ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part33
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1278818703/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
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・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
・版権モノは専用スレでお願いします。
・男のヤンデレは基本的にNGです。
乙はコピペ置いとくから、ミクさんでよろ
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>>1 おっつおつにしてやんよ
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>>1に乙していいのは私だけなの!誰にも邪魔はさせない!
てすと
7 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 22:51:48 ID:gEP+JA1d
otu
>>1とっても乙
いちおつ!
こんにちは。ヤンデレ家族です。
10時の息抜きに読んでいただければ幸いです。
投下します。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりでしょうか?」
「俺はホットコーヒーで。二人はどうする?」
喫茶店に入ってわざわざコーヒーを注文する。
こんな経験をしたことは、十七年間蓄えてきたの記憶の中には、ひとつもない。
俺がコーヒーを飲む機会と言えば、大きく分けて三つある。
気分転換に、インスタントなり、コーヒーメーカーなりを使って、自分でコーヒーを淹れて飲む。
自分で買った、もしくは友人知人が奢ってくれた缶コーヒーを飲む。
たまに弟が淹れてくれる濃いめのコーヒーを、温くなるまで待ってから飲む。
いずれの場合も、ちびちびと口をつけて飲むので、一杯あたりを飲み干すのに時間が掛かる。
そのため、俺が喫茶店でコーヒーを飲んでいたら、店の回転率はかなり鈍ることだろう。
だが、それは喫茶店に立ち入らない理由ではない。
喫茶店のコーヒーは美味くても、高い。これが、俺が喫茶店に行かない理由だ。
たまに、高橋の奴が美味しいコーヒーを淹れる店を見つけた、という話題を振ってくる。
店舗が街から離れているから美味しく飲めるとか、雑な味が一切無いところがいいとか、
わかるようなわからないような言葉で褒めちぎる。
いくら賛辞の言葉を聞かされても、俺は喫茶店へ行くつもりにはならない。
喫茶店のコーヒーの相場、おおまかに四百から五百円。
コーヒーが飲みたくなったら缶コーヒーで済ませてしまう俺には、とても出せない。
差額でエナメル塗料と塗装用の筆を買った方がずっといい。
そんな価値観を持つ俺がこうして喫茶店にやって来ている。
偶然喫茶店のコーヒーを味わいたくなったわけではない。なりゆきでここに来ているだけだ。
「私もお兄さんと同じの」
「じゃあ、私はアイスコーヒーをもらおうかしら」
ついさっき、妹と葉月さんが、デパートの通路に居ることも気にせずに喧嘩を始めてしまったのだ。
放って置いたらいつまで経っても終わりそうにないので、俺が二人を喫茶店まで連れてきた。
デパートに来ているお客の注目を避けるための処置だったが、場所を移動したのは正解だった。
正解ではあったけど、事態は収束していない。次ラウンドに移行しただけである。
俺と妹と葉月さんで、一つのテーブルを座って囲む。
妹と葉月さんは向かい合って座っている。
俺はテーブルの横で、二人の緩衝材代わりをしている。妹は左、葉月さんは右。
三つのテーブルを挟んだ向こう側の壁に貼ってある、カツサンドのポスターが遙か遠くにあるように感じられる。
当店人気メニュー、カツサンド。お値段七百円。お持ち帰りもできます!
ポスターには、衣にソースをたっぷりしみ込ませたカツサンドが都合良く三つ並んで写っているじゃないか。
ここはカツサンドを注文して、三人で仲良く分けて食べてみようか?
「そういえば、葉月。私あんたのケイタイの番号とアドレス知らないわ。赤外線で送ってくれない?」
「いいわよ。でも赤外線で番号交換とかしたことなくてやり方わからないの。
仕方ないから妹さんの腕に赤ペンで書いてあげる。赤ペン持ってないかしら?」
「都合良く赤ペンなんか持ってないわよ。お金渡すから、あんた買ってきて」
「そんな、妹さんにお金出させるなんてできないわ。
お金は私が出してあげる。だから妹さんが買いに行ってきて頂戴。
ちゃんとここで待っててあげるから……ね?」
「本当にいい性格してるわね、あんた」
「妹さんこそ、その度胸は素晴らしいわ。ちょっと羨ましくなっちゃうかも」
イヤイヤ、ハハハハハ。
そんなににらみ合ってないでさ。仲良くやろうぜ。
せっかく同席してるんだから、親睦を深めようよ。
おかしい。喫茶店ってこんなに緊張する場所だったっけ?
たしか、高橋の話じゃ落ち着いた雰囲気の店内の中、有線から流れる名曲に耳を傾けつつコーヒーを飲むような場所のはず。
もしかして、ここは喫茶店じゃないのか? 間違って怪しいバーかクラブにでも入っちまったのか?
俺は今、どこに迷い込んでしまっているんだ。
やがて、背中に冷たい汗をかいた俺の前に、ウェイトレスがやってきた。
彼女はコーヒーを三つ置くと、俺に一瞥をくれた後で、ごゆっくり、と声をかけて去っていった。
あの目は、明らかに俺を哀れんでいなかった。
なに女二人も連れ込んでんのよ、やるならよそでやれ、とでも言いたげだった。
言われてみれば、妹と葉月さんに挟まれている状態は、まさに両手に花という有様だな。
両手に花って、もっと華やかなものだと思うんだが。
そりゃあ、葉月さんは美人だよ。妹だって年の割に整った顔してる。
だけど片方の花がトゲだらけだったり、もう一つがでかい口で威嚇してくるような花だったらどうだ。
早く解放されたいって誰だって思うはずだ。少なくとも俺は今そう思っている。
もしや、両手に花状態って、喧嘩する女性に挟まれて困惑する男の有様を指しているのか?
てっきりハーレムの中で馬鹿笑いする男を指しているのだと思っていた。
これは脳内辞書を更新する必要がありそうだ。
両手に花。読み、りょうてにはな。
意味、一人の男性が犬猿の仲にある女性二人を連れていて、かつ緊張して困り果てている様子のこと。
「お兄さん、砂糖とミルクとって」
「おう」
言われるがまま、シュガースティックとプラカップ入りのミルクを二つずつ妹に渡してやる。
すると、葉月さんが咎めるように言った。
「妹さん、それぐらい自分でとったらどう?」
「自分でとれるんならそうするわよ。ただ、無言で手を伸ばしたら何かに噛み付かれそうだったからやめたの」
「なんだ、そうだったの」
「ええ、そうよ」
妹は砂糖とミルクをすべてカップの中に投入し、それでも足りないと感じたのか、シュガースティックをもう一本とった。
その瞬間、葉月さんの肩がぴくりと動くのを俺は見逃さなかった。
しかし、肩はただ動いただけ。それに続く動きはなにもなかった。
もしも妹が俺に何も言わず、自分の手で砂糖とミルクをとっていたら、どうなっていたのか。
……ふうむ。どうなってたんだろう、本当。
葉月さんって武道をやってるそうだけど、座ったままで技をかけたりもできるのか?
俺は格闘技事情について明るくないから、葉月さんの腕前がどれほどのものなのか知らない。
おそらくだが、一対一で人をあっさり倒すぐらいのことはできるはず。身をもって味わったことがあるからわかる。
その道に踏み込んだ人間の真の実力を知るには、その道に踏み込んで知るしかない。
昔、特撮ヒーローや漫画に影響され、格闘技の道に踏み込もうとして入り口手前でこけた程度の俺には、葉月さんの実力はわからない。
よって、座ったままでも何か技を仕掛けられるんだろうと考えておく。
嫌だなあ。余計な思考のせいで警戒レベルが上がってしまった。緊張が恐怖に変わりそうだ。
「妹さんはいつもそんなに甘くして、コーヒー飲むの?」
「そうよ。甘い方が美味しいんだもの」
「さすがに甘すぎるんじゃないかしら。コーヒーの元の味が消えてるでしょ?
いっそのことオレンジジュースの方がいいんじゃない? 太っちゃうわよ」
「余計なお世話よ。で、あんたはブラック? いつもそうなの?」
「そう。喫茶店のちゃんとしたコーヒーぐらい、素のまま味わいたいもの」
お、なんかいい感じだぞ。
まだ堅いところが残ってるけど、ちゃんと会話が成り立ってる。
よし、ここで俺が世間話を振ってやれば二人の仲も――――
「あんた、体重でも気にしてるの? 小っちゃいわねえ」
「いやだわ、妹さんったら。
私があなたぐらいのころには、もっと大っきかったんだから。変なこと言わないで」
「私の、どこがあんたより小さいって……?」
「言って欲しいの? うーん、言ってもいいけど、ショック受けないかしら?」
「言ってみなさいよ、いいから!」
「私、あなたより五センチぐらい身長高かったわよ。
でも気にしないでもいいと思うわ。高校に入って一気に身長が伸びる人は多いから」
――上手くいくはず、と思っていた俺は、どうやら甘かったようだ。
「あんた、カンッペキに私を馬鹿にしてるでしょ!」
「お、落ち着け妹。葉月さんだってそういうつもりで言ったわけじゃないんだから」
「はあ? なにこの女の味方してんのよ、お兄さん。この間言ってくれた告白、嘘だったわけ?」
「お前は何を言ってるんだ。あれは良き兄であろうとする俺の言葉であってだな――」
妹に向いていた顔が、前触れもなく向きを変えた。
視点が高速で移動する。目の前には葉月さんの笑顔。
顔は笑ってるのに、葉月さんの右手は力んでる。掴まれた顎に細い指が突き立ってる。
骨に被ってる皮と肉が潰れて痛い。というか、骨が軋んでいるような。
「ねえ? 告白って、どういうことなのかしら?」
「ら、らから……」
「妹さんに告白? 一体何を告白したのかしら。私、興味津々で、思わず力んじゃうわ。
早く言ってくれないと……指が言うこと聞かなくなっちゃいそう」
「ひひはくへほひへはへん」
言いたくても言えません。
「お兄さんから手を離しなさいよ、葉月!」
「ちょっと黙ってなさい、貧乳」
「なっ……この暴力女! さっきの、やっぱりそういう意味だったんじゃないの!」
「他にどんな意味があると思ってたわけ? 頭の中がお花畑で大変結構ね」
「そんなんだから振られたってことが分かんないの? 馬鹿でしょ、あんた!」
違う。違うんだ、二人とも。
喧嘩するほど仲が良いという言葉もあるけど、俺はそんなの認めない。
だって、ずっと喧嘩しっぱなしじゃ、本当にただ仲が悪いだけじゃないか。
俺は罵詈雑言で親睦を深めて欲しいわけじゃないんだ。
もっと女の子らしくウインドウショッピングとか、話題の美味しいデザートのお店を巡るとかさ、いろいろあるだろ。
ああいうのがいいんだよ。頼むから俺の神経をすり減らさないで。
あと葉月さん。俺の骨をこれ以上折らないで。砕かないで。
マジ痛い。痛い痛い。痛いなんてもんじゃない。
超痛い。足の小指を打つ痛みがレベル一なら、レベル十ぐらい。いや、レベル二十。というか、もうよくわからない。
痛みでいっぱいいっぱい。二人が何を喋ってるのかもわからない。
瞳に何かが写ってもそれを認める余裕がない。そもそも、まぶたが開いてるんだろうか。
意識が全て顎の痛みに集中してて、すべてが虚ろだ。
そうして、痛みが快楽に変わりそうになった頃、喫茶店のマスターとウェイトレスの二人がかりで、俺の顎はようやく解放された。
あれだけ騒いだのだから、三人揃って喫茶店から追い出されるのは当然である。
妹は一人で先に帰ってしまった。
俺も一緒に帰るように誘ってきたのだが、断った。
なぜなら、ここで俺が妹と一緒に帰ってしまったら、葉月さんはそのまま付いてくるだろうから。間違いなく。
これ以上二人の喧嘩に巻き込まれるのも、戦禍を拡げるのも御免だ。
ならばここで俺がなんとかするしかない。
妹と葉月さんの件は、先送りして良い問題ではない。
四月から二人は同じ学校に通うのだ。必然的に、二人の喧嘩は学校内でも勃発するようになる。
上級生と喧嘩する妹は、新学期から周囲に奇異の目で見られ、孤立していく。
葉月さんに憧れる生徒達の抱く、彼女のイメージは崩れ去ることだろう。あんな醜い喧嘩をする人なんだ、と。
喧嘩を止めに入るのは、もれなく俺になることだろう。俺じゃなければ弟だ。
新学期に移行する前に二人の仲を修復、もしくは小康状態にしておかなければ、あらゆる人に被害が及ぶ。
荷が勝ちすぎてる。俺みたいな奴になんとかできる問題じゃないだろ、これ。
女同士の仲を修復させるなら弟の方が適任だ。
いつだったか、あいつへの告白がブッキングしたことがあったらしい。
それもトリプルブッキング。告白の場所と時間まで重なった。そこまで重なるとイタズラに思えるが、本気だったそうな。
俺だったら戸惑うだけだが、弟は冷静に対処した。
まず興奮する女の子達を落ち着けて、返答を保留。
後日、一人一人に断りの返事をした。
まとめるとものすごく簡単だが、ここまでスムーズに収拾をつけられるのは、知る限り弟しか居ない。
だが、妹と葉月さんの喧嘩に関して弟は一切触れていない。頼ることはできない。
頼れるのは自分だけ。俺の判断に全てが委ねられている。
ここ最近の経験からして、また痛み分けで解決することになるのだろうか。
解決するならなんでもいいや――と考えないよう、思考をポジティブに切り替える。
これ以上痛い目に遭うのは、俺は嫌だ。
ここで終わらせるんだ。伯母の問題も解決したんだから、俺はこれ以上面倒に関わらないようにするんだ。
葉月さんを何とかする。
何をすればいいのかは分からない。
分からないから、これからそれを調べる。
言葉を選んで聞き出して、ベストではなくても、間違った対応をしないように。
場所を変えて話をしよう、という誘いに葉月さんは乗ってくれた。
住宅街の中にある公園。時刻は夕方の六時近くになっているので、遊具で遊ぶ子供の姿はない。
早くも日が落ちて隠れてしまいそう。これから散歩に出掛けるなら誰もが明るい服装を選ぶことだろう。
ベンチに腰を下ろす。葉月さんは腰を下ろすと、俺の膝にくっつく位置まで近づいた。
「ねえ? さっきの続きだけど」
続きと聞いて、顎に幻痛が走る。まだ痛みの残滓は残ったままだ。
「妹さんに告白したっていうのは、嘘? 本当?」
「嘘じゃないよ」
「何を告白したの?」
「そもそも、告白という言い方がどうかと俺は思うけどね。
妹をどう思っているか、その辺について聞かれたから答えた。ただそれだけ」
「もしかして……これからは恋人として付き合おうって言った?」
「それはない。そういう気にはならないよ、妹とは。
葉月さんは勘違いしてる。葉月さんに兄弟がいないからわからないのかもしれないけど、ありえないんだ。
血の繋がった家族とそういう関係になるっていうのは」
「じゃあ、血が繋がってなければ? 恋人になろうと思うの?」
「家族は家族だ。血の繋がりが云々なんて、関係ない」
家族ってのは、血縁や結婚や養子縁組という繋がりだけで結ばれてるわけじゃない。
もっと深いところで繋がった関係だ。
仮に弟や妹の身体から魂が抜けて人形に宿っても、俺は家族だと思える。
「妹を恋人として見る、なんてことになってたら、俺は妹の事を家族だとは見てないよ。
家族でも何でもない、ただの他人の、女の子だ。
そして俺は、妹のことを、二つ下の妹として見てる。年頃で、難しい時期だよ。
大事にしたいって思ってる。好きだよ、あいつのことは」
「じゃあ、あなたは妹さんを妹以上の存在としては見ていない、ということ?」
葉月さんの目を見る。深く頷いて、また目を合わせる。
これ以上なく、真摯な気持ちで。
「そう……よかった。ちょっとだけ安心した。
あなたを見てると、妹さんと一線を越えそうな雰囲気までしてたの」
葉月さんの表情が和らいだ。微笑みが怖くない。
自然に俺の警戒心も緩くなる。
「あのさ、聞き逃せないこと、言わなかった?」
「しょうがないじゃない。今日のあなたと妹さんを傍から見てると、誰だってそう思うわよ。
どう見たってデートだったもの。一緒にご飯食べるし、プレゼントまで贈るし。
何度邪魔しようと思ったかしら。一度や二度じゃきかないわ」
「邪魔する理由がわかんないな、俺」
「本当にわからない? それとも惚けた振り? ……まあ、どっちでもいっか。
妹さんに嫉妬してたからに決まってるでしょ。私はね、あなたの隣に居たかったの。
妹さんだけじゃない、木之内澄子も、葵紋花火も近づけたくない。名前は知らないけど、他の女も。
私はね――――」
どんなときも頭から離れないぐらい、あなたのことが好きなのよ。
言葉が直接頭の中に響いてくるぐらい近い距離で、囁かれた。
葉月さんの何度目かの告白だった。
「それこそ、あなたの行方が気になって、ついつい、ついて行っちゃうくらいね」
なんで行き先がわかるかってのは、問うまでもないか。
弟の奴が教えたんだろう。今日の俺と妹の行き先を知ってるのは弟しか居ない。
たしかに口止めはしなかったけど、あいつは教えるのを躊躇ったりしないのだろうか。
まさかとは思うが、俺を困らせるために葉月さんを送り出したわけじゃないよな。
あいつ、俺と葉月さんの接触を増やそうとしてないか?
高橋とは違う意味で、あいつの考えは読めない。
迷路に例えるなら、高橋の考えは一本道だけど曲がり角ばっかりで、ただ時間がかかるだけの面白みのないもので、
弟の考えは、構造は簡単なのに、目隠しをしなきゃいけない決まり事があるものという感じ。
弟の思考を読むには、情報が不足しすぎてる。高橋よりも厄介だ。
「前、あなたは私に言ってくれたわね。友達として好きだって。
だけど私はね、あなたとの関係を、ただのお友達で終わらせたくないの。
一番仲の良い友達じゃなくて、それ以上の、恋人になりたいの。
もうすぐ私たちは高校生活最後の一年をスタートさせる。
どうせなら、最高の一年にしたいじゃない?」
「……そうだね」
「いくら考えても、どんな可能性を探っても、あなたが彼氏じゃなきゃダメだった。
断られて落ち込んでも、一度も諦めようなんて考えられなかった。
しつこい女なの、私。それに欲張り。
気が済まない。忘れられない。好きな気持ちが溢れてくる。
付き合ってくれないかしら、私と。答えが聞きたいわ」
正直に答えることはできない。
俺は、葉月さんを友達だと思ってる。葉月さんが望むような関係を、築きたいと思わない。
だからって、付き合うのは嫌じゃない。満更でもない。
前に告白された時断ったのは、葉月さんを独占したいほど好きじゃなかったから。葉月さんと同じ気持ちじゃなかったから。
こんな気持ちのままで付き合うなんて、悪いことだと思ってた。
――でも、今は違う気持ちもある。
「聞きたいんだけどさ。俺がもしも、葉月さんの理想通りの人じゃなかったら?」
「それなら、私の理想をねじ曲げるだけだわ。
理想を押しつけても、相手は受け入れてくれない。私は同じ轍は踏まないわ」
「俺が……人を深く傷つけるような最低な人間であっても、そう言える?」
「もちろん。あと、あなたは最低じゃないわ。
最低の人間は、自分が最低だと考えられないぐらい、最低な奴なんだから」
「……はは、それもそうか」
ああ言えば、こう言う。敵わないな、葉月さんには。
暴力を振るうところは良くないけど、それ以外は、拍手を送りたくなるぐらい、すごい女性だ。
俺なんかを好きになって、何回振られても諦めず、また告白してくる。根性があり過ぎる。
こんなすごい人とは付き合うなんておこがましい――なんて思う。そこは変わらない。
でも、この人のことをもっとよく知りたい、とも思うようになってる。
今の関係、友達のままでは、決して知ることのかなわないことを知りたい。
愛着は好きという純粋な気持ちだけで生まれるとは限らない。
さすがは俺の親友だ。良いことを言ってくれる。最高の台詞だ。
あまりにも最高だから、俺の生き方の参考にさせてもらうぜ、高橋。
「……あのさ、葉月さん」
「なあに?」
こんなんでいいのかってぐらい、リラックスしてる。
罪悪感はたしかにあるのに思考が軽すぎる。
余計な台詞まで言ってしまいそうなぐらい、舌が滑らかに動いてくれる。
「付き合おうぜ、俺たち。
いつからいつまで、なんて期間も設けないし、後で嘘だって言うのもなしだ。
葉月さんのこと、もっと知りたいんだよ。今よりたくさん」
*****
……………………、……ほぇ?
嘘。
夢?
それとも正夢?
嫌よ、そんなの。
というか、夢じゃないでしょ。
じゃあ嘘かって言うと、彼がたった今否定したところだし。
「あの、あなた……私のこと好き、だったの?」
「ま、まあ。そういうことになるかな、うん」
この、照れてはっきりものを言わないところ、偽物じゃない、本物だわ!
「な、なんで?」
「ごめん。何について聞かれてるのかわからない」
私だって、自分が何言ってるんだか分かんないわよ!
「俺、そんな顔されるほど変なこと言ったかな」
「いえ、別にそんなこと……って、変な顔してるなら早く言って! バカぁ!」
慌てて彼から顔を逸らす。ベンチの上に正座して隅っこまで移動する。
やばいわ、どんな顔してるのよ。彼がそんなこと言うってよっぽどじゃないの!
ああでも、どうしよ。
どうしよ、どうしよ。どうしよ、どうしよ? どうしよ、どうしよおっ!
と、とうとう彼と付き合うの? 付き合っちゃうの? 付き合うことになっちゃった!
無性に叫びたい。幸せで身体が膨らんで破裂しそうよ!
ていうかもう、爆発しなさい、私!
し、死にそう。
顔がおかしい。熱が籠もりすぎ。体温、今何度よ?
付き合うってことは、デート行き放題、手をつなぎ放題、むしろ姫だっこで移動?
「幸せすぎる、幸せすぎるわ!」
好きって言ってくれるの? 今まで妄想の中でしか言ってくれなかったのに?
愛してるとか、結婚しようとか、はい誓いますとか、行ってきますとか、ただいまとか、夕飯より先にお前が食べたいとか!
そんなのハレンチよ! もちろんアリだけど! ただし私を倒してからにすることね!
それでわざと負けちゃったりするのよ! うふ、うふふふふ!
「っ……きゃぁっほおぉぉぉう!」
ベンチベンチ! ベンチ殴っちゃうわ、嬉しすぎて!
ちっとも痛くない! これが無念無想の境地!
え、違う? でもいいの、私は無敵だわ!
「葉月さん、落ち着いて!」
「えっへへへへヘ。私は落ち着いてるわよ、心配しなくていいわ」
彼が優しく私の手を握って、労ってくれる。
これからは私だけに、その優しさを向けてくれるのね。
でも、彼は妹を大事にしてたわ。好きとか言ってたし。
妹にも優しいものね。そこがまたいいんだけど。ああ、ジレンマ。
まあ、彼の生涯の伴侶になった私には、あの子なんて恐るるに足りない存在ね。
あ、そうだわ。せっかくだから。
「ねえ、お願いしてもいい?」
「お願い? なに?」
「……キス、して頂戴」
夕闇の中、彼と見つめ合う。
もう一瞬たりとも待ってられないぐらいなんだけど、初めてぐらい彼からしてほしい。
数秒間の沈黙の時間。
彼に両肩を掴まれた。目を瞑り、顎をちょっとだけ上げる。
ああ、とうとうこの時がやってきたのね。
「いくよ、葉月さん」
来なさい! あなたの思いを存分に込めて!
彼の手から、小さな揺れが伝わってくる。いえ、もしかしたら私の震えなのかも。
何度もシミュレーションしてきたけど、本番はやっぱり緊張するわ。
私から舌を入れていいかしら?
駄目よね、そういうのは場所を変えて、二回目からじゃないと。
ここは我慢よ。我慢するのよ。彼を立てるためにも、我慢しなきゃ!
彼の唇が、触れた。
「ん、ふ……」
柔らかくって、暖かい。
心臓の鼓動が伝わってくる。きっと彼にも私の鼓動が伝わってる。
駄目。
我慢……でき、ないっ!
もっと近づいて、もっと抱きしめて! もっと強引に、私の中に入ってきて!
右手を彼の頭に、左手を彼の背中に。
そのまま、力一杯抱きしめる。
「んん! んっんっ! んふぅっ!」
彼を感じる。ずっと求めてた温もり。
やっと手に入れた。
欲しがって、求めて、さまよって、それでも諦めないでよかった。
今こうして、私の手の中にある。
彼も私に応えてくれてる。痛いぐらいに肩を強く掴まれてる。
そう、いっぱい暴れて。私の上で、力尽きるまで。
もっと頂戴! 渇きを癒して、潤いを私に与えて!
大好き!
でもこんな言葉じゃ足りない!
言葉じゃなくてあなたの温もりを、尽きるまで、果てるまで私に注いで!
私もあなたにあげるから! 全部、ぜんぶっ!
「…………ぷ、はあぁぁぁぁぁ」
ひとしきりキスを続けた後で唇を離し、抱く力を緩める。
暗いせいで照れた彼の顔が見えないのが非常に残念。
「どう。まだ……したい? それとも、続きをしたい?」
彼は応えない。
私の身体に体重を預けてくると、そのまま余韻を楽しむみたいに動かなくなった。
「……そう。今日はまだここまで、ね」
お楽しみは先に取っておかないといけない。
初めてが公園なんて、ロマンチックじゃないし。
やっぱり、彼の家でやるのがいいかな。
それとも私の家? それだと、お父さんがやってくるかもしれないわ。
いえ、むしろその緊張感を楽しむっていうのも、捨てがたい。
「楽しみだわ。これからよろしくね」
誰もここに来ないようにと、私は願った。
そうすれば、彼と抱き続けていられるから。
誰かと一緒に居てこんなに安心するなんて、久しぶり。
お母さんに抱きしめられてるときより、ずっと幸せ。
幸せよ。どうかお母さんのように、どこかに言ってしまわないで。
寂しさよ。願わくはもう私の元にはやってこないで。
いつまでも、彼とこうしていられますように。
今回の投下は終わりです。
大往生編も終わりです。
また次回に会いましょう。
リアルタイムGJ!
とうとうジミーに彼女が出来たのに、全く終わりが見えない
ききちゃんかわゆす!GJ!!!正に大往生…
リアルタイムGJ!!
葉月さんかわえぇ
GJです。
ジミー窒息してないか?
32 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 10:56:52 ID:gAZyhCoS
GJです
窒息もありそうだけど抱きしめる力が強すぎたってことも…
うおおおおおおおお!!GJ!!
やっと葉月さんが報われてよかった・・・
でもこれが妹やほかの女性陣に知られたらヤバそうw
> ベンチベンチ! ベンチ殴っちゃうわ、嬉しすぎて!
葉月さん可愛い過ぎw
プラズマ>>液晶>>>>>>>>>>>>>>>>プロジェクター>>>>>>PCディスプレイ>>>>>>>>>>>ブラウン管(笑)
うお、誤爆した
すいません
ぐっじょーぶ
とうとう付き合う事になったか…
でも…良い予感が全然しないのは何故だろう
GJ!
この後、妹が付き合ったことを知った反応がとてつもなく楽しみ!
次回も血眼にしながら待ってます!
しかし、これじゃあ妹と結ばれることはなさそうだな…
こういう話の主人公は統一されてるかのように頭が固い
いいねいいねーヤンデレ家族最高だ♪
GJ! おめでとう葉月さん、よくやったジミー!
葉月さん初登場から期待してた展開がようやく実現した。
作者さん乙です。
GJ
これからが楽しみだ!
ブッキングの使い方だけ修正した方がいいと思うよ。
GJ!
ようやく報われたか…こっちまで笑顔になれそうだ
GJ!
しかしジミー・ロマンスの最期が近づいているような気がしてならぬ……
葉月さんはもっともっとと麻薬のように愛情を求めるようなタイプっぽいから
どう考えても死亡フラグだよなぁジミー
GJ
ジミーの弟へのラブには頭がクラクラする(間違った感想)
GJ
葉月さんは付き合ってさらにヤンデレ化が進みそうだなww
ジミーが付き合ったことを知った花火や澄子ちゃん、妹の反応が楽しみ
続きが待ちきれないな
ヤンデレ家族って36話もやってるんだな。
普通に50話越えそう。
最近この名作の存在を知ったんだが、あまりの話数に読むのをためらってるWW でも読みたい…一話あたりどのくらいの長さ?
見ればわかるだろ・・・・
ヤンデレ家族GJ!!
ついに葉月に春が来たが、ジミーには死期が近づいたとしか思えないんだがw
こんばんはー会社帰りに同僚の彼女に
「私の○君によらないで! あなたのような男がいるから私の○君に虫が近寄るの!」
といわれ若干泣きそうになっている作者です。リアルにもやっぱいるんだなぁ。
その前に友人(男)に敵対するヤンデレっているんだ……
そんなわけで軋んでいく歯車六話投稿します。
「あ、卓也さんおはようございます」
学校に行く途中、愛さんと出会った。エプロンをして箒を持っているのでたぶん掃除中なのだろう。けれども……
「ここもう店と関係ないところですよね」
ここは店からかなり離れたところだと思うのだが……
「これはですね、私の料理の中にビーフシチューとかありますよね。そういうものは煮込むのに時間がかかるのですよ。
圧力鍋でもいいのですが……普通に煮込んだほうが自由に味付けできるので私は圧力鍋使って無いんです。
でも味の調節し終わった後、完成までのぐつぐつ煮込む時間があるのですよ。その時間暇なので毎日少しずつ掃除しようと思ったらここまで来たんです。
け、決してこの道のりを一日で掃除したわけじゃありませんよ!」
テレながらそんなことを言う。ああ、この人は現代社会に生まれた女神なのだろうな。自分の空いてる時間を社会のために使うなんて俺なんて、俺なんて……
「あ、そういえば……」
愛さんは自分の鞄から四角く、布に包まれた物体を差し出してくる。
「これ、新作の和食メニューの試作品なんですがよかったら食べてくれませんか?」
て、手作り弁当……女性が丹精込めてつくってくれた男子の夢のアイテム!……母親がつくっているのも一応手作りだって!?
我が家の母親は9割は冷凍食品に済ましてるから手作りじゃなく手詰め弁当だ! あの手抜きを手作りと認めるか!
「あ、ありがとうございます! ぜひいただきますね」
俺は嬉々として弁当を受け取り学校へ向かうことにした。
校舎に入り自分のクラスの前に向かうと男子が喧嘩をしているようだ。片方は俺のクラスメイトの男子だ。
「どうしたんですか?」
俺の声が聞こえると周りの人たちの一部が俺を睨み始めた。これはどういうことなのだろう。
「副会長! とりあえず教室に入ってくれ!」
クラスメイトに手を引っ張られ教室に連れ込まれる。
「え、え?」
何が何なのかが分からないがとりあえずついていくことにする。
教室に入るとほぼ全員のクラスメイトが電話をしている。なんかどっかの仕事場みたいな感じになっていた。
「副会長! 率直に聞きます」
「え、えっと……はい」
雰囲気に負けて椅子にすわりおとなしくなってしまう。これはどういう……
「ずばり! 万引きしましたか? 万引きして無いなら理由も添えて」
万引き? 万引きなんてするわけ無い!
「するわけ無い、するわけ無い。万引きしたらポイントつかないから。今狙ってるぬいぐるみがあってね。
妹ほしいらしいから万引きするよりポイント溜めるために普通に会計するよ」
「だよな。それでこそ副会長! 俺たちはお前の無実を信じてるからさ。こうやって知り合いに電話をしてるんだ」
あー嬉しいな。これ。普通に見捨てると思うのに……
「お前が万引きで退学になると俺らのクラスNo1になれなくなるからな!」
別に俺のためじゃないのか……なんか裏切られた気分になった。
「向こうは万引き写真を証拠としてるけどあれは副会長じゃないね。副会長のスーパーの買い物スタイルは……」
あれ、俺に買い物スタイルとかあるんだ……いつも同じだから気がつかなかった。というかよく知っているな。
「エコバッグは常に常備、そのエコバッグは常にカゴの中にいれているし底値表も常備しているな。情報源は副会長を影から愛でる会」
「なにその不穏な会! そんな会初めて聞いたよ!?」
「ちなみに会員数は97人だったり」
「意外に多いな!? お前等入ってるとか無いよな」
「「「そんなバカな」」」
そうだよな。そんなわけ無いよな。
「「「入っているに決まってるだろう」」」
「お前等……冥土に送ろうか」
それにしても会長と正敏はきてないようだった。珍しいこともあるようだ。
時間が経ち朝のHRになった。我がクラス担任の月島海先生が暗い顔で入ってくる。
「今日の朝の職員会議でいろいろもめている。すまない。現状を簡単に言うと二つに教員も割れているのだ」
備え付けのミカン箱に乗りながら月島先生は俺たちに現状を説明した。生徒会の顧問であるからこの事件での苦労も凄まじいだろう。
補足として月島先生の身長は148cmぐらいらしい。
「私を始めとする写真が嘘でやっていないと主張するところと横岡先生の目撃証言をもとにしてしたと主張するところだ。
今日はまだ大丈夫だが日にちが経つと切ってしまおうとか思う輩がでてくるだろう。それは避けたいのだがなかなか難しい。
とりあえずその日は生徒会会議があったから行くのは無理だと説明してるが途中で抜け出せるとか主張されてな。私の力不足だ。すまない。
卓也少しの間耐えていてくれないか?」
「はい、俺の身からでた錆びみたいなものですし耐えますよ」
「いやお前のせいじゃない。それは覚えていてくれ。こんな卑劣なことを考えた奴が悪いからな。さてHRを終わろう。
みんななるべく卓也を支えてやってくれ」
先生も心配してくれたのか。しっかりしないと駄目だな。俺。授業表を見る。ええっと……合同体育、情報A、音楽U、数学Uか。
「って! 全部移動教室じゃないか!!」
視線に耐えられるかな……って最初が凄く鬼門じゃないか? 合同だからな……きついだろうな……
「はぁ……なんとかなった……」
午前中の授業が終わり階段の踊り場で一息ついていた。違うクラスのやつらからの視線がこんなに痛いとは……
あと二時間だが大丈夫だろう。両方とも文化祭の準備だからな。妨害とかもさすがに無いだろうし。
弁当を食べるためにクラスへ向かう。今日の昼ごはんは愛さんの『手作り』(ここ重要)弁当だからな。
わくわくしながら階段を下りていると背中に誰かの気配を感じた。
「昨日ぶりだな。あんたの妹の茜ちゃんは貰うぜ。いいだろう」
「なっ!?」
衝撃が走り急に浮遊感が襲う。落ちながら相手の顔を見ると昨日蹴っ飛ばした男だった。
「そういえばオタク共はお兄様とか兄上とかいうんだっけか。兄上、妹は貰うでござるよ。ぎゃははは!」
階段を転がって落ちていく。気絶はしなかったものの下まで落ちたときにはもう体中が痛くなっていた。
「ぐっ……」
「すごいな。その生命力。ゴキブリみたいだな!」
ゴキブリはお前だ。そう言い返してやろうと思ったがが口が動かない。
「それじゃお兄さんよ。次お前が茜ちゃんに会うのは茜ちゃんが俺たちの子供を妊娠したときだ」
あいつは階段を登っていってしまう。今追いかけても無意味だろう。この痛みじゃ走ることはできても追いつけない。
妹も心配だがたぶん大丈夫だと思うから保健室に向かおう。教室にいれば引っ張っても誰か止めてくれるだろうし……
とりあえず痛む体を引きずって保健室へと向かう。
保健室には誰もいなかった。そのほうがいい。俺は棚から湿布を取り出し腫れているところに貼っていく。
無駄遣いといわれるかもしれないが気にしないでペタペタ貼る。張り終わりとりあえず保健室のソファーに腰をかける。
ああ、腹減ったな。今日の昼ごはん楽しみなのに。……とりあえず直ったらあいつを殴ろう。うん。いや半殺し。
『え……っと、ここ?』
女の人の声がして扉を開ける音が響いた。ドアの向こうには愛さんがいた。
「え、え、ええ!? どうして愛さんが!?」
「えっと、簡単なことですよ。この学園に自由参加枠ありますよね。それに登録しようと思って。
でも書類にサインしてるときに指を紙で切っちゃって……だから絆創膏貰いに来たんです」
そういえばそういう参加枠あったな。利益の6割はとられちゃうけど宣伝効果があるから結構色々なお店が参加している。
「ところで……どうしたんですか?」
「ちょ、ちょっと転んで……」
「いや、あの……それならどうして泣いているんですか? 転んだだけじゃ……」
「泣いてなんていませんよ」
何言っているんだろう愛さんは。泣いてるわけ無いじゃないか。このぐらいで。頬に伝っているのは気のせいだ。
「辛いときは泣いてください。私が受け止めてあげますから」
そういって抱きしめてくれた。でも……兄なんだ。泣くわけにはいかない……。
「兄は泣いたら駄目なんだ。強く見せないと……」
「兄かもしれません。でも私にとっては弟です。だから……泣いてください。弟なら泣いても……平気ですよね」
堪えきれずに愛さんの胸の中で泣いてしまう。こんなことで泣くなんて弱いのかもしれない。でも苦しかった。怖かった。いつかクラスメイトにも無視されるのではないかと。
「ど、どうすればいいか……ま、万引きなんて、してもい、い、いないのに! あんな写真で……あんな写真一枚で……」
今までのことを全部話した。愛さんは責めないで頭を優しく撫でてくれる。
「耐てんだね。えらいよすごく。それにいいクラスメイト持ってよかったね。私も卓也さんの無実を信じてるよ」
「愛さんって姉みたい」
「お姉ちゃんだよ。一応ね」
急に頭を撫でていたのが止まる。どうしたのだろう。
「あ、あれこの首の火傷は……」
「小さいときにできた火傷らしいです。なんかやかんのお湯を被ったって」
愛さんの目が一瞬鋭くなったがすぐに元に戻り笑顔でまた頭を撫で始めてくれた。
「そうですかー火傷って傷痕って残りやすいんですね」
「たぶん偶然残ってるんだと思いますよ」
「もしかしたら必然なのかも」
くすくすと愛さんは笑いながらこたえてくれる。心が軽くなっていく。これならたぶんやっていける。
「ありがとうございます。愛さん」
「気にしないでください。私にできることがあればなんでも言ってください。姉……なんですから」
「……はい!」
「私はそろそろ行きますね。書類のサインまだ途中なので」
「俺も教室に行きます。それでは」
例え血が繋がっていなくても姉だと思えるこの人のために決意を新たに教室に向かうことにする。まずは姉の特製弁当を食べないといけないな。
私は兄さんがケガをしたと聞いてすぐに保健室に向かった。階段から落ちたらしい。兄さんは階段から落ちても受身は取れるだろう。それなのに落ちるのは他人に押されたからだろう。
兄さんになにかあったら私は苦しい。なぜなら嘘をつくから。湿布をはり、笑って平気といって弱いところを見せない。それが嫌だった。
まあもし怪我が軽傷ならからかおうと思っていた。保健室の壁に耳を当てる。兄さんの声が聞こえる。一人なのかな? そう思ったけどそれはちがった
『兄かもしれません。でも私にとっては弟で--』
え……兄さんが……弟? 違う、兄さんは兄さんなの……弟じゃない。私だけの兄。誰にも邪魔できない家族の絆で結ばれているのに。なんで偽者のやつなんかに
「ど、どうすればいいか……ま、万引きなんて--』
兄さんなんで泣いてるの? そいつは家族でもなんでもない女なのに弱いところを見せているの? いや……なんで……
兄さんの悲しみを受け止めるのは私じゃないの!? 何で……妹じゃ駄目なの? 妹には涙見せられないの? 妹相手に弱みは見せられないの?
あの女がいるから私から慰めを貰わないの? つらいとき、悲しいときの捌け口にしないの? 妹を性欲の捌け口にもしないの?
兄さんなら私をいくら犯してもいいのに。
「あの女をころ--んぐっ!?」
急に後ろから押さえつけられる。兄さんはすべすべしていい気持ちだがこいつの手はざらざらで気持ち悪い。
「んー! んー!」
「お休み茜ちゃん」
薄れていく景色の中後ろにたくさんの男が見えた。何されるか分からず、恐怖を感じたまま意識がなくなった。
以上です。皆様良い夢をー。
自分は同僚を呪っています。
べ、べつに同僚に彼女がいてそれがヤンデレだからって嫉妬しているわけじゃないんだからね!
作品はいいんだが、作者のリアルな絵日記は若干キモいと思う。
>>59 全力で食い付くのがせめてもの礼儀(^-^)
この主人公、兄として最低だな。
あんなこと言われて妹の心配は殆どせずに弁当食べるとか。
人でなしだな。
ともあれGJ。
妹さんには絶対に助かってほしいと思う。
はぁ,,,
ちょっと前までは楽しかったのに
荒らし共はもうあきたか、さすが夏房
63 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 23:46:44 ID:ecg5mzsR
解
64 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 23:58:02 ID:ecg5mzsR
解
リアルにヤンデレなんていない、というかそもそも近づいてくる女がいない俺に何か一言
きっとお前の気づきようの無いところから長い事お前に近づこうとする泥棒猫を排除し続けてきたヤンデレさんがおる
お前はこれまでそうだったようにこれからもずっとその事に気づく事は無い
ツンデレがヤンデレにかわってゆく過程こそ至高
お嬢様キャラならなお良し
最初からヤンデレ100%なのは正直萎えるんだよな〜
病んでいく過程を見たい
>>65 リアルにヤンデレなどまずいないから安心しろ
ヤンデレ体験談なんてほとんど妄想と脚色だ
>>57 これ続くの?
なんか最後ヤバい終わり方してるけど、変な方に向かうならNGしてね。
>>57 妹凌辱なら「ヤマヤミ」みたいに大荒れになるぞ。
亀だがヤンデレ家族GJ
つーかこれ兄貴は気絶してるん?
痛いほど肩を掴んでたのはギブギブって言ってたと?
38: ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:02:21 ID:qlPYhIj20
また規制に巻き込まれました。
初めてこちらの方を使わせてもらいます。
39:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:04:34 ID:qlPYhIj20
第十三話『ピドナ侵攻』
バトゥの従属により、シグナム軍の経略の幅が広まった。
バトゥの騎馬隊は、兵力は千と少ないが、圧倒的な機動力と精強さを誇り、
一介の馬賊ではなく、十分に軍として機能する、とシグナムは見た。
しばらくの間、シグナムはバトゥと騎馬隊を麾下に置き、反抗勢力を討伐していった。
バトゥの活躍は凄まじく、流石は馬賊の頭領をやるだけあり兵法は多少心得ている様だった。
それでも物足りなかったシグナムは、幕下では兵法を説き、
戦中は、机上の兵法と実戦の矛盾について教えた。バトゥはこれ等を真綿の様に吸収した。
ことさら、シグナムと兵法談義をする時のバトゥは、その浅黒い顔を笑みで染めていた。
一度、楽しいか、と聞いてみた事がある。
御大将の言う事ならなんでも、とバトゥは答えた。
シグナムとバトゥが一緒にいる時間が長くなった。
そのせいもあってか、軍中ではシグナムとバトゥが出来ているのではないか、という噂が流れた。
当然、デマである。シグナムには男色の気などない。
この噂は、三日もしない内に消え失せる類のものであった。
しかし、信じた馬鹿もいた。ブリュンヒルドである。
いつもの様に二人で地図上に軍隊を模した石を置きシミュレーションを行なっていると、
表情に怒気を宿らせたブリュンヒルドが、どかどかと幕下に入ってきた。
開口一番に、王族たる者が男色を好むなど、いったいなにを考えているのですか、
女に現を抜かさない……いや、女にも現を抜かしては駄目ですが、
男に現を抜かすなど、不潔でございます、下品でございます、汚らわしゅうございます、
どの様にしてシグナム様を誑かしたのかは知らないが、その行為、万死に値する、
さぁ、そこの醜男、そこに直れ。私が一刀の下に成敗してくれる、
などと、たった一息だけでよくもまぁ、とシグナムが呆れるほどの語気で捲くし立てた。
結局、ブリュンヒルドを納得させるのに三時間という無駄な時間を使ってしまい、
シミュレーションはおじゃんとなってしまった。
シグナムはますますブリュンヒルドが嫌いになった。
男色疑惑はともかく、一通りの教育が終わったシグナムは、バトゥに一軍を率いさせた。
バトゥを一軍の将に任命した理由は、西方攻略に、もう一手加えたいと思ったからである。
シグナムとブリュンヒルドは、比類ない武勇と戦略眼を併せ持った名将であるが、
流石の二人では広い西方大陸を完全に平定するのは不可能であった。
そこに現れたのがバトゥである。
元々の素質もあったが、バトゥは一軍を率いるには十分な才覚があった。
西方攻略の第三手として、これほど的確な人物は存在しなかった。
再び閲兵式が行なわれた。
この式において、シグナムとバトゥは三万五千を、ブリュンヒルドは三万を率いる事になった。
三軍はそれぞれ北・西・南の三方向から軍を進め、
ちょうど大陸の中央に位置するピドナという都市で合流する事に決めた。
既に季節は雪のちらつく冬の季節となっていた。
40:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:05:41 ID:qlPYhIj20
大陸の北部を流れるゾーリン川を越えたシグナムは、
周辺の賊軍を従属、あるいは討伐し、確実に地歩を固めていった。
この北方でシグナムは、逸材と思える人物を二人見つけた。
一人は、トム・スミス。もう一人は、サム・スミス。苗字が示す通り兄弟である。
シグナムは、すぐさま二人の改名を行なった。
トム、改めトゥルイ・ダマスクス、サム、改めフレグ・ダマスクス、とした。
この改名も、バトゥの時と同じく、
あまりにもそこら辺にうじゃうじゃいる名前だったからというのが理由である。
それはともかく、ダマスクス兄弟の率いる元豪族崩れは、北部でも有数の勢力だというのに、
降伏の際、バトゥの時の様な一悶着は起こらず、静々と進んだ。
シグナムは、トゥルイとフレグの顔を見比べた。
トゥルイは栗色の長い髪を後ろで一つにまとめ、糸目でこちらをじっと見つめており、
フレグの方は、栗色のショートで、爛々と光る大きな目でこちらを見つめていた。
髪の色以外、どこも似ていない。兄が静なら、弟は動、とまさに正反対だった。
「あなたがシグナム様ですか。ご武名はかねがね聞き及んでおりますよ。
僅か四ヶ月で大陸の東方を従えたらしいですね。常人の出来る事ではないので、
おそらく鬼の様な人なのだと邪推していましたが、これほど佳麗だったとは思いませんでしたよ」
と、トゥルイが落ち着いた声を出した。どこかのほほんとした声で、気が抜けそうになった。
「それはどうも……。私としても、お前達の様な有力者が味方になれば、
それだけ西方の統一が早まるというも……」
「シグナム様、今までの武勇伝を聞かせてください!」
フレグが元気いっぱいに、シグナムの発言に割り込んできた。
「こら、人様の話はちゃんと最後まで聞きなさい、とあれほど言っただろう。
……すみません、シグナム様。弟がご無礼を……」
「いや……、別に気にしてはいないよ……」
シグナムは片手で頭を下げるトゥルイを制した。
「とりあえず、武勇伝は後でちゃんと話そう。
……それよりも、今、私が一番聞きたいのは……」
シグナムはそこで一息入れると、再びトゥルイに目を向け、
「お前ほどの英邁な人物が、なぜ未だにこの様な辺鄙な所で燻ぶっていたのだ?
お前ほどの実力があれば、もっと勢力を大きくする事など容易かろう。
なぜ私に降伏したのだ?それを聞かせてもらいたい」
と、言った。シグナムは、トゥルイもフレグも将として一級であると見ている。
だというのに、今までこれといった征服活動も行なわず、
あっけなくシグナムの軍に降伏しようとしている。それがシグナムには解せなかった。
なにかを企んでいるのではないか、と考えるのが自然だった。
シグナムの質問を聞いたトゥルイは、頭を掻きながら気恥ずかしそうに、
「実は私、天性の面倒臭がりでしてね。正直、こんな事をしたくなかったんですよ。
ですがどういう訳か、勝手に私の元に集ってくるんですよ、兵が。
そうなると、兵を無駄死にさせないために外敵と戦っていた訳ですが、
いつかは、私よりも優れた人に委ねたいと思っていたのです」
と、言って、そこでいったん区切ると、再びシグナムを見据えた。目には敬慕の色が浮かんでいた。
「そんな時に、あなたがやってまいりました。僅か四ヶ月で大陸の東方を従えた器量は、
私の器量を超絶しています。私はあなたの器量に惚れたのです。だから降伏しました。
これから先は、私達はシグナム様の命令に全て従いましょう。
敵を殺せと命じるのなら、喜んで殺します。死ねと命じるのなら、喜んで死にましょう」
と、トゥルイは言うと、椅子から降りて稽首した。弟のフレグもそれに倣った。
そんな二人を見つめながらシグナムは、変な奴に惚れられたものだ、と頭を掻きながら思った。
41:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:06:39 ID:qlPYhIj20
大陸北部を寒波が襲った。寒波はゾーリン川を凍らせ、豪雪を降らせたので、
ついに前に進む事が出来なくなったシグナム軍は、
アンカラ川(ゾーリン川の支流の一つ)の近くにあるガドに駐屯する事になった。
諸事を終わらせれば、後は寝るだけなのだが、それはあまり出来なかった。
「シグナム様、ゾゾの戦いは、どの様にして戦ったのですか?」
夜になると、フレグが武勇伝を聞きに来るからである。
シグナムとしては、あまり他人に自分の事を話すのは好きではないのだが、
大きな目をキラキラ輝かせながら見つめられると、無視する訳にもいかなかった。
「あれは確か……」
遠い目をしながら、その時の事を語るシグナムはふと思う。
このフレグという男は、なぜここまで純粋なのだろうか、と。
フレグはシグナムより二歳年上の二十歳である。
大人然としていても問題ないはずなのに、時折軽率に動く様はまさしく子供である。
背の低さもそれに拍車を掛けている。
シグナムの身長は176cmなのに対してフレグの身長は165cmとかなり低い。
その上童顔となると、フレグはまさしく子供だった。
しかし、その子供っぽさがこの軍にとっては利になる事は多かった。
フレグの陽気さが、そのまま軍の陽気さとなり、それが周りに親しみやすさを生み、
シグナム軍の印象をよくしているのだから、侮れない。
これもある種の天才だな、というのがシグナムの結論だった。
武勇伝を語り終えて、フレグを見てみると、息をするのを忘れた様な表情をしていた。
顔を紅くしている所を見ると、場景を想像し、興奮している様である。
平和だな、と思いながら、シグナムはテーブルに置いてあるソルティ・ドッグを手に取った。
それを口に含もうとすると、少し息を切らしたトゥルイが部屋に駆け込んできた。
どうしたのだ、とシグナムが口にするより先に、トゥルイは息を整え、
「バトゥ将軍率いる西伐軍が、ウルスの町で包囲されています」
と、急報を伝えた。続けて述べた戦況は、絶望的だった。
ピドナの手前にはテルムという都市があり、そこにはジョニーという土豪崩れがいた。
バトゥはジョニーを降伏させたのだが、それは偽りの降伏だった。
ジョニーは背後からバトゥの軍を襲撃し、潰走させると、追撃し、ウルスまで追い詰めたのだ。
ウルスに篭るバトゥの軍は、離反者が次々に出て千人まで減ったのに対し、
包囲するジョニーの軍は、その離反者を吸収し三万の大軍に膨れ上がっていた。
このまま放っておくと、バトゥ軍は消滅し、三路攻略の構想が崩れてしまう。
しばし考えたシグナムは、おもむろに立ち上がると、部屋から出て行った。
トゥルイがその後を追い、シグナムの前で跪拝した。
だが、シグナムはそれを横目にトゥルイを通り過ぎた。
「シグナム様!」
それが気に食わなかったのか、トゥルイが立ち上がり、大きな声を上げた。
シグナムは足を止め、トゥルイの方に振り向いた。
シグナムの表情は大して変えず、なにも言わないが、不機嫌そうな雰囲気が醸し出ていた。
トゥルイは、失礼、と一言言うと、シグナムの耳に口を近付けた。
「シグナム様、テルム奇襲の任、私にお申し付けください」
トゥルイが耳語した内容とは、そういうものだった。
42:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:07:40 ID:qlPYhIj20
シグナムは相変わらず表情を変えなかったが、
その場から立ち去らず、トゥルイの事を見つめていた。
トゥルイは耳語を続けた。
「北・南伐軍が救援不可能な場所にいる以上、西伐軍に対する援兵はない。
そう思っているが故にジョニーの軍は、全軍を率いてウルスを攻めている。当然、テルムは空。
百人の兵もあれば十分に占領できる。……シグナム様は、そうお考えなのではないですか?」
流石のシグナムも表情が変わった。
トゥルイがまだ誰にも言っていない作戦内容を言い当てたからである。
シグナムの頭には、兵は詭道なり、という言葉が当然ある。
相手の油断に付け込んでこそ戦いに勝てるのだが、シグナムにはもう一つ考えがあった。
それは、味方を騙す、という事だった。
仮に兵にこの事を伝えたとして、それで作戦がうまくいくとは限らない。むしろ、作戦の漏洩や、
そんな事が成功するはずがない、と言って逃亡する兵が出てくる可能性もある。
そうなったら、勝てる戦いも勝てなくなる。
シグナムは、ただなにも考えず、無心で付いて来る様な兵が欲しかったのである。
だから、シグナムは作戦内容を黙っていたのであるが、
トゥルイがそれを言い当てたのであるから、最早黙っている必要はない。
「よく分かったな」
「シグナム様の考える事でしたら、なんでも……」
トゥルイはそう言って、少しだけ糸目を見開いた。その瞳は、透き通った青色だった。
シグナムの表情がむっとしたものになった。
「私の考える事は分かる、と言ったな。ならば、なぜ察しようとしない。
この作戦は、言葉で表せられるほど簡単ではない。言うなれば、死ぬ確立の方が高い作戦だ。
その様な作戦だからこそ、私が直々に指示を出さなければならないのだ。
私の事を理解している割には、どこか矛盾しているのではないか?」
シグナムは、トゥルイの心の内を読む事が出来ないでいる。
トゥルイはシグナムの才覚を認めているはずであり、
本当に察したのであれば、なにも言わず見送ってくれるはずである。
だというのに、わざわざシグナムの出陣を止め、自らが行くと言うのが理解できない。
混乱するシグナムに対し、トゥルイは柔和な表情を浮かべていた。
「確かにシグナム様の才覚は認めます。ですが、シグナム様はこの軍の要石。
いなくなられては困るのです。それに……」
と、トゥルイは言って区切ると、続けて、
「シグナム様は、なんでもかんでも一人でやり過ぎなのです。もう少し部下を信用してください」
と、言った。まるで子供を諭す様な言い方である。
ブリュンヒルドの時に感じた嫌悪感を、この時シグナムは感じなかった。
むしろ、自分の事を心配してくれているという事に甚く感動した。
あまり感動した事のないシグナムは、俯きながらトゥルイをテルム奇襲部隊の将に任命した。
任命した後に、死ぬなよ、と小さく呟くと、トゥルイはそれを聞いていたのか、
過分なお言葉、感激の極みにございます、と言って、その場から立ち去った。
シグナムは顔を片手で覆い、小さく溜め息を吐いた。
43:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:08:39 ID:qlPYhIj20
雪が解け、辺りは若草が萌え出づる春の季節となった。
北方の攻略を完了させたシグナムは、フレグを従えてピドナに向かった。
最早、抵抗らしい抵抗はなかった。シグナムの向かう所、相手は道を開け、従ったので、
三万五千だった兵は、膨れに膨れ、十万に達した。
ピドナの城郭が見えてきた。城壁には既にシグナム軍の旗が無数に棚引いていた。
シグナム達を出迎えたのはブリュンヒルドだった。
満面のブリュンヒルドの隣には、浅黒い肌の男が立っていた。どことなく塩っぽい臭いがした。
「ブリュンヒルド、隣の男は誰だ?」
「あぁ、これはハン(南方の都市)の近くを荒らしていた海賊の頭目にございます。
なかなか見所があると思いましたので連れてまいりました。ほら、シグナム様に挨拶なさい」
ブリュンヒルドが男を嗾けた。男は調子のよさそうな笑みを浮かべた。
「あんたがシグナムか。俺の名前はジョージ。ジョー……」
「お前の名前は、今日からハイドゥ。ハイドゥ・カイシャーンだ!」
間髪入れず、シグナムは男の名前を改めた。
「……ッシュだ。……って、はぁ?ちょ、ま……」
「ブリュンヒルド、バトゥの軍はまだ来ていないのか?」
不服を唱えるハイドゥを尻目に、シグナムは早速気掛りだった事を聞いた。
ブリュンヒルドは、露骨に嫌な顔をして、
「バトゥ……ですか?あれはまだ見えておりませんが……」
と、言った。それを聞いて、シグナムは小さく溜め息を吐いた。
まだトゥルイ軍の奇襲の成否、バトゥ軍の全滅の報告は聞いてはいないが、
状況はまったくよくないという事は分かっている。
シグナムは、ブリュンヒルドとフレグに軍議を開く事を告げた。
ブリュンヒルドは訝しげな表情を浮かべたが、シグナムが状況を説明すると、冷ややかな口調で、
「あの醜男……、シグナム様に抜擢されたというのに、その期待を裏切るだけでなく、
我が軍の顔に泥を塗るとは……。……このまま討ち死にした方があれの名誉になるのでは……」
と、これ以上もないほどの毒をぶちまけた。
シグナムは思わずむっとした。バトゥを貶すという事は、
それはそのまま抜擢したシグナムをも貶すという事に変わりがないからである。
シグナムは出掛かった怒りの言葉を喉で留め、
「そんな訳にはいかないだろう。バトゥの部隊が全滅すれば、三路軍の構想が瓦解するのだぞ。
くだらない冗談を言っている暇があったら、小隊長格以上の者達を早く集めてくるのだ」
と、かえって冷静な声で言った。
ブリュンヒルドは自分の失言に気付いたのか、慌てて跪拝した。
シグナムはそれを見てもなにも言わず、城内に入っていった。
「ちょっ、コラ、俺のなま……うごっ!」
「うるさい、黙れ」
空気を読まないハイドゥに、ブリュンヒルドの掌底が容赦なく叩き込まれた。
ハイドゥは前のめりになって倒れた。
そんな事はさておき、城の一室の作戦会議室には、
既にシグナムや隊長格の者達が、席に着いていた。
軍議の結果、ブリュンヒルドを大将に、フレグを参軍に任じ、
十万の兵で以って、バトゥを救援する事に決定した。
早速二人が軍を編成しようと立ち上がると、見張りの兵が駆け込んできて、
「申し上げます。バトゥ将軍、ご到着しました」
と、大きな声を上げた。
シグナムは急いで、作戦会議室から出て行った。その後を、ブリュンヒルドとフレグが追った。
ハイドゥは、庭で放置されていた。
44:ドラゴン・ファンタジーのなく頃に 第十三話 ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:09:25 ID:qlPYhIj20
ピドナに向かってくる軍の先頭には、バトゥだけでなく、
奇襲部隊を率いたトゥルイも馬を並べて歩いていた。
遠目から見ても、バトゥとトゥルイの鎧兜はボロボロになっており、
それは、それだけ戦いが激しかったという事を意味していた。
シグナムは城門の外に出て、二人の将軍を出迎えた。
バトゥは消沈として俯いていた。戦いには勝ったが、
多くの兵を死なせてしまった事が、バトゥの心を病ませているのだろう。
その事を大いに理解しているシグナムは、バトゥの失策を責めず、
むしろ、よく生きて帰ってきてくれた、と褒めた。
褒賞の言葉を聞いて、バトゥは顔を上げた。
見てみると、やはり自害を覚悟していた様な表情をしていた。
それを見て、シグナムはあえて笑いながら、
「バトゥ、お前、髭が酷い事になっているぞ。
今日は宴会だから、それまでにちゃんと剃ってこいよ」
と、陽気に言ってみせた。それは言外に、この話題の打ち切りを告げていた。
シグナム達が城に戻った頃、一人立っていたバトゥは、その場に崩れ落ちてした涕泣した。
死ぬ覚悟でいたバトゥにとって、シグナムの温言はなによりも心に沁み渡った。
涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている顔をバトゥは拭うと、立ち上がった。
「ありがとう……ございます……」
と、バトゥは誰にでもなく言うと、城の中に入って行った。
45: ◆ AW8HpW0FVA :2010/08/02 01:10:50 ID:qlPYhIj20
投稿終了です。誰か転載の方お願いします。
次回辺りは変歴伝を投稿するつもりです。
職人様お疲れ様です
歯車は妹れいpフラグたってるけど無事でいてほしいなあ
>>80GJ
>>57凌辱はマジ勘弁
そっちむかうなら投下前にちゃんといってくれ
>>80 GJ!!相変わらず先が気になるなぁ
前スレの埋めも乙です
84 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 21:01:58 ID:efSDNGyB
解
乙!!平和が一番だ…
86 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 21:48:09 ID:pF9JdFm/
GJ!
意外とスレ進んでないですね
ぽけもん 黒の続きが気になるのは俺だけだろうか。
職人さん方乙!
歯車は是非とも陵辱は回避してほしい
作者の書きたいように書かせてやればいいじゃないか…
このまま妹陵辱だとしても確かに読後は欝な気分になるだろうがそれでも俺は受け入れるぜ
>>80も続きに期待
そろそろヤンデレ的イベントが来ないものか
90 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 23:33:03 ID:KjIJ+Fs6
リバースの投下を全裸で待機してるのは
流石に俺だけだな
触雷マダ〜?
今月はまだぽけもん黒こないか…
前スレ埋まったな
埋めネタGJ! 面白かったぜ
催促すると荒れるから我慢しようぜ
黙って全裸で待機、これテンプレ
携帯での投下はありですかね?
では、投下させて頂きます
題名は 我が幼なじみです
稚拙な文ですが、読んで頂けたら嬉しいです
100 :
我が幼なじみ:2010/08/03(火) 02:26:33 ID:Y3WYcsmm
俺の名前は崎山 優。 普通に高校に通って、普通に生活している、健全な男子だ。
しかし、最近俺の周りで妙な事ばっかり起こるんだ。
例えば、最近仲良くなった女子が急に不登校になった挙げ句自殺したり、俺を殴った(勿論、ふざけてだけどな)男子が、翌日泣いて謝ってきたり。
俺、何かしたかな?
「おーい!優くーん」
ん?誰か呼んだか……ってなんだ由美子か
黒髪ショートでパッチリとした目が印象的なこいつの名は
山本 由美子
俺の幼なじみだ、昔からよく遊んでいて、幼稚園から高校まで一緒だ、でも最近はクラスも違い、あまり話さなくなっていた。
「由美子か、久しぶりだな」
「うん、最近はあんまり会ってなかったからね、今日は一緒に行こ?」
由美子は笑顔で聞いてきた
「あぁ、別にいいよ」
俺がそう言うと
「むむ…せっかく一人で寂しそうな優君の為にこの私が一緒に登校してあげようと思ったのに、なんでもっと喜ばないのさ〜」
と言って由美子は頬を膨らませた。
「はいはい、どうもありがとー」
正直、悪い気はしなかった。
101 :
我が幼なじみ:2010/08/03(火) 02:29:00 ID:Y3WYcsmm
何故かと言うと
由美子は顔は少し幼さが残ってはいるが、身長は女性の平均より少し上、オマケに胸はとても大きい、そして、性格は優しく、そして明るく、頭は良い、当然学年のアイドルだ
それ故何度も告白されたことがあるらしい、結果がどうなったのかは、俺も詳しくは知らないが。
少し話しは逸れたが、それ程の美人と一緒に登校できるんだから、幼なじみでもそりゃあ嬉しいさ。
「どうしたの?優君、さっきからボーっとしてるけど?」
由美子が不思議そうに顔を覗き込んでくる
「ん?あぁ…何でもないよ」
102 :
我が幼なじみ:2010/08/03(火) 02:31:14 ID:Y3WYcsmm
由美子と登校できてうれしいよ。なんて臭いセリフ、口が裂けても言えない
「そう?ならいいけど……あ!そういえば、この前の数学のテストで満点取ったんだよ〜」
「そりゃ凄いな」
信じられない……あのテストは恐ろしく難しくて、俺のクラスは平均点が半分以下だったのに……
ちなみに、俺のクラスにはあまり頭が悪い奴はいない
「えへへ〜だから〜ご褒美頂戴!」
そういえば、昔っから由美子はやたら甘えてくる奴だったな
「ご褒美って何だよ」
「うぅ〜……えっと〜その〜」
由美子は俯き、その場でもじもじしている
「なんだよ、もじもじしやがって、気味わりぃぞ?」
俺は茶化すように笑って言った
すると、由美子は顔上げて言った
「あのね?頭ナデナデして欲しいの……」
顔に熱が籠もっていくのが分かる
「へ?い、意味分かんねーよ!」
周りの目も気になるから、断ろうとした……が
「駄目かな…?」
由美子が上目遣い+うるうるした瞳で、俺を攻撃してくる……こんな頼み方をされて断るなんて、俺には出来ない!
「べ、別に駄目じゃないけど!」
何故か、中途半端なツンデレっぽくそう言って、俺は由美子の頭をなでた
「ん……ありがと……」
由美子はとても気持ちよさそうに目を瞑っている
「いや……別に」
そこで、俺はあることに気がつき、手を離した
「これ……誰かに見られてないよな?」
すると、由美子は首を傾げて言った
「どうして?」
「そりゃあ……やっぱり恥ずかしいし、それに一緒に登校してるなんて、男子にバレたらな……」
きっと、男子にバレたら大変な事になるだろうな
何をされるか分かったもんじゃない
「優君は……私と一緒は嫌かな……?」
由美子が泣きそうな声で言った
103 :
我が幼なじみ:2010/08/03(火) 02:33:02 ID:Y3WYcsmm
「そんなことはないよ!?楽しいし!」
慌てて、俺はフォローする
「そう……?なら良かった!」
すると、すぐに由美子は笑顔に戻った
よく見ると、由美子って喜怒哀楽の変化が激しいな
「優君、今度からは一緒に学校行こ?」
突然の提案に、俺は少し驚いたが、折角誘ってくれたんだ、断る理由はない……まぁ、男子の問題もなんとかなるだろう
「あぁ、いいよ」
「本当!?やったぁ!」
そう言って、由美子が手を上げて万歳をした
それにしても、俺と一緒に登校して、楽しいのだろうか
「そんなに喜ぶ事じゃないだろ?」
「ううん、私は嬉しいよ」
物好きな人間もいるんだな
「そうか?」
「そうだよ〜優君といると楽しいもん」
一体、俺なんかのどこが楽しいんだろう
「どこが?」
「色々だよ」
「ふ〜ん……よく分からんな」
ふと腕時計に目を向ける……
「おい!時間がヤバいぞ!」
既に遅刻までの時間が僅か五分だった
「え!?本当!?」
「走っていくぞ!」
「あ……うん!」
俺達は急いで学校に向かった
以上で投下終了です
アドバイス等があれば、どんどん言って下さい
シンプルなんだが新鮮でなかなか初々しくて面白かったぞい。
nextが楽しみだ
<シンプルなんだが新鮮
<ぞい。
<next
どれから突っ込んでほしい?
107 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 03:29:08 ID:R+iw1t0x
全部突っ込んでほしいなんて淫乱だな
109 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 04:54:02 ID:+b1EP9QJ
どっちも荒らし
それに一々反応する俺も荒らし
はい、終わり
113 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 15:31:20 ID:zOy7/vzT
『裏』の二話目ができたので投下しようと思います
ではどうぞ
114 :
僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/08/03(火) 15:32:55 ID:zOy7/vzT
わたしは昔、雨宮くんの隣の家に住んでいた。いわゆる幼馴染というやつだ。
小学生の頃のわたしは、自分でいうのもあれだけど、誰からも好かれる人気者といえる存在だった。
そんなわたしにも、もちろん好きな人はいた。
それが、雨宮くんだ。
昔の雨宮くんは、いつもわたしの隣にいて、嬉しかったら一緒に笑ってくれたし、悲しくて泣いた時は一生懸命慰めてくれた。
雨宮くんはいつもわたしのことを気にかけていてくれて、自分のことなんて後回しにしていた気がする。
わたしの幼少時代の思い出で、雨宮くんがいない思い出はない。
その頃のわたしにとって、雨宮くんはわたしの半身と同じような存在だと思っていた。
そして、その日常はずっと続くものだと、そう思っていた。
しかし、子供の頃のわたしは分かってなかった。
だから、子供の頃のわたしは気づいてなかった。
大切な日常というのは簡単に崩れてしまうものだということを……。
115 :
僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/08/03(火) 15:39:04 ID:zOy7/vzT
わたしの日常が崩れてしまったのはわたしが小学六年生の時だ。
その日もわたしは学校が終わった後、いつものように雨宮くんと一緒に帰宅し、自分の部屋で本を読んでいた。
すると、突然部屋の扉が大きな音を立てて開いた。
そこには、雨宮くんの妹の藍里ちゃんがいた。
藍里ちゃんは、わたしの目の前まで来ると、わたしに包丁を突きつけた。
子供の頃のわたしは、いきなりのことに驚き、怯えていた。
彼女は壊れた玩具のように言葉を発した。
「お前が兄様を誘惑したんだろう!お前が兄様を誘惑したんだろう!わたしの兄様を!わたしの兄様を!汚らわしい!汚らわしい!わたしの兄様を返せ!わたしの兄様を返せ!お前がお前がお前がお前がお前がお前が!」
彼女の小動物のような愛らしいはずの瞳は濁っていて、包丁を握っていない方の手は強く握りすぎて血が垂れていた。
わたしは彼女という恐怖から逃げるように、一心不乱に弁解の言葉を言い続けた。
すると、彼女は拉致が空かないと思ったのか「明日兄様がお前に告白する!だからお前は今からわたしが言う言葉を一字一句間違えずに言え!もしその告白を受けたら絶対に殺してやる!」とわたしの喉に包丁の先を少し押しつけた。
わたしの喉から紅い雫が一筋垂れる。
その時のわたしに選択肢は一つしかなかった。
116 :
僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/08/03(火) 15:39:57 ID:zOy7/vzT
次の日。
わたしは雨宮くんに告白され、彼の妹に言えと言われた言葉で彼を振った。
彼が去った後、わたしはその場て膝をつき、自分の顔を手で覆った。
涙が止まらなかった。
なんで彼を悲しませなければいけなかったのか……いつも優しくしてくれていたのに……。
なんで彼を振らなければいけなかったのか……好きだったのに……。
もう彼の隣にいてはいけないのだろうか……彼を振ってしまったから……。
わたしは思った。
そんなのは嫌だ。
彼のいない生活なんて考えられない。
彼のいない世界なんて生きてる意味さえない。
彼はわたしの半身?
その程度なはずがない。
彼はわたしの全てだ。
その全てが、奪われた。
だから、取り返そう。
どんな手を使ってでも、悪魔に魂を売り渡しても、腕がもぎ取られても、足が切断されても、腹がえぐられても、たとえ命を削っても、彼がいれば他に何もいらない。
彼がわたしに笑いかけてくれればいい。
彼と一緒に人生を歩んでいければいい。
彼もそれを望んでいるはずだ。
あんな女、いや、あんな彼に寄生している寄生虫なんかにわたしと彼の幸せを邪魔する権利はない。
早くわたしと彼の幸せを取り戻すためにあの寄生虫を排除しないと……。
117 :
僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/08/03(火) 15:42:15 ID:zOy7/vzT
家に帰ると、珍しく母親がいた。
「桜、話があるの」
母親は続けた。
「わたし、再婚することにしたの」
どうでもいい。
「よかったね」
わたしがそう言うと、母親は微笑んだ。
「紹介するわ。入ってきて」
どこに潜んでいたのか、顔を真っ青にした男性が部屋に入ってきた。
「柏木宏明さん。歳はわたしと同じで柏木グループのお偉いさん」
柏木グループといえば世界的にも有名な企業だ。よく母親がそんな人を捕まえられたなと思う。
「そんな訳で、引っ越しするわよ」
……え?どういうこと?……ああ、そうか。宏明さんとやらの家に住むことになるのか。
「何時引っ越しするの?」
あいかわらず勝手に話を進めて唐突にそれを言う人だ。その日時によっては早めに彼を取り戻さないと……。
その後は彼の両親と話をして、その宏明さんの家に彼を連れて行くための準備を……
「今からに決まってるじゃない。なにいってるの?」
…………。
…………。
…………。
本当に……唐突だ……。
次の瞬間、わたしの首筋に母親がスタンガンを押しつけていた。
「ちょっとごめんね。桜」
バチィッ、と音がなり、わたしの意識は飛んだ。
118 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 15:48:09 ID:zOy7/vzT
今回はこれで終わりです
楽しんでいただけましたでしょうか?
一応本文の補足を
『裏』の1と2の妹の台詞で異なる部分がありますが、仕様ですのでお気になさらず
それと、書き込み中に抜けてしまった部分があり、つじつまの合わないところがあるかもしれませんが、それもどうか気にせずに
それでは、ありがとうございました
また次回
>>118 待っていた!GJ!
しかしだな…桜の母親スタンガンとかぶっ飛んでるなw
120 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 17:47:56 ID:CPTw+LVM
解
GJ!
母親最悪だなwwww
とてもおもしろかったです
122 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 19:52:18 ID:A+cBzRT6
解
GJ!!
だけどちゃんとsageはしようぜ
作者がsageなかったら感じ悪くとられてしまうかもしれないから
待ってました、GJです!
やっぱりフったのがわざとだったコトにホッとしました。これからの挽回に期待です
ヤンデレ家族のはつきさんが山岸由花子の口調にそっくりと気づいて以来脳内変換されてまうんだが
gj
まったく、なんて良い作品を作ったんd
((((;゚д゚)))
ちょっと待ってて今呼ばれたから・・・・
127 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 09:19:25 ID:ReRkpR8Y
夏厨が沸いてるな
夏厨は無視しよう
ヤンデレってこの暑さでも活発に動けるのかな?
>>131 むしろ、興奮状態で目が野獣の如くギラギラ輝いてると思う
(熱中症で倒れたらきっと男君なら介抱してくれるはずよ!)
男君を背にして立ったヤンデレさんは、火炎放射器を構える。
デート中、愛しの彼に近寄ってくる邪魔者を蹴散らすために。
「男君のお通りだーっ! 汚物は消毒だーっ!」
埋めネタ読んで気になったんだが、鳩尾に左フックってどうやんだ?
>>131 なんか動物の行動について効いてるみたいでクソワロタ
こんばんわ。軋んでいく歯車投稿します。
ちなみに作者は和姦は好きですが陵辱は嫌いでしたり。
あ、でもヤンデレが主人公を無理やりって陵辱かな?
自分的にはそれ好きだから嫌いじゃないのかも?
今回は妹視点です。ではどうぞ。
「ん……」
目を覚ますと薄暗い場所に私はいた。かび臭く埃っぽい。天井や壁の隅のいたるところに蜘蛛の巣があった。
首には首輪、脚には縄で縛られており背中にある腕はバレーボールの柱に縄で固定されていた。
「すごい手の込みよう……」
私は閉じ込められたことを感じさせるには十分なほどだった。これから何されるかは少しは検討がつく。
「目が覚めたのか。やっとかよ。目覚めはどうだ? 茜ちゃん」
「最悪の目覚め。すごく気持ち悪い」
確か倒れる前にあったことは……ああ、兄さんと知らない女の会話か。
「そんなこと言わないでよ。茜ちゃん。そういえば茜ちゃんはどうして野球部のマネージャーを辞めたんだい?」
ああ、そういえば野球部のマネージャーやってたね。兄さんの妹として恥ずかしいことにならないためにも入ってたんだ。
「あんたたちがマネージャーを呼び出して性欲処理させていた。なんて知ったらだれでも抜けるわよ」
顧問公認のマネージャーへの強姦。最低な顧問だし、それを実行している最低な部員だ。
「そんなことしているから甲子園に行っても優勝できないのよ」
なかなか強いが所詮その程度だろう。こんな女をものとしてしか扱わない部活が優勝できるはずがない。
「言うじゃねえか。立場わかってんのか? あぁん?」
もう一人の男が私の髪を引っ張る。
「触らないで!」
兄さんが褒めてくれた髪をこいつらの手が触るなんて……
「チッ、さっさと犯しちまおーぜ」
「まだ待てよ。あと三人くればいいだけなんだから」
やっぱり陵辱か。男って短絡的だ。
「そうだ。いい事教えてやるよ。お前の兄貴いるじゃねえか。あいつ元野球部だぜ」
え……兄さんが野球部? あの兄さんが? あの優しい兄さんが女を無理やり……?
「兄さんが女を無理やりなんて!! やるわけない!!」
「確かに兄貴はやってないな。護ろうとして俺らを殴って退部になったからな」
や、やっぱり違うんだ。よかった。兄さんがそんなことしないからな。
「でも、お前がなぜ野球部のマネージャーになったか分かるか?」
「え、それは自分で決めて……」
「兄貴はお前の扱い方知っているんだよ。お前は反対されるとそっちに行くってな。実はな、お前の兄貴が俺らに攻撃されていない理由は……
お前を来年野球部のマネージャーにするから助けてくれと頼まれたからだよ」
「そ、そんなわけない! 兄さんが私を売るなんて! そんなわけ…… 違う! 違う違う違う!! 兄さんは違う! わが身可愛さにそんなこと!!」
「でも事実マネージャーになっただろ? まあお前がマネージャー抜けなければお前の兄貴の合成写真なんて作らなくてもよかったし。
さっき階段から落とさなくてもよかったんだよ。つまりお前自身が兄貴を追い詰めたんだわかんないかな? それにしてもうるせえな。
ガムテープかせ。こいつの口を止めるから」
「はいっと」
もがいたが殆ど繋がれているため私の抵抗は無意味に近かった。
「んーんー!!」
呻いていると扉が開かれる。兄さんだと嬉しいけど……ありえないだろうな……。
「もうやってんのかよ。うわ、ガムテープしてると口の中にいれれねぇじゃん!」
「仕方ないだろ。まあ躾けたらいくらでも出来るから気にすんなよ」
どうせ兄さんはあの女とイチャイチャしているんだろう。私なんか。私なんて居なくても変わらないんだね。
ああ、そうだもんね男に売ったのだから要らないってわかるね。
「さていい加減犯してやるよ。メンバーも集まったしな」
私の目の前には五人の男がいる。どいつもこいつもズボンに手をかけていた。
でも兄さん。どんなに要らなくても初めては兄さんがよかったな。
「待て!!」
体育館に光が漏れる。男達はみんな光が漏れ、声が聞こえたほうを向いた。
扉は少しずつ開かれていく。
私を見捨てたはずの兄さんがどうしてと思ったが嬉しかった。だって私はまだ要る存在だと分かったからだ。
「悪逆非道……暴虐の限りのやつらは纏めて始末する!!」
兄さんかと思ったら人影は違った。身長は兄さんぐらいだったがその影は金髪の長い髪をなびかせて変わった女子の制服を着ていた。
え? なにこの痛い人。
「「「だれ? お前?」」」
「あ、あれはアニメの人気キャラの制服姿のコスプレですよ! すげぇ似合ってる!! というか本物!?」
「お前オタクだったのか?」
「アニメ見てるだけでそれはひどいっすよ。キャプテン!」
たしかに似合っている。でもどうしてそんな子はここに? 兄さんが雇うのはおかしい。雇うぐらいなら自分でくると思うけど……
「許せないな。陵辱なんてする女の敵は全員……身の程を分かってもらわないと」
なんか脊髄反射で笑いが込み上げてきた。どうしてだろう。似合っている。違和感もない。違和感がないのが不思議なのかどうしてか笑いが止まらない。
「キモいんだよ! クソ女」
一人の男が女の子に殴りかかる。『体格の差、それに性別の差がある。勝てない』としかしその予想は裏切られた。
少女は少し横に体をずらして避けたところに横っ腹に思いっきり蹴りを入れていた。少女より大きい男は紙のように吹っ飛ばされる。
「ごめんなさい。脚が滑ってしまって」
「あれが滑った!? あれでか!? 確実に狙わないとあんなに鋭い蹴りなんてお見舞いできないぞ!!」
男のケガなんて気にしない冷酷な顔で私に近寄っていく。どうやらあの人の仕事は私を助けることだろう。
「まてよ! 俺たちに断りもなく近寄んじゃねぇよ」
もう一人の男が横から出てきて殴りかかってくる。いやあの野球部バカだと思う。そんな声上げたら奇襲なんて出来るわけ無い。
不意打ちした男は殴りかかったときの勢いを利用されて背負い投げされる。床に思いっきりぶつかり倒れる。
「すまない加減はできない」
スタンガンなんて物騒なものをクククと笑いながら首筋にお見舞いしている。
びくんと跳ねる男を見るとスタンガンを離す。しかしそのあとに顔を蹴る。人を傷つけるのに躊躇い無いのだろうか?
というか……あの男生きているのかな? なんか危ない気がする。
「あと三人だな。わたしも忙しいんだ。さっさと来い」
一体この人は何ものなんだ? 自分よりも頭一つ分以上大きいやつら相手に引けをとらないなんて。
「お、おいお前行けよ!」
「いやお前の方が握力強いだろ!」
握力って殴り合いにまったく関係ないと思うんだけど……所詮握る力だし……
「落ち着け! 三人で襲い掛かればいいだろ!」
キャプテンと呼ばれた男が当然の作戦を二人にいう。厄介なことになってしまった。さすがに三対一ではきついだろうな。
「そうだよな。別に一対一でなくていいんだよな……」
三人の男はバットを取り出した。もし私が反抗したらバットで殴るつもりだったんだ……。そう思うと寒気が止まらなくなった。
「ふん、武器無い相手に武器を使うというのか。いいだろう。こちらは素手で相手になってやる」
どんなに強くても相手が武器を持って取り囲まれたら終わりだ。
男達が少女を囲む。三人だが図体が大きいので簡単に取り囲める。私は少女が命乞いすると思っていた。しかし違った。
少女は目の前にいる男の腹を殴りつける。男がよろめいた隙に肩を踏み台にしてこちらに飛んでくる。
第二体育館は小さいためすぐにこちらにこれる。少女は懐からナイフを取り出して手の縄と足の縄を切った。
けれども他の二人の男たちが襲い掛かってくる。けれども少女は私の口についているガムテープをとっていた。
とり終えたあとすぐに私に向かい合う。
「はやく逃げろ」
少女は私にそう一言言うと私の前に壁のように立ちはだかる。
「で、でも……」
「いいから!」
でも情け無いことに腰が抜けて動けなかった。
「ちっ!」
少女は私を覆うように抱きしめた。その温もりはどこかで感じたものだった。
「え……兄さん……?」
少女はぽかんと思考してから気まずそうにする。兄さんだったんだ。だから笑いそうになったんだね。私。
「調子にのんじゃねぇよ!!」
「ぐ……あ!!」
兄さんの背中に金属バットという凶器が振り下ろされる。
「兄さん……」
「だ、大丈夫……俺ならさ。だから笑顔でいてくれよ。ぐっ……」
大丈夫なわけ無い。あいつらの目は本気だ。このまま殴られたら兄さんが死んでしまう。
「駄目、それだけは……」
兄さんは痛みからひたすら耐えている。苦しそうにするが一瞬だけ。私を見ると微笑んでいた。
なんで悪いことした奴らには痛みがすくないの? なんで正義の味方の方が痛みが多いの?
世の中は理不尽だ。どうしてそうなるんだろう。どうして兄さんばっかり傷つくのだろう。
「そうだ……」
そうだ。兄さんを傷つける奴は殺してもいいじゃないか。あんな社会のクズを殺したって悲しむ人はあんまりいないし……
兄さんが使ったナイフが脇に落ちていた。それを拾い。私は兄さんの横にいる奴の顔に投げつける。
「こら、だめ……だろ……。人にそんなもの投げつけちゃ……」
ナイフは兄さんの腕に刺さっていた。なぜ……なぜ庇ったのだろうか。あんなゴミなんかを。
兄さんを傷つける最低の人間を。
「苦しくないの? 兄さん……」
「く、苦しいし痛いけどさ……ぐっ!! 妹が俺を見てくれる限り俺はいくらでも耐える……よ」
私は泣きそうになった。いい意味でも、悪い意味でも。悲しくもあり嬉しくもあった。
兄さんの頬にふれる。たぶん兄さんはそろそろ気絶してしまうだろう。これ以上耐えれるわけ無い。
「そこまでだ!! 新條葵の名においてこの戦いやめてもらえるか?」
第二体育館の扉が開き、名乗る人物がいた。
「うるせぇな! 女が勝てると思うんじゃねェヨ!!」
こいつらは余裕そうだった。兄さんはもう戦闘には参加できない。ということは葵さん一人で戦うしかないのだ。
明らかにこいつらの有利。けれども葵さんは不敵に笑う。
「何がおかしいんだよ!」
「いや、なに。なんてことはない。私は準備をするのが好きでな。罠とかを仕掛けるのも嫌いじゃない。そんな女が何も準備しないでくるか?」
その言葉に三人の男が固まった。準備万端の状態で来ているというのだ。葵さんは。
よく考えてみればそうだ。先に兄さんがきた。普通なら葵さんはそのとき一緒に行動していると考えられるはずだ。
けれども一緒に行動せずにいたということは……準備をしていたのだろう。
「大人を三十人ほどつれてきた。それでも喧嘩売るか?」
男達はすぐさま逃げていった。意外に小心者だ。
「大丈夫か? 卓也に茜。さすがの私もヒヤヒヤしたぞ」
「すいません。会長」
「そういえば兄さんどうして女装を?」
ふと思った疑問。聞いてもいいと思う。むしろ聞かせてほしい。
「あ、それは」
二十分前になるんだけどと前置きしておいてから語り始めた
「たくやん!!」
教室に入った瞬間正敏が俺に近寄る。かなり焦っているがどうしたのだろうか。
「茜ちゃんが攫われた」
「な、教室にいただろう!? まだ普通は飯時のはずだし教室からでてないんじゃ!!」
自分の未熟さを痛感した。なにが飯時は安全だ。教室に居ただろうに思いっきり攫われているじゃないか。
「とりあえずこれをみてくれ」
正敏は小さい液晶テレビをカメラに繋げる。そこには妹が担架のようなもので三人の男に運ばれていた。
「これは……どうみても盗撮じゃないか!!」
「「「ツッコミ違っ!?」」」
前に一度やったことだからもう一度やっておかないと駄目な気がしたんだ。
「とりあえず〜飯は置いといて助けに行ったほうがいいかもね〜」
いつものゆったりな喋り方に戻り俺を見つめている。
だよなー。行かないと駄目だよな。体痛いけどきっと正敏も助けてくれるだろうし。
『えー、二年四組、杉岡卓也。至急職員室に来てください。繰り返します。二年四組、杉岡卓也。至急職員室に来てください』
「あ〜もう! 相手も〜手うってくるのはやいな〜」
「どういうこと?」
正敏は衣装を取り出して俺に手渡す。これはいったい?
「う〜んとね。たぶんこれ教師も一枚噛んでると思うんだよ〜たぶん横岡かな? 教師なのに茜ちゃんに告白した噂あるしね〜」
妹ってこんなにもてていたのか……意外すぎる。そりゃ可愛いけど、性格酷いと思うんだよ。
「スーパーから〜監視カメラの映像記録もらってきたよ〜。これがあれば分かると思うよ。その日は〜入店してないって〜」
懐からDVDをとりだす。それが映像記録なのか。ふむふむ、初めてみたな。
「ま、今外にでればたくやんがしたと思っているやつは捕まえて職員室に連れて行くだろうね〜だからそれを着て〜」
「わかった、んで妹はどこに行ったか分かるか?」
「たぶん〜カメラから推測するに今は使われていない第二体育館かな〜あそこなら人こないからあんなことやこんなことするには
うってつけだねぇ〜。僕は職員室に行くから〜。健闘を祈るよ〜」
「ああ、正敏こそ」
「僕は負けないよ〜こんなこと朝飯前だし〜それに〜友達兼最高の恋人のためなら!!」
「最後の一言無し!!」
一言言うと走って教室から出て行ってしまう。職員室に向かってくれたんだろうな。さて、俺の方も行かないと。
服を取り出すとそれは俺の予想してなかったものだった。
「これかよ!? よくこんなもの手に入れてるな!!」
まじまじと渡された服を見る。これを着ていくのは恥ずかしいけど仕方ない……妹を助けるためには必要だよな。うん。
「ということだ。わかった? 二人とも」
「ああ、しかしよく無事だな。バットで殴られていたというのに」
「これがあったからさ」
兄さんは背中に入れているものをとりだして私と葵さんに見せる。なにやら透明で薄い板だった。
「神崎財閥開発の衝撃吸収ゲル(板)!」
「正敏の会社の試作品か?」
そういえば忘れちゃうけどまっさんは世界有数の大富豪、神崎財閥の御曹司なんだよね……
「そうそう。実験ついでに使ってくれって紙に書いてたんだよ。このウィッグにも入ってる」
「かなり丈夫だな。これなら量産してもいいだろう」
「けどさすがに衝撃少しはくるから痛いけどね」
だからあんなに耐えることが出来たのかと少し納得。
「兄さん……保健室に行こう」
「ああ、そうだな、いてて」
私は兄さんに肩を貸した。少し渋っていたが今日は珍しく素直に私を頼ってくれた。
「私はこいつらを部下と一緒に縛っておくから先に行っててくれ」
葵さんは少しガラの悪い男達になにやら指示をしていた。なにを喋っているかは分からないが野球部の男を引きずっているから処分を聞いているのだろう。
私は少し、ほんの少しだけ葵さんに感謝する。
「兄さん。ごめんね」
「どうかしたのか? 謝るのはこっちだよ」
「ううん。私、兄さんを信じられなかったもん。それにナイフで傷つけちゃったから。だから謝るの」
「それなら俺もごめんな。すぐに助けれなくて」
「気にしないでよ。そういえば女装何時やめるの?」
「え、うーん……今日はこの格好でもいいかもな」
「それなら変態だよ」
「そうだよな、ははは。まあ俺の制服は教室にあるから、教室に戻ったら着替えるよ」
「うんわかった。それじゃ保健室にいこっ!」
兄さんをもう少し強く引っ張って保健室に向かう。あの女のことは忘れていないが今はただ兄さんのそばにいようと思った。
以上です。
主人公戦闘能力に特化しすぎているかも……その代わりバカだからいいよね。
それではお休みなさい。明日もよい一日を。
GJです!
続きが楽しみですよ〜
欝展開は無かったか。良かったぜ。
>>138 >あ、でもヤンデレが主人公を無理やりって陵辱かな?
我々の業界ではご褒美です。
告白して恋人になる前に言っておくッ!
おれは今三十路女の結婚への焦りをほんのちょっぴりだが体験した
い…いや…体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……
,. -‐'''''""¨¨¨ヽ
(.___,,,... -ァァフ| あ…ありのまま 今 起こった事を話すぜ!
|i i| }! }} //|
|l、{ j} /,,ィ//| 『おれは友達のつもりでデートを楽しんでいたと
i|:!ヾ、_ノ/ u {:}//ヘ 思ったらいつのまにか婚姻届けを出されていた』
|リ u' } ,ノ _,!V,ハ |
/´fト、_{ル{,ィ'eラ , タ人 な… 何を言っているのか わからねーと思うが
/' ヾ|宀| {´,)⌒`/ |<ヽトiゝ おれも何をされたのかわからなかった…
,゙ / )ヽ iLレ u' | | ヾlトハ〉
|/_/ ハ !ニ⊇ '/:} V:::::ヽ 頭がどうにかなりそうだった…
// 二二二7'T'' /u' __ /:::::::/`ヽ
/'´r ー---ァ‐゙T´ '"´ /::::/-‐ \ デート商法だとか結婚詐欺だとか
/ // 广¨´ /' /:::::/´ ̄`ヽ ⌒ヽ そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
ノ ' / ノ:::::`ー-、___/:::::// ヽ }
_/`丶 /:::::::::::::::::::::::::: ̄`ー-{:::... イ もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ…
>>138 ここで鬱展開したら叩かれるからな…ほんと良かったぜ
だけど逆レイプは大歓迎、いや大歓喜だな
149 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 11:44:52 ID:/EgkDwNI
>>138 妹が可愛く見えて仕方が無い
首輪してつれまわすとか明らかに異常すぎて誰か気づくだろ…
アホの集まりだな野球部…
兄はいったい何のコスプレをしたのだろうか
レイプ回避したら回避したでご都合主義と言いたくなる
今更何を…ヤンデレ娘も常にご都合主義だぜ。お嬢様とか隠蔽工作とか
152 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 14:07:05 ID:DNDV6c09
ざつだんたのしい
めだかはやっぱり糞だったな
ヤンデレじゃなくてただの尻軽ビッチ
西尾なんざしょせんあの程度か
154 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 18:59:04 ID:DNDV6c09
宣伝乙
__ __ _
. _ , '"´ ,. _ ___`丶、
/ ` / /´-‐ァー-ヽ \
. / /下7 ..///.:.::/ .:.:ト、 ヽ キモヲタには興味ありません。
/ └イ_j/ .://;へ、/!.:.::/:.}ヽ ',
,' ///!l .::j.:lイ仔くヽ/,.イ,.ム:.', l
, '〈/f`| l ::l`' ゞゾ '´ rャjノ::.l:. | この中に年上のダンディーな人、Hの上手なおじ様
| l:l :!:{、| l ::| マソハ: |:: | デカチンのおっさんがいたら私のところに来なさい。
| l:l::i个| l ::l! l⌒ヽ′} .:}:.l:: l
| lハ:l::{::', ::::{、 ヽ.ノ /.:/::.l:: l
l !:|:::',::',::ヽ:::ヽ\._ /.:/::::/l::;!
. ',::{:{、:::ヽ\:\;ゝ `「:フ´!::::/;:::/ 〃
. ヾハj>''´ ヽ ト、_..上くイ::::{ {::{/ |ヽ | |_ 「 〉
/⌒ヽ、\ ` \-ー ̄\ヾ ⊥ 人_ _|_ |/
/ ヽ \\ \´ ̄`ヽ、 O
. l ', \\ \ __| \
. | ', \`ヽ、 ∨n| } ト、
156 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 19:42:08 ID:lv8+fulX
解
「触雷!」早く更新来ないかの…紅麗亜の妹たちがどんなのか楽しみだ
158 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 13:19:27 ID:FxV/k5GU
解
我が幼なじみの二話を投下させて頂きます
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
学校
俺達はなんとか学校に着き、由美子と別れ、自分のクラスに入ると、数人の男子に囲まれた
やはりバレていたか
「おい!崎山!お前、今日山本さんと登校してただろ!!しかも何だよアレ!?頭撫でるとかお前、山本さんとどういう関係なんだ!!」
しかもナデナデもバレていたとは……マズいな
「落ち着けって!別に、ただの幼なじみだよ!」
流石にこれだけじゃ無理があったか?
「なぁにぃぃ!?『ただ』の幼なじみだとぉぉ!?うらやましい!!うらやましいぞぉ!崎山ぁぁ!!」
俺は、凄まじい気迫によって、顔を合わせることも出来ず
思わず時計を見ると、既に8時35分を過ぎていた
先生はそろそろくる筈だ……
「おい、もういいだろ?そろそろ先生来るから座れって」
「ちっ……まぁ今は勘弁してやるよ」
ふぅ……案外、あっさり引いたな、アイツら
「ただの幼なじみか……」
ん?今、由美子の声が聞こえたような気がしたが……
気のせいか?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
放課後
俺が、校門を出ようとすると、そこには何故か妹がいた
妹は俺に気付くと、こっちに走って来た
「お兄ちゃ〜ん、一緒に帰ろ?」
「まて、何で風奈がいる」
コイツの中学はもっと遠い筈だ
「お兄ちゃんと一緒に帰りたいからだよ!」
風奈が顔を赤くして言った
それにしても……そんな理由でわざわざ電車に乗ってまで来たのか……
こいつの名前は 崎山 風奈
俺の三つしたの14歳だ
身体はとても小柄で、中学生とは思えない程幼い顔立ちをしていて、とても可愛らしい
そしてこいつは重度のブラコンであり、俺とは血が繋がってない。
風奈は、親に捨てられた。
俺はそれしか知らないし、風奈を捨てるような親がどんな奴かなんて、知りたいとも思わない
「まぁ、ここまで来たんなら仕方ないか……」
「ねぇねぇお兄ちゃん」
風奈が、俺の裾を掴んできた
「ん?どうした?」
「風奈はね?お兄ちゃんのことが大好きなんだよ!」
相変わらず可愛らしいなぁ、下手したら小学生に間違えられるんじゃないか?
それと、一応言っておくが、俺はロリコンじゃないぞ
「そっか、俺も大好きだぞ」
結局、そう言うと、風奈は顔を真っ赤にして俺の手を握ってきた
「えへへ〜両想いだね!」
う〜ん、何かが違う……違うけど、違うって言えない……
「そうだな〜、じゃあ帰ろっか?」
そう言って、俺は風奈と一緒に帰った
風奈は終始笑顔だった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
由美子
今日は優君と一緒に帰りながら、キャッキャウフフしようとしたのに、優君は教室に居なかった。
でも優君は校門のところですぐに見つかった。
私が声をかけようとしたら、どこからともなく、あの糞虫がやってきて、あろうことか優君と一緒に帰ろうとしてる。
崎山 風奈
私たちが、中学三年生の時にいきなりやってきて、私と優君の仲を邪魔してきた。
ああもう、邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!!
しかも優君と手を繋いでる!?
さらに大好きとかほざいてる!!
……優君も何で大好きなんて言うの?
……あ!!そっか〜優君ってば、あの糞虫の毒に犯されてるんだね!!
……
許さない……絶対に殺してやる……
でも、簡単に殺しちゃつまんないなぁ
そうだな〜……例えば、自殺まで追い込んでやるとか……
それとも、後輩に頼んでいじめさせようかなぁ
えへへ〜楽しみだな〜
……優君は、私だけのモノなんだから、他の誰にも渡さない
もしも、私と優君の邪魔をしようものなら
殺す
誰であろうと、たとえ、それが優君の妹でも親でも友達でも先生でも……誰だって!
殺してみせる
以上で投下終了です。
ありがとうございます
うわ!題名抜けてました!すいません
いいよいいよ〜(^-^)
167 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/06(金) 23:12:42 ID:FxV/k5GU
解
GJです
久しぶりに投下された気がする
170 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 10:00:13 ID:oRU9M0pq
171 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 11:01:51 ID:PtvkZLmg
しね
>>170 欲求不満かね……
それにしても最近作者のアップが極端に少なくなったな。夏バテか!?
俺は伝説の超ヤンデレェ…を見るまで絶対に死なん!!
ぷん
伝説の超ヤンデレの伝説を見たいだ……と?
176 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 14:55:20 ID:oRU9M0pq
>>176 死ねしかいえないなんてなんてかわいそうな子・・・(´・ω・`)
>>177 フリゲだけど殺すとしか言えないキャラいたの思い出した
それでも意思疎通は出来てたけど
>>176 今更気付いたが、下げてねぇしwwwwコイツ確実に欲求不満の初心者だwwwww
無駄に草生やさない方がいいぞ
2ch=vipとかニコニコじゃないから
181 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 23:24:25 ID:oRU9M0pq
そろそろヤンデレ家族が投下されるはず‥‥
とか言うと叩かれるんだよな
じゃあ言わなきゃいいと思うんだ
>>182 ここまでいくと作者に対しての嫌がらせとしか思えない。
煽りを煽ってんだろおまえ。
反応してる時点で釣られてると気づけ
実際そんぐらいで叩くのもどうなんだろうな
応援コメントとしてスルーすればいいと思うが
>>181 (◞≼●≽◟◞౪◟◞≼●≽◟)いつも君を見てるよ・・・ドゥフフww
叩かなかったら叩かなかったで
○○マダー だけでスレ食いつぶすぞ多分
ぽけ黒マダー?
ヤンデレにちゅっちゅしたいよー
ご飯マダー?
ご飯はありませんが、ヤンデレ家族はあります。
投下します。兄弟喧嘩編です。
*****
俺は、今まさに食べられそうになっている。
抽象的にではなく、具体的に。
具体的すぎて、捕食対象となっている俺に戦慄が走っている。
背後から、よく分からない何かが、床にへばりついて移動してくる。俺の後ろをついてくる。
走りながら肩越しに目をやると、そいつは俺の影と同化しているようで、真っ黒だった。
しかし、そいつの大きさはとてもじゃないが俺の影とは比べものにならない。
でかすぎる。
床から剥がして、ヘリコプターに結びつけて上に引っ張れば、高校の体育館ぐらいは覆い隠すんじゃないだろうか。
その巨体のあらゆる所に目がくっついている。
その全てが俺と目を合わせようとしてくるんだから、たまったものではない。
もっとも、一番に俺の心を恐慌状態にさせるのは、びっしりと生えそろった犬歯を見せびらかす、そいつの口である。
上顎にも下顎にも、犬歯が何重にもなって生えている。
三重、いや四重ぐらいか? それ以上ははっきり認識できない。
もしここで足を滑らせてしまえば、あの犬歯によって骨ごと砕かれ、すり潰されてしまうのは間違いない。
そうならないために、俺は必死になって逃げているのだ。
まあ、夢の中の話なんだが。
いつまで走ってもどこにも辿り着かないし、力を抜いても入れても足が止まらない。
勝手に腿が持ち上がり、脚が地面を蹴ってくれる。
全自動で走っている状態とでも言おうか。
車とかバイクとかで移動してる時って、こんな感じなのだろうか。
夢の中だけでなく、現実世界でもこれぐらい移動が楽だったらいいのに、と場違いなことを考えてしまう。
前を見る。
この悪夢の中では一度も見たことのない、しっかりと服を着ている人間が目に入った。
歴史の教科書に載っていそうな、礼装をした紳士だった。
両手には白い手袋。左手に握ったステッキが地面に立っている。
目深に被ったシルクハットと、うつむき加減な姿勢のせいで、紳士の顔は見えない。
ちと怪しいが、きっとこの紳士は悪夢から脱出するための鍵となる人物に違いない。
ああ、助かった。これで朝を迎えられる。
そう、終わらない悪夢などないのである。
紳士がステッキを持ち上げ、俺の方へと放り投げる。
ステッキは俺の左肩を通り過ぎ、背後へ。
軽い、乾いた音がした。ステッキが地面に落ちたようだ。
振り返ると、なにも無かった。
追いかけてくる黒い影も、不気味な無数の瞳も、犬歯だらけの口も。
まるで掃除機に吸い込まれたか、落とし穴に落っこちたみたいに、気味の悪い化物は居なくなっていた。
安堵して、紳士と向き合う。
ありがとう、助かったよ。 と感謝の言葉を述べる。
すると紳士はシルクハットを少し持ち上げた。締まった顎と、口、鼻が見えるようになった。
「お礼をいただいてもよろしいかな?」
くぐもった小さな声だった。
俺は反射的に応えた。もちろんです。
「それでは私はその柔らかそうなお口をいただこう」
紳士がシルクハットを外した。
途端、紳士の頭上から黒い影が、一直線に吹き出した。
黒い影というより、そういう毛並みをした生物のように見て取れた。
逃げようと思っても、もう遅い。
逃げるより先に、黒い毛並みの生物の先端が、俺の顔――いや口目掛けて伸びてきた。
生物の先端には口だけがあった。
紅い唇、黄色くなった無数の犬歯、ぎょろぎょろした小さな目をいくつも表面に生やしている舌。
指でぷちっと潰せてしまいそうなぐらい小さい、たくさんの目玉たち。
きょろきょろと黒い瞳を動かし、俺と目を合わせて、嬉しそうにぐにゃりと曲がる。
それらが網膜に焼き付き、肌が粟立つ。
口に生物が突っ込んだ。ついでに鼻まで一緒に覆い隠された。黒い煙のようなものが視界を侵していく。
黒い生物は、熱湯のような液体を口移ししてきた。
口内が熱さに負けて、ただれていく。舌はしおれていき、歯はボロボロになっていく。
その時点で俺は膝をついた。痛さと、気持ち悪さで立っていられなかった。
視界が暗転。口内から体の奥へ、何かが侵入してくる音が、骨を伝って脳を刺激する。
ごきり、ずるり。ぴちぷち、ぶち。ごりぐりごり。
生物の体は胃まで到達していた。体のライフラインをふさがれてしまい、もはや息はできない。
頭の中が真っ白になり、一気に身体が軽くなる。
ああ、また俺は死んでしまったのか。
もはや何度目になるか分からない夢の中での死を認め、俺は全てを諦めた。
*****
瞼を薄く開けてみる。
朝の陽光が隙間から入り込んできた。目を閉じる。
いまだ続くまどろみの中、なんとなく悟った。
悪夢から覚めて、俺は現実世界に戻ってきたのだ、と。
顔にかかる陽光、まぶしい。
部屋中に漂う塗料のうっすらした匂い、心地良い。
三月下旬の時期、部屋の中で過ごすのはまだ辛いから、暖房器具が欲しい。
あおむけの状態から寝返りを打つと、揺らされた脳が面倒くさがって起きるのを拒否する。
俺の体温を宿した布団が身体全体を包んでいる。
いい感じだ。まだ眠気が持続している。意識が身体の中をゆらゆらと漂って、留まらない。
このまま誰にも邪魔されなければ、もう一度睡眠状態に移行できる。
重たい頭を枕に沈め、呼吸する。
「お兄さん、起きて」
もう後は何もせず眠るだけ、というところで邪魔をする声が耳に入った。
妹の声。
その声の調子は相変わらずで…………あれ?
おかしい。なんで妹が俺を起こそうとしているんだ。
今日は妹と何か約束していたか? いいや。入学祝いを買いに行く約束は済ませた。
何か他の約束していたっけ?
「ほら、早く起きて。朝ご飯用意してるんだから、手間かけさせないで」
朝ご飯。妹が俺の朝ご飯の用意をして待っている。
罠か何かかと疑ってしまうのは、今までこんなことをされたことがないせいだ、きっと。
上体を起こして、薄目のまま、妹の姿を探す。
左側にいた。妹が穿いているデニムパンツがそこにあった。
さらに上へと視線を移す。
妹の顔があった。腕組みをして、半眼で見下ろしている。
右手にフライパン、左手にお玉でも持って、腰に手を当てていれば個人的にポイントが高かったのだが、そこまでは望むまい。
「……おはよう」
「おはよ。二度寝するんならご飯食べてからにしてね。
せっかく作ったんだから、捨てるのがもったいないわ」
「ああ、悪い。ちょっと待ってくれないか」
きびすを返して部屋から出ようとする妹を引き止める。
「なに?」
「これは現実か? 俺はもうすでに夢の中にいるのか?」
まだ俺は目の前に居るのが妹だとは確信していない。
朝ご飯を作ってくれる優しい妹の存在を望んだこともある。ただしそれは中学二年の時までだ。
もうあれから三年経っている。叶うには遅すぎるし、なにより唐突過ぎる。
ここが悪夢の続きだと言うことも考えられる。
このまま妹の後をついていって、朝ご飯を食べてみたら、実は朝食の材料が寝ている間に取り出された俺の内臓だったりするかもしれない。
そして、「昨日私をたった一人で家に帰らせた罰よ」とか言われて、俺の視界がブラックアウトして、目が冷める、と。
二回連続で悪夢を見るなんて御免だ。
悪夢の後はすっきりするから、たまに見るのは構わない。だが連続はいかん。
というわけで、俺はまだここから動かない。
たとえ妹が何を言おうと。
「……夢かどうかわかんないんなら、叩かれてみる?
痛ければ現実よ。痛くなければお兄さんは変態になってるわ」
「いや、そこまではしなくていい」
夢の中に居ても痛みを感じるということはよくある。俺にその手の基準は適用されない。
「よし、お前がリアルな妹だという証拠を見せてみろ」
「どうやって?」
「お兄さん大好き、と言ってみろ。いつもの声よりキーを上げて、可愛くな」
「わかったわ」
妹が距離を詰めてきて、目の前で床に正座した。
妹の手によって、頬を左右から包まれる。
ひんやりしていて気持ちいい。もしも今が夏だったら、快適に思える冷えっぷりである。
視界いっぱいに妹の顔が映り込む。
妹との距離は、拳二つ分ほど。
妹の強気な瞳が、俺を真っ直ぐに見つめていた。
さらに目を吊り上げ、睨んでくる。頬が紅潮している。まるで恥ずかしがっているよう。
目を逸らされた。俯いているせいで前髪が垂れ、表情が確認できない。
唯一確認できるのは口の動き。これだけ近くに居ても聞こえないほどの、小さな声で呟いている。
妹が一度頷いた。
再度目を合わせ、ゆっくりとしゃべり出した。俺の言ったとおり、少しだけ高い声で。
「お兄さん……大好き。
私、ずっとお兄さんにこうしたいと思ってた。
いつまで経っても、お兄さんがこんな近くに来てくれなかったからできなかった。
何度も近くに行こうと思ったわ。できなかったのは、勇気が無かったからなの。
でも、今日ならできる。こんなことしちゃいけないんだって、本当は分かってるわ。
寝起きのお兄さんに、こんなことするなんて……どうしても駄目なの。気持ちを抑えられない。
ごめんね、お兄さん。駄目なあなたの妹を、許してちょうだい」
妹の顔が近づいてくる。
おい、どうして目を瞑っている。どうして手をそんなに揺らしている。
どうしてお前は、俺にキスをしようとしている?
ここでキスをしたら、葉月さんに浮気だと言われるのか?
いや、バレなければどうということは。しかしそんなのは不誠実極まりない。
寝ぼけていたということにすればいいんじゃないか?
いや、駄目だ駄目だ!
たとえ夢の中であっても、寝ぼけていたとしても、妹とキスしてはならん!
「駄目だ妹! 俺たちは兄妹なんだから! そういうのは小学校で卒業して――」
最後まで言い切るより早く、頬をぶたれた。一発目は右、二発目は左。
とどめの一発は額へ向けたフルスイングのビンタだった。
ビンタを受けた勢いで、後頭部が枕に沈んだ。しかし、もはや眠気など沸き起こらない。
「……と言うとでも思った? このねぼすけ長男。
さっさと布団から出なさいよ。朝食の皿が片付かないでしょ。
だいたい、声のキーをあげろって、なに?
地声なんか聞くに堪えないとでも言いたいの? 可愛くないって言いたいの?
二度と布団から出られないような体にされたいのかしら、お兄さんは」
「ごめんなさい。すぐに起きることにします」
この反応、間違いなく現実の妹。
辛く当たってきて、なにかのきっかけで優しくなる。逆のパターンもある。
バリエーション豊かな反応は、感情が豊かな証拠。
兄として諸手を挙げて喜ぶべきことだ。
身内に虐待された過去があっても、内向的にならず、良く喋る女の子になった。
なんとなく嬉しくなり、天井を見上げながら、小さな声で笑った。
このまま明るい社交的な女の子になってくれたら嬉しいな、でもいつか俺の手の届かないところへ離れていくんだろうな。
なんてことを考えてから、立ち上がって伸びをする。
さあ、今日は何をして過ごしましょうかね。
妹お手製のブレックファーストを食べ終え、皿を流し台に持って行く。
コーヒーメーカーに残っていた、ちょっとのコーヒーをカップに注ぎ、ダイニングテーブル席につく。
ガラス戸の向こうには元気いっぱいの太陽と、それに照らされた庭の植物があった。言うまでもなく、晴天である。
聞こえるのはテレビの音声のみ。
リビングには暖房が効いていて、身震いすることはない。
快適そのもの。もっともリビングから出てしまえば快適ではなくなるんだが。
なんだか、面白みというか、変化がないな。いつも通り過ぎる。
昨日から葉月さんと付き合い始めたというのに、何も心境に変化がない。
もうちょっとワクワクというかソワソワというか、意識に変化があってもよさそうなものなのに。
中学時代に女の子と初めて付き合った時には、もっとテンションが高かったはずだ。
だから今回もそうなって然るべき。
――いや、もしかしたら。
中学時代のその経験があったから、葉月さんと付き合いだしても何も思わないのか?
だって、今回で女性と付き合うの、二回目だし。
実は最初に付き合った女は、俺を踏み台にして弟にアプローチするような奴だった。
しかし当時の俺が彼女に夢中になっていたのも事実。
浮かれて弟に自慢とかしてたし。妹はその頃俺と話そうとしなかったから、何も言っていない。
葉月さんは男と付き合ったことがあるんだろうか。
葉月さんぐらい良い意味で目立つ人なら、男と付き合った経験があってもおかしくない。
まあ、経験がない方が嬉しい、という願望は確かにある。
だけどそれは心の中で望むものである。俺の一方的な感情だ。
葉月さんに押しつけようとは思わない。
交際経験があっても俺は何も思わない。幻滅などするはずがない。
むしろ、これから俺が幻滅されるかもしれないな。
好きとは言っても、友達以上恋人未満というか、友達の壁を乗り越えて先に進む気が弱いというか、中途半端な感情なんだ。
惚れた弱みにつけ込んだって感じだ。自分で自分に幻滅する。自己嫌悪。
いかんいかん、しっかりしなければ。
葉月さんにだらしないところは見せられない。
「――――市では本日、今年三月中の最高気温を記録する見通しです。なお、周辺の各県では……」
弟の奴は、ソファーを独占して、今日の朝のニュースを見ているようだった。
局を変え、興味あるニュースを見て、また局を変える。その繰り返し。
こいつが同じ番組を熱心に見続けてることって、特撮番組の放映される日曜日の朝ぐらいだ。
他に趣味とか無いのかな。もしくは毎日やり続けてることとか、興味のあることとか。
一緒に遊ばなくなって久しいから、弟のことがわからない。
わかっているのは、特撮好きということと、成績不良、運動は得意、とにかく女にモテる、ということぐらいか。
それと、幼なじみの葵紋花火が好き。
そうなんだよ、こいつの一番わからないところは、花火に対する感情だ。
一番好きな女性を聞かれれば、花火だとはっきり口にするような男だ。
なのに、花火と付き合っているような素振りは見せない。
もちろん、ただ黙っているだけとも考えられる。弟だからって、俺に事実を報告する義務はない。
でも、聞いたら答えてくれるかもしれない。
よし、やってみようか。
「なあ、弟」
「ん? どうかしたの、兄さん?」
首だけで振り向き、次に身体の向きを変え、弟は俺と向かい合った。
真剣な話でもないんだから、そんなに構えなくてもいいんだが。
「お前さ……花火の奴と付き合ってるのか?」
数秒間の間。
弟は二回まばたきをしてから、口を開いた。
「付き合ってはいないよ。よく遊びには出掛けてるし、連絡も取り合ってるけど」
「ああ、なんだ。そうだったのか」
「……花火に何か言いたいことでもあるの?」
「そうじゃない。お前らが上手くいってるのか、ちょっと気になっただけだ。
仲良くやってるなら言うことは無い。幸せになれよ、応援してやるから」
「ありがとう、兄さん」
話を終わらせるため、カップの中身をあおり、飲み下してから席を立つ。
流し台で洗い物をする妹のところへ行き、カップを置く。
弟の方を見る。あいつはまた、テレビにリモコンを向け、番組を変える作業に没頭していた。
ふうむ。やはり付き合ってはいないか。
しかし、聞く限りだと、ほとんど付き合っているのと変わりなさそうだ。
よく遊びに出掛ける、連絡を取り合っている。俺が思いつく恋人同士の行いだ。
弟はそれより先に進んでいない、ということなんだろうか。
キス――昨日の葉月さんみたいなのではなく、もっと穏やかなもの。
そういうのはまだやっていないのかもしれない。
そう。そこもわからないところなのだ。
付き合おうと思えば恋人になれるというのに、関係を深めようとしない。
なんでだろう。俺に気を遣っているとか、俺よりも先に恋人を作ることはできない、とか?
ありえる。伯母に虐待された頃から、弟は俺に遠慮するようになって、喧嘩はもちろん、反論することすらほとんどなくなった。
兄に反抗しない教育を施されたみたいな徹底ぶり。
もしも俺が一生独身で居たら、こいつまで独身で居るんだろうか。
それはそれでぞっとしないな。なんて可哀想な兄弟なんだ、って世間に思われるぞ。
弟が俺に彼女ができるのを待っているんだとしたら、葉月さんと付き合いだしたということを教えてやらないと。
たぶん、弟も花火もお互い付き合いたくて仕方ないはず。
好き合っているのなら、早く付き合うべきだ。
俺みたいに、思い詰めるまで相手を好きになっていないのに付き合い始めた奴とは、違うんだ。
「おーい、おと――」
「お兄さん、悪いんだけどちょっと手伝って」
弟を呼び出そうとしたところで、妹が声をかけてきた。
ちょうど洗い物を終わらせたらしく、濡れた手をタオルで拭っていた。
「なんだよ、大した用事でもないんならお断りするぞ」
「それなりに大事な用よ。私がこれまで、どうでもいい用件でお兄さんを呼んだことがある?」
「……ないと言えば、ない」
だが、この言い方には誤りが含まれている。
妹。そもそもお前が俺に頼み事をしてくるようになったのは最近になってからだろうが。
やりとりが面白くならない。ツッコむ余地を与えてくれ。
もうちょっと色々な用事で俺を呼んでみせろ。話はそれからだ。
「で、何を手伝って欲しいんだ」
「新学期の準備」
「あれ、それはもう終わったろ?」
「違うわよ。その、なんていうか……制服がおかしくないかとか、チェックして欲しいなって」
「サイズはちゃんと合ってるだろ? それとも……」
「それとも?」
「いや、なんでもない」
それとも太ってサイズが変わったのか、などと口にして寿命を縮めるはずがない。
伊達に危機にさらされてきたわけではない。これでも学習能力は高いのだ。自分ではそう思っている。
「変なお兄さん。だいたいいつも通りだけど」
「お前はお前で、俺に遠慮しなさ過ぎだな」
「なんで私がお兄さんに遠慮しなきゃいけないのよ。
そんなことするぐらいなら、あの暴力女に喧嘩売ってきた方がだいぶ建設的だわ」
この妹には、葉月さんと仲直りして俺のストレスを解消しようという建設的な考え方ができないのか。
葉月さんと喧嘩してお前のストレスは減っても、俺のストレスは増すばかりだ。
昨日なんか顎の骨がピンチだったんだぞ。
このストレッサーめ。どこまで俺を危うい目に合わせるつもりだ。
「じゃ、私の部屋に来て頂戴」
「待て。そういうことなら弟の奴も読んだ方がいいだろ」
「お兄ちゃん? お兄ちゃんならさっき出て行ったわよ。ほら」
弟の座っていたソファーには、今は誰も座っていなかった。
テレビの電源も切れている。リビングには俺と妹の二人きりだった。
というか、両親が居ない今は、この家で二人きりなのだが。
「あいつどこに行ったんだ? 何か聞いてるか?」
「気がついたら居なかったわ。花火ちゃんのところにでも行ったんじゃないの?」
妹が加勢を求めてくることを予測して逃げたんじゃないだろうな、あの野郎。
お前なんかあと二年ぐらい花火とお友達のままで居ればいいんだ。
悶々としたまま高校生活を送り続けるがいい。
「仕方ないな。弟が居ないなら、俺が手伝ってやるしかないか」
「何よ、仕方ないって。私だって、本当はお兄ちゃんに手伝って欲しかったんだからね!」
「はいはい。どうせ俺は嫌われ者ですとも。ほれ、さっさとやって終わらしちまおうぜ」
弟と妹の部屋に向けて歩き出す。
妹は小声で文句を言いながらついてくる。
葉月さんと付き合いだしたこと、妹にも言ってやらないとな。
不機嫌になったら困るから、今はまだ黙っておこう。
とりあえず、妹の手伝いが終わるまで。
*****
家を出て、あてもなく歩き出す。
すると、どうしても足が花火の家への進路を選んで、歩き出す。
僕には居場所が少ない。
自分の家、お祖母ちゃんの家、花火の家、通っている高校。
僕という人間を知っている人たちは、そこにしかいない。
たまには他の場所に行くこともあるけれど、それは買い物をするためとか、やむない事情があってのこと。
必要がなければ行くことはない。暇を持てあましていても、足を運ぼうという気にならない。
男友達は何人か居る。話しかけてくる女の子はたくさん居る。遊びに誘ってくる相手は男女問わずいる。
下心や好意をあそこまでむき出しにされて、気付かないわけがない。
彼ら彼女らの誰かと関係を結ぼうとすれば、いずれ固い信頼関係もできることだろう。
「……でも、それは」
努力すればの話だ、と空に向けて呟く。
僕には知らない人との関係を開拓していこうという気がない。
今仲の良い人間との関係を保っていられれば、それでいい。それ以上は望まない。
いいや。たった一人、例外がいた。
花火だ。幼なじみの、葵紋花火。
昔から仲が良くて、今までずっと変わらず好きな、気の強い女の子。
花火の彼氏になりたい。花火に僕の彼女になって欲しい。
初恋だった。
花火に恋をし続け、成就させないまま、僕はこの年齢まで育ってきた。
なぜ幼なじみの関係から、恋人の関係にシフトしないのか。兄さんもきっと気になっているだろう。
でも、それを兄さんに言われたくなかったな。
自分こそ葉月先輩といい雰囲気なのに、いつまでも付き合わないくせして。
それに僕が花火と付き合わないのは、兄さんのせいだ。いや、僕のせいでもあるけれど。
兄さんに彼女ができないと、僕は花火と付き合う決心をつけられない。
こんな自分になった原因はわかってる。僕の心の弱さとトラウマが原因だ。
伯母さんに暴力を振るわれていた時からだった。
僕は兄さんに感謝するようになった。同時に、申し訳ないと思うようになった。
僕と妹を守ってくれてありがとう。
妹を守ってあげられなくて、代わりに兄さんに辛い思いをさせてごめん。
こんな僕が兄さんより先にいい思いをするわけにはいかない。
そう思うと、僕には花火と付き合う決心を固められなかったんだ。
兄さんはきっと、俺に遠慮するなと言う。
これでも弟をやってきて長いから、兄さんの考えぐらいは読める。
でも、もはや兄さんの言葉だけでは、僕の考えは変わらない。
――僕は、変わることができるんだろうか。
弱さを乗り越えて、兄さんのような強さを得ることが。
どうして兄さんはあんなに強いんだろう。どこであんな強さを得たんだろう。
僕にはわからないよ、兄さん。
ふと、ポケットの中で携帯電話が振動していることに気付いた。
表示されていたのは、葉月先輩の番号だった。
どうして僕にかけてくるのかがわからないけど、だからって無視するわけにもいかない。
通話ボタンを押して、久しぶりに葉月先輩と話をする。
「もしもし、葉月先輩ですか?」
「ええ、そうよ。弟君、今どこにいるの、家?」
「違いますけど、どうかしましたか? 兄さんなら家にいますけど」
「まだ家に居るの? どうして会いに来ないのよ。ケイタイ古いのと交換してまで、連絡待ってるのに!
九時になっても連絡してこないなんておかしいわ!」
「……はあ」
久しぶりに話すけど、ここまで落ち着きがない人だったっけ。
もしかして、また兄さんが葉月先輩絡みでやらかしたのかな?
たとえば、昨日妹と買い物に行っている時に、アクシデントで妹に抱きついたところを、葉月先輩に見られたとか。
そういう事実があったって聞いたわけじゃないけど、あっさり想像できてしまう。それが兄さんの面白いところ。
「兄さんと遊ぶ約束をしてたんですか? そういうことなら、今から兄さんに連絡しますけど」
「約束はしてないけど……普通会いに来るものでしょ! あんなにはっきり言ったくせに、待たせるなんて!
あれを聞いて勝手な勘違いだって言われても、私は絶対に認めないわ! 認めさせてやるんだから!」
葉月先輩も面白いなあ。
後輩から、きりっとした美人に見えるところがいいって慕われてるのに、実際は兄さんが絡むとすぐ落ち着きを無くすんだもん。
「もういいわ。こうなったらこっちから会いに行ってやるんだから!
ごめんね弟君! また今度会いましょ!」
「ええ、はい。また今度」
通話が切れた後、携帯電話をしまう。
葉月先輩と兄さんの間に何が起こったのか、昨日の二人の様子と、電話での発言の端から辿って、想像してみる。
兄さんは、葉月先輩に送られて、帰宅した。
妹は先に帰ってきていた。二人の間に何が起こったのか、何も知らない。
兄さんの携帯電話は壊れていた。今はSIMカードを古い端末に入れて使っている。
葉月先輩は、さっき携帯電話を交換したと言っていた。葉月先輩の携帯電話も壊れた、のかも。
「連絡を待ってる……それに、あんなにはっきり言ったくせに、勘違いだって言われても認めない、か」
兄さんが葉月先輩に向けて言ったのは、なんて台詞だろう。
二人きりで、はっきり言うこと。さらに、葉月先輩が勘違いと認めたくない、中身のある台詞。
それってもしかしたら、付き合おうって、言ったんじゃないか? それも、兄さんの方から。
まさか兄さんが、いやでも、あり得ないとは。
完全な否定はできない。
いくつか情報が足りなくて不確定だけど、可能性が高い。
兄さんと葉月先輩が付き合いだした可能性が、ある。
もしもそうだとしたら。
嬉しいことに、連鎖して僕も動き出せる。言いたくても言えなかったことをはっきり伝えられる。
僕は花火のことが好きだ。ずっと一緒に生きていきたいんだ――って。
これまで何年も我慢してきた台詞を、ようやく花火に伝えられる。
ようやく、花火を取られるかもしれないって不安から解放される。
これからは、花火を僕だけの女性にできるんだ。
今回はここまでです。
また次回お会いしましょう。
賢者タイムキタ━(゚∀゚) ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ ━ッ!!GJ!!!弟は良い奴だな…花火と結ばれるのかな…そしてジミー、妹、キキちゃんのトライアングル修羅場wktk
>>202 読む度にとても短いと感じられる。 もっと読みたい。 GJ!!
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
まだ家族に報告してないとか流石はジミー
着々と死亡フラグを積み重ねているw
そして弟がなんかヤバくなってきた?
弟は唯一の良心だと思っていたんだか…
ヤンデレ家族きたー!!
弟くんがなにやら危ない人になりつつあるな。
きたああああああああああああ
>>202 GJ
花火は弟と付き合うんだろうか
花火が兄のことを好きで弟をふってそのことで兄弟喧嘩する
と予想しておく
GJであります
弟よ…澄子ちゃんに逆レイプされてどこかおかしくなったか
妹と兄がくっついて欲しいといまだに思っている自分が居る。俺だけだろうが。
gj
キタ━━━(´∀`)´・ω・`);゚Д゚)・∀・) ̄ー ̄)´_ゝ`)゚皿゚)∵)TΔT)ΦдΦ)#-_-)~ハ~)゚з゚
GJ
なんと弟もヤンデレ系だったとわ・・・・
GJ!!!
妹が逆レイプフラグは………ありえないか
ともかくGJ!
214 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/08(日) 20:23:20 ID:2YvRHe6R
>>214 アホ初心者キターーーー!!今日もアホっぷり全開wwwwほんとありがとうございます!
でもまあ一々顔文字つかって反応する方もキモいけどな
217 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:48:03 ID:iDCbf8BK
投下しまっす。
218 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:49:24 ID:iDCbf8BK
「もう終わりにしよう」
「……え?」
「もう一緒に勉強するのは終わりにしよう」
「……どうして……?」
「どうしてって、もう必要ないじゃない。半年前君は学年でも真ん中の順位だった。
それが今ではトップ10に入るようになった。もう十分でしょ」
「じゅ、十分なんかじゃないよ。だってまだ、夏野君より順位低いし、それに……」
「大丈夫だよ。もう僕が君に教えられることはないよ。僕がいなくても、君はもう一人で勉強できるよ」
「でもっ……その……」
「それじゃあ。僕はもう帰るよ。放課後にももう残らない。じゃあね」
「そんなっ」
「夏野君、ちょっといいかな。ここ、分からないところがあってさ」
「綾部さん。この前言ったよね。もう一緒に勉強するのは終わりだって」
「うん、でも本当にちょっとだけだからさ、ちょっとだけ、この部分のところだけだからさ」
「……こんなとこ、綾部さんなら自分で考えれば分かるよ。僕、この後用事があるんだ」
「あ……そうなんだ」
「うん。それじゃあね」
「夏野君。今日のテストの結果見た?」
「うん」
「私、順位凄く落ちちゃった。やっぱり夏野君に教えてもらってたから成績良かったんだよ。
やっぱり夏野君に教えてもらわないと私ダメだよ」
「綾部さん、今日の答案ある?」
「え……あるけど、どうして?」
「ちょっと見せて」
「ど、どうして?」
「見せられないの?」
「ううん。そうじゃない、そうじゃないけど」
「じゃあ見せてよ」
「これ、おかしいよね。この問題、ここが解けてるのに、同じ解法のここが解けないなんてことないよね。
それにこっちも。こっちなんて、ここの答え使わないと解けないのに、こっちだけ解けてるし」
「わざとでしょ」
「違うよ! 本当に分からなくて、その……」
「綾部さん。何でこんなことしてるのか分からないけど、凄い損してるよ。こんなことしたって何の意味もないし、
逆に評価が悪くなるだけだよ」
「評価なんて……」
「分からないな。まぁ僕には関係ないことだから」
219 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:50:09 ID:iDCbf8BK
友達もいない。
話し相手もいない。
家にも誰もいない。
寂しくて寂しくて。
でもどうすればいいのか分からない。
何かに秀でているわけでもない。
面白い話ができるわけでもない。
ずっと一人だったから人との付き合い方も分からない。
学生の間はせめて勉強だけでもできればいいのに、それだってうまくいかない。
勉強はいつも放課後の図書室でしていた。
誰もいない家にいるよりは、少しでも人がいるかもしれない学校で勉強したかった。
実際には図書室はあまり利用されていないらしく、当番の図書委員がいるだけだった。
夏野孝。
彼はその図書委員の一人だった。
その名前は良く知っていた。
毎月張り出される校内テストの結果でいつも先頭に載っていた。
クラスも同じだった。
いつも誰かと一緒にいるわけではないけれど、誰とでも会話ができ、みんなからも一目置かれていた。
私も彼のように頭が良ければ、そう振る舞えたのかもしれない。
羨ましさと憧れ。
その時彼に抱いていた感情はそんなものだった。
「分からないとこあるの?」
最初に声を掛けてきたのは彼からだった。
まさか私が話し掛けられるとは思っていなかったため、すぐに言葉を返すことができなかった。
「いや、いつもここにいるし。でも全然ページ進んでないみたいだからさ」
ばつが悪そうに彼は続けた。
もしかしたら声を掛けたことに、後悔させてしまっているのかもしれない。
私は慌てて答えた。
「う、うん。そう。ちょっと、分からないところがあって……」
「どれ」
「……ここ」
彼は私の横に座ると、私が示した場所を覗き込んだ。
「ここのどこが分からないの」
「えっと……」
突然のできごとに緊張しながら説明した。
しどろもどろで、もしかしたら何を言っているのか分からなかったかもしれないが、それでも彼は耳を傾け、
私の質問に答えてくれた。
一つの質問が終わった後は、また別の質問に。
それを何度か繰り返していると、気付くと最終のチャイムが鳴っていた。
「それじゃあお終いね」
「うん。ありがとう」
席を立とうとする彼に、私は咄嗟に言葉を続けた。
「あのっ……。また明日も教えてもらって、いい……かな?」
「……そうだね。うん。いいよ」
彼が頷いたのを見て、私は目の前が明るくなった気がした。
何だか、もしかしたら、これから先何かが良くなる方へ行くのではないかと、そんな漠然とした予感が起こった。
その日から私たちは放課後の図書室で一緒に勉強するようになった。
彼の教え方はうまく、私は自分ができるようになっていくのを実感していた。
それは客観的にも、校内テストの結果を見れば証明されていた。
最初の内は戸惑い、緊張しながら彼と会話していたが、それも段々とスムーズになっていった。
寂しくて、でも人と付き合えない私にとって、彼とのやり取りは私の楽しみになっていった。
たまに彼が放課後に残れないときは、以前にも増して寂しさと空しさを感じるようになった。
私の中で彼と、彼との時間は、日に日に大きな存在になっていった。
220 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:50:41 ID:iDCbf8BK
最初は暇つぶしで声を掛けた。
放課後の図書室。
図書委員は交代で図書室の当番をしなければならない。
生徒による図書室の利用はほぼないというのに、終了時刻まで待機していないといけない。
初めの内は漫画や小説などを持ち込んだ。
また図書室内の本も漁った。
しかしそれらも飽きてきて、さてどうしようかと思っていた頃だった。
ある日から一人の女生徒が自習しに来るようになった。
綾部恵。
同じクラスの人間だった。
いつも一人で、他の女子と会話しているところは見たことが無かった。
接点がないので、それ以上の情報も感想も特に持っていなかった。
横を通りかかるときなど、何度か彼女が開いているページを見たことがあるが、いつも同じ単元で止まっていた。
遠目で見てもページが進んでいるようには見えなかった。
何処かで詰まっているのだろうか。
退屈さも手伝って僕は彼女に声を掛けることにした。
「分からないとこあるの?」
突然声を掛けたものだから、びっくりしたようだ。
ぎこちなく話す彼女に耳を傾け、僕は教えていった。
彼女の疑問に答える内に、何故彼女の勉強が先に進まないのか分かった気がした。
自分が最初に考えたものに捕らわれ過ぎているからではないか。
行き詰ってしまったときに、別の考え方を探さず、いつまでも最初の考え方で理解しようとしているからではないか。
そう思った。
実際僕が、別の人間が、違う視点を与えてやれば、以降はすらすらと理解を進められた。
気が付くと終了のチャイムが鳴っていた。
少々夢中になっていたようだ。
人にものを教えることに、少なからず楽しみがあったようだ。
席を立つときに声を掛けられた。
「あのっ……。また明日も教えてもらって、いい……かな?」
「……そうだね。うん。いいよ」
何もしないで待機しているよりはましだと思った。
その日から、僕たちは一緒に勉強するようになった。
毎月の校内テストの結果で、彼女の順位が上がると、僕も自分のことのように喜んだ。
自分の教え方は間違っていなかった。
そう実感できるからだろう。
放課後の勉強時間は、僕にとっても楽しいものになっていった。
教え始めてから数ヶ月までの間は。
221 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:51:17 ID:iDCbf8BK
一緒に勉強を始めて半年が経とうとしていた。
その頃には彼女はほとんど僕の力を借りずに勉強を進められるようになっていた。
校内テストの順位もあと少しでトップ10に入るくらいの成績だった。
僕は、焦りのようなものを感じていた。
いくらなんでも成長が早過ぎるように思った。
時には僕が彼女の考え方に学ばされることもあった。
彼女は、本当は僕よりも頭が良いのではないか。
最近はそんなことも考えるようになった。
このまま順調に進んで行けば、次のテストではトップ10入りするだろう。
その次はトップ5、さらにその次は僕と同列か、もしかしたら僕を抜かしているかもしれなかった。
そんなに先の話ではなく、次のテストでもう並ぶ可能性だってあった。
僕だってプライドがある。
特に学業に関しては小、中、高と、常にトップを走ってきた。
偏差値と頭の良し悪しは必ずしも比例しないことは分かっているが、
それでも僕は普通の人間よりは優れていると、そう自負して生きてきた。
それが、半年前までは可もなく不可もなくな生徒に、今や追いつかれようとしている。
本当はみんなそうなのではないか。
僕が今まで見下していた普通の人たちはみな、綾部恵のように、何かのきっかけさえあれば、
学校の成績など簡単に上げられるものなのではないか。
僕は単にそのきっかけが、たまたまなくても何とかなったのか、あるいは普通の人よりは早く、
そのきっかけをたまたま手に入れることができただけなのではないか。
だとしたら僕はとんだ裸の王様だ。
あるいは井の中の蛙か。
僕が今まで自負していたものは何だったのだろうか。
気が付くとそんなことを考えていた。
気を取り直して勉強に集中しようとした。
しかし今取り掛かっているところは何とも理解しづらい内容だった。
「詰まってるの?」
横から綾部さんが声を掛けてきた。
僕の動きが止まっているのを見てそう思ったのだろう。
詰まっているといえば詰まっている。
勉強以外の部分もあるが、単純に勉強そのものだって詰まっている。
「うん。ここなんだけど」
僕は彼女に説明することにした。
自分がどう考え、どう理解しようとしているか。
しかしそれでは書かれている内容と矛盾が発生してしまう。
だがそもそもこの書かれている内容自体、その前後で矛盾が発生しているのではないか。
他の参考書ではこのように書かれている以上、やはりこの参考書が間違っているのではないか。
その場合、ではこの解釈はどのようにしたらよいか。
そんな説明をしたと思う。
まともな答えなど期待していなかった。
自分の取り組んでいる内容がいかに難しいのか伝え、ほらあなたには分からないでしょ、
と言外に言いたかったのかもしれない。
綾部さんはしばらく考えたあと、「それはこういうことだと思う」と言って説明を始めた。
数ヶ月前はたどたどしかった話し方も、今や相手が理解できるように、分かりやすく丁寧な説明だった。
おかげで先ほど僕が指摘していた問題はすっかり片付いてしまった。
一瞬、頭が真っ白になった。
俄かに心臓が暴れ始めた。
ただ内面とは裏腹に、表面的にはお礼を言って、何事もないようにまた勉強を続ける風に装った。
彼女は、本当は僕よりも頭が良いのではないか。
その思いがパンクしそうなほど頭の中を占めていった。
その後どのようにして終了時刻まで過ごしたのか、どのようにして家に帰ったのか、覚えていなかった。
アイデンティティが崩壊する予感があった。
それを回避するためのアイデアが一つ浮かんだ。
明日、今月のテスト結果が張られる。
それを見て、そのアイデアを実行しようと思った。
222 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:51:52 ID:iDCbf8BK
「夏野君。勉強教えて欲しいな」
「綾部さん。君はそんなに僕を見下したいんだね」
「え……?」
「勉強教えて欲しいなんて言って、自分でももう分かってるでしょ。
綾部さんと僕は、もう学力的にはほとんど同じだ。いや、もしかしたら君の方が僕より元々の
頭は良かったのかもしれない。そんな僕に教えて欲しいだなんて。本当は自分よりできない人間を横に置いて、
優越感に浸りたいんでしょ」
「そんなことっ――」
「いや、分かるよ。凄い分かるよ。だって僕は君に教えていたとき、そうだったから。
君の成績が上がると、僕も嬉しかったんだ。それは君の成績が上がったそのことではなく、
僕が、自分が有能だった証明になったからだ。滑稽だね。頭の良い君のことだ。
君もそのことには気付いていたんじゃないかな。その上で僕との関係を続けることで、
君は自分の優越感を満たしていたんだ。僕は君に教えていると、君より上の立場にいると、そう錯覚していたけど、
本当は君に踊らされていただけだった」
「違うよ!」
「まぁ聞きなよ。ところが僕もさすがにおかしいなと思い始めて、一緒に勉強するのを止めようと言って、
君は内心焦ったのかもしれない。そして前回のテストでわざと低い点数を取って、僕のご機嫌取りをしたんだ。
失敗だったね。いくらなんでもあんなのおかし過ぎるよ。まぁ僕もすぐにはその意図に気付けなかったけど、
もしかしてこいつには気付かれないだろうと、そう思ってたのかな」
「あれはそんなつもりじゃ――」
「そんなつもりって、じゃあやっぱりあれわざとやったんだ。確か最初は本当に分からなくて、
とか言ってた気がしたけど。ひどい人だね、君は。僕も人のことは言えないけどね。
もしかしてこれでおあいことか、そういうことなのかな。で、僕の食いつきが悪いものだから、
また教えて教えてってストレートに来たわけだ」
「全然違うよ! 夏野君全然誤解してるよ! 私はただ……」
「ねぇ。もう放っといてくれるかな。君の方が頭が良いのは分かったよ。僕が馬鹿だったんだよ。
認めるよ。だから、もう放っといてほしいんだ」
「違う……違うよ……全然違うよ……」
「じゃあね。丁度そろそろ夏休みだし。新学期からはもうお互いこのことは忘れよう。ね。お願いだよ。
それじゃあ」
「……違う……全然違う……」
「……私はただ、あなたと一緒にいたかっただけ……」
その日から、綾部恵は学校を休んだ。
223 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:53:45 ID:iDCbf8BK
一学期最後の日。
特に何事もなく学校は終了した。
最寄のバス停から家に帰る途中だった。
閑静な住宅街。
麦わら帽子に、ワンピースを着た女の子が立っていた。
笑顔も相俟って、知らない人が見たら、年相応の愛らしい印象を持ったかもしれない。
「こんにちは」
僕にはその笑顔が不気味なものに見えた。
「……何の用?」
気圧されないように、わざと言葉に棘を含めた。
「夏野君に勉強を教えてもらいたくて」
ぬけぬけと言ってきた。
瞬時に体が熱くなった。
「だからもういい加減にっ――」
右手にナイフが握られていた。
果物包丁か。
釘付けになった。
途端に熱くなった体は冷えていった。
「勉強、教えてほしいな」
「な、何だよ。そんなもの出して。犯罪だぞ」
まともに彼女の顔も見れずに、何とか声を出した。
体は一歩引いて、いつでも逃げられる準備をした。
「犯罪?」
不思議そうな声が聞こえてきた。
「ああ。ごめんね。これはそういう意味じゃないから。私が夏野君のこと、傷付けるわけないよ」
改めて彼女の表情を窺った。
最初に見た笑顔と変わっていなかった。
「これはね、こういう風に使うの」
右手に持っていたナイフを、彼女は自分の左手首に近付けていった。
よく見ると、左手首には既に何本もの切り傷が付いていた。
そのいくつもの線の上に、彼女はナイフを滑らした。
赤い液体が、彼女の左手から滴った。
「え……はぁぁ……?」
咄嗟のことに僕は間の抜けた声を漏らした。
この女は、何をしている?
頭の中を空白が埋め尽くしていった。
224 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:54:17 ID:iDCbf8BK
「ねぇ、夏野君。勉強、教えてほしいな」
流れ落ちる血のことなど意に介していないように、綾部さんは言った。
「べ、勉強って……君何言ってるの?」
そんなこと言ってる場合じゃないだろう。
その言葉は喉に引っかかってうまく出せなかった。
「教えてくれないの?」
残念そうな声と同時に、彼女はまた、左手首にナイフを近付けた。
ああそうか。
真っ白な頭の中で、何とか法則性に気付いた。
これは脅迫なのか。
勉強を教えてくれないなら自傷するという。
そんなことを考えている内に、彼女はもう一度ナイフを引こうとしていた。
僕は慌てて彼女の腕を掴んだ。
「夏野君。勉強教えてほしいな」
至近距離で、懇願するように言ってきた。
即答はできなかった。
しかし何とか言葉を詰まらせながら言った。
「分かった。分かったよ。勉強教えるよ。だからとりあえずこれ何とかしないと」
「本当?」
まだ血は流れ続けているというのに、彼女はぱっと顔を明るくさせた。
「本当に本当?」
「本当だよ。だから早くこれ何とかしないと」
「うん。そうだね。私の家、この近くなんだ」
一緒に来てくれる?
目で訴えてきた。
何故かすぐに頷くことはできなかった。
しかしこのまま往来にいるわけにもいかないし、僕の家で治療するわけにもいかない。
「……分かった」
掠れ気味の声が出た。
その返答を聞き、彼女はとても喜んだように見えた。
「ありがとう。こっち」
僕にもたれかかるようにして、歩を進めた。
突然の展開に、僕は流されるようにただ、彼女の歩みに続いた。
頭の中は依然として空白のままだった。
225 :
タイトル未定:2010/08/08(日) 20:54:48 ID:iDCbf8BK
終了しまっす。
デター!!!!!!!!リストカット女…依存性ヤンデレgj次の話が楽しみです
いいねいいね〜ゾクゾクくるぜ。
続き期待してます!
いやぁ……、これはまた素晴らしいのが来ましたね。読んでいてゾクゾクきました。もし、また投稿されるのであればかなり楽しみです!
これ続くの? 続くんだよね? 続いてくれないの?
――ううん。続かないと、許さないから・・・。
>>225 いい作品だった
今後があるなら「教えて」っていうフレーズがキーになりそう。
>>225 タイトルは「教えて」で良いんじゃないか?
232 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 00:10:04 ID:EO9PONPE
>>231 おまえ・・・すごいヤンデレに憑かれてるな・・・
234 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 00:31:05 ID:EO9PONPE
わたしは死なないわ
あなたが守るもの
236 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 00:48:12 ID:EO9PONPE
>>233 一度でいいから殺されるほど愛されたい
打算を含んだものでもいいから、愛されたい
そう思っていたのに、何であなたは私を愛してくれないの?
私はこんなにあなたを愛しているのに
どうして?ねえどうして?
私はあなたに傷つけられてもいい
壊されたっていい
犯されたっていい
何をされたっていい
あなたが私を殺したいなら、私の命を捧げるわ
あなたの全てを受け入れられる
あなたが愛してくれるなら
私の体、心、全部あなたにあげる
だから、あなたの一番近い場所に私がいたい
なのになぜ?あなたは
>>231になんかに死ねって言うの?
あなたが死ねと言うならあなたの前でこの心臓をナイフで突き刺すよ?
なのになんであなたは
>>233にそんなことを言うの?
私を見てよ。私だけをみてよ
あなたには私がいればいいでしょう?
私だけがいればいいでしょう?
ほかのものになんできょうみをもつの
あなたを一番愛してるのはわたしでしょ?
わたししかいないでしょ?
だからわたしをあいしてよ
わたしだけをあいしてよ
ねぇいますぐわたしだけをあいするってちかってよ
いまここでちかってよ
さあいますぐここでちかってよ
はやくしてよねえはやくねえねえねえ!!
レス間違えるとかワロスwwww
>>239 早く寝ないとと思ってると何故か湧いてくる創作意欲
その発露ですがなwまぁ小ネタとでもおもってくれや
>>全員
死ね
こんばんは。
触雷!の14話参ります。
神添紅麗亜でございます。
憤懣やる方ない思いで、私は雌蟲その1の巣を後にしました。
なぜ、メイドがご主人様から離れるなどという、言語道断な事態が起きなければならないのでしょう? なぜ?
ご主人様も、「紅麗亜が一緒じゃないなら帰る」と言ってくださればよかったのですが。
結局ご主人様は、雌蟲その1の婚約披露会をキャンセルすることなく、巣に入ってしまわれました。
律儀なご主人様です。
しかし、その律儀さはメイドだけに向けるべきなのです。
ご主人様がお帰りになったら、しっかりとそのことをお教えしなければならないでしょう。
もっとも、今は他にやることがあります。
角を曲がり、雌蟲その1の巣が見えなくなったところで、私はポケットからイヤホンを出し、耳に差しました。
ご主人様の服には、盗聴器と発信器がそれぞれ複数仕込んであります。ご主人様の安全と貞操を守るメイドとして、当然の配慮です。
受信機を操作して電波を拾うと、雌蟲その1の子分共の、耳障りな声が響いてきました。
『お姫様抱っこで運んで差し上げた方がいいですか?』
『何なら、正面から抱きかかえて運んでもいいですよ?』
私が手をついていた塀がひび割れ、倒壊しました。
雌蟲その1の子分共が、あろうことかご主人様をからかっています。
私とご主人様を引き離しただけでも万死に値するというのに、何という罰当たりの所業でしょう。
ご主人様は、屈辱を必死に耐えておられます。
おいたわしい。
やはり、お連れするべきではなかったのかも知れません。
今すぐ舞い戻ってご主人様を奪還したいのは山々ですが、さすがの私といえども、死者を出さずに雌蟲その1と子分共を突破してご主人様を連れ出せる見込みは、あまり高くありません。
と、突然音声が途絶えました。
盗聴器の故障かと思い、別の盗聴器から電波を拾おうとしましたが、やはり何も聞こえません。故障ではないようです。
金だけは無駄にたくさんある家のようですから、電波を遮断する手立てでもしているのかも知れません。
全くもって、ろくなことをしない雌蟲一味です。
致し方なく、私はご主人様のお屋敷へ戻りました。
ご主人様を諦めた負け犬の分際で、雌蟲どもがご主人様を辱めているのかと思うと、掃除も洗濯も手に付きません。
私は鏡の前に立ち、メイド服の胸をはだけました。
ご主人様専用の乳房が、勢いよく飛び出します。
雌蟲その1や子分共の胸など、私に言わせれば貧乳です。大きさは私の方が勝っています。
もっとも、私は普段きつい服をきて、故意に胸を小さく見せています。ご主人様以外のオスを誘惑しても鬱陶しいだけだからです。
あんなくだらない招待状に気を取られなければ、今ここでご主人様に、この胸を荒々しく揉んでいただいていたはずなのに。
あるいはまた、逞しい肉棒をお挟みし、しごかせていただくこともできたでしょう。
そればかりではありません。
忠実なメイドの私が誠心誠意お願いすれば、縄で絞り上げていただいたり、鞭や蝋燭で責めていただいたりもできたはずです。
……申し訳ありません。想像したらつい、股間を濡らしてしまいました。
そのとき、私の携帯電話が鳴りました。
メールの着信です。見ると上の妹からでした。
『ご主人様をお迎えする準備ができました。早くお連れしてください!! 早く!!!!』
火を吹くような文面です。準備ができたのはいいのですが。
上の妹は、とてつもなく強欲で狡猾です。
一度血の臭いを嗅いだら、どこまでも追い詰めて喰らい付く、人喰い鮫に似ています。
当初彼女は、ご主人様の弱みを握って脅迫し、メイドとして認めてもらうことを主張していました。
あまりに常識外れなので、姉である私が押し止めましたが。
ちなみに下の妹は、男性経験が皆無にも関わらず、筋金入りの変態です。
ご主人様に屋外で調教していただくだの、性欲処理便器にしていただくだの、刺青だのピアスだの排泄だのと、私でさえ引くような内容を滔々と語っていました。
やはり彼女も、いきなりご主人様に会わせるわけには行きません。
正統派にして清純派なメイドのこの私が、最初にご主人様にお仕えするのが理に適っているというものです。
ピンポーン
と、呼び鈴が鳴ります。誰でしょうか。
私は服装を直し、玄関に出ました。
外に立っていたのは、雌蟲その2こと、晃でした。
自分の表情が引きつるのが分かります。
雌蟲その2は、何やら殺気立っています。この私と一戦交えようとでも言うのでしょうか。
それならば望むところ。返り討ちにして差し上げようと思ったとき、ふと疑問が浮かびました。
雌蟲その2は、雌蟲その1の婚約披露会に行かないのでしょうか。
単に興味がないだけかも知れませんが、一応聞いてみることにしました。
「おや、あなたは行かれなかったのですか?」
「行くってどこに?」
妙です。雌蟲その2は、婚約披露会のことを知らないのでしょうか。
「めすむ……中一条様の婚約披露会ですよ」
「なりき……中一条が婚約? 誰と!?」
ますます異様です。雌蟲その1の婚約も知らないとは。
嘘を言っているようには見えませんし、その必要があるとも思えません。
「どこぞの政治家の御曹司だそうですよ」
「え?」
「新聞にも載っていましたが。ご覧になっていないのですね」
私がそう言うと、雌蟲その2ははっとした表情になり、続いてにやりと笑いました。
どういう意味でしょうか。
「じゃあ、詩宝は今いないんだな?」
「その通りです。お引き取りください」
「分かったよ」
雌蟲その2が退散した後、私は部屋に戻って考えました。
雌蟲その2が、記事や招待状を見落としている可能性は、もちろんあります。
しかし、ご主人様の万一に備えなければならないメイドに、そのような楽観は許されません。
ここは何としても、雌蟲その1の婚約が事実かどうか、確かめる必要があります。
私はまず、図書館に向かいました。
昨日の新聞に、雌蟲その1の婚約記事が載っていることを、確認するためです。
まさかとは思いますが、雌蟲その1が、偽の新聞を届けてきた可能性も、ないではありません。
図書館に着くと、昨日の日付の新聞を見ました。もちろん、ご主人様がお取りになっている新聞です。
雌蟲その1の記事は、ありませんでした。
頭に血が昇りました。
全ては、雌蟲その1が仕組んだ罠だったのです。
私はまんまと引っ掛かり、ご主人様を外にお出ししてしまいました。
矢も楯もたまらず、図書館を飛び出します。
早く、手を打たなければ。
具体的に何をしたらいいか、まだ分かりませんでしたが、私はとにかく走りました。
すると、ご主人様からお預かりしている携帯電話が鳴りました。
立ち止って見てみると、知らない番号です。しかし出ないわけには行きません。
道路は騒々しいので、すぐ近くの銀行に入って通話ボタンを押しました。
「もしもし?」
『く、紅麗亜……』
ご主人様のお声です。いつお聞きしても心地よい声ですが、今は何かを堪えているように聞こえました。
「ご主人様! 今どちらにいらっしゃるのですか!?」
私は慌ててお尋ねしました。ご主人様からお電話をかけられるということは、まだ雌蟲その1に監禁されていないのかも知れません。
それならば、お助けする望みがあります。
『先輩の、お屋敷だよ……』
「すぐに逃げてください! 雌蟲の婚約は欺瞞でした。そこにいては危険です! 私もすぐ迎えに参ります!」
『ご、ごめん。紅麗亜……』
ご主人様のお声は、泣いているようでした。
「ご主人様?」
『僕もう、紅麗亜のこと、雇ってあげられないんだ……』
鉄棒で頭を殴られたような衝撃が走りました。
忠誠を誓ったご主人様に捨てられる。そんな馬鹿なことがあっていいはずはありません。
『聞いたわね? あなたはお払い箱よ』
雌蟲その1の不快な声が聞こえてきました。
『今すぐ詩宝さんの家から出て行きなさい。ちなみに、詩宝さんの家は今、私の名義になっているから、居座るなら不法占拠で警察を呼ぶわ。それじゃ』
通話が切れました。
何ということでしょう。
至高のメイドたるこの私が、雌蟲ごときの計略にひっかかり、命よりも大切なご主人様を奪われてしまったのです。
メイドにとって、これに勝る屈辱はありません。
怒りのあまり、視界が赤く染まります。
パーン!
そのとき、後ろの方で何かが弾けるような音がしました。
「全員動くな!」
何事でしょうか。誰かがわめいています。
ただでさえ怒りが制御できそうにないのに、ますます苛々します。
「動いた奴は撃ち殺す! 金を出せ!」
メイドがご主人様を奪われるという、世界を揺るがす大事件が勃発したのに、何がお金ですか。
どれだけ大金を積んでも、世界でただ1人のご主人様は買えないのですよ。
「おいこら! そこのメイド! 電話なんかかけてんじゃねえ!」
メイド? それは私のことでしょうか?
何という身の程知らずのオスでしょう。
私を呼んでよいのは、この世でご主人様だけだというのに。
私は、振り向きました。
目が覚めたとき、僕は柔らかいベッドの上にいた。
服は何も着ていない。
そして、これまた裸の中一条先輩とエメリアさんが、僕の左右から抱き付いていた。
僕の両腕は2人の枕にされており、感覚がない。
頭で血管が押さえられてしまったのだろう。
見ると、エメリアさんの向こうには、ソフィさんが寝ていた。
伸びた僕の手は、ソフィさんの特大のおっぱいを掴んでいる。
「うわ……」
驚いて手を引こうとしたが、痺れているのと、ソフィさんが僕の手をがっちり掴んでいたのとで、どうにもならなかった。
「お早うございます、詩宝さん」
目を覚ました先輩が、僕ににっこりと微笑みかけてきた。
「お。お早うございます……」
僕が挨拶を返すと、エメリアさんとソフィさんも起き出してきた。
「んっ……」
「ああ……」
「ソフィ、いつまで詩宝さんにおっぱい揉ませてるの?」
「ああん。失礼しました……」
やっと、僕の腕は解放された。まだ動かないけど。
「私、お食事の支度しますね。詩宝さんはここで待っていてください」
「は、はい……」
先輩は、ガウンを着て出て行った。
エメリアさんとソフィさんも、同じように出ていく。
1人になった僕は、昨日のことを考えていた。
先輩には取り返しの付かないことをしてしまったし、紅麗亜にも申し訳ないことをした。
紅麗亜は今、悲しんでいるだろうか。
落ち込んで、泣いているのかも知れない。
やっぱり一度会って、面と向かって謝りたい。
そう思っていたとき、ソフィさんが戻ってきた。
「詩宝様。新聞です」
「あ、ありがとうございます」
「では、また後ほど」
だんだん腕の痺れが取れてきたので、僕は新聞を読み始めた。
そして僕は、自分の考えが甘かったことを知った。
甘いも甘い。大甘の皇子だった。
“銀行強盗 メイドに睨まれショック死”
社会面をでかでかと飾る紅麗亜の記事を見て、僕は縮み上がる。
紅麗亜は悲しみに沈んでいるどころではなかった。
極限まで怒りを膨れ上がらせ、人を殺してしまうまでになっている。
死んだのが犯罪者で、一種の正当防衛だからよかったものの、まかり間違えば一般の人に被害が及んでいたかも知れない。
このままでは、絶対に済まない。
僕はベッドに潜り込み、しばらく震えていた。
以上です。今回は紅麗亜サイドでした。
また近いうちに投稿いたします。
もうこなくていいよ
クレアあんまり可愛くない
確かに先に妹たちを会わせてたら確実に引かれるわな(笑)
GJっす
クレアさんまじぱないっす
GJ
このスレの平均年齢15歳
名前がw
触雷!キターーーー!!睨んだだけで人殺せるって……中一条がメデューサなら、紅麗亜はバジリスクだな
触雷待ってました。
先輩サイドの方がまだ安心かもしれないw
GJ!
しかし妹ほどじゃないにしても紅麗亜もなかなか・・・・
妄想の内容がドMだな
GJ!
紅麗亜もなかなかいいね
GJ
クレアさん人こと言えnあ、なんでもありません
いいねぇ〜GJ。
なんかお子さんが居るみたいだけど静かにして欲しい。
ヤァ(・ω・)
久しぶり〜!
熱海があんまりにも退屈だから書き込みに来たよ^^v
>>250君みたいにやたら攻撃的なのはコンプレックスの裏返しなんだ、そっとしておいてやってくれ
後今暇だから構ってやるよ、何か悩みがあるなら書いてみ?
有り難い助言聞かせてやるからさ
一応下げといてやるか
スレのスルースキルが上がっているようだし、投下が多ければ文句は無い…
269 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 03:29:55 ID:pqy8jDKw
>>269 ヒュー!!ヒュー!!暑いね!暑いねwwww
>>269お?イキ良さそうなの釣れたなw
暇だから付き合ってやンよ
なにが気に入らないんだ?お兄さんにいってみ?
>>267や
>>270みたいに煽るしか能の無い阿呆は書き込まない方が良い
俺のように真摯に向き合うつもりがないならな
273 :
小ネタ:2010/08/10(火) 04:55:57 ID:wuOdT1r3
>>269「バカ、バカ〜みんな死んじゃえ〜」
>>271「ん!?…お兄さんに悩み事話してみな…」
269「あんた…なんか死ね!!死ねばいいのよ〜」
271「よしよし…“なでなで”」
269「死ね、死ね、しねー…ばか、ばか、“ガバッ”…っ!」
271「……“ちゅぱ、ちゅぱ、れろ、れろ”」
269「な…なにすんのよ…///…あん」
271「お、お兄さんも溜まってるんでな…活きの良い身体を見ると…ホラ///」
269「…(こんな大きいの!?‥ゴクリ)」
271「ほら…気持ち良くしてやるから…」
269「う、うん…“ペロペロ”…」
271「///お、おぉ…良いぞ…その…調子…」
269「ニコリ‥271の美味しい…“ペロペロ、ちゅぷ、ちゅぷ”…」
271「うっ‥ううん…ハアハア…そろそろ挿れて‥やるぞ‥」
269「……うん」
271「…“ズブッ”」
269「イーーーー!!!いや…271…お兄ちゃん…あ、あん…」
271「はあ、はあ…269タン…」
269「あ、ああん…お兄ちゃん…」
271「た、たまらん…で、出る…」
269「な…膣内に‥だ‥出して…」
271「う、うわあぁおあ!!!…どぴゅ…」
269「///…ん…お兄ちゃんの…あったかい…」
271「さて…お兄さんはそろそろ療養所に戻らないと…」
269「あはははは…お兄ちゃん…もう出口は無いわよ…」
271「え!?…」
269「だって…お兄ちゃんは永遠に私と一緒だもん…出口は破壊したわ」
271「……………」
う〜んツんの強いヤンデレはマジ萌える…271は幸せ者だ‥
274 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 08:17:04 ID:aZkuww0N
>>273 不覚にも萌えた一言で言うなら
俺はお前が大好きだ
>>273 俺が女なら絶対に親友のふりして近づいてるわ。
近づいてキエェエエエェエェエエッ!!!!!!!
おばぁ〜ちゃんそいずねぇ〜♪ってな?
いつも楽しく読ませていただいてます。
書いていたら長めの短編(中編になるのか?)といった感じになりました。
読んでいただければ幸いです。
タイトルは『歪な三角』です。
278 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:14:49 ID:OC+Z0maW
「お前何ガンつけてんだ?」
「何とか言えよ。」
バカ二匹か。俺はお前等みたいな奴が嫌いなんだ虫酸がわくほどにな。
「なに黙ってんだ?やっちま…」
とりあえずニヤニヤしながらしゃべっていた奴の腹に蹴りを入れる。
「てめえ!」
後ろから向かってきたもう一匹には顔面に裏拳をかました。
なんだ手応えがないな。喧嘩売るならもう少し楽しませてくれよ。
倒れた二匹にはそれぞれとどめを刺しておいた。
腹に蹴りを入れた方は頭を、裏拳の奴には腹をそれぞれ踏む。
不愉快だ。嫌な音させるな、白目むくな。本当に害虫は死に際も醜いから嫌になる。
折角の高校の入学式だっていうのに台無しだ。
「ねえ、杉浦篤君だよね?」
俺の名前を呼ぶ声が聞こえて振り向くと背の低い女がいた。
「覚えてないかな?小学校が一緒だった永井都だよ。」
…永井都?…思い出したくもない名前だ。
小学生の頃、俺はどっちかっていうと大人しく目立たない存在だった。
そしてこの女、永井都は当時のクラスで中心的な存在だった。
ガキの頃の話だ、そういう奴らのすることといったらいじめくらいなもので、当時の俺はそのターゲットだった。
もっともいじめと言っても、からかわれたり無視をされる程度のものだったが。
そしてこの女が転校するとき、俺は校舎裏に呼ばれてあろうことか告白をされた。
突然のことで何も答えられずにいたら、意地の悪い笑顔を浮かべこの女は言った。
『なんてね。嘘に決まってるでしょ。あんたみたいにキモい奴好きになる女なんているわけないじゃん。』
別にこの女に対しそういう感情は持っていなかったからショックはなかった。
ただ、次の日にクラスの男がからかってきたことに腹を立て気付いたらそいつを半殺しにしていた。
そしてそれ以降いじめは無くなり、中学の頃には周りから恐れられる存在になっていた。
「一応は覚えてる。で、何の用だ?」
「また同じ学校になれたし、よろしくね。」
「寝言は寝てから言え。お前の名前を聞くだけで吐き気がする。
楽しい高校生活を送りたいなら俺には関わるな。」
「もう、何照れてるの?」
「照れてない。お前のことが嫌いなだけだ。
あと下の名前で呼ぶな。」
あの頃からほとんど背が伸びていない永井は心底驚いたような表情で俺を見ていた。
それが余計に俺を苛立たせる。この女は存在するだけで害になるようだ。
279 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:16:06 ID:OC+Z0maW
冷たい表情と言葉を残して彼は去っていった。
久し振りの再会で照れてるんだよね。素直じゃないんだから。
私はずっと篤君のこと想ってたんだよ。
小学校の頃は素直になれなくてちゃんと伝えられなかったけど、離れていた中学時代にも篤君のことだけ考えてたんだから。
みんなとは打ち解けずに一人でいることとか変わらないね。そんな篤君のことが私は大好き。
これから楽しい高校生活を送ろうね。
「都!会いたかった!」
後ろから私を呼ぶ声が聞こえる。
「ああ、千晴。」
木谷千晴。小学校の頃のクラスメイトで篤君の近所に住んでる情報源だ。
「また同じ学校だね。よろしく。
でも驚いたよ!都がこの高校に来るなんて。」
篤君が行くんだから私が行くのも当然なのに何を言っているんだろう。
本当に察しの悪い女だ。
「そうそう、杉浦も一緒なんだよね。
あいつ小学生の頃とはすっかり印象変わったよ、会ったら驚くかもね。」
ついさっき会ったばっかりだよ、どこが変わったのだろう?篤君は今も昔もかっこいいのに。
千晴は私の手を取ってクラスの発表をしてある板へと向かう。
篤君と同じクラスだといいな。
さっき篤君に絡んでいた害虫二匹がまだ放置されていたからとりあえず隅の方に排除しておいた。
1年B組。これが私のクラス。
教室に入って真っ先に篤君の姿を探す。
同じクラスになれてよかったと言うよりほっとした。まあ、違うクラスでも毎日会いに行くけどね。
「永井さん?」
振り向くと髪の長い男が笑顔を向けていた。
「覚えてますか?小学校の頃一緒に学級委員をしてた、大石です。」
ああ、そんな奴もいたっけ。
「でも驚きました。まさか君と同じ高校になれるなんて。
さっきクラス発表で名前を見たときは同姓同名の人だと思ったくらいですから。」
こいつは小学生の頃からそうだ。私が聞いてもいない話を延々としてくる。
「これからもよろしく。」
キモイ笑顔を向けるな。お前にかまってる時間なんてない、篤君のそばにいる時間が減ってしまいもったいない。
適当に相槌をうって目の前の男から離れる。
でも肝心の篤君がいない。どこに行ったんだろう?
「おや、杉浦君じゃないですか。どこに行ってたんですかね?」
大…なんとかが篤君に話しかけている。何様なの?お前は。
「お前には関係ないだろ。」
そうお前なんて関係ないの。さっさと消えなさい。
280 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:16:57 ID:OC+Z0maW
「君が何かをすることで僕やクラスに迷惑がかかることもあるからね。
君のような問題児は僕のような優等生が監視していないといけないんです。」
「俺より成績が悪いのに優等生か。
まあせいぜい監視しとくんだな、優等生の大石さんよう。」
篤君に言われ大…なんとか改め男子生徒Aは言葉につまっていた。
ほら早く消えなさい。あんたの出番はこんだけなのよ。
「よく言ったな杉浦君!高校では…うげっ!」
だからあんたの出番は終わったの。空気を読みなさい、お呼びでないのよ。
「永井さん、なかなかの腕前ですね、効い…」
「一度死んでみる?苦しませないわよ。」
「これはなにかの間違いだ!永井さんがこんな…」
「あ!?」
「あはは…すいませんでした!僕みたいなカスが出しゃばって失礼しました…でわ!」
男Aはようやく自分の存在意義の無さに気付いたようで去っていった。話し合いは大切だよね。うん。
「やっと邪魔者もいなくなったね篤く…」
いつの間にか篤君は席に着いていた。
◇
学園生活も慣れてきた初夏。教室ではいくつかのグループができている。
もっとも俺はお友達ごっこに付き合う気はない。
「篤君、帰っちゃうの?」
永井が俺の席の前に立ち、話しかけてきた。
「見ればわかるだろ。」
一言返し俺は席を立つ。
「待って!何か言うことはないの?」
「ない。」
あるわけがない。この女は何がしたいんだ?
「私も今日はもう帰ろうと思ってるの。」
「ああ、じゃあ帰れよ。」
「ちょっと!そこは私を誘うべきでしょ?こんな美人を一人で帰らせるつもり?」
「意味が分からん。」
「なんで分からないのよ!私が一緒に帰ってあげるって言ってるのよ?」
「杉浦君、永井さんの誘いをk…」
「いい加減出しゃばるな!その他大勢のくせに!」
割り込んできた大石を永井が蹴散らしていた。お前みたいな性悪女の相手をしてくれる奴なんだから大事にしてやれよ。
永井と大石の戯れを横目に教室を出ようとしたら永井が俺の袖をつかむ。
「ねえ篤君、私悲しいな。なんでそんなに冷たくするの?私ツンデレって好きじゃないのよ?」
一言いわせてもらうとツンデレじゃない。デレは皆無だ。今までこの女に対して嫌悪以外の感情を抱いたことさえない。
「消えろ。」
そう吐き捨て俺は永井の手を振り払った。
断末魔?俺には関係ない。
281 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:17:53 ID:OC+Z0maW
「篤君…」
「なんて奴だ杉浦君は。レディを置いて帰ってしまうなんて。
永井さん、僕でよけれb…」
とりあえずさっきからまわりをうろちょろしている男Aを黙らせた。
聞くに耐えないような声まで出してますます私を不愉快にする。
お前が邪魔するから篤君は私にそっけない態度を取るのよ。
そう考えたら余計に腹が立ったので屍にとどめをさした。
篤君を素直にさせるにはどうしたらいいかしら?やっぱり誘惑をするのが一番かな?
篤君のために大切にしてきたんだけど早くもらってもらう方いいよね。
やだ…考えただけで体が熱くなってきちゃった…
とりあえず火照りを冷ますためにトイレに行こう。篤君、私をこんなにエッチな体にした責任も取ってもらうからね。
トイレの個室に入ってすぐにスカートの中に手を入れた。
あーあ、やっぱりパンティが濡れてる。篤君のことを考えるとすぐにこうなってしまう。
早く本当に篤君に触れてもらって、貫いてもらわなきゃ。もう耐えられないよ。
割れ目に指をあてると充分に塗れていて簡単に指が入っていく…
これは私の指じゃなくて篤君の指、篤君が私に触れて私をめちゃくちゃにしてくれる。
「あっ…篤君っ!」
気付いたら空いている左手が胸に伸びていた。先端の突起が固く、敏感になっている。
「ねえ、もっとさわって…私は篤君のものなの!」
篤君ずるいよ。私をこんなに切なくさせるなんて。
学校のトイレでこんなことしてたら誰かにバレちゃうよ?その前に篤君が私を満たしてくれなくちゃ。
ほら、今も誰かが入ってきちゃったよ。
『お願い。木谷さんって杉浦君と中学の同級生なんでしょ?』
『まあ、それに家も近いけど、でも別に仲良くないよ。それに気になるなら自分で声をかければよくない?
青山さんみたいに可愛い子に話し掛けられたらクール気取ってる杉浦だってその気になるわよ。』
千晴?どこの雌猫にそんなふざけたことを吹き込んでるの?恋に障害があったほうがいいなんてそんなのは物語の中だけよ。
『でも、私今までにそういう経験がないから。』
『大丈夫だよ。青山さんは私が知る限り学年で一番可愛いんだから。
それにしてもなんで杉浦なの?確かに見た目は悪くないけど、無口だし、初日から喧嘩するような奴だよ?』
『あれは喧嘩じゃないの!
私があの二人に絡まれて困っているところに杉浦君が通りがかって助けてくれたの。』
282 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:18:49 ID:OC+Z0maW
助けてくれて好きになった?何よその安っぽい恋愛小説のようなきっかけは。
そんなのはただの錯覚だわ、そう錯覚。
青山とか言ったかしら?あんたは篤君が好きなんじゃない、恋に恋してるだけなのよ。
盛りがついて冷静な判断もできない雌猫にはしっかりとわからせてやらなければね。
『そっか、そんなきっかけなんだ。それならわかんなくもないかな。』
千晴?
『わかった。出来る限り応援させてもらうよ。
たださっきも言ったけど、杉浦とは仲良くないから、大したことは出来ないかもしれないけど。』
『ありがとう、木谷さん。
他に頼めそうな人がいなくて…』
『ううん、そんな。
でも青山さん可愛いなー。杉浦がうらやましいよ。』
その言葉を最後に二人は去っていく。
私は乱れたままの服装で個室の中で立ち尽くしていた。
どれくらいの時間が経ったのかしら、落ち着いた私は服装を整えて教室に向かう。
もう日も傾き、校舎に残っている生徒もまばらになっている。
それなのに後ろから聞こえる私のとは違う足音。しかも二人はいる感じがする。
外を見る振りをしてガラスに映る姿を確認すると頭の悪そうな男が二人いた。
こいつらが何をしたいかの予想はつく。別に二人くらいなら私一人でもいけるから問題はない。でも…
私は立ち止まる。笑いを懸命に抑えている姿は震えているように見えるのかしら?
「あーあ、気付いちまったみたいだね。可哀想に。」
「まあ抵抗しなければ手荒なまねはしないよ。その様子じゃわかってるんだよね?」
わかってるわよ、あんたたちの運命をね。
「弱い男。もう少し腕を上げてからこういうことをしたら?」
「ひええ!すいませんでした!もう逆らいませんから許して下さい!」
「そうねえ、じゃあ一つ頼まれてほしいことがあるの。」
ボコボコにされたクズ男二人に話しながら私は笑みを抑えることができなかった。
発情期の雌猫ちゃんにはちょうどいいわね。
◇
「おはよう杉浦、ちょっといいかな?話があるの。」
「なんだ、木谷?珍しいな。」
登校中に珍しく話しかけられた。小学校から同級生の木谷だ。
別に仲がいいわけではないが、家が近いこともあって、数少ない話すことがある相手。
永井と仲がよかったけれど、こいつ自身はあけすけとした性格で、まあ悪い奴ではない。
「あんたさあ、入学式でいきなり喧嘩したでしょ?」
283 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:19:36 ID:OC+Z0maW
「あれは喧嘩じゃない。あいつらが因縁付けて殴りかかってきたんだ。」
「まあそんな是非はどうでもいいんだけど、その二人に絡まれてた子を覚えてる?」
「そんな奴いたのか?記憶にないな。」
そう言われるとあの二匹は最初背を向けていたな。誰かに絡んでたのか、ますますクズだ。
「それでね、その子が…あっ!」
木谷の視線の先を向くと、件のクズ二匹がまた誰かに絡んでいる。懲りてないのか。
「まあ、悪いことは言わねえから大人しく従いなよ。」
「あんたも運が悪いね。とんでもない奴に目を付けられてさ。」
「ああ、本当に運の悪い奴らだな。」
こっちを向いた二匹の表情が変わる。
「あっ、あの、こっこれはっ。」
「その、話し合えばわかります。」
「ほう、話し合うって言葉を知ってるのか?お前らは。」
「あははは、それは僕達は平和的解決を望んでますから。
なっ、なあ?」
「えっ!?ああ、そうですよ!暴力反対です。はい。」
「じゃじゃじゃっじゃあ、僕達はこ、この辺で!」
「まあ待てよ。折角だから事情だけ聞いてやるよ。話せばわかると言ったよな?」
「か、勘弁してください!殺されてしまいます!」
「殺される?誰かに命令されたのか?」
「本当に勘弁して下さい。もうこんなことしませんから!」
「お前等には危害が加わらないようにしてやる。だから話せ。」
俺は正義感があるわけじゃないが、弱いものをいじめる奴と自分で手を下さない奴はどうしようもなく嫌いだ。
「それが、名前は知らないんです。」
「昨日ボコボコにされて、命令されたんです。逆らったり、誰かにチクったら殺すって言われて。」
「どんな奴だ?特徴は?」
「それが…」
「女なんです!それも背が低くて見た目には幼い感じの。」
背の低い女?
「髪型は?」
「えっと、肩ぐらいの長さだったと思います。」
「木谷!」
絡まれていた女の子を落ち着かせていた木谷を呼ぶ。この子は木谷の友達なのだろうか、大分落ち着いてきたようだ。
「なに?杉浦。」
「永井と一緒に写ってる写真あるか?」
「初詣に一緒に行った時のプリクラがあるよ。なんに使うの?」
そう言って木谷は携帯を差し出した。
「よく見ろ、この中にいるか?」
「えっと、この右下の人だよな?」
「うん、間違いない。この人だ。」
「杉浦どういうこと?都がどうしたの?」
木谷が怪訝そうな顔をして覗いてくる。
284 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:20:45 ID:OC+Z0maW
「ねえ都。ちょっといいかな?」
朝から千晴が私のクラスに来て話しかけてきた。私も話したいことがあったからちょうどいいわね。
席を立ち、千晴についていく。話しにくい内容なのはお互いに同じようだ。まあ察しはつくけれど。
「…都、青山春菜ちゃんって知ってる?」
「ううん、知らない。」
へえ、春菜って名前なんだあの雌猫。
「で、その雌猫がどうしたの?」
「今朝、不良二人組に襲われたの。」
さっそく千晴に泣きついたってところかしら。千晴に協力頼むからそんなことになるのよ。
私は笑いをこらえるのに必死で、千晴が続いて言ったことを聞き取れなかった。
「なに?千晴。もう一回言ってもらっていいかしら?」
「杉浦が助けたの。」
「!?なんで篤君があんな雌猫を?役立たずの二匹め!」
「やっぱり都の仕組んだことだったの!?どうしてそんなひどいことを?」
「あの雌猫が篤君に手を出そうとしたからよ。それに千晴も千晴よ、私の気持ちを知らずにあんな雌猫に協力するなんて。」
「都…杉浦のことが?」
「ずっと好きだったわ。小学生の頃から。」
「でもあの頃、都が一番杉浦を…」
「あれは愛情表現よ。気付かなかったの?」
「転校前に告白する振りしてからかったりとか…」
「あれは照れた篤君を見てたら恥ずかしくなって強がっちゃったの。
でも篤君はわかってくれているわよ。私の想いをね。」
「おかしいよ都。そんなの恋じゃないよ!」
「千晴、あなたは篤君の近況を知らせてくれたりといい情報源だったわ。
でも人の感情に対して鈍いのが残念ね。もうあなたに価値はないわ。」
「都?な、何を…」
千晴の首に手をかける。今は篤君のそばにいるから千晴から聞くことなんてないし、私の恋の邪魔をした罪も重い。
「やめろ!永井。」
篤君の声がして、千晴から手を離す。
「木谷、残念だけどこれが事実だ。」
「わかった…でも、認めたくないよ。都がこんなこと…」
「俺がけりを付ける。
お前は春菜ちゃんを頼む、守ってやってくれ。」
「でも…」
「木谷。」
「…わかった。杉浦、お願い。」
「杉浦君…」
「大丈夫だよ、春菜ちゃん。君は絶対に守るから。」
篤君は雌猫に優しく語りかけ、頭をなでた。
何してるの?意味が分からない。そんな芝居は見たくない。
「ふふふ…あははは!篤君、いくら篤君でもしていいことと悪いことはあるんだよ?」
285 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:21:38 ID:OC+Z0maW
永井は何かが壊れたように笑い始めた。
「ねえ、篤君。なんでそんな意地悪するの?
そんな雌猫に優しくしたら勘違いされちゃうよ?ペットへの愛情と人間同士の愛情は違うってこともこいつはわからないんだから。
篤君は私とじゃなきゃ幸せになれないんだよ、私はずっと篤君のことが好きだったんだから。
篤君だってずっと私のことが好きだったんでしょ?ねえ、素直になって。私が素直じゃなかったことがいけないの?」
「そんな問題じゃない。お前が素直だろうがなかろうが俺はおまえを好きになれない。」
「どうして?どうしてよ?」
「人を好きになることに理由がないように嫌いになるのにも理由なんてない。」
「そう…それじゃ仕方ないね。」
その言葉とは裏腹にあきらめた様子は見えない。
永井はナイフを取り出して春菜ちゃんの方を向く。
「篤君、こんな雌猫がいるから篤君は正しい判断ができないんだよ。だから消すべきなの。」
「やめろ!お前はいつだってそうだ、自分の気持ち、自分の都合、自分のやりたいことしか考えてない。
それでどれだけの人間が振り回されて迷惑をしてるか考えたことがあるのか?」
「なんで他人のことなんて考えなければいけないの?私が篤君のことが好きなら篤君だって私のことが好き。
私がしたいことはみんなが望むことなんだから。」
ダメだ、完全にイカレてやがる。これも俺の責任なのか?
ふざけんなよ俺の人生をお前なんかに狂わされてたまるか!
「私の言うこと理解してくれないんだね。なんでそんなにものわかりが悪いのかな?
わかってくれないから仕方ないよね。」
永井は感情のない瞳でナイフの照準を俺に向けた。
春菜ちゃんと木谷を巻き込むわけにはいかない。少しずつ二人から永井を離れるように誘導する。
「篤君、一緒に死のう。そうすれば私達は永遠に結ばれるから。」
「ふざけんな!お前の自己満足に巻き込まれて死ぬなんてまっぴらだ。
それに死んだとこで何も解決になんかならない。気付いてないわけじゃないだろ?お前は目を逸らしてるだけなんだよ。」
「篤君こそ目を逸らしてるよ。私の想いに気付いてるんでしょ?私ずっと篤君を想ってたんだよ。」
「い、いい加減にして!」
春菜ちゃんがいきなり叫ぶ、俺も木谷も驚きで声が出なかった。
「何よ雌猫。元々はあなたがいけないのよ!いきなりしゃしゃり出てきて。」
286 :
歪な三角:2010/08/10(火) 10:22:28 ID:OC+Z0maW
危ない!永井が春菜ちゃんに近付づくのを止める。
「やめろ!」
「いいの杉浦君。」
◇
「大丈夫だよ。杉浦君と私はこれから一緒に色々なことを乗り越えていかなければならないでしょ?」
篤君が私の手を掴んで止めているときに雌猫はそう言って篤君を止めた。
「永井さんと言ったかしら?」
お前に名前を呼ばれる筋合いはない。
「さっきから杉浦君とあなたのやりとりを聞いてたけど、あなた何様なの?
『いきなりしゃしゃり出てきて』?
笑わせないで。あなたなんて杉浦君の心の中に一欠片もいないじゃない。よくもそこまで思い込めるわね。」
「なんですって?お前こそ私達を邪魔してるくせに。」
「邪魔してなんかないわ。邪魔なのはあなたの方よ!」
「何!?」
「私と杉浦君は今日から付き合うことになったの。」
「嘘よ!ねえ篤君、嘘だよね?この雌猫に思い込みで訳の分からないことを言うなって叱ってよ!」
「永井。春菜ちゃんは嘘なんてついてない。」
篤君?なにを言ってるの?嘘じゃないって?
「春菜ちゃんは俺の彼女だ。」
嘘!嘘嘘嘘嘘!認めない!そんなのは認めない!私と篤君が結ばれるのは運命、ずっと描いてた未来なんだから。
それを突然横取りして、私から幸せを奪った。やっぱりお前が消えるべきなんだ。
「ねえ、雌猫。人のものを奪ってはいけないって習わなかった?猫が人様のものを奪ったら殺される運命なんだよ。」
何よ?その余裕のある表情は。もっと怯えて、泣き喚いて、命乞いをしなさいよ!
私はナイフを雌猫に向かい振り下ろした。
◇
「うっ…そん…な、どう…し、て?」
俺は今目の前で起こったことをすぐには理解できなかった。
永井が独り言を呟いたと思ったら、突然春菜ちゃんにナイフを振りかざした。
春菜ちゃんのすぐ隣にいた俺は条件反射のように止めようとしたが、次の瞬間背中を誰かに押され倒れていた。
そして顔を上げた時に目に入ったのは…
「都!」
「き、木谷さん…ごめんなさい、私…刺されそうになって、怖くて…」
春菜ちゃんが涙を流しながら震えている。
「ううん…青山さんは悪くないよ。私だってあんなことされたら抵抗するから…」
「ち、は…」
「都!もう喋らないで!何も言わないで。」
「ち…」
「ごめんね都…私が都の気持ちを知ってたらこんなことには…」
永井が振り下ろしたナイフは春菜ちゃんにではなく永井の胸に刺さっていた。
>>277 投下乙であります
なんか厨二クサくて、冗長でした
とりあえず乙
久しぶりに来たら随分スレの平均年齢が下がったみたいだな
夏だからな
>>286 何だか、長編SSの「風雪」に似てるな。永井都が加藤レラに見えて仕方ない
>>287 できたら、まだ続くのか、ここで終わるのかだけでも書き込んでもらいたい…
292 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 22:20:40 ID:K0liOyWm
解
3、4ヶ月ぶりにここに来たんだが・・・
夏だな!爽快なくらいにっ!!
とりま追い付くまでwikiでも漁るか・・・
>>294まあ、正しい使い方では無いがあえて強調させるために使ったのかも知れんぞ?
そこら辺は作者の技量に期待である。
「」を使うときは最後の。はつけないほうがベター
それこそどうでもいい
いや、無い方がすっきりしてていい
それにマナーとしてあるんだから知ってるんなら使った方がいいだろう
まあいちいち言うほどの事ではないとは思うがな
確かこういう場合はつけるように教育されているんじゃなかったか?
こんなの作者の判断だから外から指導(笑)するまでもないだろう。
つけるように教育されてるって学校の作文と小説、SSが一緒かよww
でもまあ確かにパロ板でつけようがつけまいが作者の好きだとは思う。
途中まで読んで合わなかったら読まなけりゃいいだけの話
エロパロ板なんて底辺も底辺で言うのも何だが時間は大事
小説の作法を一々教授したがるやつは、作法サイトを見たばかりのSS書き初心者が多い
別に出版社を通して出版される小説ってわけではないんだし、作者の裁量に委ねればいい
マナーと言っても小説とSSは違うもの
それに感想が少なければ、作者も自分で色々考えるよ
厨二でラノベに応募しようと思っていた頃、
作法サイトで覚えたのは、
3点リーダー(……)は必ず偶数、通常2つで使う。
「」の末尾の句読点(。)は基本的に付けない。
?!を使ったあとは1文字分空白にする。
これが守られていない小説は一次選考で落ちるらしい。
自分はSS書くときもこれを守る癖がついたが、読みやすさは人によるんじゃねえの。
>>303 そんな作法があるんか。
いつかss書くときにそれ意識して書いてみようかな。
>>303 最後に「。」をつけるなんて癖づいてるもんだろ。
全然問題無し。殆どの人はそんな事は別に意識して見ないから大丈夫だよ。
みんな楽に書けばいいんだよー。
もう五年以上SSを書き続けてるし、そこそこ上手くなってきた俺が自意識過剰に言うが
ぶっちゃけ作法なんて個人の好きに汁
エロパロだろ
気になる奴は作法を気にすればいいし、気にしないならそれでいい
なんかの新人賞とかに応募するならともかくね
以前は俺も作法とか気にしてアドバイス(笑)してたんだが、最近はどうでもいいや
俺自身はできるだけ作法を守ってるがね
>>306 なんか何処となく上から目線って言うか夏っぽいな
その五年分のSS置いてある所言ってみ?
多分5年も書いてないだろ・・・
まあ、間違ってたらスマンがな
本題に戻るとぶっちゃけ、読み安さは変わらないだろう。
?や!のところに空白はいれた方がいいかもしれんが。
そんな所着目するくらいならセリフが連続で続いてたり、もっとSSの内容について言ってやれよ
>>303 まあ知識としては参考になるな
それより漢字の変換ミスはネットやし多少仕方ないとして、脱字や送りがなの間違いは気になるな
おはよう
すっげーどうでもいいし話、長々言ってんなよ
ここはヤンデレスレだ、それ以外いらん
『氏ね。』
>>307 一箇所で五年も書き続けてるわけじゃないよw
SS書きたいなーって思って、書き続けて、いろんなところに投稿し続けてたら五年くらい経ってたわ
エロパロとか理想郷とかいろいろね
上から目線に見えたならごめんねー
そろそろスレチ
そろそろ、ウナの批評タイムを始めようか
>>310 自分語りうざいおめえのSS遍歴なんざどうでもいいんだよ失せろ
油を撒くだけ
ヤンデレの怖い話で夏で熱くなったこの場を冷却してくれ
なんとも暇な油売りが多いこと多いこと、俺も超油売りだけどw
ネット小説で読みやすさに直結すんのは改行くらいだろ、これがおかしいのがいたら少し言う位でよくね
点とか丸とか他のはまあセオリーはあるにせよ、間のつなぎ方とか勢いとかでいくらでも変えたくなるようなもんだし
全然関係ないけど、ヤンデレとかにもなんていうか、内向きと外向きのパターンがあるじゃない。極端にすると
ヤンデレD「私がこんなに貴方の事愛してるのに、貴方は振り向いてもくれない……。何か私に駄目な所があったの? そうよね? だから私の事見てくれないんだよね?
お願い教えて、貴方の気に入らない事があったならなおす、貴方の好みに合わせたりもする、だって私は貴方が大好きなんだもの。
あ、あの子の事好きなの? それなら私があの子の代わりになる! 髪型も、ほらこんな感じでしょ? 喋り方も仕草も全部変えても良いから。
だからお願い! 私を、私の事を見て、貴方を私に感じさせて…………」
ヤンデレA「私がこんなに貴方の事愛してるのに、貴方は振り向いてもくれない……。ねぇどうして振り向いてくれないの? 私はこんなにも貴方が大好きなのに。
……ああ、あの子? あんな豚の事が好きなの? 前から少し思ってた事だけど貴方ってちょっとセンス悪いかも。ちょっと待っててね、今すぐあの豚屠殺してきちゃうから。
その後、私がじっくり貴方の趣味を健全な方向に教えていってあげる。手取り足取り、ね? そうすれば貴方が私の事を好きになるなんてコーラを飲めばゲップが出るくらい当たり前だもの! ……すこしはしたなかったかしら。
じゃあ、頑張るからね。……え? そのロープは何かって? だって私が色々処理しに行ってる間に貴方がどこかに行っちゃったら困るから。ねえ知ってた? 最近はお母さんが子供に紐つけたりもするのよ? それも愛よね、やっぱり。
だからコレも、私の、愛。うふふっ、じゃあ行ってくるわ。帰ってきたら続きをしましょう? 全部、ぜーんぶ終わった後にね。あはっ」
AはアグレッシブのA、DはディフェンシブのDだぜ! メンヘラとの境界が怪しくなってるけど、俺の中ではそんなに差は無いんだ
俺はアグレッシブに来て欲しいなぁw
>>315 ヤンデレの話で興奮するのではなく、ホラー感覚で捉えるその発想……
さては貴様、ヤンデレ好きを騙っているな。
改行の読みやすさをいってるおまいのレスが改行のせいで、
読みにくいことは口が裂けても言えない。
と油をデュルンデュルンッになるまで巻いて置いて(イソイソ)
熱冷ましありがとう。このタイミングでみなの荒れそうな雰囲気を収めてくれたおまいさんに敬意を払うよ
そしてわたしは強いて言うならタイプAが好きだ
俺はタイプBが好みだな
タイプBを考えてみた。
ねぇ、君はどうして無駄なあがきをするのかな。
君と僕の関係は、今やみんなが知っていることなのに……。
君はただ僕との関係を認めればいいじゃないか!
それなのに君は恋人なんていないとか言って…
まあでも、こんな事したんだから責任とってもらわないとね。
うん大丈夫、僕と君なら理想のカップルになるからね。何も問題はないよ。
ヤンデレバリアタイプみたいな感じで如何?
そういえばオタクの聖地「秋葉原」のようにヤンデレの聖地なんてあるのかな?
あったら行ってみたいような行きたくないような……
聖地の逆の意味をもつ単語はないのだろうか
聖の対義語が、悪(邪悪)とか俗とかだから
聖地の意味合いからいうと俗地(俗世間)とかじゃない?
ヤンデレカフェのサービスを考えてみたけど
いいのが思い付かない…
禁忌地
死地
このへんの単語じゃね
>>323 過去スレでその話題はあったなたしか。
飲み物に店員の愛液や尿を混入サービスとか、
一度入ったら店から出れないとかあった気がする。
短編にヤンデレ喫茶ってあったなそういや
個人的に「ヤンデレ喫茶は実在するのか?」は好き。いまでも抜ける
聖域の反対?
俺は魔境だと思った
お早うございます。
昨日家で書いたSSを投稿させていただきます。
SSを書くのは何分初めてなので至らない点がありますが、
最後まで読んでください。
タイトルは『死ねない人』
330 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:43:57 ID:Ft5/7m0W
目が覚めた。
土の中で・・・・・・
取り合えず外に出るかと思い手を突き出し土の中から這い出した。
「んっ、よく殺された」
などと、冗談を言って起き上がったのは俺、早川臥(はやかわふし)だ。
なぜ、俺は土の中に埋められていたかと言うと、昨日(おそらく)俺は通り魔から女の子を守り通り魔に心臓を刺されたからだ。
ここ最近多発してる通り魔事件は死体がないことが共通項なので多分俺はその通り魔に殺されたのであろう。
そんな事をされてなぜ生きているかと言うと、俺は不老不死であるからだ。俺の身体は何をされてもすぐに元に戻る。
例えば身体をバラバラにされても、元に戻るし。身体を火で焼かれてもやけどの痕は、全て消え元に戻る。
まったく、不便な身体だ。この身体のせいで何回も殺され苦労してきたのだ。
そんな事を考えながら俺はポケットに入れていた、携帯を取り出し現在の時刻を確認した。
7/11(月) am8:30
「・・・・・・」
夢かと思い頬をつねってみるが痛いようなのでここは現実だと知り、すぅっと息を吸い。
「ちこくだーーーーーっ!!」
と、叫んだ。
勢いよく土の中から飛出て全力疾走で自宅に向かい2秒で着替え3秒で冷蔵庫にあった生パンを咥え家から出て学校へ向かった。
331 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:44:35 ID:Ft5/7m0W
ガラガラ
「すみません、遅れました」
と、教室に入った瞬間俺は担任の任月先生にあやまった。
「遅刻10回目、バケツを持って廊下に立っていなさい」
アハハハ!!
クラスのやつら全員に笑われた・・・・・・
こちとら好きで10回も遅刻をしているわけではないんじゃ!!
って叫びたい・・・・・・
でも言うべきじゃないその10回ともが殺されて遅れたなんて言えない。唯一人を置いては。
「10回目か全く不幸だね臥は」
教室を出ると、声をかけてきたのは親友の伊吹准(いぶきじゅん)だ。名前でよく勘違いされるが准は女だ。しかもかなりの美少女だ。
「うるせぇ准、どれも人助けした結果だ」
「そうだったね、そう言えば昨日通り魔事件があったみたいだね」
「知ってる」
「だろうね、何せ被害者は臥なんだから」
「お前は俺に嫌味を言いたいのか?」
「そうだよ」
「で、お前も遅刻をしていたと」
「そうなんだよキミと同じ10回目なんだ」
「まさかと思うがお前俺と回数合わせてないか?」
「気のせいだよ」
などと、嫌味の混じった会話をしながら俺達はバケツを持って廊下に立って過ごした。
332 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:45:47 ID:Ft5/7m0W
放課後になり帰るために下駄箱に向かい、俺の下駄箱を開いたら手紙が一通入っていた。
たしか、朝は入っていなかったはずだ。
何の手紙だと思い開けてみると。
「放課後屋上に来てください。完全下校時間まで待ってます」
と、かわいらしい字で書かれていた。
だれだ?と、思いながら屋上に向かった。
そこにいたのは、見知らぬかわいい女の子だった。
「よびだしたの君?」
コクン
うなずいた、どうやら彼女のようだ。
「なんか用?」
「えっ、えぇっとあの・・・・・・昨日は助けてくれてありがとうございました」
「・・・・・・?」
昨日?昨日はこんなかわいい女の子と会った覚えは無いけどな・・・・・・?
「思い出せませんか?ほら昨日通り魔に逢っていた・・・・・・」
「!!あぁ昨日の君か」
「はい、今日の朝ニュースで連続通り魔のニュースを見た時は、早川先輩が私の変わりに死んだと思ってしまって、辛かったのですが、
昼に先輩の教室を覗いたら先輩は学校に来ていたので安心しました。怪我は大丈夫ですか?」
「怪我?ほらどこも怪我なんてしてないよ」
「?でも昨日、ナイフから私を庇った時胸に刺さっていませんでしたか?」
「うっ!刺さってなかったよ多分それは見間違えたんだろほら傷1つ無いじゃないか」
と、言って俺は、服を捲り上げて見せた
「キャッ!」
「あ・・・・・・ごめん・・・・・・」
「それにあの時私先輩の血出てるの見ましたよ・・・・・・?」
「それも見間違えだとおもうよ」
「でもニュースで映った映像では辺り血の痕だらけでしたよ」
「・・・・・・」
ここまで来て俺は墓穴を掘り続けていたことにやっと気がついた。
仕方が無い、本当のことを話すか。
333 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:46:10 ID:Ft5/7m0W
「なぁ・・・・・・」
「なんですか?」
「これから、言う事は一切他言無用にしてくれ」
「?はい」
「まぁ、まず昨日のことから話そうか。昨日俺は確かに君を通り魔から庇いナイフを胸刺され死んだ」
「え?死んだ?でも、先輩は生きているじゃないですか?」
「でそれから俺は土に埋められたそして生き返った」
「???」
「つまり、俺は死ねないんだ」
「え?え?」
「ところで、君」
「私は、立花理奈って言います」
「じゃあ理奈ちゃん、1つ問題だ俺は何歳でしょうか」
「?16か17歳ですよね」
「うん、見た目はね。でも、実年齢は102歳だ」
「嘘ですよね、先輩、からかわないでください」
「んー?どうしたら信じてもらえるのかな。そうだこれを見ていてくれない」
と、言って俺は腕を出し腕にカッターナイフを刺した。
「!!先輩何をしているのですか!?早く手当てをしないと」
「大丈夫、大丈夫ほら」
カッターナイフで刺した腕の傷はみるみる塞がれそして治った。
「こんな感じで昨日の胸の傷も治ったんだ。俺はさ不老不死なんだ。理奈ちゃん?理奈ちゃん?」
「先輩・・・・・・自分の体を粗末にしないでください」
「でも、すぐ治るし」
「そんな事関係ありません、傷は治っても痛いのでしょう」
「そうだけど・・・・・・」
「今日先輩から聞いたことは誰にも話しません約束します」
334 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:46:38 ID:Ft5/7m0W
「そうか、ありがとう。用件も済んだみたいだしもう帰るか」
「待ってください」
「なにか、まだ用あるのか?」
「はい」
「なんだ?どんな用だ?」
「あの・・・・・・先輩・・・・・・早川先輩・・・・・・好きです、付き合ってください」
「へ?それはどう言う事だ?」
なぜ、こんなかわいい子が不老不死で気味の悪い俺のことを好きになるんだ?
「先輩は覚えていませんか?1年前の事」
「1年前?」
「1年前、私が絡まれているときに助けてくれたのが先輩なのです」
「あ・・・・・・思い出した」
それは丁度1年前に遡る
335 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:48:53 ID:Ft5/7m0W
回想開始
1年前
「やめてください!!」
「いいじゃねえか、ちょっとそこの喫茶店で話をするだけだからさぁ!」
「おい、その子嫌がっているだろ放してやれよ」
「あぁん?なんだてめぇ、殺されたくなかったらさっさとどっかへ行けや!!」
「はぁ・・・・・そのフレーズ生まれてこの方何回聞いたか・・・・・・」
そう、呟くと7人の不良は同時に殴りかかってきて、
虹のように吹っ飛んだ。
着ているシャツの色がまた虹の色と同じなので余計に虹のように見えた。
「調子に乗るなよガキども、殺されたくなかったら、さっさと家に帰って寝てろ」
「「「「「「「はぃぃすみませんでしたぁぁぁ!!」」」」」」」
回想終了
336 :
死ねない人:2010/08/12(木) 05:49:19 ID:Ft5/7m0W
「あの時も助けてくれましたよね」
「そうだったな、だから理奈ちゃんは俺のことを知ってたのか」
「前から今日に、先輩に告白しようと思っていたのですよ。そしたらその前日に、通り魔に襲われて先輩が私を庇って助けてくれたのですよ。こんな偶然ってありますか?凄い偶然ですよね?」
「ああ、凄い偶然だな」
「先輩、私の告白受け取ってくれませんか?」
「・・・・・・俺を好きになってくれてありがとう。でも・・・・・・」
「っ!どうしてなんですか?私どこか変ですか?私のどこがいけないのですか!?」
「理奈ちゃんに、駄目なんてところは無いよ」
「じゃあ、どうして!?」
「俺がダメなんだ、俺なんかと付き合ったら、幸せになれないよ」
「私は先輩と一緒にいるだけで幸せになれます・・・・・・」
「でも・・・・・・」
「先輩!!」
必死な眼で、こっちをみてくる理奈にまけて
「分かった・・・・・・付き合おう」
「っ!!やった!!」
「理奈ちゃん」
「理奈って読んでください先輩」
「ああ理奈好きだ」
「好きです先輩」
こうして、俺と理奈は付き合い始めた。
だけど、この時にこの会話を准に聞かれているとは俺は知らなかった。
337 :
死ねない人:2010/08/12(木) 06:20:46 ID:Ft5/7m0W
はいこれで『死ねない人:第一話』はおしまいです。ここまでこんな駄文にお付き合いいただき
真にありがとうございます。
つきましては、続編のことですが、もしかしたら、書くかもしれません。
その時には、もう少しSSのクオリティを上げて投稿します。
それでは、またいつの日にか
起きていたかいがあった
GJ!!
朝早く起きてよかった
つまり何が言いたいかというと
GJ!!
>>327 あれはいいよな
ツンデレの子が可愛すぎる
いや、続編ありますよ〜みたいな終わりかたしてるじゃん。
これで終わりなら途中で辞めたのと変わり無いと思うけど。
342 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 20:04:16 ID:Ns4dRBQo
>>337 ずいぶん てまをかけたあらしだな
GJ!! つづけてもらってかまわないよ
乙…ぬるぽ!!!
何か作品投稿サッパリ止んでる……
帰省して、ヤンデレな従姉妹に監禁されてるんだr
ヤンデレ「総理大臣になったので
国民から100円ずつもらって
男くんと100億円の結婚式を挙げましょう」
いっそ共産国家の指導者として全ての生産力・資源を彼のために使わせては
泥棒猫は粛清
我が幼なじみの三話を投下させて頂きます
序盤はヤンデレ要素が薄いです
すみません
俺は学校から帰ってすぐに、風呂に入った。
沢山汗を掻くこの季節、風呂に入らないと気持ち悪くて仕方がない
湯船に入った俺は、夏休みは何をするか、宿題は何時するか、そんな下らない事を考えていたが、結局答えは出ず
風呂から出た俺は、着替えてすぐに寝てしまった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「起きて、お兄ちゃん!」
少し高めの声が、頭に響く。風奈の声だ
「ん〜……風奈ぁ?」
「ご飯できたって!」
俺がありがとう、と言うと、風奈はうん、と言ってすぐに部屋を出ていった
俺は大きく欠伸をして、食卓へ向かった
「頂きます」
しばらく、無言で飯を食っていると
「優……食べながらでいいから聞いて頂戴」
母はそう言って俺の顔を見てきた
「……何?」
俺がそこで聞いたのは、俺の両親は、俺と風奈を残し、由美子の父親と一緒に海外に転勤し
そして、由美子が俺の家に住む
という衝撃的な事だった。
当然、俺はいきなりの出来事に驚き、何故、今までそんな大事な事を言わなかったのかと、両親に怒鳴り散らした
しかし、両親はただひたすらに謝り続けるだけで、話しにならず、俺は部屋に戻ろうとした
しかし、そこで俺は、風奈が居ない事に気付き、母に聞く
「風奈には言ったの?」
そう聞くと、母は俯きながら言った
「まだよ……」
「なら、風奈には俺が話すよ」
俺は母の返事を聞かずに、部屋へ戻っていった
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は部屋で、風奈にどう説明するかを考えていた
いや、どう説明するかっていうのは少し違うか?
説明するだけなら簡単だ。
問題は説明した後だ、風奈はきっと泣いてしまうだろう
できることなら、俺は大事な妹を泣かせたくはない、それが兄ってもんだろう
しかし、泣かさずに納得させるなんてことはできないだろう
だから、早く覚悟を決めないといけないんだ……
どんなに風奈が泣いたって、俺が風奈を慰めて、泣き止ますんだ
これも又、兄の役目だと、俺は思っている
以上で投下終了です
朝っぱらから、こんな駄文にお付き合い頂き、ありがとうございました
gj
gjです
GJです!でも短いから物足りない!!面白いのに
すいませんが初投稿をさせて頂きます。
文面に誤字などがありましたなら指摘をお願いします。
ちなみに微妙に短い長編になりそうです
タイトルとしては、「少し大きな本屋さん」です。
本屋で仕事をしている俺は、たまに万引きをしているところを見たりする。
俺の場合、店の休憩室やらに連れ込むのも面倒なのでその場で注意したりして店から出てもらっている。
最初に声をかけた瞬間に、肩が驚くほど上がったりしておもしろいなーとか思ったりしながら
万引きしちゃだめですよー、などと説明したら、おどおどしく駆け足で店から出て行ってそれから一回も顔を見なくなる。
俺はこの店で売り上げに貢献しているのかしていないのか疑問に思いながら今日も変わらず店で本の整理をする。
なんの変わりの無い生活に不満をわずかに感じながら一日を過ごしていたある日、通算15回目、俺は万引き犯を見た。
近場の高校のブレザーを着ていて、肌が白く、そしてなかなかの美人さんである・・・・・いや、そうじゃなくて。
彼女が堂々に通学鞄の中に本を2冊ほど入れるのを目撃してしまった俺は無視できないので声をかけなければ。
にしても堂々としすぎだな、躊躇いとか感じなかったし。
これが手馴れている人ってやちょっと早足で店から出ようとすんな。
「ヘイ、君ちょっと店の奥まで来てくれるかな?」
「な!??」
そこまで露骨に驚くほどではないだろう。
もしかしてこれが初めて見つかったのかな?
まぁどうでもいいけど。
といか台詞を間違えてしまった。
ここは「本返してくださいねー」とかでよかったのに。
あー、めんどくせー。
せわしなく目を泳がしている彼女をパイプ椅子に座らせ、俺も机を挟んで反対側に座る。
うーむ、本当に美人さんだなぁ。彼氏とかいるんだろうなぁ。
妬ましいこのリア中が!!
生まれてから一度もモテたことなしの俺の気持ちがわかるか!!
と女の子にキレても意味は無い。
なーんか美形っていうか綺麗な顔を見ると妬ましくなるんだよなぁ。
ま、それは置いといて。
これどうしよう。
別にどっかのあだるとなビデオみたいなことするわけじゃないし、あー、とりあえず会話しますか。
「あー、えと、とりあ「貞操だけは守らせてください!!」
「そうだね、でももうちょっと静「ごめんなさいそういう性的な事以外はなんでもしますから!!」
「いや俺はそういう人じゃなく「本当にごめんなさいお金なら払いますからここは見逃してください!!!」
「本当にごめんなさいごめんなさいごめんなハガッ!!」
あまりにの会話が進まないのにキレて近くにあった雑誌でこの子を殴ってしまったが気にしない。
これを期に一気に用件つけて帰してしまおう。
「あのね、とりあえずその本を買うか買わないか決めてくれ」
「・・・・・・はい」
うん今さっきのでだいぶ落ち着いてくれたようだ。なんか睨まれてる気がするけど気のせいだろう。
「えっと、買いません」
万引きしといて買わないのかよー。
まぁいいけど。
「よし、ならお帰りの時間ですねーと」
「はい!??」
なんだよ、驚くことでもねーじゃないですか。
「どうしたんですか?お客様?」
「あの、私お客様じゃなくて、その、な、名前!とか、色々、聞かないん、ですか?」
自分が客じゃないって理解してるのはいい事だねぇ、それが理解できてなんで万引きしてんだか。
どうでもいいけど。
「そーいうのは良いのでお帰りくださいませ」
「え、いや、ちょっと!」
「はーいはいはいはい、はい!」
色々とうるさかったので背中を押して無理やり店の裏口から出して急いで扉を閉める。
ついでにガチャっと鍵もかける。
俺は万引きを退治したぞ!
・・・・・・・扉を叩くなぁぁあーもうるっさいなぁもう!
鍵を開け勢い良く扉を開ける。ちなみに引いて開ける仕組みになっているので扉の前にいるであろう女の子には当たらない。
「なんですか」
なんか用あるんですか万引き犯の人!!
こっちにはまだ仕事があるんですが!!
「メアド!、メアドか、電話番号、おし、教えてください」
えー、と、女の子って不思議だねぇ。
短いとは思いますが投稿終了です。
次はもっと長めに文を練りたいと思います。
見ていただきありがとうございました。
>>363 熱い中GJ!!それにしても店員よくクビにならんなぁ……
>>363 これだけではヤンデレとは。
この美人さんが店員にどうのめり込んでいくのかが欲しかった。
店員のキャラは面白かった。ので乙。
>>364 万引きGメンがいるような店ならともかく、街のコンビニや本屋程度だと万引き犯の相手をしても時間を取られて面倒なんよ。
保護者か警察が来るまでは控え室で見張っておかないといけないし。
昔コンビニでバイトしてた頃、店長を見てたらそう思ったわ。
366 :
転載:2010/08/14(土) 22:41:16 ID:uPkb+fr5
49 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22:33:25 ID:qybzXf/Y0
この世は無限の可能性で出来ている。
そう、どんなにエキセントリックな出来事でも、起きる事はある。
例えば、教室に謎の組織が乱入するとか、そんな男子中学生の妄想みたいな出来事でもだ。
はたまた、朝起きたら自分が醜い虫に変身していた…とか。
そう、こんな非日常過ぎる出来事があるんだ!
だから、いじめっ子にパシられて代理告白をして、その告白の効果が自分に帰属するなんてよくある話…
「な訳あるかッ!!!!!」
「…どうした?」隣の女性がこちらの顔を覗きこんで訝しんできた。
いや、はい、あの、どうしたらいいんですかね、僕。いっそ逃げたい。
ただいま夕方。僕は今日の朝に告白の代理を押し付けられた。
そして、何故か僕が、現在進行形で隣を歩く双葉宮風子と交際する事になってしまった。
「なあ、雪斗」
おいおいおい、よく考えたら明日、広瀬に殺されかねないって。
「おーい、雪斗」
どうすっかなぁ、どうすっかなぁ。
今更「実はあの告白は代理告白で、僕の気持ちじゃ無いんです☆てへッ」なんて言うしかないよなぁ。
「どうしたんだー?」
でも、お互いの為にならないんだよな。こういうの。正直に言うべきなんだよ。
「…?」
でも、結果的に傷つける訳だしなぁ…。
「おい!」
「ウがっ!」額に衝撃が走る。正面を見ると、デコピンを撃った後の状態の右手と背の高い彼女が居た。
どうやら、デコピンを食らったようだ。地味に痛い。同時に目も覚める。
「えっ、あ、何ですか?」
「あーいや、話掛けてもボーっとしてたから、つい、ね。」
「すいません。」とりあえず、平謝りをかましてみた。
「まあ、いいんだ。許す代わりにだ、その、今度の日曜日、デートに行くぞ!」
「デート、ですか。」
思考再開。このままの関係を惰性で続けて意味があるんだろうか。
そもそも、デートって何処行きゃ良いんだよ。童貞に分かる訳ねーだろ!
「何か予定でもあるのか?」
「あー、いや、えっと」
言おう!あの告白は僕の意思じゃないって事を。
367 :
転載:2010/08/14(土) 22:41:39 ID:uPkb+fr5
50 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22:33:50 ID:qybzXf/Y0
「えっとで…フがっ」何かにぶつかった。幸い、電柱の様な固い物では無かったが。
だが、ぶつかった対象物を見ると、幸いでも無かったが。
「ンダコラ!テメェ!前見て歩けゴラァ!」パターン青、不良グループです。
つーか、なんだこの不良。ステレオタイプ過ぎる…。腰パンに学ランにリーゼントって…昭和時代ですか、この野郎。
しかも、他の2人もステレオタイプ…なんて口には出せなかった。とりあえず平謝りをかまそう。
「す…すいません…」
「アァ!?聞こえねーぞ!あ!?」
タチ悪いな畜生!
「しかも彼女連れか、優雅だなテメェ!ウゼーな!」
すいません。僕は望んでないのに交際まで嗅ぎつけました。
大体なぁ、彼女欲しいなら作る努力しやがれ!ねだるな、勝ち取れ!それが人生のルールだろうが!
「おい!おめーら!こいつボコって、そこの女まわそうぜ!」
後ろの2人は、そのリーダー格っぽい男の提案に乗ったようで、気色の悪い歪んだ微笑みを見せてきた。
マズい!逃げよう!そう思って先輩の手を握って逃げるつもりだった。
しかし、儚くもその即席の計画は失敗した。
手を握る前に、頬をぶん殴られて吹っ飛ぶ。
柵に背中をぶつけて激痛が走る。背中と頬の痛みがデコピンの比じゃない。
くそ、先輩だけでも…守らないと。ここで「僕にかまわず逃げて!」とか言ってみたい。
死亡フラグだけど、人生で一度は言ってみたいんだよね。
「先輩、逃…げ…て…」
驚くべき光景が、僕の目に映った。
先輩がリーダー格の男を締めあげている。
地べたには、他2名が顔を腫らして、這いつくばっていた。
「暴力は嫌いだから平和的に解決しようと思ったが、話し合いでは解決できないみたいだな。」
「「ヒ、ヒイイイイ!」」
あ、リーダー格の男を残して、同級生らしき2名が逃げた。
「ちょ…おま…!!おい!!」
「で、どうする?お前もこの場から立ち去るか?」
「は、ハヒィ!も、もういちゃもん付けませんから!許して下さいッ!!」
先輩の手が不良を放す。不良は尻もちをついた後、脱兎の如く逃げだした。
かわいそうに…全治何週間するんだろう…。ご愁傷様です不良君。
368 :
転載:2010/08/14(土) 22:42:02 ID:uPkb+fr5
51 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22:34:11 ID:qybzXf/Y0
先輩がこちらに近づいてくる。
「大丈夫か?」
先輩の手が、殴られた僕の頬に触れた。
「こんな真珠の様な肌に傷を…。あいつらにはもっと制裁を加えても良かったな…」
「大丈夫です。なので頬をぷにぷにしないで下さい…」あと、後半の台詞、冗談でも笑えない。
「しかし、君の頬は綺麗で、それでいてぷにぷにして気持ちいいな!女としては羨ましい限りだ。」
「そりゃ…どーも。」不覚にも照れる。
しかし、『実はあの告白は代理告白で、僕の気持ちじゃ無いんです☆てへッ』なんて言ったら殺されかねないという事が分かった。
先輩が僕の頬から手を離して、その手を差し伸べる。
その手を掴んで先輩に起こして貰って、2本の足だけで立っている状態に戻る。
「でさ、デートの件なんだが…」
「ニチヨウビデスヨネ!マカセテクダサイヨ!」
「な、なんだ急に?まあ、楽しみにしてるよ!」
「アハハハハ、ボクモタノシミダナー!」
背中が冷や汗でべったりだった。
◆
尾行していたら、有力情報をゲットした。
雪斗と双葉宮が日曜日にデートすることが分かったのだ。
さて、尾行してやろうっと。
369 :
転載:2010/08/14(土) 22:42:20 ID:uPkb+fr5
52 名前: 風雪 3話 ◆ f7vqmWFAqQ 2010/08/14(土) 22:35:00 ID:qybzXf/Y0
以上、3話終了
風雪キターーーー!!ようやく来たっていうか、次回は加藤レラの暴走が拝めそうだ!
転載乙
作者乙
こんにちは。
これから投下します。9レスほど使用します。
「ジミー君、今から君の家に行ってもいいかな?」
そんな用件の電話が藍川からかかってきたのは、部屋に置きっぱなしにしていた携帯電話の電源を入れてすぐのことだった。
妹の手伝いをする前に、携帯電話も持っていこうと思い部屋に入ったのだ。
弟や葉月さんから電話がかかってくるかもしれないし。
昨日、葉月さんに破壊された携帯電話はスクラップ置き場へ直行している。
あれを直せるような技量は俺にはない。購入した店に頼むにしても、新品を買った方が安いと言われてしまうことだろう。
今手元にあるのは、ちょっと前まで使用していた携帯電話である。
SIMカードを入れ替えるだけで電話番号・メールアドレスを入れ替えられるというのは素晴らしい。
なんとなくもったいなくて、買い換え時に古い携帯電話を捨てず、持ち続けていて良かった。
今後も、いざという時のために予備は控えておくべきである。
前触れもなく、知人から携帯電話を奪われて、止める間もなく真っ二つにされるかもしれないからな。
「藍川、何が目的だ」
「ずいぶんな言いぐさだな。単に君の家に遊びに行きたいと思ったから、電話したのに。
連絡せずに訪ねていって、誰も居なかったら無駄足になるだろう。
ジミー君にはジミー君なりの事情というものがあるだろうし。
先日デパートで会ったジミー君の彼女と、二人きりで遊びに出掛ける予定と被ったら嫌だからな」
……あ、そういえばまだ藍川は勘違いしたままだったっけ。
「言い忘れてたけど、この間俺と一緒に居た女は妹だぞ」
「そうなのか? ……嘘っぽいな。全然君とは似ていないじゃないか」
「余計なお世話だ。顔が似てない兄弟なんかよく居るだろ。
性格が似てない兄弟はそれ以上たくさん居るはずだ」
弟は父親似、妹は母親似なんだよ。生き写しのように顔がそっくりなんだ。
弟と妹がもっと大人っぽくなったら、男同士と女同士で、ツーペアになってしまう。
風呂上がりや寝起きに、相手を誤って声をかけてしまうおそれあり。
ついでに。
祖母や親戚曰く、俺は祖父に似ているそうだ。
実の父親に似ていなくて安堵している、心の底から。
「そうか。そうだった。忘れてたよ。うん。
いくら血の繋がった姉弟だと言っても、顔や行動が必ずしも似通うわけじゃない、ってね」
「藍川にも兄弟がいるのか?」
「……いいや、居ないよ。今となっては、それ以上でもそれ以下でもない」
「ふうん……?」
何か気になる言い方だな。居ない、の一言で済みそうな話なのに。
実の兄弟ではないけど、兄弟のような存在ならいるとか、そういうことかな。
それについては、後でもう一度聞いてみるとするか。
「で、私は遊びに行っても構わないのかな?」
「ああ。別に構わないぞ。
と言っても、今日は弟が居ないし、特に面白いものもないから、遊びようがないと思うが」
「それならそれで構わないよ。私は君の部屋を物色できればそれなりに楽しめるだろうし。
右腕の怪我で一緒に作れないのが残念だけど、それは怪我が治ってからにしよう。
では、一時間以内に君の家に到着すると思うので、よろしく」
「おう。手土産もよろしくな」
「もちろん。ちゃんと君の大好きな玲子を連れて行ってあげるよ」
……は? なんで玲子ちゃん?
「ちょっと待っ…………切りやがった、あの女」
すぐにリダイヤルしても繋がらない。携帯電話の電源まで切ったのか。
藍川と一緒に、玲子ちゃんも来る。仕返しのチャンス、到来。
先日は伯母と両親がいたせいで仕返しできなかった。
今日は今日で妹と藍川がいるが……まあ、二人の目を盗んで色々するのなんて簡単だろう。
病院で脛を蹴られた時の恨み、今日こそ晴らしてやる。
大人を甘く見ていたらどうなるか、幼いその身に刻んで教育してくれよう。
妹の部屋の前にやってきた。
ここは弟と妹が二人で使用しているので、実際は二人の部屋である。
妹も間もなく高校生になるのだから、そろそろ部屋を分けてほしいと考えているかもしれない。
しかし、我が家の部屋割りは、妹が弟と同じ部屋に住みたいと言ったからこうなっている。
同じ部屋が良いというのなら、止める人間は居ない。もちろん俺も。
最近、妹が俺に心を開いてくれるようになったが、それでも俺と弟で比較すれば、弟の方が好きだろう。
自分の部屋に不満を覚えない俺としては、今のままの部屋割りがいい。
妹が自分だけの部屋がほしいと言い出さないことを願うだけだ。
もしそんなことになったら、弟が俺の部屋に居着くか、弟が俺の部屋に来て俺には部屋無し、ということになる可能性大。
前者ならともかく、後者の場合は、抗議せねばならん。
部屋に詰め込んでいるプラモデルの完成品と工具・塗装ブースをどこにやればいいんだ。
それら一切を捨てるのは無しだ。俺がプラモ作りをやめるのも無しだ。
そうなったら、毎日藍川の部屋に通うことになってしまうじゃないか。
通い妻ならぬ……通いモデラー? にはなりたくない。
扉に向けてノックを二回。すると中にいる妹から返事があった。
「入ってきてもいいわよ。もう着替え終わってるから」
了承を得たので、入室。
部屋の中は、先日花火に荒らされた部屋とは思えないほど、整頓されていた。
弟と妹のそれぞれの机、椅子。使用する人間の性格を表しているような様だった。
妹の机は入学前と言うことで、机の上を片づけたのだろう。筆記用具や参考書が然るべき場所に落ち着いていた。
弟の机には何も乗っていない。机の未使用疑惑。
あいつはちゃんと勉強してるのか。よく二年に進級できたものだ。
本棚。先日は床にダウンしていたが、今では壁に背中を預けて立っている。
それぞれの棚には、本が隙間無く収まっていた。
それ以外の家具・小物など、全て定位置にあった。
だが、破壊された二段ベッドまでは元通りになっていない。
かつてベッドの置いてあった床の上だけが、周りの床から浮いて、色あせていなかった。
妹が高校入学前ということで、床上には高校指定の制服やカバンなどが置かれていた。
妹はというと、私服ではなく、女子専用制服を身に纏って立っていた。
「なに、部屋の中じろじろ見てるのよ」
「いや、あれだけ荒らされたっていうのに、よくここまで直ったもんだって思って。
お前と弟の二人で全部片づけたのか?」
「そんなわけないでしょ。お兄さんが入院してる間に、家族全員で片づけたの」
ふうん。両親も花火が部屋を荒らした件については知ってるわけか。
損害の請求とか花火宛てに送ったりしたのかな。
……送ってなさそうな気がするんだよなあ、あの両親だと。
本人達が社会のルールから逸脱してるせいなのか、面倒な手続きや、社会との接触を避けたりするんだ。
そんな両親なのに、よく俺ら兄妹をここまで育てられたもんだ。
金を払って、近親相姦した人向けアドバイザーでも雇ってるんじゃないのか。
もしそんな人間が居るなら、俺はそいつに感謝しなければ。
第三の親みたいなもんだし。第三の親ってのもおかしな表現だが。
「それで、言うことは部屋の様子についてだけなの?」
「ん。そうだな……」
改めて、妹の全身を捉えてみる。
高校の制服を着た妹を見るのは初めてだ。
中学の制服ばっかり見てきたから、妹が背伸びしてるみたいに見える。
肩幅が合ってないし、スカートが固まったまま動きたがってないように見える。
はっきり言って、違和感有りまくりである。
着慣れていないのだ。妹の体と制服のサイズが合っていないのではなくて。
調和していない。妹の体と制服のそれぞれが自己主張し合ってる。
大昔の皇帝は、人は着ている制服通りの人間になる、と言ったそうだ。
今の妹は制服通りの人間になっていない状態である。
そして、制服の方も妹の体を包もうとしていない。新品の制服はまだ固い。
妹が制服を着て学校生活を送らないかぎり、この違和感は残ったままだろう。
「黙り込んでどうしたのよ。もしかして、無理矢理褒めるところを探してる?」
「違う。そんなことしたらお前、俺に怒るだろ」
「よくわかってるじゃない。その通りよ」
たまに、本当にごくたまになんだが、こいつは妹じゃなくて実は姉なんじゃないかと思ってしまう。
さっきの会話だと俺の方が下の立場みたいだし。
ここは兄としての格好をつけるために、ビシッと言ってやるとしよう。
「まあ、はっきり言うとだな。お前の制服姿は様になっていない」
「……そう」
妹が落胆したように視線を落とす。
しかし、まだ俺の言葉は続くのだ。
「でも、それは仕方ないことだと思うぞ。
制服は私服と全然違うんだから、簡単に体に合わないんだ。
何日か制服を着て生活を送って、何回も洗濯して、ようやく違和感なく着られるようになるんだ。
制服着るの、今日で何回目だ?」
「まだ、二回目ぐらい」
「なら慣れるのはまだまだ先だ。気にすんな。弟の制服姿だって去年の今頃は違和感バリバリだったんだ」
「バリバリとか使う人、久しぶりに見たわ……」
「うるさい。ともかく、お前の制服姿が様になってくるのは、高校入学してからだよ。
肩幅が合ってないように見えるとか、スカートにやる気がないとか、
馬子にも衣装という表現もできないとか、全部仕方ないんだ。
高校に通って一ヶ月もすれば違和感もなくなってくるから、それまでの辛抱だ」
「この機会に私をけなそうとしてない?」
「そんなわけないだろう」
けなすつもりだったらもう一言ぐらい付け加えてる。胸の部分について。
「本当かしら。たった今も馬鹿にされたような気がするんだけど」
「それは気のせいだ。それに、違和感はあるけど、お前の制服姿が悪いとは言ってない。
堂々として入学式に行ってきて良いよ。恥ずかしい部分なんか一つもないから」
「……ほんと、お兄さんって変よね」
妹が後ろへ振り返る。
一瞬だけ、もしかしたら錯覚かもと思うぐらいの瞬間に、頬が紅くなっているのが見えた。
今となってはもう、妹の顔は見えないのだが。
「人を落ち込ませたかと思えば、次は持ち上げてさ。
なんにも期待なんかしてなかった、って言えば嘘になるけど。でも、ほとんど期待してなかったのに。
そんなこと言われたら、私は。私は、なんか、もう…………」
妹が何か呟いている。ほとんど聞こえない。
調子に乗って言い過ぎてしまったか? 早いうちに謝っておいた方がいいのでは。
「あー、妹よ。気を悪くしたのなら……」
「お兄さん、ちょっとだけ部屋から出てて。着替えるから。
後でまた呼ぶから、その時は入ってきて」
「あ、ああ」
「絶対、入ってきてね」
妹に部屋を追い出され、一人たたずむ。
主人公一人でのRPGの戦闘中に、死刑宣告をされたような気分である。
自分では助言をしたつもりだったが、余計なお世話だったのか。
謝るより先に部屋から追い出されてしまった。着替える、と言われては出て行くしかない。
それに、絶対入ってこい、と言われた。言い換えれば、逃げるな、だ。
暴力を振るわれることについては怖くない。葉月さんに比べれば妹は非力な方だ。
俺が恐れているのは、再び家庭で妹からないがしろにされることである。
せっかく、卒業祝いの食事、入学祝いプレゼントで妹のポイントを稼いできたというのに、ふりだしに戻ってしまう。
実は家庭でないがしろにされるというのは、結構ショックなのである。近頃は妹が優しいから忘れていたが。
今朝妹が朝食を作ってくれていたことだって、実はかなり嬉しかった。
間違いなく、一口ごとに三十回は噛んでいた。幸せを長く噛みしめていたかったのだ。
「それがもう、明日からは……」
やばい。涙腺がやばい。泣きそう。
肘が曲がってはいけない方向に曲がった時だって泣かなかったのに、今ならすぐに涙腺決壊させられる。
――ええい、泣くな。シスコンめ!
今はどうやって妹の機嫌を直すか考えるのだ。
ひとまず弟を呼び寄せて、妹との会話中に支援させよう。
通話履歴から弟の番号を呼び出す。こうすると電話帳から呼び出すよりも早く電話をかけられるのだ。
呼び出しをかけると、弟はすぐに電話に出た。
「もしもし、兄さん?」
「ああ。悪いけど今から家に帰れるか? ちょっと助けてほしいことがあるんだ」
「何があったの?」
「……妹を怒らせた」
弟が説明を要求してくるので、事細かに説明してやった。
俺が妹のためを思って感想を述べてやったこと。
口が滑ってちょっと言い過ぎてしまったこと。
後になってフォローしてやったこと。
たった今妹は俺を断罪するための衣装に着替えていること。
全部聞き終えると、弟はこう言った。
「それだけじゃいまいちわからないな。事情はわかったけど、妹がどういうつもりなのかが」
「いや、絶対あいつは怒ってる! 頼む、去年のテストの範囲をリークしてやるから、帰ってきてくれ!」
「そこまで言うのならいいけど。あんまり深刻に考える必要もないと思うよ、僕は」
「なんでもいいから! とにかく、早く! ハリー! 」
「はいはい。一応急ぐけど、間に合わなかったらごめんね」
通話を切る。
救済策は一つ確保した。だが間に合うかがわからない。
妹の着替えが終了する時が、タイムリミット。
弟が帰宅するのが先か、妹の着替えが終わるのが先か。待つしかできないのがもどかしい。
叶うなら、起床する時まで時間が巻き戻ってほしい。
もしくは、今日これまでの出来事が夢であってほしい。
wktk
玄関に座り、叶わぬ事を願いながら頭を抱えていると、話し声が微かに聞こえた。
玄関の向こう側に誰かがやってきたようだ。
話し声がするということは、複数人でやってきている。
妹が怒っている状態でインターホンを鳴らされると、さらに刺激を与える恐れがあるので、自分から応対することにした。
玄関の戸を開ける。
そこにあったのは、我が家の庭と、三人の女の子だった。
「……なんだ、藍川か」
「なんだとは随分失礼な台詞じゃないか。
遊びに来ても良いというから来たというのに、一向に歓迎する気配がないな」
「お前が電話してきてから今まで、いろいろあったんだよ」
「そうなのか。じゃあ今日の所は日を改めた方がいいのかな」
そう言った藍川を押しのけ、代わりに俺と対峙したのは小さな女の子だった。
「……初めまして。君は藍川の知り合いかな?」
「そうやってとぼけて通用すると思ってるの、ジミー?」
「ごめん。君が何を言っているのか俺にはわからないな」
「セイカク悪っ。ジミーって女の子にもてないでしょ?」
「何を! まだキスも済ませたことのない小学生の玲子ちゃんに言われたくないな!」
「ほら、知ってるじゃん、ボクのなまえ」
ちっ。
言葉のやりとりで俺をはめるとは大したものだ、玲子ちゃん。
得意そうに胸を張る姿を見ていると、手で押してひっくり返してやりたくなる。
そのボリュームの足りない胸に照準を合わせて。
「ジミーがすごく怪しい目でボクを見てる……テイソーがあぶないような気がする……」
「貞操なんて言葉を知っているのか。偉いな。
だけどそれは気のせいだよ。ほら、お兄さんのところへおいで」
たっぷりこの間の仕返しをしてやるからさ。
「……ギルティ」
小さな呟き。
少し遅れてやって来た殺気を感じ、左に一歩踏み出した。
体が移動すると同時、さっき立っていた場所を、一筋の光が通りすぎた。
光の通り過ぎた部分。そこには丁度俺の顔があったところだった。
呟きを漏らしたのは誰なのか、そして今の光の正体がなんなのか。
そんな疑問は、この場にいる彼女の存在を認めてしまえば、全て解決する。
「……ちっ。避けないでくださいよ、先輩。私の愛を受け入れてください」
「うん。もうちょっとソフトで、心がこもっていたら受け入れないでもないんだけどね。
いきなり凶器を投げるのはやめてくれないかな、澄子ちゃん。警戒してなかったらどこかに刺さってたよ、あれ」
「狙ってたんだから当たり前です。
心はこもってますよ。今のには、先輩への強烈な思いがこもってました」
「……俺は一応、君の好きな男の兄貴なんだけど」
「知ってますけど、それが何か?」
笑顔で首を傾ける澄子ちゃん。彼女の性格を知っている俺にとっては何の感慨も湧かない仕草である。
澄子ちゃんが見た目通り、小柄で可愛いだけの女の子だったら騙されるんだろうけど。
本性を知っている俺は、彼女の行動全てに疑いの目を向けずにはいられない。
そもそも、何をしに来たんだ、澄子ちゃんは。
藍川のついでに玲子ちゃんが来るだけで、俺一人で歓迎できる定員をオーバーしているというのに。
「先輩。一言言っておきます。
私は小さな女の子に魔の手を伸ばすような男の人には容赦しませんから。
トドメの必殺技を喰らわせて爆殺するまで、私は先輩から目を離しません」
「ちなみに君の必殺技は?」
「マウントポジションからの両目への致命的な一撃です。
名付けてジス・イズ・マイペン。然るのち、先輩の身を遠隔操作で爆発させます」
「……あのさ、俺ってそこまで悪いことした?」
「してないとでも、お思いで?」
まあ、冷静になってみれば、九歳児に仕返しする高校生なんて大人げないと思う。
だけど澄子ちゃんの言葉を聞いていると、年齢ではなく、男が女に乱暴するのが悪いのだと言っているように感じる。
俺だって、女性に一方的な暴力を振るうのは良くないと思ってる。
しかし、いつ如何なる場合でもタブーになるとは思わない。
男尊女卑の社会は良くないと言うが、いつまでもそんなことを言っていたら、男は虐げられる側に回ってしまうのではないか。
男女平等の精神が美しいなら、女性が男に叱咤される場合だってあって然るべきだと思う。
「先輩はこれぐらいで凝りましたか? それとも、もうちょっと私の愛が欲しいですか?」
「わかったよ。金輪際玲子ちゃんにおかしなことはしない。約束するよ」
「……まあ、いいでしょう。今日の所は許してあげます。
それじゃあ京子。あとはよろしくね」
澄子ちゃんはそう言い残すと背中を向けて家の敷地から出ていこうとする。
「澄子はジミー君の家に上がっていかないのか?」
「彼が居ないなら、先輩の家に用なんか無いわ」
「そんなつれない態度をとるからお前には友達がいないんだ。ちょっとはジミー君と仲良くしろ」
「私にはとっくに親友がいるから、これ以上友達が要らないの。
じゃあね。帰りは自分の足で帰るから、待ってなくていいわよ」
澄子ちゃんの親友って――藍川のことだろうな、たぶん。
一緒にこの場に来てるし、この間は病院でも一緒にいたし。
不思議な縁というか、世間は狭いというか。
弟を誘拐するぐらい好きな女の子と、俺と趣味の合う女の子が、親友同士。
全然性格が違うのに、なんでこの二人は仲が良いんだろう。
仲良くなったきっかけとか、聞いちゃっても良いのか?
「お兄さんっ! 助けてっ!」
唐突な叫び。家の方から聞こえてきた。
振り向くと、部屋から飛び出した妹が玄関にいる俺の方へ駆けてくるのが見えた。
前触れのなさにも驚いたが、それ以上に妹の格好に驚いた。
こいつ、なんで中学の制服なんか着てるんだろう。
さっきまで高校の制服を着ていたが……着比べしてみたかったのか?
改めて見直すと、中学を卒業したばかりの妹にはやはり中学の制服が似合っている。
もう二度とあの制服姿の妹を見られないんだな、と思うとちょっとばかり寂しくなる。
そんな保護者じみた感慨にふけっていると、妹が俺の懐に飛び込んできた。
「いきなりどうした? 部屋に大量の油虫でも沸いて出たか?」
「違うわよ! 、誰かが……誰かが、窓から着替えてるところ、覗いてた!」
「み、見間違えじゃないのか? 野良猫か何かが通り過ぎていったとか」
「そんなわけないじゃない! あ、あれは……あれは!」
もしも見間違えじゃなければ、この場に居る人間の総力で以て撃退せねばなるまい。
しかし、覗きにしては堂々としている気がする。
窓から覗き込むとか、見つかることを覚悟してやっているとしか思えん。
それとも知恵の回らない近所の小学生か中学生か?
まあ、なんでもいいか。
この場には女性の権利にうるさい少女がいることだし、一緒に覗き魔を袋だたきにしてやるとしよう。
「澄子ちゃん、ちょっと手伝ってくれ」
人を失明させてまで信念を全うしようとする熱い少女、澄子ちゃんに声をかける。
次に、振り向く。
想定外の事態というものは、必ず、突然やってくる。
突然やってくるからこそ、想定外だと言えるのだ。
俺だって身を以てそのことをわかっていた。
だが、何度経験を重ねても、予兆を感じ取ることはできないし、慣れることはない。
あえて経験が生きていると言える部分があるなら、事態の深刻さを少しだけでも感じ取れるようになったぐらいである。
我知らず、絞られた声が出た。
この場では、それすら難しかったが、なんとか喉が動いてくれた。
「……手伝って、くれないかな」
「そんな暇はありません」
にべもない返事が澄子ちゃんから帰ってきた。
認識が事態に追いついて、状況を理解していく。
己の視界に捉えているその光景が、どれほど緊迫しているかということをじわじわ自覚していく。
生存本能が、この場から急いで逃げろ、と急かしてくる。
逃げようにも妹が抱きついているから逃げられないのだ。
妹の抱擁から逃げるなんて、なんてもったいない!
いかん。完全に混乱している。意味不明な台詞ばかり浮かんでくる。
妹が俺の身体に抱きついている理由がわからない。
――それより何より、弟がこの場に花火を連れてきた理由がわからない。
何しに帰ってきやがった、弟。
帰ってこいとは言ったが、花火を連れてこいとまでは言ってないぞ。
花火と澄子ちゃんが対峙したまま、一向に動かなくなってしまった。
なんとなく想像してた通り、お前の取り合いでこの二人の中は険悪じゃねえか。
どうしてくれるんだこの状況。
お前のせいで、お前のせいで――なんだかもう、いろいろと、最悪だ!
*****
花火が兄さんのことをどう思ってるのか。
小さい頃、僕は花火に問い質したことがある。
返ってきた答えは、「お前ら兄妹全員、私は好きだ」だった。
でも、花火の言動をよく観察していたら、その言葉は偽りだということに気付いた。
たしかに、花火は僕ら兄弟に分け隔て無く接していた。そう感じていた。
だけど、実はそれには差があった。
兄さん、僕、妹。その順番に、花火は僕らに親しく接していた。
いいや。もしかしたら、花火にとって、僕と妹は同じような存在だったのかもしれない。
僕は、兄さんじゃなくて、兄さんの代わりだったから。
妹は、小さな女の子だったから。
花火にとって、兄さんは一番だった。
僕よりも優先すべき存在で、妹よりも大事にすべき存在だった。
伯母さんに虐待されているころ、花火が僕らの異常に気付かなかったのは、そのため。
虐待されてからおかしくなったのは、僕と妹だけ。兄さんは唯一人変わらなかった。
兄さんばかり見ていた花火が、僕と妹の変調を悟れなかったのも当然だ。
暗い毎日が終焉を迎えたあの日。兄さんが伯母さんを刺したあの日。
花火はようやく、僕と妹が虐待されていることに気付いた。
伯母さんがどれだけ酷いことをする人なのか、花火にはわかっていなかった。
そして――その時に、兄さんの心がどれだけ追い詰められていたのかも。
兄さんが伯母さんを刺した時、花火は止めに入り、顔に傷を負った。
傷口が大きく開いていたこと、泣き疲れるまでいつまでも泣き止まなかったことを覚えている。
花火がそれから引きこもったのは、その傷が原因だ。
花火は女の子だ。顔の傷を小学校の子供達には見せたくなかったんだろう。
家から出すために、僕は毎日花火の家に通った。
好きだったから。毎日一緒に登校して、遊びたかったから。
花火を励ますために、僕は何でも言った。
初めのうちは何を言っても応えてくれなかったけど、次第に態度は軟化した。
今になって思えば、きっと花火は兄さんに拒絶されたことを気にしていたんだろう。
だから、僕はこう言った。
僕は花火の傍にいるよ。僕が兄さんの代わりになるから――と。
兄さんの代わりで良かった。
花火が立ち直ってくれるなら、兄さんの代わりの人形でよかった。
そう思ってたけど、花火が心を開いてくれることが嬉しくて、僕は花火だけを優先するようになった。
他の人は全て後回しになった。
妹は後回し。一番尊敬している兄さんでさえ後回し。
いつしか僕は――花火の中にある兄さんの居場所を奪い取ろうと、強く思うようになっていた。
花火の中にある兄さんへの未練なんて、全て消し去ってしまおうって、考えるようになった。
兄さんと葉月先輩が付き合いだしたと知ったら、きっと花火の中にある未練は残らず消えるはず。
お願い、兄さん。
花火に、兄さんのことを忘れさせてやって。
そうすれば、花火は幸せになれるんだから。
今回はここまでです。
また次回の投下でお会いしましょう。
GJ
今回はシリアスだね。
じGJ…GJ過ぎる…確か葉月もジミーロマンスの家に向かって居るんだよな…って事は次回は大バトルロイヤル!?wktk!!!!!!!
GJ
嫌な予感がめちゃくちゃするのは俺の気のせいか?
そして玲子が大好きだ!
GJ!!
次回は修羅場の予感…
ジミーが生き残れる事を願ってるぜ!
風雪の作者生きててよかった
ずっと止まってたから諦めてたよGJ
GJ!
なんかヤンデレ家族の投稿があると一週間すぎたなあと思うようになった
GJ!
やっぱりヤンデレ「家族」だから弟も病んでるのか・・・
つーか妹の件もあるし花火もデレるのか?
>>384 GJ!
次回は葉月さんも来て全員集合!か…色んな関係が絡み合ってとんでもない修羅場になりそうで楽しみだな。
>>384 GJ
全女性キャラがジミーにデレそうでまさに俺得な展開なんだが‥‥
弟が不憫過ぎるw
このさい弟もジミーハーレムの一員に
最悪でも弟には澄子ちゃんが残るから問題なしかな。
あれだけ嫌ってる素振りを見せてた花火がデレたらどうなるんだろw
あの弟が見せる後ろ暗い感情にドキがムネムネする
しかしパラレルワールドを見た感じでは兄貴が事件の記憶を封印した最大の原因が
花火に怪我を負わせてしまった事にありそうなあたり二人のすれ違いの面倒臭さは異常
>>394 それはある意味では一番の大問題じゃね?
>>395 今の花火からあのデレ花火になられると……夢と現実の区別がつかなくなってシナプス崩壊?
次回からまたジミーの受難か……
今度はどこを負傷するんだろうか。
弟がジミーハーレムに入るのはおもしろそうだがwww誰得wwwww
GJ
弟君が女だったというIFが現実になるのか‥
54 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:20:16 ID:VoIVX7j+0
こんばんわ。お久しぶりです。
規制に巻き込まれてしまったのでこちらで投下します。
今回は5話を投下します。よろしくお願いします。
55 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:21:37 ID:VoIVX7j+0
会長と電話した次の日の朝、黒川先生に出されたレポートの存在に気が付くも既に遅かった。
結局罰として放課後、鬼の様な個人レッスンが金曜日まで続いた。
亮介や一部のファンは「こ、個人レッスンだとっ!?羨ましい!」とか阿保なことを口走り、瞬間黒川先生に殺られていたが。
そしてようやく迎えた土曜日。
俺は会長との待ち合わせ場所である、桜ヶ崎駅東口にいた。
潤には友達と遊ぶと言ってある。ま、あながち嘘じゃないし。
「しかしこんなラフで良かったのか」
自分の格好を改めて見てみる。
無地のパーカーにカットソーのTシャツ。そしてグレーのジーパン。
明らかに手抜きだが家にあまり服がなかったので仕方ない。怨むなら過去の自分を怨もう。
「白川要様でございますか?」
声をかけられたので振り向くとそこには金髪で赤い瞳を持つメイドさんが立っていた。
「は、はい。そうですけど…」
「私、優お嬢様の専属メイドの桜花(オウカ)と申します。どうぞこちらに」
「あ、はい」
ざっと170cmはあるだろうか。
背が高くとてもスタイルの良いメイドさんについていくと、駅前には不相応なリムジンが停まっていた。
「どうぞ中へ」
桜花さんにドアを開けられて車に乗り込むと
「要、おはよう。悪かったな、急に遊ぼうなどと言ってしまって」
「それは別に……か、会長…?」
確かにそこには会長がいるのだが…。
「ああ、これか?ど、どうだ…似合うかな?」
「そりゃあ半端なく…ってそうじゃなくて!」
何故か俺の目の前にいる彼女は紺の上品なドレスを身に纏い、少し化粧をしているのかまるで一つの美術品のような美しさだった。
「ど、どうした?」
「どうしたじゃないですよ!何ですかその格好は!つーか色々と何ですか!」
目の前の状況が全く理解出来ない俺に
「まあ、とりあえず落ち着いてくれ。ちゃんと説明するから」
会長は一つずつ事情を説明していった。
56 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:22:44 ID:VoIVX7j+0
リムジンに乗るのは少なくとも記憶喪失になってからは初めてだ。
というか人生を普通に過ごす過程でリムジンに乗るなんてまず有り得ないだろう。
「…ということなんだ。協力してくれるな?」
そんな普通からは掛け離れたリムジンの車内で俺は、同じく普通からは掛け離れた話を聞いていた。
「協力って…そんな無茶な…」
「頼む!要しか頼りはいないんだ!」
会長に手を握られる。そして俺をじっと見つめた。…その表情は反則だろ。
「……分かりました。ここまで来たらやるしかないみたいですしね」
「本当か!?ありがとう要っ!」
会長に思いっ切り抱き着かれる。
「わっ!?か、会長!?ちょ、やめ!?」
ただでさえ誰もが羨むような体型をしているのに、ドレスなんかで抱き着かれたら身が持たない。
とりあえず会長を引き離す。
「す、すまん…嬉しくて、ついな」
「あ、いや別に嫌なわけじゃないですから」
「えっ?」
「…えっ?」
何言っているんだ俺。…こんなので大丈夫なんだろうか。
そんな俺にお構いなしに桜花さんの運転するリムジンは、目的地についてしまった。
世間でもたまに聞く大企業の合併や吸収。
その裏ではそれらの社長の娘や息子同士でお見合いをして、あわよくば結婚させて企業の安定を計る、なんて方針もあるらしい。
「…すいません。全く似合ってないと思うんですけど」
そして会長の父親も"美空開発"を拡大させるため俗にいう政略結婚をしようと考えた。
「何をいう、中々似合っているじゃないか。…その、か、格好良いぞ…」
しかし会長はそれに猛反対。
「自分にはもう将来を誓った恋人がいる!」と啖呵を切ると、当然「じゃあ連れて来なさい!」という流れになる。
「お世話でも嬉しいですよ。会長も…あ」
実際恋人がいない会長は試行錯誤した結果、俺に"将来を誓った恋人"役を頼んだ、というのが今までの流れだ。
「…会長じゃないだろう?」
冷ややかな目で睨みつけられる。
…仕方ないですよ。急に名前で呼べなんて無理な話だし。
「すいません…。ゆ、優…」
「何だ?要」
今俺達は美空開発本社の最上階、いわゆる社長室の前にいる。
57 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:23:45 ID:VoIVX7j+0
そして会長は紺のドレスを、俺は黒のスーツを着ていた。
「やっぱりスーツじゃないと…」
「駄目に決まっているだろ。父は厳格な人だ。それに昼食会もあるしな」
用意してもらったスーツは似合わないしマナーは分からないし…。
何よりたとえ演技でも「娘さんとは真剣にお付き合いをさせて頂いております!」なんて、
一生に一度言うか言わないかみたいな台詞を喋らなければならないと考えただけでも憂鬱なのだ。
「心配するな。私がしっかりとサポートする。要は私の恋人らしく、堂々としていればいいんだ」
「…それが難しいんですけどね」
「全く…仕方ない奴だな」
そういうと会長は俺の手を握ってきた。
「な、何ですか?」
「いや、こうした方が安心するかと思ってな。恋人同士なんだし別に構わないだろ?」
俺の横で微笑む会長。…こういう時に度胸があるのは流石といったところだ。
「ま、まあ…。それじゃあ…行きますよ」
「ああ。ノックを忘れずにな」
こうして俺は会長の"将来を誓った恋人"を演じることになったのだった。
社長室というにはその部屋は些か大き過ぎな気がした。
最上階ということもあって、窓からは桜ヶ崎を一望出来る。
最高級ホテルのスイートルームを思わせるような造りだが、そこは大企業の社長室。
社長専用とおぼしき机には書類が山積みになっており、側のホワイトボードにはいくつもの計算式と専門用語が書いてあった。
「つまり君は一般人の分際で、私の大切な一人娘と添い遂げたいと」
そして椅子に座ってそれらの書類の一枚を眺めているのが会長の父親であり美空開発の社長でもある、美空昴(ミソラスバル)だ。
歳を感じさせない洗練された雰囲気が、どこと無く彼のカリスマ性を示している。
「お言葉ですが父上、結婚に身分は関係ないのではないですか?現に父上と母上も…」
厳しい言葉を突き付ける昴さんに対して会長が反論する。
「私が言いたいのはそういうことではない。この男には優に値するほどの何かがあるのか、ということだ」
「優に…値する…」
「父上、それは」
「私は今彼に聞いているんだ。優は黙っていなさい」
昴さんの鋭い眼光が俺に突き刺さる。
凄まじい重圧だが会長のためにも乗り越えなくては。
58 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:24:53 ID:VoIVX7j+0
「…確かに僕には特別優れているものがあるわけではありません。昴さんのいう通り、僕はそこら辺にいる一般人です」
「要…」
会長が不安げにこちらを見つめる。
「でも僕は知っています。優はとても優秀に見えるけど、実は案外おっちょこちょいで甘えん坊で…」
「…は?」
「か、要?」
昴さんと会長が目を丸くしていた。やっぱり親子なんだな。
「世界中のお茶を煎れるのが好きな癖に猫舌で自分はあまり飲めなくて…」
「そ、そうなのか」
「か、要!?父上これは」
会長が慌てて口を挟もうとするがもう遅い。
「仲間以外には秘密にしてるけどクマのぬいぐるみ、特に黄色いクマが大好きなことを僕は知っています!」
「ぬいぐるみ…」
「か、か、か、要!!」
どうやら昴さんは知らなかったようだ。あからさまに驚いていた。
そして会長は顔を真っ赤にして俺に近寄る。
「たとえ身分が違うとしても、僕…いや、俺はそんな優の全てが好きなんです!」
「へっ!?」
俺は近寄って来る会長を抱きしめて昴さんに言う。
「だから優のことを何も知らない、身分だけの奴なんかに渡したくない!優は…優は俺の恋人だ!!」
「か、要…」
会長は顔を真っ赤にしたまま俺を見つめていた。
…柔らかいものが二つ、思いっ切り当たっているが気にしない。
「……ふ、ふ」
「…ち、父上?」
昴さんは俯いたまま身体を震わせていた。流石にいきなり俺の嫁宣言はやり過ぎたか…。
「ふ、ふはははは!ははははははは!!」
「…えっ?」
「ち、父上が…壊れた…」
いきなり昴さんが笑い出した。
「ははははは!…はぁ、君…要君…だっけ?」
「は、はい」
「君は…君は実に面白いね。この私、美空開発の社長に向かってそんな啖呵を切ったのは君が初めてだよ」
「…そうですか」
どうやら気に入られた…のか?
「いやぁ、久しぶりに笑わせて貰った。…優」
「…はい」
昴さんに呼ばれ身体を強張らせる会長。
「…すまなかったな。疑ってしまって。これからは私も優を応援しよう」
「そ、それでは…」
「ああ、要君とこれからも仲良くな」
「は、はい!要っ!!」
「うおっ!?」
涙目の会長がいきなり抱き着いてきたのでバランスを崩して、二人して倒れた。
つまり会長が俺に覆いかぶさる形に…会長、ドレス越しに…いや考えるな、考えちゃいけない。
亮介が一人、亮介が二人…。
「「おい要っち!据え膳食わぬは男の恥だぜ!?」」
う、うるせぇ!亮介の癖に諺とは生意気な…。
「あ…」
「…会長?」
…何ですか会長、その切なそうな表情は。何で目を閉じているんですか。
というか顔が近付いてきてますよ。
「私を置いてきぼりにしないで欲しいな」
「ち、父上!?す、すみません!」
「…ふぅ」
あ、危なかった…。昴さんが止めてくれなかったら今頃…考えるのはよそう。
「では昼食にしようか。二人の今後を祝してね」
とにかく当初の予定は果たせたようだ。上手くいって良かった。
「はい!要!」
嬉しそうに俺の腕に抱き着く会長。これで…良かったんだよな?
59 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:26:19 ID:VoIVX7j+0
テーブルマナーを全く知らない俺に会長がついてくれることで何とか最高級レストランでの昼食会を乗り切った。
その後は会長の家…というか屋敷に招待され母親のクレアさんを紹介してもらったり、昴さんの昔話を会長と聞いたり。
そうしている内に夕方になり、桜花さんに駅前まで送ってもらった。
「わざわざ会長まで見送りに来てくれなくても良かったのに」
駅前は夕焼けに染まっていて会長のドレス姿をより際立たせている。
「一日付き合わせてしまったからな。…それから二人の時は優と呼んでくれないか」
「でも…」
それは恥ずかしいと言おうとしたが
「…嫌か?」
会長の突き刺すような目線に何も言えず、頷いてしまった。
「そうか、良かった。まあ私たちはもはや親公認のカップルだ。恥ずかしがる必要もないだろう?」
「…いや、でも…」
何かがおかしい。俺と会長の中で何かが食い違っている。
「ああ、要の御両親への挨拶がまだだったか。要が頑張ってくれたんだ。私も…」
「ま、待ってくれ会…優」
「…それでいい。どうした?」
「いや、今日だけ恋人のふりをすれば良いんですよね…?」
「…何を言っている?要は父上の前であんなにも私への愛を語ってくれたじゃないか」
何でもう秋なのに汗なんかかくんだろう。
…ああ、これは冷や汗か。じゃあ俺、焦っているのかな。
「そ、それは…」
会長が急に俺に抱き着く。そして耳元で囁いた。
「今更逃げられるとでも、思ったのか?」
…ああ、今分かったよ。これは偶然とかたまたま俺に頼んだとかじゃない。これは…。
「随分と短絡的な罠ね」
「……潤か」
そこには夕日を浴びて潤が立っていた。
表情は無くまるで能面のよう。ただその瞳が冷たく会長を見つめていた。
60 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:27:24 ID:VoIVX7j+0
「罠とは随分な言いようだな」
「だってその通りでしょ。ね、兄さん?」
会長と潤は互い向かい合っていた。
「じゅ、潤?何でこんなところに…」
「たまたま駅前を通り掛かっただけだよ」
「たまたま…か」
「会長と兄さんこそ、何ですかその格好?」
会長はすぐさま俺の腕を取り、腕を組む。
「見ての通り二人で私の両親に挨拶をしていたんだ。交際宣言ともいう」
「…無理矢理でしょ。ね、兄さん?」
「えっと…」
会長と潤の両方に睨まれる。…どっちについてもただじゃ済まないのだけは分かる。
「とりあえず落ち着こうぜ。俺達仲間だろ?」
「確かに仲間だがそれとこれとは話が別だ」
「私が聞きたいのはそんな答えじゃないよ、兄さん」
…どうやら説得には失敗したようだ。というか妹よ、お前はそんな澱んだ目をしていたっけ。
「とにかく私と要は本日めでたく恋人になった。出来れば潤にも祝福して欲しい」
「馬鹿言わないでよ。会長と兄さんが恋人?貴女なんかが釣り合う訳無いじゃない。それに兄さんはすでに私の恋人なんだから」
ゆっくりと潤が近付いてくる。
ここは駅前で比較的人が行き来するのに、どうして今この瞬間はこんなにも静かなんだろうか。
「潤こそ馬鹿を言わないで欲しい。要と潤は兄妹だろう?物理的に君達が結ばれることは有り得ない」
きっぱりと言い切る会長。潤は近付くのを止め、会長を睨みつけていた。
「…どうやら一度はっきりさせた方が良いようだな」
「…そうだね」
「とりあえず今日のところはここで引こう。要」
「は、はい…っん!?」
会長にキスされた。舌を入れられ俺の舌と会長の舌が絡み合う。
「!?他人の癖に!」
次の瞬間には潤が回し蹴りで会長を狙い撃つが
「他人だからだ」
会長は素早いバックステップでそれをかわしていた。
「要、今日は楽しかった。続きは…また今度にしよう」
会長は踵を返すとリムジンに乗り込んで帰って行った。
「…潤?」
「………」
潤は俺の手を握りながらずっと車が去った方向を見つめていた。
61 : リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:28:21 ID:VoIVX7j+0
夜。自室のベッドに横になる。
今日は色々なことがあった。特に夕方の一件は自分には衝撃的で。あれから潤は一言も喋ろうとしなかった。
潤に聞きたいことがあったが気まずくて聞けずにいる。
「…駄目な兄貴だな」
自分の不甲斐なさを噛み締めているとドアがノックされた。
「…兄さん、入っても良いかな」
「…良いぞ」
パジャマ姿の潤が部屋に入って来た。
目は真っ赤になっていて目の下も少し腫れている。どうやらあれからずっと泣いていたようだ。
「隣、行っても良い?」
「ああ」
潤がベッドに腰掛ける。
…二人きりなるのも久しぶりだ。
この一ヶ月ほど学校や要組の活動、そして海有塾に行っていたためかあまり潤と二人で話す機会がなかったような気がする。
「………」
「…………」
沈黙が部屋に流れる。
きっと潤は俺に何かを伝えたくてこの部屋に入って来た。ならば待ってあげないと。
一体潤が今日の出来事をどう思っているのか。
やはり記憶を失っても兄妹なのだろう。何となく分かる。
「……私、邪魔…かな」
潤は真っ赤に充血した目からまた涙を流していた。
そんな彼女をそっと抱きしめる。
「邪魔なんかじゃない」
潤が俺の手を握ってきた。そっと握り返すとまるで何かから守るかのように、強く握り返してくる。
「…分かってる……兄妹じゃ結ばれないことくらい……分かってるよ」
「…ああ」
心の底から捻り出すような苦しそうな声だった。俺はただ聞いてやることしか出来ない。
「でも……好きなんだもん…」
「潤…」
潤が見つめてくる。…こんなに苦しそうなのに俺はどうしたら良いか分からない。
「兄さん…」
潤の顔が迫って来る。…本当ならば避けるべきだし諭すべきだ。
会長が言った通り兄妹は結ばれないし、潤の未来の為にも心を鬼にしてでも彼女の好意を拒否することが唯一の正解に違いない。
「んっ…」
「っ…」
でも俺には出来なかった。
拒否してしまえば何かが壊れてしまいそうな彼女の、それでも止めるべきだった好意を拒否する勇気が俺にはなかった。
「…っはぁ」
潤が俺の口内を舌で犯すのを受け入れる。何故かどこか第三者的な視点でこの行為を観察している自分がいた。
30秒ほどして満足したのか、潤は顔を遠ざける。その顔は紅潮していてとても満足げだった。
「……溶けちゃう…」
「…潤、やっぱりこんなこと」
「兄さん」
「…何だよ」
一転して氷のような冷たい視線を送る潤。拒否しないといけないのに何も言えない。
「おやすみなさい」
「…おやすみ」
潤はそのまま部屋を出ていった。
…明日言おう。今日はもう疲れた。大丈夫、明日はちゃんと言えるはずだから。今日はもう寝てしまおう。
「……最低だ」
現実から目を背けるようにベッドに潜り込んだ。
62 名前: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/15(日) 23:30:24 ID:VoIVX7j+0
今回はここまでです。次回は新キャラ登場予定です。
どなたか転載、よろしくお願いします。
投下終了します。
GJ!!
全裸待機してたぜ!イヤッホー!!
とりあえず会長に惚れた!
待ってました!
やっぱりリバースだな!
gj!俺は潤派だけどな。
あと桜花とかいうメイドが気になる。
まさかな…
GJ!!
面白かった!
個人的に1番好きだから次も頑張ってください!
桜花さんも気になるけど新キャラって…。
まさかライムか?!
GJ!
激しく次に期待!
GJ!
会長可愛いよ会長
要の行動がイケメン過ぎる
結構待ってた人いて嬉しいな
まさか俺以外に全裸待機している奴がいるとは
gj!次に期待!
会長最高だな
作者と転載さんお疲れさまっす
桃花って確か「きみとわたる」でのラスボスじゃねぇか!ポートタワーで前のお嬢様と心中したはずじゃ……なぜ生きてる!?
待て、一文字違う
が、何らかの関係はありそうだ
規制だと書いてあるのにw
Great Jobです!
また投稿が多くなってきて嬉しいです。風雪もリバースも途切れちゃったと思ってたのでマジ感激です
夏らしくオカルト的短編とか、どうだろうか…ある日主人公が小さな墓をみっけてしまい次の日から突然冷たく無関心な妹がヤンデレに…うーん次が浮かばねー
こんなんはどうだ?
アルビノのお嬢様が過保護な両親によって屋敷の外に出られなくて窓から道路を渡る人々を眺める毎日ー
その中で一人の男子学生が気になるようになった…
気になった彼を調べていくうちに好きになっていっていき、やがて彼が欲しくなってしまった……なんてどう?
>>424 期待してる
外から出れないヤンデレは白愛って作品に出てるな
426 :
425:2010/08/16(月) 21:32:13 ID:8rRtCvrP
すいませんキモウトの方でした…
泥棒猫より優秀なヤンデレか、泥棒猫よりダメなヤンデレどっちが好き?
>>427 泥棒猫もヤンデレならどちらでも構わない
優秀なヤンデレなら俺は部屋の角で奥歯をガタガタならす作業が終わらなくなる
ドジなヤンデレならうっかり抱き締めてしまうかもしれない
>>428 そうでもないですよ?別に日を浴びたら死ぬ訳じゃないので多少浴びても問題なしです
概要
先天的なメラニンの欠乏により体毛や皮膚は白く、瞳孔は毛細血管の透過により赤色を呈する。
ほとんどの場合、視覚的な障害を伴い、日光(特に紫外線)による皮膚の損傷や皮膚がんのリスクが非常に高い。
ヒトのアルビノは医学的に先天性白皮症と呼ばれる。
チェディアック・東症候群 (CHS)、ヘルマンスキー・プドラック症候群 (HPS)、グリシェリ症候群 (GS) の合併症として起こる色素欠乏を白皮症に含める場合もある。
wikipeより転載
どうみてもアウト
わざわざwikiまで行ったのなら正確に理解してもらいたいものだ
わざわざレスまでするのなら正確に回答してもらいたいものだ
まあとにかくアルビノのヤンデレ作品カモンってことだな
養子ものって需要あるかな?
あるなら頑張って書いてみる
がんばれがんばれ
ヤンデレ家族を一気に読んだがジミーのヘタレさにマジイライラする。葉月頑張れ!
ここのヤンデレSSのヤンデレの種類をざっとまとめてみた
自傷脅迫型
依存独占型
強行型
隔離型(あえて主人公をいじめて周りの人々が近付かないようにする)
アルビノの件で一つ思ったんだけど主人公が部活で夜遅くに帰宅する時に屋敷の窓から紅い目が覗いてるってのはどうだろう?
アルビノお嬢様物良いな
64 名前: 転載お願いします 2010/08/17(火) 11:58:02 ID:RFacS0Bc0
養子ものの話を作成しました。
掲示板に書き込み出来ないみたいなので、何方か転載お願いします;;
65 名前: 娘 2010/08/17(火) 11:59:13 ID:RFacS0Bc0
私の両親は決して私に愛情を注ごうとしなかった。
かと言って虐待をする訳でもないし、親としての責任の放棄があった訳ではない。
最低限の親としての義務は果たすが、それ以外は何があっても関与しない。
以前一度この話をした相手は眉を顰め、どういう意味なのか分からないと質問を返してきた。
だから、相手に伝えやすくする為に例え話をすることにした。
“例えば私が風邪を引いたとします。私が風邪であることを察知した両親は通院する為のお金は出すが、決して看病はしない”
例え話を出しても相手はいまいち釈然としなかったらしい。
結局その時は別の話にすり換えることで相手からの追求をかわしたのを覚えている。
私自身、上手に説明できる自信がない。だから逸らすしかなかった。
何故なら彼らが何を考え私を産み、この様に育てたのか私自身理解出来ないのだから。
そして、それは両親の死と共に解明される機会は永遠に失われることになった。
だからかもしれない、もし私が子供に恵まれる機会があるのなら最大限の愛情を注げるような大人になりたいと願ったのは・・・・・・。
今年で27になる私だが結婚はしていない。
する相手もいなければ、そうした出会いも皆無であったから自然とそうなった。
ただそれだけのことである。
ならば一人暮らしなのか?と聞かれたら答えはNOである。
私には今年で11歳になる娘がいるのだ。
もちろん血は繋がっていない。
少し訳があって孤児院から引き取ったのだ。
それは今からそう・・・・・・丁度半年前まで遡ることになる。
当時何かの集まりで出来た知人・・・高町雄人というのだが、彼に私の幼少の頃の話してしまったのがきっかけであった。
完全に酔いつぶれる程酒が入っていた事もあり、べらべらと過去の話を切り出した私を高町は終始一言も話さずに聞き終え。
少し間を空けた後に一言呟いた、俺に任せろ・・・と。
それから話はとんとん拍子に決定し、その週末には私と高町は孤児院へと足を運んでいた。
「それにしてもでかいな・・・・・・」
端から端まで全て視界に収まらないほどそびえ立つ塀に、重厚な大きな門。
見る者を圧倒する大きさに私は呟いていた。
その呟きを隣で聞いていた高町はにっと笑うと、吸っていたタバコを灰皿ケースに押し付けるようにして消し門に備え付けていたチャイムに手を伸ばした。
それから数分後、門から青い修道服に身を包んだ恰幅の良い女性がにこにこ笑いながら迎えにきてくれた。
「おやおや、高町さんお待ちしておりましたよ。隣の方が例の?うーん?中々男前じゃないかいっ!」
高町の話によると彼女の名前は、静香・マリエリメ・クライスタと言うらしい。
何でも本場の修道会で洗礼を受けた、本物のシスターというからびっくりだ。
「こんな山奥まで来るのに苦労したんじゃありません?」
この孤児院はありえない程の山奥に点在し、私が住んでいる市街から車で4時間、車を降りて歩くこと3時間を要してやっと辿り着いたのだ。
足は棒のように硬いし喉はカラカラ、でも不思議と引き返そうなんて事は思わなかった。
この高町という男は非常に話題性に富んでおり、一緒に行動して飽きないっていうのが大きかったのだと思う。
彼の話題性はとにかくバラエティ豊かで、政治の話から遊園地の切符の話に繋がりオチは猫の出産で終わるという奇妙な話まで披露してくれた。
彼の話す口調と雰囲気は私を酷く魅了し、気が付いた頃には孤児院の前に居たという塩梅なのである。
屋敷と呼んでも差し支えない大きな屋敷を歩くこと数十分、私たちが案内されたのはとある一室だった。
10畳ほどの部屋に木調の机と椅子が4つ、それ以外には何も無いシンプルな部屋。
机を挟んで私と高町が片方へ、シスターは私と相対する前の席へと腰を落ち着けた。
シスターの親しみやすい雰囲気もあってか、緩やかな空気だったのだがシスターの顔が真顔に変わると一転。
ピシリと張り詰めた空気に変わる。
あぁ、先程の失言は謝罪しないと。この人は本物のシスターだ。
どこにでも居そうなおばさんだと思ってました。心からお詫びします、ごめんなさい。
私はそんなことをぼんやりと考えていた。
「そちらにいる高町さんから大体の話は伺っていますが。一点だけ質問させて下さい。子供を引き取るってことはどういう事だか本当に理解していますか?」
「親になる・・・・・・という事だと思います」
「親とはどういうものだとお考えで?」
「子供に愛情を注ぎ、立派に育てるのが親の役目だと思います」
「貴方は自分の血を引いていない子供を愛せますか?」
「実際にやってみないと分かりません。でも、そうなりたいと心から思っています」
私とシスターの視線が机の上で交わる。
そして、シスターの顔が柔和な笑顔に一変する。
「高町さんの仰っていた通り真面目な方ですね、安心しました。それでは子供達を紹介しますね」
そう言い残すとシスターは部屋を出て行った。
そして戻ってきた時には二人の女の子を連れてきていた。
「お待たせしました。さぁ自己紹介なさい」
シスターの背後から現れたのはまだまだ子供と言って差し支えの無い幼い子達だった。
「平坂咲子、12歳です。始めまして」
染み一つない綺麗な白色のワンピースに、そのワンピースとは対照的な綺麗な黒髪。
まだまだ幼い顔立ちだったが、将来必ず美人になるであろうという整った顔立ち。
私と高町が珍しいのかキョロキョロと私達を眺める表情は、子動物的な何かを抱かせてくれた。
「こんにちは、凄く丁寧にお辞儀が出来るんだね」
私は笑顔が上手に出来ている事を祈りつつ、平坂さんの頭を撫でた。
するりとした感覚が掌一杯に広がっていく。
「さぁ、次は貴女の番ですよ」
その声に引かれる様に、平坂さんの背後に隠れていたもう一人の女の子がこっちを伺うように顔を出した。
腰まで届きそうな金色の髪に、蒼い瞳。
黒色を基調とした白いフリルがふんだんに使われたワンピースに、黒いニーソクス。
頭に乗っているのはカチューシャだろうか?
西洋の人形を彷彿とさせる姿が、これ以上ない程彼女に似合っていた。
平坂さんも将来美少女になるだろうと思わせる器だったが、この子は違う。
見ている私がはっと息を呑むほど美しいのだ。
可愛さと美しさの両面を持った、ある種完璧な美がこの子にはあった。
一度この子を見た子は、生涯二度と忘れることが出来ないであろう完璧な美。
私はその異様なまでの美しさに目を奪われ、そして言いようの無い恐怖を覚えた。
そんな吸い込まれそうな思考を中断し、彼女の視線にまで腰を折る。
「お名前は?」
出来るだけにこやかに怖がらせないように訊ねてみた。
「・・・・・・ぁ、あの。私はマリア・サンクネリア・レーンフォーカスですっ!」
そう一生懸命に叫ぶと、平坂さんの後ろへと隠れてしまった。
外人さんだと思っていたのだが、どうやら日本育ち(?)らしく、流暢な日本語だった。
「ごめんなさいね、この子は人見知りが激しくて。決して他意がある訳じゃないのよ」
「あ、はい。分かります」
「さぁ、貴女達はもう行きなさい」
そうシスターが言うと、彼女達は一礼し部屋を出て行った。
再度椅子に腰掛けた私に高町が意味ありげな視線を送ってきた。
「その様子だと胸の内は決まったみたいだな」
「ええ、お二人とも凄く良い子みたいなので楽しみです。是非お話を進めて戴きたいと考えています」
私の質問に高町は満足したのか、胸ポケットからタバコを取り出そうとしたがシスターの視線を受けて再度胸ポケットへと戻した。
一般常識は心得ているらしい。
「貴方には、あの子達のどちらかを養子にして頂きたいと考えています」
「ありがとうございます」
「それでは詳しい話をさせて頂きますね」
そう言ってシスターは何枚もの書類を机に広げた。
66 名前: 娘 2010/08/17(火) 11:59:49 ID:RFacS0Bc0
重厚な響きを上げながら扉がゆっくりと閉まっていく。
その部屋に入ってきたのは程紹介されていた二人の女の子。
咲子とマリアの二人である。
但し、先程とは打って変わって二人の表情には大きな違いがある。
ビクビクと怯える様子の咲子と違い、自信に満ち溢れたマリア。
マリアはゆっくりと部屋の椅子に向かうと静かに腰を降ろし、頭に乗せていたカチューシャを外すと机にあったブラシを咲子へと放り渡す。
肩をびくりと震わせるが彼女はなんとか受け止めたブラシを持って、マリアへと近寄っていった。
彼女がマリアからこの様にに扱われているのは、相部屋になって半年前からずっと続いている。
当初は彼女も喜んだ、こんな人形のように愛らしい子と一緒になれるなんて何て幸せなんだろう!と。
だけどそれが如何に愚かな考えであったかは、初日で理解した。
この子は人形のように愛らしい容姿をした悪魔なんだと・・・・・・。
その事を同期の子やシスターに言っても誰も信じて貰えなかった。
皆冗談でしょう?と笑い出すのだ。
「咲子、お前何を考えているの?私がブラシを渡したらやることは一つでしょ?」
「あっ、はい。すいませんでした・・・・・・」
そう言って綺麗な金髪にゆっくりとブラシを通していく。
同性であっても羨ましいほど綺麗な髪。
「さっき会った方、お前はどう思う?」
「とても素晴らしい方だと思います」
咲子は思う。
もしあの人の娘になれたらどんな幸せが待っているのだろうか?と。
マリアからの支配からも逃れられるし、優しそうなあの人と一緒に過ごせるのだ。
彼女には両親の記憶は全く無いが、頭を撫でて貰った時のあの幸せな気持ちと優しい表情はどこか安心させてくれるのだ。
自分を選んでくれたら良いなと、マリアにはとても言えたものじゃないが。半ば祈りのような気持ちが彼女にはあった。
「そうねあの人は素晴らしいわ、でも高町という男はダメね。馬鹿な感じしかしないわ」
そしてマリアはゆっくりと瞳を閉じて思考する、そんな表情さえ美しいなと咲子は思ってしまった。
「決めたわ、私があの人の養子に行くわ。咲子あなたは邪魔よ、辞退しなさい」
辞退。
その言葉の意味を理解し、ブラシを動かしていた手が止まる。
「で、でも。シスター静香が養子は私が決めますって言っていましたし・・・・・・」
「貴女は本当にお馬鹿ね?その小さい頭では考えるって事が出来ないのかしら?私が辞退しなさいと言えば貴女はそうするのよ。手段なんて幾らでもあるわ」
その声音に微かに含まれている苛立ちに本能的に恐怖を覚える。
そう本能的なレベルで彼女は察していたのだ、この子にはマリアには勝てないと。
でも。彼女にだって矜持があるのだ。譲れないものだってある。
彼女は意を決して口を開いた。
「い、いやです。私はあの人の養子に行きたい!」
それが引き金だった。
マリアはブラシを通していた手を振り払うと、ゆっくりと机の引き出しを開き中からある物を取り出した。
先端が赤黒く染まっている、木の棒。
咲子はそれを今でも覚えている。
いや、忘れることが出来ないと言うべきか。
だってあれは咲子が今まで体験した中で最も痛く、非情な物だったから。
あの夜の恐怖が蘇り恐怖で歯がカチカチと鳴り出す。
「残念ね。お前は分かっていると思ったのですけど、私が甘かったのかしら?さぁ覚悟は宜しくて?」
「・・・あっ、あぁぁぁ!!!」
ゆっくりとマリアが咲子に近寄る。
「この前は前だったから、次は後ろかしら?」
「あ、あ・・・・・・・あ」
咲子の足元に暖かい水溜りが出来た。
これから行われるであろう行為を思い出し、失禁してしまったのだ。
マリアはそんな咲子を見ると満面の笑みを浮かべながら囁く。
「さぁ楽しい楽しいお遊びをしましょう?」
67 名前: 娘 2010/08/17(火) 12:00:28 ID:RFacS0Bc0
孤児院を訪ねたその日、私は孤児院から4時間ほど離れた旅館に宿泊していた。
長い事森を歩いたせいか疲れていた私は遅くなった夕食を食べた後、半ば気絶するかのように寝ていたのだが。
携帯電話の着信によって起こされることになった。
発信元はシスターと表示されている。
「はい、もしもし?」
「その声、もしかして寝ていらっしゃいました?」
「えぇ、少々」
「そうですか、それは失礼な事を、ごめんなさいね」
「あ、いえ大丈夫ですよ。それよりも何かありましたか?」
書類に不備があったとか、審査が通らなかったとかそんな悪い考えが頭をよぎる。
「ええ、実は貴方が希望していた平坂さんがですね・・・・・・」
そう言ってシスターは間を置いた、何か良くない事を告げられるんだろうなという声音であった。
「平坂さんがどうかしたのですか?」
極めて冷静な声音で返す私に、シスターはゆっくりと話しを続けた。
「先程私の部屋に来まして、貴方の養子になりたくない。って泣き叫ぶのです」
そんなあの時あんなに笑っていてくれた子がどうして・・・・・・。
「それで私がどんなに理由を聞いても教えてくれないんですよ。絶対に行きたくないって」
「そう・・・・・・ですか。残念です」
「それでですね。大変申し訳ありませんが、もう一人の子はいかがですか?」
「マリアさんですか?」
「えぇ、平坂さんが行かないなら私が行きたいですって言ってましたので」
「はい、お願いしても良いですか?。」
「書類とかは私の方で訂正しますので、それではお約束の期日にお連れしますね」
「はい、お待ちしています」
ピッという音を最後に通話が終わる。
咲子さんがどういう心境の変化で断ってきたのか理由を推し量ることは出来ないが、マリアさんが来ることになった。
これから良い親子になれたら良いな。
そう思いながら私は意識を手放した。
私が孤児院を訪ねて数週間後、今日はマリアさんが我が家に来ることになっている。
私は家の中を掃除したり、マリアさんの部屋を整えたり。身支度で忙しかった。
そしてドアベルが鳴り、待ち詫びた来訪を告げた。
私がドアを開くとシスターとその背後に隠れるようにマリアさんが居た。
相変わらずのシスター服の静香さんと、前回とは違う白を基調としたフリルの付いた服。
それがマリアさんの魅力をぐっと引き上げていた。
私は両名を迎えいれると客間へ通し、人数分の飲み物とお菓子を用意し戻った。
「噂には聞いていましたが、素晴らしいお屋敷ですね」
噂って誰が流した噂なのだろう?
一瞬高町のにやついた笑いが頭に浮かんだが、それをかき消す。
「昔の名残ですよ、今では住んでいるのは私だけですしね」
父と母が健在な頃は複数の家政婦さんが居たが、両親が亡くなった後は次々と辞めていき。
今は私だけがこの屋敷に住んでいる。
屋敷を売って小さな家に引っ越そうと考えた事もあったが、何の因果か未だにこの家に住んでいる。
あるいは心の中でここを売りたくないっていう感情があったのかもしれない。
今となっては屋敷を残しておいて正解だったなと心から思う。
「今はお一人で暮らしていらっしゃるのですか?」
「えぇ、お恥ずかしながら。彼女とか婚約者とは縁のない生活をしていたものですから」
「手入れとか大変じゃないです?」
「そうでもないですよ?一人だと汚すにも限度がありますから」
そんな感じでシスターと世間話している間、マリアさんはジュースをゆっくりと飲んでは私の方をじっと見ていた。
「マリアさん、ジュースのお代わりはいかがですか?」
「あの・・・・・・、おね、おねがいしましゅっ!」
あ・・・・・・噛んだ。
緊張してるのかな?そう思うと自然に笑みが浮かんだ。
「少し待っててね」
マリアさんからグラスを受け取ると、先程とは違うグレープジュースを注ぎ再度、客間へと戻ると。
顔を真っ赤にしながら俯くマリアさんと笑いながらそのマリアさんの頭を撫でるシスターという、なんとも微笑ましい光景がそこには広がっていた。
私が客間に戻り数分後。
シスターは私に幾つかの注意事項を説明すると、早々と帰ってしまった。
残ったのは私とマリアさん。
実際会うのは2回目なので、話の切り出し方が分からない。
私は優しく問いかけるようにマリアさんに切り出す。
「えっと・・・・・・、今日から私がマリアさんの父親になる者です。宜しくお願いします」
「あ、はい。こちらこそ」
そう言ってペコリと二人でお辞儀する。
それから二人で自己紹介を行い、相互に質問を繰り返しては答えていく方法で相互理解を深めて行った。
「今日から私達は家族です、家事とかも二人で一緒にやっていこうね」
「・・・・・・はい、一生懸命、頑張ります」
「私からは以上です、マリアさんからは私に言っておきたいことありますか?」
「私のことはマリアって呼んで下さい、それから出来れば敬語も止めて欲しいです・・・・・・」
「うん、分かったよマリア」
にっこりと笑いながら、マリアの頭を撫でていく。
癖毛が一つもないであろう髪は、とても肌触りが良くていつまでも撫でていたくなる。
私が撫でている間もマリアは目を閉じて俯き、身じろぎ一つしなかった。
ゆっくとマリアの頭を撫でていた私は満足すると、そっと頭から手を放す。
「ぁっ・・・・・・」
「ん?もしかして嫌だった?」
「・・・・・・いえ、そうじゃなくて。そのっ、もっと撫でて欲しいです」
カーッと白い顔を真っ赤に染めながら、私にお願いをする姿はとてもいじらしくて。
気が付けばマリアをぎゅっと抱きしめていた。
マリアも決して嫌がろうとする素振りはなく、それどころか私の腰に小さな手を回しては強く抱きしめ返してくれる。
「あの・・・・・・、お父様って呼んで良いですか?」
私の胸に、顔を埋めながら小さく呟く。
「うん、マリアさえ良ければそう呼んで欲しい」
「お父様、私の・・・・・・。私だけのお父様」
マリアは自分に言い聞かせるように呟くと、規則正しい鼓動を繰り返しながら大人しくなった。
どうやら眠ってしまったらしい。
私はマリアをお姫様だっこで抱きかかえると、マリアの部屋として用意してあった部屋へと運び。
ベッドに寝かすと布団を被せ部屋を出た。
68 名前: 娘 2010/08/17(火) 12:01:19 ID:RFacS0Bc0
マリアを部屋へと運んだ後、私は客間に戻りカップの後始末をしていたのだが、その最中に電話が掛かってきた。
相手は高町だった。
「おっす久しぶりだな。今日だったんだろ?彼女が来るの」
「えぇ、今日の今朝方に来られまして、今は部屋で寝ています」
「父親になった気分はどうだ?」
電話口からにやにやと笑っている高町が想像できた。
「まだ実感はないですが、仲良くやっていきたいとは思っています」
「そりゃ、良かった。何かあったらいつでも相談してくれ」
「ありがとうございます」
「あぁ、それからお前に頼まれていた事の調査終わったぜ」
マリアさんが私の養子に来ると決まった際に、私は高町に一つ依頼をした。
どうして高町に依頼したのかと言うと、まず高町の職業が探偵だったこと。
それからこの男が信頼に足る男だったこと。
それが高町に依頼するという決意をさせた。
依頼した内容はマリアさんの素性についてだ。
何故日本の施設に外国の子供が孤児院として居るのか、その立ち振る舞いからして並みの家庭の子供ではないという確信に至ったからだ。
その事を高町に話すと、彼は少し考えて返事をしてくれた。
任せろと。
「それで、調査結果を伝えたいんだが。今から外に出て来れるか?」
「電話口じゃ無理なのです?」
「あー。事が事だしな、悪いけどこっちが指定する喫茶店まで来てくれ」
「分かりました」
高町から喫茶店の住所を聞きくとここから30分ぐらいでいける場所である事が分かった。
マリアが万が一起きた時の為に伝言を残すと、私は外へ通じる玄関を開けたのだった。
「おーい、こっちだ」
自宅を出てから30分後、私は高町の指定した喫茶店へ到着。
中に入るとウェイトレスさんが近寄って来たが、それよりも早く高町が私を見つけてたらしく、手を振りながら居場所を教えてくれた。
私はウェイトレスさんに苦笑いをすると、アイスコーヒを注文してから高町の前の席に腰を降ろす。
高町は大分前に来ていたらしく、ホットコーヒーを注文するとこちらをにやけながら見つめてきた。
「早かったな、もっとかかると思ってたぜ」
「いえ、家から近かったですから。それよりも結果を」
「そう急かすなって」
高町は持参していた黒色の鞄から茶色の封筒を取り出し、小さな机の上に置いた。
「まず最初に断っておくぞ。結果から言うと俺も久しぶりに驚いた」
高町が驚くなんて想像も出来なかったが、いつもと違う真剣な高町の顔を見ていると、真実味がじわじわと出てきた。
「それから、ある程度調査出来たが。完璧な調査が出来なかった。つまりな意図的に調査が出来ないように処理されてるみたいだ」
「それは誰かが調査出来ないように手を打ったって事ですか?」
「あぁ、そういうことになるな。なぁ、あんたはフォベリア共和国連邦って知ってるか?」
「フォベリア共和国連邦?確か西欧の国で王制最後の国ですよね?でも、あの国は確か・・・・・・」
「そう、その国は5年前に王制を反対とする革命軍が反乱を起こし内戦を勃発、強襲を受けた王族はその全員が処刑された」
その直後に国際連盟が軍事介入を起こし革命軍と激しい戦闘の末、これを降伏させて今では国際連盟の保護の元に臨時政府が樹立した。
高町は茶色の封筒から一枚の新聞を取り出すと私に差し出した。
その新聞の一面記事を見た瞬間、私は立ち上がり大声を出して机を叩くことになる。
「そんな、馬鹿な!!!! 」
一面記事には王族の写真が載ってあり、記事にはこう書かれていた。
フォベリア共和国連邦、マリア姫殿下4歳の誕生日!
最初は別人かなと思ったのだが、写真に今のマリアの面影があり。
同一人物であろうことは否応なしに理解出来た。
「つまりな、あのマリアちゃんは正真正銘の姫様な訳だ」
「でも、王族は全部処刑されたって報道にあったじゃないか!」
「少し落ち着け、周りが見てる」
高町に言われて周りを見ると、周囲の人がこっちをチラチラと伺うように見ていた。
「それにウェイトレスさんが怖がってる」
「・・・・・・すいません」
私はひどくビクついたウェイトレスさんが持ってきてくれたアイスコーヒを飲みながら反省していた。
「しかし、あんたでも。驚くことがあるんだな」
クククと笑いながらタバコを吸う高町はひとしきり笑った後。
一枚の書類を出してきた。
そこには調査報告書と書かれており、以下の事が書かれている。
一つマリア・サンクネリア・レーンフォーカスはフォベリア共和国連邦第一王女であること。
一つ王族が処刑された際、どうしてマリアだけが生き残れたのか調査出来なかったこと。
一つ秘密裏に日本へ渡来し、何故孤児院に居たのか調査できなかったこと。
「悪いな、手回しが良すぎて、殆ど調査出来なかったんだ」
「いや、仕方ないと思います。この新聞を見せて頂いただけで成果はありました」
「引き続き調査しておくよ、また何かあったら伝える」
「お願いします、あっ、この新聞貰っても良いですか?」
「ああ、良いぞ」
私は新聞を丁寧に折るとポケットに仕舞うと、高町の方へ振り向いた。
「今回の依頼代は振り込ませて頂きます、それからここの会計も」
注文票を掴みレジへ向かう私へ高町が背後から声をかけてきた。
「これからどうするんだ?」
「どうもしないですよ、マリアは私の娘ですから」
「そっか、頑張れよ」
そう独り言のように呟く高町の声はどこか嬉しそうだった。
69 名前: 娘 2010/08/17(火) 12:02:09 ID:RFacS0Bc0
あいつが扉から出て行く後姿を見つめながら、俺はタバコを吸っていた。
初めて会った時からアイツとは初対面な気がしなくて、気が付けばアイツの手助けをしていた。
そしてアイツの素性を調べていくうちに確信へと至った。
きっと、これは神が俺に授けた試練なのだと。
「ふぅ・・・・・・」
胃の中で溜まっていた空気を喉から吐き出すと、鞄からもう一枚書類を抜き出す。
最後までアイツに見せようか悩んだが、結局見せれなかった一枚。
そこにはこう書かれている。
マリア・サンクネリア・レーンフォーカスの関係者はその全てが自殺及び他殺されており、これ以上の調査が出来ない状態となっている。
ちなみに実際に調査していた男はこれを報告した翌日、何者かに殺害された。
現地の警察が必死に捜索しているのにも関わらず、未だに犯人の痕跡すら発見されていない。
誰が意図的に隠しているのか分からないが、これは知るべきではないと本能が告げている。
そして調査報告書の冒頭にはこう書かれていた。
マリア・サンクネリア・レーンフォーカスの母、アルフェミア・サンクネリア・レーンフォーカスは病的なまでに夫に対しての愛情深く。
これが起因しての王族問題から内乱が勃発したのではないかと思われる。
フォベリア共和国連邦最後の国王は、反乱発生の晩年に精神を病んでいた傾向があり、それが周囲に不満と不安を与える切っ掛けとなったのは明白である。
尚、噂でしかないが。王族処刑時に王族に仕えていた使用人も悉く処刑されたが数名の使用人が処刑を免れた。
その名前は・・・・・・。
そこまで読んだ俺は、不意にタバコが吸いたくなり書類から目を離した。
肺の中をタバコ独特の空気が充満し、それを吐き出す感覚はやめることができない。
「苦いな・・・・・・」
タバコを充分堪能した俺は喫茶店から出ると駅へ向かう為に歩みを進めていた。
「ん?」
最初は違和感。
そして次は確信。
間違いなく誰かが俺の後をついてきてやがる。
探偵という職業柄、誰かに狙われるのは常ではあるがこんな尾行は初めてだ。
尾行されるときには大抵、殺意やら興味やら何らかの感情が付きまとうが、コイツには何もない。
その癖、俺の足跡に反応してきっちり尾行してるもんだから始末に負えない。
俺は人気が居ない場所に隠れると、相手が来るのを待った。
そして数分後、一人の女性が路地裏に入ってきた。
俺が隠れているのは分かっている上で来たのだから、相当の手練であることは容易に想像できた。
「よぉ、こんな路地裏に女性が一人で来るのは感心できないなぁ」
女性無言のまま近寄ってきたので、その姿を確認できた。
黒のドレスに白いエプロン、頭にはカチューシャ。
「メイドさん?」
そう今時珍しくないメイドがそこに居た。
もしメイド喫茶にこの人が居れば、繁盛間違いなしだろう。
それ程の美人。
「貴方ですね?マリア様の事を調べていたのは」
綺麗な唇から流れるのは流暢な日本語。
「そうだって言ったらどうする?」
「不遜です、死になさい」
それが会話の最後だった、有り得ないスピードで肉薄してきたメイドは俺の一歩前で体全体を使って翻りスピードを乗せた蹴りを上段へと打ってきた。
回避できるようなスピードじゃない、咄嗟に両腕で防御すると有り得ないことに両腕ごと体が吹っ飛ばされた。
「冗談・・・・・・だろ?」
崩された姿勢を何とか建て直し、状況の把握を努めようとしたその時だった。
メイドに左腕を掴まれたらしい、筋肉を強く握り締められる感触に悲鳴が出そうになるが何とか我慢。
「あんただな?あの子の関係者を殺害していったのはっ」
「・・・・・・」
「ちっ、だんまりかよ?」
俺は激痛を我慢し、右手を強く握り締め死角に居るであろうメイド目掛けて渾身の一発を放った。
別に当たらなくても構わない、ほんの少し隙を作れたらそれで良い。
そう思いながら放った一撃は予想外の効果があった、メイドのどこかに当たったらしく。
左腕の拘束が弱まった。
それを皮切りに左腕の拘束を外そうとしたが、びくとも動かない。
「痛いです、流石ですね。高町雄人」
「痛いならもっと痛そうにしやがれっ!」
あくまでも無感情に言い放つメイドに腹が立ってきた。
こっちは必死にやってんだぞ!
「痛かったので、これはお礼です」
ゴキリという変な音と共に腕が変な方向に曲がった。
それを確認するよりも早く、やってくるさっきとは比べ物にならない程の猛烈な激痛。
それよりも驚いたのは、人間の骨を無感情に軽々と折れるその精神にあった。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!! 」
「良い悲鳴です、もっと聞かせて下さい」
あろうことかそのメイドは左手の指を掴むと、小指を掴み本来曲がらない方向へと折り曲げた。
「くそがっ!!!」
さっきと同様右手を硬く握り締め、再度メイド目掛けて殴る。
だが激痛の為か、威力がなかったらしい。
当たりはしたが、メイドは無反応。
「まだ抵抗出来る力がありましたか、次いきますよ。ほら」
ゴキリ、骨が曲がる音を響かせながら再度激痛が襲ってくる。
「ん?どうやら失敗ですね。警察が来たようです。次は殺します、さようなら」
そう言ってそのメイドは、軽々とマンションの2階部分へと飛び乗り中に入ると姿を消した。
薄れいく意識の中で俺は呟いた。
気をつけろ・・・・・・と。
70 名前: 娘 2010/08/17(火) 12:02:33 ID:RFacS0Bc0
家へと帰ってきた私を出迎えたのは、私がマリアへのプレゼントとして部屋に用意した熊の人形に抱きつきながらぐすぐすと泣いているマリアだった。
理由を尋ねるとマリアが起きた時に私が居なかったことが発端らしい。
先程の高町との会話を忘れ、私はマリアを泣き止ますのに時間を費やした。
やっとマリアが泣き止んだ頃には外から差し込む光が、オレンジ色になった頃だった。
「ねぇ、マリア。私からの伝言は見てくれた?」
「伝言ですか?」
「うん、ほら」
そう言いながら私は、机の上に置いてあった伝言を見せた。
「・・・・・・あっ、」
やっと分かってくれたらしい。
マリアは顔を真っ赤にして恥ずかしがっている。
初日で分かったことなのだが、どうやらマリアは極度の甘えん坊らしい。
例えば私がテレビを見ていると、段々私に近寄り最終的には私の太ももの上に座っては、背中を私の胸に擦り付けて幸せそう微笑んでいる。
その間は終始ご機嫌なのだが、私が何かの用事で立ち上がると少しだけ不満そうに私を見る。
そんな一挙一動に可愛いと思ってしまうあたり、もしかして私は親バカなんじゃ・・・・・・。
とそんな気持ちが湧いてきた。
「さてと、そろそろ夕食かな?マリアは好きな食べ物ある?」
「お父様が作って下さるなら、全部好きです」
「あはは、そっか。んじゃ気合入れて作るかな」
そう言って立ち上がった直後だった。
無機質な電話が鳴り響き、それを受けた私は硬直する事になる。
高町が重傷を負った。
それを告げられたからだった。
71 名前: 娘 2010/08/17(火) 12:04:06 ID:RFacS0Bc0
以上が、第一話になります。
転載にご協力くださった方、最後まで読んでくださった方、ありがとうございます。
近いうちに二話を投下したいと思います
gj!
続きが楽しみです
なんかマリアってSSで良く見かけるな。
そういえば題名の無い短編集四十八で妻と不倫相手との間にできた娘に拉致されるのがあったな
アルビノの件だけど、別に外を見るくらいは大丈夫だよ
症状によってはサングラスとかが必要になるけどね
外に出ても即死するわけではない
アルビノを題材にした話をアップします。見苦しい部分がございますがご了承下さい
題名「闇に潜む紅眼」
458 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 18:05:25 ID:InsTYXKE
いつも通学路に使っている静かな住宅街。その中で一際大きい屋敷がある。
そこは大企業の社長さんの自宅らしいが、何故か全ての窓は黒いカーテンで覆われており滅多に人が出て来ない。夜になると一つの窓だけカーテンが少し開いている。そこには紅い何かが外を覗き込んでいるというー
459 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 18:15:31 ID:InsTYXKE
小・中学生の間では異形の怪物が飼われていて、夜になると窓から獲物を探して目を合わせると屋敷に連れ込まれて喰われるという何ともアホらしい噂があるくらい周りから不気味がられている。
そんな屋敷の前を、俺ー搗木 雅登(つき まさと)は学校のある日にかならず1往復する。
460 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 18:35:36 ID:InsTYXKE
今年高校2年になる俺は毎日退屈な日々を過ごしている。友達は数人しかおらず彼女いない歴17年…我ながらに枯れた青春である。
昼休みになって「飯食おうぜ!!」後ろから声をかけられた。長居 颯介(ながい りゅうすけ)俺の中学時代からの友人である。
「そういや、お前相変らずあの屋敷の前通っているのか?」
「そうだが?あそこが近道だしな」
「俺なんかあんなとこ行けねぇよ、噂じゃ怪物がいるっていうし」高校生にもなって小学生の噂を信じてるとは……流石、全教科赤点取った猛者だけのことがあるなー
夏休みの宿題は終わったか?
いったい何が起きてるんだ‥
463 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 19:04:20 ID:InsTYXKE
一日の授業が終わり夜遅くまで部活のバスケに励んだ。そして部活が終わり、いつもの通学路である例の屋敷の前を通る。屋敷には一つの窓だけカーテンが少し開いていて紅い何かが見えた
464 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 19:10:26 ID:InsTYXKE
前々から気になっていたが、一体何があるんだろう?少し立ち止まりよく目を凝らして見てみたー
そこには紅い目をした白い髪・肌の長身の女性が窓に手をついて覗き込んでいる。目はややつり目でクールな印象を漂わせる。俺はしばらく彼女の美貌に見入っていた…
「俺、ここ通学路にして良かった……」
ルンルン気分で歩み始めた時、何処からか視線を感じたー
465 :
闇に潜む紅眼:2010/08/17(火) 19:14:48 ID:InsTYXKE
第一話投下終了します。携帯からの投下なので打ち込むのに時間が掛かってしまいました。申し訳ありません。次回は例の美女サイドから始まります。
携帯でも、メモ帳機能や未送信メールに書き留めて、コピーと貼付けを使えば、短縮できるよ。
とりっぷつけないの?
夏は荒らしだけでなくこういうのも呼び込んじまうんだよなぁ
>>465 頑張りは評価するけど、書きためてくださいね。
「闇に潜む紅眼」の者です。そのうち文章は修正します
保管庫wiki見てると、毎日5000以上アクセスがあるのね。
wikiはページ更新する度にカウンタがアップする仕様っていうのも理由なんだろうけど、それを考えても多い。
偶然訪れる人が多いのか、スレの住人が多いのか……
このスレを訪れる人間ってどれぐらいいるんだろう。
このスレのSSやネタなどを教科書としているヤンデレさんも結構いるから
噂では一部の作品はヤンデレの体験談っていう話もあるらしいな
中学の時の同級生で、体育の時に指を怪我した女子が「保健室に逝ってきます」と言って真直ぐ向かうかと思ったら誰かの下駄箱に指から出た血を塗り付けてた……本人いわく「せっかく出た血なんだから有効に扱わないと」のことです。今でも時たまメールのやり取りやってます
475 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:46:52 ID:ozWSUQaD
初めての投稿になります。
誤字脱字で読みにくい点や、分かりづらい点があると思いますが読んでいただければ幸いです。
では、投下させていただきます。
476 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:47:32 ID:ozWSUQaD
「私は昔、神様だったの」
少女は語る。
静寂に包まれた闇の中で少女は俺に一言、そう告げた。
「へぇ」
俺はさして興味無さげに呟いてみた。
だって考えてもみろ。
神? なんだそりゃいるわけねえさ。非現実的すぎる。
「白い大きな羽をはばたかせてさー、空を飛んでたんだ」
―――瞬間、暗闇は頭上から裂け、大きな青空が広がった。
透き通るような青空に、俺は目を奪われた。
「それって、神様じゃなくて天使じゃね?」
どうも俺の中で白い羽と言ったら天使が一番に思いつく。
俺は、この環境の変化に戸惑いながらも、目の前にいる可憐な少女に話しかけた。
もちろん少女の背中に羽はない。そしてどこからどう見ても人間だ。
「かもね、私はやっぱり神様じゃなかったのかも」
少しうつむき加減になった少女。ちらりと見えたその瞳には悲哀が受け取れた。
「はっきりしないな。自分の正体なんて、自分にしか分からないだろ?」
「そうかな? そうかもね。ううん、そうだろうね」
「?」
何だ? 何か言いたげだが。
「うーん、とね……そうだ! 君に一つ頼みたいことがあるんだけど良いかな?」
身長差十センチといったところであろうか。
少女は嬉々とした顔で、百七十センチの俺を見上げてきた。
「なんだ? 俺は可愛い女の子の頼みなら何でも聞いてやるぜ!」
歯をキラリッと輝かせた俺は、今の自分の仕草がとてつもなく格好いいものだと信じきっていた。可愛い女の子の頼みを聞けるなんてフラグを立てるチャンスだからな!
―――そう、俺は軽い気持ちだったんだ。何も考えず、過去をごまかすように目の前にあることにぶつかっていくだけ。そんな毎日を過ごしてきた俺だったから。
だから、次にくる少女の言葉と行動は、予想外だった。
「じゃあねー……死んで」
グサリ……プシャアアアアと、想像したくもない気味の悪い音が脳内に響く。
「ガ―――ァァアアアアアアアアアアア!」
後(のち)、己の叫び声。
満面の笑みを浮かべていてくれた少女からは表情が消えうせ、気付いた時には俺の心臓は黒い剣によって突きぬかれていた。
「そしてずっと一緒にここにいようよ、ね。ジュン君」
薄れゆく意識の中で、俺はそんな言葉を聞いたような―――気がした。
さげろ
478 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:49:24 ID:ozWSUQaD
〈あたかも必然たる朝〉
「……きて……兄さ……」
まどろみの中、裂けぬ闇。
そう、俺は囚われていた。あたかも囚人のごとく。
聞きなれた声が耳をすり抜ける。その声にこたえるべく、俺は闇に抗う。
しかしこの闇に俺は自ら逆らうことはできない。
なぜなら……
「いい加減起きろって言ってるでしょ! いつまで寝てれば気が済むの!」
俺は今日の朝5時まで起きていたからだ。
夜更かしなどするものではない。
「はひっ!」
しかし、闇というのはどうしても妹には勝てぬものだ。
俺こと〈神坂 純〉は妹の怒声に驚き、飛び起きてしまった。
「朝御飯できてるから、早く食べちゃってよ!」
きつく眉をしめ、俺の鼻先へと指先を伸ばした妹。
怒りながらセリフを吐き捨てた後に、扉を大きな音を立てて閉めてから出て行った。
「う、うい」
一人きりになった部屋で、俺は静かにそう答えた。
そして、同時に俺は支度を始める。
ほぼ毎日のように通っている美杉(みすぎ)学園の制服を身にまとい、寝癖をくしでなおした。
時計を見て時間チェックなどしない。
今は朝の八時を少し過ぎたあたりだろうから。
だっていつも妹が俺を起こすのは、どうしてか遅刻ギリギリの八時なんだから。
479 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:51:38 ID:ozWSUQaD
「おはよう、美咲」
リビングへとたどり着いた俺が見たのは、いつも通り美杉学園の制服を身にまとった我が最愛の妹〈神坂 美咲〉だ。
髪は黒のセミロング。
百五十あるかないかくらいの小動物みたいな身長。
ちなみに胸はごにょごにょ……まぁ、本人が隠れて牛乳を飲みまくっている感じだ。察してくれ。
顔は家族の贔屓目バリバリでめちゃめちゃ可愛い美咲(贔屓目なしでも美少女確定です)は、
一年生の象徴たるピンクのリボン
(女子の制服のリボンは学年ごとに色が違い、一年はピンク、二年は青、三年は黄色となっている)をきらびやかになびかせて、
男子生徒には猛烈にうれしい短めのスカートをひるがえしながら、こちらに振り返った。
「いつも通りおそよう!お兄ちゃん」
しかし格好と形相とは全くの別物だな。
ギロリッ、と、まるで効果音が聞こえてきそうな感じの鋭い視線が俺の全身を射刺した。
そんな視線を体に受けた俺。
もうすることは決まっている。いつも通りだ。
「いつもいつもごめんなさいぃぃ!」
俺はすぐさま土下座をした。頭を床にこすりつける。
だってさ、よく考えてみ?
妹に睨まれたら、それはもうお兄ちゃんだったら土下座で謝るしかないさ。
え、何? プライド? 何それ? 美味しいの?
「ふんだ」
妹がそっぽを向く。
「ごめんって」
俺がその後を追って謝る。
この問答が数分続いた後に、俺は大急ぎで飯を腹に流し込み、
妹と二人で急いで家を飛び出す。遅刻しないように。
そう、そしてこれもまた
―――いつも通りだ
そう、いつも通り。いつも通り。いつも通り。
今日もまたいつも通りで塗りつくされた俺の必然たる一日が始まるんだ。
俺はふと、隣で走る美咲に目をやる。
……そういや、美咲のやつどうして俺のことを八時前に起こしてくれないんだろうか?
一度聞いてみよう。
美咲を視界に入れた時、ふとそう思ってしまった。
480 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:51:59 ID:ozWSUQaD
〈あたかも必然たる朝〉 裏T
「だれにも渡さないわぁ……そうよね。兄さんも私と一緒の方がうれしいもの、嬉しいに決まっているもの」
小鳥のさえずりと共に眠りだした兄さん。
その寝てしまったベッドの上の兄さんを、私は眺めるのが大好きだ。
―――そう、初めは眺めているだけで幸せだった。
「ふふぁ」
私はそのまま体を倒し、兄さんの胸元へ顔を寄せる。
瞬間、私は幸せな気分に陥る。
「良い匂い」
兄さんの、私の大切な兄さんの、大好きで大好きで大好きでこの世の言葉では表せないほどに私が愛している兄さんの匂い。好き、好き、好き、好き。
この匂いはまったく媚薬のような効能を発する。
私の脳髄が焼き焦がれるほどに、そして下半身や胸が、キュンってする。
こんな素晴らしく、そして甘く切ない気持ちにさせる私の兄さん。
―――でも、あの雌がでてきてから私は変わった。
ああ、大丈夫だからね、兄さん。
あんな薄汚い雌には兄さんの髪の毛一本ですら渡さないから。
だから安心して、私と一緒に。
―――兄さんは……私のものだ。私だけのッ!
「兄さん」
そして今日もまた、遅刻ギリギリの時間の八時まで、こうしていられるんだろうな。
そういったいつも通りの幸せを私は噛みしめながら……。
「大好き」
そう言って、唇を、舌を、深く、深く絡ませた。
481 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:52:49 ID:ozWSUQaD
〈あたかも必然たる朝〉 裏U
「あんの雌があああああああああああ!」
ガンッ! ガンッ! ガンッ!
私は頭を壁に打ち付ける。
「私の純君に……こんなことをっ!」
私はパソコンのディスプレイに映し出された映像(寝ている純に美咲がキスをしている)
―――そう、神坂純の家に仕込んだNo.12のカメラの映像を見て、発狂しそうな勢いだった。
「なんで、なんで、なんで、なんで! 彼の唇は私が奪うはずだったのに、私だけのもののはずなのに! それをあの雌ゥ!」
昨日、彼らが家開けているすきに使用人に取りつけさせた二十八のカメラ。
今日からずっと彼の行動を見ていられる! そう思っていたのに……こんなの!
「―――殺す!」
私に明確な殺意が宿る。今までは妹だってことで、多少のボディタッチ程度は見逃してきた。だが、これはもう我慢の限界だ。
「死んだって許すもんですか、この雌は私が!」
そう叫びながら、私は部屋の壁、天井、床。
もう見渡す限り写真が貼ってある部屋の中、そう、すべて純の写真が貼ってある部屋の中で、彼女〈萩原 空〉は狂う。
「ねぇ、純君。あなたは私だけのものだからね」
いつも通り、壁一面まで引き延ばした純の写真に空はキスをする。
「今は仮のキス、でも明日にでも、本当の唇と唇でしてあげるから……あの雌の匂いを消すためにもね。それまで待っててよ―――
―――すぐだから」
482 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:54:02 ID:ozWSUQaD
投下終了です。
483 :
白い翼 ◆efJUPDJBbo :2010/08/18(水) 02:56:46 ID:ozWSUQaD
>>483 投下はGJ。続きものみたいなので次回も期待しています。
ところで、初めての投稿っていうのは、sageる方法を知らないという意味なのだろうか。いやでも、コテトリ使えてるしなぁ……?
sageるなら、E-mailの部分に、半角英数で『sage』と入力してくださいな。
sageはこのスレ含め、創作系スレのお約束(みたいなもの)なので、次回からヨロシクね。
72:少し大きな本屋さん :2010/08/17 21:16:51 ID:wiKAW/bw0
すいませんが規制に巻き込まれたようなのでこちらで
「少し大きな本屋さん」の二話目を投稿させて頂きます。
申し訳ありませんが転載を誰かお願いします。
73:少し大きな本屋さん :2010/08/17 21:17:32 ID:wiKAW/bw0
Q 見知らぬ人にメアド交換などを迫られたらどうしますか?
A まぁ、普通は断るよな。
でも、ねぇ。
相手は美人さんだったからなぁ。別に関係は無いんだけど。
なーて考えながら本の整理などに勤しむ。
結局、俺は早く仕事に取り掛かりたかったためにメアドを交換した後に「二度と万引きしたらいけませんよー」と覇気のない捨て台詞を吐いて、何か言っていた(多分感謝に言葉)彼女を無視して勢い良く扉を閉めたのだ。
閉める直前に見た彼女の顔は赤みがかかっていたが冬の寒さによるものだろう。今11月だし。
まぁ、結論から言えばなぜメアド交換しようと言ってきたのかとか、悪用されるかもしれないとか、色々深く考えずに交換してしまったためにかなり不安で仕方ない。
はぁぁと深く溜息を吐きながら小説コーナーへ移動する。
にしても一階しかないのに地味に広いよなぁ、うちの本屋。その所為か俺含めて8人も雇っているし。
たしかそのうちの2人ぐらいは返品作業をしてるんだっけかな?
まぁどうでもいいけど。
小説コーナーに到着ー。
万引き犯さんが盗み損ねた品二点をあるべき棚に無断で直す。
これで万引きは無かったことになる。はず。
ここら辺の整理もしとくかな。今日はここら辺のコーナーの客少ないみたいだ。
ここからは色々仕事だらけなので割愛。
というかこんなとこ書いても需要がないのである。なんの需要かは知らないけど。
そんなわけで、チョキチョキーと。
74:少し大きな本屋さん :2010/08/17 21:18:21 ID:wiKAW/bw0
つーかーれーたー。
仕事の後の脱力感が体にひしひしと纏わりついてきて微妙に気持ち悪い。
目を閉じたら立ったまま寝れそうなので我慢せねば。あー、だるい。
「お疲れだねぇ」
隣にいつの間にか若宮さんが立っていた。コエー。
「そうでーすね」
若宮さん(♀)とは俺のバイトの先輩である。といっても年は同じみたいだけど。
情報としてはそれだけだ。未だに名前がわからない。
それでもそれなりに仲が良い。世の中不思議だねぇ。
「相変わらずやる気がないな、それだと早死にしてしまうと昔誰か言ってたぞ」
「別にそれでもいいんだけどねー」
今考えた感まるだしのお言葉ですね、それ。
「私は君が死ぬと困るんだけどね」
「なんか言いましたか?俺耳遠いので聞こえませんぜぇ」
実際は若宮さんの声が小さくて聞こえなかっただけですけどー。
「それだとただ誤魔化しているみたいに聞こえるんだけどね、まぁどうでもいいさ」
ちなみにこれ、君の真似ね。と呟きながら笑う彼女は、やっぱりお姉さんみたいな人だなぁと思う。
「そういえば、君、万引き犯の女子高生を捕まえたって聞いたんだけど本当かな?」
「あぁ、それですか」
普段と変わりない雰囲気で今日のことを聞いてきた・・・・・・・
はずなんだけど微妙に違和感がぴりぴり。俺、なんかしましたかね?
「どーでもよかったんで適当に本を戻してもらって裏口から返しましたよ」
「本当かい?」
少し若宮さんにしてはねちっこい。別に嘘ハ吐イテナイデスヨー。
「本当ですよ。どこかのAVみたいな事はしてませんて」
「君は狼っていうより猫だからね。そんなことは言わないでもわかるさ」
なんか男として馬鹿にされた気分。だからって傷つくわけじゃないけどさ。
「だから、」
「本当に何もないんだよね?」
不安そうな顔が普段の表情と交じり合ってなんとも曖昧な顔になる。って俺には見えた。
あー。なんか少し自己中気味だなぁ、自分。それじゃぁ若宮さんが俺に気があるみたいじゃないか。そんなことあるわけ無いのに。
「はい、何もなかったですよー」
女子高生との密談についてはノーカウント。
「そうか、それは良かった。店長が少し休憩室がうるさいって言ってたからね。私も気になっていたんだよ」
そうか、そうか、って何回も満足して頷く。
「それじゃ、帰ろうか」
75:少し大きな本屋さん :2010/08/17 21:19:18 ID:wiKAW/bw0
用事の済んだ子供みたいに早足で定員用の出口から出る。
それに続いて俺も出てみたが、夜が深けてる所為で体が一瞬で凍りつく感覚が体中に走る。
簡略すると寒い、寒い!
「あー寒い寒いさむっ!」
「そう大声出さなくてもいいだろうに」
いや、めっちゃ寒いですよこれ。
一応はコート着てますけど寒さが隙間を見つけて入ってくる感じがもうだめ。
「今更なんですが、別に一緒に帰らなくてもいいんじゃないですかー、結構恥ずかしいんですよ」
話題が思いつかないから少し大きな声で前に何回か尋ねたことを言う。寒さは一向に体から離れない。
「道が途中まで一緒なのだからいいじゃないか。それに一人で帰るのはつまらないからね」
「いや、それの所為で前、若宮さんとの関係を疑われたんですから」
これもくどいように聞いてきた。答えはいっつも同じだったけど。
「別に私は気にしないからどうでもいいのだよ」
まるで決め台詞のようにハキハキと呟く。まぁ定番化してるししょうがないかなぁ。
「さいですかー」
こっちも定番化した台詞を口から零す。
別にオリジナリティは求めていないので。
それからは無言が続く、続く。
若宮さんと帰りが一緒になったときはいつもこんな感じで帰るのです。
どちらも会話にするネタとかそんなものは持っていないから。
思いついた事を口にして、2,3回喋ってまただんまり。
それの繰り返し。
だからって別に空気が重いわけじゃない。
若宮さんと俺との関係はそんなものだから、限りなく他人に近いものだから、だから気楽に隣同士で歩けるんだろう。
まぁ、自分勝手に解釈してるだけだけどー。
しばらく歩いて住宅地に入る。そろそろお別れだなぁ。
住宅地に入ってからすぐに、俺たちは別れるのだ。
「それじゃ、また明日に会おう」
「なんでそんなにハキハキとしてらっしゃるんですかねぇ。はぁ、さようなら」
そういって俺は自分の家を目指す。振り向きはせずにただまっすぐ。
風呂、どうしよっかなぁ
「こっちが溜息つきたくなるよ」
「それに、嘘を吐くのはいけないことだって習わなかったのかな?」
「罰として、うむ、そうだな」
「歯ブラシを没収しよう。うん。そうしよう」
「あと」
「あの女子高生についても調べなければいけないな」
「害虫は早めに駆除、と誰か言ってたような気がするからね」
76:少し大きな本屋さん :2010/08/17 21:21:57 ID:wiKAW/bw0
投稿終了です。
ありがとうございました。
不思議な味わいの作品だな
続きを楽しみにしているよ
白い翼も期待している
ただ老婆心ながら言わせてくれ
登場人物を面白おかしく配置するまでは書いてて楽しい
だが、話を展開してENDまで持ち込むのは至難の業だ
今までに、自ら広げた風呂敷に飲み込まれ志半ばに所在不明になった前途有望な職人を何人も見てきた
願わくば君らが完結という大業を成し遂げんことを心より祈っている……
ここで出てたアルビノネタ、考えたけど先に書いてる人がいたか…
被るのはまずいよね?
>>492 別に良いんじゃないですかね?あれ駄作ですし
>>492 いいんじゃないの。俺は多くの作品が見たい。
>>493 卑下するのはよくないよ。続き待ってるし
男装ヤンデレってあったかなぁ
書いてみようとは思うんだけどもネタかぶってたらマズイし…
シチュとかキャラが被った程度で何ら問題ない
完全盗用じゃない限りは歓迎されると思うよ
なにをためらう事がある!今はヤンデレが微笑む時代なんだ!
そりゃ性転換しないと男のヤンデレになるぞ
499 :
家族2話:2010/08/18(水) 21:29:55 ID:D+d0pJdI
第二話投下します
>>498 大好きな彼の為に自家去勢♪
彼の為なら痛くない☆
女の子の大事な部分はナイフで切れ目を入れてぱーふぇくつ!
…書いてる自分でも気持ち悪くなってきた
501 :
家族2話:2010/08/18(水) 21:33:08 ID:D+d0pJdI
「好きな相手は誰なの!」
二人の声がこれほどないくらいにピッタリ合う。
「幼馴染の美香ちゃんなんだけど」
美香ちゃんは近所でも評判の礼儀正しい大和撫子さんである。
「美香か・・・・あの女狐め」
小さい声でそうつぶやきギリギリと歯を鳴らす三咲と綺羅
「なんか言った?二人共」
「ううん、何でもないわお兄ちゃん」「何でもないわよ」
二人から何故か負のオーラが漂ってきたが、気のせいのようだ。
「それじゃ気を取り直して晩御飯でも食べましょう」「そうだよ、お兄ちゃん」
ちなみに寺下家の台所を預かるのは綺羅である。
綺羅は料理家事洗濯といったスキルが非常に長けている。男なのに・・・
それにひきかえ美咲は家事スキルが絶望的な危険キャラだ。まともにつくれるのはサラダしかない。
ちなみに両親は海外で仕事をしているため家には居ない。
「ご飯が出来たわよ、いっぱい食べてね。」
そう言って笑顔で僕にお茶碗を差し出す綺羅、正直男と分かっていてもドキッしてしまう。
「むーー、綺羅は料理できるからいいよね。私なんて、私なんて・・・・・」
どよーんと落ち込む三咲、正直哀れだ。なんとかしてやらないと。
「三咲にはいい所がたくさんあるからそんなにおちこまないで」
「例えば?」
「ええと、明るくて僕を笑顔にしてくれるところかな」
三咲は笑顔で僕に抱きついてくる、その三咲の頭を撫でる僕。
しかし、僕と三咲を見つめる修羅がいた。
「当然、私にも言うことはあるわよね?」
笑顔だがこめかみをピクピクさせて正直怖いです、綺羅様。
「うん、綺羅はいつもみんなの面倒見てくれて優しいとても優しい子だよ」
僕はそう言って綺羅の頭も優しく撫でる。綺羅の顔が幸せそうだ、自然と僕も嬉しくなる。
「まあ、当然ですわね」
綺羅は顔を真っ赤にしてそう言う。
「じゃあ、みんなで仲良くご飯を食べようね」
そうして寺下家の夕食は過ぎていった。
こうして寺島家の平凡な日常が過ぎていった。
502 :
家族2話:2010/08/18(水) 21:34:35 ID:D+d0pJdI
「実、起きなさい」
そうやって綺羅は実を起こそうとするが、実はまったく起きない。
「よし、こうなったら無理やりにでも・・・」
綺羅は馬乗りになって実を起こそうとするが、実に抱きしめられてしまう。
「ああ、実の匂い。なんていい匂い」
「なんか柔らかい枕だな〜、むにゃむにゃ」
実は綺羅の華奢な体をさらにぎゅっと抱きしめる。
「ああ、私幸せですわ」
そう言って綺羅は実の唇を奪おうとするが、タイミング悪く実が起きてしまう。
「うう・・綺羅何やってるの?」
僕はは寝ぼけながら綺羅にそう聞いた。
「いいえ、何でもありませんわ!」
綺羅は残念そうに、しかも僕に怒りながらそう言った。
その後僕と綺羅がリビングに降りたら、三咲が料理を作っていた。
「朝ごはんよーーー二人とも」
そう三咲が言うと僕と綺羅は無意識に逃げようとしたが、何故か僕だけ捕まってしまった。
「進んで地雷源に進む馬鹿は居なくてよ」
そう言って綺羅は疾風の如く逃げていった。綺羅のやつ僕を見捨てたな。後で仕返ししてやる、すみません嘘です僕じゃ勝てないです。
「なんで逃げるの?」
そう言って三咲は悲しそうな顔をした。決意した僕は三咲の料理を食べることにした。
「久しぶりの料理だからウォーミングアップにフレンチトーストを作ったわ」
三咲はそう言って僕の目の前に料理を差し出した。
「ごめん、勘弁して」
ぼくはそう言った。
「ナンデタベテクレナイノ・・」
三咲は目を暗くしてそう呟く。
「食べるよ、食べる!」
僕は必死に叫び三咲の料理を食べてその後腹痛で倒れてしまった。
「ごめんね、お兄ちゃん。ぐすっ」
三咲は必死に謝っていたが、僕はそんなに謝るくらいならもうご飯を作らないでくれと思いながら意識を失った。
503 :
家族2話:2010/08/18(水) 21:39:57 ID:D+d0pJdI
第二話投下終了です。
たぶん続くと思うのでよろしくお願いします。
第一話ってあった?
見当たらないぞ
>>505 thx
見つけた
作者さん、すんませんでした
>>503 乙。今後に期待。
保管庫の掲示板にリバースがきてたよ。
気づいたなら転載汁
∧ ∧ ∩☆
( ・∀・)彡☆))Д´)←
>>507 ⊂彡 ☆
78:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:33:02 ID:uG2ca43Y0
深夜にこんばんわ。
まだ規制が解除されないのでこちらに6話を投下します。
お手数ですがどなたか転載の方、よろしくお願いします。
79:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:34:39 ID:uG2ca43Y0
深夜。
とある研究機関。一人の男が液体に満たされたカプセルの前に立っている。
男は慈しむようにガラスを撫でて、その中で眠っている少女を見つめた。
「10年…か。長かった。…しかしついにこの日が」
「来た、というわけですね」
「だ、誰だっ!?」
この場所には許可無く男以外は入れない。しかし聞こえた女の声に、男は振り向く。
するとそこには美しい銀髪を携え燃えるような赤い目をした女がいた。
「お久しぶりです、旦那様。そして」
「お前は!?」
「さようなら」
一瞬だった。男が反応するよりも遥かに早く、女の蹴りが腹部に突き刺さった。
男の身体は吹っ飛び受け身もろくに取れず近くの壁に当たる。
「さてと……これが」
男が動かなくなったのを横目で確認した銀髪の女は先程まで男が眺めていたカプセルの前に立つ。
そして男がしたように、あるいはそれ以上にその中の少女を慈しむように見つめた。
会長と潤との睨み合いから一週間ほど経ち、クラスは約一ヶ月後にある修学旅行の話で持ち切りだった。
東桜高校は一般的な高校よりも修学旅行の時期が遅い。この地区ならば普通は10月の半ば、つまりちょうど今頃の時期に修学旅行がある。
どうやら他の学校と被らないようにしているらしい。個人的には他の学校との交流も疎かにしない方が良いのではと思うがまあ学校の方針なので仕方ない。
「それではさっきの時間で班を作ってもらったと思うので、それを班長が提出してください」
教壇にいる修学旅行実行委員が指示を出している。こんな期間限定の行事にまで委員会を作るとは、余程自主性を重んじているに違いない。
普段は騒ぐと怒る黒川先生も、今日はクラスの片隅で椅子に座って読書をしていた。
…勿論少しでも変な行動をしようとすれば即座に制裁されるのはこのクラスの面子ならば了解済みだが。
「勝手に英の名前書いちゃったけど良いよな」
「ああ、どうせいつもの3人だし」
手元にあるプリントには『修学旅行班名簿』と書いてあり班長には俺の名前が、班員には亮介と今日…というか一週間ほど休んでいる英の名前が書いてある。
80:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:36:14 ID:uG2ca43Y0
「…どうしたんだろうな、英の奴」
「まあ要っちが心配しなくても良いと思うぜ?メールには"諸事情で休む、理由は後ほど"ってあったんだしさ」
「…まあな」
諸事情って一体何だ?とか思うが亮介の言う通り、今はあまり追及しない方が良いのかもしれない。
それよりもこのプリント、早く出さないとな。
「待って」
急に腕を掴まれる。
誰かと思うと瑠璃色の髪をポニーテールにした女の子が俺の腕、正確に言えばプリントを持っている手を掴んでいた。
「えっと…」
「…こ、こんにちは」
「えっ?こ、こんにちは」
いきなり挨拶をされたので思わず俺も挨拶する。
…クラスメイトの名前をあまり真剣に覚えなかったことを俺は今更後悔していた。亮介は俺達のやり取りを見守っている。
「そ、その…良いプリントね!」
「…はい?」
「いや!そ、そうじゃなくて…そう!良い腕ね!」
何故か腕を褒められてしまった。良く見ると女の子の頬が紅潮している。
「大丈夫?顔赤いけど…」
「それは大丈夫!ってそうじゃなくて!」
机を叩く女の子。自分に突っ込む気持ちは少し分かる。気が付けばクラス中が俺達に視線を向けていた。
女の子の後ろには女子のグループがおり「撫子(ナデシコ)負けるな!」とか小声で囁いている。
「よしっ」
思い切り深呼吸する女の子。可愛らしいというか何というか。
黒川先生は相変わらず読書中である。…これは止めないんですか。
「修学旅行の班員って4人なんだよ!」
「そ、そうだっけ?」
いきなり声を張る女の子に思わず後ずさる。プリントを見ると確かに『班員は原則4名とします』と書いてあった。
「そうなの!…で、その…白川君達は…今3人なんだよね」
「ああ、良く分かったね」
「そりゃあいつも見て…あ!」
「いつも見て…?」
女の子がしまったみたいな顔をする。後ろの女子グループからは「バカ!それは言うな!」みたいな囁きが聞こえた。
「い、今のは忘れて!実はあたし余っちゃって!も、もし良かったら白川君…達の班に入れてもらえない…かな」
顔を真っ赤にして俯きながら言う瑠璃色ポニテの女の子。つまり俺達の班に入りたいということか。
81:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:37:22 ID:uG2ca43Y0
「えっと…」
「良いじゃんか要っち」
亮介が楽しそうに言う。…まあ亮介は基本楽しかったら何でも良いみたいなところがあるからな。
「まあ君が良いなら俺達は…」
「本当にっ!?ありがとう!」
手を力いっぱい握られる。後ろの女子グループは皆でガッツポーズをしていた。
「い、いや…そんなに感謝される覚えは…。あ、名前書いてもらえる?」
「う、うん!ゴメンね、あたし手汗凄くて!」
プリントとシャーペンを渡すと女の子は震えた手で自分の名前を書いていた。小声で「白川君の…」とか何とか言っている。
「はい、出来たよ!」
「あ、ありがとう。…あのさ」
「な、何かな!?」
「…シャーペン」
「あ、ゴメンね!つい…」
「…つい?」
「あ、あははは!何でもないの、何でも!」
女の子は顔を真っ赤にして横に振る。つられて瑠璃色のポニーテールが宙を舞っていた。
プリントには藤川英の下に少しいびつな字で『大和撫子』と書いてあった。
…やまとなでしこ?…偽名…な訳無いよな。
「よろしくな大和(ヤマト)さん」
「よろしくね如月君」
「…よろしく、撫子(ナデシコ)さん?」
「よろ…な、名前で…!」
どうやらやはり読みは大和撫子(ヤマトナデシコ)だったようだ。試しておいて正解だったな。
「…?大和さん、どうかした?」
「えっ…名前…」
何故かいきなりしょんぼりしてしまった大和さん。何かあったのだろうか。
後ろの女子達が信じられないといった様子で俺を凝視している。
「…なあ亮介」
他の人には聞こえないよう亮介に近付いて話す。
「なんだ?モテキング」
「モテキング?…いや、それよりも向こうにいる女子が俺を睨んでいるんだが」
「それがどうした」
「いや、何でだ?俺、大和さんに…何かしたか?」
「……信じられない。これが…主人公」
何故か亮介は地面に膝をついてしまった。大和さんは下を向いたまま「名前…」とか呟いているし、女子からは睨まれたまま。
こういう時にフォローしてくれる英がいかに貴重な存在か分かる。
「英…助けてくれ」
ぽつりと呟いた。
82:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:38:33 ID:uG2ca43Y0
放課後。校舎に隣接する体育館では女子バレー部が部活の準備をしていた。
「へぇ、じゃあ上手くいったんじゃん!良かったね!」
「でも白川君って想像以上に鈍感なんだよ」
「そうそう!本当に信じられない!ね、撫子」
ポールやネットを運ぶ女子の後ろでポニーテールを揺らしながらボールをカゴから出していた撫子が振り向く。
「まあ仕方ないよ。わたしは一緒の班になれただけで十分だから」
穏やかな笑みを浮かべる撫子。思わずその場にいた全員がその笑みに見とれていた。
「…白川君、幸せ者だね」
「本当…。私が男だったらこの場で襲ってるわ」
「はいはい。わたしちょっとトイレ行ってくるね」
そういうと撫子は小走りで体育館から出て行った。
「…………」
体育館から少し離れた女子トイレ。中には鏡の前に立っている撫子以外は誰もいなかった。
「………ありえない」
何かを呟く撫子。顔は濡れており水で洗っていたようだ。
「ありえない」
鏡に向かって呟き続ける。まるで誰かに話し掛けているような口調で。
「ありえないっ!」
いきなり叫び目の前の鏡を叩き割る。右手からは血が溢れ出るが構わず割り続ける。
「ありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえないありえない」
目の前の鏡が砕け散り右手が血だらけになっていた。それでも彼女は気にも留めない。
「ありえない。……何で、何で白川君の話を楽しそうにするの?」
焦点の定まらない目で鏡があった場所を見つめる。
「何で…白川君の悪口を言うの?」
血だらけの右手を顔の前まで持って来てゆっくり傷口を舐める。まるで何かを労るように優しくゆっくりと。
「…落ち着かなきゃ。白川君の"好きな女の子"に成り切らなきゃ」
全ては彼のため。
元々臆病で人見知りだった性格も彼が好きだって言っていた"奥ゆかしい女の子"に変えた。
"明るい方が良い"って言うから嫌だけど頑張ってクラスの明るい女子グループに入って、女子バレー部にも入った。
彼が"ポニーテールが良い"って言うからこの髪型にした。
そう全ては彼に、白川君に気に入られるため。
「やっと…やっと掴んだんだ…」
彼はいつも部活や要組とかいうふざけた集まりで忙しそうだった。
でも修学旅行なら話は別だ。同じ班になれば確実にチャンスはやって来る。だから焦ってはいけない。
嫉妬の炎は今はいらない。今必要な物は氷のように凍てついた冷静さ。
「わたしは大和撫子。奥ゆかしくて、でも明るくてポニーテールが似合う女の子」
目をつぶる。イメージする。いつものわたしを。
白川君にだけじゃなく、誰に見られても良いように、いつも通りの"大和撫子"に戻る。
「…手、怪我しちゃったな。もう!割れたままの鏡を放置するなんて最悪だよ…」
まるで壊したのが自分ではない別の誰かのように撫子は振る舞った。
83:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:39:51 ID:uG2ca43Y0
放課後。いつものように生徒会室に行く。
テスト週間が近付いて部活が休みになったため、俺達は生徒会で集まって勉強したりくつろいだりしていた。
「…嘘みたいだな」
…そう。嘘みたいなんだ。
先週の会長と潤の睨み合いが嘘のように2人は仲が良い。まるであんなことなかったみたいに…。
「…訳が分からない」
一体2人は何を考えているんだ。あの冷たい目と凍てついた空気。
何かが思い出せそうな…雨の……冷たい…夜の……。
「入らないのかい?」
「あ、悪い……えっ?」
俺の後ろに立っていたのは間違いなく減らず口だが憎めない金髪天然パーマの…。
「久しぶりだね、要」
「…英」
藤川英だった。
「本当に心配したぞ。ろくに連絡も寄越さず…。大体英はな」
「まあまあ、会長。英も悪気があった訳じゃないですから」
「本当に良かった…」
「お帰り…心配した」
「あはは、遥にまで心配かけちゃうとは思わなかったな。…皆ゴメンね」
夕焼けが差し込む生徒会室。
実に一週間ぶりに英が帰って来たということで、皆勉強どころではなくなっていた。
「ったく心配かけやがって…。つーかその腕…」
「うん、実は皆に相談…いや、"依頼"があるんだ」
英の言葉で空気が変わった。右腕はギブスで固定されており骨折していた。
この一週間で何か事件に巻き込まれたのは明らかだった。…嫌な胸騒ぎがするのは俺だけなのだろうか。
一週間前。ちょうど会長と潤が衝突した日の夜中、事件は起こった。
英の父親で藤川コーポレーションの社長でもある藤川栄作が何者かに襲われ重傷を負ったらしい。
彼は一週間経った今も意識を取り戻していない。襲われた現場が厳重な警備下にあったことから犯人は相当の"やり手"だということが分かった。
「…目的は分からない。でも僕には犯人の目星がついたからね。学校を休んで探したんだよ」
英は何処か遠くを見つめていた。さっきから皆が黙って英の話を聞いている。
84:リバース ◆ Uw02HM2doE :2010/08/19 01:40:59 ID:uG2ca43Y0
「随分かかったけど…ようやく3日前に探し出してね。でも…返り討ちにあってこの様さ」
英はおどけるように骨折している右腕を見せる。…笑えないぞ。
「しかしそんな大ニュースやってたか?俺は全然知らなかったんだが。要っちは?」
「…多分むやみに報道しないようにしてるんじゃないか?」
「流石要。まあウチは大企業だからさ。真相が分かるまでは…ね」
どうやらこの一週間で俺達が気が付かない内にとんでもない事件が起こっていたようだ。
「で、英。依頼って言うのは…」
「…うん。何となく話の流れで想像がつくと思うけど…」
「犯人確保」
遥が英が言いにくそうにしていることをさらりと言った。
「…まだ公には出来ないから警察には届けられないんだ。でも僕はどうしても捕まえたい」
珍しく英が強い決意を示していた。
よっぽど父親が好き…な訳ないのは何となく分かる。じゃあ一体…。
「そういえば英、犯人の目星がついてるって言ってたよね?」
潤が英に尋ねる。確かにさっきそいつに腕を折られたとか言っていたな。
「…とりあえず今彼女が何処にいるか、皆に探して欲しいんだ」
そういうと英は一枚の写真を取り出した。
そこには黒髪の大学生くらいの女性と銀髪に燃えるような赤い目のメイドさんが写っていた。
「このメイドは…!?」
会長が写真を見て動揺していた。
…いや会長だけでなく俺以外は写真の中に写るメイドに見覚えがあるようだ。
「犯人は恐らく…彼女だよ。要には今説明するから皆には早速情報を集めて欲しいんだ」
「分かった。では亮介は…」
会長が割り振りをして皆生徒会室を出ていった。
残されたのは俺と英の二人だけ。俺は写真をもう一度見る。
微笑んでいる黒髪の女性は整った顔立ちをしていた。どことなく英に似ている。
そして銀髪のメイドさんは人形のような無表情をこちらに向けていた。
「…要は記憶喪失だから覚えてないと思うけど、僕には姉さんがいたんだ」
「…"いた"?」
「……半年くらい前にビルの爆発事故で行方不明になってさ。そこに写っているメイドと一緒にね」
「…爆発…事故」
初耳だった。
半年前にそんな事件が起きていたことも、そもそも英に姉がいたことも。
「別の事件の調査で僕たち要組が偶然その現場に居合わせてさ。だから皆メイドに見覚えがあったんだ」
「…そう、か」
「ゴメンね。別に隠すつもりじゃなかったんだけど…生存は絶望的だったからさ」
「…気にしてないよ」
家族が事故に巻き込まれたんだ。言いたくない気持ちも分かる。
「黒髪の女性が僕の姉、藤川里奈(フジカワリナ)。そして銀髪のメイドが桃花(トウカ)」
桃花…。
何だろう、つい最近何処かで見たような…。この燃えるような赤い目…。何処かで…。
「なぜ桃花がお父様を狙ったのかは分からない。でも…桃花が生きていたなら」
「英のお姉さんも…」
「…だからどうしても桃花の居場所が知りたいんだ」
折れた右腕を見つめる英。一体お姉さんとの間に何があったのかは分からない。
でも英の決意はひしひしと伝わってきた。
「…分かった。俺も協力するよ」
「ありがとう要。…それからもう一つ良いかい?」
「ああ」
「桃花は武道の達人だ。あの警備を破れるのは桃花ぐらいだと思う」
「…だから犯人はこのメイドさんなのか」
戦うメイド…もしかして師匠が言っていたのは…。
「うん。だから捕まえようとしてもまず返り討ちにあう。…僕みたいにね」
「…笑えねぇって。じゃあどうする?仲間に連絡か?」
「皆にはそうしてもらうつもりだよ。でも要には…戦って欲しい」
84: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/19(木) 01:40:59 ID:uG2ca43Y0
「………マジ?」
遠回しに死ねって言ってないか、それ。
「とりあえず今から海有塾に行ってくれ。手配はしておくから」
「…俺に出来るのか?」
相手は日本有数の大企業の警備を一人で破るような奴だ。果たして俺なんかが敵うのだろうか。
「大丈夫。要ならやってくれるよ。僕たちのリーダーだしね」
ウインクをする英。…いや、それ何の根拠にもならないと思うんですけど。
85: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/19(木) 01:42:16 ID:uG2ca43Y0
10月にもなると日が暮れるのも早くなる。
生徒会室を出て海有塾の門まで来た時には、すでに辺りは真っ暗になっていた。
「お、来たか要君」
道場の入り口には師匠の源治さんが立っていた。どうやら俺を待っていてくれたようだ。
「師匠!すいませんいきなり。英…えっと藤川君からここに行けって言われたんですけど」
「聞いておるよ。さあこっちに」
師匠に案内されいつもの道場…を通り抜ける。
「あれ?ここじゃないんですか」
「ああ、今回はちょいと特例じゃからな」
道場の奥には扉があり中に入ると地下へと続く階段があった。
「さ、ここからは君だけで行きなさい」
「師匠は?」
「わしはここで見張っておる。…しっかりな」
師匠に促されて地下への階段を下りる。しばらく下りると扉が一つ現れた。
その扉を開けると目の前には上にあるのと変わらない道場が広がっていた。
唯一違うのはここが地下だということか。
「お待ちしておりました」
「うおっ!?」
急に声がしたのでその方向を向くとそこには金髪で赤い目をしたメイドさんがいた。
「…えっと君は確か…」
「はい。優お嬢様の専属メイドをさせていただいている、桜花です」
そう。一週間前に会長のメイドと名乗った桜花さんだ。同時に気が付く。
彼女の風貌はさっき写真で見たあのメイドに瓜二つだと言うことに。
「あの…桜花さんって…双子だったりしますか?」
「?…ああ、そういうことですか」
何がそういうことなのか全く分からないが桜花さんは納得したようだ。
「…いや、どういうことですか」
「つまり要様は私の外見に見覚えがあるのですね。それはそうです。私は桃花をモデルに作られていますから」
「作られて…?ってちょ!?」
いきなり脱ぎだす桜花さん。慌てて止めようとするが桜花さんの透き通るような白い肌が見え豊かな胸が弾力を見せ付ける。
「…どうかされましたか? こちらを見て欲しいのですが」
「な、何言ってるんですか!? つーかいきなり脱がないでくださいよ!」
「……仕方ありません。実力行使です」
「実力…? うわっ!?」
足払いをされ仰向けに倒れる。そこへ桜花さんがのしかかって来た。
無論服など着ているはずもなく二つの膨らみが俺を刺激する。
「触って頂きます」
「わっ!ちょ!?えっ!?なにっ!?」
突然の事態に混乱する俺を余所に桜花さんは俺の右手を掴み自分の背中へ導く。
「んっ…」
「わぁ!?……あれ?」
顔を赤らめる桜花さん。でも背中を触ったはずの俺の右手には冷たい感触があった。
「お分かり…頂けましたか」
立ち上がり背中を見せる桜花さん。
引き締まった身体とお尻に一瞬目が行ったが、背中が大きく開いており中にはコアのような青い水晶が収まっていた。
「背中が…」
「私は人間ではありません。桃花を元にして造られたアンドロイド、"桜花"です」
「……嘘だろ」
思わず腰を抜かしてしまった俺は情けない奴なんだろうか。
86: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/19(木) 01:43:52 ID:uG2ca43Y0
海有塾の地下道場。俺はアンドロイドである桜花の話を聞いていた。
藤川家と美空家は昔から交流があったらしい。
桜花は10年ほど前に当時すでに相当の実力者だった桃花の能力を元に、「10年後の桃花」をイメージして造られたそうだ。
「上手く行けば戦力として大量生産予定でしたがコストがかかりすぎた関係で私が最初で最後のアンドロイドとなりました」
「さっきの青い水晶みたいなのは…」
「あれは私のコアです。記憶や制御など様々な管理、そして機能を果たしています。言うなれば心臓ですかね」
目の前に座っている桜花は誰がどう見ても人間にしか見えない。
でも彼女は確かにアンドロイドなのだ。
「10年前なのに今の桃花とそっくりなんだな」
「はい。そこは奇跡としか言いようがありません。ちなみに外観はしっかりしています。女性器もちゃんとありますが…」
「分かったからまた脱ごうとするな!」
メイド服を脱ごうとする桜花さんを慌てて止める。このアンドロイドはやたらと脱ごうとするから困る。
「会長や英は桜花さんのこと…」
「勿論お二人ともご存知ですよ。だからこそこうして私がここにいる訳ですから」
桜花さんが立ち上がり俺と距離を取る。…凄く嫌な予感がした。
「桜花…さん?」
「要様、構えて下さい」
「…やっぱりかよ」
英は言っていた。俺には桃花と戦って欲しいと。
そしてそのためにここにいて、目の前にはその桃花のアンドロイドである桜花さんがいる。
どう考えてもこれは…。
「それでは今から"対桃花実戦プログラム"を開始します」
平たく言えば"桃花"を倒すための特訓だ。
「やるしかないか…」
「行きます」
「っ!?」
それが合図だった。
87: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/19(木) 01:44:54 ID:uG2ca43Y0
目にも留まらぬ超高速の動きで桜花さんが間を詰める。そして次の瞬間には
「はっ!」
「ぐっ!?」
同じく超高速の蹴りが鳩尾を狙って放たれていた。
反応…というよりほぼ防衛本能による反射で何とかそれを左腕で防ぐが堪えきれず吹っ飛ばされる。
「終わりません」
「…ちっ!」
壁への激突を受け身で何とか和らげるがその隙にまた間合いを詰められてしまう。
そして超高速の右足からの蹴りを
「っ!喰らうかよ!」
姿勢を低くして間一髪で避けた。俺だって師匠の元で鍛えているんだ。
一度見た技なら避けられる。そのまま右腕に力を込める。
「おらぁ!」
「甘いですね」
俺の右腕が桜花さんの腹部を捉える直前、彼女は身体を回転させた。
まるでダンスのように俺の右腕を避けて
「はぁ!」
「ぐはっ!?」
右足からの回し蹴りが俺の鳩尾を貫いた。
まさか最初の蹴りは回し蹴りの為のフェイク…か。俺はその勢いを殺せず壁にぶち当たった。
「…実戦プログラムを終了します」
「ごほっ!がはっ!」
鳩尾をもろに受けた為、息が出来なかった。そして強烈な嘔吐感を何とか堪える。
…ただ速かった。完敗だ。
「大丈夫ですか?」
気が付くと目の前に桜花さんがいた。手には救急箱を持っている。
「…はぁはぁ。いや、大丈夫…だ」
「無理をしないで下さい。腹部に痣を確認しました。処理します」
「…っ」
目にも留まらぬ速さで傷の治療をする桜花さん。近くで見ると本当に人形の様で何だがそわそわしてしまう。
…さっきの裸、綺麗だったな…いや、考えるな。考えちゃいけない。
「完了しました」
「あ、ありがとう桜花さん」
これ以上の接近は毒だ。桜花さんと距離を取る。
「いえ。…それから桜花さんは止めて下さい。桜花、とお呼び下さいませんか?」
「いや、でもさ…」
「………」
桜花さんにじっと見つめられる。…何か断りづらいな。
「…分かった。これからは桜花って呼ぶよ」
「ありがとうございます」
「その代わり俺も様付けは止めてくれない?何か慣れなくってさ。呼び捨てで良いから」
「分かりました。…要」
「おしっ!じゃあ改めてよろしくな桜花」
「こちらこそよろしくお願いします、要」
握手をする。彼女の手はとても冷たかったけれど何故か悪い気はしなかった。
「さあ、プログラム再開です」
「……ですよね」
とりあえず桃花と戦うまで身体が持つか心配だ。
88: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/19(木)01:46:26 ID:uG2ca43Y0
今回はここまでです。
ここまで読んでくださってありがとうございました。
投下終了します。
途中で止まってたんで残り転載しといた
そしてGJ!
まさか桜花さんがアンドロイドだったなんて…
思いっきり俺のストライクです
GJです
待ってました。やっぱりリバースはおもしろいですね!これからの展開に期待してます
転載の人達乙です
GJ!
ついに桃花登場か!
里奈がどうなったのかも気になるな
リバースって別のSSの続編なのか
白い翼の二話を投下させていただきます。
現在と過去が交互に書いてある作品なので、
分かりにくい点があるとは思いますが、最後まで読んでいただければ幸いです。
〈あたかも偶然たる過去の始まり〉
中学に入って初めての夏休みだったんだ。
―――母親が死んだ。父親が壊れた。ただ、それだけのことだった。
何も変わらないと思っていた俺の人生は、十二歳、いや十三歳の八月二十四日に変わってしまっていたのだろうか? この日は母親が事故死した日だ。
仕事を終え、家に帰る途中に酔っぱらった奴が乗っている車にぶつかって……。
車は大破。中に乗っていた母は、ぐちゃぐちゃだ。でもその手の中には、確かに青いリボンのついたプレゼント用のラッピングがされていた箱があった。この日は俺の誕生日でもあったからな。中身は何だったんだろう? ちょっと気になった……。
通夜や葬式なんて、すぐ終わる。
終わらないのは……残された方の心の傷だ。
「お、ぉお兄……ッ……ちゃん」
妹は毎晩のように俺の布団にもぐりこんできた。
すすり泣く妹の体を、ギユッ、と抱きしめてやっていた覚えがある。
安心できるように、この細い体を壊さぬように……俺は優しく抱きしめた。
そして気がつけば、親父は酒に溺れる毎日であった。
必要最低限の仕事しかせず、ただただ酒に溺れた。紛らわせるために、己の悲しみを。
そんな親父に俺は腹を立てた。―――なんて弱い人間なんだ……と。
こんな人間のそばにいて俺は毒されてしまわないだろうか? 俺の心が弱くならないだろうか。そう不安で頭がいっぱいになる。だってそうだろ……。
―――たかが母親が死んだくらいで、何だって言うんだ?
美咲は別に構わない。美咲は俺の年より一個下で、まだ小学生だ。
泣きたければ泣けばいいし、すがりつきたければすがりつけばいい。
でも、親父は違う。親父は働かなければいけないだろ?
(今は生命保険とかでもらった金でやりくりしている)
元々裕福ではなかったから、両親ともに働いて生活をやりくりして……。
それでも、確かに俺たちは幸せだったはずなんだ。笑い合えていたはずなんだ。
それなのに……今の親父はなんだ? それこそ草葉の陰で母親が泣いてるぞ。
「お兄ちゃん……どうしたの?」
「ん?」
不意に、弱弱しく俺の服をつかんでいた美咲が、顔をあげて呼び掛けてくる。
ずっと頭の中でいろいろ考えていたから忘れていたが、
俺は今、美咲と共に親父のありさまを眺めているところだったな。
酔いつぶれて机に伏している姿、
幼い頃おんぶしてもらったあの広い背中はもう見る影もない。
そんな姿を見せつけられて俺は……。
ああ、そうだな。決めた。決めたぞ、俺は。
「お兄ちゃ―――」
不意に笑いだした俺の姿を見て美咲は恐る恐る声をかけようとするが、俺はそれを許さない。
「離して、この手」
すぐさま美咲の手を離す。美咲が一瞬信じられないといった表情を見せたが、関係ない。
俺はもう決めたんだ。
「お兄ちゃんなぁ。ここから出ていくことに決めたわ……美咲も元気にしてろよ」
頭を撫でる。撫でまわす。
「えっ……何それ? お兄ちゃん、私嫌だよ。お兄ちゃんと離れるなんて、お兄ちゃんが私の前からいなくなるなんて、そんなの嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!」
美咲からの完全なる拒絶。今まで聞いたことのないような叫び声。
でも関係ない。俺が弱くなるのは俺自身が一番許せないから。
「まぁ、時々見に来てやるさ……じゃあな」
俺はすぐさま家を出た(ちょうど財布は持っていたからな)。
親父の姿を反面教師として、目に焼き付けながら。
自転車にまたがり、ゆっくりとこぎだす。
家では美咲が泣いてるのかな? と、早くも妹のことが心配になってしまう兄心というものがあった。だがしかし聞こえると思っていたはずの泣き声はしなかった。
―――キャハハハハハハハハッハハハハハハハ
変わりに狂いに狂った笑い声が聞こえたのは、俺は予想外だった。
俺は全身に冷や汗がにじみ出たが、この声を早く忘れるために空を見上げた。
―――そこには夕焼けに染まる綺麗な空に、まるで大きな白い翼のような雲があった。
「俺も君みたいになりたいよ」
あたかも雲の翼に人間のように話しかけた俺は、全力でペダルをこいだ。
〈あたかも偶然たる過去の始まり〉 裏T
私が小学生最後の夏休み。
―――母親が死んだ。父親が壊れた。ただ、それだけのことだった。
「やった、やった、やったあ!」
私は大いに喜んだ。
自室のベッドの上で、隣にいる兄さんには聞こえないように、必死に枕に顔をうずめて。
だってだってだってだってだってだって、母親が死んだんだよ!
通夜の時も、葬式の時も、私はずっとお兄ちゃんのそばにいられた。
手を握って、泣いてるふりして、慰めてもらって、頭なでてもらって!
あーーーもう、最高! 幸せすぎるわ!
お母さん、ありがとーー!
―――死んでくれて、ありがとーーーーーーーー!
「むへへーーーお兄ちゃぁん」
甘い声を出しながら枕をギュッと抱きしめる。匂いを嗅ぐ。
(ちなみに、枕は家族全員同じものなので、毎日毎日私はお兄ちゃんの枕と変えているよ!)
「んふふぅー……ふへぇ」
これはいつまでやっていても飽きな――――しまった、もう夜の十一時だ!
私は時計の時刻を見て驚き、飛び起きた。
早くお兄ちゃんの布団に潜り込んで抱きしめ……ゴホンッ、慰めてもらわないとね。
私は今日も兄の扉を叩く。
「……どうぞ」
「う、う……ぅわああああん」
そして今日もばっちりな泣き真似で兄の懐へ飛び込む。
「お、ぉお兄……ッ……ちゃん」
そして今日もまたどきどきして胸が苦しくて、でも幸せな気分になれる魔法の時間が始まるんだ。
―――そう、これがいつまでも続くと信じていたのに……。
お兄ちゃんと一緒に父の背中を見ていた。
もちろん私は兄の袖をギュッとつかんでいる。
そうだ、この父にも感謝しないとね。
私たちを生んでくれたことと、こうやって壊れてくれたこと!
おかげで私はお兄ちゃんに依存できる。 何て素晴らしい両親なんだろうか!
「お兄ちゃん……どうしたの?」
「ん?」
でもどうしてか、お兄ちゃんが父に向ける視線を外さない。
……その視線は私だけに注がれるためにあるのに。
若干、父への憎しみが生まれたが……そんなことよりも私の心を揺れ動かす一言が、お兄ちゃんの口から飛び出た。
「お兄ちゃ―――」
「離して、この手」
……………………………………………………ハ?
今何て言ったの? お兄ちゃん。
「お兄ちゃんなぁ。ここから出ていくことに決めたわ……美咲も元気にしてろよ」
頭を撫でられる。撫でまわされる。
いつもなら嬉しいはずのこの行動が、今は何も感じない。
そ、そんなことよりも……と、私の口からは自然と言葉がこぼれおちた。
「えっ……何それ? お兄ちゃん、私嫌だよ。お兄ちゃんと離れるなんて、お兄ちゃんが私の前からいなくなるなんて、そんなの嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!」
私の真実、偽りのない気持ちをお兄ちゃんにぶつける。
こんな風に、気持ちをぶつけることになるなんて……ッ!
冗談だよね、冗談だよね? たちの悪い冗談だよね?
お兄ちゃんときどき私に対して意地悪だから……。
「まぁ、時々見に来てやるさ……じゃあな」
お兄ちゃんはすぐさま家を飛び出る。
―――待って!
声にならない叫びが、脳内に響き渡る。
そして私はこの小さな体を最大限まで伸ばし、お兄ちゃんの服を……
しかし、無情にもこの小さな体ではつかめない。
私の手は空をつかんだ。
バタンッ、と無情にもドアが閉まる。
私は床に膝をつく。
どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして。
この思いだけが体中を駆け巡る。
…………………
…………
…そっか。
そうだよねー。そっかそっかそっかそっかそっかそっか
―――「キャハハハハハハハハッハハハハハハハ」
全く駄目だなあ、危うく勘違いしちゃうとこだったじゃない。
お兄ちゃんの意地悪ぅ。
でもそんなお兄ちゃんが私は――――キャーーーーーー
「さてと、じゃあとりあえずは父親(このひと)……殺しちゃおっか!」
私は幸せいっぱいな気分で、酔いつぶれた個体を静かに見降ろした。
―――だってそうでしょ、お兄ちゃんは私と……………………。
〈あたかも偶然たる過去の始まり〉 裏U
神様は基本、暇である。
不老不死であるし、別にすることもない。
遊ぶか食べるか寝るか……下界を見下ろすか。そんなとこだろう。
「相変わらず汚いなあ、下界は」
私こと〈ミハネ〉は下界を見下ろす。本当に汚い世界だ、と私は素直に思う。
神々の住むこの天界″は、辺り一面雲に囲まれたかのようで、その雲が大地となり、緑や川を創る。とにかく、下界なんかとは違い、とっても澄みきった世界。
だから私は、その反対である汚い下界が嫌いだ。
「そろそろ夕焼けだぁ、私一度でいいから、夕焼けを見上げてみたいな」
そう、この天界はよくは知らないが、全ての上にある存在らしいのだ。
何物にも見下すことはできない、この世の頂点たる場所。
何かを、見上げることはできない。
だからだ。
こんな嫌っている下界にも、この夕焼けだけを見上げに行くという理由なら行ってやってもいいと思っている。
見下ろすのにも飽きてしまったしね。
「あ、夕焼けだ」
いろいろ考えているうちに夕焼けに至る空。
その空には、どこかの神様が通った後なのであろう。
大きな白い雲の翼が、夕焼けに染まった空をバックに存在していた。
「そういえば、神が通った後にできる翼雲(つばさぐも)は、白色以外に染まらなかったんだっけ?」
確かそんなことを昔誰かに聞いた覚えがある。……どうでもいいけど。
不意に、下界の方から少年の声がした。
私を見ているかのような、その濁った瞳をこちらに向けて……。
「俺も君みたいになりたいよ」
「!」
一言つぶやいた少年は、自転車を再び漕ぎ出した。
「君みたいに……か」
私は背中に生えた、白く大きな翼をバタバタさせてみた。
どうやら私は、この少年に少し興味を持ってしまったらしい。
投下終了です。
ありがとうござました。
「闇に潜む紅眼」の者です。第一話パソコンで修正致しました。パソコンから書き込もうとすると何故かエラーが出るんですがどうすれば良いでしょうか?
そりゃ規制だ
第4話投下します
再会は、唐突に訪れる。
今年の12月は雨天が続く。ここ二週間で太陽を拝めた日数は、5本の指で数えられるくらいだ。
こうも雨天が続くと、嫌でも陰欝な気分になりがちだ。それは生徒たちにとっても例外ではないらしく、クラス内は授業中はおろか、休み時間でさえも覇気がない。
俺にとっても、雨は歓迎したくないものだった。何故なら、雨が降るときは大抵何かしらの一悶着があるからだ。
と言っても、29年間で雨が降った全ての日に何かがあった訳ではない。ただ、俺にとって忘れられないであろう出来事があった日は皆、決まって雨が降っていた。
故に、雨が降ると気が抜けない。いつの間にか、そんな精神構造が形成されていたのだろう。
夕方、これから開始される職員会議の内容は毎度同じく、冬季休業の前後の行事予定について。
三期制から二期制に変わり、冬休み前に成績を算出する必要はなくなったものの、各種式典、行事など、まったく忙しくない、というわけでもないのだ。
「えー、それでは」副校長はややもったいぶった口ぶりをした。
「会議を始める前に…先日転勤された持田教員の代わりに、といっては何ですが、本日から我が校へ新たに赴任される方を紹介します。…どうぞ」
副校長の合図と共に、誰か−新しい教員だろうか−が、職員室の裏にある事務室から現れた。全員の注目が、その教員へと集まる。当然俺も、同じ方角へ視線を向けた。
「えー…彼女は樋口 麻梨亜さん。担当教科は数学。担任を受け持つクラスは…」
−−−馬鹿な。
樋口麻梨亜。副教頭は確かにそう呼んだ。だがあの栗色の髪をした女性は…
「樋口麻梨亜です。みなさん今日からよろしくお願いします」
耳触りの良い澄んだ声。花のように可憐な笑顔をしたその人は、間違いなく俺の姉さんだった。
何故。もう14年近く消息がわからなかった。両親には「最初からいなかった」と言い聞かされ、それでも決して、俺の記憶の中から消えることはなかった。
湊と出逢い、ようやく記憶の中の束縛から解放されると思ったのに。何故、今になって俺の前に現れる?
******
「何のためだ、なんて随分なご挨拶ね? 刹那?」
職員会議も終わり、生徒も全員下校した、宵闇の中の校舎に、俺と姉さんはいた。
特に当てはない。月が昇る頃には雨も上がったが、屋上に並んで座って空を見上げても、雲に隠されてさすがに星は見えない。
「14年ぶりに再会したんだからさ、もっと楽しいお話しようよ?」
「そういう姉さんは、14年経っても全然変わらないな」
平静を装う。ただそれだけの事が、今の俺には非常に困難なことだ。
心臓は早鐘を打つかの如く鼓動を刻み、胸の奥が締め付けられるかのような錯覚を覚える。
「でも敢えて言うなら、そうね。風の噂で刹那が教師になったと聞いて、私も教師になった。ただそれだけよ」
随分と簡単に言ってくれる。まるで自分には不可能などないのだと、言っているのか。
だが確かに姉さんは優秀だった。実際、頭脳勝負なら姉さんの右に出る者はそうはいないだろう。
勉強さえ出来ていれば、教師になる事自体はそう難しくはない。だから、姉さんには俺の後を追う事は簡単だったのだろうか。
「こうして二人きりでいると、昔を思い出すわね。水車小屋で過ごした短い日々、とか。
ねえ刹那、貴方はどうなの? 昔と変わっちゃったのかな?」
姉さんの手が、俺の頬に触れる。
「…俺はもう、昔とは違うよ。姉さんがいなくなって、確かに辛かった。でももう、違うんだ。
今の俺には大切なやつがいる。そいつのおかげで、俺は変われたんだ」
俺はそっと姉さんの手をとり、頬から離した。
「………ふぅん。刹那、私が昔貴方に言った言葉、覚えてる?」
声のトーンが少しだけ、下がったように感じた。
「何の話だ」
「−−−忘れたの? まあ仕方ない、か。何でもないわ」
姉さんはすっ、と立ち上がり、校舎へ戻ろうと振り返る。俺は座ったまま、頭だけ振り向き、姉さんを見る。
「まあ、明日からは同じ職場仲間なんだし、よろしくね。それから、学校では"姉さん"じゃなくて、"樋口麻梨亜先生"、よ?」
おやすみ、と付け加えて姉さんはドアノブに手をかける。
キィ、と古ぼけた音を立てドアは開かれ、姉さんは屋上を後にした。
「………姉さん」
変わった、と思ったのに。姉さんを前にして胸の鼓動が鳴り止まない。未だに俺は、姉さんの掌の上にいるのだろうか?
「誰にも渡さない。刹那は私だけのものなんだから、ね」
******
部活がない日は退屈で仕方がない。独りで下校する時間も、家で朝を待つ間も。先生がいない時間全てが、空虚。
それでも私は、贅沢なんて言わない。深望みなんてしない。
元々私は誰かに愛されるほどの価値なんかない、汚れた女。
そんな私を愛してくれてるんだもの。これ以上欲張ったら、罰が当たっちゃうよ。
…でも、本当はわかってる。先生が、お姉さんをまだ忘れられてないことを。
先生が私の膝で眠る時、たまに呟く一言。"姉さん"と。
それを聞く度に胸が押し潰されそうになる。惨めで、憎くて、悔しくて。私はいつになったら、先生にとっての唯一になれるのかな?
もっと可愛くなる努力をしなきゃ。料理だっていっぱい覚えて、結婚したら毎日作って、喜んでもらうんだ。
お姉さんの髪は栗色だと言った。でも私は黒髪。なら、栗色に染める必要があるかな。
そんな空想をしながら私は一人、夜の帳が落ちた街中を歩く。私は登下校にバスや電車を使わない。
毎日徒歩40分の距離を歩く。徒歩40分程度の距離なんて、大した事ないよ。先生の事を考えていれば、あっという間に過ぎる。
先生はきっと心配するだろうから、内緒にしてるけど。ごめんね、先生。
ふと目が止まったのは、毎日通り過ぎる公園。いや、果たして公園という呼び名は、遊具が一つも無い空間に相応しいのか。
兎に角、入口に"公園"と書かれているのだから公園という扱いなんだろう。
普段は誰もいないその"公園"に、珍しく人がいたから、何となく目が止まってしまった。だけど、暗くて顔がはっきり見えない。
私が視線を送っているのに向こうも気がついたのか、こちらに近づいてくる。
そうして顔がはっきり目視できる距離になって初めて、私は身体が底冷えするような感覚に襲われた。
「……朝霧?」と、男は私の名前を呼んだ。
蛇に睨まれたように。背筋に悪寒が走り、お腹の中がむかむかするよう。なのに足はぴくりとも動かない。
彼の名前は神谷 準。忘れるはずが無い。傷付いた私の心を、完膚なきまでに打ち砕いた人を。
「しかもその制服…あの高校のか? こんな所に越してたんだな」
彼が何故ここにいるのか。彼の住んでいた町は、ここから2、3駅は離れているはず。
「…俺も今度、こっちに越して来たんだ」
そして神谷君は何故。かつて「汚らわしい」と罵った女に対して、こうも平然と話し掛けられるの?
「なあ朝霧、俺−−−−−」
もう堪えられなかった。私は足に目一杯力を込め、脱兎のごとくその場から逃げた。
後ろから何か、声が聞こえる。けど、それを聞き取る余裕なんかなかった。
走る。足ががくがくして、何処をどう来たのかもわからないくらいに。
そうして後から込み上げてきた吐き気にようやく私は足を止めた。
「ごほっ………ぐ、ゔぅっ…はぁ…はぁ…」
震えが、寒気が治まらない。身体中を掻きむしりたい衝動に襲われる。…あの時と同じだ。
『騙しやがって、嘘つき』『俺を騙して遊んでたんだろ、ビッチ』
『信じられるかよ、消えろ』『汚い手で触るな』
彼に吐き捨てられた呪詛が脳裏をよぎり、汚れた身体への激しい嫌悪感が襲う。
「嫌ぁ−−−−−−−−−−!!」
そこで私の意識は(少なくとも正気は)、途切れた。
******
「………なんですって、みn…朝霧が?」
俺がその連絡を受けたのは直後、帰宅の準備をしに職員室に戻ってきたときだった。
姉さんの姿はもう無く、一足先に帰ったようで、職員室内には俺を含め三人の教員しかいない。
そんな中にかかってきた電話の内容は、我が校の生徒と思しき女子が、道路に倒れていたというもの。
連絡は、その近隣にある交番からで、現在は仮眠室で落ち着いて眠っているとの事だが…
発見当初はまるで気が触れたかのような有様だったという。
「…ええ、わかりました。ひとまず私が迎えに行きます。…ありがとうございます」
受話器を置き、すぐに俺は車のキーを掴み、駐車場へと走った。
おおよその場所は番地からわかる。あとは足で探せばいい。
エンジンをふかし、アクセルを踏み込む。迅速に、かつ安全に。
大通りから住宅地へと進入し、電柱に記された番地から位置を推測していった。
「…ここか」
交番は、住宅街の端の方にぽつりと建っていた。車を交番の横に停め、車を降りるとると若い駐在員と目が合った。
「お電話いただいた十六夜 刹那です」
「…変わった名前ですね」
「よく言われます。…それで、朝霧は?」
そう言うと駐在は奥の仮眠室へと俺を案内した。
駐在員の話によると、仮眠室というのは俗称で、以前までいた怠惰な警官が勝手にベッドを備え付け、仮眠室としたらしい。
ちなみにその警官は、不祥事を起こしてここを離れたらしいが、ベッドだけは有効利用しているようだ。
「教員の方がいらっしゃいましたよ、先生」
"先生"という呼び名は、俺を指したものではなかった。
仮眠室にはベッドで眠っている湊ともう一人、白衣を着た釣り目の若い女性がいた。
「貴方がこの娘の担任?」
女性は俺を見ると椅子から立ち上がり、簡単に自己紹介を始めた。
「私は大庭 雪子。…この近くの診療所のものだ」
黒と白のコントラスト。湊よりもずっと、いや不自然に長い、膝元まで伸びた黒髪。
しかし大庭先生はその髪がつい今まで床に垂れていたというのに気にする素振りなど微塵も見せず、埃を払おうともしなかった。
「すまないが田辺さん、二人で詳しい事情を話したい。少し外していただけるか?」
「は、はあ」
田辺、と呼ばれた警官は言われるまま、そそくさと席を外した。
「…さて、まずはこの娘の状態を説明しようか」
大庭さんは湊の眠っているベッドに腰掛け、手の所作で俺に、今まで座っていた椅子に座るように促してきた。
俺はそれに倣い、椅子につく。
「…一言で言い表すならば、この娘は"異常"だ。身体中を掻きむしってたんだ。…笑いながらね。
能無し田辺が、私の診療所ではなくこんな煙草臭い場所へ運んできたから、簡単な処置しかできなかった。
それともう一つ…この娘はうわ言で、貴方のことを呼んでいたよ」
「俺の…ことを…?」
「くくく…随分と愛されてるんだな、"センセイ"?」
見抜かれているのか、俺と湊の関係を。大庭さんは不敵な視線を送りながら、にやりと笑った。
「私にはわかるんだよ、センセイ。…この娘、憎たらしいくらいに昔の私に似ているからねぇ」
「………」
「くくく…せいぜい大事にしてやることだね。でないと貴方、殺されるよ? さて、そろそろ移動しようか。
私の診療所へ行こう。私は煙草の匂いが大嫌いなんでね。センセイは車で来たんだろう? 運ぶの、手伝ってもらうぞ?」
大庭さんはそう言うと、さっさと部屋を出ていってしまった。俺に湊を運べ、という意味なのだろう。
俺は今もベッドで眠っている湊を、努めて優しく両腕で抱えた。
「………こんなに包帯が」
包帯は首元から手首まで、ブラウス越しに身体にも巻かれているのがわかる。
「…俺が、守ってやるからな」
−−−今度こそ。湊に、あるいは自分に言い聞かせるように、俺は呟いた。
******
大庭診療所・待合室。湊の診察は30分以上にわたり行われていた。
…身体に包帯を巻いただけでは済まなかったというのか? と俺は若干の不安を感じながら診察が終わるのを待っていた。
「待たせたね、センセイ。…ほら」
診察室の扉が不意に開かれる。大庭さんは、目を醒ましたらしい湊の手を引きながら現れた。
「………せつn、先生…?」
しかし湊は、動かない。…手と、足が微かに震えている。なんとなくだが、俺は感じた。湊は恐れている。例えば…俺に嫌われる、とか。
そう思った理由は、以前も同じ表情を見たことがあるからだ。…あの茶道部室で。ならば俺は。
湊の不安を消し去るように、優しい表情で努めて両手を差し延べた。
「…おいで、湊」
「………うん……ぐすっ」
ちらちらと見える包帯が痛々しい。けれどそれ以上に、湊の温もりを、呼吸を直に感じられたことで俺は安堵していた。
「…そこで愛し合うのは勝手だがね、うちのベッドは貸さないよ?」
大庭さんの皮肉に、俺ははっ、と視線を戻す。
「診察結果だが…まあ異常なし、だ。安心したまえ。それと一応、塗り薬と湿布、包帯だけ処方しておく。
…次馬鹿な真似をすれば、塩を擦り込んでやるからね?」
大庭さんはぽい、と薬やら何やらが入った紙袋を俺達に向けて放った。
「私はこれでも朝早い仕事なんでね、そろそろ寝させてもらうよ。
鍵は開けっ放しで構わない。うちにはまともに盗めるものなんてないからね」
黒髪を引きずりながら、大庭さんは診療所の奥へ消えていった。
…俺達も帰るとするか。湊の手を優しくリードし、俺達は診療所を出た。
外は院内に比べて段違いに寒くなっていた。12月は夜ともなれば、厳しい寒さが待っているものだ。
車に素早く乗り込み、暖房をかける。俺が湊の自宅を割り出そうとカーナビを操作していると、湊はか細い声で呟いた。
「………今日は、先生の傍にいたい」
「…湊? 親御さんが………あ」
言いかけて、思い出す。湊は母親からすらも、言葉を以って傷付けられていた事を。
湊にとっては親すらも、信頼に値しないという事を。
「わかった。今日は俺の家に来い」
「…!」
「その前に…何か食ってから帰ろう。今日は、ゆっくり休んでいいからな?」
「あ、ありがと…刹那!」
笑顔が眩しい。可愛らしくて、純心無垢な笑顔を見て俺は、心が躍るような錯覚を覚える。
…この笑顔の為なら、俺は尽くそう。姉さんにすら抱かなかった新たな感情を胸に、俺は車のアクセルを踏み出した。
******
同刻、職員室内。
職員室内にはただ一人、樋口麻梨亜が資料を読みあさっている姿があった。
「…へぇ、朝霧 湊っていうんだ、あの娘」
麻梨亜は資料を読むと同時に、片手でパソコンのキーを叩く。
現在麻梨亜が試みているのは、個人情報の違法入手。言うなればハッキング。
元々優秀な麻梨亜にとってはハッキングなど、教師になるのと同等か、少し易しいくらいに容易なのだった。
「……ふーん、色々あったんだねぇ。可哀相に」
インターネットをさ迷い、ほんの数分で麻梨亜は湊の過去を調べた。
学校裏サイト、近隣病院への通院記録など、情報は、痕跡はいくらでもある。
「…さて、私の可愛い刹那をたぶらかした仔猫ちゃんには、どんな罰が相応しいかしら?」
優秀で美麗、非の打ちようがない麻梨亜がそこまでひとつの事に執心になる理由はただひとつ。
自分の所有物を取り返し、泥棒に罰を与える。ただそれだけだった。
投下終了です。
リバース来てたのか!転載の人乙
gj!!里奈ファンな俺は里奈が出るか
気になって仕方ない…
GJです!
赤と緑と黒の話も復活してもう嬉しい限りです。姉が現れこれからおもしろそうな展開になりそうですね。期待して待ってます
89:Hi! JACK!! ◆ s6tsSccgEU :2010/08/19 21:40:07 ID:AnxQDhIY0
はじめまして
急にSSが書きたくなって勢いで書いたのはいいものの
規制のため書き込めず
とりあえずこちらに投下してみます
90:Hi! JACK!! ep.00 ◆ s6tsSccgEU :2010/08/19 21:42:41 ID:AnxQDhIY0
ピンチである。いわゆる生命の危機とかなんとかってのだと思う。
僕は生れて十八年、拳銃なんか見たことなかったし、ましてその口が自分に向けられるなんて考えてみたことすらなかった。
それが、である。生れて十八年と一日が経って、僕はめでたく本物の拳銃を見ることができ、
一瞬ではあるけれどその銃口が自分に向けられるという事態まで一気に経験することができた。
これで発砲シーンまで見ることができた日にはパンチアウト、ともすると人生がゲームオーバーになりかねない。
そんなぼくらの文字通り命がけのゲームが行われているステージはどこか。
答えはバスの車内である――そう、バスジャックだ。
* * * * * *
バスの先頭部にいる犯人グループ――グループと言っても三人しかいない――の首領と思わしき人物が
社内無線だかケータイだかを使って警察の方々とゴネている間に、話をちょっと前の時間に戻したいと思う。
今から三十分ほど前、僕を含む多くの乗客はJRの駅を始発とするこのバスの到着を待っていた。
丁度帰宅ラッシュの時間で、バス停はいつも通りに混み合っており、バスはいつも通り少し遅れて到着した。始発なのに。
そうしていつも通り知らない人――知らないといっても通学・帰宅時間が被っている人たちなので顔に見覚えはある――と肩を並べて座席につき、
いつも通り音楽を聴こうとするとウォークマンの電池が切れて舌打ちをする。
バスが発車して数分後、始発から三番目の停留所でいつも通りの車内にいつも通りでない三人の招かれざる客が乗り込んできた。
「動くな!」
テレビではもはやお馴染みすぎて使われることのなくなった景色が目前に展開される。
こうして僕らの乗ったバスは見事に乗っ取られたのであった。
* * * * * *
犯人たちはまだ車内前方で恐れ多くも警察の方々と下手くそな言葉のキャッチボールに専念している。
この異常な事態に慣れてきたのか、僕には辺りを見回すことができる程度に心のゆとりができてきた。
バスはほぼ満員の状態、老若男女問わず大勢が乗り合わせている。流石に皆顔が青い。
その中でも特に生気のなさそうなのは、僕の隣の窓際の席に座っている女の子だっただろう。
高校生だと思う、制服も着ているし。僕よりやや年下、といったところか。
始発から僕と一緒に乗っている彼女は、見るも無残にガタガタと震えていて、そのきれいな長い黒髪まで震えているようだった。
初対面の子と思ったけれどよくよく見ると違う気がする。
通学時間が被っているのだろう、何度かバスを乗り合わせた子だ。
あんまり怯えているものだから、気づけば大丈夫かと声を掛けてしまっていた。
女の子は今にも泣きそうな顔でこちらを見ると、はっとした顔をして
急に僕の左腕に渾身の力で抱きつき、こくこく俯いたままぶるぶる震え続けた。
言っておくが僕は女性経験に乏しい。
そんな僕でもこの状況下で抱きつかれて驚いてその手を振りほどくなんてことをするほど愚かでもないし、
また変な下心など抱くはずもない。
嘘、少しばかり下心に似た感情は抱いた。可愛い女の子に抱きつかれて冷静沈着で居られるほど僕は女性経験が豊富ではない。
でも、やっぱりここはこの子を安心させることが第一であるし、僕自身不安でないと言えばそれこそ嘘になるし。
とりあえず、彼女に向かってひたすら大丈夫を連呼するというよくわからない図式が出来上がった。
無線だか電話だか越しの警察に散々の罵声を浴びせることにまんまと成功した犯人たちは、
運転手にあれこれと指図をして空き地なのか駐車場なのかなんだかよくわからない場所にバスを停めさせた。
空き地の真ん中よりちょっとズレたところに停まっているバスをパトカーと警官隊がぐるりと囲んでいる。テレビではもはや以下略。
犯人の首領はどこで身につけたのかわからない威厳ある態度で乗客たちに向かって告げた。
「これからお前らを解放することにした。ただしこれから指定する奴を除いて、だ」
どうやら人質を減らす作戦らしい。某名探偵少年漫画で予習でもしたのだろう。
そうやって首領は「解放しない」人質探しを始めた。
「じゃあ、お前」
初老の女性がもうそれだけで死んでしまうんじゃないかというような表情でその声に答えた。
「あと、お前」
もう一人、今度は中年の女性である。人質として女性を選ぶのはそれなりに正しい判断なのだろうけど、
こうなってくるともう嫌な予感しかしない。
僕の腕に巻きついている女の子の腕の力が一段と強くなる。
「じゃ、もう一人お前な」
そらきた。三人目の人質になったのは隣に居る女の子だった。
何だお前、彼氏か、残念だったな。首領がそんな目で僕を見たような気がした。
僕は彼氏ではないけどそこまで舐められては男が廃る。いや、実際はそんなこと考えている暇もなかった。
気づいたら立ち上がっていた。
「この子の代わりに、僕が人質になる」
何言ってるんだよ僕。それこそもはやテレビで以下略ではないか。
「それはお前が決めることじゃない」
首領の声は冷ややかだった。
急ごしらえのヒーローの出現を楽しんでいるようでもある。
「お前はこいつの恋人か」
「違う」
「じゃあ何だ」
「……」
ここで反射的に本当のことを言ってしまうのは僕が根っからの善人であるということを示す格好の資料たり得るのではないだろうか。
いや、ともすると根っからの愚者としての証拠か。心の中で数秒前の自分を罵る。
正直、拳銃を持っている相手とここまで対等にキャッチボールができた自分を褒めたいぐらいであるから、
これ以降もうどんな発言をしたとしても仕方のないことなのだと思う。
「この子は、僕の……妹だ!」
一瞬、車内が騒然とした。
隣の彼女が一番驚いた顔をしていた。
* * * * * *
91:Hi! JACK!! ep.00 ◆ s6tsSccgEU :2010/08/19 21:43:19 ID:AnxQDhIY0
結論から言えば、事件はこの僕のものすごくとんでもない嘘から十分しないうちに解決した。
僕の嘘にまんまと引っ掛かった――実際に信じていたかはわからない――首領は、「じゃあもういいやお前も来い」というわけで、
当初三人の予定であった人質枠を四人へと増やした。
なんだかよくわからないグダグダなまま犯人一行がバスを出たのと、警官隊の突撃のタイミングは奇跡としか思えないほど一致した。
その騒ぎに乗じて真っ先に脱出を計ったのは他でもなく初老のお婆さんである。
お婆さんは年寄りとは思えないほどの速さで走った。
これは逆にお婆さんの命が危ないのでは、と思えるほど見事な走りだった。
今のうちに僕らも脱出を、と考える間もなくいつの間にバスの背後に回り込んでいた警官隊に保護されて、
僕らの命がかかったゲームはなんだか不完全燃焼の気を出しつつも終了となった。
ちなみにこの騒ぎの間中、そしてその後も、女の子はふるえたまま僕の腕にしがみついて、決して離れようとはしなかった。
* * * * * *
「家、どの辺なの」
死傷者も出なかったのでそれほど大きな事件として扱われたなかったらしい。
警察署で簡単な事情聴取をされた後、僕と彼女はパトカーで最寄りの停留所まで送り届けられた。
調書を取っていた警察の人にはきちんと説明をしたのだが、僕らを送り届けてくれた婦警さんは絶対僕らを本当の兄弟だと勘違いしていて、
何のためらいもなく僕らをいっぺんに車から降ろしてさっさと帰って行ってしまった。
というわけで幸か不幸か女子高生に抱きつかれたままの帰路である。
僕が「あの」とか、「ねえ」とか言ってるのにしびれを切らしたのか、彼女は「あやか」と、ほとんど声に聞こえない声で自分の名前を呟いた。
僕は声を聞いてというより、口の形から彼女の名前を読み取った。ついでに、僕の「たくみ」という名前も紹介しておくことにした。
「ねえ、あやかさん」
「あやか」
「ええっと……」
「あやか」
「……ねえ、あやか」
あやか、は、んふーとか、ふふーみたいな機嫌のいい声を出しながらこくんこくん、と頷いた。
「家まで送るよ。悪いけど案内してもらえるかな」
断じて言うけどこれは押しかけではない。事件に巻き込まれたかわいそうな少女が無事家に帰れるように護送するという使命なのだ。
そんな誰に言うわけでもない言い訳を心の中で唱えながら、あやかの案内のもと彼女を家の玄関先へと送り届けることに成功した。
「……ねえ、あやかさん」
「あやか」
――いや、そういうことじゃなくて。
「あの、このままだと僕帰れないし君を送り届けることもできないんだけど」
彼女の腕は事件の時からずっと僕の左腕に絡みついたままだ。
さすがにこの姿を彼女の両親にお見せするわけにはいかない。
バスジャックから生還した娘さんをジャックしちゃいましたとか、なんて笑えない冗談。
「……いいです」
よくないだろ。
「と、とりあえず腕を解いてくれないかな。ほら、……大丈夫だって! すぐ帰ったりしないから!」
なるべくやんわりと言ったつもりなのに、あやかはもう泣きそうな顔をしてる。
これじゃあまるで僕が血も涙もない人みたいじゃないか。
ほら、と、僕なりの精一杯で彼女の右手を握ってみる。あやかが結構な力で僕の手を握り返す。
そしてそのまま僕に寄りかかる、これじゃあさっきと変らないじゃないか。
僕があやかを引っ張るような形で彼女の家――郊外のベッドタウンによくありそうな一軒家だ――のインターホンを押そうとした。
「たくみ、さん」
あやかが初めてまともな口をきいた。
インターホンを押そうとしていた手が止まった。
* * * * * *
92:Hi! JACK!! ep.00 ◆ s6tsSccgEU :2010/08/19 21:43:55 ID:AnxQDhIY0
「この子は、僕の……妹だ!」
怖かった。怖かったけど、私の隣にはたくみさんがいてくれたから怖くなんかなかった。
私たちは、はたから見られるとなんの交流もない女子高生と男子大学生で、
現時点でそれは事実なんだけど、事実ではなかった。
私から言わせてもらえば、私とたくみさんとの出会いは、いつも私が贔屓にしている学校近くの喫茶店だ。
恐らく四月の大学入学に合わせてこのあたりに越してきたのだろうたくみさんは、なによりも先にこの喫茶店でアルバイトすることを決めたみたいだった。
場所がちょっとばかり入り組んだところにあるので、お店のお客さんは私を含め多くても十人程度しかいない。
本を読んだり、学校の課題をやったり、何かと時間をつぶすのには丁度いいお店なのだ。
そんなひっそりとした喫茶店にいきなり入りこんできて「良かったらここで働かせてもらえませんか」とか言っちゃう人がたくみさん、マスターいわく。
このお店のマスターはそろそろ三十路に差し掛かりそうな、でも見た目からするとまだまだ二十代前半のはるかさんで、
陽気な性格と時々垣間見せるやたら鋭い洞察力で多くの常連さんを生み出してきた凄い美人なのだ、独身だけど。
「ねねっ、あやかちゃん。あのバイトの子可愛いでしょ、たくみっていうんだけどねー」
たくみさんが働き始めて初めて私がお店に来た時、はるかさんは開口一番にそんな事を言った。
「かわいいって……。マスターはいったいどうやってバイトの人選んでるんですか」
「そりゃ、私の好みに合うかだよねー」
「……」
「ああっ、厳しい。あやかちゃんの目がこのお店の経営並に厳しいっ」
このお店の財政そんなに厳しいんだ。
「でもねでもね、彼とっても仕事できるんだよ。一昨日から入ってもらってるんだけどね、もう研修生待遇なのが申し訳ないぐらい。高学歴は違うねー」
「というかこのお店アルバイト募集してたんですね」
「してないよー。彼が勝手に来て勝手に頼み込むんだもん。びっくりしたよねー」
「そうですか……」
「でもあやかちゃんは彼をそういう目で見てはいけませんよ。あなたは学校でもっと若い子でも発掘してきなさい」
その幼顔でいきなり真面目な顔されてもおどけてるようにしか見えない。
しかもこの人は、私が女子高に通っていることを知っておきながらこんなことを言うのだ。
「まっ、冗談だけどね。人見知りしすぎて彼を困らせないようにしてあげてねー」
そう言い放つとはるかさんはカウンターへと戻って行った。たくみさんは箒を持って店の外を掃除していた。
店内にいる客は私一人。
バイト雇う意味、あるのだろうか。
はるかさんも言ってた通り、私はどちらかと言わずとも人見知りがとても激しい類の人間で、
初対面の人と話せるようになるのにとても時間がかかるから、たくみさんとはなかなか話せずにいた。
話せずとも顔はお店にそれなりに通っていると覚えるし、私の特等席であるお店の一番すみっこの席は
店内が一望できる大変眺めのいい立地であったので、気づけば私は仕事をしているたくみさんを目で追うようになっていた。
もちろん話すなんてことは無理だ。お店のお喋り役ははるかさんだから、たくみさんから私に話しかけてくるなんてこともなかった。
家の最寄り駅のバス停でたくみさんをみかけたときは凄く驚いた。
もちろん、自他共に認める人見知りの中の人見知りな私は、それぐらいのことをきっかけに話しかける甲斐性なんか持ち合わせていなくて、
結局バスの中でも目で追うだけだったのだけど。
そんなことを二週間ばかり繰り返していると、バスジャックに遭遇したのだ。
バスに乗ってすぐ、変な男の人たちが乗り込んできて騒ぎ出して、ニュースで聞くようなバスジャックそのものだと分かったときには
もう体の震えが止まらなくなっていた。
こわい、たすけて。
がたがた震えている私を見かねて、隣に座っていた男の人が声を掛けてきてくれた。
しかも、なんと、その人はたくみさんだった。パニックになっていて全然気づけてなかったらしい。
私は、知っている人を見つけた安心感からか、いつもの人見知りはどこへやら、いきなりたくみさんの腕にしがみついていた。
たくみさんはかなり驚いたみたいだったけど、振り払うことなくずっと私に励ましの言葉を掛けてくれた。
ああ。
たくみさんが居てくれると、安心。
怖いけど、嬉しい。
しあわせ。
すき。
* * * * * *
93:Hi! JACK!! ◆ s6tsSccgEU :2010/08/19 21:44:26 ID:AnxQDhIY0
以上です。失礼しました
GJ!!
次に期待!
前話を投下したのは、part29スレの4月20日になりました。
最初の二つをタイトルすら決めてないまま投下して、早4ヶ月。
投下開始。
第二話「見えない糸」
559 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 18:49:28 ID:byUvzcKP
窓の外はすっかり夜の帳が下りていた。
見えるのは街灯に照らされた駐車場と、その先に見える暗い森ばかり。
そんな景色の見える窓際のベッドに少年は居た。
ここは郊外に建つ病院、手旛南病院の四人部屋である。
カーテンに囲まれたベッドの上で少年はただ記憶を反芻する。
――数時間前。
少年が目を覚ました時、そこにあの夜に出会った少女が居た。
顔を覗き込む少女と目を合わせたのは、
ほんの僅かの出来事だっただろう。
そしてまた、少女はあの夜と同じように驚いた顔をして、
額を撫でていた手を引っ込め、すぐに駆けだしていった。
少年は頭がはっきりしないまま、それをただぼんやりと見送った。
自分が居たのはベッドの上。
周辺を見回しても目に映るのは見慣れない物ばかり。
すぐにそれらが映像等で見たことのある、
病院の病室のものであるとに気付いた。
自分の着ている着衣も患者が着用するものだ。
その上、頭には包帯が、着衣の下の胴部には何か固定具らしきものが
巻かれているようで、どちらも痛んだ。
どの事実から考えても病院に運ばれたに違いないことはすぐにわかった。
しかし何故、こんなことになっているのか。
記憶を辿ろうとするが最後に思い出せるのは
深夜の道路で少女が尻餅をついた所と、耳に飛び込む車の排気音だけだ。
そこから先がまったくの空白になってしまっていて、
気付けば深夜の道路から日光の差し込む昼間の病室に居るのである。
時も場所も何もかも変わってしまっていることに少年が混乱していると、
医者や看護婦がやって来てこの状況の説明をしてくれた。
自分が車に轢かれかかった少女を助けたこと。
少女を抱えて跳んだ際、車は躱したものの車道と歩道の境目の凸に、
頭をぶつけたて気を失ったこと。
それが原因なのか一週間近くひたすら眠り続けていて、
既に四月に入ってから数日が経っているそうだ。
いつまでたっても一向に目を覚まさないことに、
このまま二度と起きないのではと心配されていたらしい。
後、どこにぶつけたのか知らないが、
脇腹の肋骨が折れていたので、そこも既に手術したと告げられた。
少年は驚愕し、耳を疑った。
轢かれかかった少女って――。
俺が、あいつを助けた?
そんな馬鹿な。
その話が本当なら頭を打ったところから記憶が途切れるならわかる。
だが実際には何故か、助けようと飛び出したことすら記憶にない。
だから信じられないと少年は医者に告げたが、
頭を打った衝撃で前後の記憶が混乱しているのだろうと言われた。
そういうことはあるのだそうだ。
少年は納得こそしなかったが、それ以上の追求はしなかった。
それより気になっていることがあり医者に伝える。
右半身に痺れがある、と。
医者の答えはこうだった。
右半身は左の脳で制御しているが、怪我したのはその頭の左側なので、
左脳にダメージが入っていると考えられる。
後遺症になる可能性もあるが、それは事故直後にはさして珍しくないとのこと。
560 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 18:51:35 ID:byUvzcKP
脳は一度破損した部分は元に戻らないが、代わりに冗長性があり、
リハビリによって今までと違う場所に制御を代行させられるそうだ。
特に若い内は脳も成長段階にあるから、
それに対応するように脳も作られていき、なお回復しやすいらしい。
だから、まああまり気にしないように。
医者はそう励ましたが、少年の顔は決して晴れることはなかった。
またか。
俺はいつも――失っていくばかりだ。
少年は物思いに耽るのを一旦止めて、時計を見た。
時刻は午後7時半過ぎだ。
消灯時間は9時だと聞かされていたが、
それまで少年にはすることが何も無かった。
目覚めたという知らせを聞いて駆けつけて来た母親の帰り際、
家にある物を持ってくるように頼んだが、届けに来るのは明日になる。
かといって眠ることも出来なかった。
薬の影響で意識そのものは通常より朦朧としているが、
つい数時間前までひたすら眠り続けたためか
怪我の痛みと併せて、睡眠に繋がらないのだ。
そうして暇を持て余していた時、ふと誰かが病室に入ってくる足音がした。
少年のベッドはカーテンに覆われているため、
外から誰が入ってきたのかはわからない。
もう面会時間は終了している時刻の筈なので、
恐らくはこの病室の誰かの所に医者か看護師でもやってきたのだろう。
するとその足音は少年のベッドを覆うカーテンの前まで来た。
しかしおかしなことにそこで立ち止まったまま、
中の自分に声を掛けたりカーテンを開けようとはしない。
カーテン越しに見えるその人影は看護婦にしても
小さめに見える背丈で、どこか見覚えがあった。
その影がまるで逡巡しているように落ち着き無く動いている。
――まさか。
少年の脳裏に心当たりがよぎった瞬間、
人影はやっと動きを止めて、ゆっくりとカーテンを少しだけ引いて
恐る恐るといった様子で顔を覗かせた。
「あの、すいません――」
少年はその顔を見て驚いた。
あの少女だった。
あの夜に悲しげな表情を浮かべていて、
そして目を覚ました時に自分の顔を覗き込んでいた、あの少女がそこに居た。
少女は少年と目が合うと、逡巡する様子を見せつつも、
強張った顔を少し緩ませてぎこちなく微笑んだ。
「……よ、よかった。起きて、たんですね。」
「あ……。」
彼女はカーテンを開けベッドの縁にやって来た。
少年は戸惑い、どう声を掛けるべきか逡巡し、言葉が出ない。
すると少女の方から緊張しきった面持ちで、
素っ頓狂に大きな声を出した。
「あ、あの! 私のこと、覚えてます、か!?」
「……確かあの夜、道路で……。」
「は、はい、そうです。それにさっき起きた時も――」
561 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 18:54:02 ID:byUvzcKP
「……ああ。覚えてる。それに看護婦から聞かされた。
女の子が詰め所に俺が起きたことを知らせに来てくれたって。
その格好……やっぱりそっちもこの病院に入院してたのか?」
少女のネグリジェ姿を見て、少年は尋ねた。
「あ、はい。ええっと……慎治、さん、ですよね?」
ベッドの横の患者名が貼られている部分を見ながら、
確認するように少女は少年に尋ねる。
「……ああ。」
「名字の方の読み方は『まかみ』でいいんですよね?」
「ああ、それで合ってる。間上慎治(まかみしんじ)。」
少年――――間上慎治はとてもそっけない態度で少女に答えた。
すると、少女も自分の名を名乗った。
「私は双葉です。七尾双葉(ななおふたば)。」
「双葉……」
慎治は双葉と名乗るこの少女をまじまじと眺めた。
数時間前に目覚めた時、彼女の髪は多少なりとも寝癖のようなもので乱れ、
グレーのパジャマらしき味気ない服を着ていたと慎治はおぼろげに記憶していた。
だが今は着替えて身なりを整えたのか、髪は櫛がかけられたように整い、
服はどこか色っぽさのあるピンクのネグリジェを着ている。
そのネグリジェの下に浮かび上がった身体の起伏は、
どれをとっても彼女が痩せ気味な体付きをしていることを伺わせる。
細めの首から、なで気味の肩、やはり細めに見える腕、
その首から手の先までの一連のラインに加えて、
胸だけには例外的に多少の起伏がある。
150cm台くらいの身長と適度に幼さの残る顔立ちから、
年は中学生くらいに思えたが、
その年齢にしては体が病弱そうに見える。
そんな印象を受けるのは顔立ちや髪型のせいもあるだろう。
彼女は整った顔立ちをしていたが、
目の下は窪んで黒ずんだ隈のようになっている。
顔全体も体と同じように単に痩せているのではなく、
もっとそれ以上に何かが痩せていた。
普段、容姿にあまり気を遣っていないのか、
髪は肩より先まで長く伸ばされているのだが髪先を見る限り、それが意図した髪型ではなく、
単にいつまでも髪を伸びるままに任せたようにしか見えない。
今では櫛がかけられているようだが、
数時間前のように髪がボサボサのままなら、なおその印象は強まっただろう。
先程からのやたらつっかえてばかりのぎこちない話し方や、
目線が定まらないおどおどした態度。
そんな人見知りしそうな態度と併せて、暗そうな見た目。
そのうえまるで、慣れない癖に無理に虚勢を張って
明るく振る舞おうとしているような様子。
まるで物語にでも出てくる病弱少女のようだった。
不治の病でいつも床に伏せっていて、
そんな生活なためか人に慣れておらず、
体調の悪さと相まって人とうまく話せないような――。
もっとも今回の場合、そんなことはないだろう。
この少女が入院しているのは自分が助けた際に
何か怪我でもしたせいで――
「!」
562 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 18:56:51 ID:byUvzcKP
しばらく見とれていた慎治だが、ここで肝心な事を思い出した。
この双葉という少女がここに来た理由は、普通に考えたら一つしかない。
助けられた礼を言うためだ。
そのことに気付いた途端、慎治は表情を硬くし、身構えた。
だが双葉が次に聞いたのは意外な事だった。
「あの、今歩けますか?」
「え? ……まあ、歩行器を使えば一応歩けるが……。」
慎治はベッドの横に置いてある歩行器に目をやった。
少し前、看護婦に付き添われて試しに歩いてみたことを思い出す。
しかし何でそんなことを。
慎治が疑問に思うと、双葉はとても思い詰めた顔をして言った。
「ちょっと話がしたいんです。
慎治さん、私の病室まで一緒に来てくれませんか?
ここじゃ人が居ますから。
誰にも聞かれたくないんです。」
そう言って双葉は、このカーテンで仕切られたベッドの内側から、
見えない外側の病室全体を見回すような素振りを見せた。
確かに慎治の記憶ではこの4人部屋の病室は全て患者で埋まっており、
どこのベッドもカーテンが閉め切られていた筈である。
ここで話をすれば暇を持て余した他の患者達の興味を
誘ってしまうのは想像に難くない。
今している会話にも、確実に聞き耳を立てられているだろう。
――仕方ない。
「……わかった。」
慎治はベッドから下りると歩行器を掴む。
折れた脇腹の肋骨が軋み、気を抜いていた慎治は顔を歪めた。
* * * *
歩行器とは移動式の手すりのようなものだ。
これを使えばもたれるようにして歩くことが出来るのだが、
慎治もそのようにして歩行器を掴みながら、ゆっくりと病院の廊下を歩く。
無理に早く歩を進めることは出来ない。
脇腹と頭が痛む上、右半身に痺れがあるからだ。
亀のようにゆっくりと左右の足を動かして着実に進む。
その慎治に歩調を合わせるように双葉の歩みも遠慮がちだ。
お互いに雑談などは交わさず、無言だった。
慎治は無駄なことは何も言わずただ歩を進める度に痛みで少し顔を歪ませる。
双葉はそんな慎治に話しかけづらいのか、ただ先導するように歩くだけで、
ほとんど声を掛けて来なかった。
そんな沈黙が続いたためか、慎治はおかしな事に気付いた。
この双葉という奴は平然と歩いていて外傷も見あたらないが、
一体どこを怪我したんだ?
それに人に聞かれたくないから自分の病室に来て欲しいと言っていたが、
ってことは、こいつの病室は今、他の患者がいないのか?
そもそも慎治には、双葉が単に助けられた礼を言いに来た訳では
なさそうな様子であることも引っかかっていた。
もっと別の、何か重大なことを確認したがっているような――
まあいい。病室に行けばわかることだ。
563 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 18:59:23 ID:byUvzcKP
慎治は考えることをやめた。
すると彼の興味は、普段見慣れない病院の様子に移っていった。
今歩いているのはとても長い廊下だ。
床も壁も照明も、全てが白い色している。
天井の照明がリノリウムの床に照り返して、白い輝きがなお増している。
窓の外は夜の闇に包まれているため、
コントラストで余計に白さが眩しく見える。
デザイン、照明の色などは違うが、
旅先のホテルに来たような感覚と言えばいいだろうか。
部外者にとっては全てが非日常的で、真新しい物珍しさがある。
正確には慎治には決してこれらが未経験というわけではないのだが、
それでも初めて入院する病院に興味を引かれる余地はある。
全てが慎治の好奇の対象となった。
そこで慎治は、前を行く双葉にある違和感を覚えた。
自分と同じように入院したばかりの筈なのに、嫌にこの場に馴染んでいるように見えるのだ。
だが、慎治はすぐに思い直した。
俺は怪我のせいで一週間も眠っていたんだ。
こいつがもう既にこの病院に慣れた様子でもおかしくない。
しばらく歩き続けて別の病棟に入ると、周囲の様子ががらりと変わった。
さっき通ってきたすぐ後ろの渡り廊下を振り返って比べると一目瞭然である。
病棟全体がとても古臭い。
「随分とボロイ……」
先程の一般的な病棟内より興味をそそられる場所だったためか、
慎治は努めて必要以上に喋らないようにしていたが、
自然とその感想が口をついて出た。
それを聞き取った双葉が、嬉しそうに口を開く。
「あ……ああ! そうですね。
ここがこの病院の建物では一番古いんです。
それは――」
二人の間にある沈黙は重苦しさがあったので、
何か話すきっかけが欲しかったのだろう。
先程まで黙っていた双葉は急に饒舌になり、
この病棟の成り立ちなどを話し始めた。
歩く度に体の痛む慎治は気分を紛らわすためにそれを黙って聞いた。
元々ここは城跡であったこと。
それが明治になってから陸軍が使うようになり、
元々この病院はそこの陸軍病院だったのこと。
第二次大戦後から国立病院となり、その辺りに建設された病棟だそうだ。
多少試験的な建築様式で特に耐震性、耐久性を重視して、
無駄と言えるほど建材の質や量が高く、極めて頑丈に作られているそうだ。
そのため取り壊しにかかる費用もとても高く、
私立病院に変わった際も、建物の耐用年数である60年が過ぎてからも、
取り壊されることなくいまだに使用しているらしい。
双葉の話を聞きながら少し休みたかった慎治は一度立ち止まり、
色合せ、くすんだ壁を撫でた。
一世紀前の遺物同然だな。
ボロイというか、ある意味レトロと言った方が――――
って待てよ。
慎治はおかしな事に気付いて、こちらが立ち止まったことに気付かずに
話を続けている双葉の後ろ姿を見た。
564 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:01:47 ID:byUvzcKP
こいつは何でそんなやけに詳しいんだ?
「――それでなんだかんだで、古くても取り壊さなかったのは
この病棟はマグニチュード8ぐらいの前代未聞の大地震が来ても
耐えられる筈だかららしいです。
建物はともかく設備までは古くないし――あ。」
慎治が立ち止まっていることに気付いて、双葉は心配そうに様子を窺う。
「あの、疲れたんですか?」
「いや、問題無い。行こう。」
「……頑張って下さい。あそこの一番奥の病室、
あれが私の病室ですから。」
138病室。
そう書かれた古ぼけたプレートがかかっていた。
「じゃあ、入って下さい。」
病室の前に着くと双葉は引き戸を開けて、歩行器を使って歩く慎治に先に入るよう促した。
病室に足を踏み入れた慎治は驚いた。
「――っ」
ここ、個室なのか。
それに――
部屋の中にはベッドが一つと、
その他に備品らしき来客用のソファー等がある以外にも、
明らかにこの少女の私物と思われる様々なものが大量に持ち込まれている。
幾つものぬいぐるみの置かれた棚や、かなりの数の本の並ぶ棚。
他にも何を詰め込んでいるのかわからないダンボール箱がいくつかなど、
病院の病室というあくまで治療が終わるまで過ごすための一時的な場所が、
まるでここに住んでいるように一個人の色に浸食されていた。
一週間前に怪我をして入院した奴の病室じゃない。
ここでやっと慎治の中で、先程から感じていた違和感が繋がった。
続いて入ってきた双葉に尋ねる。
「なあ。もしかして、相当前からここに入院しているのか?」
「あ、はい。慎治さんに助けて貰ったおかげで、
あの時、怪我なんてほとんどしませんでした。
今、病院に居るのとは関係ないんです。」
「……」
「この、私の個室で話がしたかったんです。
そこのドアと壁の厚さ、見ましたか?
さっき言ったとおり、無駄に耐震性が高いから、
壁がぶ厚くて防音効果まで高いらしくて、
それでせっかくだからってドアも防音効果の高い物にしているらしいです。
だからここなら人に聞かれる心配しないで済みますから。」
それでここに呼んだ訳か――。
納得した慎治は先程部屋の様子に気を取られて注意を払わなかった、
窓の外の美しい夜景に目を遣った。
この三階の病室は病院の周りを囲む木々の上をちょうど越す高さにあり、
遮る物の無い外の眺めは慎治の病室と比べて遥かに良かった。
眼前に広がる、街灯もなく闇の中にうっすらと浮かぶ田園と森。
そのすぐ先には総面積10キロ以上にも及び、
莫大な水を湛えた、手旛沼が見える。
広々とした沼の湖畔を取り囲むようにぽつりぽつりと明かりが見えるが、
ちょうど沼の水上にあたる部分には明かりがないので、
漆黒の闇に覆われた穴のようだ。
565 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:04:57 ID:byUvzcKP
沼の対岸の向こうには住宅街が広がっており、
幾千もの建物から漏れる光が見える。
違う方角には市を一つ挟んだかなり遠くにある、
県庁所在地の都市部のビル街の光も見える。
近くから見れば、汚れた建物があり、
人々が歩いたり生活し、ゴミもあるだろう。
どれも綺麗でも何でもない。
だがそんな汚雑や生活感は夜の闇と距離に遮られ、ここまで届かない。
数多の宝石のような光の輝きだけが彼方で瞬くのだ。
夜景に見とれていた慎治に双葉が声を掛ける。
「えっと……じゃあ、慎治さん。そこの椅子に座って……あ、いえ。」
双葉は慎治がもたれている歩行器を見た。
「その小さな椅子じゃ背もたれもないし、座るのは危ない……ですよね。
こっちのソファーじゃ低すぎて、立ち上がるの大変だし……
じゃあ、私のベッドに腰掛けてくれますか?」
慎治は歩行器から手を離し、どすんと音を立ててベッドに腰掛けた。
そこは目の前の少女の汗や匂いが染みこんでいるであろう、
彼女のプライベートな場所である。
促されるまま座ってしまってから急にやたらそのことが気に掛かり、
両手や尻から伝わるベッドの感触が艶めかしく感じられ、
身を捩りたくなる衝動に襲われた。
「あ、ちょっとエアコンが効きすぎているみたい……。
窓、少し開けますね。」
双葉が窓に手を掛け、少し横に滑らせた。
たちまち隙間から夜風が部屋に滑り込んでくる。
春に芽吹く様々な生命の香りを称えた、暖かな風が慎治の肌にも触れた。
冬にはこういった匂いがない。
凍てつく寒さが匂いを感じる鼻の粘膜を麻痺させてしまうことで
空気中の匂いまで凍らせてしまう上、
そもそも匂いの元である植物も枯れ果てている。
双葉と出会ったあの夜もどちらかと言えば、冬の余韻を色濃く残す夜だった。
それがいまやどうだ。
この新たな生命を孕ませた夜風は、次の季節に変わりつつある証拠だ。
ここに来るまでの間に少し窓の外に目をやったとき、
桜の木は緑色で花が咲いているように見えなかったが、それもきっとあと数日で終わる。
もうじき桜舞う春が訪れるだろう――
双葉はしばらくその風に当たったのち、
心を落ち着けたのか、丸椅子に腰掛けて慎治を見た。
「じゃあその、話に入りますね。
えっと……その……」
しかしやはり中々言い出せないのか、
それとも話す内容をまだ決めかねているのか。
双葉はしばらく逡巡した後に何かを思いついたように甲高い声をあげた。
「あ、そうだ! 慎治さん、事件の事どのくらい聞かされてますか?
例えば、えっと、あの時の車がハイブリットカーだとか!」
「……ハイブリッド? …………ああ、あったっけ、そんなの。」
それはまだ聞いてなかった。
慎治がそういう顔をすると、双葉は説明を始めた。
「はい。警察の人から聞いたんです。
ガソリンと電気を組み合わせたタイプの方らしくて、
電気で動いている時は電気自動車と同じだから排気音がしないんです。
あの時の車って規制が掛かる前の車種で、音は出さないらしいですから。
それをアクセル全開にして急加速したから、ガソリンエンジンに切り替わって
あんな風に突然爆音が近くに……
それで、だから、あの、その……」
566 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:06:56 ID:byUvzcKP
双葉は再び言葉を詰まらせ、しばし逡巡する。
そしてやっと意を決したらしく、慎治に伝えた。
「慎治さん。私のこと、助けてくれてありがとうございます。」
「――っ。」
「慎治さんが、居てくれなかったらきっと私はもう……」
双葉は心持ち顔を赤くしながら、上目遣いで慎治を見上げた。
だがその視線を向けられた慎治は、急にはっとした顔をしたのち、
目を逸らし、顔を強張らせた。
「勘違いするな……!」
「……え?」
「……俺は人助けなんてする性質じゃない。
そんなことしたって何の特になるんだよ。」
慎治は怒った顔で、語気を荒げて吐き捨てるように言う。
これに双葉は困惑を隠せない。
「で、でも、慎治さんは私のことを――」
「知らん。」
「知らないって、そんな――」
「覚えてないんだ。」
「え?」
「……何て言うか…………車道に飛び出して助けた時、
頭を打って意識を失ったって聞いているが、
なのに飛び出した筈の辺りのタイミングから、
もう記憶が途切れてるんだよ。
最後の記憶の時点じゃ、俺はただそっちが尻餅をついたのを
見ていただけで、まだ突っ立ったまま全く動き出してなかった。
まあ、医者は頭打ったせいで前後の記憶が少し飛んだのかも
しれないって言ってたが…………ただな。」
慎治は双葉に疑うような目を向けて尋ねた。
「本当に俺が助けたというのは正しいのか?
実際は記憶が途切れた時点で、意識を失って俺は倒れた。
そっちは実は自力で車を躱しているのに、
何故か俺が助けてくれたと狂言を抜かしている。
正直、こっちの方がまだ俺にはしっくり来る。
目撃者は居ないらしいしな。」
この慎治の物言いに、双葉は声を荒げて否定した。
「違います! そんなこと――!」
「するとも思っちゃいないさ。……そんな意味不明なことを。
ただな、それでもまだそっちの方が正しいような気さえしてくるんだよ。
要は俺にとっての実感じゃ自分がしたことじゃ無い。
これは他人事なんだ。それに――」
ここで、比較的淡々と説明をしていた慎治が
再び語気を強めて敵意を露わにした。
「他人事なのは実感だけじゃない。
もう機会は無いだろうが、それでも仮にもし今度、
お前が同じ目にあったと仮定した場合、俺は絶対に助けたりはしない。
誰が相手でもそうしてやる。
人間の命になんて何の価値もありゃあしないからな。」
「……え?」
「……誰が死のうと、どうなろうと、俺には関係ないね。」
そう言うと慎治は双葉に見せつけるように、ゆっくりと頬を吊り上げる。
「――っ!」
誰がどうなろうと知らないばかりじゃない。
不幸になれば俺は嬉しい。
お前が不幸になれば嗤ってやるよ。
慎治の見せた狂気の貌は明らかに双葉に向けてそう語っており、
その言外の言葉を向けられたためなのか双葉は身を竦ませた。
すると慎治はおぞましい笑みを解き、無表情のまま淡々と言う。
「礼なんていい。助けたのは俺がした事じゃない。
それよりここに俺を呼んだのは、そんな御託より
もっと別の、何か他の話があるからじゃないのか?」
567 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:08:38 ID:byUvzcKP
「……!」
「何となくそう思ってたけど、違うのか?
何も無いなら帰らせてもらうが……。」
慎治がそう告げると双葉は口をきつく結んだまま、
顔を伏せて黙り込んだ。
しばらくの沈黙ののち、双葉はぽつりと言った。
「……あります。」
「……」
「今から本当のことを話します!
だから、最後までちゃんと聞いて下さい。」
決意を決めた眼差しで双葉は慎治を見上げた。
* * * *
この人はあたしを助けたことを否定し、感謝の言葉を拒絶した。
でも、素直に答えてくれる人が私の気持ちなんてわかるのだろうか。
そんな人は上辺だけで悲しむのがせいぜいじゃないだろうか。
だから、この人の答え方は決して間違っている訳じゃない。
むしろ都合が良かった。
最初この人の目覚めるのを待ちながら、期待を寄せていた。
でも一昨日、ここでお父さんと一緒にこの人のお母さんから
聞かされた。
目が覚めるのがあまりに遅く、
医者にもう起きない可能性も高いと言われた、と。
私は再び絶望しかけた。
それでもやはり諦めきれない想いから、藁にもすがるように
この人のベッドまで行って寝顔を見ていたのだ。
そうしてどれくらいの時間が経ったのか、突然この人が突然目を覚ました。
諦めきれない一心でそこに居ただけで、
起きた時のことなど何も考えていなかったあたしは
この人と目を合わせた途端、頭の中が真っ白になってしまった。
そのため思わず駆けだしてそのまま逃げてしまったのだ。
そのことを反省して、今日中に行動しようと誓った。
入念な準備をしたかったけど、それを行動を後回しにする言い訳に
しようとしている自分に気付いていたから。
機会を逃してしまう恐怖が、準備不足で失敗する恐怖を上回った。
準備は少ししか出来なかったが、やれることはした。
寝癖を直したり、格好も一番マシなネグリジェに替えたり、
間に合わせだけど一応身なりは整えた。
そして何より、どうやってあれをこの人に伝えるか、何度も練習した。
そうして、再びこの人の元に戻って来た。
でも、思うようにいかなかった。
緊張しきってしまってうまく喋ることが出来ず、
それでも何とか自分の病室に連れてくるところまでは成功した。
だが、ここからすぐに話を切り出そうと誓っていたのに、
助けられたお礼や関係の無い話が口をついて出た。
恋の告白ときっと同じなのだろう。
伝えなければ結局機を逸してしまうのに、失敗を恐れて現状にしがみつく。
だから現状維持の言葉しか出てこない。
でもそんな時、この人はあたしの当たり障りのない言葉を拒絶した。
助けた男と助けられた女という、まだか細く危うい繋がりは、
あっけなく切られてしまったのだ。
568 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:10:38 ID:byUvzcKP
それが却って良かった。
これですっきりした。
しがみつける物が無くなったから、やっと踏ん切りもつく。
それにそもそも私を拒絶したこと自体、本心なのだろうか。
誰がどうなろうと知らないと言っているのに、
あんな状況で咄嗟に飛び出てあたしのことを助けてくれた。
どんなに善良でもあの時のあたしを助けるとは思えない。
だってあの時、あたしは本来なら問題無く躱せただろうから。
慎治さんは私の体を抱えて立たせ、それから横に全力で跳んだのだ。
こんな2つもステップを踏んでなお間に合っているのだから、
四肢さえ動く人間ならどんなに最低でもぎりぎり躱せるだろう。
それに尻餅をついたまま動かなかったから、
ドライバーが私に気付くのが遅れたのだろう。
逃げようと動いていればもっと早くにドライバーの目に止まり、
ブレーキを掛けるなり、ハンドルを切るなりしていた筈であって、
なお躱し易くなっていた筈だ。
あれはひやりとする場面ではあっただろうけど、
それ以上でもそれ以下でもなかったのだ。
余計な助けは、タイミング次第では邪魔にすらなったかもしれない。
それなのにこの人は何をしているんだろう。
慎治さんと目を合わせた時、距離は少なくとも8mくらいはありそうだった。
間に植え込みもあったので、それを飛び越えるのも時間のロスになる。
相当に早いタイミング――
あたしが確実に自力で逃げられる筈の時点で、
既に飛び出していたようにしか思えない。
つまりこの人はもしかしたら――
だから、賭けてみよう。
私はこの人に"気に入られたい"わけじゃない。
伝えてみよう、この人に。
決意を決めた双葉は口を開いた。
「さっき言ったこと、慎治さんに感謝しているっていうの、あれは嘘です。」
「……嘘?」
「私、慎治さんのこと、本当は憎んでいます。」
「――っ。」
慎治は少し驚いた顔をした。
「あの日、どうして私があんな時刻に出歩いていたのか、
わかりますか。」
「…………いや。」
「それは……それは――」
双葉は思い切って告げた。
「私、死のうと思ったんです。」
力強く、はっきりと発声されたその声は確実に慎治の耳に確かに届いただろう。
だがしかし、慎治は今度はさして驚かなかった。
それを双葉ははっきりと目にした。
やっぱり。
この人はここまではわかっていたんだ。
だったら――
「慎治さん、一から全部話します。
長くなりますけど最後まで聞いて下さい。」
双葉は過去に遡って、話を始めた。
569 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:12:15 ID:byUvzcKP
* * * *
物心ついた頃から私は病気だった。
世の中に症例のほとんど無い、先天性の奇病にかかっているのだ。
家庭はとても裕福なのでお金には糸目を付けずに治療することが出来たが、
そもそも完治に繋がる治療法はまったく存在せず、
効果の薄い対処療法を続けるしか無かった。
今まで生きてこれたことは奇跡だったそうだ。
病気は私の体をベッドの上にくくりつけ、
そこで高熱や悪寒や息苦しさに苦しみながら過ごすことを強要した。
昏睡状態になることも珍しいことではない。
極限の苦しみが私を覆い尽くし圧死させようとする。
死の実感だけが手に触れられそうな程、はっきりと感じ取れた。
悪夢同然で無きに等しき意識のために言葉すら思い浮かべられないが、
それでも私は自分を覆い尽くす苦しみに向かって確かに懇願した。
助けて。
苦しいの。
だから、殺して。
もう、楽にして。
だが、答えは返ってこなかった。
あともう少し苦しみを強めれば、私は窒息して闇に呑まれるだろう。
だが苦しみはあと少しの所で、必ず踏みとどまり、ただじっとこちらを見つめるだけだ。
その時間はとてつもなく長い。
苦しみというのは時間をとても長く感じさせ、
それがあの極限の拷問であれば何十倍、何百倍にも感じるからだ。
地獄そのものだった。
もちろん、苦しみにもいつか終わりは来る。
体調が良くなれば昏睡状態から目を覚まし、地獄からも解放された。
こういった場合、普段は健康な人なら自分の命が繋がったことに安堵するのだろう。
だが、私はその度に絶望した。
わかっているからだ。
何も終わらない。
すぐにまた、次の苦しみがやって来ると。
完治しない以上は終わりなど無い。
体調が悪い時は病気に苦しみ、
体調が良い時にも次の苦しみへの恐怖におののくしかないのだ。
そんな生活が今までの人生の全てだった。
普通の子のように、まともに学校に通ったことなどなかった。
決して通えないわけでもない。
必ずしもベッドの上で過ごさなければならない程常に衰弱しているわけではないし、
少なくとも突然意識を失って倒れてしまうようなことは非常に少ない。
ほとんどの場合、体調が良い時から悪くなって昏睡に陥るまでには
最低でも数時間はかかった。
だから今までに二回だけ、通おうとしたこともある。
だが、私は他の人間と同じように学校生活を送ることは出来なかった。
570 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:13:46 ID:byUvzcKP
体調が良い時のみなので、登校するのはまばら。
それなのに登校しても、体調が悪化してすぐに早退。
同級生の他の女子達の中に溶け込もうと努力したこともある。
実際に挑戦してみると自分はお喋りが苦手ではないらしく、
うまくやれないわけではなかったし、
決して一方的に虐められたというわけではなかった。
だが、それでも私は一人のままだった。
最初に学校に通っていた時、自分が病気であることを
周囲の人間は気遣ってくれるようだった。
でもすぐに何かが噛み合わないことに気付いて、
しばらくしてようやく理解した。
彼らの気遣いは、完全に上辺だけ取り繕ったものか、
もしくは自分の体験した苦痛に照らし合わせて
理解した気になっているかのどちらかだと。
よく話していたクラスの女子達が、陰口を言っているのを聞いたことがある。
こっちの苦しみを全く理解しない物言いに、つい怒ってその女子達を大声で責めた。
するとそれ以来、私は避けられるようになり、
それがきっかけで結局学校に通うのをやめてしまった。
数年後、二度目に通った時は、前回の点を改めた。
病気が一体どれだけ苦しいか必死に説明すれば周囲は引くだろうし、
仮に説明しても理解などしてもらえない。徒労に終わるだけだ。
本音は胸の中にしまいこんで、自分を偽ればいい。
そうするとうまくいった。
例え自分の陰口を言っていようと、本人が居ない時なら陰口は
平然と皆の話題に出てくるものだ。
少なくとも自分が居る時には表立って悪口は言わず、
居ない人間の陰口に参加し賛同しても構わない以上、
特別馬鹿にされているというわけではない。
そういう理屈はわかっていた。
だが結局は耐えきれず、また行くのをやめてしまった。
人の輪に入り溶け込むためには
周囲に合わせなくてはならないのに、私は根本的に違いすぎたのだ。
よく人付き合いには我慢も必要だと言われる。
だが逆にその自分を抑える苦労もまた、同じ程度のものであれば、
他人と共有して分かち合う喜びにもなるのだろう。
だが、私は他人とは桁外れの苦しみを抱えているために、
その差の分、必死に自分の気持ちを押し殺していなければならない。
自分を偽ることはただ疲れるだけだった。
何よりそんな友達ごっこは、病気の苦しさから比べたら些細なものでしか無かった。
病気はあまりに直接的に苦しみを肉体に伝え、精神を消し炭にせんばかりに焼き続ける。
どんな喜びも、あの業火には焼け石に水も同然だ。
この14年の人生の中ではそれなりに体調が良かった時間も決して
少なくないだろう。
だが昏睡状態の間に、実時間の数百倍にも及ぶ苦しみの時間を体感している。
それは圧倒的な力を持って、覚醒している僅かな時間の記憶や感覚をあっさりと塗りつぶし、
私の人生の体験の全てをあの地獄の渦中にしてしまう。
ささやか程度の喜びでは、何にもならないのだ。
だから楽しみを得るために様々な行動を起こそうとする
人間としての極自然な行為、
努力ですらない努力が私には出来なかった。
571 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:16:12 ID:byUvzcKP
いくら病気で体が悪いとはいえ、
傍目から見れば私は少女の姿をしているだろう。
だが、病気で味わう体感時間と苦痛による疲弊で、
私の心は既に老婆を通り越して何百歳、何千年という年齢を迎え、
その人生経験によって壊れていたのかもしれない。
だから私は誰とも心を繋げなかった。
結局私は床に臥せり、今日に至るまで永遠に思える時間を一人で病気と戦い続けた。
もっとも惰性でたまたま生き延びていただけだ。
それでも本来いつ死んでもおかしくはないのにここまで生き残ってきたのは、
やはり縋るものが残されていたからだと思う。
それは誰かに対する淡い期待だった。
今まで、他人と付き合うことで目に付いたのは、
人と人との関係の軽薄さと、心に届かない力無さだけだった。
愛情、友情、親子愛、連帯感――。
世間には人と人との関係を語る言葉が溢れていて聞き触りがいいが、
どんな関係も内実の所はそんなものなのだろう。
それでも仮に。
本当にかけがえの無いものが、私を絶望から救ってくれるとしたら――
死を望む傍ら、ほんの少しの希望を常に抱き続けた。
だが時と共に莫大な苦しみが積み重なっていく中、
死を望む願望はどんどん大きくなるのに希望はあまりに朧気な灯火でしかない。
いつしか夜空に浮かぶ彼方の星のような僅かな光は
闇に覆い尽くされてゆき――
年が14歳になった頃。
今からほんの数ヶ月前、遂に私は耐えられなくなった。
本来ならそろそろ受験を意識し未来の高校生活に思いを馳せ始める時期に、
私は自分の命を自分の意志で絶つことを決心した。
最初は飛び降りをしようと思い、病院内で適切な場所を探した。
結局、3階にある自分の病室では高さが不十分だと思い、
一番高さのある本館の第一病棟から飛び降りることに決めた。
深夜に第二病棟から抜け出し、
第一病棟の非常階段を一歩一歩登り、遂に最上階の8階に到達した。
高さがあるうえ、非常階段は吹き抜けのようなもので、しかも今は二月だ。
冷たく寒い強風が轟音を立てて鳴り響き、肌に突き刺さる。
運命は最後の最後まで自分を歓迎してくれないのだと感じた。
だが、これでこそ私の命の幕切れには相応しい舞台だ。
私は手すりから、目も眩むような彼方の地面を覗き込む。
ここから飛び降りれば頭は潰れ、
あらゆる関節は千切れるか奇怪に折れ曲がり、
もはや遺体とは呼べない見るに堪えない姿になるのだろう。
だが、死んだ後のことなど関係ない。
今、吹き付けている風のように、どれだけ運命が私につらい仕打ちを
しようとも、少なくともここから自分の意志で飛び降りれば、
この人生の最後の最後にこの夜空を舞えるのだ。
だから、行こう――
その筈だった。
「どうしてっ………!」
572 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:17:26 ID:byUvzcKP
それが、出来なかった。
手すりの上に乗ろうとする度、
否応無く体が竦み上がって、足から崩れ落ちてしまう。
何度やっても、結果は同じだった。
何も出来ない自分の不甲斐なさにただ泣くことしか出来なかった。
それから一月後。
死ぬという逃げ道すらも断たれて抜け殻のようになっていた時、
本館のロビーの自動販売機の近くで、
柄の悪そうなの二人組の男がしている話が偶然耳に飛び込んできた。
この病院から田園を挟んだ向こうの山の上、
新興住宅地近くの道路を走り屋がよく走っていて、
深夜には80km以上の猛スピードで飛ばしているという話だ。
わざわざ旧式のガソリン車使って、爆音を立てる車が集まるらしい。
そこで閃いたのだ。
車に飛び込んで死んでしまおう、と。
だから――
* * * *
「――だから、あそこに行ったんです。
速度がしっかり出ている車じゃないと死ねないと思ったから……。」
「……」
慎治がずっと黙ったまま聞いている中、双葉はただひたすら話を続けていた。
話を始める前にはあれほど言葉を選んで、
たどたどしくしか話せなかったのが嘘のように、
口からどんどんと言葉が出て行く。
双葉は気付いていた。
話しているうちに募ってゆく、自分の気持ちの昂ぶりに。
「それで、車が来た時にここに飛び出せば今度こそちゃんと死ねる筈と思って
あそこに立っていたら慎治さんが居て、それについ驚いた時に
重なるように車の爆音が聞こえて、尻餅をついて……」
「……」
徐々に言葉を選ぼうと、考えようとしなくなる。
胸の奥から湧き上がる感情に身を委ね、どんどん早口で大声になってていく。
「でもその時、気付いたんです。これなら確実だって。
普通に立っている時に撥ねられて遠くに飛ばされたら衝撃が分散するし、
尻餅をついた状態なら姿勢が低いからドライバーが気付くのも遅れます。
自殺にはもってこいですよね。」
話している内に自分を晒け出すことに対する恐怖も募っていく。
しかしもう今更止められない。
既に双葉の感情の堰は決壊寸前だった。
「運命なんだ、って思いました。
だって、そうでしょ!?
単に車の爆音がしただけなら、私だって転んだりしないです。
慎治さんを見て驚いて、注意が向いたタイミングであの爆音がした。
そんな偶然が揃ったから――
いや、そもそも自分の意志で飛び降りることが出来なかったら、
あそこに行くことになったんです。
死ぬ時まで私は運命に好きなように決められて……!」
「……」
「でも、だからこそ諦めがついたんです。
これは決められたことなんだ。
これでやっと楽になれるって。
なのにあなたは……それを認めずに、変えてしまった。」
「……」
もう止められなかった。
俯き、膝を握りしめながら、叫んだ。
573 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:18:41 ID:byUvzcKP
「慎治さん。どうして、あたしを助けたりしたの!?」
「……」
「あなたが助けたりしなければ、あたし、死ねたのに!
苦しみからも解放されて、楽になれたのに!
唯一のチャンスだったのに!
なのに、どうして助けたりしたの!?」
「……」
いくら叫んでも、慎治の方からは何一つ返事が返ってこない。
それでも双葉は慎治に訴えかける。
「どうして……? どうしてよぉ……。」
目尻から次から次へと涙が零れ落ちていく。
「うっ……ひっく……えっく……」
もう全てを話し終え、もはや出せるのは嗚咽だけとなった。
だが、それでも慎治はただ黙ってこちらを見ているだけなのか、何もしてこない。
既に激情を吐き出しきったためか、流れる涙と共に興奮もゆっくり静まってゆく。
だが話している内に募った恐怖は、彼女の身の内にそのまま残された。
抑えきれない衝動を言葉と共に出しきった今、
その恐怖だけが際限なくどんどん膨れあがっていく。
話を終えた今、双葉がすべきことは慎治の反応を確認して、"それ"を確かめることだ。
そのためにわざわざこの病室に呼んで、自分の心の全てを吐露したのだから。
だが双葉には俯いた顔を上げて、慎治の様子を直視する勇気が持てなかった。
頭の中に響くのは否定的な言葉ばかり。
やっぱりわかってくれるわけなんてない。
なんて馬鹿な事考えてるんだろ。
こんなこと高望みだ。
だってさっきまでこの人はあの様子だったんだから、
このまま無視されるか、くだらないと一蹴されるに決まっている。
よくても普通の人がするような上辺だけの同情が関の山だ。
でも、そんなずっと昔に捨てた物なら、最初からいらない。
だから。
だからもう――諦めよう。
ネグリジェの裾で涙を拭う間に双葉は覚悟を決め、ゆっくり顔を上げた。
だがその瞬間、双葉は固まった。
慎治の目尻から涙が零れていた。
……え?
双葉はわけがわからなかった。
何故、そんな表情をするのか。
答え自体はあまりに簡単で、冷静ならば何の造作も無くわかることだ。
だがそれを見た瞬間、双葉の体の中は一瞬でわけのわからない、
膨大な感情に満たされた。
心臓はおかしくなってしまったように早鐘を打ち、
その初めての体験に双葉は何も考えられず、ただ感じることしか出来なかった。
自分が何を確かめようとしていたのか、それすらも忘れてしまっていた。
この人はどうして――
そうして双葉が呆然していると、
慎治の口からぽつりぽつりと重くか細い言葉が漏れ始めた。
双葉は目を奪われたように慎治を注視する。
「その……俺は……俺は……」
574 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:19:46 ID:byUvzcKP
だが慎治は何かを言おうとしたその瞬間、急に細めていた目を見開き、
彼に視線を向けている双葉と目を合わせた。
その途端
「……ぁ。……っっ!!!」
慎治は突然小さな声を上げ、口を塞ぐように自らの手で押さえた。
「あ……その……これは……」
一度は合わせた目を双葉から逸らし、視線を当て処もなく泳がし、
しどろもどろになる慎治。
その行動の意味は双葉にもわかった。
知られたく無い本心を慎治は見せてしまったのだ。
それを悟った瞬間、双葉の胸が一際大きく高鳴った。
「――!」
もはや双葉には先程の慎治が何を言おうとしたのかなど、どうでもよかった。
言葉が聞けなくとも、言葉よりも先にある慎治の気持ちはわかったからだ。
水道の蛇口を限界まで閉めても残った僅かな水滴が滴り落ちるように、
慎治が流した涙も、何かを言おうとした時に漏らした僅かな言葉も、
どちらも彼の嘘偽りの無い想いが溢れ出てしまったものだということを。
そこで初めて双葉は慎治の気持ちのみならず、本当に全てを"わかった"。
慎治の本心がわかったことで、自分自身の心を満たした感情にも、
やっと理解が追いついた。
この感情は何というものなのか。
そしてどうして慎治を見てそんな感情が湧いたのか双葉は理解し、
名付けられていなかったその感情にふさわしい言葉が宛てがわれた。
その瞬間、双葉は『歓喜』で満たされた。
あ、ああ。
やっぱり、そうだった。
この人は、この人は――。
先程まで悲しみの涙を流し強張りきっていた双葉の顔が、
全く別の新たな涙が零れると共に綻んでいく。
しかし、慎治の方は別だ。
自分のしたことに動揺しきって平常心を必死に取り戻そうとしているのか、
今度は慎治の方が双葉を見ておらず、その変化に気付いていない。
すると双葉は椅子から立ち上がり、慎治が視線を向ける前に
彼の前に置いてある歩行器を掴んで部屋の端に引きずっていって、慎治から離した。
「……?」
歩行器は慎治が自分の病室まで歩いて戻るために必要な器具だ。
動揺しきっていた慎治だが、その双葉の意味不明な行動に目を丸くした。
双葉は椅子まで戻ってくると、目尻から流れた最後の涙を拭い、
慎治の名を呼んだ。
「慎治さん。」
「――っ。」
慎治の視線の先――そこには、花開いていた。
今まで15年以上も茎だけは成長はしてきたが、
蕾を堅く閉じたまま一度たりとも開くことの無かった、
咲き方すら知らなかった花が、咲いていた。
双葉は今まで誰にも見せたことの無い、
本当に屈託の無い表情を慎治に見せていた。
575 :
第二話「見えない糸」 ◆Thmxzr/sD.HF :2010/08/20(金) 19:21:28 ID:byUvzcKP
「ねえ、話しよ。」
「……え?」
「歩行器は帰るまで没収するからね。」
「え? ちょ――」
「駄目。さっきは帰るなんて言ってたけど、そこの時計見てみてよ。
まだ時間は8時25分でしょ。
帰るのに15分としても消灯時間まで20分もあるじゃない。
それまでどうやって時間を潰すの?」
「あ……その……」
「ねえ、どうするの、ねえ?」
双葉は慎治に無遠慮に顔を近づけて迫る。
そこには先程まであった、どこか物怖じして人見知りしそうな印象や、
無理矢理取り繕った不自然な明るさが微塵も無くなっている。
何より、それらの根源となる底知れぬ憂いのようなものが消え去っていた。
天真爛漫――――全ての振る舞いが自然なままに明るかった。
嵐が吹き荒れた後、空が雲一つ無く晴れ渡るように、
涙を流し終えて赤くなったその顔に、年相応の少女だけが残されている。
そのあまりの変わりようと積極性のためか、慎治はたじろいだ。
「いや、30分なんてすぐじゃ――」
「甘い。」
双葉は慎治の眼前に指を突き出した。
「――っ。」
「慎治さんって入院生活を舐めてかかってるでしょ。
そういえば、慎治さんって高校生だよね。
もしかして学校で勉強しているよりは楽とか少しは思ってる?
でもね、ここでの時間は長いよ。
それはもうっ、滅っ茶苦茶ね、長いんだから。」
「……」
「でも楽しければきっと……。きっと短くなる筈だから。
長くても苦しいだけじゃ仕方ないでしょ?
どんなに短くても……それでもいいじゃない。
それはかけがえの無い時間なんだから。
だから、ね?」
その時一陣の風に乗って、窓の隙間から何かが病室に滑り込んだ。
二つの桃色が部屋を舞う。
こんなにも早く咲き、そして散っていったのは、
一体どこの若木のものなのだろうか。
ふわりとベッドの端に舞い降りたのは、二枚の桜の花びらだった。
投下終了。
『無の器』
タイトルはこれに決めました。
次回投下より使用します。
>>576 GJです!
話の展開がおもしろくなってきた!
保管庫の題名の無い長編13の続きでいいのかな?
投下GJ
あと出来れば次からsageてくれ
sageなんぞする必要性皆無なんだよ!!!
今日も世界は平和なり、作品投稿早く来ないかな〜
94: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土)17:19:23 ID:crG1kL7+0
土曜の夕方にこんにちは。今回は7話を投稿します。
前回、前々回と転載してくださった方、ありがとうございました。
そして相変わらず規制が解除されないので申し訳ありませんが
どなたか転載よろしくお願いします。
95: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:20:25 ID:crG1kL7+0
「いってぇ…」
商店街を歩きながら身体を摩る。桜花との特訓が始まって10日程経った。
身体中痣だらけの湿布、包帯だらけだった。
黒川先生には喧嘩したかと疑われるが大和さんは毎日心配してくれて、今日は何故か弁当を作って来てくれた。
潤のと両方食べるのは結構キツかったがせっかくの好意を無駄にするのもあれなので完食した。
お礼を言ったら大和さんは顔を真っ赤にしていたが。
「今日は少し早く終わったな…あれ?」
「…ケーキ………あ」
商店街のケーキ屋の前でやけに暗い売り子に話し掛けられる。
いや、正確には売り子をしている遥に。
「…バイトか」
「ケーキ、食べる?」
「いや、要らない。つーか遥、ケーキ屋でバイトしてたのかよ」
「他にもコンビニと弁当屋とレンタルビデオ屋、それから」
「…いや、もういいや」
「そう」
「何か欲しい物でもあるのか」
「お金」
「いや、そういう意味じゃなくてさ」
「ウチ、貧乏だから。お金が必要なんだ」
「…そっか」
何となく気まずい雰囲気になる。遥がこんなにバイトしていたなんて俺、知らなかった。
というか英の件といい仲間のこと知らな過ぎだろ。
「…手伝うよ。ケーキ、売らなきゃいけないんだろ?」
「…良いの?ノーペだけど」
「ノーペ?」
「…お金は払わないってこと」
「ああ、別に遥の取り分減らそうだなんて考えてねぇよ。ただ…」
「……?」
遥をじっと見つめる。
よく見れば遥はケーキ屋らしい、フリルの付いた白い制服を着ていて彼女の白髪にピッタリだった。
「遥のケーキ屋コスチュームが見れたからそのお礼かな」
「……本当に変わらないね、そういうとこ」
ケーキは俺の手伝いがあった効果か、30分程で完売した。
96: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:21:50 ID:crG1kL7+0
「しかしケーキ貰えるなんてな。意外と優しいな、あの店長」
「…要は大声出してただけでしょ」
夜の路地を遥と二人で帰る。そういえば遥と二人になるのって記憶喪失になってから初めてかもしれない。
「俺はここを左。遥は?」
「…右」
十字路で立ち止まる。どうやらここでお別れのようだ。
「じゃあまた明日…」
「要」
急に遥が俺の袖を掴んで来た。どうやら寒さからか、少し震えているようだった。
「どうした?」
「…そのケーキ、半分はわたしのだと思う」
「えっ?…ああ、確かに。欲しいならやるよ」
そういえば遥はケーキ貰ってなかったな。
まあ店員だし当たり前と言っちゃ当たり前なんだけど。
「半分は要のだから」
「律儀な奴だな。でもここじゃ半分に出来ないぞ」
「だから…ウチ、来て。すぐ近くだから」
「…良いのか?急にお邪魔したら」
「気にしなくていい」
そのまま遥に引っ張られて家とは反対方向へ行く。
しばらく歩くとアパートが見えた。あそこが遥の家らしい。
「意外とウチから近いんだな」
「そうだね」
2階の一番端っこに進む。表札には「春日井」と書いてあった。
遥は財布の中から鍵を取り出して差し込んでいる。
…このアパート、築30年くらいは余裕で経ってそうだな。
「ただいま」
「…お邪魔します」
遥に続いて玄関に入る。部屋は真っ暗だったが微か見える流し台からここが台所ということは分かった。
狭い台所を抜けると硝子戸があり、開けると茶の間があった。
ブラウン管のテレビにちゃぶ台、そして薄いオレンジ色の明かりが部屋を照らしている。
右にも部屋があるようだったが戸は閉まっていた。
「ここに座ってて。今ケーキ分けて来るから」
「ああ」
辺りを見回す。本当に狭い家だった。
こないだ会長の屋敷に行ったから余計に感じるのかもしれないが、この家全てと道場で比べても道場の方が大きいくらいだ。
…ここまで貧乏だったなんて思わなかった。さっきのケーキ屋での自分を殴りたい。
遥はどんな気持ちであの質問に……最悪だ。
何より仲間とか言いながら遥のことを全く分かっていなかった自分が許せなかった。
97: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:23:05 ID:crG1kL7+0
「お待たせ」
遥が分けたケーキが乗っている皿を二つ持って来る。
「…おう、ありがとな」
「ううん、わたしの我が儘だから。はいお茶」
「気が利くな」
半分に分けたショートケーキを口の中に入れる。
俺の方が少し大きかった。お茶は渋めで甘いケーキにはぴったしだ。
「…優のお茶の方が美味しいと思うけど」
「そんなことねぇよ。俺好きだよ、こういう渋めの味」
「…ありがと」
「お邪魔して悪かったな」
あまり遅いと迷惑だし潤にも心配をかけてしまうので帰ることにした。
「こっちこそゴメン」
「…ケーキ、ありがとな。俺の方が少し大きかった」
「…別に偶然だから」
「はいはい」
「…っ!?」
照れ隠しなのか、そっぽを向いた遥の頭を撫でる。何だかもう一人妹がいるみたいだ。
「じゃあまたな」
「………要」
「うん?……は、遥?」
振り返ると目の前に遥がいた。目は光を失っていて澱んでいる。
10月なのにこんなに寒いのは
「行かないでよ」
…季節のせいだけじゃない。
「…遥?行かないでよって…」
「……一つだけで良いのに。他には何も要らないのに」
遥が抱き着いてくる。凄く力が入っていて苦しかった。
「は、遥?」
「優はずるい…何でも持ってるくせに。潤もずるい…いつも一緒にいるくせに」
小声で何かを呟く遥。何を言っているのか聞き取れない。
「遥、今何て…」
「わたしだって幸せになりたいっ!!」
遥が叫んだ。
初めてかもしれない。少なくとも記憶喪失になってからは初めて聞く遥の叫び。
「………は、遥」
「…要」
「ど、どうした?」
「…最後に笑うのはわたしだってこと、教えてあげるから」
遥は澱んだ目で俺を見つめる。心がざわつくのが分かった。前にもこんな…どこかで…。
「…そろそろ帰って。潤、待ってる」
「あ、ああ…」
我に返ると既に遥は俺に背を向けていた。
…一体彼女は俺に何を伝えたかったのだろう。気が付けぬまま家に帰った。
98: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:24:23 ID:crG1kL7+0
夜中。白川家を見つめる一人の少女。
髪は夜の闇に溶けるような黒のロングヘアーで、それとは対照的な深紅のワンピースを着ている。
「……要」
少女は2階の窓を見上げて呟く。その窓の先にいる少年に語りかけるかのように。
「これで…本当に良かったのかな」
誰もその問いには答えない。ただ沈黙がその場を支配していた。
「……たとえどんな結末になろうと、私は要と一緒だからね」
それでも少女は語りかけるのを止めない。なぜなら少女は知っているから。
この先にはバットエンドしか待っていないことを。
「……でも要なら…きっと…」
終わりの方の言葉は聞こえなかったが少女はわずかな可能性を信じているようだった。
速さには慣れてきた。後は反撃のチャンスを作れば…。
「そこです!」
「くっ!?」
神速の蹴りをかろうじて両腕でカバーする。気が付けば隅まで追いやられていた。
「…来ないのですか」
「………」
この二週間で学んだこと、それは下手に攻撃せずに反撃の機会を伺うこと。
相手が決めに来るその一撃に生まれる一瞬の隙を捉える。
そのためには…。
「…はぁ!」
「っ!!」
少し崩した左腕に躊躇なく打ち込まれる桜花の右ストレートが、俺の左腕を弾き飛ばして内臓を打つ。
「ぐぅっ!…あぁぁぁぁあ!!」
と同時に俺は右腕を思い切り振った。隙がないなら作れば良いだけだ。俺がこの二週間で学んだこと。
『肉を切らせて骨を断つ』作戦……というかただの我慢比べだ。
「なっ!?」
予想外の動きに受け身が取れず俺の一発をもろに受けた桜花。
そのまま反対側の壁まで吹っ飛んで行った。
「…はぁはぁ、俺の……勝ち…だな」
「…………見事…です」
地下道場での特訓が始まって二週間。俺は遂に桜花を倒すことが出来たのだった。
99: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:25:59 ID:crG1kL7+0
「……大丈夫…じゃないよな」
「問題ありません。研究所に戻ればすぐ修復出来る破損ですから」
いくら特訓で相手がアンドロイドといえど女の子を思い切り殴った上に怪我までさせてしまった。
罪悪感は当然の如く沸くし何か自分が情けなく思えてくる。
「いや…その…本当にゴメン。女の子相手にさ…」
「何をおっしゃっているんですか。要が戦う桃花も女の子なんですよ?」
「それは分かっているんだけど…ゴメン」
「……変な人ですね」
顔を上げると微笑んでいる桜花がいた。
…コイツ、こんな顔もするんだ。
「…よく言われる」
「でしょうね。アンドロイドの心配をするなんて要が初めてです」
「そりゃあ心配するさ」
「…心配、ですか」
「ああ。アンドロイドとか関係ない。桜花だから心配なんだよ」
ほっといたら勝手にどっか行っちゃいそうだしな。ほっとけないというか。
桃花とかいう奴もコイツみたいだったら仲良くなれるのに。
「……元はといえば私がいけないんです」
「…どういう意味だ?」
「私は戦闘用アンドロイドなのに…。オリジナルには敵わないから」
桜花の横顔は何処か寂しそうだ。まるで生きている人間の表情そのものだった。
「桃花と戦ったことは…」
「ありません。でも分かるんです。襲撃現場の悲惨な状況を見ただけで…分かってしまったんです」
「……そっか」
「はい。私では彼女には、オリジナルには敵わないんです」
「それで俺に白羽の矢が立ったのか」
「…でも結果的に要を傷つけてしまいました。全ては私の力不足のせいなんです」
桜花の表情はとても苦しそうだった。
まるで自分の存在価値を見出だせずにいて途方に暮れているようで…。
「マイナスばっかり考えるの、止めようぜ」
「要…」
だからかもしれない。桜花には笑っていて欲しいと思った。
あんなに美しく微笑むことが出来るのだから、せめて俺には笑いかけて欲しかった。
100: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土) 17:27:05 ID:crG1kL7+0
「もし桜花が桃花とかいう奴より強かったら、俺達親しくなれなかっただろ?」
「………」
「だから俺は感謝してるよ。桜花とこうやって一緒に訓練出来ることをさ」
「……要」
気が付けば俺と桜花の距離は僅かしかなくなっていた。
桜花の燃えるような瞳が揺らめいているのが分かる程だ。
「…桜花?」
「私…最近変なんです。要のことを考えるとコアが熱くなって…よく考えられなくなるんです」
「お、桜花…さん?」
桜花が俺の肩を掴む。彼女の吐息が当たる距離まで俺達は近付いていた。
「私、何処か故障しているのでしょうか。それとも…」
「えっ…」
桜花と俺の距離が0になり唇が
「要と桜花、いるか?」
触れる寸前で扉の外から声とノックの音が聞こえてきた。
その声に桜花は即座に反応して扉へと向かう。
「優お嬢様、今開けます」
「ありがとう桜花。……また随分と酷くやられたものだな、要」
会長が地下道場へと入って来た。……よく瞬時に切り替えられるもんだな。
「会長…。でもこれでも進歩したんですよ」
「ああ、報告は毎日桜花から受けている。ちょうど良い頃合いだ」
「…良い頃合い?」
会長が俺に近付いて来る。そういえば特訓で会長ともしばらく会ってなかったな。
「……現れたそうだ」
「……まさか…」
道場に緊張が走る。捜索開始から二週間。
そろそろと思っていたが、やはりいざその時が来ると緊張する。
「そのまさかだ。…桃花が近隣に現れた。行くぞ」
……いよいよか。この二週間をぶつける時は迫っている。
101: リバース ◆ Uw02HM2doE 2010/08/21(土)17:29:59 ID:crG1kL7+0
今回はここまでです。
毎回転載の方に迷惑をかけてしまってすいません…。
投稿終了します。
ということで転載完了&GJ!
最近リバースとヤンデレ家族が楽しみで仕方ない…
次も期待!
転載&作者さん乙
桃花きた!里奈は出てくるのかな
リバースktkr
遥が何だか不気味だな。
とりあえず要じゃ桃花には敵わないんじゃないか?
GJ!
いよいよ桃花さん登場か…
gj
リバースって何かの続編?
里奈なんて奴出てきたっけ?
>>595 「きみとわたる」の続編ですよ。そちらを見れば人物関係分かります
GJです!
結局要の記憶喪失って何が原因なんだろうな
後「きみとわたる」で回収されなかったとこも気になる
そろそろ核心に迫るか期待
家族そろそろ?wktk
こんにちは。
お昼の時報代わりにヤンデレ家族を投下します。
*****
白いブラ。それに包まれたおっぱい。
今の俺が藍川のことを思い出したら、それが真っ先に思い浮かんだ。
藍川はインドア派だから、あまり肌が黒くない。かなり白い、いや、恐ろしく白い。
そんな奴が白い下着を着けたら一体どう見えるのか。
言うまでもない。素っ裸だ。マッパだ。生まれたままの姿そのもの。
藍川の双丘に、桜色に染まった一帯がないことに違和感を覚えるほどだった。
藍川の容姿を一言で言い表すなら、清楚。
ドレスを着せてピアノでも弾かせてれば、相当な数の男が騙されることだろう。
そんな清楚な女が素っ裸。
間違いなく、母親から「はしたないわよ、京子! せめて黒にしなさい!」なんて言われるに違いない。
そう。たしかにはしたない。
あの藍川の姿を見て興奮しない男はいない。
衝動に任せ、飛びかかってその肢体を蹂躙しようとするに違いない。
むしろ、そうしなければ男ではない。
その理屈で言うなら、俺は男ではない。
踏み荒らされていない雪原に足を踏み入れさえもしなかった。
一目見て、それきりスルーした。
はっきり言おう。それどころではなかった。
はしたない藍川に構っているほど、あの時の俺に余裕はなかった。
それほど集中していたのだ。何にか、というと――――
「んがっ」
突然鼻っ柱に痛覚が襲いかかった。電柱に顔面をぶつけたのだ。
ものの見事に。体の正中線と電柱の芯が、狂い無く正面からぶつかった。
鼻に触ってみる。鼻血は出ていない。再び歩き出す。
しかし、真っ直ぐ歩けない。塀に手をついていないと、真横に倒れてしまう。
「これは、ひどい……」
こんな経験をしたことはない。
やってみようと思い付き、実際に行動しても、こんなになるまで意識を保てなかった。
二徹。
二晩通して起き続けて、プラモデルを作っていた。藍川と二人きりで。
なんでこんな馬鹿なことをしたかというと、藍川が言い出したからだ。
毎週恒例のプラモ作りのはずだった。
いつもと違ったのは、ちょうど気分が乗って来た頃に藍川がTシャツを脱ぎ捨てて、マッパじみた下着姿になったことだろう。
Tシャツの正面には「YES!」、背面には「NO!」と書いてあったのを覚えている。
だが、そんなアホなTシャツのことはどうでもよかった。プラモを作る方が大事だった。
だから俺は藍川を放置し、プラモ作りに没頭した。
黙々と作業を続け、夜を明かしたところで、俺はいつものように帰ろうとした。
そこで藍川が、眠気混じりの狂った瞳を向けてこう言った。
『ちょ、ちょっと待ってよ。まだやることが残っているでしょ?』
そのまま帰っても良かったのだが、藍川がやる気になっているなら、俺は帰れない。
逃げたみたいに思われるのは癪だった。
藍川は友人であり、同好の士でもあるけど、ライバルでもある。
あいつが眠気を我慢して作り続けるなら、俺だって逃げない。
結果、俺と藍川はそれから二十四時間に渡ってプラモデルを作っていた。
作り始めた時間から計算すると、三十六時間。
やればできるものだ。これまでの最長記録、二十四時間を大幅に上回った。
我慢大会も俺の勝ち。藍川は本日午前三時になった時点で寝落ちした。
勝敗に何も賭けていなかったことが悔やまれる。
「景品はやっぱ、コレジャナイって言いたくなる、あいつがいいな……」
あのキットにはプレミアがついていて、どこを探しても見つからない。
ネットで探しても、オークションにすら出品されていない。
藍川の奴は、その貴重なキットを組み立てせず、大事にしまっているのだ。
俺はいつかあのキットを組み立てて、魔改造を施してやろうと思っている。
とりあえず関節を増やして、全身フル稼働。見えないところにコックピットを増設して、パイロットを乗せる。
他のキットの部品を拝借して、中身にそれっぽいギミックを仕込む。変形機能までつける。最低でもこれぐらいやる。
いずれは、藍川と決着をつけねばならない。あのキットの所有権を賭けて。
だが、今はとりあえず。
「この眠気と、決着を……」
あのキットがかかっていても、睡魔になら負けてもいい。
今の俺は、一刻も早く布団に入って眠りたい。
あ、書き込みを忘れていました。今回はIFストーリーです。遅れてごめんなさい。
*****
「ただいま」
「あ! お帰り、お兄ちゃん!」
朝の五時になって、ようやくお兄ちゃんが帰ってきた。
藍川っていう女の家に行ってから、丸一日帰ってこなかったんだ。
もう、不安で不安で。
藍川の家に飛び込んでやろうと思った。家が分からなかったから、行けなかったんだけど。
でも、帰ってきてくれたってことは、家に居るって事だよね?
一緒に居られなかった分、くっついちゃうから。
お兄ちゃんが靴を脱いで、床に上がったところで左腕にしがみつく。
ぎゅっ、ってする。力一杯、私の体を押しつける。
こうすると、心が温かくなる。でも、同時に悔しくなる。
花火ちゃんみたいにホルスタインだったら、きっとお兄ちゃんも興奮するんだろうな、って。
お母さんはあんなにスタイルが良いのに、どうして私はこんななんだろう。
もちろん無いわけじゃない。でも花火ちゃんに比べたら、無いに等しい。
何度花火ちゃんに鼻で笑われたことか。そのせいで何回言い争ったことか。
兄さんは、いつか絶対に大きくなるって、と励ましてくれる。
いつかって、いったいいつよ。もう待ち続けて三年は経つんだけど。
花火ちゃんが私と同い年の頃には、上の制服の中で、でっかいおっぱいが不必要な自己主張をしてた。
あそこまで、でかくなくていいの。せめてお兄ちゃんが愉しめるぐらいは欲しいの。
そうね、お兄ちゃんのモノが挟めるぐらいかしら。
今の私じゃ、挟んであげようと思っても、お兄ちゃんを空しくさせるだけだろうから。
「お兄ちゃん、ご飯は?」
「それより、早く寝たい」
お兄ちゃん、すっごく眠そうな顔。
先週藍川の家から帰ってきた時でも、ここまでじゃなかった。
もしかして、お兄ちゃん眠ってないの?
ってことは、あの女の家では眠る暇すらなかった?
「まさか、お兄ちゃん。あの女と、一緒に寝たんじゃ……」
返事はない。お兄ちゃんは俯いたままだ。
首筋に鼻を近づけて、匂いを嗅いでみる。
……? お兄ちゃんの芳しい体臭だけ?
女の家に行ったのに、一切女の匂いがしないって、どういうこと?
お兄ちゃん、本当に藍川の家に行ったのかしら?
「悪い。部屋に運んでくれ」
「う、うん。わかった」
よくわかんないけど、眠そうにしているお兄ちゃんはこのままにしておけない。
この機会を逃すのは惜しい。いっぱい悪戯したい。
でも、自分でもよく分からないけど――今日のお兄ちゃんはとってもすごいことをしてきたように感じる。
だから、いっぱい休ませてあげたい。
お兄ちゃんの部屋には布団が敷きっぱなしになっている。
私が事前に用意していた。お兄ちゃんがいつ帰ってきても良いように。
「着いたよ、お兄ちゃん」
「……おう」
お兄ちゃんを床に座らせる。すると勝手に後ろに倒れてくれた。
数秒のうちに穏やかな寝息が聞こえてきた。胸がゆっくりと上下し始めた。
「おやすみ、お兄ちゃん」
夏とはいえ、風邪を引かないとは限らない。タオルケットをお兄ちゃんの体に被せてあげる。
なんだか、子供みたい。寝顔、いくつになっても、いつ見ても、変わらないね。
子供の頃のまま。私が昔から知っているお兄ちゃんのまま。
もう、何年も昔。
伯母さんにいじめられている私を、お兄ちゃんは身を挺してかばってくれた。
強く抱きしめて、私を励ましてくれた。伯母さんに、私をいじめないでって何度も言っていた。
伯母さんを包丁で刺した時は驚いた。お兄ちゃんが怖くなった。
でも、それは全て私を守るためにしたことなんだって、すぐに気付いた。
お兄ちゃんは、他の人を誰一人傷つけなかったもの。
花火ちゃんが止めに入っても、手は出さなかった。
これからもお兄ちゃんは私を守ってくれる。ずっと、ずっと。
その確信が揺らぎ始めたのは、十歳になった頃。
クラスの女子が泣いてたから理由を聞いてみたら、年上の兄に叩かれた、って言った。
信じられなかった。どんなお兄ちゃんも、私のお兄ちゃんみたいに妹を守るものだと思ってたから。
不安になって皆に聞いたら、兄妹にもいろんな在り方があるんだって気付かされた。
いじめる、叩く、馬鹿にする、悪口を言う、嫌う。他にも、たくさん。
私のお兄ちゃんにはそんな部分はなかったけど、それでも、不安になった。
私が頑張り始めたのは、それから。
お兄ちゃんに嫌われないよう、お兄ちゃんが好きだって言い続けるようになった。
だって、好きだって言い続ければ、好きになってくれるはずだもの。
少なくとも、私のお兄ちゃんは絶対にそう。
その甲斐あって、私はお兄ちゃんと良い関係を保ち続けている。
お兄ちゃんは私に優しくしてくれる。馬鹿なことを言っても、ちゃんと相手してくれる。
さすがに、今みたいな気分になるとは予想外だったけど。
「キスしちゃってもいいよね、お兄ちゃん。ここまで運んだお礼、頂戴」
ちなみに駄目だって言っても、しちゃうから。
油断大敵よ、お兄ちゃん。
薄く開いた唇。ずっと欲しかったお兄ちゃんの唇。
私にとっての聖域。そこにたどりついた私はきっと、これ以上なく清らかな気持ちになれる。
清らかだもん。兄妹のキスなんておかしくないもん。小さい頃からいっぱいしてきたんだから。
「……うーん」
でも、なんかカタルシスが無いっていうか、ムードが足りないっていうか。
やっぱり、今日はほっぺたにしとこう。
お兄ちゃんの右の頬に口づける。
そのまま舌で舐めたり、吸い続けているうちに、お兄ちゃんが身動ぎした。
口惜しさを感じながら、唇を離す。
「じゃあ、おやすみなさい。お兄ちゃん」
そう言って、顔を離した時だった。
寝返りを打ったお兄ちゃんが、私の体を抱きしめたのは。
「え……ええ、え?」
混乱する。きっと寝ぼけているだけなんだって、冷静に判断できる。
でも、このシチュエーションって。
たまにお兄ちゃんが寝ているところに忍び込んで、寝顔覗いてる時の妄想、そのままじゃない!
エッチな夢を見てるお兄ちゃんが、たまたま隣に居た私を相手にエッチする、っていうやつ。
ってことは、何。
今から私、お兄ちゃんに抱かれちゃうの?
――やば。部屋に行ってシたくなってきた。
この経験があれば、これから一ヶ月、いえ三ヶ月、いいえ半年は困らないわ。
ここまで最高のネタがあったかしら? いいえ、あるわけがない。
心臓の鼓動がうるさいし、吐息が熱いし、むずむずするし。
すぐにここから逃げたい。早く溜まった欲望を解き放ってやりたい。
お願いお兄ちゃん、この手を早く離して。私を自由にしてちょうだい。
……あれ? でも。
これ、よく考えたら逃げる必要ないんじゃないの?
だって、想像通りなら、私ここでお兄ちゃんに初めてを捧げるのよ。
何を拒む必要があるの? 奪い取られなさい。今は性欲に任せる時なのよ!
「で、では。遠慮無く」
小声で呟いてから、お兄ちゃんとの距離を縮める。一緒のタオルケットの中に入る。
わああ――――お兄ちゃんの顔だ……。吸ってる息が全部お兄ちゃんの吐息だ。
将来の仕事を選べるなら、間違いなくお兄ちゃんに添い寝する仕事を選ぶわ。
これって、私向きの仕事よね。絶対に私以外には果たせない仕事だわ。
他の人間には任せられない。もし前任者がいたって、すぐに地位を奪い取ってやるわ。
では、未来へ向けての努力、その一。
お兄ちゃんに私のおっぱいを揉ませる。
大事な事よ。大事な事だわ。大事な事でないわけがない。
お兄ちゃんの手に私の感触をすり込ませる。
そうすれば、私のおっぱい以外じゃ満足できない、でかいものがいいわけじゃないって体が覚える。
悪いわね、花火ちゃん。唯一のあなたのチャームポイントを奪ってしまって。
その余分なものは、お兄ちゃん以外の男に味わわせてあげて。
そうね、兄さんなんかいいんじゃないかしら。
幼なじみだし、お似合いだと思うわよ。
お兄ちゃんの左手は私の背中に回っているので、右手を握る。
起こさないようゆっくりと肘を曲げて、手を広げる。
すでに、何かの拍子でお兄ちゃんが動けば、絶対に揉まれてしまう。そんな位置だ。
どきどきしっぱなし。おっぱい揉ませたら、心臓の鼓動を感じて起きちゃうんじゃないか。
ほっぺたにキスするのとは全然違う。
だって、男に揉ませたこと一回もないんだもの。今から初めてを奪われてしまうのね。
ごめんなさい、お祖母ちゃん、お父さん、お母さん。
私は今この時から、淫らな女の子になります。
意を決して、お兄ちゃんの手を胸に押し当てる。
もう、それだけで体の芯までしびれた。シチュエーションが理想通りすぎる。
「ん……は、ぁん……こ、れ。こんなのって……」
体をくねらせ、お兄ちゃんの指を激しく動かし、愛撫させる。
手が届かないと諦めていたものが、手に入ってる。文字通りの意味。
顔も、呼吸も。どこまでも熱くなっていく。
「も、う……これだけで、イっちゃい、そ…………あぁっ……」
お兄ちゃんの顔。唇。朝だから、よーく見える。
ここまでやったなら、後戻りはできない。
「おにい、ちゃん……」
目を閉じて、顔を近づけていく。お兄ちゃんの唇を、これから奪う。
「――――あぁっ!?」
唐突に、強烈な快感が背筋に走った。
背中に暖かな手の感触。Tシャツの上からじゃない。素肌に当たってる。
お兄ちゃんの手が、シャツを避けて、背中をなで始めた。
「あっ、や……やめ、いひぅっ! だめ、だめぇ……そこ、弱くて、触っちゃ、やぁぁ……」
神経を愛撫されているみたいに、脳も、指先も痺れる。
上から下に。腰から首に。お兄ちゃんの指先の感触が絶えず動く。
いつのまにか私はお兄ちゃんの手を離していたみたいだった。
だって、さっきまで服の上にあったはずの右手が、服の中に入り込んでいるんだもの。
「やだ、寝ぼけてるの、お兄ちゃん……」
そうじゃなきゃ、こんな大胆なこと、絶対にしない。してくれない。
お腹を撫でて、脇を撫でて……両手で背筋を刺激するなんて。
「……はっ、ぁ……ぁぁ、んん、んぅ……」
喘がないようにしても、結んだ唇の端から漏れてくる。
お兄ちゃんを起こさないようにしてるのに、お兄ちゃんがそれを許してくれない。
「ひどいよぅ……おにい、ちゃ……んぁ、ぁふ……」
いじめられてる。お兄ちゃんに、性的な悪戯をされてる。
私の体を弄んで、たっぷり感じさせて、いつまでもじらし続ける。
こんなんじゃ、生殺しだよぉ…………
背中を撫でていた手が、ブラのホックを外した。
ここにくるまで、私にとっては永遠に続きそうなほど長かった。
下着の拘束が緩んで、隙間ができる。お兄ちゃんの手は容赦なくそこに入り込んでいく。
両手で、左右から脱がしていく。
呼吸が普段通りにできない。何キロも続けて全力で走った後みたい。途切れ途切れ。
お兄ちゃんの手が、とうとう前の方にやってきた。
ブラはもう完全にずれてる。肩に引っ掛かってるだけ。
お兄ちゃんの手が、私のおっぱい揉んでる。
直接、何にも遮られず、指先が乳房をいじり出す。
喘ぎ声を我慢する余裕は無くなってた。快感に全ての制御を任せ、悶える。
悶えて、欲望を檻から解き放ち、より強い快感を得ようと、全身を熱で満たす。
たまに指先が乳首に当たる。そんな些細なもので、一つ喘いでしまう。
「お兄ちゃん、おにいちゃん、おにい、ちゃん…………お兄ちゃんっ」
好き。好き。大好き。
いくら叫んだって、この気持ちは伝えられない。
どれだけお兄ちゃんを欲しいかは、どんなに強くその体を抱きしめても伝わらない。
お兄ちゃんと一つになれないことがもどかしくて涙が出そう。
もう隠せない。
隠す壁は確かにあったはずなのに、もう爆発して木っ端微塵になって、跡形もない。
セックスして。
純潔はお兄ちゃんのために大事にとってたの。いつか来ると思っていた、その時のために。
今がその時。今以外の機会は、後にも先にも無い。
お兄ちゃんになら奪われても良い。むしろお兄ちゃんじゃなきゃ嫌。
私のわがままを聞いて。
お兄ちゃんのためならなんでもする。
恥ずかしいことでも、ちょっと怖いことでも、なんでも。なんでも、なんでも……なんだってするから!
だから、私を選んで。私だけを抱いて!
お兄ちゃんの穿いているジーンズを脱がしていく。
ベルト、トップボタン、ジッパー。ジーンズと一緒にパンツも力任せにずらす。
飛び出したのは、勃起しているお兄ちゃんのモノ。弾かれたせいで揺れる、男の人特有の、男性器。
顔を近づけて良く見る。傘の部分が少し濡れている。初めて見たけど、誰もが皆こうなんだろうか。
そこは、お兄ちゃんの匂いが一番強い。
「こんな大きいのが、体に入るっていうの……」
本当に? ひょっとして私の知ってる知識って、嘘だったりしない?
だって、見てるだけで……体を串刺しにされるような感覚を覚える。
もちろん例えだけど、目の前にすると、あながち例えだと言い切れないような。
で、でも!
お兄ちゃんのなら平気よ! 平気だもん! 怖くなんかないわ!
うう。確か、前に読んだ本によると男の人の性器を撫でたり、キスすると気持ちいいんだ、って。
寝てる……よね。お兄ちゃん。
何の夢見てるんだろう。私の夢だったらいいんだけど……他の女との夢だったら?
途端に憎らしくなってきたわ。
私をこれだけ夢中にさせて、感じさせたくせに。自分は気分に合わせて誰にでも興奮する、なんて。
そんなの許さないからね。
お兄ちゃんは私の。私だけの恋人なんだ。浮気なんか許さない。
お兄ちゃんを気持ちよくさせられるのは、私だけなの!
そびえ立つ一物を両手で包み込む。びくびく震えてる。体のどの部分よりも熱い。
おもむろに顔を近づけ、濡れている傘に唇を付ける。
濡らしている液体は、ぬるぬるしてて、言い表せない奇妙な味をしてた。
だけど、お兄ちゃんのものだと思えば、抵抗感は無くなってしまう。
陰茎を上下に愛撫しながら、傘を舐めていく。
裏のちょっとくぼんだ部分を、舌先で集中して攻める。
そうすると、お兄ちゃんの体が小さくピクッとする。
反応を楽しみ続けていると、次第に陰茎が膨らみだした。
きっと強く感じてるに違いない。キスを幾度も繰り返して、小さな穴を舌で拡げる。
お兄ちゃんの腰が動いたのはその時。弾みで半ばまで口にくわえ込んでしまった。
「ン、んぐぅっ?!」
間髪入れず、口内にいっぱい熱いものが注がれた。口の中を全部満たすんじゃないか、って思った。
臭いが口から鼻へ流れていく。とっても臭い。
ねばねばしているものが、歯にも舌にも口内にも、絡みついていく。
吐き出してお兄ちゃんの布団を汚したくなくて、私はねばねばしたのを全部飲み下した。
「あれ、精液って、もしかして今の……なの?」
妊娠するためには膣の中に出さないといけない、って知ってるけど、飲んでもいいものなの?
今のところなんともないから、大丈夫よね……きっと。
「……トイレ」
お兄ちゃんの声が聞こえて、びっくりした。
なんとなく自分のしていることが悪いことに思えて、ずらしていた下着とジーンズを元に戻してしまった。
一度もやったことない動きだったのに、恐ろしいほど手際よく手が動いた。
「お、お兄ちゃん? 起きちゃった? ごめんね」
「妹か? なんで、ここに……まあいいか」
あれ、いいんだ、添い寝してても。添い寝っていうか、ほとんど性行為だったけど。
「と、トイレに行ってくるの?」
「悪い、ちょっとだけ……」
タオルケットをどけると、壁を伝いながらふらふらと部屋を出て行った。
扉が閉まる。……行った、わね。よし。
戻ってくるまでに部屋に行って、あれをとってこないと。
ゴム。避妊具だ。
ここまでやったのだから、お兄ちゃんには絶対に本番までやってもらう。そうなったら、ゴムが必要。
お兄ちゃんとの間に子供が欲しくないのか、というと、否。欲しいに決まってる。
だけど、何事も計画的じゃなきゃいけない。
私は冷静に物事を判断できるの。さっきは、妊娠でも子供でも何でも来い、って気分だったけど。
お兄ちゃんの部屋から出ようと、扉を開ける。すると、そこに見知った顔があった。
「……花火ちゃん?」
「よう、ちっさい妹。アニキの部屋で何をやってたんだ?」
「それはこっちが聞きたいわ。なんで人様の家に勝手に上がり込んでるの」
「玄関の鍵、開けっ放しだったぞ。入られたくないんなら鍵をかけておけよ」
花火ちゃんは、いつもみたいに男っぽい喋り方で話しかけてくる。
しかし、全てがいつも通りというわけじゃない。
眉間に青筋が浮かび上がっているし、右手が拳骨の形になっている。
「何怒ってるの、花火ちゃん」
「怒らないとでも怒ってるのかよ。
アニキの布団の中に潜り込むなんて、ずるい手を使いやがって。まさか、手を出したんじゃないだろうな」
あれ、さっきしてたことは見てないの?
それなら良かった。バレてたら、何か言うよりも先に、花火ちゃんは手を出しただろう。
「いいえ。まだ何も。添い寝していただけよ。
私は、勝つための手段をとり続けているだけのことよ。それをずるいだなんて、考え方が甘いんじゃないかしら」
「勝つために、か……そういうことなら、私は最後のカードを切らせてもらおうかな」
花火ちゃんが一歩踏み込んできた。後退する。また近づかれた。下がる。
じわじわと距離を詰めながら、花火ちゃんが言う。
「ちっさい妹。許せ。全てはアニキを手に入れるため。アニキの幸せのため。お前は犠牲になれ」
「……なんですって」
「安心しろ、命までは奪わない。二度とアニキの前に姿を現わしたくない、と思わせるだけだ」
そんなことを聞かされて安心するわけがないじゃない!
退路は? 正面突破は無理。
それなら、窓から飛び出すしかない。鍵が掛かっていたら、窓を割って外に出る。
この部屋でお兄ちゃんと続きをできないのが残念だけど、命には替えられない。
とりあえず支援♪
「ねみい……」
どのタイミングで飛び出そうか図っている途中、お兄ちゃんが戻ってきた。
寝ながら歩いて居るみたいな有様だった。全然前を見ていない。
花火ちゃんはお兄ちゃんの存在に気付くと、お兄ちゃんに道を譲っていた。
「あ……アニキ。おはよう」
「おはよう。悪いけどまた寝るからな」
お兄ちゃんは誰に話しているかわかっているんだろうか。
あの様子だと分かって居なさそうな気がするわ。
お兄ちゃんは布団の方じゃなくて、私の方に近づいてくる。
何を頼りにして歩いているんだろう。匂い?
さっきまでぴったりくっついてエッチなことしてたから、ありえる。
「おう、こんなところに居やがったか」
「お兄ちゃん、布団はあっちで――」
「枕が逃げるな。眠れん」
はい?
疑問の声をあげるより早く、私は押し倒されて、のし掛かられた。
その様子を見ていた花火ちゃんが、叫んでから、私の方に近づいてくる。
私とお兄ちゃんを力尽くで引き離すつもりなのだろう。
だけど、そんなことをしても無駄。
私は笑顔を浮かべて、花火ちゃんを見返した。
見てたでしょ。お兄ちゃんが私を押し倒すところ。
花火ちゃんの出番はないのよ。女の魅力で負けたんだから。
早く帰って、お兄ちゃんに優しくされる妄想をしながら自慰してれば?
花火ちゃんはさらに顔を赤くして、詰め寄ってくる。
でも残念。私の上にはお兄ちゃんがいるから、手を出すことはできやしない。
それでも構わず花火ちゃんは拳を振りかぶり、私の顔だけを狙って拳を放った。
馬鹿ね。どこを狙ってくるかバレバレな攻撃を、避けない敵がいるとでも思ってるの?
これはゲームじゃないのよ。たった一人の人間の奪い合いなんだから、負けられないの。
避けるに決まってるじゃない。
首を捻って攻撃を躱す。
風圧を頬で感じた。部屋中の床の畳をひっくり返すんじゃないか、って思うぐらい強力な一撃。
でも。
「当たらなきゃ意味ないのよ、花火ちゃん」
「黙れ! まだまだこれからだ!」
そう言って、花火ちゃんが拳を戻す――ところで、お兄ちゃんが呟いた。
「……あれ、コレジャナイ。これ枕違う」
私の体の上でうつぶせになっていたお兄ちゃんが、体を離した。
花火ちゃんは不意を突かれて止まっていた。その隙をついて、お兄ちゃんは花火ちゃんの腕をとった。
お兄ちゃんが私の視界から居なくなる。次の瞬間には、別の場所に移動していた。
一瞬の間に押し倒した、花火ちゃんの体の上に。
「――あ、アニキ? ……あの、えと」
「ああ、こっちか」
「へ?」
「枕はこっちだ。そこのじゃない」
お兄ちゃんが、花火ちゃんの体を、敷き布団代わりにした。
大きなおっぱいを枕にして、うつぶせになって眠っていた。
「な、なにやってんのよ、お兄ちゃん!」
「な、ちょ、何だ。なにやってんだアニキ! ちっさい妹、これはどういうことだ!」
「コレジャナイって、そこのじゃないって、どういうことよ! 私だって枕代わりになるわよ!
いつか絶対に花火ちゃん以上大きくなるんだから! そうに違いないわ!」
「あっ……アニキ、私の胸は枕じゃなくって、でも……ちょ、揉むなよアニキ!
バカ、胸は……弱いんだってば。やめろ、ってば……こんなのまだ、駄目だって……ふぁっ……」
「さっきはあんなことまでしたくせに! お兄ちゃんの……バカぁぁぁ!」
――結局、お兄ちゃんは花火ちゃんの胸を枕代わりにしたまま、お昼過ぎまで眠っていた。
よほど疲れていたんだと思う。
でも、理由があるからって、お兄ちゃんが私にやったことは許されるわけじゃない。
私は決意した。今度お兄ちゃんがあんな状態になったら、絶対にモノにすることを。
そして、邪魔者が家に入りこまないよう、戸締まりをしっかりする。
今回、私にとっての収穫は、毎夜のネタに困らなくなったという点に尽きる。
キスはしてないけど、おっぱいは揉まれたし、精液飲んじゃったし。
これはもう、次があったら絶対にお兄ちゃんに処女を奪われてしまう。
その時が来るのが、今から楽しみでしょうがない。
せめてそれまでに、コレジャナイとか言われないぐらい、胸が大きくなってますように。
絶対に、どんな手段を使ってでも、花火ちゃんには負けない。
譲れないのよ、お兄ちゃんの隣の位置だけは。
これから一生をかけて、恩返ししていくんだから!
以上で投下終了です。
IFストーリーだということを書き忘れてしまってごめんなさい。
本編が超気になる段階でIFだと…!?だがGJ!
弟のIF以来のエロさだったなあ。ていうか裸の藍川さんすら無視出来るとか流石ジミー…
本編でも葉月と妹でおこりそうなシチュエーションですねGJ
ifだと‥‥!?
なんという焦らし
1週間が辛い
GJ!
IFとはいえ妹は恐ろしい子!
お父さんお母さんの二の舞にならなければいいが…
IFなんていうのは作者のオナニーだってことにいつ気づくんだ
関係ない話は本編終わってからにしろよ
まさかまたIFが来てくれるとはこの海のリハクの眼をもってしても見抜けなんだわ
本編と関係性の違うキャラ達に兄がどう接しているかが気になっていただけに嬉しい
>>619 実はIFの方が楽しみなわしはどないしたらええのんや
この作品の場合、まともに読んでいればそんな言葉が出てくるはずないんだが
その昔リハク・トホ・ハッキョイというヤンデレ作家が…
なんつって
ifだと…
ふう。次の週末まで全裸待機か…
ぶっちゃけifはな…
正直最近のヤンデレ家族ばかりに執着するおまいらきめぇ…
他にも良い作品が結構投下されてるのに
コメすらしないとかな。もうこのスレも終わりだな
ここから新しいヤンデレスレ
>>627 他のSSにも十分レスついてるんですけど?
それに2chでコメとか使ってるお前も十分キモイから
ニコニコに帰りな
ifって……
じゃあ、俺風のヒューイ
別にifだろうがなんだろうが書いてくれるだけありがたいだろ
ifのほうもスレの趣旨と違ってるっていうわけじゃないしさ
問題があるならともかく
作者にうるさくいってるうちにこなくなったら最悪だろ
確かに…最近投稿が滞ってますからね…
泥棒猫という名の猫はいるのだろうか?
102 名前: ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:25:00 ID:TF5JALGM0
いつもお手数かけます。
触雷!の15話です。
103 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:25:37 ID:TF5JALGM0
「とくあのくたらさんみゃくさんぼだい こちはんにゃはらみった……」
恐怖のあまり、布団にくるまって般若心経を唱えていると、ソフィさんが呼びに来た。
「詩宝様。お食事の用意ができました」
「は、はひ……」
何かの発作のように手をガクガクさせながら、僕はベッドを這い出る。
ソフィさんはワイシャツとズボンを持ってきていて、僕はそれを着せられた。
そのままソフィさんに連れられてダイニングに着くと、僕は後ろ手に手錠をかけられ、椅子に座らされる。
「あの、これは一体……」
「黙ってください。詩宝様に人権はないんですから」
「…………」
そう言われると、僕は一言も言えない。
やがて、先輩とエメリアさんがワゴンを押して入って来て、テーブルに食事を並べ始める。
「詩宝さん。はい、あ〜ん」
そして、3人がかりで食事を口に入れられた。
紅麗亜のときと同じだ。
もっともこの場合は、僕の手を自由にしたら、何をするか分からないと疑ってるからなんだろうけど。
と思いきや、食事が終わるとあっさり手錠は外された。
今度はエメリアさんに連れられ、一室で彼女と向かい合う。
何故か、ジャージに着替えさせられた。
「これから、詩宝様の更生カリキュラムを始めます」
「はい」
更生と聞いて、僕は頷いていた。
昨日の今日で、手回しがよすぎる気がしないでもないが。
「では、これをどうぞ」
「え!?」
差し出されたものを見て、僕は驚いた。トカレフだ。
一体、これで何をやれと言うのだろうか。
「…………」
受け取るのを躊躇していると、強引に握らされた。
「時間がありませんので」
握ってみると、ずっしりと重い。まさかこれは……
「モデルガンの入手が間に合いませんでしたので、今回は実銃で間に合わせます」
普通は逆じゃないだろうか。
いや、それ以前に、実物なんか手に入れていいのか。
「ご安心ください。実弾ではなく暴徒鎮圧用のゴム弾を装填しております」
それはもしかして、ギャグで言っているのか?
僕は慌てて弾倉を外し、スライドを動かして弾丸を抜いた。
「一体これで、僕に何をしろと……?」
「はい。それではご説明いたします。まず最初に詩宝様、あなたは性犯罪者です」
「はい」
全くもってその通りだ。
「1人暮らしの女性の住居に侵入しては、拳銃で脅してレイプする行為を繰り返している、常習犯です」
「え? いや、そこまでは……」
エメリアさんが何を言っているのか、僕には分からなかった。
先輩は1人暮らしじゃないし、拳銃で脅してもいない。
「失礼しました。今のは設定上のことです。現実の詩宝様とは関係ありません」
「設定?」
「はい。これからしていただくのはロールプレイです。詩宝様には、現実の性犯罪者に成りきっていただき、犯行をシミュレートしていただきます」
「ははあ」
「シミュレートを通じて、性犯罪者がいかに惨めなものか、詩宝様に実感していただきます」
「はい……」
趣旨は分かった。もっとも惨めさなら、もう十分すぎるほど感じているのだが。
「というわけで今回は、詩宝様が拳銃を持った性犯罪者役、お嬢様は被害者役です」
「そ、そうですか……」
本当にトカレフ一丁で先輩に立ち向かう人がいたら、古今無双の命知らずか、真性の脳天パーだと思うけど、そこはお芝居ということなのだろう。
「今回は初めてですので、台本を用意しました」
そう言うと、エメリアさんは僕に薄い冊子を手渡した。
104 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:26:02 ID:TF5JALGM0
受け取って読んでみると、何というか、その、18歳未満お断りの小説から、そのまま引き写してきたような内容だった。
エメリアさんの説明の通り、先輩が1人で住んでいる部屋に僕が侵入し、拳銃で脅してレイプするという筋書きだ。
「……本当に、これやるんですか?」
「そうです。早速お願いします」
「でもその、この役回りはまずいんじゃ。先輩には僕に襲われたトラウマとか……」
「詩宝様を更生させるためなら、どんなことでもするとお嬢様は仰せです」
「…………」
そこまで言われると、何も言えない。
「くれぐれも言っておきますが、台本に書いてあることは全部実行してください。手を抜いたりしたら、後でひどいですよ?」
「は、はい……」
怖い。僕は冷や汗を流し、何度も頷いた。
「それでは早く。後がつかえていますので」
「後?」
「いいから」
エメリアさんにせき立てられ、僕はトカレフと台本を持って部屋を出た。
そのまま別の部屋の前まで引っ張られる。
「ここです。どうぞ」
「は、はい……」
こうなったら仕方がない。僕は台本をエメリアさんに渡すと、覚悟を決めて、ドアをノックした。
コンコン
バン!
その瞬間、エメリアさんにビンタされた。なぜかおっぱいで。
いい感じに脳が揺れたらしく、頭がクラクラする。
「ノックするレイピストがどこにいますか!?」
「ひいい!」
僕はドアを開けて、逃げ込むように部屋の中に入った。
部屋の中は薄暗く、ベッドが置いてある。先輩が寝ているようだ。
僕はベッドに忍び寄り、空のトカレフを突き付けて、台本にあった台詞を言った。
「おい、起きろ」
「キャッ! 誰ですか?」
起き上がった先輩も、台本通りの台詞を返してくる。
「大人しくしろ。騒ぐと殺すぞ」
「お願いです。殺さないでください。お金なら上げますから……」
手を合わせる先輩。どういう訳か、顔が微妙に笑っている。
「金じゃねえ。てめえを犯すのが目的なんだよ!」
こんなストレートな犯人っているんだろうか?
ともかく、台本通りにしないといけない。僕は手を伸ばし、先輩のシュミーズを引き千切った。
先輩の白い裸身が露になり、無体に大きな胸が丸見えになる。
「いやんっ! 誰か助けて!」
「騒ぐなって言ってるだろう!」
僕はトカレフの先を、先輩の乳首に押し当てた。
「あんっ! ごめんなさい」
「へっへっへ……こいつは上玉だぜ」
空いている左手で、先輩のおっぱいを鷲掴みにする。
「あうっ!」
「この前襲ったブスでデブのメイドとは大違いだぜ。いやむしろ、あのメイドのときは裸見て萎えちまったからな」
この台詞は、台本の上で2重線が引かれており、“必ず言うこと”という但し書きまであった。
「さあ、犯してやるから股を開け!」
「はい。言う通りにしますから命だけは……」
先輩は掛け布団を押しのけ、大きく足を開いた。
僕は先輩にのしかかり、屹立を出して先輩の秘裂にあてがおうとしたが……
緊張のせいか、なかなかうまく行かない。
焦っていると、先輩が下から僕のものを握り、彼女自身に迎え入れてくれた。
「うっ……済みません」
「ああ……いいんです。続けてください」
挿入の強烈な快感に耐えながら、僕は腰を振った。
どう動かせばいいのか、正直分からないのでかなり適当だ。
105 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:26:30 ID:TF5JALGM0
「ああんっ! いやあっ! そんなに動かしちゃ駄目っ!」
「うぐっ、あああ……」
「いぎいっ! 気持ちいいっ! いっちゃう!」
そんな声がしばらく室内に響く。
そして限界が訪れた。
先輩の中に放った僕は、先輩の体に覆いかぶさって荒い息をつく。
「はあ、はあ……お前気に入ったぜ。これからずっと俺の肉便器にしてやる」
この台詞にも2重線が引かれていた。
「はい……嬉しいです。私一生、あなたの肉便器になります……」
涙を流して先輩が言う。台本にあった、先輩の最後の台詞だ。本当なら、被害者がこんなこと言うはずないと思うのだが。
「はい。カット!」
そのとき、急に部屋の照明が明るくなり、エメリアさんが入ってきた。
「エメリア……もう少し余韻に浸らせなさい」
「いけません。詩宝様の更生は寸秒を争うのですから、すぐに次のカリキュラムに移らなくては」
仏頂面で文句を言う先輩を尻目に、エメリアさんは僕の腕を掴むと、強引に部屋から引き摺り出した。
「あの、次のカリキュラムって……?」
「ロールプレイは何度も繰り返し行わなくてはいけません。次は私が被害者役になります」
「ええええ!?」
で、また台本を渡された。服は背広に着替えさせられる。
別室に移り、シミュレーションが始まった。
僕は高そうな椅子に腰かけ、手に持ったグラス(中身はコーラ)を弄ぶ。
足元には、スーツ姿のエメリアさんが土下座していた。
「も、申し訳ありません。お金はもう少し……」
「これで何度目だ? 全く使えない女だな」
気が進まなかったが、台本に書いてあったので、僕は靴の裏を軽くエメリアさんの頭に当てた。
「金が払えないなら、連帯保証人のお前の親戚から取り立てるしかないな。家屋敷、全部売り払ってもらおう」
「ご、後生ですからそれだけは……」
「それじゃあ、いつものように楽しませてもらおうか?」
僕がそう言うと、エメリアさんは「はいっ!」と言って、着ている物を全て脱ぎ捨てる。(何故か、最初から下着を着けていなかった。)
「失礼します……」
エメリアさんは僕の足の間に跪き、ズボンからシャフトを出すと、舌で舐め始めた。
「金を稼ぐ才能は全然ない癖に、しゃぶるのだけはうまくなってやがるな」
僕はエメリアさんの髪を掴み、口の中に強引に突き入れる。もちろんこれも、台本に書いてあった。
「んぐっ、んぐぐっ……」
「さあ、雌犬みたいにマンコを広げるんだ」
僕がエメリアさんの髪を放すと、彼女は床に四つん這いになり、あろうことか自分の秘部を指で広げた。
「ああん……借金まみれのクソ雌犬の、ド汚ないマンコを犯してください……」
彼女のお尻に近づいた僕は、いきり立ったものを差し込もうとしたが、後ろからするのが初めてなので、うまく入らない。
「え、ええと……」
「もう少し前です」
「こ、こう?」
「そうです。ああっ!」
エメリアさんのアドバイスのおかげで、ようやく結合できた。
そして腰を振り始める。
「オウッ! アウッ! 来るっ! 来るっ!」
「んんっ……あああ……」
106 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:27:26 ID:TF5JALGM0
やがて僕の先端から白濁が迸ると、同時にエメリアさんは床に崩れ落ちた。
「アアウッ……最高……」
「はっ……がはっ……」
一方僕の方は、2回連続のシミュレーションで、体がかなり参っていた。
ここで少し休憩したいところなのだが……
バン!
「終わりましたか!?」
そうは問屋が下ろさなかった。
勢いよくドアを開け放ち、ソフィさんが入ってくる。
彼女はなんと迷彩服に身を包み、自動小銃を構えていた。
「ギャー!!」
心底驚愕した僕は、思わず両手を挙げていた。
「撃たないでください! 話し合いましょう!」
「次の台本です」
ソフィさんは、無造作に僕に冊子を寄こした。
読んでみると、僕は今度はゲリラ役で、ソフィさん扮する捕虜に性的拷問を行うらしい。
だんだんシチュエーションが、日常からかけ離れてきた気がする。
本当に、僕はこれで更生できるのだろうか。
だが、そんな疑問を差し挟める雰囲気ではなかった。
「さあ。やりましょう」
ソフィさんに首根っこを掴まれ、僕は次の部屋に連行された。
「いい加減に、白状したらどうなんだ?」
「アンッ……軍の機密は、絶対に漏らさないわ……」
薄暗い部屋の中。僕は迷彩服を着て、全裸に帽子だけのソフィさんを尋問し始めた。
ソフィさんは両手を上に挙げた状態で、天井から下がるロープに縛られ、椅子に座っている。
彼女の両足は肘かけに乗って縛られており、股間が無防備で晒されていた。
僕は台本通り、乳首をつねる拷問から始める。
「さあ、吐け!」
「いいっ! ええと、嫌よ!」
ちなみに、どんな機密を聞いているのかは僕も知らない。台本に書いてなかったから。
「ふふふ。いつまでそんな強情を張っていられるかな?」
僕は置いてあった鞭を取り、ソフィさんの太股を打った。
ピシリ
途端にソフィさんの叱責が飛ぶ。
「弱い! 弱いです! もっと強く!」
「はっ、はいっ!」
僕は慌てて、力一杯鞭を振るった。疲れてるのに。
ビシッ! バシッ!
「アッ! アウッ! まあいいでしょう」
「……さあ、吐く気になったか?」
「絶対に嫌です……」
自分の体にできた蚯蚓腫れを、笑みを浮かべて見つめるソフィさん。
僕は、怒張したものをズボンから出して見せた。
「じゃあ、最後の手段しかないな」
「ああっ、それだけは駄目……」
ソフィさんは顔を赤らめて、目を逸らした。
「嫌なら白状するんだ」
「で、でも……」
「残念だったな。タイムリミットだ」
先端をソフィさんの女陰にあてがい、挿入する。
ちなみに今回は、台本がここで途切れていた。
まあ、このままレイプして終わりなのだろう。
僕は腰を動かし始めた。
「アアッ! イイイッ! オオンッ!」
「ああっ……ぐうっ……」
そしてソフィさんの中にも、放出した。
――これで終わった。
安心した僕は、引き抜こうとした。ところが……
「アアンッ……白状しますから、抜かないで。もう一度して……」
「え!?」
まだ終わりじゃないのか、雰囲気的に、明らかにもう一度しなければいけない感じになっている。
「あの、でも……」
「あなたの知りたいこと、全部教えるし、これからはあなたの忠実な部下になるわ。だからお願い、もう一度ファックして……」
「…………」
結局、2度に渡ってソフィさんとした僕は、ほうほうの体でベッドに倒れ込んだ。
惨めというより、ただただ疲労困憊していた。
本当に僕は、立ち直れるんだろうか……
107 名前: ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/08/22(日) 23:28:38 ID:TF5JALGM0
今回はここまでです。
また近いうちに投稿いたします。
転載終了したら480KBだった。
次スレ立ててくる。
触雷乙!
紅麗亜がどう動くか楽しみだな
触雷!まってたぜ!これ紅麗亜が見たら怒り狂うってレベルじゃすまなさそう……つーか異形の怪物になるんじゃね
触雷!を楽しみにしてました。
紅麗亜と晃の反撃も楽しみです。
埋めネタが楽しみだぜ!
>>642 GJ。不覚にもむらむらした。
この二重線が引かれている箇所って……まさか証拠として録音してるんじゃ?
立ち直るどころか、泥沼に引きずり込まれている雰囲気がびりびり伝わってくるぜ。
赤と緑と黒の話更新してたのね
乙でーす
埋め
652 :
とある支援兵の闇鍋:2010/08/24(火) 19:51:47 ID:+1X7RbPv
653 :
かんきんされてるのは、ぼく:2010/08/24(火) 23:05:05 ID:KnMWpfd0
まとめサイトから飛んできたモノです。
こちらの小説に触発されて、勢いで一つ書いてみました。
暇つぶしにでもなれば幸いです。
それでは、投下させていただきます。
654 :
かんきんされてるのは、ぼく:2010/08/24(火) 23:08:35 ID:KnMWpfd0
テーブル、本棚、デートで買った大きなぬいぐるみ。
一見してごく普通の女の子の部屋だ。
ただし、その部屋の奥には普通で無いモノがある、というかいる。
ベッドの上で四肢を拘束された男、つまり僕だ。
そんな部屋に、一人の女性が帰ってくる。
「ただいま、アキラくん!」
長い髪を後ろで束ねた一見快活そうな女性、ユカリさんだ。
彼女がどこか歪んだ笑みを僕に向ける。
「おかえり、ユカリさ…」
僕がそう言い終わらないうちに、ユカリさんはベッドの上の僕に飛び込んでくる。
そして、濃厚なキス。
互いの舌が絡み合う。
「フフ、アキラくんに会うの、待ち遠しかったぉ、ボク…」
しばらく僕の口の中を味わうと、ユカリさんは言った。
「おかえり、ゆかりさん」
僕は改めて言う。
「遅かったね」
僕の言葉に、意外そうな顔をするユカリさん。
「ユカリさんの毎週金曜の帰宅時間は午後7時。今日は7時15分。―――毎日きっかり同じ時間に帰ってくるのに、どうしたのかな、今日は?」
僕は穏やかな笑みを浮かべて言った。
けれど、ユカリさんの顔からは一瞬にして笑みが消えていく。
「…何で、そんなこと気にするのかな?」
ユカリさんの細い指が、僕の首にかかる。
「アキラくんはもう何も心配しなくて良いのに。良いはずなのに。そんなにこの部屋の外の世界のことが気になるの?そんなに外の世界のコが気になるの?ここにはボクがいるのに!何で何で何で!?」
ユカリさんは大学の陸上部に入っている。
だから、体力に関しては文系人間の僕なんかよりずっとある。
もちろん、筋力や握力だって。
「…んなんじゃ、ないよ」
喉をしめつけられながらも、僕は何とか声を出す。
弁解の言葉に、ユカリさんの手が緩む。
「そんなんじゃないよ。ただ、ユカリさんが僕に会いたかったように、僕もユカリさんに会いたかったからね。少し、意地悪したくなっただけさ。ゴメンね」
僕の言葉に、ユカリさんの顔に笑みが戻る。
「ううん。ボクこそゴメンね〜、アキラくんを待たせちゃって。あんな女が絡んでこなかったら、もっと早く帰れたんだけど…」
「あんな女?」
ユカリさんの不穏当な言葉に、僕はピクリと反応した。
「もしかして、また妹が?」
僕には、仲の良い妹が一人居る。
そして、その妹は僕がユカリさんに監禁されている、と思っているらしい。
……そして、それは事実である。推理小説なら妹は探偵役になれるところだ。
「あんな女と血縁だからって、アキラくんが責任を感じること無いよ。……あの女、お兄さんと結ばれるなんて冗談みたいな夢物語を本気で信じているのかな?あんまりしつこいようなら、しっかりきっちり殺しておかないと…」
ユカリさんは言った。
後半は小声で言ったつもりらしいが、僕と彼女は同じベッドの上である。全部しっかりきっちり聞こえた。
「ハハハハ、それこそ冗談だよ。そんなことでユカリさんを殺人犯にできない」
僕は、乾いた笑いと共に言った。
「…アハ」
その言葉に、ユカリさんはまるで面白い冗談を聞いたかのように笑い出した。
「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」
狂ったようなとしか形容しようのない、見事な笑い声だった。
こんなに笑ったユカリさんを見るのは久しぶりかもしれない。
「アキラくんおかしい!ボクとアキラくんの邪魔をするモノに人権なんて無いのに!でも、そう、そうだね。確かに、殺すと後が面倒かも。アキラくん賢い!」
その時、ユカリさんのバッグから振動音が聞こえた。
携帯電話だ。
「電話?」
「ううん、つまんないメール」
携帯電話を確認すると、ユカリさんは鮮やかな手つきで携帯電話をゴミ箱に投げ捨てる。
「ボクとアキラくんの邪魔をする携帯電話なんて、この世からひとつ残らずしっかりきっちり消えてなくなれば良いのに」
不満げに(かわいらしく)そう言うユカリさんだったけど、すぐに笑みを浮かべた。
「…携帯電話?」
そう言って、改めて僕に向き直る。
655 :
かんきんされてるのは、ぼく:2010/08/24(火) 23:09:26 ID:KnMWpfd0
「ねぇ、アキラくん」
不気味なまでにほがらかに。
「何だい、ユカリさん?」
「ボクのこと、好き?」
その手に握られた切れ味よさそうなナイフはどこから出したんだい、とは聞けない。
「うん」
首筋に突き付けられたナイフに冷や汗を垂らしながら、僕は答えた。
「愛してる?」
「うん」
「だったら、ボクたちの邪魔をするモノなんて、嫌いだよね?」
「……うん」
僕の答えに、ユカリさんは満足そうにナイフを手放す。
「じゃあ、同じことを、あの女にも言って?」
そう言ってユカリさんが僕の手に握らせたのは、『僕の』携帯電話だった。
まだ、解約してなかったんだね、とは言わなかった。
「………うん」
妹に嫌われるのは悲しいことだ。
しかし、それで妹の命が救われて、ユカリさんが人殺しにならないのなら、安い代償だ。
656 :
かんきんされてるのは、ぼく:2010/08/24(火) 23:10:21 ID:KnMWpfd0
ユカリさんが僕を監禁して、もう随分になる。
人一人監禁するというのは、人一人養わなくてはいけないということだ。
一人暮らしの大学生であるユカリさんには大変なことだろう。
なのに、どうして僕なんかを監禁しようなんて思い立ったのか?
疑問に思って聞いてみたことがあったが、彼女はただ「昔から大切なモノはしっかりきっちりしまっておくことにしてるんだ」と言うだけで多くは語らなかった。
―――つまり、歪んだ独占欲か―――
僕の中の冷淡な部分が、その時そう評した。
さて。
妹への電話を終え(それはいささか以上に苦痛に満ちたものだった)、僕達は夕食をとった。
夕食はユカリさんの手料理だった。
その味は―――聞かないでくれ。ただ、先ほどの電話と合わせて色々な意味で苦い夕食となったとだけ言っておこう。
……いや、これでも随分上達したんだよ?
「おいしかった?」
ユカリさんが聞いた。
自分も同じものを口にしているのに、何でそんな言葉が出るのか不思議に思わなくもないが、彼女の頑張りを無下にするのもかわいそうだ。
「もちろんさ」
僕は答えた。
そう答えたのは、別に彼女の両手に食事の時に使ったナイフとフォークが握られっぱなしだったからじゃない。
ともかく、僕の言葉に満足そうな笑みを浮かべたユカリさんは僕の衣服に手をかけた。
「ねえ、…しよ?」
彼女の言葉に対して、僕の答えは決まっている。
「ねぇ、アキラくん!気持ち良い!?気持ち良い!?気持ち良い!?」
僕の体の上で、ユカリさんは言う。
彼女の手に凶器は無く、ただ僕の手を握っている。
「うん、気持ち良いよ」
その答えは、ユカリさんを更に悦ばせることになったらしい。
「アキラくん、アキラくん―――!」
ユカリさんと僕は同時に絶頂を迎える。
彼女という器に、僕という存在が満たされるような錯覚を覚える。
―――いや、こんなことをするまでもなく、彼女の中には僕の存在で満ちているのだろう。
正確には、僕への狂った愛で。
絶頂を迎えた彼女は、僕の上に倒れこんだ。
僕の四肢は拘束されたままだ。
この光景を他人が見たら、僕がユカリさんに縛りつけられているように見えるかもしれない。
しかし、一方でユカリさんの心は僕への狂愛で満たされている。
いや、僕への狂愛に縛られている。
そして、―――僕はそれを知っている。
知った上で、この状態を変えようとしていない。
「ユカリさん…」
僕は彼女のぬくもりを感じながら、穏やかな笑みを浮かべる。
穏やか?いや、それはとてもとても歪んでいることだろう。
これもまた、歪んだ独占欲。
さて、本当に監禁されているのは誰だろう?
以上になります。
書き込みに関しては初心者なせいで前半sageを入れてなくてすみません。
いかがだったでしょうか?
GJ!
だが、新スレがカオスな雰囲気だからそっちに書き込んでほしかった
というのはあるけど
まさにザ・ヤンデレだな
俺は妹に同情してしまうけど
いとおもしろり
662 :
埋めネタ:2010/08/25(水) 01:40:28 ID:W5/rP/Xg
改めて、埋めネタを落として行きますよ。
663 :
埋めネタ:2010/08/25(水) 01:40:55 ID:W5/rP/Xg
「正直、好きな女の子が人を殺したりしたら、引くよね」
僕がそんなことを呟いたのは、自室でくつろいでいる時だった。
独り言を言ったわけじゃない。近くにいる人間に話を振ったんだ。
僕専用のベッドの上で正座して漫画を読んでいるのは、幼なじみの三四子だ。
彼女の通称は、みょん。
本人は嫌がっているが、呼びやすいし、なんだか可愛いので、皆が彼女のことをみょんと呼ぶ。
「……いきなり何を言っているんですか」
「いやね、今ちょっとネット上の掲示板を覗いてるんだけど」
「またそんなものを見て……お父上やご母堂が悲しみますよ?」
「ばれなきゃ平気さ。で、その掲示板では、ヤンデレっていう属性のキャラクターをメインにしたお話が、一杯投稿されてるんだよ」
みょんは首を傾げた。
「ヤンデレとは?」
「主人公が好きだけど、愛するあまりに心を病んでしまった状態、またその状態のヒロインの事をさす、だって。
つまり、愛する人間に対する思いが募って、それが原因になって、心を病んでしまった人のことらしい。
心を病んでしまった女性は、刃物を持ち出したり、暴力的な行いをしたりする傾向があるらしいよ」
「ほ、ほう」
みょんが頷いている。
どうやら彼女はヤンデレのことを知らなかったらしい。
そりゃそうだ。
なにせ、ニッチなキャラ萌えの世界の、さらにマニア向けな属性だから。
みょんがヤンデレのことを知らないことについて僕は安堵している。
「そのやんでれとやらが、何か?」
「うん。刃物を持ち出すってことは、やっぱり相手を傷つけちゃうし、場合によっては命も奪ってしまうよね」
「ええ」
「僕は好きな女の子がそんなことをしたとしたら、引いちゃうと思うんだ。いや、絶対に引くね」
「それは、なぜ?」
「どうして傷つける必要があるのさ。まあ、喧嘩して傷つけるのはまだわかるけど、相手の命を奪うのは駄目だろ。
そんなことをしなくても、好きな人を手に入れることはできるはずだ、って僕は強く思うんだ。
ヤンデレっていうキーワードで検索したら、ヤンデレは人を殺すんだ、っていう誤解が広がっていて、悲しくなるよ」
「それでは……人を殺さなければいいので?」
「うん。……いや、ちょっと違うかな。
ヤンデレにどうして萌えるかっていうとさ、あの健気さにあるんだよ。
一人の男を好きになった。でも男は自分以外の女と付き合っている。でも男を嫌いになれない、忘れられない。
そうして、叶わない思いがどんどん募っていく。そこに萌えるんだ。可愛いんだ」
「私には、理解できません」
みょんが立ち上がり、漫画を本棚に収める。
「そんな馬鹿なことを言ってないで、勉強でもしていてください」
「ちょっと待って。まだ語り足りないんだ」
「迷惑にならないよう、枕相手に語りかけていてください」
と言うと、みょんは僕の部屋から立ち去った。
様々なヤンデレ系スレッドの流れを見ながら、僕は呟く。
きっと、今となっては遅いだろうけど、誰にも聞き入れられないだろうけど、言いたくて仕方ない。
「人を殺すなんて……そんなの、全然可愛くないよ。
叶わない思いが募って、追い詰められて、心身ともに疲れ果てて、もう本能しか残っていない状態になって、
初めて他人の命を軽く見るようになるんだ。
人の命は、簡単に奪って良いものじゃないんだよ」
僕にはそう思えてならない。
他人の未来を奪う権利なんて、誰も持っちゃいけないんだ。
664 :
埋めネタ:2010/08/25(水) 01:42:21 ID:W5/rP/Xg
*****
心が重い。体が重い。なにより、鍛え上げてきた拳が重い。
まさか彼があんなことを言うなんて、思っていなかった。
「他の女を排除するために鍛えてきたのに、全て――――否定されてしまった」
彼に思いを寄せる女性は多い。
年上、年下。学校の先生、同級生、部活の仲間。
彼を狙って、紛れ込んだ不届きものが身近にはたくさんいる。
いろんな脅威から、彼を守りたかった。
だから学校では空手道部に入った。家でも自主練習を欠かさない。
おかげで、全国大会でも上位に入賞できるほどの腕になった。
すべてが、幼なじみの彼のため。
でも彼は言った。他人の命を奪ってはならない、と。
私だってそう思っている。私の拳は人を殺すために鍛えてきたわけじゃない。
でも――彼の言葉は重くのし掛かってくる。
私は、彼を守るためなら前科持ちの汚名を着ることも構わない、と考えている。
彼しか居ない。こんな背の低い、胸も小っちゃい、可愛くない空手女を好きになってくれるのは、幼なじみの彼だけ。
奪われるぐらいなら、私は彼を――――
「……いえ、そもそも、こういう考えが駄目なんでしょう」
彼は、他人を傷つけることを嫌う。
暴力は振るわないし、言葉で貶すこともしない。
そんな人間だから、彼を舐めてかかる人間が次から次へと沸いてくる。
彼のすごいところは、そんなネガティブな人間達まで真剣に相手するところ。
時々、見ていていらいらしてしまうけど、そこがいい。
もういっそのこと、拳を封印してしまおうか。
彼が必要としてくれないのなら、こんなものは必要ない。
昔のように、隣に居て彼の隣で笑って――いつか幸せになろう。
誰も傷つけなければ、きっとあの人だって、私のことを嫌いになったりしない。
665 :
埋めネタ:2010/08/25(水) 01:44:05 ID:W5/rP/Xg
「見つけましたよ、三四子。いえ――拳豪みょん、と読んだ方がいいかしら」
女が前からやってくる。
見知った顔だ。剣道部に所属している同級生。
私の敵。彼を狙う女。
私の――倒すべき相手。
「今日こそは、私の剣の錆になってもらいますよ、拳豪」
だが、今は相手をする気分にはならない。
拳が鈍っていて、とてもじゃないがいつものキレはない。
この状態で彼女と戦ってしまえば、敗北は必至。
戦闘を避けるために、ハッタリを仕掛ける。
「……何度戦っても同じです。それに今の私は機嫌が悪い。痛い目を見たくなければ、出直してくることです」
「関係ありません。あなたと出会ったその時が、あなたと決着を着ける時。
構えなさい。今日こそ、あなたから彼の隣のポジションを奪い取ってあげます」
彼女はそう言うと、携えた細長い紫色の袋に手を伸ばす。
袋から出てきたのは、陽の光を反射して輝く刀身。
そのまばゆい輝きと、力強い造形美は、ハッタリなどではない。
前触れなしの奇襲。
目を狙って放たれた横一文字が空を切る。なんとかかわせた。
だけど、今のは危なかった。
コンマ数秒遅ければ、顔面を断ち切られていただろう。
額にかかっていた前髪が、半分ほど持って行かれた。
息つく間もなく高速の斬撃が襲いかかる。
反撃の機会を見つけられず、防戦一方になってしまう。
駄目だ。今の体調では、手も足も出ない。
――負けてしまう。
666 :
埋めネタ:2010/08/25(水) 01:49:42 ID:W5/rP/Xg
腿を狙った攻撃が左足を掠める。しかし日本刀の切れ味なら、掠めるだけでも傷口は大きくなる。
視線をやると、流れた血が膝下へと伝っていくのが見えた。
「……まあ。今ので血を流すなんて、悪いのは機嫌ではなくて、体調でしたか。
これは好機。そういうことなら、遠慮無く倒させていただきます」
敵が刀を構えた。おそらく突進してくる。
彼女が得意とする間合いまで踏み込んだら、もう私はこの世にいないだろう。
――誰も殺さなければ、あなたは私を可愛い女の子だと思ってくれますか?
そんな暢気なことを考えて、敵と向かい合う。
私を殺してしまえば、彼女は彼に嫌われるだろう。様を見ろ、邪魔者め。
「――――拳豪、覚悟っ!」
気合いと共に、敵と刀が向かってくる。刀は血を求めているみたいに輝いている。
遅い。
遅い。まだ来ない。
遅すぎる。ここまで待って、ようやく敵は私に一歩近づいた。
なるほど、これが死の際か。
殺されるまでの一瞬の間に、辞世の句を詠んでおけということか。
未練はない。
未練は――――いいや、あるだろう。諦められない思いがあるだろう。
例えこの拳が、非力な拳であろうと、岩をも砕く剛拳であろうと。
そんなものは、私の本当の武器ではない。
私の本当の武器は、彼への思いだ。
私を強者たらしめているものがあるとするなら、愚直に突き進む彼への恋心だ。
拳など無くて良い。この思いだけで私は闘い、勝利することができる。
ずっとそうしてきた。そして、これからも勝利し続ける!
「うぅぅぅぅ……めぇぇぇぇ……」
突き進め、彼のところへ。
貫き通せ、穢れ無き私の心を。
右拳を握る。強く、固く。砕かれぬ拳を思い描く。
これまでに経験したことのない感覚だ。
全身が脱力しているのに、力が漲り、血液が熱くたぎる。
「チェストォォッ!」
上段から刀が襲い来る。
同じタイミングで、私も拳を放っていた。
そう、これが私の最強の一撃!
全てを無視して、貫いて進め!
「桂月が第四週! 第三十四位の『鋼穿ち』! 受けてみょっ!」
相手の攻撃を拳で迎撃し、破壊する奥義。
この拳に触れた武器は、なんであろうと――例え鋼鉄の刃であっても、粉々に砕け散る。
例外は一つとて、この世には存在しない。
倒れた女、散らばる刃物の欠片。
私は勝った。今まで一度も成功しなかった奥義が、成功した。
見事に武器だけを破壊し、女を通常の突きで気絶させた。
そうだ。諦める必要なんかなかったんだ。
私の拳には可能性がある。殺人の拳があるなら、人を殺さない拳があってもいいじゃないか。
この拳を携え、愛する彼の元へ。
私の悩みまで粉々になったように、心は軽くなっていた。
空を見る。真夏の太陽を邪魔する雲は、どこを見ても浮かんでいなかった。
埋めだみょ!
埋めネタGJ
ここの「僕」が語っていることを読んで思ったが、
最近出てくるヤンデレヒロインって最初から心がドス黒化しているよな。
純粋で健気で一途だから、泥棒猫のように汚い手段で主人公をおとすことができないから、
最終的に病んで殺したり監禁したりするっていう過程が抜け落ちていると個人的に思う。
そういう話が他の大多数の需要に無いのかもしれんけど。
書くのが楽だから書かない
死の際にヤンデレが見るのはどの夢か。
彼とのファーストコンタクトか。
彼との嬉し恥ずかし連絡先交換か。
文化祭の準備で彼と居残りして作業をした夢のような時間か。
それとも、朝早く彼のためを思って手作り弁当を作ったことか。
いや、昼休みに他の女に弁当を食べさせられてもらっている光景かもしれない。
ヤンデレは最初から病んでいたわけではない。
愛する男を奪われる不安に苛まれた、またはいつまでも振り向いてくれない男に業を煮やし、その結果病んだのだ。
彼女たちが病んでしまったのは、いわば不幸な出来事だったのだ。
望んで病んだわけではない。
同じ男を好きになった女が、他にも居ただけだ。
好きな男が酷い鈍感で、彼女の思いに気づかなかっただけだ。
いつか彼女たちに救いが与えられることを願い、この言葉を贈ろう。
彼女たちに限らず、誰にでもいつかやってくる最期。
散っていった三十三の彼女たちと、いままさに消えんとしている三十四人目の彼女のために。
「これが私の、最高の埋めだ」