲さんに渡したいものがあったんです」
「ん?なんだ?」
鞄の中から袋を取り出し、藤咲さんに手渡す。
それを藤咲さんが受け取ると、此方へ視線を投げ掛けてきた。

「どうぞ、気に入るかどうか分からないですが」
片手を差し出し中を確認するように促す。
それを確認すると、藤咲さんは一度頭をペコッと下げ、袋を開けて中を覗き込んだ。

「これは……なんだい?」
中身から取り出し広げてまじまじと見ている
「膝掛けですよ?まだ肌寒いですし風邪を引くとあれなんで、良かったら使ってください。薄いですから夏場夜でも使えると思います」
「なぜ、私なんかに…」
「なぜって…お世話になってますからね。そんな重く考えないでください。先輩への日頃のお礼と言うことで」
この一週間、左も右も分からない僕に親身になって一から教えてくれたのは藤咲さんなのだ。
794夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc :2011/05/18(水) 00:21:55.60 ID:h/oYapM1
学校に限らず島の事や島人の事…僕が初日から島人とギクシャクしないで過ごしてこれたのは紛れもなく藤咲さんが間に入ってくれたからだ。
だから藤咲さんには純粋に感謝しているし、教師としても人間としても尊敬している。

「そうか…ありがとう。大切にするよ」
小さく微笑むと、早速膝に掛けて俺に見せてくれた。

「似合いますよ?」
「あぁ、せっかくプレゼントしてくれたんだ。似合わなきゃ困る」
「はは、それじゃ僕はこれで失礼します。藤咲さんも夜道を一人で散歩すると危ないですよ?変質者なんか何処に居るか分からないんですから」
「この島にはそんな人間いないさ。それに私なんかに欲情するアホもいないだろ」
「そんな事ないですよ。藤咲さんは俺が知ってる女性の中でも多分一番って言っても過言じゃ無いぐらい美人ですよ?自信もってください。それじゃ失礼します」
「あ、あぁ…おやすみ」
頭を下げ颯爽と藤咲さんの前から立ち去る。

「僕何言ってんだろ…絶対に後で笑われるよ」
藤咲さんから見えないよう曲がり角を曲がると、頭を抱えてしゃがみこんだ。
がらにもない事を言うものじゃない…多分僕は平然なふりをしていたが顔を真っ赤に染めていたに違いない。
795夜と闇 ◆ou.3Y1vhqc
「まぁ、暗かったし大丈夫か……早く家に帰って寝よ」
言ってしまったものはもう仕方ない…キザを気取るつもりは無かったのだが別に悪く取られる事も無いだろう。
頭を切り替え、立ち上がると重い足取りで自宅へと帰った。





――翌朝。
窓を叩く音で目が覚めた。

「なんだっ痛ッ…たた…」
やはり昨日の疲労で筋肉痛になっている。

「先生〜!早く起きろよ〜!」
数日の小さな人影がドンドンッと窓を叩き続けている。

「分かった分かった!分かったから窓を叩くのをやめてくれ!」
動かない腕を無理矢理動かし窓の鍵を外してやると、勢いよく窓が開かれた。
窓の外には学生服に身を包んだ男女数人が立っていた。

「どうしたのこんな朝早く…」
「先生サッカーするって言っただろ?早く服着替えて出てきてよ。」
「出てこいって…まだ6時前だよ?お前達元気にも程があるんじゃない?」
「違うわよ!先生は私達とバレーの練習するのよ!あんた達は山に居るイノシシとサッカーしなさいよ!」
「てめぇ!俺の父ちゃんがイノシシに追いかけ回されて海に落とされたのを知ってて言ってんだろこのブス!ブス!ブス!」