キモ姉&キモウト小説を書こう!part30

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1名無しさん@ピンキー
ここは、キモ姉&キモウトの小説を書いて投稿するためのスレッドです。

○キモ姉&キモウトの小説やネタやプロットは大歓迎です。
愛しいお兄ちゃん又は弟くんに欲情してしまったキモ姉又はキモウトによる
尋常ではない独占欲から・・ライバルの泥棒猫を抹殺するまでの

お兄ちゃん、どいてそいつ殺せない!! とハードなネタまで・・。

主にキモ姉&キモウトの常識外の行動を扱うSSスレです。

■関連サイト

キモ姉&キモウトの小説を書こう第二保管庫@ ウィキ
http://www7.atwiki.jp/kimo-sisters/pages/1.html

キモ姉&キモウト小説まとめサイト
http://matomeya.web.fc2.com/

■前スレ
キモ姉&キモウト小説を書こう!part29
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1272922559/

■お約束
 ・sage進行でお願いします。
 ・荒らしはスルーしましょう。
  削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
  削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
 ・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
 ・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。

■投稿のお約束
 ・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
 ・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
 ・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
 ・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
 ・作品はできるだけ完結させるようにしてください。

SSスレのお約束
・指摘するなら誤字脱字
・展開に口出しするな
・嫌いな作品なら見るな。飛ばせ
・荒らしはスルー!荒らしに構う人も荒らしです!!
・職人さんが投下しづらい空気はやめよう
・指摘してほしい職人さんは事前に書いてね
・過剰なクレクレは考え物
・スレは作品を評価する場ではありません
2名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 06:48:13 ID:bBti5oty
          _人人人人人人人人人人人人人人人_
         >      ごらんの有様だよ!!!  <
           ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______  _____  _______    ___  _____  _______
ヽ、     _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、   ノ    | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ  、  |
  ヽ  r ´           ヽ、ノ     'r ´           ヽ、ノ
   ´/==─-      -─==ヽ   /==─-      -─==ヽ
   /   /   /! i、 iヽ、 ヽ  ヽ / / /,人|  iヽヽ、   ヽ,  、i
  ノ / /   /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、  、 ヽ
/ / /| /(ヒ_]     ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_]     ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '"   ,___,  "' i ヽ|     /ii""  ,___,   "" レ\ ヽ ヽ、
  '´i | |  !    ヽ _ン    ,' |     / 人.   ヽ _ン    | |´/ヽ! ̄
   |/| | ||ヽ、       ,イ|| |    // レヽ、       ,イ| |'V` '
    '"  ''  `ー--一 ´'"  ''   ´    ル` ー--─ ´ レ" |
3名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 06:58:31 ID:Sqm7sdSG
>>1


 僕の五つ年上の姉ちゃんは肝っ玉姉ちゃんだ。
 母さんが早くに亡くなったあと、仕事で忙しい父さんに代わって僕と弟を育ててくれた。
 姉ちゃんは僕を「お兄ちゃん」と呼んで、弟のことは「駿ちゃん」と名前で呼ぶ。
 中学三年になって僕は姉ちゃんの身長を追い抜いたから、並んで歩くと本当に僕が兄貴みたい。
 姉ちゃんはふざけて腕を絡ませてきて、僕の顔を上目遣いに見て「お兄ちゃん♪」と甘えたように言う。
 照れくさいから、やめてほしいと言っても姉ちゃんは聞いてくれない。
 
……そんな微笑ましいキモ姉の話を思いついたような気がしたけど
書いてる暇がないからきっと気のせいなんだぜ?
4名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 07:51:20 ID:Z4MD81kb
>>1
乙。前スレでは妙なのが…

>>3
おや?続きは?
5名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 07:58:23 ID:X8t0VV20
>>1
6名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 18:37:12 ID:HKt1ldwb
>>3
書かないとキモ姉ぶつけんぞ
7名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 21:55:27 ID:MoP/WmDq
俺もキモ姉書いたけど、かなり長くなったから投下やめた
8名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 21:58:17 ID:U8XqKN0I
>>7
頼む
1Mbとかだと感想付けるの時間かかるけど、読みたいぜ
9『きっと、壊れてる』第4話:2010/06/16(水) 22:49:54 ID:nSYXAKzd
こんばんは。
『きっと、壊れてる』第4話、投下します。
今回はちょっと長くなってしまいました。
簡単なエロあり
10『きっと、壊れてる』第4話(1/8):2010/06/16(水) 22:50:43 ID:nSYXAKzd
私立T大の校舎は少し都心から離れている事もあり、広々した敷地にある。
正門から向かって右手のA棟には研究室や事務室。
左手にはまだ建てられたばかりでピカピカのB棟。一般教室や食堂、サークル活動室などがあった。
このB棟の食堂は、一般的な学食のように安いだけではなく、毎日変わる日替わり定食がおいしいと評判で、
近くの他大学から昼休みに忍び込む者が出るほど人気があった。

白石巧は、その食堂の隅の方にあるテーブルで、1杯190円かけそばを啜りながら、数少ない大学の友人である狩野一平を説得していた。

「なぁ、頼むよぉ!映画研究会だっけ?そこに知り合いがいるって言ってたじゃん。」
「そりゃ、いるけど・・」
「じゃあいいじゃん!」
「嫌だよ」
「なんでだよ!すごい美人なんだぜ?歳もオレらと同じぐらいだし」
「いいか?仮にお前が映画サークルの奴だったとして、そんな会った事もない奴を主役に使ってくれと言われて、
『はいそうですか』と言えるのか?しかも学校関係者でもないんだろ?気まずいし、俺なら絶対断るね」
簡単ではないと思っていたが、ここまで頑なに拒否されると予想していなかった巧は絶望した。
一平が映画サークルに知り合いがいると聞きだすまでは順調だったが、例の黒髪の美女とその相手役を主役に映画を作ってくれ、
という要求はさすがに無理があったようだ。
「お願い!この通り!聞いてみるだけでも!」
巧は両手を顔の前で拝むように合わせ、一平に懇願する。
「え〜、面倒だなぁ」
心底嫌そうな顔をしていた一平は、『昼食を2回ご馳走する』という巧の言葉にも首を縦に振らず、
『あきらめな』と巧の肩を叩き食堂を後にした。

「サークルが使えないとすれば、自分で人を集めるしかないか・・・。」
巧はテーブルに一人残り、フーっと一息つくと状況を整理しようと思った。
まず、映画なんて高校生の頃、親が新聞屋に貰ったタダ券でしか観に行った事がない。
演技の経験はなし。監督の経験もあるわけがなし。
簡単に言えばどうやって映画を作るのか、どのような役割分担をすればよいのかもまったくわからなかった。
頭を抱えた巧は黒髪の美女を思い出す。
ツヤのある黒髪、叩けば折れてしまいそうな腕、目眩がしそうなほど良い匂い。

どうしても抱きたかった。
もし人生に捨てる物がない状態で出会っていたら、有無を言わさず襲っていたかもしれない。
この下卑た発想は性欲だけではない。きっと恋だ。オレの中にある恋心が暴走しているのだ。

自分がこんなにも情熱的で、粘着質な人間とは気付かなかった巧は、それを認めたくないように頭を左右に動かし、
雑念を振り払うように席を立とうとしたが、流行りのメロディーがそれを止めた。
「♪〜♪〜」
「電話か・・!!!」
青い携帯電話の表、小さい窓ディスプレイを見ると、『公衆電話』と表示されていた。
巧はあの黒髪の美女だと信じて疑わなかった。
「もしもし」
「私」
「あっ!はい」
声なんてあの日少しだけ聞いただけなのに、すぐわかった。黒髪の美女だ。
「今大丈夫かしら?」
「うん、大丈夫!」
「そう、先日話していた続きなんだけど」
「あ〜映画の話だよね!?申し訳ないけど、もうちょっと待っててもらえない?」
巧は申し訳なさそうな声を出す。やっぱり駄目でしたとはとても言えなかった。
「そう、まぁ元から大して期待してないから」
「えっ!?」
どうやら今日の黒髪の美女は機嫌が悪いらしく、冷たい言葉を巧に投げつけてきた。
「もし無理そうなら、映画はもういいわ。それよりあなたにやって貰いたい仕事があるの」
11『きっと、壊れてる』第4話(2/8):2010/06/16(水) 22:51:31 ID:nSYXAKzd
「仕事?」
「そう、仕事。報酬は・・そうねお金は払えないけど、何がいい?」
「えっ・・・」
「私が叶えられる範囲で望みを言って」
「えっ・・あの・・」
「やるの?やらないの?」
「や、やるよ!じゃあその代わり今度どこか遊びに行かないか!?」
「遊びに?私と?」
「あっあぁ!駄目かな?」
「・・・いいわ」
黒髪の美女はそう言うと、じゃあまた連絡するわ、と言って電話を切った。
巧はまた彼女の名前を聞くのを忘れたままで、頼まれる予定の仕事内容すら確認していなかったが、
デートの約束をしてくれた事に頭がいっぱいだった。叫びながら校内を走り回りたい衝動に駆られる。

「いよっしゃあぁぁぁぁぁぁぁ〜!!!!!」

走り回るまではいかないものの、歓喜の大声を張り上げた。
その時食堂にいた全員が巧を怪訝そうな顔で見たが、巧はまったく気にならなかった。
巧の人生は今、再び輝きを取り戻しているかのように見えた。


昼の錦糸町駅前。
初夏ということもあり、日中の最高気温は28度まで上がっていた。歩く人達は皆ゲンナリとした表情をしている。
村上浩介は喫煙所でタバコを吸いながら、玉置美佐が来るのを待っていた。
当初は美佐の方から、海の方へ行きたいという提案があったが、茜と元々出掛ける予定だった場所に美佐を連れて行く気にはどうしてもなれず、
ちょうど見たい映画があったのだ、と浩介が強引にデート場所を指定したのだった。
「ごめ〜ん、お待たせ!待った?」
「いや5分程度だから気にするな」
今日の美佐はグレーのトップスに黒のショートパンツを穿いていて、健康的な色気が美佐によく似合っている。
「今日は何観るの?」
「・・・」
しまった、と浩介は思った。出掛け先を変えた事で一安心してしまって、肝心の何の映画を観るのかはまったく決めていなかった。
「・・・今何を上映してるんだ?」
「はー?浩介が観たいのがあるって言ったんでしょ!?」
「・・・スマン」
「"スマン"じゃない!」
「ごめん」
「もー!海行きたかったのに。まぁいいや、せっかくだし何か適当に観ようよ。晩御飯は浩介のおごりね」
浩介は美佐のこういう物事を引きずらない性格も気に入っていた。
もしこれが茜なら、言葉には出さないものの無言のプレッシャーを与えてくるに違いなかった。
「あぁ、悪いな」
「ううん、映画も久しぶりだし。あっ!暗いからって変なことしないでよね!今は付き合ってないんだから!」
「わかったわかった」
そうだ、美佐は意外にそういう境界線をしっかり引くタイプだったなぁ、と浩介は思い出し苦笑いした。

適当に、恋愛物と思われる映画を選び、入場してから席に座る。美佐が中央寄りの一番端で、浩介はその隣だ。
週末だからか、そこまでおもしろそうでもない映画にも関わらず、館内はかなりの人で賑わっていた。
席を取ってすぐに、手洗いへ行っていた美佐は席に戻ると、小声で浩介に話しかけた。
「まだ上映してないのにけっこう暗い。本当に何もしないでよねっ!」
「わかったって」
「よろしい。じゃあご褒美にこれあげる」
「ん?あぁコーラか。気が効くな」
「べっ別にアンタのためじゃないんだからっ!」
二人の間に沈黙が走る。
「・・・さっきからお前喋り方が変だぞ?どうした?」
「ツンデレというやつよ」
美佐は真面目な顔をして実生活では聞きなれない単語を言った。
12『きっと、壊れてる』第4話(3/8):2010/06/16(水) 22:52:29 ID:nSYXAKzd
「は?」
「だって!雑誌に書いてあったんだもん!男はツンデレが好きだって!」
浩介はネットサーフィンをよく行うので"ツンデレ"という言葉は理解していたつもりだったが、
実際にやられると反応に困るものなんだな、と思い美佐に忠告した。
「美佐。ああいうのはな、ゲームの中の女の子とかがやるから良いもんなんだぞ?」
「えっそうなの?じゃあ"はにゃ〜ん"とかは? 私が言ったら萌える?」
「それこそ聞いた事ねぇよ!後、どんな場面で使うんだよそのセリフ!」
あまりの美佐のズレ具合に思わず慣れないツッコミを入れてしまった浩介だったが、冷静になりもう一度美佐に諭す。
「いいか、美佐は美佐でいいんだ。余計な情報に振り回される必要はない。しっかりしてくれよ。もう25だろ?」
「浩介」
「ん?」
「私が浩介に『可愛らしい』と思ってもらおうとしている事については何も触れないんだね」
美佐は上目遣いで浩介を見ながら、浩介があまり口に出してほしくなかった事を持ち出してきた。
「・・・」
浩介は当然気づいていた。
美佐は浩介とヨリを戻したがっている。この間、品川のバーで飲んだ時から薄々感づいていた。
しかし、4年前の別れ間際の美佐の言葉が記憶の底から蘇ってくる。
もうあんな思いをするのはコリゴリだった。

そして何より茜との事がある。
もし浩介が美佐とヨリを戻したとしても、茜には報告しなければいけない。
どんな反応をするのだろうか。昨夜の茜の言葉を思い出す。
『私だって嫉妬ぐらいするのよ?』
そうなのだろうか。もし本当に嫉妬しているのなら、茜は今日美佐と出掛けるのを阻止する立場にあるのではないか。
茜は逆に美佐と出掛ける事を勧めてきた。
浩介は『よくわからないな』と呟き、これ以上この場で考える事ではないと考えて、美佐の方を見た。
「そろそろ、始まるぞ」
「えっ?あっ・・うん」
前方にあるスクリーンはまるで浩介の窮地を救援するかのように、横に広がり上映を開始した。

「あなたが好きです」
「オレも好きだ」

映画が開始されてから約1時間が経った。
ちょうど主人公の男とヒロインが、花火大会で告白しあうというシーンがスクリーンには映し出されている。
上映時間から推察すると、どうせこの後何かの問題が起きて二人でそれを解決しハッピーエンドになるのだろうな、と浩介は冷めた目でスクリーンを見つめていた。

頭の中に先ほどの美佐の言葉が聞こえてくる。
「私が浩介に『可愛らしい』と思ってもらおうとしている事については何も触れないんだね」
「・・・」
昔から美佐はそうだ。媚び過ぎず、冷た過ぎず男に接し、的確に相手がドキリとするような発言や表情をする。
男慣れしているからか・・・。
いや、美佐は付き合った人数は俺を含めて3人だと言っていた。
俺と付き合っていた2年間はしょっちゅう俺と会っていたし、勉強だってある。
そんなに男遊びするヒマはなかったはずだ。

浩介は頭の中で整理をすると、チラリと美佐の横顔を覗いた。
美佐は映画に夢中で、浩介の視線に気付かない。
『きっと"天才"なんだろうな』と浩介は思った。
異性に好かれる天才。稀にこういう人間は存在する。
浩介も一時期その"天才"の虜となった。
いや、現在もそれは続いているかもしれなかった。
今こうして美佐の事ばかり考えているのが証拠だった。
13『きっと、壊れてる』第4話(4/8):2010/06/16(水) 22:53:44 ID:nSYXAKzd
その時、浩介の右手に上から優しく包み込む他人の手の感触があった。
先ほど上映中に隣に座ってきた人だ。
たださえあまりおもしろいとはいえない映画なのに、途中から観て満足できるのだろうか、と浩介は思っていたところだった。
おそらく、自分の手すりと間違えたのだろうと手を離すのを待っていると、一向に離す気配がない。
それと他人の手を間違って握ってしまい慌てる気配もない。
不審に思った浩介は顔の角度を軽く横に向けて隣の人物の様子を確認した。
「!!!!!」
浩介の時が止まる。

茜だった。

ツバの深い帽子を被っていて少し見ただけでは気付かないが、髪の香り、手の感触、集中して感じ取れば、まぎれもなく茜だった。
何事もないように茜はスクリーンに顔を向けている。
思わず、声を上げそうになったが美佐が横にいる事を思い出し留まる。
浩介は茜に喋りかけるわけにはいかなかった。
美佐は映画を観てはいるものの、浩介が横を見て誰かと会話していれば、何事かとこちらに気づいてしまう。
そうなってしまう事だけは避けたかった。
すぐさま顔をスクリーンの方向へ戻すと、浩介は映画に集中しようとしたが無理だった。
先ほどまで美佐の事を考えていたのが嘘のように頭は真っ白になり、冷や汗をかく。
茜の事しか考えられなくなっていた。

"天才"は身内にもいた。
浩介は茜がいつの間にか隣の席から消えるまで、義務を果たすかのように茜の事を考え続けた。

夜の10時。風俗店のネオンが煌びやかに光っている。
浩介と美佐は映画館の近くのチェーン居酒屋で晩御飯を食べると、駅の改札前まで来ていた。
「じゃあ、ここでな」
浩介は自宅が歩いても帰れるぐらいの距離だったので、歩いて帰る事にした。
美佐には少し食べ過ぎたから運動だ、と言ったが、
本音を言うと、美佐にまた映画の上映前に言われたような事を言われるのが怖かったからだ。
「ひど〜い。こんなに可憐な乙女を独りで帰らせるなんて!」
まだ美佐は拗ねている。
「どうせ、2駅ぐらいしか一緒じゃないだろ。今回は歩いて帰らせてくれよ」
「え〜・・・じゃあ私も歩いて帰ろうかな」
「は?」
「ほら、私と浩介の家なんて路線は違えど、大した距離離れてないじゃない。」
「いや、そうだけ・」
「決まり!行こう!」
美佐は浩介の腕を取ると引っ張るようにして、改札前から駅前広場の方へ躍り出た。
「ちょ、ちょっと、待てって」
「待たない。どうせ週末だもん、いいじゃない」
二人はバスターミナルを抜けて、南の方角に向かって歩く。
道には外国の娼婦かホステスと思われる女性がサラリーマンに声を掛けている。
サラリーマン達がその女性を振り切ると、次はカジュアルなスーツを着た中年の男性が声を掛けているようだ。
夜の繁華街は男性だけで歩いていると、多数の誘惑が彼らを襲う。

彼らを通り過ぎると、いつの間にか腕にひっついたままの美佐が口を開いた。
「ねぇ・・浩介」
「ん?」
「ちょっと寄って行こうか?」
目の前には無数のラブホテルがあった。
どうりで、そういう店の客引きが多いはずだ。
「馬鹿いうな」
「なんでよ。いいじゃない。私、浩介と別れて以来ご無沙汰なんだよ?よく我慢してたと思わない?
それに浩介も今彼女いないんでしょ?お互いメリットがあるじゃない」
「そうだな。だけど、それとこれとは話が別だ。もう昔のような関係じゃないんだ」
「・・・じゃあ昔の」
「帰るぞ」
「えっちょっと!」
14『きっと、壊れてる』第4話(5/8):2010/06/16(水) 22:54:14 ID:nSYXAKzd
駅での事とは逆に今度は浩介が美佐の腕を引っ張った。
浩介は美佐にセリフ続きを言わせるわけにはいかなかった。
今の浩介では茜と美佐を両天秤にかけて、どちらかを選ぶという事ができなかった。
浩介の脳内では、妹がその両天秤にのっている事自体が異常なのだ、と理性の声が入る。
しかし、浩介は紛れもなく茜に恋する一人の男だった。

駅までUターンしてきた二人はお互い向かい合う。
改札前で、機嫌を損ねた美佐が一歩も動かなくなってしまっていた。
「美佐、帰ろう」
「・・・」
「いつまでもここにいるわけにはいかないだろう?」
「・・・」
「いつまで不貞腐れてんだ。オレも電車で帰るから、行こう」
「じゃあ手を繋いでくれたら機嫌直す」
美佐は下を向いたまま、数分ぶりに口を開いた。
浩介は考える。

女性の方からああいう誘いをするのは、とても勇気がいる事だと理解しているつもりだ。
仮にあのままホテルに入ったとしても、美佐は復縁する事を強要はしなかっただろう。
美佐は復縁についてはあくまで俺の方から言うのを待っている。
そして、最大の譲渡が手を繋ぐ事。
これさえも断ったら、きっと美佐はもう俺の前には現れない。そんな気がする。
どうする・・・。

付き合う事を拒みながらも、美佐とのこの関係も失いたくはない、と思った浩介は自分の弱さを呪った。
「・・・わかった。行こう」
そして二人の手は、時が経たのを感じさせない仕草で、

4年振りに繋がった。

40分後、美佐は家の近くの大通りを一人歩いていた。
この通りは夜でも比較的明るく、女性一人でも安心して歩く事が出来る。
先ほどまで、浩介と繋がっていた掌を見る。汗ばんでいた。
真夏でも汗をあまりかかない美佐は自分で自分を笑う。
今、美佐の心はまるで睡蓮のように純粋で甘美で清純だった。
15『きっと、壊れてる』第4話(6/8):2010/06/16(水) 22:54:48 ID:nSYXAKzd
浩介・・今日も楽しかったよ。ありがとう。
結局、私のほとんど告白みたいな発言には返答してくれなかったね。
でもいいの。昔浩介を勝手にフったのは私だから。

「妹と変な事してる男なんて最低。気持ち悪いわ。サヨナラ」

4年前、浩介に言ったセリフ。
あの時は私も若かった。
ある日ポストに『村上兄妹は男女の仲』という紙切れが入っていた。
字はワープロで打たれていて、どんな人が書いたのかわからない。
最初はなんの事だかわからなかったし、私達の仲を妬んでいる誰かのイタズラだと思った。
でも、ある日偶然、商店街で仲良さそうに腕を組んで歩いている浩介と茜ちゃんを見た時、私の中で何かがプツンと切れた。
その日のうちに浩介を呼び出して、真意を確かめようとした。
でも浩介は何も言わなかった。
ただ無言でジッと私の目を見ている浩介に逆に圧倒されて・・・私は私を守るために浩介をフった。
ロクに確かめもせず、浩介と茜ちゃんの仲を疑って、プライドが傷つけられて。
後悔してる。
好き。
あなたの優しい笑顔を見ていると、私も幸せな気分になれる。
きっかけは図書館だったよね?覚えてる?
私には手が届かない段にあった資料を、浩介に取ってもらったの。
本当はね、脚立を使えば取れたんだけど、浩介と喋りたくて気付かないフリをしたの。
あの日、階段を上って2階の医療系の資料が置いてある場所に行くと、たまたま近くにあった丸い椅子に座って本を読んでいるあなたが目に入った。
体中に電撃が走ったって表現があるけど、まさにその通りだったよ?
かっこいい人は街を歩けばいくらでもいるけど、あなたはそれだけじゃなくて。

あなたの雰囲気、その何かを背負って生きているような雰囲気。
あなたの顔、その何か罪を犯して許しを請いているかのような顔。
あなたの眼、そのすべてを見通して真実さえ疑っていそうな眼。

あなたのすべてに一瞬で惹かれたよ?
そう、どんな手を使ってでも手に入れたいぐらいに。
浩介と別れてから、お医者さんとかに食事に誘われた事もあったけど、その気になれなかった。
それまでに付き合った浩介以外の二人も、イケメンで良い所のお坊ちゃまだったけど、ただそれだけ。
顔なんて、どうせ私も老けるんだから相手にも多くは求めない。
お金なんて、どうせ私が多く稼ぐから真面目に働いてさえいれば良い。
私が求めるのは悲壮感がある男。
私が自分の手で幸せにしてあげたくなるような男。
フってからの毎日は本当に後悔の連続だった。
それでも、4年もかかったけど、なんとかふっ切れるかなって思ったのに。
ずるいよ。また私の前に現れて。
責任取ってよ。また私はハマってしまう。
今はね、もう怖いものがないの。
浩介が他に好きな子がいても構わない。
さっき浩介は、手を繋ぐの断ったらきっと美佐とは二度と会えなくなるって思ったでしょ?
フフッ昔の私ならそうかもね。
でも残念でした。
そんな事ぐらいじゃ消えてあげないんだから。
もし本当に茜ちゃんと如何わしい事をしていても構わない。
どうせ二人は兄妹。同じ血は一緒にはなれない。
いずれ終わりが来るわ。

私ね、もう離れたくないの。もう二度と離れたくないの。
浩介がどこか遠くへ行ってしまうのなら、今の私はきっと追いかける。
あれ?私ちょっと病んでいるのかな?
・・・まぁいいや。壊れていても構わない。
必ず浩介を手に入れる。
もう止まれない。

そう、きっと私は壊れてる。
16『きっと、壊れてる』第4話(7/8):2010/06/16(水) 22:55:23 ID:nSYXAKzd
同時刻、村上家。
浩介は帰宅すると着替えもせずに居間に向かい、既に帰宅しリビングでソファーに寄りかかり本を読んでいた茜に食ってかかった。
「おい茜!どういうつもりだよ!」
浩介の質問を予想していたのか、静かに本をパタンと閉じ、小説を読む時専用の眼鏡をテーブルの上に置き、茜が答える。
「フフッ楽しかったでしょ?スリルがあって」
「ふざけるなよ」
「ふざけてなんかいないわ」
「あんな事をするぐらいだったら、なぜ美佐と出掛けるのを勧めたんだよ」
疑問だった。嫉妬するだけならまだ理解できるが、茜の今回の行動に関しては常軌を逸している。
「・・・そうね、それに関しては私の見通しが甘かったわ。ごめんなさい」
無表情のまま茜は謝罪した。膝の上に両手の握り拳がある。
手をギュッと握り締めるのは茜が謝罪する時のクセだ。
それを見た浩介は、茜が本当に反省しているのがわかり、これ以上責める事もできなかった。
「謝られても困る。とにかく今後二度とああいう事はするなよ?」
「ああいう事って?」
「はぁ?」
「手を握った事かしら?それとも・・・」
「それとも・・?」

「美佐さんの家を突きとめた事かしら?」

「なっ!!!!茜!!」
「冗談よ」
「はっ?」
「冗談。美佐さんが帰宅する後をつけてたら、こんな時間に帰れるわけないじゃない。」
確かにそうだな、と思った浩介だった。
「お前が言うと冗談に聞こえないんだよ」
「あら失礼ね。私にだってユーモアぐらいあるわ。それに・・・」
「それに?」
「前にも言ったでしょ?私にはそんな事をする必要がないもの」
「言ってる事とやってる事が全然違うぞ」
「ごめんなさい。理屈ではそうなのだけど、感情をまだうまく制御できないの。嫉妬というものはやっかいね。人間の心を蝕むわ」
「・・・とにかく、今日みたいなのは勘弁してくれ」
浩介はヤレヤレといった表情でソファーに腰かけた。
「えぇ、わかったわ。約束する。」
「あぁ」
茜は約束を守る人間だからこれで大丈夫、と浩介は安心した。
17『きっと、壊れてる』第4話(8/8):2010/06/16(水) 22:55:53 ID:nSYXAKzd
「・・・じゃあ今日の分」
浩介は耳を疑った。
とてもさっきまで反省していた人間のセリフではない。
「おい、反省したんじゃなかったのか?」
茜は浩介が咎めても無視して、浩介のズボンのチャックを開ける。
「おい、茜。いい加減にしろよ」
茜は無視したまま浩介のモノを握り、上下に動かし始めた。
「・・・」
「兄さん、気持ち良い?」
茜はそう聞くと、浩介の右耳の奥まで舌をねじり込ませる。
「うぅ・・」
浩介はなぜか体が動かなかった。
美佐の誘いをあれほど頑なに断ったにも関わらず、茜の行為は止める事ができない。
「兄さん、こうするともっと気持ち良いでしょう?」
茜は亀頭を親指の腹で丁寧になぞる。
「うぅ」
浩介の我慢は限界に来ていた。
ソファーの上に腰かけている浩介は茜を手繰り寄せ、尻ごと抱きかかえる。
茜のライトグリーンの下着をはぎ取った浩介は、もはや茜を抱く事しか考えられなくなっていた。
浩介の上で茜が座ったまま二人は向かい合い、茜が浩介のモノを手に取り、自分の秘部に当て腰を落とす。
阿吽の呼吸だった。
逐一指示しなくても茜は浩介の意図を読み取り、実行してくれる。
「アンッ」
浩介のモノが茜の膣内に入る。
「兄さん」
「ん?」
「今日は早そうね。もう脈打ってるわ。フフッ」
数分後、予想通りなのがシャクだったが、妖しい笑みを浮かべた茜の膣内に、
浩介はいつもより多量に放出したのだった。
その後も興奮が収まらなかった二人は、茜の部屋に移動し、もう一度絡み合った。
マンションのベランダから覗く都心の夜空に見える星は、まるで二人を祝福するかのように瞬いていて、
誰もいない所へ二人が逃げれば、きっと瞬く数も増える。浩介はそう感じながらも茜を抱きしめた。

・・・。
茜のベットの上で、いつの通り浩介の腕の中で茜が顔を上げる。
「ねぇ、兄さん。麻耶 雄嵩の『鴉』って読んだ事ある?」
「いや、ない。読んだのか?」
「ううん、あらすじを読んだらおもしろそうだったから、聞いてみただけよ」
「お前最近小説の話題好きだな」
「そうかしら?そうだとしたら、そういう気分なのよ、きっと」
確かに茜は読書好きだが、昔はここまで話題に出していただろうか、と浩介は考えたが、あまり思い出せず無理やり納得する事にした。
そんな事よりも、美佐の誘いは断る事が出来たのに、茜のは断る事ができなかった。
その事実について浩介は考えていた。

今日は絶対に拒むつもりだった。
でも茜に触れられると体がまるで茜に忠誠を誓うかのように、俺の意思を無視する。
美佐との違い・・。
それは兄妹である事。
家族である事。
それ以外に何かあるだろうか。
俺は実の妹にしか発情できない人間なのか。
わからない。
もう面倒になってきた。
もうどうでもよくなって・・きた・・。

その日浩介は、いつもは別々に寝ている茜を、初めて抱きしめたまま眠りに就いた。
都心の夜空に見える星は、深夜の時間になればなるほど光を増し、二人を祝福していった。

第5話へ続く
18『きっと、壊れてる』第4話:2010/06/16(水) 22:57:19 ID:nSYXAKzd
以上です。今回はダラダラと長くなってしまい、申し訳ないっす。
続きは近いうちに。ではでは。
19名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 23:17:21 ID:BHK4F0PV
茜…GJ
20名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 01:00:48 ID:ciDXxLbN
かつてこのスレにここまでドヘタレなヒーローがいただろうか?いや、いない
ともあれ面白くなってきたな。差異はあれど登場人物全員がぶっ壊れてるわけか
21名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 02:17:18 ID:P45oZENz
ヤンデレVSキモ姉妹の構図は常道だがこれは面白い

茜がいいなあ

GJです
22名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 06:39:11 ID:8P5hSJA1
>>18
なんだか微妙だなぁ…
23名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 09:42:05 ID:pUGiqWp9
>>22どこらへんが微妙なのかkwsk書けチンカス
毒にしかならんことはチラ裏にでも書いとけや
あ。上げときますね
(゜ω゜)むう
24名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 15:59:05 ID:STunwiJ0
>>22-23
目障り
チラ裏にでも書いとけ
25名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 17:49:00 ID:pr81ftdu
まずこれ見てよ↓
http://livedoor.2.blogimg.jp/netamichelin/imgs/c/0/c02bfd6b.jpg
ばらまこうぜ!
26名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 19:03:41 ID:0KOTMXBG
前スレがまで微妙に残ってるからそっちを先に埋めようぜ
27名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 19:50:21 ID:Vla7otfS
>>25害虫のキモウトと腐ったキモ姉不毛な争い。
28名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 20:54:38 ID:sdv1dZ17
>>26
密かに埋めネタ楽しみにしてたのにあの埋め方はあんまりでござるorz
29名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 23:59:02 ID:VfLWspIA
キモ姉に甘えたい。190pあるデカブツだから絵面的に見苦しいかと思うけど
30名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 00:10:43 ID:YFce8HAy
キモ姉が?
31名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 00:11:34 ID:Wg3VWeAG
>>28
あれはキモウトがキモ姉を埋めてるんだよきっと
32名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 00:23:58 ID:H9IAh7/d
身長190cmの弟に身長150cmのキモ姉とか想像してみた

弟の布団に潜り込んだら寝相悪くて押しつぶされちゃったり
弟をストーキングするも歩幅のせいで疲れてるうちに見失ったり
弟をノッポと言われてバカにされて怒ったり泣いたり妹と勘違いされたり
耳掃除という名目で弟に膝枕をしてあげたら重くて足がすぐに痺れたり
見上げて話してばっかりで首が疲れたり、そのせいで喋りながら歩くと下を見るのがおろそかになって躓いたりコケたり
毎日牛乳を飲んで弟に負けないくらい身長を伸ばそうとするも一向に伸びないのを悩んだり
そのせいで厚底の靴や高いヒールを履いたり、階段で弟を見下ろすと優越感に浸れたり

そんなキモ姉の日常を淡々と描いた話を読んでみたい。>>29はその欲求と妄想をSSにするべき
33名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 01:28:30 ID:D68D2M/8
>毎日牛乳を飲んで弟に負けないくらい身長を伸ばそうとするも一向に伸びないのを悩んだり
身長じゃなくて胸が育ってロリ巨乳キモ姉の完成、と
34名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 01:34:16 ID:MMSwIQtb
胸が育った秘訣に「弟による愛情マッサージ」と答えるんですね わかります
35名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 01:48:53 ID:sPFoLqFC
>>33
ロリと言うなら身長はもう少し低い方がいいかな?
女だと150センチはやや小柄程度だし
36名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 03:10:19 ID:fbv603fL
キモ姉がちっちゃいというより、弟デカすぎ
37名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 03:32:12 ID:sPFoLqFC
さあ>>29に謝るんだ
38 ◆6AvI.Mne7c :2010/06/18(金) 06:19:27 ID:CR5wzhT9
新スレ>>1乙。というわけで次スレも立ったし、埋めてしまおう。
……とか考えていたのに、なんですかねあの「埋め」はさぁ。
 
まあ、泣き言のたまえる作品じゃないけれど、埋めネタ予定だったネタを投下。
タイトルは「じゃのめでおむかえ」。姉弟ものでだいたい10.1KB
特に注意点は無し。というか暴力描写と結末が投げっ放しジャーマン。
 
次レスより投下。3レスほど借ります。投下終了宣言あり。
39じゃのめでおむかえ (1/3) ◆6AvI.Mne7c :2010/06/18(金) 06:22:39 ID:CR5wzhT9
 
 6月。梅雨の時期。雨の日が多い季節。
 ぶっちゃけた話、僕はこの季節がちょっとだけ好きじゃない。
 別に雨が降るのが嫌というわけじゃない。
 どちらかとゆーと、僕は雨の日が好きな部類の人間だ。
 子供の頃から、雨が降るたびに傘を差して、外を走りまわっていた。
 実のところ、今でも雨の中を傘一本で散歩するのが趣味だったりする。
 この話を聞いた他人は、どーにも怪訝な顔をして僕を見てくるけど。
 
 あー……。ちょっと脱線したんで、少し話を戻すか。
 ならどうして僕が、雨の日――梅雨の時期が苦手なのかとゆーと――
「ん。おかえりなさい、修次(しゅうじ)くん。
 ほら。雨が降ってるから、一緒の傘に入って帰りましょう」
 僕のねーちゃんである『雨部(あまべ)レイラ』が、こーして僕を迎えにくるからだ。
 ねーちゃんは昔から優しくて、明らかにブラコンな、20代前半の細目の美人さんだ。
 ……しかしこの人、大学出てからはずっと家にいるけど、いーのかな?
 まあ、何気にネット使いながら、ウチのオヤジより稼いでるらしーけど。
 
「いやねーちゃん、『おかえり』じゃねーよ、ここはまだ高校じゃねーか。
 てゆーか、また僕が買い直した新しい傘、勝手に隠しただろ?」
 僕は呆れながら、毎度お馴染みの文句をねーちゃんにぶつける。
「うん。なんのことだかさっぱりわからないよ、修次くん」
 対してねーちゃんも、お決まりのよーにシラを切ってくる。
 てゆーか、嘘をついてるのは明らかなのに、微塵も動揺しやがらねー。
 ねーちゃんが神k…傘隠しの犯人なのはわかってるってーのにな。
 おかげで僕は雨の日は毎回、ねーちゃんを待たねーと濡れて帰ることになっている。
 そして他の傘を用意しよーものなら、1日以内に傘隠しに遭うのだった。
 
「ねえ。それより早く、一緒に帰りましょう。
 傘は1本しかないから、いつもどおりに、相合傘で帰ろうね」
「いやだから、なんで最初から2本持って来ねーんだよ……?
 もう僕らもいーとs――おっきくなったんだから、傘1本じゃ心許ないだろーに」
 こちらも毎度お馴染みの掛け合い。もう慣れたもんだ。
 だから、このあとの済し崩しな展開も、やっぱりいつもどーりのもので――
 
「んんっ。2人で傘が狭いなら、ぴったりくっついて歩けばいいじゃない。
 こうすれば、雨もだいぶ凌げるし、何より2人の体温であったかいでしょう」
 有無を言わす間もなく接近したねーちゃんに、無理やり傘の中に入れられた。
 しかも器用に傘を挟みながら腕を組まれたんで、逃げるのも不可能だった。
「いやな、ねーちゃん。僕らはきょーだいだけど、女と男なんだからさ。
 こう軽々しく寄り添ったり、くっついたりはどうなんだと小一時かn」
「ん。いーから行こうよ」
 なおも文句を言おーとする僕を引っ張り、無理やり歩き出すねーちゃん。
 危ねーなぁ。僕だからいーものの、他のヤツだったら今ので転んでたぞ。
 
「あーめあめふれふれねーちゃんがー、じゃーのめでおーむかえうれしーかい」
「いやねーちゃん、リズム感ゼロなんだから、あんま耳元で歌うなよ……」
 あ、わかりやすく拗ねてら。つーか可愛すぎるぞねーちゃん。
「むぅ。いーでしょ別に、嬉しいんだから歌ったって。
 それとも何、修次くんは私が迎えに来るのは、嫌だったりするのかしら」
 表情が一切変わらない癖に『嬉しい』とか言われても、こっちはわかりづれーよ。
 ねーちゃんの弟やってる僕じゃなきゃ、ろくに感情すら読めねーよホント。
「……別に、嫌ってわけじゃ、ねーけどさ……」
「ならいいじゃない。雨の日は私がいつでも、いつでも迎えに来てあげるね」
 そうのたまいながら、ねーちゃんは僕の身体に、自分の頭を凭れかからせてくる。
 
 まったく。いつまで経っても、僕を子供扱いする癖は直ってくれねーな。
 まーでも、こんな風に実の姉に可愛がられるのも、そーそー悪いもんじゃない。
 結局、僕は嫌々ながらも、ねーちゃんに振り回されるのが嬉しかったりするのだった。
40じゃのめでおむかえ (2/3) ◆6AvI.Mne7c :2010/06/18(金) 06:25:03 ID:CR5wzhT9
 
 ― ※ ― ※ ― ※ ― 
 
 6月。梅雨の時期。雨の日が多い――というかそのもの雨の日。
「うんんん〜うん、うんんん〜んうんう〜……」
 全くリズム感のない鼻歌を奏でながら、私は今日も待っている。
 もう少ししたら、大好きな弟である『修次くん』が来るからだ。
「うん。今日も修次くんと一緒に、雨の中を歩いて帰ろっと」
 
 修次くんは、昔から雨の日が大好きだった。雨の中で遊ぶのが大好きだった。
 そして私は、そんな無邪気な修次くんのことを、誰よりも愛していた。
 当然、両親よりも。いや、これから彼の前に現れるだろう、数多の女性よりも。
 私は幼いころから、修次くんのことが愛しくて仕方ない、駄目な姉だった。
 そんな感情を必死で隠して誤魔化すうちに、私はどうも無表情な人間になってしまった。
 それでも修次くんは、私のことを気味悪がらず、姉として慕ってくれている。
 これを奇跡と言わずして――愛の力だと言わずして、何と言えばいいのだろう。
 ああ、修次くん大好き。愛してる。かっこいいから抱いて欲しいっ。
 
 んー……。ちょっと取り乱したので、閑話休題。
 とにかく、今日も修次くんと一緒に雨の中を帰るため、私はここで待っている。
 もちろん傘はいつも通り、修次くんと一緒に入るための傘1本のみである。
 この傘はボロボロだけど、修次くんとの大切な思い出の傘だ。
 小さいころの修次くんのために、両親に無理言って買ってもらった、大人用の傘。
 大きくて重かったから、差す時はいつも、修次くんと一緒に持っていた。
 この傘で無邪気だった修次くんと並んで遊んだ日々は、私にとってかけがえのない思い出だ。
 まあでも、修次くんはこの傘がそれだってことは、忘れてるっぽいんだけどね。
 それでもこの古ぼけた傘は、修次くんと私を結ぶ、永遠の相合傘だから――
 
「おうねぇちゃん、こんなトコで待ちぼうけかい?」
「こんな雨ン中待たせるヤツぁほっといて、俺らと遊びに行かね?」
 ……人の回想を邪魔する、無粋な輩が絡んで来たけど、無視無視。
 修次くんを待っていると、時々こうやって話しかけてくるボウフラが湧いてくる。
 鬱陶しいけど、大抵は無視していれば、勝手に向こうが諦めて帰っていくのだ。
「そんな小汚い傘より、俺たちの傘のほうが、よっぽど濡れネェぜぇ?」
「まあ俺らの包容力と遊びのスリルで、別んトコが濡れるかもだけどな?」
 下品に人の思い出の品を侮辱してくるけど、相手にするのも面倒くさ――
 
「……ヒトサマのハナシは、ちゃんと相手の目を見て聞けやぁっ!?」
 バシィ! という激しい音が響いた途端、私の身体はずぶ濡れになった。
 手元を見ると、柄の部分と直線の骨を残して、傘が無くなっていた。
 あまりに古い傘だったから、今のボウフラの一撃で、折れてしまったらしい。
 そう、折れた。折られた――壊サレテシマッタ、オモイデノシナヲ。
 
 その時私は、痛いほどに懐かしい感情を、心の中で迸らせていた。
 そしてその感情の赴くままに、周囲に散ったボウフラを確認する。
「おお、ようやくこっち見たかねぇちゃん。やっぱ美人だなぁオイ」
 無視。高級品気取りの下衆な傘を差したボウフラ、金髪とハゲを二匹確認。
「濡らしちまってゴメンよォ。でも艶っぽいなぁ。俺らがもっと綺麗にして……」
 上等。人様の思い出を傷つけたボウフラは、ご自慢の傘とやらで○○しよう。
 
「……る……だよ……ろ……が……」
「あん?」「なぁに言ってn」
 
「……ぅるっせぇんだよぉド素人どもがああぁぁっ!!」
 
 体内の呼吸を全て吐き出して。全身の筋骨を全て捻り上げて。
 ボウフラに自らの罪業を思い知らせるために、私はその場から跳躍した。
 
 ― ※ ― ※ ― ※ ―
41じゃのめでおむかえ (3/3) ◆6AvI.Mne7c :2010/06/18(金) 06:27:51 ID:CR5wzhT9
 
「……っ! ねーちゃんゴメンっ!!
 今日は委員会があるってゆーの忘れt……ってどーしたんだよぉっ!?」
「……………………」
 僕の都合でねーちゃんを待たせたことに、罪悪感を感じて必死で駆けつけ――驚いた。
 いつも雨の中で傘を差して待ってるねーちゃんが、傘を持たずに佇んでたからだ。
 当然、雨の降る中に立っていたねーちゃんは、ずぶ濡れびしょびしょの濡れ鼠だった。
 
「ねーちゃんっ、ねーちゃんっ!? なんでこんなとこで傘も無しに、突っ立ってんだよっ!?」
 僕は濡れるのも構わずに、ねーちゃんの傍に駆け寄った。
 一応通学鞄だけは校舎玄関の軒下に残したが、制服はもう雨水でドロドロだ。
「……………め……ご……………ん……………ごめ………」
 雨に濡れて寒かったのとはまた別に、寒気を感じてしまった。
 ねーちゃんはひたすら必死に、何かに謝り続けてた。
 
「ごめんねごめんねごめんねごめんね…………っ、しゅーくん?」
「!? よかった戻ってきたか、ねーちゃんっ!」 
 今まで目の焦点が合ってなかった瞳に、僅かに光が戻ってきた。
 それを確認したと同時に、ねーちゃんは僕に抱きついてきた。
 そしてそのまま、僕はねーちゃんと一緒に、雨水と泥の中に飛び込んだ。
「ぐぅ〜〜。にゅるにゅるじゅるじゅるして、気持ち悪りぃ〜……」
「あ、ああ、ああああごめんねごめんねしゅーくんっ……」
 僕を巻き込んだことに気付いたねーちゃんは、また必死に僕に謝ってきた。
 そういや、僕の呼び方が昔の『しゅーくん』呼びに戻っている気がする。
「あーもう、謝んなくていいからな、ねーちゃん。
 それより、なんでお迎えのハズなのに、傘持ってないんだよ?」
 僕の質問に、もいっかい身体をビクリと震わせて、ねーちゃんは答えた。
「ごめんねしゅーくん。いつもの傘がね、来る途中で壊れてなくなっちゃったの。
 私の不注意のせいで、私だけじゃなくて、しゅーくんまでずぶ濡れにしちゃうの。
 本当にごめんなさい。私としゅーくんの宝物、壊してゴメンナサイ……」
 
「だから、謝んなくていーんだってば。ねーちゃんが無事ならそれでいーよ。
 そりゃ傘は懐かしいモンだったけど、ねーちゃんの命と引き換えにはできねーって」
 そう言ってやりながら、僕はねーちゃんの身体を、力いっぱい抱きしめてやった。
 それ自体は、純粋にねーちゃんを宥め落ち着かせ、温めてやりたいが為の行動だった。 
 けれど、それ以外の理由があったことに、僕は心のどこかで気付いていた。
 ねーちゃんの泣き顔が――久しぶりに無表情を崩した顔が、なんか可愛くてヤバかった。
 あれ以上謝られながら、泣き顔で僕の顔を覗きこまれてたら、イケない気分になりそうだった。
 くそぅ、無口キャラがどーとかより、僕が重度のシスコンだったんに、気付かされたよ。
 
「ほ、ほんとにいーの? ゆるして、くれるの?」
「いーってば。僕はねーちゃんがいればそれでいーから。
 傘はまた買――わなくても、家に新しいのがいっぱいあるしさ」
 僕がそうゆーと、ねーちゃんはなんか嬉しそーな、ちょっと不満そーな顔をしてきた。
 だから、僕は少しだけ苦笑いしながら、ねーちゃんの耳元で囁いてやった。
「大丈夫。今まで僕が買ってた傘は、いつもの傘と同じ大きさだぞ、『れーちゃん』♪」
「ふぇ#vい)$”ま=しゅーくん、れ、れれれーちゃんって?」
 おおぅ、ねーちゃんの顔がわかりやすいよーに、真っ赤になってら。
「よぉし、れーちゃんも僕もずぶ濡れドロドロだし、もう傘とかどーでもいーやっ!
 せっかくだし、昔みたく家まで濡れながら競争しよーぜ、れーちゃん♪」
 こっちも恥ずかしさの絶頂のまま、昔の呼び方でねーちゃんを呼んでやる。
 けど恥ずかしくて、ちゃかしながら逃げ出しちゃったよ。何してんだ僕ぁ。
「あっ。待ってよ修z――しゅーくんってばぁ!?」
 負けじと顔を真っ赤にしたままのねーちゃんが、珍しく元気に、僕を追いかけてきた。
 そんな懐かしい光景に、僕も、見えないけど後ろのねーちゃんも、いつしか笑っていた。
 
――結局空は薄暗いままだったけど、いつの間にか弱まった雨が、僕らを優しく包んでくれていた。
 
 
                                 ― The rainy devil loves younger brothers. ―
42 ◆6AvI.Mne7c :2010/06/18(金) 06:29:48 ID:CR5wzhT9
以上、投下終了。
 
なんか完成直前に「埋め連打」されて潰されたので、再加筆調整してみた。
ボウフラ共の結末は、最初から考えてなかったので、ほったらかしです。
 
……それにしても、なんだか自分、無駄に甘いネタばっかりしかないや。
たまにはこう、ドロドロ鬱々で救いの無さそうな、暗い話を書いてみたい。
また書き切る体力が戻ったら、頑張ってみようかな、と。それでは。
43名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 07:02:10 ID:RGcPK8jJ
>>42
乙、GJ!
毎回弟が新調する傘は無くなる度に邪魔者や泥棒猫の墓標になってそうだな
てか最初の方身長190cmの弟に身長150cmの姉で再生しちまったのは内緒だ

後、私>>28なんだけど>>31になんか納得した
44名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 15:36:33 ID:w7NIqFYU
もう、ど素人どもがぁの下りから、ねーちゃんがねーちんでしか想像出来ない
45三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:47:24 ID:g/mo7HSP
三つの鎖 22 前編です。

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します。
46三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:49:12 ID:g/mo7HSP
三つの鎖 22

 古い本のすえた匂い。
 本を片手に本棚の間を僕は歩く。
 探しているのは法律や裁判の判例を記した本。
 集めた本を手に閲覧コーナーで本を開く。ページをめくり文字を追う。
 市民図書館の閲覧コーナーはそれなりの人がいる。
 小さな男の子と女の子が寄り添って絵本を読んでいる。
 楽しそうに寄り添う二人の子供。兄妹だろうか。
 僕は頭をふりかぶり文字に集中した。

 自首しようと言う僕の言葉を梓は鼻で笑うだけだった。
 梓が殺したという証拠は今のところ無い。
 証拠が無いのに警察に話しても相手にされない。梓は小柄な少女だ。大の男たちを殺傷したなど、何も知らない警察が納得するはずがない。
 犯行現場を調べたけど、得たものは何もなかった。仮にあったとしても、警察がつかんでいるはず。発表が無いという事は、何も見つかっていないのだろう。今なお犯人が逮捕されていない事実がそれを物語っている。
 打つ手は一つしかない。
 だけど、それを試みる前に他に方法が無いかと思い、法律や判例集を調べる事にした。もしかしたら、証拠が無くても証言だけで逮捕につながる可能性があるかもしれない。
 しかし、本で調べる限り、証言だけで逮捕に至ったのはほとんどない。逮捕につながるには、やはり証拠が重要だ。仮に本人の自白があっても、証拠がないといけない。
 証拠といっても形のあるものでなくてもいい。犯人しか知らない事実を言えば、それが証拠になる。
 閉館時間まで本を読み漁ったけど、それ以上の情報は無かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 紙袋を片手に夜の道を歩く。手にした紙袋にはケーキが入っている。
 このケーキは、雄太さんが殺された日に梓が購入したお店のもの。
 お店の人に話を聞いたけど、梓が来たかどうかは覚えていないとのことだった。一日に大勢の人が来るから仕方がない。
 それでもレシートはある。梓があの日あのお店に行ったのは間違いない。
 雄太さんは駅から夏美ちゃんのマンションに向かった。
 人気の無い道。僕は同じ道を歩く。
 僕は足を止めた。献花されている道。
 ここで雄太さんと警察官は襲われた。
 僕は再び歩き始めた。目的地は夏美ちゃんの家。
 マンションの階段をゆっくりと登る。足が重い。
 インターホンを押す。
 『どちら様ですか?』
 夏美ちゃんの声。
 「夜分遅くに失礼します。加原です」
 『お兄さんですか!?すぐ出ます!』
 ぱたぱたという音が大きくなり、ドアが開く。
 「お兄さん!こんばんわ!」
 夏美ちゃんが嬉しそうに僕を見た。
 「突然どうしたのですか?びっくりしましたよ」
 「今日は一度も会っていないから夏美ちゃんの顔を見たくなって」
 本当は心配だからだ。こうして見る限りは大丈夫そうだ。
 「つまらないものだけど、どうぞ」
 「ありがとうございます。あ!駅前のケーキ屋ですね。梓の好きなお店ですよ」
 受け取った袋を見て夏美ちゃんは嬉しそうに笑った。
 その様子に胸が痛む。
 「おやおや。幸一君いらっしゃい」
 「お母さん!お兄さんがケーキをくれたよ」
 洋子さんは微かに笑って僕を見た。
 「ありがとう。よかったら上がっていかないかい?」
 「いえ、近くを寄っただけですから」
 「まあまあそう言わずに。話したい事もある」
 僕は洋子さんに押し切られて夏美ちゃんの家に入った。
 夏美ちゃんがお茶を入れてくれた。冷たい紅茶。
 洋子さんは軽く咳払いをして僕を見た。
 「実は仕事を辞める事にした」
 夏美ちゃんはびっくりしたように洋子さんを見た。
 「そうなの?」
47三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:50:07 ID:g/mo7HSP
 「ああ。夏美の傍にいたいと思ってね」
 洋子さんは微笑んだ。
 「ああ、お金の事は心配しなくていい。蓄えは十分にある。それに今の私達は億万長者だからな」
 僕は首をかしげた。
 「実はですね、色んな人がたくさんお金をくれたんです」
 「もらって困るような高価な贈り物までだ」
 何でも雄太さんの知り合いの方が贈った現金や贈り物に加え、色々な国や部族(?)からの勲章や贈り物もあるらしい。勲章には年金や一時金があるものもある。贈り物で貰って困る物は会社が借り上げると言う形で保管してくれることになった。もちろんその分のお金も入る。
 「私と夏美それぞれにたくさんのお金が入ってね。はっきり言って一生働かなくてもいいぐらいのお金だ」
 洋子さんは事もなげに言うけど、それってすごい事じゃないのかな。
 雄太さんってそんなにすごい人だったんだ。
 「話がそれたな。とりあえず私は今の仕事はやめる事にした。夏美の傍にいられないからな。ただ、引き継ぎ等で3週間はアメリカに行くことになる」
 洋子さんは立ち上がって僕を見た。
 「私が帰るまで夏美の事をお願いしたい」
 「はい。僕でよければ」
 僕は迷わず答えた。
 「あの、お母さん。いいの?お仕事はお母さんのやりたい事でしょ?」
 「いいんだ」
 夏美ちゃんの問いに洋子さんはかぶりを振った。
 「今は夏美の傍にいたい。ちょうど仕事も飽きた事だしな。日本でのんびりするのも悪くないよ」
 洋子さんは夏美ちゃんの頭をポンポンと撫でた。
 夏美ちゃんの目尻に光るものがたまる。
 「ほらほら。彼氏の前で泣いちゃだめだぞ?簡単に涙を見せる女は男に嫌われるぞ?」
 洋子さんは笑いながら夏美ちゃんの頭を撫でた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 僕と夏美ちゃんはマンションの階段をゆっくりと降りる。
 下まで送っていけとの洋子さんの一言で、下まで夏美ちゃんが見送ってくれることになった。
 洋子さんの心づかいが嬉しい。
 お互いの手が触れそうな距離で階段を下りる。
 夏美ちゃんの横顔。微かに染まった頬が目に入る。
 階段が終わり、くすぐったい時間はすぐに終わる。
 「見送ってくれてありがとう」
 夏美ちゃんは僕を見上げた。幼い子供のように頼りない光が瞳に浮かぶ。
 その様子に胸が痛む。夏美ちゃんはしっかりしとした芯の強い子だ。それなのにこんなに心細い気持にさせたのは、僕の妹が原因。
 「また明日。おやすみ」
 何とか挨拶の言葉を口にして僕は背を向けた。
 歩き出した瞬間、袖に何かが引っ掛かる。
 振り向くと夏美ちゃんは僕の袖を掴んでいた。
 悲しそうで心細そうな夏美ちゃんの表情。目尻に光るものが溜まる。
 胸が痛む。
 「お兄さん」
 震える夏美ちゃんの声。
 「お願いです。行かないでください」
 夏美ちゃんの頬を涙が伝う。
 「怖いです。お兄さんが私の手の届かない場所に行きそうな気がします」
 僕の袖を掴む白くて小さな手。それが微かに震える。
 夏美ちゃんは僕に抱きついた。背中に細い腕が回される。
 「ひっく、お願いです、ぐすっ、行かないでください」
 夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた頬。
 「ぐすっ、お父さんみたいに、ひぐっ、いなくならないでください」
 夏美ちゃんの言葉が胸を射抜く。
 僕は必死に平静を装った。
 夏美ちゃんの小さな背中に腕をまわし抱きしめた。
 「大丈夫。僕はいなくならない。夏美ちゃんを一人にはしない」
 「お父さんもそう言ってました」
 震える声が僕の心を貫く。
 「それなのに、死んじゃいました」
 背中に回された夏美ちゃんの腕に力がこもる。
 ささやかな力なのに、僕を締め付ける。
48三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:50:55 ID:g/mo7HSP
 僕と夏美ちゃんはお互いを抱き締めた。
 「…変な事言ってごめんなさい」
 やがて夏美ちゃんは腕を離した。
 「おやすみなさい」
 夏美ちゃんはにっこり笑って背を向けて階段を走って上った。明らかに無理をしている笑顔が目に焼きつく。
 僕は何も言えなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 夏美ちゃんが泣いている。涙を流しながら悲しそうに。
 泣かないでほしい。それなのに僕は何も言えない。
 夏美ちゃんが悲しんでいる原因を知っているから。
 僕の妹が、夏美ちゃんのお父さんを殺したから。
 夏美ちゃんは顔を上げた。涙にぬれた瞳が僕を射抜く。
 「どうして梓はお父さんを殺したのですか」
 震える声が僕を責める。震える理由は怒りか悲しみか。
 「ひどいです。お父さんは何もしていないのに。どうしてですか」
 その理由を僕は知っている。
 夏美ちゃんの恋人が僕だからだ。
 「お父さんは何の関係もないです!!それなのになんでお父さんを殺したのですか!!ひどいです!!」
 夏美ちゃんの悲痛な叫びが木霊する。
 「どうして!?どうしてですか!?何でお父さんは梓に殺されないといけないのですか!?」
 夏美ちゃんの問いかけに、僕は何も言えない。

 「兄さん」
 僕は跳ね起きた。
 「大丈夫?」
 心配そうな梓の声が脳裏に響く。
 頭が痛い。
 寒い。全身に冷や汗をかいている。呼吸がおぼつかない。心臓がでたらめな鼓動を刻んでいるのが分かる。
 「兄さん。大きく息を吸って」
 言われるままに僕は深呼吸をした。霞みがかった思考が鮮明になる。そして自分の状況が頭に入ってくる。
 夢だ。雄太さんを殺したのが梓なのを、夏美ちゃんは知らない。
 「兄さん。これを飲んで」
 梓はペットボトルのお茶を差し出した。僕は微かに震える手で受け取り、口にした。喉はカラカラに乾いている。
 「大丈夫?随分うなされていたけど」
 僕は時計を見た。もうすでに父さんも母さんも家を出ている時間だ。
 学校に行くなら、あまり余裕のある時間ではない。
 何で起きられなかったのだろう。いつもなら目覚ましが無くても起きられるのに。
 僕は顔を上げて梓の顔を見た。おろしたままの長くて艶のある黒い髪が目に入る。
 梓の小さくて白い手が僕の額に触れる。柔らかくてひんやりとした感触。
 「兄さん。熱があるわ」
 思わず梓の手を払った。
 梓は驚いたように払われた手を見た。
 「…僕は大丈夫。すぐに下りる」
 それだけ言うのが精いっぱいだった。
 「…分かったわ」
 梓はそう言って部屋を出て行った。梓の目尻に涙が溜まっているのを分かっていたけど、僕は何も言わなかった。言えなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 通学路を僕と梓はゆっくりと歩いた。
 お互いに何もしゃべらない。食卓で梓は一生懸命に話しかけてくれたけど、僕はそれに答えられなかった。
 鞄が重く感じる。中にはお弁当が入っている。梓の作ってくれたお弁当。
 「あの、兄さん」
 梓はおどおどと僕に声をかけた。
 「体調は大丈夫?」
 「大丈夫」
 「そう」
 ここで会話は終わる。
49三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:52:10 ID:g/mo7HSP
 僕は梓を見た。視線が合う。梓はぎこちない笑みを浮かべた。
 結局、僕達はそれ以上会話せずに靴箱で別れた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 耕平は僕を見て眉をひそめた。
 「大丈夫かいな。えらい顔色悪いで」
 僕は苦笑した。教室に入ったとたんにこれだ。
 「幸一くん」
 僕を呼ぶ声。振り返ると、白い手が伸びて僕の額に触れる。
 滑らかでひんやりとした感触。梓のそれと同じなのに、反射的に振り払う事は無かった。
 「熱があるよ」
 春子は心配そうに僕を見た。そういう春子の頬は微かに腫れている。梓の仕業。
 背筋が寒くなる。全身に鳥肌が立つ。
 もしかしたら、梓は春子や夏美ちゃんまで。
 「幸一くん?」
 春子の声が遠く感じる。
 「おい!幸一!しっかりせえ!」
 耕平の声が上からかぶせられる。
 違う。気がつけば僕は膝をついていた。
 「幸一くん。立てる?」
 白い手が僕に差し出される。
 無意識のうちに僕はその手を掴んでいた。春子の柔らかい手の感触にホッとしてしまう。
 春子に引き上げられて僕は立ち上がった。ふらつく体を春子が支えてくれた。
 「耕平君。私、幸一くんを家まで送ってくる。もし遅れたら先生に伝えといて」
 「分かった。幸一を頼むで」
 勝手に僕の欠席を決める二人。
 「待って。僕は」
 僕の言葉は春子のデコピンに遮られた。
 「お姉ちゃんの言う事を素直に聞いて」
 そう言って春子は僕の手を掴んで歩きだした。
 足元がおぼつかない。ふらつく上半身を春子は支えてくれた。
 触れる春子の体がひんやり感じる。
 「こんなに熱があるのに学校に来ちゃだめだよ」
 春子に礼を言いたかったけど、意識が朦朧として何も言えなかった。

 少し寝苦しく感じて目が覚めた。
 見慣れた天井が見える。自分の部屋の天井。
 寝起きの意識が徐々にはっきりとしてくる。
 春子に送ってもらって、着替えて寝たんだった。
 今の時間はどれぐらいだろう。起き上がろうとして初めて布団の上に覆いかぶさる存在に気がついた。
 春子だ。僕のお腹の上に頭を預けて寝ている。
 静かな寝息が聞こえてくる。だらしなく涎を垂らしながら幸せそうに眠っている。
 寝苦しい原因はこれか。
 起こさないようにベッドから出ようとして失敗した。
 春子の頭ががくんと布団に埋もれる。
 「びにゃ!?」
 変な悲鳴を上げる春子。もぞもぞ動き、寝やすい位置を見つけたのか再び静かな寝息が聞こえてくる。
 呆れながらも僕はベッドから出た。全身がだるい。ひどい頭痛。
 時計を確認すると、3時間ほど眠っていた。春子は授業に行かなくていいのかな。
 「ん?んんー?」
 むくりと春子は起きた。眠たそうなとろんとした瞳で僕を見る。
 「こーいちくん。横になってないとだめだよ」
 春子は僕の手を掴んだ。春子の柔らかくて温かい掌の感触に安心してしまう。
 僕はベッドに戻された。
 春子の掌が僕の額に触れる。滑らかで柔らかい感触。
 「んー。全然下がってないね」
 そう言って春子はスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。
 「熱が出た時には水分を補給しないとだめだよ」
 僕は礼を言って受け取った。蓋をあけて口にする。体に水分がしみわたる感触が心地よい。
50三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:53:25 ID:g/mo7HSP
 昔の事が脳裏に浮かぶ。風邪をひいた時、京子さんも村田のおばさんも看病してくれたけど、二人とも忙しい人だから手が回らない時も多かった。そんな時にそばにいてくれたのは春子と梓だった。
 体調が悪くて心細い時に春子はそばにいてくれた。いつもスポーツドリンクを僕に差し出してきた。
 「飲んだら横になってね」
 言われるままに僕は横になった。掌に柔らかい感触。春子の白い手が僕の手を握っていた。昔からそうだ。春子は僕が眠れるまで手を握ってくれた。
 周りの大人たちが忙しくて寂しく感じていた状況で、春子の存在がどれだけ温かく心強く感じたか、きっと誰も知らない。
 「すぐに治るから安心して」
 あやすような春子に声に僕の意識は眠りに落ちた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 えー。初登場じゃないけど、一応自己紹介しとく。
 私は堀田美奈子。梓と夏美のクラスメイト。
 え?知らない?
 いやいやいや!私ちゃんと登場してるよ!?ほら、ちゃんと読んでよ!
 …でしょ!?全く、しっかりしてよね。

 授業が終わった。はぁ。お昼休みまで長いよ。
 教室を見渡すと夏美がぼんやりと頬づえついている。
 うーむ。ちょっと声をかけにくい。この前、夏美のお父さんが殺されて以来、クラスのみんなは夏美と距離を置いている。
 別にいじめとかじゃない。ただ、どう接したらいいか分からない。
 ま、私はあんまり気にしないから普通に声をかけちゃうけど。
 「なつみー。授業終わったよ」
 私をガン無視する夏美。って、聞いてないっぽい。
 「夏美?」
 私は夏美を揺らした。綺麗な髪が微かに揺れる。ちょっと伸びた気がする。前はショートだったのに、今は肩にかかりそうな長さ。
 うーん。私はちょっと長めのショートだけど、夏美の髪の毛はなんていうか綺麗だ。ちょっとうらやましい。
 夏美は今気がついたように私を見た。
 「あれ?どうしたの?」
 なんだか夏美の様子がおかしいかも。目の焦点が合ってない感じ。まだ寝ぼけているの?
 「もう授業終わってるよ」
 私の言葉に夏美は飛び上がるように立ち上がった。うおっ。びっくりした。
 「美奈子ごめん!お兄さんに会ってくる!」
 夏美は教室を走って出て行った。どうなってるのよ。
 ていうか次の授業は理科室なのに。はやく戻って来ないと遅刻しちゃうよ。
 クラスの女の子が数人集まって話している声が聞こえてくる。
 「お兄さんの兄さんって馬鹿じゃないの」
 「そうよねー。彼氏の事をお兄さんって呼ぶって、何を考えているのかしら」
 夏美の言うお兄さん。梓のお兄ちゃん。
 私はため息をついた。夏美と梓のお兄ちゃんが付き合い始めてから、夏美の陰口を言う子が増えた。
 ただの嫉妬丸出しの陰口。梓のお兄ちゃんは背が高くて文武両道、料理もできるし、見た目も悪くはない。モテる要素はある。今までモテなかったのは、シスコンだと思われていたから。
 でも、実は梓がブラコンだっただけと分かってから人気が急上昇した。けどその時にはすでに夏美が彼女になっていた。
 全く。陰口なら聞こえないように言えばいいのに。聞いても気持ちのいいものじゃない。それなのに彼女達は聞こえるような声で陰口をたたく。
 「お父さんが死んだからって悲劇のヒロインを気取ってるみたいでキモイよね」
 私が言うのもなんだけど、女の子の嫉妬ってホントに怖い。夏美の今の状況すら陰口の要素になるのだから。
 夏美はいい子だから陰口の類に過敏に反応したりしない。それが余計にクラスの子をイラつかせているのもある。
 私はため息をついて梓を探した。梓は夏美と一番の友達だ。正直、明るくて社交的な夏美と無口でいつも不機嫌そうな梓とどこが気が合うのか分からないけど。
 梓はすぐに見つかった。小柄で細く、綺麗な黒い髪を背中に垂らしている。いつもはポニーテールにしているのに、最近はそのままおろしていることが多い。でも、今の髪形も似合っている。
 お人形さんみたいな綺麗な髪と白い肌。女の私から見てもため息をつきたくなるような儚い美しさを持っている。
 私は梓に声をかけられなかった。
 梓はいつも通りの無表情だった。
 でも、瞳には背筋の寒くなるような感情を湛えていた。
 梓が悪口を言っている子と同じ感情。
 でも、その感情の強さは比べ物にならないほど強く感じた。
51三つの鎖 22 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/18(金) 22:55:08 ID:g/mo7HSP
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
52名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 23:12:17 ID:RGcPK8jJ
大事なところでちょいちょい誤字があるのが気になるけどGJ!
物語中とはいえリアルに人が死んでるのはやっぱり辛いなぁ
そして夏美ちゃんに退学フラグか…?
53名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 23:16:43 ID:1RamkcFm
gj
54名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 00:03:17 ID:qP/Svnkz
夏美ちゃんに病みの気配が
続きが気になる、GJ!
55名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 00:40:01 ID:m1AT0YVu
GJ梓は綾ルートを辿りそうな気がする。
逆に変に改心せずに世間にミームを撒き散らして消え去るのも悪くない、と言うか梓らしい気がする。
夏美は梓と真逆の立場、今は苦しいだろうが、最後まで事件と関わらず清いヒロインらしさを保ってほしい。
で、今後の物語の私的にキーに成りそうだなと思っているのは、春子だと思う。彼女次第でbatにもhappyにも成りそうな気がする。
後幸一は本スレにおいて私の中では指折りの同情を誘う男の主人公である。


56名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 00:43:56 ID:kLODWJBc
夏美に覚醒フラグか
57名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 12:11:01 ID:qoHAY6Pb
とりあえず
幸一と梓がヤってくれる展開になれば
それだけで嬉しい。
58名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 12:31:48 ID:1kNGhfB7
GJです

夏美ちゃんには頑張ってほしいが、何だか心臓に悪い展開になりそうな気配…
春子は何を考えているかわからないし、梓の存在も恐ろしい

そして何だろう、耕平が出るとすげーほっとした気分になるのはw
59名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 20:31:57 ID:3WXx3ehe
>>58
俺は耕平が出てくると
平和な学生生活と幸一が向き合わなくちゃいけない現実との差を想わされて切なくなるなあ
60名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 00:57:58 ID:OhuaLLQQ
梓は修羅の道を進め!!周りは敵だらけだが引くな。夏美は対局の存在絶対黒化しないで欲しい。
心身共衰弱しても戦いには参加せず悲劇のヒロインに成ってくれ。
春子は引っ掻き回せ、姉キャラは君だけだ!年上の意地を見せろ!!
幸一君頑張れ…
61名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 01:27:02 ID:GctR4UPq
夏美ちゃんは依存型ヤンデレになる
間違いない
62名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 07:56:54 ID:XTQtE0jP
夏美ちゃんは、とある作品の恭子ちゃんと俺の中でイメージが被る…
63名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 09:59:11 ID:JItI9RoH
_人人人人人人人人人_
>すごくどうでもいい<
 ̄YYYYYYYYY ̄

   ヘ(^o^)ヘ
     |∧
     /
64名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 15:49:58 ID:a7+yvJWG
>>62
やっぱりこことヤンデレスレは住人かぶってんだね
確かにどうでもいいことだけどw
65名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 15:57:00 ID:wtvSfHr1
こことヤンデレスレを往復するのはここ住人の基本だぜ(゚ω゚)b
66名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 15:57:40 ID:dH1lomA0
昔は修羅場スレも入ってました…
67名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 16:53:46 ID:zH/Dwvbh
お前らは俺だな
68名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 17:30:42 ID:uAh5+XCq
修羅場スレ懐かしいな、なんで過疎ったんだろう...
69名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 17:32:09 ID:dH1lomA0
自分で話題だしといてなんだけど修羅場スレの話はやめとこうぜ
70名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 17:37:09 ID:qSXYoBYo
変なの沸いてくるから他のスレの話題は控えといた方がいいな
71名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 17:41:40 ID:wtvSfHr1
以下、自分がどれだけキモ姉妹を愛しているか語るスレ
72名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 17:59:29 ID:BGujhkuU
あの女…お兄ちゃんにふさわしくないわ…
73名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 19:23:50 ID:/ht1LWnK
ふひひ、姉ちゃんにふさわしい男は僕しかいないんだ
74名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 19:28:25 ID:zH/Dwvbh
おねぇちゃんにちかづくオオカミめ…
75名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:04:05 ID:OvBMmp9S
>>74
いしのようこ?
76名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:04:14 ID:2DXufwh/
む、もしや「キモオト」が潜入しているのか?
77名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:16:19 ID:2SPEEQeL
キモオトなんて誰得だよ畜生
78名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:35:01 ID:OhuaLLQQ
キモオト単独はいらん!!
但しキモ姉とセットならエロ好きとしては許したい。
79名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:40:42 ID:zH/Dwvbh
まさかのキモウトとキモ姉がキャッキャッウフフ
80名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:54:16 ID:2DXufwh/
>>79
それは単なる近親バカップルな気がするな。十二分にキモくはあるが。
ここは一つ、4人兄弟で、長男は長女に、長女は次男に、次男は次女に、次女は長男に
思いを寄せるという方向で…
81名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:13:13 ID:1OXFbdi0
キモオト「兄貴なんかより俺の方が姉ちゃんを愛してるよ!」
キモウト「嫌っ!中に出さないで!私の体はお兄ちゃんの物なのに…汚されちゃう!」

>>78
こうですかわかりません
82名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:16:05 ID:WM6dOnYn
>>81
姉が好きなのに何で妹を犯してるんだよwww
83名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:17:16 ID:WM6dOnYn
と思ったら長男の妹ってだけで弟はさらにその下なのか、読解力ねえな俺orz
84名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:36:12 ID:6LqtaYp4
>>80
からんで こじれて もつれて よじれて 複雑な関係ーーー!
85名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:46:51 ID:GctR4UPq
第三の選択 双子
86名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 22:44:25 ID:a7+yvJWG
第4の選択
男の娘(キモウト)
87名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 22:54:21 ID:a7+yvJWG
男の娘だったらキモオトか…
こんがらがってきた
88名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 22:56:03 ID:UqgNaSC5
それは男ヤンデレスレでやってください
89名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 23:02:56 ID:dzIAaqsV
wiki更新しようとやってたらいきなり停電して更新出来なかった…
携帯からは更新できないよね?
90名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 01:31:00 ID:7rPmGUGr
双子の兄妹は前世で情死した男女の生まれ変わりという
91名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 01:41:01 ID:6lKmfsQe
そしてその魂は、血族にだけ転生するのだ
92名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 05:58:04 ID:ZEugEsiR
_人人人人人人人人人_
>すごくどうでもいい<
 ̄YYYYYYYYY ̄

   ヘ(^o^)ヘ
     |∧
     /



93名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 08:57:31 ID:NetUh87G
>>89
携帯からは無理かと

しかしタイミングよく停電とは・・・
これは何者かの陰謀を感じるな
94名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 09:26:16 ID:qf1+hSEs
もしや89のキモウトがブレーカーを落とした…?
95名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 11:21:35 ID:6lkEeqCW
まあ管理人氏は忙しい人みたいだが、マッタリ待ってれば更新してくれるよ
96名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 18:06:25 ID:LLGeb9Sz
Wiki形式で誰でも編集ができるまとめサイトはいいよな。
誰かが勝手に編集してくれるし。
97名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 21:54:14 ID:44pa7+kq
ふひひ、僕の姉ちゃんを勝手に使う管理人なんて・・・ふひひひひ
98名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:36:36 ID:5MxFgsH7
自らをキモオトと誤認した変質者に狙われてるキモ姉とか珍しいな
まあうっかり実弟との間に割り込んだとたん速攻かつ猟奇的に処分されるんだろうが…
99名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:51:00 ID:qf1+hSEs
ホモのお兄ちゃんの為に男になるキモウト
100名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 23:26:27 ID:Ki4n32Vk
お兄ちゃんに「やらないか」と言ってもらう為だけにか
たまげたなあ
101三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:38:05 ID:8APhhmLJ
三つの鎖 22 後編です

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します
102三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:38:41 ID:8APhhmLJ
 お兄さん。
 頭に浮かぶのはその事だけ。
 お兄さんの事を考えると不安で仕方がない。
 どこか手の届かない場所に行ってしまう予感がする。
 何で昨日、引き止めなかったのだろう。
 そんな考えばかりが頭を駆け抜ける。
 私は走った。
 お兄さんの教室の扉を開ける。
 視線が私に集中する。
 中を見回すけど、見つからない。
 お兄さんが見つからない。
 「夏美ちゃん?」
 耕平さんが驚いたように私を見た。
 「どないしたん?」
 「お兄さんは!?」
 面食らったように耕平さんは後ずさった。
 「幸一は体調不良で帰ったで」
 体調不良。お兄さんが。
 「もうすぐチャイム鳴るで。教室に戻りや」
 耕平さんに促されるままに私はお兄さんのいない教室を出た。
 自分の教室に戻ると、誰もいなかった。次は移動教室だ。理科の実験。
 必要な教科書は鞄に入れたままだ。私は鞄を開けた。
 中にはお弁当が二つ入っている。私の分とお兄さんの分。
 お兄さんの事が脳裏に浮かぶ。体調不良。不安が全身を襲う。
 様子を見に行こう。私は鞄を手に教室を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 顔に触れる柔らかい感触に目が覚めた。
 春子が僕の顔の汗をタオルで拭いてくれている。
 「あ。ごめんね。起きちゃった?」
 僕は上半身を起こした。ひどい体調だ。全身がだるく、熱っぽい。春子の渡してくれたスポーツドリンクを飲む。全身に水分がしみわたる感触。おいしい。
 春子の白い手が額に触れる。ほっそりとした冷たい指が心地よい。
 「全然下がってないね」
 春子の顔が近い。白い肌。柔らかそうなほっぺた。大きくて子供のように輝く瞳。綺麗なまつ毛。
 体調不良以外の理由で心臓が暴れる。
 「あれれ?ちょっと熱が上がったかも」
 にやにやする春子。分かっていてやっているな。
 「今はしっかり休んで」
 「ごめん」
 春子の指がぺちっと僕の額にぶつかる。
 「そこはありがとうでいいよ」
 「…ありがとう」
 春子はにっこり笑った。
 「幸一くんは疲れているんだよ。今はゆっくり休んでね」
 労わりと優しさに満ちた言葉なのに、胸が痛い。
 「僕は疲れてなんかいない」
 春子が憐憫の表情を浮かべる。
 脳裏に梓の事が浮かぶ。雄太さんを、夏美ちゃんのお父さんを殺した梓。未だに警察は梓に至る証拠をつかめず、梓自身も自首するつもりはない。
 涙を流す夏美ちゃん。夏美ちゃんがこの事を知ったらどうなるだろう。
 全身を悪寒が包む。熱っぽいはずなのに、鳥肌が立つ。
 夏美ちゃんが知ったら、僕は。
 「幸一くん」
 上半身を温かくて柔らかい感触に包まれる。
 春子が僕を抱きしめている。
 背中に回された腕があやすように撫でる。
 「今は何も考えなくていいよ」
 春子の囁き。
 「幸一くんは疲れているんだよ。今はゆっくり休んで」
 僕は顔を上げた。春子は微笑んだ。
103三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:39:36 ID:8APhhmLJ
 「お姉ちゃんが傍にいるから安心して」
 春子の細い指が僕の目元にのびて拭う。自分が泣いていることに僕は気がついた。
 慌てて目元をぬぐおうとすると、再び春子に抱きしめられた。
 「お姉ちゃんの前ならどれだけ泣いてもいいから」
 涙は止まらなかった。気がつけば僕は春子の背中に腕をまわして抱きしめていた。
 柔らかくて温かい。その感触に悲しくなるほど安心してしまう。
 「ひっく、ぐすっ、僕はっ、僕はっ…!」
 「お姉ちゃんがそばにいるから安心して」
 確かに僕は疲れているのかもしれない。
 立て続けに色々な事があった。
 梓の事、夏美ちゃんの事。
 どうにかしないといけないのに、どうすればいいのか分からない。
 誰かに相談できる内容でもない。
 「お姉ちゃんが傍にいるから安心して」
 春子が優しく抱きしめてくれるだけで、信じられないほど安心する。
 結局、何があっても春子は僕の姉さんで、僕は春子の弟。
 昔から春子は僕の事を可愛がってくれた。傍にいてくれた。助けてくれた。
 例え何があっても、何をされても、嫌いにはなれない。
 「駄目です!!」
 部屋に悲鳴じみた言葉が響く。
 気がつけば部屋の入口に夏美ちゃんが立っていた。
 今まで見た事ない怖い顔で僕たちを睨んでいた。
 「お兄さんから離れてください!!」
 夏美ちゃんは春子を引きはがした。春子の温もりが消える。
 たったそれだけなのに、心細さを感じてしまう。
 「ハル先輩。お兄さんと何していたのですか」
 夏美ちゃんは春子に詰め寄った。いつもの夏美ちゃんの声なのに、背筋が寒くなるほどの激情がこもっている。
 「夏美ちゃん。落ち着いて」
 春子があやすように夏美ちゃんの肩に手を載せた。夏美ちゃんはその腕を乱暴に払った。
 「幸一くんね、体調不良で寝ぼけてね、夏美ちゃんの名前を言いながら私に抱きついてきたんだよ」
 夏美ちゃんは虚を突かれたように呆然とした。
 「よっぽど心細かったんだと思うよ」
 呆然とする夏美ちゃん。やがて恥じたようにうつむいた。その頬が朱に染まる。
 「ご、ごめんなさい。私、その」
 「気にしなくていいよ。待っててね。飲み物を持ってくるから」
 春子はそう言って部屋を出て行った。
 二人だけの部屋。気まずい。
 「あの、お兄さん」
 夏美ちゃんはぎこちなく僕を見た。
 「その、体調はどうですか」
 「まあまあだよ」
 夏美ちゃんの手がためらいがちに僕の額に触れる。
 柔らかくてひんやりした感触。
 「お兄さん!すごい熱ですよ!」
 夏美ちゃんは慌てたように僕の肩を押して横にした。その上に布団をかける。
 「今はゆっくり休んでください」
 夏美ちゃんのその声に誘われるように僕は眠りに落ちた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お兄さんは目を閉じた。すぐに静かで疲れたような寝息が聞こえてくる。
 私、馬鹿だ。
 お兄さんはこんなに体調を崩しているのに家まで押し掛けて、疑って。
 部屋の扉が静かに開く。ハル先輩だ。手にしたお盆にはコップ。
 「幸一くんは寝ちゃったの?」
 ハル先輩は声をひそめて言った。
 私は頷いた。
 「じゃあ下に行こうよ」
 ハル先輩は滑らかな足取りで部屋を出た。足音がほとんどしない。
 お兄さんを起こさないように気を使っているんだ。
104三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:40:50 ID:8APhhmLJ
 私はとぼとぼとハル先輩のあとを付いて行った。
 自分が情けなかった。
 下のリビングで私とハル先輩は腰を落とした。
 ここに来るのは久しぶりに感じる。
 梓と喧嘩して以来、この家に来る事は無かった。
 「夏美ちゃん?」
 ハル先輩は不思議そうに私を見た。その手にはコップ。
 白くてほっそりとした指。大人の女性の手。
 「飲まないの?」
 私は慌ててコップを受け取った。
 自分の手が目に入る。ちっちゃい掌。子供みたいな手。
 私はため息をついてコップに口をつけた。ひんやりとしたスポーツドリンク。走ってきて渇いた喉に心地よくしみこむ。
 おいしいのに、おいしくない。
 私はハル先輩をちらっと見た。
 艶のある長くて綺麗な髪。白くて滑らかな肌。子供のように輝く瞳。柔らかそうな唇。コップを口にしている仕草だけなのに健康的な色気を発散している。
 私の視線に気がついたのか、ハル先輩と目が合う。
 ハル先輩はにっこりと笑った。美人なのに親しみやすい柔らかい笑み。
 「どうしたの?」
 鈴が鳴るような綺麗な声。
 どんどん自分が惨めに感じる。
 「何でもないです」
 私は視線を逸らした。
 「授業はいいのですか」
 私の馬鹿。私も同じなのに。
 「そうだね。サボりになっちゃうね」
 ハル先輩は可愛く舌を出した。私がやってもきっと似合わないけど、ハル先輩がすると愛嬌があって可愛い。
 それにハル先輩は成績優秀で有名だ。一日ぐらい授業をさぼっても何の問題もないだろうし、教師からのお咎めも無いに違いない。むしろ私の方が成績に関しては心配だ。
 「こうなったら一日さぼっちゃおうよ。後で幸一くんに消化のいいものを作ってあげようね」
 ハル先輩はのんびりと言った。
 お兄さんの事を心配せずに嫉妬ばかりしている私と、お兄さんの事を考えているハル先輩。
 私、本当に馬鹿だ。
 恋人なのに、考えている事は情けない事ばかり。
 お兄さんの負担になってばかり。
 目頭が熱くなる。視界がにじむ。
 「夏美ちゃん?」
 気遣わしげなハル先輩の声。
 「見ないでください!」
 ハル先輩にだけは、今の情けない姿を見られたくない。
 それなのに、涙がとめどなく溢れる。
 ハル先輩はハンカチを取り出して私の涙をぬぐってくれた。
 振り払おうとして止めた。そこまでしたら私は救いのない愚か者だ。
 「私でよければ相談に乗るよ」
 どう考えても私よりハル先輩の方がお兄さんにお似合いだ。私といるより、ハル先輩といた方がお兄さんにとっても幸せに違いない。
 それでも、お兄さんを諦められない。
 こんな私を好きといってくれたお兄さんと、離れたくない。
 「わたし、お兄さんが好きなんですっ」
 気がつけば私は叫んでいた。
 止めなきゃと分かっているのに、言葉が止まらない。
 「好きなのにっ、お兄さんに迷惑ばかりかけて、今日もそうです、お兄さんは体調を崩しているのに、押し掛けてっ」
 お兄さんが体調を崩しているのも、きっと私のせいだ。
 いつも私を助けてくれた。そばにいてくれた。
 それがお兄さんの負担になっていることに気が付いていなかった。
 きっとお兄さんは私の事を迷惑に思っている。
 「お兄さんが私と一緒にいてくれてるのも、お父さんが死んだのを哀れんでに決まっています!!」
 心の奥底でずっと感じていた恐怖。
 今でもお兄さんが私と一緒にいてくれるのは、私の事を好きだからじゃなくて、私を哀れんでいるだけ。
 だって、そうじゃないとお兄さんが私なんかと一緒にいてくれる理由が無い。
 「夏美ちゃん」
 ハル先輩は視線を逸らした。
 その仕草に心をかき乱される。
105三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:41:34 ID:8APhhmLJ
 ハル先輩は何か知っているのですか。
 もしかしたら、お兄さんはハル先輩に何か言ったのですか。
 「幸一くんが夏美ちゃんの事を好きなのは、夏美ちゃん自身が一番分かっているでしょ」
 「でも、こんな事ばかり考えていたら、お兄さんも嫌いになっちゃいます」
 「大丈夫だよ」
 ハル先輩は微笑んだ。
 「幸一くんは器の大きい子だよ。私の自慢の弟だよ。恋人の悩みの一つや二つ、受け止められる子だよ」
 「本当でしょうか」
 私はハル先輩を見上げた。
 「本当だよ」
 ハル先輩は優しく微笑んだ。
 「夏美ちゃんはそれだけ幸一くんの事が好きなんでしょ?もっと自信を持っていいよ。きっと幸一くんも分かってくれるよ」
 お兄さん。本当にこんな私の事を受け止めてくれるのだろうか。
 分からない。
 「幸一くんを信じてあげて」
 そうだ。信じないと。お兄さんの事を。
 信じないと。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 微かに揺さぶられる感触。
 誰かが僕の名前を呼んでいる気がする。
 目を開けると、春子がいた。
 夢心地のまま僕は上半身を起こした。
 そうだ。僕は学校を休んで寝ていた。春子と夏美ちゃんが来ていた。
 全身が熱っぽい。
 部屋を見回すと夏美ちゃんがお盆をもって居心地悪そうに立っている。
 「お昼ご飯作ったけど、食べられる?」
 お昼。もうそんな時間なのか。
 食欲は全く無い。それよりも水分が欲しい。
 春子はスポーツドリンクのペットボトルを渡してくれた。口にする。
 おいしい。体中に水分が染み渡る。
 「ちょっとだけでも食べようね」
 そう言って春子は夏美ちゃんを見た。
 夏美ちゃんは僕の隣に座り、湯気の立つ陶器の容器を手にした。
 「お粥ですけど、食べられますか?」
 心配そうに僕を見る夏美ちゃん。
 「ありがとう。いただくよ」
 無理やり笑顔を作って応じる。食欲は無いけど、少しでも食べておいた方がいい。
 夏美ちゃんはスプーンでお粥を掬って僕の口元に持ってきてくれた。
 「どうぞ」
 僕は促されるままにお粥を口にした。薄味であっさりしている。食べやすい。
 夏美ちゃんは何も言わずに食べさせてくれた。ちょっと恥ずかしいけど、腕を動かすのも億劫なほど体調が悪い。よく登校できたと自分でも不思議に思う。
 何とかお粥を全て食べる事が出来た。
 「ごちそうさま」
 春子はにこにこと笑った。夏美ちゃんはぎこちなく笑った。
 「お姉ちゃんたちはお弁当にするね」
 春子が手にしたのは梓の作った僕のお弁当。夏美ちゃんは鞄からお弁当箱を取り出した。
 「あれれ?夏美ちゃん何で二つもあるの?」
 目ざとく夏美ちゃんのお弁当が二つある事に気がつく春子。
 「えっと、その」
 しどろもどろになる夏美ちゃん。
 夏美ちゃんのお弁当が二つ。もしかして。
 「梓のぶん?」
 春子は無言で僕にデコピンした。
 「そんなわけ無いでしょ。幸一くんの鈍感」
 そうか。僕のお弁当を作ってくれたんだ。
 体調不良で熱っぽい頬なのに、さらに熱く感じる。
 「よかったらもらえるかな」
 夏美ちゃんはびっくりしたように僕を見た。
106三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:42:36 ID:8APhhmLJ
 「だ、だめです!お兄さんは体調不良じゃないですか!」
 「体調が良くなったから、お腹が減った」
 嘘だ。体調は最悪。
 でも、良くなったのは嘘じゃない。
 「…無理しないでくださいね」
 夏美ちゃんは僕の目の前でお弁当のふたを開けてくれた。
 香ばしい匂い。
 顔をひきつらせる春子。
 「どうぞ」
 恥ずかしそうにスプーンを僕の口元に持ってきてくれる夏美ちゃん。
 口にする。冷めているけどおいしい。
 「今回はお野菜たっぷりのカレーです」
 おいしいけど、やっぱりカレー。しかも冷えている。
 あまり消化にいいとは思えない。
 「どうですか?」
 「おいしいよ」
 でも、嬉しそうな夏美ちゃんを見ていると、残すわけにはいかない。
 そんなわけで何とか全部食べた。
 さすがにお腹いっぱいだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 「ごちそうさま」
 少し苦しそうにお腹をさするお兄さん。
 ちょっと悪い事をした気がする。
 「ゆっくり寝てください」
 お兄さんは疲れたように頷いて横になった。
 すぐに静かな寝息が聞こえてくる。
 私はお兄さんの額に触れた。
 すごい熱。
 こんなに熱があるのに、私のお弁当を食べてくれた。
 「夏美ちゃん」
 私を促すハル先輩。
 後ろ髪をひかれる思いで私は立ち上がった。
 二人で一階に下りて手早く洗い物を済ませる。しっかり水気をとり、元の場所に戻す。
 梓には内緒にしようってハル先輩と決めた。もし私達が何も言わずに家に上がったのを梓が知ると、きっと気分を害する。
 私と梓の仲は、以前より良くなった。でも、仲直りできたわけでもないと思う。
 それでも、梓はお母さんを助けてくれた。お母さんを家まで送ってくれた。
 …そういえば、なんで梓はお母さんの事を知っていたんだろう。
 写真とか見た事ないはずなのに。
 「夏美ちゃん?」
 怪訝そうに私を覗き込むハル先輩。
 「出るよ。忘れ物は無い?」
 「大丈夫です」
 忘れ物があったら梓にばれちゃう。
 私達は家を出た。
 「ハル先輩はこれからどうするのですか?」
 「授業受ける気分でもないし、家でのんびりしてるよ」
 ハル先輩は物憂げに答えた。ハル先輩の家は隣だから、すぐにお別れだ。
 「じゃあね夏美ちゃん」
 「はい。今日はありがとうございました」
 ハル先輩は何も言わずに隣の家に入って行った。
 その態度に不安が募る。
 ハル先輩は何か知っているの。
 もしかしたらお兄さんから何か言われたの。
 私が、重たいって。
 背筋が寒くなる。
 嫌だ。
 お兄さんに捨てられるのは絶対に嫌だ。
 私はため息をついて歩き出した。
107三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:44:19 ID:8APhhmLJ
 家に帰ろう。私も授業を受ける気分じゃない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 家の階段を上り兄さんに部屋をノックする。
 返事は無いけど、微かに寝息が聞こえる。
 ドアを開けると、兄さんがいた。ベッドに横になり寝ている。
 兄さんの額に触れる。熱い。すごい熱だ。
 今日のお昼に兄さんの教室に行って、兄さんが早退した事を知った。
 教室に春子はいなかった。耕平さんは何も言わなかったけど、春子が兄さんを送って行ったのだろう。
 苛々する。
 あれだけ痛めつけたのに、まだ私の兄さんに近づくなんて。
 もっと徹底的に痛めつければよかった。
 私は部屋を見渡した。鼻につく匂い。微かに残る女の残り香。
 春子と、夏美。
 今日、夏美は途中で学校からいなくなった。
 さぼりかと思っていたけど、まさか兄さんの部屋にいたなんて。
 苛々する。
 私のいない間を狙って、私の兄さんに会いに行くなんて。
 許せない。
 夏美は兄さんの恋人なのに。兄さんに愛してもらっているのに。
 それなのに、私の家までやってくる。
 兄さんが一緒にいられる領域を遠慮なく侵していく。
 私から兄さんを奪っていく。
 夏美は兄さんの心も体も奪ったのに、兄さんと一緒にいられる時間と場所まで奪っていく。
 許せない。絶対に。
 私はため息をついて兄さんを見た。
 苦しそうに眠る兄さん。額に汗が浮かんでいる。
 私はハンカチを取り出して兄さんの汗をぬぐった。
 何かを探すかのように宙をさまよう兄さんの手。私はその手を握った。
 大きくて熱い手。
 私の手を微かに握り返す兄さん。まるでどこにも行かないでと言うかのように。
 昔を思い出す。時々だけど兄さんは風邪をひいた。
 お父さんも京子さんも村田のおばさんも忙しい人だったから、私や春子が看病することも多かった。
 私は兄さんが風邪をひくのが好きだった。
 兄さんが風邪を引けば、兄さんのそばにいられるから。
 苦しそうに眠る兄さんの手をずっと握っていられるから。
 兄さんが薄らと目を開けた。起しちゃったかな。
 焦点の合ってない瞳。不安そうに私を見つめる兄さん。
 「大丈夫よ。私は兄さんの傍にいる」
 私の囁きにほっとしたような表情を見せる兄さん。
 安心したような兄さんの表情が嬉しい。私で安心してくれた。
 「ゆっくり休んで」
 兄さんは微かに頷き目を閉じた。
 微かに兄さんの口が動く。何かを言おうとしている。
 私は耳を寄せた。
 「…あり…がとう…」
 弱弱しい声で囁く兄さん。
 兄さんの言葉に頬が熱くなる。
 嬉しい。
 兄さんはさらに何かを言おうとしている。
 私は耳を澄ました。
 「…ねえ…さん…」
 兄さんの囁く言葉に血の気が引く。
 何でなの。
 兄さんは安心したように私の手を握ったまま眠りに落ちた。
 私の手を握り、眠り続ける兄さん。
 でも、兄さんは私の手と思って握ったわけじゃない。
 何であの女なの。
 兄さんが握っているのは私の手なのよ。
108三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:44:47 ID:8APhhmLJ
 なのに何であの女を口にするの。
 あの女が兄さんにした事を忘れたの。
 私があの女を追い払ったのに、何で兄さんはあの女の事を口にするの。
 兄さんは何も言わずに眠っている。
 苦しそうだけど、どこか安心したように私の手を握ったまま眠り続けている。
109三つの鎖 22 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/22(火) 00:46:15 ID:8APhhmLJ
投下終わりです。
読んでくださった方、ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いします。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
110名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 01:01:34 ID:0mwb91xn
GJ!
待ってたよ〜

春子可愛いよ
が…これは春子に死亡フラグか…!?

夏美が真実を知ったらどうなるんだろ

いろいろ展開考えるの難しいかもしれませんが
楽しみにしてます。
111名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 01:29:01 ID:tJ0RMd6y
GJです
いやー、一行読み進めるたびに妙にハラハラさせられるわ
梓はまたもや爆発しそうだし、春子の態度にも言いようのない不気味さを感じる
夏美ちゃんすらも何だか精神的に危うくなってきたみたいだし、
先の展開が読めないなぁ…
112名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 05:14:28 ID:D1eaDuxX
まとめると…
幸一…夏美が一番大事、梓を早く警察に、春子お姉ちゃんには甘えられる。
梓…春子め許さん!!夏美泥棒猫め!!兄さんを取られたくない!!
春子…私だけの幸一君お姉ちゃんが守ってあげる。梓ちゃん昔に戻りたい(キス事件での嫉妬心は有り)夏美に理解と励ましをする(本音は不明)
夏美…お兄さんが居ないと生きて行けない、春子さんには適わない、梓にはいまだに友情を感じている。
普通に考えると今の所、幸一、梓、春子、夏美の中で梓の破滅フラグが一番高く、夏美が幸一と結ばれる確率が高い。
しかし夏美は依存ヤン化フラグが立っているし、春子は、本音は幸一君と結ばれたいと思っているので、泥沼化する可能性は有り。
まあ、一番救われないのは、幸一であろう。
113名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 08:44:44 ID:14PsJ815
春子、あの状況でさらっと嘘つけるのは女の怖さだよなぁ…

>>112
感想を書くならともかく
読めばわかることをわざわざ箇条書きで説明しないでくれ
冷めるから
114名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 11:43:33 ID:IV4+S8jL
確かにそろそろメインキャストの中から死人が出ないとな
115名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 16:51:20 ID:5prJvlVe
耕平「第23話が終わったら、俺……幸一に告白するんだ」
116名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 20:46:13 ID:0mwb91xn
ネタバレ

実は夏美が父親殺しの犯人!
痒い痒い痒い痒い痒いと首を掻きむしったり
彼氏や親友を殺そうとします。
117名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 21:50:25 ID:tz3wtLIf
>>116
それ面白いとでも思ってんの?
118名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 22:04:04 ID:zhF9hqzl
思ってんだろ。突っ込んでやりなさんな
119名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 22:07:41 ID:0mwb91xn
変な空気にしてしまい、すみません。
軽く流してもらいたかっただけなのです。
120転生恋生  ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:13:19 ID:jM5sXBOA
投下します。6レス消費予定。
121転生恋生 第二十一幕(1/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:14:21 ID:jM5sXBOA
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 夢を見ていた。
 夢だとわかるのに、夢の中の自分は現実のつもりでいる。そんな不思議な感覚に包まれていた。

 そこは電化製品も木製の家具もない、草を編んで組み立てたような、粗末な小屋だった。
 俺が普段住んでいる家とは似ても似つかないのに、俺はそこが自分の住処だと知っている。
 俺は着物を1枚羽織っているだけで、下半身丸裸で胡座をかいて、黒髪の美しい女が白い肌をさらしながら俺の股間に顔を埋めていた。
 ぴちゃぴちゃと音を立てながら、女は俺の猛っているモノをしゃぶり続ける。
 俺は女の奉仕を受けながら、指で女の髪を梳く。
 体は興奮しているのに、俺の頭はどこか冷めていた。
 目の前の女を、俺は確かに愛している。だが同時に、この女の愛情が最近少し重荷に感じられてきた。
 美しくて、気立ても良くて、一途で……、男としては理想的な女のはずだが、どこか重苦しいところがある。
 そんなことを考えているうちに、体の奥から熱いものがせり上がってくるのを感じた。
 察したように、女が口を離して顔を上げた。口紅を塗っているわけでもないのに、女の唇は艶めいて、目を逸らすことができない。
「旦那様」
 形の良い乳房を揺らしながら、女が体を起こして、にじり寄る。
「お胤をくださいませ」

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 目が覚めた。いつものように自分の部屋の天井が目に入る。
 だが、股間が熱くて、何かが乗っている重みを感じた。
 猛烈に嫌な感覚が走って、俺は自分の下半身に目を向ける。何故か俺は下半身丸出しで、激しく勃起していて、その上に姉貴が覆い被さっていた。
「姉貴!? 何をしている!?」
「あ、たろーちゃん、おはよう」
 姉貴は潤んだ瞳で俺を見上げた。だが、すぐに体を起こし、俺の上に馬乗りになった。姉貴は全裸だ。
「昨日、たろーちゃんが湯あたりして気を失っちゃったからできなかったけど、朝のうちに続きをしようと思って」
「続きって何だよ!?」
「もちろん、私とたろーちゃんが結ばれるの」
122転生恋生 第二十一幕(2/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:15:11 ID:jM5sXBOA
 俺の背筋を悪寒が突き抜けた。姉貴の股間にある茂みの中の口がぱっくり開いて、ぬらぬらと糸を引きながら、毒々しいほどに赤い深遠を見せつけている。
 本気で俺とハメる気だ!
「やめてくれ! 姉弟でこんなことしたら、本当にしゃれにならないぞ!」
「しゃれじゃないよ。本気だって言ってるでしょ」
 姉貴の目がすっと細くなる。
「いつまで待っても、たろーちゃんが千年前のことを思い出してくれないの、いい加減私もしびれを切らしたの」
 胸に痛みが走った。姉貴が指で俺の乳首を摘んだからだ。
「だから、先に体に思い出してもらおうかなって。あんなに私の体を求めてくれたんだもの。気持ちよくなれば、自然と私に逆らわなくなるわ」
 姉貴が俺のナニをつかんで、自分の縦筋にあてがう。
 やばい。本当にこれ以上はまずい。取り返しがつかないことになる。
「やめろ! 子供ができたらどうするんだ!」
「産んであげるよ。当然じゃない」
「学校に行けなくなるぞ! この先の人生どうなるんだ!」
「行けなくなるのは私だけでいいよ。家で赤ちゃんを育てることに専念するから……」
「そんなことできるわけないだろ!」
 とにかく、何とかしてこの場を凌がないといけない。俺にできることは……。
「んあぁっ!?」
 俺の上に腰を落とす寸前だった姉貴が、嬌声をあげて動きを止めた。
「そ……そんなこと……」
 悶えて、悩ましげな声を出す姉貴。原因は、俺がとっさに姉貴の秘所へ右の中指を突っ込んで、ナカをかき回したからだ。
「ん……くぅぅん……」
 姉貴のアソコなんか触りたくもないが、俺の貞操を守るためにはしかたがない。やれることは全部やる!
 中指で姉貴の膣内をかき回しながら、親指でクリトリスを攻める。濡れてグチャグチャになっているその部分は、たやすくいじり倒すことができた。
「あふんぅぅ……」
 姉貴はだらしなく涎を垂らしながら(その涎が俺の顔にかかる)、激しく上半身を揺らしだした。その揺れる乳房を、俺の空いている左手が掴んでまさぐる。
 実際のところ、童貞の俺にテクニックなんかあるはずもない。だけど、姉貴が感じているという手ごたえはあった。俺の勝機もそこにある!
「イッちまえ!」
 俺の手の動きは止まらない。姉貴はもう完全に受身になって、俺のなすがままだ。
 そして、そのときはいきなりキた。
「ひゃんぅぅっっ! くぅひっっ!」
 姉貴が大きく背を逸らし、股間から熱い汁が吹き出た。姉貴がイッた今がチャンス!
123転生恋生 第二十一幕(3/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:16:09 ID:jM5sXBOA
「うおおおおおぉぅっっ!」
 俺は右手でサオを掴むと、激しくしごく。すでに勃起状態だったそれは簡単に絶頂に達した。
 姉貴に負けず劣らず、激しい射精で俺は精液を姉貴の体にぶちまけた。一部は俺の腹にもかかる。
「ふはぁーっ……」
 快感と安堵感で、俺は大きく息を吐いた。一度射精してしまえば、姉貴も挿入できない。この場を逃れるにはそれしかなかった。我ながらナイス判断だったと思う。
 自分で自分を褒めてやりたいと思ったのはいつ以来だろうか。
「ふぁ……たろーちゃん……もったいない」
 姉貴が俺の腹に頬ずりして、飛び散った精液を舐め取る。気色悪い光景だが、俺は耐えた。今後のためにも、ここで姉貴を説き伏せないといけない。
「姉貴、頼む。子供だけは勘弁してくれ。それ以外のことなら、何でもするから。今みたいに、姉貴を気持ちよくしてやるから」
 俺の懇願に、姉貴は期待と不信の入り混じった視線を向けてきた。

 俺はとぼとぼと力なく登校の途にある。
 姉貴はあの後シャワーを浴びたが、俺は一緒に入りたくなかったし、かといって時間もないので、ウェットティッシュで体を拭いただけだ。だから体がべたべたする。
 結局、なんとか姉貴を説き伏せて、本番をするのだけは勘弁してもらった。
 でもその代わり、俺はこれから毎日姉貴と本番なしのプレイをして、姉貴を満足させてやらなければならなくなった。昔風にいうと夜伽だ。
 どこの世界に、実の弟を性奴隷にする姉がいるんだよ!
 もう、男としてのプライドを粉みじんに砕かれた感じだった。自分が情けなくて、泣きたくなる。
「ふんふんふふん〜♪」
 俺と無理矢理腕を組んでいる姉貴は、能天気な鼻歌を歌ってご機嫌だ。絞め殺してやりたい。力関係的に無理だけど。
 それにしても問題なのは、姉貴が普通に俺を勃たせられるようになったってことだ。ちょっと前までは、姉貴が触れた途端に萎えていたというのに。
 俺の体に何か深刻な変化が起きたんだろうか。
 そんなことを思い悩んでいるうちに、学校に着いた。
「それじゃあ、たろーちゃん。放課後ね」
 姉貴は機嫌よく3年生校舎に向かっていく。俺は思わずため息をついて、2年生校舎に入る。
 教室へ着いて自分の席に座ると、「おはよう」と無機質な声がした。返事だけ返して、俺はぼんやりと天井を眺めていた。
 暫くして、無機質な声がもう一度届いた。
「桃川君、具合でも悪いの?」
 声の方へ顔を向けると、猿島が俺を見つめていた。今更ながら、隣の席が猿島だったことを思い出す。
「ちょっとな」
 説明できるわけがない。話しかけてほしくないというポーズを示すために、俺は机へ突っ伏した。
「なら、いいんだけど……」
 猿島はそれ以上声をかけてこなかった。
124転生恋生 第二十一幕(4/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:16:56 ID:jM5sXBOA
 その日の午前中の授業は全く頭に入っていない。何をやったかも覚えていないし、後で確認したらノートも白紙だった。
 あっという間に昼休みになった。
「センパーイ! ご飯食べよ!」
 能天気な声で俺は我に返った。ポニーテールを元気に揺らしながら、司が手を振っている。
 そうだ、俺は司と恋人同士になったんじゃなかったか? 一線とは言わないが、半線……いや七割五分線くらいは越えたはずだ。
 司という希望が俺にはあったんだ。
「司! 行くぞ」
 俺は自分でも驚くほどの勢いで立ち上がると、教室の入り口に立っていた司の腕を掴んで、いつもの場所目指して歩き出した。
「ちょっと! どうしたのさ、センパ……」
 俺の背後で司が面食らっているのがわかったが、気に留めない。すれ違う同級生たちの視線も意に介さず、俺は司を引っ張っていく。
 ふたりの指定席になっている校舎裏へたどり着くと、俺は弁当そっちのけで司を強く抱き締めた。か細くて柔らかくて、腹の底から温かいものが湧いてくる。
「ご主人様……なんで今日は積極的なの……?」
「嫌か?」
「嫌じゃないよ。うれしいけど……」
 体を離してみると、司は多少顔を赤らめながらも、戸惑いの色を浮かべていた。
 本当のことを言うわけにはいかない。姉貴に嬲られた心の痛みを癒してもらいたいだなんて、言えるわけがない。
「俺なりの愛情表現だ。俺たち、もう恋人同士だろ?」
「元々主従関係のつもりだけど……」
 どうしてあれだけ積極的だった司が、この雰囲気でわけのわからないことを言うんだ?
「とにかくだ。俺は司を抱き締めたい」
「いいけど……ご飯にしない? ボク、お腹が空いた」
 色気より食い気かよ。がっかりするけど、まあ司らしいか。
「わかった。食べよう」
 俺たちは腰を下ろして、弁当を広げた。なんだか急に食欲が湧いてきた。
 いつもみたいに馬鹿話をしながら弁当を食い終わると、俺は司を抱き寄せた。とにかく、俺は自分が普通の恋愛ができる人間だと思いたかった。
「ねぇ、ご主人様」
「何だ?」
 俺としては司の感触を楽しみたかったが、司はずいと顔を寄せてきた。
「昨夜、どうして電話に出てくれなかったの?」
125転生恋生 第二十一幕(5/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:17:38 ID:jM5sXBOA
「昨夜?」
「携帯の番号交換したから、いっぱいおしゃべりしようと思って電話したのに、全然出てくれないんだもん」
 制服のポケットから携帯を出して着信履歴を確かめると、昨夜の20時から「犬井司」が10件並んでいた。メールの受信履歴の方も同様だった。
 そうか、昨夜は風呂場で湯あたりして倒れて、そのまま寝ちまったから気づかなかったんだ。
 でも、そんな事情を話すことはできないし、今後のことを考えると自宅に電話されるのはまずい。姉貴に睨まれる。
「昨夜はちょっと体調が悪くて、早く寝たんだ。ごめんな」
「そうなの?」
 半信半疑の顔をする司に、俺は申し訳なく思いながらも、電話は控えてほしいと頼むことにした。
「姉貴に睨まれるとまずいからさ……」
 見る見るうちに司の顔が怒りで歪んでいく。俺は司をなだめるために、強く抱き締めて、耳元に唇を寄せた。
「おまえにはすまないと思う。でも、辛抱してくれ。そのうちきっと、姉貴に理解してもらう。俺は司と真剣に付き合うつもりだから」
「……本当?」
「本当だ。今の俺は、本気で司が好きだ」
 最初は傍迷惑で鬱陶しい電波女だと思った。いや、今でもそう思わなくもない。
 だけど、それ以上に、俺を慕ってくれる司が可愛い。体に触れさせてくれる司が愛しい。早く司と体を重ね合わせたくてたまらない。
「おまえも、俺のこと好きなんだよな?」
 司の反応がない。    
 あれ? どうしたんだ? ひょっとして、何か失敗したか?
「司?」
 不安に思って司に向き直ると、司は顔を真っ赤にしていた。
「……ご主人様、ボクのこと、好きになってくれたの?」
「ああ、好きだ」
「……うれしいよぅ。……ひっく」
 司が声をあげて泣き出しかけたので、俺は反射的に自分の唇で口を塞いだ。泣き声を聞きつけて誰かが寄ってくるとまずい。
「ううぅぅ……」
 焼肉の味がしたけど、気にならなかった。キスしたまま、司はむせび泣いていた。
 司が落ち着くのを待って、俺は唇を離した。ちょっと酸欠気味だ。
126転生恋生 第二十一幕(6/6) ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:18:42 ID:jM5sXBOA
「えへへ……」
 照れ隠しに笑いながら指で涙を拭う司がいじらしくて、俺はまた司を抱き寄せた。今度は俺の手がスカートの裾から中に侵入して、太腿を撫で回す。
「ひゃん! ご主人様やらしーよ!」
「嫌じゃないだろ?」
「嫌じゃないけど……誰か来るよ? 風に乗って匂いがする」
 司の嗅覚は鋭敏だ。俺はおとなしく手を引っ込めて、司の体を離した。少しして、本当に女子生徒2人組が近くを通りかかった。
 ……まあ、並んで腰かけている分には、普通の学内カップルに見えるだけだし、問題はないだろう。
 通行人が見えなくなってから、俺は慎重に司の手だけ握った。
「なあ、体育倉庫に行かないか? この前の……」
「昼休みはもうすぐ終わるよ」
 司は左手首にはめた腕時計に目をやる。俺も携帯で確かめたが、本当にいつの間にか残り3分になっていた。
 ……意外と冷静だな、司は。俺は司と抱き合って、頭に血が上っていたっていうのに。
「それに、当分放課後は予約で一杯なの」
 そんなに利用されているのか、あのスペースは。
「……ボクもご主人様に可愛がってもらいたいな」
 再び頭に血が上りそうだ。遠まわしだけど、俺とヤりたいってことだよな。
「今度の土曜日、暇か?」
「土曜日は部活があるから、日曜日がいい」
「よし、じゃあ……」
 逢うのはいいが、どこでヤろうか。俺の家は無理だし、司の家も親がいるだろうからダメだよな。ラブホって、この近くだとどこだろう?
 俺の思考を読んだかのように、司がニヤニヤしだした。
「大丈夫。いい場所知ってるから、ボクに任せて。……それより、鬼につかまらないように気をつけてよ」
 鬼って、姉貴のことか。確かに、言いえて妙だな。俺の貞操を賭けた鬼ごっこってわけだ。
 司と初体験するつもりだと知れば、姉貴は怒り狂って、約束を反故にして俺を犯すだろう。事後に知っても同じことだ。
 いつまでも姉貴をごまかせるという保証はない。それなら、せめて童貞喪失は本当の恋人と普通に体験したい。
 決行は日曜日と決まった。それまで、何としても俺は貞操を守る。そう誓った。
 ……そのためにはこれから毎日姉貴を性的な意味で満足させて、不信を抱かせないようにしないといけない。実に気が重い……。
127名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 00:19:12 ID:tgNM+oRx
重い鬱展開です。ヒロインが個々で魅力的なのでanother-endも展開に拠ってはお願いしたい所。
梓は「愛深き故に堕つ」仮に他の2人を抹殺できても、幸一まで敵に回っては救われない展開で哀れです。手札的伏線は後一つ有るけど…
夏美も梓よりマシですが幸一しか拠り所が無く、依存症、人格崩壊の危機で心配です。
春子は梓に殺され無ければ一人勝ちの可能性も出てきましたね、夏美に対する本音を是非聞きたいです。
個人によって好き嫌いは有るだろうが自分としては今は三人のヒロイン全員の幸せを願う。
128転生恋生  ◆.mKflUwGZk :2010/06/23(水) 00:20:18 ID:jM5sXBOA
投下終了です。しばらく姉エロ・わんこデレが続きます。
129名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 00:22:37 ID:tgNM+oRx
割り込みすいません転生恋生投下嬉しいです。
130名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 00:30:00 ID:DVhjJtkw
GJ!
続きがめっさ気になります。
エロもデレも楽しみです!
131名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 01:57:02 ID:byBjyYCe
お姉ちゃんかわいいよお姉ちゃん
司もかわいいなー
でもお姉ちゃんおもかわいい
132名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 10:00:04 ID:6ckW8VJh
GJ!
千年前の記憶さえ戻れば姉ちゃんの勝ちかと思っていたけど
今回の夢を見る限りだと、そう単純な話でもなさそうだな
133名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 21:56:44 ID:MF2CJlun
134名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 23:27:42 ID:MF2CJlun
135名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 23:56:27 ID:/EFp8o41
規制うぜー
136名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 00:05:04 ID:lPFkQA9T
キモウトにナデナデされたい
137名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 00:09:16 ID:a80Rm84S
GJ!
キモ姉とワンコのバトルが楽しみ
138名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 05:30:41 ID:9AftJNrL
じ、じじgjです。
ぼ、僕虐められっ子です。虐めっ子から5分間ボコボコにされるのと、5分間キモウトの胸を揉むのと、どちらが良いと言われました。
勿論殴られるのは嫌だけど、キモウトの胸を揉んだら、ぼ、僕どうなって、しし、しまうんでしょうか?(妹は顔は可愛いです。)
139名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 06:20:06 ID:5N8syZ/7
じ、じじgjです。
ぼ、僕虐められっ子です。虐めっ子から5分間ボコボコにされるのと、5分間キモウトの胸を揉むのと、どちらが良いと言われました。
勿論殴られるのは嫌だけど、キモウトの胸を揉んだら、ぼ、僕どうなって、しし、しまうんでしょうか?(妹は顔は可愛いです。)
140名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 11:26:59 ID:4lPRHCqY
>>139しね
141名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 15:11:06 ID:sR28iwUE
142名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 15:38:49 ID:chR022KU
>>139
虐めっ子にキモウトを差し出すキモウトNTRルートで
143名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 15:56:44 ID:cAAnOVLv
>>142
虐めっ子死んじゃう!
144名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 16:49:05 ID:k7e5otLg
虐めっ娘「私を取るかあの女を取るか選びなさいよ!」
145名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 18:05:39 ID:OIAdu7yX
というかすでに虐めっ子もキモウトに脅されてそんな提案してんじゃね?
146名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 19:06:31 ID:id89XcdN
キモウト「虐めっ子から5分間ボコボコにされるのと、5分間私の胸を揉むのと、どちらが良い?」
147名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 10:45:04 ID:DVsCnojc
無い胸は揉めないのだ
148名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 11:01:49 ID:VcWpjFGG
149名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 13:00:35 ID:s3OWjzIe
150名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 13:01:41 ID:RsVNgp5m
>>146
兄弟「あ〜、ちょっとボコボコにされてくる」
151名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 13:27:47 ID:VcWpjFGG
152名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 15:04:34 ID:+HLPdrYi
二人暮らしで相思相愛の幸せな兄妹の家に
空気の読めない従姉妹が進学を口実に同居することになって
フラストレーションを溜めた妹が徐々に壊れていく話が書きたい

……いや書きたいんだけど規制続きでさっぱりSSを書く気力が湧かないんだ
言い訳だってことはわかってるのだが……
153名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 15:53:40 ID:uNcUKebn
保管庫に従姉妹の同居が決まってガックリする所で終わるキモ姉の話は有るよ。
154152:2010/06/25(金) 16:54:39 ID:+HLPdrYi
>>153
おお……
同じようなこと考える人はいるものだ
途中で終わるところをみると短編ぽいですな
探してみよう……
155名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 23:11:07 ID:2tcpBXEm
鎖と転生待ちage
156名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 23:20:16 ID:xJIJeXaq
未来と桔梗待ちage
157名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 23:21:48 ID:DUtSa3Da
最近作者様復活したから永遠のしろがくるで
158名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 00:48:25 ID:UYioB+U2
159名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 23:40:07 ID:UYioB+U2
160名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 02:37:39 ID:6g7O4GDT
このスレの長編は未完のが多くてどれを読むべきか迷うから、未完でお勧めを教えてくれ
今も連載してる作品とか、更新止まってるけどお勧めのものとか
ちなみにノスタルジイは読んだ
161名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 02:38:57 ID:rBaiSeA4
全部読むよろし
162名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 04:02:16 ID:95uDJpBp
定期的にこの話題出るな

趣味嗜好の情報もなしに、ただお薦めなんて言われても出せるわけないだろ
荒れるし
このスレには幸いにも保管所があるし、自分で探してくれとしか言えんな
163名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 12:38:53 ID:HGdaScGH
ほんとになあ
未完の続きが読みたくて仕方ない
どうやら続いている作品もペースをもっと早くしてくれると・・・せめて月イチとか
うん、わがまま言った
164名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 18:28:08 ID:5lS7AN5o
読者は黙って全裸待機!
何年でも待って投下された時は暖かく迎えればいいのさ。
165名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 19:59:20 ID:NKMB+eQI
>>164
そこまで卑屈になることはない
166名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 23:40:07 ID:GqQ2dcdl
167名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 00:06:37 ID:bSsN81+h
日曜の某アニメを見て思いついたが男装キモウトとか良いね‥ホモ!?うぜーと思ったらGJだったと言う……
168名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 01:22:32 ID:hyVALc+r
中身は女だけど外見口調その他はあくまで男として迫ってくるわけか…難易度高いなあ
169名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 01:27:53 ID:BFOddQqH
実は妹である事を兄にすら気づかせないキモウト
知っているのは両親のみ
170名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 02:59:30 ID:wge8tNTx
>>165
……卑屈?
>>164が卑屈に見えるのならちょっとおかしいんじゃない?
作者の義務と読み手の権利を拡大解釈しすぎているような気がする

書きたければ書いて投下すればいいし、読みたければ読めばいい
それだけのことでしょ?
171名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 03:45:49 ID:jlfzPp0P
そのとおりだが、
一行レスの奴相手にムキになっても仕方ない
172名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 04:42:57 ID:hyVALc+r
最近暑くなってきたしなー
今から自己冷却できるようにしとかないとなー

うちの姉ちゃんみたいに俺見てハァハァ言いながら顔真っ赤にして倒れたりするからなー
173名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 08:36:42 ID:AsFFzZMn
冬は暖房がいらなくなるな
174名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 14:42:00 ID:2PQdYjk5
冬はあったか、キモ姉肉布団
175名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 14:53:26 ID:RTbKDnZj
いまは夏の手前だ…!
176埋めネタ:2010/06/28(月) 16:29:59 ID:bSsN81+h
「どう言うつもりだRX7…」
「……………………」
メイドロボットに監禁されてから、一週間が過ぎようとした。
「テキセッキン、キョリ200メートル」
「!!!!!!!!」
モニターに映るのは俺のフィアンセの美沙子。
「ショウ君今助けてあげるからね…」
美沙子は屋敷の門を飛び越えて侵入しょうとしていた。
「やめろ〜美沙子…やめろぉおおおお」
「ゲイゲキカイシ…マイクロミサイル‥ハッシャ」
「RX7やめて…くれ‥やめてくれぇえええ……」
マイクロミサイルは一斉に門に向かって飛び放ち門ごと周囲を跡形もなく吹き飛ばした。
「う…う…うう…うわぁああああ」
今年の秋にはハワイでの挙式が決まっていたのに…アレほど喜んでくれたのに…ああ…美沙子…
「…ヤッタ…トウトウ…アノ…ドロボウネコヲ…」
「!!!!!!!!!!!!!!!」
この台詞…まさか…
「ゲイゲキシステムカイジョ…カンシモードニイコウシマス」
「RX7…いや…姉ちゃん…お前姉ちゃんだろ!!」
美沙子との結婚に最後まで反対して、ある日突然行方不明になった姉…たしか彼女は科学アカデミーに勤務していた筈…
「あははははは〜ショウ君流石ね…そうよ…RX7は姉の記憶を埋め込んだアンドロイド…」
「…ほ、本物の姉ちゃんは、どこに…」
「本物?…今は私が本物よ…ショウ君…」
その時…ドカンとドアを破壊する爆発音が…
「そこまでよ…」

「み、美沙子…」
「おのれ…泥棒猫…どこから…」
「地下からよ……お姉さん…いやRX7、あなたがオリジナルのお姉さんを殺した事も分かってるわ」
「…フフフ…姉は私一人だけで良い…そして…ショウの傍にいるのも…」
「ハハハハお前の弱点は分かっているわこのメインシステムを破壊すれば…」
「や、やめろ…泥棒猫め…」
美沙子は銃を構えるとRX7の頭の辺りに銃弾を放った。ズキュウンンン〜!!!!!
「く…ga…おの…re…ど…ろ…棒猫…me…」
パチパチと身体から放電しているRX7…どうやら動けないようだ…
「今のうちよショウ君…」
「ありがとう美沙子…」
美沙子は俺の手を引いて急いでその場を離れた。
「にが…すと…おもう…か…」
カチッ…RX7は最後の力を振り絞りあるボタンを押した。
その瞬間周囲は閃光に包まれた。
■■■■
「臨時ニュースを申し上げます。今日午後四時頃〇県にて核爆発が起こりました。死傷者は二十万人以上と推定されます。政府は国際テロリ…」
177名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 16:32:34 ID:MdAxwbEq
認識 ある できる
178名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 16:35:10 ID:2PQdYjk5
容量まだたっぷり残ってんのに埋めんなwww
179名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 20:07:04 ID:3upq5cxq
あまりにも暑い場所だと人とくっついていた方が涼しいこともあるんだぜ…?
180三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:22:25 ID:IlOARWYJ
三つの鎖 23 前編です

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します
181三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:23:39 ID:IlOARWYJ
三つの鎖 23

 朝のホームルームを告げるベルが鳴る。
 幸一の席は今日も誰もおらへん。
 あいつ、今日も休みかいな。
 「田中?」
 前の席の奴が怪訝そうに俺を見る。その手にはプリント。
 こらあかん。ぼんやりしとったみたいや。
 プリントを受け取り後ろに回す。
 前で先生が何か説明しとるけど、頭に入って来ない。
 幸一が学校を休んでもう一週間は立つ。
 あいつは健康やし鍛えとる。滅多に体調を崩さへん。仮に体調を崩して欠席しても、次の日には平気な顔で登校してくる。
 そんな奴が一週間も学校を休んどる。何があったんや。
 学校には妹さんが連絡しとるらしい。体調不良やと。
 最初こそすぐに治ると思っとったけど、ただの体調不良やないんか。
 村田は何も知らへんみたいや。見舞いにも行っとらへんらしい。
 これはこれでおかしな話や。あれだけ仲がええのに、見舞いの一つもせえへんなんて。
 今日の昼にでも妹さんのとこに行って幸一の様子を聞いてみるか。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 コンビニのパンで膨れた腹をさすりつつ廊下を歩く。
 足取りは重い。俺、幸一の妹さんが苦手やねん。
 幸一の妹の梓ちゃん。綺麗な子やけど、怖い。
 以前は不機嫌でちょっときついぐらいやったけど、最近は何かホンマに怖い。
 この前もそうや。幸一が最後に登校した日。結局、早退したあの日。
 あの日のお昼に梓ちゃんはお弁当を片手に教室に来た。せやけど幸一は早退しておらへん。
 俺は村田が幸一を送った事を言えんかった。
 あの時の梓ちゃんは普通やなかった。
 ブラコン気味な妹が兄貴と一緒にお昼を食べに来たのとは何か違った。
 うまい表現が浮かばへんけど、とにかく普通やなかった。
 村田は幸一を送ってから結局そのまま戻って来んかった。
 せやから村田はこの時教室におらんかった。梓ちゃんも幸一を送ったのが村田やって分かったと思う。
 無表情に教室を見渡す梓ちゃんに背筋が寒くなるものを感じた。
 村田は村田で様子がおかしい。最近、お昼休みになった途端に教室を出ていく。今日もそうや。
 一緒に来てもらおうかと思ったのに、どこに行ったんやろ。
 そんな事を考えていると梓ちゃんの教室に着いた。
 中を覗くと、梓ちゃんはぼんやりと扇子で顔をあおいどる。
 いつものポニーテールやなくて、艶のある髪が背中に流れとる。これはあれや、幸一が臥せっとるからやろ。
 白い手には扇子。百均で売ってるような安物やなくて、一目で職人が作ったと分かる品のある一品。
 そんな梓ちゃんと向かい合って夏美ちゃんがぼんやりと座っとる。
 違和感を感じる光景。二人とも何か話しとるわけやない。ただ単に向き合ってぼんやりしとるだけ。
 夏美ちゃんの様子もおかしい。あれだけ元気で快活な子やのに、ぼんやりとしとる。梓ちゃんの方を向いとるけど、梓ちゃんの事を見ているわけやなさそう。
 あかん。変な先入観を持ったらあかん。
 俺は二人に近づいた。
 「梓ちゃん」
 梓ちゃんは無表情に俺を見た。夏美ちゃんも振り向いた。
 「こんにちは」
 「何か用ですか」
 うおっ。無表情に言われるとホンマに怖い。
 「幸一の調子はどない」
 俺はいきなり要件を切りだした。世間話してもしゃあないわ。
 「熱は少し下がりました」
 ふむ。一応体調は良くなってきてるんかいな。
 夏美ちゃんの様子がおかしい事に気がつく。なんかそわそわしとる。
 「今日の放課後にお邪魔やなかったら幸一のお見舞いに行ってええかな」
 露骨に嫌な顔をする梓ちゃん。
 その様子に嫌な予感がする。ホンマに幸一はただの体調不良なんか。
 「幸一がこんなに休むなんて初めてやからさ、心配やねん」
 梓ちゃんは渋い顔をしていたけど、やああって口を開いた。
182三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:24:53 ID:IlOARWYJ
 「兄さんの体調はまだ万全ではないです。その事に配慮してくださるのでしたら、構いません」
 この子が考えた事が手に取るように分かった。本当は来てほしくないけど、断ったら変に疑われそう。
 ますます嫌な予感がする。幸一は無事なんか。
 「ありがとう。今日の放課後にお邪魔するわ」
 夏美ちゃんはそわそわしながら俺と梓ちゃんを見比べた。
 その様子にピンと来た。夏美ちゃんも見舞いに行きたいんやな。
 「夏美ちゃんも一緒にこうへん?」
 夏美ちゃんはびっくりしたように俺を見た。眼をきょろきょろさせながら落ち着きのない様子。
 どないしたんやろ。何を迷ってるんや。
 梓ちゃんをちらっと見て夏美ちゃんはうつむいた。
 「いえ。結構です」
 言葉短く断る夏美ちゃん。その表情は暗い。
 何かあったんか。気になるけど、ここで聞く事やない。
 「そう。梓ちゃん、放課後に家にお邪魔するわ」
 梓ちゃんは微かに頷いただけで何も言わなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 夢だと分かっていた。
 夏美ちゃんが全てを知り、泣きながら僕を責め立てる。
 何で梓が雄太さんを殺したのかと。
 夢だと分かっていても、心がかき乱れる。
 はやく、覚めて。
 夏美ちゃんが泣いている姿なんて、夢でも見たくない。
 この悪夢から、覚めて。
 そう願うと、誰かが僕の手を握った。
 温かくて柔らかい感触。
 この感触を僕は知っている。

 見知った天井が目に入る。自分の部屋の天井。
 右手にひんやりとして柔らかい感触。
 「幸一くん。起きた?」
 顔を向けると、制服姿の春子がいた。ベッドに腰をかけ、僕の手を握ってくれていた。
 その事が嬉しくて恥ずかしい。
 「起きられる?」
 僕は春子に手伝ってもらって上半身を越した。全身が熱っぽい。体調は最悪。
 春子の差し出したペットボトルを口にした。熱っぽい体にスポーツドリンクがしみこむ。おいしい。
 「春子?学校は?」
 「今はお昼休み。幸一くんの事が心配で走ってきたの」
 そう言って春子は笑った。
 柔らかい笑み。その笑顔を向けられるだけで悪夢に脅える心が落ち着く。
 僕が寝込んでから、春子は毎日のようにお昼休みにお見舞いに来てくれる。
 それがどれだけ嬉しくて、心強く感じるか。
 「ごめん」
 「そこはありがとうでいいよ」
 「…ありがとう」
 春子は笑って立ち上がった。机の上にあるお椀とスプーンを手に僕の隣にちょこんと座った。
 「お粥作ったけど、食べられる?」
 「…あまり食欲がない」
 春子はスプーンでお粥を掬い、僕の口元に持って来た。
 「食べないと元気になれないよ」
 僕はスプーンを口にした。
 思わずむせかける。熱い。
 「あれ?大丈夫?」
 涙目になりつつも何とか飲み込む。春子の差し出したコップを口にする。中身はぬるめの緑茶。
 「熱いよ」
 「ごめんね」
 春子は笑いながらもう一口掬った。
 「ふー、ふー」
 自分の息でお粥を冷ましてから春子は僕の口元にスプーンを持って来た。
183三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:26:43 ID:IlOARWYJ
 恐る恐る口にする。今度は大丈夫。
 薄味で食べやすい。
 「どうかな?」
 「…おいしいかも」
 「本当?もっと食べてね!」
 春子はにっこり笑ってお粥を掬った。息でふーふー冷ましてから食べさせてくれる。
 「自分で食べるよ」
 「だめ。お姉ちゃんが食べさせてあげる」
 笑顔でスプーンをつきつけてくる春子。
 なんだかんだで全部食べる事ができた。
 「ごちそうさま」
 春子は立ち上がった。
 「ごめんね。もう行かなきゃ」
 時計を見るとあまり時間が無い。午後の授業に間に合うためには、もう出ていかないといけない。
 春子が行く。そう思っただけで心細く感じてしまう。
 昔から体調を崩した時、春子はいつもそばにいてくれた。
 病気で心細い時、いつもそばにいてくれた。
 「幸一くん」
 ベッドに腰をかけている僕の目の前に春子は来て、僕を抱きしめた。
 春子の胸の柔らかい感触。後頭部に春子の手が添えられる。
 「寂しそうな顔をしないで。お姉ちゃん、行きづらいよ」
 頬が熱くなる。
 そんなに心細そうな表情をしていたのか。
 「僕は大丈夫」
 「うそつき」
 春子はそう言ってニッコリと笑った。
 「お姉ちゃん行くね。お大事に」
 そう言って春子は去って行った。
 部屋が広く感じる。この部屋ではいつも一人でいるのに。
 すぐに眠気が襲う。僕は目を閉じた。
 悪夢は見なかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は一階に下りてキッチンで洗い物をした。
 持参したキッチンタオルで食器の水気を拭い元の場所に片づける。
 梓ちゃんの用意した幸一くんのお昼ご飯に使われていた食器も洗う。幸一くんの体調を考慮した病人食。
 こっちは私が食べた。捨てるのはもったいなかったし、梓ちゃんのご飯はおいしかったから。
 それでも幸一くんに食べてもらいたいのは私の作ったご飯だけど。
 幸一くん、すごく疲れている。
 無理もない。梓ちゃんの事で、とても悩んでいるのだろう。
 この家の盗聴器で入る音声は全て録音している。
 それをチェックしていた時、信じられない会話が聞こえた。
 幸一くんと梓ちゃんの会話。
 夏美ちゃんのお父さんを殺したのは梓ちゃんだと。
 私は笑った。幸一君が悩むわけだ。
 梓ちゃん、本当にひどいよ。
 幸一くんがこんなに困っているのに。
 やっぱり、私がいないと幸一くんも梓ちゃんもだめだよね。
 そんな事を考えながら私は食器を洗い、幸一君の家を出た。
 急いで帰らないと。お昼休みは残り少ない。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 見舞いの品を片手にインターホンを鳴らす。
 しばらくの静寂の後、ドアが開いて私服姿の梓ちゃんが顔をのぞかせた。
 「こんにちわ。幸一の見舞いに来たで」
 「…どうぞ」
 にこりともせずに梓ちゃんは言った。あかん。めっちゃ帰りたい。
 「大したものやないけど、見舞いの品。どうぞ」
184三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:28:32 ID:IlOARWYJ
 「…ありがとうございます」
 俺の差し出した袋を梓ちゃんは無表情に受け取った。ちなみに中身は果物の詰め合わせ。
 「兄さんの部屋まで案内します」
 「ありがとう」
 何回も来たから知っとるんやけど。
 そう思いつつも梓ちゃんを先導に二階に上がる。
 梓ちゃん、目のやり場に困る服装や。
 ホットパンツに肩がむき出しのキャミ。白くて細い素足が妙に艶めかしい。
 梓ちゃんを知った時から、いつもこんな格好や。幸一いわく、暑がりらしい。
 幸一の部屋の扉をノックする梓ちゃん。
 「兄さん。耕平さんが来たわよ」
 「どうぞ」
 久しぶりに聞く声。聞く限りはいつも通り。
 梓ちゃんは扉を開けた。
 幸一はそこにいた。
 ベッドの上で上半身を起こしてこっちを見ている。
 「久しぶりやな。元気にしとる?」
 「まあまあかな」
 そう言って幸一は笑った。顔色は悪くない。
 わずかに頬がこけた気がしないでもない。一週間も寝込んどったら多少痩せてもおかしくはない。
 「体調悪いて聞いたけど調子はどないなん」
 「まだ熱っぽいかな」
 俺は幸一の額に触れた。
 ふむ。推定八℃五分。そこまで高熱なわけやない。
 「自分なー、心配したで。一体どないしたん?こんなに学校休むの初めてやろ」
 「僕も良く分からない」
 「村田も何も知らへんて言っとったから何かあったんかと思ったで」
 俺は思わず振り返った。
 背後からよく分からん得体のしれない何かを感じたからや。
 そこには梓ちゃんがおるだけ。
 相変わらずの無表情で俺らを見ている。
 それだけやのに、背筋が凍えそうな威圧感を感じる。
 「梓。耕平に何か飲み物をお願いしていいかな」
 「…分かったわ」
 梓ちゃんは静かに部屋を出た。
 その後ろ姿を見送ってから俺は額を拭った。汗でべっとりや。
 「幸一。自分、何かあったんか」
 何も言わない幸一。梓ちゃんによく似た無表情やけど、瞳には苦悩が渦巻いているのが一目で分かる。
 似ているのか似ていないのかよく分からない兄妹。
 「困った事があったら何でも遠慮せずに言ってな。俺に出来る事なら何でもするで」
 「…ありがとう」
 言葉少ない幸一。
 「夏美ちゃんの様子もおかしかったで。あれだけ元気な子が何か暗かったわ」
 微かに幸一の瞳の色が揺れた気がした。
 「あれだけの事があったから仕方がないかもしれへん。ただ、一緒に見舞いに行こうって言っても、梓ちゃんをちらっと見てから断ったで」
 幸一の表情が曇る。分かりやすい奴や。ここは梓ちゃんと違うわ。
 しかしホンマに何があったんや。梓ちゃんと夏美ちゃんが喧嘩したんか?いや、それやったら今日のお昼に一緒におるはずがない。
 夏美ちゃんの事も気になる。あれだけ健気で芯の強い子が何で幸一の見舞いに来うへんねん。何か梓ちゃんの事を気にしてたみたいやし。
 村田も何か関わってるんか?さっき村田の名前が出た時の梓ちゃんの様子がおかしかった。
 ホンマに訳が分からへん。
 そんな事を考えていると、ノックがして梓ちゃんが入ってきた。片手のお盆の上には色々ある。林檎の甘い香りがする。多分俺が持って来たやつや。
 梓ちゃんはお盆を置いてスプーンと小皿を取り出した。小皿にはすりおろした林檎がはいっとる。
 梓ちゃんは幸一の隣にちょこんと座った。すりおろした林檎をスプーンで掬い、幸一の口元に持ってくる梓ちゃん。
 「あーん」
 梓ちゃんは笑顔で言った。頬は微かに朱に染まっている。
 幸一は何も言わずにスプーンを口にした。
 「兄さん、おいしい?」
 疲れた表情で頷く幸一。
 「えーと、梓ちゃん?」
 「飲み物でしたらお盆にあるのをどうぞ」
185三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:29:22 ID:IlOARWYJ
 冷たい視線を俺に向ける梓ちゃん。その視線は雄弁に語っている。邪魔するな。
 俺はお盆の上のコップを手にして口をつけた。スポーツドリンク。
 「あーん」
 梓ちゃんは幸一にすりおろしたリンゴを食べさせている。ものすごく幸せそう。
 謎は全て解けたわ。
 俺が見舞いに行くのを梓ちゃんが嫌がった理由も、夏美ちゃんの元気が無くて見舞いに行かない理由も、村田が弟分である幸一の見舞いに行かない理由も、全て分かったわ。
 そりゃそうやろ!?実の妹がこんなに甲斐甲斐しく看病しとったらそらそうなるわ!!
 見てや今の俺!完全な空気やん!
 梓ちゃんが俺の見舞いを嫌がった理由は、幸一と二人の時間を邪魔されたくなかっただけやろ!
 夏美ちゃんの元気が無いのも納得やわ!彼氏の妹がこうやったらそら元気も無くなるし見舞いに行きづらいに決まっとるで!
 村田が見舞いに行かないのもこれが原因やろ!そら行きづらいし、梓ちゃんも歓迎せえへんわ!
 疲れ切った表情で梓ちゃんに林檎を食べさせてもらっている幸一。
 幸一の体調不良が長引いとるんも、梓ちゃんの看病が原因ちゃうんか?
 俺は天を仰いだ。何か心配して損したわ。
 「幸一。俺帰るわ」
 「もう帰るのか」
 幸一が俺を見る。その瞳が必死に訴えてくる。帰らないで。
 梓ちゃんも俺を見る。その瞳が雄弁に語る。さっさと消えろ。
 すまん、友よ。
 「はよ元気になりや。いや、見送りはいらんよ。お大事に」
 ベッドから降りようとする幸一を制して、俺は部屋を出た。
 階段を下りて玄関で靴を履き、家を出る。
 当然のごとく、梓ちゃんは見送らなかった。
186三つの鎖 23 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/06/28(月) 22:30:20 ID:IlOARWYJ
投下終わりです。
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187名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 23:08:32 ID:jYNbbTWV
乙です。
188名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 23:24:13 ID:HUpzDfzD
乙っす、梓可愛いわ〜
189名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 23:46:53 ID:4yTBEsBg
GJです
春子は何をする気なのか…
そして幸一くんは心身ともにボロボロだなぁ
こんなにも同情の念を覚える主人公は初めてだ
190名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 00:03:56 ID:9SBXyYJ4
GJ…梓はラスボスフラグが立ってる……全員が敵に回りつっある。ラスボスの最後は……哀れかな。…夏美もどんどん鬱状態が強くなり心配。…春子だけは年の功か?……梓を葬り、夏美を退けるか!?姉キャラは好きなのでそれでも良いかな?
191名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 00:37:09 ID:FNsLYLra
GJ
まあ…ヒロイン3人が全員完結時に存命って事は無さそうだな…
192名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 12:08:26 ID:U6RJiFDc
これは梓が幸一君の看病に味しめて服毒させてるってのも有り得るんじゃなかろうか?
心因的なものも会わせてこれから更に悪くなりそうだなおい
193名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 13:14:08 ID:gBAcmmdX
ヤンデレに好かれるってのは精神的にも肉体的にも疲れちゃうんだな
194裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:24:33 ID:MbMb5Pj5
今晩は
表題の通り投下をさせて頂きます。
初投稿で至らない点が有るかと思いますが、よろしくお願いします。
※パラレルワールドです。
195裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:25:28 ID:MbMb5Pj5
「いまさら1億円ですか……。」
思わず頭を抱えてしまった。
「話には聞いていましたが、本当にそういう額になるものですね。」
医師はこちらの顔を伺いながらおずおずと答える。
「はっきりと言ってしまえば、臓器売買ですので。」
1億か、今までに使った額がそれくらいあったかもなぁ。
もっと早くそう言ってくれば、役に立たない検査なんぞに使わなかったのに。
今までこいつが遊んでいたわけではないのは分かる。
分かるが、その首を絞め上げてやりたくなる。
「いつまでに、必要ですか?」
「手術に耐えられる体力を考えますと、一月ぐらいでしょう。」
「一月以内に1億円、悪い冗談みたいですね。」
頭の中で今有る流動資産の額を考える。ああ、多く見積もって6000万は足りないな。
こちらの算段がひと段落ついたところで先生が切り出す。
「その、従来どおりの治療を続ければ、あと三年は大丈夫だと思われます。」
要は諦めて、余生をどう過ごさせるかを考えろと言うことか。
常識的に考えればそうだろう。だが、そういうわけにはいかない。
夜澄をこんなところで死なせない。あいつの人生をずっと独りで、寂しいままで終わらせるものか。
「いえ、手術をしてください。一月以内に用意します。」
俺は先生に挨拶をして診察室を出た。
方法は有るんだ、手を尽くせば有る筈なんだ、そう言い聞かせて。
196裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:27:47 ID:MbMb5Pj5
話は4時間前に遡る。

××総合病院受付と書かれた窓口に座っている事務のおばちゃんに挨拶をして階段を上る。
四階の左端、特別個室「永瀬 夜澄(ながせ やすみ)」と書かれた部屋のドアをノックする。
「どうぞ」
「こんにちは、夜澄」
「こんにちは、宗一兄様。13時00分、いつも通り午後の面会時間きっちりですね。」
そういって少女がにこりと笑う。
夜澄、随分年下の、9歳程歳の離れた俺の大事な妹だ。

夜澄を一言で表すならば人形のような少女だと思う。
白い肌に澄んだ黒い髪。
笑う表情は上等の人形師が作り上げたように端整だ。
そして、そのような傑作は大切に箱の中へ仕舞われるように、夜澄もこの病室から出られない。

「邪魔だったかな?」
「いえ、兄様がいらっしゃらないときはこれ位しかする事もありませんから。」
そう言って、ベッドに腰掛けていた夜澄が櫛をテーブルに置く。
絹のような髪、丁寧に梳かれた長い髪は本当に上等な布のように見えてきれいだ。
ただ、それを見られるのがもう俺以外にはいないのが残念だが。
「体調はどう?」
「ええ、昨日と一緒ぐらいです。」
という事はここのところは小康といったところだろう。
「だんだん良くなっているんですよ。ふふ、早く戻って一緒に暮らしたいですね。」
「そうだな・・・・・・。」
夜澄には心臓の病気が有る。本人には言えない事だが原因が不明だ。
医者が言うにはだんだんと心臓が弱くなっているにも関わらず、どう検査してもその他の兆候が何も見られない、
見た目は変わらないのにゆっくりと死に向かっているそうだ。
「ところで、昨日の夜は何をしていらしましたか?」
「ああ、いつもどおりバイトだよ、昨日は・・・・・・。」
そういって、昨日のあったことの話を始める。
まあ昨日あったことと言っても実に取り留めの無い話ばかりだ。

例えば、いさきの有無をしつこく聞く客、つうか、いさきしかねぇよこの店。
あと、なんで愛称がお兄ちゃんなんだ、俺の兄妹は夜澄だけだ!! 等々。

ん、俺の紹介がまだだったか。地元で中高年の男性から莫大な支持を得ている居酒屋「いさき船」で
調理助手をしているフリーター、永瀬 宗一、20台後半の「お兄さん」だ。
おじさんでは断じてない。

「くすくす、それでその新規のお客さんはどうされたんですか?」
「結局食べたよ、季節の野菜とカニ尽くし鍋(イサキ入り)。・・・謎なんだが、あの店ではイサキ抜きは出来ない。
かに鍋(イサキ入り)カニ・野菜・出汁抜きは出来てもイサキ抜きは決して出来ない。
何を頼んでもイサキが付く、土手焼き(イサキ入り)、アジの叩き(イサキ入り)、・・・」
・・・イサキ、イサキ、イサーキ、イサァーーーキ!! (立ち上がる周りの客)、歌うな。
「はあ、頭がおかしくなりそうだ。・・・・・・なあ、何かイサキに意味でもあるのか?」
ちょっと困った顔をしてから答える。
「さあ? 夜澄はイサキが特別おいしいとは思いませんが?」
「だよなあ?」
「くすくす、楽しいお店ですね、一度行ってみたいです。」
「いやまあ、楽しく無いわけではないけど、・・・・・・止めたほうが良いよ。なんか生臭いからあの店。」
くすくす、と控えめに夜澄が笑う、それが鈴の音のようで耳に心地良い。
197裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:30:12 ID:MbMb5Pj5
「さて、もう三時です。ちょっとお茶にしましょうか?」
そう言っていつもどおりお茶を煎れ、お菓子を出してくれる。
ほぅ、今日はほうじ茶と葛桜か。
さすが夜澄、お兄様のツボを良く抑えてらっしゃる。
お茶を啜りながら、家に帰ったら部屋をこうしよう、食事当番は、と夜澄が語りだす。
熱の入った様子で矢継ぎ早に家の事を言う妹、その様を見るのが痛々しくて辛い。
いつかはここを出るつもりなんだろうな、やっぱり。
「・・・聞いてますか? それで、お布団に猫を入れて湯たんぽにするんです。ほっかほっかですよきっと?」
「ああ、ついでにお兄ちゃんも入っちゃてもいいか? 猫たんよりホッカホカだぞ多分。」
「はい?」
「へ?」
ぽかんと口を開ける夜澄。
あ、やっちまった。
「ごめん、聞かなかったことにして。」
「くすくす、狼さんが入っちゃたら夜澄が食べられちゃいますよ?」
・・・・・・夜中まで居酒屋で働いているのでこの時間というのはどうしても眠くなり、
段々とアウトとセーフの境界が曖昧になってくる。

すると夜澄が俺の眠気を察したのか気を回してくれる。
「くすくす、そろそろお昼寝の時間ですか? はい、それじゃあどうぞ。」
そう言ってベッドの片側により、開いたスペースをぽんぽんと叩く。
俺はそこにゆっくりと寝そべる。
夜澄もそれに合わせるようにこちらを向いて横になる。
「いつも悪いな、窮屈な思いをさせて。」
「ふふ、良いんですよ、夜澄もこうしてると独りじゃないんだって落ち着きますから。」
笑顔の夜澄を見ながら眠りに落ちた。
198裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:30:57 ID:MbMb5Pj5
まだ高校生の頃の俺がまだ小さな夜澄の手を握って、ベッドの前に立っている。
夜澄は状況が理解できないのだろう、ただ必死の形相の俺の顔を呆けたように見つめている。
ベッドにはお袋が包帯グルグル巻きのミイラのようになって横たわっている。
またこの夢だ、ここが病院だからなのか、それとも夜澄の着物のせいなのか。
「宗一・・・、夜澄をお・・・願い・・・・・・。」
「お袋!!、いいから喋るんじゃない!!」
高速道路で後ろからトラックにぶつけられ、おやじは即死、お袋は重体だった。
「夜澄・・・、幸・・・・・・せ・・・」
「分かっている! 分かっているから、絶対に夜澄を幸せにするから! だから!!・・・」
夢の中の自分が必死にお袋に喋っている、いや、怒鳴っているといった方が正しい。
「宗一・・・、夜澄、・・・手を・・・・・・」
最期に手を繋ぎたいのだろう、お袋の肩がわずかに動いた。
・・・・・・でも、俺たちは繋げない。だってお袋の両手は根元から千切れているんだから・・・。
そのまま、心電図が弱まっていって、
199裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:31:37 ID:MbMb5Pj5
「おい!! お袋!!!」
夢から目が覚めた。寝汗を掻いた、シャツが濡れて気分が悪い。
眠っていたはずなのに体が重い、力が入らない。
「あら、お目覚めですか?」
布団とは違う感触がする。ベッドの上に正座する夜澄、そしてその頭に載る俺の頭、要は膝枕だ。
手にはタオルがある、どうやら顔を拭いてくれていたようだ。
「起こしちゃったのか?」
「いえ、先に目が覚めまして、兄様の顔を見ましたらとても苦しそうでしたので。」
「ああ、ありがとうな。」
夜澄の膝から頭を退かせ、ベッドに胡坐をかく。
「・・・・・・手、ですか?」
「ん、ああ。」
「きっと同じ夢を見ていたのですね? 夜澄を幸せにとおっしゃるおかあさま、そしておかあさまの手・・・。」
「分かってる、言わなくても大丈夫だよ。」
「はい・・・。」
俺たちは寝ていると、よくあの夢を見てしまう。
そして、それが恐らく一番古い共通の思い出だ。
「それにしても、やっぱり着物のせいかな。その着物好きでよく着ていたからな、お袋。」
なんとなしに藍色の着物の袖をひらひらと摘んでみる。
「ええ、夜澄もこれを着ているとお母様の匂いがして、一緒にいるような気になれるんです。」
もう覚えてないが、これがお袋の匂いなのかな、ならきっとお袋は良い匂いだったんだな。
昔を思い出そうとしている俺に、夜澄がよそよそしげに俺の顔を覗くようにして尋ねた。
「あの、兄様にとって、夜澄は邪魔でしょうか? 
 夜澄が居なければ、大学でおかあさまの手を作れましたよね?」
・・・・・・俺はフリーターになる前は大学研究室で助手をしていた。
両親を失った後の俺の心には、「手」が常に引っかかっていた。
あの最期の時、手があれば俺たちは握れたのに、手を付け足したい、無駄だと知っているのにそんな気持ちが晴れなかった。
結局、当時文系だった俺は機械駆動の義肢というものを知り、理転して工学部を目指すようになった。
そして、大学入学後に恩師と呼べる人にたまたま目を掛けて貰い、義肢を作る為にそのまま教授を目指して大学に残っていた。
「本当は、今でも兄様は夢に向かって進めたのに夜澄のわがままで・・・・・・。」
夜澄の表情が暗くなる、やめてくれ。
我侭だったのは俺なんだ、夜澄は悪く無い。
ただでさえ細い体が余計に小さく見えてしまうから、そのまま消えてしまいそうに。
「でも、あの時の生活にはもう、今の夜澄は耐えられないんです……。」
ぽつりと呟くように言う。
200裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:32:36 ID:MbMb5Pj5
当時の永瀬家の日常は酷かった。
朝早くに家を出て、夜中に帰ってくる毎日、飯を食って倒れるように爆睡、時には研究室に連泊。
そして、二人分の家事も笑顔でこなし、家にいるときはどんなに遅くても俺を待っていてくれる夜澄。
そんな夜澄にありがとうの一言も言ったこが無かった。
時折言う「寂しいですね。」という言葉にも「ああ。」と生返事をするだけ。
頭の中では得体の知れないモーターと歯車がぐるぐると回っている。
休日だって、ただぼんやりと夜澄と一緒に部屋に居るだけだったな。
幸せ、とは程遠い生活だった。

そんな時に夜澄の病気が発覚した。
いや、医者に世話になりっぱなしの一家だ、はは。
難しい病気だと医者に言われても夜澄の表情は崩れなかった。
俺はその気丈さに暢気に感心しているだけだった。

夜澄は大人びた子だった。
だから、俺なんかが居なくても全て自分だけで心の整理を付けてくれるのではないかという卑怯な期待もあった。
けれど、家に戻ったときに何気なく聞いた何が欲しいという言葉に夜澄は笑顔を作って、
「何も要りません、でも夜澄がずうっと傍に居てください。もう独りは嫌です」と言って、
・・・・・・泣き出した。

ごめんなさい、嫌です、もう嫌です夜澄、ごめんなさいと声を上げて夜澄は泣いた。

いつも笑顔で文句一つも言わない、そんな夜澄が感情をむき出しにしたのは初めてだった。
そして、そんな時でも俺を罵ろうともせずに泣きながら謝り続けるを見て、俺は言葉が出なかった。

そこでやっと自分が唯一の家族にして来た仕打ちの酷さに思い当たった。
ああ、自分のするべき事は妹を幸せにする事だった。
取り返せない過去なんかに固執している場合じゃなかったんだ。
それなのに自分は夜澄を無視して自分の我侭を押し付けていた。
また家族との大切な時間を失った。
俺は夜澄の望みに応えて傍に居ることにした。
即決したわけではない。
情けないが、未練がましく自分の夢と唯一の家族を一晩中天秤にかけた末だ。
そして、その足で大学に行き、引き止める教授の話を聞かずに研究室を辞めた。

治療費の充てには、賠償金と遺産、それでも駄目なら家と土地を売って金を作る、後は研究の過程で出来た教授曰く「がらくた」の特許料がある。
自分の生活費はバイトでもすれば何とかなる。
少なくとも夜澄の命が終わるまでは。
そして、現在の生活に至ったわけだ。
決してその事を後悔はしていない、と思う。
いや、決してしていない。
201裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:33:19 ID:MbMb5Pj5
過去を思い出し黙っている俺に夜澄がまた不安そうに尋ねる、夜澄は兄様にとって邪魔ですか、と。
「そういうことは言うなよ、俺にとっては何よりもお前が大事なんだ。決して嘘じゃない。」
「兄様。」
「俺にとって大事なのは夜澄の幸せだけだ。
 たった一人の家族の夜澄が幸せなら、俺も幸せだ。
 夜澄が幸せじゃなきゃ、俺も幸せなんかじゃない。
 夜澄の居ない幸せなんかないんだからさ、・・・・・・だからそんな悲しそうな顔しないでくれ、な。」
「ごめんなさい・・・。」
そう言って夜澄が抱きつく、その小さな体を抱きしめる、暖かくてやわらかい。
俺の胸に顔を埋める夜澄がどんな顔をしているのか分からない。
ただ、幸せな時にする顔ではないのだろう。

お互い黙って抱きしめてからしばらくがたった、夜澄がいつもの調子に戻ってくれる。
「ふふ、恥ずかしいところをお見せしてしまいましたね?」
そう言って恥ずかしそうに笑う。
「いや・・・、・・・ああ、もう面会時間が終わりか、もちろん明日も来るからな。」
「ええ、もちろん13時ぴったりにお待ちしております。」
そうして病室を出ようとして、つい聞いてしまった。
「なあ、夜澄」
「はい?」
「今、幸せかな?」
「はい、兄様が毎日傍に居てくださって、一緒に寝られて、話せて、夜澄は本当に幸せですよ。」
「そうか。」
ごめん。
心の中で夜澄に謝り、病院を出ようとしたところで主治医の先生に声を掛けられた。
202裏切られた人の話:2010/06/30(水) 00:35:39 ID:MbMb5Pj5
以上です、ありがとうございました。
短編のつもりで書いたのですが出来上がってみると
一回では多すぎましたので分割します。

また、お邪魔をさせて頂きます。
203名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 03:14:54 ID:+KxF6C/x
つまんね
204名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 03:27:49 ID:3pgcXezS
>>202
GJ!やっぱ病弱妹はいいな
205名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 04:02:16 ID:nqD4HcAG
>>202
期待してます!!
206名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 04:24:42 ID:dS56w/gC
>>202
こういう雰囲気の話好きだ
待ってます
207名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 11:33:46 ID:7eK8wGaV
>>202
ああ、じわじわくるなぁGJ!
208名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 20:18:14 ID:/64y+bMt
209名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 23:27:14 ID:/64y+bMt
210名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 23:27:45 ID:/64y+bMt
211名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 00:13:06 ID:Rl38ova/
俺なら梓を幸せにしてやれるんだけどな
212名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 00:54:26 ID:gRQoLGP1
じゃあ俺も
213名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 01:28:04 ID:6nS1GYYT
主要人物に幸せになって欲しいのもそうなんだが
シロが次に出てきた時死体になってそうで怖い…

ラストまで生き残ってくれるといいんだけどなあ
214名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 02:02:41 ID:oVqHUZDE
動物に罪はねぇよ…
ただ人間の方は全員無事にハッピーエンドに辿り着いたら何そのご都合主義ってなるだろうね
215名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 09:33:28 ID:Zc/k5uCo
無理やりじゃなくきちんと処理したうえで全員ハッピーエンドなら何ら問題あるまい
まぁ、その道筋が容易には見えないからそんなことを言ってるのだと思うが
216名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 09:54:46 ID:Ux0OdRal
ご都合主義なんて主観的なものだからな
極論、小説は全てご都合主義の上に成り立っているわけだし

まあ、なんにせよ先の話に口を出して、展開を狭めることないだろう
217名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 21:01:35 ID:8FIPy7sp
218悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:14:36 ID:hz09D2m7
お久しぶりです。
ジャスト一か月ぶり(?)の更新です。
ネタ切れとは言え、あれからもうそんなに経ったとは思わず。
さて、今回は2本立てです。
219悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:15:17 ID:hz09D2m7
「じゃあ、あたしは出かける。夕方には帰ると思うが」
「はい、いってらっしゃいお母さん」
「・・・姉さん・・留守をよろしく」
「はいはい。貴女も帰りは夕方?」
「・・・・(こくっ)」

今日は休日。
母も玲も用事や部活で朝から出て行った。
父は休日ですら仕事に行ってしまう為、姿が見当たらない。昔は経済力が無く、今は家族サービスが出来ない、極端な男であった。
さて、麗華は自分自身をどうしようかと悩んだ。宿題は別に無いし、久々にゆっくり出来そうだ。
今現在話相手になるのは怜二ぐらい・・・。
(・・・あれ?)
今、家には、怜二と麗華しかいない。
(好機!?)
母もいない、妹もいない。弟を犯すチャンスが巡って来た。
(や、やるしかありませんね・・・。こんなシチュエーション、全然予想して無かったからちっとも準備してないけれど・・・!)
あるとしたらせいぜい、怜二に勝る腕っ節か。
いままでも決行しようと思った事は何度もあったが、母の存在や怜二の奇行は力づくで片づけられる事ではない、暖簾に腕押し状態だったのだ。

麗華は決した。
他の家族が帰って来る前に弟を襲い、骨抜きにすると。
タイムリミットは、夕刻まで。
まだ時間はある。


(怜二がまだ寝ていますように)
そう軽く祈って麗華は怜二の部屋に突入した。
が、彼はすでに起きていた。あまり期待はしていなかったが、やはり落ち込む。
怜二は雑誌から顔を上げて麗華と向き合った。
「どうした、姉ちゃん?」
「朝だから起こしに来たまでです。というか、起きているなら朝食を食べてください。片づけられませんから」
「ん、悪かった」
素直に雑誌を閉じて部屋を出る。出入り口ですれ違う時、怜二が雑誌を麗華に渡した。
何気なく目を落すと、開いたページは丁度いかがわしい絵を露見させていた。
要するにエロ本だった。
「れ、怜二ぃ!」
思わず雑誌を引きちぎる。彼は悪戯が成功した時の顔で笑っていた。

220悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:16:41 ID:hz09D2m7


怜二が完食し、麗華は皿を片づけながらこの後のことをシミュレートする。
(あの時は取り乱しましたが、今からそれをするんですよね。緊張はしますが、一気に犯ってしまいましょう)
麗華としては、強襲し認知させ無理矢理結ばれる事を強要するつもりだった。
先刻述べた通り、腕っ節は怜二より上だ。
小細工不要の力技。言う事を聞かないのなら、暴力あるのみ。



もう一度、怜二の部屋に突撃した。目に入った光景を一瞬で頭に叩き込む。
片付いた部屋。愛しの弟はベッドの上で胡坐を掻いている。
不思議そうな顔で振り返ってこちらを見ている。
麗華が歩き出す。
怜二の顔が客人を迎える笑顔に変わる。いつもの余裕そうな笑み。
「どうした・・・」

首を掴む。

押し倒す。

圧し掛かる。

口を手で塞ぐ。

そのまま彼の上着を捲り上げた。

この間、3秒。抵抗の間もない。

威圧を込めた視線で姉は弟と見降ろした。



その頃学校では、休憩中の玲は、ふと家の方向に顔を向けた。
(そういえば・・・姉さんと兄さんが二人きり・・・・)
急に姉が羨ましくなった。それは余り良い気分ではなかった。
今の立場が逆なら、と思う。
221悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:17:06 ID:hz09D2m7



「・・・何これ?」
上着を捲った麗華が間抜けた声を出す。
怜二の腹には、不定形の顔が黒い線で描かれていた。
手の平に唇が動く感触がした。口を覆われたまま彼は神妙な顔をしていた。
手をどけると、彼はポツポツと喋り出した。
「遂に知られてしまったか。僕の秘密を」
そう言って彼は苦笑した。
麗華は腹を指差しながら、「え?」と呟き、もう一度弟と目を合わせた。
こんなもの、海に行った時も風邪を引いた時にも無かったはずだ。

「見られたからには白状しよう。宇宙より偉大な神秘さ」

彼は一息ついて、姉と真っ直ぐに向き合った。




「つい最近、腹芸を嗜んでいて・・・」

「嗜むな!!!!!!!!!てか、どこが神秘なんですか!」


年甲斐も無く、麗華は叫んで怜二は笑い転げた。

こんな腹を見ながら性行為するのはいくら何でもシュールなので、
麗華は渋々と彼の腹を拭く事になった。
怜二がくすぐったくて暴れるものだから、時間が掛かった。
さらに言うと、終わる頃には昼飯の支度をしなければならない時間になっていた。

家内の者が返ってくるまで、後四時間ほど。



麗華が次に機会を窺ったのは、怜二がシャワーを浴びている時だった。

昼食の後に、怜二はマジで腹踊りを修行した。
その後に汗をかいたので、今は洗い流している。
麗華は服を脱ぐ。
気合十分。麗華は扉をぶち破る勢いで手を伸ばす。
「そこにいるのは姉ちゃんか!?」
風呂から弟の声が轟く。麗華の手は取ってを掴んだまま止まった。
(・・・ばれた?)
奇襲を掛けようと気配を消したつもりだった。
だが警戒するようなこの声色は、麗華の企みを見破った様子かもしれない。
怜二の声が再び声を上げる。

「今僕は、卓球の時に生まれたスライム(第七話参照)と闘っている!もし開けたら、僕がスライム責めに合う絵図が露見、もしくは姉ちゃんがスライム責めに合うぞ!?さあ、開けるのかい?開けちゃうのかい?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

麗華はそっと、その場を後にした。

「おーい。スライムが仲間に入りたそうにこっちを見てるよー。スライムだけに目玉無いからホントに『見ている』かわからないけどねぇー。あっはっはっはっはっはっはっ!」

222悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:18:03 ID:hz09D2m7


そろそろ麗華は焦り出した。
脱衣所から怜二が出て来る時には、玲の帰宅時間まで後一時間程迫っていた。
そんな悩む麗華に一筋の光が射した。
父親が睡眠時間を確保する為に、即効性の睡眠薬を持っている事を思い出した。
彼女は父親が初めて役に立ったと思った。
奪ったのはほんの少量だ。ちょっと動かなくなってすぐに起きられる程度で良い。
紅茶を淹れ、茶菓子を用意して麗華は口を開いた。
「貴方も飲む?」
「頂戴―」
菓子を摘んで怜二は呑気に答えた。
麗華は首肯すると、カップを二つ用意して台所で注いだ。
この瞬間、片方に即効性の睡眠薬を少量入れる。テーブルへ持って行って薬入りを怜二に与える。間違い無く。
さっきから菓子を貪る怜二を、対照的に上品に菓子を摘む麗華が、焦らしを覚えながら見守った。
と言うか、いつの間にか大量の菓子があった。明らかに食い過ぎだ。
夕飯が食べられませんよ、と母が子に言いそうな文句を言おうとして、
「あ」
と、怜二が口を開いた。
「スライムだ」
彼の指さすキッチンの方向に振り向く。
小さな軟体生命体が、『怜二特製男の涙LAKE』と命名された水たまり(第四話参照)に浮いていた。
捨てよう、と考えて、怜二に振り返った時、
(飲んだ・・・!)
怜二はカップを傾かせて一気に飲み干していた。
カップを戻し、頬杖を付き、欠伸。
しばらく待っても彼に何の変化も無い。
(粉量が少な過ぎた・・・?)
危惧していよいよ落ち着かなくなった心を鎮めようと、麗華が初めて自分の紅茶を飲んだ。



「え・・・・・・・・?」



途端に眩暈がした。



それだけ呟いて、彼女は眠りについた。
223悪質長男 第八話:2010/07/01(木) 23:18:30 ID:hz09D2m7




怜二は至って冷静だった。
物音がしたから目を向けたら、姉がグースカ寝ていた。せいぜいそんな風にしか考えなかった。
口の中の菓子をしっかり飲み込んでから彼はようやく動いた。
麗華のカップに指を突っ込むと、指先に粉が付いた。明らかに砂糖や菓子の屑では無い。
(睡眠薬?)
知っていたのか、彼はあっさり見破った。
(すり替えなければ僕が飲んでいたか)

実は、麗華はきちんと薬入りを彼に差し出していた。
が、ここで怜二の悪戯が災いした。
前触れも無く悪戯好きの魔が差したのか、彼は間接キスを目論んだ。
しかしそもそも麗華が口を付ける前にすり替えた為に成立していないし、怜二も一口も飲んでなかったカップをそのまま彼女に差し出していたが。
怜二にしてみれば、誰も痛まない失敗。
だが姉の何かの企みは跳ね返したようだ。

怜二は考える。睡眠薬を盛られる原因に心当たりは無かった。
部屋に用があるなら家から追い出してもよかった。部屋の片づけにしても、麗華の性格なら「自分でやれ」と言うはず。エロ本捜索?ああいうのが苦手な彼女にそんな勇気はあると思えない。今朝だって、あれが引き裂かれた。
家族が家にいるとできない恥ずかしい事?だがやはり追い出す方がいいはず。
(・・・僕の体に用があったりして)
美人な姉が相手ならOKみたいな妄想をした。あくまで妄想である。
まさかの正解であるとは露知らず、怜二の頭脳は別の予想をさっさと組み立てていった。

「・・・おっと」

麗華の状態を思い出し、怜二は彼女を抱き上げて部屋に運んでベットに寝かせた。
彼は、紳士なのである。




夕刻。
麗華が目を覚ました時にはすでに夕刻。
意識が明確になり、ここまでのあらすじを思い出すと、下の階から聞こえる玲と怜二の会話(怜二の一方的な会話)を聞いて落ち込んだ。

224悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:19:34 ID:hz09D2m7
第九話



(ふむ。今日は玲と二人きりか)
今回の話もとある休日のお話。
妹以外の家族が出払っている今、暇を持て余していた。
怜二はナンパに出かけようかと考えて、ふとソファーで読書する玲に視線が止まる。
ちょっと歩み寄って表紙を覗くと、

「ふむぅ何々?『幼馴染特集。妹キャラ万歳』」

物理学の本が顔面に叩きつけられた。

顔からずり落ちる本を、怜二は器用に捕まえるとそこら辺に置いておいた。
興が削がれたのか、玲は取り戻そうともしない。
「テストもまだ先だと言うのに、真面目なこった」
「・・・兄さんがノンビリなだけ。・・・勉強するべき」
普段からキリっと鋭い眼光の玲。
対して怜二は暖簾に腕押しのごとく、ヘラヘラとした笑顔。
「あはは。カッコつけようとする女子程可愛い者は無いよ。と、言う訳でスキンシップさせろー」
何がと言う訳なのか。
玲は別に何も言わず、黙って怜二にされるがままだ。
とは言っても、ソファーに座った怜二が玲を自分の膝に座らせ、頭を撫でる程度だ。
怜二は満足すると玲を退かそうとするが、玲は動かなかった。
「ん?なんだい、君も甘えたいのかい?」
「・・・ん」
肯定なのだろう。怜二は力を抜いてそのまま座らせる事にした。

それにしても・・・・顔が近い。


225悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:20:29 ID:hz09D2m7

背中から抱き付く姿勢の怜二に、玲は体を捻って段々と顔を上げていった。
鼻先が触れ合いそうになった瞬間に怜二は静止を呼び掛ける。
「おっと玲。トイレ行かせて?」
「駄目」
即答。
怜二は何気なく予感はしていた。今の妹の目が、以前姉がいきなり部屋に乱入した時の目と、同じだったからだ。
「兄さん・・・」
彼女の手が彼の頬に触れ、唇が近づく。

瞬間、世界がひっくり返った。

具体的には兄が妹をソファーに押し込んで逃げたのだ。怜二は階段を駆け上がって自分の部屋に突入すると立て籠もった。
扉が閉まる音がしてようやく玲が動いた。あくまでのんびり冷静だ。
歩いて部屋の前に来ると戸を叩いた。
「はいはい?」
怜二の声が返ってきて玲はドアノブに手を掛けた。
鍵が掛かってた。
「兄さん・・・・開けて?」
「待ちたまえ玲君。今この扉を開けてはならぬ」
本気で籠城するつもりらしい。
だが玲は、すでに兄を手にしようと野心に燃えている。彼女にここで引き返す選択肢は無かった。
もう一度ノックする。
「兄さんは・・・トイレ行きたがっていた。なら・・・どうして部屋にいるの?」
「僕の部屋にオマルがあるからさ。だから開けちゃいけないのさ」
変な嘘だ。
玲はさらにノックする。
「兄さん・・・さっきの続きを・・しよう?」
「続き?何の?」
「わかっているくせに・・・」
今度は返答が無かった。
扉をノック、否、強く叩いた。

ドンッ

「兄さん・・・逃げないで?」
「・・・・・」

ドンッ ドンッ

「開けて・・・開けて・・・」

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ

「兄さん・・寂しい・・・抱きしめて・・・?」

ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ ドンッ



「兄さん・・」

「何をしているのです?」

我に返り、振り返る。
姉が怪訝そうな顔で姉が妹を見つめていた。
226悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:21:15 ID:hz09D2m7
「・・・姉さんには関係無い」
「い、いえ、関係無いと言われましても。怜二はリビングでプリンを食べてまして、無人の部屋に何をしているんだか・・・」
玲の抵抗する気力が失せた。主に脱力の意味で。



場所が変わって麗華の部屋。
もはや何言われても言い返せそうにない玲は黙って姉の言葉を待った。
麗華は部屋着に着替える間だけ黙したが、やがて妹と向き合ってようやく口を開いた。
「玲、貴方は、怜二の事どう思っているのですか?」
「・・・愛してる」
それはいつもの口調だった。麗華は一つ頷いて言う。
「私も好きよ。弟ではなく、男として」
一瞬で玲の目に殺気が宿る。
対して麗華は落ち着いた態度で制した。
「初めて好きになれた男の人。楽しい恋に巡り合えたと思ったのに、血の繋がりが邪魔をしている。それが許せなかった、そうでしょう?」
玲は再婚直後の麗華がどうも不機嫌だった本当の理由に思い当たった。
続けて麗華が言い放つ。
「玲、私は常識や倫理観を理解した上でそれらを踏み越えようと思います。
それで・・・協力しませんか?」
それが姉からの提案。
玲はちょっと唖然。


「何ともメンドクサイ同盟を作ってくれたな」


怜二の声。
227悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:21:55 ID:hz09D2m7
姉妹は飛び切り驚いて慌てふためく。
どこどこと周囲を見渡すと、怜二が天井から現われた。
「ええ!?ちょっと怜二!?何で人の部屋に忍者屋敷の回転板みたいのがあるんですか!?」
麗華が叫び、
「んなもん、君らが引っ越してくる前からあったさ」
怜二が淡々と答え、
「・・・なら、兄さんの部屋にも?」
玲の問いに、
「いや、僕の場合は引き出しを開けてだな」
「猫型ロボットじゃないんだから!」
怜二は麗華にツッコまれた。

さて気を取り直して。
「まあ、僕もまんざらじゃないね。美人姉妹を両手に花。うむ、ウハウハじゃないか。
けどね、僕は君らと結ばれるつもりは無いよ」
普段の声色で彼はあっさり言い放つ。
隣に座る麗華は恋する瞳で言い返す。
「貴方はそれで結構です。私達が貴方をモノにするんです」
「常識や倫理観を理解した上でそれらを踏み越えようと思います、かい?御苦労なこった。
僕のエロ本の影響かい?」
「いいえ。失いたく無い恋だからです。貴方以外考えられないのです」
「兄弟発覚前からの話か。ふ、僕も罪な男だぐぇっ」
調子に乗るな、と玲が兄をド突いた。
「あだだ・・・。まあ、何だ?例え兄弟でなくても僕は君らと恋仲になる可能性は薄かったと思うよ?」
「え、それは何故です?」
彼女なりのプライドに障ったのだろう。ちょっと傷付いた表情で麗華は問うてみた。
「そもそも君らとの時間が少ないんだ。僕の視点じゃ、兄弟とは言っても出会ったのは高校生の時で、今も高校生。たかだか1,2年の付き合いでしかない。
それ以上の付き合いがある女子なんていくらでもいるし、幼馴染だって保育園からの知り合いで今でも連絡が取れる人も含めればもっといる。
ついでに言うと僕は小さい頃から女好きだからナンパも」

「この色魔!!!」

双方向からのパンチを食らった。
228悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:22:52 ID:hz09D2m7



一部腫れた顔で怜二は何事も無かったように話をまとめた。
「まあ、要するにそんな馬鹿な事は止めなさいと言う事さ。と言うか学校のアイドル、姉妹姫が隠れブラコンだなんてスキャンダルも甚だしいぞ?」
「例え貴方がそれを告げ口したところで誰が信じるのでしょう?」
「えー?」
女好きな自称紳士と文武両道の姉妹。どちらの方が信憑性があるかは、一目瞭然だ。
「むう、こんな時でもシスコンが治らない自分が悔しい」
「では、まずは体の関係から始めましょうか」
「待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て」
「・・・欲しくありませんか?私達のファーストキッスと純潔」
「愚問だな。シスコンとは元来、可愛い姉妹を他の男から守る人種だ。兄弟が取ったら本末転倒じゃないか」
言葉が止まり、姉弟が睨み合う。
その隙をついて玲が兄の腰に飛び掛かるが、怜二の方から抱き止められて逆に確保される。
「あはは。ねぇ知ってる?近親相姦じゃ飽き足らず、兄か弟と結婚する執念を持った姉妹を一部で何と言うか」

彼女らには心当たりが無い。怜二は笑ったまま言い放った。


「キモ姉、キモウト」


またしばらく睨み合う、長男と姉妹。この男、どれだけアプローチしてもデレデレするばかりでちっとも欲情してくれない。
ふと、姉が何か思い出したかのように顔を反らした。
「貴方は私達の純潔を守ると言ってますが・・・」
「うん?」
「私、姉弟だと発覚した後に襲われた事があったのですよ」
「なんだと!?」
不覚、と言わんばかりに声を上げた怜二。今度は麗華が詰め寄られる番だった。
「いつ!?どこで!?誰が!?は、もしかして学校の連中か?」
「えっと・・・私達が仲直りする前日です。私が拗ねて家出した後、公園で・・・」
「くううううっ!そうか、僕は守れなかったのか・・・。純潔が無事だったって事は自衛手段が通用した意味を差している・・・。せめてこれが救いだったが・・・」
「は、はい・・・。それから、貴方を犯そうと閃いたのもあの時でした」
兄の横で妹が内心、自分の方がそう考えるのが早かった、と勝ち誇って(?)いた。もちろん無表情で。
一方で話を聞いていなかった弟が苦悶を続けている。
「くっ・・・。あの時・・・泣いてたから・・・。キッチンに涙が溜まったから池を作ってたせいで・・姉ちゃんを追いかけていれば・・・・」
「いい加減アレ直してください・・・」
怜二は苦悶から立ち直ると、麗華の両肩を掴んだ。
「姉ちゃん、教えろ!僕の美人な姉ちゃんを襲ったのは誰だ!?」
「えっと、名前は知りません・・。あ、スキンヘッドとリーゼント、それから金髪オールバックの三人組でした」
「む、知ってるぞ。典型的な集団チンピラだ。夜歩き回るもんだから夜道が不安だとメル友(女子限定)から聞いた事がある」
それから口調が恨みが籠る声色に変わる。
「おのれ社会のゴミが・・・。シスコンを持つ姉妹に手を出した者がどうなるか、身を持って調教せねばなるまい・・・!この世に生を受けた事を後悔させてくれる・・・!・・・と、言うわけで、ちょっと出かける」
姉妹が止める間もなく、まるでコンビニに駆け付ける足取りで、彼は出て行ってしまった。

229悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:23:43 ID:hz09D2m7


昨日未明、男性三名が謎の浮遊物体、UFOに吸い込まれているのを近くの住民が目撃された。
目撃情報に寄ると、突然空からUFOが飛来し、光の柱で男性らを吸い込んだとの事。
警視庁の調べによると、この男性らは無職で、夜な夜な集団で歩いては、近くの民間人に迷惑を掛けていた様子。
この事件に対し警察は、誘拐事件をして扱うつもりだったが、「相手がUFOでは専門外」として、使命を放置する考えを示している。
○月×日 「キモ姉&キモウトを書こう!新聞」より抜粋。



翌朝、こんな記事が新聞の片隅に小さく掲載されていた。

ちなみにその日の新聞の一面は、多摩川にアザラシがやってきた騒動だった。

その町は案外平和だった。
230悪質長男 第九話:2010/07/01(木) 23:24:03 ID:hz09D2m7
投稿終了です。
ノリが悪くなってしまい、意気消沈です。
まあ、なんだかんだ言っても最終章に突入できました。
ではまた今度。
231名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 01:15:37 ID:PwtCKqH7
忘れた頃に悪質長男が読めるとわ
主人公♂がブレてなくてイイ

GJです
232裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:19:04 ID:a9KwVtwK
今晩は
また表題の続きを投下させていただきます。
よろしくお願いします。
233裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:20:15 ID:a9KwVtwK
壁一面には賞状やら勲章やら写真が並んでいる。
英語や露語、その他良く分からない様々な言語が並んでいる。
けれど、これらは全て一点で共通している、どれもその持主の才覚を称えているということだ。

「自動刺身タンポポ載せ機、全自動卵割り機、ドーナツの穴を埋める基礎的な技術……etc。」
金策を始めてから1週間後、俺は以前所属していた研究室に来ていた。
「アポも無し来たと思えばこんな珍品のカタログを見せに来たのかね?」
「いや、それを売るために来たんだけど。」
「売る? あのね、ここはサイバネティックの研究をしてるんだよ。
 どこの世界に義手で刺身にたんぽぽを載せたいと思う馬鹿がいるんだね?
 馬鹿か? ニート生活が過ぎて馬鹿になったのか、君は?」
目の前の女、エリスは呆れ顔で権利書を見ている。
糸川 エリス、20歳前半という若さで米国で博士号を取得、その後はこの業界?のトップランナーの一人という完璧な頭脳を持つ天才だ。
そして、なんと外見も完璧なのだから素晴らしい。
米国人の母親譲りの青い目に金髪、父親から受け継いだ日本的な奥ゆかしさを持つナイスバディ。


・・・・・・まあ、その、つまり、要は、完璧にロリだ。

うん、そう、素晴らしいくらいに金髪ロリ。
しかも、オプションで丸めがねがついてるんだ、なんだかすまない。
どれくらいかというと、何も知らない親切な新入生に隣の小学校に連れてかれるのが春の風物詩な位に。
まあ、当然のお約束としてその学生は授業初日に留年が決定するわけだが。
そんな歩くロリコンほいほいに俺は必死に泣きついている。
傍から見ると小学生に付きまとう怪しいオジ・・・、いや、お兄さんにしか見えなくて情けない。
234裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:22:21 ID:a9KwVtwK
「別に使わなくてもいい。ただ、それの特許料をひっくるめれば実は年に400万ぐらいの収入にはなる。それを担保に6000万貸してくれ。」
「そう思うなら、銀行でも企業にでも売ればいいじゃないか、要は売れないから僕のところに来たんだろう?」
エリスはため息をつく。
「逃げたと思えば、いきなり戻ってきて金をよこせか。馬鹿にされたものだな僕も。」
「それにはついては自分でも後ろめたく思うよ。」
「どうだかね。大体、僕はこんな胡散臭いものに投資しなきゃいけない程金に困ってなどいない。」
一つ言い忘れたが、こいつは相当な金持ちだ。
こいつ自身も講演、特許、企業の顧問とかなり荒稼ぎしているが、それ以上に実家が金を持っている。
その上、何でもどこかの企業のご令嬢だそうだ。
そんなわけでこいつならば、ぱっと、とは行かずとも6000万ぐらいはすぐ用意できるだろう、と思う。
「頼む。今月中に金を工面しないと妹が、夜澄が死ぬんだ。」
エリスがちらりと書類から目を離して不機嫌そうにこちらを見る。
「それはさっき聞いたじゃないか。妹さんの為、以前逃げたときもそう言っていたな?」
「悪いとは思っている。でもな、・・・・・・たった一人の家族なんだ、分かってくれ。」
「何度も言わないでも理解してるよ。だが、それで何でも無理を押し切れると思うかね?」
ああ、その通りだ。そんな無理で道理が通るわけはない。
「確かに君の言う事情は考慮に値する。けれど、それだけで僕が裏切られた時の失望や、
 君を失った事での研究の損失を埋め合わせられるか、というとそうは行かないな。」
「これは買ってくれないという事だな?」
「物自体が魅力的ならば話は別だが・・・・・・、さすがにこんながらくた、にはね。」
まあがんばれ、とエリスは俺に書類を手渡す。
万に一つ、可能性が有るすればこいつだったが、無理・・・・・・という事か。
エリスはえらく頑固だ。
そういうところもガキっぽい一因だと常々俺は思っているんだが。
ここに来て、その癖が出やがった。
何年も一緒だったが、一度こうなると判断を撤回するのは見た事が無い。
悔しいが、これで全部の可能性は潰えた訳か。
235裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:23:36 ID:a9KwVtwK
いや、まだだ、まだいける。

こいつが出してくれないなら親に出させればいいだけだ。
この間合いなら腹に蹴りを入れて、この"偶然"用意していた粘着テープで口と手を塞いで……、
ここまでの動作に約40秒程度必要だな。
……それから受け取りは、うん、ここはバイク便でいくか。
脳内では、着々とエリスのご両親からお小遣いを頂く為の計画がシミュレートされ、それぞれの要素が連鎖し構築されていく。
「……おい、言っておくがこのボタンを押せば、10秒で警備員が飛んでくるからな。」

その時俺は最後の山場、予想外の抵抗につい×××してしまったエリスを埋める山に悩んでいた。
罪を犯す時に最後の枷となるのは常に良心である、自分もこれからはこの孤独な戦いに強く打ち勝たねばならない。
なのに、ふと気づけば瞳からは良き友、良き師への惜別の暖かい思いが頬へ一筋伝っている。
ああそうか、これが涙なんだね。

そんな穢れを知らない心優しき青年に、残酷なエリスの視線が突き刺さる。
なるほど視線が痛いっていうのはこういうことか。
「やっぱり、馬鹿になりすぎたんじゃないのか、君?」
警戒5分、哀れみ9割5分というところ。
ええ、バカに関しては返す返す否定の言葉も出ませんとも、ええ。
もっとも、今欲しいのはそんなありがたいお言葉じゃなくて金なんですよ、金。
そういう人の心の機微が分からないからいつまでもお子ちゃまなんだよ。
ハッ○ーセットのおもちゃでも貰って喜んでろ、ちくしょう。
なんせよだ、もうここに居てもしょうがないか。
「忙しいところすいませんでした、糸川教授。失礼します。」
ケチ、くそ、時間返せ、つるぺた幼女、バーカ、バーカ、・・・等等。
その他怖くて口には出せない悪口を一通り心に並べ終え、さて部屋を出ようとした時、
グイと腕を引っ張られた。
236裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:26:49 ID:a9KwVtwK
「話は最後まで聞け馬鹿者。君は常日頃から粗忽だが、今日はやる事なす事全部が度を過ぎているぞ。
 変なものを売りつけようとはするは、挙句には誘拐だのと。
 ・・・ふん、その顔は大方、僕の事を美幼女だ、美ロリだと腹の内で馬鹿にしていたな?」
いや、"美"は余分だとお兄さん思うぞ、"美"は。ただの幼女だろお前。
そんな俺の表情を読み取ったエリスがより不機嫌そうに口を開く。
「ああ、ああ、まあいい。僕と君の仲だ、思うまでは許してやろう。
 だがいいかね、今思ったことを一度でも口に出してみろ、関節単位でバラすからな。」
「肝に銘じておくよ。お前なら本当にやり兼ねないからな。」
さっきからの頭の悪いやり取りが応えたのだろうか、エリスはいかにも疲れましたというようにため息を吐く。
「はぁ、ったく君は・・・、全然変わらないな。
 大体だな、誰も貸さないとは言っていないだろう?」
「本当か、エリス!!」
「教授と言ったり、エリスと言ったり忙しいやつだな。うん、まあいい。
 たんぽぽ置き機なんぞどうにもならんが、君の能力は高く買ってるんだよ、僕は。」
「戻って来いということか?」
ニヤリといやらしく笑う。
懐かしい表情だ、昔はこういう顔で業者さんが泣くまで実験器具値切ったよな、二人で。
「まあ、それに近い。買うということだよ、雇ってまた逃げられたのでは叶わんからね。」
そう言って、エリスは用紙を差し出した。自己の権利の売買に係る申請書、通称は奴隷契約書。
その名の通り自分の持つ人権を売るための申請書だ。
この国独特の制度で、よく国連から槍玉に挙げられている。
確か日本初の女性首相の時に出来たんだっけ。
「何よりも、金が必要なんだろう。ならばその程度の覚悟は見せてくれるね?」
まさかこんな所でお目に掛かるとはさすがに驚かされるが、むしろ僥倖と言える。
この国においてこれを出すという事は、確実に大金を出すという意味なのだから。
「……ああ、全く妥当な取引だ。ただここの労働権にチェックを入れれば良いだけなんだからな。」
エリスの目が細まる、ここに来てから3回目の馬鹿を見る視線だ。あれ、4回目だっけ?
「労働権? 僕は覚悟を見せろと言っているんだ。全部に決まっているだろう。」
「全部? 居住権に移動権、それからここの性交渉権やら、結婚権もか?」
「全部だと言ってるだろう。同じ事を何回言わせる気だ?」
「しかし、行使したいかそんな権利? 俺と一発やりたいか?」
エリスはまた、ため息をつく。疲れているのだろうか。
「君は馬鹿かと思うよ、心底っ、本っ当に。」
はいっ、本日5回目の馬鹿いただきました。あざーす。
金のメロンパン入れと交換できないのが実に残念だ。
「誰が使うものか。いいかね、君と性交するぐらいなら僕は股にフランクフルトでも突っ込むよ。」
お前にそんなモン入るものか、等という考えは今度こそ顔に出さず神妙な表情で続きを聞く。
「君には前科があるんだ、権利を全部買い上げておかないと今度は結婚でもして嫁がどうしたとか、
また妹がどうしたと逃げられるのが目に見えるよ。
 住む場所についてもそういうことだ、取り敢えずは僕のマンション近くにでも住んでもらう。」
全く信頼無いんだな俺、まあ仕方ないか。
237裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:27:41 ID:a9KwVtwK
だが、契約前に一つ大切な事がある。
「夜澄に会うのは可能か?」
「そうだな、君のがんばり次第だね。実際君はそれで逃げたんだ、はっきりと言えば当分会わす気はない。
 会わせても良い、そう思えるだけの信頼を早く取り戻せるように頑張って欲しい。
 とはいえ僕も鬼では無いんだ、電話を掛ける程度の事は許可してやろう。」
「そうか・・・・・・。」
確かに過去の事を思えばこの条件も妥当なところだろう。
いや、むしろ寛大なのかもしれない。
「何か反論は? あれば幾らでも聞いてやるぞ、そんな時間があればな。」
「いえ、全くございません、ご主人様!!!」
エリスの気が変わるのを恐れて、俺は碌に項目も読まずに必死で全てにチェックを入れた。
「うん、実によろしい、では明日9:00に●●地裁に来たまえ。」
「明日に? ずいぶん早いな。」
「早く金が欲しいんじゃないのかね、何、手続きは今夜中に僕がしておこう。君は妹さんに挨拶でもしておけばいい。」
「そうさせてもらうよ、それから、ありがとうな。」
「何を言うか、私はただ君を奴隷にしただけだよ。それでありがとうとは呆れるほど馬鹿だな、君は。」
そう言って微笑むエリスはとても可愛らしかっただろう。
そんな如何にも何か裏にありますよ、って笑顔でさえなければ。
こいつ、しっかり元をとる気だな。・・・・・・どれぐらい働かされるんだろう。
生きて無事夜澄に会える日が来るといいが。

明日からの生活に思いを馳せる、きっとこの性悪幼女と徹夜の日々がまた始まるのだろう。
だが、それも悪くないかなと思ってしまう俺はやっぱり相当の馬鹿なのかもしれない。
238裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:28:59 ID:a9KwVtwK
******************************************
「ご主人様か、うん、実に良い。」
エリスは宗一が帰った後の教授室で焼酎を開けていた。
いつも机に隠してる芋焼酎『第六天魔王』、お気に入りである。
「いや、今まであの忌々しい人形女の周辺を探っていた甲斐があったよ。
 話を聞いたときはどうやって近づこうかと考えたが、向こうから来てくれるとはな。
 それに話もトントン拍子と来たものだ。うまく行き過ぎて怖いぐらいだよ。」
机にある写真に目を落とす。
エリスと宗一が二人で肩を組み表彰状を持って笑っている、二人が出会ってから初めての受賞だった。
「あいつさえ居なければ、今頃はね・・・・・・。」
あの頃は良かったと思う。
互いに笑って、言い争って、部屋にコタツと猫を持ち込んで機器が全滅したり、その修理に力尽きて二人で床で寝たり。
自分が普通の学生だったらとずっと憧れていたことが宗一となら出来た。
エリスにとっては、地位、才能、嫉妬、(あとは外見も少々)、そんな物を気にせず話せる唯一の相手だった。
自分にとって一番大事な人だった、そして、宗一にとっても自分が一番なんだと信じて疑わなかった。
だが、宗一にはもっと大事な妹がいた。
どんなに誘っても、宗一は夕食を共にしてくれなかった、妹と食べる為に。
どんなに誘っても、宗一は休日を共にしてくれなかった、妹と過ごす為に。
どんなに忙しくても、宗一は家に帰るために必死だった、妹の顔を見る為だけに。
どんなに引き止めても、自分の元を去ってしまった、ただ妹と一緒にいる為に。

宗一自身はいつも駄目な兄様だと自嘲していたが、
しかし、何かある度に宗一にとっての一番があの妹だというのを嫌という程思い知らされた。
239裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:29:42 ID:a9KwVtwK
一度だけ、エリスはその妹にあった事がある。
熱を出した宗一の見舞いに家を訪ねた時だ。
一目で、大っ嫌いになった。
長い黒髪に澄んだ黒い瞳、白いきめ細かな肌、豊満ではないが均整の取れた人形のような体。
そして、自分と一緒の時には見せたことの無い優しい宗一の眼差し。
あいつは自分が欲しかった物をみんな持っていた。
エリスはきっと、あの時に初めて他人を妬んだ。
なのに、あいつはエリスを見ても何も感じていなかった。
宗一にとっての1番は自分だという事を知っていた。
彼女などはその遥か下のどうでもいい2番目以下の何か程度にしか思っていなかったのだろう。
「くそ、忌々しい。」
あたりめを噛みながらグラスに焼酎を注ぎ、グッと一息に飲み干す、叩きつけるようにグラスを置く。
その動作一つ一つが実におやじ臭い。
「あいつに会ってからは無理矢理研究を増やして、寝る時間も無い様にしたっていうのに、
 ・・・くっくっくっ、まあ、それも今日までさ。」

明日の事を思うとどす黒い笑いを堪えられなかった。

その場で電話を掛けてやろう、お前の大好きな宗一お兄様は糸川エリスの奴隷になったと。
今日までの1番が、明日には赤の他人になってしまうのだ。(奴隷の持っていた家族関係は、解放奴隷になるまでは無効となる。)
もちろん、妹に二度とあわせてやる気など無い。
一回契約してしまえばどうにでもなるそれが奴隷だ。
一体、あの忌々しい人形女はどんな表情を見せてくれるのだろうか? 
いっそ件の心臓が止まってしまえば最高だ。
そうしたらバラして本当の人形にしてやれるんだからな、主従、いや末は夫婦か、初めての共同作業というやつだ。
ああ、夜明けが待ち遠しくて仕方ない。

エリスは残りわずかの瓶を逆さまにして覗き込む。

最後の一滴まで飲むつもりだ、ご令嬢の癖になんともケチ臭い。
「ひっく、これであいつとはずうっと一緒だ。なんせ僕はご主人様なんだから。
 その、例えば、ご主人様だから首輪で繋いだり、肉奴隷にしたり、・・・あと、足を舐めさたりしても構わないよね・・・、ご主人様だから。
 ご主人様、んっふっふっふ、いいなぁご主人様・・・・・、ふふふふ、ひゃーはっはっはっは・・・・・・。」

それにしてもこの金髪ロリ、ノリノリである。
240裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:30:55 ID:a9KwVtwK
***********************

エリスの研究室を出た後、俺はまっすぐに夜澄のいる病院へ向かった。
医師に金の工面ができたこと、奴隷契約を結んだことを告げた。
そして、夜澄に会いたい旨を話すと時間外ではあったが、
医師は、ほっとした顔つきで時間外だが面会を許可してくれた。
どうやら存外に俺たち兄妹を気に掛けてくれていたようだ。

病室に入ると夜澄が驚いた顔でこちらを見た。
「こんな時間にいらっしゃるなんて初めてですね。」
そして、体をベッドから持ち上げる。
「あ、そのままでいいよ。ごめんな、休んでるところに押しかけて。」
「そんな事を言わないでください。私は兄様に会えるのでしたら真夜中でだって嬉しいですよ。
 あら、良いですね、それ、なんだかサンタクロースみたいです。」
そういって夜澄はくすくすと笑っている。
我が妹ながら本当にかわいらしいと思う。
サンタクロース、今の状況を表すには正しいのかもしれない。
朝起きれば本人が居なくてただプレゼントだけが残っている。
プレゼントと白ひげのおじいさん、どちらを楽しみに子供はクリスマスの夜を待っているのだろうか。

「ところで、こんな時間にいらっしゃるということは、何かあまり良くない知らせですか。」
「いや、悪い知らせではないよ、決して。」
悪くない、悪い知らせでは無いんだがどう言えばいいものか。
まさかの可愛い妹の心臓のために、お兄様が体全部売っちゃいましたとは言えないし。
言ったならば夜澄の事だ、兄様と一緒に居られないなら意味がないと拒否するのは間違いない。
うーん、うーんとまとまらない頭をひねっていると夜澄に先を促された。
「なら、良い話でしょう? それならもっと嬉しそうに話してください。
 そんな難しい顔をしてらしては幸せも半減ですよ?」
俺は覚悟を決めて夜澄に近づき、視線を同じ高さに合わせた。
「実はな、お前の病気は移植をすれば完治できるんだ。そして、その準備も整った。
 整ったんだけど・・・・・・。」
せめて何と言えばいいか考えてから来るべきだった。だが、そうするには気がはやりすぎてしまっていた。
次に会えるのがいつになるか分からない、そんな状態だから一秒でも長く夜澄と居たかった。
「成功するかどうかわからないという事ですね?」
「あ、ああ・・・・・・、そうなんだよ。難しい手術なんだ。」
いかん、つい話を合わせてしまった。
どうする、どうやって話を戻す!?
慌てて打開策を見つけようとしても頭の中はただ空転するばかりだった。



「兄様。」
凛とした声に思考が引き戻される。
241裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:33:12 ID:a9KwVtwK
兄様、聞いてください。夜澄は手術を受けます。」
夜澄がまっすぐに俺の目を見つめている、澄み切った目で。
その姿には少しの迷いも不安も感じさせない。
「兄様、夜澄は兄様の事を信じています。
 兄様のする事は皆夜澄のためにしてくださっていると夜澄は知っています。
 兄様の言う事でしたら、たとえどんな内容でも無条件で夜澄は従います。
 だから、兄様が言いたくないことは言わなくいいのですよ。」
違う、問題を勘違いしている、なのにそれを指摘しようとしても喉が動いてくれない。
結局、口からは言おうとする事とは全く別の言葉が出てしまった。
「本当に聞かなくていいのか?」
良い訳がないだろう。
「ええ、夜澄は手術を受けます。それは兄様が決めた事ですから。」
夜澄は俺の額に手を当てた、暖かいな、日向のように暖かいよ。
こうしていると、もう数年の命だというのが信じられなくなる。
いや、もうそんな心配はしなくて大丈夫なんだよな・・・。
「夜澄は手術を受ける、手術は成功する、成功して夜澄は完治する、兄様は夜澄とずうっと一緒に暮らしてくれる、
 みんな上手くいって最後はハッピーエンド、その過程なんて誰も知らない、それでいいじゃないですか。
 手品だって種を知らないから楽しめるじゃないですか?」
そういって夜澄はにっこりと笑ってくれた。
最後がハッピーエンド、それが大事なんだな。
少し寂しくなるけど信じてくれるんだよな。
「そうだな、最後がハッピーエンドならそれでいいよな。・・・・・・なあ夜澄。」
「はい?」
「いつか、俺にずっと裏切られ続けたんじゃないかって思うときが来るかもしれない。
 それでも、お前の兄様はずっと夜澄の為に生きてきたんだ。
 理解してくれとは言わないけど、そうなんだ。信じてくれるかな?」
「もちろん夜澄は信じますよ、兄様」
ありがとう、それからごめんな。
「それじゃあ、また来るからな。」
いつか分からないけど。
「兄様、元気になったらまた一緒に、ずうーっと一緒に、二人で暮らしましょう。」
「ああ、一緒に。ついでに猫付きでな。」
夜澄がくすりと笑う。
「ほっかほかのを、ですね?」
そうして俺は病室を出た。
結局、さよならを言う事ができなかった。


また夜澄の信頼を裏切った。きっと、また夜澄は傷つく。
何回目だろう、もう数える気もしないが。
242裏切られた人の話 2:2010/07/02(金) 01:36:07 ID:a9KwVtwK
以上です。
スレを使わせていただきありがとうございました。
残りは大体2〜3話程度になると思っています。
もう暫くお付き合いいただければ幸いです。
243名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 01:42:25 ID:OfOT3Y8U
焼酎飲みながらするめ食ってる金髪眼鏡ロリって凄い図だな
244名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 01:54:06 ID:YknryoGP
>>242
乙、GJ

だが結構切羽詰まってる状況なのに地の文のノリが軽いせいかもっとしっかりしろよと思ってしまうな
この先何があっても兄貴の自業自得というか…
245名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 09:16:16 ID:F5QnbvVx
期待で股間が疼く
妹の中の鬼はどんな鬼か?
息を飲んで待ってます
246名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 12:18:53 ID:VTC4L5kp
>>242
金髪合法ロリ萌え\(^o^)/
この曲者が何をしでかすか
そして彼女と対象的な黒髪美人の妹がどこで本性を現すかwktk

合法奴隷制度というパラレルワールド設定が
どう転ぶのかは今後の展開次第ではあるけど…
247名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 12:24:43 ID:Q+FrIruR
ぶっちゃけ某ベッキーしか浮かんでこねえ
248名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 14:23:11 ID:yqsk5VOu
これがキモウト、キモ姉だ!と思わせるセリフってなんだ?

俺は、
「お兄ちゃん!どいて!そいつ殺せない!」
249名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 15:34:36 ID:AhSn7oZb
妹「あの雌狐…」
250名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 15:54:50 ID:5Fxk9wRm
>>248
もうこれを聞くのが定番かな
元ネタ知ってますか?
251名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 16:19:35 ID:rFxiEeoo
ググレ
252名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 18:21:32 ID:hMZ36tEb
まぁ架空なんだけどね。
253名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 19:32:08 ID:3V/JXXUl
254名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 20:30:47 ID:YknryoGP
>>251は何を言ってるんだ…
255名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 22:54:12 ID:OvnSE3il
知りたければググれ
256名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 23:48:46 ID:YknryoGP
いやだから何をググる必要があるの
>>250>>248がキモウトのセリフじゃないんじゃね?ってつっこんでるんだと思うが
257名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 01:18:42 ID:IiFcHehV
そんなにぎゃあぎゃあ言う話でもないのではなかろーか
今年のキモ姉妹W杯はどこが優勝するかなー
258名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 01:24:29 ID:LcK7Xm3W
また>>248のような情弱池沼のレスのせいでまた雰囲気が悪くなったじゃねぇか。
>>248死ねよ。死ね。
259三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:30:04 ID:lvsVY0kD
三つの鎖 23 後編です

※以下注意
エロあり
本番なし
血のつながらない自称姉あり

投下します
260三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:30:57 ID:lvsVY0kD
 耕平が部屋を出ても梓は見送らなかった。
 「梓」
 「見送りはいらないって耕平さんも言ったじゃない」
 そう言って梓は僕にしなだれかかった。梓の素足が僕の足に絡まる。そのまま僕に頬ずりする。
 「梓。離れて」
 「いや」
 僕の言葉を無視して抱きつく梓。
 この一週間、梓はずっとこの調子だ。
 看病してくれるのはありがたいし嬉しい。実際問題、体調不良は深刻だった。今でこそ多少ましになったけど、最初は立ち上がるのもおぼつかなかった。
 ただ、多少は体調が良くなった今でも僕にべったりとくっついてくる。
 「兄さん」
 梓の白い指が僕の頬に触れる。冷たくて滑らかな感触。
 僕を見上げる濡れた瞳。上気した頬。
 梓は僕の頬を愛おしそうに撫でる。僕はその手をそっと掴み、ゆっくりと引き離した。
 不満そうに僕を見上げる梓。
 「そんなに私が嫌なの」
 そう言って梓は僕に抱きついた。柔らかい感触。背中に梓の腕が回される。
 「違うよ。風邪がうつる」
 「嘘つき」
 背中にまわされた梓の腕に力がこもる。
 梓は僕を見上げた。無表情な表情の中で瞳だけが強烈な感情を放っている。
 劣情なのか、憎悪なのか。分からない。
 それでも、こんなのは良くない。
 僕と梓は兄妹だから。
 「梓。離して」
 梓は何も言わずに僕の頬に触れた。冷たい感触。
 梓が口を開こうとした瞬間、電子音が部屋に響く。
 僕の携帯電話。
 僕は手を伸ばしディスプレイを見た。
 洋子さんだ。
 「もしもし」
 『幸一君。体調はどうだい?』
 元気そうな洋子さんの声。
 少し聞こえにくい。にぎやかな場所にいるようだ。
 『実は今空港にいる。これからアメリカに戻る』
 そういえば洋子さんは一旦アメリカに戻って、仕事を辞めるための引き継ぎをすると言っていた。
 『三週間ほどで帰国できると思う。それまで夏美を頼むよ』
 「はい」
 『ちょっと待って。娘と代わるから』
 僕から離れる梓。不機嫌そうな視線が突き刺さる。
 『あ、あの、お兄さん?』
 久しぶりに聞く夏美ちゃんの声。
 それだけで涙が出そうになる。
 「うん。久しぶりだけど、元気にしてる?」
 『も、もちろんです!あの、お兄さんの体調はどうですか?』
 「大丈夫。もうすぐ登校できると思う」
 明日、とは言えない。
 それぐらい今の僕の体調不良はおかしい。今までに経験した事の無いぐらい長引いている。
 『あ、あの、お兄さん』
 「っ!」
 股間に服越しに何かが触れる感触に思わず声を漏らしそうになる。
 梓が、僕の股間をパジャマの上から触れている。
 『お兄さん?』
 「い、いや、何でもない」
 膝を閉じようとするのを梓は体を入れて防いだ。
 そのまま下のパジャマを無理やりおろし、トランクスの上から剛直を撫でる。
 『あ、あのですね』
 梓の白い指がトランクスの隙間から剛直に直に触れる。
 ひんやりとした感触にうめき声が漏れそうになる。
 『あの、梓がいいって言えばですけど』
261三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:32:46 ID:lvsVY0kD
 梓の白い指が僕の剛直を擦る。
 僕は携帯電話を持っていない手で梓を引き離そうとするけど、離れない。
 『そ、その、今度、お見舞いに行っていいですか』
 梓の赤い舌が剛直の先端をぺろりと舐めた。
 「っ!」
 『え?お、お兄さん?大丈夫ですか?』
 携帯電話から心配そうな夏美ちゃんの声。
 「だ、大丈夫だよ」
 必死になって梓を引き離そうとするけど、体調不良に加え片手では引き離せない。
 梓は剛直を舐めながら擦る。その刺激に意思とは無関係に剛直が固くなっていく。
 「お、お見舞いだよね」
 『は、はい』
 足を使って梓を引き離そうとするのを、梓はかわした。僕の足がむなしく宙を蹴る。
 仕返しとばかりに梓は剛直の先端を咥えた。
 熱くて湿った感触に体が震える。
 「っ、もう治ると思うから、遠慮しとくよ」
 『…そうですか』
 残念そうな夏美ちゃんの声に胸が痛む。
 「っ!」
 『お、お兄さん?』
 梓の舌が剛直の先端を激しく舐める。
 「ちゅっ、じゅるっ、んっ」
 しゃぶる音が微かに聞こえる。
 「ご、ごめん。電池が切れそうだからもう切るよ。洋子さんによろしく」
 『は、はい。お大事――』
 最後まで聞かずに僕は電話を切った。
 携帯を投げ捨てるように置き、両手で梓を引き離す。体調不良でも、両手なら何とかなる。
 地面にペタンと座り僕を無表情に見上げる梓。その瞳が奇妙な光を放つ。
 抵抗したせいか、頭痛が激しい。心臓がでたらめに暴れる。息苦しい。
 それらを無視して僕は梓を睨んだ。
 「梓!なんて事をするんだ!」
 ズボンを上げようとする僕の手を梓の手が押さえる。
 無視してズボンを上げようとした瞬間、手に激痛が走る。
 痛みをこらえて手を見る。
 手首の関節が、外されている。
 「暴れないで。後ではめるから」
 そう言って梓は僕の股間に顔をうずめた。
 痛みを無視して梓を引きはがそうとするけど、片手では何もできない。
 梓の白い手が僕の剛直を握る。
 「っ!止めろ!」
 僕の言葉を無視して梓は再び剛直を咥えた。
 「んっ、ちゅっ」
 ざらりとした舌の感触に背筋が震える。
 僕を見上げる梓の視線。熱っぽい光を孕む瞳。
 むき出しの華奢な肩。白くて柔らかそうな素足。
 頭がおかしくなりそうな嫌悪感と、確かに感じてしまう快感。
 「っ!いい加減にしろ!」
 無事な方の手で梓の髪を掴み引きはがす。
 「いたっ!!」
 梓の悲鳴。それでも僕は手を離さない。
 艶のある綺麗な長い髪。
 「自分が何をしているのか分かっているのか!?」
 梓は涙の浮かんだ瞳で僕を睨んだ。
 「なによ。妹にしゃぶられて大きくしているくせに」
 「梓!」
 「痛いから離して」
 痛みを全く感じさせない梓の声。
 僕は奥歯を噛みしめて梓の髪を離した。
 その手に梓の両手が伸びる。
 「あぐっ!?」
262三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:33:56 ID:lvsVY0kD
 再び手首に激痛が走る。
 「この一週間寝てばかりで溜まっているでしょ?大人しくして」
 梓は再び僕の足の間に体を滑り込ませた。
 引き離そうとするが、痛めつけられた両手では何もできない。
 「んっ、ちゅっ、ちゅっ、はむっ」
 僕の剛直を咥え、しゃぶり、舐める梓。
 「っ!止めろ梓!」
 足で梓を離そうとするけど、できない。
 執拗に剛直の先端を舐める梓。さらに白い手が剛直を上下に擦る。
 梓の唾液でべとべとの剛直と梓の白い手が滑らかに滑る。
 血のつながった妹に口でされる嫌悪感と背徳を含む快楽。
 「ちゅっ、んっ」
 僕を見上げる梓の濡れた瞳。
 視線が合った瞬間、感じてはいけない快感が脳天を突き抜ける。
 梓に咥えられたまま、僕は達した。
 「んっっっ!?」
 驚いたような梓の声。
 溜まっていたせいか、自分でも驚くほどの量が出る。
 「んっ、ごほっ、んっ」
 苦しそうにむせる梓。
 梓の白い喉が小さく震える。
 「んっ、こくっ」
 懸命の喉を鳴らし僕のを飲み込む梓。
 「っ、やめっ、ろ」
 声が震える。
 僕の言葉を無視して梓は最後まで飲み込んだ。
 口を離す梓。口の端から白濁が微かにこぼれる。それを梓はぺろりと舐めた。
 「ふ、ふふ」
 梓は座ったまま僕を見上げて笑い声を洩らした。
 「ふふっ、あははっ。さすが私の兄さんね。妹にしゃぶられてこんなに出すなんて」
 梓の言葉が胸に突き刺さる。
 「ねえ、どうだった?血のつながった妹に口でされるのってそんなに気持ち良かったの?」
 僕は唇をかみしめた。
 「男は刺激されるとこうなるだけだ」
 「なによ言い訳して。認めなさいよ。妹にしゃぶられて出しちゃうほど気持ちよかったんでしょ?」
 梓は立ち上がって僕の手を握った。激痛とともに手首がはめられる。
 「っ!」
 「ねえ。どうなのよ。気持ち良かったからこんなに出たんでしょ?」
 もう片方の手も激痛とともにはめられる。
 手早くズボンをはきなおし、僕は梓を睨んだ。
 梓は恍惚とした表情で僕の視線を受け止める。
 「兄さん。あんな女より私の方が気持ち良かったでしょ」
 その言葉に頭が沸騰する。
 「夏美ちゃんの方が気持ち良かった」
 梓の表情が凍りつく。顔から血の気が引く。
 痛いほどの沈黙が部屋を満たす。
 どれぐらいの時間が立ったのだろう。梓は口を開いた。
 「そう。そうなの」
 静かな梓の声。
 でも、そこには怖気が走るほどの激情が込められている。
 今更になって言ってはいけない事を言ってしまった事に気がついた。
 でも、もう引けない。
 無表情に僕を見つめる梓の視線を僕は正面から受け止めた。
 梓の手が僕にゆっくりと伸びる。
 僕の頬に触れる直前、一階で物音がした。
 玄関の開閉の音。階段を上る足音。
 足音は僕の部屋の前で止まり、ドアが開く。
 「あ、起きてたの?」
 僕たちを見て京子さんは微笑んだ。
 「幸一君。立てる?」
263三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:35:04 ID:lvsVY0kD
 「…はい」
 「じゃあ着替えてくれる。今から病院に行くから」
 京子さんは僕の額に触れた。
 「うーん。熱、下がってないわね」
 「お母さん」
 梓は不機嫌そうに京子さんを見た。
 「別に病院なんかに行かなくても兄さんは大丈夫よ」
 「梓ちゃん。今まで幸一君がこんなに体調不良が続いた事なかったでしょ。もしかしたらただの風邪じゃないかもしれないから、一応お医者さんに診てもらいましょ」
 京子さんの言う事は正論だ。
 梓はそれ以上何も言わなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 兄さんが診察を受けている間、私と京子さんは待合室で座って待っていた。
 この病院に最後に来たのは、兄さんが入院して、いえ入院させて以来だ。
 「梓ちゃんごめんね。幸一君の看病をまかせっきりにして」
 「気にしないで」
 むしろ私は兄さんを一人占め出来て嬉しかった。
 寝ている兄さんの傍にいるだけで幸せだった。
 熱を帯びた兄さんの大きな手を握っているだけで幸せだった。
 苦しそうな兄さんの寝顔を見ているだけで幸せだった。
 「梓ちゃん?」
 京子さんは怪訝な表情で私を見た。
 「兄さん大丈夫なのかしら」
 私を無表情に見つめる京子さん。その表情からは何を考えているか分からない。
 「加原さん!」
 私と京子さんは声の方向を振り向いた。そこには看護師の女性がいた。
 「ちょっと行ってくるね」
 京子さんは立ち上がって看護師の方へ歩いて行った。
 そういえばここは京子さんが働いている病院だ。
 そんな事を考えていると、京子さんが戻ってきた。
 「病院の方で欠員が出たからヘルプで働いてくるわ。悪いけど幸一君をお願い」
 「分かったわ」
 「何かあったら連絡してね。帰るのは日付が変わるころだと思う」
 そう言って京子さんは去って行った。
 病院の待合室は騒がしい。そんな中一人で私はぼんやりとしていた。
 脳裏に浮かぶのは今日の事。
 兄さんの精液の味。
 私は唇をなぞってため息をついた。
 素直に嬉しかった。
 兄さんは私で気持ち良くなってくれたんだ。
 妹の私を女として見てくれたんだ。
 それなのに、兄さんの言葉が脳裏に浮かぶ。
 (夏美ちゃんの方が、気持ち良かった)
 私は唇をかみしめた。
 惨めな気持ちが私を襲う。
 屋上で兄さんが夏美を犯している光景。
 あれがどれだけ私を打ちのめしたか。
 夏美でも、兄さんに抱いてもらえる。春子も、兄さんに抱いてもらった。
 私も兄さんに抱かれたい。犯されたい。滅茶苦茶にされたい。
 何でなの。兄さんから見て、私に魅力が無いの。
 兄さんになら何をされてもいいのに。
 何でそこまで兄さんは嫌がるの。
 血のつながった妹を抱くのが、そんなに嫌なの。
 他人が決めた禁忌なんて、無視すればいいのに。
 そんな事を考えていると、兄さんが診察室から出てきた。ふらつく足取りで私の隣に座る。
 「どうだったの」
 「ただの体調不良だって」
 兄さんは怪訝そうに周りを見渡した。
 「お母さん、お仕事に行ってくるって。急に欠員が出たらしいわ」
264三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:35:52 ID:lvsVY0kD
 「そう」
 短い兄妹の会話。
 もっと兄さんとお話したい。兄さんの声を聞きたい。
 「加原さんの保護者の方いますか?」
 受付の人が声を張り上げる。
 私と兄さんは顔を見合わせた。
 「私、行ってくる」
 私は立ち上がり受付に向かった。
 「ええと、保護者の方ですか?」
 「妹です。付き添い出来ました」
 私を見て不思議そうな顔をする受付の人に私は言った。
 「診察室に入っていただけますか。先生がお呼びです」
 私は診察室に入った。そこには初老の医者がいた。
 「どうぞお座りください」
 私は言われるままに腰をおろした。
 「兄さんに何かあったのですか」
 「ああ、心配しないでください。どこか悪いとかいうわけではありません」
 じゃあ一体何なの。
 「お兄さんは一度この病院に入院していますから記録が残っています。鍛えているだけあって健康そのものです。驚異的な回復力でした。ただですね、今回は何か悩み事でもあるのかと」
  最近の内科は個人的な悩みまで聞くのかしら。
 「お兄さんの体調不良ですが、どうもストレスが原因と思われる点がいくつかあります。それも強いストレスです」
 ストレス。強いストレス。
 「健康なのに体調不良が長引くのもストレスが原因だと思われます。何か心当たりはありますか」
 「ありません」
 医者は首をかしげた。
 「お兄さんが悩んでいるのでしたら、その悩みを取り除ける手助けをしてあげてください。どうも悩みをため込んでいて、それが体調不良につながっているように見受けられます」
 医者の話はそれで終わりがった。
 私は受付で精算してお薬を受け取って兄さんに近づいた。
 「梓。先生はなんて言ってた」
 「栄養のあるものを食べさせてだって」
 「そう」
 兄さんは疲れたように言った。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 病院から帰るタクシーの中で兄さんは泥のように眠り続けた。
 玄関を開けて家に入ると、おいしそうな匂いがした。
 兄さんは気が付いていないようだ。私は兄さんの肩を支えながら兄さんをベッドまで連れて行った。
 「今からご飯を作るからちょっと待ってて」
 兄さんは何も言わずに眠った。その寝顔は疲れ切っているようだった。
 食卓の上にはメモが置いてある。見覚えのある文字。
 『京子さんから連絡をもらいました。よかったら食べてください』
 名前は書いてなかったけど、誰かは分かった。
 キッチンに入ると、お皿にラップがしてあった。鳥の照り焼きとサラダ。コンロには鍋が置いてある。開けるとお粥が入っていた。どれも丁寧に作られている。
 私はそれらを全て捨てた。
 手早くお粥を作り、できたそれを持って二階に上がる。
 部屋に入ると、兄さんは相変わらず眠っていた。
 私は兄さんをそっと揺らした。
 「兄さん。お粥を作ったけど食べられる?」
 兄さんは薄らと目を開け起き上った。
 「…ありがとう。いただくよ」
 震える手を伸ばす兄さんを制して、私はスプーンを握った。
 「その手じゃ食べられないでしょ」
 私はお粥を掬って兄さんの口元に持っていった。
 兄さんは私を睨んだけど、諦めたように口にした。
 「はやく良くなってね」
 私は思っていることと正反対の事を口にした。
 そんな私を兄さんは疲れたように睨んだ。
265三つの鎖 23 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/03(土) 01:37:37 ID:lvsVY0kD
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力お願いいたします。

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266名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 01:57:12 ID:4MLC8jYq
267名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 02:12:19 ID:P8dKckIf
ゴルゴに依頼して狙撃して貰わないと…。
268名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 02:27:20 ID:utYIPb6x
GJついに梓のエロきて嬉しいぞ
269名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 06:10:48 ID:vmb8+eEE
梓は救われないよな‥本当、救われないよ‥これこそ、ヤンデレキモウトだ…でも、この救われないのが、ヤンデレキモウトの魅力だよなぁ〜
幸一が‥エロゲーキャラでは無く、まともな常識人なだけに余計そう感じる…
だって梓の様なキャラって一般的なロマン小説では夏美や春子の敵役‥かませ犬でしょ…
作者様が今後どう展開して行くか分からないけど是非俺達にヤンデレキモウトのミームは刻みつけて欲しい…
270名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 08:27:52 ID:XQliPlB/
GJ!!!確かに救われないなぁでもそんな梓を見ながらニヤニヤするのが俺達なわけで…GJ!
271名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 10:37:28 ID:zTQwaylU
GJ
幸一が心配すぎる…そりゃストレスで体調も崩れるわなぁ
どこまでいっても良識的な性格が俺は好きだけど、
不用意な発言と電話でのやりとりから今度は夏美が色々な意味で危なくなりそう
272名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 21:54:08 ID:5GhgrE9N
なんせ三つの鎖だもんなぁ
273名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 23:46:11 ID:+y9l3ZCH
ついに梓が幸一の味を覚えてしまったか…
274名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 23:51:53 ID:4MLC8jYq
275名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 00:25:36 ID:xvTSZuFC
梓ガチ応援してるぞ!
276名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 00:46:45 ID:iTZc+8bd
277裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 00:55:59 ID:8l/RsgQN
今晩は
表題についての投下をさせて頂きます。
三回目になりますが、よろしくお願いします。
278裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 00:56:40 ID:8l/RsgQN
アキラメルナー,アラガウノサー,ムry)
9時を知らせる放送が裁判所内で響く。

「おはよう、うむ、遅刻はしてないな。」
「当たり前だ。そっちこそいつも10分前行動の大先生が時間ぴったりとは珍しいな。」
「いや、いろいろ手続きを片さねばならなかったものでね。」
その割には酒臭い。これからこのご主人様で大丈夫なのだろうか。
いや、他に当てなんて無いけど。
「どうでも良いが金は有るんだろうな、忘れたとか言われたらこの場で誘拐に切り替えるぞ?」
「安心したまえ、ほれほれ、キャッシュで6000万。あの時間に用意するのは大変だったんだ。
 もっとご主人様に感謝したらどうだ、なんだったら犬みたいに這いつくばってくれてもいい。」
エリスはそう言ってジュラルミンのケースを持ち上げる。
「うるさい、まだ俺は自由民だ。」
「ふふん、あと1時間もすればそうなる。なんにせよ、この金を受取る気があるなら、早く僕と共に来るがいい。」
こうして、上機嫌なエリスと地裁の中に入る。
279裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 00:59:01 ID:8l/RsgQN
ここで、この国の自己売買について説明する。
奴隷売買とはいえ、こんなものが横行したのでは当然国が立ち行かなくなる。
だから、厳格な規則に基いて行われる。

@売買は裁判所で、非公開にて行われる。
A支払いは売買成立後、その場で現金にて支払う。例外は認めない。
B自己の売買を希望するものは、その事情及び売買をする権利について事前に審査を受ける。
C売買は競売によって行われる。
D参加資格者は事前に裁判所の認めたもの、又は競売対象の6等親以内の親族に限られる。
E競売中外部との連絡を禁ず。
F未成年の売買は特別な事情を除き許されない。
G競売に使用される言語及び通貨は当国のもののみとする。
H売買の結果は1ヶ月以内に官報に公告する。

以上が大まかな原則だ。

特にB、Dの審査は厳密で、担当官が売買する権利の内容、落札希望者の地位・人格、
落札希望額、競売対象との関係等を審査し、合格したもののみが参加者として認められる。
基本的に参加を許されるのはごく少数、要は競売といってもデキレースな訳だ。
お蔭様でこの国は人身売買が合法ではあるが、別に鎖につながれた奴隷が発電機を回しているなんていうことはない。
まあ平々凡々な国家だ。
そもそも売買自体が実のところほとんど行われない。

さらに、普通は審査に早くて一月は掛かるし、
まして結婚権や居住権などの個人の自由に深く関わる権利を売ると書けばそれだけでも跳ねられる要因になる。
ついでに今更だが、全人権込みで6000万は破格の安さだ。
これらの問題を無視して、申請を一晩で通すとはエリスはどこにどう手を回したのだろう。
金とか権力って恐いね、全く。
280裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 00:59:40 ID:8l/RsgQN
午前10:00、競売が始まる。
俺は被告人席に立ち、裁判官のほうを向いている。
競売対象は参加者に背中を見せるのが規則だ。
ちなみに競落人は傍聴席に座る。
「それでは、○○年第××××号、永瀬 宗一の競売を始めます。」
裁判官が宣言する。
「はい!! 6000万!!」
元気良く手を挙げるエリスの声が法廷に響く。
うわっ、どう見ても社会科見学の小学生にしか見えないな、あれ。
ほら裁判官も思わず競落人リストを照合してるよ。
なんにせよだ、これで落札決定だな、毎度あり。
「6000万円以上を提示するものは挙手してください。」
一応慣例として応札を呼びかけるのだが居るわけがない。デキレースなのだから。
このたびはお買い上げ誠にありがとうございました、っと。
まあ、これでしばらくはさよならだな、夜澄。
「提示者は居ません、では6000ま「1億円。」」

静まっていた法廷内に凛とした声が響く。

何!? どういうことだ!? 競合者!?
そんなことありえない!
思わず後ろを振り向く、そこには夜澄がいた。

こんなところには居るはずがない、こんな事知っているはずのない大切な妹が。
281裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:00:29 ID:8l/RsgQN
******************************************
「貴様、どういうつもりだ!!」
エリスは後ろを振り向いた。
そして、涼しい顔をして手をあげる夜澄を睨みつける。
「どういう? 見ての通り宗一兄様を落札したのですが?」
「なんでお前がここに居るのかと聞いているのだ!?」
「あら、ならそう言っていただかないと分かりませんよ? 頭悪いんですね、アナタ。」
「何だと!?」
「最高価格は1億円です、1億円以上を提示するものは挙手してください。」
裁判官の声に慌ててエリスが手を挙げる。
「待て、2億、いや3億出す!!」
その取り乱し様を鼻で笑う。
「ふふ、失礼ですけどそれを現金でお持ちですか?」
「何!?」
「糸川 エリス、貴方は入廷時に所持金6000万円と申請していましたが、その他にお持ちで?」
裁判官が尋ねる、エリスが慌てて返答する。
「待て、確かに今はそれしかない。だが、連絡を入れればすぐに4億でも、いや10億でも用意する!!」
「ここでは外部との連絡は禁止ですよ? 競売のルールも分からないなんて、やっぱり頭悪いですね、アナタ。」
夜澄が呆れたようにエリスを横目で眺める。
「落札、○○年第××××号、永瀬 宗一、価格1億円で落札とする。
 なお、落札者は手続きがあるので第3応接室へ来室されたい。」
「くすくす・・・・・・、夜澄がお買い上げ、ですね。」
エリスの顔が青ざめる、そしてその様子が何とも楽しいのか鈴の様に笑う。
「くすくす・・・・・・、アナタみたいに頭の悪い方には兄様なんてとても勿体無さ過ぎると思いますよ?
 アナタには、ああ、そうですね、ソーセージなんて生涯の伴侶にぴったりじゃないでしょうか? 
 芥子でもたっぷりと着けて挿れれば発育不全で不感症、貧弱な体でも楽しめるかもしれませんよ?
 ふふ、では、受け取りとお支払いがありますので失礼しますね。」
エリスはまだ状況を飲み込めず固まったままだった。
普段聞けば怒り狂ったであろう夜澄の暴言すら耳に届いていない。
その様子を満足そうに眺めた後、夜澄は立ち上がり、出口に向かう。
282裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:02:18 ID:8l/RsgQN
やっと正気を取り戻したエリスが跳ねがり、夜澄の白い腕を握り締める。
「待てよ!!」
「あら、まだ何かありましたっけ、痛いので放していただけませんか?」
痛いなどと口では言っているが、その顔には余裕が浮かんでいる。
「ふざけるな人形女!! 僕を嵌めたな!!」
「嵌める、人聞きが悪いですね〜?」
「貴様!! そのふざけた笑い顔も明日にはできないようにしてやるからな!!」
「あら、それは怖いですね〜。でも、アナタに何が出来るんですか?」
夜澄は子供をあやす様にエリスに応える。
「ふざけるな!! お前なんかどうにでもできる!!」
「どうにでも? くすくす、法に訴えますか? 
 でも、夜澄は危うく奴隷として売られそうだった兄様を家族として買い戻しただけですよ?
 くすくす、一晩で全人権をたったの6000万で買おうとしたなんて、どんな不法をされたんですか?
 もし法を頼れば、アナタの方が裁かれるかもしれませんね。」
「なっ!?」
「それとも、夜澄を闇討ちしますか? できませんよね、この状況では確実に誰の仕業か分かります。
 そうすればアナタだけじゃなく、ご両親も、その会社の方も、ご同僚も巻き込まれてしまいますね。
 いえ、それどころかあなたの研究で救われるはずだった方の希望も失われてしまうかもしれません。
 もしも、大企業のご令嬢で世界的に著名な大学者のエリスさんがそんなことをしてしまったら・・・、くすくす。
 それに、くすくす、ご自身よりも大切な夜澄を傷つけたエリスさんを、兄様が許してくださると思いますか?」
エリスから血の気が引く。冷静になって考えればその通りなのだ、エリスに取れる手など無い。
非凡の明晰さであらゆる可能性を思案する、しかし、どの手段もエリスをより悪い方向へ導くだけだった。
もしもエリスがただの少女ならば自分以外の事など考えなくて良かっただろう。
愚かであったならば感情だけで動けただろう。
だが、糸川 エリスはどちらにも該当しなかった。
だから、最早出来る事など何も無かった。
「さて、くすくす、怖い怖いエリスさんは夜澄をどうして下さるのですか?」
「でき・・・な・・・い。」
「くすくす、はい、よくできました。お利口ですね〜、ふふ。」
そう言って夜澄は少し腰を曲げて、エリスの頭を撫でる。
エリスは全力でその手を払いのける。
283裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:03:23 ID:8l/RsgQN
「あら、痛い。ふふ、つれないですね、くすくす。
 例えばですが、唯一の家族を奪われそうになった重病の妹とその兄を窮状に付け入って買い叩こうとした大先生。
 世間の方々はどちらの味方になってくれるでしょうか? くすくす、その若さで大先生、さぞ敵を作られたのでしょうね?
 もしも夜澄がちょっと背中をとん、と押して差し上げれば・・・・・・。」
「僕を破滅させる気なのか?」
精一杯の敵意で夜澄を睨み付ける、それだけが唯一エリスに出来る反撃だった。
そんなエリスの無様な姿を見て、機嫌がよさそうに夜澄が答える。
「いえ、できるというだけですよ。
 だってそんな事しても手間が煩わしいだけで夜澄にはなーんにも得が有りませんもの。」
「何だと!?」
「くすくす、夜澄にとってはアナタなんて初めから何の脅威でも無いのですよ?」
エリスは下を向いて、歯を食いしばる。
「それで、夜澄をどうなさるんですか?」
「うるさい・・・・・・。」
「あら?」
「う・・・るさ・・い、う・・・るさ・・い、えぐっ・・大っ・・・嫌い・・・だ、お前・・・なん・・・・・か。
 僕・・・はまた・・・・こ・・・れで・・・・えぐっ、独り・・・・だ、
 面・・・えぐっ・・白い・・・んだ・・・・・ろ、愉快・・・・なん・・・だ・・・ろ。
お・・・・前・・・が・・居な・・えぐっ・・・ければ・・・・宗一と・・・・・居・・・られる・・・・のに。
 何で・・・居るん・・・・・・だ・・・お前・・・なんて・・・えぐっ・・・消えちゃえよ・・・・・・ぐす・・・えぐっ。」
エリスはそこまでを言い切ると声を上げて泣き出した。
夜澄はその様子を詰まらなさそうに眺めている。
夜澄にとってのエリスは不愉快ではあったが、初めからどうでも良い存在だった。
エリスが何で泣いているのかなんて全く理解できないし、そもそも考える気も無かった。
エリスが孤独だろうと、今更泣こうと全く興味が持てない。

「はぁ、何と言いますか・・・・・・、白けました。
 兄様が唯一親しかった、もちろん夜澄は愛されてますから別格ですが、方ですので多少はとも思いましたが。
くすくす、まあ夜澄と兄様は特別ですから仕方が無いですか、くすくす。
 では、今度こそ失礼いたしますね、くすくす、さようなら、未来永劫、永遠に。」

夜澄は再び出口に向かって歩き出した。
 
284裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:04:35 ID:8l/RsgQN
***************************************
夜澄とエリスが何かを話しているのが見えた。
エリスが泣いている?

話を終え、そんなエリスに構わず出て行こうとする夜澄を見て、俺は怒鳴った。
「おい待て! 夜澄! どういうことなんだよ!?」
だが、夜澄はこちらを向こうとせず出口に向かって歩く。
「待てよ! どうしてここに!? 夜澄!!」
被告人席を飛び出し、追いかけようとした俺は警備員に押さえつけられ、スプレーを吹きかけられる。
その途端に視界が暗転し、そのまま意識を失った
285裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:05:36 ID:8l/RsgQN
意識を取り戻したときには自分の部屋で仰向けに寝ていた。
もう窓の外はすっかり暗くなっている。
押さえつけられた後、そのまま自宅に直送された訳か。
多少冷静になったので再度状況を考えてみる。
夜澄は何らかの方法で俺の事を知ったのだろう、あの医師が口を滑らせたのかな?
そして何らかの手段で金を工面し、俺を買い戻した。
あいつでは一晩で金は工面できないだろうから、・・・・・・隠し財産でもあったのだろうか?
まあ、家族が競売に参加して買い戻すというのはそこまでおかしい話ではないな。
いずれにせよ金は俺の手元に有るのだから手術代はそこから工面すればいい。
もしも、万が一まずい金なら俺が全部責任を被ればいいだけだしな。
ということはだ、考えてみればそんなに悪い状況ではないじゃないか。
・・・・・・エリス大先生にぶち殺されなければ、いや、バラされて素材にされても文句言えんがな・・・。
あれかな、モツを抜いて禁●人形かな? 
286裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:06:30 ID:8l/RsgQN
・・・・・・まあいいか、先々の事なんぞ考えてもしょうがないな。

取り敢えず夜澄はっと?
ふむ、今は居ないか。まあ、戻ってきたら事情を聞けばいい。
さて、と体を起こそうとしたがそれは出来なかった。
手足の手錠がジャラリと音を立てる。
「あれ?・・・、これはどういう?」
「あら、兄様、お目覚めになりましたか。」
夜澄が部屋に入ってきた、いつも通りの藍色の着物姿だ。
「ああ、ちょうど良かった取り敢えずこれを・・・・・・、!!」
外してくれと言おうとしたところで、俺の口は夜澄の口で塞がれた。
驚いて思わず、頭を持ち上げてしまった。
そのまま夜澄の頭とぶつかる、鈍痛が走る、かなり痛い。
「おい! いきなり何をするんだ!?」
「それは夜澄の台詞ですよ。う〜、痛いじゃないですか、兄様。
 ちょっと権利を使ってみただけじゃないですか、夜澄は兄様のご主人様なんですよ!?」
もうっ、と涙目になりながらすねた様子で自分の頭を抑える夜澄。
その後で、イタズラが上手くいった子供のようにくすくすと笑う。
驚きで頭が回らなかったが、ここでやっと気がついた。
ああ、要はからかっているんだな?
そうだな、いきなり何も知らせずに消えようとしたんだ。意地悪の一つもしたくなるよな。
もう取り戻せないと思っていた大事な家族との日々が戻ってきたんだよな。
1週間前、医師から手術の事を聞いた時以来張り詰めていた物がやっと緩んだ。
「っぷ、あははは、すいませんねぇ、ご主人様。
 でも、イタズラが過ぎると心臓に悪いですよ。
 私めのにも、ご自分のにも。」
特に夜澄のは爆弾つきなんだから。まあ、この程度なら大丈夫かな?
なんにせよ全てが上手く行くんだ、うん、良かった、良かったんだ。
これで何もかもが巻き戻るんだ、これ以上を望めないほどの最高のハッピーエンドじゃないか。
全ては大団円だ、奇跡は起きた、全米が泣いた、歴代興行収入第1位の超大作でスポンサーも大満足じゃないか。
「ところで兄様、実は一つ謝らなければならないことがあるんです、大したことではないのですが・・・・・・。」
笑うのを止めた夜澄はイタズラっぽい目つきのままに話しかける。
「何だ? 言ってみろよ、何だって許してやるぞ。」
夜澄はそんな幸せな俺の顔を見てにっこりと微笑む。
その笑顔に釣られて自分の顔も緩む。





「ふふ、実は・・・・・・、全部ウソ、だったんです。」
にへらにへらと緩んでいた顔が一瞬で引き攣った。
287裏切られた人の話:2010/07/04(日) 01:07:53 ID:8l/RsgQN
俺は回らない舌を無理に動かして言葉を作る。
「え、嘘? 何が・・・・・・? 金・・・・・・か? それとも、・・・・・・手術か・・・?」
「全部です、くすくす・・・・・・。」
夜澄がまたさっきのようにくすくすと笑い出す。
けれど、今度は何か禍々しいものを感じる。
「くすくす、全部ですよ。夜澄が1億円必要なのも、移植手術が必要なのも、病気なのもぜーんぶ嘘なんです。」
あっ、でも兄様への気持ちは嘘偽りなんてありませんから安心してくださいね、と夜澄が付け加える。
「嘘だ・・・・・・。」
「嘘ではありませんよ、その証拠に・・・・・・、ほら?」
軽く胸元をはだけさせ、つながれた俺の手のひらに押し当てる。
ドクン、ドクンと停止寸前のはずの心臓は力強く脈を打つ。
「じゃあ、どうしてだ? どうしてそんな嘘をついたんだ!?」
「あら、兄様を愛してるからに決まっているじゃないですか?」
さも当然というようにあっさりと答える。
「愛してる?」
「ええ、もちろん異性的な意味も込めてですよ、夜澄はずうっと兄様の事を愛していました。」
「異性って、お前、それは外の人間から選ぶものだろ?」
「くすくす、夜澄にとって男性は、いえ、人間なんて兄様しかいませんよ、くすくす、それでどうやって選ぶんですか?」
夜澄は、おかしそうに笑う。
「人間がいない?」
「ええ、夜澄と兄様だけ。」
夜澄は、またおかしそうにくすくすと笑う。

俺は理解した。
夜澄がどうしてこんな事をしたのか。
そして、自分のしてきた事の罪深さを後悔した。
288裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:08:13 ID:8l/RsgQN
人間はいない。
ああ、そうか今の状態は全部俺のせいだ。
結局、あの時から俺はこいつを歪ませていたんだ。
事故の後、俺の世話に付きっきりだった夜澄に遊ぶ時間があっただろうか、友人や恋人を作るだけの時間は、自分の夢を見つける時間は?
友達の話を聞いたことは無かった、学校での話も、いや、そもそも夜澄が自分の話をする事自体が無かった。
夜澄は俺の身勝手のために、ずっと兄と自分だけしか存在しない世界に縛り付けられていたんだから。
夜澄は俺以外の人間を知らずに、だから俺だけを愛していると錯覚させられた。
俺は何度も夜澄を裏切り、いくつもの未来を夜澄から奪った。
その結果がこの永瀬宗一だけを愛する夜澄なんだ。

表面上は癒えた様に見えても、新しい傷が付く度に少しずつまた開いていく。
ああ、きっと夜澄は何回目もの裏切りで壊れた、いや壊されてしまったんだ、俺によって。
289裏切られた人の話 3:2010/07/04(日) 01:10:40 ID:8l/RsgQN
お邪魔させていただきありがとうございました。
また、遅ればせながらwikiへのご編集もありがとうございます。
次回でこの話は終了できるかと思います。
元々短編のつもりでしたので、ご期待に添え無いかもしれませんが、
残り一回分をよろしくお願いします。
290名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 01:34:51 ID:e3ap45ah
>>289
乙!!!!
しかし次回で完結って…orz
291名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 01:49:35 ID:ROh3YHRJ
>>289
GJ!
キモウトスレなのにエリスルートも読みたくなった
292名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 07:38:14 ID:pm5mWSzG
>>289
GoodJob!
しかし自分も何となく個人的にエリスの方に肩入れしたくなるなぁ・・・
293名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 08:42:16 ID:FW8AQhVZ
深いな…。
裏切られたのは誰だ?
294名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 14:36:48 ID:3QJyRCvu
>>293
次回いきなり姉キャラが表れて妹と金髪ロリを処分、姉ルート突入とかいうオチだったりして。
そんで裏切られたのは俺たち(読者)だったのだよ、ななんだってー……みたいな

うん、なんでもない忘れてくれ
295名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 15:06:37 ID:hzawvr94
ちゃぶ台ひっくり返すどころじゃないぞw
296名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:35:28 ID:Trt6RnBR
>>289
GJ!!
夜澄最高!
297名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:38:58 ID:hcoahgwn
>>281で6000万飛んで1円で落札する嘘喰いな夜澄
298名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 00:28:35 ID:oQ9PXQbr
人身売買とは斬新なストーリーだ…アイデアに感服。
299名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 03:02:04 ID:JfTuuDn+
GJ
しかし売買の事情の審査があるはずなんだよな
なのに事情そのもののはずの夜澄が落札するって問題にならないのかな
300名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 07:23:09 ID:5kvDAQ6m
例えば夜澄本人が落札したことになってなかったら問題ないんじゃない?
301名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 07:25:26 ID:EOJHRwv2
>>299
売られそうな家族を助けるんですよ?
問題なんかあるわけないじゃないですか。
むしろ何の関係もない家族の問題に首を突っ込んで
他人の人権を買おうとした人非人こそ責められるべきでは?
302名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 07:44:54 ID:QsePC1GH
>>301
夜澄乙
303名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 17:22:01 ID:KTk//NqW
304名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 06:05:59 ID:C04Kzecq
某女性化水滸伝の解シスターズを思い出した
猫耳キモ姉妹か…
305名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 08:11:26 ID:OpXiJsy+
猫耳も萌えるけど…某スレのssを読んでアンドロイドのキモ姉妹も良いと思った…キモ姉妹の生前の記憶を組み込まれた無敵のキモドロイド…但し兄弟の身体が持つかなww〜
306名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 16:00:20 ID:IUwybH70
何という逆転劇。
この人身売買法は泥棒猫をハメるためにキモウトキモ姉が成立させたに違いない
307名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 18:35:33 ID:puf54ulj
308名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 19:49:34 ID:4vhy8UgP
>>305
保管所にメカキモウトが数編有ったかも。
309名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 20:41:55 ID:HJrKEZBu
>>315が妹の短冊に書かれていることを出来る限り叶えると聞いて
310名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 20:45:25 ID:7kfMu/5B
そういえば明日は七夕か
何か良い七夕ネタは無いだろうか
311名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 20:49:09 ID:rBRtoanP
俺の地方だと8月に七夕だからかあんまり実感がないな
312名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 22:24:50 ID:tSsWuLVZ
しかし全人権で6000万は破格なんだよな。
ってことは他の競売者が吹っかけてくる可能性もあるわけで。
6000万きっかりしか持って行かなかったエリスが浅はかすぎるな。
313名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 00:36:04 ID:J3/VQPB2
314名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 00:50:08 ID:8Regfeit
最近↑のような不可解なレスはキモ姉妹に監禁されている兄弟からの暗号ではないかと思うようになった
315名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 01:04:55 ID:jQUmVuxW
未来のあなたへの優香が可愛すぎてつらい
316名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 05:21:43 ID:7eeb5EE5
317名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 05:29:14 ID:CMhAQlUN
今日は小ネタにある織姫ねーちんが
弟の彦星を都に呼んで監禁ですね、わかります。
318名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:02:41 ID:g1KXYEAI
そういえば小さい頃妹が短冊にお兄ちゃんと結婚できますようにって書いてたなぁ
319名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:11:30 ID:KvnpHJV9
>>318

ちょっと後ろを見てみようか
320名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:29:35 ID:3SWSsuZY
なんで最近の作者って、近親っていうアドバンテージを使わないのか気になる。姉、妹に彼女を紹介する。これ醍醐味じゃん
321名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:42:10 ID:VDU21xMM
いや、使ってるだろ
主人公の苦悩や背徳感、近親姦への忌避だって、義理にはない近親のアドバンテージなんだし

まあ、>>320が彼女紹介だけが近親のアドバンテージだと主張するなら、そうなんじゃね
どうでもいいけど
322名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 12:45:56 ID:1TWAly7j
まあ話の都合というものがあるからねえ
そもそもキモ姉妹の場合、兄弟の交遊関係あらかた掌握してたりするもんだから
初めから知り合いだったりするし…

ただ心惹かれるシチュエーションなのはたしかであるからして
どなたかそんな感じで書いてみていただけるなら僥倖でございますですよ?
323名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 16:55:43 ID:J3/VQPB2
324名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 16:58:37 ID:SwKvo0aQ
助けて
325名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 17:04:41 ID:BcHTKVUe
がんばれ
326名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 20:42:33 ID:GJTMm6fv
このスレって双子とかもOK?
一応書いてみようと思うんだけど
327名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 20:47:02 ID:iCPug9G9
>>326
男女であれば、普通の兄妹でも義理でも人外でもOK
双子でも何の問題もない。お待ちしてます。
328名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 21:02:18 ID:GJTMm6fv
>>327
ありがとう!
それなら出来次第投下しますね。
329名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 21:33:42 ID:J3/VQPB2
330名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 22:48:37 ID:j54Q79jx
暑いので引っ付くのは何とかしろとかどうとか
331名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 01:30:46 ID:WQmhj5O3
>>330
IDの数だけ中だしすればいいと思うよ
332名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 01:39:56 ID:USYUCzGr
投下が無いと寂しいなぁ〜おい……
333名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 01:41:33 ID:XTt9CIzV
今は耐えるのだ
334名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 02:30:16 ID:dz7P5rZP
335名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 10:59:16 ID:7rAIzpHk
>>334のIDがZP(ザーメンパワー)な件
336335:2010/07/08(木) 11:02:06 ID:7rAIzpHk
sage忘れすまん
337335:2010/07/08(木) 11:02:51 ID:7rAIzpHk
自分のレス見返したら自分のIDがIzp(イノセントザーメンパワー)でびっくりした
338名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 14:21:15 ID:AfOI7r4I
それ面白いと思って言ってるのか?
釣りだよな?
339名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 15:43:16 ID:52Gn1HV/
兄への思いをひたすら短冊に書き綴り笹へと飾る妹
だが笹はその愛の重みに耐えきれずやがて根元からへし折れたという…
340名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:40:32 ID:kUFnFBRh
338はソウカンジャー読み返してくると良いよ
341名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:41:25 ID:4vkvYH7C
ノスタルジアと壊れてる待ち
342名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 22:08:06 ID:bZeKyKXk
326です。
先日言っていた話ができましたので投下したいと思います。
よろしくお願いします。
343Identical:2010/07/08(木) 22:10:18 ID:bZeKyKXk
「やっべー!」
冬の名残がうっすらと残る歩道を全速力で駆け抜ける。
俺は春休みという長期休暇を利用して、週に5日ファミレスでバイトをしていた。
その開始時間が午後6時から。そして現在の時刻も午後6時。
完全に遅刻だ。
だが俺が焦っている理由は店長に怒鳴られるといった類のものではない。
もちろんそれもあるが、真の要因はそれではない。
「アイツ・・・ぜって〜キレてるな・・・」
アイツと呼ぶ人間。俺にとっての心労の種。
山川二奈(にな)だ。
そして俺の名前は山川優二(ゆうじ)。
同じ学科で同じ年、名字も同じだ。挙句の果てには名前に『二』も入ってるところまで同じと来た。
でも特別不思議なことではない。
なぜなら俺達が双子の兄妹だからだ。しかも一卵性。顔だって良く見ないと区別がつかないくらい酷似している。
そんな俺達の数少ない相違点が性格だ。
俺とは違い、あいつはいい加減な事が大嫌いだっだ。
小学校の頃、すでに人気者だった二奈はこれまたクラスの人気者だった男の子に告白された事がある。
しかし首を縦に振った事はなかった。
不思議に思い訊ねると、
「だってあの人、私の事全然知らない癖に好きだって言うんだよ?そんな人の事なんて好きになれるわけないじゃない」
本当に思春期の女の子か?と疑いたくなるような返事が返ってきた。
これだけならまだ良かった。自分だけだったなら。
けど二奈はこれを俺にまで強要してくるのだった。
それは数年前、顔が似ているにもかかわらず全くモテなかった俺が、中学生の時に初めて女の子から告白をされた日の夜に起きた。

「・・・え?今・・・なんて・・・?」
「ん?だから今日2組の由紀子ちゃんに告白されちゃってさ、正直どうしようか迷ってるんだよね」
「・・・迷う?特別好きでもない子なのに迷うの?」
「まぁかわいい子だったしな。それに付き合っていくうちに好きに―――」
「何考えてるのよ優二!かわいいからって好きでもない子と付き合うなんて最低だよ!」
「お、おい・・・」
「ダメ!そんなの絶対にダメだから!」

俺はこの時の二奈に完敗を喫し、人生初の彼女はお預けとなった。
二奈にとって双子の兄である俺もその対象に入るのだろう。
そんな彼女の事だ。遅刻した日には容赦のない叱咤を聞かされることになる。
多分仕事が終わってからも。
だからこそ一分一秒でも急がなくてはならない。
(あ!・・・・・・服、忘れてきた・・・・・・・・)
結局、ファミレスについた頃には7時を回っていた。
344Identical:2010/07/08(木) 22:11:03 ID:bZeKyKXk
従業員専用の入り口を抜け店内に入る。
ざっと見たところそれほど忙しくはないようだった。
とりあえずほっとする。
だがそれはつかの間の安息だった。
「ちょっと!今頃来るなんて何考えてんのよ!」
声がした方向には仁王様―――曰く二奈が立っていた。
「あんたのせいで周りの人にどれだけの迷惑がかかってると思ってんの!?大体あんたはいっつも・・・」
仕事中だというのに例の説教が始まった。
確かに二奈の言う事は道理にかなっているのだが、時と場合を考えてほしい。
話半分で聞きながら視線を彷徨わせると、ふとあることに目がいった。。
「・・・なぁ、俺って今日は接客の方だったよな?なんで皿洗いのところに名前があるんだ?」
「訊いてるの!?・・・ったく、それはあんたが遅刻して接客が足りなくなったからでしょーが」
「そっか。ならもう来たんだから俺がやるよ」
ここでは基本的に接客のバイトが一番しんどい。
だからこそ率先して変わってあげると言ったにも拘らず、二奈はその申し出を断った。
「・・・いい。今日はウチが最後までやるから」
「え!?いつもなら『やった〜!』とか言うくせに?」
「いいの!今日は接客をやりたい気分なの!」
その言葉を最後に二奈は持ち場へと戻って行ってしまった。
釈然としないまま、俺は更衣室に向かった。

皿を洗ってる最中、またしても二奈が俺のところにやって来た。
「何でちゃんと遅刻しないようにできないかな〜?一応私と同じ血が流れているんでしょ?」
「あーもう、うっせーな!そんなこと言うためにいちいち来んなよ!」
ウザイことこの上ない。嫌な客でもいたのか?
「なによ〜こんなかわいい女の子がしゃべりかけてあげてるのに何て言い草なの?」
「自分で自分の事をかわいいとか言うな!それに俺もおんなじ顔してんだぞ!」
「知ってるよ。本当に優二はイケメンだね〜」
なんなんだ。ってか仕事しろよ。
「なぁ、仕事の方はいいのかよ?」
そう言った途端、二奈の表情が激変した。
「・・・あぁ・・・いいんじゃない・・・かな・・・?」
「『かな』?」
「あ、あははははは・・・!」
おかしい。真面目な二奈が仕事をさぼるなんてよっぽどの事に違いない。
ま、まさか・・・セクハラオヤジ!?
「何番のテーブルにいるんだ!俺が話し合ってくる!」
「だ、ダメだよ!いっちゃダメ!!」
いきり立った俺をそれ以上の気迫で二奈が引きとめてくる。
もしかしてヤバめな御方なの?
「・・・そ、そうだな!俺よりもまずは店長に報告だな!」
すまん、頼りない兄貴で本当にごめんなさい。
そして店長・・・ドンマイ。
「て、店長にも言わなくていいよ〜!」
噂をすればなんとやら。
その店長がやってきた。
「いたいた!悪いんだけど優二君、今から1番テーブルに行ってくれないかな?」
345Identical:2010/07/08(木) 22:11:53 ID:bZeKyKXk
店長は俺と二奈が仕事中にもかかわらず談笑していたことを気にも留めずにそう告げてきた。
その言葉に俺より先に二奈が反応する。
「だ、ダメです、絶対に!なんで優二をあそこに行かそうとするんですか!?」
店長に喰ってかかるその目には激しい情念が見え隠れしている。
「でもね〜お客さんが是非優二君をって」
「ここはホストクラブじゃないんですよ!ただのファミレスにそんなシステムは通用しません!」
「で、でもお客さんが・・・」
店長と二奈の喧嘩(?)を尻目にホールを覗いてみる。
「え〜っと、1番1番は・・・ん?んん!?」
そこには金髪眉無の若者が彼女らしき人物と座っていた。
店長の話だとあの客が俺を名指しで指名してきたらしい。
だがあんな奴、見覚えがまるでない。
とりあえず他のテーブルに行くふりをして脇を通る。
近くで見てもまるで分からない。
「おい、そこのお前。ちょっと注文いいか?」
だが近くに寄りすぎてしまったせいか、声をかけられた。
「は、ははははははい!」
「なんだよコイツ!俺にビビってやがるぜ!超ウケる〜!」
「・・・ぐっ!」
マジでムカつく。超ムカつく。でもそれ以上に超恐い。
「あ、ははははは―――」

・・・ダンッ!・・・

何かを叩いた音が聞こえた。それもとてつもない力で。
「・・・ねぇ・・・さっき言葉、誰に向かって言ったの?」
ヤンキーの彼女さんが机の上で拳を握ったまま呟いた。
顔は下を向いているせいで見ることはできなかったが、美人さんだと安易に予想がつく。
「誰に向かって言ったの?」
なんだろう?綺麗な女の人なのに、なぜかこのヤンキーよりも恐ろしく感じてしまう。
・・・ってか、あれ?この声ってもしかして・・・
「お、おい・・・?」
ヤンキーもさすがにこの状況に気がついたらしい。
そこでようやく女性の顔が上がった。
その顔は美人の部類に入るための要素を全て兼ね備えていた。
「ねぇ、ヤンキー君。さっきからも言ってるけど、私はあなたの事が嫌いなの。日本語・・・分かるよね?」
水を一口含んだ後、満面の笑みでもう一度訊ねた。
「分かったなら・・・この後あなたがどうしなければいけないかも分かるよね?」
まるで優しい母親が子供を諭しているかのように。
ただ内容はこれっぽっちも慈愛に満ちていなかったが。
「す、すいませんでした!」
立ち去るヤンキーさん。
女性はその後ろ姿を見届けると、さっきまでとは別人のオーラを放ちながらこちらに目をやった。
「久しぶりね―――優二」
346Identical:2010/07/08(木) 22:12:24 ID:bZeKyKXk
ヤンキーの彼女だと思われた女性。その正体は俺の2つ上の一葉(いちは)姉さんだった。
「しばらく見ない内に大きくなって・・・なんだか優二が遠くに行ってしまったみたいでさびしいわ」
優雅な物腰に加えて透き通った美しい声。
ファミレスが高級フランス料理店に感じてしまう程の気品がそこにはあった。
「逆に姉さんの方はあまり変わってないね。昔のまんまだ」
「あら?それはどう解釈したらいいのかしら?」
「今も昔も美人だってこと」
「フフ、ありがと。でも褒めても何もでないわよ?」
こうして姉さんと向き合って話したのはどれくらいぶりだろう?
地元の大学に進学した姉ちゃんと違って、俺も二奈も県外の大学に進学したのだ。
だから今年のお正月以来・・・ん?そんなに久しぶりじゃなくね?
「・・・本当に・・・久しぶりね・・・」
・・・ま、いっか。
「ところで何注文する?俺がおごるよ」
「ま、男らしい事言っちゃって。それじゃお言葉に甘えて・・・優二のオススメでもお願いしようかしら」
俺はこの時、完全にある事を忘れていた。
「そうだな〜じゃあ―――」

「年増豚の丸焼なんていかがでしょう?」

突然後ろから声が聞こえた。
声からするに二奈のようだが、突然の風邪でもひいたのか声がものすごく低かった。
「当店の自慢なんですよ。いき遅れた哀れな豚をオーブンの中に閉じ込めてじわじわと焼き上げる。まさに姉さんにピッタリの料理です」
それを言うなら子豚の丸焼だろ?確かにコラーゲンたっぷりで美容に効果があるから姉さんにはぴったりだけどさ。
「それはおいしそうね。でもね?私は優二のオススメが食べたいの。悪いけどあなたのじゃないのよ」
そう言えば昔っから姉さんは俺の食べてるものを欲しがっていたよな。味覚が似ているのか?
「・・・優二、あんた今日は皿洗いでしょ?こんなところで油なんか売ってないでさっさと持ち場に戻りなさいよ」
二奈は俺を見向きもせずに淡々とそう告げた。
確かにお客1人に対して2人の接客は非効率すぎる。
それに俺は十分姉さんと話したけど、二奈はろくに話をしていないのだろう。
ここは花を持たせてやるか。
「分かったよ。それじゃあ姉さん、後で店長に俺のオススメを作ってもらうように言っておくから、ゆっくりしていってね」
そう言って帰ろうとしたが、
「待ちなさい」
できなかった。
「最初に私を接客したのは優二よね?なら最後まで勤めを果たすのがマナーってものじゃないかしら?」
「それはどこの高級レストランのマナーですか?ここはごく一般的のファミレスですよ?」
「そうだとしても、いきなりウェイターが変わるなんて、お客からしてみれば自分に何か非があったと思い、良い気分ではないわね」
「そうです。お客様に非があったからウェイターが変わるんです。分かっていられるならもうよろしいでしょうか?」
「全然よくないわ」
何だか怖い・・・
昔から姉さんと二奈は意見が合わないことが多かった。
よく行動を共にしているから仲が悪いという事はないと思うが、ときどきこうして言い合いを始める。
そして最後はいつも、
「それなら優二に決めてもらいましょう?」
「えぇ、異存はないわよ」
俺が被害者になる。
「え、えっと・・・」
347Identical:2010/07/08(木) 22:13:10 ID:bZeKyKXk
「お〜い、優二君電話だよ〜!」
その時天の助けが現れた。
「わ、分かりました店長!そういうわけだから、ちょっと行ってくるね!」
憮然とした表情の二人に別れを告げ、奥に消える。
「た、助かりました店長!・・・それで誰からの電話ですか?」
「若い女の子からだよ」
「?」
とりあえず電話に出る。
「あ!兄ちゃん!?」
俺の事を兄ちゃんと呼ぶ女の子。山川家三女にして末っ子の三華(さんか)。現在18歳。
「あぁ俺だけど、どうかした?」
「今日のバイトって何時まで?」
「は?・・・10時までだけど」
「ふ〜ん、ならその頃に行くね!」
「お、おいちょっとま―――」
プー、プー、プー
電話が切れた。
三華は超マイペースな人間で、時折周囲の人を混乱させるのだ。今みたいに。
「なんだって?」
「それが突然電話を切られて・・・なんだかこっちに来るみたいな事を言っていたんですが」
でもそのためだけにわざわざ電話をかけてきたのか?
それに直接会いに来ると言うからには、電話では言いにくいことがあるのか、はたまた何かを俺に見せたいのか?
「さすが優二君。モテモテだね〜」
「はいはい、ありがとうございますね」
店長の贅語を軽くあしらった後で仕事に戻る。
ところで何か大事なことを忘れている気がしないでもないが・・・まぁ思い出せないものはしょうがない。
とにかく10時まで頑張ることにした。


仕事に集中してしばらくすると、またしても二奈がちょっかいをかけにやって来た。
「がんばってるね〜。えらいえらい」
なぜかご機嫌の笑顔を振りまきながら仕事の邪魔をしてくる。
「・・・仕事しろよ」
「だってもうすぐ10時だよ?お客さんだって全然来ないじゃん」
二奈の言葉で時計を見る。短い針が10を指そうとしていた。
「やっべ!早く終わらせないと!」
「?・・・今日って何かあったっけ?」
二奈を軽く無視して、急いで皿を片づける。
その甲斐あってか、何とか10時には仕事を終えることができた。
ただその代償として二奈の機嫌が急降下してしまったが。
「帰ったら覚えときなさいよ・・・」
「はいはい覚えとき―――ん?」
その言葉を聞いて確信した。
やっぱり俺は何かを忘れている。それもとても重要なことを。
でも一体それは何だ?
三華が10時に来ることはちゃんと覚えてる。だから久しぶりに4人が揃うなって喜んでいたことも。
あれ?『4』人?
「っ!!・・・なぁ二奈・・・一つ訊いてもいいか?」
「何よ?」
「姉さんに・・・何でもいいから料理を持って行ってくれた・・・よな?」
「はぁ!?そんなもの持ってくわけないでしょ!」
その言葉を聞いた瞬間、家に帰りたくなった。
三華には悪いが、家に帰って布団に包まりたくなった。
348Identical:2010/07/08(木) 22:14:52 ID:bZeKyKXk
「大変、申し訳ありませんでした。こ、心からお詫び申しあげます」
本当は家に帰りたかったが、そんなことをすれば俺の明日がなくなる。
苦渋の決断だった。
「・・・それで、優二のオススメはいつごろ持ってきてもらえるの?」
だが姉さんは俺の謝罪を聞き入れようともせずに、笑顔でそう返してきた。
怒られた方がまだマシだ。
「しょうがないんじゃない?優二にとって姉さんはそれだけの存在だったってことでしょ」
二奈が火にガソリンを注ぐ。
「・・・二奈ちゃんも随分と言うようになったわね〜?いつからそんな自信がついたのかしら?」
「そうだね〜、2年前からかな?この意味・・・分かる?」
「えぇ。でもそれって二奈ちゃんの単なる妄想なんじゃないの?」
「まさか」
何だろう、急にお腹が痛くなってきた。胃薬が飲みたい。
そうやって俺が原因不明の腹痛で苦しんでいるとき、入口の方に待ち望んでいた胃薬・・・ではなく三華の姿が見えた。
向こうもこっちに気付く。
「あぁ!兄ちゃんだー!」
三華はテニスで鍛えた俊足で俺に飛びついて来た。
「兄ちゃん!兄ちゃん!兄ちゃん!」
そのまま俺の胸に顔をうずめてくる。
確かに店長の言った通り俺はモテモテだ。ただし妹相手にだけど。
「兄ちゃんったら、なんで家に帰ってこないんだよ!ずっと待っていたのに!」
「あ、あぁ、すまん」
俺を抱きしめる手に力が込められる。
はっきり言ってかなり痛い。
三華は末っ子ながら、姉妹の中で一番の高身長を持ち、その力も並みの女の子を凌駕していた。
だからそろそろ離してほしい。
そして俺の願いが通じたのか、万力の力が緩まった。
「優二に何をしてるの?それにどうしてあなたがここに?」
どうやらいつの間にか三華の襟首を掴んでいた姉さんが原因だったらしい。
150cmにも満たない姉さんが170cm近くある三華を引っ張っている。
構図としては何とも奇怪だった。
「何すんだよ!姉ちゃんには関係ないだろ!?」
それでも三華はその手から逃れようともがいていたが、姉さんの手は一向に離れる気配がない。
「関係あるわ。だから早く言いなさい」
姉さんの目が座っている。
さっきから一言も発さない二奈も、なぜか真剣な目を三華に向けている。
「分かったよ!言えばいいんだろ!アタシは4月から兄ちゃんと同じ大学に通う事になったから!」
「「「・・・・・・・・・・え?」」」
三華の発言は予想だにしていないものだった。誰しもが口を大きく開けて驚いた。
「それで今日から兄ちゃんの部屋で一緒に暮らすんだ!そのためにここに来たんだ!」
ファミレスにいる客全員に宣言するかのごとく三華は叫んだ。
俺はいまだに反応できない。二奈も同じだった。
そんな中、やはり年の功とでも言うべきか、最初に反応できたのは姉さんだった。
「ふ〜ん・・・まさかあなたもとは・・・ね・・・」
「どういう意味?」
姉さんがこっちに振り返る。そして―――
「私も院はこちらの大学に行く事にしたの。だからよろしくね?せ・ん・ぱ・い♪」
この時をもってして、俺の学生生活は大きく変化していくことになった。
349名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 22:16:06 ID:bZeKyKXk
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
350名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 22:26:31 ID:u0g+ZUWy
>>349
GJ!!
続きが楽しみだ!!
351名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 23:04:46 ID:Bx6zLn4p
>>349
GJ!
これまた苦労しそうな主人公だね
主人公が好きな女の子が出てくることに期待
352名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 23:35:26 ID:bfuBTbJB
これは楽しみな姉妹ですね。

あと、僭越ながら突っ込みが入る前に。一卵性双子で男女というケースは実在します。
ただし見つけたら学会発表ものというくらいのレアケースですが。
353名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 00:34:53 ID:hFVAeX6f
一卵性双生児じゃなくてもソックリな兄弟なんていくらでもいるし、フォローしなくてもよくない?
354名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 01:23:26 ID:+Q+u9x/O
一卵性双生児の場合、同性であることがほとんどってことじゃね?

それにしても身内にばかりモテモテとは大変な主人公だw
355名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 02:08:56 ID:IrEm5uyp
受精前の卵子が二つに割れてそこに別々の精子が受精すれば
一卵性でなおかつ男女の双子になりますが
356名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 03:29:41 ID:r9uVjDjf
で、その受精卵二つが二つとも着床しないと生まれないワケか
すごい確率だな
357名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 04:18:47 ID:1WqDixRd
そういえば前にこのスレで姉妹の組み合わせのパターンについて聞かれたことがあって
その時に姉双子妹って答えたのを思い出した

あれはあの後作品書かれたんだったかな
358名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 09:56:20 ID:5WbTkLFI
>>355
卵子は分割したら受精できない
359名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 10:52:33 ID:7ySQ7atW
こまけぇこたぁいいんだよ(AA略
360名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 15:11:35 ID:djbkXYuJ
一卵性で性別が異なるというパターンは、
受精卵の段階でXY(男性)遺伝子のものが、Y部分が欠落してXO(変異だけど女性)型となり、さらにその細胞がモザイクに混在してて、
それがさらに分割して双子になって、生殖が決まる段階で男性細胞が多かった方が男(兄)、女性細胞が多かった方が女(妹) となる
染色体異常があるので低身長や無月経、不妊症などになりやすいとされる

ちなみに、事例としては一桁台なのできわめて珍しい
361名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 15:36:47 ID:61PEORqE
ここで話し合うような事か?
フィクションだしいいじゃないか
362名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 18:48:49 ID:1OZDI5ah
ただ似ている双子の男女っていいたいだけだから
そんなに熱く語らんでも…
363名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 19:43:39 ID:5WzosKi7
あまり専門的すぎる話が出たら困るが
読んでて気になる人もいたかもしれないし
不毛な話題と違って結論が出てすぐに落ち着くだろうからいいじゃないか
実際俺は読んでて少し気になったから、あり得るって分かってすっきりしたよ
364名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 21:30:51 ID:k+NnMpTh
不妊…エロ的には都合がよさそう
365名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 22:34:38 ID:SVsykpmx
お兄ちゃんとなら、欠けた遺伝子の私でもちゃんとした子供が産めるのかな…」
366名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 22:45:12 ID:JbKl79rg
そして365の兄と365の姿を見たものは
誰一人としていなかったのである
367三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:33:29 ID:45E5IC2z
三つの鎖 外伝 1 前編です

※注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり
夏美なし

投下します
368三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:34:37 ID:45E5IC2z
三つの鎖 外伝 誕生日のプレゼント

 終わりのホームルームが終わって騒がしくなった教室を出た。
 教室の外は寒い。年を明けたとはいえ、春は遠い。
 学校が終わって廊下は人が多く騒がしい。受験の季節だからか、みんな重たそうな鞄を手にしている。
 そんな中、人が多い廊下でも頭一つ抜けている身長の高い男の子がこっちに歩いてくる。
 「幸一くん!」
 私の呼び声に幸一くんは片手をあげた。
 珍しい。いつもは私が幸一くんの教室に迎えに行くのに。幸一くんから私の教室に来るのは久しぶりかもしれない。
 「今日はどうしたの?」
 幸一くんに駆け寄りながら私は尋ねた。返事が来る前に幸一くんの両手を握る。
 「そんなにお姉ちゃんと帰りたいんだ!お姉ちゃん嬉しい!」
 幸一くんの顔が面白いぐらい赤くなる。初々しい反応。楽しい。
 「違うよ」
 恥ずかしそうにそっぽを向く幸一くん。可愛い。
 「春子に相談があって」
 真剣な顔で私を見る幸一くん。最近、幼さが抜けて大人の顔になってきた。
 嬉しいような寂しいような複雑な気持ち。
 「いいよ。じゃあお姉ちゃんの家に行こうよ」
 私は幸一くんの手を握ったまま引っ張る様に歩き出した。
 生徒でごった返す廊下の中をかき分けるように歩く。
 歩きながら私は考えた。幸一くんの相談は多分梓ちゃんに関係すること。
 梓ちゃんの誕生日が近いし、誕生日プレゼントに違いない。
 「春子」
 「何?」
 「恥ずかしいから手を離して」
 「やだ」
 私は幸一くんの手をぎゅっと握った。幸一くんの手は温かった。

 結局私達は家まで手をつないで帰った。
 何度も手を離してって恥ずかしそうに言う幸一くんが可愛すぎる。
 「先に二階に上がって」
 玄関で手を離す。幸一くんがほっとした気配が伝わる。
 二階に上がる幸一くんをしり目に私はキッチンに入った。キッチンにはお母さんの置き手紙があった。今日も遅くなるとのこと。
 よし。今日は幸一くんと梓ちゃんと食べよう。一人で食べるのは味気ないしね。ついでに幸一くんの腕前を確認しよう。
 今、加原の家の家事は幸一くんが行っている。もちろんお料理も。教えたのは私とお母さんと京子さん。既に一人前といっていいレベル。
 熱い緑茶とスポーツドリンクを手に私は二階に上がった。
 部屋に入ると、暖かい。幸一くんがストーブをつけてくれたようだ。昔に比べ幸一くんは本当に気がきくようになった。
 私の部屋には幸一くんとシロが座っていた。気持ちよさそうに幸一くんに頭を撫でられているシロ。
 「幸一くん。どうぞ」
 幸一くんは礼を言ってコップを受け取り口にした。
 私がコートを脱ぐのを幸一くんは手伝ってくれた。
 うーむ。この辺は紳士になったかな。昔のお調子者の幸一くんからすれば大きな成長だ。
 「それで、相談って?」
 幸一くんは深呼吸して話しだした。
 私の予想通りだった。今度の梓ちゃんのお誕生日のプレゼントは何がいいかだ。
 ちなみに、今年の私の梓ちゃんへのプレゼントは手編みのマフラーを渡すつもり。既に完成している。幸一君にもおそろいのを作っていて、もうすぐ完成。
 去年の幸一くんのプレゼントはケーキだった。私と幸一くんの二人で作った手作りケーキ。梓ちゃんは何も言わずに食べてくれた。
 「何か考えているの?」
 「一応候補はある」
 私は驚いた。去年は文字通り途方に暮れて私に相談してきたのに、今年は候補があるらしい。大きな成長だと思う。
 胸が締め付けられるような感覚。想像もしなかった寂しさが募る。
 「候補は何かな?」
 私は胸の内を表に出さないようにしながら尋ねた。
 「扇子をプレゼントしようと思っている」
 …聞き間違えたかな。
 「もう一回言ってくれる」
 「扇子をプレゼントしようと思っている」
 「幸一くん正座しなさい」
 幸一くんは素直に正座した。何でそこは素直なのかな。妙に姿勢がいいのが何か腹立つ。
369三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:35:49 ID:45E5IC2z
 シロも何故か幸一くんの隣にちょこんと座った。君は関係ないよ。
 「あのね、梓ちゃんもう中学2年生だよ?年頃の女の子に扇子?まあ百歩譲ってもだよ、今は冬だよ?」
 幸一くんの成長は私の勘違いだったみたい。
 「何で扇子をプレゼントしようと思ったのか、お姉ちゃんに説明してくれるかな」
 幸一くんは落ち着いた声で説明し始めた。
 梓ちゃんが暑がりなこと、特に暖房の効いている場所ではいつも顔を手で仰いでいること、だから扇子があれば役に立つのではないかと思った、との事らしい。
 幸一くんの言うとおり、梓ちゃんは暑がりだ。よく手で顔を仰いでいる。
 「だから春子にいい扇子を売っているお店を聞こうと思って」
 さっきのは訂正。やっぱり幸一くんは変わった。妹へのプレゼントを幸一くんなりに考えている。
 それでも扇子はどうかと思うけど。
 「やっぱり扇子は変かな」
 不安そうな顔をする幸一くん。この表情も可愛い。
 「変だよ」
 落ち込む幸一くん。梓ちゃんと違って分かりやすい。シロが慰めるように幸一くんに体を摺り寄せる。
 「でも、幸一君らしくていいと思うよ」
 幸一くんの顔が笑顔に輝く。単純だなー。でもそんなところが可愛い。
 「扇子かー。お姉ちゃんで調べてみるよ」
 また後で幸一君の家でご飯を食べる約束をして、幸一くんを家に帰した。
 早速、私はインターネットで調べ始めた。
 何だか気分がウキウキする。自分でもその理由が分からないまま、私は調べものに没頭した。

 調べ物を済ませて、私は家を出た。
 幸一くんの家の玄関の扉は鍵が掛かっていた。私はピッキングツールを取り出し、ドアを開けた。結構頑丈な鍵を使っていて最初は手間取ったけど、慣れればどうという事は無い。
 こっそり幸一くんの家に入り込み、驚いた幸一くんの顔を見るのが私の楽しみの一つ。
 勝手知ったる幸一くんの家に入り、リビングからキッチンに向かう。リビングは暖房がついていなかった。ちょっと寒い。
 こっそり覗くと、幸一くんは晩ご飯を作っていた。
 無駄のない手慣れた動きで料理する幸一くん。驚かそうと思って、私はできなかった。料理する幸一くんの表情が、びっくりするぐらい真剣だったから。
 料理を一通り済ませ、使った料理道具を洗い始める幸一くん。手慣れた動き。
 「幸一くん」
 びっくりした表情で私の方を振り向く幸一くん。さっきの大人びた表情は見る影もない。
 嬉しさと、寂しさが胸に湧き上がる。
 自分自身でも、何でそんな風に思ったのか分からない。
 「春子?どこから入った?」
 「玄関の鍵、開いてたよ」
 そうだったっけ、と頬をかく幸一くん。いつもの幸一くんの仕草。
 私は手を洗い、お味噌汁を一口味見した。
 おいしい。男の子の作る料理にしては、濃くない。
 男の子はどちらかというと濃い味付けが好きだ。幸一くんもそう。でも、これはそんなに濃くない。
 「幸一くんて薄味が好みだっけ?」
 「違うよ」
 不思議そうに私を見る幸一くん。
 「じゃあ何で薄めに作ったの?」
 幸一くんは微笑んだ。
 「梓は、ちょっと薄味の方が好みだから」
 大人びた幸一くんの微笑み。
 今まで、こんな笑顔の幸一くんを見た事ない。落ち着いた笑顔。
 頬が微かに熱くなるのを感じる。
 その事に気がついて、ちょっと腹が立った。
 私は背伸びして幸一君の頭を撫でた。
 「よくできてるよ」
 幸一くんの顔が赤くなる。
 「おいしいけど、出汁を煮込み過ぎかな。薄味にしたいなら、そこを気をつけた方がいいよ」
 顔を赤くしたまま黙って耳を傾ける幸一くん。
 その恥ずかしそうな表情はいつもの幸一くんだった。
 「春子」
 「なーに?」
 「恥ずかしいからやめて」
 「やだ」
 幸一くんは顔を赤くしたまま。恥ずかしそうに視線を逸らす。
 ちょっと気が晴れたかも。
370三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:37:13 ID:45E5IC2z

 ご飯ができたから梓ちゃんを呼びに行くことにした。階段を上り梓ちゃんの部屋の扉をノックする。返事無し。
 「梓ちゃん。入るよ」
 ドアを開けると、締め切られた淀んだ空気が出てきた。
 梓ちゃんはベッドの上で布団にくるまって寝ていた。
 白くて細い素足が布団からはみ出ている。寒くないのかな。
 「梓ちゃん」
 私は布団の上から梓ちゃんをそっと揺らした。
 ガバッと梓ちゃんが跳ね起きた。びっくりした。
 不機嫌そうに私を睨む梓ちゃん。
 「梓ちゃん。晩ご飯ができたよ」
 「何で春子がいるの」
 すごく不機嫌そうな声。
 そういえば、幸一くんの家で晩ご飯を食べるのは久しぶりな気がする。最近は受験勉強で忙しくて、幸一くんの家にお邪魔する機会自体が少なかった。
 「今日はお姉ちゃんの家、誰もいないから、一緒に食べようと思って」
 梓ちゃんは不機嫌そうに私を睨むけど、やがて興味を失くしたようにベッドから降りた。
 すらりと伸びる白くて細い素足と腕。キャミソールに飾り気のない白い下着という格好の梓ちゃん。寒くないのかな。
 そのまま梓ちゃんはホットパンツをはいて部屋を出ようとした。
 「梓ちゃん。寒くないの?」
 「別に」
 そっけなく答える梓ちゃん。その後ろ姿はこれ以上の会話を拒絶していた。
 二人で階段を下り、リビングに入る。
 食卓には湯気の上るおいしそうな料理が並んでいた。
 ご飯にお味噌汁、ほうれん草のおひたしにかぼちゃの煮つけ、鳥の照り焼き。
 匂いが食欲を刺激する。
 みんなで座って手を合わせる。
 「いただきます」
 「いただきます!」
 「…いただきます」
 三者三様にいただきますをして箸をとる。
 どれもおいしい。初めて幸一くんに教えた時とは別人としか思えない腕前。
 幸一くんの成長に嬉しさを感じる。
 それと同時に寂しさも感じる。何で寂しく感じるのか、分からない。
 幸一くんの成長は嬉しいはずなのに。何でなんだろう。
 お味噌汁を口にする。おいしい。リビングに暖房がついてなくてちょっと寒いから、お味噌汁の温かさが身にしみる。
 食卓をちらりと見まわす。幸一くんは静かに食べている。梓ちゃんも無言で食べている。寒そうな格好なのに、涼しげな顔。
 やっと分かった。リビングに暖房がついていない理由。
 梓ちゃんが暑がりだから、暖房をつけていないんだ。
 無言で食べる兄妹。なんだか声をかけずらい。
 「幸一くん。腕を上げたね」
 「ありがとう。春子のおかげだよ」
 嬉しそうに笑う幸一くん。その笑顔が眩しい。
 「梓ちゃんはどう?おいしい?」
 「…まあまあ」
 不機嫌そうに答える梓ちゃん。
 結局、会話が続かないまま晩ご飯を終えた。
 梓ちゃんは何も言わず食器も片付けず席を立った。
 「梓ちゃん。ご馳走さまは?」
 面倒くさそうに私を見る梓ちゃん。
 「…ご馳走さま」
 梓ちゃんはリビングを出て行った。
 幸一くんはそんな梓ちゃんに何も言わずに後片付けをはじめた。
 「いいの?」
 苦笑する幸一くん。
 「僕も梓に苦労かけたから」
 そう言って食器を洗い始める幸一くん。そんな幸一くんを不憫に感じた。
 梓ちゃんと幸一くんの確執は私も知っている。確かに幸一くんは無責任な所もあった。でも、幸一くんが全て悪いわけじゃない。梓ちゃんだって、家事が嫌ならそれを言えば良かった。荒れて夜の街に繰り出す必要なんて無かった。
 それなのに幸一くんは全部自分の責任と言って、梓ちゃんに尽くす。
 私は腕をまくって幸一くんの隣に並んだ。
 「いいよ。僕が洗うから」
371三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:38:38 ID:45E5IC2z
 「お姉ちゃんも手伝うよ。おいしいご飯のお礼」
 そう言って二人で食器を洗う。
 大した量じゃないし、すぐに終わる。
 幸一くんはお茶を入れてくれた。温かい緑茶。二人でリビングに座り、のんびりとお茶をすする。
 少し寒いリビングに、温かいお茶が美味しい。
 お茶をすする幸一くんの横顔を見る。幼さの少し抜けた横顔。
 大人びた落ち着いた表情に、不安を感じる。
 ずっと一緒にいて、ずっとそばにいたはずなのに、幸一くんが遠くに感じる。
 何でだろう。幸一くんに取り残されているように感じる。
 まだ私の方がお料理は上手だし、成績も私の方がいい。幸一くんに教えられる事はたくさんある。
 それなのに、幸一くんに置いてきぼりにされているように感じる。
 不安と同時に若干の怒りも感じる。私にそんな事を感じさせるなんて、ちょっと腹が立つ。
 私はコップを置いて幸一くんの後ろから抱きついた。
 「えっ!?」
 びっくりしてコップを落としかける幸一くん。
 慌てた表情。その表情が赤くなる。
 可愛い。私は幸一くんに頬ずりする。
 「な、なに?どうした?」
 恥ずかしがる幸一くんの表情を見ていると、腹立ちが徐々に収まっていく。
 うん。やっぱり幸一くんはこの表情が一番似合っている。
 「は、離れて」
 恥ずかしそうに身をよじる幸一くん。私は調子に乗ってさらに幸一くんに抱き締める。背中に胸を押し付ける。
 「恥ずかしいから離れて。お願いだから」
 顔を真っ赤にする幸一くん。可愛い。
 幸一くんの恥ずかしそうにしている表情を見るのがすごく楽しい。
 そんな幸せに浸っていると、リビングから梓ちゃんが入ってきた。
 相変わらずの薄着。白くて細い手足が眩しい。お風呂上りなのか、艶のある長い髪を背中に垂らしている。
 「何してるの」
 不機嫌そうに私達を睨む梓ちゃん。
 「どう?恥ずかしがっている幸一くん、可愛いでしょ?」
 幸一くんの頬を手でなでる。恥ずかしそうに身をよじる幸一くん。可愛い。
 梓ちゃんの視線がさらに不機嫌になった気がした。
 無言で何かを幸一くんに投げつける梓ちゃん。幸一くんは手慣れた様子で受け取った。ブラシだ。
 何も言わずにソファーに座る梓ちゃん。
 幸一くんは私の腕をそっと離して、梓ちゃんの後ろに立った。
 「ドライヤーは?」
 「いらない」
 短いやり取りの後、幸一くんは梓ちゃんの髪をとき始めた。
 真剣な表情で丁寧に髪の毛をとく幸一くん。梓ちゃんは相変わらず不機嫌そうにしているけど、少しだけ気持ちよさそうにしている気がする。
 その光景に、胸がもやもやする。
 昔、幸一くんが私に手入れの仕方を教えて欲しいと頼んできたことがある。私は教えてあげた。練習台に髪の毛をとかしてあげた。
 最初はひどかった。髪の毛は絡まるし、抜ける。
 でも、すぐにうまくなった。上手に髪の毛の手入れをできるようになった。
 今の幸一くんを見ても、さらに上達しているのが分かる。
 幸一くんの成長が嬉しいはずなのに、胸がもやもやする。寂しさを感じる。
 「これでいい?」
 幸一くんの言葉に梓ちゃんは無言で立ち上がった。そのままリビングを出て行こうとする梓ちゃんを幸一くんは呼びとめた。
 キッチンに向かった幸一くんは、コップを片手に戻ってきた。氷の入った琥珀色の液体。
 「アイスティーでいい?」
 梓ちゃんは無言で受け取り、リビングを出て行った。
 「相変わらずだね」
 幸一くんは苦笑した。
 梓ちゃんが幸一くんをこき使うのも、今では見慣れた光景になってしまった。
 「お店はいいのあった?」
 幸一くんの言葉に一瞬考えてしまった。幸一君の頼みで扇子を売っているお店を調べたんだった。
 「あったよ。少し遠いから、今度の休日に一緒に行こ」
 「ありがとう」
 柔らかい笑みを浮かべる幸一くん。
 優しい落ち着いた笑顔に頬が熱くなる。その事に気がついて、自分でもよく分からないぐらい腹が立った。
372三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:41:10 ID:45E5IC2z
 休日の朝、私は幸一くんが迎えに来てくれるのを家で待っていた。
 もう既に準備はできている。ロングスカートにブラウス。その上にカーディガン。コートにマフラー。このマフラーは去年の誕生日に幸一くんがプレゼントしてくれた品。
 そういえば、もうすぐ私の誕生日だ。梓ちゃんの誕生日のすぐ後。私の誕生日の次の日が幸一くんの誕生日だ。
 ちょっと不安になる。幸一くん、私の誕生日を覚えているのかな。梓ちゃんの事ばかりだし。
 そんな事を考えていると、ドアベルが鳴る。
 お母さんの声が聞こえてくる。
 「春子!幸一くんが来てくれたわよ!」
 私は鞄を手に階段を下りた。
 幸一くんが私に気がついて微笑む。
 「おはよう」
 恥ずかしそうな表情。きっとお母さんに何か言われたに違いない。
 「お母さん。幸一くんに何か言った?」
 お母さんはニッコリと笑った。
 「春子をもらってやってってお願いしただけよ」
 幸一くんの顔が赤くなる。
 いつもの恥ずかしそうな幸一くんの表情なのに、ちょっと腹が立つ。
 何でだろう。いつもの恥ずかしそうな表情なのに。
 「そうだね。お姉ちゃんでよければ結婚してくれる?」
 幸一くんの顔がさらに赤くなる。恥ずかしそうにそっぽを向く幸一くん。可愛い。
 腹が立った理由が分かった。私以外の人が幸一くんにこの表情をさせたからだ。
 自分の意外な独占欲にちょっとびっくり。
 「お母さん。行ってくるね」
 「幸一くん。春子をお願いね」
 はい、と消えそうな声で答える幸一くんの手をとり、私達は家を出た。
 外は寒い。私は幸一くんの手をぎゅっと握った。幸一くんの手は温かい。
 「春子」
 「なに?」
 「恥ずかしいから手を離して」
 私は手を離した。幸一くんがほっとした気配が伝わる。
 自分の腕を幸一くんに絡ませる。腕を組んだままの状態で私は歩き出した。
 「は、春子?」
 恥ずかしそうな幸一くん。私に引っ張られるように歩く。
 もう。男の子がリードしないといけないのに。
 「幸一くん。男の子なんだからリードしないと駄目だよ」
 「その、もうちょっと離れて欲しい」
 「やだ」
 そんなやり取りをしながら歩く。
 バスに乗り、隣町のショッピングセンターに向かう。
 揺れるバス。私はバランスを崩した。咄嗟に手すりを掴もうとしたけど、手が届かない。
 こける。そう思った時、幸一くんが支えてくれた。
 私を抱きかかえるように支える幸一くんの腕。思ったより逞しい腕に抱きしめられ、びっくりした。
 いつの間にこんなに逞しくなったんだろう。
 「大丈夫?」
 私を見下ろす幸一くん。
 「どこか痛めた?」
 無言の私を見て勘違いしたのか、幸一くんは心配そうに私を見下ろす。
 「うんうん。大丈夫」
 そう言った次の瞬間、目的地が近い事をアナウンスが告げる。幸一くんは降車のボタンを押した。
 幸一くんが先にバスを降りる。私が降りようとした時、幸一くんが手を差し出した。
 「ありがとう」
 私は礼を言って差し伸べられた手を握った。幸一くんに支えてもらいながらバスを降りた。
 横目に幸一くんを見る。平然としている。全く恥ずかしがっていない。
 手を握られたり腕を組まれたりするとあんなに恥ずかしがるのに、女の子に手を差し伸べて支えるのには何の羞恥心も感じないみたい。
 私は幸一くんの手を握った。
 「え?」
 幸一くんが驚いた表情が赤く染まる。
 「は、春子?恥ずかしいからはなして」
 変な幸一くん。支える時に手を握るのは平気なのに、こうやって握られたら恥ずかしがる。
 でも、そんな所も可愛い。
 「春子?聞いてる?」
373三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:42:26 ID:45E5IC2z
 もちろん聞いている。私は手を離して、抱きしめるように幸一くんと腕を組んだ。
 恥ずかしそうにそっぽを向く幸一くん。可愛い。
 ショッピングセンターの中は込んでいる。家族連れやカップルも多い。
 その中を歩いていると、幸一くんが驚いたような顔をした。
 幸一くんの視線の先を見ると、私達と同じぐらいの年の男女が歩いていた。
 男の子は見覚えがある。確か、幸一くんのお友達の田中耕平君だったと思う。
 田中君は私達に気が付く事なく離れて行った。
 「田中君だっけ?」
 「そう。僕と同じクラスの。また知らない子と歩いてる。」
 「知らない子?」
 幸一くんいわく、田中君はいつも別の女の子と一緒にいるらしい。大したプレイボーイだ。
 「幸一くんも色んな女の子と遊びたいの?」
 頬を赤くする幸一くん。
 「恥ずかしいからいいよ」
 恥ずかしそうに言う幸一くんに、ちょっと腹が立った。
 何で腹が立ったか、自分でもよく分からない。
 でも、恥ずかしそうにする幸一くんに自分でも分からないぐらい腹が立った。
 「好きな女の子でもいるの?」
 私の問いに幸一君は驚いた様に私を見た。
 「いないよ。僕の評判を知っているだろ?」
 幸一くんの評判。成績優秀で真面目。でも、シスコンで、幼馴染の女の子がいつもそばにいる。
 うーん。何も知らばい女の子からすれば、ちょっと付き合いにくいかな。
 「お姉ちゃんが女の子を紹介してあげようか?」
 幸一くんの顔が赤くなる。
 不思議と腹が立つ。
 「いいよ。今は受験だし」
 そんな事を話しているうちに目的地に着いた。
 和服を扱うお店。和服だけでなく、和風のアクセサリーや小物も扱っている。
 当然、扇子もある。
 扇子を手に取る幸一くん。
 幸一くんの横顔に、胸が締め付けられる。
 その横顔が、今まで見た事の無い真剣な表情だった。
 ずっとそばにいたのに、私には見せた事のない表情をする幸一くん。
 私の知らない間に成長している幸一くん。喜ばしいはずなのに、胸が締め付けられる。
 「これどうかな?」
 私に扇子を差し出す幸一くん。ぼんやりとしていた私は慌てて視線を扇子に向けた。
 幸一くんの手にした扇子は、落ち着いた色合いの品の良い物だった。
 梓ちゃんが手にしている姿を想像する。暑そうに扇子でぱたぱた顔をあおぐ梓ちゃんを容易に想像できる。
 思った以上に似合っている。
 「いいと思うよ」
 「ちょっと待ってて。買ってくる」
 レジに向かう幸一くん。後ろの背中が大きく見える。
 胸が締め付けられるような感覚。郷愁にも似た寂しさ。
 包装された扇子を鞄に入れながら幸一くんが近づいてくる。
 「梓、喜んでくれるかな」
 不安そうな表情の幸一くん。その表情を見て安心してしまった。
 「大丈夫だよ。きっと喜んでくれるよ。幸一くんが梓ちゃんのために一生懸命選んだのだから」
 私は幸一くんの手を握り締めた。
 「もっと自分の選択に自信を持って」
 幸一君は微笑んだ。手を握った時にする、恥ずかしそうな笑顔じゃない。落ち着いた大人びた微笑み。
 「ありがとう」
 その笑顔に、胸が締め付けられる。
 分からない。何でなんだろう。幸一くんの落ち着いた大人びた笑顔や仕草に、理由の分からない寂しさを感じる。
 「どうしたの?」
 不思議そうに私を見る幸一くん。落ち着いた表情が何だか腹立つ。
 私は幸一くんの腕に私の腕を絡ませた。
 たちまち顔を赤くする幸一くん。
 「ちょっと春子!」
 幸一くんの抗議を無視して私は歩き出した。
 私に引きずられるように歩く幸一くん。
374三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:44:41 ID:45E5IC2z
 「せっかくだから今日は一杯遊ぼうよ」
 「受験前でしょ?」
 「息抜きは必要だよ」
 そんな事を話しながらショッピングセンターを歩く。
 シルバーアクセサリーを売っているお店を発見。
 扇子じゃなくて、こういうのをプレゼントしたらいいのに。
 幸一くんのお勉強のためにも見てみようかな。
 「行ってみようよ」
 私は幸一くんを引っ張ってお店に入った。
 色々なシルバーアクセサリーがある。幸一くんも珍しそうに商品を見ている。
 たくさんあるなかで、一つの指輪が目を引いた。
 飾り気もないシンプルなデザインの指輪。他にも綺麗で洒落たデザインの指輪があるなかで、何でかこの指輪に注目してしまう。
 横目に幸一くんを見る。幸一君は珍しそうにきょろきょろしている。
 朝のお母さんとの会話を思い出す。結婚。
 結婚なんて想像もつかない。まだ中学3年生だし。
 一人の男の子とずっと一緒にいる。そんな男の子は、私にとって幸一くんしか考えられない。
 でも、一人の男の子として愛しているかというと、そんな事は無い。
 女の子としての愛じゃなくて、姉としての愛。
 だから幸一くんの付き合って欲しいという告白を断った。それに、幸一くんは本気で私を好きなわけじゃなかった。
 もし幸一くんが私の事を本気で好きなら、応えたいと思ったかもしれない。でも、幸一くんは単に彼女が欲しいと思っていただけだった。恋に恋していただけだった。
 いつか幸一くんも結婚するのかな。
 もう一度横目に幸一くんを見る。
 真剣な表情でアクセサリーを見ている幸一くん。私には向けない、大人びた表情。
 幸一くんが何を考えているか、分かった。分かってしまった。
 梓ちゃんが喜ぶかを考えているんだ。
 胸に切ないほどの寂しさが湧き上がる。
 私は幸一くんの腕に抱きついた。
 びっくりしたように私を見下ろす幸一くん。
 幸一くんの身長、いつの間にこんなに高くなったのだろう。
 私は幸一くんと腕を組みお店を出た。
 引っ張られるように歩く幸一くん。
 私と一緒にいるのに、梓ちゃんの事ばかり考えている幸一くんに何だか腹が立った。
 梓ちゃんが幸一くんの妹なら、私は幸一くんのお姉ちゃんなのに。
 幸一くんの腕に思い切り胸を押し付ける。
 どうだろう。幸一くん、恥ずかしがっているかな。
 「春子」
 落ち着いた幸一くんの声。
 振り向くと、心配そうに私を見る幸一くんの顔が近くにあった。
 「どうしたの?何か春子らしくないよ」
 綺麗な瞳が私を見つめる。
 その顔には、羞恥も浮かんでいないし、赤くもなっていない。
 あくまでも心配そうな表情が浮かんでいるだけ。
 切なさに似た寂しさに、胸が締め付けられる。
 「そんな事ないよ。それよりも何か食べようよ。お姉ちゃん、お腹がすいた」
 誤魔化しながら私は幸一くんの腕を引っ張るように歩いた。

 結局、一日遊んだ。
 バスの座席でうとうとする幸一くん。
 今日一日、思い切り引っ張りまわしたから、幸一くんはお疲れだ。
 幸一くんの寝顔。幼さの抜けてきた男の子の顔。
 今日は楽しかったけど、腹立たしく感じたこともあった。
 幸一くんが梓ちゃんの事を考えているのが腹が立った。
 幸一くんが私に見せた事のない表情をするのが気に食わなかった。
 幸一くんが恥ずかしがらずに私を心配するのが嫌だった。
 静かに眠る幸一くん。その寝顔を見ていると、変な気分になってくる。
 落ち着かない、そわそわした感じ。
 その事に気がついて、余計に腹が立った。
 まるで私が幸一くんに恋しているみたい。
 ずっと面倒を見てきた、手のかかる弟みたいな男の子。
 そんな幸一くんにお姉ちゃんが恋するなんて、ありえない。
375三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:46:21 ID:45E5IC2z
 私の想いを知らず、のんきに眠り続ける幸一くんを見ていると、もっと腹が立った。
 幸一くんのほっぺた。柔らかそう。
 小さい時は何度も幸一くんにキスした。恥ずかしがって逃げ回る幸一くんを追いかけるのが楽しかった。
 でも、別に胸が高鳴る事は無かった。あくまでも子供のお遊びみたいなキスだった。
 最後にキスしたのはいつだろう。
 今、幸一くんに口づけしたら、胸は高鳴るのかな。
 私は幸一くんのほっぺたに、そっと口づけした。
 胸は高鳴らなかった。
 ただ、顔が熱くなった気がした。

 幸一くんと別れ、家に入る。
 自分の部屋に戻り、ベッドにダイブした。
 恥ずかしさと自己嫌悪に頭が爆発しそう。
 私は何をしているの。
 他の人がいるバスの中で、寝ている幸一くんの頬に口づけ。
 自分がした事を信じられない。
 頬が熱い。昔は口づけしても、恥ずかしく感じる事は無かったのに。恥ずかしがる幸一くんを見るのが楽しかったのに。
 悶えていると、階段を上る音が聞こえてくる。
 人間じゃない足音。
 シロが扉を開けて入ってきた。
 心配そうに私を見るシロ。
 「シロ。おいで」
 シロは私の傍にやってきた。その頭をそっと撫でる。
 気持ちよさそうにするシロ。そんなシロを見ていると、だんだん気分が落ち着いてくる。
 よし。今度幸一くんに会ったら思い切り頭を撫でてあげよう。
 そして思い切り恥ずかしがっている幸一くんを見よう。
 羞恥にうつむく幸一くんの表情。あの可愛い表情を思い出すだけで幸せな気分になれる。
 そんな事を考えていると、お母さんの声が聞こえた。
 「春子。ごはんよ」
 「はーい」
 私は部屋を出てリビングに向かった。シロも後ろをついてきた。
 今日の晩ご飯はお母さんと二人。いつもは私が用意していたけど、受験で忙しくなってからはお母さんが作ってくれることが多い。
 「幸一くんとのデート、どうだった?」
 お母さんはニコニコしながら尋ねてきた。
 「楽しかったよ。でも、あんまりデートって感じじゃ無かったよ」
 どちらかというと弟の買い物に付き合ったって感じ。
 幸一くんと二人で出掛けたのは今回が初めてじゃないし。今までに何回もある。
 でも、今回は今までと違った。
 幸一くんの成長をはっきりと感じた。
 嬉しい事なのに、胸が締め付けられる感覚。よく分からない寂しさが沸き起こる。
 「何かあったの?」
 「幸一くん、変わったと思って」
 お母さんの言葉に私は答えた。自分でもびっくりするぐらい沈んだ声だった。
 「そうね。最近、落ち着いて大人っぽくなったわ。昔はお調子者だったのに」
 嬉しそうにお母さんが喋る。それが何だか腹が立つ。
 「まだまだ子供だよ。私から見たら、駄目な所もたくさんあるよ」
 変にムキになっているのが自分でも分かった。それが余計に腹立たしい。
 「幸一くん、きっと立派な男の子になるわ。今のうちにツバをつけときなさいよ」
 「変な事言わないでよ」
 あの幸一くんが立派な男の子?にあれだけ手間のかかった幸一くんが?
 昔から幸一くんは手のかかる男の子だった。
 ご両親がお仕事で忙しいせいか、いつも梓ちゃんと二人で家にいた。
 小さい時の幸一くんはお兄ちゃんの使命感に溢れていて、甲斐甲斐しく梓ちゃんの世話を焼いていた。
 でも、幸一くんは寂しがり屋だった。
 無理もない。甘える事の出来るご両親はお仕事で忙しい。
 梓ちゃんのいないところでは寂しそうにしていた。泣いていることもあった。
 だから私は幸一くんの傍にいてあげた。
 寂しいって泣く幸一くんを抱きしめてあげた。
 泣きやむまで傍にいてあげた。
 そんな幸一くんが立派な男の子になるなんて、想像もできなかった。
376三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:47:59 ID:45E5IC2z
 そう、想像もできなかった。
 今は何となく想像できる。できてしまう。
 「春子。複雑な気持ちでしょ」
 「そんな事ないよ」
 嘘。複雑な気持ちだ。
 確かに幸一くんは成長しているけど、それは私のためじゃない。
 梓ちゃんのため。
 今日もそう。傍にいても、幸一くんは私を見ていない。私の事を考えていない。
 幸一くんが考えているのは、梓ちゃんの事ばかり。
 「梓ちゃんも、幸一くんみたいにいい方向に変わってくれたらいいのにね」
 ため息をつくお母さん。
 昔から、お母さんは梓ちゃんを心配していた。
 気難しくて塞ぎがちな梓ちゃんを、何とかしようと色々してきた。梓ちゃんを私が通っていた合気道の稽古に連れていく事を考えたのもお母さんだ。
 「今日もお昼ごはんを一緒に食べたのだけど、すごく不機嫌そうだったわ」
 「梓ちゃんとお昼を食べたんだ」
 「加原さんのご両親、今日もお仕事でしょ?ずっと家に一人でいるのは気が滅入ると思って」
 ちょっと悪い事をしたかもしれない。
 梓ちゃん、ずっと一人で家にいたんだ。
 でも、いいじゃない。
 幸一くんは、梓ちゃんの事を考えていたんだから。
 そばにいなくても、幸一くんは梓ちゃんの事を考えている。
 そばにいても、幸一くんは私の事を考えていない。
 どっちが幸せか、私には分からない。
 私の足元でシロがくーんと鳴いた。
 下を見ると、シロと目が合う。
 シロのつぶらな瞳は何も語らない。
377三つの鎖 外伝 1 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/09(金) 23:49:36 ID:45E5IC2z
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。ありがとうございました。
本編の続きはしばらくお待ちください。
HPで登場人物の人気投票を行っています。
ご協力お願いします。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
378名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 23:59:29 ID:ERVkTPjl
ナイス!インターバルGJでした。 今回は春子編ですか…彼女の複雑な心理状況が分かります。 これが本編ではこれからムチャクチャに…三人のまだ平和な時の話…梓‥春子‥幸一‥崩壊の序曲か…
379名無しさん@ピンキー:2010/07/10(土) 01:18:51 ID:b5wjHkqc
GJ!
春子腹立ちすぎw
恋心に気付いていく春子の描写が上手いね

これから本編では夏美も壊れてくのかな…?
(親の死の鎖で縛る?)
380名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 13:21:09 ID:HekTK1+H
GJ!!
いや〜やっぱ三つの鎖おもしろいね
本編では梓と夏美に肩入れしてしていたけど、これを読んだら春子も応援したくなってきた
381名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 15:34:25 ID:B/WIkyHq
初めから春子お姉ちゃん支持の俺に死角は無かった。
姉より優れた妹などいない!!
382名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 15:45:55 ID:ZqJZqsYY
だが血の繋がらない自称姉などスレ的には、かませ犬……

いや
梓タイーホ or 追い詰められて自決 & 夏美シボンヌで
春子が漁夫の利を得る結末もあり得なくはないけど
383Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:00:42 ID:HekTK1+H
こんにちは。Identicalを書いたものです。
前回は自分の無知が原因で混乱を与えてしまい、申し訳ありませんでした。
そこで第一話の1レス目の14行目を以下のように訂正したいと思います。

なぜなら俺達が双子の兄妹だからだ。しかも一卵性。顔だって良く見ないと区別がつかないくらい酷似している。
           ↓
なぜなら俺達が双子の兄妹だからだ。顔だって同じに見えるくらい似ている。

大変申し訳ありませんでした。
そして第2話目ができましたので投下したいと思います。
よろしくお願いします。
384Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:02:22 ID:HekTK1+H
「とりあえず俺んち来るか?」
これ以上この店にいると多大な迷惑をかけてしまう予感がした。
「えぇ、もちろん」
「やったー!兄ちゃんの部屋だー!」
喜ぶ二人。それに対して、
「え!?・・・こ、ここからだとウチの部屋の方が近いから、そっちにしない?」
いい顔をしない二奈。
その発言に姉さんの目がスッと細くなった。
「ダメよ。優二の部屋に行くわ。もちろん、二奈ちゃんも一緒にね」
何か確信めいた雰囲気で姉さんはそう告げた。
俺には何を意図しての発言だったのかさっぱり分らなかった。が、二奈の方は分かったのだろう。
急に顔が青ざめた。
「兄ちゃんのおっ部屋〜♪兄ちゃんのおっ部屋〜♪」
相も変わらずマイペースな三華。
「・・・でもやっぱこういうのっていいよな。兄弟全員が揃うなんて」
なんだかんだあっても俺はこの時間が大好きだった。


店を出た俺たちは、ここから歩いて30分ほど離れたアパートにたどり着いた。
木造二階建てのそこは見るからにずさんな外壁を有しており、いかにも家賃が格安そうな臭いを醸し出していた。
そんなところに俺は住んでいる。
いきなり子供二人が県外の大学で一人暮らしを始めたのだ。親だって何かと大変だろうからな―――と言うのは建前で、本当は母さんと二奈の野郎が勝手にここに決めたのだ。
ちなみに二奈のアパートは新築の3階建て。オートロック付き。理不尽すぎる。
「ね、ねぇ、やっぱりこんなオンボロアパートよりウチの部屋に来ない?そっちの方が広いし・・・」
この期に及んでまだ言い渋る。
そんなに俺の部屋が嫌なのか?いっつも入り浸ってるくせに。
「せっかく来たのに入らないでどうするのよ、ねぇ三華?」
「うん!アタシも兄ちゃんの部屋に入りたい!」
絶妙のコンビネーション。
二人は意気揚々と俺の部屋に向かって直進して行った。
「ほら、二奈も行こうぜ」
「・・・なんであんたはそんなに余裕なのよ!」
「?」
意味が分からん。自分の部屋に行くのに慌てる奴がいるのか?
「だいたい姉さんも三華も来るなら来るって前もって言いなさいよ・・・!」
「三華なら電話で店に来るって言ってきたぞ?」
「それいつの話よ!?ウチは聞いてないんだけど!?」
「いや、だってそれ聞いたの今日のバイト中だったし」
「そんなの前もって言った内に入らないじゃない!」
二奈の表情にだんだんと怒りが浮き上がってきた。
このままにして置くと、せっかくの姉さん達の楽しそうな気分を害してしまうかもしれない。
それだけは避けたかった。
「ったく、今度またお前の大好きな店奢ってやるから機嫌直せよ」
こうなったときの対処法。
俺がこう言えば二奈は必ずと言っていいほど首を縦に振る。
「・・・分かったよ・・・でも約束だからね!」
やっぱりこいつには花よりも団子だな。
なんとか漱石さん数人で事が済んだ。
・・・漱石さん数人・・・か・・・
385Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:03:52 ID:HekTK1+H
「・・・随分と綺麗に片付いているのね」
入るなり早々と姉さんが呟いた。
そのまま居間に向かうと思われた足取りは、大きく右に転回し、洗面所に向かった。
どうやら抜き打ちチェックが始まったらしい。
そして早速何かを見つけた。
「これは・・・なにかしら?」
姉さんの指さす方向には2本の歯ブラシがあった。
「何って、ただの歯ブラシだろ?」
それがどうしたって言うんだ?
「なぜ2本あるの?」
「あぁ、片方は二奈のだな」
その瞬間、姉さんの眉がピクっと吊り上がった。反対に二奈のそれは垂れさがっている。
「どうして二奈ちゃんの歯ブラシがここにあるの?」
「え?そ、それは二奈がよく泊りに来るからであって・・・」
なぜだか分からないが、急に姉さんを恐いと感じてしまった。何か変なことを訊かれたわけでもないのに。
と、その時居間の方から大きな声がした。
「あーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
なんだ!?泥棒か!?
慌ててそこに向かうと、三華が口をパクパクさせながらある一点を凝視していた。
「何か見つけたの、三華!?」
姉さんもものすごい勢いでやって来た。
「なっ・・・!」
そして絶句。持っていたカバンを落としたことにも気付かないで。
でも俺には二人が驚いている理由が分からなかった。
二人の見つめる先にあるのは俺のベッドだ。何の変哲もない普通のベッドがあるだけ。
「や、やばっ!?」
最後にやってきた二奈も俺のベッドを見て目を見開いた。
「あ、あの〜・・・俺のベッドに何か問題でもありましたかね・・・?」
何度確認しても普通にベッドがあるだけだ。まぁ枕が二つあることは少しおかしいかもしれないが。
でもたかがそれくらいでここまで驚いているわけではないだろう。
「・・・・・・・・・私が理解できるまできちんと説明してもらえる?」
「そ、その前に落ち着こうよ・・・ね?」
「姉ちゃんばっかりズルイ!」
「お、おい暴れんな!隣の人に怒られる!」
「そ、それは優二がどうしてもって言うからであって・・・」
「何が!?俺なんか言ったか!?」
暴れ回る三華を抑えつけながら、なぜか怒っている気がする姉さんを宥めつつも、二奈から詳しい事情を訊く、という芸当を俺はする羽目になった。
「優二がさびしいから、ウチと一緒に寝たいって・・・」
二奈の証言は事実無根のデタラメだった。
どうして嘘をつく?はっきり言えばいいじゃないか。
「・・・本当なの、優二?」
「いや、二奈の言ったことは嘘で、本当な二奈の部屋の暖房が壊れたらしく、寒くて眠れないと言いやがったんで一緒に寝てるんだ」
確か二奈が泊りに来た初日にそう言っていた。
男女が同じベッドで眠ること自体は問題かもしれないが、俺と二奈は兄妹、ましてや双子なんだから別にどうってことないだろう。
「・・・ふ〜ん・・・二奈ちゃん、そんなこと言ったんだ〜・・・」
どうやら姉さんは理解してくれたようだ。それに三華の方もピタリと動きを止めていることから、こっちも分ってくれたのかな?
386Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:04:56 ID:HekTK1+H
「ところでこの後どうする?もう時間も遅いし、寝るしかないんだけど」
さすがに今から遊びに行くのは無理だ。肉体的にも精神的にも疲労困憊。
「アタシはもう眠いよー」
三華はそう告げると、この部屋でたった一つしかないベッドにもぐりこんだ。
「な、何やってるのよ三華!」
「ちょっと!そこはウチのベッドなんだから勝手に入らないでよ!」
姉さんはともかく、二奈の発言には反論させてもらう。
「そのベッドは俺のであって、お前のじゃない―――」
「あんたは黙ってなさい!」
「・・・はい」
怒られてしまった。自分のベッドを自分のだと主張したら怒られてしまった。
「早く出なさいよ!」
「嫌だ!姉ちゃんはいっつも兄ちゃんと一緒に寝てたんだろ!?だったらいいじゃないか!」
「ぐっ・・・!」
「私はまだ一緒に寝てないわ!だからどきなさい!」
「何で一葉姉ちゃんも怒るわけ!?もしかして一葉姉ちゃんも兄ちゃんのベッドで寝たいわけ!?」
「そ、そんな事あるわけないでしょ!」
「だった文句言うなよ!」
「ぐっ・・・!」
す、すごい。あの姉さんと二奈が言い負けてるなんて・・・
今後のためにも今の三華を見習う事にしよう。
「エヘヘ・・・兄ちゃんの布団あったか〜い♪」
「いや、今朝から誰もそのベッドに入ってないから暖かいわけないだろう?それよりもシーツとか洗ってないから臭くないか?」
「全然臭くないよ!むしろ超いい匂い!」
「そ、そっか。それは良かったな///」
兄を傷つけまいとしての三華の心遣いだと分かってはいるが、そうストレートに言われると照れてしまった。
その様子が気に障ったのだろうか。二奈がキレた。
「実の妹にいい匂いとか言われて何顔を赤く染めてんのよ!最っ低!変態!!」
その言葉に僕もキレた。
二奈に近寄り、その髪を手ですくう。
「・・・あ〜・・・いつも寝ているときにも思っていたけど、やっぱり二奈の髪は凄くいい匂いがするな。俺、この匂い大好きだよ」
恥ずかしがり屋の二奈の事だ。きっとこいつも照れて顔を赤くするに違いない。
その時に「お前も変態じゃねーか!」って言ってやる。
「・・・へ?今ウチの髪がいい匂いって・・・え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええええ!!!!///////」
「そら見たことか!お前も顔を赤くしてるじゃ―――」
呼吸が止まった。
二奈の後ろにいる姉さんと目があった瞬間、呼吸が停止した。
姉さんは無表情で首を傾けた。その目はまるで「何言ってるのかしら、この子は?」と云っている。
「・・・・・・ごめんなさいね?今優二の言ったことがうまく聞き取れなかったから、もう一度言ってくれる?」
「か・・・髪・・・髪が・・・」
「うん?髪がどうしたって?」
「か・・・神様助けて下さい・・・」
もう悪いことはしません。これからはお賽銭も奮発して500円玉を入れます。だからどうか・・・
必死の御祈りが通じたのか、突然携帯が鳴った。親友の拓朗からだった。
「もしもしっっ!!」
「・・・なんかめっちゃテンション高いな?誰かと遊んでんのか?」
遊びだと!?お前はこの状況を遊びだと言うのか!?
「あ、遊んでなんかねーよ!」
「?・・・なら今暇か?」
「暇じゃないけど、今すぐに家から出たい気分だな!」
早く・・・一刻も早く・・・
「はぁ?ま、いっか」
そして拓朗は俺の脳を覚醒させる魔法をかけた。
「実は今コンパしてんだけど、友達が一人帰っちゃってさ・・・お前、今から来れね?」
387Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:05:29 ID:HekTK1+H
コンパ。
その言葉を聞いた瞬間、声が勝手に出た。
「行く。絶対に行く。どこ?場所はどこ?」
「な、なんだ、えらい乗り気だな・・・場所はいつも飲み会で使う居酒屋だ」
「分かった。今すぐ行く」
そうして電話を切る。
彼女いる歴が存在しない俺にとって、まさにコンパは生きる糧だ。最後の希望だ。
だからなんとしても参加しなければいけない。
どんな手を使ったとしても。
「・・・今のは誰かしら?」
「親友の拓朗からだよ。なんか急に熱がでたらしくて、誰かに看病してもらいたいんだってさ。だからこれから向かわないと」
姉さんの方はこれでごまかせるはずだ。いつの間にか眠っている三華のほうも問題ない。
でも二奈の方はこれだけでは納得しないだろう。
「拓朗君が風邪?それならなんで優二に電話なんかするの?」
二奈は拓朗の事を知っている。
そしてアイツがいつも言っている口癖も。

「俺、もし風邪で寝込むことがあったら・・・絶対二奈ちゃんに看病してもらうんだ・・・」

だからだろう。二奈は疑いの目を向けてくる。
「アイツが毎日言ってることは冗談なんだから気にすんなよ」
一応、これが俺の用意していた答えだ。これで納得してもらえると信じてる。
「ふ〜ん・・・ならウチも一緒に行くよ」
「え、えぇぇ!?」
予想外だった。
「そ、それはやめといた方がいいんじゃないかな〜?」
「どうして?」
「どうしてって・・・ほ、ほら男って自分の弱ってる姿を女の子に見られたくない生き物なわけであって・・・」
マズい。完全に浮気について言い訳をしている旦那みたくなっている。
「・・・な〜んか怪しいな〜・・・」
ジ・エンドかもしれない。
そうあきらめかけたとき、意外なところから救いの手が差し伸べられた。
「あんまりしつこいと嫌われるわよ。女は黙って身を引くものでしょ?」
それはさっきまでの自分の事を棚に上げた姉さんの発言だった。
「早く行ってあげなさい、優二。親友は大事にするのよ」
何かものすっごく裏がありそうだったが・・・コンパに行けるんだ。罠でも構いはしない。
「じゃあ行ってくるよ!」
それから全速力で居酒屋に向かった。
388Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:06:30 ID:HekTK1+H
「おお〜来た来た!」
俺が居酒屋に着いた時、すでにコンパは後半戦に差し掛かっていた。
とりあえず空いている場所に腰を下ろすと、途端に拓朗が絡んできた。
「ほら!コイツがさっき言っていた山川優二だ!すげー女顔してるだろ?」
「本当だー!超イケメン!」
「顔キレーだね!羨ましいくらい」
「ありがと」
どうやら俺が来るまでに拓朗が色々と話していたようだ。
「それにしても・・・よく奥さんがOK出したな」
拓朗の言う奥さんとはきっと二奈の事だろう。
アイツはコンパとか友達の紹介とか、そういった類のもの全般が嫌いなのだ。
当然、俺がそれに便乗する事も。
「えぇ!?優二君、奥さんがいるの!?」
「超ショック〜」
「いや、そんなのいないから。コイツの嘘だから」
やめてくれ拓朗。俺はこのコンパに初彼女を賭けてきてるんだからな。
でも何となく女性陣の喰いつきは悪くないみたいだ。
今回こそはいけるのか?
「奥さんみたいなもんだろ?同棲してるし学校もバイト先も何から何まで一緒なんて」
「え?・・・同棲?」
「それにバイト先まで一緒・・・?」
しかし拓朗の一言で、さっきまで喰いつきの良かった女の子たちが若干引いてしまった。
確実に俺に彼女がいると思われているだろう。
「誤解しないでくれ!確かに半同棲していて学校もバイト先も同じ女の子はいるけど、ただの妹だから!」
なぜに俺はここでも追い詰められてしまうんだ?
その時、女の子の一人がある単語を発した。
「優二君って・・・シスコンなの?」
「シスコン?えっと・・・何処までいけばシスコンなの?」
俺はよく友達からシスコンと言われる。でも自分ではシスコンのつもりはなかった。
一体俺の何処がシスコンなのか知りたい。
「どこまでって・・・え〜と・・・同棲してる時点でシスコンだと思うけど・・・」
なんてこった。そんなレベルからもうシスコンと言われるのか。
なら二奈と同じベッドで一緒に寝ている俺は、シスコンの中でもかなり上のレベルに達しているのか?
拓朗がポンッと肩に手を乗せてくる。
「ほら、これで分かっただろ?お前は重度のシスコンなんだ。そろそろ・・・妹離れを真剣に考えるべきなんじゃないか?」
「そのほうがいいね。優二君のためにも妹さんのためにも」
今はコンパの真っ最中だというのに、なぜか俺の人生相談が始まった。
「じゃあ具体的に何をすればいいんだ?」
「そんなもん決まってるだろ!彼女だよ、彼女!」
「そうだね、それが一番だね」
「優二君、顔はいいんだからすぐにできるでしょ?」
女の子達の言葉が奥歯に引っかかる。
二人とも彼女を作れば?と言う割には、誰一人俺と付き合ってもいいとは言ってくれなかった。
それに・・・顔『は』って何?『は』ってどういう意味?
389Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:07:24 ID:HekTK1+H
「と、とにかく飲もうぜ!」
今まで会話に全く参加できていなかった最後の男性が、そう切り出した。
あの人の事を俺は知らない。多分向こうも俺の事を知らない。
「そうだ!今から王様ゲームでもしね?」
拓朗は例の男の意見を全く無視して、定番だが提案するには勇気のいるゲームの名を挙げた。
このゲームは基本的に男性陣の票は簡単に集まる。しかしだからと言って多数決で決める事はできない。
要は女性陣の票次第という事だ。
「「おもしろそー」」
即決だった。



「やべー!超ウケるー!!」
王様ゲームもだいぶ盛り上がっていく中、俺は一つの事が気になっていた。
それは俺から最も遠い席に座っている女の子。おしとやかそうな雰囲気を漂わせている黒髪美人。
そんな視線に女の子の一人が気付いた。
「あれ〜優二君、さっきから伴子(ともこ)の事ばっか見てるけど・・・一目惚れでもしたのかな〜?」
「なっ・・・!?」
「ちょ、ちょっとやめてよ葵ちゃん!ゆ、優二君が私にみ、見惚れるなんて・・・あ、あるわけないじゃない!」
伴子さんはそう否定した。
でも実際は葵さんの正解だった。俺は見惚れていた。
顔だけじゃなく、仕草や振る舞い、その他もろもろ全てがストライクゾーンだった。
「ふ〜ん、それなら次の王様の命令を言うね?1番と3番は鼻の頭をくっつけたまま10秒間見つめ合う事!」
「「え〜〜〜〜〜〜っ!!」」
どんな細工をしたのかは不明だが、俺が1番、伴子さんが3番だった。
「早く早く〜♪」
いや、さすがにまずいだろ!俺は構わないけど伴子さんの方は―――
「わ、分かりました!///」
「きゃ〜!」
伴子さんが僕の目の前までやって来る。
「ゆ、優二さんがよければ・・・その・・・」
「こ、こっちこそ!ふ、不束者ですが、どうぞよろしくお願いしまっす!」
まるで付き合いたてのカップルのような初々しさで、俺たちはゆっくりと鼻を近づけていった。
異様なまでの動悸。噴き出る汗が止まらない。そして―――

・・・トンッ・・・

鼻頭と鼻頭がぶつかった。
甘い匂いが鼻孔をくすぐる。その匂いで脳がぼうっとしてしまう。
伴子さんの目って大きくて、黒くて、何だか吸い込まれそうな引力が・・・
「・・・ふ、二人とも?もう10秒たったからいいよ?」
周りの声が耳に入って来たことは分かった。
でも動けない。
この目を見ていると動くことができない。
もしかすると伴子さんも俺と同じ感覚を味わっているのかもしれない。
彼女の方もまた、動くことはなかった。
そのまま見つめ合い続ける二人。
誰もが口をはさめる空気ではなかった。
・・・『彼女たち』を除いては。
「あーーーーーーーー!!何やってんだよーーー!!」
突然体が後ろの方に引っ張られた。
何かと思い後ろを振り返る。
そこには家で寝ていたはずの三華の姿があった。
390Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/10(土) 17:08:16 ID:HekTK1+H
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
391名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 17:19:17 ID:ZqJZqsYY
>>390
荒削りだけど光るものがある
っつうか面白いですよGJ!!

……そうだよな、美人の妹と瓜二つの双子なんだから
兄のほうも「顔はいい」ってことだよなw
392名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 22:21:26 ID:limTAyY+
GJです!
いや〜本当に面白いですよ。この調子で頑張って!
393名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:52:43 ID:vev7P4Ee
>>377
GJ!
春子が可愛いです
本編も期待しています

>>390
GJ!
面白かったです!続きを楽しみにしています!
394名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 01:49:19 ID:XCoZLaOC
>>390
GJ!
面白かったです。
モノローグ等にもセンスを感じます。

続き期待してます♪
395名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 03:32:43 ID:+4HPairN
二卵性だとそれはそれで似てる似てないは関係なくなってくるんだけどな…
まぁいいか、楽しく読ませてもらってるし
396名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 06:47:44 ID:InnkqyBb
>>390
GJ!

>>395
別に一人称なんだから俗説やら聞きかじりやらで多少間違った認識でもいいと思うんだ
ストーリーの根幹を揺るがす矛盾ではないんだし

ただ僕なのか俺なのかは特に意図がないなら統一した方がいいとは思う
397名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 16:15:57 ID:Z3cPYLzD
GJ
398代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/07/11(日) 21:56:59 ID:ilFLI4vw
避難所に投下されてたものを、投下します

裏切られた人の話4 2010/07/09(金) 22:50:56 ID:Tcfkb/8E

今晩は
規制に巻き込まれてしまいましたのでこちらに投下いたします。
もし、投下を代行していただける方がいらっしゃいましたらお願いいたします。
お願いできないようでしたら、解除後に本スレへ投下したいと思います。
399裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 21:57:38 ID:ilFLI4vw
「……すまなかった。」
「あら、どうされましたか、兄様?」
「あの事故から、ずっとお前に全てを任せて俺の傍に縛り付けていた。」
「ふふ、そんな事を謝られるなんて、いいんですよ今更。」
「全部俺が悪いんだ。お前は俺なんかに構わずに、友人や恋人を作って、もっと広い世界に居なきゃいけなかったんだ。
 それを、俺と夜澄しか居ない生活に閉じ込めて、俺なんかを愛していると言わせるまでに歪めた。
 夜澄、お前の愛しているって言うのは、だから、それは間違いなんだ。」
夜澄はその事に気づいていなかったのだろう、言葉の意味が分からずに困惑している。
「あの、兄様、……何を言ってらっしゃるのですか?」
「落ち着いてくれ、確かに今は受け入れられないかも知れないけどそうなんだよ。」
「ですが、そのお話ですと、まるで夜澄は兄様と一緒に暮らしたせいで狂ってしまったというように聞こえるのですが?」
「今はそう思うかもしれないけど、それでも。」
夜澄は正気を確かめるように、怪訝そうな目で俺の顔を覗き込んだ。
「まさかとは思いますが、兄様は夜澄が寂しいというだけでどんな男にも靡くような尻軽女だとでも思ってらっしゃいますか?」
「え、いや、ちがう、でも、俺を愛してくれているのは事故のショックと、そして、俺がお前を縛り付けたからなんだよ!!」 
夜澄は呆れたような表情になったが、何かに合点がいったのかくすくすとまた笑い出す。
「くすくす、そんな冗談はダメですよ、兄様。事故なんて何にも関係ないですって。
 そんな事がある訳無いじゃないですか、あんな事故なんかで夜澄は変わらないですよ?」
「事故は関係ない?」
「ええ、露ほども、くすくす、いいですか? 兄様。
 兄様と二人になる前も、二人だけになれた後も、ずうっと夜澄は夜澄のままですよ?
 夜澄は何も変わっていません、夜澄は初めから兄様だけを想っていたんですから。」
「は?」
「くすくす、生まれてからずうっと夜澄の大事なモノは兄様だけですよ?」
 思考が置いてきぼりになっている俺の顔を愛おしそうに見つめながら夜澄が続ける。
400裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 21:58:06 ID:ilFLI4vw
「夜澄がまだ小さな時、不思議に思ったことがあったんです。
 どうして兄様に触れられると心地良いのに他の人に触れられると気持ち悪いのか。
 兄様の声は夜澄の中に響くのに、他の声は唯の雑音なのか。
 兄様とは一つになりたいのに他の人からは離れたいのか。
 くすくす、今思えば本当に馬鹿らしいです。
 だって、兄様と夜澄だけが愛し合うことのできる人間で、他の人はみんな人形なんですから、くすくす。」
「人・・・形、人の形って書くやつだよな?」
「ええ、人の形をしただけの偽者です。
 人にそっくりなだけ、心なんて無い。
 くすくす、そんなもの愛せる訳ないじゃないですか。
 人そっくりに振舞う人形なんてただ気持ちが悪いだけですよね?」
「人形って、俺たちと何も変わらない人間だろ?」
「いいえ、人形ですよ? そして、夜澄と兄様だけが特別なんです。 
 だって、夜澄は兄様の痛みでしたらまるで自らの身が引き裂かれるように感じる事が出来ますよ。
 でも、他の人?、まあ兄様がそう仰るなら人としましょうか、が痛みにのた打ち回っていたり、
 大切な方を失って嘆き悲しんでいても、くすくす、ここは病院ですから毎日煩いんです、
 夜澄にはそんな方の気持ちなんて理解できませんでしたし、そもそも興味を持てませんでした。」
「お前は俺以外を人だと思えないって言うのか?」
「ふふ、そういうことになりますね。夜澄だって不思議に思う時もあったのですよ。
 どうして兄様だけは違うのか、どうして兄様は全てが愛しいのかって。
 でも、今の夜澄にはちゃーんと分かりますよ?」
今から言うであろう答えを確かめるかのように、じっくりと俺の瞳に視線を合わせる。
「兄様が夜澄のモノだからですよね?
 くすくす、兄様が居なければ夜澄は独りです。
 だから夜澄を寂しくさせない為に兄様は生まれてきてくださったんです。
 夜澄だけを守る為に、夜澄だけを愛してくださる為に9年も先に生まれてくださって、くすくす。
 ふふ、勿論、兄様は夜澄の為だけに、今までも、これからも生きてくださるんですよね?
 だから、兄様は夜澄のモノなんですよ? 
 ・・・…くすくす、本当に、夜澄は兄様だけを愛しているのですよ?」
そう言って嬉しそうに頬を赤らめる。
今夜の夜澄は今までにない位に表情が豊かだ。
401裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 21:58:44 ID:ilFLI4vw
だが、嬉しそうに夜澄の話すその内容は全てが破綻しており、俺の常識から逸脱しすぎているものだった。
少しでも理解できる部分を繋ぎ合わせるならば、夜澄は俺を愛していて、俺以外の者を認識すらもしていないという事なのか?
だったら、俺との、いやお袋や親父とのあの幸せだった頃の生活も夜澄の目には写っていなかったのか?
いや、そうじゃない、考えるべきはどうして今に繋がったのかだ。
「お前は昔から俺を愛している、それは良いとしてもどうしてこんな事をしたんだ?」
「あら? 今日の兄様はお疲れですね、鈍いですよ。くすくす、ちょっと考えればすぐ分かりますよ?」
「鈍い、というのは認めるが、その、これはさすがにおかしいだろう?」
夜澄の整った眉が少しだけ動いた気がする、何か気に触ったのだろうか。
「しょうがないですねー、くすくす。
 夜澄は兄様を愛していますけど、一つだけ、実は一つだけ大っ嫌いな所が有るんですよ?」
顔は笑顔のままだ。だが、目は笑っていない。
「教えてくださいね、兄様。どうしてですか?」
その目は怒りと、そして憎しみで歪んでいる。
「どうして兄様は夜澄以外のモノとお話が出来るんですか、夜澄だったらそんなの気持ち悪くてできませんよ?
 どうして、夜澄以外のモノに心を奪われる事ができるんですか、兄様は誰の為に存在していて、誰の恋人で、誰のモノですか?
 夜澄ですよね、夜澄のモノなのにどうして、夜澄と離れ離れになっていても平気でいられるのですか?
 今まで兄様が夜澄をどう扱おうと夜澄は心を痛めたりはしませんでしたよ。
 でも、夜澄の知らない研究室で気持ちの悪い女と実験に熱中していた兄様に、病室で夜澄の居ない職場の話を楽しそう話す兄様に、
 どれだけ夜澄は悲しまされたか分かりますか? そんなものを夜澄が望んでいるなんて思えるんですか?  
 ねえ、夜澄と離れていられる兄様、夜澄以外の事を考えられる兄様、そういう兄様を見るたびに何度も気が狂いそうになったんですよ。
 どうして兄様は夜澄無しの生活で気が狂わないんですか? そんな暢気な顔をしていられるんですか?
 だって、おかしいですよね? そんなの狂っていますよね? 兄様は誰のモノですか? 何が一番大切な事ですか?」
「や、夜澄?」
「今回だってそうです。・・・・・・本当は先生が居住権と移動権の売買を持ちかけて、夜澄が法廷で買い戻す手筈だったんです。
 なのに、自分から勝手に夜澄の傍を離れようとする。しかもあんな、気持ち悪い女の所に・・・。
 もし一歩間違っていたら今頃兄様は・・・・・・、夜澄は考えるだけでもおぞましいです。
 正直に言って夜澄は今回の兄様の愚行には絶望しましたよ。本当に兄様は何をしてらっしゃるんですか・・・?」
402裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 21:59:24 ID:ilFLI4vw
「夜澄、何を・・・?」
ぎり、と歯を食いしばる音がする。
今まで見た事もない夜澄の憎悪の表情に竦んで言葉が紡ぎ出せない。
「何を? それは夜澄が言いたいですよ?
 本っ当に、兄様は夜澄の為に生まれたという意味を、本当に分かっていますか?」
そこまでを息継ぎ一つせずに喋りきった夜澄が、ふぅ、と息を吸い込んだ。
そして、まあ過ぎた事ですけどね、と言ってまた楽しそうにくすくすと笑い出す。
「くすくす、夜澄はずっと兄様だけを想っているのに、夜澄のモノなのに、兄様はつまらない事にかまけてばっかり。
 それどころか、放っておけば今回みたいに夜澄の傍からいなくなっちゃうじゃないですか、くすくす。
 だから、ちゃんと兄様を夜澄のモノにしてあげるんですよ、心も体も。
 ふふ、お父様とお母様の事故が良い切欠になりました。
 ずっと病院に篭もって病気の振りをし続けるのは少し大変でしたけど、くすくす。
 ああ、でも学校に行って気持ち悪い思いをしなくて済んだ分快適な生活でしたよ。
 お蔭でお金も準備する事が出来ましたし。」
「金? そうだ、一体あの金は何なんだ?」
「お金ですか? 兄様が今まで夜澄の治療に出してくださったお金がありましたよね?
 元気な夜澄には必要なかったのでお医者様から返していただいて、
 ずっと兄様の購入資金として貯めてたんですよ、くすくす。」
「医者まで俺を騙してやがったのか?」
「あら、お医者様を責めてはいけませんよ。
 あの方にだって大切なご家族がいらっしゃっるのですから理解してあげないと、まあ、どうでもいい事ですよね。」
「お前が、人を強請ったのか?」
「ふふ、過程なんてどうでも良いじゃないですか。
 大切なのは兄様が完全に夜澄のモノになった事、愛し合う二人が一つになる事ですよ。
 さあ、結果を愉しみましょうか? いっぱい、くすくす。」
そう言い終えると夜澄は着物の帯を解く、白い肢体が目の前に広がる。
403裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:00:01 ID:ilFLI4vw
「夜澄、何をする気だ!?」
「何って、愛し合う男女がすることって一つになる以外にあるんですか?」
夜澄は不思議そうにコクンと首を傾げる。
そして、拘束されている俺のズボンを下ろし、俺のモノを口に咥えた。
その光景に固まっている俺を気にせずに舌を器用に絡める。
「ふふ、大きくなりましたね、もういいでしょう?」
夜澄はそのまま俺に跨り、糸を引く自分の秘部を指で押し開いて俺のモノをあてがおうとする。
「おい、待てよ!! 俺らは兄妹なんだぞ!!」
「そうですね、それが何か気になりますか? そんな事、・・・・・・っん・・・・・・。」
そう言ってそのまま腰を落とす。
ぬるりとした感触と共にあっさりと入った。
404裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:00:32 ID:ilFLI4vw
痛がる様子も無く、夜澄は気持ちよさげに腰を上下させる。
「やめろ!! やめろよ、夜澄!!」
俺の言葉など全く聞かずに夜澄はただ腰を振る。
快感だけに集中する夜澄には何も聞こえていない。
「・・・・・・んんっ、・・・・・・ひ・・・し・・・・・・りの兄様の・・・んっ・・・・・・体、
 ・・・ん・・・いい・・です・・・凄くいい・・・ん・・・、くす・・・くす、分かり・・・ます・・・よ、
 もう・・・・・・出ま・・・すね? ふふ・・・いっぱい・・・いっぱい夜澄の・・・子宮に・・・・・・。」
そう途切れ途切れに言って深々と夜澄は腰を落とす、その瞬間俺は腰が抜けるような快感を感じた。
暖かいものが自身のモノから流れ出す。
腰を深く落とし、恍惚の表情で夜澄はそれを受け止める。
頭から血の気が引いていく。
ああ、終わった、俺は妹の膣に、たっぷりと。
事が済んでしまってからも、まだ夜澄は蕩けた表情のままだった。
口からは涎も垂れている。
見た事も、いや想像だって絶対にした事がなかった夜澄の痴態がそこに有った。
もうそれ以上はそんな夜澄を見たくなかった、顔を横に背け目をつぶった。
それに気づいた夜澄が俺の顔を両側から掴み、強引に正面を向かせる。
「何をしてるんですか、兄様? まだまだ夜澄は足りませんよ?
 くすくす、勝手に終わらせないでくださいね?」
そう言って、体をぴたりと俺に付け腰の動きを再開する。
入れる、出す、入れる、出す…。
部屋の中にベッドの揺れる音と水音だけが響く。
3回目、4回目、5回目・・・。
405裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:01:02 ID:ilFLI4vw
・・・・・・2時間? いや3時間くらいだろうか? 息が苦しい、頭はまだぼんやりとしている。
一方、さっきまで横ではぁ、はぁと激しく息を切らしていた夜澄はもう落ち着き、今は俺の腹に跨る格好で座っている。
「ふふ、兄様のお×ん×ん最高でしたよ、くすくす、本当に夜澄の子宮にぴったりと嵌って。
 兄様、知っていますか? 兄妹同士のまぐわいは一番気持ちいいんですよ?
 もう兄様は夜澄以外の体では満足できませんね? 一生、くすくす。」
俺を見つめながら嬉しそうに夜澄は言う。
その言葉に我に返る。
俺は夜澄と、妹とセックスをしてしまった、いや、レイプされたと言ったほうが正しいのか…。
「本当に、気持ちよすぎて、…くすくす、たった一週間まぐわっていないだけで夜澄はおかしくなりそうでしたよ?
 はしたないですね、夜澄は、くすくす。」
「・・・・・・おい?・・・・・・一週間?・・・・・・一週間ってどういうことだよ・・・・・・。」
「くすくす、ですから一週間ぶりの兄様とのまぐわいですよ?」
また夜澄が笑い出す。この状況の何がおかしいのか俺には分からない。
「ふざけるな!! 俺はそんな事今までした事無い!! 無いに決まってる!!」
「あら、よく兄様は夜澄の所に来ると一緒にお昼寝して下さいましたよね?」
まさか・・・夜澄は・・・・・・。
「くすくす、ええ、実はですね、兄様に差し上げてたお茶に秘密がありましてね。
 幸せに眠れるお薬と、くすくす、元気の出るお薬、が入っていたんです。」
「お前は・・・・・・、俺と一緒の夢を見てくれたんじゃないのか?・・・・・・」
「くすくす、ごめんなさい、それもウソ、です。
 本当は、寝ている兄様のお召物を脱がせて、しゃぶって、犬みたいに腰を振って、お口いっぱいに含んで、
 兄様の匂いのするお口で、目を覚ました兄様と、お父様とお母様のお話をしていたんですよ。
 悪い子ですね? 夜澄は、くすくす。」
夜澄がまた笑う。本当に楽しそうに笑う。
「ああ、そうですね。いつもお母様の着物を着たままでしたから、
 これにはきっと夜澄の汗とよだれとお汁と、くすくす、兄様の匂いがいっぱい浸みてますね?」
そう言って夜澄が着物の裾に鼻をあてて、すんすんと匂いを嗅ぐ。嬉しそうに良い匂いですよ、と笑う。
406裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:01:31 ID:ilFLI4vw
気持ちが悪い。

俺はずっとそんな気持ち悪い着物の匂いを嗅いでいたのか、そう思うと胃の奥から熱いものがこみ上げる。
今まであそこで口にしたものを、肺に吸い込んだものを全て吐き出したい。
吐き気を堪えながら、聞きたくも無い質問を続ける。
「入院してから、ずっとそうしていたのか?」
「いえ、もっと前、二人で一緒に暮らしていたときからですよ。
 くすくす、良く食事をしてそのまま寝てしまう事がありましたね。」
あの時は研究が辛いからすぐに寝入っているのだと思っていた。
あれも、夜澄の仕業だったのか。
「あの頃も、本当はそれなりに楽しかったですよ? 
 いろんな夜澄の隠し味が入った食事を召し上がって頂いて、夜は夜澄をたくさん召し上がって頂いて。
 もし、隠し味を知られてしまったら、夜、目を覚まされてしまったら、
 兄様は夜澄をどうされるのでしょう? 夜澄は兄様をどうするのでしょう?
 そう考えながら、兄様の前では兄様が望まれる妹の夜澄を演じて、
 くすくす、本当に心臓が止まってしまうかと思いましたよ?」
そんな話は信じたくない。
それが本当なら、俺の大切な家族は、そんな事をしておいて、笑顔ができる女だというのか。
俺の大切な夜澄は、毎晩、家族である俺を犯しておきながら、涙を溜めて、独りにしないでとあの時俺に抱きついていたというのか。
407裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:02:03 ID:ilFLI4vw
「全部、嘘なんだろ? お前は、あんな生活には耐えられなかったんだよな!?」
「くすくす、これは全部本当、ですよ。ああでも、もう今の夜澄にはあの生活は耐えられませんね。
 こうやって最愛の兄様から全てを奪って夜澄だけのモノにする、こんな気持ちいい事を知ってしまった今の夜澄には、きっと。」
「気持ち良いだと!? 俺は、お前の為に自分の夢も、将来も、エリスも裏切って一緒に居たんだ、それを知ってて言っているのか!?」
「ええ、もちろん知っていますよ。兄様が悩んだ末に一緒に居て下さるといった時の必死に未練を振り切ろうとする表情、
 それに自らを売る前の晩にいらした時の苦悩しきった表情。
 いつも決断を迫られる度に夜澄を想う兄様、夜澄を選ぶ兄様、ええ、それを思い出すだけでも、くすくす、胸が満たされます。
 自分の夢より、体より・・・・・・、何よりも夜澄が大切、そんなに兄様から愛されているなんて、
 やっぱり兄様は夜澄のモノなんだって、そう思うたびに、くすくす、夜澄は幸せものです、くすくす。」
「幸せ?」
「くすくす、両親も、夢も無くされて、ご友人も、大切な物はみーんな、夜澄の為に無くなっちゃいましたね。
 最後に残っているのは最愛の夜澄だけ、夜澄は本当に幸せです、くすくす。」
理解が出来ない。
ただ自分の欲望の為に家族を騙して奪って、何の痛みも感じずに、自分が幸せだと言い切る夜澄が。
「これが幸せか? これがお前がずっと望んでいた幸せだっていうのか?」
「はい。これが夜澄の望んだ最高の幸せですよ。
 他にどんな幸せがありますか?」
夜澄は最上の笑顔で応える。
俺がいつか見たいとずっと願っていた不安も憂いも浮かばない綺麗な笑顔で。
「どんな幸せだと・・・。」
幸せ、両親との最期の瞬間を思い出す。
あの時の両親の顔が浮かぶ、夜澄を幸せに、と言い、
存在しない右手を夜澄に向かって伸ばしていた母親の姿が浮かぶ。
絶対に違う、あの時おふくろが望んでいた夜澄の幸せはこんなものではなかった。
「お前は、おふくろ達には、後ろめたく思わないのか? 後悔しないのか?
 こんな風に兄妹でやっちまって・・・・・・。
 ・・・覚えてるよな、あの時お前に手を伸ばしたおふくろの手をさぁ!?
 こんな事知ったらどれだけ悲しむか分かるよな!?
 親父や、お袋に済まないと思うだろ!? 
 頼むよ、そうだと言ってくれよ!! 夜澄!!」
408裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:02:26 ID:ilFLI4vw
必死の言葉に応えてくれたのだろうか、夜澄は真顔に戻り、物思いをしているようだ。
そして暫く考えた後、ちょっと困ったような顔をしてから答える。
「ん、兄様のお願いです、そうですと言いたいですが。
 ・・・・・・全然、思わないんですよ。
 ずうっと兄様は夜澄のモノなんですから、何に罪悪感を感じればいいんですか?
 ごめんなさい、何が悪いのか夜澄には本当に分からないんです。くすくす、困りましたね?」
夜澄はバツが悪いのか、照れくさそうに笑っている。 
その表情は穏やかで、この場所には全く相応しくない。
「それに、実はお父様やお母様の事を夜澄は何にも覚えてないんです。
 お母様の手の話だって兄様がそれを言うと構ってくれたから話を合わせていただけですから・・・・・・。
 良く考えてください兄様、あんな小さい子供が細々としたことを覚えていますか?
 さっき言ったじゃないですか? 兄様以外の人間なんていません、って。
 夜澄にとってはどうでも良いお人形さんが2つ減っただけですよ。
 そんな事いちいち覚えていられるわけ無いじゃないですか?
 私が覚えているのは、くすくす、今にも泣きそうな可愛らしい兄様のお顔だけですよ。
 くすくす、今のお顔とそっくりでしたよ?」 
夜澄の言葉にまるで針金をねじ込まれたように心臓が痛む。
それでも、そこで黙ってくれればまだ救いがあったのに。
「そうですね、他に覚えている事ですと・・・、」
なのに、夜澄は何かを思い出したようで楽しげに言葉を繋いだ。
「ああ、そういえばあの後、お手洗いで、くすくす、兄様の顔を思いながら、一人で慰めたら・・・、
 くすくす、涙が出るほど気持ちよくって、あれより気持ちよかったのは、くすくす、兄様と一つになった時だけですよ?」
409裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:03:05 ID:ilFLI4vw
う・・・そだ。
体中の血が引く。
記憶が巻き戻る。

あの時に夜澄は確かに居なかった。
ならば、泣き崩れる俺を置いて夜澄は一人で、その涙を思い出しながら、随喜の涙を流して、
そして、ついさっきまで俺の腕を握っていたあの小さな手で、
「自・・・慰をしてのか? そんな事どうでもよくって。 
 お前にとっては親父もお袋もそんな事なのかよ・・・。
 そんな事より、性欲の方が大事なのかよ・・・?」
「くすくす、そうですね? 少なくともお母様たちよりは、くすくす。」
「最低だよ・・・。お前は、最っ低の変態だよ!!」
今の絶望を俺はこんな風にしか表せない、その無能すら憎い。
「ふふ、兄様の大切な夜澄は本当に最低ですね? くすくす。」
気持ちよさそうに夜澄が言う。
そこには、昨日までのふっと消えそうだった儚い面影などはない。
そこに居る夜澄が誰なのか分からなくなってくる。
「お前は何なんだよ!? 何だったんだよ!?
 いつも俺の傍に居て、家族思いで、独りで、寂しくて、黙ってやさしい笑顔を向けてくれた夜澄は何だったんだよ!?」
「ええ、演技ですよ、それは。くすくす、夜澄はお利口さんですから。
 夜な夜な兄と交わる気持ち悪い妹なんて、兄様望まれない事ぐらい分かりますよ。
 お淑やかで、家族思いの妹の方が兄様はお好みですよね?
 よーく知ってましたよ。そして、必死にそれを演じきりましたよ、くすくす。
 でも、もう隠す必要も無いですから。これが本当の兄様の大事な妹の、夜澄です。
 気持ち悪いですか? くすくす。」
知られないように今までがんばりましたよと小さく胸を張り、くすくすと笑う。
「昨日の夜、俺を信じると言ってくれたのもみんな演技なのか!?」
「ええ、でも、信じていたのは本当です。
 兄様のする事はみーんな夜澄の為になるって。
 ちゃんと信じたとおりになりましたね、くすくす。」
その楽しそうな笑い方が煩い、耳に付く、くすくす、くすくすと。
何の罪悪感も無くこの状況で笑えるというのが理解できない。
「何が楽しいんだよ?」
「あら、何で楽しくないんですか? 
 夜澄は病気ではありませんでした、邪魔なモノは全てなくなりました、
 そして兄様は夜澄のモノで、二人はずうっと一緒になりました。
 ほら、ハッピーエンドじゃないですか?」
「ふざけるな!!」
410裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:03:31 ID:ilFLI4vw
俺は激昂した。
「俺が夢を捨てて、親友を裏切って、体まで売って、
 そこまでして求めたのはこんなお前との共同生活なんかじゃない!!!
 おれの夜澄は、お前なんかじゃない!! お前は家族でも、まして恋人でもない!!
 お前はただn「うるさいですね?」」ぱんっ、という音が響く。
異常者だ、と言い切る前に夜澄に平手で殴られた。
「夜澄のモノがそういうお口をきいてはダメですよ。
 夜澄を拒絶するのも不愉快にさせるのも禁止ですからね?」
そう言って夜澄はさっきまでの笑顔をそのまま凍らせたような表情で俺を見下ろす。
まるで本物の人形のようだと思った。
そしてふっと表情を緩めると、俺の口を塞ぐように口付けをした。
手馴れた動作で口に舌を捻じ込み、絡めて、くちゅくちゅと音を立てる。
5分はそれを続けただろうか? 
夜澄はやっと満足したようで、ゆっくりと口を離した。
「んんっ、はぁ、はぁ・・・・・・。
 ふふ、あんまり夜澄を困らせないでくださいね。
 あんまり意地悪な事を言われちゃうと夜澄は傷ついちゃいますよ?」
「何がモノだよ、俺は俺だ、なんでも思い通りに出来るとおもうな!!」
「くすくす、今日の兄様はとっても意地悪さんですよ?
 このままでは兄様を夜澄の思い通りにはできませんね。
 でも、ついちょっとだけ意地悪し返したくなっちゃうかもしれませんよ?
 兄様は痛いのが好きですか? くすくす、恥ずかしい事は? 熱い事や苦しい事は?
 ふふ、どんな意地悪をしようか迷っちゃいますね? 」 
夜澄は上機嫌で俺の顔に手を当てて愛しげに撫でる。
それは愛しい人に笑顔で投げかけるような言葉では無いのに。
気に入らない事をすれば拷問まがいの行為で矯正すると脅迫しているのに。
なのに、その表情は子供みたいに楽しそうだ、まるで何をして遊ぼうか迷っているかの様に。
411裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:04:04 ID:ilFLI4vw
「なあ、夜澄は俺のことを愛してるんだよな・・・・・・?」
「ええ、何よりも。」
「だったら、」
「でしたら?」
夜澄は不思議そうに小首を傾げる。
「だったら、どうしてこんな事出来るんだよ!?」
「こんな事、あら、どんな事ですか?」
「俺から何もかも奪って、俺の思いを裏切った事に決まっているだろ!?」
「ふふ、簡単じゃないですか、愛しているからですよ。
 くすくす、決まっているじゃないですか?」
夜澄は俺の質問がさも馬鹿らしいというように、笑う。
「愛しいから、自分のものに、独占したい、閉じ込めたい、どんな手段でも・・・・・・・、くすくす。
 それこそが正しい愛なんですから。好きな人の幸せを想うなんていうのは歪んだ、唯の自己愛ですよ?」
「ふざけるなよ、自分がしている事が分かっているのか? 
 こんなのはただの強姦だ!! 相手を犯す愛なんてあってたまるかよ!!」
「ふふ、そういう様に言うのは、自分が可愛いからですね。
 相手を傷つけたくない、なんてただの卑怯者ですよ? そんなの。」
あの気持ち悪い女みたいに、と夜澄が吐き捨てるように言い放つ。 
「そういう綺麗事を言う人は嫌われて傷つく事を恐れる臆病者で、
 くすくす、人形から非難をされるのが怖い卑怯者です。
 後はきっと、恋人を壊して愛せなくなるのを恐れる愚か者ですね、くすくす。」
「そんな筈があるか!! 本当に愛しているなら!!」
そこで言葉は夜澄に遮られた。
「本当に愛しているならば? それならば、どんな中傷でも甘んじて受けるべきですよ。
 犯して、壊して、禁忌も倫理も正義も、全てを捨てて手に入れるべきでしょう?
 そして、どんなに壊れた恋人でも、くすくす、ほら、笑顔で心から愛せるじゃないですか?」
夜澄は心からの笑顔で語りかける、凛とした声音には一点の濁りも無い。
きっとそれは妹の夜澄ではなく、本当の夜澄の笑顔なんだと思う。
412裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:04:35 ID:ilFLI4vw
本当の夜澄の笑顔は真夏の星空の様に明るくて、とても綺麗だった。
だから、俺はやっと、俺の夜澄への思いは始まりから裏切られていたんだと認め切る事ができた。
夜澄を唯一の家族として愛していた、そして家族でいる為に何度も悩んだ。
でも、夜澄はその思いを理解してくれなかった、その代わりに利用して、そして愉しんだ。
今までも、これからも俺を夜澄だけのモノにし続ける為に。
ああでも、もう夜澄を責めるもの筋違いに思えてくるよ。
だって、ただ俺と夜澄の『幸せ』に不運な齟齬があっただけなのだから。
そして、二人同じ時間を過ごして、その中で別々のハッピーエンドを求め続けていただけだったんだからな。
結局、俺は何年も1人で空回りし続けていただけだった、ただそれだけの事だ。
「兄様ならば、分かることができますよ? だって、夜澄のモノなんですから。」
もう力の入らない体から空気が漏れるように答える。
「俺には、分からないよ。もう、無理だよ、ごめんな、俺はもうお前を愛せな・・・・・・ウグッ」
「意見の相違ですね? でも夜澄はそんな答え求めてませんよ?」
今度は踵が腹にめり込む。
夜澄は立ち上っていた、俺の腹を力いっぱい踏み躙りながら言葉を続ける。
「さっき言いましたよね、夜澄を否定するなって? くすくす。
 まあ、それを思い通りにするのも、愛なのですね?
 それでも思い通りにならなければ誰にも盗られないように壊せばいい、くすくす。
 夜澄はどんな宗一兄様でも愛せますよ? くすくす。」
だから、頑張って夜澄を愛してくださいね、とまた笑い出す。
「でも安心してくださいね、いきなりそんなもったいない事なんてしませんから。
 何を考えれば夜澄の想いに添えるか、何をすれば夜澄の愛に応えられるか。
 一つ一つ、ぜーんぶ教えてあげますからね。何度でも、何度でも出来るまで永遠に・・・・・・、くすくす。
 だから、素直に従ってくださればちゃあんと夜澄を満足させられますからね。」
「そん・・・なの・・・壊れるのと・・・・・・何が……違うん・・・だ?」
夜澄がまた踏みつける。
「さっき言ったじゃないですか? 愛しています、って。
 夜澄の言葉を忘れちゃだめじゃないですか。」
痛みと苦しさで朦朧としながら壁に掛かったカレンダーを見る。
売買された人間には一ヵ月後に形だけではあるが様子見が来る、最も今更開放された所で・・・、
413裏切られた人の話4:2010/07/11(日) 22:05:14 ID:ilFLI4vw
「あら、日付が気になりますか? 
 くすくす、大丈夫ですよ、すぐに夜澄と愛し合う以外考えられなくなりますから。」
足をどけた夜澄は俺に跨り、触れ合うぐらいに顔を近づける。
「夜澄は今まで兄様だけを愛して、これからも兄様だけを愛し続けます。
永遠に、ずうっと、ずうっと、ずーーーうっと兄様は夜澄だけのモノですよ?
 絶対に手放したりなんてしませんからね、くすくすくすくす・・・・・・。」
見開いた夜澄の目が俺を見つめる。
欲望や嫉妬、狂愛でどろりと濁った瞳、なんてありふれた物は無かった。

夜澄の瞳はどこまでも、冬の夜空のように澄み切っていた、そして、そこにはうっすらと俺が写っている。
瞳に写る俺は涙を流していた、でも俺には何を悲しめばいいのかもう分からない。
これからは何に涙すればいいのかも夜澄は教えてくれるのだろうか?
なにも分からない。どうして・・・・・・、

どうしてだ、今まで俺は何の為に?
―くすくす、夜澄のモノになる為ですよ。

お前は、これで、こんな事で本当に幸せなのか?
―ええ、これ以上の幸せなんて考えられないほどに、夜澄は幸せです。
 そして、兄様もすぐ幸せになれますよ、くすくす。

俺の幸せは一体何なのかな?
―くす、『夜澄の幸せ』、ですよ、兄様?

それが、自分の意思で紡ぐ事を夜澄に許された最後の言葉だった。
414代理投下 ◆j3gvf0a2hI :2010/07/11(日) 22:05:56 ID:ilFLI4vw
104 : 裏切られた人の話4 2010/07/09(金) 22:59:33 ID:Tcfkb/8E

以上で投下は終了です。
これで本編?といえる部分は終了しましたが、
奴隷法等についての補足やエリスのその後というような後日譚を作りました。
今回で終了といった手前で申し訳ありませんが、規制解除後に本スレへ投下させていただきたいと思います。
本日は失礼させていただきます。
415名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:23:28 ID:YPox+Jss
ああ、素晴らしい壊れっぷりにスッキリした
見事なキモウトだ

GJを捧ぐ
416名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 22:37:42 ID:GHueLzyb
最高のキモウトだなwwww
GJです!!
お疲れさまでした
417名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 00:22:32 ID:H7D4adPW
これはキモウトを超えたもっとおぞましいなにかだ
418名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 02:28:39 ID:gFsXh+oZ
ぶっ壊れ過ぎワロタ
419名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 02:36:40 ID:3hoyrDyn
目が覚める思いだよ
今まで俺が見てきたのはキモウトじゃなかったんだな…
420名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 17:23:55 ID:gRGqXODO
>>414
GJ!!
エリスが体売らないことを願うだけだな
421名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 17:57:44 ID:N0N7iDds
是非エリスの反転攻勢の狼煙を・・・
422名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 19:16:55 ID:3hoyrDyn
>>421
それはいらない
423421:2010/07/12(月) 19:31:26 ID:N0N7iDds
何となーく後日談ってそんな感じのが多いかなと思っただけですよ。
少なくてもこのスレで表現される女性ってすんなり諦めたりするようなタマじゃあ無いでしょう。
424名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 19:51:23 ID:8YHLTkev
>>422
俺は欲しい
425Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:08:40 ID:fkC8pKl3
Identicalを書いているのもです。
第2話の一人称で誤りがあり、申し訳ありませんでした。
誤字脱字等は何度も確認しているつもりだったんですが……
この第3話も、もし何かあればよろしくお願いします。
投下します。
426Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:09:55 ID:fkC8pKl3
「兄ちゃんになんてことするんだよー!」
三華は俺をガッチリと抱きしめたまま、目に炎を宿していた。
荒くなっている鼻息が頭に吹きつける。
「……え?あなたは……?」
可哀そうに。伴子さんはたった今、何が起こったのか分からないといった表情をしている。
かく言う俺も何が起こったのか分からなかったが。
「アタシは兄ちゃんの妹だ!お前こそ誰だよ!」
「わ、私は田中伴子という者であって……その……」
伴子さんが押されている。まぁあの姉さんや二奈を打ち負かした三華だ。伊達じゃない。
「お、おい優二、誰だよその人?今お前の事、兄ちゃんって……」
「あ、ああ。こいつの名前は三華といって、俺の妹だ」
「「「「「えーっ!」」」」」
二種類の反応が返って来た。
拓朗からは「まだ妹がいたのか!?」、その他の人たちは「この人が噂の妹!?」。
「そんなことより、お前!さっき兄ちゃんと何してたんだよ!」
くそっ!せっかく話題がそれたかな?と思ったのに、三華め、ちゃっかりと軌道を修正してきやがるな。
「な、何って……」
「キスしてただろ!?」
「「!」」
な、何を言うんだ、キスなんかしてないだろ!?確かにあの場面を見た人は十中十そう思うだろうけど!
「き、キスなんかしてねぇよ!」
「兄ちゃんも嘘つくなよ!アタシはこの目でちゃんと見たんだよ!兄ちゃんとアイツがキスしているところを!」
俺を締め付ける力がさらに増す。
このままでは埒が明かない。それに……このままだと本当に伴子さんにシスコンのレッテルが貼られてしまう。
「ってか、その前にどうしてお前がここにいるんだよ!?」
そうだ!汚名を返上する云々よりも、まずはどうして三華がここにいるんだ!?
「姉ちゃんが言ったんだ!兄ちゃんが女の人のいるところに遊びに行ったって!」
「どっちだ!?どっちの姉ちゃんだ!?」
「一葉姉ちゃんの方!」
ふふふざけんなよ!よりにも寄って一番ややこしい三華を送りつけやがって!
「……三華、兄ちゃんの言う事……よ〜く聞けよ?」
「え?う、うん」
「お前は姉さんに騙されたんだ。この女の人達はお友達だ。決してお前の想像しているような関係じゃない」
「で、でもさっき!」
「あれはただ鼻の頭を当てていただけだ。キスじゃない。それをキスと勘違いしてしまったのは……姉さんによる心理トリックだ」
「心理……トリック……?」
「そう。姉さんの使った『女の人、遊び』という組み合わせてはいけない禁断ワードによって、お前は錯覚してしまったんだ」
「……」
「そうだろ?だってただ友達と鼻を当てて遊んでいただけなのに、お前はそれをキスと勘違いしてしまった。……違うか?」
「違わない……兄ちゃんの言うとおりだ……」
「だろ?だったらお友達に謝りなさい。お前の勘違いで傷ついたかもしれないからな」
「うん。分かったよ」
どうだ!自分でも何を言ってるのか分からなかったが、百戦錬磨の三華を言いくるめてやったぞ!フハハハハハハハハハハハハ!
俺はこの瞬間でなら、世界で一番最低な男になったかもしれない。
427Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:10:52 ID:fkC8pKl3
「勘違いしてごめんなさい」
三華が土下座して伴子さんに謝った。
二奈に似たのか律儀すぎるその態度に、なぜか俺の良心が無性に痛みだした。
「ごめんなさい」
だから俺も土下座して謝った。とりあえず三華の方を向いて。
「……なんかよく分からんが、君、三華ちゃんっていうの?」
「ハ、ハイ!」
「へ〜、やっぱ二奈ちゃんの妹だけあってかわいいね」
拓朗は最初から三華がコンパに参加していたみたいなノリで、気さくに話しかけた。
そういえば三華が俺以外の若い男性と話しているのを初めて見たかもしれない。何となく拓朗がムカつく。
「ほら、もう誤解は解けたんだから帰りなさい」
一刻も早く三華を拓朗から引き剥がさないといけない。そんな衝動に駆られる。
「なんで?いいじゃない。私三華ちゃん気に入った〜!」
「俺も俺も!」
「大きいね〜。何cm?」
「か、かわいいな……」
さっきとは別の思いで三華を帰らせたくなった。
もう伴子ちゃんも俺を見てくれない。
そんな俺は席を立った。向かう先は一つ。
「はじめまして。山川優二です。そっちは?」
「俺は鈴木祐司です。よろしく」
「よろしく。ゆうじって一緒だね」
「そうだね」
俺は一体、何のためにここに来たのだろうか……?
「でもさっきの三華ちゃん、まるで彼氏を盗られそうになった彼女みたいだったね。そんなにお兄さんが好きなの?」
「好きだよ!」
俺達と違ってあっちは会話が弾んでいた。
それにしても三華の奴、嬉しい事言ってくれるじゃないか。おかげでシスコン疑惑が高まったけど、帰ったら目一杯かわいがってやろう。
「どんなところが好きなの?」
「う〜ん、テニスがうまいところ?」
なんだそれ。もしテニスが下手だったら俺の事は嫌いだったのか?
「三華ちゃんってかわいいだけでなくおもしろいね〜!こんな妹がいるなら優二君がシスコンになるのも分かるよ」
それにしてもおかしいな。何で俺だけがシスコンって言われて、三華の方は何も言われないんだ?どう見てもあっちをブラコンって呼ぶ方
が正しいだろ。
しかし弾んでいた会話もここまで。
それからは地獄が始まった。
「あ!そうだ兄ちゃん。一葉姉ちゃんが電話してって言ってたよ」
「………………………」
俺は友達の看病に行くと嘘をついてここに来た。
だが姉さんは俺の考えを見事に読み解き、三華をここに派遣した。
それだけじゃない。三華がピンポイントでこの居酒屋に来た事を考えると、二奈の方もグルになっている可能性が高い。
結果=姉さんと二奈にコンパに行ったことがばれている。
それなのに電話をして平気なのか?俺に彼女ができることを祈ってると言うと思うか?
答えは否。
姉さんはふしだらだと言って静かに怒る。二奈の方は……考えたくもない。
「どうしたの、兄ちゃん?電話しないの?」
無理だ。俺にはそんな度胸はない。
とりあえず[ごめんなさい]と書いたメールを送った。
428Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:11:33 ID:fkC8pKl3
返事は数秒で返って来た。見るのも躊躇われる。
「三華、このメールを俺の代わりに読んでみてくれないか?」
もしかしたら三華のかわいい声で内容を聞けば、少しは気分が軽くなるかもしれない。
「?……え〜っと……[今すぐ一番隅にある部屋に来なさい]だって」
残念な結果だった。三華の声をもってしても、俺の気分はこれっぽっちも晴れなかった。
「誰からのメールだ?」
「その前にまず……三華、先にその場所に向かってくれ」
「うん?分かった」
とりあえず三華をこの部屋から追い出す。
これから俺が行う行動を考えると、なにかと面倒になりそうだから。
「ごめん、みんな。俺、ちょっと行かないと……それと伴子さん、アドレス教えるから後でメール頂戴って言ったら迷惑かな?」
俺が今伴子さんのアドレスを入手するのは大変危険だ。証拠が残る。
「え?構いませんけど……その隅の部屋で誰かお待ちになっているんですか?」
「姉さんともう1人の妹だよ。俺、実は三姉妹がいるんだ。それでこれから家族会議を行うんだって」
「は〜?何で今から家族会議なんか行うんだよ?」
「……察してくれないか?」
俺の言葉に全員がある考えにいきついた顔をした。
「そ、そんな……!?」
「も、もしかして……お前んとこの家族の誰かが急に……」
「そうだな。山川家の一人が……もうすぐ旅立たれるかもしれないんだよ……」
ごめん。俺のせいでしんみりさせて本当にごめん。
「それじゃあもう行くよ。伴子さんのメール……待ってるから……」
その言葉を最後に、俺は旅立った。



この襖の奥にはきっと三人の女性がいることだろう。
一人はかわいいかわいい妹の三華。後は考えたくない。
……やっぱり入るのやめよっかな?
俺が部屋の前で躊躇していると店員さんがやって来た。
「あの、すいません!それはもしかしてこの部屋に持っていく飲み物ですか?」
「はい、そうですけど?」
定員の持っているお盆の上には4つの飲み物が置いてあった。
きっと俺の分も注文してくれたのだろう。
「……ちなみにこの黒と緑色のハーフっぽい色の飲み物は何ですかね?」
「これはこの部屋のお客様の御一人が、青汁とコーラを混ぜた飲み物じゃないと飲みたくないとおっしゃったもので」
俺の家族でこんな飲み物を注文する変食、いや狂飲家はいない。
きっとこの飲み物の行きつく先は俺の口だろう。
「…………ちなみに注文を受けたとき、この部屋の雰囲気はどんな感じでしたか?」
「?そうですね、何やら殺伐とした印象を受けましたが」
そうですか。殺伐としてましたか。
「ありがとうございます。それでは一緒に入りましょうか」
素直でいい子なバイトを巻き添いにして、俺は部屋へと入って行った。
429Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:12:43 ID:fkC8pKl3
飲み物を置いて出て行った定員さんを見送った後、俺はものすごい圧力を感じて地面にひれ伏した。
「何をやっているの?あなたは友達の看病をおこなっていたんでしょ?いい事をしてきたのだから、もっと毅然としなさい」
姉さんの目がマジだ。話している内容もそうだが、何よりその目が恐い。
三華、お前はこれを見習うんじゃねーぞ。
「……何も話さないつもり?まぁいいわ」
姉さんが徐に携帯を取り出す。
「これを見ると、さすがの優二も何か話してくれるわよね」
そのまま俺に画面を近付けてくる。
ディスプレイに写っているのは男女のキスシーン。片方は俺で、もう片方は伴子さんだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!何これ!?いつの間に撮ったの!?」
「そうね〜、三華ちゃんが部屋に乱入する数秒ほど前かしら?」
まさかあの瞬間を三華以外に見られていたなんて予想外だった。
「こ、これは誤解なんだ!俺はキスなんてしていない!それはただ鼻の頭を合わせていただけで!」
「そんな言い訳が本気で通用すると思っているの?もしかして姉さんをバカにしてるの?」
「ち、違う!嘘じゃない!信じてくれよ!」
そのとき、今までずっと下を向いていた二奈がぽつりと呟いた。
「…………くなんて…………」
「え?ごめん、聞こえなかった―――」
「嘘つくなんて最低っ!!キスしたんならしたって言えばいいじゃない!!」
二奈は驚くほど感情を表に出していた。
激怒とは何か違う。何かこう、締め付ける思いを吐露しているような、そんな感じがする。
「なっ!?嘘じゃねえって言ってるだろ!頼むから信じてくれよ!」
「こんな写真を見て何を信じろっていうのよ!!」
確かにこの写真では俺たちがキスしているように見える。でもそれは真実ではない。だから俺はそう言った。
なのに二奈は信じてくれない。あの二奈が信じてくれない。
そのことに無性に腹が立った。
「いい加減にしろよ!大体、キスしたとしてもお前には関係ないだろ!」
「ほら、やっぱりしてるんじゃない!!この嘘つき!!」
「……っ!何でお前にそこまで言われなきゃいけねーんだよ!」
「嘘つくからでしょ!?それに初めて会った人とキスするなんて最低!ケダモノ!」
もしここで俺が冷静になっていたらこの場は収まったかもしれない。
でも一度点火した火は簡単には消えなかった。
「お前、マジでウゼーんだよ!!」
「う、うざっ!?」
「いっつも自分の理想を俺に押しつけやがって!確かに俺たちは双子かもしれないけど、俺はお前じゃないんだぞ!構うんじゃねーよ!」
「何よ……何よ何よ何よ!ウチの気も知らないでっっ!!」
そのまま二奈は部屋を飛び出して行ってしまった。
すれ違った瞬間、涙をこぼして。
430Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:14:17 ID:fkC8pKl3
「勝手にしろよ!」
置いてあったグレープフルーツジュースを手に取り、一気に流し込む。
その場にいなくたって分かる。これはアイツが注文したものだ。
最近これにハマったとかで、俺んちの冷蔵庫に常備されている。俺が勝手に飲んだらヒステリックに怒ってきやがる。
「……あ、あの優二……その……」
さっきまでの威勢は何処へやら、姉さんが気まずそうに声をかけてきた。
きっとこうなる事は予想していなかったのだろう。
「に、兄ちゃん……」
三華の方もまた、おそるおそると言った感じだ。
でも俺に返事を返す余裕がなかった。
それほどさっきの出来事がショックだったのだ。
二奈と俺は双子。全ての双子がそうだとは思わないが、それでも俺たちは兄弟とはまた違う、それ以上に近い存在だと思っていた。
二奈の考えてる事が手に取るように分かる。対する二奈も俺の事を何でも理解してくれている。
そう思っていたのに……信じてもらえなかった。嘘つきと言われた。
……ガリッ……
グラスの中の氷をかじる。その冷気が頭の熱を冷ましていく。

『ウチの気も知らないでっっ!!』

あれは何を言わんとしていたんだろうか?二奈の気とは何なのだろうか?
冷静になって考えると、俺の方が二奈を分かっていなかった。
あの言い方から察するに、相当な思いをため込んでいたのだろう。
だけど俺は気付きもしなかった。気付こうともしなかった。
その結果がこれだ。
「……ごめん、二人とも……二奈を追いかけてきていいか?」
「……私も行くわ。心配なのはあなた一人じゃないのよ」
「アタシも!」
「そうだな。みんなでい―――」
こうと言おうとした時、

……ドクンッ!……

急に心臓が躍動した。
半端じゃない。それにものすごい寒気がする。
「……やっぱり姉さんと三華はここにいて!お願い!」
無意識のうちに言葉がでた。
無意識のうちに部屋を飛び出した。
そして気がついたときには居酒屋を飛び出して走っていた。
俺の走っている方向は二奈の部屋と同じ方向。
なぜか一刻も早く二奈の顔が見たくなった。
携帯を取り出し、二奈に電話をかける。が、一向に出る気配はない。
「くそっ!」
電話を諦めて、走る方に専念する。
二奈の家は大通りを通って行けば2〜30分で着く。もしかしたら走っている最中に出くわすかもしれない。
なのに異様な動悸は収まらない。
そしてある場所まで来たときに、それは一層高まった。
左を見ると廃ビルが立ち並んでいる細い裏路地が目に入る。
ここは昼間ですら入るのを躊躇う程の道だ。夜ならば暗さも加わり尚更顕著になる。
そして何より、この道での噂を先輩や友達からいろいろ聞かされている。
そんな場所から、とてつもなく嫌な予感がする。
それに……この道は三華の住んでいるアパートの近道になるのだ。
「いや……でも、まさかな……」
言葉とは裏腹に、俺は左に折れた。
431Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:16:01 ID:fkC8pKl3
暗い路地裏を駆け抜ける。
誰一人歩いていない。それどころか誰一人として付近にすらいないように感じられる。
もしこんな場所で女の子が襲われれば、最悪の結果になるのは避けられない。
「二奈に限ってそんな事、あるわけないだろ……大体、あいつが夜のこの道を通るわけ……」
それでも嫌な予感は収まらない。
こんな時こその携帯なのに、何度かけても二奈は出ない。
嫌な予感が加速していく。
……大丈夫……もう少しで二奈の部屋に着く……
そう自分に言い聞かせながら少し進むと、かすかにだが人の声が聞こえてきた。
こんな時間、しかもこんなところで誰か話しているようだ。
その声は俺が近づくのに比例して、しだいに大きくなっていく。
そしてようやく人の影が見えてきたとき、会話の内容を聞き取ることができた。
「どうする?犯っちまうか?」
「ここまで来てやめれるわけねぇだろ」
やる?一体何をするっていうんだ?
男たちは何かに夢中になっているのか、俺にまったく気付いていない。
さらに近付く。
そこでようやく相手の顔が見えた。
若い男2人に女の子が1人。
男の方はまるで見覚えがないが、その面相はいかにも醜悪そうだった。
対する女の子の方は見覚えがあった。毎日のように見ている顔。俺とそっくりな顔。
「ん゛っ〜!!」
「へへへ……コイツ、マジでかわいいな〜」
「こんな時間にここを通るなんて、もしかして期待してた?」
女の子の方は1人の男の手によって口を塞がれていた。
「ん゛ん゛っー!!」
もう1人の方の男の手が女の子の胸に触れる。
「お〜!柔らけ〜!」
興奮する男。
「んんん〜!!」
涙を流しながらも抵抗する女の子。
俺にはこれらが何なのかまるで分からなかった。
ただ一つ、俺が分かったことと言えば、
「へへ―――ぶごっ!?」
「ん?―――ふげぇ!」
「!」
男2人組が何かに衝突でもしたのか、大きく吹き飛ばされたこと。
そして、俺の右手に若干の痛みが走ったことだった。
432Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:17:43 ID:fkC8pKl3
「ゆ、優二っっ!?」
二奈が俺に声をかける。その声は恐怖を感じていたせいか、僅かに震えていた。
「そうだけど?ところで……こんなところで何してんだよ?」
「……え?な、何って……」
「お前、この町に越してきてもう2年経つよな?ならこの時間のこの路地裏を通ることがどんだけ危ないか知ってるよな?」
居酒屋のとき以上の怒りを二奈に感じる。
「拓朗やサークルのみんなもその事を教えてくれたのに……どうしてこんなとこにいるんだよっ!!」
我慢できなかった。
いつもは人にああだこうだと言うくせに、なぜこいつは人の言う事を聞かない!?なぜいっつも俺に心配をかけさせる!?
「ご、ごめんなさ―――っ!優二、後ろ!」
「っがぁ!?」
二奈に気を取られていた俺は油断していた。
ものすごい衝撃が脇腹にきて、そのまま1mほど吹き飛ばされる。
「てめぇ、よくもやりやがったな!」
男たちは俺を歯がいじめにしようと向かってきた。
でも俺だってこいつらに用がある。
すぐさま態勢を立て直し、相手にカウンターを決める。
「俺は二奈に対しても腹が立ってるけど、お前らに一番立ってるんだよ!!」
そのまま2発、3発と立て続けに攻撃する。
自慢じゃないが一応あの三華の兄ちゃんなのだ。運動神経には自信がある。
「調子こくなよ、このガキっ!」
「ぐふっ!」
でも所詮は素人。しかも1対2では分が悪すぎた。
「「ぶっ殺してやるっ!」」
「お、お願い!もうやめて!」
倒れている俺に対して容赦のない拳や蹴りが入ってくる。
でも思ったほどの痛みは感じなかった。それよりも感じたのはこいつらをぶん殴りたいと言う衝動。
「っで!!」
一人の足を思いっきり引っ張って、地面に叩きつける。
しかしこれが最後の反撃となってしまった。
「―――お願いだから、もうやめてよ!それ以上やったら優二が死んじゃうよぉ!!」
その後は相手に一撃も与える事は出来なかった。
こんな奴らに好きな様にされている自分。二奈を助けるつもりだったのに、逆に心配されている自分。
そんな自分に対して今日一番の怒りを感じた。
そして、俺は痛みよりも悔しさの方が大きい敗北を喫した。
433Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:18:52 ID:fkC8pKl3
「だ、大丈夫……ヒック……優二……?」
大丈夫なもんか。あまりの悔しさであいつらを今すぐにでも追いかけていきたい気分だ。
男たちは俺を散々殴りつけた後、気分が削がれたのか、そのままどこかに行ってしまった。
「……ごめんなさい……ヒック……ごめんなさい……ヒッグ……」
二奈は顔や体中あざだらけの俺を見て、さっきからずっと泣き続けてる。
「ウチのせいで……ヒッグ……本当に……ごめんなさい……」
でもまぁ良かった。最低限の事は出来て本当に良かった。
「……分かったから……もう大丈夫だから……だからもう泣くなよ」
痛む手で二奈の頭をなでる。
こうして見ると、あらためて二奈が妹だと実感してしまう。
いつもは強気な発言ばかり言ったり、こっちがビビってしまう程怒ったりするが、こんなに泣きじゃくりながら弱りきっている姿を見ると
そう感じてしまった。
「とりあえず、お前んとこに連れてってくれないか?もう体中が痛くて」


アパートに着いた頃には二奈の方も幾分か落ち着きを取り戻していた。
それで安心したのか、二奈の部屋に入ると同時にものすごい疲労感に襲われた。
「ごめん、ベッド使わせて……」
確認も取らずにベッドに倒れこむ。
ものすごく眠い。
「ま、待って!せめて傷の手当てをしてからにしてよ!」
そんな俺の意見を二奈は却下した。
それから二奈は何処からか消毒液とガーゼを取り出して、傷の手当てを始めた。
「ちょっとだけ我慢して」
顔中に消毒液をかけらる。さっきアイツらに殴られた時よりもはるかに痛い。
「もう少しで終わるから……」
次に顔一面にガーゼがかけられそうになった。
「いや、絆創膏でいいから。ってかお願いだから絆創膏にして」
「でも……」と二奈は渋ったが、そこは俺のごり押しで何とか大惨事にならなくてすんだ。
「じっとしててね」
二奈はそう言うと、俺の顔に絆創膏を貼り始めた。
二奈の顔が間近に迫る。
今思うとこんなに二奈の顔を近くで見たのは久しぶりだ。
一緒に寝るときだっていつも反対の方を向いて寝るし、朝に限っては必ず俺より先に起きていた。
二奈の目は大きい。それにくりっと丸みを帯びている。
よく見ると俺とは違う。
気付かなかったけど、俺とはあまり似ていない。
俺とは違って……本当に美人だ。
「はい、終わった!次はお腹を出して」
「え〜、もういいよ。顔だけで十分だから」
「えぇ!で、でもまだ―――」
「頼むからもう寝かせて」
そのまま横になる。あっという間に眠りに就きそうだ。
「あ!待ってよ!ちゃんと手当てしないと!」
二奈の声が遠く聞こえる。
「おやすみ〜」
それを最後に俺は眠った。
だからその後で二奈がなんと言ったのか分からなかった。
「もう!……でも優二は凄いね……いっつもウチが困ってるときに助けに来てくれて……本当に……ありがとね……そして―――」


「大好きだよ、お兄ちゃん」
434Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/12(月) 20:24:02 ID:fkC8pKl3
以上投下終了です。
一応、この3話目まではできていたので一気に投下しました。
読んでくださった方、ありがとうございました。

435名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 20:33:13 ID:gRGqXODO
乙であります
436名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 20:38:25 ID:uEdVzi3T
>>434
GJ
437名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 00:32:52 ID:Nt9ITzol
妹が急に部屋から出てこなくなった
438名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 00:46:02 ID:c0Ad1r/F
愛の巣を作っている最中かな?
439名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 01:51:55 ID:YuL/51d7
妹自身は出てこなくても、声はもれてくるんじゃない?
440名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 13:43:30 ID:Ag6ip2m7
アッーーーーーーーーーーーーー
441名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 19:57:27 ID:jXA7r7wM
ギシッ・・・ギシッ・・
妹「あっ・・いいよぅ・・・お兄ちゃんきもちいよぅ・・・」

ギシッ・・・ギシッ・・

ベットの軋む音。僕の骨が軋む音。


妹は日本一の女性力士を目指している。

僕の骨が折れないのが不思議だ。



毎晩の性交を断ろうものなら張り手されかねない。

張り手を貰ったら立っていられない。

そしたら無理やり妹が性交をするだろう。

僕はレイプはされたくはないんだ。


だけど、騎乗位が好きな妹のお陰で僕はいつか腹上死するかもしれない。

いや、腹下死という言葉が適切かもしれない。


頼むから正常位で我慢してくれ・・・。
442名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 20:10:09 ID:jXA7r7wM
思いつきで書いてみたが後悔はしていない。

一生ロムるわ。
443名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 20:27:16 ID:jIH2Oiat
さては妹さんは、先輩あたりから「力士は原則騎乗位」と中途半端な知識を植え付けられたな。

……間違ってはいないんだ。男性の力士の場合は…
444名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:22:49 ID:rzDcNo/e
姉妹から迫られた時は、古典的な台詞だけど「こっちにだって選ぶ権利があるんだよ」と言えばOK。相手の勢いも折れるはず。
445名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:24:00 ID:xV0ENfmi
>>444
そう思っていた時期が私にもありました
446名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:27:02 ID:MZT7psY3
そこで折れるかどうかが、単なるブラコンとキモ姉妹の分水嶺…
447名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 01:34:48 ID:BwJUkHls
>>444
選ぶ余地などないくらいキモ姉妹以外の女性を遠ざけられてしまう…

「どうしてそんなイジワル言うのかな?しょうがないおとうとくん/おにいちゃん…クスクスクスクスクスクスクスクスクスクス」
448名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 07:33:04 ID:yiOu5XIV
二次元にしか興味ないんだ…でいけるはず
449名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 09:11:39 ID:nybxmA1p
「本当に興味ないの?」
「おかしいなー?見ただけでこんな風になるのに?」
「そこまで言うなら確かめてあげる!」
450名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 10:38:44 ID:wNPQ0pex
「知らなかったのか?キモ姉/キモウトからは逃げられない」
451名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 12:26:13 ID:xrARweAb
縛るの好きって言って目隠しした後、放置プレイ。
適当に会話しつつギャルゲーやる。
452名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 15:51:31 ID:s9j0D3xD
あれ、このヒロインどこかで見たような
453三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:50:43 ID:MH6Hn2UJ
三つの鎖 外伝1 後編です

※以下注意
エロなし
血のつながらない自称姉あり
夏美なし

投下します
454三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:51:58 ID:MH6Hn2UJ
 帰りのホームルームが終わり、私は鞄を手に教室を出た。
 今日は梓ちゃんのお誕生日だ。この後、幸一くんと一緒にお買い物してからお料理する。ちょっと豪華な晩ご飯にする予定。
 梓ちゃんのご両親はともにお仕事で帰ってこられない。だから、ご両親の分もしっかりお祝いしなくちゃ。
 人でごった返す廊下を私はゆっくりと進む。幸一くんの教室まであと少し。
 今まで幸一くんと同じクラスだった事は無い。小学校も中学校も。
 寂しくないと言えば嘘になる。幸一くんとクラスメイトだったら、毎日がもっと楽しいと思う。
 幸一くんのいる教室を覗く。幸一くんは女の子と話していた。
 どこかで見たことがある気がする女の子と幸一くんと二人で楽しそうにお話している。
 その光景に、胸が痛んだ。
 思わず胸を押さえる。
 信じられなかった。自分の胸が痛むのが。こんな感情が湧き上がるのが。
 幸一くんは私の弟みたいなものなのに。幸一くんが他の女の子と楽しそうにしていても、関係無いのに。
 それなのに、私の知らない女の子と楽しそうにお話している幸一くんを見ると、胸が痛む。嫌な気持ちになる。
 「どないしたん」
 立ち尽くす私に、男の子が声をかけた。
 見覚えのある男の子。確か田中君だったと思う。この前のお買い物でも見た。ずっと幸一くんと同じクラスの友達。私とは接点がないから、田中君の事は幸一くんからしか聞いていない。
 「村田春子やろ?幸一の幼馴染の」
 田中君は私を心配そうに見下ろした。幸一君ほどじゃないけど、身長は高い。細身だけど鍛えているのが分かる。
 「幸一に用があるん?」
 「あの女の子」
 私の視線を先を田中君は見た。
 「あれ、俺の彼女や。クラスは別やけど」
 田中君の言葉に思い出す。あの女の子、幸一くんと買い物に行った時に見かけた女の子だ。田中君と一緒にいた女の子。
 胸のもやもやが消え、代わりに理不尽な怒りがわき上がる。
 腹が立った。幸一くんのせいで、こんな気持ちになるのが。
 「幸一!幼馴染が来てるで!」
 田中君の言葉に幸一くんはこっちを見た。田中君の彼女に挨拶して私の方に来た。
 「女の子を待たせたらあかんで」
 「ごめん」
 「ま、俺の彼女の話し相手をしてくれたんは感謝するわ」
 親しげに会話する幸一くんと田中君。
 すぐそばに私がいるのに、私を見ていない。
 その事に、どうしようもないぐらい寂しさと苛立ちを感じる。
 私は幸一くんの腕を抱きしめるように組んだ。胸を押しつけるように抱きつく。
 クラスにいる人たちの視線が集中する。
 びっくりした表情で私を見下ろす幸一くん。恥ずかしがっていない。その事に腹が立つ。
 「行こ」
 私は組んだ腕で幸一くんを引っ張るように歩いた。
 廊下には生徒が大勢いる。視線が私達に集中する。
 いつもは握った手を引っ張るように歩いているから、恋人同士に見られる事はあまりない。でも、今回は違う。腕を組んで引っ張るように歩いている。何も知らない人が見れば、恋人同士にしか見えないだろう。
 教師に見つかれば、言い逃れのできないレベル。それでも私は組んだ腕を離さなかった。
 「春子。腕を離して」
 幸一くんの落ち着いた声。
 「先生に見つかったら大変だよ。離して」
 お姉ちゃんと腕を組むのは嫌なの。
 その言葉が喉元まで出て、止めた。
 自分が惨めだった。
 私は組んだ腕を解いて幸一くんを見た。
 幸一くんは心配そうに私を見つめている。
 落ち着いた大人びた眼差し。その瞳に、心臓が暴れる。
 「どうした?何かあったの」
 心配そうな幸一くん。心の底から私を心配してくれているのが分かる。
 「幸一くんが女の子と親しげにお話してるからびっくりして」
 嘘じゃないけど、本当でもない。
 「田中君の恋人って聞いたけど」
 「うん。耕平いるって聞いて来て、そのまま話してた」
 「田中君はどこにいたの」
 「お手洗い」
 そんな事を話しながら、私達は歩いた。
 お話の内容は今日の晩ご飯の事に移る。梓ちゃんの好きな食べ物で豪華な誕生日にするために必要な食材。
455三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:52:49 ID:MH6Hn2UJ
 ローストチキンとシチューにしようって決めた。シユーのお肉はもちろん鶏肉で。
 幸一くんと二人でスーパーで食材を見繕う。
 食材を吟味する幸一くんの横顔。真剣な表情に、寂しさを感じてしまう。
 寂しさを感じる理由を分かってしまった。幸一くんは私といるのに、私を見ていない。見据えているのは梓ちゃんの事。
 感情を押し殺して買い物を済ます。お料理の手順を話しながら幸一くんの家に向かう。
 私とお話してても、幸一くんが考えているのは梓ちゃんの事。お料理をしている時も、幸一くんが考えているのは、梓ちゃんがおいしいと思ってくれるかどうか。
 何で幸一くんは梓ちゃんの事ばかり考えているの。お姉ちゃんがそばにいるのに。お姉ちゃんとお話しているのに。
 胸を押しつぶされそうな寂しさ。私の様子に何か感じたのか、幸一くんは心配そうに私を見た。
 「春子。どうしたの」
 「何でもないよ」
 胸中を隠して笑顔を作る。
 知られたくない。私がこんな想いをしているなんて。
 自分でも認めがたい感情。幸一くんが私の事を見ていないのが、考えていないのが寂しいなんて。
 気がつけば幸一くんの家が見えた。私の家の門からシロがしっぽを振って出てきた。
 シロは幸一くんに近づき、嬉しそうに体を擦り付ける。
 笑いながら家の扉を開ける幸一くん。シロもその後に続く。私もシロに続いて家に入った。
 シロは階段を上って行った。梓ちゃんは二階にいるようだ。
 「どうするの?」
 「たくさん作るから、今から作るよ」
 ローストチキンにシチュー、ケーキ。確かに結構ある。
 「お姉ちゃんも手伝うよ」
 「ありがとう」
 そんな事を話しながらキッチンに向かう。幸一くんからエプロンを受け取り、食材を取り出す。
 二人で手分けして料理を進める。
 幸一くんの横顔をちらりと見る。真剣な表情で料理を進める幸一くん。
 胸が苦しくなる。切なさにも似た寂しさで胸が一杯になる。
 すぐそばにいるのに、一緒に料理しているのに、幸一くんが考えているのは私じゃなくて梓ちゃん。
 手慣れた動きで手際よく料理をする幸一くん。多少注意すべき点はあるけど、十分玄人のレベル。私が教え始めた時は、包丁の持ち方も分かってなかったのに。
 それも全て梓ちゃんのため。
 「春子?」
 訝しげに私を見る幸一くん。
 「どうしたの?」
 私は何もせずに突っ立っていた事に気が付いた。慌てて食材と包丁を手にするけど、誤って指先を軽く切ってしまった。
 私の指の先に、微かに血が流れる。
 「大丈夫?」
 幸一くんはハンカチで傷口を押さえてくれた。
 そのまま傷口を圧迫して止血してくれる幸一くん。
 私の指に触れる幸一くんの手が、熱い。
 「後は僕がやるから、春子は休んでて」
 立ち尽くす私の肩をそっと押す幸一くん。私はされるがままにリビングのソファーに座った。
 幸一くんはキッチンに戻っていく。幸一くんの後ろ姿が、小さくなって消えた。
 私はため息をついてソファーに深く座った。胸に手を当てる。自分でも嫌になるぐらい、心臓の鼓動をはっきりと感じる。
 最近の私はおかしい。切なさにも似た寂しさで、頭がおかしくなりそう。
 弟が独り立ちするのって、こんなに寂しいんだ。
 自分が必要とされなくなったような錯覚。
 ずっとそばにいた幸一くんが、手の届かない場所に行ってしまう。恐怖にも似た寂しさ。
 そんな事を考えていると、目の前のテーブルにコップが置かれた。
 私の好きなスポーツドリンク。顔を上げると、幸一くんが心配そうに私を見下ろしていた。
 「さっきからどうしたの?体調でも悪いの?」
 幸一くんが私を心配するなんて、おかしな話。少し前まで心配していたのはいつも私なのに。
 そんな事を考えていると、私の額に幸一くんの手が触れる。
 「熱は、無いかな」
 幸一くんの手。大きくて、温かい。
 頬が熱くなる。私は幸一くんの手を離した。
 「何でもないよ。ちょっとぼんやりしてただけ」
 私はコップに口をつけた。よく冷やされたスポーツドリンクがおいしい。
 「指を見せて」
 私は幸一くんに手を掲げた。幸一くんはバンドエイドを貼ってくれた。
 手に触れる幸一くんの指が、熱い。
 「後は僕に任せて」
456三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:54:07 ID:MH6Hn2UJ
 そう言って幸一くんはキッチンに戻って行った。
 その後ろ姿は、大きくて頼もしかった。
 それが寂しく感じた。

 ローストチキン、シチュー、サラダ、手作りのショートケーキ。
 どれも幸一くんが作った料理。
 どれも丁寧に作られていて、おいしそう。
 席に着いた梓ちゃんもテーブルの上の料理を凝視している。
 テーブルの下にはシロも座っている。ちょっと豪華なドッグフード付きで。
 幸一くんは私に目で合図した。せーので口を開く。
 『お誕生日おめでとう』
 「…ありがとう」
 梓ちゃんは小さな声で答えた。そのまま料理に視線を戻す。
 「食べていい?」
 幸一くんが驚いた表情で梓ちゃんを見た。
 多分、今まで食べていいなんて聞かなかったんだと思う。
 「もちろん」
 幸一くんの一言に、梓ちゃんはナイフとフォークを手に取った。
 「いただきます」
 無表情に料理を口にする梓ちゃん。
 でも、瞳は輝いている。
 「どうかな」
 心配そうに幸一くんは尋ねた。
 梓ちゃんは無言。無言で次々に料理を口にしていく。瞬く間にシチューが空になる。
 何も言わずにシチューの深皿を幸一くんに差し出す梓ちゃん。
 幸一くんも無言で受け取り、キッチンに姿を消した。シロもなぜかついて行く。すぐにシチューでたっぷりの深皿を手に戻ってくる。
 「はい」
 梓ちゃんは無言で受け取り、再び食べ始めた。
 静かな食事は進んでいく。シロも静かにドッグフードを食べている。
 デザートのケーキも、梓ちゃんは無言で食べた。一人で4つも食べた。さすが成長期。たくさん食べる。
 「ごちそうさま」
 相変わらず無表情に梓ちゃんは言った。でも、よく見ると満足そうに見える。食べ過ぎて暑いのか、手で顔をぱたぱたあおいでいる。
 幸一くんもそんな梓ちゃんをほっとしたように見ている。
 次はプレゼントだ。
 「梓ちゃん。お誕生日おめでとう。これはお姉ちゃんから」
 私は梓ちゃんに包装されたマフラーを渡した。梓ちゃんは素直に受け取った。
 「寒いから、風邪をひかないように注意してね」
 「…ありがとう」
 無表情に礼を言う梓ちゃん。喜んでくれたかわからないけれど、とりあえずお礼を言ってくれた。
 私は横目に幸一君を見た。すごく緊張している。
 幸一くん。頑張って。
 「梓。これは僕から」
 幸一君は梓ちゃんに包装された扇子を渡した。梓ちゃんは何も言わず受け取った。
 そのまま立ち尽くす兄妹。
 「梓ちゃん。開けてみたら」
 梓ちゃんは私の言葉に微かにうなずき、袋を開けた。
 落ち着いた色合いの扇子。梓ちゃんが持つと、そのために作られたかのようによく似合う。
 無言で扇子を見つめる梓ちゃん。その表情からは、何を考えているか分からない。
 幸一君も緊張して梓ちゃんの言葉を待っている。
 沈黙は唐突に破られた。
 「兄さん」
 梓ちゃんは扇子から視線を外し、幸一くんを見た。
 どこまでも深い漆黒の瞳が、強烈な意志の光を放っている。
 「なんなのこれ。馬鹿じゃないの」
 抑揚のない梓ちゃんの声。
 「冬なのに扇子?何を考えているの。私に風邪をひけって言うの」
 真っ青になる幸一くん。
 「いや、いつも手で顔をあおいでいるから」
 幸一くんの言葉は途中で終わった。
 梓ちゃんが幸一くんの頬を張る音が響いた。
457三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:55:40 ID:MH6Hn2UJ
 茫然と叩かれた頬を抑える幸一くん。
 「私のことが嫌いならそう言ったらいいじゃない」
 奇妙な光を放つ梓ちゃんの瞳を向けられた幸一くん。その姿が、微かに震えている。
 「ねえ。どうなの?私のこと、嫌いなの?」
 「違う。そんなことない」
 幸一くんの声は微かに震えていた。
 「じゃあどうなの。私のこと好きなの」
 「好きだ。大切な家族だと思ってる」
 梓ちゃんの表情が微かに変わる。無表情なそれが、嫌悪の感情に染まる。
 「妹のことが好きなんだ。変態シスコン。気持ち悪い」
 幸一くんは悲しそうだった。見てられないぐらい傷ついていた。
 そんな幸一くんを見て、梓ちゃんは笑った。嬉しそうに笑った。
 「私は兄さんが大嫌い」
 言うだけ言って、梓ちゃんは背を向けた。リビングを去っていこうとする背中に、私は声をかけた。
 「梓ちゃん。待って」
 面倒くさそうに振り向く梓ちゃん。
 「なに」
 「幸一くんに謝って」
 鼻で笑う梓ちゃん。
 「今のは梓ちゃんが悪いよ。幸一くんに謝って」
 「何よ。春子はこの変態シスコンに味方するの」
 梓ちゃんの言葉に怒りを覚えた。
 幸一くんがどれだけ真剣になって梓ちゃんのプレゼントを選んだか。どれだけ努力をしたか。
 それらを全て踏みにじった梓ちゃん。
 いくら梓ちゃんでも、許せない。
 馬鹿にした表情で部屋を出ていく梓ちゃん。その背中を追おうとする私の肩を、幸一くんが止めた。
 「春子。いいよ」
 幸一くんは悲しそうに言った。
 「だめだよ。さっきのは梓ちゃんが悪いよ」
 苦笑する幸一くん。
 「僕が変なプレゼントしちゃったから、梓が怒っちゃっただけだよ」
 何で。何でなの。
 何であれだけの仕打ちを受けたのに、そんなことを言えるの。
 幸一くんは悪くないのに。
 「ごめん。せっかく買い物に付き合ってくれたのに、こんなことになって」
 申し訳なさそうに言う幸一くん。
 あれだけの仕打ちを受けても、私を気遣う事ができるなんて。
 切なさに似た寂しさが、胸に湧き上がる。
 幸一くんは立派に成長している。
 成長していないのは、私のほう。
 「後片付けするから、春子はゆっくりしておいて」
 そう言って幸一くんは食卓の上の食器を運び始めた。
 シロはそんな幸一くんに体を擦り付けた。まるで慰めるように。
 私は見ている事しか出来なかった。

 結局、幸一くんの家に長居してしまった。
 幸一くんにかける言葉が思い浮かばなかった。慰めようって思っても、幸一くんは平然としていた。悲しそうに見えなかった。
 あれだけ傷ついた様に見えたのに、勘違いだったのかもしれない。
 シロは慰めるように幸一くんに体をすりよせるけど、幸一くんは微笑んでシロの頭をなでるだけだった。
 帰る私を幸一くんは玄関まで見送ってくれた。
 「今日はありがとう」
 笑顔でお礼を言う幸一くん。
 もう落ち込んでいるようには見えない。
 「春子。これ」
 幸一くんは包装された小さな箱を差し出した。
 「よかったら受け取ってくれるかな」
 私はびっくりして箱を凝視してしまった。
 「だめかな」
 悲しそうな幸一くんを見て、慌てて箱を受け取った。軽くて小さい箱。
 「お姉ちゃんの誕生日、まだだよ」
458名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 18:55:41 ID:OTL5oTV4
あぼーん
459三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:57:03 ID:MH6Hn2UJ
 「これは今日のお礼。誕生日の分は別にあるから」
 そう言ってほほ笑む幸一くん。
 その表情に、頬が熱くなる。
 「あの、開けていいかな」
 「どうぞ」
 箱を開けると、銀色の指輪だった。見覚えのあるシンプルなデザイン。
 梓ちゃんのお誕生日プレゼントを買いに行ったときに、私が見ていた指輪。
 「春子が熱心に見ていたから、欲しかったのかなと思って」
 幸一くんは私のことも見てくれていたんだ。
 苦しく感じるほど胸が熱くなる。
 嬉しくて、恥ずかしくて、幸一くんの顔を見られない。
 信じられない。今までそんな事は無かった。恥ずかしくて幸一くんの顔を見られないなんて無かった。
 「えっと、どうかな」
 不安そうに私を見る幸一くん。
 「お姉ちゃん、すごく嬉しい。ありがとう」
 幸一くんは嬉しそうに笑った。その笑顔を見ただけで心臓の鼓動が乱れる。頬が熱くなる。
 「あの、よかったらお姉ちゃんにつけてくれる?」
 私は幸一くんに指輪を差し出した。幸一くんは驚いたようだけど、笑顔で指輪を手にした。
 幸一くんは私の左手の薬指に指輪をつけてくれた。
 左手の薬指。結婚指輪をつける場所。
 頭が爆発しそう。
 「これでいい?」
 不思議そうに私を見る幸一くん。幸一くん、知らないみたい。
 ちょっと落ち着きを取り戻した。同時にちょっと腹が立った。
 「左手の薬指って、結婚指輪をつける場所って知ってる?」
 「え!?」
 驚いたように私を見る幸一くん。その表情が赤く染まる。
 「幸一くん、お姉ちゃんと結婚したいんだ」
 恥ずかしそうに首を横に振る幸一くん。可愛い。
 「あれれ。幸一くん、お姉ちゃんのこと嫌いなの」
 顔を赤くしたまま首を横に振る幸一くん。
 「じゃあ、好き?」
 顔を真っ赤にしたまま硬直する幸一くん。
 「どっち?」
 幸一くんは恥ずかしそうに少しだけうなずいた。
 「…大切な家族だと思ってる」
 私はそんな幸一くんを見て満足だった。
 「ありがとう。この指輪、大切にするね」
 銀の指輪。不思議と手になじむ感覚。
 「幸一くん。じゃあね」
 「今日はありがとう。おやすみ」
 「おやすみ」
 シロもワンと吠えた。

 家には私しかいなかった。
 お父さんもお母さんもお仕事。
 寂しくないと言えば嘘になる。特に幸一くんと梓ちゃんと一緒にいた後は。
 ベッドに横になり、手を掲げる。
 左手の薬指にある銀の指輪が、蛍光灯の光を受けて鈍く光る。
 頬が熱くなる。
 そしてその事が不快じゃない。
 ちょっと前まで幸一くんにドキドキしてしまうのが腹立たしかったのに。
 自分でも信じられない。
 弟としか思っていなかった幸一くん。
 幸一くんの成長が嫌だった。
 私が必要とされなくなるようで嫌だった。
 でも、今は違う。
 今の私はおかしい。
 幸一くんの事を考えるだけで、胸が苦しくなる。頬が熱くなる。心臓がドキドキする。
 昔はそんな事なかった。幸一くんの事を考えると胸が温かくなったけど、それだけだった。
460三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:57:53 ID:MH6Hn2UJ
 まるで、幸一くんに恋してるみたい。
 今まで恋した事は無いから、本当のところは分からない。
 幸一くんは私の事をどう思っているのだろう。
 幼馴染のお姉ちゃんなのかな。
 それとも、一人の女の子として見てくれているのかな。
 幸一くんの告白が脳裏に浮かぶ。
 少し顔を赤くして恋人になってと言う幸一くん。
 私に恋していたのではなく、恋に恋していただけ。
 だから私は断った。
 あの時、断らなければどうなっていたのだろう。
 時計を見る。びっくりするぐらい時間が過ぎていた。
 窓の外を見ると、加原の家の電気は一か所を除いて消えていた。
 幸一くんの部屋の電気だけついていた。
 まだ起きているんだ。
 昔、幸一くんは寂しがり屋だった。ご両親が帰ってくるのが遅い時、幸一くんはよく泣いていた。
 当時はご両親の帰りが遅い時は幸一くんも梓ちゃんも私の家にいた。
 ご両親が帰ってきて加原の家に戻っても、ご両親は明日のお仕事に備えてすぐに寝る。だから幸一くんは寂しいままだった。
 私の部屋から幸一くんの部屋を見た時に明かりがついている日は、幸一くんが泣いているのをなんとなく知っていた。
 だからピッキングを勉強した。今はもう亡くなったお祖父ちゃんに教えてもらった。
 お祖父ちゃんは鍵屋だった。お祖父ちゃんがピッキングを学びたい理由を尋ねた時に、私は弟に会いに行くと答えた。
 悪用しないという条件で教えてもらった。
 私は小さい時から器用だった。一般の鍵ならすぐに開けられるようになった。
 夜、幸一くんの部屋の明かりがついている時に、私はこっそり幸一くんの家に忍び込んだ。
 幸一くんの部屋をこっそり覗くと、やっぱり泣いていた。枕に顔を押し付け、声を殺して泣いていた。
 声をかけた時の幸一くんの表情は忘れられない。
 それ以来、幾度となく幸一くんの部屋に忍び込んだ。泣いている幸一くんを抱きしめてあげた。幸一くんが寝付くまで傍にいて手を握ってあげた。
 最後に忍び込んだのは随分昔の話。
 幸一くんの部屋の明かりがつくことが無くなった頃、ある夜に私は幸一くんの部屋に忍び込んだ。
 そこで幸一くんはすやすやと寝ていた。
 その頃の幸一くんは柔道の稽古に通い始めていた。疲れた幸一くんは夜すぐに眠るようになっていた。
 少し寂しかったのを覚えている。
 それ以来、幸一くんの部屋に忍び込む事は無くなった。夜遅くまで幸一くんの部屋の明かりがついていることも、ほとんど無くなった。
 今、久しぶりに幸一くんの部屋の明かりがついている。
 朝早く起きて家事をしている幸一くんがこんな時間まで起きているのは珍しい。
 もしかしたら、明かりをつけたまま眠っているのかもしれない。
 あるいは昔みたいに寂しくて泣いているのかな。
 私はピッキングツールを確認して部屋を出た。
 久しぶりに幸一くんの部屋に忍び込みたくなった。幸一くんの寝顔を見たくなった。

 加原の家の扉を解錠する時、手が震えて時間がかかった。
 本当に起きていたらどうしよう。
 夜遅くに、幸一くんの部屋で二人っきり。
 緊張のあまり手が震える。頬が熱くなる。
 今の私は本当に変。幸一くんと二人っきりなんて何回もあったのに、緊張する。
 でも、昔と今は違う。
 子供だけど、子供じゃない。
 もし、何か間違いが起きたら。
 幸一くんが、襲ってきたら。
 考えたくもないのに想像してしまう。
 幸一くんが私を押し倒して、組みふせて、口づけして、私の服を脱がして…。
 頭がおかしくなりそうな妄想。
 自分でもはっきりと分かる。
 もし、妄想の通りの事を幸一くんにされても、嫌じゃない。きっと拒めない。いえ、心のどこかで望んでいるかもしれない。
 足音を殺してゆっくりと階段を上る。
 私は幸一くんの部屋の前に立った。
 何度も深呼吸する。
 左手の薬指を見る。暗闇の中でも鈍い光を放つ指輪。
 ドアをそっと開ける。
 微かに声が聞こえてくる。
 幸一くんはそこにいた。
461三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 18:59:58 ID:MH6Hn2UJ
 ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を押しあてて泣いていた。
 必死に泣き声を押し殺していた。
 どれだけ泣いていたのだろう。枕は涙でぐちゃぐちゃだった。
 私は幸一くんの事を何も分かっていなかった。
 血を分けた妹にあそこまで嫌われて、平気なはずないのに。
 心配をかけないように必死になっていただけなのに。
 私、お姉ちゃんなのに、何も気がついてあげられなかった。
 「幸一くん」
 私の声に驚いた様に振り向く幸一くん。
 涙に腫れた目が痛々しい。
 「は、春子?」
 何か言おうとする幸一くんを、私は抱きしめた。
 背中に腕をまわし、そっと抱きしめた。
 幸一くんの背中は、思ったより小さかった。震えていた。
 「は、離して」
 身をよじる幸一くん。
 「何も言わなくていいから」
 幸一くんの後頭部に手を当て、そっと抱きしめる。
 「お姉ちゃんの前なら、どれだけ泣いてもいいから」
 涙でぐちゃぐちゃの顔で私を見上げる幸一くん。涙にぬれた瞳には頼りない光が浮かぶ。
 私の背中に幸一くんの腕がまわされる。
 幸一くんの手は震えていた。
 私に抱きついたまましゃくりを上げる幸一くん。
 部屋に静かに響く幸一くんの嗚咽。耳をふさぎたくなるような悲しい泣き声。
 幸一くんは頑張っている。梓ちゃんのために必死に努力している。
 あれだけ好きだった柔道をやめて、家事に専念している。
 お勉強も頑張っている。今でも私にお勉強を教えて欲しいと頼んできた幸一くんを覚えている。梓ちゃんにとって恥ずかしくない兄になりたいって。
 家事もお勉強も駄目だったのに、今ではどちらも優秀。
 梓ちゃんのお誕生日のために、一生懸命プレゼントを考えている。今日も梓ちゃんのお誕生日のために、梓ちゃんの好きなお料理を作った。
 でも、梓ちゃんは幸一くんを嫌ったまま。
 何で気がついてあげられなかったのだろう。幸一くんが平気なはずないのに。
 「お姉ちゃんが傍にいるから」
 私は幸一くんの背中をゆっくりと撫でた。
 成績が上がっても、お料理がうまくなっても、気がきくようになっても、大人っぽくなっても、幸一くんは変わらない。
 夜、一人で泣いていたころと変わらない。私が傍にいて、手を握ってあげないと眠られなかった幸一くんと変わらない。
 昔と同じように、幸一くんにはお姉ちゃんが必要。
 「大丈夫だから。お姉ちゃんが傍にいるから」
 泣き続ける幸一くんの頭をそっと撫でた。

 私にもたれかかったまま静かな寝息を立てる幸一くん。
 結局、幸一くんは泣きつかれて眠ってしまった。
 眠り続ける幸一くんの寝顔。思ったより幼い寝顔。
 涙でぬれた目元。私は涙をそっと拭った。
 私の手の銀の指輪が鈍い光を放つ。
 指輪をそっと外し、ポケットに入れた。
 幸一くんを寝かし、布団をかける。
 静かに眠る幸一くんの頬にそっと触れる。
 柔らかくて温かい幸一くんのほっぺた。
 バスの中で、幸一くんの頬に口づけした記憶がよみがえる。
 自分の心臓が微かに暴れる。
 私はかぶりを振って部屋を出た。

 朝、私は早めに家を出た。
 家を出たところで制服姿の梓ちゃんと会った。
 梓ちゃんは私のプレゼントのマフラーをつけていた。
 「おはよう」
 「…おはよう」
 挨拶だけ交わして梓ちゃんは去って行った。
 幸一くんの家のチャイムを押そうとした瞬間、ドアが開く。
 京子さんと誠一さん。幸一くんと梓ちゃんのご両親。
462名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 19:02:36 ID:KZPbHts8
最近投下ないな〜
463三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 19:02:44 ID:MH6Hn2UJ
 「春子ちゃん。おはよう!」
 京子さんは笑顔で近づいてきた。
 「昨日は梓ちゃんのためにありがとうね。」
 「いえ、私も楽しかったです」
 「幸一君なら家にいるから」
 そう言って笑う京子さん。
 「春子ちゃん。いつも二人がお世話になっている。昨日も本当にありがとう」
 誠一さんはそう言って微かにほほ笑んだ。
 幸一くんの面影。幸一くんが大人になったら、こんな人になるのかな。
 「さ。行きましょ」
 促す京子さん。二人は去って行った。
 仲睦まじい二人。少し羨ましい。
 雑念を振り払って家にお邪魔する。
 幸一くんはリビングでお茶を飲んでいた。
 「あれ?春子?」
 「幸一くん。おはよう」
 「おはよう」
 気恥ずかしそうにそっぽを向く幸一くん。
 「…昨日はごめん」
 「そこはありがとうでいいよ」
 「…ありがとう」
 幸一くんは立ち上がってキッチンに消えた。すぐにコップを持って戻ってくる。
 「どうぞ」
 礼を言って受け取る。温かい緑茶。
 「指輪、ありがとう」
 「どういたしまして。まさか学校につけていかないよね」
 心配そうな幸一くん。私は笑った。
 学校につけて行ったら没収されちゃうよ。
 「幸一くん。見て」
 私はブレザーを脱いで、ブラウスのボタンを上から外す。
 「え?ちょ、ちょっと!」
 顔を赤くして慌てる幸一くん。
 「これ。見て」
 「だ、だめだよ」
 「違うから。見て」
 顔を赤くして私の胸元に視線を向ける幸一くん。
 私の胸元には細い鎖に繋がれた指輪が見えるはず。
 「これは、僕のあげた指輪?」
 「うん。指にはつけないで、こうしておくよ」
 不思議そうな顔をする幸一くん。
 「こうしておけばずっと身に着けておけるでしょ?」
 本当は違う。
 幸一くんがはめてくれた左手の薬指だと、幸一くんのお姉ちゃんとして相応しくないから。
 私は幸一くんのお姉ちゃんだから、左手の薬指に幸一くんがくれた指輪をしているのはおかしい。
 「幸一くん。何かあったらいつでも言ってね」
 私は幸一くんの手を握った。
 「お姉ちゃん、いつだって幸一くんの味方だから」
 照れくさそうにそっぽを向く幸一くん。
 「…ありがとう」
 少し幼さの抜けた横顔。でも、それは見かけだけなのを私は知っている。
 「そろそろ学校に行くよ」
 私は幸一くんの手を引っ張って立ち上がった。
 「今日もお勉強頑張ろうね」
 私の言葉に、幸一くんは笑顔で頷いた。
 その笑顔に微かに心臓の鼓動が速くなる。
 でも、今はそんな事に悩んじゃいけない。
 私は、幸一くんのお姉ちゃんだから。
 幸一くんに必要なのは恋人の私じゃなくて、お姉ちゃんとしての私だから。
 でも、もし幸一くんがお姉ちゃんを必要ないぐらいに成長して、お姉ちゃんとしての私じゃなくて女の子としての私を必要としてくれる時が来たら。
 その時には、別の関係になれるかもしれない。
464三つの鎖 外伝1 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/15(木) 19:04:28 ID:MH6Hn2UJ
 「春子?どうしたの?」
 不思議そうに私を見下ろす幸一くん。
 「何でもないよ」
 そう言って私は幸一くんの手を引っ張って歩き出した。




投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
次は本編に戻ります。
登場人物の人気投票を行っていますので、ご協力お願いします。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
465名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 20:07:26 ID:XcirgavM
GJですよ

この外伝を読んだ上で本編の現状を見直すと「どうしてこうなった」としか…
466名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:04:24 ID:Svbs2mJZ
gj

まぁ独占欲に勝てなかったんだろ 
467名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:52:55 ID:UOEH+JeG
GJ

>>465
それも梓ちゃんと夏美ちゃんってやつの仕業なんだよ
468名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:27:30 ID:6T4eBxxX
GJ
しかし外伝とはいえここまで春子を持ち上げられると嫌な予感がして仕方がない
469名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:40:25 ID:0OPMsgzH
黙れよカス共
3個の鎖はGJだけどコメ書く奴がくっせぇ
470名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 00:45:04 ID:OY/gVvCW
gj

春子いい奴すぎ
本編で幸一があれだけ酷い目にあわされても春子を嫌いになれない理由が少し分かった

>>465
「幸一くんのお姉ちゃんじゃないといけない」って自分の気持ちを押し殺していたのに、ぽっと出の夏美に奪われたから嫉妬に狂ったんじゃない?
471名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 04:19:47 ID:NoPglR95
でもここまで善人すぎてるのにポッと出てきたなつみちゃんくらい我慢できなかったんだろーか。 
もしかしたら善人ぶるのも善人で絶対的に優しいお姉ちゃん演じてる自分が好きとかだと欲望に忠実に走る今の春子も納得できるね。
472名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 06:32:14 ID:Qealrb5R
うんそうだが、sageようか
473名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 07:26:09 ID:63kp1FBz
このスレにも夏の虫の鳴き声が…‥w
GJでした。ツンデレ状態の梓…春子はピッキングと盗撮…プロのスパイかwまあ‥キモ姉だわね…幸一君はブレて無いが優しすぎるな‥その優しさが今のカオスを……
夏美も基本的にそうだが、本編ではどう変わるか…猟期妹、ストーカー姉、鬱恋人で三っの鎖かw
474名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 08:32:00 ID:+NpKDGnm
GJ

これで夏美の壊れ具合によっては
春子エンドもありうるか…
475名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 12:16:33 ID:34KL9GRf
ああ、ところどころノイズが混じってると思ったら夏の虫だったのね

>>464
GJです
ちょっと小さいサイズのシロ可愛いよシロ
476名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 14:07:58 ID:q2QTIEA5
>>467
草加ァ…
477名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 18:37:45 ID:KxE+Dgfo
478夏の虫と聞いて:2010/07/17(土) 02:19:59 ID:UL8BHW7q
「ねえお兄ちゃん、最近虫が多くない?」
「そりゃ夏だからな。それなりに対策は必要だろ。」
「そのあたりに抜かりはないよ。さっきもね、これでもかってくらいにスプレーをかけて殺してやったよ。」
「あまりスプレーを無駄使いするんじゃないぞ。」
「はぁい。でも、じたばたともがきながら死んでいくのを見てると結構楽しいんだよぉ?」
「思ったよりお前もまだガキだな。」
「ふふ。そうかもね。あははははははははははははははははは。」
479名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 03:17:35 ID:0nQ78ATp
夏の風物詩ですね…お隣からこちらに最近飛び火した様で…反応すると刺されるので…夏が終わるまで我慢ですなw
480名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 03:20:24 ID:wIE2wu4e
雄は普通だが雌は他人の血を吸わないと生きていけない一族とか
他人だっつってんのに兄弟の血を欲しがる姉妹達

>>478
毒ガスですか…?
481名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 12:52:33 ID:mnaEODnX
ここはとある愛の巣……。妹の得意料理はナポリタン……。
482名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 13:04:00 ID:s/kzF1Oq
3連休、実家から来るキモウトに何か対策してる?
483名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 13:33:40 ID:X7Nh7H2O
いや期末試験だろお前来る余裕あんのかよ
484Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:41:29 ID:/Vt9R0KL
Identicalを書いているものです。
第4話ができたので投下します。
今回はまだ序盤ということで、キモ成分を低めにしてあります。
よろしくお願いします。
485Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:42:17 ID:/Vt9R0KL
「フンフンフ〜ン♪」
3月も終わりに近づいた今日この頃。
俺は春の陽気に踊らされるかの様に鼻歌を歌っていた。
今は自分の部屋を掃除している。髪の毛一本から塵一つまで徹底的に。
それには大きな理由があった。
なんと、あの伴子さんからメールが届いたのだ。しかも[今度いつ会えますか?]のオプション付きで。
その約束が今日。待ち合わせ場所はここ。
何を隠そう、伴子さんから待ち合わせ場所はここにしようと言ってきたのだ。
きっと一人暮らし男性の部屋を見てみたいだけなのだろう。決して深い意味はないはずだ。
それでも俺だって男。あわよくば、と考えたりもする。
だから特にベッド周りを掃除したいのだが―――できないでいた。
ベッドを見るとでっかい置物が乗っている。あれが邪魔をしているのだ。
無理にどかすことはできるかもしれないが、そうすると色々と面倒な事が起きる。
ならば優しくどかせばいいだけの話、ではないのだ。
優しくどかそうとしているのに、さっきからビクともしない。
試しに、もう一度やってみる。
「あの〜二奈さん。ベッドを掃除したいので、どいていただくと大変ありがたいのですが……」
「いやー」
くっそ!何てわがままな奴なんだ!
こうなったら強行手段を取るしかない。
「ほらどけよ!掃除できないだろ!」
「キャー!やめてー!チカーン!」
「くっ……!」
痴漢!なんて大声で叫ばれたら、伴子さんとの待ち合わせ場所が警察署になってしまう。それ以前に軽蔑されるだろうが。
「……さっきから何なの?ベッドからどけとか、部屋を無駄に掃除したりしちゃってさ」
雑誌を読んでいた目がこちらに向けられた。
その目の奥には、疑うという言葉が見受けられる。
「べ、別に何でもねぇよ!た、ただ気分転換に掃除をしたくなっただけだ!」
完全に詰みの状態だった。
「怪しい。怪しすぎる。誰?誰が来るの?まさか……あの女?」
二奈がやっとベッドからどいてくれた。さっきまでとは違い、なぜか全然嬉しくなかったが。
「あ、あの女?」
「この前、優二とキスしてた女よ」
「だ、だからそれは違うって言ってるだろ!」
「じゃあ何でここに来るの?キスするような仲じゃないんでしょ?」
まずい。誰かに助けを求めたい。
しかし、こんな時に限って姉さんも三華も予定が入っていていないのだ。
まぁ、だからデートの日を今日にしたんだけど……
「に、二奈が見たいんだって!俺と顔が似てるって言ったら、見てみたいって言いだして……その……」
我ながら最低の答えだった。どこからどう聞いても嘘にしか聞こえない。
でも二奈はなぜか俺を信じてくれた。
「そうなんだ。それならそうと早く言ってよ」
よかったよかった。これで一件落着―――

「ならウチもここで待ってるね」

「……は?」
「だってウチを見に来るんでしょ?それならウチも同席しないといけないじゃない」
二奈と伴子さんと俺での会話。
なぜか楽しいイメージが湧かない。
486Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:42:59 ID:/Vt9R0KL
「ま、待てって!別に写真とかでいいだろ!?」
「せっかく本人がいるんだから、そっちの方を見てもらう方がいいわよ」
なぜだ?なぜ二奈は俺の気持ちを察することができない?
普通に考えれば、自分がお邪魔虫な事くらい気付くだろ!
「で、でも二奈にも予定とかあるだろ!?バイトとか!」
「バイトは今日ないよ。ウチのシフトと優二のシフトは一緒なんだら分かってるでしょ?」
そうだった。
……考えろ!考えるんだ!他に二奈の考えられる予定は何かないのか!?
「……優二、もしかして……ウチを会わせるの……嫌なの……?」
突然、深刻な声で二奈が呟いた。
「そうだよね……ウチなんかと双子だってばれたら……嫌……だよね……」
そのまま顔を地面に向ける。その両手を顔に被せて。
「ごめんね……優二……ウチなんかと……双子になってしまって……」
ま、まさか泣いているのか!?
慌てて二奈に駆け寄ると、嗚咽ともとれる音が聞こえてきた。
「それは違う!俺は二奈と双子で生まれてきた事を自慢に思っているよ!」
「ほんとぉ?」
「本当だって!俺の自慢の妹だって伴子さんに紹介するよ!」
俺はありったけの本音をぶつけたつもりだ。これでもう二度とそんな事を言ってほしくない。
二奈の方は未だに震えていた。
まだ足りなかったか、と思い始めたころ、顔を覆っていた二奈の手が、そのお腹に添えられた。
「ぷ、あははははははははは!そっかそっか〜、ウチはそんなにも自慢の妹だったのね〜」
「……え?あ、れ?」
「うん、分かったよ。そこまで言うのなら、やっぱりここにいてあげるね!」
二奈の顔は驚くほど笑顔だった。涙の跡なんて一つもない。
最初っから演技だった。
「く、くっそ!騙しやがったな!」
「騙すなんて人聞きが悪い。それに、ほら後ろ。もう来てるよ?」
二奈は俺の背後に向かって指をさしていた。
ぎぎぎ、と、まるで錆びたロボットのように後ろを振り返る。
そこには綺麗な女性が立っていた。
その女性は俺達の方を見ながら、口を手で押さえている。
「ご、ごめんなさい!お邪魔してすいませんでした!」
女性は一気に駆けだした。
きっと誤解したに違いない。それも最悪な誤解を。
「誤解なんです!!だから、待って下さいよーーーーーーー!!!!」
その姿を俺は泣きながら追いかけて行った。
487Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:43:37 ID:/Vt9R0KL
「す、すいません、私ったら……」
説得する事1分くらい、ようやく誤解の解けた伴子さんが部屋に入って来た。
「いいですよ。それよりも道に迷わなかった?」
「大丈夫でした!ちゃんと前日に言われた住所を調べてきたんで……何度も……」
うっわ。何その言い方。惚れてしまいそうなんですけど。
今が3月の終わりなのも含めて、ようやく俺に春がやって来た。
だがその春は一瞬にして氷河期に戻されてしまう。
「そんなことよりも、汚い所で本当にごめんなさいね?」
まるで奥さんみたいな言い方の二奈。
確かに俺の部屋は汚い。アパートのせいもあってか、掃除しても、ものすっごく汚い。
でも二奈に言われるとなんかムカつく。
「ほら、もう伴子さんに会ったからいいだろ?」
「何よ、その言い方。もしかして二人っきりになった途端、伴子さんに……最低……」
「や、やめろよ!変な風に誤解されるだろ!」
俺と二奈が騒いだいるのがおもしろかったのか、伴子さんがくすっと笑った。
「仲いいんですね。まるで夫婦みたいです」
きっと伴子さんは笑いを取ろうとして、そう言ったのだろう。
だから俺は笑った。
「あっはははは!伴子さん、もうサイコ〜!」
でも二奈は違った。
「へ?夫婦?ちょ、ちょっと、さ、最高って、ゆ、優二!!」
顔を真っ赤にして俺を叩いてきた。
何だコイツ?何伴子さんの冗談を真に受けてんだ?
それに痛いから叩くな。手にマグカップを持ったまま叩くな。
「でも二奈さんの方が拓朗さんの言っていた同棲してる妹さんなんですね」
伴子さんがベッドを見ながらそう告げた。
そこにはやっぱり二つの枕。
「うわああああぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
咄嗟に枕を蹴り飛ばす。
「な、何の事かな?おお俺には同棲してる妹なんていないよ!あ!外は天気が良さそうだから出かけようよ!」
強引に伴子さんの手を引き、部屋を出る。
この時の俺には、なんの下心もなかった。
ところが俺のかわいくないほうの妹は、この行動に対して、下心アリとみたようだ。
「いきなり女性の手を掴むなんて何考えてんのよ!変態!セクハラ!」
……この氷河期はいつまで続くのだろうか?
はやく終わらないと俺の心は荒んでしまうな。
488Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:44:30 ID:/Vt9R0KL
街の中を三人の人物が歩いていた。
一人は俺。服はもちろん新品だ。
その右側には伴子さん。眼鏡がなんとも似あう御淑やか系美人。
逆側には二奈。なんでここまで付いてくる。いいから早く帰れ。
「それにしても伴子さんは美人だよね?彼氏とかはいないの?」
「え?彼氏……ですか?そういう関係の方は今までに一人もいませんで……」
どことなく、二奈と伴子さんの会話は心臓に悪い気がしていた。
でも今回だけは二奈にGJ!と言おう。
「あ、それで優二達のコンパに参加したのね!」
「こ、コンパって……」
「だってコンパだったんでしょ?お互いに彼氏彼女を探すための飲み会って、他に言い方あったっけ?」
二奈の言葉にはところどころ棘があった。
まるで昼ドラの姑のように、ねちっこく絡みついてくるイバラの棘のよう。
「でもショックだったでしょ?よりにも寄ってメンバーがこいつとか拓朗君みたいなので」
拓朗はともかく、俺を残念な人間みたく言うな。
「そ、そんな事はありません!優二君を一目見たときから……その……」
そのまま俯いて体を震わせる伴子さん。
このタイミング、そしてこの言い回し。
これらから推察される解答は―――こ、告白じゃね!?
「お、俺も実は一目伴子さんを見たときから―――」

「ねぇ二人とも知ってる?一目惚れで付き合うカップルってすぐに別れるんだって」

二奈の言葉に俺も伴子さんも言いかけた言葉を飲み込んだ。
「理由はね、一目惚れは一時の錯覚だからだよ。流行ものに乗っかるのと同じ現象なんだって。飽きたらすぐにぽいってやつ?」
それは決して軽口なんかではない。
そう思えるほど、今の二奈には雰囲気があった。
「まぁ二人に限ってそんなことはないと思うけど、もしそんな口説き文句を言ってくる奴がいたら、追い返した方が身のためだよ」
それからの二奈は鼻歌を歌いながら、俺達の先頭を歩んで行った。
自分ではアドバイスしたつもりなんだろう。
そうでなければ、いきなりの好ムードをぶち壊して、鼻歌なんか歌うはずないよな?
「……とにかく歩こっか」
「……えぇ」
後ろから二奈を睨みつつも、伴子さんと肩を並べてのデート開始だ。
最初の目的地は映画館。
489Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:45:35 ID:/Vt9R0KL
全米が震撼したラブロマンス。全米チャート4週連続1位。
お決まりの謳い文句が書かれた恋愛映画。
今日観に来た映画はこれだ。
内容は、相思相愛だった主人公とヒロインは、主人公を愛しすぎた恋敵によって引き裂かれてしまう。絶望の淵に立たされた二人だったが、最後は見事恋敵の魔の手から逃れ、永遠に二人で生きて行く、といった何ともハードなものだった。
「私もこれ観たかったんです!」
嬉しそうな伴子さんの前にチケットを出す。前々から買っておいたのだ。
「ウチもこれ観たかったんだ!」
嬉しそうな二奈が俺の財布をひったくる。前々から買っておいた俺のチケットが奪われる。
「おい!なにすんだよ!自分の分は自分でだせよ!」
「いいじゃないケチ!そんな細かい事いってるから、彼女ができないんじゃない!」
「ぐっ……!」
伴子さんの手前、あまり格好悪いところは見せたくない。
仕方なく二奈に手渡ったチケットを諦める。
「……すいません。チケット一枚お願いできますか?」
そして店員から残りの座席を訊かれたとき、二奈が俺のチケットを奪った本当の目的が分かった。
「お、おい!お前の分もおごってやるから、そのチケット交換してくれ!」
「い、や♪だって伴子さんの横に優二が座るなんて危険でしょ?」
「な、なにもするわけないだろ!?」
「分かんないわよ。雰囲気に呑まれて、ってなるかもしれないじゃない。だからウチが守ってあげないと」
二奈は完全に俺を信用していなかった。俺が暗闇に便乗して手をだすかも、と考えている。
「それじゃいこ、伴子さん!」
「は、はい……」
そのまま伴子さんと手を繋ぎ、映画館の中に消えて行った。


映画を観た率直な感想。
全然おもしろくなかった。いっそアクションにすればよかった。
でも最後の方に出てきた二人は号泣していた。
「も、ものすごく感動しました!!特に最後の、二人で恋敵から逃げるシーンは近年稀にみる名場面に入ると思います!」
伴子さんの方は映画に大満足したらしい。それなら結果的に俺も大満足だ。
二奈の方はもうあまりの泣きっぷりに言葉が出ないようだ。
「……うっ……うっ……ぐずっ……」
「ど、どうしたんだよ?そんなに泣くほどか?」
「だ、だっで……ヒロインに……感情移入しちゃって……うっ……」
そうか?別に二奈とは顔も境遇も全然違ったと思うんだけど。
「でも二奈さんが教えてくれた裏設定は、なんとも深いものがありましたね」
「裏設定?」
「じつは主人公とヒロインは兄妹だそうです」
……え?一応寝ないで全部見たけど、それを匂わすようなシーンなんかあったっけ?
「二人は兄妹だから公然と愛し合えない。それを逆手に取った恋敵の攻防がなんとも腹立たしかったです!」
「……でも……ぐずっ……やっぱり最後は……二人が結ばれる……運命なんだよね……!」
盛り上がっている二人をさし置いて、俺はアイスを買った。
ん〜、冷たくておいしい。
490Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:46:14 ID:/Vt9R0KL
映画の後は食事。
俺の知る限りで一番良いレストランを予約したのだ。
それは二奈の大好きな店でもあり、二人で何度か行った事もあった。
「次はどこに行きましょうか?」
「レストランを予約してあるから、そこに行こうかと」
きっと伴子さんも喜んでくれる。そう確信していた。
そのレストランには月に一回、専属のマジシャンが来て手品を披露するのだ。
その中でも一番人気は、そのとき店の中にいた一組みのカップルを選び、マジシャンを含めた三人で手品をおこなうというものであった。
ちなみに二奈はいっつもこれに選ばれるのを期待していた。
まぁプロのマジシャンと一緒に手品をする機会なんてのは、一生に一度あるかないかだろう。気持ちも分かる。
「それで、そのレストランはどこにあるんですか?」
「もうすぐ着くよ」
後10分ほど歩けばたどり着く距離だ。
二奈の方もどうやらそれに気がついたらしい。
「……ねぇ、もしかしてレストランって言うのは……」
二奈の顔が見る見る険しくなっていく。
「あぁ、たまに行くあのレストラン。それでお前に一つ頼みがあるんだけど……」
俺の取った予約は2名。
今から人数の変更は無理だ。だからといって、こればっかりは二奈に譲る気はない。
「ここらへんで、もう帰ってくれないか?」
さすがの二奈も、もう我がままを言わないはずだ。
だがその考えは間違っていた事に気付かされる。
「嫌っ!」
「嫌、じゃないだろ?予約だって2名で予約を取ってるんだし、今さら人数の変更なんか……」
この前の教訓を思い出して、できるだけ優しく言ったつもりだった。だが、
「嫌っ!それだけは絶っ対に嫌っっ!!」
二奈は意思を曲げなかった。
「何が嫌なんだよ?今度またお前にもおごってやるから今日だけは―――」
「嫌!あの店だけはやめて!あの店だけは行かないで!!」
「何でだよ?理由は?」
「理由は……だって……もし……」
訳を訊ねると、二奈はそのまま無言になってしまった。
二奈は常々こんなに我がままは言わない子だ。その二奈がここまで頑なに認めようとしないのは変だ。
そんなとき、意外なところから声がかけられた。
「もしかして二奈さんが言っているお店って、この先にあるフランス料理店ですか?」
二奈の体がびくっと震える。
「あれ?伴子さんも知ってるんですか?」
「はい。いま女の子たちの間で人気のレストランになってますからね」
伴子さんはそう言うと、目を細めて二奈の顔を見つめた。
「そうですか……初めてお会いしたときから薄々とは感じていたんですけど……やっぱりそうだったんですね……」
伴子さんは何かに感づいたようだ。俺にはそれが何なのか分からなかったが。
二奈の方はというと、まるでこれから叱られる子供のように怯えきった表情をしている。
「優二さん、私からのお願い……訊いてくれますか……?」
今日初めてのお願い。その言葉の裏には、お願いではなく、命令とでも言いたげなものが隠れていた。
「そのレストラン、私とではなくて二奈さんと一緒に行ってあげて下さい」
491Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:47:28 ID:/Vt9R0KL
伴子さんは最後に、「今日は有難うございました!」とお礼を告げ、有無を言わす前に帰ってしまった。
残されたのは俺と二奈。
いきなりの展開に思考の方がついて行かない。
「……どうする?」
二奈に意見を訊いても何も答えない。ただ体を震わせているだけ。
あれほど言い渋った理由が伴子さんに気付かれたんだ。
無理はないのかもしれない。
「……しょうがないな」
「!」
二奈の手を握る。そしてそのままの状態で前に進む。
「ゆ、優二!?あ、あの……」
「せっかく2名で予約したんだ。この前にした約束の分も含めて、いまから一緒に行くぞ」
口ではそう言ったが本心は別にある。
(レストランに連れて行けば二奈の気も紛れるだろう)
何がそんなに怖いのか知る由もなかったが、こんな二奈は見たくない。そう思った。



「山川様ですね。どうぞこちらです」
さすが何回か来ている事もあって、入るなり席に案内された。
だがいつもならものすごく幸せそうな顔をする二奈の様子が、未だに晴れていない。
「おい、元気だせよ。せっかく人が奢ってやってんのに」
「う、うん。ごめんね……」
痛々しい笑顔の二奈。
暗い雰囲気のまま食べる食事はあまりおいしく感じられなかった。
そしてコースも終盤に差し掛かった頃、例の時間がやって来る。
「みなさん、ボンジュール!」
マジックショーの始まりだ。
二奈はこの時になって、ようやくいつもの笑顔に戻っていた。
「では今日のカップルを選んでいきましょうかね〜」
その言葉に二奈が手を握りしめて、必死に祈りの態勢に入る。
それは二奈だけじゃなく、他のカップルもそうだったけど。
「う〜んそれでは……」
俺はいつもこれに選ばれるのが嫌だった。
みんなの注目を浴びるような格好になるし、なにより俺と二奈はただの兄妹だったからだ。
でも今日ばかりは俺たちを選んでほしい。
たまには二奈にもいい思いをさせてあげたい。
急にそう思えた。


「そこの端にいる美男美女のカップルにしましょう!」


マジシャンの手が向けられた方向。その先にいたのは紛れもなく、俺たちだった。
492Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:48:05 ID:/Vt9R0KL
「えっ!?ウチら!?」
驚くのも無理はない。なんせ来店以来、初めての出来事だったのだから。
「そうです!あなた方ですよ!」
二奈は動揺がそのまま顔に出ていた。
大きな目はさらにいっそう大きく、口は半開きな状態。決してお世辞にも美人とは言えない表情だ。
そんな二奈をマジシャンの一言が地獄に突き落とした。
「あれ?でもよく見ると、二人とも顔が似てますね?もしかしてカップルじゃなくて兄妹だったのですか?」
このマジックはカップルを選ぶのが暗黙の了解になっていた。
だからなのだろう。二奈が今にも泣き出しそうになっている。
「すいませんでした。……それでは他のカップルを選びましょうか」
その言葉がどれほど二奈にとってショックだったのかは、態度を見れば一目瞭然だ。
まるで人形のように全身の力が抜け、そのまま座り込みそうになった。
そうに、というのは実際は座り込んでないからだ。
いや、二奈の方はそうしたかったのかもしれない。
だが俺の手がそれを阻止していた。
「待って下さい!俺たちは兄妹なんかじゃありません!」
あまりの声量に店全体が一気に静寂する。
「確かに顔は似ているかもしれませんが、俺たちはれっきとした恋人同士です!」
そのまま一歩一歩、前に立っているマジシャンに近づいて行く。もちろん、さっき掴んだ二奈の手首を離さないままで。
「だからお願いします!俺達にして下さい!」
マジシャンの前までたどり着くと、そこで思いっきり頭を下げた。
後から二奈に何て言われようと構わない。兄妹で恋人なんて気持ち悪い、と言われようが構わない。
それでも二奈にこの手品をさせてあげたかった。
「……いや〜、最近の若者にしては男気がありますね!!」
「え?」
「もちろんですとも!!本日のメインパートナーはあなた達お二人です!!」
店内から拍手喝采が巻き起る。
どうやら俺たちをカップルだと信じてくれたみたいだった。
「あ、有難うございます!!やったな、二―――」
奈!と続くはずだった言葉が途切れる。
横に振りむいた瞬間、二奈が崩れ落ちてしまったからだ。
「ありがとう……優二……ヒッグ……嬉しいよ……ヒッグ……もう死んでもいいくらい……ヒッグ……嬉しいよ……!」
「おやおや、彼女さんを泣かせるなんて、男としてダメですよ?」
「お、俺のせいですか!?」
「誰が見てもあなたのせいですよ」
マジシャンがにやにやと笑う。
後ろを振り返るとみんなも笑っていた。
けれど決してその笑いは不快感を感じさせるものではなかった。
「お、おい!泣きやめよ!いちいち大げさなんだよ!」
「だっで……だっで……うぅ……」
どうしてこいつはただ選ばれただけなのに、こんなに泣けるんだ?
それに二奈が泣きやむまで時間がかかりそうだ。その間、おれはずっと視姦される羽目になるのか……
結局、二奈はこの店を出るまで涙を止める事はしなかった。
ただ、それからの二奈は今までに見た事もないくらい幸せそうな顔をしていたのが唯一の救いだった。
493Identical ◆sGQmFtcYh2 :2010/07/17(土) 13:48:41 ID:/Vt9R0KL
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
494名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 14:13:55 ID:wIE2wu4e
>>483
学生だと3連休というかもう夏休みだから当然期末試験も終わってるわけで…
495名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 14:20:31 ID:0nQ78ATp
gj…二奈がメインヒロインの様だが個人的には伴子さんタイプが好きだったりするww今後は二奈の一人勝ちではなく姉さんや三華も交えたカオスの展開だと更にニヤニヤしてしまいそうだ。
496名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 14:29:22 ID:wIE2wu4e
>>493
ぉぅ…リロードしてなくて危うく割り込むところだった申し訳ないそしてGJ!

伴子さん奥ゆかしすぎてずっと二奈のターンだったからなあ
もう少しがんばってほしいな


なぜか最近キモウトよりも泥棒猫寄りの目線になってる気がするんだぜ…
497名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 14:57:06 ID:A90lpWcz
ドラッグオンドラグーンをやっていて思ったがフリアエはキモウトに入るんだろうか
498名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 18:19:07 ID:6nOlBGVa
つか、ブラコンとキモウトの違いがわからん
499名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 19:28:26 ID:h4FkSdVC
>>498
簡単に説明すると、今お前の後ろに立ってる>>498の妹さんはキモウトだ。

え?
あ、俺の妹はただのブラコンだよ!大丈夫!
500名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 19:39:58 ID:q/YJu2kz
>>494
春季のテスト期間の事じゃない、大学的に考えて
501名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 20:35:23 ID:wIE2wu4e
>>500
あー。あれも期末試験か…
前期後期としか呼んでなかったから忘れてた

そういえばロリとかJKじゃないキモウトの話って最近見てない気がするなあ
502名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 21:20:52 ID:iKqJ9n2m
>>494
国立は休みじゃない。今が一番忙しいテスト前。
503名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 21:30:09 ID:LBMxBlMF
テスト前で構ってくれなくてふて腐れているキモウトたち
504名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 22:11:58 ID:rZGadUPN
どっちかというと話題に上がらないキモ姉の方がふて腐れてそう
505名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 23:54:00 ID:X7Nh7H2O
キモ姉は院試勉強です
就職して弟から離れるのが嫌なので院志望です
506名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:17:31 ID:rwWe7y7a
ピペドのペド姉……。
507名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 01:54:56 ID:T1b/2fb2
兄弟の夢の中に潜入しある考えを植え付けてくるキモ姉妹
そんなインセプション
508名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 03:54:15 ID:3JX66gDJ
インセプションてことは結局夢オチじゃん
509名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 12:43:45 ID:As9UnrtL
>>128
すっげえ遅レスだが、投下GJでした。
やっぱこのスレでは今この転生恋生が一番面白いわ。
わんことの初体験wktk
510そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:34:15 ID:df90D46M
読み専だったのですが情熱を持て余してしまい、気づけば一本出来上がっていました。
拙い作品ですがせっかくなので投下させていただきます。
511名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 14:35:36 ID:DrOjPRCo
四円
512そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:39:02 ID:df90D46M
 僕は街を歩いていてよく振り向かれる。僕の歩いたあとにはジェラシーが一斉に芽吹く。
 種をまいているのは僕の姉さんで、姉さんは僕の腕に両腕で堅くしがみつき、僕の肩の上に頭を乗せてうっとり幸せそうな顔で並び歩いて一帯にどす黒いフラワーガーデンを作り上げる。
 冴えない男と見惚れるような美人の組み合わせ、そこに犯罪性と冴えない男への憎悪が生まれてしまうのは霊長類の雄として仕方がないことなのだろう。
 僕だって、可憐な女性を脇に侍らせ他の雄の嫉妬を買う事に優越感を感じるような俗な男の一人だ。けれど脇の可憐な女性が姉なら話は別だ。
 僕本人はただ恥ずかしく、周りの男は羨望の炎を燃やし、周りの女は公衆の面前でのいちゃつきに嫌悪を催し、これじゃ姉さん以外は誰も幸せにならないではないか。
 でもそれが想像できるようなら街中で弟の腕にしがみついたりはしないのだ。

 思えば僕のこれまで十七年間の人生は姉尽くしだった。
 子供のころからずっとそうだったものだからよく調教された犬のように疑問を感じることなく主人の傍から離れなかった。
 けれどこんな牙の抜けた犬でも姉に立ち向かった事がなかったわけではない。それは言葉通り反抗期と呼ばれる時期だった。



 ・目覚め

513そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:40:36 ID:df90D46M
 「俊也(としや)、育児ごっこしようよ!」姉がノックもなし小学六年生にもなった一人前の男の部屋のドアを開いた。
 黒のツインテール、端正な顔を斜めに傾けて甘えるような目つき。弟でもドキっとしてしまうようなセクシーな表情だった。
 もしそれまでの幼生の僕ならばこれで、情けない顔をしながら姉の元までとぼとぼ歩いて行っていただろう。でも小学六年生の僕はそんな負け犬ではなかった。
 「嫌だね。あいにく僕はもうそんなことしようとは思わないんだ!」きっぱり物事を発言する気持ちよさを胸一杯に味わった、僕はハードボイルドに目覚めていた。
 「えーなんで。しようよしようよ!」姉はそんなことは意に介さず、ずかずか部屋の中に踏み込んできて僕の腕を掴んでぶんぶん振った。姉は昔から病的に空気の読めない女だった。
 パシィンと勢いよく腕を振り払う。
 「いやだって言ってるだろ! つーか何が育児ごっこだよ。あんなの僕が乳首吸わされてるだけじゃないか。中学一年にもなって弟におっぱい吸わせて恥ずかしくないの」
 その瞬間、じわぁと姉のパッチリ二重のお目目に涙の玉が浮かんで溢れた。
 「またやっちゃった……。ごめんね。お姉ちゃんばかだから。自分の部屋で反省してるね」姉は細い腕で涙を拭いながら踵を返し部屋を出ようとした。
 「ま、まって姉ちゃん!」僕は姉の腕を掴んで引きとめた。責め返されないことで一方的に攻撃をしてしまった罪悪感が込み上げたのだ。僕は情にほだされてないぞ、というのを口調でアピールしつつ言った。「まぁちょっとだけならいいけどね……」
 「でも……いいの? 気持ち悪くない?」姉は振り向かないまま憐憫を促すような声で答えた。
 「いい、いいよ! 普通の姉弟なら多分このくらい普通にやってるし!」
 「うん、そうだよね!」そう言って姉は僕のベッドに腰掛け自らのTシャツを捲り上げ、スポーツブラを外して薄桜色の未発達の突起を露出させた。それから優しく言った。「ほら、おいで」
 僕はやれやれという感じに上を向いてから、床に膝を付き、細いくびれに腕を回してしがみついて、姉の方が僕よりやや背が高いからちょうどいい位置にきている――その膨らみかけの小さなおっぱいをゆっくりと口に含んだ。ちゅうちゅうと赤ん坊がするみたいに乳首を吸った。
 姉は少し息を荒くしながらも、愛おしそうに僕の頭を撫でた。「俊夫はいい子ね」
 僕は子供扱いされたことにむっとして、舌でその蕾を円をかくように刺激した。
 「あっ」姉の小さな口から甘ったるい声が漏れた。うつむいて顔を真っ赤にしている。長年の経験から僕は知っていた。こうやって姉をまいらせる方法を。だんだんと口に含んでいるそれが固くなってきているのを感じた。
 「はい、おわり」僕は突然姉から唇を離した。
 「え!」姉が物惜しげに言う「な、なんでよぉ」
 僕は黙って勉強机の前に座った。僕だって馬鹿じゃない。姉の甘ったるい声を聞くと何かいけないことをしているのではないかという気分になるのだった。
 「これから明日の宿題するの。まだやってなかった。明日が月曜だって忘れてたから」実はもうやっていたけれどそう言っておいた。
 「えーじゃあ、お姉ちゃんが教えてあげるよ」
 「いいって」
 「どうして」
 「しつこいと嫌いになるよ」
 「うー」姉はその言葉にドキッとしたみたいでしぶしぶ何度も僕をチラ見しながら部屋を出ていった。「でも分んなかったら呼んでね」と捨て台詞を残して。
514そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:42:44 ID:df90D46M

 一人残された僕は椅子の背もたれにもたれ掛かって天井を向いた。天井材の白い化粧板を眺めながら僕はどうしてこうなったのかを鑑みていた。
 姉の葦羽(あしは)は確かに昔から変わったところがあった。といって知能が劣っているとかではなく学校の成績だけでいうなら優秀だった。
 けれどちょっと他の女の子とは価値観がずれているようで、――うーん、上手く言い表せないけど結局余り他人とは折り合いを付けられないみたいで同世代に友達があまりいないようだった。
 その美貌から男子からは好かれているけどそのせいで他の女子からはいらぬ妬みをうけ、余計小さい頃から仲良しだった僕とばかり遊ぶようになり今では重度の依存が形成されている結果になっている。
 なんだかんだで僕としては姉を嫌いなわけではない。僕も価値観はずれているせいだろうけど(僕はどちらかというと社交的で友達はいる)ずっと一緒だから多少の問題は気にならないし、結構可愛いところもあると思う。好きとかでは全然ないけどね!
 だから別に姉の性格は問題でないんだけど過剰にベタベタしてくるからその辺がここのところ気になるようになってちょっと反発してしまうのだった。
 僕ははぁと溜息をついて、椅子を立ちゲームの電源をつけた。現実逃避だー。

 翌日――。
 学校から帰リ道、小雨が降り始め、僕が家に着くころには激しい雨に変わっていた。あぶないあぶない、傘持ってなかったから間一髪。
 「ただいま」鍵はかかっていなかった。玄関は外との対比で明るい。母は帰ってきているようだ。
 「おかえりなさい」ダイニングのドアから母が出てきた。「帰って早々で悪いんだけど中学校に傘届けに行ってくれない。葦羽、傘持って行ってないから」
 「えー」僕はちょっとしぶって「まあいいけど、百円くれたらね」
 「ったく、じゃああげるから行ってね。場所わかる?」
515そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:44:44 ID:df90D46M
 僕は傘をさして元気よく家を出た。強い雨の日に傘をさして歩くとザザザザと音がしてなんとなく楽しい気分になるのだ。僕は妹を迎えに行くお兄さんのつもりになって姉を迎えに行った。
 市立肝阿音中学は家から十分くらいの場所にある。僕の通う小学校とは反対の位置にある。何カ月か前に姉が一緒に下校できないことを残念がっていたのを思い出す。
 三つ目の横断歩道を渡って曲がり角を行くと正門が見えてくる。途中で何人も中学生とすれ違ったからもう下校時間は過ぎているだろう。
 僕はちょっぴり緊張しながら学校の敷地内へ入った。きょろきょろしながら下駄箱を探す。途中で男子生徒に一年C組の場所を聞いてやっと辿り着いた。
 ポツポツと何人か少なくなった生徒が出てくるが姉はその中にいない。
 入れ違いになったかなと頭をポリポリかきつつも下駄箱の名前シールをひとつひとつ確認していく。あったあった佐藤葦羽。でも靴はない。僕はやっちまった……とため息をついて帰ろうとしたが上履きもない事に気がつく。ん、どういうことだ?
 「あ、俊也」姉の声が聞こえた。
 「姉ちゃん」振りかえると制服姿の姉がいた。だが心なしか悲しそうな顔だった。「どうしたの。傘持ってきたよ。帰ろうぜ」
 「もうちょっと待ってて。ごめんね」姉は廊下の奥に戻ろうとする。
 「待ってって」僕は靴を脱いで廊下にあがった。「どしたの?」
 「えっとね……」姉は言いにくそうにうつむく。「靴がないの」
 「え?」

 僕と姉は協力して靴探しをした。僕は平時からよく探偵になる妄想をしていたのでいくつも鋭い予想をつけたが全部外れた。結局姉が自分で見つけた。
 靴は隣のクラスの下駄箱の使われていない段にあった。姉の顔を見ていると僕は心が痛んだ。僕は姉の肩を二度三度撫でてやると姉は僕の顔を見てはにかんで「大丈夫よ。昔から何度かあったから」と言った。
 僕たちは一つの傘をさして帰った。なぜなら僕はうっかりしていて自分の傘しか持ってきてなかったからだ。あいあい傘みたいで恥ずかしかったけど濡れて帰るわけにはいかないから並んで歩いた。
 姉は僕が濡れないように少し寄ってくれていたので肩が濡れていた。僕は雨に濡れるのが好きだと言って自分は傘から出ようとしたが(かっこつけてたわけじゃないよ!)、姉が引きとめて結局二人で半分ずつ濡れて帰ることに決めた。男女平等だ。姉は賢い。
516そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:48:01 ID:df90D46M
 家に帰ると母が「あらあらびしょ濡れじゃない。一緒にお風呂入ってきなさいよ。嫌じゃなければね」と言った。
 僕はそんな事を言われてわざわざ反発すると逆に意識していると思われると考え、なんとも思ってないふりをして一緒にお風呂へ入った。
 風呂の中で、姉の体はちょっとずつ変わっていっているのだなと思った。
 恥ずかしいから横目でちらちら見るだけだったけれど姉はスレンダーながらもほんの少しだけおっぱいは膨らみ、前はすじが一本あるだけだったお股はそれを覆い隠すように薄く毛が生えていた。
 僕のちんちんも産毛が濃くなってきてるし、二人ともちょっとずつ大人になってきているんだなあと感心した。そのあと姉に頭を洗って貰った。

 
 お風呂から上がったあと僕は姉をゲームに誘った。僕が元気づけてやろうと思ったからだ。
 チェスとチェッカーをやったが五回中四回負けた。最後の一回はなぜかすんなり勝てた。
 そのあとはご飯を食べて宿題をして歯磨きしてトイレ行って最後に眠くなったので明日の準備をして寝ることにした。時計の針は十時をさしていた。
 電気を消してもうちょっとでレム睡眠に入ろうというところで部屋のドアがゆっくりギィィと開いた。僕はうとうとしている猫みたいにビクッっと飛び起きた。
 「俊也、起きてる?」
 なんだ姉だ。
 「寝てたよ、さっきまでね!」
 「久々に一緒に寝ない?」僕の皮肉に気付いてないのか無視しているのか姉は言った。
 「嫌だよ。この歳になって」
 「じゃあちょっとだけ」姉は言うが早いか僕の布団にもぐりこんだ。枕まで持ってきていた。僕に許可を求める意味があったのだろうか。
 「ばか姉」僕は背中を向けて言った。パジャマ越しの姉の体温が暖かかった。僕は仕方なくベッドの奥に体をよけてやった。だが姉もついてくる。
 「あのね。今日、迎えに来てくれてありがとね」
 「べ、別にいいよ……」
 「嬉しかった」
 「だから別にいいって」
 「俊也、好きだよ」姉は僕の背中から胸のあたりにかけて細く柔らかい腕をまわしギュウっと抱きしめた。背中にも柔らかいものが当たっているのを感じる。
 「もう、恥ずかしいだろ」
 「俊也……」姉は僕の上に跨って対面で抱きつこうとした。僕が姉に押し倒される形になった。姉の体は軽かったけど払いのけようとは思わなかった。次の瞬間、僕の唇に姉の柔らかい唇があてがわれた。
 僕はドキドキした。キスくらいなら何度もしたことがあったが、姉は今度は舌を入れてきたのだ。さくらんぼのような香りがする。いつもならば抵抗していただろうが僕は不思議とそのキスが嫌ではなかった。僕は目を瞑って口づけを受け入れた。
 姉の小さな舌が僕の舌にチロチロ絡んできて正直気持ちがよかった。僕は股間がむくむく起き上がってしまうのを感じた。僕のあそこが姉のお腹に当たった。
 「あ……」姉はキスをやめて口を離した。唾液がツーっとつたって離れた。
 「はぁはぁ、姉ちゃん、もうやめよう」ぼうっとして頭が働かなかったけど理性を振り絞って僕は言った。けれど姉はやめなかった。
517そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:49:58 ID:df90D46M
 姉は僕のパジャマのズボンの中に手を滑り込ませ、トランクスの下にも入り込み僕の肉棒を撫でた。
 「あっ!」
 「じっとしてて、気持ち良くしたげる」
 姉の顔は暗がりの中で妖艶でいて可愛らしくもあった。
 ニコッと余裕なく笑いながら下の方では僕の性器をゆっくりと指で上下させる。最初は何かくすぐったかったけれどだんだんと不思議な感覚が込み上げてきた。
 「ああっ、何これ!」
 「やっぱりこれ気持ちいいの?」姉はパァっと嬉しそうに僕の顔を眺めている。
 そうだ気持ちいいんだと僕は思った。体の力が抜けて、ちんちんがかゆくなって、擦られるたびにどんどんかゆく、それでいて快感が押し寄せてくる。だめ、おしっこ漏れそう!
 ピタ、と姉の指が止まった。おちんちんの強張りが全然収まらない。ほんというともっとしてほしかった。
 「もっといいことやってあげる」そう言うと姉は布団の中に潜り込んで、僕のズボンをパンツごと引き降ろした。そして――僕のおちんちんは何か温かいぬめぬめに飲み込まれた。強烈な快感が全身を駆け巡る。
 「ちょ、なにこれ。だめっ」
 「きもひいいの?」僕のあそこが振動を感じた。僕はもしやと思った。布団をのけると、ぼくのちんちんを姉が咥えていた。
 いつもの可愛いお姉ちゃんが口をすぼめて僕のを咥えて、頬をへこまして、そして口を上下させ僕の性器を刺激する。その姿のいやらしさで僕は興奮の絶頂に達した。姉ちゃんが僕のおちんちんを咥えてる!
 姉は舌で僕の性器を舐めはじめた。時々歯が当たって痛いけどそんなことは気にならないほど気持ちよくて仕方なかった。
 「はぁっ、姉ちゃんっ、ねえちゃんっ!」
 姉が上目遣いで僕の顔を見上げる。愛撫が強くなっていく。舌がうねうねと先っちょに絡みついたとき、僕はちんちんの先から何かがほとばしるのを感じた。
 「ああああっ!」僕の根っこがドクンドクンと何度も脈打ち、今まで経験した中で最上の快楽の波が僕の中ではじけ、その間も姉ちゃんは僕のちんちんを吸い上げ、ピュッピュッと僕のすべてが姉ちゃんの口の中に放たれていった。それはだいぶしてから、やがて収束した。

518そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:51:30 ID:df90D46M
 「きもひよかった?」姉は口を開いて僕に見せ、口の中の白いものをごくんと飲み込んだ。「俊也のせーしだよ」
 「はぁ……はぁ……せいし?」
 「性教育で習わなかったの? 赤ちゃんのもとよ」
 僕はやっと理解した。今のが精子――射精だったのか。
 姉は僕の体をきつく抱き締める。幸せそうに目を瞑って僕の胸に頬ずりする。
 「大好き、俊也」
 僕も姉の頭をやさしく抱き締め返した。
 「ぼ……くもだよ」照れながらぼそっと呟く。
 姉はその言葉を聞くと急に泣き出し始めた。僕は慌てて姉の頭を撫でる。繊細で柔らかい髪がサラサラと手の下で流れる。問答無用でかわいいと僕は思った。
 「と、し……や」と何度か呟いていたが、姉は安心したのかそのまま寝てしまった。追うように僕も余韻を味わう暇もなく意識が引きずり込まれていった。

 目が覚めると薄暗いけれど、もう朝だと認識できる程度には明るかった。時計を見ると五時五〇分。
 姉はまだ僕の腕の中で眠っていた。寝顔すらとんでもなくキュートだった。しばらく姉の顔を眺めていると、姉も目を覚ました。
 「あれ、としや……? ……あ!」姉は思い出したのか頬を朱に染めた。「あれは昨日すごくうれしくて、それで――」
 僕は微笑んだ。姉もクスクスと笑い返した。そうしてしばらく抱き合っていた。

 後から聞いたのだが父の書斎で見つけたエロ本を読んで、俊也はこれをしてあげたらこの漫画の男みたいに喜ぶだろうかと前々から妄想していたのだそうだ。
 「これからもいつでもしてほしくなったら呼んでね。お姉ちゃんが全部処理してあげる」その言葉通り僕はそれからオナニーを知るまで当分の間、毎日姉に口で奉仕させた。ま、覚えてからもさせたんけど……。

 ――と、この後も色々あったけれど、僕が本格的に姉さんの尻に敷かれていくのはこの事件からだった。僕の愛くるしい反抗期、牙なんて速攻でへし折られて飼いならされていったのだった。
 人前でいちゃつくのは流石に恥ずかしいけれど僕だって本当は姉さんが大好きなんだ。でも時と場所は考えてほしいかな、やっぱり。
519そこまでキモくない姉 ◆XVFC49ny2Q :2010/07/18(日) 14:53:02 ID:df90D46M
 以上です。
 文章の切り具合がよくわからず、焦って無駄にレス消費してすいませんでした。
520名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 15:46:13 ID:ul0ainOi
>>519
文章も上手いし内容も面白かったよ。
可愛い女の子は虐められるってあたりはリアリティあってよかった。
ただタイトルにあるようにキモ姉ってよりは超ブラコン姉っぽいかもね、俺は大好物だが。
521名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 16:19:46 ID:UWEc8kxd
そしてライバルの登場
ブラコン姉がキモ化へ
522名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 16:40:58 ID:R7ntmoxf
>>519
久しぶりの姉だGJ!
まあ弟に理解のあるうちは大丈夫だよな
これが段々理解の範疇を越えてきて姉が
「…どうしてわかってくれないの?」とか言い出したら…


>>509
わかってやってるのか無神経なだけなのかしらんけど止めときなよそういうの
523名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 19:11:55 ID:PNjrUM++
>>519
gj
弟が理解してればキモ姉はキモ化することなく幸せなのにな
524名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 21:08:30 ID:7ovPFZPC
525名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 21:17:01 ID:ED3GAUqH
>>524もしかしてナポリタン問題のつもり!?
526名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 21:19:51 ID:T+RCDG3c
>>519
初めてでこれはレベル高いよ!
後は裏の姉の工作がみたかったかな。
527名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 22:01:31 ID:X9yR8FhR
GJ!読みやすくておもしろかったです

だけど十分にキモいお姉ちゃんだと思いました先生!
528名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 22:24:40 ID:XiXMYIOT
ああ、完璧に近い
529名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 00:14:56 ID:QKFFAL0I
お兄ちゃんが電話で喋ってる
あぁ・・お兄ちゃんの横顔かっこいいこのまま額縁に入れてずっっと眺めていたい・・・

でも、許せないのが一つ。たがが受話器のくせに私の愛しい愛しいお兄ちゃんの息遣いや優しくて落ち着く声があんなに近くで聞いて、それにやさしくときには強く持たれ人差し指でコードをくるくる円を描くように弄られて羨ましい・・・


もし私が受話器なら・・・

んっぅぅううう!だめ・・お兄ちゃん・そんなに熱い・・息・・・かけちゃ・・・だめ… 
ああ…、あああ……私の中お兄ちゃんの液体が・・・入ってきちゃうよ
あああんっ、だ、だめ イっちゃうぅぅううう


 
お兄ちゃんの声を独占するのはいくら無機質でも許せないんだよ
お兄ちゃんの全てを独占していいのは幼馴染とか言い張るあの女でもなくお兄ちゃんの妹である私だけって決まってるの

受話器ちゃんお兄ちゃんを少しでも独占したあなたには悪いけど壊れてもらうね。



壊す前に一個だけ役にたってもらうね

受話器がちょっと湿ってる・・・ここにお兄ちゃんの吐息が当たって・・
ん・・・だ、だめだよ・・・お兄ちゃんそんなとこ舐めちゃんっぅぅ




おいまた受話器壊したのかよ

ご、ごめんなさい私機械に弱くて

機械に弱いってレベルじゃ(ry

ま、また買いなおせばいいじゃない。ね、お兄ちゃん





なにこれ・・・電話に嫉妬する妹っていう電波が飛んできたから
文にしてみたらわけわかんないのができた・・・
530名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 01:39:02 ID:njYtkDm4
いい小ネタだと思うよ
531名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 03:31:00 ID:O/HYA/gd
物に嫉妬するレベルだと電話に限らずもっと破壊しとるんじゃまいか
532名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 06:01:38 ID:UZZ+IDKW
なぜ携帯は壊さない…バイブだからか
バイブだからなのか?

最近の固定電話の受話器ってちょうどいい大きさだけど
昔のダイヤル電話の受話器はなかなか凶悪な形だよな
533名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 11:18:44 ID:kc5tpAO4
なかなかのキモさだったGJ


最終的に兄の服に嫉妬して「お兄ちゃん脱いでそいつ殺せない」ですね。
534名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 14:18:57 ID:NoileNcN
535名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 15:14:45 ID:h9GXXNaE
>>497
フリアエはどうみてもキモウトだな
殺人快楽者となった兄が大好きな妹なんて最高じゃないか
心の内をバラされても平然としていられたら尚の事最高だったが
536名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 16:14:17 ID:Xgpgpp7/
>>535
清楚に振舞っているけど↓のように心の中はどす黒いってのがたまらない。

私は女なのに、普通の女なのに。どうしてこんな・・・ちぇっ、ちぇっ、クソが!
封印がなんだってんだよ!私を助けろよ!
役に立たない男共め!助けてください。
お願い。助けて。抱きしめて。お兄ちゃん。

憎い、憎いよクソ野郎!こんな世界滅びればいい!
汚いの。私、汚いの。女神なんかじゃない。諦めてるだけ。お願い、お兄ちゃん。私に・・・


・・・まあ世界を守るための女神になってしまったことで自由が無くなり、
女としての機能が無くなった上に欲情すると激痛が走るなんて身体になったら鬱憤も溜まるわな。

あるルートでは化け物になって目玉をギョロギョロさせたフリアエがラスボスになるし
そのエンディングで「ギャァアァァァ!」とか言いながら大量に妹が出てくるとこはマジで絶望したわ・・・
537名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 22:59:50 ID:7DA+A1Ja
t
538裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:01:45 ID:7DA+A1Ja
今晩は
表題について投下いたします、今回で最後になります。
いつ解除になるかわからないと避難所に書き込んだのですが、
予想以上に早く解除されました。お騒がせいたしました。
539裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:02:33 ID:7DA+A1Ja
壁一面には賞状やら勲章やら写真が並んでいる。
英語や露語、その他良く分からない様々な言語が並んでいる。
けれど、これらは全て一点で共通している、どれもその持主の才覚を称えているということだ。

星司が居なくなってから1ヵ月後、私は最後の希望であるこの研究室に来ていた。

「やあ、お待たせしたね、申し訳ない。思った以上に会議が遅れてね。」
その言葉に振り向く、そこには私にとっての希望となる人が、ってあれ? なんで被害者側の子が居るの?

そこにいたのは私の最後の希望ではなく、なんというか・・・・・・。
・・・・・・まあ、その、つまり、要は、完璧にロリ。
うん、そう、素晴らしいくらいに金髪ロリ。
しかもオプションで丸めがねがついてる、なんていうか、すみません。
540裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:03:06 ID:7DA+A1Ja
思わず切り抜いた新聞記事と目の前の少女を見比べる。
そこには如何にも才女という美人弁護士(2×)と「勝訴!!」
という紙を嬉しそうに持つ被害者の親戚の少女(1×)の姿が間違いなくあった。
「ん、ああ、その記事か。
 それはね、馬鹿な新聞記者が僕と依頼人を取り違えて紹介しやがったのだよ。
 しかも、よりによって全国ネットでな。」
そう言って切り抜きを私から引ったくり、びりびりと破く。
「ちなみにだ、その記者は翌日からシベリア支局に栄転となった。
 ほら、天気予報の横に有るだろ『本日のシベリア杉』、あれを1人で担当しているそうだ。」
その記事ならば見た事が有る。「本日の本数:○○本」と小さく書いてある記事だ。
今まで何の意味があって載っているのか分からなかったが、この人のせいだったのか。
「まあ、そういうわけで僕が正真正銘の、糸川 エリス、君がお探しの理工学者兼××大学長兼弁護士だ。
 弁護士については副業だがね。いや、昔、司法試験も取っておいて正解だったよ。」
立派な革張りの椅子にちょこんと腰掛ける。
その姿は職員の子が遊びに来ているようにしか見えず、欠片ほどの威厳も無い。
541裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:03:32 ID:7DA+A1Ja
「さて、ここに来たという事は奴隷法絡みの事件だね?」
「ええ、そうです。私の夫がいなくなってしまって・・・。」
私、雪路 紅葉(ゆきみち もみじ)には星司(せいじ)という夫が居た。
それから彼の姉の雪路 夜宙(ゆきみち よぞら)。
1男2女というちょっと奇妙な生活ではあったが楽しい日々だった。
なのに、1ヵ月前に2人が消え去り、私の手元には一枚の紙だけが残った。

『奴隷契約の成立による婚姻関係の解消及び経緯に係る説明書』

その紙には、星司が私の知らない間に有名な財閥系企業群シス・コンティネンタルグループ傘下の金融機関から
突然多額の借金をし、その返済の為に知人に対して自身の売買を申請したこと。
しかし、売買を知った姉の夜星が競売に急遽参加し落札、事なきを得た。
なお、夜宙はNGOの聖姉妹救済協会より資金支援を受けており、現在は星司と共に同協会の保護下にある。
帰還の準備が整い次第住居に戻るとあった。
私はこれを読んで驚愕した、信頼していた星司が私に何も言わずに多額の借金をしていた事、
そして何の相談も無しに奴隷契約を結ぼうとしていた事に。
だが、最後まで読んで安堵した。あの聖姉妹救済協会が味方してくれたのだから。
542裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:03:52 ID:7DA+A1Ja
聖姉妹救済協会はこの国の奴隷制度に断固として反対しており、
兄弟が売買の危機に陥った姉妹にはいかなる事情でも即日、無利子、無期限で融資してくれる、実質は無償贈与だ。
そして、奴隷となった者にだって、買い戻し金の融資や解放運動等の強力なバックアップを行ってくれる。
さらには、周囲の目が気になる被害者達の為に新たな住居・生活まで支援してくれるという大規模NGOだ。
その影響力は政財官に浸透しており、会員の中には国会議員や大企業のトップも少なくない。
当然だが、協会の活動によって今日まで救われた奴隷・奴隷候補の数は計り知れない。

私はもはや星司は救われたもの安堵し、協会からの連絡を待った。
だが、2週間経っても連絡は来ない、いや、一度だけ星司から来た。
その言葉は「紅葉、姉さんが、助けて・・・。」のみですぐに切られてしまった。
聖姉妹救済協会に連絡を入れたが、被害者保護の名目の元に何も教えてくれなかった。
私はすぐに警察に相談した、けれども、警察は聖姉妹救済協会を信じなさいとしか言わなかった。
弁護士にだって当たってみた、しかし、誰もが聖姉妹救済協会と奴隷法だけはやっても勝てないからと断られた。
そんなときに一枚の新聞記事を図書館で見つけた。
『弁護士 糸川 エリス氏、奴隷法に基く競売の無効判決に成功、我が国初の事例』と。
そして、私は最後の希望として彼女を訪ねた。
543裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:04:13 ID:7DA+A1Ja
「成程、僕が勝った時と全く同じケースだよ、それは。」
「でしたら、何とかなりますよね?」
「いや、残念だが、そう簡単には行かないんだ。
 前僕の使った手は奴隷法の盲点の盲点を付くような方法でね、
 それで何とか取引を無効に持っていったんだが、ふん、その1週間後に法改正をされて穴を埋められた。」
「でも、この法律は元々半分死文化しているって聞きましたが?」
「ああ、そのはずなんだがね。僕も調べてみたんだが、どうも奴隷法というはおかしな法律でね。
 大まかに言えば、買取を申請した人間には厳格な審査や制限が有るのに、親族に対しての制限はほぼ無いように出来ている。
 例えばだが、申請者は申請時以上の金額を法廷に持ち込めないという半ば強制の慣習が有るんだが、
 一方で親族にはそんな制限は無いし、それどころか事前に申請者の金額を知る事もできる。
 言い換えれば、もしも親族が売買に参加し、十分ま金さえあれば確実に買い戻せるようになっているんだ。
 そして穴があれば瞬時に改正される、なんでも今回は与野党一致だったそうだ。」
与野党が一致、官庁で使う鉛筆の本数ですら1ヶ月では纏まらないあの国会が?
「不思議だろう? それから君の旦那さんが借金をしたシス・コンティネンタルグループなんだが、
 例の聖姉妹救済協会、ふん、中世の救出教会みたいなご大層な名前だよ全く、そこと関連が深いグループだよ。」
「え、だって、あの協会は奴隷解放を目指していて、なんでその協会が奴隷売買を促進するんですか!?」
544裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:04:41 ID:7DA+A1Ja
「まあ、落ち着きたまえ。おや、いかんな、僕とした事がお客さんに冷たいものも出さないとは。」
そういって、エリスさんはぱたぱたと冷蔵庫に飲み物を取りに行く。
失礼かもしれないが、お母さんの留守にお手伝いをする子みたいで可愛い。
きっと、サイダーの瓶とかを持って来ておいしそうに飲むんだろうか。
そう思うと、ちょっと頬が緩んでくる。
「いや、お待たせしたね。実は例のシベリア杉の記者からいいお歳暮をもらってね。」
来た来た、そんな嬉しそうな彼女の手には、綺麗なウォッカの瓶が・・・・・・、ウォッカ?
ちなみに瓶のラベルには赤いインク?で「もう楽にして下さい。」と書いてある、本当にお歳暮なのだろうか?
「あの、それって?」
「ん、ただの水だよ、シベリアのおいしい水。
 Volka、ロシア語で命の水、ちなみにラテン語で命の水はAqua Vitaeとなる。
 さらにAqua Vitaを英語に持っていくとElixirとなる、万能薬だよ。なんともご利益のありそうな名前だろう?
 個人的な持論だが、僕はウォッカこそが数多の錬金術師が求めたElixirだと固く信じている。
 ロシア人を見たまえ、あっちの放射線漏れ対策マニュアルにはなんて書いてあるか知っているかい? 
 まずウォッカを飲め、そして全部忘れろ、だ。
 さらに軍用レーションにだってウォッカがある、何でも飲むと機関銃が当たっても大丈夫になるらしい。
 いや流石は米国と世界を二分にした大国のテクノロジーだよ、すばらしい。」
そう言って、トクトクと楽しそうに氷の入った二つのグラスにウォッカを注ぐ。
待て、私にもそれを飲ます気なのか?
「あの、私は『普通』の水で良いです。」
「普通の? 割り水があったかな、うん、確か。
 あまり使わないからどこにあるか忘れたけど。
 ったく、人の飲物を勝手に割って嫌がらせをする馬鹿が居ないからな・・・・・・。」
いえ、その人多分健康を気遣ってくれたんだと思いますよ?
またぱたぱたと冷蔵庫に飲み物を取りに行くエリスさん。
ちらりと見えた表情は寂しげだった。
545裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:05:08 ID:7DA+A1Ja
「さて、飲み物も出た。話を続けようか。」
つまみは無い、グッと一息にウォッカを飲み干す、叩きつけるようにグラスを置く。
その動作一つ一つが実におやじ臭い、と思う。
結局、普通の水は無かったらしく、私のグラスの中身は水道水だ。
これからこの弁護士で大丈夫なのだろうか。いや、他に当てなんて無いけど。
「件の聖姉妹救済協会だがね、あそこの関連議員をよく見てみたまえ、
 一度として奴隷法廃止法案を出した者はいない。それどころか改正には常に賛成している。
 他にもね、会員が兄弟を買い戻したなんていう話はざらなんだが、まあそこは良い。
 ところが、そこから開放奴隷になったという話は全くと言って良い位無い、いや、実に面白いだろう。
 そしてさらに調べて見るとだがね、この協会を作ったのは×××首相なんだよ。」
×××首相、だがそれはおかしい、だってこの法案を作ったのは・・・
「そう、わが国最年少にして初の女性首相、偉大なる×××首相だ。
 そして奴隷購入者第一号も×××首相で対象は彼女の弟となっている。
 どうかな、そうやって奴隷法に聖姉妹救済協会を繋げて見たまえ。
 協会の関連企業が人身売買の原因として借金を作らせ、協会が姉妹に金を与える、
 そして、姉妹はその金で奴隷法に基き兄弟を買い上げる、
 協会が保護と称して彼女らを周囲から切り離す、金は企業への返済を通じて協会に戻る。
 すると、兄弟が買い上げられるだけで他は何も変化していない、という訳だ。
 まるで姉妹が兄弟を奴隷にする、そうゆう巫戯けた目的のシステムに見えてこないかね?」
鋭い視線が私を射さす。
そこに座っているのは酔いどれつるぺた幼女などではなく、確かに非凡の才女だった。
「まあこれは余談だが、×××首相の経歴は実に凄いよ。
 何の地盤もスポンサーも持たないたった一人の若者が、政党を乗っ取り、
 裏で表で次々と政敵を排除し、議員初当選と共に首相にまで上り詰め、斜陽だった我が国を救う。
 そして、その圧倒的な支持を背景に力ずくで奴隷法を成立させた。
 この間にどれだけの時間が掛かったと思う? 彼女が被選挙権を得てからたったの2年だよ。
 それだけのカリスマと能力を持った彼女は奴隷法成立と共に姿を消した、完全にね。
 そして、残されたシステムは彼女の同志達によって未だに機能し続けている、これがこの国の下らない現状さ。」 
呆然とする。
なぜその人はそれだけの才能を持ちながら、こんな壮大で馬鹿げたシステムを作り出したのか、
何よりもそんなものにどうして星司が巻き込まれなくてはならないのか、私には理解ができない。
「あの、それで・・・、星司・・・・は無事・・・ですよね?」
震える声で尋ねる。
「まあ体は無事だろうね、きっと。
 残念ながら、うん、申し訳ないが、今はそれ以上教えられないな。
 被害者の行く末は大体同じだからな、それも色々調べた事があってね。
 僕は予想が付くけど、今知っていてもきっと心が折れるだけだよ。」
辛そうな顔をしていた。
546裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:05:52 ID:7DA+A1Ja
エリスさんがグラスにさらにウォッカを注ごうとする、最初の嬉々とした表情は無く悲しそうに。
濡れていたせいか、つるりとグラスがエリスさんの手から落ちる。
落ちたグラスに当たって机にあった写真立てが倒れる。
その写真にはエリスさんと年上の男性が二人で肩を組み表彰状を持って笑っていた、受賞式だろうか?
「この写真は、何かの記念ですか?」
「僕と助手、宗一というんだが、の初めての受賞の時だよ?」
「そうですか、ふふふ、楽しそうですね。」
「ああ・・・、楽しかったよ、あの時はね、本当に。
 僕はそれが続くものだって思ってたよ。
 だがね、その馬鹿者は、君の旦那さんと同じで買われたんだ、姉妹に。
 まあ、僕の場合は、僕が持ちかけたから自業自得だがね。
 どうしてもアイツが欲しくてね、アイツの窮状に付け込もうとしたんだ。
 全く、悪魔から契約を勧められるどころか、自分から悪魔を呼び出し、挙句に自滅したんだからな。
 いや、実に愚かだったよ、3年前の僕は。」
「その姉妹の方もやはり協会を頼って・・・?」
「違う、そいつの妹は自力で奴隷法の意味を理解し全てを計画し実行したんだ、誰にも頼らずにね。
 その後協会の本性を嗅ぎつけ、上手く取り入って今はその保護下に入って消えた。
 便利だったんだろうね、保護下に入ってしまえば協会の持つ記録以外では消息を追えなくなるからな。
 僕がこんな事しているのもその為さ、まずは協会を取り払わないと本命にも近づけないって訳だよ。」
「宗一さんは、今は、その・・・」
「うん、声を聞いた限りは元気だったよ、昨日も電話が来たんだ。
 『俺は夜澄だけのモノになれて、夜澄だけと居られて幸せで、夜澄以外のものなんか何も要らないし、
  夜澄だけと愛し合って、夜澄だけを考えて、夜澄だけを幸せにしたいんだ。
  だから、お前なんて邪魔だし、気持ち悪いだけだからもう俺に関わらなくていいぞ、というか関わるな。』ってね。
 とても幸せそうにな、まるで上手に調整された機械みたいに一音一字一句まで幸そうな声でな。   
 その間中、ずっと人形女の衣擦れの音と、アイツの妹の事だ、くすくす、くすくすという幸せそうな笑い声が後ろで続いていたよ。
 あれがアイツの幸せらしい。ふん、こうなっては実際救いようも無いね。」
「じゃあ、エリスさんは宗一さんを助ける為に頑張っているんですね?」
547裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:06:45 ID:7DA+A1Ja
「は? 助ける? どうやってだい?」
エリスさんは即座に否定する。
「え、だって、宗一さんを取り戻せれば助けたって事じゃないんですか?」
「取り戻せても、アイツは僕を押しのけて人形女の所に戻って行くだろうさ。
今のアイツはね、人形女の人形でいるのが幸せなんだよ、悲しい事にね。
 ああ、違うね。結果として、アイツは初めからずっと人形女の為の人形だったんだろうな。
 何もかもが遅すぎたって事だ、きっと僕がアイツと出会った時点でさえな。
はっ、参ったね。こうして言葉に出すと益々救いようが無くなるじゃないか。」
それは私ではなく、エリスさんが自分に向けた言葉なのだろう。
私には、彼女の言っている意味が良く分からなかった。
「でも、さっきエリスさんは協会を倒すって・・・・・・?」
「上手くやれば協会は倒せるかもね、運が良ければ奴隷法も潰せて、そしたらアイツにも会えるかもしれない。
 でも僕にはアイツを助ける事は出来ないよ。
 僕は、分かっているんだ。
 僕が人形女に勝つことなんて出来ない事も、もう僕が好きだったアイツを取り戻せない事もね。」
十二分に分かっているんだけどね、と寂しそうに自嘲する。
「なのにね、考えてしまうんだよ、人形女が居なければ僕とアイツが歩めただろう未来を。
 とても魅力的なんだ、その中の僕は幸せで、孤独なんかじゃなくて、アイツと同じ夢を見る。
 ……それが僕にとって有ったかもしれないハッピーエンドなんだよ。
 だから考えてしまうんだ、人形女を押しのけてアイツを僕のモノにする方法を、何度も何度も何度も。」
目を瞑り、苦しそうに言葉を吐き出す。
「何度も、失敗する。どんな方法を考えても、どんなに有利な状況を想定しても、
 いつも最後にはアイツの横で笑う人形女が居て、僕は絶対そこに居ない。
 もう分かっている事なんだ、僕にハッピーエンドなんて無いって。
 それでも、僕は、アイツと同じ夢を見たい、未来を歩みたい、幸せが欲しい。
 僕は宗一が欲しい、そして僕だけの、僕の為のハッピーエンドが欲しいんだ。
 だから、可能性が無いと分かっていてもこんな事をしてしまう。
 今でもアイツを取り戻せればその先にハッピーエンドが有るんだ、って見え透いた嘘を自分についている。
 そうでもしないと自分を保てなってしまったんだよ。
 ・・・・・・正直に言って辛くてしょうがないよ、僕は嘘が上手くないんだ。」
「でも、信じればきっと奇跡だって起きるかもしれないじゃないですか。」
548裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:07:10 ID:7DA+A1Ja
エリスさんは、論外だというように笑う。
「はは、奇跡か。奇跡、最低の響きだね。
 良いかい、奇跡って言うのは所詮極小の可能性が実現する事に過ぎないのさ。
 つまり、起こりうる事が起こりうる範囲の内でしか起こらないという事だよ?
 僕はその可能性の片鱗すら見つけられなくてね。いつもあの人形女の存在が邪魔をするんだ。
 初めから無い可能性に全てを賭ける、その先にあるのは奇跡じゃなくて、狂気さ。
 僕には良く分かるよ、僕は狂っている。」
「狂っている、エリスさんがですか?」
「くっくっく、そうだよ僕はね、もうとっくに狂っているんだよ。
 アイツを逃してしまった日からさ。
 狂人が狂人から狂人を奪おうとする、そういう話なんだよこれは。
 どうだね実に馬鹿らしい話じゃないか? くっくっく。」
エリスさんは椅子を後ろに回した、笑い声に混じって小さく嗚咽の音がする。
誰かの名前を呟くのが聞こえた気がした。
「宗一さんはエリスさんの・・・・・・、大事な人だったんですね・・・。」
「だったというのは止めてくれ!! ずっと大事なんだ!!」
エリスさんが私から背を向けたまま上ずった声で叫んだ。
「その、あの、すいませんでした。」
「ん、すまん、すまん、八つ当たりとは僕らしくもないな、ふふふ。」
「いいえ、私が無神経でした。」
「君は悪くないさ。ふん、いかんね、こんな大恐慌と世界大戦が一辺に来たみたいな辛気臭い話は。
 君もこんな与太話を聞くためにここに来たわけでは無いものな、では! 景気良くご商談と行こうか!!」
静寂を打ち破るようにエリスさんがぱんっと元気良く手を叩き、くるりと元気良く椅子を回転させる。
「大事な話なので初めに言って置くが、僕は奴隷法関連で8件勝利したが、12件では負けている。
 さらに、その8件でハッピーエンドになった者は1人も居ない。その場で姉妹によって命を落とした者、
 結局は姉妹に連れ去られた者や自らの意思で姉妹の元に戻って行った者、後は依頼人もヤンでいたりとそんな事ばかりだ。
 まあ、奇跡でも起きれば君はハッピーエンド第1号になれるかも知れないね。それでも、僕を頼るかね?」
549裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:07:31 ID:7DA+A1Ja
私は迷わなかった。
きっと私にも彼女にもバッドエンドしか待っていないのかもしれない。
それでも、私は、私の、いや私と星司の運命を彼女に託したい。

だが、一つ気になる事があった、その、お財布の具合が・・・、
弁護士って雇ったこと無いけど、毎食もやし定食ABCでどうにかなる金額じゃないよね?
因みにAが中華風もやし炒め、Bが和風餡かけもやし、Cが洋風もやしスープだ。
「ん、その顔は金の事かね? ふふふ、いや君は実に運が良いよ。
 実はだね、僕は名前に『夜』が付く女が大っ嫌いでね。
 そういう女は採算度外視でこの世から消してやりたくなるんだ。
 実際、僕がつぶした8件の姉妹共にはみんな『夜』の字が入っていたんだからな、縁起が良いだろう?
 持ち合わせが無いならいっそ只でも全く構わんよ。大事なのは君の意向だけさ。
 さて、雪路 紅葉さんだったっけ、君はどうするのかな? くっくっく。」
エリスさんが笑う。
本当にいやらしく笑う、あの時代劇に出てくるお代官様のように。
これって負けフラグだったりしないよね・・・・・・、じゃなくって!!
「お、お願いします!!」
「うん、実に良い返事だ。さあ、では共に頑張ろうじゃないか、被害者のMさん。」
エリスさんはそこで、物思いに耽っている様に顎に指を当て黙った。
暫らく間をおいてからエリスさんが言葉を繋げる。
「ああ、それからだが、さっきは僕は全てを諦めているように聞こえたかもしれないが違うからな?
 こうやって一歩ずつ協会と法の足元を崩してゆく。そして、君のような仲間を増やす。
 思いのほかだが、着実に賛同者は増えているんだ。
 そして、その一歩がいつか僕にとってのゴール、アイツにたどり着く。
 例え、それが僕にとってどんなに悲しい結末であろうとも、ね。」
ぎこちなくエリスさんが笑った。
彼女の深く青い瞳が私を見据える。
「君も諦めるな、抗え、奇跡が起きればハッピーエンドだって迎えられるさ。
 君には奇跡を起こすだけの余地は有るよ、きっと。」
その青は、苦悩、悲しみ、絶望、願い、優しさ、正負の色んな感情が混ざり合った複雑な色だった。
550名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 23:07:53 ID:7DA+A1Ja
エリスさんの手が私へ向けられる。
「さあ、まだ1ヶ月目なら希望は有る、急ぐとしようか。
 敵は余りにも巨大で僕達は砂粒のように矮小だ。
 僕達に出来る事は1秒でも早く行動し、こっそりと不意打ちを当てるだけなんだからな。
 うん、そうだな、こんな所でのろのろしていたら君も僕もアラサーの仲間入りをしてしまうぞ?」
アラサー? 目の前に居る彼女は、どう見ても、その・・・・・・。 
ああ、それってアラウンド・サーティーn「30だ」の方。
「おい、サーティーだからな、30だからな? 
 今13だと思っただろ、言っておくが僕は君より年上だからな、オトナの色香だからな?」
エリスさんが拗ねて、この話は無かった事にしようかと手を引っ込める。






私は彼女の小さな手を慌てて握った。
551裏切られた人の話 補足:2010/07/19(月) 23:10:22 ID:7DA+A1Ja
以上で全て終了です。
なお、ウォッカにメッセージは手紙だと読む前に捨てられるからです。
また、エリクサー=ウォッカは全くの大嘘です。

全体として粗雑な話でしたが、お付き合いいただいて嬉しく思います。
時間が掛かるかも知れませんがある程度書き溜めができれば次回、
実妹と義妹の話を投下できたらと考えています、。
ROMに戻ります、今までありがとうございました。
552名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 23:22:06 ID:L9PnmEIP
>>551
              \GJ/ \GJ/
                   ,,―ー――-、、
                l、,.:.:.:.:.:.:.:.:.:._,,;ll"
                |,,,,"l""゙'''"_l_゙,.| 
                |'ト二二ニ,|--トl  
                  `''― "'"' "'"'''
553名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 23:27:08 ID:+YltQNsf
>>551
楽しませていただきました。
……余談ですが、それではウォッカの件は嘘から出た誠?かな。
14〜15世紀のポーランドでは、ウォッカは万能薬と見なされていました。
ペストの予防に効果があったとか…
554名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 01:06:01 ID:j3mP0RyQ
>>551
GJ!
キモウトスレでここまでキモウト以外のルートを読みたくなったのは初めてだ
ヤンデレスレでエリスルート書きませんかね?
555名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 01:59:20 ID:UmjW7tvc
いい最終回だったな。もちろんいい意味で
夜澄がラストゲームに勝ったと思わせといてエリス派のために一抹の希望を残してくれた
お疲れ様です
556名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 02:05:49 ID:Nkxf4bUa
夜澄は宗一を手に入れてエリスのことなんてどうでもよくなってるかと思ったら
宗一に嫌がらせ電話をかけさせるとは意外とエリスのこと意識してるんだな
活動の成果も出ているみたいだしエリスが幸せになれるといいな

完結おつかれ GJ
557名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 03:15:42 ID:1x21VeX4
GJ!
エリスにも希望が全く無い訳ではないみたいで良かった
というかエリスに勝って欲しいぜ
558名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 12:51:03 ID:nrT0wGQw
妄想の余地が残された
わくわくするエンディングは久しぶりだ
次回作も期待して待っている

初めから最後まで引き込まれる話でした
千のGJを捧ぐ
559名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 23:33:51 ID:RNuUKePo
560名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:25:23 ID:sgydNMXf
561名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:35:32 ID:69kaBgyx
13mや
562名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 21:50:42 ID:531d3THW
563名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 22:24:14 ID:Xf2GEmcY
シコシコシコシコ

13cmや
564三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:31:21 ID:fkbJ2FCv
三つの鎖 24 前編です

※以下注意
エロ無し
血のつながらない自称姉あり

投下します
565三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:31:53 ID:fkbJ2FCv
三つの鎖24

 久しぶりに制服の袖を通す。
 今日、久しぶりに登校する。
 階段をゆっくりと降りる。体調は万全ではない。階段を下りる動作だけでもそれが分かる。
 それでも、これ以上休んではいられない。
 洋子さんに頼まれた。夏美ちゃんの事を。
 雄太さんにも遺書で頼まれた。娘を頼むと。
 そんな事を考えながら階段を下りると、父さんがいた。
 今から出勤するようだ。
 僕が寝込んでいる間も、父さんは仕事で忙しかった。
 未だに啓太さんを殺した犯人は捕まっていない。
 「おはよう」
 「おはよう。体調はどうだ」
 「まあまあだよ」
 「無茶をするな」
 そう言って父さんは家を出た。
 夏美ちゃんのお父さんを殺した犯人を捜すために。
 僕はリビングに足を踏み入れた。
 「兄さん。おはよう」
 梓は僕を見て微笑んだ。柔らかな笑み。
 背中まで流れる艶のある髪。いつもの髪形ではない。
 最近、僕が梓の髪を整える事は無い。
 「…おはよう」
 僕は声を絞り出して応じた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 教室に入ると視線が集中した。
 この教室に入るのも久しぶりだ。
 「幸一!体調は大丈夫なんか?」
 耕平が駆け寄って僕の背中をたたく。
 「登校できるぐらいには大丈夫だよ」
 「そら良かったわ!」
 歯を見せて笑う耕平。そんな僕たちを生温かい視線が見守る。
 …そういえば昔、僕と耕平ができている疑惑があった。
 もちろん、そんな事実は無い。僕は夏美ちゃん一筋だ。
 「幸一くん」
 柔らかい声が僕を呼ぶ。
 「久しぶり」
 春子はそう言ってにっこりと笑った。
 久しぶり、というのは少し違う気がする。
 お昼休みの度に春子は僕の家に来てくれた。昨日も来てくれた。
 「元気になってよかったよ」
 そう言って春子は僕の頬に触れた。
 春子の白い手が僕をぺたぺたと触る。
 「春子。恥ずかしいからやめて」
 「ちぇっ。お姉ちゃん寂しい」
 「村田、あんまり幸一をからかったらあかんで」
 こういうやり取りも久しぶりだ。
 そんな事をしている間にチャイムが鳴る。
 僕たちは席に着いた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私は返却されたテスト用紙を確認した。
 そこにはこう記されている。
 堀田美奈子。31点。
 赤点ぎりぎりだ。
566三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:32:44 ID:fkbJ2FCv
 私はため息をついた。これじゃあ今度の定期テストは危ない。
 前では英語の先生がテストの解説を行っている。聞いてもチンプンカンプンだ。
 今は4時間目。ああ。はやくお昼にならないかな。
 教室を見渡すと、みんな結構真面目に先生の解説を聞いている。だから真面目に聞いていない人間はすぐに分かった。
 夏美はぼんやりと頬づえをついている。一目で分かる。この子授業聞いてないなって。
 でも先生は注意しない。生徒の授業を聞く態度に関心が無いのもあるけど、夏美の英語の成績が優秀なのもある。あの子、不思議と英語の成績は優秀だ。
 うーむ。なんか納得できないぞ。数学は私と同じぐらいの成績なのに。
 そしてもう一人興味無さそうにぼんやりしている子。梓だ。
 まあこの子も成績は優秀な方だ。きっと梓のお兄ちゃんに教えてもらっているに違いない。梓のお兄ちゃんは成績優秀で有名だし。
 梓の長くて綺麗な髪の毛が微かに揺れる。最近、梓はいつものポニーテールじゃなくてそのまま背中にたらしていることが多い。村田先輩の同じ髪型。
 背中にたらしているだけなのに、すごく似合っている。もともと梓は(不機嫌そうな顔さえしなければ)儚い外見だし、活動的な髪形よりもこっちのほうが似合っているように私は思う。
 そんな事を考えていると、チャイムが鳴る。授業が終わり、一気に騒がしくなる教室。
 さて。誰と食べようかな。
 ぼんやりとしている夏美が目に入る。よし。今日はこの子と食べよう。
 「なーつーみー!お昼ご飯食べよ!」
 「美奈子?」
 びっくりしたように私を見る夏美。
 「ご、ごめんね。先約があるんだ」
 「先約?梓?」
 「違うよ。お兄さん」
 …っけ。なんでぇ。彼氏とかよ。
 へんっ。羨ましくなんてないやい!
 「って梓のお兄ちゃん体調不良から回復したんだ」
 「うん。会うの久しぶりなんだ」
 はにかむように笑う夏美。うわっ。なにこの子。可愛い。
 そんな事をしている間に、教室のドアが開き、背の高い男の人がひょっこりと顔をのぞかせる。本人は隠れているつもりなのかもしれないけど、ばればれ。
 「お兄さん!」
 夏美は弾かれたように立ち上がり、走り出した。
 そのままの勢いで梓のお兄ちゃんに抱きついた。うおっ。大胆。
 目に涙を浮かべ梓のお兄ちゃんの頬に触れる夏美。嬉しさと切なさの混ざった表情で梓のお兄ちゃんを見上げる。見ているだけで胸が締め付けられそうな表情。
 「久しぶり。元気にしてた?」
 「…はい」
 そう言って夏美は梓のお兄ちゃんの胸に顔をうずめた。
 この二人、身長差がありすぎでしょ。夏美の身長がちっちゃいのもあるけど、梓のお兄ちゃん大きすぎ。
 でも、すごくお似合いの二人だと思う。
 「…あの」
 「…はい」
 「…恥ずかしいから」
 「ご、ごめんなさい」
 顔を赤くして離れる夏美。梓のお兄ちゃんも頬を赤くしている。梓のお兄ちゃんみたいな大きい人が照れている姿がちょっと可愛い。
 初々しい二人。教室の中で抱きつくなんてバカップル的な行動なのに、不思議と許せてしまう。
 「兄さん」
 梓がお弁当を手に二人に近づいた。無表情に梓のお兄ちゃんを見上げる。
 こうして見ると梓も小さい。細身だからあまりそうは見えないけど。
 「話があるの」
 そう言って梓は梓のお兄ちゃんの手を掴んだ。
 びっくりしたように兄妹を見る夏美。
 「梓。今じゃないとだめなのか」
 「だめ」
 そう言って梓は自分の兄の手を引っ張って歩き出した。
 「夏美ちゃん。ごめん。また放課後に」
 泣きそうな顔をする夏美に梓のお兄ちゃんは申し訳なさそうに言った。
 教室を出ていく兄妹。ぽつんと残される夏美。
 さすがに可哀そうに感じた。
 「なつみー。一緒にご飯食べよ」
 「…うん」
 とぼとぼと歩いてくる夏美。しょげた顔してるなー。
 二人で席に座りお弁当を開く。今日の夏美のお弁当は普通だ。
 うつむいて食べる夏美。暗すぎ。
 うーむ。いつも明るい夏美がこうだと調子が狂う。何を話したらいいのか分からない。
567三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:33:36 ID:fkbJ2FCv
 「梓、何の用だったのかな」
 「…分からない」
 暗い顔でつぶやく夏美。
 会話終了。だめだこの子。
 「ねー、さっきの見た?」
 後ろの方で話し声が聞こえる。
 夏美の事を目の敵にしているクラスメイトの女の子達だ。
 「彼氏の妹が奪っていったって感じよね」
 「もしかして梓と禁断の関係なんじゃない」
 「まさかー。そんな事ないでしょ」
 「村田先輩との関係も怪しいでしょ。知ってる?」
 「あれでしょ。お昼休みに中庭で抱き合っていたって」
 「中庭で?お昼休みと言えば人がいっぱい集まるじゃない」
 「だから目撃者多数よ」
 「へー。あの二人だったらすごく絵になるわよね」
 「確かにね。夏美よりもお似合いじゃないの」
 そう言って夏美の方を見てくすくす笑う。
 なんて性質の悪い奴ら。
 夏美は蒼白な顔でうつむいている。
 気にしないで。そう言おうとした瞬間、夏美は立ち上がった。
 ゆっくりと、幽鬼の様な足取りで話していたクラスメイト達に近づく夏美。
 そしてクラスメイトの前で止まる。
 「な、なんなのよ」
 椅子に座ったまま上ずった声で夏美を見上げるクラスメイト。
 「……う」
 夏美はぼそっと呟いた。小さな声で何を言っているのか聞こえない。
 それは目の前のクラスメイトも同じようだ。怪訝な顔で夏美を見上げる。
 「はあ?なんて言ったの?」
 「違う!!」
 突然の大声。
 夏美はクラスメイトの胸ぐらを掴んで持ち上げた。
 大声を出したのが夏美だと、やっと気がついた。
 「お兄さんとハル先輩はそんな関係じゃない!!」
 教室に悲鳴じみた夏美の声が響く。
 「お兄さんは私を好きって言ってくれた!!私と一緒にいたいって言ってくれた!!」
 いつもの夏美からは想像もできないような怖い表情。
 クラスメイトの表情が恐怖に歪む。
 「お兄さんの恋人は、私なの!!」
 夏美はクラスメイトを睨んだ。睨まれたクラスメイトは恐怖に震えるだけ。
 突然の事態に教室は静まり返ったまま。
 「な、夏美」
 私は恐る恐る声をかけた。
 「そ、その、離してあげたら」
 私の言葉に夏美は我に返ったように手を離した。
 解放されたクラスメイトは床にへたり込んだ。そのまま震えながら脅えたように後ずさる。みっともない姿とは思わなかった。
 それぐらい夏美が怖かった。
 夏美は泣きそうな顔で立ち尽くす。
 誰も何も言わない。恐怖に凍りついたまま。
 夏美は走って教室を出て行った。
 誰も追わなかった。
 私も追えなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 頭の中がぐちゃぐちゃのまま私は走った。
 (確かにね。夏美よりお似合いじゃないの)
 クラスメイトの言葉が脳裏に何度も木霊する。
 違う。
 絶対に違う。
 お兄さんの恋人は私。
568三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:34:43 ID:fkbJ2FCv
 ハル先輩じゃない。
 私なの。
 「夏美ちゃん」
 聞き覚えのある柔らかい声が耳に届く。
 思わず立ち止まる。
 「廊下を走っちゃダメだよ」
 ハル先輩が私を見て眉をひそめる。
 「どうしたの。何かあったの」
 「…何でもないです」
 私はそう言ってハル先輩から離れようとした。
 今はハル先輩と話したくなかった。
 それなのに、ハル先輩は私の腕を掴む。
 「嘘でしょ。何があったのかな」
 白くて綺麗な手が私の手を離さない。
 温かくて柔らかい感触。
 ずっとハル先輩はこの手でお兄さんに触れていたんだ。
 「離してください!!」
 気がつけば私はハル先輩の手を乱暴に振り払っていた。
 「夏美ちゃん」
 哀れむような視線を向けるハル先輩。
 その視線に我に返る。
 私、何をやっているんだろう。
 「ご、ごめんなさい」
 「夏美ちゃん。ついて来て」
 そう言ってハル先輩は歩きだした。
 「どこに行くのですか」
 「生徒会準備室。お話しようよ」

 生徒会準備室に入り椅子に座る私とハル先輩。
 前に来たのはそれほど昔じゃないはずなのに、久しぶりに感じる。
 でも懐かしくは感じない。
 「夏美ちゃん。どうしたの。何があったのかな」
 ハル先輩の問いかけに、何も答えられない。
 何て言えばいいの。
 ハル先輩はお兄さんと付き合っているのですか、なんて聞けない。
 「もしかしたら、梓ちゃんの事かな?」
 予想外の事に面食らう。
 梓?お兄さんと何かあったの?
 「梓とお兄さんに何かあったのですか?」
 「うんうん、何かあったのかなと思って」
 不思議そうに私を見るハル先輩。
 どういう事だろう。
 「何でお兄さんと梓の間に何かあるなんて思ったのですか」
 胸がざわつく。
 梓とお兄さんは血のつながった兄妹なのに。
 「…本気で言ってるの?」
 ハル先輩は哀れむように私を見つめた。
 その視線が癇に障る。
 「梓とお兄さんは兄妹です」
 「兄妹だけど、梓ちゃんが幸一くんを好きなのは知っているでしょ?」
 それは知っている。その事で梓と喧嘩した事もあった。
 でも、今はもうそんな事は無い。私は梓のいる時にお兄さんの家にお邪魔する事はしない。梓の領域を侵すようなことはしない。
 だからお兄さんのお見舞いに行かなかった。梓とお兄さんが二人でいられる空間に足を踏み入れなかった。
 「二人は一緒に住んでいるでしょ。ご両親も共働きだし帰ってくるのが遅いから、二人っきりの時間も多いよ」
 ハル先輩は何を言っているのだろう。
 あの二人は兄妹だから、一緒に住んでいるのは当然だし、二人っきりでも何の問題ない。
 問題ないはずなのに。
 「好きな人と同じ屋根の下で何の問題もないと思うのかな?」
 ハル先輩の言葉が胸に入り込む。
 「梓ちゃん、すごく積極的になったよね。きっと他の人の目が無い時はもっと積極的だと思うよ」
569三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:35:50 ID:fkbJ2FCv
 積極的。
 確かにそれはそうかもしれない。学校でもそう。お兄さんに抱きついたり、お弁当を持って行ったりしている。
 人目のある学校であの調子なら、家で二人きりの時はどうなのだろう。
 「もしかしたら、幸一くんを誘惑しているかもしれないよ」
 誘惑。
 梓が。
 お兄さんを。
 「梓ちゃん、美人だもんね。血のつながった妹でも、あんな綺麗な子に迫られたら断れるのかな」
 確かに梓は美人だ。
 艶のある綺麗な髪。眩しくて滑らかな白い肌。綺麗な唇。
 ハル先輩みたいに大人の成熟した体じゃないけど、少女から大人の女性になろうとしている体は、花咲く前の蕾の様な可憐さ。整った顔はお人形のよう。
 そしてお人形ではない瞳は強烈な意志を放っている。
 一目しただけで忘れられない綺麗さ。
 でも、何の問題があるの。
 お兄さんと梓は血のつながった兄妹。
 妹がいくら綺麗でも、お兄さんには関係ない。
 「確かに幸一くんは立派だし、そんな趣味は無いよ。例え梓ちゃんが迫っても、幸一くんは断るよ。でもね、梓ちゃんがその気になれば幸一くんの意思なんて関係ないよ」
 ハル先輩の言っている意味が分からない。
 お兄さんの意思は関係ないって、いったいどういう事なのだろう。
 「梓ちゃんの腕っ節は知っているでしょ?」
 知っている。梓がお兄さんを投げ飛ばしたところを見た。
 私は柔道に関しては何も知らないけど、梓はお兄さんよりはるかに強い事は見て分かった。
 「梓ちゃんがその気になればね、無理矢理でもすることができるんだよ」
 ハル先輩の言葉が胸を貫く。
 「変な事言わないでください」
 私の声はかすれていた。
 ハル先輩の言う事に何も言わずに耳を傾けていた事に、今になって気がついた。
 「もちろん私の考えすぎだと思うよ。ただね、いくつかおかしい事があるから気になっただけだよ」
 「おかしなことって何ですか」
 「幸一くんの体調不良、長引いたでしょ。幸一くんね、健康だし鍛えているから滅多に体調を崩さないんだよ。体調を崩してもすぐに治ってた。なのに今回は長引いた。何かあったのかと思ったけど、幸一くんは何も言わないし」
 お兄さんの体調不良。
 私も一回だけお見舞いに行った。
 ハル先輩がいたあの日。
 疲れ切ったお兄さんの寝顔。
 「だから何かあったのかと思ったの。私の思いすごしだと思うけど」
 私は唇をかみしめた。
 「梓はそんなことしません。お兄さんを不幸にする事なんてしません」
 梓だってお兄さんを好きなのだから。
 好きな人に、そんな事をするはずない。
 ハル先輩は私を見下ろした。瞳に哀れみの感情が浮かべて。
 「夏美ちゃんは梓ちゃんの事を何も分かっていないね」
 「私は梓の友達です」
 「私は梓ちゃんのお姉ちゃんだよ」
 私は言葉を失った。
 確かに、一緒にいた時間だけならハル先輩の方がはるかに長い。
 「梓ちゃんね、すごく執念深いよ。だって幸一くんをそばに縛り付けるためだけに何年間も嫌いなふりをしていたんだよ。幸一くんを好きなのに、それを隠して。どれだけ大変か分かるのかな?」
 ハル先輩は笑った。乾いた笑い。
 「それだけの事をしてきたのは、幸一くんを誰にも渡したくないからだよ。それなのに今更になって幸一くんを諦められると思うの?」
 お兄さんを諦める。
 お兄さんの隣に自分以外の女の子がいるのを見る。
 お兄さんと他の女の子が抱き合っているのを見る。
 そんな事、私にはできない。
 でも、だからってお兄さんを不幸にするようなこともできない。
 私だったら、迷って結局何もできないと思う。
 でも、梓は、梓なら、どうするのだろう。
 いえ、どうしたのだろう。
 「私の思いすごしだと思うけどね」
 そう言ってハル先輩は肩をすくめた。
 分からない。何が本当なのか。どうすればいいのか。
 お兄さんを信じていいのか、それすらも。
570三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:36:53 ID:fkbJ2FCv
 昼休みでごった返す廊下で、人々の視線が僕達に集中する。
 そんな事を気にせずに僕の手を引っ張る梓。
 はっきり言って恥ずかしい。
 でも、手を離してと言っても梓は笑うだけ。
 嬉しそうな梓を見ていると、強くは言えなかった。
 梓が進むにつれて人が少なくなる。階段を上り、屋上の扉をくぐる。
 強風が梓の長い髪の毛を揺らす。強い日差しが降り注ぐ。
 誰もいない。目も覚めるような雲ひとつない蒼穹。
 もうそろそろ衣替えの季節だ。
 僕と梓はベンチに座った。
 「兄さん。これ」
 梓は僕にお弁当を差し出した。
 今日の朝、梓は僕にお弁当を渡さなかった。梓の教室に向かった目的の一つはお弁当を受け取ることだった。
 お弁当を受け取り蓋をあける。炊き込みご飯にかぼちゃの煮つけ、ほうれん草のおひたし、魚の塩焼き、うさぎの林檎。
 丁寧に作られているのが一目で分かる。病み上がりを考慮した、ビタミンたっぷりのお弁当。
 「頂きます」
 お弁当を口にする。おいしい。
 「どう?」
 「…おいしい」
 「良かった」
 梓は微笑んだ。柔らかい笑み。
 二人で黙々とお弁当を食べる。梓は微笑みながら僕を見ていた。
 幸せそうな柔らかい笑み。梓がこんな笑顔をするのを久しぶりに見た気がする。
 思えば、体調を崩している時は本当にお世話になった。
 今度、何かお礼しないと。
 そんな事を考えているうちに食べ終え、お弁当に蓋をする。
 「ごちそうさま」
 僕は梓を見た。大切なのはこれからだ。
 梓は、僕に何の用なのだろうか。
 わざわざお昼休みに呼びつけるぐらいだ。
 急を要する用事なのだろうか。
 あるいは、人目を避けて離したい用事なのだろうか。
 「梓」
 「なに?」
 でも、微笑みながら僕を見る梓を見ていると、そんな用事があるとは思えない。
 「僕に話って何?」
 「何の事?」
 梓の言葉に耳を疑った。そんな僕を不思議そうに見る梓。
 「僕に話があるって言わなかった?」
 梓は不機嫌そうな表情を浮かべた。
 「用事が無いとお昼を一緒にしちゃいけないの」
 その様子に全てを理解した。
 梓は僕に用事なんてない。ただ単に、僕と夏美ちゃんが一緒にいるのが気にくわなかっただけ。
 それだけの理由で僕に話があると嘘をついて、僕と夏美ちゃんを引き離した。
 泣きそうな表情の夏美ちゃんが脳裏に浮かぶ。
 お昼の時間はまだある。僕は立ち上がった。
 「お弁当、ありがとう」
 「どこに行くの」
 「夏美ちゃんのもとに」
 歩こうとする僕の袖を梓が掴む。
 「離して」
 「離さない」
 僕の袖を掴む梓のほっそりとした白い手を僕は掴んだ。引き離そうとしたら、もう片方の梓の手が重ねられる。
 手首の関節が軋む音が聞こえた。
 「夏美のもとに行かせない」
 さらに手首の関節が軋む。激痛が走る。
 振りほどこうにも、腕が動かない。
 「私を置いて夏美のもとに行くなら、兄さんの両手両足をへし折る」
 手首に走る痛みが全身を駆け巡る。
 額に汗が浮かぶ。決して暑さのせいではない。
571三つの鎖 24 前編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/21(水) 22:38:49 ID:fkbJ2FCv
 「そうすれば兄さんはどこにも行けない。私の傍から離れられない」
 梓の視線が僕を射抜く。黒い水晶のような瞳が僕には理解できない奇妙な光を湛えている。
 恐怖と痛みに、背筋が凍る。
 「私ね、兄さんが体調不良で寝込んでいる時ね、幸せだった」
 梓の白い手が僕の頬に触れる。
 人の手とは思えない、焼けるような熱さ。
 「兄さんの傍にいられたから。兄さんを一人占め出来たから」
 言えない。夏美ちゃんと春子がお見舞いに来てくれた事を。
 特に春子は毎日のように来てくれた事を。
 もし梓が知ったら。
 「もし夏美や春子が来たら、両足をへし折ってでも来られないようにするつもりだった」
 僕の考えを読んだかのような梓の言葉。
 恐怖に震えそうになるのを必死にこらえる。
 まさか、知っているのか。
 「兄さん。座って」
 梓に手をひかれるまま僕はベンチに座った。
 僕にもたれかかる梓。背中に梓の腕が回される。
 「誰にも兄さんを渡さない」
 僕に抱きついたまま梓は囁く。
 「愛している」
 僕は何も言えなかった。







投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
ありがとうございました。
HPで登場人物の人気投票を行っていますので、よろしければご協力ください。

ttp://threechain.x.fc2.com/index.html
572名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 23:44:03 ID:KyKVY5Qj
乙です!

梓、超攻撃型になったな…
573名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 23:58:17 ID:7crMvPTM
GJです
夏美がいよいよもって不憫&危険な状態に・・・
574名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 00:48:05 ID:3YdTsSZx
夏美は崩壊の兆し有りだな…一気に依存型のヤン化しそうだな。
春子はコェエエエ!!!漁夫の利を狙ってるのか…何か全てを知って謀ってる様な気もする。
梓は一番報われないな…逆レで身体は手に入っても‥決して心は手に入らないと言う…新事実が見つからない限りラスボス決定でしょう。
そして幸一君‥物語が進む度に生存フラグが減ってくるw一番不幸な人だ‥真面目に懸命に行動しても三つの鎖で縛られると言うまさしく悲劇のヒーローだ。
最後に作者様gj‥今後の展開に悩まれてご苦労されてるかもしれませんが…是非頑張って頂きたい。
575名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 02:57:43 ID:/cTgaZWe
GJすぎるぜ……。
576名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 03:06:19 ID:DvJN1472
>>574お前は氏んどけ
テメーみてーなおめでたい脳味噌もったキモメンピザヲタニートがくせぇ書き込みしてんじゃねー
作品の価値を下げてんのはテメーだよ。
いい加減気づけいつもタラタラと長ったらしいもん書きやがって
3個の鎖GJ
春子ペロペロ(^ω^)
577名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 05:17:54 ID:vq9L1t7V
夏ですよー
色々とスルー力検定実施中ですよー

>>571
GJです
春子、じわじわと絡めとりにきてるな…
578名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 07:15:02 ID:Xox989SC
話数をもって
キモ化やヤン化になる過程を描いてもらうと
深みがあっておもしろいね
GJ
579兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:04:19 ID:3acOhnNG
書いてみました。割と長くなりそうな感じです。あとエロはあまり期待しないでください、描写力ないと思うので……。では。



「朝……6時か……」

ふと目が覚める。携帯電話の時計は現在の時刻が[AM6:00]と表示している。

「あぁ……あと10分だけ寝よう……」

学校に行くにはそろそろ起きなければならない時間なのは重々承知。しかし無理なのだ。俺、橘夏紀は極めて朝に弱い。いや
自分が弱いなどとそう簡単に認めるのは嫌だな……。訂正しよう、朝が俺、橘夏紀に強いのだ。自分が弱い訳では決してない
と今断言しておくことにして。さて、おやすみなさい……

「……ちゃん……きて……」

グースカ

「お兄ちゃん!起きて!今すぐ起きないと蹴るよ!バシッ」

「痛いよ優姫……」

制服にエプロン姿の女子がお玉片手に布団に包まりまるで芋虫の様になっている俺をゲシゲシと蹴る。ふん、こんなもので起
きてたまるか……

「お兄ちゃん!今すぐ起きないとお玉で頭叩k……」

言い終わる前に既に頭に向けてお玉を振り下ろそうとする右手の気配を察知した俺は自分に巻き付けていた布団をはぐと直ぐ
に起き上がった。

「寒い……」

「あったりまえでしょっ!?こんな冷房ガンガンにして毛布掛けて寝るなんて信じられない!ばっかじゃないの?」

うるせぇ妹だ……。これが俺の睡眠スタイルなんだよ!

「早く着替えて降りてきてね。ご飯もうできてるんだから。」

「はいはい。分かったよ優姫。」
「もう!」



「ふあ〜あ〜眠っ」

「早く食べよ。遅刻しちゃうよ。」

「あ、お天気お姉さん変わったんだ……」ムシャムシャ

毎朝見ている朝の情報番組のお天気お姉さんが変わっているのに気が付く。前のお姉さんもそこそこ可愛かったが……

「やっべ可愛い過ぎだろおい」ムシャムシャ

580兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:05:08 ID:3acOhnNG
朝の日差しに艶やかな黒髪が光り、もはや太陽なんかより眩しい笑顔。これはやばい、お天気お姉さんマニアの俺もここまで
レベルの高いお姉さんにはかれこれ十数年お目にかかってない。え?まだ18歳の俺がそんな昔からお天気お姉さんマニアを
やっていたか怪しいって?なにを言いますか!そもそも俺がお天気お姉さんマニアとして目覚めたきっかけは……

プツン

「あ!?なんで消すんだよ!テレビ見てんのに!」

「だってお兄ちゃん、さっきからテレビばっかり見て箸が進んでないんだもん。……お天気お姉さんに見とれてたみたいだし。
キモッ!こんな女、どこがいいのよ!?」

「はぁ!?べ、別に見とれてなんかいねぇよ……ただ俺はマニアとしての朝の務めをだな」

「あっそ……。せっかく作ったのにさ……どうせまずいから食べないんでしょ……」

「ば、ばか……まずい訳無いだろうが!お前の料理の腕前はお前の料理を一番食してきたであろう兄である俺が保証する!」

「ふん!………ほんと……?」

「ほんと!ほんと!いやあ美味いなあー!この味噌汁はいい出汁出てるし焼鮭も美味いし、そもそも朝ご飯に和食というチョ
イスは日本人の心を忘れない素晴らしい選択だな!うんうん、我が妹にしておくにはもったいないくらい良くできた妹をもっ
てお兄ちゃん、幸せだなあー!あははは……」

「そっか……!じゃあいっぱい食べてね!まだ鮭あるよ?ご飯のおかわりも!」ニコニコ

「お、おう!いただこう!」

ふぅ……。ったく。普段はツンケンしてるくせに変なとこでナイーブなんだよなあ優姫は。



「お兄ちゃん早くしてよ!私まで遅刻しちゃうじゃん!……だから早く起きなさいって言ったのに!」

「ごめんごめん。……よし準備できた。行こう。」

「早歩きね!」

いつもより幾分か早歩きで駅へ向かう。
581兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:06:07 ID:3acOhnNG
俺と妹が通う高校は家の近くの駅から5駅。近くも遠くもないのだが朝の混雑はかなりのもので俺は毎朝妹のボディーガード
的な役割を担わされている。女性専用車両は香水の匂いがきつくて嫌だと言い出し、役立たずのお兄ちゃんでも私のこと守る
くらいはできるでしょ?ていうか兄として妹のこと守るのは当然よ!と、結局はなんだかんだ言い包められて俺は毎朝妹のガ
ードに徹しているのだが……。電車内で俺の身体が当たると『触んないでよ!』だの『お兄ちゃんに痴漢されるなんて最悪!』
だの勝手極まりないことを言いやがる。ったく……面倒くせぇ妹だよ……

「お兄ちゃん、触んないでよね……。もし触ったら『この人痴漢です』って大声出してやるんだから!……でもちゃんと守り
なさいよねっ!」

「アイマム」

「何?その返事?ちゃんと分かったの?守ってよね!?」

「イェス・マイ・ロード」

「……ばかおにい」

そうこうしているうちに降りる駅に着く。駅を降りて改札を出ると妹の友達が待っている。

「じゃあ私行くから。着いてこないでよねっ」

いや、『着いてこないでよね』って同じ学校なんだから無理やん……

「あ、優姫のことよろしくね」

と妹の友達に挨拶すると、その娘は笑顔で礼を返してくれる。はわぁーかわゆいのぉ

「いいのよこんな奴にいちいち構わなくて!」

「え?でも、お兄さん優姫ちゃんのこと朝は守ってくれるんでしょ?それにちょっとカッコイイしさ〜」

「あんなやつどこが!」トコトコ

ああ、行っちゃったよー。さて俺も自販機で飲み物買ったら学校に向かおう。

「よう夏紀ぃ!朝からご苦労なこったあ!」

こいつは悪友の田口。ちなみに田口はエロと女とゲーム、アニメにほんのちょっとのロリコン成分で出来ています。ちなみに
中学からずっと一緒のクラスだ。

「なんか失礼なこと考えてただろ……。それはそうと妹ちゃん、今日も可愛いなあ!お義兄さ〜ん!」

「お前にだけは義兄呼ばわりされたくねぇ……。つかあいつは外じゃ猫被ってんだよ。ちょっと見た目が可愛いからって調子乗ってんだぜきっと。」

「おや〜?見た目の可愛さは否定しないのかね〜?……それに外では猫被ってるってことは、逆に言えば兄貴には本当の自分
を安心して見せられるってことじゃね? ……うはぁ!『大好きなお兄ちゃんには本当の私を見せてもいいよねっ?』ってこと
じゃね!?」ハアハア

田口のやろうゲームのやり過ぎだ。主にエロゲの。……あいつに限ってそんなことは絶対ないっつーの。まさか妹である優姫
が兄である俺を好き、とか。ないない!絶対ありえねぇし!

582兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:08:26 ID:3acOhnNG
「まあそれはそうと優姫ちゃんのお友達の女の子も可愛いかったな!くぅ〜あんな妹欲しいぜ!」

「田口、それは同感だ……!」

馬鹿な話をしつつあっという間に学校に着く。靴箱に靴を入れようとすると

「あ?誰か間違えて俺の靴箱に上履き入れてるっぽいし……」

「どれ……マジだ。つかなんで上履き?」

田口が首を傾げて不思議がる。

「分からん。さっぱり分からん。つかこれ……雪村って名前書いてある。」

雪村楓(ゆきむらかえで)。クラスの委員長をやってる女子。雪村は典型的な黒髪三編み眼鏡の、ザ・委員長って感じの女子だ。
委員長とはいっても地味でいつも自信なさ気なやつだ。無口で友達もいそうにない。俺も一度話したことがあるくらいなのだ
が。つかなんであいつの上履きが俺の靴箱に……?

「おい……夏紀。委員長がなんか探してるっぽいぞ……?」

雪村がそわそわしながら昇降口を何か捜しながらうろうろしている。すれ違うクラスメイトは見て見ぬふりでその横を通り過
ぎでいく。

「あ、おい夏紀」

「雪村、なあ」

その時の俺は特に話しかけることに躊躇はなかった。

「なあ、もしかして上履き探してたり……する?」

「え……あ、はい……。あの……」

「あ、俺橘。クラス一緒だけど知ってる?つか前一度話した事あったよな、覚えてる?」

「あ……はい覚えてます、橘君。それでどうして上履きのこと……」

「ああ。いやなんか雪村の上履きが俺の靴箱に入っててさ。お前が間違えたとは思わないけど……ほれ。」

雪村に上履きを渡す。

「あ、ありがとうございます。橘君。」

小動物のように小さな頭を下げて礼を返す雪村。

583兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:09:44 ID:3acOhnNG
「ん。大丈夫か?雪村?」

「はい。大丈夫……です……」

何故この時、俺はあんな事をしたのか良く分からない。本当に何となく、雪村の頭に手を乗せてポンポンと軽くたたいた。

「ふぇ……?橘君……?」

「いや、何かさ……。これから困ったことあったら言えよ。クラスメイトなんだしさ……」

良く分からない事を口走った俺。

「は……はい……。……ありがと、橘君……」

消え入りそうな声で礼を言う雪村。

「それじゃ……私行きます、職員室に名簿を取りに行かなければならないので……」

「お、おう!じゃあな!俺も教室行くわ。」

「はい……。ありがと……」タッタッタッタッ

「夏紀、委員長と親しいのか?」
「いや……別に少し話したことある程度だよ。」

「ふ〜ん。そっか。しかし委員長って地味な割にはなかなかの上物とは思わんかね!?なんつーか……清楚一色、みたいな?
あれはあれでいいよな〜」

「しらねぇよ。……まあでもなんかほっとけねぇよな、あいつ。」

雪村とは大分前に偶然会話を交わしたことがある程度だったがそれ以来、何となく雪村のことが気になっていた。

「それはそうと教室行こうぜ。」

「……ああ。」



昼休みになった。この時俺は自分が重大なミスを犯してしまったことに気付く。

584兄妹恋人:2010/07/22(木) 19:10:47 ID:3acOhnNG
今日はこの辺にしときます。続きはまた近いうちに投下しますです
585名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 19:23:35 ID:om3TALVK
gj
586名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 19:53:59 ID:bVlX6wNE
VIPみたいな文章だな
587名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 20:22:12 ID:wB6rOpKs
>>586
会話文が多いとそう感じるな
588名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 20:22:45 ID:wB6rOpKs
sage忘れてすいません。
589名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 23:14:40 ID:MjWmeuum
なんにしろGJ!
続きも期待してます
590名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 23:41:46 ID:vq9L1t7V
GJ
セリフの後の擬音もちゃんと描写すればいいのになあ
と思ったけどトコトコがかわいかったのでまあこれはこれで
591名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 22:38:22 ID:lTT1TSll
このスレで丸一日近くレスが無いのは珍しいなw‥まさかドッキリとか?
592名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:38:40 ID:XVgMMuAn
SSを書く上で文章の参考にしてる作家とかっている?
593名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 08:50:04 ID:rFlUDZwr
奈須きのこ
594名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 08:51:40 ID:f++L4pQB
「や、め────」
 クラッシュする。
 融ける壁。解ける意味。説ける自己。可変透過率
の滑らかさ。乱交する時間。観測生命と実行機能。
小指のない手。頭のない目。走っていく絨毯。一
重。二重。三重。とんで七百七十の檻。破裂する
風船。初めから納まらないという約束。毒
と蜜。赤と胎盤。水銀灯と誘蛾灯。多重次元に屈折
する光源観測、泳ぐ魚、真相神澱にて詠う螺子。道
具、道具、道具。際限なく再現せず育成し幾星へ意
義はなく意志はなく。叶うよりは楽。他の誰でもな
いワタシ。洩れた深海。微視細菌より生じる矛盾。
俯瞰するクォーク。すべて否定。螺鈿細工をして無
形、屍庫から発達してエンブリオ、そのありえざる
法則に呪いこそ祝いを。
595名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:02:22 ID:E0RkgrDo
>>593
ハハハ、こやつめ。
596名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 13:18:41 ID:64q27d4j
>>592
ブラッドベリ
SSじゃないけど
597名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 16:42:58 ID:YVyEb6kT
「家族、家族ってあんまりベタベタすんな暑苦しい。そんなに家族がいいなら親父にもくっつけよ」
「何を言ってるんだ? 父は母のものだろう。必要以上の接触は人倫にもとる」
何言ってんだこいつ熱で脳をやられたのかみたいな目で見られました。
598名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:05:40 ID:VnkbMYL/
兄は妹のもの……?
599名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:07:51 ID:KF/t7/MK
いや、弟は姉の所有物ってことだろ
600名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:54:47 ID:PpmhJvV9
そして始まるキモ姉VSキモウトのハルマゲドン
601名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 18:57:00 ID:Exa6y06E
>>597
「そうか、ならば結婚すれば、俺は妻のものということだな。」
602名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 01:02:44 ID:/axJhwzz
キモウトの頭をヨシヨシしたらどうなるの?
603名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 01:45:42 ID:aB4Ovlae
>>602
濡れそぼった肉壷でシゴキ倒されます
604名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 03:47:13 ID:1bjTjhJD
>>601
「そのとおり、だから君は私の物なのだよ。さぁ、おいで。夜の営みを……」

こう続くのか?
605名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 13:38:53 ID:a3LPOeb2
わっふるわっ(ry
606名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 17:27:50 ID:a3LPOeb2
…と、気付けばもうそろそろ残り容量に注意だな
607名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 21:25:56 ID:tNJ6B47R
608名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 00:03:08 ID:lmITIDfE
クールに狂ってるキモウトは最高やで
609名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 15:56:32 ID:aWLf1UCV
>>608お兄ちゃんのゴミ箱の中から、噛んだあとの
クールミントガムみつけちゃった♪」
610名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 20:59:48 ID:fSKNvbOm
うめ
611名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:06:48 ID:rEc2Gzh/
L
612名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 23:52:16 ID:C+OYjdzx
エロ下着の上に普段着のキモウトって良くね?
613名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 00:56:28 ID:26BtkhsI
すまんがよくわからん

エロ下着の上に普段着のキモ姉は良いと思う
614名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 02:35:23 ID:BQUdyHxI
>>613
姉乙
615名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 02:55:00 ID:kQqAWH8B
私が服の下にこんなのを着けてるなんてバレたら大変な事になる
一緒にいる兄(弟)もタダでは済まないだろう
バレてほしくなかったら…どうすればいいか分かるよね♪

こんな流れか
616名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:09:06 ID:zkLsjn1n
普段着の上にエロ下着がいい
617名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 09:28:10 ID:26BtkhsI
>>615
兄(弟)「やめろ脱ぐな。つかハァハァ言いながら瞬きもせずに俺を見つめるな恐ろしい」

こんな感じ?
618名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 13:34:55 ID:KOKGELpG
619名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:20:25 ID:76Au+3En
兄弟「生身完全非露出緊縛の放置プレーに勃起」
620名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 18:03:18 ID:MBErFrJ8
  俺たちageageブラザーズ
今日もネタないのにageるからな
 ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
  ∧_∧  .∧_∧     age
 (・∀・∩)(∩・∀・)  age
 (つ  丿 (   ⊂) age
  ( ヽノ   ヽ/  )   age
  し(_)   (_)J
621名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 23:28:33 ID:RCB8R7qS
キモ姉に見せかけたキモウトものはないかい
622名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 23:40:02 ID:1AQaQYJz
test
623名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 23:50:12 ID:Wrkb9NnY
さとがえりこわい
624名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 00:00:50 ID:26BtkhsI
久しぶりに実家に帰ってみると8年前に死んだはずの姉がいた
だが実はそれは今まで別々に暮らしていたはずの腹違いの妹の成長した姿だった

とか
625名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 00:28:02 ID:Y5P5dksU
妹に乗り移るキモ姉
626名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 00:44:22 ID:1ks8fWID
折角あの糞姉を葬ってやったのに…まさか幽霊になって私に取り憑いて初めてを使っちゃうなんて…ふぇぇぇん!
でもこれでお兄ちゃんと既成事実できたって事なんだよね…えへへ
じゃ、今度はちゃんと私の意識がある状態でシてもらおうかな♪
627名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 17:47:41 ID:S6h9Ne+K
いっその事、幽霊になったキモ姉orキモウトが兄にとりつき、「えいっ!実力行使!」という展開はどうよ
628名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 18:07:05 ID:vTAP4hFU
実力行使って姉(妹)には実体が無いのに何をするの?
629名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 18:38:33 ID:dAhN2sBM
>>628
自分を想いながらオナニー





不毛過ぎる……
630名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:17:17 ID:1ks8fWID
瞑想→幽体離脱→兄に憑依→兄の体を操って自分の体をレイプ
…しようとする直前で我に返る「こんな事したって満たされる気がしない」
631名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:53:17 ID:Y5P5dksU
泥棒猫の体を乗っ取る
632名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 20:59:56 ID:SA0ABBaT
気が付くと、私は地面に向かって真っ逆さまに落下しているところだった。
さようなら。お父さん、お母さん、そして○○君――。


ドシャッ!
633名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:27:55 ID:gnq2YgI6
究極、弟と体をチェンジ!!
634名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 21:35:41 ID:vkTmq1tm
>>627
姉妹「そうだ!兄弟の携帯に取り憑いて今の私のあえぎ声や、
   私のセクシー画像をいたずら電話や迷惑メールみたいに
   送り続けたらいいんだわ!私って天才\(^o^)/
   ありがとう携帯電話を進化させてくれたメーカーの中の人(;_;)」
635名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 23:48:22 ID:WE94PrqQ
キモ姉「ワタシが好きにな〜る」クルクルクル
636名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 00:20:01 ID:/tA/FCce
>>634
着信音、喘ぎ声に変えられてたら怖いな。
「あっあんあんっ、〇〇ちゃんのおち〇ぽがお姉ちゃんの子宮突きまくってるよぉ」とかw
637名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 00:32:29 ID:ZzJoFpPg
1:兄に彼女ができたショックでキモウト自殺。魂が兄の体の中に入り込む
2:兄の周りで怪奇現象が多発。曰く「妹の声が聞こえた」「妹の気配がする」etc
3:兄が彼女との初Hに漕ぎ着けたら繋がった性器を通じてキモウトの魂が彼女の体へ侵入
4:キモウトの魂が彼女の人格を封印or消去して体を乗っ取る
5:その後は彼女の中身がキモウトになった事を隠し続けるなりカミングアウトするなり

…最初から兄じゃなく彼女に取り憑け?ごもっとも
638名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 00:42:04 ID:2xFgN3KC
そうだ!お兄ちゃんも幽霊になればいいんだ!
639名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:51:44 ID:MP7wrhnw
時空の壁を越えて泥棒猫に転生
自分同士の不毛な争いが始まる
640名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 01:56:08 ID:AaNpTO3h
ヤ〇デ〇スレの保管庫に全く同じシチュの作品が有った…もう何も信じないカナ
641名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 02:07:28 ID:MP7wrhnw
あれは自分で人格をゴニョゴニョだろ
642名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 08:12:33 ID:36vByQiK
泥棒猫の体を乗っ取り
初Hから妊娠までこぎつけた後
妹しか知らない情報を兄にカミングアウトするキモウト
643名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 10:14:01 ID:zodNuL0L
しかしよく考えたら肉体は泥棒猫のものなんだからあくまで子供は泥棒猫のなんだよな
H〜妊娠〜出産を自分が体験するって事くらいしか…
644名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 13:50:39 ID:f3+9iClu
長身・巨乳・ムチムチの妹に甘えられまくる兄が見たいです
645名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 15:28:15 ID:1tAf3n2r
>>643
出産後に泥棒猫死亡
子供が大きくなったら以下ループ
646名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 16:49:35 ID:dhzQpbjI
>>643
しかし兄はロリ・巨乳・病弱な姉の世話でかかりきりだったりして
647名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 16:50:41 ID:dhzQpbjI
間違えた>>644
648名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 19:08:45 ID:w0XTZy9t
>>636
『特捜最前線』のサブタイの、

『恐怖のテレフォンセックス魔』

を彷彿させますね。
649名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 19:09:14 ID:Gd7g4maa
>>646
ロリ・病弱は妹と正反対だけど巨乳だけは共通してるのか
650三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 22:56:36 ID:GBD9RRaR
三つの鎖 24 後編です。

※以下注意
エロあり
血のつながらない自称姉あり

投下します
651三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 22:57:04 ID:GBD9RRaR
 放課後、帰りのホームルームが終わると同時に幸一くんは早足に教室を出た。
 その様子を不思議そうに見る耕平君。
 少しして、梓ちゃんが教室にやってきた。
 私と視線が合う。梓ちゃんはすぐに視線を逸らして教室を見回した。耕平君を手招きして呼び寄せる。
 「耕平さん。兄さんを知りませんか」
 「あいつもう帰ったで」
 梓ちゃんの瞳の色が揺れる。背筋の寒くなるような瞳の輝き。
 危険な光を放つ梓ちゃんの瞳に気圧されたかのような耕平君。それでも視線を逸らさないあたり、幸一くんの親友だと思う。
 「どこに行ったかご存知ですか」
 「いや、知らへんわ」
 無言で耕平君を睨みつける梓ちゃん。
 耕平くんが知っているかどうかは私も分からない。けど、もし知っていたとしても今の梓ちゃんには教えないだろう。
 「…お手数をおかけしました。失礼します」
 梓ちゃんは去って行った。
 耕平君は自分の席に座って、ため息をついた。
 「大丈夫?」
 私は耕平君に近づき、話しかけた。
 耕平くんは顔を上げた。疲れた表情は恐怖で微かにひきつっている。
 「村田、梓ちゃんなんかあったんか?」
 「どういう事?」
 「なんか普通やない」
 耕平くんは拳を握りしめた。微かに震えている。
 「普通やない。話してるだけやのに、殺されるかと思った」
 耕平くんは私を見上げた。
 「幸一のやつ、大丈夫なんか」
 「本調子じゃないけど、体調は良くなっているみたいだよ」
 「誤魔化すなや。俺の言いたい事はそんなんちゃうわ」
 私を睨みつける耕平君。
 馬鹿な子。
 君には何の関係も無いのに。
 「私、よく分からないよ」
 ため息をつく耕平君。
 「じゃあね」
 私は教室を出た。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 通学路を僕は走る。
 春も終わりに近づいているせいか、暑い。
 時々後ろを振り向いて確認する。
 梓がいないかを。
 幸い梓に追いつかれる事なく目的地に着く。
 夏美ちゃんのいるマンション。
 階段をのぼりながら、郷愁に近い感情が湧きあがる。ここに来るのは久しぶりに感じる。
 ドアベルを鳴らす。返事は無い。どうやら僕の方が先についたようだ。
 無理もない。授業が終わった瞬間に全力で走ってきた。
 教室でぐずぐずしていると、梓が来そうな予感がした。
 メールで夏美ちゃんとここで待ち合わせをした。学校だと、お昼のようなってしまいそうだから。
 梓。僕の妹。
 僕の事を一人の男として愛していて。夏美ちゃんのお父さんを殺して。
 どう接すればいいのか分からない。
 どうすればいいのかも分からない。
 そんな事を考えていると、階段を上る足音が聞こえてきた。聞き覚えのある足音。
 僕の好きな女の子が、階段を上って姿を現す。
 「お兄さん!」
 夏美ちゃんは泣きそうな顔で僕に抱きついた。
 震える小さな背中。僕はそっと抱きしめた。
 「お、お兄さん、わたし、わたしっ」
 僕の胸に顔をうずめ震える声で僕を呼ぶ夏美ちゃん。
 寂しい思いをさせていた。罪悪感に胸が痛む。
652三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 22:58:27 ID:GBD9RRaR
 夏美ちゃんは顔を上げた。目尻から涙の雫がポロリと落ちる。
 僕はそれをそっと拭った。
 「とりあえず上げてもらえるかな」
 夏美ちゃんは泣き笑いの表情で頷いた。

 仏壇の前で正座し、手を合わせる。
 娘を頼む。雄太さんの手紙が脳裏に浮かぶ。
 「あの、お兄さん」
 夏美ちゃんの声。振り向くとお盆を持った夏美ちゃんが僕を見ている。
 「私、部屋にいますね」
 「僕も行くよ」
 僕は立ち上がって夏美ちゃんの持っているお盆を持った。琥珀色の液体の入ったコップが二つ。
 「ありがとうございます」
 夏美ちゃんの部屋でベッドに並んで座りコップに口をつける。
 アイスティー。走って乾いた喉が潤う。
 「夏美ちゃん」
 夏美ちゃんは僕を見上げた。並んで座っても夏美ちゃんは小さい。
 「その、ごめん。今日のお昼の事も、洋子さんを見送れなかったのも」
 夏美ちゃんは首を横にふるふる振った。
 「私こそお見舞いに行かなくてすいません」
 「いいよ。気を使ってくれてありがとう」
 遠慮してくれたんだろう。
 梓は、女の子が家に来るのを嫌がる。
 春子でも。夏美ちゃんでも。
 夏美ちゃんは僕にもたれかかった。温かくて柔らかい感触。
 僕は夏美ちゃんの髪に触れた。サラサラしていて綺麗な髪の毛。
 「髪の毛、のびたね」
 以前はショートだったのに、今は肩にかかるぐらいの長さになっている。
 「伸ばそうと思いまして」
 夏美ちゃんは顔を上げた。不安そうに僕を見上げる。
 「似合ってるよ」
 僕の言葉にほっとした様子の夏美ちゃん。
 実際、今の髪形もよく似合っている。
 小さい時の春子を思い出す。今でこそ春子の髪は背中に届く長さだけど、小さい時は肩にかかるぐらいの長さだった。活動的な春子は短い髪形を好んでいた。気がつけば今のように伸ばしていた。
 春子はいつから髪を伸ばすようになったのだろう。
 「お兄さん」
 夏美ちゃんの声に慌ててしまった。他の女の子の事を考えているのをばれたのかもしれない。恋人といるのに、他の女の子の事を考えるのは失礼だ。
 「あの、体調は大丈夫ですか」
 「もう大丈夫だよ」
 夏美ちゃんの両手が僕の頬を挟む。上気した頬、うるんだ瞳、甘い香り。
 目を閉じて顔を近づける夏美ちゃん。柔らかそうで小さな唇。僕も目を閉じた。
 お互いの唇が触れる。温かくて柔らかい感触。
 啄ばむように何度もキスしてくる夏美ちゃん。甘い香りと感触に頭がくらくらする。
 口の中に熱い何かがぬるっと入り込む。夏美ちゃんの舌。
 一生懸命に僕の口腔を舐めまわす夏美ちゃんの舌。僕も応えるように舌を絡める。
 僕は夏美ちゃんの背中に腕をまわした。少し強く抱きしめる。服越しに夏美ちゃんの柔らかくて温かい感触を感じる。
 舌を絡め合ううちに、お互いの体が熱くなるのを感じる。
 唇を離す。目を開けると夏美ちゃんの切なそうな表情が目に入る。
 微かに乱れた呼吸。甘い香りが鼻につく。
 「私、寂しかったです」
 僕の胸に頬ずりしながら夏美ちゃんは呟いた。
 「ごめん」
 夏美ちゃんの髪を撫でながら僕は言った。
 顔を上げて僕を見つめる夏美ちゃん。いつもの元気な明るい様子とは違う濡れた視線に頭がくらくらする。
 「…忘れさせてください」
 夏美ちゃんの小さな手が僕のカッターシャツのボタンをはずしていく。僕も夏美ちゃんの制服のボタンをはずす。
 お互いの肌を徐々に晒していく。夏美ちゃんの白くて滑らかな肌。
 露わになった僕の上半身に顔を寄せ、すんすん鼻を鳴らす夏美ちゃん。
 そういえば、走ってきたから汗臭いかもしれない。
 そう考えた瞬間、恥ずかしさを覚える。
653三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 22:59:55 ID:GBD9RRaR
 「ごめん。汗臭いかな」
 夏美ちゃんは顔を上げた。ブラだけで隠された上半身が艶めかしい。夏美ちゃんは何も言わずに僕の鎖骨を舐めた。
 くすぐったい感触に体が震える。夏美ちゃんはさらに僕の上半身に舌を這わせる。
 「…お兄さんの匂いと味がします」
 夏美ちゃんは僕の膝に乗る。視線の高さが同じになる。顔が近い。濡れた瞳が僕を見つめる。
 僕の耳を夏美ちゃんが甘噛みする。くすぐったい。
 「…好きです」
 耳のすぐそばで囁かれる言葉。熱い吐息。
 抱きしめた夏美ちゃんの上半身。直接触れる肌が心地よい。
 僕は夏美ちゃんのブラを外した。形の綺麗な胸が露わになる。恥ずかしそうに身じろぎする夏美ちゃん。
 小さな手が僕の股間をズボン越しに触れる。すでに硬くなっている。
 「…嬉しいです」
 頬を染める夏美ちゃん。夏美ちゃんはベッドを下り、膝をついて僕の股間に顔をうずめた。
 夏美ちゃんはズボンのチャックを開け、僕の剛直を取り出す。
 白くて小さな手が剛直に触れるたびに、自分の意志とは無関係に震える。
 夏美ちゃんは剛直の先端を咥えた。熱い舌が先端をゆっくりと舐める。さらに夏美ちゃんの手が剛直を擦る。
 小さな白い手が剛直をしゅっ、しゅっと擦る。あまりに淫靡な光景に頭に血が上る。
 「ちゅっ、んっ、はむっ、ちゅっ」
 夏美ちゃんの唾液と先走り液でべとべとになって滑りの良くなった剛直を小さな手が擦る。剛直の先端を夏美ちゃんの舌が舐めまわすのが心地よい。
 「んっ、ちゅっ、じゅるっ」
 顔を上げて僕を見つめる夏美ちゃん。濡れたな視線。
 その瞳が、梓とかぶる。
 僕は夏美ちゃんの頭を撫でた。サラサラの髪の感触。嬉しそうに笑う夏美ちゃん。
 夏美ちゃんのむき出しの肩をそっと押した。剛直が夏美ちゃんの口から出てきて、冷たい空気に触れる。
 「もういいよ。ありがとう」
 夏美ちゃんは頬を染めて僕を見上げた。いつもの子供っぽい仕草からは想像もできないほどの艶を否応なしに感じる。
 「お兄さん。全部脱いでくれますか」
 僕は頷いて脱ぎだした。
 夏美ちゃんもスカートを脱ぐ。薄いピンクのショーツと白くて柔らかそうな太ももが露わになる。
 恥ずかしそうにショーツと靴下を脱ぎ、一糸まとわぬ姿になる夏美ちゃん。
 夏美ちゃんの体は綺麗だ。背は低いけど、出るところは出ている。白くて滑らかな肌も綺麗だ。胸の大きさは普通だと思うけど、身長が低いせいか大きく見える。
 「…そんなに見ないでください」
 恥ずかしそうにうつむく夏美ちゃん。可愛い。
 「あの、座っていただけますか」
 僕は夏美ちゃんの言うとおりにベッドに腰掛けた。
 夏美ちゃんは僕の足元に膝ついた。その手には避妊のためのゴム。
 「つけますね」
 夏美ちゃんは僕の足元に跪いた。そして僕の剛直にゴムを着ける。白くて小さな手がたどたどしい手つきでゴムを着ける動きが、妙にエロい。
 立ち上がった夏美ちゃんは僕の肩をそっと押した。ベッドに押し倒された僕を夏美ちゃんは上から見下ろす。
 初めての体位。
 「…今日は全部、私がします」
 頬を染め、濡れた瞳で僕を見下ろす夏美ちゃん。背筋が寒くなるほどの色気を発散している。
 夏美ちゃんの小さな手が剛直に触れる。それを膣の入り口に持ってくる。
 お互いの性器が触れる。ゴム越しにも夏美ちゃんの膣の入り口が濡れているのが分かる。
 「…いきます」
 夏美ちゃんはゆっくりと腰を下ろす。剛直が徐々に夏美ちゃんの中に入っていく。
 「んっ…あっ…ああっ…!」
 少し苦しそうに身をよじる夏美ちゃん。白い胸が揺れる。
 それでも夏美ちゃんは腰を下ろすのをやめない。やがて剛直が全て夏美ちゃんの膣に収まる。剛直の先端が子宮の入り口に当たるのを感じる。
 荒い息をついて僕を見下ろす夏美ちゃん。
 「…久しぶりですから、お兄さんの、大きく感じます」
 頬を染め嬉しそうに僕を見下ろす夏美ちゃん。微かに胸がざわつく。
 「…動きますね」
 夏美ちゃんは姿勢を伸ばしてゆっくりと腰を上げた。
 「あっ、ああっ、んっ」
 剛直が擦られる感触が心地よい。
 半分ほど剛直を抜いて、再び夏美ちゃんは腰をおろした。
 「んっ、あっ、お兄さんのが、んんっ、こすれてます」
 たどたどしい動きで何度も腰を動かす夏美ちゃん。
 白い胸が揺れる。
654三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:01:12 ID:GBD9RRaR
 僕の胸に手をつき、夏美ちゃんは腰を振る。
 夏美ちゃんの声が艶を含む。吐息が甘い香りを放つ。
 その姿に、胸がざわつく。
 「あっ、んっ、ああっ、んっ!」
 嬉しそうに、気持ちよさそうに動く夏美ちゃん。淫靡な表情。
 何度も剛直の先端が子宮の入り口にぶつかる。その度に体を震わし、熱い吐息を漏らす夏美ちゃん。
 白い胸が大きく揺れる。
 微かに頭痛がする。心臓の鼓動がだんだん大きくなるのを感じる。
 胸が、ざわつく。
 「んっ、お兄さんっ、どうですかっ?気持ちいいですか?」
 淫靡に僕を見下ろす夏美ちゃん。
 その姿が。
 あの日の春子にかぶって見えた。
 僕を嬉しそうに犯す姿に。
 「きゃ!?」
 誰かの悲鳴が聞こえた気がする。誰なのか考える余裕はなかった。
 心臓がでたらめな鼓動を刻む。その度に激しい頭痛が僕を苛む。全身から冷や汗が出る。
 込み上げる吐き気。震える体。歪む視界。
 必死に耐えた。
 何度も深呼吸する。徐々に頭痛が引いて行く。心臓の鼓動がもとに戻っていく。
 そこで漸く気がついた。
 僕が夏美ちゃんを突き飛ばしていた事に。
 ベッドの上でお尻をついて呆然と僕を見つめる夏美ちゃん。
 「ご、ごめん」
 僕は何をやっている。
 夏美ちゃんは何の関係もないのに。
 手を伸ばして夏美ちゃんの肩に触れる。夏美ちゃんはびくっと震えて僕を見上げた。
 「あ、ああ」
 脅えた表情で僕を見上げる夏美ちゃん。
 「……い」
 夏美ちゃんは何かつぶやいたけど、小さすぎて聞こえない。
 その姿に不安を感じ得る。
 「ごめん。夏美ちゃ――」
 「ごめんなさい!!!!」
 部屋に悲鳴じみた声がこだまする。
 夏美ちゃんの声だと、すぐには気が付けなかった。
 「何でもします!!だから、だから、お願いです!!捨てないでください!!嫌いにならないでください!!」
 夏美ちゃんの頬に涙が伝う。必死な表情で僕に詰め寄る。
 僕を見上げる夏美ちゃん。脅えた表情。
 「き、嫌いにならないでください。お願いです」
 涙で顔をぐちゃぐちゃにする夏美ちゃん。
 「お兄さん好みの女になります。お兄さんの言う事を聞きます。だから、だからお願いです」
 脅えきった表情で僕を見つめる夏美ちゃん。涙がとめどなく溢れる。
 「す、捨てないでください」
 何で。
 何でそんな事を言うのだろう。
 僕は夏美ちゃんが好きなのに。
 夏美ちゃんを嫌いになるはずないのに。
 突然、夏美ちゃんは僕の股間に顔をうずめた。
 ゴムのついた剛直を握り、口にする。
 「な、夏美ちゃん?」
 夏美ちゃんは顔を上げた。涙でぐちゃぐちゃの顔。
 「んっ、ちゅっ、じゅるっ」
 懸命に剛直を舐める夏美ちゃん。
 「お、落ち着いて」
 夏美ちゃんの肩を掴み、離す。
 泣きながら夏美ちゃんは僕の手を振り払った。
 「き、気持ちよくします。だから、だから、捨てないでください」
 泣きながら僕を見つめる夏美ちゃん。
 僕を見ているようで、見ていない。
655三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:03:52 ID:GBD9RRaR
 その痛ましい姿に胸がざわつく。
 僕は夏美ちゃんを抱きしめた。
 「お、お兄さん?」
 脅えたような夏美ちゃんの声。
 「ご、ごめんなさい」
 「大丈夫。大丈夫だから」
 柔らかくて温かい夏美ちゃんの体。
 「ご、ごめんなさい。ごめんなさい」
 泣きじゃくりながら何度も謝る夏美ちゃん。涙の雫が落ちる。
 ふれ合う距離にいるのに、夏美ちゃんが遠くに感じる。
 視界がにじむ。涙がこぼれて、夏美ちゃんの肩に落ちる。
 びくりと震える夏美ちゃん。
 「あ、ああ、あ」
 夏美ちゃんは僕の顔を両手で挟んで口づけした。
 温かくて柔らかい感触。
 「んっ、ちゅっ」
 懸命に口づけする夏美ちゃん。
 「ひっく、お願いです、嫌わないでください」
 泣きじゃくる夏美ちゃん。
 「僕は夏美ちゃんが好きだ。嫌いになったりしない」
 「お、お兄さんの好きにしていいです。何をされてもいいです。だから、だから、嫌わないでください」
 何で。何で分かってくれないの。
 僕は夏美ちゃんが好きなのに。
 愛しているのに。
 僕は夏美ちゃんを思い切り抱き締めた。
 「きゃ!?」
 夏美ちゃんの唇を強引にふさぐ。
 今は、夏美ちゃんの悲しい言葉を聞きたくなかった。
 歯と歯の隙間を割って、唇をねじ込む。
 「んっ、んんっ!?」
 夏美ちゃんの口腔を舌で蹂躙する。
 舌を、歯茎を、舐めまわす。
 夏美ちゃんも舌をからませ、一生懸命に応えようとする。
 それを屈服させるように舌を動かす。
 苦しそうに身をよじる夏美ちゃんを、押さえこむように抱きしめる。
 夏美ちゃんの口腔を、舌で無茶苦茶にする。
 しばらくして、僕は唇を離した。苦しそうにむせる夏美ちゃん。
 それでも僕を必死な瞳で見上げる。
 「だ、抱いてくれないのですか」
 夏美ちゃんの声は震えていた。
 「な、何をされてもいいです。お兄さんの好きなようにしてくれていいです」
 「僕は夏美ちゃんが好きだ」
 夏美ちゃんは僕にしがみついた。
 小さな手が僕の背中に回される。
 「ひっく、何をされてもいいです。ぐすっ、お兄さんの、ひっく、好きなようにしていいです。だから、だからお願いです。嫌わないでください。捨てないでください」
 涙交じりの声で夏美ちゃんは囁いた。
 その声から夏美ちゃんの感じる恐怖が伝わってくる。
 捨てられるのかもしれないって。
 そんな事、絶対にないのに。
 何で分かってくれない。
 僕は夏美ちゃんを押し倒した。
 夏美ちゃんは脅えるように僕を見上げる。
 その姿に、胸がざわつく。
 僕は一気に挿入した。
 「ひうっ!?」
 背中を弓なりに反らす夏美ちゃん。
 僕は最初から激しく腰を振った。
 「あっ!!ああっ!!おにい、さんっ!!ひうっ!?」
 苦しそうに身をよじる夏美ちゃん。それなのに顔には、安堵の色が浮かぶ。
 ざわつく感情を押さえ、僕は夏美ちゃんを激しく抱いた。激しく犯した。
656三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:06:14 ID:GBD9RRaR
 膣の奥を何度もつつき、揺れる白い胸を揉み下し、唇を奪う。
 身をよじる夏美ちゃんを押さえつけ、腰を動かす。
 そうすれば、夏美ちゃんが安心した表情を浮かべるから。
 「ひぐっ、すきっ、すきですっ」
 泣きながらうわごとの様に呟く夏美ちゃん。その唇を僕は塞いだ。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 靴を履いて僕は立ち上がった。
 ジャージにTシャツ姿の夏美ちゃんも靴をはいた。僕は微かにふらつく夏美ちゃんを支えた。
 「大丈夫?」
 「は、はい。その、平気、です」
 脅えた視線を僕に向ける夏美ちゃん。無理もないかもしれない。
 夏美ちゃんを激しく抱いた。
 身をよじる夏美ちゃんを押さえつけ、唇をむさぼり、激しく犯した。
 夏美ちゃんの痛ましい姿を見たくなかったから。
 自分でも分かっている。こんなのはよくない。体で誤魔化すような真似はよくない。僕の気持ちを夏美ちゃんに伝えないといけないって。
 でも、何度好きって言っても、夏美ちゃんは分かってくれない。
 脅えたように僕を見上げ、抱いてとせがむだけ。
 「あ、あの、下まで送ります」
 「ありがとう」
 並んでドアをくぐる。
 僕は夏美ちゃんの手を握った。びくりと震える夏美ちゃん。
 言葉を交わしても、体を重ねても、僕の気持ちは伝わらない。
 僕が夏美ちゃんを捨てるはずないのに。
 言葉で表せないぐらい、夏美ちゃんの事が好きなのに。
 何で夏美ちゃんは不安を感じているのだろう。
 分からない。夏美ちゃんは何も言ってくれない。
 夏美ちゃんの部屋は二階だ。すぐに一階のロビーにつく。
 僕の手を握る夏美ちゃんの手が震える。
 ロビーに梓がいた。
 薄いキャミソールにホットパンツという格好。むき出しの華奢な肩に眩しいぐらいに白くて細い素足。暑がりの梓が好む服装。
 冷めた視線を僕達に浴びせる梓。その視線が微かに下がる。握り合った手に梓の視線が突き刺さる。
 梓の瞳の色が揺れる。
 「兄さん。家に帰ろ」
 無表情に梓は近づき、僕の手をとった。びっくりするほど熱い手。
 梓は何も言わずに僕を引っ張る様に歩き出した。
 「夏美ちゃん。また明日」
 僕は夏美ちゃんの手を離した。夏美ちゃんの温もりが消える。
 泣きそうな顔で立ち尽くす夏美ちゃん。
 その姿がだんだん小さくなり、見えなくなる。
 夏美ちゃんの泣きそうな表情が頭から離れない。
 傍にいたい。でも、そうすると梓が何をするか分からない。
 ロビーを出たあたりで、後ろから足音が聞こえた。
 振り向くと夏美ちゃんがこっちに走っている。
 「お兄さん!!」
 夏美ちゃんの手が僕の空いている手を掴む。震える小さな手。
 「嫌です!!行かないでください!!」
 涙の雫が夏美ちゃんの頬を伝って落ちる。
 僕の手を握る梓の手の体温が、さらに熱くなった気がした。
 敵意に満ちた瞳を夏美ちゃんに向ける梓。
 「兄さんの手を離して」
 「いやっ!!絶対いやっ!!」
 夏美ちゃんは涙に濡れた瞳を梓に向けた。
 「梓はお兄さんの妹じゃない!!いつでも一緒にいられるじゃない!!」
 夏美ちゃんの目尻から涙がとめどなく溢れる。
 「何があってもお兄さんは梓のお兄さんでしょ!!私は違うんだよ!!お兄さんと別れたら、赤の他人になっちゃうんだよ!!」
 頬を伝う涙が地面に落ちる。
 「何で私からお兄さんを連れ去るの!!ひどいよ!!私だってお兄さんと一緒にいたいのに!!傍にいたいのに!!お兄さんが休んでた時もお見舞いに行かなかったのに!!それなのに何で梓は私の家まで来るの!!」
 夏美ちゃんの一言一言が僕の胸に突き刺さる。
657三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:07:59 ID:GBD9RRaR
 僕の手を握る夏美ちゃんの小さな手が震える。
 僕の手を握る梓の手から伝わる体温がさらに熱くなる。
 梓の方を見て、僕は戦慄した。
 何の感情を示さない無表情なのに、瞳だけが梓の激情を露わにしている。
 怒りと敵意と害意。
 「うるさい。黙って」
 「これ以上私からお兄さんを奪わないで!!」
 梓の瞳の色が揺れる。
 夏美ちゃんに梓の手がのびる。梓を振り払おうとして、できなかった。梓の手が魔法のように僕の手の関節を極め、動けない。
 僕は夏美ちゃんの腕を振り払った。
 「え?」
 呆然と僕を見上げる夏美ちゃん。涙に濡れた瞳は信じられない何かを見たかのように見開かれる。
 「あ、あ、なん、で」
 生気の失せた表情。虚ろな瞳。震える声。
 それらを振り払って僕は告げた。
 「夏美ちゃん。また明日」
 僕は梓の手を引き、その場を早足に離れた。
 これ以上いたら、梓はきっと夏美ちゃんを傷つける。
 外は既に暗い。夜の涼しさが体にしみる。
 僕に振り払われ、呆然とした夏美ちゃんの様子が脳裏に浮かぶ。
 胸が、痛む。
 夏美ちゃんを傷つけた。
 でも、他にどうすればよかったのだろう。
 あのままだと、梓はきっと夏美ちゃんを怪我させた。もしかしたら、命を奪ったかもしれない。
 梓は僕の腕を抱きしめるように身を寄せた。
 「離れて」
 僕をの言葉を無視して梓は顔をすりよせる。
 瞳が怒りと苛立ちにそまる。
 「夏美の匂いがする」
 梓の手が僕の頬に触れる。信じられない熱さ。
 「夏美を抱いたんだ」
 頬から梓の手が離れる。その手が僕の手を握る。
 突然、手首に激痛が走る。梓の手が僕の手首を容赦なくねじり上げる。あまりの痛みに僕はたまらず膝をついた。
 「なにを」
 僕は最後まで言葉を紡げなかった。
 梓の唇が僕の唇をふさいでいた。
 ふれ合う唇から、梓の体温が伝わる。信じられない熱さが唇を焼く。
 唇を割って、熱い何かが入り込む。
 「ちゅっ、んっ」
 熱い何かが口腔を這いずり回るおぞましい感触。
 梓の肩を押して引き離そうとするけど、離れない。万力のように梓の腕が僕を押さえつける。
 その間も梓は僕の口腔を舐めまわす。口腔を犯される感触に鳥肌が立つ。
 梓の舌をかもうとした瞬間、梓は離れた。
 「兄さん以外の味がする」
 無表情に僕を見下ろす梓。その瞳は激情に染まっている。
 僕は周りを見渡した。幸い、人影は無い。
 「梓。こんな事は止めて」
 「こんなことって何?好きな人にキスして何が悪いの?」
 「僕たちは兄妹だ」
 梓の表情が歪む。
 「そんなに私の事が嫌いなんだ」
 「違う」
 梓は大切な妹だ。例え何があっても、血を分けた妹。
 嫌いになるなんて、できない。
 「違わない」
 梓は僕を見上げた。その瞳から狂おしいほどの渇望が伝わってくる。
 「兄さん。キスして」
 突然の梓の言葉に戸惑う。
 「さっき梓が僕にした」
 「違うの。兄さんからして欲しい」
658三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:09:44 ID:GBD9RRaR
 僕の答えは決まっている。
 「断る」
 梓の瞳が危険な色を帯びる。
 「断るなら、夏美を殺す」
 全身に鳥肌が立つ。浮足立つ感触。
 脅しなのか。本気なのか。
 でも、梓は既に三人も殺している。
 「別に私を抱いてって言ってるわけじゃないわ。キスしてくれるだけでいい」
 梓の視線が僕を貫く。その瞳が問いかける。
 キスするのかどうかを。
 それとも、夏美ちゃんの命を見捨てるのかを。
 夏美ちゃんの笑顔が浮かんで消えた。
 僕は梓の顎に手をかけて上を向かせた。
 梓は目を閉じた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 お兄さんが私を振り払って梓と帰ってから、私は呆然と突っ立っていた。
 何が何だか分からなかった。
 ただ、お兄さんは私を振り払って梓と帰った事しか分からなかった。
 お兄さんの手を引く梓の姿が脳裏に浮かぶ。私は唇をかみしめた。
 何で梓はここまで来るの。
 学校でもそう。お昼休みにお兄さんを連れて行った。
 そして放課後でも、私からお兄さんを連れて行く。
 何で?梓はお兄さんの妹じゃない。いつでも一緒にいられるじゃない。家にお兄さんが帰って来てくれるじゃない。私は違うのに。お兄さんが帰るのを見送る側なのに。
 何があっても梓はお兄さんの妹なのに。何があっても血のつながりがあるのに。
 私は違う。お兄さんに嫌われたら、捨てられたら、何のつながりも無くなる。赤の他人になるのに。
 そこまで考えて激しい恐怖が私を包む。
 お兄さんは、私の事を嫌っているのだろうか。
 エッチの時も、私が余計な事をしたからお兄さんを怒らせた。
 その後も、梓がお兄さんを連れていくのが嫌でみっともない姿を見せた。
 結局、お兄さんは私の手を振り払って梓の手を引いて帰って言った。
 心臓の鼓動がやけにはっきりと聞こえる。喉がからからになる。
 気がつけば私は走っていた。
 マンションの外は既に暗くなっている。
 お兄さんに会いたい。会って何をしたいのか分からないけど、とにかく会いたい。
 謝らなくちゃ。お兄さん、きっと怒っている。梓の関係で大変なのに。病み上がりなのに。それなのに、心配をかけるような事をした。
 夜の道を走り角を曲がったところで、私はお兄さんを見つけた。
 目の前の光景が信じられなかった。
 お兄さんが梓に口づけしていた。
 背伸びをする梓の顎にお兄さんの手が添えられている。梓の白い手がお兄さんの頭を抱きしめている。
 お互いに目を閉じ、唇をむさぼるようにキスしている。
 私は曲がり道の角に隠れた。深呼吸をしてもう一度顔を出して見る。
 そこには変わらない光景があった。
 (梓ちゃん、すごく積極的になったよね。きっと他の人の目が無い時はもっと積極的だと思うよ)
 ハル先輩の声が脳裏にこだまする。
 (梓ちゃん、美人だもんね。血のつながった妹でも、あんな綺麗な子に迫られたら断れるのかな)
 目頭が熱い。視界が歪む。頬を熱い何かが伝う。
 私は目の前の光景に背を向けて走り出した。
 自分の部屋まで戻り、布団をかぶる。
 うつ伏せになり、布団の匂いを嗅ぐ。お兄さんの匂いが微かにする。
 お兄さんが梓にキスしている光景が脳裏に浮かぶ。
 もう、何も考えたくなかった。
659三つの鎖 24 後編 ◆tgTIsAaCTij7 :2010/07/29(木) 23:10:49 ID:GBD9RRaR
投下終わりです。
読んでくださった方に感謝いたします。
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660名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 23:33:24 ID:AaNpTO3h
乙です…春子のターンww夏美アポーン、梓刑務所で一人勝ち?でも幸一君も消滅…しそう、所で三人殺したって夏美の父と後誰!?
661名無しさん@ピンキー
GJです!

待ってましたよ、続きが待ち遠しいです。
でも、もう後編なんだよね…
終わると思うとなんか寂しいね