以上です
続きはそのうち
GJ! 続きに期待です。
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Blue Liquid 第3話 ルクの空腹
中編 空腹の理由
街外れにある喫茶店。
白いテーブルの向かい席に座っているナナ・フリアル。見た目六十過ぎの老人だった。
年相応に白くなった髪の毛とヒゲ。着ているのは、落ち着いた朽葉色の服である。胸には
魔術師協会の紋章を付けていた。
「話を聞く限り、あの子は元気にしているようだな」
コーヒーを一口すすってから、フリアルは頷いた。
ミルクティーをスプーンでかき混ぜながら、サジムは周囲に目を泳がせる。
白と茶色を基調とした清潔感ある店内。あまり喫茶店などには行かないため、微妙に居
心地が悪い。正面の師に目を戻す。
「元気ですよ。料理だけじゃなくて、掃除や洗濯もしてくれますし、アルバイトもして家計の
助けにもなってくれますし。本当にありがたいです」
家事全般をこなすだけでなく、自分の食費のためと近所の食堂兼居酒屋でアルバイトま
でしている。素直で真面目な性格のためか、店主夫婦に気に入られていた。
「甲斐性の無いお前には、少々過ぎた子かもしれん」
直球なフリアルに、サジムは空笑いを見せる。返す言葉も無い。
それを誤魔化すように、尋ねた。
「ルクって結局何者なんですか? 半液体魔術生命体って言ってましたけど」
「うん。素体は治療用の魔術薬だ。半ゼリー状の塗り薬」
あっさり答えてから、フリアルはコーヒーカップを空にした。
治療用魔術薬。サジムが思い浮かべたのは、容器に入った青いゼリーだった。ルクから
そのまま切り出したような半透明の塗り薬。さほど間違っていないだろう。
「そこに、使わなくなったり余ったりした魔術道具や薬品やら色々突っ込んで、術式を調整
してみたら、思ったより面白いものができた。しかし、私の所に置いておいても使い道ない
し、処分するにも惜しいから、生活力無さそうなお前の所に送ってみたわけだ」
「そうですか……」
他に言う事がない。
昔からその場の思いつきで行動する事の多い人だったが、ルクもその乗りで作られたよ
うだ。手元に置いておくには性能不足で、売るほどのものでもなく、捨てるには惜しい。そ
こで、家政婦としてサジムの所に送りつけたようである。
さておき。サジムは本題を口にした。
「それはそれとして、今朝起きたらルクがぼくの右手咥えてたんですけど、その行動に心
当たりありますか? 美味しそうに見えたって、怖い事言ってましたけど」
「ふーむ」
フリアルは周囲を眺め、壁に「禁煙」の張り紙が貼ってあるのを見て吐息する。手持ちぶ
さたに右手を振ってから、近くのウエイトレスに声をかける。
「すまない、お嬢さん。コーヒーひとつ追加で頼む」
「はい。かしこまりました」
手短に用件を聞き、会計伝票に注文を書き込んでから、ウエイトレスの女の子が席から
離れていった。厨房に注文を届けに行くのだろう。
揺れる白と黒のスカートを見送ってから、視線を戻してくる。
「何だっけ? っと、ルクか。それは放っておくと、本当に食われるぞ、お前」
「え?」
さらっと言われた物騒な言葉に、サジムは瞬きした。
食われる、という表現はそのままの意味だろう。美味しそうと口にし、サジムの手を咥え
ていたルク。何かの比喩ではなく、本気で食べるつもりのようだった。
ヒゲを撫でながら、フリアルが続ける。
「ルクは人間の情報を取り込んで、体型や人格、思考を維持してるんだ。ようするに、血や
肉だな。時間とともに、その情報は消耗していく。それで、情報が足りなくなると、物理的に
情報を取り込んで自分を維持しようとする。そういう仕組みだ。ンで、その対象は一番身近
にいる人間、つまりお前だ」
と、人差し指をサジムに向けた。
「怖い事言わないで下さいよ……」
サジムは乾いた笑みを作りながら、言い返す。情報の消耗。それ自体は既にルクの構
造として織り込み済みのようだった。解決法も知っているだろう。
「それでぼくは、どうすればいいんですか?」
「血でも肉でも少し取り込めば、情報は最装填できる。一番手っ取り早い方法は、手でも
斬って血でも飲ませてやれ。それがイヤなら、お前が抱いてやることだな」
「だ……?」
こともなく放たれた台詞に、サジムは再び目を点にした。
「お前も子供じゃないんだから意味は分かるだろ?」
口元に薄い笑みを浮かべて、目を細めるフリアル。普段見せる事はないが、エロジジィと
しての顔だった。
「むっつりスケベのお前には合ってるんじゃないか?」
「先生に言われたくないです」
ジト眼でサジムはそう言い返した。
◇ ◆ ◇ ◆
「――大体こういう訳だ」
風呂から上がり夕食を食べた後、サジムはフリアルとの話を手短に話した。
テーブルに並んだ空の器。サジムが食べてしまったが、ルクが作った野菜と魚の炒め物
が盛られていた。店の残り物を貰ってきてそれを調理したらしい。食堂で働くようになって
から、料理の腕も上がったような気がする。
「なるほド。そういうことでしたカ」
話を聞き終わり、ルクが神妙な顔を見せる。
右手を持ち上げて握った。半袖のワンピースから伸びた、半透明の青いゼリーのような
腕。向こう側が透けて見える。その手が、だらりと溶けて崩れた。
「最近、身体を硬く維持するのが大変でしタ。てっきり、湿気のせいトばかり考えていたの
ですガ、そういう理由だったのですネ。人間の情報……」
ジェル状に溶けた右手を眺めながら、頷く。
本人も自分の身体の仕組みを完全に理解しているようではないようだった。今日、フリア
ルに尋ねなければ、そのままルクに食べられていたかもしれない。丸ごと消化されるわけ
ではないだろうが、あまりぞっとしない事になるのは想像が付いた。
コップの水を飲んでから、サジムは右手を振った。
「だから、少し血を飲ませるよ。痛いのはイヤだけど、食われるのはもっとイヤだから。ル
ク、ちょっとナイフ貸してくれ」
「いえ――」
ルクは首を振ってから、近付いてきた。溶けた右手はそのままで。
「ご主人サマの血はいりません」
その表情はいつも通り淡々としていて、何を考えているのはか分からない。青い肌に緑
色の瞳と、青緑色の髪の毛のような部分。見た目は人間の女だった。しかし、厳密に性別
という概念はなく、あくまでも人間の女のような容姿と性格なだけらしい。
「ソノ代わり、ワタシを抱いて下さい」
左手で器用にエプロンを脱ぎ、ルクはそう言う。
差し出された右手を、サジムは左手で受け止めた。ほとんど手の形を残していない、人
肌の半液体。サジムの指を包み込み、緩慢に前腕へと流れていく。
「言うと思ったよ」
サジムはため息混じりに答えた。
以上です
続きはそのうち
GJ
続き待ってるよ
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Blue Liquid 3話 ルクの空腹
後編 いただきマス
サジムの左手と溶けた右手を絡ませながら、ルクが左手を自分の胸に当てた。誘うよう
な仕草とともに、淡々と言ってくる。
「どうゾ、ご主人サマ。ぐわっと襲っちゃって下さイ」
「なんか違うような……」
多少疑問に思いつつも、サジムは右手を伸ばした。
ワンピースの生地を押し上げる胸の膨らみに触れる。丸く大きく、指を押すとゼリーのよ
うな弾力で押し返してくる。人間とはおそらく違う感触だが、触り心地は決して悪いもので
はなかった。
ルクがサジムの膝の上に腰を下ろす。左手を絡ませたまま、右向きに。
自分の胸を揉んでいる手を見下ろしてから、
「ご主人サマ、手つきがエッチですね」
「お前が言うなって」
一度反論してから、サジムはルクの首筋に噛み付いた。
「ふぁ」
ルクが吐息を漏らす。
青く透明な身体に歯が食い込んでいく。表面の結合が弱くなっているのか、あっさりとサ
ジムの口を受け入れる。口の中へと流れ込んでくる、ルクの身体。ほんのりと甘いゼリー
のような舌触りだった。
「あっ。ご主人サマ……」
ルクが切なげな声を漏らした。
サジムの左手に絡まる溶けた右腕が、その快感を教えていた。
右手でルクの胸を弄りながら、その首筋を味わう。サジムの手と舌が動くたびに、ルクの
身体が震えていた。手や顔など、容姿を構成している部分がゆっくりと崩れていく。
「あぅ、壊れちゃいそうデス」
ルクの首筋から口を離し、サジムはルクの唇に自分の唇を会わせた。
右手で肩を抱きしめながら、ルクの咥内に舌を差し入れる。応じるようにルクの舌が動
いていた。固まりかけのゼリーのような舌触りと、ほのかな甘さ。
「ぅぅ……」
ルクが惚けたように目蓋を下ろす。
一度サジムから口を放し、手で唇を撫でた。
「ご主人サマのお口、美味しいでス」
口元に微かな笑みを浮かべ、緑色の瞳を指先に向ける。溶けかけた指先から唇まで、
青い液体が糸を引いていた。それは、奇妙に艶やかな仕草だった。
「本気で消化はするなよ」
一応釘を刺しておく。
サジムは左手を持ち上げた。ルクの袖口から伸びる青い液体の絡みついた左手。その
指先を、ルクの首筋に触れさせた。指を押し込むと、指が緩くなった表面を突き抜け体内
へと潜り込んでいく。
「うんン?」
ルクが戸惑ったような声を上げた。
ぬるい水を進むような感触とともに、手がルクの身体を進んでいく。
「うぅ、ふあぁ……。やっぱリ、んァ、変な感じデス……んっ」
体内を直接弄られ、ルクが身を捩らせる。
ルクを構成する青い半液体。その中にサジムは手を入れ、ルクの身体を内側から触っ
ていく。人間の骨格のような部分はあるが、触れるだけて溶けてしまう。
サジムは前腕半ばまでルクの首筋に差し込み、手を動かした。
「あぅ、あ……っ」
溶けかけた手で、サジムの肩に掴まりながら、ルクが甘い呟きをこぼす。
肩や腋、胸を膨らみを、内側から撫でていくサジム。手の動きに合わせて、ワンピースの
生地が動いていた。身体を外からではなく中から弄られるという、まともな生物では不可能
な芸当である。
指の動きに合わせて、ルクが口をぱくぱくと動かしていた。
「ご主人……サマぁ……。そんな、胸ばっかリ……」
「分かった、分かった」
サジムは右手でワンピースの裾を摘んだ。裾を持ち上げ、脚に触れる。膝から下は液状
になって、床に垂れていた。脚の結合も弱くなっているらしい。
無論、左手の動きは止めていない。
指先を太股の内側を何度か撫でてから、サジムはルクの身体に指を差し込む。
「んっ」
体内に指を入れられる感触に、ルクが声を呑む。
サジムはルクの太股を指で辿りながら、脚の付け根へと手を動かしていく。反射的に、
ルクが両足が取じた。しかし、サジムの手がルクの太股に呑まれただけで、動きを妨げる
ことはできない。
「あぁ、ご主人サマ……」
擦れた声をともに、ルクがサジムに抱きついてくる。
サジムは右手の指を脚の付け根から、下腹部に移動させた。人間でいう膣の辺りへと指
を差し込んだまま、そこをかき混ぜるように指を動かす。
「あっ! ふあっ、ご主人サマ、そこは……! そんなに弄っちゃ、ダメでス!」
悩ましげな声で、ルクが言ってきた。そこか性感神経の集まった場所なのだろう。指の動
きに合わせ、ルクの快感が見る間に高まっていく。どういう原理か、ルクの頬は赤く染まっ
ていた。目も虚ろで、口元から溶けた青い液体が垂れている。
「もう前技は終わりかな?」
サジムは右手を引き、ズボンのベルトを外して自分のものを取り出した。
溶けた手で口元を覆い、サジムのものをルクが凝視する。
「早く、来て下さイ……ご主人サマ……」
「ああ。行くよ、ルク」
サジムは溶けかけたルクの身体を持ち上げた。
その身体はよ軽かった。太股から下は液体状になっていて、脚の意味をなしていない。
他にも、固定化できずに液体になって床に垂れている箇所が多い。
ゆっくりとルクの身体を、自分のものの上に下ろしていく。
先端が触れた。
「ふあっ!」
ルクが両手で口を押さえる。
しかし、止まらない。サジムのものが、ルクの下腹部へと呑み込まれていく。青い半液体
を引き裂くように、奥へと進む。律儀にも、ルクの下腹部は生物の膣を模した構造になっ
ているようだった。
数秒で、サジムのものが根元まで呑み込まれる。
「うんッ。ご主人サマの、全部入りましタ……」
嬉しそうに微笑み、溶けかけた右手で生地の上からお腹を撫でる。サジムのものがルク
に呑み込まれている。しかし、その接合部分は白いワンピースによって隠れていた。
「ここからは、ワタシに任せて下さイ」
ぎこちなく、笑う。
途端、サジムのものを包む周囲が動き始めた。ルクの仮初の膣が、まるで意志を持った
かのように淫猥に蠢き、サジムに強い快感を与えていく。
「ルク……これって……?」
背筋を駆け上がる痺れに、思わず尋ねた。
しかし、ルクは答えない。
「んっ……」
切なげな声を漏らし、全身を小さく跳ねさせる。サジムのものを包み込む、生き物のよう
な動き。それを行うために、色々な神経を集めたのだろう。そこには快感神経も含まれて
いるようだった。
「ふぁ。思ったよりモ、凄いでス」
ルクの動きは勢いを増していく。
前後左右に渦巻くように動くルクの胎内。それは、生物としての常識を越えた刺激をサジ
ムに与えていた。快感はあっという間に限界を突き抜ける。
「う……うぁっ!」
身体を強張らせ、サジムはルクの中に精を解き放っていた。
蠢く半液体の組織によって、半ば搾り取られるような射精。普段の数倍以上を吐き出し
たのかと錯覚するような、強烈な絶頂だった。痛みさえ感じるほどの。
一度身体を強張らせてから、脱力する。
ルクが溶けた両腕でサジムを抱きしめた。
「ああ……っ。ご主人サマが、ワタシの中に入って来ます……」
どういう仕組みか、恍惚とした表情で頬を赤く染めている。サジムと同時にルクも達した
ようである。やはり膣に当たる部分に、性感神経を集めていたのだろう。
「なら――」
サジムは、右手をルクのスカートの中に入れた。
ずぶりと水に手を突っ込むように、手をルクの腰に押し込んだ。固まり掛けたゼリーのよ
うな身体をかき分け、自分のものを掴む。周囲ごと。人間で言うならば、膣を外側から鷲
掴みにされたようなものだろう。
「ふあっ……?」
性感神経を集めていた部分を直接掴まれ、ルクが戸惑ったように声を出す。
左手でルクの身体を抱きしめたまま、サジムは右手を動かした。性感神経の塊と化した
膣部分ごと。ヌルヌルとした半液体が、サジムのものを上下に扱く。
想定外の動きに、ルクが悲鳴を上げた。
「あああッ! ふあっ――。ごしゅ、ご主人サマッ……! はああっ、ふあぁあぁ、いきなり
ダメで……それ、ダメ、駄目でス! ふあああっ」
もぞもぞと手足を動かそうとしているが、ほとんど液体になっているため、まともに動かす
ことができない。体内の性感神経が集まった場所を、内側と外側から攻められているのだ。
全身に走る痺れは、さっきの比では無いだろう。
「ルク、こっちに顔を向けて」
「ご主人サマ……うん!」
サジムは左手をルクの頭に回し、思い切り口付けをした。
「うン……むっ……!」
薄い唇に自分の唇を会わせ、無遠慮にルクの咥内へと舌を差し入れる。ルクもそれに
応じるように、自分の舌を絡ませてきた。固まりきれずに溶けたルクの組織が、味覚を刺
激する。文字通り相手を食べるような口付け。
「ごしゅ……ジんサ――あっ!」
右手で掴んでいた膣部分が大きく痙攣する。と同時にサジムは二度目の精を放っていた。
身体の奥から全て撃ち出すような射精が、ルクの胎内を強く叩く。
内側と外側からの快感の中心を攻められ、ルクが大きく絶頂を迎えた。
「ふあああ……あぁ――あっ、ご主人サ――マ……!」
何度か身体を大きく痙攣させ、口を意味もなく開いて閉じる。出そうとした声が出なかっ
たらしい。それから、糸が切れたようにサジムにもたれかかってきた。
椅子に座ったまま、サジムはルクを受け止める。
「ルク、大丈夫か?」
袖から伸びる両腕と裾から伸びる両足は、形を保てず床に垂れていた。身体もかなりぐ
にゃぐにゃに溶けているようである。人間ならば腰が抜けたと表現するだろう。ルクは芯が
抜けてしまい、まともに身体を構成できなくなっていた。
「すみませン。少ししたら落ち着くのデ、しばらくこのままでいさせて下さイ」
ルクがそう言ってきた。
エピローグ
ルクの身体でべたべたになった身体を洗い、台所へと戻る。
「どうだ?」
寝間着姿のまま、ルクを見る。
元の形状に戻ったルクが、食器の片付けをしていた。
「もう大丈夫でス。どこにも問題ありまセン」
左手を動かしながら、そう言ってくる。
半分溶けた状態からとりあえず人型に戻り、身体を再構成したようだった。左手はどこも
問題なく繋がっている。握って開いてみても、その動きに支障はない。
「ご主人サマの精液取り込んだラ、最近固まり悪かったのも直りましタ。人間の情報の再
装填は無事に成功したようデす」
一度左手を液状にしてから、再び手の形に戻してみせる。人間の情報を取り込んだおか
げで、液化と固化の切り替えがやりやすくなったらしい。
予想以上の速効性だった。
「それはよかったな」
サジムは椅子に座って、近くに置いてあったコップを手に取る。中身は普通の水。
中の水を二口飲んでから、一度コップを置く。
流しから取り出した皿を、布巾で拭きながら、ルクが緑色の目を向けてくる。
「では、ご主人サマ。また、ワタシの固まりが悪くなってきタラ、その時はさっきみたいにワ
タシを抱いて下さいネ?」
「分かってるって」
適当に手を振って、サジムは頷いた。
ふとルクが皿を拭く手を止める。
「……? 以前だったラ、こういう時は拒否してましたケド」
「あー」
サジムは呻いた。
血を飲ませるから身体を重ねるのは拒否。以前ならそのような態度を取っただろう。ル
クもそこを疑問に思ったようだった。
吐息してから、コップの水を全部飲み干す。
窓の外の夜の闇に目を移し、サジムは小さく呟いた。
「やっぱり、ぼくもむっつりスケベか……」
以上です
GJ!
このふたりの話は和むなぁ。
#保守代わり。消えた某所に投下したネタのリメイクです。
大神の恩返し
「鶴の恩返し」という民話を知らない日本人は、まずいないだろう。
あるいは新美南吉の「ごんぎつね」あたりも有名な話だ。アレは泣ける……。
「こりゃ! 吾輩はキツネではない。オオカミじゃ!」
「あーハイハイ、知ってますよ」
何せ、アパートのドアをドンドン叩くヤツがいるから、何かと思って開けてみたら、ドアの前に大きなわんこが偉そうにふんぞり返ってたんだから。
「イヌでもない! オオカミじゃと言うに……」
ま、確かに、シェパードや秋田犬なんかより、ふた回り以上大きかったがね。
「でも、日本狼って明治時代に絶滅したんじゃなかったっけ?」
「ふむ、確かに、ただの狼であれば、な。じゃが、我らは大神(おおかみ)。人の手ごときで易々と滅ぼされるはずもなかろう?」
そーいうモンかねぇ。
俺は、先々月に嫁に行った姉ちゃんの現役女子高生時代のセーラー服を着て、畳の上にちょこんと座っている少女(獣耳&尻尾付き)の全身をマジマジと見つめた。
532 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:29:17 ID:FrMCU/eO
玄関先にいたわんこ(本人いわくオオカミ)が、「うむ、微かな匂いを辿ってココまで来たのじゃが、確かに本人じゃのぅ。さすが吾輩の鼻は確かよ!」って某弓兵っぽい声でしゃべった時は、流石にべっくらこいたさ。
あまりに驚いてたせいか、その「人語をしゃべるイヌ」(オオカミじゃ!)から、意外にも礼儀正しく、「立ち話もなんじゃ。ヌシの住処へ、入らせてもらってよいかの?」と言われて、つい部屋にあげちゃったんだよなぁ。
そうして、予期せぬ訪問者を四畳半和室の居間に通して、卓袱台を間に向かい合った時のシュールさは、筆舌に尽くし難かった。
俺が戸惑っているコトを感じとったのだろう。
オオカミ様(自称)は、ぐるりと部屋を見回すと、戸棚の上の写真立てに着目した。
「ヌシよ、すまぬが、その肖像をよく見せてはくれぬか?」
まだ茫然自失状態が多分に残ってた俺は「あ、ああ、いいですよ」と簡単に安請け合いして、手にした写真立てをオオカミの鼻先に突きつけた。
「ふむ……左側は、数年前のおヌシのようじゃな。右のおなごは?」
「3つ違いの俺の姉さんですよ。もっとも、嫁に行ったから今この家にはいないけど」
「ほほぅ、それは丁度良い」
オオカミはニンマリ(犬面だけど人の悪い笑みを浮かべていることは如実にわかった)笑うと、口の中で何かをつぶやく……と、次の瞬間!
ボムッ! という軽い破裂音とともに、彼(?)の体は煙に包まれ、その煙が晴れたときには、写真の中の姉ちゃんと同年代で、顔立ちも「姉妹? それとも従姉妹?」と思う程度にはよく似た女の子が畳の上にゴロンと寝ころんでいた。
──全裸(マッパ)で。
「ちょ……おま……ふく……」
一瞬呼吸困難に陥った俺が途切れ途切れに絞り出した言葉を、幸いにして相手は理解してくれたようだ。
「ん? おお、すまぬ。吾輩の変化は狐狸やムジナのソレとは少々性質が違うのでな。生憎と着物まで出すことは叶わぬのじゃ」
可憐な少女の唇から、某魔法会社所属の陰陽師みたいな声が出ている様子はかなりシュールだったが、そのおかげで俺は「こいつ、本当は男(雄)か?」と認識して、逆に少し落ち着くことができた。
533 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:29:57 ID:FrMCU/eO
「と、とりあえず、ほれ、Tシャツ貸すから」
なるべく「少女」の方を見ないようにしてタンスから出した俺のシャツを渡す。
「ふむ。これは、こう……かぶればよいのか?」
しばし試行錯誤していたようだが、さすがにTシャツをかぶって手と頭を出すくらいのことはできたようだ。
「おお、これは、夏場の甚平みたいで悪くないのぅ」
とりあえず、相手が服を着たことを確認してから、俺は再びヤツの正面に座って正座する。
「話の前に、まずは自己紹介しておこうか。吾輩の名は穂浪(ほなみ)。先刻言ったとおり、由緒正しきオオカミの末裔じゃ」
「ああ、コイツはどうもご丁寧に……」
未だ落ち着きを取り戻していない脳味噌をフル回転させながら、俺は日本人的習慣に従って頭を下げていた。
察するに、彼(?)の言うオオカミとは真口大神──日本狼を神格化した存在か、その眷属ってヤツなんだろう。こないだ中古で買ったゲームで、そんな話があったような気がするし。
まぁ、とりあえず、「人語で会話し、人間に化けられる狼」的な解釈で、問題なさそうだ。
「俺の名前は楼蘭工人(ろうらん・かねひと)。御大層な名前はしてるものの、とりたてて名家の出でもなければ、面妖な特技の類いも持ってない、ごくごく普通の高校生だ」
「知っておるよ。工人、吾輩はお主を、お主ひとりを追い求めて、此処に来たのじゃからな」
──もし、相手が見かけ通りの可愛い女の子で、その唇から漏れたのが白スーツの伊達男っぽい声でなければ、俺も嬉しかったんだが。
「その様子では覚えておらぬようじゃな。吾輩とお主は以前面識があるのじゃぞ?」
えぇっ!? そう言われても……。
相手の正体がオオカミである以上、町中ですれ違ったとかは考えにくい。とは言え、あまり裕福でもないウチの家族は旅行とか頻繁に行ってりもしなかったから、自然と接触しそうな場所も限られる。
「──もしかして、玄じぃのトコ……月夜野か?」
「うむ」
唯一それらしい祖父の家のある村の名前を挙げると、穂浪は頷いた。
534 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:30:25 ID:FrMCU/eO
祖父の家は、俺から見れば名実ともに「田舎」ではあったが、同時に居心地の良い場所で、両親が存命中から俺たち姉弟は夏休みには1週間ほど滞在するのが常だった。
村に何人かいる年の近い子らと友達になって、俺も近くの山や森に遊びに行った経験は多いし、その途中でイタチやキツネ、サルなどの動物を目にしたことは何度もあった。
もっとも、それは単に「見かけた」というレベルで、昔話とかにあるように、そいつらを助けた記憶なんて……。
「……あったな、そう言えば」
激しい夕立ちの日、親とはぐれたのかキュンキュン泣いてる子犬だか子狐だかを、爺さんの家に連れ帰ってミルクを飲ましてやった記憶が微かに残っている。
「じゃーかーらー、吾輩はオオカミじゃと言うに」
へいへい。
で、翌朝、俺が目を覚ます前にその子狼は、玄じぃの家を抜け出していた。
当時存命中だった祖母の話では、土間で朝飯の支度をしている婆さんにペコリと一礼してから、開け放しの勝手口から出ていったらしいから、一応恩義には感じていたのだろう。
俺としては、当時、ぜひ犬を飼いたいと思ってたので、少なからず残念ではあったのだが……。
「それは本当(まこと)かえ!?」
「へ? な、何のこと?」
ええっと、「犬を飼いたい」?
「えぇい、そこではない。いや、それも関連してはいるのじゃが……」
もしかして、「少なからず残念」ってトコか?
「そう、ソコぢゃ!」
途端にご機嫌になる穂浪。
「そうかそうか。そんなに吾輩と暮らしたかったのか。ふむ、それならそうと、素直に言えばよいものを……」
──あのぅ、もしもし?
「いや、あくまで、「当時」の話ですよ?」
「またまた……遠慮せずともよい。あぁ、それともコレが、昨今流行りの「つんでれ」と言う奴なのかの?」
「絶対違う!」
てか、山奥に住んでた自称神様の末裔が、よく「ツンデレ」なんて言葉知ってたな。
「ふむ。この姿になる時、その「しゃしん」から対象となった女子の知識や記憶なども多少読み取れたでな。コレで吾輩も「じょしこーせー」として暮らすのに不自由はないぞ」
え……。
たかだか一枚の写真から、人間ひとりの記憶その他を読み取るという力の凄さはさておき。
何だか、すっごくイヤな予感がするんですけど……。
535 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:31:08 ID:FrMCU/eO
「コホン! それで、穂浪はどうして俺に会いに来たんだ?」
できれば有耶無耶にしてそのままお引き取り願おうと思ってたんだが、こと此処に至っては、聞かないわけにもいかない。
精神的に下手に出るのもマズい気がするので、敬語もヤメだ。
「無論、お主へ恩返しするためよ」
嗚呼、やっぱり……。
「昔語りなぞで、犬はもちろん狐や狸などが義理堅い生き物じゃということは、お主も知っておろう?」
まぁ、犬は確かにそういうイメージあるよね。
狐は、例のごんぎつねとか安倍晴明の母親の話とかかな。
狸……? ああ、ぶんぶく茶釜のコトか!
「彼奴(かやつ)らの上位に位置する狗族の総領たるオオカミが、人より受けし恩を返せぬとあっては、示しがつかぬからな」
「そんな、牛乳一杯くらいで大げさな……しかも、アレ、爺さん家のだし」
ん? 待てよ?
「にしても、なんで今頃? 俺、あれから何度も爺さん家に行ってたはずだけど」
そう、俺が中三の時の冬に風邪をこじらせて婆さんが、その半年後に脳溢血で爺さんが亡くなるまでは、俺達姉弟は「田舎」には毎年通っていたのだ。
特に、5年前に両親が交通事故で亡くなってからは、遺された俺たちのことを心配して、頻繁に祖父母のどちらかが訪ねて来てくれたし、俺達も夏だけでなく年末年始にも「田舎」へ帰省するようになっていた。
その間にいくらでも「恩返し」とやらの機会はあったはずなんだが……。
「──ふぅ、ここで誤魔化すのは得策ではないかの。正直に言おう、吾輩が通力を自在に操れるようになったのは、ここ1年くらいの話でな」
あの時の見かけ通り、この穂浪はオオカミとしてもかなり若い(むしろ幼い?)部類に入るらしい。なので、神通力的なモノを使いこなすのが、まだあまり上手くはないとのこと。
それでも、人間に化けるなど幾つかの術を、ようやく完全に習得したので、さっそく俺に会いに来たんだとか。
いや、それにしたってなぁ……。
俺は、「恩返しに来た」と言う割には、この家に居座る気満々な穂浪の態度が気になった。
「まさかと思うけど……山の暮らしは退屈なので、刺激を求めて、家出同然に俺を頼って都会に来た、とかじゃないよな?」
「──ギクリ」
非常にわかりやすい態度を示す穂浪に対して、俺はニッコリと微笑み、こう言ってやった。
「人間ナメんな。山ァ帰れ!」
「そ、そんな殺生な! お主、物事はもぅちと遠回しな言い方をしたほうがよいぞ」
「ぶぶ漬けでも、いかがどす?」
「はぅ! 確かに婉曲じゃがわかりやすい!? 京都人でもないのに、それを使うのは反則じゃろうが!」
やかましい! 縁もゆかりもほんのちょっとしかない赤の他人ン家に押しかけ居候しようとするケダモノに、言われる筋合いはねぇ!
……と、声を荒げようとしたところで、玄関のチャイムが鳴る。
536 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:31:46 ID:FrMCU/eO
やむなく応対に出た俺は、一通の郵便書簡を受け取っていた。
「なになに……宛名は「楼蘭工人様」、俺か。で、差出人は……「穂浪の父」だと!?」
その言葉を聞いた途端、穂浪の頭にピンと犬耳が飛び出し、同様に尻から出た尻尾を抱えてブルブル震えだす。
「あわわわわ……な、何故、吾輩の居場所がバレたんじゃろう?」
察するに、コイツの親父さんは、かなり厳しい人なのだろう。
人間に例えると、親に反発した女子中学生が、プチ家出して友達の家に転がり込んだ矢先に、その家に親から電話がかかって来たようなモンか。
同情しないではないが、まぁ、自業自得だな。
俺は書簡の封を開けて中身を読み始めたのだが……読み進めるにつれて苦い表情になっていくのが、自分でもわかった。
「えっと……どうか、したのかえ?」
ようやっと多少は落ち着いたのか、穂浪が恐る恐るといった風に聞いてくる。
「──字は読めるのか?」
「馬鹿にするでないわ。里で覚えたわえ。それに、先ほども言うた通り、この姿の基となった女子の知識も、ある程度読みとったでな」
なるほど。そう言えばそうか。
俺は、穂浪の親父さんからの手紙を本人に差し出した。
受け取った手紙を読んでいくにつれ、穂浪の表情が百面相のように変わっていく。
最初は驚き、次に喜び、そして懐疑、悲哀、最後にやや希望を取り戻した、といったところか。
「は…はは……つまり、吾輩は当分里へは帰れぬと」
「ま、ある意味自業自得だな。巻き込まれた俺としてはいい迷惑だが」
長い手紙の内容を要約すると、こうだ。
──かつてはこの国の片隅でひっそり生き、人間とある時は争い、ある時は共存してきた我らオオカミの一族だが、近世以降、年々先細り傾向にある。
我らの里で現在一番若いのが生まれたばかりの穂浪の妹で、その次が穂浪。その上となると30歳を超えた中年男性となる。
(ちなみに、穂浪の実年齢も俺と同じ17歳らしい)
我ら以外の里の多くは、あるいは同胞を求めて異国へ渡り、あるいは人の世に交じり、その血を拡散させた。
この里の者も、いま重大な岐路に立たされている。
そこで、今回、妹の誕生騒ぎに紛れて穂浪が抜け出すのをあえて(監視つきで)見逃した。
穂浪には、里の動向の指針とするため、人の世を見定める役目を任せる。
それに伴い、まことに申し訳ないが、貴殿(俺のことだ)に人の世における穂浪の保護者になってもらいたい。
監視からの情報をもとに貴殿の情報を調べたところ、人ひとりが一緒に暮らす程度の余裕は十分にあると思われる。
(確かに、ついこないだまで姉ちゃんと同居してたのだから、当然だ)
穂浪の当座の生活費兼支度金として、取り急ぎ100万円分の小切手を同封するし、来月からは毎月10万円を仕送りする。
また、戸籍や住民票、転校届などの必要書類も、当方で用意するので、学校にも通わせてやってほしい。
事後承諾になって本当に申し訳ないが、どうか引き受けてもらえないだろうか?
(ここまでお膳を整え、礼を尽くして頼まれたら、断れねーじゃねぇか!
537 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:32:21 ID:FrMCU/eO
そして穂浪へ。
お主なりの理由があり、里にも利があるとは言え、掟を破ったこともまた事実。
本来、里抜けは永久追放だが、諸般の事情を鑑みて追放期間を3年に限定する。
ただし、その3年間は里に足を踏み入れることはまかりならん。
人の間に紛れて暮らしつつ、現在の人の良きところを学び、悪しきところを見定めて生きるように。勉学は元より、様々な経験を積むことをゆめゆめ怠るな。
また、工人殿を師とも兄とも仰ぎ、人としての先達である彼の言うことを、よくきくこと。工人殿も至らぬ我が娘を厳しく指導してやってほしい。
「ふぅ……オーケイ、事情はわかった。もし、ここで俺が頑なに「出てけ!」と言えば、お前さん、実家にも帰れず、路頭に迷うことになるワケだな」
静かな声で俺がそう言うと、穂浪はビクリと身を震わせた。
「ま、まさか……」
「安心しろ。いくら何でも、そんな非道なことはしねぇって」
「ほ、ホントかえ!?」
「ああ……」
ただし……と言葉を続ける前に、感極まった穂浪のヤツが抱きついてきて、俺は畳の上に押し倒された。
「ありがとう! やっぱり、ヌシは吾輩の命の恩人じゃ!!」
先方の気分的には、大きな犬が飼い主にじゃれてるような感覚なのだろうが、俺のほうから見れば裸にTシャツ1枚着た同年代の女の子にタックルされたようなモンだ。
加えて言うと、今のコイツの容姿は、俺の好みのタイプにストライクど真中でもある(悪かったなシスコンで)。
いかに相手が雄(オス)だと頭でわかっていても……ん? 何か引っかかるな。
「む! おヌシ、また吾輩のことを犬扱いせなんだか?」
幸い、穂浪が首を傾げて身を起こしたので、かろうじて俺も落ち着きを取り戻した。
「いや、そーゆーコトするからイヌ扱いされるんだって」
ヘニョと眉をしかめたものの、自覚はあるのか、おとなしくなった。
「まずは落ち着け。それと、いつまでもシャツ1枚ってワケにもいかねぇだろうから、隣りの姉ちゃんの部屋で適当に着替えて来い……着替えの場所とかやり方は、わかるんだろ?」
「う、うむ。大方は、な」
微妙に自信なさそうだったが、さすがに女の着替えを手伝うわけにもいかない(でないと、俺の方がオオカミになりかねん──性的な意味で)し、そこはコイツの記憶読み取り能力に優秀さに期待するしかないだろう。
立ち上がり、襖(ふすま)を開けて隣の部屋に移動する穂浪。
「覗いちゃやーよ、コウちゃん……」
ご丁寧にも、姉ちゃんの口調と声色を真似つつ、そんな台詞を残して。
「ばっ……誰が覗くか!」
俺の怒声は、ヤツが閉めた襖に遮られたのだった。
538 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:33:03 ID:FrMCU/eO
以上のような経過の末に、冒頭のやりとりがあったワケだ。
……何? メタなことを言うな? この作者のSSでは今さらだ。あきらめろ。
「ところで、今後姉ちゃんが着るアテはないだろうから、別段構わんが……なぜに、わざわざ制服なんだ?」
「う、うむ。確かに、お主の姉御の記憶の概要は読み取ったのじゃが……正直、女子高生のふぁっしょんせんすなんぞ、サッパリでな。とりあえず無難な学校の制服にしてみたのよ」
ああ、そりゃそうか。服のコーディネートとかは、やっぱり知識以上に経験と感性がものをいうからな。
もっとも、女の子の服装については、あまり俺も協力できそうにないなぁ。
「それと……さっきから言おう言おうと思ってたんだが、その姿で渋いイケメン声でしゃべるのはやめれ。正直見た目とのギャップで頭がクラクラする。
お前さんがいくら牡(オス)でも、見かけは妙齢の女の子なんだから……」
と俺が苦情を申し立てようとすると、穂浪が眉をしかめた。
「お主……何か勘違いしとりゃせんか? 吾輩はレッキとした牝(メス)じゃぞ」
…………ハイ?
「いや、だってその声……」
「これは、父上の人間形態時の声を参考にしているのじゃが」
や、ややこしいコトすんなぁ!!
それじゃあナニか? 俺はコレから同い年の女の子と、最長3年間も同棲生活しないといけないのか!?
マズい。いくら姿が美少女でも、コイツが本当は男(オス)だと思ってたから、自制が効いたのに……。
いや、落ち着け。KOOLになれ、工人。コイツは、本当はオオカミだ。ケダモノなんだ。獣姦趣味は、自分にはないはずだろう?
──というような葛藤が、一瞬にして俺の脳内を駆け巡ったと思いねい。
結局俺は、そのコトに関しては心の棚にしまって、深く考えるのを放棄した。
「まぁ、ソレはさておき。さっき、姉ちゃんの声色使ってた以上、ほかの声が出せないというワケでもないんだろ?」
「ふむ……確かに年若い女子としては少々威厳があり過ぎるか。
──では、コレでどうじゃ?」
先ほどと同じく、穂浪は姉ちゃんの声色を出してみせた。
「うーん、姉ちゃんとまったく同じってのも混乱の元だからやめてくれ。お手本があれば、わりかし自由に変えられるのか?」
「まぁ、得手不得手はあるがの」
539 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:33:32 ID:FrMCU/eO
てなワケで、ふたり並んでアニメDVDを鑑賞中。ツッコミは不許可だ。
「ふむ……この「盲目の少年」や「魔法使いの少年」の声なら、吾輩の地声に近いゆえ、簡単じゃが」
「それだとショタ声だからなぁ……こっちの「日本刀使いの化猫少女」は?」
「可能じゃが、オオカミとして猫の物真似をするのはのぅ……こちらの「内気な図書委員」で手を打たぬか?」
「いや、それ、姉ちゃんと大差ないだろ。ん? そーだ」
DVDを再生してたPS2を止めて、別のDVD-ROMと入れ替える。
「これならどうだ?」
「ふむ……高過ぎず低過ぎず。なおかつ、しゃべり方も十分女らしいか。よし、この「黒いせーらー服の女子」にしておくかの」
コホコホと、2、3回空咳をしてみせる穂浪。
「ん、んっ……どう、これでよろしいかしら?」
穏やかで落ち着いた耳に心地よいアルトボイスのお嬢様言葉が、穂浪の口からこぼれる。
「おぉぉーーーーっ! すげぇ、ソックリ! バッチリだ」
思わずパチパチパチと拍手してしまう。
「フフフ……このくらい、吾輩にかかれば朝飯前よ」
と、しゃべり方はこれまで通りに戻ったものの、声は先程のアルトボイスを維持している。
「その物真似状態は、常時維持できるのか? 無理してたり、とっさにボロが出たりとかは大丈夫?」
「まぁ、そもそも人の言葉をしゃべること自体が、吾輩らオオカミにとって、不自然と言えば不自然なのじゃが。
ただ、容姿とともに一度固定してしまえば、少なくとも人の姿をとる時は、コレが基本となる」
そういうことなら、当面はこれで問題ないだろう。
「容姿」についても別の姿に変更してもらうことも一瞬頭をよぎったが、「親戚」という触れ込みで同居させるなら、姉ちゃんと似ている方が説得力はあるだろう。
……断じて、女子高生時代の姉ちゃん似の姿を堪能したいからではないぞ?
540 :
大神の恩返し:2011/01/17(月) 12:33:53 ID:FrMCU/eO
#以上。エロがカケラもない上、ネタ満載でお目汚し失礼。まぁ、保守ネタということでご勘弁。
#ちなみに、穂浪が参考にしようとしたのは、順に「弘瀬琢磨」「羽瀬川拓人」「野井原緋鞠」「星乃結美」、そして最後は「森泉晴音」に決定しました。まぁ、中の人はみんな某狼と同じなのですが(笑)
#ちなみに、主人公の姉は「原村和の声で塚本天満っぽいしゃべり方」をする女性です。やっぱり小○水……。
こりゃ続きが期待できるのう グッジョブと言う奴だのう
狼かー
狐や猫はいたけど
狼はひさしぶりかな
543 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/18(火) 22:58:19 ID:1r0KAzAE
age
うおおおもっふもっふもっふもっふ
545 :
梅雨入り保守:2011/01/22(土) 19:41:02 ID:HQnRpFCO
もそもそ
,、ッ.ィ,
,:'゙ ';
(( ミ,;:. ,ッ )))
゙"'''''"゙
もふっ
ハ,_,ハ
,:' ´∀` ';
ミ,;:. ,ッ ノノ
゙"'''''"゙
ポィン
ハ,_,ハ ポィン
,: ´∀` ';
ミ,;:. ,ッ
゙"'''''"゙
ヽ ili /
- -
スタッ
ハ,_,ハ,
n' ´∀`,n,
ミ,;:. ,ッ
`'u゛-u'
ズビシッ
ハ,_,ハ
,:' ´∀`';9m <GJ!!
ミ,;.っ ,,ッ
ι''"゙''u
続編まだああああああああああ
ってかそろそろ500KBだな
もっふもふ狼さんの続編まだああああああああああ
549 :
540:2011/01/27(木) 01:15:41 ID:7Ez0jP9Z
あれ、微妙な反応(好意的中立?)だったのでのんびりしてたんですが、もしかして続き希望されてる?
失礼しました。週末にでも28板に投下させていただきます。
+ 。 * ワクワクテカテカ +
ツヤツヤ ∧_∧ +
+ _(u☆∀☆) ギトギトヌルヌル
⊂ (0゚ ∪ ∪。⊃ +
⊂ ゚̄ と_u _)__)゚  ̄⊃ + ワクワクキラキラ
⊂_。+ ゚+_⊃
⊂__⊃. + * + ワクテカ +
春はあけぼの……もとい、春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、4月半ばの日曜の朝なんてのは、気持ち良く布団で惰眠を貪るのに一番うってつけの季節と相場が決まっている。
「……こ…ゃん……」
いや、そのはずなんだが……なぜか俺を起こそうと呼ぶ声が聞こえる
「…コウち…ん……お…て……」
どこかで聞いたような──と言うより、この世で一番聞き慣れた声。
「コウちゃん、もう朝よ。起きなさい?」
お願い、と言うか字面的には命令形のはずなのに、この妙にポワポワした印象を与える声は……愛海(あみ)姉ちゃん!?
「んん〜」
とりあえず、うめき声で聞こえていることは示す。
「もぅ、お寝坊さんなんだから。よーし……」
突然、顔にかかる息遣い……って!
──ガバッ! ガツッ!! 「あつッ!」
俺が慌てて布団の上に起き上がるのと、額に何か衝撃を受けるのと、女の子の悲鳴。
その3つがほぼ同時に発生した。
「ひ、ヒドいではないか! せっかく吾輩が起こしに来てやったと言うのに」
無論、俺の石頭の直撃を受けた鼻を押さえて涙目になっている少女は、穂浪(ほなみ)。昨日からよんどころない事情で同居(断じて同棲じゃないぞ!)するコトになった、「オオカミ」と自称する人外の存在だ。
……いや、まぁ、単なるイタイ人の厨二的自称(笑)ではなく、本当に人狼というかライカンスロープというか、とにかく「本体は獣形態で人型にもなれる」種族なのは確かなんだが(目の前で変身するトコも見たし)。
「るさい。ワザワザ姉ちゃんの声色まで使いやがって。あのあと、いったい何するつもりだった?」
何せ妖力だか神通力だかで人型──それも俺の姉ちゃんによく似た姿に「化けて」いるだけあって、姉ちゃんの声真似もかなり器用にこなしやがるのだ。
「いや、声をかけただけで起きぬなら、つぎは主殿の頬を舐めて進ぜようかと」
──まぁ、犬科の動物ならデフォの起こし方かもしれんが、今のお前は、俺と同年代の女の子にしか見えないんだ。自重しろ。
「しすこんな弟殿へのさぁびすのつもりなのじゃが……」
「! そんなサービス精神、ドブに捨ててしまえ!」
たかだか一枚の写真から、姉ちゃんの姿形は元より記憶の概要すら読みとるその能力はたいしたモンだと思うが、こんな風にソレを悪用されちゃたまらん。
「むぅ……つれないのぅ」
──俺が欲望に流されて過ちを犯さぬよう、節度ある態度をとってるってのに、コイツは……。
とは言え、おそらくは人間における男女関係の機微なぞロクに理解してないだろうこのわんこ娘に手を出すワケにはいかんだろう。
それに、もし万が一押し倒そうモンなら、例の「監視」とやらを介してコイツの親父に即伝わるだろうし、そしたらそのまま「娘を傷物にした不届き者」として大神の里とやらへ拉致→DEADENDな予感がひしひしするしな。
「で? 今日はまだ日曜──休日だぞ。こんな朝早くから何だ、いったい?」
平日と休日の区別といった、現代日本の基礎的な常識は、一応コイツも呑み込んでいるはずだ。まさか、朝のサンポに連れてけとか言うんじゃねーだろうな?
「吾輩は犬ではないと言うに。朝餉の支度が出来たので、呼びに来たまでじゃ」
!!
「ま、マジで?」
「うむ。この家の世話になる以上、家事の一部を分担するのは当然じゃろう?」
おどれーた! まさか、そんな殊勝な心がけをコヤツが持っていたとは……。
言われてみれば、穂浪のヤツ、Vネックの長袖カットーソー&スリムジーンズという格好の上に、ヒヨコのプリントされたエプロンを着けてやがるな。「管理人さん」とか「若妻モード」いう言葉が脳裏を過ったが、サラリと無視する。
「人の子の料理なぞ初めてじゃが、存外上手く出来た……と思うのじゃが」
待て、今すごく不穏な台詞を言わなかったか !?
──そう、そうだよな。このテの「善意」には、そういうオチが付きものだよな。
まぁ、それでも「女の子が頑張って作った初めての手料理」だ。多少味や見栄えが悪くても、我慢して食べてやるのが男の甲斐性ってヤツだろう。
(せめて、水で胃に流しこめるレベルの「失敗」でありますよーに)
俺は、密かに天に祈りつつ、覚悟を決めて居間へと向かったんだが……。
事態は俺の予想を120度ばかり斜め上を空中遊泳していく代物だった。
「──なぁ」
「何か?」
「説明して欲しいんだが」
俺は卓袱台の上に所狭しと並べられた料理に視線を投げる。
「おお、なるほど」
ポンと手を打つ狼娘。
「まずは、主から見て右手の端にあるのが、ミラノ風仔牛肉のステーキじゃ。
その隣りの皿がローストポーク&ルッコラのサラダ。ソースのはあえて和風にしてみたぞえ。
真ん中の大皿がミートローフのマッシュポテト添え。好きなだけ切り分けて食べるがよい。
左から二番目が若鶏のモモ肉の龍田揚げ。唐揚げより米飯に合うかと思ぅてな」
意外と言っては失礼だが、穂浪の作った料理はどれも至極真っ当に見えた。
おそるおそる箸をつけてみたが、味の方も、天下一品とは言わないまでも、十分「美味い」と評せるレベルだ。
「ふ、吾輩にかかればコレくらい朝飯前……と言いたいトコロじゃが、調理技術(コレ)は愛海殿の記憶の賜物じゃからな。ココは謙虚に主の姉者に感謝して……」
──いや、確かに美味いことは美味いよ。
でも……どう考えても朝っぱらから食べる料理と量じゃねーだろ、コレ!!
「??? そう、なのか?」
朝から4種類の大皿肉料理のコンボって、イジメかよ! アメリカ人だって、そこまでヘビィな朝飯はそうそう食わんぞ。
どうもコイツ、中途半端に常識がインストールされてるクセに、こういう「当り前の人間の感覚」がズレてるらしい。
「何か問題でも」といった表情でキョトンとしている穂浪の顔を見て、コレから同種のトラブルに悩まされそうな予感で、朝から胃が痛くなってきた俺だった。
-つづく-
#翌朝のひとコマ。穂浪は、ヘッポコではない(その大半は元にした愛海さんのおかげ)けど、ズレてるタイプの子です。
念のため宣言しておくと、エロにたどり着くのはかなり先になりそうです。
GJ
愛があれば朝からその量でも・・・ごめんなさい無理ですorz
あれ? おかしいな??
俺が書きたいことが全部
>>556に書かれてる。
「俺ツレ」なるオール人外ヒロインのエロゲをコンプしたばかりなんで、
上の狼娘で美作アリスを連想したが、一般的には556みたくシロか、
あるいは「香辛料」のホロを思い浮かべるのかね。
(・∀・)人(・∀・)
560 :
大神の人:2011/02/01(火) 01:19:03 ID:b/mD9oV4
>>556、558
あ〜、シロもホロもアリスも全員確かに意識はしてます。て言うか、彼女たちの誰ともかぶらんキャラ造形は、私には無理っス。
無論、そのまんまにはならないよう、気をつけるつもりですががが。
自分の他のSSの狐娘が完璧超人なんで、ソレともかぶらないようにしないといけないんで……けっこう悩みどころです。
次回はお買い物編の予定。
狐娘kwsk
562 :
大神:2011/02/01(火) 18:44:24 ID:5IDBFArZ
>>561
以前ココに投下して、保管庫にもある「夫婦神善哉」に登場する(てか、本来の主役コンビである)ふたり組の片割れ、葛城葉子さん。
銀色の髪をポニテにしたグラマーなツリ目の20代半ばの美女。一人称は「我(われ)」。ただし、公的な場では「私」。プロポーションは抜群だが、相方の安倍乃橋青月が巨乳信者なので本人的にはもう少しバストがほしい様子。
某著名短大を優秀な成績で卒業した才媛で、青月の幼馴染……というかほとんど姉弟同然に育った仲で、現在は恋人と言うより、ほぼ内縁の妻状態。ちなみに姉さん女房(公式には2歳年上)。
その正体は、安倍乃橋家の初代に命を救われ、以後数百年にわたって同家に仕えてきたた七尾の妖狐──の転生。
初代が転生した青月と今度こそ結ばれるために、7本の尾の内3本を切断&封印し、力を封じて無力な幼女の姿に化生し、以後は「遠縁の娘」として安倍乃橋家で青月とともに仲睦まじく育った、ある意味究極の純愛ストーカー。
15、6歳ぐらいから妖力(と過去の記憶)も取り戻し始めたが、それ以前にも浄化術や陰陽術・体術を真面目に修練していたため、巫女としての霊力・各種陰陽系の術・さらに妖狐としての妖術が使えるチートキャラ。
クールでクレバー、時にシビアな"デキる女"……なのは表向き。身内(とくに青月)にはダダ甘々な世話焼きお姉さん。
──正直、自分のSSの主人公に嫉妬したくなる完璧超人なヒロインDEATH
微妙に容量残ってるな
埋めとくか
Z^ヾ、 Zヾ
N ヽヘ ん'い ♪
|:j rヘ : \ ____ _/ :ハ;、i わ
ぐ^⌒>=ミ´: : : :": : :`<ヘ∧N: :| し っ
∠/ : : ヘ: : : : : : : : : : : `ヽ. j: :| l ち
/ /: : /: /: : : /: : : : ^\: : :∨: :| て わ
/ //: : ∧/: : : :ハ : : \/:ヽ : ',: :ハ や っ
/:イ: |: : :|:/|\: / : :_/|ヽ: :|: : :l: : l ん ち
. /´ !: :l: : l代ラ心 ヽ:ィ勺千下 : | : :| よ に
|: :|: : |l∧ト::イ| |ト::::イr'|ノ゙: | : :| l
|: :l: :小 弋少 :. ゞ=‐'/: : ;リ : :| ♪
|: :|: : 八"" r‐― V)"/: : /: : ;.;' />
Y : : : |>ーゝ _____,.イ⌒^`ーi : :八 </
ヽ{: : !: /: : /IW ,(|_;i_;|_j__j: : : : \ に二}
, 人: ∨: :/{_幺幺 廴二二ノ: : : : : : ヽ
_b≒==く: : ヾ:{__;'ノ∠ムム>‐弋 : : : : : : j: : : : '.
_b≒/竺≧=巛_>''7 | >、!: : : ハ: : : }
レ'´|/く二>{__,|x-</}: / } /∨
/;∠.___ノレ<〕__'´ ´
__厂X/XX{ ) ヾ! \ \ヘヘヘ、_
{{Zんヘ/XXXXじ |! `くxべべイ }
_∧/ん<Xx厶 |! r' ̄〈ヽ_!〈
\ L 辷ヒ二二/ |! _/\「 r┘ーヽ`} ノ}
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