貪欲に彼女を、彼女が絶頂と引き換えに与える快楽を求めていた。肢体を震わせて悶える彼女の姿を見れば、
尚のこと。
自制が利かず、ロイドは本能のままにディアナを求め続ける。
彼女の弱い箇所を小刻みに突き、徐々にその速度を上げていく。
「や、めっ……いやっ、あああぁっ!!」
強い収縮と共に感じ始める、鋭い快楽。その瞬間、ロイドは我に返り唐突に動きを止めた。
我慢しなければならない。せめて、彼女を起こしていた真夜中までは。
一転してゆっくりと、控え目な抽送を始めると、彼女は熱の篭った声を上げ始める。
「あっ、あ……、や、やめて、もう、……」
「……だから、これは」
「も……いい、から……、これ、外して……」
正当性を主張しようとすると、ディアナは音を上げて再び解放を求めた。
視界を奪われ神経を研ぎ澄まされ、手首を縛られ逃げることもままならない。
批難される道理もなく、彼女の五感を全て支配することができるまたとない機会。これを逃すなど、有り得ない。
優しく確実に最奥を責めつつ胸の先に触れ、できる限り弱い刺激で時間を稼ぐ。
やがて彼女は、溜まりに溜まった快楽を持て余すかのように身を捩り、甘く苦しげな声を零し始めた。
その悩ましい姿に欲望を駆り立てられ、ロイドは無意識のうちに徐々に強く腰を打ち始める。
「い……っ!あ、ああぁぁっ!!」
ディアナの一際高い叫びに、気付くと動きが加速していた。
溢れ余る快楽を受け止め切れず、彼女は腰を振る度に煽情の声を上げ、ロイドの理性を奪う。
本能のままに彼女を求めると、ディアナはそれに答えるように自分の中で暴れる肉欲を締め付ける。
最早限界だった。ディアナを相手に、二度も耐え抜くことはできない。
強く抱き締め逃げ場を奪い、執拗に腰を打ち続けると、彼女を続け様に何度も果てた。
強制的に迎えさせられる絶頂に溺れ、酷く喘ぐ彼女を尚も突き立て、限界を感じた始めた瞬間、最奥まで深く貫く。
同時に全身にぞくりと熱い衝動が走り、ロイドはすぐに身を引き彼女の身体を汚した。
「はぁ……、ぅ、あ……」
彼女は意味を成さない言葉で身体の限界を訴えている。
一度我慢したためか、ロイドも精力尽きた感が否めない。
既に夜は更け、毎夜ディアナに起こされていた時間が近い。
縛り付けていた布を解くと、彼女は僅かに潤んだ瞳をロイドに向ける。が、疲労のためかすぐに目を閉じ、
眠りに落ちた。
翌朝。客のいない酒場に現れた、意外な人物。
「……頼んだ覚えはないぞ」
「あたしは、あいつにちょっと吹き込んだだけなんだけど」
以前ディアナを助け出した、白い法衣の魔道士が村に訪れていた。
不機嫌そうな様子を見るに、おそらくただ働きを強要されたのだろう。
クレアによる目的のわからない嫌がらせに、媚へつらうかのような無償の人員派遣。
ますますケルミスの企みがわからなくなる。
「で、誰がどうしたんですか」
「シシル、もうちょっと愛想良くしなさい……。本業でしょうが」
クレアに戒められつつ、シシルと呼ばれた破魔の魔道士は、隅のテーブルに伏せているディアナに近付く。
ぐったりとしている理由は無論昨夜の行為だが、端から見れば悪夢により消耗しているようにしか見えない。
彼女は眠そうな目を向けるディアナに静かに触れ、容態を探る。束の間の静寂と共に、片手に携えられている
錫杖の環が、音も立てずに揺れていた。
「……夢魔ですね。その手の敵に呪詛でも掛けられたのではないですか」
思い当たる節のあるディアナは、途端に不安な表情を見せる。
シシルは身を案じる言葉さえ掛けず、早々に祈祷を彷彿させる言霊を紡ぎ始めた。
見えないところで繰り広げられる、実体のない戦い。
やがて彼女は錫杖を地に突き、何事もなかったかのように平然とした顔を周囲へ向けた。
「終わりました。魔を払っただけで本体は別にいますが、そこまで対応しません。頼まれていませんので」
「あぁ、そう……」
クレアも呆れるほどの御役所仕事ぶり。しかし、だからこそ彼女は信用できる。
ケルミス達は情報業者であり、ロイドとディアナは飽くまで顧客という立場にある。
そしてそれは、金銭などの取引があって初めて成立する。
今回、ロイドは何の見返りも与えていない。顧客としての立場が確立していない以上、ケルミスの行動には
絶対的信頼が伴わない。
始終怪訝な表情を浮かべるロイドを横目で見据え、彼女は静かにもう一つの目的を口にした。
「私はこのためだけに、この村へ訪れたわけではありません。他にあなたに用がある方がいます」
その言葉の直後、木造の床が背後で軋む。振り向くと、シシルの視線の先に三人の男の姿があった。
体格の良い傭兵らしき男と、顔を隠したラストニア兵。そしてその二人の間に、全身を黒で覆い尽くした
若い男が佇んでいる。彼は獣を思わせる鋭い視線を落とし、一歩、また一歩とロイドに近付く。
三人とも会った記憶がない。しかしシシルの態度と現れたタイミングから、中央の男が何者なのか、ロイドは
自分の勘を疑いつつも察していた。
「……おまえ、まさか」
「待て。名は呼ぶな」
今になって何故姿を現したのか。彼はロイドの表情からその疑問を読み取り、自分の姿を見て苦笑するクレアに
皮肉の視線を送って答える。
「そこの女がちっとも役に立たなくてな」
「……こいつ、逃げてばっかりで全く接触しないんだもの」
二人の会話から確信する。間違いなく、この男はケルミス本人であるのだと。
自国の兵を連れて来たということは、おそらくここで接触させることが目的。
隣の傭兵はおそらく用心棒といったところ。
しかし、肝心の兵は一切の反応を示さない。接触させたいならば、けしかけた方が早いはず。
ロイドが沈黙を守っていると、ケルミスは何も期待していない様子で口を開いた。
「一言くらい話してやってもいいんじゃねえのか?」
「何の用だ」
「…………」
敢えて話を噛み合わせず、互いに表情一つ変えることなく睨み合う。
ディアナを始めとする周囲の人間全員が、事の成り行きを黙って見守っていた。
重い沈黙の中、先に口を切ったのはケルミスだった。
「はっきり言え。おまえはラストニアの敵か味方か。どっちだ」
「……正直に答えると思うのか?」
「思ってねえよ。だからクレアに探りを入れさせた。それでもこいつはなかなか尻尾を掴めない。
だからこの俺がこうしてわざわざ出向いてやったんだ。何が言いたいか、わかるな?」
彼は正体をばらすリスクを負ってまでロイドに姿を晒した。
つまりこれは、彼なりの誠意なのだ。そして、その誠意に答えることをロイドに要求している。
一体何が、彼をそこまで動かすのか。それだけがわからない。
ロイドの疑問に感付いたのか、ケルミスは唐突に話を切り替えた。
「俺達の拠点がどこなのか、おまえなら察しがついてるだろ。あの付近に国が密集しているのは知ってるな?」
大陸の東端に、小国の密集区域が存在する。その中に混じる、ケルミス達の拠点。
機甲都市ヴェルニカ。情報業を生業とし、その業界でトップクラスの実力を維持する彼らにとって、発達した
機械文明は必須のはず。
「ラストニアがあの辺一帯の制圧を企てているという情報が入っている。おまえがどっちにつくかで情勢が
大きく変わるんだよ」
「なに……?」
ロイドは眉を顰めた。司令塔が存在しない軍を、一体誰が動かすというのか。
もしその情報が確かならば、ケルミスの取った謎の行動が一応は全て繋がる。
しかし、答えることができなかった。自分の立つべき位置を、考えないようにしていたのだ。
一瞬の動揺を隠し、一貫して黙秘を続けると、ケルミスは冷めた目でロイドを見遣り傍らの傭兵に合図を送った。
「おまえがそのつもりなら、力ずくでも答えてもらうぜ」
傭兵は待ち侘びていたかのように大剣を携えて前進し、ロイドに自らの名を告げる。
仮にもケルミスが、戦闘要員として雇った男。油断ならないのは百も承知。
「私の名はクリスト。剣豪として名を馳せる貴方と一戦できるという条件で、この者についている。
手合わせ願いたい」
悪名高く、且つ実力を備えたロイドを降せば、自ずと名声を手にすることができる。
今まで挑んで来た者のほとんどは、それに近い野心を携えていた。
ケルミスはその心に付け込み、彼を利用している。そして、クリストの体格から察するに彼はおそらく重量型。
これが偶然なのかどうか、今の段階では判断し兼ねる。
席も立たずに勝負を渋っていると、クリストは問答無用で剣を振り被り、決闘を強要した。
流石に逃げ場のない狭い室内で剣を振り降ろされては、応戦せざるを得ない。
仕方なく、咄嗟に剣を抜いて振り下ろされた刃を受け、余りある勢いで周囲のテーブルを打ち倒す。
困惑する酒場のマスターを見兼ね、クレアが慌てて大声を上げた。
「あんたら、外でやりなさい!」
クリストに追われて表へ出たその瞬間、ケルミスの僅かな笑みが視界に飛び込む。
ロイドは確信した。これは偶然ではなく、彼がその事に気付いた上でクリストを選んだのだと。
重い一撃を受け流し、素早さを武器にクリストを翻弄するも、彼は体格に似合わず俊敏で絶対に背中を見せない。
クリストは、ロイドが最も苦手とするタイプの戦士だった。
「なるほど、確かに言われた通りの動きをする」
おそらくケルミスにより吹き込まれたであろう戦闘情報に、クリストは自信に満ちた表情を浮かべる。
ロイドの戦術は決して攻撃的ではない。回避に専念しつつ相手を挑発して虚を突き、手の内を見せないよう
可能な限り少ない手数で仕留める戦法。それ故、ロイドには弱点が存在する。
戦術の所以、そして森や洞窟でディアナの手助けをしない理由は全て、それを隠すためのものだった。
負けるつもりなど毛頭ないものの、クリストは相当腕が立つ。
ついには撒き切れず、襲い来る刃とまともに交えさせられてしまう。
彼の一撃の重さから逃れるように剣を払い、ロイドは大きく後方に飛び退いた。
ロイドの決定的な弱点。それは破壊力の欠如と打たれ弱さ。
スピード重視の戦法故に力が伸びず、どうしても他の剣士に比べ見劣りしてしまう。
腕力のあるクリストの一撃を受け止めることが、ロイドにはできないのだ。
更に今、他にも不利な要素が存在する。
心配そうにロイドを見つめるディアナの様子からも、それははっきりと窺い知れる。
自分でも自覚できるほどに、動きに切れがない。
やがてクリストもそれに気付き、苛立ちを露わにロイドを睨みつけ、呟いた。
「……嘗めるな」
後退するロイドを追う彼の表情が、見る見る怒りに染まる。
「そんな迷いのある剣を振るとは、私を愚弄する気か!?」
「……!?」
動揺を誘う言葉で一瞬の隙を作り、彼は鋭い一閃を繰り出す。
それでも尚、ロイドは瞬時に迫る剣の軌道を読み、攻撃の回避を試みる。
鈍い音が耳に響いた。
彼の剣は空を斬り、その刃はロイドには届かなかった。正確に言うならば、ロイドを狙ってはいなかった。
振り上げられた白刃は、腰に携えられていたもう一つの剣──追尾の剣を高々と弾き飛ばす。
クラウ・ソラスは鞘に収められたまま空高く舞い上がり、固唾を呑んで見守る地上の人間に向かい自然落下を
始めた。
切っ先が、心にもなかった人間に向けられる。
やがてその人物は、予め示し合わせていたかのように、直撃寸前で身を退いた。
クリストは攻撃の手を止めている。最初から、これが目的だったのだ。
「それが、おまえの答えだな」
始終観察に徹していたケルミスが静かな笑みを湛え、ラストニア兵の足元に落ちた剣の意思を、言葉に換える。
ロイド自身が、誰よりも驚きを隠せずにいた。
別段祖国を嫌っているわけではない。況してや憎んでいるわけでもない。
しかし、クラウ・ソラスはロイドの深層意識を如実に物語っている。
「ロイド、俺達の味方につけ。拒否権はないぜ」
「……、まさか、最初からこのために……」
このためだけにクラウ・ソラスの情報を渡したのか。しかし、そうだとしてもやはり腑に落ちない。
ロイドがラストニアの味方についたら、どうするつもりだったのか。
餌となった兵は、ラストニアの皮を被ったケルミスの仲間だった。
完全に彼の策に乗せられたことになる。だとすれば、先日手にしたディアナの杖はどうなのか。
クレアが意味もなく同行したのは、杖の入手を確認するためだったのではないか。
ディアナが携えている『レーヴァテイン』を尻目に、一抹の不安を抱えながらもロイドはやむを得ず彼の要求を
呑んだ。勝者はロイドでもクリストでもない。他ならぬケルミスであるのだから。
一頻り決着がついたところでシシルが歩み出る。おそらく、本来の役割を果たすために。
「移動します。ヴェルニカへ……」
辺りの景色が歪み出し、光が全てを包み込む。
望まぬ戦いが、刻一刻と近付いていた。
以上です。続きます。
GJです!
ロイドさんはディアナちゃんが、そしてディアナちゃんをいじめるのが好きすぎる
くせのあるキャラもいろいろ出て来て、これからの展開も気になるが
そのなかでディアナちゃんがどういじめられるのかが気になるw
好きな娘をいじめるだけじゃなく、連れ廻して継続的にいじめるなんてハアハア
やっぱりエロひどいことされちゃうディアナちゃん可愛いです
続きもwktkで待ってます!
ファンタジーもの
触手・寝取り寝取られ・処女喪失が入っているので注意
後味の悪い話かと思われます
全11レス、エロは5〜7レスに
投下します
こんな夢を見た。
自分は薄暗い洞窟の中を光を求めて歩いていく。
洞窟の奥の方からは光が溢れていて、洞窟を抜けると開けた場所に出た。
見上げるほど大きな氷のようなものがあり、自分はそれに触れた。
冷たくはなく氷ではないことが知れた。
透明なものの塊。
その中心には白骨となった人間と年老いた男が恨めしい顔で自分を見下ろしていた。
「あなたはあの中に何を見る?」
自分の横にはいつの間にか女が立っていた。
髪も瞳も銀色の、よく言えば神秘的な、悪く言えばひどく現実感のない女だ。
自分は自分に見えているものを答えた。
女は寂しそうに笑い、この国の伝説を知っているかと自分に尋ねた。
どこの国にもあるありふれた伝説が自分の国にもあった。
勇者一行が魔王を倒すというもの。
女が言うには、あの白骨化した人間はかつての勇者で、老人の方は封印された魔王だそうだ。
「魔王といってもあれはかつての私利私欲に走った魔法使いの成れの果てですが。
世界の魔力を我が物にするために、自分の姿が相手の愛しい者の姿に見えるように魔法をかけた。
だから封印された今でも、あれを見た者の目には自分の愛しい者の姿として見えるのです」
自分は彼女の目にはあれは何に見えているのか尋ねた。
「あなたによく似た男」
彼女はあれを見上げる。
彼女の銀色の瞳から一筋の涙が流れた。
彼女はエリスと名乗った。
エリスはある男の伝説の話、彼女が永遠の世界に至るまでの話を自分に語り聞かせた。
「勇者様、どうか永遠の世界から私とあの人を解放してください」
伝説、解放、なんと響きのいい言葉であろうか。
つまり彼女は自分に彼女ともう一人を殺す殺人者になれと言っているのだ。
しかし――伝説となり、その名を語り継がれる者というのは総じて殺人を行ってきている。
人を殺して勇者になるか、人を殺さず凡人となるか。
自分は悩みながらあれを見上げた。
あれはもう老いた男などではなく、エリスの姿に変わっていた。
自分は、殺人者になることを決めた。
「お互い一人前になったら一緒に冒険をしよう」
幼馴染のジャンと約束を交わし、私は村を出た。
ジャンは勇者見習い、私は魔法使い見習い。
いつか二人揃って伝説になろうというのが私達の夢だ。
私は一人前の魔法使いとなるために、東の森を目指した。
噂に寄るとその森には伝説の魔法使いの血を引く賢者がいるらしい。
その人に弟子入りするために東の森に入る。
東の森は魔力に満ち溢れ、賢者がいるらしき場所にはなかなかたどり着かず、十日間森を放浪した。
そして遂に森の中に家を見つけ、飛びつくようにドアをノックすると、中から若い男性が顔を出した。
髪も瞳も銀色の、よく言えば神秘的な、悪く言えばひどく現実感のない、極端に色の少ない男の人。
東の賢者に弟子入りに来たというと、東の賢者である彼の祖父は西の国に出かけているとのことだった。
がっくりと項垂れる私に彼は自分が魔法を教えてやろうかと申し出てくれた。
半人前の私にも一目見ただけで彼が強大な魔力を有していることは感じ取れた。
東の賢者がいつ帰ってくるかはわからない。
他に弟子入りしたい魔法使いがいるわけでもなし。
私は彼の申し入れをありがたく受け入れた。
「先生。薬売ってきましたよ」
「いくらになった?」
金貨の入った袋をテーブルの上に置くと、重い音を立てる。
「先生がたった三秒で作った薬一つが金貨三枚。なんてあくどい商売!」
「需要が高いから値段がつり上がる。別に俺は悪いことはしてないよ。
それに……魔法使いなんて昔から私利私欲に走るって決まってるんだ」
私の先生となった人は現実感のない容姿をしているくせに、中身はひどく現実的な人だった。
東の賢者譲りなのか魔法の知識も豊富で、習うべきことはまだまだたくさんあるけれど、
彼の金に汚いところや、大人のくせに少年のようなところ、世間を馬鹿にしているところは
絶対にマネしたくないと思っている。
「でも伝説になった人達は違うでしょう?
私はエルネストとラファエル、アルノーみたいになりたい」
伝説として後世まで名を残す人達。
きっと正義感に溢れた若者だったのだろう。
「おい。一人大事なのが抜けてるぞ」
伝説の4人の一人を抜かしたのは態とだ。
先生も知ってるだろうからあえて言わなくてもいいと思ったのに、意外ときっちりしている。
それとも――。
「別に忘れていたわけではありませんよ。尊敬しているから、あまり軽率に名前を呼びたくないだけです」
最後の一人は四人の中で最も魔力の強い魔法使いだった。
エルネストが魔王を押さえつけている間に、彼がラファエルとアルノーと協力して魔王をエルネストごと封印したらしい。
「先生。東の賢者が……その人の子孫だという噂は本当ですか?」
私はその噂を聞きつけて、東の賢者に弟子入りしようと決めたのだ。
東の賢者に弟子入りはできなかったけど、その孫である先生の弟子にはなれた。
先生は何か考えるように煙草をくゆらせ、煙草の火を消し、立ち上がった。
「伝説に会わせてやろう」
そういって家のドアを開けた先生の後を追いかけた。
森の奥深く、洞窟の中へと先生は入っていく。
洞窟の中は魔力が強すぎて、強い魔物が出てきそうだったけど、今は先生がいるので心のどこかで安心していた。
長い洞窟を抜けて光の溢れる広い場所に出た。
見上げるほど大きな氷のような塊がそこにはあった。
その中には人間の形をした骨がそのまま一体と――。
「……ジャン!?」
ジャンが私を見下ろしていた。
私は透明な塊に駆け寄り、塊を叩いた。
それは冷たくはなく、無機質で硬かった。
「先生、どうして私の幼馴染があんなところに?」
先生は動じた様子もなく、目を細めて、ジャンを見上げた。
「あれはお前の幼馴染ではなく、伝説でいう『魔王』だ」
そして先生は「あれはエルネスト」と白骨を指差す。
「封印したはいいけど、あの『魔王』は自分の姿が見る人間の愛しい者に見えるように魔法をかけ、
今でもあそこから出ようと人間を誘惑し続けている。
封印後の約千年間、歴代の優秀な魔法使いがさらに封印を強化してくれて、出られるわけがない。
だが……あれに魅了されて、ここで餓死する人間も現れてな。
俺はあいつに魅了される人間や魔法使いが出ないように見張ってる」
再びあれを見上げる。
今度はにこやかに私に笑いかけてくる。ジャンの姿をして。
どきりとして目を逸らした。
「確かに……あれは良くないですね」
あまり見続けると、何度もここに足を運んで、最後には出られなくなるような不気味な魅力をあれは持っている。
先生は口の端だけで笑った。
「確かに良くないな」
私の顔をみつめて、先生もあれを見上げる。また私を見る。
「先生もあれが先生のいい人に見えているんでしょう?あまりその人と比べられても傷つくんですけど……」
先生の武勇伝は何度も聞かされ、その中には何人もの美女が出てくる。
先生の知っている美女に敵うはずはないってわかってるけど、
一応は男性の先生にあからさまに比べられたらあまりいい気はしない。
「ああ、別にそうゆうことじゃなくてだな……」
先生は珍しく歯切れが悪かった。
誤魔化すように私の頭を撫でる。
「俺もまだわからないことがあって。おいおいわかるんだろうけど。
まあ、いい。出よう。出られなくなるぞ」
洞窟の外に向けて歩いていく先生の後を追いかける。
最後にもう一度だけあれを振り返ってみたかったけれど、
そう思っている自分が怖くなって結局振り向かなかった。
「先生。うちの母が娘をよろしくお願いしますって夢の中で言ってましたよ」
ある日、私が夢の中で母に会ったことを話すと、先生は目を丸くしていた。
困ったような先生の顔を見て、そういえばこのことを話すのを忘れていたことを思い出す。
「ただ普通の夢を見たってわけじゃないんです。
私は先天的に夢を渡れる力があって、夢の中の母は現実の母と同じなんです」
魔法使いの大部分は後天的に魔法を身につけるけれど、ごく稀に先天的に力を持って生まれてくる魔法使いがいる。
私は先天的に他人の夢を渡れるという力を持っていた。
先生はしばらく黙り込んでいて、漸く「……そういうことか」と呟いた。
「先生?私の力そんなにおかしかったですか?」
先生は小さく首を横に振る。
「それは未来や……過去なんかにも渡れるのか?」
やはり先生は疑問に思うところが人とは違うなと思う。
「未来は無理ですけど、過去を覗くことはできますよ。
知られたくないことを夢に見る人も多いので、あまり過去の夢には行きませんけど」
夢を渡れるといっても、極々身近な人――両親やジャンの夢にしか入ったことがない。
先生も身近な人だけれど、先生のことは尊敬しているので、入ろうとは思わない。
先生にも夢を渡るなと言われてしまったので、それからは夢を渡ることはやめた。
先生に弟子入りしてから四年の月日が経っていた。
私も17歳になった。
このところ森で魔物に襲われることが多い。
真面目に先生の下で学び、魔法の知識も増え、魔力の使い方にも慣れ、
大抵の魔物は倒せるようになったけれど、あまりに数が多いときはさすがに身の危険を感じる。
そんなある日、生活のために魔法薬を街に売りに行き、森を歩いているとに蔓に足を取られその場で転んだ。
と思うと、引っ張られて、ずるずると全身を引きずられる。
「あ……やだぁ!」
火で蔓を焼ききろうと、火の呪文を唱えても、魔法は弾かれた。
属性が悪かったのかと、さらに別の属性の魔法を続けてかけても、どれも弾かれて、茂みの中へと引きずり込まれた。
「どうして魔法が効かないの!?」
茂みの中には真ん中に毒々しい色をした花が蔓を触手のように蠢かせていた。
食肉花かと身を硬くしていると、いつまで経っても攻撃はしてこず、滑らかな蔓がするすると服の裾から入ってくる。
蔓が太ももやわき腹を撫でていく。
くすぐったくて身を捩ると、また何本もの蔓が伸びてきて、器用にも私の服を脱がせていく。
私は命とは別の危機感を抱いた。
「あっ!やだっ……やっ……ジャンじゃなきゃダメなの!助けっ、助けて!」
下着まで剥ぎ取られて、蔓が乳房に伸びて、先端を微弱な力で刺激する。
別のところでは蔓が優しくお尻を撫で上げていく。
愛撫、というものなのだろう。
まだ処女なのに、こんな植物に全裸にされて、全身を撫でられて、
いやらしくも感じてしまいそうになる自分が悔しくて目に涙が溢れる。
何度も魔法で反撃しようとするけれど、全く魔法が効かずに、愛撫はどんどんと過激になっていく。
「そこっ、抓っちゃやあっ……!」
何本もの蔓が乳房に絡みつき、ピンと勃った乳首を強い力で抓り上げる。
痛いのに、でも我慢できないほど痛いってわけじゃなくて、そんなことをされているのがたまらなく恥ずかしい。
下の方では自分でも触ったことがないような箇所が熱心に刺激される度に下半身が震えた。
月のものでもないかぎり、普段は意識しない場所からはおもらしをしたみたいに、何か液が溢れ出てきていて、
そこに蔓が浅く侵入して、吸い上げているようだった。
中に入った蔓が微弱に動き、液を吸い上げる刺激に、耐えられずに声が溢れ出る。
「だめぇ……そこは赤ちゃんを、産む、大切なとこ、だからっ、入ってきちゃっあんっあっ、らめぇ……」
人間の言葉が通じるような相手ではなく、溢れ出る液を吸い上げながら、まだ私に液を出させようと、
背筋や、脇、鎖骨など至る場所を蔓が愛撫していく。
反撃はできないし、どんどん力は抜けていって、それでいて、どうしようもなく体の熱は高まっていく。
気持ちよくて頭が真っ白になりそうになったところに頭上から声が降ってきた。
「あー……、やられてるだろうと思った」
「んっ……せんせぇ」
呆然と佇む先生。
助けに来てくれたのかと思って嬉しい反面、
こんな姿を先生に見られて恥ずかしいという気持ちで、素直に助けを求めることができない。
「まほっが、んんっ……効かないんれすっ」
先生は躊躇なく近くの蔓を手にとって、蔓の表面を観察しているようだ。
「随分とこいつは女の気を吸ってみたいだ。女のお前の攻撃が効かないのも仕方がないな」
蔓に興味を失ったのか、先生は蔓を地面にぺっと放ると、どさりとその場に胡坐をかく。
全く助けてくれる様子がない先生にたまらず「せんせぇ」と甘えた声を出してしまう。
先生の視線は蔓に揉みしだかれる胸へと注がれている。
「俺も先生である前に男だから。若い娘が全裸で身悶える姿は見ていて楽しい」
「そんなぁ」
「魔物は乙女が好きだからなぁ。ああ、処女って意味のな。
最近お前がよく魔物に襲われてたのは、魔物からしてお前が処女の匂いをぷんぷんにさせてたからだろうな。
大丈夫。愛液舐められたり、ちょっと魔力吸われたりするかもしれないが、殺されはしないさ」
何も大丈夫なことなんてない。
「こんなの嫌っ、嫌です!」
「処女である以上無理だ。諦めろ」
冷たく切り捨てられる。
処女だからこんな理不尽なことをされるなんてひどい。
中からとろりと溢れた液を蔓がやらしい音を立てて吸い上げる。
「もう吸わないでぇ!せんせぇ、たすけてください……」
このままだと全部吸いつくされてしまいそうだという不安に駆られる。
もう恥ずかしいと思っている場合ではなかった。
先生は立ち上がったけれど、まだ呪文を唱える気はないようで、腕を組んで私を見下ろしている。
そこには普段の見守ってくれるような温かみはなく、もっと別の感情を孕んでいるようだった。
「助けてもいいけど、一時的に助かっても、今後も魔物に襲われることになるぞ。
俺も毎回お前を助ける七面倒臭いことはしたくないから、処女は俺がもらうことになるけどいいのか?」
「それは……」
私はジャンのことが好きなのに――。
こんな私の力不足のために、尊敬する先生とはいえ、別の男性に処女を渡してしまっていいものなのだろうか。
悩んでいる間にも蔓の愛撫は続き、今度は後ろの穴を蔓が撫でていく。
背筋にぞくぞくと嫌悪感がこみ上げる。
「やだっ!先生、助けてください!」
叫ぶと、次の瞬間魔物の中心部の花が弾け飛んでいた。
蔓はびくびくと震え、力を失い、私の体から解け落ちる。
腕や足に絡んでいた蔓を取り払いながら、体を上げようとすると同時に、先生に押し倒された。
「じゃあ遠慮なくもらってくぞ」
さっきの『助けてください』は、『処女あげます』という意味でいったわけじゃなかったのに。
新たな恐怖に、たまらず先生の肩を押す。
「先生。ごめんなさい、やっぱり私……」
「魔法使いが契約違反はいけないな」
先生の手が割れ目に伸びる。
すでに愛液の溢れるそこはすんなりと先生の指を受け入れた。
蔓よりも深いところまで指が入ってきて、奥を掻き混ぜていく。
「充分潤ってる。もう突っ込むからな」
足を抱えあげられる。
抵抗する間もないままに、熱があてがわれて、貫かれる。
処女膜を突き破られた痛みで先生の腕に爪をたてた。
ゆっくりと腰を動かされ、目を閉じて痛みに耐える。
そうしていると、先生に唇を奪われて、舌を絡め取られる。
段々と痛みの中にも、他の感覚も芽生えてきて、舌を絡めあったまま熱い息を吐く。
先生が唇を離す。
腰の動きが激しくなり、全身が揺さぶられる。
「あんっあっああっ!せんせぇ……」
「ん……いいぞ」
先生に突き上げられるたびに目の前がちかちかした。
「あっ、はあぁっ……あんっあっ、ふぁっ……」
「体位変えるぞ」
体をひっくり返されて、腰を高く上げさせられて、先生に後ろから貫かれた。
「先生っ、こんなの……んんっ、恥ずかしっ、はぁっ」
「魔物と交わって乱れてる方がもっと恥ずかしい」
森の中に嬌声と二つの乱れた息が響き、吸い込まれていく。
長いこと森の中で先生と私は絡みあった。
お互いに愛し合っているわけでもないのに――。
それから魔物に襲われることはなくなったけど、一度体を許してしまったせいか、
先生にベッドに引っぱり込まれるようになった。
先生のことは嫌いじゃなかったけど、他に好きな人がいるのに別の男性に体を許している自分が許せなくて嫌になった。
早く一人前になって、ジャンと冒険に出たいという想いが募り、一度ジャンに会いに行くことに決めた。
「先生、明日ジャンに会いに行こうと思います」
先生に許可を取ると、先生はあっさりと許可をくれて、「会いに行くのなら早く寝ないとな」と言ってくれた。
私が早くにベッドに入ると、先生が何故かベッドの横に椅子を持ってきて座った。
男と女の関係になってしまったからか、先生が私を見つめる目が優しくなった気がする。
私の寝顔を見ようというのか、優しい眼差しで私を見下ろしている。
複雑な気持ちだ。
気まずくなって雰囲気を変えようと私は以前から疑問に思っていたことを思い切って訊いてみた。
「先生。先生のお名前は何というのですか?」
先生はすぐには答えずに、私の頭をよしよしと撫でた。
その時洞窟に行った時のことを思い出した。
先生に頭を撫でられるのはあの時以来、二度目だ。
「知りたかったら俺の夢に入ればいい」
「先生の夢に?……入りたくありません」
「今はそうかもしれないが、いつか入りたくなるさ。俺の夢は人よりもずっと長いと思うぞ」
長い夢――その意味はよくわからなかった。
先生、昔は夢を渡ってはいけないと言ったのにどうして。
考えているうちに、眠気が襲ってきて、瞼が重くなっていく。
何かが唇に触れた気がしたけど、それが何かを考える前に、私の意識は眠りの世界に落ちた。
翌日朝陽と共に起床して、部屋の窓を開けると、空は快晴でお出かけ日和だった。
朝食を作るために台所に立つと、すぐに先生も起きて来た。
ドアを開けたままそこに立ちすくむ先生を見て、
不思議に思いながら「おはようございます」と声をかけると、
朝が苦手な先生には珍しく笑顔を返してきた。
いつも通りに簡単な朝食を先生と済ませて、家を出た。
森を突っ切り、森の魔力が届かない場所に出ると、移動の呪文を唱え、自分の生まれ育った村に降りた。
自分の村を目の当たりにした瞬間――私は悲鳴を上げていた。
すぐに先生と暮らす家に戻ると、先生は家にはいなくて、テーブルの上にメモが置かれていた。
『あれの前で待つ』
走って洞窟へと向かった。
あれの前につくと、先生は例の無機質な塊に手をあてて、あれを見上げていた。
混乱している私には先生のことを気にしている余裕はなかった。
「先生!おかしいんです!すべてがおかしいんです!
ジャンが死んじゃってて、私の両親も死んじゃっていて、ジャンの孫だって名乗る人がいて。
ああ……先生!私たった一晩眠っていただけなのに、でも、あの村は――六十年経っていたんです!」
街並みもそこに暮らす人々もすべてが変わっていた。
墓地には両親や、兄弟、友達、そしてジャンの名前が刻まれていた。
私は誰かの悪夢に入り込んだまま出られていないのではないか。
そう思って拳を強く握り締めても、掌に爪が食い込んで痛かった。
これは――どうしようもない現実なのだ。
先生は振り向きざまに口角を上げた。
「何もおかしくない。お前が眠ってから、本当に世界は六十年経ったのだから」
頭が真っ白になった。
全身が震えだす。
「ど……して……」
どうして私は六十年眠り続け生きていられるのだろうか。
どうして先生は六十年生き続け、全く姿形が変わっていないのだろうか。
どうして先生は今の状態で笑っていられるのだろうか。
私のいくつもの疑問に先生は一言で答えた。
「俺が時を止めたからだ」
「俺は先天的に対象の時を操る力がある。
お前には眠った状態で肉体年齢を止めるようにさせてもらったよ」
その場に膝をつく私の頭上から先生の声が次々と降って来る。
「俺の姿形が変わらないのも自分の肉体年齢を止めたからだ」
頭の中で話の処理が追いつかない。
「お前にかけた魔法の仕上げが済んでいなかった」
先生が私の顔の前で手をかざす。
何も起こらなかった。
他のところに変化が起こったのか確認しようと下を向くと、さらりと自分の髪が流れた。
その髪の色が、茶色から、銀へと変わっていた。
「嘘……」
「肉体の時を完全に止めると、そうゆう色になる。俺も元々は髪も瞳も真っ黒なんだがな」
何の意味があって先生はこんなことを。
見上げた先生の顔はそれはそれは幸せそうで、微笑を浮かべて私に手を差し出す。
「エリス。永遠の世界へようこそ」
先生の向こうで、ジャンの姿をしたあれが私たちを見下ろして、嘲笑っていた。
「エルネスト。変な夢を見たんだ」
言うと、エルネストは眉を上げた。
「お前が夢の話をするなんて珍しいな。どんな夢だったんだ?ジル」
俺は昨夜見た夢をそのままエルネストに話した。
時を止めた俺達と同じ髪と瞳の色をした女が、俺の前に立ち、俺の名前を尋ねてくる。
俺の名前を聞くとただ静かに涙を流すという何てことはない夢。
何てことはないのだが、その夢に微かに魔力を感じ、どうしてだか気になった。
エルネストはにんまり笑って、俺の肩を抱く。
「むっさいおっさんが出てくるよりいいじゃないか。それでいい女だったか?胸は大きかった?」
「顔はそうだな、美女とまではいかないが、俺好みだった。胸は詳しくは覚えてない」
そこが大事だろうに、とエルネストは声を上げて笑いながら、魔物に刺さった剣を抜き取った。
「そういえば、この前嫁さんのところに帰ると、俺の息子が俺より歳食っててショックだったなー」
「もう三十年になるからな」
自分達が『魔王』を討つ為には、それぞれ剣や魔法を極める時間が必要だった。
だから俺は自分と仲間三人の肉体の年齢を止めた。
時は暗黒時代。
私利私欲に走った魔法使い――通称『魔王』派閥と、人間との戦いが国中で起こっている。
俺達四人は剣士、魔法使い、召喚術士、騎士と、それぞれ魔力を持っていて、
どちらの派閥にもつけたが、俺達は人間側についた。
というのも、明らかに普通の人間側の数の方が多く、一時的に『魔王』勢が王族を虐殺し、
国の中枢を掌握したとしても、何百年、何千年という未来を見据えたら、
確実に生き残るのは、絶対的に数が少ない魔力を持つ者ではなく、人間だと見たからだ。
俺達はこの三十年『魔王』陣営との実践込みで剣や魔法を極めたつもりだ。
俺達より二十歳ほど年上でしかなかった『魔王』はすでに七十歳を超えていて、
魔力こそは高いが、魔力に肉体がついていかないほど老いている。
俺達はこれも狙っていた。
確実に後世に名を残すため、負ける戦をする気はなかった。
英雄になろうとしている俺達は三十年前から欲に目が眩んだ愚かな若者でしかない。
「なあ、こんな作戦はどうだ?
俺があいつを抑えている間に、俺ごとお前らが封印する。
で、お前らは生きる英雄として、俺を崇める伝説を語り継ぐ、っと」
中でもエルネストは英雄になるためには自分の命さえどうでもいいという大馬鹿者だった。
「そうなるとお前は死ぬぞ?」
「死んだ英雄の方が格好良いだろう?
お前はあいつを封印し続けるためにずっとこの世に残るんだよな。
自分の時を止める前に子どもも作らなかったし。
賢いよ、お前は。自分の子孫が自分以上に優秀だとは限らないもんな」
エルネストは肉体年齢を止めると性交はできても子どもができないと聞き、肉体年齢を止める前に
せっせと子作りに励み、何人か子どもを作ったが、どの子もエルネストを超えるほど優秀ではなかった。
俺の先天的な力は先祖の誰も持っていないもので、それが自分の子どもに受け継がれるとは思えず、
エルネストのように子どもを作らなかった。
だから封印に成功したら、自分が責任を持ってこの世に残り、封印の強化と見張りをするつもりだ。
欲に目が眩んでいるからといっても、封印する以上は、それを封印し続ける正義感は一応全員持ち合わせていた。
エルネストは口笛を吹きながら、何が楽しいのか、ふふっと笑った。
「永遠の世界だな」
年を取らない、病気にならない、何も変わらない、永遠の時が続く世界に俺は生き続ける。
さも素晴らしいもののように語るくせにエルネストは真っ先に永遠の世界を拒否した。
それはあいつを封印する時になっても変わらなかった。
洞窟の中にあいつを誘い込み、自分達は岩場の上からあいつが開けた場所に出てくるのを待った。
洞窟から出てきたあいつを見て驚いた。
以前は老人姿にしか見えなかったはずなのに、その時には何度も夢の中で会った女に見えた。
「あー、ヤバイ。あいつが若いときの嫁に見える」
エルネストはヤバイヤバイと言いながら、血走った目で燃え盛る剣を握り締めていた。
「ありがたいねー。俺達のために敵になってくれて。
やっぱりさ、英雄になるためには、それ相応の敵が必要だよな」
「今からやることは四人がかりでの老人リンチだがな」
夢の女が俺を見た。
「気づかれたぞ」
エルネストが立ち上がる。
「さて、伝説の始まりだ。
俺があいつを抑えるから、お前ら後は頼んだぞ。あいつを抑えた英雄は俺だってことはちゃんとみんなに伝えろよ?」
岩場からエルネストが飛び降りる。
死に向かって落ちていく親友を見下ろしながら、ふと自分は死にゆく者のことをどこかで羨ましいと思っていることに、気づいた。
以上で終わりです
続きません
英雄の暗黒面落ちや八百比丘尼あたりに影響されてます
なんだこの切ない話GJ!
先生には最初から魔王の姿が永遠の世界のエリスに見えてたってことか…
GJです!!!
何か凄く好きです。
GJ!
エリスにも魔王が先生の姿に見える日がくるんだな
そう思うようになったら解放を願ってるのがまた切ない
ずっと待ってたエリスが他の男のとこにいくことばかり喋ってて
先生だからと振り向いてもらえない先生も切ない
これで終りかあ
切ないなあ
面白かったよ、ありがとう
GJ
やっと書き込める…
今更だけど
>>516-530 乙です。
この調子で虐められるディアナちゃん重視でw
毎回可愛いので良い感じです。
>>533-545 乙です。
こういう切ない感じなのも良いですねぇ
551 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 01:18:14 ID:cEckXHqD
そろそろ次の投下期待
続きを投下します。
>>416を拾ってみました。
15レス頂きます。
四方からヴェルニカの街を一望できる、荒廃した塔の最上階。
机と椅子、設置された機材。それだけの無機質な部屋に、二人は押し込められた。
「暫らくここを貸してあげる。こういう誰も寄り付かない所の方がいいでしょ」
ケルミス達は早々に姿を消し、『担当員』であるクレアが二人を見張る。
この街から、決して逃がさないために。
「そんなに警戒しないでもらえる?盗聴や監視なんて野暮な真似はしないから。じゃ、また後でね」
クレアはディアナにだけ手を振り、部屋を後にした。
ロイドはその後も、納得いかない様子で押し黙っている。
「何か気になるの?」
彼の気を悪くしないよう、ディアナはできるだけ遠回しに、ロイドの胸の内を探る。
返事は左程期待していなかったが、彼は意外にもあっさりとディアナの疑問に答えた。
ヴェルニカを始めとする小国や都市の密集地帯。個々の国は弱小で、ラストニアでなくとも落とそうと思えば
簡単に落とすことができる。では何故今まで、どの国からも侵略されずに済んでいたのか。
答えは強力な後ろ盾の存在。この一帯の北方に、諸国を守る大国が存在する。
魔道帝国ロベリア。規律を重んじる、魔道士で構成された大帝国。
位置的にこの大陸で最もラストニアに近く、この辺一帯を制圧するにはまずロベリアを落とさなければならない。
「ラストニアは一切の魔道戦力を持たない。有効な策が無ければ、自滅するのが落ちだ」
「魔道士がいないの……?」
魔法の使い手がいないということは、魔法攻撃を防ぐ有効な手立てがないということ。
ラストニアは今まで、何故その弱点を補わなかったのか。疑問を投げようと口を開き掛けた途端、机上に
設置されている拡声器、つまりスピーカーから、男の肉声がノイズに混じって流れ始めた。
『ロイド。そこにいるな?』
「…………」
『だから返事くらいしろ』
「……俺にどうしろと?」
マイクはスピーカーと一体化している。ロイドは機器に近付き、慎重に言葉を選ぶ。
その様子からは、何かを詮索しているようにさえ感じる。
この期に及んで、まだ彼らが何らかの企みを持っていると考えているのだろうか。
ディアナは今回も、交わされる会話を黙って聞いていることしかできない。
『寝返りでもされたら困る。おまえはそこから状況を見て、指示を与えるだけでいい』
「主要戦力はロベリアの魔道兵だろう。あのプライドの高い連中が、名も姿も晒さない人間の指示を素直に
聞くと思うのか?」
『思わねえな。だから直接俺に伝えるだけでいい。おまえの助言を、俺が密かに漏洩させる。必要に応じて
その机のモニターに戦況を映してやる。ちなみに、ラストニアはおそらく数日中には動き出すって話だ』
二人の会話を聞きながらも、ディアナは始終ロイドの様子を観察していた。
彼の表情は晴れることはなく、常に何か思い悩んでいるようにさえ見える。
それ故、ディアナは安心していた。彼は自らの意志で母国に牙を向けるような人間ではない。
故郷を失ったディアナにとって、それはロイドに同調する上で重要なことだった。
ロベリアは既に臨戦態勢を整え、いつでも迎撃できる状態であるという。
周辺の国々もそれなりに構えてはいるらしいが、事実、ロベリアが陥落すれば間違いなく周辺諸国も落ちる。
機甲都市と謳われるヴェルニカも多少の科学兵器を保持してはいるが、如何せん指示を与える者がいない。
戦略の鍵となるのは、ラストニアとロベリア両国を架け橋の如く繋ぐ、縦に連なる小さな列島。
そこを足場にして攻めるか、逆に逃げ場を失い集中砲火を浴びせられるか。
結局のところ相手の出方次第であると、開戦当日、ロイドはケルミスに告げた。
「ねえ……、本当に協力するの?」
「協力して貰わなきゃ困るのよねぇ」
入り口に佇み、二人を監視するクレアが口を挟む。
自分達の命運も掛かっているのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。
それらしい助言を与えながらも、ロイドは常に冴えない表情を浮かべていた。
気が進まない。態度がそう訴えている。
やがて既に敵は島に上陸し、進軍を停止させているとの諜報が入ると同時に、モニターに島の映像が映し出される。
遠方に小さく映る、軍の姿。ロイドは冷めた様子で画面を見つめているが、その瞳は微かな異変すら逃すまいと
自軍の観察に徹している。
暫しの沈黙が訪れた後、唐突にケルミスが呟いた。
『……アルセストがいない』
彼の言葉に、ロイドは明らかに怪訝な表情を示す。
自前のデータを確かめるかのように、ケルミスはある人物の身の上の情報を示し始めた。
宮廷騎士アルセスト。ラストニア軍の中で最も高い戦闘能力を保持し、これまでのラストニア戦役では必ず
前線に姿を現した人物。同時に、国王の子息を主とする近衛騎士。つまり、ロイドの忠実なる下部。
『構成も新兵ばかりだ。主力がいない。はっきり言って捨て石にしか見えん。どうなってんだ、元司令官』
「……さぁな」
『……ったく、どいつもこいつもやる気がねえな。勝つ気あるのかよ、おまえもこいつらも』
ケルミスに悪態をつかれながらも、彼は腑に落ちない表情を浮かべている。
その時だった。会話が途切れた直後、巨大な爆音が部屋中に轟いた。
「!?」
轟音の発信源は、モニター付属のスピーカー。誰もが乱れた映像を注視する中、戦地は即座に爆煙と炎に包まれた。
ロベリアの先制攻撃に、ラストニア兵が逃げ惑う。素人目にも、対策が全く成されていないとわかる。
ロイドはそこで初めて積極的な反応を見せ、食いつくようにケルミスに情報を求めた。
「ラストニアの後援は?」
『今のところない』
「別部隊は」
『回り込まれる気配もない』
「……誰の指令だ」
『まだそこまで情報は入ってねえな』
戦況はロベリアが優勢。ロイドがわざわざ口を挟む必要性は皆無。
ロイドもディアナも、戦火の広がる現場の映像を黙って見ているしかない。
しかし、映し出された映像だけが全てではない。情報はすぐに錯綜を始めた。
『ちょっと待て、やられているのはラストニアだけじゃ……』
ケルミスが何かを言い掛けた直後、不自然にスピーカーの接続がぷつりと途切れた。
機器の故障かと思いディアナはクレアに顔を向けるが、彼女は腕を組んだまま扉に寄り掛かり、黙って様子を
眺めている。ロイドも無言のままモニター画面を睨み、思索を巡らせているようだった。
程無くして、不意にスピーカーの接続が再確立されたかと思いきや、突如ケルミスの慌ただしい声が流れた。
『ラストニアに味方している魔道士がいるぞ!』
「魔道士……!?有り得ない、ラストニアは絶対に魔道士は雇わない!」
『中継してやるが少しだけだ。いい加減こっちの諜報員も距離を置かせないと、流石に巻き込まれる』
彼はケルミスの情報を猛然と否定するが、真偽の程はすぐに知れることとなる。
画面に過る、一人離れて宙を漂う魔道士の姿。
ディアナにとっても決して忘れられないその姿を、二人は確実に捉えた。
ロイドの表情が強張る。ディアナ自身もそれを感じ取っていた。
「ジーク……何故ここに……」
「私、ロベリアの応援に行く!」
居ても立っても居られず入り口へ駆け出すディアナを、彼は腕を掴んで強引に引き止める。
「無理だ!また捕まるぞ!?」
「今度はちゃんと応戦するから……!」
「駄目だ、行くなら俺が……」
「ダメよ」
ロイドが参戦を宣言し掛けた瞬間、入り口を塞いでいたクレアが口を挟む。
身を起こして懐から取り出した拳銃をロイドに突きつけ、彼女はディアナの背中を押した。
「行きたいんでしょ?行きなさい。こいつはあたしが止めてあげる」
「……何の真似だ」
「わかるでしょ?ロイド。あんた自分の役割を全うなさい」
表情豊かな普段の彼女とは一変し、クレアは無表情で、冷ややかな視線をロイドに送っている。
彼には申し訳ないが、この機を逃すわけにはいかない。ディアナは意を決し、部屋の外へと飛び出した。
「待て!ディアナ!」
「まずくなったらすぐ逃げて来るから!」
到底納得されるとは思えない口実を残し、塔の屋上へ向かう。
ヴェルニカはロベリアに隣接している。戦場は近い。
地上に降り立つも、走っていては日が暮れてしまう。
失敗しない範囲で空間を歪めて移動を繰り返し、ディアナは短時間での移動を図る。
参戦に際して迷いはなかった。答えを出さなければ、前へ進めないのだとわかっていたのだ。
愛情と憎悪、どちらを取るか。取り得るのは一方のみ。
ロイドを慕うのならば、ジークを憎んではならない。
ジークを憎むのならば、ロイドを慕ってはならない。
ロイドならばきっと、自己を中心とした立場で捉えるよう諭すだろう。
しかしヘレナの一件がある以上、そんな都合の良い真似はできなかった。
無我夢中で島へと向かい、黒煙が立ち上る争いの知へと降り立つ。
その姿を捉えたラストニア兵が、武器を手にすぐにディアナに駆け寄る。
ディアナは魔道士。ロベリアの援軍と思われてもおかしくはない。
剣の切っ先をディアナに向け、ラストニア兵は声高らかに信じられない言葉を言い放った。
「ロイド総督の命の下、敵である貴様を排除する!」
「……!?今、何て……」
意味を理解する間も与えられず、白刃がディアナに襲い掛かる。
瞬間、背筋に走る悪寒。本能的に危険を察知し、ディアナは半ば倒れ込むように後方へと飛び退いた。
その直後、ディアナを追うラストニア兵を襲った、空を切り裂く眩い閃光。
天の裁きの如く稲妻が、悲鳴を上げることすら許さず、一瞬にして敵の肉体を焼き焦がす。
狙われたのはラストニア兵ではない。
おもむろに空を仰ぐと、忘れようにも忘れられない因縁の敵がディアナを見下ろしていた。
「やっと出てきたな」
「……!」
ディアナは威勢良くジークを睨み付け、応戦の意思を露わにする。
悩んでいる場合ではない。本気で戦わなければ、捕まるどころか命を落としてしまう。
お返しに放った光の矢が、戦いの火蓋を切った。
間合いの取り合い。攻守の駆け引き。持てる力を尽くし、適宜最良の判断を下す。
しかし、やはり彼には遠く及ばなかった。隙を見て攻撃しては強烈なカウンターを食らってしまう。
ロイドもジークと対等の力を持っている。そんな彼に、ディアナはまだ一度も勝ったことがない。
指南を申し出ても毎回のように弄ばれ、貶められ、自信を失うほどに叩きのめされる。
その感覚が蘇っていた。ジークもまた、全く本気を出していない。
「この程度か?あいつの元で鍛えた結果がこれか?」
「…………」
返す言葉がなかった。自分でも惨めに思うほどに、実力に天と地ほどの開きがある。
魔力が問題なのではない。戦略性、つまり経験と知能の違いが、実力の差を物語っていた。
彼は蔑みを込めてディアナを見つめている。注がれる視線が、酷く痛い。
「少しだけ待ってやる。おまえの力を見せてみろ」
「言われなくとも……!」
ジークは、最後のチャンスをディアナに与えた。
ここで彼に手傷を負わせることができなければ、逆に彼に仕留められてしまうのだろう。
最早憎しみを理由に戦っているわけではなかった。生きるために、戦っているのだ。
クレアの情報により手に入れた杖を構える。ここで使わなければ意味が無い。
禁呪魔法は使わない。知る限りで最も強力な力を秘める理を、確実に紡ぐ。
彼は予告通り黙ってその様子を眺めているが、魔力だけが取り得であるディアナの魔法をおとなしく食らうとは
考えにくい。それでもディアナは杖に魔力を注ぎ続ける。
魔力が一定のレベルまで高まり、結界が生じたその瞬間、異変は起きた。
杖に力を吸収され、消滅する結界。無尽蔵に吸い上げられる魔力。
突如消え去った詠唱結界に、ジークが怪訝な表情を見せた。
「な……、何、これ……!?」
流出する力を抑えることができない。
奪い取られた魔力は著しく増幅され、既に制御不能なほどの膨大な力と化している。
憂慮すべき由々しき事態に気付き、彼は大声で叫んだ。
「その杖を捨てろ!」
「っ……、今、離したら……」
今手離してしまったら、間違いなく暴走する。
全力で魔力制御に当たっているが、手に負えなくなるのは時間の問題。
ジークが援護に向かおうと踏み出した瞬間、それは訪れた。
杖から解き放たれた、天空を裂く鋭い光。空気を震わす轟音。
破滅の足音が、地上の全ての人間に恐怖を与える。
優勢を守っていたロベリア兵でさえ、一人残らず動揺している。
やがてその恐怖は現実と化し、灼熱の炎へと姿を変えて天から降り注ぐ。
流星の如き数多の劫火が、生ある者全てを襲った。無論、術者も例外ではない。
おとなしく、ロイドに従っていれば良かった。
目前に迫る炎に、後悔と共に死を覚悟した瞬間。ディアナの前にジークが飛び出した。
作り出された魔法障壁に全ての魔力を注ぎ込み、降り注ぐ裁きを防ぐ。
「な……、何故……!?」
彼は何も言わない。気を抜くことが許されず、とても話せる状態ではないのだ。
両国の軍を壊滅させ、大地をも砕く狂炎。それを受け止める度に弱まり行く結界。
最後の炎が直撃した瞬間、彼の魔法障壁は弾け、決壊した。
そして、十分な威力を残した紅蓮の炎は、ディアナを庇ったジークの片腕を跡形も無く焼き尽くした。
「くっ……!」
「どうして、ここまで……!?罪滅ぼしのつもり!?」
ディアナは本気で命を狙われているわけではなかった。力を、彼に試されていた。
しかしそれは、自分を犠牲にしてまで成すべきことなのか。ディアナには到底理解できなかった。
「……約束は守る」
彼は苦痛に顔を歪めながら、ディアナの問いに答える。
ディアナの母、エルネストとの約束。娘を生存させるという誓いを、彼は未だに守っている。
それほどまでに、母に敬意でも払っていたのだろうか。自分で手に掛けた分際で、何故そこまで固執するのか。
謎が絶えない。しかし、ディアナは彼に対する憎悪が薄れていることに気付いていた。
彼もロイドと同じ。根っからの悪人ではない。
そして、心に浮かぶ母の姿。憎しみに染まった人生を、母は望むだろうか。
答えが出掛けた瞬間、ディアナはジークの叱咤で我に返った。
「何を……してる……!早くここを離れろ!」
「え……?」
「ロベリアの奴らにばれたら面倒なことになるぞ!」
何を言っているのかわからない。しかし、彼は異様な剣幕で撤退を迫る。
彼の勢いに圧され、従う意志を僅かにも持った途端、再び杖が呼応した。
ディアナはシシルほど正確に移動系の魔法を操ることはできない。
見えない場所への距離感を掴むことが、どうにも苦手なのだ。
にも拘らず、移動魔法が発動した。未だ魔力を蓄えている『レーヴァテイン』は、所持者の弱点を魔力で補い
ディアナの意図した場所への転送を図る。
そしてジークもろとも、ロイドの待つ荒廃した塔の一室へと、一瞬にして転送されてしまった。
景色が歪み、その輪郭が鮮明になった瞬間、一時は再会を諦めた人物がディアナの瞳に映る。
振り向いた彼の視線の先にあるのは、片腕を失い、地に膝をつくジークの姿。
咄嗟に腰の剣に手を掛けるロイドの姿を認めた瞬間、ディアナは無意識のうちに彼の前に立ちはだかった。
正に、宿敵を庇う形で。
「ディアナ……?」
ロイドの意識がディアナへ向いた瞬間、ジークは瞬時に姿を消した。
完全に、ディアナが彼を逃がしたことになる。ロイドからの罵倒を覚悟した瞬間、助け舟を出すかのように
スピーカーからケルミスの声が流れた。
「……ロイド。まずいことになった」
彼の視線が、ディアナから外れる。
助かった。ディアナはそう思い内心ほっとしていたが、ケルミスの告げた内容はそれを覆すものだった。
「ロベリアの連中が血眼でディアナを捜してる。姿を見られたな。危険人物と判断されたんだろうよ」
『レーヴァテイン』が導いた破滅の呪により、前線に立っていた両国の軍は壊滅状態に陥り、生き残った者は
撤退を余儀なくさせられた。
これにより両国共に停戦状態となったが、元凶となった魔道士の姿を生き残ったロベリアの兵が捉えていたのだ。
本職なだけに、流石に情報が早い。予想だしなかったディアナの失態は、既に彼らの耳に入っていた。
「捕まったらエルネストの娘だと気付かれかねん。あの村を潰した主犯格はロベリアの最高司祭だからな」
瞬間、ロイドが一層鋭い視線を声の元へと向ける。ディアナも動揺を隠すことができずにいた。
本当の敵はロベリアにいる。しかし、他人を憎むことを止めたディアナにとっては最早何の意味も無い情報だった。
その後、一部始終を扉の前で見守っていたクレアは撤収し、二人は解放された。
しかしロイドは黙り込んだまま部屋から出ようとしない。
残された機器を睨みつけたまま、相変わらず何か考え込んでいる。
ディアナはこれを、気まずい空気を打開するチャンスであると捉えた。
「あ、あの、そういえば、ラストニアの兵士が……、ロイドの指令で戦ってるって……」
「…………」
心だけは威勢良く、彼に新しい情報を与える。
そこから会話を誘導し、ジークのことには触れさせずに遣り過ごそうという魂胆だった。
しかし、彼の瞳を見つめていたディアナには、それができなかった。
情報を耳にしたロイドの瞳が一瞬だけ湛えた、不穏な光。
憎しみなどではない。彼が内に秘める静かな怒りを、ディアナは感じ取ったのだ。
寝室は下階。窓から差す月明かりだけが頼りの、寂れた部屋。
ロイドは窓際の錆びた椅子に腰を掛け、外を眺め一度もディアナと目を合わせようとしない。
声を掛けても返事すらしない彼に、ディアナは困惑していた。
ジークを逃がしてしまったことに対し、非難や罵倒でもされた方が余程気が楽だった。
黙り込まれてしまっては、言い訳すらできない。
彼を庇った先の行動こそが、ディアナの意志の表れ。
残る問題はロイドに対する心のあり方。しかし、その心配も最早不要だった。そもそも迷う必要などなかったのだ。
彼が、自分勝手で自己中心的で、意地悪で思いやりの欠片もない性格であることは最初からわかりきっていたこと。
それを受け入れた上でディアナはロイドを慕い、道を外れる行為は自らの手で正してみせようと決めたのだ。
初心に返った。ただそれだけのこと。それなのに。
苦悩の末ようやく心の雲を払ったのに、何故こうも拗れてしまうのか。
無言の重圧こそが、ディアナの身に最も応えた。
「怒ってるの?」
「…………」
「ねえ、何か言ってよ……」
消え入りそうな声で何度も彼の名を呼ぶも、ロイドは一向に言葉を交わそうとしない。
しかし、ディアナが恐る恐る近付くと、それを阻止するかのように彼は唐突に沈黙を破った。
「……何故止めた?」
「…………」
「何故止めを刺さなかった?自分の手で討つんじゃなかったのか?」
「それは……」
ロイドは振り返るなりディアナを睨み、言い訳すら許さず追及を続ける。
「ディアナ。おまえの覚悟はその程度か?」
「そんな……!私は、ただ……」
憎しみから目を背け、ディアナは人を愛する道を選んだ。
わだかまりを捨て、彼を愛するために宿敵を生かした。
そのために決意を歪めることは、それほどまでに許されないことなのだろうか。
「別に、許したわけじゃ……」
敵を見逃す結果となってしまったものの、ジークが母親の仇であるということは不変の事実。
しかしそれよりも、人として大切にすべき情がある。ロイドには、特に理解されたい根強い思い。
ディアナが必死の思いで弁明を続けても、彼は窓の外へと視線を外し、全く聞く耳を持たない。
「どうして……聞いてくれないの……?」
言いたくないことは容赦なく追及する反面、聞いて欲しいことは全く聞かない。
知られたくないことはすぐに察するくせに、気付いて欲しいことには何故感付かないのだろう。
信念の相違。心の食い違い。焦りを感じるほどにもどかしく、憤りを覚えるほどに口惜しい。
震える手が、彼の腕を掴んでいた。込み上げる感情を、最早抑えることができなかった。
「いつも……、何でもわかってるような顔してるくせに……!肝心なことは何にもわかってない!」
怒りに任せて食い掛かり、悲しみを湛えて心の内を曝け出す。
涙を見せたところで、彼が簡単に意思を変える性格でないことはわかっている。
ではどうすれば、彼に届くのか。
ディアナの心底に見え隠れする、本人も気付かぬもう一つの心理。
ロイドに幾度となく嬲られ続け、それ故植え付けられた歪んだ精神構造。
そしてそこから導き出した、屈折した答え。
突然静まり返り、自分の前で膝をつくディアナに、ロイドは訝しげな目を向ける。
ディアナは思い詰めた表情のまま、目前にある彼のベルトに手を掛け、その下のものを引っ張り出した。
「待て、何を……!?」
止めに掛かるロイドの手を払い退け、勢いに乗ってそれを口に含む。
ディアナが今まで彼から受けた仕打ちの中で、最も嫌がった行為。
それは一転して、心に根を張る情愛を、切に伝える手段と化す。
彼のためならば、散々拒んできた行為でさえ自ら進んでできるのだと。
今のディアナには、そこにしか考えが行き着かなかった。
ラクールでの経験を頼りに、裏筋を舐め、先端に吸い付くと、ロイドは意に反する快感からか顔を歪めて見せる。
淫らな音に恥じらいを感じながらも懸命に舌を這わせ、口の中で増し行く彼の体積を感じ取る。
その途端、ディアナはロイドに強引に引き剥がされた。
「っ……何で……」
「やめろ。そんな気分じゃない」
自分はいつも、相手の都合などお構い無しに情事を強要するくせに。
心の中で不平を訴えながらもロイドに抱きつき、膝の上に座り込む。
恐る恐る自ら秘部に触れ、位置を確認してそこを曝け出す。
未だ心から望んだことのない行為。確固たる決意を揺るがす恐怖。
ディアナはそれを抑え込み、勃ち始めた彼のものを無理やり自分の中に埋め込んだ。
「んっ……!く……」
強引な挿入に伴う痛み。条件反射からかディアナ自身も僅かに湿ってはいたが、十分とは言えない。
それでも構わない。快感を得ることが目的ではない。彼のために、自ら身を捧げることに意味がある。
「……ディアナ。離れろ」
「いや……」
痛みに耐え、ぎこちなく、ゆっくりと腰を揺り動かしつつ首を振る。
技術不足は承知の上。何を言われようとも頑なに動き続け、自らの思いを主張する。
しかし、いくら動いてもロイドは表情一つ変えない。向けられ続ける刺すような視線が痛かった。
ご機嫌取りとでも思われているのだろうか。こんな乱れた姿を間近で見て、彼は何を思っているのだろうか。
ロイドの態度が、ディアナの決意を崩壊させる。顔色を窺うも、視界が滲み判断がつかない。
恥を忍び、苦痛に耐えてまで強行した行為。全くの無駄に終わってしまうのだろうか。
沈んだ面持ちでロイドから離れ掛けた瞬間、突然、腰が沈んだ。
「っ……!?」
先程の態度から一転し、ロイドはディアナを逃すまいと強く腰を引き寄せる。
直後、両足を抱えて抱き締められたかと思いきや身体が浮き、背を壁に押し付けられた。
その衝動で、より深くまで貫かれる感覚。同時に伴う鈍い痛み。
ロイドは顔を歪めるディアナを一瞥すると、胸元を閉ざす紐を口で解き、露わとなった胸の先を口に含む。
「は……、あ、ぁあっ……!」
穿り出すような舌使いで舐めつけられ、抑え切れずに漏れる甘い声。
先端を舐めずられ、甘く噛まれ、強く吸われ。終わったかと思えばもう一方の胸へ。
ゆっくりと、確実に、ディアナの中に潤いが与えられる。
これは、直にもたらされる堪え難い愛欲地獄の予告行為。
「は、離れろって、言ったのに、ぁ、あ……」
「気が変わった」
唇が離された途端、脚を抱えられたまま腰を打ち込まれ、彼の求める声を無理やり引き出される。
苦痛の消えた声を耳に入れ、ロイドは改めてディアナを見据え、口を開いた。
「俺が何もわかってないって?だったら納得できる答えを返してみろ。答えられなかったら……」
言い掛けた直後、全身を鋭い快楽が貫く。
答えられなかったらどうなるか。腰を振り、彼は幾度となくディアナに教え込む。
「んっ……!や、め……っ!いやぁっ!」
「自分で仕向けておいて何を今更」
一層激しく突き上げ、一頻りディアナを悶えさせると、彼は動きを止め詰問を始めた。
「もう一度訊く。何故、生かした?」
ロイドは微動だにせず、黙ってディアナの答えを待っている。
ディアナは答えることができなかった。自分の主張が、決して相容れないものであると気付いたのだ。
彼は力を求め、ディアナを味方につけている。
故に彼は普段から、力を持つディアナを自分の元に縛り付けるために陵辱に及ぶ。
そこには愛情など、決して存在しない。ディアナは常々そう解釈していた。
つまり、ディアナはロイドに対する一方的な慕情から、彼の期待を裏切ったことになる。
彼の天敵を、私的な都合で逃してしまったのだ。こんな理由で、果たして納得させられるだろうか。
「どうした。答えられないなら……」
「ま、待って、時間を……」
「時間?何故今更必要なんだ」
時間の代わりに与えられる、膣全体を抉るような抽送。上がる叫びを聞いて尚、彼は答えを要求する。
喘ぎながらも口篭ると殊更激しく突き立てられ、愛液を掻き出すように腰を回され、息を吐く度に勢いを増す。
思考が止まり、猛然と増し行く快楽に、ディアナは悶え続けるしか術がない。
卑猥な水音。口を衝いて出る、耳を塞ぎたくなるような声。最奥を穿り回され、それらは一層大きくなる。
「いや……ぁああっ!!ぅ……、んっ……!」
ロイドの両腕を強く掴み、言動の矛盾に気付き声を押し殺す。
嫌がってはいけない。受け入れなければならない。彼は、ディアナにとって愛すべき人なのだ。
様子を窺いまだ余裕があると判断したのか、彼は変わらず責め続けながら別の質問を投じた。
「何故邪魔した?何故庇った?」
「あ、あっ……、ロイド、止まっ……」
「あいつにどんな目に遭わされたか、忘れたのか?」
露骨になり行く問い掛けに、ディアナは一層言葉を詰まらせる。
感情のままに突かれ、揺すられ、要求される答えの代わりに口をつくのは、彼を煽る誘いの声。
正に拷問。納得できる答えを得られるまで、終わりを迎えることはないのだろう。
「ロ、ロイド……、お願……、止……め……」
「いいから答えろ」
目の前に迫る絶頂。快楽を受け止めることで精一杯で、言葉を成すことができない。
彼はまるで怒りをぶつけるかのように力任せに突き上げる。
全神経を支配する快感のうねり。身体の芯を突き抜ける熱い痺れ。
脳が焼け、彼の言葉さえ耳に届かず、限界はすぐに訪れた。
「ぅ……、あっ!ぁぁあああっ!!」
絶叫すると同時に身体が震え、ディアナは息も絶え絶えに止まない拷問に悶え続ける。
ジークと姿が被ったなどと口走れば、気分を害するに決まっている。
素直に謝るべきなのだろうか。謝ったところで、彼は許すだろうか。
絶えず喘ぎながらも僅かに残った理性で思慮を巡らしているうちに、不意に感じた浮遊感。
繋がったまま抱えられ、今にも朽ち果てそうな古いベッドに身体を沈められた。
「あれだけ大口叩いておいて、反論できないのか?」
「…………」
納得させられる自信がない。今ここで理解を得ることができなければ、今まで築いてきた信頼が音を立てて
崩れ去る。
言葉を詰まらせていると答える意志無しと見なされ、ロイドは再び腰を打ち始めた。
始めはゆっくりと、徐々に強く。吐息の混じる声を漏らしながら、肌が悦びの色に染まり行く。
恋慕い続けた相手だからこそ、身体は素直に彼を感じることができるのだ。
決して心が通い合うことはないのだから、こうして身体を重ねることはむしろ悦ぶべきことなのかもしれない。
それなのに、何故これほどまでに悲しいのだろう。
悲しみの裏に存在する確かな愛情。それが、ロイドに伝えるべき言葉をディアナに与えた。
「わ……、私……、あなたが、ぁ、あっ……」
答える素振りを見せると、彼は止まることなく視線だけをディアナに向ける。
「す、好きなの……」
「……知ってる」
「だから……、やっ、ぁああっ!!」
ただ純粋に、思い続けていたいから、庇った。一見辻褄の合わない理屈を口にした途端、一層激しく奥を
掻き回され、その先の言葉は切なげな悲鳴と化した。
「矛盾だな。答えにならない」
「っ……、ほ、本当に……」
喘ぎながらも懸命に思いを伝えるが、やはり彼は耳を貸さない。
代わりに怒涛の如く突き立てられ、ディアナは再び絶頂寸前まで追い詰められた。
「あっ、ああっ!いや、許して……!」
「許す?……何を」
成す術なく、反射的に許しを乞うとまるで咎めるように最奥を突かれ、何度も抉り回される。
部屋に響き渡る、空を裂くような悲鳴。二度目の絶頂を意味する叫びは容易には止まず、ディアナが意識を
手離し掛けるまで執拗に責め立てられた。
今のロイドからは、非難の意志しか感じられない。いつものような、自分の元に繋ぎ止めておくための
行為ではない。もしかすると、このまま見限られてしまうのではないか。
昔も覚えた猛烈な不安に苛まれ、ディアナの頬を涙が伝う。
彼はそれを目に留めても、何事もなかったかのように腰を打つ。
蜜を纏う狭い肉壁を押し分け、恥辱心を煽る水音を立てながら幾度も侵入を繰り返し、より深い快楽を
ディアナに与え続ける。
最早、僅かな時間で簡単に達してしまうほどに過敏になっていた。
ロイドが速度を上げた途端、著しい昂りがディアナの身を大きく震わせた。
「は……、っ……!いやああぁぁっ!!」
室内に響き渡る絶叫。それは、絶頂の強要のみに向けられたものではない。忍び寄る孤独への、拒絶の叫び。
ぼろぼろのシーツを握り締め、身を仰け反らせるディアナをロイドは強く抱き締め、精を注ぎ込んだ。
これ以上続けても無駄と判断したか、もしくは休息でも与えるつもりか。
彼は自身を引き抜き、ディアナを解放すべくシーツに手をつく。
しかしそれは、解放を願っていたはずのディアナの手により妨げられた。
「離れないで……」
信頼の失墜。それに伴う存在理由の喪失。
迫り来る現実に怯え、ディアナは涙を湛えてロイドにしがみつき、切なる願いを訴える。
「見捨てないで……ロイド……」
「…………」
自分の下で啜り泣くディアナを、ロイドは黙って見つめていた。彼の瞳に僅かに宿る、慈しみの念。
髪を撫でられ、静かに目を閉じると、唇に柔らかな感触が与えられた。
触れるだけの口付け。ディアナを落ち着かせるには十分な行為。
唇が離されたところで、ディアナは再び許しを乞おうと口を開く。
「あの、私……」
「もういい。もう何も言うな」
全てを受け入れるかのように、ロイドはディアナを抱き締め安堵を与えた。
伝わったのは意図した真実ではない。ディアナの根底に宿る、彼を絶対的存在とする不動の心理。
今はそれでいい。彼に付き従うことが許されるだけで、今は幸せだった。
乱れた呼吸も整い、ディアナの表情に安らぎが戻った頃。
彼は思ってもみなかった台詞を口にした。
「一度、ラストニアへ戻る」
「……え!?」
からかわれているのかと思ったが、彼はそんな冗談を言う人間ではない。
本気で言っているのだ。しかし、あまりの気の変わりよう。
「どうしたの?いきなり……」
「……気に障る」
「……?」
彼は自国を敬遠しているように見えるものの、ここ数日の素行からは敵対心などは読み取れない。
本来自分の率いるべき軍を捨て駒のように扱われ、怒りでも覚えているのだろうか。
真意を推し測るも、それは彼の語る真相とは全く異なるものだった。
ラストニアがロベリアを始めとする諸国に手を出した本当の目的は、勢力拡大などではない。
それを彼に確信させたのは、ディアナが報告した指令者の名。
素人から見ても目に余る愚策を、ロイドの名を語って強行させたのだ。それが、彼の琴線に触れてしまった。
本当の目的は、いつまで経っても戻って来ない総司令官を煽り、呼び戻すこと。
彼が何に対して怒りを感じるかを理解し、統率力ではなく強制力を備えた人物こそが、今回の戦の首謀者。
思い当たる人物は一人しかいない。ラストニアの統治者である、ロイドの父親だ。
そこまでわかっていながら、何故帰国に応じるのだろう。悔しくはないのだろうか。
疑問が脳裏を過ぎったが、口には出さなかった。これは、ディアナにとって絶好の機会なのだ。
もう何があっても心が揺らぐことはない。しかしそれとは別に、ロイド個人に興味がある。
彼についてもっと知りたい。彼に理解を示したい。
不謹慎ではあったが、この時ばかりは彼の父親に感謝せざるを得なかった。
深い宵闇が、窓から覗く蒼白い月を一層美しく輝かせていた。
近くに工場でもあるのだろう。静寂が落ちると同時に、ヴェルニカの象徴とも言える低い動力音が耳につく。
深い安心感からか、途端に疲労が全身を襲い、ディアナはすぐに眠ってしまった。
ラストニアの真の目的。防戦に踊らされたロベリア。ケルミスの計略。ジークの謎の出現。
そして、ロイドとディアナのそれぞれの決意。
幾重にも交錯した各々の思念。
行き着く先を知る者は、誰一人としていない。
以上です。続きます。
待ってました…!GJ!!
GJすぎる…!
ストーリーもなかなかいいぐあいに展開してきましたね
色々と経験積んで決意を新たにするディアナちゃんはやっぱり健気可愛い
そしてだからこそいじめちゃうロイドさんも好きだ
この二人、なにかとおいし過ぎるw
573 :
埋めネタ:
『日曜の朝 ある新婚夫婦の話』
あ、起きました?
おはようございます。今日もいい天気ですよ。
ああ、二度寝はだめです。
もう、相変わらず朝が弱いんですね。
え?
昨日ですか?
夕べはちょっとお酒呑みすぎでしたよ。注意したのに全然聞かないんだから。
二日酔いは大丈夫ですか?
ああ、それは何よりです。
ん?
……そうですね、また同じ話をしてました。
もう怒ってませんって何回言っても、あなたはずっと謝ってばかり。
あ、また謝る。
だから、気にしてませんってば。
……そんなに後悔してるんですか?
もう。
あと何回言えば、わかってもらえるんでしょう。
確かに、あなたは私にひどいことをしました。
けれど、私はあれでよかったと思っています。
初めてを好きな人にあげられたんですから。
ひどいことと言いましたけど、途中からすごく優しくしてくれたじゃないですか。
言葉には出さなくても、あなたの想いはたくさん伝わってきました。
だから、いいんです。
あれは私にとって大切な思い出です。
あれがなかったら、私、一生あなたへの想いを言い出せなかったと思いますから。
だから、いいんですよ。
ほら、暗い話はなしです。せっかくの休みなんですから、もっと楽しいことをしましょう。
天気もいいですし、出かけませんか? 劇のチケットをいただいたんですよ。
……もう、いいかげん立ち直ってください。
どうすればわかってもらえるんでしょう。
……あ。
そうだ、ちょっと横になってくれませんか。
そうそう、そうやって手を頭の方に上げててください。
そのままですよ、そのまま。
えい。
え? 何をやっているのかって? 見ればわかるじゃないですか。
縛ってるんですよ。
ああっ、暴れちゃだめですっ。動かないで。
ん……これでよし、と。
さて、何をするつもりか、わかりますか?
今から、あなたをはずかしめようと思います。
そうすればお互い様、ってことになるじゃないですか。
もう……あなたがいけないんですよ。
そんな風にいつまでも引きずられると、不安になるじゃないですか。
私の気持ちを疑われているみたいで。
だから、今日は私の愛をいっぱい受け止めてもらいます。
覚悟してください。いっぱい犯してしぼりとっちゃいますから。
愛してます、あなた。
あ、来週はきちんとデートしましょうね。私、観劇に行きたいです。