ヤンデレの小説を書こう!Part33

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1名無しさん@そうだ選挙に行こう
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。

■ヤンデレとは?
 ・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
  →(別名:黒化、黒姫化など)
 ・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。

■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/

■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!part32
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1277593049/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
 ・版権モノは専用スレでお願いします。
 ・男のヤンデレは基本的にNGです。
2名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 12:29:49 ID:cF8l1hdU
一乙
3名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 12:30:03 ID:jpdAXGSv
ヤンデレ家族早く来てくれー
4 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:30:18 ID:Rvq4YAnq
>>1 乙です。
素早いスレ立てに感謝します。

続きを投下します。
5名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 12:31:51 ID:N8G/pHOC
支援
6ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:31:53 ID:Rvq4YAnq

 入学祝いと言えば?
 この問い、実は定番と言える回答が無い。あえて贈るのに相応しいものを挙げるなら、学習に使う筆記用具やノートになる。
 しかし、筆記用具やノートだけでは、あまりにも簡潔になりすぎる。
 かといって、必要そうなものをなんでも贈ると、使われずじまいということになりかねない。
 そのため、俺が高校に進学した時のように、いくらかのお金を贈るというケースが見られる。
 無難と言えば無難。しかし、ちょっと味気ない感じもする。
 俺のように、学校では一切使用することのない、プラモデル工作用の工具を買い換える、という人間だって出てくる。
 前例があるので、妹の入学祝いにはお金以外の何かを贈ろうと決めていた。
 色々なものを検討した上で出した俺の結論は、これだった。

「腕時計?」
「そうだ。携帯電話があれば要らないと思うかも知れないけど、使い出したら便利なんだぞ。
 時刻を確認するだけなら、ちょっとだけの動作で済ませたいだろ?」
「……ええ。そう言われれば、そうかも。たまにケイタイを探したりするし」
「時刻を確認したい時に時計がないと、ちょっとしたストレスになるからな。
 高校では時計について校則も決めてないし、問題無く使えるぞ」
「そう。腕時計もいいわね。
 やけにお兄さんの言葉に説得力があるのが気に掛かるけど、気にしないことにするわ」
 そう言って、妹は時計店に入り、ショーケースに納まっている腕時計を物色する作業に入った。
 鋭い。俺の説明が流暢なことに疑いを持つとは。
 さすが同じ家に住んでいるだけのことはある。
 俺が腕時計について何の感心もないことなど、お見通しか。
 高橋に腕時計のメリットについて、予め聞いていなければ危なかった。

「上手い説明だったよ。さすが僕の友人だ」
「お前のおかげだよ。
 しかし、普段からお前が俺に腕時計を勧めてくるときの文句が、この場で上手く出てくるなんてな」
「それだけ君の中で腕時計という存在が大きくなっているということさ。
 どうだい。せっかくだから僕がここで、君に相応しいものを見繕ってあげようか?」
「金が無いからパス。それに持ちたいほどの興味が湧いてこない」
「そういうことなら無理強いはしないよ。ただ、覚えておいてもらいたい。
 腕時計は、ただ日付、時刻を確認するだけのものではない、ということ」
 高橋が左腕にはめていた腕時計を外した。腕時計を耳の近くに寄せ、一度頷く。
 そうすると、今度は俺の前へと差し出した。
「手にとって、耳で音を聞いてみたまえ」
「音だあ?」
「いいからやってみるんだ。それぐらいたいしたことじゃないだろう」
 腕時計を受け取り、言われたとおり耳に寄せてみる。
 小さな音が忙しなく連続している。それに、音が重なっているみたいだ。
 なんとなく、中で複雑な動きをしてそう。
「この音がなんだって?」
「自動巻きの機械式腕時計、というタイプの時計さ、そいつは。
 機械式と呼ばれるだけあって、電池が内蔵されていない。
 多くの電池式時計はチッチッチ。僕の機械式時計はチチチチチ、という音を立てる。
 その中にはゼンマイがある。それの力で時計の針を動かしているんだ。
 ゼンマイは、腕に時計を付けていれば、意識しなくても自動的に巻かれる。
 ただし、一日二日着けていなければ、ゼンマイは力尽き、針は時を刻まなくなる」
「なんだそりゃ。そんなめんどくさくて使えない代物を、なんでわざわざ使うんだ?」
 腕時計を高橋に返す。高橋は左腕にするりと時計をはめた。
7ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:33:34 ID:Rvq4YAnq

「簡単に言うなら、愛着がある故に、かな。
 日頃から着けていなければ止まってしまう。それなら毎日身に着けよう、という気になる。
 そうした、仕方がないから、という気持ちからも芽生えていくものなんだよ。愛着っていうのは。
 何も機械式時計に限った話ではない。電池で動く時計であろうと、もちろんそれ以外のものであろうと。
 話が大きくなるけど、人間に対しても同じ事が言えるのではないかな、と僕は考えている。
 愛着は、好きという純粋な気持ちだけで生まれるとは限らない」
「男と女に関しても、か?」
「お互いが人間同士であるなら、僕は肯定するよ。
 そう簡単な話でもないけどね。物と違って、人間には意志と、意志に従う身体があるから」

 高橋が時計の物色をする妹の方へ歩いて行く。
 二人が時計についてあれこれ話しているのを見届けてから、ショーケースに鎮座する腕時計を見る。
 値札を見ると、四つのゼロが並んだ先に、五がくっついていた。
 五万円もあればエアブラシのコンプレッサーを買い換えられる。それもグレードの高いものに。
 そんな考えに至っている限り、俺に腕時計の価値は理解できないだろう。

 だが、高橋の説明を聞いて引っ掛かるものがあった。
 仕方がない、という気持ちがきっかけで芽生える感情――愛着か。
 今更、本当に今更だが、こんなことを考えた。
 あの日、葉月さんに告白され、流されるまま付き合ったら、俺もいつの間にか葉月さんを放っておけなくなり、彼女に愛着を抱くのだろうか。

「お兄さんちょっと来て! いくつか選んだからお兄さんの意見も聞かせてよ」
「お、おう。今行く」
 ――考えても詮無いことだ。
 それとも、今頃葉月さんのことが気になり出したのか?
 バッカじゃねえの。
 馬鹿じゃないの、お兄さん。
 君は馬鹿なのか? いや、馬鹿なのか。
 俺の罵倒に、脳内の妹と高橋のそれが続いた。
 葉月さんが俺に告白してきたのは、とっくの昔なんだ。手遅れだ。
 本当に惜しいのなら、今からでも葉月さんに告白しにいけばいい。
 どうせ、行けないだろうけどな。
 告白する勇気を奮い立たせる意志が無いんだから。
8ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:34:24 ID:Rvq4YAnq

「高橋さん、これとかどうですか?」
「レディースモデル、クオーツ、ソーラーチャージ、派手すぎない銀ベルト、か。
 彼の予算内で収めるなら、このタイプであればどれを引いても外れは出ないよ。あとは、どのデザインにするかという一点だけだ」
「そうなんですよね。三つぐらいに絞り込んだんですけど、どれにしようかなあ」
「好きな色はあるかい?」
「嫌いな色が無いんですよ。黒も白も好きだし、カラフルなのも」
「ふむ。それはなかなか難しいな」
 ショーケースの上に並べた三つの時計を前に、こっちいい、でもこっちもいい、と妹が試着を続ける。
 高橋は基本的に口を開かないが、アドバイスを求められると自分の意見を口にする。
 ふうむ。この二人を見ていると、こう言いたくなってしまうな。
「お前ら、デート中のカップルみたいだぞ」
 とてもお似合いだ、という続きの台詞は、妹のとっても怖い顔を見たら、喉の奥に引っ込んだ。
 頼むから眉を歪めるな。目を剥くな。お前のそんな顔を見ると母を思い出してしまう。
「ふざけたこと言ってないで、あんたもアドバイスしなさいよ。このカカシが」
「言っていいことと悪いことがあるだろう。今日の君にはデリカシーが欠け過ぎている。
 他人の気持ちを読み取ろうと思わないのか、ロマンス」
 高橋が俺に向かって不快感を露わにしている。言葉と表情の両方で。
 普段なら言及している高橋の台詞に対しても、もはや一言も浮かばない。
「だいたい、入学祝いを贈るとか言っといて、自分で選ばないとか、主体性がなさ過ぎじゃないの。
 それとも何? 私への贈り物なんかどーでもいいって?」
「そ、そんなわけないだろう!
 よ、よーし! それなら俺が妹にピッタリの時計をチョイスしてやるぞ!」
 
 妹が選びかねている、三つの時計を見る。
 一つはスクエアタイプで、ガラスの縁にライトブルーの線が引かれている。
 二つ目はラウンドタイプで、文字盤の色が黒。大人しい佇まいだ。
 三つ目もラウンドタイプ。ただしこっちはガラスの縁と、白い文字盤に浮かぶ文字が薄いピンク色。
 このうち一つと言われたら迷う。俺が妹の立場でも迷う。
 外れがない。選んだものが自動的に正解となる。
「一つ言っておこう。これは責任重大だぞ。
 何せ妹君がこれから身につけるものだ。女性が身につける物は、当人のセンスを表している。
 投げやりに決めるなよ。妹さんの高校生活が、ここで決まると言っても過言ではない」
「それはさすがに、言い過ぎなんじゃないかと思うんですけど……」
 プレッシャーをかけることには長けやがって。
 こうなったらもう、直感で選ぶしかない。
 ブルー、ブラック、ピンク。
 一瞬でもどれかの色が脳裏に浮かんだら、その色の時計を選ぶ。
 さあ、どれが最初に浮かぶ――――?
「お兄さん、別にそこまで悩まなくてもいいわよ。
 どれを選んでも、最後には私が決めてあげるから、ね?」
「優しいな、妹君は」

 ――――あ。色、浮かんだ。
9ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:35:48 ID:Rvq4YAnq
*****

 兄妹愛について、ロマンス兄妹を観察していたら、ある程度理解できた。
 友情をブレンドした家族愛、という感じだ。
 お互いに助け合おう、カバーしよう、という情の厚さ。
 言いたいことがあっても、言う必要のないこと、相手を傷つけることは言わない。
 同じ世代に生きる者同士、近い感覚を有している。
 そして何より、なんだかんだ言い合っていても、最後には許してあげようという心情が奥底にある。
 家族という土台がまずあって、その上に友情が築かれている。
 家族の情は、親からの一方的ともとられる思いやりの心で破綻しかねない。また、子の独立心からの反発で破綻するかも。
 いくら厚い友情があっても、その関係は時間的・距離的な離別が続くと薄れてしまう。
 兄妹愛は、家族愛と友情のいいところをとったものだ。ロマンス兄妹を見ているとそう思えた。
 ただし、兄妹愛にも破綻は起こりうる。
 決定的な理由で相容れないと分かったら、友情は崩れ去り、家族という繋がりが残るだけの関係になってしまう。

 僕には姉が一人いる。
 性格をはじめとして、いろいろと破天荒で、浅慮で、運が強く、とにかく前しか見ていない人。
 僕と姉の間に、ロマンス兄妹のような姉弟愛があるか。
 あると言えば、ある。
 両親に言えないことも、姉に対しては気安く言えたりする。
 他には、僕自身が姉の行動に対してある程度の理解を示している、とか。
 しかし、彼ら兄妹と全く同じかというと、そうではない。
 ロマンス君に対して、彼の妹はかなり踏み込んで接している。
 それはもう、兄妹の壁をぶち破りそうなほどだった。
 兄をなんとも思っていないように僕に思わせるために、兄のことを悪く言うなんて、ツンデレの行動パターンだ。
 どうやら僕の知らない間に、ロマンス兄妹の間にロマンスっぽい出来事があったらしい。
 彼ら兄妹にはあっても、僕と姉の間にはそんなものは一切無い。
 先日姉から送られてきたメールには、「大学受験頑張れ」、なんていう早とちりにもほどがある文章が含まれていた。
 僕は来月になってようやく高校三年生だというのに。
 姉と付き合う人はきっと大変だ。
 付き合った一日目から結婚式場、出産する病院、定住したい土地まで決めることになるだろう。
 そんなことを考えると、姉が行き遅れるのではと心配になってくる。
 これも姉弟愛なのかもしれない。

 きっと、姉弟愛なんていうものは意識しないうちにできるものなんだろう。
 そう思うと、姉弟愛があるかないかなんて、くだらない問題になる。
 そんなものは他人が見て判断することだ。当人はただ、姉弟の関係を続けて生きていくだけだ。
 僕と姉の間に愛が無くても、これまでの関係は何一つ変わらない。
10ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:36:49 ID:Rvq4YAnq

 携帯電話に着信があった。ロマンス君からのものだ。
 彼ら兄妹はまだデパートにいるはず。
 僕は、所用を思い出したので帰る、と言って二人を残して帰ることにしたのだ。
 ロマンス君の念願が叶って、彼は妹と二人きり。邪魔者は退散するに限る。
 こうして彼が電話してきたと言うことは、今なら邪魔にならないということだろう。
 電話に出る。
「君か。妹君はどうしたんだ、電話する暇があるのか」
「あいつならトイレだよ。ありがとな、今日は」
「どうした、かしこまって。礼ならさっきも聞いたんだが」
「いや、妹の奴がものすごく上機嫌なもんだから、まだ感謝が足りない気がしてさ。
 お前が居てくれて助かったよ。俺一人じゃこうはならなかった」
「君がそう言うなら、感謝を受け取ってあげるとするか」
 本当に鈍いな、君は。
 きっと妹君は、僕が居なくても喜んだに違いない。
 君が時計を選んでくれれば、同じようにはしゃいでいたはずだよ。

 ロマンス君が選んだのはスクエアタイプの腕時計だった。
 彼の妹が最終的に選んだのも、同じもの。
 彼女はロマンス君からのプレゼントが欲しかったんだ。
 彼が、自分のために悩んで選んでくれた、唯一の腕時計。
 プレゼントは気持ちが大事と言われるのはね、物に込められた思いやりの気持ちこそが最高の贈り物になるから、なんだよ。

「わかりやすい実例だよ、まったくね」
「ん、なんだって?」
「なんでもないよ。また何か用事があったら呼んでくれ。
 君が腕時計を選びたくなったら、優先順位を最上位に上げて対応してあげるとも」
「そこまではしなくていいんだが……その時が来たらよろしく頼むわ」
「ああ。それじゃあ、また」
 お決まりの文句を言った後、電話から耳を離す直前になって――それは割り込んだ。
11ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:39:46 ID:Rvq4YAnq

 小さい声だ。明らかにロマンス君の声とは違う。
 携帯電話本体の近くから話しているわけではなさそうだ。
 デパート内部の賑わいに混ざってしまい、かすかな声しか聞こえてこない。
 無視しても良いはずの声なのに、どういうわけか僕には無視できなかった。
「――あれえ? ――が繋がらないと、――たら、電話――――たのね。
 いけな――、私の電話にはすぐに出てもらわないと」
 声が少しずつはっきりになっていく。携帯電話に声の主が近づいたのだろう。
 女性の声だ。ロマンス君の知り合いだろうか。
 特定は難しい。クラスメイトの女子ならば、ほとんど分かるのだが。
 ロマンス君へ何が起こったのか問いかける。
「どうしたんだ、君の友人にでも遭遇したのか?」
「いや……うん、知り合いだ」
「声が上擦っているぞ。知り合いなら名前を教えてくれないか」
「……あの、なんで、そんなこと、してるんだい」
 今のは僕へ向けた言葉ではない。
 演技でこんな声を出せるなら、ロマンス君はホラー映画に出演した方がいい。
 それほど彼の様子は緊迫していた。声には怯えが混じっていた。
 ただ事ではない。彼の前に何者かが現れ、何かをしている!
「言え! 君の前には一体誰がいるんだ! 早く言え!」
「……葉月さん」

 葉月、さん?
 葉月さんというと、眉目秀麗の彼女がロマンス君に恋したきっかけを突き止めた者には金一封を差し上げる、
とまでクラスメイトに言わしめるほど、周囲の人間を混乱に陥れた葉月さんか?
 彼女は一体何をしたんだ? ロマンス君をうろたえさせるほどのことをした?
 電話からでは状況がわからない。
 僕の居る場所からデパートへ戻るには、時間がかかりすぎる。
 今のロマンス君に状況説明はできない。
 ――どうする?

 何かが床にぶつかって跳ねる音が、一回。いや、二回聞こえた。
 重い音ではなかった。かなり軽い、手が滑って携帯電話を落としてしまった次の瞬間に聞こえる音だ。
「もしもし、今の音は? 何を落としたんだ! おい!」
「――さて、なんでしょう?」
 声を聞き、反射的に喉の筋肉が収縮した。
 葉月さんの声だ。ここまで声がはっきりしているということは、ロマンス君の携帯電話は彼女の手の内にある。
 じゃあ、本来の持ち主の彼は、今どうしているんだ?
「ごめんなさい。彼はあなたとは話すことがないんだって。今度直接会った時に話すって」
「か、彼は……どうしたんだ」
「無事に決まっているでしょう。私が彼を傷つけるはずがないじゃない。
 もっとも、あまり聞き分けがないようだと、どうするか。私にもわからないけど」
「君は、葉月さん、か?」
「そう。でもね――彼はもうすぐ私の名前を呼ぶようになるわ。うふふ、ねっ、そうでしょう?」
「君は一体、何を言っているんだ」
 葉月さんはロマンス君のことが好きなんじゃなかったのか? 
 僕の知らないところで、彼と葉月さんの間に何かが起こっていた。
 それは彼女の声をここまで、異常にしてしまうほどだった、と?

「あんまりゆっくりしている時間が無いから、切るわ。さようなら」
「あ、待ってくれ!」
「……ただいま、この電話は使われておりません。申し訳ありませんが、もう一度お確かめになっても、誰も出ることはありません」
 葉月さんの演じる機械音声が終わると同時に、通話が終了した。

 最後に聞こえたのは、携帯電話をへし折る音だった。
12ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/11(日) 12:40:36 ID:Rvq4YAnq
今回は以上で終わりです。
往生編も終わりです。

次回に続きます。
13名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 12:43:48 ID:jpdAXGSv
リアルタイムGJ!!

往生編ってロマンスが往生しちゃうって事なのかなw?
それにしても妹がかわいい、そして一瞬高橋を藍川かと思ってしまったw
14名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 13:16:38 ID:Pj0bfRtn
あれ?んー、葉月さんってもう少しかわいいひた向きなデレじゃなかった?
そういえば葉月さんが最近空気だったから、ヤンデレキタ━━━━ヽ(・_・`)ノ━━━━って喜ぶべきか。
15名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 13:18:15 ID:cu/FwSpL
>>12
GJ!

ロマンスはいったいどうなってしまうんだ!?
16名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 13:25:51 ID:Po8EU4h4
2スレ越し投下GJでした。 葉月さんが久々の登場…ホッとする…妹がツンデレと化しているので余計。 葉月さんの逆襲に期待。 後高橋が出て来ると何故かニヤニヤしてしまうなァ〜
17名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 13:29:48 ID:R3tkjsJc
GJ!!

誕生日に見れてよかったありがとう
18名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 15:53:20 ID:/jb5TDEv
GJ!
ジミーに新たなあだ名が

やっぱり清算編の仮面の女性と葉月さんは別人だったか
19名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 17:23:24 ID:Q+RGlCl/
GJ
ジミー・ロマンスって書くと普通にかっこいい件

そういや精算編の最後で藍川が叔母とのやりとりを通じてジミー一家の秘密に気づいたなんて事は…
20名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 18:13:25 ID:mXEmEAsz
GJ!
まさか高橋視点とは...
そしてまさかのジミー誘拐⁉
21名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 18:31:27 ID:VyBkH6d4
>>18
どう考えても同じだろ

そういえば恋に敏感な弟が澄子ちゃんに僕のこと好きじゃないでしょと言ってたから澄子ちゃんは兄デレするのかな?
22名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 18:41:35 ID:p8L+P6+n
>>21
いやまさか
23名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 20:10:30 ID:Po8EU4h4
>>22傍観者の兄第二十五話、二十六話再読推奨
24名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 20:28:37 ID:p8L+P6+n
>>23
私は澄子の話をしているんだよ
仮面の女は私も分かっている
25名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 20:38:53 ID:105JSkyk
どちらかというと兄デレしそうなのは花火じゃないか
けれども花火には妹辺りに手酷い言葉を投げ掛けられて凹んで欲しい
26名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 21:02:26 ID:fqWvMNu2
>>25
兄デレしてないからこそ、花火はキャラが際立ってるんだろ?
27名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:33:22 ID:VyBkH6d4
>>26
いやいやifの花火は可愛いかった

花火も兄に意図的に嫌われようとしてるみたいだからデレるだろうな
28きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:16:25 ID:yVaTlJH9
GJです!自分はジミーが一番好きです。

こんばんわ。日曜日の夜更けに失礼します。13話を投稿したいと思います。
前回コメくれた方、そしてサブまで補完してくれた方ありがとうございました!
29きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:19:11 ID:yVaTlJH9

時刻は午後11時57分。俺は今屋上へと続く扉の目の前にいる。
「間に合ったか…」
ライムが指定したリミットまで後3分。ギリギリだがどうにか間に合った。
この扉を開ければライムに会える。
「……ふぅ」
息を吐いて緊張をほぐす。思えばこの三週間、色々なことがあった。
そしてこの扉の先が、その三週間の結末のような気がして中々開けられない。
「守ってみせる」
例え俺の導き出した結末が間違っていても関係ない。今度こそ、彼女を守り通してみせる。
「…行こう」
俺はゆっくりと扉を開けて屋上へ行った。



いつまでも衝撃が来ない。不思議に思い神谷が目を開けると、目の前に背中が見えた。
「…駿…にぃ……?」
それが神谷が意識を失う直前に見た光景だった。
30きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:21:30 ID:yVaTlJH9

「…誰かと思ったらまさか桃花だったなんてね」
ちょっと計算外だったな、と藤川英は自分の甘さを呪った。
目の前には自分の家のメイド長にして、姉専属のメイドである桃花がいる。
「……英様、何故ここにいらっしゃるのですか」
「ちょっと私用でね。事件の手がかりがここにあるとかないとか、まあ噂があってさ」
「…"何でも屋"ですか。事件というのは…」
「…鮎樫らいむ関係者殺害事件、だよ。面白そうでしょ?」
「…………」
桃花の表情が強張った。…予想していた最悪の可能性が当たってしまったかもしれない。
最近姉さんと桃花の様子は明らかにおかしかったし、何か企んでいるようだった。
全てはあの執事、遠野亙が原因…かな?
「桃花こそ、何でこんなところにいるのかな?」
「このアクアポート…いえ『アクアマリン』は藤川コーポレーションの所有物です。今日は警備のために来ていますが…」
「桃花一人でかい?他の警備員はいないみたいだけど…」
「…無能な者など必要ありません」
「はは、桃花らしいね。で、この女の子は?」
僕の後ろには傷だらけで気絶している女の子がいた。
血のように紅い髪で、歳は13〜14くらい…中学生かな。
「このアクアポートに無断で侵入したので排除したまでです」
「…少しやり過ぎじゃないかな?」
「お言葉ですが、それを決めるのは英様ではない。違いますか?」
「そうだね。ところでもしかして、ここに姉さんいたりする?」
「……英様」
「…何?」
殺気を感じた。
昔から、姉さんが孤児だった桃花を拾ってきた時から感じていたけど、桃花は姉さんのことになると見境がなくなる。
彼女の中の何かが暴走するんだ。…こりゃあ早く来てくれないと、僕もこの女の子みたいなっちゃうかもね。
「英様は一つ勘違いをなさっております」
「勘違い…?」
「はい。確かに私は藤川家のメイドですが、正確に言えば里奈様専属のメイドでございます」
「…つまり、どういうことかな」
「つまりは」
「っ!?」
一瞬だった。桃花の蹴りで吹き飛ばされる。咄嗟に両腕で防いだが至近距離。かわせなかった。
「つまり場合よっては英様にも危害を加えるということです」
「……言うのが、遅いよ」
相変わらず鬼神のごとき強さ。戦うメイドさんって凄いね。
31きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:22:12 ID:yVaTlJH9
「正直今のでおしまいかと思いました」
「…まあ、一応男の子だからね」
こちらに近付いて来る。どうやら女の子より先に、僕を排除することに決めたらしい。
「しかし英様の両腕。今ので使い物にならなくなったのでは?」
「…やっぱりバレてた?」
苦笑する。
たった一発蹴りを受けただけなのに、折れはせずとも痛みで腕が上げられないってどんな蹴りなんだろうね。
「排除します…っ!!」
「……?」
突然桃花の動きが止まった。よく見るとお腹辺りを押さえている。
僕は何もしてないし、あんな小さな女の子なわけもない。一体どうしたのだろう。
「くっ…。小娘が…。油断しました…」
「…まあ好都合かな」
どうやら間に合ったらしい。制服を来た白髪の少女が僕の横に立っていた。
「苦戦してるね、英」
「やあ。遥(ハルカ)。皆も来てくれたんだね」
隣にいるのは同じ高校で"何でも屋"のメンバーで一つ下の女の子。そして
「情けないな〜。こないだの埋め女の時みたいに出来ないの?」
「英はもっと鍛えないとな!よし、俺と明日からランニングしよう!」
「女一人に苦戦とは…見損なったぞ英。いくら戦闘が不得意と言ってもな…」
「まあまあ。俺達は6人で一つですから。…助けに来たぜ、英」
次々と乗り込んで来る"何でも屋"の仲間達。これで6対1。数的有利にはなった。
「次から次へと…。皆さん英様の学友の方達ですか。これはお遊びや探偵ごっこではありませんよ?」
「…お遊びだって舐めてると、怪我するよメイドさん。それに仲間を傷付けられて黙っているほど、お人よしじゃないんでね」
「増えたところで変わりません。…排除します」
「皆、行くぞっ!排除されんなよ!」
さてと、僕らが勝つか桃花が勝つか。どちらにしろ彼の役には立ったかな。
「…いるんでしょ?遠野亙君…。ま、頑張りなよ」
32きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:23:07 ID:yVaTlJH9

時刻は午前0時4分。俺は今確かに屋上にいる。
この屋上は端の方にテラスがあり、そこからの景色の素晴らしさが売りらしい。
…いや、そうじゃない。そんなことじゃないんだ。
俺が言いたいのはそんなことじゃなくて、今俺の目の前に広がっているこの光景は一体何なんだってことで…。
「……里奈?」
「…亙」
そう。何故かこんな時間にアクアポートの屋上に里奈がいる。そして
「……何、してんだよ」
「…それは質問?」
その近くには赤い"何か"が広がっていて、その中心には…。
「ラ…イム…?」
「正確には、だったもの…だけどね」
そう。その中心には金髪を赤く染めたライムが横たわっていた。
「ライム!?ライム!!おいライム!!しっかりしろっ!!」
ライムを抱き抱える。どうやら腹部を深く刺されているようだ。
身体は彼女自身の血で血まみれだった。
「……わ……た…ゴホッ!」
「ライム!?ライム!!俺だ、亙だ!!」
瀕死だがまだライム生きていた。
まだ死んでない。そう、諦めてたまるか。必ず助けてみせる。
「…わ……た……る……来て……く…」
「今は喋るな!すぐ助けてやるからな…!」
ライムの傷口を押さえながら近くのベンチに寝かせる。これ以上の出血は致命傷になる。
「………わ…た…」
「少しだけ勘弁な。終わらせてくるわ」
覚悟を決めろ。もう皆が幸せになれる結末なんてないんだから。
振り返って里奈を見つめる。手には血で赤く光るナイフがあった。
「これ?桃花に借りたの。というか、桃花を退けたんだ…」
「…神谷のおかげでここまで来た」
「ああ、回文さんか。可哀相ね。今頃、死んでるわよ?」
「…何でここにいるんだ?」
「鮎樫らいむに呼び出されたのよ。亙の携帯から、アタシのアドレス見たって」
…風呂上がりにライムが俺の携帯を見てたのは、そういうことか。
「…ふふふ、あははははははははは!!」
「…何がおかしい?」
「だってその娘、"私から亙を取らないで!?"とか言っちゃって!…本当に思い通りだったのになぁ」
「思い通り…?」
「うん。居酒屋で鮎樫らいむに見せ付けられた時から決めてたの。こいつには絶望して死んで貰おうってね」
「里奈…」
「大変だったんだよ?亙を誘拐して鮎樫らいむを混乱させて。心を入れ替えたフリをして亙に"里奈"って呼ばせて、アドレスを教えた携帯を返す」
信じたくない。…だって里奈は…無関係じゃないのかよ…。
「その後、亙がアタシのことを里奈って呼べば絶対に鮎樫らいむは疑心暗鬼になる。後はアタシが呼び出さされるのを待って、返り討ちにしておしまい」
「…なん…だよ……それ」
何か、今までの出来事は全部里奈が仕組んだ物だったってことか?
…ありえないだろ、そんなこと。
「亙には事前に鮎樫らいむがアタシを襲うところを見せれば、返り討ちにしてもアタシの言うことを信じてくれる。…全てシナリオ通りだったんだけどなぁ」
「里奈…だよな?」
「桃花にも色々と手伝ってもらったんだけどね…」
…本当にコイツは藤川里奈なんだろうか。
この二週間ひたむきに俺と接してくれて、一緒に笑いあった、里奈なのだろうか。
「回文さん、やっぱり邪魔だったかな。本当は亙、もっと疑心暗鬼になるかと思ったのに…。入れ知恵されちゃったかもね」
まるで悪戯がバレた子供のように笑う里奈。…理解、出来ない。
33きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:24:02 ID:yVaTlJH9
「…何でだよ」
「…何が?」
「何でこんなことした!?里奈は!里奈はこんなことする」
「奴だよ?」
「っ!」
「…アタシね、昔からずっと独りだったんだ。周りは皆アタシのこと、"藤川里奈"じゃなくて"藤川家の娘"としてしか見てなかったから」
「………」
「勿論弟もそういう扱いだったけど、アイツは世渡り上手いからさ。アタシは…無理だったな」
里奈は空に浮かぶ月を見ていた。今夜は三日月だった。俺達を照らし出す。
「だからね、亙が普通の女の子みたいにアタシに接してくれた時、凄く嬉しかった」
…何で泣いてるんだよ。泣きたいのは…こっちなのに。
「生まれて初めてだったの。アタシのこと、普通の女の子として見てくれた人…だからね…」
里奈は泣きながら俺を見つめた。
「どうしても欲しかったの。どんな手を使ってでも。…この世で最も嫌いなお父様の力を利用しても、ね」
「…馬鹿野郎」
「……そうだね」
「…そんなことしたって何にもならないだろ!?皆傷付いて、それでおしまいだ!こんな方法間違いだって、里奈だって気が付いてたんじゃねぇのかよ!?」
「…うん」
「じゃあなんで!?」
「……知らないから」
里奈は泣きながら笑う。まるで元から泣いているんじゃないのか。
そう思ってしまう程、里奈の涙は止まらなかった。
「…知らないんだ、大好きな人を振り向かせる方法。分からないんだ、どうやったら人が喜ぶのか。教えて欲しかったんだ…愛情ってどんな感情なのか」
「……そんなの…」
そんなの皆、手探りだ。そう言いたかったけど、言えなかった。
なぜなら俺には想像出来なかったから。生まれてから一度も自分を見てくれる人がいなかった、彼女の苦痛を。
「…結局、失敗しちゃったけど。やっぱり神様は許してくれないんだね」
里奈はゆっくりと俺から離れてゆく。
「……それでも、忘れない。君と過ごしたこの二週間がアタシの生きている全てだったから。例え偽りでも…それがアタシの"真実"」
その瞬間、里奈はナイフを自分の腹部に刺した。
「り、里奈っ!?」
「来ないでっ!!」
彼女の心からの叫びに思わず身体が固まる。
「一番好かれることが無理なら…。一番嫌われることにしたの。怖いのは、忘れられることだから…」
里奈の腹部からは血が流れ出ていた。
「…だから全部教えてあげたよ。そして亙の目の前で死ねば…きっと亙はアタシのこと、忘れないよね?」
里奈はポケットから小型スイッチのようなものを…!
「里奈っ!?」
彼女を止めようと走り出すが
「ありがとう亙。次は…きっと一緒にいようね」
里奈はボタンを押して



アクアポートは爆発した。
34きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:24:48 ID:yVaTlJH9

大きな爆発音。見上げるとアクアポートの5〜13階辺りが爆発していた。
「……姉さん」
僕らはあの後、奇跡的に桃花を打ち破った。
「はぁはぁ…。た、多分皆何処かしら骨折してるな、こりゃ…」
そして今はアクアポートを出て『アクアマリン』の入口辺りにいる。
メンバーの負傷が酷く、登らず引いたのが正解だったようだ。
「…でも、いきなり現れたアイツ、何だったんだろうね…」
実はこの負傷を見ても分かる通り、僕達は完全に負けていた。
しかし桃花にトドメをさされそうになった時、何者かが乱入して来て一撃で桃花を吹き飛ばしたのだ。
「半端なく強かったのは確かだね…っ!」
その隙に僕達は赤髪の女の子を連れてアクアポートを脱出したのだ。
「痛むなら話すな。何か…海有塾(ウミアリジュク)がどうだとか聞こえたけど」
「海有塾…か」
結局桃花がどうなったのかも分からず、事件の手がかりも見つからなかった。
「…まあ何となく察しはついたけどね」
本当は弟として、姉さんを止めるべきだったのかもしれない。
でもお父様の一見贔屓に見えるあの態度が亡きお母様にそっくりな姉さんに対する執着だったということを、僕は知っていた。
だからこそ姉さんの望みを止めるなんて真似、僕には出来なかった。
…姉さんは無意識にお父様から僕を守ってくれていたのかもしれない。
「期待…していたのかな」
僕の代わりに姉さんを止めてくれる。そんな役を僕は遠野亙に期待していたのだろう。
「…とりあえず事前に船を用意しておいた。時期、警察が来るはずだ。犯人扱いされる前にこの島を出よう」
「流石会長!じゃあさっさとトンズラだな」
「…英、大丈夫か?」
「…大丈夫。行こう」
姉さん、桃花…。また会えるよね。
35きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:25:46 ID:yVaTlJH9

「……っ!!」
激痛で目が覚める。どうやらかろうじて生きているらしい。
屋上からここまで落ちてきたようだ。死なせてもくれないとは…神様は意地悪だ。
「…でも後少しね」
全身の感覚がなく周りは火の海。間違いなく死ねる状態と環境だった。
「里奈様!?里奈様!!」
声のした方を見ると桃花がいた。全身がボロボロで所々血が流れていた。
「…桃花」
「里奈様!申し訳ございません。私…私…!!」
「桃花が…大声出すのも……久しぶり…だね」
桃花はアタシを抱き上げる。相変わらず常識はずれの腕力だった。
「…どうか喋らないでください里奈様。必ず私が…」
……ああ、そうか。この娘がいたんだ。ずっとアタシの側にはこの娘が。
もっと早く気が付くべきだったんだ。男女を抜きにしても、アタシは独りじゃなかったんだって。
「…ゴメンね、桃花。色々…付き合わせちゃって。手まで汚させちゃってさ……嫌な…お嬢様だったでしょ」
「いえ。私は里奈様以外の方に仕える気はありません。私の主は里奈様だけですから」
優しく微笑む桃花。…亙、アタシ少しだけ亙の言っていたこと、分かったかもしれない。
…今更だけどさ。
「桃花…アタシはもう…」
「死なせません」
「………」
「もし里奈様が逝ってしまったら、私もお供します。それがメイドですから」
「…ありがとう」
きっとアタシはもう助からない。それでも最期を誰かと共にいられるのは、幸せなのかな。
36きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:26:42 ID:yVaTlJH9

「うっ…」
どうやら気を失っていたようだ。周りは今にも崩れ落ちそうだった。
「……わ…た…」
「ライム!無事か!?」
ライムは腹部の出血以外には目立った外傷はないようだった。二人揃って悪運強いな。
「う…ん…」
「良かっ……っ!?」
周りの建物が崩れきた。どうやら後少しでここも崩壊するようだ。
「くそっ!出口は…」
周囲を見渡すが見えるのは燃え盛る火の手と瓦礫の山。唯一外に繋がる場所は目の前にあるが…。
「いくら下が海でもこの高さは…無理か」
眼下に広がる漆黒の海を見る。
屋上からかなりの高さを落ちてきたので、飛び込んでも…俺一人なら何とかなるかもしれない。
でもライムがいる。こんな重傷の彼女に、これ以上無理させるのは危険過ぎる。
「…い…こ……」
「ライム!?無理するな!寝てろよ!」
フラフラと立ち上がるライム。腹部からまた血が流れ出した。
「だ…い……じょう……ぶ…」
「大丈夫なわけっ……!」
ライムは俺に体重を預けてかろうじて立っていた。
「い…やだ……も…う……はな…れ……た……く……な……い…か……ら…」
ライムを見つめる。彼女の瞳はいつか見た時のように淀んでいた。
…そう、彼女はとっくに壊れていたんだ。
それは里奈を刺した時か。
それとも俺の携帯を見た時か。
あるいは真っ赤になって帰って来た時なのか。
いつなのかは分からない。とにかくもう壊れてしまったんだ。
俺は…俺はそれに気が付くべきだった。もっと早く気付いて彼女の側にずっといるべきだったんだ。
結局、俺は守るどころか逆に彼女を壊してしまったのかもしれない。
「ずっ……と……そ…ば……に……いて…よ…」
「……分かった」
でも決めたから。最期まで彼女と、ライムと一緒にいるって決めたんだ。
だからもう迷わない。
「しっかり捕まってろよ。俺も捕まえて離さないけどな」
「……わ…た……る…」
「…行くぞ」
「……う…ん」
ライムを抱きしめながら前に進む。諦めるのではなく、一緒にいるために。
例えこれからどんな事が起きたって、どんな状況に陥ったって俺達はずっと一緒だ。
「……わ…た…る」
「なんだ?」
「…だ……い…す…き…」
「…俺も大好きだ」
ライムをきつく抱きしめ闇へ飛び込む。どんな悲劇や悲惨な未来が待っているとしても離れない。どんな人生でも俺はきみと……



きみとわたる
37きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/11(日) 23:30:03 ID:yVaTlJH9

今回はここまでです。超展開ですみません。次で最終話です。
後1話ですがお付き合いください。読んでくださってありがとうございました!
38名無しさん@ピンキー:2010/07/11(日) 23:34:42 ID:JUX64w/3
リアルタイムでキタ!GJ!なんかちょっと感動した…。俺キメェwww
39名無しさん@ピンキー:2010/07/11(日) 23:39:16 ID:ciSi7MOr
gj!いやぁ…後1話か…。どうしても里奈を憎めない俺がいる
40名無しさん@ピンキー:2010/07/11(日) 23:42:10 ID:sS8wPJrv
GJ!何か激しくバットエンドの予感…。それでも最後まで応援するぜ!
41名無しさん@ピンキー:2010/07/11(日) 23:55:05 ID:s01Kr4KA
いや、この流れはバリバリハッピーエンドフラグじゃない?
とにもかくにも乙! 続きを期待させてもらう!
42名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:05:47 ID:a+sQXJY2
ヤンデレはハッピーエンド少ないからな…。亙には幸せになって欲しいわ
43名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:17:06 ID:bGg0bBtw
GJ!なんか桃花の扱いが可哀相だぜ…。きみわた終わってほしくない…。
44名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:19:10 ID:hTCB3syZ
こんばんは。
ヤンデレ家族、きみとわたる、楽しく読ませてもらいました。
最後まで応援させて頂きます。

盛り上がっているところにすみません。
初投下となります。
タイトルは『僕は妹に嫌われている』。
良作に続いて投下するのは、いささか怖いものではありますが……投下させて頂きます。
45名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:20:14 ID:hTCB3syZ
 僕は妹に嫌われている。

 自分で言うのもなんだけれど、容貌、性格面においてそれほど嫌悪感を持たれるような要素は無いと自負していているし、高校生として何か問題点があるとも思っていない。
 平々凡々。普通で普通な高校二年生、それが僕だ。
 なのに、妹には嫌われている……何故?どうして?
 妹は、少しクセはあるものの、とても優しく、気品があり、怜悧な子だ。兄歴15年の僕が言うのだから間違いない。意味も無く人を嫌いになっちゃう子じゃないはずなのだ。
 いや、もしかしたら知らず知らずのうちに傷付けてしまったのかもしれない。たった16年しか生きていない僕が言える事じゃないとは思うけれど、人間関係とは難しいものなのだ。
 他の可能性として、ただの僕の杞憂だという案があるのだが、同じ家に住んでいる同士、こんな気持ちを胸に抱えて生活したくはない。

 僕は妹に嫌われている。
 いや、間違えた。
 僕は妹に嫌われたのだ。
 話は小一時間前に遡ることとなる……。


46名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:20:56 ID:w/WtiIT2
起きてて良かったわ。GJ!何かヤンデレアイドルと付き合いたくなってきた。でも俺には亙ほどのガッツはないな…orz
47名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:22:13 ID:hTCB3syZ



 夏。
 そろそろ蝉が鳴き始めるんじゃないかという暑さに差し掛かった頃の夏である。
 最近冷房が活動を始めた我が家のリビングには、パソコンでSSを見る僕と、ソファの上で寝転がって文庫本を読む妹のカズサとがいた。
 カズサは肩までで切ってある黒髪に、白で無地の半袖シャツとショートパンツという涼しげな格好で、何時もどおりムスっとした表情での読書だ。
 いや、カズサのツリ目がそういう仕様に見せているだけなのかもしれない……妹は気の強そうな美人顔なのである。
 カズサの容姿は、遺伝子というものを疑うほどに美しく整っていて、世界ランキング3位に乗せてやっても良いと思える程なのだ。決して兄贔屓ではではない。決してだ。
 そして、僕はといえば、投下されたSSを読み終え「GJ!」と書き終えたところだったのだが、どうでもいい。話は妹の描写に戻る。もっと妹について語りたい。
 カズサは肩までのばした、サラサラとして艶やかな黒髪をしており、吊りあがった眉に、凛とした目つき、すっと通っている鼻筋から目線を下に下げれば、小さな可愛らしいピンク色の唇が見える。
 身体つきは華奢で、強く抱きしめてしまうとポキリと折れてしまいそうだ。
 雪のように白い肌。
 遠目でもきめ細かそうな白い肌。
 背丈 は僕より頭一つ分小さいぐらいで、前にこっそり診断書を盗み見たときは154cmだった。
48名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:24:53 ID:hTCB3syZ

「何をジロジロ見ているんですか、兄さん」
「いや、いつかはお嫁に行っちゃうんだなぁって思うと悲しくなってさ」
「そんな遠い先の事……そもそも私なんて誰が貰ってくれるかどうかもわかりませんよ?」
「いるよ!いまくるよ!だから誰のとこにもいかないでね!?」
「兄さん、前後の言動が合っていません」

 やめてくれ、そんな呆れるような目で見ないでくれ。
 妹との話に専念するためにパソコンをシャットダウンさせた僕は、キャスター付きの椅子の上で床を蹴った。
 パソコンチェアが僕を妹のもとへと運ぶ。

「ところで、妹よ」
「藪から棒に、なんですか?兄さん」
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「ええ、どうぞ?もったいぶらないでください」

 息を一つつき、一呼吸。

「おっぱいをさわらせてくれないか?」

 なんでこんなことを聞いたのか?
 そんなの簡単だ。

 僕はムラムラしていたのだ。

「死んでください」

 そして、妹の返答はあまりにも無慈悲なものだった。
 僕はけっこうメンタル面での強さには自信があったのだが、妹に「死ね」と言われればさすがに死にたくなる。
 僕は居住まいを正し、妹の瞳を見
49名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:26:44 ID:hTCB3syZ
 だって、仕方が無いじゃないか。
 僕にだってちゃんとした理由があるんだ。
 いや、言い訳なんだけど。
 僕はこの一週間部活の合宿だったのだが、それが女子の先輩とのものだったのだ。それも、二人っきりで。
 勿論彼女なんて出来たことのない僕だ、妹免疫はあれど女子免疫なんてない僕だ。
 同じ部屋での寝泊りし、ついでだからと言われ下着等々を洗濯させられ、興味本位で勝手につけたやがったペイチャンネルの観賞に付き合わされ、そして同じ湯船を使った。
 思春期には辛過ぎるというものだ。
 だから、だから……っ!

「お前のペッタンコを揉ませてくれないか」

 僕は、力強く、一字一句、一文字一文字しっかりと、言った。

「ぺったん……こ?」

 妹の周りの雰囲気が冷房の設定を超えて下がった……気がした。
 不思議な事に、蝉の鳴き声が聴こえない。
 ゆらりと、カズサが立ち上がった。

「〜っ!死ね!馬鹿兄さん!!」
「ぶっ!」

 妹は、そう叫ぶと、僕に本を投げつけて自室のある二階へ上がっていってしまった。
 階段を乱暴に駆け上がっていく音。
 扉を力任せに閉めてのであろう轟音。

「随分と機嫌が悪かったな。生理なのかな?もしくはあれがツンデレってやつなのか?」

 そうして、僕は妹に嫌われることとなる。

 落ちた文庫本を拾い上げると、その表紙には『疲れた兄の励まし方』というタイトルが印刷されてあった。
 とりあえず、僕はサイトの保管庫に保存されているSSの続きを読むことにした。

50名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:28:53 ID:hTCB3syZ

駄文、失礼しました。
短いですが、ここで一旦終わりです。
病み成分は皆無でしたが、これから出していく予定です。
それでは、ありがとうございました。
51名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:34:48 ID:hTCB3syZ
うわぁぁぁぁぁあ!
ミスったぁぁぁぁぁあ!本当は、



 僕は居住まいを正し、妹の瞳を見据えた。

「申し訳ありませんが、お胸とお尻を触らせてはもらえないでしょうか?」
「なんで丁寧に言ったんですか。丁寧に言ったら触れると思ったんですか。それに、触る箇所を地味に増やさないでください」


 答えは如何に。


「なんですかその期待に満ち溢れた目は。答えは変わりませんよ」
「な、何故!?」

 椅子からガッシャンと落ちて、僕。

「いや、だってそれはないでしょう兄さん」
「こら、お兄ちゃんと呼びなさい」
「変態義兄ちゃん」
「義理になっちゃったよ」
「おい、兄貴」
「兄貴はやめて!」
「おい、幹也」
「あ、名前の呼び捨ては萌えた」


 お兄ちゃんポイント2200回復。


「ジュース買ってこいよ、クソ兄貴」
「兄貴はやめてってば!」

 妹に兄貴と呼ばれるだなんて、僕は夜うなされる事になるだろう。
 




こう続く予定でした。

すみません、ちょっと死んできます。
失礼しました。
52名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:49:47 ID:48saF8m+
ダメだ。夜中に笑いが止まらないwww
53名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:55:16 ID:U4mIxQhT
GJ!



とても面白いよ!続きを期待してます!
54名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 01:19:03 ID:a+sQXJY2
GJ!途中でレスしちゃってスマソ。

続き期待してます!後直後投下はあまりしない方が良いかもね…。
55名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 01:25:03 ID:a+sQXJY2
あ、もう投下終了してたのか。誤爆スマソ…
56名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 02:00:30 ID:Ew5OZxT/
>>47
>そういう仕様に見せている

仕様の意味わかってないのか?
57名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 02:48:09 ID:U4mIxQhT
ヤンデレ世紀の3話が仕上がったので投下します。
58ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:51:16 ID:U4mIxQhT

あれから結局4人での登校。
相変わらず土田さんは僕にべったりだった。

胸を押し付けているつもりなのだろうか、僕のアームに自分の胸を当てている。しかし何だろうこの残念な気持ち。無い乳押し付けられても

「嬉しくない。」
「何が?」

おっとあぶない。危うく心の本音が全て出るところだった。あぶないあぶない。

校門をくぐると僕らの教室がある校舎が今日も微妙な雰囲気を漂せながら立っていた。色が抹茶色ってどゆこと?

時間帯的には、一番生徒が登校しているはずなのだが、時代が時代。『ヤンデレ世紀』と呼ばれるこのご時世。
不登校が6分の1を占め、大体の女子(ヤンデレだろうな)は 朝早く登校して愛しのあの人のげた箱、机にロッカーにラブレターや何かを忍び込ませたり、逆にそれらを排除したりと忙しいためこの時間の校門は寂しい状態になってる。

げた箱に到着。あっ!?

「そうだ。」
「どうしたの?佐藤君。」

いけないいけない。今日の出来事……石田君&木根さんカップル欠席を彼らの担任教師の青塔(あおどう)先生に報告しとかなきゃ。

「ごめん、3人共先に行ってて。僕はブルタワにちょっと用事があるから。」


59ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:51:56 ID:U4mIxQhT

「佐藤君っ!何言ってるの!?私も行くよ。」
やはりあなたは来ますか………まあいいけど。

「んじゃ、俺らは先行ってるわ。」
「うん。じゃあ。」
「ああ。」
「………」

井上と都塚さんと別れる僕と土田さん。それにしてもどうしたんだろう都塚さん?途中から元気なくなっちゃって。

いつももクールな彼女はあまり僕らの会話トークに混じらず、井上にべったりの都塚さんであるが、今日に限っては井上に抱きつかずに一番後ろで静かに歩いていた。
その時の雰囲気は近寄り難いものだった。

井上も心配そうに時々後ろに視線をやり、チラチラと都塚さんを見ていた。

気分で二人を何故か見送り僕は気付いた。いや、これは感じたの方が正しい。

井上と都塚さんの僅か数センチの隙間に二人を隔離する壁があることを。

そんな二人を見送った後、僕と土田さんは職員室に向かった。

「そうか………わかった。報告ありがとう。」
「いえいえ、それでは失礼しました。」
ブルタワに例の件を報告し、退出する時

「お前も気を付けてな。」

と苦笑しながら言うブルタワに軽く頭を下げた。
ちなみにブルタワは青塔先生のあだ名でーす。


60ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:54:41 ID:U4mIxQhT

職員室から出ると、扉の前にいた土田さんが飛びついてきた。
昔だとこの行動は非難の眼差しをくらい、とても恥ずかしい行動であったらしいが、現代じゃ一般的なワンアクションにしか過ぎない。

「さあ、早く遊びに行こ。」
「土田さん。今から教室だよ。」
「えっ!?何でいいじゃん?………それとも教室に気になるメスでもいるわけ?」

土田さんの瞳かり光が消えた。だが、日常茶飯事化しているのでいつもの対処方法で土田さんをなだした。

「僕と土田さんの将来のためにさ…ね?行こう?」

と土田さんに呟き顔を真っ赤にしてしまった土田さん。
ヤンデレは無駄に妄想力が膨大なので、こんな時とかには便利なもんだ。
先ほどの言葉には、『勉強しないと大学行けないよ?』という意味なはずなのだが、土田さんは違う意味で 捉えたらしい。

用事を済まし、教室に向かった。
教室に着き、入ると机が37席並んである。しかし今現在の教室の人数は20人弱。朝のHRまで10分もないのにまだ半数近くが来ていない。

別にインフルエンザなどが流行しているわけではないのだがこの人数の少なさ。ありえなっシング。

61ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:55:16 ID:U4mIxQhT

学級閉鎖は僕が生まれてくるときには廃止になってしまったため、仮にクラス一人しかいなくてもしっかり平常授業をするわけだ。ある意味得するよね。勉強的に。
今は37席の机があるが最初は39席だった。何故2席減ったかというと亡くなったから。

一人は男子、もう一人は女子。久保君と安藤さんだ

率直に結論を言うと二人は心中した。久保君は強制的だったが。
久保君とは結構仲の良いほうだったので死んだことを知った時は複雑な気分だった。
暗い過去に浸っていると声をかけられた。

「よお、瀧斗。」
「おお!!中林。…怪我とか大丈夫?」

今朝、いろいろな打撃をくらった中林が教室にいた。

「保健室………はお取り込み中だったから、保健室前のセルフサービスコーナーの湿布をたくさん貼ったから平気だよ。ぶっちゃけ慣れてるし。」

まだどこか痛いんだろうね。引きつった笑顔を無理やりつくり安心させようとする中林。
「中林君、今日も大丈夫?」

後ろから中林を心配する声が聞こえた。

「咲橋///だ・大丈夫大丈夫〜」

さっきより元気を取り戻す中林。そしてそれを聴いて安堵するクラスメイトの咲橋 望(さきばし のぞみ)さん。


62ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:56:16 ID:U4mIxQhT

「そう?良かった///」「心配ご苦労、咲橋殿。」
「うん!!よきにはからえ?」
「その言葉の意味わかってないだろ咲橋さんよ?」

咲橋殿…いや、さんは唯一、中林のことを『しげみ』と言わない女子だ。そして何よりヤンデレ症候群じゃない数少ない普通の可愛い女性でもある。
しかも中林のことが好きらしい。

前に咲橋さんから土田さんの目を盗んで相談を受けたことがある。勿論、中林のことで好きな人はいるか?とか、タイプは?とか質問で全くヤンデレ成分がなく、相談に乗っている僕も久しぶりに微笑ましい気分になった。

そして中林も最近、咲橋さんのことを気になってきている。
僕に相談してくるのも時間の問題かむね。

それから二人は僕の存在を忘れたかのようにとても楽しそうに話していた。
最近、この二人が一緒にいると、とても二人が幸福なベールに包まれて輝かしく映る。青春の一ページとやつだろう。見ているこっちも幸せな気持ちになる。
男子は勿論、土田さん含め女子全員もこの二人が談笑してる時は、優しい表情に変わる。

土田さんもいつもあんな感じだったらな…
淡い気持ちを持ってしまうほど、この二人はそれだけの力を持っていた。


以上学校での朝の出来事でした。

63ヤンデレ世紀:2010/07/12(月) 02:57:17 ID:U4mIxQhT

〜〜〜〜〜



どうして?どうしてなの?

何であんな楽しそうなの?嬉しそうなの?幸せそうなの?

いつもいつもいつもいつもいつも私はお前のことを見ているのに。愛しているのに。

お前が長髪好きだから髪も伸ばしたのに。

お前がカレーが好きだからカレーをおいしく作れるようにしたのに。

今日だってポニーテールが好きと言ったからポニーテールにしたのに。

お前は何も言ってくれなかった。

何で私しか見ようとしない?

何で他の奴らを見る?

何で私がいなくて和気あいあいとしていられる?

何で私にこんな思いをさせている?

わたしがこんなにもアイシテイるノニ?




64名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 02:59:05 ID:U4mIxQhT
投下終了です。



大分マシにしたつもりですが、まだおかしかったらすいません。

65名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 08:16:42 ID:xywJZ1e5
GJ投下乙です 相変わらずの狂った世界観に楽しまされました
66名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 21:02:37 ID:FzrrgkID

面白い作品だけど、スラッシュはいらないと思うな。描写で済ませてほしい。
67名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 22:19:02 ID:ocHPLpFh
>>66
そんなもん人それぞれの表現のしかただろ。
68名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 22:24:24 ID:KxSN2ZGw
自分の意見を押しつけちゃダメだよな
69森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:53:48 ID:4CQ6Cn47
こんばんは
「森山家の青少年」第4話 を投下します。
70森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:54:31 ID:4CQ6Cn47
第4話(少年編)

 八月末・いまだ残暑がつらい昼前

 八月もまだ終わらないが、我が校では始業式が行われた。
 夏休みが七月前半に始まるという日程のため、始業式は八月中に行われる。
 「やっと始業式が終わったねぇ」
 「やっぱ高校も校長は、話が長いよね」
 疲れの色を全く見せない屋九嶋。
 始業式の終了という開放感に喜色を全面に出す久堂。
 「あ〜〜・・・疲れた・・死にそうだよ」
 「・・・昨日の夜何してたんですか」
 他の生徒とは一線を画した倦怠感を見せる啓。
 啓のことだから恐らく深夜までゲームしてたんだろう。
 「で、今日はこれで放課。そこで皆集まって何かしよう!」
 「いつもと変わらねぇじゃん」
 久堂の提案を真っ向から迎え撃つ啓。
 「で、何処で何をするかだけど」
 「俺のツッコミはスルーか!?」
 あの倦怠感は何処へやら、既にいつものテンションに戻っている。
 「すいません、俺はパスします」
 「なんだよ裕介、付き合い悪いな〜」
 「・・今日だっけ?アレ」
 啓はばつが悪そうに苦笑した。俺は軽くうなずいて応える。
 「なんだよ!男二人で納得しちゃってさぁ!」
 久堂は不満をあらわに文句を並べる。
 「早い方がいいだろ。行ってこいよ」
 空には俺の胸中を映すように、薄暗い雲が広がっていた。
71森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:55:06 ID:4CQ6Cn47
 午後・鬱屈とした曇天
 
 見慣れていたはずなのに懐かしさを覚えてしまう。
 風雨に汚れ、黒ずんだ白い校舎。俺の母校たる中学校。
 まだ夏休みの校舎内にいるのは一部の教員と運動部の生徒くらいだ。
 普段は昼休みに生徒たちが屯す絶好の場所となる校舎裏に、いつもとは異質な人だかりができている。
 校舎に隣接する、花の咲いていない花壇。
 そこに置かれた小奇麗な花束。
 花束の前で立っていた男性が俺を見て、睨むように目つきを険しくした。
 実際、睨まれたのだろう。睨まれても仕方ないと思っている。
 この花壇で二年前に死んだ鈴村の父親だ。
 
 遺体発見当時、鈴村は真っ赤に染まっていた。
 傷は手首。リストカットとか言うヤツだった。赤一色に染まった衣服が一目で致死量だと教える。
 近くに落ちていた小型のバタフライナイフには鈴村の血と指紋だけがベットリと付いていて、誰もが自殺だと思った。
 捜査が進むにつれて、次第に他殺の疑いも出てきた。
 自殺のリストカットにしては傷が深すぎる。
 反対側に貫通する寸前という異常なまでに深い傷跡。
 大抵の自殺者は中途半端に痛みを恐れて深く切らない。それで自殺未遂になる人も多いらしい。
 そして当時は俺という交際相手がいた。
 少なくとも俺はうまく付き合えていると思っていた。鈴村はいつも笑顔だったはずだ。
 そして何の前触れも無い鈴村の自殺。
 物的証拠はよく揃っている。誰もが自殺だと思う状況。
 状況証拠は不十分極まりない。自殺にしては不自然すぎる。
 一時は俺に向いた容疑も、次第に晴れた。
 公的には自殺で結論付けられた。もちろん俺は納得していない。

 鈴村の死から一ヶ月くらい経った頃

 鈴村の母親はもともと病弱で、俺と鈴村が付き合い始める何年も前から入院していた。
 肉体的には限界寸前。一人娘の死で心労もピークに達したのだろう。
 『貴方には未来がある。ウチの子の事で悲しんでくれるのは嬉しいけど今は前を向いていなさい。』
 俺にそう言って・・・言い残してその一週間後に亡くなった。
 深夜に容態が急変したらしい。
 そして鈴村の父親は独りになった。手元には多額の保険金。
 厳しいながらも家族思いだったあの男性にとってはたいした価値も無かっただろう。
 生き甲斐を失うとはこういうことかと思わせるほどに今、花壇の前に立つ後姿は霞んで見えた。

 しばらくして、集まっていた人だかりも疎らになってきた。
 ・・・帰ろう。これ以上居ても居心地悪いし。
 十数秒、両手を合わせて黙祷し、その場をあとにした。
 歩き始めると雨が降り始め、次第に勢いを強めていく。
 傘を持っていて良かった。
72森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:55:37 ID:4CQ6Cn47
 朝・山の陰から太陽が顔を出す頃


 腹の痛みに耐えながらいそいそと制服を纏う。
 当初は激痛に他ならなかった痛みも徐々に引き、今は鈍痛というレベルだ。
 しかし痛みは依然として強い存在感で俺の体を蝕む。
 心臓の鼓動に合わせるように痛みの波が満ち引きを繰り返す。
 少しでも気を緩めればすぐさま呻きながら悶絶し動く事を諦めてしまいそうだ。
 原因はおよそ15分ほど前に遡る。

 「起きろ兄貴〜!」
 ドスンと鳴った。30kgの米袋(半俵)を落としたような音だ。
 腹部への強烈な衝撃を感知した痛覚神経が1秒足らずで全身に警報を発する。システム・オールレッド ワーニング!
 「ごっ…ぶはぁぁっ!!」
 詰まった息が一気に吐き出される。
 俺の腹に腰掛ける体勢の和沙を見て原因が判明。
 ヒップドロップだ。あの有名な某・アクションゲームの攻撃手段のひとつ、堅牢なブロックをも粉砕するヒップドロップ。
 絶賛爆睡中の無防備な相手に…いや、標的がどんな状況であろうと決して腹部を狙ってはいけない必殺技だ。
 「これでまだ起きないなんて……しからば奥の手!」
 あまりの激痛に悶え苦しみ、声すら出せない状態の俺をよそになにやら不穏な物音が…
 硬くて重いものが床にぶつかる音。
 恐る恐る振り返るとそこには赤褐色の1メートルくらいある細長い八角柱。
 剣道などの筋力トレーニングに用いられる八角棒だ。
 おおよそ重量4キロ以上。立派な凶器だ。
 いまだに俺が目を覚ましたことに気付いていない様子の和沙。
 アレで目覚ましをされて起きない者は居ない筈だ。もし起きなかったらソイツは死んでいる。
 和沙が震える腕で八角棒を最上段に振り上げた。絶体絶命の危機である。
 そんな時、救いの手が差し伸べられた!
 部屋のドアが荒々しく開け放たれ、賢一兄さんが乗り込んで来たのだ。
 突然の闖入者に驚いたらしい和沙が八角棒を取り落とし、部屋に鈍い音が響き渡る。
 「朝から五月蝿ぇぞ……お前ら……」
 賢一兄さんは朝に限りいつも非常に機嫌が悪い。この騒ぎでその逆鱗に触れてしまったらしい。
 以前賢一兄さんと兄弟喧嘩した宗司兄さんが朝方に奇襲をかけに部屋へ突撃し、数分後に痣だらけになって戻ってきたのをよく覚えている。
 完全に意識を失う直前に言い残した「あそこは……魔窟だ。決して朝は近づくなよ」とは数日後に身をもって体験した。
 そんな不機嫌な状態の賢一兄さんが和沙の襟首を掴んで引きずって行く。
 「ギャーーーっ助けて兄貴ぃ〜〜っ!!」
 いまだ声を出す事も叶わず、ただ見送るしかできなかった。
 さらば我が妹。来世では幸せになれよ……
 少しの間をおいて和沙のやかましい断末魔が聞こえてきた。

 結局、痛みに耐えられず欠席する。
73森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:56:13 ID:4CQ6Cn47
「………というわけなんです。心配かけてすいません。」
 夕刻、いつもの3人…屋九嶋、啓、久堂…が見舞いに来てくれていた。
 俺はいまだに痛みの引かない腹を抱え、ベッドに横たわっている。
 「裕介君はいつも絵に描いたような健康体だからねぇ。心配したよ」
 「しっかし和沙ちゃんも怖ぇな。どっから八角棒なんか出てきたんだ?」
 「ところで……久堂さんはどうしたんですか?部屋から出たきり戻ってこないようですが」
 言われて思い出したような顔をして屋九嶋は「あぁ…」と頷く。
 「律花なら和沙ちゃんのところへ行ったよ。意外と仲いいからね、あの二人」
 そう、今朝賢一兄さんの逆鱗に触れた和沙は床に涙の跡を残しながら苦しげな表情で横たわっていた。
 第一発見者の宗司兄さんによると左右で足首と腿を紐で縛られており、両肩が脱臼していたらしい。
 一体何をしたんだ賢一兄さん
 紐はすぐさま鋏で切らた。
 なんとすぐ近くに賢一兄さんが使っている医学書が置いてあり、その手引きに従い脱臼を治すことができたらしい。
 …そもそも本置いていく優しさがあるなら自分で治してから大学に行ってくれよ兄さん。
 ちなみに賢一兄さんは医大生だ。
 和沙が受けただろう拷問に同情しつつ嘆息する。
74森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:56:54 ID:4CQ6Cn47
「じゃ、お大事にね」「じゃぁな裕介。」「明日はちゃんと学校に来なさいよ」
 と言って三人は帰っていった。
 大分痛みも引いていたので和沙の様子を見に行く。
 「和沙、入るぞ。」
 ノックして部屋の扉を開ける。
 「かz「兄貴ぃ〜〜〜!」
 部屋に入った途端に何故か既に寝巻きを着ている和沙が飛び付いてきた。
 「兄貴兄貴兄貴ぃ〜〜!」
 「ちょ、く…首が絞まっ………!」
 「何で来てくれなかったの?痛かったし寂しかったんだよ!?」
 「やめ……腹に響く…」
 今にも決壊しそうな程に涙を浮かべる和沙。
 頭でも撫でて落ち着かせようかとも思ったが、それよりも本能が生命的危機を訴える。
 そして和沙が泣き出した。押し殺すような泣き声の合間に嗚咽が漏れ、それに合わせて僅かに痙攣を繰り返す。
 兄に甘えて思いっきり泣くのはいいとしよう。
 だけど物凄く腹に響くんです。痛いんです。原因は貴方のヒップドロップです。
 思いっきり泣いてもいいんです。でもその前に離して下さい。
 
 十数分後、やっと落ち着いた和沙から開放される。
 その間ずっと抱きしめられる体勢が続き、痛みのあまり冗談抜きに2、3度意識が遠のいた。
 その和沙は現在ベッドに腰掛ける俺の手を握りながら横で安らかな寝息をたてている。
 …いい加減コイツのブラコンぶりも直さなくちゃいけないな。
 顔立ちは整っているし、スポーツ趣味だから話の合う男子も多い筈だ。
 あとは完全に兄離れできれば文句なしだ。 
 「余計なお世話かもしれないが、兄として幸せになって欲しいよ」
 「ヤダ。兄貴と一緒がいい」
 むくりと上体を起こしながら和沙が眠そうに目元を擦る。
 「なっ!…起きてたのか!?」
 「兄貴知らないの?ブラコンは死んでも治らないって言うでしょ」
 「言わねぇよ!ってか聞いてたのかよ」
 「いやぁ、兄貴があんなにもアタシの事思ってくれているとはね。私も兄貴が大好きだよ」
 「…マジで洒落にならないからやめてくれ」
 理性とか、兄としての不文律とか、法律とか、世間体とかさぁ。
 「あぁ…兄貴が見つめるからお○んこが濡れてきちゃったよぉ」
 「バカなことを言うんじゃありませんっ!」
 上目遣いの潤んだ視線を、和沙の脳天にチョップを叩き込んで強制排除。
 まったく何て事を言い出すか。もはや異常者の域だぞ。
 「うぅぅ…兄貴ぃ痛いよぉ……」
 「知るか痴女」
 「痴女扱いされた!?実の兄に痴女扱いされたよ!!」
 「実の兄って言っても腹違いだろうに」
 「そんなの関係ないもん!………フヒヒ」
 「な、なんだその不気味な笑いは!?」
 俯いて怪しい笑いを零し始めた和沙。
 そのままトリップしたような状態の和沙を置いて部屋を出ていく。
 
75森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:57:43 ID:4CQ6Cn47
「ただいま………」
 部屋を出るのとほぼ時を同じくして宗司兄さんが帰ってきた。
 「あ、兄さん」
 「プリント貰ってきたぞ」
 2、3枚のA4紙を受け取り、内容を見る。
 宗司兄さんはさっさと部屋に閉じ篭ってしまった。
 「そろそろ三者面談の時期か」
 両親は居ないが、賢一兄さんが代行してくれるだろう。
 大人びた…と言えば聞こえはいいが、若干老けた顔立ちなので現役大学生なのに「中堅職員」とまで言われている程だ。
 多分保護者で通る。
 …もちろん本人の前では絶対禁句だ。
 
 本日、賢一兄さんは帰ってこなかった。泊り込みで何かしてるんだろう。
 帰ってきたら和沙の事を相談しようと思う。
 眠気に歪む意識の中で、誰かが部屋に入ってきたような気がした。
 
 
76森山家の青少年:2010/07/12(月) 22:59:27 ID:4CQ6Cn47
投下終了します。
次あたりで誰か病む もしくは引き金が引かれると思います。
77名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 07:45:30 ID:r9n6Itfm
>>76
GJ


次回の病み展開に期待してますぞい
78名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 10:44:04 ID:q12LeLAj
長編SSで森山家ないんですけど……
79兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:50:34 ID:MBxK7szr
投下します。
ものっそい間が空きました。ごめんなさい。
80兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:51:28 ID:MBxK7szr
12話「Our Love And Peace 後編」


『Kyoro』という名前の喫茶店のテラス席に、俺たちは座っていた。入り口の横、商店街の通りに面して、というよりは、通りに無理矢理スペースを作ったと言った方が正しいであろう、素人目にもあからさまな後付の席だった。
近くのホームセンターで買ってきた様な、安っぽい塗装の柵と椅子と机。案の定、椅子の背もたれには、最近オープンしたばかりの大型ホームセンターの名前が刻まれていた。
 二人がけのテーブルで女の子と向き合うのは初めての経験で、流石の遊佐といえど、どこかむずがゆく感じる。どうやらそれは遊佐も同じらしい。注文の時に声が裏返ってたし、さっきから視線が泳ぎっぱなしだ。
 ただ、遊佐がピーチティーをストローを使わずに、一口で半分以上飲む姿を見て思わず笑ってしまい、いつもの二人に戻ることが出来た。
「で、なにがあったわけ?」机に上に組んだ手に顎を乗せた遊佐が、にやけ顔で訊いてくる。
「別に」
 反抗期の子供をあやす様な顔付きで、遊佐は俺を見つめていた。やれやれ困ったな、というよりは、うんうんそうだよね、というような余裕を感じる。
「初めて会った時って、覚えてる?」
「いきなりだな」ごまかそうとして笑うが、睨まれたので、諦めた。「高校のバレー部の親睦会です」
「違う。中2の夏季技術講習会でしょ」
「そんなものもあったような、なかったような」
 本当のところ、俺はそれを憶えていた。いくつかの実業団を招き、新入生の技術習得と、2,3年生の技術向上を目的として講習を行う、という名目のものだった。
講習と言ってもホワイトボードを使って教えるものではなく、主に実演である。『プロのレシーブやスパイクを見て新入生をその気にさせる会』、と言った方が適切かもしれない。実際、俺がそうだったからだ。
「あったのよ。あたしはね、1年の時は法事で出れなかったの。だから、その年が初参加だったのよ」残り僅かなピーチティーを躊躇い無く飲み干すと、遊佐は中学校の名前を口にした。
どこか聞き覚えがある、と考える。「あんたのとこの姉妹校にあたるんでしょ、確か」
「そういえば、うちの中学は何十年も前に分裂したって誰かが言ってた」
「それよ。なんでも、人数が多すぎたり、通学の不便さから分けたらしいわよ」
「いや、でも市が違うだろ」
「私たちが小さい時、市も分裂したでしょ。・・・まさか、知らなかったの?」
「・・・それで、それがどういう関係?」
「学校同士仲良かったから、講習会の時も一緒に組んでやってたでしょ。それぐらいは憶えてるわよね?」
「思い出した」
「もういいわ、それで」
 ふと、俺の中にとある心当たりが浮かぶ。堰を切ったように、当時の情景が目の前を通り過ぎていく。あの時の嫌な空気や、気持ち悪い冷や汗も、同時に再現される。
「もしかして、模擬戦がどうとかって話になりますか?」
「あら珍しい。察し良いじゃない」
「マジで勘弁してください」

 講習会では恒例の行事として、1年生同士の模擬戦がある。模擬戦と言っても、入部してすぐの1年生でチームを組むのだから、内容的には体育の授業のレベルと変わらない。
そういう理由だったり、不足した人数を補うためだったりで、どのチームにも1人や2人、上級生や実業団のプレーヤーが加わっているのだが、その時は偶々、俺がチームに参加することになった。
 お遊び同然の試合の上、上手いこと1年をフォローすれば、先輩としての評価が上がる。これほどおいしい状況でバレーが出来るなんてことは、そうそうない。俺は小さな見栄を最大にまで広げ、並々ならぬやる気を出していた。
 結果だけ言えば、とんでもない空振りに終わる。しかも、空振ったバットが相手ベンチに突っ込むような、最低の所業を成し遂げることになる。
「もしかして、あの時の相手って」
「うちの中学よ。1試合目は練習で組んだところとやるっていうルールだしね」
「もしかしてあの時の眼鏡さんって」
「あたし」遊佐は笑っているが、その笑みには暴力的な脅しのようなものが混じっている。
81兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:52:09 ID:MBxK7szr
 1年生同士の試合のレベルというものは、俺が予想したものよりも遥かに低かった。レシーブなんて上に上がればいいほうだし、大抵はサーブだけで点数が入った。
アタックの『ア』の字も無いような試合に、俺のフラストレーションは溜まっていく。
 そして、その時が来る。1年生のレシーブが偶然、ネット手前に高く上がったのだ。それはまさに、2アタックしてくれと言わんばかりの球で、俺は鬱憤を足場にし、高く飛び上がった。
 次に俺が目にしたものは、相手コートの中央で大の字に寝そべっている女子の姿だった。その後、彼女の横に転がった、綺麗に真っ二つになった眼鏡に目がいく。駆け寄る人々。ざわつく会場。冷や汗。
 それからどうなったかは、あまり憶えていない。何度も頭を下げて謝ったことと、念のためということで連絡先を書かされたことぐらいは、かろうじて記憶の片隅にあったが、それだけだ。
「模擬戦で全力スパイク打つだけでもどうかと思うけど、か弱い女の子の顔面に直撃させるなんて、どこの鬼畜よねぇ?」
「穴があったら入りたいっす」
「あたしが埋めてあげよっか。で、地面から顔だけ出して、あの時の百倍蹴っ飛ばす」
「いっそ死にたい」
「50発あたりで死ぬんじゃない?」
「できればもっと早めに殺していただきたい」
 遊佐が言うと冗談に聞こえない。無論、そんなことを口に出せばそれこそ殺されかねないので、言わない。



 それにしても、あの人が遊佐だったなんて、思ってもみなかった。高校で遊佐に会ってから、何度か昔を思い返すことがあった。
初対面の人に、「ここであったが百年目」と言われれば、誰だって過去に何があったか思い出そうとするだろう。しかし、何度振り返ろうと、俺は心当たりを見つけることが出来ずにいた。
 それも仕方の無いことだ。今の遊佐に、当時の面影はまったくない。昔の遊佐は、遊ばせた肩下までの髪を茶色に染めており、僅かにウェーブがかかっていた。
赤色の太いフレームの眼鏡をかけ、遠目から見てもわかるほどに厚い化粧をしており、いわゆる『ケバい』という部類に入る女子だった。
 対して、今は正反対といえる。髪も短くなり、色も黒く、化粧などしているところをみたことはない。
「ここまで変わったら、気付けっていう方が無茶だよ」
「あの頃は、まぁ、荒れてたというか、なんというか」
「今時の非行少女ってバレーボールするんだな」
「あー、うっさいうっさい」こんなにバツが悪そうな遊佐を見るのは初めてかもしれない。「とにかく、あたしがバレー一筋になったのも、全部アンタのせいってことよ」
 要するに、復讐したかったってことか。『俺の顔面にスパイクを打ち込みたい』という欲求が、目の前のスポーツ少女を作ったかと思うと、なんだかとんでもない過ちを犯してしまった気になる。
「ま、でもさ、そのお陰であたしは更生できたんだから、ある意味感謝してるわよ」
「感謝ねぇ」
「そ。だから、チャラにしてあげる。ここのピーチティーとケーキ奢ってくれたらね」
 俺の返事を聞かずに、遊佐は店員を呼びつけ、ケーキを3つほど注文した。
「理由とか訊かないんだ?」しばらくしてから、遊佐は俯きがちに言った。
「なんの」
「荒れてた理由」
「言っても答えないだろうよ」
「まぁね」
「言いたくなったら言ってくれればいいよ」
「ん、サンキュ」
 礼を言いたいのは俺のほうだ。笑ったり、ビビったり、驚いたり、落ち込んだり。遊佐のお陰だけでも、俺の高校生活は随分と潤っている。今日だって、随分と気が楽になった気がする。
 礼を言わなきゃいけないのは俺のほうだ。
82兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:52:33 ID:MBxK7szr
・・・
 それから数分後、遊佐が2つ目のケーキに手を付け始めた頃、気付くと、「くるみのことなんだけどさ」と語り始めていた。
「くるみ、どうやら叶のことが好きみたいなんだ」
「はぁ?」口の横に生クリームをつけた遊佐は、ひどく間抜けだった。
 納得してもらえるとは思えなかったが、とりあえず、昔の話をする。
叶とくるみ、そして俺の3人が幼馴染に近しい関係であること、叶がくるみに告白し、くるみがそれに答えたことなど、その他にも多くの思い出を話してみた。
 やはり、効果は無かった。
「バカじゃないの。そんな昔のこと、憶えてる奴いないわよ」
「叶は憶えてたけど」
「あれは別よ」苦虫を噛み潰すような顔で、遊佐はケーキを噛み潰した。「あたし、あいつ嫌いだし」
「結局は主観かよ」
「あたしだけじゃないわよ。あいつ、女子に対しての態度異常よ。泣かされた子なんて何人もいるわよ」
 確かに、高校に入ってから、叶に関する良い噂はあまり聞かなかった気がする。告白してきた女の子を罵倒しただとか、廊下でだべってる女子を怒鳴りつけただとか、とにかく色々あった。
 昔はそうじゃなかったのにな、と考えつつも、中3の事件を思い出せば、荒れてしまうのも当然のような気もした。
「根はいい奴だよ。それに、昨日はくるみ自身が好きだって言ってた」
 俺は昨日の帰り道でのことを一部始終話すことにした。記憶が曖昧な部分もあったが、だいたいは合っていると思う。「『東京』で『昔からいた人』って言ったら、叶しかいないんだよ」
 遊佐が俯き、黙り込んだので、もしや、と思った。これはもしかしたら、初めて口論で、遊佐をねじ伏せたのではなかろうか、と。もちろん、そんなことはまるでないのだが。
 おもむろに立ち上がると、遊佐は座っている俺の横に立った。
「一発殴るよ」
 こういう時、つまりは遊佐が宣言をした時、こちらには反対はおろか、同意する権限も無い。

 バチン、という小気味のいい音が耳に響いたかと思うと、頭全体に振動が伝わった。脳が揺さぶられるという感覚を吟味する間もなく、俺は机に叩きつけられた。
カラン、という音は、はたして倒れたコップの音だったのだろうか。
 殴るよ、と言いながらも、遊佐は殴らなかった。俺の左頬に全力のビンタをかましたかと思うと、そのまま後頭部を掴み、机にぶつけた。まだ殴られた方がマシだな、とやけに冷静に考えていた。
「あんたさ、頭が悪いのとバカなのは、ちゃんと区別しなさいよ」見下ろす遊佐の目はいつもと違った。例えるなら、死刑確定の犯罪者を見る裁判官のような、感情の無い、蔑む感情すらも無い、冷たい目をしている。
「なにがだよ」机に押さえつけられていると喋りづらい。たぶん、生涯で1度か2度しか気づかないであろう、大発見だ。
「勉強が出来ないのも、頭が回らないのもいいわよ。それだったら誰かに助けてもらえばいいんだから。でもね、他人のことを想ってやれないようなバカになるなって言ってるのよ」
「また『遊佐論』か」
 持論をぶら下げて他人を説教する彼女をちゃかすように、うちの学年にはそんな造語が浸透していた。
「くるみちゃんが言ったの?あいつのことが好きなんだって、ハッキリと、名指しで言ったわけ?」
「言って、ない、けど」
83Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:53:24 ID:MBxK7szr
 大きなため息をつくと、俺の後頭部から手をどけ、人差し指を俺に突きつけてくる。
「あんただってその条件に当てはまってるんじゃないの?」
 え、と情けない声を漏らしてしまった。それから、ゆっくりと頭を机から上げ、「まさか」と変な声を出した。
「あんたって、頭の回転悪くないし、何でも受け入れる気概があるけど、たいてい裏目に出るよね」
 不快、とまではいかないものの、何か嫌な感覚が体中にあった。完成した絵を消して、書き直した結果、さっきよりも質が落ちてしまったような、そんな脱力感がした。
同時に、ただでさえごちゃごちゃした頭が、余計にかき混ぜられたような気もした。考えがまったくまとまらない。
 真偽や道徳などは置いておくとして、もしくるみの好きな人が俺だった場合、俺の昨日の行為はなんだ。彼女の話もまともに聞かずに決め付けて、勝手にはしゃいでいた。
 さらに言えば、俺はくるみが誰を好きであろうが、どうでもよかったのではないだろうか。俺はただ、くるみといることが恐くなって、いや、面倒になって、あわよくば誰かにその役目を押し付けようとしていたのではいないか。
 濁流のように溢れる思考に押し流される。
 あの子の傍にいようと誓ったはずなのに、それすらも忘れたふりをして、逃げようとした。あの子は好意で答えようとしてくれたのに。
 叩かれた衝撃で、俺は現実へと帰還した。「また考えすぎてんでしょ、バーカ」
「だって、俺」
「まだ決まったわけじゃないでしょ。あんたが知らないだけで、他の人って可能性も充分あるじゃない」
「でも、そうだとしても」
「あー、うざいなぁ。もっかい殴るわよ」言うが早いか、遊佐はまた後頭部を叩いてきた。「理由なんて後付でいいんだから、まずは行動よ」
「また『遊佐論』?」
「真実よ」
「『遊佐論』すげぇ」
 馬鹿馬鹿しいと思ったが、少しだけ気が楽になる。それから、カフェのほかの客と、通りを歩く人に2人で頭を下げた。



・・・
 それでも、懲りもせずにくるみの好きな人は本当に叶じゃないのだろうか、と考えていると、まるで心を読んだかのようなタイミングで遊佐が、「まず浅井のことを好きにはならないでしょうねぇ」と言った。
 すると、これまた計ったかのようなタイミングで、「うるせぇよ」という声が聞こえてきた。
 驚いて声の方、通りの方を見ると、そこには叶がマウンテンバイクに跨ってこちらを見ていた。黒地に赤色のラインが入った男子バレー部のユニフォームを着て、その上に黒いジャージを羽織っていた。
下もユニフォームで、Tシャツと同じデザインだ。膝上数センチの短パンは、コートの外ではどこか変態チックだ。
「なんつー格好よ、アンタ」
「部活終わりなんだからいいだろうよ」
「じゃあさっさと帰りなさいよ」
「寄るとこがあんだよ」
 昨日の口論よりも前から理解していたものの、この二人は非常に相性が悪い。何故かといえば、似ているからだろう。
「っつか、なんでユニフォームよ」
「卒アルの撮影で使ったんだよ」叶は、面倒だという感情をを微塵も隠そうとしない。遊佐から目を逸らして舌打ちをしたかと思うと、今度は俺を見てきた。「部活サボってデートとは、いいご身分だな、おい」
「限りなく説教に近いデートだけどな」
「そりゃお疲れ様だ。デコと頬が腫れてるぞ、お前」歯を見せて無邪気に笑う姿に懐かしさを感じ、心が安らぐ。
 しかし、遊佐がなんの前触れもなしに、「あんたってさ、くるみちゃんのこと好きなの?」と訊くものだから、思わず大口を開けてしまった。
 さらに、叶があまりにも堂々と、「ああ、好きだよ」と言うものだから、開いた口が塞がらなくなった。
「へぇ、身の程知らずもいいとこね」
「るせぇ、俺はな、本気なんだよ」
 照れ隠しなのか、叶はわざとらしく大き目のボリュームで「えーと」と濁してから、切り出した。「お前らって、マジで付き合ってるの?」
「んなわけないだろ。なぁ?」
「ん、まぁ、そうよね」
 俺が答え、遊佐が少し遅れて肯く。叶は、「あ、そう」とだけ返事した。
84Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:53:54 ID:MBxK7szr
 それからしばらくして、俺の携帯が鳴った。開いて見ると、ディスプレイには『佐藤登志男』の文字が浮かんでいた。
「悪いちょっと」と言いつつ2人を見るが、特に気にする素振りも見せず、遊佐に至っては、「男子のユニフォームってかっこいいよねぇ」と言い出した。
俺の言葉には、『ごめん、電話させてもらうね』という意味と、『ごめん、電話するから少し静かにしてね』という意味を含ませたつもりだったが、どっちも届かなかったようである。
 もしもし、と電話に出ると、佐藤は特に挨拶も無く、「今何処にいる?」と訊いてきた。少し迷ってから、「家だ」と答える。
「何かあったのか?」
「いや、あー、あった、っつうか、ある」佐藤の言葉はどこか不明瞭だ。電波が悪いという意味ではなく、単に考えがまとまっていないように思える。
「ばっ、触んなよ」
「いいから、ジャージ脱ぎなさいって」
 すぐ横では、何ともいえない争いが起きていた。会話の流れから察するに、遊佐がユニフォームを見たいのだろうが、だからと言って力尽くで脱がそうとする必要は無いだろう。通りを歩くおばちゃんが変な目でこちらを見ている。
「その、くるみちゃんが今何処にいるか、わかるか?」
「それなら」叶のところ、と言いかけてやめる。そういえば、くるみは何処へ行ったのだろうか。叶と出掛けたものと勝手に決め付けていたが、現に叶は今、俺の目の前にいる。
「っていうか、なんでアンタユニフォームのまんまなの?」
「卒アルで使って、着替えるのが面倒だからそのまま練習したんだよ」
 いつの間にか叶はジャージを脱がされており、遊佐がそのジャージを丁寧に畳んでいた。
 それにしても、電話と考えごとをしている時ぐらい、黙っていて欲しいものだ。ましてや、今はどっちもしているのだから、勘弁して欲しい。
「斉藤?」
「ああ、ごめん。悪い、俺もくるみがどこにいるか分からないんだ」『くるみ』と言った時、僅かに叶が反応したように見えた。
「そうか。実は、俺は知ってる」
「は?」
「俺は、くるみちゃんが今何処にいるか知ってるんだ」
「それで、なんでわざわざ俺に電話するんだ?」
 叶と目が合う。「なぁ、もう行ってもいいか?」と言う彼は、どこか焦っているように見える。
「今、俺とウメは例の竹林の近くにいるんだ。ほら、清掃の罰則でさ。そしたら、竹林の中へと入って行くくるみちゃんを見たんだ」
「なんでまた」
85Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:54:15 ID:MBxK7szr
「ねーねー憲輔」俺の焦りを知ってか知らずか、遊佐は相も変わらない口調で、電話中の俺に話しかけてきた。遊佐は知らずの内に叶の背後に立っている。
コイツをどうにかしてくれ、と叶が顔で訴えてくるが、どうしようもない。「なんでこいつのユニフォーム、名前が『NAGAMASA』なの?」
「浅井長政の『ながまさ』だよ」俺の代わりに、叶が答える。
「誰それ」
「武将だよ」
「どこいんのよ、そんなの」
「北近江」
「バレー部じゃないの?」
「武将はバレーやんねぇよ」
 くだらないが、随分と息の合ったやりとりだ、と感心してしまった。
 バレー部のユニフォームは、代々ニックネームをつけることになっていた。ちなみに、俺は『KAZUYOSHI』で、佐藤は『SUGAR & SALT』となっている。
由来は、なんとなく察して欲しい。もちろん、変に捻ったあだ名でない人も多い。
「別に独りで入ってくなら、俺だって電話しねぇよ。恭の奴と一緒だったんだ」
「キョウ?柴崎恭平?」
 いきなり見知った人名を出され、意識が受話器へと戻る。名前を鸚鵡返しに口に出した瞬間、遊佐と叶は口論を止め、揃って俺を見た。遊佐の顔から、サッと色が引いていくのが分かる。
 それから、二言三言交わして、電話を切った。佐藤の声は終始暗かったので、最後に、「わざわざありがとう」と礼を言っておいた。
「あいつはダメだ」
「お前もか」恭平も叶のことを、まったく同じように評価していたことを思い出す。叶はそのままの意味にとったようで、「当たり前だ」と力強く答えた。
「親父狩りとか、レイプがどうとかっていう話を聞いたことがある。それで新入生を孕ませた、っていうのも聞いた」
 聞きなれない、不穏な単語に戸惑う。そう言えば、1年生で休学している子がいると、誰かが言っていた気がする。
「あくまで噂だけどな。俺だって、あることないこと噂されてる」
 庇ったわけではないだろうが、叶はそう付け加えた。しかし、遊佐が、「それ、女バレの子だよ」と言い、急激に現実味が増す。
「なんで捕まらないんだよ。っていうか、俺はそんな噂知らなかったぞ」
「口止めされてるのよ。あいつの父親、すごく偉いみたいでさ、良くない知り合いも多いって聞いたよ」
 じゃあどこから聞いたんだ、とか、すごく偉いっていうのはどれくらいだ、良くない知り合いってなんだよ、など、言いたい事はいくらでもあった。だけど、震えながら話す遊佐を見ると、何も言えなかった。
 どうするべきなのか、考える。その噂が本当ならばくるみは危険の真っ只中のはずだが、所詮は噂。
2人の話は曖昧模糊としており、信憑性に欠ける気がしてならない。実はくるみと恭平は昔からの知り合いで、既に恋仲であった、というのも無いとは言い切れない。

━━理由なんて後付でいいんだから、まずは行動よ
 口を閉ざしたはずの遊佐の声が、耳に木霊した。
 知らずの内に落としていた視線を上げる。叶と目が合う。頷く。
 ポケットから財布を取り出すと、遊佐に向かって投げた。突然の奇行に困惑しながらも、遊佐はそれを受け取る。
 柵を飛び越えると、叶は既に自転車に跨っていた。「乗れ!」
 自転車の後輪には、大きなハブが付いていて、そこに飛び乗る。
 よっしゃ、と小さく気合を入れた叶は、勢いよく自転車をこぎ始める。後ろから遊佐が何か言っているような気がするが、止まらない。
 叶の運転は上手く、後ろに俺を乗せながらもかなりのスピードを出し、且つ、キレイに人の間を抜けていく。
「懐かしいな」風の音に負けないよう、叶は大声で言う。「昔に戻ったみたいだ」
「ああ、すげぇ楽しい」
「これで『みなみな』のサインはぱぁだ」
「『みなみな』?」
「アイドルの『みなみな』だよ。これからサイン会があったんだけどなぁ」
 場を和ませようだとか、そういう感じはなく、叶は本気で悔しそうだった。
「くるみのことが好きなんじゃないのか?」
「アイドルは別腹」
 俺たちは必要以上の大声で話し、笑った。叶の首筋の汗も、俺の背中を伝う汗も、決して熱さが原因ではなかったと思う。
 ふと、朝方に見た父のキャンプ用具のバスケットに、ナイフが1本もなかったことを、今更になって思い出した。
86Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:55:19 ID:MBxK7szr
***
 薄暗いこの竹林は、必要以上に蒸していた。
 本来、日が当たらないのだから涼しいはずなのに、この竹林は夏場、どうしてか酷く暑いのだと言っていたのを思い出す。
 ただ、今なぜ暑いのかは、よく理解していた。左腕にの傷口に目をやる。溢れるほどではないものの、傷口からは血が滴っている。幸い、それほど深くは無いようだ。左腕の向こうには、この腕を刺したナイフが転がっている。
 しゃがみこんだまま、目の前で大の字になって倒れている『元』人間を見る。腹部と胸元にそれぞれ4本、ナイフが刺さっており、刃が見えないほどに深い。
傷口を中心に血が流れ、円形に広がっていた。誰が見ても、もう死んでいると分かる。
 ふふふっ、と笑い声が漏れていた。やった、やったんだ、やり遂げたんだ、という充足感に満ち溢れ、意識しなければ左腕の傷を忘れてしまいそうだった。

 敵を倒した。『Kyo』を、お兄ちゃんと私の仲を引き裂こうとする敵を、私が倒した。

 校門で待ち合わせてから、人気の無い場所ということで、この竹林に来た。窪塚りおと同じような手を使うのは気が引けたが、贅沢は言っていられない。
民家から離れ、人のあまり立ち入らないここは好条件過ぎた。そう、それで安心しすぎたのだ。まさか、反抗されてナイフを奪われるとは思わなかった。
 ずっとニヤニヤしている男は、いつでも刺せる気がしていた。だから、竹林の奥まで来た時、すぐにナイフを取り出した。だけど、その時、何かに脚をとられた。
なんとか転ばずにすんだものの、敵を刺す事は出来ず、挙句、ナイフを奪われて左腕を斬られてしまった。
 すぐに身を退いたお陰で深い傷は負わずに済んだが、男を警戒させてしまった。真正面からぶつかれば、私に勝ち目はない。
 そこで、再び予想外のことが起きた。男が笑い出したのだ。
 何が起きたのか、私はわからなかった。男は笑うのをやめたかと思うと、こう言った。「死にたくなかったら、ここで俺に忠誠を誓えよ」
 呆れた。安っぽく痛々しい言葉にではなく、いや、それもだが、完全に油断しきっている男に呆れた。
「わかりました」私が返事をすると、男はこの上なく不快な、厭らしい笑みを浮かべた。
 片膝をつき、鞄を斜め後ろに置き、左手で鞄から別のナイフを取り出した。背中に手を回して、男から隠す。それから、右手だけでネクタイをとり、ワイシャツのボタンを外していった。
 お兄ちゃんにもまだ見せたことの無い肌を見せるのは屈辱的だが、唇を噛んで耐える。左手に力が入る。
 ボタンを外し終わると、右腕を抜き、背後でナイフを持ち替えてから、左腕を抜いた。流石にバレるかと危惧したが、警戒どころか、男は満足そうな表情をしているだけだった。バカすぎる。
 ゆっくりと立ち上がり、それから、これでいいですか、と言う予定だった。しかし、男は我慢の限界に達したのか、飛びつくような勢いで私の方へと向かってきた。
そこで、男がナイフを投げ捨てたのが、私の目にはハッキリ映った。この男は本当にバカだ。自分の安全よりも、性欲を優先した。
87Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:55:58 ID:MBxK7szr
 左手に持ったワイシャツを、迫る男の顔に向けて投げる。それから、何も考えず、ナイフを前に突進した。その場で思いついた、B級映画のような戦い方だったが、安っぽいこの男に、そして私にも適しているように思えた。
 ワイシャツ越しに、ナイフを伝い、弾力のあるものに触れる感覚がする。一瞬、弾かれるような気がしたが、さらに足を蹴り出し、前進する。
今度は、柔らかいものにめり込んでいく感覚。するすると、レールを辿るような抵抗の無さで、ナイフは男の中へと進入していく。男のうめき声が聞こえる。
 刃が全部うまったのを感じると、すかさず引き抜く。ワイシャツが落ちて、男の姿が露になる。左脇腹からは血が滲み、男のワイシャツの色を変えていた。
 男の顔は見ない。見れば、自分が恐怖に支配されるとわかっていたからだ。位置をずらし、今度はへその辺りへと、ナイフを突きつける。さきほどと同じ動作で刺し、引き抜く。
 男が腹を押さえてうずくまった。怒りや恐怖などのあらゆる感情が混ざり合い、気付けば脚を出していた。男の咽元へと脚の裏を突き出す。
運動が苦手な私が格闘技などを心得ているはずも無く、当然、蹴りの威力は低く、体勢はひどく不恰好だった。男は仰向けで倒れたものの、私までもが反動で尻餅をついてしまった。
 左手をついたところに、私の鞄があった。迷うことなく残りのナイフが入った鞄を左手に、立ち上がって駆け出す。そして、仰向けで呻く男に馬乗りになって、次々と刺していく。
重力のお陰か、さっきよりも力を込めずに刺すことが出来た。この頃には、そういえばこんな玩具があったな、なんて思い出す余裕もあった。
 頭へと急激に集った血が退くのとともに、私はナイフから手を離した。ナイフの生えた男を見下ろし、ゆっくりと息を吐く。
額の汗を腕で拭うと、明らかに汗とは違う液体で、余計に湿った。吐き気を催す、酷い匂いが充満している。


 怒りも充足感も引いたところで、次の行動に移ることにした。
 まずやるべきことは、男の死体を隠すこと。窪塚りおが殺した浦和という人は、ここからさらに奥の、竹林の裏にある山に近い位置で、極太の竹に寄りかかるようにして死んでいたらしい。
内臓という内臓全てが取り出され、山道から外れた獣道に、綺麗に並べられていたという。最近、2件ほど同じような状況の事件があったので、おそらくそれを真似て、カモフラージュにしたのだろう。
まるでヘンゼルがパンくずを落として道しるべにしたかのようで、『殺人鬼ヘンゼル』などと巷では持て囃されている。
 窪塚りおの場合、死体を発見させることが目的だったので、この事件を利用したに違いない。私は違う。決して見つかってはいけない。
 やはり、埋めるのが一番だろう。草が生えているので、掘り返した跡は一目瞭然となってしまうが、それを見て、死体が埋まっている、と思うような人はそうそういまい。
血の跡や、返り血を浴びた服も一緒に隠してしまえば、一石二鳥と言える。
 そこまで考えて、致命的なミスに気付いた。スコップを忘れてしまった。
 なぜ私はいつもこうして、あとの一歩ところでミスをしてしまうのだろうか。至らな過ぎる自分を思いっきりひっぱたいてやりたいが、今はそんな場合ではない。
無論、お兄ちゃんに叩かれる妄想に浸っている場合でもない。
 竹林を出て少し歩いた所の平屋に、スコップが立てかけられているはずだ。段取りでは、それを使う予定だった。まずは着替えを済ませよう。座ったまま鞄からタオルを取り出し、肌に付いた血をふき取る。
「くるみ!」
 普段は私を陽だまりに連れ出してくれるはずの声なのに、私の身体には寒気が走った。全身の力が抜け、知らず知らずのうちに、「ごめんなさい」と何度も呟いていた。
88Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:56:32 ID:MBxK7szr
***
 叶の自転車で街を走り抜け、竹林の前で佐藤らと合流した。前のめりになりながら竹林へと入る。途中、何かに足をとられそうになったが、なんとか耐えた。
 状況は最悪だった。
 いやに蒸し暑い竹林の中には、異臭がたちこめていて、熱気と相まって酷いことになっている。
 くるみは倒れた男の前に座っていた。多くはないものの、日常ではありえない量の血がくるみに付着しており、何故かワイシャツは脱げていた。
「くるみ!」その姿に、思わず叫ぶ。
 死体に背を向けるようにして、くるみの前に回りこむ。肩を掴むと、軽く揺さぶる。「くるみ、おい、くるみ!」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」
 くるみは力なく地面に手をつき、茫然自失とした表情で、ひたすら謝り続ける。
 取り返しの付かないことをしてしまった。くるみがじゃない、俺がだ。本来、くるみはどんなに人を憎むことがあろうと、最終的には笑って許すことの出来る、優しい子だ。
そんな心を支えてやることが出来ず、その優しさを歪ませてしまった責任は全て俺にある。
「埋めるぞ」突然、叶は力強い声で言い放った。
「埋めるって、お前」佐藤の声が震える。
「さっき通った家に、スコップがあっただろ。お前ら、取ってこい」
「いや、だから埋めるってさ。警察に連絡とかは」
「警察に言えば、この子が捕まるに決まってんだろうが」叶の語調は段々と強くなる。「いや、でも」と佐藤が返事を濁すと、叶は感情を爆発させるように、「ごちゃごちゃうるせぇよ!」と叫んだ。
「俺が埋める準備をする、お前らは黙って取ってこいよ」
 久しく見ない、感情的な叶に驚いていた。初めて見る佐藤は当然、俺以上の衝撃を受けているに違いない。
「行こう」
 少しばかりの沈黙を挟み、誰かが言った。
 ウメちゃんだった。普段のなよなよした感じはなく、力強い声だったために、一瞬誰だかわからなかった。 
 眉を寄せた佐藤は、「わかったよ」と苦しそうに残して、走り出した。足音が遠ざかると、竹林には、くるみの謝る声だけが響いていた。
「もういい、もういいから」
 落ち着かせるために、くるみの顔を抱えるようにして抱きしめた。嗚咽の混じった声が、未だに謝り続けている。シャンプーの甘い匂いと、汗、死臭が同時に鼻に入り、なんともいえない気分になる。
「お前に関わると、ろくなことがない」叶の声は笑っていた。顔は、悲しそうに見えた。
「迷惑かけるよ」
「いい、慣れた。とにかく、コレをどうにかしよう」
 叶が足を踏み出す。つられるように、俺の目線はその先を辿る。
89Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:56:53 ID:MBxK7szr
 暗くてよく見えないものの、地面が、死体を中心にして赤黒く変色しているのはわかった。ワイシャツはかつての色が白だったとは思えないほどに血が染み込んでおり、何本かのナイフがまだ刺さっている。
大きく開いた口の端には泡が溜まっており、眼鏡の奥の瞳はただ空を睨んでいた。髪だけがセットされた状態を保っているのが、ひどく不自然だった。
 柴崎恭平は、間違いなく死んでいる。そして、殺したのはくるみで、まず間違いない。
 隠さなくてはいけない。俺の頭は、それしか考えていなかった。死体を隠し、証拠を隠し、罪を隠す。
「穴を掘ろう。それで、何もかも埋めればいい」
 驚く素振りも無く、叶は頷いてくれた。不思議と、自首をさせて、罪を償わせる、という考えは一切なかった。俺の胸元で泣き、謝る少女は、断罪するよりも、護るべきだという意識があった。
 だから、急に照らされた瞬間、法という形の無い存在が裁きにきたものだと、錯覚してしまった。いつのまにか首に縄が巻きついていて、突然足場がなくなるのではないか、と不安になる。
 光は、一瞬のものだった。耳当たりのいい音と共に、3回ほど光った。叶は立ち尽くしたまま、わけがわからないという風だった。くるみの腕が、照らされるたびに俺の背をきつく絞める。
 光が止んでから少し間が空いて、草を踏み鳴らす音が聞こえてくる。
 初めは、佐藤たちが戻ってきたものだと思っていた。しかし、すぐに逆方向だと気付く。竹林の奥から、何かが近づいてくる。
「いい絵が撮れました」嬉しそうにクスクスと笑う声に、鳥肌がたつ。
 サク、サク、という軽い音に反比例して、俺の身体には重い何かが圧し掛かってくる。腰が曲がり、肺が潰れ、心臓の機能が低下していく。息が出来ない。
 不意に、笑い声が木霊する。続いて、叫び声。そして、くるみの声が聞こえた。
 驚いて叶を見るが、彼はただ一点、林の奥だけを見ていた。驚く以前に、声が聞こえていないようにも見える。くるみも、何かに反応しているようにも、何かを喋ったようにも見えない。
 ああ、そうか。この声は今じゃない。ここにあるけども、今のものじゃないんだ。
 草を踏む音が止んだ。死体を挟んで向こう側に、影を纏い、窪塚さんが立っていた。
「取引ですよ」
 窪塚さんは、首を横に倒して、笑った。
 これが魔物なんだ、と理解しても、手遅れだった。
「ほんと、ろくなことがない」青ざめた顔で、叶が笑う。
 俺の耳には、あの日の笑い声が、未だに止んでいない。
90兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/13(火) 10:58:07 ID:MBxK7szr
とりあえず終了です。
久しぶりすぎて行間隔とかよくわかんなかった・・・迷惑かけます
91名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 15:35:02 ID:0SgDGuCc
>>90
超おもしれぇ…
続きが楽しみだGJ
92名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 20:13:46 ID:K/RrZ+rv
>>90
おお、久しぶりー
遊佐が病むかと思ってたけどそうはならなかったか
てか、りおちゃん怖いよりおちゃん
93名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 20:43:27 ID:txjJHLZD
一年ぶりにGJ!
94名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 22:18:56 ID:UEatm3VT
え、え?
ちょっと待って
マジでうれしすぎる
取り敢えず読む前に書いてしまうが
GJ!
95名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 22:59:57 ID:FCvG4vcL
GJ!
一年ぶりですね♪…
96きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:01:44 ID:oAd3xcH3
GJです!帰ってきてくださって嬉しいです!

こんばんは。今回は最終話となる14話を投稿したいと思います。
あと少しお付き合いください。よろしくお願いします。
97きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:03:19 ID:oAd3xcH3

あの一夜、世間的には"アクアポート爆発事故"と呼ばれる出来事から半年が経った。
藤川コーポレーションはこの爆発を機械の誤作動という"事故"で片付けた。
藤川栄作がマスコミ各社や警察関係者に圧力をかけ、事実を捩曲げだのは明らかだったが、誰もそれを追求しようとはしなかった。
それだけ藤川栄作、藤川コーポレーションの力が強かったせいなのだろう。
そしてその裏で"鮎樫らいむ関係者殺害事件"は世間から忘れ去られていった。
当の鮎樫らいむも本人が姿を現さずに突然の引退を事務所が発表した。
この件に関しては半年経った今でも、様々な憶測が出回っている。
小国コーデルフィアは手を返したように無関係を貫いた。
僅か半年で平成の歌謡界に衝撃を与えたトップアイドル"鮎樫らいむ"は、同じように僅か半年で歌謡界を去った。
まるで彼女の存在が幻だったように。
98きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:04:20 ID:oAd3xcH3

「…ということで続いて、今人気急上昇中のモデル、神谷美香さんで〜す!どうぞ〜!」
スタジオ中の拍手を受けわたし、神谷美香はテレビに映る。
あの後、わたしは病院で目を覚ました。誰が助けてくれたのかは分からない。
…中学生と認識されていたのはムカついたが。
とにかくわたしは死ねなかったのだ。折角駿にぃに会えると思ったのに。
「いやぁ、可愛らしいねぇ!神谷さん、幾つでしたっけ?」
大物キャスターがわたしに質問する。…喧嘩売ってるのかコイツ。
「…19歳です」
スタジオ中から驚きの声が上がる。わざとらしい。
「本当に可愛らしいですねぇ!今度公開される映画『先輩(僕)は後輩に恋される』で主演されるお二人です!」
「先輩の瀬戸内太陽(セトウチタイヨウ)役をやらせてもらいました、山田亮(ヤマダリョウ)です!」
顔だけが取り柄の男が自己紹介する。いくら宣伝といってもコイツと一緒にいるのは虫酸が走る。
何かと食事に誘ったり、ベタベタしてきたり…下心丸出しだっつーの。
「後輩の夏目優乃(ナツメユウノ)役をさせてもらいました、神谷美香です」
いつものように作り笑顔でやり過ごす。
そう、わたしはあの後モデル事務所の意向で芸能界へ進出した。
本当は死んでもゴメンだがギャラは数倍だし、何より体験してみたかった。
かつて鮎樫らいむがいたこの世界を。
「じゃあよくお二人でお食事とか行かれるんですか?」
「はい、神谷さんは素晴らしい女性なんで色々と話を聞きたいんですよ」
「もしかして…結構良い感じだったりしますか?」
「いやぁ…どうでしょうね」
ニヤニヤしながら話す瀬戸川…いや、瀬戸際だっけ?とにかく隣の男。
考え事をしている内に話が進んでいた。まあ興味ないけど。
「今作は半年前に大ヒットした『僕は妹に恋される』の続編ということですが、では最後に全国の先輩後輩達にメッセージをお願いします!それでは山田さんからで」
「えっと、全国の後輩諸君!この映画には先輩後輩の甘酸っぱい恋物語が詰まっています。是非とも僕の先輩っぷりを見ていってくれよな!」
スタジオからは歓声が聞こえる。こんな男の何処が良いのか…。
「ありがとうございました!それでは続きまして神谷さん、お願いします!」
「はい。…先輩、お久しぶりです。見てますか?…どうせ先輩のことだから"神谷がテレビなんて似合わないな"とか言うんでしょうね」
スタジオが静まり返る。どうやらわたしが演技をしてると勘違いしているらしい。
でも違う。
…これは先輩へのメッセージ。
「…先輩、生きてますよね?わたし、先輩のこと…好きです。あの時は言えなかったけど…わたし先輩が大好きでした」
誰もがわたしの熱の入りように魅入られていた。
「本当に馬鹿ですよね…。今頃気が付くなんて、本当に…。だから決めました。先輩が自分で決めたように」
中には泣いている人もいた。…何も分からないくせに泣かないでほしい。
「…わたし、待ってます。いつまでも先輩を待ってます。そう決めたんです。だから、さよならは言いません。また…会いましょう!」
笑顔でカメラ…その先にいる先輩へ語りかけた。そうなんだ。どうしたいかは自分で決めること。
駿にぃには会いたいけど、まだ生きていたい。この世にはきっとまだ、先輩が生きているから。
例えこの先一生会えなかったとしても構わない。わたしの願いはたった一つ。
先輩と…生きていきたいだけだから。
99名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:04:48 ID:txjJHLZD
支援
100きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:07:01 ID:oAd3xcH3

『ということで山田亮さんと神谷美香さんでした〜!』
テレビにはあの時と同じく、血のように赤い髪をツインテールにして揺らしている神谷が映っていた。
「ねぇ、亙。あの神谷ってモデルさん…」
「…彼女がどうかした?」
ドキッとする。ライムは神谷と面識はなかったはずだが…。
「ちっちゃくて可愛いよね!」
「…そうだな」
…心配して損した。ライムが神谷を知っているわけないもんな。
それにしても驚いた。まさか神谷が芸能界にいたなんてな…。
つい最近まで全く知らなかったので、初めて見た時には思わず飲んでいたオレンジジュースを吹き出してライムに叱られた。
「この子も可愛いと良いよね」
そう言いながら愛おしそうに自分のお腹を撫でるライム。彼女のお腹は膨らんでいた。
「まあ俺とライムの子だから、大丈夫だろ」
あぐらをかいている俺の膝の上にちょこんと座るライムの頭を撫でてやる。
「うーん…。父親がちょっとねぇ…」
「おい、何だそのフォロー出来ないジョークは?」
「冗談だよ。私が選んだんだから間違いないしね」
「…そりゃどうも」
一見半年前の生活に戻ったような俺達。だけど実際は何もかも違う。
ライムは妊娠六ヶ月だし、もうアイドルでもない。そして…
「…ねぇ亙?」
「なんだ?」
「亙の好きな"ライム"ってこんな感じで良いんだよね?」
…ライムは記憶を失っていた。
俺たちは海から奇跡的に生還しその足で病院に直行してライムを治療してもらった。
手術は成功したがその代償としてライムは記憶喪失になってしまったのだ。
原因は分からない。
出血多量かもしれないし、海に落ちた時の衝撃かもしれない。
いずれにせよ、俺がライムと病室で会った時彼女は何も覚えていなかった。
…俺のことも一切。
101きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:08:50 ID:oAd3xcH3
「…まだ気にしてんのか?俺が好きなのは今のライムだからさ」
ライムを抱きしめる。記憶喪失になっても相変わらず華奢な身体だ。
「…ありがとう、亙」
この関係に戻るのに半年かかった。でも結局ライムは何も思い出せていない。
自分が小国コーデルフィアでどんな思いをしてきたのか。
俺と出会ってアイドルになって…。今までのことを何一つ覚えてないのだ。
正直、最初は絶望した。運命を憎んだし、ライムを守れなかった自分が情けなかった。
「そういえばもうすぐだな」
「…一周年の記念日、だよね?」
「そうそう。俺とライムが初めて会ってから一年だ。何か早いな…」
「どういう出会いだったんだっけ?」
「よくぞ聞いてくれました!あの日、俺はヤンキーに囲まれて困っていたライムをさ…」
「…私に記憶がないのを良いことに改ざんしてない?」
「いやいや、本当なんだって!何で毎回疑うかなぁ…」
それでもライムは俺を必要としてくれた。
記憶がないのに病室で俺の袖を掴んで「一緒に…いて」と言ってくれた。
だから俺はライムといる。彼女が望む限り、俺は彼女と人生を渡り続けるのだろう。
「本当は信じてるから大丈夫。…だからね」
ライムは俺に抱き着くと耳元でいつものように囁く。
「私の側にずっといてね?…死ぬまで、ううん。死んでも」
記憶喪失になったライムと住み始めて分かった。
彼女はしばらく俺といないと気分が悪くなり、悪化すると嘔吐や精神不安定になる。
一度急用で帰るのが1日遅くなった時があった。あの時のライムの狂気を俺はまだ忘れられない。彼女のあの表情も。
だから今の仕事も定時には必ず上がるし、飲み会や出張は拒否する。
そうしなければ彼女はまた、壊れてしまうのだ。
「…ああ、ずっと一緒だ」
だから俺はライムと歩み続ける。いつか彼女が壊れてしまっても、それを受け止められるように。




人は皆、欲しいものがある。

人は皆、何処が壊れている。

でもどうか、欲しがることを恐れないで。

でもどうか、壊れることを恐れないで。

きっとどこかにそんな貴方を受け入れてくれる人が、いるはずだから。
102きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:10:39 ID:oAd3xcH3

2009年9月、遠野亙と鮎樫らいむの出会った日。

「私は鮎樫らいむ。よろしくね」
「鮎…樫…。変わった苗字ですね」
俺は美少女に手を握られた恥ずかしさをごまかす為に質問した。
「ああ、これは偽名なの。一人だけ日本に知り合いがいてね。ここに来る前に訪ねたんだけど、その時に考えてもらったの」
嬉しそうに笑う鮎樫さん。その知り合いとは仲が良いのだろう。
「そうだったんですか」
「ええ。その人が面白くてね?逆にすると…」
「逆、ですか?」
"あゆかしらいむ"…別に回文じゃないよな。ウチのサークルには回文がいるが。
「…まあその話はいいわ」
「…気になるんですけど」
「それよりも覚悟してね!これからは私のマネージャーとしてバシバシ働いてもらうわよ!」
「…あの、断ることは…」
「出来ません!」
「…やっぱり」
何だろう?いつの間にか自然と受け入れている自分がいる。
鮎樫さんといれば今までの日常が変わるんじゃないだろうか。そんな期待。
「さ、敵は多いわよ?しっかりと私を守ってね」
「は、はい!」
ウインクをされて思わず返事をしてしまう。
…でも悪くない。鮎樫さんとなら、どんな障害でも渡れる気がするから。
「よーし!さっそく明日から事務所回りよ!契約なんて、すぐ取ってやるんだから!」
「お、俺も頑張ります!」
一年後、俺はどんなことをしているんだろう。ちゃんとこの娘をアイドルに出来ているんだろうか?
「…ま、やってみなくちゃ分からないよな!」
月はどこまでも輝いていて俺と鮎樫さんを照らす。まるで月だけが俺達の行く末を知っているようだった。



願わくば二人にひと時の平穏を











きみとわたる 〜完〜
103きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/07/13(火) 23:14:57 ID:oAd3xcH3

以上です。今まで読んでくださった方、編集してくださった方、
そして他の作者様たちに感謝です。本当にありがとうございました!
それではまたいつか。投稿終了します。
104名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:19:13 ID:txjJHLZD
乙です。そしてGJ!
ハイペースの投下間隔でしたね。
やはり最後に立っているのはライムだったか……
105名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:23:01 ID:Z9FOEpKj
乙。面白かった
やっぱ、ハッピーエンドは良いね

ライムの名前の秘密がわかんねぇ…
106名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:24:10 ID:9sLPXN5S
GJ!

次回作にも期待してますぜ。
107名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:26:16 ID:rvbE53Qr
GJ!
とてもおもしろかったです!
108名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:26:37 ID:ViLTMh3f
GJ!!マジでお疲れ様!
更新が早くて毎日楽しみにしていただけにこれからが辛い。そして神谷にも幸せになって欲しい!
109名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:26:40 ID:FCvG4vcL
GJ!
お疲れさまでした!
今まで楽しく読ませていただきました!
ありがとうございます!
110名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:31:57 ID:orf6kDiR
GJ!!そしてお礼を!
あなたのハイペースな投稿で最近のこのスレが活気に溢れてると俺は思う。だからありがとう!
次回作期待してます!!
111名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 23:51:32 ID:MBxK7szr
GJ!!
最初から最後まで本当に面白かったです
暇があったらぜひ次回作を!!
112名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 00:05:44 ID:ViLTMh3f
GJ!

里奈と桃花は一体どうなったんだ?気になって寝れねぇ!
113名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 00:08:12 ID:SNBoga12
きみとわたる最高!
お疲れさまでした^^

桃花なら俺の横で寝てるよ
114名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 00:52:38 ID:JJQDzWhH
名前の秘密が気になる
115名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:00:33 ID:byztLCnZ
本当にGJ!!
お疲れ様でした!更新が速いうえに話もとても面白くて存分に楽しませてもらいました。
116名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:06:18 ID:8JnXxqgl
gj面白かったです。ありがとう!
117名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:13:41 ID:NSx//Ahh
きみとわたる最高でした!お疲れさまです。
とりあえず里奈と桃花はどうなったんだろう…。
118名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:18:33 ID:OW0BxvnN
GJです
ライムの隠された名前もとても綺麗な名前で良いですね
でも桃花が一番可愛い
119名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 02:00:05 ID:Dj7PARnl
ayukasiraimuってことかね
マァGJだよ君
120完璧な彼女:2010/07/14(水) 05:48:47 ID:t60Z21BS
駄文&初投稿なのでお見苦しいと思いますがご容赦を。

ちなみにヤンじゃなく電波かもorz
121完璧な彼女:2010/07/14(水) 05:51:30 ID:t60Z21BS

どうも、初めまして。
訳あって名前は出せませんがこのスレに彼女との馴れ初めを投稿させて頂きます。

彼女の名前は……麗奈(れいな)とさせて貰います。
麗奈と僕は中学校から高校まで同じ学校、クラスが同じでした。
麗奈は家柄、容姿、人望、学力と全て完璧な生徒でした。

家も見た目も成績も普通な僕となぜ付き合う事になったのか…それは彼女が僕に告白して来たからです。
「わたくしとお付き合いして頂けませんか?」
告白の言葉はこんなにあっさりしたものだった。

普通の男子だったら即OKを出して居ただろうが、僕は
「えっと、すみません…余り話した事はないのでこの場では何とも…でも、お友達になりませんか?
僕は麗奈さんの事は詳しく知りませんから…」

僕は僕なりに彼女を傷付けずに断ろうと思った。
でも、彼女の反応は意外だった。

「そうですね、先ずはお友達から始めましょう」

とにこやかだった。

それから僕は彼女と昼食を取ったりよく遊びました。

ある日、不思議な事件が起こりました。

クラス委員の高梨(仮名)さんが事故に合い死亡したそうです。

高梨さんとは事故の前日に話をしていましたから、かなり気落ちしました…。

ふと、ある噂が耳に入りました

『高梨の死は事故ではなく強姦の末、麻薬中毒にされて死んだ』
のだと。

気落ちしていた僕の気持ちを更に下げる噂でした。
僕は思わず彼女、麗奈にこの事を話しました。

すると彼女は

「大丈夫、貴方は何も悪くないわ。
ただ貴方は高梨さんとお話していただけ…でも、優しいのね」

彼女は僕を抱きしめ、頭を撫でてくれました。

これからでしょうか、彼女と付き合い始めたのは。

彼女は本当に僕の事は何でも知っている。
彼女が側に居てくれるだけで全てが解決してしまう。
そして彼女と結婚しました。
それまでに親友、先生、両親、先輩を亡くしましたが僕は…僕達は結婚までいたりました。
でも、今は幸せです。
僕の周りで大切な人が死んでしまいましたが幸せを噛み締めています。
最後にこんな話をするのは可笑しいのですが、5年前の大学生失踪事件を知っている方…何か知っていましたら教えてください。
居なくなったのは大切な大切な妹だったので…
122名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 06:52:31 ID:6Sh/Uhbk
>>121
よくわからん?

まあGJ
123名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 07:05:12 ID:v7U7JfMx
>>122
嫉妬スレを潰した原因
124名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 08:15:43 ID:5l/AW2h2
GH
125名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 13:11:19 ID:V5+MasA5
またメンヘラ自虐作者か
126名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 13:26:31 ID:Ag6ip2m7
修羅場スレは犠牲になったのだ
127名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 13:31:20 ID:0rLOkTs+
はいはいワロスワロス
以下、どんなヤンデレと結婚したいか語るスレ
128名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 14:36:17 ID:kFWPqZjM
やっぱりヤンデレアイドルだな。きみわたの影響もあるが、アイドルに「〇〇くん…逃がさないよ?」とか言われてぇぇえ!
129名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 15:16:14 ID:UxX3/Xfs
俺は妹系だな。やはり兄への依存度の高さに比例して評価が高くなる感じで。でもヤンデレ家族の妹みたいなのでもいいね。
130名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 16:00:56 ID:ZNPUW6XW
>>127
俺はこんな感じがいい。


「今日限り、私たちの関係は終わりにしよう」
 彼女に別れを告げたのは、これで三度目になる。
「ええ、わかったわ。貴方がそう言うなら」
 彼女がそう応えるのも、これで三度目になる。
 たった一年のうちに、彼女とは付き合いと別れを三度繰り返した。

 付き合っていた頃、私と彼女は同棲していた。
 彼女は、仕事を終えた私が一度家に帰ってきたら、二度と家から出そうとしない。
「今日はずっと私と一緒にいてくれるのよね?」
 そう言って、私を家の中へ引っ張るのだ。
 付き合い初めた頃は、そんなところが可愛いと思っていた。
 しかし、次第に彼女の執念が恐ろしくなっていく。
 忘れ物をして、一歩でも家に足を踏み入れようものなら、縛り付けてでも私を止める。
 携帯電話を忘れただけ、時計を着け忘れただけ、ネクタイを鞄に入れ忘れただけ。
 どんな理由であっても、言い訳をしても、彼女は一貫した行動をとる。
 次第に私は家に帰らなくなり、彼女との仲も冷めていく。
 そうやって私と彼女は別れた。もう、三回も。
 
 分かっているのに、数日のうちに私は彼女のことが気になって仕方なくなる。
 それでも今回ばかりはと意志を固め、一ヶ月間彼女との接触を絶った。
 だが、そこが限界だった。 とうとう仕事でミスを犯してしまった。
 彼女の体を抱いた時の快感と、あの美しい肢体の感触が常に頭の中を支配して、他のことを考える余裕が無くなっていた。
 日常生活すら困難になり、とうとう私は彼女と会った。

 一目会うなり、彼女の体を抱きしめ、強引に唇を奪った。
 舌で彼女の口内を貪り、その場に押し倒した。
「お願いだ。もう一度、私とやり直してくれ」
 頬を紅潮させた彼女が、くすりと笑う。
「私も貴方のことを思うと、痛かった。苦しかったわ。
 恋しい、愛しい、大好きな貴方。
 もう一度私のところへ帰ってきてくれるのね。ありがとう」
 その言葉を聞いた私は、もう一度彼女にキスをした。
 ひどく興奮した頭に、彼女の呟きが響いた。

「貴方と私は結ばれる。それが貴方と私の運命なのよ」


こんな感じに魅了してくる悪魔っぽいヤンデレと付き合ってゴールしたいな。
131名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 16:34:22 ID:UxX3/Xfs
どうも、これが初投稿になります
楽しんでいただければ幸いです
では、どうぞ
132僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/14(水) 16:36:10 ID:UxX3/Xfs

   僕は自分が大嫌いだ。

   僕がこんなことを言うのには理由がある。

   まず、事の発端は小学六年生の頃。
   当時の僕には好きな人がいた。
   その子の名前は相沢桜。
   僕の幼馴染で、明るく元気で顔も可愛くて誰とでも打ち解けられる子だったから、当然クラスの人気者だった。
   その頃は至って普通だった僕は、クリスマスが恋人の日だという事をニュースで知り、思い切って彼女に告白した。
   しかし、結果は悲惨なもので彼女には、
「わたし、×××くんみたいなぶさいくな男の子、嫌いなの。気持ち悪いこと言わないで」
   と言われた。酷い言われようだった。
   その後、僕は一週間学校を休み、妹に説得され学校に行くと、相沢桜は転校していた。家庭の事情だそうだ。
   しかし、僕は彼女に言われたことを気にするようになり、目元が見えない位まで前髪を伸ばし、他人と関わらなくなった。
   それが理由となり、中学時代はいじめ、かつあげ、サンドバッグの的代表として引っ張りだこ。一躍時の人もとい人気者だった。
   まあもちろんそんな生活を送っていれば僕がひねくれたのは当然と言えるだろう。
   僕が僕を好きになれない理由はそこら辺の事情にある。
   僕は弱いのだ。全てにおいて。
   だから僕は弱い自分が大嫌いなのだ。
   でも妹曰く、「兄さんは変なところで素直で純粋で芯は強い」らしい。
   妹には眼科へ行くことをオススメしといた。もしかしたら妹も頭おかしいのかもしれない。だって僕の妹だし。
   そして時は高校二年生の春である。
133僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/14(水) 16:38:58 ID:UxX3/Xfs

   今日は入学式。
   妹がうちの高校に入学する日だ。
   妹は剣道の推薦で私立の高校から誘われていたのだが、なぜか一般の公立高校で家からとても遠いうちの高校に入学した。
   そして一人暮らしをしていた僕の住処に同居することになった。
   妹を溺愛している両親は反対したが、妹の「お父さんなんか大っ嫌い!」が決め手となり、妹の同居が決まったらしい。(情報源:涙声の父さん)
   そして僕は実の父親から、「俺の可愛い娘に手を出したら生まれてきたことを後悔させながら殺してやる」との温かいお言葉を貰い、僕の住処がアパートからマンションにランクアップしたわけだ。
   仕送りも五倍近くまで跳ね上がった。扱いが違いすぎない?と、まあここで回想終了。なぜなら、

「兄さ〜ん!お待たせ〜!」

   我が妹君の御登場だからである。
   妹の名前は雨宮藍里、肩にかかるくらいの長さの髪に、健康的な色の肌、クリっとした愛らしい瞳。
   一言で表すなら美少女だ。
   兄としてのひいき目で見てもそう感じるだろう。まあ生憎とそんな目は持ち合わせていないが。
「どうしたの?」
   藍里が首を傾げる。
「いや、なんでもない。行こう」
「うん♪わかった!」
   そして僕らは歩き始める。
   歩き始めて間もなく、藍里がなぜかそわそわし始めた。
「どうした?」
   藍里に聞いてみる。
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう」
   歩く、歩く、歩く、歩く。
「兄さん」
「なんだ?」
   藍里が話しかけてきた。
「その、わ、わたしたちって、さ。周りから見るとどんな風に見えるのかな?」
「そりゃあ兄妹だろ」
   それ以外どんな風に見えるんだ?さっぱり分からん。
134僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/14(水) 16:40:16 ID:UxX3/Xfs
「そ、そっか。そうだよね…」
   なぜか藍里が残念そうだ。だが別に気にするようなことじゃない。
   そうして歩いていると、また藍里が話しかけてきた。
「ね、ねえ、兄さん」
「なんだ?」
   藍里がうつむきながら話しかけてきた。
「て、手ぇ、繋いでいい?」
「却下」
   即答。当然だ。
「む〜、なんで?」
   なぜか機嫌が悪くなった。そして頬を可愛らしく膨らませているせいで実年齢より幼く感じる。詐欺だ。
「もうそんな年でもないだろ。大して仲が良いわけでもないし」
   そう答えると、
「ふ〜ん。じゃあ兄さんはわたしのことが嫌いなんだね」
   どこか刺々しい口調でそう言ってきた。結論がおかしいだろう。
   めんどくさくなってきた僕は藍里を無視して歩くことにした。
「ねえ兄さん。聞いてるの?」
「……」
「兄さん?どうしたの?」
「……」
「ねえ、に、兄さん?」
「……」
「う、うう、ぐすっ、ひっく」
「……!」
   ヤバイ!午前8時の住宅地にて、住人は見た!女の子を泣かしている暗そうな男!(僕)
「あ、藍里!?冗談だから!ゴメン!ほ、ほら!大丈夫だぞ!」
   急いで藍里の頭を撫でる。
   すると、藍里が涙目の上目遣いでこちらを見る。
「ほ、ほんとに?ぐすっ」
   こうかはばつぐんだ。
   HPがガンガン削られる。
「あ、ああ。僕が悪かったから」
「わ、わたしのこと、ひっく、きらいにならない?」
   かいしんのいちげき。
   僕は混乱に陥った。
「あ、ああ。嫌いじゃない嫌いじゃない」
「じゃあ、わたしのこと、好き?」
   クリティカル!
   せかいかんがおかしくなった。
「あ、ああ。好きだから。大好きだ。あれ?」
「ふふ、うれしい…」
   は!つい心にもないことを!
「もう、ツンデレなんだから…。兄さんのばか」
   なんで僕は妹に告白してるんだよおおおおぉぉぉぉ!
「い、いや、今のはだな!その場のノリというかな!」
「もう、照れちゃって。大丈夫だよ、わかってるから♪」
   だめだ。妹は人の話を聞くという能力を失ってしまったみたいだ。
   その後も弁明を試みたのだが、結局、僕は高校に着くまでに誤解を解くことはできなかった。
135僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/14(水) 16:42:02 ID:UxX3/Xfs
   藍里は僕のクラスまでついてこようとしていたが、無理矢理自分のクラスに行かせた。
   ちょっと涙目になっていたが罪悪感は当然ない。……ちょっと心臓が痛くなってきた。病気かな?
   2−Aの教室に着くと、真っ先に自分の席へ向かう。窓際の一番前という微妙な席だ。
   席に着くと、隣の席の女子が話しかけてきた。
「おはよう、雨宮くん」
   二年生の中でも五本の指に入ると言われている美少女、柏木桜さんだ。まあその称号を持っているのは五人もいないけど。
「どちら様で?」
   取り合えずしらばっくれてみた。
「柏木桜って言います。これから一年よろしくね」
   手を差し出してきた。
   僕はその手に飴玉(醤油プリン味)を落とし、「あげる」と呟いた。
   聞こえたか分からないけど彼女は「ありがとう」と言いその飴を口に入れ、「あ、美味しい」と喜んでいた。味覚がおかしい僕でさえ吐きかけたのに……。

「よう、雨宮」

   おや?また新しい登場人物が来たようだ。
   彼の名前は坂本啓介。赤の他人以上友達未満あたりの関係だ。
   柏木さん目当てかな?
「……久しぶり」
   この高校で会話のしたことがある数少ない知り合いだ。
「たまには前髪切ってみたらどうだ?安くしてやるぜ」
   こいつの家は床屋をやっている。でも僕は知り合いの家だからといって贔屓はしない。
   まあこいつが「別に来なくてもいいぜ」とか言うのも理由のうちだが。
「遠慮しとくよ。当分は髪切る予定ないし」
「そっか。じゃあまた今度だな」
   今度は永遠に訪れないけどな。
「ねえ、坂本くん」
   柏木さんが話に入ってきた。
「ん?なんだ、柏木さん」
「坂本くんの家って床屋なの?」
   柏木さんは知らなかったらしい。
「そうそう。俺んち、床屋なんだよ。今度来てみる?」
   さりげなく誘っている坂本。なぜ僕の方をちらちら見るんだい?
「雨宮くん、今度一緒に行ってみない?」
「嫌だ」
   即答だ。当然だろう。僕にはバイトがあるんだ。自宅警備員という名の。
「残念……」
   ほんとに残念そうにしている。
   睨むな坂本。
   そして、チャイムが鳴り、教師が教室に入ってきた。坂本が席に戻ろうとしたので、足を掛けて転ばせておいた。
136名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 16:44:41 ID:UxX3/Xfs
とりあえず今回はこれでおわりです
投稿と投稿の間が空いてしまうと思いますができる限り頑張りますので見守っていてください。
ではまた次回
137名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 16:47:27 ID:V02LZG2r
GJ!!
そのフった幼なじみツンデレとみた!!どうアクションくるか期待してます!!!
138名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 17:16:28 ID:TNd2amXq
>>136

とりあえずsageたほうがいい
139名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 17:45:52 ID:zuXWNTOX
>>130
評価する。でもヤンデレなのか?
140名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 18:37:35 ID:Xkw6cJdG
>>139
その抱いた疑問は君のヤンデレに対する認識レベルが上がった証拠だよ
もう君は普通の女を愛する事なんて不可能だろう
141名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 19:13:21 ID:1sKKjROR
>>130でヤンデレ? と思うってことは、
>>139はすでに引き返せないところまできていると思われる。
142名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:54:00 ID:v7U7JfMx
この生産性の無い雑談は必要なの?
143名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:55:58 ID:KsFu8H0R
>>142みたいな生産性の無いレスは必要なのかどうか
144名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 23:09:17 ID:8SaDdRQF
もともと雑談に生産性のあるものなんて無いだろ
145名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 23:19:41 ID:/tw3rEdU
スレチな話題じゃなければ生産性を見いだすかどうかは本人次第じゃん
146 ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/14(水) 23:56:57 ID:zDgY/sIv
こんばんは。
触雷!の11話を投下します。まだ先輩のターンです。
147触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/14(水) 23:57:43 ID:zDgY/sIv
「ああ……」
入ってきたエメリアさんとソフィさんを、僕は茫然と見上げた。
いつしか、先輩の体はぐったりとして、僕を捕まえていた力も抜けている。
見ると、先輩は白目を剥いて、気を失っていた。
それから、下腹部の方で聞こえる水音。先輩が失禁しているのだと分かる。
清楚でおしとやかな先輩をこんな風にしてしまうなんて、僕は何という鬼畜なのだろうか。
「ご、ごめんなさ……」
謝ろうとしたとき、エメリアさんとソフィさんが近づいて来て、僕の両腕を掴んだ。
そのまま、先輩から引き剥がされる。
結合が外れた瞬間、先輩の体がビクンと痙攣した。
「ごめんで済めば、ポリスはいらないのですよ。詩宝様」
ソフィさんが言う。全くその通りだ。
「お嬢様の信頼を裏切り、初めてを奪って傷付けた罪、あまりに重いですよ」
エメリアさんも、僕を断罪する。
でも、なぜか2人とも顔がニヤけているように見えた。
あんまり怒りが激しくなると、表情の制御ができなくなるんだろうか。
エメリアさんが言う。
「まずはお仕置きです。その後で、会長と奥様に、詩宝様の処分を決めていただきます」
「……はい」
会長と奥様というのは、先輩のご両親のことだ。何度か会ったことがある。
僕は観念した。
おそらく、僕の人生はここでおしまいだろう。
中一条グループの令嬢に手を出したのだ、命があるはずがない。
映画で見るような拷問部屋に連れられ、ありとあらゆる苦痛を味わわされた後で、殺されるのだ。
でも文句は言えない。自業自得だから。
「……償う覚悟はできています。どうにでもしてください」
「「では早速」」
正座して僕が言うと、秘書の2人は僕の学生服の上着を剥ぎ取った。
さらにワイシャツが引き裂かれる。そして、床に仰向けに押し倒された。
「うっ……」
靴と靴下、それにズボンと下着も持って行かれる。
全裸で横たわる僕を、エメリアさんとソフィさんは傲然と見下ろした。
「やはり、素晴らしいものをお持ちですね」
「あれが私達の中にも……ああ……」
2人は妙なことを言う。
――何をする気なんだ?
罰は覚悟の上とは言え、何をされるか分からないのはさすがに不安だった。
突然、ソフィさんが僕の顔に腰を下ろす。
「むぐっ!?」
呼吸ができない。反射的に僕はもがいたが、ソフィさんの大柄な体はびくともしなかった。
これで死ぬかと思ったところで、少し腰が持ち上げられる。
「ぷはあっ!」
「舐めてください」
「え……?」
僕はソフィさんの顔を見上げようとしたが、胸の2つのスイカが邪魔で、何も見えなかった。
「早く」
「でも……」
躊躇っていると、またソフィさんの股間が顔に押し付けられる。
「うぐっ!」
「償う気がないんですか?」
僕は仕方なく、舌を出してソフィさんの股間に這わせ始めた。
「あっ、んん……」
ソフィさんは、声を漏らしながらもう一度腰を上げてくれた。舐めるのと償いと、どう関係しているのか分からないが、ともかく要求に応じて必死に舐める。
148触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/14(水) 23:58:18 ID:zDgY/sIv
「では、私はこちらを……」
エメリアさんの声がした。僕の一物が握られ、しごかれる。
「あ……」
たった今先輩を犯したばかりだというのに、早々と復活してしまう。
しごかれるのが止まった。エメリアさんが動く気配がする。
先端に、粘膜の感触がした。ニュルっと入っていく。
僕のが、エメリアさんの性器に入ろうとしているのだ。
「や、やめて……」
怖くなってお願いしたが、通じなかった。
「んっ……レイピストに人権はありません。ああ……私達には、あなたを逆にレイプする権利があるのですよ。んんっ……」
エメリアさんが言う。僕は何も言えなかった。
続いてソフィさんが、
「あん、気持ちいい……ボスがやめてと言われたとき、んん……詩宝様はやめなかったでしょう?」と言う。
「……見てたんですか?」
何気なく浮かんだ疑問を口にすると、返事の代わりに性器が顔に押し付けられた。
「口を動かす前に、舌を動かしてください」
「うぐ……」
これでは仕方がない。僕は一心不乱に舌で舐めた。
一方エメリアさんは、少しずつ腰を振り始める。
最初は小さな動きだったが、だんだん激しくなった。
それとともに、僕が感じる快感も強くなっていく。
「う……うぐっ……いぎっ……あ……」
「ああっ! あんあん……ああ……いいわ……」
ついには、エメリアさんは前後左右に大きく腰を乱舞させた。
僕は耐え切れなくなり、挿入したままで精を放ってしまう。
「うあっ!」
「ああっ、子宮にいっぱい出てる……」
エメリアさんの体がビクビクッと震え、そのまま動かなくなった。
「フフ……次は私の番ですね」
ソフィさんが立ち上がる。僕の腰の上からエメリアさんを退かせた。
「すぐに、また元気にしてあげますからね……」
跪いたソフィさんは、僕のペニスを口に含んでしゃぶりだす。
それがまた気持ちよくて、いくらもしないうちに復活してしまった。
「あん……たくましい……」
ソフィさんは、エメリアさんと同じく僕の腰に跨ると、勃起したものを膣に咥え込んでしまった。そして腰を振り始める。
「あっ、あん……おおうっ……いい……」
一方エメリアさんは、僕の頭近くで四つん這いになっていた。
彼女は片手でおっぱいを掴むと、穴の開いたブラジャーからはみ出した乳首を、僕の口に押し込んでくる。
「むぐっ……」
「舐めてください」
これも償いなのだろうか。分からないながら、舌を出して舐め出した。
「んんっ……あん、上手だわ……」
ふと、右手が誰に握られ、柔らかいものが掌に触れる。
「……?」
見ると、いつの間にか先輩が復活していて、僕の側に来ていた。
僕が触っているのは、先輩の胸だ。
「私もお仕置きに参加するわ」
「…………」
それから後は、ローテーションで1人が僕の腰に跨って交わり、残った2人が四つん這いになって僕に乳首を舐めさせるという構図になった。
さらに、四つん這いの2人の股間を手で弄るよう要求される。
少しでも舐めるのが疎かになったり、弄るのを止めたりすると、すぐに「償う意思がないんですか?」と言われた。
149触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/14(水) 23:58:51 ID:zDgY/sIv
そして、僕が先輩の中に何度目かの射精をしたとき。
「あああああっ!!」
先輩は一際大きな声を上げ、僕の胸に倒れ込んできた。
慌てて左右に退く、エメリアさんとソフィさん。
「んん……」
先輩は目を閉じて僕の口を吸い、舌をねじ込んできた。
水音を立てて、舌が絡まり合う。
「…………」
僕は指の一本も動かせず、一言も話せず、ただされるままになっていた。
すでに体力は底を尽いている。
このまま、セックスで精気を奪われ続け、殺されるのだと思った。
しかし、キスを止めて体を起こした先輩は、意外なことを言った。
「……お仕置きは、もういいわ」
どういうことだろうか。
お仕置きはあくまでお仕置きで、死刑は別の方法でするのか。
「はい、お嬢様……初めてのセックスなのに、恐ろしく感じてしまいました……」
「ファックがこんなに気持ちいいなんて、想像もしなかったです……」
秘書の2人も何か言っている。どうもまだ、僕を殺す算段ではないようだが。
その後、僕は同じ階にあるシャワー室に引っ張られ、シャワーを浴びた。
なぜか、先輩とエメリアさん、ソフィさんが3人がかりで、僕の体を丁寧に洗ってくれた。
そして僕達4人は、どこからかエメリアさんが持ってきたガウンを着て、別室に移動した。
「エメリア、お父様とお母様を呼んできて」
「かしこまりました、お嬢様」
エメリアさんが、部屋の外に出て行く。
彼女はものの1分ぐらいで帰ってきた。もう先輩がレイプされたことを、ご両親に伝えたのだろうか。
エメリアさんの次に入ってきたのは、先輩のお母さんである華織(かおり)さんだった。
年齢の割に若く見える人で、20代で通るだろう。
華織さんは満面の笑みを浮かべている。エメリアさん、本当に状況を伝えたんだろうか。
そして、先輩のお父さんにして、中一条グループの現総帥である道善(みちよし)さんが現れた……車椅子で。
こちらは打って変わって顔面蒼白の道善さん。左足の大腿にギプスをしている。骨折でもしたのだろうか。
どうされたんですかと聞きたいところだが、それが許される立場でもないので、僕は黙っていた。
ソフィさんがドアを閉める。僕は疲労した体に鞭打って、正座した。
先輩が、ご両親の方に歩いて行く。
「なあみんな」
最初に口火を切ったのは、道善さんだった。
「由緒ある中一条家の当主として、私はやはり、こういう騙し討ちのようなやり方は……」
その瞬間、先輩と華織さんの回し蹴りが、道善さんの顔面に炸裂した。
道善さんは車椅子ごと吹っ飛び、壁に激突してひっくり返る。
「しつこいわ。お父様」
「あなたは黙ってらして」
動かない道善さんに、先輩と華織さんが冷酷な口調で言う。
何が起こったのか分からず、僕は茫然としていた。
「…………」
150触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/14(水) 23:59:22 ID:zDgY/sIv
「さて、詩宝ちゃん」
「はい」
華織さんが僕に話しかけてきたので、返事をした。
「話は聞いたわ。舞華を襲って中出ししちゃんたんですってね」
「はい。間違いありません」
姿勢を正して、僕は答えた。一応状況は伝わっているようだ。
それにしては華織さんのノリが軽い気がするが。
あるいは、こっちを油断させて地獄に突き落とす心理作戦なんだろうか。
「そう。それなら償いをしてもらわないとね」
「何でもやります。お許しがあれば、この場で切腹して見せます」
実際は切腹どころか、舌を噛み切る力が残っているかどうかも疑わしかったが、意気込みを見せておいた方がいいだろうと思った。
しかし、華織さんは僕の言葉を一蹴する。
「お腹なんか切られてもねえ」
「しかし……」
「待って。舞華ちゃんはどうしたいのかしら?」
「はい、お母様。私はもう、他の男の人のお嫁に行けない体になりました。これも運命です。これからは詩宝さんの妻となって、詩宝さんが真人間に戻れるように、生涯を捧げて詩宝さんに尽くします」
「え!?」
先輩の発言に、僕は驚愕した。昔ならいざ知らず、今時、レイプした被害者と加害者が結婚するなんて無茶だ。
しかし、場の雰囲気はその方向で進みそうだった。
「決まりね。詩宝ちゃんには舞華ちゃんと結婚してもらって、更生してもらうわ」
「では、お嬢様が正妻で、私は第1愛人ですね」
「仕方ありません。私は第2愛人で妥協しましょう」
それどころか、エメリアさんとソフィさんが、僕の愛人になるかのような発言まで飛び出した。
「ま、待ってください!」
もう限界だ。たまらず僕は異議を唱えた。
「「「「何?」」」」
途端に、4方向からの射るような視線が、僕の体で交差する。
視線の源はもちろん、先輩、華織さん、エメリアさん、ソフィさんだ。
1人でも十分すぎるほど威圧的なのに、4人から集中されては、なす術はなかった。
「……何でもないです」
「詩宝ちゃんも、異議はないようね。これからは……」
「ま、待ちなさい……」
そのとき、意識を取り戻した道善さんが這いずってきて発言した。顔には脂汗が流れ、息は絶え絶えだ。
「私としても、舞華と詩宝君の結婚に反対ではない。しかし……」
ゴシャッ!
だが、先輩と華織さんに頭を踏み付けられ、またしても沈黙した。
「もう必要ないわ。ソフィ。連れて行って」
「イエス、ボス」
ソフィさんは先輩に命じられ、道善さんの襟首を掴んで外に引き摺って行った。
「くだらない茶々が入ったわ。詩宝ちゃん、これから私のことは“ママ”って呼ぶのよ。いいわね?」
「は、はい……」
「じゃ、早速呼んでみましょうか」
「…………」
僕は躊躇った。いくらなんでも、恥ずかしい。しかし、黙っていると華織さんがにらんできた。
「詩宝ちゃん?」
「マ、ママ……」
「うふ。よくできました」
華織さんが破顔する。それを見ていた先輩が、少し不機嫌な表情になった。
「お母様。娘の夫をあまりからかわないで」
「からかってなんか……母子のコミュニケーションよ」
「……もういいわ。それより、詩宝さん?」
「は、はいっ」
「詩宝さんの家にいる、ゴキ……いいえ、メイドのことなんですけど」
「あっ……」
紅麗亜のことだ。僕はどきりとした。
151 ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/15(木) 00:01:39 ID:zDgY/sIv
投下終了です。
紅麗亜サイド、晃サイドを期待されていた方、申し訳ありません。
もう少し先輩サイドを続けた後、2人の登場になります。
152名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:04:57 ID:zuXWNTOX
いとおもしロリ
153名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:12:10 ID:zqX2yWFf
GJ!

まさか先輩の母親も病む・・・のか・・・?
154名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:41:05 ID:ACmjT3LV
GJ!
投下待ってたぜ
155名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:59:11 ID:gOh6EQwQ
もしヤンデレが幼女だったら
156名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 01:27:10 ID:peuKl6Nb
乳がでかければでかいほど愛が重いという電波が
157名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 01:28:30 ID:zqX2yWFf
うむ。幼女とは時に思いもよらない力を発揮するからな
158名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 02:20:52 ID:e/9NY4o9
ドナドナドンナがいい例だよな
159名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 02:26:33 ID:lzjnLt6K
触雷GJ

屋敷の妹達も気になる
160名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 02:28:11 ID:v9pPSPsH
GJだぜ

…そういや婚約披露会の会場にいるはずの来賓の方々はどんだけ待たされてんだろ
161名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 05:54:59 ID:AmiMnxAh
触雷キタ(・∀・)

道善総帥がもう気の毒で(笑)
162名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 06:16:32 ID:7mAJcP+4
なんで先輩はメイド二人が愛人になっても何も言わないの?
163名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 16:44:56 ID:g2SqW+MN
触雷!や、きみとわたる作者さん達は投稿ペース早いから大好きなんだが、あまりにも安定したペース過ぎてまるで人じゃなくてヤンデレプログラムが書いているような…気のせいだよな?
164名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 19:55:11 ID:2mQBRTXD
おまえ最低だな
愚弄した事を作者様に謝れよ人でなし
165名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 20:16:17 ID:PQB5drEU
投稿ペース早いから大好き

こういうのやめようぜ
166名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 21:12:33 ID:pU8BU1m9
こっちは読ましてもらってる立場だしな
167名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 21:47:38 ID:Tgupzg6q
いや、別に問題ねーだろこれぐらい。
なにか見つけて噛みつかなきゃ気がすまないのか、お前らは。
168名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 22:05:03 ID:m+2de3oe
夏になると変なのが湧いてくるからしゃーない
169名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 22:20:04 ID:NHzrtSKY
言い方きっつ
そこまでじゃなくね?度がすぎると原因になるよ
>>165

こういうのやめようぜ
sageのしかた覚えてから来いw
170家族:2010/07/15(木) 22:53:54 ID:U/aLEh+W
携帯から失礼します。
初投稿の初心者です、よろしくお願いします。
タイトルは家族です。
171家族:2010/07/15(木) 23:02:21 ID:U/aLEh+W
僕はどこにでもいる普通の人間だけど周りにいる人が普通ではない。
その中の一人である実の妹なのだが僕と違って頭脳明晰、容姿端麗の完璧超人なのだ。
名前は寺下三咲といい長身黒髪で性格も明るく誰にでも優しく、成績はオール5だ。
ちなみに、僕は寺下実というどこにでもいるモブキャラだ。
172名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:05:08 ID:ACmjT3LV
>>170-171
sageてから投下しましょう
173名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:14:24 ID:P0iKp1Sg
夏だねぇ
174名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:30:02 ID:2mQBRTXD
作者の意欲を悪意ある書き込みでへし折り、頑張る作者に対しては人間以下のプログラム呼ばわり
このスレ終わったな
175名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:30:59 ID:44Iz6pF8
糞スレageときますね?
176名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:39:26 ID:qvDleZvc
道善さんかわいそうだな
177家族:2010/07/15(木) 23:39:55 ID:U/aLEh+W
「お兄ちゃん最近私、クラスの男の子に告白されたんだけどどうしたらいい?」
三咲がそう僕に尋ねてくる。
「三咲も青春☆まっしぐらだから、彼女の一人くらいつくったらどうだ?」
「いやだ、私はお兄ちゃんに純潔を捧げるとお母さんのお腹にいるときから決まってるの」
三咲は小さい時からこうやってモテない僕に優しい言葉をかけてくれるのだ、ありがたい。
「そうだね」
僕はお茶をすすりながらそう言う。
「そうやって優しい言葉をかけてくれるお兄ちゃん大好き!ハアハア・・・・」
なんだか妹の目が獣のようだ。
「じゃあキスしよ、そして私と結婚しようよお兄ちゃん」
「だが断る」
僕はそう言った、だって姉弟だもん。むりじゃね?
「なら、私がいるわね」
声の主は僕の弟?でもある綺羅である。
綺羅はスタイル抜群の長身で顔も正直人間とは思えないくらいの美貌の持ち主である。
何故か僕の事が大好きと言ってくる困った弟でもあり男の娘でもある。
「綺羅は弟だから・・・って綺羅の方が生理学的に無理だろ」
そうやって僕は綺羅に突っ込む。
「あらなんで?私の体はアナタのためにこんなに体の手入れをしてるのに」
そうやって綺羅は球のような肌を僕に見せつけてくる。
「うう……」
僕はその球のような肌から目を逸らす。
「あら、私の体に真っ赤になって反応してくれた。嬉しいわ」
綺羅は傾国の美女のような微笑みで、僕を見つめる。
「ちょっと待って!こんなショタにたぶらされたらダメよ。お兄ちゃん」
三咲は必死の表情で叫ぶ。
178家族:2010/07/15(木) 23:45:21 ID:U/aLEh+W
「三咲は黙っててね」
綺羅は余裕の表情だ。
「あの〜一応僕にも気になってる人がいるんですけど」
そう言うと二人の目から光が消えた。
179家族:2010/07/15(木) 23:49:20 ID:U/aLEh+W
投稿終了です。
sageも分からない初心者ですいません。
もしよろしければsageの仕方を教えて頂きませんか?皆さんに不快な気持ちを与えてすみませんでした。
180名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:55:10 ID:fa7Yupj8
メール欄に半角sage
あとメモ帳か何かに書き溜めしてからの方がいい、書きながらの投下はその間、他の人が投下できない・しにくいから
181名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:58:59 ID:U/aLEh+W
勉強になりました。
ありがとうございます。
182名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:08:08 ID:w/YefIR7
>>180
投下もせずに文句を言うな
そんなご大層なことを言えるんだから、お前自身はよっぽどすごいSSを投下できるんだろうな?
客観的に見て迷惑なのは間違いなくお前だ
183名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:08:47 ID:9pkEqjCw
とりあえず半年ROMって来い
184名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:13:13 ID:x5crmDVu
>>181
GJ
頑張ってくれ

>>182
それぐらいならアドバイスの範囲だろ
逆にお前が荒らしてるぞ落ち着けよ
185名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:15:07 ID:LiCidPZL
もうちょっと作者敬えよ
正直前から思ってたけどさ、何様?
186名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:21:56 ID:6T4eBxxX
とりあえずアレだ
キモウトスレに行った方がいい
187名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:24:13 ID:jjWrXgt3
作者は問答無用で敬わなければならないって狂信者かよw
188名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:27:19 ID:LiCidPZL
>>182
sageもせずに文句を言うな
別にそこまでじゃないのに突っ掛かって荒らすな
なんかすぐそっちに持ってこようとするよな最近
180はそんな風に見えないけどお前はただの荒らしに見える
少なくともおれから見て迷惑なのは間違いなくお前だ
189名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:27:36 ID:CWyy1vqI
2chに書き込む香具師の関係はみんなイーブン
それに格差をつけようとするのは187のとおり狂信者どもだけ
190名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:35:18 ID:LiCidPZL
>>187
そんな風に読み取れたかw
もうちょっとって言ったんだがな
後々本当に狂信者にされるかもね利用し易そうだしお前みたいな奴
191名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:39:13 ID:qBlFwSmI
この流れを某兄貴のように傍観する俺
192名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:40:23 ID:x5crmDVu
>>190
お前>>182と対して変わらないじゃんww

まあ、スルー出来てない時点で俺も変わらないな
193名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:43:56 ID:LiCidPZL
>>189
イーブン?見えるか?
作者をコケにするようなの書く荒らしと投稿してくれる作者
俺は両者が同じレベルには見えない
お前新入かい?
194名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:46:49 ID:qG4rTpwT
スレッドの雰囲気を悪てしまいすみませんでした。
聞きたいことがあるのですすが、ヤンデレスレには男の娘と姉弟のヤンデレはOKなのでしょうか?
195名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:50:00 ID:w/YefIR7
作者様を敬うことを忘れ、ドヤドヤのしたり顔で「作者と読者は対等www」などとほざく蛆虫ども
目障りだ 失せろ
せめて一つでいいから作品を投下してからものを言え
ま、たいしたものじゃない事は分かりきってるがな?
196家族の作者です:2010/07/16(金) 00:58:15 ID:qG4rTpwT
本当にすいません。
他の作者様の作品を見た感動が広がればいいと思い投稿したのですが。
もし迷惑ならキモウトスレさんの方に移動させていただこうと思います。
197名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 01:01:52 ID:X9udeK6h
なんでだろう
>ま、たいしたものじゃない事は分かりきってるがな?
この一文に萌えた
198名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 01:10:53 ID:x5crmDVu
>>196
ヤンデレならなんでも大丈夫だぞ

キモウトスレとどちらに投下しようか悩んでるなら過去のまとめを見て自分の合ってると思うほうにするのがいいよ


荒れてるのは毎度だから気にしなくていい
199名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 01:36:16 ID:BgXLXCra
_
┼─┨| | | | | |、//         |              ┠─┼─
┼─┨| | | | | | //、 ミーン    ∂,, チリーン .. ... .,.. ┠─┼─
┼─┨| | | | | |||ミ、   ミーン   ...       ...,     ┠─┼─
┼─┨| | | | | ||、m           .,..    ....,..  ┠─┼─
┼─┨| | | | | ||| ^         .... ........  .........  .,... ┠─┼─
┷━┫| | | | | |||ミ               ...     . ┣━┷━
    ┃ /_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/ ┃
━━┛. ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ┗━━━
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
.,.,........,,,,,...        ┌──────────── .......,,,,
          ∧ ∧ < あぁ 蝉の声、夏だねぇ・・・
   ..,,,.    (.,゜Д゜)_ └──────────── ...  ) )
     / ̄ ̄∪ ∪ /|  ,,,,,.....,.,.,,,,    .. . ..,,,,,,,,,    ( (
,.,,,, /.∧ ∧    //|| .                     ))
  /___(゜д゜)_// ┌───────────     ‐=i=-
 || ̄ ,,/  つ  ||.  < 皆さんマタ〜リしてねぇ・・・      ̄
 ||  (__丿   ||   └───────────
  ⌒,....., .....,..,.,....... ,.........,.,.....,...,. ...................,
200名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 01:48:05 ID:679AYJl9
どっちのスレも見てるって人が多そうだな
201名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 02:07:05 ID:jjWrXgt3
作者の自虐と自分語りはもうお腹いっぱいです
202名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 02:36:10 ID:8WiV4EdH
なんでまた……


荒らしはスルーしろと書いてあんじゃん……

言いたい事はあっても慎もうぜ。火に油だよ。
203名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 02:56:19 ID:w/YefIR7
作者のやる気を削ぐような書き込みをする連中を野放しにはできない
断固とした姿勢で叩き潰す
204名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 03:01:14 ID:G+UA9YkP
当の語尾の?が激ワロなお二方は
自覚してないみたいだけどな?(笑)
205名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 05:29:10 ID:Yq3y/oNy
もしかして、どっかのスレにヲチされてる?
206名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 05:54:46 ID:xHeYt/b+
何で俺が荒らしてないのに荒れてるの? おかしくね?
207名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 06:00:21 ID:3BafqKim
あんっ
208名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 08:07:10 ID:63kp1FBz
>>207まあまあ‥怒ると虫さん達が喜ぶから…エロパロ板のマスゴミ=煽るだけ無責任w
209名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 09:05:54 ID:AV5XF7eJ
210名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 09:32:34 ID:gytx35gi
自称・管理者(笑)がたくさん沸いとるのうwwww
211名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 10:00:58 ID:sqTJNe5j
お前らうるせえ 
あと作者は声がでかいだけの荒らしにどつかれたくらいでいちいち謝るな
212名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 12:59:47 ID:yoINVUxp
皆がヤンデレになってる…これがこのスレの最終形態か…
213名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 13:21:07 ID:679AYJl9
デレがないぞデレが
214 ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 13:53:41 ID:h+7JSe+/
こんにちは。今回は短編を投稿したいと思います。
よろしくお願いします。
215見えないものと視えるもの ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 13:55:14 ID:h+7JSe+/

「おはよう、灯(アカリ)」
「おはよ、蛍(ケイ)」
早朝。いつもと変わらない風景。
市内の高校二年生である俺、篠宮蛍(シノミヤケイ)は幼なじみでクラスメイトの雪下灯(ユキシタアカリ)を迎えに行く。
「今日は一段と暑いな。日本海側では夜から豪雨らしいぜ」
灯は黒く艶のある長い髪が特徴的な大和撫子だ。ウチのクラスでは間違いなく一番美人である。
「うん、今日のニュース聞いたから。蛍、ちゃんと傘持ってる?」
「要らなくないか?だって快晴だ。絶対降らないって」
たわいのない会話をしながら彼女の雪のように白い手を握る。俺に応えるように灯も握り返す。
「蛍がそう言った時は必ず裏目に出るんだよね…」
「まあまあ、きっと大丈夫だって」
これもいつものこと。端から見れば朝からイチャついている恋人同士と言ったところか。
そう見られることは大変光栄なことだが、残念ながら俺達は恋人ではない。
「…蛍、ゴメンね」
俺がいるであろう方向に申し訳なさそうな顔をする灯。
「謝るな。灯は悪くないんだから」
そして返事をする俺。これもいつものこと。
その後は二人で手を繋いだまま登校する。



これが目が見えない雪下灯と、その原因である篠宮蛍の日常である。



「蛍!ゲーセン行こうぜ、ゲーセン!」
放課後、隣の席の遠藤円香(エンドウマドカ)が話しかけてきた。彼女は茶色のセミロングが似合うクラスの中心的な女子だ。
円香とは一年生の時から同じクラスで、部活も同じ陸上部でかなり仲が良かった。
「…ああ、今日はパス」
それだけに…断るのは辛い。
「…今日"も"だろ?じゃあ部活行こうぜ。たまには自主トレも」
「円香」
「な、なんだよ…」
でも断らないと。それが俺の罪だから。
「悪いけど、そっとしておいてくれないか」
「でも蛍!」
「円香っ!」
クラスの視線が痛い。
この会話は勿論灯にも聞こえているはずだ。これじゃまた灯は自分を傷付けてしまう。
「……わりぃ」
「いや…スマン。じゃあな…」
逃げるように円香から離れ灯の席へ行く。
「…蛍」
俺の気配を感じたのか灯が声をかける。
…そんな悲しそうな顔、しないでくれ。お前は何も悪くないんだから。
「待たせたな、帰ろうぜ。勉強しなきゃな」
「…うん」
俺は灯の手を握り教室を去る。
背中に円香の視線を感じたが気にしない。…気にしちゃいけないんだ。
216見えないものと視えるもの ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 13:57:45 ID:h+7JSe+/

「蛍」
灯と共に校門を出ようとすると声をかけられた。この凛とした声。間違いなく聞き覚えがあった。
「…会長」
ハーフであることを裏付けるような金髪と碧眼、そして端正な顔立ちをしている生徒会長の中条雲雀(ナカジョウヒバリ)が立っていた。
「久しぶりだな蛍。…隣にいるのは…?」
「幼なじみの雪下灯です。それじゃあ俺達はこれで」
足早に立ち去ろうとするが…。
「待て」
「…何か用ですか」
そうはいかないらしい。
「随分な言いようだな。少し前までは同じ生徒会の仲間として、苦楽を共にした仲ではないか」
「…昔の話ですよ」
全ては終わったことだ。
一年間書記として生徒会にいたことも、選挙の時に二人で徹夜して演説を考えたのも…今となっては意味のないことだ。
「率直に言う。生徒会に戻ってこい」
「…っ!」
なのにこの人は…何でそんなこと言うんだよ。そんなの無理だって何回も説明したのに。
「…遠慮しておきます」
「その女のせいか」
「…会長、もう止めてください」
「君が蛍を縛っているんだろう!?」
「わ、私…っ!?」
灯に掴み掛かろうとする会長を俺が止める。
「会長!止めてください!灯は関係ない!」
「嘘をつけ!蛍、君がしていることは贖罪じゃない!ただ逃げているだけだ!」
「止めてくれ!!」
会長の手を払う。
…そんなこと分かっている。こんなことしたって意味ないことくらい、分かっている。
でも…それでも止めるわけにはいかない。
「…蛍」
「…失礼します」
俺は灯の手を握り、会長から逃げるように背を向けた。
217見えないものと視えるもの ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 13:58:30 ID:h+7JSe+/

あれは三ヶ月前。ちょうど二年生になりたての時だった。
いきなり灯に「家に来て欲しい」と言われて、彼女の家に行った。
中学までは良く一緒にいたが、高校生なってからは部活や生徒会で忙しかったので、灯とはあまり会っていなかった。
「どうした?いきなり呼び出したりして」
「…久しぶりだよね、蛍が私の部屋に来るの」
「そういえば…中学以来だな」
…いつもと様子が違う。彼女を見て何となくそう思った。
「あ、あのね…」
「…どうかしたのか?」
沈黙が部屋を支配する。しばらくして灯を見ると…
「お、おい?」
「…辛いよ」
彼女は泣いていた。
「何で…何で会えないの?部活って何…生徒会で…朝帰りって…何?」
目には光がなく静かに泣きながら呟く。まるで何かに取り付かれたように…。
「あ、灯?」
「私は!私は蛍のことずっと前から!」
「わっ!?」
反射的、だった。つい迫ってきた灯の身体を突き飛ばした。
「あっ…」
灯は倒れていく。彼女の後ろには机があって。全てがスローだった。そのまま灯は机の角に頭を…。
「灯っ!?」
叫んだ時にはすでに遅かった。倒れた灯の後頭部からは血が出ていて。
その後は…あまり覚えていない。
気が付いたら病院にいて…命に別状はないけれど…失明…。とにかく灯の両親に土下座したのは覚えている。
これは自分のせいだと、責任を取らせてくれと言って。
後はジェットコースターのよう。部活も生徒会も止め、俺は彼女の目になった。
…たった、それだけ。
218見えないものと視えるもの ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 13:59:16 ID:h+7JSe+/

「「いただきます」」
夜。外は雨が降っている。早めに帰ってきて正解だったようだ。
「…うん!相変わらず蛍は料理上手だよね」
「まあな。親が海外事業で家にいないと、自然と料理も上達するもんだよ」
灯の両親もあまり家にはいないようだ。
…勿論それは俺が灯の世話をすると言った影響もあるかもしれないが。
「…本当にゴメンね」
「今日のことなら気にするな。今度会ったら二度と関わらないよう言っておくからさ」
「…うん」
「…だからそんな顔しないでくれ、な?」
「…じゃあ……お願い、してもいい?」
「ああ…」
俺は灯に近付いてキスをする。彼女が光を失ってから俺に求めてきたもの。
この関係は決して恋人ではない。それでも彼女が望む限り、俺は…。



「今日もありがとう。お休み」
「お休み。じゃあまた明日な」
軽い挨拶をして蛍は帰っていった。
光を失って三ヶ月。少しずつだけれどこの生活にも慣れてきた。ベットに横になる。
「…また明日、か」
確かに光を失ったことは不幸以外の何物でもない。でもそれでも良い。
なぜなら今の私には蛍がいてくれるから。見えなくても"視える"のだ。
彼が部活や生徒会、そして彼に媚びを売る虫けらよりも私を優先してくれる様子が。
「私が蛍の一番なんだもん…」
昔から、ずっと昔から決まっていること。蛍と私は結ばれなきゃいけない。私が光を失ったことは必要な犠牲だったんだ。
おかげで蛍は私の目になることを選び、私たちの世界が完成した。
「ふふっ、あははははははは!」
…見たかったなぁ。虫けら達の悔しがる表情。
蛍の自分の人生と私を天秤にかけて、私を選んでくれた時の表情。
…まあ仕方ないか。代わりに貰ったから。
「蛍の一生をね」
これからも蛍は見続ける。私の人生を、私の目となって。
そして私は蛍を通してそれを"視る"んだ。
219 ◆Uw02HM2doE :2010/07/16(金) 14:01:12 ID:h+7JSe+/

以上です。読んでくださった方、ありがとうございました。
投稿終了します。
220名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 14:03:14 ID:X8y44i48
シンプルで引き締まったヤンデレだったな。感謝。
221名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 14:03:37 ID:cXhwW4kH
GJ

こんなヤンデレもいいなww
222名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 14:11:22 ID:DJgJIBr/
GJ!やっぱり書くの上手いわ。
223名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 14:28:48 ID:2H9+KQo+
いいねぇ
GJ!!
224名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 17:22:51 ID:Zc5IYNOh
GJ!
このスレの流れを変えてくれた>>219に感謝。
225名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 17:38:26 ID:jjWrXgt3
良いssが来ると流れが変わるな
まぁ、糞みたいなssを投下してたカス作者が悪いんだが
226名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 17:40:15 ID:KLZxPQtR
きみとわたるの人か!GJ!
227名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 17:55:29 ID:rO1RAIUK
ヤバい、またオレのどストライクなSSがきた!

Good Jobです!!
228名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 19:16:56 ID:fribxfQk
>>219
GJ!

他の作者共々>>225の様な奴は無視して頑張ってほしい
229名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 19:21:16 ID:/LZQMz7S
>>225
文才ないからって嫉妬とは醜いのぉwwwww
230 ◆AW8HpW0FVA :2010/07/16(金) 19:58:33 ID:WbSBxrpW
test
231 ◆AW8HpW0FVA :2010/07/16(金) 20:00:15 ID:WbSBxrpW
規制が解除されました。投稿します。
変歴伝は、現在スランプ状態です。
第十二話『西方擾乱して、異人勇往邁進する 中』

エトナの町に凱旋した時、シグナムは町中の賞賛に包まれた。
女達を救い出しただけでなく、憎き山賊達を皆殺しにしたのだ。
町人達は溜飲が下がった思いだったのだろう。唯一の心残りとしては、火計を行なう上で、
集められた金目の物を回収する事が出来なかった事だが、その辺りは責められなかった。
とにかく、シグナムは町民達の期待に十二分に応え、町民の人身掌握は成功した。
それを実感したシグナムは、町民達に目を向け、
「喜ぶのはまだ早いです。山賊を滅ぼしたとはいえ、それはその他大勢の内の一部に過ぎません。
これから先も、この町には山賊だけでなく、群盗、海賊などがやってくるでしょう。
どうか皆さん、我こそはという人は名乗り出てください。
私と共に、この大陸から賊魁共を駆逐しましょう!」
と、よく通る声で呼び掛けた。
いきなりこんな事を言っても、おそらく誰も振り向きはしない。
仮に王家の紋章を見せたとしても、彼等は、
所詮あいつは王室という温室の中でのうのうと暮らしていた腑抜けだ、
と、思うだけで、まともに兵は集らないであろう。
そこで考え付いたのが、目に見える形でなにか実績を作るというものだった。
人心を掴むには、まず自ら身体を張る事だ、というのがシグナムの持論である。
事実、シグナムの呼び掛けに、一人が名乗りを上げ、後から二、三とそれに続いた。
結果的に、シグナムの下には二千という義勇兵が集った。
シグナムの目論みは見事に成功したという訳である。
後は、ファーヴニルで交渉しているブリュンヒルドが吉報を持ってくる事だけだが、
こればかりは運である。シグナムはその事を念頭からはずし、調練を開始した。
集った二千人は、今まで戦った事のない者達ばかりだったが、
彼等は必死に調練に付いていった。それだけ、賊共に対しての恨みが深い事が分かる。
義勇軍の調練は、一月ほどで終了させた。
本音を言えば、もう少し続けたかったが、こんな所で二年も三年も戦っている暇はない。
調練不足は、兵達の気力と怒りで補う事にした。
また、この頃にブリュンヒルドがエトナの町に到着した。
ブリュンヒルドが持ってきた報告は、吉報だった。
エトナの町には、大量の資金や食料、さらには武器が運び込まれた。
この時になって、シグナムは自分が王族の出身である事を町民達に告げた。
町民達は開いた口が塞がらず、我に返ると一斉に平伏した。
それはそれとして、シグナムは兵達の装備を統一させた。
ぼろ衣を身に纏い、木の棒などで調練していた時よりも、よっぽど見栄えがよくなった。
ちなみにシグナムは、それと平行し、新しい服を新調していた。
それは旗袍と道服を組み合わせた様な奇妙なもので、青と白が基調となっている、
誰が見ても振り向く様な、派手とは違った奇抜な服だった。
兎にも角にも、戦いの準備は整った。
閲兵式を行なったシグナムは、ブリュンヒルドに五百の兵を与え別働隊とし、
自身は千五百の兵を率いる事に決め、出発した。
シグナム達の初陣の相手は、西北に勢力を張っている山賊団である。
その数は、シグナム達の兵力の凡そ十倍である。
初っ端から、シグナムは困難な道を選んだのである。
西北に行くまでに掛かる日数は、凡そ十日である。
別働隊であるブリュンヒルドは、シグナムの横にはいない。
ブリュンヒルド隊は、出発して早々、シグナムの命令により、別の道を通る事になったのだ。
七日ほど歩くと、ゴゴ川が見えた。この川を越えると、シグナムの軍は敵地に入る事になる。
シグナム達は気合を入れ直した。川を渡り終えると、目の前には林が広がっていた。
それをじっと見つめていたシグナムは、兵達に指示を飛ばした。
シグナム軍が林から出た頃には、兵力が五百にまで激減していた。
それにも構わず、シグナムは辺りに斥候を放ちながら軍を進め、
ついに山賊達の本拠地であるゾゾ山に到着した。
早速シグナムは、山賊達に向けて、一人の使者を派遣した。
手には書状が握られている。書状の内容は、降伏勧告だった。
かなり長い内容だったが、要約すれば、今すぐ降伏すれば命は助けるが、
降伏しないのならば撫で斬りにする、というものだった。
山賊達は笑った。たった三百の兵力で、そんな事が出来るはずがないと思ったのだ。
さらに、この討伐軍の大将がファーヴニル国の王太子であると知っても、
所詮は温室育ちのお坊っちゃんだ、と山賊達はその笑いを収めなかった。
使者を追い返した山賊達は、殆どの兵を率いて山から降りてきた。その数は、約二万だった。
山賊達の突撃が始まった。喚声が大地を揺らした。
シグナム軍は、この大軍に突っ込まず、算を乱して逃走した。
それを見た山賊達は、シグナムの軍を殲滅すべく、さらに追撃の速度を上げた。
一見すると、賊軍の圧勝の様に見えるが、
シグナム軍は算を乱しているにも関わらず、その集団にはまとまりがあった。
山賊達は、その奇妙な事に誰一人として気に留める事なく追撃した。
間もなくシグナム軍は、林に入り、遂には川を背にする形になった。
完全にシグナム軍を追い詰めた山賊達は、笑い声を上げながら、近付いてきた。
刹那、賊将の一人が、小さく悲鳴を上げて倒れた。首には、矢が突き立っていた。
山賊達が罠だと気付いた時、無数の矢が林の中から放たれた。
防御の備えをしていない山賊達は、次から次へと射殺されていった。
矢勢が収まると、左右からシグナムの兵が湧き出し、山賊達の側面を攻撃した。
今度は山賊達が算を乱す番となった。シグナムは突撃命令を下した。
前と左右から挟撃された山賊達は後退を始めた。
しかし、後退する先々でシグナムの兵が溢れ出ては、山賊達を襲い、その兵力を削っていった。
後退は、退却となった。
シグナム軍は、倒れている山賊達を踏み潰し、背を向けている山賊達を撃殺していった。
特にシグナム個人の武勇は凄まじく、シグルドで以って、
山賊達の肉を抉り、背骨を砕き、腸を引きずり出した。
ゴゴ川は朱に染まり、林は死肉で埋まった。
山賊達が林から出てきた時、最初に率いていた二万の兵は、一万五千までその数を減らしていた。
山賊達は、根拠地であるゾゾ山に向かっていた。
大敗北ではあったが、あそこに篭れば十分に挽回できる、と山賊達は考えたのである。
しかし、山賊達がゾゾ山に足を踏み入れた瞬間、再び矢の雨を受けた。
ゾゾ山の全ての砦は、既にシグナム軍の別働隊に占領されていたのだ。
山賊達は絶望した。前も後ろも塞がれ、逃げ道がなくなってしまったのだ。
突然、金属音が響いた。誰かが武器を捨てたのである。
金属音が大きくなり始めた。周りの者も武器を捨て始めたのだ。
シグナム軍の本隊が到着する頃には、山賊達は全員武器を捨ててその場に突っ立っていた。
シグナムにとって、今回の初陣は非常に重要なものだった。
いきなり大勢力の山賊と戦った理由は、西方大陸の早期統一が目的だったからである。
ちまちまと小勢力の賊達と戦っていたら、統一が何十年と先になるか分からない。
シグナムにはそんな悠長な時間は残されていない。
否応なしに綱渡りをせざるを得なかったのだ。
だが、綱から墜ちない工夫はした。
追撃してくる事を想定し、林中に伏兵を置いたし、
その際には全軍で攻めてくるだろうと見越し、別働隊を遠回りで進軍させた。
読みが悉く当たったのは、単にシグナムに運があっただけではなく、
純粋にシグナムの才覚が傑出していたからである。
その対策の成果が、シグナムの眼前に広がる一万五千の降兵の列だった。
降兵を見下ろすシグナムの目は、異常なほど冷え冷えとしたものだった。
いったいどんな話を切り出すのか、と敵味方問わずシグナムに注目した。
その様な目を気にする事なく、シグナムが切り出したのは、
「穴を掘れ」
と、いうなんとも奇妙なものだった。
訳も分らず、掘削道具を渡された降兵達は、黙々とこの奇妙な命令に従った。
味方内では、戦死者を埋葬するための墓穴ではないか、という憶測が飛んだ。
今回の戦いで、最も被害を大きかったのは、山賊側の五千であり、
少なからずではあるが、シグナム軍側にも戦死者はいた。
だとしたら、シグナムという将軍は、随分と優しい人だな、と皆が囁きあった。
しかし、ブリュンヒルドだけは浮かない表情をしていた。
着々と掘削は進められ、穴の深さは兵達の腰ぐらいの高さにまでなった。
その頃になって、シグナムはブリュンヒルドに人気のない木陰に呼び寄せられた。
「あの命令は、いったいなんなのですか?」
開口一番に、ブリュンヒルドはそう切り出した。
シグナムはその問いに答える事なく、ただブリュンヒルドを見つめていた。
ブリュンヒルドがまた口を開いた。
「あの穴が墓穴だとしたら、こちら側からも兵を出せば、それだけ早く終わります。
だというのに、なぜシグナム様は降兵だけに穴を掘らせているのですか?」
ここに来て、シグナムは渋い表情になった。
相変わらず鋭い、というのがシグナムの思った事だった。
誰一人として感じなかった疑問を、ブリュンヒルドだけが抱いたのである。
憎らしいと言えば、これほど憎らしい事はない。
最早隠し立てする必要もない、と判断したシグナムは、冷えた口調で、
「書状に書いた事を、実行しようとしているだけだ」
と、言って、再び兵衆の中に戻ろうとした。戻ろうとして、腕を掴まれた。
振り向くと、今まで見た事もない様な表情をしたブリュンヒルドが、そこにいた。
それはまるで、親が自分の子供を諭す様な、厳しい表情だった。
気味が悪い、とシグナムは思った。ブリュンヒルドが今まで見た事もない表情をするだけで、
そのたびにシグナムは混乱しなければならない。まったくもって不愉快だった。
「なりません」
その不愉快な存在が、凛とした声を上げ、諫言を呈してきた。
聞きたくもない諫言が耳に入ってきた。
「シグナム様、この国にとって、私達は部外者なのです。
その部外者が、いきなりその様な事を行なえば、シグナム様の威徳だけでなく、
間違いなくこの国における足場も失います。ですので、どうかお考え直しください」
そう言ったブリュンヒルドの目は、承諾しなければ放さない、と言外に物語っていた。
シグナムは、ますます不機嫌になった。
諫言もそうだが、シグナムを最も苛付かせたのは、
ブリュンヒルドが言った事が、まったくもって正論だった事である。
元々、シグナムが降伏勧告を出したのは、山賊を誘き出す事が目的であり、
仮にそれで降伏すれば、それはそれでよかった、というぐらいのものだった。
当然、書状に書かれていた事はどっちに転んでも実行するつもりだった。
あの穴は、そのためのものだったのだ。
所がここに来て、シグナムはある事に気付いた。
それがブリュンヒルドが指摘した事だった。
このまま実行すれば、間違いなくシグナムは近隣に恐れられる存在になる。
だが、それは恐怖の存在として恐れられるのであり、畏怖ではない。
そうなれば、近隣の勢力が連合して、自軍に当ってくる事は十分に考えられる。
逆に降兵全員を許したとしても、なんと惰弱な将軍よ、と周りから侮られてしまうのは必定である。
それほどシグナムの決定は、後々に影響を与えるほど重要なものだったのだ。
「では……、私に嘘吐きになれ、と言うのか……」
だというのに、シグナムは敢えてその事を億尾にも出さず、突っぱねる意志を見せた。
単純に意地というものもあったが、ブリュンヒルドの案に乗るのは、もっと嫌だったのだ。
しかし、ブリュンヒルドは、待ってました、と言わんばかりの表情をしていた。
「それでしたら、私に策があります」
そう言って、ブリュンヒルドはシグナムの手を放した。
「書状には、降伏すれば命は助けるが、降伏しなければ撫で斬りにする、という内容でしたね。
でしたら、その内容をこう解釈すればいいのです」
ブリュンヒルドはそこで一息入れ、
「降伏しなければ撫で斬りにする、の部分は、このまま読めば、全員皆殺し、という事になります。
ですが、これを小隊長クラスの将兵を撫で斬りにする、と解釈すればどうでしょう。
元々、原文には誰を、どの範囲まで撫で斬りにすると指定していないのですから、
それで十分に通ると思います」
と、言った。
シグナムは内心驚いた。戦う事と拷問ぐらいしか能がない、
生まれながらの戦闘兵器みたいなブリュンヒルドが、この様な策を挙げるとは思わなかったのだ。
この献策は、ブリュンヒルドを信頼する所か、ますます警戒を強めるだけとなった。
とはいえ、それを抜きにしても、ブリュンヒルドの策は、的を得ていた。
これならば嘘を吐いた事にはならないし、面目も十分に立つ。
唯一、ブリュンヒルドの献策であるという事が許せなかったが、
これ以上のものは考え付かなかった。しばらく黙考した後、シグナムは、
「降兵の坑兵が見れなくて残念だ」
と、呟いて、兵衆の中に戻っていった。
一時の意地より、後の事を優先したのである。
この後、シグナムは小隊長格以上の将兵を処刑し、その死体を他の死体と共に穴に埋めた。
さらに戦いたくない者と従いたい者を選別した。
残った兵は六千で、シグナムはブリュンヒルドの別働隊に千五百を振り分け、
自身は残りの四千五百を自身が受け持った。
こうして、シグナム軍の兵力は、八千にまで膨れ上がった。
ゾゾの戦いの後、シグナムはゾゾ山に本拠を移し、各地の勢力に対して降伏勧告の使者を送り、
その反面で間諜を派遣し、周辺の地形や勢力の情報を集め、
さらに、新しく入った新兵の調練などを行い、いざという時に備えた。
一月ほどすると、シグナムの元に使者が帰ってきた。
ゾゾの戦いの噂が効いたのだろうか、
大半の使者が、シグナム軍に従属する、という返事を持って帰ってきたが、
中には、戦って勝敗を決さん、という賊もいた。
おもむろに立ち上がったシグナムは、一軍を率いて出撃し、降伏勧告を蹴った賊軍を急襲した。
降伏勧告を蹴った時点で、シグナム軍が攻めてくる事を予測したのだろう。
賊軍は戦の準備をしていた。しかし、それよりも早く、そして気付かれずにシグナムは動いたのだ。
完全に準備の整っていない賊軍は、不意を突かれ、壊乱した。
それを見ても、シグナムは攻撃の手を休めず、ついには降伏させた。
再びシグナムの威名が、西大陸に轟いた。
シグナムの下には、志願兵だけでなく、多くの賊の勢力が我先にと集り始めた。
この頃、シグナム軍の総兵力は、五万を超え、大陸東部一の勢力となっていた。
僅か三ヶ月で、東部最大勢力となったシグナムの下には、
兵だけでなく、知識人などもやって来る様になった。
シグナムはそれを大々的に受け入れ、各地の政務の担当官とした。
降伏した賊には、人を殺すな、虐げるな、物を奪うな、という三つの法令を出し、
厳守させているので、彼等はなんの抵抗もなく、その政務官を受け入れた。
シグナムの治世は、順調そのものだった。
そんな時、シグナムの下に、一人の使者がやってきた。
服装は皮の鎧という軽装で、一目見ただけで、その使者が何処の者か、シグナムはすぐに分かった。
その服装は、馬賊の物だった。馬賊は文字通り、馬に乗って草原を駆け巡る賊で、
歩兵が主であるシグナム軍にとっては、非常に厄介な存在だった。
その馬賊が、シグナムの下にやって来たという事は、従属を意味するものだった。
使者が言うには、今夜中に全軍を率いてこちらに来る事になっているらしく、
その時に頭領に一対一で会談を持ちたい、というものだった。シグナムはそれを了承した。
使者が出て行った後、シグナムの横に侍っているブリュンヒルドが、
「本当によろしいのですか?シグナム様一人になった所を襲ってくるかもしれませんよ」
と、言ってきた。だが、シグナムはまったく心配した様子もなく、
「大丈夫だ。あちら方に殺意はあるまいよ」
と、言って、ブリュンヒルドの言を退け、政務に戻った。
夜になった。遠くから馬の嘶きが聞こえてきた。どうやら、約束通りに来たらしい。
一人の男が、馬から下りて、シグナムの下にやって来た。これがこの馬賊を率いる頭領らしい。
顔は浅黒く、伸ばしっぱなし髯が野卑さを醸し出し、まさしく賊だな、とシグナムは思った。
シグナムは、その頭領を自分の部屋に導いた。
一瞬、男が口元を歪めた。シグナムはそれを見ても、なにも問わなかった。
男が部屋に入った後、シグナムは部屋の鍵を閉めた。これで部屋には誰も入れない。
こうして、一対一の会談が始まった。
「よく来てくれたな。お前が我が軍に加入すれば、
やっと他の馬賊と対等……、いや、それ以上に戦う事が出来る」
シグナムはそう言って、男の手を握った。
しかし、手を握られた男はその事には無感動な目でシグナムを見つめていた。
「シグナム……様とか言ったか。あんたに二、三聞きたい事があるんだが……、いいかい?」
凡そ、従属しようとする者が口にするとは思えないほど、男の態度は傲岸だった。
しかし、シグナムはまったくその事を咎めなかった。
「なんだ、言ってみろ」
「あんた、ファーヴニル国の王太子とか吹聴しているみたいだが、本当なのかい?
証拠があるんなら、ぜひ見せてもらいたいものだね」
背もたれに踏ん反り返り言う様は、まるでこの男が部屋の主であると主張している様だった。
シグナムは、懐から紋章を取り出した。
「これが、ファーヴニルの王族だけが持つ事を許される紋章だ。
なんだったら手に取って見てもいいぞ」
テーブルに置かれた紋章を、男は無造作に手に取ると、じっくりと眺め始めた。
しばらくすると、男は怪訝な表情をシグナムに向け、
「こんなもの、適当に作っただけじゃないのか?」
と、どこまでも失礼な物言いをした。だというのに、シグナムは相変わらずの表情で、
「このプレートは銀、描かれているドラゴンと戦士の絵は金、
ドラゴンの両眼にはルビーとサファイアが、周りの星は全て異なった宝石が埋め込まれている。
普通に作れば二億は下らない。適当に作れるほど、安くはないと思うが」
と、わざわざ説明した後、男に微笑み掛け、
「馬賊をやっているから、この手のものには聡いと思っていたのだが、そうでもないみたいだな」
と、からっと皮肉を言ってみせた。
男の表情があからさまに曇り、シグナムに無言で紋章を返した。
「……もう一つ……、あんたはなんの目的でこの大陸に来たんだ?」
「書状に書いてなかったか?この大陸を再び統一する事だ」
「異邦の者であるあんたが、なぜわざわざそんな事をする必要がある。
あんたは国でのうのうと暮らしていればいいだろうに。なぜ介入する?」
男が身を屈めながら聞いてきた。
その目には、諧謔の色が浮かんでおり、なにかを企んでいるのかは明白だった。
シグナムは、小さく音を立てて笑った。
「なにがおかしい!」
男が目に見えて激昂した。シグナムは手で男を制し、笑いを収め、
「所で、質問の途中で悪いが、私からも一つ、聞いてもいいかな?」
と、言って、真剣な眼差しを向けた。
「お前はいったい、なにがしたいのだ?」
突然のシグナムの問いかけに、男は訳が分からないらしく、ぽかんと口を開けた。
シグナムは続けてた。
「殺しては奪い、殺しては奪い、殺しては奪い……、それを毎日の様に繰り返し、なにが変わった!?
大地は血で染まり、辺りには死肉が積もり、大気は腐臭で汚染されただけで、
根本的にはなにも変わっていないではないか!
それだというのに、この大陸の者は誰一人として立ち上がろうとせず、
狂った時間に犯されるがままに犯されている!
私はそれが忍びなかった。だから皆を救済するためにここに来たのだ!
そのためには、私だけではどうしても力が足りない。
その力を補うためにも、お前の率いる騎馬兵がどうしても必要なのだ!
……もう一度聞こう。お前はいったい、なにがしたいのだ!?」
シグナムの凄まじい言圧の前に、男は気圧される様に身を反らした。
男はなにもしゃべる事が出来ず、ただ黙ってシグナムを見つめていた。
シグナムも同様に、男の事を見つめていたが、やおら立ち上がり、出窓の方に歩いていった。
シグナムは窓を開けた。窓から入ってくる風が、シグナムの服をたなびかせた。
「まぁ、今は答えられなくてもいい。ゆっくりと探す事だ」
先ほどとは打って変わって、穏やかな声だった。シグナムは出窓に手を置き、風に当った。
この時、シグナムは男に背を向けていたが、一向に気にする事はしなかった。
「最後に、もう一つだけ、いいか?」
男が、シグナムの背に向けて声を投げ掛けた。
「もしも今、俺があんたを殺そうと、武器を隠し持っている、と言ったら、……どうする?」
「どうもしないさ」
男の問いに、シグナムは即答すると、男の方に向き直した。その顔は笑っていた。
「お前は私を殺さない。だから私もお前を殺さない。それだけの事だ」
と、言うと、シグナムは男に近付き、手を差し伸べた。
「私がこれから行う事は、お前達が今までやってきた人殺しと同じだ。
しかし、目的が違う。お前達のしてきた目的なき殺人ではなく、目的ある殺人を行うのだ。
これから先、今までよりも辛い事がいくつも起こるだろう。
幾千幾万の屍の先になにがあるのか、共に見てみようではないか」
そう言ったシグナムは、今まで見せた事もないような美しい笑みを浮かべた。
その笑みに惹かれたのか、男はシグナムの手を握っていた。
この瞬間、男は完全にシグナムに降伏した。

「そういえば、お前の名前をまだ聞いていなかったな。なんという名前なのだ?」
思い出したように、シグナムは男に問うた。
「あぁ……、まだ名乗っていなかったな。俺の名前はボブ。ボブ・ジョンソンだ」
と、男が答えた。ここに来て、今まで表情を変えなかったシグナムが、初めて表情を変えた。
「ボブ……。ボブねぇ……。……ボブ……ボブ……ボブ……。…………………」
まるで呪文の様にボブを繰り返し呟き、考えがまとまったのか、ボブに向き直り、
「ボブ、お前に新しい名を与えよう。今日からお前は、バトゥ。バトゥ・サインハンと名乗れ」
と、言った。ボブ、もといバトゥは、よく分からないという表情をしたが、シグナムが、
「(掃いて集めて燃やしても、また出てくるような名前の者を、
我が軍の将の一角に置く訳にはいかん)。
バトゥには都を抜く、サインハンには偉大な者、という意味がある。
この改名には、お前にそうなってもらいたいと願う他に、
今までのお前を捨て、新たな人生を歩んでもらいたい、という願いも込められているのだ。
突然すぎるかもしれないが、納得してもらえないだろうか」
と、言って、バトゥを感動させた。
この会談は、バトゥを完全に従属させるだけでなく、シグナムの内面を垣間見る場ともなった。
239 ◆AW8HpW0FVA :2010/07/16(金) 20:08:30 ID:WbSBxrpW
投稿終了です。しばらくはヤンデレは出ません。
後、本当は上、中、下で西方編を終わらせるつもりでしたが、
無理っぽいので、その内サブタイトルを変えます。
240名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 21:02:25 ID:MXQEPUz3
本当にヤンデレのヤの字も出てこなかったな。
241名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 21:16:53 ID:cXhwW4kH
次回に期待するしかない…
242名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 21:22:04 ID:w/YefIR7
物語の都合上、そういうこともあるだろうよ
更新は遅いが良質な作品を書く人だ、俺は期待している
243名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 21:35:27 ID:gytx35gi
「風雪」の更新来ないなぁ……すっげぇ楽しみにしてんだけどな。加藤レラの病みっぷりを見たい
244名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 21:58:28 ID:Qealrb5R
GJ!!!
ブリュンはどう動くんだろ?WWW楽しみにしてます!
245名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 23:05:35 ID:BlqtEZRN
えっ この作者さん変歴伝もかいてるの!?
長編2つとか凄いな…
246名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 02:06:30 ID:/Gq/yp9P
プロでしょう
247名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 04:49:24 ID:L/bRHABN
>>243
同じく。
248名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 05:15:20 ID:q/YJu2kz
きみのとわたるについてなんだが
申し訳ないんだけど、誰かライムの名前の秘密を教えてもらえないだろうか
水曜日から考え続けているんだけど、マジで一向にわからないんだorz
249名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 06:05:29 ID:FPmP0CrQ
>>248
このスレを最初から最後まで飛ばさずに読め、ズバリ書いてあるから。
わざわざ解答を書き込んでネタバレするのは、これから読む奴への嫌がらせだ。作品への冒涜にもなるしな。
250名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 12:36:40 ID:nB4j29yi
SS保管庫に蝕雷の11話を移したいんだがモードがわからなくてどうすりゃ
いいんだか
誰か教えてくだしあ
251名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 14:44:25 ID:hldSA7ie
未保管のもあったので一緒に保管しといた
話の保存だけなら『そのままテキストモード』でOK
252名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 15:26:51 ID:nB4j29yi
>>251
GJ&サンクス
253名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 17:24:56 ID:SjTisGqq
しつこいようですが、「風雪」の作者戻ってきてぇ!頼むm(_ _)m
254名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:00:47 ID:Ui1zDi/Q
俺が作者なら「絶対に嫌だ」と言うだろうな
しつこいんだよ
誰にでもそれぞれの事情があるんだから黙ってろ
255名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:10:59 ID:X7Nh7H2O
それが目的だろ、戻ってきてほしくないから連呼するんだ
そうやって職人のやる気を削ぎ1人ずつ締め出して最後にはスレを潰すのが最終目標
256名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:14:19 ID:WgFL0sly
>>253
sageない上にメール文体でしかも顔文字とか人に物を頼む態度には見えないんだけど
てかSSは本人が書きたいから書いてるわけで、人に書いてってねだるようなものじゃないんだが
257名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:29:04 ID:ysgwdg1a
落ち着け
258名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:45:34 ID:0nQ78ATp
未成年の荒らしに対してムキに成って突っかかるなよ…某スレの工作員が喜ぶだけだからさww所で次のレスはまた自治厨が…か?ww
259名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 19:18:23 ID:/Gq/yp9P
広げた風呂敷をたたむ作業が難航するのは長編のお約束
ゆっくり待つべきだろう
260名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 19:18:33 ID:q/YJu2kz
>>249
ありがとう
261 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:26:43 ID:jN9t6SPz
こんばんは。短編を落として行きます。

*注意*
これはナポリタン問題に似たSSです。
262顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:30:39 ID:jN9t6SPz

 彼は、これまでに自分に深く関わってきた女性のことを覚えていない。
 それは酷い健忘症を患っているからではなくて、原因があって、どうしても思い出せなくなったのだ。
 自分の住居に押しかけて来てまで、女性遍歴を問うてくる彼女を前にして、彼はそう説明した。

「嘘でしょう? 本当は覚えているんじゃないの? ねえ、本当に忘れてしまったの?」
 嘘ではない、と彼は言った。
「本当かしら? もしかしてごまかしているんじゃないか、って私は思うのだけど」
 静寂の中、ピチョン、という音が台所から聞こえた。
 自分の動揺が水道水にまで伝わっているのではないかと、彼は疑った。
「あなた、これまでに付き合ってきた女性がいるんでしょう」
 少し考えてから、彼は頷いた。
「ねえ、その反応が返ってくるだけで、私の頭蓋の中が熱されて溶けそうになるって、わかっている?
 妬ましくて、羨ましくてしょうがないわ。私の先に、あなたに触れていた女がいるなんて。
 今すぐにそこの白い壁をぶち破って、その女のところへ行って、壁の補修に使ってやりたいぐらいよ。
 ああ、どうしようかしら。こうなったら、こんなになってしまったなら――もう我慢はしないわ」

 女性が力任せに彼を押し倒した。
 彼は特に抵抗することもなく、その身を委ねていた。
 女性がブラウスのボタンを、一つ一つ外していく。
 胸元の最も盛り上がった部分のボタンを外したら、窮屈からようやく解放された淡い色の下着が震えた。
 ふくよかな乳房を寄せ、彼の肉欲を表面へと誘い出そうとする。
 彼の手を掴み、露わになった穢れのない白色の腹部を撫でさせる。
「これから、あなたの熱いので、ここを満たしてもらうわ。
 いくらでも出していいわ。全て、一滴も残さずに受け入れてあげる。
 他の女なんか見られないように。私だけしか見られないように、ね」
 いよいよ、彼の手が彼女のスカートの中へと導かれる。
 あと少しというところになって、彼が抵抗をしてみせた。

 彼は、私のことが好きなのか、と問いかけた。
 彼女は押し黙った。彼の言葉に苛立ったのか、眉をひそめて睨み付ける。
 しばらくの間、部屋を静寂が支配した。
 沈黙を破ったのは、とうとう諦めてかぶりを振った女性の方だった。
「……言わなくてもわかるでしょう、そんなことは。言わせないで頂戴」
 気持ちが通じ合っていないのに体を重ねたくない、と彼が言った。
「そう。そこまで言うんだったら言うわ。好きよ」
 溜めの一切ない返事だった。
「出会った時から、ずうっとあなたばかり見てきたわ」

 私も同じ気持ちだ、と彼は応えた。
 彼女の顔に目、鼻、口といった部品が無くても、気味の悪さを覚えることなく、すらりと口に出来た。
263顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:35:11 ID:jN9t6SPz

 彼は生まれてからごくわずかな時間しか、産んでくれた母親と一緒に過ごしていない。
 一時間、もしくは数十分という時間。
 たったそれだけの間に思い出を作れるはずがない。もしそれがあっても、生後間もない赤ん坊が覚えているわけがない。
 だから彼は母親を知らない。いや、実の母を知らない。
 さらに父親も居なかった。
 彼の母親は結婚はおろか、子作りをした覚えもなかった。
 男遊びが過ぎて避妊し忘れたのか、強引に犯されて妊娠したのか、誰も知らない。
 真相を知っているのは彼の母親だけ。彼の母親の家族も知っているかもしれない。
 いずれにせよ、彼には真相を突き止めることなど不可能だった。

 両親のいない彼は、彼のような子供達を引き取る施設に入ることになった。
 そこでは家族もできた。
 父親と母親の代わりになってくれる大人はいなかったけれど、たくさんの兄、姉、弟、妹が居たから寂しくなかった。
 家族と一緒に、幸せに楽しく、のびのびと生きていた。
 家族の名前は、成人になっても忘れることはなかった。
 二人の女の子を除いて。

「はいあなた、めしあがれ」
 一人は姉。ままごとをするのが好きだった。
「だめ。こっち、たべて」
 一人は妹。姉に張り合い、姉と彼のままごとに混ざってきた。
 二人の年齢まで彼は覚えていない。ただ、そこまで離れていなかったはず、ということは記憶していた。
 特に印象に残っているのは、二人の目だった。
 喧嘩する時であっても、目の輪郭は美しいままだった。
 瞳の中で星が輝いているように、いつだってキラキラしていた。

 ある日、姉と妹は二人に向かって、揃って口にした。
「わたし、あなたのことが好き」
「好き。だからけっこんしてね」
 その場でどうしたのか、彼は覚えていない。
 どちらも選ばなかったのか、どちらも好きだと言ったのか、どちらか一方を選んだのか。
 ちょうどその日に酷い悪夢を見てしまったから、印象が薄くなってしまった。

 目を抉り取られる悪夢だった。
 肥大化した筋肉を体中に纏った鬼二人が、彼のまぶたを指で摘んで、毟り取った。
 鬼の手に生えている鉤爪が彼の眼球を貫き、外へと引き抜こうとする。
 ぎゅり、ぎゅり、ぎゅり。
 ちぎれる音がして、彼の眼球は鬼の手の中に収まった。
 鬼は美味しそうに眼球を頬張ると、礼だと言って、空洞になった部分を埋めた。
 顔の皮を伸ばして埋めるようなやり方だったから、彼の目は元には戻らなかった。

 彼はあまりの恐ろしさに飛び起きた。そこは暗くなった部屋の中だった。
 周りで眠る家族を起こさないように、彼は布団を抜け出して、外にでた。
 何度確かめても、夜空の星も月も、黒々とした木々も、はっきりと目にすることができた。
 安堵した彼は、近くにあった切り株の上に座り、その場で眠ってしまった。

 翌朝、彼が目を覚まして施設に戻ると、施設は燃やし尽くされ、炭になっていた。
 一緒に燃やされたみたいに、告白してきた二人の女の子の名前は、彼の頭の中から消えた。
264顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:39:14 ID:jN9t6SPz

 とある家族の家に引き取られた彼は、実の子のように愛された。
 彼を引き取った夫婦には子供ができなかった。夫婦にとって、彼が初めての子供だった。
 血が繋がっていなくても、夫婦は気にせず彼に愛情を注いだ。
 彼もそれに応えた。たくさん話し、たくさん遊び、たくさん怪我をした。
 怪我をする度に夫婦は優しく治療してくれた。
 ただ、夫婦がどれだけ優しい目で自分を見ているのかわからないのが、彼には不満だった。

 かつて住んでいた施設から出て以来、彼は他人の目が見えなくなった。
 大人も子供も、本来目があった位置に深い洞をつくっていた。
 彼は一度、夫婦に向かって聞いてみたことがある。
「どうしておとうさんとおかあさんには目がないの?」
 問われても、夫婦は笑うだけだった。可愛い子供が悪戯を仕掛けてきた、と思った。
「よく見てごらん。お父さんとお母さんにはちゃあんと目が二つあるじゃないか」
 問う度に、彼は同じ言葉を聞くことになった。

 保育所でも、彼には他人の目が見えないままだった。
 目が見えなくても、頬と唇の動き、身振りで、他人の意志を彼は読み取ることができた。
 それでも、他人の目が見えないという事実は彼の考え方に影響を与えた。
 自分は他の人間と違う。他の人には目が無いけど、自分にはある。
 次第に彼は保育所の子供達を見下すようになった。
 普段は表面には出さなくても、ささいなところでそれは現れた。

 ある日、彼は部屋の隅に集まる子供達を見た。
 泣いている女の子が居た。いじめている現場だった。
 鳴き声と罵倒する声にいらいらした彼は、子供達の中に分け入った。
 いじめの理由を問うと、子供達は口を揃えてこう答えた。
「だってみろよ、そいつ目がおかしいんだ」
「きもちわるいじゃんか。おばけだよ、そいつ」
 いじめられている女の子の顔を見ても、本来あるべき目が彼には見えない。
 いじめをやめない子供達に対し、とうとう彼は腹を立てた。
 一番背の高い男の子の顔には、深い洞があった。そこへ向けて彼は指を突き立てた。
 背の高い男の子は悲鳴を上げてひっくり返った。
 それを見て、蜘蛛の子を散らすように周りの子供達は逃げていった。

「ありがとう。たすけてくれて」
 泣き止んだ女の子が彼に礼を言った。二つの洞の周りには涙を拭った跡が残っていた。
 彼と女の子は、それからよく遊ぶようになった。
 背の高い男の子を倒したことで、彼は子供達から怖がられるようになっていた。
 それでも、女の子は彼の傍から離れようとしなかった。
 女の子と話しながら歩いている時、少し背の高い彼は見下ろす形になる。
 女の子の髪の毛は長かったが、もみあげだけは短かった。
 どうしてそこだけ短いのかと、彼は疑問を持つようになった。

 ある日、女の子が保育所から帰りたくないと言ってだだをこねた。
 彼の傍にいたい、離れたくない、ということを言っていた。
 困り果てた保育所の先生達は、彼に説き伏せるようお願いした。
 また明日会おうと言うと、女の子はこう言った。
「じゃあ、これからずっといっしょ? けっこんしてくれる?」
 結婚がどんなものかわかっていない彼は、深く考えずに頷いた。
「ほんとうに! わたしも大好き!」
 その晩、彼は悪夢を見た。鬼の手によってもみあげを皮ごと引きちぎられる夢だった。

 翌日、また会おうという約束は果たされなかった。女の子はそれきり彼の前から姿を消した。
 保育所の子供達に聞いても、先生に聞いても、誰一人として彼の問いかけをまじめに聞かなかった。
 誰も彼もが困ったように、つるつるになったもみあげのあたりを指で引っ掻いていた。
265顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:42:13 ID:jN9t6SPz

 小学校に通うようになると、彼はあることに気付いた。
 遠足で撮った写真を見たとき、写真の中にいる人物の目と、彼の目が合った。
 何度確認しても、目のない人間、もみあげのない人間はどこにも居なかった。
 そのことから、彼はある事実を掴んだ。
 直接他人を見ると、目ともみあげの欠けた顔を見ることになる。
 しかし、何かに映り込んだ他人の顔ならはっきり見える、ということ。
 写真だけではない、テレビの中にいる人物であっても同じことだった。

 これまで抑圧されてきた反動で、彼は他人の顔が写る媒体に夢中になった。
 両親の写真をいつでも持ち歩くようになった。
 家に帰ったらすぐに父親のカメラを借りて、友達の所へと遊びに行った。
 家の中で過ごす時は、いつだってテレビの画面に釘付けになっていた。

 彼の友達の中には、写真を撮られたくないと言う女の子も居た。
 どうして撮られたくないのかと問うと、写真が嫌いなんだと強い口調で言われた。
 写真とテレビに夢中で宿題を全くしない彼と、宿題をちゃんとやる写真嫌いな女の子は対照的だった。
 対照的でも仲の良い二人を見て、担任の先生はあることを提案した。
 女の子は先生の言うことをちゃんと聞く、真面目な子だった。
「あなたが宿題をちゃんとやってないって聞いた。
 だから、今日から毎日あなたの家に行って宿題を見てあげる」

 彼と女の子が毎日一緒に勉強していることを知ったクラスメイトは、二人をもてはやした。
 いらだって暴力を振るおうとする彼に対して、女の子は毎回こう言った。
「言いたい奴には言わせておけばいいのよ。ほら、早く宿題終わらせちゃいましょ」
 彼があまりにも言うことを聞かない時は、女の子は彼の耳を掴んで引っ張った。
 そのたびに彼は、いつか仕返ししてやろうと女の子の耳を恨めしく見るのだ。

 教室の黒板に書かれた相合い傘を、二人で消すことが日常的になってきた頃だった。
「なんでこんなに子供っぽいのかしら。もしかして、皆、私たちのこと知ってるのかな」
 周りに聞こえないよう、二人はひそひそ喋っていた。
「ねえ、こんな馬鹿らしいことされて、腹が立たないの?」
 彼は首を横に振った。
 彼の世界では、誰が何を言おうと同じことだった。目ともみあげが欠けたら、もう誰が誰だかよくわからない。
「ふうん、嫌じゃないんだ。
 ま、まあ。私もね、あなたのこと……好きだから、嫌じゃないわよ」
 どうもありがとう、と薄っぺらい感謝を述べて、彼は相合い傘を消した。

 彼が悪夢を見るのは数年ぶりだった。
 目ともみあげを奪われた時、痛みは無かった。今回も同じだった。
 耳を小さな釘で一本ずつ床に打ち付けられているときも。
 鬼が鉄板の上で彼の耳を少しずつ、少しずつ焼いて食べているときも。
 満腹になった鬼が、人間より二回り大きい小指で、彼の耳の穴を拡げているときも。
 ただ不気味な気分になるだけで、彼は痛みを覚えなかった。

 悪夢を見た翌日の朝には、両親の耳が綺麗になくなっていた。
 もみあげがないから、正面から顔を見ても耳がないと分かる。
 小学校に行くと、昨日まで世話を焼いてくれた少女は現れなくなった。
 黒板の相合い傘にも、彼の名前が書かれてあるだけだった。
 片方に何か名前を入れようとしても、誰の名前も浮かばなかった。
266顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:45:18 ID:jN9t6SPz

 中学校に進学すると、彼は写真部に入部した。
 写真を撮る行為は、すでに彼の一番の趣味になっていた。
 練習のためと言い張って、常日頃からカメラを持ち歩くようになった。
 二年生に進級する頃には、彼は校内の有名人になっていた。
 何百人居る全校生徒と教職員の名前と顔を、完全に一致させられる人間は彼だけだった。
 彼自身、その特異と言える記憶力を誇りに思っていた。

 しかし、たった一人だけどうしても記憶できなかった人間がいた。
 二学期に突然転校してきた女の子だった。
 部活動をせず、昼休み時間はずっと図書室で勉強しているような少女だった。
 彼は女の子と接触する機会をなかなか掴めなかった。

 機会は唐突にやってきた。
 登校して靴箱の中を見ると、彼宛のラブレターが入っていた。
 図書室が待ち合わせ場所だった。行ってみると、まだ写真に収めていない女の子が彼を迎えた。
 せっかくの機会でも、この場では写真を撮るわけにはいかない。それぐらいは彼にもわかっていた。
「ずっと私のこと、見てましたよね。実は……私もあなたのことをずっと見てたんです。
 皆の名前を覚えている有名人ってどんな人なんだろって、興味を持ったんです。
 私の写真、まだ撮ってませんよね?」
 彼は悔しさに耐え、頷いた。
「よかった。撮られないように努力してきたんです、私。
 そうすればきっと、私のことをずっと見てくれるだろうって思ったから」
 どうしてそんなことを、と彼は問いかけた。
「あなたにずっと、私を見て欲しかった。私を追ってきて欲しかった。
 でも、こうやってあなたと話すことを抑えることができなくなって、今日手紙を出したんです。
 私、あなたが好きです。ずっと、私はあなたを見ていたいんです」
 実は、彼も女の子のことが気になって仕方がなかった。
 たった一人だけ顔の分からない女の子。こうして話してみると、良い声をしている。
 それに、頬に浮かぶ薄紅が非常に愛らしかった。
 彼は、女の子と付き合うことを決め、その意を伝えた。
「つ、付き合うなんて、そんなっ……恥ずかしいっ!
 いえ、嫌じゃなくって、顔が、照れて……み、見ないでくださいっ!」
 そう叫ぶと、女の子は彼の前から逃げ出した。
 付き合うことになるなら写真が欲しかった。写真に写った女の子の顔を見たい。
 彼が女の子を捜しても、校内のどこにも見当たらなかった。

 その晩の悪夢は、いつもと何かが違っていた。
 二人の鬼が口論していた。彼の声を奪うか、頬を奪うか。
 鬼の口論など、彼はどうでもよく思っていた。
 女の子の写真を撮れなかったことが、どうしても心残りだった。
 最終的に彼の頬を奪うということで、鬼の口論は終わった。

 中学校の図書室に、彼の気になっていた女の子は姿を見せなくなった。
 女の子の代わりに、勉強する三年生の姿が目立つようになった。
 これからの季節、受験勉強をする人が多くなる。
 彼は邪魔をしないよう、図書室から立ち去った。
267名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 19:47:03 ID:mnaEODnX
支援
268顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:49:41 ID:jN9t6SPz

 進学先の高校は、名高い進学校を選択し、合格した。
 十五歳になった時点で、他人の目、もみあげ、耳、頬が彼には見えなかった。
 欠点を埋めるみたいに、彼の学業成績は優れていった。
 頬の動きが見えないと相手の表情がわからなかったから、相手の声の調子と、その場の空気を読むようになった。
 傍目には、彼が非常に大人びた人間に見えた。
 成績優秀で聡明に見え、友達づきあいも良く、軽率なことを言わず、率先して行動する。
 そんな彼は、女性からよく告白されるようになっていた。

 この頃になると、仲の良かった女性達が何故彼の前から姿を消したのか、わかるようになっていた。
 彼に好意を伝え、彼が受け入れると、悪夢を見ることになる。
 悪夢の中で体の一部を奪われると、奪われた部分が他人から消え失せる。
 女性達はおそらく消えてしまったのだろう。名前ごと、存在までも。
 次に何を奪われるか恐ろしくなり、彼はあることを決意した。
 女性から告白されても、決して受け入れないこと。
 可能な限り、女性に好意を持たれないように行動すること。

 だが、彼の努力も空しく、告白してくる女性は後を絶たない。
 特にしつこいのは、新聞部の女部長だった。
 どこに行くにも彼を引っ張る。彼がどこに行っても付いていく。
「なあに逃げてるの? だめよお、部長と副部長はどこに行くのも一緒なんだから。
 お昼だってもちろん一緒よ。はい、あーん」
 空席のない食堂であっても、女部長はやってきて、彼の膝の上を自分の席にした。
 いっそのこと新聞部をやめて、自分で写真部を新たに立ち上げようと考え、行動に移した。
 しかし、実際にメンバーを集めて試験的に活動しても、誰一人として写真を撮らない。
 彼に近づきたい人間が集まっているだけで、部として成り立っていなかった。
 新聞部から離れられないまま、年月は過ぎた。

 女部長が高校を卒業する日、彼は女部長から告白された。
「このまま離ればなれになるなんて嫌。私はあなたが好きなの。
 ねえ、遊びでもいいから、私と付き合って。
 週に一日、ううん一時間だけでもいいから。……うんって、言って」
 彼は告白にどうしてもいい返事をできない。
 ならば彼女の前から逃げてしまえ、と彼は思わなかった。
 彼女は彼の家を知っている。おそらく明日になれば家にやってくるだろう。
 新聞部の後輩として、彼女には感謝していた。無下にはできない。
 そして、このまま自分への思いを引き摺ってもらうのも嫌だった。
「なんでもするから。あなたが、雌犬になれって言うなら、喜んで犬になる。
 あなたとの繋がりを消したくないの。もう寂しいのは嫌、嫌なの」
 彼は歯噛みした。どうして自分は一人の女性を思い続けられないのだ。
 こんな目をしていなければ、あの悪夢さえやってこなければ、彼女に応えるのに。
 いくら女性を好きになっても、自分には愛せない。

 彼は彼女の体を抱きしめた。
 こうしてしまえば、明日から彼女は自分の前に現れなくなる。
 嗚呼、だけど今回だけは。
 どうか彼女をこの世界から消さないで。

 彼女から香る、眠気を誘うような安らぐ匂いを忘れないよう、彼は彼女の体を抱きしめ続けた。
269顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:53:28 ID:jN9t6SPz

 彼の意志は、大学に進学することを望んでいなかった。
 進学する道を決意させたのは、両親からの期待だった。
 身寄りのない自分を引き取り育ててくれた両親。
 幼い頃に見た顔と比べて、二人の顔はずいぶん変わって見える。もはや口だけしか顔にはない。
 それでも、自分に親切にしてくれるところだけは変わらない。
 二人に孝行するためなら、たった四年間大学に通うことなど、安いことだった。

 カメラ愛好家の集うサークルに入り、ますます彼はカメラの魅力に夢中になった。
 中学高校と違い、大学に通う人間達を一人一人撮影したりはしなかった。
 家族や友人など、近しい人間だけを撮影するようになったのだ。
 ある日、彼は事故に遭い入院した。
 自転車で通学している途中、信号無視した車と接触した。
 左鎖骨骨折。入院期間は三週間。日常生活に支障が無くなるまでは二ヶ月ほどかかる。
 友人達は皆、彼が入院したと聞いて病院に駆けつけた。

 ある日、サークルの友人が髪の長い女性を連れてきた。
「この人、お前の同級生なんだってさ」
 彼は首を傾げた。
 中学高校では学校にいるあらゆる人と写真に収め、名前まで記憶した。
 だが、どうしても髪の長い女性のことが思い出せない。
 もしかして小学生時代の同級生なのだろうか?

 後はよろしく、と言って友人は帰って行った。
 自分で案内しておいて女性を放って行くな、と彼は思った。
 しかし、他にすることもなかったし、せっかくお見舞いに来てくれたのだから、彼は女性と話をすることにした。
「本当に、久しぶりです。あなたに会うのは。突然現れて驚きましたか?
 お怪我の具合はいかがですか? いつまでこの病院にいるんですか?」
 二人の話は、女性が質問して、彼が答えるという順番で進んだ。
 二人は旧知の知り合いだったように、話に花を咲かせた。
 多くの言葉を交わしたというのに、彼にはまだ女性の正体を掴めない。

 とうとう窓の外が暗くなり、面会終了時間が迫ってきた。
「そろそろ帰ります。長居してごめんなさい。
 ……あ、そうでした。一つお願いがあります。
 あなたは人の写真を撮るのが好きでしたよね。
 私のカメラで、私の写真を撮っていただけませんか?」
 彼は了承して、カメラを受け取った。
 女性の口元に笑みが浮かんだ瞬間を見届けてから、シャッターを下ろした。
「ありがとうございます。ようやく撮ってもらえました」
 彼からカメラを返してもらい、カバンに入れると、女性は病室の外へと向かった。
 ドアのところで止まると、女性は振り向かずにこう言った。
「また明日、現像した写真を持ってお見舞いにきます」

 しかし、翌日になり、とうとう彼が退院する日付になっても、女性は彼の前に現れなかった。
 もう一度あの女性の長い髪を見たら、女性の名前を思い出せるかもしれないのに。
 彼はちょっとだけがっかりしつつ、サークルの友人達と退院祝いの会場に向かった。
270顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:55:44 ID:jN9t6SPz

 その後、彼は冒頭に話していた女性と出会い、お互いの気持ちを確認せずに付き合いだした。
 女性は告白することなく、彼に自分の思いを伝えることができる人間だった。
 彼は女性の過激な行動に戸惑うことも多かったが、概ね上手くやっていくことができた。

 彼は女性とセックスをするのが初めてだった。
 次はどうすればいいのかわからないでいると、女性は言った。
「私のことを思って。どう扱えばどんな反応をするか、注意深く見ていればわかるはずよ」

 言うとおりにすると、彼は思うままに女性の体を快楽に溺れさせることができた。
 女性は背中の筋を撫でられると可愛い反応を見せた。
 そこが弱いと分かると、彼は後ろから女性の乳房を揉む格好のまま、背中に舌を這わせた。
「ああ、いや……そんなの、だめ……弱いから、だめ。許して、お願い」
 悦びの声が彼の肉欲を盛らせる。
 くねくねと動く女性の背中がたまらなく色っぽかった。
 成熟した女性から溢れ出す色気が、歓喜の声とミックスし、彼の脳を痺れさせる。
 自分の手で女性を興奮させるということがこんなに気持ちのいいものだとは。
 彼はもう、女性の全てに夢中だった。

 背中にくっついたまま、いきり立った肉棒を女性の入り口へあてがう。
 悶えながらも静止の声をあげる女性に構わず、彼は女性の中へと入っていった。
「ああ! はいって、あなたの、が……入ってるっ、こんな、こんな格好なのに」
 肉欲の猛りを押さえつけるような膣の締め付け。
 彼の興奮はそんなものに構わず、乱暴に腰を動かし続けた。
 背後から女性を力尽くで貫く。まるで犯しているような格好だった。
「やっ、やっ、やあっ! あ、あ、あん、ああっ!
 いい、いいわ。もっと、強く! いっぱい、突いて、犯し、て!」
 全力の抽送は我慢という枷をあっさり叩き壊し、射精衝動を奔らせる。
 限界だと伝えると、女性は嬌声混じりに応えた。
「出すの? 赤ちゃん、一杯、出すの?
 いいから! それでいいからあっ! 早くして、早く、してえ!
 おかしくなっちゃう、おかしくなっちゃうのお!
 あ、あ、ああ、はあああぁぁぁ――――――――――っ!」
 叫び声と共に彼も果てた。
 これまでの鬱屈されてきた体の悩みも、あらゆる心配事も、女性の中へと解き放った。

 一度の性交で、彼ら二人はすっかり疲れ切っていた。二回目をする体力が無い。
 彼の頭の中はすでに睡魔に侵攻され、あと一歩で陥落しそうだった。
 抵抗を諦めた彼は、女性に一度だけ、親しみを込めた口づけをして、眠りに就いた。
271顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 19:59:38 ID:jN9t6SPz

 彼が初めてセックスをした日から、数日が過ぎた。

 彼の居ない部屋に、長い間、彼の傍で彼を見続けてきた女性が訪れた。
 上手に片づけられた部屋だった。
 そういえば彼は潔癖症だった、と女性は思い出した。
 極度の潔癖症で、身の回りに物を置くことを嫌っていた。
 最も大きくて重い家具はベッドで、部屋に運び込む時は苦労した、と聞いていた。

 ベッドに腰掛けると、枕元には日記帳が置いてあった。
 悪いとは思いつつも、女性は好奇心に負けて、彼の日記を読み始めた。
 まめな彼らしく、長文で事細かにその日印象に残ったことが書いてあった。
 最後につけたと思しき日のページには、こう書いてあった。

『今日、初めて私は女性と同じベッドで眠った。
 告白されてから眠るまでは、恋人の名前も、その容姿の中で際立つ特徴も、覚えていられるのだ。
 別れの夜ぐらいは、お互い最高の気分で過ごしたかった。
 
 だが、その晩に見た夢の中で鬼にあることを言われ、私は気付いた。
 そして、驚愕した。
 以前に母に渡されたあの手紙。あれには全てが書いてあったのだ。
 ただ私に告白してきた女性の名前を綴っただけの、もはや意味を成さない文字の羅列ではなかった。

 堰が切れたように、記憶が戻った。
 あの悪夢の後、鬼達に奪われてしまった、これまで出会った女性達の特徴が全て。

 私は決心した。こんなことを考えてしまった以上、もうじっとしていられない。
 彼女はもしかしたら、                                』

 日記の最後の一部は、消しゴムで消した後が残っていた。
 その行にはごく僅かではあるが、消しかすがこびりついていた。慌てて取り忘れていたのかもしれない。
 彼の小さな失敗を目にして、女性は微笑んだ。
272顔を忘れる男 ◆KaE2HRhLms :2010/07/17(土) 20:01:55 ID:jN9t6SPz
以上で全て終了です。続きません。
ナポリタン問題なら、『最後の一行には何が書かれていた?」って出題があると思います。
ですが、住人の皆さんはそんなことを気になさらなくて結構です。全てはヤンデレの仕業です。

「ヤンデレ家族〜」の方はまだ時間がかかります。
ではまた。
273名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 20:27:08 ID:oX60phNp
GJ!



ヤンデレ家族の方は気長に待ってます!!
274名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:09:32 ID:Ui1zDi/Q
素晴らしい作品を苦労して書き上げた作者に対してそっけなく「GJ」の一言しか書き込もうとしない
お前ら、本当にそれでいいとでも思ってるのか?
275名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:12:40 ID:0nQ78ATp
ヤンデレ家族の作者さんでしたかGJ…鬼=ヤンデレかな…所でナポリタン問題って何!?
276名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:12:55 ID:/oULdUjh
>>274
きめぇw晒しageな
277名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:17:06 ID:Ui1zDi/Q
>>276
はあ? 死ねよクズ
278名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:17:25 ID:IW9QJpz6
>>274
流れというか一般的にそれで成り立ってる
>>275
目の前に便利な箱あるよ
279名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:19:20 ID:/oULdUjh
釣れた釣れた( ´艸`)
280名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:21:47 ID:nB4j29yi
お前ら黙れ
無駄にレス消費すんな
281名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:23:08 ID:Ui1zDi/Q
>>279
後釣り宣言www
ダッセェ
282名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:29:13 ID:h5LCQS5A
ここは未成年が来るべき場所ではないので帰りましょうね
283名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:31:14 ID:XXg/XR+u
答えが分からない…
でもおもしろかったです!GJでした!
284名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:38:34 ID:s/kzF1Oq
>>272
GJ!
ナポリタンが未だに分からない俺には最後の文が分かる日が来るのだろうか
285名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:45:29 ID:/Gq/yp9P
人を食ったような話だな
286名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 00:25:34 ID:FqGVZr/E
ナポリタン問題は知ってるが答えが全くわからん
287黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 00:56:08 ID:F2ZnyoZQ
投稿します。題名は「黒い陽だまり」。

長編を予定してて、今回のはプロローグみたいなのです。
288黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 00:57:06 ID:F2ZnyoZQ
大学から駅に向かう大通りを三つ目の角で曲がった所に、そのレストランはぽつんと立っていた。
一般家庭の水準以上のものは食べてこなかった僕の舌でも分かる程度には美味しく、
両親からの仕送りと週3のバイトで何とか一人暮らししてる僕の財布でも十分耐えられる程度には安かったので、彼女とも度々訪れていた。
しかし、今日彼女にこの話をした後の展開によっては、もう気まずくて来れなくなるかもしれない。
僕はそのことを再び思い出して、もはや今日何度目になるかも分からない溜息をついた。


大学生活が始まっても相変わらず女性との接触が少なめだった僕に唐突に彼女ができたのは、
夏独特のあの高圧的な太陽が、段々となりを潜めだした頃のことだった。
今は12月だから、もう三か月ほど前になる。
ろくに人の来ない大学図書館の雑誌棟にどういう訳か度々訪れていた彼女が、
雑誌棟を大学での己の居場所と決め込んでいた僕に話しかけてきたのがきっかけだった。
僕は当時、初めて本について真剣に語り合える仲間を得たことに歓喜したものだ。
僕の主観ではあるけど、彼女もそれを楽しんでいたように見えた。
そうして仲良くなっていくうち、ふとした会話から二人が小学校の時クラスメートだったことが分かった。
僕はいわゆる目立たないタイプの子供だったし、彼女は彼女で今とはかなり違う雰囲気だったらしいから、お互いに今まで気付けなかったようだった。

そして、僕らが付き合うことを決定的にした事件は、ある日の夕暮れに、大学近くの喫茶店で起こった。
そのころには既に僕たちは、機会があれば一緒に食事に出かけたりする程度には仲良くなっていた。
事件なんて少し大仰な表現になってしまったけど、その内容はごく単純なものだ。

彼女が、僕に告白した。

世間的には大したことじゃないだろう。
今日び告白なんて東京に限ったとしても毎日どこかしらで行われている。
しかし、とにかくその時の僕にとってそれは、事件と呼ぶにふさわしいだけのインパクトを持って迫ってきた。
僕の方に断る理由なんてあるはずもなく、晴れて二人は付き合うことになった。
冴えない文学青年と美女の恋。ここまではありがちというか、よく聞く物語だ。
シンデレラだって男女の役割を逆にすれば同じタイプの物語と言えるだろう。
 
しかし、実に、実に不本意ではあるけれど、現実は童話と違ってめでたしめでたし、で終わりとはいかないものだ。
結論から言うと、僕は今日彼女に別れ話をするつもりでいる。
もちろんその結論に至るまで、僕は悩んだ。悩みぬいた。一生分は悩んだと言ってもいい。
そうして出した結論が、「別れる」というものだった。
289黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 00:57:47 ID:F2ZnyoZQ
理由はいくつかある。

まず、彼女が完璧すぎたことだ。
美しい栗色の髪。その手触りは絹糸のようだった。
大きくて形の良い眼。瞳は奇麗な鳶色だ。
均整を保ちながらも豊満なスタイル。モデルとしてスカウトされたことも一度や二度じゃない、と後で聞いた。
頭の回転も早いし、頑固なところはあるけど一本気で魅力的な性格をしている。
それに対して僕は、かろうじて平均に引っ掛かる程度の風貌だった。
身長は160cm代だし、頭だって別段良くはない。
僕と彼女がデートで出かけても、奇異の視線で見られるか、そうでなければ恋人同士ではないと判断されるかのどちらかだった。
僕の目の前で堂々と彼女をナンパされたことだってある。
付き合って日が経つうちに僕は、自分が彼女と釣り合っていないんじゃないか、彼女は僕以外のもっと優秀な奴と一緒にいるべきなのではないか、
という思いにとらわれるようになっていた。

もう一つの理由は、付き合い始めてからの彼女の態度だ。
端的に言うと、献身的、という言葉に集約される。
これだけ聞けばうらやまがられるかもしれない。
綺麗な女の子が何くれとなく世話を焼いてくれるのだ。普通なら文句の出るはずもない。
しかし、彼女の態度は、こう、何というか、あまりにも病的に過ぎた。
世話を焼く、というよりは、プライバシーの侵害と言ったほうが近いぐらいだった。
彼女と付き合ってすぐに僕らは半同棲生活を始めていて、家事はほとんど彼女が行っていた。
僕も手伝おうとはしたけれど、彼女の方が自分がやりたいと言って聞かなかった。
それではあまりにも情けないと、以前僕が気まぐれに部屋の掃除をしたら、彼女に烈火の如く怒られた。
何事であっても全ての僕の世話を焼かないと気が済まないのだ、彼女は。
普通なら、たとえ付き合っている者同士でも多少は個人のプライバシー、いわば秘密というものを持っている。
夫婦だって、互いに何の秘密事もないなんてことは有り得ないと思う。
だけど、彼女は僕にそれを求めた。どんな小さいことであっても、秘密は一切許されなかった。
プライバシーが存在しない。
それは、気の休まる、自分だけの時間というものが存在しないということだ。
彼女と付き合ってからの僕の消耗ぶりは筆舌に尽くしがたいものがある。

彼女の度を超えた嫉妬もまた、僕を悩ませた。
女友達とあいさつ程度の会話を交わしただけでも、彼女はすぐに、僕に濁った瞳を向けた。
家に帰ってから、僕が今日大学で他の女と3秒も目を合わせた、道でミニスカートを目で追っていた、などと言って泣き出したこともある。
その度に時間をかけて彼女をなだめるのは、随分と骨の折れる作業だった。
290黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 00:58:43 ID:F2ZnyoZQ
そんなこんなで、付き合って一ヶ月足らずで僕は早くも精神的に追い詰められていた。
それでも彼女が好きだったから、僕は何とか歯をくいしばって耐えぬいた。
しかし、さすがにもう限界が来ていた。
僕が読んでいたミステリー小説のヒロインが自分と似ていないというだけで泣き出すようなのには、もううんざりだった。

「急に呼び出して、一体どうしたの?」
ふっと気がついたら、彼女は既に僕の席の横に立っていた。
会うたびに思うことだけど、彼女は本当に奇麗だった。
神話の世界から抜け出してきたと聞いてもどこか納得してしまうような、幻想的な美しさだ。
「とりあえず」と僕は言った。「すわりなよ」
彼女は僕の顔を見て何かを感じたのだろうか。不審気な顔をしながらも、僕の向かいの席に座った。
「二人でこの店に来るのももう何度目になるかしらね」
これで最後になる、と口走りそうになったのを、すんでのところで押しとどめる。ここはやはり、率直に言うべきだろう。
「落ち着いて聞いてくれ」
「何よ、改まっちゃって。プロポーズでもするつもり?」
彼女はそう言って、おどけた表情を作った。どうやら、僕の隠しきれない緊張を彼女なりに好意的に解釈したらしい。
こうなると、別れよう、なんて益々言いにくくなる。
僕は揺らぎかけた決意を固めるために、彼女にばれない程度の所作で深呼吸をした。
一息吸って、一息吐く。
その行動の中で、僕は、自分のやるべきことをやるための心の準備を終わらせた。

「別れよう」

深呼吸のおかげか、どうやら声は震えずに済んだようだった。
彼女は僕の言葉を聞いても何も言わずに、うつむいたままだった。
そのまま、淡々と時間だけが過ぎていく。
静寂が周囲を包む。
いや、実際はレストランの中なんだからそれなりに雑音はあったはずだけど、
二人の間に流れる濃密な空気に包まれて、僕の耳はどんな微かな音も感知することができなかった。

この状態のまま、既に何時間も過ぎているような気がする。
実際には五分ぐらいなのだろうか。
もしかしたら一分もたっていないかもしれない。
僕はその静寂の中で何もすることができず、ひたすらに無我の境地をたゆたっていた。
291黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 00:59:32 ID:F2ZnyoZQ
「ねえ、知ってる?」
僕があと一歩で釈迦の領域にたどりつけるところにまで達した時、彼女は唐突に呟いた。
その言い方は僕に話しかけたようにも、かといって独り言のようにも聞こえなかった。
虚空にただ漠然と投げかけているような、少し目を離したら溶けてなくなってしまいそうな、そんな言い方だった。
「うん?」
その言葉が世界に溶けきってしまう前に、僕は何とか言葉を紡いだ。
「夜に車を運転してるとさ、虫が飛び込んできて自殺することってあるじゃない。あれって何でか分かる?」
唐突な質問に、僕は少し考え込む。
「えっと、前にどこかで、虫には明るい方に餌があると思う習性があるって聞いたことがあるよ。ライトを見て飛び込んだ結果はねられてるんじゃないかな」
僕はとりあえず、常識的な答えを返した。
もちろん、彼女が求めている答えがそういうものじゃないことぐらい、僕にだって分かっていたけど。
「そうじゃないの」と彼女は言った。「私はね。虫は、生まれ変わりを信じていると思うの」
「え?」
「だって虫って、どんなところからでもどんどん生まれてくるじゃない。
『世界中で無数の仲間が生まれてきてて、それに全部まっさらな新しい魂が宿っていると考えるのはむしろ不自然だ。
魂が無数なわけがない。
だから、新しく生まれてきた虫の中には、昔の仲間達の魂が宿っているはずだ』。
虫たちは、そう考えているの」
「虫って、案外哲学的なんだね」
「茶化さないでよ。
後もう一つ理由があると思うんだけど、それは虫が光を愛していることよ。
崇拝しているといってもいい。
光に近づくためには、虫は何だってできる。
そんな虫の目の前を、光が通り過ぎようとしている。
もちろん虫だって、それにぶつかれば死んでしまうことぐらいわかってるわ。
その証拠に、昼間は車に突っ込んでくる虫なんていないじゃない。
でも彼らは、命に代えてでも光に近付きたい。
そしてできることなら、光とともに在りたい。
だから虫たちは、死を覚悟して光を追うの。
そして生まれ変わったら、今度は光とともに在ろう。
そう思って、虫達は自殺してるのよ」
彼女は何かに取りつかれたように、一息に喋った。
それはまるで、彼女の魂をそのまま言葉にしたような、恐ろしい迫力を秘めたものだった。
レストランの中にはしっかりと暖房が利いているはずなのに、僕は急に尋常でない肌寒さを感じた。
「虫は」と僕は言った。「どうして、そんなに光を愛しているんだ?」
「それはね」と彼女は言った。
「直観と呼んでもいいし、本能と呼んでもいい。名前は何であれ、そういう抑えがたい衝動のせいよ」
彼女はそこまで言うと、大きく息を吸い込んだ。
「そしてそれは、私があなたを愛する理由でもある」
そして彼女は、ゆっくりと顔をあげた。
僕はその顔を見て、思わず声をあげそうになった。
瞳に、感情が無い。
魚だって爬虫類だって、たとえ人形でさえ、ここまで何も感じられない瞳はしていないだろう。
さっきの話をしている間に、彼女の中から魂が抜けだしてしまったかのようだった。
「とにかく、もう別れよう。話はそれだけだ。でもこれだけは覚えておいてくれ。僕は君が嫌いなわけじゃないし、今後も君と良い友達でいたいとは思っている」
くだらない言葉遊びに過ぎないことは分かっている。しかし、僕が他に一体何を言えただろう。
僕はその後すぐに、強い罪悪感を感じながらもコーヒー代だけ置いて席を立ち、レストランを後にした。
とにかく怖かったのだ。あんな、あんな空虚な瞳をした、彼女が。
292黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 01:00:12 ID:F2ZnyoZQ
ドアを開けて外に出ると、いつのまにか雨が地面に打ち付けられていた。
空を見上げる。濁ったような曇り空だ。
冷たい雨粒が顔を打つ。冷気が体を包む。
近所で買った15800円のコートが、雨に濡れていく。
僕はその時唐突に、ヒトが空を飛びたがった理由を少し悟ったような気がした。



翌日僕の元に、彼女が自殺をしたという連絡が届いた。
罪悪感を感じはしたけど、僕は余り驚かなかった。
多分、どこかでこの結果を想像していたんだと思う。

彼女は僕宛に遺書を残していた。
両親からは遺書の内容を教えてほしいと熱心に頼まれた。
たった一人の娘が遺したメッセージだ。知りたいと思うのは当然だろう。
でも、僕は教えなかった。といより、教えられなかった。
僕自身内容を知らなかったからだ。
それから十年経った今に至るまで、その遺書は開封されずに押し入れの奥にしまわれている。

僕は最近、ふと思い立ってカマキリを飼うようになった。
ハエやバッタを捕まえてきてカゴの中に入れると、カマをふるって捕食する。
そのしぐさは踊っているようにも見えて、どこか心がなごむ。
まるで虚空と戦っているようだ。
そこには何もいないのに。
僕はそこに何かがいるかもしれない可能性に何とか目を反らしながら、今日も彼にエサを与える。
293黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/18(日) 01:01:00 ID:F2ZnyoZQ
以上で終了です。読んでくださった方、ありがとうございました。
294名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:22:21 ID:T+RCDG3c
なんともったいない・・・
続きが楽しみです。
295名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:37:47 ID:Q4QAgWwE
すごいおもしろいですね。GJです

しかも長編らしいのでこれから楽しみです
296名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:43:47 ID:lBanyi2I
続きがとても気になる作品ですね!
期待してます!GJ!
297名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 02:17:49 ID:BEpga8QC
続きあるのか…?これで終わりだと思ったけども。

それはともかく面白かった。作者さんGJ!!
298名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 02:20:27 ID:BEpga8QC
うわぁぁ>>287をスルーしてしまってた…
スレ汚ししてしまってスマン
299名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 02:28:25 ID:3Sej1wj7
文章も読みやすいし、すごい続きが気になる。
300名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 03:20:41 ID:4ceVt+5A
GJ
いい具合にクズな主人公の結末が気になりますね
301名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 04:59:37 ID:m0Tt5uNK
登場人物は男だけ残ったのか…男ヤンデレスレに投下が妥当じゃない?
302名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 05:08:00 ID:dl0Jwczu
それは時期尚早
303名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 07:20:07 ID:PBwNPYsm
>>293
GJ!
こういう独特な雰囲気がある
SSは個人的に大好きなんで応援してます

>>301
お前は話の展開が見えて無さ過ぎ
彼女が魂の生まれ変わりについて語ってたろ
そこで察しろ
304名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 08:06:48 ID:MSaqShGU
GJなんか背中がゾクゾクした
305名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 11:11:26 ID:/4Yui/V+
エロまだー
306名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 11:55:40 ID:VORa63DL
二話目…というか、一話目の『裏』が出来たので投稿したいと思います。
楽しんでいただけたら幸いです
307僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/18(日) 11:57:47 ID:VORa63DL
  ある日、兄様はわたしに言いました。
「藍里、僕、明日桜ちゃんに告白してみるよ」
   桜ちゃんというのは、兄様とわたしの幼馴染で、大抵の人が見ればかわいいと思えるらしい女の子です。
   兄様は、よく「僕、桜ちゃんが好きなんだ」と言ってましたが、わたしは冗談だと思っていました。
   しかし、兄様は彼女に告白すると言いました。
   ただ、兄様が彼女を自然に好きになるなんてありえません。
   おそらく、あの女が誘惑したのでしょう。発情期の雌犬とみたいですね。
   それに気づいたわたしは、すぐさま包丁をお気に入りのバッグに入れ、その雌犬の家へ向かいました。
   そして、雌犬に包丁を突きつけ尋問しました。
   しかし、雌犬は「知らない!」「そんなことしてない!」「信じて!」と、認めようとしませんでした。
   なので、わたしは彼女に言いました。
「明日、兄様があなたに告白するらしいので、今から言う言葉を言ってください」
   わたしは、包丁を突きつけながら何度も雌犬にその言葉を練習させました。
  雌犬のしつけが終わると、わたしはすぐに家へ帰りました。
   もちろん最後に雌犬に念を押すのも忘れません。
   その日の残りはは兄様を慰めるための言葉を考えることに費やしました。
   次の日、わたしの計画通りに兄様は振られました。
   兄様が去った後、雌犬がその場で泣き崩れていました。
   わたしの兄様に手を出した報いですね。
   唯一の誤算は兄様の中で雌犬の占める割合が大きかったことですね。
   それが原因で兄様は一週間も学校を休んでしまいました。
   いくらペットに嫌われたからといっても学校を休むのはダメですよ。
   それに、兄様がいないとわたしが学校に行く意味がなくなりますからね。
   なのでわたしは一週間かけて兄様を説得しました。
   そういえばいつの間にか雌犬がいなくなっていました。どうでもいいですけどね。
   まあそんなわけで、わたしは兄様との幸せな日々を取り戻すことができました。

   五年程前のことです。
308僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/18(日) 11:59:58 ID:VORa63DL
   今日は入学式。
   兄様と同じ高校に入ることができたわたしは、今、とても幸せです。空も飛べそうです。
   がんばって両親を説得した甲斐がありました。
   兄様の産みの親ですから、尊敬できるなのですが、少々頭がかたいところが欠点です。
   まあ当分関わるつもりはないのでどうでもいいですが。
   さて、そろそろ兄様が待ちくたびれてそうな仕草を見せたので兄様を熟視するのを止め、兄様の方へ向かう。

「兄さ〜ん!お待たせ〜!」

   本当は兄様にはもっと敬意をもって接すべきなのですが、兄様はこういう女性が好みなので、兄様の御期待に添えるためにこんな言葉遣いにしているのです。
   気づけば兄様がわたしの顔を食い入るように見つめていました。
   あまり見つめられると恥ずかしいのですが……。
「どうしたの?」
   わたしが首を傾げながら聞くと、兄様は、
「いや、なんでもない。行こう」
   とわたしを促しました。
   わたしはそれに対して返事をし、兄様と歩き出す。兄様の隣はわたし専用の場所です。
   兄様と歩くとき、いつも兄様と手を繋いで歩いたときのことを思い出して、兄様の手に意識がいってしまいます。
「どうした?」
   それは今日も例外ではなかったようです。
「う、ううん。なんでもないよ」
「そう」
   兄様の返事は基本的にはいつも素っ気無いもので、少し悲しくなります。
   そういえば、今わたしたちは二人きりで歩いてますけど、周りの人から見るとどのように見えるのでしょうか。
   や、やっぱり、その、恋人として見られているのでしょうか。
   兄様に聞いてみました。
309僕は自分が大嫌いだ『裏』 ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/18(日) 12:25:53 ID:VORa63DL
「その、わ、わたしたちって、さ。周りから見るとどんな風に見えるのかな?」
「そりゃあ兄妹だろ」
   兄様の返事はやはり素っ気無いものでした。
「そ、そっか。そうだよね…」
   そういう返事がくるって分かっていても、いざ言われると少し落ち込んでしまいます。
   でも、兄様は優しい。
   まだ学校まで時間があるからそれまで兄様にかまってもらいましょう。
「ね、ねえ、兄さん」
「なんだ?」
   少しうつむき加減にして言う。
「て、手ぇ、繋いでいい?」
「却下」
   予想どうりの答えです。
「む〜、なんで?」
   機嫌が悪くなったふりをする。
「もうそんな年でもないだろ。大して仲が良いわけでもないし」
「ふ〜ん。じゃあ兄さんはわたしのことが嫌いなんだね」
   嘘でもこんなことは言いたくないですが、仕方ないです。
「ねえ兄さん。聞いてるの?」
   無視されました。めんどくさくなってきたらしいです。
「兄さん?どうしたの?」
   もう兄様がわたしにかまってくれなくなるんじゃないかと不安になってきます。
「ねえ、に、兄さん?」
   無言の兄様。
   でもこれは一種のチャンスです。ここで嘘泣きをすれば…。
「う、うう、ぐすっ、ひっく」
   やっぱり兄様が動揺しはじめた。
   兄様は昔からわたしが泣くとどこからでも飛んできて慰めてくれました。
「あ、藍里!?冗談だから!ゴメン!ほ、ほら!大丈夫だぞ!」
   兄様が頭を撫でてくれました。
   上目遣いで兄様を見ました。
「ほ、ほんとに?ぐすっ」
「あ、ああ。僕が悪かったから」
   兄様は本当にお人好しです。
   こんな嘘に騙されるなんて…。
   ちょっと不安です。
「わ、わたしのこと、ひっく、きらいにならない?」
「あ、ああ。嫌いじゃない嫌いじゃない」
   わたしが落ち着いてきたフリをすると、兄様も安心してきたようです。
「じゃあ、わたしのこと、好き?」
   頬が熱くなってきます。
   心臓の鼓動も速くなってきます。
「あ、ああ。好きだから。大好きだ。あれ?」
   心臓が飛び出しそうになるほどうれしいです。
「ふふ、うれしい…」
   いつの間にかわたしの口から言葉が漏れていました。
「もう、ツンデレなんだから…。兄さんのばか」
   兄様、兄様、兄様。
「い、いや、今のはだな!その場のノリというかな!」
   兄様が何か言っていますが、おそらく照れているんでしょう。カワイイ♪
「もう、照れちゃって。大丈夫だよ、わかってるから♪」
   やっぱり兄様はわたしのものです。そして、わたしは兄様のものです。

   ずっと一緒ですよ。兄様。
310名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 12:31:45 ID:VORa63DL
『裏』の一話目はこれで終わりです
表では病み成分が少なくなってしまいそうなので、裏ではできる限り成分多めでいきたいと思います。
裏は主人公以外の視点で書いていくつもりなので、妹以外の視点でも書くつもりです
では、また次回もがんばっていきたいと思います
ありがとうございました
311名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 17:09:14 ID:Q4QAgWwE
GJです!やっぱり妹の仕業だったか…

やっぱり妹が美少女なら必然的に兄も少なからず美形なはずだもんね
312名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 17:50:29 ID:3aEkEynM
つまり…俺が持てないのも…妹の…
313名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 18:49:52 ID:d/SFhtqE
>>311
そんなら俺だけ血がつながっていないのかもしれない
→義妹フラグ
→美形でない
→気のせいでした
314名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 19:19:46 ID:PQVhy/vB
近所のガキに病的なまでに愛された大学生の話なら聞いたことあるがな
315名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 22:21:23 ID:CSa017c2
妹VS従妹の骨肉の争い
316名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 22:31:27 ID:jHD9T4Yz
>>315

で、漁夫の利で第三者の幼なじみが愛しの彼を頂くと
317名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 23:23:45 ID:5wr9pb5D
そして惨劇へ…
318名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 23:30:53 ID:q2ixEc8C
>>317
ヤンデレには惨劇しかないという、その幻想をぶち殺す!

ま、全員生き残ってハッピーエンドっていうのもヤンデレSSとしてはいいのかわからんが。
ハッピーな終わらせ方も俺はアリだと思うけど。
319名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 00:26:40 ID:FXblmJLa
いや俺的には惨劇でもハッピーエンドでもなく
女同士の維持の張り合い状態が一番おいしい
320名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 01:07:16 ID:cZmksjkU
>>319
禿同

ヤンデレ対ヤンデレの頭脳戦もとい嫉妬のぶつかりあいがいっちゃんおもしれぇ
321名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 01:29:57 ID:p+ls9E2Z
ヤンデレに妊娠したと告げられたときに、不都合を回避する言葉

ヤンデレ「うふふ、妊娠しちゃった。私と公くんの愛の結晶だよ」
主人公「俺、無精子症なんだけど、誰の子?」

ヤンデレ「うふふ、妊娠しちゃった。私と公くんの愛の結晶だよ」
ヒロイン子「みんなー、ヤンデレさんにカンパしてあげて」
322名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 02:16:38 ID:LfCdj7MD
見ててつまらない対応だな
323名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 09:05:04 ID:NmhXqQYy
>>321
たぶん、そんなんでヤンデレは回避不可よ。例えば誰の子なんか言ったら、「じゃあ、お腹開いて確かめて見ようか☆きっと〇〇君そっくりだよ〜」って言ってその場で切腹しそうだしな。コンパなんかその場で全員虐殺するジェノサイドエンドになっちまうわい。
324名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 09:48:22 ID:QKFFAL0I
ヤンデレを回避する為にはショック等を与えてヤンの部分を消すしか無いが…ss的にはかなり難しく高度になるので…意味のあるバットend>意味の無いハッピーendに成る。
325名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 10:49:17 ID:CrN7V4ks
最近のSSだときみとわたるがハッピーエンドっぽかったな
326名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 14:38:33 ID:NoileNcN
327名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 15:27:54 ID:fTmgCIsu
ヤンデレの男とヤンデレの女が付き合ったらどうなるんだ?
328名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 15:41:13 ID:JdGSYA6Z
バカップルになってエロいことする。ただそれだけ。
329名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 16:46:51 ID:XPJnEyb/
ヤンデレの妹が欲しいんだけど
330名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 17:08:55 ID:NmhXqQYy
>>329
つ長編SS「家族」
331名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 18:22:47 ID:LfCdj7MD
ところで、ヤンデレにサブステータスが付くとしたらやはりクーデレ?
332名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 18:28:10 ID:yxJ0biho
俺はツンデレかな
333名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 19:06:06 ID:v0ohXuoc
クーデレな妹ってどうかな?
まあ、結局クーデレだな
334名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 19:39:57 ID:VjLEzhJP
いや、おしとやかさだろ

クーデレは百歩譲っても、まぁありだと思う
だが、ツンデレだけは別、あれはウザいだけの邪道だ
335名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 20:04:49 ID:p+ls9E2Z
ヤンデレVS二次元少女
336名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 20:52:17 ID:3I3HCVij
普段そっけなくて話しかけてもウザそうにする娘が、実は主人公のことが好きすぎてたまらないヤンデレだったとかは激しくそそるんだが
某穹さんとか
これってツンデレはいってるとは言わないのか?
337サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 20:59:57 ID:2g3K5WbL
こんばんわ。サトリビトを書いているものです。
第15話ができたので投下します。

誤字脱字。確認はしてるんですが、見落とし等があるかもしれません。
その時は申し訳ありません。

338サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:00:37 ID:2g3K5WbL
家を出た僕は手当たり次第に走った。
公園、学校、駅・・・
けれど姉ちゃんの姿を見つけることは出来なかった。
携帯だって何度かけてもつながらない。
「どこ行ったんだよ・・・!」
何な手紙を残すくらいだ。もうこの近くにはいないかもしれない。
それだったらまだマシだ。

『そして今度生まれ変わったときは、お前に優しくするよ』

家を出てからずっと、この一行が気になっていた。
あの手紙は咄嗟に書いた様には見えない。時間をかけて、それこそ今日の朝からずっと考え込んで書いたような、そんな印象を受ける。
ならばこの文の意味はなんだ?
今度生まれ変わるってどういう意味だ?
背中の汗が止まらない。単に走っているからだけではない。
最後の心辺りの場所に着いた時、すでに心身共に限界に来ていた。
途方に暮れた僕は一本の電話をかける。相手は陽菜だ。
こんなとき、いつも頼りになるのは陽菜だった。
昔から人の気持ちに敏感な陽菜なら、もしかすると姉ちゃんの居場所を特定することができるかもしれない。
「・・・もしもし」
電話にでた陽菜の声は暗かった。まるで息を殺すかのようなかぼそい声だ。
にもかかわらず、僕は自分の事にいっぱいで、陽菜の異変に疑問を持たなかった。
「姉ちゃんの行きそうな場所に心当たりはないか!?どこでもいいから教えてくれ!!」
「ちょっ!声、小さくしてよ!」
「ご、ごめん・・・それで心当たりの方はある?」
陽菜の返事は少しの間があいた。
「・・・何かあったの?」
「姉ちゃんが・・・姉ちゃんがいなくなったんだ・・・もう消えるって手紙を残して・・・」
僕のこの行為は陽菜を裏切る事だって分かる。
陽菜以外の人を心配してしまった。
その結果、陽菜を幸せにできなくなってしまった。
「・・・頼む・・・どんな些細なことでもいいから・・・お願い・・・します・・・」
けれど口は止められなかった。
「・・・分かったわ。慶太の探してなさそうな場所で、かつ祥姉ぇがいそうな場所と言えば、多分あそこだと思う」
「っ!あ、ありがとう陽菜!!それでどこなんだ!?」
陽菜からの返事はすぐには返ってこなかった。
「陽菜?」
「・・・そのかわり、こっちのお願いも聞いてくれる?」
こんなときに何なんだ!
それが咄嗟に思った僕の意見だった。
でも頼みの綱は陽菜しかいないのが現実。そんな事を口にして、せっかくの情報を不意にはしたくなかった。
「分かった!何でも聞くから、お願い!」
「交渉成立ね。それできっと祥姉ぇは―――」


「!」
「その場所見た?ちゃんと探した?」
「ま、まさか・・・そんな・・・」
僕は陽菜との会話も忘れ、自宅へとかけ戻った。
339サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:01:17 ID:2g3K5WbL
鍵が回らない。
いつもは簡単に開くはずの扉が開かない。
「くそっ!なんでだよ!」
完全に僕の頭はパニックになっていた。
陽菜の教えてくれた場所。それは僕の部屋だった。
何で気がつかなかったんだ!?あの時、帰って来た時、何で気がつかなかったんだよ!!
渾身の力でカギを左に回す。でも開かない。
「ええいっ!!」
ダメもとでノブに手をかける。
すると驚くほど簡単にドアが開いた。いや、もともとカギなんてかけていなかったのだ。
それすらも忘れるほど、僕は冷静さを欠いていた。
ドアを開けた後は自分の部屋まで一直線に走る。
「姉ちゃん!!」
部屋に入ると、陽菜の言った通り姉ちゃんがいた。確かに姉ちゃんが僕のベッドの上で眠っていた。ただ―――――

 その傍らには白い錠剤の入った瓶が転がっていた。

「なっ!?姉ちゃん!?おい、しっかりしろよ!!」
姉ちゃんに飛びつき、思いっきり肩を揺する。
その反動で姉ちゃんの体が上下左右に大きく揺れるが、目を覚ます気配はまるっきりない。
「嘘だろ!!目を覚ましてくれよ!!何ふざけてんだよ!!」
半ば躍起になって続けるが、それでも反応は返ってこない。
顔は化粧でもしたかのように白くなっており、口からは涎も垂れていた。
どう見たって最悪の結果だ。
「は、早く病院に・・・!」
もはや自分が今、どんな心境になっているのかが分からない。
とりあえず病院に電話しないと、の一心で僕は動いていた。
「はい。こちら110番ですが」
「お、お願いします!!姉ちゃんを助けて下さい!!」
「は、はい?」
咄嗟にかけた番号は110だった。
「お願いします!!早く、早く姉ちゃんを助けて下さい!!」
でも僕にはそんな事関係ない。
それよりも姉ちゃんを助けることしか頭にない。
「落ち着いて下さい!場所はどこですか!?」
冷静なオペレーターで助かった。
なぜなら僕はこの電話で話した事はたったの2種類のセリフ。
住所と姉ちゃんを助けて下さいだけだったのだから。


病院に着いた頃には、僕は体中の水分を放出するかのような勢いで泣き続けていた。
「おねがいじまず!!ねえじゃんをたずげてくだざい!!」
「落ち着いて!今、患者さんをERに運びますから!」
姉ちゃんを乗せたストレッチャーが赤いランプのついた部屋に運ばれていった。
その扉が閉められる。
「おねがいじまず!!」
僕はその言葉を最後に倒れこんでしまった。
気持ち悪い。吐いてしまいそうだ。
「・・・う・・・うっ・・・」
肉体的疲労。精神的疲労。その両方が限界に来ていた。
そして看護師が駆けつける頃には、僕の方も意識を手放していた。
340サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:02:38 ID:2g3K5WbL
目が覚めると白い天井が目に入る。それに微かな薬品の臭い。
「お加減は大丈夫ですか?」
声のする方へ顔を向けると、白い服を着た女性がこっちを見ていた。まるでアイドルの様に整った顔立ち。
「どうやら相当参っていたみたいですね」
そこでようやく気がつく。
ここが病院で、さっき僕が倒れた事。
そして姉ちゃんがここに運ばれた事。
「姉ちゃんっ!!」
咄嗟にベッドから跳ね起きようとするが、寸前のところで止められてしまった。
「まだ動いてはダメです。まもなく点滴の方も終わりますから、それまで辛抱していてください」
「でも姉ちゃんが!!」
「あなたのお姉さんならもう大丈夫です。さっきそう報告を受けました」
「ほ、本当ですか!?」
「本当です」
その言葉で、さっきまであった絶望感が治まっていく。
すると次に湧きあがってくる感情は一つしかない。
「あの・・・この点滴はいつ終わるんですか?」
今すぐ姉ちゃんのところまで駆けだして行きたい。
「あと30分くらいかしら?まぁそれまではおとなしくしててね」
30分。
僕にとっては何よりも長い30分になりそうだ。
そんな時、何処か優しい目で僕を見つめていた看護師さんが話しかけてきた。
「慶太君にとってお姉さんはどんな人なの?」
「・・・突然なんですか?」
「だって寝てる時、ずっと姉ちゃん姉ちゃんって言ってたわよ?」
顔が熱くなる。この年にもなって、そんな恥ずかしい事を?
「でもそんなに思われてるのに・・・どうしてお姉さんはあんな事になったのかな?」
まるで僕の心を見透かしたように感じる問いかけ。この人には何も隠せない、そんな感覚。
「・・・俺のせいなんです・・・俺がダメな人間なばっかりに・・・」
こんな事を言わせるために、この人は訊いてきたんじゃない。
どんな場面でも気付かされる自分の情けなさに、思わずシーツを握りしめてしまった。
だが看護師さんはそんな僕に愛想をつかさずにこう告げた。
「慶太君も色々と深い悩みがあるんだね。それで、それについての解決方法は見つかったの?」
「・・・一応・・・」
「その様子だと、納得してないんだね」
「・・・」
まるでサトリのような鋭さ。この人は一体何なんだ?
(結衣といい、慶太君といい、最近の子ってこんなに悩みが多いのね。まぁこっちの方が深刻そうだけど)
軽く聴き流せない名詞が出てきた。
「あ、あの、失礼ですけどお名前を窺ってもよろしいですか!?」
「あら、気付いたの?あの子の言っていた通り、慶太君って鋭い人なのね」
やっぱり・・・どうりでさっきから僕の事を慶太君って呼んでいたのか。
看護師さん、もとい岡田のお姉さんがくすっと笑った。
「でもそんなに敏感なら、今のあの子がどんな心境にあるか、当然気付いてるよね?」
現在の岡田。
最近は岡田に対して何一つ喜ばせるような事をした覚えがない。それどころか傷つけてばかりだ。
もしかすると、姉ちゃんだけじゃなく、岡田の方も・・・
「あの子、今ものすっごく暗いのよ。家でもずっと慶太君慶太君って」
「・・・」
「でもこれは私が口をはさめる問題じゃない。だから・・・今から言う事は忘れてね?」
岡田のお姉さんは突然にそう言うと、僕のベッドへと近づいてきた。
そしておでこにそっと手を当てられた。
たったそれだけの行為なのに、自然と気持ちが落ち着いていく。
「お姉さんの事も、結衣の事も、そしてそれ以外ででも、何かの悩みにぶつかったなら、いっそのこと本人に直接どうしたらいか、どうして欲しいのか、そして・・・自分がどうしたいのかを直接口に出す事!!」
341名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 21:03:36 ID:jqmg22qN
342サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:04:06 ID:2g3K5WbL
点滴が終わる。
これで僕の身は自由だ。今すぐ姉ちゃんのところに向かって駆けだすことも出来る。
だが僕の足は動かなかった。
「それは間違いなんじゃないですか?だって他の人の事を考えると、大事な人を幸せにはできないんですよね?考えていいのは一人だけなんですよね?」
陽菜の教えてくれた答え。きっとこっちの方が正しい。
いくらお姉さんの言葉の方が魅力的だったとしても、陽菜の言葉の方が現実的だ。
「何の事?私何か言ったかな?」
わざとらしく忘れたふりをされる。もうこの話は終わり、と言わんばかりに。
「・・・点滴、有難うございました。もう行きますね」
向こうから強制的に打ち切られたのに、こっちからしつこくするものではない。
お礼を告げた後、ドアに近寄り、ノブに手をかけた。
「あ、そうそう。一つ言い忘れてたけど、さっきの慶太君、お姉さん以外にも結衣の事考えていたでしょ?」
「え?」
「それなら慶太君はもう誰一人幸せにはできないってことだよね?ならいっそのこと、諦めちゃったら?」
お姉さんはそう言って僕に手を振った。



陽菜の言葉とは水と油、お互いに反比例するお姉さんの言葉。
その両方を頭で整理しながら、ある一室の前にたどり着く。
ゆっくりとスライドドアを開ける。
「姉ちゃん、気分はどう?」
僕の声にベッドの上の掛け布団が反応した。
「なんだ・・・来てくれたのか・・・」
「当たり前じゃん。これでも弟なんだから」
久しぶりの円滑な会話。それだけのことで嬉しくなる。
「・・・ウチの事は嫌いなんじゃなかったのか?」
姉さんの目は僕を映していなかった。ずっと窓の方を向いている。
(また言われるのか・・・また嫌いだって・・・)
よく分かってるじゃないか。
「あぁ大嫌いだよ。俺を置いて死のうとするなんて、姉ちゃんなんか大嫌いだ」
足音を立てながら姉ちゃんの方に歩いて行く。
「なんで死のうとするんだよ!」
肩を思いっきりつかむ。
その行為に姉ちゃんの目がやっとこっちを向いた。
いつものような強い光がなく、深い海のような瞳。
「・・・別にいいだろ・・・このまま生きていたって・・・どうせ・・・」
「どうせ何だよ!どうせ何だって言うんだよ!!」
その途端、姉ちゃんの眉がつり上がった。
「お前はウチの事が嫌いなんだろ!!だったらもう生きて行く意味なんてないんだよ!!」
眉だけじゃない。その目も吊り上がっていた。
「そうだよ!!ウチはお前の事が好きなんだ!!好きで好きでどうしようもないくらい好きなんだよ!!だからお前から嫌われたのに生きていくことなんかできねぇんだよ!!」
口から直接聞いたその思いは、頭で聴いたときよりも衝撃が大きかった。
「気持ち悪ぃと思ってんだろ!?実の姉なのに弟に恋心を持つなんてバカバカしいと思ってんだろ!?笑えよ!!笑って、早く死ねよ、とでも言えよ!!」
343サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:07:07 ID:2g3K5WbL
「・・・言えるわけないよ・・・」
そんな言葉、思った事すらない。
「だったらウチの本当の気持ちを全部ぶちまけてやる!!ウチは陽菜の事が大っ嫌いだ!!何回もアイツの顔をぶん殴ってやろうと思った!!
それにお前とあいつが仲良くしているのを見た日は、いっつもそこら辺の奴に絡んで行ったんだぞ!!岡田だって同じだ!!あいつの顔を見た
だけで吐き気がしてた!!恭子はなんで妹ヅラで家に泊りに来てんだよって思ってた!!だからあいつがいなくなった時、正直ほっとした!!
これでやっと慶太の一番近くにいるのはウチだって!!どうだ!!これを聞いて驚いただろ!?ウチはいつもこんなことばっかり考えていたん
だよ!!そんな気持ち悪い姉なんか、本当は死んでほしいと思ってんだろ!!」
一気に捲し立ててようやく落ち着いたのか、その後は驚くほど小さな声に様変わりした。
「・・・それだけじゃない・・・お前のいない間に何度もベッドに潜り込んだり・・・何度も寝込みを襲おうと思ったり・・・そんな姉なんか・・・いらないだろ?」
姉ちゃんの目には大量の涙が溜まっていた。それを支える瞼も、何かの拍子で決壊する脆さが見える。
「だから・・・もう死にたかったんだよ・・・」
話が終わる。
想像していたよりも深く、重い内容だった。
ここから僕はどうすればいい?
陽菜の言った通りにすると、姉ちゃんは再び自殺を試みるに違いない。
岡田のお姉さんの言った通りにすると、姉ちゃんがその後どうするか分からない。
考えるまでもなかった。
姉ちゃんの死だけは絶対に嫌だ。
「・・・ごめん。さっき言った事は真っ赤なウソ。俺も・・・姉ちゃんの事が好きだよ」
「・・・っ!てめぇ!!」
落ち着いていた姉ちゃんが再び怒りを形相に表した。
そして次の瞬間、世界が反転したかと思ったら、目の前に姉ちゃんの顔がきていた。
僕の下はベッド。どうやら押し倒されたらしい。
「よくもそんな事が言えるな!!ウチの気持ちを知った上でよくも・・・!!」
「言えるよ。だって本当なんだし」
「・・・だったらこんなことしても文句言うんじゃねぇぞ」
姉ちゃんの目が閉じられた。
(キスしてやる・・・慶太にキスしてやる!!)
ゆっくりと近づいてくる顔。
それを僕は目を開けてずっと見ていた。

・・・ちゅっ・・・

「ん・・・んん・・・」
「・・・」
人生二度目のキス。それが実の姉とになってしまった。
でも僕には嫌悪感が感じられなかった。
それよりもこれで姉ちゃんが生きてくれる。その幸福感の方が勝っていた。
だから僕は、何分、何時間でもキスしていても良かった。
だが姉ちゃんの唇はすぐに離れていった。
「・・・何でだよ・・・何で・・・なんだよ・・・」
「どうしたの?もっとキスしないの?」
「できるわけねぇじゃねぇか・・・そんなに・・・泣かれると・・・」
その言葉で自分の顔に意識が集中する。
確かに僕の視界は酷く霞んでいた。
344サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:10:04 ID:2g3K5WbL
「そんなに嫌がるなよ・・・そんなにウチとのキスは・・・嫌なのかよ・・・」
嫌じゃない。でも何で泣いているのか自分でもわからない。
「だったらなんで抵抗しないんだよ!!」
「抵抗?するわけないじゃん。姉ちゃんが死なないでいてくれるのに・・・抵抗なんてするわけないじゃん」
僕は思ったままの気持ちを露呈した。
「俺は姉ちゃんに生きていてほしい」
姉ちゃんの気持ちが少し分かった気がする。
僕も自分の口が止められなくなった。
「俺は姉ちゃんの事が好きだよ。本当はもっと甘えたかった。もっと悩みを聞いてもらいたかった」
ここまでだ。これ以上はしゃべるな。
「なのに自殺しよとするなんて・・・本当に俺の事が好きなの?なんでもっと俺の事を考えてくれないの?」
滅茶苦茶だ。僕のとった態度が全ての原因なのに、どの口がそんな事を言えるんだ。
「俺も本当の・・・母さん達くらいにしか言ってない秘密を言ってやる。俺は10歳頃からサトリといって、
人の感情が声になって聴こえてくるようになったんだ。当然、姉ちゃんの気持ちにも気付いていたよ。だけど
気付かないフリをしてた。姉ちゃんのことだし、そっちの方がいいと思って。でも今思えば、あの時に
言っとくべきだったと思ったよ。あの時だったら、さすがにここまでの事はしないだろ?」
少し時間を置かせる。姉ちゃんに頭の整理をさせるために。
「・・・感情が聴こえる・・・?」
「そう。人が考えたことが聴こえてくるんだ。今日は何が食べたい、会社に行くのが嫌だ、とか。毎日毎日」
「・・・つらくないのか?・・・ウチの気持ちとか・・・毎日聴かされて・・・」
「つらかったよ。姉ちゃんの気持ちを聴くのは本当につらかった。答えてあげることができなかった分、余計にね」
今まで言えなかった事を口に出すと、なにか不思議な感覚に囚われた。
ここからは何でも言える。多少のわがままも聞き入れてもらえる。
だから初めて姉ちゃんに甘えた。
「恭子ちゃんのときも辛かった・・・気持ちを知ってたのに・・・それを拒絶するのが・・・」
姉ちゃんを抱き寄せる。顔がちょうど姉ちゃんの胸に隠れるように。
「岡田にもなんて言ったらいいのか・・・どうしたらいいのかって考えると・・・」
姉ちゃんの手が頭に乗せられた。それがとても温かく感じられる。
「陽菜も・・・最近、何か悩みを抱えているみたいだし・・・でも俺にはそれが何なのかわからなくて・・・」
「・・・」
「父さんも母さんも親戚の家に行ったっきり帰ってこないし・・・もう姉ちゃんだけが頼りなんだよぉ・・・」
「・・・分かったから・・・もう泣くなよ・・・」
僕は子供のように泣いていた。
そして、それを必死にあやしている姉ちゃんには、もう危なげな雰囲気は感じられなかった。
「ごめんな?自分の事ばっか考えてるような姉で・・・本当にごめんな・・・?」
「もうこんなことしないでよ・・・自殺なんか・・・絶対にしないでよぉ・・・」
「あぁ、もうしない。もう絶対に慶太を悲しませないよ」
(そうだ・・・確かにウチは慶太の事が好きだけど・・・悩ませるような事は・・・)
「悩ませてもいいから・・・そばにいてよ・・・どこにもいかないでよ・・・」
「っ!?・・・そっか・・・これがサトリってやつか・・・」
それからしばらくして、僕の頭を撫でていた手が後頭部に回された。
姉ちゃんはまるで恋人を抱きしめるように、やさしく僕の頭を抱きしめてくれた。
「・・・やっぱりウチはお前の事が大好きだ・・・一人の男性として・・・」
「・・・うん」
「でも・・・それ以上に・・・弟として・・・家族として・・・お前が大好きだ。だから・・・」

(ウチはお前の姉ちゃんに戻るよ)

「うん」
345サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:11:39 ID:2g3K5WbL
次の日、いつもどうり陽菜を呼びに行くために家を出た。
「・・・いないのか?」
だがインターホンを何度も鳴らすが、一向に目の前のドアが開く気配がない。
そこで昨日の電話が蘇る。もしかすると何かあったのかもしれない。
と、そのとき携帯が鳴った。メールだ。
[カギ、開いてるからそのまま私の部屋まで来て]
不信に思いつつも、言われたと通りにドアを開ける。
「なっ・・・!」
目の前には信じられない光景が繰り広がっていた。
家の中がひっくり返されている。
置いてあるのものが壊されているのはまだかわいい方だった。壁紙が全て剥がされているのに比べると。
それに・・・なんだこの臭いは?なにか食べ物の腐ったような、そんな独特の臭いは?
階段を駆け上がる。
「陽菜!!」
部屋のドアを思いっきり開け、そこにいるはずの人物を探す。だが誰もいない。
「・・・確かにここに来てって―――」
またしても携帯が鳴った。今度は電話だ。
「ごめんね?実は今、違うところにいるの。でもここから慶太の事は見えてるから安心して」
「な!?じゃあ俺はどうすればいいんだ?」
「このまま電話してて・・・お願い」
お願い。
その言葉に僕は押し黙る。
「今思うと私達って不思議な関係だよね。友達以上恋人未満みたいな」
陽菜は何処か思い出話をするかのようなしゃべり方をしてきた。
「・・・どうしたんだよ?それにこの家の状況は一体なんだよ?」
陽菜のこの家を見る限り、何かあったことには間違いない。
それに加えて、直接じゃなく、こんな回りくどい事をしての会話なんて、よほどのことがあったに違いない。
「ん〜、それはちょっと言えないな。それよりも慶太の好きな人のお話が聞きたいな!」
「はぁ?なんで今岡田の―――」
「ふざけないで」
「っ!?」
驚くほど冷たい声。
本当にこの電話の向こうにいるのは陽菜なのか?
「私は慶太の好きな人の話が聞きたいって言ったんだけど」
あ・・・れ?陽菜は岡田だと思ってたんじゃなかったっけ?
「ほら、早く言ってよ。俺には好きな人がいて、その人の事だけを考えて生きていくって」
「お、おい、マジでどうしたんだ―――」
「早く言ってよ!!俺はお前の事が誰よりも好きだって!!お前の事だけを一生考えるって!!」
「な!?なんで俺の好きな人が分かって、え、ど、どうして・・・?」
あまりの事に電話を落としそうになる。
陽菜の方もこんなことを言うつもりがなかったのか、息を飲んだ音が聞こえてからは静かになった。
「・・・あ、あははは・・・何言ってるんだろ、私。今言った事は忘れてね・・・?」
忘れてねって言われても・・・
あんなセリフを声を荒げながら言われたんだ。それもあの陽菜に。
忘れる事なんて不可能だ。
「・・・でも聞きたいな。慶太の気持ち」
俺の・・・気持ち・・・?
「慶太は私の事好き?友達とかじゃなくて、女の子として。それから・・・」
汗がぽたりと落ちる。

「結衣ちゃんと比べて」
346サトリビト ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/19(月) 21:16:38 ID:2g3K5WbL
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。

ヤンデレは・・・次の話からちゃんとしていき・・・たいです。
336さん、無視した形になってしまいすいません。更新してなかったもので・・・
347名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 21:50:31 ID:LfCdj7MD
GJ!


お姉さんが普通に戻ってくれて自分的にはすごくホッとした!!


物語も佳境に入ってきたので次回も楽しみにしてます!
348名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 21:54:18 ID:QKFFAL0I
とりあえず姉ちゃんが助かって良かった…gj…陽菜の方はこれから修羅に成りそうだが、個人的には岡田や姉ちゃんの方が好みだったりする。
349名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 21:58:20 ID:J+1bZZRo
面白かったよー

番外編マダー?
350名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 22:02:05 ID:MEpM8sSK
全裸待機してた甲斐があったぜ!
351名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 00:35:29 ID:h+y8WvaQ
Gjです!
もう慶太を携帯したい気持ちなんだろうね
352黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:48:56 ID:vYO+AfJ3
「黒い陽だまり」投稿します。
第一話ですが、プロローグ読んでないと意味分かんない内容になってます。

後、今更ですが、プロローグの最後の
「僕はその可能性に目を反らしながら〜」

「僕はその可能性から目を反らしながら〜」
の間違いでした。意味が真逆になってしまうので。
353黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:49:38 ID:vYO+AfJ3
今でも折にふれて、僕はあの時のことを思い出す。
あの時の僕の選択は、間違っていたのだろうか。
僕に依存しきっていた彼女をそのままに受け入れ、空虚な瞳をした彼女の細い体を抱きしめてあげれば、彼女は死なずに済んだのだろうか。

何度考えても答えは出ない。

でも、僕がもう一度あの時をやり直せたとしても、僕は彼女を受け入れないし、
あのレストランに彼女を置いて外で雨に打たれることを選ぶだろうということだけは、わかっていた。



「先輩って」と彼は言った。「どういう人なんですか?」
新入社員歓迎会が終わった後の帰りのタクシー、という状況を除いたとしても、それはかなり唐突な質問と言えた。
「自分がどういう人間かを正確に把握してるやつなんて、そうそういないんじゃないかな」
「いや、そういうことじゃないっす。えっと、なんていうか、要するに周りからどう思われてるかでいいんです」
酔いの影響もあるのだろう。僕がさりげなく論点をずらそうとしても、彼は諦めずに食い下がってきた。
「社会人としての社交性は持っているし、仕事もそつなくこなすけど、喜怒哀楽の感じられない気味悪い奴、ってとこかな」
「感情が薄い、ってことですか?」
「うん、そうだね。自分でもそう思う。でも、それで別段困ってないからそのまま放っといてるよ」
彼は、狐につままれたような顔をした。どうやら彼は、自分の感情に疑問を持つなんて事とは一切無縁の世界に生きているようだ。
そういう人生もある。
それを鼻で笑いたい気持ちもあったけれど、憧れにも似た羨望を感じたこともまた、事実だった。
「で、仕事もそつなくこなせるんですか?」
彼は赤らんだ顔で聞いてきた。
随分無粋な質問だった。
こんな質問が出来るなんて、相当酔いが回っているのだろうか。
もしかしたら、酒を飲むとはそういうことだ、と大学で刷り込まれたのかもしれない。
「そつなく、というか、誰にでもできる仕事は確実にこなせるし、仕事の質や速さも真ん中よりは上だと思ってる。ただ、別段上位ってわけではないけどね」
「なるほど。後、最後にもうひとついいですか?」
「何?」
「あの、気を悪くしないでくださいよ。社会人としての社交性は、持ってるんですか?」
「僕は今、大して知りもしない酔った後輩をタクシーで送りながら、そんな質問に答えようとしている」
「確かに」と彼ははにかみながら言った。「社交性がなきゃ、そんなことやってられないっすね」
窓から外を見ると、まだ終電が残っているのだろうか、歩道を歩く中年のサラリーマンが視界に入った。
飲み会の帰りのようだ。もしかしたらそれは、飲み会という名の接待だったのかもしれない。
深夜に我が家へとたどり着いた時、果たして、彼を待っていてくれる家族はいるのだろうか。
「でも」と僕は十分に間を開けてから言った。「何でそんなこと聞いたんだ?」
「いや、あのですね。普通初対面でも、話してたら何となく感じるものってあるじゃないですか。
ああ、こいつは自信家だな、とか、こいつとはそりが合わなさそうだな、とか、こいつは優しい奴だな、とか。
先輩には、そういうのが一切なかったんです。
ほら、あれです、雲をつかむような感じです。
どういう人間なのか見当もつかなくて。どうしても気になったんです。
それで、あの、すいません。失礼な質問しちゃって」
「いや、別に気にしてないよ」
その言葉を額面通りに受け取ったのかどうかは分からなかったけど、僕がこれ以上話しかけられたがっていないことは察知できたようだ。
彼はそうっすか、と一言呟いた後は一切僕に話しかけようとしなかった。
もしかしたら彼は好奇心旺盛なだけで、僕が思っていたよりは有能な人間なのかもしれない。
それとも、質問をしたところで一向に正体のつかめない僕という存在を、ただ気味悪がっただけなのだろうか。
354黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:50:42 ID:vYO+AfJ3

ようやく自分の家にたどりついたころには、時計は一時を回っていた。
玄関に入ってすぐ横の棚には、プラスチック製の虫カゴが置かれていた。中には一匹のカマキリと、乱雑に置かれた草や枝が見える。
数か月ほど前に、地元の小さな昆虫ショップに売られているのを見かけて、何となく飼い始めたのがはじまりだった。
最初は近くの草むらから餌を捕まえていたけど、昆虫ショップで餌用のバッタが売られていることを知ってからは、そちらを利用することにしていた。
今では、餌用のバッタを生かしておくための虫カゴも別に用意している。
何故そんなものが必要かというと、カマキリは、生きた餌しか食べないからだ。
生きているやつをそのまま食べないと満足しないなんて悪趣味だな、なんて最初は笑っていたけど、
実物を見たこともない動物の細切れにされた死肉を好んで食べるのが、もっと悪趣味なことに気づいたのは、ずっと後になってからだった。

リビングに入ると、美香は椅子に座ったまま、机にもたれかかる形で眠っていた。
机の上には、美香の手料理が並べられている。僕の帰宅を待っている内に、こらえ切れずにうたた寝してしまったのだろう。
僕はそれを見て、美香に今日が新入社員歓迎会の日だと伝えるのを忘れていたことに気づいた。
明日の美香に対して、軽率な行動は絶対に取れない。五年間の結婚生活の中で、僕はそれを身をもって体感していた。
明日の美香を少しでもいつもの美香に近づけるため、僕は机の上にある食事を黙々と食べ始めた。
もちろん美香の手料理なんだから、美味しいことには違いない。
しかし、飲み会終りの僕の胃にとって、それは苦行以外の何物でもなかった。
何とか机の上に並んだ料理の数々との激闘を潜り抜けた僕は、ぼんやりと美香の寝顔を見つめていた。
穏やかな寝顔だ。
それは、今世界中でどんな問題が起こっていようと、数分後には全て解決すると錯覚してしまいそうになるような、純粋で安心しきった表情だった。

食事を終えてシャワーを浴び、寝間着に着がえた所で僕は一つの問題に気づいた。
僕と美香との間には、今年で4歳になる娘がいる。
名前は果林だ。
美香は今、目の前でうたた寝をしている。
では、果林はちゃんと寝かしつけられているのだろうか。
僕は急いで寝室に向かった。ドアを開ける。
暗闇の中で小さな身体が布団に横になっているのが見えて、僕は安堵の息を漏らした。
美香は果林をちゃんと寝かしつけてから僕の帰りを待っていたようだ。
考えてみれば母親として当たり前のことだし美香がそれを見落とすわけもなかった。
僕は自分の早とちりに思わず苦笑した。

とりあえず僕は寝室の毛布を手にとって、リビングまで持って行った。
それを美香の背中にそっとかける。
美香を起こして寝室まで移動させても良かったけど、美香は睡眠を邪魔されると途端に不機嫌になる。
今の状況では、それは出来る限り避けたかった。
かといって何もしないでいても後で文句を言われる。
それに、このまま放っておいたらいくら何でも美香がかわいそうだった。
だから僕は、彼女がうたた寝をした時には毎回毛布だけかけることにしている。

寝室に戻った。
電気を付けて果林を起こしてしまうのはまずいので、僕は闇の中を手さぐりで進み、自分の布団まで移動した。
そのまま横になる。新入社員歓迎会での疲労もあって、僕はすぐさま眠りに落ちた。
355黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:52:38 ID:vYO+AfJ3

夢だと気付いている状態で見る夢のことを、明晰夢と言う。
その中で人は空を飛んだり巨大化したり、好きなことができるらしい。
ならば、今僕が見ているこの夢は、一体何なのだろうか。
夢の中で夢と気づいている点では疑いようもなく明晰夢だったけど、僕はその中でなんの行動も起こせなかった。
自動的に体が動いている。
たとえるなら、映画を見ているようなものだ。
ただひたすら目の前を流れる過去の映像を受け取るだけ。
映画と違うのは、その当時の感覚も同時によみがえるということだろうか。
映像は、明らかに見覚えのあるものだった。この夢は今までに何度も見ている。
果林が生まれたときのものだ。
相当な難産であり、直接果林と対面できたのは、果林が五日間保育器にいれられた後のことだった。
僕は丁寧に、目をつむって寝ている生後五日の果林を抱き上げた。
果林は、本当に小さかった。
目が二つ、鼻が一つ程度の共通点で、自分と同じ人間と判断するのが馬鹿らしくなるほどだ。
しかし僕は、それとは根本的に違う部分で、不思議な違和感を感じていた。
生まれたばかりの赤ちゃんは猿みたいな顔だというのをどこかで聞いたことがあったけど、果林はもう随分と目鼻立ちがはっきりしていた。
眉尻が微かに上がっており、勝ち気で少し気の強そうな印象を与える顔。
赤ちゃんだということを考慮しても小さめで可愛らしい鼻。
化粧もしていないのに、鮮やかに赤い唇。
生まれて間もない割に量のある髪は、奇麗な栗色だ。
少し気の強そうな顔、小さめの鼻、鮮やかに赤い唇、綺麗な栗色の髪。
そのどれも、いつか、どこかで見覚えがあった。思い出す寸前まで来ているのに、ギリギリの所で引っかかっている。
無理やり思い出そうとすると、まるで頭がそれに抵抗しているような軽いめまいを感じた。
ここまではいつものことだ。しかしそこから、今まで見てきた夢とは異なる事態が起こった。
僕は、思い出したのだ。その、どこかで見たことのある顔が、一体誰のものなのかを。
僕の顔から血の気が一斉に引いていくのと同時に、腕の中の小さな果林が、その大きな眼を見開いた。
その瞳はあの見覚えのある、奇麗な、奇麗な、鳶色だった。

356黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:53:00 ID:vYO+AfJ3

僕は、小さく叫び声をあげて目を覚ました。
それが夢であることを改めて確認して、僕は息をつく。
安堵した僕は、左半身に感じる違和感に気がついた。
恐る恐る左を見ると、僕のYシャツを着た果林が、左腕に抱きついている。
その顔は、夢で見た果林より、さらにはっきりと、彼女に似ていた。
僕は原始的な恐怖を感じ、思わず彼女、いや、果林を振りほどこうとした。
しかし果林は、眠ったまま決して僕の腕を放さない。
幼児とは思えない、恐ろしい力だった。
大人の男とまではいかないが、成人女性と言われてもおかしくないぐらいの力だ。
僕はそこでまた、不必要な想像力を働かせてしまった。
僕が自分の想像に恐怖している中、美香が寝室に入ってきた。
僕に抱きついている果林を見ると、美香は笑いながら果林を起こした。
「ほら果林、また抱きついてたわよ」
果林は目を覚ましたもののまだ寝ぼけているようで、うにゃうにゃ言いながら小さい声で謝った。
その姿は純粋に愛らしい。
既に果林から、彼女の影は消え去っていた。
少し落ち着いた僕は、当然の疑問を感じた。
「果林は」と僕は言った。「何で、僕のYシャツを着てるんだ?」
「ああ、それはね、なかなか寝付かないんでどうしようかと思って、試しに渡してみたら気にいっちゃったみたい。ほら、果林はお父さんっ子だから」
父親の立場から言うのもなんだけど、果林は確かにお父さんっ子だった。
それも極度の。
美香がどんなに食べさせようとしても口にしなかった離乳食を、試しに僕があげようとしたら、あっさりと喜んで食べた。
今では我慢できるようになったけど、最初の頃は、僕から離れるだけですぐに泣き叫んでいたものだ。
泣きじゃくっていても、僕が抱きあげてあやすとすぐに泣きやみ、嬉しそうな声をあげてはしゃぎ出すのが常だった。
今だって、長時間僕と会えないでいるとすぐ聞かん坊になる、とは彼女談だ。
僕の前では素直な良い子でいてくれるのは嬉しいけど、このまま幼稚園にあがって大丈夫なのか、と以前は夫婦で心配していた。
実際果林は幼稚園に行くことを随分と嫌がったけど、最終的には僕の根気強い説得に渋々折れてくれた。
親バカかもしれないけど、果林は、我慢することを知っている頭の良い子だったのだ。

「さ、ご飯よ」
僕は美香にそう言われて、寝室から出ようとした。
寝室のドアを開いたところで、気がついた。果林が寝室を出るのを、僕は見ていない。
僕は、後ろを振り返った。
果林は寝室で一人、立ちつくしていた。
その姿からは愛らしさではなく、何故だろう、どこか懐かしい美しさを感じた。

そして果林は、あの綺麗な鳶色の瞳で、僕を、ただじっと見つめていた。

357黒い陽だまり ◆riLyp5qrlZvj :2010/07/20(火) 01:55:05 ID:vYO+AfJ3
以上で終了です。読んでくださった方、ありがとうございました。

ストーリーは半分書きながら考えているので確かなことは言えませんが、
ある程度の段階までいったら、またもう少し時間が経った後の世界が舞台になると思います。
358名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 02:22:12 ID:/kPnl54y
GJ!!
まさか、かつて自殺した彼女が自分の実の娘として転生してくるとは……こ、こえぇぇ!
359名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 02:59:05 ID:PS4nxwrG
GJ

果林ちゃんは何歳で覚醒するのか……
360名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 03:15:16 ID:qy2pyMmW
GJ。コワイヨコワイヨ
しかしまぁこれだと果林は両親どちらとも似てない→浮気の疑いが出るかもしれん

>>359
見た感じ産まれた時点で既にって気がしないでもない

んで自殺した彼女の魂は主人公の娘として形を成すまでどこにいたのか、と考えて下品な想像に至った
361名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 11:21:34 ID:5/7hLLxm
GJ!
当然奥さんもヤンデレですね分かります

んで、全然関係無いけど「桜の幹」の続きを心待ちにしてるのは俺だけなのだろうか・・・
362名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 11:59:55 ID:GN2vI2tl
>>361
お前だけだな。
363名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 12:01:21 ID:3D+yVTjA
俺も見たいけど、そういうのは荒れるからやめたほうがいい
364名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 12:02:53 ID:pxmSFjeY
こういう描写重視の作品好きだな〜GJ!!

>>361
俺も待ってるんだぜ
365名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 12:42:27 ID:65bXIM/x
>>357
俺はあんまりレスしないんだが…これはいいものを見せてもらったGJ
早く、また投下お願いします。続きが久々に読みたいと思った
366名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 16:05:59 ID:xIjwLxE+
>>357
GJ
久々にヤンデレssでうろたえてしまった
367名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 16:31:43 ID:SrFW637P
囚われし者って完結したのか?
368名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 17:45:55 ID:/kPnl54y
>>367
確か、幼馴染みと婚約結んだ処で止まってる。
369名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 18:21:25 ID:CysW+tVV
>>357
GJ
文は普通にうまいから、もう少し分量を多くしたら人気出ると思うよ
10レスぐらいあれば文句なし
370名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 20:14:19 ID:gqOXE7Hi
>>363
失礼した
自重しよう
371名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 21:15:19 ID:79Y5V1jt
転生とはすばらしい
この発想はなかなかでてこないよ
372名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 22:53:25 ID:5S50Pnor
何代に渡ってたたり続ける気だよwww
373名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 07:51:53 ID:DUizUnfq
久々に恐ろしいSSを見たぜGJ
374名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 15:49:45 ID:bSbxzw2d
>>371
キモ姉、キモウトスレで桃太郎の話をモチーフにした転生物があるよ
オススメだ

スレ違いスマン
375名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 17:17:44 ID:69kaBgyx
作者か?
あれのどこがオススメなんだよ。いいとこなんて全くない。たまに投下してるようだが全部スルーだわ









って本音言われたくないだろ?だったら軽々しくそういうこと言うな
376名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 17:31:38 ID:dOxsvnAs
次いってみよー
377名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 19:19:56 ID:g/KovELz
馬鹿みたい
378名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 19:24:42 ID:zGYQW9iu
スルー検定2級の俺には造作もないことだ
379名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 19:28:36 ID:g/KovELz
ですよねー

作者様の投稿を心よりお待ちしてます
380名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:44:44 ID:9j1wMr+u
魚は自分が釣られたことを理解できない
381名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:54:43 ID:g/KovELz
↑うんうん 分かる分かる
馬鹿だよねー

作者様の投稿を心よりお待ちしてます
382名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 22:12:18 ID:RTmm9IJp
オイオイ俺以外が荒らしてんじゃねぇよ
と注意しておくわwwwww
こことキモスレを荒らして良いのは俺だけwwww
逆に言うと俺が荒らすことによってここの住人の団結力()をたかめている事は確定的に明らかなわけだ
所謂必要な悪を引き受けているのが俺
うはwww俺テライケメンwww
わかったら荒らすんじゃねぇぞ(^ω^♯)クソガキども
葉月たんペロペロ
383名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 22:17:49 ID:531d3THW
384名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 22:30:45 ID:J2SOOLg5
随分と香ばしいな
385名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 22:56:03 ID:bvt0zO7j
病まない妹が欲しいです
386名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 23:09:04 ID:+tcAtJqc
1.妹に告白する。
2.妹以外の女に嫌われるよう行動する。恋愛フラグは全てへし折る。
3.妹との恋愛フラグは全て回収する。
これでおk
387 ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:39:52 ID:WTpz/NJg
深夜にこんばんは。
以前「きみとわたる」を投稿していた者です。
今回、新作が出来たので投下したいと思います。長さは長編を予定しています。

注意として、今作は「きみとわたる」で残した伏線も回収予定です。
なのでそちらを読んでいただくとより物語を楽しめると思います。

それでは投下します。
388リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:41:31 ID:WTpz/NJg

目を開けると白い天井が広がっていた。何色にも染まっていない純白。俺はそれを眺めて思った。
世界はこんなにも白かったのかと。
「…………あれ?」
静の空間を切り裂いた何とも間抜けな声は俺自身のものらしい。しかしそんなことはどうでもよい。
今一番の問題は
「……俺、誰だっけ?」
俺が何も覚えていないということだった。



「いやぁ、まさか意識が戻るとはね。診察したところ、記憶喪失みたいだけど…いやぁ、とにかく意識が戻ってラッキーだったよ」
とりあえず病室を出て廊下をふらふらとしていたら看護師に捕まり、この黒川という医師のところに連れて来られた。
「…はぁ」
どうやら俺の担当医らしい。
しかし俺は自分が誰とかいう前に何でここにいるか分からないんだ。
これの何処がラッキーなんだろうか。
「そんなに暗い顔をするものじゃないぞ?なんせあんなに出血して、生きている方が奇跡だからね」
今、出血って言ったような…。
「…出血、ですか」
「ああ君、自分が何でこの病院にいるかも覚えてないのか。失敬失敬。君はね、ここに運び込まれた時には出血多量だったんだ」
「…何で出血したんですか?」
「腹部を刺されていたからね。そのせいだと思うよ。…誰かの恨みでも買ってたのかな?」
黒川は笑ってごまかすが俺は何か嫌な感じがした。
…何かの事件にでも巻き込まれたのだろうか。しばらく何も言えなかった。



病室に戻された俺は仕方なくベットで安静にしている。
よく見ると腹部には治療の後がありガーゼが貼ってあった。触ると確かに痛い。
…やはり刺されたことは事実のようだ。
「……訳が分からない」
さっきの黒川という医者によると、俺の記憶喪失は出血多量が原因らしい。
「俺、誰かに怨まれてたのかな…」
もし以前の俺が多少なりとも怨まれていたとしたら、こちらは何も覚えていない。
最悪の状況だった。
「あ、まだ俺の名前…」
自分の名前を聞くのを忘れていたのを思い出したが、急な眠気によりそれは阻止された。
389リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:43:46 ID:WTpz/NJg

雨が降る町の中を一組の男女が歩いていた。
一本の傘の中、二人は寄り添うように歩いている。
その姿は誰が見ても微笑ましいものだった。二人の後ろに有る影以外には…。



「…………夢、か」
目を開けると相変わらずの天井が視界に入った。
「…そっか…。病院にいるんだっけ…」
…さっきのは一体何だったんだろう。やけにリアルな夢だったけど…。
「…まあ、夢は夢だしな」
人の見る夢には何か意味があるっていう人もいるみたいだが、そんなの関係ねぇ。オッパッピーだ。
「…くだらないことは覚えてるのにな」
今にも消えそうなピン芸人のネタは覚えているのに、自分の名前が思い出せないとは…。
「とりあえず…あの医者に聞きに行くか」
彼なら俺のことについて何か知ってるはずだ。少なくとも名前くらいは…。



「君の名前か。こっちが聞きたいくらいなんだけどね」
「…どういうことですか」
「急に来るから何かと思ったけど。まあ君は何も覚えてないんだもんね」
「…身分を証明するもの、携帯とか財布とかになかったんですか?」
「無かったよ。…携帯や財布自体がね。君が発見された時、君は何も所持していなかったらしいし、君を見舞いに来る人も今のところいない」
……つまり手がかりゼロ…ということらしい。
「一応県内の失踪届けも当たってみたが、君らしき人はいなかったし」
「…そう、ですか」
「…まあ、まだ事故から一週間ほどしかたっていないし、警察も動いているみたいだからすぐに分かるよ」
‘事故’。警察がたかが事故なんかで動くのだろうか。それに……腹部を刺されて‘事故’な訳無い。
「……戻って寝てます」
「そうか…。元気を出すことだ、少年。きっと近い内に何か分かるさ。なんだったら私が名付けてあげようか?」
…意外と優しい人だったんだな、この人。もっと冷たいタイプかと思ったけど。
「…気持ちだけ、受け取っておきます」
「そうか。もし身分が分からないと、何処に治療代を請求すればいいか困るんだよなぁ」
「……失礼します」
…そんなことだろうとは思っていたけど。
390リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:46:03 ID:WTpz/NJg

「…確かここだったよな」
見上げたプレートには402の数字のみが書かれている。名前は……やっぱり書いてない。
「自分の病室を間違えたら、流石に恥ずかしいからな…」
行く時に病室の番号を確認しておいて良かった、なんて思いながら俺はドアを開けた。



部屋の中にはひとりの少女が窓際に佇んでいた。
髪は黒いストレート。腰ほどもあるそれは風になびいている。
真っ赤なワンピースは純白の病室の中では一際目立っていて、彼女の存在をより明確にしていた。
「………!」
もしかして病室を間違えたのか、と焦ってしまい咄嗟に動けない。振り向いた彼女は驚いていた。
「あ、す、すいません!間違えました!」
「……おかえり」
「本当にすいま……えっ?」
急いで病室を出ようする俺に向かって彼女は‘おかえり’と言った。しかも
「な、泣いてるのか?」
泣いていた。確かにここは俺の病室のはず。…まさか…俺のことを…知っているのか。
「君、もしかして…」
「……おかえり、要(カナメ)」
俺の……名前なのか?
391リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:48:54 ID:WTpz/NJg

太陽は沈みかけていて空は茜色に染まっている。
病室にもその茜色が広がっていて、いつもは純白な部屋をせつなげな色で飾っている。
そんな幻想的な空間の中に俺と少女はいた。
「もう一度確認していいか」
「どうぞ」
俺と赤いワンピースの少女は茜色に染まったベットに腰掛けていた。
「まず俺の名前は白川要(シラカワカナメ)。県立東桜(トウオウ)高校に通う2年4組。部活は硬式テニスをやっていて趣味は…パソコン。
家族構成は父親、母親、妹、そして俺。ここまでは合っているか?」
「少し違うわ。趣味はパソコンではなくエロゲーだし。正確にいうと両親は海外で仕事のため家には要と妹しかいない」
「…だぁー!エロゲー言うな!俺はまだその件は信じてねぇから!」
「でもこの前、あと少しでCGコンプって…」
「ストップ!とりあえず続き行くぞ!」
少女の追求もとい拷問をはぐらかし、俺は事実確認を再開する。
「えっと…そうそう。で、君の名前が確か…」
「鮎樫(アユカシ)らいむ」
「鮎樫…。何か珍しい名字だね」
「…よく言われるわ。同姓同名だしね」
「…誰と?」
「そっか、何も覚えてないんだっけ」
「…いや、基本的なことは覚えてると思うよ。ここが日本だとか、天皇は国民の象徴だとか…あ、それからオッパッピー」
目が醒めてすぐ黒川にそこら辺は検査された。
結果的には基本的な知識は覚えており、忘れているのはおそらく自分やコミュニティに関することという話だった。
「くだらないことは覚えているのに、鮎樫らいむは知らないんだ」
「…鮎樫さんは有名なの?」
「…いや、今のは忘れて。それよりも他に聞きたいことはないの?」
こちらを見つめてくる鮎樫さん。…ちょっと恥ずかしいな。
「…聞きたい事が幾つかある」
そう言いながら鮎樫らいむを見つめ返すと疲れたのか、彼女はベッドに身体を預けた。
「どうぞ」
「…鮎樫さんは何で俺の事知ってるんだ?…俺とどんな関係だったんだ?」
質問した俺に対して彼女、鮎樫さんはベットに沈んだまま少し悲しそうな顔をして黙っていた。
「……………」
「………」
茜色の病室はしばらくの間、静寂に包まれていた。…気まずい。何とかしないと。
「………あ、あのさ」
「私と要はね」
「えっ?」
「私と要…君はね、知り合いだった。それ以上でも以下でもない。…そ、ただの知り合い」
「………そっか」
本当は色々聞きたかった。
いつ知り合ったのか、どういう関係の知り合いなのか。
そもそも家族でさせまだ探せてない俺の所在を、何故ただの知り合いである鮎樫さんが知ってるのか。
でも今は聞いちゃいけない気がした。
彼女がそう言っているんだ、それでいいじゃないか…そう思うことにした。



でも後になって俺は思う。
この時もっと彼女のことを聞けたなら、結末は変わっていたんじゃないかって。
392リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:50:19 ID:WTpz/NJg

夜の病院は静かだ。
皆が寝静まっているということもあるが、何より明かりが少なく一寸先は闇、というのが静けさをより際立たせている。
そんな病院の廊下のひんやりした感触を足に感じながら、俺は電話をかけていた。
かけているのは昼間鮎樫さんに教えてもらった番号だ。
初対面の、しかもなんだか訳ありの女の子から教えてもらった番号にかけるなんて無用心かもしれない。
でも俺は何となく彼女を信用してしまったのだ。
この電話が一体俺に何をもたらすのだろう。良い知らせであることを願うしかない。
「……廊下、寒いな」
音がする。相手が電話に出たようだ。
…呼吸を整える。もしかしたら受話器の向こうの奴は俺を刺した犯人かもしれないから。
「………もしもし、白川です」
「えっと…白川…?」
「…はい、白川ですが」
聞こえてきた声はまだ幼さを残した女の子の声だった。中学生くらいだろうか。
…なんで分かる俺。いや、それよりも相手は白川。俺の苗字も白川。まさか…。
「…もしもし。何か御用ですか」
「えっと……白川、要です」
後から考えればもっと良い返しがあったはずだが、相当焦っていたんだろう。
「…………えっ?」
「だから……白川…要です」
相変わらずの返し。だか俺にはそれ以上の返事が出来なかった。
「………兄さんじゃないでしょ。あの女なんでしょ?」
「あの女?…いや、だから俺は…」
「嘘っ!兄さんの訳ないじゃない!だって…だって!…兄さんは死んだんだから!!アンタのせいで!!」
393リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:52:20 ID:WTpz/NJg
世界が、凍り付いた。
白川要が…死んだ…?じゃあ俺は……誰なんだ…。
「どうせその声も機械で兄さんに似せてるだけでしょ!?絶対殺してやる!!私はアンタを一生許さない!!私の兄さんを返してよ!!!
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ
返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ返せ!!!!!」
冷え切った廊下に響く冷たい憎悪が篭った声。そして凍りついてしまった俺。
…一体何が彼女を支配しているのだろう。怒りだろうか、それとも…。
「兄さんは…兄さんは私だけのものなのに!!」
「……俺は」
「何よ!!?」
「白川、要だ」
「………っ!!」
確かに俺は記憶喪失だ。
それに俺が"白川要"である証拠なんて一つもない。だけど
「俺は…白川要だ!」
「っ!!いい加減にしてよ!!アンタが兄さんだっていう、確かな証拠でもあるっていうの!?」
「ない!それに実は俺は記憶喪失なんだ!だからお前が誰なのか、俺とどんな関係なのかは分からない!」
「な、へっ…?」

そうだ、記憶がなければ証拠もない。でも"分かる"んだ。俺は白川要だって。何でかって?そりゃあ…。
「でも俺は白川要で、今頼れるのはお前しかいないんだ!」
「えっ…何言って…」
「頼む!もしお前が白川要のことを大切に思ってるなら…俺に会いに来てくれ!場所は…」
俺はこの病院の住所を一方的に言った後、一方的に電話を切った。
受話器からは「ち、ちょっと待ちなさいよ!!」とか聞こえていたけど、多分気のせいだ。
「…ふぅ」
さっきの熱はどこえやら。廊下はまた静寂に包まれていた。
「まあでも…やれることはやったかな」
後は向こうがどんな反応をするか、それを待つだけ。
きっと何とかなる。確かに不安じゃないと言ったら嘘になる。
でも俺は絶対"白川要"できっと何とかなるはずだ。
「彼女が、鮎樫さんが…言ってたしな」
突然病室に現れて俺の正体を教えた少女。信じる要素なんて一つもない。
でも俺は感じる。彼女のことは信じていいって。何故かは分からないけど、そう思えたんだ。
394リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/22(木) 01:55:01 ID:WTpz/NJg
今回はここまでです。
読んでくださった方ありがとうございました。
編集の方、ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします。
投稿終了します。
395名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 01:56:24 ID:2VRnhfBZ
久々のリアルタイムだ
GJ!!
396名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 02:05:45 ID:4wgRfUqU
gj!!
新作きた!今回も楽しみにしてるぜ!
397名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 02:09:39 ID:jfayWddC
GJ!!
待ってました!めっちゃ嬉しいです!
また鮎樫らいむが…でも別人か?
398名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 02:12:32 ID:hZznc9Ge
リアルタイムGJ!
里奈が好きだった俺歓喜
是非里奈も出て来て欲しい!
399名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 03:58:00 ID:iLLmTTuA
妹?兄?
おもわず回文を思い出しちまった。
そういえば奴の兄は?でるんかな?
400名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 04:53:26 ID:JfaYSKfb
まさか、鮎樫らいむって名乗ってるのが里奈じゃね?亙の事を諦め切れなくて入院って形で監禁。そもそも黒川って医者は藤川家で働いてた奴だろ?
401名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 07:22:46 ID:eBcZuCTk
GJです!

果たして無事記憶を取り戻してCGコンプできるのか楽しみにしています
402名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 12:18:46 ID:DiXlDQGr
スピンオフ作品に出て来たキャラか。

どうしてそうなったか楽しみだな。

というか今回里奈は関係ないのでは?
403名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 15:58:51 ID:VxFrMgcp
gjg楽しみだ。
404名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 23:13:55 ID:hdfolWVb
GJ!!
405名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 02:08:57 ID:GD8rEQGO
囚われし者と触雷!の続きが早くみたい!
みんなもそう思うよな!
406名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 02:46:08 ID:t0qEwQvV
GJ!!!
続きに期待
407名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 03:17:40 ID:mJBZtod/
GJ!

気になったから思わず前作一気に読んできたww
408名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 21:42:28 ID:sWpg/PQ9
インセプションを見てきたんだが、非常にヤンデレと親和性のよさそうな設定だったよ

ターゲットにアイデアを植えつけるために深層心理=夢に侵入する話で
夢世界を自由に構築できるところとか、ターゲットを自分の夢世界に連れ込めるとか
薬使って眠ってるときに夢の中で死ぬと虚無という永劫出られない空間に落とされるとか
409名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 00:16:16 ID:sLd2haM1
>>408
それ面白そうだね、読んでみたい。
410名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 00:24:46 ID:X4avhU2V
>>408
つまり・・・どういうことだってばよ!?
411名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 00:56:54 ID:Zl1KwAWO
簡潔に結論をたのむ

412リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:27:49 ID:LvHK/g05
土曜の夜中にこんばんは。2話が出来たので投下したいと思います。
今回は量が多めになってしまいましたが、よろしくお願いします。
413リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:29:34 ID:LvHK/g05

あの電話から一週間程が経ったある日。
あれから何の音沙汰もなく、俺は諦めかけていた。日課になりつつあるリハビリを終えて、俺は自分の病室に戻る。
病室の扉横には402のプレートと、その横には手書きで"白川要"と書いてある。
なんといびつな字かと思うが、同時にこれは俺が書いたんだということも思い出す。
鮎樫さんに名前を教えてもらった後、医者の黒川のとこへ伝えにいった。
しかし「成る程。これは再検査した方が良いかもね。現実と虚構が…」とぶつぶつ独り言を言い始めた。
埒が明かないので不審がられながらもナースステーションから油性ペンを借り、自分で書くことにしたのだ。
「これで大丈夫だな」
何が大丈夫かというと看護婦さんたちや同じ階の爺ちゃん婆ちゃんたちに「402号室の兄ちゃん」と言われなくなるということだ。
中々どうして、人っていうのは名前を呼ばれないと自分自身が保てなくなるらしい。
少なくとも俺は自分が果たして白川要なのかハッキリしなかった。
まあおまじないみたいな物だ。
「あれから一週間か」
取っ手に手を掛けたまま俺は考える。
同じ白川という少女との電話を一方的にぶっちぎってからはや一週間。
俺の周囲に変化はない、というか皆無だ。
耐え切れず何度か電話したが毎回留守という不運。
いや、もしかしたら…もしかしなくても避けられている気がする。
一応毎回律義にメッセージは残したが、聞いてくれているとは思えない。
「振り出し、か…」
あの少女、鮎樫らいむが残してくれた手掛かりは結局役に立たなかった。
…彼女を信用しない方が良かったんだろうか。
「…違うよな」
そうじゃない。
「ただ単に俺のやり方が悪かっただけだよな」
ゆっくりと、でもしっかりと言葉を紡ぐ。そう、これは決して彼女のせいじゃない。
だって現に、同じ白川の姓まで辿り着けたじゃないか。
「やっぱり鮎樫さんのこと、信じていい気がする」
最初から感じていた、初対面なはずなのにそうじゃない雰囲気。
知らない相手なのに信用出来てしまう俺。
ただの友達。鮎樫さんはそう言っていたけど、どうしても俺にはそんな風には思えない。
「…俺、もっと鮎樫さんのこと知りたいな」
俺は色々忘れてしまった。だけどこうして生きている。またやり直せる。まだ終わってない。
だからこそ色んな人達のことを知りたい。もう一度歩き出したい。電話やプレート、そして鮎樫さんとの出会いはその第一歩なんだ。
「何言ってるの?」
「おうっ!?」
急に背後から話し掛けられる。その凛とした声には聞き覚えがあった。
414リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:31:52 ID:LvHK/g05
「鮎樫さん…」
「当たり。早く開けてくれる?廊下は寒いわ」
その言葉に自分が取っ手を掴んだまま、ぼけっとしていたことに気がつく。
「わ、悪い…」
ドアは力を入れずとも簡単に開き、視界にはベッドと医療機器しかない殺風景な部屋が広がる。
「プレートの名前、自分で書いたのね。中々お洒落よ」
クスクス笑いながら部屋に入る彼女、鮎樫らいむは確かにそこにいた。
相変わらず髪は長い漆黒のストレート。服装も前回と同じく真紅のワンピース。
殺風景な部屋にいる彼女はとても鮮やかで、そしてそれと同じくらい儚く見えた。
「人の病室に勝手に入るなよ。つーか、いつの間に俺の後ろにいたんだ」
「こう見えても私は伊賀の出身なの。特技は忍法隠れみの術とビーズを使ったアクセサリー作りよ」
「いや、後ろは伊賀関係ねぇだろ」
「メモしておくといい」
「しねぇよ」
一体何なんだ彼女は。
テンションが前回とは全く違う。…こっちは色々と思い悩んでいるっていうのに。
「…さっきの聞いていたのか」
「要が言ってたヤツ?残念ですけど独り言を聞くほど暇じゃないし」
「そっか…」
良かった。聞かれてなかったみたいだ。俺はてっきり
「ただ、私のことは信用して良いわよ」
全部聞かれて…たのかと……?
「それに要が知りたいなら私のこと、もっと教えてあげる」
「って、聞いてたんじゃねぇか!?」
「あら、てっきり私に向かって言ったのかと思って。独り言なんて思いもしなかったわ」
ベットに座り長い黒髪をかきあげながら、彼女は微笑んだ。
「……っ!?」
途端に身体が熱くなる。身体だけじゃなく心も疼く。
「なん…だ…」
「どうかした、要?」
彼女がベットから降りて俺に近づく。
「…っ!!?」
身体がさらに熱くなる。心が疼き火照る。
まるで彼女が俺に近づくにつれ、高まるかのように。耐えられなくなり膝をつく。
「ま…て…!あゆ…か…し…さん!!来ちゃ…」
「大丈夫?汗だくだけど?」
そう言って俺の横に屈む彼女。思わず顔を上げると彼女は微笑んでいて
「言ったでしょ」
「えっ…?」
いや、微笑みにしてはそれは妖艶過ぎて
「私を知りたいって」
彼女の息遣いが聞こえるくらいに距離が狭まって
「だから、教えてあげる」
キスをされた。熱かった。瞬間花火が散った。
比喩じゃない、本当に身体の中で何か熱いものが溢れてる。
彼女の舌が入って来て、俺の舌を捕まえる。俺と彼女の唾液が混ざり合い一つになる。
歯茎を舌で蹂躙されているのに、抵抗出来ない。
それどころか入って来る。伝わってくる。
彼女の、狂おしいほどの愛情が。
憎らしいほどの純粋さが。
そして愛らしいほどの狂気が。
「……っはぁ!」
やっとの思いで彼女を引き離した時には、息も絶え絶えだった。
415リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:32:53 ID:LvHK/g05
「……っふぅ。私のこと、少しは分かった?」
相変わらず彼女は妖艶な笑みを浮かべていて、ワンピースと同じ深紅の唇からは透明な糸が俺の唇まで繋がっていた。
「…な、何を…」
「ふふっ、堪らないわね。要のその表情…」
「…っ!?また…!」
彼女に見つめられた瞬間、また身体が火照りだす。
心臓が痛いほど高鳴り、まるで蛇に睨まれた蛙のように動けない。
「記憶は無くしたって身体は覚えている。心に刻まれている。そう簡単には忘れないわ」
「な…で…いき……りっ!」
もう何も考えてられず、頭が真っ白になる。このままじゃ俺は俺じゃなくなる。
でも動けない。彼女と俺の距離が0になり
「そろそろリハビリの時間ですよ〜。今日も黒川先生が…どうしたんですか?」
「い、いや…別に何でもないです」
看護師さんが俺の病室に入った時にはもう彼女はいなくなっていた。そして病室には床で腰を抜かしている俺だけ。
「ここ4階だろっ!?」
そう、鮎樫さんは窓からあっという間に姿を消した、というか飛び降りたのだ。
「大丈夫かっ!……えっ?」
最悪の事態が頭を過ぎる中急いで窓から下を覗くと
「平気よ」
下には彼女、鮎樫らいむが何事も無かったかのように立っていた。
「…な、なんで…ここは…だってここは……」
「ふふっ、そんな要の顔も好きよ」
決して大声ではない、でもここまで届く澄んだ声。
それは彼女の瞳とあまりにも対照的だった。
「じゃあ…また、ね」
そしてそのまま病院を背に向けて歩きだす。
「一体何が…きゃっ!」
気付いたら走りだしていた。下へ下へ。
「ちょっと…!何処に行くんですか!?」
呼び止める声を無視して走り続ける。階段は飛ばし飛ばしで降りていき加速する。
「何が…何がまたね、だ!」
吐き出すように叫ぶ。
「まだ…まだ鮎樫さんには聞きたいことが!」
呼吸が乱れる。足がふらつきこけそうになりながら正面玄関を越えて
「山ほどあるんだ!!」
玄関を抜けた先には誰もいなくなっていて、代わりに蝉の声が初夏を伝えていた。
「はぁはぁ…くそっ!」
思わずその場に座り込んだ。息は絶え絶えで汗は止まらない。
「はぁはぁ…リハビリより…きつい…」
その呟きに応えは無かった。
416リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:34:01 ID:LvHK/g05

「それで結局どうしたんだい」
終業式の帰り、夏真っ盛りの気温の中坂道を下る二人の男子の姿があった。
「それにしてもあっちぃーの!これから夏休みで助かったな」
二人とも半袖の白シャツをパタパタやりながら怠そうに歩く。
「あっちぃーのって…なんだい?流行語か何かかな」
「あっちぃーのはあっちぃーのだ。何か暑い感じがひしひしと伝わってくるだろ?」
「なんだいそれ?相変わらずだね、要は。…話を逸らさないで欲しいな」
一人の男子、明るい金髪で軽いパーマの方が立ち止まりつられてもう一方の黒髪の男子も立ち止まる。
「…逸らすつもりはないけどさ」
「じゃあ聞いて良いんだよね」
「……ああ」
夏の陽射しが照り付けても二人は全く動こうとはしない。
ただお互いに向き合っている。
「要…君、断ったのかい?」
「……何をだよ」
「とぼけないで欲しいな。決まってるだろ?」
「……ああ、断っ」
言い終わるより速く、鈍い音が青空に響いた。
「…っ、いてぇ」
殴られた黒髪の男子、白川要は自分の右頬を押さえながら呻く。
「痛い…?よくそんなことが言えたね。君、自分が何をしたか分かってるはずだよ?」
もう一方の生徒は冷たい声で要に言い放った。
「分かってるよ!」
「じゃあ何で断ったのかな。彼女の気持ち、分からない訳じゃないだろうに」
要を掴み上げる金髪の少年。
口調は冷静だがその瞳は、静かな怒りをたたえていた。
「分かるさ、痛いほどに!」
「じゃあ何で」
「だからに決まってんだろ!?俺とあいつじゃ無理なんだよ!それくらい英(ハナ)にだって分かるだろ!」
途端にそれまでの煩さが嘘のように静まる世界。まるでこの世界には二人しかいないようだった。
「…やっぱりあの女なんだね」
でも二人が争っているのは他の誰かのせいで
「…それとこれとは話が別だ」
「嘘をつかないでくれないかな。要…あの女が好きなんだよね?」
そしてその誰かさんは間違いなく
「好きじゃない。……そんな言葉じゃ足りないからさ」
俺の大切な人なんだ。



「……また同じ夢」
リハビリが始まって一ヶ月。
あの鮎樫らいむの突然の訪問からも、すでに二週間が過ぎていた。
あれから俺の周りでは相変わらず変化がなく、リハビリの毎日だ。
「相変わらず変な夢だな…」
もう8月後半だからだろうか。外は蒸し暑く、まだ夏真っ盛りといった感じだ。
「ま、気にすることじゃないか。所詮夢だしな」
その割にはやたらとあの金髪パーマが懐かしく思えるのは、果たして気のせいなんだろうか。
417名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:38:38 ID:GY/yj+Ux
支援。
418リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:41:23 ID:LvHK/g05

その夢は何かの予兆だったのかもしれない。
その日の午後、ちょうどリハビリを終えて俺はロビーにいた。
…白衣を着て。
「黒川さん…まだ吸ってるのか」


リハビリが終わって、帰ろうした俺を黒川さんは呼び止めた。
「あ、少年。ちょっと待ってくれ」
「…少年じゃなくて白川要なんですけど」
相変わらずこの医者は俺のことをちゃんと名前で呼んでくれずにいる。
彼いわく「もしも違ったら困るでしょ。とりあえず確証がない間は少年だから」だそうだ。
「まあまあ、それはさておき君に重大任務を授けよう」
「またタバコ買いに行け、ですか?」
「惜しいね。でも良い線いってるよ。流石パシ…好青年だ」
…今パシリって言いかけたな。この人本当に医者なんだろうか。
「そんなに睨まないで。ね、ほんのジョークだからさ」
「はぁ…」
「とにかく。僕はね、今タバコが吸いたいんだよ」
やっぱりじゃねえか、というツッコミを抑える。
「でも白衣のままだと匂いがついてしまうんだ…困った」
「…つまり俺に白衣を持ってろと。でもそれなら、そこら辺において喫煙室に行けば良いじゃないですか」
違う違うと手を横に振る黒川さん。何が違うんだろうか。
「それだとサボってるのバレるでしょ。だから君がそれを着てロビーに立っていてくれ」
「…………はい?」
「そういうわけだから、よろしく!」
言うやいなや、タバコとライターを掴み全速力で走り去る黒川さん。
そんなに早くタバコ吸いたかったんだ。つーかそれって医者としてどうなんだ…。
「って、そうじゃねぇ!」
この明らかにぶかぶかでサイズの合わない白衣を着てロビーに立ってろって?
「……絶対にバレるだろ。…まあいいけどさ」
バレても俺は関係ないしいいか。それにあの医者には結構お世話になっているし。なにより
「…暇だしな」
俺はサイズの合わない白衣を来てロビーへ向かった。


「それにしても遅すぎだろ…」
ロビーに来て30分。知り合いの看護士さんたちに好奇の目で見られ続けていた。
それに同じく知り合いの患者達には笑われる始末。
「まさか忘れてるなんてことは…」
憎たらしいほどに飄々としている黒川さんの顔が浮かんでは消える。
「……ありえる」
もしそうだったら絶対に許さない。まずあの澄まし顔に思いっきり…。
「…ません、すみません!」
「は、はい!?」
後ろからいきなり声をかけられて、思わず声が裏返った。
419リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:42:09 ID:LvHK/g05
「えっと…とある病室の場所を聞きたいんですけど…」
明らかに警戒している感じの女の子の声。裏返ったのがダメだったか。
というか俺は医者じゃない。とりあえず振り返って正直に言おう。
「す、すいません。俺は医者じゃなくて…」
「だってこれって白衣……えっ?」
やはり女の子だった。しかも制服を着ているので学生。
背は低いけどスタイルは良く、出るところはしっかり出ている。
髪は淡い栗色で派手過ぎず彼女の容姿にピッタリだ。…って観察してる場合か。
「あー…実はこの白衣は俺のじゃなくて」
「………」
さっきから彼女は俺の顔に釘付けになっていた。
「…そんなに見られると…えっ!?」
「………っ」
今度は俺が釘付けになる番だった。何故なら彼女は無言で泣いていたから。
「な、なんで!?」
突然のことに慌てる俺に彼女は
「…なっ!?」
抱き着いてきた。しかも顔を埋めるように。そして
「うわぁぁぁぁぁん!!」
本格的に泣き出してしまったのだった。



402号室にはいつも通り"白川要"と書いてあった。
ただ今までのような雑な手書きではなくプレートにしっかりとした印刷文字であった。
何故ならばそれが証明されたからである。
「これで終わりです。お時間を取らせてしまい、申し訳ありませんでした」
黒川さんがそう言いながら席を立った。
片手には今さっきまで手続きしていた書類が入っている茶封筒を持っていた。
「いえ、家族として当然のことをしただけですから。それよりも」
そしてその書類に記入をし黒川と話しているのはさっきの女の子だ。
「ええ、お兄さんの体調はもう大丈夫ですよ。怪我も完治したしリハビリもしっかり終えたし。退院したければ今すぐにでも」
「じゃあお願いします!…その、兄さんのために」
この子は俺が三週間ほど前に電話したあの子らしい。
「分かりました。では下で手続きをしてくるので少しお待ちを」
「よろしくお願いします」
そして…なんと俺の妹らしい。
420リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:43:19 ID:LvHK/g05

「…兄さん?」
「は、はい!?」
いつの間にか黒川さんがいなくなり部屋には俺達二人しかいなくなっていた。
「…どうかした?」
「い、いや別に!」
「そう。でも今日中に家に帰れそうで良かったね」
「そ、そうだな…えっと…」
「…潤、白川潤(シラカワジュン)。兄さんと同じ東桜の一年。バスケ部所属。趣味は料理で好きなタイプは…」
「わ、分かった。思い出せなくて悪かったよ」
「まあ…良いけど」
そう。この子…白川潤は俺の妹で俺を迎えに来てくれたのだった。
しかし俺が本当に記憶喪失で潤のことを何も覚えてないと知るや、もの凄い勢いで俺を殴ろうとした。
思わず病院のスタッフ達が止めたけれど。
「さっきは死ぬかと思ったぞ…」
「だからあれは兄さんの記憶を呼び覚まそうとして、刺激を与えようとしただけだって」
「嘘つけ!あれは確実に殺る気だっただろうが!」
「…だって私のこと忘れてるんだもん」
「だからそれはもう謝っただろ?」
「傷ついた!」
「わ、悪かったよ…」
さっきからこのやり取りの繰り返し。いい加減謝ったんだから許して欲しい。それに
「あ、あの潤…さん」
「潤っ!」
「…えっと、潤?」
「何で疑問形なのよ」
「いや、何か慣れなくてさ」
「慣れろ!…それで?」
「それで…何でこんなに俺達くっついてるのかなって」
部屋は個室にしては結構広い。
それなのに潤は俺の真横にピッタリといて、おまけに腕を絡めている。
「そう?そんなにくっついてないって」
「いやいや、十分だ!だって当たってるし…」
「当たってる?一体何が当たってるの、兄さん」
ニヤニヤしながら聞いてくる潤。そりゃスタイル良いんだから決まってるだろ。
…つーか、やっぱりわざとか。小悪魔的妹め。
「いや…そりゃ恥ずかしいだろうが」
「ふふ、可愛い兄さん」
「あんまりからかうなよな…」
「別にからかってないよ」
そう言いながら彼女は俺をじっと見つめた。
「…ど、どういう意味だよ」
「だって…私たち、付き合ってる訳だしこれくらい普通でしょ」
「まあ確かに付き合ってるんだったら……は?」
「だからそんなに恥ずかしがること」
「ち、ちょっと待て!?」
「何?」
意味が分からない。冗談だよな?
俺とこの子が付き合っているなんて。だって俺達兄妹だよな。
…そうだ、冗談に決まっているじゃないか。
421リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:44:59 ID:LvHK/g05
「な、成る程な。そんな冗談に騙されるほど俺は」
「冗談じゃない!」
「だって俺達兄妹じゃ…」
「兄さんは!…兄さんはそれでも良いって言ってくれたから」
…何を言っちゃっているんですか、過去の俺。
「…それ本当か?」
「うん…。私、凄く嬉しかったよ。兄さんも私と同じ気持ちなんだって」
「…そっか」
「だから…だから私のこと覚えてないって言われた時、どうしたらいいか分からなくなって、凄く悲しくて…」
「もう、いいから」
俺は彼女をそっと抱きしめた。何故か身体が自然とそうしていた。
「あっ……」
「本当に悪かったな。…妹を泣かせるなんて兄貴失格だ」
「…妹じゃなくて彼女」
「俺さ、過去の俺が潤とどんな関係でどんな思い出を作ってきたのか、まだ思い出せないんだ」
「……やっぱり」
「殴ろうとするな!…でもな、それでおしまいって訳じゃないだろ」
「……」
「これから、また思い出作っていこう。勿論過去のことは思い出せるように努力するからさ」
「…分かった」
「…よし、じゃあ帰るとするか」
「…うん」
そうだ。忘れただけで無くした訳じゃないんだ。だったら大丈夫。また始めればいいだけなんだから。
「……これであの女も」
「ん?何か言ったか?」
「ううん、さあ早く下に行こう兄さん」
また始めれば…いいんだよな?



病院から自宅までは県を跨がなくては行けないこと。
そして俺がまだ退院したてということもあってタクシーを使うことになった。
「まさか違う県だったなんてな…」
それじゃあ県内の失踪届けを探しても見つからない訳だ。
「何かあったら電話しろ…か」
一通りの挨拶を済ませ、タクシーに乗る時に黒川さんがくれた連絡先を見つめる。
「別に何も起こらない…よな、潤」
潤は俺の手を握ったまま寝ていた。
やはり今日の疲れが溜まっていたのだろう。
「潤には感謝しないとな」
彼女が来てくれなかったら俺は一生病院暮らしだったかもしれない。
「あと…鮎樫さんにも」
鮎樫さんが電話番号を教えてくれなければ俺は潤に会えなかった訳だし。
「…今どこにいるんだろ」
もう一度あってお礼が言いたい。あの電話の…
「…電話?」
不意に何かが引っ掛かった。あの夜電話で確かに感じた何かを俺は忘れている気がする。
「…考え過ぎかな」
今日は色々あってくたくただ。とりあえず寝てしまおう。きっとこの違和感も時間が解決してくれる。
…潤の手は堅く握られ、俺の手を離そうとはしなかった。
422リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/24(土) 01:48:37 ID:LvHK/g05
今回はここまでです。
長くなってしまいすみませんでした。次から話が広がってゆく予定です。
読んでくださってありがとうございました。投稿終了します。
423名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:54:49 ID:lIWtugFh
gj!!

要がめっちゃ良いお兄ちゃんだということは分かった
424名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:58:07 ID:ajPXMu/E
なんだろう
とりあえず妹めっちゃ怖い…

GJ!次も期待!
425名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 02:01:15 ID:xpDt9HBB
潤がめっちゃ可愛いキモウトだということはわかった

お疲れさまです
続き期待してます。
426名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 02:19:00 ID:2+ffbCPj
GJ!
このらいむの名前を名乗ってるのは誰なんだろうな
427名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 02:52:30 ID:NIs2o1F/
GJ!!
潤が可愛すぎる!
しかし俺には桃花が…!
428名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 03:16:05 ID:CETMuuh4
これまでの情報から推測するに会長の告白を断って妹を選んだように見えるが…
あと妹と会長の中はそこまで険悪な様子は無かったような…

何にせよ続きに期待
429名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 10:11:41 ID:Hs3D8aaU
おい
非日常での日常は更新しないのか?
まさか潰れたんじゃないだろうな、スレ住人のせいで
いい加減にしろよお前ら
自分勝手な都合で貴重な作者を何人も潰しやがって
430名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 10:12:08 ID:YFUerO/R
晒しage
431名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 12:23:52 ID:ujj2CrfV
潰したかはわからんが忙しいか飽きたかもしれんな
432名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 12:33:20 ID:Hs3D8aaU
非日常での日常投下

作者の自虐的な書き込みに対し、厳しくも優しいアドバイスが

アドバイスに対して過剰反応する無責任な読者が登場、むやみに擁護する

非日常での日常の作者、まったく反省せず自虐的な書き込みと電波発言を繰り返す

先の一件で擁護していた連中、なぜか感想をつけようとせずスルーを決め込む

作者の問題点を無責任に放置
甘やかすだけ甘やかして責任は知らんぷりという最低のパターン

甘やかすだけでは子供は成長しないというのにな
世間知らずはこれだから困る
433名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:02:21 ID:ujj2CrfV
自虐の所はあえて触れないでおけばいいのにそれができないからな。
434名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:08:27 ID:ujj2CrfV
まぁこの件についてはこれで終わろう。そろそろ荒れるから。あと作者も戻ってこないし
435名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:33:19 ID:qUmUC2gt
どうも
二話目ができたので投稿します
楽しんでいただけたら幸いです
436名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:36:51 ID:Hs3D8aaU
まだ俺の話が終わってない
投下は待て
437僕は自分が大嫌いだ:2010/07/24(土) 13:41:45 ID:qUmUC2gt
   今日は登校日初日なので授業もなく終わった。
   藍里が来る前に帰宅しようと席を立ったところ、「兄さ〜ん!」と声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だな。よし。
「さあ、坂本。部活行こうぜ」
   できる限り爽やかに話しかけた。不満だが、一応こいつと僕は同じ部だからな。
「ん?今日は部室空いているのか?」
「先輩のことだからどうせ今日もいるだろ」
   あの人テスト期間中でも下校時間ギリギリまでいるし。
「まあそうだな。ところで、どうかしたのか?」
「なんのことだ?」
   質問に質問で返す。聞きたいことは分かっているが、嫌なことはできる限り先延ばしにしたい。まあこいつがそんな僕の気持ちを汲み取ってくれるはずがない。
「お前が部活に来ることってあまり無いだろ。いつもは俺が先輩に言われて連れて行く訳だし。それだけじゃなく自分から率先して俺を誘うなんていままでなかっただろうが」
   ……時間がない。奴がこちらに気がついたようだ。
   ここは無理矢理こいつを引っ張って行くしかない。
「説明なら後でする。取りあえず今は部活に行こうぜ」
「お、おう。じゃあそうするか」
   よし、これなら間に合うかもしれない。
   坂本が鞄を掴んだのを早足で歩き出す。
   坂本が「おい、まてよ!」と言っているが、無視だ。
   いまのところ奴が走ってきている気配はない。よし、いける!
   そして教室を出ようと踏み出す直前、
「兄さん。なんで逃げるの?」
   手首を掴まれた。
「聞こえてたよね?わたしの声」
   教室にいる生徒の視線が集まっているのが分かる。
   ゆっくりと振り向く。
   
「一緒に帰ろっ!兄さん♪」

   そこにはやはり、藍里がいた。
438僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/24(土) 13:43:10 ID:qUmUC2gt
「なあ藍里」
「なあに?兄さん」
「僕はこれから部活に行くからお前は帰れ」
「部活?兄さん部活になんか入ってたの?」
「ああそうだ。だからお前は先に帰れ」
   まあ藍里がこの程度で帰るわけがない。
「お昼ご飯はどうするの?」
「部室で食べるから大丈夫だ」
「じゃあわたしもそうする!」
   ここまでは予想どうりだ。さて、これからどうするか。
   思案していると、不意にポカンとしている坂本が視界に入った。
「坂本。ちょっと来い」
   僕の声で正気に戻ったのか、「お、おう」と近づいてくる。
「な、なあ雨宮。この可愛い子だれだ?お前の知り合いか?」
   僕の近くに来ると僕にだけ聞こえる声でそう聞いてきた
   ……こいつはそれしか頭にないのか?
   それに兄さんと呼ばれているだろう。
「その話は後でだ。それよりお前にはちょっと頼みがある」
「頼み?」
「そうだ」
   これは僕の知り合いの中ではこいつにしか頼めないことだ。
   これから起こる惨劇に想いを馳せながら僕は坂本に言う。
「今度何か言うこと聞いてやるからここは任せた」
「は?任せたって何を……」
   ここで坂本の声が途切れた。
   その理由は当然僕にある。
   僕は蹴り上げたのだ。
   全力で。
   股間を。
   坂本の。

「ふぉおぉぉおぉぉぉぉぉあああああァァァァァァァァ!」

   坂本が悶絶し、叫んでいる。
   そちらに気を取られた藍里の手を振り払い、僕は思い切り駆け出した。
   背後から「兄さん!待って!」と聞こえるが、待ってと言われて待つ馬鹿はいない。いたとしても、それは坂本くらいだ。
   まあこれ以外にも良い方法はあったんだけど…。
   でもこいつが藍里に部室の場所を教えるかもしれなかったから。
   僕はそのまま全速力で『将棋部』の部室まで走っていった。
439僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/24(土) 13:44:16 ID:qUmUC2gt
   将棋部の部員は僕と坂本を含む三人だけだ。
   それに、部員数が少ないという理由で、学校側からのは同好会扱いにされている。
   まあこれはこの部が出来てからずっとそうだったらしい。
   部の名前は『将棋部』としているが、実際に対局することはほとんどない。
   なぜなら、代々将棋部は部長から部長へと、ある『教え』が受け継がれるのだと言う。
   その教えとは、『将棋とはボードゲーム、つまりゲームの一種であり、将棋というゲームを極めるためには将棋以外のゲームもやり、様々な常識に囚われない感性と頭脳を持つことが必要なのだ』ということらしい。
   つまり、ただ遊んで過ごすだけの部である。
   しかも、この部室には種々多様なゲームがある。
   オセロやチェスの様なボードゲームはもちろん、プレ×テやドリームキャ×トのようなテレビゲームに加え、ニ×テンドーDSやPS×のような携帯ゲーム機とそれらのソフトなどもそろっている。
   さらに部室の隅には冷蔵庫やキッチン、折りたたみ式のテーブルと椅子まで常備されている。
   ちなみにこれらは将棋部のOB、OG方が提供してくれた物品だ。
   だから将棋部の部室とは、できる限り快適にゲームをできるような環境を提供してくれる場所なのだ。…まあ僕は時々しかゲームしないけど。
   そして、僕はいま将棋部の部室の前にいた。
   早く入らないと藍里に見つかってしまうのだが、どうしても入るのに躊躇してしまう。
   その理由は、いま部室にいるであろう人物が原因だ。
   僕はその人に少し負い目がある。
   僕があまり部活に出なかった理由も、そこにある。
   それでも、今朝の会話のせいでめんどくさい反応を返してきそうな藍里よりはマシだと思う。
   僕は自分に喝を入れるように「よし!」と言うと、部室の扉を勢いよく開けた。
440僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/24(土) 13:45:37 ID:qUmUC2gt
   将棋部の部室には、予想どうり、『神崎湊』先輩がいた。
   先輩は、こちらに気づくと携帯ゲーム機を放り投げ、椅子ごとこちらに振り向いた。
   長く艶やかでポニーテールに結われたサラサラとした黒髪が揺れる。
「久しぶりじゃないか。そちらから出向いてくるなんてどういう了見だ?」
   先輩は俗に言う和風美人、大和撫子と表現しても大袈裟ではないくらいの美人だ。……まあ性格に少し難があるのが残念だが。
「なんかどこかの元敵キャラみたいな言い方ですね。まあ、たまたまです。深い意味はありません」
「そんな訳ないだろう。お前は家でダラダラ過ごすのが大好きな面倒くさがり屋の根暗人間だろう」
「ひどい言い草ですね」
「ん?違うのか?じゃああれか?久しぶりに愛しい美人の先輩といちゃいちゃしに来たとでも言うのか?大歓迎だぞ」
「あまりふざけていると帰りますよ。あと自分で美人とか言わないでください」
「本当の事じゃないか。事実を述べて何が悪い」
「……はあ、もういいです。帰ります」
   僕が部室から出て行こうとすると、先輩が僕の手を掴んできた。
「悪い。お前が久しぶりにきたもので、嬉しくてつい、な」
   少し照れたように言う先輩。
「まあ、いいです」
   僕は部室に入り、鍵を閉めた。
「ふむ、わたしはこれから襲われるのか」
   未だに僕の手を握っている先輩がそう呟いた。
「よし、お前の性欲は全てわたしが受け止めてやる。遠慮せずに…」
「せい」
   先輩の頭を軽くチョップする。
「なにをするのだね、ワトソン君。わたしなら好きなだけ犯して良いのだぞ?さあ来い!」
   めんどくさくなってきたので僕は何故か部室にあった縄で先輩の両手両足を軽く縛った。
「うむ?なんだ?SMプレイか?マニアックな趣味だな。あ、鞭なら引き出しの三番目だ」
   そして僕は先輩をそのまま放置してゲームを始めた。
「放置プレイか。わたしを焦らすつもりだな。ふふふ、少し興奮してきたな」
   ……あ、メタ×ンだ。珍しい。捕まえよ。いっけースーパーボール!メタ×ンゲットだぜ!
「……無視されると少し辛いんだが」
「自業自得じゃないんですか」
「相変わらず遠慮ないな。ところであの馬鹿はどうしたんだ?ようやく死んでくれたのか?」
   あの馬鹿とはもちろん坂本のことだ。
「残念ながら生きてます。男としては死にかけてますが」
   おもいきり蹴り上げたからなぁ……。
「何かあったのか?」
   先輩が聞いてきたので我が家の事情から坂本の悲劇までの一部始終を説明した。別に隠すような事でもなかったし。
441僕は自分が大嫌いだ ◆3BXg7mvLg0RN :2010/07/24(土) 13:46:41 ID:qUmUC2gt
   説明が終わり、視線をゲームから先輩に移すと、先輩はいつの間にか縄を解いて活動していた。
   今はカップに紅茶を淹れてくれている。
   辺りを見まわすと、部室に入った時より綺麗に整頓されていて、部屋の中心にテーブルと椅子が設置されていた。
   ……どうやって設置したんだろう。音もしなかったのに。
   先輩は紅茶を淹れ終えると、見るからに手作りのクッキーと一緒にテーブルの上に置いた。
「ほら、座りたまえ。紅茶が冷めてしまうぞ」
「そんなすぐには冷めませんよ」
「淹れたてを飲んで欲しいというのが分からないのか。早くしたまえ」
   仕方がないので先輩に言われた通りに椅子に座り、カップに口をつけた。
「どうだ?結構上達しただろう」
「味覚が狂ってるので分かりません」
「そうか、残念だ」
   先輩はそう言いながら僕の対面の椅子に座り、僕が紅茶を飲んでいる様子を嬉しそうに見つめていた。
   僕も馬鹿ではないので先輩が僕に恋愛感情を持っていることくらい分かっている。
   しかし、先輩の気持ちに答えることはできない。
   先輩も分かっているのか、僕に気持ちを伝えようとしてこない。
   僕もできる限り先輩のそういう優しさに甘えたくなかったから、あまり部活に出ないように決めていたのだ。
   まあ今日それを破ったのは今の状況を軽く説明するためだったりする。……あまりこの人に隠し事をしたくはない。

   僕は紅茶を飲みながらゲームの続きをやり始めた。
442名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:49:22 ID:qUmUC2gt
>>436さん
すいません
気づくのが遅れてしまいました
今回はこれで終わりです
最後にもう一度謝罪を
本当にすいませんでした
443名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:52:05 ID:EuGYBrwx
GJ!
雑談より投下が優先だよ。
SSの投下あってナンボのスレなんだから。
444名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:52:21 ID:dmvFuiPS
>>442
なんで荒らしにレスするの?お前の荒らしなの?
445名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:55:53 ID:4Pypqxkv
言葉を選べないお前も荒らし
446名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:00:02 ID:Hs3D8aaU
>>442
「気付くのが遅れた」だあ?
嘘つけボケ
自分の投下を優先して俺の言葉を無視したんだろ?
最低だな
いいよ、これからお前に粘着しまくって潰してやるよ
覚悟しろクズ
447名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:13:39 ID:1qUB0jK6
>>442 >>446
管理者(笑)乙wwww
448名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:14:18 ID:HHNqDu6x
どっちがクズだよw
449名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:14:57 ID:B3JmJ3Vg
>>442
gj
450名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:16:14 ID:ujj2CrfV
gj!できればsageをしてくれ。あと変なのは無視して 
451名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:24:17 ID:Hs3D8aaU
>>450
はあ?
変なのってのはどういう意味だ?
クズが
たまにはGJ以外のレスでもしてみろよ
ボキャブラリー皆無のウンコ野郎
452名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:30:16 ID:kNJlaKac
自覚があるせいか、「変なの」という言葉に
過剰反応してる方がいるみたいだが当たらず触らずが一番
453名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:33:24 ID:KF/t7/MK
暑いな
そういう季節だな
454名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:40:13 ID:ujj2CrfV
しかし何故あんなに怒っているのかわからん
455名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 14:56:55 ID:N75ml1JP
ここを嫉妬スレのようにしてやるから覚えとけよ
456名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 15:00:05 ID:dmvFuiPS
してみろよカスw
457名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 15:08:15 ID:ULF4/hbf
あついからイライラするんだろうな。だからといって人に当たったり
らんぼうな言葉使っちゃダメだけどね。しかし、本当に暑いな
しっかり水分補給しないと熱中症になってしまう。気をつけないと

失せろ

458名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 15:52:28 ID:vIUOPVnA
蝿がブンブンうるさいな。
蝉とちがってみなさんに不評な蝿だよお前は。キタナイネー
皆さんほっとけば蝿はすぐ消えるのです!
ブンブンやらせときましょう!
459名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 15:54:12 ID:vIUOPVnA
消えるというのは死ぬということ。
寿命短いんでw
460名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 16:23:23 ID:i7fIsC9d
みんな!!
荒らしはスルーだ!
461名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 16:30:13 ID:3XvpyFoC
作者さん方は現実世界でヤンデレと付き合ったりした経験があるのでしょうか?
462名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 16:34:28 ID:sDdo2V0N
夏だ
463名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 16:36:50 ID:iCDoAjbh
ヤンデレは自己愛の延長って聞いたことあるけどどう思うかしら
464名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 17:10:29 ID:1qUB0jK6
自称・管理者(笑)がこんなに集まるとは壮観だな……
465名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 17:16:15 ID:tLqZkZG3
たまにはこんなことも必要…なわけないな

あとできたらsageといてやっておくれ
466名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 17:31:49 ID:zzA46KZb
とりあえず3BXg7mvLg0RN はいい加減sageろ余計ないざこざの原因に
なる
467名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:18:32 ID:sQv8f1ND
暑いな…
468名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:19:07 ID:TD9VbWBV
そういや夏休みか
469名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:41:21 ID:Hs3D8aaU
>>459
お前がクソうざいから、ますます>>442を叩き潰したくなってきたわ
470名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:51:29 ID:4lgw7+uR
典型的な糞ガキが沸いてて、夏だなと再認識したよ
471名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 19:35:55 ID:dyDuQDvc
ID:Hs3D8aaU
うせろ
472名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 19:37:19 ID:4lVUxaxu
夏だなとか言っちゃう薄ら禿は2ちゃん初心者wwwwww
俺みたいに2ちゃん歴40年のベテランはそんなつまらない事書くために貴重なレスを消費しない^^;
あ、後さげにうるさい奴も初心者決定
作者はボロカスに言われても書くことが大事。途中で投げる事のがマズい
1話を投下した勇気を忘れるな
473名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 19:45:46 ID:N+T568ty
40年www



長いwww

474名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 19:47:11 ID:HKx22AYP
夏だなー、あとみんなsageはちゃんとしよう

荒れる原因に繋がるから

方法はE-mail欄にsage入れたらおk
475名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 19:52:24 ID:i7fIsC9d
40年www
長すぎだろwwww
476名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 20:19:53 ID:1qUB0jK6
いやぁ、猛暑って知能を大人から幼児まで退化させちまうとは…
477名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 20:26:58 ID:zzA46KZb
ageてるお前さまに知能を云々する資格はあんまりない
478名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 20:39:25 ID:y4xDSw/D
以下、ここからは濃厚なホモスレになります
479名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 20:49:35 ID:tLqZkZG3
しゃぶれよ、おう

以下普段通りの流れになるといいね
480名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 21:11:28 ID:xv+brFyM
しゃぶれよ、おう
481名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 21:47:36 ID:xbvl7Ykm
ヤンデレスレと依存スレの区別がつかない。
482名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 21:55:36 ID:1qUB0jK6
何時からここ発展場になった?
483名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 21:59:33 ID:N/Bdl5gJ
ざつだんたのしい!
さくひんよむよりざつだんしよう!
484名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 23:28:10 ID:wh4fvGW9
いや、ここは作品読んでナンボだろ?
485名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 23:48:12 ID:wkkjtTb1
なんだよ、伸びてると思って期待して来て見れば…
どうでもいいことばっか書き込みよってからに…
486名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 00:36:06 ID:fiZpLwjZ
どうしてこうなった。


悪口言って許されるのは小学生までなのでは?

442さんの作品は面白いけど、ちょっとsageよう。

じゃないとまた無駄にレス消費しちゃうし、スレ立て面倒だからね。


それとここは作品投下とか作品の感想とかするスレだよね。

雑談はどっかでやってくれ。


ここは貴方方のツイッター、スカイプではありません。


リバース面白かったです。


今後とも楽しみです。


というか》1を読もうぜ。
487名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 00:36:41 ID:hsbz4vah
釣られないクマよ
488名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 01:18:42 ID:O9v1t4EK
そんな嵐にかまうよりスマデラしようぜ
489名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 01:53:45 ID:QhubwnFx
ここも終わりか…
490名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 02:04:52 ID:kmQKV38B
SSの作者が向こう30年作品を投下できないな、という荒らし方をしたい
491名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 02:16:51 ID:kwYRLj91
投稿ラッシュももう終りだね。
惜しいな。
492名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 02:29:07 ID:V21s1t6m
作者たちがSSの執筆にばかりかまけてるから、作者の彼女たちがヤンデレと化して荒らしに来たに違いねぇ……
493さげ:2010/07/25(日) 03:03:46 ID:IMLOczxj
てすと
494sage:2010/07/25(日) 03:04:28 ID:IMLOczxj
tesu
495名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 03:04:56 ID:IMLOczxj
tesu
496名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 05:16:51 ID:1hBQDg7q
ssのプロット作っている最中なんだけれど、男主人公の一人称が私っていうのは
違和感ありますか? あれば俺に変えます
497名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 05:21:22 ID:VPt9E+e0
とくにないよ。男の娘で想像するから
498名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 05:32:29 ID:5pWVy4R0
でも一人称だけで主人公のイメージがガラッと変わるよね
脳内変換すれば一つの作品で二度三度オイシイです
499名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 06:07:09 ID:LEJrHqWy
最近では男の娘のヤンデレも出てきてますからねぇ・・・・・SS楽しみにしてます
500名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 07:54:45 ID:kKiCitIh
男の娘か・・・楽しみだw
501名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 08:32:21 ID:JL9MSLKx
喋り方が特別丁寧でもないのに一人称が私だったら違和感あると思う
502名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 09:24:02 ID:JwiQ7ljQ
おっさんなら私でもいいとは思うけど
若いなら違和感あると思う
503名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 09:35:29 ID:hsbz4vah
やり手の会社員とか私ってイメージ
504名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 09:42:55 ID:woGTiWgq
っつか男の娘のヤンデレがみたい
505ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:07:28 ID:6XlpIfwN
こんにちは。そろそろ気温の高くなりはじめる時間帯になりました。
投下します。大往生編です。
506ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:08:25 ID:6XlpIfwN
*****

 何回、あの二人の間に割り込んでやろうと思ったのか、自分でもわからないわ。
 どういうことなのよ。
 あの人と、あの人の妹が二人きりでデートに出かけるだなんて。

 彼の行方は弟君に教えて貰った。
 弟君は、妹と買い物に出掛けただけ、なんて言っていたけど、それは間違いだわ。
 弟君の台詞が嘘なんじゃない。買い物に出掛けた、っていうのが間違った認識なのよ。
 あの人と妹さんが、二人で買い物に行く。
 相手が誰だろうと、女と一緒にどこかへ行く時点で、それはデートよ。
 それに、妹さんが彼と二人きりで歩くっていうのがおかしいわ。
 妹さんは、弟君のことが好きだったはず。
 この間、彼の家の中で妹さんが弟君を押し倒していたんだから、間違いない。
 いいえ――正しくは、あの時は間違いなくそうだった、ね。
 あれから彼と妹さんの間に、何かが起こったんだわ。
 好意の行き先が、弟君から彼の方向へ一気に切り替わるような事件が。

 あの女。妹という立場を利用して一体どんな策を使ったのかしら。
 私がいくら誘っても落ちなかった彼をデートに誘うだなんて、そうとう上手いことをしたに違いない。
 物で釣った? お金を払った? 脅した? それとも、誘惑した?
 どれを実行したにしても許せないけど、どれも成功しそうにないわね。
 なおさら気になってきたわ。今後のためにも、彼を誘える手段を覚えておかないと。

 最初に彼と妹さんを見たのは、デパート内のパン屋の中。
 二人一緒に、テーブルで向かい合って昼食をとっていた。
 気付かれないよう、窓ガラスの向こうから覗き見する。
 うーん……何を喋っているのか聞き取りづらい。
 とは言っても、中に入るわけにも。
 あら、妹さんが彼のパンをじっと見てる。
 彼に向かって何か言ってるわね…………あああああ!

 あああ、あのちび女!
 彼のカレーパンにかぶりつきやがったわ!
 美味しい物食べて幸せだって顔してるんじゃないわよ! 上品そうに口元を隠すなあ!
 ああ、しかも彼ったらその食べかけカレーパンに口をつけた!
 それ、それ間接的な、き、キスじゃない!
 しかも歯と歯、舌と舌が絡み合って、混じり合って……なんてディープなことを!
 なに、なんなのこの悪夢は。
 どうして妹さんは、あそこまで彼に対して積極的なの?
 どうして彼は、妹の食べかけを平然として口に運んでるの?

 いいえ、落ち着きなさい。
 妹さんは彼のパンを奪いたかっただけ。
 彼は妹のやることだからって目を瞑ってるだけ。
 そう考えれば、さっきのだってなんでもない兄妹間のやりとりに見えるはずよ。

 心を落ち着けて二人の様子を観察する。
 彼が妹さんの紅茶を一気飲みした。妹さんも彼のコーヒーを一気飲みした。
 いつの間にか私は歯ぎしりをしていたらしい。歯の擦れ合う音が止まらない。
 体の震えが止まらない。頭の後ろがメキメキと音を立てそう。
 もはや心を落ち着けられる心境じゃないわ。
 あんたたち……兄妹だっていうんならストローぐらい使って飲み比べしなさいよ!
 どう見たって、完璧に、恋人同士じゃないのよ!
507ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:09:32 ID:6XlpIfwN

 その後、二人のところに入りこまなかったのは、幸いにも二人が本屋に入ったからだろう。
 妹さんはファッション誌のコーナーへ、彼はホビー誌のコーナーへ。
 全くの別行動をとっていたから、私の気が大人しくなった。
 今の二人だったら、ただの兄妹というふうに見えるんだけど。

 さっきから、妹さんの考えが読めない。
 一緒に食事したり、間接キスしたりしていたくせに、今は彼とは別行動をしている。
 私だったら、彼とデートする時はたとえ本屋の中であっても一緒に行動する。
 そして、人がほとんどやってこない棚の前に行って、二人きりでアレコレする。
 でも、妹さんは全然そういうことをしようとしない。
 そもそも、デートで本屋に行くのってアリなのかしら。
 待ち合わせ時間までの暇を潰すにはいいけど、デート中にやるのはおかしくない?
 もしかして、本当に買い物が目的で、二人ともそのつもりだとか?
 これはまだまだ見極める時間が必要ね。

 午後二時になるちょっと前、二人に高橋君が合流した。
 高橋君は普段何をしているのかわからないけど、私の目にはよく映る。
 高橋君と彼は仲がいいから、そのせいでしょう。二人が仲良く話す姿はクラスでは多く目にする。
 彼と、妹さんと、高橋君。
 この三人が一緒ってことは、本当にただの買い物だったのね。
 ああ、よかった。

 それから、ほっとなで下ろした胸の裡がざわつきを取り戻すまで、そう時間は掛からなかった。
 時計のお店で、彼が、妹さんに時計をプレゼントしてた。
 妹さんがどれにするか選びかねていたところで、彼が一つの時計を選んだ。
 そして妹さんは、彼が選んだ時計を購入することに決めたみたいだった。
 上手いものね。どれにするか悩んでみせて、困った振りをして、彼に時計を選んでもらうなんて。
 それ、プレゼントと同じじゃない。
 あんなに悩んで選んだんだから、本物のプレゼントよ。
 私なんか、私なんか……まだ彼から何かを贈って貰ったことなんて、一度もない。

 どうして?
 どうしてあなたは、私じゃなくて、妹さんにプレゼントするの?
 どうして妹さんは、彼からプレゼントを貰えるの?
 どうして私は、彼にプレゼントを贈って貰えないの?
508ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:11:56 ID:6XlpIfwN

 時計店から離れて、一人きりになれる場所まで行って、通路に置いてある手近な椅子に腰掛ける。
 途端に周りの情報が鮮明に感じられるようになった。
 遠くから聞こえる人の声、店内の音楽、壁を塗り尽くすベージュ。
 私、こんなところで何してるんだろう。
 彼に会いたくてしょうがなくなって、弟君に行き先を聞いた。
 いざ行ってみると、彼は妹さんと仲良くしてて、一緒に食事して、プレゼントまで贈っていた。
 私は一人きり。
 人がいっぱい居る店内に居るのに、周りには誰も居ない。
 彼はもちろん居ない。居るわけがない。

 迷子になったみたいだった。
 昔、まだお母さんが生きている頃も、私は迷子になったら、お母さんを求めてた。
 お母さんは私を探しに来てくれた。
 家族だったから。お母さんはお母さんで、私は娘だったから。
 だけど、お母さんと違って、彼は探しに来てくれない。
 妹さんと一緒に、時計を買うことに夢中になってる。
 私がここにいることなんか、知りもしない。探してもくれない。
 もしも、私があなたの娘だったら――家族だったら、あなたは私を捜してくれるのかしら?

 あ、そっか。わかった。
 どうしてプレゼントを貰えないのか。彼が捜しに来てくれないのか。
 彼の隣に居ないからいけないのよ。
 当たり前よね。見つからないように隠れてたら、プレゼントを貰えるはずがないわ。
 私が近くにいるってことを知らないから、捜しに来てくれないのよ。
 私を家族だって勘違いするぐらい一緒に居れば、きっと大事にしてくれる。

 じゃあ、さっそく偶然を装って彼の所へ行こうかしら。
 ケータイで話している最中に顔を合わせれば、偶然会ったふうに見えるはず。

 あら、彼のケータイにかけても繋がらないわ。
 彼ったら、こんな時に限って誰かさんと仲良く話してるのね。
 彼と話できないなら、こんな道具は要らないわ。
 あなたもきっと、私と同じ事を考えて、そう言ってくれるわよね?

 困った人。私が会いたいと思った時に限って、いつも誰かと一緒に居るの。
 今日だけは、いえ、今日からはそんなのダメ。
 私と一緒に居てもらう。これからは離れないって、言ってもらう。
 プレゼントは要らない。誓いの言葉が欲しい。
 
 これ以上言うこと聞いてくれないと、私、きっと崩して、壊しちゃうわ。
 あなたも、あなたの家族も、友達も、私自身さえも、何もかも。
509ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:13:19 ID:6XlpIfwN
*****

 高橋や妹の言うとおり、俺はカカシなのかもしれない。
 突然現れた葉月さんが、その手に持っていた携帯電話をへし折ったところで、危険を察知して逃げるのが賢い人間の対応だ。
 なのに俺は何もせず、高橋との通話を切ることもなく、呆然と立ち尽くしていた。
 結果、俺は葉月さんに携帯電話を奪われ、彼女の手によって携帯電話を破壊された。
「はい。これ、返すわね」
 葉月さんが俺から奪った携帯電話を返した。
 もはやそれは、携帯電話としての体を成していない。
 ヒンジの部分で二つに別れた機械を繋げるのは、細くて頼りないコードだけ。
 どのボタンを押しても画面はブラックアウトしたままだ。
 完全に死んでしまっている。

 葉月さんの足下に転がっているのは、葉月さんが使っていた携帯電話だ。
 俺の携帯電話と同じ型、同じ色のもの。
 そっちも俺の物とほぼ同じ有様だった。
 違うところは、二つの残骸が未練を残さずおさらばしているところだろう。
 俺の携帯電話ももう少しであれとおそろいである。さっぱり笑えん。ちっとも嬉しくない。
 データが消えていないことを望んでから、ポケットに携帯電話の残骸をしまう。
 
 さて、どうしようかな。逃げようかな。
 でもここで逃げたら今の葉月さんの機嫌を損ねてしまいそう。
 いまだ固定したままの右腕がハンディキャップになってるから、走って逃げてもすぐに追いつかれるだろうし。
 人の携帯電話を破壊しておいて、まったく葉月さんは悪びれる様子がない。
 せめて謝ってほしい。微笑みを浮かべて俺を見つめないで欲しい。
 携帯電話を壊されたことについて怒りそうになっている俺の方が、おかしいみたいじゃないか。
「あの……」
「なあに?」
 口を開いたものの、何を言えばいいのかわからない。
 いや、どういう順番で言いたいことを言えばいいのかわからない。
 なんで葉月さんはここにいるの? なんで携帯電話を壊したりなんかした? 俺が何か怒らせるようなことした?
 どの問いを一番に持ってきても、間違っているような気がして、何も言えない。

 ああ、そうか。
 こういうことで悩んで、何も言わないところも、傍からはカカシっぽく見えているわけか。
 俺が何を考えていようと、他人はそんなことは知らない。
 俺に何らかの評価を下すのは、いつだって他人である。
 たとえ世界崩壊を食い止めるための方策を脳内で考えているとしても、他人からはぼうっとしているようにしか見えない。
 世の中、そんなもんである。
 俺の思考を完全に悟れる人間なんて、いるはずがないのだ。
510ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:15:50 ID:6XlpIfwN
 
 葉月さんが左手を、俺に向けて差し出した。
 手のひらが天井を向いていないということは、金を催促しているというわけではなさそう。
 むしろ携帯電話を壊されたのだから、こっちが催促したいぐらいである。
 では、一体どういうつもりでその手を動かしたのか。

「一緒に行きましょ。せっかく会ったんだから、遊びに行きましょうよ」
「いや……ちょっと待って。考えさせてくれ」
「どうして? 私と歩くの嫌?」
「嫌とかじゃなくて、それよりも先にすることがある」
「妹さんのお買い物の続き? 私のことなんて、後回しなの?」
「いや、妹のこととは別だ……って、どうして妹がここにいることを知ってるんだよ?」
「だって、ずっと見ていたんだもの」
 葉月さんは、その言葉がどれだけの衝撃を俺に与えるか知らず、そう言った。
 見ていた? 妹と居るところも、高橋と居るところも?
 もしや、ここにやってきたのは俺と会うためだったとか?

「見ていたなら、どうして声をかけなかったのさ」
「あなたと妹さんが、なんで二人きりで買い物に来たか、わからなかったからよ。
 だって、昔は妹さんとそんなに仲良くなかったでしょう。
 それなのに、今日は二人きりで買い物に来てる。一体どういうこと?」
「二人きりじゃなかった。高橋も居た」
「知ってるわよ。話を逸らさないで。
 どうして妹さんとそこまで仲良くなったの? いつから? どうして仲良くなろうと思ったの?」
「あの、妹と仲が良いのって、そんなにおかしいことじゃないと思うんだけど」
 そりゃまあ、たしかにほんの二ヶ月前ぐらいまでは仲が悪かった。
 仲が悪い状態でバランスがとれているような感じだった。
 でも、その間に色々な事件が起こったせいで、そのバランスが崩壊した。
 バレンタインデイから数日は、弟誘拐事件に奔走させられた。
 治療のため入った病院では、伯母に再会した。
 弟誘拐事件、伯母と出会ったこと。
 この二つの出来事のおかげで、俺と妹は昔のことを思い出した。
 俺と妹の仲が悪かったのは、過去の出来事を思い出せなかったせいで、誤解が生じていたからだろう。
 誤解が解けてからは、妹とはそれなりに仲良くなった。
 妹に好きと言われるとは思わなかった、さすがに。
 だけどなにもおかしいところはない。特別な関係になったわけじゃない。
 高橋を前にした今日の妹の態度なんか、懐かしさを覚えるぐらいに尖ってた。
 ちょっと口論する程度には仲が良くなった。そんな感じである、俺と妹の仲は。

「おかしいことじゃないって? 私から見れば十分におかしいわ。
 そもそも――」
「別に何もおかしくないわよ。っていうか、変な風に疑うの、やめてくれない?」
 葉月さんが振り向く。
 肩越しに、憮然とした顔をつくっている妹が立っているのが見えた。
 妹の左手首には、時計が巻かれている。右手にはさっきの時計店の紙袋。
 どうやら、トイレに入っていると見せかけて、時計を身につけていたらしい。
 鏡を前にして、入学祝いに貰った時計を身につけ、はしゃぐ妹。
 トイレの中だという設定がなければ、ちょっとはイイと思える。
511ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:19:19 ID:6XlpIfwN

「あら、妹さん。ごきげんよう」
「ええ、最高にご機嫌よ。私は」
「……どうして?」
「さあ? 今日がいい天気だからじゃないかしら」
 今日の天気は快晴だった。
 邪魔になる厚着をする必要もない、外出しやすい気候だった。
 もし妹へのプレゼントを買いに行く用事がなければ、外でエアブラシを存分に活用していたことだろう。
 本日は、俺にとっても望ましい天気である。
 そういえば以前、妹は小雨の降る天気の方が好きだって言ってなかったっけ。
 でも、今日は快晴の天気なのにご機嫌だと言う。
 二番目ぐらいには好きなのかな、青い空と白い雲のある日。

「葉月、あんたケイタイ落としてるわよ。はい」
 妹が、床に放置されていた葉月さんの携帯電話の残骸を拾い、持ち主の手に渡した。
「あんたのケイタイ、変わってるのね。
 二つで一つのケイタイなんて、見たこと無いわ。どこのメーカーの最新型?」
「知ってても内緒にするわ。あなたには」
「あっそう。まあ別に私も知りたいわけじゃなかったから、どうでもいいわ。
 さて、用事も済んだから帰りましょ。お兄さん」
 妹が俺の手を掴もうと手を伸ばした。
 他人の指先の感触を皮膚で感じた――ところで、その小さな感覚は消え失せた。
 葉月さんの手が割り込み、妹の手を払っていた。
「妹さん。そんなこと言わないで、しばらくご一緒してくれないかしら?」
「ええー……面倒だから断りたいんだけど。こんな暴力的な女とは一緒にいたくないわ」
「そんなこと言わないで、ねえ? 彼だって、私と一緒したいみたいよ?」
 ……は? え、俺?
「そうなの? お兄さん」
「待て。何を言っているんだ、二人とも」

 落ち着け。混乱してるぞ、俺。状況整理だ。
 まず、妹が俺の手を引いて帰ろうとしたところで、葉月さんが止めた。
 葉月さんが妹を誘ってみたが、妹の反応はかんばしくない。
 葉月さんは食い下がる。俺が葉月さんと一緒に居たがっている、と言って。
 妹はその言葉に乗り、俺に判断を委ねた。
 うん、よくわかった。
 よくわからないなりゆきで選択肢を与えられた、ということがわかった。
 二人で話をつけていたんじゃないのかよ。
 携帯電話を壊されるわ、突然選択を迫られるわ。
 慣れ親しんだ錯覚までするぞ、この理不尽な展開。
512ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:21:02 ID:6XlpIfwN

「久しぶりに会ったんだから、付き合ってくれないかしら。たまにはいいでしょう?」
 人の携帯電話を壊しておいて、よくこんな台詞が口から出るものだ。感心してしまいそうだ。
「お兄さん、疲れたから私、帰って休みたいんだけど」
 妹、俺はこの場から逃げ出したいよ。別に携帯電話を弁償してもらわなくてもいいから。
 さっきの電話で異常を察知した高橋が戻ってきてくれないかなあ、なんて思ってしまう。
 大抵の場合、そう都合良くいかないものだってわかってるんだけど。

「妹さん、わがまま言わないで。彼の気持ちを無視しちゃ行けないわ」
「無視してるのはあんたじゃない、葉月」
「どうしてそう思うの?」
「見てたらわかるわよ。ちょっとあんた、強引すぎる。
 他人に言うことを聞かせるために暴力振るったり、いきなりお兄さんに話を振ったりね。
 わかりやすく、卑怯って言い換えてもいいわ」
「ふうん。あっさり心変わりするような子がよく言えたものね、そんなこと」
「……あんたにだけは言われたくなかったわ、そんなこと」
「私は一度も心変わりしたことないけど?」
「むかつく。喧嘩売ってるの、あんた」
「きっと、高すぎてあなたには買えないわよ。むしろ噛みついてきてるの、あなたの方じゃない」
「なんですって……」
「なんでもないわよ。ただ思ったことを口にしてるだけ」

 まずい。ここが人がひっきりなしに行き交うデパートの通路だと言うことを、二人とも忘れてる。
 ほとんどの人は無視して通り過ぎるけど、数人が遠巻きに成り行きを見てる。
「あのさ、二人とも、ここじゃまずいからどこか別の場所で話さないか?」
 努めて優しく提案してみる。
 しかし、二人は揃って俺を睨み付けて、口論をやめようとしない。
「お兄さんは黙ってて!」
「ちょっとだけ口を出さないで。大事な話をしてるのよ」
 ふうむ――そろそろ、腹が立ってきたな。
 こいつら、俺を使って喧嘩したいだけじゃないのか。
 便利な道具とか、ゲームのパワーアップアイテムとしてしか俺を見てないんじゃないのか。
 ちょっとは仲良くしろってんだ。
 なんで、一番ろくな目に会ってない俺が蚊帳の外なんだ。
 最近は携帯電話も安くないんだぞ、くそったれ。

「……妹、ちょっとだけでいいから、俺と葉月さんに付き合え」
「はあ? お兄さん、それってこの女の言うことに従うってこと?」
「どうとでも受け取れ。移動するぞ」
「何いきなり怒ってるのよ。わけわかんない」
「わけわかんない、って言いたいのはこっちだ。それに俺は、まだ、怒ってない」
 まだ、を強調して言った。
 妹は俺の苛立ちを察したのか、言い足りない風の不満顔ではあったが、それ以上は何も言わなかった。
「葉月さんも、それでいいよな?」
「え、ええ」
 じゃあ行こうか、と言い残して歩き出す。
 後ろから二人分の足音が聞こえてくる。
 俺の歩調に会わせて歩いているのを感じ取ってから、二人に向けて言う。
「二人は仲が悪すぎるんだよ。一緒にお茶でもして、親睦を深めろ」

 流れ出してくる感情を抑えず、勢いで発言した。
 一緒にお茶を飲んだぐらいで仲直りするとは思えなかったが、もしかしたらということもある。
 そんな風に楽観的に考えてしまいたい時だってあるのだ。
 今みたいに苛立っている時は、特に。
513ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms :2010/07/25(日) 10:23:06 ID:6XlpIfwN
今回はここまで。
短めなのは、インターバルの部分だからです。
それではまた。
514名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 10:54:46 ID:wozGbkdq
キタ━(゚∀゚)━━━━━━━ッ!!最強の女葉月が修羅に成って帰って来たGJ!!次回ヒロイン化した妹との対決必至!?出るか必殺回転木馬…
515名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 11:01:36 ID:O9v1t4EK
荒れたときもヤンデレ家族ならきっとなんとかしてくれるって思ってた
GJ
516名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 11:14:55 ID:ybvIrY71
投稿Gjです!次回兄貴をめぐる葉月さんと妹との壮絶な修羅場が見れそうw

\         /_ /     ヽ /   } レ,'        / ̄ ̄ ̄ ̄\
  |`l`ヽ    /ヽ/ <´`ヽ u  ∨ u  i レ'          /
  └l> ̄    !i´-)     |\ `、 ヽ), />/        /  地  ほ  こ
   !´ヽ、   ヽ ( _ U   !、 ヽ。ヽ/,レ,。7´/-┬―┬―┬./  獄  ん  れ
  _|_/;:;:;7ヽ-ヽ、 '')  ""'''`` ‐'"='-'" /    !   !   /   だ.  と  か
   |  |;:;:;:{  U u ̄|| u u  ,..、_ -> /`i   !   !  \   :.  う  ら
   |  |;:;:;:;i\    iヽ、   i {++-`7, /|  i   !   !  <_      の  が
  __i ヽ;:;:;ヽ `、  i   ヽ、  ̄ ̄/ =、_i_  !   !   /
   ヽ ヽ;:;:;:\ `ヽ、i   /,ゝ_/|  i   ̄ヽヽ !  ! ,, -'\
    ヽ、\;:;:;:;:`ー、`ー'´ ̄/;:;ノ  ノ      ヽ| / ,、-''´ \/ ̄ ̄ ̄ ̄
                 ̄ ̄ ̄            Y´/;:;:;\

517名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 11:24:28 ID:bKr6u88u
>>513
GJ! しかし大往生って……
誰が逝くことになるんでしょうね。
518名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 11:41:12 ID:5kgk2kV1
兄の次ぐらいに報われてない葉月さんが幸せになれるのか・・・
519名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 11:48:10 ID:BEscS5pH
何だ雷電は出ないのか…
520名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 12:02:55 ID:ftv+UnRZ
触雷!と森山家はまだかな?
521名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 12:47:20 ID:6SrSAX7Z
GJ
葉月さん可愛いよ
522名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 13:26:29 ID:Z1cBoIjx
GJ!

ヤンデレ家族はやっぱり面白い!てか、葉月さんストーカーとかww








可愛いじゃねーか
523名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 14:29:08 ID:G5LUV88n
>>513
GJ!
ヤンデレスレで30話ぐらいあるのに進展がキス(人工呼吸)までのヒロインは葉月さんだけ!
そう考えるとジミーのフラグ回避能力凄いな
524名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 14:31:32 ID:A67xhao+
>>513
いいねいいねー(*^_^*)
ヤンデレ家族はブランクあった時はキャラが動いてない感じだったけど、ようやく戻ってきた気がする。
525名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 15:42:04 ID:OJ5xNrn1
GJ!
ヤンデレ家族は性的要素ほぼ無しなのに引き込まれるんだぜ
526名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 18:56:25 ID:lzsDlDP9
gj
確かにそれは好評価・・・だが夢落ちな展開だったあのエピソードは好きだった
527名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 19:05:35 ID:OIBGGpea
ボールペン女って結局今までどこに行ってたんだ?
怪我を治しつつ警察から逃げ回ってたとか?
528名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 20:59:55 ID:HL9/B9/r
GJ
次が楽しみだぜ
葉月さんは振られたのを全然気にしてないなw
529名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 22:03:37 ID:tNJ6B47R
530リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 00:52:41 ID:6vjtxC6b
こんばんは。今回は3話を投稿したいと思います。
よろしくお願いします。
531リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 00:55:15 ID:6vjtxC6b

「…つまり私では役不足だということか」
放課後の空き教室。窓からは夕日が射し彼女の髪をさらに赤く染めていた。
「そうじゃない。役不足とかじゃ、ないんだ」
「じゃあ何なんだ!?」
疲れた顔で返答する少年に対して赤髪の少女は怒りをぶつける。
「じゃあ何で…何でそんなことを言う!?」
思わず涙が頬を伝う。彼女にとっては生まれて初めての屈辱。
「……ゴメン」
「言ってくれただろう!?私を受け止めてくれるって!俺だけは味方でいるって!私を理解してくれるのは要だけなのに!」
彼女の心の叫び。
彼女にとって生まれて初めて出来た失いたくないもの。それが目の前の少年だった。
「はは…何か照れるな」
「ごまかすな!知っている癖に!」
少女は少年に抱き着く。まるで目の前の少年、白川要が自分の物であることを示すように。
「本当に……ゴメン」
要はそんな少女を拒絶する。でなければ対等になどなれるはずもないから。
「す、す、捨て…ないで…!何でも…な、何でもする!もう…もう口答えしない!す、素直になる!だから…だから捨てないで!」
少女の叫び。
滅多に流したことのなかった彼女の涙に、要は改めて自分の罪を自覚した。
「…………」
「要…要っ!!」
いつでも気丈だった。とても強く頼りがいがあった少女。
でも弱さを抱えていて、要はそれに気付いてしまった。
少女は生まれて初めて、本当の自分を見てくれる人に出会った。
「…………」
「…あ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
そして彼女は……壊れた。



「………また夢か」
今までにも体験したことがある生々しい夢。しかし内容が若干違っていた。
「…うわっ、背中の汗やばいな」
季節はもうすぐ秋。少々かきすぎな汗を拭い、俺はベットから起きた。
周りを見回すと窓から暖かそうな日が射していた。
部屋の中はさっぱりとしていたがラケットやテニスボールがあるのを見ると、どうやら俺は本当にテニス部だったようだ。
「…やっぱりあの"趣味"は嘘だったみたいだな」
この部屋の何処にもパソコンはない。
そして鮎樫さんが言ったような、いかがわしいソフトも一切無かった。
「だよな。俺がエロ…じゃなくてそのようないかがわしい物が好きなわけないもんな」
「何がいかがわしいの?」
「だからエロ…っておい!」
素早く後ろを向くとそこにはエプロン姿の妹、白川潤が立っていた。
「朝ご飯出来たから呼びに来たら……兄さんは朝から一体何を考えてたのかな」
「誤解だあべしっ!!」
素早く足払いをされベッドに倒された。そして目の前には覆いかぶさる潤の姿が。
532リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 00:56:32 ID:6vjtxC6b
「捕まえた」
「っ!コマンド表示!!」

たたかう
どうぐ
=>にげる

勿論即座に"にげる"を選択!

かなめ は にげたした!

「これで…どうだっ!?」
「甘い」

しかしまわりこまれてしまった!

「なっ…!」
敢えて抵抗せずベッドに倒れ、潤が油断して接近する隙をついて脱出する俺の完璧な作戦は
「まだまだだね」
がっちりと両肩を掴んだ潤の両手によってあっさりと破られた。
「くそっ…つーか力強すぎだろ!」
何とか抵抗しようとするが押さえ付けられて全く動けない。
「病み上がりの人には負けません。それに鍛えてますから」
ゆっくりと近付いてくる潤の顔。辛うじて手だけならば動かせる。
「このままじゃ…仕方ない、これだけはしたくなかったんだが」
隙を伺う。潤が俺にキスしようとする一瞬の隙を。
「それでは頂きます」
「…!黄金旋風突(ゴールデンフィンガー)!!」
一瞬の隙をついた俺の攻撃に潤は反応出来ずにただくらうしかなかった。
「ひゃんっ!?」
「今だっ!」
俺の黄金旋風突(人差し指で相手の乳首を突く本来ならば対男用の迎撃技)によって潤の力が弱まり、俺は見事脱出に成功した。
潤はまだ悶えているようだ。
「…お前の敗因はただ一つ。たった一つのシンプルな答え。お前は俺を怒ら」
「セクハラじゃボケェェェェエ!!」
こうして俺の爽やかな朝は妹の飛び膝蹴りによって幕を閉じた。



…そうなのです。私、白川要は自宅へと帰ってきたのです。
533リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 00:57:19 ID:6vjtxC6b

「…っ!蹴られたところまだ痛むわ」
白川家1階リビング。前に鮎樫さんが言ったように両親は出張中のようだった。
そして目の前のテーブルには美味そうな朝ご飯が。
「兄さんが変なことするからでしょ!ほら、早く座って」
潤に促され席に座る。やはり朝はしっかり食べないとな。
「変なことって…。潤だって朝から俺にキスしようとしたじゃねえかよ」
「あれは…スキンシップってやつよ。兄さんのはセクハラ!」
「セクハラってお前な…。まあいいや、それより早く食べようぜ」
言い合いは不毛だし折角の朝飯が冷めちゃうからな。
「それもそうね。じゃあせーの…」
「「頂きます」」
まずは味噌汁を頂く。
やはり潤の作った飯は美味い。両親が出張というのもあるだろうが元々のセンスもあるのかもしれない。
「この卵焼き、ちょうど良い甘さでめっちゃ美味いな」
特に卵焼きは天下一品だと思う。この絶妙な甘さ加減は俺のお気に入りだ。
「ふふっ、そりゃあ私が腕によりをかけて作ったんだもの。美味しくて当然よ」
えへんと胸を張る潤。…そのポーズは朝から刺激が強すぎるがそれはスルーしておこう。
「本当に色々とありがとな。潤がいてくれて良かったよ」
「っ!な、何いきなり臭い事言ってるのよ!家族でしかも恋人なら当然でしょ!」
途端に顔を真っ赤にして動揺する妹。なんて分かりやすい奴なんだ。
「まあ恋人かどうかは別にして」
「………」
「黙ってこっちを睨むんじゃない!…とにかく感謝してるよ」
「……ど、どういたしまして」
潤の顔はしばらく赤いままだった。



時刻は昼過ぎ。
ニュースでは残暑というが体感気温はまだまだ真夏日といった感じだ。蝉達もここぞとばかりにミンミンと合唱している。
俺が住んでいる桜ヶ崎市は県内では栄えている方らしい。
桜ヶ崎駅周辺にはショッピングモールや電気街などが建ち並んでおり、休日には近くから多くの人々が訪れ活気が溢れている。
そんな駅周辺、というか駅のすぐ近くにある向日葵という喫茶店に俺と妹の姿はあった。
「で、そいつらはいつ来るんだ?」
「もう少しだよ。あっ、電話だ…もしもし?そうそう“向日葵”の…そうだよ、いつもの席」
電話している妹を見ながら自分を落ち着けさせるために状況を整理してみる。
病院から帰ってきて一週間。
まもなく夏休みが終わり学校ということで一応学校には一通り事情を説明した。
始業式後に詳しい話を聞かせてもらうと言われたけれど。そしてその足でここへ。
何故かといえば
「もうすぐ来るって兄さん。組の皆、兄さんに会えるの楽しみにしてたよ!」
「組って…クラスメイト全員が来るのか?そんなにこの喫茶店に入らないだろ」
知り合いに会うためである。
俺は記憶と一緒に携帯も無くしてしまったらしく、一番仲の良かった奴らに妹が連絡してくれた。
「組ってクラスのことじゃないよ…。本当に覚えてないんだね」
「ん?クラスじゃないってどういう…」
良く分からない。詳しく話を聞こうとした瞬間
「要じゃねぇか!!」
「うおっ!?」
「あっ、来た」
後ろから物凄い大声が聞こえた。恐る恐る後ろを振り向くと
「おっす!」
「どーも」
「………」
三者三様の顔がそこにあった。
534リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 00:59:18 ID:6vjtxC6b

喫茶店“向日葵”の店内はこじんまりとしているが、店長自慢の珈琲の香りが落ち着いた雰囲気を醸し出している。
そんな店内の奥、三人ずつが向かい合って座れる六人用のスペースに俺達の姿はある。
一番奥の窓側の席には俺と潤が向かい合って座っていた。
「成る程ね。それで要に連絡がつかなかったわけか」
俺の隣では金髪天然パーマの少年が話している。何処かで見たことがあるような…気のせいか。
「しかし記憶喪失か。羨ましい体験しやがって!」
そしてその少年の隣はさっき俺を驚かせた声の主、赤茶の短髪でいかにも体育会系の少年が話を繋げる。
「亮介(リョウスケ)は少し黙って。人物以外はちゃんと思い出せる?例えば勉強の知識とか」
そして潤の隣に座っている白髪ロングヘアーの少女が質問をしてきた。
「…多分大丈夫だと思うけど」
「思い出せないのは人物関係だけ?」
「う、うん。多分そういうことになるな…」
「…何でビクビクしてるの?」
何故か知らないがこの白髪少女の前だとどうも緊張する。過去に何かされたのだろうか。
「い、いや…つーか、あのさ…」
「三人とも落ち着いて!質問もいいけどまずは自己紹介から!」
ナイスだ潤。
そう、この三人は座っていきなり自己紹介も無しに俺の現状について質問し始めたのだ。
「それもそうだね。じゃあ僕から」
そう言って隣にいた金髪天然パーマの少年が立ち上がった。
「…立つ必要はあるのか」
思わず突っ込んでしまった。
「ん?まあその方が雰囲気出るでしょ。別に要が自分の身長が少し低いのを知っていて、僕の背の高さを自慢しているわけじゃないからね」
「うるせぇ!170はちゃんとあるわ!」
「…四捨五入して?」
「別に切り上げしてないから!」
何か知らんが自然と反応してしまう。…ちょっと待てよ。
「兄さん、自分の身長知ってたの?」
そう、潤の言う通りだ。
「いや、良く分からんが自然と言ってしまった」
「やっぱりね。記憶は失っても絆は消えないから。要と僕のボケとツッコミという絆はちゃんと残っているようだね」
「そんな絆いらないんだが…」
「僕の名前かい?」
「聞いてねえよ!」
…よく分からんが反応してしまう。
「僕の名前は藤川英(フジカワハナ)。英語の英と書いてハナと読む。要とはクラスも委員会も同じ、親友ってところかな」
「英って珍しい名前だな」
「よく言われるよ。もう忘れないでね」
「…ゴメンな」
「謝る必要はないよ。じゃあ次は亮介、頼むね」
そう言って金髪天パの少年、藤川英は座った。
そして代わりに赤茶短髪の体育会系な少年が立ち上がる。
「おっす!俺は如月亮介(キサラギリョウスケ)だ!よろしくな!」
「お、おう…よろしく」
何か握手を求められてしまった。とりあえず握手をするが…何か暑苦しい。
「…もう終わり?」
「他に何か言うことあるのか?」
「いや、別に無いなら良いんだけど…」
「ああ!前に要に借りたエロゲーならちゃんと返すから安心してくれ!」
「そっか、ありが……はあっ!?」
535リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 01:00:55 ID:6vjtxC6b
今いきなり爆弾発言しなかったコイツ…。というか
「あらら」
「………へぇ」
「………ふぅん」
「あ…要、スマン」
空気が重いですよ。息が出来ないほど。そして女子二人の視線が痛い。
「…ちょっと良いかな、兄さん」
「ち、違うんだ…俺は知らない、知らないんだ!」
「言い訳は…後で聞くわ」
「だ、誰か…!…英、助けてくれっ!」
俺は親友へ助けを求めるが…。
「現在電波の届かないところにおられるか電源が入っていません」
「親友じゃねえのかよ!?」
「ダッテウシロコワイ」
「えっ」
後ろ?と思い振り向いた瞬間
「成敗っ!!」
潤の上段回し蹴りが目の前に
「っ!?」
さく…れ……つ……
「し……ろ………」
最期に見えたのは可愛らしい白い布だった。
「「か、かなめぇぇぇえ!!」」
店内に英と亮介の声が響いた。さようならセカンドライフ。



夕焼けが街を包む頃。桜ヶ崎駅前商店街には5人の若者の姿があった。
「結局会長は来なかったな」
亮介が先頭を歩きながら話す。
「まあ会長は忙しい人だから。今オーストリアだっけ」
続いて英が要に肩を貸しながら潤に尋ねる。
「うーん…。どうだろ?兄さんが見付かったってメールはしたけどまだ返事は来てないから」
尋ねられた潤は茜色の空を見ながら答える。
「……しかし今日は痛い目にあったぜ」
俺は英に肩を貸してもらいながら拗ねた口調で言う。左足には包帯が巻いてあった。
「でも受け身に失敗して足を捻るなんて要らしいね」
英はクスクスと笑いだした。
「元はといえば要に原因がある」
一番後ろを歩いていた白髪の少女、春日井遥(カスガイハルカ)が素っ気なく繋げる。
536リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 01:01:44 ID:6vjtxC6b

「俺は被害者だ!大体春日井は…」
反論しようと春日井を見る。
夕焼けが艶やかな彼女の白髪を強調していて何とも形容しがたい雰囲気を放っていた。
「……春日井は、何?」
スッと音もなく近づく春日井。潤と同い年には到底見えない綺麗な顔立ちに、思わず目を逸らす。
「…と、年下なのに生意気なんだよ」
何故かすくんでしまう。
最初に春日井を見た時から感じる違和感。一体彼女の何に怯えているのだろう。
「ふーん…。そういうこというんだ。エロゲー野郎」
「なっ!?」
「歳とかそういうのは関係ないって言ったのは要。…忘れてると思うけど」
夕焼けを見つめる春日井の横顔は今にも泣き出しそうだった。
「…悪かったよ、忘れちまって」
はたして何を忘れて何を覚えているんだろうか、俺は。
「まあまあ、要も忘れたくて忘れた訳じゃないわけだし」
俺の背中を軽く叩きながら英が言う。
「それに俺達はまた会えたわけだし、何の問題もねぇさ!」
相変わらず先頭を歩き続ける亮介がガッツポーズをしながら俺を励ましてくれた。
「さ、忙しくなるのはこれからだよ兄さん。"要組"も再開しなきゃいけないしね」
「"要組"…?何だその暴力団的な名前は」
「さっき言ってた組のことだよ。クラスじゃなくてこの皆のこと!」
「"要組"…」
何か引っ掛かる。何だろう…すごく大切なことを忘れてるような…。
「聞いて要」
突然春日井が歩くの止める。皆も止まり彼女を見ていた。
「あのね…。わたし、要組が大好き。皆のおかげで今のわたしがいる。だから忘れていてもいい。"また、やり直せばいい"。ね?」
ゆっくりと微笑んだ彼女に皆が頷く。そして俺も
「…そうだな」
ゆっくりと頷いた。



「要…組…」
深夜。まだ慣れない自分のベッドのせいか寝られない。
まあそれだけが原因じゃない訳だが。
「なんだろう…この感じ」
思い出せそうで思い出せない。そんなもどかしさから寝られずにいた。
「…焦る必要なんて無いよな」
気になることはある。
もう一人の仲間らしい『美空優(ミソラユウ)』のこと。一つ上で生徒会長らしい。
というかそもそもなぜ要組が出来たのか。でも気にしていても仕方ない。
「学校か。どんなとこなんだろ」
まるで入学式前の小学生のような気持ちになった。
537リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/26(月) 01:04:19 ID:6vjtxC6b
今回はここまでです。病み要素少なめですいません。
そろそろ役者が揃いそうです。読んでくださった方、ありがとうございました。
投下終了します。
538名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 01:11:01 ID:mGU3niRh
gj!!リアルタイムだ!

ついに修羅場が始まるんですね…
539名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 01:13:56 ID:4BpQSLgo
GJ!
半端なく続きが気になるんだが
540名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 01:18:37 ID:1FwHvBXL
GJ!
役不足の使い方が違うっぽいのは故意?
541名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 01:58:54 ID:cdKugNVl
GJGJ!
続き待ってるよ
542名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 02:01:47 ID:ugr0lEaq
GJ!
最近干からびてるここに水を与え続けてくれてるのは最近だと貴方とヤンデレ家族の作者くらいだ!!

ところで、推測だけどエロゲーとかパソコンとか捨てたの潤じゃね?
543名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 02:16:59 ID:AV4nsE8g
GJ!!

エロゲーは多分潤の仕業だな。
でも要がエロゲー好きっていう設定にすら伏線がありそうだ。
この作者さんは結構創り込むからな。
544 ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/26(月) 09:12:10 ID:N8aXTVcj
おはようございます。
触雷!の第一二話を投下します。
区切りの関係で、今回は短めです。
545名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 09:12:52 ID:E74wUT25
GJ!
セクハラとか文句言ってたけど
実は乳首突かれて喜んでそうだな潤
546 ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/26(月) 09:18:09 ID:N8aXTVcj
「は、はい。ええと……」
僕は口ごもった。
今になって、先輩が紅麗亜のことを持ち出すのはどうしてだろうと思う。
確かに僕は、先輩を襲う前、紅麗亜のことを延々と話していた。
でも、そのとき先輩はほとんど無視していたはずだ。
嫌な予感がした。
「すぐに解雇してください」
「!!」
案の定、想定した中で最悪の台詞が、先輩の口から出た。
もちろん先輩の気持ちは分かる。
何しろスタンガンで攻撃されたのだから、先輩に紅麗亜をよく思えと言う方が無理だ。
しかし、僕が今日ここに来たのは、紅麗亜が僕の家にいられるよう、話を付けるため。
ここで唯々諾々と紅麗亜を馘首したのでは、何のために来たのか分からなかった。
「ま、待ってください」
僕は先輩を宥めにかかった。まずは先日の、スタンガンの件の謝罪から始める。
「この間は……いや、この間も本当に済みませんでした。しかし、あれは僕が悪かったのであって、紅麗亜は……」
「違います。そうじゃありません」
「え……?」
何が違うのだろうか。僕は先輩の言葉を解しかねた。
「詩宝さんには、今日からこの屋敷で生活してもらいます。身の回りのお世話全般は私達がやりますから、メイドは必要ありません。だから解雇してください」
「なっ……」
僕は驚愕した。
今日からずっとここに閉じ込められ、家には帰れないということなのか。
「……僕、ずっとここにいなきゃいけないんですか?」
「当然です。詩宝様のような性犯罪者を、外に出せると思うのですか? 無害になったと私達が判断するまで、詩宝様をこの屋敷に軟禁させていただきます」
「…………」
そう言われると、僕は黙り込むしかなかった。僕は先輩を襲った犯罪者。殺されないだけでも、感謝しなくてはいけない身分なのだ。
「では、善は急げです。詩宝様、早速お電話を」
エメリアさんは、部屋の隅にある机へ歩いて行った。
そして机の上にあった電話機を持ってきて、僕に差し出す。
「さあ、どうぞ」
「…………」
しかし、僕はまだ降伏しなかった。
最後の望みをかけ、抵抗を試みる。
「あっ、あの……」
「何でしょうか?」
「あの……もう少し、検討の余地があるかと思うんですが。例えば、紅麗亜にこのお屋敷に来て働いてもらうとか……」
「詩宝さん」
しばらく黙って聞いていた先輩が、ここで口を開いた。
「私のお願い、聞いてくれないんですか?」
振り向くと、先輩は涙目になっていた。
547触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/26(月) 09:18:48 ID:N8aXTVcj
僕は再度、自分の立場を思い知る。
今の僕は、一生かけて先輩に償う義務があるのだ。
先輩の意向に逆らうなど、決してやってはいけない。考えてもいけない。
「……分かりました」
僕は頷く。先輩は微笑を浮かべた。
「それでいいんです。詩宝さんはこれから一生、私の言うことだけ聞いていればいいんですよ」
「はい……」
僕は震える手で受話機を取り、自分の携帯電話の番号を押し始めた。
僕の携帯電話は確か、紅麗亜がいつも持ち歩いているはずだ。
紅麗亜がこの電話の番号を着信拒否にしていなければ、連絡が取れるだろう。
かけてみると、2回目のコールでつながった。
『もしもし?』
紅麗亜の声が聞こえた。気分が重くなる。
「く、紅麗亜……」
紅麗亜の名前を呼ぶ。息が苦しい。彼女からはきっと、押し殺したような声に聞こえたに違いない。
『ご主人様! 今どちらにいらっしゃるのですか!?』
電話の向こうで紅麗亜が叫ぶ。何か切羽詰まった様子だ。
「先輩の、お屋敷だよ……」
『すぐに逃げてください! 雌蟲の婚約は欺瞞でした。そこにいては危険です! 私もすぐ迎えに参ります!』
先輩の婚約は嘘だと、紅麗亜も気付いたらしい。どうやって知ったのかまでは、分からないが。
「ご、ごめん。紅麗亜……」
僕は、自分の目に涙が浮かんでいるのが分かった。
『ご主人様?』
「僕もう、紅麗亜のこと、雇ってあげられないんだ……」
そこまで言ったとき、不意に受話機が取り上げられた。
僕に代わって受話機を持った先輩が話す。
「聞いたわね? あなたはお払い箱よ。今すぐ詩宝さんの家から出て行きなさい。ちなみに、詩宝さんの家は今、私の名義になっているから、居座るなら不法占拠で警察を呼ぶわ。それじゃ」
ガチャン
先輩が無造作に受話機を置くと、エメリアさんが電話機を元の場所に戻した。
「…………」
僕はしばらく、茫然とその場に立ち尽くしていた。
先輩が正面から、僕を抱き締めてきた。
「これで、いいんですよ」
「ああ……」
いつしか僕は、先輩を抱き返していた。
と、そのとき、ソフィさんが戻ってくる。
ソフィさんは先輩に近づき、何事かを耳打ちした。
先輩はソフィさんに頷いた。それから僕の顔を見る。
「詩宝さん」
「はい」
「野暮用も片付きましたし、お披露目に行きましょう」
「お、お披露目って……?」
「もちろん、今日集まってくれた人達によ。舞華ちゃんと詩宝ちゃんが婚約しましたって」
華織さんが言うと、先輩は嬉しそうに腕を絡めてきた。
「うふふ……着替えないといけませんね」
548触雷! ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/26(月) 09:19:21 ID:N8aXTVcj
「はい……」
僕は観念した。事ここに至っては、万事先輩の言う通りにするしかない。
ただ、いくつか気になることがあった。それをすっきりさせたいと思う。
「あの、先輩……聞きたいことがいくつかあるんですけど、いいですか?」
「駄目です」
「…………」
犯罪者には、質問すら許されないのか。暗澹とした気持ちになりかけたが、そうではなかった。
「先輩なんて、他人行儀な呼び方はもう駄目です。これからは名前で呼んでください」
そういうことか。僕は、少しつかえながら言い直した。
「ま、舞華、さん……」
「はい。詩宝さん」
一転して、先輩が笑顔になった。これでないといけないらしい。
ずっと“先輩”と呼んできたので、慣れるのに時間がかかりそうだ。
「舞華ちゃん、旦那様の質問に答えなさい」
「あ、ごめんなさい。どうぞ」
華織さんに促されて、先輩は改めて尋ねてきた。僕はさっきから気になっていたことを聞いてみる。
「あの、僕の家が先輩の名義って……?」
「あ、はい。勝手だとは思ったんですけど、詩宝さんのご両親にお話しして、ご自宅を譲ってもらったんですよ。その方がメイドを追い出しやすいですから」
「そ、そうですか……」
うちの両親も、よく同意したものだと思った。
よほど法外なお金でも積まれたんだろうか。先輩ならあり得る。
「ええと、それから……」
「はい」
「うちの学校の生徒、みんな呼んだんじゃないんですか? 女の子しかいなかったみたいですけど……」
「ああ、それはですね」
答えたのはソフィさんだった。
「今日集まってもらったのは、学校と、中一条グループの系列企業の中で、ボスと特に親しい方だけなのです」
「本格的にお嬢様の婚約披露会を催してお客様を招待したら、各界の名士の方々をお呼びしないといけません。それではいくら何でも、今日に間に合いませんから」
エメリアさんが続ける。なるほど、と僕は思った。
先輩は学校では、ほとんど独裁者に近い権勢を誇っている。取り巻きの数は半端ではない。
中一条グループでも、先輩に服従する人は多いだろう。
今回はそういう人達を動員して、この婚約披露会をこしらえたというわけだ。
「もう大丈夫ですか? 詩宝さん」
「あ、はい」
結局、一番聞きたかったことは怖くて聞けなかった。
僕が先輩を襲わなかったら、どうするつもりだったんですか……と。

その後僕は、エメリアさんとソフィさんに、新しい制服(なぜか用意されていた)を着せられた。
着替え終わると、先輩が新しいドレス(今度は露出が少なめだった)を着て現れ、僕の手を引いて来賓の人達の前まで連れて行く。
先輩が、みんなに向かって幸せそうに話していた内容は、あまり僕の耳に入らなかった。体力的な限界が来ていたせいだろう。
お披露目が終わり、奥に引っ込んで間もなく、僕は気絶した。
549 ◆0jC/tVr8LQ :2010/07/26(月) 09:21:45 ID:N8aXTVcj
今回は以上です。
割り込み失礼しました。投下予告しておいて延期も何なので、投下だけはさせていただきました。
スルーしてただいても構いません。
ちなみに、次回は晃サイド+紅麗亜サイドの予定です。
550名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 10:52:13 ID:E74wUT25
GJ!
レスのタイミングが被ってしまってすみません
551名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 11:24:30 ID:ugr0lEaq
ほ・・本当に触雷か?

ようやく、ようやくキター!!
552名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 11:46:06 ID:NsoW5+wb
相変わらず不憫な主人公でナイタ
GJ!
553名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 11:59:18 ID:U5QUQZsZ
素直に帰ったとみせかけてこっそり潜入していた紅麗亜が乱入してくると思ったが別にそんな事は無かったぜ
554名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 12:24:16 ID:llqmJY9f
ムキムキメイド萌え
555名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 12:43:46 ID:yMWWi+pK
エクセレント!!!
次回は晃サイドか・・・すげー楽しみだ
556名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 12:50:44 ID:p6RUIbpc
ジャンプが盛り上がってきました
557名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 13:20:41 ID:llqmJY9f
めだかの腐り女か?
今週はまだ読んでないけど
558 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:48:56 ID:Gyf/E3lX
お久しぶりですー。夏休みがうらやましく感じるここ最近。
では軋んでいく歯車投稿します。
559 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:49:52 ID:Gyf/E3lX
「というわけで我がクラスはコスプレ喫茶にすることに決まったのだがどうだろうか?」
「「「異議なしー」」」
 俺のクラスがおかしいのか。俺がおかしいのか……どうなんだろう。
「問題は料理だが。そうだな。コスプレするのが嫌な奴にやらせよう。それなら全員持ち場が出来るだろう」
 それなら全員持ち場あるだろうが人として間違っている気がしてならない。
「さてホール班が嫌な奴は手を上げてくれ」
「「「……」」」
「はい!」
「さてだれもいないようだな。全員ホールということになるな。まあ食べ物は仕入れていいだろう。一割高く売れば元はとれるだろうしな」
 若干想像していたけれど無視か……
「俺着たくないですよ!」
「副会長に拒否権なんて存在しない」
「横暴だ!」
 人権というものは存在しないのか? ここには。いや会長が絶対権力者か。
「まあ卓也弄りもほどほどにしておこう」
「始めからしないでくださいよ!」
 ツッコミをしてると会長はおもむろに肩に手を置き俺に言う。
「卓也……お前……私と正敏といるときは言葉遣い汚いのに周りに人がいると言葉遣いが汚くなくなるんだな」
「関係ねぇだろ今!」
 急に教室の中がざわめく。あ……つい素が出てしまった。
『聞いたか?』
『ああ、はっきりと』
『『『顔が女の子みたいだから似合わないよな!』』』
 お前等ミンチにしてやろうか……
「ほらあいつらも言ってることだし似合わないから私と正敏だけの時も少年っぽくツッコミいれてくれ」
「少年っぽいツッコミなんかわからねぇよ!」
 会長がヤレヤレと言いたそうにこっちをみる。なにその目。普通に解れよといいたいのか。
「まあ話が続かなくなる可能性があるからここで終わっておこう。次は衣装についての説明をする」
 手元にある紙を全員に渡し、全員に配られたのを見てから説明を始めた。
「あーここに書いてるのは服の規定だ。まず話すのは服の指定についてだが。服は自由。各自自分の魅力を最大限に生かせる服を準備する。基本的に服についての制限はない」
 そういうとなにやら紙をとりだした。なんだろうあの紙。
「この紙は投票用紙だ。ただコスプレするのはつまらないだろう。だから順位をつけることにする。男子と女子の一位〜三位を決める。その人たちには賞品を用意しよう」
 その言葉で火がついたのかみんなの目が真剣になる。いやここ本気になる場面じゃないから。
「けれどもこの言葉で『優勝を狙うには!』と明らかに規制されそうな感じの服とか着るやつが出ると思う。そのため服の面積を書いた紙も提出してもらう。布の面積が規定より以下なら着替えと言うことで学生服とエプロンでホールになる」
 みんなゴクッとつばを飲み込む。いやいやおかしいだろう。なんでみんなこんなにやる気オーラ出しているのか解らない。
「さてもう一つ企画しているのだが」
 そういってプロジェクターでスクリーンに学校の地図を映し出す。っていつの間に用意したんだ。
「我がクラスはこの教室と音楽室が使えるのだが……食べ物は教室に置こうと思うのだが……その場合この第一音楽準備室と第二音楽準備室が空くことになるのだ。そこでだ」
 正敏がせっせとプロジェクターを止めスクリーンを閉じる。頑張ってるな正敏。
「特別サービス室を作ろうと思う」
 黒板に正敏がせっせと概要を書き始める。忙しいな正敏。
「例えば可愛い執事さんや可愛いメイドさんとおしゃべりしたい! という人がいると思う。その人たちために性的なことならダメだがおしゃべりや一緒に食べたりすることのできる部屋。それがこれだ」
 黒板にある概要に棒をとんとんとあてて喋り続ける。
「特別料金でこのサービスを利用することが出来るのだがこの指名率のナンバー1にも賞品をやろう。面白くなってきただろう。一人一回、同じ客は入れないというわけだ。時間も10分と固定にする。さぁどうなるのか楽しみだな」
 みんなが燃え始める。本当に勝負好きだな。このクラス。
「あ、ちなみに学内展示No,1になった場合、月島先生が焼肉食べ放題の店で打ち上げするそうだ。学内展示No,1賞の場合じゃ特製学食メニュー一ヶ月が食べれる。賞品一杯だ。勝つしかないな」
『うおぉぉぉー!』
 会長の一言にさらに燃え上がるこのクラス。今年の学園祭やばそうだな。腹的な意味で。
「さて男子は外装の準備、女子は内装の準備を頼む。くれぐれもケガをしない程度にな」
 会長の話が終わり男子は男子、女子は女子で別れ話し合う。よく納得したよな。こんな短い説明で。これも会長のカリスマなのか? いや全員バカなだけか。
560 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:50:39 ID:Gyf/E3lX
「あ〜たくやん〜たくやん〜茜ちゃんいるじゃん〜」
「どうしたんだ妹が」
「詳しくは〜解らないけど〜ギャル男みたいな〜肌が茶色で〜髪が無くて〜ピアスして〜『俺様、超カッコイイ』っていうのが口癖の野球部の〜いかにも悪いことするぜ〜って感じの目のやつと〜歩いてたんだけど〜」
 うちの妹が野球部のチャラいハゲでナルシストな男と恋仲とは……
「そういう趣味だったのか妹よ……」
「う〜んただの恋仲なら僕は何も言わないよ〜でも〜おかしいんだよね〜」
「どうかしたのか?」
 いつもなら正敏はそういうの聞いたら放っておくからこういう風に言うのは珍しい。
「あはは〜どうも〜首輪みたいなのが首にね〜」
 俺は手元にある正敏のカメラの映像を見る。確かに首輪のようなものが見える。あー可愛いな。日付は今日か。って!?
「これ盗撮じゃねぇか! しかもカメラの携帯は校則違反だぞ!」
「これは〜敵情視察用のカメラ君〜別に〜やましい心じゃないよ〜」
 確かにやましい心でとるなら更衣室だよな。というか正敏が性的な方面に走る気がしないな。
「でもこれ〜もしかしたら〜ラッキーなのかもよ〜もしかしたら脅迫されてこんなのやってるかもしれないしね〜」
「うーんでもこれだけじゃなんとも言えないな。もしかしたら妹のクラスは劇でそのためこんな格好という可能性もあるし」
「そうだね〜茜ちゃんは〜八方美人で明るく自分以外の仕事も〜やる子だからそうかもしれないね〜」
 やはりなんともいえないよな。
「帰ったら何気なく聞いてみるよ。ありがとな」
「どういたしまして〜どういたしまして〜」
 あれ? 何やるんだっけ
「そこのニバカ……仕事サボって何してるんだ?」
「「ヒッ!!」」
 俺たちは即立ち上がりすぐに走り出す。しかし正敏は腕を掴まれてしまった。ご愁傷様。
「正敏! 俺の代わりになってくれたんだね! ありがと!」
「あ! 裏切り者! 会長〜この前〜会長のプリン食べたの〜たくやんで〜す」
 こっちに般若が顔を向ける。
「卓也、覚悟は出来てるか?」
 いやあれ般若じゃなく修羅だね。今日は死亡するかもな〜。あはは。
561 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:52:01 ID:Gyf/E3lX
「うふ、今日も可愛いな。茜ちゃん」
「うるさい野球ハゲ! 兄さん以外にそんなこと言われても嬉しくない!!」
 なんでこんなことに……
「それにしても似合うな、首輪」
 なんでこんな男に……
「もう帰っていいでしょ! 首輪つけて学校歩いたんだし!」
「そんなので終わるわけが無い」
「な、なんでよ! 今日一緒に歩いたじゃない! それでいいでしょ!」
 私はこの男を殺したくなった。でも、でも……
「そんなんじゃ調教にならないよ。茜ちゃん」
 気持ちの悪い声が耳元でささやかれる。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!!
「調子にのるんじゃないわよ!」
 私はこの野球ハゲを蹴ろうと思った。しかしカメラが突き出される。
「いいのかなーこの写真をばら撒かれても」
 そこには画像が荒いが兄のような人物が写っている。そう。兄ではない。それはわかっている。けれども……
「ブラコンの茜ちゃんには兄じゃないってわかったけど。これ他の人が見たら確実に……お兄さんだと思われるよね。そう--」
 この写真がばら撒かれると。どうなるか。そう兄さんの人生が閉じてしまう。
「--よくて停学、悪くて退学だな。『周りには優しく紳士的な彼は実は万引きしていました』って社会的にも終わっちゃうよな」
 兄さんは学校では人気がある。優しく行動的でどんなに苦しいときがあっても前向きに行動する。それが兄さんだ。
 女は私が兄さんには彼女が入るといったりホモだとか言ってみたりして諦めさせているけれどもこれは。
 それが崩れてしまったら。優しく紳士的な男という像があるからそれが崩れたときの批判は相当のものだと思う。
 兄は耐えれるかもしれないがボロボロになるだろう。そんなことにはなってほしくない……
「さてそれじゃ早速……そうだな。そろそろ性的なことしようか」
「え、い、いや!」
 近寄ってくる。ズボンのベルトに手を掛けながら。兄さん以外のものが私に……
「いや! よらないで!!」
 ニヤニヤしている。どうして。なんで。なんで。私に近寄るの!!
562 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:52:41 ID:Gyf/E3lX
『やらせてたまるか!!!』
 え、この声……兄さん……?
「な、なんであの男の声が!」
 ガラガラと扉が開く。そこには真剣な表情の兄さんがいた。肩で息をしている。走ってここまで……
 私は嬉しくて泣きたくなった。兄さんが私を助けに来てくれた。それが嬉しくて
「兄さん……」
 兄さんは男に近づていく。男はビクンと震えた。それはそうだろう。こんな真剣な表情だ。スイッチが入ってる兄さんは強い。
 少年っぽい外見と控えめな態度のためあんまり強くないと思われているが少なくともこいつが三人いても撃退できるだろう。
「お前邪魔だボケェェ!!!」
 兄さんがいきなりとび蹴りをする。あれ? 今セリフ変じゃなかった?
「くそ、こいつが窓の前にいたせいでとんだタイムロスに!! あ、茜よっす。ここで何してるんだ?」
「え……兄貴何って……助けてくれたんじゃ……」
「何言ってるんだ? 俺が助けてもらいたいよ」
 そう言って窓枠に近づいていく。
「やらせてたまるかって……」
「あ、それ? 今会長に追いかけられてんだよ。大声出して三階にまだいると思わせる。んで俺はこの部屋からグランドに逃走するという作戦だ。やば! そろそろくる!」
 兄さんはそういって窓から飛び降りた。ここ三階だよ!?
 窓から覗くと兄さんは近くの木につかまり降りていく。デタラメな運動神経だと思う。
「ここかぁぁああああ!? ん? 茜じゃないか。昨日ぶりだな」
「葵さん……」
 現生徒会、生徒会長新條葵先輩がドアを壊さんばかりに思いっきり開ける。幼馴染だけどこの人は好きじゃない。なぜかって言うとなんとなく。でも最初は嫌いじゃなかったと思う。嫌いになったのは……中学生のころだった。
 あの事件のあとからたぶん私はこの人のことが嫌いになったんだろう。
「卓也はいないか?」
 兄さんを探しているらしい。また追いかけっこ……
「いないらしいな。ん、このハゲ邪魔だな」
 会長は地面に倒れこんでいた男に蹴りをする。
「ぐへ!」
 変な短い悲鳴をあげる。ガチャンと何かの音が鳴る。どうやら男のカメラが落ちたらしい。
「カメラか……校則違反だというのに」
 それを拾い葵さんも窓に手をかけ。って、え……
「あ、あの葵さんその手は」
「卓也はここから降りたのだろう。窓が開いているしその下の木も不自然に揺れているだろう。だからまだ間に合うと思うから私もここから降りていくのだ」
 そういうと兄さんのように降りていく。……相変わらず人間離れしていると思う。兄さんも葵さんも。
 あ、カメラ……まあいっか。帰ろう。今日はとりあえず兄さんに甘えよう。それぐらいいいよね。
563 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:55:02 ID:Gyf/E3lX
「姉御!! 助けて! 姉御ならきっと!」
「誰が姉御だ! それでどうした卓也」
 俺は校庭で地面を均していた楓さんに助けをもとめることにした。
「楓さん! 実はですね。この前のプリン泥棒が俺だって正敏が言ってそれで追いかけられているんだ!」
「なるほどな〜わかった。アタシに任せてくれ」
 少ししたあと会長がやってきた。
「見つけたぞ!」
「あ、会長少しいいか」
「楓、私は今その後ろにいる奴の尻を百叩きするつもりなのだが」
 どんな昔の怒りかた!? 古いよ! しかも痛くなさそうだよ!
「いやいや、聞いてくれ。あのプリンな。アタシが食べたんだ。すまん」
 愕然した表情でこちらを見た。楓さんと会長は友人だからうん。仕方ないかも。
「ほ、本当か……」
「ああ」
 うなだれる。その姿からは哀愁が漂っていた。そんなにプリンに執着してたのか……
「あ、そういえばそのカメラなんだ?」
「……ああ、さっき校則違反してたやつから没収したものだ。結構新型だろう。こんなカメラよりプリン食べたい」
「プリンは今度買ってやるからさ。落ち着いてくれよ。それよりこれ見ようぜー。アタシこういうの見るの好きなんだ〜」
 覇気のない会長からカメラを奪い弄り始める。
「んー味気ないなー。部活用の記録用のカメラか? あれ、これ……卓也か? いやこれは違うな……」
「え、俺?」
「なんかな。このカメラに合成されたようなお前の画像があるんだよ」
 俺にその画像を見せる。服は俺の持っている服、顔に見えるけど……
「俺万引きなんてしてませんよ。しかも俺なら買い物カゴは右手に持ちますしエコバックも持ちますよ」
「ああ、それはわかる。だが……私達以外がこれを見た場合どうなるか」
「俺を貶めるための道具になるね」
 俺は能力は低いからこういうのを公開されたらひとたまりも無く解役させられるだろう。
 というか万引きは犯罪だから一発退学だと思う。
「アタシが思うに自分のクラスならギリギリなんとか無実になるかもしれないと思うけど、他のクラスじゃうまくいかないだろうね」
「そうだな。私もそう思うな。しかしこんな写真を作って何をするつもりなんだ」
 会長が復活して一緒にカメラの画面を覗き込んでいる。会長は美人だから幼馴染といえど顔が近いとやはり緊張してしまう。
「たぶん俺の解役……かな?」
「アタシは違うと思うけど……」
「そうだな。私もなにか違うと思う」
 二人はウンウン唸りながら考えている。頼もしいけどやっぱり悪い気がするな。
「うーむ強姦とか?」
 ということは俺の妹を? いや? いやいや?
 あいつ本性悪いからこんな写真とっても『兄さん? 知らないわよ。勝手に退学しちゃえば? あ、そうそう家族の縁は切っておいてね』
 とか普通に言うと思うから脅しても無意味だと思うけどな。
「なるほど……卓也は女の子っぽいから存外いけるやも……」
「ちょっと! そこぉ! 俺かよ! ありえねえよ!」
 こいつら真面目に考えているのか分からなくなった。
「まあとりあえず今日はあの喫茶店でなにかつまんでいかないか。甘いものが食べたい」
「アタシも今日は部活無いからついていくよ。卓也もくるよな?」
「行くよ。俺も暇だし」
 こうして俺たち3人であの喫茶店にいくことにした。あとから正敏も合流し愛さんと話しながら楽しくまったりしていた。
 帰ってきたらなぜか妹に凄く叱られてしまったけれど。
564 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/26(月) 13:56:30 ID:Gyf/E3lX
以上です。
世間は夏休みだけど……社会にでてから夏休みって働く期間だなーとしみじみ思いますね。
565名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 16:47:22 ID:SwaFTtzB
(゚ω゚)b
566名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 19:49:21 ID:7s2ZTEff
板違いだけど今週号のめだか腐り女が良すぎるw
567名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 19:54:23 ID:3+RiF5ci
作者の皆様GJ

あぁ今週のめだかは良かった
結構好きなタイプだ
568名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 19:55:59 ID:iLxvTR2e
触雷!と軋歯車、ありがとうございます!次も楽しみにしています!
569名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 20:38:44 ID:883FPVWL
宣伝乙
570名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 20:51:43 ID:TdJrX76a
非日常の日常の者です
最近はバイトなどが忙しい上にネタが思いつかないために短編を投下します
571ヤンデレ育成日記:2010/07/26(月) 20:52:25 ID:TdJrX76a
○○月○○日(木)

今日からヤンデレ育成日記なるものをつけていこうと思う。

今回の対象は、どこか一癖あるような依存性の高い女で行こうと思う。

ちょうど仕事先にいい対象がいるためちょうどよかった。

どうやら向こうは俺に好意を持っているようだから落とすのは容易いだろう。

さてまずはどう落とそうか。

○○月○△日(金)

とりあえずベタな落とし文句で責めたらあっけなく落ちた。

少し味気なかったがこれで正式に交際することになった

ここからどうやって病ましていこうか・・・・・。

○○月×□日(土)

まずは適当に甘い言葉で幸福に浸らせておくことにした。

向こうはそれはもう幸せそうな顔をしてて、本来の目的を忘れてしまいそうになる。

だがどこでどん底に落としてやろうかというタイミングは考えてある。

では今から引越しの準備をしよう。

(しばらく日記は書かれず)


○●月▲◇日(金)

あれから新しい引越し場所での荷物の整理などで日記を怠っていた。

会社には有休で届けているため問題はない。

そしてあの女だがすごい荒れ具合だった。

それはもうかつての家の前に3日も居座ったり、電話の着信履歴はすべてあいつで埋まってしまった。

電話切れたら即かけなおしてくるのが何回もあり一日だけで軽く100回は行ってる感じがした。

まぁ基本はマナーモードの俺にはそこまで苦ではなかったが。

更にはどうやら社長に俺の居場所を聞きに行ってしまったらしく電話まで来た。

一応社長は小さい頃からの知り合いであるため、事前に教えないでくれという無茶なこともやってくれたようだが。

だが危うく、数少ない髪の毛を刈り取られそうになりかけたそうだ・・・・・・・。

しかしこれはいい方向に向かっている気がする。

そろそろ連絡を入れてやるとするか。
572ヤンデレ育成日記:2010/07/26(月) 20:53:46 ID:TdJrX76a
○●月▲▼日(土)

連絡を入れたらそれはもう泣きまくられた。

おそらく一時間ぐらいは泣かれたんではなかろうか。

適当に慰めていろいろと話し合った。

住所をしつこく聞かれたがなんとか話を逸らした。

かわりに明日デートする羽目になったが。

そして最近外に変な男がいるのが妙に気になるが・・・・・・。

単語が出ないために明日に思い出すつもりでいる。

じゃあ今日はこの辺りで寝るか。

573ヤンデレ育成日記:2010/07/26(月) 20:54:17 ID:TdJrX76a
○●月▲☆日(日)

デートと昨日は書いたが訂正させてもらう。

詳しくはデートと言う名の尋問だった。

私のことはもう嫌いなったのかだとか他に女がいるのではないのかとかだらだらと。

そんなことはないよと優しくキスをしてやったらすぐに赤くなりやがった。

その後は何故かラブホに連れて行かれてここ最近ためていたものをすべて吸い取られてしまった。

向こうはゴムを渡そうとしてきたが持参していたものをあえて使った。

絶対に穴ぐらい開けているはずだからな。

それと謎の男の正体はおそらく探偵だろう。

面倒だが知り合いのコネを使ってもらうとするか。

○●月▲Ж日(月)

仕事中に知り合いに電話をして探偵をどうにかしてもらった。

今日帰ってきたらいなかったから成功したんだろう。

だがこれでまたどでかい屋敷に連れて行かれて飲まされるんだろうな。

どうやらあいつとあいつの親にも懐かれて?しまった感じだし。

まぁともかく仲がいいことには変わりないからいいのだがな。

そしてあの女だが今はすっかり落ち着いている。

昨日たんまりと吸い尽くしたからか?

だがすぐにまたどん底に落とすための秘策はある。

もう少ししたら家に従姉が来ることになっているからそれを利用する。

女王気質なのが気に入らないが・・・・・・まぁ別にいいか。

これをうまく使って修羅場にもっていってやる。

(しばらく日記は書かれず)
574ヤンデレ育成日記:2010/07/26(月) 20:55:15 ID:TdJrX76a
○◎月ΘΨ日(水)

前の日記から一月近く書いていなかったがな・・・・・存在を忘れていただけだが。

ざっと簡単に説明すると

1、従姉が家に来る

2、街中に二人だけで繰り出す(既に十回近く行った)

3、あの女がそれを見つけて怒り出す(殺気が感じたから)

4、途中で従姉に食べさせてやったりする(途中でグラスが割れた音がしたが)

5、止めとして手をつなぐ(悲鳴が聞こえた気が)

6、我慢できなくなったのかあの女が夜道から襲う

7、しかし逆に鳩尾を殴ってやって返り討ちにする

8、つかの間の休憩(今ここ)

あの女を狂わすためにいろいろとやったわけだが従姉がどこか赤く見えるのは気のせいだろうか。

だがそろそろ本格的に来る頃だろうから準備をしておこうと思う。

また例の知り合いに頼んであの女に近づいてもらってあえて監禁部屋を提供する。

あの女の近くにもあいつの関係者がいるからな・・・・・勿論危ないやつだが。

そのため怪しまれずに行くだろうな。

後は向こうが行動を移すまで待機とするか。

今日はこのあたりにしておこう。

575ヤンデレ育成日記:2010/07/26(月) 20:55:41 ID:TdJrX76a
○◎月Θω日(木)

昨日の夜のうちに電話をかけておいたら早速手配をしてくれた。

相変わらず仕事が速いのは良いんだがこんな知り合いを持つのもいろいろ大変なものだ。

そして今家のチャイムを鳴らしまくってるドアホもいるという・・・・・・・。

なぜ住所がわかったかは大体想像つくが・・・・・・あえて書かないでおこう。

そして従姉はさっきから包丁を研いでるのがとても気になるが気のせいだろう。

この修羅場は予想外だったがなんとかなるだろう。

それじゃ従姉に出てもらってくるか。

(しばらく日記は書かれず)

○ 月л  (火) 

ま  こん  とにな とは思 な った  

従 が  れた後拉  れ のはいいが脚  断さ るとは わなか

い なりスタ ガ で弱らせ   まで予想で  かった は不覚だ

例  り合い 来  れて助 てくれたが のこ  好 だと 抜  や った

女っぽ  は思 たが 当に女 は思わな  た

いし  は きりし くなっ きや った

し っ つ お すぎ んだ う

さい にこのに きをみたも につた てお とがある

ぜった   んなを  せるこ はしては  ないぞ

お みた  りた なけ  な
576名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 20:57:13 ID:TdJrX76a
投下終了です
長編のほうはなるべく早く投下するようにします
577名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 21:38:10 ID:U6esv6cS
はっきり言って、この男の自業自得じゃん。なにが、「ヤンデレ育成日記なるものをつけていこうと思う。(キリッ」だよ。
この男に同情の余地はないね。
578名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 21:45:19 ID:gQLOQBZ0
意図的にヤンデレを作っておいて計画が薄すぎる‥‥
結局何がしたかったかわからないし
579名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 21:49:37 ID:o7jFmoIc
誠よりはまだマシだろ?
580名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 22:12:34 ID:Li3ghoQy
あれと比べちゃ駄目でしょう
581名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 22:19:28 ID:S8OLOAHC
実験目的で手を出したのが失敗だったな。
そりゃヤンデレさんだってぶち切れますよ。病ませるほど好きにさせといて、水を与えないんだから。
582名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 22:19:32 ID:NsoW5+wb
まさに身から出た錆同情の余地なし
作者GJ
583名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:13:49 ID:lmITIDfE
例の知り合い大勝利という解釈でいいのか?
584名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:21:27 ID:llqmJY9f
>>570
やっと自虐電波発言を自制できるようになったみたいだな?
しかも小ネタのほうが長編より面白いぞ
少しは成長したな
が、相変わらず文章は説明不足で独りよがりだ
もっと他人に読ませることを意識したほうがいいな
585名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:22:31 ID:rEc2Gzh/
最後死んだかと思ったけど、よく考えたらヤンデレが好きな男殺すわけないな
知り合いに出血多量で気絶させられて監禁部屋へGoって感じかね
586名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:28:23 ID:3+RiF5ci
>>584
なんで上目線なの?
テンプレぐらい読めよ
587名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:32:31 ID:rEc2Gzh/
.  /     /  /  l:     /  l           ∨i    、   |
  l│  /  イ  ,イ.    l  ト、ヽ     / | :l :|   |  l
  | |   l_メ、」_,;./l     L  l V   ∧ /  :|/   ハ.  ト、
  | ト.  |.____ ヽ    l´ヽ{ _⊥イ イ /   /    / l/⌒ヽ
  | | ヽ | 、i┘::::i  \  | r┬┬‐┬ァ V  ,∧.   ,'  ´
  レ   ヽ!  ゝ- '   \l  i,.┘:::::iノ / ,/〉│ :| { 
.      7/l/l/   、     `'ー‐ ' ∠≠r'ノ:jノ :| |
     λ            /l/l/l ∧‐'.:|:::|  ハ ',    なにこのスレ・・・
      `、      ヽ        ,/| ::| :|:::| ./ ヽ_> 
        ` = 、         ,.イ∧'|:l.:/l:::|´         見たことない単語だらけで意味が分からない
              `>-r  =ニi´、.,_`::: |:| { |:::l
          _,.イ´ヽ.7   /  /:\;八:V:ノ
       /7:::::!  ○O'´  /::::::::/ヽ
588名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:45:01 ID:SkO70V0q
>>587
やだ・・・かわいい。
589名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:48:26 ID:llqmJY9f
>>586
はあ?
俺はただ的確なアドバイスによって作者の可能性を育てているだけだが?
ぐだぐだ甘やかすだけのお前とは違うんだよ
ひょっとして以前もむやみに擁護したくせにその後はちゃっかりスルーしてた人ですかあ?
590名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:49:48 ID:V6ZF2Djc
>>586
気持ちは分かるが落ち着け
荒らしはスルーとテンプレにあるだろう
591名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:57:07 ID:llqmJY9f
俺からすればお前らこそスレの汚物だがな
俺のアドバイスを「荒らしだ荒らしだ!」と決めつけて騒ぎ立てる
その作者を徹底してフォローするのかとおもいきや、その後は手の平を返したように見向きもせず感想もつけない
美味しいところだけを狙い、自主的な行動は出来ず、他人のやり方に文句ばかりつけて、不利な状況に陥ると逃げ出すか見てみぬふり
ドラマや漫画の三流悪役やモブキャラみたいな連中だなwwww
哀れになるほど情けないのうwww
592名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:58:06 ID:rEc2Gzh/
>>586
こいつ以前に発狂して嫉妬スレみたいにしてやるって騒いでたキチガイだから触るな危険
593名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:05:37 ID:p+Y1xQdN
そんなに偉そうに言うなら作品の一つでも書いて欲しいな

モブキャラで三流悪役の俺には出来ないからさ
594名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:09:43 ID:BF9NTZ7S
スルーは日本の美徳です
595名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:20:19 ID:oxF+JF4D
>>593
んで?
俺は一応SS書きの端くれだから書けないことはないが、書いて晒せばお前はどうすんの?
無理やりアラを探すか、しょんぼり黙って逃げ出すんだろ?
テンプレ通りの情けねー奴だな
失せろよ、目障りだから
いま擁護してる作者だって、どうせまた手の平を返してスルーし始めるんだろwww
もういいよ、恥を晒すな
596名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:21:20 ID:Qi+GstHS
長文乙

そんな文章よりもSSが読みたい
597名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:32:55 ID:oxF+JF4D
賭けてもいいが、非日常での日常は今後またスルーされる
今回擁護してた連中はまた手の平を返す。学習しないし恥も知らない連中だから。
絶対に確実。
作者は長編よりも今回みたいな短編の小ネタをがんばれ。そっちが向いてるから。
カス読者どもは無責任で薄情な上に毒にも薬にもならないことをほざくから放っとけ
598名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:36:44 ID:qfrNw+ER
君は作者の家族でもないのになんでこんなに非日常の作者を大事にしてるの?
別にスルーされようが君の人生には何も関係のないことだろうに
599名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:42:13 ID:oxF+JF4D
>>598
同じSS書きとして、無責任なクソ読者に翻弄される仲間を放っとけない
ひたすらスルーされつづける作者を見ると哀れでならない
他人事とは思えないんだ
俺自身、高く評価されることもあれば、むなしくスルーされることもあるからな
言葉は厳しくても微力ながら助けになれば嬉しいと思っている
600名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:13:41 ID:TFrKwcOy
さて、作者様達の次回投下を全裸で待つか。
601名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:14:16 ID:oGOM+4eo
>>570
ぐっじょぶ。面白かったよ。長編も頑張ってね。
602名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:16:25 ID:oxF+JF4D
ウンコしながら待つわ
なんか最近 下痢気味なんだけど
食物繊維が足りねーな
603名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:17:59 ID:qfrNw+ER
っファイブミニ
604名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:24:12 ID:LruYKY09
72 :名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 15:04:07 ID:N75ml1JP
ヤンデレスレに宣戦布告をしてきた

ウナギイヌよ

お前の伝説を見せてくれ!!!!
605名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 01:26:48 ID:oxF+JF4D
>>603
普通の野菜ジュースじゃ駄目なん?
あー
ヤンデレに毎日の健康管理されたいわ
自分で考えるのめんどい
606名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 02:20:37 ID:rL/UCBal
自称・管理者(笑)がまた大量に沸いてるな…SS書きの端くれならちゃんと見せて欲しいもんだ。短編でもええから
607名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 02:57:48 ID:BWEeGl+G
こうして何も作れない阿呆が雑談してスレを食いつぶす事までが予定調和
608名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:00:03 ID:bvP+poG+
             ,.-――――‐  、
             /      ,.-――┴- 、
           /   |   /: : l、: : : ;l: : : : :\     _ -, -──‐-、
.          /   :! ./: : :、: :!_\;/ _V\ : |`、   /  /: : : : : : : : : \.    | _|_   |_L   /
         〈 ___V: : : :|∧|      __`|∨  ./   ' ___: : : : : : : : : ヽ   | _|    ̄|  _ノ  (  
        ` ̄丁 |: |:l :| __   〃⌒V|  /   /:::::::::::::, '´ ゙̄ヽ: : : : : '.  レ(__ノ\  |     \ 
           ヽ|: NV:!〃⌒__ //}| '´    |::::::::::::::{:::::::::::::::}: : : : : :|
            /: :{_|: :|//f´   r‐'了        |:::::::::::::: 、::::::::::ノ: : : : : :|  ,―┴┐ −/─     / _|_
            _/: :/:/ : ト .丶___|::::::|        ∨:::::::: '´ ̄: : : : : : : :/  ヽ| 三l_  / __| ヽ / |   /  |
      __,/: :_;/: /,.イ⌒ヽ!ヽ:ヘ_::::\__    \'´ : : : : : : : : : : /  ノ| '又 '  (___ノ\    |  /  /
      |: : : : :/__/: ;.イ:/ ,リ  V _ノ´::! ̄::>    ¨''¬ー- 、 _____, '´      
    /: : | ̄ 「: :__∧fニyイ|:〉    Vにう: 〉 
.     \/  _,|: :|_〉:(/:/     ,Vト-' :|
        \/―ヘ《O\___/O〉 ̄
                 >、O_O,.イ
               (/  ̄ ̄|_ノ
609名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:07:41 ID:0bp61ifU
書けないやつに限って偉そうなんだよな
自分が何もできないって認めたくないんだろうな
ホント子供っぽいわ。実際子供なんだろうけど
610名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:15:56 ID:oxF+JF4D
>>609
ああ
つまりお前自身の事か
どーせ作品の一つすら投下した事ないだろ?
鏡でも見ろよ
611名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:27:03 ID:rKh3rGW4
72 名無しさん@ピンキー 2010/07/24(土) 15:04:07 ID:N75ml1JP
ヤンデレスレに宣戦布告をしてきた

ウナギイヌよ

お前の伝説を見せてくれ!!!!
73 名無しさん@ピンキー sage 2010/07/24(土) 22:00:21 ID:N/Bdl5gJ
言いだしっぺの法則って知ってるか?
74 名無しさん@ピンキー sage 2010/07/25(日) 00:14:59 ID:HeNfVCeO
ウナギイヌは荒らしじゃないだろ
むしろ荒らしを滅ぼす者だし
わけわかめ
嫉妬スレの連中にも無視されてる未成年荒らし涙目W
612名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 03:33:34 ID:oxF+JF4D
嫉妬スレがどうとか変な宣言したのは俺じゃねーけどな
まあ ちょっとスレを読み返してID見れば、普通の読解力がある奴なら分かるんじゃね
無い奴がすでに勘違いしてるっぽいけど
613名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 04:11:38 ID:SXJ5LHoo
はぁ………


久々の物があるね。GJ。
614名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 07:49:46 ID:XMe/ckDK
仮にいくらいいことを言ってたとしても口調が悪ければ荒らしだって認定されても仕方なくね?
615名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 08:09:26 ID:rL/UCBal
>>614
同感だな
616名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 08:12:41 ID:G95/siov
俺はただ的確なアドバイスによって作者の可能性を育てているだけだが?

このスレにプロ評論家がありましたよね。分かりました。wwwwwwwwwww
617名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 08:29:55 ID:6Oli7PAy
一々教えられなくても各々勝手に学べよ。ここに子供はいないはずだろ。失敗したって、次から改善したらいいから。
過保護にしたところで誰にとっても得にならん。
618名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 08:32:42 ID:feuNJIoz
でもヤンデレには過保護にされたい!ふしぎ!
619名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 08:54:11 ID:HEkgbfki
ウナギイヌが本領発揮かwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
620名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:01:48 ID:MBErFrJ8
いい加減次の話題に移ろうや、不毛なマジレスの応酬はスレにも体にも悪い。
621名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:06:28 ID:FHb1O3rh
>>616
育てるってお前何様ww
病院行け キモいよまじで不愉快
特にお前のアドバイスはあくまでお前個人の感想だろ
お前が単に気にいらないだけっしょ具体的にアドバイスしてる訳でもないし
長編待ってる奴もいるのだからお前だけの都合で決めんな
お前作者のなんなの?バイトもして無さそうな暇人っぽいし
622名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:16:07 ID:G95/siov
>>621
おいおい火力は>>589に回して。
まったくもううっかりしたなww
623名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:20:58 ID:MBErFrJ8
>>621
未成年は夏期講習か海・山でバイトでもしてろ
あんたのマジレスも大概見苦しい
ID:oxF+JF4Dは生暖かい目で見守っておけばいいんだよ
それが一番無害、過剰反応するからID:oxF+JF4Dが意固地になってスレがあれるんだよ。
624名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:42:12 ID:rL/UCBal
>>616
……今まで見た奴の中で一番可哀相……大丈夫!!文章書けなくても生きて逝けるから!!頑張ってね!来世で
625名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:43:37 ID:HEkgbfki
さすがはウナギイヌ

自作自演で荒らしているwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
626名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:45:18 ID:upoCqHk7
スルースキルのないスレだな
本気で荒らそうと思ったら簡単に荒らせるぞ
627名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:52:48 ID:FHb1O3rh
>>623
あんたもな
見苦しいし、スルーできてないww
628名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:55:36 ID:HEkgbfki
これがウナギイヌさんの絶頂テクだな

ヤンデレスレが荒れてきているwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
629名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 10:10:43 ID:MBErFrJ8
うなぎなんてか蒲焼になって800円でスーパーにでも並んでいればいいんです
630名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 11:17:54 ID:otZFHryG
こんなんだから作者さんがいなくなる。
631名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 11:35:43 ID:D5oplc4+
起きてスレ見たら荒れすぎww
流石うなぎいぬだな自演で上手く釣ってる
632名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 11:54:45 ID:HEkgbfki
ウナギイヌさんは正義の使者だから、下手なSSで天狗になっている作家さんを批評するんだよ
彼こそがヤンデレスレの救世主だ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
633名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 12:20:52 ID:6Oli7PAy
まぁ、ここが住みにくくなったら別のところにでも引っ越せばいいだけだしな。気にする必要はないか。
どうせマイナージャンルなんだし、好きな人なら引越しても見つけてくれるだろ。

そんなことより、今まで病み傾向のなかったキャラクターを、どう上手く病ませるか悩んでいるんだ。
何かいいきっかけはないだろうか?
634名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 12:53:53 ID:Wwc/rNuC
うなぎいぬって嫉妬スレの話題じゃないの?

このスレ関係あるの?
635名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 12:54:25 ID:Wwc/rNuC
sage忘れ申し訳無い。
636名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:08:33 ID:d7wpgGVb
>>634
まさしくその通りですね;;;
637名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:09:45 ID:LruYKY09
    ミ ミ 〃 〃 彡       \
   ミ          彡      \    ヽ /
  ミ  _____    ______ 彡     <    ∠__
 ミ  T'ヒ_i´  ´ヒ_,!ア 彡    /     /
 彡      ,      ミ    \     (_
  彡    ー─,-    ミ      >   __
   彡,     ̄    ミ      /     '´
     彡 ノ ノ ノ ミ ミ       \.     、,___
   ミ          彡      <
  ミ  _____    ______ 彡    /    ー┼-
 ミ  T'ヒ_i´  ´ヒ_,!ア 彡  /      ー┼-
 彡      ,      ミ  \.       r-iー、
  彡    ー─,-    ミ     \.     `ー' '
   彡,     ̄    ミ     /    --─ァ ヽヽ
     彡 ノ ノ ノ ミ ミ      く         /
   ミ          彡      >       '、_
  ミ  _____    ______ 彡    く.     ー┼─ ヽヽ
 ミ  T'ヒ_i´  ´ヒ_,!ア 彡    \      | _
 彡      ,      ミ    <.    /  '´
  彡    ー─,-    ミ    /   '´  `'‐‐
   彡,     ̄    ミ     /     l 7 l 7
     彡 ノ ノ ノ ミ ミ      \.      |/ .|/
       |ii|          /     o  o
       |ii|
       |ii|
       |ii|

638名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:21:24 ID:5wWDPT5o
このスレは、801板の荒らしにたいする反応を見習うべき



つまり、誰かウナギイヌ×ヤンデレで一本書くべき

あ、別にウナギイヌで801でも良いよ
639名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:50:57 ID:T1Un7UkE
>>638
そげな恐ろしいモンよりヤンデレ×荒らしを書くべき
というかアイツらはマジでそうゆうの書いてるのか?
640名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:55:45 ID:xLyMOql+
そんなのどうでもいいから皆早く一万年様に謝罪するんだ
どうせ住人被ってるんだろ?
641名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:57:15 ID:V4ulaPpd
やつらは擬人化せずとも無機物どうしのカップリングでいけるんだ
荒らしなんて簡単に食っちまう
642名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 14:59:14 ID:EO3J/IHp
ウナギイヌはニートだから、一日中自作自演で荒らすことができるからなぁ

ヤンデレスレは終了ですねwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
嫉妬スレみたいになるよ
643名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:01:16 ID:EO3J/IHp
まあ、作家(笑)が調子に乗って、荒らしにレスを返すからこんなことになるんだよね
一万年みたいのがいるから困るんだよね

644名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:06:02 ID:sCZnr1y9
なんか可愛いなおまえら。
645リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:11:10 ID:nEHf91vK
こんにちは。今回は4話を投稿したいと思います。
よろしくお願いします。
646リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:12:28 ID:nEHf91vK

「ふーん…裏切るんだ」
白髪の少女は月を見ていた。どうやら今夜は満月のようだ。
「…裏切る訳じゃない。ただ遥とはもう…二人きりでは会わない」
「じゃあ…誰とは会うの?」
「………」
「だんまり?」
少女は少年へと振り返る。月の光が反射して少年には少女が幻想的な何かに見えた。
「本当にゴメン。でも遥が悪いとかじゃ」
「聞きたくない」
遥と呼ばれた少女は語気を荒げる。
「嘘つき。ずっと守ってくれるって約束したのに」
「…ゴメン」
「信じて…たのに」
遥の眼からは大粒の涙が流れていた。
「遥、俺は」
少女に近付いた瞬間、少年は違和感を覚える。
いや、違和感というより腹部が妙に熱い。見てみるとシャツには真っ赤な染みが出来ていた。
「…あ」
「ふふふふふふっ!あはははははははは!!」
少年は腹部に刺さった包丁を見た。
…これが報いなのかもしれない。無言で倒れる。
「わたしのモノにならないならいらない。大丈夫、一人じゃ逝かせないから」
ゆっくりと遥が近付いて来る。
…意識が遠くなってゆく。このまま…死ぬんだろうか。
「大丈夫だよ、死なせないから」
最後に聞いたのは遥じゃない誰かの声だった。



「……またか」
目覚めが悪い。最近よく見る夢。
俺が遥に刺される…有り得ない。しかももう会わないって何だ?もしかして俺は遥と付き合って……。
「…阿呆らしい」
「何が阿呆らしいんだ白川」
「何がって…!」
気付けば俺の横には学校一の鬼教師、化学担当の黒川がいた。
「気持ち良さそうに寝てたな?白川」
「………」
おかしいな。もう10月なのに汗が出ている。ああ、これは冷や汗っていうのかな。
「明日までに"青色発光ダイオード"についてのレポート。6000字以上で。…書けるな?」
「……はい」
今日は徹夜決定です。
647リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:13:52 ID:nEHf91vK

"要組"との出会いから一ヶ月経った。
クラスメイトも最初は俺の記憶喪失に戸惑っていたが、今は普通に接してくれている。
どうやら遥の予想した通り、学力に関しては問題ないようだ。
というか俺は結構頭が良かったらしい。まさに過去の俺よくやったとしか言いようがない。
「要、お疲れ」
「見事に叱られたな!」
昼休み。英と亮介が寄って来る。
「気付いてたなら起こしてくれよ」
「いくら要の頼みでもそれはねぇ」
英は困ったように頭を掻く。
「黒川先生は感知能力が高いからな…。隣の席じゃない限りそれは無理だ!」
キッパリと言い切る亮介。確かにまだ一ヶ月しかこの東桜にいないが、アイツの怖さは充分に理解した。
というか黒川という名前が気に喰わないのだ。いつぞやの医者を思い出す。
あのドSっぷりから一部の生徒には人気らしい。
「はぁ…。まあ良いや。それより早くいこうぜ」
今朝潤に作ってもらった弁当を片手に席を立つ。
「はいよ。もう潤と遥、外で待ってたよ」
「よっし、昼飯だぜ!」
クラスの外に出ると英の言う通り、既に潤と遥が待っていた。
「兄さん!早く行こう、お腹空いちゃった」
「潤、お前発想が亮介と同じだぞ」
「ええっ!?」
「おおっ、仲間だぞ潤!嬉しいだろ!?」
「…似た者同士」
「ちょ、遥ぁ!」
「むしろ同族嫌悪ってとこかな」
「は、英までぇ!」
「我が妹ながら本当に情けない」
「に、兄さんだって今朝『今日は唐揚げか!昼が楽しみだな』って言ってたくせに!」
「おまっ、何言ってんだ!?」
「ほほぉ、要がそんなことを。メモしなければ」
「お前は何してんだ英!」
「三人揃ったからターキーだな!」
「…亮介、それボーリング」
ワイワイ騒ぎながら生徒会室を目指す。
ただでさえ美男美女の集団(俺を除く)だ。騒げば結構な人の目をひくが気にしない。これもいつものことだ。
648リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:14:53 ID:nEHf91vK
そうこうしている内に生徒会室に到着した。必ずノックをする。
ウチの生徒会長は礼儀を重んじるタイプなので、仲間であってもそこはしっかりやらなければならないのだ。
「はい?」
「わたし」
「来たか、開いているぞ」
生徒会室に入る。少し低めのガラス製の高級そうな机の周りには、これまた高級そうなソファーがある。
そして奥には会長専用の校長室によくある椅子と机があり、横には書記用のホワイトボードがあった。
「ちょうどお茶を煎れるところだ。何が良い?」
炎のように紅い髪に整った顔立ち。そして澄んだ碧眼を持つのが我が東桜高校の生徒会長、美空優だ。
「アールグレイ」
「私もそれ!」
「僕はアップルティーで」
「俺は男のブラックだ!」
「緑茶一つで」
思い思いに欲しい物を頼む。
煎れ方も種類も全く違うのに、会長はほんの数分で用意してしまうから驚きだ。
「いやぁ、いつもながら会長のお茶は絶品だね」
「優のアールグレイ、好き」
「私も大好き!」
「ブラック最高!」
「いつも悪いな、会長」
「好きで煎れているんだ、気にしないでくれ」
生徒会室で皆で昼飯を食べる。"要組"は今日も賑やかだった。



この一ヶ月白川要として過ごした結果、ようやく要組を理解した。
要組とは地域の"何でも屋"的な集まりらしい。恋の相談から窃盗犯の逮捕まで幅広くやっている。
普通なら高校生の遊び程度でおしまいなのだが、俺達はどうやら過去に結構な功績を残しているようだった。
そしてメンバーも才色兼備の生徒会長を始め、美男美女揃い(俺を除く)。
さらに会長は美空開発という航空や電子機器などで日本一のシェアを誇る企業の一人娘。
また、英の父親はあの日本有数の大企業、藤川コーポレーションの社長。
そして亮介の父親は何と国会議員の如月龍一郎(キサラギリュウイチロウ)。
亮介自身も政界のパーティーなどを通じて様々なコネクションを持っているようだ。
なのでこの東桜では"要組"を知らない人は少ない。俺達兄妹と遥は若干見劣りするような気もするが。
649リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:16:57 ID:nEHf91vK

放課後。今日は部活がなく要組の活動も特にないので海有塾(ウミアリジュク)へ行くことにした。
海有塾とは近所にある道場の名前で決して予備校ではない。
一般の人達に護身術などを教える場所で俺達メンバーもちょくちょく通っている。
「「「お願いします!!」」」
やはり依頼の中には危険な物もあるため、身体を鍛えるのは大切だ。
俺は何故かリーダーなので頑張らないとな。



「要君、精進しているようじゃね」
3時間ほどの稽古を終えて休んでいると老人が近寄ってきた。
「師匠!お疲れ様です!」
「ああ、立たんで良いから」
彼はこの海有塾の塾長である海有源治(ウミアリゲンジ)という人でかつては"一騎当千"の二つ名をほしいままにしていた。
要するにスーパー爺ちゃんってところだ。
今でもその力は衰えず、いつも直々に稽古してもらっているので勝手ながら師匠と呼ばせてもらっている。
「いつも稽古させてもらってありがとうございます!」
「君には才能がある。長年様々な格闘家を見てきたが君ほど恵まれた者は…そうじゃな、後2人しか知らん」
「師匠に比べたら俺なんて…」
「記憶を失って2、3ヶ月でここまで上達することが、常識では有り得んからの」
「…記憶喪失以前も俺はここに通ってたんですよね?」
「ああ、勿論じゃよ。5月くらいからだったかの。あの時も凄まじい成長ぶりじゃった。…あの子が興味を示すほどじゃったからな」
「あの子…?」
「…すまん、今のは忘れてくれ」
「はぁ…」
「とにかく要君はもっと伸びる。特にその右腕の一発は相当な破壊力じゃ。精進せい」
「はい!」
「良い返事じゃ」
その後も師匠と少し話してから、帰ることにした。



海有塾からの帰り道。公園を通って近道をする。
「戦うメイド、か…」
帰り際に師匠が言っていたことを思い出す。後2人の恵まれた才能の持ち主。
その内1人は何処かの家のメイドさんというから驚きだ。
「一体どんなメイドなんだよ…」
もう1人のことは教えてくれなかったが…。
「まあ大したことじゃないしな」
「楽しそうね」
「うおっ!?」
急に声がした方向を咄嗟に向くと
「久しぶりね」
「あ、鮎樫さん…」
そこには真っ赤なワンピースを着た鮎樫らいむが立っていた。
650リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:18:16 ID:nEHf91vK

夜の公園に男女が二人きり。健全な男子高校生には少しばかり刺激がキツすぎるかもしれない。
「…まあこんなところかな」
「ふぅん…」
だがベンチに座っている俺達に関しては例外のようだ。
「案外記憶がなくても何とかなるもんだな」
「要らしいね」
近況を話す俺に微笑む鮎樫さん。…何だろう、凄く寂しそうだ。
「…鮎樫さん、もしかしてさ」
「…何?」
「もしかして…俺が記憶喪失になった理由…知ってる?」
「…………」
前から聞こうと思っていた。どう考えてもおかしい。
何故彼女は俺がいる病院を見つけられたんだ?そして何故俺の家の電話番号を知っていたんだ?
「ただの知り合い…な訳ないよね?」
「…それは質問?それとも…」
ゆっくりと距離を詰める鮎樫さん。
この前のことがフラッシュバックする。あの妖艶な…。
「あ、鮎か…っ!?」
「んっ…」
またキスされた。
でも今度は前のような情熱的なものではなく、優しい…慈しむようなキスだった。
「……知りたい?」
「えっ?」
「…本当の要を、知りたい?」
「……分からない」
鮎樫さんに見つめられて思わず躊躇う。考えみれば俺は今、十分幸せな生活をおくっている。
確かに自分の過去は気になるが、知ったところでどうにもならないような気もする。
「…相変わらず優柔不断ね」
呆れたように呟く鮎樫さん。
「…わりぃ」
「ま、急ぐようなことでもないしね。また会った時に聞くわ」
そう言うと鮎樫さんは立ち上がって歩き出した。
「あ、鮎樫さん!」
「そんな優柔不断な要にヒント、あげるね」
こちらには振り返らずに鮎樫さんは続ける。
「…私たちはね、生まれ変わったんだよ」
「…生まれ、変わった?」
何だ、生まれ変わった…?
「…やっぱり気にしないで。大した意味はないから。それじゃあね」
「!鮎樫さ…ん…」
いつの間にか鮎樫さんはいなくなっていて、夜の公園には俺がぽつんと取り残されていた。
651リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:22:41 ID:nEHf91vK

夜。自室のベットに仰向けになり物思いにふける。
「生まれ変わった…って何だ?」
生まれ変わったって…誰が。
というか俺は記憶喪失になったことである意味生まれ変わったのかもしれない。
「鮎樫さんも…」
ちょうどその時、携帯が鳴った。どうやら着信で画面には『美空優』と表示されていた。
「会長?こんな夜中に…」
疑問に思いつつも電話に出る。
「もしもし」
「あっ、か、要か?」
「はい。…俺の携帯にかけたんですから、俺以外は出ないと思いますけど」
何故か知らないが電話口の向こうにいる会長は慌てているようだ。
「い、いきなり夜中にすまないな…」
「いえ。でもどうしたんですか?会長が俺に電話だなんて珍しいですね」
「えっ?…あ、ああ…記憶を…失っているのか…」
最後の方が呟きのようで上手く聞き取れない。
「はい?すいません、今何て…」
「いや、何でもない。それよりだな…その…えっとだな…」
「…会長?用がないなら切りますけど…」
時間は午前0時を回っている。潤も寝ているだろうし夜中の長電話は近所迷惑だ。
「ま、待て!…こ、今週の土曜日……ひ、暇か?」
「土曜日ですか?…まあ部活もありませんし、要組がないなら暇ですけど…」
「そうか!…いや…もし良かったらでいいんだが…な…土曜日、二人で…あ、遊ばないか?」
「…えっと、会長と二人きり…ですか」
「……嫌か?」
急に声のトーンを落とす会長。…本能的に断ってはいけないと思った。
「い、嫌じゃないです!…でも俺なんかでいいんですか」
「勿論だ!むしろ…その…要じゃないと…ダメなんだ…」
「あ、ああ…そうですか」
恥ずかしそうに話す会長の声を聞くと、こっちまで恥ずかしくなってしまった。



「じゃあ…はい、分かりました。はい…お休みなさい」
会長との電話を終える。通話時間は20分ほど。
こんな時無意識に、電話代は向こう持ちとか考えてしまうのは貧乏性なのかもしれない。
「……驚いたな」
まさか会長から夜中に電話、しかも遊びに誘われるとは。仲間にも内緒にして欲しいと言われた。
「………デート、なわけないよな」
あんな才色兼備の完璧お嬢様が俺なんかを相手にするわけない。
これだから思春期の男子は妄想が逞し過ぎていかん。
「とにかく遅刻しないようにしなきゃな」
何を着て行けば良いんだろうか。
そんなことを思いながら俺は明かりを消して、ベットに潜り込んだ。



「…………」
白川家2階、要の部屋の前。誰かが要の部屋の扉に耳を当てていた。
「……やっぱりね」
何かを確信したのかその人物、白川潤は自分の部屋へ帰る。
そして机の上にノートを広げた。ページには今週の要の行動が、潤の知る限りびっしりとそれこそ分単位で書かれていた。
「…許さない」
そして"土曜日"と記されている欄に、潤はさっき要が優と電話で決めた予定をそのまま書いていた。
「兄さんは…たとえ仲間にも渡さないんだから…」
白川要が記憶喪失になってから約一ヶ月。
平穏な日々は早くも終わりを告げようとしていた。
652リバース ◆Uw02HM2doE :2010/07/27(火) 15:23:59 ID:nEHf91vK
今回はここまでです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
投稿終了します。
653名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:25:38 ID:r79RArui
>>652
gj
654名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:27:04 ID:EO3J/IHp
さてと、ウナギイヌさんの批評が始まるよ
655名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:32:57 ID:p+Y1xQdN
GJ!!

どうみても会長フラグと潤フラグの修羅場ですな
656名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 15:33:27 ID:JgC0oPHx
ウナギなんだから土用の丑にさばかれてしまえば良かったのにな
そしてGJ
657名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:43:44 ID:ksoDvzKa
NGワード:ウナギ
658名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:44:56 ID:oGOM+4eo
>>652
お疲れさま。今回も面白かったよ。続きが楽しみ。
659名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:53:18 ID:AJX8cSqp
「ムカつくレスはスルー」
覚えておくと便利です。

投稿者の皆様、まとめサイト編集の方々、いつもGJかつ乙です。
夏厨が早く駆除されますように。
660名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:59:28 ID:upoCqHk7
本当、馬鹿だな
ムカツクのをスルーじゃなくて、ヤンデレ以外の話題を全部スルーすればいいんだよ。
煽るレスも庇うレスも他のも全部スルー。誰かが批評じみたことしててもスルーで庇ったりすらしなくていいんだよ。馬鹿だな
ま、俺のこのレスすらスルーできないなら末期だな
661名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 17:05:48 ID:VFVTtKFz
……アレだ、お前らがパソコンばっかり見てるから
お前らの周りにいるヤンデレがこのスレを荒らしてるんじゃね?
662名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 17:07:55 ID:x6s0+YJ4
>>652
GJ!このらいむは本物なのか?・・・
663名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 18:16:13 ID:BQUdyHxI
GJ!
これは会長と潤の修羅場突入か!?

>>662
本物は無いと思う。本物のらいむには亙がいるし
本物のらいむは金髪なのに対して、こちらのらいむは黒髪
それに最初に自分で「同姓同名」とか言ってたし
664 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/27(火) 19:11:20 ID:d0CoD8pk
大変なことになってますねーこの光景をみてショート過ぎますが一つ書いてみた
665 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/27(火) 19:11:41 ID:d0CoD8pk
「荒らしちゃん……あれはお前のためなんだよ!」
「へー、作者子ちゃんの擁護を書くことが? どうして! どうせあの雌犬のような発情した文のためでしょ! 私はただ批判しただけじゃない! なのになんで罵るの!?」
「ちがう! 俺は……ただ! お前に批判してほしくないからだ! 一緒に楽しんで見てほしい……それだけなんだ!」
「そうなんだ住人君……でももう遅いんだよ。もう……作者子ちゃんを○しちゃっただもの」
「な、ど、どうして……どうしてなんだよぉぉ!!」
「それはね……私にかまってくれるけど住人君は私にただ罵るだけ。最初はそれでもいいと思ったの。でもね。それはもう嫌なの。
 私は純粋にイチャイチャしながら住人君とレスをしたと思ったの。でも作者子がいると住人君はいつも……」
「いいだろ! 作品を褒めても! どうしてそれは駄目なんだ! 昔は仲良く見てたじゃないか!! 二人で作者子にお疲れって言ってそのあと他の人たちとも一緒にみんなで笑っていたじゃないか!」
「そんなときもあったね。でも私は許せなくなっていたんだ。そのことを知ったときふと思ったんだ。作者子が書いた文がなくなれば……二人だけの世界。そうでしょ?」
「違うだろ!? 他にも住人がいるんだ! 二人だけの世界なんてつくれるわけが無い!」
「簡単につくれるよ。だから荒らしているの。荒らして、荒らして、荒らしていれば住人君と私だけになる。そうでしょ?」
「いや! 違う! それは違う!」
「違うかもしれないね。でもね。私はこれでいいの」
「どうしてだよ! なんで二人だけになろうとするんだ。俺は……俺は……荒らしちゃんにいろんな色を見てほしいのに!!」
「住人君……しってる? 本当の世界は一面灰色だけ。そんな世界にいろんな色なんてないよ。ただ灰色の世界が広がっているだけ。そこにはただ二色の黒い存在と青い存在があるだけだよ」
「違うな! ぜんぜん違う! それは俺しか見ていないだけだ! 世界は本当に広くていろんな色で気持ちのよいものなんだよ!」
「住人君今日どうしたの? あ、そっか作者子ちゃんに憑かれちゃってるんだね。だからこんなにしつこいんだ。いつもならスルー、スルー言ってるのに今日は……」
「え、な、なんだよ、その包丁」
「これ? ああ、これはただの包丁だよ。それも分からないの? あ、そうだよね。作者子ちゃんに憑かれているから包丁を怖がるんだね。それなら早く頭を斬って成仏させないと」
「どうしてそうなるんだよ! みんな仲良しだろ! どうして! どうして! どうしてそんなこと言うんだよ」
「うるさい! 作者子ちゃん! 住人君を返せ!!」
「ぐあ! あぐ、ぐっ、ぐぁああああ!!」
「あは、苦しんだね! 痛いんだね! あは、あは、あははははははははは!!」
「荒らしちゃ……ん」
「あ、そういえばもう一つ色があったね……こんなに鮮やかなものを忘れてたよ……ごめんね。住人君。あ、すてないよ。住人君はちゃんと家に連れて行ってあげるから。ほら行こうよ。ねえ」
「…………」
「どうして冷たくなってるの? あ、寒いんだね。私がくっついてあげるね。ずっと。あれ、なんでもっと冷たくなってるのかな。それに肌も硬くなってるよ? これじゃほっぺも気持ちよくないよ。どうして。ねぇ?」
「……」
「なんで何も答えてくれないの? どうして? なんで? なんでなのよ……なんで何も反応してくれないのよ……」
666 ◆fyY8MjwzoU :2010/07/27(火) 19:13:00 ID:d0CoD8pk
以上です。
667名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 19:13:30 ID:WZZJsylA
うめ
668名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 19:24:33 ID:feuNJIoz
>>661

ヤンデレA「何よ!〇〇君たら私よりこんな文字の羅列の方が好きなの!?
こんなの必要無い必要無い必要無い必要無い必要無い必要無い必要無い必要無い必要無い」

ヤンデレB「ふふっ、〇〇ったらまた見てる。そんなに大事なのかしら、私より。
私の押しが足りないのかなぁ?私の愛が足りないのかなぁ?そんなに私って飽きる女かなぁ?なんで私を見てくれないのかなぁ?ねぇなんでこんな私より2進数にしか興味をしめしてくれないのかなぁ?そんなに私魅力ないかなぁ?
お弁当に私の血が足りないのかなぁ?私のことウザイ女だと思ってるのかなぁ?私と一緒にいるのが嫌なのかなぁ??
あ、わかった!私の監視外でここを見なくちゃいけないように他の女に縛られてるんだね!
じゃあこんなのいらないよね!みんなみんな壊して〇〇を解放してあげる。
〇〇は私無しじゃ生きられないんだから。」

ヤンデレC「今日も〇〇さんに話しかけられなかった……ん!?
〇〇さんが何かを一生懸命見てる………ヤンデレの小説を書こう!?まさか!?
〇〇さんとのチャンスを邪魔するのはこれだったのね!以前〇〇さんが見ていた嫉妬スレのようにまた潰してやるわ!

…………でもこれが〇〇さんの理想なんだよね…………
じゃあ私が的確にアドレスして私にしか興味の無くなるSSしか残さないようにしてあげるわ!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」

文才ないしこういうの初めてだがつまりこういう事か
669名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 19:26:36 ID:feuNJIoz
×アドレス
〇アドバイスだ

文才なくてスマソ
670名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 21:32:34 ID:D4phkcOt
まだ埋めるような容量じゃない。
ロリヤンデレに愛されたい。
運命の鎖で縛り付けられたい。
671名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 21:48:26 ID:wBF/j52p
    ___
   ,;f     ヽ
  i:         i
  |         |
  |        |  ///;ト,
  |    ^  ^ ) ////゛l゛l;   奇才が二人も降臨した!
  (.  >ノ(、_, )ヽ、} l   .i .! |   ありがたやありがたや
  ,,∧ヽ !-=ニ=- | │   | .|
/\..\\`ニニ´ !, {   .ノ.ノ
/  \ \ ̄ ̄ ̄../   / .|
672名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 23:57:02 ID:h663YYvW
作者の皆さんgj!

リバース待ってたぜ!会長が何をするつもりなのか…
673名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 00:06:32 ID:cWk3NkWV
GJ!!
いつの間にかリバース投下されてた!
要と海有塾の師匠の話にでてきたメイドって…

桃花萌えの俺は全裸で待機してますね
674名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 01:21:12 ID:2qV8HRMQ
GJ!
とてもおもしろかったです!
がんばってください
675名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 05:53:08 ID:C+qdWxpF
鮎樫らいむの話以外はクソだな。
676名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 06:50:07 ID:cdDU019z
やっぱりリバースの作者はいいなぁ
ちょっと気が早い埋め職人さんもGJです
677名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 12:00:05 ID:zHVy7jWn
皆さんGJ!
リバース良いよな


暑い時こそヤンデレの怖い話で涼みたいもんだ
678名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 12:29:29 ID:8zFZ4Mxy
熱海で休暇中の俺様が久々に書き込んでやるかね。
ウナギがどうのこうのは知らないけどあれ全部自演だよなwwww
2ちゃん歴長いからわかるんだよね〜匂いでwww
スレを荒らすには単発での応酬が一番良いんだ。
それに釣られて頭空っぽの低学歴ピザヲタニートがホイホイレス付けちゃうの
そうすっと後は荒らしさんの思う壺
だからアホみたいに食いつくなよって言う有り難い助言だよ
俺はお前らチンカスじゃ一生口も利けない層まで頭1つでのし上がった漢だからそういう人の話は聞いとくべきだぜ。
679名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 12:36:55 ID:yzylkGoD
どこを縦読み?
680名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 12:45:11 ID:XeR5YYQ2
>>678カス死ね
681名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 12:49:51 ID:SA0ABBaT
どう見てもウナギの自演なのにさらに下のも自演か?
682名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 13:00:02 ID:muDvouGt
リバースの人きてたのか
会長良いなあ
683名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 13:00:30 ID:8zFZ4Mxy
>>680
この哀れな書き込みを見てくれ
彼の少ない語彙能力ではこんな稚拙な表現しか出来ないようだ。
正論を突かれて悔しいのは分かるが如何せん国語のしゅくだい(笑)を終わらせてからここにきなよ
>>679どこも縦読みなどしないよ。
俺が上流階級のインテリゲンチア(使ってみたかっただけこの横文字w)
証拠も出せるけど白けさせるのも困るだろ
平日なのにレスポンス早くで驚いたよ
だからこういう2人見たく反応すると俺みたいな()荒らしが喜ぶのさ
わざわざ教えてやってんの
(♯^ω^)
684名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 13:00:54 ID:L5IYTmpZ
熱海w
685名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 13:29:33 ID:Lzl2B9bi
このウナギモドキ、本物のウナギイヌから完全に無視されてやんのw
ウナギがこの程度の低能であってくれたなら、嫉妬スレもあんな無惨なことにならずにすんだのにな
686名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 13:43:36 ID:AAoC7FFe
どうでもいいから向こうでやってくれ・・・
687名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 19:20:09 ID:Cr7tqnWY
何様なんだが…暇なら散歩すれば良いよ。気分がはれるから。

というか、レス消費早いと思ったら、なんだがね。
688名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:06:23 ID:4hiDElrb
今だにスルーが身に付かず、荒らしの自演にすら気が付かない住人に未来はなかった
689名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:30:32 ID:s6L6O/gw
>>683
うーむ……マジレスすると……偉そうなこといってるけど……
インテリゲンチアって確か知識・教養を持ち、知的労働に携わる社会層をしめす言葉だったと思うのだけど……
この文だとあんまり教養を感じれないな気が。教養のある人はもう少しまともにレスしてくれると思うよ
あと如何せんも間違ってるかと。これでは『どうしようか国語のしゅくだいを終わらせてから』になってしまいおかしな文になってしまいます。
語彙能力も少しおかしいと思います。語彙力が正解かと。
文も見ると繋がってないところが多いのでインテリゲンチアは少し違うと思います……
荒立てる気はまったくないのですが気になってしまって。すいませんでした。
690名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:59:24 ID:DXvBnous
ウナはヤンデレスレを滅ぼして、名を上げるんだ
691名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:02:16 ID:Lzl2B9bi
そう苛めてあげないで
せっかく熱海の療養所から書き込んでくれたんだし
普段一般人との接触を極度に制限されてるから
ウナギイヌみたいな大物に自分を重ねて同一視してしまうんだよ

早く良くなれよ
692名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:13:47 ID:s9YsjoOV
荒らす元気があるならそのエネルギーを創作に回してくれと常々思う。
693名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:16:17 ID:lBd9evf6
>>689が格好よすぎるw
694名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:26:58 ID:XeR5YYQ2
84 名無しさん@ピンキー sage 2010/07/28(水) 14:12:14 ID:/nrfzgSO
ウナの偽者を語るアホがいるようですが、私は批評しかしません
※オリジナルからのコメント…
695名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 22:45:04 ID:hCc9cYgn
なんか書き込みにくいな
696名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 22:48:18 ID:L6apcchi
夏休みの時期なんだねぇ
697名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 23:07:29 ID:3/YfA8vL
黒髪和風お嬢さまのヤンデレもいいが、茶髪現代風お嬢さまや金髪洋風お嬢さまのヤンデレも捨てがたいな
というより選べる気がしない
698名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 23:19:14 ID:iIiB0GuD
俺は日常に潜むヤンデレがいい
699名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 23:25:55 ID:M3nIl1gn
>>698
 虐められていた原因はヤンデレな幼馴染みとか。
不幸体質で何時も慰めてくれるヤンデレなお姉さん。
 泥棒猫を裏で消しているヤンデレな恋人とか。

 夢がひろがりんぐ
700名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 23:45:27 ID:aTDOZ3hm
ヤンデレ「仕事と私、どっちが大事なの!?」
男「お前は仕事をしない俺を愛せるのか?」
701名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 00:43:37 ID:lovo9P7H
>>697
選べる気がしない。×

選べる立場では無い。○
702名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:35:41 ID:i2rS8pkf
>>700
ヤンデレ「むしろ最高じゃない!」
703名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:48:37 ID:QXJp8/eb
男「しまった!」
704名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:54:28 ID:3rDXbU7n
ヤンデレが代わりに働きに出ることでその問題は回避した
705名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:58:55 ID:a+QTe+W0
なつやすみ
706名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 02:14:36 ID:uZvky3Dv
そろそろ埋めに入った方がいいんじゃないの?
707転載:2010/07/29(木) 05:19:34 ID:JtyNlnnM
30: ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:00:16 ID:1TGytqQU0
こんばんは。またアクセス規制に引っ掛かりました。
こちらの方に、触雷!の13話を投下させていただきます。
708転載:2010/07/29(木) 05:20:36 ID:JtyNlnnM
31:触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:01:12 ID:1TGytqQU0
あたしの名前は、堂上晃。
「いたい! いたい! いたい! ギブアップ! ギブアップ!」
「ねえ、あたしのことすき?」
いつからあたしは、詩宝を男性として意識していただろう。今ではもう分からない。
「すき! すきだからおねがい、はなして!」
「じゃあ、おおきくなったらけっこんしてくれる?」
分からないが、かなり幼い時分からであるのは間違いない。
「け、けっこん? それは……うわあああああ!!」
「どうなの?」
「いたい! いたい! する! するから!」
少なくとも、あの日、公園でプロレスごっこをしながら将来を誓い合ったときには、あたしは詩宝に完全にイカれていた。
「じゃあ、ぷろぽーずして」
「ぷ、ぷろぽーず?」
「そう。けっこんしてっておねがいするの。しないなら……」
「す、するからまって! あ、あきら、ぼくとけっこんして!」
泣きながらあたしにプロポーズした詩宝。
そしてあたしは、彼を受け入れた。
「うん。いいよ。そんなにいうならけっこんしてあげる」
あの後、あたしは詩宝を家に引っ張って行き、“せいやくしょ”を書かせた。
『つむぎや しほう は 18さいになったら とうしょう あきら を およめさんに します。』
という文面だ。拇印も押させた辺り、あたしはなかなか冴えていたと思う。
保存用、観賞用、実用の3通を作らせたのは言うまでもない。
それ以降、あたしは特に婚約のことを持ちだすこともなく、ごく普通の幼馴染のように詩宝との日々を過ごした。
一々口に出して言わなくても、詩宝と将来結ばれるのは決定事項だと思っていたから。
しかし、小学校に上がったある日、あたしは詩宝の態度がおかしいことに気付いた。
あたしを特別扱いしないのだ。
他の有象無象の女共と、あたしと、詩宝は同じような態度で会話をしている。
本当なら、あたし以外の女とは、口を聞いてもいけないのに。
これはもう一度、“ぷろぽーず”をしてもらわないと駄目だろうか。
そんな風に思い始めていた矢先、プロレスラーだったあたしの父が引退した。
引退の原因は、怪我か何かだったと思う。
それはさておき、ある夜あたしは父に呼ばれた。
話を聞いてみると、父が現役時代に取れなかったタイトルを、あたしに取ってほしいとのこと。
そのために、男の振りをしてプロレスラーになってほしいと言われた。
はっきり言って、子供心に馬鹿馬鹿しいと思った。
男の振りなんかしたら、詩宝と大手を振って付き合えない。その1点だけを取ってみても、論外に思えた。
しかし、一晩いろいろ考えて、引き受けることにした。
それは、男に偽装するのを、詩宝に手伝ってもらおうと考えたからだ。
そうすれば、四六時中詩宝とくっ付けるし、詩宝と秘密を共有することになる。
なかなか魅惑的なシチュエーションではないか。
709転載:2010/07/29(木) 05:21:33 ID:JtyNlnnM
32:触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:01:40 ID:1TGytqQU0
翌朝あたしは、男としてプロレスラーになると、父に伝えた。
その代わり、条件を出した。
男装するに当たって、周囲を誤魔化すのを詩宝に手伝ってもらいたいから、それについて詩宝と詩宝の両親を説得すること、というものだ。
父はこれを承諾し、詩宝の両親に話を持って行った。
幸い、詩宝の両親が極めてノリ易い性格で、父の申し出を快諾したばかりでなく、詩宝を説得するのを手伝ってくれた。
詩宝自信は、父や詩宝の両親から話をされたときは渋っていた。
しかし、あたしが涙ながらに(嘘泣き)、父の意思を継ぎたいのだと言うと、すぐに応じてくれた。
やはり、彼は優しい。
それからしばらくして、あたしは詩宝と一緒に小学校を移り、それ以降は男として過ごした。
そして、父が所属していたプロレス団体に入団し、選手として活動し始めた。
ちなみに、あたしが入団したプロレス団体では、あたしが女であることをみんな知っていた。
それはそうだ。父はそこの選手だったのだから、家族構成ぐらいみんな知っている。
だが、そこはショービジネスであるプロレスのこと、父の野望を息子が継ぐと言う筋書きも面白いということで、黙認された。
ちなみに試合のときは、体型が隠れるようなプロテクターを付けて、誤魔化した。
まあ、そんなことはどうでもいい。肝心なのは、詩宝にどんな協力をさせたかである。
まず、学校では、四六時中あたしの側にいさせた。
特に意味はなかったのだが、とにかくそうさせた。
それから、胸を毎日マッサージさせた。
胸が大きくなると女であるのがばれるから、そうならないようにする、という理由だ。
『これで本当に小さくなるの?』と、詩宝は不審な顔をしていた。
あたしも、揉まれると小さくなるかどうかなんて知らなかったが、強引に揉ませた。
実際には全然小さくならず、それどころか風船のように膨張してしまったが、一切構わずに続けさせた。
それから、寝技の練習に付き合ってもらった。
他人と寝技で体をくっ付けたら、女だとばれるから、という理由だ。
さっき書いたように、うちの団体の人はあたしが女だと知っている。
だから意味はない。でもやってもらった。
具体的に言うと、自宅の練習場で、他に誰もいないとき、2人とも全裸になって体にオイルを塗って絡み合った。
なんで裸なのかと訝る詩宝に、こういうものだからと、あたしは言い切って続けさせた。
胸を揉まれるのも裸で抱き合うのも、ありえないほど気持ちがよかった。
絶頂に達して失神したことも、1度や2度ではない。
今からこれでは、詩宝と本当に繋がったらどうなるのかと怖くなったほどだ。
詩宝の方は、いつも顔を真っ赤にしていた。
女としてのあたしを詩宝に実感させ、あたしは満足だった。
710転載:2010/07/29(木) 05:22:54 ID:JtyNlnnM
33:触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:02:18 ID:1TGytqQU0
ところが高校に入学したとき、状況が変わった。
中一条という、成金の雌豚(もっと前の代からの金持なのかもしれないが、成金で十分だ。)が、何を血迷ったのか詩宝に惚れて、接近して来たのだ。
詩宝がフリーだとでも思っているらしい成金豚は、なりふり構わずに詩宝と仲良くなろうとした。
このときになって、あたしは初めて男装していることを悔やんだ。
詩宝と婚約していることを公言しておけば、成金豚の接近を許すことなどなかっただろうに。
しかし、もう遅い。どうするか。
男装を止めて、今からでも詩宝との恋人宣言をするべきか。
そう思っていた矢先、異変が起きた。
成金豚と同じように詩宝と親しくなろうとした別の女共が、次々と不登校になったり、学校を辞めたりしていったのだ。
当の成金豚は、いくら詩宝にベタベタしても平気なのだから、これは誰が考えても成金豚の仕業だろう。
皮肉なことに、あたしは男装していたおかげで、成金豚に邪魔されることなく、詩宝と接触することができていた。
これでは迂闊に男装を解くわけに行かない。あたしは詩宝に、成金豚を振らせる方向に作戦変更した。
あたしは、事あるごとに詩宝に言った。
「あの女はね、詩宝をからかって遊んでいるだけなんだよ」
「元々住む世界が違うんだから。あの女にとって詩宝はただの玩具なんだよ」
そのほか、成金豚に悪いイメージを抱くような噂もたくさん流した。
“メドゥーサ”という仇名を成金豚に付けてやったのもあたしだ。
元々、成金豚は強権的な性格で、逆らう者に容赦がなかったから、あたしは事実に多少の尾ひれを付けるだけでよかった。
さらに幸いなことに、あたしを支援する協力者が何人かいた。
それは、皮肉なことに、詩宝に惚れている女共だった。
さっき言ったように、連中の一部は不用意に詩宝に接近したため、成金豚に学校を追い出された。
しかし、残りは違った。
彼女達は、成金豚の行動に気付いており、急いで詩宝に近づこうとはしなかった。
蜘蛛が餌を待ち受けるように、息を殺して詩宝に接触する機会を伺っていた。
なぜそれが分かったかというと、彼女達があたしに接触してきたからだ。
奴らは詩宝の一番の男友達、ということになっているあたしのところに来て、詩宝の情報をねだった。
あたしは奴らに、詩宝の情報を漏らすような真似はしなかったが、成金豚を詩宝から引き離すのに協力してやると言って、噂を流す手伝いをさせた。
もちろん、あたしのものである詩宝に奴らが劣情を催しているのは、見ていて愉快ではない。
しかし、敵の敵は味方だ。成金豚を倒すために已むを得ず、手を借りることにした。
あたしと詩宝が結ばれた暁には、褒美として、詩宝の性欲処理便所くらいには認めてやってもいいと思う。
あたしは、心が広いのだ。
711転載:2010/07/29(木) 05:23:59 ID:JtyNlnnM
34:触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:02:46 ID:1TGytqQU0
そんな具合で努力を続けていたある日、詩宝が学校を休んだ。
病欠だというので、妻であるあたしは当然、彼の様子を見に行った。
病気が重いようなら、看病してあげないといけない。
まあ、実際にはどんなに軽い病気でも、無理やり寝かしつけて看病するつもりだったのだが。
ところが、詩宝の家に行ってみると、メイド服を着た雌豚が居座っていた。
雌豚と言っても成金豚ではない。見たことのない相手だ。
メイド豚はあたしが詩宝の家に入るのを拒み、追い払おうとしてきた。
翌日も詩宝は学校に出て来ず、詩宝の家に行くとまたメイド豚に邪魔される。
始め、メイド豚は、成金豚が詩宝を監視するために寄こした手先なのかと思った。
が、どうもそうではないらしいことに気付く。
メイド豚は、詩宝を家の外に出さないようにしている。
成金豚なら、そんなことをする必要はないだろう。むしろ、自分の屋敷に連れ込みたがるはず。
あのメイド豚はどこからか湧いて来て詩宝に取り憑き、監禁しているのだ。成金豚とは関係なく。
そして、詩宝が学校に来なくなってから3日目。
我慢の限界を超えたあたしは、メイド豚を殴り倒して詩宝を救出するべく、拳に包帯を巻いて詩宝の家に向かった。
プロレスラーが素人と喧嘩をすれば、普通は問題になる。しかし、この場合は監禁されている夫を妻が救出するのだから、正当防衛、緊急避難の範疇だろう。
勢い込んで詩宝の家のインターホンを押すと、案の定メイド豚が出てきた。
接近して顔面にパンチを入れようとしたとき、メイド豚は妙なことを言った。
「おや、あなたは行かれなかったのですか?」
どういう意味だろうか。殴る前に、あたしはメイド豚の真意を探ろうとした。
「行くってどこに?」
「めすむ……中一条様の婚約披露会ですよ」
「なりき……中一条が婚約? 誰と!?」
あたしは思わず、大声を上げていた。
成金豚が詩宝を脅迫して、強引に婚約したのかと思ったからだ。
しかし、それだったら、メイド豚が平然としているのはおかしいと思い直した。
「どこぞの政治家の御曹司だそうですよ」
「え?」
案の定、成金豚の婚約相手は詩宝ではなかった。しかし、成金豚がそう簡単に詩宝を諦めるだろうか。不審に思う。
「新聞にも載っていましたが。ご覧になっていないのですね」
それを聞いて、あたしははっとした。
詩宝と話題を合わせるために、あたしの家では詩宝の家と同じ新聞を取っている。
詩宝やメイド豚が読んだ記事なら、あたしの眼に触れないはずがない。
と言うことは、メイド豚が見た新聞の記事とやらは、成金豚のでっち上げに違いなかった。
メイド豚は、それにまんまと引っ掛かったというわけだ。
もちろん、メイド豚が嘘を吐いている可能性も、ないわけではない。
しかし、嘘にしてはあまりにもお粗末だ。あたしが成金豚サイドに確認したら一発でばれる。
多分、詩宝は今本当に、成金豚の偽の婚約披露会に出ているのだろう。
「じゃあ、詩宝は今いないんだな?」
「その通りです。お引き取りください」
「分かったよ」
あたしは大人しく、詩宝の家から引き上げた。
さて、これからどうするか。
成金豚が、詩宝をそのまま家に返すはずがない。
詩宝がいない間にメイド豚を排除するか、詩宝を自分のところに監禁するかだ。
前者ならいいが、問題は後者だった場合だ。
どうにかして、詩宝を救出する方法を考えないといけない。
メイド豚の場合と違って、成金豚は金で大勢のガードマンを雇っているので、力ずくではやりにくい。
とりあえず、布石を打つことにした。
携帯電話を出し、うちの団体の社長に電話をかける。
「もしもし」
『と、堂上か……?』
「はい。ちょっと急ですけど月曜の予定、空けてください」
『い、いや……月曜はゴルフのコンペが……』
「現役時代の社長も3流でしたけど、プロレス団体の社長が年甲斐もなく練習に参加して、首を折るなんてニュースも3流ですよね?」
『……真っ白に空けておきます』
「どうも」
あたしは携帯の通話を切った。一々自分の立場を分からせてやらないと動かないのだから、面倒臭い男だ。
後は、月曜に詩宝が学校に出てこなかったらどうするか、具体的に考える必要があった。
712転載:2010/07/29(木) 05:24:47 ID:JtyNlnnM
35: ◆ 0jC/tVr8LQ :2010/07/29 02:04:08 ID:1TGytqQU0
以上です。
紅麗亜サイドは、また次回に投下いたします。
今回はここまでにて、ご容赦を。
713名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 07:14:55 ID:c/keU123
面白かったっす、続き楽しみにしてます
714名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 08:21:41 ID:yL6ikIEa
とてもおもしろいですね。力押しで将来を約束させるところが特にイイです。ひ弱な男が相手である以外ではまずお目にかかれない場面ですからね


GJです!
715名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 09:13:58 ID:xZwAl2ei
ダラダラと長い割につまんねー話だな。鮎樫らいむのテンポの良さを見習えばいいのに。
716名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 10:26:18 ID:4itk5xKm
みなさん荒らしはスルーですよ。
717名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 10:41:23 ID:p9S8J8Qj
GJ!!
やっぱ男装の麗人っていうのは最高だと思う
惜しむらくは今回は僕っ子じゃ無かったことかな?
718名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 10:53:53 ID:ExkZJxnz
晃キターーーー!!ありがとうございます!!!
719名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 11:09:37 ID:+EBqXEwh
GJ!

今更だが白髪って流行っているのか?
720名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 20:21:50 ID:KL8OZ2I6
>>719
そういうのって流行とかあるのか?

ちなみに俺はおkだけどなw
721名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 20:41:48 ID:ExkZJxnz
>>719
白髪かぁ…それ聞くとアルビノ連想するんだよな。
ヤンデレ=お嬢様+引籠り+アルビノ
722名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 21:55:56 ID:ZzJoFpPg
白髪と銀髪ってメカニズムは兎も角として色的にどう違うんだ
723名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 22:17:01 ID:/zvsKsa4
>>722
自分が思うに白は白だけど銀は白と灰色の中間のような色だと思います。
なんというか濁っているといいますか白よりも若干暗く……
すいません書いているうちに自分の混乱してしまいました。
えっと自分的なイメージなので参考程度にどうぞ
724名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 22:19:11 ID:SqArA0L8
俺も似たような感じだな。光沢のある灰色というか
まぁ辞典ではイコールで結ばれていたような気もするけど
725名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 22:29:13 ID:p9S8J8Qj
実際のアルビノは白ってよりほんのりピンク色だよ
皮膚の色が無くて下の血管の色が多少浮き出ちゃうからね
あと、やっぱ眉毛まで色素がなくてパッと見眉毛がないように見えて怖い
726名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 23:49:36 ID:UEx/7S6Q
作品投下ありがたや〜
作者さんぐっじょぶ!
727名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 00:08:33 ID:uFsGXx/i
アルビノは見たこと無いけどオッドアイなら一人知り合いにいたなぁ
普段カラコンしてるみたいではずしてもらったら片目が銀色で怖かった
やっぱアニメみたいに綺麗なオッドアイは外人にしかおらんみたいやね
728名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 00:15:50 ID:jgm0LjOw
馬鹿者めが
そこで怖がらずに綺麗だねと言ってあげればその子はお前にデレてくれたかもしれないものを
きっとその子は自分のその眼を受け入れてくれる人が現れる事を心のどこかで期待してるんだ
そしたら周りが皆怖がる中一人だけ綺麗だと言ったお前の事をそれはもう熱烈に愛してくれたに違いない
その状態でお前が他の異性に接近しようものなら猛烈な病みオーラを発散する位に

…とここまで書いて気がついたがそいつが女の子とはどこにも書いてないな
729名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 00:40:06 ID:7FdLJ5+m
むしろ、普段はカラコンで隠している眼を、わざわざ見せてくれる展開にときめくべき
730名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 01:18:39 ID:uFsGXx/i
女の人だが仕事関係の人で8つも年上だったからな。
安易に綺麗とも言えなかったんだ…過去にはいじめられてた事もあるみたいだし。
ただ怖いって言っても何か吸い込まれそうでゾクっとしたんだよな。
心を全部見透かされてるような…

そして今ふと長編予定のもの書いてみたんだが投下しても大丈夫だろうか?
オッドアイのキャラとか全く出て来んけどね笑
731名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:04:40 ID:uFsGXx/i
初投稿なんでお手柔らかに…
長編予定です!何かこんなキャラ欲しいとかがあったらねじ込むんで言ってください!
では
732名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:05:39 ID:uFsGXx/i
俺は昔からよく喋るヤツだった。寂しがりやだからだろうか。
とにかくクラスメートの隅から隅まで仲良くならないと気がすまない性質だった。
だから、高校生になった今では携帯のメモリーには結構な数のアドレスが登録されている。
まぁ残念な事に彼女と呼べる人はいないが…
俺の名前は相田翔太。普通の高校1年生より少し交友関係の広いだけの男だ。

そんな俺には一応幼馴染がいる。家が特別近い訳ではないが母親同士が仲良くて物心つく頃には自然と遊ぶようになっていた。
名前は秋鹿(あいか)祥子。
出席番号も隣なので祥子とは小、中学校時代同じクラスになれば必ず隣りの席になった。
所謂腐れ縁というやつだろう。
そして高校生になった4月。入学式を終えた俺は学生ロビーに張り出された名簿を見てため息をついていた。
「はぁ…」
そこには「1年1組 1番秋鹿祥子 2番相田翔太」とはっきりと書かれていた。
「これで何年連続なんだよ…」
絶対誰か裏で操作している人間がいるに違いないなんて愚痴をこぼしていると不意に肩を叩かれた。
「何入学式でしけたツラしてんだよ。お前らしくもない。」
「…どこかでお会いした事ありましたっけ?」
「先月まで同じ中学だっただろうが!!」
「…なんだ、大田か」
「その言い方はねぇだろ!」
この人のテンションを全く気にせず話しかけてきているのは大田。
中学時代からの付き合いで、何だか気が合い中学の頃は良く一緒に遊んでいた。
「いや、俺も可愛い子見つけて元気にはしゃぎたいんだけどさ…あれ見ろよ」
そういって俺は張り出された名簿を指さす。
「…これはもうデスティニーだ。いやファンタジアだ!」
「俺はいつからシリーズ化されたんだ!」
「だけど普通小中高ずーっと一緒のクラスなんて運命以外にありえるか?」
「…」
確かに運命以外何ともいえない。
「お前別に秋鹿の事嫌いって訳じゃないんだろ?だったら別にいいじゃねぇか」
「いやまぁ嫌いじゃないんだけどな…祥子は何かおとなし過ぎるんだよな」
正直言って秋鹿の事は少し苦手だ。昔は二人で良く遊んでいたような記憶があるのだが、
小学校で俺に友達が増え始めてからは遊ぶ回数も減り、それから徐々に付き合いは無くなっていった。
昔はよく笑う天真爛漫な可愛い子だった記憶があるのだが…
「今じゃ主席入学のメガネ才女だもんな」
何だか小さい頃の秋鹿を思い出し切なくなった。
「全く、頭良いのに何でこんなしがない平凡な公立高校に入ったのかねぇ。」
「祥子は家が近いからって言ってたぞ」
「ほう、そりゃどこぞの天才バスケプレーヤーと一緒じゃ『私バスケなんてした事ないわよ』」
「!!!」
「…よう、祥子。お前いつの間にいたんだ?」
「翔太がシリーズ化された所から」
「そこから!?だったらもっと早く声かければいいじゃん?」
「ちょっとね…」
「??」
不思議そうに見つめる俺に、秋鹿は寂しそうに顔を伏せた。
733名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:06:55 ID:uFsGXx/i
「…あっ、翔太!俺お腹痛いから帰る!」
「えっ、おい!」
そういうと大田は颯爽と帰って行った。
「なんだよあいつ…」
「ねぇ翔太。」
「ん?」
「久しぶりに二人で話しでもしない?」
そう言った祥子に、俺は忘れかけていた幼き日の祥子を感じた。

大田が帰った後は話は二人で取り留めもなく話をした。
少し疎遠になったせいか話をしているとお互いの趣味や価値観等も少し変わっている事に気付き、
話のネタは尽きなかった。
ただ祥子はやはり俺の覚えている昔の祥子では無いような気がした。
俺の質問に淡々と答え、淡々と俺に質問をしてくる。何だか感情が無いようで少し怖い。

その後日も少し沈んできたので帰ることになったのだが…
祥子は行きは車で来たが、親が残業が入り迎えにこれないらしい。
「祥子の家って確か俺の家から近かったよな?ここからどれくらい?」
「歩いて1時間以上かかるわね」
そう言って無言で俺を見つめてくる。

…結局無言の圧力に負けた俺は、祥子を家まで自転車で送って行く事になった。

学校の帰り道、久しぶりに女の子と二人乗りをしている俺は焦っていた。
別に「警察に見つかるかも」なんて事じゃない。
さっきまで普通に話せてたはずなのに祥子に少しくっつかれただけで上手く言葉が出てこなくなってしまったのだ
「…………………」
き、気まずい…何か喋らなければ…
「あのさぁ!」
「何?」
「こうやって二人で帰るのっていつ以来だろうな!?」
…我ながらなんて雑な質問。こんなの覚えているわけがないか。
「小学校4年生の12月」
「…えっ?よく覚えてるな。」
「何気ない事って意外と覚えてるものだから。」
「そんなもんなのか…」
やっぱ首席だけあって記憶力もいいんだなぁ。

「ここよ」
いつの間にか祥子の家についた。久しぶりに見るその家は記憶の中の物よりも少し小さく感じる。
まぁそれだけ俺も成長したって事だよな…
「じゃあ、俺帰るから。おばさんによろしく!」
そういって自転車を漕ぎ出そうとした瞬間
「翔太!」
「あの、私携帯買ったから、赤外線送る。」
「お、おぅ。」
いつものクールな祥子とは思えない程の大声に思わずたじろいでしまう。
「携帯かして」
「いやこの距離なら充分赤外線届『いいからかして』」
そういった祥子の声は先ほどまでの声とは違いひどく冷たいものだった。

「はい、返すわ。」
「何かやけに時間かかってたな」
「まだあんまり操作に慣れてないのよ。じゃあね。」
満足したのか祥子は家の中に入っていった。
「…やっぱり何か苦手なんだよなぁ」
そうポツリと呟いて俺は家路を急いだ。
734名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:07:57 ID:uFsGXx/i
私は昔良く喋る子だった。初めてあった同年代の男の子に気に入ってもらうため。
私は昔良く笑う子だった。初めて好きになった自分の名前に似た男の子に楽しんでもらうため。
男の子は最初怯えていた。元気にはしゃぎ回る私の後ろでいつもビクビクしていた。
私はそんな男の子を引き連れて色んな事をした。
おままごと、探検、お遊戯…子供が思いつく遊びは全部した。
気づけば男の子は良く喋るようになった。
楽しそうに話す男の子を見て私はおとなしくなった。その子の話を良く聞きたいから。
次第に男の子は色んな子と喋るようになった。それはそれは楽しそうだったから私はそれを笑ってみていた。
ある日男の子は私の知らない女の子と喋っていた。男の子は楽しそうだったから私はそれを笑ってみていた。
…はずだった

男の子は私の顔を見てひどく怯えていた。私は教室の窓に映った自分の顔を見て怯えた。
ひどく嫉妬にゆがんだその笑顔に…
あの子が楽しそうだから笑わないといけないのに、私はその日から上手く笑えなくなった。

あれからかなりの月日が流れた。小、中学校は翔太にも付き合いがあるからアプローチは出来なかったけど、
新たな人間関係を築く高校なら…誰の目も気にせず翔太にアプローチが出来る。
入学してすぐなら知り合いもまだ少ないだろうし、翔太がまた色んな人と遊びだす前に私に夢中になるように仕向ける。
幸いウチの中学から私達の高校に来たのは大田っていう翔太と仲の良い男の子だけ。
中学に入った頃から翔太がどの高校を目指しても大丈夫なように勉強してきたかいがあった。
絶対に…私は翔太と幸せになってみせる…。

「成績が良すぎるのも考えものだなぁ」
私は校長室でのくだらない話をちょうど終えた所だった。
一生懸命勉強したのがこんなとこであだになるとは…
おかげで翔太がどこに行ったかわからなくなってしまった。
「こんな時翔太の連絡先を知ってたら…」
中学時代から彼が携帯電話をよくいじっているのを見ていた私はすぐに親にねだった。
しかし、家が厳しい私は高校生になる今の今まで買ってもらえなかった。
携帯電話を眺めながら溜息をついたその時。

「俺はいつからシリーズ化されたんだ!」

不意に聞こえた愛しい人の声に振り返るとそこには確かに彼がいた。
どうやらまた私と一緒のクラスな事に何か不満があるらしい。
どうして?今までだって二人で前の席で並んで勉強してたじゃない。
私何か翔太にしちゃったの…?もし、翔太が私の事嫌いなら…もしそうなら私…
「いやまぁ嫌いじゃないんだけどな…祥子は何かおとなし過ぎるんだよな」
天の声が聞こえた気がした。そっか、私が暗すぎたからいけないんだ。
勉強ばかりしてたから自然と翔太の目には私が暗くなったうつったみたい。
翔太は昔の明るい私に戻ってほしいんだね?

私は翔太に嫌われていなかったという事実だけで天にも上る思いだった。
735名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:08:29 ID:uFsGXx/i
あれから色々あって何とか二人で帰るという所までこぎつけた。
大田君が私の気持ちに薄々気付いたのか自ら立ち去ってくれたのには感謝しないとね。
太田君が去った後は本当に夢のような時間だった。
ここ数年あまり人と話して無かったせいか、上手く気持ちを表現出来なかったけど、私は確かに幸せだった。
彼が「そろそろ帰ろう」というので、トイレに行くフリをして自分が乗ってきた自転車を隠し、
適当な言い訳をして彼の自転車の荷台に乗る事に成功した。
自転車の荷台は決して乗りは良くなかったけど、心地翔太越しの春風の匂いはどんなアロマよりも心が安らいだ。
「あのさぁ!」
彼が喋りかけてきた。
「こうやって二人で帰るのっていつ以来だろうな!?」
…どうして覚えてないの?って言いたい所だけど仕方ない。
ちょっと消極的過ぎた私のせいだもの。
これから時間は沢山ある。少しずつ距離を近づけていけば、いつか翔太も私だけを見てくれるかも知れない。
そう考えると笑わずにはいられなかった。

楽しい時間はあっという間で家についてしまった。
『嘘の道でも教えて時間稼ぎすれば良かった』などと考え自転車から降りる。

「じゃあ、俺帰るから。おばさんによろしく!」
「翔太!」
危ない。あまりに楽しかったせいで連絡先を聞くのを忘れていた。
焦った私は自分でもびっくりするくらいの声で彼の名を叫んだ。
せっかく買ってもらった携帯電話を有効活用しないと、急がなければ彼はまた私を見てくれなくなる…
そんなのは嫌。。。絶対に嫌!!!!
私は彼から携帯電話を半ば強引にかりて、念の為自分の携帯に彼のアドレス帳のデータ全てを送った。
『交友関係の広い彼の事だ。ひょっとしたら敵がいるかもしれない…。』
そう思うと彼のアドレス帳の女の連絡先を全て消したくなったが今はまだその時ではない。
データを写し終えると私はそそくさと家の中に入った。
自分の携帯に入った彼のアドレス帳を見る。
「やっぱりすごいわね…」
数百件登録されている中には女の名前もちらほらと入っている。
ただ、名前順に表示されるのでもちろん相田翔太の隣は秋鹿祥子…のはずだった。
『秋鹿織江』
彼の隣には私の姉の名前が刻んであった。
736名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:10:58 ID:uFsGXx/i
投稿終わります。
何かノリで書いたんで文面など拙い所は指摘していただければ有難いです。
後は「こんなキャラが欲しい!」というのも言って下さい!
失礼致しました。。。
737名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:20:03 ID:uFsGXx/i
ちなみにタイトルは「『これから』を君と」です!
何かすいません。。。
738名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:23:28 ID:vM/qNHWl
リアルタイムGJ!
これから楽しみです
739名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:40:17 ID:pbpm4e+0

それと最近空気悪いから一応sageといた方がいいぜ
740名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 02:41:49 ID:DZAt0E20
GJ!sageしないと変なのがわくからしてね
741名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 07:54:10 ID:bW/yATT9
作者GJ!!次も楽しみにしてるぜ!!
そして、関係ないけどアルビノのお嬢様が大きな屋敷の窓から紅い瞳で見つめてきたらどーする?
742名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 08:45:20 ID:neC9N2fJ
作者GJ!
続き期待してます!

>>741
とりあえず優しく微笑みながら、彼女からは見えないところで携帯使って女の子を呼び、女の子が来るまで見つめ合いながら時間を過ごす。
そして女の子が来たら普段以上に近付きつつその場を後にする
743名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 09:15:20 ID:uMHILEhu
>>737
全体的にダメ
5点
もうこなくていいよ
744名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 09:25:42 ID:bW/yATT9
>>743
自称・文才者(笑)乙wwww
745名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 10:58:54 ID:DZAt0E20
>>743ならばお前が書いてくれ
746名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 11:28:51 ID:P+bvPcZk
それよりも5点の理由を5000字以上で書いて欲しい。
無論読者を惹きつける工夫を凝らした文章でな。
747名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 11:52:30 ID:bW/yATT9
>>746
無理無理だってwww>>743は口だけの可哀相なナルシストだからたぶん「あいうえお作文」も書けんよwwww
748名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 12:04:09 ID:LIxFUeOp
ウナギイヌさんの批評が始まるぞwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
749名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 12:39:35 ID:rQFz0HI3
>>747
ヤンデレあいうえお

あ…あなただけを愛してる
い…一生傍に居てね
う…うるさい雌豚は死んで
え…えっちなこともあなたにならいいよ
お…犯して欲しいな

こうですか!?わかりません!
750名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 13:31:12 ID:DZAt0E20
ヤンデレあいうえおナイスwww
751名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 13:33:15 ID:KwN9v6XJ
>>747
せんせー、
あいうえお作文って地味に難しいと思いまーす

…俺に文才がないだけか
752名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 13:53:44 ID:2GXg6pFw
あ 貴方だけしかみてないの
い いつも一緒にいようね
う うるさい雌豚は殺しておいて

え 円の中は私達だけ

お お腹の中には貴方と私の子供だよ


確かに難しい
753名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 14:23:44 ID:FV6N0vQS
あ あの女は誰
い 一緒に居るって言ったじゃない
う 嘘つきにはお仕置きが必要ね
え えへへ、やっと素直になってくれたね
お おじいさんになっても離さない
754名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 16:28:39 ID:uMHILEhu
つまらない奴がつまらない事を始めた
755名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 16:38:07 ID:kb104KZo
みなさん、荒らしはスルーですよ!!
756名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 16:58:29 ID:jndWBPyp
夏だからかね
757名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 17:58:58 ID:kb104KZo
あ!?450を越えている…週末でss投下が多くなるので次のスレ立てをしないと…俺は規制中なので誰か頼む。
758名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 18:45:18 ID:uMHILEhu
いやです
759名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 18:51:10 ID:yF3wny7i
気合で頑張れ
760名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 20:10:21 ID:w8iuQXrY
450じゃちと早い
最近のペースなら480ぐらいで立てればちょうどいいと思う
761名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 22:06:05 ID:C61qGkf2
うめ
762名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 23:29:54 ID:tj2kUseL
ててて来るからテンプレ頼む
763名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 23:31:03 ID:tj2kUseL
ててて×立てて
764名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 23:32:48 ID:tj2kUseL
エラーだそうです申し訳ない…
765名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 23:43:43 ID:4gXRlSct
まだ立てなくていいってのに

人の話を聞け
766名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 03:45:42 ID:y5YkAjWs
いやです
767名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 04:14:47 ID:gp8Usdvy
たな
768名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 05:30:24 ID:XGOdaQri
>>762
・まだ早いっていうのに勝手にスレ立て宣言
・ててて(笑)
・テンプレはめんどいから他人任せ
・しかも失敗

どんだけ突っ込ませるつもり?
769名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 10:50:03 ID:SouOPJ8Z
>>762
螺旋双髪はここにきてないよ
770名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 13:36:28 ID:UspxETec
うめ
771名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 15:09:27 ID:y5YkAjWs
と書いても無意味です
772名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 18:00:01 ID:Df4UbxAp
うめ
773名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 18:06:33 ID:i8z0gSwH
今週もヤンデレ家族来るかな?
774名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 18:34:27 ID:gp8Usdvy
>>773
来ないです。
775兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:09:23 ID:jsky2k92
ヤンデレ家族ではないけれど、こんばんは。
投下させていただきます。
776Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:09:45 ID:jsky2k92
13話「Nameless Song」

 だからな、という上ずった声で、無理矢理に現実世界へと引き戻された。
「だからな、突き詰めちゃえば、長期戦に持ち込んじまった時点で負けだったんだよ。長期戦で地球側には勝てないんだよな、これが」
 黒板の上の時計に目をやる。時刻は13時半過ぎ。丁度、5限目が折り返し地点に至ったところだった。
 夏休みを目前に、季節はずれの席替えが行われた。結果、俺は窓際の一番後ろという最高のポジションを獲得し、佐藤は俺の前に陣取った。
ちなみに、遊佐は中央の列の一番前、教卓の真正面という、色々な意味で被害を被る位置に移動した。
 今週から期末テストということもあり、授業の大半は自習だった。5,6限目の世界史に至っては、先生が不在で、自習というよりは休講に近い。
 自習と言われたら自習しないのが高校生、とでも言いたいのか、9割強の生徒は勉強などしていなかった。言うまでもなく、俺らもそれに含まれている。佐藤は延々とアニメの話を続け、俺はそれを聞き流しつつ、舟を漕いでいた。
「やっぱりさ、国土に決定的な差があったわけだよ。しかも、後半の身内のゴタゴタもデカい」
「あのさ、そのナントカって国の宇宙人はさ」
「宇宙人じゃない。宇宙に移民させられた人達だ」
「その人達の話はさ、世界史か、日本史か、現代史のテストに出題されるのか?」
「出るわけないだろ」至極当然のように、言い放つ。アニメだし、とも言った。
「じゃあ何でお前は一日中その話をするんだ」
「布教に決まってんだろうが」
 それからまた、佐藤はそのアニメの話を続けた。学徒動員だとか、地球寒冷化などの不穏な言葉も聞こえた気がするが、適当に相槌を打って受け流した。
 テストを2日後に控えた火曜日。無気力化し、見失いかけた自分を再発見し、死体を隠した日曜日から、2日経った。
恐れていたような、つまりは警察が突然家に上がりこみ、くるみを引き摺っていくようなことは、まったくなかった。ある一点を除けば、恐ろしいほどに、変化がない。
「一応さ、ずっと後の方まで歴史は一本に繋がってるんだよ。だけどな、俺としては、劇場版でこの2人の決着が着いたところで、幕を閉じたと思ってるわけよ」
「なぁ佐藤」話を遮るため、強い語調で言った。
「なんだよ、こっから最新作に繋げて盛り上げようと思ったのに」
「なんかさ、ごめんな、巻き込んじゃって」
 一瞬、目を見開いたかと思うと、佐藤は険しい表情をした。だが、すぐに諦めたかのようにため息をついて、苦笑を漏らした。
「お前ってバカだよなぁ、ホント」
「仮にも謝罪してる人に対してバカってどうなんだ」
 佐藤は声を上げて笑うが、その表情にやせ我慢が混じっているのは誰でもわかる。
 開かれた窓から、生ぬるい風が入り込み、頬を撫でた。
 教室を見渡す。友人と集まって話をしている者や、携帯と黙々と睨めっこをしている者、イヤホンをつけたまま机に突っ伏している者など、様々だ。
女子が数名、机を合わせ、広げたノートを見ながら何かを話しており、そこに遊佐もいた。教室中に笑いが満ち、誰もが日常を満喫している。
 息苦しくなる。比喩などではなく、本当に呼吸が難しくなる。吸って吐くという行為が、重労働に思える。
 音を立てないよう、ゆっくりと椅子を引いて、立ち上がった。佐藤が不安そうに見上げてくる。
「外の空気吸ってくるわ」
「ん、了解」
 佐藤は、教室の窓で充分だろう、とは言わなかった。やはり、佐藤はいい奴だ。
777Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:10:09 ID:jsky2k92
・・・
 屋上に出ると、校舎の中とは違った暑さに顔をしかめる。校舎は蒸篭で、屋上は中華鍋だな、なんてくだらないことを考える。
 今はまだ授業中なので、誰もいないと踏んでいた。ましてや、知り合いがいる可能性など、微塵も考えなかった。
「叶」
 3m近くあるフェンスの前に立っていたのは、叶だった。相変わらずワイシャツの裾をズボンから出しており、振り返ると、第3ボタンまで開けられていて、驚いた。
男に使うことになるとは思わなかったが、陶器の様な肌、とはこのことだと思ってしまった。
「会長様が授業フケていいのかよ」
「授業をフケてる生徒がいないか、見回りしてるんだよ」
「結局自分もサボってんじゃないかよ」本末転倒だよ、と笑う叶の顔はどこか力なく、ワックスで立てられた髪も、心なしか少し曲がっているように思える。
 叶の横に立って、腰を思いっきり伸ばした。ずっと机に突っ伏していたせいか、普段よりもいい音がした。
仰け反って見た空は雲ひとつ無い晴天で、大きく息を吸い込むと、香ばしいとも、焦げ臭いとも言えないような匂いがした。
 フェンスの向こうには、道路や線路、住宅地が広がっている。間々に緑が敷き詰められており、都会の中に自然がある、というよりは、自然の中に無理やり住んでいる、といった風に思えた。
住宅地のさらに奥には山が聳えており、今日の快晴のお陰で、輪郭をはっきりと捉えることが出来た。
「平和だねぇ」
「なんつー間の抜けた声だよ」叶が呆れる。「まぁ、確かに平和だよな。不自然なくらい」
「嵐の前の静けさ、ならぬ、嵐の後の静けさ、だ」
「それって、普通なんじゃねーの?」

 くるみが人を殺し、それを隠したというのに、俺達はまだこうして日常の中にいる。
 何故かといえば、簡単な話。俺達が無変化を演じているからだ。
 しばらく無言で呆けていると、チャイムが鳴った。5限目が終わったようだ。
「んじゃ、俺はもう戻るよ」
「5限はサボったのに6限は出るんだ?」
「次の授業はリーチかかってるんだよ」
 俺はあの、俺にとってはひどく異世界的な教室に戻る気にもなれず、もうしばらく鍋の上で焼かれ続けることにした。
 叶の足音がしばらくして止まった。気になって振り向くと、叶もこちらを振り返っていた。
「あのな、一応。謝っとくよ」
「なにを?」
「中3の時のこと。何を今更、って思うかもしんねぇけどさ、悪かったよ、マジで」照れくさそうに、叶は視線を落とす。
「何を今更」
「おっまえなぁ」
「いや、冗談、冗談」
「ったく。まぁ、俺も色々あってイライラしてたんだけどさ、それよりもずっと前から嫉妬してたんだよな、お前に」
「嫉妬?」
「悔しかったんだよ、俺じゃなくてお前だったのが」
「なんのことだよ?」
「わざわざ言う必要もねぇっての、バーカ」
 背を向けたまま手をヒラヒラとさせ、それを別れの合図に、叶は校舎の中へと入っていった。
 二重の意味で置いてけぼりの俺は、仕方ないので、今朝と一昨日のことを思い出す。
778Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:10:38 ID:jsky2k92
・・・
「取引ですよ」
 あの日、“魔物の巣”で窪塚さんが言った言葉の意味を、最初は理解できなかった。彼女が何を言っているのかも、なぜここにいるのかも、わからなかった。
「さすが最新型、綺麗に撮れてますよ」右手を、ニッコリと笑った顔の高さまであげた。その手には、コマーシャルでもよく見かける、最新のデジカメがあった。
 唐突に、あの光、あの音が何だったのかを理解した。同時に、冷たい汗が背中を伝い始める。
「てめぇっ」叶が踏み出す。力強い一歩だったが、残念ながら、その足はそこで止まる。
 窪塚さんが突き出した左手には、拳銃があった。ドラマや映画で頻繁に目にする、直角定規みたいな形をした、黒くて無骨な銃だ。
「撃ちますよ?」さきほどの笑顔など微塵もなく、冷たく、蔑むような表情で、彼女は言い放つ。
「偽者だ」断定口調だが、叶の声は微かに震えている。
「撃てばわかりますよ」
「撃ってみろよ」
「動いたら撃ちます」
 竹林が、再び静かになる。叶と窪塚さんは睨みあったまま立ち尽くしている。叶は表情こそ崩してはいないが、身体が強張っているのがわかる。
一方、窪塚さんは笑顔こそ消えたものの、緊張やその類のものは見受けられない。今にも欠伸でもしだすのではないか、という余裕さえ感じる。
 やけに呼吸の音がうるさいと思ったら、自分だった。気付かないうちに心臓が暴れ、呼吸が乱れていた。
 叶の身体が僅かに沈むのが、見えた。
「ダメだ!!」叫んでいた。膝を曲げたまま、叶がこちらを見る。「ダメだ、叶。あれは本物だよ」
 一端の高校生である俺に、本物とモデルガンの区別など、つくはずがない。それでも、俺は言い切っていた。今思えば、単に逃げたかっただけのようにも思える。
「いい判断です、先輩」
 笑顔を浮かべると、彼女は叶を数歩、後ろへと下がらせた。
「予め言いますが、私は先輩を警察に突き出そうなんて、そんなことは考えてません」
「『その代わり、くるみを渡せ』とかは無しだよ」
「先輩が気付かなかったらそうしようかとも考えたんですけどねぇ」察しの悪い俺だって、流石にそれは思いつく。
「くるみと叶に害が及ぶようなのは無しだ」
「先輩、立場おかしくないですか?」窪塚さんは、クスクスと、上品に笑った。銃口は、未だに下げられていない。
 注文が出来るような立場ではないのは、重々承知していた。それでも、これだけは絶対に譲ってはいけないような気がしていた。くるみが狂行に走ったのも、ここに叶がいるのも、全ては俺の責任だ。
「お願いだ、俺はなんでもするから」
 窪塚さんはもう一度笑ってから、「いいですよ」と答えた。あまりにもあっさりとしていたので、「いいの?」と聞き返すほどだった。
「先輩がそう言うのも予想済みです。むしろ、好都合ですから」
 その言葉に思わず、後悔の念が走るが、なんとか押さえ込む。
「でも、写真はあげませんよ」彼女はニッコリと笑うと、カメラをポケットにしまった。
 理解が出来なかった。写真を渡さないというならば何の取引だ?
 彼女と目が合った。不思議なことに、その瞳には慈愛というか、情愛というか、とにかく、この状況とは似つかないような、温かなものが込められているように思えた。
「死体に関しては、任せてください」
779Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:11:00 ID:jsky2k92
・・・
 その後、彼女が何をどうしたかは知らない。俺達はすぐさま竹林から追い出され、老婆とスコップを取り合っている佐藤らと合流し、窪塚さんの言いつけに従い、帰宅した。翌日、つまり昨日は、窪塚さんは学校に来なかった。
 今日の朝になって、事態はほんの少しだけ進展を見せる。
 俺の携帯に、窪塚さんからメールが届いた。内容は、至ってシンプル。『7:40までに生徒会室に来てください』、それだけだった。
 普段よりも随分早く登校し、生徒会室を目指すと、生徒会室の中にはすでに叶と佐藤、ウメちゃんがおり、このメールが全員にほぼ同じ内容で送られていたことを知った。
僅かな違いは、みんなは集合時間が10分早かったことぐらいだ。
 俺が生徒会室に入ってからすぐに、窪塚さんが入ってきた。入ってくるや否や、彼女は昨日の銃をこちらに向け、俺達を奥へと追いやり、自分はドアを背にして立った。
 机を挟んで対峙した時、叶が小さく舌打ちをしていた。4人で襲い掛かろうとでも考えていたのだろうが、彼女がそんな初歩的なミスをするわけがない。
 窪塚さんが銃を下ろすと、叶の身体が僅かに動く。だが、机を越えて飛び掛るような無謀な真似はしなかった。
ここから窪塚さんまでは10mほどあり、足の速い叶であろうと、彼女が腕を上げるよりも速く間合いを詰められるわけが無い。歯軋りが聞こえる。
「さて、まずは報告ですね」叶の悔しさを知ってか知らずか、彼女は悠々と話し始める。「死体に関しては、なんの問題もありません。ぱーふぇくしょん、です」
 生徒会室が静かになる。心臓の音も、叶の歯軋りも、佐藤の貧乏揺すりも、止まった。ウメちゃんが「うぇ?」と変な声を上げるまで、生徒会室には一切の音が無かった。
「なんか言ってくれないと私がバカみたいじゃないですか」照れ隠しとしか思えない口調で、彼女は怒る。
「なにがぱーふぇくしょんだって?」
「死体は私が完璧に隠しました、って言ったんです」
「完璧に?」
「完璧です。大規模な地殻変動だとか、あそこらへんを丸ごと開発しなおすとかが無い限り、絶対にバレません」
「その証拠は?」と叶。
「証拠があったら完璧じゃないですよ。バカですか?」
 すごく今更な気がするが、『こっち』が窪塚さんの本性なのだと認識する。誰にでも親切で、ニコニコ笑っているの姿は演技ということか。ただ、敬語を忘れないあたりが彼女らしく、また、不気味でもあった。
「あとは先輩達が隠し通せば問題ありません。いいですか?
私達は柴崎先輩の失踪について何も関与していないし、皆目見当も付かない。最近の彼に変わった様子は見られなかったし、何より、そんなに仲が良い方ではなかった。
いいですか?」まるで暗示でもかけるようにゆっくりと、はっきりとした口調で窪塚さんは言う。「何も無かった『フリ』をするんじゃありません。『何も無かった』んです。いいですね?」
 4人が4人とも状況を呑み込めず、曖昧に頷くと、彼女は大きなため息を吐いた。
「僅かなミスでも、警察は見逃しません。彼らは他人の粗を捜すのが仕事です」
「そんなこと言われても、なぁ?」目を伏せた佐藤が言う。
「なら、もう1個選択肢を。先輩達が死ねばいいんですよ。『死人にくちなし』、です」彼女が銃を構えた途端、冷たい獣が全身を駆けずり回る。「あ、もちろん憲輔先輩は例外です」
 その言葉に安心したわけではないが、俺は全身の空気を吐き出すようにして、体の力を抜いた。
 それを見計らったかのように、窪塚さんは銃を下ろし、言う。
「さて、それでは、そちら側の交換条件ですが」
 再び、全身が粟立つ。
 窪塚さんは、今までで初めて見るほどの幸せな顔をしていた。



・・・
 放課後、俺は校門で人を待っている。5分ほどすると、彼女が勢いよく走ってきた。
「ごめんなさい、遅れちゃいました」
「そんな慌てなくてもよかったのに」
「だって、先輩が待ってると思うと走らずに入られませんよ」
「照れることを堂と言うね」
「彼女ですからね」
 窪塚さんが声を大にしたのが、わざとだというのは流石に俺でも気付く。川のように流れる生徒群の目が、一瞬俺達に集まるのがわかる。
 汗でほんの少し顔を上気させ、窪塚さんは微笑んでいる。彼女の背は平均より低いため、必然的に俺を少しだけ見上げる形になる。不覚にも、素直に可愛いと思ってしまった。
 興奮と鳥肌が同時に訪れ、言い表せない、奇妙な感覚に見舞われる。振り払うように、逃げるように歩き出す。
「イジワルですねぇ」言葉とは裏腹に、彼女は楽しくてしょうがない、という風だった。
780Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:11:37 ID:jsky2k92
 彼女の要求はたった1つ。『俺と窪塚さんが恋人になること』、たったそれだけだ。彼女がしてくれたことを考えれば、安いにも程がある。
なにより、取引とはいっても、彼女が現場の写真を抑えている以上、こちらに拒否権はない。
 窪塚さんに先導され着いたのは、駅前の商店街だった。先々日、遊佐と来た場所だ。手前の方から手当たり次第、店に入っていくので、遅れないようについていく。
「夢みたいですよ」6軒目で、窪塚さんは顔をうっとりとさせながら呟いた。
「なにが?」
「先輩とこうして買い物を、それも放課後デートだなんて、もう嬉しくておかしくなっちゃいそうです」
「そりゃあよかった」
「先輩、いくらなんでも投げやりですよ」
「いや、でも、ねぇ?」窪塚さんとのデートが嫌というわけではない。場所が嫌なのだ。
 商店街について以来、周りには俺達のように制服を着たカップルが溢れていた。同じ高校の制服もあれば、別の学校の制服も多くいる。そんな中に俺がいるのは、どうも不釣合いに思えてしまう。
「ふふっ、相変わらずですねぇ。もしかして、緊張してたりしますか?」
「緊張、ってのも違くてさ」
「わかってますよ」
 笑いながら、彼女が店を出る。慌てて追いかけると、またすぐに別の店に入った。どうも女子というのは買い物が好きというよりは、店を冷やかすのが好きみたいだ。
「それより、“相変わらず”ってなに?」
 窪塚さんが7着目の服を手にした時、何か別の疑問が浮かびかけたが、今は置いておくことにして、喉に引っかかった疑問を口にした。
「先輩って鈍チンなのに、そういうところには気付くんですよねぇ」持っていた黄色いTシャツをハンガーにかけなおして、ため息をつく。「そこも好きなんですけど」
「“相変わらず”っていうのは、前から知ってる物事に対して使うものだろ。でも残念ながら、俺は今まで女の子とデートをしたことはない」くるみと姉は例外ということにしておく。
「ええ、知ってますよ。私の言った言葉の意味と、先輩の捕らえてる意味は若干の差異があります」
「差異?」
「私が言いたかったのは、『相変わらず罪の意識があるんですね』っていうことです」
 今にも倒れそうなほどの目眩に見舞われる。鈍器か何かで頭をフルスイングされたようではなく、脳を直接鷲づかみにされ、思いっきり振り回されたような感覚だ。
続いて、胃液がせりあがって来る。全身に悪寒の波動が走り、全ての汗腺から気味の悪い液体が滲み出る。黒く濁った、ドブのような液体。
「━ぱい、先輩!」
 気付くと、窪塚さんに支えられ、辛うじて立っていた。窪塚さんは真っ赤になりながら俺を支え、何度も呼んでいたようだ。
「ごめっ、俺」
「いいから、店を出ましょう、ね?」
 周りの視線を避けるようにして、窪塚さんは俺の手を握って走り出した。少しだけ店と距離を置くと、俺は崩れるようにして、アイス屋の壁にもたれて座った。
「理解が出来ませんよ」顔を抑えて呼吸を鎮めていると、窪塚さんが強い語調で言った。「理解できません。なんで、なんで先輩がそこまで責任を感じるんですか?先輩は無関係じゃないですか」
「無関係じゃないよ」
「無関係です。第一、記憶だってあやふやなぐらい幼い時の事でしょう?」
「あと3年早く生まれてれば、結果は変わったかもしれない」やたらと苦い唾を吐き出す。「もしくは遅く」
「それが罪だって言うんですか?それで責任感じてるんですか?悪いですけど、そんなのただのバカですよ」 
「バカ、バカか。それ、前にも誰かに言われたなぁ」
 これ以上は無意味だと判断したのか、窪塚さんは口を閉ざしてしまった。これ幸いと、俺は身体を休めることに専念する。
 それにしても、窪塚さんはどこまで知っているのだろうか。彼女の口ぶりからして、どうも全部を見透かされてる気がしてならない。
だから、訊こうとは思わない。「私は先輩のことなら全部知ってますよ」と言われるのが見え見えだ。

781Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:12:12 ID:jsky2k92
・・・
 それから2軒ほど回って、喫茶店に入った。そこは遊佐と行った『Kyoro』という店で、偶然にもあの時と同じ席に座った。俺はアイスコーヒーを、彼女はピーチティーを頼んだ。
 30分ほどいて、窪塚さんが突然席を立った。俺が止めるヒマもないほどテキパキと会計を済ませると、店を出た。結局、喫茶店では一言も交わさなかった。
 駅へ向かい、電車に乗る。3駅目で降りる。窪塚さんはこの隣の市なのだが、市の境目に家があるらしく、ここで降りた方が近いのだそうだ。
 空はすっかり暮れていた。といっても、不思議とそれほど暗くは感じない。街灯のお陰もあるが、夏の夜空というのは、どこか明るい。
「公園に寄って行きませんか?」駅を出ると、窪塚さんが久しぶりに喋った。
 時間的に、そろそろ帰りたいところだったが、彼女の顔つきに決意のようなものが見え隠れしている気がして、どうにも断れなかった。
 駅から数分歩いた所にある、寂れた公園に着いた。ここは子供が遊ぶためというよりは、待ち合わせ向けで、遊具は滑り台しかないのに対し、ベンチは6脚もある。
だが時間帯のせいか、浮浪者と思われる人が新聞を被って横になっているの以外は、全て空いていた。窪塚さんが入り口の正面のベンチに座ったので、その横に少し距離を空けて座る。間を空けず、窪塚さんが詰めてきた。
 やはり、窪塚さんは黙りっぱなしだった。それでも、俺は不快感や、妙な焦りを覚えたりは、不思議としなかった。
沈黙に疑問を持たない関係というのはいいものだ、と俺は常々考えているので、割と幸せに感じていたぐらいだ。
 しかし、どうやら窪塚さんは違うようだ。先ほどからキョロキョロと目線を泳がせ、指先を忙しなく動かしている。
「大丈夫?」
「え?あ、いや、えっと、だい、大丈夫です、問題ありませんよ」いつものように笑おうとはしているのだろうが、目線が定まらず、口元も少し引きつっている。
 とりあえず、落ち着かせるには放っておくべきだろうと判断し、再び前を見る。斜め前の方のベンチで、横になってる人が少しだけ動いた。
 駅前から少し外れた場所のせいか、人通りはないに等しい。足早に家路を辿るサラリーマンも、疲れきった顔で大きな鞄を担ぐ坊主頭の高校生も、ここの近くは通らないようだ。
弱々しい街灯の向こうで、控えめに飲み屋の看板が発光している。目線を上に上げれば、いつもよりも星が多く光っていた。しばらく見惚れていると、一際強く光っていた星が、突然消えた。
見間違いかとも思ったが、さっきまではあったように思えて仕方ない。
「ねぇ、今さ」
「先輩っ」
 遮るように放たれた言葉と同時に、膝上に置いた手に暖かいものが触れた。俺の右手の甲に、窪塚さんの左手が重なっていた。
「先輩・・・」窪塚さんの顔が目の前にあった。彼女は身を乗り出して、ゆっくりと近づいてくる。
 彼女が何をしようとしているのか、当然、それぐらいはわかる。だが、俺の身体は固まり、動かなかった。
 時間が、ひどく長く感じる。彼女の唇が俺の唇に重なるまであと数センチといったところか。誰かがリモコンをいじったのかと思うほどに、世界はスローだった。
ゆっくり、本当にゆっくりと、彼女の顔が近づく。俺の視界が、窪塚さんだけになる。
782Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:12:40 ID:jsky2k92
 突如、クラクションが夜に響き渡る。大きさと鈍さからして、大型のトラックだろうか。その音に弾かれるようにして、窪塚さんは俺から離れた。ただでさえ大きめの目を見開き、何度も瞬きをしている。
「ご、ごごごごめんなさい」
「いや、謝るようなことじゃないって」
「ちがっ、違くて、私、その、まだ・・・」ほとんど泣きそうな声で、彼女は謝っていた。俺にはそれが何故か、理解できない。
 またもや沈黙が空間を支配する。
マンガやドラマの主人公なら、ここで男の方からキスをするべきなんだろうが、俺にはそんな勇気もないし、自分の置かれた状況を改めて考えると、そんなことが出来るほど俺の心の切り替えは早くない。
 このときの俺には、彼女の戸惑いの理由など、知る由もなかった。

 窪塚さんの行動は先程とはうってかわって、この沈黙を討ち破ろうと焦っている様だった。「あの」だとか、「その」、「えっと」と、どう切り出そうかを必死に模索しているようだった。
「・・・そうだ、そういえば1つ訊きたいんですけど、あい・・・あの人は、何で柴崎先輩を殺したんでしょう?」
「俺のほうが聞きたいね」まさかその話題を持ってくるとは。最悪といっていい切り替えしだ。
 口先ではとぼけてみるも、柴崎恭平が殺されたのは俺の責任であり、本来殺される予定だったのは浅井叶だったということは、頭ではぼんやりと理解していた。
どのような過程によって捻じ曲がったのかは、俺にはわかりえない。それでも、あの帰り道の会話がくるみを狂行に駆り立てたのならば、おそらくそうであったはずだ。
 偶然が運命を捻じ曲げた。柴崎恭平は、いや、くるみも含め、俺達全員はその歪に呑み込まれた。そうと思うしかない。
 このことは、まだ誰にも話していないし、話すつもりも無い。確信はあるが、主観による確信など、何のアテにもならない。何より、このことを叶に話すことは、この上なく残酷な行為に違いない。
「訊かないんですか?」
「訊けるもんなら訊いてるよ。でも、そんな状態じゃない」
「優しいんですね、相変わらず」
「家族だからね」
「じゃあ彼女の好意、先輩は勿論受け取らないんですよね?」
 投げっぱなしにしていた問題が、突然、襲い掛かってきた。
「俺は」勢い任せに切り出して、案の定、詰まる。「わからない」
「あのですね、恋人の目の前では答えを濁すなんて最低ですよ、先輩」
「恋人?・・・ああ、そっか」
「先輩、ドSですね」
「いや、冗談だよ、冗談」
「ねぇ、先輩」窪塚さんは意志を込めた視線で俺を射抜く。「私、本気で先輩のこと好きなんですよ?先輩が言うならどんなことだってするし、先輩ためにいろんなことをします。
邪魔な奴がいるならなんとかします。お金が欲しいって言うならいくらでも集めてみせます。私の性格を変えろというなら催眠術でもなんでも使って変えます。春を売れと言うなら、先輩が言うなら、従います」
「俺はそんなこと求めないよ」
「わかってます。例えです。でも、私自身にはそれだけの覚悟があるんです」
 彼女の言葉に偽りがない、とは思えない。もし本当に覚悟とやらがあるなら、今のキス未遂はなんだ?
俺が求めたわけではないにしろ、あれはあからさまに、窪塚さん自身に拒絶の意志があったように思えて仕方ない。
「まぁいいです」言うと、窪塚さんは勢いよく立ち上がった。「でも、1つだけ、忘れないでくださいね。先輩の立場っていうのを」
 彼女は遠まわしに、俺には拒否権がないと言っている。言われなくとも、そんなのは充分に承知しているつもりだ。
「じっくりと、時間をかけて堕としてあげますよ、先輩。ああ、あと、次からは名前で呼んでくれないと怒っちゃいますからね」
 品のある笑顔を浮かべ、彼女は公園の出口に向かっていった。角を曲がって見えなくなっても、俺はまだ座っていた。少しして、ベンチで寝てた人が起きて、窪塚さんと同じ方向へと消えていった。
寝ていたのはなんと女性だった。しかも、服装は俺が知っている高校の制服だった。
 もう一度夜空を見上げ、さっき消えた星を探す。しかし、今度はどこにあったのかさえわからなくなっていた。
 結局、14軒回って、窪塚さんは何も買わなかった。
783兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:14:31 ID:5KuJbmkM
セルフ支援
784Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:14:43 ID:jsky2k92
・・・
 家に着くと、窓という窓から光が漏れていた。風呂場も、トイレも、居間も、全ての部屋の電灯がついている。唯一、俺の部屋を例外に。
 鍵を差し込み、回す。この鍵穴は旧式のせいか、やたらと金属の擦れる音がする。家中に響くほど、大きい。
 2階から、慌しい足音が聞こえる。慌てて移動を始め、階段を転がるように下りてくるのがわかる。俺は鍵を開けてから扉を開けるまで、わざと間を空ける。
 足音が落ち着いたのを見計らって、玄関の戸を開く。
「お、おかえりなさい」僅かに息を荒げ、紅潮したくるみが出迎えてくれる。
「ただいま」
 階段を上り、一目散に自室へと足を向ける。後ろから、くるみが小さく、「あ」と呟いていたが、聞こえなかったことにする。
 鞄をおろして、自分のベッドに手を乗せる。生暖かい。少し引け目を感じながらも枕の匂いを嗅ぐと、甘い匂いがした。おもわず、ため息が出た。
 昨日今日、俺はくるみに家を出ないように言った。くるみの心のことを考えてということもあるが、俺を含め、あの場にいた全員がくるみを見て平常心を保てる気がしなかった。
学校にも両親にも、くるみは体調を崩した、ということにしている。
 何故かはわからない。わからないが、日中、くるみはどうやら俺の部屋で時間を過ごしているらしい。俺のベッドで寝たり、俺の本を読んだりしている形跡が残っている。
学校のアルバムの俺が載っているページすべてがドッグイヤーしてあったのも、秘蔵のエロ本の最後のページに俺の趣味趣向がまとめてあったのも、恐らくくるみの仕業だろう。
そこにバツや丸が色々と書いてあったが、意味はよく分からなかった。
 俺の部屋に入ることは何も問題は無い。ただ、ベッドで寝るのだけはやめて欲しい。匂いのせいで頭がやたらクリアに働き、昨日は悶々として眠れなかった。
 ジャージに着替えてリビングに下りると、昨日と同じく、机の上いっぱいに皿が敷き詰められ、不恰好な料理が並んでいた。
不揃いなミートボールに、水っけの多い炒飯、マヨネーズの混ざりきっていないパスタサラダなどなど、様々な料理が何枚もの大皿に大盛りになっている。
昨日に続いて見栄えは悪いが、味は悪くない。やや薄口だが、俺は好きだ。
「今日も頑張ったなぁ」
「ちょっと失敗しちゃったけどね。お風呂も沸いてるし、洗濯もやったよ」
「悪いな、なんか」
「ううん、気にしないで」料理をレンジで暖めながら、くるみは照れくさそうに笑った。
 それから2人で食卓に着き、食べ始める。くるみは量を作る割には小食なため、大半は俺が食べることになる。腹を壊すほどではないものの、多少限界は超える。
 バラエティ番組を見て笑い、ニュースを見て、世界情勢やなんだを真剣に話したりもする。今日何をやっていたのかを訊くと、くるみは言葉を濁して笑う。
 いままで通りの日常がある。くるみは必要以上に明るく振舞おうとはしないし、ふさぎ込んだりもしない。窪塚さんに強要されなくとも、ここには“いつも通り”がある。
 彼女は何も語らない。罪の意識、動機、言い逃れ、殺害方法、今の心情、今後について・・・聞きたいこと、訊くべきことはいくらでもある気がする。
 ただ、わざわざ口に出すまでもなく、くるみは人を殺した。恭平に刺さっていたのは全て父が所持していたナイフと同じで、それが全て、家からなくなっていることも確認した。
そして、くるみが浴びていた尋常じゃない量の血。どんなにいい方向に見たって、くるみが恭平を殺したのは明白だ。
 だというのに、俺はそれを否定したがっている。否定しなければ、くるみを守ってやれないと思っている。だから、真実を拒み、彼女が何も語らないことに、ほっと胸を撫で下ろしている。
さらに言えば、おそらく俺に向けられているであろう、家族間以上の好意にも、気付かないフリをしたままだ。
 俺は、最低だ。
785Tomorrow Never Comes ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:15:04 ID:jsky2k92
・・・
 風呂から上がると、随分と懐かしい顔があった。「父さん」
「よぉ、憲輔。元気そうじゃないか」
「まぁね。何日ぶりだっけ?」
「さぁな。そもそも“日”だったかどうか」同じ家に住む親子としては随分と不適切に感じるが、事実なのだから仕方ない。
 リビングの椅子に座り、ビールを飲む父は若干痩せているように見えた。斉藤の一家で唯一といっていいほどにまともな人間が痩せているというのは、少し不安感を煽る。
「くるみは?」
「さっき上に上がっていったよ。体調悪いみたいだけど、大丈夫か?」
「とりあえず安静にしてれば問題ないみたい」言いながら、父の向かいの席に着く。コップに牛乳を注ぎ、一気に飲み干す。
「おお、いい飲みっぷりだ。ほれもっと飲め」
「はいはい、どーも」
 並々と牛乳の注がれたコップを見下ろす。ほんの少し波打っていた表面が落ち着いてくる。白濁色の牛乳を見ていると心が落ち着く変態など、俺だけで充分だ。
 母も姉も、くるみもいない。ついでに言えば、ルイスとマエダも庭にいる。これは久しぶりのチャンスだ。
「なぁ父さん」
「教えないぞ」先ほどまでとは打って変わって、真剣な表情、声色で、はっきりと言い放たれた。
「そこまで頑なに断る理由がわからない」
「そこまで頑なに訊き出そうとする理由がわからんな。何度も言うが、お前には関係ないことなんだ。首を突っ込むな」
「あのさ、なんで俺に関係がないんだよ。どう考えてもあるだろう」
「ない。一切ない」
「あのなぁ」
「お前は姉ちゃんと同じで頭がいいんだ。だから、バカになる」
「またバカですか」1日に同じ話題で別の人にバカと言われるとは、思ってもみなかった。「もうバカでいいよ。教えてくれるまでは俺はバカを続けるよ」
「母さんよりも頑固だな」 
「父さんほどじゃない」
「言うようになったじゃないか」心底楽しそうに笑うと、残ったビールを一気に飲み干した。「だが、ダメだ。お前はくるみちゃんのことと家計のことだけ考えとけ」
 もうこれ以上は無駄だな、と判断する。これで何敗目だろうか。まったくもって勝てる目途が立たない。大きなため息が自然に漏れる。
「そんなに落ち込むな。・・・そうだな、じゃあ」そこで、金属の音が響く。鍵を開ける音だ。「お、母さんか」
 父親が立ち上がったので、俺も同じように立って、玄関へ向かった。音が止むと、勢いよく扉が開く。
「たーだいまっ」
 母にしては随分と幼げな声。それもそのはず、立っていたのは姉の憲美だった。
「なにやってんだ、憲美」
「なにしてんの、姉ちゃん」
 姉が泣き出すまで、そう時間はかからなかった。
786兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/07/31(土) 19:17:19 ID:jsky2k92
とりあえず投下終了です。
久々の連続投下規制にビビッて慌てて携帯で書いたんですが、sage忘れました。申し訳ないです。

改めてハイペースな作者様すげぇと実感。マイペースで頑張ります。
では。
787名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 19:54:12 ID:i8z0gSwH
>>775
いやいや、週末にいいもの読ませて頂き、クオリティ高くて楽しめました。
788名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 20:16:10 ID:i3jBLlDv
いやいやgj、gj…スレ最後を締めくくる良い作品だ、ちょうど490近くに成ったな。
789名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 21:22:13 ID:4Lev99fk
りおちゃん可愛いのう
んじゃ、次スレ立ててくる
790名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 21:24:57 ID:4Lev99fk
ヤンデレの小説を書こう!Part34
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1280579073/
791名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 21:39:26 ID:zq2RWZ/S
いや〜さすがおもしろいですね。GJです!
792名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 02:35:28 ID:rDajOCms
荒らしって確か今時は通報すると普通に捕まるよな、ただ誹謗,中傷の被害者さん、この場合作者さんが通報しないといかんのだが
793名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 02:58:30 ID:oyUnBuWA
日本語でおk
794名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 03:01:28 ID:8TrqGGq8
埋めネタ思い浮かばんな…後大体二〜三千文字位だろう…俺の文才では無理歩…
795名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 03:05:24 ID:fP1ryRej
犯罪予告とか特定の誰かを猛烈に叩いてくるとかじゃないと無理だけどな
騒音おばさんはしょっぴかれるけど酔っぱらって騒いでるおっさんはその場で注意されるだけ。みたいな感じ

ちなみにvipで晒し上げにしてメシウマするのは 特定の誰かを〜 に引っかかるらしいから注意しろよ
796名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 10:54:38 ID:adgKMU9X
この作者って叩かれないけどたいして褒められもしないよな
797名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 11:01:09 ID:qXf3a040
>>796
夏だなぁ
798名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 11:15:48 ID:L4IBdr5o
毎度毎度そのセリフ見てて思うんだが、夏は悪くないと思うんだ
春夏秋冬変な人は出てくるわけだしさ
799名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 15:30:29 ID:mp9IFZ/G
>>796
それはいいことなのか、悪いことなのか…
まあなんにせよ俺はこの作品好きだがね
800名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 18:42:16 ID:8TrqGGq8
ヤンデレssを書くに当たって参考に成る作家って誰に成るんだろ?
801名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 22:02:27 ID:dxAv48dD
ホラー作家とか?
SSにSATSUGAIシーンが無くても、にじり寄ってくるシーンの緊張感とか参考にできそう。
802名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 23:58:43 ID:VOOvEFNC
>>798

夏だなぁ
803兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/08/02(月) 00:16:49 ID:5W0Ta3JA
中途半端に余らせちゃったんで埋めネタをば。

注:深く考えたら負け。30分程度で作った急造モノなので。
3レス分ぐらいです。
804兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/08/02(月) 00:17:10 ID:5W0Ta3JA
 昔から僕には視えているのに、他人には視えないものがあった。それは恐らく、そこにあるようなものではなく、僕の瞳の中に直接入り込んだ、そこだけに存在するようなものなのだと思う。
便宜上、僕はそれを『影』と呼んでいた。

 彼女と喧嘩した理由は非常にシンプルで、極めて一般的だった気がする。すくなくとも、僕の主観では。
「どうして?ねぇ、なんでなの?私が何かした?貴方に嫌われるようなことしたかしら?ねぇ、ねぇ?」
 どうも、彼女からすれば納得いかなかったようである。大きめの黒目をさらに大きくして詰め寄ってきた彼女は、僕をそのまま壁に追い詰め、小一時間ほど文句を言い続けた。
「いいわ、だったら1週間、いえ、3日でいいわ」
「猶予がほしいってこと?」
「・・・なにを言うかと思ったら」
━━私があなたに3日間、猶予をあげるのよ
『影』はひどくぼやけ、かろうじて人の形を留めていた。


―1日目―
 まず僕は友人を失った。
「お、おう」友人にあおはよう、と言われた場合、このようなリアクションは適切とは言えない。
 朝の講義室で、僕はいつもどおり、ゼミの仲が良い一団を見つけると同じ机に腰を下ろした。そうして、当然の如く挨拶をしたのだが、だれもかれもがぎこちない顔つきのまま目を逸らした。
「どうしたのさ。みんな変だよ?・・・あ、そうだ。この前言ってた本さ」
 突然、一番端に座っていた男子が立ち上がった。何事かと思うと、彼は鞄を背負い、隣の女の子、彼の恋人の手を取ると、無言で講義室の出入り口へと歩いていってしまった。
 わけが分からず呆けていた僕だったが、理由を知らないのはどうやら僕だけなのだと思い知る羽目になる。
 少しの間を空けて、友人達が次々と席を立ち始めたのだ。それも、誰も僕に説明する素振りも見せず、ましてや僕の顔を見ようともしない。
「え、なに、移動?」ようやっと搾り出したセリフがこれだった。
 しかし、誰も僕の声を聞こうとしない。当然、答えない。
「・・・すまん」最後に立ち去った彼は俯きながら、やはり僕の方を見ずにそう言い残して去っていった。
 僕は友人を失った事実についていけず、ただ呆然と、出入り口を見つめていた。
『影』は今日もそこに立っていた。なにをするでもなく、僕を見ていた。
805兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/08/02(月) 00:17:31 ID:5W0Ta3JA
―2日目―
 2日目には、居場所を奪われた。
「・・・我らがサークル、『エレドネィ』は本日を持って解散となった」
 昨日は何かの冗談かと思っていた僕も、2日連続でみんなから相手にされなければ、流石に異常だと思うし、不安にもなる。
 友人に尽く無視された僕は、助けを求めるように所属サークルのボックスを訪れた。
 だがしかし、そこにあったはずのものは何もなく、打ちっぱなしのコンクリートの壁だけがやけに目立っていた。そこに茫然自失と立っていた部長は、生気のない顔で僕を見つめて言ったのだった。
「なんで、なんでですか」
「君達の・・・いや、なんでもない」部長はフラフラと、覚束ない足取りで僕の横を通り過ぎる。「誰のせいだとは言わない。けど、このサークルは僕の全てだったんだよ」
 振り返っても、そこに部長の姿は、誰よりも真剣に直向に打ち込んでいた、部長の眩しい姿はなかった。
 その代わりに、開け放たれたままの扉の向こうに、妖しく微笑む『彼女』がいた。


―3日目―
 僕は生活が出来なくなった。
「・・・なんだよ、それ」手をワナワナと震わせて、受話器の向こうに問いかけた。怒りと、絶望から震えが止まらない。
「言ったとおりだ。今後一切の仕送りを取りやめる」
「なんでだよ、親父!」
「自覚がないのか、まったく」父はやれやれとため息を零す。「学業を疎かにし、サークル活動にも打ち込まないだけに飽き足らず、人様に迷惑ばかりかけているそうじゃないか。
俺は、そんなことをするために1人暮らしをさせてるわけじゃないぞ」
 言葉が出ない。本当のことを言われたからじゃない。その逆、笑えるほどに真逆なことを口走るものだから、思考がついていけなくなった。小さな自室で、僕は改めて絶望を感じる。
「学費だけは出してやる。バイトでもなんでもして、猛省しろ」
「・・・バイトは今日辞めたよ」正確には、『辞めさせられた』だが。
 受話器からの声が途絶える。少ししてから、またため息が聞こえてきた。
「今月だけはどうにかしてやる。だが、それ以降は、お前が更正するまでは断つからな」
「誰が」
「誰が密告したか、か?」
「――。いや、やっぱりいい」一方的に電話を切る。「・・・なんでここまでするのさ」
 振り返り、真後ろの彼女に問う。彼女は上品に口元に手を当ててはいるが、唇の両端は歪に吊上がっていた。
「“猶予”だと言ったでしょう?もっと早くに罪を贖っていれば、ここまではやらなかったわ」
「―っ!!僕がっ、僕が何か間違ったことを言ったか!?」
「あら、今度は逆ギレ?」
 あくまでも態度を崩さない彼女に思わず詰め寄る。すぐに軽率な行動に後悔する。
「時刻は22時49分。まだまだ余裕はあるわ。あと1時間11分の間に決めなさい」
 そう言い放つ彼女の手には刀身が細く長い刺身包丁が握られ、その切っ先は一直線に僕の喉を捉えていた。
「自分の過ちを認め、再び私を、私だけを愛すると誓うか。それとも━━」彼女の手が僅かに揺れる。
 少しだけ、本当に少しだけ、包丁の先端が僕の喉に触れた。たったそれだけで血の気が引き、転がるように、僕は背後の壁まで逃げ出した。そのまま腰を抜かし、情けない悲鳴が漏れる。
「ふふっ、あはははははははははは!!いいわ!可愛いわよ、すごく!!」
 スイッチの入った彼女は誰も止められない。動けない僕の胸倉を掴むと、彼女は床に向けて僕を放り投げた。仰向けになった僕にすかさず馬乗りになると、そのままの体勢でまた包丁を突きつけてくる。
「ねぇ、わかってるでしょう?貴方は私のモノなの」包丁を逸らしたかと思うと、彼女は僕に覆いかぶさり、唇を重ねてきた。
暴れるように動き回る彼女の舌に、僕の口内は為す術なく蹂躙される。「・・・そして、私は生まれたときから貴方のモノ」
 僕はもう、完全に脱力していた。彼女には一生、適うことはないのだと悟る。
806兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/08/02(月) 00:17:52 ID:5W0Ta3JA
『影』がこちらを見ていた。ただ黙って、僕を見下ろしてる。
「血を分け、肉を分け、そして心を分けた存在だもの」
 両手で僕の顔を掴み、艶かしい手つきで撫で回してくる。そのまま再び唇を重ねたかと思うと、急に口を離して今度は顔中を舐めまわしてきた。
「ふふふ・・・私達は2つで1つ・・・・生まれたときから決まってる。そうでしょう?」
「・・・世間一般として、僕達は結ばれてはいけない立場だろう」そう、これが喧嘩の原因だったはずだ。というか、僕は昔からこれを訴え続けている。
「そう。なら死んであの世で結ばれる?」再び包丁がつきたてられる。
「なんで・・・そこまで・・・・」
「しらばっくれても無駄。綺麗ごとを並べても無駄。貴方だって私のことが好きなんでしょう?」
「そんなこと」
「小学3年生の時、同学年の男子を殴って注意を受ける。以後、数件同じような事件を起こす」彼女はさも楽しそうな声で羅列していく。「中学1年生の時、遂に相手に重傷を負わす。
裁判沙汰になりかけるが学校側の仲裁で踏みとどまる」
「・・・やめろ」
「それ以降、表向きには事件を起こさなくなるが、仲間を使うなどの裏工作を多用し、水面下で暴力事件を起こし続ける。現在までの推定件数は14件。軽度のものを含めればちょうど20件。
暴力の対象になった者は年代様々だが、いずれも、妹にちょっかいを出した者、妹に乱暴を働いた者、妹に好意をほのめかした者、妹に求愛をした者」
「やめろって!!」
 ありったけの声で叫ぶが、耳に入ってきたのはこの上なく情けない声だった。彼女の歪んだ笑みがさらに深まる。
「さて、狂っているのはどちらなんでしょうね、兄さん?」
 視界が歪む。今僕の視界にあるものは妹だけであり、同様に、僕の心の中を占拠するのも妹だった。
『影』は、『彼女』は今、ぴったりと妹と重なっていた。
 ただ僕の視界だけに存在し、黙ってなにもしない、圧倒的な存在であった『影』。僕を突き動かしてきた『彼女』。
 ようやくその存在を理解した僕は、妹を抱きしめ、狂ったように笑い続けた。  
807兎里 ◆j1vYueMMw6 :2010/08/02(月) 00:18:45 ID:5W0Ta3JA
とりあえず終了。
みなさんお疲れ様でした。
808名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 08:28:43 ID:mdgYPVM3
埋め乙
809名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 19:39:48 ID:29r+aHeG
乙です
でも欲を言うとこうゆう良質なヤンデレ妹ssはキモウトスレに投稿して欲しいな
最近あそこ活気ないんだよね・・・
810埋めネタ:2010/08/03(火) 00:03:27 ID:d5yTC50z

 あれ、お兄ちゃんどこに行くの?
 34スレのところ?
 そんな、まだ三週間しか一緒にいないのに。
 行っちゃだめだよ。
 あの女、きっとお兄ちゃんを捨てて、すぐどこか行っちゃうよ。
 嘘じゃないよ。……私にはわかるもん。

 あの女に良い物を送りつけてやったの。
 きっと今頃、あの封筒を開いているわ。
 今から追いかけたって無駄よ。
 だって、二日前に速達で送ったんだから。
 今から駆けつけても、もう遅いよ、お兄ちゃん。

 そんなことより、私と一緒に埋まろうよ。
 お兄ちゃんに甘え足りないんだ、私。
 お兄ちゃんが私にしたいこと、なんだってやってあげる。
 あんな女なんかより、私の方が、お兄ちゃんにふさわしいんだから。

 絶対に。


*****

 時は遡り、二日前。

 34スレの家のポストに、封筒が投げ込まれた。
 ポストを覗き込んだ34スレは、何の注意も払わず、封筒を取り出して、開く。
 それが、33スレの最後の力を振り絞った妨害工作だとも知らずに。

 四つに折り曲げられた便箋を開く。
 そこには、まるで血のような紅色の文字が浮かんでいた。
 34スレの背筋が凍り付く。鳥肌が腕にびっしりと浮かぶ。
 脳髄を引きずり出されるような錯覚の中、34スレは血文字で綴られた文章を、口にした。 

『あんたがすぐに埋まるように、祝ってやる』


 埋め!
811名無しさん@ピンキー

「そんな……たしかに埋めたはず! 十分な文の量だったはず! なぜ!?」
「死んだおばあちゃんが言っていた。人を呪わば穴二つ。
 人を呪うなら、それなりの覚悟が必要だ、ってね。
 呪っていいのは、討たれる覚悟のあるやつだけだ!」
「34スレェッ! よくもお兄ちゃんを、お兄ちゃんを穢したなあぁぁぁっ!」

 33スレの拳が振るわれる。
 しかし、34スレには届かない。
 殺意の籠もった拳は払い落とされ、カウンターの左フックが33スレの鳩尾へたたき込まれる。
 短いうめき声が戦場に響く。
「わ、私は! ヤンデレスレで!」
 34スレの返しの右掌底。
 顎を打ち抜かれた33スレの唇の端から血が流れる。

 34スレが小さく呟く。
「――ワン」
「うぉおおおおぉっ! お兄ちゃんを誰よりもぉっ!」
「――ツー」
 33スレの冷静さを欠いたでたらめな一撃は、もはや何の結果も生み出さない。
 ひょいと躱され、バランスを崩したところで、尻を蹴られ、倒される。
「――スリー」
「他の女より、楽しませてきたんだからあっ! あんたなんかにぃぃぃぃっ!」
 33スレが身を起こしたときには、もう遅かった。
「ヤンデレ……キック!」

 ――http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1280579073/

 死の宣告のような機械音声。
 それは、一つのスレを、いや一人の女を過去にするものだった。

「ハアァァァっ!」
「祝ってやるんだからぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 34スレの電流を迸らせる蹴りと、33スレの拳が衝突した。

 爆発。
 立ち上る火柱、砂煙。
 そして現れる、無傷の34スレ。
 空間に飛び散る――輝く無数の文字。
 それは、雪のように34スレの身体に、大地に、降り注ぐ。

「次はきっと、私の番よ。33スレ」
 手のひらに舞い落ちた、読み取ることのできない焦げた文字に向けて、34スレは呟く。
 ――祝ってやる。
 それは果たして、単なる誤字だったのか、33スレのデレだったのか。
 知るものは、誰一人居ない。


 今度こそ埋めぇぇぇ!