【高津カリノ】WORKING!!エロパロNo.7

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266いなゆき姫
『いなゆき姫』


 昔々その昔、ある王国にいなゆき姫というそれはそれは美しい、そして胸の無いお姫様がいました。
 しかしそのお姫様には胸が小さいということの他に、とても大きな悩みがありました。
 男性に恐怖心を抱くあまり、男なら誰彼構わず殴ってしまうという悪癖があったのです。
「ああ、今日も家来の男の人を殴り飛ばしちゃった」
 いなゆき姫はこのように毎日男の人をついつい殴り飛ばしてしまうのです。
 そもそもいなゆき姫がこうなったのはこの国の王様、つまり彼女の父親のせいでした。
 娘可愛さに、幼いいなゆき姫にありとあらゆる手段を用いて男性は怖いものだと叩き込んだのです。
 そしてそんな父親の溺愛振りも彼女の悩みの種でした。
「そうだ、お城から出て行こう。それで男の人の居ないところに行けばいいんだ。
 そうすればきっと誰にも迷惑を掛けずに済むもの」
 こうしていなゆき姫は密かに城から抜け出す決心をしたのでした。


 同じ王国の同じ城に山田という下働きの娘が暮らしておりました。
 彼女には日課がありました。それは自分の部屋に飾られてある魔法の鏡にある質問をすることです。
 何を問い掛けているかというと……。

 ――――

「ちょっと待ってください! なんで山田が意地悪な魔女の役なんですか、鏡の精の佐藤さん!」
「そりゃあ、お前しか適役がいないからだろう」
「佐藤さんの方が意地悪です!」
「うるさい。俺は鏡の精なの」
「だったら店長はどうですか。店長の方が山田より似合ってます」
「そうかもしれんが、あいつの場合毒りんご食っちまうだろう」
「だったら、やち」
「……」
「なんでもないです。なんでもないですから怖い目で睨まないで下さい」

 ――――

「おほん。それでは気を取り直して」
「余計なことは言わんでいい」
「鏡よ鏡よ鏡の精の佐藤さん。この世で一番美しいのは」
「……」
「八千代さんですね?」
 ブチッと何かが切れるような音がしました。
 するとあら不思議。鏡の中から人が出てくるではありませんか。
「ま、待って下さい! 冗談です、冗談ですから出てこないで下さい!」
「黙れ」
「痛いです! 髪の毛引っ張らないで下さい!」
 そして一頻り山田をいたぶり尽くすとどこかへ消えてしまいました。
「全く、酷い目に遭いました」
「本当だねえ。大丈夫山田さん?」
「あ、かわい相馬さん。今度は相馬さんが鏡の精さんですか?」
268いなゆき姫:2010/06/25(金) 00:50:29 ID:xHym+Wnk

 その頃城を抜け出したいなゆき姫は見知らぬ森を彷徨っていました。
「ここなら誰にも会うことはないと思うけど。これからどうやって生活していけば良いんだろう」
 あてもなく歩を進めるいなゆき姫。すると森の奥の方から不思議な歌が聞こえてきました。
「「「はいほー、はいほー」」」
 どうやらその歌声は男のものではないようです。しかも1人や2人ではありません
 いなゆき姫はそうとわかると、声のする方へと進んでいきました。
 進むにつれてその声はどんどん大きくなっていきます。
「「「はいほー、はいほー」」」
 そして林を抜け開けたところに出るとその声は止みました。
「あんた誰」
 そこにいたのは小さな、
「「「ちっちゃくないよ!」」」
 小さな、
「「「ちっちゃくないよ!」」」
 ちい、
「「「ちっちゃくないよ!」」」
「わかった、もうわかったから」
 そこにいたのは7人の(小さな)種島ぽぷらでした。
「わたしはいなゆき姫。行くところがないの、助けてもらえないかしら」
 七人のぽぷらは一ヶ所に集まるとなにやら相談し始めました。
 そしてその相談が終わると、その内の1人のぽぷらがこういいました。
「良いよ。その代わりにお家のことを頼んで良い?」
「そんなことで良いならいくらでも」
 そうしていなゆき姫と7人(小さな)ぽぷらの不思議な、そして楽しい生活が始まったのです。
「あの、ずっと歩いていてお腹空いちゃった。ご飯貰えるかしら」
「あ、丁度昼ご飯を食べてるところだったの。どうぞ」
 そうやって差し出された御茶碗はとっても、
「「「ちっちゃくないよ!」」」
269いなゆき姫:2010/06/25(金) 00:53:04 ID:xHym+Wnk
「まひるー! 何処だ、何処に行ったんだー!」
「お父さん、落ち着いて」
 丁度その頃お城では姫がいなくなって大変な騒ぎになっていたようですがどうでもいいです。

 山田は相変わらず部屋で魔法の鏡と向かい合っていました。
「鏡よ鏡よ、鏡の精の相馬さん。世界で一番美しいのは誰ですか?」
「それはいなゆき姫でございます」

 ――――

「そんな!」
「どうしたの山田さ」
「山田は相馬さんの妹です! 世界で一番相馬さんの妹です!」
「だから?」
「なのに伊波さんが世界一ってどういうことですか、相馬さん!」
「いや、何故そうなる」
「こうなったら伊波さんを葬ります。そうすれば山田は相馬さんの妹世界一」

――――

 こうして怒った山田はいなゆき姫の命を狙うことにしたのです。
 実は魔女だった山田は毒リンゴ(ただの眠り薬入りリンゴ)を用意して出かけました。


  森ではいなゆき姫と7人のぽぷらたちはすっかり打ち解けて毎日とても楽しく生活していました。
「「「はいほー、はいほー」」」
「伊波ちゃんは男の人が苦手なんだね」
 その中の1人が尋ねます。
 そうなのです。いなゆき姫は男の人が怖くてつい殴り飛ばしてしまうのです。
「だったら簡単に家の扉を開けちゃ駄目だよ! 男の人かもしれないから」
「わかった」
 そうそうぽぷらたちの家はとても変わったものでした。
 テーブルやら椅子やらベッドやら家の中のあらゆる物がぽぷらサイズだったのです。
 それもそのはずここは7人の(小さな)ぽぷらの暮らす家。
 そんなある日のこと、ぽぷらたちは朝から仕事に出掛けていました。
 今家にいるのはいなゆき姫ただ独りです。

270いなゆき姫:2010/06/25(金) 00:58:22 ID:xHym+Wnk
 そんな時訪問者が現れました。
 コンコンと玄関の戸を叩く音。
「もしもし美味しいリンゴはいりませんか。決して怪しい者ではありません」
 自分から怪しいと名乗る不審者は存在しません。
 それでも人の良いいなゆき姫。ぽぷらたちも喜ぶだろうとリンゴを貰うことに決めたのです。
 何より相手は男の人ではありませんでしたから。
 しかしその相手は変装した魔女の山田でした。
 毒リンゴでいなゆき姫を亡き者にしようとしていたのです。
 ですがもともといなゆき姫は山田のことを知らなかったので全く変装の意味はありません。
「お1つくださいな」
「どうぞ、どうぞ。美味しいリンゴですよ。世界一美味しいリンゴです。
 だから今すぐ食すべきです。さあお食べなさい」
「あ、でも種島さんたちが」
「いいから、いいから。山田のいうとおりにするのです」
「あれ、あなた山田さんっていうの? 何処かで聞いたことあるような」
 お城住まいでしたからもしかしたら、いなゆき姫の耳にも山田の噂は聞こえていたのかもしれませんし、
そうじゃないのかもしれません。
「い、いいえ私はあなたの聞いたことある山田ではない山田です。だからリンゴをお食べなさい。ささっ早く」
 パクリ。
 急かされるままにとうとういなゆき姫は山田特製毒リンゴ(ただの眠り薬入りリンゴ)を食べてしまいました。
「ふっふっふ。掛かりましたね。それは山田の作った毒リンゴです。
 これで山田は世界一です。それではさようなら」
 山田の姿は森の奥深くに消えていきました。
「毒リンゴって?」
 気付いたときにはもう遅く、いなゆき姫は深い睡魔に襲われるとパタリとその場に倒れ、
そのまま動かなくなってしまいました。
271いなゆき姫:2010/06/25(金) 01:01:13 ID:xHym+Wnk

「「「きゃー! 伊波ちゃんどうしたの!」」」
 ぽぷらたちが家に戻るとそこには倒れたままピクリとも動かない、いなゆき姫がおりました。
「「「伊波ちゃん、死んじゃったの? ねえ起きてよ」」」
 みんなで力を合わせて体を揺するのですが反応がありません。
 山田の仕込んだ睡眠薬はそれはそれは強力なものだったのです。
 そうとは知らないぽぷらたちはいなゆき姫が死んでしまったと勘違いしてしまいました。
 そしてガラスの棺を用意すると皆でいなゆき姫をその中に寝かせてあげました。
「「「可哀相な伊波ちゃん」」」
 棺を囲んだぽぷらたち、それぞれ悲しみにくれています。
 花を摘んできてはいなゆき姫の周りに供えてあげていました。
 そんな時白馬に跨った1人の王子様の小鳥遊宗太が通りかかりました。
「ちっちゃい!」
 馬から下りるといなゆき姫には目もくれず、ぽぷらたちの元へ駆けよってくるではありませんか。
「役得だ! ちっちゃい先輩が7人も!」
「「「ちっちゃくないよ!」」」
「いいえ、先輩はちっちゃいです!」
「それよりも王子様」
 ぽぷらたちの1人が話しかけます。
「ああ、可愛いなあ。しかも小さい」
 しかし王子様はぽぷらたちに夢中で話しになりそうにありません。
「どうしよう。これじゃあ、お話が進まないよー」
「ちっちゃい、可愛い。ああ」
 するとそこにまた1人の男が現れました。
「俺は山田桐生。伊波さんがいると聞いてやって来たのだが」
 その風体はただの旅人のようでした。
「伊波さん! これはいったい」
 棺の中のいなゆき姫の姿にたいそう驚いています。
「「「わからないの。家に戻ったら倒れていたの」」」
「なるほどそういうことか。こういう時は王子様の口付けでお姫様は目を覚ますと相場で決まっているらしい。
 ということで心配要らないぞ、ちびっこたち」
 そういうとおもむろに棺の蓋を開け、姫の唇へと顔を近付けていきます。
272いなゆき姫:2010/06/25(金) 01:04:26 ID:xHym+Wnk
「「「え?」」」
「痛たたた!」
「いたいけな眠っている女性に何をする気ですか、そこの旅人」
 しかしそれは王子様の護身術であわやというところで防がれてしまいました。
「そちらこそ何をする! 俺はただこの美しい女性を助けようとしているだけだ」
「今どき王子の口付けでお姫様が目を覚ますなんて話流行ませんよ。
 それにあんたそもそも王子様じゃないだろ」
「はっ、しまった。俺は行方不明の妹を探している途中だったんだ。ということでさらばだ。
 あとは任せたぞ、王子様」
 桐生は颯爽と森の奥へと去っていきました。
「なんだったんだ、あいつ」
「かたなし君!」
「ど、どうしたんですか先輩」
「かたなし君は王子様だよね」
「はい、一応そういうことになっているみたいですが」
「「「だったら伊波ちゃんを助けてあげて!」」」
 ぽぷらたちはそろって王子様に懇願します。
「「「お願い、かたなし君!」」」
「そ、それって眠っている伊波さんにキスしろってことですか?」
「そうすれば目を覚ますって桐生君が」
 王子様はとても困った顔をしています。
「「「かたなし君、お願い」」」
「……良いですけど」
 どうやらぽぷらたちのお願いに根負けしてしまったようです。
 正確にはそのちっちゃ可愛さに負けたのかもしれませんが。
「でもとても嫌な予感がするのはどうしてでしょう。
 目を覚ましたとたんいきなり殴られるような、そんな予感がします」
「大丈夫だよ。きっとかたなし君なら大丈夫。だって王子様だもん」
「わ、わかりました」
 王子様は棺に近寄り、いなゆき姫の枕元にそっと片膝をつきました。
273いなゆき姫:2010/06/25(金) 01:07:13 ID:xHym+Wnk
「しかしこの人本当にヤバイのかなあ。顔も真っ赤だし血色も良さそうだぞ」
 口付けを交わす必要が本当にあるのか疑問に駆られましたが、7人のぽぷらたちに囲まれ、
真剣な眼差しで一身に期待を受けていては引くに引けません。
「ええい、こうなったらやけだ」
 覚悟を決めるとゆっくり顔を近付けていきます。
「というかそもそもなんで俺が王子様で伊波さんがお姫様なんだよ」
 文句をいいながらも唇と唇の距離はどんどん短くなっていきます。
 お姫様の顔の色も心なしかそれに比例してますます赤くなっていくように見えます。
 そしてその距離がほぼ零となった瞬間奇跡が起こりました。
「もう駄目、我慢できない!」
 いなゆき姫の右の拳が見事に王子様の小鳥遊にクリーンヒット。
 王子様は空の彼方へと消えていきました。
 こうして小鳥遊宗太は星の王子様になりましたとさ。
 ちなみに目覚めたいなゆき姫は7人のぽぷらたちといつまでも仲良く暮らしていったそうな。

 めでたし、めでたし。


 ――――

「鏡よ鏡よ鏡の精の相馬さん」
「……」
「世界で一番相馬さんの妹に相応しいのは山田ですよね?」
「……」
「もしもーし、鏡の精の相馬さーん。相馬さーん」



 ― 終わり ―