デモンズソウルをエロくするスレ2

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769765:2011/03/06(日) 10:40:47.52 ID:yyoDezZP
感想ありがとうございます。
フロム脳というか、ただの妄想に付き合ってくれたみんなに感謝。

ここのスレは優しい人が多くて、心が折れずにすむや…
770名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 19:17:00.70 ID:TYk7a6Zd
ガル「攻めトラエア様」
アストラエア「アストラエアね。どうかされましたか?変態イカ」
ガル「少し疑問に思ったのですが、アストラエア様は死ぬと真摯な指輪を落としますよね」
アストラエア「またメタネタを。それがどうかしましたか?」
ガル「奇跡の威力が上がる真摯な祈りの指輪。ですよね?」
アストラエア「だからそれがどうかしましたか?」
ガル「今でこそアストラエア様はバグ怒りを連発する速射厨ですが」
アストラエア「失礼な事を言わないでください」
ガル「生前、つまりデーモンになる前は、もしかして指輪の力でグリコしてました?」
アストラエア「……………………ガル」
ガル「はい」
アストラエア「赤子に喰われるのと、腐敗人にリンチにされるのではどちらにしますか?選ばなかった方をしてあげます」
ガル「攻めトラエア様の美しい足で踏んでください。できればピンヒールで」
アストラエア「わかりました。ナメクジの群れに押し潰されろ。この変態イカ」

771名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 21:33:33.03 ID:crdaumu1
今更だけどデモンズのエロ同人誌あったんだな
772名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 00:02:17.72 ID:TU5HlnYk
>>770
GJ!夫婦漫才みたいな掛け合いに笑ったww
そのうち、主人公が来たらトリオ漫才になるなw攻めトリアが2人を突っ込むと勝手に予想する。
773名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 00:27:27.63 ID:nxiwdF0b
>>771
フリューテッド×かぼたんで、足コキとかするやつなら見た事あるな
774名無しさん@ピンキー:2011/03/07(月) 12:22:53.75 ID:bq1a/DC0
>>770
GJ!最近の腐れ谷の人気ぶりどうしたw

スキルヴィルって絶対あれ演技だよな
そして中身はドSで鬼畜
・・・と想像する
775名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 02:54:53.14 ID:9gEf+357
拡散世界の法則にしたがって、2周目以降に突入すると言うけどそれこそデモンズ最大の
フロムマジックなんだという説を唱えたい。すなわち、エンディング以降は静かな世界が続く…
そんな前提で書いた>>652の続き。多分最後。でもって多分最長になる
エロなし、前編だけ
776世界を繋ぎとめたあとに… 前1/4:2011/03/08(火) 02:56:32.46 ID:9gEf+357
「済まない、言っていることの意味がよく分からないんだ」
ユーリアは聡明な女性であったが、今日に限っては何度も男に聞き返した。
「俺もよく分からんのだがな…うん、どうやら人のままでもいられるが、デー
モンにもなってしまう可能性もあるんだそうだ」
「貴方が?デーモンに?…フフフ、そんな訳ないだろう…」
気がつけば痣が出来るほど強く自分の二の腕を握っていた。震えている。男の
言葉が真実であることを、理性が、心が、体が、ユーリアの全てが拒んでいた。
唯一無二の最愛の人が、数多のデーモンを殺したことで、およそ人が持ち得ぬ
ほどのソウルを身に宿した。それは皮肉にも人よりもデーモンに近しい存在に
なったことを意味するなど、受け入れられるはずがない。
「まぁ多分デーモンになることはないんだろうけどな。それでも俺はここに残
らなくちゃならん」
「何故!?」
「ポーレタリアにソウルは戻らなかった。だから楔にならなくてはならない…
つまりは要人を引き継がなくちゃならないって事らしい…」
「そんな……」
目の奥が痛い。喉が渇く。舌が締め付けられたように痛み、声がでない。息が
苦しくなり、浅い呼吸を何度もしたが、意識が薄れる。
体が現実を拒絶する。
「ユーリア!?」
立つことすら敵わなくなり、その場で崩れる。支えてくれた男から伝わる体温
や匂い。何度も触れた体の感触。何も変わっていない。
「名を……」
呼んでくれるだけでも良いんだ−
言葉は恐らく発せていない。それでも、そこに男が居てくれるのなら。ユーリ
アはそこで意識を失った。


何もかも終わった。老王の成れの果てを討った時はそう信じていた。
しかし、ここからが本当の−
「デモンズソウル…か」
正直なところ、人なのかデーモンなのか、自分でも分からない。あの汚濁の極
致で出会った乙女のように、存在自体が罪になってしまうというなら、ユーリ
アと共には生きて行くことはできない。デーモンにならずともこの呪われたポ
ーレタリアで要の人として永久に生きていかなくてはならないのだろう。ユー
リアを巻き込むことは避けたかった。
「寒いな…」
久しぶりに一人で寝た。あの安心した寝顔も、かわいらしい寝息ももう聞けぬ
やもしれぬ。そう思うと、急に体が冷えた気がして、男は毛布の中で震えた。
777世界を繋ぎとめたあとに… 前2/4:2011/03/08(火) 02:57:09.17 ID:9gEf+357
起き上がることも辛いと感じるのは、何時以来であろうか。監禁されていた時
ですら、割り切って諦めるようになっていたものだ。
今は諦められぬ。諦めたら、自分の希望は途絶えてしまうだろう。あるのは死
よりも辛い生。そう考え、ユーリアはもう五日も寝たきりであった。
いっそこのまま腐り果ててしまえれば−
自分の肩を抱きしめながらユーリアは啜り泣いた。男の言わんとしていること
は分かる。だが、だからといって受け入れられるかと言われたら、答えは「無
理」なのである。
受け入れられぬ故に気を失い、受け入れられぬ故にこうして床に臥しているの
だ。
「のわっ!?」
「…お前は……」
「な、なんだ…居たのかよ……」
パッチ−−人は彼をハイエナと呼ぶ。性根卑しく、人品は下劣であると彼に関
わった者は口を揃えて言う。ただ、ユーリアはパッチの事を嫌いになれなかっ
た。殊に彼を嫌う聖職者達と険悪であることも一因やもしれぬ。婉曲しながら
も他を見下す彼等をユーリアは好きになれなかった。まだ、堂々と言ってみせ
るパッチのほうがマシと思えるのだ。ユーリアの愛する男も、パッチのことを
『誰よりも俗物だが、嫌いになれぬ』と言っていた。
そのパッチがユーリアから何かを盗った。
「何を盗った?ろくな物もないだろう…」
「へへ…なんのことだ?俺は……」
「はみ出ているぞ?」
「えっ!?」
「嘘だ」
思わずパッチが隠したブーツの方に目をやる。細い、光る棒が見えた。ユーリ
アの使っている銀製の触媒だろう。
「こ、これはさっき神殿の上で拾ったんだっ…!もうここを出るからよ、なん
か捨てられ…」
「構わん。持って行ってくれ…」
「い、良いのか!?」
「魔女の業から抜け出す…それが今の望みだ」
もうパッチはユーリアの言うことなど聞いていなかった。頭のなかにはこの銀
の棒がいくらの価値があるのかということでいっぱいだった。
「へへへ、悪いな。遠慮せず貰ってくぜ!」
「あぁ…」
「あっ、そうだあんた。あの男のオンナだろ?ならよ、さっさと行った方が良
いんじゃねぇか?」
「なに?」
「さっき鍛治家の爺と殴り合ってたぜ?まぁあいつに限って負けることもない
ろうけどよ」
778世界を繋ぎとめたあとに… 前3/4:2011/03/08(火) 02:57:42.36 ID:9gEf+357
(確かトマスと話していたんだが…何故こうなった……)
気を抜こうものならボールドウィンの鉄拳が的確に急所を狙ってくる。
「爺さん…一体…!?」
「ふんっ!!」
聞く耳を持たず、顔面に一発貰った。口野仲を切り、血が飛んだ。酔狂の域で
はない。
「っ!!この…!!」
男は自分よりいくつも上の老人を思い切り殴り飛ばした。


「あんたがデーモンに?ハハハ、まさか」
「いや火防女のソウルを手に入れていよいよ人かどうか怪しくなってしまった」
数分前、男はトマスと話していた。古きの獣の中であったこと。聞かされたこ
と。与えられた使命とこれからのこと。
気心知れたトマスだったが、今度ばかりは反応に困っていた。
「ふむ…でもそう…まったくデーモンとかには見えないからなあ。見た目も今
までとなんら変わらんし、理性もあるし」
「まぁな…でも、もしもの事を思ってな……。トマス、頼みがある」
「なんだ?あんたの頼みだ。どんと来い」
「お前がここを離れるとき、ユーリアを一緒に連れていってほしい」
「なっ!?」
「安全なところにあいつを。出来れば魔女も魔法も知らぬ村に」
トマスは明らかに動揺していた。当然だろうと男は思ったが、静かに続けた。
「このまま俺と一緒に居ることは…もう……」
「暫く考えさせてくれ……そう、事の段取りを…だから、何言ってるんだろう
な俺、ハハハ…」
次に、ボールドウィンにも挨拶を、と視線をやったときには既に老人は立ち上
がり、男に拳を向けていた。


「…つぅ……ふざけんなよ爺さん!!」
階段を転げ落ちたボールドウィンだったが、立ち上がると口腔に溜まった血を
吐き捨てる。この時にはもう神殿中の者が、何があったのだと周りに集まって
いた。
「がーはははは、こんなものか!ワシでもデーモンを倒せたのう!!」
「あっ!?」
「トカゲ共以下の気のない拳じゃ」
嗤ったボールドウィンはステップを踏むと、ぎゅっと地面を蹴って男と距離を
詰める。下からえぐるようにして腹に拳が入った。
「げぅ!」
「情けないのう…まだいくぞ!」
「…!!」
そこからはもう赤子の喧嘩と変わりなかった。避けることなくお互い力任せに
殴り合った。

779世界を繋ぎとめたあとに… 前4/4:2011/03/08(火) 02:59:02.56 ID:9gEf+357
「っ…はぁ…はぁ……」
「ふむ…やめじゃ」
あたりが血で染まった頃、ボールドウィンはいつものように丸椅子に腰掛けた。
「デーモンがいるというから久々に動いてみたが、ふんっ…老いぼれの拳が効
く紛うことなき人間じゃったわ」
「爺さん…」
「ひよっこが、大仰に騒ぎよって」
皮が敗れた手の甲をごわごわした布で拭うと、ボールドウィンは何もなかった
ように空を睨んだ。
「まぁ…気が楽にはなった、かな……」
さっきまで青ざめていたトマスは苦笑まじりに痣の出来た男の顔を見ている。
「あぁ、そうだ…さっきの頼みなんだが。悪いが、どうしても荷物が多くて引
き受けられそうにないなぁ」
「……ありがとう」
「ほら、早く行ってやらないと」
ポーレタリアの兵が携帯する止血用のロートスを握りしめたユーリアが、今に
も泣きだしそうな顔をして見つめていた。
「ユーリア……ごめんな…」
俯いきながらユーリアが頭を振る。それに合わせて目から光るものが散った。
「一緒に居てくれるか?」
「………うん……うん…!!」
魔女が人目も憚らずに泣いた。抱き留めてくれる人がいるから、泣ける。ユー
リアはその事実に心から感謝した。


「じゃあ、頼む」
数日後、ポーレタリア城の広間で男は木を積んでいた。かつて凶悪なソウルの
亡者達が狂ったように襲ってきた場だが、すでに誰もいない。居たとしても今
や全てのデーモンを討ったこの男に敵うものはない。
「随分と律義だな」
「正直好きじゃなかったけど、まぁ、死んだらいがみ合いもおしまいだろ」
「貴方のそういうところ、良いな。人を信じてみたくなる」
組んだ枯木の中に鎮座する幾つもの小さな体。永くの間、楔の神殿で活ける人
柱になっていた『要人』達である。名前も合ったのだろうが、男もユーリアも
ただ『要人』としか彼女を指す言葉を知らなかった。
その要人の最後の一人が、死んだ。その役目は男に引き継がれ、先日、気がつ
けば座したまま息絶えていた。
「付けるぞ」
ユーリアの発した炎が枯木に移り、間もなく夜空を焼かん勢いで赫赫と燃える。
この炎が消える頃には、要人らの体も灰になっていることだろう。火葬を望ん
でいたかどうかは分からない。分からないが、弔いをせぬよりは良いだろう、
と男は楽に考えていた。
780名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 03:04:35.19 ID:9gEf+357
以上です。最近竜ミドルばっかり使っててごめんなさい
ユルト鎧、暗殺者口布のオールバックがいたらよろしくね。回線の調子悪いのか
ステルス黒ファンに後ろから刺されてばっかだけど…
ではノシ
781名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 03:28:01.95 ID:9gEf+357
ミルドだったスマン…
あと本編の誤字も申し訳ない
782名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 13:22:54.17 ID:kKJ0ISe0
gj!!こういう終わり方もありだな。
続きを待っているから、さあ書くんだww
783名無しさん@ピンキー:2011/03/08(火) 16:17:22.37 ID:H9/z8322
ボケユーリアや攻めトラエア書いてた者ですが、ギャグカオスメタネタ無しのストーリーを書きます。



お、おや?こ、こんな場所にお客さんかな?
なんだ、お前か。俺はてっきりあの人が竜骨砕きを手に入れて来たのかと思ったよ。
え?それは済まなかったって?おいおい。あんたに謝罪は似合わないぜ。いつもみたく不敵に笑ってろよ。
嬉しそうにみえる?嬉しいに決まってるだろ。昔の同僚に会えれば、誰だって浮き足立つさ。良い職場だったしな。
仕事の方は順調かい?まぁ俺の方は相変わらずのホームレスさ。
でもなかなか良いもんだぞ。この地は先人たちの偉業や、かつての栄華がそこかしこに眠っている。
ここにいると、まるで彼らの息遣いが聞こえて来るようで、さびしさなんか吹き飛ぶさ。
それでもボーレタリアは滅んじまったからな。誰がいても止める事の出来ない悲劇だったろうな。
なに?お前が立ち上がれば良かったって?バカ言うな。俺にはヒーローの素質なんか無いさ。
そうだねぇ、竜骨砕きを探してる彼ならもしかしたら……まぁ、どっちを選ぶかは彼の自由だがな。彼には答えを選ぶ権利も自由もある。
ところで長は元気かい?おいおい、確かにあそこは抜けたが、長に対する敬意と畏怖は亡くしちまったわけじゃ無いからね。
俺はただ、この世の発見されてない叡智や技術を探求したくて抜けただけだからな。
ああそうだ、ところでこいつは返そうか?今の俺には無用の長物だしな。なに?いらない?なら持っとくよ。
こいつの存在が聖者達に渡ったら、彼らはどう思うだろうね。魔術師達の中には気づいている輩もいるみたいだがな。
ところで一体なんの用事だい?君ほどの人間がわざわざ俺に会いに来るなんて……またその話か。
言っただろ。俺はもう戻るつもりは無いってさ。それとも何かい?力づくでもって奴かな?
…………ハハハ。冗談冗談。だからそんな怖い顔するなよ。元気が良いねぇ。何か良いことでもあったのかい?
組織として来るなら願い下げだけど、友人として来るなら大歓迎さ。今度はストーンファングの地酒でも用意して待ってるよ。
それじゃあなメフィスト。久しぶりに会えて楽しかったよ。

784名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 03:54:11.73 ID:eqFUuQKs
スキルヴィルさんかっけぇ…!メフィストの表情ってか姿も見えるようなんが凄いっす。
メフィメフィとスキルヴィルさんが飲み交わしてるとことかなにその胸熱。
こういう世界観いいなあ。
785名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 11:42:51.68 ID:om80SAIz
>>776 >>783
あなたのSSが評価されました

最近、毎日投下があって素晴らしい!
エロなしでもぐっとくるねえ、いいよいいよー
786名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 14:33:58.18 ID:8h5pf+JL
謎に包まれてるスキルヴィルの出自と実力を結ぶ鍵として獣のタリスマンだと思い、そこから元は秘匿者の一派ではと想像した結果があれです。
なぜ魔術師でも神職でもないホームレスが獣タリスマンを持ってるところにフロム脳が爆発しました( ´ ▽ ` )ノ
787名無しさん@ピンキー:2011/03/09(水) 22:53:08.78 ID:VOHVqR5Z
そういや、メフィスト依頼でも入手できるんだったな
毎回乙トラの最期看取ってるから(もしくは事故死)忘れてたぜ
788名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 00:21:09.17 ID:9Xvm/tg0
>>773
あーあれか、pixivにあったな。
俺はエロすぎて正視できんかった…
789名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:17:15.91 ID:JGRSFJPo
みんな、みんなGJだ…。それなのに、俺ときたら…。

乙×おっぱい6に挑戦したものの、心折れそう…。
出始めはギャグでうまくいったのに、何故かシリアス方面に行った。
そして、迷走中。ここからどうやって、エロに持っていくんだ…。
俺のフロム脳はこんなもなのか〜!

とりあえず、前編少し投下するよ。
まだまだ、先は長いようだ…。
790名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:18:27.91 ID:JGRSFJPo
「私は今、迷っている。伝えるべきか否かを…」
そうつぶやくのは、フリューテッドに身を固めた男。オストラヴァである。
「彼女には幾度と助けられてきた。だからこそ、教えるべきかどうか…」
彼のつぶやきは非常に小さくて外には漏れず、もごもごとフルフェイスの中で響いているのみだ。
彼の視線は目下。楔の神殿で嵐の要石と坑道の要石をつなぐ一本の道に腰をかけ、目下で行きかう人を見下ろしていた。
「彼女自身知っているのだろうか。それとも、知らないのだろうか。いや、知っているはず」
行きかう人達といえど、この呪われしボーレタリアで生き残ったわずかな人々と、混乱に乗じて来た、良く言えば新しき勇者達である。
大きな神殿には少なすぎるほど、わずかな人数だ。
「彼女の服は貧相でも女性らしさを強調したぼろ布の服。でも、彼女自身は貧相な体つ…んんっ、貧相な服が似合う体とは言い難い…」
そのわずかな人たちの中でも、彼が目を留めているのはただ一人。自身の窮地を幾度と無く助けてくれた、恩人。新しき勇者の一人だ。
「女性らしさを強調した服だからこそ、その服に体が追いついていない事が…。上から見下ろすと、良く分かるんだ…」
彼も健全な青年男子。女性の体に興味があるのだろう。しきりに、恩人である彼女の肢体を見つめている…とは違うようだ。
「その…。胸が…すっかすかなんだよな…。胸元が」
目線こそ、健全男子釘付けの、女性の胸元。だが、その眼差しは憧れの的を見ている目とは言い難い。
「ここにいる皆は座っているから、彼女の胸元より視線が下だ。だから気付かないのかもしれない」
なんともさびしそうな眼差し。哀れみを帯びたその視線。
「上げ底しているのならまだしも、ただ膨らみをごまかしているだけだから、上から見ると、すっかすかなんだよ…」
彼の声はさらに小さくなっていく。
意識的に小さくしているのか、それとも落胆からの無意識からなのかは分からないが。
「いや、確か…。黒い鎧を着た人が、座らずに立っていたよな。その人、彼女よりも背が高かった…。もしかしたら…彼も気付いて…。
いや、黒い鎧だから暗殺者ユルトだって分かったから、彼女はデーモンを殺す者として彼と戦い勝ったんだ。けっして証拠隠滅では…」
彼の彼女への視線が変わる。
「ユルトの鎧は女性も着れるくらい、胸元に余裕があるって鍛冶屋のおじさんが言ってた。ということは、彼女よりボインって事…。
って何を僕は言ってるんだ。そんな事より、彼女に教えるかどうかだよ」
フリューテッドのフルフェイスを激しく左右に振る。
彼の声こそ漏れはしなかったが、鋼で固められた鎧は揺さぶられた振動でガシャガシャと大きく音を立てた。
その音に気付いたのか、視線の先の彼女が彼に気付いたようだ。
目線を合わせて彼の元へ歩み寄る。
「あんた、此処にいたんだ。そんな装備でこんな所いたら、落ちたら大変だよ」
彼女のセリフは、よこしまとは言い難いオストラヴァの妄想とは違い、彼を気遣うものである。
オストラヴァは、目線を上に上げ、彼女を見上げた。見上げた視線は見下ろす視線とは違い、彼女を女性として見ることができた。
だからこそ、その落胆が激しいのかもしれないのだが…。
「言うべきか…言わぬべきか…」
彼はまた、ぼそぼそと口内でつぶやく。
「ん?何?何か言った?」
彼女との距離が近すぎたのか、彼のつぶやきがどうやら彼女の耳に入ったようだ。だが、何を言ったかまでは聞き取れなかったようだ。
「どうかしたの?」
いつもは出会い頭に彼の方から声をかけるというのに、何も言わない彼に違和感を隠せない。
彼女は具合でも悪いのかと、彼の視線にさらに自身の視線を近づけた。オストラヴァは再度、フルフェイスを左右に振る。
「いえ、ただ…。その…」
彼女の視線は彼の視線とは大いに違い、その視線が彼の何かに触れたようで、男オストラヴァは意をけっした。
「服装は、選んだ方がいいですよ」
彼らしい、いかにも遠まわしな言葉。だが、あまりにも遠回りで、寄り道にしかならない。
「何よ!べ、別にいいじゃない!何を着ようと私の勝手じゃない!」
それでも何か察したのか、彼女の声が若干うわずる。それがさらに、オストラヴァの心に触れる。
791名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:19:18.96 ID:JGRSFJPo
「や、やっぱり気付いていたのですね」
だからつい思っていた事を口に出し、その声が近くに寄っていた彼女にも聞こえてしまうのだ。
「どういう意味よ」
彼女の声のトーンが変わる。でも、もう言い出してしまっては、止める事はできない。
教えた方がいいかもしれないと思っていた事もあり、オストラヴァは彼女に教える事にしたのだが。
「その、胸元。すっかすか…って、あ、あの、そ、そのっ!!!」
「このとーへんぼく!どこ見て言ってる!!」
「ちょっ!!こんな所でそんなの振り回したら危ないって!あ、ブラムドだけは止めて!ブラムd」
教えるも何も、聴く耳持たない相手には通じるわけもなく。
パキャッ。と、何かが壊れる音がした直後、オストラヴァは蹴落とされ、床へと転がる。
「おいおい、何をそんなにはしゃいでおるんじゃ」
「お、お嬢ちゃん!危ないよ、どうしたっていうんだい」
二人の声を聞きつけ、鍛冶屋のおじさんことボールドウィンが声を上げ、心配性の荷物番トマスが慌てて駆けつけた。
「あ、その、彼女がいきなり…」
「そ、その口が言う!!」
丸い円の床で逃げ腰のオストラヴァを、自身の上半身よりも大きな武器を担いだ彼女が、にじり寄る。
「いったい、どうしたんだい。二人とも」
心配性のトマスが二人の間に入る。オストラヴァがトマスの顔を見て、事の次第を述べようとした時、強いオーラを察した。
『本当の事言ったら、殺す。潰す。刺す』
彼女のオーラが無言の言葉を発しているようで、それに気付く男オストラヴァは、慌ててもごもごと言葉を消した。
「はっはっはっは!若い男女がケンカと言えば、ささいな事であろうに。トマスも心配せんでもええじゃろ」
間に入るどころか、まったく動こうとしないボールドウィンは、座ったまま大声で笑い出した。
その笑いではなく、その言葉に虫の居所が悪かった彼女は、的をオストラヴァから切り替えたようだ。
「ちょっと、何?若い男女ってどういう意味よ!ボールドウィン!」
と、声を荒げてボールドウィンの下へと歩み寄る彼女。
「ちょっと君!目上の人を呼び捨てにするなんて、だめじゃないか!」
と、今度はオストラヴァが彼女の後について声を上げる。
「わーっはっはっはっは!はっはっはっは!ささいな事じゃないか、のう?トマス」
ボールドウィンは、そんな二人を笑い飛ばした。
間に入っていたトマスはボールドウィンの豪快な笑いに苦笑し、ボールドウィンに歩み寄った彼女の肩に軽く触れた。
「どんな事情か知らないけど、ささいな事が男にとって大きな事だったりするもんだ。彼に代わって男の一人として、謝るよ。
どうか私に免じて収めてくれないかな」
人の良いトマスの、優しい視線になだめられる彼女。だが心までは収まらなかったようで、彼女は大いにふて腐れた。
「トマスの方が断っ然!いい男。優しい男!オストラヴァは女の敵!ヘタレ!とうへんぼく!!」
ぷーっと頬を膨らませている彼女を目を細めてみつめるトマスは、亡くなった自身の娘を思い出しているかのようであった。
それを知っている彼女はトマスを気遣い、大きく舌を出してオストラヴァに「いーっだ!」っと言うと、目の前の要石に触れた。
そのまま彼女の体は、蒸発するように消えた。
「いーっだ、じゃなくて、べーっだ、じゃないかな」
変なところが気になる、オストラヴァである。
「まあ、何を言って怒らせたかまでは詮索しないけど、あんまり彼女をからかわないでやってくれよ」
彼女の体が蒸発したのを確認すると、トマスは傍にいるオストラヴァに視線を移して言った。
「彼女も、あんな小さな体で、俺らには到底できやしないデーモンと戦っているんだ。それに比べて、俺ときたら…」
そして大きくため息を吐くと、元の場所へと歩みを進めた。
彼の悲しみを帯びた表情にオストラヴァは少しばかりの罪悪感を覚え、つと言葉を発した。
「どうか、したのですか?」
792名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:20:01.32 ID:JGRSFJPo
自身の事で精一杯だった彼は、神殿内で人と話しをすることはなかった。だからトマスの事などましてや彼女の事など、知らないのだ。
トマスは困ったように眉を顰めたが、彼もまた彼女と同じくらいの年齢であった事が、トマスの親心をくすぐったのだろう。
「彼女が、妻と娘の仇を討ってくれているんだよ」
と、悲しみを帯びた視線でトマスは、オストラヴァにも彼女に話したように湿っぽい話しをついしてしまった。
「そうだったのですか…」
オストラヴァはトマスの話しを聞き終わり、少し鼻声でそう言った。
「はは…はははは…。俺にとって、彼女は家族みたいなものさ…。取り戻す事ができない、大切な家族の一員さ…」
オストラヴァの鼻声がトマスにも移ったようで、鼻をすする音がしばらく神殿内に響いた。

そんなこんなしていたら、思いのほか早く彼女が帰って来た。要石の前からではなく、女神像の前で。
オストラヴァは自身の非礼をわびようと彼女の元へと急いだが、彼女の姿に詫びの心はすっとんだ。
「あんた!なんて格好してるんですかっ!!」
と、大声をあげたようだが、彼女はそんな事気にもせず。
「いや〜、燃えた燃えた。やっぱブラムド一本で炎に潜むものは辛いわ」
まるで漫画のように全身からぷすぷすと音と煙を立たせ、ぼろ布はこげ落ち、半ば裸だったのだ。
それを見たオストラヴァが大声を出したのだが。
「今度青つれていこうかな。でもD青だったら黒よりもやっかいだし…ど〜しよ」
大声を出す彼など眼中にないように素通りすると、彼女は真っ先にトマスの所へ行き、荷物の整理を行う。
そして、アイテムの中からソウルを取り出し使用すると、すぐさまボールドウィンの下へ。
「またやっちゃった。ボールドウィン、お願い!」
と、元気の良い声とともに着ていた装備を脱ぐと、恥ずかしげもなく、燃え尽きたぼろ布をボールドウィンに渡す彼女。
「はっはっは。今回はまた、派手にしてくれたのぉ」
ボールドウィンも気にする事なく受け取る。
「まぁね。ちゃんと直してね!特に、胸元は私の命だからね。しっかり膨らませておいてよ」
「まかせておけ。嬢ちゃん用に、とびきり丈夫に仕立てておこう」
「んー。ちょっとニュアンス違うけど、丈夫なのはうれしいわ。ありがと!」
と、さも当たり前のような会話。どうやら、一度や二度ではないようだ。だが、装備をそのまま渡したということは。
「半裸ならまだしも!!こらーっ!」
侘びの心どころか、とうとう怒り出すオストラヴァ。
オストラヴァは、装備を脱いだ彼女を指差し、声を荒げるが、彼女は舌を出して全く反省の色を見せない。だから、とうとう。
「こっちに来なさい!」
「なっ、何よ!!」
と、男オストラヴァは彼女の手を引き、トマスの傍を素通りする。
トマスの前の階段を下りていくと、先人たちの有りがたいお言葉が床に敷き詰めてある、円形状の部屋に彼女を連れて行く。
そして、小さくも強い口調で彼女に言った。
「君ね!女性でしょ!なんて格好で、しかも、男性の前で!恥を知りなさい!恥を!!」
だが彼女は、きょとんとして言った。
「ちゃんと短パンに肌着、つけてるじゃない」
その悪げもない感じの彼女が、どうやらオストラヴァには受け入れがたいようだ。男たるもの、気になるのは女性以上のようで。
「短パンなんて、男性が履くものです!それに、肌着って…は、肌着って…。ぶ、ブラジャーつけてないじゃないですか!」
と、気になる部分を大いに直接に、言ってしまったのだ。
「ぶ!ブラジャー!あんた、男でしょ!男のあんたに言われたくないわよ!」
「男だからこそ、気になるんです!気にしてください!!いくらブラジャーが必要ないおっぱい6だからって、男と違うんですよ!」
と、やっぱりケンカになってしまった。
というか、デモンズソウルの世界は中世を模しているようなのでブラジャーの存在すらないはずだが、そこはまあ、ネタって事で。
793名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:20:45.36 ID:JGRSFJPo
「てめぇなんかに言われたか無いんだよ!」
ガキィィーン!どっすーん!
「キャイーン!」
突如、丸い部屋から彼女のドスの利いた声と、鈍く重い爆音。そして、甲高い男の悲鳴が上がった。
音がよく響く楔の神殿内に、こだまするように、それらの音が広がっていく。
トマスは慌てふためき、鼻歌交じりで裁縫に勤しんでいたボールドウィンがそのまま昇天するくらいの勢いで全身をびくつかせ、
三角すわりで「のの字」を書いていたかぼたんが誰もソウルを求めに来ていないのに立ち上がり、腰掛けていた魔法使いがずり落ち
魔法使いの帽子もそれぞれずり落ち、二人のアンバサが即座に聖者の後ろに座り供に深い祈りを捧げ、寝ていた剣士が目を覚まし、
盗人が要石の前から落っこちた。
「一体、どうした!」
トマスは二人が行く所を見ていたので、慌てふためき二人を追い、丸い部屋へと駆けつけた。
「何をするんですか!あなたのこと、友達だと思っていたのに!」
「何が友達よ!こっちはいい迷惑だっての!それに、友達ならなおさら!傷つくような事言わないはずよ!」
二人が大声で言い合っているのだが、トマスの目には大きく振りかぶった彼女に踏みつけられているオストラヴァが入る。
さすがに、目によろしくない状況で。
「ふ、二人とも!止めなさい、止めなさい。落ちついて、一体何があったんだ!」
振りかぶっていた彼女の腕を押さえ、トマスが間に入る。
トマスがいなかったら、メフェストフェレスが彼女を見初め、彼女は獣のタリスマンを手に入れていたかもしれない。
まあ、それは冗談であってほしいが。
「トマス!私に代わって、こいつをアイアンなっこーでフルボッコしておいて!」
トマスに止められた彼女は、鼻息荒く担いでいた鉄製のほうきをおろした。
そしてぶつぶつと何やら言いながらボールドウィンの所に行き、ぼろ布を再び着ると要石に触れて神殿を後にした。
「何を言ったか知らないけど…。彼女をからかわないで欲しいって、言ったの。忘れたのかな」
寂しそうに、そう言いながらトマスは、踏み潰されて一人では起きられないオストラヴァの手を引き、起こす。
「そうは言っても。彼女、下着姿だったんですよ!恥らいを持てまでは言いませんが、常識的に考えても…」
ぜひ恥じらいはもって欲しいものだが、どうしても納得がいかないのか、オストラヴァは不機嫌な口調だ。
確かにそうだと、本来なら同意の言葉が返ってくるはずであったが、トマスは無言で引き上げた彼の手を引っ張る。
「っと、どうしたんですか?」
引っ張られた力が思わず強く、オストラヴァは足をもつれさせながらも、早足に歩くトマスについていった。
「あの服は、俺の妻が最後に来ていたであろう服なんだ」
「え?」
早足に歩くトマスは、彼にしか聞こえない声で、そう言った。オストラヴァは、その意外な言葉に驚いた。
驚くというよりは、胸に何かが刺さったような、そんな感覚である。
トマスは荷物のある場所まで彼を引き連れると手を離して、言った。
「貧金の鎧、暗銀の鎧、聖者の衣、フリューテッドメイル、ミルドの鎧、柴染の鎧。どれも高価で手に入れがたい物ばかりだ。
それでも、彼女はぼろ布の服を着ているんだ。どんな形であれ、俺の妻子の遺体を見たんだ。実際はデーモンに殺されたのだが
自分が殺したように、思ったんだろう。優しい彼女は、それ以来ずっと、あの装備なんだよ。どんなに良い装備を手に入れてもな」
トマスの目は怒りにこそ彩られていなかったが、悲しみを帯びた視線は、若い彼にはこたえたようだ。
「すみません…。そんなこと、知らずに…」
オストラヴァは、頭を下げた。下げた頭を、しばらく、上げられなかった。
「ははは。もう、過ぎた事だよ。きっと彼女も、けろっとして帰って来るさ。そういう娘なんだよ」
トマスは小さく笑った。頭を上げようとしない彼が、十分反省したのが、分かったからだ。
「ですが、私は…。知らなかったといえ、ひどい事を…」
トマスは気にするなと笑いながら言ったが、オストラヴァにはそれが返って堪えたようで。
彼女の帰りを待つのに、本来なら定位置の一本道に座っているはずが、彼女が消え去った要石の前に立ちすくんでいた。
794名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:21:40.32 ID:JGRSFJPo
「やっぱむしゃくしゃした時は、爺フルボッコよね。ホストはつらぬきだったし、私のブラムドが最高に役に立った一戦だったわ!」
やがて彼女が上機嫌で坑道の要石から出てきた。入っていったのは、塔の要石だったような。
「まあ、その前にうっかりバイトしちゃって、コロネ手に入れちゃったし。D青のプレゼントにしようかな」
小さく笑いながらも彼女は、真っ先に見せびらかしたい相手が居る一本道に視線を移した。だが、そこに彼の姿はなかった。
彼女の心に彼女らしくなく不安がこみ上げる。もしかしたら、何者かに狙われたか襲われているのではないか、と…。
まさかと思いながら、周囲を見渡す彼女。
「オストラヴァ!」
不安が的中したのか、彼のフル装備が折りたたまれたような形で、自身が入って行ったラトリアの要石の前にあった。
まさか、死体…。いや、ユルトはもういないはず…。そんなの…。
胸中が一気にざわつき、彼女の瞳が小さく震える。だが、一気に駆け上がった彼女は要石の前まで来たとたん、どっと疲れた。
「どうも、すみませんでした…。私の無礼を許して下さい」
要石の前で土下座する彼を見たとたん、腰が抜ける思いであった彼女。
フリューテッドの鎧で土下座など、ありえない事であるが、その折りたたんだ体の形がまるで転がった死体のように見えたのだ。
「何ふざけてんのよ!いい加減にしなさぃ!」
と、半ば笑いかけての大声だが、その声色は心底ホッとしたようだった。だが、そこは彼女。床に額を付けている彼の頭を蹴り上げる。
「あ、いたっ」
「ああ、そうでしょうね!あんたなんか、これがお似合いよ!」
頭を蹴られたので痛みに顔をあげたオストラヴァの頭に、彼女は持っていたコロネを巻きつけた。
「わっ、何をするんです!前が、前が見えないっ!」
「何よっ!人の心配も知らずに!バカッ!このう○こターバン!」
「なっ!何て事を言うのですか!もう少しデリカシーを」
「デリカシーが無いのはどっちよ!」
と、今では珍しくもなくなった、いつものパターンに隣でしゃがんでいた盗人がへらへらと笑い出した。
「ひひひっ。前途多難だね、お二人さん」
そして、一言多い盗人。だからまた、彼女は振りかぶるのだ。
「何おーっ!」
「こらっ!や、やめなさぃっ!」
振りかぶった彼女に、オストラヴァは反射的に後ろから抱きついた。そして、彼女を抑えようと胸に手を回した時。
「きゃぁっ」
と、彼女にしては有り得ないような、小さく甲高い悲鳴をあげた。
「え?」
と、すぐさまオストラヴァはコロネを剥ぎ取り彼女から手を離すが、今何をしたのかまでは意識していないようだ。
コロネで目の前が見えなかったとはいえ、潤んだ目をして彼女が自分を睨みつけていた事に、頭が回らない。
「ばかっ」
そして彼女はまた、らしくなく小さな声でそう言うと、彼の隣を素通りし走り去っていった。
走り去った彼女を追いかける事ができないほど、オストラヴァにとって、理解できなかったようだったが。
「あんた、彼女の言うとおりだな。デリカシーねぇよ」
と、傍でしゃがんでいた盗人の言葉は、理解したようだ。むっとした視線で盗人を見下ろすオストラヴァ。
「彼女はね。ああ見えても、この神殿内じゃ火防女に並ぶアイドルなんだぜ?へへへ。彼女がもう少し腕っ節が弱かったら
彼女のハァトは盗めなくても、体は奪ってみたいって思ってるんだぜ?ひひひひひ」
盗人らしい下賎な言葉に、オストラヴァは無言で彼の襟首を掴みあげた。
「貴様のような下賎な輩には、指一本も触れさせやしない」
と、自分でも思わず低い声で相手をののしるオストラヴァ。だが、相手はそんな事日常茶飯事のようで、ヘラリと笑っていた。
そのまま殴り飛ばしたいほどに自身の胸中が騒ぐ彼だが、その行為は瞬時に止まる事となる。
と、その時、彼女の盛大なる大声が、神殿内に響いた。
795名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:22:15.94 ID:JGRSFJPo
「あ〜いきゃ〜ん、ふら〜いっ!ヒャッハー!」
走り去った彼女の行き先は、神殿内の最上階。要人が並ぶ階のど真ん中である。彼女はデモンズ恒例の、神殿ダイブを繰り広げたのだ。
「うわぁあああっっ!!」
それを目の前で見せられたオストラヴァは悲鳴を上げ、掴んでいた盗人を放り出し、慌てて彼女が落ちたであろう場所へと駆け寄った。
だが、フリューテッドのフル装備。足の速さまでは望めず、彼女の下へ駆けつけた時は遅く、おびただしい血痕が床を汚していた。
「うわぁああっ!わぁあーっ!」
オストラヴァは頭が真っ白になり、泣き叫ぶ。だが、その背後で、けろっとした声が上がったのだ。
「あんた、何そんなに反応してるのよ」
その声に顔を上げたオストラヴァは驚き、声の方へと振り向く。そこには、ぼんやりとしたソウルを漲らせている彼女が、立っていた。
「ただ、ソウル体に戻っただけじゃん。大げさっ」
そして、彼女はけらけらと笑う。その表情は、彼の胸中を大きく騒がした。
彼女の笑顔を見たオストラヴァは、無言で自身の右手にはめているガントレットを外す。
「でも、びっくりしたでしょ。まあ、私の胸を触ったんだから、これでおあいこ…」
パンっ!
彼女のから笑いは、乾いた音と頬に広がる熱い痛みによって、止められる。
ガントレットを外したオストラヴァの右手のひらが、彼女の頬をはたいていたのだ。
普段なら彼女の反撃?が続くのだが、重い沈黙が続いた。が、沈黙を破ったのは、オストラヴァの一言。
「命を、大切にして下さい。もっと、自分を大切に、して下さい」
殴られた方が本来なら涙するはずだが、一言を述べる彼の声の方が震えていた。
冗談のつもり…ではないにしろ、彼女は彼の言葉に小さくうなずくが、直後、首を左右に振った。
「命は大切にする。でも、自分は大切にしない。大切にできない立場だから」
彼女は小さくそう言うと、彼の顔を見る事なく再び要石へと行った。坑道とは正反対の、嵐へと。

彼女を追うどころか、顔すら上げる事ができないで突っ立っているオストラヴァに、一部始終を黙って見ていたトマスが、声をかけた。
「オストラヴァ君。ちょっと、いいかな?」
「あ、はい」
トマスの声にようやく時間を戻せたオストラヴァは、彼の傍に行った。
トマスは彼女の袋の中からアイアンナックルを取り出し、右手に持った。そして立ち上がる。
「ちょっと、ごめんよ」
と、言った直後、オストラヴァのフルフェイスめがけて、右こぶしを振った。
ガシャと、金属音が響く。フルフェイスで固めたオストラヴァに、痛みはなかったが。
「これで、チャラにしないか?してくれないかな?」
トマスの言う言葉が胸に刺さったように、オストラヴァは下を向いたまま、顔を上げれないでいた。
何故、自身が殴られるのだろう。当たり前の事を、言っただけなのに。
そんな憤りもあったが、トマスの悲しみを帯びた表情を見たとき、オストラヴァの憤りも冷めていく。
「君は、彼女の事、知らなさ過ぎる。もちろん、俺だって何も知らないさ。でも…。知っていて欲しい」
トマスは右手のナックルを外し、彼女の袋の中に治すと座り、顔を上げないオストラヴァを見上げて言った。
「彼女の事、理解してほしいとまでは、言わないさ。ただ、知って欲しいんだ。お願いできるかな?」
トマスの穏やかな声に、オストラヴァはハッとしたように顔を上げた。そして、言う。
「もちろんです。教えてください。私は、彼女の事。もっと、知りたいんです」
「ああ。俺が知っている範囲でしか、できないけど…」
オストラヴァの真剣な視線にトマスは、照れくさそうに頭を掻いた。
トマスに言った言葉が、そのまま自身にも響くオストラヴァ。
あの盗人が言った時にざわついた自身の胸中が、余計に、そうさせるのだろうとも思いはじめていた。
この騒ぐ胸中が何なのか分かるには、もう少し時間が必要なようだ。
796名無しさん@ピンキー:2011/03/11(金) 23:25:27.12 ID:JGRSFJPo
とりあえず、ここまでです。orz
いろいろと、アレな所多いが。どうか、広い心で見逃してやってくれ…。

時間がかかるのは、自分の方です…。
投下したからには、結末までは書き上げるよ。
ソウル…ソウルが…。
797名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 01:15:39.56 ID:i5W8obEz
GJ!
可笑しいのと切ないのとで、なんか胸が痛くなる
トマスいいやつ過ぎるし、女主も乙もかわいいし、
幸せなってほしいのか、切ないのが読みたいのか
自分でも自分がわからん…
798名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 04:31:09.49 ID:OlVlo2XR
このような事態にもビクともしないとはなんという頑強特化スレ…!
>>796
いつかこのやんごとなき女主を絵にしたい
指をさしながら叱りつける女主 頭をかきながら少し俯く乙
おお、頭のなかで構図ができた。
799名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 05:07:18.45 ID:6Njdi/hv
GJ!今後の2人の展開に期待します。乙がべた惚れって、いいな
無理せず、続きを頑張ってください

余震が怖くてssが止まってしまった。
男主人公×メフィストフェレスという誰得

被災者の皆様、お見舞い申し上げます
800名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 10:53:39.75 ID:bcB7QKW7
きせいされてるかなー?
801名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 11:40:10.31 ID:5RNtuV93
貴公か。どうかされたか?
何?私がなぜ暗殺者に不向きのショーテルを扱っているかって?
これだから素人は。上辺でしか物が見れないから困る。
確かに私の持つショーテルは暗殺には不向きだ。それどころかこのグルーム装備一式でさえ、風景に溶け込むにはお世辞にも向いているとは言えないだろう。
それではなぜ扱うのか?これは私の誇りなのだ。
かつて私も鋭利な隠密短剣とブラックレザーを装備する一介の暗殺者であった。
だが、そんな私が今の装備になるまでに、一人の男がいた。そう、先代沈黙の長だ。
彼は今の私と同じ水銀のショーテルとグルーム装備一式だけで数々の任務を遂行していた。
そうだな、先代オーラント王の病死も彼による物だ。
何をバカなだって?確かに証拠など残していないから証明はできないが、それがなんだと言うのだ?
信じるか信じないかは貴公次第だ。
そう言った経緯から私が先代沈黙の長に敬意を払うなど当然なこと。彼の背中を追う内に、私もいつしか沈黙の長と呼ばれるようになったというわけだ。
フフフ、貴公も沈黙の一団に入らないか?貴公程の戦士ならスグにわたしの右腕に…………まぁいい。最後に貴公にはこの言葉を送ろう。




この先嘘メッセージに注意しろ。
802名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 19:10:18.21 ID:KXed94tS
そうか、ぼろ布装備はトマスの妻の形見と考えられるな・・・ 気づかなかった
803796:2011/03/12(土) 22:33:08.43 ID:vD47wuWR
ありがとう、みんなありがとう。
こんな事態に不謹慎だったよな…。orz
でも今書かっなたらきっと、ずっと書けなかったかもしれないんだ。
最後が悲哀だから余計に…。分かってて投下してしまって、すまない。

被災者の皆様、心よりお見舞い申し上げます。


ちゃんと最後まで書くよ。時間はかかるだろうけど。
だから>>799もSSがんばってくれ。
男主×メフィは俺得さ! 裸グルーム(正装)で待ってる。
804名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 22:43:04.27 ID:VWChqnKq
こんなときこそ、普通に生きられる人は普通に生きなきゃ。
複数の阪神大震災被災者の方たちが言われたのは、
頑張るな、今日を凌ぐことだけ考えろってことで、無理だけはしたらダメだって。
でも今回は離れた地域にいる自分なんかでも生き残ってしまったみたいな気持ちが
どうしようもない。現地の人の気持ちをおもうとそれだけで苦しい。
ここで普通にしてられることで救われる気がする。
805名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 22:52:43.87 ID:6Njdi/hv
なんとか男主人公×メフィストフェレスを書いてみるよ。わざわざありがとう

…普通に生活出来るって、こんなに幸せなんて知らなかった
806名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 22:54:11.78 ID:OlVlo2XR
>>801
だが俺は右腕になるぜ?(・ω・///

内陸あたりの無事なやつら、親愛なるデモンズ同胞のために今こそ
このスレに万感の想いを託して、ここを活気づけるんだ!!
807名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 00:19:14.73 ID:bTHScGDa
規制解除に便乗。上、数々の作品にGJ。新作・続編にも期待。
又、被災者の皆様へのお見舞いを。
アスガル小話。何故か戯曲風味。


「ガル……。あの、最近なぜ、そのように背中を丸めているのです?」
「いえ、何でもありませんアストラエア様。どうかお気になさらず」
「妙に、内股気味ですし、その、いつも股間の辺りに手を……。
 どこか、体の具合が、収まらないのでは」
「いえ、私はいたって健康です。どうかご心配なく」
「……打ち明けてはくださらないのですか。
 貴方が少しでも楽になるよう、お手伝いしたいと思っているのです……」
「いえ、アストラエア様の御手をわずらわせるようなものは決して」
「手がよいのですか? やはりあの、口に含むのだろうかと思っていました」
「口などと、とんでもない! ……すでに見抜いておいでなのですね。ならば告白いたします。
 ずっと、ひそかに願っておりました。いつの日か貴女に、これに触れていただくことが叶えば、と」
「ああ、ガル……! ならば、心の準備はできています……!」
「お言葉、至福の極みです。その御手で可愛がられる様を想像すると、胸が熱くなります。
 ただ、生まれたての姿は、初めてですと少々抵抗があるかも知れません」
「そのようなことは決してありません。ガル、私は……」
「実はもう、ぴくぴくと動くのを感じるのです。
 早く出たくてたまらない様子ですが、この過程も貴重な経験。あせらず自然にまかせましょう」
「ガル、ガル、もう……待つことなど何もないのです。どうか私に、ありのままを見せてください!」
「あっ、いけませんアストラエア様! ご無体な! あああっ!」

――パリン! ぴぃぴぃぴぃ

「……ふぅ。どうやら無事にたまごが孵ったようです」
「……ひよこ……」
「沼に流れ着いたところを見つけてこっそり温めていたのです。
 ふ化に失敗すれば貴女が哀しまれるだろうと思い、ふせておりました。どうかお許しを。
 さあ、どうぞ御手にとって存分に慈しんでください!」
「…………美味しそう」
「えっ」

  ――たまごはさみ・消沈したままおわり――
808名無しさん@ピンキー:2011/03/13(日) 01:55:25.09 ID:23LVAAq2
貴公・・・ 
809それでもその灯を希望と呼ぶなら 01/10:2011/03/15(火) 00:27:05.22 ID:25P1PdE3
乙トラ女体化(実は女系)、リョナっぽい要素あり、世界とは悲劇、残念品質、注意願います。



────────────────────────



「ありがとう、またな!」
男は、火防女に明るい笑顔を見せた。
「また、お待ちしています。デーモンを殺す方。
私は、ただあなたのためにあるのですから…」
火防女も、男の笑顔に応えて微笑む。

──いいなあ、楽しそうだなあ。

要石を繋ぐ橋の上で、オストラヴァはその光景を見詰めていた。
ふと視線に気づいたのか、怪訝な顔でこちらを見た男に慌てて小さく手を振る。
男は少し戸惑ったように手を挙げて返し、要石へと消えていった。

嘆息が出る。
本当は、こんなところで座ってる暇なんてないはずなのに。
王殿への旅を続けなければならないのに、いつまで私は座り込んでいるんだろう?

──また、お待ちしています。

口の中でそっと真似をする。
自分に、彼のためにできる事なんて何も無いのに。
言ってもらえても、「また」なんてないのに。
……どうして私は、こんなところで座り込んでいるんだろう?
そのわけにも気付けないまま、オストラヴァは立ち上がれずにいた。
810それでもその灯を希望と呼ぶなら 02/10:2011/03/15(火) 00:29:28.68 ID:25P1PdE3
「……でさあ、それが全然出ないんだよなあ」
ガセなんじゃねぇか?
男はしかめっ面で足をぶらつかせている。

自分といるときはどうしていつも不機嫌そうなんだろう。
火防女さんといるときみたいに笑わない。
トマスさんと話すときはこんな乱暴な言葉使わない。
「鉱石が必要なんですか?」
それなら、と、言う前に男の罵声。
「違うだろ馬鹿! 刃石だよ刃石、みかげとか純粋でもいらんわ!」
腰にやりかけていた手をさ迷わせる。
どうして、自分が話すとこの人は怒るんだろう。
橋の上、隣に座る男の顔を見遣りながら、オストラヴァは泣きそうだった。



時々こうして隣に座って、オストラヴァとしゃべるのが好きだった。
神殿の中には、男と歳の近い同性の人間は他にいなかったし、オストラヴァが
静かな性質で、なんでも話を聞いてくれるというのもある。
素で遠慮なく話が出来る唯一の相手である。

確かに縛環の持ち主の中には同年代の人間がいないわけじゃないが、
次に会うときは黒ファントムなんてのもざらなわけで、
お互い深く関わりあわないのは暗黙の了解だった。
まあ、オストラヴァだって本当は踏み込んではいけないんだろうが。

そんなわけで、意外と年長者や女性には気を遣う性質の男にとっては、
唯一の心の許せる相手であり、ストレス解消の相手でもある。
おかげでオストラヴァはいつも困ったような情けないような顔をしてばかりだが、
俺だって誰かに甘えてもいいだろう、なんて思ってみる。
オストラヴァだってわかってるから、つるんでくれてるんだろう?
811それでもその灯を希望と呼ぶなら 03/10:2011/03/15(火) 00:31:00.80 ID:25P1PdE3
「なあ、お前。刃石集めてたって、なんで?」

ばれた。何故ばれた。
顔面に血が集まるのを自覚しながら、オストラヴァは視線を彷徨わす。
ボールドウィンから何か聞いたんだろうか。彼なら大丈夫だと思ったのに。
「トマスがさあ。お前がボールドウィンに刃石のかけら集めて純粋にならないかって
聞いてたって教えてくれたんだ。お前、そんなん集めてもその剣じゃ意味ないだろ」
「あ゛ああああ言わないでください!
ダメだって分かってたけど諦め切れなかったんです!」
真っ赤になって、首をぶんぶんと横に振る。

はぁ、と男は呆れたように嘆息をつく。
「……なあ、もしかして俺のために集めてくれたのか?」
「ごめんなさい……。
何かお礼をと思ったのに、結局要石から碌に離れることも出来なくて」
嵐の祭祀場への要石など、王殿への旅にはなんの関わりも無い。自分の使命を思えば
後ろめたさも感じたけれど、それでも何か出来ればという思いが捨て切れなかったのだ。
結果は散々だったわけだが。

「あのさあ、気持ちは嬉しいけど、無茶すんなよ」
「すみません……」
俯きながら、頬が緩んでしまうのがとめられない。嬉しいって言ってもらえた。
なんの役に立てたわけでもないのに、恥ずかしいのに、嬉しいのがとめられない。
にやけた顔を見られたくなくて、顔を上げられない。

「お前、大事な使命があるんだろ」
冷や水を浴びせられたというのは、こういうのを言うんだろう。
私は何をしてるんだろう。こんな、自分の望みを叶えていていい立場じゃないのに。
血が引いていく感覚がして、顔を上げられない。
だから、余計なことすんなよ。そう言うと男は行ってしまった。
812それでもその灯を希望と呼ぶなら 04/10:2011/03/15(火) 00:34:40.70 ID:25P1PdE3
「ええっと、彼が良く使うものは出しやすいように……。
それになにがあるかも分かりやすいように、こんな風にしてみませんか」
「なるほどなあ。俺なんかはまとめて袋に突っ込んどくしか能が無いから、助かるよ」
「あ、いえ。はは、ありがとうございます」
褒められるのには慣れていない。照れて赤くなりながら、トマスと一緒に作業を続ける。

勝手に持ち物に触るなんて良くない様な気もしたけれど、トマスも整理の仕方を教えて
もらえると助かると言ってくれたから、考えていたより大々的な作業になってしまった。
途中、自分としては精一杯のお礼だった遠眼鏡が幾つも出てきて
少しばかりへこんだけれども、それと同時に何も言わずに受け取ってくれていた
男の優しさに胸が暖かくなる。

「あ、そうだ。数の多い矢なんかは、10本ずつ纏めたらどうでしょうか」
そりゃいい考えだ、と、大げさに感心してくれるトマスの優しさにも嬉しくなる。
そう、本当は戦いなんかより、こんなことの方が性に合ってる。
久しぶりに力を発揮して、初めてあの人の役に立てると嬉しくて。
もしかして、ありがとうなんて言ってもらえるんじゃないかと浮かれていた。
だからオストラヴァは、帰ってきた男の様子のおかしさに気付かなかった。

後ろから近付く足音に胸が高鳴る。
振り返って、その表情の強張りに気がつかなかったのは気が逸っていたからだ。
「あ、あの私、今度は……」
「余計なことすんなって言ってんだろ!!」

最後まで言わせずに、男の怒号。うまく頭が回らない。やっぱり勝手にいじったりして
怒らせたのか。
ああ、違う。きっと、こんなことばかりして使命を果たそうとしないからだ。
ちゃんと謝らなければ。謝って、その叱咤に感謝しなければ。
そう思うのに口がうまく動かない。
兜があってよかった。俯いてしまえば、きっとこの涙には気付かれないから。
「すみません……」
オストラヴァは、やっとそれだけ呟くと竦む身体を叱咤していつもの場所まで戻る。
いつもみたいに。この震えに気付かれないように。



「おいあんた……」
トマスの批難がましい目に、男は不貞腐れたように目を逸らした。
「……あいつ、あんたの荷物を整理してくれてたんだぞ。
あんたが使いやすいようにって」
一瞬、男の表情が揺らいだのは気のせいか。
しかし、その言葉を無視するように、男は荷物を投げ出した。
「これ、預かっといてくれ」
「あんた、これどうしたんだ!」
投げ出された剣と盾に、思わずトマスの声が大きくなる。
「ラトリアに落ちてたんだ。……あいつんじゃねぇよ」
そう、あいつんじゃなかった。どうかしてる、こんなことで動揺するなんて。
橋の上にあいつの姿がなくて、心臓が止まりそうになっただなんて。

あいつが俯くほんの一瞬、泣きそうな目が瞼に焼き付いて。
しかし、それを見た男の泣き出しそうな顔は、涙にかすむオストラヴァの目に
映らなかった。
813それでもその灯を希望と呼ぶなら 05/10:2011/03/15(火) 00:37:27.67 ID:25P1PdE3
真っ暗な、道。

王殿へと続く、王家の者しか知らぬ隠し通路。
こんな狭いところで襲われたら一溜まりも無い。
この通路を知るのは王家の者のみ。もし父がこの悲劇の黒幕でないのなら、と、
それだけを祈ってオストラヴァは進む。

表の道を進むのは早々に諦めた。恐ろしい赤目の騎士達。自分に敵うはずもない。
かつては幼い自分に剣を教え、一人では扱えぬ鎧を纏わせてくれた優しい人達だった。
彼らのソウルを奪い、悪魔の所業に手を染めさせたのが父だと信じたくはなかった。

暗闇の中、獲物を握り締めた手もじっとりと汗ばんで、酷く強張る。
この剣と盾こそが、今のオストラヴァの力を支えるものだった。
単に精神的な意味だけではなく、物理的な意味でもだ。

ボーレタリアのオストラヴァ、真実の名はアリオナ。ボーレタリアの王子である。
しかし、偽ったのは名だけではない。アリオナは、女児として生をうけたのだ。

年老い、後嗣を欲するオーラントは、生まれた児を王子として遇し、世を欺いた。
しかし、現実は非情である。長じるに連れ、アリオナの凡庸さは王を絶望させる。
せめて王者としての器があれば、女王として君臨することも可能であったかもしれない。
しかし、アリオナが持つ非凡さは、その優しさが精々であった。

男でないのならば、生まれてきたことが罪だったのだ。
否、男であっても平凡であるなら生まれてこないほうが良かったのだ。
遊学の途上、父の非行を知ったアリオナはそう思った。
だから今、アリオナはここにいる。
罪を購うため、せめて男として、王子として、父の前で死ぬために。

ルーンソードとルーンシールドと呼ばれる王家の秘宝は、またソウルの業に
まつわるものでもある。
そして、いかなる道理か?
これらの品には、本来であれば僅かな時間しか効力を保てぬソウルの業を、
その内に宿す力があった。今の男の姿と力は、これによって得たものだ。
よって、これらを手放すことは、このボーレタリアで非力な女となることは、
即時の死を意味する。そして贖いをすら果たせぬことを。
それでも今の力を以ってしても、すでに王子としての務めを果たすのは難しい。
どうか、せめてこの道を抜けることが出来さえすれば。どうか、神様。



暗闇の先には、赤い灯。
814それでもその灯を希望と呼ぶなら 06/10:2011/03/15(火) 00:42:40.21 ID:25P1PdE3
神殿に戻って、いつもの場所にあいつがいない。
またトマスのところへでもと目を走らせても、姿は無い。

「おい、あいつ……オストラヴァどうしたか知らないか?」
「どうしたって、王殿に行かなければって言って出発したぞ」
「何で……」

訝しげな目でトマスが見上げる。
自分でもバカなことをと思う。あいつは王殿への旅の途中で、
いつ旅立ったってそれが当たり前なんだ。
当たり前だけど。
「何で一人で……」

そんなことはわかってる。他人を詮索しないのがここの遣り方。
だから、今まで男は何も言わなかった。
だからずっといらいらして、だからあいつの前では何時だって不機嫌で。
今頃になってわかる。自分は、あいつが何時かいなくなるのが怖かったんだと。

ボーレタリア王城への要石に向かって走る。

どうして俺は何も言わなかった。
どうして一言、一緒に行こうと言えなかったんだ。
あいつは、友達なのに!
815それでもその灯を希望と呼ぶなら 07/10:2011/03/15(火) 00:48:10.98 ID:25P1PdE3
「行き止まり?!」
必死に走って、目も眩む高さから決死の思いで飛び降りて、目の前に現れたのは
非情な落とし戸、そしてその向こうでいやらしく笑う公使だった。
「助けて……!」
この場にその言葉を届ける相手などいないと分かっていても、オストラヴァは恐怖に叫ばずにはいられない。
騎士の重い斬撃を、辛うじて盾で受け止める。しかし受け止め切れなかった衝撃に腕が痺れる。もしかしたら、折れたかもしれない。感覚を失った両手は、命綱である剣も盾も支え切れなくなる。

「くっあ……ぁっ」
座り込んでしまったオストラヴァは死の予感に固く目を閉じた。荒い息が、
その声が、本来のものに返っていることにすら気付かない。
そして、その瞬間、騎士達の動きが変わったことにも。
触れた感触に、死を思ったオストラヴァは、続く衝撃を予想して身を竦ませた。
しかし、その手は機械的に、慣れた動きで鎧を外し始める。
剥ぎ取られたのならまだ、本能的に抵抗も出来たのかもしれない。
しかし、あまりにも自然な動きは、何が起きているのか理解する切っ掛けを与えなかった。
その思考をようやく現実に追いつかせたのは。

「あ゛あああああああああああああああ!!!!!!」

下肢を引き裂かれる痛みだった。



ちゅぷん……ばちゅ……

水音と浮かされたような甘い声。
犯され続けた体が責めに馴染まされるのに、どれだけの時間が必要だったか。
無限の時間の中、オストラヴァは早く終われと念じることさえ忘れていた。

始めには破瓜の域を超えて血を流した体も、口腔から白濁と共に流し込まれる
満月草に癒されては再び裂かれる繰り返しにいつしか順応してしまった。
比喩ではなく押し潰される乳房も、想像すらしなかった用途に震える後孔も、
快楽に繋がれて魂を汚していく。

膣と後孔を同時に突き上げられ、何度目かも分からない絶頂へ押し上げられる。
喉をふさぐ質量と粘質液にぱくぱくと動く唇は空気を取り入れられずにいる。
無理矢理に馴染まされた膣は犯し続ける男根にぴったりと添い、ぷりぷりと膨れ上がった
敏感な部分はその動きに否応無く晒され続ける。そこから降りることさえ許されなかった。
上下から注ぎ込まれる白濁にぽっこりとした腹を揺らされながら、青い瞳は薄曇りの空を
映す。きっとこんなものは、幾度と無く繰り返された悲劇なのだ。幾千の女達を襲った
悲劇を、こんな私の体で贖えるとは思わないけれど。男達を又、望まぬ罪に染めることは
苦しいけれど。

「う゛んぅう゛ぅぅぅーーー!!」

生き物とも思えぬ動きで、赤く染まった体が跳ねる。
もはや満月草の助けも及ばない、頭の中が焼き切れる感覚。
王子としての役目をさえ果たせないなら、この苦しみをせめて手向けに。

公使の下卑た笑い声が耳に響く。
このままソウルを失って、奴らのコマの一つに成り下がるのだろうか。
ああ、それも私に相応しい最期なんだろう。

──刹那、あの男に剣を振り下ろす自分の姿が脳裏をよぎって目を瞠る。
「や……っお願……!! ころし……殺…てくら……さ……!!」
回らぬ舌で叫んだオストラヴァの耳に届いたのは、公使の断末魔と、
落とし戸の上がる重い音。

目に映ったのは、あまりの惨状に呆然とする男の姿だった。
816それでもその灯を希望と呼ぶなら 08/10:2011/03/15(火) 00:50:24.84 ID:25P1PdE3
「ごめ……なさ……ご……め……」
こういうのはどうにも慣れない。
嗚咽を必死に抑えようとする女の姿に、声の掛けようも無い。
気でも失ってくれてたほうがラクだった。
肉体的には殆ど無傷なのがむしろ彼女の状況を悪化させている。
この状況にまともに向き合わされているわけなのだから。

ルーンソードとルーンシールドが目に入って、心臓が止まるかと思った。
見知らぬ女でほっとしてしまったなんて、どうかしている。
非情なのはわかっている。しかし、今は時間が無い。

「あんたさ、もしかしてオストラヴァって奴知らない?」
男の言葉に、辛うじて頭を横に振る。今、頭を働かせてはいけない。それは生き物としての本能だ。何か一欠けらでも理解してしまったら、壊れてしまう。
「あ、いや、詮索するつもりは無いんだ。
ただ、あんた、あいつと同じ獲物使ってるもんだから、もしかしたらなんか縁とか
あるかと思ってさ」
キリキリ痛む胸に耐えながら、男は一息に言い切った。その目に何か感情が浮かんだら、
続きを言えなくなってしまう。
「ごめん、ほんとは安全なとこまで送ってやりたいんだけど、そいつを探しに行かなきゃ
ならないんだ。神殿までの道なら、今なら危険な連中いないはずだから。
あいつ、バカで弱くて一人じゃ何にもできないくせに何時も一人で行っちまって、
だから俺が助けてやらなきゃ」

「あ……」
私はここにいます。叫びたい気持ちを必死に抑える。そんなわけない。こんなこと、
あるわけない。ずっと思っていた、こんな風に優しく話しかけて欲しいって。
これはきっと私の願望が作った夢だ。ダメだ、ダメだ。信じちゃいけない。
「いいえ、大丈夫です。ここからなら、帰れます」
自分の家ですから。表情を失ったまま、言うべき言葉を紡ぐ。
最後の言葉は、心の中で呟いた。
悲痛な、それでいてほっとした顔で男は言う。
「そっか、ごめんな。気をつけてけよ」
心配気に、それでも踵を返す男の背中に泣きそうになる。
あの人が行ってしまう。その姿が遠ざかる。
もうダメだ。我慢できない。

──待って。私はここにいます!
817それでもその灯を希望と呼ぶなら 09/10:2011/03/15(火) 00:52:56.59 ID:25P1PdE3
「そうだ! これ、やるよ」
叫ぼうとした瞬間、男が振り返った。
駆け戻ると、自分の指から指環を抜いて「待」の形に口をぽかんと開けたままの
オストラヴァの指に嵌めてやる。
「盗人の指環って言うんだ。ある程度離れた相手にはあんたの姿は見えなくなる。
これで少しは安全に帰れるよ」
「そんな大切なもの……」
慌てて指から外そうとするオストラヴァを制して言う。

「それに、あいつバカだから、こんなのつけてて俺に気付かなかったら困るから」

「ありがとう、ございます」
ああ、もう笑い方なんて忘れたと思っていたけれど。
「これを……もうこんなものしかありませんが」
只の綺麗な石。何の役にも立たないことは知っている。でもきっと、この人は何にも
言わずに笑ってくれる。私が笑って欲しいからって、そんな我が儘許されるはずも
無いけれど。ちゃんと役目は果たすから、だから、ひとつだけ。

「ありがとう。嬉しいよ」

ほら、ね?

女の見せた笑顔に、男もほっとした顔で笑う。
純粋なみかげ石。とても貴重な品だが、確かに彼女の獲物では使いどころは無いだろう。
もらってしまっても問題は無いと判断する。
なぜかこの石はトマスがたくさん持っているから、別に自分としても必要では
なかったのだが。受け取ったことでこんなに柔らかな笑顔を見せてもらえたのなら、
100万ソウルの価値ってやつだろ?
男は今度こそ安心して、その場を離れる。



遠ざかる背中だって、もう寂しくなんか無い。

そっと指環を外す。首からかけていた鎖に、ずっと身につけていた鍵と一緒に、通す。
だって、君に気付いてもらえなかったら、困るから。



焦る気持ちを必死に宥めながら道を斬り開く。
失う恐怖と焦りの中で、ひとつだけ灯った光。
すごくきれいな笑顔だった。
まずい、こんな状況で女に惚れるとか無いから。いくらなんでも相手に失礼だから。
神殿に戻るって言った。また会えるかな。
会えなかったらオストラヴァに文句言ってやらなきゃな。

きれいな笑顔だった。あいつとおなじ、青い目だった。
悲劇に埋もれたこの地に、それを照らすにはあまりにも小さな灯。
兜の隙間からいつものぞいていたのは、困った目、悲しげな目。
どこか遠くを見るような切ない目。
あいつの瞳が笑うのを見たいと思った。この世界にたったひとつ灯る光を。
818それでもその灯を希望と呼ぶなら 10/10
世界は悲劇だ。

もしかしたら、父の本意ではなかったのかもしれない。
それはオストラヴァに残された最後の希望。たった今打ち砕かれた希望だ。

何故まだ私は生きているんだろう。こんなところでうずくまっているんだろう。
答えは簡単、たったひとつ。ボーレタリアの王子として、この鍵を、古い伝説の剣を
新しい英雄に託す。それがオストラヴァに残された最後の使命だから。

けれど、ひとつだけ、自分の願いを叶えてもいいだろうか。否、許されるはずが無い。
大罪を犯した者の子として、この地を救わねばならぬ立場にありながら、何ひとつ役目を
果たすことが出来なかった自分にそれが許されるはずも無い。けれど、どんな罰が
与えられようとも。お願いだから、もうひとつだけ。

「ああ、君ですか…この上に、父がいます」

あの人が来ることに、なんの疑いも持たなかった。

「いや、父、オーラントの姿をした、ただのデーモンでしょうか」

あの人はいつも必ず来てくれた。

「真意を問い、諌めようと、無謀な旅を続けてきましたが、独りよがりの茶番だったようです…」

どんな時もちゃんと間に合ってくれた。

「お願いです。父を、殺してください。あれはもう、人の世に仇なすものでしかありません…」

だから今、オストラヴァは嬉しかった。もう一度会えたから。

「これを…。ボーレタリア霊廟の鍵です」

この世界に残された最後の希望。わたしの、たったひとつの灯。

「霊廟には、父の剣、ソウルブランドと対をなす、デモンブランドが祀られています」

自分のためでなくても、ただその使命を全うしているだけだと知っていても、嬉しかった。

「それで、父を…」

神様はやっぱりいるのかもしれない。
もう立ち上がる力なんて無いと思っていたのに、不思議な力で立ち上がる。
あの人の手に、自分の手をそっと重ねた。ごめんなさい。指環をあの人に返したいだなど、
この期に及んで自分の望みを叶えようなど、なんと罪深い魂だろう。けれど、この身を
何に堕とそうとも、どうかこれだけ。ひとつだけ。

一瞬戻る視界。驚いたような、君の顔。それはそうだろう。

だって、今、私、





──きっと笑ってる。