1 :
名無しさん@ピンキー:
ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part30
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1273238414/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
・版権モノは専用スレでお願いします。
・男のヤンデレは基本的にNGです。
4 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 19:52:14 ID:UidMvQIC
5 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:00:11 ID:NP9HIF1y
>>1 乙です。
囚われし者2話できました。
数レスお借りします。
6 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:00:32 ID:NP9HIF1y
「じゃあ、行きましょうか兄さん。」
翌日、優はニコニコとしながら僕の手を引き玄関をでた。
「あのさ、やっぱり・・・」
「兄さん、くどいですよ。」
「うっ・・・」
そうはっきり拒絶されると逆らえない僕である。
「そうですね、今日はちょっと街のほうまで出てみましょうか。」
「えっ、でもさほら、誰かに見られたりしたら・・・」
「嫌なんですか?」
「えっ」
「だから嫌なんですか。私と一緒にいるところが見られたら。」
「・・・嫌じゃ・・・ないです。」
とても恥ずかしいとは言えなかった。
「今日はめいいっぱい遊びましょうね、兄さん。あの女の事なんてどうでもよくなるくらいに。」
思いっきりの笑顔で僕と腕を組みながら駅へと向かった。
7 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:00:58 ID:NP9HIF1y
「お誕生日おめでとう綾華君」
ここ穂積台(ほずみだい)一番の豪邸である周防家では盛大なパーティーが開かれていた。
「いやぁ、この前生まれたばかりだと思っていたらもう立派なお嬢さんだ。」
「そんなことありませんわ、先生。」
適当に祝いの言葉受けながら、その目はただ一人を探していた。
(おかしい・・・全然見つからない・・・もしかして着てないんじゃ・・・)
今までは会場に入ると、知り合いもいないためずっと私のそばを離れなかった奨悟。
それが今年は全く見当たらないのだ。
「お誕生日おめでとう綾華ちゃん。」
「おめでとうございます。」
「あ、おじ様、おば様ありがとうございます。」
そこへ声をかけてきたのは先程から探している少年の両親だった。
柏城勉(かしわぎ つとむ)と柏城 陽子(かしわぎ ようこ)だ。
二人は根っからの研究者で非常に優秀なのだが、その代わりというか、良く言うならばおおらか、悪く言えばものすごく天然な人達だ。
「あの、奨悟君は今日着てないんですか?」
「あれ、着てなかったのかい気付かなかったなぁ。ハハハハハ」
(ハハハハハハ・・・じゃないわよ!)
自分の雇い主の娘の誕生日会に、招待されているハズの息子が居なくても気づかないこの二人とは、もう話をしても無駄だとわかった。
「じゃあ、私はちょっと電話してみます。」
「あぁ、よろしく頼むよ。うちの息子もバカだねぇ、タダでこんなにおいしい料理が食べられるっていうのに・・・」
「お父さん!はしたないですよ!」
(だめだ・・・この二人は・・・)
改めて無駄足であったことを実感させられたが、そんなことはどうでもいい。
とりあえず電話をかけてみることにした。
「PRRRRR・・・・・ガチャ」
「あ!奨悟!今どこで何してるの!?」
「何のようですか。」
声の主は予想に反して携帯の持ち主ではなく、その妹であった。
「あんたこそ何よ。なんであんたが奨悟の携帯とってんのよ!」
「あぁ、今兄さんは私とデート中ですからね。」
「デート・・・中?」
「そうですよ。兄さんはあなたの誕生日より私を選んだ。それだけです。」
「何言ってるのよ!!ちょっと奨悟に変わりなさいよ!」
「嫌ですよ。兄さんは私とデート中なんですから、水をささないでくださいね。ガチャ」
そう言うと電話は切れた。
周防綾華は困惑していた。
確かに今まで奨悟にはシスコン気味ではあった。でもまさかデートだなんて・・・
例えデートがあの娘の戯言だったとしても、今私のところではなく、あの娘と一緒にいるのは動かない事実なのだ。
「許さない。許さない。許さない。許さない。許さない。」
まるで呪文を唱えるかのように呟く。その顔には一切の感情は浮かばない。
まるで能面をかぶっているかのような少女は、ただひたすらに電話をかけ続けた。
8 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:01:25 ID:NP9HIF1y
「ただいま。っとどうしたの優?」
駅前のカフェでトイレからかえったところなのだが、優はとてもご機嫌そうだった。
「いえ、なんでもありませんよ。」
そうニコニコとした笑顔をこちらに向ける。
「そういえば兄さん。女の子とデート中に携帯は禁止ですからね。兄さんの携帯は私が帰るまで預かっておきます。」
「デートって・・・これは・・・」
「女の子である私と二人きりなんですから、これは立派なデートですよ。」
デートと言われて僕も急に恥ずかしくなった。
「ちっ・・・違うよ!これはデートなんかじゃ!」
「デートではなくてはなんですか?」
優の顔からはさっきの笑顔はなかった。
「あ・・・嫌、やっぱりデートだね。」
「そうですよね!兄さん。」
優は笑顔に戻っていた。
「じゃあ、行きましょうか。そうですね次はペアリングでも買いに行きますか。」
9 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:02:22 ID:NP9HIF1y
翌日、僕は周防家にいた。
昨日はあの後、街なかをめぐって帰宅した後携帯を返してもらった。
着信102件 メール65件
そこには普段では・・・というか通常ではありえない表示がされていた。
すぐその後に電話をかけ直して電話に出た綾華に言い訳をしようとしたのだが・・・
「もういいから。とりあえず明日私の家に来て。」
ただその一言だけ発して電話は切られた。
そして朝、着替を終えて周防家に向かおうとで家をでると、すでにスタンバイしていた周防家のお迎えによって半ば拉致されるような形でここに連れてこられたのだ。
「ねぇ。」
「ハイ!」
「何か言い訳でもある?」
きっと昨日のことだろう。僕は必死に頭を巡らせる。
「きっ・・・昨日はそう!熱がでてさ!それで行けなかったんだゴメン!電話とかしようと思ったんだけど頭が朦朧としちゃってさ!」
「そう。それでもう熱はいいの?」
うまく・・・誤魔化せたのか?・・・
「あぁ、もういいよ!一日寝たからすっかり元気だよ。」
「そうそれは良かったわ。」
良かったなどと言いながら、表情はまったくなかった。
それにしてもこの部屋は異常に熱かった。
今は6月に入ったばかりとはいえ、もう暑くなってきているにもかかわらずガンガンに暖炉がついていたからだ。
「あの、綾華さんこの部屋暑くないでしょうか?」
「あなたの体を思ってよ。病み上がりの体じゃ寒いよりも暑いほうがいいでしょう?」
「あっ・・・はい・・・」
「そんなことよりね。」
今日初めて、綾華から話をふってきた。
「あなた、自分の立場って考えた事ある?」
「僕の立場?」
「そう、普段はね、意識していないと思うけど。私とあなたは対等じゃないの。」
意味がわからない。
「どういう意味?」
「もし、私があなたにレイプされた、なんてお父様に言ったらどうなると思う?」
綾華のお父さんである現周防家の長であり、周防製薬の社長でもある人は綾華には激甘だと有名だ。
「きっと、あなたのことを許さないわ。それだけじゃない、あなたのご両親もきっとここにはいられなくなるでしょうね。」
ハッとした。
「あの人の良いご両親だもの。ここを失えば一体どうなるのやら・・・」
そんなの目に見えてる。
人を疑い、人を出しぬくことができないあの人達がここまでやってこれたのも、そういう性格を知ってそれを受け止めてくれた周防製薬があってこそだ。
ここを追い出されれば腐っていくのは一目瞭然だ。
「ごめんなさい、綾華、もう次はすっぽかしたりしないし、何でも言うこときくから・・・」
僕は必死だった。研究熱心であまり家には帰ってこなかったが、僕たちのことをずっと考えてくれている両親だ。
ここで下手なことを言うと、その両親を悲しませることになる。
それだけは避けないと。
「でもね、私と奨悟の仲だからね。ある条件を飲んでくれれば許してあげないこともないわ。」
「条件?」
「そう、あなたはこれから私の所有物。まぁ、下僕になればいいのよ。」
「げ・・・下僕?」
「そうよ。」
10 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:02:48 ID:NP9HIF1y
突然の提案に驚く。
「下僕っていうのは、具体的に何をすればいいの?」
「簡単よ。ずっと私のことだけを考えていればいいの。」
「綾華のことを・・・」
「そう。私のことを思って、私のために行動して、私のを喜ばせることがあなたの悦びになるの。」
いかにも余裕でしょ?っと言いたげな表情だ。
「わ・・・わかったよ。」
「良い子ね。やっぱり奨悟は物分りはいいわ。じゃあお願いしてみて。」
「お願い?」
「そう、私にお願い・・・懇願するの。下僕にしてくださいって。」
「べっ・・・別にそこまでしなくても。」
「奨悟!」
「わかったよ。えと、僕を綾華の下僕にしてください。」
ここまで言うと、綾華のさっきとうってかわって満面の笑をうかべた。
「良いよ!奨悟。じゃあ早速私の所有物になったんだから、名前を書かなくちゃね!」
「なっ・・・名前?」
「そうよ!」
彼女がパチンと指を鳴らすと、左右から屈強な男二人が現れ、僕を押さえ込んだ。
「ちょっ・・・何するんですか!綾華助けて!」
綾華はそんな僕を無視して暖炉へと歩いていく。
「今日はね、あなたのためにこの暖炉つけてもらったの。」
そう言いながら、綾華は暖炉から火かき棒のようなもの引き抜いた。
しかし、それは火かき棒ではなく、焼印だった。
「ねぇ、嘘でしょ?冗談だよね?いくらなんでもそれは・・・」
「だって、自分のものに名前を書くのは当たり前でしょ?」
さも当然かのように、熱された鉄を持ち近づいてくる綾華。
「やめて!お願い!そんなことしてくても僕は綾華のモノだから!」
「嬉しいことを言ってくれるわね。でも私はきちんとやらないと気がすまないタイプだから。」
綾華は薄ら笑いを浮かべながら僕の後ろへまわり、僕の服を引き裂いた。
僕の背中があらわになる。
「やめて!お願いだから!」
「そうねぇ、あの小娘にも見えるようなところがいいから・・・うなじでいいわね。」
「いやだ!!!やめろ!!!!」
全身に雷が落ちた。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!」
この日僕は、綾華の所有物になった。
11 :
囚われし者:2010/06/03(木) 20:04:11 ID:NP9HIF1y
以上で投下終わります。
wikiに保管してくださった方、前回も読んでくれた方、本当にありがとうございました。
>>11 GJ。これはいいヤンデレ具合
これからの妹の行動に期待。
焼印はいてえ・・・だがそれがイイ!
両親のテンションにウケたww
薬をネタに脅されてる事いえばいいのに馬鹿だな
俺には双子の妹が居る。
二卵性なんでそんなにそっくりに似るわけではないが、それでも確かに顔のパーツは良く似ている。実際、幼い頃は一覧性かと見紛う程に似ていたらしい。
しかしそれはあくまで外見だけの話。男女の差もあるが、何よりの違いが存在していた。
・・・それが、才能の差だった。
幼い頃から俺は妹の夏樹に勝てた事がない。
俺が好奇心で始めた様々な事、その全てに夏樹は俺の真似をする様に興味を持って、俺と同じ様に始めた。
そしてその悉くであっさりと夏樹に追い抜かれていく。夏樹は酷く優秀で、俺の才能はそれの劣化コピーとも言えない程のレベルだった。
最初は何だったか流石に覚えていないが、俺が記憶している限りで一番古いのがサッカー。
実際はサッカーは言えないただの球蹴り遊びだったのだが、興味を持って参加した夏樹はあっさり俺を追い抜いて仲間達のエースになっていた。
そんな感じで勉強、将棋、オセロ、手品、料理・・・好奇心で始めていた筈のそれらの事は、いつの間にか夏樹を超えられる物を探すという行為へと変わっていた。
例え睡眠不足が慢性化するまで猛勉強しても、体を壊してしまうまで運動しても、その差はただ開くばかり。結局は全て夏樹が俺を追い抜いていき、残るのは惨めさ。そして、夏樹への怒りや憎しみ。顔つき等が明らかに違ってきたのもこれらが原因だろう。
なにせ妹は容姿端麗。双子の俺もそうなるはずだったんだろうが、無理を繰り返した体はガタガタ。目の下の隈も慢性化しているほど。
そんな環境でも、それなりに妹を大事にしていた俺は、まだ兄だったのかもしれない。
記憶している限りで最初に言われた、今の俺を象徴するやりとりある。
相手は母親。夏樹にお使いに行ってもらおうと考えていたらしく、財布を持っていた。
「夏樹は?」
「知らない」
「じゃあ冬也でいいわ。お使い行って来て」
−−−じゃあ冬也でいい。今まで何度言われた台詞だろう。
「夏樹は・・・居ないか。じゃあ冬也でいい」
「なっちゃーん!・・・え、いない?じゃあとーやでいいや」
「夏樹さんは・・・なら代わりに冬也さんに」
代わりに冬也。じゃあ冬也。冬也でいい。仕方ないから冬也に。冬也でもいいか−−−
俺の身の回りの人間がみんな、俺の事を『夏樹の代わり』をして見ている様に感じた。
そんなわけが無いとは言い切れない。実際俺は友人が殆ど居なかったが、話しかけられることは多かった。・・・夏樹の代わりとして。
確かに性格も外見も違ってきているが、多少細工をすればまた外見だけそっくりな様にもなれないことも無い。
それに俺も夏樹も万能型だ。・・・俺は中の下で止まり、夏樹は上の上まで上り詰めるという違いはあるが。
だからだろう。ある程度器用なら問題ない場合は、『夏樹の代わりに』俺が頼られる様になっていた。
−−−誰も俺自身を見ていない。いや、家族は見ていただろう。特に夏樹は俺を俺として、懐いていた。だからこそこんな状況でも、ひん曲がった根性でも兄として居られたのだ。
ある日、夏樹が右腕を骨折した。
骨折といっても酷いものではなく、傷も残らないし骨が脆くもならない単純骨折。
でも日常生活に問題が出るのは当たり前だ。そこで俺は、母親に言われた。
「夏樹を手伝ってあげなさいよ?夏樹の右腕の代わりに」
成程、存在の代わりではなく、部分的なものの代わり。まるで夏樹のスペアみたいな物だな、と俺は感じた。
それは学校で似たような事を言われ続けて、次第に重い言葉に感じてくる。
スペア。代わりの存在。夏樹の予備−−−今までの生活を考えると、まさしく俺の存在そのものを差している。
この時から俺は徐々に夏樹の兄ではなく、夏樹のスペアとなっていった。それと共に、憎しみも増大していく。
中学時代、夏樹は事件に巻き込まれた。
こいつは勉強や運動や容姿もさる事ながら、人を惹き付ける才能まで持ち合わせている。
それが原因でちょっとしたイザコザに巻き込まれて−−−左目の視力を失った。みんな悲しんだ。
−−−なんでこんな良い娘が、なんで夏樹ちゃんが、こんな可愛い子なのに、なんで、なんで−−−
そして時々聞こえてくる様になる声。
−−−冬也が失明すればよかった。冬也なら男の勲章とか言って笑って過ごせるのに。冬也が『夏樹の代わりに−−−』
『夏樹の代わりに』この時そう聞こえた俺は、もう全てを諦めた。俺は、夏樹のスペアでしかないんだと。
いっそ自殺でもしてスペアを無くしてやろうかとも考えた。でも、自殺なんかして今まで努力して続けてきている『夏樹に勝てるもの探し』が全て無駄になるのは恐ろしい。
なにせ俺にはそれしか残せる生きた証が無いのだ。せめて一つでもあれば納得も出来たが、一つも無い現状じゃ悔しくて惨めで自殺なんて出来ない。
ならばもういい。俺は『夏樹のスペア』として、いつか見つかるかもしれない『夏樹に勝てる事』が見つかるまで生き続けよう。
もし見つからなくても、俺が『夏樹のスペア』として死ぬことが出来たら、生きた証は残せるだろう。
今全てを諦めて何も残さず死ぬ《BAD END》か、希望を目指し証を残して死ぬ《HAPPY END》か。俺は、後者を選んだ。
ならばまずやる事は、スペアらしく−−−左目のスペアを献上するまで。移植すれば視力が復活するのは分かっているから。
「なんで!なんで冬也が!?」
「お前は女の子だが、俺は男だ。男なら勲章扱いになるらしいぜ」
「そんな−−−」
夏樹は猛反対した。だろうなと思った。
しかし少し予想外だったのが、母親がそれをあっさり受け入れた事だ。よくよく考えてみればこの母親は優秀な夏樹を甘やかし、スペアの俺に厳しかった。
父親は反対してくれていたが・・・成程。どうやら俺は家族にまでスペアと思われていたのか。
その日から、家族も嫌いになった。
夏樹に目を移植して暫くして、夏樹は視力は低いものの眼が見えるようになり退院した。
俺はもともと体がガタガタだったせいか、入院が長引いてしまった。でもそんな事はどうでもいい。自殺以外で、生きた証を残して死ねるなら今すぐ死んでも文句は無かったから。
この入院期間内に院内感染か何かで死んだら、『夏樹に左目を残して死んだ』というい証を残す事ができる。というか、つまりは自殺じゃなければ何でもいいのだ。
いや、スペアとしての役目が終わったなら自殺しても問題は無いか?
「お見舞い、来たよ」
「来なくても良いと言ってるだろうに」
「でも・・・」
俺が入院してる間、毎日の様に夏樹はお見舞いに来た。退院した後も、俺の近くに居るようになった。
罪悪感からだろう。でも、所詮スペアなのだから気にしなければ良いのに。
確かに不便ではあるが、そこまで大した問題ではないのだ。気にしないで過ごしたほうが『本体の精神安定』にはいいだろう。
そう思い夏樹を説得し続けて・・・高校入学の頃に、ようやく以前と同じ様な距離感に戻った。最も、罪悪感は消え去っていないみたいだったが。
高校に入学して、初めて俺の感情を一部とはいえ理解してくれる友人が出来た。
「優秀な弟妹を持つと苦労するモンだよな」
「ああ、全くだ」
友人・・・健二の弟は頭の出来が良いらしく、「目指せ東大!」を合言葉にひたすら勉強しているらしい。
対する健二の成績は中の下、俺と同じくらいと来たものだ。そりゃ確かに苦労もする。
ある意味、プレッシャーに関しては俺以上かもしれない。俺が負けてるのは同い年の双子の妹だが、健二の弟は一歳下なのだから。
それでも健二は俺の様に壊れていない。ま、それはコイツが弟よりスポーツが得意だからだろう。俺のように全てにおいて負けているわけではない。
正直、羨ましかった。
ある日、たまたま何の用事も無いという事で久しぶりに夏樹と一緒に下校していた。
あの人がどうした、ああしたらこうなった・・・人生を楽しんでいる様な顔で色々話してくる夏樹に、以前ほどの憎しみは感じない。
勿論完全に無くなっているわけではない。でも、所詮俺はスペアだからそんな事を感じてもしょうがないと思い始めていたからだ。
「でね、そしたら−−−って、聞いてる?」
「聞いてるよ。で、そしたらどうしたって?」
「あ、うん。でね−−−っ!冬也!!」
「えっ−−−?」
突如夏樹に腕を掴まれたかと思えば、前の方に投げ飛ばされる。
投げられた勢いのまま前のめりに倒れ、瞬時に首を夏樹へ向けて文句を言おうとした瞬間−−−
俺が普段見えない『左側』から突っ込んで来ていた車が、夏樹の体を撥ね飛ばした。
わからない。わけがわからない。何をなにをーーーこいつはナニヲシテイルンダ?
『本体』が『スペア』を助けた?ふざけるな、本体が死んだらスペアなんて存在意義が無くなる。生きた証も何もあったもんじゃない。
頭が痛い、吐き気がする−−−でも、夏樹《本体》を助けなければ!!
周囲の人間等の助けもあって、早いうちに病院へ運び込まれた。
でも、生き残れるかはわからない・・・不安が俺を襲う。
夏樹が生き残れるか。でも、不安の理由は、『俺の存在意義』であって『夏樹自身の心配』ではない。
俺にとっては既に夏樹は妹ではなく、ただの本体。家族で無いならスルーしても良かった程の憎しみが未だ俺には宿っていたのだ。
警察に事故の状況を話して欲しいと言われた頃には、両親や夏樹の友人が病院へ集まっていた。
俺とは違って随分愛されてるな−−−そう思いながら、みんなの嘆きを聞きながら警察に状況の説明をする。
「なんで−−−」−−−俺が代わりに轢かれなかったのか。
「どうして−−−」−−−スペアのくせに無事生き残ってるのか。
「こんなことなら−−−」−−−俺が代わりに死ねばよかったのに。
頭が痛い。吐き気がする。奴らの嘆きが『役目を果たせよ』と俺を攻め立てている様に感じてしまう。
実際、言ってる訳では無いというのに。
警察に事情を話し続け、惹かれた理由−−−俺を庇ったせいで轢かれた事を説明した時、それを聞いた夏樹の友人が泣きながら叫んだ。
「何であんたが代わりに生き残って、夏樹がこんな事になってるのよぉ!!」
「お前、何を言ってるんだ!?落ち着け!!」
「返して!!夏樹を返してよぉ!!」
思わず笑い出してしまいそうになった。まさしく俺が考えていたことと同じ事を言われてしまったからだ。
全く、スペアが生き残って本体がこんな状況なんて、俺にどうしろというのか。
生きていてくれれば、まだ何とかなるかもしてないが−−−
そうしていると、手術室のドアが開いた。夏樹の手術に執刀していた医師が、手術の成功を伝えて、悲壮感に溢れていた周囲は安堵に包まれた。
かくいう俺も安心していた。これで死んでしまっていたら、俺は何も無いまま終わってしまいかねなかったから。
夏樹が死んだらスペアなんて必要ない。なら、俺も死んで楽になろうと考えていたから。役目を果たせないなら、自殺して今までの努力がみを水の泡にしても大した差は無いだろうから。
でも、なつきは生き残った。俺なら確実に死んでいる。やはりあいつは神からも愛されているのではなかろうか。
しかし、その空気は、すぐに再び絶望へと染め上げられた。
曰く、緊急で臓器提供が必要。延命は二週間、それ以上過ぎると障害が発生する可能性が高い、と。
「ははっ・・・ははは・・・あっはっはははははははははははははは!!!!」
笑い声。俺の笑い声。来た、これが最後の俺の役目。提供が必要な臓器はまだわからないが、どうやら俺はHAPPY ENDで終わる事が出来るようだ。
早期提供が成功する事は確信している。以前の眼球提供の時に、他の臓器でも適合する事は聞いていたからだ。どうやら最後には神も俺の事を見てくれたらしい。
「何・・・笑ってるの、冬也」
「ははは・・・あぁ、よかったじゃないか母さん、俺を犠牲にすれば夏樹は生き残
れるぜ。いつも通り、昔からずっと続いてきた様に、『夏樹の代わりに』俺を殺せ
よ」
「ちょっと、何を・・・」
「何って何だよ。俺は昔から続けてきた『夏樹のスペア』としての仕事をしようと
してるだけだぜ?それにこれならお前の願いも叶うじゃないか。『夏樹を返せ』っ
て、俺に言ってただろう?」
嬉しい。楽しい。ようやく楽になれる。これで『妹を助ける為に自分を犠牲にした』という最高の生きた証を手に入れられる。俺のスペアという存在理由を達成する事も出来るし、これで俺は楽になる事が出来る。
「お前、本気で言ってるのか!?」
「当たり前だろう健二?まあ今まで散々探してきた『夏樹に勝てるもの』が結局見
つからなかったのは残念だが、これで自殺なんて惨めな思いをせずに死ねる。生き
た証も残せる。『夏樹のスペア』をしても役割も果たせる。いい事尽くめじゃない
かっ!」
さあ、俺を殺して臓器を夏樹に渡せ。ん?ああ、そうか、流石に病院で生きた人間を殺して臓器を手に入れるのは問題があったか。
なら簡単だ、目の前で俺が自殺してやるから、新鮮なうちにさっさと臓器を取り出してくれよ?余った物は他人に渡しても焼いてもいいぜ。
それじゃあ−−−
−−−これで、俺の物語はHAPPY ENDだ。
・
・・
・・・
・・・・
・・・・・
勉強する。勉強する。外国語を、物理を、数学を、科学を、知らない事を勉強する。
・・・冬也みたいに睡眠不足になるまで。冬也みたいに目の下の隈が出来て慢性化してしまうまで。
運動する。運動する。球技を、陸上を、格闘技を、体操を、知らない運動をする。
・・・冬也みたいに疲労が溜まってしまうまで。冬也みたいに体がガタガタになるまで。
探求する。探求する。私に出来る事、私に出来ない事、冬也に出来そうな事、冬也に出来なさそうな事を探求する。
・・・冬也が探していた様に私が出来ず、冬也が出来るだろうものを見つけるまで。
努力して、努力して、そして理解する、この地獄の様な道。
私は何でも出来てしまう、何でも理解出来てしまう・・・それ故に、この絶望的な努力の道に挫けそうになってしまう。
もしかしたら、冬也の才能は努力する事だったのかもしれない。でも、それだけじゃ足りない。その位ならきっと冬也もわかってた筈。
私は探す。『私のスペア』として生きて、『私のスペア』として死んでしまった冬也の為に。
思えば私は、全て冬也に身を任せて生きてきた様なものだった。
まじめに勉強をし始めたのだって、冬也が始めたのを真似したから。運動だって、趣味だって、特技だって、全部冬也の真似をして始めて、手に入れたものばかり。
私自身が行動して手に入れていたのは何も無い。今だって、冬也の真似をして生きている様なもの。冬也の様に、無茶な努力を重ねて。
成程、私は真似しか出来なかったのかもしれない。冬也の真似をして、そこから私の全てが始まっているのだ。
・・・冬也が『私のスペア』で、私は『冬也を演じる木偶人形』か。今更それに気付くなんて、私はやっぱり天才でも何でも無いのだろう。
私が事故にあって意識を失っている間・・・多分、冬也の臓器を移植している時だと思う。私は夢の中に居た。
暗闇に包まれていて、自分の体以外何も見えない場所で、何となく死んでしまう事を理解してただ怯えていた。
誰かが助けに来てくれるのを、冬也が助けに来てくれるのを待っていた。
「よう、夏樹」
「っ!?冬也ぁ!!」
そして冬也は来てくれた。私を助けに来てくれたのだ。
「お前は俺の臓器を移植して助かるぜ。お前が死ななかったおかげで俺もHAPPY ENDを迎える事が出来た」
・・・自分の命と引き換えにして。
「え・・・何、それ・・・何それ!?なんで冬也が!?全然HAPPY ENDじゃないよ!!」
「いや、HAPPY ENDさ。最高ではないが、これで『夏樹のスペア』としての役割を完遂出来たしな」
スペア。自分は私のスペアだと冬也が言ったのだ。
想像すら出来なかった冬也の思いを、私はようやくここで、こんな遅すぎるタイミングで理解したのだ。
「昔から俺は『夏樹の代わり』を存在理由として生きてきたんだ。
なら、その役割を貫き通しでもしないと、俺の生きた証が無くなっちまうだろう?
結局どれだけ頑張ってもお前に勝てる事は何も見つからなかったのは悔しいが、『スペアの役割を完遂』して『自分を犠牲にした』という生きた証を残せたから俺は満足さ」
言葉が出ない。涙が溢れる。冬也は壊れてしまっていたのだ。
誰も冬也の心に気付かなかったせいで・・・私が冬也の苦しみに気付かなかったせいで。
そして私は目を覚まし・・・真似しか出来ない私の存在理由を定め、生きることを決めた。
「ねぇ、まだ・・・続けるの?もう諦めましょう」
「ダメだよお母さん。私は全部冬也に貰ってたの。だから、今度は私が冬也に渡さなきゃいけない」
私がしているのは、『冬也が私に勝てる事』を探す事。
故意では無かったとはいえ『私のスペア』として生きさせてしまった冬也の為にと、私が始めた冬也の真似事。
「私は見つけなくちゃいけないの。探して、探して、たくさん探して・・・そして沢山見つけて、冬也に教えに行くの。今の私は、ただそれだけが存在理由」
「夏樹・・・」
なんとなく、うっすらとだけど、冬也が私をあまり好きじゃないのでは無いかと感じる時が多々あった。
今考えれば当たり前だ。後から初めてどんどん追い抜いて、どれだけ努力しても追いつけないまま引き離されて・・・それを延々を繰り返されれば、私だってきっと冬也みたいに嫌になる。
私だったら絶対に我慢出来ない。絶対に途中で嫌になるか、無理やり我慢し続けて壊れてしまうか・・・ああ、そっか、壊れてたんだ。
冬也は、私が何も考えないで真似ばかりしていて、何も考えないであっさり追い抜いて、それでも努力して我慢していたせいで壊れてしまっていたんだろう。
・・・今の私も壊れてきてるから、何となくわかる。
でも私は止める訳にはいかない。私の行動は冬也の真似事。私の命は冬也の命だったもの。
私はこの『私のスペア』として生きて死んだ命の為に、生きて探し続けなくちゃいけない。
冬也は存在証明を完了してHAPPY ENDを迎えた。だから冬也に助けられた私は冬也の真似をして、『冬也を演じる木偶人形』としての存在証明を果たさなくちゃいけない。
私が冬也に負けるだろうものを見つけられないままの死《BAD END》か。私が出来ずに冬也が出来るだろうものを見つけて、それを冬也に伝える為に死ぬ《HAPPY END》か。
・・・私は生き続けなくちゃならない。冬也に証明しなくちゃならない。
私達は双子。同じ苦しみを味わって、同じ証明を果たして・・・仲のいい双子として、昔みたいに笑いあう事が出来る様に。
生まれ変わってまた双子になった時、こんな事にならない様に。
私は生涯をかけて、私が、『夏樹が冬也の妹である』と証明し、『夏樹が冬也の妹として』生きた証を残すために、
ただひたすらに『我慢』と『努力』を重ねて『探求』し続けなければならない。
私の《HAPPY END》は、遥か遠く−−−
−−−私は今でも、あの時のユメに苛まれながら演じ続ける。
?…終了…か…GJ
26 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 16:30:47 ID:E29Gz7dz
デレは?
【もう一つの可能性】
夢の中で夏樹に会った。せっかくなので手術室の前で全員に言ってやった事と同じ事を言ってやった。
これで俺はHAPPY END。楽に慣れるんだと、俺はそう思っていたのだが・・・どうやら神様は俺の事を見ていても、好きでいてはくれなかったらしい。
「・・・マジかよ。まだ俺に生きろって言うのか?とんだBAD ENDじゃねぇか」
「えっ・・・?」
暗闇に包まれた世界で、唯一俺の前に居た夏樹がそんな間抜けな声を発した瞬間、俺の意識は暗闇に塗りつぶされた。
目が覚める。体には感覚が残っていて、体中から痛みが襲い掛かってくる。どうやら俺は生き残ってしまったらしい。
なんて無様なんだろうか。あのまま死ねれば満足だったのに、人生そう簡単にいかないらしい。・・・はっ、そんなん今更だったか。
まあどうでもいい。生き残ってしまったならスペアとしてまた生き続ければいい。腹部の傷からどうやら臓器は移植されているらしいと判断できるから、夏樹の方も問題は無いだろう。なんで生きてるのか不思議ではあるが。
しかし、俺はいったいどれくらい意識を取り戻していなかったのだろうか。眼球移植の時でさえ夏樹よりも長く入院してしまっていた程に俺の体はガタガタなのだ。気が付けば数ヶ月なんていう物語の様な展開もあり得なくも無い。
「あっ!目が覚めましたか!!」
「あ、はい。あの、色々と聞きたい事があるんですけど」
「はい、すぐに担当医を呼んできますね」
たまたま様子を見に来たであろう看護婦さんは、あっという間に引き返して病院内を駆けていった。走ったら駄目だろう看護婦さん。いや、今は看護士だったか?
すぐにやってきた俺の担当医の話によると、現在入院して一週間らしい。意外と早く目が醒めた様だが、退院はそう簡単にいかないかもしれない。
で、俺が生きてる理由なんだが、自殺出来たと思ってた俺の傷は思いのほか継承だったらしく、ただ痛みやら何やらで気絶しただけだったらしい。恥ずかしすぎる。
そして検査した結果、事故で弱っている夏樹には使えない人口臓器の移植が俺には耐えられたらしく、俺の臓器を夏樹に、人工臓器を俺にと移植する事となったらしい。
なんで夏樹に人工臓器が移植出来なかったのか、サイズなのか体質差なのか詳しい事は分からないが、まあそんなわけで二人とも生き残ったらしい。俺はペースメーカー的な物が埋め込まれているみたいだが。
・・・まあ、大体そんな内容の話を「自殺なんてするな」という説教と共に教えられた。説得にあまり力が無かったのは、あの時の俺の話を聞いていたからなのかもしれない。
さて、HAPPY ENDへと辿り付く事が出来なかった訳なのだが、これからどうしようかと考える。
といってもやる事は『夏樹のスペア』と『勝てるもの探し』しかないので、俺がすべき事は基本的に変わらない。
問題は周囲の人間だ。死ねると思って全部言ったというのに、こうも無様に生き残ってしまっては面倒な事になりそうな気もする。
「冬也・・・」
ベッドの上で暇つぶしがてら色々考えていると、俺が意識を取り戻したという話を聞いたのか、入院患者が着ている様な服を着た夏樹が病室の入り口に立っていた。
顔色があまり良くないのは入院していたのだから当たり前なんだろうが、まさかもうそう簡単に歩いて移動できるとは・・・全く回復力も並じゃないようだ。これに関しては負けてる事を既に理解していたからどうと言う事は無いのだが。
「よう、どうやらお互い生きてた様だな」
「うん・・・」
病室に入ってきた夏樹はベッド横の椅子に座り、自分の病室から持ってきたであろう果物とナイフを籠から出してリンゴの皮をむき始めた。
リンゴの皮むきも俺が始めた行動の一つ。勿論あっさり追い抜かれた訳だが・・・そんな事より、入院患者が入院患者にお見舞いの果物を持ってくるのはどうなんだろうか。
そんな事を考えてるうちにむき終わって切り分けられたリンゴを渡された。うん、美味い。
「しかし、せっかくHAPPY ENDかと思ったのに生き残るとは思わなかったな。これでまたスペア生活だ」
「っ・・・どうして、そんな事言うの?」
「どうしてって、言っただろう?昔から俺は『夏樹のスペア』として生かされてきてたんだよ。『冬也という人間』を見てる奴なんて誰も・・・ああ、一応お前と健二が居たか。でも、それだけだろ?」
「そんな事−−−」
「無い、とは言えないだろう?クラスメイトは勿論、俺の母親を見てみろ。あいつは間違いなくそれに近い事を考えてただろうさ。自分で気付いているかどうかは知らないけどな」
「・・・」
夏樹自身心当たりがあるのだろう。所謂教育ママ的な部分がある母親は落ちこぼれの俺に厳しい。夏樹に用事があっても忙しかった場合に『夏樹の代わりに』と俺に用事を頼んでいた。
勿論自分の子供としても見てはいたんだろう。でも、俺からしてみれば『夏樹のスペア』として色々言ってくる周囲の人間と何ら変わりは無かったのだ。
「ま、ともかく生き残ったおかげであと一回くらいは死にそうになってもスペアが利くかもな。俺の為にさっさと使い潰してやってくれ」
「・・・ない」
「ん?」
「スペアなんて・・・いらない!冬也は冬也だもん!!冬也が私のスペアだなんて言うなら、私はそんなスペアなんていらない!!」
デレなんてないだろ
涙を流して怒りながらそう叫んだ夏樹は、そのまま俺の病室を飛び出していった。・・・そうか、『スペアなんていらない』か。
・・・はははは!!!『スペアなんていらない』か!なら俺の存在理由もこれで無くなった訳だ。
役割を完遂出来たわけじゃないからHAPPY ENDにはなれないが、本人から『途中廃棄』されるまで勤め上げたならGOOD END程度の生きた証は残せただろう。
ならもう俺にはこの世界に生きる理由も何も無い。『夏樹に勝てるもの探し』はあくまで『スペア』として生きてる間に達成したかった、いわばサブクエストみたいなものだ。
メインが終了した時点でこんなものは何の意味も無い。
ベッド横には、夏樹が忘れていった果物とナイフ。ここでナイフがあるのはまさしく神の思し召しって奴か?・・・いや、神は俺を嫌っているみたいだからな。GOOD ENDで終わってしまえという意思表示なのかも知れん。
でも俺はそこそこ満足だ。もう少しでHAPPY ENDだったのが心残りだが、どちらにしろこれで楽になれるのだ。死んだら何も無くなるのだから、その辺はどうでもいい。
さあ、再び自分に別れを告げよう−−−
「これで俺はスペアから開放されて、苦しむ必要も無くなる。これで俺はGOOD ENDだ」
−−−ナイフは俺の首を切り裂いた。
「−−−!!」
あ・・・誰かの声・・・また生き残ってしまうのか・・・嫌だなぁ、生きる理由なんてもう残って無いのに・・・
−−−−−−−−−−
悲しみ、憎しみ、怒り、不安・・・様々な感情が私の中で渦巻いているのを感じながら、私は自分の病室のベッドで蹲っていた。
何で私は気付かなかったのか。何で両親は気付かなかったのか。何でみんな気付かなかったのか。
どうしてこんな事になってしまったのか。冬也は冬也なのに、冬也自身は『私のスペア』だと言った。私は否定したかったけど、普段の生活での周囲を思い出して否定出来なかった。
思い返せば、冬也は健二君以外親しい友達が居なかったように感じる。話しかける人はそこそこ居たみたいだけど、それこそ『私の代わり』として用があった人ばかりだった。
冬也を冬也と見ていなかった周囲が腹立たしい。息子をきちんと見ていなかった両親が悲しい。・・・何より、双子の兄のその心境を全くと言っていいほど察せずに追い詰めていた私自身に怒りを感じてしまう。
病室の外が騒がしくて考え事が出来ず、様子を見る事にした。病室を出てみると、少し離れた場所にある病室に看護婦や医者が居て・・・
「え・・・冬也の・・・病室?」
怖い。何が起きたのか。冬也の体に異常が起きたのか。それとも−−−
体がガタガタと震えているの自覚する。眩暈がして倒れそうになる。それでも騒ぎになっている視線の先を見続けて−−−
−−−首から大量の出血をしている冬也が目に入った時、『私のスペアという存在理由が無くなって冬也が自殺未遂した』という事を不思議とすぐに理解出来てしまい、私はその場で崩れ落ちてしまった。
幸い冬也は生き残る事が出来た。
冬也が自殺未遂した理由は、私が考えた通りで合っているんだろう。何せ最初に発見した看護婦が聞いていたのだ。
『これで俺はスペアから開放されて、苦しむ必要も無くなる。これで俺はGOOD ENDだ』
そう呟く冬也の声を。
両親は憔悴している様だった。冬也は『親もスペアとして見ている』と言っていたけど、やはり息子は息子なのだ。お母さんなんて自分の行動も原因の一つだと理解してからは、以前の様な元気など欠片も残っては居ない。
このまま冬也が死んだらみんな不幸になってしまうだろう。何より、冬也が『私のスペア』だと思い込んだまま死んでしまうなんて悲しすぎて許容できない。
でも、冬也は『私のスペア』という存在理由がないとまた自殺してしまうかもしれない。そんなのは嫌だ。
−−−そう、嫌なのだ。私が嫌なのだ。たとえどれだけ時間がかかっても、『冬也は冬也』だと認識してもらいたい。大事な双子の兄に、自分は自分なのだと胸を張って生きてもらいたいのだ。
−−−その為に私は、『冬也を生に縛り付ける木偶人形』になろう。私自身が『冬也は私のスペアなのだから死ぬな』と言って。
私は『冬也を演じていた木偶人形』なのだ。ただ今度は当夜を生かすために、違う役を演じるだけ−−−
−−−−−−−−−−
俺と夏樹は退院し、何時も通りの日常へと帰ってきた。 ・・・否、何時も通りなど欠片も残っていないか。
『冬也は私のスペアなのだから死ぬな』
それを直接夏樹から聞いたとき、俺は本格的に『夏樹のスペア』となった。今の俺は最早人間ではないのだろう。
俺は睡眠不足になる勉強を止めた。スペアが睡眠不足で自壊するなんていけないと思ったから。
俺は無茶な運動を止めた。スペアが自分の体を壊すなんて存在理由に喧嘩を売る様なものだから。
俺は『夏樹に勝てるもの探し』を止めた。スペアにそんな感情など必要ない。スペアはスペア、それ以上でも以下でもないのだから。
「帰ろう、冬也」
「ああ」
余った時間は大抵夏樹と共に過ごしている。スペアならすぐにスペアとして行動出来る様に。
一見以前より兄妹仲が良くなったかの様に見えなくも無いが、実際は『本体とスペア』という歪んだ関係だ。それを理解しているクラスメイト達は俺が退院してから、俺に話しかけようとしなくなった。
夏樹も最近はあまりクラスメイトと会話していないらしく、頻繁に会話しているのはせいぜい俺と夏樹の共通の友人である健二くらいだ。
・・・健二も最近は『優秀な弟』に恐怖を覚えているらしい。でも問題は無いだろう。慣れてしまえば恐怖も何も感じなくなる。
自宅は最早以前と同じ姿を取り戻す事は無いだろう。
母親は俺にも夏樹にも用事を言い渡す事は無くなり、全て自分で動く様になった。父親はこんな家の雰囲気が嫌なのか、毎日残業して帰宅するのは夜遅い。
家出する事は特に無い。せいぜい夏樹と会話する程度で、それ以外は何もせずにテレビを眺めているだけだ。
「ねぇ、冬也・・・」
「なんだ」
「冬也は・・・冬也だよ」
あれから一日一回は聞く言葉。分かっている、俺は俺だ。ただ、それより先に『夏樹のスペア』という存在理由が存在しているだけで。それに夏樹も気付いているのか、自宅ではいつも悲しそうな顔をしている。
今は夏樹が俺をスペアだと思っていないのを理解出来ている。でも、夏樹がそう宣言した以上、それを夏樹自身が撤回するまで俺は『夏樹のスペア』でしかないのだ。
まさしくこの日常こそ、俺達家族のBAD ENDなのだろう。しかもそれは、このまま続いていくのだ。
終わりを迎えるのは、俺か夏樹が死んだ時。死んだ人間は救われるが、生き残った人間は更に厳しいBAD ENDへと落ちるのかも知れない。
先に死んで楽になる《BAD END》か、先立たれて苦しみ後から死ぬ《BAD END》か−−−
−−−この歪みきった生から、俺はいつになったら開放されるのだろうか。
胸が震えた
GJです。
文章は上手いし個人的には面白かったけど…
ヤン……デレ…?
依存スレか男ヤンデレスレの方が良かったかもなあ。
ともあれGJでした。
次はエロいの書いてくれw
凄いダークだが面白かったよ。
別ルート行ったときにああどうせまたテンプレハッピーエンドなんだろうな(それはそれで好きだが)と思ったら予想外の重いエンドだったのが良い。
デレかなり少ないけどこういうのもたまにはいいね。
それと
両親と糞友人どもUZEEEEEE!
なんだよ転載かよ
そういうのは修羅場スレだけにしてくれ
GJ!
とてもおもしろかったよ
>>36はスルーで…乱用は出来無いがタマにはこう言う鬱endも良い…
スレ的に言うと妹のデレは物語終了後だろう…
どうみても転載です。
本当にありがとうございました。
転載はいかんぜよ
んで転載イクナイ派と転載でも面白ければ良いよ派(大抵荒らしの自演)の論争が始まって荒れる、と
修羅場スレを荒らす時に使われる定番の手法だな
以後この作品については徹底スルーで。当然保管庫にも載せるなよ?
とか書くと自治厨乙とか言われるんだろうな
囚われし者3話できました。
初めてトリップをつけましたが合っているでしょうか?
以下数レスお借りします。
翌日、僕はいつものように登校した。
昨日はあの後、痛みで気絶したいらしい。
目が覚めた後は、上機嫌な綾華と一言二言別れの挨拶をして、周防家の車に送ってもらった。
幸いというべきか、優は買出しに行っていたので車を見られることはなかった。
その後は体調を悪いことを理由にできるだけ優に合わないようにしていた。
数人の女子に囲まれて普段より上機嫌な綾華を横目に見つつ、首筋にできた焼印の跡をなぞる。
僕は憂鬱だった。
この前の優の薬の発言といい、この首筋の印といい、ここ最近の僕の日常は完全に崩れつつある。
正直、どこかに逃げ出したい気分だった、しかし、もともと引っ込み思案で優柔不断な僕にとって、そんな好都合な逃げ場を用意してくれる友達はいないのだが・・・
「少し外の空気を吸おう。」
こういう時は気分転換するに限る、それに、今の状況で綾華を見るのも僕の精神的に悪かった。
「せーんぱい!何してるんですか?」
窓の外をボーッと眺めていた僕に誰かが声をかける。
振り向くと、そこには後輩である朝倉詩織(あさくらしおり)がいた。
よく似合うボブカットに白い肌、ぽってりした唇、何一つとっても完璧を思わせる美少女である。
そして、一番驚くべきことは彼女がアイドルだという事だ。
芸名、朝倉美樹の名前で活動し、キュートなダンスと歌で若い男性だけでなく、女性からも人気があるらしい。
らしいというのも、もともとテレビもあまり見ない僕にとって、そんなアイドルがいたことを知ったのが彼女と初めて出会った後のことだからだ。
その後少し調べたのだが、この学校の多くの男子生徒も例外ではなく、多くの会員数を誇るファンクラブがあることや、隙あらば彼女に近づこうとしている輩が多いことを知った。
優や綾華も美人で人気が高いものの、知名度も重なってかこの学園のアイドルは朝倉なのである。
「少し考え事だよ。朝倉こそ何か用?」
「いえ、先輩の様子がいつもと違いましたので。」
「いつもって・・・君が僕の『いつも』を知ってるのかい?学年が違うのにさ。」
「知っているつもりですよ、先輩のことは全部。『いつも』見てますから。」
そういって彼女は笑った。
僕と彼女の出会いは、マンガみたいな話だけど、多くの荷物を抱えた彼女と廊下の曲がり角でぶつかったことだ。
その後、彼女にその事を謝り、立ち去った後、ファンクラブを名乗るものに囲まれたため今でもよく覚えている。
それからというもの、彼女は何かと僕に声をかけてくるようになった。
「それより先輩、何かあったんですか?」
「ちょっと考え事、家に帰るのが憂鬱でね。」
もし優にこの印のことがバレたら・・・ と思うと正直帰るのは気が引けた。
どうせ逃げたところで意味がないということわかってはいたが、少しでも問題を先送りしたかった。
「そうなんですか、じゃあ今日私の家に来ます?」
「はぁっ!?」
突然の提案に驚く。
「だって、今日は帰りたくないんでしょう?それならうちに来ればいいじゃないですか。」
「いやだって、ご両親に悪いだろう。それに朝倉はアイドルだし噂になったりでもしたら。」
「私、今は一人暮らしなんでご安心を。そちらに関してはバレないようにすればいいだけでしょ?、それにバレても先輩となら悪い気はしません!」
ビッ!と親指を立てる朝倉。
「いやいや、例えそうだとしてもね・・・」
そもそも、僕と朝倉は学校でたまに会話するくらいの間柄でしかない。言わば、友人ではなく知り合い程度の関係だ。
例えそれが好意からの提案だとしても、ホイホイと承諾するには気が引けたのだ。
「来てくれますよね?」
彼女は笑っていた。
しかし、その目は完全に笑っていなかった、その歪な笑顔から優や綾華を連想する。
「来てくれますよね?」
朝倉はゆっくりともう一度言った。
逆らえばどうなるのか分からない、そんな予感が僕の頭をよぎった。
「わ・・・わかったよ。」
僕は自分の不甲斐なさを呪った。
彼女が住むマンションは駅から徒歩5分のところにあった。
数年前にできたばかりの高級マンションだ。
こんな部屋に一人でするんでいることが、改めて彼女がアイドルであることを意識させられる。
「先輩、いらっしゃい!」
「お・・・お邪魔します。」
今度は普通の笑顔で迎えてもらい。おずおずと部屋にあがった。
清潔感のあふれる白を基調としたリビングは、オシャレなインテリアによって飾られ、まるで舞台のセットのようだった。
ガチャ。
「ん?何の音?」
「あぁ、鍵をかけただけですよ。最近物騒ですからね。」
「そうだね」
こんな会話をかわしつつ僕は自分の居場所を探す。
「先輩はそこらへんで適当にくつろいじゃってください。もうすぐ晩御飯できますから。」
「ありがとう。」
自宅と綾華の家以外に、他人の家に入ったことのない僕は少々引け腰になりながらもテーブルの近くに座ってテレビを見眺めた。
別段見たいものもなかったのだが、手持ち無沙汰な僕にとっては唯一の暇つぶしだ。
「できましたよー!」
そう言いながら両手にいくつかの料理を持った朝倉が現れた。
「手伝うよ。」
「いやいや、先輩はお客さんですからねー。そこでじっとしててくださいね。」
笑顔でそういいながら、手際よく料理をならべる朝倉
「えへへー、先輩が来るんでちょっと張り切っちゃいました!」
その言葉通り、テーブルの上には数々の料理が並ぶ。
「すごいね、朝倉って料理が得意だったんだ。」
「人並みですよ。それより、冷める前にどうぞ。」
両手をあわせる朝倉、僕もそれに習う。
『いただきます。』
そう言って朝倉との食事は始まる・・・ ハズだった。
僕のところに箸がなかった。
「すまん朝倉、箸がないんだけど・・・」
「それがどうかしました?」
まるで意味がわからないというような顔をする朝倉。
「あぁ〜、だからできれば箸を貸して欲しいってことなんだけど・・・」
「嫌です。」
「えっ?」
予想外の反応に呆気をとられる。
「手で食べればいいじゃないですか、それかお口で直接たべるとか。」
先程とは種類の違う、まるで嘲笑うかのような笑を浮かべながらそう言う朝倉。
「そ・・・そんな・・・」
「そんなことより、早く食べてくださいよ先輩。先輩のために作ったんですよ?」
戸惑う僕に追い打ちをかける
「食べられないなら帰ってくださいよ。お箸がないから食べられないなんて、傲慢すぎますよ?」
まるで突き放すかのように紡がれる言葉は僕の判断を揺るがせる。
それに、いくら連絡は入れているとはいえ、できれば優には会いたくなかった。
元々、誰からも嫌われないように他人に流される僕だ。
優や綾華、両親以外にこんなにきつくモノを言われたことがない僕は、それだけで朝倉に若干怯えていた。
「わかったよ・・・」
僕は自分に言い聞かせるようにそう言うと、目の前にあるポテトに顔を近づけて・・・たべた。
「アハハハハ!、本当に食べたんですか先輩?恥も何もあったもんじゃないですね!後輩の前でこんな無様なさまを見せつけるなんてどうかしてますよ!」
そんな僕を見つめて大笑する朝倉。
しかし、その顔はまるで蕩けきったかのような笑だった。
「冗談ですよ先輩。私がたべさせてあげますから。」
ひとしきり笑った後、朝倉はそう言って自分の箸で僕に料理を運ぶ。
「ほら、先輩あ〜ん」
冗談にしてはあまりにも行き過ぎたものだとも思ったが、さっきの出来事の印象が強すぎて僕の中では、朝倉に逆らうという選択肢は用意されていなかった。
「あ、あ〜ん」
こわごわと朝倉の箸を受け入れる。
おいしい。素直にそう思えた。
「おいしいよ。朝倉。」
「エヘヘ、ありがとうございます。じゃあもう一口。」
そういって再び出される箸をくわえる。
しかし、その箸は予想を反してさらに奥へと侵入して僕の喉をついた。
「ゴホッ!」
思わずむせ込む僕を、朝倉は先程の蕩けきった笑みで眺めていた。
「一体何がしたいんだよあいつは・・・」
朝倉から借りた風呂の中で一人呟いた。
その後も結局自分の箸はだしてもらえず、朝倉にたべさせてもらっていたのだが、何度か同じように突かれて咳き込むことがあった。
そのたびに一応謝るのだが・・・
「失礼しまーす!」
そんな思考を遮るように何者かが入ってた。
それは、タオル一枚巻いただけの朝倉の姿だった。
「ちょっ・・・何してるんだよ!」
「お背中流そうと思いまして!」
先程は散々いじめられたものの、やはりアイドル。
美しい体のラインや形の良い胸にドキリとさせられる。
「もう体は洗ったよ!もうすぐ上がるから外で待ってて!!」
「えー、じゃあせっかくですから一緒にお風呂にはいります。」
そういって同じ浴槽に朝倉が入ってくる。
大きいといってもやはり普通の浴槽だ、二人が入るには狭く自然と体が密着する。
「先輩の体・・・男の子なのに華奢で綺麗ですね。」
そう言いながら僕の体をなでる。
朝倉の、いや、女の子特有の柔らかい感触に思わず全身が赤くなるのがわかる。
「でも先輩・・・ 私のお仕事を奪ったんですからお仕置きです!」
「お仕置き?」
「えいっ!」
そういうと朝倉は僕の頭をお風呂の中に沈めた
「ゴホッ!」
とっさのことに驚き息を吐いてしまう。
息ができない!そう思った時だった。
僕の口に何かふれる、それは、朝倉の口だった。
思わず開いた口に朝倉から酸素が送られる。
それだけではない、朝倉の舌が僕の口の中に入ってきたのだ。
朝倉の舌は僕の舌を絡めとる、がその瞬間僕を抑える力が弱まり、必死になってお湯から顔を出す。
必死になって空気を吸った。酸素不足で頭がボーッとする。
霞んだ僕の視界に、朝倉のあの顔が見えた気がした。
「で、一体なんであんなことをしたんだ!」
「すいません・・・」
流石の僕も今回のことには流すわけにもいかず、怒りを表す。
「危うく死ぬとこだったぞ!」
「・・・」
「まぁ、何であんなことをしたんだ。始めの箸といい、さっきのといい。僕が何か気に障るようなことしたか?」
「いえ・・・あの違うんです。ちゃんと理由はあります。」
「じゃあ何だ、言ってみろ。」
下を向いてもじもじしている朝倉。
しかし何か決心したのか顔をあげてこちらを見た。
「あの私の部屋に来てもらえますか?そこで説明するのが一番わかりやすいと思いますから。」
「朝倉の部屋?まぁいいけど・・・」
正直さっきのことと、部屋が何の関係があるか想像はつかなかったが、朝倉がそう言うので従うことにした。
「ここが私の部屋です、どうぞ。」
そう言って扉を開けた朝倉に続いて僕も部屋に入った。
そこは、あまりにも異様な空間だった。
薄い桃色の壁紙が貼られ、デザインの良い家具といかにも女の子を連想させるアイテムとたくさんのぬいぐるみが置かれた部屋。
ただこれだけなら問題はなかっただろう。
しかし、その部屋は普通ではなかった。
部屋中にあるぬいぐるみ、それがすべて原型をとどめていなかった。
あるものは腕がなく、あるものは頭がなく、あるものは腹から綿が飛び出していた。
「な・・・なんだよこれ・・・」
あまりの異様さに思わず一歩引く。
「どうですか?かわいいでしょう?」
朝倉は一番近くにあった人形を手にとり僕に見せた。
頭がなかった。
「私はね、先輩。自分が大好きなものほど傷つける癖があるんです。」
朝倉は語る。
「ここにあるぬいぐるみ、自分が買ったものやファンの子にもらったものもたくさんあります。でも結局、これと同じものはたくさんあります。」
そう言って異様なぬいぐるみを見回す。
「でもね、私が傷つけることで、このぬいぐるみたちは世界に一つだけになるんです。」
まるで子供のような無邪気な瞳が僕をとらえる。
「そしてその傷を見る度に、この傷は私がつけたんだ、私のものなんだって実感できるんです。」
「・・・だ・・・だからどうなんだっていうんだよ。」
僕はただ純粋に朝倉が怖かった。
「私ね先輩、先輩のことが好きなんです。」
突然の告白だった。
「はっ・・・はぁ?」
「初めてあった時から、これは運命だって思いました。」
そういって笑をうかべる。
「それからずっと先輩のことを調べました。趣味とか普段なにしてるのとか。それだけじゃなくてずっと先輩を見てました。」
「・・・」
「先輩のことを知る度に、もっと先輩のことを好きになってもう我慢できないんです。」
そう言って僕に近づいてくる。
「待ってくれ!俺は・・・」
「言ったでしょ?もう我慢できないって。」
ドンっ
背中が壁にあたる。もうこれ以上は下がれない。
「せんぱぁい、もっと苦しそうな声を聞かせてください。もっと辛そうな顔を見せてください。」
甘えた声をだして朝倉が近づいてくる。
「先輩、いっぱい傷つけ(愛して)てあげますね。」
以上で投下終わります。
読んでくださった方、感想くれた方ありがとうございました。
ありが乙GJ
わがままなゴミに好かれ過ぎて同情しちまうw
先輩………聞いただけで鳥肌がたってしまうなwこれだとwww
GJ
GJ!
みんな怖いよ
_n
( l _、_
\ \ ( <_,` )
ヽ___ ̄ ̄ ) グッジョブ!!
/ /
投下します。かなり長くなる予定です。
冒頭部分だけ、投下します。
俺、俊輔(19)は一週間前に突然倒れた。
三日気を失ったが、意識は戻した。
ここ2、3日、俺は何かヤバイ病気なのではないかと思うようになった。
なぜかというと、親、看護師が異常なまでに優しく俺に接することである。
俺の親は俺の妹をとても可愛がり、俺には金しかくれないような親だった。
それなのに、「何か欲しい物はないか?」と聞かれたのにも驚きだったが、
まだそれだけだったら、入院してるから優しくなったのかなと思うが、
ふざけて6万もする携帯をいったら買ってきたのである。
しかも、携帯電話だから院内では使えないはずなのに、院長自ら許可をだしたのである。
・・・絶対におかしい。
決定的なのが、親が異常なまでに医者に呼ばれ、
俺の病室に戻ってくるたびに「何か行きたい所とか、やりたい事はないか?」と聞いてくるのである。
なにこの、余命が宣告された親の常套句と思った。
俺はやりたい事に「妹に会いたい。」と言った。
俺の妹は12歳で某英国大学を卒業した世界一の天才とも言われている妹、弥子だ。
今はアメリカで国連直属の医療研究所で研究しているとか。
なので、だいぶあっていない。
自分でもキモイと思うが、この妹が可愛くて仕方がない。
もう、見た瞬間に抱きつきたい気分である。
ま、そのたびに殴られるのだが。
もしかしてヤバイ病気なら最期には会いたい、と思ったからだ。
俺は今日ある賭けをする。
自分はなんの病気なのか、余命はあと何年、いや何ヶ月なのかと言う事を医者に聞いてみるのである。
あんな親でも心配は掛けたくないので、親がいない間に聞いてみる、ということにした。
今日は、妹が帰国するからという事で親は夜まで帰ってこない。
こんな絶好のチャンスは無い。ということで、俺は今院長室の真ん前にいるわけだが。
医者がなぜか、院長室に行くように言ったのである。
本当にヤバイ病気じゃないのかな。
今になって「聞かずに、何も知らずに過ごす。」という選択をとらなかったのかという自問自答をしてしまった。
だが、いっそ知ってしまった方が楽なのではないかという気もある。
このドアをノックすると自分の死ぬときがわかってしまう、そんな感じである。
「あ・・ごめんごめん。先についちゃった?」
「っ!・・・院長さん・・・」
「やあ、俊輔くん。いやー、若い看護師さんがいてねえ。可愛かったよー。」
この、変態発言をさも当然のようにする、いつも笑顔で笑っている人が院長である。
この人が院長で大丈夫なのか、この病院は。
「あ、ああそうですか。」
「俊輔くん?元気が無いね。男は元気が取り柄だよ!」
「はい、そうですね。ところで、○○さんから院長室で話を聴くように、と言われたのですが・・・」
院長の顔が真剣な顔になった。顔を見たとき、この人はこんな顔もできるんだ、とすこし関心しながらも、
自分の心臓を鷲掴みにされたような、恐怖感・・・そんな気分にもなった。
「詳しい話は院長室でしよう。ここで話せれる話じゃないし、一応守秘義務だ。」
「・・・・はい。」
一旦ここまでです。
書くのが初めてなので、読みにくい部分があるかもしれません。
また、うまくかけていない部分があるかもしれませんが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
gj!
おもしろいぞ
がんばってね!
>>56 続きです。
院長室はかなり綺麗だった。
院長の机の上にはノートパソコンが4台置いてあって、いかにも院長室という感じのソファが
入ってすぐに置いてある。
「座っていいよー」
「あ、失礼します。」
「コーヒーと紅茶・・・いや、○○君に黙って炭酸なんてどう?」
「院長、一応お医者さんですよね・・・・?」
「うそうそ、冗談。コーヒーでいいね?」
「はい。」
院長がコーヒーを入れているあいだは互いに無言だった。
この間が何か嫌だった。
「はい、コーヒーね。」
「ありがとうございます。」
湯気のたった黒い液体。コーヒー。
一口飲んで、受け皿の上においた。
院長も一口飲んで、受け皿の上においた。
俺はもしものことが・・・と思い、コーヒーの入ったカップを受け皿を自分から少し遠くにおいた。
「○○君から聞いてるよ。自分の病気はなんなんだって聞いたみたいだね?」
唐突だった。自分から言い出せば良かった。心臓が飛び出るかと思った。
「はい。なにか、親の様子もおかしいし、僕のいる病棟はこのいつもいっぱいの病院にしては、
人が少なすぎる。その割に他の病棟はたくさんの人がいる。」
「・・・・・」
「もしも、の話です。できるなら『そんなことないよ。』と言ってくれると嬉しいですが、
単刀直入に言います。僕は何か特殊な病気なのですか!?」
自分の今の気持ちだった。
いつもの院長の感じで笑い飛ばして欲しい。
それしか願わない。
「・・・、ふー。」
院長が長い沈黙とともに息を吹いた。ため息、という感じでは無い。
「うん。わかった。その質問の重みは君が十分理解していると思う。」
俺は軽く頷いた。
「君も単刀直入にいったのなら、私もそうしよう。覚悟はできてるね?」
「はい。」
覚悟なんてできてるはずもなかった。していたはずなのに。
今ならまだ間に合う、院長に待ってくださいというんだ!と心が叫んでいる。
けれど、口が接着剤でくっつけたように開かない。
「よし。じゃあ言うよ。君の病気は・・・・」
聞きたくない!聞きたくない!今すぐにでも耳を塞げ!と心が叫ぶ。
それも、できない。体が硬直してしまっている。
「直す方法も、予防方も確立されていない未知の病気だ。
日本国内では君が初めての発症者だ。国際的にはまだ12人しかいないとされている。」
聞いてしまった。心のつっかえがとれた感覚とともに、
死の宣告を受けたという恐怖心が心を埋め尽くした。
「具体的には、どんな症状がでるのですか?」
と、振り絞るような声で聞いた。
「うん。発症・・・君の場合は倒れた時、だから一週間前だね。そこから、
だいたい1週間を過ぎると、だんだん体が動きにくくなっていくんだ。
けれど、顔の神経系はなぜか何時までも無事なんだよ。だから、顔以外の体が動かなくなるんだ。
で、発症から一年あたりからだんだん記憶が欠落してくんだ。
最初はつい最近のこと、ひどくなっていくと家族の名前、自分の名前。
最期には誰が誰なのかという事さえもわからなくなってしまうんだ。
」
「一週間!?今日じゃないですか!明日には僕の体が動かなくなるって言うんですか!?」
「いや、違うよ。だんだん動かなくなっていく、と言ったよ。」
「同じようなものですよ!結局は体が動かなくなって、誰なのかわからなくなって、ボーっと過ごして余生をすごすんですよね!?」
「うーん、ちょっと違うかな。ボーっとではなく、痛みに苦しまれるんだ。」
「痛み?神経関係が麻痺するのに?」
「動かなくなる、って言ったけど神経自体は麻痺しないんだ。何故かはわからない。
そして、動かなくなった体の部分が切り刻まれるような痛みが出てくるそうだ。顔は大丈夫だから、悲痛の声と涙を流してくんだ。」
「そ、そんな。死ぬのはいつですか?」
「そんな聞き方はあまり良くないね。この病気で死ぬことはない。けれど、世界で発症している12人は皆、亡くなっている。」
「?なぜですか?」
「あまりの苦痛に舌をかんで死んでしまうんだ。口に噛まないように布を入れても、ちょっとした拍子に噛んでしまうだ。」
「・・・・・・」
辛い現実を突きつけられ、思わず絶句してしまった。
そんな、死ぬより辛いことが起こるなんて・・・
それなら、自殺をしてしまったほうが・・・・
「けど、これだけは言っておくよ。今のうちに自殺をしようなんて考えないことだ。
5例目で、自分で首を吊って死のうとした人がいたんだ。
その病院も発見が遅れて、吊ってから2時間は立っていたそうだ。
心臓は停止していて、手の施しようがなかったそうだ。
家族の同意も得て、黙祷をしている最中のことだったそうだ。突然その人が目を覚ましたそうだ。」
「えっ?それは、死んだのに生き返った・・・って事ですよね。」
「うん、そうなるね。信じれないことだけどね。
その人はまだ発症から2ヶ月だったのだが、いきなり記憶の欠落が始まり、一週間後には痛みに悩まされたそうだ。」
「じゃ、じゃあ僕はどうしたら、いいんです・・・か。」
なぜか涙が出てきた。
あんな親でも家族、妹にも会えない。
それどころか、その記憶もなくして死んでいく、そんなの嫌だ。
「僕からはこれしか言えない。記憶の欠落が始まるまでは、家族の時間を大切にして。
それしか言えない。
ごめんよ、医療が進歩すれば、助かるかもしれないのに・・・・」
そこからのことはよく覚えていない。
たぶん、頭が真っ白で病室に戻ったのだろう。
今日はここまでで失礼します。
たぶん、次回あたりから妹登場です。
wktkせざるを得ない
おとなしく舞ってるぜ
gjです
コーヒー飲みたくなってくるな
これは首はねてもらいたくなるな
どういった展開になるのか気になりますな
GJ!
首吊りじゃなくて飛び降りだったらしねるんじゃないかなたぶん
とりあえず乙
第四話投稿します。
熱い夏の日だった。
空には入道雲が浮かび、その中で輝く白い太陽はジリジリ地面を照り付けている。コンクリートの道路はまるで鉄板のように焼き上がっていた。
遠くには陽炎も出来ていて、街路樹が並ぶ街道をゆらゆらと揺らしている。
アブラゼミがミンミンと騒ぎ、それは何かを急き立てるように感じた。
そんなありふれた七月の光景。
その上を、弾丸のように駆けて行く少年が一人。
彼は溢れ出てくる汗をシャツの袖で拭い、タッタッタッと小気味好く地面を蹴りつけて、ひたすらに走っている。
呼吸は不規則で、息もままならないといった風ではあるが、その顔は決して苦しそうなのものではない。
むしろ、愉快そうに口元を歪めていて、苦楽を共にしたような奇妙な笑みを浮かべていた。
額に張り付く髪の毛が気になっているようだが、走る速度は決して下げない。
少年はただ一心不乱に、前へ前へと歩を進めて行く。
その日は土曜日だった。
土曜日の学校というものは平日とは違い、時間割も短縮されてしまい、時計の針が十二を越えることなく、さっさと下校時間となってしまう。
少年は土曜日の学校が嫌いだった。
授業は道徳や総合などの微妙なものばかりであるし、昼休みになると必ず行うドッジボールも出来ない上、楽しみの給食も出ないからだ。
彼は帰りのホームルームが終わるまで、ずっと唇を尖らして過ごしていた。
そして、放課後。
全ての時限を終え、学校も終了なるのだが、遊び盛りの少年がこのまま一日を終わらせる筈がない。
彼はクラスの男子達を集め、皆の予定がないのを確認すると、昼から遊ばないかと提案した。
男子達はそれを快諾し、各自昼食を摂った後、学校のグラウンドで野球をしようということになったのだ。
少年は、いつもクラスの中心にいた。
彼は頭も良く、運動神経にも優れ、授業中にはいつもくだらない冗談を言ってはクラスを沸かしていた。
加えて責任感も十分にあるので、学校の行事等を行う時は率先してクラスをまとめ上げていた。
友人も多く、人望もある。そんな少年だった。
自宅が見えてくると、少年はより一層走るスピードを上げ、ただいまも言わずに玄関の扉を開けた。
勢いそのままに階段を駈け登り、バットとグローブがある自室を目指す。
しかし、疲れ知らずに稼働していた彼の足が、まるで電源が切れてしまったかのように、突然ピタリと止まってしまった。
微かに開いた隣りの部屋から、しくしくと啜り泣きが聞こえたからだ。
そこは彼の妹の部屋だった。
少年は狂ったように脈打つ心臓を静め、額に浮かぶ汗を拭うと、扉の前で耳をすませる。
自身の口から漏れ出る息がうるさかったが、部屋の中からは確かに泣き声が聞こえた。
少年はそっと扉を開けて中を覗き込む。
部屋の中に、妹は居た。
彼女は部屋の隅で膝を丸く屈めて、溢れる涙を両手で擦りながら静かに泣いている。
彼女のその姿を見て、少年は堪らず声を掛けた。
「リンちゃん」
少年の声を聞いて、妹は顔を上げる。
そして、その瞳一杯の涙を溜めこんで彼に飛び付いた。
「うわっ」
受け止める準備をしていなかった少年は体勢を崩し、二人して倒れこんでしまう。
妹は少年の胸の辺りを掴み、お兄ちゃんお兄ちゃんと連呼した。
スカートがだらしなく捲り上がり、下着が見えてしまっていたので、さり気なくそれを直してやり、その涙やら鼻水やらでくしゃくしゃになった顔を汗まみれのシャツで拭いてやった。
そしてしばらく背中を撫でていると、徐々に妹の落涙も落ち着いてきた。
「どうしたの?」
頃合いだと思って少年がそう聞くと、思い出してしまったのか、妹の目に再び涙が溜まり始める。
それから、しゃくり混じりの声で言った。
「あのね、あのね。トラが……ひっく……トラが苦しそうなの……」
「トラ?」
トラというのは、一年程前から妹が飼い始めているジャンガリアンハムスターの名前であった。
ハムスターのくせに虎とはやけに強そうな名前をしているなと、少年は前々から思っていた。
「トラに何かあったの?」
そう聞いてみたが、妹は少年の質問には答えず、ぐいぐいと彼の腕を引っ張った。
そして、トラの住むケージの前にまで移動させられた。妹が中を見るように促したので、少年はケージの中を覗きこむ。
いつもなら元気よく滑車を回し、せまいケージ内をこれでもかと言うぐらいに駆け回っているトラであったが、そんな元気一杯の姿も今は見る影無く、ケージ内の丁度真ん中辺りでぐったりと横たわっていた。
少年は一目見て、トラの異常を察した。
「トラにエサをあげてから、ずっとこうなの」
事の継起を説明する妹の顔は、不安と動揺に震えている。
そんな彼女とは対照的に、少年は涼しげな顔でふむふむと頷いていた。
実を言えば彼自身も、目の前で起きている突然の事態に、中々に動揺していたのだが、妹の手前うろたえるわけにもいかず、精一杯の平静を試みていた。
せめて妹の前ぐらいはカッコつけたいのが、兄というものだ。
少年は、その小さな頭で考えた。
どうして、トラはこのような状態になってしまったのだろうか。
妹は、エサをやってからトラの容体がおかしくなったと言っていた。
と言うことは、やはりエサが原因でこうなってしまったのか、はたまたもっと別のことが原因なのか。
少年は色々と考えてみたが、結局わかったのは、これが自身の手に負える問題ではないということだった。
時計を見ると、時刻はもうそろそろ一時を回る頃になっていた。もう野球には間に合わないだろう。
頼りになる母は仕事に出かけていた。帰って来るのはよくて夕方、悪ければ深夜になるだろう。
頼りになるのは少年一人。ここでしっかりしなくちゃいけないのは自分なのだと、少年は自身に言い聞かせた。
とにかく、こういう時はまず病院だ。それも人間のではなく、動物の。
少年は脳内で地図を広げ、近くに動物病院があるかを探した。
目を瞑って、さらに集中する。
しかし、いくら探しても見つからない。
ただの病院ならともかく、普段特別注視する訳でもない動物病院など、例えあったとしても、少なくとも少年は覚えていなかった。
「トラ、すごく苦しそう……早く楽にしてあげたいな」
妹が横で呟いた。
少年はそこで一度目を開け、ケージ内のトラを見つめた。
トラは相変わらずの虫の息で、その小さな鼻をひくつかせ、びくびくと痙攣していた。
少年はその姿を見て、顔をしかめた。
なんたる脆弱な姿なのだろうか。あまりに弱々しく、本当に今にでも死んでしまいそうだ。
少年はいつの間にか、トラから目が離せなくなっていた。
とり憑かれたように、ケージ内のただ一点を見据える。
その虚弱な姿態を見ていると、頭の中が妙にクリアになっていく気がした。濁り一つない水面のように、思考が透き通っていく。
そんな、やけに判然とした意識の中で、少年はトラを見つめ続けていた。
その時だった。
パチン、と指を鳴らす音が室内に響いた。それと共に、思い切り後頭部を殴られたような、そんな衝撃が、少年を襲う。
そしてその衝撃は消えることなく、彼の体を蝕んだ。
身体中の神経が薄れていくような奇妙な感覚。
眠っているような、起きているような境界の曖昧さ。
すとん、と彼の顔から表情が落ちた。
「……お兄ちゃん?」
妹が不思議そうに少年を見上げていたが、彼は全然気にする様子でない。
少年はあまりにも自然な動作で、ケージの入口を開け、既に息絶え絶えのトラを手のひらの上に乗せた。
トラの体はまだ暖かかった。これはまだしっかりと生きているのだ。
手のひらを通して伝わる、微かに光る命の灯。
それを感じながら、少年は少しずつ指に力を込めていく。
徐々に力を強めていき、最後には指が白くなる程の力で、手中の小動物を握り締める。
やがて、ポキリと枯れ枝が折れるような音が、耳に届いた。
「えっ?」
そこで、暗示がかかったように動いていた少年の顔に表情が戻る。
眠っていたような意識が、一気に現実に引き戻された。
そして、今起きた出来事を頭が受け入れ始めると、少年の顔はみるみると青ざめていった。
どうして、自分はこのような行動に至ってしまったのだろうか?
それが、少年にはわからなかった。まるで何者かに操られていたかのように、自分の意志とは全く無関係に、気がつけばトラを殺していた。
異様なまでの現実感の無さがあった。
しかし、手のひらの上に乗るソレが、今のが決して夢でないことを物語っている。
「……お兄……ちゃん」
妹の一声で、少年は混乱から立ち直った。
彼はハッとして顔を上げる。
先程までシャツの裾を掴んでべったりとくっついていた妹が、いつの間にか遠くに居た。
「なんで……そんな……」
妹はいやいやとかぶりを振りながら、兄を見る。
「えっ……?」
少年は驚愕した。
妹の瞳が、兄を見つめるその瞳が、いつもの敬虔な光を携えていなかった。
いや、それどころか彼女の目はまるで得体の知れないモノでも見るかのような、そう、まるで、異常者でも見るかのように少年を見ていた。
彼はそんな妹を見て、知らず口を開いていた。
「だって、リンちゃんが言ったんだろ。トラを楽にしてあげたいって」
少年は続ける。
「そうだよ。だから、僕は悪くない。これっぽっちも悪くない。だって僕はリンちゃんのお願いを聞いてあげただけなんだから」
だから、だから。
「そんな目で僕を見るなよっ!」
少年は叫んだ。
顎の先から汗が一粒落ち、カーペットに滲む。
妹は一歩、一歩と後退り、部屋を出る最後に、こう言った。
「お兄ちゃん、普通じゃないよ」
母が帰宅してきた後、少年はトラについての一連の騒動を説明した。
母ならわかってくれると思った。自分が悪くないということを。自分はただ妹の願いを聞いてあげただけに過ぎないのだと。
しかし、話を進めていくうちに、母の顔が怪訝なものへと変わっていった。
そして、話を終える頃には、母の瞳にも妹と同じ光を携えていた。
母もそれから、少年を忌避するようになった。
それからというもの、少年は時々人々から奇異な視線で見られることがあった。
その視線で見られる度に、少年は自身の異常性が浮き彫りにされるような気がして、怖くなった。
自分が普通でないと、嫌でも認識させられてしまうのだ。
結局、少年は少しクラスメイト達と距離を置くことにした。
不用意に近付きすぎると、悟られてしまうと思った。
少年は、普通になりたかった。
異常者から脱却したかった。
彼はただ、また以前のような日々を過ごしたいだけなのだ。それ以上のものは何も望んでいない。
そうして急に孤独になってしまった少年は、普通になるための模索を始める。
何が普通で、何が異常かを見極めるのだ。そうすれば、いつか普通になれると信じていた。
けれど、少年は心の隅ではわかっていたのだ。
自分が一生このままであることを。
翌朝、朝食を摂るために階段を降りていると、玄関で妹の鳥島リンと鉢合わせた。
セーラー服姿の妹は、いつものように髪を結い上げ、その眩しいうなじを惜し気もなく晒していた。
昨日のこともあるので、そのまま無視していくのも気まずいと思い、私は片手を上げて挨拶する。
「やあ、おはようリンちゃん。今から朝練?」
と、軽い質問も織り交ぜて聞いてみるが、妹はそんな私に一瞥もくれず、黙々と青のスポーツバックを背負い、ローファーを履くと「行ってきます」と言って出て行ってしまった。
今の行ってきますは、当然私に向けられたものではないだろう。
虚しく空中をさ迷っていた片手は力無く下がり、私は閉まってしまったドアを名残惜しく見つめた。
昨日の、数年振りに交わした妹との会話が蘇る。
――兄さんみたいな人間が、誰かと付き合えるはずがないじゃない。
あの言葉には肉親に対する親愛の情など全く無くて、あったのは私に対する畏怖と軽蔑と、ほんの少しの心配だった。まあ、その心配も田中キリエに向けられたものだけど。
でも、それでもいい。
私はそう思った。
どんな形であれ、昨日久しぶりに妹と会話が出来たのは紛れも無い事実なのだ。
今までの彼女との関係を考えれば、昨日行われたささやかな会話だって、とてつもない進歩と言える。
これを契機に、彼女と仲良くなっていくことだって出来るかもしれない。何もそう全てを悲観してしまうこともないだろう。
元々、私は根っからのオプティミストなのだ。昨日のこともプラスに考えて、直ぐに切りかえるとしよう。
私はうんうんとひとり頷いた。
そんな楽観的な心持ちでリビングに入ると、今度は今まさに出かけんとする母と出くわした。
「あら、おはよう」
何かのついでのように母が挨拶する。
おはようございます、と私も挨拶を返した。
「もう、行くんですか?」
「ええ、最近はどうも忙しくてね。しばらくはこんな調子が続くと思うからよろしく」
「わかりました」
「朝ご飯は、いつもみたく適当に自分で用意しといて。後、家の戸締まりとガス栓のチェックはしっかりやっといてね。それじゃ」
わかりました、と返事をする頃には母の姿はもう無く、扉の閉まる音だけが耳に届いた。
母は私の背中の壁ばかり見ていて、最後まで目を合わせようとしなかった。
念のため玄関の扉の鍵を閉めてから、キッチンに向かい、コーヒーをいれて椅子に座った。
テーブルの上に置かれた買い置きのパンをかじりながら、テレビの電源をつける。
テレビからは突然、陰欝なBGMが流れ始めた。
ブラウン管に映る女性アナウンサーが、沈痛な表情でニュースを伝えている。
画面の右上には“とある一家を襲った放火事件。同一犯の可能性か!?”と四角い枠で囲まれたテロップが浮かんでいた。
どうやら、最近隣り町で頻繁に起きている連続放火事件のことらしい。
普段は寡聞な私も、この連続放火だけはよく知っていた。
私は黙ってコーヒーを啜る。
女性アナウンサーが手元の資料を見ながら、事件の概要を話し始めた。
昨夜、深夜二時頃。隣り街に住むある一家に魔の手が襲った。
被害者は、何処にでも居そうな平凡な四人家族で、家族構成は両親二人に小学校に上がったばかりの兄弟が二人だった。
火元が一階のキッチン付近であったため、階下で寝ていた父親と母親は、早急に家宅の異変に気付き、幸いにも素早く避難することが出来た。
しかし、二階で寝ていた兄弟二人が気付いた時には既に遅く、二人は燃え盛る家宅の中に取り残されてしまう。
そこで、救助隊の到着を待ち切れなかった父親は、勇敢にも二人の息子を助けに再び火の中へと飛び込んで行ったのだ。
けれど、現実とはいつも非情なものである。
結果、消防隊により鎮火された家の中からは、三人の焼死体が発見された。
不謹慎な物言いではあるが、正にミイラ取りがミイラになると言ったところであろう。
「父親、か……」
私は画面に映る、父親という二文字を見つめた。
私には父親が居なかった。
いや、生物学的な観点から見ればそんなことは有り得ないので、存在することには存在するのだろう。
けれど、鳥島家にはいない。
私には父親に関する記憶は全く無いので、父は少なくとも私の物心がつく前には居なくなってしまったことになる。
私は幼い頃、よく父のことを知りたがった。が、母はあまりその事を話したがらなかった。
ただ、ずっと昔に死んでしまったとだけ聞かされている。
しかし私は大して、父がいないことを寂しく思わなかった。
鳥島タロウにとって、自分の家に父親がいないことが普通であったからだ。
けれど、妹は少し違った。
彼女は時たま、父の不在を嘆くことがあった。
「どうして私の家にはお父さんが居ないの?」と私は幼い彼女によく聞かれたものだ。
そんな家庭状況なので、私は母によくこう言われていた。
「タロウはお兄ちゃんなんだから、しっかりとリンちゃんのことを守ってあげるのよ」
母は毎日ことあるごとにそう言い、私はそう言われる度に誇らしい気持ちになった。
任せておくれよと言って、胸を張ったものだ。
けれど、いつしか母は私にその言葉を言わなくなった。
最後に言われたのは何時だっただろうか。
そんなことを考えて、少し淋しくなった。
朝食を済まして、私は登校の支度を始めた。
洗面所で顔を洗い、歯を磨き、寝癖を直してから自室へ向かい制服に着替える。
ワイシャツのボタンを閉め、厚手のセーターを着込んでから、ハンガーにかかったブレザーに手を伸ばした。
「んっ?」
その時、小さな違和感を感じた。
うまく言えないけれど、なんだかブレザーが少しおかしい気がする。
けれども、何がおかしいのかはわからない。何とも形容し難い、まるで靴の中に小石が入っているような、そんな違和感。
「気のせいかな……」
私はしばしブレザーを睨んでいたが、そんなことを気にしていては学校に遅刻してしまうので、さっさとブレザーを着込んで準備を再開した。
そして、学生カバンに教科書やノートを詰め込むと、早足で家を出た。
そして、鍵を閉める時。
ふと、今朝の放火事件のことが頭をよぎった。
家族構成は四人で死者数は三人。
生き残ったのは、確か母親であったはずだ。
愛する夫と幼い子供に先立たれてしまい、ただ一人とり残されてしまった母親は、一体どんな心境なのだろう。
私は少し気になりながら、鍵を閉めた。
いつも通り、ホームルーム開始五分前に学校に到着する。
私はあまり朝は強くないので、普通に登校すると大抵この時間帯に学校に着くのだ。
下駄箱で靴を履き変えてから、冷え切った廊下を抜けて、教室のドアを開けた。
「あっ、タロウ!」
そしてドアを開けるやいなや、クラスメイト達が一斉に私に駆け寄って来た。
ここ最近は、ドアを開ける度に皆に集まられている気がする。
勘違いだとはわかっているが、まるで自分が人気者になったみたいで、少し嬉しい。
「タロウ、お前昨日結局どうなったんだよ?」
クラスメイトの一人が口を開く。
質問内容は予想通り、マエダカンコに関することだった。
何時の時代でも、人間のゴシップ好きとは変わらないものだ。
「えーと……」
昨日のことをそのまま話す訳にもいかないと思い、私は適当に話をごまかすことにした。
ただ彼女が、普通の人間には手の負えない、物凄く恐ろしい怪物だということを懇切丁寧に教えてあげた。
話を聞いたクラスメイト達は震え上がり、そして無事生還した私を不思議そうに見た。
そんな質疑応答を繰り返していると、黒板側のドアを開けて担任が入って来た。気がつけば始業のチャイムも既に鳴っている。
それを契機に、クラスメイト達は散り散りに自分の席へと戻り、遅れたホームルームが始まる。
担任の点呼が始まった。
次々と生徒の名前が呼ばれていく中、私はあれ?と首を傾げる。何故か田中キリエの名前が呼ばれていない。
見れば、最前列の廊下側の席がぽっかりと空いている。あそこは確か、彼女の席だった筈だ。
今日は欠席なのだろうか?昨日はあんなに元気そうだったのに。
私は田中キリエの柔和な笑顔と、無骨な形をした金づちを思い出した。
何はともあれ、こういう時は本人に聞くのが一番であろう。
私は朝のホームルームが終わると、携帯電話を開き、彼女にメールを送ってみることにした。
昨日の内にアドレスは交換している。
私の数少ないアドレス帳の中には、きちんと田中キリエの名前が入力されていた。
メールを送るのは随分と久しぶりの事だったので、多少操作を忘れているところもあったが、なんとか無事送信することが出来た。
よし、それでは次の授業の準備を始めようと思って、私が携帯電話をポケットにしまおうとした時、手中のそれが突然震え出した。
誰かからメールが届いたようだ。
迷惑メールかしら、と思って携帯電話を開くと、驚くべきことに届いているのは田中キリエからの返信メールであった。
早い。相当に早い。いくらなんでも早過ぎる。
私は、彼女の返信の早さに脱帽した。
まだ送ってから数分も経って居ないのに……。
到着時刻を見てみると、なんと受信時間と送信時間とが同分であった。メールの受信から返信までが一分も経っていない。
まるで一日中携帯電話を握りしめてたかのような早さだった。
もしかしたら、彼女は昨日からずっと私のメールを心待ちにしていたのだろうか?まあ、そんなことは有り得ないか。
メール内容を確認する。
どうやら田中キリエは風邪をひいてしまったらしい。
元々あまり身体が強くないので、時たまこうして休むことがあるのだということが、絵文字を交えて丁寧に語られていた。
私はメールを返す。
てっきり生理で休んだんだと思っていました、と送信すると、再び一分足らずで返事が返ってきた。
自分は生理痛で休んだのではないということが、句読点を交えて克明に語られていた。
私はとりあえず、今日はしっかりと自宅で療養して早く学校に復帰してほしいという意のメールを送り、彼女のそれに対する感謝のメールを確認してから、今度こそ携帯電話をポケットにしまった。
ふぅ、と一息ついて窓の外を眺める。
なんだか、急に暇になってしまった気がした。
私は、今日から田中キリエとの甘く切ない恋人生活が始まるのだと意気込んでいたので、どうも肩透かしをくらった感は否めない。
突然、異動命令を出されてしまったサラリーマンのような気持ちだ。
それなら、放課後はどうしよう。
ここは彼氏らしく、恋人を気遣ってお見舞いにでも行ったほうがいいのだろうか。
だけれど彼女の性格を考えれば、私が訪ねてしまっては、何よりも当の本人の気が休められない気がする。
やはり、ここは大人しく帰ることにするべきか。
私がそう思っていると、ふと学校内の隅にある部活棟が目に入った。
頭をよぎるのは、茶道室の住人。
そういえば、少し前まではそれなりの頻度で会っていたけれど、最近は忙しかったせいもあってか、彼女とも久しく会っていなかった。
そうだな。
放課後の予定が決まる。
どうせ、これから忙しくなるのだ。最後くらいに一度、斎藤ヨシヱと会っておこう。
投稿終わります。
81 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 15:09:36 ID:/SN6NV1j
GJ
GJ!
83 :
雪田:2010/06/05(土) 21:21:28 ID:GCZ1ZaCd
誰かダークな感じなssを書いてくれ。俺が書くとひどい物にしかならなくて
84 :
雪田:2010/06/05(土) 21:22:30 ID:GCZ1ZaCd
誰かダークな感じなssを書いてくれ。俺が書くとひどい物にしかならなくて
85 :
雪田:2010/06/05(土) 21:23:30 ID:GCZ1ZaCd
すまん。ばぐった
バグ以前に 名前を消せ ageるな
>>63 続き投下します。
まだ、微妙に妹出てきません。ごめんなさい。
病室でふと思ったことは「この病気は感染しないのか?」という事だった。
院長に電話をかけてみよう。
『はい。もしもし。院長です。』
ここでしか言えない名乗り方だな。
「あ、院長。俊輔です。」
『ああ、俊輔君。どうしたの?」
「さっき、聞くのを忘れていたのですけれど・・・僕の病気は感染しないんですか?」
『うん、そうだよね。聞きたいことだよね。一応、WHOの発表だと感染はしない・・・っという事になってる。
けど、万全を期すために君に合う人は
・医療関係者
・家族
だけになっているんだ。まあ、感染はしない、と思ってくれていいよ。』
「あ・・・そう何ですか。ありがとうございます。」
『いや、いいよー。君が電話してくれたおかげで手鏡を使わずにカメラで・・」
「ありがとうございました!」
最後に何を言おうとしているんだ、この人は。
とにかく、感染しないのならいいや。
がんみたいなものか。
と、そう思いたかった。なぜか、感染はしないと言っても心で何かがざわめくような気がした。
・・・
・・
・
病室でノートPCをいじくってたら晩飯の時間になった。
晩飯・・・・と言ってもサンドイッチと紅茶だけだが。
自分のいる病棟はどうやら隔離病棟と呼ばれているらしい。
今まで親が病棟内のコンビニで物を買ってきていたので知らなかったが、この病棟内のコンビニのレシートを見て知った。
[ローソン ○○病院内隔離病棟内仮説コンビニ]
と書いてあった。
だから、廊下・・・いや、他の病室に人がいないわけだ。
まず、院長室に行く時に自動ドアが3重になっている時点でおかしいと思えよ、俺。
院長室にドアが二つあった時点でも、気にならなかったのかという。
笑えてしまうな。つい昨日までは、軽い気持ちで「なんでだろう。」としか思わなかったのに。
今は重い重い物が入ったリュックを背負って人生という道を歩いている気分だ。
しかも、その道は途中で切れていることがわかっている。
・・・何もやる気が起きなくなった。
そういや、親父とお袋遅いな。
妹の帰国にそんなに時間かかるか?
まあ、いいや。けど、暇だな。妹のことでも思い出そう。久しぶりにあうからな。
妹は前に言ったように超がつくほど天才だ。
なんで、俺の妹がこんなに頭がいいのか本当に不思議である。
お袋が俺と妹が小学生の時、面談の帰りにこんな事を言っていた。
『なんで、あんたは弥子よりもこんなに頭が悪いの!?』
・・・お袋は妹を本当に大切にしていた。おれなんか、近所の恥だとでも思っていたんじゃねえのかな。
けど、不思議とお袋には怒りの気持ちを持ったが、弥子に対しては全く怒り・・・いや、嫌な気持ちを持ったことがなかった。
どんな扱いを受けても弥子が可愛くて仕方がなかった。
小学生低学年だった弥子と一緒に通学していたとき、酔っぱらい運転の車が俺たちに向かってきたことがあった。
俺は弥子をかばって正面衝突をしたような形だった。たしかあの時は全治5ヶ月とか言われた。
弥子は「ごめんなさい。」と俺を見舞いにくるたんびに言っていたが、
あまりに毎回いうので俺も弥子に謝って欲しくなかったし、自分が弥子を助けるためにやったことが逆に弥子を追い詰めているような気がしてある時、
「お兄ちゃんな、謝ってくれるよりも、いつもの弥子みたいにアホとかいってくれた方がお兄ちゃんにとっては嬉しいんだ。」
とかいう、ちょっと捉え方を変えるとドMが『俺を罵ってくれ!』と捉えれそうなことをいってしまった。
正直、あの時なんで俺はあんな事をいってしまったんだ、と思う。
なぜなら、その直後に
「えっ・・・・。本当にいいの?いつもの弥子のふうにふるまっていいの?」
「うん。普段どおりの弥子でいてくれればいいって。」
「そ、そう。じゃあ。この兄貴。おかげで友達から『弥子ちゃんのお兄さんってカッコいいんだね!』って言われてしまったじゃない!
何が悲しくてこの豚みたいな兄貴に助けられなきゃいけないのよ。
いちいち兄貴に謝りにくるのそろそろめんどくさくなってきたの。ちょうど良かった。
そろそろ心の奥で思ってることをぶちまけないとおかしくなりそうだったの。明日からは私の話を聞いてね、この下僕の豚。」
と、豹変したように言ってきたのである。その時はすっかり忘れていたんだが、時々弥子はこんなふうにかわいい顔と優しい心をしているのに、
人が変わったように人に・・・いや、俺に罵詈雑言を浴びせてくるのだ。
たいていその時は俺のことを”兄貴”と呼ぶ。
・・・・ああ。絶対俺がMになったのは弥子のせいだと改めて思う。
普段は弥子の優しい人格でいる弥子が、年に1回はこんな風に俺に言ってくるのだ。
いわゆる二重人格というやつだろう。
そのときの俺は、「ああ、年一回のアレか。」と思っていた。
しかし、いつもは一日で優しい弥子に戻るのに、その日以来俺しかいないときに弥子はドSの人格で話すようになった。
・・・・いっておくが足をなめたりとかそんなとこまではいってはいない。
寝ている俺の鳩尾を二時間おきに蹴りにきたり、数時間かけて終わらせた課題をわざわざ消しゴムで綺麗に消したり、
俺を椅子替わりにしたり、足で顔を踏んだり、・・・・いや、完璧に後者は違う意味でいってるな。
けど、ヘタレであるとは自覚しているが、どうしても怒れない。
逆に踏んだりしている時とかの俺をいじめている時の弥子の表情が可愛くて仕方がない。
心の奥でこの表情をもっとみたい、そんな気持ちになったりした。
性的な意味ではないことを付け加えておくが。
けれど、怒ってはないけど、弥子の前で大泣きしたことがあったな。
あれはたしか俺が中学校に入学したときの事だ。
なぜか、俺が初めて教室に入ったとき、クラス全員が俺を凝視してきた。
なぜ登校初日、いや自己紹介も何もしてないのに俺はこんなに見つめられるだ。
そんな事を思いつつ俺は自分の席を見つけ、座った。
荷物を机の中に入れようとした時、俺はあるものを発見した。
それは、封筒に入った小さな紙だった。
気になって出して読んでみると、そこには俺の名前と顔写真、そこに加えて俺の今までの恥ずかしい言動のすべて、
極めつけが弥子に俺が踏まれて笑顔になっている写真だった。
瞬時に封筒の中に戻し、周りを見た。
予想が当たっていればいいが、と思ったが見事その予想は当たった。
その予想は・・・クラスのやつ全員の机の上に俺と同じ封筒と紙が出ていること。
もう、その時点で泣きそうだったのだが、泣き顔を見せたくなく、下を向くと、封筒に目がいった。
よく封筒を見ると小さな字で
「兄貴が友達とか恋人を作ろうと思って、誰かに話しかけると、その人がかわいそうだからね。
みんな同情して友達とかになってくれるかもしれないけど、付き合うのが大変だろうから、
今のうちに近寄らないように警告みたいのをみんなに出しといたよ。」
俺は登校初日、登校開始から30分で早退をした。
弥子はまだ小学校で、明日が登校日だから、自分の部屋にいた。
俺は弥子の部屋に入って、その封筒を見せて、「弥子がやったのか?」と聞いたら、
それはもう見たことが無い笑顔で「うんっ!」と言った。俺はその場で泣き出してしまった。
弥子は心底嬉しそうに「だって、昨日どっかの人が私に口答えしてきたから、腹がたってね。」
その日の前日に、とあることで弥子と喧嘩をした。
たまたま俺はその時カリカリしていて、つい弥子のいつものおふざけに切れてしまいそうになった。
・・・・中学校の頃はもう思い出したくないな。
友達から変態と言われ、何か事件が起こると先生も皆俺のせいにしてきた。
そんな中学時代だったので、俺は高校は県外の高校を受け、無事合格し入学式まで1週間となった日。
そんな時だった。弥子が英国に留学することになったのは。
俺は弥子が留学することを前日に知った。
俺はもちろん止めようとしたが、説得も虚しく弥子は留学していった。
あれ。なんか、重要な事を弥子の見送りの時にあったような・・・
まあ、弥子が来ればわかるだろう。
コンコン
「はい。」
「やあ、俊輔君。」
「院長。どうしたんですか?」
「いやぁ、君の病気は政府に報告しなきゃならなくてねぇ。一応この病気は極秘扱いだから。」
「え、なんで極秘扱いなんですか?」
「治療法も発症原因も分からない病気があると報道されたら、世界はどうなると思う?」
「あ。」
聞くまでもなかったような気がする。
パニックになる。そんなこと当たり前だった。
「だから、この病気を知っているのは私みたいな国立病院の院長ぐらいなんだ。」
「そうなんですか。」
「で、診断書の欄に君の捺印がいるんだ。」
「捺印ですか。はい、いいですよ。」
「ありがとうね。ここね。」
・・・
「はい、おし終わりました。」
「ありがとうね。これは2回目の提出だから、本人の捺印がいるんだ。」
「2回目?1回目は誰が?」
「君のお父さんに押してもらったよ。ああ!そういえば、政府もWHOに報告したみたいだ。
で、よくわからないけど、君宛にWHOから封筒が来てるんだよ。
それも、今日の朝発送されたやつが。日本郵政もいつもこのくらい働けばいいのにね。」
「はぁ。で、封筒は?」
「はい、これ。」
確かに、WHOのロゴがでかでかと書いてある封筒だった。
宛先は確かに俺だ。そして、横にICチップがついてた。
「あけていいですか?」
「あ、待ってね。開くときには私のこの端末でWHOに開封許可を申請しないと。」
と、いって院長はPSPぐらいの大きさの端末を出して、封筒のICチップにかざした。
ピッという音とともに、機械音声で開封許可を申請、受理しました。開封できます。と声が出た。
「はい、開けていいよ。」
「どうもです。」
ビリビリと開けてみると、なかには一枚の紙が入っていた。
それまた、WHOの豪華そうな紙だった。わかりやすく言うと、賞状とかで使う紙みたいなものだ。
そこには
WHOより、UDTCS(Undying Desire To Commit Suicide)感染者と本患者収容病院院長への通達
UDTCS感染者様へ 明日(本通達発行日の次の日)より、あなたと病室で面会できる方が規制されます。
あなたと病室で面会可能、あなたのいる病棟に立ち入ることが可能な方は あなたの妹 のみとなります。
他の方と面会を希望される場合は、隔離病棟の面会室をご利用ください。
UDTCS感染者収容病院院長様へ
UDTCS感染者を収容している隔離病棟の立ち入り制限を行ってください。
貴病院の隔離病棟へ自由に入ることができるのは UDTCS感染者の妹 のみとなります。
それ以外の方が隔離病棟へ立ち入る事を禁じる措置をとってください。
また、生活に必要なものは隔離病棟内の簡易販売所等へ置き、販売員などは設置しないものとします。
面会は自由ですが、UDTCS感染者が希望する方のみとなります。それ以外の方は面会することができません。
本通達は請願書第XXXXX-XXXにより作成されています。請願書受理日XXXX/XX/XX
本通達有効日XXXX/XX/XX,本通達終了日UDTCS患者死亡時
と書いてあった。
なぜか、俺宛の文章は4行なのに、それすらも理解できなかった。
なぜ、弥子だけが俺の病棟にいられるんだ。Why?
院長はこのことを知っているのだろうか?
「い、院長。」
「ん、なんだい?」
「あの、これを見てください。」
震えた手で、紙を院長に渡す。
「はい。・・・・・・・・・・。WHOがそういうのなら、そうするしか無い。親御さんも立ち入り禁止か。」
えっ。動揺しないの。なんで、俺の妹だけとか。えっ?えっ?
訳が分からない。
「わかった。私は他の医者とここの販売員に話をしてくるから。」
「ちょっ、ちょっと待ってください。なんで僕は妹以外と病室に一緒にいてはいけないんですか?」
「わからない。けど、WHOの指示だ。拒否するわけにはいかない。私は急いで話をつけないといけないし、そろそろ君の親御さんも帰ってくるから、止めないと。」
走って院長は俺の部屋を出て行った。
いや、本当に意味がわからない。
今日はここまです。
まとめる能力ないなぁー
読みにくい文章ですいません。
GJ!
でもこのまんまじゃ泥棒猫もでてこないねWW ただのSMショーだろ
妹しか出てこないなら次からキモウトスレに引っ越した方がいいようなそうでないような
>>99 >>100 ちょっとネタバレですが、あと2人は出します。
設定は幼馴染と主人公を片思いしている子ということになっています。
そっ…そこまでバラさんでも…
出るかどうかだけでそれがどういう奴かまでは伏せとくべきだったな
まあ続きに期待してるのには変わらん
>>101 わかりやした!まあどんな奴が出てくるか全然わかんないから楽しみにしてますよハッハッハ
主人公の病室に忍びこんで…。
いい文章だ。GJ
俺なんてお堅い口調でしかかけないからな、羨ましいぜ
投下します。今回はセクハラ少なめです。
*****
目が覚めた時、私の手は温もりに包まれていた。
いえ、その温もりがあったから私は目を覚ましたのかしら。
よく、わからない。
「ね、姉さん」
頭がぼんやりしたままで、誰かに声をかけられたことに気付くのに時間が掛かった。
「よかった、目を覚ましたんだ、姉さん……」
私の手を握っていたのは、私の弟だった。
妹と一緒に行方不明になっていたはずの。
言いたいことはたくさんあった。
けれど、何を言いたかったのか、今は思い出せない。
七……いえ、八ぐらいかしら。弟に言いたかったこと。
数は数えていたけど、内容までは思い出せないわ。
ところで、私は生きているのね。
てっきり死ぬのかと思っていたわ。――死ぬつもりだったんだから。
とにかく高いところへ。
天まで届きそうな高い場所へ移動して、そして飛び降りた。
自殺するために。
お父さんのいるところへ逝くために。
頭の中に空きがいっぱいあって、考えがまとまらない。
どれぐらい私は眠っていたんだろう。
「もう目を覚まさないのかと思ってたよ」
「……そう」
「姉さん、一ヶ月近く眠りっぱなしだったんだから」
「あら、そんなに……」
どうりで頭がぼうっとするわけだわ。
というか、まだ眠りたい気分。
眠りすぎると余計に眠くなるっていうけど、なるほど、こういうことなのね。
微睡みながら、弟の顔を見つめてみる。
――あら、なんだか大人びて見える。
久しぶりに見たからじゃないけど、どこかが変わったわけじゃないけど、違う。
ああ、そうそう。
「そうだったわ。妹」
「え、何?」
「妹とあなた、セックスしてたんだった。
同級生の女の子は、エッチとか言う、あれ」
弟がびっくりしてた。
「……ごめん、姉さん」
脈絡もなしに、弟が謝った。
謝る理由がわかんない。
なんだか、すっごく、可笑しい。おかしくって、耐えられない。
「あは、あははははっ、あっはははははははははは!」
「姉さん? 大丈夫、姉さん!」
おかしいわ。笑わずにいられるもんですか。
謝るってことは何? 反省しているって言いたいの? アピール?
「はは、あっはははは……おっっかしいの! ない、ナイ、無いわ!」
ねえ――弟?
格好良くて、いつだって優しくて、頭が良くて、人気者で、良い子の、私の弟。
謝って済むとでも思ったわけ?
謝ればどんなことをやっても許されると思った?
謝れば、たくさん謝れば、謝り疲れれば、あなたは許されるの?
私は許さない。
あなたと妹がしたこと、家族がバラバラになった原因を作ったこと、私の気持ちを裏切ったこと。
私を犯せばよかったんじゃない?
妹のカラダじゃなくて、私のカラダを。
欲求不満が募ってあんなことになったんなら、私に相談すればよかったのよ。
妹よりお姉ちゃんのおっぱいの方が大きいって、知ってるでしょ。
私はお姉ちゃんだもの。
あなたに甘えられようが、貫かれて処女を奪われようが、変態みたいなことされようが、許してあげる。
お姉ちゃんはね、初めてをあなたに捧げてもいいぐらい、夜通しあなたに犯されたって平気なぐらい、あなたを愛してるのよ。
妹も馬鹿よねえ。
姉妹愛が欲しいんなら、私がたっぷり可愛がって、愛で身も心も満たしてあげたのに。
そうよ。
あなたたち二人が馬鹿だったから、こんなことになってしまったのよ。
弟が悪い。妹も悪い。
二人とも悪い子。お姉ちゃんの気持ちを裏切った共犯者。
「今ナースさん呼んだから! すぐに治してもらうから、しっかり!」
優しいのねえ。
こんなことを考えている私の身まで心配してくれるなんて。
――でも、とっくに時間切れ。
これから、壊してあげる。
あなたの幸せを壊してあげる。
絶対に幸せになんてさせないわ。
お父さん、お母さん、私。みんな悲しんだ。不幸になった。
家族なのに、同じ目に遭わないなんて――可哀想だから、ね。
*****
まあまあ、落ち着いて。
たしかに澄子ちゃんと藍川の目から見れば俺が玲子ちゃんにひどい悪戯をしているように見えたかもしれない。
信じて欲しい。俺は理由があってあんな行動をとっていたんだ。
うちの妹が前例なんだ。
妹が弟にべったりひっつきだし、俺を嫌うようになったのは、俺も一枚噛んでいるある事件からなんだ。
その事件は語り出したら長くなりそうだからここでは言わない。
玲子ちゃんの件とは全然関係ないから。
ここで俺が言いたいのは、だ。
小さい女の子がその行動と性格を変えるには、なにかきっかけがあるということなんだ。
妹の場合は、俺が中学校にあがったことがそれにあたる。
澄子ちゃんなら知っているだろうけど、俺には弟と妹がいる。
弟の方は一つ下、妹の方は二つ下だ。
すると、俺が中学校にあがると自動的に弟と妹は小学校六年生と五年生になる。
小学校の登下校は二人で一緒にするようになった。
夏になる頃には、妹はほとんど俺と口をきかなり、家でも俺との関わりを絶つようになっていた。
妹の性格が今のようになったのもそれからだ。
可愛くないだろ? さすがに露骨すぎるだろう。仮にも兄に対して。
もちろん仮じゃないさ。俺と妹は、両親が同じ人間だから。
話がちょっと長くなったけど、つまり、俺が玲子ちゃんにあんなことを言ったのは、玲子ちゃんのためを思ってなんだ。
服装が変わっただけで性格が変わるなんて、一種の精神的な病みたいなものだろう?
それを治してあげたいと思うのは、年上として当然じゃないか。
なにかおかしいかい? 俺が言っていること。
――と、いい感じの台詞がすらすらと思い浮かんだのは、目隠しをされて猿ぐつわを噛まされて椅子に縛りつけられて、
ぐったりと疲れ果てた状態になってから、ようやくのことであった。
てっきり取り調べ、もしくは裁判じみた尋問が行われるかと思っていた。
しかし、伯母の病室に入った俺を待っていたのは、問答無用の身柄取り押さえであった。
首を振って意志を伝えるしかできない俺に対して、澄子ちゃんは無慈悲にも拷問を開始した。
自由な左手のツボを、ペンを使って刺激しだしたのだ。
ここは心臓です、ここを刺激したら肺に、生殖器のツボってこの辺なんですよー、とか解説しながら、
左手を貫けそうなぐらいの強さで刺し続けてきた。
甘く見ていた。ツボを刺激する程度ならと高をくくっていた。
まさか手だけでほぼ全身のツボを刺激することができるなんて。
猿ぐつわが無かったら、俺のみっともない悲鳴が同じ階の病室すべてに響き渡っていただろう。
反省しました。
自分の考えがどうあれ、他人から見ればあの言動は変態そのものであると理解しました。
こんなに痛いのなら、苦しいのなら、もう玲子ちゃんに悪戯なんかしないよ。
しばらくして、藍川が俺を解放してくれた。ただし、猿ぐつわと目隠しのみ。
両手と両足と腰はパイプ椅子と繋がったままである。
「反省したかい、ジミー君」
「……したとも。ああ、しまくったとも。
俺、ここまでされるほどしたんだな。悪かったよ」
「私に謝ってもらっても困るな。許す、許さないは私が決める事じゃない。
玲子が決めることだろう。謝るなら玲子にするべきだ」
「ああ、そうだな……」
椅子に縛り付けられたまま、玲子ちゃんの方を見る。
ベッドの上で、伯母の腕にしがみつきながら必死に笑いを噛み殺していた。
「ごめんな、玲子ちゃん」
「……ぷっ、くふふふふ、ぷぷぷぷぷ……。
い、いや、も……いいから…………ぷふっ!」
「そんなに可笑しいかい、今の俺は」
返事はなかった。
しかし堰が切れたように大きな声で笑い出したことからして、腹がよじれるくらい面白く見えているらしかった。
病室の窓側を見る。
澄子ちゃんはそこで手持ちぶさたにペンをくるくると回していた。
「澄子ちゃん、聞いての通りだ。
もういいから、ってことなんで、この拘束を解いてくれないかな」
「あれあれ、何か忘れてやしませんか?
玲子ちゃんと京子には謝って、アタシには無しですか?
それじゃあ、拘束を解く訳にはいきません」
「……ごめん、澄子ちゃん」
「それで? どうして欲しいんですか?」
「この縄を解いて欲しいと思ってるんだけど、駄目かな」
「ダメですよ」
ホワイ?
あれだけツボを刺激しても、まだ気が済まないのか? そこまで怒らせてしまったのだろうか。
「まあ、さっきの変態行動についてはいいです。今は反省しているみたいなので。
言っておきますけど、今の先輩にだけですからね。
罰を受けた後なら誰だって大人しくしてます。
後日、先輩がまたしても変態行動にでたときは」
「でたときは?」
「もう一度、あの体育館でお話しましょうかね。今度は情け無用で」
……ちょう、怖い。
「まあ、今は先輩に対して怒っているわけじゃないんですよ。
解いてあげてもいいかなー、ってぐらいにはなってます」
「ほ、ほんとに?」
「と言っても、たまにはです」
「たまに、って!」
たまに解くって、もう一度結び治すってことじゃないの?
「あの、すでに手とか足とか痺れてきてるから、勘弁して欲しいんだけど」
「大丈夫ですよ、たぶん。先輩ならやればできます」
「妙な信頼しないでくれ!」
「そんなことより、先輩を解放しない理由について」
突然話を進め出す澄子ちゃん。
そういう話の仕方って、明らかに優位に立っている人間しかできないよな。
「ちょっと先輩にお聞きしたいことがいくつかあるんですよ」
ああ、そういうこと。
俺が嘘をつけないように、拘束したままで話をしようってか。
あれ。最後に澄子ちゃんと話をした時も俺はこんな状態だったような。
体育館の地下か、病室かの違いはあるけども、拘束されてるのは同じだ。
この子はフェアな状態で俺と話をする気はないのか。
「えー、まず……先輩はなんで右腕を怪我してるんですか?
金髪の悪魔にでも出会いましたか? それとも喧嘩でもしましたか?」
「……前者だよ」
「へえ……ふうん。そうなると、あいつが邪魔しに来た理由も……なるほど」
澄子ちゃんがちらりと横を見る。
視線の先には玲子ちゃんと、伯母が居た。
「先輩はオオカミを部屋に入れてしまい、命の代わりにオオカミの知りたいことを教えてしまったわけですね」
年齢制限にひっかかることを心配したのか、言葉をオブラートに包んでいた。
オブラートに包まないで言うと、『先輩は葵紋花火に詰め寄られて腕を折られ、命が惜しくて奴の知りたいことを教えてしまったんですね』となる。
先日の弟誘拐事件で、花火は犯人をずっと捜していた。
そう、犯人は澄子ちゃんである。
そのことを花火に教えたのは、俺だ。
弟救出の役目を花火に託すために。妹をこれ以上傷つけないために。
「ありがとう……って言っておくよ」
9歳児の教育に配慮してくれて。
「でもちょっと違うな。この怪我はオオカミとは直接の関係、無いよ」
「そうですか。それなら興味ありません」
「助かるよ」
ベッドの下敷きになって腕が折れたなんて、恥ずかしくて言えないからな。
「次の質問です。先輩の弟さん……と、葵紋花火。
この二人が今どうしてるのか聞きたいんですけど」
「……いいのか? 包み隠さず、本当のこと言って」
「もちろん。というか、包み隠したりしたらどうなるか、言わなくてもわかりますよね?」
「オーケー。嘘含有率ゼロパーセントで」
逃げられないもんな、この状態。
俺だってまだ命が惜しい。こんなところで危険にさらされるなんて御免だ。
「ではまず、二人の親密度について、どうぞ」
「あの一件からこっち、さらに仲良くなってるよ。
弟の登校を花火が正門前で待ってたりとか、してる。
それ以外の具体的なことは知らない。聞いてないから」
「……ふうん。そうなんですか。
では次。葵紋花火の状態について教えてください」
「状態って、たとえばどんな?」
「あの女の様子に変わったところがあるでしょう。何か一つぐらい」
変わったところ? 花火に?
あった……か?
それこそ、弟とまた仲良くなったぐらいしかないんだが。
「先輩、もしかしてあの女……問題なく動き回ってるんですか」
「そうだけど、それが?」
澄子ちゃんがため息を吐き出した。首がうなだれ、肩が落ちる。
「ホントに、葉月さんといい、葵紋といい……凡人の私には荷が勝ちすぎてますよ。
あの女の弱点とか知りませんか、先輩」
「さあ? それこそ、弟ぐらいのもんじゃないか」
「ですよねえ。ああ、しんどい」
実にめんどくさそうな顔を澄子ちゃんが浮かべた。
それはまるで、プラモデルのデカールの段差を埋めるためにクリアスプレーを吹いてからペーパーで研ぎ出しをする作業中、
誤って300番のペーパーを使用してしまい、デカールごと削ってしまったときの俺の顔のようであった。
あのミスで投げ出したスケールモデルがどれほど封印されてしまったことか。
澄子ちゃんがどれほど気が滅入っているか、自分のことのようにわかる。
「……もういいです、先輩」
澄子ちゃんが壁から離れ、出口へ向けて歩き出した。
「私、帰ります。京子、あんたも帰るわよ」
「ジミー君の縄は解かないのか?」
「どうでもいいわよ、そんなこと」
ついさっき義妹とか名乗っていた人間の台詞じゃないな。
澄子ちゃんがもっと普通の女の子で、こんな暴言を吐いたとしたら、俺は弟との交際を認めないね。
「そうか? うーん、まあいいか」
「待て藍川! お前までそんなこと言うな!」
「ジミー君。私から君に言えることは一つだけだ。
しばらくそのままで、自分の犯した罪の深さを知り、悔いるがいい」
「見捨てられてしまった……」
そうか。藍川は玲子ちゃんのお姉さんみたいなものだもんな。
妹のことなら、真剣に怒るのは当たり前だ。
俺だって、道の往来で、妹に向かって「服を脱げ」とか言っている男を見たら、激怒しているに違いない。
……いっぱい反省しやがれ、俺。
「玲子、あなたも今日は藍川さんに送ってもらいなさい。とっくにお外は真っ暗よ」
伯母の声だった。
しかしそれは、俺のイメージの中にある伯母の声ではなかった。
ただの優しい母親。それ以外の印象を覚えない。
「うー、今日は泊まっていく……」
「駄目よ。前もそれをやって、お医者さんに怒られちゃったでしょう?
明日ならお医者さんもいいって言ってくれるはずだから、明日二人で一緒に寝ましょう?」
「うん……わかった」
渋々といった感じに、玲子ちゃんがベッドから飛び降りる。
その小さな背中にランドセルを背負い、俺の前にやってきた。
脛を蹴ってきた。
「痛え!」
「こっちも……てりゃ!」
「アウチ!」
このガキ、両足とも蹴ってきやがった!
「なにしやがる!」
「はんせいしろ! 自分のおかし……えと、たつみのおっかさんを知り、くいるがよい!」
こ、こいつ……!
今度会ったら全力でパンツの色を確かめてやるからな!
澄子ちゃん、藍川、玲子ちゃんの三人が立ち去り、後に残されたのは俺と伯母だけであった。
伯母。父の姉であり、母の姉である。だから伯母。
名前は冴子。
今頃気付いたが、ついさっきまでいた女性は、全員名前が『子』で終わっている。
統一感があって実に覚えやすい。
担任教師の篤子女史も同じだ。例外は葉月さんと妹ぐらいか?
伯母の名前なんかさっさと忘れたいのに。
「あの、ジミーさん。いえ――」
伯母が俺の名前を呼ぶ。
返事するか、無視するか。
考えるのも馬鹿らしい。伯母に気遣う必要なんかない。
「なんですか」
「……ごめんなさい。あなたを、いいえ、あなたたち兄妹を傷つけてしまって、ごめんなさい」
謝るなよ。
そうやって、昔のことをほじくり返すことこそが、傷つける行為だっていうのに。
「あなたと会って、思い出したわ。自分がやってきたこと。
あんな恐ろしいことをしていたのに、全て忘れてしまっていた。
忘れて、自分は子供を産んで幸せを掴んで……私に母親の資格なんてないのに」
あの頃を忘れていたのは俺と同じか。
なるほど。伯母が病室にやってきた妹を見ても何も反応がなかったのはそういう理由か。
忘れてんじゃねーよ、なんて俺が言えた義理じゃない。
黙っていると、伯母は独白を続けた。
「考えていたわ。どうすれば、罪を償えるのか。
お父さん――あなたにとってはお祖父さんの時は、罪を償えなかった。
だから今回、同じことをしてもまた同じ結果が待っていると思っていた」
なんで祖父の話をする?
祖父はたしか、通り魔に遭い命を落としたのだと聞いている。
関係、ないだろ?
それとも、あんたが祖父を殺したっていうのか、伯母さん。
「誰にも知られずに罪を償っても、意味はない。
でも今は、あなたがいる。私が傷つけた本人が目の前にいる」
「伯母さん、あんた何を言ってる」
「……あなたの前で死ねば、私の罪は償われる。
だからこうして、あなたと二人きりになれるのを待ってた。
よかった、あなたが動けないままで。
私の最期をしっかり見てもらえる」
――死ぬつもりか、こいつ!
「おい、ふざけるな! 待て!」
「死んだらいけない人間と、死んでもいい人間と、死ななきゃ行けない人間。
私は三番目の、死ななきゃ行けない人間なの。
……お父さんとお母さんに、言っておいてね。
伯母さんは罪を償って死んだんだって」
「死ねなんて言ってないだろ!
そりゃ昔の俺はあんたが殺したいほど憎くて、大嫌いだったさ!
でも今のあんたが、あんたは――」
「玲子のことお願いね、ジミーさん」
こいつ――――この、馬鹿がっ!
バン、という荒々しい音が響いてきたのは、まさに叫ぼうという時だった。
振り返る。扉が開いていた。
勢いよく扉を開けて、そこに立っていたのは、藍川だった。
「藍川、お前」
「……ジミー君が可哀想になった私は玲子の母、冴子さんの病室へ戻っていた。
扉の前でノックをしようとしたら、中から話し声が聞こえてきた。
悪いとは思っていたものの、黙っていればわからない、という悪魔の声に惑わされ、私は聞き耳を立てた」
……脳内モノローグを語り始めるとか、お前は俺か。
「全て聞いた後で闖入し、二人の説得を試みる役を演じるため、説得の手順を組み立てていた。
しかし、そんな努力は、とある人物の名前が出てきたせいで、無駄に終わった。
私は勢いよく扉を開けた。そこには、ジミー君と冴子さんがいた。
もはや説得などする気分ではない。
今の私に出来るのは、感情に任せて弁舌を振るうことだけである。
それほどに、今の私は激怒しているのだ!」
藍川が扉を閉め、鍵をかけた。
伯母の方へ向かう藍川の眉間にはシワが寄り、怒りをわかりやすく表現していた。
まあ、さっきのモノローグで怒っていることはわかってたけど。
藍川登場のインパクトで俺の怒りは引いてしまった。
俺の怒りが伝播したみたいに、藍川は伯母に怒りの矛先を向けている。
藍川が、伯母の服の襟を締め上げる。
「京子ちゃん……」
「……許されようなんて考えるな。
お前がやったことは、お前が死んだことぐらいでどうにかなるものじゃない。
許さないし、忘れない。
被害を受けた人間は、絶望を味わった人間は、もう元通りにはなれないんだよ!」
藍川が怒っている。
俺の代わりじゃなくて――自分のことみたいに。
ここまで怒るなんて、もしかして藍川も昔に辛い目に遭ったことが?
「だから私は、死んで罪を償おうと」
「償いだって? 逃げの間違いじゃないのか?
死んで元通りになるならそれもいいさ。
でもそんなことは、あり得ない。絶対にあり得ない。
私は、澄子みたいに甘くない。死刑になればいいなんて思わない。
苦しんで、嫌になるぐらい苦しんで、絶望を味わって、寿命が尽きるまで苦しむ――そんな刑を望む。
誰よりも苦しめ。それが贖罪だ」
「……苦しんだわよ」
伯母の目から、涙が流れていた。
伯母に死ねと念じたことは何度もあったけど、泣けと念じたことは無い。
鬼は泣かないもの。伯母は泣かない。
目前に居るか、居ないか。どちらかでしか伯母の存在を捉えたことはない。
けれど、伯母は泣いていた。
藍川の腕にすがって泣いていた。
「苦しんできたわ! お父さんが死んだときもそう、今回だってそう!
でも、私が苦しんだって、弟の子供は、妹の子供は! お父さんは!
そんなこと知りもしないし、ざまあみろとも思ってくれないじゃない!
私に罰を下してよ! ねえ、ねえ! 殺してちょうだいよお!
恨みを晴らして! あなたが、私を苦しめて殺してちょうだい!」
伯母の声は俺に向けられていた。
俺は、何を言わなきゃいけない? 何を言いたい?
かねてから、俺と関わらないでほしいとだけ思っていた。
もうずっと昔のことで、俺は今の生活を乱したくない。
伯母には俺に関わるな、と言いたい。
――そして、絶対に死なないでくれ、と言いたい。
たった一人の女の子のために、伯母には生きて欲しい。
でも、それを伝える言葉が咄嗟に出てこない。
藍川が言葉を続ける。
感情のこもらない、抑揚のない声で。
「お前は死ぬな。
さっき、言ったな。自分は、死ななきゃ行けない人間だと。
あんたはそうじゃない。死んだらいけない人間だよ。
……それも違うのかな。死ぬことの許されない人間、かな」
「そんなことない! 私は、死ななきゃいけな――」
どんどんどん。
後ろの扉が音を立てる。
「こらーっ! 開けろ―! お母さんに何するつもりだ、ジミー!
お母さんのパンツまで見るなんて、ボクが許さないぞ!」
鬼の子供が母親を助けにやってきた。
子鬼は力強くて、扉はもう破壊されそう。
「玲子……どうして、来ちゃったの。どうして」
泣いていた鬼は母の顔になる。
突然の子鬼の乱入によって、母鬼は助かった。
「わかっただろう。あの子が――玲子がいる限り、あんたは死ぬことが許されない。
誰よりも苦しめ。そして、玲子と共に生きろ。
あんたにはそれが相応しいし、何よりも、お似合いだよ」
母鬼は再び泣きはじめた。
助かったのに、激しく泣き始めた。
茶番である。とんだ茶番だ。
でも、こんな茶番だからこそ、俺や伯母には相応しい。
頭の悪い俺らには、これぐらいわかりやすくなければ理解も納得できないのだから。
玲子ちゃんが伯母を泣き止ませようとしたり、藍川が俺の拘束を解いたり、俺の脛が玲子ちゃんに蹴られたりして、
ようやく帰路につくことができた。
澄子ちゃんは藍川を待っていられなかったのか、とっとと帰ってしまったようである。
玲子ちゃんは今晩だけは病院にお願いして、宿泊させてもらうことにしたらしい。
そんなわけで、帰り道は藍川とふたりきりということになった。
交通手段は徒歩ではなく、藍川の車である。
狭い車中に女の子と二人きり。
しかしドキドキしたりはしない。
藍川はモデラー仲間で、友達だ。それ以上の関係はない。
……というかこの女、色気ないんだよな。
色気を殺している雰囲気さえ感じさせるぐらい、色気なし。
「悪かったな、藍川。本当は俺が言わなきゃいけないことだったのに」
「礼はいらないよ。私は自分の感情をぶちまけただけだから。
むしろジミー君に謝らなければいけないとも思ってるよ」
「いいって。結果として肩の荷が下りたから。結果オーライだ」
伯母は今後俺と関わることはないだろう。
もし出会っても、過去の事件をほじくり返すような真似はすまい。
俺の望んだ通りの結末だ。
「ところで藍川。お前澄子ちゃんと友達だったんだな」
「うん。昔色々あってね……その時の繋がりだよ。
澄子とジミー君が繋がっているのには驚いた。
澄子の好きな男がジミー君の弟だったことにはもっと驚いた。
ジミー君の弟か。もしよければ今度会わせてくれるかな」
「いいぞ。別に減るもんじゃなし」
小さな約束をしたり、例の白い奴はいつ完全変形のキットと化すのかという予想を語り合ううちに、我が家に到着した。
藍川にお別れを言い、我が家の玄関を開けた時、とても安堵した。
「やっと、終わった……」
この家で起こった辛い出来事は、忘れ去られる過去と化した。
いや、ちょっと違うな。
これでようやく、思い出になった。
俺たち兄妹は忘れない。伯母も忘れない。
記憶に刻みつけられたまま、あの事件は過去という箱の中に収まったのだ。
今日の出来事のおかげで、成長したわけじゃない。
ただの心の掃除だ。
散らかってバラバラになっていたものが整理されただけ。
でも、部屋は綺麗な方がいい。すっきりした気持ちになれる。
心だって、そうに違いない。
今回はここまで。
清算編はこれにて終了です。
ではまた次回に。
早朝に投下なんて珍しい
次が楽しみです
GJでした!
こんな時間に... 起きててよかった!!
GJ
早起きはいいものだな
GJ
葉月さんに久しぶりにでてもらいたい
いや〜今回はこんなに早いとは…GJ
藍川は素直でクールっぽい、また出てきそうです…
玲子ちゃんも好きなキャラなので…是非また出て欲しい…
次から新章だとおもうけど最強の格闘家葉月さんとデレ期が来そうな妹は是非是非
活躍が見てみたいし待ち遠しい…
次回も楽しみにしています。
藍川と玲子ちゃんはまだ良いんだが、澄子がウザ過ぎる・・・
マジで毒にも薬にもならないって言うか引っ掻き回すだけ引っ掻き回して
罰も何も無いからマジで不愉快なキャラだわ
ジミーがやられっ放しで可哀相
前スレって埋めなくていいんだろうか
>>119 GJ!
最初は存在感あった弟も今や空気キャラに
129 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 19:27:12 ID:TH85S2Bj
派手 巨大 ハデ
>>129 まだ居たのか。暇なら前スレ埋めてくれよ
語彙が少し増えたみたいだね
sageを覚える日もそう遠くない
gj!!
次回も楽しみにしてる!!
>>119 乙でした。
今回で精算編が終わりということで、本格的に物語も終盤突入ですかね?
最近は兄が理不尽にやられっぱなしでイラッとする事が多かったんで
少しでも多く兄が幸せになれる事を信じて、これからの展開に期待してます。
GJでした!
囚われし者第4話投下します。
「っつ・・・痛い・・・」
結局僕が朝倉の家を出たのはもうすぐ日が明けるであろう時間だった。
といっても半分逃げてきたような形なのだが・・・
僕の全身は無数の爪の跡と歯型で覆われていた。
目の前は痛みと疲労で霞んでいる。
疲れた体にムチを打ち、ようやく家についた。
「ただい・・・!」
「おかえりなさい、兄さん。」
玄関には・・・ 優がいた・・・
「なんで、起きてるの?」
「兄さんが帰ってくるのを待っていたんですよ。」
「友達の家に泊まるって言ってたじゃないか。」
「兄さんにそんな友達いるんですか?」
「っつ・・・」
僕の交友関係の狭さは一番優が知っている。
僕が友達の家に・・・なんて始めから嘘だとわかっていたのか。
「そんなことより兄さん。その傷はなんですか?」
「これは・・・ちょっと喧嘩で。」
「あんまり下手な嘘は自分の首を締めますよ。」
優の静かで、それでも感情がこもった声に何も言えなくなってしまう。
「まず、傷の手当をしましょう。上がってください。」
そういうと優はリビングへ入っていった、それに僕も続く。
「上着を脱いでください。」
できれば脱ぎたくなかった。
傷まみれの体を見せたくなかったし、何より、綾華につけられた印があるからだ。
朝倉のときは電気を消したため運良く印に気がつくことはなかった。
しかし、ここでは逃れられそうもない。
「いいよ、こんなの掠り傷みたなもんだし。」
「兄さん・・・」
「わ・・・わかったよ・・・」
覚悟を決めた。
「とりあえず、消毒しましょう。」
僕の傷まみれの体を見て、ただ優はそう言う。
しかし、その消毒は僕の想像とかけ離れているものだった。
「レロッ・・・レロッ・・・、あぁ、兄さんの味がする。」
「ちょ!優、何してるんだ!」
「消毒してるんですよ。」
優はそう言って、僕の傷口を舐めた。
優の柔らかな舌が僕の体を這う。
彼女の舌が全身の傷を一本一本丁寧に舐めて行き、そして、背中にたどり着いた。
「兄さん、これはなんですか?」
見られてしまった。見つかってしまった。
「これは・・・その・・・」
「言い訳は聞きたくないですからね。」
「・・・・・」
何も言えなかった。
この印のことを言ってしまえば、きっと優は綾華の事を嫌い、そして両親のことについて心配させることになるだろう。
頼りない、女の子にさえ逆らえない僕だけど、妹には余計な心配はさせたくなかった。
「言い訳ができなれば黙秘ですか、まぁいいです。誰につけられたかは明白ですし、変色の具合から、おそらくこの前の日曜日くらいですね?」
「・・・・・・・」
「でも、この傷は違う。」
そう言ってまた少し舐める。
「これはごく最近できたものですね・・・」
やっぱり僕は、この傷のことは言えなかった。
昨日はあんな怖い思いをしたが、結局これは僕への愛情表現なのだ。
付き合いは短いが、朝倉も基本的には良い後輩なのだ。
でも優はきっと朝倉のことを許さないだろう、僕は優と朝倉が仲違いするのは見たくなかった。
良き妹と、良き後輩でいてほしかったのだ。
「兄さん。」
優は僕を後ろから抱きしめた。
「私は、兄さんが思っている以上に、兄さんのことを大切に思っているんです。」
そう言って抱きしめる力を強める。
「だから、兄さんのことに何かあったらって思うと、私は・・・どうしても怖いんです。」
また力が強くなる。
「兄さんはまるで甘い蜜のようです。みんなその蜜を吸いに集まってくる虫けらにすぎません。でも、兄さんは優しいですからみなに蜜を吸わせてあげるんです・・・ そして、いつか枯れてしまう。」
もはや体が痛い。
「だから、兄さんが誰かに枯らされてしまうくらいなら・・・」
そう言って、優が耳元でささやく
「私が枯らして、永遠にします。」
「あの、柏城先輩!」
同日の昼休み、学食で昼食をとろうとした僕に声をかけてきたのは、朝別れたばかりの朝倉だった。
「い・・・いやぁ」
声が裏返った。
「あの・・・私、お話したいことがあるんです・・・」
そう言う朝倉は何故か今にも泣きそうななほど目に涙を浮かべていた。
ただでさえ目立つ朝倉が涙目で僕に懇願しているため、食堂中のみなの視線が僕に突き刺さった。
向こうからファンクラブという名の化物達が近づいてきているのがわかる。
「と・・・とりあえず、人気のないところへ行こう。」
「は・・・はい。」
「あの・・・話ってなんだい?」
ここは普段は誰も立ち入らない屋上だ。
朝倉を見ると昨日の出来事がよみがえる、正直逃げ出したいくらい怖かった。
「私・・・その・・・先輩に謝りたくて。」
「謝る?」
「はい・・・」
そう言って朝倉は頭垂れた
「朝・・・起きた時に・・・先輩がいなくて・・・その時初めて・・・私が取り返しのつかないことをしたんだと気づきました。」
朝倉の手がスカートをつかんでいる。
「私・・・先輩を思いっきり愛せば・・・先輩は答えてくれると思ったんです・・・理解・・・してくれると思ったんです。」
朝倉の手は震えていた。
「だけど・・・あるはずの先輩のぬくもりがなくて・・・朝一杯考えて気づいたんです。私は結局、自分の気持ちを押し付けてばかりで、先輩のきもちなんて考えていなかったことを。」
ハッとした。
僕も彼女と同じだ。
昨日のことはとても怖くて辛かったけど、それは、それだけ彼女が僕のことを愛してくれているということ。
やり方は他人と違い、とても不器用だけど、それでも彼女は僕への気持ちを示してくれたのに。
「昨日・・・怖い思いをさせたことはわかってます。だから謝らせてください!」
そう言って彼女は顔を上げた。
「許してくれなくて、奴隷でもセフレでもいいです・・・だから私を傍に・・・置いてください・・・」
言葉は少々重かったが、それでも彼女の気持ちは十分に感じることができた。
今度は僕の番だ。
「謝るの僕のほうだよ。確かに怖かったけど、朝倉の気持ちに気づけなかった僕も悪かったよ。」
ハッっと一瞬朝倉は顔を上げた後、朝倉は僕の胸に飛び込んできた。
朝倉は、泣いていた。
「せんぱぁい・・・せんぱぁい・・・私、てっきり先輩に・・・嫌われたかと・・・思ってました・・・」
僕は一瞬戸惑ったが朝倉を抱きしめた。
普段は誰よりも明るく、そしてアイドルもこなす彼女の体は、僕の想像以上に小さく感じた。
ここで、僕の一日が終わればそれはそれはハッピーな一日だっただろう。
しかし、そうは問屋がおろさなかった。
抱きしめた朝倉の向こう。
屋上へと至る階段の出入口から、能面のような顔でこちらを眺める綾華がいた。
以上で投下終わります。
感想くれた方、読んでくださった方ありがとうございました。
GJ
いつ鬱病になってもおかしくないよなこの主人公
GJ!
強気に出れない性格な所為か
自分で引き下がれないとこまで突進してるなw
かなり肉体的につらい目にあう主人公だなぁ
おいおい投下ラッシュで俺喜んじゃうよ
GJ
なんだかんだで主人公は体強いな……ある意味
ドMにとっては、むしろうらやまし過ぎる…主人公乙
いいなー
囚われし者楽しみにしてます!
ばいびー
囚われし者GJ
主人公の精神力何気に高いな
GJ!!
むしろ主人公が妬ましい・・・
これからも頑張ってね!
囚われし者、第5話完成しましいた。
以下数レスお借りします。
「何してるの?奨悟。」
そう言いながら、表情のない顔で一歩づつ僕に近づいてくる。
突然声をかけられたこと驚き、朝倉は咄嗟に僕の後ろへ回った。
「えと・・・その・・・」
なんて答えればいい。
というより何処から話して、何を話せばいいんだ。
「誰かと思えば、先輩の幼馴染の周防綾華先輩ですね。」
予想に反して口火を切ったのは朝倉だった。
「あなた誰?というより何で名前知ってるのよ。」
心なしか言葉も刺々しい綾華、それとは対照的に嬉々とした表情を浮かべている朝倉。
「だって、愛しい先輩のことですからね。当然ですよ。」
そう言って、朝倉は僕の背中からでて腕をとった。
「そして、私は先輩の彼女なのです!」
そう綾華に言い放った。
「ちょっ!彼女だなんてそんな・・・」
「わかってますよ、先輩『朝倉の気持ちに気づけなくて悪かった』なんていいながら抱きしめてくれたんです。その意味くらいちゃんとわかってますよ!」
全然わかっていなかった。
「ふざけないでよ・・・」
綾華は震えていた。
「奨悟は私のものよ!あなたじゃない。私の”モノ”なの!」
「先輩をモノ扱いですか、やっぱり世間知らずの高飛車なお嬢様って感じですね。そんな人には先輩は似合いませんよ。」
僕はなんとなく悟った。
これが俗に言う修羅場というものなんだと。
「奨悟!あなたもよ!あなたがハッキリしないからこんなアイドル風情なんかに誤解をまねくのよ!今!ここで!はっきり言いなさい!」
「あ・・・っ・・・・・」
あまりに剣幕に何も言葉がでてこなかった。
「そう・・・そういうことなの・・・」
僕の無言を裏切りだと判断されたようだった。
「お父様に連絡するわ・・・」
そう言って携帯をとりだす綾華。
「どうぞどうぞ、好きなだけお父様にお願いして下さいよ。先輩は絶対にあなたなんか相手にしませんけどね。」
「まっ・・・待って!!」
父親に連絡する。
これはつまり、僕の両親が・・・
「電話はやめて・・・ください。」
「せっ・・・先輩!何言ってるんですか。こんなのほっておきましょうよ。」
「フッ・・・フフ」
僕の行動が予想から外れていたのであろう、朝倉はさっきまでの余裕をなくし、綾華はその逆だった。
「やっぱり奨悟はわかってるわね。あなたはすぐ流されるけど、結局は私のところへ来るしかないんだから!」
そう言って高笑いする綾華。
「ほら、言いなさいよ。”僕は綾華様の犬です”って、そうしたら電話はやめてあげるわ。」
そう言って携帯をかざす。
綾華は本気だ。
これを言わなければ綾華は必ず電話をかけるだろう。
「ぼ・・・僕は・・・綾華様の・・・い・・・いっ・・・」
「ホラっ!」
「僕は綾華様の犬です!」
「そう、それでいいのよ!」
そして、綾華の勝ち誇ったような高笑いの中、朝倉は完全に余裕をなくしていた。
「うそ・・・こんなの嘘ですよね先輩!あんな女なんてどうでもいいんですよね?」
「朝倉聞いてくれ、僕の」
「黙りなさい!」
そう綾華が命令する。
「余計なことは言わないでいいわ。それにあの女とは二度と会話しないで。」
「そっ・・・そんな!」
そんな僕にまた携帯をゆらつかせる。
僕は何も言えなくなった。
「そう言えば、あなたにお弁当つくってきたの。教室で食べましょうか。」
そう言って手招きする。
僕はそれに従うしかなかった。
「いや!いかないで先輩!」
屋上の扉からでようとした時、朝倉の声が聞こえた。
(ごめん・・・朝倉・・・)
僕は心の中で謝罪し扉を閉めた。
最後に見た朝倉の顔は、絶望そのものだった。
「何か、言わないといけないことがあるんじゃないの?」
「・・・・・」
放課後、僕と綾華は再び屋上にいた。
「何も言わないのね、やっぱりいいわ。私もあなたから他の女の話をされるなんて嫌だもの。」
そう言って、綾華は僕を抱きしめた。
「あなたは、どうしてそんなに優しいの?」
綾華の声が潤んでいた。
「あなたはいつも優しかった。私が子供の頃、どんなにその優しさに救われたか。」
綾華は子供の頃、今と違い友達はいなかった。
お嬢様としての高飛車な性格が、他の子には受け入れられなかった。
綾華は一人でも平気そうだったけど、彼女が影で泣いているのを僕は知っている。
「一人ぼっちだった私にとって、あなたは唯一の存在だった。」
「・・・」
「ずっと、こんな時間が続くと思ってた。あなたがいて、私がいて、私はそれだけで満足だった。」
綾華が泣いているのがわかった。
「でも、あなたはあの子と・・・あなたの妹と仲良くなって、あなたは妹の事を話すようになった。」
僕は綾華の肩を軽く叩いた。
これは僕が泣いていた綾華をあやすときのやり方、もう何年もやっていないものだった。
「その時に私は気づいたの。私はあなたを取られたくない。そして、これが恋なんだってことに。」
そして、綾華が叫ぶように言う。
「お願い!お金も住むところも愛情も、その・・・私の体も、全部あげる!だから私のモノになって!」
そして、今度は呟くように
「戻ってよ・・・あの頃に・・・私があなたに満たされて、あなたが私で満たされていたあの頃に・・・」
そう言った。
「優も朝倉も、みんな良い子だよ。」
「違うわ!私とあなたの世界に踏み込んだ悪者よ!」
先程とは違い綾華は興奮していた。
「あんな子達は必要ない!私はあなたがいればいい!あなたも私がいればいいの!足りないものは全部用意してあげるから!」
「痛いよ・・・綾華・・・」
「私のところに・・・帰って来てよ・・・」
綾華の頬に大粒の涙がつたっていた。
「綾華・・・僕は・・・グハッ」
僕は血を吐いた。
突然のことに意味がわからない。
息苦しい、足に力がはいらない、目も霞む。
「しょ・・・奨悟!!」
綾華が僕を抱きとめる。
「ど・・・どうしたの!?大丈夫!?」
綾華の心配そうな顔がかすかに見える。
「う・・・あ・・・・・」
大丈夫だと言おうとして言葉にできなかった。
「兄さん!」
聞きなれた声が聞こえた。
そして、僕の口を何か柔らかいものがこじ開けた。
何か異物が侵入してくる。
その異物に何か固形物を飲み込まされた。
薬の効果は驚くほど早く現れた。
さっきまでの息苦しさは消え、体に力がもどった。先程まで狂ったように暴れていた心臓も正常にもどったようだった。
だけど、それ以上に僕の口に侵入している、綾華の舌は暴れていた。
「にぃ・・・さん・・・・ジュル」
「やめなさい!」
先程まで、僕が突然倒れたことによりパニックに陥っていた綾華が冷静さを取り戻し、優は突き飛ばした。
僕と優の口に銀の橋がかかっていた。
「何してるのよ!」
「何って、薬をのませてあげただけですよ。」
そう言って、優は自分の唇についていた僕の唾液を舐めとった。
「最近、兄さんは薬を飲んでいませんでしたからね、そろそろ発症するのではと探していたのですが、ギリギリでしたね。」
そう言って優は僕に微笑かけた。
「どうやら、必死になって兄さんを口説いてたようですね。」
「・・・・っ」
「でも、無駄ですよ。あなたがいくらに兄さんに語りかけたところで、兄さんは最終的に私を選びますから。」
優は堂々と言い切った。
「そんなはずない!奨悟は私と一緒にいるのが一番幸せなの!」
「違いますね、もし、仮にそうだとしても、兄さんは私を選びます。なぜなら・・・」
そう言って、見たこともない怪しい笑みをうかべた。
「私を選ばないと死んじゃいますから。」
「ど・・・どういう意味よ!」
「さっきの発作。見たでしょう?あれは兄さんのもつ病気によるもの。そして、その発作を止めることができるのは私だけなんです。」
「だから・・・」
「だから、兄さんは私がいないと生きていけないんですよ。」
綾華は真偽を確かめるように僕を見たが、僕の表情でそれが真実だとわかったようだった。
「フフッフフフフ」
僕の予想に反して、綾華はなぜか笑い出した。
「何がおかしいんですか?」
「あなたは何もわかってないわね。」
そして勝ち誇った顔が言う。
「私の家は製薬メーカーよ。あなたが薬を作れるなら、うちでつくれないはずがないわ!」
「・・・・」
「そして、これが完成すれば、あなたが奨悟をつなぎとめるものがなくなる。あなたはお払い箱だわ!」
「無理ですね。」
高笑いする綾華とは対照的に、優はそう言った。
「だって、兄さんの病気は私が作ったものですから。」
以上で投下終わります。
wiki更新、コメントくれた方、読んでくれた方ありがとうございました。
GJ!!
gj
やっぱり病気は優が仕掛けてたんですね。
これから綾華や朝倉がどう動くか楽しみにして待っってます。
GJ…この主人公長生き出来無いね…死亡フラグが立ちまくってるorz
しかし朝倉や綾華より一番恐ろしいのは優かな…他の2人は何とか成るかも?
知れないけど優は行き着くとこまで行きそう…
gj! 病気はやっぱり優が仕組んだのか
ところで確認なんだけど
>>150の>僕の口に侵入している、綾華の舌
って部分、綾華じゃなくて優でいいんだよね?
早速、妹のフラグ消滅かな?
ヤンデレとハッピーエンドを迎えるSS少なすぎて泣く
まぁある意味ハッピーエンドにならないのも醍醐味ってところがあるからなぁ
やはりか
病んだ彼にデレる
>>155 その通りです。
誤)だけど、それ以上に僕の口に侵入している、綾華の舌は暴れていた。
↓
正)だけど、それ以上に僕の口に侵入している、優の舌は暴れていた。
でした。
題名の無い長編十四 の第7話になります。
今回は間章ということになっています。
第4話で登場した「崎本」の話です。
ヤンデレ度は低いと思いますがご了承下さい。
崎本孝祐(サキモト コウスケ)は駆けていた。
足がもつれて無様に大転倒する。誰も居ない校舎で鈍い音が反響する。
右からバランスが崩れて右半身が廊下に打ち付けられた。
したたかに打った頭部を押さえながら起き上がる。
いくら陸上部に真っ向から競えるだけの走力を身につけても、フルマラソン級の走行距離では足も限界を訴えてくる。
クソッ・・諦めるしかないか?
壁にもたれながらズルズルと歩を進める。
「さぁぁーーーーーきぃーーもーーーーとぉぉーーーーー!!」
遠方より野太い声が飛来。
『巨漢な体育会系を想起させる声』ってのが思いつく限り一番しっくりくる。
俺の思考が脳髄が神経が筋肉が、限界を訴えつつも声の主に対して生理的な拒絶反応(鳥肌)を発する。
枯渇寸前の活力を消耗しながら徐々に駆け出す。
後方より禿頭の巨漢(空手部顧問・島田)率いる6人の空手部員集団が轟音とともに走ってくる。
「おい、挟み撃ちにして捕まえるぞ!」「「「「「「了解ッ!」」」」」」
なんて作戦立てやがる。構造上、この建物では挟み撃ちにされると逃げ場が無い。
エレベーターはあるが待ってる暇は無く、階段は一箇所。もう通り過ぎていた。
相手は巨漢・・とまでは行かずとも大柄な集団なので、21番のパシリ少年くらいじゃないとすり抜けられない。
奇跡でも起こらないかと思ったら、偶然すら敵に回っていたらしい。
夕日の差す放課後の廊下を誰かが向かってきた。
「見つけたぞ孝祐。」
「か・・会長・・・・」
生徒会長・佐久間由里(サクマ ユリ)は捕食者だ。
俺、被食者・・?
インパラやガゼルにとってのチーターやジャガーにあたる。
俺は捕まるわけには・・いかないんだ!
「な、何か用ですか?すいませんがちょっと立て込んでまして・・じゃっ!またあとd・・・・」
すれ違いざまに襟首を掴まれた。下手に出たのが間違いだったか?
「ぐぇぁっ!?」
喉が強く圧迫されて奇妙な声が吐き出される。
「空手部の暑苦しい連中に追われているのだろう?」
段々と近づいてくる騒音に冷や汗が溢れる。なにせ相手は『ゲイ疑惑』付きの連中だ。全国の空手少年のイメージを著しく貶める存在である。
「あんな連中に捕まりたくは無いだろう?私と一緒に来るといい。」
捕まれたままの襟首が再び引かれ、バランスを崩した俺は後頭部を床に強打した。
「っうぅ・・・・・・・」
俺が苦悶のうめきを上げるのもお構いなしに会長は俺を引きずっていく。
空手部員が あらわれた!
そりゃ、出会うわ。挟み撃ちで逃げ場の無い状況ならどっちへ向かってもエンカウントだよ。
「会長・・崎本をこちらへ渡してもらおうか。」
「ほぅ・・・いい度胸だ・・。」
会長は慣れた手つきで長い髪を一括りに束ねる。本人曰く、「アクティブ・モード」だそうだ。
なにやらバトル漫画みたいな空気だけど言える事はひとつ。
逃げろ!名も知らぬ空手部員A、B、C!!
「生徒会長といえど・・手加減はしませんよ。」
やめろって言ってんだろ!死にたいのか!!
『売られた喧嘩を買う』って言葉がある。
会長の場合は、売られた喧嘩を強奪する・・・だな。
わずか十数秒、結果は一方的過ぎるワンサイドゲーム。その華奢な身体のどこにそんな膂力が?
県下でも数えるほどの強豪空手部員三人をたった一人で捻じ伏せた。
空手部員の屍の山(大柄なので三人でも山に見える)に立ち、捕食者の眼光を輝かせる。ヤツはもはや女子高校生ではない。冥府の覇王だ。
しかし慣れは凄いもので、俺は竦むことなくすぐに行動できた。
引き返す道に向かってダッシュ。
短距離走は会長にも負けたことが無い。
曲がり角に差し掛かり、すぐそこまで向かってきていた顧問含む空手部・第二小隊。
顧問は絶対倒せない。無理だ。体格が違いすぎる。
部長・・・無r(以下同文)
部員D、E。・・・なんとかいけるか?
勢いに任せて拳を繰り出す。
型も格好も無い右ストレートだが、走った勢いで打ち出すのでそれなりの威力はある筈だ。
突然の襲撃に反応できなかった空手部員Dが下顎に直撃を受けて倒れる。
このまま抜けようとしたが、そうも行かずに部長によって羽交い絞めで取り押さえられた。
やめろ! HA・NA・SE!!
このままだと健全なる男子としての死を迎えてしまう。
島田がかなり危ない笑みを浮かべている。すごく怖い。アレ?胴衣の腰のあたりが膨らんでいますよ?
「安心せぇ・・痛くないようにするさ。」
ガチホモ疑惑ってマジだったんだ!?お前ら全国の空手選手に謝れ!
「先生ェ・・早く部室に拉致監してヤっちまいましょうよ・・・。」
部員Eが恍惚とした表情でこちらを見つめる。
・・・誰かポリ袋持ってない?吐き気がしてきたんだけど。
いや、むしろポリ(警察)呼びたいよ。
グジャァッ!
なにか軟らかい固体が押しつぶされるような音が聞こえた。
島田の股間部分から靴底がこっちを向いていた。
・・・・先生、変わった趣味してますね。流行ですか?靴底って。
と、逃避したくなるほどに凄惨だった。
だらしなく隙間の空いた股に、追いついて来た会長が蹴りを入れた。
先ほどの惨たらしい破壊音がその殺傷力を物語っている。
島田教員は『男性』としての死を迎えた。あっけねぇ・・・
「ぎっ・・ぁぁ・・ッッ・ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁっ!!」
あまりの出来事に呆然とする男3人(俺含む)
目の前で部員Eが会長の細腕に薙ぎ倒された。
島田の絶叫が響く中、会長は俺の頭に向かって手刀を突き出す。
一瞬で手刀が俺の頭頂部ギリギリを突き抜け、生理的な怖気を走らせるエグい音が鳴った。
羽交い絞めが解け、突き飛ばされたように部長が離れた。
「あああああぁぁぁぁぁ!目が!目がぁぁぁああああ!!」
叫び声は、もはや絶叫ではなく断末魔だった。。
下火になり、断末魔から苦悶の呻きに変わった島田教員+部長の声。
あまりに凄惨な出来事に、俺は逃走を忘れていた。一時でも忘れてしまったのだ!
「孝祐・・・」ガシッ!
再び襟首を掴まれる。
「か・・会長?」
会長の乱れた長い黒髪が、今やゴーゴンの毒蛇の髪に見える。
襟首掴む腕を前に出す形で、会長が空いている右手を腰の辺りまで引いて・・
せ・・正拳突き!?
「おやすみ。孝祐。」
鳩尾にクリティカル・ヒットを果たした一撃は約三秒で俺の意識を奪い去った。
ブラックアウトした意識の中を彷徨うこと・・・どれくらいだろうか?時感覚がないのでわかりません。
意識の復活と同時に気絶する前の記憶を掘り起こす。
正拳突き食らって倒れたんだっけ・・・・なんかまだ腹が痛い。
起き上がろうとしたら不意に引っ張られる力が掛かり、また倒れた。
「手錠・・・」
確信。俺は会長に監禁された。
断言できる要因は二つ。ここが見覚えある会長の部屋であることと、前にも同じような目に遭ったからだ。
・・・前は延髄切りだったなぁ。あの時は二日昏睡してたらしいが。
窓からは朝日が差し込んでいる。日付は変わっているらしい。
「おはよう、孝祐。」
前回と同じ、寝巻き姿の会長。
「か・・会長、何でまた監禁?さすがに警察沙汰ですよ?」
「駄目。名前で呼べ。」
「・・・佐久間さん?」
「駄目だ。不正解」
会長の拳が胸板を直撃する。
「がっ・・ぶはぁっ・・げほっげほっ・・」
「名前で呼べ。孝祐」
「ゆ・・由里・・?」
「よし良い子だ、孝祐。これから一緒に暮らすんだから寂しいことは言わないでくれ。」
・・・監禁とか警察沙汰ってとこはスルー?
「二つしか歳変わらないんだから『良い子』ってのはやめてくださいよ。」
監禁された事実に関わらず冷静な自分がいた。
『冷(醒)めたヤツ』とはよく言われるが、自分でも意外だった。
「いくらでも甘えて良いっていう意思表示のつもりだったが・・・」
「ゆ、由里、男は皆ケダモノだって言われなかったか?」
下の名前で呼ぶのは慣れないと少し恥ずかしい。
「孝祐も男なら襲ったらどうだ?」
「それがうら若き女子高生の言う事ですか。てか襲いませんよ。間違いなく会長の方こそ襲う側でsy・・」
「・・・・・・・」ギシギシ・・ミキッ・・
会長の指が肋骨の隙間に食い込む。めっちゃ痛い。肋骨が軋んでる。
「イタタタタタッ!痛いですかいちょ・・ッ!」
多分ヒビ入った。いや、過去の会長DVを思い出せ!アレに比べればまだ・・・
「順応性の無いヤツだな。」
メリメリ・・ビキッ!
「−−−−−−−−−ッッッ!!」
悲鳴を上げようにも声帯がうまくはたらかない。サボタージュ?
今ので間違いなく一本折れた。ついでに心も折れそうです。
涙目で堪えてるあたりは褒めて欲しい。痛みのあまり脂汗とか鼻水とかで凄いことになってそうだけど。
「ほら、名前で呼べと言っただろ?さぁ。」
「ゆ・・由里・・」
「良い子だな、孝祐。ご褒美だ。・・んちゅ・・・」
不意に会長が唇を重ねてくる。
突然すぎる行動に脳内が真っ白になる。唇の間から侵入してきた舌が口内をくまなく撫で回す。
「ん・・・んん・・・ぷはぁ・・・・そうだ・・孝祐、朝食がまだだったな。用意するから待っていろ。」
途端に唇を離し、会長が部屋から出て行った。ほっと安堵の息を漏らす。
危ねぇ・・・理性が飛ぶかと思った。いまだに既成事実を作っていない自分に拍手喝采を上げたいくらいだ。
俺の格好は気絶する前の制服のままだった。・・けっこう汗っぽいなぁ
しかし!制服のままということは脱出の希望があるということだ。
無理やりに体を捻り、痛みに耐えつつ襟に仕込んだピンを抜く。備えあれば・・あっても憂うばかりだな。
今度は手首を無理に曲げる痛みに耐え、右腕の手錠を解除した。
こうなれば後はタイムアタックだ。いざスコアタイム・記録更新!
左手、右足首と順調に解除する。・・・さすがに折れた肋骨が痛む。脂汗ダラダラですよ。
最後の左足首の手錠・・・手錠なのに足枷って何か変だな。にピンを差し込んだ。
ピンの形を鍵穴に順応させながら最後の手錠を解除する。
金属の輪をスライドさせ、ザ・エスケープ!
ドアノブに手をかけようとした瞬間、ドアノブが独りでに回った。・・・ガチャ・・
「ふふふふふ・・孝祐。逃げては駄目じゃないか。」
「な・・・・ゆ、由里」
「今度は名前で呼んでくれたな。」
・・ドスッ!
運んできた朝食の載ったお盆をウェイトレスのように片手で持ち、空いた左腕でボディブローを繰り出してきた。
折れた肋骨の痛みも相まって痛覚神経が悲鳴と断末魔の中間くらいの反応をする。
声帯は相変わらずサボタージュしててろくに声も出なかった。
「まぁ、そんなことよりも食べろ。」
そんなことって・・扱い非道くないですか?
激痛に腹を抱えてうずくまる目の前に、楕円の皿に盛られたカレーライスが置かれた。
視線を会長に向けて無言で疑問符を浮かべてみる。
「・・・・・・(無言の視線)・・・」
「・・・・・(無言の視線)・・・・」
会長も無言の・・いや、オーラ(?)が語っている。
食わないと酷い目に遭いそうだ。骨折より酷い目なんて想像したくない。
「食べない・・のか?」
「え?」
「食べないのか?・・食べてくれないのか?カレーは嫌いだったか?私だって反省したんだ。
前みたいなことはしていないし・・・・ただ私の作ったカレーを食べて欲しいだけなんだ。」
・・・抵抗感はそこにある。前回は料理に媚薬(もしくはそれに近い効果のある薬物)を一服盛られて危うく引き返せないラインを越えるところだった。頑張った。理性が焼き切れるかと思った。
そういうわけで弱気な姿勢になった会長に、仕返しをしたくなった。そう、復讐心がムムムのムクリと・・・
「あぁ、だったら由里が食べさせてくれないか?」
「な!?・・なななななな何を言う!!?」
顔を真っ赤にして俯いてしまう。こんな会長を見たら野郎共は喝采を上げるだろう。
そう、会長は受身に回るとキャラが崩れかけるほどに弱い!・・・と、先々週発見した。
ブツブツと俯きながら何か呟いている会長の横を抜けて脱出・・・しようとしたらまた襟首捕まれた。
自分の学習能力の無さが恨めしい。ガッデム!シット!
「よ、よし、ならば口移しで食べさせてやる!」
クチウツシ・・くちうつし・・・口移し・・・・・・・・マジで?
なにを血迷いましたかこの先輩は。しかも自分の発言で頭から湯気が出そうな勢いなんですが。
ここは恥らう乙女として見るべきか、それとも突っぱねてやるべきか。
一時の迷いが再び失敗を呼ぶ。
「んちゅ・・くちゅ・・くちゃ・・じゅる・・」
「ん゛〜!ん゛ん〜〜〜っ!!」
もがいて抵抗するが、一向に離れない。それどころか舌を入れてきて激しく蹂躪される。
5回、6回と続けるうちに肋骨の痛みが増し、抵抗もままならずにいた。
「ん゛・・・ぷはぁ・・・・」
「・・ふふふ・・孝祐、素直にならないお前が悪いんだからな」
痛みで受身も取れずにベッドに押し倒される。
対して会長は引っ張り出してきたイスに腰掛けて横たわる俺を見下ろした。
赤みがかった日光が差し込み、過ぎ去った時間の速さを感じさせる。
会長の行動は躊躇いも無かった。
「ゆ・・由里・・うぅ・・やめっ・・・」
「ふっふっふ・・・顔が赤いぞ・・」
会長の足が俺のアレを弄ぶ。
さっきまでの恥じらう姿は何処へやら。
経験のない俺には耐性なんて欠片も無く、屈辱的な状況にも拘らず快感の奔流が脳髄で折り返して全身を覆う。
「くっ・・んぅう・・・うぁぁぁっ!」
情けなく短時間で・・・出てしまった。顔が熱い。
「ん・・孝祐の汁がたくさん出たな。フッフッフ・・・そんなに気持ちよかったのか?」
「か・・かいちょ・・ぐぼぁっ!・・ごほげほっ・・」
またもや胸部に拳が叩き込まれた。名前一つで命懸けないといけないのか・・。
怪我を心配する素振りも見せずに会長は妖しげな手つきで再び俺のアレを弄り始める。
♪ ♪ ♪ ♪ ♪
場の空気を全く読まない(俺にとっては都合のいい)携帯の着信。
「もしもし、佐久間です。」
やっぱり、というか会長の携帯だった。
「え・・あの時のは・・う・・・・うぅ・・・」
誰だか知らないがすごいな。弁舌だけで会長を押している。
「な!?・・・・あ・・・うぅぅわかった。これから行くから。・・・・・クソッ!」
「どうしました?」
「孝祐ぇ、行かなきゃいけない用事ができてしまった。早く終わらせるから待っててくれ。」
事態を掴めないまま、俺は一人部屋に残された。
結果から言えば脱出に成功。
しかし帰り道に捕まり、約5分で貞操を奪われてしまった。
もうため息すら、出てこない。
投下終了です。
つまらなくてスミマセン。
ネタ切れ気味でペースが非常に遅くなっています。
GJ
GJ!!
GJ!!!
GJ!!
所で話は変わるがここの保管庫の作品か忘れたが…女たらしポイ捨て鬼畜男が一見大人しいヤンデレ女を
誘惑し散々犯りまくった後捨てるはずが…ストーカー&拉致監禁される話なんだけど
ここの保管庫にあるかどうか、また作品名等分かる人居る!?
研修医…美咲の愛
じゃないかな
>>174 保管庫のpart10埋めネタもそれに近い
179 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 21:37:57 ID:h2gERe7+
解
サトリビトまだぁ〜?
181 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 23:30:19 ID:h2gERe7+
解
来る時は一気にくるんだけどなあ
wktkが止まんね
184 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 14:21:11 ID:piCjcpiS
ヤンデレと結婚したい(´∀`*)ポッ
ヤンデレの嫁とテレビ見てて、「この娘かわいいね」とか何気なく話し振ったら、最悪だな
翌日アイドル死んでるな
ヒィー(((゚Д゚)))ガタガタ
真矢みき似のヤンデレ妻を持っTさん(45歳)
「…えヤンデレ妻はどうだって…そりゃあ〜大変な事多いですね。まず発信機は付けられる、それから妻の感情には常に敏感で無ければ…
私が朴念仁だったら周りは死体の山になりますからね(苦笑)それからもし妻が怒ったら、ひたすらご奉仕して絶頂させる…身体が大変ですけど…
但し稼ぎが悪くても文句は言われない、深夜どんなに遅く帰っても玄関の外で正座して待っている、いや〜愛されてるって気がします、
それと最近発信機を見つけるのが楽しみになっちゃて…」
余裕のTさんだった。
test
投稿します。また変歴伝ではありません。
第十一話『西方擾乱して、異人勇往邁進する 上』
まるで幽霊の世界だな。
それが西大陸の玄関口エトナに着いたシグナムの正直な感想だった。
交易などで活発であるはずの港は沈黙し、
時折すれ違う人は悉く俯いて、その瞳には光がなかった。
それは、まさしく生きる事に絶望した者達がする目であった。
事前に情報を集めてはいたが、ここまで酷いとは想像も出来なかった。
しばらく港を見つめていたシグナムは、ここにいても意味がない事を悟り、町に向かう事にした。
町に入ってみて、シグナムはサヴァンでの情報が、
いかに楽観に満ちたものであったかを思い知った。
町中の壁という壁は崩れ落ち、家という家は焼け崩れ、
路地という路地には埋めきれない死体で溢れている。
まるで戦争絵画の中にでも飛び込んだ気分になった。
シグナムは近くの酒場に入った。サヴァンでの情報の不正確さを思い知り、
新たな情報を得る必要があると感じたからである。
出されたカシスオレンジを味わいながら、シグナムは周りの客の話にも耳を向けた。
諦観の篭った声で聞こえてきたのは、山賊達の巻き上げる金がさらに上がった、
金がないので娘を山賊達に差し出さなければならない、
また町民が山賊達に殺された、という殆どが山賊に関するものばかりだった。
なるほど、とシグナムは納得した。
どうやら、この町では山賊が自警団を作り、
町を守る代わりに、金や女などを要求しているらしい。
それも、戸籍帳簿を作って取り損ねがないよう徹底的に。
しかし、自警団といっても所詮は山賊。
普段はなにかをする訳でもなく、酒場や賭博場で時間を潰し、
その時の気分で人を殺すという無法振りを曝け出している。これでは魔物と変わらないだろう。
逃げ出す事は出来るのだろう。
だが、この町以外の町村も、きっと同じ様な状況なのだろうという事は、
子供でも分かる道理である。そうでもしないと生きていけないと理解しているため、
町民達は逆らわず、ただひたすら耐えて、精神を磨耗させているのである。
精神の磨耗が、批判を起こさせ、次第に沈黙へと変わっていったのだ。
山賊達は、その沈黙を自分達への服従と感じているのだろうが、
本当はそれは我慢であり、いずれ爆発するものである事を、彼等は理解していない。
そう思ったシグナムは、急速に知恵を巡らせ、一つの策を思い付いた。
「マスター、次の徴収はいつなんだ?」
急に聞かれたマスターは、訝しげな表情を浮かべ、
「あんた、この大陸の出身じゃないだろ。そんな事を知ってどうするつもりだ?」
と、冷えた声で言った。
そんな冷声を浴びたシグナムであったが、嫌な顔をする事なく、
残っていたカシスオレンジを一気に飲み干すと、
「この大陸を、救ってみようと思ってな」
と、大胆な事を言ってのけた。
次の徴収が来るのは明後日。
シグナムは、自分の娘を差し出すしかない、と嘆いていた男に近付いた。
「私がなんとかして差し上げましょうか?」
と、言ってみて、周りを見渡した。
男達は水を打ったように静まり返っている。
しばらくすると、急にその静まりを破る様に、どっと沸いた。
「はははっ、あんた、随分と面白い冗談を言うな!」
「生憎、私は冗談を言える性質ではなくてな、さっきのも本気なのだが」
男達の皮肉に、シグナムは淀みなく言い返した。男達の表情が、険しくなった。
「他国者の癖に、なにふざけた事を抜かしやがる!お前一人でいったいなにが出来るってんだ!
くだらねぇ冗談を言ってる暇があったら、さっさとこの大陸から出て行け!」
今にも掴みかかりそうな勢いで、男の一人が言った。
シグナムは、男達に睨まれても、顔色一つ変えなかった。
「だから、冗談ではないと言っているでしょう。
……それに……、ここで愚痴ばかりを言っている臆病なあなた達に比べれば、
私はよっぽど役に立つと思いますが……」
後半の部分の呟きは、敢えて男達に聞こえる様に言った。
案の定、男達はいきり立ち、その内の一人が、シグナムの襟に掴み掛かった。
「てめぇ……、もう一度言ってみろ!ただじゃおかねぇぞ!」
男が強く握り締めているためか、拳は血が止まったかの様に真っ白になっていた。
「あなた達は、私みたいな他国者にはこの様に強気に出る癖して、
山賊となると、まるで腫れ物にでも触れる様に恐れ憚っている。
それを臆病と言って、なにか問題でも?」
「黙れ!他国者のお前になにが分かるってんだ!」
「分かりますよ」
ぴしゃり、とシグナムは言った。表情には凛としたものがあった。
「魔物や山賊などから身を守るために、あなた達は山賊達に頭を下げ、金を払った。
それの答えが、些細な理由で殺されても文句は言えず、
大切な娘を陵辱されると分かっていても差し出さなければならない。
……おかしいとは思いませんか?
あなた達は魔物や山賊から身を守るために、苦肉の策として、山賊を雇った。
だというのに、あなた達は、むごたらしくその山賊達に辱殺されている。
本当に現状が理解出来ていないのは、あなた達ではないのですか!」
と、シグナムは掴み掛っている男や、周りの男達に聞こえる様に言った。
襟を掴んでいる男の手が緩んだ。
「あなた達のやった事は、虎を追い出すために他の虎を招き入れた様なものです。
この町の寿命が延びる所か、縮める事をやっているという訳です。
今、あなた達に出来るのは、他人に任せるのではなく、自らの力でこの困難を打開する事です。
そのためなら、私は微力ながら力添えをするつもりです。
さぁ、選んでください。このまま滅びるか、再生に掛けるかを!」
男達を見据えるシグナムの目は、強い光に溢れていた。
それを見た男達は、怒りを萎ませ、力なく椅子に座った。
しばらく沈黙が続いた。シグナムはそれを見守っていた。
それから数分して、一人の男が顔を上げた。
「……分かった。あんたの話に、乗るよ」
その言葉に、反対する者は誰もいなかった。シグナムは男達の心を掴んだのである。
早速、シグナムは男達を集めて、胸中の策を語りだした。
この時点で、男達はシグナムと運命を共にする事となった。
エトナの町は騒然となった。
山賊達が苛烈な徴収を行ない、女の泣き叫ぶ声が列を成したからである。
ドアが乱暴に開けられた。
「金の用意は出来ているんだろうな?」
入ってきて、開口一番に山賊のリーダーらしき一人がそう言った。
「いっ……いえ……、……でっ……ですが、次の徴収までには必ず集めます。だから娘は……」
「うるせぇ!!!」
鈍い音が響いた。殴られて蹲っている男の顔を、盗賊は足で踏み付けながら、
「てめぇの都合なんて聞いていねぇんだよ。金がねぇなら、女と金目の物を全部よこしな!」
と、言って、部下を強引に踏み込ませた。
「兄貴、女を見付けましたぜ。それも二人だ」
家の奥に最初に踏み込んだ山賊が、乱暴に二人を連れ出した。
一人の容姿は普通であったが、もう一人の容姿は尋常ではなかった。
腰まで届く長髪は薄い金色は、そよめく稲穂の様であり、
ぱっちりとした瞳は愁いの色で、ふっくらとした白い頬はほんのりと朱で染められている。
さらに金色の髪を強調するような青に白の線や点が刺繍されたワンピースを身に付けている。
ただ、ワンピースを押し上げる不自然に大きな胸と、目測で176cmの身長が、
奇妙な違和感を醸し出しているが、それを考慮しても、その女は絶世だった。
兄貴、と呼ばれた山賊は、一瞬その美女に目を奪われたが、すぐにある疑問を抱いた。
「うん、確かこの家はお前と、この女の二人暮らしのはずだ。もう一人は誰だ!」
帳簿を捲りながら、山賊はこの名所不明の女を睨み付けた。
「そっ……それは、私の姪です。妹の暮してる村が魔物に襲われて、ここに逃げてきたのです」
「ほう……、姪か……」
山賊が濁りきった目を、その女に近付けた。それはまるで、値踏みをする様な目付きであった。
山賊は濁った目を女に向け、
「お前が姪か従姉妹かは知らねぇが、運がなかったと思って諦めるんだな。
……その胸の詰め物は気に食わねぇが、それを除いても、慰み物としては極上だ」
と、主に女の不自然に大きな胸を見つめながらそう言うと、
女二人を荒々しく連れ出し、他の徴収物と共に馬車の中に押し込まれた。
「逃げようなんて、馬鹿な事は考えるなよ」
山賊はそう脅すと、幌を閉じた。
馬車の中には、既に捕らえられた何人かの女がすすり泣いていた。
娘もそれに感化され、しゃくり声を上げ始めたが、
もう一人は、薄い金色の長髪を掻き上げて、泣く素振りも見せなかった。
馬車は、舗装されていない山道を進んでいた。
幌の隙間から見える光景は、山賊達がひたすら水を撒いているというものだった。
それは聖水であり、力の弱い魔物を近寄らせない代物である。
長髪の女は、それをじっと見つめていた。
やがて、馬車は岩盤を刳り貫いた様な洞窟に到着した。
馬車から降ろされた女達は、山賊達に連れられ、牢獄の様な所に入れられた。
「もうじき夜になる。フヒヒ……、今夜は楽しくなりそうだ……」
牢獄の鍵を閉めた山賊が、下品な笑声を上げながら、その場から去っていった。
一人の山賊が、牢獄に近付いてきた。
「そこのパッド女、出ろ」
牢獄から出された女は、なにかを言う訳でもなく、黙々と後に付いていった。
山賊に連れられて着いた場所は、豪奢な装飾のなされた扉の前だった。
「ここは……?」
女が始めて口を開いた。その声は甲高く、強い意志が感じられる声音だった。
「頭の部屋だ。喜びな、今夜はお前が頭の相手をするのだ」
重苦しい音を立てて、扉が開かれた。
女の目に入ったのは、扉と同じく豪奢な装飾の椅子に座っていた髯もじゃ肥満体の男であった。
「お前は下がれ」
濁声で頭がそう言うと、山賊は頭を下げて部屋から出て行った。
「近こう寄れ」
耳障りな濁声で、頭は女を手招いた。
女は嫌がる素振りを見せず、ゆっくりと頭の近くに座った。
「名は?」
「……アイリス……」
「アイリス……、その胸の詰め物は気に食わないが、それを入れても十分楽しめそうな身体だな。
今宵は、俺の精をお前の中にたっぷりとぶちまけてやろう」
頭がそう言うと、乱暴にアイリスの服を剥がそうとした。
「待ってください!」
頭の手を、アイリスは左手で優しく押し止めた。
「する前に、どうしてもあなた様に渡したいものがあるのです」
アイリスはそう言うと、左手を頭の左肩に置いた。
「ほぅ……、なんなのだ、渡したいものとは?」
「それは……」
頭は下劣な笑みを浮かべていたが、アイリスも同様に笑っていた。声音も少し下がっていた。
頭がそれに気付いた時には、アイリスの右手が喉を貫いていた。
声を出す暇もなく、頭は口から血を吐き出し、前のめりに斃れた。
「これが賊の末路という奴か……。あっけないものだ……」
右手の血を拭いながら、斃れている巨体に目を向けたアイリスは、
自らの長髪に煩わしげに手を置き、まるで帽子の様に長髪を取り外した。
「やはり、鬘は蒸れるな」
そこにいたのは、青いワンピースを身に纏ったシグナムであった。
シグナムの策とは、徴収物に紛れ込み、山賊の頭とアジトの両方を殲滅する、というものだった。
徴収の対象が金目の物と女だけの時点で、シグナムは自ら女装する事にしたのだが、
まさかここまで策がスムーズに進むとは、流石に想像出来なかったが、
今は驚いているよりも先に、前に進む事が重要である。
既に山賊の頭の暗殺に成功したシグナムの次にするべき事は、賊の殲滅と女達の救助である。
女達の救助については問題ないが、懸念すべきは賊の数だった。
その数五百。一人でまともに戦って勝てる様な数ではない。
そのための対策もしているのだが、失敗すれば自分も死んでしまうかもしれない。
「二つ一気にやらなければならないって所が、王族の辛い所だな……。
……ふっ……、その様な覚悟、この大陸に入った時点で既に決めている」
そう言って、シグナムは胸に手を突っ込み、一つの玉を取り出した。
不自然に大きな胸の正体はこれだったのだ。
この玉の中には、油がたっぷり入っている。シグナムはそれを部屋や廊下にぶちまけた。
「さぁてと、火がアジト全体に燃え広がるまで、大体三十分って所か。
……天よ、もし私がまだ生きていなければならないのならば、どうか私をお助けください」
シグナムは、火を部屋の中に投げ込んだ。一瞬の内に炎が立ち上った。
「火事だぁあああ!!!頭の部屋から火事だぁあああ!!!」
それと同時に、シグナムは腹の底から大声を出した。
その声を聞いた山賊達が、次々に部屋に集合してきた。
既に山賊の服に着替えていたシグナムは、やってきた山賊達に紛れ、宝物庫に向かった。
ここには徴収物として、シグナムの持っていた聖剣シグルドも入れられているのだ。
それを取り戻したシグナムは、再び頭の部屋に向かった。
頭の部屋では、山賊達が必死の消火作業をしている。
その群れの中に、シグナムは飛び込んだ。
凄まじい力戦となった。通路が狭い事も、シグナムには幸いした。
圧倒的に兵力の上では有利にいるはずの山賊達は、
狭い通路のため、大きく展開し、シグナムを包囲する事が出来なかったのだ。
当たるを幸いに、シグナムは山賊達を斬り捨てて行った。
山賊達の中には、体勢を立て直して斬り架かってくる者達もいたが、
それすらも、シグナムは聖剣で以って撃殺した。火の勢いがさらに増した。
火は柱などに燃え移り、辺りは火の海になった。
火とシグナムの猛撃に恐れをなした山賊達は、奥へ奥へと退却していった。
山賊達が行き着いた先は、かなり広い物置だった。シグナムはそこに山賊を追い詰めた。
目測する所、追い詰めた山賊達は三百程度であり、
残りの二百は先ほどの戦闘で粗方討ち取っている。
シグナムは、もう一つの玉を取り出し、それを密集している山賊達の頭上高くに放り投げた。
玉が落下するなか、シグナムは右手の仕込み弓に矢を番え、放った。
火矢は玉に当たり、割れた玉から溢れ出た油に、火が引火した。
火の雨が山賊達に降り注ぎ、その場を一瞬の内に焦熱地獄に変えた。
唯一の出口から、山賊達は逃げようとしたが、それよりも早くシグナムは、
聖剣シグルドで天井を支えている柱を切り落とし、崩れ落ちた土砂で出口を封じてしまった。
土砂の壁を隔てて、山賊達の悲鳴が聞こえてきた。
やがてその声は、炎の燃え上がる音にかき消されてしまった。
一方その頃、ファーヴニルの城に到着していたブリュンヒルドは、
主だった閣僚達の前で、シグナムの言葉を述べていた。
「我がファーヴニル国は、他国の頂点に立つ盟主の国である。
だというのに、先代国王は魔王が復活したというのに率先して軍旅を催さず、
さらに、今上代王は魔王軍に攻められて壊滅した国を見ても見向きもしない。
これは盟主国としてあるまじき行為である。
大国とは小国を助けるもので、小国とは大国を敬うものである。
しかし、現状を見てみるに、ファーヴニル国は辺りの惨状を見ても知らぬ顔をし、
周りの国も、ファーヴニル国がなにもしないのを見て失望に染まっている。
これは亡国の兆しである。
今すぐにでも援助の手を差し伸べなければ、いずれ我が国が魔王軍に攻められて、
滅亡の危機に瀕したとしても、誰も救いの手を差し伸べてくれないであろう。
因果とは、必ず自らに返ってくるものなのである。
そうならないためにも、今は無秩序に苦しむ良民達を救う事が肝要なのである。
小利を惜しんで、大利を逃すのは最も恥ずべき愚行である。
どうかその事を、胸中に留め、早急に結論を出してもらいたい」
それがシグナムが考えた説得の内容だった。
これを聞いた閣僚達は、早速ブリュンヒルドに対して非難を投げ掛けた。
しかし、事前にシグナムと打ち合わせしていたブリュンヒルドは、
それ等の非難を悉く跳ね返し、閣僚達の非を上げ連ね、閉口させていった。
しばらく、その論争に耳を傾けていた摂政のガロンヌは、
右手で論争を制すと、代王に耳打ちをし、
代王はブリュンヒルドの言に理があると仰っている、と言い、
リヴェント大陸に援助物資を送る事が可決した。
退廷したブリュンヒルドに一人の男が近寄ってきた。
「任務の方はどうなった?」
「従者の一人は殺せましたが、太子の方は守りが固く、なかなか実行に移せません」
「アーフリード家最強と言われる汝でも、無理なのか?」
「単純に殺すのならば簡単なのですが、
周りに不自然に思われない殺し方となると、迂闊には手が出せません。
まずは、太子の信頼を得て、油断した所を突くつもりです」
「そうか、では引き続き太子に付いていてくれ。
今上の王が、磐石な政権を保てるかは、汝に掛かっているのだからな」
「……肝に銘じます……、と摂政閣下に伝えてください……」
早足で遠ざかるガロンヌの使者をブリュンヒルドは、無表情で見送った。
投稿終了です。
GJ!!
GJ!
ブリュンの病み方に期待!!
ポケモン黒23話投下します
前スレに22話を投下したので前スレのを見た後見てください
朝。僕は深夜の宣言通り、警察署に向かうはずだった。
僕の知るすべてを告白するために。
集団頭痛事件の影に隠れてしまったけど、僕が立ち会ったあの事件も、市町間通行所襲撃事件として調査が行われている。
僕は実際にそこにいたのだから、事件の参考人としては十分な人間だ。
警察は僕の情報提供を断る理由がない。
そう思い、警察署に向かうはずだっのに。
明け方。僕は窓側からなるコツコツという音に目を覚まさせられた。
薄めを開けてポケギアを見ると、まだ夜と言っても差し支えのない時間だ。
窓の外からは薄紫色の光が差し込んでいる。
何だろうと窓を見ていると、小石が窓ガラスに当たっていた。
やどりさんは隣ですやすやと眠っている。
僕のせいで疲労が溜まっていたんだろう。
彼女には大怪我をさせてしまったのに、そこに鞭打つような真似をしてしまった。
本当に申し訳ない。
ポポはまだ治療中のはずだし、やどりさんは眠っているとなったらこれは一体なんだろう。
悪戯だろうか。こんな朝早くに?
ベッドを抜け出し、不用意に確認しにいったのがいけなかった。
窓の外には誰も見えない。
おかしいな、と思って窓を開け、身を乗り出した瞬間。
僕は何かに引っ張られ、窓の外に放り出された。
咄嗟に出そうになった叫び声を、口に入れられた何かで防がれる。
地面に叩きつけられる、と慌てたが、僕の体は地面にぶつかる前に止まった。
半ばパニックに陥り、全身を激しく動かすが、縄のようなものに絡め取られてすぐに身動きが取れなくなった。
「騒がないで!」
やどりさんに気づいてもらおうと必死に呻き声を漏らそうとしていた僕の耳に、よく聞き覚えのある声が入ってきた。
慌てて声のしたほうに顔を向ける。
首は自由だったので向けることが出来た。
「ゴールド」
僕の目の前には、数日振りにみる、ずっと会いたかった顔があった。
「んんんんん!?」
名前を呼ぼうとしたけど、口には蔦が入っているのでそんな声しか出ない。
「しっ! 気づかれるとまずいわ。向こうで話しましょ」
彼女はそう小声で言うと、縛りを解いて、僕の手を取った。
その手を強く握り返し、立ち上がった。
事情を聞くまでは、この手は離さない。
彼女に引かれるままに、無言で歩くこと十分。
僕はずっと話しかけたくてたまらなかったのだけれど、彼女の後姿はそれを許してくれなかった。
「ここなら大丈夫かしら」
彼女はそう言って、とある公園のベンチに座った。
僕も隣に並んで腰を降ろす。
そしてようやく口を開いた。
「一体今まで何してたのさ、香草さん!」
数日振りに呼ぶその名前。
僕の目の前には、溌剌とした香草さんの姿があった。
僕が最後に目にしたときと今の香草さんとでは、若干風貌が変わっていた。
思い出される壮絶な記憶。
アレだけやどりさんにボロボロにされたにも関わらず、今の香草さんには傷一つ見えない。
衣服も新しいものになっていた。
そして何より、彼女のトレードマークでもあった頭の上の葉っぱが無くなっていて、代わりというわけではないだろうけど、二本の触覚のようなものが頭から突き出している。
首には花飾りがぴったりと巻かれていた。
これは大怪我のせいではない……よね。
進化したのだろうか。
一瞬間に色んなことが脳裏を駆け巡る。
僕に話しかけられた途端、彼女は頬を染め、全身を震わせた。
「……っあ、ゴールドに名前呼んでもらうのも、久しぶりね」
感極まった様子でそう答えた。
彼女の表情はここ最近のものとはうってかわって、まるでつき物が落ちたかのように穏やか?だ。
あれから数日、香草さんにいったい何があったんだ?
「香草さん、質問に答えてよ!」
少し強めに発した僕の言葉に、彼女は溶けたような瞳を僕に向けた。
彼女は全身から蔦を伸ばし、全身で僕に抱きついた。
「……はぁ、会いたかった。会いたかったよ、ゴールド」
暖かく柔らかな感触が伝わり、鼻腔一杯甘い香りが広がるが、僕が抱いたのは悪寒だった。
何だ!? この……何だ!?
香草さんの様子が明らかにおかしい。
いや、おかしいのかな。
おかしいよな。うん、おかしい。おかしい。
しかし内心でいくらそんなことをかみ締めてもしょうがない。
「か、香草さん!? 一体どうしたのさ! あれから何があったの?」
「……ぁあ、ゴールド、ゴールドゴールドゴールドぉ!!」
しかし香草さんは感極まった様子でブルブル震えるばかりだ。
振りほどこうにも、蔦は痛くは無く、しかしびくとも動かない絶妙な力加減で僕と香草さんを密着させている。
朝の散歩だろうか、公園を通りかかったおばさんが、僕達を見て眉をひそめて足早に過ぎ去っていった。
違うんです。これは多分そういうのじゃないんです。
そんなことを分かってくれるはずも無く。
そのまま僕が香草さんに何を呼びかけても答えてくれないのが数分続いただろうか。
満足したのか、ようやく香草さんは僕から少し離れた。
「あ、あの、これは違うんだからね!」
一体何と違うんでしょうか。
「その、これはゴールドのことが好きだからってわけじゃなくて、いや好きなんだけど、とにかくそういうわけじゃなくて……」
ちょっと待ってください。今なんとおっしゃいました?
「……あーもう! 好き! 大好き! 毎秒毎分毎時間毎日毎月毎年ずっと会いたかった! 好き好き好き好き好き好き好き好き……っはぁ! ごーるどぉ!」
いやあなた僕と会ってからそんなにたってませんよね?
毎月毎年思うのは不可能ではないんですか?
再び抱きついてくる彼女の前で、僕はただひたすら混乱していた。
好き? 香草さんが? 僕のことを?
これは何の冗談だろうか。
彼女は重度の錯乱状態にでも陥っているのかな。
いやでもこんな錯乱だったら大歓迎っていうか……
ってそうじゃない!
「香草さん!」
「んー? なぁにぃ?」
僕が言うと彼女は少し僕から離れ、僕と見つめあう形になった。
微笑む彼女は、ちょっとびっくりするくらい可愛かった。
「あ、あの、一体どうしたの?」
「どうしたのって、どういうことー?」
相変わらず彼女はにまにまとご機嫌だ。
「ど、どういうことって、変というか……」
が、僕がそれを言ったことで彼女の様子は一変した。
「へ、へへへ変!? ど、どこが!? どこが変なの!?」
彼女の顔から笑みと紅が消え、青ざめた顔で必死に僕に問いかける。
両手で握られた僕の肩が瞬時に悲鳴を上げた。
「わ、私おかしい? おか、おかしくないよ、おかしくなんか……」
……おかしい。
「そういう意味じゃなくて、随分様子が変わったみたいだから!」
肩の痛みを何とかごまかし、早口に言った。
「そ、な、私変わった?」
まずい、また別の地雷を踏んだのだろうか。
「い、いやどうだろうか」
「あ、あのね! 私ね、自分の気持ちに素直になることにしたの」
「素直に?」
「うん。……私、ゴールドのことが好きだったの」
彼女はそう言いながら視線を少し僕から外し、恥ずかしげに、少し体をよじる。
「でも、恥ずかしくて、素直になれなくて、それであんなことになっちゃって……それで私決めたの。素直に自分の気持ち伝えようって!」
そういう香草さんの顔は朗らかだけど、どこか違和感を覚える。何かよくないものを感じる。
なんというか、突き抜けた明るさというか……越えてはいけない一線を越えてしまったような……いや、それは言いすぎか。
でも、今の香草さんが自分に素直になった結果だとしたら。
「じゃ、じゃあ、僕のことを好きっていうのは本当なの?」
香草さんの顔が一瞬で真っ赤になった。
「あ、あああのね、その……うん、好き。私、ゴールドのことが好き! すきなの! ゴールドと離れたくない。いっしょにいたい。……ダメ、かな」
信じられなかった。
まさか香草さんから告白されるだなんて。
「ダ、ダメジャナイ! ダメジャナイヨ!」
「本当に?」
「うん、僕も香草さんのことが前から気になってて……僕でよければ、僕と付き合ってください」
言った瞬間、香草さんの双眸に涙が溢れた。
顔を真っ赤にして、両手を口に当てている。
「夢じゃないよね。夢じゃないよね、ゴールド」
そういわれると急に夢のように思えてきた。
「う……ん夢じゃないと思う」
「ゴールド、私信じていいんだよね? 嘘じゃないんだよね?」
これには自信を持って答えられる。
「うん。嘘じゃない。僕は香草さんのことが好きだ」
「ごーるどぉ!」
再び抱きつかれた。
時々しゃくりあげる音で、彼女が泣いているのが分かる。
「ずっと不安だった。ゴールドは私のこと好きでもなんでも無いんじゃないかって。……ううん、ゴールドは私のこと、嫌いなんじゃないかって」
「そ、そんなわけ……」
「だって、私、今までゴールドに随分酷いことしてきたもん。嫌われても文句言えないようなこと……ああゴールド、本当に嘘じゃないのよね?」
「香草さん」
僕はそう言って彼女から少し離れた。
「ゴールド?」
瞳を滲ませ、不安げに僕を見る彼女の桜色の唇に、僕は口付けた。
香草さんの唇は温かくて、とても柔らかくて、目をつぶっていても、彼女が慌てているのが伝わってくる。
ほんの一瞬か、それとも数秒の間か。
分からないけど、とにかく、僕にとっては長大に感じられる口付けをやめ、少し退いて彼女を見る。
彼女は目を大きく見開いて、顔を真っ赤にしていた。
「これが僕の気持ちだよ」
努めて平静を装いそう言ったが、内心は僕もかなり照れて、自ら行った行為にも関わらず、軽く混乱していた。
顔が熱い。胸の鼓動が頭の中までガンガン響く。
少し離れたことで、むしろ彼女と抱き合っているという事実がまざまざと実感させられ、余計恥ずかしくなってくる。
少しの間、彼女はそのまま固まっていた。
が、はひゅ、という空気の漏れるような音を発した。
同時に、全身の力が抜け、崩れ落ちそうになるのを、僕は咄嗟に支える。
蔦が緩み、拘束が解かれ、抱きしめられるのは終わったけど、今度は逆に僕が抱きしめ返している。
「香草さん!?」
「ひゃあぁ……ごぉるどぉ……」
僕の問いかけに、彼女は寝言のような力の無い声で答える。
いや、多分これは僕の声に答えたんじゃないだろう。
彼女の正気はここではないどこかを遊泳中のようだ。
もしかして僕のキスが原因なのだろうか。
僕も相当に緊張したけど、それでもここまでじゃない。
なんだかこっちまで恥ずかしさが増してくる。
結局、彼女が正気を取り戻すまで数分かかった。
「……ぁ……ゴールド……」
彼女は僕の腕の中でまた呆けたような声を上げたと思うと、急に僕を突き飛ばして起き上がった。
「うわぁ!」
不意を突かれた僕はそのままベンチから落ち、体を打った。
彼女は起き上がったまま暫し呆然としていた。
僕は地面に倒れたままそんな彼女を呆然と見ていた。
「……あ、ご、ゴールド、あの、これは違、違うの! 不可抗力っていうか……」
「大丈夫、分かってるよ」
彼女が慌てて弁明を始めると、僕は起き上がってそれを止めた。
「僕のほうこそ、ごめんね。急にキスなんてしちゃって。嫌だったかな」
「そ、ち、違、そんなわけ……ないじゃない! すごく嬉し、嬉しくなんか……嬉しくて、それで、あの、その……」
彼女は一人でしどろもどろになっている。
可愛いような、可笑しいような、少し怖いような。
「……もっとキスした、したい……べ、べべべ別にもっとゴールドとキスしたいとか、そういうんじゃ……な……い……わけでも……な、い……」
しどろもどろ過ぎてもう何がなんだか分からなくなっている。
素直になることにしたというけど、まだそれに慣れていない……のかな。
「あ! だからって軽い女だと思わないでよ! そ、その、私の唇は安くないんだからね! あ、でもキスはもっとして欲しいっていうか……」
なんだかすごく微笑ましい気持ちになってきた。
少し落ち着きを取り戻し、元の話題を思い出した。
「そうだ、それで、今まで何があったの? 教えてよ」
「……どうしてもキ、キスしたいっていうなら、させてあげなくも無いっていうか……って、え? な、何?」
どうやらまたトリップしていたらしい。
ちょっと呆れて、変な笑いが出る。
「あ、何笑ってんのよ! 私何かおかしなこと……もしかして、私とキスするの、いや、とか……」
「ち、違うよ! そうじゃなくて、僕が香草さんは今まで何してたのか聞いたのに、上の空だったのが可笑しかったから」
「なんだ、そうよね、嫌なわけないわよね。だってゴールドは私のことがす、すっ、……なんだから……。そ、それで、私が何してたかだっけ? 私はあの糞女に……ちょっと戦略的撤退してから、当ても無く街をさまよってたの。
自分でも考えがまとまらなくて、どんな道を通ったかも覚えてないわ。なんだか全部が背景って感じで……それで、多分、どうしてこんなことになったのか考えてたの、私はゴールドのことが好きなのに、どうして……って。
それで、気がついたら男の人と女の人の二人組みがいて、それで二人して好き好き言い合ってたの。とても幸せそうで……よく見たらそ、それがわ、わた、私と、ゴールドで……それで、私も素直に好きって言えたら、幸せになれるのかなって……
ホントに幸せになれた。夢みたい……夢じゃないよね、ね、ゴールド。あ、それで、そんなことを考えていたら、気がついたら今度は真っ暗な道に、自分だけが立っていたの。
いつの間にかゴールドと私は消えてて、なんでこんなところにいるのかわからなくて、急に怖くなって、そしたら体中が急に痛くなって、血まみれて、寂しくて息がつまりそうで……何度もゴールドのことを呼んだの。
でも、私は一人のままで……それで私はようやく気づいた。私はゴールドのことが好きだって。あの胸の苦しさは好きが原因だったんだって。そしたら急におかしくなってきて。馬鹿なことだって笑ったわ。私、そのときまで自分の気持ちも分かってなかったの。
くだらない意地を張って、つまらない見得を張って……そうして残ったのはだあれもいない真っ暗な道に一人蹲るボロボロの私。悲しくて、可笑しくて、泣きながら笑ったわ。それで、決めたの。今度は、きっと素直になろうって。
正直に自分の気持ちをゴールドに伝えようって。こんな寂しい道に一人でいるなんて耐えられなかった。ゴールドがいなきゃ駄目だって。そう思った瞬間だったわ。目の前に光が見えたの。体が温かくて、気持ちよくて、気がついたら、体が楽になってた。
そして、道の先に光が見えたの。あれはゴールドだって。あの光の先にいるのはゴールドだって。私は確信した。そして、その光の方向に歩いたの。ただゴールドに会うことだけを考えて、ひたすらに歩いたわ。どんな道を通ったかなんて覚えてない。
私が覚えてるのはあの光と、あの光に辿りついたとき、どうするかっていう想像だけ。光に向かって歩きながら、何度も何度も考えて……気がついたらこの街にいて、それでふと自分の格好を見たらすごくボロボロでみすぼらしくて、
こんな姿を見せたらゴールドに幻滅されちゃうんじゃないかって怖くなって、新しい服を買って、ゴールドに会いに行こうと思ったの。でも、いざとなったらやっぱり怖くて……ポケモンセンターの裏でずっと震えてた。
でもやらなきゃって、やらなかったら一生私はこの暗い道で独りぼっちなんだって。あの部屋にゴールドがいるんだ、って。そこからはシミュレーションどおりに行動して、そしてゴールドに告白されて……ああ、ゴールドぉ、会いたかったよう」
彼女はそれを一息に話し終えると、僕の胸に飛び込んだ。
僕が彼女をしっかりと抱きとめたが、内心は複雑だった。
夢みたいな話だ。
彼女が僕を好きということに対してではなく、彼女が語った話の内容が。
幻覚を見て、まるで夢遊病者のように振舞って、そして気がついたら僕のところに辿り付いていたなんて。
行動もそうだけど、話の内容も夢を見ているような感じで、現実感に乏しい。
しかし実際に彼女が目の前にいるという結果がここにある。
僕は正規のルートからは大幅に外れていて、とても自然に会えるような場所にいなかったのにも関わらず。
ちょっと気が変になりそうだ。
「あぁ、ゴールド、ゴールド」
僕に体をこすり付ける香草さんから漂う甘い匂いが、僕の正気を繋いでいた。
それで、一つおかしなことに気づいた。
「香草さん、そういえば一昨日、酷い頭痛がしなかった?」
そうだ、彼女もあの頭痛を体験しているはずなんだ。だけど彼女の話には一言も出てこなかった。
「頭痛……?」
香草さんは不安げな、不思議気な表情で答えた。
「うん。立ってもいられないくらいの本当に酷い頭痛。どうもポケモンは皆それを体感したみたいなんだけど……」
「ごめんなさい……分からない……」
香草さんは本当に申し訳なさそうに答える。
「すごく煩くなったのだったら……多分……分かるんだけど」
「うるさくなった?」
「う、うん。ポケモンセンターの裏で蹲ってたら、急に騒がしくなって……でも、酷い頭痛は無かった……と思う……」
……ちょっと待て、騒がしくなってって、それがもしかして例の頭痛騒動なんじゃないか。
それだとおかしい。辻褄が合わない。
僕がこの丁子町のポケモンセンターにたどり着いたのは多分一昨日の昼過ぎから夕方までの間だ。
頭痛騒動が起こったのはどこでも同時と考えればここでも昼頃起こってた。
同時じゃなくても、どの道僕がこの町に着く前にはこの町に騒動が起こってた。
だとすると、僕を頼りにここにきたのは、僕がここに来る前ということになる。
いない僕を目印にここにきた。
……まるで、僕がここに来ることを予知していたみたいに……。
ますます頭がこんがらかってきた。
同時に、気分が悪くなってくる。
なんだこれは。
そもそも、香草さんが僕を頼りにってところからおかしな話といえばおかしな話だ。
だからこれは最初から荒唐無稽なただの偶然と片付けることもできる。
でも、偶然にしては出来すぎていないだろうか。
いや、出来すぎてるから偶然に思えないだけなのか?
「ご、ゴールド、どうしたの?」
香草さんの呼びかけで思考の坩堝から現実に戻される。
「あ、ああ、ごめん。なんでもない」
不安げに僕の顔を覗き込む彼女に、笑顔を作りながら答える。
しかし僕の顔は引き攣って、それは笑顔とはとてもいえない歪んだものになっていただろう。
それがますます香草さんの不安を煽った様だ。
「や、やっぱり、変、よね? 私気持ち悪いかな?」
「え?」
呆気に取られる僕の前で、彼女の暴走はますます加速する。
「気持ち悪い、私、ゴールド、いや、私、わ、私おかしくないよね? 気持ち悪くないよね?」
彼女自身、若干おかしいという自覚があるのだろう。それがますます彼女の平静を失わせる。
「い、いや、かな。ゴールド、嫌なのかな。変なのは嫌い……いや、いや! 嫌いにならないで! 嫌わないで! やだ、やだやだやだゴールドゴールドゴールド……」
力なく垂れ下がっていた蔦が力を取り戻し、俊敏に全身に絡みついた。
そのまま、彼女の息がかかるまでに引きよせられる。
「ゴー、ルド、私、だ、駄目なの、ゴールドがいないと、私、いや、いや、いや! た、ゴールド、いなくならないで! 私の傍にいて……いてよ!」
「ど、落ち着いて香草さん!」
「痛い、痛いの。寒くて暗くて寂しいの! ゴールドがいないと、わた、私生きていけない……だ、駄目、やだやだやだ、ご、ゴールド!」
徐々に彼女の言葉は疑問から独白、そして嘆願へと変わっていく。
痛々しいまでに彼女は僕を必要としている。
支離滅裂な彼女の言行に、僕は恐怖を禁じえなかった。
目の前にいるのがまるで得体の知れない化物で、全身をその化物に絡みつかれているような……
同時に、目の前の少女が迷子になって一人泣いている童女のようにも見えてきて、童女の悲痛な叫び声がありありと鼓膜に響いてきて……
咄嗟に、僕は全霊の力を込めて彼女に抱きついた。
そして万魂を込めて彼女の耳元で怒鳴った。
「いなくないよ! ずっと傍にいる! 僕は君を離したりしない! だから! だから大丈夫だ!」
彼女は極寒の地に、着の身着のままで一人立たされたように、ブルブルと震えていた。
そして、その振るえが急速に消えていくのが分かる。
彼女の振るえは涙へと代わり、そのまま彼女は泣き崩れた。
僕は、彼女の、攻撃を受け止めるにはあまりにも柔らかな肢体を、一人で荒野に立つにはあまりにも暖かな体を、ずっと力の限り強く抱きしめていた。
「落ち着いた?」
数十分後。
僕に抱きついてしゃくりあげる香草さんに声をかける。
「うん……ありがと」
声はまだ涙声だったけど、僕と会話が可能なんだから随分落ち着いたといえるだろう。
ポケモンセンターを出たときにはまだ薄暗かったのに、辺りはもうすっかり明るくなっている。
やどりさん、目が覚めてたら心配してるだろうな。
昨日まで酷い状態で、これから半ば自首しようとしている人間が突然姿を消してるなんて。
自暴自棄になって自殺……こんな想像をされても仕方ないだろう。
「じゃあ、ポケモンセンターに戻ろうか」
やどりさんが香草さんにやったことを忘れたわけではない。
だから二人を会わせることに不安はあった。
でも、きっと、ちゃんと事情を説明すれば分かってもらえるはずだ。
そう信じたい。
もし駄目だったら、そのときは――
腫れぼったい目をして、鼻を真っ赤にした香草さんがキョトンとこっちを見ている。
――そのときは、僕が彼女を守らなくちゃいけない。
また香草さんをあんな目に会わせるわけにはいかない。
香草さんよりはるかに弱い僕が彼女を守るなんて、滑稽に思えるかもしれないけどさ。
僕は彼女に笑顔を向けると、彼女の手を引いて歩き出した。
投下終了です
途中の香草さんの長台詞はそういう演出です
手抜きじゃないです
香草さんかわいいいいいいいいいいいい!
デレがついに来た!
リアルタイム更新GJ!
211 :
Y:2010/06/11(金) 14:56:01 ID:9uch3zvV
やっとポケモン黒が来た来た来たああああああっ!!!!(゚∀゚)
良作がまとめてくるな
ポケ黒キターーーGJ!!
214 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 17:34:28 ID:SFEKzMdc
ニヤニヤしてくるまじで
GJ!!
gjだとは言いたいが
作者以外の他の人間が他の作者が投下しづらい雰囲気にするなよなー…
いっぱいきてる! ぽけ黒も来た! 皆さんGJ!
217 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 19:18:55 ID:iAqnvwwL
メイン 当たる ある 強い 派手
目立つ 有る
218 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 19:19:41 ID:iAqnvwwL
はで
これは…修羅場フラグなのか…!?!
病んだメガニウムかわいいです
さて、赤飯でも炊くか
221 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 21:23:51 ID:uq9+GfiU
ついに暗黒進化を遂げましたね。
一度の投下量すげえ。GJ!!
223 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 22:21:14 ID:iAqnvwwL
はで
GJ!
ぽけ黒キター
香草さん可愛すぎるよ
香草さんデレタアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
GJ!
gjgjgjggjgjgjggjgjgj
香草さんキター
待ってたぜ!
GJ
ここまでデレるとは誰も予想だにしなかっただろう。このヤンデレもはや誰にも止められんな……
GJでした!次回も楽しみに待っています。
遅くなりましたが第6話できました。
以下数レスお借りします。
「私が作ったって・・・どういう意味よ。」
僕は、多分、きっと綾華も、優の言葉の意味が理解できなかっただろう。
「言葉どおりの意味よ。兄さんの病気は私が作ったもの。だから私以外には誰にも治せない。」
僕は優の言葉が信じられなかった。
「じょ・・・冗談でしょ?優?」
「ごめんなさい兄さん。でもこれは本当なの。」
「何で!何でそんなことするのよ!」
綾華が声を荒げる。
「兄さんを守るためよ。あなたのような人からね。」
そう言って優は綾華を睨んだ。
「兄さんにあんな印を残すような人に、兄さんを渡さないためよ。」
「あなたに何がわかるの?奨悟は私のものなの!だから印を残したの。誰にも渡さないために!」
「そう言う自分勝手な発想が兄さんを苦しめているんです。兄さんをあなたのような人に任せると兄さんはきっと汚されてしまいます。」
そう言うと優は僕の手を引っ張った。優は僕と綾華の間にたつ。
「もちろん兄さんは私が守ります。ですが、もし私の手のとどこないところで兄さんが汚されてしまうくらいなら・・・」
「・・・・」
「兄さんを殺してでも、兄さんの心を守ります。」
僕は優が言った言葉の意味を理解できない。
「そんなの・・・ただの自分勝手だわ!他人取れるたら殺すなんて!」
「もちろん、私もすぐ後を追います。例えあの世でも私は、兄さんを一人になんてしません。私はそれくらいに覚悟をしているんです。」
僕は確信する。優のこの言葉は本気だ。
僕にもしものことがあれば、優ならためらいもなく僕を・・・
それは、僕のためだと信じているから。
「兄さん、帰りましょう。」
言葉を返せない綾華を見て満足したのか、優がそう言った。
「ちょっと!待ちなさいよ!」
「嫌ですね、仮にも兄さんが好きだというなら?命をかけるくらいの覚悟をみせたらどうですか。」
「・・・っ!」
「話になりませんね。兄さん。」
そう言うと優は僕と腕を組んだ。
「ではさようなら。周防先輩。」
優は綾華を優が綾華を嘲笑うかのようにそう言い放った。
僕は綾華に手を引かれて階段を降りる。
途中、振り返った僕が見たのは、一人取り残された屋上でむせび泣く綾華の姿だった。
家に帰った僕は、予想以上に落ち着いていた。
優もさっきのことを気にしているようではなく、いつものように家事をこなしていた。
こんなにも落ち着いてる。これはきっと、僕は心の中でこのことをわかっていたのかもしれない。
唐突に発病し、優が救ってくれた。
それからも病院ではなく、優が薬を作ってくれたこと。僕は薄々気づいていたんだ。
だけど、それを認めるのは怖かった。だって、それは文字通りの意味で。
「優がいなければ・・・生きていけない・・・」
別に優が嫌いなわけではない、だけど、僕もいつか普通に恋して、普通に結婚して、普通に家庭を築く。
そんな僕の夢は叶わないかもしれない。
PRRRRRRRRRRRR
鳴り響いた携帯は、朝倉からの通話だった。
一瞬とるのをためらったが、今日のことの誤解と謝罪をしたかった。
意をけして電話をとる。
「せっ・・・先輩?」
「あぁ、僕だよ。」
予想に反し、朝倉の声は震えていた。
「良かった・・・私、捨てられちゃったから・・・もう取ってもらえないと思ってた・・・」
「捨てるなんて、そんなつもりじゃないよ。」
「でも・・・先輩は・・・綾華先輩を・・・」
「それにはちょっと言えない事情があったんだ。朝倉のことが嫌いなわけじゃないよ。」
「てことは、好きなんですか?」
「・・・・・・」
「嫌いですか?」
「嫌いじゃない。」
こんな答えしか出せない自分に、僕は腹立たしかった。
「ねぇ、朝倉。」
「はい。」
「朝倉は、なんでそんなに、僕のことを気にしてくれるの?」
ずっと、気になってはいた。
たった一度ぶつかっただけの僕をずっと気にしてくれていたその理由を。
「・・・そういえば、話していませんでしたね。」
そう言ってポツリポツリ語りだした。
「私の家、お父さんが浮気ででていっちゃって、お母さんと二人だったんです。
離婚してからはお母さん、ずっと元気なかったときです。一緒に買い物をしていたときに私がスカウトされたんです。
お母さん、それを自分のことよのように喜んでくれて、それで、私はお母さんを喜ばせるために一生懸命お仕事をしました。
でも、お母さんが私のマネージャーをするようになってからは、変わってしまいました。
多分、お父さんのことを忘れるために、ずっとお仕事を続けていました。」
「そうだったのか。」
「だから私。人を信じられなくなったんです。お母さんは仕事のことしかみなくなったし、私に近づいてくる人はみんな私がアイドルだからでしたし。」
「・・・・」
「だから、あの日、先輩はわざとぶつかってきたんだと思ったんです。
周りの人のように、私に声をかけるために・・・
でも、先輩は違いました。私のことを心配してくれてる気持ちが伝わってきたんです。
今までにない、とても暖かな気持ちになれたんです。」
あの日、僕は朝倉の存在を知らなかった。
でも、例え知っていたとしても、僕は同じ行動をしただろう。
他人を思いやる。これが僕に唯一できることだから。
「だから私、先輩が好きなんです。とても暖かくて優しいから。」
思った以上につらいことを語らせてしまった。
「先輩、私の先輩への思いは何があってもとめられません。」
先ほどとは違う凛とした声で言う。
「知らなければ我慢できました。だけど、私は先輩を知ってしまった。暖かさを感じてしまった。」
だから・・・と続く
「私は先輩をあきらめません。何があっても・・・」
これが、朝倉の想い。
僕が受け止めなければいけない気持ち。
「ありがとう・・・朝倉。」
「いえいえ、私も聞いて貰えてよかったです。」
「じゃあ朝倉、今日はもう遅いから・・・また明日」
「はい、また明日会いましょう。」
そう言って僕は電話を切った。
朝倉の話を聞いて、僕はなおさら頭を抱えることになった。
僕が誰も選ばないから、僕だけじゃなく、彼女たちも傷ついていく。
そんなことはわかっていた。結局一人しか選べないのだ。
ならば、早く決断を下すこと。そうすれば少しでも彼女たちが傷つくことを軽減できる。
「でも・・・選べるわけないよ・・・」
僕には選べなかった。
誰か一人を選ぶことではない。誰か二人を選ばないことを。
以上で投下終わります。
前回までに引き続き読んでくれた方、感想をくれた方ありがとうございました。
あと、この前指摘がありました間違いの部分のwikiを修正しましたので、報告しておきます。
GJ
俺は優の味方だぞ
>>237 まったく仕方ないな、俺が代わろうじゃないか
紳士が多いな
残りは俺が…
乙
朝倉が他の2人に対して絶望的なまでに無力すぎるww
だからあえて俺は朝倉の味方。
245 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 03:05:39 ID:fFiJXZ9u
うぜえ
247 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 14:56:46 ID:i2I3gKYE
ならば俺は奨悟の味方だ!
だれにも渡さんっ
今日もヤンデレ家族来てくれるかな?
>>249 こういう更新催促するやつみるとサキュバスの巣の更新停止を思い出すな
>>250 えっ、去年から更新されないのって、そういう理由?
>>249 俺も日曜はヤンデレ家族が楽しみでたまらないよ。サザエさんの後にまだ楽しみがあるって素晴らしい。
職業で書いている訳では無い職人さんがたに、催促すればするほど嫌がる人は多い。
後他の書き手さんが投下をし辛く成る。
いろんな人が注意してくれてるけど消える気配は一向にないからな
もはや荒らしだろ、催促
建前:○○新作来ないかな〜
本音:って連呼しとけば作者が嫌がって○○打ち切りにできないかな〜
>>230 >「優は綾華を」「優が綾華を」嘲笑うかのようにそう言い放った。
>僕は「綾華」に手を引かれて階段を降りる。
すみません、揚げ足を取ってやろうとかそういうつもりではないんですけど
気になってしまったので
>>250 知らなかった。そんなことが……
もういっそのこと次スレ建てる時に、『作品の催促は控えること』みたいな言葉をお約束として追加したほうがいいんじゃないの?
258 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 21:00:02 ID:mBPNgD95
解
初めてお邪魔します。拙いですが作品を書きましたので投下させてください。
数レスお借りします。
学校から帰ると、家の前に人がうつぶせになって倒れていた。
「あっ……」
遠目にその人を見つけた僕は、すぐに走り寄った。鞄を投げ出し、肩を揺さぶってみる。
「もしもし。大丈夫ですか?」
「んっ……」
声が聞こえた。よかった。生きている。呼吸が止まったりもしていないようだ。抱き起して仰向けにする。
「…………」
その人(若い女性だった)はうっすらと目を開け、僕の顔を覗き込んだ。口が動き、言葉が発せられる。
「ああ。助けてください……」
「もちろん助けますよ。どうされたんですか?」
「お腹が……」
「痛むんですね?」
腹膜炎か。虫垂炎か。救急車を呼ぶべく、僕の手はポケットの携帯に伸びかけた。しかし女性は、弱々しく首を横に振る。
「空いてるんです。とても……」
「……え?」
どうやら、空腹のあまり行き倒れてしまったらしい。今時珍しいとは思うが、そんなことを言っても始まらない。僕は彼女を、目の前の自分の家に連れていくことにした。
「すぐそこが僕の家です。立てますか?」
「いいえ。ごめんなさい……」
愚問だった。立てないからここで倒れているのだ。僕は、「ちょっと待っててください」と言うと、自分の鞄を枕にして彼女を寝かせた。すぐに家のドアまで行って鍵を開け、大きく開け放つ。
「失礼します」
彼女の側に戻ると、いわゆるお姫様抱っこで抱え上げた。家の中に運んで行き、居間のソファーに寝かせる。家人がいたら一悶着あったかも知れないが、そこは幸い、家族は全員海外で暮らしている。今住んでいるのは僕一人だ。
――さて、ここからどうするか。
電気釜にご飯はある。しかし、ひどい空腹の人に急に大量に食事を摂らせると、返ってよくないと聞いたことがあった。そこでまず砂糖水を作り、飲んでもらう。それからお粥を作り、若干塩を入れて食べてもらった。
「ありがとうございました。あなた様は命の恩人です」
食べ終わった女性は、反対側のソファーに座る僕を拝むようにした。床には、僕が道路から回収してきた鞄が2つ(僕のものの他に、後1つ、その女性のものと思しき鞄が落ちていた)、置かれている。
「いや、そんな。大したことじゃないですよ」
僕は首を振った。砂糖水とお粥程度で、そこまで感謝されるのも妙な話だ。
「いいえ。あのまま放っておかれたら、私は餓死するところでした。このご恩は、一生かかってもお返しします」
「そんな大袈裟な」
大仰な物言いに軽くビビりながら、僕は女性の外見を改めて見てみた。
歳は二十歳前後だろうか。かなりの長身で、180センチありそうだ。170をかなり切っている僕より、ずっと高い。
長い黒髪は、ポニーテールにしていた。そしてその服装は、黒いドレスに……白いエプロン。そしてカチューシャ。
そう、いわゆるメイドだった。
メイドさんを雇うほど金持ちではなく、メイド喫茶にも行かない僕にとっては、初めて見る生のメイドさんである。
――そのメイドさんが、何であんなところで行き倒れになってたんだ?
そんなことを思った僕だったが、彼女の声で現実に引き戻された。
「いいえ。全く大袈裟ではありません。これからは貴方様にお仕えし、あらゆる御奉仕をさせていただきます」
とんでもない方向に話が飛んで行く。これは常識のラインに戻さないといけない。僕はソファーから立ち上がり、両手で彼女を押し止めた。
「まあまあ。落ち着いてください。僕達まだ、お互いの名前も知らないじゃないですか。ここは一つ紅茶でも飲みながら、ゆるゆると自己紹介を……」
「お茶の用意なら、私がいたします」
「!!」
キッチンに向かおうとした僕は、不意に彼女に手首を掴まれた。物凄い力だ。とても先程まで、餓死しかけていたとは思えない。いや、それ以前に、女性の力とも思えなかった。
「…………」
強引にソファーに座らされた僕は、彼女がキッチンに入るのを、茫然として見送った。
数分後、僕は彼女の淹れた紅茶を飲んでいた。普段僕が使っているのと同じ葉っぱのはずだが、僕が淹れるより格段においしい。しかし何故か、用意されたのは僕の分だけで、しかも彼女は直立し、ソファーに座る僕を見下ろしている。
「申し遅れました。私、神添紅麗亜(かみぞい くれあ)と申します。以後、よろしくお願いいたします」
「神添さん、ですね。紬屋詩宝(つむぎや しほう)です。よろしく……」
「詩宝様ですね。私のことは紅麗亜と呼び捨てになさってください」
「いや、でも、あの、神添さん……」
「詩宝様」
「!」
驚いた。僕を見下ろす彼女の視線が、急に別人のように冷たいものになっていたから。僕の背中にどっと冷や汗が流れ出し、体は小刻みに震える。
これは……恐怖だ。僕は紛れもなく、会ったばかりのメイドさんに恐怖を感じていた。まさかこんな威圧感のある人だったとは。思わず彼女の言に従う。
「くれ……あ……」
「結構です。詩宝様。いいえ、ご主人様」
「…………」
もうご主人様で確定なのか。まだ震える手でティーカップを持った僕は、紅茶を一口飲み、自分の向かいのソファーに視線をやった。
「す、座ったら……?」
「いいえ。ご主人様と同じ高さの座席に座るなど、メイドには許されません」
「そ、そう……」
にべもなく拒絶され、僕は口ごもった。話題を変えてみる。
「と、ところで……どうしてあそこで倒れていたの?」
「はい……それはでございますね」
紅麗亜は答え始めた。
「私は元々、ある大きな屋敷に勤めておりました。多くのメイドを束ねる、メイド長を仰せつかっていたのです」
「…………」
「ところが……折からの不況で、その男の会社は倒産。私財も全てなくなり、私共メイドはお払い箱となりました」
その男って、当時のご主人様のことだよね? そんな風に呼んでいいの? とはもちろん聞けなかった。
「そこで再就職先を探すべく、活動を行っていたのですが、途中で所持金を使い果たし……恥ずかしながらあのような状態になってしまいました。
しかし、おかげでご主人様と巡り合えたのですから、これは天の配剤と、感謝しております」
「そ、そうだったんだ……大変だったね」
僕は口ではそう言ったが、内心では納得していなかった。紅麗亜が就職に困るようには、あまり見えなかったからだ。
さっきの紅茶の淹れ方一つ見ても、家事能力は高そうだし、下世話な話、そんじょそこらじゃお目にかかれないような美人だから、それだけでも雇いたいという男は掃いて捨てるほどいるだろう。先程の威圧感を普段隠せるなら、という条件付きだが。
「何か仰りたいことでも?」
紅麗亜が声を低めて、顔を近づけて来た。僕の考えに気付いたらしい。何という勘の鋭さだろう。僕は戦慄しながら、
「いや、何も……」
と言った。
「では本日より、ここに寝泊まりし、ご主人様のお世話一切をさせていただきます。炊事、洗濯、掃除その他諸々、この紅麗亜にお任せください」
「あ、いや。ちょっと待って」
宣言する紅麗亜を、僕は再び押し止めた。もちろん、彼女のような美人にお世話してもらうのは悪い気はしない。しかし、身元もよく分からない人を家に住まわせるのは抵抗があったし、正直怖い。できるなら穏便にお引き取り願いたいと思った。
「ここで働いてもらうっていうのは、ちょっと……」
「何ですって? ご主人様は、私にここを出て、また行き倒れろと?」
「いや、そうじゃなくてさ。僕って見ての通りの一般高校生だから、メイドさんを雇うような余裕は……」
「お食事だけいただければ結構です。お給金など頂きません」
「そ、それに狭い家だから、寝るお部屋とかも……」
「ご主人様のベッドで寝かせていただきます。ご主人様と一緒に」
何かまた、凄いことを言いだした。
「で、でもやっぱり……もっとお金持ちの家の方がいいんじゃ……そうだ。うちの学校に、凄い大富豪のお嬢様がいるから、その人に紹介を……」
「ご主人様」
紅麗亜の声が、今までになく低くなった。襟首を掴まれ、無理やり立たされる。顔と顔が近づき、僕を見下ろすその瞳は、月並みな言い方だが絶対零度。生まれて初めて、恐怖で失禁しそうになった。
「……コレカラヨロシクオネガイシマス」
棒読み口調で言った僕の顔は、きっと血の気が引いていたことだろう。
「大変結構です。では、こちらの書類にサインを」
僕を解放した紅麗亜は、彼女の鞄から一通の書類を取り出した。一番上に「主従契約書」と書かれている。それをテーブルの上に置いた彼女は、万年筆を僕に差し出した。
「お使いください」
「はい……」
書類の文面を確認する余裕など、あるわけがなかった。言われるままに万年筆を受け取り、ソファーに座って書類にサインをする。
「……これでいいの?」
返答の代わりに、紅麗亜は書類を僕から取り上げた。3つに折って封筒に入れ、メイド服のポケットにしまい込む。
「そういうのって、普通、2通作って両方が保管するんじゃ……」
「必要ありません。私がお預かりします」
断言されると、もうどうしようもなかった。万年筆を紅麗亜に返し、乱れた呼吸を整える。
これから、どうなるんだろうか。
そう思ったとき、胸のポケットで振動が生じた。携帯電話の着信だ。
「あ……」
ポケットから携帯を出し、発信者を見る。発信者は“中一条”、高校の先輩だ。
「紬屋です……」
『あ、もしもし。詩宝さん』
柔らかい女性の声が聞こえる。中一条舞華(なかいちじょう まいか)先輩。高校でも1、2を争う美女で、家は大変な資産家だ。そう。先程紅麗亜に話した富豪のお嬢様その人である。
何故かよく僕に接触してくるのだが、住む世界が違うと感じているため、少しばかり苦手意識があった。
「何でしょうか……?」
『あの……もしよかったら、今日の夕食をご一緒しませんか? 今日は家族がみんな出かけているものですから、寂しくって……』
「あ、いや、それは……」
僕は口ごもった。お誘いは光栄だが、前述の理由で気後れする。増して今は紅麗亜のことがあった。できれば今日は家にいたい。
どうしたらいいだろうか。悩んでいると、急に携帯が手から消失した。いつの間にか紅麗亜が耳を寄せて会話を聞いており、僕から携帯をひったくったのだ。
「必要ありません」
携帯に向かって一言言うと、紅麗亜は無造作に通話を切った。
投下終わりです。
失礼いたしました。
GJ!
なんか期待できそうな新作が来てたんで明日からまた一週間頑張れそうだ。
GJ!
紅麗亜病みの片鱗がちらほら見えてますね
続き楽しみにしてます
GJ
リアルタイムは久しぶりだ
あと素人意見ですまんがもうちょい改行に気を付けたほうがいいと思う
乙!
新作だー、続き待ってる。
クレアーーーーーーー
クレアかわいいですね
完結できるよう頑張ってください
期待してます
短編投下します。とりあえず前半のみ。
部屋の四隅に盛られた塩を見て、僕はため息をついた。
可愛らしい部屋に夥しい量の盛り塩とのアンバランス差にではない、僕はこの部屋に閉じ込められたのである。
盛り塩とは魔除けに使われるものであるが、本来の効果は結界を作るものである。
脆弱な幽霊は盛り塩の効果で出られなくなる。
僕もその状況に陥っていた。
そう、僕ことサニー・斎藤・アナスタシアは幽霊なのだ。
所謂外国人である僕は父が日本人、母がアメリカ人のハーフだ。そして二歳年上の姉がいる。
父は大学の教授、母は専業主婦、姉はOLの極フツーの家庭だった。
僕は大学の飲み会の帰り、歩道を歩いていたら誰かに押されて、たまたま通りかかった大型トラックに…
未練は勿論会った、僕は童貞である。ここ重要
僕のアレは馬並みなのが自慢だが、異性に対して使った事は一度もない。
せめて女性とお付き合いしてズッ婚バッ婚したいのだ、幽霊となっては叶わないが。
そう言うわけで僕は見事成仏できない浮遊霊となったのだ、まる
そして僕は自分の葬式を見ようと思って自宅へ帰る途中、隣に住んでいるお姉さんの知花さんに捕まったのだ。
知花さんは最初僕を見て驚いていた、そしてサニー君なの?と言われた。
はい、幽霊ですけどと答えたら幻覚なんじゃないのと聞かれた。
困ったように笑っていると知花さんが泣いてしまった。
知花さんを泣き止ます術を持ち合わせていない僕は、せめて涙を拭おうと、触れもしないのにひたすら人差し指で知花さんの涙を触ろうとしては出来ないのを繰り返していた。
で、今に至る。
知花さんは僕についてきてと言って連れてこられたのがこの部屋、その直後盛り塩をして僕は出られなくなった。
知花さんは喪服に着替えると上機嫌で行ってしまった。ちなみに下着は黒だった、勃起した。
何が目的なんだ、と思いながらも素直に従うしかない僕はとりあえずオナニーをすることにした。
これは凄い、幽霊のオナニーやばい、疲れ知らず。
一応精液は出るのだが何かにくっつく寸前に跡形もなく消える。
更には何度やっても疲れない、もう10ラウンドはやったのだから効果は確実だ。
更には匂いもない、幽霊最高!
虚しくなった僕は窓から外を見た。
窓からは僕の部屋が見えた、近いのに一番遠い場所である。
僅か5m、僕の部屋と知花さんの窓の距離だ。
カーテンが全開だったので部屋が見える、僕のベットが見えた。誰か寝ていた。
姉さんだった、喪服をつけた姉さんがいた。
姉さんと目が合う、けれど見えてない筈だ。知花さんは特別だったが。
姉さんと見詰めあう、もしかして見えているのか?
僕は少しだけ怖くなり、窓から離れた。
好奇心が少しだけ勝ち、数秒後また窓をチラリと見た。
姉さんはもういなかった。
良かった、見えてなかった。そう思う気持ちと姉さんとはもう話せないという悲しみ。
少しだけ落ち込み床にのの字を書いていた。
もう一度気になり、窓の方へと振り向いた。
目を充血させた姉さんが窓に張り付いて僕をガン見していた、僕は幽霊なのに漏らした。
前半終わり。
短編というより小ネタですね、ありがとうございました。
喪女のはずの姉ちゃんがお泊りとか言ってるんだけど・・・
携帯に着信来た時にわざわざ家の外出て話してたし・・・
どうしよう
ヤンデレというか人間怖いw
GJ!後半待ってる
278 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 23:04:28 ID:d8pLm+Kx
279 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 23:44:23 ID:bciiRwGI
新作きたぁぁぁぃおあああおあ
281 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 00:11:45 ID:JQzVxYqL
wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
携帯からスマソ
初めてだからsageられてるかわかんね
保管庫の中で皆のお薦めのss教えてくれまいか?
出来ればヤンデレ姉モノで
>>283 いや、巡回先の一つだが基本ROMってるw
てかこれ荒れる原因だったな
愚問スマソ、忘れてくれ
285 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 16:35:22 ID:JQzVxYqL
なら書き込むな
>>285 sageも出来ない馬鹿は一生ROMってろハゲ
どうせ荒らしなんだろ、ほっとけ
ヤンデレとキチガイは紙一重
うるせーヤンデレぶつけんぞ
サトリビトを書いてるものです。
13話ができたので投下します。
よろしくお願いします。
もうすぐ学際がやってくる11月。僕はただ無気力な日々を過ごしていた。
恭子ちゃんがいなくなってからというもの、毎日がこんな調子なのだ。
「ちょっと早川!もうちょっとシャキッとしなさいよ!」
(恭子ちゃんがいなくなってさみしいのは分かるけど、もうちょっと私のことも気にかけてよ!)
岡田は相変わらず元気だ。その元気を少し分けてもらいたい。
「そう言えば・・・最近陽菜ちゃんも元気ないのよね・・・」
言われて陽菜の方に目をやると、何やら鞄の中をごそごそとやっていた。
そう、僕だけでなく陽菜の様子もこのところ変なのだ。学校に来たら机の中をひたすら覗いたり、時折あちこちをきょろきょろと、まるで
誰かを探しているかのように目を配らせている。
でもその事について訊ねると、
「なんでもないよ〜」
と言っていつもごまかされてしまうのだ。
・・・きっと僕なんかに相談したところで何も解決しないと考えての言動だろう。
「はーい、席に着け。いまからHRを始めるぞ〜」
その時先生がやってきたので、僕たちはしゃべるのをやめた。
「んじゃ今から学際の出しものと係をきめるぞ」
「はいは〜い!たこ焼き屋がいい!」
「焼きそばの方がいいだろ!」
「い〜や、やっぱり焼鳥屋だ!」
主に男性陣が我先にと意見を出し始めた。
基本的には食べ物を出した方が利益が出て、後の打ち上げが豪華になる。なので食べ物屋を開くことは暗黙の了解になっていた。
「焼きそばも焼鳥も他のクラスがやることになってたから、その二つは却下だな」
学際の出し物を決めるという大事なイベントを忘れていた先生のツケが回ってきた。
「は〜!?他に何ができないんだよ!」
「ん〜と・・・喫茶店、カレー屋、軽食店はあったような・・・あ、あとお好み焼きも!」
「「「たこ焼き屋しかできねーじゃねぇか!!」」」
クラスの大半がブチ切れた。ってかそのメンツでよくたこ焼き屋が残っていたな。
「それじゃあたこ焼き屋に決定っと・・・」
釈然としないままクラスの出し物が決まった。
「次は係りだな。まずはリーダーをやりたい人は?」
そんな投げ遣りな言い方に誰も反応を示すはずがない。
ましてや模擬店のリーダーなんて所詮は名ばかりだ。結局はみんなの嫌がることをやる羽目になるし、当日は店に引きこもりにならなけれ
ばいけない。
だけど僕にとってはいいチャンスだった。
恭子ちゃんとの約束を守るために、もっと立派な人間にならなければいけない。そのためには、こうしてみんなの嫌がることを引きうける
ことから始めないと。
「ハイ、私がやります」
だが僕より一瞬早く、クラスのある女子が立候補をした。
「おぉ〜佐藤やってくれるか!それじゃあ決定―――」
「すいません!俺もやっていいですか!」
クラスが静まり返った。せっかく嫌な役を引き受けなくてすんだのに、なんであいつは?という声が聴こえてくる。
「ん?早川もやりたいのか?ならリーダーはこの二人ってことで。みんな拍手〜」
約一名のクラスメイトを除いて全員が祝福してきた。
「ふ、ふ〜ん・・・早川ってそういうのやりたかったんだ。い、意外だな〜」
(ひどいよ慶太!彼女というものがありながら、他の女と一緒にリーダーをやりたいなんて!)
ごめん岡田。やっぱりあの占い師の予言はハズレだよ。
僕がさっき手をあげたのには、立派な人間になるという以外にも理由があった。
「それじゃあ、よろしくな!陽菜」
岡田に僕の事をあきらめさせるという理由が。
僕は最低な人間だ。それでも今まではなんとか事なきを得ていた。
だが恭子ちゃんの一件で気付かされた。
僕のことを好きになった人は不幸になる。
もう誰一人として傷ついてほしくない。だから岡田や姉ちゃんとは早めに距離をおかなければ。
「陽菜はこの後暇?もし暇なら、さっそく出し物について話し合わない?」
放課後になったので陽菜に声をかける。
陽菜をこの一件に巻き込むことに対して罪悪感が湧いてくるが、陽菜じゃないと意味がない。
「っ!・・・わ、私も暇だから残っていい?」
(絶対に二人っきりになんかさせない!慶太には悪いけど、12月が終わるまでは諦められない!)
岡田の気持ちは分かる。僕だって陽菜と他の男が二人っきりになるなんて考えたくもない。
でもこれが岡田のためになるんだ。
「・・・長くなるかもしれないし、そうなると岡田までは送っていけないから・・・また今度な」
「え・・・?」
僕の言葉に岡田の表情が固まった。
(私『までは』送っていけない?・・・じゃあこの子は送っていくってこと?・・・私は無理でも、この子とは一緒に帰れるってこと?)
つくづく自分に嫌気がさす。僕はいつから女の子を悲しませるような男になったんだ?
「・・・結衣ちゃんも一緒にいてもいいでしょ〜?絶対に3人いた方が楽しいよ!」
陽菜は僕の気も知らないで話を進める。
「いや、だから岡田を送っていけない―――」
「なら俺が送っていくよ」
突然大和が会話に参加してきた。
「それなら問題ないだろ?場所だって俺の家を提供するからさ」
(すまんな慶太、ちょっとお前に聞きたいことがあってな)
大和が心の声を使って僕に話しかけてきた。その声は決して明るいものではなく、どちらかというと深刻な感じがした。
「・・・あぁ・・・それなら・・・」
その声色に僕は岡田達の参加を認めてしまった。なぜか大和の話したい事というのが気になったからだ。
「二人もそれでいいかな?」
「いいよ!大田君の家初めてだな〜!」
「うん・・・ありがと・・・」
「なら俺の後についてきてね」
大和を先頭に僕たちは教室を出た。
カラオケ以来の四人での帰宅だ。しかもあの時と同じで岡田は暗い表情をしている。
(どうしてだろう・・・急に慶太が冷たくなった気がする・・・私が何かしたのかな・・・?)
僕には岡田の声は聴こえない。そう思うんだ。
(・・・っ!ダメよ私!あきらめないって決めたんだから!絶対にあきらめちゃだめ!)
聴こえない。何も聴こえない。
(もっと積極的に行かないと!)
次の瞬間、右手の温度だけが急に温かくなった。
「岡田やめ―――」
「お願い!・・・一応彼女なんだから・・・手くらい・・・繋がせて・・・」
嫌だ、ダメだ、離れてくれ。否定の言葉はいくつも浮かんだのに、僕が使ったのはそれらとは大きく異なるものだった。
「・・・大和の家に行くまでだからな」
「うんっ!」
なぜ恭子ちゃんには言えたのに岡田には言えなかったのか。なぜ岡田と距離を置くと決心したのに手をつないだのか。
この時の僕には分からなかった。
大和の部屋に着く。
「んじゃあ飲み物でも取ってくるから楽にしてて」
そう言って大和は僕に視線を向けてきた。
(慶太も来てくれ。あの話、今したいから)
成程、そう言う事か。
「あ、じゃあ俺も手伝うよ」
「サンキュ〜」
そのまま僕たちは二人を置いて部屋を出た。
「それで・・・僕に聞きたいことがあるって何?」
部屋を出て早々、僕は大和に訊ねた。
多分・・・恭子ちゃんの事だろうけど。
「・・・お前、最近誰かにサトリのこと話したか?」
だが大和の質問は僕の思っていた内容と大きくかけ離れていた。なぜ急にその話が?
「・・・どうなんだ?」
僕が自分から言うはずがない。そんなはずは・・・ある。最近、ある人にその事を告げたばっかりだ。
「・・・この前、恭子ちゃんのお父さんに言った・・・」
(っ!?・・・そっか・・・やっぱりな・・・)
「何がそっかなんだ?ハッキリ言ってくれよ」
「お前には隠しごとできないしな・・・実はさ・・・」
そうして大和は衝撃的なことを口にした。
「この前見知らぬおじさんに聞かれたんだ・・・あなたの周りに・・・人の感情に異様に敏感・・・もしくはその逆の人はいるかって」
「っ!」
「学校の帰りだった・・・多分、制服をみて声をかけてきたんだろう・・・」
制服を・・・見て・・・?もしかして僕の事がばれたのか・・・?
「そ・・・そんな・・・」
「それでいつ恭子ちゃんのお父さんにその事を話したんだ?」
「・・・3日前の夜だよ。恭子ちゃんが・・・いなくなった前日の・・・」
あの後すぐに誰かに話したんだろうか?いや・・・恭子ちゃんのお父さんに限って・・・
「なら違うな。俺が聞かれたのは3日前の学校の帰りだ。それだと時間的に辻褄が合わない」
大和の言葉にホッとする。
だがそれと同時に別の疑問が沸いてきた。ならば誰が僕の事を?
「俺の事を知ってるのは大和を除いて母さんと大学の野村教授だけだ。でもこの二人が誰かに話すなんて考えられないし・・・」
「・・・もしかして」
大和はどこか確信めいた表情で告げた。
「狙いは慶太じゃなくて・・・もう一人サトリがいて、そっちが本命とか?」
「それはないよ。もしあの学校にもう一人サトリがいたら、心の声が聴こえる同士、お互いが気付くよ」
さすがに全校生徒の心の声を聴いたわけではないが、それでももし他にサトリがいたら気付くはずだ。
「それに野村教授曰く、サトリは数千万人に一人くらいの割合らしいから、そんな同じ学校に二人なんて確率的にあり得るはずないだろ」
「ならやっぱりどこかからお前の事がバレて疑われているのか・・・」
3人以外からの情報となると、僕が無意識に心の声に反応したのを誰かに見られた可能性が高い。
くそ!僕はなんて迂闊な行動を!
「ありがとな、大和。教えてくれて」
「・・・俺も困ったときは助けるから・・・気・・・つけろよ」
「ごめんごめん。なんか茶菓子が見当たらなくてさ〜」
いかにも今まで探していましたと言わんばかりに、僕たちは部屋に戻った。
そのあと4人で文化祭についての話をしていたが、やはり男女が2対2で集まると話の内容が恋愛の方へシフトしていった。
「そういえば大田君は彼女っているの?」
僕にとってこの方面の話は勘弁願いたかったが、陽菜はやめる気配がない。
「どうなの〜?」
「彼女はいないけど・・・好きな人はいる」
「キャ〜!」
「誰誰!?私達の知ってる人!?」
岡田まで食いついてきた。自分の番が回ってきたらどうすんだよ・・・
「実は・・・秋祭りの時から祥子さんに一目ぼれしちゃって///」
「祥姉ぇ!?」
「早川のお姉さん!?なら早川に頼めば協力してくれるんじゃない!?」
僕だってできるなら大和の恋愛に協力したい。でもこればっかりはできない。
だって姉ちゃんの好きな人は・・・
「お、俺の事はともかくそっちはどうなの―――!?」
言ってから大和はしまったという顔をした。この状況で岡田にそれは酷な質問だ。
だが岡田は笑って答えた。
「私も大田君と同じで、彼氏はいないけど好きな人はいるよ!」
その様子に僕は驚いた。どうして岡田はこんなに嬉しそうなんだ?
「結衣ちゃんの好きな人!?誰!?」
「う〜んと、名前は言えないけど、陽菜ちゃんも大田君も・・・早川も知ってる人だよ」
(慶太の場合知ってる人とは言えないかな?本人だし)
なぜだ?なぜ岡田は笑っていられるんだ?
岡田の事ばかりに気を取られていた僕は陽菜の空気が変わった事に気付かなかった。
「・・・ふ〜ん・・・あ!そう言えば慶太の好きな人って誰!?」
「えっ!?」
突然の振りについ慌ててしまった。
「え〜っと誰だろう・・・っ!?そっかそっか〜」
陽菜はニヤニヤしながらそっかそっかと一人納得している。
ま、まさか僕の気持ちがバレたのか!?
「そうだよね〜、こんな可愛い彼女がいるんだもんね〜」
その一言に僕の思考が止まった。多分岡田も同じだろう。
「ってことは・・・もしかして結衣ちゃんが言ってた好きな人っって慶太の事!?」
咄嗟に頭をフル回転させるが、良い切り返しが思いつかない。それほどに陽菜の言った言葉は衝撃を与えた。
「ア、アハハハハ・・・もう陽菜ちゃんたら!私と早川は仮に付き合ってるだけの関係だって!」
「でも結衣ちゃんには本当に好きな人がいるんでしょ?もしそれが慶太以外の人だったら、その人に彼氏役を頼んだんじゃないの?」
「・・・」
ついに岡田が沈黙した。
早く助け船を出さないと岡田の気持ちバレてしまう!
だが思いついた言葉は岡田を助けるどころか、傷つけるものだった。
「・・・何言ってるんだよ、陽菜。岡田が俺みたいな男を好きになるわけないだろ?それに・・・俺の好きな人だって岡田じゃないしな」
ついさっきまで手を握り合っていたのは幻だったのか?
そう思えるほど残酷な言葉が僕の声を使って、僕の口から出た。
「っ!?」
(岡田じゃない・・・分けっているけど・・・そんなはっきり言わないでよ・・・)
ごめん、岡田。僕の事一生嫌ってもいいよ。
「なぁ岡田・・・これを機に仮のカップルの関係・・・やめないか?」
「・・・え?」
「俺にも岡田にも別に好きな人がいる。ならやっぱりもうやめるべきだよ。それに岡田と太郎君の噂ももう聞かなくなったしね」
「で、でもまだ完全になくなったわけじゃ・・・」
(嫌だ!せっかくもうすぐ12月になるのに!せっかく慶太と本当のカップルになれるのに!仮の関係だとしても・・・絶対に嫌だ!)
ここで優しい言葉をかけてはダメだ。例え岡田が泣いたとしても。例え僕がここにいる全員に嫌われようとも。
例え心の底では岡田の事を好きになりつつあったとしても・・・
「分かんないかな?はっきり言って迷惑だって言ってるんだけど」
「!」
「け、慶太、お前っ!?」
「ゆ、結衣ちゃんになんてこと言うのよ、慶太!」
「だってそうだろ!?俺だってこのまま好きな人に誤解されるのは嫌だしな!岡田には悪いけど、もううんざりだったんだ!」
恭子ちゃんと違い岡田は大丈夫のはずだ。きっとまだ引き返せる位置にいるはずだ。
「め、迷惑・・・?うんざり・・・?」
(嘘・・・だよね?きっと何かの間違いだよね・・・?だって・・・12月になったら・・・)
まだだ。これじゃあまだ岡田は僕の事をあきらめないだろう。
「もういいだろ?これでもまだ仮の関係を続けたいんなら・・・他を当たってくれ」
何て残酷な言葉だろう。岡田がどうして僕に彼氏役をお願いしたのか知っているくせに。
「・・・私、なにか気に障ることしたかな?」
(早川が突然こんなことを言い出すなんて・・・何がいけなかったんだろう?顔?性格?体型?)
「何も。ただもう限界が来ただけ。もう岡田との関係を終わらせたいんだ」
そのまま黙って俯く。
誰でもいい、こんな僕を殴ってくれ。
だが僕が感じたのは誰かに殴られる痛みではなく、岡田の悲痛な声だった。
(嫌われた・・・嫌われた・・嫌われた・嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌わレタ嫌ワレタキラワレタ・・・)
「お、岡田!?」
「結衣ちゃん!?」
三人の声に顔をあげると、そこには頬笑みながらも、大量と言う言葉では表現しきれないほどの涙を流している岡田の姿があった。
さすがに僕も焦った。
「お、おい―――」
「ごめんね・・早川・・・迷惑・・・かけちゃったみたいで・・・本当に・・・ごめんなさい・・・」
(嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた・・・)
「・・・アハ・・・ハハハハハハ・・・早川に・・・嫌われちゃったか・・・」
(嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた嫌われた・・・)
岡田の顔はそれでも微笑んでいた。
僕は間違っていたのか?
もしかして・・・岡田ももう引き返せないところまで来ていたのか?
その後は和やかに会話できるはずもなく、僕たちはそれぞれに帰路についた。
陽菜と二人っきりの帰り道。
いつもなら嬉しくて楽しいはずの時間も、この時ばかりはそうもいかなかった。
このまま無言で家に着きそうだったとき、陽菜が声をかけてきた。
「・・・ねぇ、ちょっと公園で話さない?」
横を見ると、秋祭りの時に姉ちゃんと二人で過ごした公園があった。
「あぁ、別にいいけど」
家に帰ると姉ちゃんにも岡田と同様の事を言わなければいけない。でも、臆病な僕は少しでも時間を稼ぎたかった。
二人で夜の公園に入る。とはいってもロマンチックな雰囲気は皆無だ。
「それで・・・どうして結衣ちゃんにあんなこと言ったの?」
単刀直入に陽菜が訊ねてきた。
「・・・」
「・・・結衣ちゃんの好きな人って絶対に慶太だよ。それなのに・・・あんなひどい事・・・」
「え!?な、なんで―――」
「あの時の態度を見たら誰だって気付くよ」
そう言えば陽菜は昔っから洞察力に優れていたよな。
「慶太だって気付いたでしょ?それなのに・・・」
岡田の気持ちを知ったなら説明は簡単だな。
僕は一呼吸置いた後、ゆっくりと語り始めた。
「・・・恭子ちゃんが突然転校したのって・・・俺のせいなんだ・・・」
「・・・」
陽菜は口を挟まないように気を使っている。本当に人の気持ちを理解してくれる人だ。
「俺の事が好きだって・・・それで・・・そのせいで・・・とても傷ついて・・・」
あの時の事は一生忘れないだろう。
「そんなことはもう嫌なんだ・・・俺なんかを好きになったら・・・岡田も不幸になるから・・・だから本気になる前にって・・・」
自意識過剰だ。それに自分勝手すぎる。これで完全に陽菜に嫌われたな。
僕の言葉を真摯に聞いていた陽菜は、しばらくして口を開いた。
「・・・結局のところ慶太の気持ちはどうなの?結衣ちゃんに対しての」
まさかの質問が返ってきた。僕の・・・気持ち・・・?
「結衣ちゃんの事が好きだから、逆に嫌われようとしたんだよね?自分と一緒にいたら不幸になるからって。それは友達として好きなの?
それとも・・・一人の女の子として好きなの?」
今までに見たこともないくらい真剣な目を向けてくる。
少し前までなら友達として、と答えただろう。だが今は・・・
「・・・分からない。多分、友達から一人の女の子として好きになりかけているって言うのが一番しっくりくるかな・・・」
「・・・そうなんだ・・・」
僕の答えを聞いた陽菜は遠い目を空に向けて、ポツリと呟いた。
「・・・いつのまにか・・・侵食されちゃったのか・・・」
「侵食?」
「ううん、なんでもない。ところで・・・」
そこで陽菜がもう一度真剣な目を向けてきた。
「もし・・・もしだけど・・・私の身に何かがあって、悪い人たちに追われることがあったとしたら・・・その時慶太はどうする?」
いきなりなんだ?何かの例えなのか?今までの話と何か関係があるのか?
「どうするって・・・陽菜が困っているなら、俺に出来ることは何でもするよ」
「・・・その結果、他の人・・・たとえば結衣ちゃんや祥姉ぇと二度と会えない事になっても?それでも私を助けてくれるの?」
陽菜を失うか他の人たち全員を失うか・・・そんなの7年前から決まっている。
「それでも助けるよ。陽菜のためだったら・・・何でもする」
「・・・心配して損した〜!その言葉、絶対に忘れないでね!」
陽菜を家まで送ると、いよいよ覚悟を決める瞬間がやってきた。
電気のついている家には確実に姉ちゃんがいるだろう。
「ただいま・・・」
そう言えば母さんも父さんもいないんだっけ?
そうするとご飯は自分で作るしかない。それか買弁か。
だが僕の考えは杞憂に終わった。
「・・・え?これは・・・」
「遅せーじゃねーか!今何時だと思ってんだ!」
まだ8時にもなっていない。小学生でもあるまいし、そんなに遅い時間じゃないだろ。それよりも・・・
「どうしたの、これ?」
指さした方にあるのは大量のおにぎり。おにぎりだけ。
「母さんも父さんもいないから、たまにはウチが作ってやったんだ。感謝しろよ」
「・・・でもなんでおにぎりばっか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・これしかお前に褒められたことねぇしな」
どうやら僕の事を思っておにぎりをこんなにも作ったらしい。
だけど・・・僕は素直に喜ぶ事が出来なかった。この時感じたのは感謝の気持ちよりも、こんなに僕の事を思ってくれている姉ちゃんを傷
つけることへの遣る瀬無い気持ちだった。
ごめん、姉ちゃん。こんな最低な弟になってしまって・・・本当にごめん。
「いらない」
「・・・へ?」
「今日はもう外で食べてきたし・・・大体、姉ちゃんの料理なんか食えるわけないだろ」
生まれて初めて、姉ちゃんに反抗した。
姉ちゃんは持っていたマグカップを落としたことにも気付かずに、ただ僕を見つめている。
「いっつもいっつもクソ不味い料理を作っては俺に食わせやがって、少しは俺の事も考えるよ!」
確かにお世辞にもおいしいとは言えない味だったけど、それでも一度も残したことはない。多分、このおにぎりもきっと・・・
「な、なんだと!テメェもういっぺん言ってみろや!」
「何度でも言ってやるよ!こんなクソ不味いおにぎりなんて食えるかっ!!」
「っ!!」
バチーーーン!!
頬に強い衝撃と痛みが走る。
「・・・いっつもこれだもんな・・・最後にはいっつも暴力で解決しようとして・・・」
「お、お前が悪いからだろ!不味くても言い方ってもんがあんだろ!」
(あの時慶太がおいしいって言ってくれたから、せっかく作ったのに・・・!)
そうだったな。姉ちゃんは世界で一番僕の事を考えてくれる人だったもんな。
そんな人を・・・やっぱりこれ以上不幸にはできないよな。
「・・・大嫌いだ・・・姉ちゃんなんて大っ嫌いだ!!もう顔も見たくない!!」
「き、嫌い・・・だって・・・?・・・ウチだって・・・お前の事なんか・・・大嫌い・・・だ・・・」
(慶太がウチのことを・・・そんな・・・)
「・・・こんな家・・・もう出て行ってやる!」
そのまま姉ちゃんを置き去りにしたまま家を飛び出る。
これで良かったんだ。きっと・・・これで・・・
大好きな人を二人も傷つけたこの日、僕はあてもなく夜の町に消えていった。
以上、投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
GJ!
正座して続き待ってるぜ!
>>298 GJ!
慶太が辛すぎる……
続きも楽しみにしているよ。
GJ! 意志の強さってヤンデレ相手だと逆効果になりかねないですね。
投下乙
誰にも相談しない&本心押し隠して突き進むって死亡フラグだよなぁ
まぁ、相談できる相手がいないから仕方ないと言えばそうなんだが
何故だろう
岡田を傷つけるくだりは平気なのに姉ちゃんの場面は読むの辛かった
GJっス
題名の無い長編 十四 の作者です。
十四 と同時進行で書いてたものを投下します。
「第一話」(少年編)
兄曰く俺の家、森山家の家系の男衆は総じて女運が無いらしい。
別に仲の良い異性がいないわけでもない。
ただ、少なくとも曽祖父のあたりから女性に関してろくな事が無いそうだ。
母は優しい。いつも笑顔を絶やさず、父と円満な家庭を作り上げている。
ただし惚気かたが半端じゃない。
5年前、俺が小5の頃、「母さんはどうして父さんと結婚したんだ?」と尋ねたことがあった。
すると母は年齢に全く比例していない若々しい顔を赤らめて、当時の父さん争奪戦を語った。
何人もライバルがいて、それでも愛の力で乗り越えた・・と語っていたが、遠巻きに見ていた父さんの苦々しげな表情が、内容を悪い印象に塗り替える。
俺個人としては最初、恋愛ドラマを観るような感覚だったが、深入りするには覚悟が要ると知った。
5時間くらい惚気続けて、やっとハッピーEND。俺は解放された。
出て行くとき廊下ですれ違った6つ上の兄は苦笑交じりに「お疲れさん。」と言った。うん、疲れた。
自分の部屋に戻ろうとしたら2つ上の兄と出くわした。「好奇心もほどほどに。」と言われた。うん、反省した。
長男の賢一兄さんや、次男の宗司兄さんも、かつての父のように女性関係のトラブルで大変らしい。
つまり女運は『有る』けど出会う女性と素直に幸せになれるか関しては『運が無い』。
今では賢一兄さんは解決したっぽいけど宗司兄さんがなぁ・・・ずいぶんと内向的になっちゃったし。
ここまでくるともう呪いなんじゃないかと思えてくる。
俺はどうなんだろう・・・?
「なんだ、私では不服かい?裕介君。」
テーブル越しに向かい合った少女も例外ではなかった。
「何か失礼なことを考えていないか?」
「いや、そんな事はないですよ屋九嶋さん。」
正面向かいの少女・屋九嶋(やくしま)は変わり者だった。
男子以上の身長、起伏に乏しすぎる体つきと男物の服装。
整った顔立ちとダークブラウンのセミロングがなんとか女性であると認識させる。
並んで立っても俺との身長差は僅かなもので、加えて成績優秀という羨ましい同級生だった。
「さて、お兄さんたちは居ないのかな?」
「賢一兄さんは研究室に泊り込み。宗司兄さんは・・・いつものとこだと思います。」
「ご両親は?」
「判ってると思うけど居ないですよ。海外に転勤なんてそう帰ってこられるものじゃないし。」
両親は父の海外赴任とともに・・たしかアメリカに行った。帰ってくるのも基本的に正月くらいだ。
言うまでもなく、母は付いて行った。よって当番制で家事が行われている。
「そうかい、なら今夜は私たちで二人きりという事になるのかな。」
「夜まで居座る気ですか?」
「言ってみただけだよ。まぁ裕介君が望むと言うなら吝かではないけどね」
「屋九嶋さんが言うと悪ふざけなのか判断がつきにくいね。あとそんな望みは持ちあわせてない」
「それはさておき、夏休みもあと十数日。宿題の具合は?」
「・・・・・・・・あ、飛行機雲。」
「今日は珍しく曇りだよ。」
「・・・・さて、一局始めますか。」
「別にいいけど終わってないんじゃないかな?宿題」
「さぁやろう。屋九嶋さんは六枚落で。」
「自分から持ちかけといてハンデ要求するってのもどうかと思うけどね。」
「いいじゃないですか、いつも圧勝してるんだから。」
ドン!と音を立てて重苦しい将棋盤を置く。
「じゃ裕介君が先攻で。」
パチッと駒が小気味のいい音をたてる。2年前亡くなった祖父が遺した高級な盤と駒だ。
でも祖父に勝てたこともないし、目の前の少女にも敗戦続きだ。無性に情けなく思えてくる。
対局を始めて約10分。
要求どおりに態々六枚落のハンデをとったのに屋九嶋の陣形は不落だった。
部分的には崩せているのに本陣に近づけない。
「ふふふ・・どうした裕介君。このままでは勝てないぞ?」
得意げな面持ちで意地悪く現状を突きつけてくる。
「うっ・・・何度やっても本陣が崩せない・・これが経験の差か!」
「何度目だろうね?その台詞聞くの」
透き通るような黒い瞳を細めて、口の端を僅かに吊り上げた。
相手を弄んでいるような微笑で駒を動かし続けている。実際、弄ばれている戦況だったが。
「う、今は負けてますが、俺は屋九嶋さんの戦術を観察していつか圧倒的勝利をしてやります!」
「なら次は戦い方を変えてみるかな。」
「なっ!?」
その後、10局ほどやってみたが王手すらろくにできなかった。
俺が完全に負けを認めたとき、屋九嶋は天使のような優しい微笑みを浮かべていた。
「裕介君は意外と料理上手だねぇ。」
「家庭環境が原因ですけどね。」
「いやいや、理由はどうあれ料理ができるのは価値あることだよ。」
6人がけのテーブルで向かい合って肉野菜炒めを食べている屋九嶋と俺。
結局、夕食は食べてから帰ることになった。
「そう聞くと屋九嶋さんは料理ができないように聞こえますが。」
「できないね。」
「臆面もなく即答しますね。そんなに酷いんですか?」
「この間目玉焼き作ろうとしたら漆黒の固形物質ができた。」
ようするに焦がしたのか。固形物質って・・・炭化?
「今度ウチに来るときは料理教えますよ。」
「将来は専業主夫になってしまいそうだね。」
「ハハハ、それ以前にまず相手がいません。」
軽く笑って返した。前例が多すぎる。酷い目に遭うくらいならそこまで求めるものではない。
「なら私がなってあげようか?」
「その台詞も何回目でしょうね。本気にしますよ?」
「私は本気だよ?」
「冗談です。・・・俺は誰とも交際する気はないですから。」
そう言っても屋九嶋は気にした様子もなくハハハと笑ってた。
屋九嶋は何気なく笑い合えるいい友人だ。だからこそ、俺なんかにかまわず良い男と付き合って欲しい。
俺の母校たる地元の中学では、毎年一部の卒業生(俺も含む)と保護者が集まって黙祷する。
かつて俺と付き合っていた女子生徒、鈴村が自殺した。
俺と付き合って間もないことから、俺に容疑が向いた。
容疑は晴れたが、自殺にしては状況が不自然すぎて捜査は一応細々と続く。
しかし証拠どころか手がかりも皆無。遺書も無かった。事件は自殺ということで一応の決着。真相は闇の中。
仲の良かった女子も、通り魔に襲われて全治3週間の重傷。もう一人、交通事故で全治1ヶ月。
以来、卒業するまで女子と関わることは無かった。
やっぱり俺も女運が無かった。
『運が無かった』で済ます気はないが、そうとでも思い込まなければ罪悪感に潰れそうだ。
屋九嶋が帰ったあと、憂いを流すように思い切りシャワーを浴びて、すぐに寝た。
GJ!
待ってましたよ、サトリビト
大和に質問してきたのは陽菜狙いの奴なんだろうけど
やはり陽菜助けるかどうかの選択肢がくるのかな…
期待して待ってます。
「兄貴、起きてよ」
「ん〜・・・もう少し寝さs・・ぐぼぁっ!?」
いきなり腹部に鈍痛が走り、詰まった空気が口から吐き出される。
「いてぇ・・・・和沙、いつ帰ってきた?」
「ついさっき。ジョギングしてる山本さんと会ったよ。」
朝帰りと誤解されそうな・・実際朝帰りなんだが・・事を言う活発そうな少女。
俺の妹、つまりは末っ子の和沙である。
兄弟は3人だが、正確には4人兄妹だ。実は腹違いの兄妹と知ったときは父を白い目で見たものだ。
年齢差は1つで、逆算して中学3年。女子バスケットボール部所属のスポーツ少女だ。
ちなみに山本さんとは近所で有名な超・健康爺さんだ。剣道6段との噂。
「朝から兄を踏みつけるとは随分手荒な妹だ」
「だって兄貴が起きないんだもん」
「もっと双方被害のない起こし方はないのか?」
「ない」
「即答すんな!」
和沙は愉快そうに笑う。屋九嶋とは対照的なライトブラウンのショートボブが、笑い声に合わせて小刻みに揺れていた。
「じゃ、兄さんが朝飯作ってるみたいだから早く降りてきてね。」
「あいよ」
朝から元気な妹が出て行ったのを確認し、箪笥の引き出しをを開いた。
夏のまだ淡い朝日を浴びながら着替える。小学生はまだラジオ体操に励んでいる時間帯だ。
和沙は基本的に早起きで、毎朝俺を起こしに来る。
登校時間の違いを配慮してほしいが、兄さんたちは早起きしても起こしてくれないので文句が言えない。
和沙は生まれて間もなく両親が世を去っているので、実質ウチの両親が実の親と同義になっている。
ただしまともにかまってやれたのは俺と母くらいのもので、兄二人と父には全く懐かなかった。
そのせいか上の兄二人は「兄さん」と呼ばれ、俺だけ「兄貴」である。
「おはよう、裕介。」
いつも通りのあいさつだけど、宗司兄さんの声にはどことなく陰が差しているように思えた。
「おはよう兄さん。元気ないみたいだけど大丈夫か?」
「あぁ、疲れてるだけだ。心配しなくていい。」
既に朝食を済ませていた宗司兄さんは壁に寄りかかるように自室へと帰っていった。
朝食を手早く平らげ、一息つく。
隣でやや遅れて完食した和沙が僅かに期待を含んだ瞳を向けてきた。
「ん、どうした」
「兄貴、今日は暇?」
「・・・・暇・・だな。うん、今日は予定もないから暇だ。」
「それじゃぁさ、買い物に付き合ってよ。」
上目遣いに見つめられる。
そんなふうに見つめられれば大抵の男子はオトせるだろ。俺じゃなくて「憧れの彼」とかに向けろよ。
思わずため息が出る。
「何買うんだ?」
「夏服とマンガ」
「友達と行けばいいだろ?」
「兄貴がいい」
「俺じゃセンスなさすぎて駄目だろ。」
「・・・・・・・」
和沙は頬を膨らませてそっぽ向いてしまった。
こうなると意地でも折れない。
「で、いい加減疲れてきたんだが休ませてくれ。いや、休ませろ。」
「ダメ〜」
結局買い物に付き合ったんだが、午前中かけて商店街をウィンドウショッピング。
最寄のファミレスで昼食を済ませ、今度は商店街とは反対方向。
住宅街のおよそ中央にあるデパートに来ている。
妹は、
「デートみたいだね♪」
と、顔を少し赤らめながら言ったが兄妹ではデートとは言わない気もする。
「黙ってくれ。とにかく休ませろ。」
一刻も早く休息をとるべく店内に設けられた休憩用のベンチへと急ぐ。
辿り着いたベンチには先客が居た。他のベンチは空いているので空いてる方へ腰掛ける。
すると先客の女性はおもむろに辺りをキョロキョロと見渡す。
すると一点でとまり、立ち上がった。
軽やかな足取りで目の前を歩き去ってゆく・・と思ったら。思ったのに!思っていたのに!
俺の目の前で立ち止まった女性は見知った顔だった。
「奇遇ね。こんにちは裕介君。」
月明かりのような笑顔を向けてくる。解りにくいが無理矢理にでもイメージしてくれ。
「あ・・あぁ、こんにちは水瀬先輩。」
「そんなに畏まらないでって言ったでしょ?」
『畏まるな』要するに対等に接しろということらしい。
「えっと・・水瀬さんは買い物ですか?」
「ええ。明日は手作りのケーキでも作ろうかと思って。」
「きっと誰が食べても大絶賛でしょうね。」
思わず苦笑してしまう。
水瀬先輩は人望の厚い人で、品行方正・文武両道・才色兼備・・・つまりは完璧超人だ。告白された回数は3桁に昇ると言われ、なんと悉くが撃沈したという。
そんな先輩は料理の腕前も職人級らしい。・・食べたこと無いけど。
「裕介君、そんな事言うと厭味にしか聞こえないよ?」
「そんなつもりは無いんですけどね。」
「なら裕介君のために作ってあげようか?」
「遠慮します。それよりも好きな人にあげた方がいいですよ。水瀬さんにも好きな男子の一人くらいはいるでしょう?」
「いるんだけどね。・・・全然振り向いてくれなくて。」
この先輩が振り向かせられない男子がいるとは・・・世の中ってすごいね。
本気でそう思った。この時は。
「兄貴、その人誰?」
声に振り向くと何時の間に来たのか、和沙がいた。
「あぁ、この人は水瀬香奈子さんといって、顔見知りの先輩なんだ。」
「だからなんなの?その人」
和沙は何故か敵意を剥き出しで詰めるように問う。
「おい、初対面で失礼だろ。」
「いいのよ裕介君。じゃ、そろそろ失礼するね」
そう言って水瀬先輩は去っていった。
「兄貴、あの人は何なの?」
「顔見知りの先輩で、学校で一番人気の高い女子。それだけ」
「そう、ならいい。」
「・・・なぁ和沙、お前いつも初対面の人にあんな態度なのか?」
「違うわよ・・・・・」
「何か言った?」
「なんでもない。」
否定の意は解ったがその後に続いた言葉は聞き取れなかった。
まぁとりあえず空耳ってことで納得する。
家に帰ってからも和沙は微妙に不機嫌だった。
投下終了します。
誤文修正 306二行目 ×男子以上の
○男子の平均以上の
GJ!
挟まってしまって申し訳ない
果たしてヤンデレはどの娘なのか…
鈴村さんは誰かに殺された…のか!?
続き楽しみに待ってます。
このスレはみんなレベル高くていいなぁ
GJ!
続きが楽しみです。
いいねえGJ
和沙の両親は死去?
主人公の腹違いの妹ならまだ片親は健在?
第二話になります。
十四の方は当分続きは出ないと思います。
「第二話」(少年編)
翌日・気温も上がってきた夏の真っ昼間。
「・・・なんで家に来るんですか?」
眉根に皺が寄る。正直意味が解らない。
目の前に嬉しそうな笑顔で対面する女性。
ついでに俺の隣でそっぽ向いている和沙はいつになく・・っていうか物凄く不機嫌になっている。
「水瀬先輩。」
「あら、迷惑だったかしら?あと、先輩はやめてね。」
「迷惑、とは言いません。ですが水瀬さんは周囲の見解というものを考えた方がいいと思います。」
「どうして?」
どうして・・って言われてもなぁ。さっきから窓の外を見ると玄関付近に見知らぬ男がうろついてるし。
アレどう見ても不審者だよな・・。他にも似たような人が2、3、4・・・
仮に俺の通っている高校の非公式組織・水瀬先輩ファンクラブの人だったとしても合法ではないし、そもそもストーキングは事と次第で悪質な犯罪だ。
「まぁいいです。何か用があって来たんですよね。」
「ちょっと今日は裕介君に相談事があってね」
和沙が右腕に腕を絡めてくる。少し重い。
軽く頭を撫でて宥める。昔から和沙にはブラコンの気があったが今日ほど露骨なのは久しぶりだ。
「相談?」
しかしこの完璧超人の先輩が相談するとは余程の事だろう。
相談相手が俺なんかで大丈夫だろうか。
「好きな人を振り向かせるために協力してほしいのよ。」
何を思ったか和沙が途端に絡める腕に力を込める。ちょっと痛い。絞まってる。
「えっと・・・相手は誰ですか?」
先輩は一瞬迷うような素振りを見せて頬を若干赤らめながら言った。
「森山・・宗司君よ」
森山宗司・・・森山・・・・宗司!?
「えっと、聞き間違いでなければウチの宗司兄さんですよね。」
「そうよ」
「・・・・・・・・」
心の底から驚いた。そして世間の意外な狭さを知った。
昨日聞いた言葉を思い出す。
『居るには居るんだけどね。・・・全然振り向いてくれなくて。』
マジかよ兄さん。何考えてるんだ?
「ここまで聞いたんだし、協力するよね?」
笑顔が怖い。断ったら多分、明日から入院生活の始まりだ。
「わかりました協力します。」
有無を言わせぬ圧力に俺は屈した。俺は痛い思いをしたくない。
「で・・その・・・宗司君、居る?」
「ちょっと確認してきます」
階段を昇り、宗司兄さんの部屋へ
「兄さん、居る?」
廊下で立ち話する形で兄さんが呼び出しに応える。
「どうした、何かあったのか?」
先輩の恋路のためにもできるだけ言葉を選ぶ。
そう、状況観念(シチュエーション)が大事だ。
「兄さんにお客さんが来てる。」
「誰だ・・・?」
兄さんだってファン程ではないにしても水瀬先輩には関心くらい有るだろう。
「水瀬先輩だよ」
「ッ!?」
最初は訪ねてきた人物の名前に驚いたのだと思った。
きっと学校一の人気を誇る水瀬先輩だったからビックリしたと思った。
だが宗司兄さんの顔はみるみる青ざめていく。
体がよろりと眩暈がしたように傾き、嗚咽のような声を漏らす。
「・・・ぁぁ・・・ぁ・・・・」
「こんにちは宗司君」
「水瀬先輩?!」
いつの間にか背後に先輩がいた。
宗司兄さんに現れた変化は急激だった。
化け物を追い払うかのような勢いで部屋に逃げ込み、扉を閉め、叫ぶ。
「帰れっ!お前とは何の関係も無い!帰れ、帰れよぉぉぉぉぉぉっ!!」
「宗司君!?何で閉めるの?ねぇ、何で開けてくれないの!?」
ただ困惑するしかできなかった。
「帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ・・・・」
「開けてよぉ!何で、どうして開けてくれないの!?」
呪詛のようにだたひたすら先輩に帰れと言い続ける宗司兄さん。
縋り付くように扉越しの兄さんに向かって面会を求める水瀬先輩。
少なくとも二人は結構前から知り合ってる。じゃなければこんな事にはならない筈だ。
二人について詮索する気は起きなかった。むしろ『したくない』。
・・・やっぱりウチの家系は女運が無い。
二人を放って、数分前まで三人で話し合っていた(和沙は俺にしか話しかけなかったが)居間に戻ると、和沙が所在無さげに座っていた。
どことなく居心地悪く見えた。
俺が戻ってきたのを知ると途端に目を輝かせ、腕に絡んでくる。
「兄貴、大丈夫?顔色悪いよ」
「疲れただけだよ・・・」
「昨日の兄さんみたいなこと言うね」
「仮にも心配してくれるんだったら腕を解け。重い」
普段なら『重い』に反応してもっと力を込めるところだが、今回はすんなりと絡めた腕を解く。
いつもと違う反応に拍子抜けして油断した。
正面に来た和沙が抱きついてきた。
当然、抱き止めることなどできず、文字通り押し倒される。
「ふっふっふ・・女の子に向かって『重い』などと言う兄貴には全体重を掛けてお仕置きだ〜!」
宣言どおりに全体重を掛けてボディプレスを敢行する和沙。
重いとは言ったものの人類である以上はある程度の体重があり、それを考えるとたしかに和沙は軽かった。
「ぐ・・こんなことで遊んでる暇があるなら勉強しろよ。受験生だろ」
「私が大丈夫なのは兄貴だって知ってるでしょ?」
確かに和沙は勉強ができる。勉強もスポーツも負けては兄として立つ瀬が無いんだがこれは事実だ。
だが受験にはあらゆる可能性が在り、いくら勉強ができても絶対は在り得ない・・・・・
考えていると次第に胸板に軟らかいものが当たっていると気付く。
「・・・・・・・ッ!」
気付いたときには遅く、俺の反応にニヤニヤしている和沙がいた。
ここで下手な返事をしようものなら今後しばらくこの事をネタにからかわれる。
もはや自分の立場などどうでもいい。兄として負けるわけにはいかないのだ!
和沙の体重は俺と比べてたしか7キロ以上軽い。それを活かす。
力任せに体を捻り、圧し掛かる和沙と体位を反転する。
不意打ちに怯み、和沙の腕の力が抜けた。
そして完全に反転する直前で床を蹴って跳び、離脱!・・・が、詰めが甘かった。
「逃がさないよ兄貴」
「ぬ、ぐぉっ!?」
完全に離れるかどうかのタイミングで和沙が首に腕を回してきた。
十分に跳べず、即座に自然落下。
今度は俺が圧し掛かる形になったが、全くの不意打ちに対応が遅れて両膝と顔面を床に強打。
「っっ・・・おぉぉおぉぉ・・ぉぉぉ・・・」
痛みのあまり悶絶し、動けなくなる。
こんなときに限ってドアノブが回った。
長身の青年が顔を覗かせる。大学から帰ってきた長男の賢一兄さんだ。
「ん、今日は赤飯か?」
兄さん、真顔でそんな事言わないで下さい。俺たち兄妹デスヨ?
水瀬先輩はいつのまにか帰っていた。
今日の夕飯は、赤飯はさすがに無かったが妙に豪勢だった。
さらに翌日
下がり始めた気温と徐々に混じり始めたヒグラシの声が夏の終わりを感じさせる。
だいたい1ヶ月ぶりに入った部屋。
感想は「相変わらず」だ。
飾り気が少なく、殺風景な部屋。
シンプル・イズ・ベストとでも言うべきか、簡素で変哲の無さ過ぎるベッドと学習机。壁に床。クローゼット。
唯一にして一番目立つ特異点がひとつ、俺の背後に佇んでいる。
決して狭くない部屋の壁一面を占拠した巨大な本棚。
中には各種辞書や参考書、漫画に小説、何かの資料の束などが数百という規模で納められている。
「他人の部屋をじろじろ見るのはあまり良いとは言えないよ。女の子の部屋なら、なおさらね」
「あ、スミマセン」
声色に咎めるような気は感じられなかった。
だが、女子(髪型次第で中性的な少年とも思われそうな屋九嶋だが・・)の部屋を見回すのはさすがに憚られた。
「なんかこの本棚が倒れてきたらと思うとゾッとしますね。」
「大丈夫。今なら倒れても潰れるのは裕介君だけだし」
倒れる軌道を予想してみると射程範囲内に俺が居る。対してテーブル挟んだ向かいの屋九嶋には届かない。
「俺、死ぬじゃないですか!」
「葬式には絶対参列するから安心してくれ。」
「それで死んだら絶対枕元に立ってやる!」
「女の子の寝室に夜中に現れようとは・・裕介君って意外と大胆だね。」
「なっ・・・・・!」
ふと屋九嶋の寝巻き姿が脳裏をよぎる。いや、もしくはジャージか?まさかワイシャツ一枚ってことは・・・
・・・って何考えてるんだ。ついに妄想癖が!?・・ヤバイな、俺。
「どうしたんだい?裕介君」
「えっ・・・と、何ですか?」
「『何ですか?』じゃないよ。考え事にしては変だったからさ」
「そんなに変でしたか?俺」
「百面相だったよ」
「マジですか!?」
ヤバイ、顔に出てたのか!?
「嘘だよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
「もしかして人にはとても言えないような邪な事を・・・」
「違います!」
あぁ、本当は邪な事考えていたけど、もし露呈したら危険すぎる。
「へぇ・・本当に〜?」
「・・・・・・・・・・・」
「まぁまぁ、そんなにムスッとしてないで。」
アッサリと折れる屋九嶋。・・・助かった
「でも、もし裕介君だったら悪い気はしないね」
「そんなこと言ってると襲われますよ」
「そのときは股座を蹴り上げてしんぜよう。」
俺が屋九嶋を襲うことなど在り得ないのだが、蹴り上げられる様を想像して思わず身震いした。
しかし股間を蹴り上げられるのは凄まじい痛みを伴う。弁慶の泣き所なぞ比べ物にならん。
「多分、鍛え上げられたレスラーでも悶絶しますね。それ」
「普段着の上から蹴り上げられても平然としていられる男性って居るのかい?」
「まずいません。もし蹴られて平然としていたらソイツはスーパーマンです」
「正義の味方が痴漢行為をすると思う?」
「慈善事業ばっかりでフラストレーションが溜まっていたりするかもしれません。」
「だったらもっと酷い悪魔の諸行に出るんじゃないかな」
「例えば?」
「女の子にそれを言わせるのかい?」
「・・・すみませんでした。」
そういえば舌戦でも勝ったことが無いなぁ・・・祖父さん、なんか情けなくなってきたヨ・・・・。
「ところで宿題はやってるかい?」
唐突に話題が変わった。
「・・・・・・・えぇ、まぁ・・」
曖昧な言葉でお茶を濁す。実はちょっとヤバい。
「強制チェ〜ック!」
すると屋九嶋は凄い勢いで俺の鞄を漁り始め、終業式手前に配布された「夏季長期休暇の課題」
と、態々難しげな題が打たれた書類(単に夏休みの宿題だ。)を取り出す。
A4紙40枚で作り上げられし課題は一枚一枚の問題の多さに全校生徒を落胆の奈落へと叩き落した。
・・・これでもコツコツ終わらせてきたんだ。
一応本日は勉強会ということになっているが・・・正直やる気が出ない。
「!」
「どうしました?」
「こ・・これは・・・!」
マズイ、バレてしまったか
「す・・数学が、驚きの白さ!!」
・・・1時間経過
♪口動か〜す 暇〜は〜無〜い 誰か算数、写〜させ〜ろ♪
♪アンタに見せて〜る 暇〜は〜無〜い ・・・・・
「今は終わらせる事だけを考えるべきだよ」
反論できない。イヤ、さっきのは休憩なんです。脳を休ませていたんです。
「大丈夫ですって、ちゃんと自分で終わらせますから」
「基本はできても発展問題になると全く答えられないくせにそんな事言って大丈夫かい?」
「・・・大丈・・・夫だ・・と・・思いますよ?」
「言い淀んでる上に語尾は疑問形って・・・」
さすがに呆れたらしい。
「というわけで勉強は終了。さぁ、ぷよ○よでもしまsy・・」
「・・・よし、友として今は心を鬼にして君に課題をやらせるべきだ。さぁ裕介君、始めるぞ!」
呆れすぎて何かスイッチが入ったらしい。口調が微妙に変わってる。
屋九嶋は根が真面目なヤツだから、だらしないものが許せないのだろう。
さぁ地獄のスパルタお勉強会の始まりだ。
『もしもし・・あ、森山さんの御宅でしょうか。ハイ、ええ、そういうわけで裕介君は今日は私の家に泊まることになりました。ええ、はい、迷惑だなんてとんでもない。はい、わかりました。では』
・・・泊り込みで勉強会だとっ!?
屋九嶋さん、いくらなんでもやりすぎです。
結局俺は、夜中に頃合を見計らって抜け出した。
書置きが置いてあるから大丈夫だろう。
さすがにうら若き男女が(屋九嶋の母もいたが)一つ屋根の下というのは抵抗があった。
でもスパルタのおかげで8割がた課題が終わった。屋九嶋に感謝せねば。
やっぱり自分のベッドが一番落ち着いた。
ただ僅かに湿ってるのが気になったが・・・・・
投下終わります。
今回はちょっとできが悪かった(←今更)ので、続きの話はもっと質が上がる
ように努力します。
乙!
GJ 水瀬先輩の狙いは兄の方だったのか
前回の展開からてっきり
328 :
転載:2010/06/15(火) 21:03:31 ID:N7OhmX8f
20 名前: ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:20:09 ID:CmAoTRFg0
昨日「触雷!」を投下した者です。
第2話を投下しようとしたら、規制に引っ掛かりました。
いつ解除になるか分からないので、とりあえずこちらに投下させてください。
329 :
転載:2010/06/15(火) 21:04:03 ID:N7OhmX8f
21 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:21:03 ID:CmAoTRFg0
「ど、どうして……?」
「今の女性は、お知り合いですか?」
突然、僕から携帯を取り上げて通話を切った紅麗亜。
その行動の理由を聞こうとしたら、逆に質問されてしまった。
冷ややかな声に気圧され、僕は素直に答えるしかない。
「学校の……先輩だよ」
「お食事に誘われていらっしゃいましたが?」
「うん。たまに……」
中一条先輩は、僕をよく食事に誘ってくれる。
最初のうちは気が進まず、理由を付けて辞退することも多かったが、あまり親切に誘ってくれるので、断るのも悪い気がだんだんして、応じるようになった。
最近は先輩のお屋敷の豪華さにも少しずつ慣れてきて、余程のことがない限りお呼ばれしている。
しかし、紅麗亜はそれが面白くないようだった。「フン」と鼻を鳴らし、こう言う。
「ご主人様たるもの、メイドの作った食事以外口にすべきではありません」
「え……? そんな……」
「あの女は、ご主人様にその禁を破らせようとしました。ご主人様に害を成す存在であることは明白です」
「で、でも……」
「でも、何ですか?」
「あの、その……」
ソファーに座った僕を見下ろす、紅麗亜の傲然たる眼差し。
折れて屈服しそうな心を必死に支え、僕は反論しようとした。
そのとき、再び振動が起きる。今度は紅麗亜の手の中で。
「もしもし」
彼女は何のためらいもなく、僕の携帯の着信に応答した。
『ちょっと! 誰よあなた!? 詩宝さんはどうしたの!?』
中一条先輩の声だ。耳を寄せなくても僕のところまで聞こえてくる。相当怒っているのは間違いなかった。
330 :
転載:2010/06/15(火) 21:04:26 ID:N7OhmX8f
23 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:22:13 ID:CmAoTRFg0
『…………』
紅麗亜の言葉が終わっても、先輩の声は聞こえなかった。だが、逆にそれが恐ろしい。
怒りのあまり、口が聞けなくなったのではないか。
紅麗亜の持つ僕の携帯から、放射線が出ているような錯覚がした。
「これ以上、お話しても無駄ですね」
紅麗亜は通話を切った。先輩との繋がりが遮断される。
一瞬ほっとしたのは、僕の心の弱さのせいだろうか。緊張の糸が切れ、僕はソファーに倒れ込む。
そのときになって、ようやく紅麗亜は僕の手を放した。
「今の番号、着信拒否にしておきますね。ご主人様」
打って変わって、上品な微笑を浮かべている。
まさに上流階級のメイドと言うべき風格だったが、言っていることはとんでもなかった。
「ま、待って……」
慌てて止めようとしたが、それよりも早く、紅麗亜は僕の携帯の操作を終えていた。
「解除してはいけませんよ。あの女はご主人様に害を成す毒婦です。ご主人様にメイドが不要などとは……世迷い言にも程があります」
携帯を僕に返しながら、中一条先輩を非難する紅麗亜。
「…………」
「分かっていただけましたか?」
「えっと。あの……」
「ご主人様」
ずい、と紅麗亜は僕に顔を近づけた。僕は仕方なく、
「わ、分かったよ……」
と返事をする。
しかし、そのときの僕は、明日先輩に会ったら何て言って許してもらうか、専らそれを考えていた。
「…………」
だが、それも紅麗亜にはお見通しだったようだ。
「それほど怖いですか? あの女性が」
「え……あ……」
紅麗亜は腰を曲げ、目線を座った僕と同じ高さにしていた。
何を答えていいか分からず、言葉に詰まる。
「ご心配には及びません。ご主人様は、何があってもこの私がお守りいたします」
そう言うと、紅麗亜はそっと目を閉じた。
「……? !!」
気が付くと、唇を吸われていた。
人生で、初めてのキスだった。
331 :
転載:2010/06/15(火) 21:05:36 ID:N7OhmX8f
スマンミスった、>>330の前にこれを
22 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:21:36 ID:CmAoTRFg0
僕はさらなる恐怖に襲われ、両手はガタガタと震え出す。
「あわわわ……」
何故なら、中一条先輩という人は、普段はとても穏やかで、いかにもおしとやかなお嬢様といった雰囲気なのだが、怒るととてつもなく怖いらしいからだ。
らしい、というのは、僕の前で怒ったことがほとんどないため。
ただ噂によると、先輩の怒りに触れて精神に異常をきたした人は両手の指ではきかないらしい。
“メデューサ”という、怪物並みの2つ名も耳にした。
もっとも先輩をそう呼んだ人は、生徒であれ教師であれ、一日で学校に来なくなってしまうのだけれど。
ともあれ、その中一条先輩が、今、この瞬間に怒っている。僕のせいで。
何とか宥めないと……
「か、代わって」
立ち上がって手を伸ばしかけた僕だったが、その手は紅麗亜に掴まれ、空しく宙に固定された。
絶望が、全身を駆け巡る。
「ああ……」
一方、先輩の怒声をより間近で聞いた紅麗亜は、全く堪えていない様子だった。
至って涼しい口調で会話をする。
「私は、詩宝様にお仕えするメイドです。ご主人様であらせられる詩宝様に全てを捧げ、身の回りのお世話一切を任されております」
『はあ!? 何寝言言ってるの!? 詩宝さんがメイド雇ったなんて、聞いたこともないわ!』
「今日雇っていただきましたから、当然です。もっとも、何カ月前であろうと、ご主人様があなたに連絡する必要があるとは思えませんが」
『黙りなさい! 詩宝さんにメイドなんかいらないわ! 必要なら私が面倒見てあげるんだから!』
「フッ。御奉仕の何たるかも知らない素人が、出来もしないことを……」
怯むどころか、挑発的な、嘲るような口調で先輩に言い返す紅麗亜。
何のつもりか、先輩の怒りに油をどしどし注いでいる。
332 :
転載:2010/06/15(火) 21:06:16 ID:N7OhmX8f
24 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:22:44 ID:CmAoTRFg0
初めて会ったときには、もう生涯の伴侶と決めていたと思う。
しかし、それからも会うたびに、知るたびに、私はあの人に惹かれていった。
その誠実さに、勇敢さに、優しさに。
紬屋詩宝さん。
私、中一条舞華の全てと言ってもいい人。
でも、詩宝さんの方は、すぐには私にうち解けてくれなかった。
私の家や、女性にしては高すぎる私の身長、その他の忌々しい要因のせいで、違う世界の人間だと見なされていたようだ。
見えない壁を作られていた。
その壁を叩き壊すのに、私はあらゆる努力を惜しまなかった。
何度もアプローチし、会話を重ね、いろいろな場所に誘った。
これは内緒だが、詩宝さんにちょっかいを出す雌虫が近付かないよう、金にあかせて様々な策略も巡らした。
その甲斐あって、今ではかなり距離が縮まってきたと思う。
今日も2人の仲を進展させる作戦を実行する予定だった。それなのに……
「どういうことよ、一体!?」
何故いきなり、詩宝さんのメイドなどと名乗る雌が出てきて、2人の会話を邪魔するのか。
怒りのあまり、目の前が真っ赤になりそうだった。手に持った受話器が、嫌な音を立てて軋む。
「お嬢様、どうされたのですか?」
テーブルを挟んで向かいに座る、赤いスーツ姿の若い女性が私に声をかけてきた。彼女は、私の秘書の1人だ。
もう1人の秘書は今部屋の外にいて、詩宝さんを迎える準備を進めている。
だが、その準備もあのゴミのせいで……
「急に電話を切られたのよ。かけ直したら訳の分からないことをのたまわれたわ」
「まさか、あの詩宝様が……何かの間違いでは?」
「その間違いが起きたのよ。今詩宝さんに、メイドを名乗る害虫が取り憑いてる」
「そんな……詩宝様の女性隔離作戦に抜かりはなかったはず……」
驚く秘書。しかし、私はそれほどでもなかった。
あの作戦には、いくつか穴もあったからだ。
「エメリア。あなた確か、詩宝さんの家にカメラとマイクを付けるのに反対したわね?」
「はい……詩宝様のプライバシーを考えますと」
「それが甘かったのよ! 家にいる詩宝さんに、毒虫がたかる可能性もあったのに!」
とうとう怒りを抑制できなくなった私は、木製の机に正拳を振り下ろした。天板が真二つに割れ、乗っていたものが周囲に散乱する。
333 :
転載:2010/06/15(火) 21:06:41 ID:N7OhmX8f
25 名前: 触雷! ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:23:22 ID:CmAoTRFg0
「も、申し訳ありません……」
秘書のエメリアは、縮こまって謝罪をした。テーブルを割って多少怒りの収まった私は、彼女を慰めた。
「いいのよ。あなたの意見を採用したのは私の責任だわ。でも、このミスは取り戻すわよ」
「はいっ!」
そのとき、部屋のドアがノックされた。
「……どうぞ」
「あ、舞華。行って来るよお」
父である。人の気も知らないで能天気なものだ。
私にとっては、人生で唯一の伴侶を得られるかどうかの瀬戸際だが、中一条グループにとっても、理想の後継者が手に入るか否かの正念場のはずだ。
もっとも、父ごときにそれが理解できなかったからと言って、責めるほど私は狭量でもないが。
私は父に、いたわるような声で言った。
「お父様。出かけなくていいわ」
「え? でも、朝まで帰ってくるなって、舞華が……」
「予定が変わったの。ビジネスではよくあることでしょう?」
「そ、それはそうだが……」
手もなく私に言い含められる父。すごすごと自室に戻って行った。
これぐらい簡単に、詩宝さんも私のものになればいいのに……
「ソフィ!」
部屋を出て、もう1人の秘書を大声で呼ぶ。青いスーツを着た秘書は、すぐにやってきた。
「ボス。もう少しで準備完了ですけど?」
「予定が変わったわ! 詩宝さんの家に行くから、すぐに車の用意をして!」
「イエス、ボス!」
ソフィは外に走って行った。私達2人も後から続く。
「ああ。こんなことならお食事に呼んだとき、媚薬を仕込んでレイプしてもらえばよかったわ!」
「しかし、お嬢様。それでは詩宝様のお心に傷が」
「その温い思考の果てに今の状況があるのよ! 馬鹿!」
玄関から庭に出た。余程悪い目つきをしていたのだろう。
たまたま目が合った庭師が失禁し、枝から転落した。
334 :
転載:2010/06/15(火) 21:07:07 ID:N7OhmX8f
26 名前: ◆ 0jC/tVr8LQ 2010/06/15(火) 00:23:46 ID:CmAoTRFg0
以上です。
失礼いたしました。
たまたまヤンデレ小説を読んでいた〇〇が失禁した。
ごめんなさいGJでした!
ぽけ黒待ち
もちろん他のも大歓迎
先輩も高身長か!最高だ!
それにしてもくれあさん恐いよ……
あとペース速くて良いね!
SSで一番大事なのは最後まで続けることだと思うんだ。
このスレは完結する作品が少ないから尚更。
この調子でこれからも頑張ってくれ、GJ!
いい加減にしろよ
>>338 >>339 落ち着け、そうカッカしてても何の得にもならないぜ。
もしかしたら、お前等を狙ってやってるヤンデレさんかもしれんぞ。
だから…工作員か未成年か知らんが相手をするのは、や・め・ろ・!って血の気が余ってるのなら抜いてこいよww
一番愛情表現がすごいヤンデレってどんなことするんだろう………
まず監禁は当たり前
愛情表現なんて人それぞれ
グッとガッツポーズしただけで泥棒猫が死んだ
350 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 20:02:33 ID:o9Shfom2
ナッパ?
>>346 ストーリーを盛り上げるため、主人公が一瞬ヤンデレになびいたシーンまで書きあげてスレに投下したタイミングで、そのSSの作者を瞬殺
職人さん気をつけてな
監禁+人殺しがヤンデレと思ってる人はいっぱいいてそうだね。
自己催眠(もしくは強烈な思い込み)で男の趣味にピッタリな女性に変身
男の家族にも少しずつ催眠をかけ、周囲も集団催眠をかけて公然のカップルになる
男にだけはかけないというルールを守り、男のためだけに催眠で好かれるようになっていく女
邪魔をする(邪魔になりそうな)敵は催眠で知らず知らずのうちに味方に変えてしまう
血を流さず、敵を作らず、自分と男の楽園のためだけに生きるヤンデレ
しかし自分にすら催眠をかけ続け、虚構と現実の区別がつかなくなり、徐々に自我が崩れていく
男に好かれたいが為、愛しているが故に虚構に虚構を重ね続ける。本当の自分がわからなくなり、真実が消えていく
本当に自分は男を愛しているのか。男は本物に自分を愛しているのか。現実は崩れていき、破滅に向かっていく……。
という流血の無いヤンデレを考えてみたが書くの大変そうだから妄想自己完結で済ませておく
囚われし者、第7話できました。
一応読み直しているのですが、また誤字等があるかもしれませんが生暖かい目でよろしくおねがいします。
では以下数レスお借りします。
翌日、僕が登校するとクラスはなにやらものものしい雰囲気となっていた。
原因は・・・、もはや考えるまでもなかった。
いつもクラスの中心である綾華。その彼女の様子がいつもと違っていた。
いつもの艶やかな髪は潤いを無くし、何やらブツブツと一人で呟いている。
そして何より、彼女の瞳は光を宿していなかった。
クラスのみんなは綾華を見て一歩引いているという感じだった。
昨日の事情を知らないもにとっては、綾華のこの代わりようはまさに異様そのものだろう。
「おはよう、綾華」
クラスの皆の視線を尻目に、僕は綾華に声をかけた。
綾華は呟きをやめ、こちらを見た。
「しょ・・・うご・・・?」
「そうだよ。」
咄嗟のことだった。
綾華は僕を思いっきり抱きしめた。
「ちょっ・・・綾華・・・何してるの!?教室だよ!」
「ねぇ、奨悟大丈夫?苦しくない?痛くない?怖い目に合わされてない?」
「だ・・・大丈夫だから!離して!」
「ちょっと綾華!」
「周防さん!」
クラスメートが僕と綾華を引き離した。
あまりにも強い力だったため、僕は少しむせた。
「大丈夫?周防さん?」
「あんなやつにあまり関わらないほうがいいよ綾華。」
そう言ってクラスメートは僕に白い目を向けた。僕は困ったというように苦笑いをしてみせた。
大丈夫、こんなのいつものことだ。
それでも、綾華は僕に触れようと手を伸ばし、クラスメートに抑えられている間も、僕の名前を呼び続けた。
結局、綾華は朝のこともあり早退した。
だけどどうやら、本人は帰りたくなかったらしく、しきりに僕の名前を呼んだそうだ。
そのこともあってか、何人かのクラスメートに、何かしたんじゃないのかと問い詰められたりもした。
結果、僕はいつもより肩身の狭い思いをすることになった。
綾華からの連絡があったのは、ちょうどすべての授業が終わりしだいにそそくさと学校をでて、家に帰る途中のことだった。
「なんだろう・・・」
綾華からのメールを開くと、そこには普段の女の子らしい文面からは想像できないような、シンプルなものだった。
『良い事を思いついた、これで私も奨悟も幸せになれる。』
意味がわからなかった。
僕も綾華も幸せになる?一体どういう意味だ。
携帯を睨みながら、どう返信をしようか考えている途中、今度は着信がはいった。
液晶画面には周防光一(すおうこういち)の名前が写っていた。
周防光一とは、綾華の父親であり、そして周防製薬の現社長である。
「はい、柏城です。」
「お、いやぁ柏城君久しぶりだね。」
光一さんと知り合ったのは幼い頃の食時会だ。
そして、優がこの会にあまり参加しなくなったころから徐々に数が減り、光一さんとも疎遠がちになっていた。
「光一さんもおかわりがないようで何よりです。」
「光一さん・・・か、それももうすぐ聞けなくなるんだろうな。」
「はぁ?」
「いやいや、こっちの話だよ。それより奨悟君、今日の夜は空いてるかい?」
「はい、特に予定はありませんけど。」
「それは良かった。」
その突如目の前にリムジンが止まった。
「お、ちょうど迎えもついたようだね、それに乗ってきてくれ。」
黒いスーツを来た人が車のドアを開ける。
(僕が断ったらどうするつもりだったんだ。)
若干、こんなことも思いながら車に乗せてもらった。
「遅いわよ!奨悟!」
真っ赤なドレスを身に纏った綾華が言った。
あの後、僕は車に乗せられて、ある大きなホテルにいる。
ホテルの一室で体を採寸され、十分ほど待たされたと思うと、サイズピッタリの高そうなタキシードを渡され、ちょうどそれを着たところだった。
「・・・っ!何よ、奨悟のくせに・・・その・・・似合ってるじゃない。」
綾華はテレを隠すように顔を背けた。
「ありがとう、綾華。綾華もそのドレス似合ってるよ。」
「おっ、お世辞はいいのよ!それよりも早く行きましょう!お父様も、あなたのご両親ももう待っておられるわ。」
そう言うと綾華は一人そそくさと部屋を出て行ってしまった。
あの様子を見る限り、朝の奇行がまるで嘘のようだった。
それどころが、むしろ機嫌が良いようだ。やっぱりあのメールが何か関係しているのか。
そんなことを考えながらエレベータで最上階を目指す、この先には何度も会食を行ったレストランがあるのだ。
最上階、レストランの入り口にいたウェイターが洗練された動きで扉を開けた。
レストランには・・・僕の両親と周防家しかいなかった。
「やぁ、奨悟君!こんばんわ。」
「おお!久しぶりだな息子よ!」
「奨悟くん、ひさしぶり。」
と口々に挨拶を受け、適当に返事をしつつ僕は空いた席に座った。
「随分と急で久しぶりな会食かと思ったら、今日は他には誰もいないんですか。」
「あぁ、今日は貸切にしてもらったよ。」
こんな高いホテルのレストランを貸切とは一体どれほどの金がかかっているの想像もできない。
「何か特別なことでもあったんですか?」
「まぁね、まぁそれより久々にこのメンツで集まったんだ!存分に楽しもうじゃないか。」
光一さんのこの言葉を合図に食事は始まった。
面白そうだけどオチ作るのがすごい難儀な感じだな
「いやはや食った食った。」
なんて父の言葉を聞き流ていた時だった。
「さてと、そろそろ今日のメインイベントといこうか。」
光一さんが立ち上がってそう言った。
「いよ!待ってました!」
「フフフフ」
父は光一さんを持ち上げ、母さんは何やら意味ありげに笑っていた。
綾華はなぜか顔を赤くしてうつむいていた。
「えー、実にめでたいことに我が娘、綾華と奨悟君が許嫁関係となりました!」
・・・へ?
「うおおおおおおお!やったな奨悟!こんな可愛い嫁を貰うことできるなんて!」
「フフフフ、将来安泰ですね。」
僕はあまりの出来事に、頭がまわらなかった。
「えっ!ちょっとどういう意味ですか!?」
「文字どおりの意味だよ、今日、綾華が早退してきたと思っていたら突然言い出してね。まぁ、綾華も年頃の娘だし、どこぞの馬の骨にくれてやるくらいなら奨悟君にもらってもらったほうがよっぽどいいからね。」
「でっ・・・でも!」
「何だ、もしかして断るつもりなのか。」
そう言うと光一さんが僕を睨みつけた。
生まれ持って人の上に立ってきた人間の視線の前に、僕は反論する機会すら失われた。
「良かった。君は妹さんまでとは行かないが優秀な人材だしね、さて、綾華お前も何か言いなさい。」
綾華はうつむいていた顔を上げ、僕に歩み寄り、抱きしめた。
「あなたは私がいないとダメなんだから!私が一生」
そう行って綾華が耳元で囁いた。
「傍にいてあげる。」
以上で投下終わります。
読んでくださった方、感想いただいた方ありがとうございました。
GJ
他の二人の今後の動きに期待!!
何という剛腕ヤンデレ
まさにおざ○
GJ
で、薬はどうすんだ
中国の山奥にいる仙人の元で修行するしかないなwwwwwwwwwwwwww
gjwwwwwww
先が読めない展開だ、GJ!
楽しみだなぁ…フヒヒ
366 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 09:48:35 ID:ySoR+2MO
投下します
はぁ、彼を完璧に見失っちゃったよ。
あの人達が、私に話掛けなければ彼をもっとみれていたのに…。
…いや、違う…。
今日の目的は、彼と仲良くなること。
確かに、彼を見つめるだけでも私は幸せな気持ちになれる。
でも、それじゃ駄目なんだ。
現状に満足しては、駄目だ。
彼みたいな素敵な人を見たら、他の女も黙っていられるはずがない。
ここ2年間は、彼女がいる気配はないし、他の女の子と出歩いているのも見たことはない。
彼が女性と関わりがあるといったら、メイドカフェぐらいかな。
…そんな所に行かなくても、私が貴方専用のメイドになって一生尽くすのに…。
どんな恥ずかしい事でも、貴方だけになら出来るから…。
でも、いずれ彼の前に私以外の女が現れて、彼が私以外の女と歩いているとき、私は耐えられるの?
…ううん、絶対無理…。
じゃあ、どうすればいい?
決まっている。
彼と付き合い、結婚し、近寄る女共を排除すればいい。
簡単なことよ。
でも、彼の前に立つと素直になれなく、つい乱暴口調になってしまう…。
何で、私こんな素直になれないんだろう。
成長しないなぁ、私。
はぁ。
「ねぇねぇ、お姉さん暇? なら俺達と遊ばねえ?」
キッカケが欲しい…。
彼と仲良くなれるようなキッカケが…。
「マジ、シカト? あり得ねぇんっすけど。」
同じ趣味を共有する?
却下。
彼が他の女を見てるのを許すなんて有り得ない。
彼は、私だけ見つめていればいいの。
「おい、マジキレっぞ。 オ…。」
パァン!
さっきから、雑音が聞こえていたのでウザかったから、やっと消えたわ。
ん〜、どうやって彼を…。
「おい、てめぇこら何すんだこら。」
倒れた4人中の1人は、痙攣でピクピクしている…脆すぎるわ。
「おい!大丈夫か!てめぇ…覚悟できてんのか!」
…本当うるさいなぁ。
まぁ、いいや。
憂さ晴らしに付き合って貰おうかしら。
「ツレの鼻が折れてんぞ! どうしてく…。」
まだ、しゃべり続けている雑音の懐に入り込み、素速く片方の脚に体重を乗せ、もう片方の脚で顎を蹴り上げた。
コキン。
何だか、小気味の良い音が聞こえた。
漫画でしか見たことのないような足蹴を見て、驚きを隠せないのか呆然としていた。
「あ、有り得…。」
台詞を言う前に、私の回し蹴りで、雑音の元の台詞は飛んでいってしまった。
彼の声以外は、聞きたくないわ。
ふぅ、やっと雑音が消えたわ。
「…ひ、ひぁ!」
あぁ、もう一匹いたの。
唯でさえ、彼を見失ってイライラしているのに、これ以上雑音が入ると半殺しじゃ済まないわよ?
「おいおい、どうしだんだ。 こりゃ。」
「ひ、永(ひさし)!」
また、増えた。
しかも数人も。
いい加減にしないと、半殺しだけじゃ済まないわよ?
「女の割には結構やるな。 だが、俺はコイツらみたいに油断しねぇぜ?」
「……。」
「無視かよ。 まぁ、いいや。」
そういうと、そいつは私の周りを囲い、逃げられないような形をとった。
逃げる気は、さらさらないんだけどね。
っていっても、この人数はちょっとキツいわね…。
全く、警察は何をやってんのよ。
そこら辺の歩いている奴等も見てみぬふりだ。 さっきまでは、私の事をジロジロ見ていた奴もいたが、助けに入ることもしないし、警察も呼ばない。
それは、そうね。
一時の感情で私を助け、後でコイツ等に返り討ちにされたくないからだろう。
自分の事さえ、良ければ良い人間しかいないんだろうなぁ。
世の中って。
まぁ、彼は違うんだけどね。
そういえば、彼に助けて貰った時もこんな…。
「やれ。」
私が、回想に浸っていると、永という男が合図を出した刹那、襲いかかって来た。
私は、覚悟を決めた。
相手のリーダー格は、喧嘩慣れしているし、私もタダじゃ済まないだろう。
…私が傷物になっても、彼は受け入れてくれるかな?
「ゃゃ、ゃめろッフブッ!!」
後ろから、私が望んでいた声が聞こえた気がした。
ドゥフ。
駅の近くにある大人のオモチャ屋さんに着いたで御座る。
ドゥフフ、彼女達の事を考えるとムラムラしてしまって、拙者一服してしまったでござるよ。
さて、そろそろ買いに…
「お、おい!大丈夫か!?」
オゥフ、拙者が最も苦手とするヤンキーの方々でござるよ。
しかも、後ろ姿を見るからに女性が絡まれているでござる。
…助けに行くでござるか。
見知らぬ人とは言え、困っている人を助けない訳にはいかないでござる。
ドゥフフ。
い、い、今行くでござるー!!
投下終わります
見て下さった方は、お疲れ様です
>>372 待ってました!
やってることはイケメンなのに口調が残念なのがいいわ。
最近じゃイケメンキャラがこういうことしても嫌味に感じるようになってきたから新鮮だ
>>372 Gjです
まさかこんな形で関わるとは…
続きを楽しみにしています
サトリビトを書いているものです。
パラレルの方の3話ができたので投下します。
よろしくお願いします。
魔王を倒すために僕達一行は旅をしている。
行く先々で僕たちは数多の魔物を倒し、いかなる困難も乗り越えてきた。
だがそんな僕達に最大の試練が訪れた。
いや、僕だけに。
「・・・うっ・・・」
「どうしたの慶太?なんか最近調子悪そうだね・・・」
陽菜が優しく声をかけてくれた。こんな彼女は久しぶりに見た気がする。
「私の保井美でも治らないなんて・・・ごめんなさい」
謝らないで、マイエンジェル。その心だけで十分だよ。
「こういうときは呪文よりも愛する人のキスよね!な、なんなら今しようか?///」
あ、それはいいです。そんなことしたら体調どころか命の心配をしないといけなくなるから。
「それにしても保井美でも治らないなんて・・・慶太さん、何か心辺りはないの?」
姉ちゃんが素直に心配してくれている。奇跡だ。それだけで涙がでそうだ。
「・・・なんか一人で散歩していたとき・・・緑色したスライムみたいなやつと遭遇してからなんだけど・・・」
その瞬間、みんなの表情が固まった。
「け、慶太、まさかそいつの攻撃を受けたの!?」
悲痛な表情で陽菜が問い詰めてきた。
「え?・・・たしかに一回だけ受けたけど・・・別に大した怪我は・・・」
僕のその言葉が合図となって皆を突き動かした。
「恭子ちゃん、あなた気亜利ーは使えるの!?」
「・・・っ!」
「そ、そんな・・・」
なんだこの会話は。何か分からないけどすごく怖いんですが。
「とりあえず、どこかの町に着くまで定期的に保井美をかけ続けないと!」
ちょ、ちょっと待ってよ!確かに歩くたびにあの世に近づいていく感覚があるけど、そんなにまずい状態なの!?
「で、でも・・・私、MPが尽きちゃって・・・保井美も留雨裸も使えないんです・・・」
恭子ちゃんが唇をかみしめる。皆もその言葉に悔しそうな表情をする。
「・・・え〜っと、間違っていたらごめんね?つまり、僕は近いうちに死ぬって事?」
誰一人答えてくれない。姉ちゃんに至っては手を口に当てて泣き出した。
・・・・・・・・・・マジ・・・っすか・・・
「別にたいした問題じゃないだろ?死んだら次の町で生き返させればいいだけじゃねーか」
半透明の太郎君に対して殺意が沸いた。いいよ、もし僕が死んだらお前も道連れにしてやる。
「そっか!その手があったわ!」
陽菜の顔が輝いた。ほ、本当に僕を殺す気なの!?
「慶太が死んだら、太郎君、目我猿を使って!」
「・・・え?」
「成程!その手がありましたね!」
「あんたもたまには役に立つ事言うじゃない!」
「さすが陽菜さん!やはり賢さに秀でていますね!」
目我猿・・・どんな呪文か分からないけど、みんなの反応からして僕が助かる呪文なんだと思う。
「・・・え〜っと・・・僕はそんな呪文使えないのですが・・・」
何だと!?たまには役に立てよ!
「・・・ふぅ・・・そっか・・・」
陽菜が例の魔王モードに入った・・・気がする。
「じゃあ・・・生きててもしょうがないっか!」
皆で話し合った結果、僕たちはしばらく野宿することになった。
姉ちゃんに曰く、「この毒は歩かなければ問題ありません」とのことだからだ。
そっか、僕の体には毒があるのか・・・って何の毒かは分からないけど早く血清を打たなければいけないんじゃないの!?
「早く病院に行こうよ!」
「ダメです!歩くと確実に死んでしまいます!ここはおとなしく寝ているのが一番いいのです!」
はぁ!?風邪じゃないんだぞ!
「嫌だ!早く病院か保健所に―――」
「羅理穂ー!」
「うっ・・・ぐぅ・・・」
そこで僕の意識は途切れた。
目が覚めると辺りは暗闇に包まれていた。どうやら意識を失っている間に夜になったらしい。
体の方は良くも悪くも変化はない気がする。姉ちゃんの言った通り、歩かなければこの毒は進行しなかったようだ。
とりあえず助かった。
だがこんな状態の僕を置いていったのか、周りには誰一人いない。
な、何て冷たい奴らなんだ・・・!
そんな時、馬車の外から女性陣の会話が聞こえてきた。
馬車から顔を覗かせその方向を見ると、何やら只ならぬ雰囲気を醸し出していた。
「・・・しつこいな〜・・・慶太の面倒は私が見るって言ってるでしょ?」
「あなたに何ができるんですか?攻撃呪文しか脳のないあなたが。ここは私が適任だと思いますけど」
「あんたも今は呪文使えないでしょーが!・・・やっぱり・・・将来のお嫁さんである私の愛で・・・///」
「「ふざけんな」」
只ならぬ雰囲気どころではなかった。完全に冷戦状態だ。
・・・きっとあの恭子ちゃんは悪魔の鏡が化けているんだな。まったく、化けるんならもっと言動に気をつけろよ。
「・・・慶太が可哀そう・・・慶太は私に看病してもらいたいはずなのに・・・それをこんなビッチ共に邪魔されて・・・」
あれ?もしかしてあの陽菜も悪魔の鏡が化けたものなのか?
「・・・確かにお兄ちゃんが可哀そうです・・・早く私の『愛情がたっぷり入った』おかゆを食べたいはずなのに・・・」
恭子ちゃんが愛情を込めて作ったおかゆか・・・これが本物のセリフだったら嬉しかっただろうな・・・
「愛情がたっぷり入った?あんたまさか・・・今までにそんなことしてないわよね?」
岡田、恭子ちゃんの手作り料理云々でそんなに怖い顔するなよ。別に毒でも盛られたわけじゃないんだから。
「それは大丈夫だよ。慶太が口に入れる物は私が毎回チェックしてるから。『毒』が混入していたものは全部その辺にまき散らしたりね」
「っ!?あれはあなたがやっていたんですか!?」
衝撃の瞬間。恭子ちゃんが・・・僕に毒を・・?い、いや、あいつは偽物なんだ!
ともあれ僕はするすると眠っていた布団に戻った。
これ以上心臓に負担をかけたくない。そう思ったからだ。
もう一度、今度はもっと深い眠りに就こうとした時、麗しいお姉さまの声が聞こえてきた。
「まぁまぁ・・・それなら一人ずつ交代で慶太君の看病をするって言うのはどうかしら?」
・・・・・・・・・・・・・・・は?
麗しい声とは反対に、その内容は僕のわずかな命をさらに縮める魔法だった。
「そうね〜・・・例えば一人五分の持ち時間で、その間に慶太君の心を射止めた人が引き続き看病できる、とか?」
は、反対だー!!
「「「賛成!」」」
3対1。よって可決。
判決・・・死刑。
フフ・・・天国にいるらしいお父さんお母さん・・・僕ももうじきそちらへ行きます・・・
僕は元来どこの宗派にも属していない。
だがこの時だけは神様に祈っていた。
どこの神様でもかまいませんが、どうか僕にご加護を。
・・・ザッ・・・ザッ・・・
神様が助けてほしければ超えてみよ!と言わんばかりによこした最初の試練。
敵はどいつだ!?
「・・・慶太ぁ・・・って寝てるか・・・」
どうやら最初の試練が始まったようだ。
僕 vs 岡田
「・・・スゥ・・・スゥ・・・」
「フフ、熟睡してるな〜・・・寝ている顔もかわいいな〜///」
成程、そうやって僕をおだてる作戦か。お生憎様、その程度で僕は倒せないよ。
「・・・キスしちゃおっかな〜///」
「うわぁー!!」
開始数秒、すでに僕の負けが濃厚になった。
「あれ?起きてたの?・・・・・・・・・・・・・・ちぇ、もうちょっとだったのに」
「な、なんてこと言うのさ!もっと自分を大切にしなさい!」
いくら冗談とは言え、女の子がそんなことを軽々しく口にするものではありません!
「自分を大切に?」
「そう!キスなんて好きな人以外にしたらダメだよ!」
「・・・へぇ〜・・・じゃあ好きな人ならいいんだ?」
岡田の目が暗く輝いた。その口も不気味なくらい両端がつり上がっている。
はっきりいって怖い。
「もしかして慶太ってば・・・誘っているの?もう〜しょうがないな〜」
何がしょうがないのか分からない。いや、何となく予想はつくけど。
次の瞬間、岡田が僕に覆いかぶさりマウンドポジションを取った。両手両足共に動かすことができない。
「や、止めろ・・・!」
「フフフ・・・怯えてる慶太の顔もス・テ・キ♡」
そのまま岡田の顔が迫ってきて・・・口と口が重なった。
「!」
「ん・・・ちゅ・・・くちゅ・・・」
口は今ふさがれているので声を出すことができない。岡田のどこにそんな力があるのか、体の方もピクリとも動かすことができない。
よって僕は抵抗ができない。
「・・・ぷはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ねぇ慶太・・・私・・・なんだか体が熱くなってきたよぉ・・・」
やっと口を離したと思ったら、今度は艶めかしい声で僕を誘惑してきた。
た、耐えるんだ僕!これは罠だ!もし掛かったら陽菜たちにどんな事されるか分かるだろ!
「・・・熱いよぉ・・・ねぇ・・・慶太が望むなら・・・私は・・・いいよぉ?」
岡田の手が僕の体を優しくなでる。
「・・・私は・・・いいよぉ?」
ハイ。もう無理です。ってかよろしくお願いします。
「・・・いいんだな?」
「うん!」
その瞬間、外から太郎君の断末魔の叫びが聞こえてきた。
第一の試練を友の尊い命と引き換えに突破した僕は、第二の試練に向けて作戦を練っていた。
次は陽菜か恭子ちゃんか・・・
どっちにしろ強敵だ。生半可な気持ちではやられてしまう。
「一体どうすれば・・・!」
その時名案が閃いた。
こっちから相手を翻弄すればいいんじゃね?
・・・ザッ・・・ザッ・・・
足音が近づいてきた。まもなく僕の人生において最大のミッションが始まる。
「お、お兄ちゃ〜ん?///」
2回戦は恭子ちゃんだった。この作戦を恭子ちゃんに使うのはいささか犯罪チックだが、相手は所詮偽物。なら問題はないだろう。
僕 vs マイ・エンジェル(偽物?)
「よく来たね、恭子。さっ、早くこっちにおいで?」
「き、恭子!?え!?う、うん///」
敵もなかなか化けるのがうまいな。まるで本物の恭子ちゃんみたいな反応だ。
だが偽物に僕の攻撃が耐えられるかな?
「もっとそばに・・・」
「あ、はい!・・・なんか今日のお兄ちゃん・・・積極的ですね・・・」
そして恭子ちゃんが手の届くまでの位置に来た時・・・その手を思いっきり引っ張った。
「キャッ!」
そのままベッドに押し倒す。
「お、おおおおおおおおおおおお兄ちゃん!?///」
マウントポジションを取ったまま恭子ちゃんに顔を近付ける。
「恭子は・・・僕の事好き?」
「え!?・・・だ、大好き・・・です・・・///」
敵はこの状況にも動じた様子はない。もしかして悪魔の鏡には嫌悪感というものがないのか?
色々な意味で長引かせるのは大変マズいので勝負に出る。
「なら・・・キスしてもいいか?」
「!・・・あ・・・あぅ・・・お兄ちゃんの・・・好きにして下さい・・・///」
く、くそ!しぶといな!
「本当にいいの?もしかしたらそのまま・・・恭子を食べちゃうかもしれないよ?」
「た、食べっ!?・・・そ、その時は・・・や、優しくして下さいぃ・・・♡///」
分かった降参するよ!もう僕の負けだよ!
ところが僕の降参よりも一足先に・・・魔王様とその手下がこの状況を見てしまった。
まだ5分たっていないのに覗くなんて・・・あんまりじゃないですか?
「な、何やってるのよ!妻がいながら他の女と浮気!?それもこんなガキ相手に!?」
「け、慶太さん・・・見そこないました・・・」
二人が軽蔑の目で僕を見てくる。でもそれすらもどうでもいいように思える。
それくらいの迫力を一人の少女が醸し出していた。にっこりと、優雅に頬笑みながら。
「・・・そっか・・・慶太の気持ちはよーーーーーーーーーーーーーーーく分かったわ♪」
さすが陽菜だ!僕の気持ち、すなわちこれは魔物の正体を暴くために嫌々している事を分かってくれたのか!
そう・・・思い込みたかった。
再び一人にされた僕は必死に祈り続けた。
「お、お願いします神様!魔王様の・・・魔王様の試練だけはどうか勘弁して下さい!」
あんな陽菜を見たのは初めてだ。陽菜の心の中は分からないが、きっとあの目は僕を殺る気だ。
怖い・・・怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い・・・
・・・ザッ・・・ザッ・・・
ヒィィィィィィィイイイイイイ!
自分が毒にかかっていることも忘れて、ここから走り去りたくなった。
布団を頭からかぶり、まるで肉食獣の檻に入れられた動物のごとく震える。
ゆっくりと人の入ってくる気配がした。
・・・短い人生だったな・・・
「大丈夫ですか?そんなに布団にもぐりこんで・・・具合が悪くなったんですか?」
しかし僕の予想に反して、入ってきたのは姉ちゃんだった。
僕 ♡ 姉ちゃん
「ど、どうして姉ち―――祥子さんがここに?」
「私も慶太君が心配なんですよ。いけませんか?」
「いや、全然!むしろ超うれしいよ!」
まさか姉ちゃんの口から素直に心配しているなんて聞けるとは・・・天変地異の前触れか?
「フフ、嬉しいです。それで、もし食欲があるのならこれを食べて下さい」
そう言って姉ちゃんは手に持っていた包みを開けた。そこにあったのはおにぎり。
「中に入れる材量がなくて塩むすびになってしまいましたが・・・」
で、でた!姉ちゃん得意の殺人料理!ま、まさか毒をもって毒を制すってやつなのか!?
「・・・今何を考えましたか?」
「え?こんなおいしそうなおにぎりを食べられるなんて、僕は世界一の幸せ者だなって」
「慶太君ったら大げさですね」
こんなかわいい姉ちゃんを見せてもらったんだ。腎臓の一つや二つ・・・惜しくない!
僕は意を決しておにぎりにかぶりついた。
「!・・・めっちゃうまい!」
な、なんだこれは!?本当に姉ちゃんの手作りなのか!?まるでうま味しか感じないぞ!?
「そんなに喜んでもらえると、こっちまで嬉しくなりますよ」
僕は感動した。こっちの世界の姉ちゃんはなんて理想的な姉ちゃんなんだ。
「・・・あの・・・お願い・・・してもいいかな?」
「何ですか?」
「祥子さんの事・・・二人っきりの時だけ、姉ちゃんって呼んでもいいですか?」
「っ!?」
夢だったんだ・・・こんな素敵な姉ちゃんを持つことが・・・
「・・・それでは私も慶太君の事、弟として扱いますね?」
「そ、それって・・・うわ〜い、やった〜!」
自分でも分かっている。今のセリフがとてつもなくキモイ事が。
でもたまにはいいじゃないか。17年間、耐えてきたんだからたまにはいいじゃないか。
「あ、そろそろ時間ですね。それでは慶太く―――それじゃあね、慶太」
「え〜!・・・もういっちゃうの?」
「またあとで来るから、我慢できるよね?」
「うん!約束だよ!」
今の様子を動画で全世界の人に配信されたら死ねる自信がある。
「フンフンフ〜ン♪」
ずっと夢に見てて、でも無理だとあきらめていた事がついに現実になったのだ。嬉しくてたまらない。
「何してもらおっかな〜・・・膝枕とか・・・してくれるかな///」
きっと気持ちいいんだろうな〜。それで頭とかを優しくなでながら、「眠くなったらねてもいいわよ」とか言ってくれるんだろうな〜。
先ほどの余韻や妄想に浸っていたときに例の音が聞こえてきた。
・・・ザッ・・・ザッ・・・
あ!姉ちゃんが来てくれたんだ!
そう思った僕はベッドに戻り寝たふりをする。
その人物の足音がゆっくりと近づいてくる。あと少し・・・もう少し・・・今だ!
「おそいよ〜!すぐに来てくれると思ったのに!」
姉ちゃんの腰にしがみつきながら拗ねた。
ちょっと脂肪が多いが、それが柔らかくて心地よい。ん?筋トレが趣味の姉ちゃんに脂肪なんてあったっけ?
「最近筋トレさぼってるの?お腹ぷにぷにするよ?」
「・・・アハ・・・アハハハハハハ・・・慶太ったら・・・冗談がうまいな〜」
比喩表現だが、僕に雷が落ちた。
「私がデブだって言いたいの?」
あ・・・あぁ・・・
「抱きついてきたときはやっと素直になったと思ったのに・・・お仕置きが必要だね」
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!」
僕 vs 大魔王(陽菜)
「だ、誰か―――むぐぅ!?」
「だまりなさい慶太」
僕の腕を潰した左手で今度は口を押さえられた。抵抗が何を意味するのか・・・分からない僕ではない。
「慶太は黙ってうなずくか首を横に振るかをすればいいから・・・分かったわね?」
コクッ、コクッ!
「じゃあ第一問。慶太は私の所有物?」
いきなりでそれかよ!?僕はそんなものになった覚えはないよ!
「・・・どうなの?」
・・・コクッ・・・
「んふぅ♪いい答えね。次は・・・慶太がこの世で愛してるのは私だけよね?」
・・・ブンッ、ブンッ!
もちろん陽菜の事は大好きだが、姉ちゃんも恭子ちゃんも岡田も好きだ。太郎君は別として。
だが僕の答えは陽菜様のお気に召さなかったらしい。
「ふごっ!?」
「そんな答え・・・私は望んでないんだけどな〜」
僕の口を掴む手に力が込められる。ア、アゴが!
コクッコクッコクッ!!
「そう、それが正解よ。慶太は私だけを愛していればそれでいいの。絶対に間違えたり、勘違いしたら・・・ダメだからね?」
コクッ、コクッ、コクッ!!
「それじゃあ時間だから私は行くね?今はさびしいかもしれないけど、後でずっと一緒にいてあげるから我慢しててね」
姉ちゃんと似たようなセリフを言い残した後、陽菜は馬車を出て行った。
だがさっきとは僕の気持ちが180度違っていた。
とりあえず一つだけ分かった事は、この世に神なんていないということだった。
「それで・・・慶太はこの後誰に看病してもらいたいの?」
自信たっぷりの表情で陽菜が問いかけてきた。
先ほどのやり取りからして、陽菜以外を選ぶと大変なことになるだろう。
「はぁ〜・・・このあと慶太と結ばれるて、そして・・・キャ〜!!」
「どうしよう・・・今からでも川で水浴びしてきたほうがいいのかな?」
だがこんなにも幸せそうにしている二人を裏切ることができるのか?
「フフ、慶太君は人気者ですね」
本命がいるのに・・・姉ちゃんにずっと看病してもらいたいのに・・・
「・・・早くしなさいよ」
陽菜が昔アニメで見た金髪の青年並みにプレッシャーを与えてくる。
それに耐えかねて陽菜を指名しようとしたその時、
「なぁなぁ、なんかそこで毒消し草を見つけたんだけど」
太郎君がやっちまった。いや、僕にとっては最高に空気を読んでくれたんだけど。
「これが欲しいのかい、早川君?でもこれをただであげるわけにはいかないな〜・・・交換条件だ」
太郎君はいまだに空気を読めていない。
「これと引き換えにお前のハーレムを一人こっちによこせ。できれば結衣で」
最悪だ。このバカは最悪にこの状況が理解できていない。
僕の懸念通り、まず最初に岡田の怒りが爆発した。
「・・・太郎君、だっけ?・・・ちょっとこっちに来てくれるかな?」
「え!い、いきなり皆の目の前で!?し、しょうがないな〜」
「結衣さん・・・私の分も取っておいてくださいね?」
続いて恭子ちゃんも。
「みんなズルイよ!太郎君は私が最初にお相手するの!」
「おいおいマジかよ〜!みんな順番な?じ・ゅ・ん・ば・ん♪」
太郎君のこの鈍感さはある意味幸せかもしれない。僕もこの才能がほしかったな。
・・・でも長生きはできなくなるけど。
「すごいな太郎君は!僕なんか目じゃないね!・・・だから毒消し草ちょうだい?」
「ほらよ!好きなだけ食えばいいだろ!俺はこれから美女のお相手をするんだから邪魔だけはすんなよな!」
そのまま岡田、恭子ちゃん、陽菜の三人を侍らせた太郎君が馬車の中に消えていった。
僕はそれを見届けながら毒消し草を食べる。うぇ、にっが。
「・・・大丈夫かしら・・・彼・・・」
「根拠は全くないけど、きっと大丈夫だよ!」
馬車はしばらくしてからギシギシと大きく揺れ始めた。
「え!?何事!?」
「しー!あの中ではきっといろいろと盛り上がってるんだから、僕たちが邪魔するのは無粋だよ!」
その揺れは数秒で収まった。どうやら太郎君はすぐに限界を迎えたらしい。
馬車から例の美女たちが出てきた。その顔はどこか爽やかさに満ちていて、とてもすっきりとしていた。
「それにしても結衣ちゃんが初体験だったとは意外だったな〜」
「ん〜何度か太郎君相手に考えたんだけど、やっぱりいざとなると足がすくんでね。というか恭子ちゃんの慣れた手つきの方が意外だった
わよ」
「や、やめてくださいよ!恥ずかしいじゃないですか///」
三人の会話に姉ちゃんの顔が真っ赤になった。
ちなみに僕の顔は真っ青になった。
そして太郎君は馬車から出てこなかった。
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
素晴らしい!
太郎の運命やいかに。
太郎君………
太郎は犠牲になったのだ…
キモオタと彼女の人きてた!GJ!次回も裸ネクタイで待ってます!
サトリビトパラレルGJ!
何気なく携帯いじってたら、Eメールの自動転送先が妹に設定されてた
説明書見直したら受信メールが設定先に自動転送されるらしいが、お前らの携帯は大丈夫か?
なにそれこわいってレベルじゃねーぞ
そのまま自動転送のトライアングルで包んでしまえ。
389にキモウトフラグが来たー−−−−
おはようございます。触雷!の者です。
先日は転載いただきありがとうございました。
短めですが、第3話を投下いたします。
「ん……?」
気が付くと、僕は立ったまま、紅麗亜の柔らかい胸に顔を埋めていた。
キスの気持ちよさのせいで、一瞬気をやってしまったらしい。
「紅麗亜」
顔を上げて紅麗亜と視線を合わせると、彼女は気まずそうに表情を曇らせた。
「申し訳ありません。ご主人様」
「え……何が?」
「接吻など生まれて初めてのことですから、つい、加減を忘れてしまいました」
そう言って、顔を赤らめる。意外に思った。
大人びた印象からして、その手のことには相当慣れているのだろうと思ったが、そうではないらしい。
「お嫌いですか? こんなはしたないメイドは」
「いや、そんなことは……」
儚げな様子で尋ねてきた紅麗亜に、僕は反射的に答えてしまう。
すると彼女は表情を輝かせ、両手で僕の顔を挟んだ。
「嬉しいです。ご主人様」
「うっ!」
また口付けをされる。しかも、さっきより強烈に。
「…………」
僕の意識はまたしても遠のき、次に気が付いたときには床に仰向けに横たわっていた。
そして、下腹のあたりに温かい、柔らかい重み。
紅麗亜が僕に、馬乗りになっていた。
「ご主人様。ご奉仕させてくださいませ」
潤んだ瞳で、僕を見下ろす紅麗亜。手を後ろにやってエプロンを外そうとしている。
「あ……」
さすがに、これ以上はまずいと思った。正直、キスだけでも後ろめたいのに……
「ちょ、ちょっと待って……」
両手を伸ばして、紅麗亜を止めようとする。しかし、その手が逆に掴まれた。
「え……?」
「ご主人様……」
紅麗亜は、僕の手を自分の胸へと、強引に導いた。
そのため、僕が両手で彼女の胸を鷲掴みにする格好になってしまう。
「うあ!」
僕は驚いて、思わず目を見張った。
服を着た状態で見ると分からなかったが、大きいのだ。それもとてつもなく。
片手ではとうてい掴み切れず、こぼれそうになる。
「…………」
「ああ……ご主人様。そんなに強くなさっては……」
強くさせているのは紅麗亜なのだが、彼女主観では僕が揉んでいることになっているらしい。
慌てて手を放そうとしたが、紅麗亜は逆に僕の手を引き寄せる。
「もっと、もっと強く……」
「だ、駄目だよ。こんなの……」
「何が駄目だと言うのですか? ご主人様」
「!!」
思わず体がびくりとした。
紅麗亜のあの冷たい視線が、復活している。
「…………」
「駄目なのですか?」
僕に胸を揉ませたまま、高圧的な口調で詰問する紅麗亜。
「駄目じゃ、ないです……」
そう答えるしかなかった。
「結構です。では、お続けください」
紅麗亜は薄く笑いを浮かべ、僕の両手を解放した。
自分で揉めということなのだろう。
僕は背中に冷や汗を伝わらせ、震える手で紅麗亜の胸を揉み始めた。
「あっ、あん……」
それが快感なのか、紅麗亜の口からあえぎ声が漏れ始める。
しばらくすると、彼女は顔を紅潮させながら、またエプロンを外し始めた。
服越しでは飽き足らないということなのか。
「ああ……ご主人様。今度は直に……」
やがて紅麗亜はエプロンをかなぐり捨て、その下の黒い服のボタンに手をかけた。
黙ってその様子を見ているしかない僕。
一体どこまで行ってしまうのだろうか。
いや、答えは分かっていた。紅麗亜が満足するまで、どこまでも行くに決まっている。
「ああ……」
絶望しかかる僕。そのとき、救いの手が差し伸べられた。
ピンポン、という音が鳴ったのだ。
玄関の呼び鈴だった。
「く、紅麗亜。待って……」
「何ですか?」
胸を開けるのを中断した紅麗亜は、不機嫌そうに僕を見下ろした。
ピンポン
「お、お客さんが……」
「放っておけばよいのです」
「そ、そんな訳には……」
「ご冗談を。ご主人様にとって、メイドを寵愛することより重要なことなど、この世にありません」
ピンポンピンポン
「で、でも……大事なお客さんかも」
「例えばどなたですか?」
ピンポンピンポンピンポンピンポン
「ええと。その……」
僕は答えられなかった。心当たりはあるのだが、口に出せる雰囲気ではない。
紅麗亜は、それ見たことかという表情になる。
「ほら、御覧なさい」
ピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン
早く出ろ、と言わんばかりに呼び鈴が連打される。
「で、でも、あんなに鳴らしてるんだから……」
「続けます」
僕の言葉を無視し、ボタンを外していく紅麗亜。すると今度は、ドンドンと激しくドアを叩く音がした。そして叫び声。
「詩宝さん! いますか? いますよね? 開けてください!」
中一条先輩だ!
僕は心臓が飛び跳ねる気分がした。
いや、本当は分かっていたんだ。
さっきの電話の内容と言い、タイミングと言い、あの呼び鈴は中一条先輩以外にあり得ないと。
でも、認めたくなかった。怖いから。
ただでさえ機嫌を損ねただろうに、こんな風に紅麗亜としているところを見られたら……
どんな超ド級の雷が落ちるか、分かったものじゃない。恐れおののく僕。
「く、紅麗亜。先輩が……」
「どうやら、そのようですね。諦めの悪い女です」
僕の恐怖などお構いなしの様子で、紅麗亜はとうとうボタンを外し切り、メイド服の胸を大きく開いてしまった。
ブラはない。片方だけで成人の頭ほどありそうな乳房が、ブルン、ブルンと勢いよく飛び出す。
「さあ、存分にお嬲りください。痛くされても構いません。いかようにも、ご主人様のお好きに……」
「詩宝さん! 早く開けてください! 開けてくれないとドアを破りますよ!」
また、強くドアが叩かれる。僕はガタガタと震えながら、紅麗亜に懇願した。
「す、凄い体してるのは分かったからさ。また今度にしようよ。このままじゃ先輩が……」
「侵入してくるかも知れませんね」
「で、でしょ? だから……」
「見せ付けてやりましょう。私達主従の絆を。あの哀れで頭のおかしい女に」
「そ、そんな!」
「どうぞ。触ってください」
「無理だって!」
「早く」
「…………」
僕は動けずにいた。
いつしか、扉を叩く音も、先輩の声もしなくなっている。
帰ったのだろうか。
紅麗亜もそう思ったらしく、こう言った。
「もう帰ったようですね。所詮、ご主人様への思いもその程度だったのでしょう。ご主人様を真にお慕いするのは、メイドだけなのです」
「…………」
「さあ、ご主人様!」
また要求してくる。僕は仕方なく、両手を伸ばして紅麗亜の、剥き出しの胸に触れた。
「ああん……」
紅麗亜が甘い声を出す。そのとき、ピシッという音が聞こえた。
ピシッ?
ポルターガイストかな?
ポルターガイストだよね?
ポルターガイストだと信じたかった。
だが、音のした方に視線を向けたとき、僕の一縷の望みはあえなく潰えた。
居間の窓の外に、ドレスを着た女性が立っている。
170センチ台半ばに達する長身。グラマラスな体つき。
北欧の血の影響だという、特徴的な銀色の長い髪。
そう、中一条先輩が窓越しに、無表情でこちらを見ていた。
「うわああああああああああ!!」
恐怖の叫びを上げる僕。
先輩が手をついている窓ガラスには、ヒビが入っていた。
特殊な強化ガラスで、滅多なことでは割れないはずなのだが。
凄まじい腕力だ。
「ひいいいいいい!」
僕は、その場から逃げ出そうと暴れた。
しかし、紅麗亜に抑え込まれていて、全然動けない。
そればかりか、紅麗亜の胸に触れている手も、彼女に掴まれて離すことができなかった。
「フッ。まだいたのですか」
紅麗亜は先輩の方を見て、軽蔑の口調で吐き捨てる。そして次の瞬間、何を思ったか、紅麗亜はカクカクと腰を動かし始めた。
「ああっ、ああっ、あん、あん、ご主人様……」
「な、なっ……」
紅麗亜は僕に、馬乗りになっている。
そして腰の辺りは、紅麗亜のスカートで隠れている。
つまり今の状態を傍から見ると……
「ぎゃああああああああ!!」
事の重大さに気付いた僕は、悲鳴を上げていた。
比喩でなく、僕の首と胴がGood Byeしかねない。
しかし、紅麗亜が自発的に止めてくれない限り、この状態からは抜け出せないのだ。
「止めて! 止めて! 止めて!」
必死に頼んだが、紅麗亜は止めるどころか、ますます腰の振りを激しくした。
もちろん僕の両手も離さない。
また、ピシッという音がした。
以上で投下終了です。
前より改行を多めにしておりますが、読み易くなっているでしょうか?
ご指摘があればお願いします。
GJ!
早く続きを…はぁ…はぁ…
GJ!
早く続きをぉぉぉ!寸止めすぎるWW
GJ!でもこんなとこで寸止めとか非道すぎる……
402 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 21:12:28 ID:Cuu6jYr4
派手
な
404 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 22:26:16 ID:4XW9SVRn
GJ!つ、続きを・・・・・・
なんというか
最近の主人公が何かと受身過ぎて酷いありさまだな
406 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 23:11:39 ID:XYn34Zlk
GJ
まあ受け身じゃないとヤンデレは生まれにくいからな
主人公がなんとかヤンデレの心を癒そうとするんだけど結局うまくいかず・・・
な話ってなんかなかったっけ?
超行動的主人公だったらどうだろう…
女→口説くもの。
反抗的な女→犯してでもモノにする。
みたいな陵辱ゲー主人公みたいな奴とか。
「ああん?俺がヤダといったらヤなんだよ。分かってんのかビッチ?」
みたいな超俺様主人公とか…。
409 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 00:47:55 ID:c5R19lHG
反撃を喰らって終わりかと・・・
410 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 00:59:38 ID:84hvcNqU
おまえ
つまり、どうあがいても糸冬了ってことか。
自分で書いて何だが、「どうあがいても〜」のくだりでSIRENみたいな状況を想像してしまった。
「私の元に帰ってきて…永遠に一緒になりましょう…」
「く…来るなよ!ドッカ行けよビッチ!お…俺はお前のことなんて肉穴にしか…」
「つかまえた。コレで私と…一緒。」
「うわああああああああああああああああ」
みたいな…
>>411 他の子と付き合って無理やり・・・なパターンと展開が変わらない点に難があるね
とはいえ
>>407パターンも男が絶望して堕ちるだけだから変化・展開に欠けるなorz
まあその辺をしっとり書けてれば良いんだろうけども
413 :
◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:21:41 ID:mMXCKJ3b
深夜の紳士タイムに失礼します。初なんですが中編くらいで
妄想したので投稿します。
414 :
きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:27:00 ID:mMXCKJ3b
いつの時代にも必ずいるアイドルと呼ばれる女性達。
昭和にピークを迎え平成に入ってからはしばらく下火だったが2010年4月、
日本の歌謡史に残るであろう国民的アイドルが登場した。彼女の名は…
「みんな、今日は来てくれてありがとう!!!」
約55000人の収容数を誇る東京ドーム。
その日本でも有数のドームがたった一人のアイドルのライブで使われていた。
彼女が回りを見回すとそこには溢れんばかりの人、人、人。そして轟くばかりの大歓声。
老若男女を虜にする彼女の歌声と外見は収容数を越える集客力をみせていた。
『アンコール!!アンコール!!アンコール!!』
三回目のアンコールが聞こえる。ライブ終了時刻の9時はとっくに過ぎており、
尚且つ二週間で日本全国を回る強行ツアーの最終日。彼女の体力は限界を超えているが
「じゃあ次の曲行ってみよう!!」
途端に再度沸き上がる大歓声。
彼女は演奏者達にだけ分かるよう"ゴメンね、でも後少しだけ付き合って"と合図する。
誰もが呆れたが悪い気分ではない。彼らも彼女に魅入られた一人だから。
彼女がゆっくりと息を吸ってから
「みんな、行くよっ!!」
ライブは再開した。
皆さんはご存知だろうか?去年の11月にデビューし一気にスターダムを駆け抜け、
僅か半年で国民的アイドルとなった"鮎樫(アユカシ)らいむ"の存在を。
…愚問だったな。
今では彼女の名前は世界中でも知れ渡り、国際的アイドルへ成りつつあるのだから。
日本と小国コーデルフィアのハーフである彼女は透き通るような白い肌に光り輝く金髪、
そして澄んだ青い眼に人形のような端正な顔立ち。確かにこれらも素晴らしいが一番はやはり声だ。
科学的に癒しの効果があると証明されるよう、彼女の歌声には特別な力がある。
言葉が違う外国の人達まで癒されてしまうのだから反則だろう。
長ったらしく鮎樫らいむの素晴らしさについて説明したが、大事なのはそこではない。
俺、遠野亙(トオノワタル)は何と
「皆さん本当にお疲れ様〜!今日も長引いちゃってゴメンね!あ、遠野君タオル頂戴!」
「はい!どうぞらいむさん」
「ありがとう。相変わらず早いわね」
彼女の専属マネージャーだったりするのだ。
415 :
きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:30:50 ID:mMXCKJ3b
彼女との出会いは去年の9月頃だった。
それまでしがない大学生活をおくっていた俺、遠野亙の人生を変える出来事が起こった。
その日はクラスの飲みがあり終電で帰っていた。
後少しで自宅まで来た時、何やら揉めている男女に出くわしたのだ。
というか二、三人の男が一人の女の子をナンパしてるようだった。
女の子が終始黙っているのに苛立った男達が、
彼女を無理矢理何処かへ連れていきそうなところに出くわしてしまったのだ。
「何だコラァ!見てんじゃねぇぞ!?」
「あーん!?テメェガンつけやがったな!?」
「すっこんでろや!!」
何故か知らないが相手を怒らせたらしくいきなり殴り掛かってきた。
「…なんちゅうテンプレな台詞」
一応護身術を習っていたおかげで相手を一掃出来た。まあ何発か喰らったけど。
「…ふう、疲れた」
「合格ね」
「…はい?」
意味不明な発言に振り向くとそこには人形のような美少女が立っていた。
「ある程度腕は立つみたいだし顔も悪くない」
「……えっと」
「言わなくて良いわ。貴方、遠野亙君でしょ?」
「な、何で俺の…」
「そんなことどうでも良いじゃない。とりあえず、君はこれから私の専属マネージャーだから」
そういうと彼女はいきなり俺の手を握った。
「私は鮎樫らいむ。よろしくね」
これが日常の終わり、そして非日常の始まりだった。
まあその後、いつの間にか住所が彼女の住んでいるマンションになっていたり(彼女曰く近くの方が護衛しやすいから)、
大学を卒業したことになっていたり(彼女曰くマネージャーに専念して欲しいから)、
一週間で運転免許を取らされたり(彼女曰くマネージャーは運転も仕事だから)、
携帯が機種変され電話帳が消えていたり(彼女曰くアイドルの情報を漏らさないため)、
俺のことを異常に知っていたり(彼女曰く雇用者のことを知っているのは雇い主として当然のことだから)等々、
非日常的なことがいくつか起こったがそんなこと忘れてしまうくらい彼女は美しく輝いていた。
何より俺をスカウトしてから二ヶ月でレコード会社と契約し
デビューするという実力にはただ圧倒された。
流石にわざわざ日本でデビューするために母国を発った覚悟は伊達じゃないらしい。
416 :
きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:33:49 ID:mMXCKJ3b
「「お疲れ様でした〜!」」
ここはとある居酒屋。そう、鮎樫らいむ初の全国ツアー成功を祝しての打ち上げである。
スタッフは裏方を合わせて100人以上になるので貸し切りだ。
飲み会の手配をするのはマネージャーの俺の役目だが、勿論らいむさんを送る俺は飲めない。
仕方ないのでジュースを飲みながら酔い潰れた人の処理をする。もう慣れたものだ。
ふと前を向くと、らいむさんと眼があった。
彼女は主役なので色々な人に囲まれている。そりゃあ俺だって出来れば側にいたいが…。
"このオジサン達、ウザいんだけど何とかしてくんない?"
"無理です。レコード会社のお偉いさんですよ!次のアルバムも決まってるんですから"
"遠野君はいつも仕事優先なのね。私と一緒にいるの…嫌?"
"そんな訳ないですよ!そりゃあ俺だって出来れば…あ…その…"
"…出来れば、何かな?"
らいむさんが遠くでニヤニヤし始めた。
あの人はこうやって俺をからかうのが好きらしい。
そして自分でも驚いたのだが俺はらいむさんと眼や表情の変化で意志疎通が出来る。
しかも信じられないくらい正確に。
最初はらいむさんも驚いていたけどすぐに「運命…か」とか呟いて納得していた。
俺にはさっぱりだがこの仕事をするには結構便利だ。
「らいむちゃん、もう一杯ついでよ!」
「あ、はい!社長、飲み過ぎじゃないですか?」
レコード会社の社長に肩を触られてキレそうになりながらも、らいむさんはお酌をしていた。
"らいむさん、頑張りましょう!"
"本当は遠野君にしてあげたいけど…それは帰ってからね"
らいむさんの怪しげな笑みにドキッとしてしまった。
「ふぅ、スッキリした」
居酒屋のトイレって妙にお洒落だよな。なんてどうでも良いことを考えていたら誰かとぶつかってしまった。
「っと、すいません」
「も、申し訳ありませんっ!」
どうやら居酒屋の店員だったらしくひたすら謝って来た。
「いやいや、こちらも不注意でしたし。大丈夫でしたから」
「本当に申し訳ありませんでした!」
店員の女の子が顔をあげた。ドキッとした。ときめきじゃない方面で。
「…藤川…さん?」
「…遠野…君?」
なぜならその娘は大学時代の友達だったから。
417 :
きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:37:42 ID:mMXCKJ3b
居酒屋のトイレの前で気まずそうにする二人。
というか俺と大学時代の友達、藤川里奈(フジカワリナ)さん。
「…元気…だった?」
「………」
「えっと…居酒屋で働いてるなんて、知らなかったよ」
「………」
「…その、仕事あるからまたね」
「…何で」
「えっ?」
「何で…何でいきなり消えたの!?何で連絡つかないの!?何でそんな落ち着いてられるの!?何で!?何で!?」
思い切り藤川さんに抱き着かれた。…泣いているようだった。
「…ゴメン、ちゃんと話すからさ」
「…って感じかな」
全て話した。かい摘まんでだけど。
「じゃあ今はあの鮎樫らいむのマネージャー…ってこと?」
「そう。大学行けなくなったのは残念だけど今の仕事、やり甲斐あるし」
「馬鹿じゃないの!?」
思い切り叩かれた。いつぞやのヤンキーより痛いんですが。
「残念?何納得してんのよ!?そんなこと認められるわけないじゃない!」
耳元で怒鳴らないで欲しい。
「アタシがどれだけ探したと思ってんの!?サークルの皆だって心配してたし、
アタシ一週間眠れなくて倒れて!」
「ゴメン…」
何か予想以上に迷惑をかけたようだ。
「…もういい、見つけたから。じゃあ明日から大学行こう」
「えっ?」
「こんなふざけた生活、もう終わりだって言ってるの」
「それは「それは無理な話ね」」
振り向くとらいむさんが立っていた。
418 :
きみとわたる ◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:39:17 ID:mMXCKJ3b
「鮎樫…らいむ」
藤川さんが息を呑むのが分かった。
「遠野君の大学時代のお友達?声が大きくてこっちまで聞こえてきたわよ」
ニコニコとしているが決して笑ってはいない。むしろらいむさんは怒っていた。
「藤川…里奈です」
「そう。藤川さん、悪いけど遠野君はもう大学を卒業したから行く必要はないわ。」
「ふ、ふざけないでよ!彼はまだ三年生で」
「信じられないんだったら学生課にでも聞いてみたら?」
らいむさんはゆっくりと近づいて来て
「帰りましょ、遠野君」
俺に抱き着いた。
「な、な、何してんのよ!?」
藤川さんはらいむさんに掴みかかろうとするが
「藤川さん、止めてください!」
俺がそれを黙って見ているわけがない。咄嗟に藤川さんの手を払った。
「な、何でそんな女を庇うのよ!?そいつは遠野君の人生を!」
「無茶苦茶にはしてませんよ。確かに大学は楽しかったけど自分で学費出してまで
行く価値があったか…今でも分かりません。この仕事は辛いし雇い主は意地悪だけど」
…らいむさん、後ろで抓るの止めてくれますか。
「でも凄くやり甲斐があるし俺はらいむさんに感謝してるんです。だから大学には戻らない。ゴメンね、藤川さん」
藤川さんはただ唖然としていた。
まさかこんな答えが返ってくるなんて予想もしなかったようだ。
「さ、らいむさん。帰りましょうか」
らいむさんも予想してなかったみたいだ。
「…らいむさん、顔真っ赤ですよ?」
「う、煩いわね!!早く車出してよ!!」
さっきの仕返しですよ。
「あ、藤川さんこんな所にいたの!?店長がさっきから呼んで…藤川さん?」
藤川里奈は二人が去って行った方向をずっと見ていた。
「……さない」
「えっ?」
「許さない!!」
「ひっ!?」
振り返った彼女の顔はまるで般若のようで、バイト仲間も思わず後ずさるほどだった。
「そっちがその気なら…アタシだって…」
どす黒い何かがゆっくりと彼女を侵食してゆく。
419 :
◆Uw02HM2doE :2010/06/20(日) 01:42:03 ID:mMXCKJ3b
とりあえずここまでです。連投しすぎると駄目なんで
続きは明日の同じくらいの時間に投稿します。読んでくれた方、
ありがとうございました。
・・・これはGJというべきなのでしょうか?
コピペじゃなさそうだし、sageないし
>>419 GJ!俺は好きだぜ!
ただ次からはsageを忘れずに!
>>419 GJ!
続き待ってます。
でもアイドルの名前が微妙かも…
GJ!
明日も楽しみにしてます!
ヒャアもう我慢できねえGJだ!
アイドルと聞いてアイマスものかと思ったのは俺だけじゃないはず。
アイドルとマネージャ−と大学の友人、この不利な状況を藤川さんがどう覆すか楽しみです。
触雷!の者です。
朝方の続きを投下します。
中途半端で済みませんが、第3話の後編ということにさせてください。
ピシッ、ピシッ……
人外じみた先輩の膂力によって、特殊強化加工の窓ガラスが、みるみる割られていく。
にも関わらず、紅麗亜は僕とのセックス(の真似)を全く止めようとしなかった。
先輩の恐ろしさを知らないのか。それとも分かっていてやっているのか。
どちらにしろ最悪の状況だった。どうにか好転させようと、必死の呼びかけを続ける。
「紅麗亜! 紅麗亜!」
「ご主人様! ご主人様! ああっ! 私も気持ちいいです!」
駄目だった。
むしろ、気持ちよくて相手の名前を呼びましたみたいな感じになってしまった。
どうしたらいいんだ……
途方に暮れていると、先輩が少し窓から離れた。
今日は引き上げてくれるのか。
などと、少しでも期待した僕は、きっと世界一の大馬鹿者なのだろう。
ガッシャアァン!!
先輩の長い足が高々と振り上げられ、窓ガラスを粉砕した。
何のことはない。蹴りを放つために距離を取っただけだったのだ。
ガラスの破片が、部屋の中に飛び散る。
先輩が蹴りの威力を手加減したためか、僕達のところまでは飛んで来なかった。
「そこのメイド……」
そして、腹の底から絞り出したであろう先輩の声は、閻魔大王も逃げ出しそうなほど威圧的だった。
「詩宝さんから離れなさい!」
「ひいっ!」
初めて先輩の顔に表情が浮かんだ。
悪鬼の形相という形容では生温く、怒れる女神そのものだ。
直接命令されていない僕が、脅えて目を閉じる。
しかし、当の紅麗亜はあたかも全く聞こえていないかのように無反応だった。
まさしく馬耳東風といった様子で、相変わらず腰を振っている。
「あっ! ああん! ご主人様、もっと突いてくださいませ……」
「…………」
その様子を見て、先輩はしばらく無言だったが、やがて窓枠に足をかけた。
ドレスの裾が乱れるが、全く気にする様子はない。
ガシャン
先輩の体が、とうとう居間に踊り込んだ。
土足のまま、ガラスの破片を踏み付け、こっちに歩いてくる。
「そう。そういうことなのね」
「え……?」
「気が付かなくてごめんなさい。やっと分かったわ」
何が分かったと言うのだろうか。
「そこのメイドさん。あなた、自殺願望があるのね」
違うと思います。そう言おうとしたが、言葉にならなかった。
「そうよね。そうでもなければ、私の詩宝さんを手にかけるはずがないわ」
先輩は、僕達のすぐ横まで来て足を止めた。
大変なことになりそうだ。それも、後数秒とかそんな感じのオーダーで。
「待って! タイム! 紅麗亜も先輩も、お願いだから1回止めて!」
僕はまた叫んだが、相変わらず何の効果もなかった。
「死にたいなら死にたいって、早く言ってくれればいいのに」
「ああっ! ご主人様! いくっ! いってしまいますっ!」
「今、彼岸に送ってあげるわ!」
先輩のドレスの裾が、“ぶわっ”と翻った。ほぼ同時に、ドォン! という衝突音が響く。
あまりの激しさに、一瞬、家の中で交通事故が起きたのかと思った。
でもすぐに違うと分かる。紅麗亜が両腕で、先輩の右足を受け止めていた。
今の衝突音は、先輩の回し蹴りと紅麗亜の腕がぶつかる音だったのだ。
「何ですって……?」
蹴りを受けられた先輩が、意外そうな表情を作る。
紅麗亜は左手で先輩の足首を掴むと、右手で何かを取り出し、先輩の太股に押し当てた。
「死ぬのは貴女です。ご機嫌よう」
フッと嘲笑う紅麗亜。今までの蕩けたような表情は、もう消えている。
次の瞬間、本当に雷が落ちた。バチバチという音と共に火花が散る。
いや違う。スタンガンだ。先輩の体がビクンビクンと痙攣する。
ようやく僕は、紅麗亜がセックスの振りをしていた理由を知った。
先輩に攻撃させ、スタンガンで反撃するつもりだったのだ。
何故そんなものを持っているのかという疑問は、不思議と湧かなかった。
先輩は大丈夫だろうか。
見ると、さすがと言うか何と言うか、倒れずに持ちこたえている。
そして先輩は、両手で紅麗亜を突き放し、強引に右足を自由にした。
「ふんっ!」
だが、やはりダメージはあったようだ。足がふら付き、立っているのがやっとという様子である。
それを見て、紅麗亜はにやりと笑った。
「止めです」
乳房を露出したまま、立ち上がって先輩に迫ろうとする。
いけない。先輩が殺されてしまう。僕は咄嗟に、紅麗亜の腰にしがみついていた。
「紅麗亜、もう止めて!」
「ご主人様、何を!?」
「詩宝さん……」
「先輩、今日は引いてください! お願いですから!」
「でも……」
そのとき、窓の外から、別の女性の声がした。
「お嬢様!」「ボス!」
姿を現したのは、赤いスーツと青いスーツの、白人の女性2人。先輩の秘書だ。
ここまで、一緒に来ていたのだろう。2人は叫んだ。
「お嬢様、大丈夫ですか!?」
「今日は引き上げましょう。早くこちらへ!」
それを聞いた先輩は、無念そうに言った。
「……メイド、覚えていなさい。詩宝さん、必ず助けますから待っていてください」
そう言うと、先輩は踵を返し、よろよろと窓まで歩きだした。
「ご主人様、お放しください。あの毒蟲に最後の一撃を!」
「だから駄目だって!」
紅麗亜は僕を引きずって、先輩を追いかけた。だが追い切れず、先輩は2人の秘書に助けられて外に出る。
もう大丈夫だろう。僕は安堵し、緊張の糸が切れたせいか、そのまま意識を手放した。
投下終わりです。
感想を寄せてくださった方、ありがとうございました。
まさかのリアルタイム…
とりあえずBad end回避か
430 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 08:13:47 ID:gkgd5M4w
しばらくガラスの無い生活か…寒そうだ
>>413 中編って言われるとWikiのどっちにまとめて良いか迷うな
>>431 一回の投下で完結していたら短編
それ以外は全部長編だったりする(^_^;)
みなさん、こんにちは。
投下します。10レスぐらい使用します。
妹懇編です。
*****
これからの私は、どうしたらいいのか。
過去の私は、どうしていたらよかったのか。
これまで生きてきて、ここまで悩んだことは一度もなかった。
お兄ちゃんへの想いを諦められない、でもどうしても諦められない、なんて二択に取り憑かれたことがあった。
だけど、今抱えている問題は、それ以上に深刻。
家に長く居たくない。家族と話したくない。どんな食事も味気ない。布団の中でも眠りにつけない。
体力と気力が同時にすり減っていく。やつれているのを実感する。
もっといい加減な人だったら、私はここまで悩まない。
だけど、あの人はいい加減どころか、理想のままで、何一つ裏切らない。
良い期待も、悪い期待も。日常のあらゆるところで、そのことがわかってしまう。
理想通りなのは当たり前だ。私の理想の輪郭は、あの人が形作ったんだから。
おもちゃ――ううん、模型作りだけじゃなくて、象徴的なものを作ることまで上手。
模型作りを馬鹿にされて腹を立てて反論してくるような、子供っぽいところがマイナス点ではある。
けど、マイナス部分がプラス部分を引き立てているように見えてしまい、それがまた、嫌になる。
ちょっとでいいから距離を縮めてしまえ、と決断したい。
でもできない。
これまでの私は、そんな素振りを見せることなく、あの人に接してきたんだ。
それに、勘違いを理由にしてこれまでの想いをなかったことにするのも悔しい。
自分が恐ろしく軽薄な人間みたいで、認めたくない。
二人を入れ替えて覚えていたことに気付いてからは、次第にお兄ちゃんへの想いは薄れていった。
そんな薄情なところが嫌になる。
かと言って、自分を偽ってお兄ちゃんへの想いを貫くようなことは、もうできない。
『本当の』お兄ちゃんを想う。
すると、どこまでも想いが続いていく。止まることなく、途切れることなく、一直線に貫いていく。
甘い。手を出したら止まらないほど、甘すぎる。
その甘さは身体に悪い。
でも、手を出したらいけないものは、どうしても魅力的に過ぎる。
動いてしまえば手に入る場所にあるから、誘われているように映る。
もう、諦めよう。
こんな想いそのものがあっちゃいけないんだ。
あの人だって、きっとそう言うに違いない。
決断するのは、これで何度目だったか、もう覚えていない。
決断をすぐに裏切るのも、数えられないぐらい多くて、把握していない。
*****
俺が中学校を卒業したのは、たしか二年ぐらい前の話である。
ちょうど二年前と言っていいのかもな。
しかし、大人の事情や曜日の関係もあり、確実に、一日のズレぐらいはあるだろう。
今から二年前、三百六十五日かける二イコール、七百三十日前の俺が卒業式に出席していたかは定かではない。
だが、同じ中学校の卒業式であるならば、二年前と断言してもかまうまい。
誰も彼もが、そこまで詳しいところまで問い詰めたりしない。
経過した日付までごちゃごちゃ考えるのは俺ぐらいだろう。
高橋は言っていた。「占いは七割合えば完全、八割なら夢想、九割なら異常、それ以上はありえない」、と。
奴の思い付きの台詞を全面的に支持するわけではない。
けれど、ささいな事を気にしないのは大事なことである。
俺は神経質なのかもしれない。
普段から模型作りにて完全な仕事を求めているからだと、決めつけてみる。
今日は、プラモデルを作ることが重要課題ではないのだ。細かいことは気にしなくていい。
俺は中学卒業から、二年を数える歳月を生きている。
今日は母校の中学校の卒業式である。ならば二年前の今日は、俺の中学卒業記念日にあたる。
記念日だからと言って、特にお祝いをすることはない。
親がお祝いをしてくれるはずもない。
ちょっとだけ晩飯を奢ってくれたりするかもしれないが――それは今年までだろう。
今日は妹の通う中学校の卒業式なのだ。
長男の俺と、次男の弟と、末っ子の妹は、全員が同じ中学校に通っている。
いや、過去形にするのが正しいから、通っていた、とするべきか。
今のところは俺と弟だけが過去の話として語れるが、明日になれば、妹も自分の過去として語れるようになる。
それからの妹は、俺の通う高校への入学を果たすまで、入学式を待つだけの身分となる。
うちの高校の入学式で注意すべきは――入学生代表あいさつだろうか。
妹に中学での成績について言及したことはない。
もしかしたら入学試験でトップの成績をおさめた可能性もある。
ということは、妹が入学生代表になるかもしれない。
あれだ。箱の中に入れた猫が生きているか、死んでいるかという、シュレなんとかの猫の話と同じだ。
妹の成績が優秀である可能性があるならば、妹が入学生代表を務める可能性はある。
反対に、成績があまり優秀でないかもしれないから、代表にならない可能性もある。
妹の学業成績が未確定という条件を考慮すれば、確率はフィフティフィフテイなのだ。
まあ、妹が自分の成績を誇ったことはこれまでないから、賭けるなら代表選出に漏れるにするだろうな。
さて、思考実験にふけっている間に、けっこうな時間が経過していたようである。
視線をある地点へ向ける。黒や茶色やその他もろもろの人垣の向こう側、直線距離で二十から三十メートル。
足下の床よりも高い位置にある壇上に、落ち着いた雰囲気のスーツを着た男が現れた。
頭髪は遠目からでもわかるぐらい薄い。おそらく加齢によるものだろう。
しかし、スーツのところどころを盛り上げる体つきが年齢を感じさせない。
筋骨隆々である。相変わらずである。俺が卒業してから二年間不変の、名物PTA会長の登場である。
「みんな、卒業おめでとう!
来月からは高校生ということで、今から緊張している人もいるでしょう!
でも! 勢いさえあればなんでもできる! みんな、怯えるな! 失敗を恐れずに挑戦してください!
私からは以上です! 卒業生のみんな、元気で!」
マイクを使わないPTA会長あいさつが終了した。
マイクを使っていたら超不快なハウリングが発生する、と断言できるぐらいの声量だった。
まったく、相変わらず走りっぱなしの人である。
でも、そこが気持ちいいから、周囲にいる保護者のウケは良好。
妹の中学校の、今年度の卒業式は最高の盛り上がりを見せた。
それは、両親の代理として卒業式に出席しているローテンションの俺に拍手をさせるぐらいであった。
本来両親が参加するのが筋の妹の卒業式に、なぜ兄の俺が参加しているのか。
事態のスイッチは、伯母の病室での一悶着で入ったのかもしれない。
先週の日曜日のことである。
二度と俺に関わらないだろうと踏んでいたのに、予想をあっさり裏切り、伯母が俺の家に現れた。
伯母にくっついていた、その日の玲子ちゃんのスカートの中がブルマだったことを知った時と同じぐらい、衝撃的だった。
玲子ちゃんが突然スカートをたくし上げたのも衝撃的ではあったが、ブルマの衝撃には敵わない。
ちなみに、悪い意味で衝撃だった。
いやね、ブルマとか見せられても、はあそうですか、としか言えないのだ。俺としては。がっかりである。
パンツだったらどうとかいう話をしているのではない。今はブルマの話だ。
小中学校でブルマを見てきた俺としては、あんなものは服である。水着と同じだ。
スカートをたくし上げて、してやったりみたいな顔をした玲子ちゃんが憎らしかった。
その場に両親と伯母がいたので、衝動に身を委ねたりしなかったが、誰も居なかったらなんらかのアクションをとっていただろう。
話が脱線した。元に戻そう。
日曜日の朝のチャイムに応答して玄関を開け、そこに伯母が立っていたときは、我が目を疑った。
同時に、過去の記憶がフラッシュバックした。
しかし、伯母が過去のような虐待行動に出ることはなかった。
伯母が玲子ちゃんと我が家にやってきたのは、退院のあいさつをするためだった。
詳しいところまでは聞いていないが、どうやら伯母はたまに体調を崩して長期間入院するらしい。
安静と投薬治療が必要になるため、入院せざるを得ないそうだ。
その入院時期と、俺の入院時期が偶然重なったのだ。
俺が伯母を刺してできた怪我が尾を引いていて、未だに入院生活と縁を切れないわけではない。
もしかしたら、俺のせいなのかな、なんて思ってたんだよ。
伯母に対しては謝らないが、玲子ちゃんには申し訳ない気持ちだったのだ。
両親と伯母の話が長引きそうに感じ、会話の輪を遠くへ押しやるため、会談の場であるリビングから立ち去った。
弟と妹は出かけていて、昼過ぎにならないと帰ってこない。
そもそも今更になって二人を伯母に会わせることもないなと思い、俺は自室へ引っ込んだ。
しばらくして、工作機材の整理にも飽き、暇を持てあましているところに少女の声が飛び込んできた。
玲子ちゃんだった。俺の部屋の鍵を開けろと言いながら、扉をガンガン叩いていた。
しかし無視した。居留守を使った。非モデラー工作場に入るべからず。
九歳児のカドのない罵詈雑言が止んだ頃、伯母が扉の向こうから話しかけてきた。
返事を必要としない、短い台詞で。
「伯母さんは帰ります。元気でね――――」
俺の名前を君付けで呼んで、伯母は帰っていった。
日曜日の午前中に起こった特別な事は、伯母の来訪ぐらいであった。
しかし、この来訪が思いも寄らない事態を引き起こした。
一週間、両親が家を空けることになったのだ。
父に説明を求めたところ、祖母の誘いで、祖母と両親と伯母の四人が旅行に出掛けることになったらしい。
祖母は子供達も誘ったそうだが、「子供達は学校がある」とか母が言って、俺ら兄妹は自宅に残ることになった。
母の言葉は、母親らしい判断から出た妥当なものだった。
だがしかし、妻としては、家計を管理する者としてはどうだろう。
父の仕事内容は詳しく知らないが、夏はネクタイ無しの半袖、冬はスーツで出掛けるところから考えて、机に座ってする仕事ではなかろうか。
そういう仕事は、明日から一週間会社を休みますと言って休めるものなのか?
学校生活しか知らない俺から見ても、無理に思える。
……クビにならないだろうな、姉妹丼疑惑持ちの父。
もし父が会社をクビになったら、長男の俺の小遣いなど真っ先にカットされるだろう。
携帯電話を持ち続けられるかも怪しい。プラモデル作ってる場合じゃなくなる。
必然的に、アルバイトしないといけなくなる。
通っている高校は、基本的に生徒のアルバイトは禁止している。
例外は、家庭の事情でアルバイトしないといけなくなったケース。
校則的にはクリアできるだろう。家計が苦しくなった原因が家族旅行というのが情けないが。
アルバイト先を選ぶとするなら、第一候補にプラモデルを扱うお店を挙げる。
そう遠くない場所に、多様な品揃えのおもちゃ屋が一件あるので、そこで働けたら嬉しい。
でも、あの店はアルバイトを募集していたことが、過去にあっただろうか。
もしあの店が駄目だとしたら――いったいどこで働けばいい。
スーパーやコンビニなら募集しているかもしれない。
おもちゃ屋で働けなければ、万屋的な店で働くか。背に腹は代えられない。
最悪の場合の想定は一旦置いておくとして。
とにかく、両親が突然の家族旅行に出掛けたために、妹の卒業式に参加する大人がいなくなった。
今回のケースでは祖母まで旅行に同行しているため、俺の卒業式の時みたいに伯母が来ることは不可能。
他の大人、例えば親戚ならば代理をしてくれるかもしれない。
しかしそれでは妹が可哀想である。
卒業式の日に来てくれるなら、近しい身内の方がいい。
おそらく、俺ら兄妹の誰に聞いても、そう答えるだろう。
以上の理由から、妹の卒業式の日に都合が付く身内として、俺が出張ることになったのだ。
父兄には兄という文字も入っているのだから、別に俺が参加したってかまうまい。
弟に参加させるのはなし。理由は、去年中学を卒業したばかりだから。
今年度の卒業生には弟の顔を覚えている人間がたくさんいる。
対して、俺の顔を覚えている卒業生はほぼ居ない。
だったら、俺が出るしかないじゃないか。
当事者ではない俺にはあまり感動できない卒業式が終わり、卒業生と父兄は一旦おのおのの教室へ。
わいわい、がやがや、ばんざい、わっしょい。
卒業生は教師がやってくるまでの時間に、卒業の喜びを満喫していた。
携帯電話の電話番号やメールアドレスの交換、この後に遊びに行く場所の打ち合わせ、窓の外を見て黄昏れる、など。
うむ。だいたい俺の時と同じような光景だ。
二年前の俺がどうしていたかは、あまり覚えていないのだが、友人との談笑を楽しんでいたと思う。
ちなみに卒業祝いと称して友人たちと遊びに出掛けたりはしなかった。
悲しいことに、そこまで仲の良い友人はできなかったのだ。
平凡な行動しか取らない男には、特徴の薄い没個性的な友人しかできないものだ。
高校生になってからも、高橋みたいにどの学校にも居そうな奴としか親しくならなかった。
まあ、高橋みたいな、一見人畜無害、しかしてその実態は年上好きでへんちくりんな話術使いがどこにでもいてもらっちゃ困るが。
あいつは、無個性の仮面を被った変人である。
俺がその事実に気付けたのは、高橋と話し出して数日経ってからだった。
無個性という漢字が書いてあるような奴のマスクは、その話し方の異常ぶりまで覆い隠す。
おそらく、同じクラスの女子生徒の多くは、高橋がクラスメイトであることすら知らないのではないだろうか。
奴は初対面の他人に何の印象も与えないこと、影のように存在感がないことでも定評がある。ちなみに評価を下しているのは俺。
ある意味、高橋は異能力者だ。
羨ましいなんて、デザインナイフの尖端ほども思わないが。
教師がやってきて、各卒業生に名簿順で卒業証書が配られた。
名前を呼ばれて、生徒が返事して立ち上がり、教壇の前で卒業証書授与。
そして一人一人に向けてクラス中から拍手が起こる。
あー、いいなこの雰囲気。
自分の出番が無い、名前が絶対に呼ばれないという安心感が良い。
まさに父兄。誰にでも出来る楽な仕事である。
妹の名前が呼ばれた。
流れに逆らうことなく、窓際の席にいる妹は返事して起立し、教壇へ。
「高校に入学してからもがんばってください」
という教師の声と共に、妹の手に卒業証書が手渡された。
周りに合わせて、俺も拍手をする。わずかに力がこもってしまうのは、身内だから当たり前。
拍手が止んだころになって、妹は自分の席へ着いた。
ふうむ。どうやら妹はクラスで浮いた存在だったりするわけではないらしい。
中学一年生バージョンの妹の行動を見ていた俺からすると、それが意外に思えた。
だってあいつ、昼休みになったら毎日弟の教室まで来ていたそうだぜ?
下校時なんか、俺を無視して弟と二人きりで帰っていたんだぜ?
まあ、これぐらいじゃ「お兄ちゃんっ子な女の子」にしか見えないから、微笑ましいだけだな。
妹を異常な目で見ていたのは俺の方だったのかもしれない。
四月から同じ学校に通いだしたら、またそんな目で見るようになるのかもしれないが。
教師から、教え子への最後の言葉がはきはきとした声で発せられ、それで卒業生達の最後のホームルームは終了した。
教室の後ろに控えていた保護者と一緒に廊下に出て、教室を背にして、今日の主役を待つことにする。
保護者同士でも会話は弾む。一日限定の父兄の俺には話しかける相手も、話しかけてくる相手もいない。
というか、話しかけられたら困る。
まさか、保護者が夜に集まって会合するとか無いよな?
そこまで出る義理はないんだが、この場で断るのも気が引ける。
そんな心配は、俺以外の保護者が周囲に一人も居なくなってから霧散した。
教室から聞こえてくる声も一切無し。
つまり、卒業生は全員帰宅したということ。
「おいおい……」
妹の奴、俺に声をかけずに帰りやがったのか。
いくら俺のことを嫌っているからってそれはやっちゃいけないだろ。
こちとらせっかくの休日を潰してやって来てるんだ。
少しぐらい祝わせろってんだ。
「まったく、も……う」
教室の入り口から中を覗き込む。
すると、中に誰か居ましたよ。誰かっていうと、うちの妹君が。
着席したまま、机に頬杖をつき、窓の外へ視線を向けている。
ふうん。妹でも黄昏れることがあるんだねえ。
最近弟と風呂に入ったりしないのは、卒業式を控えていたせいで憂鬱になっていたから、か。
俺と弟の居ない妹の学校生活は、どんなものだったんだろう。
悩みを打ち明けられたことは特にない。妹の悩み相談室役は弟だが、妹に深刻な悩みは無いらしい。
弟曰く、むしろ最近の妹は悩みが吹っ飛んだ状態だよ、だそうだ。
吹っ飛んだせいでからっぽになっちゃってまた悩んでるみたいだけどね、とも言っていたな。
難儀なものだ。人は完全に悩みから解き放たれることは許されないらしい。
俺は先日、伯母に関することで悩むことはなくなった。
後に残った懸案事項は、俺の腕のこと、弟を取り巻く三角関係、葉月さんの名前の呼び方、とかか。
俺の右肘は夏服を着るまでにはまともに動かせるようになる。
弟については、澄子ちゃんがどうでるか次第だろう。
葉月さんについては、あー……もうちょっとだけ待ってもらうとしよう。覚悟未完了だ。
妹に黄昏れる時間を与えるため、トイレへ向かうことにした。
かつては通い慣れた学舎である。一番近いトイレも、最も遠くにあるトイレだって覚えている。
三番目に近い場所に位置するトイレを選び、足を向ける。
途中、卒業生らしき男子生徒とすれ違った以外、人と会うことはなかった。
職員室まで行けば懐かしい顔を拝めるかもしれないが、やめておくことにした。
世間話を続けられるほど話題豊富ではないし、懐かしむほど親しい教師がいたわけでもない。
現在の担任の篤子女史みたいに個性的なら親交していたかもしれないが、あんな残念な美人はそうは居ない。
というわけで、トイレで用をすませた後はとんぼ返りで妹の居る教室へ向かうことにした。
トイレに行ってから帰ってくるまで、時間にして十分もかからなかったと思う。
十分と言えば、プラモデル作成中の俺が昼食時間にあてる時間とほぼ同じである。
ペーパーでならしたプラスチックボディに、サーフェイサーを段階に分けて吹くときに空ける時間ともだいたい一致する。
それなのに、どうして妹の教室を覗き込んだらこんな事態が発生しているのか。
――わからない。
「この通りだから! お願い!」
「嫌。だって私、たぶんこれから藤田君と会うことないだろうから」
「そうならないためにこうしてるんだって! お願い! お願いします!」
頬杖をついて座ったままの妹と、その妹へ向けて合掌し頭を下げる男子生徒。
男子生徒――妹は藤田君と呼んでいたから、藤田君と呼ぼう。
背丈からして、トイレに行く時にすれ違った生徒は藤田君だろう。
「待ってて、って言われたから待ってたのに、用事はそんなことなの?」
「どうしてもケイタイ番号とアドレスが知りたいんだ! このタイミングじゃないと言いにくくて」
藤田君とやら。君は間違っている。
卒業式当日なら妹から携帯電話の番号とメールアドレスを聞けると思うな。
妹はやむを得ない場合以外、自分の連絡先を教えない。
妹が俺にメールアドレスを教えてくれたのは、救助を求める時になってようやくだった。
電話番号の入手はそれほど難しくなかった。弟にあっさり教えてもらえた。
藤田君。君が妹の連絡先を知りたいのならば、俺に聞くのが一番の近道だ。
たかが妹の同級生でしかない男には、教えたりしないけど。
「だから…………あ、お兄さん」
妹が俺に気付いて、席を立った。
わざとらしい。首を俺に向けて、さも俺を待っていたかのような演技をしやがって。
演技するならもうちょっと凝れ。無表情で俺の顔を見るな。大根役者め。
「家族が来たみたいだから、私は帰るね。藤田君、さよなら」
「ちょ、待って! だからさ」
「あー、もう!」
声を荒げ、妹がでかいため息を吐き出す。
そして、渋々制服のポケットから取り出したのは――携帯電話?
「……赤外線で送るから、受信して」
「うっそ、マジ? 待って、すぐに準備する!」
おおい!
そんな簡単に教えるのかよ。
どういうことだ。今日の妹は卒業できた喜びでおおらかになっているのか。
ということは、俺も藤田君みたいにお願いすれば、妹について知りたいことを教えてもらえるのかも。
後で一つ実践してみようか。
満面の笑みの藤田君と対照的に、妹はやる気無しの表情であった。
送信する、の一声も無しに、妹は携帯電話の操作を完了し、藤田君の方へ向けた。
「お、きたきた……よし! んじゃ今度は俺から」
「いいよ。後で連絡してくれれば、登録しておくから」
吐き捨てて、妹はこちらに向かってくる。
「絶対に連絡するからさ! ちゃんと出てね−!」
弾んだ声の藤田君に向けて、振り返ることなく妹は片手を振って応える。
そして入り口に待つ俺を一瞥し、そのまま素通りしていく。
何か一言ぐらいあってもいいだろ、そこは。
帰りましょお兄さん、とかさ。それか待たせたことに対する謝罪とか。
……この妹にそれを期待しても無意味だな。
そんな事実を再確認し、妹の後を追って帰宅の途に着くことにした。
思うのだが、どうしてこの町の中学や高校というのは高台に位置しているのだろうか。
小学校は道路に面するような位置にあったため、登校が楽だったのを覚えている。
中学校に上がってからは、道路と正門を結ぶ登坂路を通らざるを得ないため、登校が面倒になった。
おかげで高校生になってからは、登校時坂道を登ることをなんとも思わなくなった。
一説では、教育施設は水難などの緊急時の避難場所として機能するため、高台にある必要がある、ということらしい。
まあ、そういうことなら仕方ない。
自問自答しつつ、妹の一歩から二歩後ろに付き、中学校の正門から下界へ続く坂道をいく。
もしかしたら学校が高台にあるのは思春期の若者達を今の間だけ持ち上げるためなんじゃないか、
という仮説を検証しようとしていたら、妹が話しかけてきた。
「ねえ、お兄さん」
「うん、どうした?」
「あの……お父さんとお母さん、いつ頃に帰ってくるか聞いてる?」
「ああ。ばあちゃんの話だと、日曜になるってさ。
明日まではばあちゃんの家で寝泊まりするんだと。俺らも来ないかって誘われたけど、謝っといた」
「そう。……ねえ、お兄さん」
「なんだ、妹」
「えと……お兄さんの学校、今日は休みなの?」
「もう休みに入ってるよ。中学校よりも春休みに入るのが早いっていうのも、どうなんだかな。
言っとくけど、ちゃんとした学校だからな。たぶん中学よりは決まり事多いぜ」
「そんなの、知ってるわよ。……ねえ、お兄さん」
「なんだ、卒業生」
返事が面倒になってきた。会話がパターン化している。特に妹。
「お兄さんはお腹、空いてない?」
「あー、そういやちょうどいいぐらいの時間だな、今」
携帯電話で時刻を確認。
正午を十分以上過ぎている。食欲が昼食を求め、なんでもいいから口に入れろと急かし出す。
「それじゃ、途中の店で何か買っていくか?」
「そうじゃなくって、たまにはその……外で食べるのも……」
「ああ、それも悪くないな。じゃあ、お前の卒業祝いに一杯やるか。せっかくだから弟も呼んでやって」
「ま、待って!」
電話帳で弟の番号を探そうとしたところで、妹が大きな声を出した。
こいつが俺との会話で大声を出すっていうのも珍しい。
ほとんど感情の起伏を見せずに会話を続けようとするからな。
「お、お兄ちゃんは呼ばなくていいわよ」
「いいのか? 弟が居なくても」
「だって……わざわざ呼ぶのも悪いじゃない。歩いて数分って距離でもないんだし」
「それもそうだな。んじゃ、あいつに一人で飯食えってメールしとく」
タイトル無し、本文が二行程度の短いメールを弟宛てに送信する。
送信完了の表示を確認。携帯電話を畳もうとしたところで、拒むかのように着信音が鳴った。
見慣れない番号だった。名前が表示されないところからして、電話帳には登録されていない。
しばらく放って置いたが、いつまでも鳴り止まない。
もしかしたら祖母か両親からかも、と思い直し、通話ボタンを押して電話に出る。
「もしもし」
「あ、俺俺、雄介! いつまでも出てくれないから無視されてんのかと思っちゃったよ。
でさ、今から早速遊ばない? 今近くのカラオケ屋にいるんだけど!」
「あの、番号間違えてませんか?」
「え……声が違えし。あっれ−?
すんません、まちがえましたー!」
謝罪と共に通話が終了する。
ユウスケ、という知り合いは俺の友人には居ない。
まあ、春だものな。
浮かれた若者のユウスケ君が俺に間違い電話をかけてきても何も不思議はない。
ユウスケ君に恥をかかせないため、彼の番号は着信拒否することにした。
これで彼は楽しくカラオケで歌うことができるであろう。
そんなことより、妹の卒業祝いの方が今は大事だ。
「どこで食べたい? あんまり選択肢もないけど」
「んと……じゃ、ファミレスで」
「ファミレスねえ。この辺りじゃあそこしかないから、ちょっと歩くことになるぞ」
「別に構わないわよ。行きましょ、お兄さん」
そういえば、退院した日に妹と立ち寄った場所もファミレスだった。
こいつ、好きなんだなあ、ファミリーレストラン。
これからもたまに誘ってやろうかな、弟と一緒に。
今回は以上です。
ちなみに、妹懇と書いて「しすこん」と読みます。
妹と懇になるだけなので、たぶん次あたりで妹懇編は終わります。
キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
これはもしかしてもしかすると妹デレちゃうのか!?
そして実妹である妹と腹違いの妹の玲子ちゃんの壮絶な修羅場が待ってたりするのか!?
とりあえずGJ!!そして次回に期待!!
さすが我らがお兄さん、GJ!
よし、いいぞ!!妹のデレ。
玲子ちゃんとの妹バトルや葉月さんとのジミー争奪戦は楽しみでゴサル。
やはり、素っ気無かった女の子がデレるのは萌えるナァ〜葉月さんは次回登場期待。
藍川がデレてジミー争奪戦に参戦する事を望んでいるのは俺だけでいい
ヤンデレ家族が来たか…なんとか来週も頑張れそうだ。
GJ
今後の展開に期待!!
>>449 何という俺
葉月さん最近空気だなぁ……
gj!
誤字がありました。
>>434の
>お兄ちゃんへの想いを諦められない、でもどうしても諦められない、なんて二択に取り憑かれたことがあった。
は、
>お兄ちゃんへの想いを諦めたい、でもどうしても諦められない、なんて二択に取り憑かれたことがあった。
が正しいです。失礼しました。
454 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 18:19:47 ID:r0QCwwEC
>>445 GJ
次が気になるがマイペースに更新して下さい
ヤンデレに彼女とデートの現場を見られたい
ところで、毎回最初の回想(?)って、ジミーのオカンの過去話なんかな
今回はジミーの妹の想いだろう
というか、毎回毎回違うと思うよ。一時期はジミーの叔母の回想だったし
おいおい…妹編があと一回って
妹が一番好きな俺には鬼畜の所業だぜ?
今更になりますが長編ということで了解してください。
今回は間章が入ります。
稚拙な文ですがご容赦ください。
投下始めます。
第3話(少年編)
8月末・残暑がつらい昼前
「やぁ、ちょっと遅れたかな?」
適度にクーラーの効いた店内にボーイッシュ(過ぎる)美少女が入ってきた。
アースカラーで統一された目に優しい配色の店内は昼の時間帯から、結構混雑していた。
「平気平気。美鳥(みとり)より10分以上早く来たヤツは居ないから」
6人掛けのテーブルの向かいに座る少女・久堂 律花(くどう りつか)が軽く笑いながら言う。
言い回しをしているが、要は「皆来たばかりだよ」ということだ。
「や、裕介君より遅れてしまうとは。不覚」
「俺ってそんなに遅刻魔でしたっけ?」
「いつも見習うべき模範生だね。」
「言ってることが変ですよ?」
「あまり細かいとモテないよ?」
「・・別にモテなくてもいいですよ」
向かいに座る少女がニヤニヤと下世話な笑みを浮かべていた。
「美鳥と話してる裕介って、楽しそうな顔してるよね〜」
「そんなことは無いですよ」
「嘘つけ〜女殺しの微笑み浮かべちゃってさ」
「まぁ、私は楽しいけどね」
屋九嶋が笑いながら冗談とも本心ともつかないことを言う。
「・・・なぁ、そろそろ本題に入らないのか?」
隣のイスに座っていた長身の少年が会話に割り込んだ。
長身で細身な体格の少年・日向井 啓(ひむかい けい)は中学からの友人だ。
「ゴメンゴメン、女子にはこういう話題っていい娯楽だから」
「入り込めない世界を構築されたらこっちは聞き流すしか選択肢が無いんだ。こっちの事も考えてくれ」
「んー・・・善処するよ」
「それって遠まわしに無理と言っていないか?」
「うん」
「お前性格悪いな」
「前から知ってるでしょ?」
「・・・・・」沈黙の肯定。
「で、律花さん。今日俺らは何で呼び出されたんですか?」
今度は俺が割って入る。
「あ、そうだね・・ゴホン、本日諸君らに集まってもらったのは他でもない」
物々しい咳払いの後、久堂は両手を広げて尊大な態度で説明を始める。
その大仰な語りと仕草に久堂の軽快な声はミスマッチ甚だしい。
「本日商店街を中心に開催される夏祭りについてだ。・・この祭はこの街に限らず近隣市民にとっても夏の最期を飾る一大イベントとして
毎年約二千人近い祭客が来るとも統計で出ている。当然我々もこの街の住人として参加せねばならぬと思い、こうして皆を呼んだのだが・・・」
「普通に『一緒に祭に行こう』って言えばいいだろ」
啓の発言にクワッ!と目を見開く久堂。
「痴れ物がッ!黙っとれヒョロノッポ!」
古風なのか単にふざけてるのか判らない口調で叫びながら啓の脳天にチョップを繰り出す。
啓は振り下ろされた手刀を受け止め、そのまま捻る。
「誰がヒョロノッポだ、バカ!」
「イタタタタタタ!痛い!い、痛い!ギブギブギブッ!!」
「そのへんで止めてあげたらどうかな、啓君」
屋九嶋の仲裁が入ってやっと収まる。
夏休みでも変わらないいつも通りの風景に思わず苦笑した。
不慮の事故によりローカルエリア接続が切れ、中断されてしまいました。
改めて再投下させていただきます。
第3話(少年編)
8月末・残暑がつらい昼前
「やぁ、ちょっと遅れたかな?」
適度にクーラーの効いた店内にボーイッシュ(過ぎる)美少女が入ってきた。
アースカラーで統一された目に優しい配色の店内は昼の時間帯から、結構混雑していた。
「平気平気。美鳥(みとり)より10分以上早く来たヤツは居ないから」
6人掛けのテーブルの向かいに座る少女・久堂 律花(くどう りつか)が軽く笑いながら言う。
言い回しをしているが、要は「皆来たばかりだよ」ということだ。
「や、裕介君より遅れてしまうとは。不覚」
「俺ってそんなに遅刻魔でしたっけ?」
「いつも見習うべき模範生だね。」
「言ってることが変ですよ?」
「あまり細かいとモテないよ?」
「・・別にモテなくてもいいですよ」
向かいに座る少女がニヤニヤと下世話な笑みを浮かべていた。
「美鳥と話してる裕介って、楽しそうな顔してるよね〜」
「そんなことは無いですよ」
「嘘つけ〜女殺しの微笑み浮かべちゃってさ」
「まぁ、私は楽しいけどね」
屋九嶋が笑いながら冗談とも本心ともつかないことを言う。
「・・・なぁ、そろそろ本題に入らないのか?」
隣のイスに座っていた長身の少年が会話に割り込んだ。
長身で細身な体格の少年・日向井 啓(ひむかい けい)は中学からの友人だ。
「ゴメンゴメン、女子にはこういう話題っていい娯楽だから」
「入り込めない世界を構築されたらこっちは聞き流すしか選択肢が無いんだ。こっちの事も考えてくれ」
「んー・・・善処するよ」
「それって遠まわしに無理と言っていないか?」
「うん」
「お前性格悪いな」
「前から知ってるでしょ?」
「・・・・・」沈黙の肯定。
「で、律花さん。今日俺らは何で呼び出されたんですか?」
今度は俺が割って入る。
「あ、そうだね・・ゴホン、本日諸君らに集まってもらったのは他でもない」
物々しい咳払いの後、久堂は両手を広げて尊大な態度で説明を始める。
その大仰な語りと仕草に久堂の軽快な声はミスマッチ甚だしい。
「本日商店街を中心に開催される夏祭りについてだ。・・この祭はこの街に限らず近隣市民にとっても夏の最期を飾る一大イベントとして
毎年約二千人近い祭客が来るとも統計で出ている。当然我々もこの街の住人として参加せねばならぬと思い、こうして皆を呼んだのだが・・・」
「普通に『一緒に祭に行こう』って言えばいいだろ」
啓の発言にクワッ!と目を見開く久堂。
「痴れ物がッ!黙っとれヒョロノッポ!」
古風なのか単にふざけてるのか判らない口調で叫びながら啓の脳天にチョップを繰り出す。
啓は振り下ろされた手刀を受け止め、そのまま捻る。
「誰がヒョロノッポだ、バカ!」
「イタタタタタタ!痛い!い、痛い!ギブギブギブッ!!」
「そのへんで止めてあげたらどうかな、啓君」
屋九嶋の仲裁が入ってやっと収まる。
夏休みでも変わらないいつも通りの風景に思わず苦笑した。
やや泣き目になっている久堂が啓に捻られた手首を摩りながらグッタリしている。
啓は不機嫌な様子で、屋九嶋は久堂を見ながら曖昧な笑みを浮かべていた。
「うぅ・・痛いよぉ・・・」
「黙れ。チョップしてきたお前が悪い」
「啓が酷いよ美鳥ぃ〜」
「今回は先に手を出した律花が悪いね」
「うぅ・・・いいもん!裕介は私の味方だよね!」
俺に振られても困る。
「面倒ごとは嫌です」
「うわぁーーーーーんっ!」
テーブルに突っ伏して泣き真似をする久堂。
小柄な体型と童顔が相まって結構愛らしい姿なんだが今はそこはかとなく哀愁を漂わせている。
だんだんしゃくり上げる声が漏れて来る。
本当に泣いていた久堂を俺と屋九嶋で宥めること約十分。
この程度・・って言うのも酷だけどこれくらいで泣き出す久堂の外見どおり過ぎる子供っぽさには少し呆れた。
結局、祭は泣き止んだ久堂の主張で「今日の夜6時半に集合だからね!」と議決。
議決と同時に解散し、各々が家路に着く。
まだまだ活きのいい炎天下の中、自転車を使わなかった事を後悔した。
「自転車だったら風を切って気持ちよかっただろうにな・・」
頬を伝う汗が首筋に落ちる。
「?」
誰かに呼ばれたような気がした。・・暑さにやられて幻聴でも聞こえたか?
「・・・・〜〜〜」
「??」
だんだんと音源が近づいてくるように感じた。
「・に・・〜〜〜」
「に?」
ついでに金属が擦れるような聞き慣れているようで思い出せない音が付随する。
「なんだ?」
音は遂に背後から聞こえた。
「無視すんなバカ兄貴っ!」
背中に衝撃が奔り、前屈みに倒れそうになる。
バランスを整え、痛む背中を摩りながら振り返るとそこには見慣れた銀色の自転車と和沙がいた。
さっきの衝撃は和沙が停めた自転車を支えにとび蹴りをしたらしい。
和沙が詰め寄ってくる。ただ、怒りは感じるがあまり怖くない。
「こんな可愛らしい妹が呼んでいるのに無視するとはどういう了見だ!、いっぺん冥土の旅へいって来いやゴルァア!」
思わずため息が出る。幻聴じゃなくて良かった。
「可愛いと思ってるなら言葉遣いに気をつけろ。身内ひいき抜きにしてもお前は可愛いんだからさぁ・・」
「っ・・!ちょ・・兄貴・・何言って・・・・・・・・」
何か言いよどんだと思ったら途端に真っ赤になる和沙。いったいどうした、熱病か!?
まぁ、自分でも恥ずかしいことを言ったとは思ったが一応本心だ。
しかし俺は断じてシスコンではない。たとえ現実、それを誰も肯定してくれないとしても俺はシスコンではない。
ふと和沙の乗ってきた自転車を見る。
「和沙、何故俺の自転車がここにある?」
我に返ったように顔を上げる和沙。顔はまだ赤い。
「二人乗りしよ♪」
「・・・・・・・・・・・」
「なんでそこで黙るの!?」
体力的には問題無い。例え二人乗りする相手が啓だとしても・・なんか男同士で二人乗りって寂しいな・・苦も無くこぎ続けることができるだろう。
しかしそれなりに田舎要素の高いこの街で妹と二人乗りしようものなら夏休み中には完全に知れ渡り俺のシスコン疑惑を確固たるモノに変えるだろう。
否定ならいくらでもしてやる。・・だが俺と和沙以外の全校生徒相手ではあまりに多勢に無勢。
そんなワケで、
「嫌だ。」
「一言で済まされた!」
「嫌。」
「二文字になった!?」
「面倒臭い」
「それが本心か!見損なったぞ兄貴!シスコンの風上にも置けないヘタレ兄貴め!」
・・お前もか
某・超誇大妄想狂ではないが自分の認識と周囲の認識の合致によりひとつの現実が出来上がるとすれば、俺が否定し続ける限り俺自身はシスコンではない!和沙がブラコン気味なだけだ!
「じゃぁな」
もう帰りたい。頭から爪先まで直射日光で焼けそうに熱い
俺はまだ真っ白に燃え尽きたくはないんだよ。
「待ってよ兄貴!イヤだよ置いていかないでよ!」
「自転車あるだろ」
「兄貴と一緒に帰りたいんだよぅ・・・」
結局、二人乗りで帰ることになった。俺は相当な甘ちゃんだった。
幸い誰にも見られずに済んだが、もし見られたらどうしようかと気が気ではなかった。
間章
某日某所・昼前の住宅街
「賢一、ここは何処だ?」
凛とした声が俺に問う。
「親戚の家だよ」
目の前に建っている立派な一軒家。要家の表札。
生活感の感じられない、生活感の存在しない一軒家。
住人は既に居ない。何故か売られることもなく取り壊されることも無く、そこに在る。
躊躇いも無く玄関に入り、靴を脱ぐ。
埃の積もった廊下を歩き、様々な感情を込めてため息を吐く。
既に居ない、顔も覚えていない住人のことを思いながら部屋を見て回る。
自分の手を握る気の強い恋人を視界からはずし、思い馳せる。
森山大吾は大切なものを諦め、捨て、それでも、せめてもの幸せを守ろうとした。
始まりはとある秋の夜だった。
下腹部に妙な重量感を感じた大吾は目を覚ました。ぼんやりと目を開ける。
重量感の正体は隣部屋で寝ているはずの妹だった。
何のつもりか知らないが、下腹部に跨る妹は目を覚ましたことに気付いていないようだ。
視線を下げ、絶句した。
結合部を晒す自分と妹の性器。
窓から入る外灯の明かりを返すドロリとした液体と一筋の赤。紅。朱。
悪夢だと思った。悪夢だと思いたかった。
体の奥底まで突き抜ける快感が希望的観測を完膚なきまでに否定した。
森山大吾は実の妹に犯された。
大吾は問い詰めた。怒りではなく、悲しみだった。
対して、妹の口から帰ってきたのは愛だった。
間違っている。異常だ。狂っている。
否定の意は決して届かなかった。
一人の学生でしかない大吾に逃れる術は無かった。
翌年、妹の妊娠が確定し
大吾は自分の未来を諦め、実の妹との婚姻に至る。
交際を続けていた恋人とも別れ、噂は尾鰭を付けながら回っていった。
そして枷が外れたように、大吾は狂った妹の要求に応え続けた。
両親は諦観の面持ちで、反対することはなかった。
自分の思い描いた未来は打ち壊された。だが子供には未来がある。
せめて真実を隠し続け、我が子には幸せに思える将来を掴んで欲しい。
可能性はできる限り回避策をとった。
通っていた高校を卒業し、進学とともに妹を連れて県外のマンションに引っ越す。
親族に反対する者は一人も居なかった。事情を知って、ただ諦観の念を露にする。
大学を卒業し、就職。
そして数年後。
安定し二人の息子をもち、軌道に乗った生活。
いまだに時折『要求』をする妻である妹は、再び妊娠した。
そんな折、悲劇の芽は芽吹いた。
一本の電話。
かつて恋仲だった女性。大吾が最初に失った将来。
要 美佐子(かなめ みさこ)だった。
久しぶりに会いたいという彼女の要望に応え、出向いたのが芽だった。
数年ぶりに会った美佐子は百人が百人、目に留めてしまうほどの美女になっていた。
視線が気になり肩身を狭くした大吾に対し、美佐子は堂々としていた。
人通りが無くなった夜の住宅街に辿り着く。
別れ、家路に着こうとした大吾の背後で、美佐子はまるで携帯電話を取り出すように、黒い金属を取り出した。
小さな電光。
背後を気にも留めなかった大吾は一撃で気を失った。
・・・・・・・
・・・・・
・・・
「おい、起きろ賢一!」
頭を叩かれる。
薄ぼんやりとした視界に白い、というより色素が抜け落ちたような長髪が映る。
「私と一緒に居て寝てしまうとは酷いヤツだお前は!」
「あぁ・・俺寝てたのか。ごめんな、葵。」
そういえばリビングのソファーに腰掛けたあたりから記憶が無い。
「もういい、帰るぞ」
「はいはい、わかりましたよ姫様」
「誰が姫様だバカ!」
また頭を叩かれる。赤くなった葵の微笑ましさになんとなく苦笑してしまう。
「な、何故笑う!?」
夏の夕日を背に浴びて
前を歩く白い髪を見送りながら森山賢一は家路に着いた。
夕暮れの商店街
祭りの会場である商店街には、既に人の海が出来上がっていた。
シャツの端を掴みながら後ろを歩く和沙。
度々衝突しながら睨み合い続ける啓と久堂。
その様子を見て何か含んだ微笑を見せる屋九嶋。
「・・・・何故付いて来た?」
「兄貴だけじゃ心配だから」
「俺はもう子供じゃないってのに・・そもそも俺の方が年上だろうが」
「まぁまぁ兄妹お二人さん、折角の祭を楽しんだらどうだい?」
いつもの調子で炭酸飲料を煽る屋九嶋。
なんか、こう、女らしさが薄すぎる気がした。
祭の夜は始まったばかりで、先生方や警察官の皆さんも今日ばかりは街に目を光らせている。
時間いっぱい楽しんでおこう。
夜の病院から喧騒を覗く長身と白い髪。
喧騒を離れ、怯えるように部屋に篭る少年。
喧騒など知らぬ顔で何かを画策する少女。
十人十色に夏の最期を飾っていった。
ご迷惑をおかけして重ね重ね申し訳ありません。
今回で大体役者がそろいました。
頑張って完結させようと思います。
できの悪い部下を見るように見届けてください。
すみません、言い忘れました。
投下終了です
乙です
屋九鳩が静か過ぎて逆に怖い
472 :
きみとわたる:2010/06/21(月) 02:14:50 ID:S2MbXxzu
昨日投稿したものです。第二話投稿します。
大した文章ではないですが読んでもらえれば幸いです。
「ただいま〜!」
「って俺の部屋ですけどね、ここ」
高級マンションの一室。というか俺の部屋に帰ってきた時にはもう1時を回っていた。
「らいむさん隣なんですから自分の部屋行ってくださいよ」
「良いじゃない、減るもんじゃないし。それにルール違反」
「あ、えっと…」
「何々?」
「お、お疲れ…ライム」
「よく出来ました」
そういってまた抱き着いてきた。そして
「ご褒美あげる」
キスしてきた。
鮎樫らいむは本名ではなく芸名だ。彼女の本当の名はライム=コーデルフィア。
何と小国コーデルフィアの王家一族なのだ。
彼女は「一族って言っても末端の方だし王家とは関係ないわ」とか言っている。
しかし現に気品や財力はそこから来ているのだろう。
ちなみにルールとは二人の時は名前で呼び合い(彼女場合は本名)、敬語を止めること。
出来ないと彼女の機嫌を損ねるから結構大変だ。
「っぷはぁ!」
「っはぁはぁ」
長かった。2分はしてたと思う。しかもディープだったし。
「どうだった?」
「どうって…まあ…その…良かったよ」
ライムを見ると完全ににやけていた。まあ俺も顔真っ赤だと思うが。
「ねぇ…亙」
抱き着いて来るライム。こりゃあDはあるね。感触的に。
「ど、どうした?」
「…しよ?」
俺を潤んだ眼で見上げながらライムは言った。破壊力抜群だこんちくしょう。
「な、な、な、な、何言ってんだ!?お、俺はマネージャーだぞ!?そ、そんなこと」
「私とじゃ、嫌?」
「嫌な訳ない!嫌な訳ないけど」
「……藤川さんの方が良いの?」
「えっ?」
自分の欲望と必死に格闘していると何故か藤川さんの名前が出た。ライムを見ると
「私より…アイドルの私より藤川さんを取るの?」
澄んでいるはずの彼女の青い眼は淀んでいて
「そんなに良い人なの?あの子」
痛いくらい強く抱きしめられていた。
「ライム、俺は」
「そんなのダメ!!」
彼女の震えが伝わって来る。爪が食い込み俺の背中から血が流れる。
「聞いてくれ、ライム」
「………」
「俺が迷っていたのは藤川さんどうこうじゃない。あの人は関係ないんだ」
「でも二人っきりで」
「あれは聞かれたから答えただけだよ。俺が迷ってたのは」
しっかりとライムの眼を見つめる。まだ淀んでいた。
「俺がライムを傷付けてしまうかもしれないってことだ」
「私を…傷付ける?」
「俺はマネージャーだ。君を守らなきゃいけない。なのに君を…君を犯すなんて」
「犯してよ」
「なっ!?」
ライムは俺を見つめて言った。瞳は淀んで光を映さない。
「私を犯して。消えない傷、付けてよ。亙の物だって皆に見せ付けて」
ライムが足を絡めてくる。自然と二人はくっついてゆく。
「…良いのか?もしバレたら」
「本当は待ってるつもりだった。亙から来てくれるのを。でも怖くなったの。
誰かに取られたら、私壊れちゃうと思うから」
「分かった。…ライム」
「…何?」
「あ、愛してる」
「…ギリギリ合格」
俺はライムをベットに押し倒した。
今が何時なのか、全く分からない。
分かっているのは二つの影がうごめいていて、部屋には雄と雌の匂いが充満しているという事実だけ。
「んあぁぁぁぁあ!!」
「くっ!!」
もう何度目か分からない射精。ライムの中にぶちまける。
結合部は愛液と精液が混じり合い何処からが俺で何処からがライムか分からなくなっていた。
「…あ、ひあぁぁぁぁあ!!」
「ぐっ…!」
腰の動きを再開する。数時間前に処女を奪った時とは違い、滑らかに出し入れ出来る。
「あっ、あっ、わ、わらるぅ」
「ライムッ!」
お互いに呼び合い抱き合う。感じるのはお互いの温もりだけ。
快感が二人を支配していた。
「わらるぅ!わらるぅ!」
「ライムッ!ライムッ!」
膣内は精子でドロドロだが依然亙のモノを締め付けて離そうとはしない。むしろ…
「ぐっ!…くっ…!」
依然にも増して射精を促していた。亙も負けじとライムの乳房を揉みしだく。
「んあっ!おっぱいはぁ!ら、らめなのぉ!」
どうやらライムには弱点が二つあるらしい。
「こりゃD、いやEかな」
その一つは乳房。特に乳首を弄られることだ。豊満な胸を揉みつつ桜色の乳首を押し潰す。
「ひ、ひぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「効果ばつぐっ!?」
急激に膣内が締まる。まさにカウンターだった。思わず
「っ!!」
「んあぁぁぁぁぁあ!!」
膣内に出してしまった。
「はぁはぁ…とんだカウンターだ…」
「あ、あ…つ…い」
もう一つの弱点を、淫核を触る。
「ひぁっ!?」
すでに剥けており精子と愛液で濡れていた。
「ライムはここ、一番弱いな」
コリコリしている淫核を捏ねくり回す。
「んあぁぁぁぁぁあ!!そ、そこはぁほんとろりらめらろぉ!」
泣きながら訴えるライム。…それ完全に逆効果なんですが。
「…マジそそるわ」
淫核を弄りながら思い切り膣内を突く。すでにお互い汗まみれだった。
「っあぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
「はぁはぁ…!」
室内に響く肉のぶつかる音。飛び散る体液の音。そしてライムの嬌声。
全てが俺を支配する。
「あひぃ!あ、あひぃぃぃぃい!!」
下半身が暖かい。どうやらライムが失禁したようだ。だがお互いまだ昇り詰めてはいない。
「ライム、キスしよ」
「ひあぁぁぁあ!んむっ!?」
白目を向いているライムと無理矢理キスをする。舌を絡めあってお互いを感じあう。
「っはぁ!ライムもうイくぞっ!!」
「ぷはぁ!あひぃぃぃぃい!あぁぁぁぁぁあ!」
すでに意識は飛んでいるようだった。しかし膣内は痛いくらい締め付け、射精を促す。
「イくっ!!」
「!!ひぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
ライムを抱きしめながら最奥へ射精した。ライムは舌を出しながら絶頂している。
射精は30秒近く続いた。あれだけ出しておきながらまだこれだけ出るとは、我ながら絶倫である。
「はぁはぁ…」
「ひ、あ、ふっ、あ…」
ライムを抱きしめながらベットに倒れ込んだ。
眼が覚めると天井が見えた。暖かい感触。
隣には俺に抱き着いてスヤスヤと寝息をたてるライムがいた。
「俺達、しちゃったんだな」
呟いてから実感する。俺は国民的アイドルを抱いたんだって。
優越感や不安感、その他の感情が混ざり合う。しかしやはり嬉しい。
自分の好きな娘とこんな関係になれたのだから。
「付き合えるんだよな、ライムと」
「そうだよ」
「うおっ!?」
横を見るとそこにはライムの顔が。心なしか肌が艶っぽい。眼はもう淀んではいなかった。
「おはよう、亙」
「おはよう、ライム…って言っても昼過ぎだけどな」
「どうりで明るい訳ね。今日お休みで良かった」
「敏腕マネージャーで良かった?」
「フフッ、そうね。じゃあ敏腕マネージャーさんにご褒美」
軽いキスをされる。ライムの肩を抱き寄せる。
「あのさ」
「何?」
覗き込んでくるライム。澄んだ青い眼。…やっぱり可愛いじゃねぇか。
「ライムって…エロいんだな」
「なっ!?」
途端に顔を真っ赤にする。訂正。可愛いなんてレベルじゃない。
「シーツが使い物にならないくらい乱れるとは」
「し、仕方ないじゃない!き…き…」
「き?」
「き、気持ち良かったの!!」
「………」
「で、でもそういう事が好きとかじゃなくて、亙だから気持ち良いんだからね!?」
「ライム」
「な、何よ…」
「それ以上そそる事言ったら俺、我慢出来ないわ」
「は?別にそそるような事なんて言ってないけど」
無意識か。何という恐ろしさ、そして破壊力。
「そういえば…大丈夫かな」
「どうかした?」
「いや、あれだけ中に出したからさ。避妊とか全く考えなかったし」
「うーん…。私としては既成事実が出来た方が都合良いんだけど」
微笑みながら物騒なこと言ってますよこの人。
「俺もライムの子は欲しいよ」
「……っ!」
また赤くなってる。本当に襲っちまうぞ。
「でもアイドル生命を考えると、さ」
「別に亙が気にすることじゃないわ。それにもう良いの」
「もう良いってどういう……!」
ライムは俺の唇に指を当てた。"黙って聞いてて"そう言っていた。
「元々こっちに来たのもアイドルになったのも、王家を見返すためだったの」
ライムは眼を閉じる。まるでその時を思い出すかのように。
「お父さんが日本人のお母さんと結婚する時、王家の人達は大反対したんだって。
"王家の血筋を外界で汚す気か!?"とか散々なこと言っちゃってさ」
俺はライムの手をそっと握る。微かに震えていた。
「それでも二人は結婚してお母さんは私を産んでくれた。でも難産だったみたいでお母さんは死んじゃったの。
……相当ショックだったんだろうね。お父さんは鬱状態になっちゃって自殺したって」
初めて聞かされる、多分誰にも打ち明けられなかった彼女の傷。震えながらも彼女は続ける。
「それから私は召使をつけられて王宮の離れで育ったわ。
私が周りから何て呼ばれてたか知ってる?…"呪われた、汚れた子"。そう、呼ばれたわ」
目尻には涙が溜まり声も震えているが話を止めようとはしない。
「許せなかった。お父さんとお母さんを馬鹿にしたあいつらが。
だから見返してやろうと思ったの。世界中に知られるくらい、天国のお父さんお母さんに
聞こえるくらい有名になって、私が生まれて来た事は正しかったんだって」
「…うん」
「きっと認められたかったのよ。誰かに必要とされたかったの。
結果的に私は国民的アイドルになりコーデルフィアも"我が国の歌姫"なんて自慢げにしてるわ」
くすりと笑うライム。それは何処か自嘲的な笑いだった。
「でもね、何にも感じなかった。国民的アイドルになっても世界中で有名になっても
何にも。だからね…私はもう無意味なんだよ。空っぽなの」
「無意味なんかじゃない」
「亙…?」
しっかりとライムの震える手を握り見つめる。言わなくちゃいけないことがあるから。
「ライムが歌ってなかったら俺はライムに会えなかった。俺はライムが好きだ。
歌が上手いところもすぐにヤキモチ焼くとこも。それからいつも一生懸命で輝いてるけど、
凄く繊細なところも」
ライムは黙って俺の言葉に耳を傾けている。
「まだ半年しか一緒にいないけどライムの全部が大好きだ。
だから一番大切な俺達の出会いを無意味だなんて言って欲しくない」
ライムを抱きしめる。凄く小さく感じた。俺が守らなきゃいけないんだ。
「ライムのこと、もっと知りたいんだ。もっと一緒にいたいんだ。
それにライムの素晴らしさ、もっと色んな人に知ってほしいんだ。
"俺の恋人はこんな素敵な人だ"ってさ。だから……んっ!?」
ライムにキスされた。舌が侵入して俺の舌に絡んで来る。
感じる、ライムの色んな感情。俺も精一杯応える。
「んはっ!…亙」
「はぁはぁ…何だ?」
「あ、ありがとう。私、誰かに愛して貰ったことなかったから分からなくて…」
真っ赤になりながらも素直な気持ちを伝えるライム。…もう限界だった。
「ライム」
「ん?」
「ゴメン、限界」
「へっ?あ、ちょ!?」
ライムを抱きしめそのまま第……分からんが二桁ラウンド目に突入した。
478 :
きみとわたる:2010/06/21(月) 02:31:03 ID:S2MbXxzu
とりあえず今日はここまでです。続きは明日の同じくらいに
投稿します。前回sage進行を守らず大変申し訳ありませんでした。
そしてエロが見苦しくてスミマセン…。投稿終了します。
読んでくれた方、ありがとうございました。
gj
次も期待してます〜
GJです。
本当に藤川さんの 入り込める余地があるんだろうか・・・
もう藤川さんの出番は無さそうだな!
もう藤沢さんと会うこともなさそうだな。お疲れ!
俺一つ見つけた!
予想が当たればいいな
次回に期待
484 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 22:33:32 ID:3Uz3r03d
超守る 超守った 濃い TMR
485 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 23:36:59 ID:/7EKvPkY
GJ!
次回も頑張って下さい!楽しみにしてます!
スマソ
こんばんは。触雷!の者です。
Wikiの管理人様、いつも登録ありがとうございます。
第5話を投下します。
明け方、僕は自室のベッドで目を覚ました。
カーテン越しに差し込む陽光。耳に届く小鳥のさえずり。
そして、下腹に覚える生暖かい快感。
「何……やってるの?」
僕は全裸だった。
そして、僕の下半身に、同じく全裸(正確にはカチューシャだけ)の紅麗亜がのしかかり、巨大な胸の谷間で僕の股間のものを挟んでいた。
彼女は両手をせわしなく動かし、一心不乱に乳房で僕のものをしごいている。
僕に質問されると、おもむろに顔を上げ、こう答えた。
「パイズリでございます。ご存知ありませんか?」
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて……なんでそんなことしてるのか聞きたいんだけど……」
「私はメイドです。ご主人様にご奉仕するのが当然です」
「そ、そうかな……?」
「そうです」
何か違うような気がしたが、あまりに強く言い切られ、それ以上言い返せない。
紅麗亜は一度手を止めると、僕と目を合わせて言った。
「ご主人様……私は昨日、2度ご主人様に救われました」
「2度……?」
「1度目は言うに及びません。2度目は、私があの雌蟲を始末しようとしたときです」
雌蟲って、やっぱり先輩のことだろうか。もちろん他には考えられないが、もっと他に言い方があるだろうと思う。
「ご主人様にたかる汚らわしい蟲であっても、残念ながら法律上は人類です。絶命させれば、何らかの罰に服さざるを得ません」
「それは、まあ、ね……」
「雌蟲一匹のために、私とご主人様が離れ離れになることなど、あってはならない。ご主人様はそうお考えになって、私を止めてくださったのですね」
「え……あ……それは……」
「ご主人様の深いお考え、その場で察することができなかった不明を恥じるばかりです」
うなだれる紅麗亜。昨日の僕の行動を、自分に都合よく解釈したようだった。
本当は、先輩が殺されるのを阻止したかったのだが。
もっとも、誤解を解く勇気はなかった。下手なことを言ったら、どうなるか分からない。
「…………」
「それからご主人様」
僕が沈黙していると、紅麗亜は話題を変えた。
「昨日は雌蟲駆除のためとは言え、ご主人様にとんでもない無礼を働いてしまいました」
「と言うと?」
「ご主人様とセックスの振りなどという、メイドにあるまじき行為をしました。あれでは、本当にセックスをするのは嫌なのかと疑われても不服は言えません」
「ははあ」
確かにあの疑似行為のせいで、僕は寿命の縮まる思いをした。
もっとも紅麗亜が詫びているのは、微妙に違うことみたいだけど。
「ですが信じてください。決して嫌だったわけではありません。あのときは本当の行為を行う時間がなく……」
「信じる、信じるよ」
一も二もなく、僕は言った。まかり間違って「本当?」などと口走ろうものならどうなるか、想像するだに恐ろしい。
「嬉しい……では、その証しを立てさせていただきます」
紅麗亜はにっこり笑うと、上体を起こし、こっちに移動してきた。
“本当の行為”をするつもりなのだ。僕は怖くなって彼女を押し止めた。
「ちょ、ちょっと待って!」
「何か?」
「それをしたら、後戻りできないよ。もうちょっとお互いによく知ってから……」
「しかし、ご主人様に疑いを持たれたままでは、メイドとしての務めを全うできません」
そう言って、固く尖った僕の物を、自分の股間に押し当てる紅麗亜。
僕はますます怖くなり、必死に言った。
「何も疑ってないよ」
「相変わらずお優しいのですね。ならばこそ、どうあっても疑いを晴らして見せます」
「でも……」
「ご主人様」
「うっ!」
僕はどきりとする。紅麗亜の目に、また冷たいものが宿っていたから。
「まさかとは思いますが、メイドごときに情けはかけられない、などと言われるのではないでしょうね?」
「それは……」
「どうなのですか!?」
「そんなことは……ないです」
蛇に睨まれた蛙のようになった僕は、そう答えるしかなかった。
「結構です。ではご主人様、ご命令を」
「命令?」
「そうです。純潔を捧げ、生涯の忠誠を捧げるよう、改めてこの愚鈍なメイドにご命令ください」
「いや、特にそういうのは必要ないんじゃ……」
「ご主人様」
紅麗亜の両手が、僕の首に伸びてきた。
それが何を意味するか、悲しいことに僕は一瞬で理解できた。
「く、紅麗亜!」
「何でしょうか? ご主人様」
「ぼ、僕に純潔を捧げ……」
「はい」
「生涯の忠誠を誓って……ください」
「ください!?」
「いや違った! 忠誠を誓え」
「ちゃんと最初から言い直してください」
「僕に純潔を捧げ、生涯の忠誠を誓え!」
半ばヤケクソになり、僕は叫んだ。
「はい! ご主人様あっ!」
紅麗亜は歓喜の叫びを上げ、僕の先端を再度自分の股間にあてがうと、ゆっくりと腰を沈めた。
「ああああ!! ご主人様あっ!」
僕の屹立が彼女に侵入し、若干の抵抗を突き破ると、一気に奥まで達する。
「私、神添紅麗亜は、ご主人様である紬屋詩宝様のメイドとして、奴隷として、下僕として、家畜として全てを捧げ、永遠の忠誠を誓いますっ!」
破瓜の痛みはないのだろうか。いきなり腰を振りながら、道徳のかけらもない宣誓をする紅麗亜。
四方から絡み付き、蠢く肉襞の感触に、僕は全く無力だった。
紅麗亜の中に放出するまで、1分もかからなかったと思う。
「ああっ、ご主人様の精液が中にたくさん……紅麗亜は幸せでございますっ!」
「っ……」
紅麗亜の絶叫を聞きながら、僕は半ば失神しかかっていた。
ようやく人心地がついた後、僕は浴室でシャワーを浴びた。
1人でいいと言ったのだが、紅麗亜が裸のまま強引について来て、体の隅々まで洗われた。
「ご主人様が自分で体を洗うなど言語道断」なのだそうだ。
バスタオルを巻いて居間に行くと、目を疑う光景があった。
散乱していたガラスの破片が、きれいさっぱりなくなっているのはいい。紅麗亜が片付けたのだろうから。
しかし、先輩に割られた窓まで元通りになっているのは、どういうわけなのだろうか。
「ご主人様。今お食事の用意をいたします」
振り向くと、紅麗亜が立っていた。いつの間にか、メイド服を一分の隙もなく着込んでいる。
「あの窓は……?」
窓を指差して聞いてみると、彼女はこう答えた。
「はい。勝手とは思いましたが、ご主人様がお休みの間に、業者を呼んで直させました」
「そうだったんだ……」
ずいぶん手回しがいい。費用は後で請求されるのだろうが、窓を壊れたままにしておくわけには行かない。必要な出費だと思った。
「ありがとう」
「しかし、昨日のあの雌蟲の破壊力を考えますと、まだ不十分です。後で全ての窓に強化用のシートを貼り、さらに割れにくくいたします」
「いや、そこまではちょっと……あんまりお金ないし」
経済的なことを理由に僕が躊躇を見せると、紅麗亜はこう言った。
「ご心配には及びません。支払いは私のカードでいたします。昨夜の窓の修繕も、費用は私がすでに支払っております」
「か、カード?」
僕は愕然とした。一体どうなっているんだ。
所持金がなくなって、餓死寸前じゃなかったのか。
「あの……」
「何か?」
「いや、何でもないです……」
鋭い視線に射すくめられ、僕はうつむいた。
「そうですか。では、失礼いたします」
紅麗亜はキッチンに向かっていった。
その姿を見送りながら、ふと思った。
紬屋詩宝という船は、機雷に触れてしまったのではないか。
それも、一発で船体が真っ二つになるような、強烈な奴に……
自室で普段着に着替えていると、お食事の支度ができました、という紅麗亜の声が聞こえた。
ダイニングに入ると、異様なほど豪華な食事が並んでいる。
どこで食材を手に入れたんだろう。
「これは……?」
「冷蔵庫にあったもので、用意させていただきました。お口に合えばいいのですが……」
「え……?」
つまり、僕が普段作っている食事と、材料は同じということだ。
作る人が違えば、これほど違うものができるものなのか。
紅麗亜が椅子を引いてくれる。
僕は着席し、信じられない気持ちで料理に手を付けた。
「……凄くおいしかったよ」
食べ終わって、食後の紅茶を紅麗亜に注いでもらいながら、僕は言った。
嘘ではない。高級レストランの料理なら、先輩に何度かご馳走になっているが、紅麗亜の料理は全く味で引けを取っていなかった。
「お褒めにあずかり、恐縮です」
紅麗亜が微笑して、お辞儀をする。いつもこんな感じなら、メイドさんのいる生活も悪くないのだが。
「さて……」
何気なく時計を見ると、ちょうど学校へ行く時間が迫っていた。
席を立って紅麗亜に言う。
「そろそろ学校に行くよ。着替えてくる」
だが、自分の部屋に行こうとすると、突然紅麗亜が前に立ちふさがった。
「お待ちください、ご主人様」
「な、何……?」
「学校へは……いいえ。しばらくの間、この家から外には出ないでください」
「そんな」
僕は驚いた。何故急にそんなことを言い出すのだろう。
「どうして……?」
「今ご主人様が一歩でもこの家を出れば、たちまちあの雌蟲がご主人様に襲いかかるからです。あの蟲はご主人様を拉致監禁し、破廉恥な行為を強要した挙句、自分のものになるよう執拗な洗脳を繰り返すでしょう」
「そんな大袈裟な」
いくら何でも、あの先輩がそんなことをするとは思えなかった。上流階級の先輩が、よりによって、僕のような庶民にそこまで熱くなるわけがないと思う。
「大袈裟ではありません。ご主人様は、あの雌蟲の恐ろしさをご存じないのです」
「でも、一歩も外に出ないっていうのは……」
「ご所望のものは、全て私が調達いたしますので」
「ま、まあ、ちょっと落ち着いて話そうよ」
「ご主人様、よろしいですね?」
椅子に座ろうとした僕に、紅麗亜は詰め寄った。
「あの……」
「よろしいですね?」
「……はい」
さすがに今回は、納得できないものがあった。
しかし、壁際に押し付けられて迫られ、抵抗する気力が失せてしまう。
「……うん」
僕が弱々しい声で頷くと、紅麗亜はにっこり笑った。
「大変結構です。では、携帯電話をお預かりします」
両手を出す紅麗亜。僕はまたびっくりした。
「なんで!?」
「あの雌蟲が、番号やアドレスを変えてご主人様に連絡しようとするかも知れません。蟲の声を聞いたり、文章を読んだりしたら、ご主人様のお体が腐ります」
「そんな」
「さあ!」
紅麗亜が強く手を突き出す。どうしようもない。僕は大人しく携帯を取り出した。
渡す前にロックをかけたのが、ささやかな意地だった。
「暗証番号は?」
だが、その意地も無残に踏みにじられる。
「な、なんで必要なの……?」
「メイドたるもの、ご主人様のことは何でも知っておく必要がありますから」
「でも……」
「ご主人様!」
僕はうちひしがれた思いで、番号を言った。
投下終了です。
いつもお読みいただいている皆様、ありがとうございます。
リアルタイムGJ!
こちらこそいつも良作を投下して頂き、ありがとうございます。
失礼しました。誤字です。
>>495の11行目の「……はい」は、削除してください(汗)
>>495 GJ!
いきなり中だしかw
俺的には先輩にもうちょっと頑張って欲しい
紅麗亜を打ち負かす位に
500 :
きみとわたる:2010/06/22(火) 02:10:40 ID:8SCKrobU
昨日投稿した者です。第三話投稿します。
毎回読んでくださる方と編集してくださる方に感謝です。
「「お帰りなさいませ、お嬢様」」
「ただいま」
毎日よく同じ台詞を言えるわね。仕事か。
「里奈様。お鞄をお預かりします」
アタシ専属のメイド、桃花(トウカ)がいつものように鞄を持ってゆく。
「お父様は?」
「旦那様はお仕事中で書斎におりますが。お呼び致しましょうか?」
日曜日なのに仕事。あの人も相変わらずだ。
死んだお母様は何故あんな人と結婚したのだろう。
「いいえ、終わるまで待っているから結構よ」
エントランスを通りリビングへと向かう。広い豪邸。召使しか動いていない、活気のない豪邸。
これがアタシ、藤川里奈の日常だ。
「あ、姉さん。お帰りなさい。珍しいね、日曜日に外出なんて」
リビングでは高校生の弟、藤川英(フジカワハナ)がくつろいでいた。
「アンタこそ珍しいわね。探偵ごっこはどうしたの?」
無駄に多いソファーに座る。やはりフカフカだった。勿論弟とは距離を取る。
「今日はお休み。リーダーが調子悪くてね。あ、探偵ってより何でも屋かな」
「あっそ」
アタシは弟が嫌いだ。昔から何でもそつなくこなし、頭も良い。
今通っている東桜(トウオウ)高校だって県下一のトップ校だ。
ルックスも良いから周りからの評価も高い。そのくせ人に関心がないし、
いつも飄々としている。ハッキリ言ってムカつくのだ。
「そういえば姉さん、今月号にも出てたね」
そう言いながら弟は読んでいた雑誌を見せてくる。若い女の子達が読む雑誌だ。
「何でアンタがそんなの持ってるのよ」
「仲間から貸して貰ったんだ。"これ英のお姉ちゃん!?"って言われてさ」
あの人…お父様に勧められてモデルをしている。
どうせ藤川の名を上げるために利用されているだけだが。それより
「仲間…ねぇ」
弟が何かに執着するなんて珍しい。
「アンタ、仲間とか信じるタイプだった?」
「いいや。でも今回は本気だよ」
「ふーん」
まさか弟の口から"仲間"なんて言葉を聞く日が来るとはね。
「ねぇ、アンタの仲間って…!」
誰かが階段を降りて来る音がした。アタシは瞬時に気持ちを切り替える。
アタシからわたしへ。弟もわたしの変化に気付いたようだ。
軽くため息をつくと雑誌を読みはじめた。
「おおっ、愛しき我が娘よ、帰ってきたか!」
白髪でスラリとした細身の長身に糊の効いたスーツ。
これが様々な事業に手を伸ばし一代で日本有数の大企業、藤川コーポレーションを
作り上げたカリスマ社長にしてわたしの父親、藤川栄作(エイサク)である。
「只今帰りました、お父様。遅くなってしまい大変申し訳ありません」
「いやいや、お前が無事ならそれで良いんだ。…ん?何だ、英もいたのか」
今英に気付いたかのように大袈裟に振る舞う。わざとらしくて反吐が出る。
「こんばんは、お父様」
微笑みながら弟が挨拶する。わたしと同じ、仮面の挨拶。
「そうだ!里奈、お前にピッタリな服を取り寄せたぞ!まあモデルのお前に合うかは正直自信がないがな」
「ありがとうございます、お父様」
弟の挨拶を無視して話し掛けてくる。わたしも仮面の笑顔を見せる。
「相変わらず素晴らしい笑顔だ!私なら十億は払うね」
…耐えなくては。今日は目的があるのだから。
「そういえばお父様。実は今日はお願いがございまして」
「何だね?里奈のお願いなら何でも聞いてあげるよ」
「実は欲しいものがあります」
「一体なんだい?」
緊張する。でも言わなくては。やらなくてはならない。彼に頼るのはこれが最初で最後にするんだ。
「わたしが欲しいのは…」
「ふぅ」
上手くいった。お父様はすぐに了承してくれた。気持ちを戻す。ソファーに倒れ込んだ。
「珍しい、というか初めてじゃない?姉さんがお父様にお願いするの」
弟の言う通り、アタシは今まで最低限の出費以外は全て自分で何とかしてきた。
居酒屋のバイトだってそのためだ。しかし今回は他に打つ手が無かった。
「アンタには関係ないでしょ」
ここはマズイ。せめて自分の部屋に戻らないと。
「そうだね。…でも何か企んでるんじゃない?」
リビングを後にする。振り返りはしない。
「探偵気取り?」
「うーん。勘かな?まあ頑張ってね」
アタシは弟を無視して部屋に戻った。
…欲しいものは手に入れるの。絶対諦めない。絶対に。
「遠野君…」
彼の名をそっと呟いた。
一日で17回。何の回数かって?そりゃあ聞くのは野暮ってもんですよ、旦那。
「…まだ腰が痛い」
「本当にゴメン!ライムが可愛いからつい…」
「ま、まあ男だったら仕方ないし。それに女として求められるのも…い、嫌じゃないわ」
「………」
「って無言で胸を揉むな!」
すいません。一日で17回射精しました。しかも全部中でした。
どうみても猿です本当にありがとうございました。
「あはは、つーか気付いたら夜だったな」
「亙のせいでしょうが!」
「ライムだってあんなに悦んでたく「黙らないと殺す」すいません」
しかし身体の相性もバッチリなようで。本当に運命ってあるのかもなぁ。
「とにかく何か食べましょ。本当は作ってあげたいんだけど今日は無理ね。材料ないし…腰は痛いし!」
「ピザなんか良いんじゃ「無視すんな!」」
ナイス右ストレート!!
「…じゃあピザにしよっか」
「ふぁい」
まあとにもかくにも俺には鮎樫らいむもとい、ライム=コーデルフィアという
アイドルな彼女が出来た訳で。まさに幸せ、順風満帆なのであった。
「じゃあ電話してくるわ」
亙はけだるい体を起こしてピザを注文しにベッドを抜けた。
部屋にはライム一人。亙との温もりを確かめるようにお腹を摩る。
「早く大きくなるんだぞ?お父さんも楽しみにしてるから」
とても穏やかな笑顔がそこにはあった。幸せに満たされた表情。
昨日のライブの帰り、頭が痛いと言って近くの薬局に寄って買った妊娠補助剤は効いただろうか。
「危険日だったし、あれだけ出せば大丈夫よね。…流石に17回は予想外だったけど」
しかし嫌な気持ちはしない。というか嫌な訳がない。
亙に求められたのだ。嬉しいに決まっている。
「ふぅ」
ゆっくりとベッドに倒れる。母の遺品にあった手帳。唯一の母の形見。
何度となく読み返したその中の日記。遠野という親友がいてもうすぐ息子が産まれる。
お互いに逢わせたい。きっと仲良くなる。そんな内容だった。
逢いたかった。一度で良いからその遠野君に逢いたかった。
もしかしたら彼なら私を必要としてくれるかもしれない。だから日本に来た。
元々そのために一生懸命日本語を勉強した訳だし。そして住所を突き止め助けてもらった。
多分一目惚れ。それから半年かかったが。
「これで亙は私のモノ。もう誰にも渡さない。うふふっ、あはは、あはははははははは!」
抑え切れない笑いが込み上げて来る。
何だろう、このどす黒い感情は。ライムの笑いはしばらく止まらなかった。
朝起きるとメールが来ていた。
ライムの所属事務所の社長からで、俺一人で来てほしいとのことだった。
「スケジュールは午後からだから、昼までには帰ってくるよ」
「分かったわ。…じゃあ昨日は作れなかった手料理で迎えてあげる」
何か新婚の夫婦みたいな気分だ。
「ああ、じゃあ行ってきます」
「あ、忘れ物」
振り返るといきなりキスをされた。
これが"いってらっしゃいのチュー"ってヤツか。
…いや、少し濃厚過ぎないかな?
1分くらいしてようやく離して貰えた。
「…いってらっしゃい」
顔を赤らめて恥ずかしそうに言うライム。
「…い、いってきます」
新婚さんって毎日大変なんだな。
社長室に入ると社長だけではなく、黒服を来た男達が数人端に待機していた。
「おはようございます、社長。…あの黒服の方々は?」
「ああ、おはよう。彼らのことは後で話す」
社長は怯えているようだった。何か嫌な予感がする。
「それより今日君を呼んだのは、一つ伝えなくてはいけないことがあってね」
「それは一体…」
「簡潔に言おう。君はクビだ」
「…はい?」
頭が真っ白になる。クビって誰に?
まさかライムじゃないだろうし…。
「鮎樫らいむには別の専属マネージャーをつける。君は必要ない」
「………」
「その代わり、君には別の場所へ行ってもらう」
「別の…場所?」
別の事務所へでも行くのだろうか。死んでもゴメンだが。
「…行けば分かる」
社長のその言葉を合図に黒服達が一斉に俺を取り押さえに来た。
抵抗しようとするが相手はかなりの実力者。
しかも多数なので程なく地面に組み伏せられた。
「っ!離せよっ!」
抵抗するが上から押さえ付けられ上手くいかない。
「本当にすまない。しかしこれも事務所と鮎樫らいむのためなんだ…」
「それは一体どういう…っ!?」
いきなり何かを注射され、意識が遠くなる。
「…終わった?」
最後に聞こえたのは扉の開く音と、聞いたことのある声だった。
505 :
きみとわたる:2010/06/22(火) 02:20:50 ID:8SCKrobU
今日はここまでです。続きは明日出来れば投稿します。
わざわざ読んでくださった方、ありがとうございました。
投稿終了です。
GJ
お疲れ様です
ライムさん、やっちゃってください
GJです!
しかし良い処で止めてくれますなぁ
続きが気になる。
この投下ラッシュ…いったい何が起きると言うんです?
>>496 GJ!!クレアさんの過去が気になります
>>505 GJ!!早い投下で嬉しいです。
明日も生きる糧として頑張れます
…ってかライムさん計画的すぎるだろwでもその行動力、大好きです
続きも気になるしGJと言ってやりたいところだが、
昨日といい今日といい何で他の人の作品のすぐ後に投下するかね
両作品ともGJ
>>509どの位の間隔で投下したら良いのかあいまいだからじゃないか?
たとえば「投下の間隔は最低1時間間隔でお願いします」とかって明文化したらどうか。
人気があるなら後からでもレスは付く…って言うやつもいるだろうが
こういう自分のことしか考えないやつは絶対GJとかしてやらん
つか、自分も昔作者だった時あるから、こういうのはイラっとする
>>511気持ちは分かるが、そうゆう発言は投下数の減少に繋がりスレの荒れる元に成るので控えた方が良い。
それにまだ新顔の職人さんは、そこまでの余裕も無いだろうし…やはりお約束事をキチンとするのが一番良いと思う。
>>496 主人公の初めてはこんな事務的なセックスか…
っていうかクレアさん何者?
>>505 藤原さんお嬢さまだったのか、まさかの展開だ
両者とも乙&GJ
クレアさんハンパない
気になったんだが投稿そんなにすぐだったか?一時間くらいは空いてたぜ。
>>514 違うスレには一日あけるってスレもあるからね。
一時間でつくレスなんてたかが知れてるでしょ?
それに時間あけないと後に投下された作品に感想を書かず、その前に投下された作品の感想だけを書くって人も出てくるしね。(特に人気のある作品は)
そうなると荒れる元になるから。
時間開けろって気持ちはわかる
自分も似たようなことで嫌になったことがある
だから両者にGJしよう
投下ラッシュは、負けてたまるか!ってメンタル強い作者なら良い環境なんだろうな
やっぱ厳しくするならテンプレ化するべきだけど、どれぐらい空けるのがいいんだ?
テンプレ化イラネ
過疎でどうしようもないところが多いのに
多数SSが来てるんなら素直に喜んどけ。
大体ここは自分の妄想を書き込んでニヤニヤする場所だぞ
SSに感想付けて崇めたり評価する場所じゃないぜ。
どうしても自分への感想が欲しい!って言うんならブログでやっとけ
こういう掲示板でやるのは向いてないと思われ。
>>518 人の感想ほしいならブログに書けとか言い出したら誰もここに書きにこねーだろ…。
少なからず評価してほしいから皆、書きにきてんじゃねーの?
自分の作品をニヤニヤしながら書くんじゃなくて、自分の作品を見てもらってニヤニヤしてる人がいるから書いてる人も嬉しいんだろ。
普通に考えて自分の妄想でニヤニヤするぐらいなら文章にしねーよ。
それにしても最近は投稿率高いな(`・ω・´)
ワールドカップ見てないのに毎晩寝不足だぜww
31スレにもなって何を今更言ってるんだろう
今まで作者様自身に投稿タイミング委ねてたんだからこれからもそれでいいだろ
「きみとわたる」を投稿させていただいている者です。
今回は自分の投稿のせいで、不快な思いをさせてしまってごめんなさい。
特に他の作者様には迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ないです…。
まだ投稿に慣れていなくて、とりあえず出来たら投稿しようという
自分勝手な行動のせいで…本当にすいません。次回からは絶対にないようにします。
今日は投稿は自粛させていただきます。本当にごめんなさい…。
>>522 触雷!の者です。
昨日の件、全く気にしておりません。
遠慮なく投下なさっていただきたいと思います。
結局、外野が過剰反応しただけだったな
完
だな。勝手に騒いだ奴ら作者に変な気つかわせんじゃねーよ
作者同士の会話ってのも新鮮でいいな!
最悪………
お前ら管理者なの?サゲアゲはともかく、投稿時間は一、二時間で良いだろ。
そんなに厳密にしたければ次スレ作るのやれば良いじゃん?
そしたら注意事項いっぱい書けるしね。
みなさんスルーしましょう
531 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 00:06:22 ID:77pkxq1T
突然だけどこの前蒼井上鷹の「ホームズのいない町」って短編集を読んだんだけど
この中の「五つも時計を持つ男」っ話に四家ってキャラが出るんだが読んだ時に
こいつは良いヤンデレだって思ったんだが誰か読んだ人いるなら一緒に語ろうぜ
>>528 一時間程度あけるぐらいなら始めからあけなくていいだろ、バカじゃねーの。
ウザイ…この話題を続ければ続ける程投下が減る。
荒らしたい奴等は続けても良いけど後で表にでてもらう事に成るぞ!!!
やっぱり自治厨は死ぬほうが良いです
ヤンデレが表に出たら外出できなくなっちゃう
あなたのうしろなう
28: ◆ AW8HpW0FVA :2010/06/22 20:08:10 ID:rdMbw9S20
永久規制葉入りました。
今年中の投下は不可能だと思います。
えい…きゅ…う?
なん…だと…?
13mや
朝起きてスレを開いた時に投下がないときのガッカリ感といったら……
oh…
サトリビトを書いているものです。
今週は本編の方を投下するつもりだったんもですが、間に合いそうもなかったのでこっちの方を投下します。
よろしくお願いします。
「ベスト・ドレスアップ・コンテスト?」
毒の(それだけではなかったが)脅威から逃れることができた僕たちは、その後行きついた町でそう書かれたチラシを見つけた。
「え〜と、なになに・・・あなたの美しさを競うコンテストです。一位になると賞金が・・・10万Gだって!?」
あまりの額に驚いた。
一泊一人頭15Gで泊れる世界で10万Gといったら家でも買えるんじゃね?
「でもこれだけの額となると、優勝はおろか、参加すらできそうにもありませんね」
そうつぶやく姉ちゃんの横顔を見てあることを確信した。
「大丈夫だよ!姉ちゃ―――祥子さんが出れば優勝に間違いないよ!僕が保証する!」
だってこんなに素敵な人を今までに見たことがない。つい先日までは全く、これっぽっちも思わなかったけど、今なら声を大にして言える。
「祥子さんはこの世で一番素敵な女性だ!」
「そ、そんな///」
本当に声を大にして言ってしまった。後悔は・・・している。なぜなら、
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
ある3人の少女達が無言でゆっくりと僕に近付いてくるからだ。ちなみに僕の後ろは壁。
「聞き間違えかな?慶太、今何て言ったの?」
「よ、陽菜の次に祥子さんは素敵な女性だって・・・」
「それじゃあ私はこの中で3位って事なの?慶太の奥さんなのに?妻なのに?慶太は私の物なのに?」
「ご、ごめん・・・結衣が1位です・・・」
「・・・お兄ちゃん?」
「・・・ごめんなさい!皆同率で1位じゃだめですか!?」
グチャ!ボボッン!
「ねえ太郎君・・・なんでこの世は女性の方が圧倒的に強いのかな?」
「知らん!俺に話しかけるな!お前なんか敵だ!」
「な、なんてこと言うのさ!一緒に三途の川を渡ろうとした仲だろ!」
「ふざけんな!お前はレディ達の愛の結果だろ!俺なんかただの八つ当たりや、理不尽な殺戮だったんだぞ!」
クソ不味い薬草を二人で食べながら僕と太郎君は談笑していた。
「それよりも・・・止めなくてもいいのですか?」
姉ちゃんは心配そうにある1点を見つめている。
「僕にどうしろって言うの?まだ薬草を食べ続けろって言うの?」
あんなのに関わるのは2度とごめんだ。
「・・・ならそれで決まりね?このコンテストで一番順位が高かった人が・・・1週間慶太を好きにできるって事で」
「って、うおーーーーい!!待て待て待てぇぇぇぇぇぇぇえええええええ!!」
なんか今、ものすごく理不尽かつ恐ろしい事が聞こえてきたぞ!
「心配しなくても大丈夫だよ。どうせ勝つのは私だから」
いや・・・それはそれで怖いんですが・・・
「応援してね!だ〜りん♡」
が、がんばってね・・・?
「お兄ちゃん・・・大好き・・・///」
関係ないよね!?今そんなセリフ関係ないよね!?
そしてお願いだから陽菜や岡田の前でそんなこと言わないで!
「お〜!これは美人な方が4人も参加していただき、誠にありがとうございます!」
さすがの貫録だった。
陽菜たち4人は顔パスで書類選考を通過したのだ。
こんな人たちと一緒に旅をしている僕って、きっと幸せのはずなんだよな。
「これは本戦が楽しみですな〜・・・ところであなたはどうされますか?」
ん?僕の事?
「今回は第10回記念として、モンスター部門、男性部門でもそれぞれコンテストを実施しているのです」
受付の男はそうは言っているが、僕はさらさらそんな気はない。
自分がイケメンじゃない事くらい・・・し・・・知って・・・っ!
悲しくなってきた。
「わ〜!慶太も参加しようよ!私、慶太のカッコイイ姿見てみたいな!」
その言葉が僕に勇気を与えた。
僕は机に掌をたたきつける。
「・・・俺も参加するぜ」
「・・・」
僕の決め台詞を太郎君に取られてしまった。これじゃあただ机を叩いただけの痛い人になってしまうじゃないか。
「かしこまりました。あなたがモンスター部門、机をたたいたあなたが男性部門、そして麗しい女性陣の方々が女性部門でいいですね?」
「え?いや違っ―――」
「「「「「はいっ!」」」」」
こうして僕達の戦いが始まった。
・・・ドンマイ、太郎君。
大会はモンスター部門、女性部門、男性部門の順に始まるらしい。
なぜ人気の高い女性部門を最後に持ってこないんだ?ボルテージが上がったときに男性のイケメンコンテストなんて誰得なの?
僕がその事について考えていたとき、モンスター部門が始まった。
そして終わった。
太郎君も終わった。
色々な意味で。
「大変お見苦しいものをお見せしました。でもここからは皆が待ち望んでいた・・・女性部門だぁぁぁぁぁああああああ!」
会場が異様な熱気に包まれた。
男性部門まではまだ時間があったので、僕はモンスター部門で惨敗した太郎君を励ましながら観客の一部と化していた。
「まずはエントリーナンバー1、見た目は天使、中身もきっと天使の早川恭子ちゃん!」
司会者の紹介とともに、舞台袖から人の姿をした何かが出てきた。
そんな言い方をしたのは、あまりにもその人が人間を超えたかわいさを放っていたからだ。
「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「や、やべぇぇぇぇええええええええええええ!!超かわいいーーーーーーーーーーー!!」
「恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん恭子ちゃん!!」
若干1名、聞き覚えのある声をしていたが、きっと気のせいだろう。
「それでは自己紹介をしてもらいましょう!」
「み、皆さん、こんにちは・・・遠くにある村から来ました早川恭子です・・・よ、よろしくお願いします///」
恭子ちゃんの照れながらも必死にしゃべっている姿に、会場からちらほらと声が漏れ始めた。
「・・・もう次の人とかいいんじゃね?」
「ってか恭子ちゃん優勝?」
僕もその意見に賛成だ。
でもね?いくら恭子ちゃんが妹だからって・・・『早川』恭子でエントリーはしてほしくなかったな。
この後で通産6回目の三途の川に行きかねないからね。
この後も恭子ちゃんの自己紹介は続いたが、内気の彼女はなかなかに苦労していた。
それで見かねた司会者が助け船を出した。
「ではここで恭子ちゃんに質問のある方はおられますか?」
「「「「「「「「「「「「ハーーーーーーーーイッッ!!」」」」」」」」」」」」」」
司会者の言葉に会場の野郎どもが一気に反応した。
「現在彼氏はいるんですかぁ!?」
最初に当てられた奴がいきなりタブーな質問をした。
「彼氏はいませんけど・・・す、好きな人はいます・・・///」
「「「「「「「「「「「「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」」」」」」」」」」」」
ちなみに今叫んだ中に僕もいた。
僕の天使が・・・(最近はちょっと微妙だが)心のオアシスが・・・くそっ、兄以外に好きな人だと!?相手は誰なんだ!?
「そ、その人とは・・・どんな仲なんですか・・・?」
2つ目の質問をした人に対し、観客の目が「そ、そんな恐ろしい質問すんなや!」といっている。
「・・・私の片想いなんですけど・・・キスはしました!///」
絶句。会場に詰めかけた千の人が一斉に声を失った。
ある者はそのまま意識を失い、ある者はおもむろにロープで輪を作っている。
その中で・・・一人の勇者が手を上げた。
「お、おい!止めろお前!これ以上やるとお前も俺達も死んでしまう!」
だがそれでも勇者は手を下さなかった。
会場全員の目が勇者に向かう。
「・・・では、そこの勇者殿・・・ご質問を!!」
司会者までもがその男を勇者と呼んだ。
勇者はスッと立ち上がると、眩しい笑顔でこう告げた。
「恭子ちゃんとキスをしたっていうゴミ野郎はどこのどいつですか?」
勇者の質問に恭子ちゃんは慌てふためいたが、彼のあまりにも真剣すぎる視線や会場の熱気からか、ゆっくりとその人物を指さした。
1000人(くらい)の観衆の目がその先を追う。もちろん勇者もその先を追った。
だがここでおかしな事態が発生した。
後ろを振り返るが、そこには誰もいない。
確かに恭子ちゃんの指先の方向はここを示しているのに、そこには誰もいない。
まさか・・・幽霊とでも言うんじゃないだろうな?
そこで勇者は隣に座っていた半幽霊の太郎君に訊ねる事にした。
「なぁ・・・僕の後ろに誰かいるのか?」
「・・・ロリコン野郎っ!」
どうやら勇者の後ろにはロリコンの幽霊がいるらしい。
でもなぜ太郎君は勇者を見て言ったのか?なぜ勇者には見えないのに太郎君には見えるのか?
全ての答えは恭子ちゃんの口から告げられた。
「今・・・そこに立っている慶太さんが・・・私の大好きな人でファーストキスの相手です!!///」
その瞬間、勇者は―――いや、僕はゴミ野郎に成り下がった。
「・・・ふ〜ん・・・恭子ちゃんはそんなにあの人がいいんですか?一体どこがいいんですか?」
観客どころか司会者までもが、ゴキブリでも見るかのような視線を僕に送ってきた。
「ぜ、全部大好きです!カッコイイところとか・・・優しいところとか・・・私の事を誰より分かってくれる事とか・・・キャッ!///」
恭子ちゃんはこの会場に突如発生した巨大な低気圧に気が付いていないのか、一人できゃっ、うふふ、と悶えていた。
でもそんな彼女のおかげで僕はまだ生きていられるのだ。
恭子ちゃんがフェードアウトした瞬間、僕は会場の男どもからあまりにも残酷なリンチを受けることになるだろう。
もしくは・・・あの舞台袖から漂っている黒いオーラを放つ2人組みにか。
「え〜・・・では最後に・・・何か一言ありますか?」
完全にやる気を失った司会者が投げ遣りに恭子ちゃんにマイクを渡した。
それを受け取った恭子ちゃんは息を大きく吸って全力で叫んだ。
「私は世界で一番お兄ちゃんが大好きです!!慶太お兄ちゃん、私とずっと、一生、一緒にいようね!!」
まるで大きな仕事を成し遂げたかのような仕草で、恭子ちゃんは舞台裏に消えていった。
「・・・それでは突然ですが10分休憩を挟みたいたいと思います」
まぁ、分かりきっていたことだ。何も驚きはしない。
「留雨裸!」
恭子ちゃんの真似をして叫んでも、僕はここから離れることができなかった。
まぁ、分かりきっていたことだ。何も驚きはしない。
「「「「「「「「「「「「「「「「・・・覚悟はいいかい?ゴミ野郎君?」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「まぁ、分かりきっていたことだ。何も驚きはしない・・・けど、できればやめてほしいな〜・・・い、いかがですかね?」
「さて皆さんは休憩によって心の方はリフレッシュできましたか?それでは続きを始めたいと思います!」
次は誰だろう?とにかく残りの爆弾が来たらここから出よう。
「エントリーナンバー2、占いをとことん信じるがモットーの早か・・・チッ、コイツもかよ・・・早川結衣ちゃんで〜す・・・」
ふぅ・・・岡田の奴、なんてことしてくれたんだ。おかげで名前を呼ばれただけで野郎共に囲まれてしまったじゃないか。
「みんな〜こんにちは!早川結衣で〜す!そこにいる慶太は私の旦那様だから、あんまり乱暴はしないでね?」
岡田の一言で2度目のリンチを回避した事には感謝するが、反対に会場の殺気が一層高まった。
これはまた岡田のフェードアウトと同時に殺られるパターンか・・・
でもここからは恭子ちゃんの時とは違った。
「でも皆の事も大好きだからね?本当にいい男ばっかりいて緊張しちゃうな・・・」
岡田はマジで優勝を狙いに来ていた。
めちゃくちゃかわいく見える様子もきっと演技なんだろう。こわっ!
「えへへ・・・きゃっ!」
なぜか何もないところで大女優・岡田が転んだ。
不自然にかわいい悲鳴を上げて。不自然に下着も見えそうになって。
「いやぁ〜!見ないでよ〜!!」
「う、うひょーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「見えたか!?今見えたのか!?」
「結衣ーーーー!!俺以外にそんな姿みせんなよーーーーーー!!でもラッキーーーー!!・・・じゅる」
言わずもがな、最後は太郎君だ。せめてよだれくらいふけよ。
「結衣ちゃんはとっても天然さんなんですね!」
「よくいわれるけど違いますよ〜!私は天然じゃないもん!」
ないもんって・・・岡田って17歳だよな?さすがに痛く聞こえるぞ?
「さて!では恒例の質問タイム!ってことで私が早速・・・結衣ちゃんは僕の事どう思いますか?」
本当にこの司会者は自分の感情に忠実に生きているな。羨ましいよ。
「カッコイイと思います!そして会場にいる皆さんもそうですけど、私に投票してくれた人はもっとカッコ良く見えちゃうな!」
「「「「「「「「「「「「絶対に投票するぜーーーー!!」」」」」」」」」」」」」」
「みんなありがとーー!!大好きだよ!!」
女性部門前半の部が終わり、まもなく結果が発表される。
ちなみに今までのは予選。
そこで勝ち残った上位3名と、このあと後半の部の勝ち残った3名の合わせて6名でもう一度コンテストをするのだ。
「お待たせしました。只今から前半の部の結果を発表します」
3位は去年の優勝者。投票率・・・5%。
意外な展開に辺りがざわつき始めた。
去年のチャンピオンが5%しか票を集められなかったのだ。そうなって当然だろう。
「恭子ちゃんか結衣ちゃん意外に票を入れるなんて・・・一体何を考えているんだ!?」
「5%もいるぞ!きっとサクラに違いない!」
・・・そっちかよ。
そしていよいよ第1位の発表に移った。
「続きまして1位と2位の発表です!予選通過第1位は・・・投票率50%!早川恭子ちゃんです!2位は早川結衣ちゃんで投票率44%でした」
「いやったー!!これで1週間お兄ちゃんは私のものなんだ!」
僕のところに戻ってきていた恭子ちゃんが抱きついてきた。
他のお客さんもいるから・・・できるだけ・・・その・・・ね?
「「ふざけんな、クソガキ」」
二人も!岡田は本性を見られてもしらないよ!陽菜も後半の審査に影響しちゃうよ!?
「それでは後半の部を始めたいと思います!後半の部トップバッターは・・・エントリーナンバー51!得意わ・・・・・・」
いきなり司会者が無言になった。額にはなぜか大量の汗がある。
「・・・すいませんでした。エントリーナンバー51、得意技は眼羅象魔の佐藤陽菜ちゃん・・・です・・・」
「みなさん、こんにちわ〜♪」
「いえ〜い!陽菜ぁぁぁぁぁぁ!!」
あれ?叫んだの僕だけ?めっちゃ恥ずかしいんですけど。
「・・・どなたか質問はありませんか?」
えーーーー!?いきなり質問タイム!?
それに加えてさっきまで盛りに盛り上がっていた連中が、完全に消沈していた。誰一人手をあげない。
「誰も私に聞きたいことないの?」
マズい!このままでは陽菜がかわいそうだ!
「はいは〜い!!」
僕が勢いよく手をあげると皆の目がいつぞやの勇者を見る目に変わっていた。
「・・・さすがだぜ」
なぜか太郎君まで僕を尊敬し始めた。
これは一体・・・ま、いっか。
「ではそこの勇者ど―――ゴホン、慶太君!いくつでも質問していいからね!」
「?・・・それなら・・・今現在好きな人はいますか?異性としてで」
「う〜ん・・・いる・・・かな?」
ちょっと前までの僕なら失神しているに違いない答えが返ってきた。
でも今はその相手に同情してしまった。
「・・・フフフ・・・慶太ったら・・・面白いね♪」
何が面白いのだろう?僕は何も言っていないのに。
でも陽菜がニコニコしているから何となく嬉しいな。
「それで二つ目の質問は・・・」
う〜ん、これは美しさを競うコンテストだったな。なら陽菜のかわいいところを引きだすような質問をしよう。
「その人の事どれくらい好きですか?」
これで陽菜の一途さをみんなにアピールすることができるな。
僕ってば何て華麗なパス!
「どれくらい?そうだな〜・・・その人と一緒なら全世界の人間を葬っても平気だね」
陽菜の答えは若干、僕の予想の斜め上をいっていた。若干ね。
「・・・ちなみに本気でそう思った事はありますか?」
「それが最近になってその人が他の女に気が移るようになってね・・・まぁするかしないかは今後のその人次第なんだけど」
成程、毎日そう思っていたのですか。
陽菜の好きな人が誰なのか知らないが、とりあえずこれからは優しくしようと心に誓った。
「じゃあ最後に・・・さっき言っていた得意技の眼羅象魔って何ですか?」
僕の質問に対して、ほぼ全員が頭に手を当てて態勢を低くした。
「・・・誰かに試してみようか?」
陽菜が応答した瞬間、会場が一斉にパニックに陥った。
「い、いやだぁぁぁぁぁぁぁ!!まだ死にたくないよ!!」
「俺には子供がいるんです!まだ死ぬわけにはいかないんです!」
なんだか僕は不味い事を聞いた気しかしない。
「・・・やっぱりいいです」
「そっか〜残念。ところで・・・みんなも投票はよ〜く考えてからおこなってね?もし間違えたら・・・ウフフ♪」
陽菜の作戦は美しさのかけらもなく、ただ恐怖で票を集めるという最低なものだった。
恐怖政治を終えた会場は、お通夜みたいになっていた。
「・・・エントリーナンバー52・・・B90W58H88のパーフェクトボディ・・・祥子さんです・・・」
もはや誰一人として歓声を上げなくなった。
こんな状況で出てくる人はかわいそうだな・・・ってあれ?今祥子さんって言った?
「なんで私だけちゃんじゃなくてさん呼ばわりなのか気になりますが・・・只今紹介にあった祥子です。よろしくお願いします」
姉ちゃんが出てきた瞬間、屍のような顔をしていた観客が一斉に顔をあげた。
「・・・これは・・・幻か?」
「・・・いや、俺に見えているから多分違うだろう・・・」
「地獄で仏に会ったようとはこの事なのか?」
皆の目が徐々に光を取り戻していく。
それほど姉ちゃんは神々しかった。
「ごめんなさいね?本当は私なんかよりもっと美人な方が出たほうが皆さんも嬉しかったでしょうに・・・」
謙虚さ。おしとやかさ。大和撫子。
僕は一体いつからこの言葉を忘れていたのだろうか?
失いつつあったその言葉を、姉ちゃんが見事に取り戻してくれた。
「・・・やっぱ姉ちゃんが一番素敵だ―――って、いででででででででででーーーーーーーー!!」
「おい!そこのゴミ野郎うるせーぞ!!」
すいません。でも僕だって叫びたくて叫んだわけではない。
「・・・安全だと思っていたけど・・・やっぱり敵だったってことね・・・」
「・・・慶太さんに姉なんていませんよね?いるのはかわいい妹だけですよね?」
そう言えばあなた達はもう予選を通過したんでしたね。
とにかく両サイドに金剛力士がいる限り、失言には気をつけないければいけない。
「・・・そろそろ時間の方が押してきているので、質問タイムに入りたいと思います!」
僕のパーティの中で唯一まともに話を終えた姉ちゃんに、無数の手がかざされた。
「いや〜さすがの人気ですね〜!では一番早かった・・・恭子ちゃん!」
あれ?恭子ちゃんも手を上げていたの?
「最近、私だけの宝物にハエがたかるようになりました。それも2匹・・・その内3匹になるかもしれません。そのハエは本当にうっとうし
くて、ものすごくしぶといんです。一体どうすれば私は宝物を守ることができますか?」
抑揚のない声で恭子ちゃんはそう言った。
全くコンテストに関係のない質問だったが、それでも姉ちゃんは快く答えた。
「えっと・・・とりあえずその宝物を綺麗に掃除したらハエも来なくなるんじゃないかしら・・・」
「でもその宝物が自分から汚れに行ったら?何度注意しても、自ら汚れてしまうなら?」
当てられてもいないのに、岡田が口をはさんだ。
さっきから恭子ちゃんといい、岡田といい、二人はそんなに大事な宝物があるのか?
それにハエがたかって自ら動く宝物って・・・風呂が嫌いなペットか何かか?
「・・・なら檻や首輪で行動範囲を束縛して、定期的にお風呂に入れてあげる・・・とか・・・はどう?」
どうやら姉ちゃんも僕と同じでペットだと思ったらしい。
二人は一瞬僕を見た後・・・にっこりと笑った。
「ありがとう!今度首輪をつけてみます!」
「お風呂って・・・慶太の・・・エッチ♡」
なんで僕がエッチ呼ばわりされないといけないの?
「・・・他に質問のある方は?」
おっと、まだ質問タイムだったな。なら僕もさっきから気になっていた事を一つ。
司会者を完全に無視した僕は、大声で会場のみんなに訊ねた。
「さっきまで僕の横に座っていた太郎君を、どなたか見かけませんでしたか?突然いなくなってしまったんです」
「さ〜いよいよ後半の部の結果発表です!泣いても笑ってもこれが本戦に行ける最後の3人だ!」
結局、太郎君を見つけられないままに結果発表が始まった。
「まず第3位!投票率0.5%、祥子さんです!」
きっとその0.5%は僕達くらいなんだろうな・・・
「そして同じく3位!投票率0.5%、イルカ姫!」
「な、なんでわらわが3位なのじゃ!」
向こうの方でものすごい煌びやかなドレスを着た女の子が暴れていた。
きっとあの人がイルカ(?)という人なのだろう。それを必死で押さえこんでいる従者みたいな人が彼女に投票したのかな?
「そして栄えある1位は・・・何と脅威の投票率99%!佐藤陽菜ちゃんです!」
・・・シ〜ン・・・
ここにいるほぼ全員が陽菜に投票したにもかかわらず、誰一人として歓喜の雄たけびを上げない。
それどころかみんな下を向いていた。
「やったよ慶太!」
「う、うん・・・すごいね・・・」
そしてなぜか僕も下を向いてしまった。
「この後30分後に本戦を始めますが・・・その前にこの会場にいる早川慶太君、今すぐに審査員席まで来てください」
悪い事をした覚えはないのに、なぜか審査員達に呼び出しをくらった。
「なんで僕が―――」
「いいから早く来なさい!」
なぜか怒られてしまった。
納得のいかないままそこに行くと、いきなりメインゲストと書かれた席に座らされた。
「えっと・・・僕はなんでここに呼ばれたんですか?」
「あなたには本戦の審査に加わる義務があると思うのです」
周りにいる人が一様にうなずく。
「あなたがはっきりとしない態度をとるから・・・だから今日ここではっきりと決着をつけていただきます」
そう言った男が小さな瓶を取り出した。中にはどす黒い液体が入っている。
「とりあえず、これを飲んでください」
「嫌です」
こんないかにも怪しい飲み物なんて僕には飲めません。
「フフ・・・フハハ・・・フハハハハハハハハハハハ!!」
突然、男が笑いだす。
気がつくと僕の体は他の男によって身動きが取れない状態になっていた。
「貴様に・・・貴様のようなゴミに選択の余地があると思っているのか?」
ゆっくりと小瓶を僕の口に近付けてくる。
「や、やめてくれ!マジでやめてくれ!た、頼むか―――ごぼぉ!?」
容赦がなかった。
どす黒い液体が僕の体に浸透していくのが分かる。
だが不思議と高揚感に包まれただけで、他にはこれといって異変は感じられなかった。
「・・・何の薬なんだ?」
「フフフ・・・それは審査の時のお楽しみだ・・・」
ふざけんな!もう何かの毒はこりごりなんだ!
「ふざけんな!もう何かの毒はこりごりなんだ!」
・・・ん?あれ?
「・・・ん?あれ?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
僕は毒の知識は皆無に等しい。
ただ・・・何となく、死ぬ事よりも恐ろしい毒を盛られた気がした。
以上投下終了です。
読んでくださった方、ありがとうございました。
きみとわたるの作者さん、自分の後でも投下の方どんどんして下さい!
むしろお願いします!
一読者として、かなり楽しみにしています。
亙と離れ離れになったらいむがどうなるか・・・
GJ!
岡田さんに一票!!
553 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 21:40:51 ID:MF2CJlun
解
GJ!
とりあえず陽菜さん恐すぎですwwというかパラレルでも慶太は大変ですな。
GJ!
ああ…、思ったことをそのまま喋っちゃうのか…。
地獄絵図しか見えない!
GJ!
パラレルのこの明るさもいいね
本編のシリアスさも好きだし、サトリビト最高です
555の言う通りサトラレビトなのか?
GJ!
同じくパラレルのこの明るい雰囲気好きですw
姉ちゃんとの姉弟バレはいつ頃くるのかな?
誰か太郎可哀相って言ってあげて…いつものことだけど
GJ!
太郎はどこに消えたんだろうな……
561 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 15:12:04 ID:sR28iwUE
派手
ヤンデレって実際いたら恐いのに、何で魅力を感じるんだろう
いや、実際いないから…代表的なヤンデレと言われる阿部定にしても、ちょっと違う…一番近いのが放火無理心中の八百屋のお七位かな?
まあ…それだけ現実の女がシビアって事。
漫画や小説等のフィクションは面白いものだろう?
フィクションであるうちは、だが
怖いのに魅力って、ただの怖いもの見たさじゃないのか?
先日はご迷惑をおかけして本当にすいませんでした…。
そして他の作者様、暖かいレスありがとうございます。
今回は4話目を投稿します。大したことない文ですが
よろしくお願いします。
「おはよう、って言ってももう夜だけど」
気が付くと誰かが覗き込んで来ていた。
「…ライム?」
視界はまだぼやけてはっきりしない。
身体が物凄くけだるい。ここは何処なんだろう。
「残念。鮎樫さんじゃないわ」
この声、どこかで聞いたことがある。確かすごく最近、どこかで…。
視界が徐々にはっきりしてゆく。
「……藤川…さん?」
「正解」
目の前には微笑む藤川さんの姿が。そうか、藤川さんだったのか。
「……え?」
ちょっと待て。何故藤川さんが目の前にいる?というかここは何処なんだ?
「混乱してるみたいね」
ゆっくりと俺から離れる藤川さん。どうやら俺は寝ていたようだ。
「この部屋は…」
明らかに自分の部屋ではない。高級そうな絨毯や調度品の類がある。
「遠野君の部屋だよ。気に入ったかな?」
「気に入ったもなにも…。ここは俺の部屋じゃないですよ」
身体を起こしベッドから下りる。やはり体調が良くない。
「遠野君の部屋だよ」
「だから…っ」
藤川さんは微笑んでいた。微笑んではいたけれど、その笑みは張り付いていた。
部屋の空気が凍るのを感じる。
「遠野君の、部屋だよ」
「………」
冷や汗が出る。そもそも何でこんな所にいるんだ?今日は確か…。
「君がマネージャーをしていた鮎樫さんの所属事務所。あれ、お父様の会社の傘下なの」
「お父様…?」
「藤川栄作。藤川コーポレーションの社長なの。聞いたことくらいあるでしょ?」
「日本でも有数の大企業ですよね。…じゃあ藤川さんは」
「そう、アタシはその娘。…普通はすぐ気が付くと思うけど。
サークルで気が付いていなかったの、遠野君だけだったよ」
…マジかよ。全く気がつかなかった。
「遠野君、マネージャーをクビにされたでしょ。理由は分かった?」
「まさか…」
なんだろう。本能的に危険を感じる。
俺は藤川さんの話を聞かずに、逃げ出した方が良いのではないか。
「多分正解。お父様に頼んでね、あなたをクビにしてもらったの」
楽しそうに話す藤川さん。一体何がそんなに面白いんだろう。
「……何でそんなこと」
「何で?そんなの決まってるじゃない」
近付いてくる藤川さん。逃げたいが足がフラフラして思うように動けない。
「ふ、藤川さ」
「遠野君は…遠野君はアタシの所有物だからだよ」
抱き着かれた。居酒屋の時みたいだ。ただ一つ違うことはライムがいないこと。
「ふ、藤川さん!?離れてください!」
「嫌。何で自分の所有物を離さなきゃいけないの?それにね」
藤川さんは俺を見上げながら言う。
「遠野君、自分の立場…分かってる?」
「俺の…立場…?」
「じゃあ教えてあげる。君はね、イケニエなんだよ」
「イケニエ…?」
「さっき言ったでしょ。遠野君の事務所は藤川コーポレーションの傘下だって」
「………」
「あそこの社長はね、事務所を存続させるために遠野君を売ったんだよ」
耳元で囁く藤川さん。何でこんなに楽しそうなんだ。
「だから君はこれからはアタシの所有物なの。アタシの執事として仕えてもらうわ」
「そんなこと出来るわけ…!」
「出来ないなら!…出来ないなら鮎樫らいむが、アイドルじゃなくなるだけだよ」
突き放すような言葉。ライムがアイドルじゃなくなるなんて。
ライムの才能を無駄にするなんて…俺には…出来ない。
「……分かり…ました」
「じゃあ契約の証。…キスして」
「なっ!?」
「出来ないなら別に良いよ?」
「…分かり……ました」
藤川さんにキスをする。感情の波が入り込んでくる。熱すぎて狂いそうになる。
俺には…俺にはライムがいるはずなのに。
「っはぁ!…契約完了ね」
「はぁはぁ…!くっ…!」
頭がガンガンする。おかしい。何も考えられない。
「顔色悪いよ。多分拉致する時の注射が効き過ぎたのね」
意識が遠くなっていく。
「今日はゆっくり休んでね。明日から遠野君は、アタシの…」
意識が…飛ぶ。
「奴隷なんだから」
「私は里奈様の専属のメイド、そしてメイド長を勤めている桃花(トウカ)と申します。
私のことは桃花とお呼び下さい」
早朝。起きると部屋の隅に執事服とメモがあった。悪夢ならば良かったと思いながら、
着替えメモに書いてある場所へ向かうと、銀髪のメイドさんが立っていた。
「…遠野、亙です」
身体の調子は戻ったようだが心はそうはいかない。
「これから私があなたに従者の心得をお教えします。ちゃんと覚えて下さい」
「……はい」
結局昨日は帰れなかった。ライムのことが気になって仕方がない。
「…心此処に在らず、ですか」
桃花は溜息をつくと近寄ってきた。
「一つお尋ねしたいことがあります」
「……何ですか」
「貴方は里奈様の"特別"なのですか」
「……特別?」
意味が分からない。桃花は俺の眼をじっと見つめている。
「はい、特別です。私は里奈様専用の玩具ですから、一番にはなれます」
「お、玩具って…」
「しかし"特別"にはなれません。私は玩具で女ですから」
桃花との距離が近くなる。燃えるような色をした彼女の眼が、俺を捕らえて離さない。
「こんなに感謝し慕い、恋い焦がれても、私は里奈様の特別にはなれません」
「…好きなんですか、藤川さんのことが」
「好き?そんな次元ではありません。里奈様は私の全てなのです。里奈様の喜びが私の喜びなのです。ですから」
「っく!?」
手首を掴まれる。振りほどこうとするが凄まじい力で圧迫される。
「貴方が"特別"で里奈様を満たして差し上げることが出来るなら、私はそれを全力でお守りします」
さらに力が入る。下手したら折れてしまうくらいに。
「しかし、もし貴方が里奈様を悲しませるようなことをしたら」
「いっ…!?」
後ほんの少しで手首が折れるところで
「排除します」
やっと解放された。手首はまだ痛みが残っている。軽く捻ったかもしれない。
「まあ里奈様は欲しいものは手に入れなければ気が済まない方。杞憂でしょうが」
「…っ。桃花はそれで良いのか?」
ひたすら人に捧げる人生。そんな生き方で良いのだろうか。
「良い?良い悪いではありません。私は里奈様の玩具なのですから。それより」
「んっ!?」
いきなりキスされた。氷のように冷たい。一切の感情も感じない作業のような、キス。
「……微かに里奈様の味がします」
「味って…」
「しかし後は何も感じません。…やはり私では里奈様の"特別"は理解出来ないのですね」
「桃花…」
「余計な事に時間を割いてしまって申し訳ありませんでした。
それではこれからこの家に使える者の基本事項をお教えします」
…とりあえず今は様子を見るしかないようだ。
「…お手柔らかに」
「里奈様、朝食の準備が出来ました」
藤川さんの寝室の前。扉をノックする。俺は彼女を起こしに来た。
この屋敷にはやたらと執事やメイドがいるらしく、
専属執事である俺の仕事は専ら彼女の身の回りの世話らしい。
「ありがとう。着替えるから手伝ってくれる?」
「えっと…」
「命令よ。手伝いなさい」
「…はい」
扉を開けるととてつもなく広い部屋があった。
部屋の中央には天蓋付きの大きなベッドがあり、そこにパジャマ姿の藤川さんがいた。
「こっちに来て着替えるのを手伝いなさい」
「…かしこまりました」
藤川さんに近付いてゆく。流れるような艶のある黒髪に少しつり目だが大きく、
端正な顔立ち。大学時代にも思ったが彼女はかなりの美人だと思う。
「さ、時間もないからさっさとお願いね」
「は、はい」
意識しちゃいけない。なるべく見ないよう、考えないようパジャマを脱がせてゆく。
「脱がせるの下手ね。桃花はもっと上手かったわよ」
「…あまり人を脱がせたことがないので」
「鮎樫らいむとはしたくせに?」
「なっ!?」
藤川さんと目が合う。吸い込まれそうな黒い瞳。
まるで全てを見透かされているようだった。
「…その反応。どうやら事実みたいね」
「………」
「…キス、しなさい」
「………はい」
藤川さんとキスをする。昨日よりも熱い、嫉妬のようなものが伝わってきた。
…おかしくなりそうだ。
「先に外で待っていて。すぐ行くわ」
「…失礼します」
遠野君を外で待たせ通学の準備をする。
「……遠野君」
唇を触る。熱を持った唇はさっきのキスの激しさを物語っていた。
「…あの女…!」
枕をたたき付ける。遠野君のおそらく、初めてを奪った鮎樫らいむ。
目障りだ。遠野君はアタシの物なのに。
「……でも我慢してあげる」
そう。遠野君はもうアタシの所有物なのだ。鮎樫らいむは手を出せない。
これからゆっくり彼を、アタシの色に染め直せば良い。
「ふふふっ、楽しくなりそうね」
今回はここまでです。今さらですが中編では終わりそうに
ないので長編という扱いでお願いします。
編集してくださる方、手間をとらせてしまいすいません。
投稿終了します。読んでくださった方、ありがとうございました。
恋人じゃなくて奴隷にしたがるのが多いな
彼女が、目度廊唖を使える様になる日も近いか…。
GJ!
らいむさんはいつ出てくるのか…。
ヒャッハー続きだー!
らいむの方にすっげえ鬱展開が待ってる気がするのは俺だけか
それよりも、らいむの病み化の臭いがする
GJ! 続きに期待
>>572 この時点で俺はもう藤川さんを応援する気は無くなった
頑張れらいむ!
578 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 11:02:36 ID:VcWpjFGG
派手 メイン 好かれてる
579 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 11:11:01 ID:ugD7XNqz
ヤンデレを監禁して目の前で主人公と泥棒猫を性交させる。苦しみ、反狂乱になるヤンデレ、さあ次の展開は?
581 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 13:56:19 ID:ugD7XNqz
>>580 ヤンデレ「私が女で最初のスーパーサイヤ人かも……」
とりあえずsageような
583 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 15:11:36 ID:VcWpjFGG
解
ラブプラスやってるところをヤンデレに見られたらどうなるのっと、
586 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 22:41:06 ID:brChheJL
DSとソフト叩き壊されるのは確定だね
1、DSが真っ二つ
2、液晶部分にヒビ
3、気がついたら知らない場所にいた
4、いつの間にか火に囲まれていた
ヤンデレプラス発売マダー?
ヤンデレプラス欲しいです。
前回コメしてくださった方、ありがとうございました。
ペース早めですが第5話投下します。よろしくお願いします。
「今日は三限で終わりだから」
「はい。それではまたその時にお迎えにあがります。里奈様、お気をつけて」
そう言うと桃花は車で去って行った。
「じゃあ行きましょうか、遠野君」
藤川さんは俺の手を取る。
「……はい」
またここに戻って来てしまったのか。俺は憂鬱な気分になりながら、
半年前まで通っていた大学の門をくぐった。
「おはよ〜里奈」
「おはよ」
「あっ、藤川さんおはよー!」
「おはよう」
「おーい藤川〜!」
「おはよう〜!」
藤川さんが教室に入ると皆が彼女に声をかける。元々モデルになれる程のルックスだし、
あの藤川コーポレーションのお嬢様なのだ。良い意味でも悪い意味でも注目される。
「里奈、今月号の雑誌見たよ!出るんなら言ってくれれば良いのに〜」
「いちいち言うの面倒臭いし。それに恥ずかしいのよ、そういうの」
「またまた〜!前年度ミスコン覇者が何言ってるんですか!」
「あ、あれは誰かが勝手に応募したら受かっちゃって…」
ミスコンとはこの大学で毎年やっているコンテストのことだ。
去年彼女は二位に大差をつけて優勝した。
「そういえば藤川さん、今日の課題やった?」
「……アンタ、空気読めないよね」
「ええっ!?」
「今はそういう話の流れじゃないでしょ。ね、里奈」
「えっ?ゴメン、聞いてなかった」
「……この子は本当に首席なのかしら」
「本当に面白いな藤川は」
見ていて思う。彼女には人を引き付ける力がある。ライムと…少し似ている。
でも俺の前で見せる彼女とはあまりにも違いすぎていて…。
「そういえばいつも一緒にいるメイドさんは?」
「今日からは執事にしたの。彼がそうよ」
執事服を来た俺を指差す藤川さん。視線がこっちに集まる。
「…里奈様の執事の遠野と申します」
今朝、桃花に習った通りにこなす。
幸い俺と藤川さんは他学部だったので、俺を知っている人はいなかったようだ。
「執事とか初めて見たよ!何かカッコイイよね」
「雰囲気だけよ。…手、出しちゃ駄目だからね。アタシの所有物なんだから」
「藤川さん、たまに恐ろしいこと言うなぁ…」
「冗談に決まってるでしょ!ね、里奈」
「…そうだね」
「ったく、お前は本当に空気読めないな」
…もしかしたら、本当は誰も彼女の本当の姿を見ようとしていないだけなのかもしれない。
授業が始まるまで藤川さんはどこかぎこちない笑みを浮かべていた。
「…はい。それではよろしくお願いします」
三限が終わり校門の前で桃花に連絡を取った。迎えに来てもらうためだ。
勿論自分の携帯は奪われたので、今は藤川さんの携帯を使っている。
彼女は課題を出しに行っているので一人待機だ。
「……はぁ」
授業終わりということで人の波がやや多く、邪魔にならないように隅で待つ。
「これから毎日これか…」
知り合い会ってしまったら何と言い訳すれば良いのだろうか。
そんなことを悩んでいると会話が耳に入ってきた。
「そういえば知ってる!?鮎樫らいむ、長期休養だってさ!」
「知ってる知ってる!今朝のニュースでやってた!何か病気らしいよ!マジショック…」
咄嗟に声のした方を向くと女子のグループが帰っているところだった。
「しかも事務所が火事にあったらしいよ!一部の過激なアンチの仕業じゃないかってテレビでやってた」
「アンチとかいるの!?信じられない!」
「私あんまり好きじゃないなぁ」
「…アンタもしかして」
「わ、私な訳無いじゃん!?」
「ですよね〜」
女子のグループは話しながら去って行った。
「………何だよ…それ」
ライムが休養?病気って一体何だ?事務所が火事にあったって?
一部のアンチの仕業?訳が分からない。頭がガンガンする。冷や汗が出ているのが分かった。
「…………」
そういえばしばらく新聞やテレビを見ていない。自分に用意された部屋にもなかった。
テレビはリビングにはあったが今朝はついていなかったし。
「まさか…意図的に…」
藤川さんが見せまいとしたのか。いや、そんなこと有り得ない。
それじゃあまるで、これから起こることを予知していたみたいな…。
「……先輩?」
何かが落ちた音がした。振り返るとそこには鞄が転がっており、
目の前には血に染まったような紅い髪をツインテールにした女の子が立っていた。
「先輩っ!!」
その子に思いっきり抱き着かれる。ライムのことで混乱していた頭がさらに混乱する。
「先輩っ!!会いたかったぁ!!先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩先輩っ!!!」
「…回文」
周りの視線を全く気にせず顔を胸に擦り寄せてくる。
彼女のことは知っているが、大学で一番会いたくなかった人物だった。
彼女の名前は神谷美香(カミヤミカ)。
同じサークルの一つ下の後輩で自分で染めたという紅い髪とパッチリした目が印象的な女の子だ。
そして彼女は名前が逆から呼んでも一緒、いわゆる"回文"のため
サークル仲間からは「回文」とか「かいちゃん」とか呼ばれていた。
「心配しましたよ先輩っ!急にいなくなって!」
「…とりあえず離してくれ」
俺はまだくっついている彼女を引き剥がした。
「あ…」
「暑苦しいし周りが見てる」
正直に言おう。俺は彼女が苦手だ。
元々タイプが合わないのもあるが、一番は彼女の強すぎる積極性だ。
彼女がサークルに入った直後から、大学を辞めるまでずっと俺は彼女に付きまとわれた。
周りは羨ましいというが俺としてはいい迷惑だ。
藤川さんも多少止めてくれていたが効果は薄かった。
「…何ですか、その格好は?」
じっと執事服を見つめられる。やはり聞かれたか。
「えっと…実は大学は辞めたんだ」
「…やっぱりそうだったんですか」
正確には卒業したらしいが、よく分からないのでとりあえず辞めたことにする。
「それで…今はその…藤川さん、いるだろ?同じサークルの。彼女の家で執事として働いてる」
言いたくなかったが仕方ない。他に言い訳も思い付かなかったし。
「…………はい?」
キョトンとする神谷。まあ普通は理解出来ないだろう。俺も理解出来てない。
「…まあそういうことなんだ」
でも今は納得してもらうしかない。
「……ふ」
「…?」
「ふふふっ!あははははははははははははははははははは!!」
いきなり神谷は笑い出した。さらに周囲の視線が集まる。
「お、おい神谷!?」
「そういうことですか!分かりました!実に愉快ですね、先輩!!」
「楽しそうね」
藤川さんが戻ってきた。…最悪のタイミングで。
「…藤川センパイですか」
今さっきのテンションは何処にいったというのか。いきなりトーンを下げる神谷。
「アタシじゃ悪い?」
「いえ、別に。ただ…遠野先輩を執事にしているというのは」
「事実よ。まあ回文さんには理解出来ないかもしれないけど」
…何だろう。冷や汗が止まらない。
「……お前、狂ってるだろ」
「…なん、ですって?」
「狂ってるって…っ!?」
予備動作無しで藤川さんを蹴ろうとした神谷の足は
「お止め下さい」
突如現れた桃花の右手によって防がれた。
「…ありがとう桃花」
「いえ、当然のことでごさいます」
…マジかよ。俺は身体すら反応しなかったのに。
「ちっ…」
桃花と距離を取る神谷。一筋縄ではいかないと判断したようだ。
「里奈様、いかがいたしますか」
「所詮負け犬の遠吠え、取るに足らないわ。帰りましょ」
「かしこまりました」
戦闘態勢を崩さずこちらを睨む神谷に見向きもしない桃花。
「遠野君、行くわよ」
「は、はい」
藤川さんに手を取られ俺もその場から去る。
「先輩!安心してください!わたしが必ず」
車に乗り込む俺達に向かって神谷は叫んでいた。
「必ず助けますから!」
「…………」
ベッドに仰向けになる。俺はこれからどうするべきなんだろう。
「……ライム」
やはり一番気になるのはライムのことだ。昼間聞いた話は本当なのか。
いずれにしろ、一度ライムに会いに行かなければ。
「……よし」
時刻は夜の10時を回ったところだ。深夜にこの屋敷を抜け出そう。
とにかく今はライムに会いたい。…いや会わなければ。
「…そろそろ時間か」
藤川さんの部屋へ行くために廊下に出るとそこには桃花が立っていた。
「今、行きます」
きっと藤川さんの部屋へ行けとの催促だろう。そう思って立ち去ろうとする。
「一つ御忠告をと思いまして」
「忠告?」
「はい。前に私が申したこと、覚えていらっしゃいますか」
「前に…?」
「"里奈様を悲しませるようなことをしたら排除します"と申したことです」
今朝のことか。確かにそんなことを言われたような気がする。しかし
「覚えてるよ」
それがどうしたというのだろうか。
「それならば良いのです。お止めしてしまい、申し訳ありませんでした」
「…ああ」
今度こそ立ち去ろうとする。
「もしこの屋敷から逃げ出そうとお考えなら、腕の一本や二本は覚悟してください」
「っ!?」
振り返るとすでに桃花は背を向けて立ち去っていた。
「……偶然、だよな」
逃げ出そうと考えていたのを悟られた訳じゃない。そうに決まっているのに震えは止まらなかった。
アタシは腹が立っていた。昼間会った神谷美香のことで、という訳ではない。
確かに神谷美香は障害であるが脅威とまではいかない。
むしろ負け犬の遠吠えは心地良ささえあった。
「…終わりました。それではこれで」
「待ちなさい」
アタシが腹が立つのは何故遠野君がアタシに興味を示さないのか、ということだ。
自分で言うのもどうかと思うが決して魅力がないわけじゃないと思う。
ミスコンにも輝いたしモデルだってやっている。
確かにアタシより魅力的な人はいくらでもいるだろうが。
「キスしなさい」
「……」
「キス、しなさい」
「…はい」
キスをする。熱い。焼けてしまうくらい、溶けてしまうくらい。
こんなにも好きなのにどうして受け入れてくれないの…!
「ぷはぁ!…これからは」
「……何ですか」
「これからは二人の時、アタシのことは里奈と呼びなさい。アタシも君のことは亙って呼ぶわ」
「……でも」
「呼べないなら!」
「分かったよ……り、里奈」
「それでいいわ。今日はもういい。お休み…亙」
「…失礼します」
それなら。興味が無いなら持たせるだけ。
アタシより鮎樫らいむの方が良いなら、あの女を越えれば良い。簡単なこと。
「今に見てなさい。アタシしか見えなくなるんだから」
里奈はしばらく亙が出ていった扉を見つめていた。
深夜。屋敷は静まり返り人影は皆無。そんな屋敷の庭を一つの影が駆け抜けた。
「はぁはぁ…!」
全速力で走る。屋敷から門までは200mほど。全力で走れば25秒前後で辿り着ける。
服は執事服ではなく半袖に長ジャージという、屋敷で用意された寝巻だ。
「…っ!着いた…」
門は閉まっているが横の塀を登って行けば越えられる。
「後少し…!」
塀をよじ登り外へ出る。着地も上手く行った。
「…成功だ」
しかしまだ終わりではない。ここからライムのマンションまでは結構ある。
出来れば誰にも気付かれず戻ってきたい。そうすればまた抜け出せる。
「…とりあえず急がないと」
夜明けまで後5時間弱。俺は休む間もなく夜の闇へ駆け出した。
今回はここまでです。
読んでくださった方ありがとうございました。感謝です!
投稿終了します。
>>595 素敵な作品感謝ですお!
お疲れ様です。
投下が早くて嬉しいです
毎度いいとこで終わるからもどかしいwww
>>595 GJ!面白かった。
はじめ回文という名前の台湾辺りからきた留学生かと思った
GJ!
らいむの病み具合に期待
ヤンデレプラスならぬヤミヤミメモリアルって言う幼馴染み爆弾ってあったような…
ヤンデレがいるので仕方なくラブプラスを放置したら今度はラブプラスのキャラがヤンデレに
詰んでるな
ヤンデレのことだけを考えて生きたい。
ヤンデレさえ視界にあればいい。
ヤンデレのにおいさえあれば鼻なんていらない。
ヤンデレはどこを触っても素晴らしい。
ヤンデレだけを味わいたい。
ヤンデレの声は何にも勝る。
ヤンデレとの生活は最高だ。
ヤンデレは愛をあらゆる手段で伝えてくれる。
ヤンデレの望む物は自分だけだと言うのなら、もちろん応える。全力だ。
ヤンデレこそが至高であり孤高であり最高だ。
ヤンデレであるならば、影から見守る系、拉致監禁系、
愛おしすぎて×しちゃう系、×べる事によって一つになる系、
そのどれもが美しい。
ああ。
ヤンデレ、降ってこないかなあ。
>>599 なにそれほしい
二つ買えばセルフヤンデレじゃないか
こんにちは。触雷!の者です。
6話目を投下いたします。
携帯電話を没収された僕は、家の固定電話で学校に連絡し、欠席を伝えた。
理由は急病にする。いわゆる仮病だが、まさか『メイドさんに外出禁止にされました』とは言えない。
ちなみに、電話をかけている間中、紅麗亜は受話器に耳を寄せて会話を聞いていた。
通話が終わると、僕はあることをするために2階に上がる。紅麗亜もついてきた。
「あの、紅麗亜」
僕は振り返って言った。
「はい。ご主人様」
「僕、しばらく自分の部屋で自習してるよ。学校の勉強に遅れちゃうといけないから」
「それでしたら、私もお手伝いいたします。高校の勉強でしたら……」
「あ、いやいや」
一緒に居られては大変なので、僕は慌てて手を振った。
「とりあえず、1人で大丈夫。分からないところがあったら聞くよ」
「かしこまりました」
そう言うと、紅麗亜は恭しく頭を下げた。今回は大人しく引き下がってくれるらしい。
「では、何かありましたらいつでもお呼びください」
1階に降りていく紅麗亜。その姿が見えなくなってから、僕はほっと一息ついた。
自分の部屋に入り、注意深くドアを閉める。
机に向かい、パソコンのスイッチを入れた。起動まで、待つことしばし。
勉強すると紅麗亜には言ったが、それは口実だ。
本当は他にやることがあった。それは、中一条先輩に連絡を取ること。
そもそも、ずっと今のまま、紅麗亜に外出禁止を喰らっているわけには行かない。
ではどうしたら、彼女は僕が外に出ることを認めるだろうか。
それには……至難の業だとは思うが、先輩と紅麗亜の間を取り持つことだと僕は思った。
まず先輩に、昨日のことを謝ろう。それから、紅麗亜のことを話してみよう。
食うや食わずの状態で倒れていたこと。当面は僕のところしか働き場所がないこと。
筋道立てて話せば、先輩も、紅麗亜が僕の家で働くことを認めてくれるかも知れない。
そうなったらしめたもの。紅麗亜だって態度を軟化させるだろう。
携帯は紅麗亜に奪われたが、パソコンの電子メールがある。これで先輩に連絡できる。
パソコンが起動したので、僕はブラウザを立ち上げようとした。ところが。
「あれ……?」
パソコンは正常に動いているのに、インターネットにつながらない。
ついていない。よりによってこんなときに回線トラブルなんて……
――どうしたんだ?
部屋から出て調べてみると、原因はすぐに分かった。
何のことはない。ケーブルが抜けていたのだ。
「なんだ、こんなことか……」
ほっとしてケーブルをつなぎ直していると、紅麗亜が現れた。
「ご主人様、インターネットをお使いになるのですか?」
「そうだけど……」
「でしたら、立ち会わせていただきます」
「え?」
予想外のことを言われ、僕は戸惑った。
「インターネットには、青少年に有害なサイトが多くございます。そのようなものをご主人様の目に触れさせるわけには行きませんので、私も同席いたします」
「そんな」
僕が先輩にメールを送るのを、紅麗亜が容認するはずがない。作戦失敗だ。
「あの、まさか、このケーブル外したのって……」
「もちろん、私です」
紅麗亜の抜け目のなさを改めて知った僕は、しばらくガタガタと震えていた。
こうなったら、紅麗亜が外に出たときを見計らって脱走し、先輩に直接会うしかない。
僕は自分の部屋にいて、紅麗亜の外出を待った。
幸い、冷蔵庫の食料が残り少なくなっている。
遅くとも今日のうちには、買い出しに出なければならないはずだ。
だが結局、その読みも甘かった。
お昼前頃、ピンポンと呼び鈴が聞こえた。
誰だろうと思って降りてみると、紅麗亜が、宅配業者と思しき人から大きな箱を受け取っている。
業者さんが帰った後、僕は紅麗亜に尋ねた。
「それは?」
「食料が心もとなくなりましたので、近くのスーパーから配送していただきました。便利な世の中になったものです」
「そ、そうだね……」
僕は落胆し、その場に座り込んだ。
そんなこんなで、夕方。僕は居間で、紅麗亜とお茶を飲んでいた。
結局、先輩が学校にいる間は抜け出せなかった。
今からだと、出られたとしても先輩の家に行かないといけない。それは少々、気が進まないのだが。
そう思っていたとき、呼び鈴が鳴る。
ピンポン
立ち上がろうとした僕を、紅麗亜が制した
「宅配は呼んでいないので、雌蟲かも知れません。私が出ます。ご主人様はここにいてください」
紅麗亜は険しい表情で、玄関に向かっていく。
しばらくして、話し声が聞こえてくる。内容は聞き取れないが、心なしか、押し問答をしているようにも感じられた。
――今度は誰が来てるんだ?
心配になった僕は、そっと玄関を覗いてみた。
「あっ……」
来訪者は、先輩ではなかったが、僕の知っている人物だった。
堂上晃(とうしょう あきら)。
僕の幼馴染で、学校では同じクラスだ。
いつものように、長い髪を金色に染めている。
学業のかたわら、プロレスラーをやっているという変わり種だが、体格はゴツくなく、むしろ細身の部類だ。顔立ちも中性的。
学校帰りなのか、学ランを着たままである。
「あっ、詩宝」
こちらを向いていた晃が、先に僕に気付いた。
「ご主人様、出てきてはいけないと……」
紅麗亜は不満そうな顔をしたが、僕は2人に歩み寄った。
「あの……よく来たね、晃」
「おい詩宝、誰だこの人?」
うんざりした顔で、紅麗亜を見る晃。
「詩宝が病気だって言うから心配して来てみたら、ろくに話も聞かずに帰れとか言いやがる」
「この人は……昨日からうちで働いてるメイドさんだよ」
「メイド?」
「メイドもご存知ありませんか。余程世間知らずの方なのですね」
紅麗亜に侮辱された晃だったが、柳に風と受け流した。
「詩宝の家に、メイド雇うお金なんてあったっけ?」
だが晃の態度は、紅麗亜の怒りに火を着けたようだった。
「何なのですかあなたは? 他人の家のことに首を突っ込んで……」
「あんた、どこの会社から派遣されてんだ? 契約期間は?」
「どこの会社も関係ありません。契約は永遠です。私は個人として、詩宝様に全てを捧げてお仕えしておりますので」
「ハッ! イカれてやがる」
「!!」
晃が吐き捨てると、紅麗亜の額に青筋が浮かんだ。半端でなく怒っている。
これ以上こじれさせてはまずい。僕は2人の間に割って入った。
「あ、晃。今日はこの辺で……」
だが、晃は帰ろうとしなかった。それどころか、靴を脱いで中に足を踏み入れる。
「上がるぞ詩宝。2人で話がしたい」
「駄目です!!」
すると晃の前に、紅麗亜が猛然と立ちふさがった。
「ご主人様はまだお加減が悪いのです。お引き取りください!」
「…………」
「…………」
紅麗亜と晃は、しばらく無言で睨み合っていた。身長差は10センチ弱か。紅麗亜が高い。
先に晃が目線を切る。
「分かったよ。邪魔して悪かったな。今日は帰る」
「ええ。それがよろしいかと」
「ごめん。晃……」
うなだれた僕。晃は靴を履き直し、外へ出て行く。
「あーそれから」
ドアを閉める前に、晃は振り返って言った。
「詩宝が学校に出てくるまで、毎日来るからな」
ドアが閉まると、紅麗亜は音を立てて鍵をかけ、チェーンを下ろした。
そこまで警戒しなくてもいいのにと思う。
「ご主人様、今の方は……」
「クラスの友達だよ。悪い人じゃ……」
「いいえ。そうではなく」
「と言うと?」
「今の方は男性ですか?」
「!」
僕はどきりとした。
実は晃は男ではない。女の子なのだ。
晃は小さい頃から、男として育てられてきた。
知っているのは、家族ぐるみで付き合っていたうちの家族ぐらいのものだろう。
彼女の父親がプロレスラーだったのだが、現役時代どうしても取れなかったタイトルがあるらしい。
晃はそのタイトルを取るために、男としてリングに上がっている。
詳しいことはよく分からないのだが、男しか取れないタイトルなのだとか。
僕は彼女が女だとばれないよう、これまでいろいろとサポートしてきたのだが……
紅麗亜は、彼女を一目見ただけで感付いてしまった。
僕のせいで秘密が漏れてしまったら、ごめんなさいでは済まない。必死に取り繕う。
「も、もちろん男だよ。男の制服着てたでしょ?」
「男物の服を着ているから男性、とは限りませんが」
「…………」
納得させるのは難しそうだ。僕は話題を変えて切り抜けることにした。
「え、ええと。そう言えばお腹空いちゃったな……夕食作ってくれる?」
「……かしこまりました。ご主人様」
紅麗亜は一礼し、キッチンへ向かっていく。どうやら誤魔化されてくれたようだ。
僕は安堵のあまり、その場にへたり込んだ。
で、その後も僕の脱出作戦は失敗を重ねた。
日中ついに家を出られなかったので、紅麗亜が寝ている間に事を起こすことにした。
夜の間に家を出ておき、朝までどこかで時間を潰してから先輩に会おうと考えたのだが……
寝ようとすると、全裸の紅麗亜が当然のように、僕のベッドに入ろうとしてきた。
「……本当に一緒に寝るの?」
「やると言ったら、メイドは必ずやるのです」
「そ、そう……」
「それよりご主人様、何ですかその寝巻は?」
「え? 寝るんだから当然じゃ……」
「メイドと寝るときは、ご主人様も裸になってください」
「でも……」
「早く」
そんな会話があって、僕は裸になったのだが、ベッドに入ると紅麗亜が両手両足でしがみ付いてきた。
苦しくはないのだが、身動きが取れない。
「う、動けないんだけど……」
「動かなければいいのです。何かあれば起こしてくださいませ」
それきり、紅麗亜は寝てしまった。
メイド用抱き枕にされた僕は、何もできずに朝を迎えた。
翌日――
僕は寝不足の目をこすりながら、紅麗亜が作った朝食を、彼女の手で食べさせてもらっていた。(食事前に、「今後ご主人様は、ご自分の手で食事を摂るのは禁止です」と言われた。)
今日もまた、仮病で休まないといけない。
2日、3日ならいざ知らず、そう長く使える手ではないだろう。
いつかは怪しまれる。そう思うと憂鬱だった。いつになったら出られるのだろう。
食事が終わった後、僕は紅麗亜にそれとなく水を向けてみる。
「あのさ、紅麗亜」
「はい。ご主人様」
「僕がこの家から出ない話なんだけど……昨日は確か、“しばらくの間”って言ってたよね?」
「はい。申しました」
「揚げ足を取るわけじゃないんだけど……その、やっぱりまだかかるのかな? 僕が外に出られるようになるまで……」
すると紅麗亜は、にっこりとして言った。
「そのことでしたら、ご心配には及びません。後1日か2日のご辛抱です」
「ほ、本当に!?」
紅麗亜の言葉に希望を持った僕は、勢い込んで尋ねた。
「本当でございます。ここからは距離も遠く、辺鄙なところですが、私の所有する館がございまして」
「……え?」
「そこで今、私の“妹達”がご主人様をお迎えする準備をしております。準備が整い次第、そこへご主人様をお連れいたします」
「あの、あの……」
体がまた震えてきた。紅麗亜が続ける。
「そこでしたら、あの雌蟲の手は届きません。昨日のような鬱陶しい来訪者も来ないでしょう。世俗の雑音から解放された場所で、ご主人様は思う存分外出なさることができます」
紅麗亜は花のような笑顔を見せる。
僕は震撼していた。
このまま手を拱いていたら、僕はそのメイドの館へと拉致される。
そして、人里離れた治外法権の場所で、紅麗亜のしたい放題に嬲られるだろう。
――こ、これは何とかしないと……
僕は必死に、打開策を打ち出そうと頭を巡らせた。
しかし、なかなかいい考えは浮かばなかった。
終了です。
やや退屈な展開で申し訳ありません。
次回は先輩の巻き返しを予定しております。
なお、直後投下上等につき、よろしくお願いします。
GJ!
次も楽しみだ
GJ!
しかし、このメイド潔いくらい初期設定破棄したなw
触雷!乙です
下手に逃げると高速の大剣で刻まれそうだ
>>595 名前で呼ぶけどしっかり敬語で接してほしいな。
せめてもの抵抗というか嫌がっているというアピールに。
ていうか里奈頭悪すぎるだろ……こんなことされて好きになる訳ないのに
>>608 今更だけどメイドを名乗ってるくせにご主人様みたいな女だな
>>610 確かに、通して読んでると楽しみづらいよな。
614 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 21:14:24 ID:bIkoKtZk
>>613 610は別にそういう意味で言ったわけじゃないんじゃないのか?
それはそれとしてGJ!
↑スマン、sage忘れた
連レスめんご
キガ ツク トワ タシ ハヤ
ンデ レニ カン キン サレ テイ タソ レデ モワ タシ ハイ エニ カエ リタ ツタ
ケレ ドモ ヤン デレ ハコ チラ ニク サリ ヲム ケル
>>612 ご主人様みたいなメイドってのはなかなか的をいてるなw
触雷きてたGJだぜ
関係無いが浮気が許せなくて風紀委員会なる秘密警察を組織したマリア・テレジアはヤンデレの素質がある気がする
GJ!です。
こんばんわ。連日の投稿ですいません。このペースがいつまで保てるか
分かりませんが頑張ります。今回は第6話です。
前回コメントくださった方、ありがとうございました!
もうどのくらい走っただろうか。
途中から雨が降ってきたが、構わず走り続ける。
「はぁはぁはぁ…!…あれは」
見慣れた風景が広がる。
それは確かに、半年間ライムと一緒に過ごした町並みだった。
「後少し…」
冷え切った身体に葛を入れ、また走り出す。
しばらく走ってようやくマンションの前にたどり着いた。
一日しか経っていないはずなのに、何故か懐かしい。
暗証番号を入力してエントランスへ入り、ライムの部屋へ。
「はぁはぁ…」
緊張する。不安になる。もしライムの身に何かあったら?本当に病気なのか?
事務所の火事って一体何だ?疑問がありすぎて頭が混乱する。
「…それを確かめるために来たんだろうが…!」
覚悟を決めてインターホンに手を伸ばす。
「…わ、た、る?」
「っ!?」
声がする方を見ると、確かにそこにはライムがいた。だが…。
「ライム!?ライム大丈夫か!?」
顔は憔悴しきっていて目は光を宿してはいない。服はボロボロで身体中傷だらけだった。
雨に濡れて震えている。そして何よりも…。
「おいライム!?お前、お前血だらけじゃねぇか!何があったんだ!?怪我してないか!?」
身体中が赤く染まっていた。
「わ、わ、たる、な…の?」
「ああそうだ!急にいなくなってゴメン!!」
力一杯ライムを抱きしめる。コイツ、こんなにも華奢だったのか。
「ほん、とに…わ…たる?」
「ああ俺だ!!」
「わた、わたる……うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
途端に泣き出すライム。俺には黙って、彼女を抱きしめることしか出来なかった。
「ほら飲め。暖かいぞ」
ひとしきり泣いた後、少し落ち着いたライムと彼女の部屋へ入り、お互い風呂に入った。
それでも身体が冷えているライムのため、俺はホットミルクを飲ませる。
「…亙は?」
「俺は大丈夫だから。早く飲まないと冷めちまうぞ?」
ライムは俺の隣でゆっくりとホットミルクを飲んでいる。
「…おいしい」
「そりゃ敏腕マネージャーの俺が作ったんだからな。美味いに決まってる」
「…元…でしょ?」
「っ!…知ってたのか」
「…昨日の夜社長から電話がかかってきて…事務所で聞かされた」
「そっか…」
ライムが知っていたのは意外だった。社長はどこまで話したのだろう。
「…私の、せい?」
「ん?」
「私のせいで、私が我が儘ばかり言うから…だから亙、私のこと嫌いになっちゃったの!?」
いきなりライムが抱き着いてきた。一体どうしたっていうんだ。
「何言ってんだよ、嫌いになんか」
「じゃあ、じゃあ何で…何でマネージャー辞めるとか言うの!?」
「俺が…辞める?」
「社長から…わ、亙が"仕事に疲れたから辞める"って…私、私のせいで!」
「………」
…そういうことかよ。嘘つきやがったのか、あの社長。
「お、お願い!や、辞めないで!私何でもするから!もう我が儘言わないから!だからっ…!」
すでに半分泣いているライムの手を握る。
「そんなわけないだろ」
「わ、亙?」
「言っただろ?お前の全てが大好きだってさ」
「……うん」
「だったら嫌いになるわけないだろうが。ちょっとは俺を信用しろ」
「…ごめんなさい」
ライムの頭を撫でてやる。ようやく落ち着いたようだった。
「…ってことだ」
「そう…だったんだ」
昨日から今日にかけて、俺に起こったことをライムに話した。
話している途中、ライムはずっと黙って話を聞いてくれた。
「だから今は藤川さんの屋敷で執事として働いてる」
「……大変、だったね」
時計を見るもうすぐ朝の4時になるところだった。
「悪い、もう行かなきゃ」
「えっ!?」
「さっきも言ったけど、バレるとまずいんだ。また明日来るからさ」
「ま、待って!行かないで!」
立って出ていこうとする俺をライムは止めた。
「絶対明日来るから。約束だ」
「でも…」
「ライム、俺を信じてくれ。頼む」
「………分かった。じゃあ…」
顔を赤くしながら小指を出すライム。
「…指切り、して」
「分かった」
小指を固く結ぶ。ライムの小指はとても冷たい。俺が守らないといけないんだ。
「私が、言うね」
「ああ」
「指切りげんまん〜♪」
ただのおまじないなのにライムの歌声は素晴らしく聞き惚れてしまった。だからなのか。
「嘘ついたら…の…も……す!指切った!」
それとも疲れからかもしれない。後半部分は聞き取れなかった。
まあ大したことじゃないか。
「じゃあ俺、行くわ」
「あ、忘れ物」
振り返るとキスをされた。昨日と違うのは軽いタッチのようなキスということ。
「…つ、続きは明日ね」
「お、おう」
照れながら言うライムに俺まで照れてしまった。
亙が出ていくとライムは"おまじない"を歌い出した。
「指切りげんまん〜♪」
雨はすでに止んでおり今日はおそらく快晴だ。
「嘘ついたらあの女もこ〜ろす!指切った!」
何故亙は彼女に聞かなかったのだろう。休養のことや事務所の火事のこと。
「〜〜♪」
そして何故彼女が真っ赤に染まって帰ってきたのかを。浮かれていたのかもしれない。
あるいはライムが無事で安心したからかもしれない。しかし
「今日は良い天気かな〜♪」
彼女の瞳がすでに淀みきっていることには、気が付くべきだった。
屋敷に帰る頃にはもう夜明け頃だった。果たしてバレていないだろうか。
塀をよじ登り庭へ。全速力かつ音を立てずに自分の部屋へ戻る。
幸いまだ誰も起きてはいないようだった。
「ふぅ…」
ベッドに腰掛け、ようやく一息つく。時計をみるとちょうど5時半だった。
「確か起床は6時だったな…」
まだ少し時間があるが寝たら多分起きれそうにない。
寝坊して下手に勘繰られるのもマズい。
「…仕方ない。早めに準備するか」
寝不足は体力的にキツイがこれもライムのためだ。
「約束…したからな」
今日も頑張ろう。執事服に着替え終わった頃に朝日が昇るのが見えた。
大学の正門前で四限終わりの藤川さんを待つ。相変わらず授業終了直後なので、
人の波が結構ある。そして今日はやけに警備員の数が多い。何かあったのだろうか。
「……良い天気だな」
「そうですね、先輩」
「お前も……は?」
「こんにちは先輩っ!」
隣にはいつの間にか神谷美香がいた。
いかん。敵の接近を許すとは相当疲れているな、俺。
「回文か」
「わたしで残念みたいな言い方ですね。あと回文って呼ぶの止めてください」
頬を膨らませる神谷。相変わらず真っ赤な髪だな。……真っ赤?何か引っ掛かる。
「…だって回文だろ。皆もそう呼んでるし」
「周りの奴らはどうでもいいけど、先輩には…」
真っ赤…。何だこの感じ。忘れてはいけない何かを忘れているような…。
「…先輩、わたしの話聞いてます?」
「えっ?あ、ああ悪い。何だっけ?」
ため息をつく神谷。でも怒ってはいないようだった。
「もういいです。何か先輩疲れてるみたいだし。…藤川センパイに何かされましたか?」
「いや、藤川さんは何もしてないよ。俺が勝手に寝不足なだけだから」
「…そうですか。でもあんまり無理しない方が良いですよ」
優しく微笑む神谷。コイツ、こんな表情も出来るのか。
「…どうもありがとな」
「いえ。最近は物騒ですから。この近辺に殺人犯が潜んでいるようですし」
「…殺人犯?」
「知らないんですか?」
神谷は少し驚いたような表情を見せた。
「ああ…。いつの話だ、それ?」
「いつって…今朝のニュースですよ。世間でもかなり話題になってます」
「今朝はニュース見なかったからな」
まあ屋敷に住んでから一回も見てないけどな。
「執事さんが聞いて呆れますね。仕方ないからわたしが教えてあげます」
誇らしげに胸を張る神谷。…うん、見事なまでにまな板だ。
「頼むよ」
「はい。実は昨日の夜、数人がこの近辺の建物で殺されたんですよ」
「そうなのか」
「しかもですよ?その被害者達はあの鮎樫らいむの事務所の社長やマネージャーらしいんです」
「………………え?」
思考が、停止した。
「その前日にいきなり鮎樫らいむが病気で休養して、事務所が火事になりましたよね」
…つまり…………どういう……?
「そして昨日のこの近くにある建物、つまりは事務所で鮎樫らいむの関係者の殺害…。
世間は過激なアンチ、もしくはファンの仕業じゃないかって騒いでます」
……駄目だ…考えちゃいけない……。
「警察はこの近辺にまだ犯人が潜んでいるんじゃないかって調べてますね。
なので今日はいつもよりここも警備員が多いみたいです」
…昨日は……雨が降ってたから……だから…?
「まあわたし達には関係のない…先輩、大丈夫ですか?」
「……あ、ああ…」
「顔色悪いですけど…」
「……いや、大丈夫だ」
平静を保つ。考えるのは後でいい。とりあえず今は落ち着かないと。
「もしかして、先輩…」
神谷が何か言いかけたその時
「遠野君、お待たせ!」
藤川さんがやって来た。
「こんにちは、藤川センパイ」
「あら、回文さん。こんにちは。遠野君、行きましょう」
「は、はい」
ちょうど桃花が到着したので大学を後にする。
「遠野先輩っ!また明日会いましょう!」
神谷は後ろで俺に手を振っていた。
今回はここまでです。読んでくださった方ありがとうございました。
そろそろペースが落ちそうですが、なるべく投下しようと思います。
投稿終了します。失礼しました!
乙です
gj。次も楽しみにしてます。
GJ!いよいよらいむが本領発揮という処ですな。今後の展開がますます楽しみです〜
ヤンデレ惨聴いて思ったけど、ヤンデレなロボット・アンドロイドってすごく魅力的だよなぁ…
人間でないというだけでも妄想が広がる
どこかのスレでヤンデレの自宅統合管理システムを見たことがある
もう487 KBって消化はええ。
次スレ立ててくる。
>>632 乙
ヤンデレイド?ヤンデロイド?ヤンドロイド?
どことなく( 衣類用の )虫除けっぽい響き…「変な虫・悪い虫」的な意味では間違ってない、のか?
埋めた方がいいのかな
636 :
sage:2010/06/27(日) 15:03:26 ID:q6Zh/BuV
637 :
to:sage:2010/06/27(日) 15:06:13 ID:q6Zh/BuV
ヤンデレ戦隊ものってどうよ
>>630 このスレじゃね?
無題短編のどれかだったと思う
641 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:41:09 ID:DhA205Dd
_,l;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;l,,_
,.r'´,. -┐ ':..,゙ヽ
,r' ,::;:' ,ノ ヽ、 ゙:::.ヽ
,.' _.,:;:'___ _立_ ___;;ミ゙、  ̄ノ ̄| ̄
.l厄巳厄巳厄 i王i ,.巳厄巳厄巳l ,勹 .├‐''
l´ , "´  ̄ ̄ ̄ `'''′  ̄ ̄ ̄`.:`{ ´_フ ヽ、_,
| l ;;:.,. ::、. ... '゙|
,.-''、.,! ,.::' ヽ、:.゙、 ;;.:' '' ヽ | ,.、 __l__
./ 、/ `ヾー─tッ−ヽ'' kーtr─ツ'´〕. ヽ. |
/ {´i Y::::.. ` ̄ ̄´.: "i! ::. 、` ̄´ ゙:::.、} r、 l i,____
| ヾ_,,入;:::.. `'' " ´.::; .::i! ::.. ``` :. }ツl l
\ ノ ヾ ;:::. .:r'' :: ll! :ヽ;:..:. .: j,ノ ,! ┬‐┌,┴┐
ヽ',,;l ゙i ;::.. _ `ヽ、;;,,,,'.ィ'' _,, .::,;r'1,,,/ l__ ノl士
ッジ::::::| ゙ ,r'´:::;;;;;;;::> 弋´;;;;;::::ヽ'" |:::::゙'イィ ノ凵 l土
弍:::::::::::l /:::;r'´ ,,..-ー…ー-、 ヾ;:::'、 |:::::::::::ヒ
シ:::::::::::l i':::,! ´ __ ゙ l::::l:. |::::::::::ス __ヽ__‐┬┐
彡;:;:::::l l:::l ''''''''⇒;;;:, l:::l |::::;;ャ` ニ メ ,ノ
,r', 广'`ヽl:::l ::::. .:: ゙::. l::l ノ^i`、 l ̄l ハヽヽ
,イ(:::j i::;ヘ :;:. .:: l::l'" l:ヽヽ  ̄  ̄
|;:ヽヽ l::l ヽ ;:.... .. .. : /l::l ノ ,.イ
|;:;:;:;\\ l::l ', :;.:;::::::::::..::. / l::l,r'' /;:;:;|
うめ
642 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:42:03 ID:DhA205Dd
_,. -ァ――‐-- 、_
/ ノ* , - '^⌒"´`丶、
/ ノ r'´ ヽ
/ ノ * ノ / , 、 ヽ
/ l l // , /, jl i ',
/ 、_ l l l l/_/_,ィ// __ム! l l l
 ̄|`lヽj * 〈 l ,lィ'_.ノ'´ノィ' ,ィリ l,' l l
,l l l { 'l下T::::T' //ナ!;Tリ lj l
l l '、 }、' ト。'ー' ´ , 'ーイ /リリ
l l ヽ* '、ヽ',"" "ツノノ
l l l { ヾ>、 ‐_,.ィ"l´ く
l l l 入 l^ヽミエ二、 l *l す
,' ,' / ,イ rt, *'、, -‐ロ‐-ミt l ん
,' ,' l イ (l ヽ/||ヽ. ハ l こことはもうお別れなのですぅ
,' ,' K l ', |l| (lヘ) l
/ / ,ハ、、 l * l, |ll| (l '、 l
/ /l / ノ l l |{l}| (lてy
/ / l / くー- 、 、__,j、_V!l | {l (ヘ
/ / / /7、 / ,rへ!ノ j} {l__,、j トl
/ / く__/| |`´{ト、 〉三ミ彡fri〜l^l '、
,/ / / ,| ,| {l) ヾ'、三三ミYハ,.」}、'、ヽ
,. --イ / / / '、 {l) 入_ ゙ー'^ー'`丶ミヾ、
,'´、 / / / l ノ人 ノイム、 丶、 ヽ`ヘー- 、
l ヽ/ / / l / {l`´ ^'く, , ,) ヽ ', //7 ヽ
ノ! /\ ノ!イ し=〜'´゙"´`丶、 ヽ ,'/ノ`ヽ. ヽ
/ r,/、 \ ,.ィ" '´ `'ーt、 l lj 丶ヽ、
i´ メ `二ニ>'´ `丶ニ'ノ }ヽj`ヽ.
643 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:42:44 ID:DhA205Dd
, ',´ィ ' ´ \
/ '/ ___ 、 、 ヽ //ヽ
. / '´, ' / , ,...:.:.':.´:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:`:.:.:.ヽ ヽ 冫:;ィ::::;' __
'′/ ,/ /':.:.:.:.;:. -―¬¬¬―- 、:.:ヽ ヽ/:/,.l:::::l':´_ハ
/ .,.,'' , /:,: '´ ` ', ',//;:l::::;'´ /:::/
,' // / ,'´ i l ! . | ! , r '´ l::〈 /::::ノ
i /.,' / l i l __tハ l ! .| t T¬ ト l、 ! ト、 !:::l /:; '
l./ .l ,'! l ,レ'T´ ll! !.l, l li. |', ト, _!_l `! lヾ':.l::::!l::::l
l,' l ! ! ! l', l ,ゝェ 、',|',l',. ! !.l >' ,r 、 ヽ,,'l l::ヾ:!:::|.l::::!
! l ! ', . l ' / /.n.',` .'|',| '! l 0 l '' ! .l;:::l::ー':;'::/
', !. l '., ',::''::.ヽニ.ノ, .: ::... ミニ'r l. ! ll::::ト:ヾー' スレを埋めるのが私の生きがいですから
', ! ! ヽ':;:::.` ̄ ..::. ,' . l. !l::::! ';::':,
', l l ';`::::.. .::::::' ,' l !.';:::', ':;:::':, 埋めたてできればそれでいいんです
'.,! ! ';::::::::...:::::::::r--ァ ..;' .l l! l ';:::', l';::::',
. ! l lヽ:::::::::::::::::ー.′ ..::;:;' l .l! ! ';:::':!,';::::',
! l !. ! ` 、::::::::::: ...::;:::'::/ ! ,'!. / ヽ::::':,!::::!
! l .l .l ! `ヽ:、:;::::':::::::/ ! ,','./ l ヽ:::';:::l
l l! ', . ト、. ト、',、 !:::::::::::/ , / ./// ト、、 .l! !:::ト'
l ハ . ', ',ヽ ', ヽ',\ !::::/ ///>、 、 ! ヽ!', l.l,'';;';!
644 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:43:37 ID:DhA205Dd
:::::::::: ::::: ::: :: : : : ,. -─- 、 /
::::: ::::: ::: :: : : : ,.'´ `ヽ. ,' 仲
::::: ::: :: : : : / ノ、 ':, i. 間
:: ::: :: : : : ,' ,.'ヽ:ヽ ':, ,..-‐- 、 ,. -─- 、! を
::: :: : : : | / !::ヽ. i / ':, ,.' ', 見
:: : : : ! / !:::::::! ,' ,.' i ヽ. i 故 i 捨
: : : レ' !::::::/ .,.' ,' | ':, ! .郷 | て
: : ,':::::;' /-─- 、.,_ / /:! i | を ト、
: ,. ' !:::/o/ `''ァ' /::::::',. ,' ! 捨 | `'' ー
/ ,レ'"´ / /:::::/ヽ、 / .! て |
, ' / , ,'o /:::::/ヽ. `ヽ, / ∠ て ,'
/ ,.' / ヽ/;:イ ':, レ' `ヽ、___,.: '
_ノ, ./ ,' /! /! ', , ', ,. -────-
`'i ,' .!/_`i'ー/::| ; ! i ; i /
,. - レヘ. ! i. |`゙ト、! /:| 、/| ! i | ,' 破 幸 ス そ
'、.,,____ iヽ、!,ヘ ゞソ レ'::::::レ'`'iー- /! ハ i. i. i 廉 せ レ れ
、.,___ ! /7"'' ´i`゙'ト、'_.| / i ,ゝ | < 恥 を. の な
Y ,ヘ ' '、_ン_ノ!,イ /V´ i ! .! な 感 埋 の
,' ノヽ. r-、 ,.,.´/ / | | | 彡 ! 女. じ め に
/ /;:/:::;iヽ. ┘ / ,.:' .! | ! | か て に
: ,' ,イ/::/:::::::! /ゝ,--‐=7´ ,.イヽ. ,' || ! も し
: : レ' /'!ヽ>、:::::!'/ヽ. /! /;::::::::::`;ゝ、 | |. 知. ま
::: : : : ,' !::!7::::::::!7´Y'ヽ/ レ'く´::::::::::::/:::::::ヽ. ! ! れ. う
:::: : : : : / !::i';::::::::::!⌒ソ/::::::::/::::::::::::;:'::::::::::::::::'; ', | な 私
:::::: ::: : : : ,' .!::!:';::::::::|_/イ::::::::::::/::::::::::::/::::::::::::::::::::i ', !. い は
:::::::: :::: : : : i /::::!::';::::::レ'::::::::::::/::::;、:;__::i:::::::::::::::::::::::',. ヽ、 '、
645 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 20:44:16 ID:DhA205Dd
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646 :
名無しさん@ピンキー:
| レ' ノi }
∠∠、⌒ヽ、
,∠ -‐< ヽ_
,ノ T  ̄´ \
l ハ ,'-‐-く 、
.! ト、ー- ' / ` ` 、
l l ` ー‐ '′ `` 、
.! ! `` 、
! ! ``、、
.! ', ゙`、
l ', ゙ 、
.! ', `.、
l ', r‐- へ- へ、_ ゙.、
」/ ̄ __ヽ / ̄ } l / `>` 、 ``、
r‐V/イ´: : : :\ 「 ヽ > ´ ̄ ̄`ヽ、 } ヽ `゙、
∨|. . . . : : : : : : : ヽ く 、/ ヽ| l ', ゙.、
|. . . : . : : : : : : : { fニ/ / / ∧ V 花.| `、
/ . : : : . . : : : : : ∧ },ソ / / / ,イ '、 l |.| ‘、
\ . . : : . . : : : : : : .`V′ /__/ // // ''"´ V } ! ‘、
ヽ . ; : : . : : : : : : :/l 「 / ,>// / __ / ハ.| ゙',
∨. : : . . : : : : :/ ハト∨ イサー、 イ´ ,.}`/ //| ‘;
ヽ . . . : . . : / ハ、ヘ.辷 」 └ォチ-イ^\__| ‘、 うめるー
\. . . . :/ /: : :ハ-ヘ ' ノ-ハー'⌒< ) ゙',
\. :/ /: : : f´ ト 、 ゜ ∧/: : : : : : : ∨ヽ ‘,
∨ ./ : : : :ソ ヽ 、 /√< /: : . . . . . : : ∨} '___
/ ,.イ. : : : : :〉、 <</ナ|V: : . . . ./. . . .`: V) /´ ゚, ,.ヘ
/ / ヽ. : ; :〈 ,.イ// j/: .ヘ: . , . . . . . . . .∨} / _,. '、,∧
/ / ∨ ; こ!イ`テ'/ ハ: . . V . . . . . . . . . V \_,j '´K {∧
/ / ∨:ノ /.:/ / / }ノ. . 、.} : . . . . . . . . . ヽ \ヽ'`,、、∧ _,. -―‐- 、
|/ Y レ'/ / / |ゝ. . :ヽ: : : . . . . . . . . . .\ \` > ''´ }
/ lV { / {`ヽ : : : \: : : . . . . . . . . . .ヽ、 / ,、 l
/ レ′|/ V」: : : : : : ヽ、 : : . . . . . . . . . . `/ r 、 {| ,. ァ /
ヽ レ ∨} : : : : : : : :l 、: : . . . . . . . / ヽ\ |l/ /._ /___
V / ヽー、: : : : : :! jヽ: : . . . . ./ __ \ヽ! ∨'./'´ /⌒´
∨ / Vー、: : : :/ { |ヽ . }: :/ `ヽ`ー┘ iハ_/ /ア
V ヽ<: : :/ ,「 ', ∨. :{ 孑i !_,. . -―ァア ノ‐ァ
V / \_} >__ヽ|: : ゝ、 __,. - '^`´} /: : : _://-く ノ、
∨ >‐ ''"  ̄ ̄ ̄V´ ハ,L:__;}l 」 _,.. -‐<: : ///イフ < /
/| 〈> '" _,.ィ―ヘ __/ /} ーヘ/ >‐ニ´: : : : : : : : :/// / ノ < 〈
/ l( . イ `} ゝニニヽ }Y: . . . . . . . . . . . . :/// ‐< ヽ/ /
ハ、_ト ,.イ l ,.へ、 /// フ: : : : : : : : : : : : :{ i ハ \ V
ヽ >、 / ト / | / ./ /- : : : : : : : : : : : :| | 〉 / >
ン/ト、l< / | ヽ 〈 >: : : : : : : : : : : : :| | / { ヽ