【なんでもあり】人外と人間でハァハァするスレ6

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895名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:44:32.22 ID:66UGTVHN
すぐに男性器を挿入されると思っていたルウは、
思いもよらぬ繊細な愛撫に驚き、這って逃げようと足をばたつかせてもがく。

だがリクが、ルウの腰をがっちりつかんで離さない。
その上、ルウの膣や小陰唇、クリトリスを、
舌でねっとりと舐め上げてくる。
包皮とクリトリスの間の粘膜に舌を差し入れてかき混ぜられたとき、
ついにルウは、たまらず大声を上げて絶頂した。
快感で腰がビクビクとはね、痙攣が止まらず、
そのままへなへなとうつぶせになって腰を落とす。

リクもまた、我慢は限界を超えていた。
ズボンを下ろしてすっかり勃起したペニスを取り出すと、
へたり込んでいるルウの腰を持ち上げて、
濡れた小陰唇にペニス全体をこすりつける。
ルウは涙すら浮かべて悶え、
快感から逃げ出そうと思う心と、交尾したい性欲が入り乱れて、
もはや自分が何をしているのか分からなくなってしまう。
896名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:45:32.95 ID:66UGTVHN
ルウはそのまま、リクに腰を持ち上げられて膣口に亀頭を密着させられる。
そしてしばらく膣口の周囲を亀頭で刺激された後、ゆっくりとペニスを挿入されていく。
リクの亀頭が入りきるかどうかのところで、
ルウが激しい痛みを感じて叫び声を上げる。

破瓜の痛みだ。

でも、それを通り抜けないと交尾が出来ないことを、
ルウもまたよく知っていた。
涙目でリクを見つめながら、
どうか優しくして欲しいという表情で、彼に懇願する。

リクにはルウの気持ちが良くわかった。とてもよく通じた。
ただ、それと同時にリクにも激しい性欲があった。
ゆっくりと挿入してはいるつもりだったが、
その動きはルウには相当厳しいらしい。
歯を食いしばり、両手をぎゅっと握り締め、
必死になって耐えているルウの姿が痛々しい。
その姿を申し訳なく思いながら、リクはついに腰を突き入れて、
ルウの膣に彼のペニスをすべて挿入した。

二人が結ばれた瞬間だった。
897名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:46:11.92 ID:66UGTVHN
「あああっ」というルウの声が上がり、
痛みかそれ以外の感情なのか、彼女がポロポロと涙をこぼす。
リクが挿入したまま上半身をルウの背中に密着させて、
ルウの頬にそっと口づけする。
ピンと立ったままの両耳にも触れて、優しく手で愛撫する。

目を赤くしたルウが、顔をリクに向けてじっと見つめ、
口づけを求めて唇を突き出してくる。
リクがそれに応え、ちゅっと唇をあわせる。
二人は舌を絡め、破瓜の痛みが少しでも和らぐよう、
挿入したまま時間をかけて愛撫を繰り返した。

やがて落ち着いたのか、ルウがゆっくりと頷いて、
リクに腰を動かしてもいいと合図してくる。
二人はゆっくりとゆっくりと、腰を動かし始める。
ペニスと膣の内壁が、愛液に包まれながら擦りあげられる。
ルウは痛みとは別の、疼くような快感が膣に湧き出しているのを感じ、
少しずつ甘い声を出して、リクとの交尾に没頭していくのであった。
898名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:47:28.52 ID:66UGTVHN
朝になった。
二人の初めての交尾は、リクがやや早漏気味に射精してしまい、
ルウが交尾で絶頂を感じる事はできなかった。
だが互いに抱きしめあい、愛を確かめ合うようにして、二人で眠った。
ルウは幸せで胸がいっぱいになった。

リクが目を覚ますと、ルウはいつものように山菜採りに出かけ、
帰ってきたところであった。
リクが起きたことを見て、嬉しそうに擦り寄り、
リクの頬に口づけをする。

そして何の調理もしない、生の山菜の、いつもの朝食が始まる。
楽しげに山菜を頬張るルウを見て、リクは複雑な感情を抱く。

ルウには分かっているのだろうか。
今日が二人にとっての最後の日になるという事を。
両足首の傷が癒えた今、ルウにはルウの、
リクにはリクの道を歩まねばならないということを。

自分が峠に戻り、街へ行くという事を、
リクはまだルウに言い出せないでいた。

リクは無言で山菜を口にする。
すっかり慣れたはずのその味は、
今日に限って苦く、味気ないものにしか感じられなかった。

朝食を終え、小川で食器を洗い、リクは荷物をまとめ始めた。
いよいよ、別れを告げねばならないときが来ている。
いつもと違うリクの様子を感じ、ルウは何も言わずに、
じっと立ったまま、リクを見つめている。

やがて荷物を全て背負い、リクは真面目な顔をしてルウを見つめた。
ルウもまた、真剣なまなざしでこちらを見てくる。
899名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:48:23.85 ID:66UGTVHN
果たしてどう言ったものか。
リクはルウに、別れを説明する方法が思い浮かばず、
言いあぐねていた。
いっそこのまま、「さよなら」とだけ告げて、峠に向かおうか。
そう考えていた、そのとき。

ルウの右腕がさっと動き、ある方向を指差した。

それは、峠とは反対の向き。
そしてルウは、ゆっくりと、心を込めるようにリクに言った。

――ルウ、リク、ダイスキ。

それはリクに人生の選択を迫る、心からの言葉だった。

(後編・了)
900人外少女と薬草売りの少年・エピローグ:2011/10/01(土) 22:50:23.30 ID:66UGTVHN
人里離れた、森の奥深く。
ヒトウサギは少数の集落を形成して棲む、亜人である。
絶滅危惧種とも言われ、その数を見た人間は極めて少ないという。

そんなヒトウサギの集落の一つに、
人間の男が住み始めたのはいつの頃からだろうか。
彼はヒトウサギの雌とつがいになり、
ヒトウサギにはない薬草の知識で薬を作り、
病や気候の変化に弱いとされるヒトウサギの種の保護に、
多大な貢献をしていると噂されている。

その人間の男の名は、リク。
リクは集落に棲むようになってからヒトウサギ語を解し、
持ち前のコミュニケーション能力で、
苦労の末にヒトウサギの信頼を得た。
そして、つがいとなった雌のヒトウサギのルウと、幸せに暮らしているという。
901名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:50:56.63 ID:66UGTVHN
その集落に居を構えるようになってから、
必死になってヒトウサギ語を会得したリクは、
自分がある間違いをしていたことに、後になって気づいた。

ルウの本当の名前である。

実はルウの本名は、「ルウ」ではなく「ルー」だった。
ヒトウサギ語の発音が微妙で、リクには判別できなかったのである。

だが、リクは「ルウ」の本名が判明した後も、
「ルウ」と「ルー」を呼び分けられるようになった後も、
相変わらず彼女を「ルウ、ルウ」と呼んで愛し続けた。

――なぜなら「ルウ」はヒトウサギ語で、
異性を恋愛対象として呼ぶときの「あなた」の意味だったからである。

(エピローグ・了)
902名無しさん@ピンキー:2011/10/01(土) 22:57:47.62 ID:66UGTVHN
真っ白になるまで全力で書いた。
ご期待に添えない代物であれば、全てそれは、僕の力不足です。
そのときは>>804さん、ごめんなさい。

>>865さんに尻を叩かれなかったら、
今日の投下はあり得ませんでした。
でも、本当にありがとう。
期待してたものと違ったらごめんね。

そしてレスをくれた皆さん、本当に本当にありがとう。
力を貰ったから、こうやって書くことが出来ました。

それではみなさん、ごきげんよう。
903名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 09:38:11.61 ID:yGzQUGRt
お疲れさん
エピローグのまとめ方が特に綺麗だった。
リクカッコいいよリク
904名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 11:34:33.19 ID:j1k1npgn
素晴らしい作品でござったよ
たまらんでござる
905名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 23:02:30.42 ID:377Y2wEo
>>903-904
本当にありがとう。
感想をもらえる時が、一番報われた気分になります。

エピローグは>>840さんが提供してくれた、
片言告白ネタを考えているときに、その延長で思いつきました。
前編書いてるときはエロだけで終わらせる予定でした。

あと、>>842さんのネタも使いたかったのですが、
力不足で上手く活かせませんでした、ごめんなさい。
906名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 23:37:39.98 ID:+gQtv63j
無理しすぎるとぎこちなくなってしまうものね
907名無しさん@ピンキー:2011/10/02(日) 23:48:35.41 ID:GkfwNViA
>>905
お疲れ様!リアルタイムで追ってて、すごく面白かった!
ヒトウサギの名前を完全に発音出来ないってのが、
二人がコミュニケーションを図る上で
種としての壁を表しているのかと思ったら・・・

最後、伏線の回収が秀逸だったよ。

そして、どうしてそんなに謙虚なんだ>>905・・・
908名無しさん@ピンキー:2011/10/03(月) 22:56:36.76 ID:F4EvR+QA
>>907
本当にありがとう。
リアルタイムで読んで貰ったなんて、ものすごく嬉しいです。

8月下旬にエロパロ板に来てから、触手スレとここで合わせて7本ぐらいのSS書きました。
そのうち自分で書いてるのは1本だけで、他は住民からキーワードを頂いた「依頼品」です。
依頼品は力も入るし、可能な限りレスのアイディアも取り入れたいし、
その結果、好意的な反応が来るとものすごく嬉しいです。

追伸:ルウ&リクの中編では>>813-816あたりの流れも参考にしました。ありがとう。
909名無しさん@ピンキー:2011/10/05(水) 12:01:56.60 ID:WwOASNig
ハンターハンター蟻編終わったけどメルエムとコムギが最期を迎えた場所が寝室だったのは狙ってるのか
こんな冗談でも言わないと涙で画面が見えない
910名無しさん@ピンキー:2011/10/10(月) 22:26:53.74 ID:u1b/ErHk
うちのPCからだと長文が書きこめないんだけど、書いた作品を別の小説サイトに投下して
そのアドレスをここに貼るのって有りですか?
ランキングや宣伝には関係ない文章表示サイトなんですけど……
911名無しさん@ピンキー:2011/10/11(火) 09:56:19.21 ID:ra1GPqGK
>>865
もし投下したいんならtxtをうpろだに上げて、代理書き込みもらったほうがいいとおも。
912名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 17:45:16.11 ID:GW+L2/nQ
過疎って寂しいので誰か
「顔は恐いけど寂しがり屋の人外娘さんがひたすらご主人様に甘える話」を書いてください
913名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 20:22:23.22 ID:eYf/FCMC
>>912
性格はツンデレがいいの?
それとも顔は怖いけど泣き虫で甘えん坊タイプ?
914名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 20:56:14.53 ID:EDN2EVxT
>>912
今見た。そして承知した。
「顔は恐いけど寂しがり屋の人外娘さん」は
「怒ったような表情をしてるけど寂しがり屋の人外娘さん」と解釈した。
「化け物みたいな恐い顔」だと話が根底から覆るので指摘下さい。
何日かかるかなあ…。
915名無しさん@ピンキー:2011/10/15(土) 22:14:35.62 ID:GW+L2/nQ
うわお。何気なく妄想を書いてみたら2人も職人さんがやってきてるじゃないか…!

もう書いて頂けたらなんでもおkっす。職人様の書きやすいようにやっちゃってください。
916名無しさん@ピンキー:2011/10/17(月) 13:43:26.78 ID:u1g5AHFN
このスレの傾向的に短編でがっちりした内容のものが多いように思えるんですが、長編で緩い(ラノベっぽい)感じのノリの話はあまり好かれていないのでしょうか?

他にも何かNGがあったら教えてくださると助かります。
917名無しさん@ピンキー:2011/10/17(月) 16:35:07.66 ID:DE1+n/pV
>>916
書いてもいいとおもうけど叩かれる可能性あることを覚悟の上で投下。
心配なら避難所の投下スレへ

でも個人的には続きものはよっぽど気合ないと途中でだれて没ネタになるとおもう。

このスレの長編シリーズ人外アパートぐらいかな
918名無しさん@ピンキー:2011/10/17(月) 19:09:41.77 ID:P50ohb1G
>>917
レスどもです。
長編の完結自体は他スレで何度かやってるんで出来ると思うのですが、自分の作風はこのスレの傾向にはやっぱり合わない感じですね。
また別の機会に回します。ありがとうございました。
919名無しさん@ピンキー:2011/10/17(月) 21:57:50.79 ID:Ucv55pdq
>>918
最近このスレでSS投下してる新参けど、
作風の緩い硬いがここで問題にされる事はないと思うです。
あくまでも好みの問題だと思うし、緩いのを期待している人もいるはず。
そもそもスレの住人、皆優しいです。

長編を完成させた実力があるのに、投下前に去るのは余りにももったいないと思うのですが、
いかがでしょう?
920名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 04:31:08.85 ID:WvfwM7gx
昔からこのスレは萌えに貴賤なしだよ。
人外なんて珍しい題材なんだもの、色んな作風があっていいじゃない。
921名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 17:59:58.08 ID:sEMnbpaJ
ぶっちゃけた話、選り好みなんてしてたら書き手が少なくなってスレが先細りするだけ
このスレで作風で叩かれた職人は居なかったと思うし、投下しても大丈夫さ
922名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 21:51:25.66 ID:jzZISOi2
>>912の依頼品の序編をこれから投下。

まだエロなし。甘えなし。
頑張って書いてるよっていうアピール程度。
注意事項特になし。

資料見るだけでものすごく時間がかかった。今は反省している。
例によって期待している世界観と異なったらごめん。
続きはちゃんと書くので、待ってくれる人は気長に待って。
923ロコとシン(仮)・第1話:2011/10/18(火) 21:54:27.29 ID:jzZISOi2
…近い。近すぎる。

それが、今の彼の、偽らざる心の声であった。

心の声の主――シンは17歳。払い師の候補生である。
払い師というのは、主に除霊や厄除けを生業とする、呪術者の事だ。

その彼の右隣に、今、和服姿の少女が肩をくっつけんばかりに密接して、
無表情に飯を食っている。

彼女は赤地に花柄のきらびやかな着物に、濃紺の袴をまとっている。
そして、まっすぐに伸びた美しい長髪を持ち、雪のような白い肌をした、
淑やかな居住いの少女だ。

――いくつかの例外を除いて。


さてその例外を、順を追って語るとしよう。


一つ。彼女は人間ではない。

髪の色は灰色がかった銀髪で、頭の上にはやや黒ずんだ三角の耳が生えている。
そして、着物の臀部にあけた穴からは、栗毛の長い尾が伸びている。
いわゆる「物の怪」の類である。

二つ。今日シンと初めて会ってから今の今まで、彼女は表情を殆ど変えていない。

彼女の三白眼の瞳は紅く、眼尻が吊りあがっている。
目鼻立ちだけなら相当な美少女なのだが、彼女と正面から向き合うと、
思わず怯んでしまうほどの迫力がある。
そんな彼女の感情を悟るには、今のところ、彼女の尾の動きを頼りにするほかはない。
その尾が勢いよく左右に振れているおかげで、シンは今、何とか心の平静を保っていられる状態だ。

三つ。彼はこれから、一つ屋根の下で、この少女と二人で暮らさなければならない。

――下手をすると一生。


どうしてこんなことになっているのかをは説明せねば、まずこの物語は始まらない。
その経緯は複雑で、とても一言で済むものではない。
暇を見つけて、ゆるりと彼らの馴れ初めを追うのが、
この珍妙な組み合わせを理解する、もっとも近道なスタンスであるといえよう。

力を抜いて、どうかお付き合い願いたい。
924名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 21:56:46.41 ID:jzZISOi2
そもそもの始まりは、シンの父親、タツの急逝であった。
タツは5年前まで、高名な払い師として、多くの人の信望を集めていた。
ところが、とある大掛かりな除霊に失敗し、果ては僕たる式神をも失うという大失態を犯した。
それ以来、タツは払い師の資格を剥奪され、
呪符を書いては他の払い師に売って細々と生計を立てるという、苦しい生活を余儀なくされた。

多感な年頃に父タツの失態を目の当たりにしたシンは、一時期ひどく荒れた生活を送った。
それには、早世した母親の影響があったのかもしれない。
また、憧れだった払い師としての将来を、否定的に捉えてしまったこともあるかもしれない。

しかし、タツは荒んだ生活を送る息子のシンを、決して責める事はなかった。
シンの複雑な心のうちを父親なりに察して、人生どんなに辛い事があっても、
一度抱いた希望を自ら諦めずに持ち続ける事の尊さを、時間をかけて語り続けた。

タツの願いは、やがてシンに伝わることになる。
諦めかけた払い師への夢を再び持ち、シンはタツに払い師とは何かを教わり始めた。
――タツの死は、彼が父親の呪符作りの仕事を手伝い始めた、そんな矢先の出来事であった。


四十九日の法要を済ませるまで、シンはぼんやりと過ごした。
タツの出棺の際にはさすがに涙をこらえきれずに嗚咽したが、
現実とも夢想とも判別つきがたい日々を送るにつれ、
彼は深く物思いに沈むようになった。
学校にも行かず、さりとて元の荒れた生活に戻るでもなく、
これから何をなすべきか、どう生きるべきかを彼なりに漠然と考えた。

そして、彼は一人で生きていくことを決めた。

シンには、親類を頼る方法ももちろんあった。
特にシンの後見人となった祖母は、熱心に彼を自分の家に来るようにと誘ったが、
シンはその願い出を丁重に断った。
そして、祖母に対して、自分が払い師として生きていく旨を伝えた。
925名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 21:59:00.69 ID:jzZISOi2
この世には、いわゆる「除霊」を行う職業に「退魔師」と「払い師」の2種類がある。
退魔師が性別や遺伝的要因、行動規範に制約が多い代わりに強大な権限を持つのに対し、
払い師は、それ自体に「なる」ことについては、退魔師に比べれば簡単であった。
その成り立ちゆえに、払い師の社会的地位は退魔師に比べるべくもなかったが、
物の怪に関する広範な知識を有し、強力な式神を操れば、
父タツのように退魔師に比肩される程の者もいた。

悩む祖母を説き伏せ、払い師になる許しを得たシンは、即座に高校を中退した。
そして払い師試験に臨むために猛勉強し、
僅か3ヶ月の後に、払い師の一次筆記試験を合格した。
これが今からおよそ1週間前のことである。

さて、一次試験を合格したはよいが、もちろん世の中そんなに甘くはない。
模擬除霊を行う二次実技試験に「式神を使って」合格しなければ、
払い師の免状が得られないのだ。

その存在自体が強い霊力によって守られている退魔師とは異なり、
払い師は基本的に生身の人間である。
それゆえに除霊や厄除けには「式神」と呼ばれる、
自身の下僕となって働く物の怪を1体以上保有することが義務付けられている。
その式神の指揮能力が試される二次試験を、
一次試験合格から一年以内に合格しなければならないのだ。

シンは否応なしに式神探しを行わなければならなくなった。
すんなりと合格できるとは思っていなかったので、式神の準備を全くしていなかったのだ。

一次試験に合格したその日に、彼は式神屋・サイゾーの店を慌てて訪ねた。
サイゾーは父の代から懇意にしている式神屋で、シンとも顔見知りであった。
父タツの葬儀以来のシンの顔を見て、
初老のサイゾーは、普段から皺が目立つ顔をくしゃくしゃにして大喜びした。
が、彼は話を聞くと、白髪の混じったあごひげをさすりながら表情を曇らせた。

その理由は、売られている式神がどれも数百〜数千万円もする、
非常に高価な代物だったからである。
最近は麒麟や竜、狼や妖狐といったブランド・純血物が幅を利かせているために、
どの式神も値が張るのだという。
父のよしみで、仕入れ値ギリギリでサービスするとサイゾーは約束したものの、
それでもシンの予算の倍以上の値がついてしまう。
また、新米で払い師候補生として力の弱いシンには、
もとより扱えない式神ばかりであった。
926名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 22:01:15.54 ID:jzZISOi2
式神は、契約によって払い師と主従の関係を結んだ物の怪である。
式神にするには、呪符や陣の力で物の怪を屈服させ、
払い師自身の体液――主に血液を飲ませて服従を誓わせる事が必要だ。
また、式神が勝手な行動を取らないよう、人語を解させ、主人の行動に従うよう、
馴致とよばれる過程も踏まねばならない。
これを一年以内に済ませて、実技試験に合格するのが、
払い師になるための最難関なのである。

仕方無しに、シンはサイゾーに、予算に合った式神候補が見つかったら連絡するように伝え、
その日はすごすごと家に戻り、呪符を書く内職に専念した。

呪符を書く仕事は元々実入りが悪い。
まだ若いシンに大した呪符は書けないので、その生活は更に厳しいものとなる。
だが、タツの親友だった払い師仲間の中には、
彼を哀れんで呪符を買ってくれる者もいた。

タツが払い師の資格を剥奪された身であるにも関わらず、
そしてタツがもうこの世にはいないにも関わらず、
彼を慕って店へと足を運ぶ同業者が存在することに、
シンはただただ彼らへの感謝と、父タツへの尊敬の念を深くしていった。

そんな日々をすごした、僅か一週間後の今朝。
顔も洗ってそこそこのシンの携帯が、けたたましく鳴り響いた。サイゾーからだ。
彼はろくに挨拶もせずに「式神候補が見つかったからすぐに来い」と一方的に話した。
そしてシンが返事をする前に、電話はぷっつりと切れた。

市場に流通する式神のあまりの高騰ぶりに半ば購入を諦めていたシンは、
野生の物の怪を捕獲することさえ考え始めていた。
そこへサイゾーからの電話である。
シンは、大喜びでサイゾーの店に駆けつけた。

そこで出会ったのが、封魔の檻に入れられた、
和服を着た三白眼の少女なのであった。
927名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 22:03:14.36 ID:jzZISOi2
サイゾーの話に、シンは驚くことしきりであった。
彼女は狐の物の怪――つまり妖狐であるが、
すでに人語を解し、非常に優れた知能を持っているという。
エキノコックスや狂犬病の予防注射も昨日のうちに済ませており、
どういうわけか人間の生活に異常に詳しく、馴致も殆ど必要ないらしい。
その掘り出し物を、通常の妖狐よりも1桁安い値で売るとサイゾーは言った。
シンが驚くのも無理はない。

さて、安い買い物にはそれなりの訳がある。
予算に合う式神候補を探してきたサイゾーは、
「これを逃すともうチャンスは二度とないぞ」と念押しした上で、
この妖狐が安い理由が2つあるといった。

1つは、この妖狐が「雑種」であること。
どうやら銀狼との混血らしく、尾を除くと、特に頭髪と耳は明らかに狼の血を引いた形跡がある。
血統・純血主義が幅を利かせる式神において、これは致命的な欠陥であった。
純血種でないものの、式神としての力が劣っているようには見えないし、
狼の血を引くことで人間に対する従順性が増しているというのが
サイゾーの見立ててであったが、市場は残酷なまでに彼女の価値の低さを示していた。

もう1つは――むしろこちらの方が致命的なのだが、ヒトガタに戻れないということ。
式神は通常、払い師がヒトガタと呼ばれる特殊な紙に式神の魂を封じ、
必要なときにだけ式神を実体化させる。
払い師にとってはそれが何かと便利だし、
一人の払い師が式神を複数持つと式神どうしが共食いを始めることもあるので、
それぞれをヒトガタに封じることによって隔離し、
状況に応じて使い分けるというのが常識であった。
そのヒトガタに、なぜかこの妖狐は戻れないのだという。
呪いか何かの類で、力の一部を封じられているらしい。

シンはその欠点については甘受した。ヒトガタとして持ち歩けないのは痛恨の極みだが、
四の五の言っている場合ではないのもまた事実だ。
雑種である点については、シンにとってはもはや欠点のうちにも入らない。
しかしシンが気になったのは、彼女の、シンを睨み付けるようなその目だった。
三白眼の紅いツリ目が、身じろぎせずにこちらを向いている。

彼女の赤い花柄の着物はまぶしい。濃紺の袴も清楚な雰囲気がある。
シンが店に入ったときには檻の中で正座をして、彼に向かって丁寧に一礼した。
人間の作法には本当に詳しく、
またその態度から、式神として使役される事にも抵抗はないようだ。
928名無しさん@ピンキー:2011/10/18(火) 22:07:48.55 ID:jzZISOi2
にもかかわらず、彼女は顔が恐い。
口を真一文字に結び、不機嫌としか思えない眼差しを、そむけることなくシンに浴びせてくる。
正直シンは引いていたのだが、
「僕の式神になる意思はあるか」と恐る恐る問うと、彼女に黙って頷いた。
妖狐の証である尻尾が、犬のように左右に大きく揺れている。
顔は無愛想だが、意外にも彼女は大喜びらしい。

そんなわけで、妖狐はシンのもとに式神候補としてやってくることになった。
サイゾーに代金を支払い、妖狐の力を弱めるための封魔の呪符を貰うと、
彼は妖狐に名をつけるよう、シンに進言した。
シンは少し考えると、狼と狐の混血ということで、彼女をロコと名づけた。
ロコはあっさりとその名を受け入れた。

これからシンとロコの二人の、式神としての契約を結べるかどうかの生活が始まる。
万が一馴致や契約に失敗すると、
2週間以内ならロコはサイゾーの店に返品されることになっている。
この2週間が、彼女と上手くやっていけるかどうかの極めて重要な期間となる。
そして恐らくは、ロコ自身の命にも関わってくる。
欠陥をもった売れ残りの式神候補は、一生封じられるか、殺される運命にあるからである。

普通、式神候補は、式神屋がくれる特殊な呪符によって一時的にヒトガタにして、
修行場などで式神に対する馴致と契約を行う。
しかし、ヒトガタに出来ないロコの場合は、
人間の娘が一人、シンの家に居候するのと同じことである。
着替えやらなにやらの手荷物があるのだ。
式神として、これは異常といわざるを得ない。

ロコは大きな長持を1つ、まるで大相撲の力士のように涼しい顔で肩に担ぐと、
シンと並んでサイゾーの店を出た。
シンは一応長持を持ってやろうとしたが、軽く30キロはあるとロコに言われ、
即座に断念した。

ロコはシンの家へと向かう道すがら、人間の街を不思議そうに見回した。
往来の人々は反対に、和服に獣耳、尻尾というロコの奇異なスタイルに興味津々だった。
新手のコスプレかと、カメラを構えようとする輩まで現れたので、
シンは慌ててそれを遮った。

こうして、ロコは殆ど無言のまま、そしてシンにぴったりと寄り添うようにして、
シンの家に着いたのであった。

(第1話・了)
929名無しさん@ピンキー:2011/10/20(木) 17:45:47.26 ID:GTqEgdet
期待してます
930名無しさん@ピンキー:2011/10/20(木) 18:22:30.65 ID:pkVqXsUA
和風人外かつ人造生命っぽい趣がいいね。
現代っぽい時代背景に人外が普通にいる感じなのかな。
931名無しさん@ピンキー:2011/10/20(木) 21:27:59.53 ID:FM5NR87+
>>929-930
レス本当にありがとう。
はい、現代的な舞台に普通に人外がいる設定です。
季節も書いてませんが今頃、10月頃をご想像下さい。
頑張って続き書きます。
932名無しさん@ピンキー:2011/10/24(月) 21:50:15.81 ID:/4HVYQbF
そろそろ10月終わるぞ
投下早く!
933名無しさん@ピンキー:2011/10/25(火) 20:16:22.07 ID:4Uc61hkR
>>932
ごめんなさい。
頑張って書きます…。
934名無しさん@ピンキー:2011/10/28(金) 01:37:10.58 ID:aRL55l9o
>>933
そんな声気にせんでいいよ。自分のペースで書いてね?


今自分のなかでまりんとメランが熱い。が、結構鬱展開過ぎて困った
生体兵器と少女の純愛はええのう
935名無しさん@ピンキー:2011/10/28(金) 22:46:45.13 ID:2H/3J54A
>>934
ありがとうございます。
うまい文章が書けるよう「天使待ち」をしてるんですがなかなか降りてこなくて…すみません。
936名無しさん@ピンキー:2011/10/28(金) 23:31:13.49 ID:g+U2P83m
>934
スレチだがブリガドーンはまた、別格でええのう
937名無しさん@ピンキー:2011/10/29(土) 19:10:33.35 ID:I1yNufG3
>>935
「天使待ち」ってアレか、衛藤ヒロユキかww
気長に続き待ってますんで、ご自分のペースで頑張って下さいノシ
938名無しさん@ピンキー:2011/10/30(日) 11:31:35.00 ID:29TOIPM9
異種族と竜が絡むお話ってここ的にはどうなんでしょう?
人間は出てこないんですけど・・・・・・
939名無しさん@ピンキー:2011/10/30(日) 21:06:10.49 ID:7Xk/LlLZ
>>938
過去にもあったよ。人外×人外。
このスレは言わば、人ならざるものに人のような人格や感情を持たせて、
その機微に一喜一憂するスレだから問題ないんじゃないかな。
940名無しさん@ピンキー:2011/11/03(木) 20:13:45.61 ID:TUiFpikJ
>>939
レスどうもです。
それではもう一度推敲し次第、お言葉に甘えてやらせていただきます。
もしそれでもスレ違いなようなら言ってやってください。
941バスティア・アバンチェス2:2011/11/03(木) 20:30:38.04 ID:TUiFpikJ
 東に海洋、西に大陸、そしてその中央には湖がひとつ――それがこの国の形である。
 そしてこの国には、太古より一匹の邪竜が住んでいた。その者の名を、現代(いま)に生きる者達は
バスティア・アバンチェスと呼んだ。
 そもそもは東西に海と陸とを分けただけの単純なものであったそこに、銃痕さながらの大穴をあけた張本人こそが
この雌竜バスティアに他ならない。
 彼女の行動は無軌道、そしてその性情は無秩序――物事への判断基準はあくまで「自分」であり、そこには
正義も悪もない。たまたま目覚めた朝に、昇る朝日の日輪へ街の建影が重なったという理由だけで彼女は街一つを
吹き飛ばしたという。
 それこそがこの大陸の中央にある湖・ロネマ湖であり、それこそがバスティアによって消滅させられたかつての
首都であった。
 斯様にして暴虐の限りを尽くしていた彼女は幾世代ものあいだ人々から恐れられ、ついにはその名に「終焉」を
意味する「バスティア」と、さらには無からの「始まり」である「アバンチェス」のそれらを刻まれたほどである。
 しかしながらそんな暴君も年貢の納め時を迎える。
 名家の幼き竜騎士であるテスによって調服させられたことにより改心し、残りの生を今日まで犯した過ちの
贖罪に生きることを誓ったのであった。
 とはいえ、そんな彼女の願いが素直に果たされることは限りなく困難なものであった。
 今日まで彼女の脅威に怯えてきた人々とっては、そんな改心もまた、天災の如き気まぐれではないのかと
疑われざるを得なかったからである。
 故に行く先々でバスティアは恐れられ、はたまた軽蔑された。人間(ひと)に限らず、獣人・魔族・理性を持つ
動物達――おおよそ知性を持つ生き物にとって、あまりにも彼女の存在は大きすぎたからだ。
 そして今も、彼女はその試練に耐えている。

 時はテスとの邂逅より一年後の話―――場所は、かつての首都ロネマ跡の湖畔。
 そこにてテスとバスティアの二人は、かの街の子孫なる者たちと対峙していた。
942バスティア・アバンチェス2:2011/11/03(木) 20:30:58.69 ID:TUiFpikJ
【 1 】

「この手でそいつを引き裂かんことには収まりがつかん」
 数時間にわたる話し合いの終わりを、かつての街(ロマネ)の子孫と名乗る男はそう締めくくった。
 場所はロマネ湖の畔、そこに残った街の残骸の一室である。
「それでは意味がありません。彼女はみなさんのお役に立つことで――『生きる』ことでこの身を正そうとしてるんですッ」
 それに対して話し合いに参加していたテスはらしくもなく声を荒げた。
「それじゃ何か? そこのメス竜が死んだ奴らを蘇られせてくれるってのか?」
 そんなテスの見幕に失笑すると、男はその背後に立つバスティアへと視線を送った。
 見上げるその身の丈は4メートルほど。夜明けの地平のよう深く透明な紫紺の流鱗と金のたてがみを
背なへ走らせた雌竜こそが彼女バスティアであった。
 そんなバスティアは向けられる男の視線に耐えかねて顔を伏せる。
 かねてより贖罪の旅を続けていたバスティアとテスは、過去に彼女が破壊したこの街跡に人が住んでいると
聞きつけ、その謝罪にここへと訪れたのである。
 しかしながらそこに待っていたものは野盗と思しき数人の男達と獣人――どうみても、元街の人間とは思えない。
事実、彼らは盗みを働きながら各地を転々としているごろつきに他ならなかった。
 そのことをテスもまた、一見にして感知した。そして彼らとは話し合いの必要すら無いと判断したテスで
あったが……誰でもない彼女バスティアが、そんなテスを引きとめた。
 もしかしたら、この者達も自分の犯した過ちで被害を被った人間達であるのかもしれない――何か自分に出来る
ことがあるのならば、彼らの役に立ちたい―――と、バスティアは彼らとの話し合いをテスへ懇願したのである。
 昔の暴君であった頃の彼女からは信じられないその柔順な態度と、そして純真なまでの誠意をテスも無碍には
出来なかった。
 惚れた弱みというものもある。彼女のことを愛するが故に、そんな想いを否定することがその時のテスには
出来なかったのだ。
 そんなバスティアの誠意に背を押され、望まぬままに彼らの代表なる男との話し合いに応じたテス達では
あったが――その結果は今を以て知る通りである。
 こともあろうに男達は、バスティアの身を捧げろと要求してきたのだ。
 その目的は他ならない彼女から得られる『素材』にある。
 こと竜の鱗や牙、毛皮と言うものは、日常品や武具の材料として重宝されるものである。さらには見目麗しく
煌めく鱗などは、一級の装飾品としても価値がある。まさに男達にとってバスティアは、宝の山に見えたのだ。
「目には目を、って言葉があるだろ。そこの竜には俺の家族と同じ目にあってもらわにゃ、つり合いが取れねェ
ってなもんだ。なぁ?」
「おうよ。俺のじーさんもこの街でコイツに焼かれましたぜ」
 下卑たジョークを背後の犬獣人に語りかけて笑い合うその姿に、テスは怒りを感じて握り拳を堅くさせる。
 そして胸(うち)で抑えていた感情を爆発させようとしたその瞬間、
『……良い。テス、その者達の望むようにしてくりゃれ』
 バスティアはそっとテスの横顔へ頬を寄せると、呟くよう言い放った。
「ス、ステア! こんな人達のこと真面目に聞くことなんてないよ!」
 それに対してテスも感情的に彼女に応える。
 しかし、
『いいのじゃ。好きなようにさせてほしい』
 瞳を伏せて物憂げに頷くバスティアにテスは続く言葉を飲みこんだ。
943バスティア・アバンチェス2:2011/11/03(木) 20:31:22.31 ID:TUiFpikJ
 見つめる彼女の瞳には、今までに見たこともないほどの悲しみが涙の衣となってそこを潤ませている。
 目の前の男達が、元あったこの街の生き残りなどではないことはバスティアとて重々に承知している。それでも
罪の意識に苛まれている彼女は、どんな形であれその償いが出来ることを望んでいるのだ。
 それを知るからこそ、そんな今に苦しむ彼女を前にテスは何も言えなくなってしまった。
「ステア……きっと君はこれから、死ぬよりも辛い目に会うことになっちゃう。それでもいいの? 僕は嫌だ」
『承知しておる。でも心配するな。こやつらでは、妾(わらわ)を殺めることは叶わんよ』
 バスティアの言葉に話し合いの席に居た野盗達がざわめき立つ。
「そんなこと僕だって判ってるよ。僕が言いたいのは――」
 そしてさらに言葉を続けようするテスの唇を、バスティアは口づけにて塞いだ。
 突然の行動に目を丸くして言葉を飲むテスにバスティアの寂しげに微笑む。
『今宵ばかりは好きにさせてくれ。お願いじゃ、テス』
 そうして改めて懇願され、ついにはテスも何も言い返せなくなってしまった。
 そんな二人のやり取りを見届け、
「それじゃあ始めさせてもらおうか。オラ、ガキは外行けよ」
 テーブルの男は立ちあがると同時、背後の獣人二人に顎で合図を送る。それを受けて二人はテスの両腕を左右から
挟んで掴みあげると、軽々彼を持ち上げ部屋を後にするのであった。
「ならばステア! しっかりと考えるんだ、今の自分の行動を!」
 そうして引きずり出されんとするその瞬間、テスはバスティアへと想いを投げかける。
「こんなのは解決じゃない! 今以上に、君を苦しめるだけなんだよ!?」
 叩きつけるようにドアが閉められると、そんなテスの言葉の余韻もそこで打ち消される。
 室内にはバスティアと、そして先の男と犬獣人だけが残される。
「外の二人が帰ってきたら始まりだ。覚悟しろよ、ステアちゃん?」
 男の声にその仲間内から下卑た笑い声が上がる。
 それを前に瞳を伏せて頭を垂れるバスティア。
――こんなのは解決じゃない………
 その頭の中には、退室間際に放たれたテスの言葉がいつまでも廻り続けているのであった。

944バスティア・アバンチェス2
【 2 】

 話し合いの席にされていた角材のテーブルとイスも運び出されると、室内はバスティアが充分に体を横たわらせる
ほどの広さとなった。
 改めてその中を見渡せば石畳を組んで造られた室内は天井も充分に高い。そして壁面の一角へ移動するよう
命じられると、バスティアはそこに設えてあった黒鉄の鎖で両前足をそれぞれに括られて、天井から吊るされる
ようにその身を拘束されるのであった。
 室内の設備と男達の手際を考えるに、彼らが人攫いまがいの行為もまたしているであろうことが窺えた。
誘拐してきた人間や獣人をここで囲い、調教やはたまたリンチを施していたのであろう。
「へへへ、俺達にも運が向いてきやがった」
 そんなバスティアの前に先の話し合いの時の男が立つ。年の頃は四〇代も始め、痩せた体と艶を失って野放図に
伸びた髪に土気ばんだ肌の面相は、彼の荒んだ生活を物語るかのよう不健康極まりない。そしてこれまでの言動を
見るにどうやらこの男が、ここのメンバー達のボスと見て間違いはなさそうだった。
「鱗も毛並みもキラキラだぁ。これだけの上玉なら鱗だけで一財産になりやすぜ?」
「それだけじゃねぇさ。竜は肉や血、内臓だって薬に売れる。本当に宝の山だ」
 品定めして感嘆する犬獣人の言葉にボスも応え、場は大いに活気づく。
 斯様な俗物達を前にただただバスティアは沈黙を保ったまま、己へと罪の執行が行われるのを待つばかりであった。
 そんなステアへと、
「おい、メス。そういやさっきは、ずいぶんと生意気なことぬかしてくれたよなぁ?」
 ボスが言葉を投げかける。
 それに対してバスティが反応することは無い。
「俺達じゃ、てめぇを殺すことは出来ねェとか何とか言ってたか?」
『………』
「竜だからって人間様をなめんなよ? てめぇはたっぷり苦しめて殺してやるからな」
 生臭い鼻息が感じられるほどに顔を近づけてそう脅してくるボスにもしかし、バスティは微動だにしない。
そんな彼女の落ち着きはらった態度が、なおさらボスの小さな自尊心を逆撫でた。
「なに知らねぇって顔してんだ、動物が!! 舐めくさりやがって!!」
 一瞬にして激情して沸騰し、リーダーは声の限りに罵声を怒鳴り散らす。
「おい! ベドン、ビジー! 少しばかり痛めつけてやれ! まずはコイツに悲鳴を上げさせろ!!」
 そしてリーダーの命令(こえ)に応じ、二人の獣人がその前に歩み出てくる。
 一人はくすんだ短毛の豚の獣人。そしてもう一人は見上げるほどの巨躯を持ったベース不明の獣人(キメラ)。
それぞれの手には末広がりの木棍棒と鉄鎚とが握られている。
「まずはてめぇから行け、ベドン! 間違って殺すんじゃねぇぞ!」
「んお、お、おうッ! い、いくぜ!」
 どもりながらに棍棒を振り上げた豚獣人がベドン。棍棒の重量によたつきながらバスティアの前に歩み出ると、
ベドンはうなだれた彼女の脳天へとその棍棒を振り落とした。
 そうしてベドンの一撃が頭部を直撃するもしかし――両腕に返ってくる振動に痺れて、ベドンはたまらずに
棍棒を握りこぼす。
「何やってやがる、ベドン!」
「お、お、おッ?」
 掛けられる怒号を背にベドンは痺れた両手をさすり合わせながら、今しがた打ちすえたバスティアを凝視する。
「こ、こ、コイツ、堅ぇよお。ボ、ぼ、ボスぅ」
 そして振り返ってそう伝えてくるベドンに声を裏返らせて首をひねるボス。