【DS】世界樹の迷宮でエロパロ B9F

このエントリーをはてなブックマークに追加
655宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 13/20:2010/06/13(日) 00:28:41 ID:99jbKI+3
少年は肛門を締め、尿道を緊張させ、射精感を必死に我慢した。
「んぅぅ! あっ、あぅぅ!」
「わー、すっごい汗。ちゃんと舐め取らないと風邪引くよ?」
首を、腋を、背中を流れる汗が少女に舐められる。
それらの箇所でも、敏感になった体はくすぐったさより快感を強く受けとる。
体のあちこちがびくんと痙攣し、制御を受け付けない。
「イ……きたくない……! イきたくないよぉ……!」
「……ふぅん、健気なんだねぇ」
感心したように笑うが、乳房による攻めはまったく弱まることはない。
ぐちゃぐちゃと汚らしくも淫猥な音を立てて、ペニスをあらゆる向きから柔らかく圧迫してくる。
「苦しそうだからさ、そっちも嗅いでばっかいないで手伝ってよ」
「あいまむ」
のんびりとした返事が聞こえたかと思うと、少女がひょいと左側面に回ってきた。
(……え?)
おかしい。
体はまだ後ろから抱き締められている。
なら左手にいる少女は?
混乱していると、今度は右からもひょいと顔を覗かせた。
「「「分身の術」」」
得意気にそう言うと、少女『達』は一斉に体に絡み付いてきた。
「う、うわぁぁぁ!?」
噂には聞いていた。
己と同じ姿を出して戦う冒険者の技を。
だが、こんな使い方をされるなどとは夢にも思わなかった。
同じ顔をした少女が少年のそれぞれの胸を両手で搾るように押し出し、乳輪を爪の先でなぞる。
そして、まったく同時に乳首を咥えた。
「あぁぁん!」
喉奥から甘い叫びが勝手に飛び出す。
少女の乳首への責めは強烈だった。
一人が片方の乳首へ集中して両手、舌、唇、唾液を総動員し、激しく責め立てる。
そして背後からは「きもちーでしょ?」と悪戯っぽい囁きと共に首筋への愛撫が加えられる。
抵抗しようとすれば背後から肩を押さえ込まる。
挟まれた股間は泥濘のようだ。
もはや輪姦だった。
二人、いや四人の冒険者の気が済むまで、少年には快楽に溺れる以外の自由はない。
「とどめに、っと」
背後の一人が膝で立ったのか、声の位置が高くなる。
「こないだはこうされたら感じてたよね?」
その笑いを含んだ声は、大量の唾液と共に降ってきた。
(今、何て……?)
何か取り返しのつかないことを言われた気がした。
だが、それを考える余裕はない。
前髪を掠めて垂れた唾液は少年の顎の下で少女自身の手で受け止められ、少年の顔面へ塗られる。
656宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 14/20:2010/06/13(日) 00:30:03 ID:99jbKI+3
唾液の臭気は少年の性癖を暴力的に刺激し、耐えようとする力を溶かしてくる。
「ぷぁっ……やめて、くださ……汚い……!」
「大丈夫、胸の方のボクも汚れてるからお互い様だよ」
見下ろせば、乳首をうっとりと舐めしゃぶる二人の顔にも、垂らされた唾液が降りかかっている。
白く泡立つ唾に汚れながらも一心不乱に乳首弄りに耽る少女達の表情に、少年はひどく欲情してしまった。
緊張を一瞬解いてしまうほどに。
「あっ……あぁぅ!」
下半身の快感が強まる。
経験則として、もはや射精が止められないと分かるほどに。
「やだぁ……! こんなのでイきたくない……!」
「無理無理。君の体は、汚くていやらしいことされたら誰が相手でも精液出しちゃうようにできてんの」
嘲笑と共に、身をかき抱くように二の腕で乳房が寄せられた。
下半身の筋肉が張り詰め、尿道を快感の塊が通った。
「〜〜っ!!」
絶頂の呻き声は、右胸を責めていた少女の口づけで止められた。
射精の快楽の最中に、唇の触れ合う感覚が流れ込む。
もう感情は完全に体と切り離されていた。
気持ちいい。
叫びたくなるぐらいに気持ちいい。
射精の感覚が乳房での陰茎愛撫でさらに引き延ばされ、左乳首も変わらず責められている。
そして目の前では、少女がどちらのものか分からない唾液を、さも美味しそうに貪り吸っている。
汚れた少年の顔から糸が引くのも構わずに顔を擦り付け、満足したように離れる。
「イキ顔可愛いね。もっと見せて?」
少女の満面の笑みに返す言葉を、少年は持たなかった。
ただ、体を売られて射精に至らされ、唇も奪われたという実感だけが込み上げていた。


射精が終わり、自然と硬度を落としたぺニスが谷間から抜け落ちる。
「ふぅ……ほら、こんなに溜まってたらそりゃ辛いよね」
胸を寄せたままの女性が谷間を見せつける。
その谷の上部には、いかにも濃そうな白濁液が水溜まりを作っていた。
褐色の肌にその汚い白色はひどく映え、倒錯的な美しさを演出していた。
うちひしがれる余裕はまだなく、少年は目のやり場に困り、しかし結局はその汚れた乳房をちらちらと見てしまう。
「んー? そんなにお姉さんのおっぱいは魅力的?」
「えと、その……」
見てるだけで再びぺニスが固くなるのを自覚し、少年は目をそらした。
657宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 15/20:2010/06/13(日) 00:32:00 ID:99jbKI+3
少女はいつの間にか一人に戻り、相変わらず背後から汗を嗅いでいる。
それだけでも満足なのか、「何これ甘い……絶対女の子の匂いだもんこれぇ……」という呟きが腋下から聴こえる。
そちらに気を取られたのが間違いだった。
いや、見ていたとしても止められたかは甚だ疑問ではあるが。
「よっ、と」
強引に前を向かされた少年は、そのまま女性に抱き寄せられた。
先ほどまで性器を扱いていたその双丘へと。
「うわっ! ん、んぅ!」
手と股間で存分に味わわされたその柔らかさが今度は顔にまとわりつく。
慌てて息を吸うと、あまりの濃い匂いにくらくらした。
「いっぱい汗かいたからね、そういうの好きなんでしょ?」
強く抱き締められ、鼻が谷間に沈む。
もちろん、女性の汗の匂いも非常に濃い。
だがそれだけではない。
女性が垂らした唾液、挟まれていた自分の性器から染み出た先走りや汗、吐き出した精液。
そういった、およそありとあらゆる匂いが乳房の隙間に澱んでいた。
故意だろう、顔面で拭かされた精液の臭気は特に強く、噎せ返りそうなほどだ。
「んぅぅ! んっ、んー!」
「そんなに慌てなくても、綺麗に舐め終わるまでこうしててあげるよ」
気楽な声が頭上から聞こえる。
悲しいかな、少年の抵抗は女性の腕を動かすことすらできなかった。
(やだ……臭い……!)
精液だけなら何度も飲まされ慣れてきている。
だが自他の汗や唾液、雄と雌の入り混じったその匂いは、今まで嗅いだどの匂いよりも強く嗅覚を苛んだ。
「ずるいー、今度はボクの足をゆっくり嗅がせたげようと思ったのにー」
「人の体を汚したんだからちゃんとお掃除させないと、良い子に育たないでしょ?」
ほら、と催促するように乳房の内側を擦り付けられる。
至上の感触と悪夢のような臭気に思考を遮られ、何も見えないまま言われるままに舌を伸ばす。
どろりとした精液の滴が舌に乗り、それをそのまま飲み下す。
(きれいに、しなきゃ……)
店主の足への奉仕で培われた本能で、舌をひたすら動かす。
きれいに舐め尽くせば、少しは楽になると信じて。
その汚れが全て自分の血肉となることなど考える余裕はなかった。
658宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 16/20:2010/06/13(日) 00:33:28 ID:99jbKI+3
「ずるいー、ずるいー」
「ああもううるさい。あんたは腋とか首とか嗅いどきゃ満足なんでしょうが」
「だってもう全部舐めちゃってボクの匂いがするもん」
マーキングじゃないんだから、と呆れたような声がし、女性は少年を抱いたままゆっくりと後ろに倒れる。
ちょうど少年が女性を押し倒して乳房を貪っているような体勢になった。
無論、実際は正反対だが。
重力も加わり、密着度は増すばかりだ。
俯せにされれば、当然無防備になるのは体の背面になる。
最も快感に飢えながらも隠し通していた性感帯が、露になった。
「ほら、後ろはあんたにあげるからそれでいいでしょ」
「おおう、駄々はこねてみるもんだね」
意気揚々とした声が聞こえ、ようやく少女の体が背中から離れる。
そして、間髪入れずに肛門に指がねじ込まれた。
「んんぅ!?」
マッサージも何もない不意打ちだ。
自慰で濡らしていたとはいえ、荒々しい挿入感に下半身が跳ねる。
「うわぁ、とろとろで柔らかぁい……」
腸壁の中を垂れる潤滑液に合わせるように、小さな指先がじわじわと粘膜をなぞる。
心臓が一気に高鳴る。
突然他人に襲われても、射精に導かれても、肛門に渦巻く飢餓感は少しも衰えはしていなかった。
それが、少女の緩慢な指の動きで直に燃え上がらされる。
度重なる凌辱に疲弊し、少年の身体は弛緩していた。
リラックスとは対極にあったが、とにかく括約筋からも力は抜けていた。
肛門を囲むその筋肉を、腸壁の裏に潜む前立腺を、少女の指が揉みほぐす。
考えるのをやめて乳房を舐め拭う奉仕に没頭していた少年の瞳に動揺が走る。
(お尻……熱い……!)
力は抜いているのに、脈拍に合わせるように段階的に、性感が臀部を満たしていく。
一瞬筋肉が緊張した。
だがそれは少年の意思ではなく、非日常的な快感への反射だ。
緊張の感覚が次第に狭まる。
筋肉の緊張は肛門のひくつきとして、少女の目の前に曝された。
「お? お尻ひくひくしてきたねぇ。感じてるのかなぁ?」
「みたいね。息荒くなって、胸くすぐったいもの」
そう言う自分も、少年の顔になすり付けての自慰に興奮してか、声のトーンが高い。
659宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 17/20:2010/06/13(日) 00:35:44 ID:99jbKI+3
「んっ……ふぅ……! ふぅぅ……!」
快感に体の支配を奪われ、震えを全身に広げ、少年は戦慄していた。
快感の増幅が止まらない。
たった指一本で、処女を散らしたあの日に比類する快感の嵐が体内に溢れ始めていた。
堕落した肉体に引きずられ、精神も変容を始める。
嫌で仕方がなかった谷間の臭気を、気づけば自ら鼻孔いっぱいに吸い込んでいた。
煮詰まった男女の性臭を嗅ぐと、快感が増すのだ。
(凄い……蒸れてて、精液まみれで、臭いのに……)
「ほら、舌止まってるよ。まだ汚れが足りない?」
「ここがジャスト前立腺、と。男の体の構造知ってて得したの初めてだよ」
谷間に追加の唾液を注がれ、前立腺を腸壁越しにノックされ、さらに理性が破壊される。
(あああ……! 臭くて、頭痺れて、気持ちいい……! ボクの体、どうなって……)
出しっぱなしにした舌でがむしゃらに乳房を掃除し、がくがくと体を震わせる。
人懐っこい少年の殻も、恥じらいの強いマゾヒストの男としての殻も砕け、淫乱極まりない雌としての本性が露出していた。
「あははは、お尻すっごいいやらしく振ってるー! うちのギルドにもこんな変態さんいないよー!」
「ねぇ、ちょっとどんな顔してるか見せてよ」
あれほど微動だにしなかった戒めが解かれ、女性自ら乳房を左右に広げる。
顔中から白く太い体液の糸を伸ばし、舌は女性を舐め続けながら、少年は声のする方に顔を向けた。
その表情を見た女性は、嗜虐の愉悦と共に軽い嫉妬すら覚えたことだろう。
少年の顔は、この世全ての快楽を一身に受け持つかのように蕩けきっていた。
強烈な締め付けに追いたてられるように、少女の尻責めも強まっていく。
待ち焦がれた絶頂の予感が体内に芽吹き、少年は喉を震わせた。
「気持ちいい……あん! 気持ちいいです……!」
髪まで汚れるのにも構わず顔を自ら乳房に擦り付け、娼婦のように腰を振り、淫らに鳴いた。
「おっぱい、すごく臭くて……お尻の穴、いっぱい弄られて、ボク……イっちゃいます……!」
豹変と言ってもいい少年の狂態は、二人の冒険者の性欲を更に煽った。
「あっははは! いいね、さすが店主さん自慢の玩具は出来が違うよ!」
濃い唾を吐きかけ、仰向けになって尚量感に溢れる乳房で少年の顔を扱き上げる。
「わぁ、やっぱり女の子と一緒でイく前にぶるぶるするんだ。可愛いなぁもう」
660宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 18/20:2010/06/13(日) 00:37:37 ID:99jbKI+3
指をべったりと腹側の壁に沿わせ、少年の肛門の動きに任せる。
性器と化した直腸は少女の指に絡み付き、己が最も快楽を得られるよう蠢く。
蓄積された興奮と肛門快感が、少年の肉体の許容量を超えた。
二度目の肛門絶頂は、乳首刺激も、相手への倒錯的な恋慕も必要としなかった。
「んんぅ! んぐぅぅぅぅ!!」
口を乳房で、鼻を体臭で塞がれたまま、少年が慟哭する。
勃起したペニスからは栓が壊れたかのように精液がどろどろと垂れている。
「わー、イってるイってる。やっぱり精液が垂れるんだねぇ」
「トコロテンってやつ? へぇ、あれだけ出してまだ溜まってたんだ」
小馬鹿にされても、少年の耳には届かない。
射精どころでない長く強い快感に完全に夢中になっていた。
その強すぎる快感はすぐに体力を食い尽くす。
そのはずだった。
「……男の子のここ、えっちのための器官が詰まってるんだよね?」
やけに小さな、好奇心を無理やり抑え込むような少女の声がする。
こことは、指先が押さえる前立腺だ。
「ボクの気をここに流してやったら……気持ちいいのずっと続くかな?」
最後の方は声に笑みが混じっていた。
絶頂に翻弄されながらも少女の指の形と刺激に意識を集中していた少年は、すぐに変化に気づいた。
少女の指先が、熱を持った。
その熱が前立腺に、精嚢に、陰茎に広がり、血流に乗る。
「……!?」
穴を開けた風船のように急速に消費されていた体力が、回復していく。
精嚢から直に垂れ流していたかのような精液が、今すぐ一度に出したいほどみなぎってくる。
少女の練り上げた癒しの気功が、少年の性的な器官のことごとくを活性化させ、体力も補充していく。
それの意味するところは、絶頂の継続だった。
「んっ……あぁぁぁ! 止まらない! 止まらないよぉ!!」
顔を振って悶える少年の顔に、追加の精液が浴びせられる。
女性が手探りで亀頭を探り、押し出されてくるのを受け止めた精液だ。
「ほら、おかわりが欲しいでしょ? どんどん舐めて嗅いでいいよ」
「ちょーっと指がちぎれそうだけど、キミのイく声もっと聴いてたいからボクも頑張るよー」
気を流し込みながら肛門はさらに弄られる。
(死んじゃう……! ほんとに、気持ちよくて死んじゃう……!)
果てない快感に少年はただむせび泣いた。
だらしなく涎を垂らし、表情を至上の幸福に歪めながら。
661宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 19/20:2010/06/13(日) 00:40:09 ID:99jbKI+3
少女の気が乱れるまで、その絶頂は続いた。
「うぁ……ぁ……」
指が抜かれたときには少年は掠れた声で弱々しく呻いていた。
その喉も体力も、休憩する少女が片手間に治癒してしまう。
後に残ったのは、一週間我慢したかのように強烈な射精への欲求だけだった。
時間はまだ半分も過ぎていない。
「じゃ、もっと搾ろうか」
「今度はボクがお鼻いじめるからね」
「はいはい」
ほとんど体力を使ってはいない二人は元気そのものだ。
身体は治癒されても精神の磨り減った少年は、己が受けた恥辱と、それに対し狂喜した己の痴態を思い出していた。
記憶の中の自分は、なんとか掻き集めた理性を投げ捨てたくなるような有り様だった。
(ああいう風になるように、ボクを売ったのかな……?)
淫乱な雌としての心と体を作り上げた店主。
先ほどの自分の姿を見れば、彼女はさぞ喜ぶことだろう。
犯されろ、と彼女は言った。
ならば抵抗は諦めて、客に身を委ねてしまうのが一番楽かもしれない。
静かにそう思っていると、少女がふにっと抱きついた。
「ねぇねぇ、女装のオプションはないの? 一昨日のあれすっごい可愛かったよー」
「あたしも見たかったなぁそれ」
「え……」
先ほど、少女の言葉に感じた違和感。
その理由への理解が、ゆっくりと広がっていく。
女装をしたことなど、人生で一度しかないのだから。
(見せ物にされてた……んだ……ここでの秘密……)
涙が一滴こぼれた。
意外にもショックは少なかった。
思えば最初の最初から玩具扱いだったし、たまに見せる優しさは痴態を見せることへの報酬のようなものだ。
他人に犯させるのも、店主にとってはいつもの調教の延長線上だったのだろう。
(なら、いつものように諦めればいいんだ)
そう思えば少し楽な気分になった。
『客』達も調教道具だと思ってしまえばいい。
自分はそうやって店主を楽しませる玩具になると誓ったのだから。
「じゃ、気持ちよくしてあげよっか」
「今度は払い除けたりしないでねー」
女性がぺニスを握り、少女が顔面を裸足で踏みつけた。
(ん……気持ちいい……)
少年は、素直にその足の味と匂いを受けいれ、責めやすいように自ら股を開いた。
もう、誰が相手だろうとどうでもいい気分だった。
662宿子調教計画W 導かれし者たち(前) 20/20:2010/06/13(日) 00:44:50 ID:99jbKI+3
一時間経つ間に少年は二桁近く射精させられた。
正射必中などと嘯かれ、異常なまでの正確さで自分の顔へと何度も出された。
それを少女が足で塗りたくる。
再び三人に分身した彼女は、その全員で顔を踏み尽くした。
少年は喘ぎ続け、彼女達の望むままに弄ばれた。
いい仕事ができたのだろう。
一時間が経ち、店主が終了を知らせても、二人は満足そうに笑い合っていた。
「楽しかったよ。今度宿で見かけたらお姉さん襲っちゃうかもね」
「今度はもっと汗かいてくるからねー」
そう言い残し、爽やかな表情で帰っていった。

残された少年の姿は、まさに凌辱されたと言うに相応しかった。
全身があらゆる体液にまみれ、特に顔はどろどろだ。
疲れきった表情で横たわる中、性器だけは不自然なほど固く勃起している。
結局、急造させられた精液は出し尽くせず、これだけ出してもまだ射精がしたくてたまらない。
「ご苦労じゃったの。布団を替えるゆえ、風呂場で体でも洗ってくるとよい」
「……はい」
洗っても、鼻の奥まで染み付いた二人の匂いは取れそうにないが。
「今日はもう一人相手してもらう。よいな?」
「……はい……」
慣れると決めた。
あれだけのことをされたのだ、もう恥ずかしいことなどない。
何をされても今以上に精神的に追い詰められることはないだろう。
ふらふらと身を起こし、風呂場に歩く。
全身に快感の残滓が残り、自分が自分ではないようだった。

体を洗い、店主から貰ったメディカで体力を補給すると多少はすっきりした。
「ま、これぐらいは必要経費じゃな。なんと奢ってやろう」
「はは……ありがとうございます」
同じく休憩時間の店主と茶をすすり、少年はしばしの平和を享受した。
見せ物にされたことについては聞けない。
どこからが彼女の商売か知るのが怖かったからだ。
結局当たり障りのない会話しかできないまま休憩は終わった。
「時間じゃな。連れてくるとしよう」
店主が表に出向き、少年は替えの布団の上にぺたんと座った。
無心で待つ。
何も考えなければきっとすぐに終わる。
しばらくして、店主と『客』の声がした。
「おねーさん、あの媚薬、煮詰めたり混ぜたりしたら効きすぎてひどい目に遭ったんだよ」
「用法用量を守らぬかたわけが」
襖が開く。
現れたのは見知った顔。
ファーマーの少女だった。
663名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 00:47:08 ID:99jbKI+3
いじょ。
また30分も占有申し訳ない。

まとめサイトの方、重ねて申し訳ないのですが
過去作のタイトルを糸目から宿子に変えていただければ幸いです。
664名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 01:05:36 ID:IYvR80Dr
ぬおおおおおGJ!
665名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 01:06:30 ID:03zSDBhP
GJ! まだ前編とかww
666名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 01:14:58 ID:yXz3ukDy
GJ!宿子いぢりがますますエスカレートしている…。
667名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 01:54:17 ID:i/WpEFml
宿子を男が犯すヤツはまだか!
668名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 06:40:34 ID:ZN7TvjLg
神だ、神がおる。
669名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 07:01:15 ID:wO11Fne5
お尻が熱くなるな。男の本物を入れてやりたい。
670名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 08:19:54 ID:eQhIRjtV
弟が調教師変なフェロモンを撒き散らすようになった事で――姉が比較して「自分が女扱いされなくなっていく事実」におそれおののくとか。
671名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 22:55:23 ID:dsKSj7Hu
>602
>603
672名無しさん@ピンキー:2010/06/13(日) 23:16:18 ID:1UtuNLRP
宿子姉ってグラ無いよね?
673名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 00:36:41 ID:Lvfxh01J
何しろ世界樹3はクトゥルフ世界観が混じっている以上、我々の常識を打ち破る異常な常識がまかり通る世界である可能性が高い。
よって性的な処理機能をつけられたアンドロがいたり、『魔』に汚染されて怪物の仔を孕んだアンドロが居ても、……暴走状態に陥って、本来仲間であるはずの冒険者を襲うアンドロが居ても……性欲処理用にメカ触手装備アンドロが居ても……驚く必要は無いのかもしれない。

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

   / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ミ
  /  ,―――─―-ミ
 /  //     \|    ンァーンァーンァー
 |  / ,(・ )   ( ・)  ハァ ンァー
  (6       つ   |    ハァ  ハァ
  |      ∪__  |    ンァーハァ ハァ ハァ
  |      /__/ /
/|     ∪   /\  

池沼がこのスレに興味を持ったようです。
674名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 01:24:06 ID:iBv3y21P
>>672
回復施設はカドケキャラの法則から2の綾香さん的な姿を推す。
髪もちょっと宿子に似てるし。
675名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 10:10:13 ID:6i9azy2P
今やクトゥルフ関係なくフィクションならその程度ありありだよな
676名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 07:55:59 ID:dOBwsNwy
深王様に頼んだら余裕で機能追加してくれそうなもんだが
サブスキル扱いで
677名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 06:07:21 ID:di5a5S5P
オランたんのクルーエルティって
「貴様らに汚されるくらいなら深王様と共に逝く!」ってことだよな
漢前過ぎるぜ
678名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 10:34:11 ID:OE/BcIoJ
地味に盛り上がってて少し安心した
俺もちょいとばかし書いてみようかな……
679名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 16:19:22 ID:HNBLI3F/
うおおリコロコの続きはまだかぁぁぁ
680キリカゼさんの忍び装束:2010/06/19(土) 23:23:39 ID:p3URN5x+
保守がてらエロ無し小ネタ

登場人物↓
十文字(シノビ♂2)
ふわ子(ゾディ♀2)

『キリカゼさんの忍び装束』

こは何事ぞ。
「黙ってないでなんか言いなさいよ」
「…」
茜色の夕暮れ時、アーマンの宿の一室。
普段の可憐さはどこへやら、ドスの効いた声で詰問するはゾディアックのふわ子。
名前の通り、ふわふわとカールした金髪が可愛らしい少女だ。
黙したまま正座するはシノビの十文字。名前の通り、顔を覆う大きな十字傷がある。
頭巾から目元だけをのぞかせているので余計に目立つ。だが。
こは何事ぞ。
シノビの男は、その鍛えられた体躯をーーーピチピチ限界まで張った黒装束に包んでいた。
マッスル(筋肉)の形がうっすらと浮くそれは、もはや全身タイツであった。

 卍

なんでこんな事になってるんだろう。
共に幽霊船を撃退したお礼にと、キリカゼさんがくれた忍び装束。
ゾディアックの私が装備するのはちょっと変かもしれないけど、なんだか嬉しかった。
キリカゼさんって、ちょっと素敵だし、ね?
それならばっちり着こなさなきゃって思って。他のギルドのシノビを参考にして、かつ個性的に!
小物をあれこれを買い込んで、鼻唄混じりに帰ってきたらーーーコレ(変態)がいた。
ねえ、私だって分身したら一人で圧縮渦雷できるんだよ?

 卍

「もう細かいことはいいから。ともかく脱いで」
「無理だ」
答える十文字の目はいつもの鋭さで、一瞬何の話だったかわからなくなる。
「…なんで?」
一応理由を尋ねるふわ子。
「下帯を着けていない」
「なんでぇぇぇ!?」
理解不能であった。
「すまない」
頭を下げ、土下座に移行する十文字。後ろから見れば、形の良い尻が堪能できるだろう。
見る気があるならば。
「フィット感を追求するにおいて致し方なく」
「あ、ああっ…キリカゼさん…キリカゼさんの服、汚されちゃったよぉ…」
「その調子でもっと罵ってくれ」
もはや声も出ないふわ子、涙目であった。
681キリカゼさんの忍び装束:2010/06/19(土) 23:26:57 ID:p3URN5x+

 卍

十文字さん、頼りになる人だと思っていたのに。今日から家畜以下です。
さよなら、かっこよかった十文字さん。こんにちは変態さん。

 卍

結局キリカゼさんの忍び装束をふわ子が着る事はなく、十文字の所有物となった。
いっそ燃やしてしまおうかと思ったふわ子だが、キリカゼさんの厚意を考えるとそうもいかない。
もっとも、既に(精神的な意味で)汚されているのだが。
本人には口が裂けても言えない。

「む」
煩悶するふわ子をよそに、十文字は室内を見回す。
迷宮でよくやるように、感覚をフルに働かして。
「むむむむむ」
「…」
視線はやがて、ふわ子の足元の紙袋に定まる。
「…一応聞くけど、何?」
「新品の網タイツの匂いがする」
十文字の感覚はもはや人外の領域だった。
「網タイツが匂うわけないでしょ!? ついにぶっ壊れたわね!?」
後ずさるふわ子。
「“フラッピングバタフライ”ブランドのパンティストッキング、スモールダイヤ50デニール、Mサイズ、色は黒」
青ざめるふわ子。
「いかがであろうか」

 卍

陽は沈み、夜の街の喧騒が遠くから聞こえる。
薄暗闇に浮かぶ十文字の顔はこんなに渋くてかっこいいのに。
「もう、俺を人と思わなくていい」
「…うん、思えない」
正直無理だった。
同じ空間にいてアナフィラキシーが起こらないのが不思議なぐらいだった。
「そして大きな犬だと思えばいい」
「思えないぃぃぃ!」
頭をかきむしるふわ子。十文字の言葉に思考がおかしくなる。
変態の世界に引き込まれるか否か、崖っぷちであった。
「だから履くか、履かせるか。決めてくれ」
「履かせる!?」
的確なツッコミは正気の証。がんばれふわ子。
「できれば貴殿の履いた脚をしゃぶぶぶぶぶ」
突然にじり寄り、ふわ子の脚に絡み付く十文字。
だがふわ子に脚封じは効かなかった!
「いやあ! いやあ! いやあぁぁぁぁぁ!」

がすがすがすがす

パニックに陥ったふわ子、十文字の顔面を蹴る、蹴る、蹴る。
そして放たれる星術の閃光。
「ぬふぅ」
魚のように身体を痙攣させる十文字。

後に、それが電撃のせいだけではないことを知ったふわ子がオランピアに去勢…もとい十文字の機械化を依頼するのはまた別の話。

 卍 END 卍
682名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 00:01:45 ID:L/6Cubfo
じゅうもんじwwww
683名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 00:11:24 ID:L00aqRd8
素晴らしい駄目忍者だな、十文字www
684名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 08:53:48 ID:jshQ4s6S
乙w

シノビ男は1、2共にムッツリスケベな印象あるなぁ
685名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 09:18:24 ID:y3wUjkAA
十文字のキャラが個性的過ぎるwww
686名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 14:46:16 ID:DWBh7x98
むしろキャラスレでやれwww
687名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 21:04:13 ID:ugGPSIAO
>>679
呼ばれた気がした!

えー、遅くなりまして申し訳ありません。>>3の続きを投下したいと思います。
で、前回も同じことをやらかしたのですが、続きが残りのスレ容量に収まりきらないので……。
今回は途中までをこちらに投下して、続きを新スレに投下したいと思います。

一応説明書きを。
『世界樹の迷宮?』の♂金ファマ×♀金プリのSSです。ネタバレありません。そもそも
まだ迷宮に入ってな(ry
次回はエロ有りと書いたものの……、少々詐欺があります。ナルメルよりごめんなさい。
あと、申し訳ありませんが、また続きます……。時間のあるときにごゆるりとお読みください。
688『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:06:25 ID:ugGPSIAO
 下腹部に、人の重みがあった。

 ゆらゆらと頼りない、ランプの小さな蝋燭の明かりが照らす寝室。
 辺りは奇妙に静まり返り、虫の音さえ聞こえない。
 だからだろうか、くちゅっ、くちゅっ、と、濡れた粘膜の擦れる音がやたら響いて、
揺れるベッドの軋みと同期を合わせて耳を打った。

「んっ、んん、んぁ……っ!」

 目の前で、女性の裸体が揺れている。
 仰向けになった自分の体の上で、一定のリズムで上下に弾む白い肌。
 褐色の光に照らされて、張りのある乳房が揺れる様はどうしようもなく扇情的で、
静かに息を飲んだ。

「……触っても、いいんだよ……?」

 そうしたい、という欲求はもちろんあった。
 緊張に飲まれて動いていなかった右手を、たどたどしく伸ばす。
 女性が少し前のめりになってくれたおかげで、柔らかな塊をぐっと鷲づかみにすることが
できた。
 むにゅっと、指がどこまでも沈みこんでいきそうだった。腕がびりびりするような錯覚を
憶えた。
「んっ……、もっと、強くても、い、んっ!」
 言われるまま、ぐに、ぐにと乳房をもみしだく。指の間からはみ出そうな柔肉。
 手の平まで性感帯になったみたいだった。暖かい。
「触ってて、いいから、んん……っ! ……動く、ね」
 乳房を掴まれたまま、女性は腰の動きを早める。
 自分のモノが、それに刺激されてなおも硬くなっていく。
 尻の筋肉が否応なく収縮して、腰が勝手に持ち上がる。
 根っこから吸い込まれてしまうのではないかと思うくらい、女性の陰部はきつく締まり、
吸い付いてくる。股の内部から、快感がぐんぐんと収束していく。
「は……ぁっ! そう、いいよ、そうやって、もっと……、あっ!」
 乳首をつまむと反応が高まって、ペニスを包み込む内壁がさらに収縮した。
 これが、「いい」のか。一つ学習し、右手の動きにそれを取り入れる。

「んんっ、……っ! あっ、あぁ……っ、――!」
 あられもない表情を浮かべて、腰を振り続けるその女性の顔は、逆光になってよく見えない。
 
 でも僕は、この人を知っている。

 だって、小さい頃からずっと見ていたから。憧れていたから。
689『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:07:51 ID:ugGPSIAO
 女性は、少し疲れたのか、自分の頭の両脇に手をついて重心をずらした。それでも腰の
動きは止まらない。
 汗に湿るショートヘアが、桃色の乳首が、目の前で円を描くように揺れる。吸い付いて
みようか。それはやりすぎだろうか。
 逡巡していると、汗の玉を頬に光らせた女性が、にこりと笑った。
 
 振り返るとふわりと舞う、襟首で切り揃えられた髪が好きだった。
 冗談を言い合うときの、その明るい声が好きだった。
 シャツの上からでもわかるそのスタイルを、いかがわしい目で見たこともあった。
 自分よりずっと年上なのに、子どもみたいな無邪気さで笑うところが、大好きだった。

 でも、この笑顔は、好きじゃない。

「はぁ……っ、あ、ん、ん……っ!」
 その人が今、髪を汗に濡らし、耳にしたことのない水っぽい声を上げ、そのたわわな胸を
鷲づかみにされて、自分と繋がっている。
 現実の光景とは思えなかった。見たことのない表情で息を乱す憧れの人の姿は、まるで
映写機で流れる映像のように他人事で。
 すっかり硬直しっぱなしの自分の股間のものが、女性の秘部に入っては抜けてを繰り返す
様子も、なんだかグロテスクに思えて。
 下腹部から伝わる、今まで味わったことのない、電流みたいな快感だって、中枢神経から
断絶した余所の世界の出来事のようだった。

「ねぇ、――? 痛、い?」
 痛い。未成熟の包皮は、擦れると快感よりも痛みの方が大きかった。
 けれど、僕は首を横に振った。
「……そう。んっ、ね、ぇ、――? 気持ち、いい?」
 どうだろう。痛みや緊張に耐えるのに必死で、それどころではない。
 けれど、僕は首を縦に振った。
「そう……。んっ、ねぇ、――?」
 脳髄にじりっとした感触が走る。限界が近い。気分はそれどころじゃないのに、体は
どうしようもなく正直だ。
 
「……ごめん、ね?」

 なんで。どうして謝るのか。
 痛くないって言ったじゃないか。気持ちいいって言ったじゃないか。
 だから別に、あなたが謝る必要なんてない。
 そんな、見ているこっちが辛くなるような笑顔で、謝らないで――
690『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:09:28 ID:ugGPSIAO
 ○ ● ○ ●
 
「――っ!!」
 体を震わせながら、ロコは目覚めた。
 寝汗がひどい。シャツの下がぐしょぐしょだった。
 額に張り付いた前髪を拭いながら、ぼんやりとした視界を左右に振る。

 見慣れない天井、馴染みのないカーテン。
 そうだ、ここは叔父さんの家だ。

 まだうまく回転しない頭で、昨日の出来事を反芻する。
「……あ」
 そして、真っ先に思い出したのは、一人の女の子の姿。
 昨日、途方に暮れたアーモロードで出会った、天真爛漫な「自称」王女様。
 出会って早々頭突きを食らって、仲間になって、一緒に暮らし始めて……。昨日のロコは、
彼女を中心に動いていたといっても過言ではなかった。
 そして今、彼女は……。恐る恐る、ロコが首を横に向けると、
「う」
 そこには、見てるこっちまで再び眠りたくなるような安らかな寝顔で、すうすうと寝息を
立てるリコの寝顔があった。
 乱れてもなお、蜂蜜のように艶やかに光る髪。むにむにと動くゼリーのような唇。
 今まで目にしたことのない、七色に光る布地でできたネグリジェに包まれた、無防備な肢体。
 朝、一番最初に拝むには、ちょっと刺激が強すぎるその端正な造型に、ロコは思わずたじろぐ。
しかも、文字通り息がかかるほどの近距離。
 目が離せなくなりそうになりつつも、お姫様の眠りを妨げぬよう、ずりずりと体を布団から
ずらし、転げ落ちるようにベッドから出た。

 部屋の空気は冷たかった。身震いしながらカーテンを少し開ける。薄雲のかかった、まだ
灰色の空。
 時刻は、朝の5時半といったところだろうか。環境が変わっても体内時計は正確なようだ。
「ん〜っ、さて、と……」
 やるべきことはたくさんある。ぐっと伸びをして背筋をぴんと伸ばすと、ロコはまだ眠りの
中のお姫様を起こさないよう、そっと寝室を出た。
 
「……どうして、今さら」
 あの頃の夢なんか。
 腹の奥から押し寄せてくるような不快感を押し殺しながら。
 
 ○ ● ○ ●
 
 服を着替え、外に出る。
 故郷よりは暖かいかと思っていたが、さすがに朝の空気は冷たい。まだ少し眠っていた
体の奥底が目覚める。
 準備運動をしていると、遠く向こう、朝焼けの空に悠然とそびえ立つ世界樹が、その
輪郭をくっきりと浮かべているのが見えた。
 あそこに踏み入るのは、まだ先だ。その前に、やらなきゃいけないことがある。

「よし!」
 ロコは自分の頬を叩いて気合を入れると、畑へと踏み立った。
 まずは、畑の手入れからだ。しおしおに干からびた去年の作物、古くなった添え木などを
取り除く。
 そして、1年間自由奔放に育ちまくった雑草たちを刈る。畑の端から順に引き抜き、
根の深いものは鎌で断ち切る。
 苦い土の匂いを嗅ぎながら黙々と、その作業を続ける。
 この雑草たちのおかげで、1年間この畑も乾かずに済んだようだ。土が軟らかい。
 色が少し薄くなって灰がかっているが、堆肥を混ぜてやればすぐに蘇るだろう。
 口の端に笑みを浮かべ、ロコは少しペースを上げた。
691『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:11:03 ID:ugGPSIAO
 朝日に照らされ、辺りがゆっくりと明るくなってくる。太陽はすっかり顔を出して、
滲んだ汗を照らしている。
「……ふぅ」
 腰を上げて振り返ると、緑と褐色、くっきりと色の分かれた畑があった。
「あとひと頑張りしたら、朝食の準備かな」
 そう呟いていたところに、上のほうでガタガタと窓の開く音がした。
「…………ロコ〜?」
 ぼさぼさの頭で、半目をこすりながら窓際に立つリコに、ロコは苦笑しながら、
「朝ごはん、食べる?」
「…………ん〜〜」
 肯定か否定かよくわからない返事をして、リコは部屋の奥に引っ込んでいった。
 やれやれ、とロコも家の中に戻ることにした。

 寝惚け眼で食卓につくリコに、ちょっと待っててね、と言って、ロコは台所に立つ。
「コーヒー飲む?」
「……カフェオレ」
「牛乳なんてないよ」
「……じゃあいい」
 ついに食卓に突っ伏してしまったリコに、ロコはティーバッグの紅茶を淹れて、うつ伏せの
頭の横に置いた。
「卵とかも買ってこないといけないねえ」
 昨晩のポトフの残りを温めながら、話しかけるでもなくロコは言った。買っておいた
パンが残り少ないので、茹でたジャガイモに少し小麦粉を混ぜて、適当に塩コショウして焼く。
「できたよ、リコ」
「ん〜〜」
 香ばしい匂いにつられて、リコが顔を上げる。
「まずお茶」
「ん」
 言われるまま紅茶を一口すすり、差し出された朝食をもきゅもきゅと食べ始めるリコ。
 まるで弟達みたいだ、と、そんなリコを見て微笑みながら、ロコも朝食を摂る。

 お腹に物が入ると、やっと目が覚めてきたようで、リコの背筋が徐々にしゃんと伸び始めた。
「そういえば、今日はどうするのだ? もう一度冒険者ギルドに殴りこみにいくのか?」
「王女様が『殴りこみ』とか……。お昼からは街に行って、情報収集しようと思う。僕たち
 みたいな人でもギルド申請できる方法とか、協力してくれる人を探すとかさ」
「おお、なるほど!」
 ほんとにこの子は一人でどうするつもりだったのだろう……、というツッコミはジャガ
イモと一緒に飲み込んだ。
「あとは買い物だね」
「! 買い物!」
「もちろん、生活に必要なものだけ。服とかは買わないからね」
「えぇ〜」
 口を尖らせて抗議するリコだが、ロコは冷静な表情を崩さず、
「ていうか、リコの荷物ほとんど服ばっかりだったじゃないか」
「女の子は甘いお菓子とかわいいお洋服でできているから仕方ないのだ……」
「何その理論。とにかく、僕もそんなにお金に余裕があるわけじゃないから、しばらく
 贅沢は禁物!」
「ぶー、……わかった」
 不服そうにしながらも、リコは渋々頷いた。わりと聞き分けのいいお嬢様なのだ。
「ん? じゃあお昼まではどうするのだ?」
「部屋の掃除をするか……、畑の草むしりを午前中に終わらせちゃいたいんだよね」
「くさむしり……」
「うん」
 まるで初めて口にするように、同じ言葉を繰り返すリコ。
「なあ、ロコ。私も手伝ってよいか?」
「え? うん、全然いい、というか、むしろ助かるけど」
 そうか、と笑いながら頷くと、リコはポトフをかき込む。
 ロコは首を傾げて、その様子を見つめていた。
692『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:12:04 ID:ugGPSIAO
 ○ ● ○ ●

「しっかり草全体を掴んで、そんなに力は込めなくてもいいよ。一気に引き抜こうと
 しないで、後ろに体重を乗せてれば……」
「んっ……、わっ、抜けた、抜けたぞロコ! 土いっぱいついてる!」
 目を輝かせて、土の塊を絡ませた雑草を見つめてはしゃぐリコ。まるで、というより
完全に子供だった。

 朝食後、一緒に畑に出て雑草取りを手伝ってもらうことにした。
 リコが大量にもってきた服の中には、農作業に向いた服はなかったので、ロコのシャツを
貸してあげることにした。なので、すっかりダボダボ――
「そうでもないな、少し袖は余るがピッタリだ」
 ……少しショックを憶えながらも、初心者のリコに手順を教えた。と言っても、雑草を
引き抜いて集めるだけの単純なお仕事。
 それでもリコは、ふんふんと真剣にロコの言葉に耳を傾けていた。
「土は畑に掃って、草だけを集めてね」
「わかった!」
 リコと肩を並べて、畑の雑草を取り払っていく。
 はっきり言って、地味で淡々とした辛いだけの作業だが、リコは飽きる様子もなく黙々と
草をむしっていた。
「……リコ、大変じゃない?」
「うむ、腰が痛いな!」
 言葉とは裏腹に笑顔のリコは、やがて頬を伝ってくる汗をシャツで拭いながら、また
作業に戻る。その様子を見て、ロコも自然にペースが上がった。
「うわあ!?」
「何、どうしたの?」
 素っ頓狂な悲鳴をあげたリコの足元には、10センチくらいの長さをした、うにょうにょと
蠢く生物の姿が。
「ああ、ミミズだよ。殺しちゃダメだからね」
「こ、殺すどころか触れもしないが……、どうしてなのだ?」
「ミミズは土を掘って、畑を耕してくれるからね。ちょっと向こうに行っててもらおうか」
 ロコはミミズをひょいとつかむと、雑草の取り終わった方に放り投げた。
「ロコ、お前は勇者だな……。あのような奇怪な生物を恐れることなくつまみ上げるとは……」
「ミミズで認められるって物凄く安いね、勇者……。リコは初めて見たの?」
「う、うむ、びっくりした……。まるで触手のようだった」
「しょ、触手?」
「知らぬのか? メイドが持っていた本にはよく出ていたぞ」
 いや、知ってはいるが日常会話で耳にしたことも口にしたこともない。
「冒険の話にはつき物だったぞ。一番印象に残っているのが漫画でな、勇敢な女騎士が
 主人公だったのだが、さっきのミミズよりももっとでっかい触手が何本も出てきてな。
 女騎士は不覚にも体の自由を奪われてしまっていた。怖かった」
「…………その本って」
「ハラハラしながらページをめくろうとしたら、メイドに取り上げられてしまった。
『この先は子供にはまだ早いですよ』と言われてな。今でも続きが気になってしょうがない」
 息を吐きながら残念そうにリコは答える。
 リコの家のメイドには、色々と問題があのではないだろうか……、と感じつつ、ロコは
作業に戻った。
693『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:13:18 ID:ugGPSIAO
「――よし、リコのおかげで早く片付いたね」
「うむ、キレイになったな!」
 すっかり褐色の土だけになった畑を見て、2人は満足げに胸を張った。
「あとで堆肥を買って撒こう。リコ、おつかれさま」
「いや、楽しかったぞなかなか! 次も手伝うからな!」
 土で汚れた顔を輝かせて笑うリコ。ロコは苦笑して、手に持ったタオルで、頬についた
土を拭いてあげる。
「ん、んんっ、いい、自分で拭く!」
「買い物に行く前にシャワーを浴びたほうがいいかもね」
「うむ、そうだな。畑仕事とは、ものすごく汗をかくのだな! うん!」
 何を納得したのか大きく頷くと、リコはぱたぱたと家の中に戻っていった。
 王女というにはやっぱり……庶民派だなあ、とロコは思う。
 というか、王女様に草むしりなどをさせてしまって、本当に良かったのだろうか。
 と、そう考えたところで、家の屋根を見上げながらロコは呟く。
「でも……、別に証拠があるわけじゃないんだよなあ」
 そう、リコが王女だというのは、全て彼女がそう主張しているだけで、それを証明する
ものは何もない。
 彼女の故郷、ウェブリッジ国も、名前だけは知っているが、あくまで「地図に載っている
国名の一つ」程度の知識しかない。
 疑うつもりはないし、真実を知ったところで彼女との関係を変えようとも思わないのだが、
どうもすっきりしないものがある。
 ……が。
「それもまあ、おいおいかなあ……」
 一人ごちりながら、ロコも家に戻った。

 ○ ● ○ ●

 リコの支度が終わると、2人は揃って家を出た。
 昨日とは違い、大きい荷物もないので足取りが軽い。昨日は息を切らしながら歩いていた
リコも、スキップ交じりで辺りを見回しながら歩いていた。まるでピクニックのような気分だ。
「やっぱり大きいな、世界樹は!」
「そうだねー」
 おそらく、このアーモロードのどこにいてもその姿を視認することができるであろう大樹は、
昼の日差しを浴びて青々と佇んでいた。
 まだ自分たちは、あそこには入れない。そのために何が必要なのか、手立てを考える必要が
ある。
 
 雑木林を抜け、街への道をしばらく歩き、ようやくアーモロードの中心街へとやってきた。
「なんだか今日は人が多いな」
「休日だしね」
 昨日は街の中心部にも険のある冒険者達の姿が目立ったが、今日はほとんどが家族連れや
少年少女のグループで、ぼーっと立っていると流されてしまいそうなくらい、通りは人で
溢れていた。
「向かうのは昨日と同じ場所だけど、はぐれないようにしないとね。……リコ?」
 ロコは自分の右側を振り返る。
 お人形さんみたいな連れ人の姿は、その場からすでに忽然と消えていた。
「…………リコーーっ!?」
694『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:14:27 ID:ugGPSIAO
「あ、見て見てロコ、魚の形をしたデザートらしいぞ」
 5分後、息も絶え絶え探し当てたリコは、のんびりと出店の前で焼かれるお菓子を眺めて
いた。
「? どうしたのだロコ?」
「はぁ、はぁ……。……一瞬じゃないか!!」
「お、おぉ……?」
「驚きの早さだったよ! 注意する前にスピード迷子にならないでよ!」
「おおう、す、すまん……?」
 きょとんとするリコに、ロコは思わず深い溜め息をつく。このふわふわしたお嬢様は放って
おくと草舟よりも軽々と流されていきそうだ。
「もう、行くよリコ」
「あっ」
 と、考えたところで反射的に手を繋いでしまった。
 細くてしなやかな指、すべすべの手のひら。その感触を確かめた瞬間、ふと我に返り、
リコの方を振り返った。
「ろ、ロコ……」
「あ、いや、その、えっと……」
 少し赤くなったその頬を見て、自分の顔も少し熱くなるのを感じた。
 思わず離そうとした右手を、しかしリコはぎゅっと握り返してきた。
「くっ、苦しゅうないぞ! さあ、行こうロコ!」
 少し強がりながら、リコはぐいぐいとロコの手を引っ張り、雑踏の中へと踏み込んでいく。
「り、リコ、そっちじゃないから、……ふふ、もう」

 そんなこんなで手を繋ぎ、二人は再び冒険者ギルドの前にやってきた。
「で、どの門番から相手にするのだ?」
「しないから。僕たちが見るのはこっち」
「ん?」
 腕まくりするリコを引きずってやってきたのは、冒険者ギルドの正門ではなく、壁に
沿ってその右側。大きな衝立(ついたて)の元に、小さな人だかりができていた。
 その誰もが手に剣やら弓やらを携えており、一目で冒険者の集まりなのだとわかる。
 2人はその人混みを遠慮がちに割りながら衝立に近づく。
「なんなのだ、これは?」
「掲示板だよ。ここには、冒険者ギルドからのお知らせや、世界樹の迷宮で最近起こった
 ことなんかが掲載される……らしいよ?」
 叔父から聞いた情報によれば。
「なるほど、情報収集にはぴったりというわけだな」
「そういうこと」
 とはいえ、ロコもここに来るのは初めてだ。はたして、まだ冒険者にすらなっていない
2人にとって有益な情報がどれだけあるのやら。
「どれどれ……」
 リコと一緒に、掲示板に貼られた情報を追っていく。
 ロコたちが今欲しい情報は、2人の年齢でもギルドの申請を認めてもらうにはどうすれば
よいか、という手がかりだ。
 記事に目を通していくが、樹海のモンスターの出没状況や気候の状態、死傷者数のデータ
など、今の二人にはまだ関係のないことばかりだった。
695『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:15:39 ID:ugGPSIAO
「さすがにそんな都合よくはいかないか……」
「? こっちはなんなのだ?」
 リコが指差す掲示板の右側には、顔写真や職業、特技などのプロフィールが書かれた紙が
何枚か貼られていた。
「ああ、ギルドメンバーの募集じゃないかな」
「募集?」
「うん。迷宮を一緒に旅する仲間を探してるんだと思う。もし一緒に冒険したいって人が
 いたら、連絡してくれって」
「なるほど。知ってるぞ、これは何と言ったかな……」
 うーんと考え込んだリコは、ぴーんと何かをひらめいて手を叩くと、
「そうだ、『出会い系』というやつだな!」
 瞬間、周囲の冒険者達がざわっ、とどよめいた。
「リ、リコ! もうちょっと言葉を選んで……!」
「? 何か間違っていたか? こういうのを『出会い系』の掲示板というのではないのか?」
「いや、間違ってないといえばないんだけど……、ああもう!」
 ロコは、リコの代わりに周りの人たちにぺこぺこと頭を下げた。まったく、心臓に悪い。
いったいリコの家の教育はどうなっているんだ。
「しかし、なるほど。こういう仲間の集め方もあるのか……」
「そうだね。一番手っ取り早いのは、こういう人たちの仲間に入れてもらうことだけど」
 年齢制限があるのはギルドマスター、つまりギルドを立ち上げる人間だけであり、ギルド
メンバーについてはマスターが保護責任者となるということで、特に制限は設けられて
いないはずだった。
「うーーーん、いや、でもしかし、見ず知らずの人間に仲間に入れてくれと頼みに行くのもなあ」
 あなた見ず知らずの僕に昨日いきなり仲間になれって言ったじゃないですか、という
ツッコミをロコはまたも飲み込む。
「それに、僕たちみたいなシロウトが頼みにいっても断られると思うしね」
「それなら大丈夫だ! まずは一戦交えて、剣で語り合えばよい!」
「だから、お姫様なのにどうしてそんな突撃思考なのさリコは……」
 ともかく、何のつても無くこういう募集に頼るのも厳しそうだ。

「駄目だな、他にめぼしい情報はないぞ……」
「そうだね、残念だけど。あ、新聞も置いてある」
 衝立の脇には、フックでかけられたカゴの中に新聞が何部か乱暴に突っ込まれていた。
 読み古しらしくぼろぼろだが、冒険者たるもの世相にも目を光らせておけというギルド
側の配慮だろうか。
「新聞に、私たちの必要な情報が載っているのか?」
「まあそれはないと思うけど、見ておいて損はないから」
 それもそうか、とリコも新聞を一部取って読み始める。
 社会面、経済面、芸能面。アーモロードに来たばかりのロコにはわからないことだらけ
だったが、それでも情報は取り込んでおくに越したことは無い。
「むむ! ロコ、この新聞マンガが載っているぞ!」
 ……姫様は早くも脱線気味のようだが、ロコはじっくりと目を通していく。
 ページをめくると、海外の出来事が書かれた面があった。自分の国のことは載っている
だろうか。
 つらつらと目を通していくと、とある見出しの文字にロコの目が止まった。
「……! これって……」
 普段なら気にも留めていないであろうその一文に、ロコは思わず目を見開いた。
「よし、読み終わった! さあロコ、次にいくぞ、次!」
「えっ、あっ、ちょ、ちょっと待って!」
「? どうしたのだ一体?」
 なんでもない、とうろたえるのを誤魔化しながら、ロコも新聞をかごに戻し、掲示板から
離れた。

『ウェブリッジ王国王女、失踪か』

 見出しの一文には、そんな単語が並んでいた。
696『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:16:47 ID:ugGPSIAO
 ○ ● ○ ●

「うむ、美味い! これを丼(どんぶり)というのだな! なんとも粗野な食し方だが、
 なかなかどうしていけるではないか!」
「うん、そう……だね」
 ビニールの大屋根の下に、簡素な机と椅子を並べただけの、がやがやと賑やかな食堂で
昼食をとることにした。
 2人が注文した海鮮丼は、ぶつ切りにした多種多様な魚の切り身をご飯の上にどかんと
乗せただけのものだったが、リコの言うとおりとてもおいしかった。以前、故郷で食べた
刺身とは、脂の乗りがまるで違う。やはり鮮度の違いだろうか。
 しかし、その鮮魚の美味しさも、今のロコにとってはどこか余所事だった。
(あの記事……。本当にリコは……)
 記事の扱いは、非常に小さかった。内容も、まだそういう話が出ているというだけで、
真偽の程は定かではなかった。
 しかし、記事には王女の名前がしっかりと記されていた。『リコ=ウェブリッジ』と。
いま目の前で頬にご飯粒をつけている彼女の名前が(取ってあげた)。
 彼女がアーモロードにやってきたタイミングを考えても、リコがかの国の王女である
ことは、これでほぼ間違いないだろう。
「? どうしたロコ、さっきからぼーっとして?」
「え、いや、何でもない」
 ……リコの言うことを信じていなかったわけではないが、改めて真実だと裏打ちされると、
漠然とした不安や疑問が押し寄せてくる。こんなところで食事をさせてしまって大丈夫なのか、
とか。
 いや、そんなことよりも。それなら、彼女はどうして……。
 喉がつっかえそうになるのを、ロコはぬるくなった水で押し流した。
 
 ○ ● ○ ●

 情報収集は一旦取りやめ、午後はこれからの暮らしに必要なものを揃えるために店を
回った。
「……よし、ここでの買い物はこれで全部かな。食料とか肥料は、昨日ルゥさんが言って
 いた市場に行こうと思うんだけど」
「わかった。……ねぇ、ロコ。1着だけでも……」
「だーめ、うちは今、ムダづかい一切禁止!」
「ぶー!」
「リコの国では服でも何でも買い放題だったかもしれないけど、うちは貧乏なの! 
 わかった?」
「べ、別に買い放題なんてことはなかったぞ……。ロコは王族をなんだと思っておるのだ」
 変な拗ね方をするリコにロコは思わず吹き出しつつ、手を差し伸べる。渋々とその手を
掴むリコを連れて、ロコは市場へと向かった。

 土地の広さが限られているアーモロードでは、市場が大きく2つに分かれている。
 1つが、今ほどロコたちが買い物をしていた中心街の近くにある、主に港に陸揚げされた
魚や貝、海草などの海産物を扱う市場。
 そしてもう1つが、今ロコたちが向かっている、アーモロードの内地で取れた農産物や、
港から陸送された加工品などが並ぶ、言わば『陸の市場』だった。食料や、畑仕事に使う
ものなら、中心街よりもこちらの方が便利だろう。
 昨日通った帰り道を途中で曲がって進むと、すぐに人の賑わいが聞こえてきた。
「はは、ここが市場か! すごいな!」
 市場の入り口で立ち止まり、リコは驚嘆の声を上げる。
 中心街のような、何階建てにもなる背の高い建物はほとんどない。年季の入った木造の
平屋が所狭しとひしめき合い、その軒先に野菜や果物、魚介類の燻製などの乾物を並べて
いる。目の前で作るお菓子や、工芸品などを売るお店もある。
 店主たちは口々に大きな声を張り上げ、その声に呼び寄せられるように道行く客がわら
わらと品物に集う。中心街とはまた違った騒がしさと活気のある場所だった。
697『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:18:00 ID:ugGPSIAO
「僕の地元にも市場はあったけど……、すごいねここは。人の多さが段違いだ」
「うむ! まるでお祭りのようだ! 見ろ、何か変なものが売ってるぞ!」
 さっそく一番目の前にあった屋台に並べられた、棒のような体の先端に奇妙な化粧の
顔が象られた人形に食いつくリコ。
「……買いだな!」
「買いません」
 手にとってまじまじと見つめるリコの手から、人形を取り上げて元に戻す。
「で、でもでも、可愛いと思わぬか? 安いし……」
「ダメったらダメ。無駄づかいは敵。はい復唱」
「うう……、むだづかいはてき……」
「はい、よくできました。さあ行くよ、……?」
 リコの手を引き、市場の中に進もうとするロコだったが、急にその足を止めた。
 後ろをついていこうとしたリコが、その背中に顔を衝突させる。
「ぶふっ! なんだロコ、言ってるそばから立ち止まるな! ……?」
 ロコの顔色を伺ったリコは、その驚愕の表情に思わずその視線の先を追った。
「おわっ、なんだあれは」
 そこは、市場の出入り口付近。芝が覆うその地面の上に、白くもこもこした謎の物体が
ひしめいていた。
「……もしかして、羊か?」
 リコがその生物の正体をとらえた瞬間、隣の少年のスイッチが入った。
「そう、羊! みみみ見てよリコほら! 羊だよ羊!」
「おお、実物は初めて見るな。……どうしたロコ? ものすごく愉快な顔をしておるぞ?
 って、おおおおい!?」
 リコのツッコミも耳に入らない様子で、ロコは羊たちの元へとまるでたぐい寄せられる
人形のように駆けていった。リコを引きずりながら。
 ロコは子羊たちの前にしゃがみこむと、顔を思いっきり緩ませて、
「な、なんでっ、こんなところで、こんないっぱい……っ。は、はわあああっ。かっ、
 かわいい! かわいいよねぇ……っ!」
「……あの、ロコ、さっきから怖い……」
 にわかにテンション急上昇のロコに、リコは思わず生返事。
 しかし、改めてみるとその数20匹以上。どうして羊がそんなにたくさん。
 その時、頭上で笑い声がした。そこには、芝生の脇にぽつんと立つ1本の木立に背もたれる
青年がいた。
 一本の枝葉をくわえ、手にしたリュートを特に弾く様子もなく、肩ほどまである亜麻色の
髪をなびかせながら、まるで樹木の一部になったようにひっそりと佇んでいた。
 あからさまにあやしい、とリコが訝しげに見ていると、青年はふっと薄く笑い、
「やあ、僕の旅の仲間たちをそんなに気に入ってくれたのかい?」
「はい! とってもかわいい子たちですね!」
 やたら元気のいいロコの返事に、青年はありがとう、と一言返すと、何をするでもなく
目を閉じて佇む。なんだか飄々として、掴みどころのない。そんな第一印象だった。
「えっと……、旅人なのか?」
「旅人でもあり、冒険者でもあり、詩人でもあり……。自由気ままにこの子達と歩いて
 いるのさ」
「はあ」
 正直、生返事を返す他ないリコ。ロコは相変わらず酔っ払ったように羊を愛で続けている。
698『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:19:35 ID:ugGPSIAO
「すみません、この子達に触ってもいいですか? というか抱きしめていいですか?」
「お、おいロコ……」
 さっきからロコの様子がおかしい。普段のロコならば、見知らぬ人間にいきなりこんな
不躾に頼み事をしたりしないだろう。
 しかしそんなリコの不安も余所に、青年はにっこり笑って、
「いいとも。思う存分もふもふしたまえ」
「は、はい……!」
 とってもいい返事を返すが早いか、ロコは手近にいた一番小さな子羊にがばっと抱き
ついた。
「ああ、かわいい、あったかい……」
 恍惚とした表情を浮かべ、子羊の毛皮に頬ずりしたり、窒息しないか心配になるくらい
顔をうずめて悦に入るロコ。
 正直、だいぶ引いている、というより薄気味悪がっているリコだったが、一応心配して
声をかける。
「お、おいロコ、どうした、何か正気を失っておるぞ……?」
「正気でなんかいられないよ! 故郷にあの子たちを置いてきたときも気が気じゃなかった
 んだから! それに、ほら見て! 可愛くない!? 可愛いよねえ!」
「わ、わかった近い! 羊近い!」
 子羊を抱えると、ロコは天真爛漫笑顔でそれをリコにぐりぐりと押し付けるように見せ
付けてくる。
 あの子たち、というのは、ロコが実家で飼っている羊のことなのだろうが、
「それにしてもこれは……」
「はは、少年君はいい趣味をしているねえ」
 のんきに笑う青年だったが、他人事ではないリコは口をへの字に曲げてため息をついた。
 ロコがしばらく動きそうもないので、リコも羊たちの顔をまじまじと見つめてみる。
「まあ確かに可愛くないこともないが……。そういえば、羊ってどんな風に鳴くのだ?」
「ん? そうだねぇ……。おい、キミ、鳴いてみせて?」
 ロコは、先ほど抱えた子羊を、胸元でゆさゆさと振って呼びかける。
「……メェ〜」
「メェだって! はああっ、ますます可愛い!」
「待て待て待て待て!」
 思わずリコはつっこんだ。
「いくら私でも知ってるぞ!? 『メェ』と鳴くのはヤギだろうが!」
「メ?」
「ましてやそんな器用に首傾げて鳴くかぁ!!」
 思わず声を大きくするリコに、子羊は首をすくめてロコに泣きすがる。
「メ、メ……」
「よしよし、あのお姉ちゃん怖いねぇ」
「くっ、なんなのだこの羊は……」
「僕の育て方の賜物だねえ。はっはっは」
 ぼろんぼろんと、陽気にリュートを鳴らす青年。笑っている場合か。
「すみません、この子、おいくらなら譲っていただけますか!?」
 真面目な顔でぶつぶつ何かを悩んでいたと思ったら、ロコは素っ頓狂な事を言い出した。
「はぁっ!? 何を言っておるのだロコ! さっき無駄づかいはダメだとあれだけ」
「そ、そうだけど、でもこの子、こんなに可愛いんだよ……?」
 しょんぼりと俯き、少し潤んだ目でリコを見つめるロコ。
「あ、あどけない子供のような目をするのはやめろ! くっ、私に足りなかったのはこの
 目力か!」
「んー、譲ってあげたいところだけど、一緒に旅をしてきた大切な仲間だからねぇ」
 2人のやり取りなどどこ吹く風、青年はマイペースに呟く。
「うう、そうですよね……。じゃあもうちょっとだけ、撫でてあげていいですか?」
「お好きにどうぞ、少年君」
 青年の言葉を受けて、ロコは再び子羊を愛でる作業に戻った。
699『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:21:08 ID:ugGPSIAO
「はぁ……、ついていけん。私は向こうに行ってるからな」
 リコは呆れて立ち上がり、先ほどの屋台の方に戻ろうとした、その時だった。
「わっ!」
「? どうしたの、リコ、……!?」
 短い悲鳴に振り返ると、リコは尻餅を突いて倒れており、その前には野菜の詰まった
木箱を3つも抱えた恰幅のいい中年男性が、苛立った顔でリコを見下ろしていた。
「ちっ、あぶねーだろうが嬢ちゃん! こっちゃ急いでんだ、ぼさっとつっ立ってんじゃ
 ねえよ!」
「なっ……!」
 あ、まずい。と、ここ両日の短い付き合いで瞬時に何かを感じ取ったロコは、慌てて
両者の間に割って入った。
「まあまあ、抑えてリコ」
「なんだ! まだ何も言っておらぬではないか!」
「じゃあどうするつもりだったのさ?」
「怒鳴る!」
「ほら……」
 ぎりぎりと歯を食いしばらせて怒るリコをどうどうとなだめる。
「ちっ、ジャリどもの相手してる場合じゃねえんだよこっちゃ」
 悪態をつく男性に振り返ってロコは、
「すみませんでした、おじさん。こちら側も不注意でした。謝ります」
「ろ、ロコぉ……!」
 深々と頭を下げるロコに、男性はわかりゃいいんだよ、と鼻をならした。
「でも、おじさん」
「あ?」
「前が見えなくなるほどの荷物を持つのは、市場で決められたルールで禁止されてるん
 じゃないですか? 僕の故郷ではそうでした」
「なっ……」
 突然、語気を強くするロコに、男性はたじろぐ。
「ルールで決められていなくても、危険なことに変わりはありません。やめた方がいいです」
 まっすぐに目を見て言い放つロコに、箱を持つ男性の手が震える。
「こ、ナマ言いやがって……」
 男性の太い眉毛がみるみる吊り上がるのを見て、む、とリコは身構えた。
 が。
「ですから」
 ロコは、男性の持つ木箱の上2つを掴み、持ち上げると、少しよろけながら地面に下ろした。
「痛たた……、さすがに重いな。リコ、こっちはそんなに重くないから、お願いしていいかな?」
「ちょ、ど、どうしてだロコ!?」
「ぶつかったのはお互い様。で、困ってる人を助けるのは当たり前でしょ。ほら、早く
 持って持って」
 リコはしばらく口を尖らせていたが、わかった、と渋々木箱を担いだ。
 事態の流れに一番面食らっていたのは、男性の方だった。
「な、なんかすまんなあ、坊主……」
「構いません。おじさんも急いでたんじゃないんですか? 早く運びましょう」
「あ、ああ、そうだな。……嬢ちゃんも悪かった。焦ってたんで、ついムカッときちまった。
 すまん」
「わ、私は別に……。……いや、私のほうこそ、すまなかった」
 互いに頭を下げあう二人を見てロコは微笑む。野菜の詰まった重い木箱を持ち上げると、
男性の後についていった。
 
「まあ私も、誰かさんが羊なんかに気をとられなければ人にぶつかることもなかったんだがな?」
「う……、それはその、すみません……」
700『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:22:42 ID:ugGPSIAO
 ○ ● ○ ●

 男性の後ろをついて歩き、たどり着いたのは、周りの店よりとりわけ大きな八百屋だった。
こちらの地域で採れるものなのか、見たことのない野菜がたくさん並んでいる。
「ただいまー」
 男性が、店の奥に向かって声を上げる。リコにもういいよ、と伝え、重い木箱を地面に
下ろした。
「おやっさん、お帰り! 大変だったでしょ?」
「あー、いや、それがな……」
 店の奥からは、若い女性の声がした。いや、どこかで聞いたことのあるその声は、
「ルゥさん!」
「ああ、ロコ! リコも一緒じゃないか!」
 三つ編みにした赤毛を揺らしながら、からっとした笑顔で現れたのは、この土地の人間で
初めて挨拶を交わした少女、ルゥだった。
「ルゥさんのお店だったんですね」
「ん? ああ、違う違う。私はただの売り子。はいいらっしゃーい! 今日のオススメは
 カボチャ! 熟れ熟れで甘くておいしいよぉ! ……ってね!」
 この喧騒でもよく通る声で売り文句を叫ぶルゥに、ロコは思わず笑ってしまった。
「……で、おやっさん?」
「な、なんだよルゥ坊」
「何お客さんに荷物持たせてんのさ!? 物売りの風上にも置けないね!」
「ち、違ぇよ! これにはちょっと」
 ルゥに詰め寄られてたじろぐ八百屋の主人に、ロコは助け舟を出す。
「ルゥさん、違うんです。僕たちが手伝わせてもらったんです」
「手伝わせて、もらうぅ? ふふ、変な言い方するねロコは」
「そうですか?」
 二人で顔を見合わせて笑った。昨日もそうだったが、好ましい笑顔をする人だな、と
ロコは思った。
「じゃあせっかくですし、お野菜も買わせてもらいます」
「うん、売らせてもらうよ! どんどん見てってね!」
 店先に並んだ数々の野菜を見繕う。どの野菜も彩りよく、大きく育って、見ただけで
おいしいだろうとわかるほどだった。こちらの地方特産の、見たことのない種類の野菜に
ついてルゥに説明を受けながら、2人で無駄にならない程度の野菜を購入した。
 
「はいお釣り。どうもありがと! 今後もごひいきにね、リコ、ロコ!」
「リコ……、ロコ……。ああ、坊主たちか! あの幽霊屋敷に引っ越してきた若夫婦
 ってのはぶっ!?」
 土手っ腹にいきなり掌底を喰らった、男性改め八百屋の主人は、そのまま体をくの字に
曲げて地面に突っ伏した。ルゥのその拳筋の速さと重さたるや、並大抵のものではなかった。
ものすごく痛そう。
「ふぅ……。……ロコ? 今のは、その、な?」
「……夫婦じゃないって、言いふらさないって言いましたよね?」
「い、言いふらしてないよ! でも、二人の状況とか伝えたら、そういう風にしか捉えて
 もらえなくて……」
「まあ、それは」
 仕方ないかもしれない。
「ねえリコ、……照れてないで、リコも何か言って」
「おっ!? う、うむ、そうだぞ! 私とロコはそういう間柄ではない! 仲間だからな!」
「仲間って……何の?」
701『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:24:09 ID:ugGPSIAO
「世界樹の迷宮を目指す仲間だ!」
 首を傾げるルゥと八百屋の主人に、リコは胸を張って答える。すると2人は、両極端の
反応を見せた。
「ほんとに!? あんたたち冒険者なのかい!?」
「かぁっ、またルゥ坊に余計なこと思い出させやがって……」
 ルゥは目を輝かせて驚き、八百屋の主人は頭を抱えて溜め息をついた。
「いえ、まだギルドの申請が通ってないんです。年齢が足りなくって……。ということは、
 ルゥさんも?」
「なぁんだ、そうなの。私も、まだどこのギルドに所属しようか考え中。さっさとどこか
 探しに行きたいんだけど、このおっちゃんたちがうるさくてさあ……」
 やれやれと首を振るルゥの後ろから、八百屋の主人が大きな声で、
「ったりめえだ! なんでわざわざそんな危なっかしいところに行かなきゃなんねえんだ。
 ちょっと腕っぷしに自信があるからってなあ、樹海のバケモンに出くわしたらひとたま
 りもねえんだぞ! おとなしくうちの店手伝ってりゃあいいんだよ!」
「そんなこと言って、看板娘がいなくなるのがヤなだけなんじゃないのかい?」
 白い歯を見せて意地悪く笑うルゥに、けっ、と悪態をつきながら八百屋の主人は運んで
きた荷物を店の奥に片付け始める。
 ルゥの言葉にリコとロコはアイコンタクトをとり大きく頷き合うと、再びルゥに向き
直って尋ねた。
「あの、すみませんルゥさん。まだギルドに所属していないということは、自分でギルドを
 申請しようと考えたりは……?」
「いや、それがさ。こないだ二十歳になったからそれも考えたんだけど、今みたいに周りの
 反対がうるさいし、道場の連中も腰抜けばっかりで仲間も集まらなくてさ」
 やれやれだよ、と溜め息混じりに話すルゥだが、リコとロコは再び顔を合わせて目を
輝かせた。
 見つけたかもしれない、糸口を。
「ロコ、頼んでみよう! 私は、ルゥのことも好きだぞ!」
「へっ、す、好き!?」
「うん、僕も!」
「ロコも!?」
 いきなり目の前で繰り広げられる会話に、ルゥは目を白黒させた。
「あの、すみません、ルゥさん!」
「ななな、何? どうしたの二人して?」
 突然真剣な目になる2人にたじろぐルゥ。
「お願いがあるんです。僕たちと……」

 僕たちと一緒に、世界樹の迷宮を目指しませんか。
 ロコがそう二の句を継ごうとした、その時だった。

「ただいま、おやっさん」

 背後から現れた物々しい甲冑と、それに似合わぬほがらかな女性の声が、ロコとルゥの
間に割って入ったのは。
「おっ、お前ら帰ったかー! って、だぁから店来る時はそのトゲトゲ外しとけっつった
 ろーが!」
「何言ってんの。おやっさんでしょ、戻ったらいの一番に迷宮で取れた野草を店に届けろ
 って言ったのは」
 大きなスパイクが何本もあしらわれた鎧が、くすくすと笑う。
(え……?)
 その笑い声に、ロコは強烈な違和感を憶えた。

 知っている。僕はこの声を知っている。
 でも、そんなはずがない。だってあの人がこんなところにいるはずがない――
702『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:25:07 ID:ugGPSIAO
「あら、ごめんなさい。お客さんがいたの――」
 甲冑を身にまとった女性が、こちらに気づき、振り向く。
「……あ」
 ぶ厚い装甲のかげから現れたその顔を見た瞬間、ロコの意識は凍りついた。
「? ロコ?」
 いち早く、ロコの異変に気づいたリコが声をかけるが、ロコの耳にはまったく届いて
いなかった。
 切り揃えられたショートの髪。健康的な小麦色の肌。少し細めの、けれど人懐こさを
湛えた柔和な瞳。
 見間違えるはずがない。聞き違えるはずもない。記憶に残る姿とは掛け離れた、無骨な
甲冑に身を包んでいても、顔立ちは想いでどおりの美しさのまま、その人はそこにいた。
「……ロコ?」
 その声で名前を呼ばれた瞬間、電流が走ったように身がすくんだ。
 どうしようもなく懐かしい気持ちに包まれて。
 同時に、今すぐこの場を離れなきゃと、そう思った。
「ロ、ロコ? どうした、知り合いなのか?」
 心配して袖を引くリコの声に、ようやく自分が返事もせずにしばらく固まっていたことに
気づいた。
「えっと、あ、その……」
 けれど出てくるのは、言葉にもならない呻き声ばかり。背中から冷や汗が噴き出して、
うまく喉が回らない。
 まともに目も合わせられずにいると、女性の方から話しかけてきた。
「ロコ……、どうして、こんなところにいるの?」
 あなたこそ。どうして。
 そんな大きな鎧を着て。そんな物騒な槍を持って。何をしているんですか。
 言い出したくても、言葉は腹の中で燻るばかりで、ちっとも口をつかない。
 二人が押し黙ってしまうと、店の中に重たい沈黙が訪れる。
「なんだなんだ、ワケありかお前ら?」
「おやっさん! 黙ってな!」
 ルゥにぴしゃりと言い切られ、しゅんと黙る八百屋の主人。
 ワケあり、か。その通りだ。
 あの夢は、虫の知らせだったのだろうか。
 彼女との記憶が、蓋をしていた記憶の奥底からごぼごぼと溢れ出して、頭がずんと重く
なっていく。
「ロコ……」
 ロコの様子を見かねて、女性が声をかけてくるが、頭の中がぐちゃぐちゃで何を言えば
いいのかわからなかった。
 すると、女性は、
 
「……ごめんね?」

 今朝見た夢と。あの夜と。同じセリフを、同じ声で。
 その瞬間、意識の中でじりっと火花が散った。
「どうして謝るんですか!」
 気づけば、大きな声で叫んでいた。周りよりも、自分が一番驚いてしまった。
 あの時言えなかった台詞を、どうして今ここで。
「――っ!」
「お、おい、ロコ!?」
 耐え切れず、店を飛び出した。
 人にぶつかるのも厭わず、とにかく走って、逃げた。
703『Ricco Rocco 〜始まりの家A』 ◆Joc4l4klOk :2010/06/20(日) 21:26:26 ID:ugGPSIAO
(なんで、どうしてあの人が――!)
 心の中で、何回もそう叫んだ。
 市場の人混みを抜けたところで、息が切れて足を止めた。心臓がどくんどくんと跳ね
回ったが、そのまま破裂してしまえばいいと思った。
 ――あの人の、あの格好。重厚な鎧を身にまとって前線に立ち、味方を守護する役目を
担うファランクスと呼ばれる職業の装備だ。
 つまり、彼女もまた冒険者の一人として、このアーモロードに留まっているということだ。
それは、この街で冒険者として活動する以上、必ずどこかで彼女と顔を合わせることになる
ということであり――
「どうしてだよ……!」
 人目もはばからず、ロコは唸った。
 偶然にしたって、運命のいたずらにしたって、あまりにタイミングがひどすぎだ。
 頭のハッチ帽を手に取り、思わずくしゃりと握り締めた。
 
「はぁ、はぁ。意外と足が速いな。ロコ」
 振り返ると、リコが息をはずませて追いついてきていた。
「せっかく買った野菜も忘れて、どうしたのだロコ?」
 気遣ってくれているのか、野菜の入った袋を掲げて笑顔を向けてくれる。
 けれど。
「……ごめん、なんでもない。帰ろう、リコ」
「え、お、おいちょっと!」
 リコの制止を振り切って、ロコは足早に市場を離れようとする。
「なんでもないことはないだろう! いったいあの女性と何があったのだ?」
 袋を重そうに抱えながら、ロコに追いすがり質問を繰り返すリコ。
 ……面倒だな。
 そんなことを考える自分に、ただでさえ落ち込んだ気分がさらに沈んだ。
 しかしリコは、ロコの目の前に回りこみ、なおも食い下がる。
「ロコ、いったいどうしたんだ! 自分でもわかっていると思うがな、今のお前はひどい顔を
 しているぞ。話してくれ、言ってくれないとわからぬではないか!」
 その言葉に、ロコはきゅっと唇を噛み締めて、言った。
「……リコだって」
「え……?」
「リコだって、僕に言えないことがあるんじゃないの?」
「な、何のことだ……」
 目を逸らした。その態度に、ロコは言葉の歯止めが利かなくなった。
「リコ、さっき新聞にリコの国のことが載ってたよ。本当に王女様だったんだね」
「あ……、ああ、そうだぞ。そう言ったではないか」
 そう。だからこそ、ますますわからないことがある。
「じゃあ、昨日ちゃんと聞けなかった質問をするよ。リコはどうして、世界樹の迷宮を
 目指しているの?」
「それも言ったではないか! 私は、私の国を作るために」
「リコには、自分の国があるじゃないか。どうして、わざわざそこを抜け出してまで、
 国の人に迷惑をかけてまで」
「わ、私は、自分だけの国が欲しいのだ! 他の誰からの譲りものでもない、自分だけが
 支配する国が! そういうワガママ娘なんだ私は!」
「ウソでしょ」
「なっ……」
 残念ながら、ロコには彼女がそんな「独善的な王女様」には見えない。
 何でもないことで笑ったり、喜んだりする、普通の女の子なんだ、と、短い付き合いでも
気づくことが出来たから。
 だから、ますますわからない。もっと何か、理由があるはずだ。
「私、私は……」
 しかし、リコは唇を噛み、それきり言葉が継げなくなってしまった。
 じゃあ、もういいや。
「……ごめん。でも、今は一人にしておいて」
 一言謝ると、ロコは再び家に向かって歩き出した。
 
 すぐにリコもその後を追ってきたが、足音は徐々に遠ざかり、二度と近づこうとはして
こなかった。
704 ◆Joc4l4klOk
と、ここで次スレへ。


【DS】世界樹の迷宮でエロパロ B10F
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1277035091/