専用スレに投下できないSS 2

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343名無しさん@ピンキー:2011/12/11(日) 21:29:17.18 ID:RecVBDgB
お待ちしてました
なにもいうことはございません
ただただ GJ!!!!111  をおくるのみです

344名無しさん@ピンキー:2011/12/11(日) 22:34:18.26 ID:izDsBeFR
GJ!
345sage:2011/12/17(土) 17:54:19.91 ID:MIL5N0Y3
>340-
ちょいと「ドキドキ」させて ラストは潔い漢っぷりってスタイルがスキ。
早めのクリスマスプレゼントもらった気分。
GJ!
346名無しさん@ピンキー:2011/12/18(日) 23:57:10.15 ID:d5cNhQnn
狼と女侍シリーズ来てたー!
いや、女侍さんの名前も出てきて、しかもしっかり雌になって
ものすごく満足です。女侍さん、バック好きが定着してるし
これからも是非、このシリーズは読みたいです
347第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:55:17.06 ID:x6SOo3Gq
特捜戦隊デカレンジャーEpisode.21?

1 救出

十字架に拘束され、囚われているデカピンク。マスクを剥がされ素顔を晒されている。
鈍く光る濃紺のラバーリボンが縦横に駆け巡って、ピンクのスーツの上から清純な胸
を潰すように圧迫し、股間に緊く食い込んでいる。スーツに残る痕跡が、既に加えら
れた拷問の惨さを無言のうちに物語る。
「今、助けてあげる!」
果て無き激闘の末、凶悪なアリエナイザーの襲撃を辛うじて退けたデカイエロー。
連戦で酷使した肉体、薄らと汗ばんで、いつになくぎこちない身ごなし。

「ああっ! うあっ!」
エスパー用に発動するトラップ。怪光線の連発に胸を撃ち抜かれ、踊るように縺れ、
敢え無く崩れ落ちるイエロー。下肢が痙攣の波動に弱弱しく打ち震え、背中が寂しく
波打っている。光線が容赦なく降り注ぐ。両肩を震わせてなんとか起き上がろうと藻
掻くジャスミン。しかし、光線が矢となって痩身を打ち据える。苦悶に満ちた顔を何
とか上げようとしても、次第に力が弱まり、肘を付いて蹲ってしまう。

懸命に立ち上がる足許も覚束ない。憔悴し、傷ついた我が身を省みず、結界を破って
磔の戒めを解く。その場に崩れ落ちるウメコ。愛しく抱きとめ、扶助するジャスミン。
「もう大丈夫」

纏ったピンクのスーツが、見る影もない程、泥土に塗れて穢されている。至る所に焦
痕、噛痕。呼びかけても反応がなく、意識がない。心肺が停止している。とても心配
……などと言っている場合ではない。一刻も早く脳に新鮮な酸素を送らなければ。硬
い地面に仰向けに寝かせ、顎を持ち上げて気道を確保する。両乳頭の中間に手の付け
根を置いて圧迫し、救命のため痩身に残された力の限りをエネルギーに変え、意識の
ないウメコに注ぎ込む。瞳が輝き、放たれた柔らかい光が優しくウメコを包む。

「ぁぁぁぁっ……」
躰から力が搾り取られる。およそ耐え難い程の過酷な消尽がジャスミンの肉体と精神
とを蝕んでいく。益々全身が萎えてくる。使命感が、今の儚げなジャスミンを支えて
いる。肩で息をつき、蹲りそうになる。極度の痺れと回転性の眩暈に、地が揺れてい
るようにさえ感ずる。心臓が急激に早鐘のように打ち始め、削られるように気力が無
くなっていく。尽きる寸前、ウメコに呻き声があがり、幸いに息が戻る。安堵に双眸
が虚ろに漂い、崩れ落ちるように両手を地につく。押し潰されるような疲弊に意識が
途絶えそうになる。
それでも、今にも頽れそうな脆い躰で、健気にウメコを気遣う。
私のエネルギーを……

壮絶に精も魂も尽きて、がっくりと崩れ落ちるジャスミン。ウメコを庇うように、う
つ伏せに覆い被さり、もたれかかるように顔を寄せ、素早くマスクを外し、唇に自分
の唇を合わせる。
……早く、わたしのを…… ぁ、あげる…… ぅ……
身を重ね、股間を密着させると、心の底からの敬愛を籠め、擦り付けるように腰を動
かし始める。イエローのスーツ越し、クリトリスが、ピンクのスーツに擦れている。
抱き締め返してくるのが分かる。これまで無理を重ね、耐えに耐え、堪えに堪えてき
た解れが紡がれようとしている。面輪が仄めき、心の中、控えめな淫声が流れる。
 
ああ…… い、いい…… 
そこは……そこっ、いい…… 気持ちいい…… 
もっと…… もっと、緊く…… 抱いて……
いきそう……
348第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:55:57.77 ID:x6SOo3Gq
2 淫魔

その刹那、太腿に、長く鋭い魔針が深々と突き刺さる!
凄惨な劇痛に顔を歪め、腿を押さえて、へたりこむジャスミン。
「ぃ、痛い…… ぅぅ……」
「デカレンジャーの交尾とは…… くくく……」
「はっ! サキュバス!」

回転性の眩暈と極度の痺れを伴い、超高度に濃縮された麻酔薬が即効する。
「か、躰が…… あっ、あああ……」
「暫く身動きできないよ、ジャスミン!」
「くぅっ……」
「いいことを教えてやろう。この薬は媚毒で、お前を淫乱にする作用がある」
「剣呑な……」

四つん這いの脚の間から股を思いっ切り蹴り上げられる。
「あうっ!」
息も出来ない激痛! 緩く盛り上がった股間をスーツの上から抑えながら、がくり
と這い蹲ったジャスミンの華奢な背に、サキュバスの放つ棘が次々突き刺さる。振
り絞るような呻き声。俯せに倒れ伏し、ブーツごと、細く締まった両足首を踏み躙
られ、身も心も強靭な鞭で容赦なく幾度も打ち据えられて、意識が徐々に薄れてい
く。ウメコの眼前で、為す術なく踏み躙じられ、鞭撃たれるジャスミンの悲痛な姿!

負けない……サキュバスなんかに……
形振り構わず両脚を投げ出して、蜿き、のたうち回る。最後の力を振り絞って身を躱
し、唆る腰を重く振り、気丈に起き上がろうとするも、足許が覚束ず、蹌踉めいて崩
れ落ち、無様に尻餅をついてしまう。

「驚いたか。この棘は血を吸う。
 しかも、代わりに、たっぷり利尿剤を注いでいるのさ」
349第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:56:50.50 ID:x6SOo3Gq
2−2 淫魔(承前)

魔眼の輝きが鋭く突き刺さり、ジャスミンを圧倒的な暴力の瀬戸際に曝す。どろどろ、
ぬめぬめした得体の知れない妖気そのものが、心身に渦をなして傾れ込んでくる。
ぐげっ……
色蒼ざめた端正な顔立ちを歪めて、怠く喘いでいる。傷つき消耗し、無残に力尽きて
仰向けに倒れ、伸びやかな肢体を無防備に晒すジャスミン。もはや身動ぎすら、まま
ならない。

か、躰が、いうことをきかない……
サキュバスの淫毒が回っている…… ああっ……限界近し……

不覚にも、密やかな疼きに耐えかねて、白い頬がやや紅潮している。霰もなく開かれ
た太腿に弾かれて、恥丘の柔らかい膨らみが浮かび上がっている。伸縮性に秀れ、極
薄でタイトなスーツに切れ目の皺が寄り、影となり光沢となって、あらぬ妄想を掻き
立てる。

サキュバスの瘴気が、辺りを枯らす。不浄な燐粉が毀れ、降り注いでいる。嫌な呼
気がかかる。顔が近づいている。匂いを嗅いでいるようだ。鋭敏な嗅覚が、蒸れて
饐えた匂いのなかから、淡く、かぐわしい香気を嗅ぎ分ける。
淫魔が視姦する。股間に貼り付くスーツ越しの光沢に陰唇が覗いているかのように
錯覚してしまう程に。
構うものか…… 見たければ好きなだけ見るがいい……

うら若く、美しい容貌だが、宛らの邪悪を漂わせ、能面のように動かない表情のまま、
傍らに躙り寄るサキュバス。体の線も露なパープルのボディースーツ。ジャスミンに
顔を寄せ、柔らかく結ばれた赤い唇に、唇を合わせる。咄嗟に顔を齟齬そうとするが、
逃れられない。
不埒者…… 
紫の軟らかな舌が静かに滑り込む。注ぎ込まれた唾液を、思わず嚥下してしまう。
まさか……
何を……するの……
手を回して抱き寄せて身を重ね、股間を密着させると、押しつけるように腰を動かし
始める。胸や股間を擦り付けながら、幾度と無く執拗に絡む。俄には信じ難い事態に、
瞳を閉じたままのジャスミンが、思わず息を呑む。創痍の痩身に、粟立ちを怺える。
忽ちのうちに、項から頬までが朱に染まる。傍目にも如何わしい淫らな行為を感じさ
せるものがある。
然るに……何故…… 
やがて唇が離れ、二人の間に透明な糸が引いて、そっと切れる。
350第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:57:35.42 ID:x6SOo3Gq
3 感覚

――上品な口元、長い睫毛の輝瞳、緑の黒髪、端正な容貌、清純な素顔……
  基目細やかな肌、長い腕脚、均整のとれた痩身、柔軟で強靭な筋肉……
  初めて目にした時から、唆られていた。その夜、サキュバスはジャスミンを想い
激しく自慰した。羨望による未曾有の興奮を投影し、その美貌を限りなく陵辱す
ることだけを願って――

茫然とするジャスミンの左手に、ドロリとした粘度の高い透明な液体が、塗りたくら
れる。咽かえるような甘酸っぱい香りが辺りに充満する。瓶から直接流し落とされ、
グローブから染み込んで、妖しく侵していく。
っく…… うあぁ……あぁっ!

「ジャスミン、私のものになれ」

サキュバスが柔らかな下腹部に触れている。掌や指が緩急に這い、じっくりと弄ぶ粘
着した刺激を感じる。嫋やかに張った腰から臀部へと手が降り、躰の感度を増してゆ
く。丸やかな尻の線を嬲られ、弾性に沿ってスーツが沈み込む。イエローのスーツに
包まれた胸の膨らみに、サキュバスがそっと掌を添える。敏感な部分に触れるのを感
じる。生地越しの絶妙な刺激、直接触れられるのとは違った感覚。形の良い乳房が胸
の膨らみの下で揺れ、薄紅色の乳首が立つ。当惑が、素心を掻き乱している。

くっ…… 動けないのを、いい事に……
卑劣なり……

満足に動けないジャスミンの内股を、サキュバスの手がそっと撫でる。それだけで、
背を抜けて秘部に至る甘い疼きが走る。細い指先が瑞々しい肌に触れる度、声を抑え
て躰を捩らせる。研ぎ澄まされて鋭敏になっている性感に、唖然とする。

……っ んぅ……

サキュバスの指が、最も秘められた場所にフィットした薄いスーツの股間を触る。微
かに染み始めているイエローのスーツ越し、柔らかな恥丘の盛り上がり、控えめな裂
け目が薄らと覗え、艶かしい。
触、触らないで……
わたしの……大切な……
高濃度の媚薬が怖ろしいまでに効いている。淫毒に犯された躰が、抑えようがないく
らい貪婪になっている。快感と羞恥で淫らに悶えるジャスミンを、指が妖しく苛め続
ける。繊細に秘裂の形をなぞって薄地のスーツに浮き出させ、指で淫靡に嬲られる。
最早、誰の目にも、緊張と萎縮、躊躇いと恥じらいを隠せない。

あうっ…… か、感じる…… 凄い…… 何て気持ちいいの……蕩けそう……
あああっ…… 少しでも気を抜いたら、変になってしまう…… 微妙に頑張るのよ……
うっ、うぅ……こ、声が……声、出ちゃう…… だめっ……ウメコが見てるのに……
351第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:59:06.81 ID:x6SOo3Gq
4 失禁

「ならば、先に漏らしてもらおうか」
「変身姿のままの放尿を眺めるも、一興だわ」

いきなり牽き上げられ、股間に食い込むスーツの蔓りとした靭やかな感触に、束の間、
意識が遠のく程、峻烈な快感がジャスミンを蹂躙する。
あうっ!
反り返った喉が慄える。美脚が痺れ、太腿が細動する。理性を掻き集め、辛うじて決
壊を食い止める。不意を衝かれ、思わず僅かに漏らした尿が微かに滴り滲んでいる。
スーツが更に上へと揺ら揺ら牽き上げられる。擦れた音を立てながら、深い切れ目の
奥へと滑り込み、不慣れな躰を責めあげる。滑らかな生地越し、クリトリスを弄られ
た感触に耐えかねて、赤く濡れた唇の先から、あえかな吐息が洩れる。
ぁぅ…… ぁ……
身を守るはずのスーツに犯され辱められて、漣波のような愉悦に溢れ、甘美な騒めき
が下肢いっぱいに広がる。股間には恥ずかしい染みが夥しく広がっていく。身動ぐと、
食い込む特殊繊維の感触に、恥ずかしい濡れがはっきりと感じられる。しかも、きゅ
うっ、と高まり、腰が崩れ落ちそうになるほどの猛烈な尿意が巡る。息が荒い。内腿
が小刻みに震える。今にも迸りそう。

い……いけない…… 堪えなければ……

閉じ込められ、行き場をなくした液体が下腹部で渦を巻く。激しい蠕動が膀胱を駆け
抜け、震える股間を直撃する。サキュバスが無表情に見つめている。するのを待って
いる。これ以上堪えられないところまで来ている。脂汗が滴り落ち、下肢が痙攣して
いる。膨れ上がる灼熱の気配に、気力が殆ど尽きかけている。誘惑を断ち切ることが
できそうにない。崩壊のときが近づくのを感じる。諦めの表情が浮かび、絶望に粟立
ちを怺え、震えてしまう。
そんなに、失禁を……
ほの甘い感触が腰全体に伝わり、予兆が滲み出す。
くっ…… も、もっ…… ぁ……
352第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 13:59:49.10 ID:x6SOo3Gq
4−2 失禁(承前)

何事かウメコの耳元でサキュバスが囁く。
明らかに動揺するウメコ、相当取り乱している。だが、遂に意を決し……

まさか…… 何を……させるの……

跪くウメコ。暖かい呼気がかかる。仰向けのジャスミンの腰を抱え、だらしなく開い
た両腿に顔を埋ずめる。濡れて艶艶光る股間に貼りついた薄布が浮き上がり、秘裂が
露になったところに唇をつけ、縦溝に沿って、丁寧に舌を這わせる。

そんな…… ぁ……
だめ……それだけは…… ああ……やめて…… ゆ、許して……
ぁ…… そこは、そこは…… だめ! 
……ん んっ! あ、あっ、あっ! あうっ! はあぁうっ!
あっ、そ、そこは、あああああっ……

さらさらした感触の遣りきれない程の切なさに、白い美貌が儚げに身悶える。
潤んだ瞳から涙が一筋溢れ、煌めいて頬に零れている。
だ……だめ…… もう……我慢できない……

張りつめていた理性の糸が途切れる。込み上げてくるものを止めることができない。
腰の力が緩み…… そして、太腿の内側に温もりが溢れ出る。被虐の快美に陰湿な
歓びが吹き零れ、恍惚に泡立ちながら悲嘆のヒロインを優しく包む。二度、三度、
波に襲われる度、痺れるほどの解放感が、領元から込み上げる喜悦に充ち満ちて、
胸が張り裂けてしまいそう。

ウメコにも見つめられたまま、音を立てての排泄。
「ぁ… うぅぅ……」
「あ、ああっ…… ぃ…… あああ……」
漏らしてしまった…… 穿いたままなのに…… こんなところで……
漸く解放された雫が溢れ続けて、纏ったスーツを台無しにしながら、内腿を、包ま
れた尻を傳い、夥しく濡らす。華奢な背筋が、哀しく震えている。淡い臭気が周り
に立ち籠める。滴り落ちた雫が、地に溜りを作る。

サキュバスの哂いとウメコの嗚咽。見せてしまった。気丈なヒロインが耐えかねて
情けなく失禁するところを。我慢できずに、正義を象徴するイエローのスーツを
ぐしゃぐしゃに汚してしまうところを。憎むべき敵の前で、囚われのウメコの前で、
貶められ、辱められ、惨めに晒してしまった酷い姿を想起するだけで、嘗て無い
物凄まじい羞恥に、この身が切り刻まれ、屈辱に涙が滲む。
353第30話 ◆4esfMXj44o :2011/12/29(木) 14:00:37.20 ID:x6SOo3Gq
5 エピローグ

「助けに来たぞ! ジャスミン!」

どうして…… もっと早く来てくれなかったの……
仲間の前、端ない痴態を晒し続けているにもかかわらず、余韻が堪らなかった。
熱く滾った膣にはまだ舌の感触が……
羞恥や屈辱に苛まれながらも、媚毒に犯され切った躰は求めていた。技巧の限りを
尽くして更なる昂みへ導いて欲しいと悲鳴をあげていた。洩れる嬌声を、何度も堪
えなければならなかった。

思わず、ぐしょ濡れのスーツを押さえる。全身に、きゅんっ、と快感が走る。左手
のひとさし指をスーツ越し、ゆっくり沈めていく。

ああっ、だめ…… こ、こんな、ああ…… いけないっ……
いや やめて ぉぉぉ…… うう……
もう、だめ…… はうっ…… い、いいっ…… ぐうっ…… あううぅぅぅっっ……
んあっ! …ああっ! ああーっ! 
おお…… おおおおああああああっ!
あああ゛!! うああ、ああああ!!!

to be continued
354名無しさん@ピンキー:2011/12/29(木) 17:28:18.38 ID:+17If2/R
投下おつ!
355名無しさん@ピンキー:2011/12/29(木) 22:35:43.23 ID:c8SBHlZa
正義のヒロインがお漏らしとは……許せる!!
356無題:2012/02/03(金) 18:14:29.83 ID:laUp7Km5
投下。百合あり



 アリシアの滑らかな白い肌が薄紅に変わっていく様はどんな男だってその気にさせる。
ましてや俺などひとたまりもなくたちまち限界に追い詰められた。
 重みのある乳房に貪りつくと耳元に囁かれた。
「もう少しお客様によく見える位置に動いていただけません?」
 今は彼女の言葉は崩れない。気品のある美しい声が冷静に指示を出す。
俺は素直に従った。
 寝室の壁一面を占める鏡はマジックミラーだ。向こう側には見物人がひしめいているはずだ。
 彼女の脚を開き、その奥に隠された場所を指で触れる。
花びらを開いて小さな珠を刺激すると、彼女は甘い声と共にわずかに蜜を滴らせた。
「代われ。下手くそ」
 突然、低めの声が響き、起こされていたアリシアの上体が横たえられた。
俺は空気を読んで位置を変え、メグミの役を引き受けた。
「あ……いや!」
 アリシアは身をよじって逃げようとしたがメグミはそれを許さない。
長く器用な指先が蜜壷をかき回して洪水を起こさせる。
「だめ!メグミ、いや!また本気になっちゃう!」
「なればいい。いつも通りに」
 白く豊かなアリシアの体に、小麦色でスレンダーなメグミの肢体が絡まる。
二人は抱き合って互いの貝を合わせる。見ているだけの俺は勃ちすぎて痛い。
 またフォンが鳴るが、夢中になっている彼女たちは気づかないので
後ろ手にとって耳にあてるとクレームだ。
「今日は男との絡みを見に来た。仕事をしろ」
 二人に告げるとメグミが噛み付きそうな顔でにらんだが、仕方なく俺と代わる。
「メグミ………メグミ!」
 うわごとのように彼女がつぶやく。俺はできるだけ優しくアリシアを開き、
固くなったそれを深く押し込んだ。
 悲鳴のような声が上がった。
357無題:2012/02/03(金) 18:19:33.09 ID:laUp7Km5

 所持金が全て尽き、まだ止まってない水ばかり飲んでいるとノックの音がした。
電気が切れててインターフォンが鳴らない。
ドアを開くと隣の部屋に住む18くらいの美少女がいた。
「失礼ですがお金にお困りではありませんか」
 唐突な問いに呆気にとられて口をパクパクさせていると美少女は礼儀正しく続けた。
「もしよろしかったら私と寝ていただけませんか。心ばかりの謝礼もお支払いいたします」
 彼女はアリシアと名乗った。
 詳しく聞こうと部屋に誘うと丁寧に断られ、隣室に招かれた。
 部屋にいたもう一人は二十代の半ばほどだ。でも美女というより美少年めいた容姿を持つ。
こちらはひどく不機嫌そうだ。しかし俺が盛大に腹を鳴らすと、むっとした顔のまま
缶詰を開けパンを切ってくれた。
「私たちは性行為を見せることを生業としておりますが、
最近男性も加えて欲しいとの要望が多いものですから」
 極めて直截的に説明された。
「なぜ、俺なんです。確かボディガードの人がいたでしょう」
 グラサンかけたガタイのデカい男が出入りするのを見たことがある。
「彼らとは警護の契約しか結んでいませんし他の依頼をするつもりはありません」
 少し冷たい色合いの自分の金髪に触れながら彼女は続ける。
「しかし俺、ほとんど経験ありませんよ」
 ゼロとは言わない。
「むしろありがたいです」
 病気のリスクが低いからか。
「あの……早すぎるかも………知れません」
「差し障りはありません」
「もっと上手な人を選んだほうが………」
「いえ。あなたがいいのです」
 彼女はまっすぐに俺を見つめた。とても綺麗なアイスブルーの瞳だった。

 病院での検査のあと隣室で訓練の運びとなった。彼女たちも再検査して結果を見せてくれた。
どちらも問題なかった。
「本来ならおまえごときが近寄れないほど雲の上の方だ。心してコトに励むように」
メグミが重々しく宣言するとアリシアが笑った。
「今はただの淫売ですわ」
「そんなこと言うのはやめてくれ」
 色を変えたメグミにアリシアは頭を下げた。
「ごめんなさい。私のことはともかくあなたをそう思っているわけではありません」
「いや、私はいいんだ。だがあんたは微塵も汚れちゃいない。そのことをわかってくれ」
 アリシアはさっきより苦く笑った。
「………ごめんなさい」
 そして俺のほうを向いた。
「よろしくお願いします」
358無題:2012/02/03(金) 18:24:08.35 ID:laUp7Km5
 背は高すぎず低すぎず、胸は充分に大きいが形よく、腰は蜂のようにくびれ、
ヒップはスレトップに躍り出るほど勢いがあるが可愛らしく、
顔は超人的技術を誇るフィギュア職人が自分の全人生を賭けて作ったかのように美しく、
かてて加えて天性の気品が満ち溢れるお嬢様がこともあろうに俺なんかと
情交を営まれるわけだ。どういうことになるかわかるだろう。
 ………貧血を起こした。
「だらしのない」
 メグミが舌打ちをした。
 すんなりとした長身を惜しげもなく晒した彼女も凹凸はあまりないが実に魅力的だ。
鍛えているらしくしっかりと筋肉もついている。でもしなやかでバレリーナのようだ。
その長い脚で蹴とばされるとき淡い茂みのその奥が覗いてこれはこれで絶妙にいい、
というか、その…
「少し休憩しましょうか」
 アリシアが微笑みガウンをまとった。芸術的曲線が隠される。
「本当に明日使えるのかこいつ…」
 メグミが言葉を切りかけてちょっと考え込んだ。
「名前はなんだっけ」
 まだ聞かれてなかった。
「ショウイチです」
 仮の名を名乗った。
 ふん、と彼女は鼻を鳴らし、興味のなさを示すためか茶をいれに別室に消えた。
「無理なお願いを聞いてくださってありがとうございます」
「かまいませんよ、あの……」
「ところで私たちはどうも殺し屋に狙われているようなのですが銃はお持ちですか?」
 飛び上がりかけ、首をぶんぶんと横に振る。
「いったい……」
「説明は致しませんが過去に多少のしがらみがあるもので。
私もデリンジャー程度は身近に置いています。
ショウイチ様の分も明日には用意しておきますね」
 今の時代銃の所持自体が合法だ。それどころか登録義務もない。
人々は気軽に銃を持ちあっさりと死ぬ。
「ガードの人は?」
「基本外出時だけお願いしています」
「部屋にいるとき襲われたら危ないんじゃないですか」
 巻き添えで本物の天国には行きたくない。
「ここは意外にセキュリティの厳しい分譲マンションなんですよ」
 彼女は俺を見た。
「ご存じなかったのですか」
 多少は知っている。もちろんオートロック。一階につき一部屋か二部屋しかない。
エレヴェータは共有だが自室か1階以外の階に降りると了承を得て手続きをしていない場合
その階の住人の部屋にアラームが鳴る。
「譲られたものだから詳しくは知りません」
 条件付の遺贈で売買することは出来ない。おかげで食うに困っても住む場所には困らない。
俺が借金を重ねたとしてもそのカタに取り上げることも出来ない。
「だけど相手がプロの殺し屋ならそれでも危ない気がするけど」
「きりがありませんの。疑い始めると」
 ちょっと寂しそうに笑った。
359無題:2012/02/03(金) 18:29:11.23 ID:laUp7Km5
 へたばっているとメグミが俺を担ぎ上げて隣室まで運んでくれた。
抵抗したかったがもう体力の限界で、しかも恥を晒しすぎていたので甘んじて受けた。
指紋認証のキーロックを外した他は指一つ動かさずベッドに横たえてもらった。
「まったく鍛えてないな、おまえ」
「あなたから見たら誰でもそうですよ」
「口ばかり達者だな」
 彼女は俺といっしょに担いできた袋を開けると中から缶詰が転がり出た。
その中からコンソメスープを選んで開けてくれた。
「レンジは?」
「ありません」
 化石を見るような目を向けられた。
「じゃあ冷めたまま飲め。固形物を食べるのは落ち着いてからにしろ」
 見かけよりは親切だ。
「それと慣れてきたら体を鍛えろ。将来、惚れた相手を守れんぞ」
「あなたは、アリシアさんのために?」
「もちろんだ。あ、彼女には惚れるなよ。私のだ」
 頷いた。この人が彼女を溺愛しているのはよくわかる。
「しかし、どうして出合ったんですか」
「見るからに育ちが違うってわかるよな。確かに私はここより南の町のスラム出身だ。
語らないが彼女は大分北の方の街の名家の出だと思う」
 確かにそんな気がする。
「ある日ここから離れた町で彼女がよろよろと歩いていたんだ。
ああ、こりゃ町の端まで行くまでに売られるかやられるな、と思って声をかけた」
 その時彼女は「うかつに私に話しかけると撃ちます」といって銃を見せたそうだ。
「思わず噴きだしたね。コルトパイソンだったよ。
嬢ちゃんにはその銃は無理だって説明しても納得してくれないから、
どうにかなだめて試射できる銃器店に連れて行き手ごろなものを買わせた」
 それからしばらく彼女のアパートに二人で住み、そんな関係になり、
例の仕事を始めてこのマンションに引っ越した。
「そんなに儲かるものなんですか?」
「いや。スポンサーがいる。ここはまだ私たちのものではない」
「見込みはあるんですか」
「ランキングが上がったらな」
 ネットはテキストファイル以外制限されている。動画も画像も見ることができない。
人々は歴史を遡ったかのように値段の跳ね上がったその手のコンテンツ、
つまり本や写真を求め、さらには合法なショウを見に行く。
しかし大手、中小その手の店やイベントは無数にあるため評判だけはネットで調べる。 
ランキングサイトのうちメジャーなものの上位層に躍り出ると
お偉いさんが個人的に呼んだりまあ何かと派手な存在になるらしい。
「人の手を借りてやっと登録できたばかりだ。まあ、私は地味に働ければいいのだがな」
「殺し屋に狙われているって聞きましたが大丈夫なんですか」
「大丈夫じゃないよ。だけど本当かどうかわからないしな」
 そのために鍛えているのかもしれない。
360無題:2012/02/03(金) 18:34:26.22 ID:laUp7Km5

 ショウのための部屋はスタジオと呼ばれる。かえるに似た初老の男が貸していた。
「この特殊ガラスはカメラ撮影すら出来ない特別なものですよ。割引は考えていません」
「だけど電気は安いのですませていますよね。この間一番の盛り上がりで切れて困りましたわ」
 アリシアがにっこりと笑って対峙する。
「それさえなければランキングはもっと上がったと思うのですけれど」
「因果関係は証明できないでしょう?」
「ええ。でもこちらは町一番の老舗とはいえ最近新しいお店に押されていますよね。
で、私たちは登録以来うなぎ上がりの期待の新人。
スタジオを変える事はそちらにとって損だと思いますが」
 かえるは考え込んだ。電卓を取り出す。
「期待の新人は毎月出るのでね。ですが随時契約の賃貸を1年契約にしていただければ
多少は考えましょう」
「そんな先のことはお約束できませんわ」
「なら半年。割引率はこの程度」
 電卓を見せる。アリシアは首を振った。
「同じ割引で三ヶ月ならば考えてもいいですわ」
「それは殺生な。その場合ならこの程度」
「帰ります」
「まあまあ。じゃ、このくらいで」
 大分たってからやっと交渉は成立し契約はまとまった。
「アリシアさんにはかないませんな。久しぶりにエキサイトしましたわ」
 かえるの言葉に素が滲んでいる。
「こちらこそ」
 彼女が可愛らしく顔を傾けて返す。かえるは表情を緩めていたが不意に引き締めた。
「殺し屋に狙われているんだって?」
 彼女の顔色は変わらない。
「わしは情報屋じゃないし、噂でしかないけどしばらく前に聞いたことがあったよ。
黒龍って殺し屋が町に入ってるって」
「何か情報をお持ちですか。男か女か、年の頃はどのくらいか、見かけはどうか」
「いや」
 首を横に振る。
「最初にそういった男は死んだ。詳しいことは知らんな」
361無題:2012/02/03(金) 18:39:06.71 ID:laUp7Km5


 その日のガードはリロイという名の黒人系の男だった。ひどく無口だが信頼できる感じだった。
彼の運転でスタジオまで行く最中、俺は吐きそうなほど緊張していた。
 前日に散々レクチャーされたが、ただの一度も挿入に到らなかった。全て事前に果てた。
「大丈夫ですわ」アリシアは優しく慰めてくれたがメグミに「能無し」といわれた。
 楽屋から入るスタジオはそれほど豪華でもなくベッドが大きいだけの寝室に過ぎない。
だがシャワーを浴びた後のアリシアが横になると途端に天国に変わる。
 白いシーツに流れる金髪に今日はピンク色のリボンをつけているためいくらか幼く見える。
肌の透ける、妖精の羽みたいなローブの下は同じ色のランジェリーだ。
その姿を眺めるだけで充分に満足しそうになるほど愛らしい。
 メグミの趣向はミニスカポリスだ。クールな顔立ちに制帽が抜群に似合う。
長く形のいい脚がすらりと伸びている。
 ちなみに俺は翻弄される童貞男子高生、っという設定らしい。制服を着せられた。
さすがにそんな年じゃないと思うが。
 まずは女性二人が愛し合う。さすがプライヴェートでもパートナーなので息が合っている。
メグミは服を着たまま彼女のローブに指を差し入れて優しく撫で上げる。
「はうぅ………」
 アリシアが目を閉じ、唇を開いて吐息をこぼす。
 メグミは少し微笑んで「気持ちいい?」と尋ねた。アリシアが素直に頷く。
 指先がブラジャーの中に入り彼女は「あ」と一声上げた。メグミの動きは止まらず
アリシアの声が濡れていく。観客は焦れ始めているはずだ。
 メグミはゆっくりと指を抜き、アリシアのローブを剥いだ。
白い膚に映えるピンクの下着。彼女自身が甘いお菓子みたいだ。
 二人はくちづけを交わす。俺も客も存在しないみたいに。
時が止まって、この世には二人しかいないように。
 濡れた唇が離された。二人はまだ見つめ合っている。
 俺はアホ面でそれを見ているだけだ。
 やがてアリシアは視線を外し、目を伏せる。
メグミは彼女を引き寄せてうなじの辺りに顔を埋める。指先はピンクのブラを外す。
 白い胸がこぼれる。だがそれはメグミの背に邪魔されてまだ客の人目に触れていない。
 うなじに舌を這わされているアリシアは小さく吐息を漏らしている。
「背もたれと彼女の間に入れ」
 命じられて従う。アリシアの上体を引き起こし人間クッションとして密着する。
絹のような手触り。温かな躯。俺の股間はいきなりハイテンションだ。
 しばらくメグミは彼女から離れて、マジックミラー越しの客にアリシアを鑑賞させる。
どんな工芸品もかなわない芸術作品だ。
こちらの音は外に流されるが、外の音は入り込まないのに賞賛の声が聞こえた気がした。
 豊かな形のいい胸に、あどけなくさえ見える淡いピンクの乳首。
メグミが再び寄り添ってその部分をくわえ込む。
「あ、ああんっ……」
 間近に顔のある俺は時たまメグミのの舌遣いさえ見える。
彼女は緩急自在にそれを動かし同時に片手で胸を揉み、もう片手をショーツの中に伸ばす。
くちゅくちゅ、と濡れた音が響く。
362無題:2012/02/03(金) 18:44:58.80 ID:laUp7Km5
「お育ちの割には淫乱だよな」
 胸から口を離したメグミが言葉でアリシアを嬲る。
「いつだってここは欲しがっている」
「そんなこと……ないです…………」
「そうか」
 メグミは彼女のショーツを剥いだ。アリシアの秘部はびしょびしょになっている。
「じゃあ、これはおもらしかな」
 アリシアがほほを赤く染めてそっぽを向く。メグミは笑って指先を深く差し込む。
「……あ、ああああっ!」
「欲しがってるじゃないか」
 メグミの指がぬらぬらと光りながら出し入れされる。
「あ、ああああんっ、あ、ああっ!」
 不意にアリシアの両腕がメグミの首に掛かり引き寄せる。
胸や腰の割りに細い少女めいた脚がメグミの体に絡みつく。
「いいっ、あ、あ、メグミっ!」
 悲鳴のような声が上がる。演技ではない。近くの俺はその息の熱さがわかる。
「いつもより燃え上がるのが早いな。見られているからか」
 客じゃなくて俺のことか。
「ほんと、好き者だよなアリシア。見られるのもやられるのも大好きなんだな」
「ち、違っ……んっ」
「腰が揺れてるよ。ほら、男に見られて、これからこっちにもやられるから興奮している」
「違うの………メグミっ、愛してる……」
 ひどく優しく彼女は開いた片手でアリシアの頬を撫でる。
「愛してるよ、アリシア」
 そのままもう片方の手の指が深く体の奥に潜る。
「んあああああああっ!」
 アリシアの腰が魚のように跳ね、綺麗な足が寄りいっそう深くメグミを縛り付け、
そしてがくり、と力を失った。
「綺麗だよ」
 メグミは囁くと体を下に落としアリシアの脚の間に顔を近づけた。
意識を飛ばしかけていた彼女はそのことに気づくと身を捩じらせて逃げようとした。
「だめっ!まだ、だめ………」
「嘘つき」
 そういうとメグミはそのまま顔を埋めた。
「ひゃううううううっ!」
 美少女が獣じみた声を上げる。アリシアは快楽に捕まり呑まれた。
「うううっ、あっ、ああああああっ、凄いっ、あううっ」
 いったん顔を上げたメグミが命じる。
363無題:2012/02/03(金) 18:49:55.16 ID:laUp7Km5
「脚を立てろ。お客様におまえの恥ずかしい蜜壷を見てもらうために」
 さすがに彼女は躊躇した。が、メグミが乳首を摘むと体を震わせて従った。
「ほら、自分で花びらを開いて見てもらえ。中に隠した小さな粒まで」
「許して……メグミ、出来ない……」
「いいや、できるさ。やるまでご褒美はなしだ」
 美少女は羞恥で消え入りそうに目を伏せ、自分の腕で胸を抱いている。
けれどその恋人は許さなかった。
「出来ないなら間が持たないから私はそこのガキとやる」
 俺か。俺のことか。
 アリシアは決然と叫んだ。
「させません!」
 彼女は鋭い視線でメグミを睨み、それから指で自分の中を開いた。
 ミラーの奥から熱気が押し寄せてくるようだ。
 アリシアは自ら真珠を探りそれを白く小さな指先でそっと触れていく。
「はうんっ!」
 突然メグミが横から脚を高く掲げた。彼女が更に晒される。
「やあっ!いやあああっ!お願い、もうやめて!」
 悲痛な叫びも気にかけない。
「お仕置きだよ、アリシア。男なんて加えたことの」
「ごめんなさい。許して……」
「許さない。尻の穴まで見てもらえ」
 彼女の細い啜り泣きが部屋に満ちる。それはどうしようもなく他者を刺激する。
 フォンが鳴った。
 必死に般若心経を心の中で唱えていた俺が取って耳にあてると押し殺したような男の声だ。
「なかなかの趣向だがそろそろ相手を変われ」
 それだけ言って切れた。
364無題:2012/02/03(金) 18:56:03.93 ID:laUp7Km5



 で、冒頭に至る。相手が変わると途端にアリシアは落ち着いた。
充分に人をそそる営業用のあえぎを聞かせてくれた。
俺はどうにか挿入に到った。到ったがその瞬間限界に達した。
後が呆然としている間にメグミとアリシアが何とかしてくれショウは終わった。
 今俺は自室で布団を頭までかぶっている。
 だから早いって言ったじゃないか。
 いや、俺はむしろよくやった。訓練の時はそこまで行かずに大暴発だったじゃないか。
そもそも最初はアリシアの胸を見ただけでイってしまい、
「これが本物の銃ならおまえは早撃ちのギネス記録だ」とメグミに言われたじゃないか。
それなのにあんなセクシーなショウの中盤まで持ったんだ。俺はけして悪くない!
 必死に自分を慰めているとインターフォンが鳴った。
半分前払いしてもらったおかげで電気が通っている。
「ショウイチさん。私です」 
 今最も会いたくない人だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい。ランキング下げてごめんなさい」
 うわごとのようにつぶやくと相手の明るい声が流れた。
「下がってませんよ。むしろ上がってます」
「へ?」
「とにかくドアを開けてください」
 玄関を開けるとアリシアはプリントアウトした紙を見せた。
「ほら、ランキングも上がってるし見てください、お客様の声」
『最初の百合パートも素晴らしかったが、いかにも情けない初体験のにーちゃんの
初々しさもよかった』『童貞だった頃を思い出した。頑張れ、青少年!』
『男の人のダメっぷりでメグミ姉さんのかっこよさとアリシアさんのかわいさが引き立ちました』
『この手の男優さんは大きさを振りかざす嫌味なやつだと思ってたら違って
間抜けな感じがよかったです』『おれより小さくて嬉しい』『今後の成長に期待!』
「ほら、大好評ですよ」
 この人は天然の鬼畜なのか。
「は、はあ……」
「とにかくちょっとこっちの部屋に来て頂けませんか。メグミまで引きこもっちゃって」
 彼女は有無を言わさず俺を連れ出した。
365無題:2012/02/03(金) 19:02:28.39 ID:laUp7Km5

「メグミ、そろそろ話をして」
 アリシアが声を掛けたが彼女は部屋から出てこない。困っていると電話が鳴った。
「少し待っててください」
 彼女の姿が消える。困ったまま部屋の前にいたら不意にドアが開いた。
 メグミが暗い顔で俺の前に立っている。ふいに中に引き入れられた。
「な、何……?」
 いきなり、思い切り殴られる。部屋の隅に吹っ飛んだ。
「ちょ……」
「やはり我慢できないな」
 胸もとを掴んで立ち上がらされ、もう二発。意識が朦朧とした。
 物音を聞きつけてアリシアが駆け込んできた。
「どうしたの、メグミ?」
「愛しているよ、アリシア」
 更に一発俺を殴ると、彼女はアリシアをの手を取りベッドに引き倒した。
「やめて!」
「いや。やめない」
 彼女の瞳は沼の底のように沈んでいる。
「どうしても許せないんだ」
「ショウイチさんのこと?それはあなたも納得して…」
「しようとしたが出来なかった」
 彼女はベッドの上のアリシアにのしかかる。
「過去なら許せる。だが今他のやつを受け入れるあんたを許すことは出来ない」
「よ…せ………」
 必死に立ち上がろうとするがめまいがして果たせない。
それでも俺はベッドの脚にすがって起き上がろうとした。
 タン………
 乾いた音がした。足を撃たれた俺はそこに転がった。
デザート・イーグルを片手で打った彼女は薄く笑った。
「おまえを殺したりしないから安心しな。あの世で彼女に近づかれたら嫌だ」
「…………」
「私の銃の腕は確かだ。なにせ黒龍と呼ばれているほどだからな」
「!」
 下に押し付けられていたアリシアが強張った。片手が必死に何かを探している。
「探し物はこれかい?」
 メグミがにやにやと、もう片手を自分の服の隠しに突っ込んだ。
手は離れたが体で彼女を押さえつけているので動けない。
 隠しから取り出されたものは小ぶりな銃だった。
「懐かしいな。グロック26。初めて会った時にあんたのために選んだな。
ポリマー製だから軽いし、その割には反動もそれほどじゃないし
実用的だって勧めたよな」
 ちゅっ、と銃にくちづけてそれでアリシアの顔をなぞる。
「大事にしてくれてありがとう」
 胸もともそれで撫でる。
「………いっしょに埋めてやるよ」
 アリシアは息を呑んだ。だが悲痛な眼差しでメグミを見返し声を出す。
「………あなたはいっしょに来てはくれないの?」
 黒龍と呼ばれる殺し屋は甘い笑顔で微笑む。
「いつかね、行くよ。それまで大人しく待っていて欲しい」
 アイスブルーの瞳は水底のような深さに悲しみをたたえていた。
「あんたを殺すのに銃は使わない。愛し合うのに使ったこの手を使うよ」
 メグミは銃を斜め脇に置くと両手を彼女のうなじにあてた。
「愛していたよ、アリシア。ずっといっしょにいたかった」
 アリシアの瞳から涙が溢れた。
「…………私もよ、メグミ」
366無題:2012/02/03(金) 19:07:17.97 ID:laUp7Km5
 俺は必死に足を引きずりながら移動していた。壁際の本棚まであと少し……
「無駄だよ、ショウイチ。ほんとに殺さないから大人しくしときな」
 気配を感じたらしいメグミが、ちょっと振り返って俺を見た。
 タン………
 鈍い音がした。
 アリシアがデリンジャーをメグミの胸に押し当てていた。
 メグミは目を見開いたままアリシアのほうを見つめ、そのまま倒れた。
「……………」
「一緒になら、死んであげてもいいと思ったのに」
 小さな、グロック26よりずっと小さな銃は今は震えている。
が、その銃弾は確実にメグミの心臓を貫いた。
 まだ温もりのある美しい体を払いのけると彼女は俺に近寄った。
「利用しました。すみません」
「お、おう」
 彼女は死体をそのままにしてメディカルボックスを取ってきた。
「弾は抜けてますし彼女、気を遣って撃っているからそれほど長くはかかりませんよ。
特別手当もお支払いします」
「いったい……」
「私にはしなければならないことがあるんです。
そのためにはランキングの上位に食い込むことが必要なんです。
だけど愛し合う二人のちょっとした百合程度でそこにたどり着くことは出来ないんです」
 彼女の睫毛は涙を宿したままだった。
「だけど私はメグミが好きだったから彼女といっしょに行こうとしたのだけれど…」
 一度は了承したメグミは結局は耐えられなかった。
「黒龍は先ほど仲介人に承諾の電話をかけたそうです」
「どうしてそれを……!」
 俺は気づいた。彼女が暗い顔でうなずいた。
「依頼人は私自身です」
――――疑い始めるときりがない
 彼女の言葉の重みが今更ながらに突き刺さった。
「じゃあ、俺のことも疑っているんですか」
「いいえ」
 彼女は静かに首を振った。
「………私はあなたを知っていますから」
 驚いて問い質したが答えてくれなかった。
「ルームクリーニングを頼まなくては」
 視線はひどく切ないが言葉はとても冷たい。
「それと別の女性を探す必要がありますね。スタジオは三ヶ月の予約ですから」
 何か言おうとして、彼女の体が震えているのに気づいた。
俺はそれを止めてやりたかった。けれど彼女は誰の手も借りない。
「全て私が手配します」
 頷いた。それしか出来なかった。ただ震える彼女を見つめていた。

終わり
367名無しさん@ピンキー:2012/02/04(土) 14:29:10.47 ID:tG8nGk+E
GJ かっこええ
368関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:45:48.95 ID:N2kuqQRR
以前書きながら投下かつ投げっぱなしにしてしまったので、今更本スレに落とすこともできず
お借りしますー

――遠くで、鐘の音が聞こえる。

どうやら、眠っていたらしい。
普段なら授業中の居眠りは起こされるはずだが、もう卒業間近だからと放っておかれたのだろうか。
まぁ今さら気にすることでもないか。

それにしても、鐘が鳴ったあとなのにやけに静かだ。
クラスメイトのざわめきも、運動場の掛け声も、生徒が廊下を走る音も、何も聞こえない。
何かおかしい。
体を起こそうとして、ふと、自分の体制がおかしいことに気づく。
(何で俺は横になってるんだ?)
ここは教室だ。
机に突っ伏しての居眠りならまだしも、授業中に床に寝ていたらさすがに叩き起こされるだろう。
(寝る前、俺何やってたっけ)
やけに重くだるい頭を働かせて、今朝から寝る前までの記憶を手繰り寄せる。
久々の学校、代わりの制服、消化不良なあの出来事のことを考えながら校門を潜って――殺気に満ち溢れた校内、
人のいない廊下、ただひたすらの静寂、血と肉の教室。
そして中央にたたずむ長い髪と腕を持つ血と肉塗れの女。
(――出夢!)
霞みがかった意識が一気に覚醒し、勢いよく身体を起こそうとする、が。
記憶と共に全身の感覚も甦ってきた。
あの時は頭に血が上っていたから気がつかなかったものの、
どうやらかなり身体を痛めているようで思うように動かない。身体が重い。
閉じたままの瞼を開けるのも億劫だが、周りの様子がどうなっているのか見たくなかったが、
人識はゆっくりと瞼を開けた。

「……ようやくお目覚めかい?」
気だるそうな口調で、気だるそうな表情で、そこにいた。
殺戮奇術集団匂宮雑技団次期エース、匂宮出夢。
長すぎる髪、長すぎる腕、厚みのない身体、普段の躁状態とは違う狂気を孕んだ暗い瞳。
人識の通う中学校の制服を身に纏い、乾きかけの血と肉に塗れた体に気を払うでもなく、
人識の体に跨り、人識を見下ろしていた。
満身創痍の自分とは違い、出夢の身体には小さい傷や打ち身はあるものの、それ以外に目立った外傷はなさそうだ。
先ほどまでお互いに明確な想いを持って殺し合っていたはずだったのに、未だにここまで実力に差があるとは。
(……今まではよっぽど手加減されてたんだな)
マウントポジションを取られているのにも拘らず、人識は他人事のように冷めた思いを抱く。
「何だよ、殺すんじゃなかったのかよ」
自分の口から出てきた声は、思っていたよりもはるかに力ないものだった。
「そのつもりだったんだけどさ」
「あぁ?」
「最期にきちんと喰らってやろうかと思って」
「喰らってって――」
今まで見たことのない、静かな出夢。
殺し合いをする前に会話を交わしたときの激しい狂気は鳴りを潜めていた。
ただ――ぞっとする殺気は相変わらずだ。
(……今回こそ本当に殺されるかもな)
369関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:46:51.14 ID:N2kuqQRR
出夢の指が人識の頬を――刺青をなぜる。
暗い瞳が切なげに細められる。
その指は殺し屋とは思えないほど、細くて、長くて、きれいな指だった。
しばらく刺青を愛しむようになぜていたが、その手をそっと人識の頬に添えて。
出夢の顔が近づいてきた。
顔にかかる出夢の髪がやけにくすぐったくて払いたかったが、力を入れても痛むだけで腕は上がらない。
唇が重なる。
されるがままに舌で口内を弄られる。
(――以前にもこんなことあったな)
抵抗するにも人識の体はまったく言うことを聞かない。
それでも何とか身を捩ろうとした瞬間――唇が激しく痛んで思わず顔をしかめる。
痛みのすぐ後に、血の味が口内に広がっていった。
出夢の顔が離れる。
出夢の唇からは一筋の血が流れた。それを舌で舐めとって妖艶な笑みを浮かべる。
「――まず『一喰い』」

出夢は人識を跨いだまま腹の上から腰の辺りにまで移動する。
制服のスカートがきわどい長さのため、太腿の感触が服越しとは言えダイレクトに伝わる。
這うように腰を動かして、据わりのいい位置で止まる。
「……何だよ、人識。僕に喰われてもう感じちゃってるわけ?」
出夢は潤んだ瞳を細めて、嘲るように、蔑むように呟きながら、軽く腰を動かして人識のそれを軽く刺激する。
「――っ」
人識は真っ赤になって顔を背けた。
出夢の言う通り、人識自身は反応していた。
体が勝手にと言うか、完全に決裂したとは言え、
つい先ほどまで憎からず想っていた相手に迫られれば仕方のないことなのだが。
それでも人識にも自尊心はある訳で。
「……匂宮出夢、ぜってー殺す」
「これから僕に完膚なきまでに喰われるのに?」
出夢は言いながら人識の制服に手をかけた。
特に力を込めた様子もなく引き裂く。
中のTシャツに顔を近づけて――喰いちぎった。
370関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:47:22.94 ID:N2kuqQRR
人識の身体が露になる。
春が近いとは言えまだ肌寒い。軽く身震いしたその胸に、出夢は手を滑らせた。
なぜるように、弄るように。
出夢の手が通る箇所が痛むのは骨が折れているからだろうか。
手の動きに合わせて激痛が走るが、それを悟られるのは癪だったから、
痛みに反応しないように唇を噛んで必死に堪える。
出夢は鍛えられた腹の筋を指でなぞり、わき腹を通って、
丹念に余すところなく手のひらで人識の身体を味わい、最後に両肩を掴んだ。
ゆっくりと人識の首筋に顔を埋める。
「……痛むんだろ、我慢しなくていーんだぜ」
人識の耳元で囁く声は熱を帯びていた。
ねっとりとした物が首筋を這う――出夢の舌だろう。
「かわいく鳴いてくれや」
強く吸う。
頚動脈の位置を強く吸う。
その後に来る痛みに備えて人識は反射的に身を硬くするが、
出夢はからかうように舌をちろちろと這わせて顔を上げた。
「ここを喰っちまったらそれで終わりだからな……安心しろよ、そう簡単には終わらせない」
そう嘯く出夢の瞳の奥には暗い炎がちらついていた。




出夢は再び首筋に顔を埋め、舌で丹念に首筋を弄る。
その舌をじっとりと這わせて腕の付け根まで移動し、歯を立てた。
八重歯がじわりじわりと肉に喰い込んでいく。
動きが止まり、一瞬間をおいて――一気に肉を噛み千切る。
「――っ」
鋭い痛みに人識は声を上げそうになるが、固く瞼を閉じ唇を噛んで押し黙る。
(……『鳴け』と言われちゃあ、死んでも声を出すわけにゃーいかねえわな)
焼けるような痛みが身体に馴染むまで、歯を食いしばりただ耐え続ける。
噛み千切った肉を吐き捨て、出夢は身体を起こして面白くなさそうな顔で呟いた。
「……頑張っちゃうのかよ、つまんねーな」
「……へっ、こんなん小さい女の子にかわいく噛まれたようなもんだ。
どうせならもっときっちり『喰らって』みやがれってんだ」
「言うじゃねーか」
あからさまに強がる人識の言葉に出夢は鼻で笑う。
荒々しく手の甲で自分の唇の血を拭い、冷ややかな瞳で人識を見下ろしていたが、
やがてその瞳が細められた。
「そーか、痛みにゃ『負け』ねーか。そっちがその気なら――」
出夢は人識の身体にしなだれかかる。
ねっとりと、じっとりと。
倒れこむようにお互いの身体を密着させると、人識の顔を抱え、再び唇を重ねる。
歯を食いしばって、瞼を閉ざして、体を固くして責め苦に耐える人識を優しくほぐすように。
舌で先ほど噛み切った傷跡を丁寧に舐めあげて。
手のひらで痛みの余り感じないであろう箇所を選んで愛撫する。
唐突な出夢の様子の変化に、人識は今までのものとは別の緊張を走らせた。
出夢は両の手を人識の頬に沿え、互いの唇が触れるか触れないかの位置で、囁く。
「……気持ちイイことには――『耐え』られるかねぇ」

「最期にやらしく気持ちよく溺れさせてやるよ――僕の事だけを考えて死ね」
371関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:47:40.54 ID:N2kuqQRR
『うえー、濡れたー。びっちょりちょり。ありゃ、中までぐちょぐちょだ。髪が重いー。だから雨は嫌いだよ』
『仕方ねーだろ、こればっかりは。――あー、寒ぃ。早く風呂風呂』
『零っちー、早くこっち来てよー』
『……ちょっと待て、ずぶ濡れだから風呂入りにお前の部屋に来ただけだろーが。
ベッドの端に腰掛けてかわいらしい声を作って俺を呼ぶな!』
『何だよー、濡れてたって脱いじゃえば一緒だっての。……据え膳喰わぬは男の恥って……知ってる?』
『しなるな殺すぞ! さっさと風呂入って来いよ!』
『零っちも一緒に入る?』
『入るか! ここで脱ぐな!』
『おうおう、顔を赤くしちゃってー。僕の体見て欲情しちゃう感じ?』
『するか! お前の貧弱な体形で欲情する奴がいたら感動もんだ! いいから早く行けって!』
『……なぁ、零っち。さっきからやたら風呂入れって急かすけど、それってもしかして、誘ってるの?』
『小首傾げんな! 天地がひっくり返ってもそれだけはぜってーにねえ!』
『ちっ、乗ってこねぇな。……そんなんだから未だに童貞なんだよ』
『……』
『……冗談だよ、何真っ赤になって睨んでんだよ、かわいーな。もしかして図星か?』
『うるせえ、俺の事はどうだっていいんだよ――そういうお前はどうなんだ?』
『僕? 一応どちらもそれなりに経験済みだけど』
『……? どちらも? それってどういう』
『そーかー。じゃあ、先輩として今晩僕が筆おろししてやるよー』
『人の話を聞け! つかここ来るときに「今日は欲情すんな」って約束したぞ!』
『僕が約束を守るような女に見えるかい?』
『お前は男だろーが! 何悪女気取ってんだ、殺すぞ! つーか殺す!』
『ぎゃはははははっ!』
372関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:48:06.41 ID:N2kuqQRR
(……傑作だよな。結局、あの時と変わんねー)

かけてくるアプローチの違いはあれど、その行為自体は同じことだった。
あれはつい数ヶ月前の事なのに、いつボタンを掛け違えてしまったのか。
どうしてこうなってしまったのか。
人識には分からなかった――出夢にもよく分かっていないのかもしれない。
つい先程、決定的な決別を迎えたはずなのに――今は真逆の行為に及んでいる。

人識の下腹部に出夢の頭が見えた。
身体の横で膝をつき、背を丸めるようにしてそこに顔を埋めていた。
長い髪に隠れて何をどうしようとしているのかは見えないが、布越しに熱い吐息を感じる。
見えないところで何をされるのか、何をしてもらえるのか、その期待に股間が疼くのを感じた。
自分の意思とは裏腹に、身体は出夢に与えられるであろう刺激を求めている。
どんなに自制しようとも、身体が一度覚えた快楽は忘れられない。
「こいつは素直でかわいいねぇ」
笑みを含む声で出夢は呟き、指でくりくりとズボン越しに立ち上がった先端を弄る。
「……っ」
指で優しく摘むように刺激する。
指の動きは止めずに、出夢は顔を人識に向けた。
その頬は上気し、見上げる瞳は情欲に濡れている。
「物足りないって顔だね」
「……うるせえ」
「ふうん」
にやり、と笑う。肉食獣の笑み。
そのまま、視線を股間に戻す。
「素直になっちゃえよ」
唇を起立した先端に近づける。
触れるか触れないか。
焦らすようにゆっくりと近づく唇に。
ぞくり、と人識の身体が期待に打ち震える。

――再び、鐘の音が聞こえた。
373関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:48:36.75 ID:N2kuqQRR
ちゅ、と布越しの先端に軽く口づけて、出夢の唇は少し上に移動する。
舌でズボンのチャックのつまみを持ち上げて咥え、じわじわと下ろしていく。
完全に下りきると押さえつけられていた物が更に持ち上がる。
下着の先はじっとりと湿っていた。
出夢はそこを唾液のたっぷりと乗った舌でべろんと舐め上げ、
「待ちきれなくてお漏らしかよ、本当にこいつは素直でかわいいねぇ」
ニヤニヤと、羞恥で真っ赤になった人識の顔を見やる。
その怒ったような表情の中に何かを待つ切実な表情も僅かに見て取れた。
「素直じゃないお前もかわいいけどな。ま、頑張って『耐え』てみろや」
出夢は離していた指をしゃぶり、唾液まみれにしてから湿った下着に近づけていく。
やわやわと刺激にならないような刺激を手のひらで与えながら、
トランクスの切れ目に指を差し込んでいく。
「……くぅっ」
ひんやりとした指が、一物に当てられた。
今まで散々焦らされてきただけに、ただ直接触られる、それだけで敏感に反応してしまう。
ぬるぬると、指で軽く擦られるだけで達してしまいそうになる。
「先っぽ、何か出てるぜえ」
指で亀頭の割れ目を擦られる。静かな教室ににちゃにちゃと湿った音が響いた。
与えられる快楽に下着の中で爆ぜそうになる。
(溜まりまくって我慢できねー餓鬼じゃねえんだ、こんなんでイかされてたまるかよ!)
人識は必死になって快楽に流されないように耐える。
陥落してしまえば楽だと頭のどこかで分かってはいるが、
動けない状況で一方的に、陵辱的にやられてしまうことに耐えられない。
しかし唐突に。
「頑張るねぇ」
ペロッと隙間から差し込まれた舌に、亀頭を弄られた。
(やばい――)
いきなり与えられた今までとは違う感覚に、持って行かれそうになる。
どくん、と脈打つ。
「――っ」

「ありゃー、せっかく頑張ったのになぁ、残念」
出夢は一旦体を起こしてニヤニヤと人識を見下ろした。
トランクスから取り出した出夢の手のひらにはべったりと精液が張り付いていた。
それを見せ付けるように長い舌で丁寧に舐め取る。
人識は虚ろな目で一瞥した。呼吸が荒い。
トランクスの中で果ててしまったため、股間がべったりとして気持ち悪かった。
「……くそっ……たれ……」
死にたい気持ちだ。
出夢には今までさんざんいいようにいじられてきたが、ここまで屈辱的なのは初めてだった。
「いいねぇ、僕は人識のそーいう顔が見たかったんだよ」
歪んだ笑顔の中には鬱な狂気。
「普通に殺し合って、僕が当たり前のように勝ってお前を殺したとしても、そういう顔はしねーもんな」
一通り精液を舐め取り終わった右手を軽く振って、側に落ちていた人識のナイフを拾い上げる。
「べたついて気持ち悪いよな、開放してやるよ」
ベルトをナイフで切り、その切っ先をトランクスの切れ目に入れた。
ひやりとした感覚が人識の全身に走る。
出夢は無造作にピッとトランクスを切り上げて切れ端を左右に広げると、
精液でべっとりとした茂みと、再び勃ちかけた一物が現れた。
それを見て軽く目を見張ったものの、すぐに口の端を吊り上げる。
「……いやまぁ、元気だねぇ」
人識は更に死にたい気持ちになっていた。
374関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:48:59.43 ID:N2kuqQRR
身体を重ね、再び唇を合わせる。
人識は果てたばかりで抵抗する気力もなく、咥内で蠢く舌にされるがままだった。
口の中に自分の精の味が広がっていく。
(……苦い)
他人事のように、遠くで思う。
苦い味わい。
苦い思い。
出夢は丹念に人識の舌、歯、歯茎、頬の内側と味わいつくし、ようやく唇を離した。
どちらのものか分からない唾液が一筋、糸を引く。
名残惜しむように、その糸を掬うように舌で追い、自分の唇を舐める。
「――そいじゃま、再びお楽しみの時間だ」
もう一度、唇同士を軽く触れ合わせ、這うように身体の上に舌をずらす。
頬、顎、喉、肩、胸、腹、臍、と上から順に唇を付け、時には強く吸い上げ痕を残していく。
「くっ……」
痛みとは別の熱が人識の身体の奥で燻る。
と。
「――?」
出夢の動きが止まった。僅かに身体を起こしたのが気配で分かる。
「これ、この間の傷か?」
右の脇腹に微かに残る傷跡に合わせて、小さく、丸く、指でなぞる。
「……あぁ」
「――銃創だな」
出夢は目を細めて傷ついた子猫を母猫がそうするように、舌で舐めた。
治りかけとは言え、直接刺激を与えられればさすがに痛む。
ざらりとした感触に眉をしかめて下を見やると、じっと傷跡を見つめている出夢が見えた。
顔を伏せていて、表情はよく見えない。
「――あの時は気がつかなかった」
傷跡に、そっと口づけた。
375関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:49:20.67 ID:N2kuqQRR
湿っぽい音が小さく周囲に響く。
出夢は人識の膝の辺りに腰を下ろし、背を丸めて茂みに顔を埋めていた。
時折、長い髪を鬱陶しそうに耳に掛け直しながら、その舌で汚れた箇所を丁寧に舐め取っていく。
一通り済ませた後、唇を完全に起立しているそれには触れるか触れないかの位置で止める。
微かに当たる熱い吐息に人識は身を震わせた。
「……どーも、ご無沙汰」
(……どこに声かけてんだ)
出夢はひくつくそれに小さく声をかけ、自身を主張する陰茎に軽く唇を当てる。
先の割れ目に舌を這わせて滲む液を掬う。
舌が動くたびに人識の背筋にぞくりと快感が走る。
強張る身体からどうにか力を抜こうとするが、うまくいかない。
出夢はその反応を楽しむように舌先で鈴口を弄っていたが、
やがて唇をぺろりと舐めて震える先端をゆっくりと咥え込んだ。
「……くっ」
暖かい咥内に包まれる感覚に思わず声が漏れる。自分の声に我に返り、人識は慌てて唇を噛んだ。
そんな人識の反応を、出夢は咥えたまま上目遣いで見やり、目を細めた。
奥まで咥え込んでから、先端まで、そして再び奥までとゆっくりとストロークをつけて動く。
人識の羞恥を煽るようにわざと音を立てて舐め上げ、吸い付き、徐々に動きを早めていく。
ぬめる咥内で刺激を与えられた陰茎が更に硬度を増していくのを感じる。
人識はとめどない快楽の波に襲われ身を硬くする。波に飲まれてしまえば先ほどの二の舞だ。それだけは避けたい。
出夢は目でニヤニヤと笑みを浮かべつつ、強く吸い上げながら引き上げる。陰茎が脈打つのを感じる。
堕ちるのは時間の問題だろう、しかし。
出夢はあっさりと激しく攻め立てていた口を唐突に離す。
そして、限界まで張り詰めた先端に軽く口づけた。が、それ以上は何もしない。
出夢は身体を上げ、人識の顔を見やった。
人識の頬は上気し、目尻にはうっすら涙が滲んでいる。呼吸が荒い。
その顔に浮かぶのは羞恥と――明らかな落胆と戸惑いだった。
人識のその表情を見、出夢は満足げに口の端を歪める。
「何だか物足りなさそーじゃねーか。僕のかわいいお口でイかせて欲しかったか?」
「……へっ、この程度じゃあ、イけねーな」
息も絶え絶えな人識の強がりを無視して、続ける。
「お前のよがってる姿はかなりそそるものがあるけどな。一人だけ満足しちまうってのはねーよなぁ」
そう言い放つと、出夢は人識から身体を離しゆっくりと立ち上がった。
376関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:49:38.81 ID:N2kuqQRR
出夢は制服を脱ぎ捨て一糸纏わぬ姿となっていた。
汗の滲む白い肌、薄く肉のついた胸、骨の浮き出たあばら、まばらに生えた茂み。
背中に刻まれた数箇所の痕はあの時のものだろうか、薄く残る痣が肌に映える。
長く綺麗な黒髪に包まれた小さな顔は整っているが幼さが残る。
頭の眼鏡も外していた。
人識の腹の辺りで跨り、膝立ちで見下ろしている。表情はなく、ただ静かに見つめている。
対する人識は破れた制服もそのままに、血と肉片で汚れた床に転がっていた。
目が覚めてから多少時間が経ったものの、まだ体は動かせそうにない。
「こんなことならもうちょい手加減しとけばよかったかな」
冷めた口調で出夢。
「自分でするのは、あんま好きじゃねーんだよ」
言いながら、人識に見せ付けるようにゆっくりと自分の右手を足の付け根へ持っていく。
出夢自身は何もされていないのだが、今までの行為で高ぶっていたのだろう。そこは充分に潤っていた。
焦らすように秘裂の周りを愛撫し、愛液で濡らした指を二本、そっと秘裂の中に埋めていく。
「ん……」
小さく湿った音を立てて指は裂け目に入っていく。特に抵抗はないようだが、出夢は軽く眉をひそめる。
そのまま、指を抜き差しし、時折奥まで挿入し中をかき混ぜるように動かす。
静寂の教室の中、水音と押し殺した荒い息遣いが響く。
行為を続けるにつれ身体が反応し、湿った音が大きくなっていく。快楽に上気した頬に汗が一筋流れる。
少女の身体を持つ少年の無言の自慰行為から、人識は目が離せなかった。
(――そういやこいつ、こういうときはあんま声を出さないんだよな)
その扇情的な光景に一度は落ち着いた下半身が再びたぎるのを感じつつも、
一方冷めた頭の片隅でそんなとりとめのないことを考える。
今まで出夢とは幾度となく身体を合わせてきたが、人識が一方的に弄られることが多く、
出夢が快楽に溺れて嬌声を上げるところなど、そう滅多に見ることはなかった。
それは匂宮出夢にとって零崎人識に対する決定的なアドバンテージからくるものだったのだろう。
戦闘技術においても、その他のことにおいても、人識は常に遥かなる高みから見下ろされていると感じていた。
卑屈になることはなかったとしても、それでも。
対等なようでいて、僅かな引け目。小さくて大きい、僅かな裂け目。

お互い対等な関係だと思っていたのだが。
家族のような関係だと思っていたのだが。

本当は、つつけば崩れる砂上の楼閣のような、そんな脆い関係だったのかもしれない。
377関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:50:24.40 ID:N2kuqQRR
自分の身体のことはよく分かっているらしい。
出夢は的確に効率的に快感を引き出し、高ぶってきているようだった。息遣いがかなり荒い。
指の動きが早まっているのが見て取れる。
それでもほとんど身体を捩じらすこともなく、声を殺してひたすら自慰行為に没頭する。
「――っ」
唐突に瞼を固く閉じ、声もなく背を逸らし、身体を震わせた――どうやら達したようだ。
どろり、と人識の腹の上に生暖かい液体が零れてきた。そのまま脇腹を伝って、床に落ちる。
しばらくその姿勢のまま硬直させていたが、やがて顔を下ろし、こちらを見やる。
その瞳は快楽に溺れたことを指し示すように潤んでいたが、冷ややかな光はそのままだった。
「……何だよ人識、結構冷静じゃねーか、つまんねー」
「いや、一人でイかれてもこっちは置いてきぼりだからな。そもそも反応らしい反応がねーじゃねーか。
興奮して欲しけりゃ声上げてよがってみろって」
出夢の息は早々に落ち着いてきた。鼻で笑う。
「言ったろ? 自分でするのは好きじゃねーんだよ。お決まりのルーティンじゃ身体反応はともかく、
僕は興奮しない。イっても頭は冷えてるよ、お前とは違う」
そう言って秘裂から指を引き抜いた。とろとろと零れ落ちる液体が人識の腹に広がっていく。
その愛液にまみれた指でそっと人識の陰茎を摘み、腰の位置を合わせ、
「最期だからな、せいぜい楽しもうや」
聞こえるか聞こえないかの声で呟きながら、じわじわと腰を落とす。
ちゅく、と音を立てて陰茎が徐々に飲み込まれていくのが見える。
「……くっ」
濡れた膣内は熱かった。奥まで飲み込まれると、その熱さに腰が蕩けそうになる。
包まれている感覚だけで昇り詰めてしまいそうになるのを、固く瞼を閉ざし、唇を噛み、どうにか堪えた。
出夢は人識の上に跨り、しばらくの間動かなかった。
378関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:50:45.90 ID:N2kuqQRR

「人識、リクエストがあるんなら言ってみろよ」
「――あぁ?」
ようやく挿入した状態に慣れ落ち着いてきた頃、唐突に掛けられた言葉に人識は怪訝な顔になる。
何を言いたいのか分からない――いや、意味は分かる。が、真意が掴めない。
出夢のそういった唐突できまぐれな態度はいつものことだったが、
それでも、先程までの扱いを考えれば人識が警戒するのも無理はなかった。
期待はせずに、問いかける。
「――何でも聞いてくれんのか?」
「あぁ、僕にできる範囲ならな」
指で結合部をなぜてから人識の胸に両手を添え、緩やかなストロークで動き始める。
「……そしたらな」
そこで言葉を切り、息を呑んだ。
「こんなんさっさとやめて、俺の目の前から消えちまえ。二度と俺にその姿見せんな。
――できないとは、言わせねーぞ」
「――ふん、そんな物欲しそうな顔で格好付けられても説得力ねーっての」
予想していた答えだったのだろう。
出夢はつまらなさそうな表情を浮かべつつ、深い箇所で味わうようにグラインドさせる。
「それに、ここはそうは思ってなさそーだけどな。何で頑張っちゃうかね」
徐々にストロークの速度を速めていく。
「そこまで頑なにならなくてもなぁ」
「そりゃ頑なにもなるだろ。原因作ったのは誰だっての。逆に俺は、何でお前がそんなに俺に執着するのか
聞きてーよ。殺すんじゃなかったのかよ」
「さっきも言ったろう? 殺すのはいつでもできる。僕はお前のその意地――プライドが欲しいんだよ」
「――?」
「奪い取るんじゃあ意味がない。お前の意志で、僕に屈してもらわないと」
「……全然、意味が、分かんねー」
「要するに、お前から僕を求める程度には溺れて欲しいってことさ」
薄く、笑う。それは冷えた笑みだったが、先ほどまでの殺意が揺らいだように思えた。
「どうせするんだ。お互い気持ちイイ方がいいだろう?」
そこで言葉を切り、本格的に腰を打ちつけ始める。

「――あぁぁっ」
何度目かの寸止めをされた瞬間、切なげな声が上がった――少し遅れて、人識はそれが自身の声だと気づく。
出夢に執拗に攻め立てられ、しかし昇り詰めることは許されず、ただひたすらに寄せては返す波に耐え続けていた。
どんなに快楽に追い詰められたとしても、決して明け渡すつもりのない最後のプライドだったのだが。

それが、あっさりと崩れた。

たがが、外れた。
どうにか抑えようと足掻くものの、一度出してしまえばもうどうにもならない。
人識はそれまで堪えていたものを取り戻すかのように、出夢の腰の動きに合わせて声を上げる。
そんな人識を見やり、出夢は動きを止め、満足気に唇の端を歪めて笑った。
「――こりゃーまた、随分と好い声で鳴くじゃねーか」
ギリギリまで腰を浮かし、落とす。その衝撃に再び人識の口から声が漏れる。
「人間素直が一番ってこった」
379関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:51:12.50 ID:N2kuqQRR
「――なあ、人識」
それまでの激しさとは打って変わって、ゆるゆると人識をいたわるように優しく動く、優しく囁く。
「お前をイかすも殺すも僕次第だ」
身体を合わせ、耳朶に唇を寄せ、くすぐるように囁く。
緩やかな動きは、今まで与えられていた刺激には程遠い。物足りない。
快楽に溺れてしまいたいのに、そこまでたどり着けない。もどかしい。
「もういいだろう」
囁きが、脳髄に響く。
耳元と、陰茎のみがやけに熱い。
「僕の物になっちまえよ」
包まれていたそれが、きゅっと締められる。
それは甘い誘い。
いっその事、堕ちてしまえばいいのかもしれない。
しかし。

(――どうして、今さら?)

僅かに残る冷静な部分で、人識は動揺していた。
確かに出夢の精神はかなり不安定だ。感情のぶれ幅はかなり大きい。
しかしそれでも、一度決別し、標的にした人間に対して搾取することは在り得ても譲歩することはない、はずだ。
ましてや、懐柔などありえない。
あそこまで徹底的に虐殺し切って、壊し切って、捨て切って、断ち切ったものを。
それが、どうして。

(――これじゃあ、まるで)

教室で、出会う前の。
何事も、なかったような。
そんな錯覚さえ抱いてしまうような。
そんな幻想さえ抱いてしまうような。

思わず手を取ってしまいそうな、甘い、誘い――だが。

(――本当にそれでいいのか?)

ともすればそちら側に傾いてしまいそうな自分に、どうにか抗おうと力を振り絞り出夢の顔とは逆の方向に顔を背ける。

――ふと。

恨めしげにこちらを向くクラスメイトと目があった。
上半身は肉塊と化しており、冷め切った赤黒い塊がかろうじて原型を止めている首と下半身を繋ぎとめている。
生命を感じさせない、鈍く濁る虚ろな瞳。そこに、だらしなく快楽に緩んだ自分の顔が映る。

瞬時に頭が冷えた。

彼等とは生きているときにはほとんど関わりがなかったが、
それでも――こんな不条理な出来事に巻き込んでしまって、みっともないところを晒して、
許せるわけがない、許されるわけがない、だろう。
(俺は何を血迷ってたんだ。そうだよな、お前らが巻き添えでこんな目に遭わされたのに
――俺だけがそんなん、駄目だよな)
堅く瞼を閉ざし、顔を天井に向ける。
荒い息を飲み込んで、理性と自尊心とを持って、誘惑に抗う。
「ふざけんな……ここまでしておいて、今さら何言ってんだ」
快楽によって忘れさせられていた怒りを、呼び戻す。
「俺は、お前の物になんか、ならねーよ」
強い意志で持って、想いを振り払う。未練を、断ち切る。
380関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:51:33.53 ID:N2kuqQRR
「――そっか」
間髪入れず返ってくる出夢の声。冷ややかな、声だった。
動きを止め、重ねていた身体を離し、無表情で人識を見つめる。
「そうかよ」
緩やかな動きが一転、今までにない激しさで腰を打ちつける。
唐突に与えられた激しい刺激によって、背筋に快感が走る。
一気に上り詰めさせられる。
絞り上げられる。
意識まで絞り取られるように、霞がかったように持っていかれる。
「……ない……なら」
出夢が何か呟くが、よく聞き取れない。
「…………やる」
言葉は途切れ、更に激しく打ちつけられる。リズムに合わせて長い髪が乱れるのが妙に艶めかしかった。
その刺激で出夢も達しそうなのだろう。それまでにない程にきつく、きつく、締めあげられる。
「――っ」
肌を打つ音を立て、出夢の腰が突き落とされた瞬間、限界まで膨れ上がった陰茎の先から白濁がほとばしった。
それが最奥を叩きつけるのと同時に、痙攣するように何度も何度も締めあげられる。
顎を上げ、声にならない叫びを上げる出夢。
人識から最後の一滴まで絞り取ろうと、脈打つ陰茎を何度も執拗に締め付ける。

(……やっぱ、俺は、出夢には、勝てねーや)

射精による倦怠感と蓄積した疲労に身体が耐えられなくなったのか、やけに重い瞼が徐々に降りていく。
もう、考えるのも億劫だ。
このまま、闇に身をゆだねてしまおう。

薄れゆく意識の中で人識は思う。
あのときの、出夢の呟きは。

『僕の物にならないのなら』

霞む視界の中、紅い唇の動きが、やけにはっきりと見えた。

『お前なんか壊してやる』

冷ややかなはずのその声が。
表情のないはずのその顔が。

泣き出しそうに感じたのは、はたして気のせいだったのだろうか。
381関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:52:00.41 ID:N2kuqQRR
『――なぁ、出夢。起きてるか?』
『……ん、あぁ?』
『悪ぃ、起こしちゃったな』
『……んー、だいじょぶ』
『あのさ』
『……なんだよ』
『――どうして、俺なんだ?』
『……なにが?』
『いや、こういうの』
『……』
『俺とお前じゃ、何にしたって差がありすぎる。相手をしてても暇つぶしにもならないだろうが』
『……へ? 何、人識、お前そんなことで悩んじゃってるの?』
『……いや、悩むってより、単純に疑問に思ったと言うか、何てーか……』
『そういうのを悩むって言うんだろう?』
『……』
『……そうだなぁ――僕がお前を愛しちゃってるから、じゃあ駄目なのか?』
『――何だよその真顔で真っ向からの愛の告白』
『せっかく手に入れた玩具だからな、そうそう飽きはしないさ』
『って、俺は玩具かよ!』
『そうさ。人識、お前は僕の物だ』
『てめぇ……』
『へん、悔しかったら僕を本気にさせてみろってんだ』
『畜生……』
『いつか本気で殺りあって、お前が僕に勝ったら対等だって認めてやるよ。それまでは僕の玩具だ』
『……くそったれ……いつか絶対に、殺して、解して、並べて、揃えて、晒してやる……』
『ぎゃは、せいぜいその決め台詞が生きる日が来ることを楽しみにしてるよ』
『……』

『――だから』
382関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:52:22.42 ID:N2kuqQRR
出夢は繋がったまま人識に自分の身体を預けていたが、やがて上体をゆっくりと持ち上げる。
人識は眠っているのだろう、離れても身じろぎもしなかった。
名残惜しげに相手の身体に纏わり付いていた黒髪を、腕でかき上げて後ろに流す。
人識の顔を見つめるその表情は、まだ昂揚から覚めやらぬ様子と――戸惑い、苛立ち。

(――どうして、こいつはここまで僕の心を引っ掻き回す――)

決別した、はずだった。
躊躇ない、はずだった。
心の赴くままに徹底的に壊してしまえる、はずだった。
揺らぎない殺意を思いのままにぶつける、はずだった。
決して忘れることのない痕を刻み込める、はずだった。

途中まではできていた、のだろう。
戦いの最中、人識が意識を失ったときに、全てを終わらせることはできた。
しかし、力なく横たわるその姿を見て――戯れで、最期にもう一度、と思ってしまった。
匂宮出夢という存在を身体の奥深くにまで刻み込んで。
苦痛を与えて、恥辱を味あわせて、快楽に溺れさせて。
その存在がどういうものだったのかをきっちり思い知らせてやろう、と思ってしまった。
――それは決して未練ではない、はずだ。

しかし――確定していたはずの気持ちが、揺らいでしまった。
取るに足らない、小さな傷跡を見た瞬間、揺らいでしまった。

あの館で再会したとき、そんな傷を負っている素振りはまったく見られなかった。
それどころか、普段の人識からしたら滑稽なくらい、自分のことを心配していた。
滅多に崩すことのない笑顔を崩して、曇った顔で自分のことを見ていた。
確かに自分も決して軽くはない傷を負っていたが、明らかにおかしな様子だったが。
そして、人識のそれは取るに足らない小さな傷だったが。
そんな素振りを見せずに済むほどには軽くなかっただろう。

それでも――それを省みずに庇うことすらせず。
ただひたむきに自分のことを見てくれた。
傷を負った自分の心配をしてくれた。
様子のおかしい自分を気遣ってくれた。
あのときには気づけなかった、そんなことをふと思い出して。

切り捨てたはずの想いが、疼いてしまった。

抑えられなかった。
足掻いてしまった。
あまつさえ、断ち切ったそれを繋ぎなおそうとすらしてしまった。

拒絶されて、胸が痛んだ。
自分から手放した物だったが、答えは分かりきっていたが、それでも。
改めて言葉で、態度で、徹底的に拒絶されて。

ものすごく、胸が痛んだ――いや、今も痛む。

それは『弱さ』の現れ。
383関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:52:40.70 ID:N2kuqQRR
『気に入った相手がいるなら――そいつの大事にしているもの壊せ。
そいつが日常だと信じている世界を突き崩せ。自らの存在を相手の魂に刻み込め。
友情よりも愛情よりも深い憎悪を、根深い憎悪を、すべてこちらに向けさせろ』

あの男の低い声が、今も耳に憑いて離れない。
そして、その言葉を受けここまで行動に起こしてしまった以上、後戻りはできない――分かっては、いるのだが。
取るに足らない小さな傷跡を見てしまった瞬間、ふと、あの心地よさを思い出してしまった。
快楽と同じだ。一度身体が覚えてしまった味は、忘れることができない。

人識を見下ろす出夢の中では、様々な感情が渦巻いていた。
焦り、苛立ち、戸惑い、怒り、そして――
(――この状態はまずい。このままじゃあ、また『ずれ』ちまう――)
せっかく元の状態に強制的に戻したというのに、この不快な感情に引きずられてしまうのはまずい。
今度こそ戻れなくなる。
匂宮兄妹の存在の意味が消滅してしまう。
例え憎悪で繋ぎとめたものだとしても、絆があるだけで、駄目だ。
会えば思い出す。思い出せば揺らぐ。弱さが現れる。
それでは行ってきたことの意味がない――断ち切ってしまわなければ。

「……殺して、しまおうか」

零れた呟きはまるで他人のそれだった。

指が、無意識に頬の刺青をなぞっていた。
僅かに癖のある髪を、梳いていく。
軽く開いた唇に紅を引くように線を引く。
閉ざした瞼に、長いまつげに触れる。

最期にもう一度、軽く口づけをする。

決断してしまえば、体は動く。
決断に追いついていけない心を置き去りにして、出夢は淡々と行動に移す。

果てた後も繋がったままだった身体を、ようやく離した。
こぷり、と音を立てて、足の間から白濁した液体が流れ落ちていく。
それが足を伝うのにも構わず人識の身体から立ち上がり、脇に放ってあった制服を拾い上げる。
塗れていた血はすでに乾いていた。
血で赤く染められているために多少目立つが、まさか裸で出て行くわけにもいくまい。
まぁ、そう目撃されることもないだろう、と気にすることなく袖を通した。
下着は、ない。
どこかその辺の死体から剥がすこともできたが、もうどちらでもよかった。
セーラーのタイを留めて、靴を履いて、眼鏡で髪をかき上げて。
服装を整えた出夢は足元を見下ろした。視線の先の人識は――ひどい有様だった。
上着は引き裂かれ、シャツは食いちぎられ、スラックスと下着はナイフで切られて広げられたまま。
丸出しの局部は体液やら何やらでぐちゃぐちゃだ。
(……まぁ『一喰い』で全てをぐちゃぐちゃにしちまえば分からねーか)
人識に対する最期の情けか。
やけに冷めた頭でそんなことを考えつつ、出夢は腕を頭上に振り上げた。
384関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:52:58.52 ID:N2kuqQRR
「――やれやれ、我が家では義務教育中の不純異性交遊は禁止なんだけどねえ」
「――!?」
おどけた声と同時に出夢の首筋にひやりとした感触が与えられた。左右にそれぞれ刃物が添えられているようだ。
完全に背後を取られている――まったく警戒していなかった訳ではないが、迂闊だった。
(……ここ数日で二度も背後を取られるたぁ、僕もやきが回ったもんだ)
下手に動けば首を落とされるだろう。出夢は振り上げたままの手をゆっくりと顔の位置まで下ろす。
「君のようなかわいらしい子にこういうことをするのはあまり気が進まないんだけど、
これ以上黙って見ている訳にはいかなくてね」
背後の声は飄々としてつかみどころのないものだったが、そこには若干の苦味が混じっていた。
声の質からすると男性、年の頃は二十代半ばと言ったところか。
「……あんた、誰だ」
問いかけつつも、先ほどの男の言葉を反芻する。
『我が家』という単語が出てくるということは、人識の『家族』――零崎一族の誰かだろう。
しかし、背後の男は出夢の問いかけを無視する形で続ける。
「ここまでなら単なる『お友達同士の喧嘩』で済ませてもいいんだけどねえ。いやぁ、いじましい。
何ともかわいいものじゃないか、うふふ。だけどねぇ」
そこで声の質がそれまでのおどけたものから一変する。
「――これ以上の事をするのならば、君を我ら一族に対して仇を成すものとして捉えることになる」
一呼吸置いて。

「――零崎を始めることになる」

その言葉と同時に、出夢に向けて身を切らんばかりの凄まじい殺気を放つ。
並みのプレイヤーならばそれだけで戦意を挫くほどの凄まじい殺気を放つ。
――しかし。
背後を取り、相手の動きを封じた、そこに生じる男の一瞬の隙にもならない小さな隙をつき、
出夢は人識を挟んで向こう側に飛びのいた。
ほんの僅か動きの遅れた相手の凶器は、出夢の首の皮一枚と髪の毛一房を捕らえただけだった。
続く動作で振り返り、男と真っ向から対峙する。
年の頃は二十代前半だろうか、背が高く、手足が妙に長く、細身の男だった。
ぱっと見、針金細工を思い起こさせる体格だ。整った顔に銀縁眼鏡。後ろに撫でつけた長髪。
三つ揃いのスーツ姿にネクタイを締め、手には大振りの奇妙な形の鋏を持っている。
(……家族……大鋏)
その姿を見て出夢は忌々しげに舌打ちした。一度だけ、遠目に見た。その恐ろしさは噂には聞いていた、が。
(――マインドレンデルか!)
零崎人識の兄、零崎双識。二十人目の地獄。《自殺願望》を持つ殺人鬼マインドレンデル。
――正直、今の出夢の状態でマインドレンデルを相手取るには厳しいものがあった。
人識が思っていたほど、出夢は余裕があったわけではない――残っているのはせいぜい普段の六、七割程度の力だ。
今やりあえば、確実に負けて殺されるだろう。
385関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:53:39.25 ID:N2kuqQRR
しかし。
「ぎゃはははははは!」
目をぎらつかせ、凶悪に、高らかに笑う。それまでの様子とは打って変わって、
普段通りの匂宮出夢がそこにはあった。
「そうだよ、そうこなくっちゃあなぁ。まったく、僕ともあろーものがらしくもなく浸っちまった。
キャラじゃねーんだよな、こういうの」
床に転がる人識を一瞥した後、目の前に立ちはだかる双識に全神経を集中させる。
その瞳には迷いはない。狂乱の光をたたえて双識の姿を映す。
両腕を上げ、構える。
「おにーさんがその気なら、殺戮の時間はもう欠片も残っちゃいないが、今日は特別に奮発しちまうか。
何せ不完全燃焼で身体の奥が熱く疼いちまってってよぉ――ぎゃは、僕と遊んでくれや、おにーさん」
「いやいや、待ってくれ。私は君が素直に人識くんから手を引いてくれるのならば、
無為な殺傷を行うつもりはないんだが」
「いやいやいや、僕をその気にさせといて何言ってんだよ。こうなったら、選択肢は一つだろーよ。
こんなかわいい女の子にここまで熱烈に誘われてもおにーさん、引いちゃう訳?
まさかそんな萎えるこたー言わねーよなぁ」
「うーん、女の子をどうこうするのはあまり趣味じゃなくってね」
「はん、零崎のくせに紳士ぶるなよ――あぁ、僕にその気にして欲しいってかぁ? マゾかよあんた」
出夢は言葉を切り、厭らしく唇の端を歪める。
「――あんたの弟は好い声で鳴いてくれたぜえ」
「そうか――そこまで言うのならば」
出夢の挑発に双識の殺気が膨れ上がる。自殺願望を持ち直し、構える。

「――零崎を、始めよう」

「ぎゃははは! 兄弟揃っていい顔するじゃねーか! せいぜいおにーさんのテクで僕を満足させてくれや!」
殺気と殺気がぶつかり合い、張り詰めた空気が教室内を包む。

ふと、片方の殺気が緩んだ――双識が自殺願望をゆっくりと下ろしていく。
張り詰めた意識はそのままに、出夢は僅かに面白くなさそうな顔になる。
「おいおい、おにーさん。こっちがせっかくその気になってるのにどうしちゃったよ」
「一つ提案がある――お互い、ここはなかったことにしないかい?」
「あぁん? さっきまでの殺る気はどこへ消えちゃったよ? ……まさか、おにーさん怖気づいちゃった?」
「君をここで殺すのは簡単なことだ――いや、簡単には済まないかも知れないが、私は必ず勝つよ」
「ぎゃはははは! 言ってくれるじゃねーか。僕なんかじゃ相手にならねーってか」
「確かに君は強いだろう。しかしね、家族を守るためになら、たとえこの身が朽ちようとも私が勝つよ」
「――へぇ。かっくいぃねぇ、おにーさん。その覚悟、さっそく試してみよーかぁ」
「いやいや、人の話を最後まで聞いてくれよ、お嬢さん」
双識はそこで一旦言葉を切り、自殺願望を背に戻し、両手を広げ、戦意がないことを示す。
「――君はやりすぎたんたよ。人識くんを狙うなら、こんな派手なことをするべきじゃあなかった」
「……僕が何を考えて行動しようと、それは僕の勝手だ」
「そりゃ、そうだがね――君も気づいているだろう? 表には、一般人が集まってきている。
今はまだ遠巻きに様子を見ているだけだが、勇敢な国家権力がこの場に踏み込んでくるのも時間の問題だ」
双識に言われるまでもなく、出夢も先程から表の気配は感じていた。
静か過ぎる学校に不信を抱いたのだろう。遠巻きに、校内の様子を伺っているのが分かる。
戦意で高ぶっていたときにはどうにかしてしまえばいいと高をくくっていたが、さすがに時間がかかりすぎた。
下にはかなりの人数が集まっている。目撃者を残すことなくどうこうするのは、もう不可能だと思われた。

――確かに、迂闊だった。

冷静さを欠いているのは分かりきっていたが、それにしても行動が稚拙すぎた。
全てが終わった今になればそれは理解できるが――あの精神状態では、そこまで考えられなかった。
衝動の赴くままに、彼に関係するものたちを虐殺してしまった。
「私たち一族は、彼らの世界に晒されたくはない。黙っていた人識くんに免じて敢えて訊かないが、
君も似たような立場なんだろう?」
出夢は黙ったまま双識を睨みつける。
その沈黙を肯定と受け取り、双識は続けた。
「もう時間がない――だから先程の提案だ。私は一族に仇をなした君を追わない。この先もだ。約束しよう。
その代わり、君もここは素直に引いて欲しい。……どうだい?」
386関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:54:02.45 ID:N2kuqQRR
出夢は僅かの間考え、表情を緩め、構えを解く。戦意は引いていた。
「おーけーおーけー、おにーさんの条件を呑もう。確かに僕もやりすぎた。せっかく処分を免れたのに、
これがばれて更に明るみに出たら、また僕らの処分を再考されちまう」
双識を見据えたまま、じりじりと窓に近づく。
「それに」
後ろ手で窓の鍵を開け、一気に開く。血の臭いが充満している室内に、冷えた外気が流れ込んできた。
窓の桟に手をかけ、倒れたままの人識に顔を向け、笑顔を見せた。
それは匂宮出夢にはおよそ似つかわしくない、晴れやかな笑顔だった。
「お互い生きてりゃ、チャンスはいくらでもあるからな」
じゃ、と桟に足を掛けようとして、ふと振り返り口を開く。
「――それにしてもおにーさん、犬も喰わねぇ喧嘩に口を挟むたー野暮だねぇ」
まぁ、僕は男だけどよ、と出夢は喉で笑う。
「こいつはただの痴話喧嘩――違うな、別れ話だ。あんたのかわいい弟は僕が振ってやった。
おにーさんが心配するよーなこたぁ、もう起こらねーから安心しろよ」
そして、思い出したかのように、付け加えた。
「あぁ、そうだ。僕は出来損ないの失敗作だからな、生殖機能なんつーもんはそもそも持ち合わせちゃいねぇ。
その辺も安心してくれや」
にやり、と口の端を歪めてスカートの裾を軽く摘まみ、挑発するように足の間から零れ落ちる液体を見せ付ける。
絶句する双識を見て高らかに笑い、満足げな表情で窓枠に足を掛け、桟を蹴り宙に跳んだ。

双識はしばしその場に立ち尽くしたまま出夢が飛び出した窓を見つめていたが、額に指を当て、
首を振って人識の元に向かう。
派手に飛び出してくれたものの、外が騒ぎにならなかったところを見ると不用意に下りたわけではなさそうだ。
まぁ、彼女(彼?)はもうそんなヘマはするまい、とそちらからは意識を外す。
倒れたまま動かない弟の状態を見て軽く眉をひそめたものの、近くの学生から上着を借りてその身体を包み、
肩に担ぐ。
窓に背を向け身体をかがめて扉をくぐろうとして背後を振り返り、双識は苦笑混じりに呟いた。

「――君は不合格だよ、お嬢さん」

遠くで、哄笑が聞こえたような気がした。
疲れた表情で再び首を振り、双識は振り返ることなく教室を後にする。

残るのは、肉塊と、乾き始めた血と、ただひたすらの静寂。
そして。

――もう、聞く者のいない鐘の音。
387関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:54:45.94 ID:N2kuqQRR
『――だから』
『だから?』

『誰にも殺されるんじゃねーぞ、人識。お前の命は僕の物だ』
388関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:55:11.88 ID:N2kuqQRR
「――ふざけんな、俺は物じゃねっつーの……」

人識が瞼を開けると、そこは見慣れた病院の天井だった。
(……夢か……ちくしょー……やな夢見たなー……)

現在、教室での出来事から数日後。
彼は発見された後、双識の知人の庇護の下、その傘下の病院に入院していた。
怪我自体は大したことはなく、自己診断ではあと数日もあれば退院できるほどには回復したが、
診察に来る医師の表情を見る限り、まだ退院の許可は下りそうになかった。

「人識くん、入るよ」
声と共に病室の扉が開き、彼の兄である零崎双識が中に入ってきた。
「おー、兄貴ー」
手をひらひらさせて、挨拶。
「少しは食べたかい? 眠れたかい?」
足で引き戸を閉めつつ手に持っていた荷物をベッド脇の棚に置き、棚の横に立てかけてある椅子を出して座った。
荷物から林檎を一つ出して、軽く拭き、持参したぺティナイフで皮を剥き始める。
人識は横になったまま、それを何ともなしに見ていた。
静寂の中、双識は黙々と皮を剥き続けていたが、半分剥き終えたあたりで声をかける。
「――なぁ、兄貴」
それは独り言のような、小さな声だった。
「ん? 何だい?」
「俺、いつ退院できるのかな」
「先生はあと二週間ほど様子を見ればいいって言ってたよ」
それは彼の体の様子ではなく世間の様子だったが、そこは敢えて告げなかった。
「かはは、二週間もかよ。入学式に間に合わねーじゃん」
乾いた笑いを浮かべ、黙って皮を剥き続ける兄に向かって続ける。
「ネクタイの締め方だって練習してねーし、新しい制服もまだ袖通してねーし。
俺、全然入学準備できてねーんだけど、退院をもうちょい早めてもらうことできねーかな」
「……」
「入学初っ端から欠席してたらクラスで浮いちまうし。……まぁ、それは出てよーがどっちでも一緒だろーけど。
でも、クラスにかわいい女の子とかいるかもしれねーし」
「人識くん」
兄の硬い声に只ならぬものを感じ、人識は思わず口を噤む。
「すまない。一つ、黙っていたことがある」
「……何だよ」
「――汀目俊希は、死んだよ」
「……あぁ? 何だよそれ。俺生きてるじゃん」
双識はその言葉には取り合わず、続ける。
「今回の『事故』は内々で処理し切れなくて表沙汰になってしまった」
「……」
「現場で実際に何が起こったのか、私には窺い知ることはできないが」
そこでちらりと人識の顔を見やるが、その顔から彼の感情を読み取ることはできなかった。
「学校の中は凄まじいことになっていたよ。全ての教室から職員室、果ては飼育小屋の中にいた鶏や兎まで、
敷地内にいた全ての生物が――皆殺しだ。いたるところが血の海、肉の海だったよ」
関係者を根絶やしだなんて零崎一族でもあるまいし、と双識はおどけるが、人識の表情は動かない。
「表向きには『何者かが持ち込んだ謎の危険物が偶然爆発してしまった不幸な事故』として処理された。
――あぁ、白々しいのは百も承知だ。こんなもの、何でもいいから理由がつけばいいんだよ。
彼らは自分たちの常識で測れない物事は、さっさと処理を済ませて終わったものとしてしまいたいんだ。
――おっと、ごめん。話が逸れたね。そう、だからこの件は報道もされていない。ただ」
皮を剥き終えた林檎をナイフで四等分に割り、種を除く。
「人識くん、君はそんな中でただ一人生き残ってしまったんだよ。
一般人しかいないはずの中学校という場で、あのような特殊な状況下で生き残ることができてしまった、
君のような『生存者』は表でも裏でも目立ちすぎる。
ただでさえ一族の中で君が学校に通うのをよしとする者は少ない。その上、君の存在は零崎の秘中の秘だ。
今回の件をそのままにしてしまえば、その存在を嗅ぎ付けられるとも限らない。 
そのため、一族総意でこれを期に『汀目俊希』という存在を抹消してしまおう、となってしまった」
そこで双識は手を止め、人識に視線を向ける。見つめる瞳に僅かに苦悩の色を見せ、頭を下げた。
「――ここまでの事態になってしまうと、私にも庇いきれなかった、すまない。だから――」
389関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:55:45.70 ID:N2kuqQRR
「だから何だよ!」
勢いよく体を起こし、こちらを向いて人識は声を荒げた。
「だから『汀目俊希は死にました』ってか、ふざけんな! 俺は生きてるじゃねーか!」
横に腕を振り、何度もベッドのパイプを殴りつける。加減なく、遠慮なく、何度も打ち付ける。
その勢いに双識は思わず目を見張った。ここまで感情を爆発させた人識を見ることは滅多になかった。
「一族総意? 勝手なこと言ってんじゃねーよ! 俺の人生何だと思ってんだよ! 俺は高校通って青春すんだよ!
幸せ高校生ライフをエンジョイすんだよ! かわいい彼女作ったり何だりで楽しくなっちゃったりすんだよ!
それがこんなくだらねーことでおしまいかよ! なんなんだよ、何でだよ!
これから何かが起こりそうな感じだったのに、そんな誰かに出会えるはずだったのによ!
いつもこうだ! ようやくそれに届きそうになると邪魔が入ってかっさわられるんだよ! 畜生!」
堰を切ったように怒鳴り散らしていたが、やがてその勢いも弱まり、人識は双識から顔を背けた。
「――それに」
窓の外を見やる。
「――それに、やっと鬱陶しい奴ともおさらばできたってのに」
それは双識の耳に僅かに届くくらいの、小さい力ない呟きだった。
人識の言葉が途切れたのを見て、双識は静かに告げる。
「――高校生活を楽しみにしていた人識くんにとっては残念だが、
ここで無理を通してもきっとまた同じことが起こるだろう。これは――」

「決定事項だ、諦めなさい」

切った林檎を皿に盛ってフォークを添えて人識に渡し、切り屑の後始末をし、部屋を出ようとする双識。
人識は窓の外を見たまま兄の背に問いかけた。
「そういや、俺を最初に見つけたのは兄貴だったんだよな」
「そうだよ」
「……教室に、俺の他には誰かいたか?」
「――いや」
「そっか――俺、どんな状態だった?」
「完膚なきまでにズタボロだったな。人識くんともあろう者が、どんな相手と対峙したら
あそこまでになるんだろうね」
「……」
「じゃ、退院まで大人しくしてるんだぞ。私はしばらく顔を見せることができないが、
退院のときは困らないようにしておくから」
林檎をちゃんと食べなさい、と言い残し、双識は部屋から出て行った。

兄を見送ることもなく、人識は窓の外に顔を向けたまま、動かなかった。
いつの間にか春はそこまで来ていたらしい、窓から見える中庭の桜が淡く咲き始めていた。
桜をぼんやりと見つめながら、受け取った林檎を一口齧る。心に沁みる優しい甘味が口の中に広がる。
機械的に口を動かしているうちに、目に映る桜が滲んでいく。

あの時の、出夢の言葉が脳裏によぎる。

『僕の物にならないのなら』

視界がぼやける。

『お前なんか壊してやる』

「何でだよ……お前がしたかったのはこんなことだったのかよ、出夢」
膝を立て、顔を埋める。
「こんなくだらねーこと……意味分かんねーよ……」
鼻の奥が痛い。目の奥が熱い。喉に何かがつかえる。歯を食いしばってないと何かが決壊しそうだった。

「……本当、傑作すぎるっての」

口の中でごちる、と――雫が一粒布団に落ちた。
人識は後から続く雫を抑えることができず、抑えようともせず、ただ落ちていくそれを見つめていた。
悲しい、のだろうか。でも、何が悲しいのか、分からない。
静か過ぎる病室で、涙はただ零れていく。
390関係その後 ◆G.tRihaqM. :2012/02/10(金) 22:57:23.05 ID:N2kuqQRR
汀目俊希――零崎人識。
彼にはもう。

――もう、鐘の音は、聞こえない。


以上です、お邪魔しました
391名無しさん@ピンキー:2012/02/12(日) 01:21:15.27 ID:WIpwHi8/
gj
392あざなえるもの01/15 ◆vpePLp7Z/o
クトゥルフスレが落ちちゃったので・・・・・・
アザトース×ニャルラトホテプ擬人化リョナ、ややスカありです。

彼女は自分の居る場所を見渡した。

古く、埃の溜まった屋根裏部屋だ。
頭上には黒ずんだ梁が伸び、傾いだ壁がこちらを押しつぶすかのように迫ってくる。
曇った硝子窓から昇ったばかりの月が赤い光を投げかけていた。
部屋に残された家具は、姿見だけだ。

彼女は部屋を出る前に姿見を見るのも悪くないと考えた。
何の問題もないはずだが、点検するに越した事はない。
もしかしたらとんでもなく時代遅れなものを身にまとっていたり、
何かが多かったり足りなかったりする可能性もあるではないか。

姿見の中には、黒い髪と黒い肌を持つ女が映っている。
年の頃は二十代半ば辺りだろうか。
彫りの深い、整った顔立ち。
つややかに、腰まで流れる髪。
長く細い手足と、各所にバランスよく、たっぷりと盛られた肉。
身にまとうのは漆黒のパーティドレス。
鎖骨から下を完全に覆い隠しているのに、かえって豊かな曲線を強調するデザインだ。

彼女は鏡を見て、ちょっと通俗的過ぎるかなと眉をひそめる。
しかしこれから会う人間たちは、芸術性など期待するのも愚かな者たちであるし、
これで丁度良いか、と妥協することにした。
さて、出るかと考えたときのこと。

大きなきしみと共に、埃が舞い落ちる。
生ぬるい臭気と、遠方より響く太鼓。
その向こうから膨れ上がる、気配。

彼女は溜息をついて振り返る。
「我があるじ」
口を開いてから、今の姿に引きずられた言葉を使ってしまった事に、
彼女は舌打ちしたい気分になる。
おそらく主は彼女の言葉を理解出来なかっただろう。
いや、いつも、自分の常態であっても主は理解した試しなどないが。