ててて来るからテンプレ頼む
ててて×立てて
エラーだそうです申し訳ない…
まだ立てなくていいってのに
人の話を聞け
766 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 03:45:42 ID:y5YkAjWs
いやです
767 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 04:14:47 ID:gp8Usdvy
たな
>>762 ・まだ早いっていうのに勝手にスレ立て宣言
・ててて(笑)
・テンプレはめんどいから他人任せ
・しかも失敗
どんだけ突っ込ませるつもり?
うめ
771 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 15:09:27 ID:y5YkAjWs
と書いても無意味です
772 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 18:00:01 ID:Df4UbxAp
うめ
今週もヤンデレ家族来るかな?
ヤンデレ家族ではないけれど、こんばんは。
投下させていただきます。
13話「Nameless Song」
だからな、という上ずった声で、無理矢理に現実世界へと引き戻された。
「だからな、突き詰めちゃえば、長期戦に持ち込んじまった時点で負けだったんだよ。長期戦で地球側には勝てないんだよな、これが」
黒板の上の時計に目をやる。時刻は13時半過ぎ。丁度、5限目が折り返し地点に至ったところだった。
夏休みを目前に、季節はずれの席替えが行われた。結果、俺は窓際の一番後ろという最高のポジションを獲得し、佐藤は俺の前に陣取った。
ちなみに、遊佐は中央の列の一番前、教卓の真正面という、色々な意味で被害を被る位置に移動した。
今週から期末テストということもあり、授業の大半は自習だった。5,6限目の世界史に至っては、先生が不在で、自習というよりは休講に近い。
自習と言われたら自習しないのが高校生、とでも言いたいのか、9割強の生徒は勉強などしていなかった。言うまでもなく、俺らもそれに含まれている。佐藤は延々とアニメの話を続け、俺はそれを聞き流しつつ、舟を漕いでいた。
「やっぱりさ、国土に決定的な差があったわけだよ。しかも、後半の身内のゴタゴタもデカい」
「あのさ、そのナントカって国の宇宙人はさ」
「宇宙人じゃない。宇宙に移民させられた人達だ」
「その人達の話はさ、世界史か、日本史か、現代史のテストに出題されるのか?」
「出るわけないだろ」至極当然のように、言い放つ。アニメだし、とも言った。
「じゃあ何でお前は一日中その話をするんだ」
「布教に決まってんだろうが」
それからまた、佐藤はそのアニメの話を続けた。学徒動員だとか、地球寒冷化などの不穏な言葉も聞こえた気がするが、適当に相槌を打って受け流した。
テストを2日後に控えた火曜日。無気力化し、見失いかけた自分を再発見し、死体を隠した日曜日から、2日経った。
恐れていたような、つまりは警察が突然家に上がりこみ、くるみを引き摺っていくようなことは、まったくなかった。ある一点を除けば、恐ろしいほどに、変化がない。
「一応さ、ずっと後の方まで歴史は一本に繋がってるんだよ。だけどな、俺としては、劇場版でこの2人の決着が着いたところで、幕を閉じたと思ってるわけよ」
「なぁ佐藤」話を遮るため、強い語調で言った。
「なんだよ、こっから最新作に繋げて盛り上げようと思ったのに」
「なんかさ、ごめんな、巻き込んじゃって」
一瞬、目を見開いたかと思うと、佐藤は険しい表情をした。だが、すぐに諦めたかのようにため息をついて、苦笑を漏らした。
「お前ってバカだよなぁ、ホント」
「仮にも謝罪してる人に対してバカってどうなんだ」
佐藤は声を上げて笑うが、その表情にやせ我慢が混じっているのは誰でもわかる。
開かれた窓から、生ぬるい風が入り込み、頬を撫でた。
教室を見渡す。友人と集まって話をしている者や、携帯と黙々と睨めっこをしている者、イヤホンをつけたまま机に突っ伏している者など、様々だ。
女子が数名、机を合わせ、広げたノートを見ながら何かを話しており、そこに遊佐もいた。教室中に笑いが満ち、誰もが日常を満喫している。
息苦しくなる。比喩などではなく、本当に呼吸が難しくなる。吸って吐くという行為が、重労働に思える。
音を立てないよう、ゆっくりと椅子を引いて、立ち上がった。佐藤が不安そうに見上げてくる。
「外の空気吸ってくるわ」
「ん、了解」
佐藤は、教室の窓で充分だろう、とは言わなかった。やはり、佐藤はいい奴だ。
・・・
屋上に出ると、校舎の中とは違った暑さに顔をしかめる。校舎は蒸篭で、屋上は中華鍋だな、なんてくだらないことを考える。
今はまだ授業中なので、誰もいないと踏んでいた。ましてや、知り合いがいる可能性など、微塵も考えなかった。
「叶」
3m近くあるフェンスの前に立っていたのは、叶だった。相変わらずワイシャツの裾をズボンから出しており、振り返ると、第3ボタンまで開けられていて、驚いた。
男に使うことになるとは思わなかったが、陶器の様な肌、とはこのことだと思ってしまった。
「会長様が授業フケていいのかよ」
「授業をフケてる生徒がいないか、見回りしてるんだよ」
「結局自分もサボってんじゃないかよ」本末転倒だよ、と笑う叶の顔はどこか力なく、ワックスで立てられた髪も、心なしか少し曲がっているように思える。
叶の横に立って、腰を思いっきり伸ばした。ずっと机に突っ伏していたせいか、普段よりもいい音がした。
仰け反って見た空は雲ひとつ無い晴天で、大きく息を吸い込むと、香ばしいとも、焦げ臭いとも言えないような匂いがした。
フェンスの向こうには、道路や線路、住宅地が広がっている。間々に緑が敷き詰められており、都会の中に自然がある、というよりは、自然の中に無理やり住んでいる、といった風に思えた。
住宅地のさらに奥には山が聳えており、今日の快晴のお陰で、輪郭をはっきりと捉えることが出来た。
「平和だねぇ」
「なんつー間の抜けた声だよ」叶が呆れる。「まぁ、確かに平和だよな。不自然なくらい」
「嵐の前の静けさ、ならぬ、嵐の後の静けさ、だ」
「それって、普通なんじゃねーの?」
くるみが人を殺し、それを隠したというのに、俺達はまだこうして日常の中にいる。
何故かといえば、簡単な話。俺達が無変化を演じているからだ。
しばらく無言で呆けていると、チャイムが鳴った。5限目が終わったようだ。
「んじゃ、俺はもう戻るよ」
「5限はサボったのに6限は出るんだ?」
「次の授業はリーチかかってるんだよ」
俺はあの、俺にとってはひどく異世界的な教室に戻る気にもなれず、もうしばらく鍋の上で焼かれ続けることにした。
叶の足音がしばらくして止まった。気になって振り向くと、叶もこちらを振り返っていた。
「あのな、一応。謝っとくよ」
「なにを?」
「中3の時のこと。何を今更、って思うかもしんねぇけどさ、悪かったよ、マジで」照れくさそうに、叶は視線を落とす。
「何を今更」
「おっまえなぁ」
「いや、冗談、冗談」
「ったく。まぁ、俺も色々あってイライラしてたんだけどさ、それよりもずっと前から嫉妬してたんだよな、お前に」
「嫉妬?」
「悔しかったんだよ、俺じゃなくてお前だったのが」
「なんのことだよ?」
「わざわざ言う必要もねぇっての、バーカ」
背を向けたまま手をヒラヒラとさせ、それを別れの合図に、叶は校舎の中へと入っていった。
二重の意味で置いてけぼりの俺は、仕方ないので、今朝と一昨日のことを思い出す。
・・・
「取引ですよ」
あの日、“魔物の巣”で窪塚さんが言った言葉の意味を、最初は理解できなかった。彼女が何を言っているのかも、なぜここにいるのかも、わからなかった。
「さすが最新型、綺麗に撮れてますよ」右手を、ニッコリと笑った顔の高さまであげた。その手には、コマーシャルでもよく見かける、最新のデジカメがあった。
唐突に、あの光、あの音が何だったのかを理解した。同時に、冷たい汗が背中を伝い始める。
「てめぇっ」叶が踏み出す。力強い一歩だったが、残念ながら、その足はそこで止まる。
窪塚さんが突き出した左手には、拳銃があった。ドラマや映画で頻繁に目にする、直角定規みたいな形をした、黒くて無骨な銃だ。
「撃ちますよ?」さきほどの笑顔など微塵もなく、冷たく、蔑むような表情で、彼女は言い放つ。
「偽者だ」断定口調だが、叶の声は微かに震えている。
「撃てばわかりますよ」
「撃ってみろよ」
「動いたら撃ちます」
竹林が、再び静かになる。叶と窪塚さんは睨みあったまま立ち尽くしている。叶は表情こそ崩してはいないが、身体が強張っているのがわかる。
一方、窪塚さんは笑顔こそ消えたものの、緊張やその類のものは見受けられない。今にも欠伸でもしだすのではないか、という余裕さえ感じる。
やけに呼吸の音がうるさいと思ったら、自分だった。気付かないうちに心臓が暴れ、呼吸が乱れていた。
叶の身体が僅かに沈むのが、見えた。
「ダメだ!!」叫んでいた。膝を曲げたまま、叶がこちらを見る。「ダメだ、叶。あれは本物だよ」
一端の高校生である俺に、本物とモデルガンの区別など、つくはずがない。それでも、俺は言い切っていた。今思えば、単に逃げたかっただけのようにも思える。
「いい判断です、先輩」
笑顔を浮かべると、彼女は叶を数歩、後ろへと下がらせた。
「予め言いますが、私は先輩を警察に突き出そうなんて、そんなことは考えてません」
「『その代わり、くるみを渡せ』とかは無しだよ」
「先輩が気付かなかったらそうしようかとも考えたんですけどねぇ」察しの悪い俺だって、流石にそれは思いつく。
「くるみと叶に害が及ぶようなのは無しだ」
「先輩、立場おかしくないですか?」窪塚さんは、クスクスと、上品に笑った。銃口は、未だに下げられていない。
注文が出来るような立場ではないのは、重々承知していた。それでも、これだけは絶対に譲ってはいけないような気がしていた。くるみが狂行に走ったのも、ここに叶がいるのも、全ては俺の責任だ。
「お願いだ、俺はなんでもするから」
窪塚さんはもう一度笑ってから、「いいですよ」と答えた。あまりにもあっさりとしていたので、「いいの?」と聞き返すほどだった。
「先輩がそう言うのも予想済みです。むしろ、好都合ですから」
その言葉に思わず、後悔の念が走るが、なんとか押さえ込む。
「でも、写真はあげませんよ」彼女はニッコリと笑うと、カメラをポケットにしまった。
理解が出来なかった。写真を渡さないというならば何の取引だ?
彼女と目が合った。不思議なことに、その瞳には慈愛というか、情愛というか、とにかく、この状況とは似つかないような、温かなものが込められているように思えた。
「死体に関しては、任せてください」
・・・
その後、彼女が何をどうしたかは知らない。俺達はすぐさま竹林から追い出され、老婆とスコップを取り合っている佐藤らと合流し、窪塚さんの言いつけに従い、帰宅した。翌日、つまり昨日は、窪塚さんは学校に来なかった。
今日の朝になって、事態はほんの少しだけ進展を見せる。
俺の携帯に、窪塚さんからメールが届いた。内容は、至ってシンプル。『7:40までに生徒会室に来てください』、それだけだった。
普段よりも随分早く登校し、生徒会室を目指すと、生徒会室の中にはすでに叶と佐藤、ウメちゃんがおり、このメールが全員にほぼ同じ内容で送られていたことを知った。
僅かな違いは、みんなは集合時間が10分早かったことぐらいだ。
俺が生徒会室に入ってからすぐに、窪塚さんが入ってきた。入ってくるや否や、彼女は昨日の銃をこちらに向け、俺達を奥へと追いやり、自分はドアを背にして立った。
机を挟んで対峙した時、叶が小さく舌打ちをしていた。4人で襲い掛かろうとでも考えていたのだろうが、彼女がそんな初歩的なミスをするわけがない。
窪塚さんが銃を下ろすと、叶の身体が僅かに動く。だが、机を越えて飛び掛るような無謀な真似はしなかった。
ここから窪塚さんまでは10mほどあり、足の速い叶であろうと、彼女が腕を上げるよりも速く間合いを詰められるわけが無い。歯軋りが聞こえる。
「さて、まずは報告ですね」叶の悔しさを知ってか知らずか、彼女は悠々と話し始める。「死体に関しては、なんの問題もありません。ぱーふぇくしょん、です」
生徒会室が静かになる。心臓の音も、叶の歯軋りも、佐藤の貧乏揺すりも、止まった。ウメちゃんが「うぇ?」と変な声を上げるまで、生徒会室には一切の音が無かった。
「なんか言ってくれないと私がバカみたいじゃないですか」照れ隠しとしか思えない口調で、彼女は怒る。
「なにがぱーふぇくしょんだって?」
「死体は私が完璧に隠しました、って言ったんです」
「完璧に?」
「完璧です。大規模な地殻変動だとか、あそこらへんを丸ごと開発しなおすとかが無い限り、絶対にバレません」
「その証拠は?」と叶。
「証拠があったら完璧じゃないですよ。バカですか?」
すごく今更な気がするが、『こっち』が窪塚さんの本性なのだと認識する。誰にでも親切で、ニコニコ笑っているの姿は演技ということか。ただ、敬語を忘れないあたりが彼女らしく、また、不気味でもあった。
「あとは先輩達が隠し通せば問題ありません。いいですか?
私達は柴崎先輩の失踪について何も関与していないし、皆目見当も付かない。最近の彼に変わった様子は見られなかったし、何より、そんなに仲が良い方ではなかった。
いいですか?」まるで暗示でもかけるようにゆっくりと、はっきりとした口調で窪塚さんは言う。「何も無かった『フリ』をするんじゃありません。『何も無かった』んです。いいですね?」
4人が4人とも状況を呑み込めず、曖昧に頷くと、彼女は大きなため息を吐いた。
「僅かなミスでも、警察は見逃しません。彼らは他人の粗を捜すのが仕事です」
「そんなこと言われても、なぁ?」目を伏せた佐藤が言う。
「なら、もう1個選択肢を。先輩達が死ねばいいんですよ。『死人にくちなし』、です」彼女が銃を構えた途端、冷たい獣が全身を駆けずり回る。「あ、もちろん憲輔先輩は例外です」
その言葉に安心したわけではないが、俺は全身の空気を吐き出すようにして、体の力を抜いた。
それを見計らったかのように、窪塚さんは銃を下ろし、言う。
「さて、それでは、そちら側の交換条件ですが」
再び、全身が粟立つ。
窪塚さんは、今までで初めて見るほどの幸せな顔をしていた。
・・・
放課後、俺は校門で人を待っている。5分ほどすると、彼女が勢いよく走ってきた。
「ごめんなさい、遅れちゃいました」
「そんな慌てなくてもよかったのに」
「だって、先輩が待ってると思うと走らずに入られませんよ」
「照れることを堂と言うね」
「彼女ですからね」
窪塚さんが声を大にしたのが、わざとだというのは流石に俺でも気付く。川のように流れる生徒群の目が、一瞬俺達に集まるのがわかる。
汗でほんの少し顔を上気させ、窪塚さんは微笑んでいる。彼女の背は平均より低いため、必然的に俺を少しだけ見上げる形になる。不覚にも、素直に可愛いと思ってしまった。
興奮と鳥肌が同時に訪れ、言い表せない、奇妙な感覚に見舞われる。振り払うように、逃げるように歩き出す。
「イジワルですねぇ」言葉とは裏腹に、彼女は楽しくてしょうがない、という風だった。
彼女の要求はたった1つ。『俺と窪塚さんが恋人になること』、たったそれだけだ。彼女がしてくれたことを考えれば、安いにも程がある。
なにより、取引とはいっても、彼女が現場の写真を抑えている以上、こちらに拒否権はない。
窪塚さんに先導され着いたのは、駅前の商店街だった。先々日、遊佐と来た場所だ。手前の方から手当たり次第、店に入っていくので、遅れないようについていく。
「夢みたいですよ」6軒目で、窪塚さんは顔をうっとりとさせながら呟いた。
「なにが?」
「先輩とこうして買い物を、それも放課後デートだなんて、もう嬉しくておかしくなっちゃいそうです」
「そりゃあよかった」
「先輩、いくらなんでも投げやりですよ」
「いや、でも、ねぇ?」窪塚さんとのデートが嫌というわけではない。場所が嫌なのだ。
商店街について以来、周りには俺達のように制服を着たカップルが溢れていた。同じ高校の制服もあれば、別の学校の制服も多くいる。そんな中に俺がいるのは、どうも不釣合いに思えてしまう。
「ふふっ、相変わらずですねぇ。もしかして、緊張してたりしますか?」
「緊張、ってのも違くてさ」
「わかってますよ」
笑いながら、彼女が店を出る。慌てて追いかけると、またすぐに別の店に入った。どうも女子というのは買い物が好きというよりは、店を冷やかすのが好きみたいだ。
「それより、“相変わらず”ってなに?」
窪塚さんが7着目の服を手にした時、何か別の疑問が浮かびかけたが、今は置いておくことにして、喉に引っかかった疑問を口にした。
「先輩って鈍チンなのに、そういうところには気付くんですよねぇ」持っていた黄色いTシャツをハンガーにかけなおして、ため息をつく。「そこも好きなんですけど」
「“相変わらず”っていうのは、前から知ってる物事に対して使うものだろ。でも残念ながら、俺は今まで女の子とデートをしたことはない」くるみと姉は例外ということにしておく。
「ええ、知ってますよ。私の言った言葉の意味と、先輩の捕らえてる意味は若干の差異があります」
「差異?」
「私が言いたかったのは、『相変わらず罪の意識があるんですね』っていうことです」
今にも倒れそうなほどの目眩に見舞われる。鈍器か何かで頭をフルスイングされたようではなく、脳を直接鷲づかみにされ、思いっきり振り回されたような感覚だ。
続いて、胃液がせりあがって来る。全身に悪寒の波動が走り、全ての汗腺から気味の悪い液体が滲み出る。黒く濁った、ドブのような液体。
「━ぱい、先輩!」
気付くと、窪塚さんに支えられ、辛うじて立っていた。窪塚さんは真っ赤になりながら俺を支え、何度も呼んでいたようだ。
「ごめっ、俺」
「いいから、店を出ましょう、ね?」
周りの視線を避けるようにして、窪塚さんは俺の手を握って走り出した。少しだけ店と距離を置くと、俺は崩れるようにして、アイス屋の壁にもたれて座った。
「理解が出来ませんよ」顔を抑えて呼吸を鎮めていると、窪塚さんが強い語調で言った。「理解できません。なんで、なんで先輩がそこまで責任を感じるんですか?先輩は無関係じゃないですか」
「無関係じゃないよ」
「無関係です。第一、記憶だってあやふやなぐらい幼い時の事でしょう?」
「あと3年早く生まれてれば、結果は変わったかもしれない」やたらと苦い唾を吐き出す。「もしくは遅く」
「それが罪だって言うんですか?それで責任感じてるんですか?悪いですけど、そんなのただのバカですよ」
「バカ、バカか。それ、前にも誰かに言われたなぁ」
これ以上は無意味だと判断したのか、窪塚さんは口を閉ざしてしまった。これ幸いと、俺は身体を休めることに専念する。
それにしても、窪塚さんはどこまで知っているのだろうか。彼女の口ぶりからして、どうも全部を見透かされてる気がしてならない。
だから、訊こうとは思わない。「私は先輩のことなら全部知ってますよ」と言われるのが見え見えだ。
・・・
それから2軒ほど回って、喫茶店に入った。そこは遊佐と行った『Kyoro』という店で、偶然にもあの時と同じ席に座った。俺はアイスコーヒーを、彼女はピーチティーを頼んだ。
30分ほどいて、窪塚さんが突然席を立った。俺が止めるヒマもないほどテキパキと会計を済ませると、店を出た。結局、喫茶店では一言も交わさなかった。
駅へ向かい、電車に乗る。3駅目で降りる。窪塚さんはこの隣の市なのだが、市の境目に家があるらしく、ここで降りた方が近いのだそうだ。
空はすっかり暮れていた。といっても、不思議とそれほど暗くは感じない。街灯のお陰もあるが、夏の夜空というのは、どこか明るい。
「公園に寄って行きませんか?」駅を出ると、窪塚さんが久しぶりに喋った。
時間的に、そろそろ帰りたいところだったが、彼女の顔つきに決意のようなものが見え隠れしている気がして、どうにも断れなかった。
駅から数分歩いた所にある、寂れた公園に着いた。ここは子供が遊ぶためというよりは、待ち合わせ向けで、遊具は滑り台しかないのに対し、ベンチは6脚もある。
だが時間帯のせいか、浮浪者と思われる人が新聞を被って横になっているの以外は、全て空いていた。窪塚さんが入り口の正面のベンチに座ったので、その横に少し距離を空けて座る。間を空けず、窪塚さんが詰めてきた。
やはり、窪塚さんは黙りっぱなしだった。それでも、俺は不快感や、妙な焦りを覚えたりは、不思議としなかった。
沈黙に疑問を持たない関係というのはいいものだ、と俺は常々考えているので、割と幸せに感じていたぐらいだ。
しかし、どうやら窪塚さんは違うようだ。先ほどからキョロキョロと目線を泳がせ、指先を忙しなく動かしている。
「大丈夫?」
「え?あ、いや、えっと、だい、大丈夫です、問題ありませんよ」いつものように笑おうとはしているのだろうが、目線が定まらず、口元も少し引きつっている。
とりあえず、落ち着かせるには放っておくべきだろうと判断し、再び前を見る。斜め前の方のベンチで、横になってる人が少しだけ動いた。
駅前から少し外れた場所のせいか、人通りはないに等しい。足早に家路を辿るサラリーマンも、疲れきった顔で大きな鞄を担ぐ坊主頭の高校生も、ここの近くは通らないようだ。
弱々しい街灯の向こうで、控えめに飲み屋の看板が発光している。目線を上に上げれば、いつもよりも星が多く光っていた。しばらく見惚れていると、一際強く光っていた星が、突然消えた。
見間違いかとも思ったが、さっきまではあったように思えて仕方ない。
「ねぇ、今さ」
「先輩っ」
遮るように放たれた言葉と同時に、膝上に置いた手に暖かいものが触れた。俺の右手の甲に、窪塚さんの左手が重なっていた。
「先輩・・・」窪塚さんの顔が目の前にあった。彼女は身を乗り出して、ゆっくりと近づいてくる。
彼女が何をしようとしているのか、当然、それぐらいはわかる。だが、俺の身体は固まり、動かなかった。
時間が、ひどく長く感じる。彼女の唇が俺の唇に重なるまであと数センチといったところか。誰かがリモコンをいじったのかと思うほどに、世界はスローだった。
ゆっくり、本当にゆっくりと、彼女の顔が近づく。俺の視界が、窪塚さんだけになる。
突如、クラクションが夜に響き渡る。大きさと鈍さからして、大型のトラックだろうか。その音に弾かれるようにして、窪塚さんは俺から離れた。ただでさえ大きめの目を見開き、何度も瞬きをしている。
「ご、ごごごごめんなさい」
「いや、謝るようなことじゃないって」
「ちがっ、違くて、私、その、まだ・・・」ほとんど泣きそうな声で、彼女は謝っていた。俺にはそれが何故か、理解できない。
またもや沈黙が空間を支配する。
マンガやドラマの主人公なら、ここで男の方からキスをするべきなんだろうが、俺にはそんな勇気もないし、自分の置かれた状況を改めて考えると、そんなことが出来るほど俺の心の切り替えは早くない。
このときの俺には、彼女の戸惑いの理由など、知る由もなかった。
窪塚さんの行動は先程とはうってかわって、この沈黙を討ち破ろうと焦っている様だった。「あの」だとか、「その」、「えっと」と、どう切り出そうかを必死に模索しているようだった。
「・・・そうだ、そういえば1つ訊きたいんですけど、あい・・・あの人は、何で柴崎先輩を殺したんでしょう?」
「俺のほうが聞きたいね」まさかその話題を持ってくるとは。最悪といっていい切り替えしだ。
口先ではとぼけてみるも、柴崎恭平が殺されたのは俺の責任であり、本来殺される予定だったのは浅井叶だったということは、頭ではぼんやりと理解していた。
どのような過程によって捻じ曲がったのかは、俺にはわかりえない。それでも、あの帰り道の会話がくるみを狂行に駆り立てたのならば、おそらくそうであったはずだ。
偶然が運命を捻じ曲げた。柴崎恭平は、いや、くるみも含め、俺達全員はその歪に呑み込まれた。そうと思うしかない。
このことは、まだ誰にも話していないし、話すつもりも無い。確信はあるが、主観による確信など、何のアテにもならない。何より、このことを叶に話すことは、この上なく残酷な行為に違いない。
「訊かないんですか?」
「訊けるもんなら訊いてるよ。でも、そんな状態じゃない」
「優しいんですね、相変わらず」
「家族だからね」
「じゃあ彼女の好意、先輩は勿論受け取らないんですよね?」
投げっぱなしにしていた問題が、突然、襲い掛かってきた。
「俺は」勢い任せに切り出して、案の定、詰まる。「わからない」
「あのですね、恋人の目の前では答えを濁すなんて最低ですよ、先輩」
「恋人?・・・ああ、そっか」
「先輩、ドSですね」
「いや、冗談だよ、冗談」
「ねぇ、先輩」窪塚さんは意志を込めた視線で俺を射抜く。「私、本気で先輩のこと好きなんですよ?先輩が言うならどんなことだってするし、先輩ためにいろんなことをします。
邪魔な奴がいるならなんとかします。お金が欲しいって言うならいくらでも集めてみせます。私の性格を変えろというなら催眠術でもなんでも使って変えます。春を売れと言うなら、先輩が言うなら、従います」
「俺はそんなこと求めないよ」
「わかってます。例えです。でも、私自身にはそれだけの覚悟があるんです」
彼女の言葉に偽りがない、とは思えない。もし本当に覚悟とやらがあるなら、今のキス未遂はなんだ?
俺が求めたわけではないにしろ、あれはあからさまに、窪塚さん自身に拒絶の意志があったように思えて仕方ない。
「まぁいいです」言うと、窪塚さんは勢いよく立ち上がった。「でも、1つだけ、忘れないでくださいね。先輩の立場っていうのを」
彼女は遠まわしに、俺には拒否権がないと言っている。言われなくとも、そんなのは充分に承知しているつもりだ。
「じっくりと、時間をかけて堕としてあげますよ、先輩。ああ、あと、次からは名前で呼んでくれないと怒っちゃいますからね」
品のある笑顔を浮かべ、彼女は公園の出口に向かっていった。角を曲がって見えなくなっても、俺はまだ座っていた。少しして、ベンチで寝てた人が起きて、窪塚さんと同じ方向へと消えていった。
寝ていたのはなんと女性だった。しかも、服装は俺が知っている高校の制服だった。
もう一度夜空を見上げ、さっき消えた星を探す。しかし、今度はどこにあったのかさえわからなくなっていた。
結局、14軒回って、窪塚さんは何も買わなかった。
783 :
兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:14:31 ID:5KuJbmkM
セルフ支援
・・・
家に着くと、窓という窓から光が漏れていた。風呂場も、トイレも、居間も、全ての部屋の電灯がついている。唯一、俺の部屋を例外に。
鍵を差し込み、回す。この鍵穴は旧式のせいか、やたらと金属の擦れる音がする。家中に響くほど、大きい。
2階から、慌しい足音が聞こえる。慌てて移動を始め、階段を転がるように下りてくるのがわかる。俺は鍵を開けてから扉を開けるまで、わざと間を空ける。
足音が落ち着いたのを見計らって、玄関の戸を開く。
「お、おかえりなさい」僅かに息を荒げ、紅潮したくるみが出迎えてくれる。
「ただいま」
階段を上り、一目散に自室へと足を向ける。後ろから、くるみが小さく、「あ」と呟いていたが、聞こえなかったことにする。
鞄をおろして、自分のベッドに手を乗せる。生暖かい。少し引け目を感じながらも枕の匂いを嗅ぐと、甘い匂いがした。おもわず、ため息が出た。
昨日今日、俺はくるみに家を出ないように言った。くるみの心のことを考えてということもあるが、俺を含め、あの場にいた全員がくるみを見て平常心を保てる気がしなかった。
学校にも両親にも、くるみは体調を崩した、ということにしている。
何故かはわからない。わからないが、日中、くるみはどうやら俺の部屋で時間を過ごしているらしい。俺のベッドで寝たり、俺の本を読んだりしている形跡が残っている。
学校のアルバムの俺が載っているページすべてがドッグイヤーしてあったのも、秘蔵のエロ本の最後のページに俺の趣味趣向がまとめてあったのも、恐らくくるみの仕業だろう。
そこにバツや丸が色々と書いてあったが、意味はよく分からなかった。
俺の部屋に入ることは何も問題は無い。ただ、ベッドで寝るのだけはやめて欲しい。匂いのせいで頭がやたらクリアに働き、昨日は悶々として眠れなかった。
ジャージに着替えてリビングに下りると、昨日と同じく、机の上いっぱいに皿が敷き詰められ、不恰好な料理が並んでいた。
不揃いなミートボールに、水っけの多い炒飯、マヨネーズの混ざりきっていないパスタサラダなどなど、様々な料理が何枚もの大皿に大盛りになっている。
昨日に続いて見栄えは悪いが、味は悪くない。やや薄口だが、俺は好きだ。
「今日も頑張ったなぁ」
「ちょっと失敗しちゃったけどね。お風呂も沸いてるし、洗濯もやったよ」
「悪いな、なんか」
「ううん、気にしないで」料理をレンジで暖めながら、くるみは照れくさそうに笑った。
それから2人で食卓に着き、食べ始める。くるみは量を作る割には小食なため、大半は俺が食べることになる。腹を壊すほどではないものの、多少限界は超える。
バラエティ番組を見て笑い、ニュースを見て、世界情勢やなんだを真剣に話したりもする。今日何をやっていたのかを訊くと、くるみは言葉を濁して笑う。
いままで通りの日常がある。くるみは必要以上に明るく振舞おうとはしないし、ふさぎ込んだりもしない。窪塚さんに強要されなくとも、ここには“いつも通り”がある。
彼女は何も語らない。罪の意識、動機、言い逃れ、殺害方法、今の心情、今後について・・・聞きたいこと、訊くべきことはいくらでもある気がする。
ただ、わざわざ口に出すまでもなく、くるみは人を殺した。恭平に刺さっていたのは全て父が所持していたナイフと同じで、それが全て、家からなくなっていることも確認した。
そして、くるみが浴びていた尋常じゃない量の血。どんなにいい方向に見たって、くるみが恭平を殺したのは明白だ。
だというのに、俺はそれを否定したがっている。否定しなければ、くるみを守ってやれないと思っている。だから、真実を拒み、彼女が何も語らないことに、ほっと胸を撫で下ろしている。
さらに言えば、おそらく俺に向けられているであろう、家族間以上の好意にも、気付かないフリをしたままだ。
俺は、最低だ。
・・・
風呂から上がると、随分と懐かしい顔があった。「父さん」
「よぉ、憲輔。元気そうじゃないか」
「まぁね。何日ぶりだっけ?」
「さぁな。そもそも“日”だったかどうか」同じ家に住む親子としては随分と不適切に感じるが、事実なのだから仕方ない。
リビングの椅子に座り、ビールを飲む父は若干痩せているように見えた。斉藤の一家で唯一といっていいほどにまともな人間が痩せているというのは、少し不安感を煽る。
「くるみは?」
「さっき上に上がっていったよ。体調悪いみたいだけど、大丈夫か?」
「とりあえず安静にしてれば問題ないみたい」言いながら、父の向かいの席に着く。コップに牛乳を注ぎ、一気に飲み干す。
「おお、いい飲みっぷりだ。ほれもっと飲め」
「はいはい、どーも」
並々と牛乳の注がれたコップを見下ろす。ほんの少し波打っていた表面が落ち着いてくる。白濁色の牛乳を見ていると心が落ち着く変態など、俺だけで充分だ。
母も姉も、くるみもいない。ついでに言えば、ルイスとマエダも庭にいる。これは久しぶりのチャンスだ。
「なぁ父さん」
「教えないぞ」先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情、声色で、はっきりと言い放たれた。
「そこまで頑なに断る理由がわからない」
「そこまで頑なに訊き出そうとする理由がわからんな。何度も言うが、お前には関係ないことなんだ。首を突っ込むな」
「あのさ、なんで俺に関係がないんだよ。どう考えてもあるだろう」
「ない。一切ない」
「あのなぁ」
「お前は姉ちゃんと同じで頭がいいんだ。だから、バカになる」
「またバカですか」1日に同じ話題で別の人にバカと言われるとは、思ってもみなかった。「もうバカでいいよ。教えてくれるまでは俺はバカを続けるよ」
「母さんよりも頑固だな」
「父さんほどじゃない」
「言うようになったじゃないか」心底楽しそうに笑うと、残ったビールを一気に飲み干した。「だが、ダメだ。お前はくるみちゃんのことと家計のことだけ考えとけ」
もうこれ以上は無駄だな、と判断する。これで何敗目だろうか。まったくもって勝てる目途が立たない。大きなため息が自然に漏れる。
「そんなに落ち込むな。・・・そうだな、じゃあ」そこで、金属の音が響く。鍵を開ける音だ。「お、母さんか」
父親が立ち上がったので、俺も同じように立って、玄関へ向かった。音が止むと、勢いよく扉が開く。
「たーだいまっ」
母にしては随分と幼げな声。それもそのはず、立っていたのは姉の憲美だった。
「なにやってんだ、憲美」
「なにしてんの、姉ちゃん」
姉が泣き出すまで、そう時間はかからなかった。
とりあえず投下終了です。
久々の連続投下規制にビビッて慌てて携帯で書いたんですが、sage忘れました。申し訳ないです。
改めてハイペースな作者様すげぇと実感。マイペースで頑張ります。
では。
>>775 いやいや、週末にいいもの読ませて頂き、クオリティ高くて楽しめました。
いやいやgj、gj…スレ最後を締めくくる良い作品だ、ちょうど490近くに成ったな。
りおちゃん可愛いのう
んじゃ、次スレ立ててくる
いや〜さすがおもしろいですね。GJです!
792 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 02:35:28 ID:rDajOCms
荒らしって確か今時は通報すると普通に捕まるよな、ただ誹謗,中傷の被害者さん、この場合作者さんが通報しないといかんのだが
日本語でおk
埋めネタ思い浮かばんな…後大体二〜三千文字位だろう…俺の文才では無理歩…
犯罪予告とか特定の誰かを猛烈に叩いてくるとかじゃないと無理だけどな
騒音おばさんはしょっぴかれるけど酔っぱらって騒いでるおっさんはその場で注意されるだけ。みたいな感じ
ちなみにvipで晒し上げにしてメシウマするのは 特定の誰かを〜 に引っかかるらしいから注意しろよ
この作者って叩かれないけどたいして褒められもしないよな
毎度毎度そのセリフ見てて思うんだが、夏は悪くないと思うんだ
春夏秋冬変な人は出てくるわけだしさ
>>796 それはいいことなのか、悪いことなのか…
まあなんにせよ俺はこの作品好きだがね
ヤンデレssを書くに当たって参考に成る作家って誰に成るんだろ?
ホラー作家とか?
SSにSATSUGAIシーンが無くても、にじり寄ってくるシーンの緊張感とか参考にできそう。
中途半端に余らせちゃったんで埋めネタをば。
注:深く考えたら負け。30分程度で作った急造モノなので。
3レス分ぐらいです。
昔から僕には視えているのに、他人には視えないものがあった。それは恐らく、そこにあるようなものではなく、僕の瞳の中に直接入り込んだ、そこだけに存在するようなものなのだと思う。
便宜上、僕はそれを『影』と呼んでいた。
彼女と喧嘩した理由は非常にシンプルで、極めて一般的だった気がする。すくなくとも、僕の主観では。
「どうして?ねぇ、なんでなの?私が何かした?貴方に嫌われるようなことしたかしら?ねぇ、ねぇ?」
どうも、彼女からすれば納得いかなかったようである。大きめの黒目をさらに大きくして詰め寄ってきた彼女は、僕をそのまま壁に追い詰め、小一時間ほど文句を言い続けた。
「いいわ、だったら1週間、いえ、3日でいいわ」
「猶予がほしいってこと?」
「・・・なにを言うかと思ったら」
━━私があなたに3日間、猶予をあげるのよ
『影』はひどくぼやけ、かろうじて人の形を留めていた。
―1日目―
まず僕は友人を失った。
「お、おう」友人にあおはよう、と言われた場合、このようなリアクションは適切とは言えない。
朝の講義室で、僕はいつもどおり、ゼミの仲が良い一団を見つけると同じ机に腰を下ろした。そうして、当然の如く挨拶をしたのだが、だれもかれもがぎこちない顔つきのまま目を逸らした。
「どうしたのさ。みんな変だよ?・・・あ、そうだ。この前言ってた本さ」
突然、一番端に座っていた男子が立ち上がった。何事かと思うと、彼は鞄を背負い、隣の女の子、彼の恋人の手を取ると、無言で講義室の出入り口へと歩いていってしまった。
わけが分からず呆けていた僕だったが、理由を知らないのはどうやら僕だけなのだと思い知る羽目になる。
少しの間を空けて、友人達が次々と席を立ち始めたのだ。それも、誰も僕に説明する素振りも見せず、ましてや僕の顔を見ようともしない。
「え、なに、移動?」ようやっと搾り出したセリフがこれだった。
しかし、誰も僕の声を聞こうとしない。当然、答えない。
「・・・すまん」最後に立ち去った彼は俯きながら、やはり僕の方を見ずにそう言い残して去っていった。
僕は友人を失った事実についていけず、ただ呆然と、出入り口を見つめていた。
『影』は今日もそこに立っていた。なにをするでもなく、僕を見ていた。
―2日目―
2日目には、居場所を奪われた。
「・・・我らがサークル、『エレドネィ』は本日を持って解散となった」
昨日は何かの冗談かと思っていた僕も、2日連続でみんなから相手にされなければ、流石に異常だと思うし、不安にもなる。
友人に尽く無視された僕は、助けを求めるように所属サークルのボックスを訪れた。
だがしかし、そこにあったはずのものは何もなく、打ちっぱなしのコンクリートの壁だけがやけに目立っていた。そこに茫然自失と立っていた部長は、生気のない顔で僕を見つめて言ったのだった。
「なんで、なんでですか」
「君達の・・・いや、なんでもない」部長はフラフラと、覚束ない足取りで僕の横を通り過ぎる。「誰のせいだとは言わない。けど、このサークルは僕の全てだったんだよ」
振り返っても、そこに部長の姿は、誰よりも真剣に直向に打ち込んでいた、部長の眩しい姿はなかった。
その代わりに、開け放たれたままの扉の向こうに、妖しく微笑む『彼女』がいた。
―3日目―
僕は生活が出来なくなった。
「・・・なんだよ、それ」手をワナワナと震わせて、受話器の向こうに問いかけた。怒りと、絶望から震えが止まらない。
「言ったとおりだ。今後一切の仕送りを取りやめる」
「なんでだよ、親父!」
「自覚がないのか、まったく」父はやれやれとため息を零す。「学業を疎かにし、サークル活動にも打ち込まないだけに飽き足らず、人様に迷惑ばかりかけているそうじゃないか。
俺は、そんなことをするために1人暮らしをさせてるわけじゃないぞ」
言葉が出ない。本当のことを言われたからじゃない。その逆、笑えるほどに真逆なことを口走るものだから、思考がついていけなくなった。小さな自室で、僕は改めて絶望を感じる。
「学費だけは出してやる。バイトでもなんでもして、猛省しろ」
「・・・バイトは今日辞めたよ」正確には、『辞めさせられた』だが。
受話器からの声が途絶える。少ししてから、またため息が聞こえてきた。
「今月だけはどうにかしてやる。だが、それ以降は、お前が更正するまでは断つからな」
「誰が」
「誰が密告したか、か?」
「――。いや、やっぱりいい」一方的に電話を切る。「・・・なんでここまでするのさ」
振り返り、真後ろの彼女に問う。彼女は上品に口元に手を当ててはいるが、唇の両端は歪に吊上がっていた。
「“猶予”だと言ったでしょう?もっと早くに罪を贖っていれば、ここまではやらなかったわ」
「―っ!!僕がっ、僕が何か間違ったことを言ったか!?」
「あら、今度は逆ギレ?」
あくまでも態度を崩さない彼女に思わず詰め寄る。すぐに軽率な行動に後悔する。
「時刻は22時49分。まだまだ余裕はあるわ。あと1時間11分の間に決めなさい」
そう言い放つ彼女の手には刀身が細く長い刺身包丁が握られ、その切っ先は一直線に僕の喉を捉えていた。
「自分の過ちを認め、再び私を、私だけを愛すると誓うか。それとも━━」彼女の手が僅かに揺れる。
少しだけ、本当に少しだけ、包丁の先端が僕の喉に触れた。たったそれだけで血の気が引き、転がるように、僕は背後の壁まで逃げ出した。そのまま腰を抜かし、情けない悲鳴が漏れる。
「ふふっ、あはははははははははは!!いいわ!可愛いわよ、すごく!!」
スイッチの入った彼女は誰も止められない。動けない僕の胸倉を掴むと、彼女は床に向けて僕を放り投げた。仰向けになった僕にすかさず馬乗りになると、そのままの体勢でまた包丁を突きつけてくる。
「ねぇ、わかってるでしょう?貴方は私のモノなの」包丁を逸らしたかと思うと、彼女は僕に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。
暴れるように動き回る彼女の舌に、僕の口内は為す術なく蹂躙される。「・・・そして、私は生まれたときから貴方のモノ」
僕はもう、完全に脱力していた。彼女には一生、適うことはないのだと悟る。
『影』がこちらを見ていた。ただ黙って、僕を見下ろしてる。
「血を分け、肉を分け、そして心を分けた存在だもの」
両手で僕の顔を掴み、艶かしい手つきで撫で回してくる。そのまま再び唇を重ねたかと思うと、急に口を離して今度は顔中を舐めまわしてきた。
「ふふふ・・・私達は2つで1つ・・・・生まれたときから決まってる。そうでしょう?」
「・・・世間一般として、僕達は結ばれてはいけない立場だろう」そう、これが喧嘩の原因だったはずだ。というか、僕は昔からこれを訴え続けている。
「そう。なら死んであの世で結ばれる?」再び包丁がつきたてられる。
「なんで・・・そこまで・・・・」
「しらばっくれても無駄。綺麗ごとを並べても無駄。貴方だって私のことが好きなんでしょう?」
「そんなこと」
「小学3年生の時、同学年の男子を殴って注意を受ける。以後、数件同じような事件を起こす」彼女はさも楽しそうな声で羅列していく。「中学1年生の時、遂に相手に重傷を負わす。
裁判沙汰になりかけるが学校側の仲裁で踏みとどまる」
「・・・やめろ」
「それ以降、表向きには事件を起こさなくなるが、仲間を使うなどの裏工作を多用し、水面下で暴力事件を起こし続ける。現在までの推定件数は14件。軽度のものを含めればちょうど20件。
暴力の対象になった者は年代様々だが、いずれも、妹にちょっかいを出した者、妹に乱暴を働いた者、妹に好意をほのめかした者、妹に求愛をした者」
「やめろって!!」
ありったけの声で叫ぶが、耳に入ってきたのはこの上なく情けない声だった。彼女の歪んだ笑みがさらに深まる。
「さて、狂っているのはどちらなんでしょうね、兄さん?」
視界が歪む。今僕の視界にあるものは妹だけであり、同様に、僕の心の中を占拠するのも妹だった。
『影』は、『彼女』は今、ぴったりと妹と重なっていた。
ただ僕の視界だけに存在し、黙ってなにもしない、圧倒的な存在であった『影』。僕を突き動かしてきた『彼女』。
ようやくその存在を理解した僕は、妹を抱きしめ、狂ったように笑い続けた。
とりあえず終了。
みなさんお疲れ様でした。
埋め乙
乙です
でも欲を言うとこうゆう良質なヤンデレ妹ssはキモウトスレに投稿して欲しいな
最近あそこ活気ないんだよね・・・
810 :
埋めネタ:2010/08/03(火) 00:03:27 ID:d5yTC50z
あれ、お兄ちゃんどこに行くの?
34スレのところ?
そんな、まだ三週間しか一緒にいないのに。
行っちゃだめだよ。
あの女、きっとお兄ちゃんを捨てて、すぐどこか行っちゃうよ。
嘘じゃないよ。……私にはわかるもん。
あの女に良い物を送りつけてやったの。
きっと今頃、あの封筒を開いているわ。
今から追いかけたって無駄よ。
だって、二日前に速達で送ったんだから。
今から駆けつけても、もう遅いよ、お兄ちゃん。
そんなことより、私と一緒に埋まろうよ。
お兄ちゃんに甘え足りないんだ、私。
お兄ちゃんが私にしたいこと、なんだってやってあげる。
あんな女なんかより、私の方が、お兄ちゃんにふさわしいんだから。
絶対に。
*****
時は遡り、二日前。
34スレの家のポストに、封筒が投げ込まれた。
ポストを覗き込んだ34スレは、何の注意も払わず、封筒を取り出して、開く。
それが、33スレの最後の力を振り絞った妨害工作だとも知らずに。
四つに折り曲げられた便箋を開く。
そこには、まるで血のような紅色の文字が浮かんでいた。
34スレの背筋が凍り付く。鳥肌が腕にびっしりと浮かぶ。
脳髄を引きずり出されるような錯覚の中、34スレは血文字で綴られた文章を、口にした。
『あんたがすぐに埋まるように、祝ってやる』
埋め!
「そんな……たしかに埋めたはず! 十分な文の量だったはず! なぜ!?」
「死んだおばあちゃんが言っていた。人を呪わば穴二つ。
人を呪うなら、それなりの覚悟が必要だ、ってね。
呪っていいのは、討たれる覚悟のあるやつだけだ!」
「34スレェッ! よくもお兄ちゃんを、お兄ちゃんを穢したなあぁぁぁっ!」
33スレの拳が振るわれる。
しかし、34スレには届かない。
殺意の籠もった拳は払い落とされ、カウンターの左フックが33スレの鳩尾へたたき込まれる。
短いうめき声が戦場に響く。
「わ、私は! ヤンデレスレで!」
34スレの返しの右掌底。
顎を打ち抜かれた33スレの唇の端から血が流れる。
34スレが小さく呟く。
「――ワン」
「うぉおおおおぉっ! お兄ちゃんを誰よりもぉっ!」
「――ツー」
33スレの冷静さを欠いたでたらめな一撃は、もはや何の結果も生み出さない。
ひょいと躱され、バランスを崩したところで、尻を蹴られ、倒される。
「――スリー」
「他の女より、楽しませてきたんだからあっ! あんたなんかにぃぃぃぃっ!」
33スレが身を起こしたときには、もう遅かった。
「ヤンデレ……キック!」
――
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1280579073/ 死の宣告のような機械音声。
それは、一つのスレを、いや一人の女を過去にするものだった。
「ハアァァァっ!」
「祝ってやるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
34スレの電流を迸らせる蹴りと、33スレの拳が衝突した。
爆発。
立ち上る火柱、砂煙。
そして現れる、無傷の34スレ。
空間に飛び散る――輝く無数の文字。
それは、雪のように34スレの身体に、大地に、降り注ぐ。
「次はきっと、私の番よ。33スレ」
手のひらに舞い落ちた、読み取ることのできない焦げた文字に向けて、34スレは呟く。
――祝ってやる。
それは果たして、単なる誤字だったのか、33スレのデレだったのか。
知るものは、誰一人居ない。
今度こそ埋めぇぇぇ!