なかったので立てました
古典部や小市民といったシリーズ物からボトルネックやら追想五断章やらのノンシリーズ物までなんでも書いていってください
米澤穂信もエロパロにスレが立つほどにメジャーになったのか
めでたいことだ
過去にも一度立ってるよ。
エロパロ保管庫にちょっとだけある。
4 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 10:41:15 ID:dLQTTO75
しかし伸びるのか?これ
犬はどこだ?
6 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 19:51:29 ID:Iz3aqbXT
どのくらい需要があるのでしょうか。
私、気になります。
ホータローはあんな時も省エネ?
10 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 23:50:18 ID:Iz3aqbXT
幼いさんだったら、それなりの需要があると思うのだが
>>1 追想五断章はさすがに無理だろ……
>>11 ベッドで煙草すぱーってふかしてる姿が目に浮かぶようだ
もちろん傍らには
>>12 小説を見つける報酬としてお金ではなく体を要求する菅生芳光
北里可南子は戸惑いながらも父の遺したリドルストーリーのために了承して……
「青春去りし後の人間の肉欲」を描いた長編SS
書けるの?
ボトルネックでリョウがサキを押し倒してたらどうなったか
16 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 21:50:36 ID:uWZ87tXU
リョウはへたれすぎてちょっと……
17 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 21:52:02 ID:uWZ87tXU
3 :イラストに騙された名無しさん:2009/12/02(水) 21:51:01 ID:WgPj/AOv
「それで折木さん、お話というのは一体なんなのでしょう」
「ああ、そのことなんだが」
話を切り出しかねた俺は、千反田の脚に目を落とした。
薄手のスパッツに包まれた太ももは、ほっそりとして健康的に引き締まっている。
ご存知の通り、千反田は制服と私服のどちらでも、膝がすっかり隠れるスカートしか着用しない。
したがって、千反田の膝より上の脚は、体操着を着ているときにしかお目にかかれないのだ。
一定のリズムでしなやかに躍動する太ももの筋肉。
こんなに間近で、こんなにも長い時間見られたのは初めてではないだろうか。
千反田が脚を上げるたびに現れる膝小僧の傍の窪みを見つめていた俺は、ふと重大な事実に気がついた。
千反田は汗をかいている。
汗で湿り気を帯びたスパッツは、その中身のラインを際だたせつつある。
千反田の脚の付け根に浮かんだあの段差は、まさかショーツの
「折木さん」
千反田の声に、俺は弾かれたように顔を上げた。
食い入るように脚に見入っていた俺を責めるのかと思われたが、しかし意外なことに、千反田は微笑んでいた。
いつもの清楚な表情からは想像もつかないほど艶やかな微笑を浮かべ、そして囁くように言った。
「折木さん、わたしのスパッツのなかが気になりますか」
18 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 00:14:36 ID:Q3+WlmaH
書く気もないのに何故立てたし
うっすらと生えてる恥毛を掻き分けて、僕は幼いさんの秘所を舐めた
僕が思うにこれは・・・
今月号の古典部はヤンデレで百合だな
間違いない
21 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 00:09:01 ID:MovK6c9B
大日向があずにゃんで再生されてしまう人は多いと聞く
23 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 22:54:20 ID:CKoYqTNo
そうですか
小佐内さんは不人気なのか
小佐内さんはしっぺ返しが怖い
キスだけでトラウマになるほど追い詰められるのにセックスなんてしたら確実に殺される
このスレ俺以外の誰が得するんだよ…
小佐内さんのエロを誰かお願いします
29 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/17(水) 01:19:02 ID:+V/CLmQ8
お願いする前に自分で書いて投下すればみんな幸せ
31 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/21(日) 11:35:56 ID:5aq/Q6N8
そりゃ内心はマグマだな
内心マグマになりながらも、
力に屈して股を開く事になった小佐内さん!
小佐内さんはオナニーするのかな?
幼いさん「小鳩君、私のケーキ、黙って食べた罰として
ムダ毛処理を手伝ってね。
あと私がイクまでクンニしなさい」
幼いさんはいちご100%の南戸唯みたいな容姿だと
想像して抜きます。
幼い幼いうるせー
小佐内だろ
小佐内さんに浣腸して足コキされる羽目になった小鳩君
性的なイメージがなかった
ああいう女の子を見ると征服欲をそそられる
俺は小佐内さんみたいなコケティッシュながらも可愛らしい子と
イチャイチャしたいんだ!
たまには太刀洗のことも思い出してやってくださいね
小佐内さんのせいで「いい歳してツルペタ」属性に目覚めてしまった
放課後に二人でお茶をするなんてことは、ぼくらの間ではよくあることだ。
ただ、今日のように小佐内さんの家にわざわざテイクアウトしたケーキなんかを食べにくるのは珍しい。
小佐内さんは人見知りをする。そして、交友関係を広げるにも消極的だ。
だから、小佐内さんの家にお呼ばれするほどに彼女の懐に入り込める人間はほとんどいない。
そしてもしも、もしも彼女の許可無く無理矢理押し入ろうとする人間がいたら、彼女はきっと容赦をすることは無いだろう。
そんなことで、この稀有な状況をぼくは楽しんでいた。
「それで、今日はどうしてぼくを家に招待したのかな」
今日も帰りに寄った洋菓子店。数席だけ簡素なテーブルが置かれているそこで、わざわざテイクアウトする理由など無かった。席も空いていたし。
無理にあげるとすれば制服だったこと。喫茶店なんかに高校生がいることは珍しくもないけど、制服は目立つ。だけど、そんなことを気にするには今更過ぎる。
「コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
小佐内さんは、ぼくの質問を気にした風でもない。
「じゃ、コーヒーで」
まあ、話はケーキを食べてからということだろう。テーブルの上に置いてある箱の中にあるケーキは四つ。小佐内さんは三つでぼくが一つだ。
ぼくは甘さ控えめなビターなチョコレートケーキで、小佐内さんはいちごのショートケーキに桜のモンブラン、チーズケーキと季節感がある。
小佐内さんがコーヒーとお皿を乗せたお盆を持ってくる。
「さあ、食べましょうか」
なぜかぼくのお皿の上にはチョコレートケーキとチーズケーキがある。
「あの、小佐内さん。これは……?」
「あげる」
「えっ」
まさか……、あの小佐内さんが人に甘いものを分けるなんて!
これは絶対になにかある。このチーズケーキは罠だ。
だが、小佐内さんの好意を無碍にする訳にもいかない。……決して知的好奇心の為ではないと断言しておく。
「じゃあ、ありがたく頂こうかな」
特に会話もなく完食する。大変美味しゅうございました。
「そろそろ、教えてもらえるかな。ぼくにどんなことを頼みたいのか」
今日の一連の今までになかった行動は、つまりぼくになにかを頼みたかったのだ。
そう仮定すれば、これらの行動は遠回りだけど実に小佐内さんらしい。
部屋の模様替えなどだろうか。自慢ではないけど、ぼくは知恵をめぐらせるのは得意だけど、力仕事ではあまり役に立たない。
「そっか……。気づいてたんだね」
「うん。ぼくに出来ることならなんなりと言ってくれてかまわないよ。チーズケーキも食べちゃったしね」
小佐内さんは、紅茶に一口つけて意を決したように顔をあげる。
「あのね、わたし知りたいの。セックスとはどんなものかしらって」
比喩ではなく、本当にぼくはコーヒーを吹き出した。
「えっと……、何が知りたいって?」
「セックスのこと」
何故だかぼくはもの凄く追い詰められている。そして、今日の行動を省みて後悔し始めた。
一瞬、思索の海に沈んだぼくは、素早い動きで隣に回り込んできた小佐内さんに押し倒されていた。
「小佐内さん……!ちょっと待って」
「小鳩くん。セックス、しましょう」
上からぼくを押さえつけている小佐内さんは、見たこともない表情でこちらを見ていた。
顔を真っ赤に上気させ、ひどく興奮している。ただ、その瞳だけは爛々と輝いて、まさに獲物を食べる前の肉食獣のようだった。
その顔にははっきりと逃さないと書いてあって、ぼくは観念した。せめて、この一年間の付き合いがあったことを加味して、骨ぐらいは残してくれるといいなあ。
人生で初めて夢精をしてしまった。どんな夢を見たのかは覚えてないけど、全身を包む冷たい汗と、うるさいくらいに鳴っている鼓動があまりいい夢ではなかったと示している。
淫夢で悪夢なんて一体どんな夢だったのやら。
手早く思い出の残滓の後処理をしたぼくは、今日の予定を思い出していた。
そういえば今日は、小佐内さんに呼ばれてるんだっけ。
小佐内さんがぼくに食べさせたいというケーキがあるらしく、特に休日の予定のないぼくは二つ返事でそれを了承した。
甘いものを食べているときの小佐内さんは本当に愛らしい少女だ。いつもが無愛想な分、満面の笑みを浮かべてケーキやパフェにかじりつく姿を見るのは、控え目に言っても悪い気分ではない。
それで……、肝心の食べさせたいケーキというのはなんだっけ。昨日の記憶を思い起こてみる。
そうだ、チーズケーキだ。
それを思い出した瞬間、全身に鳥肌が立ったようなひどく不快な気分になる。
その感覚はただの勘違いではなく、実際に大量の冷や汗が体の奥底から湧き出てきていた。
そして、その不快さは耐えられないほどになり、トイレにかけこみ嘔吐する。
「……風邪でも引いたかな」
残念だけど、この調子では小佐内さんの家には行けそうにない。
メールで風邪を引いて行けない旨を伝える。残念、また今度ね。と帰ってきたメールを見て、いよいよぼくの症状が悪化したようで、冷や汗が止まらず全身が震え出した。
結局、その日は失神するように寝込んでしまった。翌日、目が覚めると特に体の異常もなく、昨日引いたであろう風邪の残滓を感じることは無かった。
そういうこともあるかと、ぼくの中では質の悪い風邪として処理され、以前と変わらぬ日常を送っている。
ただその日から何故だかぼくはチーズケーキが食べられない。食べられないだけでなく、チーズケーキという単語を聞くこともチーズケーキを見ることも心が拒絶する。
全く不可解だと思う。けれどぼくがチーズケーキを食べられなくなった原因については考えないようにしている。それを知ってしまったらきっと後悔すると、心の深い部分が叫んでいるからだ。
<終わり>
これじゃあ痴女じゃないか
46 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/05(月) 21:15:06 ID:7fwm1sh/
やっぱり千反田だろ
ここでマーヤですよ
ちたんだはえろい
悪いこと覚えさせたくなる
49 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/13(火) 00:22:27 ID:RiZRnNDn
千反田とマーヤってどうちがうの
やはりよねぽでエロパロは不可能だったんだよ!
いや、今月号の小佐内さんでネタは何とかなりそうだ
儚い羊のお嬢様方&メイドとか
べルーフの某夫婦とかもあるじゃないか
ガチ百合か
ガチ百合でいくんだな
レンガの代わりに別のもので(下の)口封じをするんですね
玉野五十鈴一択
次点であまり
>>55 五十鈴いいな。
あっちの手ほどきもしっかり心得てそうだ。
幼いさんは野暮ったいから、性的な表現は無理か
>>57 逆レイプされる小鳩くんしか思い浮かばない・・・
せっかくスレ建てたんだからこのスレくらいは使いきりたいなあ
つーか、レイプされた相手を
「頼むから殺してくれ」と懇願されるような目にあわせるところしか思い浮ばない
オナニーを覚えたての頃の小佐内さん
うむ
62 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/02(日) 23:41:09 ID:VslAeI0V
小佐内さんが人気なのはわかった
それで千反田はまだか
好奇心が強すぎる娘さんですね
性的な意味で
そして省エネなあの人を壁まで追いつめ押し倒す、と。
女性陣が押せばあっという間に落ちると思うんだけどな、古典部は。
里志はもう落ちたしな
子供ってどうやってつくるんですか?
わたし、気になります!
「わたし、折木さんのことが気になります」
「いいえ、そうじゃないです」
「折木さんに、わたしのことを、気になって欲しいんです」
「…………きになって、欲しいんです」
という所まで妄想した
後は任せた
膝の上の文庫本に目を落としていた千反田はやおら顔を上げ、
「膨張した男性器からどんな風に精液が出るのか。
折木さん。わたし、気になります」
……耳がおかしくなったかな?
今まで千反田の好奇心で猫が殺されそうになった記憶は無いが、
今の状況はお互いの貞操にとって危うい状況になるおそれが無くもない。
……まだ千反田は子猫のようにまっすぐと、返事を期待した目で見てくるんだが。
俺の妄想だとこうなった。
手元にクドリャフカの順番しかない。
氷菓と愚者どこかに失せた。。。
室内は冷房が効いているにもかかわらず、
ぼくの身体はじっとりと汗が浮き始めている。
まさに今のぼくは蛇に睨まれた蛙という状況だろうか、
いや、まな板の上の鯉のほうがあっているのかもしれない。
この醜態を目の前にいる小佐内さん以外の人に見られたら、
ぼくは恥ずかしさとトラウマで嫌な夢リストがさらにもうひとつ増えることは確実だ。
「小鳩くん、おいしそう」
小佐内さんがいつになく潤んだ瞳でぼくの体表面を上から下まで凝視している。
「小佐内さん、言葉は正しく説明しないと。
ぼくが美味しそう、じゃないでしょ?」
「そうね、飛ばしてたわ。
小鳩くんの胸にくっつているマンゴープリンとレアチーズケーキと、
お臍の上のパンナコッタに下腹部のわらびもちがおいしそうね」
「早く食べないと温かくなるんじゃ」
「うん、いただきます」
彼女はいつもの笑みを浮かべると先の尖ったスプーンを
ぼくの乳首の上のマンゴープリンに突き刺し、
勢いあまったスプーンの先端がぼくの乳首と接触する。
小佐内さんでの妄想。
しかしシャルロット争奪に負けた小鳩でも、
こんな変態マゾのはずがない。
小佐内さんの同人誌がないので、替わりに
セーラームーンの土萌ほたるで抜きました
仲丸十希子さん、って
かなり萌えると思うんだが賛同者はいないだろうか
俺も仲丸さん好きだったなw
つうか吉口が物凄く嫌いなタイプ。
ビッチ萌えか
今月号の小佐内さんに3回顔謝しました
76 :
名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 00:33:00 ID:puybxKod
謝ったのか
ふむ
ビッチつーか
ぶっちゃけ主人公ズが人非人すぎるだけだろw
小佐内さんは一生処女のような気がする。
腹を割って話せる人を見つけないとね。
というわけで、さっさと股を開け。
常に三股かける女性をビッチと言わずしてなんと言うか
>小佐内さんは一生処女のような気がする。
確実に当たりだろう
ガードが固すぎる
小佐内さんの入浴シーンを想像して抜いてます
胸が無いのに陰毛はビッシリ生えてる幼いさんバンザイ!
バンザーイ\(^o^)/
小佐内さん、衝撃のAVデビュー
監督としてですね、わかります。
なんと言う狼っぷり……
タイトルは「狼少女、処女喪失!」ですね
監督wwww
トロピカルパフェの時点で大概だったけど
その出演者は小佐内さん相手にどんなやばい事したんだ……
「ごめんなさい許してくださいごめんなさい許してくださいごめんなさい…」
「ねえ、笑った方がいいと思うの。
泣いても叫んでもあなたの運命はもう変わらないんだし、
だったらこのビデオがちょっとでも評判になった方が、
あなたのこれからの惨めな人生にとっても、きっといいことだと思うの。
だからほら、にっこり、ね?」
それだっっ!!
小佐内さんが女優やるなら、男優として相手してやってもいいぞ
「だめじゃない。小鳩くんに告白したくせに、三股なんてしちゃったら。
そんなに男の子が好きなら、たくさん呼んであげるね。
みんなが満足するまで、最初から最後まで、ずっと撮っていてあげるの」
「ごめんなさい許してください」
「そんなに嫌なの? 喜んでくれると思ったのに。だったら、選んでもいいよ。
男の子たちと一緒に撮られるのが嫌なら、わたしがあなたをしつけてあげる。
どっちがいい?」
「お願いです。撮るのはやめてください」
「そう? じゃあ、男の子も撮影もなしね。
指と舌と、お道具と、あとちょっとだけお薬でいじってあげる。
脳みそが焼き切れて、男の子を見ても女の子を見てもえっちなことしか考えられない
社会性ゼロの立派な快楽依存症になったら、ここから出してあげるの。
あはっ、学校のことは心配しないで。月曜の朝までには仕上がると思うから」
だが、ちょっと待って欲しい
小佐内さんがそんな直に表に出て、不必要に目立つような迂闊な方法をとるだろうか?
なんというか、もっと酷くくてエロイやり方なのではないか
そこでですね
瓜野くんを使うんですよ
小佐内さんが着エロ女優としてデビューするそうです
貧乳なのに大丈夫かね
着エロ→AVという流れですね
貧乳女優として脚光を浴びるわけですか
監督の方が向いてる
99 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 02:10:43 ID:GctR4UPq
小佐内さんの人気は異常
そりゃ小佐内さんがヤンデレ気質だからさ
よねぽ作品にはもっとひどいヤンデレが沢山いるがな
フミカか
バベルの会だろ
104 :
名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 23:43:01 ID:agXZhHH2
百合百合なんですね
おい新刊
夫婦すぎるだろどうなってんの二人の距離ゼロセンチメートルだろ
見舞いという絶好の機会にジャムのやり取りだけだなんておかしいだろ
もっとこう、何かないのか何か!
>>105 ゼロセンチメートル吹いたwww
確かにwwwww
誰か、二人の(体の)距離がゼロセンチメートルになる様子を詳しく書いてくれ!
新刊たまらん。ハァハァ
二時も三時に近い頃チャイムがなった。
来た。ちなみに姉貴は出掛けてしまった。
這うように玄関に向う。
魚眼レンズを覗くと千反田が何か持って立っていた。
違和感を感じた。いや千反田の姿形は何もおかしくない。
そうか、千反田が自分の家の前にいることが違和感なのか。
「先日はありがとうございました。あと本当に申し訳ありません。」
そう言って千反田は深く頭を下げた
「かまわんよ。仕事は楽だったし。風邪は俺の責任だ。それに……いやいいや」
俺はこう言おうとした。千反田の雛姿も見れたしな。
しかしなぜか急に憚られた。理由は分からなかった。
「いや、なんでしょうか。」
「いや本当にいいんだ。」
幸い千反田は気にしていないようだ。
「そうですか。いえしかし折木さんは寒いとおっしゃってましたし。」
「いや気にするな。」
このまま押し問答になりそうだ。話を逸らす事にした。
「その袋はなんだ。」
「あ、これは夏みかんのジャムです。お見舞いの品です受け取って下さい。」
「ありがとう」
そういって袋を受け取る。
「あ、暗いな」
千反田をリビングに通したのに電気をつけていなかった。
俺は招き猫を寄せ腕を動かした。蛍光灯が付く。
「その招き猫面白いですね!わたし気になります!」
「姉貴が改造したんだ。腕が電灯のスイッチになってる。」
それから千反田は電気を付けたり消したりひっくり返したり中を覗いたりしていたが急に我に帰った。
「あ、その夏みかんジャム紅茶に入れて頂くと風邪に効きますから是非どうぞ」
紅茶か。正直言うと紅茶は飲まない。コーヒーなら少しはこだわりがあるのだが。
まぁ紅茶に入れようが餃子にかけようが薬効は変わりはしないだろう。直接掬ってなめればいいか。
俺はジャムをテーブルに置いた。
俺と千反田はソファーに並んで座っていた。
ダイニングに座るのもおかしいし、本来なら座布団を出すべきなのだろうがその気力がなかった。
そういう理由でそうなったのだが。
近い。
千反田が近い。
千反田の他人との距離が狭いても平気というたちは分かっていた。
しかし3人は座れそうなソファーにこんな窮屈に座らなくともよいだろうに。
しかし千反田のほうは全く気にしていないようだった。
「それで体のほうはどうですか」
「平気と言いたいところだがあまりよくない」
つらい…千反田には悪いが横になろう。
俺はソファーの開いたスペースにうつ伏せに身を投げた。
ばたん。
「折木さん!大丈夫ですか」
急に倒れたからか千反田が心配して寄ってきて肩を持った。
「ああ大丈夫だ。つらいから横になっただけだ。」
そう言って振り返った。
千反田の顔がすぐ目の前にある。
大きな目が俺を見つめる。瞳に俺の顔が映っている。
どうすればいいんだ。熱が上がってきた気がする。
千反田は俺の肩を持ったままなので起き上がれない。
俺と千反田は見つめ合ったままだ。
時が止まった気がした。と思うと、千反田の口が動いた。
「折木さん。わたし」
>>108 どうした!応答がないぞ!
私、(続きがとっても)気になります!
というわけで続きをお待ちしております。これで寸止めだなんて生殺しすぎます…!!
そう言うと少し顔を離し千反田は口をつぐんでしまった。
何かを言おうとしている。そしてためらっている。
俺はその時全く自然に、脳に浮かんだ言葉をそのまま、こう言ってしまった。
「なんだ千反田続けろ」
そう言った次の瞬間俺は後悔した。
いや後悔とは違う。
戻せない。もう戻れない。そんな感覚に全身が包まれた。
千反田の口が開いた。
「では…わたしは、折木さんの事を特別に思っています」
「そうか。呪い殺そうとでもしてるのか」
「えーと…違います」
だろうな。しかしなんとか一歩の所踏みとどまった。
でもここからどうする。千反田が言う前に何か言わなければ
駄目だ。思いつかない。ええい誤魔化そう。
「で、この体勢はどうにかならんか」
「あ、すいません」
そういうと千反田は小さく笑って。俺の肩を押して仰向けにしてから寄りかかって来た。
千反田が迫ってくる。。
そして気づくと千反田の体は俺の胸の上にあった。
服越しの肌が暖かい。それに…なにか柔らかいものが当たっている気がする。
「千反田?」
「ごめんなさい。でも一回こうしてみたかったんです」
これは…どうすればいいんだ。抱きしめるとかしたほうがいいのか。どうなんだ。
どうする。俺。いやしかし、そうしてしまったら。
悩んだ挙句恐る恐る俺は肩の辺りに手を置いた。
千反田は反応しなかった。
とりあえず振り払われはしなかった。
顔は俺の横にあって頬が触れていた。
体は密着していて呼吸の動きが伝わっている。。
膨らみが俺の胸で圧迫されているのがはっきり分かった。
そういや千反田って意外に胸があったんだな。気づかなかった。
着痩せするほうなのか、普段の姿からはそんなに感じなかった。
いやしかし想像より硬いんだな。俺が今まで画面や紙面で拝見した物はもっと柔らかそうだったのだが。
あ、そうか下着のせいか。
…いや何を考えている。千反田だぞ千反田。
このお嬢様にそのような気を起こすなど万死に値する…気がする。
これはただの脂肪の塊だ。落ち着け。
そんな誘惑に一人必死に戦っていると千反田が頭をもたげた。
顔が耳まで赤く染まっていた。
うつむいたまま目も合わせずに言う。
「あの、その、言いにくいんですが。……えっと、そう、あたってます。」
なにがとは言われなかったのが救いだ。わかってたさ。
この状態で落着いていられるわけがない。
「悪い。男の悲しい性だ」
「あっ。そうですよね。私だって…そのくらいは知ってるん…ですよ。大丈夫です。」
わっふるわっふる
つ、続きを…!
上手いなあ…
ほうたるとえるは事に至る過程より事後のほうが想像しやすいな
なんとなく
事後に妙に考えこむような素振りをみせる千反田に、折木があれこれすっとんきょうな推理を展開
それが全て否定されて安心したところに、
「折木さん。前に月のモノが降りてからの日付を逆算してみたのですが、
もしかしたら今日は危ない日だった気がします」
とか
保守
ほ
117 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 16:24:42 ID:l9O10dmq
ほ?
ぽ
119 :
名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 17:26:20 ID:t9a8PmqG
>114
わかるなー
ああ、雛文庫が出てたのか
千反田は学生の間はさせてくれなさそうなイメージがある
いまだに>110の続きを待ってるのは俺だけではないはず
>>122 なんだ
当たり前じゃないか
ええい続きはまだかー!
124 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 00:58:44 ID:J2SABcO4
たまには太刀洗のことも思い出してやってくださいね
125 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/21(土) 23:49:39 ID:NDahrJMC
俺はマーヤの方が好きだけどな
126 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/24(火) 18:11:30 ID:nbrlAtIR
こう暑いとパフェが食いたくなるな
小佐内さんといっしょに
128 :
名無しさん@ピンキー:2010/08/31(火) 00:11:57 ID:JjVWRJUX
冬期限定はいつでるのだろうか
冬はこたつで
130 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/12(日) 17:59:12 ID:quUYXp9S
まさかエロパロ板でよねぽの名前を見るとは・・・
しかも
>>17は俺が書き込んだやつじゃねーかw
131 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/19(日) 00:27:13 ID:p1uRKi1u
早く続きを書くんだ
132 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 15:37:04 ID:HiRj2VUS
もう駄目かもわからんね
133 :
名無しさん@ピンキー:2010/09/26(日) 00:05:43 ID:KZUxZEua
まだだ。まだ終わらんよ。
笑っていいともでインシテミルの宣伝とかされる時代が来るとは……
インシテミルって密室なのにエロいこと起きないね
見てたけど、綾瀬はるかの作品説明があまりにも要領を得てなくて笑ったw
137 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/11(月) 21:43:04 ID:yx/HvQJy
マジかよ
見逃した
渡される道具とかをエロくしてみるとか
139 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/17(日) 01:12:09 ID:dAxuJzzB
腹上殺
女性の場合もその表現なのかな?
<腹上死>
医学的には性交死と表現される。
腹上死は一般的に男性の方が圧倒的に多い。
男性は性交中の血圧の上昇度が女性のそれとは大きく違うのだ。
それが原因で心筋梗塞、脳出血が起こりうる。
さて、あなたは性交を行うことで男性を殺すことができるだろうか。
書いてみたけどなんか違う
143 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/18(月) 00:18:38 ID:wmS8zhWD
コンドームに穴開けて社会的抹殺なんやな
144 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/18(月) 12:26:39 ID:t9pf4Vm/
できちゃった婚は英語でショットガン・マリッジだしな
145 :
名無しさん@ピンキー:2010/10/20(水) 19:02:42 ID:aas96ZnB
生殺し
今週だか今月だかの文庫ベストセラーの上位にインシテミルが入ってるのをみると
嬉しいような、何か違和感があるようなw
これを機に他のも売れてくれれば良いんだが
そしてこのスレに流れてきてくれるのがベスト
めだかボックスの新キャラが……
三文字姓なんて安直につけた苗字に一番出てくる特徴じゃないか。
千反田「……」
と言うか、西尾維新のネーミングセンスはそういう問題じゃないだろw
小鳩くんは童貞なのか否か
彼は性的なことにあまり興味がないように見える
性欲も薄そうだ
しかし同時にやることはやってそうなイメージもある
要するに予想がつかない
ほうたるはどういう状況になったら、えるに手を出すだろうか。
えるはどういう状況であればそれを許すだろうか。
悩みはつきないな。
正直、チタンダエルでエロは想像しにくいんだが……。
天然お嬢様で、かつエロい。
って他にどんなキャラクターがいるんだ?
雛の千反田はところどころで女性っぽさが垣間見えて
妙な色気があったと思う。
ああいう描写はもっとやってほしいな。
157 :
名無しさん@ピンキー:2010/11/07(日) 10:01:44 ID:e30T9w06
太刀洗と小佐内さんは妙な色気があったんで、ああいう風にするのも良いかもしれない
大刀洗と小佐内さんでああいうことを・・・?
そろそろ
>>110の続きあるかなーと思ったが…まだ焦らしプレイの真っ只中か。
えるはエロ的には人気ないのかと思ってた
むしろ千反田のエロが見たい
そして
>>110の続きを読みたい
勝手なイメージだがそういうときのエロ担当は折木姉かと思っていた。
163 :
名無しさん@ピンキー:2010/11/14(日) 23:23:06 ID:CD9JxkpH
新刊でどんなキャラが出るんだろうな
話の方は今までとは全く毛色が違うみたいなので楽しみだ
それと今回の話はよねぽがアマチュア時代に書いたっていう「剣と魔法の世界で推理をする話」が元になっているのだろうか
漫画の小佐内さん、貧乳すぎ!
ブラジャーいらないね
ついでに今月号の雑誌に顔謝しておきました
165 :
名無しさん@ピンキー:2010/11/24(水) 02:53:05 ID:Xh03RChL
>154
新婚初夜に
布団を挟んで「よろしくお願いします」
みたいなイメージしか浮かばない…
もしくは大学に進学しても尚自らに手を出さない方ほうたるに業を煮やした
えるが深夜ほうたるのボロアパートに押しかけて
理路整然とした説得の末ほうたるに性交を促す
>>167 「性行はやめよう。手間がかかりすぎる。それに……、そうだ、経験がないんじゃさまにならないぜ」
だが千反田は強硬に主張した。
「いえ、性行でないと駄目なんです」
「仲を深めるだけなら、他に方法もあるだろう。デートとか」
「折木さんからお誘いがあったことなんてほとんど……。いえ、それよりも、性行でないと駄目なんです」
「……なんで」
「籍を入れて責任を果たす以上、作らないと困ったことになるんだそうです」
千反田は胸ポケットから几帳面に四つ折りになった紙を出し、俺に見せた。確かに、千反田が諦めた経営的
戦略眼を俺が修めるのなら、籍を入れて責任を果たす必要がある……のか?
「それと、父からも作ってくれと頼まれてます。わたしの家は一応それなりの伝統があるので、あんまり途絶え
させたくないそうです。あと、早く顔が見たいと」
「…………」
「わかった、わかったよ。子供を作ろう」
この週末は折れた竜骨のネタバレを恐れて
避難してくる紳士たちで賑わいそうだな
というわけで以下よろしくおねがいします(;´Д`)'`ァ'`ァ
↓
→↑
171 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/03(金) 02:45:58 ID:Tm2XEcId
「そういえばさ、千反田さんて意外とさ、あるよね。」
「藪から棒になんだ、いったい。」
「今日は摩耶花が居ないからね。」
「…だからって昼間から猥談か、壁に耳あり障子に目ありって言葉知らないのか。」
「大丈夫、千反田さんも今日は行事で居ないからね。」
では、何故そもそも部に来ているのか。俺と里志の二人ならばそれこそゲームセンターで十分ではなないのか。
などと思ったりもするが別段用事も無かったし、姉も帰って来ていたので出掛ける事自体はやぶさかではなく、また馴染みの深い部室は落ち着くのでなんだかんだ里志には感謝していたりする。
「…伊原も苦労するな。」
「痛いとこ突くね。」
僅かに苦笑いしたものの、当人もよく分かっているので、さして痛そうではない。
「良い天気だな。」
「話を逸らさないでよ、ホータロー。」
別段逸らしたつもりは無かった。
が、声の調子から判断するに向こうもちょっとしたちょっかいみたいなものだろう。
「省エネ主義なんでな、猥談するメリットが感じられん」
172 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/03(金) 03:06:07 ID:Tm2XEcId
「まぁまぁ、憧れの薔薇色生活のひとつと思ってさ。」
「それは、どっちかって言うとショッキングピンクじゃないか。」
「おー、ホータロー良いこと言うね。」
感心感心と言った様子でこくこくと頷く里志。前々から思っていた事ではあったが、やっぱりコイツの感覚はかなり独特だ。
変な所の地理に詳しかったり、不思議な風習や伝記を知っていたり、怪談の類いにも大体精通してる。そして古典部で活動してる内にミステリーも好きなことが分かった。
気に入ったことならば貪欲に知識を吸収する。自分には出来ない生き方だ。
「じゃー、ショッキングピンクに染まらないかい。」
読んでいた文庫本の残っているページを見る。
3ページ。
たまには話にのってみるのも良いかも知れない。
「本も読み終わるしな、いいぞ。」
「流石ホータロー!よ、思春期!」
「やっぱりやめようか。」
「あぁ、嘘ウソ、うそです。」
「千反田、どうした?」
不意に俺の教室までやってきた千反田は人目もはばからず弁当を食べていた俺の手首を掴むと、
顔をうなだらせたまま人気無い階段の踊場まで俺を引き立てた。
「また厄介ごとか?」
千反田は背中をみせているため、その表情を伺い知ることができないが、
面倒事なら勘弁してほしい。
「おい、千反…」
「わたし、告白されました」
俺の言葉を遮るように、千反田は背中を向けたまま俺に呟いた。
「告白?」
言葉の意味が判らずに、俺は千反田に問い返した。
「放送部長の吉野さんに、わたし、告白されました」
千反田家の一人娘に告白する怖い物知らずがこの学校に居るとは……。
千反田からその話を聞いたとき、まず俺が思い浮かべたことは、そんな事だった。
「……折木さん、どう思いますか?」
背中を向けたままそう呟く千反田に、俺は憤りがこみ上げてきた。
よくよく考えて見てほしい。
俺は箸を手に握ったままで、頬にはご飯粒がついているかもしれないのだ。
「そんな事……、自分で考えれば答えは明白だろう?」
俺は捨て鉢にそう答えた。
「折木さんは、どう思いますか?」
しかし千反田は、同じ言葉を繰り返えす。
何だってこんな話を俺に……。そう、これは俺の問題ではない、色恋沙汰などというのは当事者同士で
解決しなければいけない問題なのだ。
なので自らの酷薄さに幾許かの心に痛みを感じながらも、俺は千反田を突き放すように
言葉を発した。
「すまん、そればっかりは俺の問題じゃない」
しばらく無言のまま背中を見せていた千反田。なぜかその時間が俺にはとても長く感じた。
「そうですか……」
千反田は顔をうなだらせたままそう呟くと、その身を翻した。
「お、おい」
その刹那の千反田の美しさに、思わず俺は声を掛けたが、
そんな俺を無視するように千反田は、足早にもと来た階段を駆け下りてゆく。
「なんなんだ、あいつは」
その時の俺には、そう独り言を呟いて、おどけるほかにすることは思い当たらなかった。
後年、そのときの俺の不可解な憤りが「嫉妬」と呼ばれるものであったと気がついたのは、
大学をでて東京で働く俺のもとに、どうやって調べたのか、千反田から婚礼の招待状が
届いてからだった。
NTRかよ
>173
GJ!!折木、変なところ鈍くてえるたん可哀想だ。続きものさったらwktk
あと自分はこの板で「インシテミル」のエロパロに期待してるぜ!
177 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/08(水) 03:14:08 ID:LKBa8ySF
178 :
名無しさん@ピンキー:2010/12/19(日) 13:21:04 ID:uzkQ7/V7
ねーよ
179 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/07(金) 09:50:58 ID:8TphXQyf
もうだめだな
冬休みが終わり神山高校は新学期を迎えた。
それは俺と千反田が正月に豪奢な蔵に閉じ込められたのを
福部里志と伊原摩耶花の機転によって救いだされてから丁度一週間目にあたる。
しかしそれは、伊原が失踪を遂げてから一週間ということにもなる。
その間の里志の憔悴ぶりは見ていて居た堪れない程だが、
伊原の両親にしてみれば、俺たちがどんなに伊原摩耶花を心配したところで
所詮は娘の友達。つまり赤の他人しか過ぎない。
俺たちはそんな無力感に打ちひしがれながら、新学期そうそう古典部の部室で力なく項垂れていた。
「……なあ、ほうたろう」
里志が頭を垂れたままで俺に語りかける。
「……摩耶花はさぁ、あれで結構可愛いだろう?」
俺には微妙に異論があるのだが、ここは水を差す所ではない。
「ああいう小学生みたいな風体をしてるのが、一部の好事家にはたまらないらしいんだよ」
里志は摩耶花が失踪して以来、オウムがえしのように同じ発言を繰り返している。
そう、変質者による突発的な犯行の線は、警察も初動から念頭に置いて捜査をしている
らしいが、未だ遅々として状況は進展していない。
それは千反田からも逐一報告されていた。
「こうしてる間にも、摩耶花は……」
里志は身悶える様に頭をかきむしる。
「……福部さん、伊原さんは絶対そんな目にはあっていません」
千反田はそう言ってうな垂れる里志の背中に手を添える。
それを見据える俺。
辛いか?里志。……しかし安心しろ。
もうすぐ事件は解決するぞ。
先日、里志がなけなしの貯金をはたいて雇い入れたというS&Rとかいう興信所の探偵が
俺の家を訪ねてきた。
その紺屋とかいう探偵は愛想笑いをしながら、俺と千反田が蔵に閉じ込められていた
空白の時間のアリバイを聞き出そうとした。
この段になっても里志はその事を警察や、自らが雇い入れた探偵に話していないのかと
驚いたが、その信義を重んじる里志の友情に、感動を覚えないと言えば嘘になった。
そう、俺と千反田は本当にただ蔵に閉じ込められていただけで、何もやましい事はしていない。
里志はそのことを判っているからこそ、周囲の好奇の視線に俺と千反田を晒さない為に、
沈黙を貫いてくれているのだ。
しかし伊原摩耶花は違った。
その探偵によると、伊原はあれほど千反田家の令嬢として世間体を気にしなければいけない
千反田に向かって、
俺と二人きりで閉じ込められていた蔵から出てきた直後、
「あ!ちーちゃん帯留めがずれてるよっ」といって、千反田の帯留めを
そそくさと直すところをお手伝いさんに目撃されているそうだ。
程なく千反田と伊原は二人で何処かへ消えたかと思うと、再び戻ってきたのは
千反田だけだったという。
その証言に俺は絶句した。
だって、千反田だって帯留めがずれていたくらいで、出来れば伊原を殺したくはなかった筈だから。
しかし千反田は、千反田家という背負ってるものの大きさを考えたときに、摩耶花という醜聞の種を放置する訳には行かなかったに違いない。千反田のおおばかやろう。
「千反田っ」
そう呟く俺を、眼前の探偵は見据えている。
思えば千反田は氷菓事件からこのかた、何をするにも俺を頼ってきた。
菩薩の様な顔立ちと裏腹に修羅の道を突き進もうとする千反田に、
俺が引導をわたしてやらないで、誰が引導を渡せるだろうか。
……だから俺は、その探偵に「当日、その証言の前に、俺と千反田はセックスをしていた」と答えた。
程なくその醜聞は、その探偵の口によって神山市全域に駆け巡ることになるだろう。
これだけで、千反田えるが仕掛けた動機なき完全犯罪はあっけなく崩れ去るのだ。
そう、千反田がそうまでして守らなければならなかった千反田家のしがらみから開放されるのはもうすぐだ。
千反田家の広大な敷地内から掘り起こされる伊原の遺体によって……。
里志を慰める千反田は流し目でチラチラと俺を伺う。結わいた長髪の、
結びそびれた後れ毛が頬に枝垂れるのがなんとも艶めかしい。
俺はその艶めかしさを生涯忘れることはないだろう。そんな予感がする。
そんな千反田を見据えながら、俺は心の中で別れを告げた。
さようなら。千反田。
折れた竜骨のHONOBのアルファベットが
エ
ロ
エ
ロ
∞
に見えた。
誰かデーン人に蹂躙されるアミーナ様を頼む。
ニコラきゅん攻めファルク受けなら…
185 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/14(金) 19:48:54 ID:KmrxTZLA
フレイアのリョナ物を
普通に(?)ニコラとアミーナ読みたいんだが…駄目か?
始めのほうでアミーナとファルクいいんじゃね?
と妄想していた俺は一体どうすれば…
ファルクさんはおっさん通り越して爺さんなイメージだわ……
デーン人とコンラート達が陵辱要因にしか見えない
190 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/22(土) 22:57:36 ID:Zs9BKrir
戦火スレ的な何かを感じるな
触手成分がたりない
192 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/24(月) 17:58:29 ID:wrj46cqN
「あのさあ、折木」
伊原が呟くような小さな声で言った。
「なんだ藪から棒に」
俺が聞き返すと伊原はあたりを見回した後一呼吸置いてから話し出した。
「福ちゃんと・・・」
突然言葉が途切れた。
「ん、里志がどうしたんだ?」
伊原はもう一呼吸置き、口をひらいた
「こういうことは折木ぐらいにしか言えないんだけど・・・・」
伊原はいつになく真剣な顔つきになった。
そのロリータフェイスに似合わない睨みつけるような鋭い目に思わず苦笑してしまいそうになる
「福ちゃん・・・・ううん、里、里志とやっちゃった」
伊原は、言い終わるとすぐにため息をついた。
「やっちゃったって何を?」
「あーあ、折木に相談して損した」
伊原はそういうと、漫研にもたまには顔を出さないとといい部室を出た。
俺はというと、不意に千反田が座っていた席を眺め、その机に残る大日向の
「センパイ、アタックです」
という文字を目で追いかけていたのだった。
大日向は煽り役で確定なのかw
伊原漫研辞めたけどなw
>192
続きキボン
196 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 22:31:17 ID:QXmoxZlV
197 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 22:53:37 ID:QXmoxZlV
小説を読み終えるとやはりすることがないので部室に部屋を出た。
部室に鍵をかける。
千反田と出会った時のことを思い出す。
なんでもない推理だったが千反田は、とてつもない賞賛を俺に向けてきた。
初対面の俺は、豪農と呼ばれる一族のお嬢様という千反田に、おそらくここまで深くかかわることになるとは思っていなかっただろう。
里志は言った、俺は変わったと。千反田と出会い変わったと。
確かにそうかもしれない。
小説の続きを見つけるなんてこともましては、大日向の件なんて・・・・
以前までの俺なら、絶対あそこまで真剣になって探していなかっただろう。
俺は鍵をかけ終わると、さっさと帰るために廊下を歩き始めた。
運動部生の大きな声が聞こえる。ここにはもう用はないだろう。
途中、甘い香りがすれちがった。
振り返ると、少し背の高い、楚々で清楚な美少女が、ほほを染めて立っていた。
「折木さん、部室はまだ使えますか。」
198 :
名無しさん@ピンキー:2011/01/28(金) 22:55:32 ID:QXmoxZlV
>>197 訂正:×部室に部屋を出た。
○部室を出た
推敲し忘れたのでまだあったらすみません
続きkbn
やっと200か
スコンブの匂いの千反田。
202 :
名無しさん@ピンキー:2011/02/04(金) 15:49:26 ID:+efSqpG+
「折木さん、お気付きでしたか。このところ地学準備室に栗の花のような香りが漂っていることがあるんです。
あれはどうしてなんでしょう。わたし気になります」
「(面倒なことをしてくれたな、里志に伊原)」
>202
NICE SS^^
「そんなことはないんじゃないか。俺は一度も感じたことがないぞ」
「いいえ、間違いありません。折木さんはお忘れですか。
わたし、お鼻にはちょっと自信があります」
千反田はそう言って、拗ねたように少し口を尖らせてこちらを覗きこんできた。
甘えるような態度を見せるのは千反田には珍しいことだ。
答えに詰まっているうちに、からかうような、試すような色が瞳に浮かんでいることに気がついた。
こいつはもしかして、全部分かっていて言ってるんじゃないだろうか。
ゴクリ
>204
どうした? 続けろ
分かっていて話を振っているなら、その意図はなんだ。
間違っても知り尽くしているなどと勘違いすることはしないが、
千反田は下世話な冗談を口にする性格ではない。少なくとも俺はそう思っている。
そうであれば、こいつはいったいどういう返事を期待しているのか。
動揺する思考をつばとともにに飲み込み、平静を装って俺は口を開いた。
「そうだったな。とはいえ、俺は気付いていなかったんだからなにも言えないぞ」
それもそうですね、と言って千反田は右手を形のよいあごに添えて黙り込んだ。
とはいえ、好奇心の権化である千反田がこれで引き下がるはずがない。
なにか思いついたのか、やにわに勢い良く顔を上げ、こちらを見上げてきた。
ついでに一歩踏み込んでくる。いつもながら距離が近い。
「それでは、わたしが気付いたことをお話ししますので、
折木さんはお知恵を貸して下さいませんか」
「ようするに、いつも通りにしろということか」
俺は軽く顔をしかめた。
非常に心外なことなのだが、俺はなぜか理屈をまとめて謎を解くという
探偵のような役回りになることが多い。
千反田は困ったような笑顔を浮かべたものの、否定はしなかった。
まっすぐにこちらの目を見つめてくる。
こいつは話すときに相手からけして目を逸らさないのだ。
千反田の目はあいかわらず大きい。
この目に見据えられると、なぜだか俺はこいつを拒めなくなる。
しかも気のせいだろうか、今日は普段よりも艶めかしく見える。
wktkが止まらないいい
わっふるわっふる
支援
続き待ってるぜ
212 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/01(火) 10:11:26.32 ID:1er9P5DT
保守
213 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/10(木) 20:32:44.53 ID:2y/irVFY
続かないか
そうですか
215 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/20(日) 22:32:37.24 ID:pQoHHplr
小山内さんマダー?
誰だ?
甘いもの好きで地味に生きたくて
実は狼で復讐大好きなロリさんだろ
小佐内なら知ってる
219 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/22(火) 13:41:53.18 ID:pPrTf8hF
小佐内さんです。はい、すみません。
すなおな小市民でいいなw
221 :
名無しさん@ピンキー:2011/03/24(木) 23:38:04.93 ID:GWbEnOBo
で誰か小佐内さんで書いてくれださい
sageろクソガキ
私たちが星座を盗んだ理由」をよんだら北山猛邦のエロパロ書きたくなってきた
風邪をひいたのは、今年で二度目になる。
一度目は千反田に請われ参加した祭りの翌日のこと。
その件に関しては、俺の誕生日に起きた気まずい出来事のこともあって、これまで意識して思い出さない
ようにしていたのだが、しかしこの状況ではどうしてもあの日がフラッシュバックしてしまう。
「大丈夫ですか、折木さん」
千反田の気遣いに、俺は内心で嘆息してしまう。
熱でだるい身体とうまく回らない頭。見舞いにやってきた千反田。
千反田に非はないのだが、あまり思い出しくない記憶と体調の悪さから、どうにも気分が落ち着かない。
加えて今回は――
「叔父以外の男性の部屋に入るのは、初めてかもしれません」
俺が小学校から使っている学習机の椅子に行儀よく腰を降ろしながら、千反田はどこか気恥ずかしそうに
そう言った。
「すまんな」
前回はリビングで応対したのだが、今日は姉貴がそこを占領していた。
客が来たから空けろと言っても、ドラマの続きが見たいと言って席を譲る気配を見せない。
家族の前で学校の友人と話すというのはどうにも気恥ずかしく、まして相手が折木供恵と千反田えるとあっては
俺も妥協せざる負えなかった。即ち、千反田を俺の部屋に入れるという妥協を。
「いえ。異性の自室というのに、興味もありましたから」
詫びる俺に、知らない人間が聞いたら誤解を招きそうな返しをする千反田。
千反田の場合、単純に自分が知らないものに対する好奇心からそのように言っているだけなのだろうが。
「……そういうもの言いは、控えた方がいい」
「えっ」
熱のせいだろう、頭に靄がかかったようで考えがうまくまとめられない。
俺はそれが果たして口に出すべきことなのか、口にしていいことなのかの判断もつかぬまま、唇を動かしていた。
「異性の部屋に興味、なんて言ったら、相手が邪な下心を抱きかねない」
千反田は俺が何を言っているのか分からない様子で、目を丸くしてぽかんとしていた。
そんな反応に、何故か苛立ちが起こる。
「あの、折木さん……」
「お前だって年頃なんだからそんな無防備に……」
早口に説教めいた、普段の俺なら間違っても口にしないような文句をまくしたてようとした瞬間、視界が歪んだ。
「お、折木さん!」
膝から力が抜け、カーペットの上に倒れこんでしまう。
千反田の悲鳴のような声を耳にしながら、俺は意識を手放してしまった。
温かい。
冷たい。
気持ちいい。
どうにも言葉にしがたい、けれどこの上なく心地よい感覚。
夢を見ているのだろうか。
自分が誰なのかさえ分からないくらい、宙に浮いたようなふわふわとした意識のなかで、
ただ額から安らかな感触が伝わってくる。
瞼を上げたいのだが、どうにも重たくてうまく開けない。
ようやく見え始めた霞んだ視界の中で、誰かが俺の顔を覗き込んでいる。
誰だろう?分からない。
けれど、その顔にどこか安堵を感じている自分がいた。
「大丈夫ですか」
鈴のような声が耳に響く。大丈夫だ、と伝えたいのにうまく言葉を発せない。
どうにか顎を引いてうなづいて見せる。
「よかった……」
額に当てられていた手が離れる。同時に、あの心地よい感覚も。
待ってくれと言おうとしたのに、唇が震えるばかりで声にならない。
もう少しの間、その感触にふれていたいのに。
次の瞬間、両の頬がやさしく包み込まれる。
ああ、これだ。これがほしかった。
包み込む掌から伝わる感触に、意識せず頬が緩むのを止められない。
もっとほしい。もっと、この安らぎを感じたい。
もがくように腕を上げる。頬にあてられた掌に、自分の掌を重ねる。
「あっ……」
一瞬、相手の手が驚いたようにびくりと動く。また掌を離されたくなくて、俺は相手の掌を強く
握りしめた。
温かい。冷たい。気持ちよい。
額から、頬から伝わるのと同じように、掌からもその心地よい感覚が伝わってくる。
もっと、もっとと欲しがる思いが止められない。
相手の掌から手首へ、手首から肘へ、肘から肩へ。
「えっ……ぁ……」
心地よい、けれど足りない。
手首から先は衣服に包まれていて、あの感触を直に感じとれない。
「……は……んっ………」
肩を伝って、衣服の首元から剥き出しになった鎖骨のラインをなぞる。
微かに、相手が震えているのを感じる。指を動かすと、時折ビクンと大きく反応する。
それがおもしろくなって、相手がより反応を示す場所を探しながら指を動かした。
「はぁ……ぁ……ふあ……んんっ」
首筋からうなじへ。耳の後ろの辺りをさすり、指の腹で撫でまわす。
耳たぶを弄ぶと、くすぐったそうに身をよじる。
愛おしい、という感情がどこからともなく溢れてだして止まらない。
周囲に雑音はなく、視界には「彼女」しかいない。
指先から伝わる心地よい感触と、彼女の姿と、彼女が漏らす吐息と。
ここにあるのは、それだけ。
そのどれもが心地よく、どうしようもなく満たされたような思いが胸を満たしていた。
もう片方の手もどうにか伸ばして、彼女がそうし続けているように、両頬を包み込む。
彼女の潤んだ瞳と視線が合う。
美しい。かわいらしい。愛おしい。
もっと、ずっと、永遠に愛でていたいと、心の底からそう思う。
指先と腕に力を込め、彼女の顔を引き寄せた。
「あ……」
まるで磁石にひかれるかのように、唇と唇がひき寄せあう。
瞬間、電流が流れた。
指先から伝わるそれとは比べ物にならないほどの甘美な感覚に、身が震えるのを感じる。
触れ合うその一点から、相手の熱が、香りが、甘さが伝わってくる。
もっと感じたい。もっと味わいたい。
相手が身を離そうとするのを感じ、指先に少し力をこめた。
そのまま、相手の唇をついばむように、俺は唇を動かし始める。
「んっ……ふぁ……ん……んふぅう……」
舌先で唇のラインをなぞり、口紅を塗るかのように舌に絡めた唾液を塗りたくる。
さらに、口を開け、相手の唇を包み込み、飴玉をしゃぶる幼子のように、彼女の唇の膨らみを自らの唇でもみほぐす。
「……ん、んぅ……ふぁあ……あっ………」
漏れ出す吐息をこらえきれないというように、彼女の唇が開く。
そこへ舌先を滑り込ませ、彼女の舌に自身の舌を絡ませた。
「んちゅ……ん……はむぅ……ちゅる………んふうう……」
頬にあてていた手は、いつの間にか彼女を抱きしめるように肩に回されていた。
彼女の指も俺の頬を離れ、悶えるようにベッドのシーツを握りしめている。
舌を動かすたびにビクンビクンと身体が震え、そのたびにぎゅっとシーツに皴をつくる。
彼女もまた、自分と同じようにこの感覚に震えているのだろうか。
「んちゅ、ん……ちゅぱ……んぁ……ふぅん……っ」
いつしか、彼女の方からも舌を絡ませてきていた。
それが嬉しくなって、俺も更に舌先に意識を集中させる。
もっと、もっと、もっと。
熱病に浮かされたように、俺たちは互いの舌を絡ませ合った。
……数分もそうしていただろうか。
どちらかともなくゆっくりと唇を離すと、絡めあった二人の唾液がねっとりと糸を引いた。
彼女は横たわった俺に覆いかぶさるように、ベッドに肘をつき、俺を見下ろしている。
その瞳は潤み、どこか焦点を失ったかのように揺らいでいた。
赤みを帯びて汗ばんだ頬に、微かに震えた唇から洩れる吐息。
恐らく、俺も似たような有様になっているのだろう。
互いから伝わる熱に身体が火照り、時折ビクンと痙攣するのを止められない。
「……ぁ……あの……」
彼女が何か言いかける。
それを言わせてしまったらこの夢のような時間を終わってしまうような気がして、俺は――
規制でpinkにしか書き込めない苛立ちをエロパロにぶつけてみる今日この頃
渾身のエロパロおつ
俺得すぎるものをありがとう
すばらしいものをありがとう
いつか続きを読めるんだよね、これ
すばらしい乙
この寸止め感がまたこの二人らしいというか
おつ
236 :
名無しさん@ピンキー:2011/05/23(月) 01:16:25.96 ID:x5AcOXRY
もっとくれ
すばらしい
続き期待
放課後、例によって小佐内さんはぼく、小鳩常悟朗を
共働きでご両親のいない自宅に招き入れた。
おもむろに小佐内さんはエアコンのスイッチを入れると
ぼくを尻目にソファーへとその身を横たえた。
未だ冬服のセーラー服を纏う、小学生のような矮躯。
不意にひざ丈のプリーツスカートがはだけると、その細い太ももは
暗渠へ続く小川のせせらぎのように、スカートの奥へと続いているのが伺えた。
どきりとうろたえて視線を逸らすぼく。
くそ。こんな幼い体をしているのに、なんで時折こんなにも
色っぽいんだ。
二人きりのリビング、速鳴る動悸からか、ぼくは自分の体の裡から湧きでてくる熱気に
居たたまれず、学生服の詰襟を指でつまむと、忙しく扇ぐ。
「小鳩くん、あついんでしょ?」
そう囁く小佐内さんは口元に微笑を湛えながらも、その双眸は真摯にぼくを
見据えていて、惑いがない。
「来て……」
小佐内さんが呟く。
そうか、いよいよ小佐内さんも男女の戦略的互恵関係にまでぼくたちの
間柄を進める決心をしたのか……。
そう判断すると、ぼくにそれを拒む理由は全くない。
「ああ」
ぼくはそう呟くと、ソファーに横たわる小佐内さんへと覆いかぶさろうとした。
と、そこにひんやりと漂う冷気。
「ね?ここはとっても冷たいでしょ?」
そう、ちょうどこの位置はエアコンの冷気が直風で当たる場所だったのだ。
エアコンの直風に晒されるまま、スカートがはだけるにまかせる小佐内さん。
「小鳩くん、なにか勘違いでもしていたのかしら?」
自らの矮躯に覆いかぶさろうとしている僕を見据える小佐内さんの、理性を湛えたつぶらな瞳。
その瞳の奥にはそこはかとない邪気が伺える。
「そ、そんなことあるわけないじゃないか」
ぼくはそう呟きながらも、急に汗が引いてゆくのはエアコンの冷気だけではないと思った。
240 :
名無しさん@自治スレで設定変更議論中:2011/06/15(水) 01:40:31.20 ID:V1VpDY0m
まだー?
「口づけは、初めて?」
奪った後に小さな声で問いかけると、夢を見るような目をしていた
女学生は、私にふと視線を戻し、そして紅をさしたように赤い頬を
さらに赤らめて、こくりとうなずいた。初めてであると。
「悪いことをした?。ひょっとして初めてのを捧げたい相手が居た?」
腕の中の、ほっそりした少女に微笑みを送る。育ちの良さそうな、
烏の濡れ羽色をした髪のお嬢様然とした少女は、年の頃なら17,8だろう。
こんな保養地まで来て学校の制服を着ていると言うのだから、
どれほどの箱入り娘か想像がつく。きっと家は見上げるような邸宅だろう。
彼女は私を見上げると、つと視線をそらせて目を伏せた。想い人が
居たのだろう。
「いいんです」
ほんのかすか、聞き取れるか聞き取れないかの声が帰ってくる。
想い人が居て、なお、見知らぬ人に唇を奪われるままにする。
好奇心なのだろう。むろん、唇を奪われたくらいで人間は汚れたり
しないし、誰に知られるわけでもない。ただ、繊細なこの少女は
心の中に秘密を持つ小さな喜びを今味わっているだけなのだ。
避暑地の罪のないアバンチュール。
「そっか」
大きな声を出しても誰が来るわけではない。だが、朝霧に包まれた
この地で、私は彼女のささやかな背徳心を砕かないよう、気を遣う。
そして、もう一度唇を奪う。
夢のように柔らかい唇を吸いながら、彼女の黒い髪をなで、絹糸
のような手触りに満足する。健康で、髪も肌も生気に満ちあふれ
ている。
「ん」
と、ふさがれた口の奥で少女が声を上げ、身体を硬くする。制服の
下に私の手が潜り込んできたからだ。
「大丈夫。優しくするから。本当に嫌ならいって。ちゃんと止めるから」
「でも、わたし…」
そうささやき、優しく微笑むと、全部言わせずにもう一度唇を奪う。
夏の制服の下は、思った通り素肌ではなかった。多少涼しいこの地方
に来ているからか、あるいは普段から素肌を他人の視線にさらさないた
めか、掌を差し入れた脇のあたりは、シミーズで守られている。手触りは
絹だろう。
あまりせいて驚かしてもよくない。ゆっくりと手を這わせ、脇腹から手を
上へと動かす。少女にも私の意図ははっきり分かっているはずだが、
先ほどの言葉を信じているのか、抵抗はしない。
私はこれ幸いと気をよくすると、さらに掌を勧める。そうして、シミーズと
さらにもう一枚の下着に守られた柔らかな膨らみに到達する。
「あ」
唇を離して少女が声を漏らす。そして声を漏らしたことに恥じ入るように
顔を背ける。
「大丈夫。優しくするから」
同じ言葉を繰り返すと、少し離れ気味になった少女の身体を優しく
引き寄せ、そうして今や私の掌に収まったその旨の膨らみに神経を
注ぐ。年頃の少女らしく、まるで育ちの良さを表すように、大き過ぎも
小さすぎもしないその膨らみは掌に肌の張りと肉の柔らかみを伝えて
くる。少女の乳房だけが持つ柔らかさ。
「あん」
中指が乳首を探り当てる。そこだけ皮膚が薄い頂は、きっと桜色だろう
まだ男を知らない身体は胸を触られても官能に震えることが出来ない。
ただ、初めて他人に乳房を許しているという事そのものに興奮している。
それでも、乳首をまさぐられて二度、三度と身体を震わせているのは
羞恥だけではあるまい。
「ああぁ」
乳房から手を引くと、ようやく解放された少女が小さくため息を漏らす。
「私…」
「恥ずかしかった?」
消え入るように何か呟く少女に声をかけてなだめる。顔を赤らめてて首を
振る彼女は口元にごくわずかな笑みを浮かべていた。羞恥と、悦びの
混じったよい微笑みだ。
そしてもう一度優しく抱き寄せ、唇を奪う。目を閉じ、夢の中のように
うっとりとした表情の彼女は、だが、ぴくりと身体をこわばらせる。
それが彼女の最期の動きだった。
崩れ落ちそうになる彼女をしっかりと抱き寄せたまま、背中から腎臓を
一突きした鉄針を抜く。出血はないから露見する恐れはない。抱え上げ、
急いで藪に入ると用意した穴に、まだ暖かい彼女を横たえる。ほんの
さっきまで何不自由なく幸せを謳歌していた彼女。今はもう、ただの
肉塊でしかない。だが、私には少女の短い人生について感傷に浸る
時間はない。用意しておいたナイフで首の向こう側の動脈を掻き切り、
手早く血を抜く。みるみる間に美しい死に顔から血の色が失われていく。
彼女は、好奇心に身をゆだねたばかりに、命を失った。昨晩から今朝
までの間にこっそり呼び出されて若い命を散らしたのはこれで3人目。
なんということか。避暑地で出会った知らない大人に心を許してしまう
とは。本当に夢のように生きているのか。
私は血の気を失ってなお美し彼女の顔をもう一度見る。そうして柔らかな頬に
手を当てた。一呼吸おくと、先ほど初めて他人に奪われた唇に刃を当てる。
これで三人目。日が昇れば騒ぎになる。肉の質を考えれば、一度血の
巡りをよくしてから殺し、すぐに活け絞めするのが一番よいが、
これほど多くの少女に性的な悦びを与える時間はない。仕方が無い、
三人の唇は主人と主賓にだし、残りは活け締めだけで我慢してもらおう。
忙しい朝になる。
怖ーーっ!
えーと、なんだっけ、アミルスタン羊?を狩るシーン
気付かなかった、すぐ上が狼さんだったから
なんの復讐してるのかとそんなんばっかで
ほうたる×えるのエロパロを書いているのだが、
一向に進まず、ただのラブコメパロになってる。
構わんよ
>>247 それはオリジナルと何かが違うのだろうか?
250 :
247:2011/07/26(火) 15:11:58.73 ID:S84Ur02w
>>249 原作より質が低くて、くどさそのまま orz
You投下しちゃいなYo
える しっているか
ほうたるは えすにっくしか たべない
ほうたるは S肉しか食べない と読んだ。
さすがMのほうたるだと思ってしまった。
折木さん、SとかMって皆さんよくおっしゃるのですが、
どういう意味なのでしょう。
わたし、気になります。
えるは天然のSだな。
じらしが上手そうだ。
test
257 :
名無しさん@ピンキー:2011/07/30(土) 19:06:03.40 ID:6TV8CiCv
ふくちゃんテストどうだった?
「ホータローは、弁当を食べる時、一番おいしいおかずから食べるほうかい?」
「そうだな、俺は一番うまいものから食べるぞ」
福部里志に聞かれて、俺はそう答える。またぞろ変な調査でも始めたのか。
「実は今日、クラスで話題になっていたのさ。男の子は大体おいしいものから食べるよね」
「女子は違うのか」
「確かな調査結果じゃないけどね、いろいろな資料によると、女子は一番おいしいものを最後まで取っておくらしいよ」
「腹が減っているときのほうが、うまく感じるだろう。一番うまいものを最初に食ったほうがいいと思うぞ」
「そうだね僕もそう思うよ。おいしいものを取っておくのは合理性に欠けるよ」
そう言って里志は少し廊下の気配を探るような表情をした。今日は伊原は図書委員、千反田は職員室に
用があるとかで俺たち二人しかいない。大日向は?知らん。
「ところでホータローは女の子の胸を愛してあげるとき、乳首に最初にさわるタイプかい?最後に取っておくタイプかい?」
「俺は最後だな」
そう答えて、迂闊な自分に汗をかく。ちょっと遠くを見ているような里志にあわてて釘を打つ。
「おい、何をいきなり言わせるんだ。千反田で妙な事を想像するのはよせ」
「うん?大丈夫だよホータロー。君も千反田さんも大事な友達だよ。へんな想像のネタにはしないよ。
ついでといっちゃ何だけど、まじめな想像のネタにもしてないから安心していいよ」
「そうか」
いつもへらへら笑っているが、その辺はまぁ、信用してもいい奴だ。
「だからホータローも摩耶花で変な想像しないでほしいな。ちなみに僕も乳首は最後にとって置く口だよ」
「心配するな」
伊原が俺の妄想に出てきたことなぞ、一度もない。というか、想像するなと言っておいて、続けて乳首の話をするな。
俺の返事になど興味がないのか、しばらく外を見ていた里志だったが、やがて俺に振り向いた。
「ねぇ、ホータロー。弁当のおかずって、一番おいしいものを最後までとって置くのもありだと思わないかい?」
「なぜとは言わんが、ありだという気がしてきた」
「そうだね」
そうして俺たちは二人して窓の外を眺めた。里志が何を考えているかは知らないが、俺は千反田のことを…
「あ、折木さん、福部さん、こんにちは。すっかり遅くなってしまいました」
扉から聞こえた涼やかな声に二人して振り向く。千反田が入口できれいなお辞儀をした。
「用は終わったのか」
「はい。すぐそこで摩耶花さんとお会いしたので一緒にきました」
そう言って二人して入ってくる。
「摩耶花、今日は図書委員じゃないのかい?」
「そうなんだけど、早引けよ」
「図書委員に早引けがあるのか」
これは余計な一言だった。
「うるさいわね。折木には関係ないでしょう。三年生は好きな時間に帰っていいのよ」
さいですか。
「そういえば、折木さん福部さん」
場の空気を読んだのか千反田が微笑みながら助け船を出してくれる。
「伊原さんともお話ししたのですが、今日、クラスでお弁当の話題が出たのです」
ほう。奇遇だな。
「それでお聞きしたいのですが、お二人はお弁当のおかずは一番好きなものから食べる方ですか?」
「俺は一番好きなものから食べる口だが、最後に食べるのもありじゃないかと思うようになった」
「ふくちゃんは?」
「僕もホータローと同じだよ。一番好きなものから食べるけど、最後に食べるのもありな気がしてきた」
俺達の返事を聞くと、千反田と伊原は顔を見合わせた。そうして二人とも顔を赤らめると俺たちを恨めしそうに見て、胸のあたりを腕でかばうようにした。
(おわり)
雰囲気そっくりでまるで違和感が無い……GJです
GJです。舞台は3年次ですか。
大日向の扱いのぞんざいさがなんともw(総勢5人の部活でカップル2組って…)
大日向って、古典部に帰ってくるかなぁ。
古典部シリーズは4人の恋愛模様っぽくなっているから、5人目は
ちとかわいそうなんだけど、このままだとホータロー達が卒業すると
廃部かな。
そういう少し寂しい感じがするところもこのシリーズの味だとは
思うけど。
「もうちょっと胸があったらいいのに」
思わず恋人背中にのばした手が止まる。
「摩耶花、そんなこと言っちゃ駄目だよ。摩耶花はとても可愛いのにこれ以上何を望むんだい」
「なによ、そんなに可愛いならどうして何年もほっといたのよ」
「その言い方は酷いな。ちゃんと説明したじゃないか。本当に摩耶花のことが大事だから、僕でいいのか自身が無かったんだよ」
「酷いのはそっちのほうよ」
柔らかい頬をふくらませたり、唇をとがらせたりする摩耶花と居るのはたのしい。彼女は他の人にはこんな風には怒らない。人に怒るのはただすべき悪い点だと思っているから。彼女がこんな風に表情豊かに怒るのは僕に対してだけ。これはとっても素敵なことだ。
ホータローにもたまに怒っていることがあるけど、あれはやっぱり気を許しているからかい?だとしたら僕としては複雑だな。はい、ばんざーい。
「せめてちーちゃんくらいあればなぁ」
そういって、ちょっと悲しそうに胸を隠す僕の恋人。その可愛い胸を隠さないでよ。僕だけには見せてくれる約束だろ。
「胸がないからって、摩耶花の魅力がこれっぽっちも減ってるわけじゃないんだよ。心配するのはやめなよ。だいいち千反田さんだってそんなにないよ」
「ちーちゃんのこと言わないで!」
ええ?!そこで怒るの?
「ベッドの上で他の女の子の話しないで!ちーちゃんと比べないで!」
「千反田さんの話をしたのは摩耶花だよ」
「知らないわよ」
ぷいっと膨れて横を向いちゃった。ああ、かわいい。あんな風に本当に膨らます子は少ないし、そのうえ膨らましても可愛いなんて、摩耶花くらいだよ。
「ねぇ、摩耶花。聞いてよ。分かってくれるまで何度でも言うよ。僕のことを本当に分かってくれる女の子は摩耶花だけさ。自分でも分かってる。とても嬉しいことだって思ってる。摩耶花が好きだよ。ずっと横に居て欲しい。
だからさ、僕が他の子のことを考えているなんて言わないでよ。いくらなんでも傷ついちゃうよ」
「なによ、そんなことふざけて言われても信じられない!」
「ふざけて無いよ。僕はまじめだよ」
「うそ!だったらどうして句読点の所で舐めたり吸ったりするのよ!」
「あ、わかった?だって、変なところでキスすると話の切れ目がおかしくなるじゃないか」
「だったら舐めなきゃいいじゃない!」
「木石じゃあるまいし。こんな可愛い乳首を前に、そんなことはできないよ」
「ふくちゃんのばか!」
頭をはたかれる。
摩耶花はかわいいなぁ。すごく自分にきびしくて、喜怒哀楽がはっきりしていて、でも、僕にだけ一番弱いところを見せてくれる。なにより、僕のことを理解してくれる。ホータロー。君には摩耶花がどんなにすばらしいかなんて、きっとわからないよ。
摩耶花は僕が何も言わないのに、僕が大事に思っていること、僕がつらいと思っていることをちゃんと分かってくれてたよ。
今だってほら、あんなに可愛い顔を涙でぬらしてくしゃくしゃにして、枕を振り回してる。可愛いなぁ。
イテッ。
(おわり)
GJ!!!!伊原可愛いよ伊原
里志も違和感なくて堪らんなあ
>>266-268 GJ〜
なんとなく今放映中の某戦隊のダブルヒロインがかぶってしまったのは
自分の心が乱れているからかも
本編でもこれくらい可愛く描かれればなあ
千反田はああみえて意外に胸はあると思う
>273
まあ聞け。
制服姿では控えめで清楚な彼女が
私服姿になった途端に見せる
意外に女性的なライン。
これもまたお嬢様キャラの醍醐味の一つではないか。
私服じゃないけど温泉で色気ムンムンだったじゃないか
着痩せしてるけど脱いだらデカイ、が理想かな>千反田
ふくちゃんと摩耶花に燃え滾った結果
「あとで埋め合わせるから決めといて」
ふくちゃんからそう言われたのは、文化祭二日目、料理研のコンテストの時だった。
それから半月が経つが、埋め合わせの内容は決まっていない。
決められるわけがない。私がふくちゃんに何を求められるだろう。
「デートして」? 「付き合って」? 馬鹿か。
そんなわけで何事もなかったかのようにしていたある金曜日、古典部部室である地学講義室でふくちゃんとふたりきりになった。
ちーちゃんは家の用事で一時間以上前に帰っていた。どうも親戚関係の集まりらしい。名家のお嬢様も大変だね。
折木は、今日はそもそも来ていない。いつものことだ。気にもならない。
そういうわけで、下校時刻まで時間を潰していたのは、カバーのかかった文庫を読んでいたふくちゃんと、次の即売会に合わせる同人誌のネームを練っていた私だけだった。
下校のチャイムが鳴り、私たちは揃って席を立った。黙ったまま教室を出る。
ふくちゃんが私に話しかけてきたのは、地学講義室に施錠をしたときだった。
「そういえば、摩耶花。『埋め合わせ』の内容、決まった?」
「決まらない」
私は敢えて少しずらした回答をした。決まらないのではなく決められないのだ。
ふくちゃんはどこまでわかっているのか、いつも浮かべている微笑を深めた。
それが少し緊張しているように見えるのは、私の思い上がりだろうか。
「じゃあ、明日、埋め合わせに付き合ってくれないかい?」
よくよく考えてみれば、「埋め合わせに付き合う」とは妙な言い回しだ。
私のための埋め合わせでふくちゃんに付き合うなんて。
でも、どうしても決めかねている私にとってはこの上ないほどの申し出でもあった。
「別に、いいけど」
断わる理由もない。
翌日の土曜日は、小春日和の暖かい日だった。
薄手のコートを羽織った私は、高校の前でふくちゃんを待っていた。
時計の針は午前十一時の少し前。待ち合わせには少しだけ時間があった。
ふくちゃんの指示通り、高校までは歩いてきた。
ショルダーバッグは学校で使っているものより少し大きめ。
私は漫然と、校舎の時計を見上げていた。
頭が少しだけふらつくのは睡眠不足だからだ。
夕べはなかなか寝付けず、不本意ながら白い錠剤に頼ってしまった。
それなのにどういうわけか朝早く目覚めすぎてしまって、こうしてふくちゃんを待つ羽目になってしまっている。
時間ちょうどに来る予定だったのに。
果たして、ふくちゃんはやってきた。左のグリップを布で補強してある、いつものマウンテンバイクに乗って。
時計は少し進んでいたけれど、まだ十一時にはなっていない。
「ごめんね、待たせた?」
これがデートなら、「待っていないよ」とでも答えるべきだろう。だけど私は事実を述べた。
「うん」
ふくちゃんが、少し噴き出した。
それにしても、私には徒歩で来るように言ったのに、自分はマウンテンバイクとはどういうことだろう。
てっきりバスにでも乗るものだと思っていたけれど。その疑問は、程なく解消されることになる。
あ、エロ無しですサーセン
「摩耶花、乗って」
その言葉を理解するまでに少し時間がかかった。
荷台のあるママチャリならともかく、ふくちゃんのは走りに特化したマウンテンバイクだ。
二人乗りなどしようがない。
私のいぶかしさを読み取ったのか、ふくちゃんは後輪を指差して照れくさそうに言った。
「この日のために、魔改造を施したんだ」
人差し指の先を追って後輪を見ると、見慣れたマウンテンバイクに見慣れないものが装着されていた。
後輪のちょうど真ん中、使い込まれたマウンテンバイクとはそぐわない新しさのそれは。
「ハブステップ?」
ぴかぴかに輝く、丈夫そうな棒が左右に一本ずつ、取り付けられていた。
なるほどこれなら二人乗りが可能だ。でも、ハブステップの二人乗りって禁止じゃなかったっけ?
「今日だけ、だけどね。見つかったらよくないから、市街地には行けないけど」
促されるままに、私はハブステップに足を掛けた。
両手は、ふくちゃんの肩を掴む。
随分と頼りなさそうに見えるそれは、意外としっかり私の身体を支えてくれた。
「しっかり掴まっててね。じゃあ行くよ」
そう言って、ふくちゃんはペダルをぐっと踏み込んだ。
いつもよりぎこちなく、けれど十分スムーズにタイヤが回転する。
身体がふわりと浮き上がるように錯覚した。
それくらい危なげなく、マウンテンバイクはふたり分の体重を乗せて進んでゆく。
ふくちゃんが選んだのは、神山市北東部へと向かう道だった。
つまり陣出、ちーちゃんの家がある方向だ。
なるほど、陣出の方なら人通りも少なく、それに従い二人乗りを咎められる心配も少なくなる。
周りの風景が、いつも自転車で走るよりもずっと早く、飛ぶように過ぎてゆく。
秋風が頬を撫でて髪を揺らした。
今日は季節にしては暖かい日だけれど、こうしていると少し肌寒いくらいだ。
マウンテンバイクを漕ぐふくちゃんの身体だけが、ぽかぽかと温かい。掌を通して伝わってくる。
辺りの風景が、田園地帯に変わってきた。
それでもふくちゃんはペダルを漕ぐのをやめない。
ここは確か、なだらかな坂が続いているはずだ。
車体の傾きも感じている。なのに息も切らさず、ただひたすら漕ぎ続ける。
前へ、前へと。
284 :
名無しさん@ピンキー:2011/08/06(土) 00:00:09.97 ID:PfI5hYxu
できることなら叫び出したかった。
この感情をなんと呼ぶのか知らない。
私のためにわざわざこんなことをしてくれたことに対する愛しさか、何も返そうとしないくせにここまでしてくれることへの怒りか。
わけのわからない感情は、全部秋の風が攫ってゆく。
少しの間きつい坂を上ったと思ったら、下り坂へと差し掛かった。
視界の隅をお堂が過ぎてゆく。
広がる平野を横目に、小川に沿ってマウンテンバイクは走る。
古びた橋を渡り、更に上流へと遡る。
ここまで来れば、私にもふくちゃんの目指すところがわかった。
山に食い込むように建っている、水梨神社だ。
マウンテンバイクは、小さな鳥居の前で止まった。
車体が傾くのに合わせて、反射的に足を地面に付く。
身体は冷えていたけれど、手だけが不思議なくらい熱かった。
「ここまでだね、僕の脚の限界は」
ふくちゃんの言葉に促されるように、私はハブステップから足を下ろした。
ずっと後ろで揺られていたからか、久しぶりに踏みしめる地面はふわふわと頼りなく感じる。
ふくちゃんもすぐに降りて、紐状の鍵でマウンテンバイクを鳥居に固定する。
そんなことして罰が当たらないのかなと思うけど、信心深い方でもないので口には出さない。
ふくちゃんも、そんなことは全く気にしていないようだ。
鳥居をくぐると、ふくちゃんは狭い石段に腰掛けた。
私もそれに倣い、一段高いところに腰を据える。
いつもなら見上げているふくちゃんと同じ目線なのが、なんだか新鮮だった。
走り出したときには傾いていた太陽は、すっかり真上を指している。
時計を確認すると、もう昼近い時刻だった。
そんなにも長い間、ふたりで走っていたのだ。
ふくちゃんは何も言わない。だから私も黙っていた。
石段は木陰になっていて、風が通り抜けると温かさも霧散するような気がする。
けれど寒さを感じないのは、付かず離れずの距離にいるふくちゃんの身体が温かいからだ。
不意に、ふくちゃんが口を開いた。
「これくらいしか思いつかなかったんだ」
なにが、とは言わない。それでもなんとなく、わかった気になっていた。
ふくちゃんはまだ、私を選べない。それだけははっきりとわかっていた。
それなのに、この満たされた気持ちはなんだろう。
喜びとも高揚とも付かない不思議な胸の高鳴りは、なんなのだろう。
私は何も語れずに、ショルダーバッグに手を突っ込んだ。
「これ」
差し出したのは大きめのタッパー。
中には色とりどりのおにぎりが詰まっている。
赤いのは、ゆかりと梅干。白ごまを混ぜ込んだのはしぐれ煮が中に入っている。
薄茶色のは大葉醤油を混ぜたものだ。
午前から出かけたのなら昼時にいいだろうと、時間を持て余した朝に作ったものだった。
ふくちゃんは一瞬、面食らったような顔をした。
でもそれも一瞬のこと、すぐに破顔する。
私の大好きな、ふくちゃんの笑顔だった。
「ありがとう、摩耶花」
短い言葉が、私の胸へと染み渡る。ああ、私はやっぱりふくちゃんが好きなのだ。
私たちは夕方近くになって、神山高校の前で別れた。
一度マウンテンバイクから降りたふくちゃんは、後輪のハブステップを外し、いつもの巾着袋から取り出した小さな布袋にそれを入れて手渡してきた。
隅に天秤を刺繍してあるそれがふくちゃんの手縫いであることは想像に難くない。
「僕にはいらないから、摩耶花に」
私はそれを受け取った。
そして帰宅すると、それをずっと眺めて過ごした。
確かにこれは、ふくちゃんには必要のないものだ。
でもそれを私にくれるのは、どんな意味があるのだろう。
私にはこれが必要だということだろうか。
私がこれを、ふくちゃんと一緒にどこまでも行ける証であるこれを、必要としてもいいということだろうか。
疑問は決して解消されない。それでも私は、一つだけ確信していた。
今夜、睡眠薬は必要ない。
以上です。
ありがとうございました。
ちなみにタイトルは、ハブステップと埋め合わせから。
天秤の刺繍はタロットです。
>>289 GJ
風景描写うまいなぁ。それよりなにより摩耶花のぐちゃぐちゃの
心の描写がうまい。ぐちゃぐちゃなのに、好き。
奉太郎が暢気に「あいつは自分の誤りにも苛烈だ」なんて思っている
裏では、その苛烈さからか摩耶花が睡眠薬を飲んでいるというあの
設定は息を呑んだ。その後、本編ではその設定は活用されていないが、
こんなところでほのぼのと活用されていて、眼福
>>290 あの睡眠薬設定はよかった。
割って飲んでるから市販薬ではないんだろうなぁと思うと、胸が熱くなる
伊原可愛いよ伊原
292 :
289:2011/08/06(土) 01:00:35.16 ID:x5a645mI
痛恨のミス
伊原の一人称は「私」じゃなくて「わたし」だったorz
スルーでお願いします……
全然気にならないよ!つうか神さまありがとう。伊原可愛いよ伊原。
伊原は安易に「ツンデレ」の枠に収めていないのがいいなと思う。
伊原の良さにいまさら気づいた俺は
ドレッドノート級の朴念仁。
折木視点だと硬い殻以外はなかなか見えてこないけど、
内側に壊れやすいもの持ってたんだな。白い錠剤とか。
逆説的に、ほうたるがどれだけマヤカに興味ないのかがわかるな。
大日向の扱いも想像できるというもの。
ほんと、興味ないよな。クドリャフカの冒頭部分では里志に節穴呼ばわりされているし、
概算では摩耶花に、そもそも人間に興味がないって言われている。
摩耶花のホータローへの扱いの悪さって、その辺から来てるのかな。
ふくちゃん
ちーちゃん
ひーちゃん
折木
ほんとひでぇ(wq
「ふたりの距離の概算」で、三日間「ごめんなさい」しか言えなかったネタ。
僕こと福部里志は、このたび伊原摩耶花と付き合うことになった。
理由は、僕の心境変化だ。摩耶花に押し切られたわけではない。決して。
摩耶花は僕に何度も告白はすれど、本気で僕を追い詰めることはしなかった。
中学三年のバレンタインデーだけは、身の危険を覚えたけれど。
しかし、折角意を決して摩耶花の告白に答えたのに、僕は一層困った状況に置かれてしまった。
摩耶花が、不機嫌になりだしたのだ。
「ふくちゃんは、ずるい」
眉間に皺を寄せながら言われるが、反論は一切できなかった。
摩耶花の言葉は事実だからだ。
「わたしがふくちゃんを好きって、知ってたくせに」
「うん」
「なのに、ずっとはぐらかしてたくせに、こんなに簡単に応えるなんて」
仰るとおりだ。肝心なところで口下手な僕には、何も返す言葉がない。
「……ごめん」
「ふくちゃんの馬鹿」
「ごめん」
「ふくちゃんの、ばか……」
語尾が段々震えてきた。
いつもの、ホータローの言葉を借りるならば寸鉄のような鋭さはどこにも見当たらない。
小さな身体と幼い顔に相応しい、けれど普段の摩耶花からは想像できないくらいの弱々しさだけがそこにあった。
「ごめんね、摩耶花。ごめんね」
僕は謝りながら、摩耶花を抱き寄せる。
温かい身体は、男子としては小柄な僕の腕にさえすっぽり収まってしまった。
摩耶花は僕の胸に顔を埋め、消え入りそうな声で呟いた。
「許さない」
「ごめんね、摩耶花。許してくれとは……」
言えなかった。摩耶花の恋心に、僕が甘えていたのは事実だからだ。
そしてそれが酷い仕打ちだと僕はわかっていた。だからこそ、許しを請うことはできない。
「ごめんね」
壊れたオルゴールのように同じこと場を繰り返す僕の胸の中、摩耶花は一回しゃくりあげてから、言った。
「もっと」
「ごめんね」
「まだ足りない」
「ごめんね、摩耶花、ごめんね」
「まだ……」
言いかけた摩耶花の身体を離し、顎に手を添えて上を向かせる。
少しかがんで啄ばむようにキスすると、摩耶花は黙ったままぼろぼろと涙を流した。
また強く抱き締める。離してしまわないようにしっかりと。
「ごめんね摩耶花。気が済むまで何度でも言うよ。ごめんね」
摩耶花は静かに泣きながら、僕に抱き締められていた。腕に力を込める。
僕は摩耶花にこだわると決めたんだ。
だから、この程度で手放すわけにはいかない。
詰襟の胸元が濡れていく。構うもんか。
「ごめんね、摩耶花……愛してる」
その言葉を口にしたら、摩耶花の細い腕が僕の腰に回るのを感じた。
夕暮れが夜へと変わるまでの長い間、ずっと僕らはそうしていた。
まさかこれから三日もの間、「ごめんなさい」しか言えないとは、その時の僕はまだ考えていなかった。
流石の僕も、少しだけ堪えた。
まぁ、そのくらいでこの素晴らしい摩耶花を手放すつもりは全くないけどね!
301 :
300:2011/08/06(土) 17:30:21.52 ID:orIAkHtG
以上です。
多分二日目からは、摩耶花がいつもの調子で怒り出してふくちゃんは土下座の勢いだと思う。
>>301 ブラーヴォー!
いやぁ、甘い。糖尿病になりそうに甘いお話だね。小佐内さんに狙われるね。
摩耶花は里志と二人っきりの時は存分にかわいい女の子になってほしいよ。
なんだかなぁ。
書いてみてはいるのだが、奉太郎とえるが出てくるだけの違う話になっている。
素人だし仕方ないが、モチベーションの維持は難しい。
「クドリャフカの順番」を覆う、己の才能の限界に対する苦い思いがよくわかる(w
エロパロできた。すこしずつ投稿する。
イメージを壊さない程度にガチなので、ちょっとビビってる。
忍ぶ恋、という言葉がある。
読んで字の通り、人目を忍んで逢瀬を重ねる恋である。忍ぶ事情は様々で、陽の下にさらされれば後ろ指を指される間柄ということもあるだろうし、単に周囲の人に恋愛状態であることを知られたくないと言うだけのこともある。
中学生程度であれば、付き合っていると友達にばれるだけで冷やかされることもあろう。もちろん、そういう事を意に介さない人間も居る。
人目を忍ぶと言うことは露見しないよう努力をするということであり、努力をすると言うことはエネルギー消費量が増えると言うことである。ということは、省エネ主義を標榜する人間にとっては、とんでもないポリシー破りと言えるだろう。
大量のエネルギーを消費しながらクラブ活動に精を出す運動部の姿を見ながら窓際でそんなことを考えたのも、もう何回目かわからない。
神山高校は文化系クラブ活動の盛んな学校である。文化部の数は大小合わせて五十有余。秋の文化祭は毎年3日間行われ、その間の文化的どんちゃん騒ぎの賑やかさは校区を越えてなかなかの知名度を誇っている。
今、俺が…折木奉太郎が…いつもの自分の定位置を離れ窓際に腰掛けて静かに外を眺めている地学講義室も、そんな多くの文化部の一つ「古典部」の部室として割り当てられており、その部屋で外を見ている俺は神山高校3年生にして紛れもない古典部部員である。
ところで古典部とはなにか。
この典雅な名前のクラブがどんな部であるかというのはまず以て初見の方にはわからない。一言で言うと、というか一言で十分なのだが、古典部とは文化祭に向けて文集を作るクラブである。他にこれといった活動はない。
そう言うと我々古典部員はとんでもない怠け者のように聞こえるが、どっこい、これで2年前、部員が居なくなって廃部の危機にあった古典部を救ったのは当時新入生だった我々3年生である。
救ったからと言って別に働きものというわけにはいかないか。
運動部と違って、というか、ほとんどのまじめな部活と違って活動に血道を上げると言うことをしない我々古典部は、普段することがない。従って、部室に来るか来ないかは文集を作っている間を除けば任意だし、来てもたいていは本を読んでいたり、
邪魔にならない程度のおしゃべりに興じたり、酷いときにはお菓子をつまんだりと言うことをしている。要するに、我々は部活としてはきわめてずぼらである。文集のバックナンバーを読むに、どうやら諸先輩方も同様だったらしい。
よく、お取りつぶしにならなかったな。
では、その活動がきわめて低エネルギーな古典部が、省エネ高校生である俺にとって安住の地であったかというと、じつのところそうでもない。ずいぶんといろいろな騒動に巻き込まれたものだ。
いや、誓って言うが、居心地が悪いわけではない。通年で言えば古典部の居心地の良さはなかなかのものである。同じく部員であり、中学生時代からの友人でもある福田里志は俺と違ってあれこれアクティブだから、古典部へ顔を出す頻度もだいたい二日に一度である。
一方、部活以外に何もやることのない俺は、放課後のほとんどを本を古典部で読むことで費やしている。図書館で読めばいいと思う事なかれ、部員が未だにたった5人で平均出席率が6,7割という古典部は、妙な騒動さえなければなかなかのプライベートスペースである。
だから今日も俺は日頃の習慣に従って部室に来て本を開いたのだが、30分もしない内に閉じてしまった。本が退屈だったわけではない。古本屋のワゴンから1冊70円で掘り出したこの学園ミステリはなかなかおもしろい。
特に、主人公とヒロインが自身の能力や性格を社会不適格な獣性と見なして隠しているところがユニークで、つまりは彼らが難事件を解決すると、読者にはカタルシスが、登場人物には苦い思いが与えられるようになっている。今読んでいるのはシリーズ第二部の夏の話で…
話がそれた。
本は掛け値無しにおもしろいのだ。だが、頭に入らない。今日だけではない。最近はこんな事が多い。かろうじて授業中くらいは集中力を保っているが、休み時間となるともう駄目だ。休み時間に何かを全力でやる習慣は俺にはないから、集中力を保てないことが問題なのではない。
雑念が問題なのだ。ここ数日、いや、いらぬ強がりはやめて正直に白状しよう。数ヶ月にわたって俺をじわじわと追い込んでいる雑念が、ゆっくりと本を読むことを許さないのだ。本を開けてもストーリーに没頭できず、活字を追っても頭に残らない。
こうなると一種の精神的な病と言っていい。
雑念など無いかのように白球に向かって走る球児達(がんばれ、たとえ予選3回戦までいけなくても、俺は君たちを応援する。試合を見に行くのはごめんだが)を見ながら、目を細める。ああいう、がむしゃらな連中でも俺と同じような病にかかるのだろうか。
今は6月の頭だが、この時点で心に病があるようでは、甲子園などおぼつかない気もする。
ふっと、ため息をついたときに、後ろから耳に心地よい小さな声が俺に呼びかけた。
「あの、奉太郎さん。なにか心配なことでもあるのですか?」
運動場から視線を戻して振り返る。少し離れたところに立っている少女と目が合う。そして、周囲の気配を探りつつ小さな声で警告する。
「千反田、下の名前で呼ぶのは二人きりのときだけだと言ったはずだぞ」
夏服に替わったばかりの制服に身を包む、髪の長い少女がちょっとだけ不満そうな顔をする。千反田える。ずいぶんとハイカラな名前だが、土地の豪農千反田家の息女である。
そして友達や後輩にまで敬語を使い、見た目から所作までとことんお嬢様然とした彼女こそ、古典部部長にして俺の心の病、つまり、恋患いの根本原因なのだ。
その千反田が、かくんと小首をかしげる。
「でも、部室にはわたしたち二人だけですよ」
俺はもう一度小さなため息を漏らす。千反田、その油断はやがて俺たちの足をすくうぞ。
◇ ◇ ◇ ◇
GJ
二人はもう付き合ってるってことだよね。
この辺の初々しさってラブコメの華だなあ。
>千反田、その油断はやがて俺たちの足をすくうぞ。
実はもうとっくにバレていて、
「あの二人、あれで隠してるつもりかねえ」とほくそ笑む里志が目に浮かぶw
>>310 サンキュー。こういうシチュは書いていてもたのしいよ。
もうちょっと投稿できそうなのでやっておく。
広辞苑によると、恋患いは恋煩いとも書く。言い得て妙である。寝ても覚めても千反田の事が頭から離れない俺の今の状態は、まさに恋によって煩わされていると言っていい。
どのくらい煩わされているかというと、わざわざ図書館に足を運んで広辞苑で恋患いと言う言葉を引くくらいだ。何をやっているんだ、俺は。
広辞苑に書いていなかったことがある。いや、明言されていなかったと言うべきか。恋患いは片想いだけとは限らない。俺は勝手に片想いのときだけ恋患いにかかるのだと思っていた。そうでないと知ったのは、千反田とつきあい始めてからである。
告白したのは俺からだ。どちらが先に好きなったかは知らない。
俺が千反田を気にし始めたのは去年の雛祭りからである。お雛様に傘をさす人の代役としてかり出された俺は、十二単を羽織った彼女に付き添って町を練り歩いた。この町では生き雛祭りといって、年頃の少女にお雛様の格好をさせる習わしがある。
自分が千反田えるという女の子を好きだと自覚したのは、あのときだった。ああ、そうか。これが恋なのかと思った。
実に甘かったと言えよう。
割と落ち着いていた。意外に何ともないな、などと思っていた。それなりに思うことはあって、やるべき事はやっていたが、事態の深刻さに俺は全く気がついていなかったのだ。それはゆっくりと俺の生活に忍び込んできた。
始めは自覚がなかった。だが、段々、千反田の事が気になるようになってきた。なんの本を読んでいるのか、どんな話をしているか。
今日はどんな顔で笑っているのか。
我ながらストーカーじみていると思ったが、気がつけば目は千反田を追っていた。まずい、と思った。「やらなくてもいいことはやらない。やるべき事は手短に」をモットーとして掲げる俺は、もともと恋愛と省エネ主義は両立しないのではないかと危惧はしていた。
いつかはその日が来るかもしれないという覚悟もしていた。だが、両立しないどころではなかったのだ。俺はあっさり、恋愛に関する限り省エネ主義を捨てて白旗を揚げた。俺の心は、こと千反田に関する限り、毎日猛烈な勢いで空回りをしたのだ。
何一つ仕事をせずに回転運動をするだけとは、なんというエネルギーの無駄遣い。
落ちてしまえば、恋とは本当にたちの悪い病である。第一に、前述のごとくモットーなんかどうでも良くなった。第二に、隠すのが大変だった。第三に、いつ平癒するのかわるのか想像もつかなかった。
◇ ◇ ◇ ◇
神さまごっつあんです!「奉太郎さん」呼び萌える。
だが、人に言えない恥ずかしい病に身をよじる俺は、ほどなく新たな問題に襲われることとなった。今年の1月の終わり頃の話である。俺は疑念を抱いたのだ。
最初にその疑念が頭に浮かんだのは、忘れもしない。部室で里志と馬鹿話をしていたときだった。西南戦争当時の情報伝達速度の調査に熱を上げていた里志は、俺に調査結果を得意満面で説明していた。といっても、奴はおしゃべりではない。
何か別の話をしているときに偶然そんな話になり、当時奴を魅惑していた昔日の通信システムについて、簡潔にして要を得た説明をしていたのだ。暇だった俺は奴の話に相づちを打ちながら時折突っ込みを入れていた。
おおむね奴の解説が終わった頃だろうか、いや、終わったかどうかは分からないが、俺としてはそろそろ話のまとめが来ると思っていたそのとき、同じく古典部員の伊原摩耶花が話に割って入ってきた。何の話だったかは覚えていない。
俺には関係ない話だった。小柄で整った顔立ちの童顔という、一言で言うとかわいらしい女の子である伊原には、里志も俺も逆らわない。里志は伊原と付き合っているから当然恋人に甘く、
俺はと言うと迂闊なことを言えばまさに寸鉄人を殺すような具合でぴしりと理不尽な言葉を投げられるに決まっているからだ。
こいつは里志には付き合い始める前からふくちゃんふくちゃんと親しげだが、俺には無愛想だ。おそらくは俺のことを毛虫以上には見ていないはずである。
とにかく、里志の話しがいったん途切れて、俺は目の前の里志から目を離した。そして視線を泳がした先で、千反田と目があった。なぜ目があった?俺を千反田が見ていたから。なぜ見ていた?なぜだろう。目があったのはほんの2秒程度だったと思う。
俺は何事もないように視線を外すと、
「さて、俺はもう帰るぞ」
と、いつものように勝手に宣言して鞄を持ち、古典部部室を後にした。突然頭の中に走った考えをもてあましたからだ。
千反田えるは、俺のことが好きだ、と。
心臓は今にも発作を起こしそうなペースで脈打っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
我ながら突拍子もないと思った。手前味噌にもほどがある。しかし、頭に浮かんだその考えを払いのけるのは難しかった。だから、俺は、帰り道にその考えを吟味することにした。
この町の冬はなかなかに寒い。豪雪と言うほどではないが、結構な雪も降る。冷たい風が頭を冷やすに任せ、時折、足下に気を取られながら俺は千反田のことを考えていた。
第一に、千反田は俺のことを友達だと思っている。これは間違い無いと言っていいだろう。今更、「友達だなんて思っていません」等と言われたら部屋に引きこもるほどショックを受けるだろうが、千反田には俺が知る限り秘密はあっても裏表はない。
普段の言動からして俺のことを友達だと思っているのは間違い無い。
第二に千反田は俺のことを信頼してくれている。これは少しうぬぼれが入っている可能性もあるが、間違い無いと思っていい。古典部に入部したての頃、つまり、彼女と知り合って間もない頃、千反田は俺を休日に呼び出して、個人的な相談を持ちかけたことがある。
後に里志が「氷菓事件」と呼ぶことになるそれは、彼女にとっては人生の重大事の一つだった。そんな重大なことを、千反田は里志でも伊原でもない、俺に真っ先に相談した。
それから雛祭りの傘持ちの役もそうだ。わざわざ俺を呼んだのは、俺に彼女の世界を知って欲しかったからだと千反田は言った。
さらに、俺が嫌々巻き込まれて解決したいくつかの事件について、はっきりと千反田は俺を賞賛している。もっとも、巻き込んだのはほぼ常に彼女だが。
第三に、俺は千反田が好き。これは間違い無い。
千反田と俺の関係性について、事実として分かっているのは以上の三つ。最初の二つは千反田が俺を好きという仮説に対する補強要素であり、最後の一つは危険要素である。人はそれを目が曇るという。
さて、これだけの前提を元に、今日、千反田が俺を見ていたことをもって、彼女が俺を好きと言えるだろうか。
答えは否。
どんな角度から吟味してもあり得ない。下校中にたっぷり1時間かけてその結論を得、さらに食事後に二時間、寝床に入って1時間再検討したが、あまりにもこの仮説は飛躍しすぎていた。俺は疲れ果てて寝た。
◇ ◇ ◇ ◇
320 :
ふたりの場所 ◆g6L9hfHG6M :2011/08/18(木) 14:50:15.68 ID:44i4ZTwc
きちんと袋に入れ、燃えないゴミとして捨てたはずだったが、程なくして「千反田は俺のことが好きなんじゃないか」といううぬぼれ仮説は再浮上することになる。そいつは苦い顔で何度たたきつぶしても浮上してきた。俺が悪いんじゃない。千反田に変調が出てきたのだ。
彼女はこっそりと俺を横目で見ることが多くなった。話しかけるとぴくりと身体を震わせて目を泳がせることが多くなった。「わたし、気になります」と言って俺を困らせることが減った(これは歓迎すべきことだ)。
俺じゃなくて里志に質問をするようになった(これは看過できないことだ)。以前は最後の二人になったとき、俺が帰ると一緒に戸締まりをして出ていたが、それをやらなくなった。
結論。千反田は俺を意識している。
だがどっちだ。彼女は俺を好きになったのか。それとも、俺がちらちらと横目で千反田を追っていることがばれて、ヤダ、キモイ、あっち行ってと思っているのか。もし後者だったら当時の俺は、首吊りでもしかねない状態だった。
いや、今でも変わらないが。あまり丈夫なロープを身辺に置いておくのはまずいかもしれない。
321 :
ふたりの場所 ◆g6L9hfHG6M :2011/08/18(木) 14:52:47.20 ID:44i4ZTwc
とにかく、真偽不明のまま、事態は進行した。そう、あろうことか事態は進行したのだ。千反田の変調は日々進行し、挙動不審は頻度が多くなった。俺が一人でいるときにこっそり戸口から俺のほうを見ていた。忘れ物が増えた。人の話を聞き落すことが多くなった。
ここに来て、俺は進退窮まったと思った。千反田は、明らかに俺との関係に変調をきたしている。それは、いつ周囲に露見するとも限らない。いや、すでに露見しているかもしれないが、それをいつまで周囲が口にせずに居てくれるかきわめて不安だった。
仮に周りからその変調を指摘でもされたら、彼女は火を噴くほど顔を赤くし、言葉も出せずにおろおろするだろう。泣くかもしれない。
以前の俺なら、知ったことかと無視できた。千反田の問題だ。俺の問題ではない。省エネを掲げる高校生としては、何らかの理由で舞い上がってそれを指摘されて泣くような女の子が居ても、肩を抱き寄せて「泣かなくていいんだよ」などと優しく声をかけたりしない。
それはやらなくてもいいことだからやらない。
だが、事情が違った。すでに千反田にどっぷりとはまっていた俺にとって、彼女が泣くなどと言うことは想像するだけで胸が張り裂けそうな事態だったのだ。自分の胸が痛む以上、これはやらなければならない。
事態が破綻する前に、つまり、千反田が泣く前に何とかしなければならない。
322 :
ふたりの場所 ◆g6L9hfHG6M :2011/08/18(木) 14:56:18.50 ID:44i4ZTwc
たっぷり一晩考えて出した千反田えるにとって最善の策は、折木奉太郎にとっては最悪の策だった。告白するしかない、と思ったのだ。仮に千反田が俺を好きならば、彼女はOKを出して俺と付き合うだろう。たぶん。そう願いたい。
そうすれば、今の挙動不審は消えるはずである。根拠はないが。
仮に千反田が俺を好きでない場合、俺と彼女の関係はぎくしゃくするだろう。俺がそれに耐えられるかは極めて怪しかった。あらためて、何度里志に断られてもめげなかった伊原のタフさ加減に尊敬の念を抱いた程である。
俺は心底震え上がったが、やるしかなかった。玉砕しても、彼女に「今、お前って変だぞ」とメッセージを送ることは出来る。
ちなみに、告白せずに、「お前、変だぞ。俺のことちらちら見ているだろう」と忠告することは、シミュレーションの結果最悪以下の結果をもたらすと分かった。この場合、千反田が俺に好意を持っていても付き合うことはできず、好意を持っていなければ関係がぎくしゃくする。
嫌な結論だったが、逃げようがなかった。やるべき事なら手短に、が、しばらくないがしろにしていたとはいえ、折木奉太郎のモットーである。告白してOKをもらえる確率は50%だと踏んでいた。もし千反田の変調がなかったら、俺からは告白しなかったろう。
◇ ◇ ◇ ◇
wktkしながら続き楽しみにしてるよ
頑張れ〜
>>323 ありがとう、コメントもらうとうれしい!張りがでる。
そういうわけで一晩たっぷり悩んだ翌日の放課後、二月も終わりに近いある日、俺は告白して交際を申し込んだ。かなり心臓に悪い出来事だったが、その場で千反田はOKをくれた。
端折らずに詳細を聞かせろという声が聞こえるような気がするが、錯覚のはずなので無視する。千反田が大きな目を一層大きくして驚いた後、端正な顔を羞恥に赤らめて微笑みながらうなずいてくれたとか、何のかんの言いながら週一でデートしているとか、
たまに手をつなぐとか、「名前で呼んでいいですか」事件とか、最初のキスは4回目のデートだとか、意外に甘えんぼだとか、「えるって呼んでください」事件だとか、ピクニックで手作り弁当食べたとか、そんな話を聞きたい物好きはいないだろう。いないよな。
とにかく、俺と千反田は付き合いだして、千反田の変調にはブレーキがかかった。少なくとも俺との距離感で悩む必要はなくなったのだから。だが、計算違いが一つあった。俺の恋煩いが治らなかったのだ。聞いたところでは、千反田も同じらしい。
そういうわけで、付き合いだして3か月ほど経ったが俺の頭は千反田えるのことでいっぱいであり、千反田の頭の中は折木奉太郎のことでいっぱいらしい。
正直に言おうじゃないか。かなり幸せだ。薔薇色と言っていい。
◇ ◇ ◇ ◇
あ、そうだ。いうの忘れてたけど、この話、6万文字超えてて
めっちゃ長いよ。事情があってぽつぽつとしか投下できないから、
ほかの作品の投下タイミング見ている人、遠慮なく割り込んで。
俺自身は平気で割り込む口だからわからないけど、遠慮する人も
いるらしいので書いとく。
おもしろい
楽しみにまってる
「千反田、下の名前で呼ぶのは二人きりのときだけだと言ったはずだぞ」
「でも、部室にはわたしたち二人だけですよ」
教室での俺の警告に対する千反田の反応は予想通りだといえる。
人前ではお互いの事を名前で呼ばないよう気をつけようと千反田には言っている。彼女も承知した。問題は人前とはどういう状態をいい、現在は人前であるか否かである。
この点については俺は常識的判断を期待している。仮にいろいろな場合について条件を精密に考えなければならないとして、二人の時間をそんなことに使いたいかというと、俺は使いたくない。
千反田も同じ気持ちだと信じたいが、こいつはたまに想像もつかないようなことに好奇心を爆発させるので、俺はひそかに心配している。
ともあれ、今、ここに意見の相違があるのは間違いない。二人きりの部室を、千反田は二人だけの空間だと思っており、俺は違うと考えている。
「千反田、よく聞け。ここは学校だ。いつ、誰が来るとも限らない」
「『える』って呼んでくれないと嫌です」
……飛び道具はやめろ。今心臓に何か撃ち込みやがったな。
俺が恐れているのはまさにこういう事態だった。楚々とした外見のまま、大きめの目に今にも涙を浮かべんばかりの表情で、こころもち拗ねたように駄々をこねる豪農千反田家の息女。破壊力がありすぎる。こんな恋人と二人きりでいて、周囲に注意など配れるはずがない。
ただでさえこいつの好奇心の爆発には振り回されてきたが、最近では俺の耐性がずいぶん下がってしまっている。その上、こいつはこいつで以前より親しくなったせいだろう、稀にだが子供のような駄々を振り回すことがある。まぁ、かわいくていいのだが。
「いいか、お前のそういう態度自体が危険なんだ。いや、言いなおそう。俺もお前もそういう状態になることが危険なんだ」
「状態って、どういうことでしょう」
まだ少し不満そうだが、とりあえず千反田は俺の話を聞くことに決めたらしい。いいことだ。人の話を聞く娘に育ててくれたことを親御さんに感謝しなければ。
「お前は…いや、俺もだが、二人っきりになると舞い上がり気味になる」
「そうでしょうか」
自覚しろ、自覚。
「そうだ。だから、二人きりで安全と思ったとたん、周囲に対する注意がおろそかになる。そうやって二人して舞い上がっている最中に誰かが来てみろ、気づくか?いや、断言してもいいが気付かない。二人きりというのは二人しかいないという意味じゃない。
しばらくの間、知り合いが近くに来ないことまで確かじゃないとだめだ」
声が大きくならないよう気をつけながら、噛んで含むように言い聞かせる。黙って聞いていた千反田は話し終わった後も聞かされた内容を吟味するように少し目を伏せていたが、再び目をあげると、やや気落ちした声で言った。
「わかりました。放課後部室で二人きりでいても、それは安心できないということですね」
「そうだ」
別に身の危険はないが、二人でふわふわした気持ちになるのはよろしくない。
「では、どこだったら安心できるのでしょう」
では、って。お前は断固として学校で恋人気分を味わいたいようだな。とんだお嬢さんだ。俺としても校内の安心できる場所に心当たりがないとは言えない。たとえば体育倉庫などはなかなか安心できそうだが、まぁ、あれだ。
「校内はあきらめろ」
俺も体育倉庫をあきらめるから。
口をほんの少し尖らせて俺のほうを見ていた千反田は、考えた後、不承不承といった風でわかりました、と呟いた。がしかし、ふっと微笑みを浮かべると俺にこう提案した。
「わかりました。仕方ないですね。それでは折木さん、今日はどなたもいらっしゃらないようですし、戸締りをして一緒に帰りませんか」
はい。そうします。
◇ ◇ ◇ ◇
千反田えると折木奉太郎の恋は忍ぶべきものか否か。
この点については付き合い始めたごく初期に二人で話し合ったことがある。俺は是、千反田は否であった。
二人の仲は人に指差されるようなものではない。二人は未婚であるどころか恋人すらいない。おれに至っては初恋である。
千反田については根掘り葉掘り聞くのも無粋なので聞いていないが、俺とのキスがファースト・キスだったと言っているから、少なくとも付き合った相手はいなかったのではないかと思う。ともかく、不倫とか浮気といった線で非難されることはない。
では、人に知られるのが気恥ずかしいかというと、そこは微妙なところだ。俺たちの年齢だと伏せておきたい奴らも多いはずだが、伊原あたりは中学生のときから里志のことが好きだと公言してはばからなかった。では、俺はどうか。
正直、普通なら隠し立てすることではないと思っている。公言する必要もないが。そのことは千反田も同じらしく、悪いことをしているのではないから隠したくないというのが彼女の意見だった。
それではなぜ俺が二人の仲を進んで公知の事実にしたくないと考えているかというと、有り体にいえば千反田の世間体を守りたいのだ。
以前は世間体というのはあまりいい言葉だと思っていなかった。その意識が大きく変わったのは、1年生の冬、正月にちょっとしたトラブルで千反田と二人で納屋に閉じ込められた事件からだ。
あのとき千反田は「自分は父親の名代として来ているのでこの場で醜聞が広まるのは困る」と言った。目から鱗が落ちる気分だった。
千反田えるは俺と違う世界に生きている。そう思った。少し残念なことだと思った。俺が親の庇護のもと、安穏とモラトリアムを生きているのに対して、千反田は子供のころから片足を公の世界に突っ込んで生きてきた。その差は大きい。
俺であれば何でもないことであっても、千反田の場合は醜聞になることだって考えられた。そして、千反田の醜聞とはこの場合千反田家の醜聞なのだ。
いくら豪農とはいえ、高校生の娘に恋人ができたくらいで醜聞になるとも思えないし、当の本人も大丈夫だと思っているようだったが、俺には別の考えがあった。俺が理由で少しだって千反田の評判に傷をつけたくなかった。
弱気と笑うなら笑え。
そういうわけで俺達は、俺が時期を見て里志にだけそれとなく話をし、千反田が時期を見て伊原にだけそれとなく話を打ち明けようと合意した。
ちなみに、二人ともまだ話していない。もちろん、こうしてたまに二人で一緒に下校することもあるのだ、もう気付かれていても不思議ではない。
◇ ◇ ◇ ◇
「奉太郎さんは、少し用心が過ぎるのではないでしょうか」
通学路を並んで帰りながら、千反田が話す。文字にすると少し険があるが、声のトーンはいたって柔らかい。育ちの良さなのか、もって生まれたものなのか。こいつだって怒って大声を出すこともあるのだが、いまはそんな風ではない。
俺は千反田の自転車を押しながら、横を歩く千反田に顔を向ける。ほんのわずか湿度の高い風に千反田の長い髪が揺れる。
「なぜ、そう思う」
「だって、奉太郎さんがわたしの立場に気を使ってくださるのはうれしいのですが、いくら千反田の一人娘といっても、わたしは高校三年生です。恋人の一人や二人いてもおかしくありません」
「二人いるのか!」
思わず立ち止まっていた。振り向いた千反田が大きな目をまん丸にしているので、たかが言葉の綾に俺はよほどひどい顔をしていたのだろう。だが、千反田は困ったように微笑んで手を体の前で重ねると、おじぎして訂正した。
「すみません。これは言葉の綾です。二人いるとおかしいです」
「…」
黙って自転車を押し始める。再び並んで歩きながら、千反田が小さな声で付け加える。
「わたしは、奉太郎さん一筋ですよ」
まっすぐ前を見る視界の端で、彼女が俺の顔をのぞき見るのがわかる。
「疑ってはないさ。驚いただけだ」
死ぬほど驚いたけどな。
「とにかく、いくら千反田の娘だからと言って恋人くらいいても不思議はありません。そう思いませんか?」
「ああ。その点はえるが正しいと思う」
千反田の口の端にうれしそうな笑みが浮かぶ。
「俺はただ、歯止めが効かなくかなくなるのが恐ろしいだけだ」
「歯止め、ですか?」
「ああ、説明しにくいけどな」
「…説明を聞きたいです」
千反田と近いほうの腕がぞわぞわと泡立つ。来るぞ来るぞ、あれが来るぞ。爆発したら抵抗不可能の猫を殺す感情。千反田えるの好奇心が。
「奉太郎さんが、わたしたちのことをどんなふうに考えているのか。わたし、気になります」
しかし、いつもの好奇心爆発とは少し違う。いつものそれが純粋な好奇心に後押しされて千反田の胸を震わせているのに比べて、今のは少し違う。ちょっとだけトーンが低い。彼女が心の底から知りたいと思っているからだろう。それは二人の間のことだから。
それだけに、俺は逃げられない。
「ああ、ちゃんと話すよ」
俺はそう答える。千反田が知りたいと言ったら、余人はともかく俺がそれから逃げるすべはない。友達のときから逃げられなかったのだ。恋人になって、心を縛られて逃げられるはずなどない。
「すこし、時間をくれないか。俺の頭の中でもうまくまとまらないんだ。時間が来たら、いずれ話す」
立ち止まって千反田と向き合う。ちょうどわかれ道のところに来ていた。ここから下校は一人ずつ。初夏の強い光の下で、彼女は少しだけ首をかしげ、でも、納得したように微笑む。
「わかりました。わたし、待ってます。ちゃんと聞かせてくださいね」
「ああ」
そうやって言葉を交わすと、千反田は俺のうしろから後ろから自転車の反対側に回り込み、ハンドルを受け取る。
「それでは奉太郎さん。わたしはここで失礼します。また明日、学校でお会いしましょう」
「ああ。える、車に気をつけろ」
「奉太郎さんも」
そう言って、千反田が胸の前で手を振る。お辞儀の多い千反田だが、あるとき以前見たこの仕草が可愛いと言ったら、時々取り混ぜてくれるようになった。
俺は籠から自分のカバンをとりだし、千反田をみながら一歩下がると、お互いに微笑んで、そのままその場から立ち去った。千反田はどうも別れたあと俺に自転車をこぐ姿を見られたくないらしく、いつものようにその場で俺の事を見送ってくれる。
お嬢様的に、はしたないのだろうか。そんなことはないと思うが。
少し歩いて振り返ると、自転車に乗る千反田の後ろ姿が小さく見えた。まだ、俺の事を考えてくれているだろうか。それとも、もう別のことを考えているだろうか。いいや。千反田、今は俺のこと考えなくていい。ちゃんと安全運転で帰れよ。
◇ ◇ ◇ ◇
過去の苦い経験から、家では勉強をしてから千反田の事を考えることにしている。逆の順序だと確実に勉強をする時間がなくなるからだ。千反田の奴め、どんな魔法をかけやがった。
思い返すのは雛祭りの夜。千反田に将来の話を聞かされた。あいつはまだ高校1年生だったが、自分のやらなければならないことと長所、短所をちゃんとわかった上で、将来何をすべきかまで決めていた。
危うく馬鹿な事を口走る寸前だったあの晩、俺は自分のことを千反田と比べてため息をついた。めんどくさがりで何もしていないただの高校生というのが冷静な自己分析の結果だった。
あの時は千反田と付き合うなんて現実感がなかったが、いざ付き合ってみると、この不釣り合いは相当に厳しいと思う。
椅子の背に従って天井を仰ぎ見る。ぐずぐず悩んでも仕方がない。やるべきことをやるだけだ。それでこの不釣り合いが是正できるかどうかは極めて怪しいが。
疲れ切った頭にゆっくりと霧がかかるように眠気が襲ってくる。意識が途切れそうになるほんの数秒、はにかむ千反田の姿が浮かぶ。
◇ ◇ ◇ ◇
340 :
名無しさん@ピンキー:2011/08/21(日) 18:37:55.64 ID:BS1F2zFv
>>339 原作の雰囲気出ててうまい
続き楽しみにしてます
GJ!いいよいいよ〜
二人いるのか、に吹いたのは俺だけじゃないと信じたい
勉強→えるのことを考える時間じゃないと
勉強する時間がなくなるって甘すぎます
>>340-342 ありがとう。
>>340 ちょっとは出てるかな。古典部シリーズの独特の雰囲気って、どうすれば
出るのかかなり悪戦苦闘している。たぶん、年寄り臭い奉太郎の独白と
千反田さんの少しピントが外れ気味の会話の組み合わせなんだろうけど。
>>342 よかった。ひとりふいてくれた。今後も甘い甘い路線で行くよ。
ところで余所にも書いたんだけど、摩耶花はふくちゃんと二人っきりの
時には黙って、にこりともせずに目を閉じて甘えてるんじゃないかと思う。
想像するだけでご飯3杯くらいいける。
強かった日差しは、喫茶店を出ると雲にさえぎられ、いくらか暑さが和らいでいた。だいぶ涼しい。
夏休み最初の木曜日、俺と千反田は隣の町にデートに出かけた。訪れるのは割と定番となった、映画館=>喫茶店で食事=>自由散歩のコース。すでに食事も終えて、本日の自由散歩は千反田の要望にり、小さな美術館に陶芸品の特別展示を見に行く途中である。
ふつうは映画館と喫茶店から離れないところをぶらぶら歩いたり本屋を冷やかしているのだが、目的の美術館は少し離れた所にいるので、二人で静かなオフィス街をてくてく歩いている。
ちなみに俺は映画にはたいして興味がない。というか、むしろ苦手な部類に入る。しかし、千反田と見る映画は全く別の話だと申し添えておく。実に心躍る。『白馬ハ馬ニ非ズ』と言うじゃないか。同じだな。
ただ、今日に限って言えば
「奉太郎さんは、あの映画、どうすればよかったと思いますか?」
と、楽しそうに顔を覗き込む千反田に、俺は思わず唸り声を返す。
今日の映画は二人で見た中でも最悪の部類に入る出来の悪さで、映画館を出たあとは二人ともしばらく貝のように黙り込んでしまった。しかし、おかげで喫茶店での会話の盛り上がったこと。
揚げ足取りというか、あらゆる点で滑稽なため、欠点を指摘するとお互い笑ってしまうのだ。
「正直、少々手を入れたところで焼け石に水だろう。上映しないほうがよかったんじゃないか?」
突き放す俺に千反田がくすくす笑う。
「そうでしょうか。せっかく出演した皆さんががばっているのですから何とかしたいのですが。どうすればよくなるのでしょう。わたし、」
「待て、やめろ」
「気になります」
あああ、言いやがった。しかし、俺の嘆息をよそに千反田はおかしそうに言葉を継ぐ。
「気になるのですが、わたし、気にしないように頑張ります。だって、考えていると大事な時間がどんどん過ぎていくみたいで」
そう言って俺に微笑む千反田の顔は帽子の幅広のつばの下。今日の千反田は涼しげな白のノースリーブのワンピース。帽子とパンプスは同色のコーディネートで、強烈な日差しの中、本人の楚々とした姿を見事なほど幻想的に昇華してくれていた。
と、過去形なのは、雲が出ているからだが、正直言葉通り雲行きが怪しくなっている。その点は千反田も気になるらしく先ほどからちらちらと空を見上げている。
「お天気大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃなさそうだな」
二人して雲を見上げる。天気予報では晴天だったのだが、いつの間にか空は真っ黒になっており、昼だというのに暗い。そうこうしているうちにひときわ冷たい風が吹き始める。
「あの、奉太郎さん」
千反田が心配そうに俺の名を呼ぶのと、俺が後ろを振り向くのが同時だった。後ろからざーっと音が聞こえ始め、それがどんどん大きくなる。あっと、思った時には、もう目の前まで雨域が迫っていた。
「える!そこのビルだ!」
大声を出し、千反田の背中を押して、前方にあったビルの庇の下に走りこむ。駆け込むのと同時にすさまじい雨が周囲を包み込んだ。
二人してあっけにとられる。昼過ぎというのに周囲はすでに薄暗くなっており、冷たい風が轟々と唸る。気の利かない道で木の一本も植えてられていないが、電線は派手に揺れているから木があれば大変な揺れ方だったろう。
そして俺はとんでもないミスに後悔をしていた。逃げ込むビルを間違えた。
雑居ビルの多いこの辺りは、平日の今日はシャッターを上げているところが多いが、どうやらここは廃ビルなのか、シャッターが下りている。つまり、庇の下から奥に逃げることができない。一方で目の前はバケツをひっくり返したような雨である。
隣のビルに走ればそれだけで下着の奥までびしょ濡れだろう。だからその場で雨が収まるのを待とうと思ったのだが、それが二つ目のミスだった。
「奉太郎さん、大丈夫でしょうか。こんな嵐初めてです」
千反田が心配そうに言う。午前中はよく晴れた夏の日だったのだ、それが今は冷たい暴風雨の中に取り残されている。心配にもなるだろう。
「大丈夫だ。30分くらいで終わる」
「わかるのですか?」
風に負けないよう、会話は大声になっている。里志から聞いたことがある。ダウンバーストというやつだろう。激しい雨が乾いた風を巻き込んで下向きの叩きつけるような突風になる。
局地的な気象現象で、基本的にはこの辺にある厚い雲か中層の乾いた空気が燃料切れになれば終わりのはずである
だが、目の前で雨と風はどんどん強くなる。地面をたたく雨は水煙を舞いあげ、それが冷たい突風に吹かれて道路を横殴りに駆け抜けていく。千反田をかばって俺が風上に立つが、何の役にも立たない。とっくに二人とも頭からつま先までずぶ濡れになっている。
「大丈夫か」
振り返って聞いて、俺はそのまま言葉を継げなくなった。頭からずぶぬれになった千反田が、心細そうに俺を見ている。帽子は飛ばないように胸の前。唇は真っ青で、おそらく震えている。
「どうしたっ、気分が悪いのか」
「は、はい。すみません、風が冷たいようで」
「馬鹿っ。早く言え」
馬鹿は俺だ。逃げ込むビルを間違えていなければ、こんな目に千反田を合わせずにすんでいた。
「とりあえず、あのビルに走ろう。あそこなら雨をよけられる」
「はい」
小さく返事をする千反田の手をつかむ。いつも温かい千反田の手がぎょっとするほど冷たくなっていることに躊躇するが、そのまま意を決して手を引き、叩きつけるような風雨の中に二人で駆け出す。千反田が悲鳴を上げる。
細い道路を横断して駆け込んだ雑居ビルはシャッターを上げており、奥に入る階段のあたりで雨をよけることができた。最初からここに飛び込んでいればよかった。だが、遅すぎた。
「える」
千反田は色白だが、今日は白を通り越して青白い。唇の色もさっきより悪い。体の震えはさっきよりひどくなっている。雨は避けることはできるが、風は吹き込んでおり、濡れた体を一層冷やす。
「仕方ない、救急車を呼ぼう」
それしかないと思った。このままだと彼女が倒れるのは時間の問題だ。だが、千反田は俺の袖をつかむと首を横に振る。
「だめです」
「何を言っている。こんな時に家がどうのと言っても俺は聞かないぞ」
「違います。奉太郎さん、救急車は本当に困っている人が使うものです。雨にぬれたくらいで呼んではいけません」
俺は言葉を失った。
大正論だが、それを言っている本人が今にも倒れそうなのだ。ほとんど睨むようにして千反田を見るが、結局ふるえながら俺の袖を離さない彼女に押し切られた。そうしている間にも冷たい風に吹かれてどんどん体温が落ちていく。
「体を冷やしただけです。どこかで温めて着替えることができたら」
銭湯でもあれば渡りに船だが、あいにくこの通りには銭湯はない。唇を噛みながら入り口から表に身を乗り出す。周囲を見回して、凍りついた。さっき雨宿りしていたビルの隣がホテルだった。
べたすぎる。
いいだろう。べただろうがネタだろうが、何でもしてやる。
後ろで震えている千反田を気にしながら、手早く思考を巡らせる。まず、千反田がホテルに入ったことを誰かに知られるのはまずい。幸い雨風のおかげで周囲に人気はない。
さびれていてもオフィス街だから、ビルには人はいるだろうが、千反田に帽子をかぶせていれば見られないだろう。
さらに、この町では俺達の知り合いは比較的少ない。そもそも、それが理由でわざわざ足を延ばしてデートしているのだ。
さらに、風雨の中、俺は『える』の名を呼んではいるが、『千反田』とは呼んでいない。よほど千反田家に近い人でなければわからないだろうし、今でも風の音は大きい。聞かれてはいないと思われる。こちらのほうの心配は不要だろう。
「歩けそうか?」
肩をつかんで話しかける俺を、千反田が見上げる。顔色は悪いし、体は震えているが、眼はしっかりしている。
「はい。寒いですけど、歩けます」
「よし。すぐそこに、体を温めることができるところがある。服も乾かせる。嫌かも知れないが、俺を信じてついてきてくれ」
千反田は何か言おうとしたようだったが、少し言葉をのむと、小さく首を縦に振って
「はい」
とだけ、返事した。
「よし、行くぞ」
雨はほとんどあがっているが、風はまだ強い。細かい水滴が飛ぶ道路に首を出して車と人がいないのを確認する。
千反田にぐしょぬれの帽子をかぶせて手で押さえさ、冷え切った反対の手を取ると、彼女がこけないように気をつけて小走りに再び道路を渡る。そうして、ホテルの通用門じみた小さな入口に飛び込んだ。
玄関の自動ドアにいざなわれる様に中に踏み込む。後ろでドアが閉まり、風の音が遠くなった。
◇ ◇ ◇ ◇
自動ドアをくぐってからこっち、千反田は支払いのときはおろか、エレベータの中ですら俺のシャツの背中を握って後ろに隠れるようにしていた。気持ちはわかる。俺も彼女を振り向いたのは、部屋の鍵を開けて中に入ってからだった。俺だっていっぱいいっぱいだ。
「える、こんなところですまん。今から湯を沸かす。絶対に手を出したりしないから、シャワーを浴びて着換えろ。わかったな」
唇を真っ青にしてふるえながら見上げた千反田は、眼だけがドキリとするほど強く光っていたが、小さな声で返事をしてうなずいた。濡れているからと嫌がるのを無理に椅子に座らせ、バスルームに向かう。脱衣所を通り抜けて、いやに広いバスルームに入る。
浴槽とシャワーの栓をひねる。すぐに湯が出てきた。浴室に暖かそうな湯煙が広がる。湯温を確かめると、シャワーだけ閉めて取って返す。
こんな時もキチンと手をももの上に重ね、しかし少しうなだれているように見えた千反田が俺を見上げる。
「シャワーの準備ができた。立てるか?」
「はい」
「よし、脱衣所に着替えが置いてあるから、早く濡れたものを脱いでシャワーを浴びろ。湯船に湯がたまったら温まってこい」
意味が部屋の隅々まで浸透するのが恐ろしくて早口になる。さっきと同じく眼だけが強く光る青白い顔で千反田は俺を見上げ、しかし、小さく返事をして、脱衣所に向かった。
扉が静かに閉まる。
俺は足音を忍ばせて脱衣所まで向かうと、扉の前で息を止めて耳をそばだてた。衣ずれの音が聞こえる。あの、品のいいワンピースもびしょびしょにしてしまった。白いワンピースの下から千反田の真っ白な肌が現れる姿を想像して、あわててかき消す。
やがて、奥のガラス戸が開く音がして、続いて閉まり、風呂の湯をためる音に重ねてシャワーの音がし始めた。安堵のため息が漏れる。もし、千反田が倒れたらどうしようと気が気でなかったのだ。
ようやく今、彼女はシャワーを浴びはじめた。まだ安心はできないが、これで少しずつ体温は上がるだろう。重いものが倒れる音がしないか、シャワーの音が単調にならないかに注意しながら、じっとその場に立っていた。
やがて、シャワーの音が止まると、続いて風呂の湯をためる音が止まり、そして湯船の湯が音をたてた。これでひとまずはなんとかなった。
大きなため息をついて体の力を抜くと、足音を忍ばせて戻る。ベッドの頭のあたりに何か包みが置いてあるのが目に入る。それが避妊具だと気づいて舌打ちする。そう言うつもりで来たのではないのだ。信じてくれ、千反田。
さっき千反田を無理やり座らせたために濡れたソファーにどっかりと腰をおろす。今頃になって、自分の体が冷え切っていることが意識されてきた。舌打ちをして立ち上がり、壁のエアコンのコントローラを覗き込むと、設定温度は22度。
少しはエコに気を使えと毒づきながら、乱暴にスイッチを叩いて28度まで温度を上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
∧_∧
( ・∀・) ドキドキ
( ∪ ∪
と__)__)
引き続きwktk
風呂場のガラス戸が開く音がしたのは、千反田が湯船につかって15分ほどしてからだった。しばらくした後、がちゃりと脱衣所のドアが開いて、ゆっくりと千反田が顔をのぞかせた。
そして、そっと体を体を滑り込ませるように部屋に入ってくると、手を体の前に揃えてぎごちなくお辞儀をした。
「お先にいただきました」
バスローブ姿の千反田。
早鐘のように跳ねまわる心臓が口から飛び出しそうになる。予想していたことのはずなのに、どうしようもなく心と体が反応する。千反田の顔色は緊張の色合いを別にしてすっかり良くなっていた。表情だけは心細げで、それは当たり前だろう。
ほっそりした身体は白いバスローブに包まれ、濡れた黒髪が悩ましく肩の辺りを飾る。さっきから跳ね回っている俺の心臓が心配だが、とりあえず千反田の具合は良さそうで安心する。とにかく、気を落ち着けて声をかける。
「髪、乾かせよ。ドライヤーがあったろう」
ぬれた髪が目の毒だから。だが、千反田は首を振る。
「いえ、わたしは後で乾かしますから、奉太郎さんが入ってください」
「俺はいい。早く髪を乾かせ」
「嫌です!」
大きな声に思わず黙る。
「奉太郎さんがまた風邪をひくことになったら、わたし。もう、そんなのは嫌です」
そうやって立ちすくんだままうつむく千反田に勝てるわけもなかった。
「わかった」
ため息をついて立ち上がり、なるべく見ないようにしてバスローブ姿の千反田の横を、距離を取って歩く。彼女が身をすくめるのがわかる。きっと本当なら逃げ出したい気分なのだろう。申し訳ない。こんな目にあわせて。
「すぐ上がるから座って休んでろ。寒かったらベッドから上掛け引き剥がしてくるまってるんだ」
「はい」
心臓は相変わらずだったが何事もないような振りでそう言うと、俺は脱衣所にはいる。後ろ手にドアを閉めると大きく息を吐いて覚悟を決めた。顔をあげたそこには、これもほぼ想像通りの光景が広がっている。
雨にぬれた白いワンピースが干してあった。
見てはだめだ、と思いつつも磁石のようにひきつけられる俺の目が情けない。数分の1秒ずつの映像を蓄積した結果によると、ワンピースはしわにならないようにきれいに伸ばされている。洗濯物を干す要領か。
そうして、ハンガーの首のところに何本か白い紐が見えるのは…下着だろう。俺の目に触れないようワンピースの向こうにかけてある。予想していたとはいえ、これでまた落ち込む。
あのバスローブの下は裸だ。まったく、俺はまだ高校三年生の純な恋人をどんな目に会わせているのだ。
己のしくじりに盛大にため息をつきながら、体に張り付いている冷たい服を脱ぐ。脱衣所にある洗面台で水を絞り、千反田のまねをしてパンパンとしわをのばし、ハンガーをとおして壁にかけた。
お嬢様のワンピースの横に俺のジーンズとシャツが並んで壁にかかってる。不釣り合いも甚だしい。分かっているさ、と独りごちて風呂場に入る。
◇ ◇ ◇ ◇
シャワーを浴びてホッとしているときだった。ガチャリと音がして思わず振り向く。
ガラス戸の向こうで脱衣所のドアが開いているらしい。
「あの、奉太郎さん」
「どうした」
「髪を乾かしてもよろしいでしょうか」
そうか、そうだった。
「いいぞ」
そう答えると硝子戸の向こうに白い影が現れ、洗面台のあたりで何かしている様子だったが、やがてガーガーとドライヤーの音がし始めた。頼むから部屋でやってくれないか。
文句を言うわけにもいかず、俺はいそいそとシャワーを切り上げて湯船に姿を隠そうとする。そして瞬間息を呑んだ。目の前の湯船には湯が張られている。千反田が使った湯。一瞬躊躇して馬鹿な事をと首を振り、中に入って身を沈めた。
飲むなんてとんでもない。
◇ ◇ ◇ ◇
湯船につかったまま、ぼんやりとガラス戸に映る千反田の白い影を見ていた。髪を乾かしている仕草がおぼろげにわかる。やがてドライヤーの音が止まると、今度はどうやら振り向いてきょろきょろしているらしい。
何をしているんだろうと思っていると、ガラスに映った影が身をのばして、壁から何か取ろうとしている。
「おい!何してる!?」
「あの、奉太郎さんの服を乾かそうと思いまして」
「そんなことしなくていい!乾かすなら自分の服を乾かせ」
「でも」
「頼むから、少しだけでもかっこつけさせてくれないか」
俺は今日、自分のふがいなさに風呂場で入水自殺でも図りたい気分なんだ。
「わかりました。では、お言葉に甘えて。奉太郎さんの服はあとから乾かしますので」
「いいから!」
俺の服はそっとしておいてくれよ。
見た目も立ち居振る舞いも、いいとこのお嬢様然とした千反田ではあるが、こいつには高飛車なところがまるでない。そのせいか、唐突に頭にイメージが浮かんできて、当惑する。きちんと正座して俺の下着をたたむ千反田。絵になりすぎる。
とにかく、今の俺たちの関係で下着の面倒まで見てほしくない。
千反田は俺の懇願を入れることにしたのか、ガラス戸の向こうで少し移動すると、どうやら自分のワンピースをおろしたらしかった。そして洗面台に向かうとドライヤーを動かして手元で何やら乾かし始めた。こんな時にこまめに仕事をする奴だ。
きっといいお嫁さんになるだろうと考えつつ、一方で、何かやってないと落ち着かないんだろうなと同情する。そういう状態に放り込んだのは俺だ。
ひとしきり千反田が服を乾かす様子を俺は湯船から見ていた。冷え切っていた体は温まって、額には汗が浮かんでいる。
「あの、奉太郎さん」
「なんだ」
「こんな時になんですが、今日は奉太郎さんのわたしが知らなかった一面をまたひとつ知ることができました」
何の話だ。
「意外に長湯がお好きなんですね」
いや、俺はむしろ湯は短いほうだ。というか、お前は神山市にコウブンドウが何件あるかは覚えているのに、俺が合宿で湯あたりしたことは覚えていないのか。お前は俺に本当に関心があるのか?恋人の自分への関心の低さに泣きそうになる。
いや、もちろん違う。分かっているさ。お前は今、緊張しているんだ。こんな状況だからとっさの事で忘れていても不思議はない。そうだよな。千反田。緊張して忘れるなんて。可愛い奴だ。
恋人をどさくさに紛れてホテルに連れ込むようなまねをしながら、小さな事で一喜一憂している自分が本当に情けなくなってきた。
「なあえる、そろそろ上がりたいから場所を空けてくれないか」
少し間があった。たぶん、小首をかしげているな。そして突然、千反田は「ごめんなさい」と一言残して脱衣所からあわてて出て行った。
◇ ◇ ◇ ◇
じらすなあ
バスタオルでいくら拭っても汗が噴き出してきたが、諦めてバスローブに身を包む。そう言えば、バスローブはバスタオル代わりに水気をとる物だったような気もする。おおむね乾いたらしい千反田のワンピースに目をやって意を決すると、ドアのノブを回した。
おれが出ていくことに気付く時間を十分に千反田に与えて、そのまま部屋に入っていく。
千反田はベッドに腰掛けてうつむいていた。膝の上でぎゅっと握った両手が痛々しい。俺はなるべく彼女を驚かさないように静かに歩くと、ベッドから距離のあるソファに座った。それにしても、なんでこんなホテルなのに二人掛けのソファが二脚なんだ。
俺が近寄らないことに気付くと、千反田はしばらく俺のほうを見ていた。そして、今度は立ち上がると部屋の一角へ歩く。
「奉太郎さん、いまコーヒーを作りますね」
カウンターの上にあるコーヒーカップにインスタントコーヒーの粉を入れながら、そう言った。口元には笑みを浮かべているが、表情は硬い。俺とも目を合わせない。声が少し震えている。
そんなことしなくていいぞ、と危うく言いそうになって、無粋な自分を戒める。しばらく黙って座っていた。すぐそこでポットからお湯を注ぐ少女が高校三年生の俺の恋人で、バスローブの下はお互い全裸だということを考えないように努力する。
千反田はカップを皿に乗せたまま俺のところへしずしずと歩いてきた。カップがカタカタ音を立てるのは…すまん、千反田。
「どうぞ」
そう言ってカップを俺の目の前に置くと、彼女は黙って静かに隣に腰をおろした。いつも姿勢のいい千反田だが、肩をすぼめるようにして心持ち背を丸め、うつむき加減に座っている。それを横目でちらっと確認すると、俺はカップに向かってつぶやいた。
「えるは飲まないのか」
「わたしは、カフェインを摂ると大変なことになりますので」
それは知っている。そして、同じくカフェインの強い飲み物なのに、抹茶なら飲めることも知っている。だがひとつわからないことがある。なぜ、そこに座るんだ。
千反田が入れてくれたコーヒーに口をつける。横に居る千反田を意識してしまって味がわからない。せっかく千反田が入れてくれたのだが、まぁ、インスタントだしいいか。
カップを元に戻して、話題がなくなった。困った。
「もう寒くないか」
「はい、体も温まりました」
「気分は大丈夫か」
「すっかり元気です」
千反田の声が少し明るくなって、俺の心も少し軽くなる。しかし二人とも、目の前のテーブルを凝視したままソファに並んで座り、身を固くしたままだ。
◇ ◇ ◇ ◇
「今日は、すまなかった」
「え?」
一呼吸置く。テーブルの安っぽさが気に障るが、よくよく見ると我が家の食卓と大して変わらない気がする。
「こんなところに連れ込むことになってしまって。うかつだった。すまん。許してくれ」
「そんな」
千反田が俺のほうを向く。俺は目を合わせられない。
「その。信じてくれ。もっと大事にしたかった。俺はえるをこんなところに」
「奉太郎さん」
さえぎられて、俺は口をつぐむ。
「奉太郎さんが謝るなんて変です。奉太郎さんがいなかったら、わたし、あのまま倒れていました」
やっぱりそうか。
「俺がいなかったら、そもそも濡れ鼠にならずにすんだな」
「そんなこと。あんな嵐、誰にも予想できません」
「俺が判断を間違わなければ、あんなしょぼい庇じゃなくて、ちゃんとしたビルの下に逃げ込めていた」
千反田が黙り込む。俺と同じように前を向いて、テーブルを見ながら小さな声で話を続ける。
「わたし、こんな風な話し合いでは、とても奉太郎さんにはかないません」
いや、お前は話し合いの前に俺に完全勝利しているケースが多いぞ。苦笑いが口元に浮かぶ。千反田が見たら真面目に聞けと怒るだろうか。
「でも、わかるんです。奉太郎さんは間違っています。奉太郎さんはいつも」
そう言ったきり、千反田は黙り込む。俺は先を促すのも少し変に感じて、黙ったまま、コーヒーを一口すする。
「奉太郎さんはいつも、わたしの事を深刻に考えすぎていると思います」
「深刻、か」
「そうです」
つぶやいた俺に律儀に返事。
「奉太郎さんはわたしの事を……千反田の一人娘の立場をとてもよく理解してくれています。でも、そのせいでいろいろ遠慮なさっていると思うのです」
遠慮なのだろうか。
「わたしのために、みんなに交際を隠して、わたしのためにこうして休みの日も遠くに来て、わたしのためこんなホテルに入ったことを謝って。奉太郎さんは、本当にわたしといてうれしいのでしょうか。そう思ったこともあります。
奉太郎さんはわたしとおつきあいしていて、息が詰まるのではないかと思ったこともあります」
それは違うぞ。
「でも」
千反田が小さな声で言葉を続ける。俺は言おうとした言葉を飲み込む。
「それはきっと、奉太郎さんがわたしの事を……その…とても、とても大事に思ってくださっているからだ、とも思うのです」
まあ、図星だ。しかし。
少し息を吸って顔を上げる。目の前にベッド。千反田が座っていたところが少しくぼんでいる。雨に乗じてこんなところに恋人を連れ込んで、俺は本当に大事にしているといえるのだろうか。
「そう考えると。その、うれしくて。奉太郎さんがつらい思いをして頑張っているのにうれしい、なんて思っちゃいけないのですが、でもうれしくて。そうしたらわたし、なんだか自分が悪い子のような気がして」
「えるが悪い子であってたまるか」
「……ひとりで、夜考えていると怖くなることがあるんです。こんなに大変な思いをさせて、もし奉太郎さんがわたしの事を嫌になったらどうしようって。そうしたら、わたし…」
千反田の声が震えていた。ものすごく申し訳ない気がした。女の子が、恋人が横で泣くことがこれほどつらいことだとは思わなかった。
「える、俺はえると付き合って、つらいなんて思ったことは一度もない。お前のために頑張ろうとは思っているが、一度だってそれがつらいとか、いやだとか、面倒だなんて思ったことはない。本当だ。える。お前が好きなんだ。
お前が、好きで、好きでしかたない。お前と一緒にいるのがうれしいんだ」
お前とずっと一緒にいたいんだ。
「だから、俺がえるに愛想を尽かすなんて考えるな」
一気に思っていることを全部言った。顔に血が上って、本当に燃え上がりそうな気がする。俺が話すのを聞いてた千反田が、顔を伏せて手で覆う。ひぃっと小さく喉を鳴らすような音がして、涙混じりのささやくような、絞り出すような声。
「うれしい」
隣で体を震わせたはじめた恋人に目をやる。背を丸めて懸命に涙をこらえようとしている姿は、彼女には似つかわしくないと、ふと思った。躊躇して、それでも、彼女の細い肩を抱き寄せる。
「える、泣かないでくれ」
「ああぁ」
小さくかすれた、ため息とも感嘆ともつかない声。身を寄せて、顔を胸にうずめてくる千反田をうけとめる。腕の中に彼女の体温をひどく生々しく感じるが、意外なくらいに冷静でいられた。
「つらい思いをしてたんだな。気がつかなくて、すまん」
「奉太郎さんのせいじゃありません。謝らないでください」
「すまん」
「また謝っています」
「悪い」
「わたしは嬉しくて泣いているのに、どうして奉太郎さんは謝っているのでしょう」
腕の中で恋人がうれし泣きするなんて状況に、うまく対処できないからだと思うぞ。黙っている俺に、千反田は嗚咽をこらえながら言葉をつなげる。
「腕の中で恋人が泣いているときに、こんなディベートみたいなこと、させちゃいけないと思います」
ごめんなさい。それはともかく涙声でディベートなんて反則だ。勝てる気がしない。
「でも」
千反田が嗚咽を飲み込む。
「恋人って、泣いているときに、こんな風に抱き寄せてくれるものだって思ってました。なんだか、映画みたいです」
「そうか」
優しくささやいてやる。俺も笑顔であることを分かってくれたろうか。
◇ ◇ ◇ ◇
じらすね
↑勘違いでした。申し訳ないです
続きktkr
赤面する奉太郎を想像する日が来るとは…
◇ ◇ ◇ ◇
しばらく体を抱き寄せていた。胸に顔をうずめている千反田がいとおしくて、放す気にもなれなかった。が、あまり無理な姿勢をとらせているのもかわいそうで、抱き寄せた腕を緩めてやる。メッセージは伝わったようで、身じろぎした後、ゆっくりと千反田が身を起こす。
右手が襟を気にして胸元を抑えている。俺も思い出したように意識する。
「あの、奉太郎さん」
「なんだ」
宙へ泳がせていた目を、千反田に向けた。
「せっかくですので、お話を聞いていただいてもよろしいでしょうか」
「もちろんだ。俺がえるの頼みを断ったことがあるか」
「その、お話しすることに勇気がいることなのです」
気分を軽くしようとして叩いた軽口だったが、思いのほか千反田は真剣なようで、こちらの身が引き締まる。
「ああ。聞くよ」
千反田がちょっとうつむき、呼吸を整えて、もういちど背筋を伸ばす。二人ともまっすぐ前を向いたまま。
「お会いしてほどなく、わたしは奉太郎さんは本当にすごい人だと思うようになりました」
「俺が?」
「普段はその、まわりのことに何も関心がないようなお顔をされていますが、わたしの叔父の件や入須先輩の件などでものすごく活躍なさいました。それ以前に、皆さんが首をひねるお話を、次々に解決されていたことを覚えています。
わたしはそれが、とてもすごいことだと思いました」
全部千反田が持ち込んだ厄介事だった。
「福部さんや摩耶花さんはいつも奉太郎さんの事をひどくおっしゃっていましたが、わたしはそんなことはないと思っていました」
「あいつらそんなに俺の事をひどく言っているのか」
思わず千反田の顔を見る。千反田も俺の顔を見上げる。
「はい。あ、いけない。これでは告げ口ですね。聞かなかったことにしてください」
聞きたいのはやまやまだが、千反田がうつむいてしまったので、聞けない。まぁいい、里志の軽口と伊原の罵詈雑言はいつものことだ。連中も遠慮がないから、彼女が言っているのは陰口ではなく、俺の目の前で色々言っていた話だろう。
ここはひとつ千反田の顔を立ててとぼけるしかない。
「聞かなかったことって、何の話だ?何かまずい話でもしたか?」
うつむいたまま、千反田が俺の三文芝居にくすくすと笑いをかみ殺している。
「それに、奉太郎さんはとても優しい方でした。いつも素知らぬ顔をしているのに、誰かが本当に困っているときには、ちゃんと助けていらっしゃいました。わたしも何度助けられたかわかりません」
まぁ、お前の場合は助けたんじゃなくて俺が巻き込まれたケースが多かったな。
「今日もそうでした。ほんとに何度助けていただいたのでしょう。それに…」
言葉を途切れさせた千反田の顔を見る。楚々としたつくりの顔を少しうつむかせ、微笑みを浮かべている。
「気が付いたら、わたしは奉太郎さんの事を好きになっていました。いつからだったのでしょう。はっきり自分でもわかりません。
いつの間にか、気が付いたら奉太郎さんのことばかり考えていました。こんなことは初めてでした。人を好きになるって、こんな気分なのかって嬉しくなったり、奉太郎さんのことばかり考えている自分が怖くなったりしました」
「怖い?」
「はい」
小さな返事。
「奉太郎さんのことばかり考えていて、もう、何も考えられなくなって、このままどうなってしまうんだろうって思ったんです…片想いって、本当に胸が痛むんですね」
確かに。俺にも覚えがあるな。
「そうして一人で悩んでいたら…奉太郎さんが…」
消え入るような小さなため息を残して、えるが言葉を切る。目を閉じて、幸せそうに微笑んでいる。
「わたし。嬉しかったです。本当に嬉しかったです。
今度は何もお願いしなかったのに、奉太郎さんはわたしが片想いに悩んでいるところにやってきて、好きだって言ってくれたんです。わたしを助けてくれたんです」
「言っとくが、俺は本当にえるのことが好きで告白したんだぞ」
「はい」
千反田がいたずらを見つかった子供のように首をすくめて笑う。眼はテーブルを見つめたまま。
「助けてくれたというのは、わたしの勝手な想像です」
いや、まぁ。実は当っているんだ。好きなのは本当だがな。助けたっていうと、義理でやったみたいで、俺はちょっとひっかかるから。
「わたし、うれしくて。こんなに素敵な方と出会えて、好きになって。そうしたら、おつきあいまでしていただけることになって」
それまでテーブルを見つめていた千反田が俺を見上げる。魂をとろかす微笑みで俺を石にした後、もう一度テーブルに視線をおろす。そして、そっと目を閉じる。
「ですから、奉太郎さん。わたし、ずっと前に、もう決めていたんです」
目を閉じた千反田の微笑みが少し硬くなる。首筋から頬へと赤みが広がる。囁くような声になる。
「もし、その。奉太郎さんが望むなら、わたしはいつでも」
千反田が息を軽く吸ったのがわかった。俺は動けなくなって、息をつめて彼女を見つめている。
「奉太郎さんにわたしを」
「える」
囁くように言葉を繋ぐ千反田をようやくの思いで遮った。目を閉じて話していた千反田が目を開け、俺を見上げる。お前はそんなことを言っちゃだめだ。俺はお前にそんなことを言わせちゃだめなんだ。
「その先は、言うな。俺が言うから」
「奉太郎さんが…」
「そうだ、時期が来たら俺が言うから。俺がちゃんと言うから」
「時期が来たら…」
「そうだ」
言葉を切った千反田がうつむき、そしてつぶやく。
「時期って、いつなんでしょう」
え?
想定していなかった切り返しに、俺は凍り付いてしまった。その先は言うなといえば、千反田は俺なりの気持ちを汲んで黙ってくれると、瞬間的に思ったのだ。この手の話は女性から切り出す物ではないと思っていたし、輪をかけて、千反田はこういった話しが苦手なのだ。
今の話だって相当無理をしたはずだ。が、あっさり予想は覆された。いつ、だって?
バスローブ1枚を羽織っただけで横に座っている千反田を見つめる。「いつ」というのは、たぶん本当に日時を聞いているわけではない。なぜそんなに躊躇するのだと俺を揶揄しているのだ。なぜ、今じゃないのかとも言い換えられる。
千反田が俺に抱かれたがっている?彼女が性欲に突き動かされてじれているというのはちょっと考えにくい。一方で、内心の激しい情念に突き動かされて、というのも違う気がする。
だとすれば、俺が何か間違っているのか。たぶん、そうだ。
「奉太郎さんは、わたしのことを深刻に考えすぎていると思います」
「さっきも、そんな話をしたな」
「はい」
「ずっと前も、同じような話をした。あれは用心だったが」
「ええ」
「あのとき、俺が俺たちの関係をどう考えているか、説明すると約束した。だけど、まだ話していない」
説明できなかったのだ。いくら考えても話しがまとまらなかった。俺は、いつか自分の気持ちに歯止めがきかなくなるような気がしていた。
その結果、舞い上がってしまい、不注意からちょっとしたことが大騒ぎになったり、あるいは千反田を酷く傷つけることになるのではないかと、ずっと気にしている。ありていにいえば、今まさにここで起きている状況で、自分の心の舵を失うことが怖かった。
だから、俺は俺を縛らなければならないと思っている。
だが、それと二人の間柄を伏せておこうと言うことに、きちんとした論理的な整合性があるかというと、無いとこたえざるをえない。あえていえば、いや、正直に言えば、関係をオープンにすれば、自分が舞い上がるのではないかという危惧はある。
だが、それは危惧であって、きちんと千反田を納得させることはできそうになかった。
「まだ、うまくまとまらないんだ」
「こう言ったことは心の問題ですから」
そう言った後、千反田は少し言葉を切る。
「奉太郎さんに無理に説明して欲しいと言っている、わたしのほうがおかしいんだろうと思います」
「おかしいとは思ってないぞ」
「無理に説明していただかなくてもいいのです。気になりますけど。でも、本当に気になっているのは、奉太郎さんがわたしの事を深刻に考えすぎて、自分を押し殺しているのではないかということなのです」
「押し殺しては、いない。さっき言ったはずだ」
話の流れがきな臭くなってきた。
俺はなぜ、千反田とこんな会話をしているのだろう。千反田が身体を冷やして気分を悪くした。だから、適切な場所ではないと知りながら、ホテルに連れ込み、身体を温めさせた。
俺は彼女の恋人として、最大限の優しさをふりしぼって、不埒なまねをせずに、紳士として接している。だが、その気持ちが伝わっていない気がする。いや、伝わっているが、千反田はそれを間違っていると言っているのだ。
さっきも同じ話をした。千反田に、俺はお前のために頑張っているが、一度だっていやだと思ったことはないと、胸の内を聞かせた。千反田は嬉しい、と泣いて喜んでくれた、しかし、今また同じことを俺たちは繰り返し話している。そして今度は、千反田は納得していない。
どうやら俺たちは喧嘩をしているらしかった。
雰囲気が許すなら頭を掻きたい気分だ。何を間違ったのだろうか。この部屋に入ってからこっち、千反田の言動に間違いらしきものはなかった。だったら、俺がきっと何かを間違えているのだ。だから、千反田は俺に優しくされているのに、悲しそうな顔をしてうつむいている。
なぜだ。考えろ。
そうして、俺は突然奇妙な気分になった。意識が一歩後ろに下がって俺たちを俯瞰するような気分だ。うつむく少女、理屈を解く少年。なんだこれは、と思う。千反田はずっと前から言っていた。俺は考え過ぎなのだと。
考えすぎだと言われて、俺は考えすぎていないと理屈で答えている。なんだこれは。
深く考える力というのは、高校生になって初めて気づいた自分の特質だ。中学生までは、そんな力が自分にあるとは思っていなかったのだ。だが、千反田に半ば無理矢理引きずり出されたこの力は、俺の高校生活を、それまで考えていたものと少し違う色合いにした。
灰色だと思っていた生活に、ささやかな彩りが添えられた。
だから俺は、千反田の事も全力で考えたのだ。悲しませないようにしよう、間違わないようにしようと。俺は千反田によって気づかされた俺の長所を、二人の関係を守るために全力で活用しようとした。なぜならそれは大切なものだから。
しかし、千反田はそれが間違っていると言っている。あまり、深刻に考えなくていいのだと。
かつて里志が、雪の薄く積もった橋の上で言った言葉を思い出す。『摩耶花をないがしろにするのなら、それは悪いポリシーだ』。なるほど、同じか。いや、違うのか。
ああ、そういう事かと、合点した。里志の言うとおりだ。俺の考えには、千反田が居ない。千反田のことが大事だからと色々一人で考えているが、とんだ上から目線、独りよがりもいいところだ。
俺が千反田の何もかもをまるで保護者のように守ってやるなんて、思い上がりもいいところだ。本当の俺は、千反田に雨宿り一つさせることができない間抜けだと今日証明されたばかりじゃないか。
それが千反田の気持ちを棚上げにして、保護者気取りとは。いつまで思い上がっているのだ。
千反田の問いに対して、俺は一人で同じ答えを繰り返していた。世間的には、ぶれないとか、筋が通っているということになるのだろう。だが、それは俺の強情でもある。そこに、千反田はいない。千反田の気持ちを考えていない。俺が頭の中で一人でひねり出しただけだ。
里志なら『千反田さんをないがしろにするポリシーだね』と冷ややかに笑うかもしれない。
俺はうつむいたままの千反田を見つめる。どうすればいいだろう。どうもこうも、結局、自分の頭ではなく心に聞くしかないというのが結論だ。では、俺はどうしたい。
大きな目を少し閉じ気味に伏せた千反田の白い顔は、本当に清楚だ。この顔に何度も視線を奪われた。
どうしたいかというと、答えは決まっている。俺は卑怯にも、すでに千反田によって許しが出ていることに手を伸ばした。その卑怯さへの自責が、心をチクリと刺した。
◇ ◇ ◇ ◇
ゴクリ...(`・д?・;)
「える」
千反田が顔を上げる。
「今がその、いつ、だ」
意味が分からなかったのだろう、千反田がぽかんと俺の顔を見ている。数秒して、ようやく意味がわかったのか突然目を見開くと、身を固くした。そして、俺の顔を見つめたあと、ゆっくりと目を閉じる。もう、後戻りできなくなった。
身を固くする千反田の背に手をまわし、バスローブのごと膝の下に右腕を通す。千反田が気付いた時にはもう遅い、俺は、一世一代のお姫様抱っこを決めるべく、左ひざと右脚で足場を固めに入っていた。
「ああっ。怖いです」
「つかまってろ」
あわてて俺の首に手をまわして、千反田が顔を寄せてきた。いいぞ、これでぐっと安定感が増した。腰の力で千反田を持ち上げ、慎重にソファーから立ちあがる。左ひざを何とかさばいて無事立ち上がることができた。
「あの、奉太郎さん」
「える、俺だってこのくらいできるぞ」
「は、はい」
精一杯のかっこつけが決まり、千反田が俺の胸に頭を寄せてくる。俺は力があるほうではないが、思いのほか千反田は軽かった。楚々とした線の細い姿だから重いっていうことはないだろうと思っていたが、千反田は女子にしては身長があるほうだ。
これだけ軽いと却って心配になってくる。ちゃんと朝ご飯食べているんだろうか。ふらつかないように慎重に足を進めてベッドに向かう。真っ白なシーツの上にゆっくりと、バスローブをまとっただけの千反田をおろしてやる。
どうせならこんなごわごわのバスローブじゃないホテルではじめてを迎えたかったが、いまさら悔いても遅すぎる。それにそんなホテルに行く金はしばらく貯まりそうにない。
静かに体を横たえてやり、俺もそのまま千反田の横に体を滑らせる。心臓がさっきから激しく脈を打っている。激しい興奮が身を包んでいる。下半身が痛いくらい反応していて、もう、なだめようにも何をやっても無駄だろう。
横たわって、胸と体の前が乱れないよう体をかき抱くようにしたまま、千反田は目を閉じている。顔を俺からそむけているのは羞恥からか。今にもむしゃぶりつきたい気持ちを抑えて、千反田を見つめる。白い肌、ほっそりした体つき。
特別人目を引くわけではないが、たぶん美人の部類に入る育ちの良さがにじみ出ている顔つき。全部、俺の心をとらえて離さない女のそれだった。
俺がいつまでも手を出さずにじっとしているのが気になったのか、千反田が目をそっと開けてこちらに顔を向ける。
「える」
「はい」
こんな簡単なことを言うのにも、呼吸を整えなければならない。
「好きだ」
千反田が黒い瞳を揺らす。
「ずっと前からお前が好きだった。気が付いたらお前のことしか考えられなくなっていた。お前のちょっとしたしぐさや、やさしい笑顔が好きで、いつまでも見ていたいと思った。今でもそうだ。お前の笑顔を見ると俺もうれしい気持ちになる。
お前が困った顔をしてるだけで俺は落ち着かなくなる。俺にできることは何なのか、どうすればもっとえるが笑っているのか、そんなことばかり考える」
思いのたけを全部ぶちまける。首から上がかっと熱くなったのがわかるが、構っていられない。
「だからえる、お前は俺のすべてだ。お前がほしい」
こういうときにふさわしい優しい言葉を言えたかどうかなんかわからない。ストレートすぎるような気もする。だが、頬を赤らめ黙って聞いていた千反田は微笑むと、
「はい」
と小さな声で返事をして目をそっと閉じた。
◇ ◇ ◇ ◇
体重をかけないように気を使いながら、千反田の薄い唇に、唇をそっと重ねる。キスは何度目だろうか。本当のところ、そんなにキスはしていない。付き合いだした初めのころは夕方ともなると暗くて、物陰でそっと抱き寄せてキスをすることもできた。
だが、春になって明るくなると、それもできなくなった。教室で二人きりになることもあるが、俺は千反田に学校では気を抜くなと言っているし、気を抜いてもさすがにキスはまずい。
キスには全然慣れる気がしない。
千反田の唇は柔らかい。その感触だけで俺を虜にしてしまう。重ねた唇を優しく吸ってやると、千反田も恐る恐る吸い返してくる。いったん離れて千反田を見つめる。目を閉じているせいか、ふだんより端正な顔立ちに思え、それがまた愛しさをかきたてる。
もう一度キスをしようと思って、ふと、思い立ち、今まで触れたことのない額に唇を寄せる。
千反田が小さな声を洩らす。その声が震えるほどかわいくて、もう一度聞きたくて、俺は瞼や、頬、鼻の頭など思いつく端から優しくキスを繰り返す。千反田はそのたびに、戸惑ったように震える小さな声をを漏らした。
黒い髪に触れる。千反田の黒くて長い髪。頭をなでるように触れ、耳のあたりですくってみる。指先から髪が流れるように落ちていく。俺の髪とは全然違う。こんなところまでがこの女は特別なのかと胸を揺さぶられる。
髪に触れながら、もう一度唇を重ねた。重ねる瞬間の感触を味わいたくて、何度もついばむようなキスを繰り返す。そのたびに千反田も小さく吸い返してくる。やがて体を駆け巡る高ぶりにせかされて強く互いを吸いあう。
上の唇をはさみ、下の唇を尼が見してみる。重ねた唇から電流のように多幸感が体中を駆け巡る。
興奮にまかせて細いうなじに唇を這わせた。くすぐったいのか、首をすくめる千反田をなだめて首からほとんど青白いとさえいえるうなじまで何度も唇を這わせる。
そのたびに俺の下で身をよじる千反田の体に生々しく情動をあおりたてられて、俺はとうとう彼女のバスローブの帯に手をかけた。
◇ ◇ ◇ ◇
とうとうか
ゴクリ(`・ω・´;)
なんという寸止め
ゆっくりと解く俺の動きに気がついた千反田は、怖れの混じった声をもらしてバスローブの胸と前を腕で守ろうとするが、その間に俺は紐をほどいてしまう。そして胸をかばう千反田の手に優しく手を重ねる。
「える、見せてくれ」
興奮にかすれた声で囁く俺に、千反田は返事をせず、ただ、声を漏らした。あるいは絶望の声なのかもしれない。千反田は俺が望むなら自分を捧げる覚悟はできていると言った。だが、覚悟はあっても、羞恥が消えるはずもない。まだ高校三年生の少女にすぎないのだ。
まして、育ちのいい千反田のことだ。よほどの恥ずかしさだろう。
優しく握った手のひらは、ほっそりとして頼りない。何度か手をつないだことがあるが、俺の手とあまりに違うので最初の内は指が折れはしないかと本気で心配した。
その手は、羞恥と、俺の望みに沿いたいという彼女の葛藤そのままのように、力ない抵抗を何度か見せながらも、結局は添えられた手に従って俺に襟元を明け渡す。
明け渡された襟を見つめる。もう腰の紐も解け、俺を彼女から遮るのはこの白いバスローブだけだ。この襟をくつろげれば、千反田の肌を見ることになる。
目を閉じて顔をそむけて横たわっている千反田の襟に手を伸ばす。小さな声をあげて、戸惑うように胸の手が襟へと延びてくる。その手をそっとつかんで元の位置まで戻してやると、俺は今度こそ襟をくつろげた。
ゆっくりと襟をひろげると、千反田がのどの奥でかすれるような音を立てながら、身を固くする。襟からずらされて胸を押さえている手がせめてもの抵抗を試みているが、千反田本人に葛藤があるのでは抵抗にならない。右の襟は胸を抑えようとしていた右手ごと俺に広げられる。
千反田の胸が現れた。色白だとは思っていたが、目の前に現れた彼女の胸は一層白くて、いっそ儚いとおもわせるほどだった。そしてその優しげなふくらみの頂上に、ほんの僅かばかり色づいた小さな乳首が顔をのぞかせている。
激しく脈打つ俺の心臓から頭に、多すぎる血が流れこんでくる。
もっと見たい。その気持ちのままに左の襟もくつろげる。二つの控えめなふくらみが、守ってもらうこともできず俺の前に現れた。千反田は言葉を出すこともできず、かろうじて左手で大切な部分が俺にさらされることを防いでいる。
その左手に俺の手を伸ばす。ほとんど震えているように思える千反田の左手を優しくつかみ、そっと払う。痛々しいほど小さな声が漏れるのを聞きながら、ゆっくりとバスローブの左を開くと、彼女のすべてが俺の前に現れた。
胸が震える。華奢な体だが痩せすぎではないと思う、柔らかな曲線に包まれている。モデル体型ではないが、はっきりと、俺なんかにはもったいないと思える体だった。そして、彼女の大事な部分を包んでいる茂み。
正直言って、千反田の裸を夢想したことは何度もあるが、はたしてどんな茂みがそこを覆っているのかまったく想像できなかった。今、目の前に現れたそれは、想像していたよりもずっと広い。
足の付け根からその部分にかけて三角形に蔽う茂みは、想像とは違って猥らさなど一片も感じさせなかった。俺はただ、妙な話だが、命のようなものを感じて胸を打たれた。
千反田は今やバスローブを開かれて俺に包み隠さず体を見せている。左手は探せば救いが見つかるとでも言うようにシーツの上を所在無げに掴んだり、動いたりを繰り返している。彼女の感じている羞恥に胸を突かれながら、しかし、俺はどこまでも自分に正直だった。
もっと、もっと千反田を見たい。
仰向けに横たわって顔をそむけている千反田のバスローブの左肩にそっと手をかける。ぴくりと体を震わせる彼女から、ゆっくりとバスローブの肩を剥く。
「ああぁ」
俺の意図をはっきり理解した千反田が体を震わせて小さな声を漏らすが、それでもおとなしく俺に促されるままにバスローブから腕を抜く。続いて右腕を抜くと、もう、頭からつま先まで、千反田を覆うものは何一つなくなってしまった。
自由になった両手で体の前面を掻き抱く千反田。ほっそりした右足を曲げて、懸命に俺の視界から大事なところを守ろうとしている姿を目に焼き付けたいと思った。
そして千反田は、優しく促されて、とうとう胸を隠そうとしていた左腕も、大事な部分を隠そうとしていた右腕もほどき、何もかも俺の目にさらしてしまう。
「奉太郎さん」
声を震わす千反田は、前を隠すこともかなわず、今や両手でシーツをつかむことしかできないでいる。
◇ ◇ ◇ ◇
俺の前に、千反田がふるえながら横たわっている。ブラインドから漏れる柔らかい光が千反田の体の曲線を優しく包んでいる。白い胸は仰向けになっているからなのか高さをあまり感じさせないが、それでも優しい曲線を描いた膨らみだった。
その控えめな高さのふくらみの上には、まるで千反田そのもののように、恥ずかしげな風で乳首がちょこんと乗っている。色の薄いそれは触れる前からどれほど柔らかいのか怖くなるほどだ。
胸から腰にかけては女らしい曲線が描かれ、へそは縦に控えめにくぼんでいる。そしてその下の茂みはやはり命としか言いようのない気持ちを俺に抱かせた。
体育の時間に遠目に見たことがあるだけだった太ももは目を焼くほどに白く、きれいな膝小僧へと続く。その向こうには、すねとふくらはぎがある。千反田は膝下が長いようで、俺は制服のスカートから覗く脚を時々盗み見ながら、長くてきれいだなと思っていた。
下半身の強烈な突き上げを食らいながら、俺はそれでも千反田の体に見とれていた。シンプルに、美しいと思った。モデルなどとは比べるまでもない、ただの女子高生にすぎない千反田だが、それでも彼女の体は俺の頭に美しいという言葉しか刻まなかった。
そして、下ネタに対する耐性すら全くないくせに、俺の気持ちにこたえるためだけに、恥ずかしさに身を震わせてくれた彼女が、ただただ、いとおしかった。
古典部の扉をはじめてあけたあの日、窓を背に立っていた千反田の姿を思い出す。あの楚々とした姿の少女が、大きな目で俺を何度も騒動に巻き込んだ好奇心いっぱいの少女が、今、俺の前に恋人として体を横たえている。
呆然と見ているうちに、羞恥に耐えられなくなったのか、千反田が震える両手を上げてやがて顔を覆ってしまった。
「える」
「はい」
両手で顔を隠して返事をする千反田に苦笑しながら、なるべく優しい笑顔ができるように努力する。そうして、その両手首をつかんで顔を出させた。かろうじて顔が見える程度に開いた両掌の間から、千反田が恐る恐る俺の顔を見上げる。息をのんでいるのがわかる。
「える。きれいだ。ものすごくきれいだ。許してくれ。俺がどれほどお前をきれいだと思っているか、どうやって伝えたらいいのかわからない。本当にきれいだ。俺はきっと、一生今日の事を忘れないぞ」
千反田の手から力が抜け、目じりからぽろりと涙の粒が落ちる。そして彼女は頬を真っ赤に染めながら、
「嬉しいです」
と顔をくしゃくしゃにする。
二人して、笑顔になると、もう一度唇を重ねた。千反田の両腕が俺の首に回される。二人を隔てる何もかもがもどかしい。左腕で体を支えながら、右腕で自分のバスローブの紐をほどき、右腕、左腕と交互に抜いてベッドの外に放り投げる。
◇ ◇ ◇ ◇
もう、俺たちを遮るものは何もない。抱きしめあった体と体から感じるのはお互いの血肉だけだ。俺は全身から流れ込んでくる、千反田のほっそりとした暖かいからだの感触に脳髄を焼かれながら、夢中になって彼女の唇を吸った。
繰り返し唇を吸い、項に唇を這わせ、柔らかい耳たぶを甘がみする。くすぐったそうに首をすくめるのをなだめ、耳元で名前を呼び、何度もきれいだ、好きだと囁きながらキスの雨を降ら続けた。
そうして、うなじからキスの矛先をおろしていく。心臓はずっと前から破裂寸前で、熱に浮かされたような頭の片隅でこのまま死ぬんじゃないかなどとも考えてしまう。だったら、思い残すことがあってはならない。
首の付け根から鎖骨へと唇を這わす。小さな声とも呼吸音ともつかない音を洩らす千反田がかわいくて、なんども指先でなぞってしまう。ほっそりとした鎖骨は優美なカーブを描いていて、その上にきれいなくぼみがある。
鎖骨のくぼみがきれいだなどと言うのはこれまで全く理解できなかったが、たぶん俺は今日から趣旨がえだ。すくなくとも、千反田の鎖骨のくぼみは言葉にできないほどきれいだ。
そうして美しい鎖骨の感触を指先と唇で確かめた後、俺は体を起して視線をさらに下におろす。そこにはついさっき初めて男の視線にさらされたばかりの白い膨らみが二つ、千反田の荒い呼吸に合わせて上下している。
その胸に手を伸ばそうとして、ふと、固まる。触っていいのだろうか。
かすかに色ずいた乳首は申し訳程度に膨らんでいるだけで、触れれば痛みすら感じるのではないかとこちらが怯えてしまう。まして、千反田の怯えはどれほどのものだろう。
それでも触れていいのだと自分に言い聞かせる。千反田はその覚悟を決めている。体が震えるほどの羞恥を無理やり抑え込んで俺の望みのままに肌をさらしているのだ。
それがわかっていて尚、その優しげな膨らみに触れることは、なにか繊細で大切なものを壊してしまう様な罪深いことではないかと、思わせた。少しの間逡巡して、結局触れずにいることなどできないのだと知った。そうして手を伸ばそうとして、俺はやはりそれをやめた。
そして胸の膨らみにキスをした。
千反田が小さな声を漏らして体を震わす。
鎖骨から下がった位置から始まる、裾野の部分に唇を這わせる。その柔らかい感触に逡巡も何も吹き飛んで、結局右手も左の乳房に延ばしてしまう。頭の後ろがしびれるような柔らかさに、手のひらから先がそのまま融けていくような錯覚を覚える。
止まらなくなった俺は、キスを乳房の上側の裾野から、横、下側の裾野へと夢中で移していく。唇の感触だけでは我慢できなくて、ついばみながら、舌をその肌に這わせる。
千反田は声を漏らさないように我慢しているらしいが、キスをするたびに呼吸を振るわせる。肌にはわずかに汗の味があり、一層興奮を煽る。シャワーを浴びて汗を流してはいるが、きっとバスローブに着替えたあとにほんの少し汗をかいたのだろう。
千反田の肌の味にしばし魅入られて何度も舌を這わせた俺は、顔をあげて、目の前の乳首を見つめる。先ほどよりほんの少し突き出しているように思える。興奮すると乳首が固くなるというのは本当だろうか。千反田も感じているのだろうか。
声を漏らしているのは感じているからだろうか、それとも、羞恥に耐えられずに声を漏らしているのだろうか。
霞のかかったような頭でそんなことを感じながら、俺はそっとその乳首に唇を寄せた。
「奉太郎さん」
小さく漏れる千反田の声を聞きながら、唇で乳首をついばみ、舌で優しく舐め上げる。千反田があふっ、と声を漏らし、体を震わせる。唇と舌に伝わる感触は、柔らかくて、頼りなくて、そのくせぷりぷりしていて、これまで知っているどんなものとも違っていた。
唯一無二、千反田だけが許してくれるその感触に、千反田が俺だけに許してくれるその感触に、掌に続いて、心も体も融けて流れていく幻覚を見る。
夢中になって乳首を吸い、ついばみ、舐め、指でその感触を確かめながら、それでも俺はそのあまりに儚い感触に恐れおののいていた。千反田は俺に乳首を愛されるたびに体と呼気を震わせ、時折小さな声を漏らしている。時折俺の後ろ頭にまわした手に力が入る。
「える、痛くないか」
「は、はい。大丈夫です」
頭を起して問うと、千反田もやっとといった感じで上気した頭を起して返事をし、そのまま枕に頭を沈めてしまう。痛々しさ愛しさに心をかき乱され、それでも俺は名残惜しくてもう一度だけ、淡い色の小さな乳首を唇に含み、舌で優しく舐め上げた。
◇ ◇ ◇ ◇
ぴくりと千反田が体を震わせるのを感じながら、キスの場所を乳房から、裾野へと移していく。少し顔を離してみると、ふと、柔らかそうな脇腹が目に触れる。優しい感じに心持ちくびれたその部分に唇を寄せる。
「あ、あ、」
と声を上げて、千反田が体をくねらせる。
「くすぐったいか」
「はい、少し」
本人がくすぐったいといっているのであまりいじめるのもどうかと思いつつ、そうはいっても脇腹の柔らかい感触が蠱惑的に過ぎて、俺は未練がましく右手で左の脇腹を優しくなでている。そのたびに千反田が細かく体を振るわせている。
どうしてこんなに柔らかいのだろう。柔らかいだけならともかく、俺の手を吸い付けて離さない手触りにため息が出る。
「ここは嫌か」
「嫌ではありませんが、くすぐったくて……あふぅ」
もう一度右の脇腹に吸い付く俺に千反田が声を漏らす。かわいくて仕方がない。愛おしくてたまらない。俺の頭が胸から去って押さえにくくなったせいか、千反田の両手は俺の首から離れ、今度は自分の口を押さえている。
そんな事をしないでくれ、もっと俺に声を聞かせてくれ。
脇腹から這い上がって、腹へと目を落とす。きれいな形に縦に窪んだへそが見えた。どんな仕組みであんな風に縦になるんだろう、そう思いながら、ぺろりと舐めてみる。
「奉太郎さん、そんなところ」
さすがに変だと思われただろうか。しかし、そんなところと言われても、俺はもう千反田の体中を余すことなく手で確かめ、唇を寄せ、舌を這わせたいという猛烈な衝動に突き動かされている。
それを辛うじて抑えているのは、初めてのベッドでそんなことをしては、あまりに千反田がかわいそうだ、もっと大事にしてやりたいという一心からだ。
俺の頭の中では千反田を大事にしたいという気持ちと、千反田の何もかもをあらゆる知覚で知り尽くしたい、どこに何をするとどんな声をあげて、どんな風に体を震わせるのか知りたいという欲求がぐるぐると渦をまいて、
ともすれば何が何だか分からないことになりそうだった。そして今、その主原因と言っていい茂みが、文字通り目と鼻の先にある。
あの楚々とした立ち居振る舞いの、どちらかというと線の淡い千反田にこんな茂みがあること事態、驚きを感じる。その逆三角形の茂みに衝動的に顔を埋めたくなって、俺はかろうじてとどまった。
大事にしたい大事にしたいといいいつつ、あまりにも性急に事を進めている気がする。
身を起こすと、もう一度千反田の横に添い寝するように横たわった、左腕で体を支え、右手は千反田のおなかにおいたままだ。
千反田が両手で口を押さえたまま、俺を見ている。上気して、鎖骨の下から顔にかけてが真っ赤になっている。さっき俺が室温を上げたせいでもあるのだろう、いつも楚々としている千反田がすっかり汗ばんだ顔で俺を見上げる姿に、激しく心を揺さぶられる。
◇ ◇ ◇ ◇
疲れたので箸休めに書いた。
『洋菓』
小佐内は俺をその場に残して電話にたったあと、帰ってこない。まぁ、いい、俺が先に食べていて悪いという事もないだろう。
スプーンを手に、シャルロットを切り崩す。コーヒーは既に小佐内が用意しているので助かる。俺は甘党ではないのだ。小佐内に無理矢理付き合わされているだけに過ぎない。突き崩したシャルロットを一口、ほうりこむ。
これは…。
シャルロットを見る。こんなにうまい食い物だったのか。正直、スイーツを見くびっていた。俺はあっという間に自分の分を平らげてしまった。一つは小佐内の分だから、残りはあと一つ。甘い物に自分がこれほど心打たれるとは思っていなかった。
その衝撃は俺の目を残りの一つに釘付けにする。
「おい、小佐内!」
返事がない。まだ電話か。俺は残りの一個のを前に、テーブルに肘をつき、視線を遠くする。食べてしまうのは簡単だが、あとで詰め寄られたばあい、無駄なエネルギーを消費することになる。
◇ ◇ ◇ ◇
ひとくちだけ、我慢できずに食べてしまいました。
お呼ばれした席で先に箸を付けてしまうのは確かにはしたないことです。でも、小佐内さんはお友達ですし、このケーキは私が買ってきた物です。あまり他人行儀にするのも失礼に当たります。
なにより、私も普通の女子高生に過ぎません。女子高生だから何をしても許されるというわけではありませんが、いっぽうで、福部さんがおっしゃるような名家の娘というわけでもないのです。
たしかに千反田家は大きな農家ではありますが、それは私の業績ではありません。私はただの娘です。甘い物には弱いのです。
でも、ひとつだけ私の思い違いがありました。小佐内さんに頼まれて買ってきたシャルロットが、とても美味しかったのです。恥ずかしいことに、思わず声を漏らしそうになりました。
どのようになっているのでしょうか。ババロアのほんのり優しい味わいの中に、マーマレードのソースがほどよいアクセントとなっています。口当たりはあくまで柔らかく、上品な味わいは紅茶に大変合います。
いけません、スプーンが止まりません。わたしは一口だけと思っていたのですが、これは驚きです。わたしのなかにまだこんなはしたない部分が残っていたことも、そして、シャルロットがこれほど美味しいお菓子であったということも驚きです。
どうしてこんなにお菓子が胸を打つのでしょうか。わたしはスプーンを休め、頬を押さえて考えてみました。これほど人の胸を打つお菓子が作れると言うことは、まだまだ第一次産業にも大きな未来が残っていると言うことです。考えなければなりません。
どうすれば、人の胸を打つ農業を行えるのか。
わたし、気になります。
でも、残念なことにいくら考えてもどうしてこのような美味しいお菓子が作れるのか分かりません。ご飯であれば、私にも分かるのです。人に自慢するほどではありませんが、お出ししても恥ずかしくない程度に料理はできます。
しかたありません。今度折木さんに聞いてみましょう。
◇ ◇ ◇ ◇
「やあ小佐内さん、電話長かったね」
「ごめんね、長電話しちゃって。でもよかった、先に食べててくれたのね」
「悪いとは思ったけど、僕の分のシャルロットを食べちゃったよ」
「そう、どうだった?おいしかった?」
「最高だったよ!まったくこんなにスイーツが美味しかったなんて今まで知らなかったよ。これからしばらくスイーツについて調べようかと思っているところさ」
「よかった。このスイーツ、きっと福部君も気に入ると思ったの。ところでいくつ食べた?」
「ん?ひとつだよ。シャルロットは店に二つしかなかったんだ。僕が一つで、小佐内さんがひとつね。えーと、二つとも食べたかった?」
「ううん、そうじゃないの。ねえ、福部君、そのきんちゃく袋、ちょっと貸してくれる?」
そう言うと、小佐内さんはにっこりと笑った。僕は知っている。小柄で童顔な女の子を舐めちゃいけない。なのに、その禁を破ったことを心底後悔していた。
◇ ◇ ◇ ◇
「シャルロット先に食べたわよ」
「ごめんね、待たせて。あれ?」
「ああ、これ。三個買ったのよ。私が一個半ね。ちょうど半分になるように切ったから安心して」
◇ ◇ ◇ ◇
「お待たせして、すみません」
「気にしないでくれ」
「先、食べてくださってもよかったのに」
「いや、俺はいい」
「あの…」
「いや、昔アトピーを患ってな。小麦粉は避けている」
◇ ◇ ◇ ◇
「お待たせしました」
「いいっすよ、いいっすよ、あと、敬語止めてください。おれ下っ端っすから」
「えーと」
「あ、先に食ってました。あれ、なんて言うんでしたっけ、シャーロック?あんなにうまいなんておもってなかったっすよ。お菓子なんか女子供の食い物だと思ってたんすけど、見直しました。あんまりうまいんで全部食べちまいましたよ」
◇ ◇ ◇ ◇
「ごめんね、待たせちゃって」
「いえ、先に食べていました。こちらこそ面目ないです」
「いいの。美味しかった?」
「Da. はい。おいしいです。おいしかったです。シャルロット。日本人、ヨーロッパのお菓子も好きですか」
「そうね、和菓子もいいけど洋菓子のほうが人気ね」
「不思議です。哲学的意味はありますか?」
「えーと、意味はないと思うんだけど。ねぇ、シャルロットがないんだけど」
「Da. はい。全部いただきました。小佐内さん、今度小佐内さんのお奨めの店を教えてください。この町にたくさんありますか?シュートのほうがたくさんですか?」
「…」
次から次へとよくネタが出てくるな……素直にすごいと思うわ
GJ
口を押さえている手をよけさせて、何も言わずに唇を吸った、さっきと同じように千反田が首に腕を巻き付けてくる。俺は唇を吸いながら、右手の掌を千反田の脇腹に当て、腹のあたりまで滑らした後、今度は左足の腿の上をさするように動かす。
ひんやりしたなめらかな手触りを確かめた後、掌を右足の内腿に滑らせる。
んん、と鼻の奥で千反田が声を漏らすのを聞いて、唇を放してやる。二人とも長いキスに息が荒い。見つめ合って、何か言おうとして、千反田が口をつぐむ。
「恥ずかしいか」
だまってうなずく千反田。
「我慢してくれ」
「は、はい」
消え入りそうな声で返事をする千反田ともう一度キスをしながら、掌を上へと勧める。しかし、それはすぐに千反田の抵抗にあって頓挫する。脚に強くはさまれて、手を動かせない。
「える、力を抜いてくれ」
「はい…あの…でも」
緊張が激しすぎるのか、千反田が脚の力を抜いてくれない。本人も努力はしているようだが、恐怖のほうが大きそうだ。
「怖いか」
「ごめんなさい」
ほとんど泣きそうな千反田に微笑む。俺のほうもいっぱいいっぱいだが、ここは恋人としての何かを問われている気もする。
「いいんだ。謝らなくていい」
「でも」
眉間にしわを寄せ、申しわけなさそうな色を混ぜて見上げる千反田の頬にキスをしてやる。
「そんな顔するな」
「だって…」
「初めてなんだから、怖くて当たり前だ」
「でも奉太郎さんに」
今にも泣きそうな千反田に精一杯の優しい笑顔で聞く。
「俺のこと、好きか?」
「え?」
さっと、表情が変わった。何を訳の分からないことを、という顔をされて軽く傷つく。話が飛躍したから仕方ない。
「嫌いか?」
慌てたように横に首を振ってくれて、一安心。
「好きか」
こくんとうなずく彼女の頬にキスして、わがままを囁く。
「好きって言ってくれ」
「…今ですか?」
「ああ」
戸惑うように上目遣いであらぬ方向を見た後、唇が、きゅっとすぼみ、油断したかのように口角が弛む。隠せなくなった笑みが千反田の顔に花が咲くように広がっていく。
「好きですよ」
「ありがとう。俺も好きだ」
二人微笑んで口付けを交わす。掌をはさむ腿からも力が抜けている。もう動かせるが、名残惜しくて、もう少しキス。唇を放し、ほとんどゼロ距離で見つめ合う。焦点なんか合わない。鼻の先で千反田のえるの鼻の先をつついてやると、クスクス笑う。
◇ ◇ ◇ ◇
再びゆっくりと、掌を動かす。今度もぴくりとからだが震えるが、先ほどのような切迫感は消えている。ゆっくりと手を這わして、ひんやりした内股をなでる。その部分はやがて、上へと手を這わすにつれて、熱をもってきた。
目を閉じて唇をきゅっと結ぶ千反田の頬に何度もキスをしながら、手を進める。やがて親指の付け根あたりに、サワサワとしたものを感じて、自分が茂みに到達した事を知る。俺もひどく興奮していた。
どうしよう、と逡巡する。
どうしようも何も無い。少し手を引き抜いて親指を開くと、今度は四本の指だけを柔らかい腿の間に進める。人差し指が熱に包まれてきて、突然、柔らかい行き止まりに阻まれて、千反田の体が震えた。心臓がばくばくいっている。
足の付け根にたどり着いた。なけなしの知識を総動員するに、この先、左足の付け根との中間点に、千反田が大事に守っている場所があるはずだ。
ゆっくりと手を動かす。人差し指を上に上げながら、掌を回転させる。千反田が俺の首に回した腕に力を入れる。脚は力が入ったり抜けたりで、彼女の羞恥と、俺を受け入れようという気持ちのせめぎあいが胸を打つ。
やがて人差し指、中指、薬指をその部分に当てる形になった。掌の下にはさっき見た茂みが広がっている。
濡れていた。
嬉しかった。感じてくれていたのか、と思う。俺だって初めてで自分が何をやっているか分からなかった。正しいとか、間違っているとか判断する材料もなく、闇雲に千反田の身体をなでさすってみただけだ。
千反田は声を上げていたが、それが羞恥から来るのかくすぐったいのか、今の今までわからなかった。俺にしがみついて薄い胸を荒い息で上下させている千反田は、そんな稚拙な愛撫にも感じてくれていたのだ。
もう何度目なのかも分からないキスを交わしながら、ほんの少し、中指を動かしてみる。
「ん」
俺の下の身体が揺れる。唇を放して少し顔を放すと、千反田が上気した顔で俺を見上げる。腕はさっきから俺の首に回されたままだ。
「んんっ」
もう少し大きく、中指を前後に動かす。首に回した腕に力がはいり、白いからだが小さく左右によじれる。大きな目が、一層大きく開かれる。
千反田のその部分を目にすることは出来ないが、触ってみた感じでは左右からぴったり閉じているみたいだった。真ん中の部分に筋のような部分がある。それを前後になでさするだけで、千反田は声を漏らし、身体を震わせる。
そして少し力を入れただけで、中指はぬぷりと中に沈んでしまった。
「ああっ」
千反田が一層体を固くし、両脚を強く締め付けた。しかし、遅い。俺の指は入ってしまっている。一方の俺も軽いパニック状態になっている。指が入ってしまったそこは、信じられないほど柔らかく、人間の体の一部とは思えない。
まるで熱いゼリーの中に指を入れてしまったよう。その部分の様子は、俺の想像をはるかに超えていた。
◇ ◇ ◇ ◇
ここで、間違ってないんだよな、と不安になる。なけなしの小遣いで過去に細々と購入したその手の本の知識はあまりあてにならないらしいとすでに気がついている。仕方ないと言えば仕方ない。
多くは中学時代に興味本位で買った物だし、千反田と付き合い始めてからは、参考書や問題集の費用を除くと、小遣いはほぼ全額千反田予算として計上され、映画に、電車代に、食事代にと有効利用されている。
思っていたよりもはるかに柔らかく、思っていたよりもずっと潤んでいて、思っていたよりももっと熱いその部分に指を捕らえられたまま、俺はしばらく硬直していた。
「える」
「はい」
ずっとしがみついたままの千反田は、さっき落ち着かせたのに、もう、声が震えている。仕方ないか。おれだって心臓が爆発しそうだ。
「痛くないか」
「はい、大丈夫です」
「ちょっとでも痛かったら言え、我慢するな」
「はい」
俺のほうは言葉を交わしてすこし頭が冷えた。ひょっとして奥まで入ってしまったかなどと頓珍漢な事を考えていたが、よくよく指の感触を確かめるに、第一関節くらいまでしか入っていないし、そもそも斜めに入っている。
と言うことは、千反田を守る幕だか膜だかに到達して傷を付けた何てことはないだろう。胸をなで下ろすが、一方で慎重に進めないと傷でもつけないかと心配になる。
千反田のその部分は、恐ろしく柔らかい。傷でもつけたら大変だと考えを巡らせる。爪はこまめに切っている方だが、最後に切ったのは2日まえだから、爪の角で傷をつける心配は無いだろう。
土を扱ったわけではないし、石けんは使ってないとは言えさっき風呂に入ったばかりだ。雑菌まみれと言うことも無いだろう。俺の指は千反田の身体の一番大事な部分に触れる資格があるはずだ。
「動かすぞ」
「ええ?!は、はい!」
予想してなかったか。優しくするから我慢してくれ。
さっきから動かさずにほとんど硬直状態にある中指をゆっくりと手前に折っていく。しがみついたままの千反田が足に力を入れたり、身体を小さくよじったりしている。
「本当に痛くないか?」
「大丈夫です」
消えそうな声。
やっぱり、感じるんだろうか。ここを触れば女が感じるというのは、その手の本では10冊の内10冊に書いていることだ。しかし、個人差があるとか、経験を積まないとだめだとか、情報は錯綜している。なにより、男が下手だと駄目だという重苦しい情報もあって緊張する。
◇ ◇ ◇ ◇
手前に曲げた指を千反田の中からゆっくりと引きぬくと、、今度は表面の合わせ目をたどるように伸ばす。そうして、もう一度、中に入れると、先ほどと同じ動きを繰り返す。じっとしていた指が動き出して、千反田の反応も窮屈になってきた。
俺にしがみついて何かに必死に耐えるような呼気を吐くのだ。自分でそんな目に遭わせてなんだが、哀れを催してとても見ていられない。
「える、苦しいならやめるか」
「大丈夫です。続けてください」
大丈夫って、しがみつかれている俺も相当窮屈だが、それはいい。しかし、いくら何でもこれでは千反田の体力がもたないだろう。
「少し楽にしろ」
「え?」
「力を入れすぎだ。身体の力を抜け」
促されて千反田がほんの少し力を抜く。ぎゅっと抱きつかれていた俺はようやく少し離れる事が出来た。首の後ろあたりで、千反田の手が合わさっている。
「怖い思いさせて悪かったな。すこし休むか」
「いえ、大丈夫です」
上気した顔で俺を見上げていた千反田は、ふと恥ずかしくなったのか俺の首に手を回したまま顔を背けて目をつむる。相変わらず身体は硬い。汗ばんだ頬に髪が何本か貼り付いていて俺の心をあおり立てる。
「そうか、じゃぁ、もっと力抜いていいから。な、楽にしろ」
「でも……いえ」
「どうした」
少し様子がおかしい。なにか言いたいことを飲み込んでいる気がする。
「無理に我慢するな」
「そうじゃなくて。あの…」
よほど言いにくいのだろう、顔を背けて目を閉じたまま消え入りそうな様子で千反田が続ける。
「力を抜いたら声が漏れそうで」
「恥ずかしいのか」
「はい」
あまりの可憐さに頬がゆるみそうになる。同時に、やっぱり感じてくれていると、嬉しくなる。
「える、大丈夫だ。声だしていいんだぞ」
「でも、はしたないです」
「はしたなくない。こういうときには、声が漏れるものなんだ」
「そんな……笑われそうで嫌です」
俺が笑うわけがない。
「奉太郎さんにはしたないなんて笑われたら、生きていけません」
愛おしさに俺が死にそうになった。そこまで思っていてくれたとは。すまん、千反田。明らかにこれまでの俺は愛情を注ぎ足りてない。
「える、笑ったりしない。はしたないなんて思わない。俺が思うわけがない。える、お前が愛おしいんだ。お前がそんなに苦しそうに力を入れている姿なんか見ていられない。だから、な、力を抜け」
千反田はおそるおそると言った風に目を開くと、しばらく迷ったように視線をおよがせ、そうして正面を向いて俺を見た。
「はい」
完全にリラックスしているとは言えないが、さっきよりはずっと身体の力が抜けている。左肘で体重を支えたまま、左手でなんとかほつれ毛を払ってやる。やっと何とか微笑んだ千反田の額にキスをしてやる。
「はぁ」
文字にすればそんな声が千反田から漏れる。再び指を動かして、損の柔らかい部分をゆっくりと、傷つけないように、ほぐすようにする。
◇ ◇ ◇ ◇
千反田は時折白い身体を震わせ固くするが、だいたいにおいて俺に言われたとおり力を抜いている。そして、指の動きにあわせて、声を漏らす。
「心配するな。笑ったりするもんか、える、かわいいぞ」
唇を吸い、髪をなでてやりながら、大事なところへの指での刺激に恥らう千反田に何度も優しく囁いてやる。
「お前が好きだ」
「一番好きだ」
「綺麗だぞ。魂まで融けそうだ」
「いつも一緒にいたい」
「好きだっていってくれ」
あとで思い返せば顔から火でも噴くかもしれないが、不思議となんの抵抗も感じない。てらいもなく、素直に気持ちを囁くことが出来た。
そして囁いている最中も間断なく指を動かして、千反田のその部分をかきまわし続ける。正直言って、自分がしているのが愛撫なのか、好奇心に任せていじりまわしているのか、千反田の声を聞きたくていじめているのか、不安になる。
どうしても言えと言われれば、千反田の今まで一度も聞いたことのない声を聞いていたくて愛撫しているのだと思いたい、としか答えようがない。
緊張が和らいだからなのか、少しずつ感じ方が深くなっているからなのか、俺にはわかりようもなかったが、千反田の反応はさっきよりなまめかしくなってきた。
俺の首に手をまわし、目を閉じて髪を撫でられている眼下の少女は、その清楚な顔立ちも、ほっそりとした体もまぎれもなく、千反田なのだ。
しかし、俺の指に合わせて洩らす小さな声、赤みの差した白い肌にうっすらと浮かぶ汗、戸惑うようによじりあわされる脚、切なげな吐息、ほのかに立ち上ってくる香りの何もかもが、千反田が一度も見せたことのない姿だった。
その感触が指に染み込むほどいじりまわしてしまったぬかるみから指を少し引き上げると、千反田自身によってねっとりと濡れそぼったその指を、そっと手前に向かって滑らせる。
その手の本で読んだ内容が正しければ、ぴったりと合わさった割れ目のその辺りには一番敏感な部分があるはずで
「あっ!」
それまで目を閉じて小さく声を漏らしていた千反田が、びくっと体を強く震わせ、俺の首に回した手に力を入れた。そして閉じていた目を大きく見開いて、おびえたような顔をする。
脚はよじり合わせたまま硬直し、俺を拒もうとしているが、内股を探っていた先ほどとは異なり、もう、俺は肝心なところにふれている。指一本動かせればいいのだから、あまり役に立っていない。
「何をしたんですか?」
震える声で千反田が問う。
そこを何と呼ぶか。解剖学的な名前から俗称やら女の子向けの可愛い呼び方やらその手の本向けの妙に飾った名前まで、一通り知っていることは知っている。だが、それを千反田の耳にささやくのはためらわれた。
「その、ここがえるの一番感じるところだ」
「一番……あの、あっ!」
もう一度、今度は可能な限り優しくふれたつもりだったが、今度も千反田は体を大きく震わせた。そして俺の後ろ頭に回していた手を離すと、我慢できなくなったのだろう、大事な部分にのばしている俺の手を両手で押さえた。
強くつむっていた目を開くと、右手だけを曲げて、白い胸をかき抱くようにし、怖がるような表情で小さくいやいやをする。
「痛かったか」
「いえ、あの」
千反田が大きくあえいで、目を泳がせる。
「刺激が強すぎたんだな。すまん。もう、直接さわらないから安心しろ」
「でも」
「なれていないんだからびっくりしても不思議じゃない、ほら、力抜いてみろ」
深呼吸をさせて落ち着かせ、脚の力も抜けてきたところで今度はその真珠の部分に直接さわらないように、横のあたりをもむようにしてみる。千反田の体がわずかに反り返る。
確か、その部分は皮をかぶっていたはずだが、さっきの反応だと直接触れたらしかった、下から触れたから直接さわってしまったのだろうか。感じすぎるときは横からとか何とか本に書いていた気もするが、もはやよくわからない。
千反田の反応を見ながらおそるおそる指を動かして試してみるしかなかった。
それはどうやらぬかるみの中をかき回されるのとは違う、強い感覚を千反田に与えているようだったが、いつも楚々としている彼女を翻弄している感覚がどんなものなのかなど、男の俺には想像することも出来ない。
一番感じるというその部分の近所と、すっかり熱く濡れきっている合わせ目の部分を交互に指で愛しながら、俺は千反田の横でずっとどれだけ千反田が好きが囁き続けた。彼女はもうずっと目を閉じたままだ。
右手で胸をかき抱き、左手は俺の右手に添えているが、時折小さな声とともに力が入る他は、戸惑ったように軽く触れているだけである。
◇ ◇ ◇ ◇
一方で俺は、すぐそばで聞こえる千反田の悩ましい声や息づかいに当てられながら、次第に大きくなる疑念に不安を募らせていた。このまま続けていいのだろうか、と。どうもこれまでの会話の流れからすると、千反田は自分自身で慰めたことがないのではないだろうか。
仮にそうではない、つまり千反田が夜密かに自分を慰めることがあったとしても、俺は軽蔑もしなければ笑いもしない。しかし、一度も自分でしたことがないというのはいかにも千反田らしい。
だとしたら、今俺がやっているのは愛撫と言えるかどうか非常に怪しくなってくる。彼女は未知の感覚に乱暴に揺さぶられながら、必死で羞恥に耐えているだけかもしれない。ひょっとすると、このまま続けても彼女はこのまま高みには至らないのではないだろうか。
俺は単に千反田を辱めているだけなのではないか。
そんな考えに、最初から無かった自信がさらにしぼんで風前の灯火になった頃、千反田の様子が変わりはじめた。
「あの、奉太郎さん」
「なんだ、える」
「あの、…ぁ…変なんです」
「気持ち悪いのか」
「いえ……ん……何か、あの……」
「いきそうなのか」
「え?」
目を閉じていた千反田が、戸惑ったように俺を見上げる、その表情が時折、とろけそうになる。
「大丈夫だ、える。大丈夫だ」
「でも……ぁぁ…」
「力を抜け。怖いなら、掴まっていろ」
そういうと、千反田は両手で俺の肩にしがみついてきた。顔が俺の肩と枕の間にねじ込まれて、見えなくなる。ぽっかりと胸に穴が開いたような空虚感。顔を見ていたい。しかし、それを言うのは酷な気がした。
かなり無理な体勢になったが、
右手の指は彼女のその部分を探り続ける。あまり力を入れないよう、少し動きを速くした。
そうやって30秒ほど愛撫を続けていると、急に千反田が漏らす声が大きくなってきた。指を真珠の部分近くのあたりに移して、それまでより近いところを細かく振るわせる。
「あ、あ、奉太郎さん、奉太郎さん!」
そして千反田は俺にしがみついた手にぐっと力を入れると、急に喉の奥で声にならない声を立て、身体をぴんと緊張させた。俺は彼女に訪れた変化に指をとめる。
やがて千反田は力を抜くと、俺から離れてベッドの中に沈んだ。
息を荒くし、薄目を開けてぼんやりとしている千反田にキスをする。右手で髪をなでてやろうとして、指がぐっしょりと濡れていることに気づく。千反田に気づかれないよう、シーツでぬぐって髪をなでてやった。
「える、好きだ」
何度も囁きながらキスをするあいだも、千反田はぼうっとしたまま、弱々しくキスに応えるばかりだった。
「あの……わたし」
ようやく何か話せるようになったらしい千反田が俺を見上げる。優しく微笑んでやる。
「大丈夫か?」
「はい、あの」
自分の身に起きた異変に戸惑っているらしい。俺としては恋人が自分の愛撫でいってくれたというのは嬉しいが、千反田は何が起きたか分からないようだった。
「わたし、どうしたんでしょう」
自分がどんな目に遭っているのか分からないというのは心細い物だ。俺はなるべく生々しくならないように気をつけながら、頬や唇にキスをする合間に説明してやる。
「いったんだよ」
「いった?」
「女の子は、こうやって愛し合っている内に、いまみたいになるんだ」
「気絶、でしょうか」
「あまり気にするな」
「あの、恥ずかしいことでは?」
急に心細そうな顔になる。俺はそんな千反田がたまらなく愛しい。
「心配するな。恥ずかしい事なんかじゃない。むしろ幸せなことだ」
「幸せなこと、ですか?」
「ああ。恋人と愛し合ってもいくことが出来ない人だっている。いったのは、お前が健康な女で、俺に心を開いてくれたって事だ」
千反田が納得したかどうかはわからないが、性感にとけて考えがすすまないのか、あるいは別の理由か、とにかく俺の言っていることを信じることにしたらしい。目を閉じて、俺の肩に顔を埋めようとしてくる。
◇ ◇ ◇ ◇
千反田の何もまとっていない身体を抱きしめ、しばらくじっとしていた。そして、どうやらそのときが来たと俺も腹をくくる。
「える」
「はい」
俺の肩に顔を埋めた千反田に、やさしく、しかしはっきりと伝える。
「ちゃんと、避妊するからな」
千反田はその言葉の意味をかみしめるように時間をおいた後、小さな声で返事をした。
頭のあたりの避妊具に手を伸ばす。本来俺が用意すべき物だとは思うが、何しろこんなに早く千反田と愛し合うことになるとは思っていなかった。いや、言い訳にならないか。
とにかく、もし、避妊具がなければ俺は絶対千反田を抱かないつもりだったから、ここに一つだけ用意されていることには素直に感謝しなければならない。
身体を離しておこすと、千反田はそのまま自分の胸を抱くようにして反対側に寝返った。脚も大事な部分を守るようにくの字に曲げている。恥ずかしい思いをさせて申し訳ないと思う一方で、全裸の千反田の真っ白な身体は、言葉に出来ないほど美しいと思った。
一枚しかない避妊具を慎重に装着する。初めて使うが、これで失敗したらいい恥さらしだし、千反田にも気まずい思いをさせてしまう。初めてというのは、男にとっても綱渡りの連続だと今更ながら実感しつつ、なんとか付け終わった。
もう一度千反田に寄り添おうとして、ふと、気が変わる。ベッドに千反田を運んだときに、薄い上掛けが足下に折ってあるのに気づいた。正しいベッドメーキングの方法ではないはずだが、なるほど、実用的だ。
千反田の綺麗なふくらはぎに目を取られながら、脚に触れて促してやり、上掛けを引っ張り出す。窓から漏れる光に全身をさらしていた千反田の身体を、これで腹のあたりまで覆ってやった。
優しくしたいのなら肩まで覆えばいいし、見たいなら二人とも全裸のままでいればいいのだから、我ながら中途半端だ。しかし、上掛けを掛けてやったときに、小さな声で礼を言われたから、気持ちは少しは伝わったのだと思う。
◇ ◇ ◇ ◇
千反田はまだ向こうを向いている。
「える」
背中から覆い被さって頬にキスをする。頬から耳たぶへとキスを繰り返し、そっと右肩を引く。逆らわずに身体を返してきた彼女と口付けをかわす。そして項から鎖骨へと軽いキスをし、もう一度乳首にキスをしてから俺は身体を起こした。
千反田は時折身体を震わせながらも、目を閉じて、じっとしている。膝に手を伸ばして脚を軽く広げさせると、さすがに顔をそむけたが、抵抗はしない。
もう、ためらいもなにも必要は無かった。千反田の脚の間に身体を滑り込ませる。自分の物を手でもって千反田のその部分にあてる。そうして、さっき愛撫したあたりに見当を付けると、ゆっくりと前に押し出した。避妊具越しに、千反田の軟らかい肉が俺の先端を包み込む。
千反田は、目を閉じ、唇をひき結んで、これからくる痛みに耐えようとしていた。両手でかき抱くようにしている白い胸の上に、さっきさんざん吸った色の薄い乳首が覗いていて、なぜか痛々しく感じる。
自分の物を進めると、軟らかい肉の先に、行き止まりがあった、たぶんこの辺とあたりをつけて探ると、どうやら入り口らしきものがある。慎重に腰を進める。急に狭隘になった部分にゆっくり、ゆっくり、慎重に腰を進める。
頭の部分が入ったあたりで、千反田が短く声を漏らし、身体を硬くした。
「痛いか」
「はい、少し。でも、大丈夫です」
「酷く痛むようなら、言え」
「はい」
酷く痛みますと言われて俺に何が出来るのか不安だが、後には戻れない。ゆっくりと、本当にゆっくりと時間をかけて自分の物を進めた。たぶん、もう処女膜は破れている。それでも、出来る限り時間をかけた。自分の物を全部埋め終わるまで3分くらいかけたのではないかと思う。
とうとう、千反田とひとつになった。目の下には、目を閉じ、顔を背けて胸をかき抱き、痛みに耐える千反田の白い裸体が横たわっている。ひどく、胸がざわついた。俺の物は、きゅっと絞られるような感じで、想像していたのとは全く違う感覚に戸惑う。
ゆっくりと身体をふせて顔を背けている千反田に覆い被さった。
「える」
千反田が目を開け、大きな黒い瞳で俺の顔を見上げる。二人、至近距離で見つめ合う。
「俺たち、一つになったぞ」
千反田の顔に、痛みに耐えるような、あるいはちょっとつらそうな、戸惑うような表情が、入れ替わり表れた。やがて、口元に淡い笑みが浮かぶ。眼尻にうっすらと涙をたたえているのは、痛みを我慢したせいか。
「はい」
キスをした。ゆっくりと、優しく、キスをした。俺は肘で身体を支え、掌で彼女の髪をなでてやる。千反田は俺の背中に腕を回していた。二人とも囁くような声で会話をする。
「痛いの、大丈夫か?」
「はい、思ったほどではありません。ちくっとするだけです」
「そうか」
もう一度キスをして、そして千反田の黒い瞳を見つめながら、今の気持ちを素直に言っておこうと思った。俺はどうも妙なところで見栄っ張りらしく、気の利いた言葉や素直な言葉が出ないことがある。今は大切なときだから、ちゃんと言わなければならない。
「える、ずっと、大事にするからな」
千反田が頬を染める。口元をすぼめて我慢していたようだが、無理だったのだろう。大きな笑みが浮かんだ。いつも大げさな表情を出さない千反田には珍しい。それだけ、喜んでくれたのか。
「これからも、いろんな所に連れて行ってください」
「ああ」
「うれしい」
目を閉じて微笑みを浮かべる千反田に見とれた。少し場違いな言葉に聞こえるが、彼女の説明不足はいつものことだ。連れて行けと言うのは、たぶん場所のことではない。いつだったか、千反田は俺を「わたしをこたえまで連れて行ってくれる」と評したことがある。
ようするに、千反田が知らない世界を俺が見せたということなのだろう。それを千反田がこれからも望むというのなら、運だろうが偶然だろうがいくらでもたぐり寄せてやる。
「じゃぁ、動くぞ。少し痛いかもしれんが、我慢しろ。もし、我慢できないようなら、言え」
「は、はい」
背中に回した千反田の手に力が入る。俺はさっきから千反田の中に入れたままだった自分の物をゆっくりと抜く。そして、抜ききる前に再びゆっくりと挿入した。
◇ ◇ ◇ ◇
目を閉じた千反田が薄い唇を引き結ぶ。やはり痛いらしい。しかし、俺の言葉通り、我慢してくれている。俺はその頬にキスをしながら、腰をもう一度動かす。腕立て伏せみたいな体勢で腰を動かすのは思っていたよりもずっと難しい。しかし文句を言える筋合いではない。
千反田のその部分は俺をしっかりと締め付けている。それがいわゆるよく締まると言われるものなのか、あるいは普通なのか、それとも世の女達はもっと締まるのか、俺には全く判断するすべはない。
ただ、目の前の千反田の顔に大きな苦痛の表情が表れないか注意しながら、一方で下半身から与えられる不思議な感覚に、長くはないなと思っていた。
うっすらと汗をかいた千反田の白いからだ。
いつも静かないずまいの、名家の一人娘。時折、大きな黒い目を輝かして俺に足早に歩み寄り、ろくすっぽ説明もせずに騒動に巻き込む女子生徒。成績はいいくせに肝心なところで説明をすっ飛ばすあわてんぼ。
料理が上手で、笑顔が愛らしくて、目を閉じた顔が楚々としていて、涼やかなよく通る声の少女。
その子を、世界でもっとも愛おしい女を、組み敷いていた。ほっそりとした体からふんわりと立ち上る、おそらくは千反田の体臭らしい甘やかな香り、ほつれて汗で貼り付いた黒髪、時々漏らされる小さな声、そう言った感慨やら感覚やらが俺を包み込み、激しく興奮させる。
その瞬間はあっさり訪れた。時間にすれば、3分かそこらだったのだろう。千反田の中で締め付けられたまま、俺は脊髄に昇ってくるような甘いしびれとともに身体を振るわせた。二度、三度と射精は続き、そして、その果てた。
◇ ◇ ◇ ◇
大きく深呼吸をする。千反田もおそらく何が起きたか分かっているはずだが、じっと目を閉じ、肩を上下させている。頬にキスし、そっと囁く。
「終わったよ」
「…はい」
身体を起こし、ゆっくりと俺の物を抜く。まだ萎える様子はないが、そんなことはどうでもいい。枕元の箱からティッシュを3枚ほど引っ張り出すと、丁寧に重ねて上掛けの中に入れる。
「える、ティッシュをあてるから、少し力を抜け」
恥じらいからか、返事をせず横をむく千反田。ちょっとやり過ぎかとも思うが、あまり出血が激しいと困るので、何かの本で読んだとおりに、その部分にティッシュを当てておく。
とりあえず千反田の手当をして、俺の番。背を向けて、避妊具を悪戦苦闘しながらはずす。後ろを振り向くが、千反田もこちらに背を向けているので見られる心配は無い。見られる心配は無いが、背を向けられる事がこれほどつらいとは、今日の今日まで知らなかった。
避妊具をそっと持ち上げて部屋の光にすかす。妙に生々しい。血がついているが、出血はそれほどでもないようだ。それよりも心配な漏れをチェックするが、そちらも大丈夫なようだった。見て分かるのかどうか、知らないが、とりあえず破れていないのでよしとする。
安堵の息をついてティッシュをさらに引っ張り出し、くるんで足下のゴミ箱に入れておく。ついでに自分の物もティッシュでよく拭いておいた。
それにしても、ゴミ箱だとか、避妊具だとか、ティッシュだとか、よく考えて配置してある。自分の部屋で初めてを迎えていたら、これほど万全な態勢を取れたかどうか怪しい。
◇ ◇ ◇ ◇
向こうを向いて横たわっている千反田の白い背中に添い寝する。そろそろこっちを向いてくれないだろうか。
「える、こっちを向いてくれ」
しかし、思いがけず抵抗を受ける。肩を軽く引くが、ぐっと力を入れられてこちらに引くことが出来ない。上からのぞき込もうとすると、ひっーと声にならない声を喉の奥でだして、顔を枕に押しつける。どきりとする。ひょっとして、今になって後悔しているのだろうか。
もしそうなら、俺は取り返しのつかないことをしたことになる。背中を冷たい物が走る。後悔しているのかを聞こうとして、言葉にするのが恐ろしくて聞けない。
かろうじて、遠回しに聞くことが出来た。我ながら声がかすれているのがみっともない。
「どうした、怒っているのか」
首を振る。怒っていないと。
「恥ずかしいのか」
こくこくと。恥ずかしいらしい。
「恥ずかしがらなくていい、こっちを向いてくれ」
とりあえず後悔しているわけではなさそうなので一安心だが、こっちを向いてくれないのは酷く寂しい。少し乱れた髪を手で梳いてやりながら、無理に向かせるのもどうかと悩んでいると、いきなりものすごい勢いで千反田の白いからだが寝返り、俺の肩に顔をうずめた。
「どうした」
「見ないでください!」
小さい声だが、叫んでいるように聞こえる。
「どうしたんだ」
問いかける俺に、ほとんど気持ちを吐き出さんばかりの勢いで千反田が話し始めた。
「わたし、わたし、今日奉太郎さんにすべて捧げました。恥ずかしかったです。怖かったです。痛かったです。知らないこといっぱいされました。でもがんばりました」
「あ、ああ。よく頑張ったな。ありがとう」
やっぱり、いっぱいしてしまったか。すまん、千反田。
そう思う一方で、小声ながら声にいつもの調子が戻ってきているようでつい微笑んでしまう。
そしてなにより、『捧げました』という言葉が胸を打つ。そうだ。大事なものをもらったのだ。
「とってもがんばりました。痛かったです。怖かったです。恥ずかしかったです。でもですよ、でもですよ」
「なんだ、聞いてるから言って見ろ」
千反田は、小さく深呼吸をしたようだった。思い切って、だけど小さな声で呟く。
「嬉しくて、笑顔になっちゃうんです」
それのどこが悪い!
「ばかだなぁ、その笑顔を見せてくれ。俺を安心させろ」
「はしたないです。こんな娘、きっと笑われます」
思わず喉の奥で笑ってしまった。本当に可愛い奴だ!
「える!」
ぎゅっと抱きしめ、千反田をベッドから引っこ抜くように寝返る。俺は仰向けに天上を眺め、千反田は悲鳴を上げながら俺の腕の中に収まった。
「好きだ。誰よりも好きだ。笑ったりしない」
「今笑ってました!」
うむ。
この状況ですばらしい観察力じゃないか。部長殿は頼もしいな。
「そう言う意味の笑いじゃない。お前が可愛くて仕方なくて笑ったんだ」
「ほんとうでしょうか」
「嘘なものか」
「信じてもいいですか」
「信じろ」
「信じちゃいますよ」
「ああ」
「じゃぁ」
そう呟く声に甘いものが混じっている。
「奉太郎さんがそう言うなら、信じます」
ぎゅっと抱きしめると、切なげな息を吐くのがわかった。
「える、今日のことは忘れない。ありがとう。きっと、ずっと大事にする」
「はい」
囁くような千反田の返事を最後に、俺たちはしばらく黙ってそのまま抱き合っていた。
◇ ◇ ◇ ◇
「あの、奉太郎さん」
「ん?どうした」
千反田の囁き声で、意識が戻った。危なく眠るところだった。
俺たちはしばらく黙って抱き合っていたが、腕の中の千反田はいつの間にか寝息を立てていた。驚きである。俺はと言うと、終わった後もずっと続いている高揚感やら、時折、その部分によみがえる感触などもあって、眠れなかった。軽い興奮状態が続いていた
。一方でこいつはすやすやと寝ているわけで、それほど俺の腕の中で安心してくれるのか!などと手前味噌なことを考えてほくそ笑んだものだ。
よれほど疲れたんだな。すまん。
もっとも、千反田の小さな寝息を聴きながら、寝顔を見ることができずに残念だ等と考えているうちに、俺のほうも意識に霧がかかり始めていた。危ない危ない。なにしろ今日は大変な一日だった。いや、大変だったのは、ここ1時間半くらいか。横目で時計をみる。
千反田が寝ていたのは15分くらい。俺はたぶん30秒くらいか。それでも頭がすっきりしている。
「わたし、眠っていたみたいです」
「ああ、疲れてたんだな」
「恥ずかしい」
「気にするな」
「でも」
「える、これは思いの外幸せな発見だったぞ」
「幸せ、ですか?」
「恋人が腕の中で寝息を立てるのを聞くのは、なかなか幸せなものだとわかった」
「いじわるです」
「いじわるなものか。これで寝顔を見せてくれたら文句ない。もう一度寝てみないか」
「いやですいやですいじわるです」
全裸の千反田が俺にしがみついていやいやをしている。
思わずにやけ顔になった。まずい。これはいけない。今何かお願い事をされたら、俺は何でもほいほいと安請け合いしてしまいそうだ。『奉太郎さん、生命保険に入っていただけませんでしょうか』くらいなら、『うん』と即答しかねない。
「すまん、許してくれ」
「また謝ってます」
千反田がくすくすと笑う。つられて俺も、喉の奥で笑う。
◇ ◇ ◇ ◇
「雨、止んだみたいですね」
「そうだな。どうする。美術館、行くか?」
腕の中の千反田が、かすかに顔を肩口に押しつけたように思える。
「しばらく、こうして一緒にいてもいいでしょうか」
「ああ、いいさ。美術館は、またにしよう」
「はい」
しばらく、またそうして黙っていた。通りを時たま車が通る音が聞こえる。部屋の中ではエアコンの音がすこし耳につくか。さっきは全然気がつかなかった。よほど余裕がなかったと言うことか。
千反田の背中をそっとさする。小さな吐息が漏れるのを聞く。なめらかなきめの細かい肌。すこしひんやりしているか。今は腰から上のあたりがはだけている。上掛けをひっぱって、肩の辺りまでかけてやった
。雨に濡れた身体を温めるためにホテルに飛び込んだのだ。二人で抱き合って風邪を引いては本末転倒だろう。
「ありがとうございます」
こんな時まで丁寧な言葉遣いの千反田の髪を、そっと撫でてやった。
◇ ◇ ◇ ◇
どうでもいい話を、ふたりともたくさんした。おしゃべりに興じたわけではない。無言で抱き合ってお互いの体温を感じながら、時々小さな声で話をした。時間はたくさんあったから、魂を抜かれたみたいにぼんやりしながらいくつものとりとめのない話を重ねた。
俺は時折頭に浮かぶイメージの話をした。
幻覚や白昼夢や妄想のたぐいではない。ふと、時折浮かぶイメージ。小さな国にお姫様がすんでいる。お姫様は流れ者のする話をいたく気に入ってくれ、そして彼女の世界を見せてくれた。二人はやがて心ひかれるようになる。それだけの話。
「悲しいお話です」
「そうだろうか」
なんとなく、千反田はそう言うだろうなという気はしていた。
「二人は心引かれているのに、壁があるように聞こえます」
「壁だろうか」
「違いますか」
「俺は距離だと思っている」
「距離、ですか」
壁は乗り越えられない。でも、距離なら歩いて行きさえすれば、縮めることができる。走っていけば、もっと早く縮む。たやすいことだとは思っていないが。
◇ ◇ ◇ ◇
「お会いしたころは、奉太郎さんは、めんどくさがりな方だと思っていました」
「違うな。俺は省エネなだけだ」
くすくすと千反田が笑う。
「『やらなくてもいいことならやらない。やならければいけないことなら手短に』ですね」
「よくわかっているじゃないか」
「嘘つきです」
なんだと。憮然とする俺の肩の辺りで、千反田が小さく笑う。どうしてそんな酷いことを、幸せそうな声色で言うのだ。
「だって、本当は努力家ですから」
「里志に言ってみろ、えるの人間を見る目のなさをたっぷり1週間は笑われるぞ。それに俺はモットーからいって、他人から過大評価されるのは好まない。前にも言ったはずだ」
「摩耶花さんに聞きました。成績、あがっているそうですね」
む。
里志経由か。口の軽い奴ではなかったはずだが。『戦争において秘密の作戦が漏れるのは必ず男女の間からだ』とか言ってたな。歴史はいいから自分の身を糺せ。
「以前は勉強をされているようではありませんでしたね」
「俺は平均点を取ることができれば満足だったからな」
「過去形になってますよ」
千反田がまた笑う。くそ、語るに落ちた。
気の迷いと笑うなら笑え。俺は勉強をしている。それも相当本気でやっている。確かに、おかげで成績は上がった。もとがたいしたことなかったからと言うのもあるが、驚く無かれ100位以上あがったのだ。もっとも、腕の中の誰かさんの順位は遙か彼方だが。
付け焼き刃で追いつけるとは思っていない。正確に言えば、そもそも追いつけると思っていない。
「うぬぼれ、と笑われるかもしれませんが。奉太郎さん。わたし、ですか?」
しばらく天井を眺めていた。みっともないことこの上ない。努力して、未だ遙か、だ。なのに、もうばれた。
「ああ」
千反田が、吐息を漏らす。
「わたし、うれしいです」
「全然追いつけないけどな」
「誰に、ですか?」
「お前に、だ」
すこし、千反田が考えるようにする。
「わたしに追いつくのが、目標ですか?」
「違う」
即答した。千反田が、また幸せそうなため息をつく。くそ、何もかも見透かされているようだ。これ以上聞かれても俺は口を割らんぞ。
「福部さんから聞いたのですが、経営の本をたくさん読んでいらっしゃるとか」
あのおしゃべりめ!今度あったらどうしてくれよう。
◇ ◇ ◇ ◇
「あの、笑われるかもしれませんが」
またか、と俺は苦笑した。そんなに俺が千反田を笑っていると思っているのだろうか。それはそれで信頼されていないようで複雑だ。まぁいい。話が変わるのは歓迎する。
「笑わないぞ。何度も言うが」
クスクスと笑ったのは千反田のほうだ。
「ちょっと恥ずかしい話なのです」
黙って聞く俺に、千反田が呟くように話して聞かせる。
「1年生のときの、入須先輩のクラスの映画を覚えていらっしゃいますか?」
「『女帝』事件だな」
「はい」
『女帝』事件は、千反田が古典部に持ち込んできた数あるやっかい事の一つで、1年生の夏休みの最後の一週間、俺たち古典部が2年F組の女帝こと入須冬美に翻弄された事件である。結果的にまんまと女帝に利用された形ではあったが、俺は未完成映画の謎に切り込むことが出来た。
「あのとき、福部さんが古典部の皆さんにタロットのシンボルをあてはめました」
「覚えている。えるは『愚者』、俺は『力』だった。里志は『魔術師』で伊原が『正義』だったか。えるに『愚者』なんて失礼だと思ったが、存外あたっていたな」
「調べたんですね」
楽しそうに声がはずむ。
「ああ」
「奉太郎さんの『力』は、どう思いました?」
「酷い皮肉だったな。あれは」
里志は俺にタロットカードの絵を当てこすったのだ。『力』のカードはライオンを女がてなづけている絵だ。里志は『氷菓』事件では千反田が、『女帝』事件では入須が俺を振り回していると笑ったわけだ。まぁ、間違ってはいない。
俺はそのとき感じた、幾分不快な想いが表に出ないよう、千反田に話をしてやった。
「奉太郎さんはそう思っていたのですか」
「違うのか?」
肩口をのぞき込むが体勢的に無理がある。千反田の顔は見えない。
「わたしは最初、福部さんの言っている意味がわからなかったのです」
「所詮戯れ言だ」
「そうかもしれません。でも」
と、言葉を切った千反田は、くすぐったそうに微笑んでいたのではないかと思う。
「でも、ですよ。笑わないでくださいね。あの、『力』のカードには別の解釈があるのをご存じですか?」
「いや、俺はあのとき調べたっきりだからな」
「そうですか。あのカードは『無意識の力を解き放つには、女性の介在が必要だ』という意味だとも言われているんです」
「うむ。同じに聞こえるが」
要するに、怠け者、もとい、省エネ高校生の折木奉太郎は千反田えるや、入須冬美にけしかけられて難事件を解決したのだから。
「あの、本当に笑わないでくださいね。
わたしは思うんです。奉太郎さんにお会いしてすぐ、私はこの方は本当はすごい方だって思うようになりました。
でも、奉太郎さんはいつも自分は省エネ主義だって言ってました。省エネ主義だから無駄なエネルギーは使わないって。
その方が、二年生になって成績があがりはじめたんです。それまでより勉強をするようになったんですね。
それが、ですよ。
本当にわたしと出会うことで勉強を始められたのなら、うぬぼれかもしれませんが、わたしはひょっとしたら、奉太郎さんの無意識の力を解き放つ、鍵の役割を果たした女なのかもしれません」
俺は何も言えなかった。
「全部、わたしのたわいない夢みたいな思いつきです。でも、もしそうなら。奉太郎さん、それは、わたしにとって、とてもとても幸せなことです」
千反田がため息を漏らす。きっと今は目を閉じている。俺は何も言うことが出来ない。じっと天井を見つめているだけだ。
◇ ◇ ◇ ◇
毎日楽しみにしてます、GJ!
>>411 よかった、ひとり読者がいた(w
連騰制限解除されたはずなので、続き投下。
ベッドの上掛けごと千反田の細い体を抱いている。
俺と千反田の暖かい身体の間には何一つ遮る物が無くて、それがさっきから俺を包んでいる多幸感の源になっている。俺に抱かれて肩のあたりに顔を埋める千反田の身体は、いつも手を握ったときに感じる暖かさそのままに、心地よいぬくもりを伝えてくる。
この暖かみが千反田なのだ、と思う。
一方で、上掛け越しに抱く背中は、いらだたしいほどにもどかしい。腕を上掛けに潜り込ませれば良さそうな物だが、そのもどかしさに突き動かされるように、肩のあたりまで覆っていた上掛けを下にずらす。見えないが、たぶん背中が半分ほどはだけているだろう。
小さな声をあげて身を固くする千反田の頭を撫でてやり、そのまま、背中をさする。
「えるとこうしていると、心がばらばらになりそうだ」
千反田は黙って聞いている。俺は彼女の肩胛骨のあたりから上掛けのあたりを、ゆっくりと撫でる。指先で、背骨の柔らかい隆起を一つ一つ確かめる。
「えるが風邪を引かないようにと思って上掛けを掛けてやったのに、いざとなると、布きれ一枚だってお前との間にあることに我慢できない」
そう口にして、自分で苦笑してしまった。
「この部屋に入ったとき、俺が言ったことを覚えているか?」
千反田は少し考えて返事をした。
「『絶対に手を出さない』って言っていたことですか」
「ああ。結局約束を破ってしまったな」
「いいんです。私からお願いしたようなものですから」
「すまん」
「もう、謝っちゃだめです」
千反田がおかしそうに呟く。
「今から考えれば、あのとき必死で『手を出しちゃだめだ』って思ったのは、正しい直感だった」
「…後悔、してますか?」
「いや、後悔はしていない。そう言う意味じゃない」
そこで少し、言葉を切る。適切な言葉はないか考えながら、顔が否応なくほてってくるのを意識する。
「お前と……ひとつになって、そして今、こうして肌を重ねている。これを知ってしまったら、もう元には戻れない。たぶん、直感的に分かっていたんだな」
「あの…」
肩の辺りで困ったような声を出す千反田の背中を、そっと撫でてやる。
「変な意味じゃないから心配しないでくれ。いや、その……そっちのほうもすばらしかったが」
千反田が俺の腕の中であからさまに縮み上がり、喉の奥で、文字にすれば『ひー』といった音を立てる。『すばらしい』は、ちょっと生々しすぎたか。いやまて、まずかったのは『そっちのほう』か。こういう話を、腕の中の千反田にするための言葉がなかなか見つからない。
「こうやって、二人っきりで抱き合って『肌を許す』という言葉の意味が初めて分かった。
単に『触れてもいいよ』と言う意味じゃない。えるが俺に肌を許してくれたって事は、えるが俺のことを本当に好きで、信用してくれているということだ。
それがよくわかった。俺はお前がそうやって俺をに肌を許してくれていることを、つまり俺をという男を選んでくれたことを、本当に嬉しく、幸せに思う。だからこそ、もっと大事にしてあげたいと前よりも思う。
こういう事は、以前にはたぶん頭では分かっていたと思うが」
一気に思っていることを言葉にした。口が少し渇いているように思う。
「今は、体中でそう思う」
千反田は、俺が話を切った後、少し黙っていた。
「少し、くすぐったいです」
まぁ、そうだろうな。
「でも、奉太郎さんが言っていること、なんとなくわかります。私も、その」
千反田も、言葉を選ぶのに少し困っているようだった。
「その、奉太郎さんの言葉を借りるなら、『肌を許す』ことの出来る相手として、奉太郎さんに出会えたことが幸せです。こうして一緒にいると、夢のようです」
ああ、そうか。
夢のようなのだ。気分を正確に言い表せなくて落ち着かなかったが、これでようやくすっきりした。ついでと言っちゃおかしいが、俺はたぶん『薔薇色』の意味を分かっていなかったと思う。薔薇色とは華やかなだけではない、こんなにも甘美で心惑わされる物だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「奉太郎さん」
「なんだ」
千反田はどんな顔をしているのだろう。ずっと、俺の肩の辺りに顔を当てているので、全く表情が分からない。ぼんやりしているのか、何かを考えているのか、ちょっとでいいから見てみたい。
「これはお願いというか、希望というか、そうなったらうれしいというか、その、わがままなのですが」
「えるがわがままなのは身にしみて知っている。遠慮するな」
「酷いです。いじわるな奉太郎さんは嫌いです」
「おい、嫌いになるのは勘弁してくれ」
「わたし、わがままですか?」
「『気になります』と言い出したえるを、引き留めるのに成功した試しがない」
「そうだったのですか。わたしはいつも、奉太郎さんは黙ってわがままを聞いてくれる優しい方だと思ってました」
「自分で『わがまま』と言ってるじゃないか」
「あ、そうですね。やっぱりわがままですね。恥ずかしいです」
「える、変な気を回すな。いまさら遠慮は無しだ」
「そうですか。じゃぁお言葉に甘えて、これからも気になることがあったら奉太郎さんにお願いしますね」
しまった。
「あの、ですね。話しがそれましたが」
「ああ」
「今年の文化祭、一緒にまわっていただけませんか?」
なるほど、それは確かに少しハードルの高いお願いではあるな。わがままではないと思うが。
俺たちの通う神山高校は、文化祭が派手なことで有名だ。何しろ3日間に渡って50を越える団体が活動の成果を発表というか、文化的ならんちき騒ぎをやらかすのだ。近隣でもちょっとした風物詩として名をとどろかせている。
普段から活動しているかどうか怪しい古典部も、秋の文化祭に向けて文集『氷菓』の製作を行っている。ちなみにあまり文集らしからぬ名前ではあるが、振り返ればこの名前に隠された秘密こそが、俺と千反田を引き合わせてくれた縁であった。
その話はここに書くには少し長すぎる。
そして、千反田のこの『お願い』は、もちろん文化祭を一緒にまわりましょうという意味だけに終わらない。文化祭を一緒にまわると言うことは、周囲に対して千反田えると折木奉太郎は交際していますよと宣言することに等しい。
だから、千反田はこう言っていると言い換えていい。『わたしたちの交際は、もう隠さなくてもよいのではないですか』と。
俺はその問いに、すぐ答えを出した。
「そうだな、そうしよう。今から楽しみだ」
「え?いいのですか」
「なぜ驚く。えるが言い出したことだろう」
「ですけど」
「もう、隠していても仕方ないな。言いふらす必要も無いが、里志と伊原には次に会う時にきちんと言っておこう。あいつらに気を遣わせるのも悪い」
千反田はそれには返事をせず、しばらく黙っていた。
「うれしいです。とても、楽しみです」
千反田とこうなったからと言うわけではないが。いや、たぶん俺の奥の方ではこうなったからこそと思っている。こうなったからには、もう、あまりこそこそとしたくない。
あるいは俺が言い訳をしているだけかもしれないが、千反田に、この交際が後ろめたい物だと、ほんの少しだって思って欲しくない。どうやら忍ぶ恋もこれまでのようだ。
なんにせよ、千反田と二人で学校中の文化部の出し物を見て回る様は、思い浮かべるだけで楽しい気分になる。
◇ ◇ ◇ ◇
「える」
「はい」
「俺もひとつ、わがままを聞いてほしいんだが」
「なんでしょうか」
「雛祭りの写真、くれないか」
「写真、ですか」
2年生に進級する春休み、俺は生き雛役の千反田の後ろで傘持ちをした。思えばあれが決定打だった。
「福部さんが撮っていらっしゃったと思いますが」
「ああ、あれはもらった。だけどあいつ、時間がなかったから使い捨てカメラで撮影したんだ。お前は小さくしか写っていない」
小さくしか映っていないが、里志の名誉のために言っておけば、それなりにいい写真だった。もっとも、季節はずれの桜と千反田の生き雛が素材なのだ、だれがシャッターを押してもいい写真になるはずだ。
あの、紅をさして十二単を着ていた千反田の写真がほしい。俺の魂をつかんで、後戻りのできないところまで手繰り寄せてしまったあの時の千反田を、手元に置いておきたい。
「お前のアップの写真がほしいんだ」
「…すこし、恥ずかしいです」
なぜそんな、甘味を帯びた声でつぶやく。俺の気持ちをとらえて放さないようにか?
「だめか」
「だめではありません。でも、なぜ?」
「お守り代わりだ。机に入れておく。勉強がつらくなったら、お前の写真を見てがんばる」
ためいきを、ひとつ。
「奉太郎さん、ずるいです」
「なぜだ」
「だって、そんな風に言われたら」
千反田が身を起して、俺に微笑みかける。
「わたし、嫌だって言えません」
からすの濡れ羽色をした美しい髪が、少し乱れて線の細い白い体にかかる。清楚な顔立ちに頬はさくら色。いつもなにか興味深いことはないかと活発に探し回っている黒い瞳は、今はやさしげな半眼。薄い唇にほのかに笑みが浮かぶ。
鎖骨の辺りは美しく窪み、片腕でそっと隠した、品のいい形をした乳房が目にまぶしい。
千反田、何一つまとっていなくても、お前は俺の魂をとろかす。
◇ ◇ ◇ ◇
文化祭と言わずおまえら早く結婚しろよもう。
神さま乙ですゴチです。
>>417 コメントありがとう!
>文化祭と言わずおまえら早く結婚しろよもう。
恐るべきタイミングでこのコメントが出てきた(w
ぎりぎりまで粘るならもう少し二人で抱き合っていてもよかったが、俺は早めに切り上げることにした。ゆっくり歩いて帰るためだ。「える、歩けるか。痛くないか」などと陽の下で聞きたくない。ひどい辱めだ。
千反田にシャワーを浴びさせ、入れ替わりに俺もざっと浴びる。俺のからだなぞ、洗わなくてもいいとも思った。が、千反田の香りがわずかに移った体を意識して平気な顔で街を歩けるかどうか、俺には自信がない。
「お待たせ」
脱衣所から出ると、白いワンピースに身を包んだ千反田が、ベッドに腰かけたまま微笑んだ。そして、頬を染めて心持ち顔をうつむかせる。さすがに目を合わせにくいか。横に帽子が置いてある。
「帽子、しわになったな」
「ひどい雨でしたから、しかたありません。奉太郎さんの服は乾きましたか?」
幸い、あらかた乾いている。正確にいえば、靴下だの下着が少々気持ち悪いが、歩いていれば全身ぱりっぱりに乾くだろう。少し雨くさいかもしれない。
「その」
と、言葉を切る。
「痛くないか」
千反田がゆるゆると首を振る。痛くない、と。聞けばデリカシーに欠け、聞かずばいたわりにかける。俺がこんな事をうまく扱えるようになる日が来るかどうかはなはだ疑問を感じる。もっとも、この件に関しては、この一回限りだ。
「出るか」
「はい」
千反田が帽子をとって立ち上がる。そっと寄り添うように俺のやや斜め後ろ。部屋の出口に向かう途中、しかし、ふいに声を上げた。
「奉太郎さん、ちょっと待っていただけますか?」
「どうした」
振り向くと、先ほどコーヒーを淹れたカウンターに寄り道している。そして何か摘まんで戻ってきた。俺の目はその何かより、かすかな微笑みを浮かべて目を伏せている千反田の顔に釘付けになっている。
「先ほど、チョコレートを見つけたのです」
ふむ、それで?
目の前でかすかな悦びを顔に浮かべ、チョコレートの包装をむく。そして大きな黒い瞳を光らせて俺を見上げる。む、嫌な予感がする。悪い予感ではないが、振り回されそうな気がする。
「はい、あーん」
なにっ!
俺は冷や汗を流して一歩下がった。心臓が跳ね回っている。今のなはなんだ。羞恥に頬を赤らめ夢見るような微笑みで迫ってきた千反田の顔が、まるで網膜に焼きつくように鮮明なイメージとして残っている。
パーソナルスペースが狭すぎるのはいつものこととはいえ、あの顔は反則ではないか。
「待て、える」
「逃げないでください」
「いやしかし」
「奉太郎さん、わたし、今年のバレンタイン・デーにチョコレートを差し上げていません。
1年生の頃は、『我が家は本当に親しい方には季節の贈り物を差し上げていませんので』と、あらかじめお断りしました。でも、2年生の時にはほんとうはチョコレートを差し上げたかったのです。摩耶花さんみたいな勇気がほしいと何度も思いました。
でも、私には勇気がありませんでした。ですから、お願いです」
そんな悲しい顔をするな!わかったから。わかったから。チョコレートを渡せなかった悲しさと、『あーん』の間の因果関係はわからないが、俺は深呼吸して覚悟を決めると目を閉じて口をあけた。
「あーん」
さっきまで泣きそうな顔をしていたはずだが、くすくすと楽しそうに笑う声が聞こえる。たばかられたか。いや、考えすぎだろう。それに仮にたばかられたとして、デメリットはないので、考えるのをやめた。
口の中にかたまりがそっと置かれる。甘い。当たり前だ。こんなところにビターチョコレートなど、厭味ったらしい。
「おいしいですか?」
「ああ」
まぁ、甘味も嫌いではない。別段好きでもないが。チョコレートは出されれば食べる。あえて言うならば、千反田が食べさせてくれたこのチョコレートの味は格別だ。言うではないか。『白馬ハ馬ニ非ズ』と。あーんも悪くないな。『君子豹変ス』だ。
「もうひとつあるのです」
「食べ過ぎると鼻血が出るぞ」
俺は千反田と伊原がチョコレートの味見をしていた事を思い出す。二人は山のようなチョコレートを食べたはずだ。女子のチョコレート飽和量は、男子のそれをはるかに上回るからな。同じペースで食べられると思ったら大間違いだぞ。それに今日の俺は鼻血耐性が低いはずだ。
いろいろあったから。
「はい、あーん」
お構いなしに迫ってくる千反田に二つ目を食べさせてもらう。甘い。おいしい。無駄な抵抗などしない。その気になったこいつに俺なんぞが抵抗しても無駄なことは、ずっと前から知っている。エネルギーの無駄という物だ。それで、あと、いくつあるんだ。
「これでおしまいです」
「もう無いのか」
「もっと食べたいですか?」
「そうじゃない。えるにも食べさせてやろうと思ったのに」
「え?」
「『え』じゃない『あーん』だ」
「だめです。そんなの恥ずかしいです」
手で顔をおおって横を向きやがった。
千反田よ。『自分がされたくないことを人にしてはいけません』と幼稚園で教わらなかったか?
「まったく、えるは恥ずかしがり屋だ」
「だって」
細い体を優しく抱き寄せると、腕の中で、何か言い訳めいたことを甘い声で呟く。その顎をつかんで、上向かせる。チョコレートを食べさせてやりたかったのに。これはそのチャンスをふいにした千反田が受けるべき罰だ。
唇をよせて優しく吸う。千反田も俺の体に手をまわしてくる。何度か吸って、そして、今まで試してみなかったことをする。あまりにも生々しすぎて、千反田にふさわしくないような気がしていたのだ。だが、二人は今日一歩先に進んだ。もういいだろう。
そっと舌をのばして彼女の薄い唇の中に滑り込ませる。
「ん!」
体を硬くする千反田を抱きしめる腕を、ほんのすこし緩める。。
「嫌か」
「いえ、驚きました」
そう呟く彼女をもう一度抱き寄せる。今度は遠慮なしだ。髪を撫でながら、舌を滑り込ませる。歯を少しなでてやると、おずおずと開けてくれた。そっとはじめての領域に探検にでる。奥のほうに、本当に奥のほうに、臆病な少女のように舌が縮こまっていた。
優しくつついてやると、千反田がのどの奥で小さな声を漏らす。そしておずおずと舌を伸ばしてきた。やがて二人の舌は絡み合う。さすがに恥ずかしいのだろう、自分の口からは出てこない。俺は千反田の口の中で、やさしく舌を絡み合わせた。
以前は舌を絡めるなど不衛生じゃないのか、などと考えたこともあったが、やってみて初めてわかるものがある。これは病みつきになる。好いた者同士でなければできないハードルの高さゆえだろうか。
長いキスが終わり、千反田がため息をつく。俺の肩に顔を伏せる。
そして俺は、こういうときに絶対に言ってはならないと、その手の本に必ず書いている一言を口にした。もちろん、狙ってのことだ。
「える、どうだった」
「…甘かったです」
◇ ◇ ◇ ◇
だが、その日最後の不意打ちを食らったのは、俺だったのだ。部屋のドアノブを握ったときだった。千反田に後ろから声をかけられた。
「奉太郎さん」
「ん?」
「…わたし、待っています」
とっさに声がでなかった。
まるで別れの言葉だ。今は7月。別れの季節ではない。だが、俺は千反田が別れの話をしているとすぐに理解できた。あと半年と少しで、俺たちは別々の道を歩むことになる。千反田は理系。俺は文系。もちろん大学も違う。そして千反田はこの土地に帰ってくる。
彼女はそう言った。あの雛祭りの夜に。
『待っています』という千反田の意図は、はっきりわかる。いい加減な返事はできない。いつかは考えなければならないことだった。それが、今来たか。チョコレートに浮かれている場合ではなかったのか。
何度も考えたことだった。コンプレックスになっていると言ってもいい。俺で、本当にいいのだろうかと。千反田の人生に、責任を持てるのかと。
加えて、少し頭を冷やしてみれば、これは気の早すぎることのようにも思える。俺たちはまだ高校生なのだ、未来も何も決まっていない。千反田の気持ちは嬉しい。だが、それは一時の高揚からくる勇み足ではないだろうか。千反田は、あとで後悔しないだろうか。
そして一方で、俺は後悔しないのか。ベッドの上で千反田に囁いた『ずっと』という気持ちに嘘はない。それは俺の心からの言葉だ。俺の心はがっちりと、甘美に、千反田にとらわれている。後戻りなんかできないと思う。
しかし、気持はともあれ、それは長期的に合理的なのか。
千反田は、自分が俺の潜在能力を引き出す鍵の役割を果たしたとしたら、それは幸せなことだと言った。俺は、それは千反田の妄想ではなく、事実だと思う。
省エネ主義を標榜し、何一つ目標を掲げず、情熱も燃やさなかった俺は、千反田に手をひかれる様にして次々と問題と引き合わされ、それらを解いた。それは、俺自身知らなかった能力だった。
千反田に頼まれて『氷菓』事件にかかわっていたころ、俺は何かに熱中しているやつらを見て、心がざわつくことがあった。しかし、俺には熱中できる何かそのものがなかった。
それから1年、千反田を好きになることで、俺は初めてエネルギーの無駄だのといったお題目をかなぐり捨てて、遮二無二勉強するという経験をした。俺にとって情熱とは千反田との恋だった。
千反田への恋をばねに勉強した結果、確かな手ごたえとして、俺の力はもっと大きいのだという認識を得た。そして、その力があれば、俺はこの神山市を超えて遠く外の世界に手を伸ばすことができるはずだ。
その世界には、まだ俺が知らないいろいろなことが、俺の情熱を激しく燃やそうと待っているに違いない。俺は大学に進むことでそれらを目にすることになる。それらが、俺を日本中ひっぱりまわすのか、あるいは遠く異国まで飛ぶ翼を与えてくれるのか、今は分からない。
しかし、そのビジョンめいたものは千反田に対するコンプレックスとは別に、俺の中に根を張りつつある。
千反田は、この土地に帰ってくる。彼女自身が最高に美しいとも、可能性に満ちあふれているとも思わないと言い切るこの土地に、分限者の娘としての義務感と、彼女自身のこの土地への愛着をよりどころとして、帰ってくる。
俺は彼女とこの土地が美しく、しかし幾分寂しげに交わる世界があることを知っている。
しかし俺にとって、ここに帰ってくることは合理的だろうか。外の世界に手を伸ばす力を得ながら、みすみすそれを捨てて一人の女のために帰ってくることは合理的だろうか。
俺には合理的だとは思えない。
短い時間だったが、俺は考えを巡らせた。そして結局は、千反田の『深刻に考えすぎています』という言葉に戻ってきた。頭ではなく、自分の心に聞いてみるしかなかった。折木奉太郎は、自分の将来を、千反田えるとの将来を、どう思っているか。
俺は振り向かずに返事をした。
「待っていてくれ」
聞こえるか、聞こえないかの大きさの返事が返ってきた。
「はい」
震えるような喜び、というやつがどういうものか、俺にも理解できた。
◇ ◇ ◇ ◇
自動ドアの外は、さっきの嵐が嘘のような強い日差しだった。熱気に押し戻されそうになりながら、表に一歩踏み出す。千反田は俺の後ろに身を隠すようについてくる。
◇ ◇ ◇ ◇
終わり……かな? できれば一言お願いしたかった。 一晩待ってしまったぜ。
甘酸っぺー! 単なるいちゃこらじゃなく葛藤も多いのが、この二人らしかった。
素晴らしい作品をありがとうございました。 もしよろしければ、ここまでにあったというあれやこれやな事件とやらも読みたいなぁ。
>>426 コメントありがとう。毎回「今日はここまで」って書けば良かったな。すまん。
>甘酸っぺー! 単なるいちゃこらじゃなく葛藤も多いのが、この二人らしかった。
奉太郎が体より頭動かすタイプだし、千反田さんも基本は奥ゆかしいもんなぁ。
進展は遅いとおもうわ。
あれこれは妄想して楽しんでる。
暑い。厳しい夏の太陽が、校舎に向かう俺たちを容赦なく照らしつける。
夏至は一か月以上前だったが、気温は日に日に上がるばかりである。どうして日照時間が一番長く、太陽から受ける熱量が最大の日より、今日のほうが暑いのだろうか。千反田は理系だから教えてくれるだろう。今度聞いてみよう。わたし、気になります。
雲ひとつない空を見上げながら、登校日くらい曇りになってくれてもいいじゃないかと、天の血も涙もない仕打ちに独りごちる。まったく、気がきかない。野暮め。そして野暮と言えば。
「やあホータロー、夏休みを満喫しているかい」
口の軽い里志のお出ましである。いつものマウンテンバイクだ。夏休みに入ってたった10日で真っ黒に日焼けしている。自転車三昧か。
「俺はともかく、その様子だとお前のほうは」
軽口を返してやろうと思ったが、ふと、用事を思い出した。やるべきことは、手短に。里志は言葉を切った俺を、おや、といった風に見ている。もっとも、端から見ればいつもの軽い笑みにしか見えないだろうが。
「里志、話がある」
「ここでいいのかい?」
校門から校舎までの短い舗装道路の真ん中である。無人とは言えないが、まぁ、国家存亡に関わる秘密作戦を論じるわけではない。里志を促して、道の端に寄る。すこし、周囲に気を遣って声を潜めればプライバシーは十分だ。
「千反田と付き合っている」
たっぷり3秒間動かなかったのは、半分くらいは奴らしいポーズだと思う。が、どうやら話の切り出し方そのものは本当に不意打ちだったらしい。めずらしくちょっと不機嫌な顔を、一瞬だけだが浮かべた。
「まいったね。いや、ホータロー。前から気づいてはいたよ。嘘じゃない。だけど、今、ここでその話を打ち明けられるとは思いも寄らなかったね。で、これまで伏せていたのを今更打ち明けるとは、どういう心境の変化だい?」
「深い理由はない。強いて言えば、高校最後の夏をこそこそしないで解放的に楽しみたくなったのさ」
「解放的に楽しみたい?おやおや、これが省エネ主義の折木奉太郎かね。変われば変わるものだね」
「根っこはそれほど変わってないつもりだがな」
「ホータローがそう言うなら、そういう事にしておこうか」
薄笑いを浮かべて里志が追求をやめた。もともと、人の色恋を根掘り葉掘り聞くような奴ではない。
「なんにせよ、その様子だと夏を満喫しているようだね。いいことだよ。ホータローも薔薇色の人生に遅まきながら参加することになったわけだ」
「俺はともかく、その日焼けだとお前こそ夏を満喫しているみたいだな。自転車三昧はいいが、伊原をほったらかしで大丈夫か?」
「やだな、ホータロー。いつから人の恋路の心配をするようになったんだい?それはともかく、言うまでもないけど、僕たち二人は夏休みを謳歌しているよ」
「そうか。それは安心した。ときに里志。お前、受験勉強は大丈夫か」
ぐっと、里志が言葉に詰まる。自転車と伊原三昧で、いつ勉強する気だ。俺が気にすることでもないが、先日の件で少々腹を立ててやる。やるべき事はやり終わったので、いじめてやった。ざまあみろ。
「いやいや、登校日にまさか友人からそんなきつい言葉をもらうとは思わなかったよ」
「言いにくいことを言うのが真の友人らしいぞ」
「らしいね。じゃぁ、僕もホータローへの友情の証としてひとつだけ忠告しておくよ」
そういうと、里志は周りを見回し、人がいないことを確かめて薄い笑みを浮かべながら小声でいやみたっぷりに言った。
「千反田さんをあまりちらちら見るのはやめることだね。古典部の名探偵たるものがみっともないよ」
自分でも顔が赤くなるのがわかった。そんなにあからさまだったか?
「おい、俺はそんなにちらちら見ていないにぞ」
「何を言っているんだよホータロー。君と来たら危なっかしくていけない」
そういうと、ニッコリ笑って里志は自転車にひと漕ぎくれる、先へと進んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇
登校日の放課後の部活は任意だ。校内では文化祭に向けてエネルギッシュな活動があちこちで行われているが、古典部は文集用原稿の進捗確認がおわると、自由解散となった。
里志は伊原に原稿の進捗の悪さをなじられ、ほうほうのていで逃げ帰っていく。伊原も伊原だ、一緒にいたのなら、たまには横について原稿の催促でもすればいいものを。
伊原が里志を怒りながら退場すると、部室には俺と千反田だけになった。千反田が俺に向かい、頬を赤らめて口元に淡い笑みを浮かべる。今日一日、彼女は俺に目を合わせるのを避けていた。気持ちは分かる。あの日以来、逢うのは今日が初めてだ。俺も少し面はゆい。
困って照れ笑いを隠していると、千反田が後ろ手に持っていた封筒を差し出した。
「あの、これを」
「ん?開けていいか?」
「はい」
まさか恋文、と思いつつも封を開けながら気がついた。これは、あれだ。封筒の中には折った紙が入っていて、中にさらに別の紙が包まれている。折った紙を開くといい香りがした。
「いい写真だ。ありがとう」
「いえ」
紙の中から表れた写真をみて、俺は思わずほほを緩める。千反田のほうは頬に両手をあてて横を向いてしまった。
この前わがままを言った雛祭りの写真だ。誰かが撮影したものが千反田家に渡されたのだろう。素人の俺でもこれがなかなかの写真だと言うことはわかる。画面の中央にはくっきりアップで千反田が映っており、背景は幾分暗くなるよう角度が選ばれている。
そのおかげで被写体である千反田が引き立って見える。そして少し気をつけると、うまい具合にぼかされた桜も写っていると分かる。こういう写真は相当高い機材やら腕前がいるはずだ。ひょっとすると茶髪が撮影した写真かもしれない。
「千反田、これはオリジナルじゃないのか?」
「え?」
「おまえんちに一枚しかない写真だろう」
「いえ、私の家にはほかにありますから」
どうも話が通じていないな。
「そうじゃなくて、この写真は一枚きりだろう。コピーとったか?」
「写真ってコピーとれるんですか?」
うむ。こういう俗な話を千反田に吹っかけても無理がある。俺は頬を抑えたまま小首をかしげる千反田にどぎまぎしながら視線を外した。
「わかった。大切なオリジナルをもらうわけにはいかないから、これは俺が写真屋でコピーしてもらったあと、お前に返すよ。俺はコピーでいい」
しばらくきょとんとしていたが、千反田はようやく合点がいったらしく、頬から手を離すと微笑みを浮かべた。
「いいえ、そういうお気遣いはいりません。その写真は千反田ではなく私がいただいたものです。ですから、折木さんの手元で大切にしていただいたほうが、私も嬉しいです」
そういうことなら、遠慮するのはやめよう。千反田からのプレゼントとして大事にしよう。
「そうか。わかった。大事にするよ」
「そうしてください」
しわにならないよう鞄に入れようとして、ふとさっきの香りが残っていることに気がついた。微かにというより、割と主張のはっきりした香りがする。俺は手元の封筒を見た。いかにも千反田らしい和紙の封筒。
「香をたきしめているのか」
「はい」
「さすがだな。いい香りだ。というか、お前に似合っていると思う」
「そう思いますか?」
千反田が頬を染めて嬉しそうに微笑む。
「そう思う。自分で選んだのか?」
「その、自分で作ったのです」
俺は間違い無くその場で目をむいていたと思う。いくら豪農の一人娘とはいえ、高校三年生の恋人が香を自分で作るなんて、想像するか?一方でせっかく恋人にこんな趣味があるのだから、大学に進んだら文通でもしてみようかと思う。
「変でしょうか」
「馬鹿な。変なものか。なんだか、こんな彼女とつきあえるなんて罰が当たりそうだ」
「そんなことないです。香り、どう思いますか」
「うむ」
いい香りだ、と言ってもがっかりさせるだけなのだろう。よくわからないが、もう少し気の利いたことを言わなければならない気がする。コーヒーだって苦みにもいろいろある。
「和風の柔らかい香りではあるんだが、一方で強いというか、主張がはっきりしているな。いや、他の香をよく知らないから適当なこと言っているかもしれないが」
「確かに、少し強さのある香りにしています。きつさとはちょっと違う強さなんですよ」
「いかにも千反田らしい」
「そう思いますか?」
「楚々としたお嬢様かと思ったら、とんだわがまま、おてんばで」
「折木さん!ひどいです!」
「悪かった!怒るなよ」
千反田に詰め寄られて、俺は笑いながら思わずのけぞる。互いに見つめあって、微笑み、そして急に二人とも照れてしまった。やはり、ああいうことがあると平常心を保ちにくい。
「では折木さん。私たち二人だけですし、戸締りをして帰りませんか?」
「そうするか」
俺たちは二人で戸締りをすると、職員室に鍵を返して帰路に就いた。
◇ ◇ ◇ ◇
今日は半どんだったから、今は一番暑い時間だ。校内には結構な生徒が残っているが、帰るやつらはもう帰ったのだろう。半端な時間なせいで帰り道は生徒が少ない。千反田の自転車は俺が押していく。
通学路には街路樹の一本も植わっていない。直射日光にあぶられて、俺は顎が出そうになる。千反田は大したもので、いつもどおり、姿勢よく歩いている。こいつは日光にあぶられても平気で、しかも俺の推測するところでは日焼けしない。
というか、毎日自転車で長距離通学してこれほど色が白いとは、どういう事だ。
「奉太郎さん」
「なんだ」
「今日、摩耶花さんにお話をしました」
お話とは当然、俺たちが付き合っていると言う話だ。
「そうか。何か言っていたか」
「ちょっと困っていたようです」
少し顔を伏せて微笑みながら千反田が話す。
そりゃ、伊原はさぞかし困っただろう。俺と伊原は小中学校9年間同じクラスで、高校は3年間同じ部活だった。が、あいつの中での俺の地位は基本的に「無視できるなら無視する」相手以上にはなっていない。
嫌われてはいないとは思うが、話をするのだって、里志がらみだから仕方なく俺と話をしているといった程度だ。そんな奴と付き合うことになったと打ち明けられても、返事のしようがなかったろう。
『よかったね』とも『やめなよ』とも言えず言葉に詰まる伊原の顔を思い浮かべておかしくなった。
「俺も里志に話した」
「福部さんは何かおっしゃってましたか?」
千反田が頬を染めて聞く。
「驚いていたよ。いや、付き合っていることは感づいていたらしいな。俺が打ち明けたことが驚きだったらしい」
「やはりご存じだったのですか。摩耶花さんもご存じだったそうです」
「まぁ、徹底的に隠していた訳じゃないしな」
原稿執筆の強制になだれ込んでいなければ、今頃里志と伊原は相互の情報の確認をしているころだろう。次の登校日には、俺たちは互いにどんな顔をして会うのだろうか。打ち明けたとは言え、お互い、自分の色恋をぺらぺら語るような人間でもない。
ひょっとするとこれまでと全く変わらないかもしれない。
「そう言えば奉太郎さん」
他愛もない妄想をしていた俺の横で、千反田が思い出したように話を振った。思わず身構える。ひょっとしてあの日の安請け合いのつけがもう来たか。
「どうした」
「もうお二人には話してしまいましたし、これからは特に私たちのお付き合いの事は伏せなくてもよいのですよね」
「ああ、そうだな」
ほっと溜息をつく。よかった。妙な話ではないらしい。
「でしたら、その」
と、言葉を切る千反田は、頬を赤らめて伏し目がちで歩いている。おい、前を見ろ。危ないぞ。
「部室では、『奉太郎さん』と、お呼びしてもいいですよね」
思わずうなり声を返した。あの二人の前で名前を呼ばれるのか。
「まて、いきなり変えるのはどうなんだ。伊原だって里志と付き合いだしても呼び方を変えなかったろう」
「でも、摩耶花さんははじめから福部さんの事を愛称で呼んでいましたよ」
確かに。ふくちゃんふくちゃんふくちゃんとうるさかったな。
「部室の中でだけって、それじゃ学校のほかの場所でうっかり下の名前で呼んでしまうんじゃないか」
「確かにそうですね。それでしたら、学校の中ではずっと『奉太郎さん』とお呼びすることにしてはいかがでしょう」
俺は思わず目を瞑った。それはつまり、いつでもどこでも『奉太郎さん』と呼ぶってことだな。千反田の自転車を押していなかったら眉根を揉みたい気分だ。
「まぁ、うん。わかった。反対はしない」
「嫌なのですか?」
「そうじゃない。なんというか。気恥ずかしいだけだ」
「気恥ずかしいのは、私も同じです」
だったら無理しなければいいのに、と思うが、それは例によって俺が頭からひねり出した理屈でしかない。千反田は、また頬を染めて下を向いている。
「える、前を見て歩け。危ないぞ」
「奉太郎さんも『える』って呼んでくださいね」
「呼んでるだろう。
……ちょっと待て」
俺は千反田のほうを振り向いた。だからちゃんと前を向いて歩けよ。
「学校で呼べっていうのか」
「はい」
そんな甘い声を出してもだめだ。俺は嫌だぞ。
「いくらなんでもだめだ。誰も学校で自分の彼女を下の名前で呼んだりしてない」
「福部さんは呼んでいますよ」
あの野郎。
「奉太郎さん?」
「なんだ」
「『える』って呼んでくれないと嫌です」
俺は太陽にあぶられながらもう一度唸り声を洩らす。ひと気の少ない通学路。隣を千反田が歩いている。微笑みながらかすかに顔を伏せ、頬を染めて俺の言葉を待っている。
(おしまい)
GJGJGJ!!
長い間お疲れ様でした
えるちゃんが可愛すぎてもう……もう!
素晴らしい作品をありがとうございました!
以上、「ふたりの場所」おしまい。
長々投稿して申し訳なかった。最後まで読んでくれた人、ありがとう。
タイトルはもう少し気の利いたものにできれば良かったけど、書き上がったあと思いついていないようだと、
もうだめだな。「ふたりの距離の概算」のパクリみたいな、しかもまるで深みに欠けるタイトルになった。
>>433 ありがとう!
入れ違い投稿になってしまった。千反田さんは奉太郎が「変な奴」と思っているだけで、
可愛い子だよな。「付き合っているときには少し甘えんぼになるのではないか」と想像
しながら書いたよ。
>>434 GJ!
長丁場よく纏めていると感嘆しました。
毎朝2chチェックって、どこの中坊だ、俺?(^^)
wktkな日々をくれて有難う。
すごく面白かった!
終わる気配がなくてずっとコメント出来なかった
ほうたるの心境が変化してるのがなんとなくわかってくる
438 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/05(月) 22:17:17.85 ID:rfZ5siDm
GJ! 本当に素晴らしかった。
堪能させて頂きました〜。
長い間投下お疲れ様です、GJ!
毎日楽しみにしていました。
素晴らしいものを読ませて頂いてありがとう。
終わってしまうのが寂しい...
力作、堪能させてもらいました。
お疲れさま
>>436-440 コメントありがとう。もうね、途中誰も読んでないかと思ってた(w
>>437 心境変化読み取ってくれて嬉しい。原作のテーマの一つでもあるし、
何らかの形で彼の気持ちの変化らしきものを書かなきゃと思ってた。
442 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/10(土) 05:38:06.49 ID:auEgj1j9
これは良いものだ
エロ無しですまん。
「春の夜」
思い浮かべたのは折木さんの姿でした。
傘持ちを引き受けてくれる子に心当たりはないかと聞かれたのは夕食の後の団らんの事でした。考えるより早く、「あります」と答えていたことには自分でも少し驚きました。きっと顔には出ていなかったと思います。
折木さんと出会ってから、1年経ちました。
「やらなければいけないことなら、手短に。やらなくてもいいことなら、やらない」
そう言っていつも面倒ごとを遠ざけるわりには、わたしが困っていると助けてくれました。それを折木さんが、「千反田に抵抗するだけエネルギーの無駄だ」と嘆息していることは知っています。でも、本当に嫌ならば折木さんは「嫌だ」と言えばすむことです。
いくつかの小さな事件と叔父の昔の事件に関わる謎を折木さんが解いた頃には、わたしにとって折木さんは特別な人になっていました。
特別、といってもそれは好きになっていたということではないようです。わたしはまだ恋をしたことがありません。ですから、これが好きということなのか、好きということでないのかと考えてみると、本当はよくわからないのです。
でも、本で読むいろいろな恋の話とくらべてみても、わたしのこの気持ちはどうやら恋ではありません。折木さんの事を考えるだけで胸が痛くなったり、自然と目があの人の姿を追ったり、声をかけられるだけで心臓がどきどきするといったことは、わたしにはありません。
きっと折木さんはわたしにとって、これまでで一番仲のいい男の方、ということなのだと思います。折木さんがどうやって、謎を解くのか、わたしは気になります。
もちろん、それはわたしが理解できることではないのでしょうけれど、それでも折木さんが謎を解く姿を横で見ていると、わたしは嬉しくなります。折木さんが謎を鮮やかに解く姿を、何度でも見たいと思います。
先月、摩耶花さんのチョコレート作りのお手伝いをしました。といっても、私がお手伝いしたのはチョコレートの味見くらいものです。
摩耶花さんが丁寧に彫刻を施した木枠で型を取ったチョコレートは、紆余曲折がありましたが、折木さんのおかげで無事福部さんのもとに届いたそうです。
その出来事を見ていて、折木さんの事を考えるようになりました。
私は、大学に進んで農業技術の勉強をします。そして、この土地へ帰ってきます。千反田家が長く運営しているこの地方の農業は、今では栄えているとは言えません。千反田の娘として、いくらか元気のなくなったこの地方の農業に対して何らかの貢献をしたいと考えています。
そのために大学に進んで、勉強をして、そして帰ってきます。
バレンタインデーの事件のあと、折木さんの事と、この土地の事を何度も考えました。私にとって折木さんはどのような方なのでしょう。
もし、長いおつきあいをしたいと考えたとして、私が大学に進み、この土地に帰ってくるということと、折り合わないのではないでしょうか。私がそれを望んだとしても、折木さんはこの土地に戻ってくることを望むでしょうか。
わたしたちの年頃で、そんな先のおつきあいまで考える必要はないのかもしれません。でも、この土地に戻ってくると決めている私にとっては、おつきあいにしても、その、戻ってくるという、既に決めたことの上でしかできないことなのです。
何度も何度も、そのことを考えました。
折木さんは私にとって、特別な人です。一番親しい男の方です。いつも、面倒なことは嫌だというくせに、私には思いもしない方法で、謎の核心までたどり着くことができます。はたから見えるよりも、ずっと優しい心を持った方です。折木さんが謎を解く姿を見るのが、好きです。
この気持ちを、先へと進めてみようと思います。
この気持ちは恋へと変わるのでしょうか。恋へと変わったら、私にはどんな風に折木さんが見えるようになるのでしょうか。その恋は、これからわたしたちが卒業するまで、そして卒業してからも続くでしょうか。
あした、折木さんに電話をします。
以上。
この先二人はどうなるんだろう、といくら考えても、
米澤だからなぁという不吉な前提から逃れられない罠。
GJ
よねぽ「お前らだけ幸せになろうったってそうは問屋が卸さない」だからねぇ
不幸体質なのね
古典部の最終話がさよなら妖精だったとか聞くとくっつかなさそうだもんなあ
>>445 GJ 千反田かわいい。
449 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/15(木) 11:59:41.58 ID:PEjPLCDZ
えるの折木への気持ちが、単なる期待
なのか、恋愛感情を含んだものなのか、
これから明らかになるんだろうな。
雛の告白が、入須から伝授された
「人目につかないところで、異性に
頼むことだ」を実践しただけでした
なんて落ちはごめんだけど。
入須が伝授したのは交渉術であって、告白術じゃないぞ
正直、ほうたる-える、里志-摩耶花のラインはドライでお手軽なエロパロは想像
しにくいんだよな。どうしてもキャラが崩れる。
古典部シリーズでその辺を何とかしてくれるのは陰のヒロインの沢木口先輩じゃ
ないかと思うんだが。沢木口×お料理研審査員とか。
新作投下
「告白の行方」
またエロがない。すまん。
あ、間違えた。トリップこっち(w
胸が張り裂けそうになって、どうしていいかわからなくなりました。
もう何日も、あの人のことを考えています。兆候はありました。自分でも気づいていました。あの人のことを考えると、気持ちが浮き浮きすることに。でも、それは恋ではなかったはずです。それが、気がついてみれば、わたしの目はあの人のことを追い、
あの人の言葉一つ一つに一喜一憂し、声の調子に舞い上がるようになっていました。
あの人に恋をしてしまいました。
この気持ちを胸の奥にしまってしまおうとも思いました。でも、苦しくて苦しくて、そんなことはとてもできそうになりません。幾晩もの眠れない夜を過ごしたあとに、わたしはあの人に自分の気持ちを告げようと決めました。
わたしだって女の子です。できることなら、告げた言葉は報われて欲しいと願います。そのためにはあの人に少しでも自分の気持ちが伝わるようにしなければなりません。もう少し言えば、あからさま過ぎる気もしますが、わたしはあの人とおつきあいしたいのです。
おつきあいしてくださいとお願いしたいのです。おつきあいしてもいいですよ、と返事をいただきたいのです。
でも、わたしは人にお願いをすることがとても苦手です。このまま気持ちを告げ、交際をお願いしても断られるかもしれません。そんなことを考えるだけで、涙があふれそうになります。
わたしはなんとしても、この告白を成功させたいのです。でも、わたしにはとてもそんな力はありません。
なにか考えなければなりません。
◇ ◇ ◇ ◇
3年生の教室を訪れるのは緊張します。
わたしたちは同じ学校の生徒ですし、文化祭の時には上級生のクラスを何度も訪れました。でも、やはりひとつ上の学年の先輩方は、みなさんわたしより大人に見えてしまいます。わたしは家の関係で大人の人とあう機会がたくさんありますが、
学校の先輩方と話すのは少し、違うようです。
入り口で会った方に丁寧に挨拶して取り次ぎをお願いしました。ほんの少し、お待ちするだけで、その方は出てきました。
「ああ、お前かどうした」
「お願いします。入須さん!わたしに告白させてください!」
深々と頭を下げて精一杯お願いしました。入須冬美さんはわたしたちのひとつ上の先輩です。この方とは学校に入る前から千反田家を通したおつきあいがありましたが、わたしが神山高校に入学してからは、文化祭を通じてすこしだけおつきあいが濃くなりました。
見た目の落ち着いた方で、ほかのみなさんは取っつきにくい方だとおもっていらっしゃるようですが、そんなことはありません。以前の文化祭でも、文集の刷りすぎに困っていたわたしたちを助けてくださいました。
頭をあげて、返事をお待ちします。1秒待ちます。2秒待ちます。3秒待ちます。
「?」
首をかしげました。入須さんは困ったように目を閉じ、眉間にしわを寄せています。いけません。せっかくおきれいなのにそんな顔。でも、心なしか頬が赤いようです。
やがて周囲ががやがやとしてきました。ということは、今まで静かだったのでしょうか。
「お前はまったく。ちょっと来い」
「え!あの!」
腕を掴まれて、問答無用でその場から連れ去られました。どういう事でしょう。入須さんは乱暴なことをする方ではありませんから心配はしていませんが、これから何が起きるのかわからないのは困ります。
「千反田」
「はい」
わたしは人通りの少ない部室棟の階段まで連れてこられました。時々人が通りますが、ここならば落ち着いて話ができます。わたしのお願いもしやすい場所です。何も話していないのに、そこまで気がついたのでしょうか。だとしたら、やはり入須さんはすごい方です。
「お前、さっきなんと言った」
「え?」
「私の教室の前で、なんと言った」
わたしは記憶には自信があります。
「『お願いします。入須さん!わたしに告白させてください!』」
「教室の隅々まで通る、いい声だったな」
「……」
いけません、何てことでしょう。今まで気がつきませんでした。思わず口を押さえてしまいます。
「今更口を押さえても遅い。念のため聞いておくが、お前が告白したい相手は、まさか私じゃないだろうな」
「ちがいます!」
大きく首を振って答えました。あ、こんな風に即答しては失礼でしょうか。聞いたところでは入須さんは女子の間でも人気があるそうです。私には女の子どうしのおつきあいというものはわかりませんが、先輩はとても人気のある方なのです。
とにかく、変な誤解を受けることを大声でしてしまったようです。とにかく、それはわたしのお願いではありません。
「入須さん、ごめんなさい。誤解を招く言い方でした。わたしはある方に告白をしたいのです。ずうずうしいとは思いますが、どうすればいいのか教えていただけませんでしょうか」
改めて言い直しましたが、体中がかっと熱くなりました。大声ではきはきと言うことではありません。入須さんはわたしを見つめたまま大きくため息をつきました。
「『告白』か」
「はい」
「確認するが、男だな」
「はい」
顔がまた赤くなりました。
「恋愛指導は私の得意とするところではないが」
思わず息を呑みます。
何かをお願いするときのやり方については、入須さんから教わったことがあります。残念ながら丁寧に教えていただいたそれは、わたしには使いこなせないものでした。仮に使いこなせても、ここで先輩に告白のご指導をお願いする技術としては使えそうにありません。
だって、教えてくださったご本人です。もし断られたら、わたしはどうすればいいのでしょうか。
「お前の事だから私のところに来る前に、自分でそれなりに悩んだのだろう。普段なら断りたい所だが、他ならぬ千反田の頼みだ。責任はとれないから『助けてやる』、とはいわないが、ポイントらしきものなら教えてやろう」
「ありがとうございます!」
断られずにずんだので安心しました。なんだか入須さんのこんな言い方は、あの人に似ているようで、おかしくなりました。
「ところで告白する相手だが、いったい誰なんだ。どんな相手かわからないことには指導のしようがないぞ」
「それは…」
聞かれてわたしは言いよどみます。ちゃんとお答えしなければならないことはわかっています。わたしがお願いしているのですから。でも、やはりその名前を出すのは少しはばかられます。
「そうか。まあいい。私のほうで勝手に相手の想定するイメージを作り上げるから、違っていたらお前のなかでやりかたを修正しろ。どこが違うか答える必要は無い。ただ、適切なアドバイスにならないこともありえるぞ。それはいいな」
「はいっ」
やはり入須さんは優しい方です。こんな素敵な先輩とお知り合いになれたことは幸せです。
「で、相手だが。こんな奴だと仮定してみる。
学年はお前と同じ。文化系のクラブに属していて、身長はお前より少し高いくらい。中肉中背というよりは少し細いイメージだ。賑やかではなく静か。よく読書をしているが、積極的にしているというより、時間つぶし。
ぶっきらぼうでめんどくさがりだが、頼まれれば仕方なく引き受ける程度には優しい。成績は可もなく不可もない。頭は自分で言っているよりは切れる」
「…」
「どうした」
「あの…」
「見当違いか」
「いえ……だいたいあっています」
どういうことでしょう。ほとんど当たっています。あの人の事を言っているとしか思えません。皆さんがおっしゃるように入須さんは何もかもお見通しなのでしょうか。それとも、わたしは顔を見ればわかるほどあの人への気持ちを漏らしているのでしょうか。
「そうか」
先輩は表情を動かさずに、じっとわたしを見ています。ちょっと、というか、とても恥ずかしいです。
◇ ◇ ◇ ◇
「で、その相手だが」
「はい」
入須さんは話すときに相手の目をまっすぐ見てお話をする方です。私は普段から姿勢よく心がけていますが、先輩の前だと一層背筋がぴんと延びる気がします。
「付き合っている相手はいないんだろうな」
「え……あの…いないはずです」
たぶん、あの人には付き合っている人はいないと思うのです。なぜなら、放課後はいつも部室にいますし、それもたいていは下校時間のチャイムが鳴るまで本を読んでいます。
もし、付き合っている人がいるのなら、こんな不毛な、あ、間違いました、あまり活発でない部活など切り上げて、二人でさっさと帰ると思うのです。
「そうか。ならいい。千反田、次の週末、そいつをデートに誘え」
「えっ!」
「驚く事はない。付き合いたいんだろう」
「でも…そんな…まだお付き合いしていないのに」
「いまどき彼氏彼女じゃなくても中学生だってもデートくらいするぞ」
「そうでしょうか」
「そうだ」
「あきれられないでしょうか」
「だれに」
「あの人に」
「考えすぎだ」
先輩は目を閉じて大きくため息をついています。私のほうはというと、のっけから難しそうな話で困ってしまいました。お付き合いもしていないのに、まして女のほうからデートに誘うなんて、あの人に何と思われるでしょうか。
「じゃぁ、こうしろ。映画に誘え」
「映画、ですか?」
「そうだ。映画になら誘いやすいだろう」
「ええ、でも…なんと言ってお誘いすれば」
「『見たい映画があるが、一人で行くのはつまらないから一緒に行ってくれ』でいい」
「でも、もし『興味がない』って言われたらどうすれば…」
「押し切れ」
「え?」
「強引に押し切れ。千反田、1年の文化祭で人に頼む方法を伝授したのを覚えているか」
「はい。でも、あれは」
「そうだ、あれはお前がやると甘えたように聞こえる。だから、使うなと言った。だが、」
そこで入須さんは言葉を切りました。
「少し甘えてみろ」
「いいんでしょうか」
心配になります。1年生の文化祭では教えられたことを実践してみたのですが、どうも人に甘えるような声色になるというので、あきらめたのです。わたしはそれ以来自分が人に頼み事をするのが苦手だと意識しています。
「どうせ付き合いだしたら甘えることになるんだ。むしろそう言う状態が目的じゃないのか」
「ええと」
言葉に詰まります。わたしはあの人に甘えたくておつきあいしたいのではないのですが、なんとなく『恋』という言葉の甘い響きにあこがれているのも本当です。
「『興味がない』と言われたら『いやですいやです、一緒に行ってください』くらい言って見ろ。向こうが勝手に折れる」
「…」
わたしの声色をまねしたのだと思いますが、入須さんの珍しい話し方や仕草にちょっと言葉を失いました。確かに可愛いですね。入須さんのこんな姿を見たら男の人はみなさん抵抗できないのではないでしょうか。
「確かに、かわいいですね。わかりました。やってみます」
「そんな目で見るな」
ちょっとだけ目を伏せて、入須さんが顔を赤らめます。ほんとうに珍しい表情です。それはともかく、確かに甘えるというのはいい方法かもしれません。あの人は『面倒だ』などと言いかねません。そのときもこんな風に甘えて押し切ってみましょう。
わたしは図々しく振る舞うのは好きではありませんが、告白という場面は、特別な気がします。
「では以前教えていただいたように『ふたりきりで』というのもいいのですね」
「あたりまえだ。何を考えている。衆人環視のなかで告白なんかするものではないぞ。脈があっても断られかねない」
「は、はい。わかっています」
怒られてしまいました。
「それからデートのコースだが」
「…やはりデートなのでしょうか…」
「『映画』というのは方便だ。それとも本気で映画鑑賞でもするつもりなのか」
「いえ…」
やはりデートと言われると恥ずかしくなります。
「最初の1回だけはお前が考えろ」
「はい……でも、どこに行けばいいのでしょうか」
「映画を見終わったら喫茶店と相場は決まっている。午前中の映画なら、喫茶店で昼食でもいい」
「はい」
「そのときに、お前が全部計画して仕切っているように見せるんじゃないぞ」
「え、あの、でも、わたしが……デートの計画をたてるのではないでしょうか」
「そうだ。だが、それを完全に計画していると気づかせるな」
「どうすれば…」
なんだかわたしにできる気がしなくなってきました。
「簡単だ。映画が終わったら『このあとどうしましょう。ケーキの美味しいお店を知っているのですが、もしそこで良ければご飯にしませんか?』と言えばいい」
「ご飯の後にケーキではちょっと」
「その辺は自分で考えろ」
入須さんがばつの悪そうな顔をします。でも、わたしには入須さんのおっしゃる意味がわかりました。あらかじめ計画しておいて、それをその場で思いついたように提案すればいいのです。
「そして喫茶店が終わったら散歩だ。これも定番だといっていい」
「どこを歩くのでしょうか」
「どこでもいいが、古い街並みのほうが趣がある。歩道の広いところにしろ。遠足じゃないからあまり遠くに行くなよ」
「はい」
さすがです。『恋愛指導は得意としない』とおっしゃっていましたが、入須さんに言われて、わたしは週末にどうすればよいかわかってきました。あの人と二人で歩く様子が目に見えるようです。
「そして散歩が天王山だ。終わる前に2人きりになるところを見計らって告白しろ」
「は、はい。あの、散歩のさなかでいいのでしょうか」
「散歩のさなかが重要だ」
そうなのでしょうか。
「学校でいきなり告白しても、日常からいきなり非日常に連れ出されて相手が戸惑うだけだ。だが、一緒に映画を見、喫茶店で食事し、二人で歩いた後だ。相手にもお前と付き合う様子が想像しやすくなっている。これ以外にないほどいいタイミングだ」
「なるほど。雰囲気を作るのですね」
「そうだ」
入須さんが少し微笑んでくれました。
「でも、なんと言えば」
「お前、そいつのことを好きじゃないのか」
「……好きです」
顔に血が上るのがわかりました。相談しているのはわたしですが、あまり面と向かって聞かれたくありません。
「だったら、そう言え。あとは付き合ってくれと言えばいい」
「はい。あの、でも」
入須さんのおかげで、どうすればいいのかわかってきました。甘えて映画で喫茶店で散歩で告白です。でも、大丈夫でしょうか。
「大丈夫でしょうか」
「絶対とは言えない」
入須さんはわたしの目をまっすぐ見ます。こんなとき、いい加減な繕いの言葉を言わない方です。
「だが、私は十中八九大丈夫だとおもっている」
「なぜでしょう」
「お前に交際を求められて断る男子、というのが想像できないからだ」
そういって入須さんは少しだけ笑顔になりました。その御言葉は嬉しいです。元気づけられます。あの人は私の事を少しぞんざいに扱うことがありますが、それでもいざというときには大切にしてくれています。嫌われてはいないはずです。
入須さんが大丈夫とおっしゃるのなら、間違いないでしょう。
「わかりました。入須さん、今日はほんとうにありがとうございました。わたし、勇気がでました」
そういってお辞儀するわたしに、入須さんは
「がんばれ」
と声をかけてくれました。
◇ ◇ ◇ ◇
喜怒哀楽を顔にだしすぎないようしつけられているのだろう。千反田は大げさな表情を作らない。それでも、小さな微笑みをうかべて明るい顔であいさつし、去っていく。本人はどう思っているか知らないが、どう転んでも失敗はしないだろう。
定番のコースがどうのなどというのは、千反田本人を落ち着かせるための大道具に過ぎない。
「定番のコースで恋が叶うなら、誰も苦労しない」
小さくため息が漏れる。
教室に戻る前に、すこしだけ廊下に立って表を見ていた。
◇ ◇ ◇ ◇
あの人はまだ部室にいらっしゃるでしょうか。
入須さんの教えを受けて、今の私はさっきまでの心配が嘘のようです。重苦しかった胸のつかえが消えました。髪に触れる風がいつもよりさわやかに感じます。昨日までと違う廊下のようです。わたし、駆け足になっていませんか?浮かれすぎていませんか?
とにかく、思い切って誘いましょう。甘えて映画で喫茶店で散歩で告白です。あ、いけません。顔がちょっと熱をもっているようです。
地学講義室の扉を開けます。
「おそくなりました」
「千反田か。おそかったな」
居ました!そして福部さんも摩耶花さんもいません。今しかありません。心臓の音が急に大きくなった気がします。
「あの、折木さん!」
「なんだ、どうしたっ」
歩み寄ったわたしに折木さんがのけぞります。いけません。また近づきすぎました。いつもしかられているのに。一歩下がって深呼吸しました。折木さんは警戒するようにわたしを見ています。でもだいじょうぶです。わたし、がんばります。
「折木さん、わたしとおつきあいしてください!」
「………え?」
………失敗しました。
なんてことでしょう。あれほど入須さんの教えのとおりにしようと念じていたのに、最初から間違ってしまいました。
いけません、これでは映画も喫茶店も散歩もできません日常の中の非日常ですおことわりされてしまいますそんなのこまりますいやですでもどうしたらいいのかわかりません
わたし……
◇ ◇ ◇ ◇
「とっても素敵な映画でした。やさしくて、まっすぐな映画です。ほんとうに見に来てよかったです」
「……」
「折木さん?」
「え?あ、うん」
「あまり楽しくなかったですか?」
「いや、そういうわけでは」
「では、何か」
「いや、いいんだ」
「ひどいです。ちゃんと言いたいことがあったらいってください」
「いや、しかし。せっかく楽しそうなのに水を差すのはどんなものだろうか」
「ええ?わたし、そんなに心の狭い女じゃなりません。言ってください。何が気にくわなかったんですか」
「気にくわないというわけじゃないが…あえて言えば、豚のなかから親を選ぶシーンは陳腐すぎるな」
「ひどいです!あのシーンがだめなんて折木さんはひどい人です!せっかくの楽しい気分が台無しです!」
「おい、話しがちがうぞ!」
そう言うわけで、折木さんとわたしはおつきあいしています。今日はこのあと、ケーキの美味しい喫茶店で食事をした後、散歩をする予定です。
(おしまい)
やまなし、いみなし、おちなし orz
エロパロスレだし、エロくないなら投稿しない方がいいだろうか。
gjすぎる。千反田も可愛いが入須も可愛いな!
エロなくても気にせず上げちゃえよ〜と個人的には思うけど
スレの流れによっては荒れることもあるから難しいね。
適度に空気読めば大丈夫なんじゃないかな。
繰り返しになるけど自分はエロなくてもガンガン上げて欲しいです。
新作来てた!今回もGJです!
エロパロというか実質二次(一次)創作ss発表板みたいなものだからあまり気にしなくてもいいと思いますよ
毎回エロが入ってると愚息が疲れてしまいますしね
クララ白書を思い出した…
もうお前が米澤になれよ
千反田さんが見られるだけで幸せです。
唐突だが伊原は性交よりも自慰の方が似合うと思う。
> 定番のコースがどうのなどというのは、千反田本人を落ち着かせるための大道具に過ぎない。
大道具なのですか!
この甘さ、イイ
みんなコメントありがとう。
>>465,466
じゃ、お言葉に甘えて。空気読みながらゆっくりやるよ。
>>467 Amazonで調べたけど絶版だね。しかも中古価格が高い。人気作なのか。
>>470 >大道具なのですか!
恋の舞台さ!
涼しくなったし連休なので新作投下
「腕の中」
腕の中に抱き寄せられて、ため息をついた。
デートの終わりは軽い散歩。ゴールデンウィークだから夕方もだいぶ明るいんだけど、少し暗い人目につかない場所なら、不埒な二人はキスくらいできる。
不埒と言えば、ふくちゃんくらい不埒な男の子はそうはいない。乱暴とか無謀とか無知とかといった言葉とは無縁だけど、ふくちゃんは精神的に不埒なんだと思う。
わたしはと言えば、不埒とはほど遠い。けれど、なぜだかふくちゃんに振り回され気味。付き合う前はこんな風になるとは思ってなかった。ふくちゃんも少し驚いているんじゃないだろうか。
わたしは学校では堅物の強気キャラで通っているし、ふくちゃんも柳に風って感じ。それが付き合ってみたら少し違ってた。
もちろんたいていはいつも通り。映画を見るときも、ウィンドーショッピングも、おしゃべりも、ご飯のときも、たいていはいつも通り。どちらかというとわたしが振り回して、ふくちゃんはおとなしく振り回される方。
でも、腕を掴まれると、わたしは急に弱くなるって気がついた。腕を掴まれて、ふくちゃんに引き寄せられて、その腕の中に収まってしまうと、わたしはもう駄目。
初めてのキスの時だって、ロマンスのかけらもないような場所だったから文句のひとつも言おうと思ったのに、いざとなると、文句なんか出ない。腕の中でため息をつくのが精一杯。多分それがふくちゃんにもわかっているのだと思う。
段々大胆な場所で抱き寄せられたり、唇を奪われるようになった。それでも、出るのはため息ばかり。後で文句を言うわけにも行かない。だってわたしだって喜んでる。
ふくちゃんの腕の中で、わたしは何もかも忘れる。月曜日の勉強の予習も、来週に終わらせなければいけない課題も、まだ少し引きずっている漫研のごたごたも、濃い霧に包まれたようにわたしの視界から消えてしまう。あるのはふくちゃんの腕の中に居るという安心感だけ。
口にできるのはふくちゃんの名前だけ。
なんて思っていたら、
「ねぇ、ふくちゃんは私の事抱きたい?」
とんでもないことが口をついて出てしまった。自分の言葉に体がびくっと震える。いくらふくちゃんの腕の中が心地いいからって、安心するにも程がある。ずっと考えてたことがだだ漏れにになってしまった。まだ肌寒いのに体が熱くなって背中に汗が出てくる。
「そうだね、もちろん抱きたいよ」
そんなことを言われてますます汗が流れる。心臓が早鐘のようになっているのがわかる。どうしよう。ふくちゃんが望むのなら、わたしは7割くらいは覚悟ができていると思う。でも、今日はタイミングが少し悪い。といって、言い出したのはわたしだから断るのも変だ。
身を固くしてそんな心配をしていたわたしの頭の上に、ふくちゃんの手がぽんと置かれる。
「でも、今日は抱かない。しばらく先の話だね」
そんなことを言われて、言葉の意味を考えてしまった。ここは『わたしに魅力がないから?』などと膨れてみせるべき所だろうか。たとえそう思っていなくても。
「どうして?」
「答えることはできるけど、その前に質問していいかな」
「うん、いいよ」
本当は質問に質問で返されるのは嫌いだけど、今はふくちゃんの腕の中だから、わたしには何もできない。
「摩耶花は僕に抱かれたいのかい」
花の乙女に何てことを。ストレートなところがふくちゃんの魅力だとはいえ、これは酷い。でも、話の口火を切ったのはわたしだ。
「覚悟はできていると思う。でも、ちょっと怖いかな」
正直な気持ちを口にした。ふくちゃんが喉の奥で笑う。馬鹿にされたのではないと思う。
「じゃぁ、先のことでいいよ。僕は今はこうしていたい」
「いいの?」
「摩耶花のこんな所は貴重だからね」
「……」
「だって考えてご覧。あの摩耶花が、僕の腕の中でだけ、安心したようなため息をついてじっと抱き寄せられるがままになっているんだよ。誰にも見せない姿を僕だけに見せてくれているんだ。男冥利に尽きるね。僕にとっても至福の時間さ。
腕の中のこんな摩耶花を感じられるなら、自分の欲望なんて少しくらい横に置いておけるよ」
そっか、と思った。やっぱりふくちゃんはわかっている。彼の腕の中がわたしにとってどれほど大切な場所なのか、ちゃんとわかってくれている。ふくちゃんを選んで良かった。そして、ふくちゃんがわたしを選んでくれて良かった。待った甲斐があった。ため息が漏れる。
でも、もう一つわかった。ふくちゃんはわたしたちが深い関係になったら、わたしが変わってしまうかもしれないと思っている。自分も変わると思っているかもしれない。
ふくちゃんに抱かれたら、わたしは変わるのだろうか。こんな風に目を閉じて、腕の中でわたしを痛めつける世界を忘れることもできなくなるのだろうか。大人になるとはそういう事だろうか。
「寒くないかい?」
「こうしていると暖かいよ」
そう、とても暖かい。ふくちゃんの腕の中にいるだけで、わたしは外の世界の寒さも、つらさも忘れる事ができる。ふくちゃんはわたしの理解者だ。誰も気づかないようなわたしの表情を読み取って、笑ったり、気遣ったりしてくれる。
その彼に、きっとわたしは初めてを捧げることになる。それはまだちょっと怖いけれど、今はこうしてふくちゃんの腕の中で目を閉じて、未来の怖さも忘れていよう。
(おわり)
投下ペース速ぇw
それでいてキャラ崩壊もしていないのが凄いな
えるちゃんが好きなのに伊原に傾きかけてるぜ……GJ!
>>471 クララ白書&続編アグネス白書は、氷室冴子さんのベストセラーで
中学高校の女子校寄宿舎物語。
30年近く前に、映画化も漫画化もされたことがある。
むしろ図書館にあるかもしれないよ
>>472 伊原もふくちゃんも原作通りで嬉しい。GJ!
>>474 ちーちゃんもいいけど伊原もいいよ。
>>475 氷室冴子って名前は本屋でよく見たよ。改めてアマゾンで検索したけど
知っている名前の本が何冊もあった。
>>476 サンキュー。キャラが壊れていないなら幸い。
頭の中に嫌なネタがこびりついているので、ここで吐いてつぶしておく。
--------
その女性は年の頃なら二十歳。進学前につきあっていた恋人を両親に紹介し、将来を約束していると告げたが、彼の背景が農業ではないことから反対され、無理矢理別れさせられた。
大学では勉強に専念しようとするが、仲を引き裂かれた恋人のことが忘れられず、友達もできない。毎日一人で来て、一人で部屋に帰る生活。やがて構内の一角に古いサンルームを見つける。読書会の集会所だったらしいそのサンルームで、彼女は一冊の日記と出会う。
日記はかつてその読書倶楽部に所属した女学生がしたためたもので、なぜその会が終わりを告げたのかを書いていた。
日記を読み終えて、その女性はため息をつく。はかなげな視線を上げ、サンルームの外に広がる植物たちの向こうを見る。
「あのころは、『古典部』で過ごす時間が一番楽しかったですね」
やがて儚げなほほえみを浮かべると、彼女はその大きな瞳に生気らしきものをわずかに浮かべた。
「そうですね、バベルの会、楽しそうです。折木さんや、福部さん、摩耶花さんを誘いましょう。そしてもう一度みんなでおしゃべりをしましょう」
春と言うには冷たい風がどこからとも無く吹いて、彼女の黒く美しい髪をすこしだけそよがせる。
かつて学校だったその土地は、今は医療法人の手に渡っている。そして心を病んだ者達のために儚いかりそめの時間を与えている。
---------
こんなSSは嫌だ。頭を切り換えてちーちゃんが幸せになるSSを考えよう。
新しいなw
すごく久々に来てみたら何かすごい人がいた
キャラも自然な感じでGJ過ぎる。でも
>>478は嫌だw
481 :
名無しさん@ピンキー:2011/09/29(木) 16:23:48.65 ID:W639LskO
折木「うっ…!」
伊原「ちょっと、折木。早すぎ」
福部「『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に』、かい?ホータロー」
伊原「やらなければいけないこと、とは思ってるんだ」
千反田「でもおかしいです。手短に済ませようと思うなら、激しく腰を動かしたり、それこそ自分の手を使ったりする方法があるはずです。
それなのにどうして入れるだけで手早く済ませることができたのか…。わたし、気になります」
折木「…」
おいやめろ
よく考えてみると
インシテミルってえろくね?
inしてみる
新作投下。
ラノベ板のスレに千夜一夜物語ネタがあったので便乗した。
「新婚千夜一夜物語」
「える」
「あ、駄目です」
しんと静まった暗い部屋は、和室独特の畳や襖といったものの香りに包まれている。
純日本家屋のこの家は、建てたのも古く、それぞれの部屋と廊下は障子や襖で仕切られているだけだ。母屋とは別棟の離れを当てられているとはいえ、夜の闇を通して外の気配は濃厚にしみこんできており、勢い囁くような低い声になる。
俺と妻が結婚して、三ヶ月になる。一週間の新婚旅行から帰ると、婿入りした俺は早々に当代である義理の父について関連農家や周辺の家々への挨拶回りを行った。そして保有している農地の様子や、作物、その取れ高を頭に叩き込む勉強の毎日が始まった。
おまけに千反田家は近隣の公式行事に深く関わっており、よそ者である俺はそういったことも頭に入れなければならなかった。
妻のえるはこの辺で一番大きな農家である千反田家の一人娘だ。高校当時に知り合った俺たちはやがて将来を誓い、それぞれ大学で勉強してこの地に帰ってきた。当初、サラリーマンの息子である俺に難色していた義父も、何度も通って話をするうちに折れて結婚を許してくれた。
もちろん結婚はハッピーだがエンドではない。婿入りした俺は千反田家の跡継ぎとしてこの家が関わる農業を支え、もり立てていかなければならない。さいわい、妻のえるは大学で農業を専攻しており、農作物に関しての知識は豊富だ。
だから俺は作物に関する部分の一番難しいところは妻に任せて経営に集中すればいい。とはいえ、背景が農業でないだけに俺が学ぶべき事は多く、毎日くたくたに疲れる。
「今日は、駄目な日なのか」
「いえ、そうではありませんが」
二人並べて敷いた布団だが、俺はすでに妻の布団に身を滑り込ませている。ほっそりとした妻の暖かい体に添い寝し、その気があればいつでも抱き寄せられる体勢だ。布団の中から妻の淡い香りが漂いだして、俺の心と体を揺さぶりたてる。
「疲れたのか」
「あの、そうではなくて」
妻が困ったような声で返事をする。声に羞恥の色が混ざっている。
「奉太郎さん、その、毎日ですから…」
そう言って、口をつぐむ。
「毎日は、嫌か」
「いえ、そうではありませんが…」
「恥ずかしいのか」
「はい、それもあります」
妻とは、進んだ大学が遠方だったために、学生時代ほとんど会っていない。21世紀だというのにもっぱら手紙のやりとりで互いの気持ちをつないだ。卒業後も俺はしばらく遠方の会社で働いていたから、実のところ結婚するまでそれほど体を重ねていたわけではない。
そのため、と自分で言うのも変だが、結婚して俺は妻の体に夢中になっている。暖かかく、なめらかな肌に手を這わせ、戸惑いと官能の混じった吐息を聴きながら抱きすくめると、それだけで妻は声を漏らし、おれの血は怪しく騒ぐ。
20代後半の妻は体を重ねるたびに女として花開くように思えて、俺は半ば溺れるように毎晩妻を抱いた。
「える、お前が嫌だというなら、無理にとは言わない。今日はやめておこう」
妻はちょっと珍しいくらい育ちが純粋で、今でも女学生のような朗らかさと恥じらいを失っていない。俺は本心では残念だと思っているが、この繊細で傷つきやすい妻に乱暴なことをする気にもならない。
「嫌だというわけではないのです。でも、奉太郎さん、わたしたち夫婦になったのに、あまりお話をしていません」
「たしかに、そうだな」
農家は朝が早い上に、俺は明るい間は義父につきっきりであちこち廻っている。妻は早起きして一家の料理を義母と作った後、新品種の生育の具合を確認したり、苗の業者と来年植え付ける作物の話をしている。そして夕方になれば夕食の支度や次の日の用意だ。
俺の勉強を含めて一通り落ち着くのは10時近くであり、そして農家は就寝も早い。そういうわけで、俺たち二人にはそれほど会話がないというのは事実だ。
「悪かった、寂しかったか」
「謝らないでください。責めているわけではないのです。わたしは奉太郎さんと一緒になれて幸せです。ただ、以前のように、少し、おしゃべりをしていただければと」
「ああ、喜んで付き合わせてもらおう。眠くなったら言えよ」
「ありがとうございます」
声に本当にうれしそうな色が混じっていた。だが、おしゃべりの前にどうやらもう一つ用件があるらしかった。
「あの、奉太郎さん?」
「なんだ」
暗闇の中の声に応える。妻が消え入りそうな声で続ける。
「わたしばっかりわがままを聞いていただいてますから、奉太郎さんも…」
俺はその言葉の意味を少し考えてみた。
「える、無理をしなくてもいいんだぞ」
「その、無理ではなくて」
「夫婦の間のそういう事は、互いの気持ちの問題なんだ。我慢なんかしなくていい」
「そうじゃなくて……奉太郎さんはいじわるです」
すねたような声色に、思わず喉の奥で笑った。
「すまん、怒るな」
そう言って夜の闇の中にほんの少し見える妻の顔のあたりに手を伸ばす。おとがいに指を添え、唇を吸うと妻も甘い声を漏らして柔らかく吸い返してきた。
「毎日忙しいだろう」
「はい、でも私は子供の頃から家を手伝っていましたので」
「学校の時もそうだったのか」
「あっ……はい。朝ご飯と夕ご飯の準んん……準備はお手伝いしていました」
「えるが作ってくれた弁当はうまかったな。それほど料理をしていたら当然か」
二人でたまにピクニックに行くときなど、高校生だった妻は重箱に見事な弁当を作って持参してきた。重い弁当を持つのは俺の役目だったが、味の事を考えれば文句のでようはずもない。料理を褒めると、必ずと言っていいほど妻は頬を赤くした。
「奉太郎さんはいつも、美味しいと言ってたべてくれました」
話をしながら寝間着の前をほどき、くつろげる。布団の中しかも暗闇ではあるが、それだけで妻は羞恥に声を漏らす。義理の母も未だに女学生のような澄んだ感性を持った人だから、妻のこの性格はきっと母親ゆずりだろう。
「本当においしいうえに、何しろえるの手作りだからな。毎回最期の食事のつもりで味わっていたよ」
「最期なんて言っちゃ駄目です…あん…これからずっと私が作ってあげます」
柔らかい脇腹に手を這わせて声を上げさせる。少し息を乱した妻の唇を吸う。話をしながら愛し合うのなら、あまりねっとりした事はできない。こうやって口付けを交わしながら、手で愛するほうがいい。
「そう言えば今日、んん…あ…不思議な事がありました」
「どうした」
「夕ご飯の準備を…ああ…するときに、米びつに…ん…お米が入っていたのです」
「別に不思議ではないだろう」
俺は妻を抱き寄せると、仰向けに転がった。妻が俺の胸に顔を埋める体勢になる。
「不思議です。だって、朝にはほとんど空だったのです。それに今日は誰も蔵をあけませんでした」
「なぜ米が増えたか、知りたいのか」
「はい」
なめらかな背中をゆっくりなでてやる。妻のため息に甘い声が混じる。千反田家では蔵に米を貯めている。蔵の中はひんやりとしており、確かに穀物の貯蔵にはうってつけだ。蔵の扉はなかなか重厚で、鍵もしっかりしている。一日家に居た妻なら誰かが開ければ必ず気づくだろう。
開かずの蔵から人知れず米びつに移された米。しかしまぁ、この謎は簡単だ。ひんやりした尻をなでて声を聞きながら、ささやいてやる。
「える、この問題は簡単だ」
「え、もう解けたのですか?」
「ああ、あとで寝物語に教えてやる」
そういうと、俺は今度は体をひねって妻の体を布団の上に組み敷いた。戸袋の節穴から漏れる月明かりがわずかに室内に光をあたえ、かろうじて彼女の白い肌がわかる。
「あ、だめです。今教えてください」
「後でいいだろう。ゆっくり落ち着いてからにしよう」
「だめです。だって」
「だって、何だ」
俺は固くなった自分の体をもてあまし気味に問う。妻は恥ずかしげに答えた。
「だって、わたし。寝てしまいます」
そうだった。だいたい事が終わると、彼女は俺の胸に顔を埋め、そのまま寝てしまう。早起きの妻が朝どんな顔をしているのかは知らないが、体調の都合で何もせずに寝るときなどはきれいな姿勢で寝ているから、あるいは毎朝顔を赤くしているかもしれない。
なんにせよ、寝入りのよい妻のことだ。謎解きの前に寝てしまう可能性は濃厚だ。
「じゃぁ、そのときは明日の晩でいいだろう」
「いやです。今教えてください。わたし、気になります」
しかたないなぁ、と俺は苦笑する。
「わかったよ。今話そう」
「はい。ああ」
柔らかい内ももに手を伸ばす。ここをなでさするたびに漏らす妻の声が、俺は好きだ。
「今日は誰も蔵を開けなかった。俺も、お前も、お義父さんも、お義母さんも」
「はあ……はい…ん」
「だから誰も米びつに米をうつせなかった。そうだな」
「はい。不思議です」
手のひらを内ももから脚の付け根へと移す。健康的な茂みをさわさわとさすると、甘い声で羞恥を訴える。それを口づけであやしてやる。
「だからこの問題は簡単なんだ」
「あぁ……ん…どうして…ですか…はん」
すでにしとどに濡れたその部分に触れると、妻がとろけそうな声を漏らす。初めてこの部屋で迎えた夜に、俺は夜具の下に下着を着けてない妻に驚いた。いつもそうなのか、と聞くと、違います、と頬を赤らめ消え入りそうな声で答えた。
俺にいつ求められてもいいようにということらしい。どれだけ俺が感動したかは言い表せない。
ぬかるみの中に浅く指を進める。
「奉太郎さん…ああ…教えてください」
「える、この問題は簡単だ。米を蔵から出したのは今日じゃない。昨日なんだ」
「え?…はぁ」
女の部分をかき混ぜられながら、妻は驚きを表す。ちょっとかわいそうになってきた。少し指の動きを止めてやる。
「米を蔵から出したのは俺だ。昨日、お義母さんに言われて蔵に入ったついでに2升だしておいたんだ。お義母さんは昨日か今日なくなると思ったんだろう」
「では、台所にあったのですか?わたし、気づきませんでした」
「米びつの米を使い切りたかったんだろうな。昨日は空にならず、今朝空になった。だから今日足した」
すこし間があった。考えているようだ。やがてくすくすと笑い出した。
「なんだ」
「すみません。わたし、『今の話におかしいところがないか』考えていたんです。変ですよね」
俺も小さく笑った。
「変だ。家族を疑うな」
「すみません」
照れたように言う妻と口づけを交わす。
「える、すっきりしたか」
「はい」
「じゃぁわがままを聞いてやったから、今度は俺の番でいいな」
「……はい」
俺はもう一度唇を吸いながら、股間にのばした指を動かして妻に声を上げさせ、そうして彼女の闇の中にわずかに光るような白い体に没入していった。
つくづく人生とは難しい。このときは、まさかこんな問答が毎晩続くことになるとは思っていなかったのだ。
(おしまい)
うほっいい新作
えるたんが可愛く、奉太郎さんは男らしく奥さんを翻弄して萌えた
亭主関白ですね分かります
ワロタ
お互い謎も解けていっちゃったかw
もう一本投下。
『やらなくてもいいことなら、やらない』
「うむ、この問題はなかなか難しいね」
「難しいって…これ習ったばっかりじゃない」
「そうかい?クラスが違うから摩耶花のクラスだけ進んでいるのかもしれないよ」
「だったらなぜふくちゃんの宿題に出てるのよ、ほら、考えて。わからなかったら教科書見て」
放課後の地学準備室。私とふくちゃんは机をはさんでふくちゃんの宿題にかかり切りになっている。ふくちゃんの勉強の成績があまりに悪いので、怖くなった私が尻をひっぱたいて勉強させているのだ。
本当は今は部活の時間だからわたしたちも部活をするべきなんだけど、そもそもわたしたちが所属している古典部はなにをするところかわからない。先月の文化祭で文集を発行してしまうと、次の一年間やることが無くなった。改めてすごい部だと思う。
それでも、部室でこんな風に話しながら勉強していたら「うるさい」とか苦情がきそうなものだけど、さいわい古典部には部員が4人しかいない。わたしとふくちゃんは後から入った口で、最初の部員は部長の千反田さん。わたしはちーちゃんって呼んでいる。
同じ日に折木も入部している。ちーちゃんは大きな家のお嬢様で、とってもいい子だから、知り合ってすぐ仲良くなった。折木は小中学校9年間同じクラスだったけど、ちっとも仲良くしたいとは思えない。あ、ふくちゃんの名前は福部ね。
今日はちーちゃんはまだ来ていない。折木は一人で勝手に本を読んでいるだけだから、私は安心してふくちゃんに檄を飛ばせる。折木はそのくらいでは文句を言わない。あいつは基本的に文句を言うことすらエネルギーの無駄だと思っている。
ちーちゃんが来たらちゃんと話を通して静かに勉強しよう。
そんなこんなで、ちっとも勉強が進まないふくちゃんをどうやって追い立てるかプランを練っているうちに、下校時間も近づいてきた。今日はどうするんだろうと心配したころになって、やっと、ちーちゃんがやってきた。
「みなさんこんにちは。遅くなりました」
「あ、ちーちゃん」
「おう」
「やあ千反田さん」
地学講義室に入ってきて、丁寧にお辞儀をしながら挨拶をするちーちゃんに、わたしたちは思い思いに挨拶をした。こうしてみると、ちーちゃんはきちんとしているのに、わたしたちはいかにもだらしない高校生って感じだ。
折木に至っては読んでいる文庫本から顔すら上げなかった。
ちーちゃんのほうはみんなに笑顔を返した後、「すみません、すこしうるさいかもしれません」と言いながら準備室のほうに歩いて行った。
「どうしたの?」
「地学の城山先生から、世界地図を持ってくるように言われたのです」
「世界地図?地図帳じゃなくて?」
ふくちゃんが数学の宿題から顔を上げる。ほら、宿題やって。
「はい、大きな地図が必要だそうで」
「ねぇそれって」
私はふと気になって口を開いた。
「くるくるって巻く奴?」
「はいそうです」
それって、相当重いのでは。と、口にする前にごとりと音がして折木が立ち上がった。
「千反田、そういうことは先に言え。重いだろう。俺が運んでやる」
「でも、城山先生から用事を言いつけられたのはわたしですよ」
「場合によりけりだ。そもそも城山の授業の手伝いに古典部が借り出されることが変だ。だったら誰がやってもおなじだろう」
「そういわれてみればそうですね。じゃぁ、お言葉に甘えさせていただきます」
表情ひとつ変えずに準備室に入っていった折木の後を追って、ちょっとうれしそうなちーちゃんも準備室に消える。その二人を目で追いながら、ふくちゃんをつついて宿題に向かわせる。
地図は簡単に見つかったらしく、すぐに折木とちーちゃんが出てきた。
「福部さん、摩耶花さん。わたしたちは地図を職員室に運んできますね」
長い棒に巻き取られた地図をぶら下げた折木の後ろを歩きながら、ちーちゃんが微笑んだ。でも、折木は違うことを考えていたらしい。
「いや、俺はこのまま帰る。もう遅いから戻ってくるのも面倒だ。千反田、お前はどうするんだ?」
面倒くさがりの折木らしい。折木は地図を机の上に一旦置いて、さっきまで本を読んでいた机に戻ると、鞄に本を入れてとってかえした。ちーちゃんはちょっと迷っているようだった。人差し指を唇に当てて考えている。
「私は今日は部室にいませんでしたので、戻ってこようかと」
「よく、そんな面倒なことができるな。もうすぐ下校時間だろう」
折木が顔をしかめている。ちーちゃんを思いやってではない。あれは、ちーちゃんが二往復するという事、そのものにおののいている表情だ。
「それもそうですね。それでは福部さん、摩耶花さん。私もこのまま今日は失礼します。戸締りをおねがいできますか?」
「うん、戸締りはしておくから。ちーちゃん気をつけてね」
「ホータロー、千反田さん、また明日」
適当に挨拶して部室を出て行く折木の後ろで、ちーちゃんはやっぱり丁寧にお辞儀をして教室を出て行った。
部室には私とふくちゃんだけになった。
急に静かになった部室でひとつため息をつく。振り返ってふくちゃんのほうを見ると目があった。
「摩耶花、どうかしたかい?」
宿題をしろと言わない私をいぶかしんだのか、ふくちゃんがいつもの微笑みで私に言葉をかける。
「ふくちゃん、折木って最近、変じゃない?」
「ホータローはいつだって変だよ」
確かに変な奴ではあるけど、私が言いたいのはそういう事じゃない。
「変だけどさ、最近あいつ、ちーちゃんの事、よく手伝っているよね」
そう言うと、ふくちゃんは「にーっ」って感じで口の端で笑った。
「さすが摩耶花。よく気がついたね」
一応褒められてはいるようだけど嬉しくはない。あんなの誰だって気がつく。
「気がつくわよ。あいつ、どうして自分から手伝っているのかしら。あんな奴じゃなかったわよね」
折木はめんどくさがり屋だ。なんでもかんでも、面倒か面倒ではないかで物事を判断しようとする。怠け者、と言うわけではないけど、自分から人の手伝いなんて、あいつはエネルギーの無駄だと思っているはずだ。なのに最近、折木はちーちゃんの事をよく手伝うようになった。
「摩耶花はなぜだと思う?」
「わたしは…やっぱり折木ってちーちゃんのことを」
声が小さくなって尻切れトンボになったけど、ふくちゃんには伝わった。
「うん、やっぱりそう考えるよね。それまでぶっきらぼうだったホータローが急に千反田さんに優しくなったようにみえるもんね」
「違うの?」
ふくちゃんは違う、って言いたそうな話し方をしている。
「確証はないよ。でも、違うと思う」
「どうして?」
そう来ることを待っていたのだろう。息を大きく吸って得意満面と言った表情でふくちゃんが私に話す。
「ホータローの性格をたとえるなら、猫さ。僕は犬だね。僕は犬だから隠し事はあまりしない。摩耶花への気持ちだっておおっぴらさ。でも、ホータローはそう言うタイプじゃない。千反田さんが好きなら、彼はそれを秘するだろうね」
「わたしへの気持ちはうれしいけど、だったら早く付き合ってよ」
「いやそれは」
ふくちゃんがあせった顔でのけぞる。
「ちゃんと話したじゃないか」
ちぇっ。でもまぁ、ふくちゃんの言うことには一理ありそうだ。折木はちーちゃんの事が好きなら、それを隠すだろう。
「折木がちーちゃんの事を好きじゃないのなら、どうして手伝っているの?急にこんな風に優しくなるのは変よ」
仮に気の迷いで急に優しい人間になったとしたら、折木はみんなに優しくなるはずだ。でも、実際にはちーちゃんにだけ優しくなっている。
「そうだね。変に思える。ところがさ、ホータローに限って言えば、それほど好意を抱いていなくても、いそいそと千反田さんを手伝うってことがありえるのさ」
「どうして?」
思わせぶりに言葉を切るふくちゃんを促す。
今日はここまで。
次回、ふくちゃんによる解決編。
わっふるわっふる
気になります!
>>496 ここからどうやって濡れ場にいくのかwktk
>>502 飛躍しすぎ(w
「やらなくてもいいことなら、やらない」解決編
ふくちゃんは楽しくてしょうがないと言った風で言葉を続けた。
「文化祭のとき、ホータローは文集作りの面倒なところをぜんぶ千反田さんと摩耶花にまかせっきりにしてたよね」
「折木だけじゃなくて、ふくちゃんもまかせっきりだったじゃない」
ひとにらみすると、ふくちゃんが額に汗を浮かべて愛想笑いを浮かべた。なんだか、ふくちゃんと居ると私は女の子らしさを失っていくんじゃないかって思うことがある。
「ははは、そうだね。でもさ、考えてみてよ。文化祭はともかく普段から全部千反田さん任せだよね」
「そうね。私もあまり手伝ってないし」
私が入部したときから古典部の部長はちーちゃんだった。古典部はほとんど活動がないので、部長は忙しくないってちーちゃんは言ってる。それに甘えているんだけど。
「もし、このまま千反田さんがどんどん忙しくなってあまりに負担が大きくなったらどうなると思う?」
「そんなに忙しくならないと思うんだけど」
古典部は暇だし。
「可能性の話だよ」
「みんなで手伝おうって話になるかしら」
「そうだね。だけど、ホータローは一歩踏み込んで考えているかもしれない」
「どんな風に」
わたしはふくちゃんの言葉を待った。ふくちゃんはとても嬉しそうに、これこそが肝心なのですって感じの大げさな表情でゆっくりと言った。
「古典部副部長職を設立しようって話になるかもしれない」
「そうかなぁ」
突飛な話だ。
「副部長職設立は合理的だよ。千反田さんの仕事には、公式行事や先生に絡んだ仕事もある。そうすると、手が空いている人がやるってだけじゃ済まない可能性があるだろ」
それはそうだけど。
「もともと副部長が居ない方が不自然なんだよ」
「じゃぁ、折木は…」
「そう、これは可能性だけどね。ホータローは副部長職を作らせないために千反田さんをそこそこ手伝っている可能性があるんだよ。もし副部長を選ぶとなったら、ホータロー以外に居ないからね。そうなったら大変だ。
副部長である以上、普段から千反田さんの仕事を手伝わなきゃならない。ホータローの嫌いなエネルギーの浪費が毎日毎日彼に降り注ぐことになる」
なんだか、どっと力がぬけた。どこから突っ込めばいいのかわからなくて大きく深呼吸した後、とりあえず手近な所から突っ込むことにした。
「あいつ、どう考えても副部長ってタイプじゃないわよ」
「そうだね。でもタイプかどうかは関係ないよ。摩耶花には図書委員と漫研があるだろ。僕には手芸部と総務委員がある。どう考えても、公職をやるなら古典部専業のホータローが適任なんだよ。部長の千反田さんだって古典部専業だしね」
「副部長を選ぶのに消去法なの」
「そうさ。シャーロック・ホームズだって消去法を大事にしてる。で、もし、ホータローがこの線で考えているなら実に興味深いよ。彼のモットーは『やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけない事なら、手短に』だからね。
本当は千反田さんを手伝う気はないんだ。それはホータローにとっては『やらなくてもいいこと』だから。でも『副部長』を避けるための『やるべきこと』として手伝っているってことは十分あり得るんだよ。
本当にそうだとしたらホータローの損益分岐点はどこにあるんだろうね。彼は副部長職によるエネルギーの浪費を避けるためになら、どのくらいまでエネルギーを費やしていいと思っているんだろう」
あまりにばかばかしくて、あまりにも正直な意見を言ってしまった。
「なんだか最低」
「これはあくまで仮定だよ。本当にホータローがそう思っているかは僕は知らない。それに、本当にそうだとして、悪いことだと思わない」
「どうして?」
わたしはふくちゃんの瞳に釣り込まれるように質問をした。
「ホータローは誰も傷つけていないだろう」
確かに誰も傷つけていない。でも、あまりに酷い話ではないだろうか。
「それはそうだけど」
「偽善だって実行に移せば何もしない善より善いことさ」
じゃぁ、ちーちゃんの気持ちはどうなるの?と聞こうとして、私は口を閉じた。私はちーちゃんの気持ちを知らない。折木に手伝ってもらうとき、ちーちゃんは嬉しそうに微笑んでいる。でも、誰だって手伝ってもらえれば嬉しいから、これじゃ何とも言えない。
わたしはひょっとしたらあれこれ勘ぐりすぎているかもしれない。ちーちゃんの負担が減るのなら、これでもいいのかもしれない。
文化祭の時、折木から借りた『夕べには骸に』を私から守るように胸に抱きしめたちーちゃんを思い出す。
「で、ふくちゃんはどっちだって思っているの?」
「どっちって?」
「折木はちーちゃんの事が好きだから手伝っていると思う?それとも、副部長が嫌だから手伝っていると思う?」
少し、間があった。
「そうだね。ホータローは…」
「折木は?」
「…鈍いからなぁ」
「そう」
何となくふくちゃんが言っていることがわかるような気がした。だってわたしも折木に同じようなことを感じたことがあるから。でも、だとしたら、いや、そうじゃないとしても、わたしが首を突っ込む事じゃない。
「何となくわかったわ」
「めんどくさいよね、ホータローって」
にっこり笑うふくちゃん。ふくちゃんの言うとおりだと思うし、ふくちゃんの笑顔は大好きだけど、今はそれを言う時じゃない。わたしは小さくため息をついた。
「めんどくさいのはふくちゃんも同じよ。どうしていちいち催促されないと宿題もしないの?さ、早く終わらせて。あと20分で下校時間よ」
大げさに頭を抱えて宿題のプリントに向かうふくちゃんを見ながら思った。男の子って、みんなこんなにめんどくさいのだろうか。
(おしまい)
gj!その発想はなかったw
この遣り取り、いかにも里志と摩耶花だなあ
GJ
GJ! すごく彼ららしくて面白かった
インシテミル、
金曜ロードショーだとmaynのテーマ曲なしだと!?
信じられん
映画だと須和名さんと岩井の絡みにwktkする
「即売会」であたふたする摩耶花、ほほえましいなぁ。
連峰は晴れているかってネットで公開されてなかったっけ?
>>513 前だけなんだね。どうりで探してもないと思った。
スレ違いなのにゴメン書きこんでから気付いたわ。
515 :
名無しさん@ピンキー:2011/10/31(月) 20:25:55.54 ID:7Lgacn5F
マーヤのエロパロはあるのになんで太刀洗のエロパロは無いのか
新刊も中々でないからここも過疎気味だな
さよならよねぽ
ねらーのエンドロール
米菓
折木さん、わたしたち、どうなるのですか?
521 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/28(月) 01:50:50.01 ID:zYXc67ac
もうよねぽ
522 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/29(火) 21:55:42.30 ID:y4cpVXJC
523 :
名無しさん@ピンキー:2011/11/29(火) 22:43:55.17 ID:A7LIwk69
これでこのスレも盛り上がるはずさ
えらいこっちゃ
「摩耶花、最近どうしたんだい?今朝だって声をかけても上の空で」
「ちょっとふくちゃん大きな声出さないで。毎日寝不足なんだから。もう
アニメ化とか始まっちゃうから即売会向けの原稿とかいそがしいのよ」
「即売会?」
「……なんでもない」
京アニが制作か…
アニメのみ興味を持って見た人が流入してどうなるかはわからんな
527 :
名無しさん@ピンキー:2011/12/03(土) 00:58:39.78 ID:ZUNOO0yJ
夏コミで薄い本が出まくるんやな……
夏コミに間に合うくらいに始まるの?絵も出てないからずっと先かと思った
脳内では完全に貞本義行絵で再現されてるんだがどんな絵になるかなあ
支部ではちょいちょい絵が増えてるな
そんな感じで活性化されるのはいいことだ
俺もふくちゃんまやかの続き書くわ
しまった。トリップ外し忘れた
小鳩くんと小佐内さんのお話が読みたいです
「あの、折木さん」
「なんだ」
「最近、クラスの皆さんが『古典部の薄い本、古典部の薄い本』とよくいっているのですが、何のことでしょうか」
俺は、うっと息をつまらせた。むろん、それを千反田に気取られるようなことはしない。すれば奴はその大きな目を
さらに大きく見開いて食いついてくるだろう。
「そんなことを直接お前に言ってくる奴が居たのか」
「いえ、そうではなくて小耳にはさんだのです。ほら、わたしって耳がいいですから」
そうだった、こいつの耳は地獄耳…じゃなくてとても健康的なのだった。
「薄い本というのはあれだ……同人誌のことだな。自費出版というか…」
「『氷菓』の事でしょうか」
「そうかもな」
氷菓は俺たちが文化祭で作った文集の名前だ。今回アニメ化される俺たちの番組名でもある。文集を同人誌と言うか
どうかは知らないが、昔は同人誌と言えば自家小説が多かったと言うから、あながち嘘でもないだろう。ただ、
今回に限り絶対にそうではないと思うが、千反田が文集のことだと思ってくれるなら話は簡単だ。俺はこの話は
できれば避けたい。
もっとも、そんな返事で許してくれる千反田えるではない。
「でも、そうでしょうか。わたしたちが書いた『氷菓』は確かにたくさん売れましたが、あれは十文字さんの
おかげとも言えます」
ほらきた。
「確かにそうだな、元々俺たちは30部しか売るつもりはなかった」
十文字事件がなければその30部も怪しかったと思うが。
「ですから折木さん、『薄い本』には何か秘密があるのではないでしょうか」
そう言って声をひそめながら乗り出してくる千反田に、俺がのけぞる。近い。それに声をひそめているくせに、
口元には明らかに喜びの色が浮かんでいる。
「千反田、その件についてあまりこだわるのはよせ」
「なぜでしょう」
千反田が小首をかしげる。
「お前がこだわると、伊原がこだわらざるをえない」
まやかが「何かと」間違えた事実、プラス
折木姉のもって来た本をみていることから、
えるもたくさん売れる「薄い本」がどんなものかうすうす気づいてるのでは。
気づいてないか。
メタネタとして、アニメ版えるたんがあんなことやこんなことされる「古典部の薄い本」の存在をえるに知らせまいとする奉太郎
535 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/07(土) 18:57:15.65 ID:YDxI9HzB
初めて上京して意気揚々と池袋に突撃したのはいいが、
自分が薄い本のネタにされているのを見て呆然と立ち尽くす
摩耶花
ふくちゃんが相手なら……とか思いつつほうたる×ふくちゃんを買いあさる摩耶花
537 :
名無しさん@ピンキー:2012/01/11(水) 20:20:16.59 ID:mjgSr/oM
「あ、みなさんこんなに大きなナメクジが」
と、農家の娘っぷりをハイキングで発揮する千反田さん。
「きゃーっ、ふくちゃん助けてぇ!」
と、縮み上がる摩耶花。
「俺はあれより嫌われているのか」
と、考えて、ま、どうでもいいやとすぐ忘れる奉太郎。
期待してた話キタ━━━━(゚∀゚)━━━━ !!!!!
池袋で見るのは奉×里とかだろ
伊原がホモ萌えできるのかどうか、それが問題だ。
もしできるor見込みがあるならメタネタとして奉×里とかを買って、ふくちゃんが微妙な顔をする、というのもメタネタとしてありかも
ちょっとスレチだったかもしれん、すまん。
スレチだと思う。ナメクジのほうがましよ!とか罵られるレベル。
単純な疑問だけど奉×里がメジャーなの?
里×奉とかはないの?
スレチスマソ
そう言う腐った話とは無関係の世界。
あれだね男子便所から手招き
新刊がないとやっぱ過疎るのかな
ほのぶの一番最近出版したのって折れた竜骨だよね
え?
ニコラはボクっ娘だと信じてたのに
地の文「彼」だけどボクっ娘だと信じてたのに
いいんじゃないですか?それでも
550 :
名無しさん@ピンキー:2012/02/10(金) 02:57:18.87 ID:rPQS+PsT
アニメ化したらここも盛り上がるかなぁ
ほうたるとチタンダエルだし……