【田村くん】竹宮ゆゆこ 30皿目【とらドラ!】

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247名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 15:16:49 ID:v234Bb/w
174さんの作品はモテるということは修羅道であることを教えてくれる
248名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 16:59:12 ID:ROmtN3TW
>>241 GJ! 続き早くて感激ですw
まさかヘアピンがあーみんの所に行くとわ・・・・・
大河の反応が気になりますな〜
249名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 19:12:00 ID:LJqEB3mN
>>224
GJ!紆余曲折に何があったか激しく気になるw
いいね、こういう後日談。思わずニヤニヤするよ
てか持ち回りで共有される竜児こそ真のヒロインだろww

>>246
174さんは大河好きじゃね?
大河視点アフター書くくらいだし
250名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 01:39:53 ID:NUFQ4B9+
×××ドラ!の竜児は、いったい何人の女に子供産ませてるんだ?イスラム教徒もビックリだなwww
淡々とした文章で進むから設定のとんでもなさを忘れそうになるw

何はともあれ超GJ!!
251名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 04:06:35 ID:Z9k9GSzQ
順番は×××ドラ!×iでの描写から
やっちゃん、大河、実乃梨、亜美ちゃん、会長、麻耶&奈々子様、独神、さくら&書記女子、メイド
ざっと11人とインコちゃん?www
両手でも足りねぇとかw誠かよw

まさかこれヒロインズだけじゃなくてマミーズにまで手出したりとかしてないよね?
252名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 04:28:52 ID:zh2Rjt9O
ん?過疎か?
253名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 12:10:52 ID:fDQ4QXVI
【レス抽出】
対象スレ:【田村くん】竹宮ゆゆこ 30皿目【とらドラ!】
キーワード:田村



抽出レス数:1

馬鹿な……
あとsageろ
254翼をください:2010/03/28(日) 00:07:30 ID:Vs142lBO
投下します。
 翼をください #3
※注意
・進行速度の関係上、原作よりもアニメ版をベースにしています。
場面:アニメ第20話終
エロ:なし
以下本編
255翼をください:2010/03/28(日) 00:12:25 ID:Vs142lBO

 翼をください #3




 †

 竜児の不安とは裏腹に、大河が手乗りタイガーたる本領を発揮する事はなかった。
 かと言って、安心できるわけでもなかった。
 朝からずっと大河の機嫌が悪い事くらい、竜児には手に取るように分かったし、クラスメートも怯えている。
 大河は、一定の間隔で亜美を睨み、それから竜児を睨むといった行動を授業中も続けている。
 しかし、とくに大きな衝突もなく、あくまで表面上は何事もなく授業が消化されていく。
 今は、数週間後に控えた修学旅行での班を決める時間で、北村の主導でぱっぱと決められていく。
 竜児の班は、実乃梨、大河、亜美、北村、春田、能登、香椎、木原の9人となった。
 唯一、木原麻耶だけはこの班割に不満そうな顔だが、それを言い出せない空気があった。
 木原には、大河の漏らす猛虎オーラにびくびくして、不満を飲み込む以外に道はなかった。
 そんな爆弾を抱えたような緊張感の下、その日は終わった。
 
 放課後。
 帰り支度を済ませ、席を立とうとした亜美の前に大河が立ちふさがった。
「話がある、来い」
 腕を腰に当てて、凹凸に乏しい胸を傲岸に反らしている。
 そんな大河に、ふふ、と亜美は挑発するかのような笑みを浮かべて、
「結構、我慢できたじゃない。成長したわね、チビトラ」
 二人の間にバチバチと火花が散ったのを、まだ教室に残っていたクラスメートたちは、確かに見た。
 亜美は、大河の我慢を試していた。放課になってからも、色々時間を潰して帰り支度もせいぜいゆっくりと行っていた。
 既に教室には、殆ど生徒が残っていない。彼らは、みな、部活に所属していない暇人ばかりである。
 先に視線を反らしたのは、大河の方だった。
 とはいえ、別に逃げたわけではない。こうして睨みあいをしたところで、問題は解決しないと思ったからである。
 長いふわふわの髪をなびかせながら踵を返し、
「……良いから、来い」
「はいはい」
 亜美は、鞄を持って大河の後に続く。
 途中ではたと立ち止まり、
「そうだぁ、高須君。良かったら、今日早速お呼ばれしても良ーい?」
 教室の中で、態との様に大きめな声で。媚びるような表情も作って。
 何となく教室に残り、二人の様子を窺っていた竜児は、
「あ、ああ別に、いいけど」
 と、困惑気味に肯いた。
 正直こんな事態の中で、そんな事を言い出す亜美の気が知れなかった。
「やったぁ。じゃ、校門のところか下駄箱で待ってて。すぐ、済ませるから」
 約束だからね。亜美がそう言うのと同時に、乱暴にドアが開けられる音が教室中に響いた。
 数人残っていたクラスメート全てが、びくりと肩を震わせた。
 いや、亜美だけは相変わらず薄く笑っているだけである。
 暫く、ドアのところで亜美を威嚇していた大河だが、亜美が用事を終え大河の傍へ来るのを見て、再び歩き出した。
 大河を先頭にして、二人並び教室を出て廊下を進む。
「で、どこにつれてくつもり?」
「……」
「フン、だんまりかよ」
 それから先は、二人とも無言で進む。
 廊下を渡り、階段を下りて。
「ちょっと、外まで行くワケ?キナ臭くなってきたわねぇ」
 態々靴に履き替えて、昇降口を出た。
 中庭を突っ切り、やがて行き着いた先は、校舎の裏だった。
 暗く、じめじめした印象のあるこの場所は、ほとんど人が寄り付かない。
 告白にすら使われない様な。つまりは、そんな場所である。
「とっと、いくらなんでもベタすぎじゃね?亜美ちゃん、リンチされる様な事した覚えないんですけどぉ」
256翼をください:2010/03/28(日) 00:14:08 ID:Vs142lBO
 大河が不意に立ち止まり、亜美と向き直った。
 二人の間は約10メートル弱。殴りかかるには長く、逃げるには短い間合いだった。
 大河は下から、亜美は上から、お互いの視線が交錯する。
 暫く、お互い無言のまま時が過ぎる。
 二人の口からは、定期的に白い息が上がっている。
 口火を切ったのは、矢張り亜美の方からであった。
「それで何の用?高須君待たせてるから、早く帰りたいんですけど」
「アンタ、何のつもり」
「何って、なにが?」
「惚けんじゃないわよ。その、ヘアピン。何でばかちーが持ってるの」
「ああ、これ」
 亜美は、自らの髪を飾るそれに触れた。
「高須君に貰ったの。ちょっと子供っぽいかもしれないけど。でも、亜美ちゃん元が可愛いし、やっぱ何つけても似合うわぁ」
「……返せ」
「はあ?何で、アンタに返さなきゃいけないワケ?これ、チビトラのじゃねぇだろ」
「……返せ」
「い、や」
「……返せ」
「シカトかよ」
 はぁ、と亜美は嘆息。
 大河は、亜美と話すつもりはないようだった。
「ちっ、どいつもこいつも」
 たまらず舌打ち。
 ――誰も、あたしの話なんて聞いちゃいない。
 しかし、聞こうとしないなら、声を大きくすればいいだけ。
 あたしは、変わると決めたのだ。あたしの望むあたしに。
 亜美は、大仰に肩をすくめて、首を振った。
「で、これは、誰のための行動?」
「……もちろん、みのりんと竜児のためよ」
 虎の気まぐれか、気になる事があったのか、大河は、亜美と会話する気になったようだ。
 しかし、その小さな体の背後では、怒りの炎がメラメラを燃え盛っている。
「ばかちーには言ったよね。あの二人は、絶対に両思いなの。でも、色々あって――」
「――色々じゃねぇだろ」
「……」
「てか、何でぼかしちゃうかなぁ。そこは、大事なとこだと思うんだけど」
 亜美は、腰に手を当てて詰るように言う。
「竜児が振られたのは、自分のせい。そう、はっきり言いなさいよ」
 きん、と空気が一気に冷えた。
 大河の唇が微かに震えた。しかし、結果は、大気をわずかに震わせただけ。
 此処から遠く。グラウンドの方から、部活中の生徒達の声が聞こえる。
 ふぅ。
 大河の吐息が二人の間に響いた。
「そうね、そう。認めるわ。私のせいで、竜児は振られた。みのりんはきっと、私達の事を誤解してた」
「ちげぇよ」
 先程から茶々を入れてくる亜美に、今度は大河が呆れ顔だ。
「もう、ばかちーは、何が不満なわけ?」
「それは誤解じゃない。実乃梨ちゃんは事実に気付いただけ。違う?」
「は?どういう……」
「タイガーの言うとおり。実乃梨ちゃんは、高須君に惹かれている。それなのに、高須君の告白を蹴った。それは、アンタに遠慮したから」
「だから、そう言ってるじゃない。さっきから、何なの」
 絶え間ない応酬を続ける二人。
 男子のソレとはまた違い、静かなものである。
 しかし、それは、嵐の前の静けさかもしれなかった。
「分からない?そっか、チビトラも高須君ほどじゃないけど結構バカ。でも、亜美ちゃん、今日は機嫌がいいから特別に教えてあげる」
 早く終わらせて、高須君と買い物に行かないといけない。既に亜美の心は、ほぼ竜児と過ごす時間に向けられている。
 その後に控える修学旅行で最大の効果を得るために、今のうちから竜児の心に自分の存在を意識させておかなければならない。
 そのためには、一秒だって無駄には出来なかった。
 そう、こんなじめじめした所で油を売っているような暇はないのだ。
257翼をください:2010/03/28(日) 00:15:08 ID:Vs142lBO
 
 もったいぶったような間を開ける。不穏な空気を感じたのか、大河が身動ぎをした。
 きっと、大河自身気付いているのだろう。
 気付いておきながら、見ないふりをしているのだろう。
 それは、湖のほとり、常春の麗らかな日射しの中、ゆりかごに揺られながら眠っている。
「タイガー、アンタは、高須君の事が好きなのよ」
 亜美は、湖に小さな石を放り投げた。
 最初は小さい波紋が、次第に大きくなっていく。
 はは。大河が笑って切り捨てようとする。 
 しかし、彼女は気づいているだろうか?その声は、微かに震えている。
「ありえないわ、ありえない。何で私がバカ犬を好きになんないといけないのよ」
「……」
「ばかちーには言ってなかったかしら。私、実は、北村君の事が好きなの。って、何で私、バカチワワなんかにこんな事言ってるんだろ」
 まくしたてる様に言う大河。
 彼女を見つめる亜美の表情は、
「……その目は、何」
 宿っているのは、哀れみや憐憫、同情や共感。そんなところだろうか。
 冗談じゃないわよ。大河は呟く。そんな目で私を見るな。
 それは、大河にとって何よりの侮辱に近かった。
「恥ずかしがる必要はないわ。あたしにも、アンタの気持ち、分からないでもないから。誰だってそう。皆、自分の事が一番分かんないだよね」
 亜美の言葉は、真に迫るようなものがあった。
 彼女も、身をもって思い知った事だから。
 他人じゃない。何を考えているかなんて、何時だって筒抜けだ。
 何も言わなくても、何時だって通じ合っている唯一の存在。
 人が、人生の中で最も長く一緒に過ごす。健やかなる時も、病める時も。何時だって、すぐ傍に。
 けれど、それなのに、否、だからこそ。
「でも、タイガーは気付いてるよね、自分の気持ちに。気付いてて、ふたをしてる。今だって、ここにこうしてあたしの前に立っているのは、嫉妬のせい。
 高須君があたしなんかに、髪飾りを渡したのが気に食わないんだ。タイガーは高須君の事が――」
 ――言葉の途中で、亜美は、一歩後ろに下がった。
 それは、殆ど勘に近かった。
 ぞ、と一瞬。時間にして刹那。過った悪寒に従った、正に動物的反応に近かった。
 そしてそれは、結果的に正しい判断だった。
 一陣。
 風をひきつれて、長い髪を翼のようになびかせながら大河が飛び掛かって来た。
 亜美は、声を上げる間もなく、何とかかわすことができた。
 大河の目は、怒りに大きく見開かれている。心に湧いた小さな動揺を、更に大きな怒りで覆い尽くしている。
 亜美は、冷や汗が背中を伝うのを感じた。
「っ!何すんだよ。顔に傷ついたら、まじシャレになんねぇんだけど」
「っざけんなぁ!勝手に、勝手に、人の気持ちを決めつけんな!」
「……」
「何も知らない癖に、知った風な口をきいて、何様だぁ!」
 今にも第二波を放ちそうな大河が叫ぶ。
 しかし、その剣幕にも亜美は、はん、と鼻で笑って見せた。
「傷つかないように、壊れないように、おててつないで、仲よしこよし。でも、結局3人共傷ついて。ほんと、自己陶酔。自分たちの役割を演じて、それで満足してる。
 出来の悪い芝居みたい。気味が悪いのよ。そんな、幼稚なおままごとに、あたしを巻き込まないで」
「黙れ!」
「ほら、直ぐそうやって目を反らす、耳をふさぐ。それが、傷を広げているのに、気付いてないの?」
「だまれ、だまれ!」
「……いいけどね、別に。」
 もう用はないと言わんばかりに、亜美は大河に背を向けた。
 もしかしたら、と背後を警戒するが、大河が襲いかかってくるような事はなかった。
 ただ、大河の強烈な視線だけが、ひしひしと伝わって来る。
 亜美は、ゆっくりと足を踏み出した。
 高須君は、未だ待ってくれているだろうか。待ってくれているだろう。
 自然、速足になりながら。
「ねぇ、タイガー、何時まで娘役なんてやってるつもり?」
 一言、言い残して亜美は、校舎裏を去った。
 そして、一人、大河だけが取り残される。
258翼をください:2010/03/28(日) 00:18:04 ID:Vs142lBO
「だめじゃん……」
 俯いて、気付かぬうちに握りしめていた拳を開いた。
 じん、と血が通う感覚。
 何処からか、泣き声がする。眠ったはずの赤子の声だった。
「……御利益ないじゃん、お願いしたのに」
 ゆりかごを揺らす。子守歌を歌う。
 眠れ。ゆりかごが、墓場へと変わるまで。
 これじゃあ、強くなれない。
 ――翼が欲しい。
 そして、誰も届かない、孤高の空へ、空へ。
 そのまま。誰にも縋らず。ひとりで。

「あー、もう。何やってんだ、あたしは」
 大河と別れて直ぐ。亜美は、後悔していた。
 ――調子に乗り過ぎた。途中から、プッツンしていた感がある。
 さっきまで自分が口走っていた事を思い返すと、羞恥に死にたくなる。
 間違いなく、亜美の黒歴史となる出来事だった。
「ったく、これじゃ、スマートでパーフェクトな亜美ちゃんのイメージが台無しだっつの」
 普段は多くない独り言が増えているのは、きっと、罪悪感のせい。
 亜美自身、やり過ぎたという気持ちがあった。
 偉そうに高説垂れていたような気もするが、自分だって五十歩百歩だったはずだ。
 今まで溜まった自分自身への鬱憤をぶつけてしまった。つまるところは、八つ当たり以外の何物でもない。
 だって、悔しかったのだ。この期に及んで、自分を除者にしようとされている気がして。
 そして、少しだけ。大河が傷つくところをこのまま見たくない、そう思ったのだった。
「あー、もう。うぜぇ、うぜぇ」
 亜美は、頭をガシガシとかく。
 ふと、その手が髪飾りに触れた。手を止めて、ゆっくりとそれを撫でた。
 心が落ち着く気がする。満たされていく。
 大河には、機会があったら謝ればいい。
 今は、それよりも竜児との夕飯の方に集中する必要があった。

 †

 日曜日の午後。
 修学旅行に必要なしおりを来週までに作成する必要があると言う事で、竜児たちは大河の部屋に集まっていた。
 集まっているメンバーは、修学旅行で行動を何かと共にする男子4人、女子5人の9人組である。
「ふぁー、ひろーい、ちょっと、凄くないこの部屋!?」
 大河の広すぎる部屋をみて、木原麻耶が唖然とした風で呟いた。
「本当、家賃、幾らくらいなんだろう」
 と、やけに所帯じみた簡単を漏らすのは、香椎奈々子である。
 能登が大きな窓から外を眺めながら、
「高須んち、となりなんだっけ?」
「え、高須君もこんな部屋に住んでるの?」
 木原の尊敬のまなざしを浴びながら、高須は肩を落とすように嘆息した。
「俺んちは、この隣のマンションだ」
「えー、あのぼろっちぃの?」
 何とも、通常ならば言い辛く、遠慮するような事もさらりと言ってしまう春田。
 さすがに竜児に悪いと思ったのか、春田、このバカ、と能登が春田の頭を叩いた。
「って、何すんだよ、いきなりー」
「お前な、ちょっと無神経すぎ」
「いいって、能登。俺の家がぼろいことは俺が一番分かってるし。別に不便もないしな」
 竜児は、そう言うもののどうしても空気が悪くなってしまった感は否めない。
 そんな時、タイミングを見計らったかのように、北村が手をパンパンと二つ叩いた。
 皆の視線が自らに集まるのを待ってから、
「よーし、皆、早速しおりづくり始めるぞ!」
 そう言うと、皆が頷き、空気が和らいだ。
 北村は、大河に一言断ってから、リビングにあるガラステーブルの前に座り、鞄の中から資料や筆記用具を取り出した。
「一応、参考になるかと思って香この修学旅行の冊子と、幾つかの班のしおりを借りてきた」
「さすが大先生、グッジョブ!」
259翼をください:2010/03/28(日) 00:19:35 ID:Vs142lBO
 用意の良い北村を能登がほめたたえた。
 北村に続いて、皆がガラステーブルに集まり、各々腰を下ろした。
 既に、皆、和気藹藹のムードになっている。
 成程、これが北村の大橋生徒会長たる能力の一つであるのだろう。
 めいめいに北村が用意した資料に目を通し始めた。
「あ、じゃあ、おいらは紅茶でも入れ来るよ。家から、マドレーヌも持って来たんだ」
 作業のムードになりつつある所を悟った実乃梨が立ちあがった。
 勝手知ったる何とやらで台所へと向かう実乃梨を見上げていた竜児のわき腹を、大河がつついた。
 大河は、実乃梨を手伝って来い、という意図を顎でしゃくって伝える。
「え、あ、ああ、じゃあ、俺も――」
 手伝うよ。そう言おうとして、しかし、竜児の声は表に出せなかった。
 竜児よりも早く、立ち上がる者がいた。亜美である。
「――あたしも、お気に入りの紅茶とお菓子持ってきたから、手伝うよ」
「お?おう、んじゃー、あーみんいっしょにやろうぜぃ」
 実乃梨は、一瞬不思議そうな顔をした。正直、意外であった。
 しかし、それも一瞬で、実乃梨は、深く考える事なく頷いた。
 これも、実乃梨の美徳であると言えるだろう。
 しかし、そんな亜美を面白くなさそうな顔で、大河は見上げた。
 それを目ざとく察した亜美は、大河に対し、
「ごめんね」
 と、しかし、全くごめんねと思ってないような顔で、くすり。
 ぴんと、周囲の空気が張り詰めた。
 二人の様子を、木原や香椎、能登が緊張した面持ちで窺う。
 事情を全く知らない3人から見ても亜美と大河の険悪な空気は、この前から治っていないようにみえた。
「逢坂、パソコン使いたいんだが、電源は……」
 北村は、そんな二人の様子に気づいているのか居ないのか。
 北村に呼ばれて、大河は、亜美から視線を反らし、亜美も既に台所へ到着している実乃梨を追っていった。
「えと、テレビの裏だよ」
 さっきまでの事などなかったかのようにあっけらかんと、微笑を浮かべる大河。
 その大河の脇を、今度は竜児がつついた。
 竜児は、耳元に顔を寄せ、声をひそめる。
「おい、お前、川嶋と何かあったのか?」
「……」
 竜児に尋ねられ、大河はムッとした顔をする。何も知らないで、このバカ犬は。
「アンタ、ばかちーと夕飯一緒に食べたんでしょ。その時、聞いてないの?」
「え、ああ、アイツは何も言わねぇし。かといって俺の方からは、何か聞きづらかったし」
 ――ばかちーに聞きづらい事を、何故私に聞くのか。
 大河の決して長いと言えない堪忍袋の緒は、今のも切れてしまいそうである。
 何とか堪えて、大河は、平静を装う。
「別に、何でもないわよ」
「そうか?もしかして、あの髪飾りの事かと思ってたんだが」
 竜児は、今確かに地雷を踏んだ。
 大河のこめかみがひくひくとする。
 ぎろりと竜児を睨め上げた。
 その視線を受けて、う、と竜児はたじろいで、身を反らした。
 漸く、自分が余計なひと言を言った事を竜児は悟った。
 しかし、大河はそれ以上何かする訳でもなかった。
 それよりも、彼女には竜児に聞きたい事があった。
「……何で、あのヘアピンばかちーにあげたの?」
「そ、それは」
「あれ、みのりんへのプレゼントのはずじゃなかった?」
「わ、わるい。川嶋が、欲しいって言ったから。俺も、もう櫛枝に渡す機会はないと思って」
「なに、もう、みのりんの事諦めるつもり?」
「そ、それは」
 そんな気持ちが竜児の中に芽生えていないと言えば、嘘になる。
 竜児の見る限りでは、既に実乃梨と竜児の間にぎこちなさはなく、まるでイブの日の告白なんてなかったかのようである。
260翼をください:2010/03/28(日) 00:20:49 ID:Vs142lBO
 竜児は、実乃梨の気持ちをある程度悟っていた。
 ――きっと、櫛枝は、ずっと、このままの関係を望んでいるんだ。
 視線を落とした竜児に、大河は、
「そう、それならいい」
 竜児が答える前にそっぽを向いてしまった。
 話は終わりだと言わんばかりに、徐に資料を取ってペラペラとめくりだした。
 竜児も、大河に反論するわけでもなく暫く視線をさまよわせて、悔しそうに歯を噛みしめた。

 紅茶を入れるお湯が沸くまで、亜美と実乃梨の間には沈黙だけがあった。
 重苦しいものではないが、どこかよそよそしい。そんな沈黙。
 二人の立っている位置の間には、親しくもなく、かといって決して他人ではない間隔がある
 しかし、実乃梨は、それに気づいているのか居ないのか分からない相変わらず能天気な様である。
 一方で、亜美は、確実に気付いていて、けれど気にしていない風でうすく微笑みすら浮かべている。
「んー不思議」
「どうしたの?」
「いや、大河の家に使える食器があるなんて」
「実乃梨ちゃんは、タイガーの家に来た事あるんだ?」
「うん。といっても一年前の話なんだけどね」
「へえ」
 その間に何があったのか。亜美は、推測しようとして直ぐに止める。
 半年同じクラスになった程度の亜美には、限界がある。
 些細なことで隔たりを感じて、3人の絆の中に入れたわけではない事を悟り、自虐に唇を僅かにゆがめた。
「タイガーとは結構、長いんだ?」
「うん。もう、親友と言う言葉では言い表せないくらい」
「そっか。うん、確かにそうだね」
「お、あーみんにも分かる?」
「親友と言うよりは、親子に見えるかな。傷つかないように、壊れないようにって」
 壁に寄りかかり、亜美は足元に視線を落とした。
 足の指をぴくぴく動かしてみたりして。
 対する実乃梨は、首をかしげている。
 人差し指を頭に当てて、んーと唸る。
「分からん!あーみんは、時々難しい事を言うもんなー」
「そう?そんな難しくないと思うけどな」
 ただ、目を反らしてるだけで。亜美は、心の中で呟いた。
 当然、その言葉は実乃梨に届くはずもない。
「それにしても見違えたよ」
「?」
「この部屋、大河が私の部屋で何て言い出した時は、足の踏み場あるのかなんて思ったくらいなのに」
「へぇ、そんなに汚かったんだ」
 亜美もこの部屋に入る機会があったが、その時は、普通に綺麗だった。
「洋服とか、食べた物の殻とか、シンクはひどい有様だったし、もう凄かったよ。私が片付けようとしたら、別にいいって言い張るし。……これも高須君のお陰かな」
「ああ、ね」
 成程、そう言う事か。
 確かに、あの掃除好きの主夫ならば、嬉々としてやりかねない。
 視線だけで人を殺せそうなくらいの顔で、ぶつぶつ独り言を漏らしながら。
「あれ、でも、最近は大河のお世話、殆どしてないって聞いたけど。タイガーも変わったってことじゃない?」
「うん、でも、大河が一人で出来るようになったのも、やっぱり高須君のおかげなんだよ」
「……」
 そこで、暫く二人の間に奇妙な沈黙が広がった。
 とくとく、とお湯を注ぐ音が響く。
 向こうの方から、何やら楽しげに話しあう声も聞こえる。
 紅茶を淹れ終わった実乃梨は、よしいくぞう、とおどけながらお盆の上にカップと、亜美と実乃梨が持ってきたお菓子を入れた皿を並べた。
「さて、それじゃ、行こっか、あーみん」
261翼をください:2010/03/28(日) 00:21:19 ID:Vs142lBO
 お盆をもって振り返った実乃梨に、亜美はうなずいてから、
「そうだ、ね、これ、似合うと思う?」
「へ?あーその髪飾り。あーみんのお気に入りかい?」
「そうなの。どう?」
 ほうほう、と大げさに頷きながら、実乃梨は、亜美の髪を飾る銀色を眺める。
「んー、あーみんにはちょっと安っぽいか持って印象もあるけど」
 そこまで言って、ぐっと親指を立てて見せた。
「それなのに、そんなもの関係なく似合ってしまうのが、あーみんのすげぇところだな!」
「ふふ、でも……実乃梨ちゃんにも似合ったかもね」
 亜美は、意味ありげに笑ってみせた。
 
 それからは、特に大きな波が立つ事もなく。
 静かに、ほのぼのとした空気が流れていく。
 春田が、何処から引っ張り出してきたのか、フリフリした大河の服を無理やりに来てポーズを決めて見せると、大河が拳を震わせながらそれを追いかけていく。
 他愛もない追いかけっこに、皆、それぞれ抱えている確執や想いを隠し、暫し笑いあう。
 具をじっくりと煮込んだスープの様な。
 見えないけれど、飲んでみれば、きっと分かる。熱さに舌を火傷もしてみたりして。
 きっとこれを実乃梨は求めているのだろう。
 竜児は、紅茶を啜りながら、実乃梨をちらりと窺った。
 丁度彼女と目が合って、にこりと笑ってくれる。
 ――櫛枝と、すっと、このまま。
 口の中で小さく呟き、喉に骨が引っ掛かる。
 ずっと、このまま?
 竜児は、何気なく部屋を見渡した。
 小奇麗に、掃除された広い部屋。
 掃除にうるさい竜児からは、気になってしまうところもあるが、通常ならば十分綺麗である。
 そして、これは、全て大河だけの力で成し遂げられている。
 竜児が初めて大河の部屋に入った時は、目を覆いたくなるほどだったのに。
 ふと、胸にすとんと落ちるものがあった。
 そう、大河も、一人で頑張っている。
 それなのに、自分がこんな所で燻って、立ち止まっていていいのか?
 ――良くない。竜児は思う。
 そうだ。このままなんかじゃ駄目だ。
 自分の思いを、押し殺して、目を反らしてなんて良くない。
 振られるならば振られるで、実乃梨の口からはっきりと聞きたかった。
 それに。
 それに、告白してくれた亜美にも申し訳が立たない。
 竜児は、まだ亜美に、はっきりと返事をしていない。
 亜美は、返事はまだいいと言ったけれど、このまま、ずっと保留のままでいいなんて竜児は思っていない。
 実乃梨に振られた時の保険にしているみたいで、心地が悪い。
 贅沢な話だ。あの、誰もが目を見張る美しさと可愛さを兼ね備えた亜美が、保険だなんて。
 つくづく、自分には不釣り合いだと知る。
 ――どうして、川嶋は、俺を好きになってくれたのだろうか。
 それが竜児のイブの日からの疑問だった。

「よーし、こんなもんでいいだろう。皆、お疲れ様」
 しおりが形になり、北村が満足そうに柏手を打った。
「お疲れ様って、只話してばっかりだったけどな」
 能登が幾分か、申し訳なさそうに言った。
 そこに、木原が、
「そうよ、アンタ、全然役に立たない癖にお菓子はバクバク食べて。最悪」
 と、唇を尖らせた。
「ケッ、下心満載の誰かさんに言われたくねぇよ」
「何だとー!」
「ああ、もう、麻耶カッカしないの。能登なんか気にしちゃ駄目よ」
 毒を潜めながら、香椎が木原をなだめた。
262翼をください:2010/03/28(日) 00:21:54 ID:Vs142lBO
「はっは、それじゃあ、帰ろうか」
 そう笑う北村は、きっと何も気付いていないだろう。
 はあ、と亜美は、溜息をついた。
 ――祐作も相変わらずね。
 この鈍感さは、最早、有害ですらある。
 修学旅行。何かが、起こってしまう様なそんな漠然とした確信が亜美にはある。
 今日は、とても楽しい時間だったけれど、そう簡単には終わらないだろう。
 自分たちは子供じゃない。男と女。誰かに、惹かれずにはいられない。
 自分たちは大人じゃない。その気持ちをセーブして、耐え忍ぶには幼すぎる。
 皆、色んなものを考えて、行動している。
 その結果に、いちいち一喜一憂しながら。
 帰り支度を済ませ、ぞろぞろと部屋を去っていく。
 ふと、その中でひとり、未だテーブルの前に座っている亜美に春田が気付いた。
「あっれー。亜美ちゃん、帰んないの?」
「ほんとだ、どうしたの、亜美ちゃん」
 木原も首をかしげている。
「ちょっと、タイガーと話したい事があるから」
 大河が目を細める。
 緊迫した空気が戻ってくる。
 鈍感な春田と、北村以外の背に冷や汗が伝った。
「ふむ、逢坂と仲良くなったみたいで、何よりだ。あまり、逢坂に迷惑かけるなよ」
 北村は、ずれた事を言う。
「ハッ、こーんな可愛い亜美ちゃんのこと迷惑に思うやつなんて、いねえっての」
「逢坂、粗相をしたら叱っていいからな」
 そう言い残して、北村達は去って行った。
 去り際、竜児は、不安そうな一瞥を残していった。
 そして大勢が去った中、大河と亜美が取り残された。
 しんと痛いくらいの沈黙。かちかちと時計の針の音も聞こえる。
 亜美は、座ったままテーブルの上に残っているマドレーヌをパクリと口の中に放った。
 もぐもぐと、口を動かしている亜美に、
「太るぞ」
 と、先制の一撃を撃って、亜美の対面に座った。
 口に物が入っていて喋れない亜美は、ただ、肩をすくめた。
「で、話って何?一昨日、まだ言い足りなかったわけ?」
 テーブルに頬杖をついて早速切り出した大河に、亜美はごくりと喉を鳴らして、
「ううん、今日はそうじゃなくて」
「ふん?」
「まー、なんていうか、ごめん。一昨日は、あたしもちょっと言い過ぎたわ」
「へえ、ばかちーでも謝れるんだ」
「茶化さないで。こっちは結構本気なんだから。あたしも、最近奇蹟の連続だったから、調子に乗り過ぎちゃった」
「奇蹟?」
 聞きなれているようで、実はそう日常会話には出てこない言葉に大河は眉をひそめた。
 こう言うのは何であるが、亜美には余りに合わない言葉である。
「そ、奇蹟。周回遅れのあたしでも、間に合うかもしれない。そんなチャンスを貰ったってわけ」
「チャンス?」
 先程から、鸚鵡返しの大河に亜美は、おかしそうな顔をした。
 こんこん、と白魚の様なほそい指でテーブルを叩いた。
「あたしね、高須君の事、好きだから」
 何の前触れもなく、突然の宣誓。
 ひゅ、と大河は息をのんだ。
 は、今、何と言った?
「な、にを……」
 言葉を失った大河に対し、亜美は口を緩めない。
「理由なんてタイガーに言う必要はないから言わないけど、あたしは高須君が好き。本当は、伝えるつもりもなかったけど、既に高須君には告白もしてる。
 まあ、まだ、返事は貰ってないけど。今のところは、勝率高くないけど、このまま指をくわえているままのつもりもない。あたしは、後悔するつもりないから」
 そして、見つめ合う二人。
 静かな住宅街の防音性の利いたマンション。外からの雑音は全くない。
 亜美と大河、二人だけが世界から切り離されて。
263翼をください:2010/03/28(日) 00:22:20 ID:Vs142lBO
「だから、ごめん。あたしは、3人のおままごとを壊すつもり。今のうちに、謝っておくから」
 亜美は、ゆっくりと立ち上がった。
 そうそう、とまだ言い残した事があるのか亜美はその場に立ち止まっている。
「こう言う事になっちゃったけど、あたし、タイガーの事嫌いじゃないから。出来れば、仲良くしたいとも思ってるから」
 亜美の言葉に、大河は、まじまじと亜美を見上げた。
 さっきから、亜美らしくない発言ばかりだ。
 普段の亜美ならば、こんな事絶対に口にしたりしない。
 そんな大河の唖然とした顔に、亜美は、
「あたしがこんな事言うの、そんなに変?」
「……自分でもよく分かってるみたいじゃない」
「まあ、あたしには似合わない事くらい分かってるけど。だとするならば、恋があたしを変えたのかしら」
「……つくづく、似合わない」
「うっせえな。あたしだって、言った後に後悔したっつの。クソ、マジあたしどうかしてる」
 大河は、くすくすと笑い声を洩らした。
 その顔からは、あらかた険が抜けている。
 ねえ、ばかちー。呼びかけて、大河は立ち上がった。
 大河の視線は高くなるが、それでも等しくなる事はない。
「私は、恋のエンジェルだから、ばかちーの恋を妨害したりはしない。でも、私はあくまでみのりんの味方だから」
「……実乃梨ちゃんの、ねぇ。それで、アンタは、本当に、それでいいの?」
 亜美が真剣な目をする。
 その視線を受ける大河も然り。
 絡み合う視線。数秒の間が開いた。
 こくりと、大河は大きく頷く。
 そう、と亜美は、大きく息を吐いた。
 大河は自身の気持ちに気付いている。気付きながらも、敢えて目を反らすと、そう決めたのだ。
 亜美は、気に入らないけれどそれも一つの選択だろう。
「修学旅行。何もないまま終わりそうにないわね」
「……きっと皆にとっても、想いを遂げるための最後のチャンスだから」
 高校2年生でいられるのをあとわずかに残して。
 最後のチャンス。亜美にとっても、竜児にとっても。そして他の誰かにとっても。
 多くの人の想いを、爆弾のように抱えたまま、修学旅行のバスは走りだす。
264翼をください:2010/03/28(日) 00:24:13 ID:Vs142lBO
投下終了
お目汚し失礼しました
265名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 01:02:59 ID:k3MC6mlm
>>264
GJです!
あーみん可愛いなぁ。でも大河もカッコイイや。
修学旅行どうなるんでしょう続き待ってます!
266名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 01:03:24 ID:/+p2GyRz
>>264
純粋に面白い。GJです。これは実乃梨の参戦が楽しみですねぇ。
もっとも、亜美だけが前を見てるので、その時点でかなり有利ですが、
基本『ちわドラ』っぽいですから、それはそれでよし。
だだ、惜しむらくは素早い仕事の影に隠れて推敲が若干足りてない気配。
最初の投下に比べて、語尾の反復による平坦化と誤字が若干。
でも、そんなのを気にさせない話の展開の上手さです。 次も楽しみ^^
267名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 01:14:00 ID:CyfsXGv/
GJですよ。
268名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 10:07:47 ID:f3sfp4P8
>>264 GJ! 相変わらず素早い仕事ぶりです。

今までにない展開でこの先が楽しみですw
楽しみにまってますねw
269名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 12:49:50 ID:l1DkhBPx
>>264
GJです。楽しく読ませてもらってます

しかしこの勢いだと300行く前に次スレになりそうだw
270名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 14:25:34 ID:J7ddw4ui
竜児ハーレムものってどの作品がある?
271名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 14:48:22 ID:1nW448vA
174さんの作品ほぼ全般?
ハーレムというにはあまりに竜児にとって酷かもしれないが
272名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 16:19:54 ID:V9TlhZhG
>>268
下げろよニコ厨
これだからガキは困る
草民はvipで氏ね
273名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 16:44:35 ID:OpGHOza6
翼をください、GJです。
こう、三国志でいったら関羽がもし呉の裏切りに遭わなかったら・・・みたいな
見たかった展開にいけそうな流れで、実に自然でいいですね。

こっちの話でアニメ化してくれればよかったのにw
274名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 17:16:35 ID:AJ7TjsVf
174さんは確かにハーレム物(特にドタバタ系)の印象が強烈だけどそれだけでもなくね?
ほぼ唯一のやっちゃんSS書き手さんだし

何が言いたいかというとゆりドラっまだですかね?
275名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 01:17:34 ID:VlLqgsoz
日記もハーレムものかな?
復活待ってまーす!!
276名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 02:32:33 ID:J9dEYgCz
催促したらダメかもしれんが[日常のヒトコマ]も続き待ってる。
奈々子視点で大河が出てこない話だけど、好きな作品なんだ。
277翼をください 4:2010/04/01(木) 16:56:03 ID:0UhxovYI
投下します
翼をください #4
※注意
・進行速度の関係上、原作よりもアニメ版をベースにしています。
場面:アニメ第21話付近(修学旅行一日目)
エロ:なし
以下本編
278翼をください 4:2010/04/01(木) 16:56:55 ID:0UhxovYI

 翼をください #4







 修学旅行当日。
 竜児たちは、今日から2泊3日のスキー旅行を行う。
 朝、高校を出てから、バスの中でゆられる事、早2時間弱。
 朝からハイテンションでバスに乗り込んだ生徒たちであるが、一向にテンションが下がるような気配がない。
 若いっていいわねぇ。特に問題児の揃ったクラスだと世間から専らの認識である、2-C担任のゆりは、多少卑屈な気分で窓の外を見やった。
 あれほど、沖縄じゃなくなった事にブーブー言ってたくせに、ゲンキンなものね。小さく呟くが、車内の喧騒にもみ消されてしまう。
 窓の外は、白い帽子をかぶった山がちらほらと覗いているが、最初こそ、雪だーという声がいくつかあげる者も居たが、今は興味の外の様である。
 私も十数年前はあんなだったのかしら。ゆりは、ふとそう考えて、そのせいで自分の年を再認識してしまい、落ち込んでしまう。
「ふふふ、精々今の内は楽しんでおく事ね。人生、楽しい事より苦しい事の方が多いんだから」 
 終いには、ぶつぶつと呪詛を詠うゆりであった。
 最前列に座るゆりには、担任として生徒達を監督し、律する責任があるのだが、半ば放棄してしまっている。
「ねえねえ、何かユリちゃん先生の目が怖いんだけど」
 そんなゆりを木原が見つけた。
 木原の隣に座る香椎も、ちらりとゆりの様子を窺って、
「ほんとだ。どうしたんだろう」
「まあ、先生なんだから修学旅行なんて、珍しくないんじゃない?」
 そう言ったのは、木原と廊下をはさんで隣に座る亜美で、ゆりの姿を見ようともせず鏡を覗き込み、髪を弄りながら如何にも興味なさげである。
「独神もこんな所に来ている場合じゃない、って思ってるんじゃね?」
「ば、バカ!?」
 春田が、へらへらと無駄に大きな声でそんな事を言うものだから、隣席の能登は、慌てて春田の口をふさいだ。
 冷や汗をかきながら、恐る恐る前の方を窺うと、
「ゲッ!」
 ちょうど後ろを振り向いていたゆりと目があった。
 何と言うか、物凄い形相だった。
 日頃竜児と付き合って、そういう顔には慣れている能登ではあるが、思わずビビってしまった。
 そう、まるで初めて竜児を見た時と同じような恐怖を感じた。
 人の顔を見て、殺られるっ!?と思ったのは久しぶりの事だった。
 能登は、咄嗟に前席の影に隠れて、
「ふざけんな、お前のせいで何か俺が悪いみたいになってるじゃんか」
 キンタマ縮みあがったぞ、と春田の頭を小突いた。
 少々力がこもってしまったのは、能登の感じた恐怖を鑑みれば仕方がない事だと言えるだろう。
「いってー。あにすんだよぅ」
 小突かれた頭を抑えながら、春田が不満を漏らした。
 その目が涙目になっていることからも、能登の必死さが見て取れた。
「自業自得だろ!バスから降りた時を考えると、雪山について欲しくなくなるじゃないか!」
 能登は、器用にも声を抑えながら怒鳴り、もう一発拳骨を春田の頭上に落とした。
 今度は、一発目よりも威力は弱いが、それでも痛いものは痛い。
 何故自分が殴られているのか、殆ど理解していない春田は、
「さっきから、能登は俺のこと嫌いなんかよ!?」
「たった今嫌いになったわ!」
「な、何でさー!?」
「自分の胸に聞いてみろ!」
 能登の言葉に、バカ正直にも春田は自分の胸に手を当てて、眼を閉じた。
 ぶつぶつ呟いているのは、実際に胸に聞いているつもりなのだろう。
 アホだ、コイツ。能登の心の中に、春田と友人になってから、もう何度目か分からない想いが過った。
279翼をください 4:2010/04/01(木) 16:58:13 ID:0UhxovYI
「なに二人で漫才してるわけ。バカなの?」
 そんな二人の言動に、木原が眉をしかめた。
「ぐ……」
 自分にも思うところがあるのか、能登が苦虫をつぶしたような顔をした。
「元はと言えば、木原が……!」
「何よ。人のせいにしないでくれる?」
 木原と能登が睨みあう。
 最近になって、二人がこんな風に対立する光景が多くみられるようになっている。
 そのせいか、皆いつもの事だと取り合おうとしない。
 余りにも分かりやすい二人の態度のせいで、その原因も大方の人間が察していた。
 亜美は、相変わらず鏡の中の自分に夢中であるし、香椎は、二人に呆れたような顔をしながらも口を挟もうとはしない。
 能登については、自分も能登と共にバカにされているということすら分かっていない。
「ははは、二人とも、最近仲がいいなぁ」
 そうやって呑気に笑う北村は、自分が燃料を注いでいる事に気付いていない。
 かあっと木原の顔が朱に染まる。
 それは羞恥によるものではなく、主成分を怒りが占めていた。
「そ、そんなっ!そうじゃなくてっ!」
 声を荒げ、しかし言葉が続かない。
 違う、そうじゃなくて。一番仲良くしたいのは、ううん、もっと先の関係になりたいって思っているのは――。
 そう言えればなんと楽だろう。けれど思うだけで、言葉にはなってくれない。
 それは、魔法の言葉だ。
 唱えれば最後、今までの関係を良くも悪しくもガラリと変えてしまう。
 今の木原には、その言葉を唱えるための勇気がどうしても出ない。
 敵はとても強力で、鈍感で。この魔法の言葉以外に、攻略方法はない。
 唱えて倒すか、倒れるか。正に、諸刃の刃だ。
 強力なライバルもいる。自分とは、全然違う孤高の虎。
 あの小さな体の一体どこにそんな力があるのか、彼女は、媚びず省みず。ただ、前へ前へと突き進んでいく。
 思い出すのは、あの日の事。北村のために前生徒会長へ殴り込みをかけた、あの日の姿。
 ぼろぼろになりながら牙を剥いて。たった一人のために、叫び続けた。
 ……きっと、まるおが好きになるのも、ああいう――
「――麻耶」
 思考の海に溺れかけていた木原を救ったのは、手にのせられた柔らかい感触と耳朶を打つ聞きなれた声だった。
 視線を落とすと、香椎の手が自分の手に重ねられている。その拍子に、涙がこぼれ落ちそうになるのを感じた。
「あ……」
 そこでようやく自分が、涙目になりかけていた事に気付いた。視界がぼやけそうになるのを、木原は何とか堪える。
「お、おい、木原。大丈夫か?」
 突然俯いてしまった木原に、心配そうな北村の声が掛かる。
 木原は、その声に応える事が出来ない。顔すらあげる事ができない。
 今、北村の顔を見てしまったら、きっと泣いてしまう。
「……ちょっと、バス酔いしちゃったみたい。ほら、麻耶、席変わろう。窓側の方がいいわ」
 香椎は、木原の背中をさすりながら彼女と座席を交代した。
 ここなら、斜め前に座る北村から木原の姿は見えない。
「ごめんね。ありがとう、奈々子」
「いいのよ」
 首を振り、香椎は木原の背中を撫で続ける。
 泣かない、泣かない。
 木原はそう自らに言い聞かせながら、ぶるりと背中を一度震わせた。
280翼をください 4:2010/04/01(木) 16:59:25 ID:0UhxovYI
 そんな木原の姿を眺めていた亜美は、そっと溜息をついた。
 目的地に着く前からこれじゃ、先が思いやられる。
 亜美にとって木原は、親友と言っても良いほどの位置に居る少女だ。
 だから、亜美にも木原を助けてあげたいという気持ちは、少なからず存在する。
 けれど、今の亜美に人の事を考える余裕は正直なかった。
 申し訳ないとは思うけれど、自分の事で一杯一杯なのだ。
 パタンと、手に持った鏡を畳む。
 今自分が座る、二つ前の席の一つに竜児は座っている。
 竜児は、今朝からどことなく緊張した様相であった。
 鋭い目を更に研ぎ澄ませて、まるで何かを決心しているかのような。
 決心。
 それが一体何なのか、亜美には予想できてしまう。
 予想できて、彼女の胸の中には、ぐるぐるとたくさんの感情が渦巻いている。
 それは、焦燥や不安、そして僅かの期待。
 彼が、本当に振られてしまえばいい。そんな最低な期待。
 けれど、一方で亜美は、その結果はないだろう、と思っている。
 実乃梨は、今日もいつもの何を考えているのか分からない笑顔。
 寧ろ何時もよりテンション高めに、さっきから癇に障る大きく無邪気な声で隣の大河と喋り続けている。
 彼女が何を考えて、竜児の告白をなかった事にしようとしているのか。
 その理由は、亜美には分かるけれど理解は決してできないものである。
 淡い希望をもたせて、生殺しの状態を続けて。
 これでは竜児が、余りにも可哀相だ。亜美は、実乃梨が座っているであろう座席を睨んだ。

 †

「わあ」
 眼前に広がる光景に生徒達は皆、感嘆の声を漏らした。
 白銀世界。
 連なる尾根は、純白を抱き。
 なだらかな斜面に惜しみなく積もった雪は、キラキラと陽光を反射し煌めいている。
 既に一般客がその斜面を気持ちよさそうに滑っている場面を見て、生徒達の心が弾んだ。
 ごわごわして、実用一辺倒の原色のレンタルウェアには幾分の不満はあるものの、彼らの意識は既に雪を削りながら滑っている。
 一度集合させられ、教師の注意事項も耳半分である。
 教師もその事は分かってはいるが、もしもの事があれば困るので心ここにあらずの生徒達に言い確りと含めて自由時間を言い渡した。
 生徒達は、歓喜の声を上げて、白銀へと散っていく。
 バスの中では卑屈になっていたゆりも、何か吹っ切れたのか、職務そっちのけで楽しむ気満々である。

「……俺、スノボの方が得意なんだけどなぁ」
 そうぼやいて見せる春田だが、十分すぎると言っていいほどの腕前である。
「春田のくせに生意気だよ、生意気」
 こちらは、ごく平均。人並み程度に滑る能登がぼやく。
「だってさぁ、別にスキー限定にしなくてもよくね?」
 今回の修学旅行では、生徒はスキーのみに限られている。
 その理由は諸説あるのだが、
「スノボだと事故の可能性が増えないとも言い切れないし、レンタル料金も違うんじゃね?それに、教師も監督しやすいだろうし」
 このあたりが理由であるだろう。
 
「お、お、おー、行ける行ける。ハの字、ハの字」
 所変わって慎重にゆるゆると滑る二人組。
「中一以来だけど、何とかなるものね」
 木原と香椎である。
 春田や能登の様に、スピードを出してその爽快感を楽しむといった楽しみ方とはまた違ったものであるが、彼女たちも各々笑顔を浮かべている。
 木原も久しぶりに見る一面の銀世界に、バスの中では暗かった顔がはればれとしている。
 元々木原は、一つの事を引きずるような性格ではないのもあるだろう。
 それも木原の良い所だと、香椎は思う。
「来て良かったわね」
「うん!」
 などと、会話を楽しみながら滑る二人。
 成程、こういうスキーの楽しみ方もあるのだろう。
281翼をください 4:2010/04/01(木) 17:00:42 ID:0UhxovYI
「やっほー、わほーい」
 斜面を滑り終えた二人がはしゃぎ声を振り返ってみると、こちらに向かって滑ってくる影があった。
 ぶかぶかの服装でゴーグルなどの重装備ではっきりとはしないが、声からして実乃梨のようだ。
 実乃梨は、かなりのスピードと共に雪を散らせて走っている。
 そして、あっという間に二人の前まで来て、綺麗に止まって見せた。
 ふぉぉ、と木原は感嘆の溜息。
「凄い凄い。上手いねー」
「サンキューサンキュー。私には、体動かすしか能ないからのう」
「別に早く滑れなくても良いって思ってたけど、そういうの見ると羨ましいなー」
「おうおう、そんなにおだてても何にも出ないよー?」
 実乃梨は、てへへと照れたように笑う。
 彼女は、わざわざスキー板を脱ぐと、
「よし、じゃあ、ガンガン滑ってくるぜー」
 とリフトの方へ元気にかけていった。

「あ」
 不意に、木原の隣でにこにこ微笑んでいた香椎が、何かを見つけた様に呟きを漏らした。
「ん、どったの?」
 麻耶が聞くと、香椎が指をさした。
 木原がそれを追ってみると、
「……まるお」
 リフトの近くに北村が居た。
 香椎は、黙ってしまった木原を覗きこみ、
「……どうする?」
「……」
 木原は、暫く考えるそぶりを見せる。
 その瞳は揺れている。瞳を揺らすのは、動揺だろうか。
 怖いのかもしれない。木原の様子から、香椎は推測する。
 ――北村君は、鈍すぎるから。
 それに、北村は、未だに前生徒会長の事を引きずっているようにも見える。
 強力なライバルもいる。
 正直、麻耶の恋は、厳しいかも、と香椎は思っている。
「……行く。まるおと一緒に、リフトに乗る!」
「そう」
 決心したように木原は、拳を握った。
 遊んでいるような外見からは想像できないが、彼女はかなり奥手だ。
 今まで異性と付き合った経験もないという彼女。
 好きな人と一緒にリフトに乗る。たったそれだけでも、どれくらいの勇気を要したのだろうか。
 そんな彼女の勇気を、香椎は最大限に応援してあげたかった。
 二人が、北村に向かって歩き出した時、丁度前方に亜美が滑り降りてきた。
「あ、亜美ちゃん」
「ん?……やっほ、楽しんでる?」
「うん!それにしても、亜美ちゃんも上手いねー。すっごいスピード出てたよ」
「そんな、普通だよ、フツー」
 亜美は、ゴーグルを外し、困ったような笑みを作った。
 そして、何となく気になった部分に、
「……それよりも、も、って?」
 と首を傾げた。
「さっき櫛枝が滑ってたの」
「……ああ、実乃梨ちゃんはスポーツ万能だからねぇ」
 ソレしか取りえなさそうだし。そう言いそうになった口をふさぐ。
 どうしても実乃梨に対してギスギスした気持ちになる亜美であった。
「ね、それよりも、亜美ちゃんも付いてきて」
「……?どこに?」
「リフト。麻耶がね、まるおくんと一緒に乗るんだー、って」
 香椎の返答にリフトの方を見やり、ああ、と亜美は目を細めた。
282翼をください 4:2010/04/01(木) 17:01:52 ID:0UhxovYI
「でも、あたしの出来ることなんてないと思うけど……」
「一緒に居てくれるだけでいいの。お願い!」
 木原は、とうとう亜美に手を合わせて頭を下げてしまった。
 これでは、亜美も断るわけにもいかない。
 木原と香椎は、亜美にとって大切な友人となっていた。
 それどころじゃないんだけどな。小さく呟く。
 滑る途中で、亜美は竜児の姿を見つけていた。
 どうやらスキーは未経験の様で、何度も転んでいた。
 ――あたしがスキーを手とり足とり教えてあげよう。
 そう目論んで、気持ち速度を上げて滑り降りてきたのだ。
 直ぐに竜児の所に向かおうとしたところで、木原達に捕まってしまった。
 ま、それは、この後でもいいか。
 亜美は、そう思い直し、
「いいよ。それじゃ、急ごうか」
 と頷いた。
「わー、ありがとっ!」
 抱きついてきた木原の身体を受け止め、背中をぽんぽんと叩いた。
 多くは手助け出来ないけれどせめて、頑張れ、と気持ちを込めながら。

「まるお、一緒にリフトのろ?」
 リフト待ちしている北村のところへ行きつくと、開口一番、木原は北村を誘った。
 少しだけ声が裏返ってしまったのは、矢張り、緊張していたのだろう。
「別にいいが……香椎と乗らなくても良いのか?」
「リフトに乗ってるところ、奈々子と写メ撮り合いたいんだもん」
 ねー、と木原と香椎が首を傾け合い、声をそろえた。
「ふむ、そう言う事なら別にいいが……」
 よし、と木原は心の中でガッツポーズ。
 たかがリフトに一緒に乗るだけ。
 それでも彼女にとっては、ライバルとの差をつける大きな一歩だった。
「あーあー、嘘ついちゃってまあ」
 浮かれかけていた木原であるが、思わぬところで邪魔が入った。
 木原達の直ぐ後ろに居た能登だ。
 彼の姿を見とめ、木原があからさまに嫌そうな顔をした。
「なに、何か用?」
 木原がつっけんどんに尋ねると、
「おまえら、割り込みなんですけど」
 と、能登も負けじと木原を睨んだ。
「――っ!」
 正論と言えば、正論の能登の言葉に一瞬言葉に窮した木原だが、
「うるさい!」
 と、声を荒げた。
「何でお前がしゃしゃり出てくるワケ?どーして私の邪魔すんの?まじウザいんですけど、ウザい、ウザい、ウザい、ウザい!」
 理屈もへったくれもない怒涛の反撃に、能登はうろたえるものの、ぐっと歯を噛みしめた。
「木原こそ、身勝手してるじゃんか。自分が北村とべたべたしたいからって、変な工作してんじゃねぇ」
「工作なんてしてないもん」
「したね!絶対したね!」
「アンタには関係ないでしょ!」
「俺は、俺達の親友の幸せを祈ってるの。な、春田?」
 二人の舌戦に入ろうにも事情も呑み込めず、ただ眺めていた春田に唐突にバトンが回された。
 春田は、目を丸くして、何となくピースサインをつくった。
「いえーす。……って、え、何の話?」
 普通ならば、春田のリアクションにある程度空気も和むものであるが、今回はそう簡単にいくものではないようだった。
 自分から振っておきながら、能登は春田の反応など意にも介さず、
「悪いけど、木原達の工作って、なんかイヤらしっぽくて、萎えてくるワケ」
「はあ?アホが萎えようが、すっげーどうでもいいんですけど?」
 一向にとどまろうとしない二人の言いあい。
 それは既に言いあいとしての範疇を超えた所へ、一歩足を踏み入れている。
283翼をください 4:2010/04/01(木) 17:02:54 ID:0UhxovYI
 そんな二人を、
「まあまあ、そんな喧嘩しないで、仲良くやろうよ、ね?ここは、わたくしめに預けてみないかね」
 と、実乃梨が納めようとするも、
「お前が預かってどうするんだよ」
 一蹴。
 能登にざっくり切られて、う、と実乃梨が口ごもった。
「あー、訳が分からん!さっきから。とにかく、みんな冷静になれ、冷静に」
 とうとう、北村が場を収束させようと動きだすも、彼の言葉は、ずれてしまっている。
 まるで、自分がさも当事者ではないと言わんばかりの言葉。
 実際、彼は理解していないだけなのであるが、それは、この場で、彼が、発する言葉として不適切であった。
 静観を決め込んでいた亜美も、はあ、とたまらず溜息。
 あーあ、やだやだ、と意識して声を大きくして皆の意識を引き寄せる。
「祐作。アンタのその鈍さって天然?それとも、分かってやってるの?」
 亜美には、木原の気持ちが分かるような気がした。
 そして、鈍くてバカな北村が、まるで以前の誰かとかぶって見えた。
 今は、まあ、そこそこマシにはなったが、亜美が教えなければきっと今もバカのままだっただろう誰かと。
「……何が言いたいんだ?言いたい事があるなら、はっきりと言え、はっきりと!」
 そのせいか亜美の言葉には若干以上の棘が含まれていて。
 さすがの北村もむっとした顔になった。
「やだ、まるおくん、本当にそこまで天然なわけ?殆ど、暴力……」
 思わぬところから――香椎の毒に北村は、目を見張った。
 暴力。言い得て妙だ。亜美は思う。
 鈍い刃が誰かを傷つけているのも知らず、めった刺しにする。
 無知は罪だ。
 北村は、数か月前にまるで漫画や映画の様な恋をして、結果的に破れた。
 そして破れた今も、その人を思っている。凄い事だ。そう簡単には出来ない事だ。
 北村の一途に思う心。その部分は、亜美も認めていて。
 しかし、認められない部分がある。
 人を我武者羅に愛すること。それは立派だ。亜美も恋をしているから分かる。それが如何に大変で、挫けてしまいそうになるかを。
 けれど、それだけではダメなのだ。
 自分へと向けられた愛にちゃんと気付いてあげる事が出来なければいけない。むしろ、前者よりもこちらの方が大切だと思う。
 後者の方は、傷つくのは自分ではない誰かなのだから。
「っ――うっ、うぅ、うっ、ひっ……」
 とうとう木原が嗚咽を漏らし始めてしまう。
 無理もない、と直ぐに彼女の背中を撫でてあげながら、香椎は思う。
 既にバスの中で半泣きになっていたし、彼女の修学旅行にかける意気込みは、奥手な彼女にしては大きかった。
 北村と木原では学力に差があり過ぎる。3年になれば、クラスが別々になってしまうだろう。
 そうなれば、卒業まではあっという間。木原では、きっと何も進展させる事が出来ない。
 木原にも、殆ど後がないのだ。
 
 †

 それから、竜児たちの班を取り巻く空気は重苦しく、とても楽しい修学旅行のソレとは思えないものであった。
 竜児は、実乃梨に話しかけるタイミングを逃してしまっているし、亜美も竜児にアピール出来ずにいた。
 北村も、全ては理解していなくても、自分が木原を泣かせた事に関係していることくらいは察しているらしく、ずっと沈んでいるし、能登も同様だ。
 唯一、春田は、居心地悪そうにしながらも、健全に修学旅行を楽しんでいるようだった。
 否、もうひとり、大河だけは何時も通りといえば、何時も通りであったが。
 しかし大河は、スキーが滑れないようで彼女たちとはまた別の意味で、修学旅行を楽しめていなかった。
284翼をください 4:2010/04/01(木) 17:04:12 ID:0UhxovYI
「ったく、初日からこれじゃあ、先が思いやられるな。櫛枝の気持ちを確かめるどころか、まともに話す事も出来ずに修学旅行終わっちまいそうだ」
 ホテルで夕食をとり、さっさと風呂にも入った竜児は、散歩がてらロビーのソファに深く座り、重い溜息をついた。
 そうしてロビーのシャンデリアを見上げる竜児の顔に、彼を上から見下ろす少女の影が差した。
「大きな溜息。ふふ、高須君がそんな顔してると、とんでもない悩みを抱えているように見えるね」
「川嶋か……」
「何か残念そう。こーんな超絶美少女の亜美ちゃんが、高須君のオーラにも挫けず話しかけてあげたのに。……あ、実乃梨ちゃんがよかった?もしかして」
「……」
「図星、か」
 亜美は、常人のそれよりも高い位置にある腰に手を当てて、もう、と苦笑した。
 そして竜児とテーブルを挟んで、対面のソファに腰掛けた。
「っ、それで、とんでもない悩みって、どんな悩み抱えているように見えるんだよ?」
「あ、話すり替えた」
「……」
「もう、そんなに怒らないで。ちょっとした冗談じゃない。……そうね、後処理どうしよう、とか?」
「後処理?」
 要領を得ない亜美の答えに、竜児は眉をひそめた。
 すると、亜美は声を低く、重みをもたせて、
「あー、殺っちまった。死体、どう処理すっかな……」
 とか?と亜美は、口調をまたころっと変えて笑った。
「……無駄に役者だな。将来は、女優になるつもりか?」
「さあ?あたしより演技上手い人ならそこら中にごろごろいるし。亜美ちゃんが幾ら可愛くっても、それだけで通用する世界でもないしね」
「ふーん。そんなもんか」
 竜児は、何となく亜美の方を見て、
「それ……」
 亜美の髪を指す。
 そこには、竜児があげた銀色のヘアピン。
 ああ、これ?亜美は少しだけ嬉しそうな顔をして、
「高須君に貰ってから、ずっと付けてるの。あたしの一番のお気に入り」
「そ、そうか」
 亜美の微笑にどきりとする。
 最近は、余り意識しなくなっていたけれど、亜美は、矢張り美少女だ。
 竜児の周りには、実乃梨や大河を筆頭に可愛い女の子が多いが、亜美は何と言うか一線を画している。
 容貌やスタイルはもちろんなのだが、何と言うか亜美は、自分の魅力を最大限に発揮できる所作を身につけている。
 もしかしたら、これが人気モデルと一般人の差というモノなのかもしれない。
 ……亜美以外にモデルの知り合い何ぞいるわけない竜児には確かめようもないが。
「それで、実乃梨ちゃんとは話せたの?」
「……いや。タイミングがなくてな」
「まあ、今日は、皆ギスギスしてたからね」
 数秒、二人の間に沈黙が過る。
 こういうの、確、天使が通るとか、幽霊が通るとかいったか。ぼんやりと、竜児はそんなくだらない事を思った。
 ねえ。ふと、亜美の声。
 竜児は、目を細めた。僅かに首をかしげる。
 亜美の声は、唐突に暗色に沈んでいた。
「あたし、高須君に懺悔しないといけないことがあるんだ」
「懺悔?」
 また似つかわしくない難しい言葉だな。
 そう茶化す事の出来ない雰囲気があった。
285翼をください 4:2010/04/01(木) 17:04:54 ID:0UhxovYI
「高須君が、実乃梨ちゃんに振られたのって、あたしのせいかも」
「何だよ今更?」
 意味が分からない。自分が振られた事と彼女が関係しているとは、到底思えなかった。
 それに振られた理由ならば、クリスマスイブの日、亜美自身の口から亜美の推測とはいえ、聞いている事だった。
「前にね。高須君の知らないところで、あたし、実乃梨ちゃんに嫌味を言った」
 それは、大河があの狩野すみれともみ合いになった日。
 言うつもりではなかったけれど、実乃梨の横を通り過ぎる時、思わず口走っていた。
 ――罪悪感はなくなった?
 亜美の頭の中に、自分の声が蘇る。どうしてあんなこと言ったのだろう。
 きっと、あの言葉が竜児、大河、実乃梨、3人の絆を壊す時計を速めた。
「嫌みって、何だよ?」
 亜美は、竜児の問いには答えず、
「でもね、その事を後悔したくはないの。多分、あの言葉があったから高須君は実乃梨ちゃんに振られて、あたしにもチャンスが巡って来た。だから、後悔したくない。
 ……そう思って、本当に後悔しないで済むなら、楽なんだけど、ね」
 あたしはね。亜美は、じっと竜児の目を見据えた。
 見返してくる竜児の目には、困惑の色が濃い。
 もしかしたら、あたしが言っている事を理解できていないのかもしれない。
 それでもいい、と亜美は思った。
 ――あたしは、懺悔と言っておきながら、許してもらおうなんて思っていないんだろうから。
 ただ、言って楽になりたいだけ。何処まで最低なんだろう。少しだけ、自分が嫌になる。
「あたしはね。高須君が、実乃梨ちゃんに振られた事をきっと喜んでる。高須君が振られなければ、あのイブの日はなかったし、あたしは小悪魔を捕まえられなかった」
「小悪魔?なんだそれ」
 何だか話が一気に胡散臭くなったのは、竜児の気のせいであろうか。
 一方で、亜美は思う。
 竜児が実乃梨に振られ、その日に竜児に自分が出会えた事。
 きっとその時、あたしは翼を手にした。
 たとえそれがイカロスの翼であっても。あたしは、空を飛び、奇蹟をこの手につかんだ。
 もしかしたら、神様からのクリスマスプレゼントだったのかもしれない、なんて柄にもない事を考えた。
 亜美が今、こんな事を考えて、竜児にこんな話をしてしまうのは、木原の泣く姿を見てしまったからかもしれない。
 一歩間違えば、自分もああいう風になったかもしれないと思うと。
 亜美の事だから、人前に泣くような事はなかっただろうけど。
 自分がそんなに素直ではなく、度胸もない事くらい、亜美は良く知っている。
「でもそれは、自分勝手な言い訳。あたしが、最低な事言ってるってことは、どうしても変えられない。ごめんね」
「……別に川嶋のせいじゃねぇよ。それに、まだ」
 まだ、櫛枝の本当の気持ちを確かめていない。
 そう言おうとして、竜児は、口を噤んだ。
 それは、自分に告白してくれた亜美に言うべきことではないような気がした。
 けれど亜美は、いいよ、と首を振った。
 まるで、竜児の言わんとしている事を察しているかのように。
「確かに、実乃梨ちゃんは高須君に本当の気持ちを伝えていない。へらへら笑って、やり過ごしてる。あたしは、それがすごくムカつく」
「お、おい、川嶋?」
「だって、あの子、高須君がどれだけ傷ついて、苦しんで、悩んでいるかも知らないで、へらへらして。それが、あたしは許せないの」
「俺は、別に……」
「うん、わかってる。高須君が、実乃梨ちゃんのせいだって思っていない事くらい。あたしが許せないの。結局は、身勝手な嫉妬でしかないのも分かってるつもり」
 嫉妬。亜美が実乃梨に対して嫉妬を感じているという事は。
 竜児の心臓が再度跳ねた。心拍が速くなる。
 これは、つまるところもう一度告白されたという事と大差なかった。
「あたしも、実乃梨ちゃんの本心を聞いてみたいって思う。何時だって、道化の仮面で隠してるあの子の本心を」
 そう言って、亜美は不意に立ち上がった。
 その目には、何やら決意の炎らしきものが宿っている。
 竜児は、唖然としたまま、
「川嶋……?どうした?」
「……ねえ、高須君。実乃梨ちゃんの本心を聞きたいって思わない?」
「……は?」
286翼をください 4:2010/04/01(木) 17:05:33 ID:0UhxovYI
 †

「で、何で、俺はここに居るんだ……」
 辺り一面を暗闇に囲まれて。
 ホテルの一室は押し入れの中、膝を抱えて竜児は、ぽつりと呟いた。
「それは、こっちのセリフだ。いきなり部屋に来た亜美に押し入れに押し込まれて、頭が混乱してるんだが」
「まーまー、いーじゃん。結構楽しいし」
「……春田、お前は能天気で良いな」
 それ程大きくはない押し入れに竜児のほか、北村、春田、能登までもが押し込められている。
 別に彼らが、女子の部屋に忍び込んだわけではない。ここは、正真正銘、彼らの部屋である。
 それなのに何故、彼らがこんな窮屈な押し入れで膝を抱えているのか。
 竜児をひきつれて、突然彼らの部屋にずかずか入り込んできた亜美が、殆ど何の説明もなく彼らを押し入れに押し込んだのだ。
 部屋を去る際に、
「暫くしたら、あたしが此処に女子を連れてくるから。その時になっても、絶対に外に出てこないでね」
 と言い含めて、さっさと部屋を去って行った。
「というか、ここに女子を連れてきて、アイツは一体何をするつもりだ?」
「さあ?でも、俺達の班の悪い空気を修復するって言ってたじゃん。今日はみんな変だったし、フインキが戻るんなら、だいかんげーい」
「ふんいき、な。まあ、俺も今日は、悪かったと思うし、解決できるんなら嬉しいけど……なぁ」
 能登が北村を窺う。
 暗闇の中、十数分。彼らの目は、既に暗所に慣れていた。
 ふむ、と北村は、顎に手を当てて考え込むしぐさをした。
「亜美がそんな事を進んでするような奴だとは思えんな」
「えー亜美ちゃん、ちょー可愛いじゃん」
「可愛さと、性格ってのは、あんまり関係ないさ。否、むしろ亜美の場合、可愛いからこそあんな性格になったと言うべきか」
 高須はどう思う?
 北村が、さっきから黙ってしまっている竜児に問いかけた。
「高須も、亜美が関係の修復に動くつもりだと思うか?」
「いや、正直……」
 竜児も、亜美がそんな事をするような人間には思えなかった。
 それに、竜児を此処に押し込む前の会話。
 ――あたしも、実乃梨ちゃんの本心を聞いてみたいって思う。何時だって、道化の仮面で隠してるあの子の本心を。
 ――……ねえ、高須君。実乃梨ちゃんの本心を聞きたいって思わない?
「一体何をするつもりだ……?」
 何となく。本当に、確証も根拠も全くないのだが、竜児は嫌な予感がした。
 不意に部屋をノックする音。
「む、始まったか?」
「おーい。おいおいおーい。……居ないみたいだよ」
 遠くから聞こえるのは、実乃梨の声。
 北村の言うとおり、亜美の企みが始まったようだ。
「お風呂に行っているのかしらね」
「えー、どうする?センセーにばれたらまずいし、もう部屋に戻っちゃう?」
「まーまー。中に入って、待ってよ?」
「え、え、亜美ちゃん、勝手に入っちゃまずくない?」
「いーから、いーから。廊下に突っ立ってたらセンセに見つかるし」
 亜美の声と共にガチャとドアが開かれた音。
「おじゃましまーす」
 ちっともそう思っていない声色で、亜美はずかずかと男子の部屋へとはいっていく。
「わ、亜美ちゃん……」
「ほら、何してるの。早く」
「うん、お、おじゃましまーす……」
 亜美に促されるように、木原が後に続き、香椎も室内に足を踏み入れた。
 ドアの前に一人、実乃梨が取り残された。
287翼をください 4:2010/04/01(木) 17:06:15 ID:0UhxovYI
「ほら、実乃梨ちゃんも」
「え、ああ、でも私、部屋に戻ってようかな。ほら、大河、部屋においてきちゃったし」
「仕方ないじゃん。チビトラは、風呂から上がったかと思ったら爆睡しちゃったんだから。そんなことより、早く早く」
「わ、わわ!あーみん、大胆だー。もしかして私貞操のピンチかい?」
 何故か渋りだした実乃梨を、亜美は腕を掴んで部屋に引っ張り込んだ。
 亜美の言うとおり、この場に大河はいない。
 風呂からあがり、徐に部屋の布団にもぐりこんで寝息をたてだしたのだ。

「へー結構きれいにしてるんだねー」
「……というか、私達の部屋より明らかに綺麗」
 木原と香椎は、男子の部屋を一通り眺めながら、畳の上に腰を下ろした。
 二人の言うとおり、彼らの部屋は荷物もキチン整えられていて、ゴミ一つ落ちていない。
 ……逆に、彼女たちの部屋は、服やら食べかけのお菓子やらが散乱していて、男子が見ると幻想をぶち壊されてしまうような有り様だ。
「まあ、高須君が居るからね」
 実乃梨の腕をつかんだまま、亜美も腰を下ろす。
 実乃梨も諦めた様で、大人しく亜美の隣に座り込んだ。
 女子4人で円をつくる形になる。
「それにしても、高須君が家事好きっていまだに信じらんないんだけど」
「ね、あんな怖い顔してるのに」
「ふむ、ギャップ萌えってことかね」
「あはは、萌えってなによ、ウケるー」
 木原の甲高い笑い声。
 押し入れのなかで息をひそめ、耳をそば立てる4人は、
「今の、ウケるようなとこあったか?」
 と首を傾げあった。
 彼女たちの年代は、箸が落ちただけでも笑うというくらいだ、彼女たちにしか分からないツボがあったのだろう。
「そう言えば、あたし、皆の好みのタイプって知らないなー」
 唐突に、本当に唐突に亜美がそんな事を言い出した。
 始まるのか、と押し入れの中、男子4人が固唾をのんだ。
「亜美……いくらなんでも、不自然すぎるぞ」
 北村の漏らした呟きに、他の3人も頷いた。
 しかし、女子の方は気にしていないようで、
「んー私は、大人っぽくて、私を支えてくれるような人がいいかな」
「包容力のある人ってことかな?……今時の男どもじゃ、難しくない?」
「やっぱりそうかな。私も、実際にタイプって男子に会った事ないし」
「あ、あたしはね!」
「はいはい、麻耶はまるおでしょ。じゃあ、実乃梨ちゃんは?」
 私の話もちゃんと聞いてよー、という木原の訴えを黙殺し亜美が実乃梨に意味ありげな笑みを浮かべながら尋ねた。
「ふえ!?わ、私かい?」
 自分には関係のない話題とでも言わんばかりに、話半分で部屋をきょろきょろしていた実乃梨が素っ頓狂な声を上げた。
 そして、あははとぎこちない愛想笑い。
「どーだろね。私、まだそういうの興味ないっていうか、それよりも集中したい事があるっていうか」
「ソフトボール?」
「そう、奈々子ちゃん正解。最近ようやく調子が戻って来たし、今年のオフはもっと体力つけようって思ってるし。正直それどころじゃないんじゃよ」
「えー、折角の高校生活、部活ばっかりじゃもったいないよー」
「でも、そう言うのも、青春ってことなのかしら?」
 香椎の言葉に、木原はそうなのかなぁと納得できない顔。
 彼女としては、部活に汗流す青春は理解できないのだろう。
「そう、それじゃあ」
 亜美は、四半秒の不自然な間をとり、
「イブの日に告白しようとしてきた高須君を振ったのも、そのせい?」
 爆弾をひとつ、投下した。
288翼をください 4:2010/04/01(木) 17:07:21 ID:0UhxovYI
「えーーー!」
 突然の暴露に、木原と香椎は声をそろえて驚嘆した。
 あの高須竜児が、櫛枝実乃梨に告白?あり得ない。
 未だ、竜児の強面のイメージから余り脱却できない二人にとって、その事実は衝撃的であった。
 それは、押し入れの中の竜児以外の3人にとっても同様で、思わず声を上げそうになり三人が三人とも自らの手で口をふさいだ。
 どういうことだよ。知らなかったぞ。
 三人してそんな視線を竜児に投げかける。
 竜児は、予想だにしていなかった自らの暴露話に照れたように、前髪を弄る。
 こう言う時どんな態度をとればいいのか、開き直ればいいのか、意味のない否定をすればいいのか。
 どちらにせよ声をあげられない竜児は、そっぽを向き、成り行きを見守ることしかできなかった。
 既に、押し入れから出るなんて選択肢はない。
 そんな事をすれば、彼女たちから何を言われるか分かったものではない。
 何でこんな事に。竜児は無力な自分を嘆いた。
「ど、どういうこと。高須君が、櫛枝に告白って」
「っていうか、亜美ちゃんどうしてそんなこと知ってるの!?」
「さー、どうしてだろうねぇ。不思議だなー」
 実乃梨が俯いて、頭を掻いた。
 そして、苛立たしげな声色で、
「あーみん、何でそんな事言うかね」
「あれー、言っちゃ駄目なことだった?ごめんねー、実乃梨ちゃんがあんまりにも平気な顔してるから、どうでもいいことなのかなって思っちゃったー」
「……」
「でも高須君を振った理由、あたしが思ってたのと違うんだよねー。だから、実乃梨ちゃんの口からハッキリ聴きたいなあ。ねえ、どうして高須君の事振っちゃったの?」
 木原と香椎は、呆気にとられて顔をひきつらせる。
 唐突に始まった二人の言いあい。
 亜美は、軽い口調であるが言葉の端々に苛立ちが見て取れるし。
 実乃梨は俯いたまま表情がうかがえないが、仕草が此方も苛立っていることを如実に語る。
 険悪。
 何と言うか、修羅場だった。
 しかし、木原と香椎も唐突に始まったソレを修羅場と呼んでいいのか、分からない。
 何故、亜美は、こんな話をし出したのだろうか。彼女の意図がいまいち読めないのだ。
 一体、この話のどこに亜美が絡んでいるのだろうか。
「さっきも言った通り。今は、恋なんてするひまないから」
「じゃあ、高須君の事嫌いじゃないってことー?」
「別に、嫌いじゃないさ。でもそれは、友人としてってこと。恋人とかそう言うの、今は考えらんない。それだけ」
「ふーん、そーだったんだ。あたし、てっきりタイガーに対する罪悪感からなのかなって思ってた」
「……」
「てっきり実乃梨ちゃんも高須君の事、満更でもなかったのに、高須君を好きな誰かに対する罪悪感から、高須君を振ったんだと思ってたぁ」
「何それ?わけ分かんない」
 きっと、実乃梨が亜美を睨みつける。
 亜美は、そっぽを向いて彼女と視線を合わせようとしない。
「でも、実乃梨ちゃんも残酷だよね。高須君をきっぱり振るんじゃなくて、淡い希望をもたせて生殺しの状態にしてるんだから。何なら、あたしが代わりに伝えとこっか?
 半端な言葉で生殺しにしとくより、ハッキリ止めさしてあげた方が、親切ってもんだよねぇ?」
「……」
「そうじゃないと、高須君が可哀相だもんねぇ。それなのに、実乃梨ちゃんったら、平気なツラで高須君の告白なんて忘れたふりして、チョー天然なふりしちゃって。
 でもって、皆仲よくーだのずっとこのままーだの」
「平気なツラなんて何時見たわけ?本当に見たわけ?あたしの何が分かるの?心が目に見えるか?っていうか、あーみんには関係ねえから」
「あるよ」
 そこで漸く、亜美は実乃梨と視線を合わせた。
 今まで浮かべていた薄い笑みを引っ込め、真剣な眼差しで実乃梨を貫く。
「関係、あるよ」
「……は?どこにだよ」
「だって、あたし、高須君のこと好きだから。実はイブの日に告白も済ませてんの。……まだ、返事もらってねぇけど」
 爆弾、2つ目。それも原子爆弾級の。
 被曝した香椎と木原は、声を失い、目を見開いている。
「――――っ!!」
 一方の押し入れの中も大惨事である。
 二次災害を受け、皆一様に驚愕のまなざしで竜児を視線で問い詰める。
 3人とも絶叫を堪えた自分を褒め湛えながら。
 そんな視線を受けながら、竜児は、何となく悟っていた。亜美が、実乃梨の本心を聞き出そうとしている事に。
289翼をください 4:2010/04/01(木) 17:08:23 ID:0UhxovYI
 ――あたしも、実乃梨ちゃんの本心を聞いてみたいって思う。何時だって、道化の仮面で隠してるあの子の本心を。
 ロビーでの亜美の言葉が再び蘇った。
 余りにも不器用で強引なやり方。実乃梨に喧嘩を吹っ掛けて、真意を問おうとしている。
 これでは、実乃梨だけでなく、亜美までもが傷つくのではないか。
 今すぐにでも、ここから飛び出して亜美を止めるべきなのか竜児は迷う。
 迷い、結局体は一歩も動かず、暗闇の中。耳だけが、研ぎ澄まされている。
 亜美の言葉は続く。
「だからさ、何時までも高須君を縛られてたらこっちが困っちゃうわけ。ねえ、あたしを助けると思って、ひと思いに振っちゃってくれない?」
「……」
「もし言いにくいようならあたしから言っても良いかな。そろそろ、あたしも生殺しは辛いんだぁ」
「――っ!だからっ!好きにすればって!」
 耐え切れなくなったかのように、実乃梨が歯をむいて叫んだ。
 対する亜美も、感情を抑えきれなくなったかのように、
「これだけやっても本心教えてくれないんだ。本当、いい面の皮してる。人を見下すのも大概にしてくれない?」
 静かに、けれど確かな憤慨を実乃梨に叩きつける。
 ともすれば、殴り合いでも始まりそうな空気。
 これが男子同士だったなら、きっと既に始まっていただろう。
 そんな空気を打ち破ったのは、
「い、いい加減にしなってば!」
 ショックから立ち直った木原の一喝だった。
「やめようよ、折角の修学旅行に女子同士で喧嘩なんて……。ただでさえ、私達の班、空気悪いのに。……私のせいで」
 最後の方は、声が小さくなって、涙目になってしまった木原を、香椎が気遣わしげに肩を叩いて、
「そうだよ。亜美ちゃんの気持ちも……分からないでもないけどさ。でも今のは言い過ぎ。謝って、ここで終わりにしよう?」
 香椎のフォローに亜美は、ムッとした顔で俯いて、ふう、と何かを切り替える様に目を閉じて、一つ息を吐いた。
 再び、顔を上げた亜美の顔には、整えられた笑みが浮かんでいる。
「ごっめーん、実乃梨ちゃん。少し言い過ぎちゃった。あたしも、ちょっと焦ってたみたい。でも、さっきあたしが言った事、考えてくれると嬉しいな」
「亜美ちゃん!」
 香椎が咎めるも、亜美はどこ吹く風、じっと実乃梨を見据える。
 その視線を受けて、実乃梨は、パァンと両手を叩き合わせた。
「ほらよ、これで手打ちだ。あーみんの事は許してやる。でも、あたしからこれ以上何かするつもりはないから」
「また逃げるんだ?」
「なにぃ!?」
「もう、二人とも!」
 最早、悲愴じみた木原の声に、二人はさすがにばつの悪そうな顔をした。
 香椎も少し怒ったような表情で、
「いい加減にしなよ、二人とも。子供じゃないんだから、キャンキャン喚かないの。もう、今日の事は二人とも忘れて、ここでお終い。それでいいね」
 有無を言わせぬ香椎の言葉に、二人はこくんと小さく頷いた。
「も、もう、今日は帰ろう?男子、いつになったら帰ってくるか分かんないし、もう私眠くなってきちゃった」
 気を使う様な木原の言葉が、亜美と実乃梨の心を刺す。
 何やってるんだろう。亜美は、口の中だけで呟いた。
 自分の感情も抑えられないで、関係のない友人を傷つけてまで。
「……ごめんね、実乃梨ちゃん。さっきの事、忘れてくれていいから」
「……分かった。いいよ、忘れた」
 亜美は、また心に芽吹いた苛立ちから目を反らすように、顔をそむけた。
 視線の先には、押し入れがある。
 ――ごめんね。
 きっと伝えたい相手には見えていないだろうけれど、口の動きだけでそう伝えた。

 女子4人が部屋から居なくなった後。
 取り残された男子4人は、そろって気まずそうな顔である。
「……すごく、見てはいけないものを見た気がするぞ。第一、結局亜美は何がしたかったんだ」
 北村がメガネを押し上げながら言うと、
「ていうか、櫛枝も、けっこう、なんつーか」
 能登が天井を仰いだ。
「そ、そんなことよりさぁ。高っちゃんが櫛枝に告白してるってこともだけど、亜美ちゃんが高っちゃんを好きだってことが、驚天動地なんですけど」
 春田は、驚き過ぎて四文字熟語を正確に言えるくらいである。
 北村と能登においても春田の言葉には一理あるのだろう、3人の視線が揃って竜児に向けられた。
「は、はは……」
 竜児は力なく笑い、肩を落とすしかなかった。
290翼をください 4:2010/04/01(木) 17:11:17 ID:0UhxovYI
投下終了
お目汚し失礼しました。


ついでに次スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 30皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1270109423/
291名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 17:52:05 ID:QXTN0T4k
>>290
キャーGJっす!
あーみん頑張ってるけど、みのりん手強いのぅ。
続き楽しみに待ってます。
292名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 17:54:50 ID:ribw6frQ
>>290
GJ! ガンバレあーみん!
293名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 18:48:49 ID:QXTN0T4k
次スレ立ったので埋め



「ねぇ竜児、今日って何の日か知ってる?」

「おぅ。4月1日・・・エイプリルフールか。さては嘘つく気だな?」

「えへへ、あたしね、りゅーじのこと、だーい好き!」

「お、お、おぅ!?」

「ふふ、駄犬ってば焦っちゃって。嘘じゃないよ。だってもう午後だもんね♪」
294名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 20:39:05 ID:Jx6qy14c
>>290
GJです。
が、またしても梅ネタ投入タイミングが無かったww
295名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 21:14:57 ID:G39umeyh
>>300前に次スレとかすげえな
バランス考えろ
296名無しさん@ピンキー
あと1レスぐらいならねじこめるじゃん?

 松澤へ。
 今日は高校のクラス発表があったから実に二週間ぶりに学校へ行ったぜ。
 玄関を出たら何故か相馬が待ち伏せてたのには驚いたけど、前みたいに自転車に乗せてくれたのはありがたかった。おかげでかなりの時間短縮ができたし。
 俺は形式上相馬を振ったわけなんだけど、それでもあいつは普段通り接してくれている。やっぱりいい奴なんだろうなぁ。俺にはもったいないぐらいだ。
 二年生でも相馬と俺は同じクラスだったのは……何だろう、陰謀を感じないでもないけど、まぁどうでもいいか。
 そのあとは真っ直ぐ家に帰るつもりだったけど、何故か相馬に市内をあちこち連れまわされた。ゲーセンとかデパートとか。
 驚いたことに相馬はまだ俺のことを諦めていなかったみたいで、今回のはそれを教えるためだったらしい。通りでボディタッチとか色々激しかったわけだと……あぁ何でもない。
 今日はエイプリルフールだし、試しに告白してみたら、相馬は可愛らしく頬を染めたりして「あたしも」よか言って――キスをされました。また。
 ……もちろん冗談だぞ? 本気にするなよ!
 田村雪貞


 田村くんへ。
 手紙、どうもありがとう。こっちでは、特に何もありませんでした。なので今日は簡単に、三行ぐらいしか書けません。すみません。
 ひとつだけ気になったのですが、エイプリルフールで嘘を吐いていいのは午前中だけじゃなかったですか?
 それと、冗談で告白をすると言うのは人としてどうなのかと思います。相馬さんの気持ちを知っているのに、それは乙女心を弄んでいると思います。正直、幻滅しました。
 ……あと、キスをされたというのは本当ですよね? 「また」ってどういうことですか? 前にもキスをしたことがあると言うことでしょうか。
 それも含めて、今度会うときにしっかりお話しましょう。
 松澤小巻


「しまったぁぁぁあああああああああああああああああああああああああ!!」
 田村家に絶叫が響く。


田村くんは半年前に一度読んだきりだから口調とか設定とか色々アレだけどスルー推奨
なぜとらドラ!のSSしか無いのか理解に苦しんだので文にして想いを綴ってみた
もちろん文才なんて無いからすぐに後悔

願わくばこのレスでスレが埋まってこれが誰の目にも触れないことを