【腐男子】音ゲー総合スレ3【専用】

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1名無しさん@ピンキー
腐女子は帰れ。
音ゲーキャラで萌える腐男子・ガチゲイ専用スレです。


Q.文章(絵)が初心者レベルなんだが。
A.気にせずどんどん投下してください。
 (リンクを貼る場合は直リンにならないよう注意)

Q.叩かれそう。
A.気にせずどんどん投下してください。

Q.それ無理!
A.ショタ好きもガチムチ好きも仲良くしろ。

Q.絵が見られない!
A.PC派も携帯厨も、画像うp環境等においてはお互いを気遣おう。
 だからと言って見られなくても喚かないこと!


まとめWiki
ttp://www39.atwiki.jp/otogeparo/

前スレ
【腐男子】音ゲー総合スレ【専用】
ttp://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1185269248/


sage進行推奨。
荒らし・煽りは徹底スルー、どう見ても腐女子な書き込みはやんわりスルー。
次スレは>>970が立てる決まりです。踏んで無理なときはレス番を指定してください。
2390:2010/02/16(火) 22:28:29 ID:+sDgswJP
前スレが落ちたから新スレを立てたはいいが、
ソラショのログを取り損ねてしまった…。
不甲斐なくてスマソが、作者かログ保有者に支援を願う。
3876:2010/02/16(火) 23:06:11 ID:ENJCWGjj
>>390
スレ立て乙です

ソラショのログは持ってないです。すみません。
4名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:52:19 ID:vZ1XED8o
スレ立て乙!

なんだっけ、980過ぎて書き込み少ないと自動的に落ちるんだっけ

俺もログないや
5名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 02:38:52 ID:+JpQmwID
●持ちだがdatファイルでよければログどっかに上げようか?
6390:2010/02/17(水) 02:57:55 ID:6zCkpI2L
できることならこのスレに貼ってもらえるとありがたい
ソラショのSSが最後の書き込みだったから、読んでない人もいるだろうし、何よりあんまり書き込みないと落ちるしね

あとソラショを書いてる人は876ではなく835では?
7名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:05:05 ID:+JpQmwID
把握。
977 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:27:12 ID:KespdD+V
地味にタイムオーバーだけどバレンタインネタ。
暫くケビン&セシルはお休み。


「うおえぇぇ〜」
「…朝っぱらから随分と爽やかな様だな、ハジメ」

 何処をどう見ればそう思えるのか分からないが、嫌味だと分かっているので敢えて反論はしない。
 机に突っ伏していた顔面をのそのそと起こし、ハジメはおさむの方へと振り向く。
 顔面が見事なほどに真っ青になっていた。

「気持ち悪ぃ…」
「何だ、昨日の夜に酒でもかっくらったのか?」
「だったらまだマシだっつ〜の」
「あ?」

 指先で机を2.3回叩く。
 その先に置いてある包みをおさむは見つけた。
 質素なラッピングも施してあった。

「ほう。お前もなかなかにモテるもんだな」
「だと思うか?」
「どういう事だ?」
「…それ、翔のだよ」
「弟が貰った奴をお前が…って事か?」
「違う。翔が作ったんだよ」

 成る程とおさむは納得する。
 こういうものを翔が作るのはおさむのイメージには無かったが、以前から料理は翔が管轄している事は知っていたからそれ程意外性は感じなかった。

「愛する弟からの贈り物ってか。可愛いもんじゃないか」
「…何個目だと思うか?」
「………成る程な」

 その言葉だけで、おさむは事のあらましを理解する。


 話は戻ってその前日…
 蒼井家の台所は朝から既に翔の独壇場となっていた。
 近所のスーパーの特売で大量の材料を買い込み、早速作業を開始する。

「…よし!」

 両手に握り拳を作って、脇を締める。

「今から頑張れば…明日までには間に合うよな?」

 時計やカレンダーと何度も睨めっこする。
 我ながら不似合いなエプロンを身に付け、必要な調理器具を全てテーブルの上に揃える。

「こーいうの作った事無いけど…本を見ながらだったら出来る筈!」
8名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:05:33 ID:+JpQmwID
978 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:28:37 ID:KespdD+V
>>977




「わあああ!!?」
「何だ何だ!?火事でも起きたのか…って、何やってるんだ翔」

 真っ黒な煙が充満した台所から、ハジメは翔を引っ張り出す。

「どうしたんだ?何か創作料理にでも手を出し始めたのか?」
「ち…違う!そんなんじゃない!!」
「じゃあどうして…」

 換気扇を回しに台所に入ると、ハジメはテーブルの上の大量の徳用板チョコレートが視界に映った。
 窓を開けて翔の方へ振り返ると、仄かに顔を赤らめた翔が目を逸らす。

「はは〜ん、そう言う事か」
「お、男のオレがこんなもの作って…やっぱり、ヘンなのかな…?」

 床の方へと俯き、エプロンの裾部分をぎゅっと握り締める。
 握り拳も肩も、微かに震えていた。

「馬鹿、何もそんな事言ってないだろ。つまりはお前にもチョコ渡したくなる様な奴が出来たって事だろ?だったら、兄として嬉しい限りだ」
「ほ、本当?」
「冗談でこんな事言わないっての」
「ハジメ兄ぃ!」

 勢い良く翔はハジメの胸の中へと飛び込む。
 バスケットボール部の顧問として自らも鍛えているだけあって、後ろに押し倒される様な無様な姿は見せない。
 愛する弟を見事にハジメは両腕で受け止めてみせた。

(あ〜あ。こういう甘えんぼは全然変わんねーのな)

 微妙な心境を抱きながらもハジメはわしわしと翔の頭を撫でる。
 台所の煙が晴れると、ハジメは煙の発生源を見付ける。
 どうやら鍋の中のチョコレートが焦げてしまったのが原因の様だった。

「お前、チョコレート鍋で溶かすなら湯煎にしろよ」
「ゆ…せん?」
「ってオイ。お前料理は出来るくせに湯煎は分かんねーのか?」
「し、知らない…」

 小さくハジメは溜息を吐く。
 このまま放っておけば、また同じ事の繰り返しだろう。

「しょうがない。この元蒼井家料理番家元ハジメ様がお前にチョコレート作りを伝授してやろう」
「え? ハジメ兄ぃ、お菓子作りなんて出来るのか?」
「そりゃあ、お前と違って料理暦長いからな。肝心要の硝子はとんでもないダークホースに育っちまったし」
「ま、まぁ…」

 蒼井家の誇る世紀末料理家の妙に勝ち誇った顔が二人の頭の中に浮かぶ。
 今度は二人揃って盛大に溜息を零した。

「そんじゃ、いっちょ始めるとするか」
「おー!」
9名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:06:31 ID:+JpQmwID
979 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:31:42 ID:KespdD+V
>>978

☆皆もやってみよう♪

「まずは、大きい鍋と一つ小さい鍋を用意する。大きい鍋にお湯を入れて小さい鍋をその上に浮かべる。後は小さい方の鍋にチョコレートを入れて火を点ける。ほら、こうすれば直接鍋に熱が伝わらずにチョコレートが焦げ付く事は無くなるだろ?」
「おぉ!成る程!」
「もっと小さい容器を使う時は大きい鍋に布を敷いて、その上に乗せれば良い。これが湯煎。バターやチョコレートとかを溶かす他にも卵を温めたりも出来る」
「そっか。直接温めたら駄目なんだな」
「ま、それも場合によりけりだけどな。そんじゃ、予習はこれ位にして早速作るか」
「う…うん」
「おいおいこんな所で緊張してどーすんだ」
「やっぱり、上手く出来るかどうか不安で…」
「安心しろって。そんな難しい事なんかしないから。最初はさっき湯煎にして溶かしたチョコレートを2つの容器に分ける。そんで、片方のチョコレートに生クリームとラム酒を加えてかき混ぜる。ほら、まずはこれでガナッシュの出来上がり」
「へぇ…。こうやって作ってるんだ」
「そんでそのガナッシュをラップを敷いた天板の上に生クリームの絞り器とかで絞り出し、冷蔵庫で冷ます」
「あれ?折角綺麗に出来たのに冷ましちゃうのか?」
「ガナッシュで食べたいなら冷ます必要も無いが、まあ見てなって。ある程度固まってきたらそれをもう片方のチョコレートに突っ込む」
「わ…」
「ほい。冷めたらこれでトリュフの出来上がり」
「凄ぇ!もう完成なのか!?」
「固まる前や後にミモザの砂糖付けとかチョコペンで飾り付けると良いかもな。他にもガナッシュをタルト生地に流し込んだり、生クリームをキャラメルクリームに変えても良い」
「他には?」
「そうだな…余裕があればチョコレートケーキにも使える。簡単で尚且つバラエティ豊かなチョコレート菓子が出来るって訳だ」

★二時間後

「出来そう…か……」
「あ、ハジメ兄ぃ」
「あ、じゃねーよ」

 時間を置いてもう一度台所を訪ねると、思わずハジメは頭を抱えた。
 台所が煙塗れになると言う事態は免れた様だが、別の問題に直面する。

「本当にお前は何もかもがハイスピードなのな」

 テーブルを埋め尽くす程のチョコレート菓子に、呆れを通り越して素直に感心した。

「何か…一つ考え付いたら止まらなくなっちゃって」
「それは素直に“調子に乗る”って言うんだよ」
「う…。でもさ、どっちにしろ沢山作らないといけなかったから」
「どう言う事だ?」

 ボール…ボウルをテーブルの上に置き、翔はその中に出来た渦を眺める。

「オレさ、新人戦の時に結局皆に手伝ってもらったじゃん。結局あれから何もお礼とかそう言うの、全然出来てなくて。だから、こうれ位はやろうかなって思って」
「あぁ、レギュラー取れずに落ち込みまくっていた時な」
「…」

いつもの翔だったら、この程度の言葉にはすぐに反論して来る筈。
しかし、この件に関しては本当に責任と感謝を感じている様で、何も言い返して来ない。
ハジメが翔をレギュラーに再選択して以来、翔を含めたチームの力の飛躍には目を見張るものがあった。
それには確かに翔自身の能力の向上が大きく関係しているのもあるが、何よりも翔がチームに居る事。
つまり、翔と言う存在そのものがチームの士気を高めているのが大きな理由だろう。
当然その事は当の本人は自覚していないのだろうが。

(お前が居るだけで、あいつ達は嬉しいんだよ)
10名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:07:28 ID:+JpQmwID
980 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:33:22 ID:KespdD+V
>>979

 等と言った所で、翔が何と思うだろうか。
 この場は黙っておく事にする。

「そう言う事か。成る程、理解」
「分かってくれると嬉しい。でもさ、正直言うと…まだ、不安なんだ」
「何がだよ」
「こう言うと失礼かもなんだけど、ハジメ兄ぃはオレが弟だから選んでくれたんじゃないかって。そう…思う時があるんだ」
「翔、お前…」

 小さく震える身体。
 ハジメには新人戦以来吹っ切れたと思っていたが、どうやらまだ乗り越えてはいなかったらしい。
 と言うより、流れた時間の間に少しずつ不安が積もって来たのだろう。

「ふん、バカタレ」
「あいて!」

 翔の額をハジメは中指で軽く弾く。
 状況が良く分からず、取り敢えず翔は両手で額を押さえた。

「俺がんな事するようなお人好しかっての。大体、そんなんだったらこの前のテストでも少し傘増してやってるって」
「ハジメ兄ぃ…」
「ったく、少しは自信を持てよな。不安になるのも解らんでも無いが、周りを信用してみろよ。誰もお前に奇異の目なんか持ってはいない。だから俺も平気でお前にヒントを言えたんだ。そして、何よりその答えを見付けたのは…お前自身。だろ?」
「………………うん」

 長い間をかけて翔は頷く。
 ハジメはもう一度翔の頭を撫でた。
 こうやって、いつも自分は翔を慰めて来たのだ。
 今も、これからも。
 いつまでも可愛くて仕方が無い自分の弟なのだから。

「そう言えば、誰に渡すつもりだ?」
「えっと…ハジメ兄ぃとショーコ姉ぇ。それから……」
「それから?」
「あっ! その、えっと……秘密!」

 顔を真っ赤にして声を張り上げる。
 どうやら翔が菓子作りをする理由はもう一つある様だとハジメは気付く。
 頭の中が一杯一杯になっているらしく、随分と忙しく翔は慌てふためいていた。

「だから、あの………。こ、これ! ハジメ兄ぃの分だから!!」

 そう言って、大量のトリュフに加えてケーキとタルトが二切れずつ。
 軽く見積もっても3人分はある量を翔は指差した。
11名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:09:15 ID:+JpQmwID
981 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:34:43 ID:KespdD+V
>>980

「お、おい。幾ら何でも…」
「やっぱり…駄目だよな」

 もう一度翔は俯いてしまう。
 やたらと感情の起伏が激しいこの弟に負けて、結局自分は翔を甘えさせてしまうのだろう。

「分かった分かった。貰うから、これ全部」
「え…本当!?」
「あぁ。折角お前が作ったんだ。食べないと勿体無いからな」

 ハジメがそう言うと、一面花が咲き誇ったかの様に、翔に笑顔が戻る。
 翔は兎に角表情が素直に現れるので、心の底から嬉しいのだろう。

(甘ったれる原因は、絶対に俺だよな…)

「な、なぁ…ハジメ兄ぃ。これ、食べてみてくれないか?」
「何だよお前。自分で味見してみてないのか?」
「いや、食べたんだけど…やっぱり他の人の意見も聞いておきたくてさ。自分ではそれなりに良いかなって思ってるんだけど」
「まぁそれもそうだな。よし、どれどれ…」

 自分が教えたトリュフをハジメは口に運ぶ。
 2月の冷気で綺麗に固まったそれは、冷たく甘い。
 一度自分も何かの切っ掛けで作ってみた事はあったが、やはり自分以外の人間が作ったからであろうか、その時よりも柔らかく温かみのある味が口の中に広がった。

「うん、美味い。材料のバランスも良く取れてるみたいじゃないか。これなら他の人に渡しても全然大丈夫だと思うぞ」
「本当!?」
「あぁ」
「やった! ハジメ兄ぃ!!」

 これまた翔はハジメへとダイブする。
 今度も後ろに倒れないようにハジメは両腕を広げて翔を受け入れた。

「おっと…。全く、びっくりするから止めろってそれ」
「ありがとうハジメ兄ぃ。大好き」
「翔…」

 幾つになっても素直な翔の言葉。
 それが今、始めの中で響き渡った。
 当然その言葉には恋愛的な感情を入れているつもりは無いのだろうが、世俗の風を浴びたハジメにとって、その言葉は何よりも特別だった。
 何の混じり気も無い、純粋な唯一つの意味を持つ言葉。
 しかし、同時にその言葉は自分だけに対するものでも無い。
 先刻感付いた様に、もう自分は翔が特別な感情を抱く程の人間では無い。
 少しずつ、翔は自分から離れて行っているのだろう。

(兄としては、それを見守るべきなんだろうな。でも…)

 やはり何処かで翔を自分だけのものにしたいと言う独占欲が、ハジメの中で確かに存在している。
 教師と生徒。
 兄と弟。
 垣根を越えて、もっと親密な仲に。
 もう一つの意味で抱き合える関係になれれば良いのに。
 そう思うのは罪なのだろうか。

12名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 03:10:40 ID:+JpQmwID
982 名前:名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:44:34 ID:KespdD+V
>>981

 一限…二限…三限…四限…放課後。
 ハジメによると今日は他校との教師の合同会議があるそうで、部活も補修も何も無い。
 四限後のクラス会議終了の合図を聞くなり、翔は両腕で包みを抱えながら向かい側の校舎の三階へと駆け上った。
 授業の合間では決して会う事が出来無い、空の元へ。

(ソラ、喜んでくれるかな…)

 ハジメからも太鼓判を押されているだけあって、翔の中では期待は膨らむばかりだった。
 何と言って受け取ってくれるだろう。
 どんな笑顔で食べてくれるだろう。

「ん?」

 階段を昇りきった所で、翔は足を止める。
 沢山の女子達が空の教室の前に集まっていた。

(何だろう…)

「おーい、ソラ…」

 空の名前を呼んだ辺りで、翔はその場に固まってしまう。
 沢山の女子に囲まれていたのは、他ならぬ空だった。
 思わず自分の持っている包みを強く握る。
 ここに居る全ての女子に対して的確に対応しながら、空は獣道を歩くかの様に集団を払い分けていた。
 そして、ようやく空は翔が底に居る事に気付く。

「あ、翔君」

 いつもの様に、空は笑顔を向けてくれる。
 両手一杯に大量の女子からの贈り物を抱えながら。

「見てよ。まさかこんなに一杯もらえるなんて思わなかったなぁ」
「そ、そうか…」

 周りの女子の視線。
 空の笑顔。
 自分が持っているものの重み。
 全てが翔に突き刺さる様だった。
 …何で自分はこんな所に居るのだろう。

「じゃ、じゃあ…オレ、先に帰るから」
「え?」
「じゃあな!」

 今自分には空を見る勇気は持てない。
 出来るだけこの場から離れたくて、翔は来た時よりも早く階段を駆け下りた。
 両手から包みが派手に落ちた事も気付かずに、ただ空との距離を感じるだけだった。

「翔君?」

 形の崩れた包みを空は拾い上げる。
 そして、翔が駆けて行った方を暫く眺めていた。
13390:2010/02/17(水) 03:14:06 ID:6zCkpI2L
乙&d!
近日中にまとめWikiに追加しとくわ
14名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 04:34:41 ID:LKV+DSfp
落ちててびびった。
新スレおめ!
15名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 05:56:23 ID:sJfM/0bC
>>5 >>7-12
本当は本人の仕事のはずなのにわざわざスンマセン。
新スレおめ!

それにしてもやたらと落ちるのが早いと思ったらそんなシステムだったのか…(>>4)
一日は幾らなんでも早すぎる
16名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 10:38:43 ID:PU8pb9iQ
おつ
17名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 22:01:42 ID:mes+KQVZ
スレ立て乙
18390:2010/02/17(水) 22:20:39 ID:6zCkpI2L
Wiki更新のお知らせついでに、半端ながら痴漢電車の続き投下


六は新宿駅で電車を降りると、後ろについた犯人に指示されるまま町を歩いた。
その間もヘアゴムで根元を縛られた性器は勃起したままで、六は周りの視線を気にして、恥辱に耐えながら犯人の指示通りに進んだ。
やがて日が暮れ、西新宿辺りの静かな住宅街にさしかかった時、六は突然後頭部を強く殴りつけられて気を失ってしまった。その場で倒れ込もうとする六の体を左腕で支えながら、犯人は小型銃を右手に持ったまま、またも残忍な笑みを浮かべたのだった。
周りに人一人いなかったのをいいことに、犯人は小型銃をロングジャケットの懐にしまい、六を背負って再び歩き出す。
犯人が目指した先は築40年近く経っていそうな、古ぼけた二階建てのアパートだった。老朽化が進んでおり、コンクリートの外壁は黒ずみ、鉄製の階段は塗装が剥げて錆びついている。
犯人は階段を上がって、二階の角部屋に入ると、キッチンを横切って六畳の和室に六を運んだ。
六はそれから一時間と経たないうちに目を覚ました。蛍光灯の強い光に顔をしかめながら目を開いた次の瞬間には、はっとして勢いよく飛び起きていた。辺りを見回すと、そこで初めて犯人と目が合った。
「気がついたか」
部屋着に着替えた犯人は、20代後半くらいの長身痩躯の男だった。頬は削げており、口元には無精髭を生やしているが、女好きのしそうな端正な顔立ちをしている。だがカラーリングで傷んだ髪からのぞく眼差しは、剣呑な光を帯び、射すくめられるような鋭さがあった。
六は男を知っていた。男は裏社会では言わずと知れた、『掃除屋』と呼ばれる凄腕スナイパー、Mr.KKだった。
KKは、刀もなく身構えている六に再び小型銃の銃口を向けると、ベッドから降りるよう命令する。
「俺をどうするつもりなんだ」
六はベッドから降りて直立すると、悔しまぎれにKKに問いかけた。
「なに、おとなしく言うこと聞いてりゃ、すぐに帰してやるよ。着物を脱いで裸になれ」
KKは片手で銃の安全装置を外しながら、日常会話でもするかのごとく穏やかな口調で答えた。
相手は本気なのだ。六は覚悟を決め、おそるおそる後ろ手で帯をほどくと、黒い着流しを畳に落とした。それから乾いた越中褌の紐を引っ張り、根元をヘアゴムで縛られたままの性器をあらわにすると、両手でそこを隠して俯いた。
「今さら恥ずかしがることもないだろ。チンポから手をどけろ」
六が股間から手をのけて横につけると、KKは上から下まで、六の裸体を舐めるようにながめる。
「結構いい体してんじゃん」
KKの指摘通り、六は武術の鍛錬によって鍛え上げられた、たくましい体つきをしていた。全身の筋肉が盛り上がり、特に胸と尻がむちむちと肉感的で、性欲さえそそられそうだった。
股間に目をやると、陰茎はさすがに萎えて、くたりと頭を下げていた。電車の中で剥いた包皮も、亀頭まで被さってしまっている。六は痛々しいほどに顔を赤くして俯き、まっすぐ下ろした両手を強く握りしめていた。
KKは座卓の上に安全装置をかけた小型銃を置くと、やおら座椅子から立ち上がり、六の前まで歩み寄ってきた。畳に落ちた黒い帯を拾い上げ、それで六を後ろ手に縛ると、再びベッドに横たわらせる。
KKはベッドサイドに座ると、右手で六の陰茎からヘアゴムを抜き取り、性器全体を揉みしだく。六の性器は冷たい手の中で踊りながら、みるみるうちに膨れ上がった。KKは六の感度のよさに、満足げにほくそ笑んだ。
「俺、ちょっと前から**デパートの清掃してて、時々お前のこと見かけてたんだ。いかにも堅物そうなお前が、俺の下でヒイヒイ泣きわめいたらどんなに面白いかって興味が湧いて、いろいろ準備してたんだ…」
KKは座卓の上に置いてあった紙袋の中に左手を伸ばすと、中から卵形の小さな玩具を取り出し、コードを垂らして六の目の前に見せつけた。
19名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 00:05:09 ID:ay1WRnS8
kkキター!!!!!
みなぎってきたww
20名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 22:03:47 ID:eI7652sI
wktk
21名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 04:16:04 ID:JlQYL7KQ
みんな書くペースがすごいな。
陰ながら応援してるよ。


しかしポータブルの売り切れっぷりがすごい・・・どこ行っても手に入らん。
仕方なく密林で注文したけど在庫詐欺らしく一向に発送されないw
22390:2010/02/19(金) 15:25:53 ID:zn3Qb44h
Wiiで失敗した分、出荷・入荷数もそんなにないんじゃないか?
キャラのセリフとか気になりはするけど、PS2で出してほしかったな俺は
ACは六の舌出しアクションでお腹いっぱいだが、隠し曲にも期待
23名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 18:07:46 ID:qdKYi4FS
ポータブルおもしろいわー
曲出すのに5ボタンでプレイさせられるけど、余裕を持って曲聴けたり、オジャマを楽しんだりと、かなり満足
作りも丁寧
2421:2010/02/22(月) 01:57:38 ID:gNMqYC4V
>>22
たしかに。
コンマイスタイルでもソフトのみの販売はしてない・・・

最近萌える新キャラがあんまり出ないよな〜
でも今回は戦国だし期待できそう。


>>23
パッドでやったことないし普段オジャマもつけない俺には難しそうだな・・・
25エイタロ:2010/02/22(月) 16:31:28 ID:Fd0CC0Hp
いつの間にやら新スレおめ!
てか、まとめwiki作ってくれた人、超乙!
色々とSSが増えてて読みふけってしまったw

未完のSS、今さらだけど続き書いてもいいのかな?
エイタロのは表現が拙くて恥ずかしいから、始めから書き直したいくらいなんだけど
26390:2010/02/22(月) 16:53:51 ID:PrFf2r9F
久しぶりだなエイタロの人!
続きを待ってる人もいれば、俺も去年の6月9日に投下した痴漢電車の続きを書いてるくらいだから、気にせず書いたらいいと思う
加筆修正とかも反映させるしな
27エイタロ:2010/02/22(月) 17:12:51 ID:Fd0CC0Hp
>>390
久しぶり!
もしかしてwiki作ったの>390だったりする? 乙なんだぜ
痴漢電車、ずっと待ってたから本当にうれしい
おれも頑張るわ
28名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 01:12:00 ID:Z1ZrRNXT
エイタロの人おかえり!
29名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 08:21:15 ID:0sB1/9Y1
>>25
前に書いたのはそのままでいいんじゃないかな?
拙いとしてもそれはストレートなエロさになってると思うよ。
(偉そうなほめ方でごめん)

本音:早く続きを・・・!
30名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 15:39:39 ID:o4t30HmS
なんと、待っててくれた人がいたv
エイタロ書いたの3年くらい前なのに
ありがとう

>>28
ただいま!

>>29
おk
>>29のためにも続き頑張るぜ
ただ、どうしてもおかしい表現だけは修正させてください><
31名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:32:33 ID:zbuykNrQ
前スレ982 (>>12)

「何なんだよ…馬鹿みたいじゃんか。ソラのばかやろー」

 鞄の重みが普段の倍以上に感じる。
 重力というものの重みがこんなにも辛いと思った事は無かった。
 いつも通る公園に差し掛かると、ようやく翔は立ち止まった。

「あ、どこかに落として来ちゃったな…。でも…」

 もう自分が落としたものに対して価値が見出せなくなっていた。
 嬉しい顔を浮かべてくれる。
 喜んでくれる。
 しかし、それは空が誰に対しても向けてしまうものであって、決して自分だけのものでは無いのだ。
 …分かっていた筈だった。
 空は誰に対しても優しいのだと。
 側にあったベンチに腰を下ろし、鞄の中にまだ幾つか残っているものを取り出そうとする。
 だが、ジッパーに手を掛けた所で翔は手を止めた。
 今手にとれば、地面に叩き付けて踏み潰してしまうだろうから。
 今更になって思い出した。
 これは皆に対するお礼であるだけだった事を。

「そうだよ。馬鹿“みたい”じゃ無い。馬鹿そのものなんだよ」

 期待。
 それだけが空回りして一人で先走っているだけ。
 何を?
 決まっている。
 空が自分だけに対して優しくしてくれる。
 そして、自分だけを抱き締めてくれる。
 それを望んでいたのだ。
 自分“だけ”が。

「―先輩?」
「え?」

 それが自分の事だと気付くのに時間が掛かった。
 慌てて顔を見上げると、見慣れた一人の少年の顔がそこにあった。

「ハヤト…」

 人の事を言えた義理では無いが、幼い顔立ちをしている二つ下の自分の後輩。
 スケートボードを両手で頭の後ろに抱えていた。

「こんな所で何やってるの?」

 後輩にタメ口を聞かれても何も思わない。
 それは自分が空と接している時と変わらない。
 元々『先輩』と言われる事ですらムズ痒く思えてしまうのだから。

「単純見解で見れば…悩み事?」
「そんなもんかな」

 それが一目で分かる程なのだろうか、今の自分は。

「うん。誰だってそう思うだろうね」
「そっか…」

 特に尋ねた事に対して大きな意味を持つ訳では無い。
 ただ自分が今どんな状態なのかを知りたいだけだった。
32名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:34:10 ID:zbuykNrQ
>>31

「ハヤト、一つ聞いても良い?」
「えっと、答えられる範囲なら…かな?」
「お前、人を好きになった事ある?」
「うぇ!?」

 余りにも突拍子の無い質問に、ハヤトは顔を真っ赤にしながら噎返る。
 その拍子に落ちたスケートボードを何とか地面に激突する直前で受け止めた。

「な、ななな…何言い出すんだよぉ!」
「そこまで驚く様な事か?」
「当たり前だって!…っと、それってつまりは……恋をした事があるかって事?」
「恋…?」

 特に初めて聞く言葉でも無い。
 それでも何故だか翔には温かい、特別な言葉に聞こえた。
 ベンチの端にスケートボードを立て掛け、ハヤトは翔の隣りに座る。

「どういうのか…分かんない」
「それは人それぞれだと思う。何かが込み上げて来たり胸が苦しくなったり高鳴ったり。いくら何でもそれは他人には分からない。恋って、そう言うものだから」
「そうなのか?」
「うん。少なくとも喜怒哀楽では表現は出来無い」

 初めて見る憂いを帯びたハヤトの表情。
 二つ下の後輩が見せる、大人びた儚気な微笑み。
 ああそうかと翔は理解する。
 彼は恋をしているのだと。
 相手が誰だかは翔には分からないが、それを聞くのは余りにも無粋。
 それでも、やはり翔には恋と言うものが理解出来無い。
 自分は空に恋をしているのだろうか。

(だってオレは…)

 空と一緒に居れる事、側に居て話し合える事が嬉しい。
 ただそれだけ。

「それでも良いんじゃないかな?」
「そう…なのかな」
「一緒に居たいと思うのなら、多分それが翔先輩の正直な気持ちなんだと思う。だったらそれが一番正しいんじゃないかな?」
「正直な、気持ち…」

 思えば翔が知りたいのはそこの様な気がする。
 自分が何を思っているのか。
 素直な自分が分からない。

「そ、それはちょっと難しいかな…」
「いや、そんな所まで相談に乗ってくれなくても良いよ。オレも随分と無茶苦茶言ってるのは分かってるから」
「そう言ってくれると僕も助かるよ。力になれてるかどうかは分からないけど」
「ううん。少しは気が楽になったかな」

 本当はもっと色んな話を聞きたい。
 どうすれば自分と言う人間が分かる様になれるのか。
 何を切っ掛けにハヤトは気付く事が出来たのか。
 翔が知らない事を知っているハヤト。
 恋を知る事で、初めて成長出来る様になるのだろうか。
33名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:36:24 ID:zbuykNrQ
>>32

(オレと、ソラが…)

 それは、あの雨の夜の時の様な事を言うのだろうか。
 直に感じた空の手の感触。
 普段よりも敏感になった部分を重ね合わせ、愛撫された夜。

「ちょ…どうしたのさ。すっごい顔が真っ赤だよ?」
「な、何でも無い…」

 次から次へと疑問が渦巻く。
 あれ以来、二人が直接身体を重ね合わせる事は一度も無い。
 自覚していない訳では無いが、あの日から翔は必要以上に空にくっつく事は無かった。

「…っ!」

 身体の何処かに針が刺さった様な痛みを感じる。

「…本当に大丈夫?」
「正直、少し辛い…かな?」
「…ごめん」
「何で謝るんだよ」
「僕が変な事言ったから、先輩がこんなに苦しくなってるんだよね」
「ハヤト…」

 何時に無く、不安気な表情を浮かべる。
 年相応と言えば間違い無いのだが、その状況を作ってしまったのは他ならぬ自分だ。
 これ以上後輩を心配させるのは余りにも酷だろう。

「でも、少しだけ気が楽になったってのは本当だから。お前までそこまで心配されたら、そっちの方が困るって」

 少なくとも、これは間違い無く本心からだった。

「そうだ。まだ…」

 言うが早いか翔は自分のバッグの中をごそごそと探り始める。
 当然ハヤトは首を傾げた。

「これ、どうしようかって思ってたんだけどさ。受け取ってくれないか?」

 小さなハヤトの両手に乗る程の大きさの包みを翔は差し出した。

「先輩、これ…」
「話を聞いてくれたお礼。…何て代金にしちゃ少し安過ぎるか」
「でもこれ、先輩の大切な人にあげる筈じゃないの?」
「その理屈が当てはまるなら、尚更」
「…分かったよ、先輩。ありがとう……」

 両手でハヤトは翔の包みを受け取る。
34名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:37:52 ID:zbuykNrQ
>>33

「ハヤト…?」

 ありがとう、と言う言葉に翔は違和感を覚える。
 喩えるなら、もう誰かに会えなくなる様な。

「僕、もう帰るね」
「ん…あぁ、悪かったな。お前の練習削って」
「ううん、もう終わって帰る所だったから。じゃあ先輩…さよなら」

 ハヤトは立上がり、スケートボードを両腕で抱えながら公園の外へと駆けて行く。
 一度もこちらを振り向く事無く、ハヤトの姿は丁度涌き上がった噴水の向こうへと消えて行った。

「…ハヤト、泣いて……?」


 ただひたすらとハヤトは駆ける。
 とにかく今は少しでも公園から離れたかった。
 翔を見ている事が辛かった。
 これ以上ただの後輩として立ち振る舞うのはもう無理だった。
 今日と言うこの日、少年は知る。
 決して実る事の無い、初恋と言うものを。

「凄いな、翔先輩。僕、こんなの耐えられない。耐えられないよ…」

 人を好きになった事があるかと聞かれた時、心臓が止まるかと思った。
 気付かれていると思った。
 結局それは違った。
 翔には好きな人が居ると知ってしまった。
 その上に悩み、苦しんでいる事に気付いてしまった。
 だから、もうこの言葉は言えない。
 誰にも聞かれない様に、家の扉に凭れかかってひっそりと呟いた。


    翔先輩…大好きです
35名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:51:09 ID:zbuykNrQ
何で規制喰らうんだろう…

>390
犯人はKKだったのか
これはイイ感じにヤバイ!
Wiki更新いつもお疲れ様です。

>エイタロの人
何を隠そう自分も続きが気になって仕方無い内の一人です。
少なくともスレの題材に沿っていれば全く無問題無問題。
それに引き換え自分の奴がそろそろ立ち位置危くなってきたぞ…

新参者が生意気叩いて本当にすみません。
それにしても、スレの歴史の深さを感じます。
36名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 08:31:40 ID:2wmcZNGi
胸がキュンキュンするww
甘酸っぱいな
37876:2010/02/25(木) 11:41:55 ID:XBO3cvKd
甘酸っぱ過ぎてリアルに悶えてしまった…。
乙です。
38390:2010/02/25(木) 14:11:52 ID:Knx8LkeE
乙!さっそくWikiに追加しといた
規制って、また携帯規制かかってんのか?('A`)
39名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 16:47:33 ID:2wmcZNGi
ここ、けっこう規制かかるよね
ケータイもプロバイダも両方
40名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 09:41:58 ID:PC30MYRl
巻添えってのが何よりヤんなる
41390:2010/03/01(月) 19:18:40 ID:lL9YvtP8
ここの住人は平和にやってるだけにやりきれないよな…

それよりコナミネットDXで18六のアニメ待受配信されてるぞ!
100ポイント消費するが、俺は迷わずダウンロードした
42名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 22:58:50 ID:RjUvU6YD
>>390d公式逝って来る
43名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 11:14:19 ID:HaFUECPe
いまだに嫁が待ち受け配信されない事実・・・
パンダー!!
44名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 22:50:04 ID:lcXLlN3b
>>34

 家に帰れば受話器を手に取り元に戻す。
 部屋に入れば携帯を手に取り元に戻す、を翔は幾度と無く繰り返した。
 まだ昼だから後の方が良いだろうか。
 それとも夕方の遅い時間帯では迷惑だろうか。
 メールだったら大丈夫だろうか。
 若しくは直接会った方が良いだろうか。
 と言うより会っても良いのだろうか。
 もうどれが最良の選択なのか翔には分からない。
 ハヤトに相談して、確かに気分は紛れた。
 しかし、結局はそれだけなのだ。
 気分が紛れて肩の荷がある程度軽くなった事は事実。
 それでも翔が安心して行動するにはまだまだ足りない。

(折角ハヤトが相談に乗ってくれたのに…)

 別れ際のハヤトの様子が気にならないと言えば嘘になるが、今は自分の事だけで限界だった。
 結局ハヤトの言葉全てを理解出来無いまま、翔は自分の家へと帰って来てしまった。
 思えば今日と言うこの日は随分と早く過ぎて行った様な気がする。
 何日も前から計画を練り、前日は徹夜する勢いで台所へと立ち向かう。
 結果的にハジメに手伝って貰ったとは言え、万全の準備を以てこの日に望んでいた筈だった。

(やっぱ、ただの空回りかな…)

 自分の正しいと思った事をすれば良い。
 それがハヤトの言った結論だった。
 再三繰り返している様に、自分には何が正しいのか…分からない。
 恐らく全ての鍵を握っているのはそこなのだろう。
 つまり、それはもう自分以外の誰かに聞いて分かる問題では無いと言う事。

(それ、物凄い我が儘…)

 ちょっとした悪戯が積み重なり、笑い事では済まされなくなった子供の様な。
 すぐに謝ればまだ許してくれるのに、妙な部分で意地を張って。
 その結果、余計に相手を憤慨させてしまう、素直になれない小さな子供。
 でも。
 だって。
 仕方無い。
 言い詰められた状態から出て来る無様な決まり文句。
 稚拙。
 そんな単語が頭を過ぎる。
 恐ろしい程に今の自分に適している。
 結局の所、自分はまだまだ未熟なのだ。
 二つ下のハヤトが大人びて見える程。

(どうしたら良いんだよ…)

 分かっている。
 誰かに教えて貰う事では無いと言う事くらい。
 その正解も知っている。
 “自分に正直になる”では、それはどうすれば良いのか。
 一つの問いが二重三重と重なって、回答への道を塞ぐ。
 入学試験や模擬試験で答えだけ書いても点数は貰えないのと同じ。
 どうしてその答えになったのかと言う明確な証明が必要なのだ。

「オレには、難し過ぎるっての…」
45名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 22:51:20 ID:lcXLlN3b
>>44

 自分の身体を背中からベッドに身を任せる。
 まだまだ西日と呼ぶには早い段階の陽の光が部屋の中へと差し込んでいた。
 温かい。
 こんな所にチョコレートを置いていたら、あっという間に溶けてしまうだろう。

「…良いよな。ただイベントに便乗してやっただけなんだから。別に、今日じゃなくたって」

 シーツの柔らかい感触が、自然と眠気を誘う。
 目を瞑ると、開けておいた窓から入って来る風の匂いを感じた。
 あぁ、もう春なんだとまどろみの中で思う。

(そう言えば、制服のまま…。どうでもいいか)

 そう意識を手放しかけた時、突然手元に置いていた携帯が自らの存在を主張するかの様に振動する。
 心臓が跳ね上がり、一気に翔の眠気は吹っ飛んだ。

(ソラ…!)

 期待とも不安とも取れる不安定なものが入り交じりながらも、翔は携帯を手に取る。
 だが、携帯に表示されている相手は空では無かった。

(みっちゃん?)

「もしもし?」
「あ、あの…突然電話しちゃってごめんなさい。翔先輩、今から御時間ありますか?」
「えっと…」

 改めて枕元の時計を見る。
 当然眠るには早過ぎる時間帯を指していた。
 普段なら、まだ昼の授業をしている筈なのだから。

「オレは大丈夫だけど…」
「でしたら、携帯で話すのも難ですので、学校まで来て頂けますか?」
「あれ、でも今日は…」
「会議でしたら、もう随分前に終わっています。硝子先輩も出席してましたから」

 そう言えば二人は生徒会のメンバーだったなと、翔は思い出す。
 教員だけの話し合いと思っていたが、生徒会も会議に加わって居た様だ。

「うん。良いよ」
「ありがとうございます。では、高等部の昇降口で待ってますので…失礼します」

 その言葉を境に、通話の切れた音が聞こえる。
 電源ボタンを押すと、今使用した分の通話料金が表示された。
 当然向こうから来たので翔の使用費は無しだった。

「何だ…?」

 電話越しでも分かる程に、彼女の声は震えていた。
 ハヤト以外の中等部生では唯一交流があるとは言え、こうして直接連絡が来る事は稀だった。
 何れにせよ、行くと言ったからには向こうを待たせる訳にもいかない。
 ベッドから立ち上がると、クローゼットにハンガーで引っ掛けておいたブレザーを羽織り、翔は鍵を掛けて家を飛び出した。
46名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 22:55:24 ID:lcXLlN3b
>>45

 私立の特権だろうか、中等部と高等部が共通で使用する中央道路を挟んで、二つの校舎は隣り合わせになっている。
 お互いがお互いの施設を利用する機会も非常に多い為、 基本的に中・高間の出入りは自由となっている。
 極最近慣れ親しんでいる坂を登った先に、彼女は立っていた。

「…わざわざ来て貰って、すみません」
「いや、良いんだけどさ」
「ここでは話し辛いんで、場所を変えましょう。鍵は借りてありますから」

 予想はしていたが、やはり何かの相談事なのだろう。
 それも、同性で交流の深い硝子では無く自分に持ち掛ける程の。
 黙って階段を登り始める彼女に翔は付いて行く。
 着いた先は階段を登り切った所にある、屋上への出口だった。
 軽く錆かけて重くなった扉を開けると、強い風が校舎の中で駆け巡った。
 慌てて翔は自分が出ると同時に扉を閉める。

「ふぅ…。で、どうしたんだよ。何かオレじゃないと相談になれない事なのか?」
「…はい」

 その短い返事から、自分に関係する事は予測出来る。
 それ故に、翔には思い当たる節は見当たらない。

「えっと…今日の会議で何か言われたとか?」
「私、今日は会議に出席してません。今日出たのは硝子先輩や他の高等部の方でしたから」
「あれ、そうなんだ…」

 だとしたら、益々翔には分からない。
 一方彼女は鉄格子に手を掛けて、眼下に広がる町並みの方を向いて、翔には背を向けたままだった。

「本当は私、今日は直接家に帰る筈だったんです。でも、偶然翔を見付けてしまったんです。それに…」

 ようやく彼女はこちらを振り向く。
 その瞳に、思わず翔は息を飲んだ。
 眼鏡の奥に光る、誰かを咎める様な鋭い眼差しを。

「ハヤト君を」
「え…?」

 強い風が二人の間を通り過ぎて行く。
 春が来る少し前の暖かい風。
 すれ違い様に身体を切り刻んで行く様な鋭さを持っていた。
 そう。
 それこそが彼女の眼差し。

「ハヤト君、泣いてましたよね」
「な、なぁ…みっちゃん。ひょっとして…」
「ごめんなさい、隠れて聞いてたんです。二人の話を」

 恐らくハヤトがベンチに座った辺りから居たのだろう。
 でなければ、向かい合った状態では彼女はすぐに気付かれてしまうのだから。

「…不安、ですか?」
「えっと…?」
「自分に正直になるって、不安ですか?」
「それは…」

 何と言えば良いのだろう、適切な言葉が思い浮かばない。
 いや、その考えが既に適切では無いのだろう。
 翔が探している言葉は、ただのその場しのぎの言い訳でしか無いのだから。
47名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:00:07 ID:lcXLlN3b
>>46

「…分からない。でも、多分…物凄く怖いんだと思う」
「何故ですか?」

 間髪入れずに回答を次の質問で返される。
 先刻のテストの例がもう一度頭を過ぎった。

「先輩が不安になる理由が、私には分かりません」
「どうしてそう言えるんだよ!」

 彼女に負けない様に振る舞う為か。
 それとも単純に機嫌を損なった為なのか、翔も返答を即座に切り返す。

「だったらどうして! どうして普段はあんなに笑っていられるんですか!!」
「なっ…」

(何言ってるんだよ。何なんだよ…。一体何だってんだよ!)

「あんなに笑っている。楽しそうに…幸せそうに笑っている! だから諦める事が出来た。叶わないと気付いたから、諦める事が出来た。なのに…」

 その言葉を境に、彼女の勢いは途切れてしまう。
 崩れる様に彼女はその場に座り込んだ。
 僅かに肩が震え、不規則な息遣いが聞こえて来る。
 嗚咽。
 もう何がなんだか翔には理解出来無い。
 この僅か数分程度のやり取りで、どうしてこのような状況になっているのか。
 何れにしろ、この状況は極めて宜しく無い事は確かだろう。

「ごめん。やっぱりオレ、よく分からない」
「…もう一度聞きます。どうして分からないの」

 声が掠れてしまい、集中していなければ全く聞こえない程の声。
 何が正しいのか。
 何が最良なのか。
 それを求めるのが正しいのか。

「…ごめん」

 呟く様に答える事。
 これがもう精一杯だった。
 それっきり、彼女はもう何も言わない。
 せめてもの気休めに彼女を慰めようと、翔は彼女に手を伸ばす。
 彼女の肩に手を掛け―

「うあっ!?」

 突然差し出した方の服の袖を引っ張られる。
 決して彼女の力が強い訳では無い。
 しかし予想外な事もあり、翔は為す術も無く身体も一緒に引っ張られた。
 当然全く抵抗出来ずに翔は丁度彼女の身体を覆う体勢となっていた。

「な、何やって…!」

 残りの言葉の全ては遮られる。
 言葉を話す為の媒介である、口を完全に塞がれたからだ。
 夥しい程の熱量が唇から伝わる。
 翔の唇を塞いでいるのもまた、彼女の唇だった。
 ようやくその事に気付き、翔は慌てて起き上がろうとするが、ネクタイを掴まれ身を起こす事すら許されなかった。
48名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:01:28 ID:lcXLlN3b
>>47

「動かないでください」

 思わずひっ、と翔から小さな悲鳴が聞こえる程、彼女は声を押し殺していた。
 両腕にまるで力が入らない。
 彼女に対する恐怖が、翔の力を奪っていた。

「下手に動けば私は大声で人を呼びます」
「な…」

 それが一体どう言う事なのか。
 流石に翔もそれは理解していた。
 傍目からすれば、間違い無く自分が彼女を押し倒したと思われるに決まっているから。

「何で、こんな事…」
「分からないですか? 分からないですよね。だから私はあなたを許せない」

 緩く締めていたネクタイが少しずつ窮屈になっていく。
 彼女に逆らって動き回れば、自分の息の根すら止めてしまいそうだ。

「私は翔先輩が分からなかったのが許せない訳じゃ無い。分からないのが許せない訳じゃ無い。分かろうとしない事が何よりも許せない!」

(分かろうと…しない事?)

「だから、何を…!」
「…です」
「え…?」

 始めの言葉が聞き取れなかった。
 いや。
 聞き取る事が怖かった。

「好きです、翔先輩…」
「みっちゃん…」
「あなたと出会った時から、いえ…。あなたと出会う前からずっと好きでした。今だってそれは変わらない」

 今更ながらに翔は胸を突かれた様な痛みを思い知る。
 知ろうとしない事が罪ならば、それは…

「いつも明るくて可愛くてかっこ良くて、何事も真っ直ぐな翔先輩が大好きです。どうしようも無い位、胸が苦しくなる位」

 あぁそうか。
 ようやく翔は自分の罪深さを知る。
 彼女の言いたかった事を知る。

「翔先輩が空先輩と一緒に居る時、本当に楽しそうで幸せそうで…。だから、私は諦める覚悟が出来た。心から応援出来るって決心出来た。そんな翔先輩が大好きだから」
「じゃあ、ハヤトは…」
「あなたがまだ本当の気持ちに気付いてないと言うのなら、私も余計な期待を抱いてしまう。どんな手を使ってでも…間違いが起きたって構わない」
「オレは…」
「それでも…無理なんです。あなたは何処かで気付いてしまう。本当の気持ちに、いつか絶対に気付いてしまう。だから許せない。私も、ハヤト君も、硝子先輩も…空先輩も!」

(オレは、ソラが…)
49名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:02:44 ID:lcXLlN3b
>>48

「何…してるの?」

 突然この場所に居る筈の無い者の声に、翔はその体勢のまま竦み上がる。
 その突然現れた人物を、翔はたた呆然と見ている事しか出来無かった。

「ソラ…!」

 どうしよう
 どうしようどうしようどうしよう
 一番見られてはいけない人物に見付かってしまった。

「明日ここで天体観測があるから、その準備をしに来たんだけど…」

 やはり空もどうしたら良いのか戸惑っているのだろう、方頬に人差し指を当てて引きつった笑みを浮かべていた。
 それが今出来る限りの空の優しさ。
 それが痛い程翔に伝わる。

「えっと、お邪魔だった…かな?」

 たったその一言が、翔の胸を突き刺す。
 誤解…と言えばまた話は違うが、空にだけはそう思って欲しくなかった。

「…そう思うのなら、後にしていただけませんか?」
「え?」

 意を突き過ぎる彼女の言葉に、空は素頓狂な声を漏らす。
 翔に至っては何も言う事すら出来無かった。

「賢明な空先輩なら、今のこの状況がどう言う事か…御分かりですよね?」
「あ…まぁ、ね」
「ソラ!」

 もっと大切な事を言わないといけない筈なのに、それから先が出て来ない。

「そ、ソラ。オレは…!」
「負けませんから」
「えっと…どう言う事かな?」
「言わなくても、分かっていると思いますが。…良いでしょう。私も翔先輩が大好きですから、あなたには絶対負けません」

 戸惑いを隠せないでいる空を見ている事が何よりも辛かった。
 もうこの場所には居たくない。

「っ!」
「きゃ…」

 空に気を引かれて居てネクタイを掴む腕の力が抜けている内に、翔は彼女を突き放す。
 足が縺れそうになりながらも、兎に角扉へと走る。
 擦れ違う。
 空と自分が。
 嫌だ。
 でも
 今は出来る限り傍に居たくない。
 だから振り返らない。
 乱暴に扉を開き、朱くなり始めた世界を背にして階段を只管に駆け下りた。
50名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:03:55 ID:lcXLlN3b
>>49

「…随分と思い切った事するね。みっちゃんは」

 自分のすぐ隣を駆けて行った翔に対して、空は特に驚いた様子は無い。
 寧ろ、それを予想していた様だった。

「この場合、道化はどちらになるんでしょうか?」
「それは僕も君も、同じじゃないかな?」
「…申し訳ありませんけど、私は本気ですから」
「うん、それは十分に分かるよ。でないとこんな事は出来る筈が無いからね」
「分かっています」

 そこまで言うと彼女は一息入れ、もう一度突き刺す様な眼で空を見据えた。

「最初からそこに居たあなたも、最初からそれを知っていた私も。そして…」

 同じ視線を、翔が出て行った扉の上にある避雷針に向ける。

「私達がここに来る前からずっと“そこ”に潜んでいたあなたも同じですよ、硝子先輩」

 刹那、凪が世界を包む。
 軽やかな音が空の隣で跳ねる。
 それを待っていたかの様に、再び風が舞い上がった。

「へぇ、硝子ちゃんも最初から居たんだ。でもどうしてみっちゃんは気付いたの?」
「当然ですよ。だって、最初からここは鍵が掛かって無かったんですから。私が持っている通常の鍵では無く、マスターキーを所持できる人物は硝子先輩以外存在しません」
「守衛さんが来るには随分と時間が早過ぎるからね」
「随分と落ち着いてるのね」

 ここでようやく硝子が口を開く。
 一見感情の篭っていない無機質な存在に見えるが、それなりに付き合いの長い二人…特に空には、彼女が今の状況を堂思っているのかは目に見えて明らかだった。

「そうかな? これでも結構戦慄しているんだけど、僕は」
「あら、そう。じゃあ、元彼女の私から一つ自惚れた王子様に忠告しておこうかしら?」
「え…?」
「へぇ、どんなものかな?」

 その場の空気が豹変した事を硝子は感じる。
 楽しくて楽しくて、思わず笑いが込み上げて来る。
 普通に笑う事が出来無い分、この様な状況に直面すると逆に楽しめて仕方が無い。
 あぁ。
 鏡を見ながら笑う練習って、どうしてここまで役に立たないのだろう。

「貴方の敵は私やみっちゃん…それに、ハヤトだけじゃ無いって事だけ教えておいてあげる」
51名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:10:14 ID:lcXLlN3b
…何だか中途半端な感じが否めないですが、一応ここでこの話は終わりです。
スミマセン、今後の展開重視でエロに持っていくことが出来ませんでしたorz
前回が思ったより好評だったので今回かなり羽目を外している気がしてならない。

前に規制がうんたら言ってたので一応…
自分は携帯からは投稿出来ないので(プラン的に)いつもパソコンからです。
どうも巻き添えを食らう方も多い様で安心3割不満6割その他1割
52名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 14:38:17 ID:gmQWJH9e
乙!
エロなしでも、俺は好き
いろんなSSあった方が読む方としては楽しいw


てか、書き込みがしばらくないと、していいものか不安になるなww
53390 1/1:2010/03/15(月) 09:06:51 ID:t4V36og8
>51
遅れたが乙!
短いが、俺も痴漢電車の続きを投下するぞ


「これはローターっていうんだ。スイッチを入れると振動する」
KKが親指でコントローラーのつまみを最大まで回し、吊り下げられた振動部が低い音を立てて振動を始める。
そのままKKが振動部を六の鳩尾に落とすと、六は短く悲鳴を上げて上体を跳ねさせた。玩具の登場に怯え、緊張しているらしかった。
KKは六を見下ろして嘲笑うと、振動部を転がして、六の左乳首に宛てがう。
「…っ」
ローターに刺激され、六の乳首がぷっくりと勃ち上がる。KKはコントローラーをシーツの上に置き、右手で振動部をつまみ、乳輪に沿って円を描いて擦りつける。
「う…」
六は目を伏せて、脇に顔を反らし、明らかに感じている反応を見せた。KKはそのままローターで乳首を刺激しながら、六の上に覆い被さるように移動し、喉元に噛みついて舐め始めた。
責められている箇所から湧く快楽から逃れようと六は身をよじるが、腰を中心にくねる動きはよりKKの嗜虐心を煽らせる。
「あぁっ!やめ…うぅっ、うん…っ!」
いきなり馴らされてもいない肛門にローターをねじ込まれ始め、無理やりそこを押し広げられる激痛に、六が悲鳴を上げてのけぞる。
KKは六の喉元に噛みついたまま笑みを浮かべ、振動部をぐりぐりと回しながら肛門に埋めていく。
六は膝を立てて踏ん張り、振動しているローターから逃れようと必死に上下に腰を振って抵抗する。だが痛みで萎えるはずの陰茎は勃起したままで、腰が振れるのに合わせて振り回されながら汁を散らしている。
「ああああぁッ!」
KKの人差し指が第二関節まで埋まった瞬間、振動部が前立腺を刺激し、六は下半身を硬直させて絶頂を迎えた。
怒張した性器の先から潮吹きのごとく濃い精液を噴き出させ、こぼれんばかりに見開かれた目からは涙が流れている。一気に収縮してKKの指を締めつけた直腸はだくだくと波打っていた。
六の直腸が弛んだところでKKはローターを残して指を引き抜いた。
六は浮き上がっていた尻をどさりとつき、絶頂の余韻で自失した表情を浮かべながら、びくびくと小さく裸体を震わせている。無理やりこじ開けられた肛門は切れてはいなかったが、擦れたために赤く腫れ上がっていた。
KKはさも満足そうに笑み、ローターの電源を切って、六の上から退く。スウェットのズボンの股間の辺りに精液がついていた。途端にKKによからぬ考えが浮かび、シーツに視線を落として未だ呆然としている六の短い髪を鷲掴み、力まかせに引っ張り上げて上体を起こさせた。
「痛ぇ…!」
「お前の出したもんでズボンが汚れただろうが、舐めてきれいにしろ」
「ぐっ!」
言い終わる前にKKは六を引き倒して、六の顔面を自分の股間に押しつけた。スウェットの布越しに勃起した性器を押し当てられ、思わず生理的嫌悪が湧き起こり、六はKKに後頭部を抑えつけられながらも腰を引いて抵抗した。
KKは空いていた手でローターのコントローラーを取ると、つまみを中に合わせる。
「あああぁー…。あん、あぁ…はぁっ」
直腸に残された振動部が再び前立腺を刺激し始め、先ほどより弱い振動とはいえ、六は肛門からコードを生やした尻を上げてKKの股間で甘えた声を漏らす。射精して、いったんは萎えた陰茎がぴくぴくとかすかに蠢きながら頭をもたげ始めている。
KKは六の頭を抑えつけていた手を離し、ズボンとボクサーパンツを膝までずり下ろすと、あらわになった性器を六の顔面に押しつけた。
「うぅ…っ!」
「嫌がってないで、さっさとしゃぶれよ。ほら」
KKはコントローラーを握っていた手で自分の陰茎の根元を支え、鈴口から滲み出ている先走りを六の薄い唇に塗りたくるように亀頭を押しつける。
発汗して蒸れた陰部臭が鼻を突き、塩辛い先走りを味わされながら六は顔を逸らして抵抗していたが、KKに執拗に亀頭を押しつけられ続け、観念して小さく口を開いた。亀頭の先に吸いつき、拙いフェラチオを始める。
54名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 17:03:07 ID:luzNysyo
>>53頑なに閉じた口に先っぽこすりつけるのいいなw
これからも楽しみです続き頑張ってください
55名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 18:58:04 ID:U8mx/exB

相変わらず六かわいいな
56390:2010/03/27(土) 14:24:52 ID:5zlFZ0yT
下がりすぎてるから上げとくぞ
57名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 15:24:48 ID:8llai6Iw
ホモ野郎きめぇえええ
58名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 18:50:42 ID:6DeOau0v
罵られるとドキドキします><

>>390
age乙
最近過疎だな
59876:2010/03/28(日) 00:45:07 ID:yi2PyhsC
携帯なのでいつ書き込めなくなるか怯えてます。

ところで今ウーノ×若さん書いてるんですが、ウーノの一人称は
「私」でいいんでしょうか。
60名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 01:41:19 ID:Y5izwlwU
お、876久しぶり。
変なときに規制かかるよなここ。ただでさえ過疎なのに

キャラブックとかケータイサイトの4コマでウーノ喋ってたっけか
まあ、もしかしたら公式に決められてるかもしれないけど、自分で考えていいんじゃない?
それも二次創作のよさだと思うよ
61876:2010/03/29(月) 00:25:23 ID:Sbb+7TAa
ウーノ×若さん投下します。
若干ツースト×フォース要素もあるかもしれない。



私は一般の人が言う「ショタコン」に分類されるのかもしれない。
どうも一緒に暮らしている若が可愛くてしょうがないのだ。
平安時代に生まれたにもかかわらず、現代で暮らす事になった彼の
面倒をみてあげるのが私に与えられた「使命」だったりする。
…とは言っても機械に疎く、世間知らずな所以外はしっかりしていて
とても楽だったりする。まあ、それは若が賢いからなんだけどね。
それになんと言っても若は抜群に可愛い。…というとフォースからは
「また惚気か」と言われるが本当の事だからしょうがない。

女の子のような可愛らしさではない、幼い少年特有の可愛らしさ。
凛とした態度をとりがちだが意外と寂しがり屋で甘えたがるのがいい。
私は間違いなく若に特別な感情を抱いている。
…それを知っているのは(多分)フォースだけで、ずっと若には
想いを隠したまま過ごしている。

若にはいつか、この想いが理解できるようになったら打ち明けるつもりだ。

***

もし私が彼と結ばれると「犯罪くさい」と言われてしまうのでしょうか。
…私でなく、彼が。
今、私はウーノが気になってしょうがない。
とにかく、一緒に暮らしているウーノが格好良いのです。
平安時代から来た私の生活を心身共に支えてくれる優しさ。
タイプが全く違う我々「ミラクル☆4」をまとめられる実力も持っていて、
何よりウーノは他の誰よりも抜群に格好いい。…と言ったらツーストに
苦笑いされたが本当の事だからしょうがないでしょう。

身体を動かす時のしなやかながら力強い動き。
私を呼ぶ時の、爽やかな表情とよく通る声ととても綺麗な笑顔。
私は、間違いなくウーノに特別な感情を抱いている。
それを知っているのは(多分)ツーストだけで、出来れば今すぐにでも
気持ちを伝えたい……と相談すると彼に苦笑されてしまうのです。
62876:2010/03/29(月) 00:28:23 ID:Sbb+7TAa



***

「今日こそ、この気持ちを伝えようと思います」
「止めとけよ」苦笑いをしながらツーストが私に言う。
「どうしてですか。確かに今までは躱されてばかりでしたが今日は…」
「その言葉聞いたの、今日で9回目だぞ」「うっ…」
「もしかしてお前、いつも「好きです」としか言ってないんじゃねえか?」
「それで何か問題がありますか?」
「大有りだ。それだけじゃ躱されるに決まってるだろうが」
「えっ!「好きです」では駄目ですか!?」
「当たり前だ。向こうは「尊敬している」って意味でしか考えねえぞ」
(確かに…だからあんなに自然に躱されてしまうのですか…)
「そんな…私はどうすれば…!」
「そうだな、少し強引だが…」

***

「なぁウーノ」何か言いたいという顔でフォースが呼ぶ。
「なんだい?フォース」
「この間、また若に「好きだ」って言われたんだよな」「そうだけど?」
「俺思ったんだけどさ、それ両想いじゃね?」「はっ?」
「多分「尊敬してる」じゃなくて「愛してる」って言いたいんじゃねえの?」
「まさか?あの若が?」「何か心当たりはねぇのかよ」
「さあ?私の知る限りではないかな」
(まさか…若に限ってそんな事を考えたりするハズ…)
「ウーノ、もしもだぞ。もしも若が…」

***

「ただいま」玄関から少しだけハッキリした声を出した。
「お帰りなさい、ウーノ」先に帰っていた若が薄く、綺麗に笑う。
(その笑顔は、いつも私の疲れを軽く飛ばしてくれる。)
「若、夕飯にしようか」

いつも通りに二人で囲む食卓も、若も、そして私自身もいつもと
全く変わらない。
63876:2010/03/29(月) 00:35:36 ID:Sbb+7TAa



一緒にテレビを見る事も、二人で他愛のない話をする事も。
(この時間も、一線を越えたらなくなるんだろうな…
そう思っているからいつも理性を失わずにいられるんだよね。)
そんな事を考えながら飲むスープは少し、というか結構薄い気がした。
まあ、若が何も言わずに飲んでいるから私の気のせいだろう。

***

お風呂で考え事をしていたらのぼせたらしい。足元がふらつき、
思うように身体が動いてくれない。それでも意識は意外とハッキリ
していたので布団に入る事も出来、その後再び考え事をする事も出来た。
ウーノが入浴している間に私はツーストの言葉を思い出していた。

「そうだな…少し強引になるが………」

あの言葉の通りにすればウーノは気付いてくれる、とも言われた。
(少し抵抗感はありますが…ウーノに気付いて貰えるなら…)

***

私が風呂から出た時には既に若は眠りについていた。
(相変わらず綺麗な寝顔だ…)
まだ幼くて、触り心地のいい頬に指を滑らせてみる。
(若が寝た後、いつもこれをするのが密かな楽しみだったりする)
「おやすみ、若」彼の額に軽く口付けて、自分の布団に入る。
少し広いダブルベッドに並んで横になり、眠りについた。

***

眠りにつく為に布団に入ってからどれくらい経っただろうか。
何かおかしい。
何かに睡眠を邪魔されている。
64876:2010/03/29(月) 00:40:17 ID:Sbb+7TAa





意識がハッキリしてくると睡眠を妨げる原因が解った。
…下半身が、疼く。そんな理由だった。
しかしそれよりもおかしい事に気付いた。それは隣に若がいない事だ。
「若…?」返事が帰ってこない。
しかしその間にも下半身の刺激は大きくなっていく。
(まさか…!?)
そっと布団をめくってみた。その先にいたのは…

「あっ…」
「若、一体何を…っ!」
質量を増していくソレを咥えていたのは若だった。
刺激の正体に気付くと急に身体の体温が上がる。目の前でソレを咥える
若を見ていると理性を削られるが、そこは抑えて、若に聞いてみる。
「若…どうして…そんな事してるの?」
そう聞くと若は口をソレから離して言った。
「私は…ウーノの事が好き…ですから…ウーノの、これを…
しゃぶりたくて…寝たふりをして…いました」
「…若…」

確信した。若は私を「尊敬している」訳じゃない事を。そして
若も私もお互いを「愛している」という事を。

***

「ぁはっ、はあ、ぁ…」「どう?気持ちいい?」
「はぃ…あ…」こんな時でも若は控え目な態度をとる。
若の穴に指を挿れ、擦ってみる。指が動く度に若の身体が跳ねるのが
愛しい。大きく主張している私のソレは自分で何とかすることにした。
65876:2010/03/29(月) 00:48:12 ID:Sbb+7TAa





いくら愛し合っていると言っても、若の身体はまだまだ幼い。
もし私のペニスを挿れたら若の身体を傷付けるかもしれない。
若の穴を弄りながら自身を扱く私を見て若が寂しそうな顔をした。
「どうして…そんな事を…するのですか?男性同士の性交は…その…
ソレを…お尻の、穴に挿れると…聞いた事があります…どうして…
…私の…中に…挿れてくれないのですか?」
「そんな顔を…しないでくれ。君と私の為なんだ。
愛してるからこそ、今は中に挿れる事は…出来ないんだよ」
「そう、なのですか…ぁ!」止めていた指を再び動かし、若を悦ばせる。
小さな若のソレがゆるゆると勃ち上がっていく。
「ぁふ…あっ!あ…」
ついさっきまで持っていた理性なんて既に完全に吹き飛んでいた。
頭は若と自分自身をどう悦ばせるかを考えるだけだ。
「ウーノ…ぁ…もう…」
「ぅ…イき…そう?」「あ、はぃ…」
少し早い若の絶頂に合わせて穴に挿れた指も、自分を慰める指も加速する。
「はあ…っ、あ、はぁッ…もう…ああっ!!」
「ふっ、ぅく…うっ!」
若の絶頂と同時に私もペニスから精液を吐き出した。
私の精液を身に浴びた若が少し眩しく見えた。
「ぁ、ウーノ…好き、です…好き…」
「若…愛、してる…」
66846:2010/03/29(月) 00:49:23 ID:Sbb+7TAa





どうして…そんな事を…するのですか?
…私の…中に…挿れてくれないのですか?」
「そんな顔を…しないでくれ。君と私の為なんだから。
愛してるからこそ、今は中に挿れる事は…出来ないんだよ」
「そうなのですか…ぁ!」止めていた指を再び動かし、若を悦ばせる。
小さな若のソレがゆるゆると勃ち上がっていく。
ついさっきまで持っていた理性なんて既に完全に吹き飛んでいた。
頭は若と自分自身をどう悦ばせるかを考えるだけだ。
「ウーノ…ぁ…もう…」
「イき…そう?」「あ、はぃ…」
少し早い若の絶頂に合わせて穴に挿れた指も、自分を慰める指も加速する。
「はあ…っ、あ、はぁッ…もう…ああっ!!」
「ふっ、ぅく…うっ!」
若の絶頂と同時に私もペニスから精液を吐き出した。
「ぁ、ウーノ…好き、です…好き…」
「若…愛、してる…」

***

(それから数日後…)
「フォース、とうとうウーノと若がヤったみたいだぞ」
67846:2010/03/29(月) 00:55:03 ID:Sbb+7TAa





***

(それから数日後…)
「フォース、とうとうウーノと若がヤったみたいだぞ」
「マジかよ!やったじゃん!
まぁ、俺達のお陰かも、って言ったらウーノ怒るかな?」
「多分な」「でも俺達以外は誰も知らねえだろ?」
「だが二人の相談を口外したのは事実だからな」「そっかー…

ところでさ、ツースト。お前若に何て言ったんだ?」
「そうだな、「少し強引になるが、布団の中でウーノのモノでも
しゃぶってみれば好きの意味も通じるだろ」って」
「確かに強引だな」「…そういうお前はウーノに何て言った?」
「俺はね、「もしも若が夜這いみたいな事したらガチだと思う」って」
「そこは上手く俺に合わせてくれたな」「へへ、まーねー」

「で、ツースト、ウーノと若が愛を育めるようになったことだし、
俺達も久し振りにヤろうよ、なぁ」
「久し振りって言っても先週ヤったけどな。まぁ、いいだろ。
今晩、ヤるとするか。ちゃんと準備しておけよ」
「あぁ、楽しみにしてるからな」



という訳でここでウーノ×若終了です。876です。
実はかなり前から書いていたモノですが、途中で某ゲームに
ハマってしまい、完成が遅れてしまいました。情けない。
個人的に一番気に入ってるのは最後のツーストとフォースの会話です。
では、ここまで読んでくださり、ありがとうございます。876でした。
68876:2010/03/29(月) 00:57:09 ID:Sbb+7TAa
>>67
>>66
名前欄、正しくは876です。失礼しました。
69390:2010/03/29(月) 06:48:11 ID:m36Ys595
876乙!
ショタも可愛くていいな
70名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 22:36:25 ID:8pzC8WYj
ラブラブだな
若がショタってイメージはなかったから新鮮だった乙
71390:2010/04/04(日) 08:48:11 ID:LPUAF1Oq
今回の隠し曲にさっそくいい感じのキャラが出始めているな

特に知らせていないが、まとめWiki更新しているよ
72876:2010/04/04(日) 12:18:27 ID:qOy5Fg4+
390乙です。

まとめwikiですがウーノ×若に内容の重複を見つけたので報告します。
二回目の若の台詞「どうして〜」から二回目のウーノの「愛してる」までが
重複です。こちらの完全なミスでした。すみません。
73名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 17:51:39 ID:Wy156BQt
>>390

てか新キャラkwsk
最近ポプ行けてなくてわからん
74390 1/1:2010/04/05(月) 07:39:17 ID:e6rA2lOS
画像でしか確認していないんだが、山吹っていうキツネキャラが可愛い

短いが痴漢電車の続き投下するぞ


「んっ…ちゅうぅ…んぁ…ちゅっ、んむぅ…」
ローターで前立腺を刺激され、快楽に耐えながら、六は鈴口から先走りを吸い出すようにKKの亀頭に吸いついている。六の性器は完全に勃起し、へそにつかんばかりだった。
KKは強気な六を屈服させ、その上自分の性器をしゃぶらせていることに興奮し、湧き起こり始めた快楽に思わず身震いした。髪を掴んで六の頭を支え、亀頭全体を咥えさせるように腰を前に動かす。
「んんっ…」
「先っぽ吸ってばかりじゃ埒が明かねえだろ。吸いつきながら頭を前後させろ」
六はKKに言われるまま、頭を前後に動かし始めた。亀頭が口から抜けそうになるたびにいやらしい声が漏れる。意識に反して漏れる声とはいえ、六にとっては恥辱以外の何物でもなかった。
しかしそれが未だ残る六の羞恥心を一層昂ぶらすと、下半身を切なく疼かせ、じんわりと新たな先走りをあふれ出させるのである。
六は刺激を待ち望んでいる自分の性器を持て余しながら、KKにばれないように内股に性器を挟んでもじもじと擦り合わせ、目を伏せてひたすらKKの亀頭を刺激し続けた。
「ちゅっ…あふっ、ちゅっ、ちゅぽっ…、んぁ…はぷ…んっ」
亀頭に口内の生温かな粘膜がまとわりつき、KKは快楽にうっすら笑みを薄れさせながらも、六の声に艶が出だしたことに気がついていた。さらに六の尻までが細かく揺さぶられている。
与えられる快楽が飽和状態にありながら、射精できずに焦らされて、そろそろ我慢も限界なのだろうとKKは思った。
「ヘタクソだな。もっと奥まで咥えろよ。俺より先にイッたら許さねえからな」
「んああぁ!」
脅しと共にローターの出力を最大まで上げられ、六は思わずKKの性器から顔を離したが、KKに髪を掴んで引き戻され、今度は陰茎を根元まで咥えさせられた。喉を突かれ、一瞬えずきそうになる。
六は固くつぶった目に涙を滲ませながら、先ほどに増して激しく頭を揺さぶった。
「んん!んふっ、ふっ…んむっ、むうっ、んぅー…っ!」
鼻息を漏らしながら必死に陰茎を頬張る六がたまらなく煽情的で、それだけでKKは危うく達しそうになったが、とうとう六の方が先に痙攣を起こして絶頂を迎えてしまった。
開けきった鈴口から精液を放射し、内股に挟まれて張り出した睾丸の上で、ローターを咥え込んだ肛門がひくひくとわなないている。
KKは六が達したのを確認すると新たな嗜虐心が湧き、六の口から勃起したままの陰茎を引き抜くと、六をシーツの上にうつ伏せに投げ出した。膝まで下ろした衣類を引き上げると、ぐったりとしている六の腰を持ち上げ、いやらしく盛り上がった尻に平手を叩き込む。
「あはぁっ!」
乾いた音が鳴り響き、六は反射的に腰を引くように背中を丸めながら、口の中に溜め込んでいたよだれを垂れ流して嬌声を上げた。射精の直後でまだ熱い性器が、中空で残っていた精液をこぼしている。KKは口元を歪めて笑うと、続けざまに六の尻を打ち据えていく。
75名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:49:10 ID:4ozWM1Mr
>>50

 陽が完全に身を隠しても、翔は一度も自分の部屋から出て来る事は無かった。
 昨日の今日と言う事もあり、ハジメにはある程度の予想は付いている。
 翔の作ったチョコレートを渡せなかった。
 乃至渡せたとして、それが良い結果に終わらなかったのだろう。
 この日この時間にダイニングに座った人物は、ハジメと硝子の二人だけだった。
 ハジメと硝子が向かい合い、本来硝子の隣りの翔の居る筈のテーブルの上には、もう湯気の立たない野菜スープと揚げ物の盛られた皿が置いてあるだけ。
 両親は長期の出張に出掛けているのでこの家に居るのはハジメと硝子。
 それに加えて翔の三人しか居ない。
 食事中はテレビを点けないという暗黙の了解が蒼井家にはある為、この空間には金属スプーンと食器の当たる音だけが空しく響き渡った。

「御馳走様」
 硝子は平皿をテーブルの上に置き、その上に自分の使った食器を丁寧に重ねて行く。
 そして立ち上がり、自分の部屋へと戻ろうとする。

「待て」
「…何かしら?」

 振り返りこそしないが、硝子は足を止める。

「翔の奴、何があったんだ?」
「ふふふ…。分かっていたとして、それを私が言うと思う?」

 硝子の性分は、ハジメも長年理解している。
 だからこそ、それを承知の上で硝子に聞いたのだ。
 そもそもハジメは硝子に何があったのかを聞くつもりは毛頭無い。

「いや、それだけ聞ければ十分だ」
「そう」

 それだけを言い残し、硝子は階段を登って行った。
 取り敢えず、これで硝子が翔に何かしら関わっている事は把握した。
 ただそれだけを、ハジメは探ったのだった。

(こりゃ、一筋縄にはいかないな)

 最近めっきり多くなった溜め息を吐き、ハジメは硝子の片付けた食器を流し台に置く。
 翔の分の野菜スープは鍋へと戻し、揚げ物はラップをかけて冷蔵庫へ片付けた。
 明日の朝食はこれで一先ず保たせる。
 一通り食器を洗い流し、ハジメは今度は冷蔵庫の隣りの棚を開ける。

「おっ」

 二枚だけ残っていた耳の無い食パンの袋を見付けた。
 早速それを取り出し、もう一つだけ残っていた揚げ物とレタス、ソースを一枚のパンに塗り、もう一枚のパンをその上に乗せる。
 後は、パンを対角線に合わせて切れば良い。

「ま、こんなもんだろ」

 質素だがそれなりに見栄えのあるサンドイッチが完成した。
 これもラップに包んで部屋の前に置いておけば、お腹を空かせた翔が食べる事が出来るだろう。

「本当は、せめて下まで下りて来て欲しいんだけどな」

 不安定な状況の人間に、そこまで求めるのは酷だろう。

(…俺に出来るのは、精々こんなもんか)
76名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:50:45 ID:4ozWM1Mr
>>75

 何が一番の解決策なのか見出だせず、ただ様子を見ると言う一番楽な道を選んでいる。
 自分は兄貴としてどこまで踏み込んで良いのだろう。
 それとも、翔と言う垣根には触れずにそっとしておく方が良いのだろうか。

「全く、兄貴失格だよな…」

 階段を一歩一歩登る度に、罪悪感と言うのだろう、足が重くなる。
 翔の部屋の前に立ち、恐らく鍵が掛かっているであろう扉を叩く。

「…メシ、ここに置いておくからな。腹減ったら食べろよ」
「………うん。ありがとう」

 辛うじて扉の奥から小さく声が聞こえた。
 少なくとも、完全に擦り切れてはいない様だ。
 少しだけ安心して、ハジメはまた溜め息を零す。

「じゃあ、食べたらちゃんと寝ろよ?」
「分かってる」

 その返事に生気を感じない。
 これは流石に明日学校に行く余裕は無いだろう。
 決して甘やかすつもりは無いが、無理矢理部屋から追い出すのは不可能だからだ。
 この時初めて自分が翔のクラス担任で良かったと思う。
 クラスや部活の雰囲気から、ハジメは翔が何気無くその中心に居る事を感じ取っていた。
 その翔が突然学校を休んだとなれば、彼達の不安は募る一方だろう。
 しかし、そこは兄である自分が何とか鎮静化出来る。
 翔だけで無く、クラスや部活を支える事が出来るのは自分だけなのだ。

「…これが、精一杯か」


 ハジメが下に下りて行った音を確認した後、翔は扉を少しだけ開いた。
 平皿にラップで包まれたサンドイッチを見付け、落とさない様にゆっくりと手に取った。

「あったかい…」

 まだ揚げ物が冷め切っておらず、仄かな温度を感じる。
 それは決して料理の温もりだけでは無い。
 作ったばかりでハジメの体温も含まれている。
 気が付けば、自分の手はドアノブに触れていた。
 しかし、すぐに翔はその手を離す。
 部屋から出ようとしていた。
 しかし、自分は今この空間から出てはいけない。
 何故かそう思う。
 初めから扉には鍵が掛かっていなかった。
 そもそもこの部屋に鍵と言うものは存在しない。
 出て行くべきか。
 それともこの部屋に閉じ籠るか。
 自分では決める事が出来ず、翔はハジメに全てを委ねた。
 ハジメが扉を開けてここから連れ出してくれるか、このまま部屋に入って来ないか。
 結果、ハジメは部屋の前まで来てくれたものの、部屋の扉すら開けてはくれなかった。
77名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:52:39 ID:4ozWM1Mr
>>76

「…明日、どうしよう」

 どうでも良い様に呟きながら、ベッドの隅に座る。
 特に身体の調子が悪い訳でも無い。
 怪我をしている訳でも無い。
 ただ学校に行きたく無いだけ。
 それが休む理由になれる筈が無い。

(学校に行ったら…会いたくなるに決まってる)

 会いたい。
 今すぐ空に会いたい。
 それなのに、会うのが怖い。

「本当、どうすれば良いんだよ」

 矛盾と言う螺旋が鎖の様に絡まって、身体を締め付ける。
 また選択を誰かに委ねるのか。
 誰に?
 決まっている。
 空に。
 ではその判断基準は?

「…馬鹿じゃねぇの?」

 空が自分の部屋に来てくれるとでも言うのか。
 それまで自分はこの部屋を出ないのか。
 周りに流されてばかり。
 頼ってばかり。
 自分を見出だせ無い、糸で動く操り人形。

(情け無いよな。オレは結局アイツが居ないと…)

「あ…」

 自分が今何を思ったのか。
 何を思い浮かべてしまったのか。

「痛っ!」

 軋む様な胸の痛み。
 両手で自分を抱き締めても、紛わす事が出来無い。
 何故こんなに痛いのか。
 何故こんなに切ないのか。

「うぁっ!」

 身体がくの字に曲がり、その体勢のまま肩からベッドの下へと落ちてしまう。
 しかし、その痛みが気にならない程に、胸は更に苦しむ。

「これ…前のあの日……」

 朧気な情景が次第に鮮明になる。
 何を思い出していたなんて決まっている。

「ん…」
78名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:53:55 ID:4ozWM1Mr
>>77

 置いてあった手を胸から下へ。
 腹部を通り過ぎて更に下へと伸ばしていく。
 ズボンの上から触れても膨れ上がっているのは明らかだった。
 奇妙な痛みがそこから全身に伝わり、布が擦れて先端を撫でる。

「ふぁ、あっ…!」

 やはり普段は出せない様な声が漏れてしまう。
 この感覚を何と呼べば良いのだろう。

(助けて…助けてよ……。ソラ……)

「翔、大丈夫か!?」

 乱暴に扉を開き、自分を捕らえていた部屋と言う名の籠を開いてくれた。
 自分の名前を叫び、どうやら自分を心配してくれているらしい。

(誰…?ソラ……?)

「おい、翔!」
「ハジメ、兄ぃ…?」

 恐らく自分が床に落ちた時に音が下の階まで響いたのだろう。

「何があった?苦しいのか?」
「平気…」
「馬鹿、んな訳あるか」

 ハジメが自分を心配してくれているのは嬉しい。
 そこに偽りの念は無く、自分の素直な気持ちではある。
 だが、自分の今のこの状態をハジメに見られるのは嫌だった。

「腹でも痛いのか?」
「違…」
「いいから見せてみろ」
「い、イヤだ!」

 両手でハジメを押し退ける。
 二人が固まったのは丁度その時だった。

「あ…」

 ハジメの目線が一点に集中する。
 それは今のこの状況からすれば至極当然の事ではあるのだが、翔にとってはこの上無い羞恥だった。

「み、見ない…で……」

 遂に口調すらも弱々しくなってしまう。
 目尻が濡れて、視界がぼやける。
 今の自分をハジメにだけは見て欲しく無かった。
79名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:54:53 ID:4ozWM1Mr
>>78

「おいおい、そんな事で泣くなよ。俺の方がびっくりしたじゃねぇか」
「ハジメ兄ぃ…オレ……」

 脱力した溜め息をハジメは零す。
 その様子を見ていると、自分が今悩んでいる事が馬鹿みたいに思えてならない。

「要はお前、随分溜まっているんだろう?だったらヌいてしまえば良いだけじゃないか」
「えっと…」

 事も無げにハジメは言う。
 それが翔にはどうにも理解出来無い。
 しかし、どうやらこの状況の解決策をハジメは知っている様だ。
 だったらいっその事…

「ハジメ兄ぃは…」
「ん?」
「ハジメ兄ぃは、なった事あるのか?その…“こう言う事”」
「あ?そりゃお前、俺もお前も男なんだからこれ位なったりするだろ…って。おい、お前…」
「あの…オレ、分からない……」

 唖然…基、愕然とした表情を向けられた。
 そして数秒間悩んだ挙句に酷く深い溜め息を吐かれる。

「お前さ、“こう言う事”は中学の時に習わなかったか?」
「覚えて…無い」

 ハジメの様子から、どうやら自分の知識の無さは筋金入りらしい。
 だからと言って、このまま無知なままな訳にもいかない。

「だったら…だったら今、教えてくれよ」

 莫大な問題発言。
 当然それをそうと認識出来る程、翔の知識は出来てはいない。

「ちょ…待て待て待て待て!いくら何でもそれは…」
「何でだよ!ハジメ兄ぃは教師なんだろ?」
「馬鹿、教師だから問題なんだよ!」
「じゃあ教師じゃ無くて良い!オレ達…兄弟だろ?それに、こんな事はハジメ兄ぃにしか頼めないから」
「翔…」

 頬を赤らめながらも目線だけはハジメから外さない。
 翔にはそれがハジメに火を点けている事は理解出来てはいない。
 翔に釣られる様に顔を真っ赤にしたハジメは、冷たい手の平を顔面に当てる。

「ばっ…何て事言うんだよ、お前は」
「だって、オレ位の歳だったら知っておかないといけないなら…だから、ハジメ兄ぃ!」

 ぐっとハジメは息を飲む。
 この状況を如何にして打開するか。
 …では無く、どこまでこの流れに乗れば良いのか。
 何故なら、ハジメにとってこの状況は願ってもいなかった絶好の好機となるからだ。
 子供の頃から手塩に掛ける様に接して来た、大切で仕方の無いたった一人の弟。
 長年積み重なって来た思いは、いつの間にか“想い”に掏り変わっていた。
 その弟が今自分の腕の中で、俗の様な言い方をすれば誘っている。
 想いが溢れ出てしまいそうな程に、ハジメは既に溜まり切っていた。
 生徒であり弟と言う垣根を打ち破り、翔の全てを自分のものにしてしまいたかった。
 度の過ぎた愛狂で、自分を抑える理性と言うものはもう殆ど残っていない。
80名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:55:54 ID:4ozWM1Mr
>>79

「…良いのか?」

 言うなれば、目の前におやつを並べられた子供の様な。
 寧ろ、餌が盛られた皿を目の前に置かれたにも拘らず、首に繋がれた鎖で手の届かない状態の猛犬。

「…うん。ハジメ兄ぃだったら、大丈夫。我慢…出来る」

 瞬間、ハジメの中で何かが崩れ墜ちる音が聞こえた気がした。
 恐らくは、それが理性と言うものだろうという事も理解していた。
 それでも。

「ん…」

 手始めに翔の唇を奪う。
 互いの舌が絡み合う。
 と言うより、自分の舌で翔の口内を満たす。
 粘性のある生々しい水水音が、微かに漏れる。

「あ、ふぁっ」

 自分の背中に回された腕が少し強く締まる。
 意を察してハジメは唇を開放した。

「息…出来無かったか?」

 僅かに頬を紅潮させ、両肩を揺らしながら翔は黙って頷いた。
 あぁ本当に何も知らないんだなと、ハジメは翔と言う人物を認識する。
 実際翔が唇を奪われたのは一度や二度では無いのだが、翔が空と重ね合った時の記憶は殆ど残っていない。
 やはり羞恥による記憶の摩耗が大きな要因だろうか。

「そう言うのは鼻で息をするんだよ。でないと本当に窒息してしまうぞ」
「あ…」

 記憶の片隅に残っていたのだろう、空の言葉が蘇る。
 不安で自然と身体が震えた。

「後悔しても」

 一度ハジメが言葉を区切ると、翔は黙って首を横に振った。

「…知らないからな」

 言うが早いか、ハジメは翔を背中のベッドへゆっくりと押し倒す。
 首の後ろから腕を抜くと、翔の服の裾から腕の中へと侵入させる。

「ひぁっ!」

 一瞬で全身を擽られた様な奇妙な感覚が翔を襲う。
 ハジメの冷たい指先で、翔の胸の突起部に触れた為だ。

「ぁふ…、くすぐった……ぃあっ!」
「何だ、ここ弱いのか?」

 獲物を見つけた悪餓鬼の笑みを浮かべながら、ハジメは執拗にその部分を弄り回す。
 少しでも指が動けば、その度に翔の弱々しい悲鳴をあげる。
 ムズ痒さに絶え切れずに背中を反る為に、服の上からでも翔の胸の突起部が堅く立ち上がっている事が分かる。
 一度中から腕を抜き出し、ハジメは翔の服の裾を捲り上げた。
81名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:57:29 ID:4ozWM1Mr
>>80

「やっ…」

 新雪が降り積もった雪原の様に、真っ白な翔の肌。
 その雪原を踏み荒らす様に、ハジメは軽く口付けを落とす。

「ひゃっ!あ、赤ちゃんかよ!!」
「む…」

 自分でも自覚していない訳では無いが、面と向かって言われると何か癪に障る。
 ここで、ハジメの悪戯心に火が点いた。

「てめ、こちとら痕を付ける訳にもいかないから気を遣ってやってるってのに…。覚悟は出来てるんだろうなぁ?」
「は? それってどう言う…」

 翔が言葉を言い終わらない内に、ハジメは翔のズボンを一気に下ろす。
 翔が声をあげる間も無くハジメは真っ白な下着の膨れ上がった部分に顔を埋める。

「ひゃわぁぁ!!?」

 下着越しにハジメの生温い息が当たる。
 そしてその下着ごと、翔の幼包としか言えないモノを口に含んでいた。

「な…ななな、何しやがるんだバカ兄貴!!」
「考えも無しに随分と言いたい事ぶちまけてくれたお礼だ。それに…」
「あぁっ!」
「バカ兄貴とはこれもまた随分な物言いだよなぁ?」

 下着の前部分の用を足す為の穴を開き、翔の隠茎部を舐める。
 それに抵抗して、翔はハジメの頭を押し返そうとするも、全く力が入らなかった。

(ったく、何てヤらしい声出すんだよ。さっさと終わらせないと…)

 今度は自分の下半身に違和感を感じる。
 最早どう言う状態なのかは明白だった。

「じゃあそろそろ…」

 隠れていた残りの茎部も遂に露になる。
 根元から先端まで年齢に不釣り合いな程に何も無く、翔の成長の遅さを改めて実感した。

「ホントに生えて無いんだな、お前」
「う、うるさい!」

 それでも見られている羞恥からか、先刻の行為に寄る快感からか、翔の茎部は自身を主張する様に反り立っていた。
 その幼き故の未熟さがハジメの中の何かを擽る。
 それは恐らく翔だからそう思えるのだろう。

(こいつそこら辺の女より腰周りとか細いし、可愛い顔してるしな…)

「やっ…」

(こいつの声…ヤバ過ぎるっての)

 吸い上げる様に、ハジメは翔の先端に口付けする。
 唾液を潤滑油変わりにしてその先端から亀頭を出すと、真っ赤になって震えていた。
82名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:58:29 ID:4ozWM1Mr
>>81

「ふぁ…やぁ……はっ……」
「…いきそうなのか」
「分かんないよ…。でも、ヘンな感じする……」

 やはりそろそろ限界が来ているのだろう。
 既に翔の呼吸は荒く、頬の紅潮もより一層はっきりしたものになっていた。

「あ…あぅ……あああぁぁ!!」

 翔の身体が電撃が走ったかの様に震える。
 茎部が軽く脈打ち、少量だが白濁した粘液が跳ね出す。
 翔の体温がそのままハジメの手の上に零れ落ちる。

「はぁ…はぁ…はぁ……」

 眼の光は虚ろ。
 僅かに肩を揺らして不規則になった呼吸を整えようとしていた。
 腹部に数点。
 そして、ハジメの手の上。
 微かに見覚えのあるその白濁色の液体を、ハジメは側にあったウェットタオルで拭う。

「ふぁ…」

 当然翔の先端部に残っていた分も丁寧に拭き取った。
 一度果てたとは言え、元より敏感な部分なのだから仕方が無いと言えば仕方が無い。
 それでもその時の翔の表情には眩暈を覚える。
 後一度、何か反応されたら今度こそハジメには抑える理性は残っていない。

「…な。こうやってたまにしておけば、気持ち悪く無くなるだろ?」

 最早言い訳でしかない言葉を見繕い、ハジメは立ち上がる。
 今は少しでも早くこの部屋から抜け出したかった。
 しかし翔に腕を掴まれ、思わずハジメは肩が竦み上がる。

「待てよ、ハジメ兄ぃ」
「な、何だよ」
「良いからこっち向けよ!」
「ちょ、やめ…」

 一体何処に力が残っていたのだろう、ハジメは結局ベッドまで引き戻された。
 そしてそのまま背中からベッドへと落ち、気が付けば自分が翔を見上げている状態だった。

「何する…」
「バカ兄貴!それはこっちのセリフだ」
「な…」
「ハジメ兄ぃの…その、“ソレ”もオレみたいな事になってるだろ」
83名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 22:59:46 ID:4ozWM1Mr
>>82

 Gパン越しに膨らんでいる自分の“ソレ”を、翔は目敏く見抜いていた。
 いや、自分が必死にそれを隠そうとして逆に露骨に態度に現れていたのだろう。
 隠し事の下手な性格が大きく災いしてしまった。

(マズイ…マジやばいってこの状況)

「…すから」
「は?」

 今とても信じられない言葉を翔が口走った気がする。
 そしてその言葉を鵜呑みに出来る程、ハジメには余裕と言うものは持ち合わせていない。

「オレが…治すから。ハジメ兄ぃが、オレにやったみたいに」

 身体中の血液が沸騰と冷却を繰り返しているのが嫌と言う程分かる。

「お前…言ってる意味分ってるのか?」
「分るさ!分ってるから…こんな事、ハジメ兄ぃに言えるんだよ。ハジメ兄ぃだから、こんな事言えるんだよ!ハジメ兄ぃこそ、オレが言ってる意味…理解出来てるのか?」
「翔…」

(出来てる…。出来てるさ。嫌と言う程)

 もしかしたら自分が考えている事と翔の言っている意味は食い違っているかも知れない。
 昨日の朝気付いた通り、翔には明確な想い人がいるのは明白だ。
 それでも。
 自分の中にある儚い期待に想いを馳せて、翔と結ばれる運命を望んでしまう。
 つまり、翔は単純に『好き』の意味をただの友好的な意味と勘違いしているのではないか。
 そんな稚拙な期待を信じて、今のこの状況に甘んじる。
 仮にそれが正しかったとしても、結局はただ翔の勘違いに付け込むだけの卑怯者でしかない。

「本当に、良いんだな?」
「しつこいな。その、恥ずかしいからあんまり言わせるなよ。…バカ兄貴」

 最早その反抗的な言葉も、顔を赤らめて目線だけこちらを向く仕草も翔らしさが伝わって可愛らしく思える。

「っ…!」

 隠部に翔の小さな手が触れた。
 成る程、翔の先刻の反応も理解出来る。
 ジッパーを下ろす音が聞こえ、薄い布で覆ってあるだけのソレに翔は触れる。
 覚束無いその手付きは、ハジメには更なる快感を与える。

「う、あぅ…」

 薄布を下ろすと、翔の自分のソレとは違う、年齢相応の雄々しい男根を目にする。
 改めて、翔は自分の身体が完全に未成熟である事を痛感する。
 先端から僅かに顔を出している本体も、根元にある体毛も。
 何もかもが発達していた。

「馬鹿、そんなにまじまじと見るものじゃないぞ」
「そんな事、言ったって…」

 確かに今よりももっと小さい頃、ハジメと一緒に風呂に入っていた時期もあった。
 しかし、只でさえその様な人体の不思議に疑問を抱く様な年でも無かったし、当時のハジメも自分程では無いにしろ身体が発達してはいなかったので、それに対する意識は完全に零だった。
ようやく翔の人生の半分相当の長い年月を掛け、初めてその不条理を思い知る。
84名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:02:34 ID:4ozWM1Mr
>>83

(えっと、ハジメ兄ぃは確か…)

「んっ…」

 先刻この身で体験しただけの知識を便りに、ハジメの隠部を口に含む。
 口内に粘り付く様な感触と、表現の出来無い奇妙な味に翔は表情を歪める。

(何だこれ、すごく気持ち悪い。でも…)

「ぅっ…」

 舌を動かす度にハジメの脈が伝わる。
 初めて見るハジメの表情。

(ハジメ兄ぃ、気持ち良さそう…)

 口の中に含んでいるモノが、更に硬く大きくなっていた。
 それだけハジメは翔を感じてくれているのだろうか。

「っ…。もうちょっとこっちに…」
「ん?」

 ハジメに言われるがまま、翔は身体をハジメに近付ける。

「ひゃっ!?」

 冷たい様な生温い様な、体感的に余り気分の良くない奇妙な温度が臀部を襲う。
 その正体はハジメの少し体温の上がった指先であり、更にハジメはその割れ目の更に奥深くへと探る様に潜り込む。
 あっと言う間にハジメは目標を見付け、それよりも更に奥へと指を滑らせる。

「やっやめ…そんなトコ、汚…あぁ!」
「良いからおとなしくしていろ。でないと、後が辛いぞ」
「だ、だけど…。いった…」
「頼む。少しだけ、我慢してくれ」

 身体の中に感じるハジメの指先の感触と体温。
 翔は幼少の時に一度だけ体験した座薬を思い出した。
 身体の中に奇妙な異物を差し込まれる時の恐怖。
 もう二度と体験したく無いと思っていた。

(あの時と違う、中途半端に柔らかいから…ヘンな感じ)

「ぁ…は……」

 何とか呼吸を整えようとする。
 しかし中で動くハジメの指は、壁の至る所で擦れ合い、時には撫でられている様にも思える。

「…こんなもんか?」

 ゆっくりとハジメは指を引き抜く。

「じゃあ、覚悟は良いか?」
「んっ…。大丈夫……」

 本当は、不安の方が何倍も大きい。
 それでも出来るだけハジメにそれを悟られない様に余裕のある表情を無理矢理取り繕う。
 言葉の端々に乱暴な部分が見受けられても、ハジメは自分を案じてくれているのだと分かる。
 どれ程までに自分を大切にしてくれているのか、悲しい程に伝わって来る。
85名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:04:35 ID:4ozWM1Mr
>>84

「もう嫌だって言っても…止めないからな」

 翔の下着を下ろすと、ハジメは両腕で翔を抱き抱えた。
 余程自分が軽いのか。
 それともハジメの力が強いのか。

「…暖かい」
「ん?どうした?」

 小さく呟いた翔の声は、どうやらハジメには届かなかった様だ。

「…いっ!」

 掠れた空気の様な悲鳴とも取れない声が、翔から零れる。
 指とは比べ物にならない太棒に身体が沈んで行く。
 それは先刻翔が舌でハジメの血潮を感じたモノ。
 ハジメの温度の象徴。

「あぁ…ああぁ!」

 身体の奥深くでハジメを感じた。
 それなのに、全然足りない。
 もっと感じたくて、ハジメに縋り付く様に抱き付いた。

「ゆっくり、動いてみろ」
「どうやって…?」
「お前が思う様にすれば良い」
「う…ん」

 とは言え、この状況で出来る行動は大きく制限されている。
 つまり、これもハジメの優しさなのだろう。
 行動の猶予をくれたのは、ただ翔の負担を少しでも抑える為。
 言われるがままに、ハジメの肩を支えにして少しずつ身体を上下に揺らす。
 ハジメの亀頭が何度も何度も翔の中を掻き乱す。
 それに合わせて、ハジメも少しずつ腰を動かしてくれる。

(ハジメ兄ぃ…気持ち良いんだ)

「う…やぁ……はっ……あぁっ!」

(すごく痛い。すごく苦しい。でも、すごく気持ち良い…)

「っ…!」

 声にならないハジメの声が聞こえた。

「はぁ…はぁ……」

 呼吸を整えようとするハジメが見えた。

(ハジメ兄ぃ…ハジメ兄ぃ……ハジメ兄ぃ………!!)

 翔の先端が己を主張する様に再び宙を向く。
 身体中の血液が、全て下の方に流れて行く様な錯覚に襲われる。
86名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:05:33 ID:4ozWM1Mr
>>85

「ハジメ兄ぃ、オレ…オレ……!」
「…イきそう?」
「た、多分…」

 自然とハジメを抱く腕に力が入る。

「うっ…!」
「あぁ…うぁ……あああぁぁぁ!」

 身体の中でハジメを感じた。
 何処か遠くにハジメが行ってしまいそうで、何度も何度も名前を呼ぶ。
 既に頭の中が真っ白になって、もうハジメの事だけしか考えられなかった。
 視界が薄れ、少しずつハジメの顔が遠くなって行く。

「ずっと…一緒に居るからな」

(あぁ、そうなんだ)

 ずっと探していた答えをようやく見付けた。
 本当に正しいのは…

(これが、人を好きになるって事なんだ)


 深く眠りついた全裸の翔を両腕で抱き抱えながら部屋を出ると、硝子が自分の部屋の前で腕を組んで待ち構えていた。
 それに対してハジメは特に驚いた様子も無く、寧ろ予想していたらしい。
 硝子にしても、視線こそは冷たいが特にハジメを咎める様な目差しでは無い。
 長年一緒に暮らしているのだから、彼女の意図がはっきりと分かる。
 その視線を無視する訳では無いが、ハジメは硝子の前を通り過ぎようとした。

「随分と余裕無くなってるじゃない?」

 冷めてはいるが実に楽しそうな硝子の声。
 相変わらず何もかもを見透かすその能力に、ハジメはただふっと小さく息を吐き捨てるしか出来無い。
 兎に角このまま翔を外気に晒しておく事は出来無いので、何事も無かったかの様に硝子の前を通り過ぎ、階段を下りる。
 一度翔を階段の端に座らせて風呂場まで行くと、ハジメは浴槽の蓋を開けた。
 噎返る程の蒸気が舞い上がり、外気の冷たさが窺われる。
 それだけに、翔をあのまま放っておく訳にはいかない。
 急いで階段に戻り、ハジメはもう一度翔を抱えた。
 自分は服を着たままだが、どうせ洗濯籠に放り込むつもりなのでハジメはそのまま風呂場へと入る。
 洗面器で浴槽に張った湯を掬い、ゆっくりと翔にかける。
 未だに十代に満たない子供の様に、柔らかい翔の肌は水を弾いている。
 しかし、主に腹部辺りがぬるぬるとしていた。
 それは乾いてしまった自分と翔の精液。
 二人が繋がった証。
 未練がましい己の欲望が残した、罪深い爪痕。

「…随分と余裕無くなってるな」
87名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:07:11 ID:4ozWM1Mr
>>86

 いつもの様に、目覚時計の音に起こされて朝を迎えた。

「ん…」

 カーテン越しに窓からは光の波が翔を差していた。
 寝起きで働いていない頭の中にも、昨晩の情事は鮮明に残っている。
 幾らか和らいでいるとは言え、未だに痛みも残っている。
 気が付けば、自分が着ている服もちゃんとした寝間着に替えられていた。
 自分が達して意識を手放した後に、ハジメが着せてくれたのだろう。

「ハジメ兄ぃ…」

 名前を呼ぶだけでも、心臓が脈打つ。 
 不思議とそれが心地良かった。

「…学校、行かないとな」

 もうハジメは起きているのだろうか。
 それとも寝過ごして慌ただしい朝を迎える事になってしまうのだろうか。
 いつもの様に階段を降りてダイニングに向かうと、誰の声もしない。
 基本的に硝子はかなり早くから家を出るので恐らく後者になるだろうと思った。
 案の定ダイニングの証明は点いていない。

「え…?」

 いつもはそこに無い筈のものがテーブルの上に置いてある。
 それは一枚の紙切れだった。
 小さいが癖の無い字から、それはハジメの書き置きである事が分かった。
 『昨日のサンドイッチ食べてな』
 はっとして翔は壁時計を見上げる。
 既に時計の針は十一時に差し掛かろうとしていた。

「嘘だろ!?」

 完全に寝坊してしまった事をようやく理解する。
 慌てて翔は部屋に戻ろうと階段まで差し掛かった辺りで足を止める。

「オレ、時計は動かしてない。それに、遅刻しそうになったなら何でハジメ兄ぃは起こさなかったんだ?」

 加えて、ダイニングのテーブルの上に置いてあった書き置き。
 どう考えてもハジメの仕業としか思えない。
 そもそもこの時期は目が覚めた時に陽が差している時点でそれなりの時間が経っているのだから。
88名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:07:43 ID:4ozWM1Mr
>>87

「ハジメ兄ぃ…。バカ」

 これもハジメの優しさなのだろうが、ここまで来ると優しさを通り越して甘過ぎるのではないだろうか。
 しかし、こう言った平日に学校に行かないのは滅多にある機会では無い。
 今日一日だけでも使わせて貰う事にする。
 ようやく理解出来たのだから。
 “人を好きになる事”を。
 ハヤトの言う『恋』と言うものを。

「………あれ?」

 初めて覚える違和感。
 それに気付いた時、翔の思考は一瞬止まった。

「オレは…」

 その対象は自分の感情。
 つまり

「“一体誰が好き”なんだ?」

 『恋』を知り“人を好きになる事”を知る。
 しかし、その相手が誰なのか分からない。
 初めて本当の友達として触れ合った空。
 初めて身体を重ね合い、ずっと自分を気に掛けてくれているハジメ。
 自分を慕ってくれる後輩であるみつきとハヤト。
 自分の恋慕の矛先が誰に向けられたものなのか。
 それが自分でも分からない。
 確かに翔はその全員が『好き』ではあるが、それが転じて『恋』に繋がると言う訳では無い。

「何だこれ…。どう言う事だよ……」

 この局面に来て、翔は正解まで歩き続けて来た足を止めてしまう。
 もしかすると、自分は何処かで大きく足を踏み外してしまったのではないか。
 そう思えて…怖かった。
89名無しさん@ピンキー:2010/04/09(金) 23:18:51 ID:4ozWM1Mr
規制やっと解除されたぁ…
前回全くエロ無かったんで今回はちょっと変態っぽく(ハジメが)…
は?
描写?
ナニソレ美味しいの?

>390
wiki更新いつも乙です。
KKがどんどん鬼畜になって六がどんどんふにゃふにゃになっていく…。
六って実に調教のし甲斐があると思うのは俺だけ?

>876
若がショタだと思ってたのは俺だけでは無かった!!
こういうすれ違いって何かイイよね。
両想いが気付かなくって実は…って言う、昔の少女漫画的な。
あ、ここ腐男子スレですねスミマセン。
90名無しさん@ピンキー:2010/04/10(土) 03:05:58 ID:/sDjm3Mk
>>74
>>75
両者とも乙!
91名無しさん@ピンキー:2010/04/13(火) 11:27:14 ID:BuFyqJxF
乙乙

過疎だけどコンスタントに更新されててうれしい
92390:2010/04/14(水) 23:48:13 ID:hZy7+CGd
獅子若の弟登場で今作はケモ豊作だな
モフモフしてえ
93名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:15:22 ID:Ly4MlMLk
>>88

 ハヤトが初めて翔への想いに気付いたのは中学に入学して一ヵ月と経たない、まだ自分が中学生と言う自覚すら持っていない時だった。
 学年の中でも最下位とまでは行かないが、ハヤトの身長はかなり低い部類に入る。
 入学した次の日にある身体測定。
 当然クラスの中で一番身長の低いハヤトは、苛められはしなかったものの、その事に対してからかわれる。
 同時に始まる部活動の勧誘・体験入部期間。
 既に趣味のスケートボードをやると決めていたハヤトにとって、この期間は喧騒以外の何物でも無い。
 一見気が体力が無く弱そうな外見と言う理由だけで全文化部に連れ込まれたし、自分が男であると言う理由だけでほとんどの運動部にも連れて行かれた。
 間違い無くこの間に学校中の部活動に顔を出したのは自分だけだと自負出来る。
 こうなったら全ての部を周ってやると躍起になり、意外な事に全く声の掛からなかったバスケットボールの活動を見学しに行った時だった。
 と言っても自分から声を掛けて見学したのでは無く、体育館上部にある応援席から見下ろす程度だった。
 一度見れば、何故ハヤトが声を掛けられなかったのかは一目瞭然だった。
 コートの隅には自分と同じ学年と思われる体験入部者が大勢居た。
 要は既に十分過ぎる程の入部希望者が居た為に、直接的な勧誘をする必要は無かったのだろう。
 どの道入部するつもりは端から無かったのだから、ハヤトは練習試合を1セット見て帰るつもりだった。
 そこで初めて、動き回る選手の中に一人だけ異質な存在を見付けた。

「あの人…」

 遠目で見たって分かる位、自分と同じく…。
 いや、下手をすれば自分よりも背の低い上級生が、自分を中心としてボールを操っていた。
 素人目で見ても、彼のプレイはムラがあると分かる。
 しかし、同時に小さい身体を生かした一生懸命さが伝わって来る。
 こう言う考えは失礼だとは思ったが、彼の第一印象は

「何か、可愛い…」

 試合終了を示すホイッスルの音が鳴り響き、ハヤトは我に帰った。
 いつの間にか後半戦まで見入っていたらしく、気が付けば選手達は控え場所で休憩をして新入生に対する部活動の説明が始まっていた。
 だが、その中にあの小さな上級生の姿は見られない。

「あ、あれ?」
「おい」
「わぁ!」

 不意に肩を叩かれ、思わずハヤトは大声を上げてしまった。
 やはり声を掛けた方も相当驚いたらしく、振り返れば出していた手を引っ込めた体制のまま固まっていた。

「あ…」

 ハヤトに声を掛けたのは、先刻までずっと自分が見入っていた小さな上級生だった。
 自分でも分かる程、ハヤトの顔は熱くなる。
 小さく心臓が高鳴り出していた。

「お前さ、試合の間ずっとオレの方見てたよな?」
「あ、それは…」

 どうやら彼も自分がずっと見ていた事に気付き、上まで上がって来たらしい。
 完全に参った。
 上級生であるにも拘らず、自分と同じ様に全く成熟出来て無い身体。
 あどけない顔立ち。
 そのくせ露出の多いユニフォームから伸びる白くか細く危うい肢体。
 激しい運動をした後で顔を洗ったのだろう、髪先に光る雫。
 間違い無く自分は彼に魅とれていた。

「お〜い…」
「は、はいっ!?」
「今度はどうしたんだよ。ぼーっとして」
「あ。いや、その…。凄いなぁ…って」
94名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:18:21 ID:Ly4MlMLk
>>93

 誤魔化し紛れで取り繕った言葉がそれだった。
 当然相手も怪訝な表情を浮かべる。

「えっと、それは…オレ?」

 思わず無言で何度も首を縦に振る。
 すると彼は尚更意外だと言わんばかりに表情をしかめた。

「嘘だ。だってオレ、ベンチにすらなれない二軍だもん。変な所でムラがあるのも散々言われてるし自覚してるし」

 苦い笑みを浮かべて両手両肩を上げる。
 詰まる所『お手上げ』と言う事なのだろう。

「そ、そんな事無い!」
「わっ」

 突然大声で叫ぶハヤトに、彼も回りに居た他の部活生も、全員が一斉にハヤトに注目する。

「えっと、その…。ぼ、僕は先輩はやっぱり凄いと思います。だって僕みたいに背が低くても、中心に立って一生懸命にプレイしてて…。そんな先輩が、僕は凄くかっ可愛いと思います!!」

 体育館中にとんでもない台詞の余韻が響いていると気付いたのは、彼のわなわなと震える身体を見てからだった。
 更に自分が非常にまずい状況に立たされていると気付くのに余計に時間が掛かる。
 自分達の周りの数名が笑いを堪えている事に気付いた。

「ち、ちょっとお前…こっちに来い!」
「わわっ…」

 腕を引っ張られながら、ハヤトは彼に付いて行く。
 何処に向かうのだろうと思ったが、行き着いた先は恐らくバスケ部の部室と思われる少し狭く色んな物に溢れた部屋だった。
 まさか殴られたりしないだろうかと、自分の近い将来に様々な不安を抱く。
 だが彼はパイプ椅子を二つ取りだし組み立てると、クッションの部分を二回叩いた。
 要は座れと言う事だろう。
 困惑しながらも、ハヤトは示されるがまま椅子に座る。
 それに向かい合う様に、彼も椅子に座った。
 周りの道具が乱雑に散らばっている為、自然と彼との距離は狭くなる。
 それどころか、彼のハーフパンツから覗く脚と自分の脚は、完全に触れ合っていた。

「お前もさ、ひょっとして自分の身長気にしてたりする?」
「………はい?」

 切羽詰まった様な焦躁感漂う真剣な表情とは裏腹に、言葉は意外な内容だった。

「…ち、違うのか?」
「いや、その通りですけど。あれ?今、“も”って…?」
「あっ! そ、それは…」
「もしかして、先輩も…?」
「うぁ、うぅ…」

 罰が悪い様で、彼は目を逸らす。

「だってさ。オレもう3年なのに、お前とほとんど身長変わらねーじゃん。周りはどいつもこいつも背が高いし、今年入部して来る奴等もオレより皆大きいし」
「え? 先輩、3年…?」
95名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:19:58 ID:Ly4MlMLk
>>94

 良くて1年上だと思っていた。
 それが意外な真実を告白されて、ハヤトは決して突っ込んではいけない部分を掘り起こす。

「そ、そうだよ! 悪かったな!!」
「あぁっ。ご、ごめんなさい! い、痛っ痛たたた…」

 駄々っ子の様に何度も何度も殴り付けられ、ハヤトは思わず後退る様に身を引く。
 すると、只でさえ不安定なパイプ椅子のバランスは崩れる。

「うわっ!?」
「わぁ!」

 半密着状態だった二人は、ハヤトの背中の方へと椅子もろとも倒れる。
 幸い背中の方に何かクッション代りになる物があったらしく、背中を強打すると言う事態は免れた。

(はわわわわ…こ、この状態は…!)

 胸の鼓動が跳ね上がる。
 今この瞬間、ハヤトは彼の全てを間近に感じた。
 腕も膝も胸も両手も、全てが完全に触れ合っていた。
 唯一、顔だけは衝突を逃れた。
 それでも、その態勢であるからには二人の距離は御互いの吐息すら届く程に縮まっているのだ。

「痛っ…。大丈夫か?」
「うあぁ、うぅ…」
「悪い。驚かせちゃったな」
「へ?」
「だってお前、凄い心臓ドキドキしてる」
「そ、それは…」

 間違い無く、彼は自分の気持ちに気付いていない。
 確かにそれは好都合なのだが、空しさが木枯しの様に吹き流れる。

(そっか…『ニブい』人なんだなぁ)

 一目見て惚れ込んだ贔屓目を差し置いても、彼に好意を持っている人物は少なからず居るだろう。
 しかし、恐らく彼はそれに気付く事は無い。
 となると、必然的に彼の気を魅く様なアプローチが必要になる。
 『自分“を”好きである』では無く、『自分“が”好きである』と思わせなければ意味が無いのだ。

(あぁそうか。僕は…)

 一度こうやって話をするだけで、彼の攻略法を理解してしまう程に

(僕は、この人を好きになってしまったんだ)

 これがハヤトの初恋。
 この日偶然初めて出会った、まだ名前すら知らない彼を。
 『人を好きになる』と言う事を。
96名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:21:23 ID:Ly4MlMLk
>>95

「ところでさ…」
「はい?」
「非常に言いにくいんだけど、オレ…動けないんだ」
「え…?」

 今更になってハヤトは自分達が何の上に寝ているのかを理解する。
 そして、今自分達がどう言う状況に立たされているのかを思い知った。

「こ、これ…ユニフォーム?」

 いくら大規模な部活とは言え、自分達を埋める程のユニフォームがある筈が無い。
 つまり、これは全校分のユニフォームを物置代りに置いてあったのだろう。
 それが先刻の転倒に巻き込まれ、雪崩が起きた様に散乱してしまったのだろう。
 その大量のユニフォームのプールの上に二人は寝転がっている状態なのだから、
 下手に動けばその海に身体を沈めてしまう。

「ど、どど…どうするんですか!このまま何もしない訳にもいかないでしょう!!」
「だからと言ってもなぁ、下手に動けばこのユニフォームに溺れるしなぁ…。って、わあぁ!!?」

 ほんの僅かに重心がずれただけだった。
 それが偶然空洞部分にはまり込み、二人の身体は更に沈む。

「先輩…ちょっと、苦しいです」
「ごめん、余計に動けない」
「そん…ひゃう!」

 ユニフォームに埋もれた身体の一部分に違和感を覚える。
 自分の股間部分を押さえている何か。

(これ…先輩の膝だ)

「な、なんだよ!急にへ、ヘンな声出し…んっ!」
「せ、先輩も出してる…じゃ、ないですか!!」
「それは、お前の手が…ふぁっ!」
「手? あっ…!」

 言われて初めてハヤトは何処に手を当てているかが分かった。
 ほんの僅かでもハヤトが指先を動かせば、その度に彼は艶声を上げる。
 男性女性問わず、俗に性感帯と呼ばれている部分だった。
 勿論、そんな事をハヤトが知っている訳が無い。
97名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:22:29 ID:Ly4MlMLk
>>96

(せ、せせ…先輩の、む…胸!?)

「ごご、ごめんなさい! すぐにどかしますから!!」
「やっ。馬鹿、動かすな!」
「ひぁっ! 先輩こそ、擦らないでっ…!」
「そ、そんなトコに手を突っ込むな!」

 既に天井が見えなくなる程、二人の身体は深くまで沈んでいた。
 通気性の良いユニフォームのお陰で、窒息する心配が無い事だけが唯一の救いか。

(だけど、僕。何か、ヘンな感じ…)

 身体が締まる様な奇妙な感覚を覚え、意識が一点に集中する。

(何だろう…。凄く、気持ち良い)

「せ、先輩! 先輩、先輩!!」

 もう今は彼の事しか考えられない。
 軽く意識を手放しそうになったその時だった。
 一気に現実に引き戻されたのは。

「な、何やってるんだお前ら!」
「し、翔先輩が下級生を襲ってる…いや、下級生に襲われてる。……あれ?」

 急に狭苦しい部室の中が騒がしくなる。
 何があったかと次々に部室に駆け寄って来た野次馬だろう。

(って言うか襲…?)

「よ、良く分からないけど多分どっちも違う!良いから引き上げてくれ!!」

 その後二人は呆気無く引き上げられ、洗濯したばかりだった筈のユニフォームを洗い直す為に、校門が完全に閉鎖する直前まで手伝わされる羽目になるのだった。


「どうしたんだろう。怒ってるのかな、やっぱり…」

 文字通り死ぬ程のユニフォームを洗い終えた後、彼…翔から「明日の昼に体育館に来てくれ」と言われ、ハヤトは昼食も取らずに言われた通りに学校の体育館の前に来た。。
 それだけを告げると翔は帰ってしまい、ハヤトはこうして待つ意外の選択肢は無かった。

「今日は休みだから中には入れないし。大体先輩昼としか言ってないし…」
「悪い、遅かったか!?」
「あっと。いえ、僕も今来たばかり…あれ?」

 現れた翔の格好に、ハヤトは疑問を抱く。
 学校に来るのだからハヤトは制服を着て来たのだが、翔のそれはどう考えても外出用の私服だった。
 半袖のYシャツ(と言っても袖には質素な柄がある)に膝辺りまでの長さしかない半ズボンと言う、バスケットボールのユニフォーム程の露出は無いものの、翔のアクティブな性格を象徴している。

「あれ? お前私服じゃ無いのか」
「いや、だって…。翔先輩学校に来いとしか言ってないじゃないですか」
「あ…あちゃ、そうだったか。まぁ良いか」
98名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:24:16 ID:Ly4MlMLk
>>97

 どうやら翔の様子を見ても、特に怒っている訳では無いらしい。
 しかし、それでは何故ハヤトが翔に呼ばれたのかが分からない。

「あの…先輩。どうして今日僕を呼び出したんですか?」
「どうしてって言うか…。昨日さ、オレが暴れたせいであんな事になっちゃったからさ。だからさ、お詫びと言ったらアレなんだけど…。これから遊びに行かないか?」
「え…? えええぇぇ!?」
「な、何だよ。そんなに驚く様な事か?」

 確かに、翔にとっては何故ハヤトがここまで驚く理由は分からないだろう。
 しかし、翔に対して恋慕を抱くハヤトは、この申し出はかなり捻った見解を持ってしまう。

(こ、ここ、これって…デート!!?)

「あ…だ、大丈夫です! その…。僕も、翔先輩といろいろ話をしてみたいと思ってたんで」
「そうか? じゃあ、取り敢えず…制服で出歩く訳にもいかないから…よし。服だな」
「はい?」

 言うが早いか、翔はハヤトの手を取り、すっかり散ってしまった桜並木を駆ける。
 街中を笑い会いながら歩く二人。
 他の人にはどんな風に映っているのだろう。

(恋人…は流石に無理があるか。せめて、兄弟みたいに見えないかな…)

 もっと翔に近い存在に見られたい。
 先輩と後輩と言う立場も決して悪くは無いが、やはり翔にとっての“特別”でありたい。
 想いはどんどん肥大する。

「…あの、本当に良かったんですか?」
「ん? 何が?」
「こんな服まで買って貰って、その上お昼ご飯まで…」

 今ハヤトが来ている服はいつも学生服では無く、翔に良く似たシャツと半ズボンだった。
 ペアルック…とまでは行かなくても、似通っている服装と言うものはそれなりに意識してしまう。
 それも、他でも無い翔に買って貰ったとなれば、それは尚更だった。

「気にするなって。そんなに高いもの買ってる訳じゃ無いんだからさ。昼だって、ハンバーガーしか食べてないし」

 確かに服と昼食代を合計しても4000円を切ってはいるのだが、たった一度のトラブルでここまでして貰うのも気が引ける。
99名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:24:42 ID:Ly4MlMLk
>>98


「それに、オレ…。もっとお前と話してみたいからさ」
「え…?」
「ほら、昨日の話の続き。オレ達ってさ、何だかいろいろと分かり会えそうな気がしてさ。…身長の事もそうだけど」
「先輩…」

 話の内容は意外だが、ハヤトにとっては願っても無い申し出だった。

「分かり会えるかどうかは分かりませんよ」
「…そっか。そうだよな」

 それは人間であるが所以。
 テレパシーでも持たない限りは、誰にだって本当に分かり会えるとは言えないのだから。

「でも、僕も先輩の事をいっぱい知りたいです。僕達は知り合えるって言える様になりたいです。…これでは、駄目ですか?」
「ん…。いや、そっちの方が良いかも。えっと、ハヤト…だっけ?」
「はい」
「オレ達は、友達…で良いんだよな?」
「あ、その…。はい……」

 嬉しさと悲しさが同時に襲って来た気持ちになる。
 『お友達でいましょう』
 月並な言葉ではあるが、実際目の当たりにするとここまで空しくなるものなのだろうか。

「それと…その畏まった様な敬語は止めてくれ」
「え…どうしてですか?」
「その…あんまり敬語とかで話されるの、慣れて無いんだ。なんだかこっちまで調子狂ってさ。それがお前の性分なら、無理にとは言わないけどさ」
「い、いえ…じゃない。それで翔先輩が良いなら、僕としてもその方が嬉しいかな?」
「…ありがとう。んじゃ、改めてよろしくな」
「うん。よろしく、翔先輩…」

 これが二人の出会い。
 ハヤトが中学生になって、生まれて初めて本当の恋を見付けた日。
 この先の未来に、少しだけ希望を見出だせた日。
100名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 02:43:28 ID:Ly4MlMLk
受×受と言うものを書いてみたくてこうなった。
うん、ハヤトに敬語は合わないよ。
それだけ。

>390
最初カネノブの事かと思ったら、新曲にそんな設定の奴居たんだ。
茶釜のたぬきがマジで可愛い。
…ガチれないけどさ。


〜以下至極如何でも良い企画的なモノ〜

自分たちの作品がドラマCDになると仮定して、誰にキャストをしても貰うか考えてみよう。
…と言う物書き場では良くある浅はかな企画。
ただし声優同士の交流等に触れてしまうと議論が勃発してしまう可能性が高いので、その辺に対しては思う所があっても突っ込まない。

頭の悪い企画ですが、大雑把にでもキャラクターのイメージが浮かび易いと思うんですが。
…どうだろう。
101名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 17:52:22 ID:YRGGAUzE
乙!



ハヤトは皆川純子の声で再生されてる
102390:2010/04/16(金) 20:59:11 ID:BEu00Ndl
GJ
相変わらず青春してて甘酸っぱいな

声優ネタは疎いんだが、とりあえず流石は木枯し紋次郎やってた頃の中村敦夫をイメージしてる
古すぎてみんなわからんだろうな
ジジイですまん
103876:2010/04/16(金) 23:55:59 ID:lYU1CZqz
乙!甘酸っぱい展開、好きです。


個人的にアイスは折笠愛さん、タイマーは浪川大輔さん、
アッシュは前田剛さん、フォースは高橋広樹さんのイメージです。
アイスは女性の方が合いそう。中の人のイメージも若干ありますが。
あとは故人ですがショルキーに鈴置洋孝さんが意外と合いそうな気がします。
104名無しさん@ピンキー:2010/04/17(土) 16:47:07 ID:wXrWaCNP
高橋広樹フォースかわいいなw
105名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 20:13:44 ID:/4pSrY7Y
皆はあのキャラがこんな設定だったらいいなーとか思ってる事ある?
俺はパンデスが死神とかだったらいいなーとか思ってる
106390:2010/04/19(月) 21:08:24 ID:Kn+EV0DA
六がかなりいい体格してるのに包茎だったらよかったと思う
107876:2010/04/19(月) 21:57:58 ID:Ji95uzUJ
アイスが音楽に夢中過ぎて芸能界入るまで未経験だったらいいと思う。
フォースはエロ好きなくせに童貞だったらいいと思う。

そして純真はスギレオの後輩だったらいいと思う。
108名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 15:49:02 ID:XhynjdCG
18つよしの二人が褌プレイして欲しい
109名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 20:02:30 ID:QAYwgIW/
6万貰ってセックヌしてきたぞ!!

濡れた熟マンに入れたら、肉ヒダがしっとり絡みついてきて、
そんだけでイきそうになったわww
http://xabrina.net/om/9o006ir
110名無しさん@ピンキー:2010/04/23(金) 20:44:55 ID:4FIR3tOf
六貰ってセックヌしてきたぞ!

熟れry
111名無しさん@ピンキー:2010/04/23(金) 23:18:45 ID:4yIPCtlI
肉ヒダがしっとりと絡みつく六の濡れた熟マン・・・ゴクリ
112390:2010/04/24(土) 00:25:11 ID:jdtqM1b2
六の濡れた熟マン=たっぷり時間をかけて前戯を施した、トロトロで敏感なケツマンコってことでおk?
113名無しさん@ピンキー:2010/04/24(土) 20:34:15 ID:yjq5Ti4l
業者に対する住人のレスポンスがパナいwwwww
114名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 05:32:44 ID:pfX+v/jX
おれは へんたいな娘が… とか来たらこうなれる自信がある
115名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 20:31:45 ID:CXMA93T/
116876:2010/04/25(日) 23:06:43 ID:45DmLB82
>>115からインスピレーションを受けたので
ちょっと?×神書いてきます。明日には書き込める事が出来れば…。
117390:2010/04/25(日) 23:56:26 ID:pQcEExXm
前に触手?×神が見たいって人がいたなぁ
何はともあれ頑張れ

俺もGWにはSSの更新ができるよう頑張るわ
118名無しさん@ピンキー:2010/04/26(月) 15:10:49 ID:/opVcrU8
マサムネ×Dai読みたい
エロいDaiがカタブツなマサムネに迫っちゃうみたいな
119876:2010/04/26(月) 18:52:41 ID:W1wm+/hO
とても短い?×神投下します。



「神はオナニーの為に手を使わない」
そんなことを言った奴がいた。
何言ってるんだよ。神様の俺様だって寂しいからオナりたいんだ。
お陰でミミニャミ共が「夢を壊さないように手でオナニーするな」と
無茶言いやがった。足でやれってか?んな器用なこと出来るか。
大体俺様がオナニーしようが嫁や他の奴等とヤろうが勝手だろうが。

…ん?待てよ?「手を使わなければ」いいんだな?

***

「あ…ぅぁ…」
という訳で影である『?』を使ってオナニーすることにした。
俺とは意識が別の存在だが俺の影だからオナニーな訳だ。
「っ…ぃい…はぁ、」
俺の下半身に纏わりつく黒いモノが気持ちいい。
「きもちぃ…ああ…」
俺が一人(?)で盛り上がっていると、黒い影は形を変えて
俺の穴の中をより激しく掻き回した。
「ああ!あぁ!駄目だ…っ!もぅ、だめぇ…
…あぁああーッ!!」
そのままあっけなく俺は絶頂を迎えた。

***

「やっぱりこれはオナニーじゃねえのかな…?」
絶頂を迎えた後、俺を見下ろす『笑った表情』を見て、俺は少しだけ
考えていた。




短いです。876です。
神による影オナニーでした。
?の正体がよく掴めず、少し悩みました。
120390:2010/04/26(月) 19:34:33 ID:HGtA0CZZ
GJ
短いけどエロくてよかった
121名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 20:54:08 ID:cKvKZl5q
>>129
影の正体はレッツポップンミュージックポータブルを参照よ!! まあ見ても詳しくわからないけどww
そしてGJ!!影神いいね!

影オナホ、影バイブ・・・いやなんでもない、ふと思いついたことを書いただけだ
122名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:02:21 ID:g9faDX7n
前スレのケビン&セシルの続きです。
前回の話は保管庫の方で確認してください。


 ボク達の始まりが突然だった様に、終わりもまた突然にやって来る。
 最初から理解していた筈なのに、いざそれに直面すると凄く怖くなって。
 いつまでもボク達の時間が続けば良いのに。
 一緒に手を、身体を重ね合わせていられたら良いのに。
 そう思うのは罪ですか。
 それとも。
 そう思った罰ですか。
 好きな人と一緒に居たいと思うのは許されない事ですか。
 だとしたら神様。
 ボクは一生あなたを恨み続けます。
 不条理だらけなこの世の中を憎み続けます。
 でも。
 もし今まであった事が全て夢であったなら。
 ずっとボクを目覚めさせないで。
 眠ったままで良いから。
 いつまでも甘い夢の中に居させてください。


「う〜ん…」

 その日が始まってまだ時間も殆ど経たない内からケビンは頭を悩ませていた。
 理由は簡単。
 明日は撮影所に行かないといけないのだ。
 要はそこにセシルも同伴させて良いのかどうかで悩んでいるのである。

「監督に言えば大丈夫かな。でも、前に友達連れて来た子が怒られてたからなぁ…」

 ケビンの監督と言うのが普段は優しいのだが、事作品の話になると人が変わったかの様に雰囲気が豹変する。
 無論、そこがプロと言われる所以でもある事は誰もが理解している。

「…ボクの事なら気にしなくて良いよ。留守番だけなら出来るから」

 実に申し訳無さそうな様子がセシルから見て取れる。
 只でさえ自分の事で悩まれるのは苦手だと言うのにケビンは一度考えると深くまで沈んでしまう為、セシルにとっては非常に肩身が狭い。

「それが…明日の撮影が朝早くから夜遅くまであってさ、戻って来れるか分からないんだ」
「あぁ、そうか。人の家にそんなに長い間一人で居る訳にはいかないもんね」
「あ…」

 実際はセシルが言った通りなのだが、ケビンはそれを言いたく無かった。
 セシルの事情は知らないし、詮索する好奇心も持たない。
 自分はただセシルの気持ちを利用しているだけ。
単純に、セシルともっと一緒に居たいだけ。
「ううん、ケビンは気にしないで。ボクが我儘言ってるのが原因なんだから」
寂しそうなセシルの笑みが胸に痛い。
折角今この時を一緒に居られるのだから、セシルにはそんな悲しい表情はして欲しく無い。
「違う…違うんだよ。我儘なのは僕なんだ。セシルが帰りたく無いっていうのは分かってる。分かってそれを利用している。僕だってセシルと一緒に居たいから」
真剣な表情でその実物凄い言葉を話すのに何の躊躇いも無い。
逆にセシルの方が恥かしさで潰れそうだった。
123名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:04:12 ID:g9faDX7n
>>122

「あぅ、その…。ありがとう…」
「どうしたの?顔、すっごい真っ赤だよ?」
「そ、それは…。ケビンが悪いんじゃないか!」
「えぇ!?」

 本当に自覚が無いらしい。
 それがケビンらしいと言えばらしいのだが。

「ケビンってさ、時々凄い事を平気で言うよね」
「僕?」
「そうだよ。ボク、恥かしくて仕方が無いんだから」
「えぇ!? …そうなの?」

 ケビンの様子から初めて疑問に突き当たった様だ。
 自覚が無いと言うものがどれ程怖いものなのかをセシルは痛感する。
 特にケビンのそれは最たるもので、放っておけばどんどんエスカレートしそうな勢いである。

「…でもね、ボクは正直に言ってケビンが羨ましい」
「ふぇ?」

 セシルの言葉が余程意外だったのか、ケビンは素頓狂な声を上げた。
 それが可笑しくて、セシルは小さく吹き出す。

「ボクってさ、何もかもを勝手に溜め込んじゃって、それで何もかもを駄目にしちゃうから。だから、ケビンみたいにいろんな事を言えるのが凄く羨ましい」
「あ…えっと。ちょっとそれは違う様な…」
「ううん。ボクには勇気が無いんだ。だから、言いたい事があっても言えなくなる」
「セシル…」

 随分と自分を過大評価している様だがセシルの言い分も尤もではある。
 ケビンにしてみても、もっとセシルの事を知りたい。
 それには、やはりセシルの方から教えて貰わなければならない。

「そうだね。何でも話す…ってのはちょっと同意はしないけど、僕もセシルとはもっといっぱい話したいな」
「うん。頑張ってみる」

 両手をお互いの両手を合わせて頷き合う。
 御互いが御互いを知り合いたいと思う衝動はますます大きくなる。

「…って、何となく脱線しちゃったけど、現実問題。どうしよう…」
「そ、そうだね…」

 いろいろと纏めかかっていた話を現実に引き戻す。
 結局は何も終わっていない。
 同時に、最良の選択肢に辿り着くのも無理な気がした。

「やっぱり、僕が頼んでみるよ。事情を説明すれば、許して貰えるかも知れないから」
「かも知れない…って、やっぱり許してくれない事もあるって事?」

 可能性と言う言葉が有る限り、それぞれの事象はどちらも起こり得る。
 確率的には不遇でも、未来はその時になるまで何も分からない。
 つまり、この場合は確率論の概念は存在せず、五分五分の賭けになるのである。

「やるだけの事をやるしか無いよ。それに、何だかんだで結局は追い出されたりはしないんだから」
「あ、あぁ…。なるほど」

 要はケビンにはケビンなりの打算があるのだろう。
 しかし、それは自分には特に利害も無く、ケビンのみが変動する事象に巻き込まれるだけ。
 最初から、ケビンは自分の立場を考慮に入れてはいない。
124名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:05:25 ID:g9faDX7n
>>123

(ボクの為に、そこまでしてくれなくても…)

 喉まで出かかった言葉を何とか飲み込む。
 それを言ってしまうと、ケビンはまた悩み込んでしまう。
 それで余計に身を滅ぼし兼ねない選択肢を選ばれたらかなわない。

(ボクは、ケビンに酷い無理をさせているんだ…)

 それが嫌なら、自分の取るべき選択肢は一つしか無い。
 だが、それは…

(嫌だ…帰りたく無い……)

 考えただけでも背筋が凍り付いてしまいそうだった。

(あそこに戻ったら、もう二度と…)

 方針が確定して朝食を作り始めたケビンの方を見る。
 一気に気が楽になったのだろう、鼻歌を歌いながら鍋の上のスクランブルエッグを泳がせていた。

(二度と…ケビンに会う事は無くなっちゃうんだ)

 たった一日だけで、セシルの中はケビンで満たされていた。
 知らないものを沢山与えてくれた、初めて出会った本当の『友達』。
 初めて本当の意味で愛を抱いた『恋人』。
 自分達よりももっと小さな子供達の飯事程度のものでしか無くても、それを知る切っ掛けになったのは間違い無い。

「出来たよ」

 自信作な様で、眩しい程の満面の笑みが可愛らしい。

「わぁ…美味しそうだね」
「セシルに敵うかどうかは分からないけど、僕なりの力作…かな?」
「そ、それはもう良いよ」

 これ以上褒められると本当の意味で死んでしまいそうな気がする。
 既に軽く一年分褒め倒されている身としては、それが近い将来に実現していそうで、正直怖い。

「じゃあ明日の事なんてもう抜きにして、今日は何しようか?」
「えっと…今日?」
「うん。折角今日はこんなに晴れているのに、家に籠ってばっかりじゃ身体にも悪いよ」

 確かに、ケビンの言う事は尤もだ。
 セシルはこの辺りの地の利は無いし、何より万一明日撮影所を追い出された場合の時間潰しの場所は確保しておくべきだろう。

「じゃあ、ボクあまりこの辺りは詳しく無いからさ、いろいろと案内して貰いたいかな?」
「お。そういう事なら任せてよ。この辺りじゃ僕程詳しい人は居ないからね」
「ははっ、頼もしいなぁ」
「むぅ、信じて無いな?」
「そんな事無いよ。じゃあ今日はそんな物知りなケビンにいっぱい案内して貰おうかな?」
「…言ったな。じゃあ、覚悟してね?」
「………え?」
125名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:06:46 ID:g9faDX7n
>>124

 言葉にはいろいろと危険が伴う。
 セシルは正に今この瞬間それを痛感していた。
 子供のテリトリーと言うものは、たとえ同じ子供同士でも想像の範疇を遥かに超えたものになる事がある。
 ケビンはそれに加えて、役者であるが故か近所の付き合いが非常に広く、ケビンの言った通り街中を巣を作った蜘蛛の様に這い周る事になった。
 朝のそれなりに早い時間から家を出た筈なのに、気が付けば辺りはもう薄暗くなり始めていた。

「す、凄いんだね。ケビンの情報網は…」
「どう? これで納得した?」
「十分過ぎる位だよ。はぁ…」

 公園のドーム型の遊具に寝転がり、大きく息を吸う。
 冷たい空気とそれに冷やされた石造りの遊具が気持ち良い。
 街を一望出来る程の高台に位置している為か、少し風が強かった。

「もうこれで全部…かな?」
「うん。…と言いたい所だけど、もうちょっとだけ待って」
「ま…まだ何処か行くの?」

 既に数十キロと歩かされたセシルは、もう家に戻る意外で歩くのは御免だった。

「もうここで最後だよ。だから、もうちょっとだけ…。ほら」

 ケビンが何かを指差しているのを見て、セシルは身を起こす。
 それを目の当たりにして、初めてセシルはケビンの言葉の意味を理解した。

「わぁ…」

 感嘆に溢れてセシルはそれに釘付けになる。
 世界を朱に染める、地球の親とまで言われている。
 それが海に飲み込まれて金色に輝いている。

「凄い、綺麗な夕陽…」
「僕達の街ではこの場所は有名なんだ。夜は夜で、凄く綺麗だよ」
「うん。それも見てみたいな」

 昨日の夜は酷い雨が降っていた為に、そんなものを見ている余裕は無かった。
 ただ雨を凌げれば良いと、この遊具の中に逃げ込んだ。
 独り。
 何よりもその時が一番冷たく、寒かった。
 気を紛らわす為にアコーディオンの音を出鱈目に鳴らした。
 知っている曲を弾く様な気力も無かったし、それによって思い出すのも嫌だった。
 寒さが身体を蝕んで行く。
 あぁ、死ぬのか。
 不思議と恐怖は無かった。
 いや、もう何もかもがどうでも良いと思ったからそうだっただけだろう。

(そして、ボクはケビンと出会った…)

 貸してくれたコートは雨に濡れて非常に冷たかったが、寒さは感じなかった。
 何も関係の無い、その時その場で出会ったばかりの自分に、自分は直接雨に濡れてまで貸してくれた。

(だから? それだからボクはケビンが好きになったのかな…)

 違う。
 いや、きっとそれだけが理由じゃない。
 もっと別の何か。
 自分が一目で惹かれる程の何かがケビンにはあるのだろう。
126名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:07:56 ID:g9faDX7n
>>125

(…どうしちゃったんだろう、ボクは)

 生まれて一度も他人に好意など持った事の無い自分が、“人を好きになる”と言うフレーズを使う様になるとは思いもしなかった。
 だからと言って、これが人間的に欠陥だとは思わない。
 寧ろ、廃棄人形同然に荒んだ自分がこんな感情を持てた事は、ある種の奇跡と言っても言い過ぎでは無いと思う。
 陽はあっという間に沈んで行く。
 公園の街灯が点灯し始めた頃、セシルは肩に重さと温もりを感じた。

「ケビン…?」

 小さな息遣いが聞こえる。
 セシルの問い掛けに、ケビンは応えない。

「…そうだよね。疲れてたのはボクだけじゃ無いんだから」

 海と空と街。
 それらはそれぞれ鏡の様に、光を映している。
 暗闇に恐怖した昔の自分。
 それがケビンが隣りに居るだけで、暗闇の中でもこんなにも美しいものがあると気付ける様になる。

「ありがとう、ケビン。大好きだよ」


「あれ、僕…」
「あ、起きちゃったんだ」
「せ、セシル!?」

 セシルが一歩足を踏む度に、ケビンの身体が揺れる。
 両腕には堅い感触があり、足は地に付いていない。
 つまり、ケビンはセシルに背負われていた。

「あのまま僕寝ちゃって…」
「ケビン、沢山疲れてたみたいだからね。しょうがないよ」
「お、降りるよ!」
「駄目だよ。ケビンは明日は撮影で大変なんだから、今日はちゃんと休まなきゃ」

 ケビンを抱えるセシルの力は、その儚い未成熟な子供の腕からは想像出来ない程に固くがっしりとしていた。
 だからケビンが多少暴れた所でセシルがケビンを落とす様な事は無い。
 こうなるともうケビンには抗う術も無く、セシルに従っているしか無い。
 セシルからケビンの表情は伺う事は出来無いが、こちらは容易に想像出来る。

「ねぇ、ケビン…」
「何?」
「今だから聞くね。どうして昨日はボクを連れて帰ろうなんて思ったの?」

 昨日は雨の中をケビンがセシルの手を引いて走った道を、今度は星空の下をセシルがケビンを背負って歩く。
 全く状況は違っている様で、実は似ている。

「どうして、そんな事聞くの? セシル、やっぱり…僕の家に来た事後悔してる?」
「違うよ、その逆。凄く、嬉しかったんだ。ボクを見付けてくれて、ボクを何も聞かずに連れて行ってくれた事。だから、聞きたい」
「それは…」
127名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:09:44 ID:g9faDX7n
>>126

 それからケビンの言葉は途切れてしまう。
 その理由は聞かない。
 自分が家から出て来た理由を言わないのと同じ。
 言いたくなければ言わなくて良い。
 でも、いつかケビンの本心をケビンから直接聞きたい。
 いつか自分も本当の事を言える勇気が欲しい。

(ボク達って…秘密だらけだ)

 お互いがお互いの秘密を持っていて、それは自分で打ち明けるもの。

(じゃあ…秘密を明かしたらボク達の関係って、成り立たなくなるのかな)

 所詮一夜で作り上げた付け焼き刃の関係である。
 それだけに、一度叩けば脆い部分から次々に崩れてしまう。
 精錬していない鉄程脆い金属は存在しない。

「…音が、聞こえて来たんだ」
「ケビン…?」

 家まで後は角一つとなる時点で、ケビンはそっと呟いた。
 唐突だった事もあり、セシルは意味を読み取れない。

「聞こえたんだ。セシルのアコーディオンの音」
「あぁ、気を紛らわす為に適当に弾いてたんだ」
「うん。その音が…ね、その…。僕を呼んでる様な気がしたんだ」
「音が、ケビンを…?」
「とても小さくて、雨にも消えてしまいそうな音だったのに、僕にははっきりと聞こえた。吸い寄せるんだ。まるで、音が生きている様に僕の両手を引っ張る。泣いている子供の様に、小さな両手で」

 的を射ていない様で、それでもセシルはそれが何か知っている。
 ケビンを呼び寄せた、その正体を知っている。

「それは…」

 自分の中に居るもう一人の自分。
 操り糸に絡め取られた、道化の操る道化。
 自分の糸に逆に支配されてしまった、糸が身体を引き千切るまで永遠に逃れられない磔人形。

(ボクだ。ボクなんだ…。ボクが、ケビンを呼んだんだ)

「アコーディオンの音だってのは分かってた。でも、やっぱり生きていると思った。そして、君を見付けた…」

 何となく、セシルはケビンに惹かれる理由が分かった気がした。
 磔にされた人形の糸と言う名の鎖を切る事は出来無い。
 では、磔台から開放する方法は何か。
 答えは単純にして明快。
 その磔台の枷から開放するだけ。
 そして、その鍵を持っていたのは。
128名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:10:16 ID:g9faDX7n
>>127

「ケビン…」

 既に門の手前に到着していたので、セシルはケビンを肩から下ろす。
 ケビンは門を開け、家の鍵を開けた。
 セシルもケビンの後に付いて行く。

「…最後に、一つだけ聞いて良い?」
「えっと、何…かな?」
「こんな事言ったら、ケビンは怒るかも知れないけど。ケビンは…ボクを見付けた時、後悔した?」
「それ、絶対に言わないからね」
「…ありがとう」

 まるで(と言うか現に)全く成長しない子供だと、自分自身を卑下する。
 ケビンから自分は後悔しているかと聞かれたばかりなのに。

「そっか…」

 お互いがお互いを気に掛けている。
 それの意味する所は。

「何も、問題なんて無いんだ」
「え? 何が?」
「ううん、何でもないよ」

 ケビンは自分達を歯車みたいだと言った。
 実際その通りの様で、自分達は突き出ている部分とへこんでいる部部をがそれぞれ違うらしい。
 歯車。
 もっと軟解に考えれば、パズルと言った所だろうか。
 人形の喩えは使わない。

「さてと、今日のご飯は何にしようかな?」
「駄目だよ。ケビンは明日撮影なんだから。順番的に考えても、ボクの番だからね」
「え…作ってくれるの?やったぁ!」
「そ、その代わり!」

 慌ててセシルはケビンを制止させる。
 このまま放っておけば、昨日の二の舞いになりかねない。

「作った物に関しては、一切のコメント禁止!良いよね?」
「えぇ? 何―」
「良・い・よ・ね?」
「………はい」
129名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 03:40:28 ID:g9faDX7n
字数配分ミスった…

規制のせいで企画主が企画に参加できなかったんでここで晒し
文句は…ごめんなさい許して

翔…沢城みゆき    空…鈴木千尋
ハヤト…桑島法子   ハジメ…三木眞一郎
みっちゃん…榎本温子 硝子…斎藤千和

ケビン…渡辺明乃   セシル…岩男潤子

めちゃくちゃ欲張り気味だけどだいたい自分はこんなイメージ。
それぞれのキャラにそれぞれ大元のキャラが居るんだけどそんなもの書いてたらきりが無いんで割愛。
特に翔と硝子は完全にこだわり。

>>105
今書いている話以外の設定だと、ペロは沢山の子供達から慕われていたら良いと思う。
当然この板だからそれに留まらず…
17はショタの出演多かったなぁ。

>876
>>115からここまで受け取ることが出来るとは…もう流石です。
?のイメージって悲しい雰囲気があるのは俺だけだろうか。
130390 1/1:2010/05/06(木) 02:03:44 ID:amTpWPAs
GJ!まとめWikiに追加しといた

GWには間に合わなかったが、今回もちょっとだけ続きを投下するぞ


「痛えっ、あんっ、あっ」
「俺より先にイクなっつったろうが、あぁ?」
「あぁん」
ひとしきりぶたれ、すっかり赤く腫れ上がって敏感になった尻たぶを片方鷲掴んで割り開かれ、六は鈍い痛みから変換された弱い快楽にさえ声を上げる。
KKの口調は咎めるというより面白がっているようで、屈辱を受けながらも、快楽を感じまくっている六の痴態を見るのが愉快でしょうがないようだった。
KKは六の尻を割り開いたまま、六にローターの排泄を命令する。上体を伏せ、尻だけを高く突き上げさせられ、六は蠕動でローターの振動部を肛門から押し出そうといきみ始める。
「あっ…」
しかしローターの出力は未だ最大のままであり、いきむと同時に激しく振動している振動部を締めつけるため、六は排泄をするどころか再び尻だけで絶頂を迎えそうになる。
六は脱力しながらも必死にいきんでローターを排泄しようとするが、そのたびに振動部を前立腺に強く押しつけてしまい、身悶えする。KKは一向にローターを排泄しない六の尻を容赦なく痛めつけて、またも愉快そうに嘲笑った。
「なにもたもたしてんだ。出さねえとずっとこのままだぜ」
「あぁ…っ」
KKに空いた指先で肛門をくるくると撫でられ、六はうめきとも喘ぎともつかない声を上げる。コードが続いている肛門が、腸液を垂らしながらひくひくと収縮を繰り返している。
六が再びいきみ出し、尻が強張る。六は小さな鼻息や喘ぎ声を交えながらローターを押し出し、突っ張った尻たぶの谷間からついにピンク色のそれの頭をのぞかせた。KKは下品ににやにやと笑いながら、ローターに括約筋を押し広げられた肛門を見つめている。
「ふ、あ…ん、んう…んあっ!」
半分出たところでいったん引っ込めながらも、下腹に力を入れて六はローターを排泄した。ぽとりと軽い音を立てて、腸液にまみれた振動部がシーツに産み落とされた。
KKはローターの電源を切り、ぽっかりと口を開けたままの肛門に、人差し指と中指をゆっくりと挿入する。
「あ、あ…っ」
くちゅりとかすかな音が立ち、接合部から腸液があふれ出た。とろのように柔らかな湿った肉襞が二本の指に絡みつき、六の尻がわななく。KKは味をしめて、六の羞恥を煽るようにわざと音を立てて、大きく指を抜き差しし始める。
「うっ…はぁ、はぁ…あ、ああぁ…」
KKの節くれ立った指が前立腺を擦って行き来し、くちゅくちゅと粘着質で卑猥な音が絶え間なく鳴り響く。六は後ろに回された両手を力が入る限り握りしめ、KKの指から逃れようと尻を前後に細かく揺さぶる。
だが指を引き抜かれる瞬間の、充血した内壁がめくれ上がり、まるで排泄をしているような背徳的な快楽に、六はいつしか酔いしれていた。
しかしそのうち本当に直腸に固形物が下りてくる感覚がして、六が便意を覚えるのと同時に、それを見透かしたKKの嘲笑を含んだ声が降ってくる。
「おいおい、クソが下りてきたぜ。ここでする気かよ?」
「か、掻きっ、回すなっ…ああっ、で、出るっ」
KKに直腸を広げるように掻き回され、六はせめて最悪の事態だけは免れようと必死に肛門を締める。しかし前立腺を刺激されると下半身が萎え、緩んだ接合部のすき間から腸液に混じって、小さく屁が漏れ出る。
六はとうとう喉から鳴咽を漏らしながら、抵抗を続けた。
131名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 07:56:47 ID:JMX2DU+N
みんな乙

六のうんこにときめきを隠せない
132名無しさん@ピンキー:2010/05/15(土) 22:32:58 ID:y6R7VQ21
乙そして保守
133名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 01:59:52 ID:7bVa3Kjo
>>128

 その日は朝からたった二人しか居ないのに非常に騒がしかった。

「ケビン! 起きてよ!!」
「ふあぁ〜」

 この世の平和を象徴してるかの様なお気楽な声が、ケビンから漏れる。
 本人は未だに夢の中を彷徨っているらしく、いくらセシルが身体を揺すっても一向に起床の兆しは見られない。
 普段からこうなのか、それともセシルが居るから神経が緩みまくっているのかどうかは分からないが、この状況は非常に宜しく無い。

「このままじゃ完全に遅刻だよ!」

 最早ベッドから引き摺り落とす勢いでケビンの身体を揺すっても、やはり目覚めそうにも無い。
 こういう時程時間は足早に過ぎて行く。
 時計の針が一周する度に、セシルは焦りを募らせて行く。

「こうなったら…!」

 …
 ……
 ………
 …………
 ……………

「んっ!?」

 閉じていた目が一気に開き、その勢いを殺さずにケビンは身体をがばっと起こした。

「し、死ぬかと思ったじゃないか!」
「起きない方が悪い。そ、そんな事より。時計! 注目!!」
「え…?」

 セシルに指差され、従うままに首を動かす。
 そのまま固まる事時計の針三回。

「わああぁ!? 完全に遅刻だよぉ!!」
「だから言ったじゃないか! ほら、早く着替えて…」
「あれ、セシル…。顔、真っ赤だよ?」
「なっ…」

 いくらケビンを起こす為だとは言え、やはりその方法はとてつもない問題を抱え込んでいた。
 自分の取った行動を未だに受け入れられず、何とも言えない複雑な感情がセシルの中で渦巻いていた。
 そんな時にケビンに心配そうに顔を近付けられたら…

「良いからさっさと準備しろ!! この大馬鹿やろー!!!」
「は、はいぃ!?」

 収容所から逃げた囚人の様に、ケビンは部屋を出て行く。
 それから少し経つと、セシルも寝室を出てリビングへ下りた。
 相変わらず上ではバタバタとケビンが走り回る音がリズムを刻んでいる。
 その間にセシルは身支度を済ませ、万が一の時の為に作り置きをしていた朝食を小さな容器に詰め込む。
 その万が一に直面した事に対して、セシルは大きく嘆息する。
 次第に音が大きくなってきた。

「ご飯は!?」
「弁当箱に入れたから、何処かで食べよう。もう時間も無いし」
「あ、ありがと…」
「ほら。安心して無いで、急いで行かなきゃ」
「そうだった! セシルも急いで!」
134名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:01:53 ID:7bVa3Kjo
>>133

 ケビンに引っ張られるまま、二人は家を飛び出す。
 巡回する路線バスをも追い越し、二人は街道を駆け抜けた。
 運悪く、今朝は渋滞に見舞われているらしい。
 だが、これは逆に好都合だった。
 遅れた分の言い訳として十分にでっち上げる事が出来る。

「い、いつも歩いて行くの!?」
「違う。普段はバス…なんだけど……」

 今日の様に遅刻しそうになったら街中を全力疾走するのである。
 ようやく撮影所の建物が見えて来た辺りで、二人は速度を落とした。

「はぁ…はぁ…」
「つ、着いたの…?」
「うん。入ろ?」

 ケビンに促され、セシルも付いて行く。
 撮影所と一括りに言っても、やはり一般的なコンサートホールと同等のロビーがあり、多目的に使用出来る旨を書いた表がフロア中央の掲示板に大きく貼ってある。

「おはようございま〜す…」

 若干様子を伺い気味に、ケビンは控え目な声で奥のカウンターに座っている女性に声を掛けた。

「おぅ、おはようケビン。また走って来たんだろう?」
「えっと、へへ…」

 悪戯がバレた様な仕草で、ケビンは乾いた笑いを零す。
 どうも彼女の話だと、ケビンがこうやって走って来るのは珍しい事では無いらしい。

「まぁ結局遅刻は遅刻だけど、一番乗りは私を除いたらあんただよ。皆から連絡が来てさ、どうも大掛りな交通規制があって思う様にバスもタクシーも動かないみたい。だから、徒歩で来たあんたは正解だよ」
「そうなんだ…」

 一目見ただけで、彼女が気の強いタイプの女性だとは分かる。
 だが、セシルは奇妙な違和感を覚える。
 そして、恐らくそれはケビンも同じだろう。

「んで、そんな世間話はどうでも良いとして…」

 刹那。
 一瞬にしてその場の空気が極限まで張り詰めた。
 地から足が浮く程に、セシルの心臓は跳ね上がる。
 あぁ、そうか。
 何も言わなくても分かる。

「“あの子”は一体誰なんだろうねぇ」

 ケビンの言っていた『監督』なのだ。

「前にあ〜んなにキツく言ったのに、まだ分かっていないんだぁ」

 柔らかくなった口調に反して、その眼は全く笑っていない。
 明らかに普通の人間が放出する威圧を凌駕している。
 いつ自分の目の前に来たのだろう、その仕草すら認識出来無かった。

「あ、その…ボクは……」
「待って!」
135名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:03:14 ID:7bVa3Kjo
>>134

 彼女との間に割って入ったケビンの声で、ようやくセシルは我に返った。
 両手を広げ、それ以上の侵攻を絶つ。
 果たしてそれに効果があるのかどうかは期待出来無いが。

「どう言うつもりかな?」
「監督が言いたい事は分かるよ。前にあんな事があったにも拘らず友達を連れて来た。確かに僕はそんなに頭は良くないけど。それがどう言う事かも監督がどんなつもりであんなに厳しく言ったのかも理解している」
「何? じゃあケビンはそれを承知の上で彼を連れて来たって事?」
「そうだよ」

 身体が震えている。
 何かにしがみ付いていないと、威圧で押し潰されそうだった。
 それでもケビンは両足がガクガクと震えながらもその場を譲らない。

「へぇ…。君、名前は?」
「あ…えっと。…セシル」
「成る程」

 それだけを聞くと彼女はふっと小さく鼻を鳴らし、二人に背中を向ける。
 呆然と二人が見守る中、彼女はカウンターの奥の棚から黒いファイルを取り出した。
 白のラベルに書いてあった文字を見て、二人は唖然とする。

「監督、それは…」
「団員名簿…?」

 得意気に笑う彼女の思考を読み取れず、ただ困惑する。
 そんな中、彼女は気持ち良さそうに名簿にペンを走らせていた。

「ケビンが私に向かってそこまで強気な態度に出たんだ。だったら私もそれなりの返しをするのが美徳ってものだろう?」
「監督…」
「だけどね、特別扱いなんてしない。甘やかすのはあんたの為にならないし、何より私の趣味じゃない」
「ど、どうするの…?」
「知れた事。あんたの…いや。あんた達の意志を試させてもらう。私にあんた達がどこまで本気なのか、ぶつけてみなさい」
「は…」
「はい!」

 ケビンが返事するよりも先に自分の方が早く声が出た。
 その事にケビンも、監督すらも唖然としていた。

「セシル…」
「ボク、やってみます。何をすれば良いのか、正直何も分からないんですけど…。でも、どんな事でも頑張ってみせますから!」
「ほぅ。これはまた随分と威勢が良いじゃないか。セシル…と言ったっけ? あんた、何か得意な事はあるかい?」
「得意な、事…?」
「あんた達がどう思ってるか知らないけど、私もいきなり舞台に立て何て言う程鬼じゃ無い。それに、だ。出来無い事を無理にやらせたら、それこそ逆効果なんだよ。歌でも踊りでも武道でも…楽器でも良い」
「あ…」

 示し合わせた様に二人はユニゾンでハモる。
 お互いの顔を見合わせて、頷く。
 怪訝そうな表情を監督は浮かべた。
136名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:04:33 ID:7bVa3Kjo
>>135

「あの、ボク…アコーディオンなら少し出来ます。それじゃ、駄目ですか?」
「アコーディオン…か。成る程、それで良い。もうすぐ他の皆も到着するだろう。自己紹介してもらうから、その時に披露してもらおうか」
「い、いきなりそう来るんだ…。セシル、大丈夫?」
「えっと…。ボクなら、大丈夫だから。ね?」

(いつも使っているアコーディオンじゃ無いなら、平気…)

 無理矢里な笑顔を取り繕ってみせる。
 何が一体大丈夫なのか。
 それは自分の脆くなった支柱。
 アコーディオンを弾くと言う自分と、本当に向かい合えるかどうか。

「お、や〜っと皆着いたか」

 バタバタと大人から子供まで、沢山の人達が正面玄関に現れる。
 目敏くその場に居る筈の無いセシルと、にも拘らず鬼神化していない監督にそれぞれ違和感を覚えた様だ。

「お〜い、あんたら全員注目」

 彼女の弾む様な手拍子で一斉にざわめきが止む。
 無意識に背筋が伸びるのも、やはり彼女の醸し出す雰囲気の賜物だろうか。

「今日から私達の仲間に入るセシルだ。…と言っても、まだ右も左も分からない状態だから見習い扱いだけどな」
「あ、あの…ぼ、ボクはセシルと言います。まだいろいろ分からない事ばかりだけど、一生懸命頑張りますので…よ、よろしくお願いします!」

 一度勢い良く頭を下げると、もう見上げる事は出来無くなった。
 皆はどんな目で自分を見ているのだろう。
 それを確認するのが、怖くて堪らなかった。
 そんな中、ぱちぱちと小気味の良い音が自分の後ろから聞こえた。
 次第にそれはドミノ倒しの様に、あっと言う間にフロアに響き渡った。
 はっとして、セシルは顔を上げる。
 始めは困惑していた者も、今は何度も両手を叩いてくれている。

「あ、ありがとう…」
「良かったね、セシル」
「うん」
「よしよし。んじゃ、早速どんな役がハマるか試してみようか」
「う…」

 苦い顔を浮かべるセシルに、理由を何も知らない団員は次々に首を捻った。
 状況を理解しているのは元から居た三人しか知らないのだから当然なのだが。

「おい、配役決め…って言っても、もう次の役決め終わったじゃないか。どうするつもりだ?」
「いんや。まぁ見てなって。きっと、誰もが納得いくだろうからさ」
「ん?」

 明らかに怪訝そうな表情を浮かべる。
 今度はケビンやセシルも含めた全員が首を捻った。

「良いから良いから。それじゃ、ここで立ち話もアレだし、スタジオの方に移動するか。セシルはちょっと付いてきな。他の奴等は椅子にでも座って待っててくれ」

 それぞれが了解の返事をする中、ケビンはセシルの元へ駆け寄る。

「良かったね、セシル」
「うん。そうだね」
「あんた達、安心するのはまだまだ早過ぎるんじゃないの? ほら、行くよセシル。見せてくれるんだろう?」
「あ、そうだった。じゃあ、頑張ってね」
「うん」
137名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:06:21 ID:7bVa3Kjo
>>136

 他の団員の中に消えて行くケビンを見届けると、セシルも監督に付いて行く。
 当然の様に皆から質問責めを食らっているだろうが、心の中で御詫びを言うしか今のセシルには出来無い。
 同時に、次は自分も同じ目に合う事を暗喩していた。

「どいつもこいつも、遠慮と言うものを知らないんだから。あんたも覚悟しときなよ」
「あ、はは…。あれを見て諦めましたよ」
「まぁ、それはそれとして…だ。ほら、着いたよ」

 監督が親指で何度か叩いたプレートを見上げる。

「楽器庫…」
「これでも一応劇団なんだ。一通りの物は揃ってるし、ちゃんと手入れもしている。自分に合った物を使うと良いよ」
「凄い…。アコーディオンだけでもこんなに…」

 楽器の大きさは兎も角としても、オーケストラ団体並みの貯蔵量を誇っている。
 セシルの手にも丁度当て嵌まるアコーディオンはすぐに見付かった。
 この時、セシルは改めて思い知る。
 ケビンの属しているこの劇団は、道楽で行ってる訳では無い、本物の『プロ』と呼ばれる業界なのだと。

「どうした? もう怖気付いたのか?」
「ち、違うよ! ただ、頑張らなきゃ…って思っただけ」
「よしよしその意気だ。そんじゃ、参りますか」
「は、はい!」

 監督に指示される通り、廊下の更に奥を直角に曲がる。
 建物の構成から見ると、そのまま舞台袖へと続いているのだろう。
 つまり、このままちょっとした演奏会が開かれると言う事。
 今更ながらに息を飲む。
 大勢の前で“いつも通り”鍵盤を叩く。
 彼女に試されているのは、自分の腕だけでは無い気がした。

(ボク自信を、あの人は試している)

 それが唯一の道なのなら

「進むしか、方法は無いよね」

 重い扉を身体で開ける。
 雑談を交わしていた団員達も扉を開く音に気付いた様で、途端に静かになった。
 案の定、自分が今立っている場所はステージの上。
 撮影に使用する大道具に囲まれた、瓦礫の街の中心。
 観客達を一望し、静かにお辞儀をする。
 顔を上げると、最前列に座っているケビンと目が合った。
 優しく、可愛らしく微笑んでくれる。
 若干遠目ではあったが、ケビンの口の動きは簡単に読み取る事が出来た。 

  頑張れ
138名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:07:36 ID:7bVa3Kjo
>>137

 出来る限りの笑顔で、ケビンに応える。
 指を最初の位置に置く。
 鍵盤を押しただけではアコーディオンは音色は出ない。
 ポンプを開閉して空気を送る事に因って初めてその音色を引き出す事が出来る。
 だから自然と身体が動く。
 寂れた街中の隅に響く、三拍子の旋律。
 煉瓦造りの街道を歩く一人の少年をイメージした、調の違う三部構成の旋律。
 題名の無い。
 幻想的。
 けれども幻想曲とは呼ばない、モノクロフィルムの中の一枚。
 当然の様に最後はリタルダントしながらアコーディオンのポンプを閉じた。
 もう一度一礼をし、曲の終わりを宣言する。

「今、ボクに出来る事はこれだけ。たったこれだけしか出来ません。でも、だからこそボクは挑戦してみたい。大切と思える人と、一緒に居たい。それがボクと言う、たった一人の想いです。どうか…宜しくお願いします」

 もう一度、セシルは頭を下げる。
 一つ。
 また一つと、次々にホール中に拍手が鳴り響く。
 あぁ、今初めて知った。
 自分から進んで演奏した後の喝采は、こんなにも暖かいものなんだ。

「成る程、そう言う事か。随分と漠然としていたが、監督の目的がようやく理解出来たよ」
「おぉ、理解が早くて助かるね。賢い子は大好きだよ」

 一人の青年が何かを納得し、それを監督は肯定する。
 しかし、セシルやケビンを含めた他の子供達は、二人の話の意図を読み取る事が出来ないで取り残されたままだ。

「どう言う事?」

 皆の代表として、ケビンが問う。
 監督の放つ不敵な笑みに、思わずセシルは後退った。

「よし、決めた。早速で悪いけど、次の映画にはセシルも出て貰うよ」

 沈黙。
 呆然。
 驚愕。
 それぞれが何れかのリアクションを取りつつも、まるで時間が凍り付いたかの様に全員が固まる。

「へ…?」

 誰かの鉛筆が床に落ちた音が、無駄に大きく響く。
 そしてその数秒後、ホール中に「ええぇ!?」と言う大合唱が勃発した。

「ま、待ってください! つい先刻無理はさせないって言ったばかりじゃないですか!!」
「言ったさ。何も間違った事は言って無いだろう?」
「十分無茶だって…」
「いや」

 セシルの言葉を遮ったのは、先刻監督に同意した青年だった。
 その落ち着いた雰囲気。
 その何もかもを見抜く眼光から、彼もかなりの実力と実績を持つと分かる。
 監督が作品を纏める立場だとすれば、彼は団員を纏める立場に当たるのだろう。
139名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:09:21 ID:7bVa3Kjo
>>138

「俺は無茶だとは思わない。寧ろ、お前にしか出来無い。そう思っている」
「あぁ。あんた達も、次の話の台本を読んでるならすぐに思い当たる筈だよ」
「次の話…? あっ!」

 ケビンを始め、子供達は次々に納得したらしい反応を浮かべる。
 結局何も分からないセシルただ一人が取り残される。

「あっはは。流石に今日入ったばかりじゃ分かる筈も無いか」
「次の映画はね、親の虐待で生きる事に疲れた男の子が街角で楽器を弾く子供に出会う。それから少しずつその子と触れ合うに連れて、やっと前向きに生きて行こう…って言う話なんだ。その子供に、セシルのイメージはぴったりだと思うんだ。そうだよね?」
「ケビンの言う通り。内には子役は数居れど、そう言ったノスタルジックな雰囲気を持つ子は残念ながら難しいんだよ。だけどね、セシル。あんたならその雰囲気も出せる」
「ち、ちょ…ちょっと待って!」

 いつの間にやらとんでもない話に発展し続けていた。
 もっと大事にならない内にセシルは待ったを掛ける。

「そ、それ…すっごく重要な役じゃ無いですか! まだ何も分からないのに、そんな役をボクに任せて大丈夫な筈は…」
「大丈夫」

 セシルの言葉を割り、影を縫い付けた様にセシルを動けなくする程、監督のその一言は強大だった。
 何も無い所から何かを生み出す事は不可能だと誰かから聞いた事がある。
 しかし彼女の言葉には、その何も無い所から何かが込み上げて来る力がある気がする。

「ほら、あんたはその太鼓判があれば良いんだろう?だったら、後は何も問題無いじゃないか。それに、だ。いくら重要な役とは言え、出番数(コマ)は本当に僅かでしかない。それとも何か?あんたは…」
「待って!」

 今度はセシルが監督の言葉を遮る。
 監督の唇が僅かに歪んだのをセシルは見逃さなかった。

「自分で言ったから、頑張れるって言ったから。やるよ。ボクはやってみせる」
「セシル…」
「ここまで言えば大丈夫でしょう?だから、それより先は言わないで」

 一度決めた事を、公言した事を無かった事にはしない。
 頑張れるって言ったから。

「よし、良く言った。だったらもう一人、覚悟を決めて貰わないとね。ケビン?」
「へ…?」

 これまでの流れを完全に沈下する程素頓狂な返事をケビンは返す。
 パターンは違えど事の運びは同じ。
 寧ろ、その中心人物に問題があると言って良い。

「あんたはまだいろいろと分かっていないセシルのサポートをして貰う。その方が、何よりセシルが素を出し易いからね。そこで、だ。次の主役を演じるのは…ケビン、あんただよ」
「え? あの、ちょっと…」
「新人のセシルがあんなに意思表示してくれたんだ。だったら、先輩のあんたもそれなりな所を見せてくれなきゃ、示しが付かないだろうが?」
「でも、もう配役は全員決まったんじゃ…」
「練習中の役変更は舞台ではよくある事だ。しかも、まだ誰も一度も練習してないんだから、そこに全く問題は無い」
140名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:10:28 ID:7bVa3Kjo
>>139

 ようやくセシルはこの女性の本当の得意技を理解する。
 それは、対象となる人物の言葉の隙を付いて言葉で相手を捩じ伏せる事。
 要はただの揚足取り。
 並大抵の言い訳では彼女には通用しないだろう。
 と言うより、彼女の本命は寧ろこちらの方にあったのかも知れない。
 しかし、この場合は反って好都合と言うもの。
 理由はどうあれケビンと一緒に舞台に立てるなら、それこそ自分の最も望む形。
 慣れて行く上でも非常に効果的だろう。

「だってさ。一緒に頑張ろ、ケビン?」
「う、あぁ………うん」

 この時監督は『してやったり』な表情でガッツポーズを取り、隣に居た青年は露骨に溜め息を付いていた。


「うゆ〜…」
「だ、大丈夫?ケビン…」

 初めての大役に精神的にかなり来るところまで来ているケビンを、隣のパイプ椅子に座ってセシルは看病していた。
 この日は台本の台詞を一通り読み通し、そのインスピレーションを元に演技を考えていくと言う内容。
 …に、なる筈だった。
 ぎこちない部分はあるが、確実にキャラクターのイメージを描くセシル。
 それに引き換え、ケビンの方は台詞は棒読み。
 不自然な部分で噛むと言う、初心者以前の失態を見事に何度も披露し、周りを爆笑と失笑の渦に巻き込んだ。
 それは監督すらも腹を抱えさせる程で、実質まともな成果を出したのはセシルだけと言って良い。
 これは敢えて黙っておいた事だが、今のこの抜け殻状態が正に『生きる事に疲れた』状態なのだろうとセシルは思った。

「あー楽しかった。そんじゃ、今日はここで引き上げにしようか。そこの抜け殻君も、明日はこんな調子じゃ済まないからね」
「ふ、ふぇ〜い」
「そんじゃ、ちょっとセシルは私に付いて来て貰える?」
「え、ボク?」
「そうそう。今日一日どんな感じだったかって聞くだけだけど」
「あ、分かりました」
「僕は?」
「ケビンはロビーにでも待ってな。全員この形でやってるんだから、今更変える事は出来無いだろ」
「…と言う事らしいから、ちょっと待ってて。ね?」

 ようやく現実に戻って来れたらしいケビンは一度考える様な素振りを見せ、そして何かを観念した様に「分かったよ」と言った。
 監督と言う人間の手前、自分一人では不安な所もあるのだろう。

「じゃあ、悪いけど椅子だけ片付けて貰えるかな?」
「うん。待ってるから」
141名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:12:30 ID:7bVa3Kjo
>>140

 そうして監督が手招きしている部屋までセシルは駆ける。
 促されるまま部屋に入ると、そこは二重窓と壁に無数に開いた穴のある部屋だった。
 これは楽器を始めとした様々な大きな音を外へ漏らさないための防音設備だとすぐに気付く。

「狭苦しい部屋で悪いけど、空気だけは良い筈だから、我慢してくれ」
「大丈夫です。埃に弱いって身体でも無いんで」
「そう言ってくれると助かる。まぁ、そこら辺の椅子に座って?」

 確かに空気はきれいな様だが、正直な印象部屋がきれいだとは言い難い。
 壁隅には機材道具が詰めてあり、パイプ椅子が無造作に開きっ放しで、こういったカウンセリング以外はもっぱら機材置き場と化している事が目に見えて分かる。
 取り敢えず、一番出口に近い椅子を選んで座った。

「んで、単刀直入に聞くけど…。ぶっちゃけ、今日はどうだった?」

 そう言いながら彼女は防音扉のレバーを降ろし、セシルと向かい合う位置の椅子に座る。

「えっと、何て言うか…その。楽しかった…かな?」
「まぁ、確かに私もケビンの迷言連発には久しぶりに笑いまくったけど、さ。正直な印象、まだ良く分からなかったんじゃないかい?」

 確かに、これは飽くまで初日の話であって、実際は今日とは比べ物にならない程に大変なのだろう。
 そこは、素人でも分かる。

「だけど、とても初めて人前に出る人間とは思えなかったよ。大概の奴ならそれだけで身体が竦み上がってしまうのに」
「あ、それは…っ!?」

 今の一瞬で、背筋が氷結してしまいそうな感覚に襲われた。
 それは、朝に一度セシルに襲いかかったものと同じ。
 いや、明らかにそれを凌駕する。
 知っている。
 自分はこれがどんな人物に対する感覚なのかを知っている。

(この人は、ボクの…)

 敵。

「本能的に臭いを嗅ぎ取ったか。今まで長い間浴びて来た空気だからね。そりゃ、敏感にもなるだろうさ」
「あ、あなたは…?」
「冷静になって考えてもみなよ。公に晒す映画に普通その日入ったばかりで人前に出た事も無い新人を起用する筈が無いだろう。まして、楽戯団志望なら兎も角、役者希望者に皆の前で楽器を演奏してくれ。…何て言うか?」

 気持ちの悪い嫌な汗が全身を伝う。
 咄嗟に自分の背後にあるこの部屋唯一の出入り口のレバーに手が掛かる。
 しかし、何かに引っ掛かって一向にロックが外れない。

「無駄さ。ドアノブにちょっとした仕掛けをしておいた。簡単には出られ無い」
「お、お前は…誰だ!」
「お前、か。成る程…。薄汚れた裏社会で生きて来た子供の眼だな。とっくに他界した世界的有名な女性アコーディオン奏者の息子、セシルと言う名前は私達の業界ではそれなりに有名だ。繊細で独特の雰囲気を持つその演奏、その危うさと隣り合わせの美しさ。
演出家にしてみれば、喉から手が出る程その人材は欲しいからね」
「最初から…知ってたの?」
「アコーディオンでセシルと名前が出て来れば、嫌でも結び付くさ。それに、あんたが居るとなれば、あの不自然な交通規制も納得がいく。余程、あんたを連れ戻したいらしいな」
「っ!」

 声にならない声、と言えば良いだろうか。
 悲鳴とも取れそうなその声が一瞬漏れた刹那、気が付けば既に両腕を片手で壁に押しつけられていた。

「本当、母親に似て綺麗な身体してるよな。さぞかし、薄汚い男共に抱かれた事だろうよ」
「何で、そんな事まで…」
「どうだ? たまには女の身体も悪くは無いと思うぞ?」
「ひぁっ!」
142名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:16:32 ID:7bVa3Kjo
>>141

 余ったもう片方の手で、彼女はセシルの顎や頬を撫でる。
 どんなに意識を集中させても、身体は反応してしまう。
 もう駄目かと眼を瞑った時、頬から手が離れた。

「…何て。私にその趣味は無い。が、ここで本題に入らせて貰う」

 彼女なりに洒落たつもりだったのだろうが、未だに気は抜けていないらしい。
 押さえられた腕がそれを暗示している。

「単刀直入に…って、これはもう二度目か。まぁ良い。私が聞きたいのはただ一つ。何故あんたはケビンと一緒に居る?」
「え…?」

 どうしてここでケビンの名前が出て来るのか、セシルはすぐには思い当たらなかった。
 しかし、彼女が自分の正体を知っているのなら、分からないでも無かった。

「あんたが何処へ逃げようと、私の知った事じゃ無い。だけどね、ケビンが関与しているなら話は別だ。悪いが、黙秘権は無いぞ」
「それは…」

 偶然、と言えばそれで正解だ。
 だが果たしてそれで信じて貰えるだろうか。
 縦しんばそれで罷り通ったとしても、同時に自分はケビンと一緒に居る資格を失う気がした。

「悪いけど、教えない」
「ほぅ。言った筈だよな? あんたに黙秘権は無いんだよ」
「だけど、もしボクが理由を教えたとして、それでケビンに危害が加わるかも知れない」
「…腑に落ちないな。何故私に理由を話した所でケビンに危害が加わる?」
「簡単な話だよ。あなたがボクの正体を知っていた事。交通規制の理由も推測出来るのなら、まず“あいつ”の関係者だと思って間違い無い。だったら当然内通事情を疑うに決まっている。ただそれだけの事。あなたが何を思ってケビンの話を持ち出したかは知らない。
けど、もしケビンにまで危険な目に合わせるのなら、ボク一人なんかどうなったって構わない。それだけ」

 セシルのその眼は目の前の女性を敵として捕らえている。
 もし彼女がこのまま痺れを切らして自分の身体をズタズタに侵そうが、自分が生きている限りは刺し違える覚悟だってある。
 仕掛けを施しているのは、決して自分だけでは無いのだから。

「成る程。境遇を知っているからこそ、私を疑うのか。しかも、それも全て自分では無くケビンの為…。しかし、どうも論点がずれてるな。私はケビンの身を案じてあんたに問い詰めている。しかし、あんたもケビンの身を案じて回答を拒む。
先の目的は同じだが、まるでその方法は逆だ。まるで、この場を凌ぐ為の口実にしか聞こえない」
「それはボクも同じだよ。ボクから言わせて貰えば、あなたがケビンを人質として取ってるようにしか思えない」
「そうか。じゃあ…」
「結局、正しいのはそれぞれ自分自身でしか無いんだよ」

 それぞれの言い分に筋が通る為に起こる衝突。
 ただし、どちらにも信憑性は無い。
 そもそもどちらも本当である可能性すらあるのだからそれが余計に事態をややこしくさせている。
 だが。

「ふ…」

 小さく鼻で笑うと、彼女はセシルの両腕を開放した。
 膠着状態が突然崩れ、セシルは状況を把握出来無い。
 しかし、彼女は何かを納得した様だった。

「あんたの言い分は尤もだ。成る程、流石はあの愚弟の息子な抱けあって頭の回転は早い」

 独り言の様に呟く彼女の言葉をセシルは聞き逃さなかった。
 愚弟と言う単語は、セシルにとって意外でしか無い。
143名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:18:17 ID:7bVa3Kjo
>>142

「愚弟って、まさか…」
「あぁそうだよ。あんたのクソ親父は私の弟。あの馬鹿野郎の悪癖はよく知っている。だからあんたの事も、何となく分かってしまうのさ。だから、逃げて来たんだろう?」

 どうやら本当に知っているらしい。
 しかも、目の敵と言える位に毛嫌いしている様だ。
 親戚の事は余り覚えてはいないが、少なくともどうしようも無い父親との折りが合うとは思えない。

「…悪い。どうやらケビンを盾にしているのは私の方らしい」
「でも、ある意味それはお互い様だと思う。ボクも何だか、都合の良い部分だけ切り出して偽善を振り翳しているだけの様な気がする」
「ふふ…。お互い、それぞれ黒い部分は持ち合わせているらしい。だが、やはり傷を舐め合った所で理由は教えては貰えないか?」
「それは…」

 父親と彼女の関係が判明した所で、彼女が敵では無いと判断する材料にはならない。
 しかし、これは何の強制力も持たない純粋な『願い』でしか無い。
 だったら…

「偶然、なんだ」
「ん?」
「本当に偶然。ボク達が一緒に居るのは、行き場も無くて公園のトンネル遊具で閉じ籠っていたボクをケビンが見付けてくれたから。多分、ケビンはボクの事を何も知らない。話して無いから。ボクが理由を言えるまで、待ってくれているから。本当にそれだけなんだ」

 何故だかこの女性は信用出来る。
 不思議とそう思える。
 言葉の一つ一つに躊躇いは無かった。

「…そうだったのか。ケビンが、か」
「これだけで、良いの? と言っても、これ以上の説明は出来無いけど」
「あぁ。十分だ」
「どうして?」
「っ!」

 もし自分と彼女の立場が逆なら、今の自分の言い分だけで納得出来る筈が無い。
 つまり、それだけで納得出来るもう一つの理由を彼女は知っている事になる。

「…全く、本当に鋭い所はあの馬鹿にそっくりだな」
「言ったよ。ボクはケビンを危険な目に合わせたくない。ケビンを悲しませたくないんだ。あなたの方が、悔しいけどボクよりもずっとケビンの事を知っている筈なんだ。きっと、それはすごく大事な事の様な気がする」
「然り。私は…いや、あんたには知る義務や権利がある。そして、それを話す上であんたに頼みがあるんだ」
「頼み?」
「あぁ。あいつは…」
「………え?」


「おかえり。随分と長く話してたね。まぁ新人が入った時はいつもの事なんだけど」
「そ、そうなんだ…」

 苦い表情で出て来たセシルを気遣う為か、ケビンは出来る限りの笑顔で迎えた。
 既にロビーに人気は無く、朱に染まっている。
144名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:19:08 ID:7bVa3Kjo
>>143

「セシルが入って大幅にスケジュールが変わったから、結局いつもより早く帰れるよ。皆、早く終わって良かったってすごく安心してた」
「それ、安心して良いの?」
「…だよね。さぁ、僕達も帰ろ?」
「うん」

 自分達以外の全員が帰ったと言う事は、もう忌々しい交通規制は解除されている筈だ。
 後は、その残党に気取られぬ様に帰るだけ。

「今日はどっちが作る?」
「じゃあ、今日は僕が準備するよ。本当は、セシルの歓迎会を開くつもりだったんだけど、今日は色々初めてで大変だろうって。それで、次の休みになっちゃったんだ」
「そんな、そこまでしてくれなくて良いよ」
「そう言わずに。多分皆集まって遊びたいだけだから」
「そ、そうなんだ…」

 素の顔と役者の顔。
 その二つを使い分けて、初めて本物の役者と言えるのだろう。
 そう思えば、成る程自分には合っている様な気がする。

「何だあんた達、まるで夫婦みたいじゃないか」
「か、監督!」
「夫婦って…。ボク達どっちも男なんだけど」

 少し遅れて部屋から戻った監督が二人を囃立てる様にけたけたと笑いながら指差す。
 ケビンは顔を真っ赤に。
 セシルは彼女の持つ二面性に呆れを通り越して素直に感心していた。

「まぁ細かい事は気にしない気にしない。そんじゃ、セシル。…ケビンの事、頼むよ」
「あ…。はい」
「何でセシルの方に言うのさ」
「そりゃあんた。目覚時計がわんわんと響く中揺すっても起きない奴が、誰かの面倒を見れる訳無いだろう」
「なっ…、何で知ってるんだよ!」
「ありゃ図星か。適当に言っただけなのに」

 やはり只者では無いらしい。
 彼女なりに言葉の意味を探られない様に工夫している。

「ケビン…」

 何か一言言い返そうと必死に思考を捻らせているケビンに聞こえない様に、セシルはそっと呟いた。

「絶対に、独りにはさせないから…ね」
145名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:29:35 ID:7bVa3Kjo
『監督』ってイメージのキャラが見付からなかった…orz
他作品とのクロスオーバーは個人的に好きでは無いので、イメージ通りのキャラが見付かるまでずっと監督。
男勝りでお母さんみたいなお姉さんって感じの。

>>390
だんだんとハードになって来るなぁ。
自分のメンタル面が弱くてこういったキツめの話って書けないので尊敬。
と言うよりこの板はジャンルが幅広くてさり気なくレベルが高い気がする。
146458:2010/05/21(金) 01:37:11 ID:eGNfsWS4
規制解けたー
お久しぶりです&新板、まとめお疲れ様です
ここでほのぼの系(?)を投下、ジャック×六です。
自分なりの原点回帰…風味ということで、ここはひとつ。

ジャック×六




5月の夕暮れ時。
厳しい寒の戻り―冷たい風が村の新緑の間を吹き抜ける。

こぢんまりと佇む藁葺き屋根の中、
六は布団の上にぐったりと横たわっていた。
頬がすっかり紅潮して、額には汗の粒がつぶつぶと滲んでいた。
どうやら風邪を引いてしまったらしい。
窓から差し込む橙の光に目を覚まし、ぼやけた視界で天井を見上げている。
柱にかかった古時計の、か細い振り子の音が六の耳をくすぐる。

6時、か。随分と寝込んぢまったようだな。

ため息をすうと吐き出すと、六は立ち上がろうとした、が
体が鉛のように重くて言うことを聞かない。
六はぎゅっと目を閉じて力んでみても、動けるのは上半身、なおかつほんの僅か。
右手を杖にして、ぐぐっと起き上がろうとする。
俺だって一人の人間だ。こういう日だってあるん...

「あっ」

杖にした右手がずるっと、勢いよく木目の床の上を滑べり、
指先が目前に置いてあった水差しに直撃した。
ばしゃっとぶちまけられた水が、虚しくも木目を沿って広がっていく。
六は力なく、再び布団の上に突っ伏した。

「だりぃ…」
叱られた子供のように、布団にもぐりこみ背中を丸くした。
ぐずっと腫らした鼻に、血走った目。静寂の中にこだまする古時計の音。
こぼれた水が、囲炉裏の焼け残った木炭に滴垂ってじゅう、じゅうと音を立てた。
147458:2010/05/21(金) 01:39:13 ID:eGNfsWS4
どん、どんと戸を叩く音。こんな時に客か。
間髪を入れずにがらりと戸が開き、誰かの足音がずかずかと近づいてくる。
六は布団の下に忍ばせた短刀に、するりと手を伸ばす。

「よう」

六が目玉をころりと動かすと、銀髪の青年が顔をのぞかせた。
「…ジャックか」
布団の下に忍ばせた手は、ふっと力を抜いた。
「やっぱりひどくやつれてんじゃねーか。どうも様子がおかしいと思ったらコレだ」

六はすう、と安堵の溜息を漏らした。
「…なぜうちに」
「さて、何でだろーね」
ジャックは、掛けたナップサックを足元に降ろすと、中の荷を次々と出していく。
「昨日の電話はしゃがれ声で、今日はずっと留守電だった」
「…………」
「来て正解だったようだな。そのナリじゃ」
「…わざわざ此処まで三時間、大変だったろ…」
「いーってことよ。オレも「たいせつな師匠」に死なれちゃ困るから」

へっ。なぁにが「たいせつなししょー」だ。胃がムカムカするぜ、明日は豪雪かね。
六はジャックを背にして、ゆっくりと寝返りを打った。
148458:2010/05/21(金) 01:40:46 ID:eGNfsWS4
「…今日の『任務』は、大丈夫だったか」
「ん…まあね。サッサとかたしてきた」
「ハデにヤったんじゃねぇだろーな?」
ジャックは、意味深でニヒルな笑みを浮かべた。
「はは……聞きたい…?」
「い、いや」
ジャックが笑いながら話す事は、大概ヤバイ話だ。…スプラッター的な意味で。

「つうか極秘任務なんだろーから、あんまり口外するもんじゃねぇだろ」
「そーだな」
「お前が何をしようが知らんが、足元を掬われるような真似だけはやめとけ」
「大丈夫だよー、六サン」
ジャックは、野暮ったい生返事をした。
「元気になったらまた、刀術のご指導を、ね」

本命はやはりそっちか。
ったくろくでもねー危険因子を弟子に持っちまったな…

「ほら、コレ調合薬。効き目はピカイチだかんな。
…あとこれは薬草。抗菌作用があるらしい」
「はぁ、ありがとよ」
「ここお湯出る?」
「井戸と、台所にでっかい釜ならあるが」
「あー…へいへい」
149458:2010/05/21(金) 01:41:42 ID:eGNfsWS4
――――――――――――――――――――



藁葺き屋根の下、暖かい空気が流れる。
薄い硝子窓の表面は、ふんわりと結露を帯びていた。
囲炉裏の木炭は赤熱して、ぱちぱちと景気のいい音を立てている。

六は畳の上に膝立ちになると、着ている甚兵衛を脱いだ。
熱に浮かされた体は汗が浮いて、いつもよりじんじんと火照っている。
なにより、しばらく風呂に入っていなかったので、雄くさい匂いがたちこめていた。

ジャックは台所から手拭いを桶の湯に漬けると、ぎゅっと絞った。
「―背中、広いね」
絞った手拭いを、そっと背中にあてた。
「タオル熱くないか?六サン」
「うむ」
「…汗くさいな」
「るせー」

風邪のせいなのか、気恥ずかしさのせいなのか、六の顔は再び赤くなっていた。
ジャックは六の背中を手際よく拭いていく。
150458:2010/05/21(金) 01:42:45 ID:eGNfsWS4
「…ふんどし、替えのやつ持ってきたから」
丁寧に腰に巻かれた褌を、ジャックはゆっくり解いた。
自分の大切なブツが、ぼろんっと露になっても、
六は動じることもなく、ただ前を向いている。

「…大きい」
「はよ拭け」

風邪とは別の原因でブッ倒れそうになったが、六はひたすら羞恥を堪えた。
その面ジャックは仕事柄、自分の思考や感情を面に出さない性質だから…

「すっげ、むくむく大きくなってくよ!」

…やれやれ

「ココはとりわけ、念入りに拭いておかなきゃだな」
ジャックは、六の硬くて熱くなったチンポを、こしこしと執拗に拭う。
手拭いの毛羽が、丁度いい具合に刺激を与えているようで、
六は歯をくいっと食いしばって呼吸を荒げた。

「…ジャックよォ、楽しんでいるところ申し訳ないんだが…死に急ぐことはないんだぜェ…?」
六は鬼の形相で、ジャックを睨みつけた。
「へいへい…」
151458:2010/05/21(金) 01:43:13 ID:eGNfsWS4
六はジャックの呼吸も、しゅう、しゅうと荒くなっていることに気がついた。
「鼻息荒いぞ」
ジャックは六の腋の下に手拭いを潜らせた。
「ひふっ…!?ん…っ!」
六は奥歯をかみしめた。
「なるほど六サン、腋弱いんだな」
「ワザとやりやがったな、テメ…っ」
「ほらほら、ぐずぐずしてると何時まで経っても終わんないっスよ?」

六は苦虫を噛み潰した。
股間のそそり立った肉棒の鈴口からは、透明な液体がとろとろと溢れ出していて、
ぷっくりと血の気を帯びた亀頭からは湯気がふわっと立ち上っている。

「そんなにヌルヌルにしちまって、やらしいですぜ」
ジャックは六の後方から、六の肉棒を握りしめた。
「拭き残し、拭き残し」
「…く」
ちくしょう、コイツの本命はやっぱり「こういうコト」だったんだな…

「そうだ、特製の座薬を用意してたんだっけ」
ジャックは自分のズボンのチャックをじいっと下ろすと、自分の竿を引っ張り出した。
六には少々及ばないものの、太くて充血したブツが立派に反り返っていた。
ソレを、六の尻たぶの境目に、ずい、ずいと充てがう。
152458:2010/05/21(金) 01:43:36 ID:eGNfsWS4
痺れを切らした六は、ジャックの頭をごつんと小突いた。
「100年はえーよ、アホ」

ジャックは、がっかりしたような視線で六をみた。
「なんだよ、ヤる気じゃないのかよー?」
「アホか。人が風邪引いてる時にセックスなんざ、血反吐ブッ垂れて死んでしまうわ」
「じゃあさ、脚閉じて」

ジャックは、六の脚の隙間に、自分のブツをにゅ、と挿入した。
「ん…コレなら…文句言わねー…だろ?」
蕩けた目で六を見つめるジャック。か細い吐息が、六のうなじにふわふわとぶつかる。

「…納得しねーよ。太ももがぬるぬるして気持ちわりーし」
といいつつも、六は自分の竿をぐいっとつかんで、しごき始めた。

「…動くよ」
六の股の中で、ジャックのぬるぬるになったブツが、ゆっくりとピストン運動を始めた。
ぐぱ、ぐぱっと、淫猥な音が天井に向かって響く。
「はぁ…ん…ぐっ…」
吐息を吐きながら、ジャックはひたすら腰を振り続ける。
153458:2010/05/21(金) 01:44:11 ID:eGNfsWS4
六の玉袋の下から、ぷちっ、ぷちっと顔を覗かせるジャックの亀頭が、汗と体液でてらてらと鈍く光る。
ジャックの呼吸に合わせるように、六の吐息もだんだんと、色を帯びてくる。
「んー… くっ…ふー」

ジャックは、六を前へとゆっくり押し倒すと、右手で六の竿、左手で胸のあたりを弄った。
六の額からは、汗がどっと噴き出していた。

「…いい汗、かいてんな」
ジャックは六の背中の汗を、じりっと舐めた。
「なぁ…ジャック」
「…ん?」

「ん、ぐふ…っ」
六は自分の竿に掌をかぶせると、軽い咆哮を上げてどくっ、どくっと射精した。
指の隙間から精液がぼたっぼたっと滴垂るが、それをぞんざいに、ジャックの竿にぐじぐじっと塗りつけた。
「ふう…これでもう少し気持ちよくなるんじゃねーの?」

気を良くしたジャックは無我夢中で、腰を振る速さを少し早めた。
ヤバイ、すごく気持ちいい…
154458:2010/05/21(金) 01:44:44 ID:eGNfsWS4
「さっさと射精(だ)してくれ…だんだん気持ちが悪くなってきた…」
六の瞳がぐる、ぐる、と右往左往した。そりゃあ当然だろう。風邪引いてんだから。

「ぐぅ…!!!」
ジャックの背中が、ぶるっぶるっと痙攣した。
股の隙間からにゅっと顔を出した亀頭から勢い良く多量の精液が、ぱたっ、ぱたっと木目の床に放たれる。
六は、ジャックが射精するや否や、前のめりに突っ伏した。

「ふーっ」
竿をぎゅっと握って、残りの精液を振り絞ると、それは六の尻の上にぼた、ぼたと滴った。

「すぅ…気持ちよかったぜー?六…アレ?」

「きゅーーーー」
六は不格好に床に突っ伏して、ぐったりとしていた。目をマンガのようにぐりぐりと回しながら。
頭からは、エンストしたように湯気がぷすーっと立ち昇っていた。
「ぎぼぢわ゛り゛ーーーー」

ふっと我に帰ったジャックは、慌てて自分の竿をしまった。
「ヤバっ、氷!氷!…水!!」
155458:2010/05/21(金) 01:47:15 ID:eGNfsWS4
――――――――――――――――――――



数日後。とあるアパートの一室、ジャックのおうちにて。

「だはははは!ほーれ見たことか。おめぇ顔が真っ赤っ赤じゃねーか」

ぴんぴんと元気な顔色の六とは裏腹に
ジャックの顔が真っ赤に紅潮して、鼻水がだらだらと出ていた。
頭に大きな氷嚢を充てがって、体をがたがた震わせながら病床に伏していた。

「いやー。ナイフでもブン回しながら、今にも飛び掛かってくると思ってたんだが、
その見てくれじゃあ、なぁ… 暗殺屋さんが聞いて呆れるぜ」

ジャックはイジケたように、ついっとそっぽを向いた。

「なーに、ミイラ取りがミイラになる事なんざ、どこの世界でもよく有る事じゃねーか。とりわけオチに困った時とか」
「…六サン、君が何をいってるのかサッパリ分かんないよ」
「そんなことよりホレ、テキトーに買い出しに行ってきたからよ。
トイレットペーパーとポカリと、あと薬」
「サンキュー」
「いま卵酒作ってやっから、おとなしく寝てろ」
六は持参した割ぽう着をするっと着ると、キッチンに向かおうとした。

「なぁ…六サン?―ところで」
「ん?」
「…無限ループって…怖いよね?」
何を思ったか、ジャックは布団の中で服を脱ぎ始めた。

「バ、バカ まっぴら御免だ」

完?
156458:2010/05/21(金) 02:19:04 ID:eGNfsWS4
ジャックも、もう一汗かけば治るかも…?的な後味で。
リハビリ兼ねて書いてみました。
157390:2010/05/21(金) 05:19:09 ID:rP2WswLI
>458久しぶり&GJ!
六受けのエロが読みたかったから、これは嬉しいわ
男前なのに可愛い、その上エロい六にものすごくたぎった
近日中にまとめWikiに追加しとくな

>835もGJ
158名無しさん@ピンキー:2010/05/22(土) 06:32:04 ID:0ZLchDYF
挿入させてくれなかったw
六は風邪じゃなくてインフルの疑いがあるな…
とにかく素股六エロすぎGJ
159名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 16:03:25 ID:QG7rSRmH
初めてこのスレに来たが神小説が上がってて感動した
ジャック好きだから嬉しい。
萌えましたGJ
160390 1/2(※スカトロ注意):2010/05/25(火) 00:25:05 ID:vdw8r9yw
そろそろネタがなくなってきた…
まだウンコはしてないけど、ウンコ掻き回してたりはしてるから一応注意書きして改行空けておくな










一方でKKはきゅうきゅうと力なく狭めてくる六の直腸を無遠慮にまさぐりながら、徐々に指を引き抜いていた。内壁から腸液が滲み出ていて、滑りがよくなった直腸をするすると糞便が下りてくる。
そうして固めの糞便が前立腺の上まで下りてきたところで、KKは勢いよく指を突っ込んで糞便を押し戻した。
「んんぁっ!」
こつこつとした糞便の表面が前立腺を擦り上げ、六は尻を跳ねさせた。指やローターで犯されているのとは違う種類の興奮が、すでに半勃ち状態だった六の陰茎をさらに奮い立たせ、糞便に犯されて感じているという事実が、六の自尊心に響いていく。
あまりに惨めな自分の姿に、六はシーツに顔を押しつけ、声を殺して泣いている。刀がなくとも、手さえ自由になれば、KKを半殺しにしてやりたかった。しかし心の奥底ではもっと苛烈な陵辱を望んでいる自分がいることが、何よりも六自身を惨めに感じさせていた。
「ちょうどいい。お前、今からクソでオナニーしろよ」
KKは六が泣いているのには触れず、新しい遊びを思いついたように嬉々とした声で命令する。空いた手で六の両手首を拘束していた帯をほどき、そのまま右手を肛門にあてがわせるように引っ張り、直腸に沈めていたもう一方の指を六が粗相をするぎりぎりまで引き抜いていく。
六は必死に首を横に振って、自分の指を肛門に入れるなどできないとでも言うようにKKを見上げて哀願したが、KKは嫌味な薄ら笑いを浮かべるだけで全く取り合おうとしなかった。
「ほら、早く指突っ込まねえと、クソが漏れちまうぜ。ベッドに漏らしてみろ、お前に片づけさせるからな」
「ぐ…」
意を決して、六は震える右手の人差し指の腹をおそるおそる肛門にあてがった。少しでも力加減を誤ると、肛門を突破してしまいそうなところまで糞便が下りてきてしまっていた。
161390 2/2(※スカトロ注意):2010/05/25(火) 00:31:19 ID:vdw8r9yw










六は深く息を吐いて力を抜くと、KKの指の上から追加するように人差し指を挿入する。
「んう…っ!」
つぷりと三本目の指が肛門を突破して侵入した軽い衝撃が脳天を貫き、六は背中を弓なりに反らしてうめき声を上げる。体を支えている左手でシーツを鷲掴み、入れ替わりに完全に引き抜かれたKKの指の代わりに、六は自分の指を直腸に進めていく。
「んくっ…、あっ、あっ、あぁ」
他人に見られている前で初めてアナルオナニーをし、さらには糞便まで掻き回しているのだと思うと、六は理性を振り切ってオナニーに没頭した。
手すさびも陰茎を擦ることくらいしか知らなかっただけに、手の動きはぎこちないものだったが、糞便の表面が強い快楽をもたらすある器官に偶然触れると、その動きも急に止まってしまった。
「はぁ…あ、ぁ…」
六は突然尻に強い快楽が走ったことに戸惑いながらも、糞便を掻き分けて腹側の内壁で明らかに膨れている箇所をさすってみては、喜悦のため息を漏らす。
そしてKKが見ている前でむっちりとした太腿を開き、根元までずっぽり飲み込まれた人差し指をわずかに抜き差しし始め、それに合わせて断続的に低くかすれた甘え声を漏らす。
「あ…っ、あっ、んん、はぁ…」
指や肛門が糞便で汚れてきても構わず、六は夢中になって前立腺を擦り、寄せ波のごとく絶えず押し寄せてくる快楽を貪っている。
そのうち物足りなくなってきて、六はシーツを掴んでいた左手で前をさすり出し、肛門に入れていた指も二本に増やしてますます激しくよがり始めた。
「ふっ…、ああ…っ…、はぁ、はぁ…あ、あぁあっ」
六は涙や鼻水でぐしょぐしょになった精悍な顔を切なくゆがませて、淫楽に虜になった男娼そのものの表情を浮かべて喘いでいる。
前後から集中的に陰部に襲いかかってくる快楽から逃れ、あるいは追いすがるように腰を打ち振り、ぐちょぐちょとはしたない音を立てて体液をほとばしらせる。
KKは堅物の書道家というイメージの強かった六の、豹変ともいえる態度の変化を目の当たりにし、釘づけにされたように六の痴態に見入っていた。興奮がさらに昂ぶり、ごくりと生唾を嚥下する。
その直後に我に帰り、いつになく欠いた冷静さを取り戻すと、KKは左手で六の髪を鷲掴み、痛みで六の意識を引き戻させる。
「だいぶいい感じになってきたようだな。
おい六、ベッドから降りて、もう一回俺にフェラしろ。ちゃんとイかせられたらクソも出させてやる」
「う…、わ、わかっ…た」
六はKKの命令に従順に従い、肛門を指で栓をしたままベッドから降りると、おあずけを受けているかのようにKKが性器を露出させるのを待つ。
KKは右手に付着していた糞便を拭い取ったティッシュをゴミ箱に放り込むと、六と向き合うようにベッドサイドに座り、パンツをズボンごと畳に落として下半身を剥き出しにする。
KKの性器は依然として勃起して天を仰ぎ、亀頭の先から陰茎の根元までが先走りで濡れそぼっていた。KKが両脚を大きく開き、ぬめる陰茎の根元を支えて示してやると、六はすぐさま亀頭全体にむしゃぶりついた。
162名無しさん@ピンキー:2010/05/27(木) 18:54:34 ID:AvRUQVEj
>>390
ネタなくなってきたとは思えんほどうめぇ
毎度乙です
163390(※ポップン風雲録ネタバレ注意):2010/06/01(火) 21:37:38 ID:R0zxZrPs
流「6月だな」
六「また6日か9日を俺の日とかいうのか」
流「そうだ。痴漢電車他未完作品が多いが、一応その日に向けて何か作品を書こうと思っているそうだ」
六「ネタあったらよろしくな」

流「しかし今作のお主は持ち曲数多くないか」
六「ヒップロック4は『差無来!!』じゃねえのかって話が15の稼動前にあったもんだが、とうとう来たかって感じだな」
流「おかげで18のサントラが非常に楽しみではあるのだが、某にとっては妬ましいな。おい、持ち曲数分犯らせろ」
六「殺す気か。まあてめえも今回版権でまた俺と一緒に再登場したんだからいいじゃねえか…へへへへー」
流「………」
六「笑えよ」


六の日は投下があることを祈りながら保守
164名無しさん@ピンキー:2010/06/02(水) 11:52:17 ID:IsUMx7Cn
ヒプロ1〜5+曇天で7曲、ついでに今作3回登場したから×3で21回か
胸が熱くなるな
165名無しさん@ピンキー:2010/06/02(水) 12:10:07 ID:H9tXS2B8
ちょw六マジで死ぬってww
166名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 04:59:50 ID:f5uwGzlS
六担当曲という意味では、まだウラヒップロック2とヒップロックロングもあったり(削除済み)
しかも見方によってはヒプロリミもある、計10曲
167名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 00:33:24 ID:7/Iq42sn
酷い出来、板違いかもしれないが
六月六日記念に投下させてくれ

ttp://uproda.2ch-library.com/lib253352.jpg.shtml
ttp://uproda.2ch-library.com/lib253353.jpg.shtml
passは35+4÷2の答え

マウス画だから(という言い訳になってしまうが)
目も当てられたもんじゃないかもしれないから閲覧には注意を
168390:2010/06/06(日) 03:42:03 ID:e4PJmq0d
久々の絵師GJ!
2枚目のV字開脚駅弁+腋舐めはキタ
表情がそそるし、何より包茎なのが嬉しかったw
俺も頑張らなきゃな…
169名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 08:45:43 ID:ZIWEhh+z
着エロきたか…ていうかあまりマウス画に見えないんだが
淫乱な六は意外でとてもそそりましたGJ!!>>167
6月6日だからもしかしてと思い来てみて良かった!
170390:2010/06/06(日) 14:44:23 ID:e4PJmq0d
ttp://uproda.2ch-library.com/lib253530.jpg.shtml
pass:流石と六が初めて一緒に出たバージョン

写メだし線画だけど、俺も頑張って描いてみた
171名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 20:59:54 ID:wG7LeHYi
GJ
みんなよー書くなあ
172名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 00:49:04 ID:G+AeZh82
性懲りも無く6月9日記念に投下

ttp://uproda.2ch-library.com/lib254533.jpg.shtml
ttp://uproda.2ch-library.com/lib254535.jpg.shtml
passは>>167と一緒です
マウス画だから(ry
それ以前になんか…六がきもいので…閲覧にはご注意を

ここは皆様本当に上手い人ばかりですね
これからも応援させていただきます
173390:2010/06/09(水) 06:38:37 ID:Og0icnqg
GJ!もしかしたら今日も投下してくれるかもと思っていたが、期待を裏切らなくてありがとう
ここ絵師少ないし、気が向いたらいつでも投下しにきてほしい

俺は結局何も書けなかった…六にケツの穴に指突っ込まれて、逆レイプしてもらってくる
174名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 23:58:53 ID:JcP0M1uV
六(69)の日記念

 普段は賑わう筈の街道には人の姿は見受けられない。
 その風景に馴染まない、和服に下駄という着崩れた風貌の青年の乾いた下駄の音だけが木霊していた。
 寧ろ、自らの存在を第三者に見せびらかしている様にすら見える。
 いや、実際そうなのだろう。
 何せ青年の後方にもう一つ、物音も存在すらも感じない、正に影と呼ぶに相応しい者が確かに“居る”のだから。
 やがて普段から人気の無い高架下に差し掛かると、ふと青年は足を止める。
 常に一定の距離を保つその影も、間違い無く止まった様だ。
 そして徐に懐に手を入れ、素早く振り返る。
 そこには何も無かった。
 当然だろう。
 それは“影”なのだから。

「おっと」

 懐から手を出した瞬間、小気味の良い金属音が鳴り響いた。
 青年の後ろで交叉する小刀と鋭い銀色に光る三又の鉤爪。
 微かに見える先端を見ると、それは触れただけで鮮血を散らせそうな程に研ぎ澄まされている。

「暗殺者ってのは背後から奇襲するってのが鉄則なのか?お約束過ぎて面白みが無いぜ?」
「グ…」

 恐らく覆面でも被ってるのだろう、不自然に霞んだ声が聞こえた。

「そんじゃ、ツラ拝ませて貰うぜ!」
「っ!?」

 後ろで構えていた小刀を前に振り下ろす。
 それに込めていた力を殺す事が出来ず、影だった者は小刀と一緒に前のめりになり青年の目の前に姿を現した。
 想像していた通り、全身を真っ黒な服装で包み、面が割れない様にだろう、奇妙なガスマスクを被っていた。
 しかしその身体に違和感を覚える。
 明らかに小柄、どう考えても少年としか呼べない程に小さかった。
 諜報を業とする暗殺者が不自然に身体を縮める事はあるかもしれないが、目の前に居るこの者は、そういった類いの能力を持っている様には見えない。

「へぇ、本当にただの餓鬼か。俺も随分と舐められたもんだな」
「グ…ろく……」
「ん?」
「コロスッ!!」

 鉤爪を素早く振り翳し、小柄な暗殺者は青年…六との距離を一気に詰める。
 間違い無く常人には反応出来無い速度での奇蹴である筈…だった。
175名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:00:13 ID:JcP0M1uV
>>174

「甘いンだよ!」

 だが六はそれを凌ぐ速さで袴の下に隠しておいた愛刀を抜く。
 左手の親指で軽く峰を弾き、右手で刃を抜く。
 暗殺者の目には、銀色の光の奇跡にしか見えなかった。
 月明りを反射しながら自分に襲いかかるその光は―
 恐ろしい程に美しかった。
 瞬きする間も惜しい位、その輝きに魅入っていた。

「あ…」

 次に暗殺者が見たものは、鮮明になった世界と地面に落ちて行く鉤爪だった筈の残骸だった。
 根元からまるでスポンジケーキをナイフで切った様な、見事な断面図が出来上がっていた。

「餓鬼相手だと俺が手を抜くかと思っていたのか?悪いが命狙われて洒落で通す程俺は甘くは無いぞ」
「あ…うぁ……」

 ガスマスクが完全に取れて、現実を直視出来ずに怯えている少年の表情が露になる。

「へぇ…」

 最早打つ手無しの状態であろう暗殺者の少年を、六は舐め回す様に見つめる。
 無造作に流れる様な銀髪。
 小動物の様に怯えるあどけない顔立ち。
 何より暗殺者には不向きな、純真を象徴する漆黒の瞳。
 薄汚れてはいるが、軽く見積もっただけでも美少年の部類に入るだろう。

「なかなかの上玉じゃねぇの? ま、俺には関係無いけど」
「オ…マエ、も…」
「あ?」
「アイツらみたいにするのか?」

 成る程と六は刀を収める。
 暗殺集団に居るこのような子供が純潔を誇れるとは到底思えない。
 それ相当の“相手”に使われていると考えて先ず間違い無い。

「馬鹿、俺には関係無いっつったろ。同時に、膾斬りにする様な趣味も持ち合わせていない。さっさと自分のお家に帰んな」

 元の様に刀を袴の下へ納め、六は踵を返す。
 この子供がこの後どうなろうが自分には関係無いし興味も無い。
 腰が抜けて立ち上がれない暗殺者の少年を置き去りにして、六は自分の荒家へと戻るのだった。

「ろく…」

 少年の呟きは、夜風に遮られて六には届かなかった。
176名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:03:47 ID:N62SNu1C
>>175

「ちっ…やっぱ刃が欠けてら。こいつもそろそろ寿命かもな」

 鉤爪の破片があればパズルの様に嵌りそうなへこみが刀身に出来上がっていた。
 長年愛用していた刀である為に、六自身に取っても大きな痛手となる。

「ヤバ…根元からバッサリ殺られてやがる。もう一度打ち直すのは…俺には無理だな」

 不貞腐れながら六は刀を鞘に収め、枕元へ放り投げた。
 そのまま薄い布団の上に自身を放り込んだ。

「あの餓鬼、想像以上にヤバい奴だったな…」

 本来なら彼の軽防具も貫いて、あの場で鮮血が吹き出している筈だった。
 だが獲物の硬さも去る事ながら、何よりもこうなってしまった要因は彼の素早さにあった。
 そもそも六には獲物を潰すつもりは毛頭無かった。
 三双の爪に無理矢理刀身を当てられ、刀自身に奇妙な負荷が掛かってしまった。
 結果、刀は使い物にならなくなり、子供一人切れないまま終わってしまった。
 恐らく、少年の防衛本能が無意識にそうさせたのだろうが、彼が純粋に殺意のみで行動してたならば、間違い無く殺られていたのは自分の方だろう。

「寧ろ、餓鬼を送りつけてきやがった相手に感謝するべきか」

 自分が狙われる理由は分からない。
 が、心当たりはいくらでもある。
 ただの字書きを葬る事で得をする人間など、自分にとっては数え切れない程居るだろう。

「ま、それが分かってて返り討ちにするんだけどな。だから、余計な事は考えない方が良いぜ。そこの餓鬼」

 木桶が微かに揺れる音がする。
 余程見付からない自信があったのか、動揺を隠し切れ無い様だ。

「悪いけどな、俺にはそういった闇討ちは通用しねーんだわ。何となく…な、分かってしまうんだよ」

 瞬間木桶が破裂し、鉄砲の玉の様な勢いで少年が自分に向かって飛び出して来た。
 刹那、荒家に金属音が響く。
 ナイフと刀の鞘が交叉する。
 押し戻す様に鞘を振ると、少年はがらくたの山に振り飛ばされる。

「うっ…」

 背中を強く打ったのだろう、身体を反る様に呻いていた。

「一度見てるからな、もうその素早さも俺には無意味だ。オメーが攻め方を変えない限りはな」

 そして、また六は布団に寝そべる。
 寝息が聞こえて来た時、少年は思い知る。
 どうやっても自分はこの男には勝てないのだと。
 寝込みを襲おうにも、身体がこれ以上前に行かないのだから。

「こわい…こわいよ……」

 少年はその場から動けない。
 前に出る事は愚か、少年に後退の選択肢は無い。
 戻っても待っているのは『制裁』と言う名の死だけ。
 目の前で何度も何度も見せられた、ヒトがゴミ屑の様にバラバラになる。
 慣れた光景とは言え、自分が同じ目に遇うのは嫌だ。
 どうすれば良い?
 どうすれば良い?
177名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:04:16 ID:N62SNu1C
>>176

「なぁ」
「………オマエ、起きてた?」
「いんや。さっさと寝ろうにも、そんな寝ている側でずっと膝組んで見ていられると落ち着いて眠れる訳無ぇんだわ。それよりも…」

 身を起こし、明ら様に気怠そうな表情をこちらに向ける。
 相当自分は邪魔らしい。

「帰れ無いんじゃ、無いだろうな?」
「な…」

 何で、と言おうにも、言葉が喉の奥で凍り付いた様に出て来ない。
 それだけで十分肯定の材料には成るのだが。

「俺に勝てないからと言ってのこのこ帰ろうものなら、まぁその時点でオメーの首くらい平気で吹っ飛ぶだろうからな」
「お、オレは…」
「誰だって死ぬのは怖い。命を狙われる側じゃ無く狙う側なら、そのしっぺ返しが余計に怖くなってしまう。人間って、そんなもんだろ?」
「オレは…オレは……っ!」
「おっと!」

 鞘で二回、六に向かって少年が投げた何かを弾く。
 それらは回転しながら床や天井に突き刺さる。
 やはり鋭利に研がれたナイフだった。

「オレはまだ諦めない! 必ずオマエをコロス!! オマエの首を刈り取ってやる!!」

 天井近くにある隙間を侵入場所にしていたらしい。
 そこから顔を真っ赤にしながら犬の様に吠えた後、外へと飛び下りて行った。
 砂利を踏む音が次第に遠くなって行く。
 …本当に出直すつもりらしい。

「………あー、何だこれ。ライバル宣言?」

 最早雰囲気に流されっぱなしだった六がようやく現状を理解する。

「ったく、散々暴れるだけ暴れやがって。刀どころか鞘まで無駄にしちまったじゃねーか」

 取り敢えず、今後嵩むであろう修繕費の勘定をして、盛大に六は溜め息を付いた。
 その拍子に、先刻ナイフを弾いた部分を中心にバラバラに欠けた鞘を見て、余計に疲れが溜まった。

「マジ、疲労で殺されるだろうなぁ」
178名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:06:44 ID:N62SNu1C
>>177

 それからは血の代わりに胃液が直接出てきそうな程神経を磨り減らす日の連続だった。
・その壱
 寝起きの一例。

「ふわあぁ…」

 顔を洗う為に井戸の底から引いた水道の前に来ると、先ず足に何かが引っ掛かる。

「うおっとっと…。ぃい!?」

 もう少し盛大に転んでいたら確実に首の軌道上を貫通する位置に透明なピアノ線が張ってあったり。
 取り敢えず洗面台に隠れていた少年は開けておいたらしい壁の穴から退散する。

・その弐
 朝食の一例。

「さぁてと…ん?」

 ただの秋刀魚の塩焼きの筈なのに、明ら様に突き出ている針。
 割り箸で先端を掴んで、水の入った桶に放り込む。
 すると、水面から紫色の泡が発生して桶がただの木の輪に変形する。

(何の薬入れてやがる…)

・その参
 外出。
 電車の中。
 乗る場所と時間帯の関係でかなり空いているために、六は二人座席の窓際に座る。

「………」

 その座席のすぐ下の空いた部分に明らかに居る筈の無い人間の殺気がぷんぷんと感じる。

「…ふん!」
「はぷぁ!?」

 ゲートボールの要領で足を振ると、生暖かい部分に踵が当たる。

(ありゃ、鼻だったか)

 続いてとあるデパートの展示場。
 流石に無関係な人間が大勢居る場所では妙な罠は仕掛けて来ない。
 物陰に隠れてこちらの仕事が終わるまで様子を伺っている様だ。
 ただし―

「あの、六さん。あの植木の後ろに隠れている子は…?」
「あーその。親戚からしばらく預かってくれと言われたんだが、どうも人込みが怖いらしくて…」
「ママー。あそこにへんなおにーちゃんが」
「しっ、見ちゃいけません!」

 バレバレだったりする。
179名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:08:52 ID:N62SNu1C
>>178


・その四
 帰路。

「うおっと!」
「こら、避けるなぁ!」
「んなもん真面目に当たったら死ぬだろうが!」

 地元駅から家に辿り着くまで、一方的な鬼ごっこが繰り広げられる。
 ただし、オニ側には刃物投具の妨害付き。
 3キロもの区間を六は刃物を躱しながら全力疾走する。

「こらぁ! そんな遊びすんなら余所でせんか!」
「テメェこれが遊んでいる様に見えるのか!」
「遊んでいる様にしか見えんわ。バカタレが!」

 畑仕事の爺さんにも怒られたりもする。
 まぁ要は迷惑極まり無い訳で。


「はぁ〜」

 数日間似た様な手口でずっと戦闘(笑)を交わしていると、いい加減それが日常になってしまうのだから恐ろしい。
 今や六の一番の至福の時間は風呂釜に身体を沈めている時となっていた。

「あーくそ、老け込んだな。俺も」

 湯気と一緒に溜め息も溶け込む。
 とは言え、未だに気は抜けてはいない。

「ったく、よくまぁ飽きもせずに毎日毎日俺の所まで通えるよなぁ」

 最早身を隠さず堂々と六の前に姿を現している少年に向かって、六はもう一度盛大に溜め息を零す。
 どうやら直接観察した方が良いと言う結論が出たらしい。

(落ち着か無ぇ。しかし…)

「オメーもよくまぁこう毎日毎日頑張るよな」
「う?」

 まさか話し掛けられるとは思わなかったのだろう、少年は素頓狂な顔をこちらに向けた。

「命係っているのは分かるけどよ、もう少し肩の力抜かねぇと色々としんどいぜ?」
「う、ウルサイ! オマエにオレの事なんて、関係無いだろ!!」
「ま、そうなんだけどな」

(あ〜あ、どうにも平行線だな。まぁ、下手に好かれてもそれはそれで困るんだけどな…ん?)
180名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:11:56 ID:N62SNu1C
>>179

「なぁ、オメー」

 二度目にも拘らず、少年は六の声に震える。

(駄目だこりゃ)

「な、何だよ」
「おっと。いや、オメーずっと俺を追っかけ回してるけどよ。あれから風呂ぐらい入ってるのか?」
「あ…。そ、それは……」
「んなこったろーと思ったぜ。ほら、来いよ」

 風呂釜の上から六は手を差し出す。
 すると、少年は余計に困惑する。

「ほれ、オメーも入れって言ってんだよ」
「ば…馬鹿、オマエはオレの標的なんだぞ! 何でそんな事言うんだ!」
「だぁから、たまには肩の力抜けっつってんだよ。来ないんなら…」
「わっ!?」

 言うが早いか六は何も身に着けずに風呂釜から飛び出し、少年の目の前に着地する。
 そして、少年の来ている服を無理矢理剥ぎ取ろうとする。

「おら、おとなしくっ…!」
「や、やだやだ! 放せぇ!!」
「ジタバタしたら服が破れるだろうが! んな事になったら、オメー折角の暗器も意味無くなるぜ?」

 そう言うと、少年はピタリと動きを止める。

(お、成る程な。少しこいつの扱い方が分かったかな)

「そうそう。そうやって最初から素直になれば良いんだよ。ほら」

 ようやく観念した様で、少年は六にされるがまま、来ていた服を全て脱がされる。
 最早一糸纏わぬ姿になると、六は不意に手を止める。

(こいつ、暗殺者の割に身体に傷一つ無い。てっきりそう言った趣味の奴等に良い様にされてると思ったが…俺の思い過ごしか? いや…)

「…何だ?」
「あ…いや、何でも無ぇよ。さっさと入れ」
181名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:12:39 ID:N62SNu1C
>>180

 近場にあった桶一杯に風呂釜の湯を汲み上げ、頭から少年にかける。
 渋々少年は風呂釜へと身体を沈めて行った。
 それに続いて六も風呂釜に入る。
 元々一人用なので、釜の中は狭い。
 どうやっても身体の何処かが触れ合ってしまう。
 それが気になって仕方が無いのだろう、少年は落ち着きが無かった。

「そこまで露骨に嫌がる事無いだろが」
「ち、違う! だって…初めてだから」
「何が?」
「誰かと一緒に風呂入るの、初めてだから」
「ん?ちょっと待て。オメー両親とか居ないのか?」
「……………知らない」

 今更になって六はそれが愚問である事を後悔する。
 それからは暫く沈黙が支配した。
 やがて六が「悪い…」と小さく呟き、それからずっと少年は六の胸に顔を埋めていた。
 自分でも気付かない内に、六はこの少年を受け入れていた。
 それが何から来るものなのか。
 自分と同じ境遇を哀れむ同情からか、それとも―

(あながち間違いじゃ無い…か)

「なぁ…」
「ん?」

 今度は少年の方から問い掛けられる。
 追いかけ回している時以外で彼から話を切り出して来る事は初めてだった。

「何だよ」
「オマエも、ずっとひとりだったのか? ひとりでずっと、こうやって生きて来たのか?」
「俺は…」

 咄嗟に六は言葉を噤む。
 しかし、ややあって再び口を開く。

「そうだな。オメーよりかは上だっただろうが、餓鬼の時に忽然と姿を消しちまった。何でそうなったのかは覚えて無いけどよ、多分死んだんだろうな。剣術も、我流だしな」
「…寂しかったりしなかったのか?」
「それもあんま分かんねーんだわ。気が付いたらこうなってたからな。何だオメー、寂しいのか?」
「ち、ちち…違う! 良いか!? オマエはオレの標的なんだ。いつか必ずオマエに勝ってみせるからな!!」
「へぇへぇ」

(いつの間にか目標が格下げになってんぞ)

 しかし、少年には黙っておく事にする。
182名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:38:31 ID:N62SNu1C
読み切りのつもりで書いたのに間に合ってねーし終わってねーし六受じゃねーし。
話の内容は二人の馴れ初め…のつもり。
自分的に六のイメージとしては某格ゲーのサムライ姐さん。
住居はどっかのド田舎の外れと思ってもらえば。

>458
六がエロくて可愛い。
…のは兎も角、六のメタ発言とジャックのオチ台詞で完全に吹いた。
これからも応援させてもらいます。

>390
文章だけでなく絵も描けるとか…。
しかもどちらもエロくて濃いモノばかり。
もう素直に頭が上がりませんっす、先生!

>>164
何故掛けたしw

>>167 >>172
こちらも絵師さんGJ!
そもそもポプキャラのエロ絵を見かけないのでこれからもどんどん投稿しちゃってください。
pixivもそういうのあんま無いし。
183390:2010/06/10(木) 01:03:46 ID:SNgcqM4i
リアル遭遇してた。GJ!
六とジャックの日常的な攻防のシーンがギャグチックでうけた。
エロ来るかと思って待ってたけど、続きに期待。
先生とかそんな柄じゃないから照れるわw
184名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 05:57:55 ID:E2OuLBRO
GJ…!
なんか和んだw
185名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:17:49 ID:8goOIte5
>>181

 翌日は珍しく少年からの攻撃は無かった。
 それどころか、自分を追いかけて来なかったらしい。
 平和で何より…と言いたい所だが、日常茶飯事になっていたものがこうも突然止まるとそれはそれで慣れないものである。

「なんつーか、退屈なんだよな」

 まぁ言っていても仕方の無い事なので、夕食を終わらせて早めに寝る事にする。

「…って言った矢先にコレかよ」

 塒に入った途端、心地良さそうな息遣いが耳に入って来た。
 この日たまたま敷っ放しにしていた布団に目をやると、案の定そこにはいつもの少年が居る。
 ただし仰向けで。

「全く、人の布団に仕掛けようとしてそのまま寝るなっつーの。ま、無理も無いか」

 幾ら暗殺者とは言え、結局はただのお子様に変わりは無い。
 ずっとあれこれと試行錯誤して来たのだから疲れも溜まるに決まっている。

「だから、たまには肩の力抜けって言ったんだよ。まぁ…」

 六は幸せそうな表情を浮かべて眠っている少年の隣りに横になる。

「たまにはこんなのも悪くは無いかな。何かこいつあったけーし」

 かく言う自分も眠気にはそう易々と勝てるものでは無い。
 ただ寝転んだだけで瞼が重くなって来る。
 久々に、まどろみの海が心地良く感じた。


「ん…」

 自分の周りの温度変化に気付いて少年が目を覚ましたのは、夜明けを前に最も闇に染まる時間だった。
 そもそも自分が眠っていた事にすら気付いていない。
 しかし、かけられている筈の無い布団と、それよりも自分の隣りで眠っている筈の無い六によって、否が応にも状況を認めざるを得ない。
 自分は六の部屋で転た寝どころか熟睡していたと言う事に。

「………馬鹿」

 六を起こしてしまわない様に、ゆっくりと布団から這い出る。
 だが、自分が出た時に乱れた布団を直そうとした時、不意に腕を掴まれる。

「なっ…」
「絶対に出て行くんじゃ無ぇぞ。でないと…」

 必要以上に声を押し殺し、動作も無い。
 何故そうする必要があるのか少年には分からない。
 しかし、六が背中に隠していた刀の鞘に手を掛けるのを見て、背筋が凍り付く。

「死ぬぞ」
186名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:19:13 ID:8goOIte5
>>185

 刹那、何処からか飛んで来た投具を六は鞘で弾く。
 舌打ちを鳴らして立ち上がる六を、少年は震えながら見ている事しか出来無かった。
 分かってしまったから。
 状況を理解してしまったから。
 間違い無い。
 今この家を囲んでいる無数の暗殺者達は六を抹殺しに来たのだ。
 役立たずの自分と一緒に。

「オレ…ずっと……」
「痺れを切らしたんだろうな、どいつもこいつも殺気が尋常じゃ無ぇ。クソッタレ、こんなに沢山居るのにぎりぎりまで気付け無ぇとは…。流石、向こうも半端者じゃ無いって事か」

 懐に何本か小刀を忍ばせ、六は震えている少年の頭に手を置く。

「一人になるなよ。絶対にだ」
「どう…するの?」
「このまま一気に突っ切る」
「む、無理だ! アイツ達はみんなオレなんかよりずっと強いんだ。だったら―」
「だったら自分が囮になって…か?」
「あ…」

 徐に六は少年を自分の胸へと抱き寄せる。
 同じ布団に潜っていた時。
 一緒に風呂に入った時。
 初めて感じた自分以外の人間の温もり。

「こんなに震えている奴が、何強がってるんだよ」
「お、オレ…」
「ったく。オメーそればっかりだな。良いか? 自分を犠牲にしてまで誰かを守ろうとするのはな、本当に好きになった奴だけにしておけ。誰かの為に自分が傷付こうとするな。そう言う世界で生きて来たんだろ。違うか?」
「好きな…人?」

 自分に暗示をかける様に、少年は呟く。
 抱き締めてくれている六の腕の力が強くなった事に気付いた。

「分かったなら、絶対離れるなよ」
「ま、待て! オマエはどうしてオレなんかを…」
「言ったろ。本当に好きな奴は、平気で命賭けれるんだよ」
「オマエ…」

 少年の胸に、止めど無く何かが込み上げる。
 あっという間に全てを満たされ、熱くて心地良くて。
 いつまでも六と一緒に居たい。
 そう思った。

「だったら、オレもオマエの為なら命を賭けられる。オマエとだったら!」
「…そうか」
「オマエが危なくなったらオレが助ける。命を賭けて」
「んじゃ、それ以外の時は俺が命賭けてようか」
「………うん」

 扉を蹴破り、六は少年を抱えて月下の元へ飛び出す。
 少年を袴の下に隠し、返り血を浴びせない様にする。
 畔道を草鞋で駆け抜け、刃の雨を鞘を楯に突き進んだ。
 追っ手の数は明らかに増え続けている。
 その度に、六は速度を上げる。
187名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:21:37 ID:8goOIte5
>>186

「ちっ!」

 だが六はその足を止める。
 潮の香りが鼻を突いた。

「が、崖…」
「畜生、いつの間にか誘導させられていたのか」
「六!」
「くっ…!」

 やはり疲労が溜まっていたらしい、茂みの中から飛んで来た投器に反応出来無かった。

「がっ…!」

 弾丸の様に放たれたそれを躱す事も出来ず、膝の肉を抉られる。

「うぁ…あ……」

 どす黒く染まって行く袴を見て、少年は震える。
 じわじわとその範囲は広がっていった。

「へっ、こんなんどうって事無ぇ。…怪我、しなかったか?」

 目許に涙を浮かべ、少年は何度も首を横に振る。

「そう…か……」
「ろ、六!?」

 崩れる様に六は膝を折り、地面に片手を付く。
 次第に視界が曖昧になり、身体中の力が一気に抜ける。

(あの投器、毒塗ってやがったな…)

「…おい」
「え…?」
「俺を置いて、オメーはここから飛び下りろ」
「なっ…」

 息を荒くしながら、六は少年の耳元で囁く。
 それが何を意味するのか、少年は即座に理解する。

「馬鹿! 出来る訳が無いだろ!!」
「このまま俺が一緒に居ても…足手纏い……なんだよ。良いじゃねぇか。本気で好きな奴の為に…死ねるんだからよぉ……」
「ば…馬鹿だ! オマエは…ホン、トに……バカ、バカだ………」
「三回も言ってんじゃ、無ぇよ…。泣き虫坊主が。くっ…」

 少年に掛かる六の体重が一気に重くなる。

「六!」

 息遣いも、最早掠れて来ている。
 額に幾つもの汗の粒が浮き上がり、光っている。
 気が付けば空は紫の黄昏を終え、水平線の彼方から朝日が顔を出し始めていた。

(光…夜明け……)

「これしか、無い…!」
188名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:22:39 ID:8goOIte5
>>187

 少年は腰に掛けておいた金属の筒を茂みの手前まで放り投げる。
 瞬間、暗殺者達は尋常じゃ無い程の光りに包まれる。
 直前まで暗がりで瞳孔が開いていた人間にとって、この発光量は危険極まり無い。
 誰もが動きを止め、その場に蹲り発光が収まるまで身動きが取れない。
 ―筈だった。
 その光の中、茂みの中を駆け抜けて行く者が居たからだ。
 当然光が消えるのを待つ訳にもいかず、音を頼りに暗殺者達はその場に密集する。
 だが、一瞬巻き上げる様な風が吹いた後、凄まじい熱量を持った熱風が暗殺者達を襲う。
 その場に居た者はその熱風によって焼き付くされたか四肢の一部が…或いは全てが吹き飛ばされた。
 残った暗殺者達は理解する。
 標的の二人の策略に完全に乗せられたのだと。
 とすると、二人は茂みには入らずに何か器具を使って崖の下へと飛び下りたのだろう。
 手負いの人間を抱えているとは言え、少年も訓練は一通り受けている筈。
 一人荷物になる人物が居たとしても、それは些細な問題だろう。
 そうとなれば、追いかけなければ見失ってしまう。
 次々と暗殺者が断崖に集まり、丁度真下に海が広がった辺りで先刻と同じ爆風がその場で吹き荒れた。
 巻き込まれた者は先刻と同様。
 そうで無くても近くに居た者は、余りにもの衝撃に耐え切れずに崩れる足場に飲み込まれる。
 咄嗟の出来事に対応し切れず、落ちた者は落石の下敷になるか遥か下方の岩肌に打ち付けられた。
 もうこれ以上二人だけに人数を裂く訳にもいかない。
 まだ遠くへは行けない筈なので、残り少数の暗殺者は二手に分かれ、崖沿いに二人を探す事にした。
 実際、暗殺者達の考えは正しかった。
 二人は確かに遠くまでは行っていない。
 寧ろ近過ぎる場所に居たのだ。
 閃光弾で目眩ましを謀り手榴弾を茂みに放り込んだまでは良かったが、崖下に人がようやく通れる程度の空洞を見付けたのは幸運だった。
 後はその真上にも爆薬を仕掛けるだけだった。
 追っ手を一気に殲滅し、更にその入口も落石が塞いでくれる。
 この空洞がどこまで続いているのかは分からないが、六の容体を看るには十分だ。

「何の毒か確かめないと、六が…!」

 手頃な平たい岩に六を寝かせ、血に染まった袴を脱がす。
 傷口からの腐食は無い。
 しかし、異様な程に急速な力の低下。
 軽度ではあるが毒物に良く見られる中毒症状。
 これらの現状で考えられるのは、恐らく筋肉弛緩系。
 標的を生け捕りにする時に使用する、矢毒の様な物だろう。
189名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:23:59 ID:8goOIte5
>>188

「六、大丈夫か?」
「う…ぁ…」
「喋らなくて良い。ゆっくり、少しで良いから、オレの手に触れてくれ」

 少年が手の平を差し出すと、六はゆっくりと指先を少年の手に乗せる。

「オマエの名前、書けるか?」

 指先が微かに震えていた。
 それでも六は懸命に少年の手の平の上をなぞる。
 書道半紙の上に書いたら路書きとは到底思えない様な字が浮かぶだろう。
 だが、少年にとってはそれがこの上なく幸福に思えた。
 六は助かる可能性は十分にあるのだから。

「じっとしてろ。無理をすれば毒が変に回って薄まらなくなる」
「あぁ…」

 ようやく声も聞き取れる様になって来た。
 簡単な解毒薬を傷口に注ぎ、後は傷口を塞いで落ち着かせておけば大事には至らない。
 一段落終えて、少年は大きく息を吐きながら近くの岩に座った。

「ん?」

 微かに証明用の蝋燭ランプが揺れる。
 遠くから風が流れているのだろう。
 取り敢えず酸素が切れる心配は無さそうだ。

(どこまで続いてるんだろう)

 明かり無しでは歩く事すら不可能なこの切り立った山並みを吹き抜ける風の音。
 まるで巨大な蛇の胃袋の様に、長く深い事が分かる。
 六が回復したらどちらに進めば良いのだろう。
 先に進むか引き返すか。
 あの集団に仲間意識があるのかどうかは疑問だが、亡骸は処理しに来るだろう。
 しかし、先に進んでもし道が途絶えていたら。

(もう、逃げ場は…無い)

 一見逃げ切れた様で、実は自らとんでもない袋小路に入り込んだのかも知れない。

「オレ、間違ったのかな…」

 誰に言う訳でも無く、少年は自分を卑下する。
 それが余計に辛くなって、終には顔を伏せてしまった。

「なぁーにナーバスになってやがるんだ」
「ろ、六?」
「自分の判断に自信が持て無い様じゃ、暗殺者とは言えないんじゃないか?」
「それは…。い、いや…そんな事より! オマエはまだ大人しくしてないと駄目だろう!!」

 怒鳴りながら立ち上がるも、六は小さく鼻で笑うだけだった。
 それだけ余裕が出て来たと言う事だろうが、不完全な状態に変わりは無い。
 何れにせよ、事毒に関しては何より身体に負担をかけない事が大切である。
 それは薬学知識の全く無い一般人でも知る常識。
 つまり、六はそれでも自分に何かを言おうとしている。
190名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:25:27 ID:8goOIte5
>>189

「やっと話を聞く気になったか。オメーが何をやっても俺に勝てなかった理由。端的に言ってしまえば、オメー自信が弱いんだよ」
「弱い…。オレ、が…?」
「勘違いするなよ。俺が言ってるのは言葉そのままの意味じゃ無ぇ。実力では十分に俺に勝てるだけの技量はある。ぶっちゃけ初っ端の切り合いはあのままの状態では俺は負けていた可能性の方が高かったんだ」
「そ…そうなのか?」
「あぁ。だがオメーは判断を誤り、俺を仕留め切れなかった」
「判断…」
「そうだ。念入りに計画された暗殺である程、イレギュラーな因子は加わり易い。万一の時に保険をかけておく事が重要だ。事実、オメーもそうだっただろうよ。だがそれを使用するかどうかは暗殺者自信の判断だ。…違うか?」

 否定する言葉が思い付かない。
 そもそも否定する事が出来無い。
 六の言う事は全て正しいのだから。

「そう、判断。それが諜報活動が基本の暗殺者に必要とされる“強さ”だ」
「あ…」

 自分の強さに自信が無い訳では無かった。
 しかし、それは六の言う“強さ”とはまた別のものだ。
 適材適所と言う言葉の通り、自分の秀でた部分を存分に生かせてこその“強さ”なのだから。
 そしてそれを発揮する時は、正に今なのだろう。

「この先どうするかは、オメーに任せる。俺はそれに従う。そう言う約束だったからな」

 それはつまり、六が自分の命をも自分に委ねてくれたと言う事。
 …考えろ。
 これからどうすれば良いのか。
 どの選択肢が最良なのか。

「…先に、進もう」
「ほぅ。どうしてそう思った?」
「単純な話。来た道に戻っても、まずは岩をどかさないといけない。酸素の心配もあるけど、一番困るのは追っ手と鉢合わせする可能性がある事。あいつらはオレ達がこの中に居る事は知らないんだ。だから、反対側にあるかも知れない出口を見張られる可能性は少ない。だから…」
「よっし、合格だ。そんじゃ、専門家に案内は任せるとするか」

 六の言った合格の意味を理解するのに少し時間が掛かった。
 だが、六が理由を聞いた意味を考えると、何となく分かる気がした。
 そもそもこの選択肢には答えが無いのだから。
 必要な分だけ理由を用意出来れば、どちらも正解になってしまうのだから。

「…バカ」
「ん? 何か言ったか?」
「いいや。それよりも、無理に歩くなよ。かなり薄まってはいるみたいだけど、完全に消えるにはまだ時間が掛かるんだからな」
「へいへい」
何かぶつぶつ呟いている様だが聞かない事にする。
蝋燭ランプを持ち、奥へと進む。
闇は一層濃くなってくるに連れて、道は次第に広くなっていく。
足場も決して悪いものでも無い所を見ると、戦時中に住民が隠れる為に使っていたのかも知れない。
だとすれば、何処かに別の入口があっても不思議では無い。
191名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:26:35 ID:8goOIte5
>>190

「六、オマエはこの場所を知ってるのか?」
「いや、俺はこんな場所があった事は知らなかったし村で聞いた事も無い。うさん臭い言い伝えは数あれど、隠れ場がある様な話も無かった筈だ」
「そうか」

 僅かな手掛かりでもあれば、追っ手はそれを頼りにこの場所を嗅ぎ付ける。
 それが無いとなると、偶然何処かにあるかも知れない出口を見付けるか、死体処理に元の場所に戻った時のどちらかになる。
 前者の確率はほぼ絶望的と見て問題は無いだろう。

「ん…?」

 耳に微かな違和感を感じ、少年は足を止める。

「どうした?」
「何か、音…かな?」
「音? あいつ達か?」
「違う。これは…水?」

 暗闇で方向感覚は狂っていたとは言え、360度も曲がってまた海に戻ったとは考えられない。
 そもそも潮騒の音では無く、上空から一定量落ちる音。
 つまり、この場合地下水脈か地上の穴から流れているかのどちらかになる。

「わぁ…」

 思わず少年は感嘆の声を零した。
 暗闇が晴れて一気に開けた場所に出ると、藤棚の様に絡み合った木の根の天井から降り注ぐ木漏れ日によって、小さな滝が光を乱反射させて辺り一体を照らしていた。
 宛ら幻想とも言えるその場所は、少年にとってこの世に在るのが勿体無く思える。

「凄い…」
「流石と言うか、まだこう言う場所が残っているもんだな」
「なぁ、この根を使って上まで登れるか?」

 これは技術面では無く、飽く迄六の容体を聞いている。
 彼程の人間がこの程度の壁を登れないとは思えない。
 事実、六は未だにかなり無理をしている状態なのだ。
 そのような状態でロッククライミングをしろとはとても言えたものじゃ無い。

「無理を承知で聞いてるだろ?」
「当たり前だ。こうでも言わないと、オマエはすぐに無茶するんだから」
「へいへい。大人しくしてれば良いんだろ?」
「そうだ。ここの水はきれいみたいだから、ついでに傷口を洗っておくといい。

 オレはここを登って外の様子を見て来る」

「あぁ、分かったよ」
192名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:27:42 ID:8goOIte5
>>191

 軽く引っ張って根や蔦が腐っていない事を確認すると、少年は腰に簡単な器具を取り付けて崖を登り始めた。
 上に登る程、風に揺れる木の葉の群れの音がする。
 どうやら何処かの山の下に繋がっていたらしい。

「あれ?」

 ふと、少年はある事に思い付く。
 山林地帯を通る地下水脈。
 一ヵ所だけ、そこから連想出来る場所があった。

「まさか…」

 若干急ぎ気味に少年は崖を登り切る。
 上に誰も居ない事を確認すると、少年は穴からひっそりと顔を出した。

「やっぱり…」

 眼下に竹林が広がり、その間から覗く見慣れた藁葺屋根の荒家。
 何よりそれに気付く切っ掛けとなった古井戸。
 どう考えてもそこは六の家の裏手だった。

「戻って…来ちゃったんだ。ははは…」

 複雑な心境が、自然と乾いた笑いを引き起こした。

(そうだ。六の家から治療道具を取って来れば…)

 自分の下手な応急手当てよりは何倍も効果がある筈だ。
 音を立てずに少年は穴から抜けだし、竹林に身を潜めながら六の家に近付く。

(見張りは…まだ戻って来てはいない。チャンスは、今しか…無い)

 以前自分が逃走用に作った抜け穴から家の中に入る。
 六が居ない間に一度この家を散策した事があるので大体の位置取りは覚えている。
 必要最低限の道具だけを手早くかき集め、両手に抱えて少年は立ち上がる。

「これだけあれば十分だ。早く…がっ!」

 振り返り様に腹部に重い衝撃が襲い掛かる。
 息が詰まり、その場に立っている事すら出来無くなる。

(やっぱり、追っ手が……)

「オ…マエ……」
「あ〜あ。だからオマエには無理なんだって」

 薄れ行く意識の中少年が聞いたその言葉は、この世のどんなものよりも鋭く、冷たく思えた。
193名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 02:30:31 ID:8goOIte5
書いていく内にどんどん話が肥大してしまう不思議。
もう少しだけ続きます。

二人のやり取りが気に入ってくれた様で良かった。
ら○まみたいなノリのやり取りは大好きです。
え?
喩えが古い?

気にするな
194名無しさん@ピンキー:2010/06/18(金) 01:19:04 ID:9b8Bwzpk
続きwktk
なんだこのジャンプかサンデみたいな展開
195390:2010/06/27(日) 13:28:50 ID:xQbCRRU1
過疎だな
誰にもヤってもらえなくて一週間禁欲状態の六の精液でも搾るか
196名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:38:53 ID:iK0EJzW7
>>192

 着ていた衣服は全て岩場に引っ掛けておき、六は冷たい泉に身を沈めていた。
 真夏の炎天下でも、地下にその概念は存在しない。
 普通の人間であれば足を入れるのも根気がいると言うのに六は平然と浸かっていた。
 精神統一と言えば聞こえは良いが、六のこの場合は単に慣れているだけ。
 子供の時から無謀な程に無理を重ねて来たのだ。
 今更冷水ごときでどうにかなる程六の身体は脆くは無い。

「あー冷て…」

 気晴らしに悪態は吐く。

「それにしても…」

 少年が登って行った崖の上を見上げる。

「おおよそ三十分って所か。…遅いな」

 差し込む陽の角度から時間を計測する。
 既に真昼の高さだった。

「…まさか」

 最悪の想像と言うものはすぐに思い当たるもので、それが六の頭の中を駆け巡った。
 同時に、自分が今居る場所にも仮説が生まれる。

「あの馬鹿、まさか…!」

 少年に無理はするなと言われていたが、その様な事を気にしている余裕は無い。
 身体が濡れたままであるにも拘らず、六は服を羽織った。
 少し考えればあの少年の行動は予想出来た筈だ。
 左膝を怪我しているのも忘れ、一気に崖を登る。
 予想していた通り、見慣れた景色が目の前に広がっている。
 出来る限り気配を殺し、六は自分の荒家に近付く。
 懐に小刀を忍ばせ、張付く様に扉に密着する。
 物音は何も聞こえて来ない。
 少なくとも、“動いている”人間は居ない。

(まだ残っているとして、一人か二人。まだいける…!)

 勢い良く扉を開き、周囲を見渡す。
 だがそこに人の影も気配も無い。
 取り越し苦労で済めば良いが、それはそれで困るのだ。
 あの少年がこの家に居ないといけないのだから。

「っと、これは…」

 足に何かが引っ掛かり、六は足を止める。

「はさみと包帯。それに…」

 部屋の奥の寝室へと繋がる廊下を見据える。
197名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:40:13 ID:iK0EJzW7
>>196

「…」

 やはり足音を立てずに六は寝室へと進む。
 部屋の手前で物陰に隠れ、中の様子を伺った。

「っ!」

 仰向けに倒れている少年が目に入り、六は慌てて近付く。

「おい、大丈夫か! 何があったんだ!!」
「ん…」

 少年の首の後ろを持ち上げ、軽く揺さぶる。
 微かだが呼吸は正常な様だ。
 だが、腹部が赤黒く染まっている。

「あいつ達が…」
「だろうな。しかし…」

 部屋には争った形跡は無い。
 同時に、誰かしらの人物が“出て行った”様子も無い。

「…で、だ」
「ん?」

 微かに動いた少年の指の間に小刀が鋭く突き刺さる。
 弓から放たれた矢の様に、畳の目に震えながら聳え立っていた。

「お前は一体何者だ?」
「…何言ってるのさ。オレはオレだよ。ジャックだ」
「へぇ。あの小僧はジャックって名前なのか」
「…」

 ほんの微かに舌打ちをする音が聞こえた。
 早々に詰めが甘いと感付いたらしい。

「そっか。あの馬鹿、自分の名前を明かして無かったんだ」

 やれやれと少年はそのままの状態で両手を軽く上げる。

「もう一度聞く。お前は一体何者だ?」
「あ? あー“ボク”ね。さっき言ったじゃん。ボクは『ジャック』だって」
「はぁ? 何言っ…」

 途中で言葉を区切り、六はある事に気付く。
 髪も肌も声も、変装の類いでは無い。
 完全に本人の物である事。
 この少年の言っている言葉が本当なら、考えられる答えはただ一つ。

「双子、か?」
「御名答」

 世の中には一卵性双生児と言われる双子が存在するらしい。
 生物学にそれほど詳しく無いので良くは分からないが、その双子は若干の誤差はあれどほぼ同時に生まれ、瓜二つな姿をしている事が多いらしい。
 彼達は、その典型的なタイプなのだろう。
198名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:41:22 ID:iK0EJzW7
>>197

「でも、良くボクがアイツじゃ無いって気付いたね」
「半信半疑だったけどな。まぁ、バラバラになった医療道具を見た時から予想はしてた」
「そっか。キミ達がどこに隠れてたか知らないけど、キミを手当てするためにアイツがこの家に来たのなら、先ずこの部屋には入らないからね」
「極め付けに言うとな、このような状況で仰向けに倒れている可能性は殆ど無いんだ。気絶させる方法は基本敵に三つ。薬を嗅がせるか当て身を食らわすか」
「後ろの首筋を討つか、でしょ? 返り血が飛び散った痕も無いし、それを処理した様子も無いから」
「はっ、分かってるじゃねーか」

 不敵な笑いを少年は浮かべる。
 この状況下において、明らかに余裕を表している表情だった。

「あいつは何処だ」
「へぇ、随分と入れ込んでるんだね。毒針を撃った時に思い切り庇っていたから、そうかなとは思ってたけど」
「あんまり調子に乗ってると、そのスかした顔に真っ赤な花が咲くぜ?」

 冗談とも本気とも取れない口調で、六は少年の鼻先にもう一本小刀を突き付ける。

「怖い怖い。良いよ、教えてあげる。君達が逃げ回った林の中に、ボクの隠れ家があるからそこに来ると良いよ。あ、隠れ家なんて言ってるけど、来れば多分大丈夫だと思うよ」
「で、そんなに喋ってこのまま帰すと思ってるのか?」
「うん」

 事も無げにこのジャックと言う少年は言う。
 六がその余裕を浮かべている理由に気付いた時には、少年は突き刺していた小刀を抜き取り、鼻先の小刀を弾き飛ばしていた。

「ちっ…」

 今更六はもう片方の手がお座なりになっていた事を後悔する。

「じゃあ、待ってるからね。六お兄さん」

 少年は腰から何かを取り出し、それを床に叩き付ける。
 それが先刻逃走時に使った閃光弾だと気付くと、六は両腕で顔面を覆った。
 部屋の窓から少年が出て行くのを気配で感じ取る。
 視界が解放されたのは、少年の足音がもう聞こえなくなった時だった。
199名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:42:49 ID:iK0EJzW7
<<198

「う…」

 頬に冷たい水滴が垂れて、少年は目を覚ました。
 瞼は開いた筈なのに、視界は狭く薄暗い。
 恐らく、何処かの地下に連れて来られたのだろう。

「なっ…」

 身体を襲う違和感に、そこがただの地下室で無い事を理解する。
 両腕を頭の上で束ねられ、天井から伸びる鎖によって拘束されている。
 更に、両膝にも一つずつ枷が取り付けられており、鎖が壁まで続いている。
 若干の猶予はあるものの、弛みが足り無い。
 膝を付いている今の状態では立ち上がる事が出来無い。
 それでも何とか身体を前後に揺らしてみるが、上からの鎖が思っていた以上に短く失敗に終わる。

「無駄だって。身体に合わせて長さを調節してるんだから。体格が同じだから、簡単だったけどね」

 何処か楽しそうに、自分の鏡像とも言える少年は鉄柵の向こうから話す。
 そして、ようやくここがどういう場所なのかを思い知る。

「『ジャック』…」
「それはお互い様でしょ? 六お兄さんに教えて無かったんだね、自分の名前」

 鉄格子を開き、『ジャック』は牢の内部へと入って来る。
 その瞬間、足下に何も存在しない異様な錯覚を覚えた。
 だが天井からの鎖ですぐに現実に戻される。
 寒気とも取れるこの感覚は、明らかにこの『ジャック』と言う少年に対する恐怖以外の何物でも無かった。

「自分の手を汚してしまう事を怖がって、今まで一度も任務を完遂出来た事は無い。だからこの手は綺麗なままだろうね。だけど…」
「んっ…!」

 言葉を遮り、『ジャック』は少年の顎を持ち上げて唇を奪う。
 温く生々しい粘性のある水音が空間中に木霊す。
 お互いの唇が離れ、透明な糸が二人の舌を一瞬だけ結んだ。

「かっ…は……」

 噎返る様な奇妙な咳をする。
 途端に力が入らなくなって、少年は地面に足が付いているのに宙吊りになる。

「よく知ってる味でしょ? 簡単な媚薬だもん。当然効果も大した事無いよ。即効性だけどね」
「う…ぁ……」

 身体中が震え出し、燃え上がる様に体温が上昇する。
 腰の辺りがむずむずと気持ち悪いのに、両手両足の自由を奪われている為に打つ手が無い。

「やっ…やだ……。ヘン、に…なる…よぉ……」
「“こっち”の方の才能は抜群だからね。だからさ、いくら手が綺麗でも、躰がこんなになってるんじゃ一緒なんだよ。ヘンタイだからね、お兄ちゃんは」
「ぅあ…痛……い。痛い、やだぁ……」
「あっれれ〜? おっかしいなぁ。ちょっと痛い方が、お兄ちゃん好きだと思ってたんだけどな。間違って無いよねぇ。気持ち良さそうにこんなトコロ硬くしちゃってるんだからさぁ」

 右足をジャックは少年の股間に押し当てる。
 服を擦る様にして、軽く上下に足を動かした。

「うあぁっ! やっ…だ……」
「あ、服越しじゃ嫌なんだ。やっぱり直接やって欲しいんだよね。ホント、淫乱なんだから」
200名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:44:35 ID:iK0EJzW7
>>199 上逆だし

 三日月の様な、銀色の軌跡が一閃、少年の目の前を走った。
 ジッパーを下ろす時と同じ様に、少年の服は縦に真直ぐ開く。
 そこには地肌を守ると言う機能を持たない、ただの布切れが地面に落ちる。
 既に下半身を覆うものは、もう何も無い。

「まだ毛だって全然生えて無いのに…あ、それはボクも同じか。こんなトコロを硬くしちゃうヘンタイさんなんだもんなぁ」

 すっかり露になった少年の幼根に足を押し当て、『ジャック』はけたけたと笑う。
 それに否が応でも反応してしまい、血液が脈打つ。

「あっれれ〜? イきそうなんだ。実の弟にこーやって足でグリグリされて、気持ち良いって感じちゃうんだ。すごいね、これだからヤなんだよ。このド変態が」

 尋常じゃ無い勢いで血液が巡る。
 それが巡り巡って、どんどん一点に集中する。

「…残念だけど、これじゃ終わらないんだよ」
「そん、な…」
「言い忘れていたけど、さっきの媚薬はちょっと特別でね。即効性の割に効き目が妙に続くんだ。一度溜まったものを出しちゃえばすぐに効果は消えるけど、こうやって中途半端に中断させちゃうと、媚薬としての毒素が消えないんだ。ほら、まだむずむずしたままでしょ?」

 『ジャック』の言う通り、身体に纏わりつく違和感が治まらない。
 それどころか、先刻よりも気味の悪いものが身体中を支配している。

「気味が悪くて仕方無いでしょ?催淫効果って、長引くと躰を蝕んでいくからね」

 寒くて寒くて仕方が無いのに身体中が焼け付く様に熱い。
 まるで質の悪い風邪をひいている様だ。

「はぁ…はぁ……」
「辛いだろうけど、お兄ちゃんは後回しね。どうやら、もう時間が無くなったみたいだから」
「え…?」


 家にある小刀を持てるだけ忍ばせ、六は寝室の端に垂れ下がっている掛軸の前で星座をしていた。
 神経を研ぎ澄ませ、座禅を組む。
 最早穏やかな微風の音すらも雑音の一種と変わり無い程に、六の精神は一点に集中していた。
 やがて、六は閉じていた眼をゆっくりと開く。
201名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:45:38 ID:iK0EJzW7
>>200

「頼む。お前だけが頼りなんだ。俺に…力を貸してくれ」

 紐を引き、掛軸が床に落ちる。
 すると、壁の中に埋め込まれていた刀の鞘が姿を現す。

「あの野郎にもしもの時以外に絶対に使うな、何て言われてたけどよ。なんつーか、さ。けじめはきっちりと付けておかねーと、って思ってよ」

 刀に向かって六は言い訳を並び立てる。
 しかし、結局あれこれと中途半端に言い淀んだ挙句、六は自分の頬を両手で叩く。

「あーもう俺らしく無ぇ! 俺はあいつを助けたい。だが、その為の刀も鞘も、もう俺には使えない。だから…もう一度だけ言う。力を貸してくれ!!」

 手を伸ばし、思い切り鞘を掴む。
 瞬間、身体中に電撃が走る。
 影武者では無く、本物の主としての重圧。
 何もかもを背負い込む器として、適格かどうかを試されている。

「ぐっ…!」

 息が詰まる。
 掴む手の血管が浮かび上がる。
 身体中を巡る血液が沸騰する錯覚を覚える。

「うおおおぉぉぉ!!」

 鉛が砕ける音が響き渡る。
 その衝撃で、六の身体は大きく後ろに弾き飛ばされた。
 背中を強く打ちつつも、六の表情に自然と笑みが沸き上がる。

「どうだ…抜いてやったぜ!」

 宝物を見付けた子供の様に瞳を輝かせ、六は握り締めた鞘を月に見せびらかす様に空に掲げる。
 流れる様に刀を抜くと宝石の様な刃は月身を映し、月光は刃を白銀の光に染める。

「いくぜ相棒。もう間違わないからな。俺の大切なものは、俺が守らないといけないんだからよ!」

 少し欠けた銀円の世界へ飛び出し、森へと続く一本の畔道を只管に駆ける。
 護るものを見付け、背き続けて来た自分に振り向き直った六に、迷いは何一つ無かった。
 昨晩満月の夜、一生護ると誓った者を取り戻す為に。
 一度目を背けた、本物の侍として。
202名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 23:55:01 ID:iK0EJzW7
一気に終わらせるつもりだったけど間が開きすぎちゃったんでとりあえずここまで。
兎に角自分の中にある厨二的な展開を突き詰めていった結果。

…あんまそうでもない?
203名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 03:01:13 ID:vQGf9uaD
乙。
厨二病邁進してくれ。
204名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 00:24:30 ID:lyCNxZM4
叩かれるの承知で投下させてください。
ttp://ichigo-up.com/cgi/up2/oiu/xs16057.zip.html
・六受け
・女装モノ
以上が駄目な方は閲覧しないほうがいいです。
それでなくとも画力や語彙の少なさで表現力というものが乏しいので、
出来は酷い有様です。
205名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 09:25:59 ID:et35s4EK
なんという六祭り
>>204まんがも描けたのか…この板の小説書ける人らもすごいし
みんな才能に溢れてるんだな
206390:2010/07/04(日) 10:04:52 ID:2PXvOIR/
>202
GJ!
しいていえばジャックの弟のセリフが厨二の香りがするかな
続きに期待

>204
GJ!
その発想はなかった
攻めの徹底した変態ぶりがいいし、六の堕ちるまでが興奮したw
207874:2010/07/05(月) 19:31:07 ID:6QnQxqJV
かなりお久し振りです。876です。
久々に文章を投下するのですが、ここの方々はノンケ受けは
大丈夫でしょうか。あと色んな意味でレオくんの文章は大丈夫でしょうか。


ついでにレオくんのカエルはケロヨンとケロサン、どっちでしたっけ…。
208390:2010/07/06(火) 13:29:06 ID:1jFH9y7x
久しぶり>876
キャラのことはともかく、ノンケ受けは別にいいと思う
あとレオくんのカエルはケロさんだよ
209876:2010/07/06(火) 19:05:16 ID:loHVA5HJ
>390のありがたい助言を貰えたので、レオくん受け投下です。

注:モブキャラ×レオ、ノンケ受け、
レオ×さな(又はリエ)をほのめかす表現あり



目が覚めるとそこは見覚えのあるクラブの地下室だった。
目の前の壁の時計を見ると時刻は午後11時といったところ。
僕は立ち上がろうとしたところである事に気が付いた。
(…僕、全裸じゃん。あり得ない)
しかも身体は御丁寧にロープで縛られてるし。勘弁してよね。
大体明日はスギと一緒にさなえちゃんの家にお茶しに行く予定なのに。
折角さなえちゃんがリエちゃんと一緒に僕等を誘ってくれたんだから
僕等は遅れずに行きたいのに、全く。誰だ、こんな事したのは。
「さあ、どうやって脱出しようかな」
ケロさんはスギの所に預けたんだっけ。じゃあ自力で脱出?そんなあ。
というかロープ解けた後僕の服を探さないと。服、無事かな…。
暫くロープ相手に勝てる見込みの薄い戦いを繰り広げていると
こっちへと階段を降りてくる足音が聞こえてきた。
「お、やっと目が覚めたみたいだな、レオ」
「…君、誰?」
「もう忘れたのかよ、冷てぇな」
「ああ思い出した。この前僕とバトルして見事にボロ負けした人だ」
「その通
210876:2010/07/06(火) 19:07:39 ID:loHVA5HJ
>>209の続き




「で?まさかボロ負けした腹いせに僕を捕まえたわけ?」
「だったらなんだ?」
「だったら最高にカッコわるいよねもう。君の事バカにするしか
ないよ。というか君、バカだよ」
「フン、その生意気な口がきけないようにしてやるよ。」
こいつなんで誇らしげにしてるんだろう。ムカつきすらしない。呆れる。
さあ、これからこいつの自己満タイムが始まる。好きなだけ僕を
ボコボコにして一人で馬鹿面を晒せばいい。でも明日の予定には
間に合うようにしてよね。楽しみにしてるんだから。
「まずは手始めに…

お前の口でも汚してやるか」

はっ?今なんて言った?口を汚す?
なんなのこいつ、と眉を顰めた時には僕の唇は奪われていた。
「ぅ…ふぅ…」
強引に入ってくる舌が不快だ。
「っはぁ、…何これ」
「なんだぁ?初めてか?」
「当たり前だよ、男相手はね。あのね、僕にはそういう趣味は
ないの。大好きな女の子相手なら喜んでするけどね」
「そうか。なら尚更ヤり甲斐があるってモンだ」
「ちょっと、一体何…っ!」
また唇を塞がれた。しかも今度は何かの液体を口の中へ注がれた。
「っ!何これ…っぁ!?」
突然身体に異変が起きる。
211876:2010/07/06(火) 19:09:25 ID:loHVA5HJ
>>210の続き




身体が熱い。まるで女の子とシてる時みたいな感覚だ。
僕はある意味での焦りを感じた。
(こんな奴にヤられそうなのに、感じてる…?)
「はっ、もう勃ってるぜ!」
「くっ…さっきの液体、まさか…」
「わかるよな?媚薬だよ、強力な」
余裕の笑みを浮かべるそいつは自分のズボンに手をかけた。
「はは…うそでしょ…?」
まさか…そのまさかだよね?
「ほら、しゃぶれよ」
「いや、んな事する訳ないじゃん!やめ…んぐぅ!?」
やだ、止めろって!僕の口にそんなモノ挿れるな!
「おいおい、もっと気持ち良くさせろよ」
「んぅ、誰が…そんなこと…」
「それともお前の代わりにあの女達にヤらせるか?」
「!!」
「わかったら、大人しくしゃぶるんだな」
そう言って、目の前の男は僕のソレに足を擦り付けた。
「あっ…!!」
途端に吐き出される精液に身体が敏感になってしまう。
「なんだ、強がるくせにしっかり感じてるじゃねーか。

これからたっぷり可愛がってやるよ」

***

「はぁ、んっ…ふ」
なんで、コイツにこんな事しなきゃいけないんだ。
212876:2010/07/06(火) 19:12:00 ID:loHVA5HJ
>>211の続き




「はっ…男相手は、初めてのわりに上手ぇ、な…」
そんな事褒めるな。お前に褒められても全然嬉しくない。
「お、もう口はいい。離せ」
(やった、終わった…!)

「じゃあ、早速ハメるとすっか」
終わったのは、僕自身だった。

***

「うあっ!ひっ…あっ!」
「やべえ、コイツはいいぜ!」
後ろから突かれる痛みがひどい。早く抜いてよ!
「本当に男は初めてかよ?やけに感度いいなぁ?」
「う、五月蠅いっ、離せ…あ!」
縛られたまま必死にもがく僕の腰を掴んで離さない手。凄く気持ち悪い。
「口答えしていいのか?代わりにお友達を犯してもいいんだぜ?」
「!駄目、それだけは…」
「じゃあ、黙って、ヤられてろよ!」
「はっ、あっ…うっ!ひぅ!!」
男の腰の動きは激しく、強くなっていく。
嫌だ、信じたくなかった。男に犯されている現状を。
そして意思に反して犯されている事を悦ぶ僕の身体も。
「おい、出すぞ!ちゃんと下の口に詰め込めよっ!」
「嫌だ…ぃ、や、…ああああっ!!」
男は雄叫びをあげながら僕の中に精液をぶちまけた。

***

「う…っく、ぃ…ひ、っく、うっ…ぁ…っ」
あれから何度も犯され、汚され。時計は午前2時を表していた。
213876:2010/07/06(火) 19:28:02 ID:loHVA5HJ
>>212の続き。これで最後です。




あれから犯された事以外、何をされたかハッキリ覚えていない。
おまけに、いつの間にか精液まみれの僕の服が目の前に置かれていた。
こんな姿じゃ帰れない。約束通りにさなえちゃんの家にも行けない。

「はあぁ…うっ、ううっ…ごめん、ね…僕…約束っ、してた、の…
行けな、く…っ、…ぅああっ…」
僕は久し振りに泣いた。涙は暫く枯れなかった。

***

「スギくん、レオくん遅いね。リエ心配になってきたよ」
「私も心配。何かあったのかな…」
「家にもいないし、電話繋がらないし…」
「スギくん、レオくん大丈夫かしら」
「さなえちゃん、リエちゃん。レオは遅刻だよ。すぐ来るって」
「…そうだね、そうだよきっと」

カタン。

「あら、郵便受けが…」
「封筒みたいだね」
「おかしいなぁ、さなえちゃんのの家はリエの家と同じ配達時間なのに」
「直接入れにきたのかもしれないよ」


「…とりあえず、開けてみるわ」



改めてお久し振りです。喘ぎ声のマンネリ化に怯える876です。
久し振りに文章を書いてみましたが、なかなか上手く物語が展開
しないものです。最後は珍しく登場キャラの台詞で締めてみました。
この後何があったかは、ご想像におまかせということで。
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。876でした。
214390:2010/07/09(金) 09:43:59 ID:KQ/fjXQv
>876
GJ
気の強いノンケを脅して、屈服させて犯すって気分いいね
ただ
>「ああ思い出した。この前僕とバトルして見事にボロ負けした人だ」
>「その通
セリフが途切れてるから、訂正してもらえるとありがたいw
215876:2010/07/09(金) 12:20:20 ID:WM99OJTE
>390
本当だ、台詞抜けてました。指摘ありがとうございます。
追加、誤植訂正
>「ああ思い出した。この前僕とバトルして見事にボロ負けした人だ」
→「その通り。その言い方は癪に障るけどな」
(ちなみにバトルというのはクラブでやってるDJバトルの事だ)

>「おかしいなぁ、さなえちゃんのの家は
→「おかしいなぁ、さなえちゃんの家は

誤植はともかく台詞が切れたのはなんでだろう。
216名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 22:21:22 ID:L/A/B/lb
音ゲースレに行けと言われたのだが、ここかな
217名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 23:49:59 ID:6hx/Ffjx
なんでPINKちゃんねるに来るんだw
218876:2010/07/11(日) 00:23:29 ID:osFfTBTz
>>216
残念ながら、ここは音ゲースレじゃなくて音ゲイスレです。
219390:2010/07/12(月) 07:45:40 ID:dTZYJOYB
前スレで、現代パロとして流石先生×厨房六が見たいって人がいたから書いてるんだが
これはエロに持っていっていいものかどうか
220876:2010/07/13(火) 00:08:46 ID:moVb2nf6
>390
シチュエーションによってはアリかと。ですが設定が先生×厨房(教え子)
なので流石が多少背徳感を持つ描写があると良いかもしれません。
221名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 04:09:29 ID:DWr+Ty5N
保守
222名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:07:25 ID:KaIDxWC7
>>201

 鋼鉄扉を野菜同然に切り開き、六は牢部屋へと大胆に踏み込んだ。
 重低音が狭苦しい部屋を揺らし、その振動が身体中に伝わる。
 その本来有り得無い光景に少年も、『ジャック』ですらも戸惑いを隠し切れていない。

「よお、待たせたな」
「ろ、六…?」
「凄いね。あんな分厚い扉を綺麗にバラバラにするなんて。逃げ回っている間刀を抜く素振りを見せて無かったから、てっきり使えないと思ってたんだけど」
「使えなかったさ。そこに居る厄介小僧が見事に壊してくれたからな」

 六が自分を見ている。
 隠すものは何一つ無く、媚薬に淫れる自分の姿を、六はどう思うだろう。

「だがな、それが切っ掛けでこうやって力を得たんだ。悪くは無い駆け引きだろ?」
「へぇ、そんな実力あったんだ。それで、何?お兄ちゃんは彼をそこまで追い詰めておいて、全くとどめを刺せ無かったって事?」
「っ…」
「まぁ、そういう事になるな」

 六が肯定するまでも無く、それは覆し様の無い事実。
 まして、仕事上では仲間である筈の少年を人質として利用出来る程の関係を築いたとなれば、暗殺者達にとっては奇譚の極みであろう。

「何それ、超絶に面白く無いんだけど。暗殺者とターゲットがそんな関係になるとか、シナリオとして在り来たり過ぎて最悪じゃん」
「そうか? 一芝居くらい作れそうな気もするけどな」
「見に来る客なんか誰も居ないって」

 深い溜め息を吐き、『ジャック』はやれやれと首を横に振る。
 やはり、彼にとって今の状況は非常に面白く無いらしい。

「あのさ、ボクは三文芝居を見たい訳じゃ無いんだけど」
「当たり前だろ。これは芝居じゃなくて、今現実に起こっている事だ。お前一人がうだうだ言ったって、どうしようも無いんだよ」
「分かってるよ。だって、余りにも下らないからさ。ぶっ飛んだ寸劇を見て放置される観客の気分だよ」
「それよか幾分マシじゃないか? 金は別に取って無いんだ。バカ高い入場料払うよりずっとお買い得じゃね?」

 『ジャック』には、六がわざわざ自分が不快に思う言葉を選んでいる事に気付いていた。
 当然、気付かれたのを承知の上で六は話続けている訳だが。

「で? 健気にも欠け落ち同然に愛し合った恋人を追って来たって訳だ」
「何だ。分かって俺にこの場所を教えた訳じゃ無いのか?」
「その通りだけどさ、正直半信半疑だったんだよ。それがこうも面白く無い方向に話が進むなんて思っても無かった。一体お兄さんは何をしたの?会ったその日の内に服剥ぎとって襲いかかりでもしたの?」
「んな訳無いだろ。単純に、放っておけなかったんだよ。それだけだ」
「そんなの…理由になって無い!!」

 鉄格子に思い切り腕を打ち付け、『ジャック』は明ら様に逆上した声を上げる。
 余程勘に障る言葉だったのだろうが、これは予想を遥かに超えていた。
223名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:08:42 ID:KaIDxWC7
>>222

「…野暮な事聞くけどよ。お前達の家系に双子に関する言われでもあるのか?」
「あ? 無いよ。そんなもの」
「ずっとお前を見ているとよ、ずっと引っ掛かるんだ。お前は…」
「言うな!」
「『ジャック』…」
「その名前で呼ばないでよ! 嫌に決まってるだろこんな称号。ボクは“ボク”でありたいんだ。双子の弟だから、本当はお兄ちゃんがなる筈だったのにさ。余りにも人を殺すのに向いて無いからって何もかもをボクに押しつける。こんな呪われた烙印なんか…いらない……」

 『ジャック』の言葉の末尾が枯れていく。
 床に崩れるのを二人はただ見ているしか無い。

「おい。『ジャック』と言う名前に何の意味があるんだ?」

 鉄格子の向こうに繋がれている少年へと向き直す。
 俯くも少年は口を開いた。

「『ジャック』の名前はオレ達の組織の総轄の役割を持つんだ。総轄…と言うより実質的な権限を全て担う」
「早い話が、その暗殺集団の筆頭になるって訳だ」
「そういう…事……」
「おい!」

 六は鉄格子を開き、地に伏せている『ジャック』を尻目に少年の元へと駆け寄った。
 先刻の要領で鉄枷を切り落とし、崩れ落ちる少年を自分の胸に受け入れた。
 火種でもあれば引火してしまいそうな程に少年の身体は熱かった。

「薬、か?」
「へい、き…。自分で…何とか出来る、から」
「わかった。取り敢えず、その辺に隠れてろ」
「うん…」

 部屋の脇に少年をゆっくりと降ろし、六はもう一度鉄格子の中へと入る。

「ほら、俺と戦いたくて呼んだんだろ?さっさと始めようぜ」
「………そうだね。そういえばそういう話だったよね」
「ん…?」

 ゆらゆらと不安定な体制のまま起き上がり、『ジャック』は六を見据える。
 灰色に濁った光を帯びていない瞳に、六は一瞬息が詰まる様な感覚を覚えた。
 間違い無く、それはこの『ジャック』と言う暗殺者に対しての恐怖。
 寧ろ、この暗殺者の抜殻同然な独特の威圧。
 無機質で全く生気を感じ無い、こちらが失明してるのではないかと思ってしまう。

「この餓鬼、マジでヤバい…」
「どうしてお兄ちゃんばかり楽になろうとするの? どうしてお兄ちゃんだけ幸せになれるの? あんまりだよね。ボクはお兄ちゃんが何も出来無いからこうやって頑張って来たのに」
「オメー、まさか…」
「羨ましくて羨ましくて仕方が無いよ。誰かを好きになれるなんて。ボク達には許されて無いのに。ボク達は、陽の光の元に出たらいけないのに!」
「くっ…」

 刹那、小気味の良い金属音が跳ね上がる。
 瞬き一つの間に『ジャック』の銀色に光る爪鎌と六の刀が交差していた。
 鍔競り合いの状況から見ても、不意を突かれた六は明らかに不利であろう。

「どうしたのさ、もっと頑張ってみてよ。もっと本気出してみてよ。それでお兄ちゃんを守るんでしょう!? 守ってみせろよ!!」
「ってめ…!」
224名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:10:23 ID:KaIDxWC7
>>223

 地面と足の中心に力を入れ、一気に爪鎌を押し返す。
 その勢いを殺さずに、六は『ジャック』に当て身を食らわす。

「うぁっ…!」

 体制を崩し、『ジャック』は後方の壁にぶつかるまで床を転がる。間髪入れずに六は『ジャック』の動きが鈍った隙に踏み込む。
 横たわっている『ジャック』の腹部を目掛けて刀を突き出し、地面を蹴る。
 だが、触れる直前に『ジャック』は六の突きを飛び越し、六の背後に周る。
 咄嗟に六は懐から小刀を取り出し遮二無二後方へ振る。

「っ!」

 紙一重で『ジャック』はそれを躱す。
 振り出しの間合いに戻り、お互いの視線は研ぎ澄まされ、完全に相手だけを捕らえていた。

「く…」
「流石、何人も暗殺者を返り討ちにした実力はあるね。今の所互角…いや」

 右手で左肩を押さえ、『ジャック』は壁に凭れる。

「ボクの方が…下か」

 押さえている手の指の隙間から僅かに血が流れていた。

「…凄いね。自分が傷付けられてたなんて気付かなかった」
「そうでも無いさ。ほら」

 そう言って、六は親指で自分の首を指す。
 その部分が仄かに紫色になっていた。

「触れられた覚えは無いが、そうだとしたら俺の首に風穴位は空いていただろうな」
「じゃあ、本当に…」
「互角…だな」

 お互いの頬に汗が伝う。
 振り出しに戻った、と言うのは実は正しく無い。
 正確には身動きが取れ無いのだ。
 膠着状態に陥り、下手に手出しをする素振を見せれば互いの得意な高速技に返り討ちに遭うのは目に見えている。

(さて、どうする…? 壁に凭れ掛かってはいるが、スピードは向こうの方が上だ。下手に動けば俺の方が膾斬り確定だな)

「余計な事考えないでよね。こんな状態でもボクの方が有利なんだから」

 彼の言う通り、最善でも引き分けの状態である。
 それが飽く迄“正攻法であるのならば”。

(こいつはもっと効果的に勝てる方法があるのに、それを使わないところを見ると…。やっぱ考えられるのは、アレしか無いか。だが…な)

 その効果的な方法を潰す真似は、何がなんでもやりたくは無い。
 それこそ自分はあの少年を守る意味と権利を全て失うのだから。
 そう。
 それはこの『ジャック』もまた同じなのだ。
 となれば、お互いにこうして刃を交える理由は本質的には無い筈である。

(それでも戦いを止めないのは―)

 戦い抜く事で得るものが違うから。
225名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:13:14 ID:KaIDxWC7
>>224

「…馬鹿野郎が」

 掃き捨てる様に小刀を投げ、六は刀を構える。

「良いぜ。乗ってやるよ、この死合いによ」
「…勝てないって分かってるのに?」
「ほら、良く言うじゃねぇか。男ならどんな困難にも立ち向かわなければならない時があるって言う言葉がよ。今が正にその時なんだよ」

 真顔でどこか一本筋の通っていない言葉に思わず『ジャック』は一瞬唖然とする。
 しばらく固まった後、思わず吹き出してしまう。

「何それ。良くそんな恥ずかしい事平気で言えるね」
「ま、こればっかりは濁しても仕方無いからな。だが、我ながら使い時な言葉だとは思うぜ?」
「本当だね。在り来たり過ぎてダサいけど、こう言う時だから使うとかっこよく思えたりするんだろうね」
「言ってくれるじゃねぇか。そんじゃ…いくぜ!」

 六の動きに合わせて…いや、対応して『ジャック』は爪鎌を構える。
 六の攻撃は明らかに一点に集中していた。
 剣戯の達人であるが故に一番手薄な部分を狙う。
 だから『ジャック』は六の剣筋を見切る事が出来る。
 そこに先手を打てば確実に六を仕留める事が出来る。
 ―筈だった。

「え…?」

 鋭い軌道を描いていた『ジャック』の爪鎌が動きを止める。
 六の剣筋は、明らかに自分へ向けてのものでは無かったからだ。
 『ジャック』が見定め切れなかった刀は『ジャック』の髪先を僅かに掠っただけで、壁に当たる直前で動きを止めた。
 木の葉の様に『ジャック』の髪が地面に舞い落ちると、『ジャック』はその場に崩れ落ちる。

「何、で…?」
「分かり切った事聞くなよ。守る奴がオメーにも居ると分かった以上、オメーも死なせてしまう訳にもいかないだろう」

 ほんの一瞬、『ジャック』の身体が僅かに震える。
 それが図星を突かれた証明になるのは言うまでも無い。

「そうなんだろ。オメーもあの小僧を守る為に今こうして俺と戦っている。だが、その意味はまるで逆だ。邪推でしか無いけどな」
「何が…何が同じなのさ。何が逆なんだよ!」
「あの小僧を守る一番の方法は、あいつを死んだ事にしてオメーが組織の筆頭になる。そうなってしまえば、あいつを組織から逃がすのはたやすくなるだろう。
だが、あの小僧が組織を裏切り、標的だった筈の俺とつるんでいる今のこの状況はあいつにとってもオメーにとっても非常に立場が危うい」
「…」
「だから単独行動を取ってまであの小僧を連れ去ったんだろう。そして…」
「そして、ボクはその邪魔者であるお兄さんに勝負を挑む」

 六の言葉を『ジャック』は引き継ぐ。
 六が話している間、『ジャック』は俯いたままだった。

「そうだよ。お兄ちゃんは本当に甘ちゃんだから、ボク達の世界ではどうしても生きて行けない。だけど籠の鳥みたいに匿っても、周りの好奇の目はお兄ちゃんに向いてしまう。
だからお兄ちゃんに最初は単独で任務を与えたんだ。当然、何かあった時にはすぐに出れる様にはしてたけどね」
「成る程な。奇妙だとは思ったぜ。どうして子供が単独で乗り込んで来たのかがな」
「だろうね。結局、何もかも上手く行かなかったよ。お兄さんは殺せない。それどころか、お兄さんとくっついてるんだもん。流石に残党共がお兄さんの家を包囲した時はヤバかったよ。
裏切り者と認定されて、本気で手出しが出来無かった。ボクまで怪しまれたりしたら、それこそ何もかも終わりだったしね。だけど…」

 ゆっくりと爪鎌を取り外し、『ジャック』は六へと微笑む。
 それが六の胸を突き刺す様な気がして、何かが脳裏を過ぎる。
226名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:14:59 ID:KaIDxWC7
>>225

「お兄さんが居るから、もう大丈夫だよね?」
「何?おい、まさか…」
「駄目だ、六!!」

 物陰に隠れていた少年の声は、『ジャック』に届く前に掻き消えた。
 不発した花火の様な音がして、少年の声を完全に遮ってしまったからだ。

「『ジャック』!!」

 『ジャック』の腹部から、赤黒い鮮血が滲み出す。
 その量は見た目よりもずっと多く、間違い無く傷口を塞いだだけでは助からないのが分かる。
 刃物による切り傷では無く、明らかに内側から抉り開いた痕が生々しく無残な様子を引き立てていた。

「何で、だよ…」

 真っ赤な海が広がって行く。
 その中心に血を分けた実の兄弟である筈の二人が、こうして傷付いている。

「嫌だ…。嫌だよ! こんなの、嫌だよぉ…」
「だって、ボク達…一緒に居れない…。一緒に普通に、生きられない……から……」
「どうしてだよ! オメー達、兄弟何だろうが! 血を分けた、たった一人しか居ない兄弟なんだろうがよ!!」
「あはは…優しい、ね」

 先刻の様な笑みを『ジャック』は浮かべる。
 皮肉にも、それが本来彼たちの歳相応の表情に見えた。

「ほら、ボク達は…結局どっちか…ね」

 片方は生きて、片方は死んでいなければならない。
 隠し通すにも、死んでいる側が枷にしかならないなら。
 恐らく『ジャック』の下した結論は自らを枷と認識してそれを壊すと言う事。
 それが愛して止まない兄の為と言う事だろう。

「ふざけんな! オメーが…オメーが居るから小僧も生きて行けるんだろうが! オメーが今まで頑張って来たから…」
「もう、良いよ…六」

 六の袴を握り締め、少年は六にしがみつく。
 それで袴が血に汚れても、六は何も言わなかった。

「約束、覚えてるよな」
「当然だ」
「そうか。じゃあ…」

 『ジャック』の背中と膝を抱え、少年は立ち上がる。
 振り向き様に、少年は呟いた。

「守って、くれるよな?」
「あぁ。俺は守る為にこの刀を振り続ける。『ジャック』、オメーの為に」
「六、泣いて…」
「オメーがその手の中にある大切なものを守る為に、オメーはオメーの知ってる限りの『ジャック』を背負う権利…いや、義務がある。だからオメーは『ジャック』だ」
「…分かってる。オレはもう“オレ”じゃ無い。『ジャック』だ!」
227名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:17:06 ID:KaIDxWC7
>>226

「…良いのか?」
「構わない。さっさとやってくれ」

 荒家から少し離れた場所で、二人は初めて二人で生命の共有を誓った場所を眺めていた。
 ジャックの手元には簡単なスイッチが握られていて、親指一つ動かせば簡単に入る様になっていた。
 そこ荒家まで伸びる一本の導線。
 ジャックの手は小さく震えていた。

「ほら、それを押さないと先に進めないんだろう? だったらためら躊躇う事無いじゃねぇか」
「だって、さ…。あの家は六の大事な居場所なんだろう?」
「良いんだよ。俺には、な」
「どういう事だ?」
「それ押し終わったらいくらでも教えてやる。ほら、いくぞ」
「うぁ…」

 徐に六は自分の手をジャックのスイッチを持つ手に添える。
 それだけでジャックの心臓の鼓動は一気に跳ね上がった。

「いくぜ」
「………うん」

 小さなボタンを二人で同時に押す。
 しばらくすると六の荒家から黒い煙が立ち上がり、瞬く間に真っ赤な炎に包まれる。
 ジャックはその燃え盛る炎の中にスイッチを放り込んだ。

「ま、これでしばらくは時間稼ぎが出来るな」
「確かに、アイツ達からの追跡は途絶える。だけど、これからどうするんだ?」
「隠れ家なんかいくらでも持っている。それでもこの荒家に戻って来るのは、俺なりにここに思い入れがあったんだろうな」
「だったら…!」
228名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:17:37 ID:KaIDxWC7
>>227

 吠えるジャックの言葉を六は直接手で遮る。
 その表情に後悔の念は少しも見えなかった。

「そういえば、どういう事なんだ?」
「あ?」
「さっきの話。オマエにとっての大切な居場所」
「あぁ、その事か。簡単な話だよ。俺にはお前が居ればそこが大切な居場所になるんだ。ほら、何の問題も無いだろ?」
「ばっ…!」

 他人が聞いても赤面してしまいそうな台詞を、六は事も無げに言う。
 それも、当の本人であるジャックに向かって。

「お、オマエ…! 良くそんな恥ずかし過ぎる言葉を普通に言えるな!!」
「おーおー、耳まで真っ赤だな」
「う…五月蠅い! バーカバーカ!!」

 茹蛸の様に真っ赤になっていたジャックを六は最初は面白がっていたが、流石に少し頭に来たらしい。
 ジャックを捕まえようと手を伸ばすも、ジャックは持ち前の素早さでそれを掻い潜る。

「てめ、この野郎!」
「何だよ、六が悪いんだろ!」
「前から思ってたがオメーは俺に馬鹿馬鹿言い過ぎなんだよ!」
「言われる様な事ばっかりするからだ、馬鹿!」
「ほぉ…なかなか良い度胸だな。その喧嘩買ってやるから待ちやがれ!!」
「捕まえられたらいくらでも売ってやるよ!」

 そうして、二人はまたいつもの様にお互いを追いかけ回す。
 ただし、鬼が入れ替わっているが。
 忠誠を誓った侍と、守衛の任務を契約した暗殺者。
 死と言う臨界点を狭間に生きる二人の、長過ぎた馴初め。
229名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:27:00 ID:KaIDxWC7
続いて久しぶりのシリーズ >>99

 その日翔は自分の前に姿を現さなかった。
 彼の性分から、直接目の前には来なくても遠目で覗きには来るだろうと思っていた。
 しかし一向にその様な事は無く、もう天体観測を始める時間になってしまった。

「学校、来てないのかな?」

 だとすれば、翔が自分の下に来ない理由も納得がいく。
 何より昨日の今日だ。
 翔自身の心の整理は付かないだろうし、知恵熱も出るだろう。
 だが、ここで翔の見舞いに行くのは愚の骨頂。
 精神的に不安定な状態が長続きすると、翔自身が壊れる可能性すらある。
 唯一の失敗は、この日硝子を捕まえられなかった事だろう。
 彼女を少し叩けば、すぐに埃は出て来る。
 それだけで、翔がどんな状態になっているかを探る事が出来るのだから。

「本当、彼女には敵わないなぁ」

 何もかもを見抜き、何もかもを手駒にしてしまう彼女の勝ち誇った表情が脳裏に浮かぶ。
 翔と一緒に長年付き合った仲で、幼馴染みという立場からか良く彼女の仕事を手伝う事もある。
 一時期文字通り『付き合って』いるのではないかと噂された事もあり、硝子はその噂で何度か遊んだ事もあった様だ。
 空としては迷惑な話でしかない筈だったが、不安そうな表情を浮かべていた翔を見れたので全く気にならなかった。
 寧ろ、気にしなければならないのは今のこの状態だろう。

「さて、“もう一人”は一体誰かな?」

 屋上で硝子が残した言葉。
 正直、気に入らない。
 自分の認知出来る範囲内ならいくらでも対処法はある。
 気に入らないのは、翔に気のある第三者が身近に居る筈なのに、その情報を握っているのは硝子だけであると言う事。
 実際、この学校には翔に好意を持っている人間なんて数えきれない程に居る。
 とは言え、恋愛沙汰になると愚鈍と言われても仕方無い位に疎い翔にはその数も全く問題にならない。
 つまり、必然的に翔の近くに居ると言う大きなアドバンテージを持つ人物が候補の対象者に昇格する。
 それなりに翔と付き合っている人物は自分を始めとして、硝子、ハヤト、みつき。
 それに加えて考えられる人物は、恐らく翔のクラスメートに当たる人物。

(いや、寧ろ…)

 翔のクラス担任でもあり、実の兄であるハジメ。
 自分とは関わって無くても、翔にとって彼程身近な存在は他には居ない。
 そして、出来れば最も相手として見たくない相手でもある。

「あの…」
「え?」

 突然声を掛けられ、空は思考を中断させる。
 同じ天文部に所属する下級生の少女だった。

「あぁ、どうしたの?」
「えっと、その…。手が…」

 怯えた彼女の言う通りに自分の手を見てみると、真っ赤に染まったプラスチックの破片があった。
 これは観測に使う物とは違う小型望遠鏡のレンズ。
 古い物と取り換えようとしていたが、いつの間にか握り潰してしまっていた様だ。
230名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:27:59 ID:KaIDxWC7
>>229

「今、部室から薬箱を…」
「必要無いよ。ありがとう」

 痛い筈なのだが、痛みは全く感じない。

「大丈夫ですか?」
「全然深くないし、出血も多くないから問題無いよ。ちょっと、手を洗って来るね」
「はい…」

 平静を装い、空は屋上を後にする。
 これ以上怒りを他の部員の前で晒す訳にはいかない。
 階段を降りた所にある水道を捻ると、鉄板に勢い良く冷たい水が打ち付けられた。
 その中に手を入れると、落ちていく水は朱く濁って排水口に逃げていく。
 それが隠れ場所を見付けた猫から逃げる鼠の様に見えて、酷く滑稽に思えた。

「相当、焦ってるなぁ」


 打ち付ける熱湯が冷え切った身体中を温める。
 身体を濡らすと共に、ぬるぬるとした奇妙な感触も流れて行った。

「…熱い」

 痺れる程に冷たい外気の中で汗をかいた為、体感温度は現実のそれをかなり上回っていた。
 毒気を呟いた所で、人間の人体の法則を捩じ曲げる事が出来る訳が無い。
 とは言え、何かに八つ当たり出来る様な精神を純朴なハヤトが持っている筈も無く、行き場の無い怒りを不完全燃焼させていた。
 怒り。
 そう、怒り。
 これが誰に対して向けられているのか。
 それはハヤト自身も良く分からない。
 何も言い出せない自分になのか、翔の慕う何者へか。
 若しくは。

「っ…!」

 途端に恐ろしい考えに行き着いて、全身に寒気が走る。
 そう、若しくは。
 その恋慕を自分に向けてくれない翔へ対してなのか。
 気が付けば抱き締める様に両肩を握りながらその場に膝を折る自分が居た。

「仕方無い…じゃないか。翔先輩を苦しめる原因を作ったのは、僕なんだから」

 翔が本当の気持ちに気付く切っ掛けとなったのは、他でも無い自分の言葉だった。
 本当なら適当に相槌を打ってやり過ごす筈だった。
 だが翔が悩んでいるのなら力になりたかったし辛いままにさせたくなかったし、何よりも翔の本心を知りたかった。
 只の身勝手なエゴ。
 結果が気に入らなかったから聞かない方が良かった。
 堕落した人間の、典型的な思考だった。
231名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:29:05 ID:KaIDxWC7
>>230

「駄目だよ、翔先輩。やっぱり僕、諦め切れ無い。翔先輩が、大好きだよ…」

 蛇口を閉め忘れているにも拘らず、身体中に湯が当たる感触はもう感じない。
 肩に置いていた手が自然と下へ。
 自分の高く無い身長の大体中心に近い部分へと伸びていた。
 ほんの僅かに顔を出していた先端に指先が触れる。

「んっ…」

 全く成長する兆しの無いその部分が、次第に硬く大きくなっていく。
 指先や他の部分が冷たいだけあって、そこの熱量は凄まじい。

「やっだ…。止まらない、よぉ……」

 映像が脳裏を過ぎる。
 それが巨大なスクリーンに写し出されている様な、視界を完全に奪っていた。
 翔が自分の身体中に触れる。
 優しく抱き締めてくれる。
 自分と同じ、何も服を着ていない状態で。

「翔先輩…翔先輩……!」

 つい先刻嫌な汗は流れて行った筈なのに、ハヤトの先端のそれはまたぬるぬるとなり始めていた。
 身体の全ての熱がそこに集中する。

「ふぁ、あふ…ぁ……」

 ドクン…と身体の奥が脈打つ。
 未熟ながらにも聳え立った男根が、輪ゴムと厚紙で作った蛙の玩具の様に跳ねる。
 栓をされたホースの様に、ハヤトは辺りに自分の欲望を撒き散らす。
 何も知らない、真っ白な生命の種。

「ちょっと触っただけで、でちゃった…」

 それらは壁や床のタイル、自分の手の平。
 先端にも残ったままで、だらしなく雫が垂れ下がっていた。
 液体部分だけが流れ、妙にべた付いた白い固形物だけが張り付いていた。

「…やだよ、翔先輩……。こんなの、やだよぉ………」
232名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:30:12 ID:KaIDxWC7
>>231

 母親に「もう寝なさい」と言われても、みつきは布団には潜らなかった。
 ベッドの上に座り、呆然と時計の針を眺めているだけ。
 既に長針が一周していた。
 ぎゅっと、黄色い猫を模した大きなぬいぐるみを抱き締める。

「ねぇ、ししゃも。私、何やってるんだろうね」

 ししゃもと呼んだぬいぐるみに顔を埋める。
 確かにぬいぐるみは暖かいが、心までは暖めてはくれない。

「寒いです、翔先輩…」

 他でも無い翔に貰ったこのぬいぐるみ。
 だからそれが余計に冷たい。

「駄目だなぁ、私。どんどん好きになってる」

 目を閉じても、翔のあどけない笑みが浮かぶ。
 そして昨日も。
 今日も、きっと同じ夢を見る。
 どこか自分の知らない場所で、目の前に翔が居る。
 付いて来いと言わんばかりに翔は駆け出す。
 いくら自分が追いかけても、一向に距離は縮まらない。

「私は、翔先輩の所に辿り着けない」

 きっと、原因は自分自身にあるのだろう。
 大好き。
 だから、反って近付けない。
 常に一定の距離を置いてしまう。
 一昔前の少女漫画のヒロインを気取っているだけ。

「あなたは私に振り向いてくれますか?」

 まるでこのぬいぐるみが翔であるかの様に、そっと呟く。
 誰もの気を無意識に惹いてしまう、罪深い想い人。
 許せない。
 許せないから、愛してしまう。
 自分の身体が汚れる事すらも構わない。
 だからこそ、屋上であの様な愚行に乗り出せたのだから。
 今でもあの時の感触は鮮明に思い出す。
 小さく、柔らかい。
 まるで小さな子供に抱く背徳感が逆に後押しして実際の年齢とのギャップが際立つ。
 翔となら道理に背く事も厭わない。
 …狂っている。

「こんな私、嫌い…」

 そのままベッドに横たわり、意識が闇に落ちるまで何度も同じ言葉を呟いた。
233名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:31:40 ID:KaIDxWC7
>>232

 その日は見事な銀円が空に浮かび始めていた。
 ラジオの天気予報でも、夜は十分晴れるとの事。
 正に、天体観測には申し分無い事前情報に恵まれていた。
 同時に、翔の気分も最高に高揚していた。
 何と言っても、空と初めて出会った時以来の観測になると言う部分は大きい。
 もう一つは、空が中学を卒業してなかなか会う機会が取れ無かった事。
 やはり、中学と高校の垣根は相当広いものらしい。
 その部分に附属と言う隣り合わせの関係は問題にはならないのだろう。
 実際、これで空に会うのは四月以来になるのだから。
 夏休みに入り、空から誘いの電話が来た時は二つ返事で了承した。
 メールでは無い所が実に空らしいと思う。
 ハジメもそこは理解していたのだろう、すぐに了解してくれた。
 誰かを待つ時間がこんなに気分の良いものだと感じるのは初めてだった。
 予定の時間よりも馬鹿みたいにずっと早く、集合する駅に着く。
 当然そこに空が居る訳が無く、誰も知らないと理解していながらも空回りしていた自分が恥ずかしかった。
 結局予定の時間直前になって現れた空の申し沸け無さそうな表情が辛かった。
 それからようやく電車に乗る。
 市街地から離れるに連れて乗客は減る一方で、途中で乗り換えたバスにはもう翔と空の二人だけだった。
 都心では決してお目にかかれない古めかしいデザインのバスに揺られ、ついに街灯が点在する程度で辺りには何も無い山の麓で下車する。
 覚悟はしていたが、やはり暗闇の山道を登らないといけないらしい。

「凄いよなソラって。いつもこんな山登ってるんだろ?」
「別に凄くなんか無いよ。ただ星が見えて高い場所が僕達の近くに無かったから。ただ、それだけだよ」

 当然の様に言ってのけ、息一つ乱さずに荒れた登山道を軽い足取りで登って行く。
 それに比べると、翔は道沿いのロープを使いながら何とか登りきれている状態だった。
 何より驚きなのは、観測用の大きな荷物は空が持っていると言う事だ。
 改めて、この空と言う人物が凄いと思う。
 いろんな事を着々とこなす秀才型。
 そしてそれを決して鼻に掛ける事はしない。

「ここら辺は滑り易いから気を付けてね」

 何より自分の周囲に対する配慮が人一倍優れている。
 優等生だからと言って決して僻まれないのが、空と言う人物の特徴だろう。

「あぁ、分かったよ」

 と、忠告を了解しておきながらも、お約束の様に翔は湿った岩を踏み付けてしまう。
 一瞬気が遠くなった様な錯覚に陥り、正気に戻った時にはもの凄く近くに空を感じた。

「あ…?」
「ふぅ、大丈夫?」

 当然だった。
 自分は空に抱き締められていたのだから。

「お、オレ…?」
「良かった。どこか怪我して無い?」

 (そうか。いつでもオレを助ける為に、前に居たんだ)

「悪ぃ。心配掛けちゃったな…」
「足を捻ったりして無い?もうすぐ頂上だけど、今からでも下りようか?」
「ん…何とも無いみたい。オレは大丈夫だって」
234名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:32:59 ID:KaIDxWC7
>>233

 そう。
 これが空の優しさ。
 ただ単に気配りが上手なだけでは無く、根本的に“優しい”のだ。

(そうか。だからオレは…)

 多い茂っていた幾つもの大樹の天井が晴れて来る。
 空の言う通り、頂上に近付いて来たらしい。

(こんな風に錯覚するんだ)

「着いたよ」
「わ…本当に街まで一望出来るんだな。あんなにちっちゃいって事は、オレ達凄い遠くまで来たんだな」
「そうだね。時々来る僕でも、毎回そんな風に思うよ」
「それにさ、やっぱりオレ達の街からだと星ってあんまり見れないんだな」
「うん。排気ガスとかで空気が霞んで僕達の街は光が届かないんだ。僕達の学校って高台にあるからね。比較的星が見えるんだ。だけど、近くで一番星が見えるのは、やっぱりここだね」
「あぁ、本当に…凄い」

 小学校の社会科見学で見に行ったプラネタリウムの空。
 それ以上の星の海がそこには広がっていて、文字通り、手を伸ばせば届きそうだった。
 それよりも、誰にも見せない空の意外な一面。
 いつもは自然と醸し出す優等生としての雰囲気はそこには無く、本当に好きなものが目の前に広がっている時、誰にも見せないもう一つの顔。
 自分よりも子供の様に、無邪気に語るもう一つの空。
 自分しか知らない、空と言う人物のもう一つの象徴。
 それが彼を独り占めしていると言う、確かな証拠。
 誰からも尊敬される空が、今は自分だけが一緒に居れる。

(錯覚でも良い。やっと、オレ達一緒になれたんだ。少しだけしか無い時間でも、ソラと居たい)

「山の上だから結構冷えるね。そろそろテント組み立てようか」
「あ、オレも手伝うよ」
「じゃあ、僕の言う通りに骨組みを組み立てて貰おうかな。その間に固定用の金具を打ち込んでおくから」
「了解。頼りにしてるからな、隊長」
「何それ。じゃあ、遠慮無く頼って貰おうかな?」

 適格な空の指示により、テントはあっと言う間に完成した。
 薄くて長い毛布一枚で二人を包む。
 触れ合う肩と肩。
 始めて感じる空の熱。
 外気にも触れている為か少し低く感じる。
 それが気持ち良くて、もっと寄り添っていたくなる。

「寒い?」
「ちょっと…な」
「ほら、足を出してたら冷えちゃうよ。もっと…くっついて」
「………うん」

(やっぱり、錯覚じゃない方が良いな)

 何となく、少しだけ自分の気持ちについて考える様になった日。


 だから、今になって思う。
 やっぱり錯覚だったのかも知れないって。
235名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 03:54:39 ID:KaIDxWC7
六の日記念からえらく長引いて結局2ヶ月も掛かっちゃった六×ジャックはコレで終わりです。
本当は最初の荒家から逃げ出した辺りで終わらせるつもりだったんだけど『ジャック』の名前が出てこなかったんで急遽路線変更。
そのせいで色々とややこしい設定を無理矢理詰め込んでしまった。
結論:戦闘シーン書けない

>>204
意外と六って和物以外でも女装が似合う。
そう思わずにはいられませんでした。
絵だけでも十分凄いのに漫画描けるとか…べ、別に羨ましくなんかないんだかr
スンマセン、羨ましいです。

>390
厨房六か…
兎に角生意気な六を色んな意味で教育したいです。
学校物はジャンルを選ばないから。

>876
初っ端の余裕たっぷりな威勢が一気に沈んでいく感がたまらないです。
>喘ぎ声…
すげぇ共感出来る。
>>218
誰が上手いこと言えと
236390:2010/07/21(水) 08:39:37 ID:asnkrXkz
>835だったのか。GJ!
237835:2010/07/27(火) 21:30:26 ID:D2107l5c
>>144 いい加減下がり気味なんで上げときます。

 セシルとケビンが演技を練習し初めて、既に三日目が終わろうとしていた。
 だが、お互いがそれぞれ思わぬ部分で引っ掛かり、なかなか良い演技が出来ないままだった。
 相変わらずケビンは舞台上の主役と言うプレッシャーに潰されたまま。
 セシルは舞台慣れしている為かそれ程緊張は見られないが、台詞に対して身体の表現がどうも曖昧だった。
 そして、ケビンのそのシュールな一人寸劇は当然の様に周りに様々な笑いを引き起こす。

「じゃあ、今日の練習はこれまで…だ。後少ししたら本格的に撮影…も、とり、撮り始め……。だっははは! 駄目だ、堪えられん!!」

 いい加減本当にどうにかしなければならない筈なのに、その監督は笑いを堪え切れずに総轄時ですら笑いに悶えている。

「おい、それじゃまたケビンが潰れるぞ」
「す、すまん…。やっぱ無理……。あっははは!」
「全く…。じゃあ、笑いに転げているどっかの誰かは無視して俺から話を進める」

 一転して、周囲の雰囲気が引き締まるのが分かる。
 最近少しずつセシルはこの劇団に所属する人物を理解し始めていた。
 取り分け目立つのは、やはり女性にしてはかなりしたたかな一面があり過ぎる監督。
 そして、彼女とは対照的に物事を冷静に解釈して適格な指示を促すこの青年。
 一見噛み合わないこの二人だが、だからこそ連携が取れているのだろう。
 不意にセシルは始めてケビンと出会った日に彼が言っていた言葉を思い出した。

(歯車…か)

 本来反りの合わない者同士がこうして噛み合う。
 回っている。

「ん? どうしたんだセシル」
「あ…いえ。何でも無いです」
「そうか。じゃあ残りは役員が仕切ってくれ」
「役員?」

 素頓狂な声をセシルが呟く。
 しかし、それを尻目にしながらもそれぞれ同意したらしい返事が次々と上がる。

「あの、役員って?」
「ん? あぁ…。ちょっとな。それより、お前とケビンは少し残ってくれ。無理だとは思うが覚悟はしておけ」
「う…」

 思わず息が詰まる。
 自分達が同時に呼ばれる理由なんて一つしか無い。
 近い将来に、セシルは溜め息を零さずにはいられなかった。

「お〜いセシル。あんたはそこの抜殻君引き摺ってこっちきてくれ」
「たはは…。ケビン、大丈夫?」
「はゃ〜?」

 監督の言葉通り、取り敢えず何かしらの人種以外の何かと化しているケビンに声を掛け、どうにか正気に引き戻せないものかと摸索する。
 今回はまた一段と凄まじいミスをしてしまっているので放心状態が以前より深刻だった。

「あの…車椅子ってあります?」
「取り出すのが面倒だから直接引っ張って来い」

 結局、ケビンはもとにもどらないまま二人は例の倉庫に連行される羽目になった。
 相変わらず空気だけは良いのだが緊張のせいで酷く重い。
 適当な椅子にケビンを座らせると、監督は部屋の鍵を掛けた。
238835:2010/07/27(火) 21:32:31 ID:D2107l5c
>>237

「さて…賢いセシルの事だ。何で“二人が”残されたのか、勿論分かってるだろうね?」

 こちらも相変わらずの威圧感を放っている。
 更に、セシルは彼女の言う“二人”にケビンには気取られない様に反応した。
 黙ってセシルは頷く。

「良いだろう。本当ならセシルだけでも良かったんだけどね、折角だ。ケビンにも一応聞かせておこう」
「どういう事?」
「気を悪くしないでくれよ。見ても分かる通り、今のケビンは愉快な程に不安定だ。それを乗り越える為にも、な。セシル、あんたに頑張って貰うしか無いんだよ」
「えぇ!? ボク…?」
「そうだ。こいつのプレッシャーの出所は、役の重さもあるだろうがそれだけじゃ無い。間違い無くあんたに対する責任がネックになっている」
「ボクへの…責任?」
「今この話をこいつがちゃんと聞いてるかどうかは分からないけどな、間違い無くこいつはあんたを巻き込んでしまった責任を感じている。あんたの内心は抜きにして、ね」
「そんな…」

 意外なケビンの本当の気持ちを突き付けられ、セシルはどう対応して良いものか戸惑う。
 それと同時に監督も盛大に溜め息を吐いた。

「セシル。お前は台詞に演技が追いついていない。これは初心者の最初の関門だ。無茶を承知の上だが、ここはどうか頑張って欲しい。こちらからも出来る限り助言はする」
「はい…頑張ります」

 心底申し訳無さそうな表情をされてはセシルとしても心苦しい。
 それどころか、彼女がこれ程までに下手に出て来た事に驚きを隠せい。

「だが、二人共伸びて来ている事に変わりは無いんだ。ここからは正念場だよ」
「は…はい!」
「まぁ、と言う訳だ。覚悟は良いか? 生ける屍君よぉ」
「はわ!? あれ…ここ、どこ……?」
「…少しだけ前言を撤回しよう。あんたはあんたで精一杯頑張ってくれ」
「は、はい。ボクはボクなりに頑張ってみます…」


「…何で僕いきなり殴られたんだろう。僕、何かしたかな?」
「多分…何もしなかったからだと思うよ」
「へ?」

 相当今回は参っていた様だ。
 少なくとも廃人状態の間は正気すらも失っているらしい。
 見ている分は余りにも愉快なので良いのだが、舞台上でも主演を張るケビンがずっとこの状態なのでは一向に先には進めないだろう。

(何とかならないのかなぁ…)

 要はケビンがこの件に感じて並ならぬプレッシャーと責任を感じている訳で、早い話がそれを解消すれば良いと言う事。
 言葉の上で表現するのはこんなにも簡単なのに、それを実際に実行するのはかなりの時間を要する上に困難を極めている。

「はぁ…」

 広場の噴水に座り、明らかに実年齢にそぐわない溜め息をセシルは零す。

「どうしちゃったのさ。セシル、何だか今凄い『仕事に疲れた大人』って感じがするよ」
「どうしてこう突っ込む所は無駄に適格なのかなぁ…」
「へ?」
239835:2010/07/27(火) 21:33:47 ID:D2107l5c
>>238

 この短い間に全く同じリアクションを二回もこなしてしまうその表現力を是非舞台の方でも引き出せないものだろうか。
 しかし、ここでセシルはある事に思い当たる。

(そうだ。どうせ周りには誰も居ないんだから、家でも出来る範囲で練習を積んで行けば…)

 撮影現場の雰囲気は出せなくても、台本に慣れる上ではかなり効率が良くなる。
 極度の緊張でケビンが頭の中から台本が抜け落ち無い限りは。

「ねぇ、ケビン。今日からさ、家でもボク達に出来る限りで良いから練習してみない?」
「練習?」
「うん。ボク達二人が結局皆の足を引っ張ってるからさ。遅れた分を取り戻す勢いで、逆に皆を驚かしてやろうよ」
「…そうだね。明日から休みだし。折角セシルも居てくれてるんだから、僕も頑張らないと」
「うん」

 互いにガッツポーズを作り、腕を交差させる。
 ケビンは純粋に、セシルの細やかな下心には全く気付かずに頷いてくれた。

(ボク達、もう少しだけでも距離を縮めて良いよね)

「ん? 何か言った?」
「ううん、何でも無いよ」
「…?」

 下心も打算も気取られず、期待だけを見事に受け取ってくれた。
 もう一つの打算。
 これはセシルの言葉に巧妙に隠されていて、恐らく気付けるのはあの監督と青年だけだろう。

(ケビンを心配させたら駄目なんだから―)

 単純に遅れを取り戻すとだけ言ってしまうと、ケビンはそこに僅かながらに不安を生む。
 皆を驚かしてやると言うプラス思考を暗示的に見せる事で、無理矢理それを取り除く。
 皮肉な事になるのだろうか。
 その方法は、これまでにケビンが何度もセシルを安心させる為に使った手段。
 それをそうと知らず、お互いが同じ手段に嵌る。
 それが溝になるか掛け橋になるか。
 どちらも起こり得る非常にアンバランスな状態。
 それに気付けずにいるから成り立つ関係。
 それだけに、脆い。
 余りにも儚く脆弱な二人の、淡く切ない親友とも恋人とも呼べる関係。

「さてと、今日は何作ろうか?」
「冷蔵庫にあった作り置も材料もあまり残って無かったから、まずは買い物に行かなきゃ。昨日はボクだったから、今日はケビンに頼んじゃおうかな?」
「うん。そうだね……って、まさか献立まで僕が考えるの!?」
「あれ? そのつもりでうんって言ったんじゃないの?」
「わっそれずるい!!」

 夕焼けに染まる煉瓦造りの坂道を二人は駆ける。
 心のどこかで「いつまでもこんな日が続きますように」と願いながら。
240835:2010/07/27(火) 21:35:09 ID:D2107l5c
>>239

「いやはや…若いって良いねぇ」
「盗み聞きとは随分と良い根性してるじゃないか?監督さんよ」
「それ程でもあるさ。ただの偶然だよ」
「どっちだよ」
「わざとに決まってるだろう」
「開き直るな」

 二人が座っていた噴水の反対側でショートコントを開いている者達が居るとは夢にも思わなかっただろう。

「随分とあの二人を気に掛けているじゃないか?」
「そう見えるか?」
「あぁ。ずっと平等を謳っていた監督さんとは思えないな」
「…あんた以外で気付いた様子は?」
「見掛けない。あの二人が適材適所で主演を持っているのが隠れ蓑になってるな」
「そうか。じゃあ問題は無い」

 実に面白そうに彼女は笑う。
 青年はもう慣れているので小さな溜め息一つで済んだ。

「相変わらず、お前の考えは分からん」
「何。いつもの私に比べたら随分と単純だ。自分でも、呆れるくらいにな」
「………分からんな」


「ふぅ…。何だか食べ過ぎちゃったかな?」
「ケビンがいっぱい作り過ぎるからだよ」
「だって、粘土遊びみたいで面白かったから…」
「それは…分からない事も無いけど…。おやつの方が多いって駄目じゃないか」
「また明日食べれば良いよ」

 随分と歪な形をしたドーナツを目の前に、二人は机に溶ける様に突っ伏する。
 沢山作った方が安くて良いからと、二人で食べるにはあり得ない量の材料を持て余した結果がこの様である。
 結局は二人共まだ年端も行かないお子様でしかないのだから。

「もうこういう事は止めようね。材料買うのが勿体ないよ」
「うぅ、ごめんなさい…」

 同じ年であるにも拘らず、セシルは少しだけ先輩風を吹かせて優越感に浸る。
 ケビンには悪いが、彼の反省している様子はまた違って可愛いと思った。

「それで、明日からどうしようか?」
「そうだね。ケビンは出て来る尺が結構長いから、一つ一つを全部完璧にするのは多分…と言うか無理だから、今日やった所までの復習かな? …多分覚えて無いよね」
「う…」

 どうやら聞くまでも無かった様だ。
 まずどうにかしなければならないのは、ケビンのこの異様なまでのあがり様だ。
 監督の話だと、自分がその原因の一つとなっているらしい。
 早い話がケビンにそう思わせない様自分が自信を持てば良いだけの話。

「途中で躓いたらボクも考えるよ。それとも今から…後で台詞の読み合わせだけでもやってみる?」

 少なくとも今の胃袋の状態でまともに朗読すら出来るかどうかも危うい。

「うん。お風呂に入った後にでもやってみようか」
「そうだね。どっちから入る?」
「セシルから先に入っちゃってよ。僕は布団の準備しなきゃいけないから」
「分かったよ。じゃあ、そうさせて貰おうかな」
241835:2010/07/27(火) 21:37:31 ID:D2107l5c
>>240

 ケビンから既に用意してあった着替え一式を受け取り、セシルは一人風呂場へと歩く。
 着ていた衣服を全て脱衣籠へと放り投げ、セシルは冷え切った風呂場の中へと入る。
 真冬のこの場所を一糸纏わずに入るのは流石に辛い。
 最初に入る者の宿命なので考えてもどうしようも無い事なのだか。

「寒い…」

 いつもこの瞬間はケビンと初めて出会った時を思い出す。
 正確には、ケビンと出会う少しだけ前の時間。
 寒さという化け物に全てを奪われ、生きる意思すらも抜け切った時。

(独りの時って、こんなにも寂しいんだって知らなかった。ケビンは…)

 以前監督の言っていた話をもう一度思い出す。

(ケビンを、不安にさせちゃ…駄目なんだ)

 身体に打ち付ける熱湯が異様に熱く感じる。
 ケビンの知らないケビンの秘密を自分が知っている事がこんなにも心苦しい。

「秘密だらけだな、ボクって」

 孤独と隣り合わせにある秘密。
 こんなもので繋ぎ止めている二人の絆。
 もし秘密を共有する事になったら、二人の関係は崩れてしまうのではないか。

(…まただ。最近こんな事ばかり考えてる)

 今の二人の関係が楽しくて、その隣り合わせにある“不安”。
 ケビンへの御方度を常に自分は抱き抱えている。
 ケビンが愛しくて仕方が無い筈なのに。
 振り払う事が出来無い自分がいる。

(こんなにボクはケビンが好きなんだ)

 あれほど熱かった湯が今は心地よく感じる。

「ケビン…」
「なぁに?」
「へ!?」

 セシルが振り向くと、整髪料容器を片手に持ったケビンがそこに居た。

「わぁ!」
「ど…どうしたの?」
「何でケビンがここに居るんだよ!」
「あ、うん。シャンプーの中身が無くなってたから取り替えようと思って」

 きょとんとした表情をケビンは浮かべていた。

「いつの間に…」
「あれ、僕入るって言ったよ?でも、セシル何か考え事してるみたいだったからさ」
「そ、そうなんだ…」
242835:2010/07/27(火) 21:39:43 ID:D2107l5c
>>241

 びっくりした、と一言で済ませるのが苦しい程にセシルの心臓は跳ね上がっていた。
 初めて出会った日以降、ケビンはすっかり緩み切っているのか羞恥心が抜けている様に思える。
 出会った当初はそれこそケビンの方が色々と変に意識していた筈なのに、今や状況は反転している。

(あ―)

 逆を返せばそれはケビンが自分との距離を縮めてくれたと言う事ではないか。
 些かその垣根が低過ぎる気がしないでも無いが。

「よし終わった。じゃあセシル、ゆっくり…」
「待って。布団の準備、もう終わった?」
「あ、うん。でも、僕の事なら気にしなくて良いよ」
「そうじゃなくて。その…。久しぶりにさ、一緒に…入らない?」
「ふぇ!? わ、わぁ!!」

 いつも通りのオーバーリアクションが行き過ぎて、ケビンは僅かに零れたシャンプーに足を滑らせ、濡れた床に背中から落ちる。

「だ、大丈夫?」
「痛たた…」
「頭とか打って無い?」
「平気、でも無いかも。背中がべたべたする…」

 半分涙目になりながら、ケビンは出来る限り背中の方へと視線を向ける。
 真っ白な布地に薄く整髪料の色が滲んでしまっていた。
 幸い特に外傷は無い様で、寧ろこの展開はセシルにとって好都合だった。

「ほら、そのままでいたら気持ち悪いし風邪引いちゃうよ。早く脱いだ脱いだ」
「わぁ! 分かったから、ズボン引っ張らないで!!」

 結局ケビンを風呂場から取り逃がし、ケビンは脱衣所で服を脱いでもう一度入って来た。
 軽く身体に湯を当てると、ケビンも湯船に浸かる。
 元々複数名入る様な広さでは無い為、必然的に素肌同士が触れ合ってしまう。
 指先が絡まった時、ケビンの熱をより身近に感じた。
 単純に熱湯が間にあるからなのか。
 それとも―
243835:2010/07/27(火) 21:41:33 ID:D2107l5c
>>242

(ボクがケビンの距離に気付いたから?)

「セシル…」
「何?」
「僕、何か今凄くドキドキしてる」
「うん。ボクも」

 ケビンの手を取り、自分の胸の中心に当てる。
 微かにケビンの指先が震えた。

「ほら、ね?」
「本当だ。僕と同じ」
「あったかい…。ケビンって、こんなに体温高かった?」
「違うよ。だって、それは…」
「ボク達が―」


       恋人同士だから


「セシルぅ…」
「うん、分かってる」


      恋人同士じゃないと出来無い事
                       やろうか


 そして二人は互いに身体を抱き合い、唇を重ねた。
244835:2010/07/27(火) 21:46:20 ID:D2107l5c
>390
最初どういう事かと思ったけど久しぶりに保管庫行ったら納得。
勝手ながら保管庫少し弄っておきました。
ややこしいと言うか紛らわしかったんで名前欄書いとこ。
sageさん予防にもなるし。
245名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 05:46:46 ID:/omFgrxQ
前に書いたチチウェルの微妙な続きって需要ある?
246名無しさん@ピンキー:2010/08/01(日) 10:18:28 ID:RM21F67N
>>245
あのたどたどしい喋り方するチチカカの人か
とにかくチチカカが可愛かったから需要とか無視して書くべし書くべし
247普通版:2010/08/02(月) 02:39:46 ID:LvHEF4Yh
>>246
可愛いと言ってくれてありがとう
あと何か意見あったら言ってくれ、今後に役立てたい

前回の続きから


「・・・・・・・という訳だ・・・オイ?大丈夫か?」
「そ、そんな恥ずかしいことをしていたのか・・・」
説明の後、手で顔を伏せてどこかの、強くて優しい剣士様と言ってる娘の様に、顔を振り回すチチカカ。

「・・・後悔したか?」
「後・・・悔?」
「俺とヤッた事を後悔したかって聞いてるんだ」
真剣な面持ちでチチカカに問うウェルダン、その目と声には何とも言えない悲しい色が見える。

「後悔は・・・してない・・・なぜウェルダンはそんな事を聞くのだ?」
「俺はお前が好きだ、お前も俺が好きだからヤッてるのかと思ってた、
でもお前がじゃれあいでやってて、本当の事を知って後悔したんじゃないかと思った」
チチカカの答えに先ほどより幾分色が見えなくなった声で答えるウェルダン。

「・・・後悔などしていない、それに多分チチカカもウェルダンに事が・・・す、好き・・だ・・・
じゃないとあんな事出来ないと思う・・・」
「そっか、ありがとな・・・・・・・・好き!?」
ハッキリと言った後に今度は逆に消え入りそうな声でボソボソというチチカカ。
そのチチカカの声にワンテンポ遅れて驚くウェルダン。

「あ、ああ好きだ・・・」
「友達とかの意味では無くて・・・?」
「恋人としての・・・・・・だ」
お互いにあまりの恥ずかしさに動けないまま、体の温度が上がるばかりだ。
おかげで部屋はサウナの様に熱い。

両方とも何も言えないまましばらく経った後呟く
「なあ・・・その・・・しないか?」
「するって・・・いいのか?」
「ウェルダンの・・・あの顔が見たい」
「・・・そんな事言うなよ、恥ずかしい」
チチカカの誘いに照れた様子で答える。







「・・・いくぞ」
「来い」


後に響くは求める声だけ・・
248カタカナ版:2010/08/02(月) 02:40:58 ID:LvHEF4Yh
チチカカ様はタドタドな方が可愛い人向け


「・・・・・・・という訳だ・・・オイ?大丈夫か?」
「ソ、ソンナハズカシイコトヲシテイタノカ・・・」
説明の後、手で顔を伏せてどこかの、強くて優しい剣士様と言ってる娘の様に、顔を振り回すチチカカ。

「・・・後悔したか?」
「コウ・・・カイ?」
「俺とヤッた事を後悔したかって聞いてるんだ」
真剣な面持ちでチチカカに問うウェルダン、その目と声には何とも言えない悲しい色が見える。

「コウカイハ・・・シテナイ・・・ナゼソンナコトヲウェルダンハキクノダ?」
「俺はお前が好きだ、お前も俺が好きだからヤッてるのかと思ってた、
でもお前がじゃれあいでやってて、本当の事を知って後悔したんじゃないかと思った」
チチカカの答えに先ほどより幾分色が見えなくなった声で答えるウェルダン。

「・・・コウカイナドシテイナイ、ソレニタブンチチカカモウェルダンノコトガ・・・ス、スキ・・ダ・・・
ジャナイトアンナコトデキナカッタトオモウ・・・」
「そっか、ありがとな・・・・・・・・好き!?」
ハッキリと言った後に今度は逆に消え入りそうな声でボソボソというチチカカ。
そのチチカカの声にワンテンポ遅れて驚くウェルダン。

「ア、アアスキダ・・・」
「友達とかの意味では無くて・・・?」
「コイビトトシテノ・・・・・・ダ」
お互いにあまりの恥ずかしさで動けないまま、体の温度が上がるばかりだ。
おかげで部屋はサウナの様に熱い。

両方とも何も言えないまましばらく経った後呟く
「ナア・・・ソノ・・・シナイカ?」
「するって・・・いいのか?」
「ウェルダンノ・・・アノカオガミタイ」
「・・・そんな事言うなよ、恥ずかしい・・・」
チチカカの誘いに照れた様子で答える。







「・・・イクゾ」
「来い」





後に響くは求める声だけ・・
249390:2010/08/10(火) 22:27:45 ID:1qz/5gNl
GJ!
過疎ってるのはみんなお盆休みだからなんだろうな
休みなしの俺は六にいっぱい癒してもらうか
250名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 19:30:42 ID:PV/mMneT
規制をくらっていたのだよ。
教師流石と厨房六ずっと待ってます。
251名無しさん@ピンキー:2010/08/22(日) 13:58:32 ID:2aDUuRfC
過疎りすぎage
252390:2010/09/01(水) 03:08:13 ID:EEe5vCjl
六のアナルを指でいじりながら保守
まだ規制続いてんのか?
253名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 20:49:27 ID:YTZWID40
tesu
携帯もPCも共に規制食らうとしんどいよ
ところで次のチュンストでここの住人はトレカなどは買うのかね
254名無しさん@ピンキー:2010/09/01(水) 21:05:36 ID:YTZWID40
製品版にはキトきゅんはいるんだろうか…
今回はゲームもカードそれなりに楽しみだ
255835:2010/09/07(火) 03:22:11 ID:UMq0y+WI
>>243

 窓から差し込む日の出の光に照らされて、セシルは重たい瞼を開いた。
 隣りでは未だに気持ち良さそうに寝息を立てているケビンが居る。
 自分と同じ、一糸も纏わない状態で。
 一夜の間に何度も身体を合わせ、ケビンの愛を何度も受け取った。
 数え切れない程に互いの身体中に口付けを落し合った。
 ケビンの素肌が外に出てしまわないように、柔らかい毛布で包む。
 その時、自分の指先がケビンの柔らかい頬に触れ、小さな寝息が漏れる。
 起こしては悪いと思い、セシルはその手をすぐに引っ込めた。

「シャワー浴びて来よう。ケビンには随分と無理させちゃったから、朝ご飯はボクが作るからね」

 結局脱衣所の前に着替え一式を置いたままだったので、セシルは裸のまま階段を下りて浴室へと入った。
 シャワーの栓を捻ると、一瞬背筋が凍ってしまいそうな程冷たい水が追い出され、あっと言う間に浴室は真っ白な湯気に包まれる。
 身体で乾燥した“様々な”液体が排水口に流れて行く。
 思えば、自分から相手のために身体を動かすのは初めてだった。
 今までは完全に無理矢理身体中を引っ掻き回される一方だったのに。
 そう、初めてだった。
 自分の身体を預けられる相手がいる。
 その行為が何物にも代えられない淡い背徳感を持った甘い罪に思えた。
 ケビンとなら、どこまでも行ける。
 二人でなら、罪の中に沈むのも厭わない。

「…駄目だなぁ」

 結局、行き着く先は“不安”に逆戻りしてしまう。
 今が幸せ過ぎるために、不幸に落ちるのが怖い。
 元々神経の強い人間では無かったが、最近は今のこの状況に依存し切っている自分が居る。

「不幸に慣れていた自分…か」

 呟きながらセシルはシャワーの栓を閉める。
 側にあるタオルを簡単に身体に巻き、風呂場を出る。
 身体中を拭き上げ、用意してあった着替えに身を包む。

「あ、ケビンの着替え…」

 ケビンも自分と同じ状況になっている筈なので、シャワーだけでも浴びておいた方が良いだろう。
 いつケビンが起きても良い様に、先にケビンの着替えを用意しておく事にした。
 …勝手知ったる人の家とはよく言ったもので、この子供二人だけで生活するには無駄に広過ぎる家のほぼ全てをセシルは把握出来る様になっていた。

(後、ボクが知らないのは…)
256835:2010/09/07(火) 03:24:31 ID:UMq0y+WI
>>255

 ケビンの両親の部屋だけ。
 割と無断で色んな部屋に入り込んでいるのだが、ケビンの両親の部屋だけはケビンが許してくれるまで入るつもりは無い。
 そして、それを自分から話を切り出す様な真似は絶対にしない。
 部屋に戻るとケビンは相変わらず夢の中だった。
 クローゼットから適当に見合うであろう服を取り出し、ケビンの枕元に置いておく。
 後はいつケビンが起きても良い様に、少し遅い朝食を準備するだけ。
 これも、自分が大きく変わった部分だろう。
 自分以外の誰かの為に料理を作る。
 保身の為では無く、純粋に喜んで貰いたいから。
 こんなに僅かの間に、愛とは人を変えてしまう。
 ただ、自分の場合はここ一つ条件が違う。
 恋と言う順番を飛び抜いて、先にケビンを愛してしまったのだから。
 完全に一目惚だった。
 自分とは正反対の、汚れを何も知らない純真な少年。
 驚く程足速にケビンに惹かれたのは、自分と言う汚れと正反対の位置に居るから。
 『磁石』と言う言葉は居心地が悪い。
 だから、ケビンの言う『歯車』には完全に不意打ちを食らった。

「…こんなもんかな?」

 昨晩残った材料にほんの一手間加えただけの賄い料理だったが、決して見栄えは悪くない。
 小さな破片を一つ摘んでみたが、悪くは無い味だった。

「後は、ケビンが下りて来るのを待つだけ…だね」

 今この場に誰も居ないからか、自然と笑みが零れる。
 母親を思い出すからだ。
 セシルが今よりもずっと幼い頃に息を引き取っているので顔すらも殆ど覚えていないが、とても温かい優しさに包まれていたのは覚えている。
 今になって覚えた言葉で言うなら、聖母と言うのが正ににそれであろうか。
 朧気ながらに料理の味も覚えている。

「お母さんみたいに出来てるのかな…ボク」

 その頃は、父親も狂気に包まれていなかった。
 そもそもケビンの父親が豹変したのは母親の死が原因なのだ。

「あ…」

 愛は人を変える。
 自分よりも当て嵌まる人間が、最も近しい間柄に居る。
 愛する人の死。
 彼が自分に求める偏愛行動も、今なら納得出来る。

(ボクも、同じ…)

 ケビンが居なくなったら―
 考えるだけでも身が張り裂けそうになるのに、本当にそうなったとすればいっそ人間をやめてしまう状態になるだろう。
 特に自分は母親の面影があるらしいので、尚更理解は出来る。
 理解は出来るが救済はしない。
 間違い無く父親は自分の存在と母親の面影が混在している。
 それが結果的にセシルの逃亡を招いた。

(どれだけボクがお母さんに似ていようと、ボクはボクなんだ)

 自分と父親の決定的な違いは、その根本にある。
 父親が自分に求めるのは姿形の面影だけで、取り繕った薄い皮の部分に過ぎない。
 反面、自分はケビンの姿は勿論、内面まで愛していると自負出来る。
257835:2010/09/07(火) 03:26:20 ID:UMq0y+WI
>>256

「ボクは違う…。ボクは…」

 一種の呪詛の様に何度も呟いている内に、手の中に奇妙な感触を感じた。

「うわ…」

 妙に力を入れ過ぎたらしく、材料を握り潰してしまっていた。
 気持ちの悪い油の様な塊が歪な形に千切れて調理用プレートの上に落ちていた。

「…どうにかなっちゃいそうだよ」

 今が幸せ過ぎて、不安でいっぱいになる。
 今が幸せ過ぎて、自分の黒い部分ばかり掘り当ててしまう。
 それだけに、ケビンの光が自分には眩し過ぎる。
 当たり前な事を当たり前に出来る。
 それが“普通”等と言う簡略的過ぎる言葉で言うなら、自分がそれだけ“異質”を象徴するのだろう。

(あぁ、そうか。ボクは―)

 自分と父親が同類になる事が嫌。
 必要以上にケビンと比較してしまうのは―

(ボクは、ケビンが羨ましいんだ)

 持っていない物を持っている。
 所謂無い物ねだりなのだ。
 嫉妬。
 …少し行き過ぎだろう。
 単純な妬み。
 だから惹かれた。
 ケビンを手に入れたいと思った。
 …考えれば考える程、ケビンに惹かれる理由が浮かび上がる。
 どれもが本当にも出鱈目にも思える。
 自分の欠点はいくらでも見付ける事が出来るのに、自分そのものが分からない。
 どれが本当の自分なのだろうか。

(ううん、もっと重要なのは…)

 ケビンと接している時の自分は一体どれなのだろうか。
 ケビンに本当の自分を見せているのだろうか。
 身体を重ね合わせた時の自分は何処に居たのだろうか。
 ひょっとしたら、自分の中には他に幾つもの自分が居て、それらが互いに記憶を共有しているとしたら。
 余りにも飛躍し過ぎて筋の通っていない奇妙な妄想でも、何故か納得してしまう。

(だって、どれもボクなんだから)


 ケビンが寝室から降りて来たのは丁度セシルが朝食をテーブルに並べ終えた時だった。
 まるで見計らったかの様に現れたケビンに軽く苦笑しながら、セシルはケビンを先に着替えて来る様促した。
 完全に寝ぼけている様で、一切服を着らずに布団を引き摺って来ていた。
 どうにもあのままでは布団を放置して行きかねないので、セシルは必要な後始末を手早く終わらせてケビンの後を追った。
 階段に差し掛かった辺りで、案の定所か予想を遥かに凌ぐ惨状を目の当たりにした。

「ちょ、こんな所で二度寝しないでよ! 風邪引いちゃうよ…って言うかいい加減起きてよ!!」
258835:2010/09/07(火) 03:28:57 ID:UMq0y+WI
>>257

 階段の角度が丁度良いのか布団が温かいのか分からないが、どちらにしろケビンを回収しない事には何も出来無い。

「って言うか、服は準備してた筈だよね。気付く…筈無いか。こんな様子じゃ」
「ん…セシル〜」
「ケビン…いい加減起きてよ。このままじゃ本当に風邪引くだけじゃ済まないよ」
「うう〜?」

 眠い目を擦りながらも、少し正気を取り戻して来たらしい。

「本当に、いつもはどうやって起きてるんだよ」
「だって、セシルが居るから安心しちゃって」
「それでこの前は完全に遅刻したじゃないか! ほら、今日は昨日までの練習するんだから、早く着替えて来なよ。枕元に準備してあるからさ」
「ふぁ〜い」
「折角ご飯出来たんだから温かい内に食べちゃってよね」

 そう言った瞬間、何を思ったかケビンは突然布団を吹っ飛ばして階段を全裸で駈け登って行った。
 その布団に潰され、セシルは何とも微妙な表情を浮かべずにはいられない。

「作る側としては、嬉しいんだけど…」

 いくら何でも周りが見えなくなり過ぎである。
 結局最初に危惧した通り、布団を放置されてしまった。
 しかも予想外過ぎる経緯で。

「セシル、何処〜?」
「こ、ここだよ…。それ!」
「わぁ!?」

 ケビンが下に降りて来たタイミングを見計らって、セシルは先刻のケビンの様に勢い良く布団をケビンに放り込んだ。
 今度はケビンがその布団に埋もれる番だ。

「それ片付けるまで朝ご飯駄目だからね」
「えぇ〜」
「良いからさっさとしろ! この大馬鹿やろー!!」
「は、はいぃ!!?」

 つい先刻と全く同じ勢いで布団と同化して階段を駈け登って行った。

「…ケビンって、いつもと“ああいう時”と、全然違うんだ」

 昨晩の二人の情事を思い出して、鏡を見なくても分かる程にセシルは赤面する。
 何度となく交わした口付けも、抱き締め合った腕も。
 か細く頼り無くても、触れると安心出来る。
 何度でも欲しくなれる。
 対して普段のケビンは、色んな事に一生懸命で。
 それでいて何処かで微妙に抜けていて非常に可愛く思う。

「ほ、干して来たよ…」
「もう…」

 こちらの様子を伺ってるのがありありと分かる。
 まるで親に怒られそうな時の子供の様。

「ほら、早く食べよう。今日はいっぱい練習するんだから。ね?」
「お、怒ってない?」
「だから、もう良いってば。それとも、ボクが作ったのじゃ…嫌?」
「そんな事無い!」
259835:2010/09/07(火) 03:30:14 ID:UMq0y+WI
>>258

 そこだけは一切の躊躇いも無く、即座に返事が返って来た。
 流石にセシルも呆気に取られずにはいられなかった。

「…ありがとう」
「へ?」
「ううん、何でも無い」


「…何か違うんだよなぁ」
「そうだね。別に不自然じゃ無いんだけど、何か自然でも無いって言うか…」
「でもさ、ここだけいきなり口調を変えても不自然じゃないかな?」

 ケビンが緊張に押し潰されない様に取り敢えず台詞の読み合わせから始めると、早速関門に突き当たった。
 台詞の表現方法に疑問点があり、意見を出し合っている内に次々とその疑問が更なる疑問を生み出すループに見事に引っ掛かってしまった。

「取り敢えず、この後の台詞から先に住ませるのはどうかな?」
「う〜ん、そうだね。一通り読んでみて、後で考えよう」

 とは言え一度解決しない疑問が出るとそれが一々気掛かりになるもので、今後の台詞回しにそれが明らかに現れていた。

「う〜あ〜」
「気持ちは分かるけど…ケビン、落ち着いて。ね?」

 結局何もかもが不完全燃焼のまま終わってしまい、疑問点が余計に浮き彫りになっただけだった。
 すっかりケビンは項垂れてしまい、また独特の奇妙な声を上げる。
 やはり監督の言っていた通り、ケビンはかなり責任を背負い込んでいる様だ。

(ボクの事なら心配無いから)

 辛うじて喉から出かけていたその言葉を飲み込む。
 それはケビンの負担を取り除く所か増長させてしまうと気付いたから。
 ケビンが持っている心の隙間は、セシルが思っているよりずっと深いのだろう。

(もっと、ケビンの事を知りたい。もっとケビンの奥を見てみたい…)

 それが本当の近道の筈。
 そう信じて疑わないのは、やはり自分が思っている以上にケビンを好きで好きで仕方が無いからだろう。

「ねぇ、ケビン」
「なぁに?」
「ケビンはこれまでにも何回か出演した事があるんだよね?」
「うん。そうだけど…」
「その時、どんな気持ちで演じていたの?」
「あ…。えっと…」
260835:2010/09/07(火) 03:31:45 ID:UMq0y+WI
>>259

 思考を巡らせているのか、ケビンは人差し指を顎に当てて考える仕草を取る。
 主演作は今回が始めてにしろ、出演頁は幾つもある筈だ。
 実際、フィルムの中のケビンをセシルは何度か目にしている。
 その時からケビンは演技に関して全くの素人である自分から見ても、未熟なりに一生懸命に役に成り切ろうとする姿が印象に残っている。
 始めて見た時はどんな話だったかは覚えていない。
 ただ覚えているのは、次々と撮影機器が開発される中、敢えて音楽だけのサイレントのモノクロフィルムの中に居た事。
 瓦礫の街中に佇む孤児の少年。
 そう。
 セシルが撮影所で演奏した曲はフィルムの中のケビンをイメージして自分で作ったものなのだから。

(あ…)

 もう一度あの曲を演奏すれば、ケビンがキャラクターのイメージを掴む事が出来るのではないか。
 モノクロでもないしサイレントでも無く、時代背景も全く違う。
 それでも、求める雰囲気は似ている。
 だが―

(今のボクに、弾けるのかな…)

 撮影所の時とはまるで条件が違い、この場合は自分のアコーディオンを使う必要がある。
 果たしてその重圧に自分が耐えられるだろうか。
 答えはNo。
 自分のアコーディオンが使えないのは、単純に母親の形見である事とあの『家』に居たと言う事実を思い出したくないから。
 亡霊と言うプレッシャーに気圧されているだけ。
 早い話が、自分の精神の未熟さがその要因になっていると言う事。
 その恐怖を取り払ってしまえば済んでしまう事。
 言葉にしてしまえばこんなに簡単な事なのに、どうしても不利払えない自分が正直鬱陶しい。
 自己嫌悪を通り越して殺意に変わりそうな気さえする。
 しかし折角ケビンの役に立てる方法を見付けたかも知れないのに、下手をすればそれが無下になり兼ねない。

「えっと、どんな気持ちって言ってもなぁ…」
「あ、難しく考えないで」
「むぅ〜」

 遂に長考に突入する。
 これ以上考え込まれると本当にとある有名な石像の様になってしまいそうな気がして、セシルは深い溜め息を盛大に吐いた。

「もしもしケビンさん?」
「ふぇ?」

 最早素頓狂を通り越して頭の螺子が二本程抜けた様な声で、セシルは苦笑いするしかいられなかった。
 その煮詰まり具合もなかなか半端な物では無いらしい。
 ひょっとして脳が溶け出し始めているのではないだろうか。

「だから、深く考え過ぎなんだよケビンは。主役だからってあれこれ考えるんじゃなくて、もうちょっと単純にイメージしてみても良いんじゃないかな」
「単純に…って、例えば?」
「そうだね。じゃあ、悪役を演じる時はどんな感じが良いと思う?」
「悪役って…どんな?」
「そうじゃ無くて、取り敢えず悪役って言われてどんな風に演じれば良いと思う?」
「うぅ…えっと。やっぱり、何だか悪そうに…?」
「じゃあ今度は、ゲームの主人公の勇者の場合」
「んと…。兎に角元気で勇気があって、何にでも頑張る感じ」
261835:2010/09/07(火) 03:33:31 ID:UMq0y+WI
>>260

 思っていた以上にケビンは感受性が豊かな様だ。
 また、それ故の想像力も創造力もかなりのものらしい。
 端的に言えば、ケビンは先入観でその対象となる人物の印象を捕らえない。
 否、捕らえる事が出来無い。
 人物の『器』を鳥の卵に喩えると、ケビンはその殻だけで無く中身も覗いてしまおうとしている様なもの。
 湯で卵か生卵か羽化しているのかも分からずに叩き割っているので、それまで正体が何も分からない状態なのだ。

(核心に迫った発言も、きっとここから…。だから、ボクはケビンが怖い)

 自分でも分からない、触れてはいけない場所に触れられてしまいそうで。
 その時ケビンは何を見るだろう。
 人間の『器』の禁忌に触れて、何を思うだろう。

「だったらこういうのは? もしその勇者は本当は臆病で、自分の住む村を追い出されて仕方無く冒険しているとしたら?」
「な、何それ…」
「お願いだから、答えて」
「えっと、んと…。えぇ!?」

 一つの『勇者』と言う事柄から、様々な勇者像を無数の放射線状に描いていく。
 しかし前提を大きく狭めてしまうと、忽ちその像を描けなくなってしまう。
 況して、主役であるが故に脚本と言う名の糸に搦め取られている人物は、ケビンの最も苦手となるだろう。

「分からない、分からないよ…。セシル……」
「…そうだろうね」
「え…?」
「ケビンは多分今まで取分け自由な役を演じて来たんだと思う。大まかな役割を当てられて、そこからケビンなりにそのキャラクターを描いて来たんじゃないかな」
「そう…なのかな?」
「うん。だから、色んな設定が決まっている主役に、多分無意識に拒絶してる」

 果たして今の話を理解したのか、ケビンは閉口してしまう。
 不安を象徴する様に、ケビンの表情は曇っていた。

「僕は、やっぱり主役には向いて無いのかな…」
「ケビン…」

 話の流れから、ケビンがそう思うのも必然の流れだろう。
 そんなケビンにセシルは軽く微笑みながら、ゆっくりと首を横に振った。

「違う。そうじゃ無いんだ。寧ろ、ケビンだからこそ向いているんだと思う。だってそれは、ケビンの思い通りに主役を描く事が出来るんだから」
「僕の…?」
「そうだよ。話に合わせてケビンが演じるんじゃなくて、ケビンに合わせてボク達が演じるんだ。ケビンはケビンの思うまま、感じたままに素直に演じれば良いんだよ」
「思うまま…。僕の……」

 両手を胸に当てて、ケビンはゆっくりと目を閉じる。
 その両手を包み込む様に、セシルもケビンの胸に手を置いた。
 繋いだ両手を通じて感じる、ケビンの温かい生命の鼓動。

「思い出してみて。何も知らないで始めて台本を読んだ時、どんな像を思い浮かべたか。ケビンの心の中に、胸の中に生まれた、ケビンだけの主人公の姿」
「僕の中の、僕だけの………僕」

 トクン…と、一つの鼓動がケビンの胸の中で脈打つ。
 その中に、セシルは一人の少年の姿を見付けた。

(ケビン…)
262835:2010/09/07(火) 03:35:01 ID:UMq0y+WI
>>261

「少しだけ、見えた気がする。きっと、それが僕の中の、僕だけの主人公なんだと思う」
「うん。ボクも感じた。ケビンの中に生まれた、ケビンだけの主人公」
「セシル…。僕、間違って無いんだよね?」
「そうだよ。自信を持って、ケビンの中の主人公を演じて行けば、きっと…」
「………うん」

 今回に限らず、これからのケビンの演じる全ての人物に、生命を吹き込む事が出来る様に。

「セシル、ありがとう」
「…ボクは何もして無いよ。ケビンが自分で気付く事が出来た。それだけ」
「でも、その切っ掛けをくれたのはセシルだから。僕がそう言いたいだけだから。それに…」
「それに?」
「撮影所でセシルが弾いてくれた曲が、何となく思い浮かんで。それで、鮮明になったんだ。だから、ね?」
「そ、それは…」
「え?」
「ううん、何でも無い。そう言ってくれると、ボクも嬉しいな」
「良かったぁ…」

(………うん、良かった)

 心の底で安堵する。
 こんな自分でもケビンの役に立てるのだと、初めて実感出来る。

(こんな事ケビンに言ったら、また怒られちゃうかな?)

 そう思うと、余計に自分のネガティブな思考が浮き彫りになって来る。

(駄目だなぁ。どうしてもケビンと比較してしまう)

 安直な比喩をすると、自分とケビンは光と闇。
 だがその喩えは完全に相対的で、決して結ばれて良い関係では無い。
 寧ろ、決して交わる筈の無い存在になる。

(馬鹿だなぁ。自分で勝手に考えて、自分で勝手に沈んでしまうんだから)

「それじゃあ、もう一度やってみようか」
「今度はきっと、上手く行く…かな?」
「そんな自信じゃ駄目だよ。ケビンが出来るって思わなきゃ絶対に出来無いからね」
「そう…だね。そうだよね」

 純粋な微笑みが、セシルを支配する。
 それをそうと気取られ無い様にするには、セシルには寂しく微笑む事しか出来無かった。
 一瞬『原石』と言う言葉がセシルの頭を過ぎったが、すぐに掻き消えた。
 石は確かに磨けば輝きが出て来るが、その実少しずつ削れて小さくなって行く。
 だが、ケビンは磨けば磨く程、その器としての技量が大きくなって行く気がした。

(そう。まるで…)

 終わりの無い音楽。
 終演と言う名の終焉が訪れる迄、ケビンの音楽は終わる事は無い。
 『ケビン』と言うセンタースポットの一角の奏者に自分も首を並べる事が出来たら。

(ボクにとってそれは、嬉しい事なのかな…)

 違う。
 そんな事で済まされる程に我欲が小さい筈は無い。
263835:2010/09/07(火) 03:37:00 ID:UMq0y+WI
>>262

(どうして、自分が分からないんだろう)

 考えるベクトルがそれぞれ好き勝手に向いてしまい、その針に身体中を搦め取られている気分だった。
 もう人形での比喩は使いたく無い。
 だが、今は人形である方が良いと思える。
 感情を持たない無機物の存在の方が、まだまだ救済されている気がする。

(これじゃあ、完全に…)

 死刑囚。

「セシル?」
「え…?」
「ぼ〜っとして、どうしちゃったのさ」
「あ、うん…。自分の事考えてた」
「セシルの? それってやっぱり、セシルも演技に迷ってるって事?」
「うん。そんなとこ…かな」
「セシルも…迷ってるの?」

 暖かな表情が少し冷めてしまう。
 どうやら切り返しを間違えたらしい。
 しまったと思いつつも取り敢えずその方向で話を進める事にする。
 決して間違いでは無いのだから。

「不安って訳じゃ無いんだけど、疑問が無い訳でも無い…って感じかな」

 見事なまでに無い無い無いと曖昧な文章が台詞に表れた。
 流石のケビンも苦笑とも取れなくも無い微妙な表情を浮かべる。
 当然の反応ではある。

「まぁ、簡単に分かるものでも無いしね。セシルも一緒に見付けて行こうよ。僕達だけの主人公を」
「…そうだね。そうだよね」

 不思議と気分が良かった。
 自分が言った言葉と同じ言葉を返されただけなのに。

(同じ…?)
264835:2010/09/07(火) 03:37:22 ID:UMq0y+WI
>>263

「あ…」
「どうしたの?」
「ううん、ちょっと思い出した事があっただけ。大した事じゃ無いんだけど」
「なんだ、そう言う事か。でも、何だかそう言うのってムズムズする」
「そうだね。今度教えてあげるから、今は気にしたら駄目だよ」
「う〜」

 果たしてその時は来るのだろうか。
 今のセシルには出来ればその時が来ない事を祈るだけだった。

(同じじゃ、無いんだ…)

 自分がケビンに言ったのは、飽く迄“ケビンの”主人公を指しただけ。
 だが、ケビンは“二人だけの”主人公と言った。
 ケビンにとっては些細な言葉であっただろうが、自分はそう捉えない。
 二人だけが共有出来る、“二人だけの”主人公。
 それはセシルはケビンにとって特別な存在である事を暗喩出来る確かな確証に他ならない。

(そうか、ボクは…)

 ただ確証が欲しかった。
 ケビンと一緒居るだけの資格が欲しかっただけ。

「ありがとう、ケビン。大好きだよ…」

 ケビンに気付かれない様に、セシルはひっそりと呟いた。
265835:2010/09/07(火) 03:46:40 ID:UMq0y+WI
勝手ながら夏休みいただいてました。
電車の中とかでちまちま書いて結局前の投稿からこれだけ。

>>247-248
通常版読んだあとのカタカナ版の破壊力が半端無い。
これで中の人(お面的な意味で)とか想像したら鼻血出そうになった…。
GJ!


うちの地元電子マネー対応の筐体が来るとは思えないからカード手に入らない…。
畜生!!
266名無しさん@ピンキー:2010/09/13(月) 22:02:36 ID:fqFQH4PU
テス
267名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 13:47:29 ID:q/KkMpm0
なんか過疎ってんな、誰か六×MZD書いてくれないか期待
268390:2010/09/14(火) 15:40:06 ID:DWI6BGFo
>267
IDにKKがいるな
MZD×六じゃダメなのか?
269名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 17:49:29 ID:q/KkMpm0
>>268
クソ!Mrも付いてれば完璧だったのに!
六×MZDが好きなんです><でも人気有るのはMZD×六っぽいな、残念だ。
270名無しさん@ピンキー:2010/09/14(火) 17:50:29 ID:q/KkMpm0
sage忘れてた、すまん
271名無しさん@ピンキー:2010/09/22(水) 01:23:17 ID:J90PCA/5
保守する
272名無しさん@ピンキー:2010/09/24(金) 16:07:51 ID:63cNp48t
書き手来ないかなー
273流石先生 1/4:2010/09/27(月) 23:45:42 ID:eUzgASHZ
激しく書き途中なんだが、あんまり投下なさすぎるのも寂しいので


今年度の新2年生のクラス担任を受け持つことになった教師達にとって、六はやっかいな生徒であった。
授業を平気で無断欠席しては体育館裏や屋上でさぼっていたり、また授業に出ても常に無気力で、授業道具も出さずに眠っていることがしばしばある。
教師に注意されてもまるで耳に入っていないかのような態度を取り、怒鳴られると逆上して手近な物を攻撃して威嚇する。
そのため他の生徒から疎遠にされ、さらに六自身の協調性のなさも手伝って、昨年度の学校行事などでクラスに協力することなどは皆無であった。体育祭や文化祭に出席しなかったのはもちろんのこと、掃除やクラスで分担して決めた仕事も一切手伝おうとしなかったのである。
その上六の保護者はやくざの親分と来ており、学年主任や校長に至るまでがこの問題児をどうにか指導することもできず、野放しにしたまま一年が経過してしまった。
クラス分けが終わり、誰が六のいるクラスの担任になるか悩んでいた時、この春新しく赴任してきた社会科担当の男性教師が潔く名乗りを上げた。

4月5日の始業式の日、体育館のステージ上で新しく赴任してきた教師が紹介されるのを、六はパイプ椅子に足を組んで座って見ていた。
学ランの制服もだらしなく着崩れており、無愛想な顔立ちに鮮やかな青い髪の派手な外見だけでも、周りに近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
下手から順番に新顔の教師の紹介がされていき、それが終わりに差しかかった時に、六の担任になる男性教師は立ち上がった。黒いスーツに身を固めた、背の高い茶髪の男だった。
「**区立**中学校から転勤されてきました、社会科担当の最上流石先生です。最上先生には新2年3組の担任と、剣道部の顧問を受け持っていただきます」
司会の教師が簡単な紹介をすると、最上流石という教師はよろしくお願いしますと言って一礼する。教師には似つかわしくない色男で、同学年の女子生徒の何人かがうっとりとしている。
昨年度をもって定年退職した社会科の爺の後釜だろうが、若くて体力もありそうな、面倒臭そうな奴が担任になったと六は心の中で毒づいていた。
274流石先生 2/4:2010/09/27(月) 23:47:13 ID:eUzgASHZ
就任式の後に始業式が始まり、校長の長い挨拶を聞いた後、新2年、3年の生徒はそれぞれの教室に戻った。
六は早々と廊下側の自分の席に突っ伏し、クラスメイトの雑談に機嫌を悪くしながら、早く帰りたいと思っていた。数分後に最上が入ってきて、彼が教壇に立って話を始めても、六は顔を上げずにいた。担任が替わろうが、1年の時と同じスタンスで過ごそうと思っていたのである。
すると突然最上の声が止んだかと思うと、六のすぐ横で何かが勢いよく叩きつけられ、そのすさまじい音と衝撃に六は弾かれたように起き上がった。見ると竹刀の先が机の上に乗っかっており、顔を上げると、目の前に立った最上が得意げに微笑んでいる。
「俺は剣道六段の有段者だ。こんなことに使っては武士道に反れるが、お前の担任になった以上はその根性叩き直してやるから覚悟しておけ」
さらっと言ってのけたようだったが、深緑の瞳から放たれる視線には抗いがたい威圧感が込められており、六は硬直して睨み返すこともできずにいた。最上は竹刀を肩に担ぐと、腰辺りまである結った髪を翻して、話を再開させながら教壇に戻っていく。
六はしかたなく組んだ腕の上に顎を乗せて、ふて腐れながらも最上の話を聞き始めた。
「掃除が終わったら、各自ただちに下校するように。明日は国・数・英の実力テストがあるが、春課題がまだ終わってない奴は、テストはともかくそっちを優先しろ」
最上がからっとした調子でそう言うと、教室全体にどっと笑い声が起こる。六はそれがうるさそうにますます顔をしかめた。
当然六は課題など全く手をつけていなかったが、そんなことはどうでもよかった。さっき睨むこともできなかった悔しさも手伝って、早くも最上への反抗心を燃やしていた。新しく赴任してきた最上を、早く学校から追い出してやりたいと思っていたのである。
275流石先生 3/4:2010/09/27(月) 23:49:38 ID:eUzgASHZ
チャイムが鳴り、各教室から一斉に机を下げる騒音が響き渡る。
六は自分の机を下げてしまうと、学校指定の鞄を手に取り、下駄箱に向かった。他の生徒が掃除をしている中、六一人が堂々と帰っていても、教師達は誰も注意しなくなっていた。
学校で生徒が教師の手に負えない問題を起こした場合、その保護者に連絡するか、あるいは学校に来てもらって指導の協力を仰ぐものだが、やくざ相手では恐ろしいのがわかっているから、六も安心してこのような学校生活を送れるに至っているのである。
強気に出たあの最上も、例外ではないだろう。六はざまみろと最上に嘲笑しながら、悠々と校門に歩いていく。
「おい、掃除をさぼってどこに行く気だ?」
ところが校門を出たところで、最上に声をかけられ、思わず六は立ち止まる。最上は校名が彫刻された看板のある門柱に背を預け、煙草の煙をくゆらせて余裕の表情を浮かべていた。竹刀は持っていないようだった。六は舌打ちする。
「…家に帰るんだよ」
「そんなの見ればわかる。掃除して帰れと言っとるんだ」
「今さら戻ったってほとんど終わってるだろ。じゃあな」
六はそう言い捨てて、最上の目の前を足早に通り過ぎようとしたが、強い力で右の二の腕を掴まれ、きっと最上を睨みつける。
最上は20cm以上身長差のある六を見下しながら煙草を吸い、それから細く長く息を吐いて、六の顔面に煙を浴びせかけた。六はけむたいのにむせて咳をし始めた。
「てめえ、生徒にこんなことしやがって、ただじゃ済まさねえぞ!」
煙が晴れると、六は涙目になりながらも最上を睨みつけ、手を振り払いながら声を荒げた。しかし最上は意に介さない様子で、ポケット灰皿に吸い終わった煙草を入れている。
余裕を見せつけられてさらに逆上した六は、最上の顔面めがけて右ストレートを放ったが、軽々受け止められ、拳を強く握られながらにっこりと微笑まれて動けなくなってしまう。
「ただで済まないとは、大人に頼んで俺を懲戒免職にするということか?無様だな」
「うっ…」
「来い。お前には一人で武道館の掃除をしてもらう」
有無を言わさず最上は六の後ろ手を一掴みにすると、六を校舎や体育館とは別館の武道館に連行していく。
武道館は体育館の2分の1程度の広さしかないが、風通しが悪いため、一人で掃除をするとなると暑さでうだってしまう。当然終わるまで最上に監視されるのだと思うと、六は早くもぐったりして、半ば引きずられるように歩いていった。
276流石先生 4/4:2010/09/27(月) 23:53:01 ID:eUzgASHZ
「まずは箒できれいに掃いて、それが終わったら雑巾がけだ。さっさとしろ」
最上は武道館の中に六を押し入れると、ロッカーから箒を手渡して、鍵をかけた唯一の出入口の前に座り込んだ。
六はいら立ちながら鞄を出入口付近の壁際に放り投げ、その上に学ランとシューズソックスを脱ぎ捨てると、ズボンの裾を膝下までまくり上げて、箒片手に柵つきの掃き出し窓を勢いよく開放していく。
連続した全ての窓を開けると、六は窓から塵を掃き出すように、乱雑に箒を動かし始めた。窓から差し込む陽光に照らされて、細かな塵が煙を巻き起こして宙を舞うのがよくわかった。
最上は壁際に放置された六の鞄を開け、中身を物色すると、分厚い週刊漫画雑誌を取り出す。
「俺モーニングが読みたいんだが、ジャンプしかないのか」
「おい勝手に開けんな!」
「学校に漫画を持ってくる方が悪い。まあいい、掃除が終わるまで読ませろ」
そう言って、最上は表紙をめくる。
最上の教師らしからぬ破天荒かつ勝手気ままな行動に、六は呆れてものも言えなかった。ここまで来ると人としての常識も危ぶまれる気がするが、それを六が言及しても無駄だろう。
六は不愉快だったが、最上に背を向けると、黙々と掃除を再開した。
箒で掃いている間は楽だったが、四つん這いになって水拭きをし始めてからは、足腰がだるくてたまらなかった。4月初旬とはいえ、ほぼ無風のぽかぽかした陽気の中で動き回っていては汗が噴き出してくる。
30分以上かけて掃除を終わらせた時には、六は床の上にぐったりと横たわっていた。四肢を投げ出し、大の字になって力なく横たわっている六の顔を覗き込み、最上は満足そうに微笑んだ。
「お疲れさん」
六は最上と目が合うと、ふいと顔を逸らした。単純に最上が気に入らないのもあったが、二枚目俳優のように整った顔立ちの男に間近で微笑まれ、直視できないいたたまれなさの方が強かった。
くすくすとかすかに笑う音がして、六は赤面し、余計いたたまれない気持ちになる。
「お前課題やってないだろう。答えを写してでも明日には提出しろ」
「教師がそんなこと言っていいのかよ」
「出すか出さないかでも評価は変わってくる。いいから明日は必ず持ってこい」
「やなこった」
二度念押しされるも、六は寝返りを打って最上に背を向ける。言っても聞かない相手だが、それこそ指導のやりがいがある。最上は数秒置いて、わざと落胆したようにため息をついてみせると、上に向けられていた六の左肩を鷲掴んだ。
「だったらやるまで帰さん。監禁だ」
「はあ!?」
素っ頓狂な声を上げて六は勢いよく跳ね起き、最上の胸ぐらを掴んで食ってかかった。最上は笑いもせずに、血のような強い赤の瞳で睨んでくる六を真顔で見返している。
「てめえさっきっから調子づいてんじゃねえぞ!本当に明日から学校に来れなくしてやろうか、ああ!!」
すると最上は六の両手首を掴むとそのまま押し倒し、板張りの床に六を叩きつけた。六が背中をしたたかに打って、顔をしかめて痛がっている隙に、最上は六の上に馬乗りになった。
マウントポジションの体勢を取られ、身動きが取れなくなった六は、最上に迫られてすっかりひるんでいる。
「緊張してるのか、可愛いな」
「んっ…!」
最上は頭を傾けると、六の右耳の穴に舌を差し入れた。濡れた生温かな肉塊が穴の中を這い回るのと一緒に、煙草臭い吐息が耳に吹きかかり、六はくすぐったさと心地悪さに背筋をぞくぞくと震わせる。
277名無しさん@ピンキー:2010/10/02(土) 21:46:50 ID:k24crOzn
wktk
278名無しさん@ピンキー:2010/10/03(日) 22:28:57 ID:Tc7LNTVf
続きワクテカ

いつも流石と六の関係がいいなちょっと流石が優位な性格で六が未熟な感じがイイ
279390:2010/10/11(月) 16:09:21 ID:Tyzw7X5P
学校の清掃員か用務員にKKを、六の付き人に蔵ノ助を使うか考えながら保守
ホモの学園ラブコメってねえなw
280名無しさん@ピンキー:2010/10/11(月) 21:08:00 ID:496XMq+r
DJキャラのはまだ無いのか…。
安西先生…エレキ×鉄火が見たいです。
281名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 02:11:13 ID:sep2nKqU
DJキャラいいよねぇ
今作のリザルト絵の衣装がなんかエロくて曲終えるたびにドキドキする。
デュエルのおっぱいと士朗さんの脇はぁはぁ
282名無しさん@ピンキー:2010/10/13(水) 20:18:48 ID:ugK+6wAP
>>281

いいねDJ、筋肉最高!
俺ヘタクソだからAまでしか見れてないけど、早くエレキがみたいなー
283835:2010/10/20(水) 02:39:06 ID:R/sJB4YO
エロで詰まった…orz
このスレの書き手の人達ってどんなのを参考にしてるのか教えて欲しいです。

>390(>>279)
そんなことないない。
てか、厨房六かわえぇ。
これは是非王道を突き進んで欲しい。
体育倉庫とか。


DJキャラか…
扱ってみたいけど何となく難しそうなイメージがあって手が出せない
284390:2010/10/20(水) 22:39:48 ID:6b5fx2O1
画像でもSSでも何でもいいから、エロの参考になりそうなものは目を通して、自分が(゚∀゚)コレイイ!!と思ったシチュエーションやプレイをどんどん蓄積していくんだ
このスレに書き込まれてるレスを読んでみるだけでも、このネタはいいなって思う時がきっとあるよ

俺は前スレ辺りで、六に綿棒とフリスクを…って書き込みを読んで、綿棒とフリスクにこんな使い道があるのかって新しい発見をしたよw
あと初代スレで髪コキを髭コキと間違えた奴がいて、今考えてみると、例えばKKとか蔵ノ助とか髭のあるキャラがアナル舐めとかしたら髭の感触がチクチクして気持ちいいんじゃないかって思うわww
285名無しさん@ピンキー:2010/10/21(木) 23:44:57 ID:WQ5uxG0h
ニッキーのカワイイよハアハア
保健ラップがエロ過ぎるぜ。
286名無しさん@ピンキー:2010/10/22(金) 00:46:02 ID:V0z2rcRG
>>283
スランプは辛いよな。
気分転換に、書いたこと無いキャラで書いて見るのもいいんじゃないか?
そうつまり、DJキャラとかDJキャラとか中でも慧靂×鉄火とかの事だ!
どんなの来ても文句言わないから、絶対言わないから!!!

あとこのスレでは書いてないが自分で書くときは、好きな作品エロパロの女×男の小説とか参考にしたりする。
287名無しさん@ピンキー:2010/10/23(土) 21:03:20 ID:oGfGh89f
書き途中だけど、モチベupの為に投下
3連続で牛と太陽というのはどうかと思ったので趣向を変えて

その日は吹雪と言ってもおかしくない雪が吹雪いていた。
仕事の帰りにバスから降り、そこから家に徒歩で公園を経由して帰るといういつもの日常。だが今日だけは違った。
この吹雪の中、人気がない公園に独りポツンとベンチに体育座りで子供がいた。
黄色い顔に頭の後ろについてる長い尻尾、ところどころに黒の縞模様も見える、カメレオンと形容するのにふさわしい容姿だ。
しかし、吹雪の中ででも遊んでいると言う元気な様子では無い。
身につけている服は防寒用の服装、しかしこの吹雪の中ではあまり意味がない、せいぜい雪遊びに着て行く、そんな気休め程度の服を着ていた。
そんな様子を見て見ぬ振りが出来るほどパンデスは非情では無かった。

「オイボウズ、何でここにいるんだ?
こんな雪の中寒いだけだぞ?家に帰らないのか?」
子供に近づき疑問を問いかける。

「おとうさんとおかあさんが、ここで待ってなさいって」
疲弊しているせいだろうか、警戒の気など出さずにこちらを向かず下を向いたまま機械的に答える。
近くで見ると目元や鼻の辺りがかなり赤くなっている事が分かる。それだけ見ても待っている時間が10分、20分程度ではない事が分かる。

(こんな吹雪の中に待たせておくとは…ひでぇ親だな)
吹雪の中に長時間待たせた張本人であろう子供の親に嫌悪感を抱く。
288名無しさん@ピンキー:2010/10/23(土) 21:04:14 ID:oGfGh89f
「どれくらい待ってるんだ?1時間くらいか?」
子供は時間を聞かれて辺りを見渡し、近くにあった大きな時計台を見て答える。
「えっとね、とけいのながいはりが6のところにいたくらいから…?」
しかし今の長い針の位置は10を指している。もし子供のいうことが本当であれば4時間待っていることになる。
4時間も待っているという事を聞いてより一層子供の両親への嫌悪感が増す。

「おいボウズ、こんな寒い中にいたら大変だろうから一旦おじちゃんの家に来ないか?別に変なことはしないから大丈夫だ。もし怖いと思ったら大声を上げても良いぞ?」
本来なら交番にでも連れて行くのが正しいのだろうが、あいにくこの付近には交番といったものがなかった。
一番近いところが車でも30分かかるところだ、徒歩で行くには厳しい距離だ。その為今は自分の家で保護した方が良いだろうと判断したのだ。

「…でも…もしおじちゃんのいえにいるときにおとうさんとおかあさんがもどってきたら…」
一瞬だけ迷ったようなそぶりを見せたが子供はそれに応じ無かった。すでに何時間も待たせられているのにまだ両親の方を気にかける、
流石は親子といったところだろうか。しかし4時間経っても来ないと言うことは今日ははここに帰ってくることはないだろうと予想する。
鍵を落として親が返ってくるのを自宅の玄関前で待っているのとは話が違う。
絶対に帰ってくると言う保証がないのだ。
289名無しさん@ピンキー:2010/10/24(日) 12:08:43 ID:QXLND16/
スマン、よく考えたらこの板向きじゃない話だ、これ
290名無しさん@ピンキー:2010/10/25(月) 14:43:30 ID:WCetCdq0
これは続きが気になる…GJ!!
291835:2010/10/30(土) 01:33:15 ID:H5P+A4RH
う〜ん…
シチュエーションは何となく固まってるんだけど、如何せん描写が浮かんでこない。
とりあえず頂いたアドバイスを参考にしてみまう。
以前エロパロスレなのにエロをぶっちるという荒業ぶちかましてしまったんで、いい加減マズイ。

>>289
ちょっと、どう言う事…?
続きが気になって仕方が無いです。
292名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 17:30:24 ID:HvlICCMF
だれか、だれか、DJキャラを…。後生ですから…。

>>288
ワッフルワッフル

>>291
わかるわかるw
脳内ではアニメ形式で再生されてるせいか描写し難いんだよな…。
293名無しさん@ピンキー:2010/10/30(土) 17:40:34 ID:WBr2etqM
>>291
同じこと言ってるけど エロが無い
投稿した後にここは エロパロ板 だと思いだした。

エロなしはまずいよなー…
294876:2010/11/01(月) 01:18:45 ID:YMuvHrmP
エロ無しでも萌えられれば良いと思うんだけどなあ
エロパロ板でも「エロしか認めない」って事はないと思うし
295名無しさん@ピンキー:2010/11/01(月) 12:30:52 ID:DhI4kfbb
エロ無し作品ってけっこうあるよな。
ポプでエロパロ板とかもそうだったし。
296名無しさん@ピンキー:2010/11/01(月) 14:15:53 ID:t5XK91pu
そっかーいいのかー
まあ2作品もエロ無し投稿しといて何を今さらって感じだけどね、自分は。

とりあえずわっふるわっふるされたのでそのうち投下します。
297名無しさん@ピンキー:2010/11/06(土) 22:13:51 ID:aUCLtYpN
ほしゅ

ついでに、ジェノサイドの青年×ギガデリックの少年が見たいと囁いてみる。
298876:2010/11/06(土) 23:49:17 ID:rVq4AuvH
>>118を読んで今更マサムネ×ダイを書き始めたのですが
マサムネもダイもキャラクターが掴めず困っていますorz
299名無しさん@ピンキー:2010/11/11(木) 20:17:25 ID:fxSBNgMV
保守
300390:2010/11/11(木) 22:35:58 ID:SU/UpZKj
六「今日はポッキー&プリッツの日だな」
流「なんだ六、ポッキーゲームでもしたいのか」
六「誰がしてえって言った。スレの住人に話題振ったんだよ」
流「スレが過疎化しているというのに、返事が返ってくるわけ…おい、このスレを見ている者が皆ポッキーを銜えて待機しているぞ」
六「…全部口ぎりぎりのところで斬り落としてくらあ」
流「では六、それが終わったなら、某の股間のポッキーでポッキーゲームを」
六「言わせねえよ」
301835:2010/11/13(土) 14:45:05 ID:bAkXSUvD
>390
しまった、そんな日があったのか。
翔とか何も知らないで遊べそうなのに…

>>293 >>296
エロなしが駄目なんじゃなくて、エロが“あるのに”すっ飛ばしたのがマズイと言ったつもりだったんです。
寧ろここの皆は寛大だし、作品が投稿される事に意味があると思うよ。
困惑させるような文章書いてスミマセンでした。

>876
マサムネの見本は多分と言うか間違い無く歴史人物じゃなくてレッツパーリィ!のあの人だから参考にしてみては。
ダイは…どうだろう。
モデルがあの人だから脇とか攻めてみたらいいと思う。
体系が大分ショタ化してるのも是非生かして欲しい(私的最重要点)!!
302名無しさん@ピンキー:2010/11/13(土) 18:51:59 ID:xq9QOLEt
ハロウィンに投下するつもりだったけどすぎちゃって
しかもポッキーまで来ちゃったから日の目をみることが無くなりそうなので、書きかけだけど投下
冬の方も書いてるのでもうちょっと待っててください! どうでもいいけど身バレしそうな組み合わせ

「ねーパンデス」
「なんだ?」
枕に頭を乗せベッドで仰向けになって本を読んでいるパンデスに馬乗りのゲレゲレが呼ぶ。
「ハロウィンって知ってる?」
「ハロウィンってあれか?オバケの格好してお菓子をくれなきゃ悪戯するぞ!ってやつ」
読んでいる本を置き枕の左に置き、ゲレゲレの方を見て質問に答える。
「正解、それじゃあそのハロウィンはいつやるのでしょうか?」
「えーと何時って言っても…秋か?」
「秋のいつ?」「10月か11月?」
続く質問にうろ覚えの知識で答える。
しかしその症状は苦虫を噛み潰したような顔だった。
こんなクイズみたいな出来ごとは今までも何回かあった。
しかしその全てが何か無茶な物を要求するものだった。
恐らく今回も無茶な物を要求されると分かっているからだ。
「んーまあ正解、正解は10月31」「31日って………今日だな」
少し迷った後正解を告げる。その答えにパンデスは若干驚く。
「だから…トリックオアトリート!!」
腹に当てている両手を水道の水を手を使って飲むときのように、パンデスの顔に向ける
「…それを言いたいが為にわざわざ説明したのか?」
「ウン」
あきれ顔に笑顔で返すゲレゲレ。
「おまえ、仮装してないよな」「変態の仮装」
疑問に当然の如く迷いなく言い切る。
「…俺お菓子とか甘い物は好きだが、買い置きなんかしないからお菓子とか今は無いぞ」
「えー無いのー?つまんなーい!お菓子ちょーだい!」
目的の物が無いと分かったら自分が据わっている腹をバシバシと叩き、抗議の声を上げる。

「つまんないと言われてもなー分かった分かった、今から買ってくるから!で、なに買ってくるんだ?」
「ンーとね……なんでも?」
左手の人差し指を口にあてしばらく考えた後、頭を傾け一番対応に困る要求をする。

303名無しさん@ピンキー:2010/11/13(土) 18:52:39 ID:xq9QOLEt
「なんでもって…せめて何かしら言ってくれないとチロルチョコとか買ってくるぞ」
「えー…さすがにそれじゃあね…じゃあパンデスが好きなお菓子を買ってきて、コンビニでもいいから」
「おまえが喰うんだろ?」
「いいから早く!」
前にもこれと似たようなことがあったが、その時は「えー?何でも良いって言ったからホントにこんなの買ってくる人いるのー?」という
嫌な声をあげられたという前歴があるなと思うが口には出さずに飲み込む。
同時に自分が食べるものを完全に他人の好みに任せてよいのかという考えも浮かぶ。
しかしその疑問は急かす声によってうやむやにされる。
「ハイハイ行ってきますよ」
腹の上の事など気にせずに起き上がり、カメレオンが後ろに倒れる。
起き上がりパンデスの方を見るとその時には玄関で靴を履いていた。
ベッドから玄関までは結構な距離がある。
目を離していたのは3秒ほどだと言うのにもうあそこまでいけるのは流石はおばけと言ったところか。
「いってらっしゃい」
右手首だけを動かして手を振りパンデスを見送る。
「1時間位で帰ってくる」
「わかったー」
距離があるのですこし声を大きくして答えるが、言い終える頃にはすでにドアを殆ど閉じかけ、扉の向こう側にいた。
了承の声が伝わったか若干不安だが伝わったと思い込む。
「1時間の間ヒマだなーギターでも…あれ?1時間?」
パンデスが買ってくるものは大体予想が付く、しかしそれは近所のコンビニで10分もあれば買って来れる距離だ。
1時間もかかるのはおかしい。
304835:2010/11/14(日) 01:00:34 ID:mX/Q0+V8
>>264

 その日、撮影所の空間は長い静寂に身を包んだ。
 輪状に並べられた椅子の中心に立つケビンとセシル。
 この場に居る誰もが二人から目を離せないで居た。
 この場を纏める二人の眼は鋭く、センタースポットのケビンとセシルを捕えて放さない。
 それに負けない様に、ケビンとセシルも二人から決して目を逸らさなかった。
 やがて、一つ…また一つと、溢れんばかりの拍手の華が咲き誇る。
 それに監督も青年も含まれている事に気付き、ようやく二人は緊張を解き思わず微笑み合った。

「いやいや、全く信じられんよ。あんた達、この前とはまるで別人じゃないか。正直、酸素ボンベの準備もしてたんだけど必要無かったみたいだね」
「どう言う意味だよ!」
「そのままの意味に決まってるだろ馬鹿」
「うっ…」

 余りにもストレートな切り返しが来た為にケビンは言葉に詰まる。
 セシルもそれなりに不憫には思ったが、監督の言い分が尤も過ぎるので黙っておいた。

「しかし、素直に驚いたな。つい先日まで本当に湿ったマッチみたいだったケビンがここまで大化けして来るとは。夢は見てみるもんだな」
「おい、その辺にしておけ。本当の意味で枯れて来てるぞ」
「良いさ。生意気に一皮剥けて来たんだ。この位叩きのめしておかないと、割に合わないと言うものだからな。何より私の気が済まない」
「むぅ〜」

 実に面白く無さそうにケビンは頬を膨らませている。
 その余りの可愛さに思わず抱き締めそうになったが、周りの視線があるので出来る限りの理性で自分を抑制した。
 既に沢山の子供達に質問責めにあってそれ所では無かったが。
 そんな中、監督の視線がケビンでは無く自分に向いていると気付くと、監督は親指を上に突き出しながらウィンクをする。

「よしよし。じゃあ前に言った通り、撮影を視野に入れて始めてみようじゃないか。仮撮りもやるつもりだから、あんた達気合いを入れなよ」
「今回は随分と急かすんだな」
「いやぁ、少しぐらい無茶してみても悪くないと思ってさ。あの二人を見てたらね」
「監督…」
「その方がほら、弄り甲斐があるってものだろう?」
「無いよ!」

 ああは言うが、やはり監督もケビンの急成長を素直に認めているのだろう。
 それを考えると、決して監督の言い分も暴論では無いだろうと思う。

「それに、ほら。この撮影が早く終わってしまえば…」
「む、そうか。そうだったな」
「え?」

 素頓狂な声をケビンは上げる。
 そしてそれはセシルも同じだった。

「どうしたの?」
「いや、その話は後だ」
「そうだな。要はあんた達の頑張りに全てがかかってるって事。まぁ、他の奴等も同じだがな」

 途端に二人以外の子供達全員から、威勢の良い返事が一斉に上がる。
 呆気に取られたままの二人を取り残して、それぞれ気合いが入っていた。
 最早完全に取り残され、二人は取り敢えず周りの流れに乗るしか無かった。


 一通り予定していた分の仮撮りは終わり、丁度昼に差し掛かっていたのでその時点で一休みする事になった。
 全員それぞれ持参していた弁当を広げ、歓談に興じる。
 それは自然とケビンを中心とした集団に出来上がっていた。
 これは特別な場合では無く、普段からこの様な構図になっている様だ。
 セシルはそれに加わらず、少し遠い場所にある椅子に座って様子を伺っていた。
305835:2010/11/14(日) 01:03:30 ID:mX/Q0+V8
>>304

「ケビンって、皆に慕われてるの?」

 それと無く、隣りに座っていた監督に尋ねてみる。

「どうだろうな。慕われている…と言うのはいささか語弊があるな。単純に好かれている、と言えば正しいか。別段リーダーシップが取れている訳でも無いしな」
「それって、やっぱりただケビンの人の良さ…ってだけじゃ無いよね?」
「そうだな。何と言うか、ケビンは不思議と周りの人間を魅き付けるんだよな。本人の自覚は兎も角…な」
「やっぱり、ボクだけじゃ無かったんだ」
「特別なカリスマ性でもあるんだろうな。これで統制力もそれなりなら、言う事は無いんだが」

 それはセシルにも思う所はあったが同意の言葉は口にしない。
 完璧を求めてこそのケビンは、失礼だがケビンには思えないからだ。
 何処か抜けてるところがある方が、ケビンらしいし可愛い。

「ケビンは…」
「ん?」
「ケビンはここに居る時はいつも明るいの?」

 これは決してふとした疑問では無く、しばらくセシルの中に溜め込んでいた疑問。
 長い間ケビンと過ごしている彼女に、聞いておかないといけない疑問。

「まぁ、今あんたが見ての通りのケビンだったよ。一応は、な」
「一応?」
「容易に想像は出来ると思うが?」
「うん。多分ボクの考えは当たってる」

 孤独と言う枷から開放されて、また孤独に戻る暮らしが続いていたとすれば。

「ただの空元気だったよ。私達の前では元気良く見せて、終わりに近付くに連れて陰りが見えて来る。それでも…」
「監督は、気付いた素振りは見せられなかった。そうだよね?」
「未だに確証は持てんよ。これが本当に正しかったのか」
「どうなんだろうね。ボク個人としては、ケビンがボクに接してくれる切っ掛けの一つだから嬉しいけど。だけど…」

 問題はケビンの立場に回った時。
 幼い間に積もり続ける心の闇。

「ケビンにとっては、この上なく辛かったんだよね」
「その様を直に見た私達も同じだよ。まぁ、あいつはそれ以上だっただろうが。私達がその心配する様を見るのはもっと嫌みたいだ」
「…ケビンらしいね。最初、ボクと出会ったと気もそうだったから。本人が今ここに居ないから言えるけど、本当に最初は滑稽だった。正直、鬱陶しいって思う位」
「仕方無いだろう。自分より何よりも、他人が傷つく事を一番嫌うからな。何せ―」
「根本的に優し過ぎるから…でしょ?」

 黙って彼女は頷く。
 恐らくこの場所に居るケビン以外の誰もが、その事に気付いている。
 そして、それを直接言えないでいる。

「皆、ケビンが好きなんだね」
「そうだな。悲しい程に、仲間想いの奴等だよ。私も含めて、な」
「同意して良いの?」
「不満でも?」
「別に…」

 寧ろ、彼女らしいと思う。
 この劇団に良い意味でも悪い意味でもお人好しが多いのも、彼女の影響なのは間違い無い。
 監督と言う立場では鬼になれても、人間と言う人種で非情になる事が決して出来無い女性なのだ。
 それは決して子供達を甘えさせない。
 それでも慕われる理由なのだろう。
306835:2010/11/14(日) 01:05:04 ID:mX/Q0+V8
>>305

「ケビンは、いつからこの劇団に居たの?」
「それは簡単な話。あいつの両親と私は昔からの付き合いだったから、なかなか面倒を見れない二人に代わって…そのまま今に至るって訳。同じ例がもう三人。ここまで来ると託児所と変わらんな」
「悪くないと思うよ。アットホームな雰囲気は、ボク嫌いじゃない。それに…多分、ケビンは何よりもその雰囲気を欲しがってる。監督がケビンを大切に想っているのなら、ケビンが今が楽しいって思えてるなら、きっとそれは間違いじゃ無い」

 気が付けば、二言目にはケビンの名前が出ている。
 恐らく彼女も気付いていただろうが、その部分に言及はされなかった。
 ただ「そうか…」と呟くだけで、そこから先はずっと閉口したままだった。
 本当はもっとケビンの話を聞いておきたかったが、それは次の機会にした方が賢明だろう。
 そこでようやくケビンが自分に向かって手招きしている事に気付いた。
 監督の方に振り返ると、彼女は無言で頷く。
 どうやら行っても良い様だ。

「また、話聞かせてね」

 そう言い残し、セシルも歓談の輪に入る。

「監督とずっと話してたけど、何の話?」
「うん、ボクの演技の話。形にはなったけど荒があるんだって」
「そう、なんだ…」
「大丈夫だよ。形になるだけ練習した甲斐があるんだし、これからも頑張れって事だよ」
「だよ…ね。そうだよね」

 つい先刻ケビンを不安にさせないと、改めて決めたばかりなのだ。
 出だしから躓く様な羽目は避けなければならない。
 だが、ケビンは気付かなかった様だが周りの何人かは悟った素振りを見せた。

「そう言えばさっき話してたんだけど、ケビンの今日の弁当ってセシルが作ったんだよね?」
「えっと、そうだけど…」

 雰囲気に勘付いた内の一人が突然話題を持ち出す。
 それがその子なりの気遣いだと気付くと、セシルは自然な笑みを取り繕う。

「そうそう。今日ケビンったらすごく美味しそうに弁当食べてたから、気になって話しかけたの。そしたら…」
「良いよ、そこから先は想像出来る…」
「私達もね、少しだけ貰っちゃった。本当にセシルって料理上手なんだね」
「そうだよ。ぼくも、今度教えて欲しいな」

 「俺も」「あたしも」と、次々と挙手が上がる。
 流石にこの状況には参った。
 どう対処して良いか分からずケビンの方を見ると、満足仕切った満面の笑みを浮かべていた。

(ボクが相手じゃなかったら良いって訳じゃ無いんだよ!)

「どうしたどうした。随分と人気者じゃないか、セシル?」
「監督…」

 正直今一番来て欲しく無い人物が現れる。
 彼女はセシルにしか見えない様に不敵な笑みを浮かべた。

(しまった、確信犯か…!)

「盛り上がってた様だけど、何の話をしてたんだ?」
「皆でセシルに料理を教えて貰おうって話。セシルってすごい料理上手なんだって」
「ほぅ…それはなかなか興味深いじゃないか」
「どうして?」
「私はね、こう見えても料理にはそれなりの自信を持っているんだ。是非一度、その手腕を奮って貰いたいものだね」

 言葉の通り余りにも自信たっぷりに言い放つので、周りに喚声とどよめきが沸き起こる。
307835:2010/11/14(日) 01:10:19 ID:mX/Q0+V8
>>306

「監督って料理出来るの?」

 ケビンのその何気無い一言で、辺りの空気が凍り付く。
 流石にその雰囲気を感じ取ったらしく、ケビンは「うっ…」と唸る。

「おいケビン。その喧嘩買うぞ」
「ひぇっ!」

 後に聞いた事だが、その時ケビンは彼女の満面の笑顔に東洋の鬼の面が見えたそうだ。

「言っておくが、この女の料理は残念な事に完璧だ。それは俺が保証しよう」

 いつもの様に溜め息を交えた言葉を青年が代弁する。

「ちょいと、残念な事って何さ」
「そのままの意味だ。見た目も味も完璧な筈なのに何処をどうしたら調理場を戦場跡の様な惨状に出来る?」
「片付け係が居るから遠慮なく腕前を振えるからな。妥協は一切しないのが私の主義だ。今更その事をお前に教える必要はあるまい」
「片付けるのは俺なんだが」
「あら、そうだったかしら?」

 二人の間に明ら様な火花が見える。
 だが、周りの子供達が特に驚いた様子は無い。
 近くに居た小柄な少女がセシルにそっと耳打ちした。

「いっつもあの二人仲良いからびっくりしたでしょ?」
「う、うん…」
「あれはね、『ちわげんか』って言うんだよ」
「あ、なるほど…」

 早い話が『喧嘩する程仲が良い』間柄なのだろう。

(でも痴話喧嘩って…)

 仲睦まじい二人の喧嘩とそんな単語を知っている自分より三つも四つも年下に違いないこの女の子の将来に不安を抱かずにはいられない。
 まさかあの監督に妙な入れ知恵をされているのではないだろうか。
 そんな事よりあの二人以外の全員が思っているのは「練習いつ始まるの?」だろうが。
 しかし、見ている分には面白いのでしばらく黙っておく事にする。

「いつもの事みたいだけど、皆の前でやってるものなの?」

 二人に聞こえない様に、セシルは女の子に耳打ちを返す。

「ううん、いつもだったらここから少し離れた所でやってるんだけど。今日はちょっと珍しいね」
「そうなんだ…」

 どうやら自分はその日常茶飯事の中の特例を初めに見る事が出来たらしい。
 だからと言って全く得した気にはなれないが。
 苦笑いしながら辺りを見渡すと、ケビンやセシルと同年代以上の少女達が引き込まれる様に二人を見つめていた。

「ね、ねぇ…皆どうしちゃったの?」

 今度は比較的自分に近い年代の、それも現時点で正常な少女にそっと尋ねる。

「あぁ、あれね。皆あの二人の関係に憧れてるの。ほら、あの二人ってどうしても反りの合わないタイプ同士なのに、支え支えられって関係じゃない? だから、皆二人みたいな関係が羨ましいのよ。
だからと言っても、皆が皆そんな相手が居る訳じゃ無い。早い話、恋に恋してるって所かしら?」
308835:2010/11/14(日) 01:12:36 ID:mX/Q0+V8
>>307

 そうあっさりと言ったこの少女には、きっとそう思える相手が居るのだろう。
 その佇いには余裕すら感じられる。
 ここではある種の勝ち組と思っているのだろうか。

(まぁ、それはある意味ボクも同じなんだけど)

 それを彼女達の前で公言する勇気は微塵も持ち合わせて無い上に、その確証も持てる訳でも無い。
 …正直に言おう。
 自信が無い。
 あれだけの親密な行為を繰り返していても、未だに不安が付き纏う。
 転じてそれがケビンを信じていないと言う訳では無い。
 優しさに甘えている現状も一因ではあるが、もっと他に。
 それこそ胸の中を抉られそうな程の不安がセシルの中に潜んでいる。
 そして、それの正体が分からないのも不安をより引き立てる要因になっている。
 何より一番心配なのは…。

(ケビンが優し過ぎるからなぁ)

 ケビンがこの劇団の皆と仲が良いのは分かり切っているし、それに嫉妬もしない。
 寧ろそのケビンのお陰でこうしてこの場所に居れるのだから、感謝するべき事なのだ。
 では何が問題なのか。
 答えは問いのままで、ケビンが優し過ぎる事。
 突き詰めれば、誰にでもその広過ぎる心を開いてしまう事。
 恐らく監督も同じ事を危惧している様で、一番開いてに付け込まれ易い人間である事だろう。
 つまり、典型的な長所が仇になる人間なのだ。

(と言うより―)

 本人にその自覚が全く無い事が一番の問題だろう。
 付け込まれ易い所に加え、それをそうと気付かないまま相手の良い様にされ兼ねない。

(…そうだよね。ボクが、そうだったから)

 いや、“だった”と言う用法は間違いだろう。
 今もその甘さに縋り付く様に、文字通り甘えているのだから。
 つまり、自分にケビンの性格をとやかく言える資格なんて初めから無いのだ。

「セシル?」
「ん?」

 不意にケビンに肩を叩かれ、セシルは我に帰る。
 二人の口論は未だに終わっていない様だが、果たしてどれ程時間が過ぎたのだろう。

「ずっと二人を見てぼーっとしてたけど、どうしたの?」
「ちょっとね、考え事を色々…」
「ちょっと、色々…?」

 指摘されて初めてその矛盾に気付く。
 自分でもなぜこんな言い方をしたのか分からない。

「なんだか、セシルらしく無いね」
「うん。正直、ボクも驚いてる」
309835:2010/11/14(日) 01:14:26 ID:mX/Q0+V8
>>308

 どうも長考の度が過ぎている様で、軽い頭痛がする。
 が、ここでその仕草をしてしまうとケビンの不安に繋がる。

(うん、この配慮にはいい加減慣れたかな)

 慣れたは良いが、今のは完全にアウトだったろう。
 だが、どうしようも無い。
 自分で自分が分からない状態なのだから。

「やっぱり監督にキツい事言われたんじゃ…」
「どうしてそう言う発想に行き着くんだよ。ちょっと考えがごちゃごちゃになってるだけだってば」
「それって、大丈夫って言える…?」

 確かに、どちらかと言えば大丈夫とは言えない。
 言えないが、どうする事も出来無い。

「ほら、焦って物事を考えても結局何も思い付かないじゃないか。だったら落ち着いてゆっくり考えて行けば良い。監督もそう言ってたから」
「う〜ん、そんなものなのかなぁ…」
「多分ね」
「随分とポジティブなんだね」
「そうかな? …そうかも」

 これは明らかな嘘。
 本当は何もかもの不安要素を無意味に肥大させてしまう、極度のネガティブ思考の人間なのだから。

「何だか、ちょっと意外。でもセシルがそれで良いって思うなら、きっとそれって正しいんだと思う」
「うん。だったら良いな…」

 これは本音。
 本当なら、こうして同じ空間に居れる事を嬉しく思う。
 ただそれだけで良いのに。
 情けない自分の劣情が生み出した陳腐な願望でしか無い。
 まるで流れ星に願う様な儚い夢。
 同じ姿勢でも空に祈る時と教会で神像に祈る時では印象が変わる筈だ。
 それが夢溢れる少年少女ならまだしも、自分の様な人物が祈るとなれば、それはただの僻みにしか見えない。

「夢…か」
「夢?」

 思わず声に出していた言葉をケビンが聞いていた様で、きょとんとした表情で自分を見ていた。

「うん。ここに居る皆は何か夢があるのかなって」
「う〜ん、どうだろう。僕は小さい時からここに居たからそう言うのは分からないけど、自分で入った子なら何かあるのかも知れないね。でも、どうして?」
「今ちょっと思ったんだ。ボクがここに居るのは…言ってしまえば成り行きだけど、他の子はどんな気持ちでここに居るのかなって」

(そう。何を思ってあの二人の元に居るのかな…)

「それは皆それぞれだと思う。だけどね、親に無理矢理入れられたり成り行きで入ったり、気が付いたら居た子でも。そう、誰でも」
「誰でも?」
「うん。皆ここが好きなんだよ。だって、誰も嫌な顔して無いから」
「あ…」

 当然の事なのに言われて初めて気付く事実。
 他の事柄に囚われて、基本的な部分を見落としていたらしい。
310835:2010/11/14(日) 01:15:33 ID:mX/Q0+V8
>>309

「そうか、そうだよね。“どうしてここに居るのか”は問題じゃ無い。居たいからここに居る。それだけなんだよね。だって、ボクがそうなんだから」
「セシル…」
「結論には着いたかい?」
「監督?」

 気が付けば、彼女だけで無くその場に居る全員が自分の方を向いていた。
 もしかしなくても今の会話を聞かれていたに違い無い。

「行き詰まった時、迷った時に誰もが思う疑問。それは大概今自分が置かれている状況だな。その解答に気付くのは困難だ。だけどな、そこに答えを見出だせたなら…自然と辿り着けるんじゃないか?」
「迷い?」
「そう。あんたが何に迷ったかは分からないけどね、そこに何かを見付けたなら、そこから突き進んで行けば良いだけの話だ。だってそうだろう?」
「無の中にあるそれが手掛かりで無い筈が無い。そうでしょう?」
「何だ。よくわかってるじゃないか」
「まぁ、今はそれよりも…」

 全員の視線が二人に集中する。
 それが何を言わんとするのかは一目瞭然だろう。

「……………すまん」


 結局二人の謝罪の後に午後のスケジュールを回したが、その日の予定の半分超程度しか終わらなかった。
 とは言うものの、元より当初の予定よりはかなり進んでいたので結果的には順調には変わり無い。
 まぁ結局問題は過程の話しでは無く、指導者がその進行を妨げた部分に当たる訳だが。
 その結果は、前例が無かったのだろう、二人共困惑が露になりつつも全身全霊で謝り続けていた。
 寧ろ本当に困惑しているのは子供達だと言う事に気付くのに、更に倍の時間が掛かった。

「びっくりしたなぁ。あの二人いつまで経っても謝り続けるから」
「普段しっかりしてても、やっぱり慣れない事があったら対処するのってプロでも難しいんだよ。それに、あの二人には悪いけど、ちょっと面白かったかな」
「うん、それは思った。僕は長い間一緒に居たけど、あんな事は初めてだったから」

 普段が真面目であるからだろうか。
 若しくはあの青年まで珍しく羽目を外していたからなのか、その鮮明さは誰から見ても相当なものだっただろう。
 セシルは内心納得しながらケビン手製のコーンスープを啜る。
 彼の優しさに包まれた仄かな甘さが身体を落ち着かせる。

「でも、今日の皆は驚きっぱなしだったね」
「うん。ボク達がそれだけ頑張れたんだよ。…最終的にあの二人に持って行かれた気がするけど」
「あはは、確かに。でも…皆に認めて貰えたのは、嬉しいね」
「………うん、そうだね」
「ケビン…?」

 同意を躊躇うつもりは無いが、その不自然な間にケビンは疑問を覚えた様だ。
 同じ喜びを一度セシルは経験している。
 経験しているからこそ、その危うさを知り尽くしている。
311835:2010/11/14(日) 01:17:13 ID:mX/Q0+V8
>>310

「ケビン。その嬉しい気持ち、絶対に忘れないでね」
「う、うん…」
「今日の二人の話しにも関わって来るけど、驚きや感動を一気に植え付けてしまうと、それが第三者の『当たり前』になって、誰も何も感じなくなってしまうんだ」
「あ…」

 その苦渋はセシルは何度も経験している。
 最初は何年前だっただろう。
 初めて一回も間違えずに自分の好きな曲を全部弾けて、他でも無い父親に褒められた事がすごく嬉しかった事を覚えている。
 母親が亡くなった直後だったし、その頃はまだ父親が豹変する前だったこともあり、その時はとにかく父親に褒められようと我武者羅にアコーディオンを弾き続けた。
 だが回を重ねて行くに連れて父親が褒めてくれなくなり、母親の面影をより強く求める様になる。
 弾き方は当然の事、容姿すらも求め始め、孤独と絶望から逃げ出す為に自分を母親に見立てて姦淫する。
 時には女性の衣服を纏ったまま躰を引っ掻き回された事もあった。

(…っ!)

 途端に胃の中が混ぜ返された様な感覚が襲い、セシルは思わず噎せ返す。

「げほっ…げほっ…」
「だ、大丈夫!?」
「へい…き。ちょっと引っ掛かった…だけ」

 口に含んでいた物は辛うじてスープで流し込まれていたので、食卓の上が大惨事になる事は無かった。
 口元と少し飛び散ったスープの残骸を拭き取れば、特に問題は無い。

(どうしたんだろう、ボク…)

 勝手な連想で自分自身の首を締め、周りに迷惑を掛けてしまっている。

(今日一日、ずっとそうだ。何だか嫌な事ばっかり頭に浮かんで、離れない)

「大丈夫、大丈夫だから…」
「セシル…」

 一体何が“大丈夫”なのか。
 それともそれは自分に対する言い訳なのか。
 何も分からないまま夜は更ける―


 風呂上がりで火照った身体に冷え切った布団は想像以上に気持ち良い。
 気分も紛れてベッドに潜るとあっと言う間に睡魔が押し寄せて来た。
 今日一日が慌ただし過ぎたのだろうか、いつもより深く身体が沈んでいる様な気がする。
 まどろみの海がこんなにも心地良く感じたのは久しぶりだった。
 何より手を伸ばせばケビンの熱を感じる事が出来るのは、今のセシルにとって一番の精神安定剤になる。

「…?」

 ふと、本来そこにある筈の熱が無い事に気付く。
 不自然に思い目を開けてみると、確かにそこにケビンの姿が見当たらない。

「ケビン…?」
312835:2010/11/14(日) 01:18:45 ID:mX/Q0+V8
>>311

 少なくともこの部屋には居ないらしい。
 となれば用を足しに行ったと考えるのが自然だが、前科があるので素直にそうとは思えない。
 ベッドから降り、声と足音を殺して扉の前で止まる。
 音を立てない様に扉を少しだけ開けても、やはりケビンはそこには居ない。

(本当にトイレかな…)

 本当はこういう事でいちいち気に掛けていてはきりが無いのだが、どうにも胸騒ぎが治まらない。
 もしただ用を足しに行っただけならば、偶然を装うだけで良い。
 それでも一応足音は極力立てない様に、長い廊下を歩く。
 一つ一つの部屋がそれなりに大きいので、扉の間隔は広い。
 それが尚更この家全体を不思議な空間に見立てているのだろう。
 その空間の中で、ケビンはどれ程の時間を孤独に過ごしたのだろう。
 気をしっかり持ってないと、自分でさえどうにかなってしまいそうだ。
 丁度中央に位置する階段に差し掛かった時、僅かだが物音が聞こえた。

(あの部屋は…)

 記憶が正しければ、ケビンの両親の部屋だった筈だ。
 よく見れば、扉の隙間から細い光が差している。
 取り敢えず誰かがその部屋に居るのは間違い無い。
 それが誰にしろ、確かめない訳にはいかない。
 意を決して扉の前に近付くと、何か小さな機材を扱う様な音が聞こえて来る。

(何の、音…?)

 先刻と同じ要領で、そっと扉を開く。

(ケビン…だ。それに、CDプレーヤー?)

 ヘッドホンを両耳に当て、何かを聞いている。
 流石にそれが何かまでは聞き取る事は出来無いが。
 何れにせよ、この場に止どまっておくのは得策では無いらしい。
 ケビンに気付かれない内に退散してしまおうと振り返った所で、セシルはその足を止めた。

「……さん………あさん………」

(え…?)

 止まらない訳にはいかなかった。
 決して聞き逃してはならない、ケビンの嗚咽だった。

「お父さん……お母さん……。もう独りは嫌だ。嫌だよぉ………」
「っ!」

 完全に息が詰まる。
 身体中を後悔と言う負の感情があふれ出てしまいそうだった。
 否、これは既に間違った結果である事をはっきりと表している。
 『心配させない』と言う自分と監督とケビンと似た境遇にある仲間達の間で課した誓いだったのに、一番身近に居る自分が真っ先にその規律を破ってしまったのだから。

(馬鹿だ。ボクはどうしようも無い位、馬鹿だ…!)

 歯を折れてしまいそうな程に噛み締める。
 拳の中に生暖かくぬるぬるとした感触があった。
 嘗てこれ程までに自分自身に対して憎悪を抱いた事は無かった。
313835:2010/11/14(日) 01:20:20 ID:mX/Q0+V8
>>312

(ボクは、どうしたら良いの?)

 こうなってしまった今、自分はどうすれば―
 いや、何処に居れば良いのか分からない。
 孤独に飲まれつつあるケビンの側に居れば良いのか。
 若しくは今すぐこの家から出て行った方が良いのか。
 果たしてどちらをケビンが望むだろう。
 答えは明白。
 間違い無く居て欲しいと願う筈だ。
 ただしそれは必ずしも自分と言う訳では無く、他の誰でも良い。
 孤独さえ感じなければ、それは何も自分である必要は微塵も無い訳だ。

(監督とか、お兄さんとか。他の団員の子でも、ケビンの友達でも誰でも)

 不意に一つの単語が浮かんで、自分の考えが根本的にずれている事に気付く。

(両親、でも―!)

 ケビンの寂しさの根元にあるのは、両親が居ない事。
 一番必要な時期にその支柱となる人物が二人も居ない事。
 泣きたい時に胸を預けてくれる人が居ない事。
 つまり、逆なのだ。

(ケビンが居て欲しいから居るんじゃなくて、ボクがケビンの側に居たいからここに居るんだ)

 たったそれだけ。
 それだけの理由で十分なのだから。

「ふぁ…?」

 泣いている時に突然後ろから抱き締められたためか、ケビンは空気の抜けた風船人形の様な声を上げた。

「セシル…? どうしてここに居るの?」
「ちょっと目を覚ましたら、ケビンが居なくなってるから。だから、探しちゃった」
「そう、なんだ…」

 どうやら自分が泣いている所を見られていた事に勘付いたらしい。
 直接顔を見合わせていないからこそ、ケビンの表情が分かる。
 泣き腫らした顔は見られたく無いだろうし、今も涙の跡は残っているだろうから直接見つめる事はしなかった。

「セシル、血が出てる」
「あぁ、そうだね」
「大丈夫なの?」
「うん。ボクは平気だよ」
「でも…」
「ケビン?」

 傷付いた両手を手に取り、ケビンはそっと口元に近付ける。

「何を…」
「消毒しなきゃ。ここには傷薬とか無いから、こんな事位しか出来無いけど」
「でも…ひゃっ!」
314835:2010/11/14(日) 01:22:19 ID:mX/Q0+V8
>>313

 腕を通じてざらざらとした感触が全身に伝わる。
 ケビンが自分の傷口を舐めているのだとすぐに分かった。

「や…ぁ……ひぅっ」

 傷口のある手の平だけで無く、指と指の間にまでも舌が回り、寒気にも似た感覚が走る。
 その度にセシルから弱々しい悲鳴が上がる。

「どうしたの……?」
「あったかい…」
「え…?」
「人って、こんなにもあったかいんだね」

 それが意味するものをセシルは理解する。
 だから何も言わない。

「……………いよね。………行かないよね。……何処にも行かないよね?」
「ケビン…」

 自分の手を握るケビンの手には、優しくも力強い感情が込められていた。
 それを受け止める事が出来るのは、応える事が出来るのは自分だけ。
 確証はなにも無いが、そう思える。
 元よりそんなものは必要としないのだから。

「ケビン、ボクの方向いてくれる?」

 それに対するケビンの答えは、首を横に振る事で示された。
 それは当然だろう。

「お願いだから。そうしてくれないと、ボクが何も出来無い」

 そう言うと、やがてケビンは長い時間を掛けて「………うん」と頷いた。
 振り向いた時のケビンの顔は、恐らくセシルが生涯掛けても忘れる事は決して無いだろう。
 本当は大泣きしたいのに、自分を心配させまいとして無理矢理堪えている。
 それを見ている方が逆に泣き出してしまいそうになる程、“悲しみ”を絵に描いた様な表情。

「向いたよ」

 そう言いつつも、目線は合わせてくれない。
 そんな仕草にケビンらしさを感じながら、セシルは微笑む。
 そして、両手でケビンの頬に手を当てた。

「な、なにす…ひぁっ」

 最後の悲鳴は今の状態でなければ聞き取る事は出来無かっただろう。
 不意を突かれた点と仕草を先刻のケビンに合わせる。
 ただし、舐め取るのはケビンの涙の跡。
315835:2010/11/14(日) 01:23:28 ID:mX/Q0+V8
>>314

「ひゃっ、は…くすぐった……ふぁっ」
「あったかい?」
「そう言う、問題じゃ…はははっ」

 ここでようやくセシルが手を放すと、ケビンは大きく息を吐いた。

「やっと、笑ったね」
「…うん」
「ボクが、居なくなるって思った?」
「………うん」
「ごめんね」
「何でセシルが謝るのさ」
「何となく。それじゃ駄目かな?」
「良いよ、それで」
「ありがとう。ごめんね…」

 自然ともう一度抱き合った。
 部屋の温度は決して高くは無いが、二人が重なり合う事でそう感じなくなる。

「この部屋はね、お父さんとお母さんがデビューしてからずっと練習場所として使ってるんだ。CDとかDVDとか、楽器も色んな物が揃ってる。昔はここでも皆で練習してたんだけどね、人数が増えたから使わなくなったんだ」
「そうだったんだ」
「うん。今では僕しか使わない。練習する為じゃなくて…」
「お父さんとお母さんの声が聞きたいから、だよね?」
「…やっぱり、分かっちゃうよね。その通りだよ。どうしようも無く怖くなったりした時、どうしても手に取ってしまう。二人の声が聞きたくなってしまう。そんな事、もう止めないといけないって分かってるのに」
「怖い?」
「最近はそんな事は無かった。セシルが、居てくれたから。一緒に居てくれたから。だけど、今日は急に怖くなって…」

 背中に回っていたケビンの腕の力が強くなる。

「何処にも、行かないよね? 僕達ずっと一緒に居れるんだよね? もう独りじゃ無いんだよね?」

 抱き締めているからケビンが震えているのが分かる。
 触れ合ってるから鼓動が伝わる。

「………ケビン、ボクを見て」
「え…?」

 一度二人が離れると、セシルは直ぐ様自分の寝間着のボタンに手を伸ばす。

「せ、セシル…?」

 一つ一つゆっくりとボタンを外し、それでもあっと言う間に全て外れてしまった。
 ただでさえ大きめの服だった為か、肩に掛かっていた部分も腕まで落ち、正面は最早何も身に着けて無いも同然の状態だった。

「な、何して…!」
「ボクはここに居る。ボクもケビンから離れたくないから。それでもボクが何処かに行ってしまいそうだったら、ボクをケビンの手で引っ張ってくれて良い。掴まえてくれて良い」
「そ、それって…」
「だってボク達、『恋人同士』だから」
316835:2010/11/14(日) 01:24:39 ID:mX/Q0+V8
>>315

 ケビンの顔が茹った様に真っ赤になる。
 俯くその仕草も、何もかもが可愛くて仕方が無い。

「でも、僕は…」
「言ったよね。ボクは何処にも行かない。ケビンが思った通り、感じた通りにしてくれて構わない」

 少し意地悪だと思った。
 ケビンは“こういう事”は何一つ知識は無いのだ。
 いつもはセシルがリードして、ケビンがそれに従うのみだった。
 何も知らない知識から、どう手を取ってくれるのだろう。
 その真っ白な指先から何を描いてくれるのだろう。
 どうして良いか分からない末に取った行動は、柔らかい口付けだった。

「ん…」
「ふ…ぅ……」

 熱い吐息がケビンから漏れる。
 要はケビンの行動に合わせて自分が動けば良い。
 絡み合う舌が淫らな音を発する。

「ふ…ぁっ、セシ…ル……」
「何?」
「僕…を、抱き締めて」

 言われるがまま、先刻の様にセシルはケビンの背中に腕を回す。
 しかし、やはりどうすれば良いか分からないままの様だ。

(ここは、ヒント…かな?)

 組んでいた腕を片方だけ解くと、完全に自由になったその腕はケビンの下の寝間着の中へと伸びる。

「ひあっ!」

 どれ程興奮が高鳴って硬く大きくなろうとも、幼茎の域を出ないケビンのそれが手の平の中に包まれる。
 とても熱くて、ケビンの体温の全てをそこに感じた。

「とっても、あったかい…」
「やっやだぁ…。ヘンに、なる…よぉ…」
「じゃあ、ボクも同じ。ボクも、ヘンな感じだから…」

 これは本音以外の何物でも無い。
 ケビンが今自分の腕の中に居るだけで、どうとでもなってしまいそうだからだ。

「ボクにも、同じコトやってよ」
「同じ…コト?」
「うん」
「え、えっと…。こう……?」
「やっん…そ、そう。もっと…」

 相手の肌が暖かく感じると言う事は、自分の手が冷たいと言う事。
 それはケビンも同じだったのだろう。

「ケビ…ン、あったかい…?」
「う、ん…。柔らかい、あったかい…」
「もっと、見て、欲しい…な」
「どうしたら良いの?」
「ケビンの手で、取って欲しい…なぁ」
317835:2010/11/14(日) 01:25:53 ID:mX/Q0+V8
>>316

 言われた通りにケビンはセシルの残りの衣服を一枚一枚ゆっくりと脱がす。
 完全に一糸纏わぬ姿になってもそれ程寒さは感じなかった。

「僕にも、やってくれる?」
「うん。分かったよ…」

 自分の時と同じ要領で、ケビンの寝間着のボタンを外していく。
 あっと言う間に自分と全く同じ状態になった。

「きれい…。ケビンの肌、気持ち良い」
「セシルだって、そうだよ」
「そう…なのかな」

 自分と言うものを全く意識していないセシルにとって、その言葉は意外だった。
 寧ろ、自分の身体は汚れ切っていると思っていたのだから。
 とにかく涙を堪えるのに必死だった。
 少しだけ、救われた気がした。

「本当だよ。だって…」
「うわっ…」
「こんなにすべすべしてて、柔らかくてあったかくて」
「んん…ぁ、くすぐったいよ」

 胸の頭から下腹部にかけて、ケビンの舌が執拗に滑る。

「ちっさくてすべすべしてるのに、ぴくぴくしてる。セシル、かわいい…」
「…っ!」

 先端に生温い熱とざらざらとした舌の感触が襲う。
 ケビンが自分の隠茎部を口に含んでいた。

「す、吸っちゃ…やだぁ……」
「どうして? 前に僕がやってもらった時、気持ち良かったよ?」
「そ、それは…」

(って言うか、何ですごく上手いんだよ…)

「教えてくれたのはセシルだもん。これ位の真似なら、僕にも出来る」

 快楽を得る側と与える側。
 ずっと与える側に居たケビンにとって、この上無い不意打ちだった。

「あ…ん……ふぁっ」
「ろお、ひもひいひ(どう、気持ち良い)?」
「ひゃ…咥えたまま喋らないで!息が…っ!」
「ん……ふ。セシルの、あつい……」
「ケビン…だって……」

 身体中の血が巡る。
 ただ巡っているのでは無く、熱を高めている。
318835:2010/11/14(日) 01:28:37 ID:mX/Q0+V8
>>317

(凄い…。こんな感覚、初めてだ)

「も、う…ダメ……。出ちゃう、よぉ」
「良い、よ。僕、全部…受け止めるから」
「やっ…ん、あ……。うああぁぁ!!」

 ほんの一瞬、浮遊感に襲われる。
 セシルの中の全てが一点へと集中し、ケビンへの想いが爆ぜる。

「いっぱい、出たね…」
「はぁ…はぁ……」

 欲望を多量に含んだ粘液を、ケビンは舐め取ってしまう。
 その仕草が、またセシルの中の感情を肥大させる。
 余りにも淫らで。
 余りにも妖艶。

「ケビン…ボク、もう―!」
「へ…? わぁ!」

 隙あらば捕食してしまおうとする動物の心情が分かる気がした。
 暖かく柔らかいケビンの幼茎が目の前で愛らしく震えていた。

「ケビンが悪いんだよ。そんなにも可愛くて、そんなにもやらしい仕草でボクを誘うから。ケビンに合わせるつもりだったけど、もう…我慢出来無い」
「う、うえぇ!? せ、セシル…?」
「反則だよケビン。だから、罰ゲーム」
「や、やだっ。は…っ、やぅ……」

 ケビンの時の様に先端だけでは済まさない。
 根元から容赦無く吸い尽くす。
 明らかに唾液以外の透明な液体が先端から零れ始めた。

「すっごくかわいいよ。ケビンの、とっても熱くて柔らかくて…」
「やっ…言わないで」
「駄目だよ。罰ゲームなんだもん。ボク、ケビンのせいでこんなにおかしくなっちゃったんだから」

 先刻絶頂を迎えたばかりだと言うのに、セシルのその幼根は物欲しそうに聳え立っていた。

「ほら、ケビンだってあんなに柔らかかったのにもうこんなに固くなってる。気持ち良いんだよね」
「分かんな…ぃ。ヘン、だよぉ……。さっきより、あつい。ムズムズする……」
「良かった。それだけケビンが気持ち良いって感じてくれているって事だよ」
「すご…い。なに、も……かんがえ、られ……ふぁっ!」

 身体中の力が抜けたのか、ケビンは膝を折ってその場に崩れ落ちる。
 目線が丁度同じ高さになると、セシルは不敵な笑みを浮かべた。
 それを果たしてケビンが気付けるだけの余裕があったかどうかは最早言うまでも無い。
 獲物を見付けた鳥の様に、セシルはケビンの胸に顔を埋める。

「やっ…。ま…だ?」
「終らないよ。今のケビン、今までで一番可愛いんだもん。こんなに感じてくれて、何もかも全部曝け出してくれてるなんて。だったら、ボクもそれに応えてあげなきゃ」
「な、何…するの……?」
「ケビンが“気持ち良い”って感じてくれる事だよ。結構、ドキドキするかも」

 初めて出会った日の会話を狙った様に引用する。
 それはケビンにもある程度は伝わっている筈だ。
 好奇心よりも不安の方が強い時の心情を表す言葉。
 少なくとも、セシルはそう言う風に捉えている。
319835:2010/11/14(日) 01:30:40 ID:mX/Q0+V8
>>318

(わくわく…は、しないかな?)

「聞こえる。ケビンの心臓の音」
「僕、今ドキドキしてる…?」
「うん。爽快な音楽のリズムみたい。音階なんか無くても、歌ってるみたいだ」
「うん。僕にも伝わってる。セシルの音…」
「そうなんだ。同じ、なんだね」
「うん」
「ボク達…」
「一緒になれる、よね?」

 ゆっくりとセシルが頷くと、もう一度二人は口付けを交わした。

「このままで良いの?」
「ボクは大丈夫だよ。だから、このまま…」
「………うん」

 ケビンの未熟にも反り建った男塔に跨がる様に、セシルはゆっくりと腰を落とす。
 先刻の行為から若干の時間は経っているものの、前戯は十分である。

「んっ…」
「ぁうっ…。セ、シル…。大丈夫……?」
「へい、き。だから。ケビン、気持ち、良い…?」
「うん、気持ち良い…。あったかい……」
「ボクも、同じ…!」

 自分の身体を上下に何度も揺さぶる。
 その度に身体の最奥までケビンの熱を感じる事が出来る。
 何度も目の前にしておいて一向に届かなかったそれが、今ようやく手の中に感じた。

「ケビン、ボクの…触って…!」
「こ、こう…?」
「やぁ…んっ、もっと…強く……」
「つよ…く……!」
「うぁっ! そう…そのまま…!」

 ケビンの熱と自分の熱が合わさり、やがてそれは絶頂を迎える前触れとなる。
 それはケビンも同じな様で、身体の震えを自信の身体の中で感じた。
320835:2010/11/14(日) 01:32:11 ID:mX/Q0+V8
>>319

「セシル…。僕、もう……!」
「ん…。ボク達、一緒に……!」
「は…ぁ、んっ。あ…!」
「やっん…。ぁ…、うああぁぁ!!」

 刹那、世界が真っ白に染まった気がした。
 自分達以外の誰もがこの空間、この地球上に存在しない。
 誰にも阻まれる事の無い、二人だけの絆の描く世界が。
 確かにそこに存在した。


「はぁ…はぁ……。セシル、だいじょう…ぶ?」
「うん、大丈夫。また、いっぱい…でちゃったね」
「ほんとだね。早く掃除しなきゃ」

 フローリングにも自分達の身体中に飛散した白濁色の粘液を見詰める。

「取り敢えず簡単に拭き取って、明日はここの大掃除かな?」
「そうだね。その前に、僕達もお風呂にもう一度入らなきゃ。それに…」

 ケビンの目線が自分の手の平に移る。
 そこに不安の表情が見えたから、ケビンは柔らかく微笑んだ。

「大丈夫だよ。ボクは何処にも行かない。ずっと、ずっとケビンと一緒に居るから」

 そう言って、もう一度セシルはケビンと口付けを交わした。

「………うん」

(だから、もう泣かないで。独りで悲しんだりしないで)

 それを直接言葉にしたくは無かった。
 抱き合った二人の奏でる音楽が、未だに身体の中で鳴り響く。
 光の様に音階の無い喜びと悲しみの和音が、二人の純白の世界を謳う。
321835:2010/11/14(日) 01:44:27 ID:mX/Q0+V8
あーうん、もう…ゴールしていいよね?
やっぱりダレたよorz
これでケビン&セシルの話は半分終わった事になります。
何だか思っていた以上に監督と青年のキャラが確立してきちゃったんだけど、スレ的には問題じゃなかろうか…。
だって扱いやすくて仕方が無い。

>>302-303
これも冬の方も続きが気になって仕方が無い。
ゲレゲレが爬虫類に見えなくなるほど可愛く思った俺は末期だろうか…
322名無しさん@ピンキー:2010/11/15(月) 03:43:55 ID:GFC6iLeO
続き、書いてる途中にある矛盾が発生して修正に手間取った。
もしかしたらそのせいでおかしいとこあるかもしれない、あと1個だけでサーセン

____________

もしかしたら予想の物とは違うものを買ってくるためかも知れない。
だがパンデスがあのお菓子以外を買ってくるのを見たことが無い。
そんな事を3秒ほど考えて…
「…まあ…いっか!」
考えを放棄し、ベッドの下に転がっていたギターに手を伸ばした。



「おーい、買ってきた…おい起きろ」
買い物も終わり、帰ってくるとギターを抱きながらベッドの上でゲレゲレが寝ていた。
お菓子の入ったビニール袋をテーブルの上に置きゲレゲレを揺さぶりって起こす。
何秒か揺さぶっているとゲレゲレが目を覚ました。

「ん…あれ…?パンデス…?おかえり」
しばらく集点の合わない目で宙を見ていたが、パンデスを見つけると目が覚めたようだ。
目をこすりながら体を起こし、ギターを布団の下に乱暴に蹴落とす。

「ただいま」
座布団に腰を落とし、テーブルの上にあるビニール袋からお菓子を取りだす。

「どれくらいで帰って来たの?」
ベッドに腰をかけ、右手で体を支えて、欠伸をしながら痒いのだろうか、左手は黒いビキニパンツの中をまさぐっている。

「出てから40分ぐらいで帰ってきた……ぁ…」
菓子の封を開けながら嘘を言う。パンデス自身も全部言い切ってから自分がなぜか嘘をついたと認識する。
40分も何も1時間丁度かかって今帰って来たばかりだ。ゲレゲレの寝顔など堪能してる時間など無いはずなのに。

「えーっと…」
テーブルの上にあった手のひらに収まるサイズの置時計を見て、じゃあ20分くらい寝顔見られてたんだー等と思う。

「そんなに早く帰ってきたんだ、それなら起こしてくれればよかったのに」
「あー…お前の寝顔を見てた、可愛いから」
嘘を付いたと言っても説明するのがめんどくさいのでそのままこの話題を終わらそうと嘘を続ける。

「いやーん、照れちゃう」
ふざけた口調で言うがその頬は若干赤かった。

「可愛いのを可愛いと言って何が悪い」
そういえば前に寝顔を見たのはいつだったか、最近いつもゲレゲレが先に起きて、自分が先に寝てるせいで最近寝顔を見た覚えが無いな、
前に見た寝顔は天使だったなー等と思いながら、口から頬を桃色に染めたカメレオンを真っ赤にする言葉が漏れる。
ゲレゲレにとっては口説き文句になってるとは本人は思いもよらなかった。
323名無しさん@ピンキー:2010/11/20(土) 09:18:05 ID:tG42wOhA
324390:2010/11/27(土) 15:15:59 ID:B5UuRLrw
流「過疎だな…」
六「ああ、本格的に冬になったみてえだ」
325名無しさん@ピンキー:2010/11/27(土) 21:01:57 ID:crAlW3N6
では早く続きを投下汁下さい
痴漢電車の続き気になって眠れんよ!
326876:2010/11/30(火) 01:17:19 ID:NJ+GH1iT
マサムネ×ダイが出来たので投下します。





最近妙な奴に付き纏われている。顔つきが幼く、男にしては露出が
多いものを身に纏う、要するに変な奴だ。正直言って関わりたくない。
いつも通りにシカトを決めていると声をかけられた。
「なぁ」
「…」
「なぁってば、気付いてるんでしょ?」
「何だ、俺に何の用だ」
「ね、オレさあ、ダイって言うんだけどさ…
お兄さん、今からオレといい事しない?」
「…お前は何を言っているんだ」
「言葉の通りだって。ね、オレとエッチしよ」
散々付き纏った挙げ句言いたかった言葉はそれか。呆れた。
「他をあたれ、俺には興味がない」
「えー、オレはお兄さんが相手じゃないと嫌」
「じゃあ諦めろ」
「えー!!やだーッ!エッチしてくれなきゃやだー!!」
「おい止めろ、そんな大声でゴネたら人が来る!」
「…じゃあエッチしてくれる?」
「…」
やられた。大声でゴネたのは俺を逃げられなくする為か。情けない
事だが、断ればまたゴネるだろう。従うしかない。
「解ったもういい、好きにしろ」
不本意だが、騒がれない為にも俺はそいつに付いていく他なかった。

***

「城…!?」
強引に連れて来られた先は立派としか言い様のない城だった。
327876:2010/11/30(火) 01:19:12 ID:NJ+GH1iT





「もしかして、お前の城か…?」
「違うよー!ここはホテルなの。お兄さん知らないの?」
わざわざ眉間に皺を作りながら質問に答えてくる。気に入らない。
知らないのが当たり前だ。普通に暮らしていればわかる訳がない。
「さ、行こっ」
「ぐ…くそっ」
俺はその手に引き摺られるように中へと進む。
(今日は厄日だったか…)
嫌な自己解決をしながら、決められた部屋へと進む。

***

「よ、っと」
部屋に着いた途端に目の前の男は服を脱ぎだそうとした。
「何をしている」
「え?お兄さん服脱がないの?」
「誰が脱ぐか。大体さっきからその呼び方は何だ」
「だって、オレお兄さんの名前知らないし」
「はあ!?」
信じられん。見ず知らずの男を誘ったのか。
「マサムネだ。わかったら呼び方を変えろ。あと俺は絶対に
脱がんからな。何が悲しくてお前の…」
「…ダイ」
「は?ダイ?」
「オレの名前。…うーんそっかぁ、マサムネさん脱がないのかー」
「ああ」

「じゃあ服着たままエッチすれば問題ないよね!」
「なっ…!」
「着衣プレイもいいね、じゃあ始めますか!」
「待て!止めろ…っ!」
制止も虚しく、その手は俺の股間に伸びた。
328876:2010/11/30(火) 01:20:43 ID:NJ+GH1iT





「うっ!?く、」
瞬間、股間から妙な刺激を感じた。
「な、何をした…」
「服の上から触ったの。感じてくれて良かったー」
「男相手に感じるだと…!?」
「そう。見ててね、今からもっと感じさせるから」
そう言い終えるとダイは前を開け、下着の中のモノを引き摺り出した。
ダイは引き摺り出された俺の分身に頬擦りし、そして…
「んー…っ」
「!?」
口いっぱいにくわえ込んだのだ。
「お、おい!そんな…っ!」
「ん、ぅ…ふぅ」
目を伏せ頭を前後させる姿と与えられる刺激に感じる事しか出来ない
のが情けない。手は行き場を失い、ダイの頭上に置かれていた。
「…う、ぁ」
「んぐ…はぁ、ぅ」
時々息継ぎをしながらもやはり分身をくわえて離そうとしない。
限界が来る。男が相手の筈なのに、限界を感じてしまう。
「は、出る…っ」

「マサムネさん、待って」
「はぁ…?」
「最初は口以外のどっかにかけてよ。その方が興奮できるから」
「あ、あぁ…」
いきなり何を言い出すのかと思えばそんな事か。それなら一体
どこにかければ満足するんだ。幼い顔、妙にむちむちとした太股、
薄い胸元…色々見ているとある場所が目に止まった。脇だ。
329876:2010/11/30(火) 01:22:35 ID:NJ+GH1iT





「わかった…とりあえず寝台に寝ろ」
「えっ?こ、こう?」
戸惑い気味に寝台に横たわった身体に馬乗りになり、左手でダイの
右腕を押さえつけながら、右手で限界を迎えようとしている分身を
しごいた。ダイはただただ驚いているという表情をしている。
「なっ、なっ、何!?」
「望み、通り…ぶっかけて、やる」
「あっ、えっ?」
「っ、出るぞ…」
「わっ…!」
勢い良く吐き出された精液は見事に脇を染め上げた。

***

「はあっ、はぁ…」
「あ、ぁ…気持ちいい」
精液にまみれた脇を見つめるダイの顔は悦びを表している。
一人悦に入るダイの股間を見れば、それは立派に膨らんでいた。
その中を見たいと思った。部屋に入る前の気持ちは忘れた。
「こっちを見ろ」
「マサムネ、さん」
「下を脱げ」
小さく頷くと、ダイは腰に手をかけて下着ごとズボンを脱いだ。
「小さいな。顔が幼ければこっちも幼いのか」
「…いいの!オレは突っ込まれる方が好きだもんね!」
「そうか」
どうやら分身と同じで幼いながらも威勢だけは良いらしい。
突っ込まれるのが良いと言うなら…と思ったが射精したばかりの
萎えた分身を使うのはあまり気が進まない。
330876:2010/11/30(火) 01:23:54 ID:NJ+GH1iT





…ならばその身体を使って再び分身を奮い勃たせるまでだ。
「あっ」
ダイの脇に着いた精液をなぞり、萎えた分身に塗りつける。そして
互いに擦れ合うように、右手を駆使して一気にしごいた。
「あっ…ふああ!いいっ、いいよぉ!!」
「はぁ…はぁ、はっ」
上下の動きを繰り返すうちに、擦れ合う場所からいやらしい音が
聞こえてきた。音を作り出す液体はダイのものだ。段々と滑りが
良くなるそれを、俺は半ば必死にしごいていく。
「ひ…ぃく、イく!イっちゃうぅ!!」
「イって、みろよッ…はぁ…っ!!」
「わあぁっ!?あっ、やだっ……あぁ!ひぁああッー!!」
強めに擦るとダイは嬌声をあげて、俺の手の内に精液を放った。

***

「す…凄い…」
肩を上下させて射精の余韻に浸るダイを見ながら、俺は着々と用意を
していた。萎えていた分身も元気に勃ちあがっているし、互いの
興奮も醒める様子を見せない。
(突っ込んでやりたい…)
分身をダイの穴へと向けて、入り口から奥へ、ゆっくりと挿入した。
「ぅあぁ!な、待ってよ、まだ…」
「言い訳は後だ」
「そんなぁ…はあっ…」
「はっ、待てとか言う割にはすんなり入るなァ」
331876:2010/11/30(火) 01:25:16 ID:NJ+GH1iT





「あ、んぁ…」
背中がゾクリとして、気が昂ってきた。荒い呼吸をし、恍惚の表情を
するダイに、この上なく興奮する俺がいる。
分身が奥まで入った事を確認し、俺はダイの腰を掴んで起き上がらせた。
「ん…何?」
「起きろ。騎乗位にするぞ」

***

最初はとんでもない事を言うと思ったが、今になって脱がなくて
良かったと思うようになった。こっちは中から分身を取り出した
だけ、一方ダイは下半身裸、しかも上半身の露出も多い。殆ど
露出のない俺が下から乱れた身体を見上るという状態がそそるのだ。
「はぁ…はぁ…」
ダイの呼吸が整った瞬間、俺は腰を大きく動かした。
「あうぅ!!」
一際大きな声で放たれた喘ぎ声と快楽に歪む顔、何より繋がって
いる場所から伝わる感覚が俺の腰の動きを急激に加速させた。
「ひぃっ、あっ!マサ…ムネさ、激しぃようっ!」
「はっ、気持ち…いい、か?」
「あっ、あっ、いいっ!いいのぉ!!」
幼い分身は勃ち上がり、幼い顔と共に懇願するように涙を流した。
ガクガクと揺さぶられるダイからは、先程のような余裕はあまり
感じられない。俺も俺で、さっきまで持っていた理性は吹き飛んでいた。
332876:2010/11/30(火) 01:26:45 ID:NJ+GH1iT
マサダイこれでラストです




今はただ、もっと突いてその中にぶちまけてやりたいとだけ思った。

絶頂を迎えたくなった俺は、ラストスパートと言わんばかりに腰を動かした。
「あひっ、あっ!ああ!!イく!イくぅうっ!!」
「はっ、出すぞっ…うぅっ!」
「はぁぅっ!マサムネさ、マサムネさん…うあああっ!!」
「ダイっ、ダイ…!!」
俺達は絶頂を迎えた。精液を注いでる感覚が堪らなく心地良かった。
「…ねぇ、マサムネさん…」
「ん…?」

***

一目惚れから両想い、オレにとっては正に夢のようだった。
あれから、オレ達は毎日会うような仲まで発展したのだ。
「ねえ、この縄持ってっていいー?」
「いいけど、ダイちゃん今日はデートだけじゃないのー?」
「デートに縄って変だよね」
「別にいいでしょ?行ってきまーす!」
「行ってらっしゃーい」
「楽しんできなー」
親友二人に手を振ってオレはマサムネさんの所まで駆け出した。
これからマサムネさんとデートだと思うと、凄くワクワクする。
(デートのついでにエッチ出来たらいいなぁ)
今日のデートはどうなるか、今から楽しみでしょうがない。
333876:2010/11/30(火) 01:36:31 ID:NJ+GH1iT

お疲れ様です。やっぱりいつも通り喘ぎ声に悩む876です。
今回は>>118からカップリングを拾ったマサムネ×ダイでした。
レッツパーリィ!とカタブツのイメージが合わず、マサムネが徐々に
オラオラするキャラに。ダイはもう始めからヤりたがるキャラに…。
基本的に脇射、着衣、騎乗位がやりたかっただけです。多分。
ちなみにダイの親友二人はやっぱりあの二人です。
では、お粗末様でした。876でした。
334名無しさん@ピンキー:2010/12/06(月) 20:06:28 ID:52nVXqMl
ほしゅ
335390:2010/12/12(日) 19:30:16 ID:KCCzn4DS
六と流石の中身が入れ替わってしまったの巻

六(外見流石)「一気に10歳以上は老けたじゃねえか!」
流(外見六)「お主が不注意で某の方に倒れてきたのだ、気がついて早々失礼なことを吐かすな。おかげで小便と風呂の時に恥ずかしいではないか、皮被り」
六「うっ、うるせえ!」
流「しかしこうしてお主の目線で某を見ると、背も高くていい男ではないか…」
六「はん、てめえで言ってりゃ世話ねえよ。でもまあ、中身が入れ替わっちまったとなっちゃあ、さすがにてめえのケツをハメる気にはならねえだろ。色好きにはいい薬だぜ」
流「それはどうかな」
六「ちょ、やめろよ、中身は俺でもお前の体だぞ!」
流「大丈夫だ。今さら失うものといえばお主の童貞くらいなものだ」
六「いやに決まってんだろ!なんだっててめえみてえなジジイ相手に童貞捨てなきゃならねえんだ!」
流「それかお主が某の体で、お主の尻を犯すのもアリだな」
六「ヤることしか考えられねえのか、そんなの気分悪くてできるわけねえだろうが!」
流「んー、そんな堅えこと言わずに、俺のケツ穴、あんたのチンポでハメてくれよう…」
六「やめろ気持ち悪ィ!」
流「某の体で勃起しておいてよく言うわ」

保守
336名無しさん@ピンキー:2010/12/12(日) 20:17:47 ID:KG3Q2xJY
素晴らしい保守である
337名無しさん@ピンキー:2010/12/20(月) 20:44:05 ID:MjJk0cP8
皆さん本当にいつもGJです
もうすぐ19稼動ですがそれ以前に18の隠しまだやってねえよ
e-passの使用期限も切れてそうだなあというお話

六とタロー ※女みたいな顔になったのでご注意
ttp://iup.2ch-library.com/i/i0207388-1292844859.jpg
ttp://iup.2ch-library.com/i/i0207389-1292844859.jpg
338390:2010/12/20(月) 22:33:37 ID:g/+y/LMo
>337
痴漢電車の六もよかったが、ウェットスーツびりびりのタローに萌えたw
久々のイラストGJ!

俺のホーム、明日19稼動だから、18やり納めてきたよ
六性的にいじめ倒したくなるほどかわいいよ六
339835:2010/12/25(土) 22:46:22 ID:bRdncQG4
>>234

 自分の部屋の窓から夜の街の灯を遥か遠くに見下ろし、ハヤトは溜息を吐く。
 空気の入れ替えの為に窓を開いたのだが、暖まっていた筈のこの空間の温度は外気とほぼ差は無くなっていた。
 普段から薄着でスケートボードをやっている所為か、特に寒いのが苦手という訳では無い。
 現に室内着は年中を通して薄着で、精々上着の袖の長さが変わる程度でしか無い。
 そもそも今のハヤトの心情状態に気温は左右されない。
 11月もあっと言う間に後半を迎え、今年と言う期間も残り僅かになっている。
 三学期制で数えて一番長かった二学期も信じられない程に足早に駆けていた。
 今年が終わる。
 つまり、ハヤトの様な小・中学生は進級する瞬間が近付いているのだ。
 当然、翔もその例から漏れる筈も無い。
 入学して早々の部活動体験入部期間の最終日に奇跡的な出会いを果たして以来、ハヤトの日々は充実していた。
 互いの家が近い事もあって、翔が部活の無い日は一緒に下校する日も多かった。
 そう言う日は大概授業が終わるのも早かったし、翔も部活が無いとかなり暇になるらしいので一緒に遊んだりする。
 だが、そんな翔でもこの時期になると『受験』と言う関門に差し掛かる。
 二人の通っている中学校は車道を挟んだ向かい側に高校が存在する所謂付属校である。
 更に、少し離れた位置に大学も存在する。
 しかし、付属校で推薦入試が非常に通りやすいだけでエスカレーター式という訳では無い。
 こう思うと失礼だろうが、翔は余り頭は良い方では無いらしい。
 決して悪くは無いらしいが、確実に推薦で通る確証も無い訳だ。
 翔によると、「ダレない程度に頑張ってる」らしい。
 この言葉を聞いた時ハヤトは苦笑するしかなかったのだが、後々聞いてみるとこれはどうやら学校全体に浸透しているらしい。
 それは本来この大事な時期に音楽コンクール等と言う行事を開く事から十二分に伺える。
 他の先輩の話では、「寧ろ落ちる方が難しい」とも言われているらしい。
 しかもこの音楽コンクールと言う行事は、良くある合唱コンクールとは訳が違う。
 付属校と言う間柄を利用して、この学校では中高間で合同で行う活動もある。
 吹奏楽部からバンド活動。
 剰え個人プロデュースの楽曲さえ持ち込んで披露する、文字通り“音楽”そのものを競うコンクールが行われるのである。
 当然一般公開もされるので、中にはプロの人間も紛れ込んで期待の新人を発掘しているとの噂もある。
 事実上、学校全体を巻き込んだお祭り騒ぎが開催されるのだ。
 当然そのまま付属進学しない者からすれば良い迷惑である。
 文化祭ですら尋常では無い盛り上がりを見せるのに、その熱が冷めない内にこの行事が舞い込んで来る。
 余程この学校はお祭り騒ぎが好きらしい。
 それに翔は参加はしないが、観客席は基本的に自由なので久しぶりに隣りに身を置く最後のチャンスとなるのである。
 思えば2つの歳の差と言うものはどうしてこんなにも無慈悲なのだろう。
 基本的に小学校に上級生と触れ合う機会はまず無いと言っても良い。
 先輩と言う立場を認識し出す中学で出会ったとしても、一緒に過ごせる時期は1年にも満たずに終わってしまう。
 それは、高校に入っても同じ事。
 しかもその間には2年の更に広い空間があり、とても待てる時間では無い。

「もう、会えなくなるのかな…」
340835:2010/12/25(土) 22:48:33 ID:bRdncQG4
>>339

 誰も居ないのを良い事に、わざと声に出して呟く。
 この1年、自分と翔は比較的良い関係を紡いで来た筈だ。
 先輩と後輩の垣根を殆ど取り払う事の出来たのは自分だけだ。
 だが、飽く迄それは友人関係の話でしか無い。
 当然の事ながら、ハヤトが望むのはもっと親密な関係である。
 欲を働かせて言ってしまうと、それは恋人と言う関係。
 中学に入学して早々、ハヤトは階段を飛び下りるかの如く恋に落ちた。
 始まりの親近感からそこに至るまで、時間は僅か練習試合1セット分のみ。
 我ながら気が早いとは思う。
 しかしそれが全く気にならない程に、既に翔を深く愛してしまった。
 それだけに、2年の空白は怖い。
 自分の選択肢が果たして正しいのかどうか。
 不安になるに決まっている。
 だから、憂鬱になる。
 少しでも長く、翔と一緒に居たい。
 ただ確証が欲しいだけなのだ。

「もっと、しっかりしなきゃ駄目だよね…」

 この症状は、何も今に始まった事では無い。
 恥を承知で打ち明けると、授業中であるにも拘らず窓から翔のクラスの体育の授業を終始見続けて教師に注意された事もある。
 それが一度や二度で済めば良かったのだが、毎週同じ時間に同じタイミングで同じ症状が現れてしまっては誤魔化しが効かない。
 既にハヤトはクラス中に『黄昏少年』から『恋する乙男(おとめん)』へとランクアップされていた。

(女の子みたいだよね、我ながら…)

 不幸中の幸いに、未だにその授業の誰を見ていたのかは気取られてはいない。
 と言うか、バレてしまったら学年中の悪い噂の的にされるのが目に見えて明らかだ。
 そうなってしまえば、自分は学校には居られなくなる。
 何よりそれで翔自身に迷惑が掛かるのは嫌だ。
 付け加えると、その時点で翔を追いかけて同じ高校に行く選択肢は消滅する。
 同学年の八割以上が進学するそんな高校に行ける訳が無いのだから。

「そんなの、絶対に嫌だ…」

 つまり、ハヤトは翔への想いを隠し通しながらも告げられないでいるのだ。
 余りにも大きな矛盾に板挟みされ、ハヤト自身が潰れてしまいそうになっていた。
 それでも、翔に対する想いは益々肥大するばかりだった。

「このままじゃ、駄目なんだ。だけど…どうしたら良いの?」

 今のハヤトには、膝を抱えて蹲る事しか出来無かった。
 目を瞑り、瞼の裏に翔の笑顔が映る。
 それが、余計に悲しくなる。
 虚像の名の通り、その目に映る翔は本物では無い。
 翔が優しい人間であるからこそ、その虚像の翔は優し過ぎるのだ。
 そんなものをハヤトは全く望んでいない。
 既にハヤトは十分過ぎる程に翔から優しさを貰っているのだから。
 そう。
 貰っているのは優しさだけ。
 それ以上のものをハヤトは手にしていない。

(贅沢、なのかな。僕は…)

 叶わない恋だとは思わない。
 だが、限り無く遠回りな道だとは嫌でも分かる。
 それでも、どうしても離れない。
 諦める事が出来無い位、翔から与えられる以上に、ハヤトは翔を愛して仕方が無いのだ。
341835:2010/12/25(土) 22:50:57 ID:bRdncQG4
>>340

「翔先輩、大好きです…」

 そのまま布団の上に横になると、一瞬で睡魔に襲われた。
 夢の中では翔に会えるだろうか。
 それとも、先刻の様な“虚像の”翔に出会ってしまうのだろうか。

「寒い、な…」

 部屋の窓が開きっ放しになっている事も忘れ、ハヤトの意識は既に落ちていた。 


 突き刺す様な朝日に、ハヤトは目を覚ます。
 どうやら外は快晴らしいが、それとは裏腹に鉛に押し潰されている様な感覚が、ハヤトを縛り付ける。

「何だこれ…身体が重い……」

 兎に角ベッドから降りないと話にならない。
 手首を軸にしてフローリングに足を下ろすと、足が前体重を支え切れずにハヤトの身体は崩れ落ちる。

「ったた…」
「おい、どうしたんだ!?」

 偶然部屋の前に居たらしい、父親が部屋に入って来るなり崩れたハヤトに駆け寄った。

「うわ、熱! しかも部屋寒いし…。お前、窓開けっ放しで寝ただろ?」
「そうなの、かな…?」
「しかも相当逆上せてるな。お前、今日位は学校休め」
「え…?」

 父親の言う通りそれなりに逆上せているのだろうか、言葉を暫く理解出来ずに思考がフリーズする。
 だがようやくその意味が脳に到達すると、ハヤトは父親のYシャツを掴んで首を横に振った。

「何だ?」
「約束、あるから―」
「へぇ…誰とだよ」
「翔、先輩…」

 今日は偶然授業の終わる時間が一緒になるので、翔と一緒に下校する予定だった。
 だから、一日でも会えない日が増えるのは何が何でも避けたい。

「ふうん…」

 生まれ持っての若作りのこの父親の表情が微かに緩む。
 だが、それ以上ハヤトの思考は働かなかった。

「分かった。翔君には俺から言っておくから、今日だけは休んでろ」
「言っておくからって…?」

 何年経っても歳を取らないこの万年悪戯小僧親父の言葉を不審に思いながらも、やはり熱には勝てない。
 今は思考するだけでも生命を削りそうだった。

「ほら、病人はベッドに入ってろ。粥作っておくから、腹減ったら食べろよ」
「うん、ありがとう…」

 父親に抱えられベッドに戻ると、今度は布団に潜る。

「じゃあ少しまってろ。ついでに氷枕持って来るからな」
342835:2010/12/25(土) 22:52:38 ID:bRdncQG4
>>341

 そう言って、父親は部屋を出て行った。
 暫く経って戻って来たが、氷枕をハヤトの額に当てて汗を拭くと、そのまま出勤して行った。


 一瞬意識が落ちたかと思うと、我に返って時計に目をやると既に正午を過ぎていた。
 どうやらあの直後から眠っていたらしい。
 登校前のあの時間から寝ていたとして、およそ四時間以上寝ていた事になる。
 つまり、受験生組はそろそろ下校する時間になるのだ。

「折角一緒に早く帰れたのにな…」

 窓の外でちらほらと下校する生徒の声がする。
 ガラスに手を当て外を見ると、自分と同じ学年の鞄を持つ生徒達が楽しそうに笑い合いながら歩いていた。
 その中に、ハヤトは自分と翔の姿が映る。
 本当なら自分達も同じ様に帰っている筈なのに。

「駄目だな、僕って…」

 溜息を吐きつつ窓からベッドへ戻る。
 布団に潜ると、もう一度溜息を零した。
 気分はそれなりに良くはなって来たが、同時に何かが消えた様な気がしてならない。

「一日位、我慢出来なきゃ―」

 ふと、階下で扉の開く音が聞こえた。
 その後、鍵を掛ける音も聞こえたのでハヤトは父親が帰って来たのだと思った。
 そういえば粥を作って貰ったのに一口も食べて無い事に気付き、ハヤトは部屋を出て階段を降りる。

「お帰り。今日は随分…」

 扉を開けた時点で、ハヤトは今朝の様に思考が鈍る。
 ドアノブを握り締めたまま、ハヤトの身体は固まった。

「早、かった…」
「あれ? 思ったよりも元気なんだな」

 この場に響く筈の無い声。
 この場に居る筈の無い人影。

(な、何…で……?)

「う〜ん、お粥全然手付けて無いみたいだな。何か作ろうか?」
「え? えっと…」
「あ、ひょっとして食欲無い?」
「いえ! そんな事は…。じゃ無くて……」

 その本来居る筈の無い人物は首を傾げる。
 近所のスーパーのロゴが記された袋を漁る手が止まった。

「何で翔先輩がここに?」
「あれ、聞いてなかったのか? おじさんから朝電話が来てさ、ハヤトが風邪引いたから看病してくれって頼まれたんだ。おばさんも今研修旅行で居ないらしいし、おじさんも今日は残業で帰れないって言ってたから」
「え!? 聞いてな…」
「だからオレが来たんだって。遊ぶ約束は果たせないけどさ、代わりに明日まで看病してやるから」
「なっ…」

 最早単語すらまともに発する事も出来ない。
 と言うか、今の状況も理解に苦しむ。
 否、受け入れ切れない。
343835:2010/12/25(土) 22:55:35 ID:bRdncQG4
>>342

(ど、どうして…? 何で翔先輩がここに居て、それで明日まで僕を看病してくれて明日まで…ふ、二人っきり…!!?)

 一気にハヤトは顔面が熱くなるのを感じた。
 それはまるで、冷え切った風呂場で浴槽の蓋を開いた時の様だった。
 「あ、熱上がったな」と人事みたいに思いながら、ハヤトは今朝の様に崩れ落ちた。

「あ! やっぱりまだ無理してるじゃないか。ほら、早く部屋に戻ってろよ。お粥温めてやるから」
「う…ん、ありがとう…」

 果たしてその原因が自分にあると言う事をどこまで理解しているだろうか。
 いや、寧ろ少しでもしてくれているのならこの上無く願ったり叶ったりなのだが。

「上まで大丈夫か?」
「うん、平気…。階段上ればすぐだから」
「分かった。無理するなよな」
「大丈夫だよ」

 先刻の考えとは裏腹に、今は兎に角翔と顔を合わせる自信が無かった。
 部屋に戻り這い擦る様にベッドに潜ると、冷たくなった布団で少しばかり正気に戻って来た。
 今のハヤトにとって、冷たいものは鎮静剤の代わりだった。

「あ、氷枕もって来るの忘れた…」

 突然の事が多過ぎて、本来の目的を完全に失念していた。

「お腹、空いたな…」

 何だか今台所に戻れば何事も無かったかの様な気がして、ハヤトはもう一度ベッドから出ようとした。
 しかし、絶妙過ぎるタイミングで扉が開かれる。
 それが結局夢や幻で終らない事を思い知らされる。

「ほら、お粥。ついでに氷枕持って来たから」
「あ、ありがとう…」

 嬉しさと申し訳無さ。
 その他諸々の数え切れない感情が入り交じり、複雑極まり無い感情でいっぱいいっぱいだった。

「何だ? 随分微妙な顔して。やっぱり食欲無い?」
「あ、ううん。そうじゃ無いんだ。何だか申し訳無いな…って」

 間違いでは無いが、明らかにそれだけでは無い。
 しかし、それを口頭で翔に伝えるのは困難だろう。
 取り敢えず一番簡単な言葉を選ぶ。

「気にするなって。どっちにしろ、久しぶりに遊ぶ約束してたんだしさ」
「でも、それは僕が風邪引いたから…」
「引いてしまったならもう仕方無いだろ。病人は風邪を治す事を考えてろよ」
「そう…だね。そうするよ」

 結局ハヤトの望んだ夢は、形こそ違うが叶った様なものだろう。
 それ所か、考え方によってはこちらの方が断然上な筈だ。

「お粥、ぬるくないか?」
「そんな事無いよ。丁度食べやすいし、塩の加減も丁度良いし」
「そうか。だったら良かった」
344835:2010/12/25(土) 22:56:50 ID:bRdncQG4
>>343

(うん。本当に、良かった…)

 今だけは、翔を完全に独り占め出来るのだ。
 これは絶好の好機と見て間違い無い。

「ご馳走さま。美味しかったな」
「あ、それオレも思った。ハヤトのおじさん料理上手なんだな。今度教えて貰おうかな…」
「そっか。翔先輩料理出来るんだったね。じゃあ、時間が空いてる時あったら頼んでみるよ」
「サンキュ、よろしくな。…あ、そうだ。お椀そっちに置いたら、服脱いで」

 事も無げに翔は言ってのける。
 しつこい様だが、ハヤトの思考は以下省略。

「…………………………はい?」
「ずっとベッドに寝て随分汗かいてるだろ。風呂に入る訳にもいかないし、拭いてやるよ」
「な、ちょ…。えぇ!?」
「汗で濡れた服をずっと着て良い訳無いだろ。ほら、着替えだってちゃんと持って来てるんだからな」
「ちょ、ちょっと待った! こっち来るまでそんなに時間経って無いのに何でそんなに用意周到なのさ!」
「あぁ、居間におじさんが色々と用意してくれてたんだ。いつ帰って来れるか分からないから今日と明日の二日分。しかも、オレの分の着替えまで」

 今になって父親のあの不敵な笑みの真意に気付く。
 つまり、最初から何もかも感付かれていたのだろう。

「何かあったらすぐに連絡してくれだって。意外と心配性なんだな」

(いやそれ絶対に違う!)

 と突っ込みたい衝動を何とか抑える。
 もう翔の話を聞いただけで心拍数が激増してしまっていた。

「ほら、お前さっきから凄い汗だぞ」

 その「ほら」はずるい。
 そう思わずにはいられない。

「わ、分かったよ…」

 ボタンが付いている服では無いので襟を掴んで頭から服を脱ぐ。
 下に着ていたTシャツも同じ様に脱ぐと、辛うじて筋肉がある程度の歳相応以下の腕と身体が露になる。

「スケボーやってる割には全然焼けて無いな。…って、それじゃ全部拭けないだろ」
「はぁ!? し…下も!!?」
「汗で濡れてるんだから当然だろ。拭いた後にそのまま洗濯籠に入れてしまうからな」
「い、いいよ! 自分でやるから!!」
「病人が何言ってるんだよ。オレ達男同士なんだからさ、恥ずかしがる必要ないだろ」
「そうかも、知れないけど…。でもさ!」
「何度も言うけど、お前病人なんだぞ。今だって顔が真っ赤だってのに、そんな無茶させられないだろ。まぁ、お前の性格考えたら遠慮するなって方が難しいかも知れないけどさ」
「うぅ…」

 優しさが痛いとはこんな事を差すのだろうか。

(って言うか先輩鈍過ぎだよ!)

 ここまで来ると分かっててやってるのではないかと思ってしまうが、翔を考えると寧ろそれの方が無い。
 呆れる程に何もかもが本気でハイスピードなのが『翔』と言う人物なのだから。

「ぬ、脱げば良いんだね…もう分かったよ」
345835:2010/12/25(土) 22:58:56 ID:bRdncQG4
>>344

 結局観念して下の服にまで手を伸ばす。
 下着ごと下ろしたハヤトに、既に隠すものは何も無い。

(もう、どうにでもなれ…!)

「あんまり裸のままじゃ寒いからな。早く終わらせよう」

 湯気が昇る洗面器からタオルを取り出して強く絞ると、翔はハヤトの隣りに座る。
 ハヤトの腕を手に取り、タオルで軽く拭き上げる。
 それが終わると、次は背中から臀部にかけて。

「ん…」
「あ、悪い。強かったか」
「ちが、う…。けど……。ちょっと、くすぐったい…かな」
「う〜ん、我慢してくれ」

 一度洗面器にタオルを戻し、苦笑しながらタオルを絞る。

(って、ちょっと待った! 次って…)

「じゃあ、残りは正面だな」
「ま、まま…待った待った待った!」
「うぁっ! 今度は何だよ」
「いや、あの…。しょ、正面ってどうやって拭くつもりだよ」
「どうやってって、普通に…?」

 ふと疑問に思ったらしい、翔の手が止まる。

「凄くやりにくいと思うんだけど」

 と言うより、ハヤト的には正面から自分の身体を拭かれる構図に耐えられ無いのが本音である。
 見事に想像しただけで昇天してしまいそうな絵面だった。

「う〜ん、流石に厳しいか。仕方無い。残りは自分で出来るか?」
「怪我してるんじゃ無いんだからそれ位出来るよ。それよりも、薬とかあったら持って来て欲しいかな。多分、置いてあると思うんだ」
「そうだな。その間に着替えまで終わらせてろよ。いつまでもそんな格好してたら風邪じゃ済まないからな」
「分かりました。翔先生」

 平静を装う為に少しふざけてみた。
 それに微笑した翔は御湯だけの洗面器を持って部屋を出て行った。
 ベッドから立上がり、ハヤトは盛大に溜め息を吐きながら身体を拭き始める。
 軽く堅くなった胸の先端から一向に発達しない幼い性器。
 見られているだけでも恥ずかしくて仕方が無いのに直接触れられたとなれは、卒倒で済めば良い方だろう。
 使ったタオルを窓際に掛けて、手早く着替えを済まそうと翔の持って来た服に手を伸ばした。
 その瞬間に扉が開き、ハヤトは慌てて服で自分の正面を覆い隠す。

「すまん、パンツ忘れてた…。結構恥ずかしがり屋なんだな。ま、人それぞれだよな」
「あうぅ…。分かったなら置いて行ってよ」
「へいへい」

 両手を肩まで上げる『お手上げ』の仕草をすると、翔はまた部屋を出て行った。
 翔が持って来た白地に真っ先に足を通すと、ハヤトはそのままベッドに腰掛けた。

「こんなんじゃ身が保たないよぉ…」

 のろのろと残りの衣服を着ると、途端に疲れが溢れ返って来た。
 亀の如き鈍重に布団の中に戻り、頭から毛布を被り殻に籠る。
346835:2010/12/25(土) 23:02:20 ID:bRdncQG4
>>345

「ごめんなさい、翔先輩…」

 翔に悪気が無いのは分かっている。
 だからこの上無く申し訳無くて、この上無く許せない。

「………馬鹿」

 殻の中で呟く。
 決して翔に聞こえ無い様にひっそりと。
 気付いてくれない事が罪だとは思えない。
 それ故に、ずるい。

(僕も、同じ…)

 気付いて欲しいのに、誤魔化してしまう。
 それが逆効果になるのは十分承知している。
 自分で伝えるのが辛いから、気付いて欲しい。

「我が儘、だよね…」
「そんな事無えよ」
「へ?」

 布団から顔を出すと、すぐ目の前に翔の顔があった。
 一瞬、息が詰まる。

(聞かれた…!)

 どこから聞かれていたのだろう。
 いや、そもそもいつ戻って来たのだろう。
 心臓が高鳴る。
 翔から目を離せない。

「いや、その…。今のは…」
「お前って、どうにも謙虚…って言うより遠慮がちだからな。どうしても自分を後回しにしてしまうんだよな。だから、多分自分でも気付かない」
「翔、先輩…?」
「だけどさ、オレとしてはもう少しだけでも頼ってくれた方が嬉しいんだけどな」

 この時、何処までも彼は彼らしいと心の底から思った。
 恐ろしい程のタイミングで最後の言葉だけ聞かれていたらしい。

(それとも…)

 実は最初から全て聞かれていて、その上で聞いていないふりをしているのだとしたら。

「薬、この上に置いておくからな。今はまだ早いから、少し経ってから飲むんだぞ」
「うん。ありがとう」
「それじゃ、オレは下の部屋片付けて来るから」
「え? 別にそこまでしなくて良いよ。父さんのメモに何て書いてあったか分からないけど…」
「使ったお皿とか鍋とかあるだろ。それを片付けるだけだし、それに…」
「だから、翔先輩に居て欲しいんだってば!!」

 当り障りの無い翔の定型文はもう聞きたくなかった。
 だから、これはただの自棄。
 振り向いてくれない翔に対しての、八つ当たり。
 全てを曝け出してしまったと気付いた時、ハヤトはもう自分と言うものが分からなくなっていた。
 ただ、もう後には戻れない。
 それだけは、分かる。
347835:2010/12/25(土) 23:04:56 ID:bRdncQG4
>>346

「…ふぅ。やっと言ったな」
「へ…?」

 突拍子の無い告白に戸惑うのを覚悟していたが、寧ろ翔は予想していたらしい。

「ど、どう言う…事?」

 恐る恐る真意を尋ねる。
 正直な所、聞くのが怖い。
 しかし、それ以上に翔の“想い”を知りたかった。

「どうもこうも。単にお前がどうにも素直じゃ無いって事」
「……………僕?」

 長い時間を掛けてようやく出て来た言葉がそれだった。
 つまり、この展開は―

「要するに、だ。寂しかったんだろ?」

 ………。
 絶望的に深い『間』がハヤトを飲み込む。
 翔の予想自体は当たっている。
 当たってはいるのだが、時系列に決定的で致命的な差がある。
 翔の言う通り、正に今この瞬間ハヤトの心は空洞が出来た様に寂しかった。

「そう、見えた…?」
「そりゃそうだろ。だってお前、オレが部屋から出て行こうとする度に悲しそうな顔するんだからさ」
「っ…!」

(そこまで、分かってるなら…!)

 今改めて、この翔と言う人物を再認識する。
 もともとそう言った感情を感じるのはかなり疎いのはもう思い知っている。
 しかし、実際のそれは想像を遥かに超えていた。
 つまり、鈍感では無く…。
 愚鈍。

(馬鹿…。先輩のばか……。バカバカバカバカ!)

「じゃあ、そう思うなら…。ここに、居てよ。僕が治るまで、ここに居てよ」

 こちらが遠慮していては届かない。
 なら、少しばかり踏み出し過ぎても良いだろう。

「心配するなよ。オレは何処にも行かない。ハヤトの風邪が治るまで、ずっと一緒に居るからさ」

 多分、この瞬間に翔のハヤトに対する評価は『甘えん坊』になっただろう。
 こうなったら、もう妥協はしない。

「じゃあ、甘えるついでにもう一つ聞いてもらうよ。今日は僕と一緒に寝よう」
「…また随分とストレートに来たな」
「良いだろ、今まで付き合って来たんだから。翔先輩の家にも泊まった事無いんだから」
「ん…まぁ、それもそうだよな。折角こんな機会だから、看病ついでに楽しまなきゃ…な?」

 休日の前日。
 両親も居ない。
 つまり、明日までこの中学生二人は完全に自由の時間を手に入れたのだ。
 それを有効に利用しない手は無い。
348835:2010/12/25(土) 23:32:29 ID:bRdncQG4
>>347

「まぁ、病人が居るからハメは外せないけどな」
「無理に盛り上げてくれなくて良いよ。一緒に話したり、ゲームとかで遊んでくれるだけで良いから」
「って言うか、それ位しか出来無いんだけどな。そう言う訳で何して遊ぶ?」
「う〜んと…。話を振っておいてなんだけど、正直何をしようかはさっぱり…」
「じゃあさ、前にゲーセンでやった奴あるだろ。あれは?」
「え? …あぁ、うん。もちろん持ってるよ。リベンジする?」

 以前翔と遊びに行ったゲームセンターに置いてある、とある音楽ゲーム。
 対戦も出来るのでやってみないかと翔に誘われ、簡単に叩きのめした事があった。

「むぅ。あれからオレもレベル上がったんだぞ」
「良いよ。負けるつもりは全く無いから、そのつもりで」


     ………………対戦中………………


「むぅ〜」
「どうだ、参ったか!」

 全試合が終わり、最終集計の画面に入る。
 画面の中心でキャラクターが各々のリアクションを取っていた。
 それとほぼ同じ状態で床に四つん這いで撃沈している翔と、ベッドの上から寝そべりながらも翔を見下ろしているハヤトが勝敗を実に分かりやすく表していた。

「だから言ったじゃないか」
「くそー。珍しく全部繋いだから行けると思ったのに…」
「それだけじゃ駄目だよ。翔先輩、判定気にして無いじゃん。これじゃいくら繋いだって点数上がらないよ。もっとタイミングに気をつけなきゃ。まぁあれを全部取ったのはすごいと思うし、実際凄いレベル上がってると思うよ」
「そう言われると練習した甲斐があるな」

 つい先刻の落ち込みは何処へやら、翔はハヤトに達成感のある笑みを向ける。
 たった二人しか居ない筈なのに、随分と盛り上がった気がする。

「練習…って。翔先輩、受験控えてるんだろ?これだけ遊んでおいてだけど…大丈夫なの?」
「平気平気。ハジメ兄ぃも結構教えてくれるし、何より強力な助っ人が居るからな」
「助っ人?」

 真っ先に浮かんだのは翔の姉である硝子。
 何度か翔の家で顔を合わせた事があるが、彼女が弟のために勉強を見る構図がまるで一致しない。

「誰だろ…。僕の知ってる人?」
「あ、そうか。ハヤトは2つ下だから、直接会った事無かったな」

 直感的に、ハヤトはその翔の言葉に引っ掛かりを覚える。
 だが、それの正体を掴めない。

「ソラって言うんだけど、すっごい頭が良くて、去年とかショーコ姉ぇと毎回毎回テストで首位争いしてたんだ」
「うわ…。うちの学校で点数争いなんてするんだ」

 ただでさえ脳天気学校であるにも拘らず、どちらが上かを競い合う精神は流石にハヤトも唖然とする他無い。
 何よりもあの硝子と対等に渡り合う実力を持っているとなると、やはりその人物は想像以上に難しい人間ではないだろうか。
 そう一抹の不安を拭い去る事は出来無い。
349835:2010/12/25(土) 23:35:05 ID:bRdncQG4
>>348

「でも、何で翔先輩はその…ソラ先輩って人と知り合いなの?」
「あぁ、簡単な話だよ。オレとソラは幼馴染みだからな。ショーコ姉ぇともオレ達が知り合う随分前からの付き合いだって聞いてたから、結構長いんじゃないかな」
「ふぅん…」

(じゃあそのソラ先輩と硝子先輩って、恋人同士…なのかな)

 しかし、翔の言う「付き合っている」は飽く迄友好関係のある間柄を指すのみで、そこに恋愛感情の理念はまるで存在しない。
 翔の言葉には肝心な部分が肝心な部分で欠落してしまっているのだ。

「じゃあ、翔先輩は時々ソラ先輩に勉強教えて貰ってるって事?」
「そ。ソラって頭良いだけあって教えるのも上手いんだ」
「そうなんだ。あ、でもさ…それで翔先輩は大丈夫なの?」
「あーうん。…結構痛い所突いて来るな。ソラが言うには、合格ラインはもう越えてるらしいんだけど。高校に入っていきなり躓いたりするかも、だってさ」
「ふ〜ん。やっぱり高校って大変なんだね」
「だよな。でも、ハヤトもうちに入学した時はそうだったんじゃないか?」
「僕?」

 確かに翔の言う通り、入学した当初には不安が大半を占めていた。

(それでも、僕がこうして居るのは…)

 翔と出会えたから。
 “中学生として”振る舞えるのは、部活の体験期間の最後のあの日に、翔と親しくなれたから。
 一目惚れしたと、一瞬で理解出来たから。

「僕は…そんな事は無かったかな。結構すんなりクラスにも馴染めたし」
「何だ、そうなのか。まぁ、お前も頭良いからな。順応性ってのあるかも知れないな」

 他人事で今更なのに、彼は安心仕切った表情で微笑む。
 釣られて自分も微笑んだ気がするが、果たしてそう思えたのだろうか。

(また、誤魔化しちゃった…)

 そこに一度たりとも「翔の御陰」と言う言葉が出なかった。
 それでも翔は笑ってくれる。
 安心して、自分に微笑んでくれる。

「きっと、翔先輩も大丈夫だよ。だって翔先輩、皆と仲良くするの上手だから。それに、ソラって先輩も多分一緒の学校になるんだよね?」
「あ、あぁ…。そうだけど、どうしてそこからソラの話が出て来るんだ?」
「そ、それは…」

 何故。
 先刻と同じ疑問が再び浮かび上がる。
 翔が『ソラ』と言う名を口にする度に、電撃の様に走る違和感。

「ほ、ほら…そのソラ先輩が同じ学校なら気が楽になるんじゃないかな。話だと結構頼れるらしいから、困った時とか相談出来るじゃないか」
「ん、あぁ…。そうかそれに、ハジメ兄ぃも居るしな」
「そう言う事。そんなに不安に思う必要無いんじゃないかな。楽観的で良い…何て言えないけど、少なくとも悲観的でいるよりずっと良いと思うよ」
350835:2010/12/25(土) 23:37:24 ID:bRdncQG4
>>349

 最初はその場の出任せだったが、後半になるに連れて本音がようやく言えた。
 翔に限って、少なくともクラスでお先真っ暗な状態になる事はまず無い筈だ。

「ハヤトがそう言ってくれるなら、きっと大丈夫なんだろうな」
「何で僕が基準なのさ」
「そりゃ、在校生代表」
「何だよそれ」

 もう一度、二人は笑う。
 気持ちの悪い頭痛が、いつの間にか無くなっていた。

「よし。それじゃ、もう一勝負だ」
「またリベンジ? 言っておくけど、負けるつもりは微塵にも無いからね」
「それはオレだって同じだ。いつまでも負けっ放しでいられるかよ」
「じゃあ、曲は翔先輩が選んで良いよ」
「む、随分と余裕じゃないか」
「そんな事無いよ。さっきは僕が勝ったから、ハンデは要るかな…って思っただけ」

 勿論それを余裕と言うのは承知の上だ。
 目的はただの挑発なのだから。

「むぅ。ま、負けないからな!」

(いや、ひよってるひよってる)

 敢えて突っ込みは入れない。


    ………………対戦中………………


「う〜」
「だから言ったじゃないか」

 つい十数分前にあった風景が、ほぼ同じ状態で再現される。
 いや、それよりも更に深く翔は沈んでいた。

「今度は自信あったのに…。しかも何だよパーフェクトって!」
「うん。僕も初めて出したよ」

 要するに、今回は先刻以上にハヤトの完封勝ちだったのだ。
 翔も余程お気に入りの曲で挑んだらしく、相当な自信があったのだろう。

「ちくしょう、何で勝てないんだ?」
「………あれ、まだ気付いて無いんだ」
「なっ…。どういう事だよ」
「だって平均レベルは僕の方がずっと上なんだから、翔先輩が出来る譜面は基本的に僕だって出来るんだよ。まぁ、得手不得手の個人差もあるから一概にそうとは断定出来無いけどさ」
「あ…」

 思わず翔の手からコントローラが落ちる。
 当然と言えば当然の事実。
 だから、それをそうと気付かせないための手段も幾つか有効だった。
 挑発はそれの最たるものだろう。

「それって、どうやってもオレ勝てないじゃないか!」
「そうでも無いよ。この勝敗は点数で決まるんだから、翔先輩が得点を取りやすい譜面でやると良いんだよ。最大の点数は決まってるんだからさ」
「な、なるほど…」
351835:2010/12/25(土) 23:39:22 ID:bRdncQG4
>>350

 つまり、僅かな判定の差で勝負を付けるしか方法が無いのである。
 もう一つ、難易度の高過ぎる譜面を選んで運任せに叩く手もあると言えばある。
 だが、余りにも情けなく不毛な戦いになる事が関の山だろう。

「結局オレには不利じゃないか」
「そんな事無いよ。現に何曲かは僕も負けてたんだから、翔先輩に勝機が無い事は無いんだよ。…高校だって、きっとそうだよ」
「ハヤト…」
「最初は戸惑うかも知れない。辛くなるかも知れない。でも、頑張ればきっとその先報われると思うんだ。だから、今は頑張って良いと思う」
「…そうだよな。もう少しなんだから、頑張ってみても良いんだよな。………って、それで誤魔化せたと思うか?」
「あ、バレた?」

 結果的に翔をある意味小馬鹿にしたのは変わらない。
 何とか有耶無耶にしようとしたが、流石に誤魔化し切れ無かった様だ。

「う〜。絶対いつか勝ってやるからな!」

 何か似た言葉をつい数分前に聞いた気がするが、黙っておく。
 どんな形であれ翔のやる気を削ぐ真似はしたく無い。

「っと…。遊んでいたら随分と時間経ったな。そろそろ晩ご飯の準備しなきゃな」
「あ…ごめん。僕が我が儘言ったから、遅くなっちゃったね」
「気にするなって。分かっててオレも遊んでたんだからさ。その代わり、絶対に美味いモノ作って来てやる」
「うん。期待してる」

 前に一度、翔の手料理を食べた事がある。
 とても同じ中学生が作ったとは思えない程、実に繊細で優しく。
 それでいて翔らしさが伝わって来る暖かい味だった事を覚えている。
 足音が遠ざかって行くに連れて、期待がどんどん膨らんで行く。

(いっぱい材料買って来てたみたいだけど、何を作るんだろう)

 翔の事だから精進料理の様な貧相なものは作らないだろうが。
 考え出したら途端に妙な不安が襲って来た。

「…って祈りたいけど。実際何にするつもりなんだろう」

 何れにせよ、後はひたすら翔の手料理の完成を待つしかない。
 取り敢えず言われた通り病人はベッドの中で安静にしている事にする。

(それに…)

 今だけは翔の居ない間に考える時間が欲しかった。
 翔の話を聞いている内に度々自分の中で生まれる“何か”。
 その正体を突き止めておかなければならない気がした。

(タイミングは分かってる。翔先輩が『ソラ先輩』の名前を口にする時)

 これで、その『ソラ』に関する事柄であると断定して間違い無い。
 しかし、実際に会った事すら無い人物に何を思うのだろう。
 それがハヤトの抱く最も大きな疑問。

(分からない。ケド、知らないといけない気がする…)

 この疑問は、どちらかと言えば胸騒ぎに似ているのだ。
 だから、不安になる。
 得体の知れないものが自分の中で生きている様な気がして、不気味で仕方が無い。

「でも、知りたい…。知らなきゃ、いけない……!」
352835:2010/12/25(土) 23:41:04 ID:bRdncQG4
>>351

(考えろ…考えろ……)

 引いたと思っていた頭痛がまた酷くなる。
 だが、ここで弱音を吐いたらいけない。
 きっと、ここで諦めたら何も解決出来無い。

「僕は、『ソラ先輩』を知ってる…?」

 いや、その筈は無い。
 そもそも翔の知り合い関係を自分は知らない。
 知っているとすれば、翔の兄弟構成のみだ。
 そこに『ソラ』と言う面影を見た記憶は無い。

(つまり、僕は『ソラ先輩』の印象だけで“何か”を決め付けているって事)

「決め付けて…」

 否、これも違う。
 だが、あまり良いイメージを持っているとも思えない。

「え?」

 段階を踏み、一つ浮かんだ。
 そして、その出所に覚える不安。

「だって、それは…」

 自分がとてつも無く汚い人間に思えて。
 嫌だ。
 自分の黒い部分を晒け出している様で。
 嫌だ。

(僕は、『ソラ先輩』に“嫉妬”してるって事…?)

 俄かには信じられない。
 だが、一番説明が付くのもまた事実。

(そうだよ…。翔先輩が『ソラ先輩』の話をする度に嬉しそうに話すから…)

「あの笑顔は、僕だけのものじゃ無いんだ」

 そう思った途端に悲しくなって、側にあった枕に顔を埋める。
 優しくて頭の良い『ソラ先輩』。
 翔にとって、その人物は憧れなのだろう。
 それで済めば良い。
 ただそれだけの関係で終わってくれれば良い。

(…無理だよ)
353835:2010/12/25(土) 23:42:40 ID:bRdncQG4
>>352

 先輩と後輩。
 幼馴染み。
 何となく、翔が先輩後輩の上下関係を嫌うのが分かった。
 きっと、誰とでも対等に居たいのだと。
 自分とも。
 『ソラ先輩』とも。

(それって、僕と同じで翔先輩も我が儘だって事だよね)

 傍から見ればそれは自分の方だろうが。
 翔は自分の傷が見えない様に、振る舞っているだけに過ぎない。

(そうか。僕達、同じなんだ…)

 見付けてしまった共通点は余りにも深く、余りにも悲しい。
 つまり。

(僕達はお互いに隠し事で逃げ合ってるんだ)

 これではいつまで経っても親密になる事は出来無い。
 寧ろ自分達が“付き合う”度に、その距離は広がるばかりだと言う事。
 傷は深く広がって行くと言う事。

(僕達は…!)

「おーい」

 部屋の向こう側から扉を叩かれる音に我に返る。
 慌ててベッドから起き上がり、扉を開けた。

「わっ…」

 どうして自分で扉を開かなかったのかを理解する。
 小型のカセットコンロと仄かに湯気の溢れる土鍋を両手で抱えて手が使えなかったのだ。

「鍋?」
「そ。と言っても風邪引いてる奴に魚とか脂っこい物食べさせられないから、野菜とかばっからだけどな。身体暖める料理って言ったらこんなのしか思い浮かばなくてさ…」
「ううん、僕も丁度そう言う物食べたいなって思ってたから。まだ下に材料残ってるんだよね。テーブル出しておくから持って来てくれる?」
「よし分かった…って、ちょっと待てよ。お前…」
「無理するな、だよね。分かってるって。小さな奴をちょっと取り出すだけだから無理にはならない」
「うん。だったら大丈夫だろ」
「あ、でも台拭きは持って来て。一応拭いておかなきゃ」
「了解しました。王子様」
「何それ。じゃあ家来は迅速に行動する様に」

 軽く吹き出しながらも試しに翔に合わせてみると、翔も「仰せのままに」と部屋を出て行った。
 とは言えこのままじっとしている訳にはいかない。
 翔が鍋の材料を取って来てくれている間に自分はテーブルを出しておかなければならない。
 クローゼットの隣りの物入れから二人が丁度座れる程度の大きさのテーブルを取り出し、足を組み立てる。
354835:2010/12/25(土) 23:43:59 ID:bRdncQG4
>>353

「うん。やっぱり鍋にはこれがないとね」
「お待たせ。おーなかなか良いじゃないか」
「うん。この方が翔先輩も暖かいだろうし。それに、鍋と言えばやっぱりこたつでしょ。シーツもこんな時の為に洗濯してあったんだ。ちょっと上の台持ち上げて」
「よっし任せろ」

 言うが早いか持っていた材料を床に置き、代わり炬燵の台を持ち上げた。
 その間に手早くハヤトはシーツを敷く。
 もう一度翔が持っていた台をその上に戻すと完成する。
 後は、翔が持って来てくれた台拭きで台を拭けば全ての準備が終わる。

「雰囲気出るね」
「よし。これで準備は整ったし、早速食べようか」
「やった!」

 鍋と材料を台の上に置くと、二人はいそいそと炬燵に入る。
 流石に点けたばかりなのでそれ程暖かくは無いが。

「苦手な野菜とかある?」
「う〜ん…僕は基本的に好き嫌いは無い方だとは思うけど。そう言う翔先輩は?」
「オレはハジメ兄ぃに仕付けられてると言うか、鍛えられてるからな。…何て言ってるけど、きのこ類だけはダメなんだよな」
「え〜? 僕は大好きだけどな。でも…そうだ。生物とかはどちらかと言えば好きじゃないかも。食べれない事は無いんだけどね」

 等と食の話から持ち上がり、気が付かない内にどうでも良い話しにすり変わっていた。
 しかし病床に伏していた午前と違い、今では食欲も戻っていた。
 これも偏に翔の看病。
 基、翔自身の存在が良い薬になっているのだろう。
 とても翔にその話しは出来無いが。

「………で、それでハジメ兄ぃがオレに料理を教えてもらう様になったって訳。ショーコ姉ぇの料理は壊滅だからな」
「そうなんだ。硝子先輩って、何でも出来そうなイメージあったけど」
「いや、多分出来る筈なんだよ。だけど、どうにも変なアレンジ加えようとするんだ。…辛いケーキとかさ」
「………硝子先輩らしいと言えばらしいね。だけど、それって結局今は翔先輩が3人分のご飯を作ってるって事だよね。大変じゃないの?」
「そんな事無い…って言ったら嘘になるけどさ、蒼井家の一家をショーコ姉ぇの特産物で壊滅させる訳にはいかないだろ」

 最早引き吊った笑みしか浮かばない。
 同時に『何とかと天才は紙一重』と言う言葉が思い浮かんだ。

「あ、そうだ。ショーコ姉ぇって言えば、最近絵にハマったとか言ってたな」
「へぇ…。でも、何かその方がイメージぴったりかも」
「ん〜何か違うんだよな。この間モデルになってくれって言われたんだけど、ポーズが変わってたり服装とかこだわって来るし」
「へぇ、随分と本格的だね。例えば?」
「前はウチの制服の上だけ着て机の上から外の景色眺めてろとか、そのままベッドで仰向けに寝ていろだとか」
「ん…?」

 どうも日常に微妙にあり無さそうな情景を狙っている様に見える。
 しかし、共通点らしい共通点はそれだけで、後はどうにもしっくり来ない。
355835:2010/12/25(土) 23:45:40 ID:bRdncQG4
>>354

「他には?」
「確か…ハジメ兄ぃの高校時代のカッターシャツとか着せられたな。ぶかぶかで袖から手が出なくてさ、全然落ち着かなかった」
「う〜ん、余計に分からないなぁ。もう一つくらい、何か無い?」
「あ、一回服全部脱がされた」
「ちょ…」
「いや、流石に反対したらパンツだけ勘弁してくれた。その代わり、散々色んな物着せられたけどな」

 ヌードデッサンと言えば美術では基本中の基本なのはハヤトでも知っている。
 だが、硝子の狙いは最早そう言う観点からは大きくずれている様な気がしてならない。
 それだけで無く、翔自身が硝子に対する疑念を向けていない事の方がずっと問題の様な気がする。

「ね、ねぇ…。ひょっとしてさ、女装とかさせられたりしたんじゃ…。ほら、女子って結構男に女の子の服着せたがったりするし」
「あ〜流石にそれはやんなかった。ショーコ姉ぇが言うにはオレが着たってがさつで合わないからだってさ」

 頭の中で学校の女子の制服と翔を重ね合わせてみる。
 ………成る程、確かに似合わない。
 いや、似合う事は似合うのだが、違和感が無い。
 寧ろ無さ過ぎてそれが却って違和感に繋がってしまう。
 如何せん、そのまま過ぎる。

「しかも出来た絵を見せてくれないんだよ。何でって聞いたら「いつか見る機会があった時、その方が面白いでしょう」だって。どう言う意味だろ…」
「それって…その絵を何らかの形で発表するって事じゃないの? そう言うコンクールって結構あるし。今度の音楽コンクールだってそんな趣旨だったと思うけど」
「そうだと思ってハジメ兄ぃに聞いてみたんだ。だけど、そんな行事は当分無いって言ってた」

(う〜ん、何か早急に解明した方が良い様な気がするケドなぁ…)

 何故だか分からないが、その火の粉が自分にも飛んできそうな気がしてならない。
 そんな不安がハヤトの脳裏を掠めるのだった。

「あ、そう言えばショーコ姉ぇが今度やる時はハヤトも連れて来いって言ってたけど」
「遠慮するよ。何だか嫌な予感がする」
「だよな、やっぱ」
「…って言いたい所だけど、僕も手伝うよ。ここまで聞いて黙ってる訳にもいかないからね」
「本当か? 良かった…」

 胸を撫で下ろす様に、翔は小皿の肉団子を口に運ぶ。
 まるで幸せをそのまま写真に写した様な満面の笑みがそこにあった。
 それは自分と一緒にやる事に対してでは無く、硝子の願いを自分が引き受けた事に対する安堵だろう。
 何を考えているのか分からない硝子でも、やはり翔の姉に他ならない。
 ハジメも硝子も、翔にとっては大好きな兄姉なのだから。
 それはあの二人から見ても同じ。
 翔の勉強や料理以外の家事全般を仕切っているハジメやは勿論、影で悟られ無い様に翔を見守る硝子も。
 例外無い、一つの家族と言う絆で繋がっている。
 それ故に、翔がここまで真直ぐで穢れの無い性格へと育まれたのだから。

(“きょうだい”って良いな…)
356835:2010/12/25(土) 23:46:51 ID:bRdncQG4
>>355

 ふと、そんな事を思う。
 それは世間一般の“兄弟”を指すのでは無く、彼達の仲の事。
 だからと言って、決して今の境遇を疎む訳では無い。
 自分を生んでくれた両親には感謝してるし、何よりそれによって翔と巡り会えたと言っても過言では無いからだ。
 『運命』。
 ふと、そんな言葉が頭に浮かぶ。
 人によって捕らえ方は様々だろう。
 ハヤトにはそれが『点』と『線』の様な関係に思えた。
 点と点は線で結ばれる。
 しかし、それは一本では無く様々な場所で絡まり、折れながらも次の点へと伸びていく。
 線と線が結び、千切れる部分もある。

(僕達の『運命』も、きっと同じ。翔先輩と言う『点』と繋がったのも…)

「本当はね、翔先輩。不安もあるんだけど、それでも同時に楽しみでもあるんだ。だって僕、翔先輩とだったら大丈夫だって思えるから」
「ん?」
「今だから言うよ。本当はね、最初入学した時は不安で不安で仕方が無かった。でも、あの時翔先輩と出会わなかったら…きっと今でも不安を引き摺ってたと思う」
「ハヤト…。な、何だよ。いきなりそんな事言われても、オレ…」
「ううん、最後まで言わせて欲しい。僕は翔先輩と出会えたから、こうして楽しく毎日学校に行ける。翔先輩に会うのが楽しみだから。一緒に出かけたり遊んだり。初めて素直に“楽しい”って思える様になったから」
「………そ、そんな大した事して無いだろ」

 苦笑いをしつつも顔を赤らめて俯いてしまう。
 翔の性格からして、この様に褒められた事に対しての免疫は無いのだろう。
 それがとても滑稽で可愛らしく、ハヤトは小さく吹き出す。

「だけど、僕はやっぱり先輩が高校に行っても一緒に遊びたい。一緒に勉強したい。一緒に、今みたいに笑い合いたい。だって、僕は翔先輩が大好きだから」
「ハヤト…。そうだな。オレもハヤトが大好きだ」

 分かっている。
 自分と翔の間にある言葉の歪み。
 それでも、今は言わないといけない。
 これは今この瞬間に出来る限りの、ハヤトの生まれて初めての告白なのだから。

「ねぇ、翔先輩。今度の音楽コンクール、僕と一緒に見に行こうよ」
「あぁ。多分、中学だと最後になるからな。だけど…」
「僕達は…」

 拳の先端同士をぶつけ合い、二人は互いに微笑み合う。

『いつまでも一緒』
357835:2010/12/26(日) 00:15:00 ID:gQLmnLa0
TЁЯRAの新曲に呪われた…
折角クリスマスなんで投下。
内容全く関係ないけどね。

>>322
投稿前に矛盾に気付けたなら全然問題無し!
やっちゃった後に後悔したら後々にとんでもない事になるしね(例:前の六×ジャック)orz

>876
何と、自分の言った我侭が全部詰め込まれている…。
そのままドMの道を突き進めば良いよダイちゃん。
でも個人的にダイはツンデレだと思う。

>390
ナイス保守。
コレ見たとき中身変換ネタは一発ネタに最適だと思った。

>>337
痴漢電車に押絵が…
しかも小尻が余計に…
鼻血が出てきたので上を向いて歩きます。
358390:2010/12/26(日) 13:29:22 ID:lloTQX94
六「んっ…もう昼過ぎじゃねえか、早く抜けよっ…」
流「この部屋は二晩借りることになっている、誰も来ぬから心配するな」
六「そういう問題じゃねえだろっ、いつまで入れてるんだって…んむっ!…んん…ちゅば…」
流「ちゅ、んふ…っは…。ふふ、ほれ気持ちがよいのだろう」
六「ん…い、いい…いいからっ、あっ、ちょっと止めてっ…」
流「なんだ」
六「はぁ…お前クリスマスだからって一晩中人のことハメやがって、少しはこっちの都合も考えたらどうなんだ」
流「某と一緒に旅をしておいて、お主に他に都合があるというのか」
六「あるだろ、厠に行くとか」
流「腰が抜けて立てぬのにか」
六「うっ…、だから、その辺の限度ってもんを考えろって言いてえんだ」
流「お主が本気で嫌がらなかった上、自ら何度も求めてきたゆえ、某はそれに応じてやっただけだ」
六「で、でたらめ言うなっ、お前が離してくれなかったから離れられなかったんじゃねえか」
流「お主が某の同意を求めずに離れればよかっただろう。それほど嫌なのなら、今逸物を引き抜いてやるぞ」
六「あ…っ」
流「ほれ、後始末でも厠でも好きにしてこい」
六「……。…お、俺が悪かったよ、流石…」
流「ふふ…、大晦日と姫始めは自重しろよ、六」
六「わ、わかってるよ…」

>835GJ
359835:2011/01/01(土) 00:00:00 ID:KROqGIRF
翔「明けましておめでとう。えっと…オレ達が書き手に代わって挨拶をするんだってさ」
空「どうだろうね。作者はここに来て2年目になるけど、今年はやたらと登場人物が偏ってた気がするなぁ」
硝子「まぁ、翔は中心人物だからまだ分からないでも無いけど。問題は、無駄にハヤトにウェイトが当てられていた事よね」
みっちゃん「あの、皆さん袴姿で殺気立てないで下さい(絵が描けないのが残念です)。翔先輩が震えてますからね」
ハヤト「そう言うみっちゃんも僕の方を笑顔で睨まないでくれると助かるんだけど…」
硝子「無理でしょ。貴方、今年はやたらと目立ってたじゃない。翔よりも完全に貴方が主人公してたわよ。初っ端作者はソラショの人だとか呼ばれてたのにね」
空「今じゃ完璧にハヤト君に盗られてるからね」
ハヤト「先輩、字…」
ハジメ「と言うか、この話の流れが謎なんだが。何でこんなに時系列が目茶苦茶なんだ?」
翔「何か本筋の話に沿って色々とフラグ付けする形にしてるんだってさ」
ハヤト「それって、思い付きで話が作れるからじゃないのかな…」
一同『………』
硝子「向こうで作者が血吐いて倒れたわよ」
ハジメ「多分、触れられたくない部分に触れちまったんだろ」
六&ジャック『………』
硝子「そこの二人も不憫よね。あ、三人か」
空「じゃあそろそろ僕達の時間も無くなって来たし、もう片方の子達に後は任せようか」
翔「そうだな。それじゃ今年一年作者に振り回されながらも…」
一同『よろしくお願いします』

………

みt(ry)「あれ、私だけ台詞1回ですか!?」


バトンタッチ!
360835:2011/01/01(土) 00:01:42 ID:KROqGIRF
ケビン「こ、こんばんは」
セシル「ケビンの小動物の様な仕草が可愛過ぎて胸キュン☆が止まらないセシルと」
「ちょ、いきなり何を…。えっと、たった2回目でいきなり主役を降板になったケビンだよ…(泣)」
「べ、別にそう言う訳じゃ…」
「だって、もう半分終わったのに僕視点の話は最初だけだったんだよ? それなのに、セシルはポプキャラですら無い監督とばっかり話てるしさ」
「それはケビンがずっと潰れてたからだよ。それにボクの台詞が長いのは、作者の偏った頭でうだうだうだうだ長考するからだよ」
「あうぅ…」
「だからぁ、そうやって仕草で言葉を表そうとするからボクが可愛い可愛いって言って終わりなんだよ」
「自覚してるって言うか、セシル何か壊れてない!?」
「そうじゃないよ。後から分かるけど、コレが本当のボク。それに、もし理性が残ってなかったら皆の前で思い切りケビンを抱き締めてるよ」
「それはもう良いよ! えっと…僕達の話はやっと(やっと)後半に移ります」
「映画の撮影も、多分もうすぐ終わるからね。そろそろボク達主体の話も大きくなってくるかな?」
「まだまだ色々と消化不良のような気がするけど、きっとそこら辺も出てくると思うよ」
「そ・れ・と…折角こんな板なんだから、やる事もきっちりヤっておかなきゃだよね」
「せ、セシル!」
「それじゃ、終わるまで一体どれだけ時間が掛かるか分からない上に長いだけで浮きまくってるこんな作者の作品ですが」
「どうか最後まで見ていただければ幸いです」
「ボク達の方も…」

ケビン&セシル『よろしくお願いします!』
361390:2011/01/11(火) 10:42:44 ID:Dz7SBoF3
保守。みんなIRやってるのか?
六のトレカゲットしたぜ
362名無しさん@ピンキー:2011/01/20(木) 08:32:07 ID:jGgTAt/2
ケンジと一緒に朝餉のみそ汁飲みたいage
363835:2011/01/25(火) 00:19:19 ID:H/gSbUkj
>>356

 卒業しない小学生や中学生にとって、新年と言うものはただの通過点にしか過ぎないのかも知れない。
 現に、ハヤトもこれまでの人生の中でその言葉に何かを感じた事は一度も無かった。
 足早に過ぎ去った冬休み。
 多くの子供達が環境の変化に疑問や戸惑いを覚えるのは、大体二月を過ぎてから。
 ただし、ハヤトは違う。
 恐らくこの学年の誰よりも早く、変化を感じ取れただろう。
 何故なら、二つ年上である最上級生を『卒業生』と認識してしまうからだ。
 当然下級生の自分が卒業する訳では無い。
 授業の合間の休み時間に、ふと窓の外を見下ろす。
 『卒業生』と部類される上級生が次々と下校して行く。
 そう。
 『卒業生』の殆どはこの時期になると下校時間が急激に早くなるのである。
 その中には、例外無く翔も含まれる。
 同じ学年に通っているにも拘らず、これ程までにタイムスケジュールに差が出来てしまう。
 だから、この新年と言う節目を疎ましく感じる。

(約束、したのにな…)

 『いつまでも一緒』
 翔は約束を反故にする様な人間では無い。
 そもそも、この場合は仕方の無い事なのだ。
 授業数も違うのだから、当然下校する時間も違う。
 学校方針に対していくら不満をぶつけた所で、全く意味は無い。
 そんな事は分かり切っている。
 約束したのだから、ほんの少しだけ待てば良い。
 附属の推薦入試である為か日程は非常に早く、結果が来るのも早い。
 だから、精々残り二週間弱の間を我慢すれば良い。
 そうすれば、またいつもの様に会う事が出来る様になる。 

(違う、そうじゃ無いんだ…)

 受験を終えた後の、長い長い休み。
 本当の溝はそれを過ぎた所から、更に広がってしまう。
 幾ら校舎が目と鼻の先にあり合同授業も存在するからと言っても、朝に同じ門を潜る事が出来るまでに更に二年もの時間が必要になるのだ。
 きっと一緒に居れる数ヵ月の間なんか霞んでしまう程、その溝は大きいだろう。
 その暗闇の海の中を、ハヤトは抜け出せるだけの自信が無い。
 嘆きに溢れたその海で、足を取られて溺れてしまいそうだった。
 だから、約束が怖い。
 言葉の鎖は余りにも脆く崩れ易い。

「ハヤト君」
「え…?」

 不意に声を掛けられ、ハヤトは振り返る。
 大きな眼鏡の奥に不安そうな光を灯した瞳の少女がそこに居た。

「みっちゃん…?」

 ハヤトと同じ位の身長で、誰が見ても文系と思うであろう内気な少女。
 しかし、その眼鏡の奥に映える瞳の洞察力は決して些細な塵でも見逃さない。
 それ故に学級委員と言う大義もそつ無くこなす事が出来るのだろう。

「また黄昏少年になってるよ?」
「あ、うん。…情け無いね」
364835:2011/01/25(火) 00:21:37 ID:H/gSbUkj
>>363

 そう返すと、彼女は一つ前の自分の席に座る。
 そして、先刻のハヤトと同じ様に窓の外を眺める。

「皆は面白がってるけど、ハヤト君にとっては大事な事なんだよね」
「そんな…大袈裟な事じゃ無いよ。自分でだって、変だと思ってるし」
「ううん、そんな事無い。それって、自分に正直だって証拠だから。だから私は笑ったりしない。寧ろ、羨ましいって思う」
「羨ましい?」

 鸚鵡返しにハヤトが尋ねると、みつきは微笑み返した。
 それが酷く寂しげで、ハヤトの胸に刺さる。

「自分の気持ちを認める事って、実は物凄く難しい事だもん。自信が無くなって自分が分からなくなって、結局自分に嘘を吐いてしまう。それって辛いよ?」

 ハヤトは即座に理解する。
 あぁ、この少女も恋をしているのだと。
 そして、自分と似た境遇に苦しんでいるのだと。

「ハヤト君は私に似ている。だから、ハヤト君には頑張って欲しい。私には、勇気が持てないから」
「待ってよ。そんな悲しい事言わないで。僕に話してくれたって事は、みっちゃんも僕と同じなんだよね? それって、みっちゃんも自分に正直だって事じゃないの? それに気付いた上で、自分に嘘を吐いてるって事じゃないの?」
「ハヤト君…」
「自分が出来ないからって誰かに押しつけるのは、ずるい。きっと、自分に嘘を吐くよりもずっと辛い」

 言うなれば、二人は同じ傷を共有する者同士。
 お互いの想い人が誰かは分からないが、胸に抱く想いは同じ筈だ。

「うん、そうだよね。でも、私にはまだ時間が足りないかな…」

 一度捨てた勇気をもう一度拾うには、その時の倍以上の労力が必要になる。
 それはハヤトも経験して知っている。
 自分と言う重く苦しい重圧が、何よりも辛い事を知っている。

「私達、来年も同じクラスだったら良いね」
「うん。きっと僕達はお互いに力になれる」
「その時は、よろしくね?」
「うん」

 少しだけ、少女の目に本当の笑みが戻った気がした。
 彼女が前に振り向いたと同時に始業のチャイムが鳴り響き、そのタイミングに合わせて教師が教室の扉を開けた。
 取り敢えず、今日の退屈な授業の間は気が楽にはなりそうだ。


 二週間経ち、翔が高校の受験に合格したとの通知が届いた。
 とは言え、安心感こそあったものの特別に祝う程でも無かった。
 翔にとっては、寧ろこれからの方がずっと大事な時期に突入する。
 ハヤトとしても翔の努が報われた事は素直に祝福したかった反面、自分の近くから一歩離れて行くもどかしさで板挟みされていた。

(先輩、僕はどうすれば良いの?)
365835:2011/01/25(火) 00:22:54 ID:H/gSbUkj
>>364

 等と、部活の仲間達と一つしかないゴールで楽しそうにバスケットボールをプレイしている本人に言える訳が無い。
 況して、それが自分の最愛の人物ともなれば、それは遠回しな告白以外の何でも無い。
 しかも最悪な事に、それでは翔に届かない。
 最愛の彼は、他人の想いに気付く能力が著しく乏しいのだから。
 ボールがバスケットゴールの金枠に何度も跳ねながら、ゆっくりと真中を踊る様に落ちて行く。
 それは翔が仲間のパスを受け取り、その小さな身体で放ったものだった。
 やがてボールが地面へと戻って来ると、翔はその場で跳ね上がり、全身で喜びを表現した。
 そして、パスを渡した相手とハイタッチを交わす。
 間違い無く偶然だろうが、嬉しいのが遠目の自分にまで伝わって来る。
 その時の眩しい笑顔が自分以外に向けられている。
 悔しいが、それを認めざるを得ない。
 それでも何とか出来る限りの笑顔を取り繕い、翔に向かって拍手を贈った。

「ナイスシュート!」

 その声は翔まで届いた様で、先刻の本物の笑顔のまま親指を立てて帰って来た。
 やがてゴール下のストップウォッチが鳴ると、それが試合終了の合図になる。
 結果は一点の差で翔のチームの勝ちだった。

「あの翔のゴールが利いてたな〜」
「ホント、いかにも翔って感じだよな。部活の時もあれ位入れば良かったんだけどな」
「うっせーな! どうせまぐれだよ」

 やはり彼達の中でも一番背が低い翔は、全身でその尤もな暴言を吐いたチームメイトに食って掛かる。

「まぁ言われても仕方無いだろ。どっちにしろ負けは負けだからな、約束通り奢ってやるよ」

 どうやら賭けをしていたらしい。
 今何となく翔が勝った理由が分かった気がした。
 どういう訳かここ一番の勝負には強いのだ。

「お〜いそこの一年、お前も来いよ」
「え、僕…?」

 取り敢えず呼ばれたので、ハヤトも彼達の輪に駆け寄る。
 近くで見ると、やはり翔以外は比較的体格が良く、どうしても圧巻されてしまう。

「そんなに怯えるなって。ずっと見てくれてたんだからな、お前も」
「でも…」
「良いじゃないか、こいつ達が良いって言ってるんだからさ。ハヤトも来いよ」
「う、うん。ありがとう」

 とは言え、やはり自分が直接参加して無いだけに申し訳無さは残る。
 しかし、ここでまたその素振りを見せてしまうと、それこそ彼達は気に病んでしまう。
 それだけは何としても避けるのが吉だろう。
 脇に自分のスケートボードを抱え、ハヤトは上級生の輪に半分埋もれた状態で付いて行く。
 行き着いた先は、有名なアイスクリームのチェーン店だった。
 時期的にはまだ冬真っ盛りであるにも拘らず、運動した後で冷たくて甘い物を求めるのは人間の性であろうか。

「分かってると思うけどさ、シングルだけだからな」
366835:2011/01/25(火) 00:25:26 ID:H/gSbUkj
>>365

 負けた方の一人が念を押す。
 有名所なだけあり、アイスクリーム一つにそれなりの値段があった。
 その代わりと言って良いのだろうか、どれも品質が良く美味しそうに見える。

「ハヤトはどれにするんだ?」
「どれって言われても、いっぱい種類があってなかなか選べないかな。何とか二つまでは絞り込めたけど」
「むぅ、それもそうだよな」

 どうも選んでいないのは自分達だけみたいだった。
 その場で食べるのでまだ時間に余裕はあるが、食べ終えた後の状況を考えると急いだ方が良いのかも知れない。

「何にするか迷ってるならさ、お前達二人でダブルにすれば良いんじゃないか?」
「なっ! えっと…えぇ!?」

 翔の仲間の一人が事も無気に言う。

「そうそう。その方が安く済むしな」
「成る程、その手があったか。それなら別の種類も食べられるしな。ハヤトはどうだ?」
「ぼ、僕は…」
「と言うかそうしてくれた方が、奢る側としては助かるんだけどな」
「じゃあ…そうする」

 思わぬ所に飛び込んできた機会。
 これを生かさない手は無い。

「よし決まり。それなら、ハヤトがさっき言った二つで」
「え、良いの? 翔先輩も欲しいのがあるのに」
「実はさその内一つがさっき言った奴にあってさ、だったらもう一つはハヤトのでも良いかなって」
「んじゃ決まり。じゃあすみません、それ二つをダブルで」

 「畏まりました」と、女性の店員は一礼する。
 そして、慣れた手付きで店員はアイスクリームを真円に形作って行く。
 あっと言う間に差し出されたそれは、他の人に比べて一回り大きく見えた。

「あれ?」
「それは記念サービスです。貴方達が丁度31人目ですから」

 アイスクリームがハヤトに手渡された時に店員がウィンクした様に見えたのは気のせいだろうか。

「へぇ〜。オレ達ラッキーだったな」
「う、うん…。そうだね」

 何故だかハヤトはそれだけでは無い様な気がした。
 しかしこれ以上は詮索し様が無いので、彼達の近くの椅子に座る。
 当然一つしか無いので必然的に翔と向かい合う状態になる。
 熱く感じるのは間違い無く暖房の所為だけでは無いだろう。
 甘い。
 それだけでは無い何かがハヤトを支配する。

「美味いなぁ。こんなのなかなか食べないからな」
「うん。僕も随分前に来て以来だから、久しぶりに食べれて嬉しいかな」
「そんな風に言ってくれると、俺達も負けて悔い無しって感じだよな」
「でも、僕まで貰って良かったんですか?」
「良いの良いの。ハヤト君…だっけ? 翔の友達なら全然OK」
367835:2011/01/25(火) 00:26:53 ID:H/gSbUkj
>>366

 つまり、自分もある種の翔のチームの一人として見てくれているのだろう。
 翔の友人が集まっているだけあって、友好色は非常に強いらしい。
 まぁそれは翔と言う人物の人望の良さも後押ししているのもあるだろうが。

「あ、翔先輩」
「ん?」
「ほら、溶けたのが頬に付いてる」

 添え置きのペーパータオルを一枚手に取り、ハヤトは翔の口の周りを軽く拭き取る。

「はい、取れた」
「あ、悪い…」

 この時、翔は勿論ハヤトですらも今の状況に気付く事は無かった。
 後になって考えてみると、今のハヤトでは赤面だけで済まされない程恥ずかしい事をしてしまっているのだから。
 だが、それは周囲が二人に対して何も指摘しなかった事も要因の一つかも知れない。
 疑問に思われないから、違和感を感じない。

「美味しかった。先輩方、御馳走様でした」
「はいよ。そんじゃ、そろそろお開きにするか」
「そうだな。オレもそろそろ夕飯の準備に帰らないと」
「あ、そうだよ。今度俺達に飯作ってくれる約束してたろ」
「だから、あれは何を作るか決めてくれないと作りようが無いんだって。献立考えるのも楽じゃないんだからな」

 翔と友人達が言い争っている間に、その輪から外れていた一人がハヤトの肩を軽く突く。
 翔程では無いが、メンバーの中では比較的小柄な少年だった。
 彼の方に振り替えると、親指を後ろ向きに立てていた。
 それの意味を瞬時に悟り、ハヤトは彼の元へと駆け寄る。

「どうしたんですか?」
「いや、どうしたって言うか…。そうだね、単刀直入に言おう。ハヤト君、君ってさ…翔の事が好きなんだよね?」
「な、なぁっ…!?」
「しっ。翔にきこえる」

 慌ててハヤトは片手で自分の口を塞ぐ。
 翔の方に振り返ると、気付かれた様子は無い。

「俺達の間ではね、君の事はちょっとした噂になってたんだ。体育の授業の間、ずっと翔の方を見てたよね」
「き、気付いてたんだ…」
「うん。なんだけどね…。肝心の翔が全く気付いてないんだ。あの馬鹿、そう言うのには信じられない位疎いからね」
「でも、それでも…」
「勿論さっきも言った通り、俺達は気付いてた。多分、アイスクリーム屋のお姉さんもね」
「あぅ…」

 店での奇妙な違和感の意味を、ここでようやく理解する。
 つまり翔以外の第三者全員が自分の恋慕に気付かれていたと言う事になる。

「だけど、勘違いはしないで。俺達は別に君を笑うつもりは無い。寧ろ、翔自身に気付いて欲しいんだ」
「翔先輩に…?」
「うん。ハヤト君なら、翔に君の気持ちを気付かせる事が出来ると思うから。これは、俺達からの願いでもあるんだ」
「願い…」

 確信する。
 ここに居る翔の仲間達は、皆翔が好きなんだと。
 それは決して友人としての意味だけで無く、どちらかと言えばハヤトのそれに近い。
368835:2011/01/25(火) 00:28:00 ID:H/gSbUkj
>>367

「………ごめん。辛い事、頼んでる」
「あ、いえ…そんな事……」
「無い事無いよ。君も、俺達でさえもこれは難しい話なんだ。それなのに、俺達は君に自分達の都合を押し付けている。君の気持ちを利用してる事に変わりは無い」
「先輩…」

(皆、苦しんでる。僕も、みっちゃんも。…先輩達も)

「でもさ、だからと言って翔を責めないで欲しい。あいつどうしようも無い位に純真でで、どうしようも無い位に馬鹿だけど。それでもどうしようも無い位に一生懸命なんだ。だから、俺達が悩んでるとあいつも苦しんでしまう。それだけはどうしても嫌なんだ」

 翔が自分を看病しに来てくれたあの日、ハヤトは翔を許せない気持ちで一杯だった。
 だが、それでも翔を責める事は出来無い。
 翔を咎める事が出来無い。
 だからと言って、決して翔を甘やかしている訳では無い。

(だって、翔先輩…。壊れてしまう。悩んで悩んで悩み抜いて。それでも答えが出せなくて)

「………正直言って、僕も自信が無いです」
「あ…そうだよね。ごめん」
「ううん。だからこそ、僕は翔先輩が好きなんです。翔先輩のそう言う所に惹かれたんだから」
「そっか…。そう言ってくれると、俺達も安心出来るよ」

 この少年の言葉の端々に、ハヤトは違和感を拭い切れなかった。
 まるで、もう二度と翔に会う事が出来無くなる様な。

「先輩達、まさか…!」
「気付いちゃったか。俺達は翔と同じ学校には行かない。俺達で話し合った結果、それぞればらばらの学校に行くって決めたんだ。ハンデは無しって事」
「そんな…」
「でも、これが俺達なりの覚悟だから。後悔なんかしない。それにこれは、君の事を知ったから決めれた事なんだ」
「僕を…」
「だから、これからも…翔の事をよろしくね?」

 とても寂しくて、ひたむきで優しい微笑みだった。

(重過ぎる、かな…?)

 重い想い。
 洒落の利いた言葉が悲しい程に似合っていた。
 思わず、泣きそうになった。
 鼻の先を何かが通り過ぎて、瞼が熱くなる。

「先輩達は…それで良いの?」
「言ったよ。これが俺達の覚悟だって。後悔なんかしないって」
369835:2011/01/25(火) 00:30:29 ID:H/gSbUkj
>>368

 迷いの無い返答だった。
 それ程に、彼達の意志は硬いと言う事だろう。
 これ以上の言及は、却って信念を殺ぎ兼ねない。
 もうハヤトには目頭に溜まったものが零れてしまわない様に、袖で両目を拭うだけだった。

「ハヤト…どうしたんだ?」

 話を終えた翔がいつの間にか自分の元へ来ていた。
 もう以前の様な心配は掛けまいと、出来るだけ自然に微笑み返した。

「平気。ちょっと目にゴミが入ったみたいだったから、先輩に見てもらってたんだ」
「そっか。もう大丈夫か?」
「うん」
「じゃあ、俺達も帰ろうか」
「そうだね。じゃあ、今日はありがとうございました」

 彼達の方へ振り返り、ハヤトは頭を下げる。
 それぞれ思い思いの方法で応えたのを確認して、最後にもう一度深く頭を下げた。
 それがハヤトに出来る、精一杯の意思表示。
 やがて踵を返すと、既に翔は先の方へと歩いていた。
 早足で翔の元に駆け寄り、歩幅を翔に合わせる。

「晩ご飯、何にするか決めてるの?」
「いや、買い物しながら考えようと思って。結局決めてないな」

 若干の溜め息混じり。
 やはり毎日の献立を考えるのも大変なのだろう。

「じゃあ…さ、買い物ついでにちょっと付き合ってくれる?」
「ん? 良いけど…」

 市街地の方に出て来ていたのが幸いして、普段はなかなか訪れないショッピングモールへと足を運ぶ。
 まだ夕方に入って間も無いので、閉店している店は一つも無い。
 吹き抜けの休憩所でハヤトは立ち止まった。

「すぐに戻って来るから、ちょっとだけ待っててくれる?」
「あ、あぁ…」

 流石に行動が突飛過ぎて読めないのだろう、翔からは困惑の文字が見て取れた。
 だがここで躊躇してしまっては、もうこの先どれだけ翔と居れようとも意味が無い。
 それだけは何となく分かる。

(もう、僕だけの想いじゃ無い)

 結局五分と掛からずにハヤトは紙袋を持って休憩所へと戻る。
 翔はハヤトに言われた通り、椅子に座って待っていた。
 ここですぐに声を掛けようかと思ったが、少しだけ考えてそれではあまりにも味気無い。
 幸い翔が自分に気付いた様子は無かった。
370835:2011/01/25(火) 00:33:08 ID:H/gSbUkj
>>369

(やっぱり…驚いてくれなきゃ)

 とは言え、今のハヤトに出来る事と言えば、精々背後にこっそりと近付いて声を掛けるくらいだった。
 これ以上の妥協は無いと言える程に月並みではあるが。

(仕方無いよね。他の人も居るし…)

 内心溜息を吐きながらも、当初の予定を遂行する。
 翔に気付かれない様に背後に回り込み、ひっそりと様子を伺う。
 携帯を扱っている所を見ると、完全に自分には気付いていないらしい。
 今しかないと手を伸ばし掛けた時、触れる直前で翔の携帯が震えた為にその手を引っ込めた。
 慌てて少し離れた場所にハヤトは座る。
 メールでは無く直接の電話らしい。

「もしもし…あぁ、ソラ」

 その名前が、ハヤトに深く突き刺さる。
 偶然…では無いのだろう。
 今日と言うこの日は、翔にとって特別な日なのだから。
 当の本人は自覚すらしていない様だが。
 距離が離れているので相手の声は聞こえないが、翔の返事から大体の内容は予測出来る。

「えっと、今日? ………あ、そっか。そう言えばそうだったな」

 どうでも良い様な笑いでも、その表情から翔の喜びが分かる。
 目の前にその本人が居る訳でも無いのに、翔の笑顔には何か特別なものが含まれていた。

「でも、何だか嬉しいな。オレ自分でも覚えてなかったのに、ソラは覚えていてくれたんだよな」

(僕には見せない―笑み)

 初めて見る、翔の“本物”の喜び。
 誰にも見せなかった唯一の表情。

「………うん、そうか。ありがとう。じゃあ、またな」

 電源ボタンを押し、携帯を閉じる。
 それでもその表情は崩れない。
 偶然だろう、翔がこちらに振り返り目が合った。

「もう戻って来てたんだ」
「あ、うん。でも、電話してたから。………電話の相手、ソラ先輩…だよね。前に言ってた」
「何だよ、最初から居たなら声掛けてくれれば良かったのに」

 そう言って翔は自分に微笑んでくれる。
 誰にも見せる、誰もを振り向かせる笑みを。

(僕には…見せてくれないの?)

 袋を握る手に力が籠る。
 肩までその震えが伝わる。

「ハヤト…どうしたんだ?」

 翔の声で我に返る。

(翔先輩の、せいじゃないか)
371835:2011/01/25(火) 00:34:25 ID:H/gSbUkj
>>370

 そう言う事が出来たら、どれだけ楽になる事が出来るだろう。
 いっその事何もかもを投げ出せたら、自分は何処へでも飛んで行けそうな気さえする。
 だったら―

「あ〜あ。折角翔先輩を驚かせようと思ったのに、ソラ先輩に先越されちゃったな」
「は? どう言う事だよ。って言うかお前、話聞いてたのか?」
「翔先輩の返答で想像くらい出来るよ。だって僕も、こう言う事だから」

 一度溜め息を吐いて、ハヤトは握り締めていた紙袋を翔の目の前に差し出した。
 きょとんとした表情を浮かべながらも、翔はそれを受け取る。
 小さな声で呟く。

「ハッピーバースディ」
「あ…」

 そして、自分に今出来る精一杯の笑みを翔に向ける。

「一番に僕が言おうって思ってたけど、ソラ先輩から電話が来るとは思わなかった。ちょっと、残念…かな?」
「今開けて、良いか?」
「勿論」

 紙袋から見覚えのある大きさの箱が姿を表す。
 当然だろう。
 それは翔にとって、非常に慣れ親しんだ大きさなのだから。

「それで、もっと練習してね」

 新しいゴムの匂いが鼻を突く。
 ざらざらとした表面を何度も回しながら、翔は受け取ったそれを見詰めていた。
 卒業と言う新しい門出に合わせた、新しいバスケットボール。

「良いのか? こんな物オレがもらっても…」
「誕生日のプレゼントなんだから、貰ってくれないと僕が困るよ。…先輩、高校に行ってもバスケ続けるでしょ?だから、頑張って」
「当然!」

(あ…)

 親指を立てて微笑んでくれた。
 電波の海原の何処かに居る、『ソラ先輩』と同じ笑顔。

「…やっぱり、ずるいなぁ」
「ん? 何か言ったか?」
「ううん。何でも無いよ」

―楽になるのなら、尚の事それに逆らうだけ。


その日、雪が降りました。
僕達は珍しく降り積もる雪の中を笑い合いながら駆けて行きます。
袋から溢れそうな荷物が零れ落ちない様に、手を繋ぎながら走りました。
初めて一緒に遊びに行った時と同じ。
想いを隠しながら、僕は笑っていました。

  あの日から―
372835:2011/01/25(火) 00:47:04 ID:H/gSbUkj
と言う訳で、今日1月25日は翔君の誕生日(公式)です!!
何て言ってる割には別に記念になるような話でもないし翔の視点ですらないけど。
とりあえずオメデトウ翔君!

硝子「じゃあ何で私のとき(12月27日)は祝ってくれなかったのかしら?」
作者「いや、だって…ほら。カード出たばっかりで情報無かったし、そっち書いたら間に合わなアッー」


>>359
今気付いた、投稿時間きめぇ

>390
やってるけどコンポラ5が消えて現在凹み中。
カード扱ってる場所少ない上に補充されないorz
373名無しさん@ピンキー:2011/02/09(水) 01:00:20 ID:eXo5fG+J
保守
374エイタロ:2011/02/09(水) 18:36:13 ID:pwWzl2T2
みんなひさしぶり! 保守!

ぜんぶ読んだ! きゅんきゅんだったりエロかったりで、ごちそうさまでした。
375名無しさん@ピンキー:2011/02/11(金) 10:19:36 ID:AnM1RFo8
保守そして乙
来るたびに作品が投下されてて楽しい

このスレ的にユンタってどうよ
なかなかいいガチキャラだと思うんだが
376390:2011/02/11(金) 11:32:00 ID:nxqnjrXy
気にせずに投下すればいいんじゃない?

ところでみんな、残念なイケメンの多い今作だけど、現時点で好きな男キャラっている?
俺はケンジが好きだよ
377876:2011/02/12(土) 00:52:28 ID:cN17br6d
今作で好きなのはケンジかな
エージェントは設定は好きだけどわりと女顔なのが残念


今ダイの勝ちアニメに出てくる眼鏡のお兄さんの話を考えているんですが
名前どうしようか悩んでます。元ネタ通りなんですかね
378名無しさん@ピンキー:2011/02/12(土) 02:51:45 ID:koHTTwmx
リyuー→龍→たつ とかで、たつ兄さんとか浮かんだ
379458:2011/02/12(土) 03:25:06 ID:B3urbiNN
>>375
ユンタは俺の脳内で、貴重な体毛+α要員
濃いめの陰毛やら腋毛やらが、暑さで常に蒸れて+α。
BADアニメは腹を掻いてるけど
あーいうノリで、陰部を人目はばからず掻いてそうで萌ゆ。


現時点ではブレッドでs
ピアノ奏者の先輩方から(グリーンとかスモークとか…否GH、否SR)
手厳しいゴニョゴニョを受けてるとか妄想して、ご飯が三杯は余裕でs
380名無しさん@ピンキー:2011/02/13(日) 02:06:49 ID:o6w8UMYn
ジャミロ熊井が超可愛い。
381名無しさん@ピンキー:2011/02/21(月) 08:15:37.90 ID:nX/TUrOd
そっと保守
382名無しさん@ピンキー:2011/02/25(金) 03:22:05 ID:/JF57O1b
ほっしゅ
383名無しさん@ピンキー:2011/03/06(日) 15:50:19.93 ID:vVjvz1yN
保守
384390:2011/03/12(土) 12:50:37.14 ID:W3QX/YH6
保守ついでにスレの住人の安否確認をしたい
みんな無事か!?俺は無事だ!!!
385名無しさん@ピンキー:2011/03/12(土) 16:44:30.21 ID:lnRodCvy
無事だよ
しかしこの状況じゃ妄想とか普通に無理だな……
386390:2011/03/12(土) 23:29:24.04 ID:/IQElJDS
久々にまとめスレ更新してきたよ
溜め込んでて正直スマンかった
被災した人の慰めになればいい
387876:2011/03/13(日) 10:05:03.05 ID:9zvEytEr
876です。無事です
テレビ見た時に愕然としました
一刻でも早く復興して、皆が安心出来るようになれればいいです
388390:2011/03/21(月) 10:07:01.43 ID:OuJ7LPFx
被災地の復興を祈りつつ保守
389名無しさん@ピンキー:2011/03/27(日) 21:14:03.19 ID:unJ3Q+/7
保守
390名無しさん@ピンキー:2011/04/03(日) 17:22:28.00 ID:/QVWM8jS
レアカードの上司and部下が欲しくてたまらない・・・・
でもポップンしない人間なんで自力で手に入れることができない
オクで1万近い金出して購入したくはないし、
いい年した男が、ひたすら筐体に張り付いてゲームもせずにひたすら金を入れるのも
頭おかしいと思われるし、確実に手に入るという保障もない
もうどうすればいいんだorz
391名無しさん@ピンキー:2011/04/03(日) 22:31:07.48 ID:ZnTPZn3K
そりゃ難しい問題だな
周りにポップンやってる友達とかいないのか?
レアカ出るまで粘らんでも、トレードで手に入るかもしれないぞ
がんばれ
392名無しさん@ピンキー:2011/04/03(日) 23:56:24.21 ID:8DJUk29F
ビット×熊井萌え
393名無しさん@ピンキー:2011/04/04(月) 08:49:37.07 ID:kUGr7vru
十兵衛×六萌え・・・同士いないかな。
394458:2011/04/07(木) 00:28:07.02 ID:2vIwsyXQ
>>393
395名無しさん@ピンキー:2011/04/07(木) 02:12:32.91 ID:yv6xCptR
>>394
おお、同士が居た

十兵衛は男臭くていいと思うんだ。
ガチムチ×ガチムチになんのか・・・ゴクリ
さて、文章の勉強でもしようかな・・・
396名無しさん@ピンキー:2011/04/11(月) 00:58:01.86 ID:EDQzDelJ
>>390
俺はトレードで入手した。
トレードはすごく有効だと思うが…ポップンしないならその他カードの入手すら難しそうだな。

てか、上司がジャックを性奴隷にするネタとか誰か書かない?
上司じゃなくてもいいけど。
誰も書かないなら俺が書く。
397名無しさん@ピンキー:2011/04/12(火) 17:15:56.31 ID:dQXw7WFB
>>396
期待
398名無しさん@ピンキー:2011/04/13(水) 23:53:12.86 ID:itAnwHd+
>>396
待ってる、超待ってる。
ぜひとも、上司×部下でお願いしたい!
399名無しさん@ピンキー:2011/04/14(木) 19:53:24.13 ID:BnbCf8ep
>>396
上司キター!
400名無しさん@ピンキー:2011/04/15(金) 03:17:20.81 ID:bj6Wgn2Z
396だが、上司部下書いてたらなんか長くなってきた…。
まだ終わりが見えないだが途中投下してもおk?
401名無しさん@ピンキー:2011/04/15(金) 06:58:36.28 ID:A6T9xpTA
>>400
おk!
402名無しさん@ピンキー:2011/04/15(金) 12:34:26.24 ID:MPRTpvCg
>>400
OK!OK!
待ってるよー!
403名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 22:16:21.34 ID:qqXp0eDI
上司部下の者です。
途中投下おkとの事で投下します…が、本当に中途半端なんで申し訳ない…。
あと細かい設定だが、

・二人の出会い話。ジャックは元はフリーの暗殺者で、ヴィルryはその標的だったが…

みたいな設定を頭に入れて読んで欲しい。
良ければ以下からどうぞ。






むせ返る程の黒煙が、視界を、体を―――何もかもを飲み込んでいく。
古びた油と廃れた灰の臭いが、非常に不愉快だ。

焔を思わせる朱い瞳を閉じて、意識を集中させる。

(やっぱり、気配が無い。)

相手が人間では無いという事は、とっくに分かりきっていた。
それでも職業上の自尊心から諦めきれず、傷だらけの体は徐々に鈍さを増していく。



「その体で私を討とうとする心意気、誉めてやろう。」



背後から耳元へ囁かれ、即座に翻しナイフを向けるが。


「…そして、愚かだ。」


刃が空を切ったかわりに、心臓を直接掴まれたような圧迫感が襲った。

「――――……っ…!!」


実体が朧げな敵は青く輝くネックレスに手を翳し、その手をゆっくりと丸める。

その直後に、朱い瞳の彼は嗚咽を漏らし蹲った。

「貴様の"負け"だ。」

敗北―――敵はあえてその事実を強調した。
自分がどんな顔をしているか、考えたくも無い。

敵が放つ青白い光が一層強くなり、意識はそこで途絶えた。
404上司部下:2011/04/16(土) 22:18:23.49 ID:qqXp0eDI

冷たく堅い何かを膝に感じた時には、もう遅かった。


意識が完全に覚醒するよりも早く、朦朧とする視界で状況を把握する。
一見して、見慣れない廃墟…内装や雰囲気から、恐らく教会だったところだろう。
朱い瞳の彼―――ジャックは、疑念と絶望を抱く。

生きている。
しかし、任務には失敗した。
任務に失敗したら、やる事は一つだけ。
…だがそれを実行しようにも出来ない。
何故なら、口には猿轡。
四肢を後ろ手に拘束され上半身は起こされ、跪いているからだ。

殺されずに連行され…言うなれば「捕虜」という状況だろうか。
そして雇い主についての情報などを問い質され、応じなければ拷問。

そこまで考え、項垂れた。
拷問が怖いわけでは無かった。
ただ、今まで失敗した事など無かったために悔しかった。
そのうえ自害も許されない。

肩を落とした瞬間…真正面から突如、気配が現れた。

「気が付いたか。」

はっ、と息を飲んで見上げると、そこには先程の敵がいた。
戦闘の際には見られなかった深紅の瞳をジャックに向ける。
標的だったこの男の名は、ヴィルヘルム。
鋭い眼光で睨むジャックを意に返さず、ヴィルヘルムは言葉を続ける。

「常套句だが、まずは依頼主について問おうか。」

そんな風に問われ、誰が簡単に口を割るものか。
奴の喉を掻き切ってしまいたいと思うジャックだったが、拘束されている上に噴火機もナイフも銃も無い。
ガスマスクすら奪われており、些細な表情の変化も相手に見られてしまう。
全くもって不愉快だとジャックは胸中で吐き捨てる。

「先程の戦いからして、プライドが高いと見た…単純に聞いても応えないのは分かっている。」

「なら…自ら言うまで待ってやろうか?」

―――待つというのは、こちらが死ぬ寸前まで放置する、という事だろうか。
そう捉えた瞬間、布を裂く甲高い音が響いた。

ヴィルヘルムが持っていたのはジャックが戦闘に使っていたナイフだった。
息もつかぬ間にジャックが着ていたシャツを正面から切り裂いたが、肌は傷一つ付けていない。
目を見開くジャックに対し、ヴィルヘルムは薄ら笑いを浮かべていた。

「そうだな…
それまでは"遊戯"でもして愉しむとしよう。」
405上司部下続き:2011/04/16(土) 22:19:49.99 ID:qqXp0eDI

言ってる事の意味が分からない。

混乱するジャックを無視して、ヴィルヘルムは先程裂いた服を掴みジャックの上半身を露わにする。
何事かと身を捩るジャックの腹から胸へと、手袋に包まれた白い掌が這う。
手袋越しの体温があまりにも冷たく、捩る体がビクリと跳ねた。

「よく鍛えられている、無駄の無い体だ…だが、場数はあまり践んでいないな。」

無遠慮に体を弄って、いちいちこちらの神経を逆撫でる物言いに血が昇る。
そして、目の前に近付いてきた赤い髪めがけて頭突こうとした瞬間だった。


「っ…!?」

ヴィルヘルムの指先が、ある意図を持って、ジャックの乳首を捏ねた。
痛いのかこそばゆいのかよく分からない感覚に、思わず体を引く。

それを見たヴィルヘルムは唇に弧を描き、戦闘にてジャックを伏した際に使用したネックレスを再び輝かせた。
条件反射でジャックは目を固く閉じる。

…しかし、あの時のような苦しみや圧迫感などは無く、何故か体の奥に急激な熱を感じた。
その熱は瞬く間に体中を巡り、先程触れられた箇所がむず痒くなってゆく。
轡を噛まされている口からは荒い吐息が漏れる。

「どうした?苦しいか?」

愉悦を滲ませる顔を、潤んだ朱の瞳は敵意と殺意で映す。
映された相手は喉を鳴らして嘲笑う。

「良い顔だ…そうでなくては面白くない。」

そう呟くと、ジャックの脇腹に手を添え胸に舌を這わせた。

「あっ…!」

背筋を走った衝撃に喉を反らせ、轡越しに声が漏れる。


何だ、今の感覚は…?


「ん…っ、ぅ…!」

甘ったるいこの声は自分の声なのか。
殺す標的だった奴に、自分と対して歳も変わらないような男に、今、一体何をされてる…?

胸中は屈辱と嫌悪と羞恥が渦巻いているというのに、与えられる熱に焦がれる―――これが、快楽というのだろうか。
こんな愛撫じみた行為も、男と女がするものだと窺っていたが。


「従来の拷問では、つまらんだろう。」


まるでこちらの考えを読んでいたかのような言葉に、ジャックは思わずヴィルヘルムへ顔を向けた。

「貴様が考えている事くらい、手にとるように分かる。
ちなみに、私はこう見えて齢四百は越えている。見くびるなよ。」
406上司部下続き2:2011/04/16(土) 22:24:54.13 ID:qqXp0eDI

「ぁ、あっ…!」

読心術でもあるのか…。
また心を読まれるのは癪だと思い、思考を巡らせるのはやめた。

この拷問紛いの一方的な行為をひたすら堪える事に専念しよう。
体勢を整え居直るジャックを見て、ヴィルヘルムは目を細めた。

「…いいだろう。」

艶かしく動くヴィルヘルムの手が、固く主張し始めたジャックの陰茎を撫でた。

「くっ!…ぅ……」

腰に来る鈍く甘い刺激に、敏感になっているジャックの体は大きく跳ねた。
撫でられながら下履き全てを下ろされると、ジャックは肩と膝に布を引っ掛けただけのほぼ全裸という姿になってしまった。
外気と視線に晒された下半身はぶるりと震え、陰茎は更に昂ぶりを見せる。

ヴィルヘルムは手袋を外し、冷たいその手で直接ジャックの陰茎を包み込んで、緩く擦りあげた。

「う…!んんっ!!」

轡を噛んで堪えようにも、どうしても声が出てしまう。
甘い蜜のような何かが脳髄に広がって痺れる感覚が、とても気持ちいい。

「はっ…あ、ぁあ…」

がくがくと太股が震え、無意識に腰が動く。
気持ちいい―――とにかくそれしか頭に浮かばない。
きっと今、己は浅ましくだらしの無い顔をしているのだろう。
それでも熱は爆ぜそうな程に増していく。

「うぁ、あぁぁ…っ!!」


甘い蜜が波となって迫ってきて…果てる、と思った瞬間。
出口を塞がれるように陰茎を強く握りこまれた。
痛み、閉塞感、逃げ場の無い快楽が一気に篭って、ジャックは潤む瞳でヴィルヘルムを見つめる。

「どうした?縋るような眼だな。」

笑いを堪えているのが分かる。
かつてこれ程の屈辱を味わった事があっただろうかと、ジャックは目を伏せると頬に一筋の涙が伝った。
その様を見てもなお、ヴィルヘルムは喉を鳴らして笑う。

「貴様、淫売の才能があるぞ。」

お前が俺の体に何かしたくせに、何を言うか。
それよりも…体内で暴れるこの熱を、早くどうにかしてくれ――


「イキたいか?」

地に響く声での問い掛けに、ジャックは小さく頷いた。


とりあえずここまで。
拙文スマン。
407名無しさん@ピンキー:2011/04/16(土) 23:24:48.08 ID:FMOw+OQ4
上司部下キター!実に萌えた、ありがとう403。
まったり待ってるから、いつか続きも投下してほしーな!
408名無しさん@ピンキー:2011/04/17(日) 07:25:04.64 ID:2dEWKIgp
>>407
続きはいつになるか分からんが、今月中には終わらせたいと思ってる。
そう言ってもらえると書く気力に繋がるからありがたい。
409名無しさん@ピンキー:2011/04/17(日) 23:41:34.28 ID:hXEyZZKc
wktkでお待ちしております
のんびり待ってるから焦らなくていいよー
410名無しさん@ピンキー:2011/04/27(水) 00:27:25.15 ID:Qkv7EMAf
ふぅ……シシワカ×カゲトラは良い。心が洗われる。
シシツグとの兄弟丼もおいしい。
411名無しさん@ピンキー:2011/04/27(水) 18:11:49.06 ID:JR7w/YzO
暇だったから、短いアンケ作った。暇な人はやってみてね!

Q1:好きな組み合わせベスト3は?
Q2:好きまではいかないけど、見てみたい組み合わせは?
Q3:犯してみたいキャラは?
Q4:何故か犯せない、そんな聖域キャラは居る?
Q5:一度見てみたいシチュは?

----------------------------------
ちなみに、自分はこんな感じ

A1:1キラー(赤)×ギガ 2ウーノ×ツースト 3上司×部下
A2:ジェフ×ローズ ゲレゲレ×ペロ
A3:ソラ一択
A4:スマイル
A5:笑顔の練習って事でウーノに色々して貰って、最終的にアヘ顔ダブルピースなツースト
412名無しさん@ピンキー:2011/04/28(木) 08:38:03.96 ID:eu9xTCMv
Q1:好きな組み合わせベスト3は?
光×泳人、獅子若×影虎、ししゃも×佐藤さん
Q2:好きまではいかないけど、見てみたい組み合わせは?
ディーノと黄龍
Q3:犯してみたいキャラは?
頭の中なら獅子若獅子次。リアルなら六
Q4:何故か犯せない、そんな聖域キャラは居る?
ある意味ししゃも
Q5:一度見てみたいシチュは?
強気キャラ(特に六)をショタ化させて、対面座位で結合部をハメ取りなんぞエロいと思う
413名無しさん@ピンキー:2011/05/07(土) 15:52:04.77 ID:YUI8owi5
規制中かのう?保守
414名無しさん@ピンキー:2011/05/15(日) 01:29:55.85 ID:mlMu9yeN
色んな物の続きを待ちながら保守
415835:2011/05/16(月) 01:07:44.10 ID:E1mDgqA8
大変ご無沙汰してます835です。
震災で被災された方々には心よりご冥福をお祈りいたします。


久しぶりに投稿…と思ったら「本文が長すぎます」と言うエラーが出て全く出来ないんですけど、ひょっとして1行の字数制限って前より減ったんですかね?
416名無しさん@ピンキー:2011/05/18(水) 00:18:03.63 ID:CJNCGacD
セルゲイきゅんはケモショタ可愛い。
窮屈な宇宙服を脱がせて犬チンをしゃぶしゃぶしてあげたいお。
417835:2011/05/29(日) 00:52:42.29 ID:tu7w9Uoz
>>371

 物心付かない小さな子供の時、笑うと言う事を知らなかった。
 それは今でも余り変わる事は無く、誰だったろうかガラスみたいだと言われた事があった。
 硝子(ガラス)の顔を持って生まれた硝子(しょうこ)の名を持つ少女の形をした人形。
 正に洒落が利いていると、自分の事ながら思う。
 聞いた事が無いので分からないが、自分が生まれた時は泣き声も上がらない内に臍の緒を切られたりしたのではないだろうか。
 そう自分で思えるだけあって、両親はそれ以上に頭を悩ませていたに違い無い。
 何しろ8年越しに生まれた第二子は泣きもしない笑いもしないのだ。
 兄を見ていると、何不自由無く育ったのが分かる。
 だから自分は兄が嫌いだった。

「お兄ちゃんはこんなにも良い子なのに」

 まるで目の上の瘤を見るかの様な扱いが嫌だった。
 今になって思えば、その負の感情が余計に『硝子』を作り上げて行ったのだろう。
 逆に、自分が悪い子だと思った事は一度も無い。
 だから、どうして両親が嘆いているのかも分からなかった。
 分かろうともしなかった。
 大嫌いな兄と同じは嫌だった。
 その点で見れば、情操教育は最悪の結果で終わってると見てまず間違い無いだろう。
 そんな自分に転機が訪れたのは、ほんの些細な切っ掛けだった。
 自分の歳が3つになって、大体一ヵ月が過ぎた頃だった。 
 自分から見れば一般的に弟と呼ぶ第三子が現れたのだ。
 ところが、その弟にはここ一つ状況が違った。
 何せその弟は両親の愛の営みや生命の神秘によって生まれた人間では無いのだから。
418835:2011/05/29(日) 00:54:02.80 ID:tu7w9Uoz
>>418

 ある日突然、両親は既に新生児とは呼べない赤ん坊を抱えて帰って来た。
 何の言伝も無に子供達だけを放って丸一日家を空けたかと思うと、次の日に生々しい治療痕を作って帰って来た。
 子供ながら、何かがあったのだと言う予測までは出来た。
 実の子供二人が驚愕の表情を浮かべているにも拘らず、父親の開口一番の台詞は

「今日からこの子はお前達の弟だ」

 と、更に追い討ちを掛けるものだった。
 後から聞いた話だが、親友の家族と買い物に出掛けて事故に巻き込まれたらしい。
 身体の発達が異様に遅いこの子供は、生後二年でありながらも未だに親を認識出来無い様だ。

「ハジメ、硝子。翔君に挨拶しなさい」

 翔。
 それがこの子供の名前だった。
 冷たい陶器の自分。
 対してその子供の名には太陽に近い存在を表していた。
 つまり、この子供も自分にとっては邪魔者なのだ。
 そう感じ取った、正にその瞬間だった。
 冷たい自分の手に、柔らかく温かいものが触れた。
 指先に少しだけ、ほんの一瞬の刹那。
 たったそれだけの間に、自分の身体の中に何かが駆け巡った。
 その子供の手に触れたのだ。
 恐る恐るもう一度手を伸ばしてみる。
 するとその子供は、自分の指先を掴んだ。
 人差し指に対して、その子の指全て。
 それが滑稽に思えて、自然と口が動いた。
419835:2011/05/29(日) 00:57:31.39 ID:tu7w9Uoz
>>418 上は>>417

「かわいい」

 極自然に呟いたつもりだった。
 それなのに酷いものを見たと言わんばかりの表情をされた時は本気で癪に障った。
 冷静に考えると当然の反応ではあるが。
 だってそれが、初めて自分に浮かんだ笑みなのだから。
 この時初めて知る事になる。
 割れたガラスは高温で熱すれば溶けるのだと。
 溶けてしまえば、また生まれ変わるのだと。


 子供にとって一年とはとても長く感じるもの。
 それは一日一日をとても充実して過ごしているからなのかも知れない。
 自分が一日がとても長く感じたのは、翔がこの家に来た時からだったと思う。
 一秒でも長く翔と一緒に居たくて、学校の授業に苛立ちを覚えた。
 それが余計に時間の経過が鈍化する要因だった気もする。
 終業の号令が終わると同時に教室を飛び出し、数百メートルもの通学路を一度も休まずに駆け抜けた。
 勢い良く家の扉を開くと、大抵出迎えるのは硝子の役目だった。
 この頃まだ幼稚園に入っていなかった硝子を何度も何度も妬んだ。
 授業のある自分と違い、文字通り一日中。
 それこそおはようからおやすみまでずっと一緒に側に居れるのだ。いつだったか、一日中ずっと翔と居たくて無理矢理な仮病を使った事もあった。
 それでも許してくれた母親を、生まれて初めて心の底から感謝した。
 お陰でそれまでの皆勤を自ら踏み潰す結果に終わったが、少しも後悔は無かった。
 後にも先にもズル休みはこれっきりだったが。
 部屋に荷物を放り込み柵付きのベビーベッドのある部屋へと降りると、丁度硝子が翔に言葉を教えている場面に出くわした。
420835:2011/05/29(日) 00:59:14.54 ID:tu7w9Uoz
>>419

「わたしが、しょうこ。こっちがハジメおにいちゃん」

 この鉄面皮におにいちゃんと呼ばれるのはこの上無くむず痒かったが、翔の為だと我慢した。
 最近になってそれが分かっていて硝子がわざと言っているのが判明していた。
 状況が状況だけに、文句も言えない。

「ショーコ」

 発育が遅いとは言え、知能の発達は人並みに追いついていた。
 翔が来て一ヵ月経つと、両親を自分の『親』だと認識していた。
 だが、それから言葉を覚え始めたのは急成長とは言えるだろう。

「ハジメ…にーい」

 自分がちゃんと言えたと思っているのだろう、短い両手を精一杯自分に伸ばしていた。
 その健気さとあどけなさにハジメは小さく吹き出す。

「ぷっ…。ハジメ『兄ぃ』か」
「あ、それ呼び易い。じゃあ今日からハジメ兄ぃで」
「なっ…お前は呼ばなくていいっての!」
「じゃあ呼び捨てが良いの? それともお兄ちゃん? 兄貴? お兄様? 兄上? ブラザー?」
「………兄ぃで良い」

 こちらはこちらで相当な頭脳をもたらされているのを忘れてはいけない。
 寧ろ翔のこの発達は、硝子の賜物なのではないだろうか。
 喜ばしい事だが、それはそれで何とも面白く無い。

「だったら私は…」
「硝子『姉ぇ』だな。ほら翔。硝子姉ぇ」
「指差さないで」

 この際この出来過ぎた愚妹は無視する事にする。
421835:2011/05/29(日) 01:00:28.54 ID:tu7w9Uoz
>>420

「ショーコ…ねーえ」
「良く出来ました」

 背の低い柵から覗く小さな頭を、硝子は柔らかく撫でる。
 それが本当に嬉しいらしく、きゃっきゃと子供特有の甲高い声で笑っていた。
 その時ハジメは隣で硝子が小さく笑っていたのを聞き逃さなかった。
 ただしそれを本人に言ってしまうと逆効果なので黙っておく。

(素直じゃないからなぁ)

「何か言った?」
「いいや、何も?」

 近い将来の苦労が目に見えたが、不思議と悪い気はしない。
 後になって思ったが、それは自分に兄という自覚が目覚めたのだろう。
 同時にここで一つの目標が生まれた。
 言葉を教える硝子の様に、自分も翔の手本になる様な人間になりたい。
 今この時間だけで無く、これから先の未来にも。
422835
本当はケビン&セシルの方を乗せようと思いましたが、急遽試験的にこちらの短編を書き上げました。
何だか非常に制限がきつくなってるみたいで、このままいつもの様に無駄に長い話を書いて良いものだろうか。
取り敢えず今後の様子を見つつ、対策を考えていきます。