【田村くん】竹宮ゆゆこ 29皿目【とらドラ!】

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1名無しさん@ピンキー
竹宮ゆゆこ作品のエロパロ小説のスレです。

◆エロパロスレなので18歳未満の方は速やかにスレを閉じてください。
◆ネタバレはライトノベル板のローカルルールに準じて発売日翌日の0時から。
◆480KBに近づいたら、次スレの準備を。

まとめサイト3
ttp://wiki.livedoor.jp/text_filing/

まとめサイト2
ttp://yuyupo.dousetsu.com/index.htm

まとめサイト1
ttp://yuyupo.web.fc2.com/index.html

エロパロ&文章創作板ガイド
ttp://www9.atwiki.jp/eroparo/

前スレ
【田村くん】竹宮ゆゆこ 28皿目【とらドラ!】

http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1263136144/

過去スレ
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
http://sakuratan.ddo.jp/uploader/source/date70578.htm
竹宮ゆゆこ作品でエロパロ 2皿目
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1180631467/
3皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1205076914/
4皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1225801455/
5皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1227622336/
6皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1229178334/
7皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1230800781/
8皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232123432/
9皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1232901605/
10皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1234467038/
11皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1235805194/
12皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1236667320/
13皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1238275938/
14皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1239456129/
15皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1241402077/
16皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1242571375/
17皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1243145281/
18皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1244548067/
19皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1246284729/
20皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1247779543/
21皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1249303889/
22皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1250612425/
23皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1253544282/
24皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1255043678/
25皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1257220313/
26皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1259513408/
27皿目http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1260805784/
2名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 22:58:26 ID:xxYyhAaM
Q投下したSSは基本的に保管庫に転載されるの?
A「基本的にはそうだな。無論、自己申告があれば転載はしない手筈になってるな」

Q次スレのタイミングは?
A「470KBを越えたあたりで一度聞け。投下中なら切りのいいところまでとりあえず投下して、続きは次スレだ」

Q新刊ネタはいつから書いていい?
A「最低でも公式発売日の24時まで待て。私はネタばれが蛇とタマのちいせぇ男の次に嫌いなんだ」

Q1レスあたりに投稿できる容量の最大と目安は?
A「容量は4096Bytes、一行字数は全角で最大120字くらい、最大60行だそうだ。心して書き込みやがれ」

Q見たいキャラのSSが無いんだけど…
A「あぁん? てめぇは自分から書くって事は考えねぇのか?」

Q続き希望orリクエストしていい?
A「節度をもってな。節度の意味が分からん馬鹿は義務教育からやり直して来い」

QこのQ&A普通すぎません?
A「うるせぇ! だいたい北村、テメェ人にこんな役押し付けといて、その言い草は何だ?」

Qいやぁ、こんな役会長にしか任せられません
A「オチもねぇじゃねぇか、てめぇ後で覚えてやがれ・・・」
3名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 22:58:59 ID:xxYyhAaM
813 名前: 名無しさん@ピンキー [sage] 投稿日: 2009/01/14(水) 20:10:38 ID:CvZf8rTv
荒れないためにその1
本当はもっと書きたいんだがとりあえず基本だけ箇条書きにしてみた

※以下はそうするのが好ましいというだけで、決して強制するものではありません

・読む人
書き込む前にリロード
過剰な催促はしない
好みに合わない場合は叩く前にスルー
変なのは相手しないでスルー マジレスカッコワルイ
噛み付く前にあぼーん
特定の作品(作者)をマンセーしない
特に理由がなければsageる

・書く人
書きながら投下しない (一度メモ帳などに書いてからコピペするとよい)
連載形式の場合は一区切り分まとめて投下する
投下前に投下宣言、投下後に終了宣言
誘い受けしない (○○って需要ある?的なレスは避ける)
初心者を言い訳にしない
内容が一般的ではないと思われる場合には注意書きを付ける (NGワードを指定して名前欄やメ欄入れておくのもあり)
感想に対してレスを返さない
投下時以外はコテを外す
あまり自分語りしない
特に理由がなければsageる
4Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2010/02/14(日) 23:44:58 ID:TUDHeLCv
こんばんは。 バレンタイン祭り。お題出題中と聞いて、急遽参戦させて頂きます。
概要は以下です。

題名 : チョコに込める気持ちとか、貰う人の期待とか
方向性 :毎度ですが、ちわドラ!
     とらドラ!P 亜美ルートを経て、竜児と亜美が付き合ってる事が前提
時期 : 高校三年のバレンタインデー直前くらいが舞台。

長さ :8レスぐらい

チョコに込める気持ちとか、貰う人の期待とか


2月14日の存在、その意味するところ。
高須竜児にとってそれは、去年までは、もらう日でも、うらやむ日でもなかった。
バレンタインデーの存在を知る前に、自分の目つきの悪さが尋常でない事を知っていたからだ
醜いカエルにキスをしてくれるような奇特なお姫様など早々いない。たとえ義理であっても。

あげる日でもない。
女の子からあげるなんてもう古い。今の時代、男からも告白のチャンス。逆チョコが新しい!
なんて、新たな菓子メーカー、お洒落業界が作る流れにも乗らない。
というよりも
2年前までは凶眼で忌み嫌われる自分が渡そうとしたら絶対逃げられると信じていた。

竜児にとってバレンタインデーとは納期!
大量のチョコレートを作成、納品する日だった。

母である高須泰子の勤め先、スナック、毘沙門天。
キャバクラ、スナックの常套句、2月14日はバレンタインイベント。
毘沙門天もこれに習う。当日の来店者にチョコレートが渡される。
(注意、但し一万円以上飲食されたお客様方に限ります。数に限りがあります。
お早目のご来店をお待ちしております。)

2月14日に笑顔の女の子から手作りチョコレートを受け取る事が出来る。
それは、親父と化した多くの男達にとって、既に滅び去った御伽噺。ぶろーくんふぁんたずむ。
常連客が大集結する日。今一度、ファンタジーを味わい、みんなが笑顔で帰っていく。
健康的な高校生(男子だが家庭的)が作成したお菓子を嬉しそうに抱きしめて。

つまり、その日は毘沙門天にとって大きな稼ぎ時なのである。
全ては竜児の双肩に掛かっていた。

だから竜児は、せっせとお菓子を作る。
顔にチョコレートをつけて、ハート型に形を整える。受け取ってくれる人の事を考えながら。
そんな竜児を泰子が励ます。
どれだけ毘沙門天のみんなが竜児が作ったチョコレートを心待ちにしてるかを。
子供に戻ったような笑みで、それにかぶりつくかを。
配布される場所に同席出来ない彼も、喜んでくれる人たちを想像し、
14日夜までに50個ほどを一生懸命作るのだ。

それが去年までの話し。昨年までの竜児の2月前半の過ごし方だった。

だが、今年の竜児は少し違う。
泰子がは毘沙門天を辞し、お好み焼き屋、弁財天の店長となった今、
チョコレート製造機になる必要性がなくなっていた。
あー、忙しくも、今思えば至福の時。
などと郷愁に浸ってしまう。例年のイベントが無い事に物寂しさを感じてしまう。

「体は覚えてるようだな」、びくんびくん、「……く、悔しい」 なのである。

だから、身近なやつにだけでも作ろうかとも思う。
泰子はチョコレート好きだしな。とマザコンの竜児。
大河のおやつに丁度いいよな。と保護者の竜児。
く、櫛枝に渡したらやばいかな、一度振られちまってるし。と変態の竜児。
そして、川嶋亜美には、
「なんか皮肉ぽいよな」と、彼女の恋人という立場にいる竜児は思う。

川嶋亜美とは何だかんだで、彼氏彼女の関係になっている。
付き合いだしてから、時々しかデート出来ていないし、その割には頻繁に喧嘩もするが、
全部含めて、仲良くやれてる気がしている。

言いたい事も言えてるし、あいつも思った事を言ってくれてる気がすると。
だから、喧嘩にもなるし、仲直りだって早いのだと思う。
自信をもっていいはずだ。多分いいと思う。いいんじゃないかな、少し覚悟はしておく。

そうであるなら、
チョコレートを貰える事を期待してもいいのではないか思う。
貰えるんじゃないかな、少しry

それなのに、もし自分がチョコレートを手作りし、亜美に渡したとしたら…
竜児は想像してみた。

「川嶋、これ、チョコレートなんだが」
「え〜、やだ。高須くんが、超びっくり。私天然だから全然予想してなかった。
 亜美ちゃん嬉しいな。ありがとう♪」
「そりゃ、バレンダインデーだからな」
「じ、つ、は〜、亜美ちゃんもチョコレート用意してたんだよ♪」

無い。絶対に無い。てか怖い。
俺の前で外面なんか、もう使わねーだろ。想像するだけで寒気がする。
それより、悪いケースに備えてみるべきか…、

「川嶋、これ、チョコレートなんだが」
「そういえば、今日、バレンタインデーだっけ」
「そりゃ、2月14日だからな」
「高須くん。ごめ〜ん。仕事忙しくて忘れてた。
 あ、それとも亜美ちゃんの手作り欲しかったの?、竜児は?」
「べ、別にいらねーよ」

一応、くれない事も想定してみた。…が、期待してると割と辛い。寂しい。
貰えない事が前提の去年まで平凡な高校生の時はそんな事なかったのだが、
しかし、俺、なんでツンデレなんだ。


「川嶋、これ、チョコレートなんだが」
「それは解かってるけど、なんで?」
「そりゃ、バレンダインデーだからな」
「こういうのって男女逆じゃない?」
「いや、作りたかったから作ったまでだ」
「ふ〜ん。手作りなんだ。高須くん凄いね。ありがとう。嬉しいよ」
「おう」
「ごめんね。高須くん。私仕事忙しくて忘れてた。こんど埋め合わせするからさ」
「別にいいって、気にするな」

これが正解な気がする。
もし、俺が川嶋より、先にチョコレートを渡したとしたらだ。

仮に、既に買って、用意してくれてたとしても
手作りなんか渡したとしたら、用意したものを隠したままにするのではないだろうか。

万が一に、手作りで作ってくれてたとしたら
自分の方が出来が良くない可能性があると考えて、やはり隠したままにする気がする。

そして、一人で傷ついちまう気がする。
なんて、勝手な想像でしかないが。

と、今年のチョコレート作成は我慢しようと竜児は決めた。
だからなのか、作らない日々というものはなれないもので
2月の第2週をヤキモキと竜児は過ごした。モヤモヤとした気分を久々に味わっていた。
そして、そのやるせなさを痛感していた。

櫛枝に片思いしてた時はいつもこんな感じだったが、川嶋とは時々しかないよな。
あいつの方が先に言ってきたからか、なんか楽しちまってるなと

だから、こんな気分も悪くないかとも思った。
だが、直前となると話は別。2月12日金曜日。瀬戸際になっても、亜美の気持ちが把握出来ない。
健全たる男子というものやっぱり気になる。一応というか、実際、好きで付き合ってる訳だし、
なんて。

だから、様子を探る事に、竜児は決めた。


         ******


大橋高校近くの小さな公園。竜児は彼女が来るのを待っていた。
待ち合わせだった。昼休みにはメールをした。OKが出たのでここで待っていた。
かなり時間がたって、相手がやって来た。

「高須くんから一緒に下校しようなんてお誘いなんて珍しいね。
 今日はタイガーはいいの?」
「あ、あー、櫛枝と帰るらしい」

嘘だった。
亜美にメールして直ぐ、買い物に付き合えと大河のメールが来ていた。
悪い。先約があると断った。これは嘘ではない。
ばかちーと遊ぶつもりだ。と再びメールがあった。
そんなんじゃねーと、ツンデレな返信してしまった。
野生の獣がきな臭さを嗅ぎ取ったらしく、執拗にメールが来た。
最初は否定したが、その事に疲れ、なすがまま。
いつしかメールの内容はスレ荒らしのような内容になっていた。
読むのも辛い。
あと、後がこわい。

「ふ〜ん。実乃梨ちゃん、私が出るときソフト部の後輩に何か頼まれ事してたけど」
「それは…、そうなのか?」
「う、そ。高須くんを試しただけ。でも、嘘ついた理由は聞かないであげる。
 どうしてか解かる?。ね、竜児。亜美ちゃん、嬉しいよ」
「しらねーよ」
と言葉通り、嬉しそうな顔をする亜美。その成分は半分が悪戯に成功した達成感。
残り4分の1は優位にたった状況が生み出す余裕。のこりは当然。

「それで?。今日は何?。デートしようとか?。
 今日は残念ながら直ぐ仕事だから、あんまり時間ないんだ。ご休憩も出来ないくらい」
「そんな誘いじゃねーて、安心しろ」
「そういう否定の仕方もないんじゃない」
「いや実は今日ではなくだな。例えば今度の日曜とか時間取れないか?」
「ごめん。その日、予定入れちゃってるんだ」
「お、おう、そうか。ならいいんだが」
「本当、ごめんね。でも愛してるから」

なんて会話の後、二人で下校。亜美は本当に忙しく、そのまま帰った。
それ以下でもそれ以上でもなく、ただ下校した。

だからこそなのか竜児は一人になり、強烈な敗北感を感じていた。
バレンタインデーにデートの誘い。
どう言い分けしようが。チョコレートをねだってる事は隠しようも無い。
だが、それすらも拒否されたのだから。


         ******


「という訳なんだが、どう思う。北村」
ラーメン屋、六道輪廻。竜児は北村祐作を召還していた。
川嶋亜美の事で相談を持ちかける場合、この場所、この相手となる。

「お前達が俺を仲人だと勘違いしてると思うのだが」
相談相手はぼやいていた。これで何度目だろうかと。
今回にいたっては2回目だ。

「失恋大明神だろ。そこをなんとかな」
「まったくお前といい、亜美といい。同じことを」
「毎回悪いとは思ってる。だが俺が相談出来て、川嶋の本性をしってる男って言ったら
 お前だけなんだ」
「普通の恋愛相談ならいくらでも冷静な回答をする自信はある。が、
 俺の立場になって考えてみろ。親友と幼馴染の恋愛の相談を受ける身を。
 しかも、客観的に聞いてみればノロケ。さすがに俺でも生臭い」

それでも竜児はへこたれず、食い下がる。
「結構、重大な問題なんだ」

そんな親友に、仕方なしと
「で、どういう内容なんだ」
「明日のバレンタインデーなんだが、川嶋からはないとして、
 俺から送ったら嫌味に成っちまうかな」
「それが重大なのか?。大体なんで亜美から貰えないと思ってるんだ?」
「あいつ、2月14日なんか、まったく眼中無いらしくてな」

北村祐作は竜児を不思議そうに見た後、口を開き、また閉じる。
そして言葉を選びなおして
「好きしろと言いたいところだが、時にはなにもしない方がいいだろう」
「やっぱり変か。なんかチョコレートを作らないと落ち着かないんだが」
「俺には解からんが、渡す側はみんな、そうゆう義務感が沸くものなのか?。
 そして、それは手作りじゃないといけないのか?」
「いや、そういう訳でもないと思うが。どうせならって感じだろうか。
 それに俺は料理が好きだし、少々なら自信だってある」
「時に高須。料理が好きでもなければ、自信もないやつでも作りたいと
 思うことはあるらしい」
「大河な。なんであそこまで硬く出来るんだろうな?」
「無理しても作る。それが作る側なりの思いやりか。なるほど納得いった」
「ああ、贈り物って気持ちの問題だろ」

北村祐作はそのまま丼を傾けてスープを飲む。そして丼を置くと
「なら俺からのアドバイスは、やはり何もするなだ。
 後はお前らならなんとでもなるだろ」

と言って立ち上がる。店を出る前に振りかえり、思い出したように。
「それからもう一つ。今回はソープに行くな!だ。
 時には悩みを抱えといた方がいいぞ。とにかく、今度の日曜日くらいソープに行くな。
 家でじっとしてみてはどうだ」
と大声で言ったかと思うと、高笑いをして去っていった。
 
竜児は、ソープなんか行ったことねぇ と叫びたかった。
なぜなら、周りの目が気になったから。

しかし、ドツボにはまるような気がして言えなかった。
バレンタインデー前日のラーメン屋。
その場に居合わせた男たちすべての目が、竜児を優しく見てくれていたから。
きっと俺は2月14日にソープに行く相談をしていた男だと思われたのだろうと、諦めた。
絶対に日曜はソープに行かないと心に決めた。いくつもりもなかったが…


         ******


ここ2、3日、寒波の影響か寒い日が続いていた。昨日など一日中、雪、みぞれが降りどおし。
だが2月14日は曇りぎみでありながらそこそこ気候がいい。
日曜でもあるし、出かけるにはいい日よりだった。

けれど、竜児はいい日だからと外には行かなかった。北村祐作の助言通り、
自分から行動も起こさなければ、ソープにも行かなかった。
心を落ち着かせる為、ただひたすら家事をした。おかげで家はピカピカだ。
そんな事をしてる間に日曜日をあっという間に幕を下ろそうとしていた。
気づいた時にはもう夜だ。
「何もするな」って、何も起こらねーよな。当たり前だけど と
北村に文句でも言うかと考えていると、
メールが一つ。


frm 川嶋
sub 今って家?

もしそうだったらさ
近くに来たから、行っていい?



竜児は了解を返信で告げると、少しの高ぶりを抱きつつ、その時を待った。
しばらくして金属製の外階段を登る軽めの足音。来訪者の訪れを告げるチャイムが一つ。

「きちゃった」
「前も思ったんだが、それって80年代のバラエティのネタか」
「お見舞いの時の事憶えてくれてたんだ」
「まあな」
「つっこみがなかったから、引いたかと思ってた。寒かった?」
「あの時は風邪で寒気がしてたからな。と、今日も寒いか。あがれよ」
「今日はいい。これ届けに来ただけだから」
と言って亜美は綺麗にラッピングされた小さな箱を手渡す。

「お、おう。」
と竜児は感情を抑えて一言だけ答える。

「ゴディバの14日スペシャルバージョン。美味しいと思うよ」
「そんな高いものをかよ」
「だって亜美ちゃんからのだもん。私はなんでも一流。高級じゃないとさ」
「いや、別にそんな力いれなくてもな」
「だってさ、わざわざ探りとか入れてくれたんだもの。そんなに欲しかったて事でしょ。
 嬉しかったな」
「いや、なんて言うか」
「ふふん。かわいいよ。だから持ってきてあげたんだから。ありがたく思ってよね」
とドキマギする竜児の傍らでにこやかに笑顔を亜美は浮かべ、満足したように
「じゃあね」

「ちょ、ちょっと待てよ。送っていくから」
「う、うん」
亜美の足は止まっていた。

二人は夜道をあるく、なんでもない会話を続けて、時々笑って、からかって、
そんな感じで

「……俺もそう思う。大河はあれで律儀なとこあるからな。
 で金曜に大河に貰ったチョコ。川嶋はもう食べたのか?」
「食べてない。てか食べれないての、あの硬さってなに?」
「北村がその場で食べようとして、正に歯が立たないとか言ってたな」
「実乃梨ちゃんも言ってね。超人硬度10。地獄のメリーゴランドとか。あれなんだろう」
「櫛枝のネタも古いからな」
と竜児は笑う。そんな彼氏に亜美は軽く確認。

「それで高須くんもさすがにまだ食べてない?」
「いや食った」
「わ、もしかして必死に被り付いてとか?、なんかその光景超笑える」
「そんな事しねーて、形崩れないようにしながら、こうフライパンで暖めて、
 柔らかくしてだな」
「なるほどね。それで?、美味しかった?」
「そうだな。かなり美味かった」
「へー、タイガー、料理の腕上がったんだ」
亜美は微笑ましいといった心持で、竜児に感想を聞く。

「それもあるが、あの大河が一生懸命作ってくれたのが美味さの理由だと思う」
「ふ〜ん。精神論か」
「割と料理の本質ってそれじゃねーかと俺は思う。
 栄養学とか、旨み成分とかいろいろ化学的な事はあるだろうが、それよりもな。
 例えば、お前は俺の料理、凄いって言ってくれてるが、プロでやってる料理人と
 並べたら、比べるまでも無いだろ」
そんな事ないと亜美は本心から否定するが、

「それは正当な評価じゃない。喜んでくれるのは嬉しいが。それはお前だからだ」
「人によって、美味しさの感じ方が全然違う…、て事?」
「だと思う。根拠も、論理的でもねーが」

亜美はちょっと考え込むと真顔で
「高須くん。私からのチョコレート。嬉しかった?」
竜児は非常な照れを感じ、反射的に否定しようとするが、
今は違うと本能が理解し、本心が指令を出す。
「……そりゃ、まあな」
「だったらさ。さっきあげたチョコ捨てて」

「なんでだよ。そんなMOTTAINAIだろ」
「そんな事言ったって信じらんない。やっぱり比べられたら困る」
亜美は大きな目をより見開いて、必死で、それでいて臆病さが見え隠れする瞳で
言葉を繋ぐ、そして、からかいを装い、

「でも騙されてもあげるよ。送るついでに家にあがって。ごちそうしてあげる。
 亜美ちゃんお手製のチョコ。しかも出来たてがあるんだ」
「それって…」
「野暮なことは言いっこなし。要は高須くんが食べたいか、食べたくないか。
 但し、さっきの捨てる事が条件」
「捨てるのはMOTTAINAIな。誰かにやってもいいか。泰子とか大河とかに」

亜美はその言葉に呆れ顔。
「……それってさ。亜美ちゃんのプレゼント。人にあげるってなんかひどくね」
「そりゃ手作りだったら、人にやるのは嫌だが」

若手女優の表情は変わらない。だがその一言はちょっとした変化をもたらした。
少しだけ亜美の唇の形が変わった。緩やかなカーブを描く。

「そっか、そんなに亜美ちゃんの手作り大事なんだ。
 だったら食べる事許可してあげる。な・ん・な・ら、口移して食べさせてあげようか?」
「てそれはやりすぎだろ」
「別に。もっと凄い事してるじゃん。そうだ。誰かにあげるのは仕方ないとして、
 メッセージカードは抜いといてよ」
「解かったが、一体何て書いてあったんだ」
「なんろうね。チョコ食べてくれた後、口頭で教えてあげる。チョコ食べた口で」

竜児は亜美の唇から目が離せなくなっていた。

END


以上で全て投下終了です。お粗末さまでした。
1398VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 02:14:40 ID:DZ+6bOx4
>>12
乙です。 今回は正直、急いで書いた感が出ちゃった感じですね。
個人的には、亜美の「格好の悪いことは出来ない見栄っ張りな所」萌えポイントですw


こんばんは、こんにちは。 98VMです。

極一部のあーみんファンの皆さん。ローマシリーズ後半戦。
ようやくお届けすることが出来そうです。
全体の進捗状況ですが… 
前回告知から2話増えそうです。今回詰め込みすぎてるので、その反省から息抜き話を挿入しました。

ローマの平日5 (特別編)    ← いまここ
ローマの平日6〜11          プロット完了(一部のシーンは執筆済)
ローマの祭日(事実上の最終回)   プロット完了(ラストシーンは執筆済)
ローマの祭日お・ま・け♪(最終回)  とっくに完成w

今回は総レス数が60を超えておりますので、3日に分けての分割投下を試みてみることにします。
まぁ、長いから面白いというわけでもないので、過剰な期待は禁物ですよーw
なお、98VMとしては極力わかりやすく書いているつもりです。
ですが、一応一つだけご注意を。
本作は完全に竜児視点ですので、本文中にある亜美の心情描写は不十分になってます。
というか、そういうふうに書いてますw
この点は踏まえて、自分なりに亜美の気持ちを想像しながら読んでいただきたいのです。 
正解なんてありませんから、自由に自分好みに。

では、明日の夜あたりから投下したいと思います。 宜しくお願いします。
14名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 02:26:15 ID:UfMbkD0h
なんで長編書く人ってこう自己主張過多でウザくなんの
まだ昨日の投下ラッシュの感想すら出てないのに
15名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 02:40:42 ID:f04+70aN
>>13
はい。待ってますよお。
16名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 02:45:45 ID:3N2SsbTd
>>13

ヤバい!
かなり楽しみだ!!
17名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 03:35:50 ID:DZ+6bOx4
>>14
失礼しました。 では感想が書き込まれるのを待ちますね。
最近、感想が少なくなって寂しいなぁと思っていましたので。
1作品に少なくとも5〜6個くらい感想がつくとにぎやかでいいですよね。
にぎやかになるといいなぁと思っていろいろ書いたんですが、
自己主張過多でしたか。 申し訳ないです……。
18名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 04:24:29 ID:6jZ6N8ZC
>>14
投下期日指定されてるんだからその間に感想を書き込めば良いだけ。
特にVMさんは今回長編予定で新スレをわざわざ待ったんだろうし。
気持ちは分かるが、もう少し指摘もやんわりと。
19名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 04:53:09 ID:f04+70aN
補完庫Wikiにもページごとに[コメントを書く]でレスがつけられますので過去スレ投稿分の作品にも感想つけられますよ。
20名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 06:33:06 ID:XtLTpfNm
いや、>>14が指摘してるのは、投下されたSSのすぐ後に人気作の投下予告があったりすると、
コメントが「やった!」とか「待ってました!」って流れに切り替わって、
作品への感想を書く雰囲気でなくなってしまう事への危惧じゃないかな?
21名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 07:55:32 ID:vDqDK0dS
埋めのような何かだったけどすでに埋まってた何か。


大河のサイズの小ささは今更言うまでもないが、口も平均を遥かに下回る容量だ。
なので半分も俺のをくわえられない。ぎこちなくて歯を立てたり、先走りや精液の味は吐きそうになるほど
苦手のため余り積極的ではないし、俺もそれほど無理強いをしたくはないのだが、たまに思い出したように
しゃぶってくれることはある。大抵は他の娘への対抗心だったりもするが、気持ちよくしてくれる恩返しとか
そういう理由であると俺も嬉しい。涙目になってまで頑張って俺のを飲んでくれる時の大河は本当に可愛い。
決まってその後は正面から抱きしめてやって……また背中に傷が増えちまうな、やれやれ。

櫛枝とはこういった関係になってから、本人の希望もあって朝練のない時は起こしに来て貰ってる。
毎日朝練の時間に起きるようなものとも言っていたが、あんまり無理はしないで欲しいものだ。
目が覚めると布団が膨らんでて櫛枝が朝立ちに吸い付いてるのにはそろそろ慣れた。
普段おどけてはいるが、自分の好きなこと・やりたいことには真面目な性分の櫛枝だからして、
終始凄えバキュームで一番搾りを味わわれちまう。……櫛枝よ、とりあえずそれはプロテイン代わりには
ならないと思うぞ? その後は一緒に弁当作ったりする。やっぱ櫛枝と一緒だと楽しいな。

川嶋は……最近亜美って呼ばないとスルーしやがるんだよなあいつ。それはともかく、俺の精液に
美容効果があるんじゃないかと勘違いしてやがる。本人の主観によるものだから実際よくは分からんがな。
亜美の場合は遊びが少ないというか、弱点ばっか攻めまくってなるべく早く出させようとしてくる。
そう求められるのも悪い気はしない。口の中に直に出すと一度口を開いて舌が精液をかき回すのを
わざわざ俺に見せつけてからからやっと飲み込んでくれる。エロいことやらせたら本当天才的だなこいつ。
前世は淫魔か何かか? 嬉しいけど俺の命まで吸い尽くさないでくれよ?

香椎はなんというかねちっこい。時間をかけてじっくり丹念にすると大量に出るし、大量に出すほど
気持ちいいっていう仕組みを知ってからは特に顕著だ。一度くわえると俺が出すまでは絶対に離れないし、
竿だけでなく玉なんかも優しく指で転がしてくれる。デカい胸ももちろん惜しみなく使ってくれる。
挟みながらくわえるのって男の方にもそれなりのサイズを要求されるんだな。特に気にしちゃいなかったが
実際に挟まれて舐められ時は、これが可能なサイズに産んでくれた泰子に思わず感謝しちまった。
普段から気持ちしてくれる男性器という存在に対し、ある種の敬意にも似た愛着を感じさせる舌使い。
それは単に身体からだけじゃなく、心からも俺を気持ちよくしてくれる。

木原は飲むのは苦手な方だが、ぶっかけられるのは好きらしい。顔射は基本として胸や腹、両手を揃えて
差し出された掌、変わったところでは髪や背中や腋なんかも。亜美の提唱する精液美容説はどうやら
木原にも影響も及ぼしたようだ……一時的に肌に艶が出る気はするが本当に効くのか、これ?
動物が所有する縄張にマーキングするように、木原も所有されたいとも言うが……ちょっと照れるな。
最初はまだ柔らかい状態から小動物をいじくり回すように、硬くなってくると口も使う。舐めるよりはキス多めで
最後は両手でしごいて発射が多い。俺のマーキングでうっとりした顔を眺めるのはなんとも言えない。

独神はこの手のお願いは大体聞いてくれる気がしてきた。冗談でアナル舐めをお願いしてみたら本当に
舐めながら手でしてくれた時は割と罪悪感が酷かった。代わりに本人が望むように数日間連続で中出し。
羊水が腐るためかは知らんが、可能ならば中出しをせがんでくるので口でしても出そうになったら膣内に、
という感じだった。そこを離れられないように抱え込んで半ば無理矢理口に出すと何かに別の快感に
目覚めてしまいそうになるから困る。恨みがましい目で見ながらもちゃんと飲んでくれる辺り、先生はやっぱり
大人だなぁと思う今日この頃。しっかり明日も相手をする約束をさせられてしまった。これだから大人は。
22名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 09:01:23 ID:myir5dh7
朝からこんなモノを読んでしまった……
23名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 10:14:04 ID://R43dBo
爛れすぎだろ竜児w
24名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 10:20:07 ID:CEUV3vfO
なんで14みたいな荒らしに皆が反応するのか謎だな。

最近どの板でもそうだけど、確かに感想が少ないような気がする。
過疎や規制があったとしても、もう少し活気が欲しいよな。
書き手にモチベという名の餌が与えらられないと自然と足が遠のいていくもんだ。
あまつさえ旧知の書き手さんが作品の説明をしてるだけなのに噛み付く馬鹿がいると尚更。

別にレス跨いだっていいんだから一人一人の書き手に思った事書いてやればいいのに。
反応が一つでも多ければ、その分確実に次の作品へのやる気に変わるんだからさ。
25名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 13:32:57 ID:3oilxwys
最近、自分の好きなカップルのが少ないんで感想も書けないのよ。
と思ってたらちわドラ出てきた。

正統派なちわドライイっす。GJ。\(^o^)/
26名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 16:16:35 ID:70L2hn8J
98vmの最初からダメ出しコメントがムカついたんだろ
この作者は自己陶酔タイプのナルシーだから他人は認めんでしょ
27名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 18:01:19 ID:UbYHkjOi
こうして書き手さんがいなくなっていくのでした……。
28Jp+V6Mm ◆jkvTlOgB.E :2010/02/15(月) 19:39:32 ID:S+ll53FO
98vm様
初めての投下の時から
アドバイス、ご指摘、評価のレス等ありがとうございます。
あなたのSS、いつも楽しみにさせて頂いております。
今夜から投下予定のものも期待しております。

>>ALL
固定ハンドルでのレス
レス返し
等のマナー違反、申し訳ありません。
2998VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:36:11 ID:DZ+6bOx4
感想あまり出てないようですが、予告しちゃった手前、投下しときます。
こんばんは、こんにちは。 98VMです。

先ずは一日目いきます。
今回は、全編通して淡々とした紀行文風味ですが、本日分は特にその傾向が 
強くなってます。 亜美ちゃんとデートしてる気分になれ…るかなぁ?

なお、本シリーズでは実在の名称が多々出てきますが、あくまでこの物語はフィクションですw
イタリア政府観光局から賄賂なんてもらってないですよーw

前提: とらドラ!P 亜美ルート90%エンド、ローマの祝日シリーズ
題名: プリマヴェーラ (ローマの平日5)
エロ: 未遂。
登場人物: 竜児、亜美
ジャンル: 世界の○窓から。
分量: 22レス

>>28 こちらこそ、いつも高校生らしい正統派の亜美ちゃん、悶えさせて頂いておりますw
30プリマヴェーラ 1/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:37:50 ID:DZ+6bOx4

「ん… そこ… あぅん…  もっと… ひぅっ …あっ あん。」
「………」
「もっと、右 …あっ。 あああっ。」
「………」
「………?」 
「どうしたの? 竜児、手が止まってるよ?」
「……お前なぁ…。」
「な〜にぃ?」
「朝っぱらから、なんて声出してんだよ……。」
「えっ? だってぇ、竜児、上手なんだもん。」
「……あのな。」
「ん?」
「日焼け止めクリーム塗るのに上手いも下手もあるか!」
「だぁ〜ってぇ〜、亜美ちゃん、肌弱いからぁ、全身にくまなく塗らないとダメなんだもん。」
「そうは言っても、裸になるわけじゃねーだろ? そんなキワドイところまで塗らせるな。」
「亜美ちゃん、手届かないところあるからぁ、塗ってちょーだいって言ったら、竜児、『おう』って言ったよね?」
「だから、そこは手が届くだろ、どう考えても! っていうか、なんでそんな所まで塗る必要があるんだよ。」
「竜児、温泉あるって言った。」
「確かに言ったが……」
「亜美ちゃん、知ってるもん。 ヨーロッパの温泉は水着で混浴でしょ?」
「………まさか、お前、んな過激な水着着るつもりなのかよ………。」
「昨日一緒に買ったじゃん。 ちょーハイレグだよ、バブル期のレースクイーンみたいな。 今時珍しいよ?」
「俺には『見てのお楽しみ〜』とか言って見せなかっただろうが。」
「そうだっけ?」
まったく、三度の飯より、俺をからかうのが好きなんだな、こいつは…。
「ねぇ、竜児ぃ〜。 早く塗ってよ〜。 ……なんなら、手、滑らせてもいいんだよ?」
いつものように意地悪な笑顔で見据えられ、もう、どうにでもしてくれと、頭を垂れるしかない俺だった。



   プリマヴェーラ          
- Primavera di Firenze -          ( ローマの平日 cinque )
                              


半月ほど前、親方は、俺が此処に来て初めてボーナスをくれた。 
それは、亜美がイタリアに避難して来ると教えた数時間後の事だった。 
敢えて確かめるまでも無い。 その金は亜美の為に使えと、まぁ、そういう事なんだろう。
俺の給料三か月分にも匹敵する3千ユーロのボーナス。
親方の親切を無駄にしないためには、俺の倹約マインドがいかに邪魔しようとも、全額亜美の為に使いきらねばなるまい。
俺はその為に無い知恵を振り絞った。
そして思いついたのは、――――旅行。
流石に、11日間も滞在するとなれば、ずっとローマに居るのはMOTTAINAIというものだ。
おりしもイタリアは弥生、春の花々が競って咲き始める、美しい季節。
だが、旅行といっても、俺自身イタリアに来てから、旅行らしい旅行なんてしてなかった。
唯一、観光旅行と言えるのは、イタリアに来て1年ほど経った頃に親方の長男、俺の兄弟子にあたる彼に、フィレンツェまで
連れて行ってもらった時の事くらいだ。
しかし、その唯一の体験は素晴らしいもので、行く先々で『川嶋がここにいたら…』なんて当時の俺は考えていたものだ。
……ああ、名案だ。
その時の俺の想像が当たっていたか、確かめてみることにしようじゃないか……。
 
そんな訳で、俺は奮発して、フィレンツェへの3泊4日の旅に行くことを決意した。

31プリマヴェーラ 2/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:42:22 ID:DZ+6bOx4
その企みを亜美に白状したのは、サン・カルロ・アッレ・クアットロ・フォンターネ教会を出て、少し遅い昼食にした時だった。
既に宿の予約も完了し、準備は万端。 
亜美を驚かせたくて内緒にしていたが、いざあいつの顔を見てしまうと、俺の期待感は増すばかり。
おかげで、腹芸の苦手な俺がぎりぎりまで内緒にしておくのはなかなかに骨がおれたが、文字通り、飛び上がるようにして
喜ぶ亜美を見れば、苦労の甲斐があったというものだろう。
それから、その日の午後は旅行のための買出しになった。 
日が暮れるまで買い物に勤しんで…明けて今日はいよいよ出発だというのに、早朝から亜美はこの調子なわけだ。
嬉しくてはしゃいでいるのだろうが、相変わらずの色気過剰っぷり。
放っておいたら、予定の時間に出発できなくなっちまう。
「いいかげんにしねぇと、コースを変更しなくちゃいけなくなるぞ。」
「はぁ〜い。」
亜美が返事をするのと同時に、やや軽薄なクラクションの音が響いた。
「ほら見ろ、きちまったじゃねーか。」
「え? なに、タクシー呼んだの?」
しめしめ、亜美はすっかり電車と思い込んでいるようだ。
「いや、カルロ兄貴に車を借りる手筈になってる。 今回の旅行は、オープンカーでドライブだ。」
「……まじ? 竜児、イタリアの免許持ってるの? …さては、亜美ちゃんの事、騙そうとしてるでしょ?」
こいつ……。 昔っから、なにげに俺を馬鹿にしてる節があるよな…。
「ああ、そうだ。 ばれちまったか。」 だから、敢えてこう答えた。 たまには俺が騙す側になってもいいだろう。
「ふん。 やっぱり〜。 あたしを騙そうなんて十年早いっつーの。」
「はははは。 まぁ、なんにせよ、早く着替えていこうぜ。」
「うん。 わかった。」

今日の亜美のスタイルは、デニムのキュロットサロペットにオフショルダーの白のロングT、スカイブルーのフリンジサンダル。
髪は、ポニーテールに結わえている。
フリンジサンダルはヒールも殆ど無く、見た目よりも足首がしっかり固定されて、動きやすそうだ。
狭い街路に待ち構えていたカルロ兄貴は、親方の長男で、面倒見がいい兄貴肌。 料理の腕も尊敬に値する。
しかし、なにかと俺を女遊びに連れ出そうとする、困った人でもあった。
「ヒュ〜。」
だから、そんな彼が今の亜美を見て、口笛を鳴らさない筈が無い。
さっきまでの痴態はどこへやら、モデル然と現れたその姿は、うなじと、露出した肩、長い素足が目の毒だ。 
カルロ兄貴は、当然のように亜美にかしずくと、巧みに口説き文句を囁く。
亜美も、その手の言葉は聞く機会が多いせいか、ほぼ聞き取れるようになっていた。
目を細めて、女王様モードで「グラーツェミッレ」と返す。 そんな姿がまた様になっているのだから、さすがに女優である。
そしてカルロ兄貴は、車好きの彼自身が徹底的に手を入れた、アルファスパイダー・ヴェローチェ Sr4 92年型のキーを
亜美の手の平に落とした。
「?」
わけがわからず、きょとんとする亜美。
すると彼は、わざとらしいジェスチャーを交えつつ、亜美の手の平からキーを拾って、俺に放り投げた。
「え? え? ま、まさか……。」
「どうした、亜美?」 ああ、気分がいい。 亜美を出し抜くのは最高に気分がいいぞ。
「う、うそ。 本当に、これ? 竜児……。」
「さぁ、亜美、後ろのトランクに荷物を積むんだ。 出発しよう。」
赤くなった亜美の表情は、さっき俺がついた嘘に怒っているのか、はたまた予想外の事態を喜んでいるのか判らない。
ピカピカに磨かれたダークグリーンの車体は鏡のように亜美の百面相を映す。
その手にぶら下げた荷物を奪い取り、車のトランクに丁寧に格納する。
それで亜美は、やっと正気を取り戻したようだ。
「り、竜児、本当にイタリアの免許持ってるの!?」
「もちろん、Siだ。」 「うそ。 ……すごいじゃん。」
「いや、実は日本とイタリアは協定を結んでいて、簡単な書類だけで、互いの運転免許証を切り替えできるんだ。」
「へ? そうなの?」
「ああ。 仕入れとかで使うかもしれないから切り替えたんだが、こんな風に役立つ時が来るとは思ってなかったな。」
「そりゃぁ、まぁ、あたしだって、イタリアで竜児とドライブなんて、夢にも思って無かったよ…。」
「俺の運転はイタリア男性ほど上手くはないが、ゆっくり景色を楽しみながら行こう。」
32プリマヴェーラ 3/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:43:21 ID:DZ+6bOx4

カルロ兄貴にお礼を言った後、亜美の為に助手席側のドアを開く。
「あ、ありがと。」 …亜美は少しだけ照れている。 日本じゃ恋人同士でこんな事は滅多にしない。 せいぜい会社の上司に
やる位だろう。 そんな姿を確認して、『やっとわかってきたじゃないか』という風に、カルロ兄貴が親指を立てたのが見えた。
そんな兄弟子の態度に苦笑を浮かべつつ革張りのコクピットに収まると、換装済みのダイレクトイグニッションに火を入れる。
一瞬の間をおいて、水冷直列4気筒、1962ccのDOHCエンジンが重々しく咆哮を放ち、亜美の肉体にも似た、流麗極まりない
車体が震える。
5速MTのギアを入れると、電装系のフルチェンジを手伝わされたお陰で、ひとかどならぬ愛着を抱いてしまった車が滑り出す。
さあ、いよいよ記念すべき二人の初旅行の幕開けだ。
「ラリングラーツィオモルト、セニョール、カルロ。 アリヴェデールラ!」
身をよじりながら、重低音のアルファサウンドに負けじと、亜美が声を張り上げる。
ルームミラーには、その声を受けて、胸を矢で射抜かれたような大袈裟なジェスチャーで石畳に倒れこむカルロ兄貴の姿。
「あっ…、あははははは。」
続くは、亜美の楽しそうな笑い声。
「やっぱ、ラテンの血って、女の子口説くには最高に向いてるみたいだね!」
「まったくだ。 ありゃ、日本人にゃ、絶対まねできねぇ……。」
「ふふふ。 よっ、がんばりなよ、日本代表!」
「なんだそりゃ…。」
亜美はめちゃくちゃご機嫌だ。 
まだ7時前のローマはそれほど交通量も多くない。
テカテカに磨かれた石畳の道路をゆっくりと進めば、風切り音も会話を妨げはしない。
「今日も天気はいいけど、昨日みたいに急に雨になったりしない?」
「可能性はあるにはあるが、天気図を見る限り心配はなさそうだ。」
「……そういえば、この車、雨の時はどうするの?」
「ちゃんと布製のルーフが着いてる。 車内はすこし窮屈になるが、雨には濡れない。」
「へぇ。 ちょっと見てみたいけど、雨に降られちゃ困るね。」
「そうだな。 雨の景色もなかなかだが、やはり最初は晴れの日がいいよな。」
俺と話しながらも、亜美はキョロキョロとローマの街並みを見回している。 いわゆるおのぼりさん状態だ。
車から見る景色が新鮮なのだろう。 ローマを北に向かうこの方向はあまり観光名所のない地域だ。
「なんか、どこにいっても壁の落書きと路駐ばっかだね。」
道路がアスファルトになってくる辺りで、残念そうな口調で言う亜美。
「そうだな。 特に落書きはな…せっかくの歴史的建造物がもったいない。」
こればっかりは、俺がローマに来て、どうしても馴染めない点だった。 ……掃除してぇ…。
「掃除したい、とか思ってるんでしょ?」 「う…」 「竜児ってさ、ほーんと、おばさん男なんだから。」
どんな意地悪顔をしているのかと、ちらりと右隣を見れば、なんとも優しげな視線の亜美がいた。
不意打ちをくらって、ドキッとする。
こうなると、返す台詞が無い。 亜美がなにか話してくれないかと期待したが、感じるのは変わらぬ視線だけ。
結局、この気恥ずかしい沈黙から救ってくれたのは、ローマ街道だった。
「今、合流したこの道路は国道2号線、かつてのローマ街道の一つ、カッシア街道だ。」
「へぇ… 亜美ちゃん、ローマ街道って、アッピア街道しか知らない。 沢山あったんだ…。」
「ああ。 イタリアばかりか、スペインやフランス国内にも作られたんだ。」
「すごいよね。 二千年以上前なのに……。」
「当時のローマの土木建築技術の一部は現在と遜色ないほど進んでいたらしいからな。」
「それで、そのありがたーーーい、街道を通ってどこにいくわけ?」
「おう。 そうか、まだフィレンツェ旅行ってしか言ってなかったよな。」
「うん。 ねぇ、竜児、そろそろ教えてくれてもいいでしょ? 今日の目的地。 まっすぐフィレンツェ?」
「いや、それじゃつまらないだろ? だからあちこち寄っていく。 とりあえず最初の目的地は…」
「どこ?」
「ヴィテルボのテルメ・ディ・パピだ。」
33プリマヴェーラ 4/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:49:38 ID:DZ+6bOx4

国道2号線に入ると次第に景色が変わってくる。
広々とした丘陵地に、ぽつぽつと集落が並ぶ。
ローマから離れるにしたがって、その集落の規模も小さくなって、緩やかな丘と、帯状に広がる林が風景の主役になる。
春ののどかな空気は朝だというのに、眠気を誘いかねない穏やかさで、所々にオリーブやアーモンドの花が咲く。
野の草花も花を咲かせ始め、街路の植え込みのセイヨウシャクナゲですら、気の早いものは綻び始めていた。
丘陵は時に視線を遮り、またあるときは遥か彼方まで折り重なって見える。
そして、その丘陵を彩る、薄いピンクや白の木々の花と、青や黄色の草花が主役をめぐって対決しているかのように咲き誇る。
「なんか、すごい癒される感じ……。 空気を肌で感じながら車に乗るのって、いいね。」
「おう。 折角だし、存分に癒されてくれ。」
そんななんでもない会話を交わしながら、車は北を目指す。やがて、カッシア街道のY字路を国道311号線に折れた。 
比較的道路幅の広い一級国道から逸れると、景色もいかにもな田舎の国道っていう感じに変わる。
数分走った所で、ロンチリオーネに向かうY字路を左に入ると、更に景色は田舎じみてきた。
「畑がいっぱいある。 ローマから一時間も走ってないのに。 ヨーロッパって、都市部と田舎がすごく近いのね。」
「おう。 少なくともイタリアはそんな感じだな。」
「イギリスもそうだったよ。 ソールズベリーの方とか、市街地と草原が合体してる感じだった。」
そうか、こいつ撮影とかで、けっこう色々な国にいってるのか…。
こんな時は、少しだけ、チクリとする。 
俺の前では高校時代と変わらぬ、いや、少し素直にはなったが、間違いなく俺の知っている川嶋亜美だ…
しかし、一方で『女優・川嶋亜美』も確実にいるのだ。
そんな思いを振り払うように、俺は告げる。
「8時も回ったことだし、ロンチリオーネの町を抜けたら、朝飯にしよう。」
やがて現れたロンチリオーネの古い町並みを抜けると、周囲の畑が淡く桃色に染まっていた。
「ねぇ、あのピンクの花なに?」
「ああ、西洋ハシバミ、いわゆるヘーゼルナッツだ。」
「ええ〜っ! ヘーゼルナッツ〜? あんな綺麗な花が咲くの? マジ?」
「ここでお前に嘘ついてもしかたねーだろ。 っと、もうすぐ湖が見える。 そしたらその辺に車を止めて飯にしよう。」
「湖? どっち?」 「左側だ。」 「竜児、邪魔。」 「……お前なぁ……。」
「あっ、見えてきた…って、何、コレ………」
亜美が絶句したのも無理はない。 俺も驚いた。 
湖は朝霧に包まれていたのか、水面近くだけが白い霧で覆われて、所々に覗く水面がサファイアのような青に輝いている。
カルデラ湖特有の湖の周囲を囲む急傾斜の斜面を覆うナラやブナの緑と、霧の白、水面の青。
僅か13kuしかない小さな湖は神秘的な美しさで俺達を魅了した。
道路からすこし外れ、農場の空き地に車を止める。 車が静止するのが待ちきれない様子で、亜美は飛び降りる。
「凄い。 これって、ラッキーなんだよね? こんな景色…」
「そうなんだろうな。 いつでも見れるわけじゃ無いと思う。」
「なんていうの、ここ。」 「ヴィーコ湖だ。 ……残念だが、あんまりゆっくりもしてられない、飯にするか。」 「…うん。」
俺は何枚かデジカメにその風景を納めたが…自然の風景は、分刻みで姿を変えていく。 
俺達が、朝食のサンドイッチを平らげる頃には、湖の霧の大半が消えてしまっていた。
「なんか、儚いね………。」 「そんな事は無い。」 「え?」 
「確かに今日の景色は二度とないかもしれないが、この湖が美しいってのは変わらない。 この光が当たったから美しいって
訳じゃない、湖自体が美しさを内包しているから、どんな光が当たってもいいんだ。」
亜美が何を考えているか、なんとなく解った。 ……美しいという事の儚さ。
こいつは昔から、自信過剰なくらいのナルシストの癖に、変に自虐的になることがある。
だが、俺だって少しは大人になった。 そんなこいつを支えてやりたいと思えるくらいには。

34プリマヴェーラ 5/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:50:22 ID:DZ+6bOx4

「…あんた、イタリアに来て口が上手くなったんじゃない? やっぱ、郷に入りては、ってやつ?」
「なに言ってんだよ。 お前に鍛えられてるからだろ。 イタリアは関係ねーよ。」
「なに、それ? どういう事?」
「お前は自分で自分を褒めちまうから、俺は余程いい台詞を考えないとな。 単に綺麗だ、なんて言っても陳腐だろ?」
「っく。 馬鹿! これみよがしにそういうこと言わないでよ。 嘘っぽく聞こえるじゃん!」
「な、なんだよ、俺は別におかしなことは言って…。」 「…馬鹿! もう、次いこ、次!」 
「……へいへい。」 …相変わらず難しい奴だ…。

朝食を終え、また田舎道のドライブに戻る。
カルロ兄貴自慢のアルファスパイダーは亜美にも気に入ってもらえた故か、至ってご機嫌にラツィオの緑野を駆け抜ける。
「此処からヴィテルボは目と鼻の先だ。 9時にはテルメ・ディ・パピに着けるだろう。」
「で、日本の温泉とは違うんでしょ? なんか、プールみたいな所?」
「ああ。 まさにプールって感じだったな。 でも、ちゃんとした温泉で源泉100%だった筈だ。」
「へぇ〜」
「温泉、好きか?」
「うん。 っていうか、お風呂が好きかな。 水着着て入るとお風呂って感じしないから、ちょっと残念だよね。」
「だよなぁ。 やっぱ日本人には西洋の温泉のスタイルってのはどうかと思うよな……。」
「海ならトップレスでもよくって、温泉はダメって、変よね。」
「まったくだ…。」
そんな事を話しているうちに、丘の上に城塞都市が見えてくる。
「あ。 あれがもしかしてヴィテルボ?」
「おう。 正解だ。 あそこも古い町でいろいろ見る所があるらしいが、俺も案内してもらわなかったから詳しくない。」
「へぇ、なんでも薀蓄たれる竜児にしては珍しいじゃん?」
「いや、歴史とかは知ってる。 聞きたいのか?」 「……遠慮する。」
「ははは。 目的地は町外れだ。 9時オープンだが、着くと丁度9時くらいになりそうだな。」

ヴィテルボの古い町並みを無視して、町外れの温泉施設に向かった。
町を抜け、田園地帯に入って1kmほどで湯気が見える。 ブリカーメと呼ばれる露天風呂だ。
俺だけならなんとかなるが、流石に亜美を伴って此処に入るのは無理だ。 何故なら、着替える場所がないのだ。
「すっごいワイルド。 なんか、おじさんが何人か入ってるよ。」
「あんまり見るなよ。」 「平気だよ。 こんだけ遠ければわかんないって。」
あまりに亜美が興味津々なので、速度を緩めず走りすぎる。
「…………あーあ、通り過ぎちゃった… もっとみたかったなぁ。」 「そう言うなよ、すぐ温泉施設だから。」
露天風呂からすぐの交差点を曲がると、そこはテルメ・ストラーダ、そのまんま、温泉通り。
その突き当りが『テルメ・ディ・パピ』だった。
「さあ、ついたぞ。 ちょうど9時だ。」 
うむ、我ながら完璧なスケジュールだ!
「楽しみ〜。 着替えたら、ちゃんと待っててね。」 「おう。 なにはともあれ入ろう。」
一人12ユーロを支払って、施設に入る。
そこはホテルが併設されていて、さらには各種エステ、セラピー施設も完備、かなり立派な施設だ。
一足先に、その巨大な浴槽、いや、文字通りのプールサイドに出る。 硫黄泉独特の匂いが実に温泉らしいが、見た目は
完璧にプールだ。 ご丁寧にパラソルやデッキチェアまで揃っている。
オープンとほぼ同時に入場したにも関わらず、亜美の着替えを待つうちに、結構な数の客が入ってきた。
とはいっても、プール自体が横40m、縦50mとやたら大きいから、気にはならなそうだが。
きょろきょろと辺りの設備をチェックしていると、俺の前を通りかかったカップルの男がなにかに見とれ、彼女に小突かれた。
男の視線は……。
35プリマヴェーラ 6/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:51:15 ID:DZ+6bOx4

………思わず吹いた。
ストレートラインのベアトップ、サイドがすこしだけトップとつながったボトムは腰骨のずっと上まで切れ込んだ超ハイレグ。
最近流行のフロントでつながったモノキニとは違う、ヘソを露出したデザインのモノキニタイプは、一歩間違えば下品に見え
るほどの刺激的なラインだった。
言うまでもないが、ぴっちりとしたベアトップは、それなりに胸のボリュームが無ければ着れない代物だ。
生地もパールホワイトだが、光の具合で微妙に色が変化する絹のような光沢で、その扇情的な曲線を見事に強調していた。
こ、こいつは…早々に風呂の中に避難する必要がありそうだぜ……。
幸い白濁した硫黄泉は、俺の下半身がのっぴきならない事態になっても見えないだろう。
っていうか、既に前かがみになってしまいそうなんだが…。
その人間凶器は、俺を認めると、小走りになった。
すいません、亜美さん。 そのぷるんぷるん揺れるものはせめてカップで覆って欲しかった…。
裸をいつも見てるのに、青空の下で見る水着姿が、なぜコレほどまでにエロイのか?
「竜児っ。」
「すまん、亜美、一身上の都合で入浴しながら話すぞ。」 俺は返事も聞かずに速攻でお湯の中に避難した。
「な、なによ、もう。 なんか言う事ないのぉ〜?」 すこし膨れながら、プールサイド(この際プールでいいだろう。)に立って
仁王立ちで見下ろす亜美。
それを見上げる俺の角度からは、亜美の股間の微妙な曲線と胸の膨らみが強調される構図になって、色々とヤバイ。
「いや、似合ってる、可愛い、綺麗だ。 だから、お前もこっちに来ないか?」
とりあえず、俺の分身が落ち着くまで、その水着姿を水中に封印して欲しい。
「なーに、それ。 なんか、ぜんぜん心がこもってない。」 「いや、気持ちいいぞ、早く来いって。」
「ふん…。」
膨れながら、やっと入浴してくれる亜美。
それでも深さは1.2mくらいなので、長身な亜美の凶器は完全には隠れない。
「なんなの? もう。」 「いや、お前、ちょっとその水着、過激すぎないか?」
「そんなことないでしょ? ビキニよりは布地多いって。」 「いや、なんていうか、その形とかが寧ろなんというか、だな。」
亜美の目がすこし細まり、笑う。 いかん、なんか悪戯を思いついた顔だ。
「ははーん。 亜美ちゃん、わかっちゃったぁ。 竜児ってば、………えっち。」
お湯の中、腰の深さあたりはもう白濁して見えないが、亜美の手は正確に元気になった俺の息子を捉える。
「うおっ」
続いて、間髪いれずに亜美は自分の体を寄せてきて、その下腹部を俺の息子に摺り寄せやがった。
悲しいことだが、身長差はそこそこあるのに、股間の高さはほぼ同じくらい。
「亜美、ちょ、待てっ。」 「いーや、ちゃんと心を込めて、感想言ってくれるまでやめない。」
「わかった、わかったから!」 ふにょりと亜美の大事な部分に俺の体の一部が食い込む。
「どお? この水着。」
「一言で言って……。」 「うん…。」 「エロイ。」 
「うおっ! いっ…」 亜美の手に力が入る。
「いや、まじで勘弁してくれ。 そんな格好されたら、男なら誰だって興奮する。 そ、そうだ、セクシーだ! セクシー!」
口をすこし尖らせて、じっと俺を見つめていた亜美だったが、ふっと顔を緩めると、ようやく許してくれた。
「ま、仕方ないか。 亜美ちゃんのナイスバディ見せられちゃ、我慢できないってのも男の本能よね…。」
「ふう…。 お前なぁ、その水着は反則だぞ。 それに、カップ付いてないのかよ。」
「最初っから付いてなかったんだもーん。 こっちじゃ、無いのがデフォなんじゃね?」
「……かもしれんが。」 たしかに、周囲の女性の胸元は大多数がそのようだった。
「でも、ダメだ。」 「なんで?」 「いや、なんでって……。 普通ダメだろう?」 「だからぁ、なんで?」
「…だから……他の奴には…見せたくない…。」
「ぷっ。 くふふふ。」
畜生…なんか負けた気がするぜ…。
「亜美ちゃん、ちょっとカップ着けて来るね。」 「へ?」 「着脱可能なんだよ? 知らなかったの? あはははは。」
確信犯め。 まったくもって性質が悪いぞ…。
36名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 22:53:41 ID:f04+70aN
C
37プリマヴェーラ 7/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:54:24 ID:DZ+6bOx4

5分ほどして戻ってきた亜美は、薄手のロングパレオも纏って、一転してエレガントな雰囲気に変わっていた。
周囲の男達の視線を集めながら、ゆっくりと俺の待つデッキチェアに近づいてきて…
「どう? これならいいでしょ?」
「おう。 エレガントだ。」 「ふふ。 ありがと。」
なるほど、カップをつけないほうが、胸の曲線は美しく見えるのか。 哀れ乳じゃ絶対に無理だが、亜美の場合はカップ
無しのほうが、断然胸の曲線が自然で美しい。
それに、下腹部から股間にかけての微妙な曲線は、このような光沢のある水着のほうが全裸よりも寧ろエロティックに
見えるのも理解した。 パレオを巻いてきてくれたのは、実に有難い。
普通、ヨーロッパでは温泉というと病気や怪我の療養目的で、若い人の利用は少ないのだが、ここはエステ施設も併設
されているため、若い女性の利用も多い。
だが、それにしても亜美は抜群に目立っていて、『日本人離れしたスタイル』という形容は亜美に対しては陳腐極まりな
い言葉であると思い知らされる。 日本人とか、そういうレベルではないのだ。
そういえば、二十数年前、亜美の母親である川嶋安奈は『外国人離れしたスーパーボディ』なんて意味不明なウリ文句
が付けられていたのをこの間知った。 なるほど、こうして亜美を見ていると、その形容も合点がいく。
「なんか、ちょっと浸かっただけなのに、お肌がスベスベしたきたよ。」
ところが、当の亜美は、外野の視線などちっとも気にした風もなく、嬉しそうに言う。
「酸性の硫黄泉は大抵がそうなんだが、体の表面の不要な角質層が溶けてすべすべになる。 美肌の湯と呼ばれる温
泉に硫黄泉が多いのはそういう訳なんだよ。 更に、硫黄は人体に必要不可欠な成分だが、硫黄は皮膚から浸透して
直接血中に入るので、食物を介して取るのと同様の効果が期待できる。 つまり、硫黄泉は科学的にも人体に良いこと
が証明されているんだ。」 
「……竜児の薀蓄は油断ならないね…。 なにがきっかけで出てくるかわかんない。」
「お。おぅ… すまん。」
「あははっ。 いいよ、物知りになるのは悪いことじゃないし、ウザかったら、亜美ちゃん容赦なく言うし。」
「…確かに。 昔っから容赦ないよな、お前。」
「そのほうがいいでしょ?」 「いや、結構きついんだぜ、あれ。 まぁ、もう慣れちまったけどな。」
「ふふふ。 ね、竜児、もう一回入ろ? 今度はあそこのお湯が出てる方に行ってみようよ。」
「おお。 そうだな、この辺りはちょっとぬるいが、湯の出口はもっと適温かもな。」
三箇所ある出湯口からは50℃くらいのお湯がドバドバと流されている。 だが、すこし浅すぎた。
30cmほどしかなくて、半身浴にもちょっと浅い。
プールは徐々に深くなっていくようで、俺達は座って入ってちょうどいい深さの所を探し当て、そこで湯浴みと相成った。
出湯口の反対側の方はかなり深いようで、みんな泳いでいる。
「なーんかさ、やっぱりこれって、プール扱いだよね?」
そんな亜美の台詞も頷ける。
俺達のいる辺りはそこそこ温度があるが、長湯するにはぬるめの深い方がいいので、そっちに人が集まっているようだ。
お陰で俺達二人は、割合のんびりと、出たり入ったりしながら温泉を楽しむことができた。

「竜児…なんか、お肌がすべすべって言うよりカサカサになってきた…。」
「そうだな… そろそろ出るか。」 「クリーム塗るから待って。」 「おう。」
デッキチェアに腰掛けて体にクリームを塗りこむ亜美だが、流石に今朝のような悪ふざけはせず、手の届かない所だけ
塗るのを手伝わされた。
「はぁ〜気持ちいい〜。 折角だから、亜美ちゃんエステもやってみたいけど… 時間無いんでしょ?」
「ああ。 まだローマからたいして離れてないからな。」
「フィレンツェってローマからどのくらい離れてるの?」 「道のりで概ね300kmだ。」
「ふーん。 なんか微妙な距離だね。 遠いって程でもないし、近いって程でもないし……。」
「実は今日はフィレンツェまで行かない予定なんだ。」
「へ? そうなの?」
「ああ。 ラツィオ州からトスカーナ州にかけての景観は素晴らしいからな。 ゆっくり景観を楽しみながらフィレンツェに
向う予定だ。 もしかして、早くフィレンツェに行きたいのか?」
「ううん。 あたしは別に何処かに行きたいって事はないよ。 竜児に任せる。」 「…そうか。 ありがとな。」
38プリマヴェーラ 8/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:55:24 ID:DZ+6bOx4

「さて、そろそろ移動するか。 もう11時だ。」
「お昼はどうするの? ここにもリストランテあるみたいだけど。」
「食事はこの北にあるモンテフィアスコーネに心当たりがある。 そこで食事をとった後、次の目的地に向かおう。」
「さっすが、抜かり無しってとこ? んふふふ。 ツアコン、よろしくぅ〜。」
「おう。 任せとけ、次の所も凄い所だからな。 期待していいぞ。」
「どこ?」
「チヴィタ・ディ・バニョレージョだ。」

それから15分後、俺達は再度アルファスパイダーで田舎道を走っていた。
ヴィテルボの北の郊外には小さな工業団地があるが、それを過ぎればすぐにまた田園地帯だ。
緩やかな丘陵に菜の花や野生のデイジー、ローズマリーなどの花々が咲いている。
点々と見える目の醒めるような赤は気の早いポピーか。
例年ならまだこの辺りは雨の多い少し肌寒い時節だが、今年は暖かくなるのが早かったせいか、花々が一斉に綻んでいた。
緑の丘のてっぺんにあるオレンジの屋根の農家へ、糸杉の並木が続いている。
糸杉には、薄紫の花が一面にぶら下がっているものもある。 藤の花だ。 日本よりも二ヶ月近くも早く咲き始めている。 
蔓性の藤が糸杉に絡まって、まるで糸杉の花のように見える。 
亜美は綺麗な景色を見つけるたびに、俺にそっちを見ろの、やれ、こっちが綺麗だのと、甚だ忙しい。
そうかと思えば、ブドウ畑を見つけて、美味しいワインはあるのか、とか普段の亜美にさらに輪をかけてよく喋る。
特に美しい場所では、亜美をモデルに写真を撮ったりしながら、ゆっくりとドライブを楽しんだ。
そんなこんなで30分も走っただろうか? 
やがて、街道沿いに家が増えてきて、ついには丘の上に広がる町を視界に捉える。
町の規模からすると、妙にでかいクーポラがやたらと目立っているそこが、モンテフィアスコーネだ。
「ね、竜児、モンテフィアスコーネってさ、エスト!エスト!!エスト!!!ってワインで有名なところじゃない?」
「おう。 その通りだ。 よく知ってたな、亜美。」
「やっぱり〜。 亜美ちゃん、そのワイン飲んでみたいなー、ちょっとだけ。 駄目?」
「いや、グラスワインぐらいならいいだろうが、それよりもその辺の農家のワインの方が美味いぞ。」
「え? そうなの? その辺の農家のワインって自家用なんじゃないの? そんなの売ってる?」
「これから行くトラットリアにはあるはずだ。 少なくとも以前来た時はあった。」
「へー! じゃ、亜美ちゃん、それ飲む。 きーめたっと。」 
「へいへい。 お姫様の仰せのままに。」
「うん。 大儀じゃ。」

俺が目星をつけていた店は、モンテフィアスコーネの西の端、ボルセーナ湖を一望する場所にある。
丁度昼頃だったが、幸い団体の観光客は来ておらず、テーブルは一番見晴らしのいい辺りでも空いていた。
青々としたボルセーナ湖はヨーロッパで最も澄んだ湖とも言われるカルデラ湖で、火口の外輪山の部分にできた町が、ここ
モンテフィアスコーネ、すなわち、この町と湖は急傾斜によって隔てられている。
そして、このトラットリアも、その急傾斜の上にせり出すようにして建っていた。
見晴らしのいいテラスに座れば、上昇気流に乗ったツバメが凄い速さで飛んできて、有り得ない様な角度でターンし、軒下に飛び込む。
「ねぇ、竜児、雛がいるんじゃない?」 
「いや、まだ卵だろう。 巣にちらちら見えるのも親鳥だ。」 
「そっか。」
「ツバメが高く飛んでいるな…。 このぶんだとこの辺りは明日も晴れそうだ。」
「ツバメで天気がわかるの?」 
「おう。 正確にはツバメの餌になる虫の習性だがな。」 「パス。」
「はぁ? なにがパスなんだ?」 
「今、薀蓄モードに入りかけたでしょ? 今は聞きたくないからパス。」 
「………。」
「だぁーって、こんなに気持ちいいんだもん、難しい話は無し。 ね?」
「…おう。 そうだな。」
39プリマヴェーラ 9/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:56:13 ID:DZ+6bOx4
「じゃあ、料理の話だ。 ここの貝のパスタは絶品でな、それと、ボルセーナ湖で捕った魚の炭火焼き、そして最後は水牛の
ブッラータだ。 これは当然、作って2時間もたっていない代物が出てくる。 美味いぞ。」
「竜児が絶品って言うくらいだから、きっと凄く美味しいんだろうね、超楽しみ。」
程なく、白ワインがグラスで置かれる。 琥珀色のそれは、一見貴腐ワインにも見えるが、この辺りの農家の自家用ワインだから、
値段はやたら安い。
「ごめんね竜児、私だけ。 …いただきまーす。」 
「お前なぁ…、全然悪いと思ってねぇだろ。」 
「わぉ、なにこれ、おいしーーー! なんか、ドイツの貴腐ワインみたいだよ、コレ。 フルーティーで甘い!」
「気をつけろよ、アルコール度もかなり高いのが自家用ワインの特徴だからな。」 
「うん、これききそー。」
続いて、パスタが届く。 1人前の筈なんだが、予想どおり、二人で丁度いいくらいの量だ。
「さぁ、食ってみてくれ。」 
「おいしーーー!」 
「だろ。」 
「こりゃ、竜児の修行はまだまだ終わらないね。」 
「おぅ。 まだまだだ。」
パスタがようやく半分になった頃、魚の炭火焼きも出てきた。
「またまた美味しそうなのが出てきたね…。 あたし、こんなに食べて太っちゃいそう……。」
「そう言うな、食わなきゃ損だぞ。 それに、後で歩くから、安心して食ってくれ。」
…そうしてボルセーナ湖の青く輝く湖面を遠くに見下ろしながらの昼食が進む。 そして最後に控えるのが、ブッラータ。
「ふっふっふっふ。 コイツが凄いんだ。 ここのブッラータは中のクリームも当然水牛でな、牛乳で作っているものとは濃厚さ
がまるで違う。 しかも、近くの農場で昼ごろ作った出来立てだ。 数量限定の逸品だぞ。」
「どうやって食べるの?」 
「普通に切っていい。 中からチーズ入りクリームが出てくるから、それと包んでいるモッツァレラチーズを併せて食うんだ。」
「よっと… うわ、なんかどろっと出て来た!」 「食ってみろ。」 
「…………!!!」
ふっ。 驚いたようだな。 当然だ。 このブッラータばっかりは日本じゃ食えない。 
作りたてじゃないと、この美味さは出せないからな。 輸入品じゃ、クリームが固まっちまって全然別物になる。
「胃がもたれるから、食いすぎるなよ。」 
「え、う、うん。 でも、これ、美味しすぎ! 世界は広いよ!」
「はっはっはっは。」
「俺も、カルロ兄貴に食わされた時は絶句した。 すげーよな。 世界は広い、か。 いいこと言うな、お前。」
湖から吹き上げる爽やかな風に抱かれて、楽しい会話と食事を楽しむ。
そんなささやかな幸せが、俺達二人には何より大切に思えた。
40プリマヴェーラ 10/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:57:01 ID:DZ+6bOx4

そして、時間をたっぷりかけた昼食が終わったのは、午後1時を30分ほど過ぎてのことだった。
「あ〜 ほんっと、美味しかったぁ〜。 ちょー幸せな気分。」
「喜んでもらえて何よりだ。」
「でも、ちょっと苦しいかも… 食べ過ぎちゃったかな。」
「次は少し歩くから、腹ごなしが出来ると思う。」
「そうなんだ…。 ここから遠いの?」
「いや、車で30分ほどだな。」
「じゃ、早速いってみよー。」 「おう。」

モンテフィアスコーネの街中に、カッシア街道と、国道71号線の交差点がある。
俺達の目的地は、国道71号線を若干北へ辿り、さらに途中から脇道に逸れた先だ。 一言で言って田舎町。
だが、この辺りの田舎町は例外なく美しい佇まいを誇る。
牧草地や、小麦畑、葡萄畑、オリーブ畑を縫って車を走らせれば、20分ほどでバニョレージョの町は見えてきた。
「あ、町だ。 あそこが、チビトラ・ト・バカリュウジ?」
「………チビとバしか合ってねー。」
「え〜、亜美ちゃん、間違えちゃったぁ?」
「あのな……チヴィタ・ディ・バニョレージョだ。 間違ってもチビトラでも、バカリュウジでもない。」
「ほーい。 ね〜竜児、そういえばさぁ竜児のデジカメで撮った写真、後であたしにも頂戴。 ファイルで。」
「おう。 でも、お前も携帯で撮ってなかったか?」
「なんか、景色綺麗すぎて、携帯のカメラじゃもったいない気がしてさ。」
「まぁ、そりゃそうだな。 それにあんまり撮りまくってると、メモリーがなくなっちまうしな。」
「うん、実はもう半分くらいSD埋まっちゃった…。」
「ははははは。 俺は予備のメモリーをたんまり用意しておいた。 だから、いくら撮りまくっても平気だ。」
「っと、そろそろバニョレージョだな。 チヴィタもちらちら見えてくるぞ。」
「別な所なの?」
「おう。 バニョレージョの町に隣接するのがチヴィタ、別名『死にゆく町』」
「げ、何その不吉な名前………。 もしかして、怖いところ?」
「いや、そうじゃない。 そうだな……、まずは実際に見てから話そう。」
町の外れに車を停めて、展望台へと向かう。 チヴィタに入るには展望台の下の道を行かねばならないのだが、
展望台からの眺めは最高なので、先ずはそっちに向かうのが、チヴィタ観光のセオリーだ。
今日は天気もよく、よく晴れた青空に、形のいい白い雲がほんわかとあちこちに浮かんでいる。
今年の陽気ならば、チヴィタの周囲は菜の花が咲き乱れている筈だ。

車を停めた場所から500mほど歩くと展望台に着いた。
正直、俺はワクワクしていた。 亜美は一体どんな反応を示してくれるかと。
そしてそれは、俺の予想とは大幅に違ったものであった。

「……すごいや。 ……ラピュタは本当にあったんだ…。」

「……………そうきたか。」
いや、確かにそんな感じではあるが、亜美の口からそういう台詞が出てくるとは思いもよらなかった。
「確かに、この町をモデルにしたって説もある。 宮崎監督はイタリア好きで知られてるしな。」
「ってゆーか、小さくて可愛い。 あそこ、人が住んでるの?」
そんな疑問も当たり前だろう。 町の周囲は全て崖。 最大で落差は100mを越す。
町に至る道は一本の陸橋だけで、もちろん、車は通れない。
その地上の浮島のような、幅120m奥行き200mくらいの台地に石作りの建物がいっぱいいっぱいに建っている。
そして、町の中央にあるサン・ドナート教会の鐘楼が、町の景観のバランスを整えるのに役立っていた。
まるで映画のセットのような光景。 それが、『死にゆく町』チヴィタだった。
41プリマヴェーラ 11/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:57:46 ID:DZ+6bOx4

「…このラツィオ州、ウンブリア州西部、トスカーナ州は凝灰岩の地層が多くて比較的地盤がゆるい。 このバニョレージョと
チヴィタも凝灰岩の上に出来ている。 これが、時間が経つにつれ、崩落したり、風に侵食されたりで小さくなって今の姿に
なったというわけだ。  ……どうだ? かなり圧縮かけたんだが。 薀蓄。」
「良く出来ました、かな。」
展望台から陸橋の袂に向かいつつ、概ねの薀蓄を語り終えた。
「それにしても、エトルリア人? って凄かったんだねぇ。」
「かなり高度な建築、土木技術を持っていたのは間違いないな。」
「でも… 竜児がなんで歩きやすい靴にこだわったか、判った…。」
「おう。 見た目より厳しいぞ、この陸橋は。」
「上から見るとたいしたとこなさそうだったけど、最後の方、結構急なんじゃね?」
「足元、大丈夫か?」
「ん〜、ま、平気っしょ。 舗装はされてるしね。 よーし、じゃ、いくよ、竜児!」
「おう。」
平日で、バスの時間とかち合わなかったお陰で、観光客はほとんどいない。
青い空に浮かぶようなチヴィタ。 その崖の麓や、中腹には菜の花の黄色が輝いている。 これぞまさしく、絶景。
そこに俺達を導く、300mほどの陸橋は幅が狭く、結構な高さがある。
「これって、高所恐怖症の人は住めない町だね。 この橋渡れねーって…。 しかも風、超強ぇーし。」
「それ以前に、町自体がダメだろう。」
「あ、そうか。 あそこから見たら、どんな景色かな。 竜児、早くいこ。」
「おい、危ないから、そんなに早く歩くなよ。」
「だーいじょうぶだって、チビトラじゃあるまいし。」 「大河だったら、放しておけねぇ…。」
「うんうん、なんか、ドジしてその辺にぶら下がりそう! あはははは。」
「いや、けっこう上の方は傾斜が急で滑りやすいから、お前も気をつけてくれよ。」
「はいはい。」

数分後、ようやくチヴィタの町の門に辿り着く。 石造りのアーチは狭く、御伽噺の世界に入る秘密の入り口のようだ。
「ここは現在進行形で侵食が進んでる。 すこしづつ崩れていってるんだ。 いつか、この町は無くなる。」
「…え?… そう、なんだ……。 それで…」 「……『死にゆく町』って訳だ。」
「こんなに、綺麗な町なのに…。 悲しいね。」
「おう。 でも何百年も先の話だろう。 目で見えるほど狭くなっていってる訳じゃない。」
「……そっか。 よかった…。」
「さぁ、そんな先の事を心配しても仕方ねぇ。 ここは楽しく見物させてもらおう。」
「ん。 そうだね。」
門をくぐると、こぢんまりした石積みの家が並び、中央の教会前の広場に通りが続いている。
淡い褐色の石積みに緑の蔦が美しい。 門を出てすぐ右にお土産屋さんがあった。
「竜児、ここお店? ね、入ってみようよ!」 
流石に亜美の反応は早い。 ショッピング用のレーダー完備らしい。
「ほう。 こいつは…」 
良質そうなオリーブオイル、手作りジャム等が目に飛び込む。 
小さい店だが、写真や絵葉書に加え、地元の食材もいくつかあった。
「ねぇ、竜児、この絵葉書凄くね? 雲の上にあるみたい。 まるっきりラピュタじゃん!」
店の女主人はとても親切で、亜美は大満足の様子。
俺達が店を出ると、女主人は外まで来て手を振ってくれた。 結局、亜美は絵葉書を何枚か購入したようだ。
「んふふ。 いいお土産できちゃった。 ここはまだ来たこと無いって人多そう。」
「そうだなぁ。 実際、前に来たときも日本人観光客には会わなかったしな。」
「でも、なんか中世にタイムスリップしたみたいな感じじゃない? 観光客もいないし……あっ、ネコ!」
「日向ぼっこ中みたいだな。」
「かっわい〜。」
そのネコは尻尾を振りながら教会前の広場に悠々と歩み去った。
42プリマヴェーラ 12/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:58:38 ID:DZ+6bOx4
随分と人なれしたネコに続いて、すぐに俺達は中央の教会前広場に辿り着く。
「プランターの花も綺麗だし、すっごい雰囲気いいね。 なにより人が少ないのが最高。」
「ああ。 時間帯的なものだな。 バスの本数が少ないせいで、ツアーの観光客は来る時間が集中するんだ。」
「そっか。 じゃ、今のうちに周っちゃおうよ。」
「いや、慌てなくてもこの教会から100mも進めばもう、崖だ。 そして、メインストリート以外はツアー客は殆ど歩かない。」
「そうなの? じゃ、二人でゆっくり歩けるね。」
そう言って、腕に絡み付いてくる。 
反射的に逃げちまいそうになったが、人がまばらに居るだけの此処なら、気恥ずかしさに耐えられる。
こいつが人の多い所を嫌うのは、そういう所でこういう風にくっつくと、俺が照れて逃げるからなのかもしれねぇな…。
だが、外から見る分には、こんな凶悪面の俺とこいつじゃ、どう考えても釣り合いがとれねぇのも事実だ。
なんだ、アイツは? って目で見られるのは、どうにも居心地が悪かった。
そういう意味では、俺もこうして人目を気にせずに亜美と腕を組めるのは、まぁ、まんざらでもない。
実際、日本じゃこんな事は絶対に出来ない。
間違いなく、亜美に迷惑かけちまう。 ここがイタリアだからこそ、俺達はこうして居られるんだろう。

そうして二人でそぞろ歩くチヴィタの町はこの上なく美しかった。
メインストリートから外れた石畳の小道は、突き当りが遠く霞む下界の景色で、まるで空中に向かっているようだ。
その小道を進み、突き当りで通りを折れると、蔦の絡まる石造りのアーチが素晴らしい風景画の額縁と化している。
「あ、ここは壊れてる…。 ますますラピュタっぽい。」
「足元気をつけろよ。 すこし下る。」
「うん。」
その小道を下った先にあったのは共同墓地だった。 おそらく、エトルリア時代の洞窟を利用したものだろう。
そこから振り返ると、崖の上に家が建っているのが良くわかる。
「なんか、こうして見ると人間って凄いよな…。 こんな所にまでこうして住んでいる。」
「ここで生まれて育った人にとっては、やっぱり離れられない場所なのかな。」
「なんだろうな。 そう考えると、観光なんて言ってうろちょろすんのも、なんか申し訳ない気がするな……」
「ふふふふ。 なんか、すごく竜児らしい発想だね、それって。」
「…そうか?」 
「うん。 ……名残惜しいけど、もどろっか?」
こうして、いつも相手の気持ちを敏感に感じ取って思い遣れるのは亜美の一番の美徳だと思う。
それを優しいと呼ぶのなら、亜美は間違いなく優しい女の子だろう。 
そんな事を言ったなら、調子に乗って当然だと胸を張るだろうか。
それとも、照れて頑なに否定するのだろうか。
ふと笑いが漏れてしまった俺に気付いて、亜美は怪訝な顔になる。
「なーに? なんか失礼なこと考えてなかった? あんたって、時々そういう事あるよね。 なんかいやらしい〜。」
「いやらしいって… お前なぁ…。」
「でもぉ、亜美ちゃん、今日はすっごく機嫌がいいからぁ、許してあ、げ、る。 …うふふふ。 さぁ、いこっ。」
くいと手を引っ張られ、俺達はもと来た道を戻ることにした。
43プリマヴェーラ 13/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 22:59:28 ID:DZ+6bOx4
帰り道、さっきは通り過ぎたオリーブオイルの店でお土産用のオリーブオイルを買ってから、入り口の門をくぐった。
時計を見れば、既に4時まであと15分。 なんだかんだで、結構長居してしまったようだ。
「あ、そういえばこの辺りから写真撮ってなかった。 ねー、竜児。 記念撮影しようよ。」
陸橋の途中で、亜美は思い出したように言う。
「おう。 そうだな。 この角度だと、迫力あるし、丁度いいかもしれない。」
「じゃ、先ず亜美ちゃんが先ね。」
「おう。」
そうして、ふたりで写真を撮り合っていたら、登ってきた俺達と同じ位の年頃の二人組みの女性が英語で話しかけてきた。
俺はイタリア語は話せるが、英語はあまり話せない。 
一瞬焦っていると、なんと、亜美が話し出した。 
しかも、ちゃんと会話が成り立ったようだ。 高校時代の成績を考えたら有り得ない光景だと思ったのは、絶対に内緒だ。 
だが、考えてみれば亜美はついこの間までアメリカで映画を撮ってたんだから、多少は話せて当然である。
亜美の通訳によると、彼女らは英国人で、どうやら、俺達二人を撮るかわり、彼女らも撮って欲しいという事だそうだ。
当然、了承。 無事にお互いカメラに収まって、彼女らのカメラを返したのだが……。
二人は、なにやら、俺達を見ながら、小さな声で早口に相談事を始めた。
「なんだ? 何話してるんだ、あの二人。」 
「ん〜、 ……早口でわかんない。」
すると、ブルネットの子がおずおずとよって来て、亜美に向かって俺にも判る言葉をかけて来た。
「Excuse me, is it Ami?」
亜美は一瞬複雑な表情を浮かべたが、すぐに営業スマイルになって、その質問が正解であることを告げた。
大げさなリアクションで喜ぶ二人。
例の映画での亜美の演技は、どの国でも評判が良かったと聞いている。
だが、たまたまローマではこういった光景に出くわすことはなかった。 
だから、俺は良く判っていなかったのかも知れない。
俺以外の人間にとって、亜美はやっぱり、『女優』なんだって事が。

二人の英国人女性に挟まれて営業スマイルを浮かべる亜美。
デジタルカメラの液晶ディスプレイに映る亜美は丁度テレビの向こうに居るかのような錯覚を与えた。
急に、亜美が遠くなった気がした。
冷静に考えてみれば、俺が亜美と恋人同士になったのはとんでもない幸運があってこそだ。
亜美がストーカー騒ぎで俺の高校に転校してきたのも偶然。
その幼馴染が俺の親友だったのも偶然。
そして俺が記憶喪失になったのも偶然。
肝試しでペアになったのも… 
そして、ローマで再会したのは、最早奇跡と言って良いかも知れない。
そうだ。 普通に考えたら、到底俺の手が届く筈もない高嶺の花、それが川嶋亜美だ。
「撮影、ご苦労! さ、車にもどろ。」
「………」
「……どうしたの?」
「おっ、おう。 そうだな、戻るか。」
「うん。」
亜美はきゅっと腕を絡めてくる。
少しだけ体を預けるように寄り添う亜美のポニーテールが強風にあおられて、俺の背中をなでる。
さっきの液晶ディスプレイに収まった姿がいけなかった。
女優の顔をした亜美を見てしまったのが……。
不思議な非現実感。 
俺が亜美よりいい女を見つけるのは不可能と言っていい。
だが、亜美が俺よりいい男を見つけるのは、ごく簡単な気がする。
どう考えても天秤が釣りあわない。
「日が傾いてきたね。」
「おう。 次に行くところが今日の宿泊地だ。 ここから30分くらいだから安心してくれ。」
「あ、そうなんだ。 うふっ、なんか楽しみ〜。」
「おう。 すげぇ綺麗な街だぞ。」
「どこ?」
「オルヴィエートだ。」
44プリマヴェーラ 14/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:00:49 ID:DZ+6bOx4

風に銀色の葉裏を覗かせるオリーブ畑を縫っておよそ20分。 丘陵地から谷を挟むような感じでその街は姿を現した。
まるで石のテーブルに乗った街。
街の周囲は凝灰岩の崖に囲まれている。 ここもまた、『天空の町』だった。
「すごーい。 なんで、わざわざあんな崖の上に街作るの〜?」
「ここも、2700年前のエトルリア人の城塞都市なんだ。」
「まじ? エトルリア人えらーい。 亜美ちゃん、エトルリア人覚えちゃったよ。」
「この街の地下にもエトルリア人が作った広大な洞窟があるんだが、今回は割愛する。」
「え〜。 ざんね〜ん。」
「まぁ、ぶっちゃけ一日やそこらで見れる所じゃないんだ。 今回はダイジェスト版ってことで我慢してくれ。」
「はーい。」
「すまねぇ。 で、最初はサン・パトリツィオの井戸に行ってみよう。」

サン・パトリツィオの井戸は街の東端にある。 予約した宿は町の南西の崖っぷちだったから、ここだけは先に回っておく
つもりだった。 あとは宿に車を置いて歩きだ。
緑に囲まれて落ち着いた雰囲気の場所に円形のレンガ積みの入り口がある。
「ここがサン・パトリツィオの井戸なんだが…」
「どうしたの?」
「いや、井戸の底はそれなりに幻想的な空間なんだが、あとは二重螺旋構造が珍しいってだけで、248段の階段を昇降
しなくてはいけないんだが… いくか?」
「………せっかく来たんだし、いってみようか、って言いたい所だけど、竜児が尻ごみしてる段階で既にアウトじゃね?」
「だよなぁ… ここは途中まで行って帰ってくるって訳には行かないんだよな。 正直、亜美には微妙だと思う。」
「じゃ、ここにそういうのがあるってわかっただけで良しとしましょ。」
「おう。 なんか、つれて来ておいてすまねぇな。」
「ううん。 いいよ。 それに、ここ見晴らしいいしね。 あれ、駅だよね?」
「おう。 そうだ。 駅からだとここまでケーブルカーで上がってくることになる。」 「おもしろーい。」
「さぁ、それじゃ、今日の宿に行くとするか。」
「うん。 楽しみ。 竜児のセンスはどんなかな?」
「…お前がいつも泊まってるようなセレブ御用達の高級スイートと比べてくれるなよ…。」
「そんなの期待してないって。」

街の南西、古い石作りの街並み、その崖沿いにそのB&Bはあった。
B&Bというのは、ベッド&ブレックファーストで、日本で言うところの民宿またはペンションである。
だが、俺が選んだその宿はミニホテルといった趣で、部屋は2つだけだがバスルームつきで設備も充実していた。
もちろん、亜美と一緒に泊まるなら、あまり酷い部屋は選べない。 B&Bにはバスルームは共用という所も多いのだ。 
その点、ここは設備はホテル並みだったが、ルームチャージで85ユーロ。 十分に安い。
だが…… 通された部屋は予想を遥かに上回っていた。
「………最高……。 竜児、やっぱあんた、センスいい!」
亜美はベッドに荷物を放り込むと、窓際に走る。
小さなリビングにダイニング、そしてベッドルームには天蓋つきのふかふかのダブルベッド。
そして、小さなテーブルが添えられた窓からは、糸杉の並木が続く農村風景が一望できた。
「すっごい、素敵ーー。 なんか、ささやかな新婚家庭って感じじゃね?」
たしかに小さなキッチンもあって、普通に暮らせそうな感じだった。
だが、俺には『新婚』という単語がいささか刺激的で、すぐに同意の声を返すことは出来なかった。
その単語は、俺に妙な独占欲と、漠然とした不安を与えた。
それは亜美を放したくないという気持ちと、本当に亜美は俺で満足なのか、という気持ちのせめぎあい。
そんな俺の様子に気付かないほど亜美は喜んでいる。
くだらない。 何を心配してるんだ、俺は。 亜美はこんなに幸せそうじゃないか…。
そう言い聞かせながらも、俺の心の影は消えてはくれなかった。
45プリマヴェーラ 15/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:01:26 ID:DZ+6bOx4

それから暫くの間、部屋で俺の撮ったデジカメの写真を覗いたり、コーヒーを飲んだりしながら寛いだ後、俺達は夕食兼、
オルヴィエート市内観光の為に宿を出た。
最初に向かうのは宿から少し北にいった『共和国広場』。
そこはサン・アンドレア教会の塔と、柱廊が特徴的な広場だが、ローマの広場を見慣れてしまうとかなり小さく可愛らしい。
ふと見上げれば、東の空は既に青紫に変わりつつあった。
だが、空を見るためでは無い。 見上げたのは、時計の付いた塔が近くに見えるから。
『モーロの塔』だ。
時計はもう5時をまわっている。 
俺の計画としては、この塔の頂上で日の入りを迎えたかった。
共和国広場を出て、オルヴィエートの中心部を東西に伸びるカブール通りを少し東に向かえば、御土産屋がある。
その御土産屋がモーロの塔の一階部分だった。
相変わらず亜美はいつもより幾分口数が多く、機嫌がいいのは一目でわかる。
それでも、この塔の内部を見たら文句を言うに決まってる。
この地上47mの塔は2階部分から上はひたすら螺旋階段を上るしかない。
しかもその螺旋階段は狭いため下から見上げると、とんでもなく長く見えるのだ。
「うげっ ここ昇るの?」
「そうだ。 それもあって、さっきの井戸は自重した。」
「…なるほどね。」
亜美を先頭に、えっちらおっちらと階段を昇る。
下の御土産屋や広場の露店に亜美が引っ掛ったお陰で、けっこう微妙な時間になってしまっていた。
時計の文字盤の裏側もゆっくり見ないで一生懸命に昇り、ようやく頂上に辿り着きそうになった頃、亜美が愚痴を言い出す。
「ふ〜〜。 これで頂上が大したことなかったら、マジでわ…」

カーーーーーーーーーーーーーーン!

「わっひゃぁ!」 「ぅお!」
奇妙な叫び声とともに足を踏み外しそうになる亜美。 咄嗟に後ろから支えた。
突然の大音響に、亜美は目を白黒させる。
「な、なんなのっ。 ちょービックリしたんですけど!」
「六時の鐘だ。 急ごう。」
「え、ええ? ちょ、そんな引っ張んなって、このヤンキー面!」
台詞からすると、イイ感じに不機嫌になったらしい亜美を連れて残りの二十段あまりを一気に昇る。
頂上には鐘突きの人形以外、誰も居ない。
「もう! ちょっと強引す…ぎ…」
突然一気に開ける視界。 
そこからはオルヴィエートの街全てと、その周囲の田園風景が全て見通せる。
つい今しがた毒を吐いていた亜美の口が閉ざされた。
「日没だ。」
西の空は今まさに太陽が丘陵の背に足をかけた所。
折り重なる丘はそれぞれの尾根をオレンジ色に輝かせ、樫や糸杉が長く、長く、影を伸ばす。
見る見るうちに沈んでいく太陽は低く浮かぶ雲を真紅に染め、上空に横たわる薄雲はピンクに色づかせる。
手前に見えるオルヴィエートの街のテラコッタの屋根瓦はキラキラと黄金色を反射させ、オレンジ色の凝灰岩で出来た家々は
更に鮮やかな色に変わっていく。
この光景を一体どんな言葉で表すべきなのか? 
足早に太陽が沈んでいくなか、身じろぎ一つできないまま、ただその光景に打ちのめされる。
西の地平が更にその赤を深める頃、ようやく隣に佇む影に目を向けた。
――――嗚呼。
そこにはもう一つ、言葉に出来ないほどの美。
まるで絹糸のような黒髪を風になびかせ、うっすらと涙を浮かばせて地平の彼方を見つめる姿を、なんと讃えよう。
この狭い塔の頂上。
俺を取り巻く小さな世界はあまりにも美しく、満たされていたのだった。
46プリマヴェーラ 16/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:02:19 ID:DZ+6bOx4
それは、息が詰まるような数分間。
彼女が、ただ無粋に見つめるしかできない俺に気付く前に、なんとか視線を外すことに成功した。
ほっと息をつき見上げる空には、遥か上空をゆく金色の飛行機雲。
天頂は赤紫に染まっている。
「なんか、月並みな言葉しか思いつかないけど、あたしのこと馬鹿だって思わないでね… ここから見た景色、凄く…綺麗。」
「はははは。 俺もなんも思いつかねぇ。 ここは素直に綺麗でいいと思う。」
「なんか、感動して涙出ちゃったよ…。」
「おう。 だが、まだ半分だ。 反対側も見てみろ。」
東側の景色も決して西側に負けてはいなかった。
すでに夜の帳が下りてきている東の空は深い青に侵食されている。
遠くに浮かぶ高い雲が、僅かに日の名残の赤を滲ませるばかり。
西の地平に太陽が沈みきると、夜の領域はたちまちに広がっていく。
そして、街の東側の暗闇に対する抵抗勢力は、通りに点々と灯ったランプの光に変わっていた。
カブール通り沿いに続くランプのオレンジの光が、薄暗くなったオルヴィエートの街並みをライトアップする。
徐々に暗くなってくるにしたがって、その温かみのある光は見事に通りを浮かび上がらせた。
右側には300年以上かかって作られた、この街の象徴とも言える壮麗なドゥオーモが、オレンジ色にライトアップされている。
薄暮のオルヴィエートは『世界一美しい丘の上の町』の名に恥じない佇まいを見せていた。
「凄いね…。」
「おぅ。 俺もこの街は仕事で何度か来てるんだが、こうして塔の上から眺めたのは始めてだ…。 本当に凄い景色だよ。」 
「うふふふ。 …なんだか、あたし、一日中同じ感想言ってる気がしてきた…。」
「はははっ。 俺もだ。 お互い、語彙がねぇな。」
「でもさ、素直な感想だよ、これって。」
確かに、ローマで再会してからの亜美は随分と素直な感じになっていた。
そして、こういう時は素直に感じたままを表現するのが一番だ。
「いいんじゃないか? 別に気取ることはないよな。」
「ん。」
小さく頷いて、俺の肩に頭をもたげてくる亜美。
ごく自然にその肩を抱こうと手を伸ばし……止まった。
人の声が聞こえてきたからだ。 おそらくイタリア人旅行者のカップルだろう。 いちゃつく声が大きい。
その露骨な愛の台詞に、思わず亜美と顔を見合わせて吹きだしそうになる。
「降りるか。」 「そうだね。 折角だから、二人っきりにしてあげよ。」
そうして、イタリア人カップルと入れ替えに、俺達は長い長い螺旋階段を降りていった。

カブール通りに出ると、意外なくらいに人通りが多かった。
どうやら、夜のオルヴィエートを楽しむツアーの観光客のようだ。
数人づつ固まりになってキョロキョロしている。
そしてそれは最悪な事に日本人のようだった。 どうやら最近は日本でもオルヴィエートをメインにしたツアーもあるらしい。
「拙いな…。」 思わず呟いてしまう。 亜美は今、もろに素顔を晒している。 変装に使えそうな物も、どこにもない。
「どうしよう…。」
「とりあえず、ドゥオーモの方が人が少ないようだ。 こっちに行こう。」 「わかった。」
亜美は俯き加減にそそくさと歩く。 気持ちは分からないでもないが、それではかえって目立つ。
「あんまり急ぐな、堂々と行こう。」 「う、うん。 ごめん。」
スーパーのある通りで曲がろうと思ったら、スーパーから不意に3,4人の日本人の若い女性が出てきた。
思わず回れ右。
ドゥオーモの前は危険だが、周りを見ると、それ以外の方向は数人の日本人らしき姿がある。
「なんだ、こりゃ。 まるで追い込まれてるような気がするぜ…。」 「まさか… んなわけねーって。」
地理に疎い亜美は迷わず観光客の見えない方へ歩き出した。 すなわち、この街一番の観光スポットである、ドゥオーモへ。
47プリマヴェーラ 17/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:03:54 ID:DZ+6bOx4
こうなっては仕方がない。 
意を決して亜美の後を追ったが、幸運なことに、大聖堂前広場には地元の人間が居るだけだった。
しかし…。 俺達が大聖堂前広場に来た時は確かに日本人観光客はいなかったのだが…
時間は丁度ドゥオーモの閉まる刻限。 案の定、見計らったかのようにドゥオーモの扉が開くと、大量の日本人を吐き出した。
マンガチックにビクッと背筋を伸ばして驚く亜美。
咄嗟のことに、俺も思いっきり判断ミスをしてしまった。
亜美の手を引いて俺が逃げ込んだのはマウリツィオ通り。 
オルヴィエート土産はここで買え!という見出しが載ったガイドブックが幻視できるぜ…。
もうこうなったら強行突破しかない。
何食わぬ顔で通りを闊歩する。 が、目の前の店の扉が開き、年頃の日本人の女の子の3人組みが顔を出す。
これには流石に対処不能。 威風堂々、目前僅か1mを通り過ぎた。
「あれ? 今の川嶋亜美じゃない?」
「うん。 なんか、すごい似てた…。」
「うそぉ〜 私みてなかったぁ〜。」
3人集まれば一人くらいはトロいのが居るのは、不文律らしい。
「でも、なんでこんな所に?」
「え〜 あのひとぉ〜? ほんとだぁ〜。 後ろ姿からして美人っぽいねぇ。」
「ちょっと、なんで後つけてんのよ。」
まったくだぜ。 なんで付いて来るんだよ…。
「ちっ… なんで付いてくんだっつーの…」
隣の黒い人は声にでてるし。
「聞こえてた…よね? 私達の会話。」
「たぶん…でも、反応なしだよ、やっぱ見間違いじゃない?」
「なーんだぁ〜。」
「大体、こんな所歩いてる訳無いよ。」
「でもさ、例の彼氏ってイタリアに居るんじゃなかったっけ?」
「じゃ、声掛けてみればいいじゃん……」
「えー、でも、間違…て…ら……」
「だ…ねぇ……」
「………」

ふぅ。 なんとか追求には至らなかったか……肝が冷えたぜ…。
ドゥオーモ裏手の広場を過ぎ、人通りの少ない裏路地に逃げ込んで、やっと一息つく。
「ぷっ、くっくっくっく。 あはっ。 あはははははは。」
緊張が解けたのか、急に亜美が大声で笑い出した。
「あはははっ。 な、なんか、ふふふ。 超ドキドキして、面白かった。」
「おいおい、油断するなよ、あんまり大きい声だすなってっ。」
思わずあたりを見回す俺を見て、亜美はますます楽しげになった。
「きゃははははは。 あんたって、相変わらず小心なんだからぁ。 マジ顔に似合わねぇー。 ひゃひゃひゃひゃっ。」
「お前なぁ……。 笑いすぎだ!」
日本じゃテレビや雑誌で連日大騒ぎで、気の休まらない日々を過ごしているであろう亜美を思ってのことなのに。
まったく、こいつときたら、俺が困ったり、焦ったりしてる顔を見るのが余程好きらしい。
「お前がそうなら、もう気にしねぇ。 さあ、晩飯にするぞ。」
そう言い放ち、観光のメインであるカブール通りを迂回するべく歩き出した。
「あ、待って、竜児。」
やっと笑い止んで俺を追いかける亜美。 とはいえ、未だ顔はすぐにでも笑い出しそうな塩梅だった。
「ごめーん、怒ったぁ?」 わざとらしい猫なで声。 こういう時は素直に答えるのは危険だ。
「観光客に人気のトラットリアがこの近くにある。 なかなか美味いらしい。」
「あ……」
亜美の雰囲気が瞬時に変わった。 
「…ごめん…。」 
拙い、薬が効きすぎたか。
「だが、地元の人がよく通うトラットリアで美味い店を知っている。 今夜はそこに行こう。」
下手に蒸し返すよりは、気にしてないってのをアピールする方が得策だ。
「う、うん。 わかった。」 
48プリマヴェーラ 18/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:04:55 ID:DZ+6bOx4
やはり、少しばかり高校の時とは勝手が違う。
付き合いだしてもう半年以上経つが、その『違い』が、徐々に顕著になってきている気がしていた。
最初は良くわからなかった。 だが、今ははっきりしている。
高校時代の亜美なら、さっきのような事を言ったら怒っていただろう。
不安げに俯いてしまうことなどなかった筈だ。
自惚屋で謙虚さの欠片も無いが、それに見合うだけの努力家でもある亜美はいつも堂々としているイメージだった。
ところが、ある事に対してだけはまるで自信が無くなるようなのだ。
鈍感な俺でも流石に気が付いた。
高校の時とは違うのは当たり前だ。 それは、高校の時には、終ぞ亜美に向けられることの無かったものだったから。
それは俺にとっても、亜美にとっても凄くデリケートな問題で、簡単には触れられない。
だから俺は、日本人観光客に対するのと同様、それを避けて通ることにした。

「すこしばかり遠回りになっちまったが、もうすぐだ。」
「もしかして、宿のすぐ近くなの?」
「おう。 実はな。 だから、本当に外国の観光客は少ない地域だ。 そのほうがお前も落ち着けるだろ?」
「…うん。 ありがと。 やっぱり、優しいね、竜児は。」
「べ、別に、このくらい普通だろ……。」
素直に言葉を吐き出す亜美は破壊力満点だ。 何処か弱々しさを感じさせる美女というものに、大概の男は弱い。
照れくささを隠すため、ようやく見えてきたばかりの目的地を指さし、不必要な大声を出す。
「お、おう、あれだ。」
そこは、カルロ兄貴から『地元の穴場』と教わったトラットリアで、目立たない路地にひっそりと門を構えていた。

店内は外から見るよりは広く、しかし、雑然としていた。
やはり観光客向けというよりは地元の食堂のノリである。
幸運にも、いくつか席は空いていて、俺達は通りに面した角に案内された。
いつの間にか亜美はまたご機嫌になっていて、すこしほっとする。
まだメニューが読めない亜美に代わってオーダーを入れた。
亜美は、イタリア料理に関しては俺に全幅の信頼を寄せているらしく、口を挟んでくることは少ない。
「ポルチーニ茸のラヴィオリ、牛フィレ肉の赤ワインソース、パンナコッタはベリーソースでいいか?」
「うん。 それでいい。」
「おう。 じゃ、ワインは赤だな………、うん、ガウディオがあるな。 食事にはこれを合わせよう。」
「それって、どんなの?」 
「結構渋みも強いが、ブドウらしい味わいと、香りがいい。 肉料理には合うと思う。 渋いの大丈夫か?」
「…亜美ちゃん、子供舌じゃないし…。」
睨まれた。 亜美は、かつてコンビニ舌と馬鹿にされた事を根に持ってか、味覚の話題に関してはけっこう敏感だ。
「お、おう。 それと、珍しいのがある。 食後にコイツを頼もう。 オルヴィエート・クラッシコ・スペリオーレ・カルカイア。」
「それは?」
「白、デザートワインだ。 芳醇な香りと、適度な酸味に苦味、それでいてハチミツのような口当たりでキレのいい甘さ……
何言ってるかわからないな……と、とにかく甘口なんだが、上品な味わいのワインだ。」
「要するに、ドイツワインで言うと、トロッケンベーレンアウスレーゼみたいな感じ?」
「あそこまでの高級感はないが、まぁ、似た感じだな。」
「ふーん。 美味しそうじゃん、亜美ちゃんもそれでいい。」
このトラットリアは地元向けなので、少々日本人には量が多すぎる。 だから、オーダーはそれぞれ1人前ずつにした。
こういう店なら、シェアして食べても、マナー違反にはならない。
そして、注文するとすぐに前菜の盛り合わせが届けられ、本日最後の楽しい食事の時間が始まったのだった。
49プリマヴェーラ 19/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:07:35 ID:DZ+6bOx4
「あたし、普段はあんまり肉って食べないんだけど… これはいけるわ。 マジ美味しい。」
そう言って、最後の一切れを口に運ぶと、見事な『美味しい顔』を見せてくれる亜美。
しかし、そのすぐ後にはその笑顔を曇らせる事件が待っていた。
「あーっ! 川嶋亜美だ!!」
迂闊と言えば迂闊。 地元の人がほとんどで回転が速いこの店。 隣の席が空いた後、そこにやってきたのは見るからに
軽薄そうな大学生とおぼしき日本人のグループだった。
地元の人は席が埋まっていれば帰っていく。 だが、日本人は待つ習性がある。 椅子盗りゲームは得意中の得意だ。
「おお、本当だ、川嶋亜美じゃん、すげーカワイイ!」
「マジ!超ラッキーじゃん! 本当にイタリアに来てたんだ!!」
「ねー、アユミ、こっち、こっち! 川嶋亜美だよ、生亜美!!」
……こいつら… なんて無礼なんだ。 初対面の相手を友達みたいに呼び捨てにしやがって。
『ごすっ』
「ぅおっ!」
すねを思いっきり蹴られた。 見れば亜美が一生懸命サインを出している。
はっと気が付く。
恐らく、今俺は、テーブルにあるナイフとフォークでこの無礼な観光客を何等分に刻んでやろうか、とか考えてるように見えた
のだろう。
事実、亜美をカワイイとほざいた野朗が、俺の方をチラ見して、びくっと後ずさった。
いけねぇ… ここは亜美に任せて、俺は話を合わせよう…。

亜美は見事な余所行きの顔で相対する。 それは今まで生では見た事が無い、本物の『女優』の顔だった。
そこに居るのは、文字通り『全く別な人間』で、俺からしてみれば、川嶋亜美らしさなど欠片もない。
そして、旅行者の勝手な憶測と、とってつけた亜美の説明で、俺はいつの間にかボディガードになったらしい。
俺達よりも、おそらく2つ3つ年若い彼らは亜美の親切な対応に有頂天になったのか、己の不躾に気が付かない。
しつこく亜美に話しかける。
店の中でも、俺達の一角は少しばかり煩い場所になってしまっていた。
俺はイライラを紛らわせるために、ガウディオをもう一本追加して、がぶがぶと飲んだ。
いいかげん亜美も少しイラついて来ているのが分かるが、やんわりと会話を切ろうとしても、彼らには通じない。
お陰で、最後に運ばれてきたカルカイアも、亜美はグラスで一つ飲んだだけで、結局俺が残り全部を飲んでしまった。
延々と亜美の出演作の批評を聞かされる。 そしてその多くは的外れなのだ。
明らかに、今回の映画のヒットを見てのにわかファンなのだろう。
だが、それでも職業柄、邪険にすることは出来ないらしい。
そして、この不躾な旅行者から逃れる為の手段を探していた俺達に、救いの手を差し伸べたのは店のおばちゃんだった。
食べ終わったのなら、そろそろ出て行ってくれと促される。
有り難い。 即座にその言葉に従うことにしよう。
勘定をすませ、席を立つ。 ああ、そうだ。 俺はボディガードだったんだよな。 忘れる所だった。
酔っているのか、皮肉な考えが浮かぶ。 少しばかり、足元も怪しいようだ。
わざとらしく亜美を守るような仕草で通りに出た。
思考ははっきりしている。
「おぅ… さて、それじゃぁやどにもろるとするかぁ〜」
「ちょっと!」
歩き出そうとして、亜美に支えられた。
頭は正常に回転している、と思う。 だが、どうやら呂律と足元は完璧に怪しいようだ。
「竜児……どうしちゃったの? 飲み過ぎだよ。」
短時間のうちにワインを一升近くも飲めば、そりゃ多少は酔っ払うってもんだ。 折角の夜になにやってるんだ、俺は…。
「おぅ… すまねぇ。 確かに飲み過ぎたようだ…。」
「大丈夫? とりあえず、宿に帰ろう?」
50プリマヴェーラ 20/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:09:14 ID:DZ+6bOx4

亜美は俺を介添えするようにして宿に向かったようだったが、オルヴィエートの古い町並みは、夜になると殊更似たり寄ったり
に見えてくる。
何度か道を間違え、そして何倍も遠回りしてようやく宿に着いた。
―――とにかく、気分が悪かった。
酒に酔っているからではない。 自分自身の暗い感情に気が付いてしまったからだ。
それこそが、俺を酒に向かわせた原因。
すなわち、独占欲、嫉妬と呼ばれる感情だった。
『女優』という亜美のもう一つの貌。 俺の知らない川嶋亜美を見せつけられるのが嫌だったのだ。
部屋に戻るまでの間、何度も俺を気遣って声を掛けてくれる亜美に、ただ、「大丈夫だ。」と答え続けた。
それがまるで亜美を拒絶するかのように聞こえたであろう事に気付いたのは、リビングのソファーに身を沈めて、どれくらいか
時間が経った後だ。
後悔でさらに気分が悪くなり、テーブルに置かれたミネラルウォーターで喉を潤す。

……………はて、この水はいつから此処にあった?

駄目だ。 今の俺は最悪だ。 亜美が用意してくれたに決まってるだろうが…。
「大丈夫? 少しは気分良くなった? ってか、せっかくの夜に酔いつぶれるって、ありえねーし。」
毒づいてくれて助かった。 少しだけ、心が軽くなる。
「おぅ。 悪かった、もう大丈夫だ。」
「ったく、ヘタレなんだから…。」
「今、何時だ?」
「10時47分。 2時間近く眠ってたよ。」
「そう…か。」
曖昧な記憶。 成程、俺は眠っていたらしい。
「シャワー浴びてきなよ。 少しはすっきりするんじゃない?」
「ああ。 そうさせてもらうか。」
俺は亜美の言葉に従って、ふらふらとバスルームに向かった。

シャワーに叩かれて、少しだけ覚醒する。
亜美の口調は少し怒っているようだった。 まぁ、当然だろう。
折角のロマンティックなシチュエーションなのに、男が酔いつぶれているなど、論外もいいところだ。
しかも、その原因が醜い男の嫉妬心では、開いた口も塞がるまい。
スペイン広場であれほどの啖呵を切っておきながら、このていたらく。
「なさけねぇ……」
ぽつりと口をついて出た言葉が、今の俺の思いの全てだった。
ただ、ただ、―――情けない。
初対面の相手に、俺が見たことが無いような笑顔で笑いかける亜美。
だが、それは彼女の『仕事』なんだ。 俺が料理を作るのと同じように。 それが分っていながら、イライラを抑えられなかった。
これじゃ、亜美を不安にさせるだけだ。 
亜美は言っていた。
『一緒にいたら、必ず不幸になる』と。 
今はそんな事を口にすることは無くなったが、その考えが消えたわけではないだろう。
こんな俺の姿を見たら、あいつは絶対余計な心配をするに決まってる。 
そういう女なのだ。
だから、きちんと態度で表さないと……。 
―――シャワーを止めて、拳を握る。

51プリマヴェーラ 21/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:09:53 ID:DZ+6bOx4
温かいお湯に筋肉が弛緩したせいか、軽い眠気が襲ってきた。
足元も相変わらずふらふらする。 
もっとも、泥酔してもおかしくない様な無茶な飲み方をしたのだから、酒に弱い体質でなくてよかったと思うべきだろう。
ベッドルームには、月影の中、所在無げに足を揺り動かす亜美の姿。
満月を少しばかり通り過ぎた月は、いつの間にか中天にさしかかっていた。
亜美はバスルームから戻った俺を見て、意地悪な笑顔を浮かべる。
俺の考えすぎだったのだろうか?
「なーにぃ? まーだ、千鳥足なのぉ? マジ情ねーの。」
毒を吐く。
そして、ベッドからぴょん、と飛び降りると素早く俺にまとわりついた。
ふらつく足が、勢いを支えきれずにバランスを崩し、踏ん張りが効かなくなった俺は容易にべッドまで引きずり込まれてしまう。
眼下に横たわる亜美。 大胆にもはだけたバスローブの中に下着は見当たらない。
俺が寝ている隙にシャワーを浴びたのか、髪はしっとりとして、シャンプーの芳香を纏っている。
覆いかぶさる体勢になった俺は、珍しく積極的にその艶やかな唇を奪った。
「くすっ。 ブドウの匂いがする、…よ。」
首に絡みついた腕に引き寄せられ、キスが返ってくる。
短い接吻の後、離れていく亜美の顔は心底ほっとしたような表情。
どうやら、決して俺の考えすぎではなかったようだ。
俺の様子がおかしくなったのは自分のせいじゃないか、とか余計な事を考えていたに違いない。
「まだ言ってなかったね。 今日はお疲れ様。 ツアコン大変だったでしょ?」
「いや、スケジュールを考えたりするのは好きだから、大変ってほどでもない。」
「そうなんだ。」 二度目のキスは俺の胸へ…。 三度目のキスはまた、唇へ。
亜美はいつもの様に静かに、しかし情熱的に俺を求めてくる。
「やっぱり竜児って、そういう裏方っぽいのが好きなんだね。」
「おう。 性に合ってる、と思う。」
はだけたバスローブから覗く乳房に指を這わせながら答える。
「あっ」
少しばかり、力の加減が上手くいかなかった。 頭はしっかりしているが、やはり泥酔に近い状態なのか。
亜美の声は嬌声というよりは、痛みにあげた悲鳴。
「す、すまねぇ…。」
「ううん、平気。 ちょっとびっくりしただけだよ。」
そうは言ってくれたが…
尖った乳首に最後まで引っ掛っていたバスローブを剥がすのにも、やはり、少しばかり乱暴になった。
乳房がふるんと揺れる。 
たまらず、その柔肉を掌で覆うが、それも力が入り過ぎた。
「あ、んっ。」
しかし、亜美はのけぞるようにビクリと震える。
その姿があまりにも艶かし過ぎて、思わず両の乳房を激しく鷲掴みに揉みしだいた。
いつもは軽く会話を交わしながら、ゆっくり前戯を楽しむのが亜美の好みだ。
だが、今は激しい責めに獣性を呼び起こされたかように、俺の下で身悶えしている。
その乱れた姿を征服したくなり……
―――しかし、言い知れぬ罪悪感に引き戻される。
そして、また亜美の嬌声と美しい体に酔いそうになり……
―――また、引き戻される。
何度か繰り返して、その原因に気が付いた。
亜美を独占すること、それがなにやら悪事を働いているかのように思える。
こんなに美しい女を、みんなに愛されている女を、俺のような凶眼持ちが……。
まるで、陵辱しているみてぇじゃねーか………。

「ど…。 どう、したの?」
そして、亜美が異変に気が付いた。

52プリマヴェーラ 22/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:11:12 ID:DZ+6bOx4

「はぁ…、はぁ…、はぁ…。」
「……竜児?」
「おぅ。 な、なんでもねぇ。」
「で、でも。」
俺は十分興奮していた。 亜美は美しく、妖艶で、性的な魅力に溢れている。
だが。

俺の大事な息子は萎れたままだった。

酒のせいなのか、精神的なものなのか。
どちらにしても、今宵、俺は性的に役立たずな状態に置かれたという事だ。
女性経験が少ない、というか、亜美としかしたことが無い俺には、こんな状態は未知の状態で正直どうして良いか判らない。
焦る。 とにかく焦る。
亜美も困惑しているのが手に取るように判り、俺の焦りに更に拍車を掛ける。
「ちょ、ちょっと貸して!」
そう言うと、亜美はたどたどしい手つきで俺のペニスをしごき始めた。
亜美の白魚のような指が絡みつく。 が、正直言って、自家発電より下手くそである。
成果が上がらないのにイラついたか、続いて亜美は俺の股間に顔を埋める。
亜美の白い顔が俺の股間に吸い付くのは十分に興奮する光景なのだが、やはり、息子はうなだれたまま。
「もぉ〜! なんなの! 信じらんない!」
しまいに亜美はイラつきを発露して、作業を投げ出した。
俺はもう、どうしようもなく情けない気持ちで一杯だ。 正直、泣きそう。
意識して、焦れば焦るほど萎えていく……。

「竜児……。 そ、その…。 ほら、調子が悪いってか、スランプってか、ね、そういう事もあるよ。」
余程俺は落ち込んだ顔をしていたのだろうか? 亜美が急に取り繕う。
「お、おう。 俺は…平気だ。 ってか、すまねぇ…。」
「あ、あたしは、いいよ。 だって、竜児と抱き合ってるだけで、嬉しいし、気持ちイイもん……。 でもっ、あんたは…。」
「いや、俺だって、お前を抱いてるだけでも十分気持ちいい。」
「嘘つき…。」
「…嘘じゃねーよ。」

そうして、俺達は抱き合った。
他愛の無い会話をしながら、月影に浮かぶ起伏に富んだ芸術品を愛でる。
高くそびえる山脈。
なだらかな平原。
小高い丘に茂み。
そして秘められた谷。
きっと、ルネサンスの巨匠達が見たならば、この美しい風景を、こぞってカンバスに写し込もうと試みただろう。
そして改めて思うのだ。
俺にこの美しい女を手にする資格は有るのか、と。

そうして、どれくらい抱き合っていたのか。
やがて、日中の運転の疲れもあってか、意識が途切れ途切れになってきた。
ぼやける視界に、亜美の優しげな表情が写る。
目を閉じかけた時、ふとその表情が曇った。
「あたしが……いけないのかな………。」
微かな呟きが幻のように届いて…

亜美の頬を… 月の欠片が滑り落ちた ……気がした。

5398VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/15(月) 23:13:24 ID:DZ+6bOx4
本日はここまで。
ご支援、有難うございました。
続きます。 また明日〜♪

54age:2010/02/16(火) 00:35:24 ID:4SuEGtlg
GJ!GJ!GJ!
続きが超楽しみです。
55名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 01:04:31 ID:mK5YrxTR
GJでした。予告でおっしゃっていた通り、巧みながらも敷居の低い表現方法で、
とてもわかりやすく書いてあると存じます。読ませて頂いてイタリアの情景が目
に浮かぶようです。重箱の隅をつつかせて頂きますと、18歳以上しかいない大
人のスレですので、洒落て洗練された文章でも構わないと思いますが、原作がテ
ィーン向けのラノベなので、そういうのしか受け付けない読者の方も多いのでは
? と余計な心配してしまいました。イッ……イイ……イン……失礼いたします。
56名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 01:25:03 ID:NWJ6bSm2
>>21GJ!
できれば泰子とすみれを入れて欲しかった
57名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 08:19:26 ID:hfTFYIbU
>>56
俺も欲しかった。
そういう傾向を嫌う人もいるから、書き手に強要こそできないけど、
自分で書くなら大丈夫かな。ってなわけで三次創作投下します。

*********
注意書き:このレスで、竜児は安奈さん、すみれ会長、さくらちゃんとしちゃっている。
泰子との近親モノは次のレスにて隔離されています。
こんな竜児は人としてアウトで、彼にはもうナイス・ボゥト以外の道はありません。
それでもよろしければ、下からどうぞ。
*********

  川嶋の別荘に泊まっていたら、川嶋んちのお母さんが突撃捜査しに来た。セックスしている
最中に乱入。俺は部屋から追い出されて、川嶋も大説教を喰らった。
  川嶋が泣きながら飛び出した後、安奈さんは外に裸で立っていた俺を捕まえた。警察でも
呼ばれるかってマジ心配したけど、なぜか安奈さんはドアに鍵を掛けて、俺のものをしゃぶり始めた。
「怖くて体が震えてるのに、ココはまだこんなに……夫と違って頼もしいわね」なんか言いやがった。
  十○年も人妻やっていた人間のテクはやっぱり凄げぇ。まさか俺にもGスポットとかあったとは…
…挿入して三十秒で射精するという、記録の早さを前にして「うふふ、若い分いっぱい出るから、
別にいいわよ」って片付くところはさすが大人。
  一度中に出したら、もう後はないと思った。やけくそに、文字通り(精液が)腐るほど犯してやった。
「久しぶりにいっちゃったぁ、やっぱり君は素晴らしいわ」って褒められたけど、向こうを二回しか
いかせなかったのが悔しい。
  またしようって誘われたけど、川嶋の弟か妹の父になるのが怖いんで、ダメって言いたかった。でも、
「断るなら、あなたの性感帯を亜美に教えるわ」と、退路を断たれた。悩むな…
  因みに、川嶋を脅かしたのは、「1対1のセックスしかしたくない」が原因らしい。
川嶋と同じく、意外に可愛いとこあるな。

  会長はアメリカから一時的に戻ってきた。「今度こそ北村とあと一歩進みたい。
練習に付き合え」って命令された。まあ、エッチな練習じゃなくて、ただ「どうやって
そんな雰囲気になれるか」を研究することだった。結局ヤっちゃったけど。女って皆、
雰囲気と好奇心に動かされやすいなぁ。
  処女を奪われた瞬間に我に帰って、(俺の知っている限り)初めて涙を見せた会長が、
大変可愛かった。だからファーストキスも美味しくいただいた。多分強がりだったけど、
大して痛がる様子もなかったんで、彼女が初めてなのに構わず激しくピストン。
  やはり体はそこら辺の女より頑丈で、すぐに痛みを乗り越えて、快感を覚えるように
なった。悔しそうに唇を噛んでいながら、身体中に朱が走って明らかに感じているところ
を見て、また思わずキスしてやった。可愛すぎだろ、それ。
  最後までして、会長がイったのを確認して、中でフィニッシュ。そこで止まったら後が
怖いと予測して、休める時間を与えずに、十回ぐらいイかせて、六回中しして、ついでに
後ろの処女も貰って、とにかく心まで犯していた。それから一週間ヤりまくって、今はもう
俺とするのに抵抗なくなった。
  最初は勢いでやらかしたことで、今となって凄く後悔している。北村との友情は
どうなるんだろう… って歯を立たないでくれ、会長。

  で、ある日、会長の部屋でのヒメゴトをさくらちゃんに見られた。精液まみれのすみれ
姉ちゃんが、俺のハイパー兵器を銜えるところを見て、ショック受かったらしくその場で倒れた。
  北村に俺と会長の関係を知られたらまずいから、共犯になってもらうしかなかった。
さすがに自分の処女を散らすところを見せるのがヤバいんだから、一応、彼女が倒れたままで、
中に俺の逸物をぶち込んだ。
  目が覚めた時は取り乱したけど、会長に説得されて大人しくなった。「コウタくん」
って男っぽい名前を呟かれた気がする。やっぱり好きな人いたんだな、可哀想に。俺って
最低だ。罪悪感のあまりに、三回の中だしで勘弁してやった。
  アレから暫くさくらちゃんとしてなかったけど、会長が日本を立ってからは、その
代わりに可愛がっていた。詳しく言えば、会長とフォーンセックスする時、会長にバイブしか
なかったけど、俺はさくらちゃんを大人の玩具代わりに使っている。
  生理周期が食い違っているから、安全日の会長に「中にくれ」とか言われても、マジで中に
出すとヤバい時もある。ちょっと面倒くさいけど、年下の相手は珍しいから、別に悪くない。
  あと、頭悪そうに見えたけど、テクの上達は会長より早かったのにビックリ。この分野に
全才能を回していたかな。
58名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 08:20:27 ID:hfTFYIbU

  最近、泰子とするので凄く体力が削がれる。客にセクハラされる日には、深夜で
酔っ払って俺の寝込みを襲うから、困る。親父が失踪したからご無沙汰だったみたいで、
やっぱり体を持て余しているかな。中に入れてすぐイっちまうし。
  大きいおっぱいから母乳なんか出て、それを吸ってやったら、「竜くんが赤ちゃん
だった頃を思い出すなぁ」って言われた。ミルクはとても暖かくて、甘かった。
  そういえば、俺を生んだことで、子供生めない体質になったらしい。これを
知っておいて、奥を突いて子種をぶちまくのが悲しかった。悲しかったけど、
「やっちゃんのココは、最初から竜くんを受け入れるようにできているの」と、
そんなこと言われれば、俺は息子を抜いたりするとかできない。
  そうだな。俺はココから出てきたよな。土から出て、土に還る…ならず、膣から
出て、また膣に還るというのが、人の子と言ったもの。だから、睡眠不足になるのを
覚悟しながら、泰子が失神するまで愛してやった。
  幸せそうに、寝息している泰子を見て、思わず額に小さい口付けを。
  俺の母親になってくれて、ありがとう。あのクソ親父にも感謝しなくちゃな。
  ……お休み、泰子。

***

以上。
59名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 08:36:35 ID:zdD/e8Ar
ああ…
またしても朝っぱらからこんなモノを読んでしまった…
60名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 09:31:37 ID:NWJ6bSm2
>>57GJ!
いやーいってみるもんですね!
61名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 09:58:31 ID:hfTFYIbU
>>58
竜くんじゃなくて竜ちゃんでした。マジスマン…
62名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 11:40:46 ID:G74GaWsp
>>57-58
GJwwwwwww
63名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 11:50:37 ID:vurgwp3W
>> 前スレ396
GJ。相変わらず切ない文だな
来るものがある。

>> 前スレ417
いい感じでまとまってて、良かったですよ。GJ
王様ゲームネタってそういえば、初めてかも

>> 前スレ432
泰子もののSS、貴重です。
しかも、泰子の内面描写がしっかりしてる感じがとてもいい。GJ


>> 前スレ439
続く? ってこれから盛り上がる所だろ!
という事で続編希望です。

>> 前スレ450
何故かみのりんものも投下少ないですね
64名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 12:05:56 ID:vurgwp3W

>>12
俺は面白かったですよ。GJ
あーみんの健気さとが、意地ぱりな所とかが見え隠れしていて、
それでいて楽しそうで。良かったです。
ところで、北村って、本編の前に亜美に相談受けてのかな?

>>19
補完庫Wikiにそんな機能が…
管理者の方、いつもお疲れ様です。& GJ

>>21
なんかいつもながらすげーよ。あんた。
エロイデスネ。GJ

>>53
分割との事なので、全て投下されたら感想書きます。
ただ予想以上にいい

>>58
安奈さんも何気に追加かい、よかったし、面白かったけど。
ただ3次創作は取り扱い、慎重にした方がいいなと、個人的には思っております。
というか3次じゃなくて、これネタ同じだけど、別物で大丈夫だと思うよ。


と、感想終わり。読むのに、丸々午前中全部使った。
なんか3日ぶりぐらいにきたら、投下ラッシュだったんでびっくり。
書き手の皆様全てに乙!
特にバレンタインが、大河メイン、ハーレム系、泰子、みのりん。亜美と
バラエティに富んでいたのが素晴らしい。こんなの他のスレにはないだろ。
書き手のみなさん、これからも期待しております。
65名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 12:24:52 ID:JRjbgYzk
そういうあんたも職人だな!
66名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 22:15:45 ID:G74GaWsp
>>53
GJwwwwやっべえwwwイタリア旅行に行きたくなってきたwwwwwwwww
67名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 22:23:51 ID:EA4zX/pF
>>53
>「ラリングラーツィオモルト、セニョール、カルロ。 アリヴェデールラ!」
>身をよじりながら、重低音のアルファサウンドに負けじと、亜美が声を張り上げる。 >
>ルームミラーには、その声を受けて、胸を矢で射抜かれたような大袈裟なジェスチャーで石畳に倒れこむカルロ兄貴の姿。
>「あっ…、あははははは。」
>続くは、亜美の楽しそうな笑い声。

このあたりの空気感が楽しすぎるなあ。
脳内で声がついた画が動くわ。

残りの投下も待ってます。GJ
68名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 22:47:03 ID:4SuEGtlg
が、我慢・・・。我慢の時だ!
6998VM ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 22:53:07 ID:jJS6+Q48

こんばんは、こんにちは。 98VMです。

それでは二日目です。
忘れている方、ご存じ無い方もいるかもしれませんが、98VMは鬱作家です。
伏線は張っておいたものの、鬱展開があります。 
肌に合わない方も多いと思いますが、こうなっちゃいました。 申し訳ないです。

前提: とらドラ!P 亜美ルート90%エンド、ローマの祝日シリーズ
題名: プリマヴェーラ (ローマの平日5)
エロ: 実行不能。
登場人物: 竜児、亜美
ジャンル: 世界の車○から。
分量: 18レス
70プリマヴェーラ 23/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 22:54:31 ID:jJS6+Q48
* * * * *

突然の衝撃に、状況が全く掴めず、辺りをぼんやりと見回す。
が、その行為は強引に中断させられた。
「ほらっ! 竜児、さっさと起きてってば!」
なんだかさっぱり判らんが、とりあえず声の主に従おうと、ベッドから転げ落ちる。
「おぅ…。 なんだ、どうしたんだ、亜美…。」
「いいから、こっち来なって!」
亜美は窓の外を見て、盛んに俺を手招いていた。
はっきりしない頭を抱えつつ、窓辺に移動する。
「ほらっ。 すげーよ、この景色!」
この辺りの3月の陽気は日中は25度にも達するが、夜は10度にも届かない。
その気温の差が、霧を生む。
晩秋と早春、オルヴィエートはしばしば霧の海に沈むのだ。
まだ地平線から顔を出したばかりの太陽は、オレンジ色の光を投げかけ、窓の外はまるで黄金の海原だった。
凝灰岩でできた100mあまりの高低差は、オルヴィエートの街をその黄金の海に浮かばせる。
見渡せば、所々霧から幻のように糸杉が頭を覗かせていた。
霧はゆっくりと流れ、糸杉に絡まって、湯気のように虚空に立ち上っては溶けていく。
その幽玄な景色は、俺の膿んだ脳みそを蹴り飛ばすのに十分な力を持っていた。
「こいつは……。」
「どうよ。」
ふふふん、とばかりに胸を張る亜美。 第一発見者としての優越感なのか、無駄に得意げだ。
「どうよって、お前なぁ… なんでお前が威張るんだよ。」
「あたしが起さなかったら、あんたはアホ面で眠りこけてたでしょ、感謝しろってーの。」
「へいへい。 ありがとな。」
「あ。 忘れてた…。 おはよっ、りゅーじ。」
「お、おぅ。 おはよう。」
「今日もツアコンよろしくね〜。」
「おう。 まかせとけ!」
「ところでさ、二日酔いとか大丈夫?」
「ああ。 ……大丈夫みたいだな。 特に違和感はねぇ。」
「そか。 ……よかった。 …あっ、コーヒー入れるね。」
「え? あ、ああ。 いや、俺が…」
「たまにはあたしにやらせてよ。 竜児はそこに座ってて。」

数分後、窓の外の美しい景色に見とれる俺の前に、香ばしい香りのカプチーノが届けられた。
「起きてすぐお湯沸かしたんだ。 多分飲みたくなるんじゃないかと思ってさ。」
そう言って俺の向かいに座る亜美の手には紅茶が入ったカップがあった。
「サンキュー。 気が利くな。 …で、お前はやっぱり紅茶か。」
「うん。 コーヒー嫌いって訳じゃないけど、両方あるんなら紅茶だね。」
窓の外は霧が少し上がり、微かに農家の屋根や、垣根が透けて見え出した。
渦巻くように流れていく霧が障害物に当たって散らされていく。
昨日より少し風があるようだ。 北に向かえば、あるいは今夜は雨かもしれない。
亜美は頬杖をついて、窓の外を眺めている。
まったく、どんな仕草をしても絵になる女だ。
穏やかな表情を浮かべる亜美を見ていると、昨晩、眠りに落ちる直前に見たものは、やはり幻だったのかと思えてくる。
そうして、そのまま一言も言葉を交わさず、時計の長針が半周した。

「ねぇ、今日はどこに連れてってくれるの?」 沈黙に飽いたか、期待感を隠さずに亜美が切り出す。
「そうだな。 先ず朝食前にドゥオーモを見てこよう。 昨日はもう閉まっちまってたからな。」
「あの、でっかい大聖堂ね。 うん、昨日ゆっくり見れなかったもんね。」
「そうだ、今日は変装道具を…」
「いらない。 はっきり断る。」
「お、おい、いいのかよ、そんな事言って。」
「うん。 決めたの。 …そんな事より、その後は? ねぇ、またスッゴイ所、連れてってくれるんでしょ?」
「お、おぅ。 まぁ、凄い所っていうか、一応世界遺産になってる。」
「どこ?」
「モンタルチーノとオルチャ渓谷だ。」

71プリマヴェーラ 24/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 22:55:40 ID:jJS6+Q48

それから俺達は着替えて、ドゥオーモ見学に出掛けることにした。
時計はまだ7時に届かず、朝の冷え込みは結構厳しい。
ここから北はローマよりは厚着が必要だ。
そして、今日の亜美のいでたちは…
ダークグレーのTシャツに黒のチュニックブラウスをレイヤード、その上に純白の七分袖リンネルハーフコートを羽織る。
黒のワイドクロップドパンツは8分丈の筈が、亜美の足の長さのせいで7分丈。足元はやはり黒のストラップサンダルだ。
シックなモノトーンのコーディネイトながら、全体的にゆったり膨らんだイメージ。 ところが、亜美が着るとスレンダーさが
かえって強調され、結局シャープな印象を与えるのは実に不思議だ。
おそらく、そのどれもが高級ブランド品なんだろう。 見るからにいい生地を使っているのが分る。
それに、昨日の太もも丸出しの格好よりは確かに暖かそうだ。
それにしても女は大変だ。
亜美がローマに来るようになってから、俺の部屋には衣装箱が増殖中だった。
もちろん、全部亜美の持ち物。 ローマで買い込んでは俺の部屋に置いていく。
そろそろ領有権の問題を議題に出すべきかもしれない、などと考えながら、宿を出発した。

昨夜は日本人観光客に怯えながらの散策だったが、今朝は堂々と通りを闊歩する。
ここオルヴィエートは、その地理的条件からか極めて治安がよく、人気の無い裏路地も不安は無い。
すこし路地を進んだだけで、ドゥオーモの巨大なファサードが街並みの隙間から見えてきた。
「うわ〜 改めて見るとおっきいー。」
「大きさだけなら他にも大きいところはあるが、このファサードの豪華さはイタリア一かもしれないな。」
「あ、竜児、もうすぐ7時。 7時から入れるんでしょ? ほら、走るよ!」
「ちょ、ま、まて亜美!」
亜美は朝から元気一杯で、昨夜の事はもう気にしていないかのように見える。
そして、何気に運動神経の良い亜美はサンダルでも走るのが速かった。
結構本気で走って、やっと大聖堂前広場の直前で追いつく。
「うっわー 近くで見ると、ますますチョーでけぇ…。 それに、なんつーごてごてしたファサードよ、これ。」
「なんだ、お気に召さないか?」
「ううん、綺麗だけど、なんつーか、やりすぎってか…。 これって、マリア様の生涯とか、そういう感じ?」
「おう。 その通りだ。 中央一番上がマリア戴冠、その右下がマリア奉献、左下がマリア「結婚式だ!」
「…そういうのは反応が早いな。」 「んふふふ。」
「まぁ、いい。 それで……」
………

一通りファサードの説明をして、いよいよ建物の中に入ることにした。
まだ観光客は訪れていないようだ。
「うわ。 なにこの縞々。 なんか目が痛い。」
ドゥオーモは白と黒の玄武岩が交互に積まれた横縞模様で、たしかに目がチカチカする感じだ。
だが、内部には美しい壁画もあり、その壮麗さは目を見張るものがある。
左翼廊にはイタリア最大と言われる、巨大なパイプオルガン。 
祭壇前左翼のコルポラーレ礼拝堂には、この大聖堂の起源ともいえる聖体布が祭られている。
そして、その対面にあたる祭壇前右翼、サン・ブリーツィオ礼拝堂が、ここのメインイベントだった。
「昨日用意してたチケットって、ここのだったんだ…。」
「ああ。 流石にここは飛ばすわけにはいかねぇからな。」
「そんなに凄いの?」
「ああ。 とびっきりだ。」

72プリマヴェーラ 25/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 22:57:08 ID:jJS6+Q48

おもむろに礼拝堂内部に侵入する。
そこは異教徒である俺にとって、まさに侵入すると感じてしまう空間なのだ。
「ルカ・シニョレッリ。 ここのフレスコ画の作者だ。 かのミケランジェロが手本にしたとされる画家だ。」
「へぇー。 ……わあっ」
礼拝堂に入ると、亜美は驚きの声と供に固まった。 小さな礼拝堂は周囲の壁から天井に至るまで、驚異的な密度で描か
れたフレスコ画に埋め尽くされているからだ。
「ここには聖書の黙示録から題材がとられている。 天井画は『最後の審判』だ。」
「システィーナ礼拝堂のと似てる。」
「おう。 同じ題材だからな。 だが、実際にミケランジェロはこの絵を参考にしてシスティーナ礼拝堂の絵を描いたらしい。」
「そうなんだ。」
「こっちは『偽キリスト』。 あまり描かれた例がない主題で貴重なものだ。 で、そっちは『地獄』。」
亜美と俺は暫く黙って四方を埋め尽くすフレスコ画に見入っていた。
やがて、ぽつりと亜美が呟く。
「なんだか、怖い。」
「そりゃ、まぁ、黙示録だしな。」
「ううん、絵柄とかそういうんじゃなくて、なんだか裁かれてるみたいな気になるよ。」
少し青ざめた顔で肩をぶるっと震わせたのは演技では無さそうだ。
「ねぇ、竜児、出よう?」
「おう。 今日は独占でじっくり見れてよかった。 前に来た時は人が多くてな。 じっくり見れなかったんだ。」
怯えた様子でサン・ブリーツィオ礼拝堂から出る亜美に既視感を感じる。
「あー、おなかすいたー。 ねぇ、竜児、そろそろ宿に戻らない?」
だが、すぐにその思考は中断させられた。
「お、おう。」
「朝食は宿のおばさんが作る手料理なんでしょ? 竜児の料理とどっちが美味しいか、楽しみだなぁ〜。」
一瞬で立ち直ったようだ。 相変わらず、表情がくるくる変わる女だ。
「俺も楽しみだ。 家庭料理には学ぶべきところが多いからな。」
「あららぁ? もー負惜しみ準備しちゃったぁ? さっすが竜児、小心〜。」
「おいおい。 こういうのはな、小心じゃなくって、謙虚って言うんだ。 お前もちょっとは俺を見習って謙虚にだな…」
「謙虚なんて、一番あたしに似合わない言葉だっての。」
「………おみそれしました。」
ドゥオーモを出るや否や、既に亜美の毒舌は絶好調のようだった。

大聖堂前広場から、町の南側を通って宿に帰る。
特に古い家々からなるその付近は観光客の足も遠く、ひっそりとした朝の静けさに包まれていた。
人通りのない石畳は、ようやくランプが消え、朝の営みを迎えようとしている。
仄かに薪が燃える匂いを漂わせる路地を二人寄り添い歩く帰り道。
微かに触れた指先を、そのまま絡めあうのも、成り行きで。
軽く触れた肩に、頭をもたげるのも、ふとした弾みで。
それが俺達のいつものディスタンス。
それは、今日一日が祝福された一日である事を予感させてくれるような、そんな朝の一コマだった。

73プリマヴェーラ 26/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 22:58:38 ID:jJS6+Q48

十数分後。
B&Bのダイニングルーム。
大きく開かれた鎧戸の向こうにはオルヴィエートを取り囲む丘陵地と、糸杉の並木の奥に見える古い城跡のような屋敷。
小奇麗に整えられた食卓には、見た目にも楽しげな食事が並んでいる。
クロスタータ、ヨーグルトケーキ、フルーツジュースに、自家製パンとジャム。 それに馬鹿でかいカップに入ったカプチーノ。
「………ねぇ、竜児。 あたし、初めて気が付いたんだけど、一般のイタリアの朝食ってさ、お菓子なわけ?」
「………遺憾ながら、そうだ。」
「ホテルとかでも、やたらとスイーツばっかりあるから、変だとは思ってたんだけど。 やっぱそうだったんだ…。」
「だが、食材を生かす工夫が凝らされていて学ぶべき事は多いんだよ、実際。」
「例えば、このクロスタータだが、アーモンドクリームとこれは…」
「杏ジャム? うわ、やば。 これ美味しい!」
……
「それにこっちのパンには… これは、クルミか。」
「え、どれどれ? あ、本当だ。」
……
「このヨーグルトケーキもワイルドベリーが入っているようだし、やはり一味違うな。」
「なんていうか、悪魔的だわ…。 美味しいけど…食べられない!!」
「いや、食えよ。 普通に。 お前、最近ちょっと痩せたんじゃないか? 忙しくてバランスのいい食事摂ってないだろ?」
「ローマに来るたび、あんたに餌付けされてるから、普段は節制してんの。」
「おいおい、俺が悪人かよ。」
「決まってんじゃん。 顔的に。」 「………お前なぁ…。」

そんなこんなで、宿のおばさんの心づくしを頂いた後、すこし名残惜しさを感じつつ、俺達はオルヴィエートを出発した。
昨日通った道とは別の経路で、もう一度カッシア街道に戻る。
芽をだしてあまり経っていない小麦畑は、瑞々しい緑で緩やかな斜面を覆い尽くしている。
昨日よりも幾分か雲が増えた空は、寧ろその青さを際立たせていた。
一時間弱ほど走ると、サン・ロレンツォ・ヌオーヴォでカッシア街道に突き当たる。
亜美は、女優だと気付いた宿のおばさんがサービスしてくれたビスケットを齧りつつ、上機嫌に助手席でふんぞり返っていた。
そこから更に40分ほど北上したカッシア街道沿い、右手に見える景色に、突然、亜美が声を上げた。
「あーーーーー。 ここ見たことある!」
それは真っ直ぐに伸びた糸杉の並木とその先の屋敷。
「なんだっけ……なんだっけ……、あっ! そうだ、グラディエーターのラッセル・クロウがやってた将軍の実家!」
なんつー表現だ。 が、よく見るとたしかに似てる。 あるいは本当にそうかもしれない。
「絶対、そうだって。 スペインじゃなくて、イタリアで撮ってたんだ。」
亜美の盛り上がりっぷりは別にしても、殊更絵になる景色なのは間違いない。
そこで、俺達は車を停めて写真を撮ることにした。 
丁度背景の空には巻積雲が複雑なパターンを描いて、蒼と白の壮大な広がりを見せている。
さらに、周囲の小麦畑は萌芽の黄緑で彩を添えていた。
「綺麗な所だね。 なんか丘の連なりがパッチワークみたい。 緑だったり、茶色だったり、黄色だったり。」
「作物の違いが、すなわち色の違いってやつだな。 実はもうこの辺りは『世界遺産、オルチャ渓谷』の一部だ。」
「ええーっ。 そういう事は早く言えっつーの。 世界遺産だと知ってたら、見方も変わるってもんでしょ。」
「い、いや、それもどうかと思うが…。」
「そういうものなの!」
「…んじゃ、あらかじめ教えとくぞ。 この後見えてくる村も世界遺産に登録されてる。」

74プリマヴェーラ 27/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:00:04 ID:jJS6+Q48

ピエンツァ。 それがその村の名前。 最近は日本でも有名になりつつあるらしい。
サン・クイリーコ・ドルチャの少し手前、右手の谷間に向かって降りる砂利道に入る。
若葉が芽吹いたばかりのブドウ畑を左手に下ると、道は急に右に折れてそこからは緩い丘陵の尾根を走る。
見事に整備された圃場は連なる丘を覆い、果てしなく続く緑の絨毯のようだ。
そして、丘の上には数本の糸杉に囲まれた、石造りの農家。
これこそがオルチャ渓谷の典型的な風景だった。 世界遺産に指定されるのも納得の絶景である。
やがて、丘の上に可愛らしくまとまった村が見えてくる。
「あ、見えてきた。 またしても丘の上!」
「おう。 どうだ、絵になるだろ?」
「うんうん。 今日も最初っから飛ばすじゃない。 あれがピエンツァか〜。 凄い可愛い感じの村だね!」
道路の路肩に車を停めて記念写真。
「ここで残念な発表だ。 ピエンツァは遠くから眺めるだけにする。」
「え〜。 どうして?」
「すまん、時間の関係ってやつだ。」
「ん〜、ま、スケジュールは竜児にお任せだから、仕方ないね。」
「じゃ、さっそく次の町に向かおうか。」
「いよいよモンタルチーノ?」
「おう。 そうだ。」

同じ道を通るのは勿体無いので、来た道は使わずにサン・クイリーコ・ドルチャへ向かう。
その町も中世の石造りの街並みがそのまま残っていて、美しい。
「もう、とにかくどこを見ても綺麗。 なんか、あたし口元弛みっぱなしで、変な顔になったらどうしよう。」
「変な心配するな。 第一、お前、変な顔なんかしてねーぞ。」
「…にやけ顔になってない?」
「いや、さっきから、その、なんだ。 あれだな…。」
「…なによ。」
可愛い、なんてあらたまって言うのは流石に恥ずかしい。
「よくわからん。」 「はぁぁぁ? なに、その落ち。」
ぷいとそっぽを向くが、向いたその方向に美しい農家と糸杉の並木。
「あっ、ねーねー、竜児、あそこ素敵!」
1秒で機嫌が直るとは、オルチャ渓谷さまさまってやつだ。
そんな感じで、亜美は昨日以上にはしゃいで、元気いっぱいだった。
カッシア街道を挟んで、ピエンツァと丁度反対側にあるのが、モンタルチーノの村である。
この村は人口5000人ほどの小さな村だが、世界的にその名を轟かせている。
その理由は言うまでもない。
ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ。 かの有名な赤ワインの産地だからだ。
当然、亜美も知っていた。
亜美の高校時代の成績は悪かったが、流石にセレブ、こういった有名ブランドや高級品の知識は服飾品に限らず豊富だ。
「もう11時か〜。 もしかして、モンタルチーノで食事の予定なの?」
「おう。 そのつもりだが……どうした?」
大体予想はつくが、一応聞いてみた。
「亜美ちゃん、ワインのみた〜〜い。」
「一応言っておくが、あまりいいワインは期待するなよ。 バカ高いからな。」
一面のブドウ畑を走り抜けると、丘の上にモンタルチーノの町が見えてくる。
「ここも丘の上なんだね。」 いよいよ町に入ると、亜美がすこし不思議そうに感想を漏らす。
「軍事的な理由だろうな。 この辺りの村や町はみな古いから、中世から何度と無く戦乱に晒されてきたんだろう。」
「そっか…。 そうだよね。 それぞれの町に色んな歴史があって、その上で今があるんだね。」
「ああ。 だからこそ美しいんじゃないのか? っと、それはそうと、駐車場が空いてないな。」
「うわ。 本当だ。 なんでこんなに車あるのよ。」
「地元でも人気の観光スポットだからなぁ。 エノテカ巡りがかなり人気があるらしい。」
「おっ、車が出そうだ。」 「らっきー。」 「おう。 ついてるな。 ここからなら城塞も近い。」

75名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:02:09 ID:EA4zX/pF
C
76プリマヴェーラ 28/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:02:26 ID:jJS6+Q48

駐車していた車が出るや否や、その空いたスペースに勢い良く鼻先を突っ込む。
そうしないと他の車に場所を取られてしまう。
イタリアで公共の駐車場に車を停めるのは、まさしくサバイバルレースなのだ。
車を無事駐車場に叩き込むと、先ずは城塞を目指すことにした。
「町に入るときにあった大きな石の建物がそうなんだが、内部の一部がエノテカ、つまりワイン蔵になってるんだ。」
「おおー。 早速来たね。 ブルネッロ!」
「おう。 土産に発送も受けてくれるからな、日本に送ったらどうだ?」
「そうなんだ。 じゃ、そうしようかな。 パパもママもワインは好きだから、喜んでくれそう。」
亜美の足取りはいたって軽い。 その明るい笑顔は見慣れた俺でさえ、直視するのを躊躇うほどに美しい。
すれ違う人は男女を問わず、十人が十人とも振り返る。
例え話ですることはあっても、本当に一人残らず振り返る状況ってのは、よっぽど変な格好でもしない限り、普通の人には
縁のない話だ。
実際、亜美は高校時代よりも数段綺麗になっていると思う。
これで、ほとんど化粧らしい化粧はしていないのだから、まさに神が与えた芸術品だ。
だが、亜美が言うにはハリウッドにはそんな女がゴロゴロしてるんだそうだ。
それが本当ならば、そんな所に行ったら俺はショック死してしまうに違いない。

車で来た道を軽くスキップ気味に歩く亜美。
くるくる表情が変わって気紛れといえば、ネコを連想する所だが、少し先に行って立ち止まっては俺を急かす姿は、どちらか
と言えば犬の散歩に似てなくも無い。
大河がチワワに例えたのは、成程、今になって思えば当たっていたのかもしれない。
ほどなく城塞の中庭に入れば、砂利を踏みしめる音も軽快で、やはり亜美の機嫌の良さが窺い知れる。
俺が想定していたのよりも30分ほど早く着いたが、予定通り、城塞の5つの塔に登る前にエノテカ見物を楽しむことにした。
「ここは試飲もできるからな。」
「え、そうなの! …あっ、本当だ。 って、あのオッサン顔真っ赤。 しかもピヨってるし。」 
「あっ、ぶつかった。 あはははは。 マジうける〜。」
「あんなに酔っ払う程試飲するって… とんだオヤジだな。」
「あたしも見習おう〜っと。」 「お願いだから、自重してくれ……。」
亜美の美貌は男でも女でも虜にする。 ―――イタリアでは美しいという事は正義だ。
お陰様で亜美は、ほろ酔い気分になるくらいではあるが、普通じゃ飲めないような高級ワインばかり試飲させてもらっていた。
そして、どうやらピアン・デッロリーノのブルネッロが気に入ったらしく、1ケース日本に発送した。
こういう買い物をする時に、亜美は値段を見ない。
俺にとってはバカ高いワインを実にあっさりと買ってしまうのだ。
値段を聞いても、その顔に表情の変化が全く現れないのは本物のセレブの証だろう。
金銭感覚が無いわけじゃない。 良いと思った物にはそれなりのお金を払う。 ただ、その払う金の上限がやたら高いだけ。
勿論、亜美だって品質が同じなら、安いほうを買うし、値下げ交渉の技術は、むしろ俺より上だ。
今日も片言のイタリア語と身振り手振りでまんまと値引きを成功させてしまった。
とは言っても、店番の青年の気持ちは良くわかる。 あの潤んだ瞳で見つめられては、値引きせざるを得ない。
たとえ何を言っているのか分らなくても、とりあえず頷いちまうだろう。
まぁ、俺が見つめても大抵の人はとりあえず頷いちゃうんだが。
こうして見ると、なんか俺達、とんでもねぇ迷惑なカップルなのかもしれねぇ…。

77プリマヴェーラ 29/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:03:46 ID:jJS6+Q48

「ねー、竜児、なんかぁ、この上に登れるんだってぇ。 凄い景色良いってさ。 いこうよー」
もの思いしていた俺の腕を、少し酔いを感じさせる不確かな所作で引っ張る。
若干赤みを差した頬と、僅かに蕩けた目線が妙に色っぽい。
最初から城塞の塔には登るつもりだったから異存は無いのだが、今の亜美に接近するのは危険な感じだ。
この表情でいつもの様に誘惑されたら、逃げ切る自信は無い。
「おう。 わかったから引っ張るなよ。」
「もー、早く、はやく〜。」
意外にもお色気モードには入らなかった。
村の一番端に位置するこの城塞は村の様子を一望するには最適な場所だ。
加えてオルチャ渓谷を遠望するにも最適だった。
その城壁からあちこち眺めて歓声を上げる亜美は、いつものように迫って来る事も無く、やたら元気だ。
ワイン壷を細い棒で高く掲げたシュールなオブジェも亜美の笑いを誘う。
その後も、細く背の高いシルエットが特徴的な市庁舎や、いくつかの教会を巡ったが、亜美のテンションは高いまま。
ほろ酔い程度かと思ったが、その実、結構しっかりと酔っ払っているのかもしれなかった。

12時30分を過ぎて、ようやく予約しておいたトラットリアに転がり込んだ。
モンタルチーノの町は坂道が多く、くまなく歩くと結構疲れる。
流石のハイテンション亜美も疲れたようだった。
「ふぁ〜 つっかれたー。 それにおなか空いた〜〜。」
ぐったりとテーブルに突っ伏す姿に、『ヘタレチワワ』という言葉が頭に浮かぶ。
ある意味、美人だからこそ許されるぐだぐだな様子。 俺が同じポーズをとったら見苦しいだけだろう。
「とりあえず、ミネラルウォーターを頼もう。 いいよな?」
「うん。 喉もかわいたぁ〜。」

やがて届けられたグラスを両手で抱えて、ごっきゅごっきゅと飲み干す姿もまた可愛らしい。
「ふぃ〜 生き返ったぁ。 で、何頼んだの?」
「前菜はプロシュット・コット、野菜のフライ。 
パスタはリコッタチーズとほうれん草のラビオリ、ピチパスタのキアナ牛ラグーソース。
そしてセコンドはパッパ・アル・ポモドーロだ。 デザートはピスタチオのジェラートにパンナを乗せる。」
「…なんか、よくわかんないけどぉ、美味しそうってのは伝わったよ。」
すこしおどけて微笑む。 こういう何気ない仕草がやはり一番魅力的。
「でも、そんなに沢山たのんで食べきれる? これまでのパターンだと、大盛りドーンって感じじゃん?」
「いや、此処は珍しく、量は少なめで色んなメニューを頼んでくれって趣旨の店なんだよ。」
「へぇ! それ嬉しいね。 できれば美味しいの、色々食べてみたいよね。」
「観光客としちゃ、そうだよな。 そう度々来れるわけじゃないし。」
そんな会話をしているうちに、前菜が届けられ、二日目の昼食と相成った。

「ねぇ… そういえば、竜児はどんな店を出したいの? やっぱり自分の店持ちたいんでしょ?」
ピチパスタを食べ終えたところで、亜美が急にそんな質問を投げかけてきた。
「そりゃーな。 最終的には自分の店を持ちたい。 だが最初はコツコツと働くしか無いだろう。 先ずは腕を磨くのが先決だ。」
「でもさ、レストランとかって、美味しいだけじゃ駄目だよね。 立地とか、店の雰囲気とかさ。」
「だが、美味しくなければ論外だろ?」
「まぁ、……そうなんだけどね。」
なんだ? 珍しく歯切れが悪い。
「どうか、したのか?」 「ううん、なんでもない。 聞いてみただけ。」 「…そうか。」
その時、会話が途切れるのを見計らったかのようにパッパ・アル・ポモドーロが運ばれてきた。
「うわぁ。 これがパッパラパーなドーモ君ってヤツ?」
「…パッパ・アル・ポモドーロな…。」
それで、この歯切れの悪さの訳は迷宮入りすることになったのだった。

78プリマヴェーラ 30/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:04:51 ID:jJS6+Q48

そろそろトラットリアに来る客も減りだす頃、俺達は駐車場に戻った。
パンナを乗せたピスタチオのジェラートは亜美にクリーンヒットしたらしく、彼女は俺の分まで平らげてことのほか満足な様子だ。
「なーんか、ぷにぷにしてきたかも…」
「そんなにすぐに太るわけねぇーだろ。 まったく、気にしすぎだぞ?」
「あんた、油断大敵って言葉知ってる? 普段の弛まぬ努力が、この亜美ちゃんをして究極美女たらしめてるの!」
「究極美女ってなぁ……自分で言うかよ……。」
俺にとっては実際、究極美女なんだが、だからといって自分で言う奴は普通居ないって事実も変わらない。
「んじゃ、次の目的地まで走るか? 俺は車で着いて行くから。」
「あはははははは。 笑えない冗談ね。」
急にドスの効いた声になる。 だが、これは演技。 今や、こんな会話も俺達の楽しみの一つだった。
「じゃぁ、さっさと車に乗って、行くとするか。 損した所と、飯を食った所に長居は無用ってな。」

北に向かうにしたがって、雲の割合が増えてきていた。
日が沈むまではもちそうだが、フィレンツェで星は拝めそうに無い。
「あのさぁ、竜児。」
「ん? なんだ?」
「オルチャ渓谷とかっていうんだよね? ここ。 でも、全然渓谷なんか無いじゃん。 一番の見所すっとばして来たんじゃ…」
「いや、これが『渓谷』なんだよ。 日本でいう渓谷のイメージとはかけ離れてるがな。」
「ほんと?」
「誓って本当だ。 …似たような景色で飽きてきたか?」
「ううん。 いくら見てても飽きない景色だけど。 ただの素朴な疑問ってヤツ?」
「長い間の侵食と、人間の農耕でこういったなだらかな丘が続く光景が出来たんだな。」
「並木とかは人工だもんね。」
「ああ。 そういう意味でここは自然遺産ではなくて、文化遺産として登録されてるんだろう。」
緑のベルベットのような微妙な濃淡を見せる丘の斜面を雲の影が足早に流れていく。 上空の風が強くなってきたのだ。
心なしか、風もすこし冷たい。

「ねぇ、この後はどこに寄るの? まだ経由地聞いてない。」
数分の沈黙の後、亜美が今までより大きな声で問いかけてくる。
風が強くなり、風きり音が少しばかりうるさくなっていた。
「おう。 そうだった。 シエナの街を市街観光した後、いよいよフィレンツェだ。」
「3泊の予定だったから、フィレンツェで2泊なんだね。」
「おう。 まぁ、実際2泊じゃ、全然周りきれないんだが、そこは勘弁してくれ。」
「うん。 ……あ。」
厚い雲が太陽を遮る。 いつの間に広がったのか、今や全天の三分の二が厚い雲で覆われていた。
いよいよもって、天気は下り坂となってきたようだ。
「フィレンツェまでもってくれるといいんだが…。 まぁ、どんな天気でもそれぞれに良さがあるけどな。」
俺の言葉に亜美は反応を返さなかった。
雲の僅かな隙間から、幾つかの光条が輝く金色のカーテンとなってオルチャの丘陵地にふりそそいでいる。
それはまるで、宗教画のように神秘的で荘厳な光景。
その光景が亜美から言葉を奪ったのだ。
中世の人々が、この風景に神の存在を感じ取っても、確かになんの不思議もないだろう。
「本当。 晴れてなくても綺麗なんだね。 たぶん…、きっと、雨でも別な美しさがあるんだ…。」
暫く無言で揺れる光の束を見つめていた亜美だったが、ようやく言葉を思い出したようだ。
思わず口元が弛む。 同じものに、同じように感動できる、そのなんと嬉しいことか。
そして、亜美も俺と感動を共有できていると感じていてくれることを願ってしまう。
「あっ、おおきな街が見えてきた。 あそこ?」
そして、シエナの街が俺の思考を中断させる。
「おう。 そうだ。 あれがシエナ。 フィレンツェの宿敵だった街だ。」

79プリマヴェーラ 31/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:05:45 ID:jJS6+Q48

シエナ観光はあまり時間が無いため、ドゥオーモとカンポ広場に絞ることにしていた。
シエナの街も丘の上に発展した街であるため、市街地もアップダウンが多い。
先ずは一番高い丘の上にあるドゥオーモを見物した後、カンポ広場に向かう。

薄暗く細い路地、急な下り坂を降りて進むと、突然視界が開け大きな広場に出る。
丁度、雲の切れ間から太陽が降り注いでいて、一瞬まぶしさに顔をしかめるほどだった。
「わぁ… ここが、『イタリア一綺麗な広場』なの?」
「おう。 そうだ。 ここがカンポ広場、世界一綺麗な広場って言う場合もあるらしい。」
「扇型の坂になってるんだ! おもしろーい!」
「正面にある高い塔がマンジャの塔で、その脇の大きな建物が市庁舎だ。」
「広場の地面の煉瓦の組み方、変わってるね。 それに、この形、なんだかホタテ貝みたい。」
「あっちの端に立ったら、亜美ちゃんヴィーナス誕生?」
どうやら、亜美はドゥオーモより、こっちのほうが気に入ったようだ。
「この周りのお店見物してもいい? 時間大丈夫?」
そわそわしている。 
「ああ。 けっこう時間はある。 空模様だけ注意してれば大丈夫だ。」
「よぉーし、じゃ、気合入れてウィンドウショッピングよ。 竜児は荷物持ちに任命す。」
「荷物持ちってなぁ…ウィンドウショッピングじゃねーのかよ。……車には荷物殆ど乗らないからな、あまり買い込むなよ。」
「わかってる。 雰囲気だけでも楽しませてよ。」
やっぱり、亜美には買い物とかの方が楽しいのだろう。 また足取りが軽くなった。 風に踊るロングヘアーも楽しげに見える。
太陽が隠れると急激に暗くなるカンポ広場は、雨の予感に人々の足も速まっていた。
いつもなら広場には寝転んで寛ぐ人々の姿もあるが、今日はまばらで、広場の全貌を見るには好都合だ。
広場の周囲にはバールや観光客向けのお土産屋さんが並ぶ。
まるでハチドリのように店から店へと忙しく飛び移る亜美は、いつもよりずっと子供っぽく見えた。
しかし、そんな見た目とは裏腹に、その嗅覚の鋭さに驚かされる。
店と店の隙間のような小さな入り口をくぐった先に、ろうそくの専門店を嗅ぎ付けたのだ。
まさしく、繊細な蝋細工と呼ぶべきキャンドルの数々。 もったいなくて、とても火など点けられそうにない。
「凄い… これ、見て。」
亜美が指し示したのは花に包まれた15cmほどの女性の立像。
「フローラだな… これは、凄いな…。」 「フローラ?」 「おう。 花の女神だ。」
「…あたし、これ欲しい。 買っていいかな?」 「いや、これだけ繊細だと、ちょっと怖いな。 それに値札がついてないぞ?」
店主に聞いてみたところ、これは改心の作だという。 それなりの金額になるが、買うなら厳重に包装してくれるとの事だった。
「ほんと? だったら買う!」
店主は思い切った金額をつけたつもりだったようだが、亜美にすれば『安い』買い物だ。
亜美が出したプラチナカードを見て、店主は一瞬、しまった、という顔をする。 もっとふっかければ良かったと思っているのだ。
微妙な表情の店主とは対照的に、亜美はニコニコ、上機嫌。
広場に面したバールへ場所を移すと、俺にはお構い無しにワインを頼んだ。
「お前なぁ、昼真っからあんまり飲むんじゃねーぞ。」
「けちくさいこと言わないでよね。 折角気分いいのにさ。」
市庁舎の方に向かってすり鉢状に窪んでいるカンポ広場の端っこで気分よく酒盛りを始める亜美だったが、15分ほど経つと
そのテーブルにポツリと水滴が落ちてきた。
見上げた空は、まだ所々に青空が覗いているが、風で飛ばされた雨粒が届く程度の距離で雨が降っている所があるのかも
しれない。 そうなれば、ここもじきに雨がやってくるだろう。
そこで俺は勇気を出して提案してみることにした。
「お楽しみ中すまんが、空模様が怪しい。 そろそろ車に戻ろう。」   
「え〜。 ざんね〜ん。 もっとゆっくりしたかったなぁ〜。」
「ここまでくればフィレンツェはすぐだから、もう少し時間はあるんだが… 折りたたみ傘なら一つある。 マンジャの塔にでも
登ってみるか? 雨がふればけっこうガラガラだろうしな。」
「マンジャの塔って、アレだよね? もしかしてまた階段なの? だったらパスしたいかも…」
亜美が怖気づくのも仕方ない。 マンジャの塔は実に102mもある。
「フィレンツェ、いっちゃおうか?」
「まぁ、それが無難だと思う。」

80プリマヴェーラ 32/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:06:38 ID:jJS6+Q48

「シエナにしても、オルヴィエートにしても、こんな風に通り過ぎちゃうのがもったいないね。」
車の幌を出し終えた頃、亜美が呟く。
「そうだな。 …高速を使えばシエナもオルヴィエートもローマから一泊でなんとかなる。 そのうち来てみるか。」
「うん。 まとまった休みさえとれればなぁ……。」
そういえば、今回の休みは亜美にとっては特別休暇のようなものだった。
「仕事のほうは、どうなんだ? やっぱり、忙しいのか?」
「うん。 実はさ、この休みが明けたら、多分2日以上連続で休めるのは早くて2〜3ヶ月後になる…。」
「………そうか。」
付き合い始めてから、2ヶ月以上会わなかったことはまだ無かった。
考えてみれば、いまや有名女優となった亜美が、そうそう長い休みを取れる筈はない。
亜美は何も言わないが、これまでだって、相当無理してスケジュールを遣り繰りしていたのかもしれなかった。 
「会えないのは寂しいが、しかたないな…。 ま、それはそうと、そろそろ行くか。」
いやな話だった。 寂しいなんてもんじゃない。 2ヶ月以上、亜美の顔を見れないと思ったら、その事は考えたくなくなった。
そして、そんな俺の顔を亜美は何も言わずに、じっと見つめているのに気付く。
その亜美の表情に、上手く言葉が出てこなかった。
なんとか『どうかしたか?』という表情を作りつつ、助手席のドアを開け、亜美に車に乗るように促す。
すると、助手席に体を半分納めたところで亜美は動きを止め、俺のほうに向き直った。
「ねぇ、あたし… あたし、女優の………」
「おう?」 
「…ううん、ごめん、なんでもない。」
亜美が席に収まったのを確認してから助手席のドアをしめ、車の反対側に移動する。
亜美からは死角になる位置で、空を見上げた。 丁度雲の切れ間が無くなって、厚い雲が覆いかぶさってくる。
この空のせいだろうか。
つい数分前まではあんなに楽しい一時だったのに、俺達二人の間の『現実』がいかに困難と憂いを秘めているかを思い出した。
だが、それに負けるつもりは毛頭無い。
雨が降るなら傘を差せばいいのだ。
「よし、それじゃ、この休暇は思いっきり楽しむとするか。」
そう言って爽やかな笑顔を浮かべる。 
傍から見れば『しめしめ、上手いこと上玉を拉致ってやったぜ』という風にしか見えなくとも、亜美には伝わる筈だ。 たぶん。
「なーにぃ? その顔。 なーんか不気味なんですけど?」
……相変わらず、容赦のない奴。 だが、そのいつもの毒舌にすこしだけほっとした俺だった。

シエナからフィレンツェには高速道路が延びている。
かつてルネサンスの時代、覇権をあらそった二都市は今や一時間ちょっとの距離となっていた。
そして、シエナから高速道路に乗る頃、ついに幌を雨粒が激しく叩きだした。
「うっは、うるせー。 雨だとロマンもへったくれもないね、こりゃ。」
「スパイダーはそういう車だー。 晴れてりゃ最高だが、雨だとしょんぼりってな!」
「竜児、声でか過ぎ! 雨の音よりうるせって。 あはははは。」
急激に風が強くなり、寒冷前線が通りすぎたのだと分る。 
雨は、ここ数日、春にしては強い日差しで暖められていた大地から熱を奪い、巻き上げられた温かい空気が、上空の冷たい
空気と交じり合う。
突然、雨雲が激しい光を放つ。
天が放つフラッシュライトは、数瞬後、大音響をあたりに撒き散らした。
「きゃっ」
可愛らしい悲鳴。 さしもの亜美も雷は得意ではないのか。
次々と発生する、空全体が薄紫に染まる巨大な放電。 炸裂音が大気を引き裂く。
「もう〜、いくら亜美ちゃんが超絶美女だからって、歓迎しすぎだっての。」
軽口を叩ける程度には耐性があるようだ。
急激に悪化した天候に、しかしそれほど腹を立てている様子も無い。
慣れてくれば、稲光を楽しみに車窓を眺める亜美。
天は暗く、雨は激しく叩きつけ、時折踊るは紫の雷光。
結局、シエナからフィエンツェに至る一時間ちょっとの道行きは概ね雷がエスコートしてくれた。

81名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:08:32 ID:EA4zX/pF
●●●●
82プリマヴェーラ 33/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:11:35 ID:jJS6+Q48

今日のフィレンツェの空は、まるで昨夜から俺の心にあった漠然とした不安を形にしたかのような、そんな空だ。
所々薄日が差し込んではいるが、すっきりとした青空は見えず、真っ暗な南の空からは遠雷が耳に届く。
フィレンツェの街路はどれも狭く、中世風の街並みの隙間を縫うような石畳の道。
その石畳には所々水溜りが出来ていたが、通り雨だったのだろう。 今は雨は止んでいた。
狭い道にいっぱいになった路駐の車が、余計に道を通り難くしている。
先ずは車をホテルの傍に駐車するため、俺達は今夜の宿に向かっていた。
サンタ・マリア・ノヴェッラ教会の目の前にある、その名も『ホテル・サンタ・マリア・ノヴェッラ』。
なんの芸も無い。 そのまんまだ。
だが、俺一人なら絶対に泊まる事のないであろう、老舗の高級ホテルである。
だが、連泊かつインターネット予約という条件でお値打ち価格のプランがあり、体よく格安でスイートルームを確保できた。
格安と言っても、B&B(一泊朝食付き)で399ユーロなのだが。
それでも、亜美が普段使っている宿と比べれば4分の1以下の値段なのだ。
しかし、その宿に辿り着くのが一苦労。
フィレンツェの街はあちらこちらが一方通行で、なかなか素直には辿り着けない。 さらに、アルノ川が街を南北に隔てる。
高速道路を下りて街の入り口にあたるローマ時代の古い市門、ポルタ・ロマーナから、サンタ・マリア・ノヴェッラ広場はまっすぐ
北だが、車では大きく迂回しなければならなかった。
狭い街路をクネクネと曲がりながら進むと、流石に亜美もいぶかしむ。
「ねぇ、竜児、まさかとは思うけど、迷ってるんじゃないよね?」
「いや、そんなことはない。 安心して乗っててくれ。」 
嘘だ。 実は若干道を間違えた。 当然、亜美にはばれていると思うべきだが、幸いそれ以上は追求してこなかった。
そしてようやく、左角にジェラテリアが見え、そこから左側に広場が広がった。
内心ほっとする。
広場の中央を挟むように二本の小さなオベリスクが立っている。
そして左手奥には、ルネサンス様式の幾何学模様が特徴的なサンタ・マリア・ノヴェッラ教会がそびえ立っていた。
「ようやく着いたぞ。 広場の向こう側、真ん中あたりの建物が、今日の宿だ。」
「へぇー。 教会が目の前なんだ。 なんか、お土産屋さんとか、トラットリアとか、バールがいっぱいあるじゃん。」
「ああ。 ここは観光拠点としては凄く便利な場所なんだ。 正直、予約が取れたのはラッキーだった。 いい宿だからな。」
「うふ。 自信ありげじゃん。 亜美ちゃん、楽しみ〜。 どんなホテルかな。」
ホテルすぐ傍の広場の端っこに車を停める。
このへんの駐車場のアバウトさがイタリアらしい所だ。
荷物を抱え込んで、ごく小さな看板に気がつかなければ見落としてしまいそうな程控えめなホテルの玄関をくぐった。
外見のそっけなさとは異なり、エントランスはエレガントな雰囲気で、調度品もセンスがいい。
ホテルのスタッフも良く教育されているらしく、亜美の顔を見て誰であるか気付いたようだが、微笑しただけだった。
イタリア人でも、亜美の顔が分る人は多少居る。
なんでも、ローマでの告白劇のことも有って、例の映画の登場人物のうち、イタリアでの一番人気は亜美の役らしい。
その亜美は、エントランスの雰囲気だけで、既にそわそわし始めている。
ホテルマンがテキパキとした動作で、狭く薄暗い通路を案内してくれるが、その薄暗さも、所々にあるインテリアのセンスの良さ
のお陰で、むしろ隠れ家的な期待感を煽った。
そして案内された部屋は、教会側と広場が見える角部屋で、最高のロケーション、さらにはオーク材で統一された重厚なインテ
リアと、溜息が漏れるほどの部屋だった。
「どうだ、いつもお前が泊まってる部屋ほどではないが、なかなかのモンだろう?」
「たしかに、いつもあたしが泊まってる部屋のほうが凄いけど…。 でも、あんた一人だったら、絶対こんな部屋なんか泊まんない
でしょ。 いくらあたしだって、竜児がこんなに頑張ってくれてるのに、文句言うほどバカじゃないよ…。」
僅かに潤んだ瞳で亜美が答えた。
「ごめん、あたし、気を遣わせちゃってるね……。」
「まったく、お前ってやつはよぉ…。 有名女優の癖に、台詞間違えんなよ。 そこは『ごめん』じゃなくて『ありがとう』だろ?」
「あはっ。 そうだね…。 ありがとう… 竜児。」
僅かに紅潮した頬を涙が濡らさないうちに、その華奢な体を抱きしめ、唇を塞いだ。
83プリマヴェーラ 34/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:12:29 ID:jJS6+Q48
*34
………
「コホン」
咳払いの音に、ホテルのボーイがまだ居るのを思い出す。 カッと顔が熱くなる。 亜美も耳まで真っ赤になった。
ボーイは素敵な笑いを浮かべ、「そろそろ、私の仕事を続けさせて頂いてよろしいでしょうか?」とのたまう。
やれやれだ。
だが、お陰で場が和らいだ。 あるいは、あの絶妙な間のとり方が一流のホテルマンの証なのかもしれない。
そして、簡単なアメニティの説明の後、チップを渡すと、ボーイは次の仕事場へと向かっていった。

荷物を部屋に置いて一息ついた後、ホテルを出発する。
遠雷はまだ南の空から轟いている。
いつ泣き出してもおかしくない曇り空は、夕刻になって、徐々に桃色に染まってきていた。
空全体が薄いピンクに均一に塗りこまれるような空は、一見どちらが西でどちらが東なのか分らない。
色合いとしては美しいのに、酷く不気味な印象だった。
「なに…この空。 気持ち悪い…。」
「まぁ、雨でないだけましだろう。 それにこのぶんなら明日は晴れるかもしれないな。」
なんだか、モンタルチーノを出たあたりからなんとなく嫌な雰囲気が俺達を包んでいた。
どうにも理由がわからない。 
原因らしい原因も見当たらないのに、天気が悪化するのにしたがって、なんとなく、変な感じになっていくようだ。
天気のせい、という訳ではないのだろうが、明日の天気を占うことで、すこしでも気を紛らわせようとした。
「…だといいね。 折角来たんだから、明日は晴れるといいな。」

気を取り直して広場を横切る。
春先のフィレンツェは観光客も多い。
もちろん、ちらちらと日本人も見えるし、アメリカ人も多いだろう。
亜美は今朝の宣言通り、俺と二人、堂々とサンタ・マリア・ノヴェッラ教会へ向かう。
独特のルネサンス様式の幾何学模様で構成されたファサードは見事なものだ。
「なんだか、教会めぐりみたいになっちまって、すまん。」
「え? そんなの、別に気にしてないって。 竜児と一緒なら、別にどこでもいいよ。 さ、早くいこっ。」
強い風に、リンネルのハーフコートの裾がひろがって、亜美はまるで踊りを舞っているようだ。
その楽しげだが、どこか無理をしているような姿を見て、ようやく合点がいった。
不必要なくらいに元気に振舞うのは、やはり俺と同じ事を感じていたからに違いない。
そして俺は自分の鈍感さ加減に呆れる。
洞察力に秀でた亜美のことだ。 昨夜から既に俺の迷いに気がついていたのだろう。
それで、言い知れぬ不安に苛まれつつも、努めて元気に振舞った。
その健気な思いに気付くまで、俺は半日以上費やしたわけだ。
そして俺は、亜美のもう一つの決意を、サンタ・マリア・ノヴェッラ教会内部で目の当たりにすることになった。

「うわぁ〜 毎度のことながら、凄い装飾。 こういうのばっかり見てると、なんか日本の禅寺が恋しくなっちゃうわ。」
「おう。 あれはあれで一つの美の形だし、これも一つの美の形なんだろうな。」
「確かに甲乙つけ難いっていうか、見る人の気持ち次第っていうか。」 
そうして教会内を見物していた所、突然、日本語で話しかけられた。
「あの、川嶋亜美さんですか?」

84プリマヴェーラ 35/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:13:14 ID:jJS6+Q48

昨日のバカ学生とは違って、亜美より幾分か年嵩に見えるその旅行者は、礼儀をわきまえていた。
しかし、亜美の答えはつれないもので……。
「ごめんなさい、今大切なプライベートの時間なんです。 遠慮していただけないでしょうか?」
これだけ明確に拒絶されれば、旅行者は頷くしかない。
おそらく亜美だって、こんな事を言うのは気分が悪いだろう。 しかし、それでもその声に迷いは無かった。
そうして、次の目的地サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局に着くまでの間に、亜美は2回同じ台詞を吐いた。
「サンタ・マリア・ノヴェッラって言うからもしかしたらと思ったんだ。 本店がこんなに近くにあるんだ。」
「日本にも店を出してるんだよな。」
「うん。 あたしも時々いくよ。 銀座とか丸の内とかにあるけど、あたしはいつも銀座。 銀座はカフェもあるからね。」
「そーいや大河も同じようなこと言ってたな。 クリームチーズに蜂蜜を乗せたやつとか、薔薇風味のブリュレとかが…」
「げっ」
「……なんだよ、その『げっ』ってのは。」
「だぁ〜ってぇ、亜美ちゃんとタイガーの好みが一緒なんて有り得な〜い。」
「へぇ。 そうなのか、亜美も同じようなのが好きなんだな? なるほどなぁ。」
「何よ。」
「いや、前から思ってたんだが、お前と大河ってけっこう似てるところ多いよな。」
「何、それ。 冗談、あたしとあんなちんちくりんのどこが似てるってのよ。」
「いや、見た目とかじゃなくて。 いまでも大河とはしょっちゅう手紙のやり取りがあるが、その度に思ってたんだよ。 なんて
いうのかな、性格っていうか…、いや、もっと本質的な部分でなんか似てるんだよな…。」
「………ふーん…。  あ、あそこ? あの玄関、見覚えあるよ。」
「おう、そうだ、あそこがサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局本店。 世界一古い薬局だ。」

そして、その格調高い玄関をくぐって驚いた。
店内は殆どが東洋人、とりわけ日本人で埋め尽くされていた。
流石にこれには俺も顔が引きつった。 恐らく殺人鬼と間違われても仕方ない位に。
「なるほどね。 見覚えがあるわけだわ。 日本の店の玄関も本家を真似て作ってあるんだ…。」
「それに、店の中まで日本にいるみたい…。」
「本当だ… なんだこりゃ……日本人ばっかりじゃねーか。 どうする?出るか?」
「折角来たんだし、見てこうよ。 第一、もう手遅れみたいだし?」
言われれば確かに、数人の観光客がこっちを見て固まっていた。
そしてすぐに、ざわめきに変わっていく。
亜美は何事も無いかのように、店の中を進んでいく。 俺の腕を取って…。
俺は注目を浴びることに竦んで、最初は亜美に引き摺られるような格好になった。
亜美は全く周囲を意に介していないが、俺のほうはとても落ち着いてなど居られない。
なにせ、普段人目の多いところでは、こんな風に腕を組むことなど稀なのだ。
しかも、周りはほとんど日本人。 
ひそひそ話す声が聞こえてくる。
「…あれ、川嶋亜美よね。」 「うん。 間違いないよ。」 「じゃ、あの腕組んでるのが彼氏なの?」
驚いているのだろうが、聞こえてるって。 ちっとは気つかってくれよ…。
その後に続くのは、きまって否定的なコメント。
「うっそ、モロ893じゃん!」 「え〜 ショック〜。 あんなの、亜美ちゃんに似合わないって…。」
腹を立てるより先ず、亜美の顔色伺いだ。
「あ、でも、さすが本家だね。 天井にフレスコ画がある。 すごい…素敵。」
どうやら、今のところは警戒水位には達していないようだ。
というか、完璧に周囲を無視している。
周囲の連中も、こう大勢いると、互いに牽制しあうのか、亜美に話しかけてくる勇気の有る奴は居ない様だ。
間違っても、俺の顔が怖くて話しかけられない、なんてことは無い。 
などと油断していたら…

85プリマヴェーラ 36/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:13:58 ID:jJS6+Q48

「あんなの彼氏にするなんて趣味わるーい。 あの顔で絶叫告白って、笑えない?」
「所詮、顔だけのアーパー女でしょ、彼氏のほうもあっちの方が上手とか、せいぜいそんな理由じゃないの?」
驚いた。 わざと聞こえるように言っているのか。
どうやら、アンチが混じっていたようだ。 ちらりと伺えば、なるほど自意識過剰の無駄な対抗心と判る。
それなりにお洒落な格好の、それなりの美人だった。
もっとも素材自体は木原や香椎にも完封負けといった程度だが。
「俺は気にしてねぇ、頼むからキレねぇでくれよ…。」
小さな声で釘を刺す。
「…うん。 でも、自分がバカにされるのは許せても、あんたがバカにされるのは、なんか、…メチャクチャ腹が立つ。」
拙い。 一気に決壊寸前だ…。
「で、出ようぜ。 どうせ宿の目の前だ、すぐにこれる。」
「……そうだね。 …ごめん、竜児。」
「気にすんな。」
「ううん、そうじゃなくて。 やっぱあたし、我慢できないわ。」
そう言うと亜美は、さっきの二人連れのなんちゃって美人とすれ違いざまに…
「そのグリモルディ・ボルゴノーヴォ、素敵ね。 ……男物だけど。」 
久々に見る、人を馬鹿にしきった性悪チワワ顔。 さっきの女の顔色が見る見るうちに変わる。
「イタリア語、わからなかったのかなぁ〜? そ・れ・と・も、手首の太さに合わせちゃったぁ?」
女は亜美を睨みつけたが、急に表情を消した亜美の迫力は段違い。 
彼女らはすぐに店の奥に逃げていった。
流石にいまのはイメージダウンなんじゃないかと周囲を見れば、みな逃げていった女達をクスクス笑っていた。
どうやら、彼女らの態度は周りの人間にとっても不快だったらしい。
「…行こう。 長居は無用だ。」
今度は俺が亜美の腕を取って、急いで店を後にした。

それにしても、嫉妬に狂った女は怖い。
初対面の相手、しかも男連れに喧嘩ふっかけるなんざ、正気の沙汰じゃない。
そして、それを買う亜美も亜美だ。
俺達は急ぎ足で広場から抜け出して、ドゥオーモへ向かう路地に滑り込んだ。
さっきまでの不気味なピンク色の空は既に藍色に変わって、路地を彩るのは街灯のオレンジ色だ。
ずらりと並んだバールやトラットリアからは、芳しい匂いが漂ってくる。
「まったく、冷や汗もんだったぞ。 お前よぉ、人気商売なんだろ? 俺のことなんか気にしてる場合じゃねーだろうが。」
「だって! メチャクチャ腹が立ったんだから、仕方ないじゃん……。」
「仕方なくない。 まったく、無茶しやがって…。」
「ちゃんと先に謝った。」 拗ねるように口を尖らせる姿はなかなかのレアものだ。 
「それでもダメだ。」
「……ふん。」
「………。」
「………。」

86プリマヴェーラ 37/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:15:09 ID:jJS6+Q48
「…はは。 でも、あれだな。 やっぱ、お前ああいう意地悪なの似合うよな。」
「な、なによ、それ。」
「お前よぉ、ドラマとかでも、ああいう役、多いのな。」
「なんで知ってんのよ…。」
「いや、俺がお前に告白したの知ってな、大河が色々送ってくれたんだよ。」
「タイガーが?」
「おう。 なんでも、大学時代の友達にお前の熱狂的ファンが居たらしい。 それでお前がでてる映画のDVDや、ドラマを
録画したDVDを俺に送ってくれたんだよ。」
「へぇ…。」
「大河のやつは、間違ってもソイツの前では『ばかちー』とか言わないように物凄く気を使ってたらしいぞ。」
「ふーん。」
「ところがそいつは機械オンチで、DVD一枚焼くのも大騒ぎだったらしい。 大河が言うには、そいつが全部悪いことになって
るんだけどよ、大河もドジだから、余計に混乱させたんじゃねーかな。」
「へぇ…。」
「でもな、焼いたのはいいんだが、一度ケースだけ送ってきたことがあって、あれは流石に呆れたというか、納得というか…。
まぁ、実に大河らしいよな。 ははははは。」
「うん、そうだね。」
「それで、お前が出てるドラマとかはそこそこ見たんだが…」
「初耳なんだけど。」
「いや、お前嫌がるだろ? でも、俺としてはやっぱり見たいし。 その、特段内緒にしてたつもりはないんだが…。」
「…うん。 別に…いいよ。」
「? それでお前、案外ヒロイン役ってやってないんだな。 なんか、いつもライバル役とかなんだよな。」
「……。」
「? そ、それでよ、お前、はっきりいってヒロイン役より、その、綺麗なのに、なんでそんな配役なんだろーなーとか…」
「あと、お前いっつも振られるか、こっぴどく振る悪女役かどっちかなのな。 それも…」
「なに? あたしみたいな性格ブスは嫌われて当然だって言いたい訳?」
「あ? い、いやそんな… って、お前…何言ってんだ? …おう。 ドラマの役の話だろ? どうしたんだよ?」
亜美は酷く真剣な表情で唇を噛んでいた。
「え? あ、ああ。 なに、も〜う。 びびっちゃったぁ? 竜児ったら、相変わらずヘタレなんだからぁ〜。」
いかにも、今のは演技よーと言わんばかりの振る舞いだが、一瞬前の表情は…。
いや、蒸し返すのはやめよう。 本当に俺の勘違いで、いつものように俺をからかっただけかもしれないし…。
「それより、ドラマの亜美ちゃんも可愛かったでしょ? それを竜児は独り占め出来るんだよ? よっ、世界一の幸せモン!」
「あのなぁ…」
なんというか、反応が極端だ。 やっぱり少し様子が変だ。
ここはとっとと適当なトラットリアにでも入って風向きを変えるべきだろうか。
そこで俺は予定を変更し、近場で休めそうなところを探すことにした。

87プリマヴェーラ 38/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:15:59 ID:jJS6+Q48

しばらく迷ったが、地元の人間が多いトラットリアを選んで入った。
フィレンツェの食堂事情はけっこう厳しくて、値段がかなり高めだが、地元の人向けのトラットリアなら、その限りではない。
もっとも、イタリア語に堪能なのが最低条件にはなるのだが。
俺達が入った店は、幸いにも素朴なトスカーナ料理を中心とした飾り気はないが、旨い料理を味わうには最適な店だった。
時間を掛けて、ゆっくりと食事を楽しむ。
素材の味わいを生かした素朴な野菜メインの料理と、良質の白ワインは中々のもので、期待以上の満足度だった。
そして今は酒の肴に頼んだ猪のサラミとプロシュートがテーブルにごそっと置いてあった。
ワインとなると、銘柄も定かでない安い赤ワインが、テーブルにどっかと2リットル単位で置いてある豪快さだ。
しかし、そのワインも早くも半分を切ろうとしていた。
とりわけ、亜美の飲むペースが速い気がする。
「おい、もっとゆっくり楽しもうぜ。」
「えー。 べっつになーんも急いでない。 亜美ちゃんはマイペーッス!」
猪の肉を酒の肴に亜美はぐいぐいいっていた。
そんな亜美の姿を見ながら、余計な事を考えてしまう。
今まで気がつかなかったが、亜美は少しばかり感情の高ぶる時と、落ち込む時のギャップがあるようだ。
なんとなく、いやな感じだった。
注意してみると、今までだってその傾向はあったのかもしれない。
そう。 例えば『真実の口』の時。
あの反応は、驚くというのとは少々違ったと思う。 そうだ、あの反応は……。
嫌な考えが沸いてくる。 どこかで見た、芸能人には精神疾患を持った人が多いというデータが頭に浮かぶ。
もしかしたら、俺と会っている時と、そうでない時。
俺には見ることが出来ない、『俺と会っていない時』の亜美の姿は一体…。
そういえば、ドラマでの彼女はどちらかと言えば陰鬱なイメージの役が多い。
というより、元気いっぱいはっちゃけた役は最近は全く無かった。 
たしか、デビューしたての頃は、その美貌から、ヒロイン的な役が定番だった筈だ。 少なくとも、俺が日本に居る時はそうだった。
それがいつの間にか、陰鬱な性格の役が増えている。
とはいえ、演技自体は格段に上手くなっていて、ちゃんと笑顔は輝くような美しさを見せてくれるのだが…。
考え過ぎかもしれない。
ただ単に女優として成熟してきて、難しい脇役をこなしているだけなのかもしれない。
事実、今目の前にいる亜美は今日一日の事を楽しげに振り返りながら、ワインをあおっている。
その姿には翳りなど見えはしない。
…のだが……少々、酒が進みすぎだ!
「お、おい、お前、こんなに飲んじまったのか!」
ぼーっと考え事をしている間に、ワインは残り少なくなっている。 僅かな時間に500ml以上流し込んだと言うのか?
他に白ワインも一本頼んで、殆ど亜美が飲んでしまっていたから、昨日の俺以上に飲んでいる。
亜美は決して酒に弱くはないが、人並み以上に強い訳でもない筈だ。
迂闊だった。 これは明らかに飲みすぎではないか?
「なーにぃ? 今更ぁ〜。 亜美ちゃんの話、きいてないでしょぅ〜〜。 いーっつもそう。 あたしの言う事なんか聞いてないんだよね、
『高須君』は。」
「なに言ってるんだよ。 いつもちゃんと聞いてるぞ。」
いつの間にか亜美は目が据わって、上半身がふらふら揺れ始めていた。

88プリマヴェーラ 39/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:16:41 ID:jJS6+Q48

「ふん。 あんたさぁ… タイガーの事話す時、凄くいい顔するよね……。 そう…、あたしも見た事が無いような顔をさ…。」
「……そんな事はないだろ。」
「そうだよねぇ…。 やっぱそう思うよね…。 だってタイガー放っておけないもんねぇ…」
すでに会話が噛み合っていない。
亜美は手にしたグラスを一気にあおり、また注ぎ足す。
「おう。 もう止めとけよ。 飲みすぎだって。 昨日の俺の二の舞になるぞ!」
そう声を荒げて亜美のグラスを持った手を取ろうとして…
「やめてよ!!」
ヒステリックに叫ぶ亜美に、俺は大いに動揺した。

結局、亜美からグラスを奪って、トラットリアの支払いを済ませたのはそれから30分後。
明らかに亜美の飲み方は異常だった。
もはや確信した。
酔いが回って自制心のタガが外れると止まらなくなる。 それはアルコール依存症に似ている。
おそらく…
亜美は少しばかり心を、病んでいるのだ。

既に正体を無くした亜美は一人では立つことさえままならず、俺に体を支えられて、ようやく歩いていた。
仕事の愚痴なのか、ぶつぶつと誰かの名前を唱えては文句を言う。
なかには聞いたことのある俳優の名前も混じっている。
俺には想像がつかないが、やはり、仕事のストレスは相当なものなのだろう。
その上、プライベートですら、きっとさっきのサンタ・マリア・ノヴェッラ薬局のように、心が休まる暇が無いのだ。
こいつは一見、ふてぶてしくて、自信過剰なくらいのナルシストで、性悪女だが、実際はそんなにタフな奴じゃない。
過酷な環境は、亜美の心に許容量以上の負荷を掛けてしまったのか。
だったら、少し休むべきだ。 体以上に大切な仕事なんて無い筈なのだから。

そんな事を考えながら、昨日とはまるで正反対の体勢で、ホテルに辿り着いた。
「まったく、揃いもそろって、とはな。 とんだ似た者カップルだぜ。」
部屋に転がり込んで自嘲する。
昨夜は俺、今日は亜美。 二人揃って折角の夜を酒で台無しにするとは、馬鹿にも程があろうというものだ。
とりわけ、今日の亜美はひどい酔い様だ。
最早、ここが何処で、どういう状況なのかすらわからなくなってしまっているようで、俺の顔さえ判別できていないようだった。
仕事の愚痴は… 母親にでも話しているつもりなのだろうか?
いつ吐いてもいいように、亜美をバスルームに抱え込む。
こんな時にだが、高級ホテルにしておいてよかったと心底思った。
安ホテルのバスルームはあまり清潔とは言えないケースが多い。
だが、このホテルは白い大理石で出来たバスルームで、僅かな汚れがあっても目立つせいか、俺が手を下す余地が無いほど、
清掃も行き届いていた。
すぐに世話できるように、亜美を抱え込んで座る。
ぐったりと萎れた様子に少し不安になるが、急性アルコール中毒の心配はなさそうだった。
それは逆に言えば、こういう事態に陥ったのは初めてではなさそうだ、とも言える。
だらだらと愚痴を垂れ流す亜美を見て、亜美が正気を取り戻したら、暫く仕事を休むように強く進言しようと俺は決意していた。
だが…

やがて、死んだ魚のように澱んだ目で俺を見上げた亜美が紡いだ言葉は。

俺の馬鹿さ加減を嫌と言うほど思い知らせてくれるものだった……。

89名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:17:05 ID:EA4zX/pF
C
90プリマヴェーラ 40/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:17:22 ID:jJS6+Q48

「………た、か、す、くん?」
まるで死に掛けたヒロインのように途切れ途切れに俺の名を呼ぶ亜美。
それも、最近聞きなれた名前ではなく、苗字で。
「おぅ。」
「あはっ。 よかった…… もう会えないと思ってた……。」
夢でも見ているのだろうか? あるいは、酒で混濁した意識が、亜美を過去の世界に連れ去ったのか?
「あのね、あたし、高須君に懺悔しなきゃいけないことがあるんだ…。」
「………」
「高須君が実乃梨ちゃんに振られたの、あたしのせいかもしれない…。」
「あたしが、嫌味言ったから… 実乃梨ちゃんのこと傷つけて、追い詰めて……だから、実乃梨ちゃんは…。」
「……そのせいで高須君、記憶喪失にまでなっちゃって…。」
「川嶋、お前……。」
知らず知らず、俺もあの頃の呼び方で答えていた。
もはや亜美の目は俺を見ていない。 誰に向かって話しかけるでもない、それはいわば『独白』だ。
「…異分子のあたしが、うろちょろしなければ…みんな上手くいってたのかもしれないのに… あたしが余計なことしたせいで
タイガーも、実乃梨ちゃんも、高須君まで傷つけて…」
「そのくせ、あたしだけ、全部忘れちゃってる高須君に自分の気持ち伝えちゃって……」
「あたしは知ってたんだ…。 実乃梨ちゃんの本当の気持ちも、タイガーの本当の気持ちも。 それなのにあたし、自分だけ…」
「そして、結局逃げ出したの… 実乃梨ちゃんの事酷いって思ってたくせに…あたしも無かったことにするしか… 無くて…」
「…あたしは嘘つきで… 臆病で… 卑怯者で… いつも逃げてばっかりで……」 
「みんなを… みんなを傷つけて…」
「もういい。 昔の事だ、もういいんだよ、川嶋!」
つい、腕に力がこもりそうになるのを、必死で我慢する。
そうだ。 こいつにとって、俺達との事は…

………5年前のあの日から、止まったままなんだ………

俺は何も理解出来ていなかった。 ただの一度も亜美の身になって考えたことなど、無かったのだ。
亜美の考えている事が少しわかるようになって、自惚れていた。
そして、こいつが血を流し続けていることに、気付いてやれなかった……。
亜美はおそらく、今までずっと一人だったのだ。
5年前、せっかく出来た友達に、こいつは背を向けて去っていった。 一度も振り返ることなく。
俺や、大河、櫛枝はもちろん、香椎や木原にすら一度も連絡は来なかったらしい。
生き馬の目を抜くような業界で、こいつは一人きり背伸びして…
…生きて来たのだろう。

91プリマヴェーラ 41/65  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:18:05 ID:jJS6+Q48

やがて、腕の中の亜美は、少しだけ苦しげに顔をしかめると、大きく胸を上下させ、沈み込むように体の力を失った。
それがまるで、永遠に亜美を失ってしまったかのような錯覚を与え、俺を狼狽させる。
「か、わしま? おい、亜美! 亜美!」
涙で塗れた長い睫毛が微かに動いたが、その瞳はどこも見ていなかった。
そして、かすれるような声で、また『独白』を始める。
「あたし、ねぇ… 高須君に会ったよ… そう、会ったんだ……。」
「本当はわかってるんだ… あたしは高須君のそばに居ちゃいけないんだって……。 記憶喪失にならなければ… あたしが
高須君に選ばれる筈…ないんだもん…。」
「だって、高須君にはねぇ… あたしなんかより、もっと大切な人が居るんだよ…。 あたしじゃない。 …それに、あたしはもう…
…壊れちゃってるから……。 高須君には相応しくないの…。」
「お前、何言ってるんだよ…。 そんなことはねぇ、そんなことがあるわけねぇ…。」 
聞こえていないと判っていても、言葉が漏れる。
「でもねぇ…」
「でも…」
「高須君に、『アイシテル』って言われて………。」
「あたし、嬉しくて、うれしくて、うれ…しく…て…。」
ぼろぼろと大粒の涙が亜美の瞳から溢れ出る。
「離れられない…よ。 一緒に、一緒にいたいよぅ…。 うっ、うぅ、ぅあうう、あぁぁぁぁぅ…」

亜美はまるで、赤子のように俺の腕の中で背を丸め、震えている。
俺に出来ることは、その細い肩を抱いてやる事だけで。
そして、狭いバスルームに響く亜美の嗚咽は、俺の胸をえぐっていく。

―――こんなにボロボロに傷ついてまで、亜美、お前は一体何を守ろうとしたんだ……。

涙を堪えて天井を仰ぎ、答えの分っている問いを、俺は何度も何度も、繰り返していた。


9298VM  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/16(火) 23:21:51 ID:jJS6+Q48
本日はここまで。
ご支援、有難うございました。
途中、文字数が多すぎて書き込めなかったため、段落割を急遽変更しました。 その関係から1レス増えて19レスとなりました。
当然最終的なレス数も66になるかと思います。不手際申し訳ないです。
明日もふえちゃったりして…ムズカシイ。
続きます。 また明日〜♪

93名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 23:56:18 ID:4SuEGtlg
GJです。
98VMさんの亜美ちゃんが、一番僕の知ってる亜美ちゃんです。
94名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:20:03 ID:Qfqjc7/1
>>92
明日も楽しみ、GJ。

ここまで来て大河に嫉妬させるのか・・・鬱作家。
昨日の山からずいぶん深い谷に下ったねえ、亜美ちゃん。

まあ、渋味があるから旨みが引き立つのは世の常なのでそんなに気にしたことなかったですわ。
95名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 00:25:11 ID:MGVaLTw2
>>92
GJです。これだけ台詞量があっても、亜美と竜児の形をそこなわず、
綺麗な展開にもっていくのはさすがです。明日も期待。


すいません、俺も自己主張過多と言われそうですが言い訳

ネタが被ってる!
ちわドラものがどうしても超えなきゃ行けないハードルですよね。
亜美の罪の意識
同じようなイベントのSSが今後投下されても、許してくださいね
今更変更できない程度、書いちゃってるので
96名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 02:19:53 ID:I3WoNY9V
>>92
VMさんGJっす。
前書きから少し覚悟しながら見てましたが、欝展開ってほどでも
なく、フラグの回収モードktkr!! って感じで安心して読めました。
独白を終えた亜美ちゃんがどうなるのか・・・期待してます。

>>95
ここまで作品数が増えると多少の被りはやむなく、でしょう。
むしろその他の味付け次第でどうにでも変われるし新鮮さすら
感じ得る作品も作れると思いますんで、頑張ってください!
97名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 06:35:01 ID:+9s0fXLS
>>92 GJです。
脳内でどんどん映像に変換されていく・・・
もしかして、本職の方ですか?

>>95  投下を楽しみにしています。
98174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/17(水) 07:07:40 ID:UNDYhXo7

オロセ

みんながそう言った。
違う言葉を口にしながら、その中に全く同じ意味を込めて、みんながみんなそう言っていた。
お父さんは見たこともないような強張った顔で、その言葉を繰り返すだけで、何を言っても聞いてくれなかった。
お母さんは泣きながら話を聞いてくれて、親身に相談に乗ってくれたけど、でも優しい言葉の中には嘘があった。
友達は、見え透いた励ましをしてくれた子もいれば、中には真剣に怒ってくれた子もいた。
学校に知られた時は、薄っぺらい道徳と倫理観が煩わしくて、その日の内に退学届けを出した。
一番初めに伝えた人は、その言葉すら残さないで、一番初めに目の前から消えた。
一番傍に居てほしかったのに、ずっと一緒に居たかったのに、なのに自分じゃない、知らない女を連れてどこかへ行った。
嫌で嫌でたまらなかった。
誰一人喜んでくれなかったのも、祝福してくれなかったのも、捨てられたのも。
なにもかもが嫌で、でもそれ以上に怖くなった。
「これ」を捨てれば、少なくともこれ以上失望させなくてすむ。
「これ」を失くすだけで、今より怒られることはなくなるはず。
「これ」を手放すだけで、捨てられたりしなかったのに。
そんなことを考えている自分が否定したくても確かにいて、怖くなった。
少しずつ、だけど日増しに大きくなる赤ちゃんに合わせるように、頭の中を蝕む身勝手な考えも、心の中で渦を巻く恐怖心も肥大していく。
それを感じる度に後悔して、泣いて、自己嫌悪しながら過ごすのが、嫌なのに、だけど他にどうすればいいかもわからなかった。
一日中毛布に包まってるような日が続いた。
だんだん心が腐ってく感じがして、今度は当てもなく外を歩いた。
最初は気が晴れたけど、次第にどこへ行っても、何をしてても他人の目が気になって、その次はあまり人の目がつかない所へ足を運んだ。
そういう所に寄り付くのは結局そういう人たちばかりで、うんざりして引き返した。
いつしか公園のブランコに座って、ただ日が暮れるのを待っているようになった。
近所からの白い目は今に始まったことでもなくて、正直に言えばその頃になると向けられる視線も、聞こえてくる内緒話も、
いろんなことが、もうどうでもよくなっていた。
まだ目立ち始めてもいないお腹が、これ以上なく重く思えた。

「…がんばったよね」
なにを?
「…もう、十分だよね」
なにが?
「…ごめんね」
だれに謝ってるの?
「…だって、もう…」
どうして泣くの?
「………………」
赤ちゃんは、どうするの?

それでいいの?

「…やだよ…ほんとはいやだよぉ…そんなのやだぁ…」

だったら───………

あの日のことは、多分一生忘れない。
雲間に沈んでいく、初めて見るような紅い色をしながら揺れていた夕日。
夜になってから降りだした雨。
持てるだけの荷物とお腹を抱えて、バケツをひっくり返したようなどしゃ降りの雨に紛れて。
大切な人たちを残して。
誰にも何も告げずにやっちゃんはあの家を後にした。
それよりももっと大切な、まだ顔も知らない赤ちゃんと一緒に。

***

突発的に1レス小ネタ
とりあえず酒ください。
99名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 08:33:51 ID:WwSY1O5c
>>98

GJ!!!
泰子、よく頑張ったな。

こういう淡い感じが好きです。
それに、感情の動き自体をあまり露骨に話せず、読者をキャラの立場に立たせて、
ごく自然に「そんな風に感じていた」までたどり着くようと誘導したところが、特に良い。
作者の中にある「何か」を、台詞もないのにきちんと伝える無声アニメを観ているようでした。
輝いているかといえば輝いてないだろうけど、それこそ作品の純粋さです。
無駄もないし、特に物足りないところもないことで、短編としてもなかなか上手です。
同じSS書いている人間として、ますます「書き手」と自称するのが恥ずかしくなりました。
100名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 19:57:13 ID:rMT+qbEn
>>98
GJ!
短いながら色々想像が掻き立てられました
胸締め付けられて痛てぇ…
10198VM  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:35:00 ID:EQ3WOOcI

こんばんは、こんにちは。 98VMです。

最後に三日目です。
明けない夜は無い。出口の無いトンネルは無い。
この先に、君の笑顔があるのなら…
僕はどんな暗闇も恐れない。

前提: とらドラ!P 亜美ルート90%エンド、ローマの祝日シリーズ
題名: プリマヴェーラ (ローマの平日5)
エロ: ぎりぎりエロかも。
登場人物: 竜児、亜美
ジャンル: 世界○車窓から。
分量: 25レス(予定)

個人的に、このかっぽーの一番の障害は二人とも理屈っぽい所ではないかとw
102プリマヴェーラ 42/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:36:15 ID:EQ3WOOcI
* * * * *

やがて、三日目の朝が訪れた。
しかし、亜美はまだ真夜中。 死んだように眠っている。
昨夜、なかなか嘔吐しない亜美を無理やり吐かせた。
胃の中が空っぽになるまで、水を飲ませて、また吐かせる。
それは拷問のようだったが、心を鬼にして続けた。
ようやく一段落して亜美をベッドに運んだのは明け方近い時間だった。
そして、俺が眠れたのはほんの2時間あまり。
亜美の様子が気になって熟睡はできなかった。
状況からみて、亜美の症状はごく軽いように思えた。
だが、一番大切なのは、その元凶となっているものをどうやったら取り除いてやれるのか、だ。
それには…
伝えるしかない。
俺の気持ちを。 俺の本当を。

だが、口下手な俺には自信がなかった。
いったい、どんな言葉に代えたら、伝えられるのだろう。

静かな寝息を立てて眠る亜美の、たおやかな髪を手ですくいながら、想う。
これほど愛しいのに、これほど大切なのに…
『愛している』という言葉では伝わらない『愛』があるのか。
自分の恋愛経験の少なさが、これほど呪わしいと思ったことはない。

ふと、櫛枝と大河の顔が頭に浮かんだ。
未熟ではあったが、あれも間違いなく、恋。
たしかに亜美の言う通り、記憶喪失にならなければ、俺は亜美を好きになることは無かったのかもしれない。
だが、亜美が去った後、いつまでも亜美にこだわる俺に櫛枝は言った。
『それは同情だ、もう会えないかもしれない相手より、目の前に居る大河を見てやれ』と。
その時、俺は思ったはずだ。
もう会えないかもしれない相手に同情して、忘れられなくなるだって?
有り得ない。 それは同情とは言わない。 恋だ。
あの時から俺は川嶋亜美に恋焦がれていたのだ。 嘘の仮面に隠された『本当』に、――― 焦がれていたのだ。
そうだ―――。
それこそが俺の『本当』。
ありのままの亜美に、ただ、ひたすらに恋焦がれた。
櫛枝も大河も関係ない。
そこには、ただありのままの二人が向かい合っているだけだ……。

ぐちぐち考えても仕方がねぇ。 どうせ俺のことだから、考えた通りに口が動くとも思えない。
素直に、俺が思っていることを話すしかない。
どんなに理屈っぽく、格好悪くなっても仕方が無い。 それが俺なんだから。

ベッドに沈んだ亜美を見る。
少しだけ目を腫らしているが、表情は安らかだ。
時計は午前8時を指している。
サマータイムでない今の季節なら、プラス8時間。 時間的には都合がいい。

亜美が目覚める前に、一つだけ確認するべき事が俺にはあった。

103プリマヴェーラ 43/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:37:38 ID:EQ3WOOcI

(あんた… 知らなかったの? …ほんっっっとに、どーしよーも無いバカね。)
「うぐっ」
(はぁ… まぁ、いいわ。 ちょうどあんたがイタリアに行った頃だけど、週刊誌とかに噂が載ってたの。 川嶋亜美、引退かってね。)
「本当か? なんでだ!」
(うっさいわね、話の途中なんだから、だまって聞きなさいよ!)
「お、おぅ。」
(重度の躁鬱病なんじゃないかって、わりと彼女に近い人のコメントとかも出てて、けっこう信憑性高くって。 実際、急に連続ドラマ
降板したりしたから…。 最初は私も『そんなタマじゃないわ』って思ってたんだけどね……。)
(半分はデマだったけど、半分は本当だったみたい。 それでかなりイメージダウンして……それでも女優は続けてたけど。)
「そう、か…。」
(………実は当時、みのりんとその話しになって、二人で会いに行ったことがあるの。 門前払いされたけどね。  …っていうか、
北村君のほうが詳しいんじゃないの? なんでそっちに聞かないのよ!) 
「いや、北村はどこぞの発掘調査とやらで連絡不能だった。」
(…そう。 でも、なんで急にそんな話… まさか、ばかちー、あんたの前でもおかしくなった…の……?)
その声は弱々しく、大河の亜美を心配する気持ちが伝わってくる。
お陰で、俺の気持ちも暖かくなった。
「いや、大丈夫だと思う。 ありがとな、大河。」
(そう? ならいいけど。 ………私、少しだけ解る気がするのよ…。 誰にも…誰にも解ってもらえないのって…すごく……。)
「大河…。」
(あ〜っ! もう! なんで私がばかちーの心配しなくちゃなんないのよ! バカらしい。)
(大体、エロチワワのくせに、いつまでも一人で悲劇のヒロインぶってるんじゃないってのよ!)
(みんなだって、みんなだって… みのりんも…、私も…、竜児だって… 血を流したんだから…。)
「…おう。 …そうだな。」
その通りだ。 今まで何もなかった訳じゃない。 櫛枝や、大河、…色々な想いを踏み台にして、今の俺は立っているんだ…。
(そうよ! だからね、あんた、それだけの犠牲払っといて、ばかちーの事不幸にしたらね…。)
「お、おぅ。」
(…殺すわよ。)
「………。」

それっきり電話は切れた。
最後のは… 大河の場合、比喩表現じゃなくて、本気なんだろうな…。
だが、大河と話してよかった。
大河の優しさが俺に勇気をくれる。 大丈夫だと、自信をくれる。
俺と亜美、二人だけで生きているわけじゃない。 ちゃんと解ってくれている奴等がいる。 味方になってくれる奴等が。
亜美の心が壊れかけているのは確かなようだが、決して手遅れじゃない筈だ。
大丈夫。

それから、俺はただ何もせず、部屋の中を眺めていた。
頭の中では、出会ってから今までの亜美の姿が浮かんでは消える。
その光景は途切れることが無い。
…いつの間にか、彼女はこんなにも俺の心を占めていたのだ。

窓の外から僅かにもれてくる喧騒。
カーテンの隙間から差し込んだ光の中で、埃が踊っている。
その細長い光が、亜美の真っ白な顔に当たって、まぶしさを増した。
気がつくと随分と太陽の位置が変わっている。
「ん……。」
むずかる様に光を逃れようとする亜美。
僅かに瞼が開き、濡れた瞳が太陽を弾く。
「ん、んん〜〜。」
寝返りを打ちながら手で目をこする。
あと数分もすれば、教会の鐘が正午を知らせる頃合。
ようやく、眠り姫のお目覚めのようだった。

104プリマヴェーラ 44/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:38:37 ID:EQ3WOOcI

もっそりと、亜美が上半身を起す。
いまだ酩酊しているかのような視線が部屋の中を彷徨って、一旦俺を通り過ぎた後、また戻ってきた。
「おぅ。 おはよう。 …気分はどうだ?」
「…ん、んん。 …?」
まだ、亜美の目に思考の光は宿らない。 だが、思ったより酷い状況ではなさそうだ。
「お…はょ…」
ようやくまともな言葉を話したかと思ったら
「あれ? いま…何時 って、 あつっ!!」
急に覚醒して、直後、頭を押さえた。
「おい、大丈夫か、気分はどうだ!」
あわてて傍に寄る。 
「くっ… あたま… いたい。」
「おぅ。 無理すんな、気分が悪かったら、横になれよ。」
「あぅ… これって…… あたし…」
亜美の顔に一瞬、恐怖が宿る。 
サンタ・マリア・イン・コスメディン教会で言っていた、真実の口を極端に恐れた理由。
その正体がこれだ。

あんな形で俺達の前から去ることになった事。
最後まで俺に嘘をつき続けるしかなかった事。
自分の恋心を表に出してしまった事を、櫛枝や大河に対する裏切りと感じているゆえの罪悪感。
そして、それらの重みに耐えられず、ひび割れてしまった己の心。
俺に告げていない事実がまだあって、それを言い出すことが出来なくて。
それをまた、『嘘』と感じて自分を責める。

おそらく昨夜のことが記憶にないが故、それらの『嘘』が漏れ出てしまわなかったか、と恐怖するのだろう。
そして、それは事実、俺の知るところとなってしまっている。
俺は嘘をつくのは嫌いだし、もちろん上手でもない。
だが、今は亜美の才能を少しでもいいから分けて欲しいと切に願っていた。
何故なら、彼女が自ら打ち明けるまで、俺は嘘をつき通さなければならないからだ。
そして、それは決して悟られてはならない。
これ以上、彼女を苦しませないためには、必要なのだ。 ……嘘が。

「ははは。 これで、一昨日の俺の失態も相殺だな。 二人そろって自爆だ。」
「……まじ… おぼえてねぇ…。」
あえてからかう様に挑発する。
「お前、ストレスたまってんだなぁー。 仕事の愚痴、すごかったぞ。 俺が芸能記者だったらスクープ記事連発だな。」
「ちょ… それ、ほんとなの?」
「おう。 かなりエグかった。」
「わすっ… つ〜 あいたた。  ……わすれてよね、そんなの。 碌なもんじゃないんだからさ、マジ頼むから…。」 
「おぅ。 なんだかもったいねぇが、俺も芸能界には興味ないしな。 忘れるぜ。 っていうか、名前とか覚えてねぇし。」
「…ほんとにぃ? ……ま、いいか。」
亜美はベッドの上で膝を抱えて体育座りになった。 頭を膝にくっつけて、やっぱり結構辛そうだ。
「…そういえば、今何時なの?」 弱々しく呟く。
「おう。 えーと…」 教会の鐘の音。 「…たった今、正午になった。」
「うそ… もうそんな時間… 竜児!」
「はははは。 いや、いいさ、気にすんな。 これといってプランがあったわけじゃないしな。」
「バカ。 見え透いた嘘やめてよ。 っつ…。 あんたが、計画練ってないなんて有り得ないじゃん…。」
「いやいや、本当に気にすんなよ。」
「だって! っつぅ…。」 「おいおい、大丈夫か? かなり頭が痛そうだが…。」
「……平気。 なれ ……」 「?」 「ほんとに、平気だから…。」
そう呟くように言いながら、亜美はベッドから足を下ろした。

105プリマヴェーラ 45/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:39:33 ID:EQ3WOOcI

「シャワー浴びてくる。 そしたら、出掛けよう?」
「おい、本当に大丈夫か? 無理すんなよ?」
「平気だって、亜美ちゃん様をなめんな、よ。」
そう言って悪戯っぽくウィンクしてみせる。 
目覚めてから、ようやく見せてくれた笑顔は、作り笑顔と判っていても、ほんの少しだけ俺を安心させた。
とはいえ、すぐに出掛けるのは愚の骨頂。
ルームサービスを頼んで、軽く腹に入れて様子を見ることにした。 

まだバスルームから水音が聞こえるうちに、ルームサービスが届けられる。
珍しいザクロのジュース。
あとは軽いブルスケッタにフルーツジャムが数種類。
いずれも二日酔いを配慮してのものだ。
さっき亜美が言いかけた言葉は、おそらく『慣れている』だろうと思う。
だからといって放っておけるはずもない。
ホテルに言って薬も一緒に用意してもらった。
亜美の態度からするに、このまま休んでてはくれないだろうから、なんとか楽に動けるように最善を尽くすしかない。

いつもより、少し時間がかかっていたが、バスルームから出てきた亜美はすっかりいつもの表情を取り戻していた。
こんな時は、心底凄いと思う。
流石に女優だ。 驚くべき演技力である。
「お待たせ……ルームサービスとったの?」
「ああ。 お前、胃の中がカラッポだろう? このままじゃ体に悪い。 食欲はねーだろうが、我慢して食ってくれ。」
「………うん。 分った。 竜児の言う通りにする。」
「お、おう。」 
意外にも素直な反応に少し調子がくるう。
「ここ、石鹸とか、全部サンタ・マリア・ノヴェッラ薬局の使ってるんだね。 ちょっと贅沢な感じでいいな。」
「そうか、それは気がつかなかった……」
「ま、竜児だもんね。 気がつくわきゃねーってか。 興味が無いものにはとことん鈍感。」
そんな風に毒を吐きながら、純白のバスローブ姿の亜美が上品なデザインのカウチソファに座る。
亜美は恨めしそうにルームサービスの乗ったワゴンを見て、
「こんなじゃなければ、凄く美味しそうなのに…。 流石に食欲湧かないわ…。」
と、正直に告白してくれた。
「とりあえず、ジュースだけでも飲んでみろ。 すこしスッキリすれば多少は食えるかもしれないからな。」
「うん。  ……うわ、なにこれ。 すっぱ〜。」
「おぅ。 ザクロジュースだ。」
「へ? ザクロ? あの、赤くてちっちゃいつぶつぶの実がいっぱい詰まってる、アレ?」
「そうだ。 日本のものは完熟したものを収穫しない限り、ただひたすらすっぱいが、こっちのはけっこう甘みもあるだろ?」
「うん。 なんか、すごくスッキリしてて、美味しい……。」
「薬も貰っておいたから飲んだほうがいい。 ほれ、水。」
「うん。 ありがと…。」

ザクロジュースと二日酔いの薬が効いたか、亜美は最終的に二枚のブルスケッタを食べてくれた。
まぁ、上々だ。
「ねぇ、竜児、今日の午前の予定はなんだったの?」
ミネラルウォーターをちびちびやりながら、亜美が問うて来る。 
「サン・ロレンツォ教会とドゥオーモを巡る予定だった。」
「凄いの?」
「サン・ロレンツォ教会にはミケランジェロの最高傑作クラスが置いてある。 ドゥオーモはクーポラからの眺めが凄いらしい。」
「そっか。 ごめんね。 …ねぇ、そこって、午後からでもいけるかな?」
「いや、止めておこう。 実は午後は既に予約済みの場所があるんだ。」
「どこ?」
「ルネサンス芸術の最高峰、ウフィッツィ美術館だ。」

106プリマヴェーラ 46/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:41:01 ID:EQ3WOOcI

目的地を告げると、亜美はがぜん元気になった。
昨夜のあれを見ていなければ、元気一杯だと騙されてしまっただろう。
バスローブを脱ぎ去り、俺の前で堂々と全裸になる。
慌てる俺を見て楽しげに顔を歪ませるあたり、まさにいつも通りである。
既に亜美の体は隅々まで検分済みだが、こうして日中堂々と裸身を晒されるとやはり目を逸らしてしまうものだ。
やがて外出着に着替えた亜美のスタイルはというと…
ダンガリーのシャツワンピースに、フラットブラックのレギンス、初日と同じスカイブルーのフリンジサンダルは、ロールアップした
袖口の白と相まって、足元のいいアクセントになっている。
シャツワンピースの襟はぎりぎりまで開かれて、胸の膨らみがちらちらと覗く。 
ストラップレスの『見せブラ』は、亜美の形のいいバストの下半分しか隠しておらず、トップの位置もきわどい。
ちょっと見では男物のワイシャツを素肌に引っかけただけのように見えて、とても扇情的だ。
更には、プラチナベースに1キャラットはありそうなサファイアが光るネックレスが、嫌味のない上品な美しさで胸元を彩る。
シルバーの細いブレスレットも手首の細さを上品に演出していて…
……まぁ、要するに、今日も亜美の美しさはパーフェクトだってことだ。
一見カジュアルな若者に見えて、一つ二つばかりの高品質なアクセサリーがセレブオーラを放つ。
そして亜美は、例によって思わず見とれてしまった俺の手をとった。

「ねぇ、早く出掛けようよ。」
「お、おう。 そうだな。」
「歩きだよね? 美術館ってどのくらい離れてるの?」
「そうだな…」
そんな会話をしながら部屋を出た。
亜美は、薄暗く狭い通路なのに、腕を絡めてくる。
一瞬、『歩くのが辛いのか』と思ったが、すぐに言葉に出すべきではないと思い至った。
仮にそうだったとしても、亜美が元気に振舞う以上、それは言うべき言葉ではない。
それに、こうして寄り添ってくる亜美は、本当に可愛らしいのである。
感心半分、呆れ半分、亜美を見る。
すると、開いた襟から覗く谷間が目に直撃した。 当然計算づくの罠だ。 まんまと俺は引っ掛ったわけだ。
ふと、そのとき、ちょっと変わった色合いのサファイアだと思っていた石が真っ赤に光っていることに気がついた。
「おい、亜美、それ、ア、…アレキサンドライトか?」
「……竜児って、本当に可愛くない。 宝石まで詳しいなんて。」
「マジかよ…しかもメチャクチャ品質いいじゃねーか。」
深い青緑から真紅に色が変わる1キャラットのアレキサンドライトなんぞ、俺の年収の数倍の価格のはずだ…。
「そんなの、どうでもいいでしょ。 ね、それよりさ、ちょっと遠回りしてドゥオーモの前通りたいな。」
宝石の話しにはすこし不機嫌に応じる亜美。 亜美は身につけている物の金額の話はあまりしたがらない。
貧乏な俺に気を遣っているのか、あるいは、気を遣っていると思われる事も嫌なのか。
「ウフィッツィ美術館の予約時間は14時30分からだ。 今なら、ドゥオーモの前を通っても大丈夫だな。」
だから、おとなしく亜美の話に乗っかる。
「本当? よかった。」
「まぁ、フィレンツェにきて、あそこに行かないって選択肢はないよな。」
「さすがのあたしでもあそことヴェッキオ橋くらいは知ってるし。」 
「そうだよなぁ。 まぁ、フィレンツェはそう大きい街じゃない。 歩きでもけっこう観光スポットをカバーできる。」
そんな話をしながら亜美の様子を窺うが、見た目だけなら普段とそう変わらないように見える。
こうなると、あまり気にしすぎるのもかえって良くない気がしてきた。
そこで、なるべく余計なことは考えずに、今日の行動プランについて考えることにした。
やがて1階のエントラスに着いたが、他の宿泊客には全く出会わなかった。
当たり前だ。 昼間まで寝呆けている観光客は普通、居ない。
早速、フロントにキーを預け、部屋の掃除を頼んで広場に出た。

107プリマヴェーラ 47/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:43:02 ID:EQ3WOOcI

ホテルを出て、すぐ右側にある通りに入る。 バンキ通りだ。
ほんの1分もあるけば、通りの隙間からドゥオーモのオレンジのクーポラが覗く。
それもその筈。
実は俺達の泊まったホテルから、ドゥオーモまでは500mと離れていない。
ホテルが立ち並ぶパンツァーニ通りとの合流点に至れば、其処からデ・チェレッターニ通りと名前を変えて、ドゥオーモに至る。
その合流点近くに静かに佇むのは、サンタ・マリア・マッジョーレ教会。
石積みの簡素なこの教会、じつはフィレンツェで最古の教会の一つである。
そのことを亜美に教えたところ、少し覗いていこうとなった。
亜美は案外地味なものを好むが、教会も例外ではなかったらしい。
観光客は皆無。
これといった絵画や彫刻も無いが、それはそれで美しいのが、歴史を持った建物の貫禄といえよう。
「ローマのサンタ・マリア・マッジョーレ教会はバカでっかかったけど、フィレンツェのは控えめなんだね。」
「まぁ、カトリックじゃありきたりの名前だから、あちこちに同じ名前の教会があるが…。」
「あたしは、ローマのより、こっちの方が好きかな。」
「おぅ。 いい拾い物したな。 さて、あんまりゆっくりもしてられねぇ、そろそろいくぞ。」
「ほーい。」
亜美は本当に少し気分がよくなってきたのか、若干足取りが軽くなったように見える。
俺の先になって教会から出て手招きする姿はいつもの調子を取り戻したかのようだった。

サンタ・マリア・マッジョーレ教会から出ると3分もかからずにドゥオーモ広場に出た。
フィレンツェのシンボルともいえる、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂の赤いクーポラが青空に映える。
広場には、サン・ジョバンニ洗礼堂、ジォットの鐘楼と見所一杯で、春の観光シーズンに入った今時分、当然のように日本人
のツアー客も列をつくっていた。
芸能ネタに強いおばさん連中は、すぐに亜美に気がつくが、俺が一睨みすれば、皆たたらを踏む。
俺のような凶眼持ちが亜美と連れ添って歩いていたら、亜美に迷惑をかけてしまうのではないか、そんな思いはもう消えた。
寧ろ、より凶悪そうに振舞えば、誰も俺を亜美の恋人とは思うまい。 幸い、俺の顔はまだメディアに晒されていない。
亜美の覚悟に答える為にも、俺は誰も亜美に寄って来ないよう、インターセプトする!
このアイディアは亜美にも受け入れられて、人の多いところでは、SPを装う為に、俺にくっつかないことを了承してくれた。
ドゥオーモ広場で早速実践してみたが、どうやら効果は覿面のようだ。
「ちょっと、竜児、なんか、あたし吹きだしちゃいそう… あんたの目がこんなに役立つなんて、生まれて初めてなんじゃね?」
「お前なぁ… お前のためにと思ってやってるのに、なんていい草なんだよ… まったく。 傷つくぞ…。」
「ほらほら、笑ったり、情けない顔しない。 ちゃんと感謝してるから、あたしだけのナ・イ・ト・様。」
亜美に冷やかされつつ、ドゥオーモ見学。
内部を見ている時間は無いから、広場をウロウロするのだが、視線が気になってどうも落ち着かない。
芸能人と気づかれなくても注目を集めてしまう、美女と凶眼コンビ。
「ローマじゃこういう事はないのにな…」 
つい愚痴ってしまう。
「そりゃ、竜児はローマ詳しいからでしょ? ここじゃあたしたちも観光客だもん、どうしたって観光客とぶち当たるって。」
……ごもっとも。 意外と冷静な亜美様だった。
と、そんな時に携帯が鳴る。
ホテルからの電話だった。 同等以上の別な部屋に交換させて欲しいという。
異例なことだが、きちんとしたホテルだからおかしな事はしないだろう。
ならば、気分が変わって良いかもしれない。
それに、すこし亜美を驚かせることも出来るかもしれないし、ちょっとした悪戯と思って了承することにした。

108名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 22:44:22 ID:Qfqjc7/1
C
109プリマヴェーラ 48/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:45:18 ID:EQ3WOOcI

観光客が多すぎて、いまいち楽しめないドゥオーモ広場を通り抜け、シニョリーア広場を目指して、細く薄暗い裏通りに入り込む。
フィレンツェの中心部は殆どが車が入れなくなっている。 そのため、細い通りがそのまま整備されずに残っている。
それらの細い通りは、さながら中世の街に迷い込んだ如し。
そして、その裏通りの一つを抜けていくと『ダンテの家』なる場所に出た。
「ダンテって、なんだっけ? 神曲?」 「だな。 フィレンツェ出身だが、たしか追放されて、フィレンツェを恨んで死んだ筈だ。」
「うへぇ。 なんかうらめしやーとか、化けて出てきそうな建物じゃん、スルーしよっ。」
「いや、ダンテの生家は残ってないはずだ。 たぶん、観光用に建てられた博物館モドキだな。」
「どっちにしろ、亜美ちゃん、陰鬱詩人なんかに興味ねーし。」
「…お前、そういう事言ってると本当に祟られるぞ。」
「っていうか、あっちの女の子が持ってるジェラートに興味津々なんですけど。 おいしそー。」
「食うか?」「食う。」
「んじゃ、ちょっと聞いてみるか」
………
「近くに有名なジェラテリアがあるようだな。 すぐ近いらしい。 時間も…まぁ、大丈夫だろう。」
「うん、いこっ。」
なんだかんだ言っても亜美も女の子で、甘いものはけっこう好きだ。
で、近くのジェラテリアってのは本当に近かった。 
教えられたとおり、50mくらい先に狭いが大層繁盛しているらしい店を発見する。
『ペルケ・ノ!』という店で、俺はクリームとリモーナ、亜美はヘーゼルナッツ、ショコラ、ゴマクリームを購入した。
「ちょ、これヤバイ… ほんわりした甘さなのに、後味スッキリ…マジ美味しいんですけど…。」
「こっちのレモン味もなかなかだ。 さっぱりしててこれなら俺でも完食できそうだ。」
「どれどれ…」 「おぅ! お、お前、それは味見ってレベルじゃないだろう。 盗り過ぎだ!」
「いいじゃん。 男は甘いもの嫌いでしょ? ケツの穴小さいと女の子に嫌われるよ?」
「って、おおぅ! クリームまで!」
「あ、ほーんとだー 超美味しい!」 「くっ……」
俺は半分しかありつけなくなったが、亜美の笑顔が戻ってきてくれたのが何より嬉しい。
そして改めて思った。
やっぱり美味いものには人を笑顔にする力がある。 俺の選んだ道は間違っちゃいない。
いつか、俺の料理で、沢山の人に笑顔を与えてやるのだ。
「なに、ニヤニヤしてんの? まーたなんか失礼な事考えてなかった?」
「おう… い、いや、今回は無罪だ。」
「ふーん。 今回は、ってことは、やっぱりいつもは考えてるんだ。 ふーん…。」
そんな台詞を吐きながら、俺を糾弾するような顔じゃない。 それは楽しげで、悪戯っぽい笑顔。
「えーと。 あれだな………その………すまん。」
「ふふふふ。」 楽しげな笑い声。 それが一転して尊大極まりない声色に変わる。 
「よい。 許す。」
「有り難き幸せに御座います。」 
いい加減、小芝居にも慣れてきた。
俺も芝居がかって応じると、亜美はまた楽しげに笑う。 やはり、それ以上追及するつもりはないようだ。 

そんなバカ話をしながら、デ・チェルキ通りを南に進むと、すぐにシニョリーア広場に辿り着つく。
ヴェッキオ橋、ウフィッツィ美術館、ドゥオーモを繋ぐその広場は文字通り人の流れの中心で、観光客でごった返していた。
「こりゃ、ジェラートを食いながら歩けるようなレベルじゃねーな。 それに手でも繋いで無いと、はぐれそうだ……。」
「もうちょっとで完食だから、ちょっとまって。」 「おぅ。」
「あうっ…。」 「な、今度はなんだ!」
「……キーンってなった……。」
「……そんなに急がなくていいぞ……。」 「うん。」
亜美がジェラートを食べ終わるまでの間、広場を眺めていた。
観光客は多いが、かえって人が多すぎて、周りに気をつかっている余裕は無さそうだ。
これならば……

110プリマヴェーラ 49/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:46:16 ID:EQ3WOOcI

「おう。 食い終わったか。 じゃ、いくぞ。 時間もそろそろヤバくなってきた。」
出来る奴には、『なんだそんなの』と言われそうだが、俺的には勇気を振り絞る。
そしておもむろに…
…ぐい、と亜美の肩を抱き寄せて、広場の人ごみの中に突入した…。

肩を抱いたまま、人ごみの中をすり抜けていく。
会話が途絶えてしまった。
亜美は一言も声を発しない。
決まりが悪くて、亜美の顔は見れなかったから、どんな表情をしてるのかもわからない。
こんなに大勢の人が居る中で、肩を抱いて歩くのは流石に拙かったか?
ぴったりと寄り添った亜美の体温と、柔らかさが、少しばかり俺の頭を揺らす。
シニョリーア広場が広いとは言っても、そうしていられる時間はそう長くは無い。
けれど、ロッジア・デイ・ランツィがやけに遠く感じられる。 誰も見ちゃいないと、自分に言い聞かせながらもえらく恥ずかしい。
「ふぅ。 ようやく通り抜けたな。」
「え、う、うん。」
シニョリーア広場とウフィッツィ美術館の入り口を繋ぐところにあるのが、ロッジア・デイ・ランツィ。
そこにはギリシア・ローマの神話を題材にした彫刻が沢山あって、野外ギャラリーになっている。
もちろん、そこも人だかりなのだが、あらゆる方向に向かって人が歩く広場中心よりはずっと歩きやすかった。
亜美はなんとも微妙な表情をしていて、気持ちが読み取れない。
ただ、二人して、申し合わせたように、深呼吸をした。
なんだか、付き合い始めたばかりのカップルのようだが、実は俺達はこういう普通のカップルの真似が出来ていなかった。
心のどこかに、『女優、川嶋亜美』に遠慮している部分があったのは否めない。
肩を抱くのはいつも人通りが少ない場所。
その理由こそが俺達二人の壁でもある事は薄々判っていたつもりだが、こうはっきりと自覚したのはここ2日ばかりの事だ。
ロッジア・デイ・ランツィ名物の通称「ダンテおじさん」と呼ばれる、石像のふりをした大道芸人にマジで騙され、
真っ赤な顔で恥ずかしがる亜美をからかいながら、自分自身に覚悟の在り処を問う。
俺にとっては『川嶋亜美』はたった一人の愛する女だが、社会的には『川嶋亜美』は誰か一人のものではないのだ。

「ねぇ、予約してたのに、どうして入れないの? もう予約の時間、2分過ぎてるじゃん。」
こんな不満を漏らすコイツは、本当に普通の女の子なのに…

「いや、ウフィッツィは館内に入れる人数を大体決めてあるんだよ。 団体客をまとめて入れた後なんかは、中の見学者数が
一定の数に減るまで、すこし待たされることも有る。 何人美術館から出て行くかはコントロールできないから仕方ないんだ。」
「ふーん。 でもそれって、時間とか混雑を気にしないで自分のペースで見れるってこと?」
「おう。 その通りだ。 日本の美術館も似たようなことはやるんだが、入れるだけ入れるって感じだから意味がねぇ。」
「日本ってさ、なんか芸術とか、芸能、娯楽に対しての意識が低いような気がするよ…」
「古来の日本は違うんだが、やはり、高度成長期以降そういうものが『無駄』として切り捨てられてきたような感はあるな。」
「でも、多分心はそういうの、覚えてるんだよ。 …あたしの仕事ってさ、堅気とは言い難いけど、でも、大切な仕事だと思うんだ…。」

ああ。その通りだ。 だから俺は迷う。 お前の仕事…いや、夢を、俺が台無しにしちまいやしないかと…。

「…芸術ってほどのものじゃないんだけどさ。」
「そんなこと…」
言いかけたその時、ようやく入館を促される。
「あ、入っていいの?」「おう。 そのようだな。」
「ダ・ヴィンチの絵もあるんだよね? 楽しみー。 亜美ちゃん様がダ・ヴィンチ=コードを解き明かすゼ!」
しんみりしかけた空気を、櫛枝を彷彿とさせるようなノリの明るい声が吹き払い、俺達はルネサンス芸術の殿堂へ足を踏み入れた。

111プリマヴェーラ 50/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:47:01 ID:EQ3WOOcI

ウフィッツィ美術館は他のヨーロッパの巨大な美術館と比べるとコの字型のワンフロアだけで比較的小さい方だが、それでも一日で
全てをじっくり見るのは不可能だ。
実際、飛ばし見するしかないのだが、後半は観光客、特に日本人観光客はろくに見ないで通り過ぎるという。
実にMOTTAINAI。
「一応、基本知識として最初に言っておくが。 たしかにダ・ヴィンチは偉大な画家で、その作品はどれも最高にすばらしいが…。
透視法的遠近法と空気遠近法を組み合わせた最初の画家などという紹介がなされる事があるが、間違いだ。 実際は彼が生まれる
20年近く前に、ヤン・ファン・エイクが高い完成度で実現している。」
「だれ?それ?」
「日本じゃなじみが薄いが、西洋絵画史上、最高の天才の一人でな、『神の手』と呼ばれた画家で… いや、彼自身はどうでもいい。
要するに、人の評価や、権威に惑わされないで、自分自身の感覚で見て欲しいと思ってな。 だから、今回は俺もお前に聞かれない
限り、解説なしにしようと思ってる。」
「うん。 いいね、それ。 じゃあさ、部屋ごとに、一番気に入った絵を教えあわない?」
「おう。 面白そうだな、それ。 よし、のったぜ。」
目を輝かせながら、そんな提案を瞬時に思いつくのは、流石は亜美だ。 面白そうな事を考える、天賦の才が備わっている。

そして、早速、一つ一つ絵を選びながら、時代ごとに分けられた小部屋を進んでいく。
最初に意見が一致したのは、『ウルビーノ公夫妻の肖像』だった。
「うふふふ。 これ、面白い。 こっちの男の人の鼻の形が凄いの。」
「いや、これな、鼻の骨が欠けてて、本当にこういう形だったっぽい。」
「え? なんで欠けたの、そんな所?」
「馬上試合の事故で顔の右半分が潰れちまったんだそうだ。 それで左半身が描かれてる。」
「うはっ、聞くんじゃなかった… 笑ってごめんね、おっさん。」
片手をかざして申し訳なさそうな顔を絵に向ける亜美。 こいつと一緒だと、美術品鑑賞も楽しいイベントになっちまう。
そして、次の部屋でも意見の一致を見た。
真の名画は、予備知識無しでもやっぱり人の目を吸い付けるのだろう。
選ばれた絵画は『聖母子と2人の天使』。 フラ・フィリッポ・リッピの傑作だ。
「これは、もう文句なし! 超綺麗だもん、このマリア様。 この眼差し! ゾクゾクするよ!」
「はは。随分気に入ったみたいだな。 リッピは孤児だったから、修道院に入っていたんだが、えらい女たらしだったそうだ。
このマリア様のモデルは、たらしこんだ修道女で、最終的には還俗して結婚までした、ルクレツィアだと言われている。」
「そうなんだ…。 でも、こんな美人じゃ、坊さんが欲情するのも無理ないわ。」
亜美にかかっては、高尚な美術品もこの通り。 だが、ある意味、それこそがこの絵の本質なもかもしれない。
画家の性欲が、絵画に描かれた女性をより魅力的にしているというのは確かに有りそうだ。
亜美の一言で、世界的な名画が一気に身近に感じれてしまい、思わず頬が弛む。

続いて入った部屋は、ウフィッツィ美術館のメイン展示ともいえる、ボッティチェリの部屋。
部屋に入って一瞥しただけで息を呑む。
どの絵画も大きく、迫力があり、そして美しい。
そして、教科書でもおなじみの超有名絵画が2点。 最早、本物の迫力は凄まじいとしか表現できない。
「これ、どっから見たらいいの?」
亜美の台詞はすでに気になって仕方が無い絵があって、他の絵がどうでもよくなった人が、よく発する言葉だ。
そんな時、期待している返答はこれ。
「好きな絵からみたらいい。」
「うん……。」
亜美が真っ直ぐに向かった絵画は幅3メートル、縦2メートルの大きな絵。
どんな人でも、必ず一度は目にしたことがあるであろう、ルネサンスの象徴ともいえる、超有名絵画の一つ。

サンドロ=ボッティチェリ 『春』。

112プリマヴェーラ 51/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:47:45 ID:EQ3WOOcI

ひたすら、じっとその絵を見つめる亜美。
その前をいくつもの観光客の塊が過ぎ去っていく。
やがて、日本人の団体がやってきて、亜美に気がついたが、一心不乱に絵を見つめる亜美の姿と、一心不乱に亜美の鑑賞の邪魔
をしそうな観光客を見つめる俺の姿の相乗効果で、ひそひそ話しをしながらも、何事も無く通り過ぎてくれた。
ふと、何か聞きたいことが出来たのか、亜美が周囲を見渡し、すぐ隣に俺が立っていたことにいまさら気がついたようだ。
「あっ…」
「ん? どうした」
「あ、うん。 竜児、この絵って、何を描いたものなの?」
「今しがたの日本人団体のガイドが解説していったの聞こえただろう?」
「うん。 結婚式のお祝いって言ってた。」
「おう。 それが有力な説のようだな。」
「それ、絶対に無いと思う…。」
ほう。 面白い。 亜美は一体この絵から何を感じたんだろう?
「どうしてだ?」
「だって、あたしだったら、結婚記念にこれ貰っても嬉しくないよ。 この絵、祝ってくれてるようには思えないもん…。」
「どのあたりが?」
「向かって右側の二人、とてもじゃないけど、結婚式のお祝いって感じじゃ無い。 なんだか、死神から逃げてるように見える。」
「周りの絵を見たって、こんなに不吉な人、描かれてないもの… 同じ画家が、よりによって結婚式のお祝いに特別に不吉に見える
ように描くの? 向かい側のヴィーナス誕生にも同じような人がいるけど、そっちは普通だよ? どうして同じように描かなかったの?
絶対、おかしいよ。」
「なるほどな…」
「あたしの感覚って、変かな…。」
「実はこの絵は、ジョルジオーネの『嵐』、ボッスの『快楽の園』などと並んで、ルネサンス期に描かれた絵画の中でも最も謎めいた
絵画と言われている。 ……いいか、だから、これから言うのは俺の想像であって、学術的な根拠はまるで無いし、この絵に対する
俺の知識もそう多くない中での話だ。」
「うん。」
「俺は、この絵は、死と再生の願い、あるいは、死者の安楽な来世を願って描いたんじゃないかと思ってる。」
「死と…再生?」
「おう。 この絵が描かれたのは1470年代末頃から1482年頃といわれているが、1478年には彼のパトロンで友人でもあった
ジュリアーノ・デ・メディチが25歳の若さで暗殺された。 そして、その少し前の1476年には、中世イタリア最高の美女と言われる、
シモネッタ・ベスプッチが23歳の若さで肺結核で死んでいる。 ボッティチェリは彼女とも友人だった。
画面向かって左端の男性のモデルはジュリアーノの可能性が高いらしい。 そしてその隣の3人の女神の真ん中の人物…」
「横顔の人… 男の人を見つめてるよ…」
「おう。 その女神はシモネッタがモデルではないかと言われてる。 確かに、ボッティチェリが描いた他のシモネッタの肖像画と同じ
髪の色、髪型をしているんだ。 そして、シモネッタとジュリアーノは恋仲だった……。」
「その二人が、この絵が描かれた直前に死んでいる…。」
「そうなんだよ。 それを素直に考えると、これは画面右側は冬から春への移り変わりを現し、中央はギリシア神話でいうエリュシオン、
女神フローラの常春の園で、左側に二人の恋人を描いたように思えてならないんだ。」
「つまり、二人は死んでしまったけれど、あの世でもう一度出会って恋仲になろうとしている、って願いの絵ってこと?」
「おう、そうだ。」「だから、死と再生… もう一度始まる恋…」
「…どうだ? まぁ、学術的な根拠は皆無なんだが。」
「凄い! 竜児、それいいよ! 本当は全然的外れかもしれないけど、亜美ちゃん的には採用!」
「…ははは… いつも一言多いよな、お前…。 でも、どうだ? そう思うと全然違って見えるだろ?」
「うん。 あたし、この絵、ますます気に入っちゃった。 ねぇ、この花柄着てる人がフローラなの?」
「おう。 昨日、キャンドル買っただろ? あれもそうだ。」
「へぇ。 なんか、中央の女神様より目立ってない?」
「真ん中はヴィーナスなんだが、たしかにフローラがかなり目立つな。」
「亜美ちゃん、今度、フローラみたいでしょって言ってみようかな。 いっつもヴィーナスじゃ飽きられちゃうし。」
「相変わらず、謙虚って言葉を知らねーな、お前は… だが、確かにお前って、どっちかって言うとフローラが似合いそうだな。」
「え? それって、どういうこと?」

113プリマヴェーラ 52/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:48:31 ID:EQ3WOOcI

「冬の間、植物は葉を落としたり、枯れてしまったりするが、春になればまた葉を茂らせ、やがて美しい花を咲かせる。」
「フローラは花の女神だが、死んでしまったものを花に変えて、彼女の庭に住ませたそうだ。 そのイメージもあって、再生の意味
も持っているらしい。 俺のイメージじゃ、お前って、ヴィーナスみたいにいつもキラキラ輝いているってんじゃなくて…」
「な、なによ…」
「つまんねーことでくよくよしたり、必要以上に責任感じてへこんだり、意外と湿っぽい所もあるよな? でも、それでも最後には
復活して、俺のケツを意地悪そうな顔して蹴飛ばしてくれるんだ。」
「………」
「俺は、お前のそういう弱さと、強さ、両方持ってるところが良いと思う。 いつもヴィーナスみたいに輝いているってのとは違うような
気がするんだよ。 まぁ、完璧に猫かぶりされたら、いっつも輝いて見えるかもしれねぇけどな。」
「………」
「冬の間、花が咲かなくても、春になれば最高に綺麗な花を咲かせる。 俺はそんなお前を信じてるし、その、なんだ、あれだな…
なんかやっぱり、こういうのは俺のガラじゃねーな… なんか上手く言えねぇ… 背中がムズムズしてきやがった。 ははは…。」
「………」
「亜美?」
亜美は僅かに横顔を俺から逸らして、長く艶のある髪がその表情を隠す。
「…ほんと。 バカ。」
「は?」
「慣れない事、しなきゃいいのに……。 やっぱり、あんたって大バカだわ…。」
「お、お前なぁ… さすがにそりゃ言いすぎ……」

「……本当、嘘が下手くそなんだから……。」

「へ? う、嘘じゃねー!」
俺に向き直った亜美はいつもの意地悪顔。
「はいはい。 わかったから。 声高いよ、静かにしな。」
「うぐっ…」
「嘘じゃねーのによ…」
「あー、ぐちぐち言わない。 女々しいっつの。」
「…へいへい。」
「それじゃ、そろそろ別の絵も見ようか? この後にはダ・ヴィンチにミケランジェロ、ラファエロにティッツィアーノに、ルーベンス、
レンブラントから、最後の最後にカラヴァッジオ、いずれも西洋絵画を代表する巨匠ぞろいだ、なんでしょ?」
「俺の口調を真似すんのはやめてくれ…。 つか、そんなに何回も言ったか、それ?」
「あたしは女優だよ? 台詞覚えらんなかったら食っていけねーって。」
「そいつはおみそれしたな。 これは下手なことは言えなそうだぜ…。」
わざとらしく、やれやれの仕草をすれば亜美は満足だ。
それこそ、花のように微笑む亜美。

「この次の部屋がダ・ヴィンチの部屋なんでしょ?」
「おう。 いっとくが、『ジョコンダ婦人の肖像』はここには無いぞ。」
「馬鹿にすんなっての。 あれはルーヴルでしょ? 亜美ちゃんでもそのくらいは知ってるっつの。」
「さっき、ダ・ヴィンチ=コードとか言ってたじゃねーか…」
「つか、あんたわざわざ『モナ・リザ』って言わない所がいやらしいって、判ってる?」
「なに言ってる。 今は、『ジョコンダ婦人の肖像』で教科書だって統一だ。 …多分。」
「亜美ちゃん、教科書なんてわっかんなーいもん。」
「お前、いつも都合のいい時だけ馬鹿になるよな……。」

いつもの掛け合いに戻って、俺達は絵画鑑賞を再開した。

114プリマヴェーラ 53/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:49:15 ID:EQ3WOOcI

………
そして時計は16時00分。
「うっへー… さっすがに疲れたぁー。」
一階出口の売店が並ぶところで亜美がおおきくのびをする。
「連れてきておいて言うのもなんだが、かなり駆け足でハードだったな…。」
「でも、面白かった! 後半、全然意見があわねーの。 やっぱ、男と女じゃ、感覚が違うのかな?」
「どうなんだろうな… もし、そうなら、ぴったっり意見が一致した絵ってのは相当凄いってことなのかな。」
「そうとも限らないんじゃない? たまたま他にいい絵がなかっただけって事もあるじゃん。」
「まぁな。 じゃ、最後に、全体を通して特に気に入った絵はなんだった?」
「もち、エリザベト=ルイーズ・ヴィジェ=ルブラン の『自画像』だね。 クソ長い名前もバッチリ暗記!」
「あー。 すげー気に入ったみたいだったもんな…。 確かにいい絵だ。」
「あとはコレッジョの『幼児キリストの礼拝』でしょ、それに、ティッツィアーノの『ウルビーノのヴィーナス』に、ラファエロの…」
「おいおい。 随分沢山あるな。 ははは。」
「だって、素敵な絵ばっかりなんだもん。 あ、思い出した。 ルーベンスが描いたおばさんの絵も目ヂカラすげーの!」
やや興奮気味に感想を述べる亜美は、すっかり復調した様子で、ようやく俺も安心した。

「でもさ、やっぱり一番ココにきたのは…」
そういって胸を親指で指さす。
「ボッティチェリの『春』かな………。」

「…そうだな。 ルネサンスを代表する絵画だしな。」
「うん。 でも絵自体もだけど……。  ……ううん、なんでもない。」
「? なんだよ。」
「とにかく、胸がキュッってなったの。 それだけ!」
「…そうか。 よくわからんが、感動してもらえたんなら何よりだ。」
「ふふふ。 そうだね… 感動っていうより……。」
「………」
「…おう。」

「……出会えてよかったって、神様に感謝した。」

俺の相槌を待っていたかのように、亜美は雑然とした人の流れを眺めながら呟いた。
「大げさだな、ここにくればいつでも会えるじゃねーか。 あの絵は門外不出だ。」
「くすっ… ふ、ふふふ。 あはははははっ。」
「な、なんだよ。」
「ふふふふっ そうだね。 でも、普通はなかなかフィレンツェにはこれないじゃん? ヨーロッパは遠いもんね。 ふふふっ。」
「そうかも知れねーが… なんだ、なんか馬鹿にされてるような気がするんだが…。」
「してない、してない。 うふふふふ。」
…してるじゃねーか。 いつもの俺をからかう時の顔だぜ…
だが、まあ、そんなことはどうでもいい。
亜美の楽しげな笑顔が復活したことのほうが重要だ。
「どれ、じゃぁ、土産物でもみたら、サン・マルコ広場まで移動だ。」
「どこ、それ?」
「ここからドゥオーモを通り過ぎて10分くらいの所だ。 そこから次の目的地に行くバスが出るんだ。」
「え? 次行くところって、フィレンツェの街中じゃないの?」
「ああ。 そうだ。 バスでおおよそ20分ってとこかな。」
「どこ?」
「フィエーゾレだ。」

115プリマヴェーラ 54/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:50:00 ID:EQ3WOOcI

こぢんまりしたサン・マルコ広場からATAFのバスに乗った。
残念ながら、16時15分には間に合わず、16時30分発のバスを利用する。
夕食の予約は17時30分にしていたので、着いて少々散策という、当初の予定は無しにせざえるをえない。
時間にルーズなイメージのあるイタリアにあって、フィレンツェのバスは意外に時間に正確なのだ。
「あたし、乗り合いバスってかなり久しぶりかも…」
そんな事を言って、亜美は少し落ちつか無げ。
車窓からフィレンツェの街並みをキョロキョロ眺める姿に、ちょっぴりチワワを連想してしまい、なんとなく頭を撫でたくなった。
でも、そんな事をしたら、お姫様の機嫌を損ねるのは間違いなかったので我慢する。
バスに乗っているのは地元の人半分、欧州や米国からと思われる観光客半分といったところ。
決して穴場という訳ではないが、個人で訪れる日本人観光客はやはり少ないようだ。
10分ほど走るとフィレンツェの小さな市街地から抜け出し、北側の丘陵地に差し掛かる。
風景からたちまち建物が減っていく。
「あー、なんか可愛い。」
山の斜面に立つ別荘を見て、亜美が歓声を上げる。
観光客達は思い思いの方角を指差しながら、何事か歓談している。
バスはちょくちょく止まりながら、その丘陵地を登っていき、乗っているのは疎らになった観光客とおぼしき人々ばかりになった。
「あ、ねぇ、竜児、あそこの建物、すっごい素敵。 なんだろ?教会かな?」
「ああ、あれな。 あれはお金持ち専用のお宿だ。」
「へー。 ホテルなんだ。」
「ああ。 ヴィラ・サン・ミケーレって言うんだ。」
「へ? なんか、聞いたことが………あーーーー!」
「な、なんだ、何事だ。」
「ママとパパが結婚記念日に行く所だ!」
「なっ… さ、さすが本物のセレブは違うな…。」
「すっげぇ、ふっるい建物って… 嫌そうな顔して言うから、まーたパパの趣味で変な所に行ってるんだと思ってたのに……」
…確かに15世紀の古い建物だ。 間違っちゃいねぇ…。
「あんの、クソババァッ! 騙しやがったぁっ!! こーんな素敵な所なら、亜美ちゃん大喜びで着いてくるっつの!!」
…ああ。 なんつーか、川嶋母娘の空恐ろしいやり取りが目に浮かぶ。…
「おそろしく高いぞ。ここ。 一番安い部屋でも日本円で一泊約10万だ。 一番高い部屋だと50万を超える…。」
「ますますムカツク。」
「いや、実はあそこで夕食ってのも考えたんだが、ワイン別で一人198ユーロもするんだよ… ワインも200ユーロを切るような
安いのは置いてないし……スマン、俺には無理だった…。」
「別に竜児にそんなの求めてないって。 つか、帰ったらママを問い詰める。」
「いや…結婚記念日だったら仕方ないんじゃ… お袋さんだって、たまには旦那さんと二人っきりになりた…」
「そんなの関係ないし。 もう、ママったら超ズルイよ。」
いやー、お前とそっくりなんじゃね? とは口が裂けても言えん…。
「ねぇ、もし竜児がイヤじゃなかったらさ、今度ここに泊まってみない? 今度は亜美ちゃんからのお礼ってことで…どうかな?」
ここで意地張って断るのはむしろカッコ悪い。
「お礼されるほどのことはしてないが、それでお前の気が済むんなら、いいんじゃねーか?」
「ほんと? やったぁ! よーっし、じゃ、約束だよ。 いつか絶対に二人でこようね!」
断られると思っていたのか、亜美は予想以上に喜んだ。

そして、ほどなくバスはフィエーゾレの町に着く。
フィエーゾレもまたエトルリア時代から続く町で、その歴史はフィレンツェよりもずっと古く、7000年前には既に人が住んでいた。
町の一番の観光資源である、ローマ時代の遺跡ですら、比較的新しい遺構なのだという。
そんな町の中央広場にバスがほぼ時間通りに到着した。
「いきなりドゥオーモの前なんだー。」
「おう。 40分くらいしか時間が無いが、考古学地区だけでも見ておこう。 ここから50mほどだから、移動時間を差っ引きで
15分くらいは見学できると思う。」
「ちょっとくらいは遅れても平気でしょ? イタリアだし。」
「…まぁ、実際そうなんだが、問題発言だぞ、それ。」
「いいじゃん。 別に記者会見やってるわけじゃねーんだから。 それより、とっとと行こうよ。」
「おう。 そうだな。 こっちだ。」 「ほーい。」

116名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 22:50:49 ID:bKIjWjKd
C
117プリマヴェーラ 55/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:51:32 ID:EQ3WOOcI

そこには典型的なローマの円形劇場の跡があった。
特に大きなものではないが、よく保存されていて、往時が偲ばれる。
亜美は興味深そうにその中心に立った。
「ここでなにやってたのかな。 ここに立って……」
ぶつぶつ言いながら辺りを見回し、舞台である筈の半径10mほどの半円形のスペースを歩き回る。
「この辺りだね。 ここより前に出ると端の客席から顔が見えなくなっちゃうし、横の動きが小さくみえちゃう。」
プロの視点である。
「ねぇ、竜児、観客席から見てみてよ。 竜児一人だけの為の舞台だよ。」
考古学地区は見学終了時間間際で、俺達以外の観光客はもう見えない。
「何するつもりだ?」
「ちょっとした寸劇。 えーっと、何にしようかな… ん、じゃぁ、怪しい占い師。」
「は? なんだそりゃ。」
「いいから、竜児は観客。 そこに座って見てて。」
そう言うと、亜美は寸劇を始める。
恐らく、以前に似たようなのをやった事はあるのだろうが、寸劇だから、基本は即興だ。
たった4〜5分で終わるそれは、なかなかコミカルで楽しいものだった。
そして、それ以上に、演技をする亜美の姿が美しく見える。
本人はどちらかと言えば、裏方のほうが好きだと言っていたが、やはり、演技に関する天賦の才はあるのだろう。
なにより、人を惹きつける不思議な力を感じるのだ。
亜美のそんな姿を見るたびに、俺は怖くなる。
俺の存在が、亜美の未来を塞いでしまうことになりはしないかと。
俺の為と思えば、亜美は自分の望みとは関係無しに女優を辞めてしまうだろうから…。

そうこうしていると、仏頂面の管理人がやってきて、時間だから出て行ってくれと言われる。
時計を見れば17時20分を過ぎていた。
急いでバス停のある中央広場へ戻り、そこから丘の上のサン・フランチェスコ修道院へと続く坂道を登った。
若干傾斜のきつい石畳の坂道を、二人手を繋いで登っていく。
その坂道の途中には展望台となっている小さな広場があり、そこからはフィレンツェの街が一望できる。
その展望台のすぐ傍にあるのが、予約していたリストランテだ。
到着はほんの少しだけ予約の時間から遅れてしまった。
「ねぇ、あたしの格好、大丈夫? ちょっとラフ過ぎるかな?」
「いや、リストランテっていっても、そこまで格式ばっている所じゃないから気にすんな。 だが、ボタンはもう一個してくれ。」
胸元が刺激的過ぎるので、これ幸いにと自重を求める。
男として、惚れた女の乳房が半分とはいえ、しょっちゅうチラチラ見えては健康によろしくない。
「うん。 ちゃんとする。」
亜美は上手いこと騙されて、きちっとボタンをしてくれた。

店員に案内された俺達の席は、一番窓よりの眺めのいい席。 他の席とも少し離れていて、とても雰囲気がいい。
「コースが幾つかあるが、どれがいい? 肉系と魚介系があるが、どちらかと言えば肉系がお勧めだ。」
「あんまりクドくないのがいい。 まだ、ちょっと…。」
「わかった、じゃ、タラの蒸し煮をメインにしたコースにしよう。 パスタは若干肉が入るが、そこは我慢してくれ。」
「うん。 ありがと。」
「それで、ワインなんだが…。」
「大丈夫。 あたしは平気。」 
「…本当か?」
飲ませないほうがいいのに決まっているんだが、やはり雰囲気的にもワインはあったほうがいいのも間違いなかった。
「グラスワインってできないの? それだったら飲みすぎなくていいんじゃない?」
「おう。 聞いてみるか。 もし、オーケーなら、モンテプルチャーノ・ダブルッツォのロゼにしよう。 魚にも肉にも合うからな。」
「うん、名柄はお任せ。」

118プリマヴェーラ 56/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:52:40 ID:EQ3WOOcI

数分後
結局比較的安価なモンテプルチャーノはグラスでは頼めず、ティニャレッロなら出来るという。
750mlで250ユーロの高価なワインだが、たまたま口が開いているのがあったらしい。
昨日空けた物なので、若干風味は変わっているとの事だったが、その分安くなった。
「すまん。 赤になっちまった…。」
「ま、いいんじゃない? 魚料理には白って決まってるわけじゃないでしょ? ところでさ、グラスワインでもテイスティングって
できるの?」
「どうだろうな。 リストランテを名乗るくらいだから出来てくれないと困るが…。 今回はもう空いてるやつだから無理だろ。」
「そっかー。 あれ、カッコいいよね。 女がやっちゃダメなのかなぁ… 亜美ちゃんもやってみたい。」
「意外だな。 経験ないのか?」
「いっつも家族で食事いったりしてもパパがやるから。」
「別に女がやっても問題ないぞ。 っていうか、ワインを選んだ人がやるのが常識だ。」
「それもそっか… じゃ、あたしが選べば、あたしがやっていいんだ。」
「だな。 っと、前菜が来たようだ。」
前菜がテーブルに置かれるのと同じくして、ソムリエらしき人物がワインを持ってきて、俺のグラスに少しだけ注ぐ。
どうやらテイスティングもさせてくれるらしい。
今まで亜美が、それを羨ましそうに見てたのには気がつかなかった。 意外に見てるようで見てないもんだな、と思いつつ、
俺達は今回の旅行最後の夕食を開始したのだった。

食事をしながら、亜美はちょくちょく窓の外に目を向ける。
夕焼けに染まるフィレンツェの遠望はこの上なく美しく、ロマンティックだ。
手前には糸杉やオリーブ畑の緑が広がり、所々に白い壁にオレンジの屋根のヴィッラがアクセントを添える。
アルノ川を挟んで視界の奥に広がるフィレンツェの市街地は夕日を受けてオレンジ色の宝石箱のようだ。
それが沈む夕日の色に合わせて、刻々とその表情を変えていく。
「…どうだ?」
「うん。 凄く美味しいよ。 それに、この景色、綺麗…。」
「フィレンツェの街中もいいが、こうして外から眺めるってのもおつだろ?」
「うん。 あたし、この景色、忘れないよ…。」
「…竜児と一緒に見た景色だから…忘れないように、しっかりと目に焼き付けておかなくちゃ。」
今にも壊れてしまいそうな薄い笑顔。
いつも俺の胸を締め付けるあの顔だ。 夕日の茜が、亜美を感傷的にさせているのだと思いたい。
しかし、俺の頭には昨夜の亜美の言葉がリフレインしていた。

「傍にいちゃいけない」

何となくだが、その気持ちが理解できた。
まさに俺がいつも感じていたことを、亜美もまた、違った立場で感じていたのかもしれない。
心のどこかで、自分が相手にとって重荷になってしまうと思っている。
好きだけど、いや、好きだからこそ、一緒には居られない。
何よりも大切な人だから、その幸せを心の底から願うから…
そんな、想い。

きっと、限りなく正しくて、
そして、限りなく間違った…
想い。

119プリマヴェーラ 57/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:53:20 ID:EQ3WOOcI

日がすっかり沈むと、街から遠いこのフィエーゾレには、フィレンツェよりも暗い夜が訪れる。
食事を終えて、通りに出る。
ごく小さなこの町では人通りなどあるはずもない。
観光客も、夜に訪れるのは少数派だ。
フィレンツェを望む絶景を見るために、サン・フランチェスコ修道院に向かう階段を手を繋いで昇っていく。
いつもの掛け合いを楽しみながらも、頭の隅で考えていた。
人を好きになることが素晴らしい事だというなら、どうしてこうも苦しいのか?
俺はただ、こいつの悲しい顔なんか、泣き顔なんか見たくないだけなのに。 何故、こうも上手くいかない?
いや、表面上は上手くやっている。 一緒に食事をして、買い物をして、映画を見て、愛し合って…。
恋人でいるなら、これでいい。 たぶん、最良の関係を築けていると思う。
けれど、これから先の事を考えると判らなくなる。
本当に俺達はこれでいいのか、と。

しかし、今は迷っている時ではない。
あの日、俺達の前から去った亜美はどれほど悲壮な決意をしていたのだろうか。
せっかく手に入れたものを、手に入れることができる筈だったものを、亜美は全て捨て去って、背を向けた。
おそらくは、俺と、櫛枝と、大河との『できあがった関係』を崩さないため…
…自分のいない世界を守るために…自分を殺した…。
ここで俺が揺らげば、亜美は、いつまた同じ決断を下すか判らないのだ。
だから、今の俺が考えている事を素直に伝えるしかない。 

「すごい…… オルヴィエートの夜景も凄かったけど、これは別格だわ…。」
サン・フランチェスコ修道院の前庭から見るフィレンツェの夜景は素晴らしかった。
修道院の施設がまるで絵の額縁となったように、遠くに光る街の明かりを切り取っている。
「夜のこういう建物ってさ、オオカミ男とか、ゾンビとか出てきそうで気味悪かったけど、竜児と一緒だと素敵に見えちゃう。
んふふっ。 なんだか不思議だね。」
「確かに古い修道院といえば、ホラーの宝庫だな。 実際、昔の聖人の骨なんかが無造作に置いてあったりする。」
「でも、今夜はすっごい素敵な場所だよ。」
「そりゃなによりだ。 喜んでもらえたなら、連れて来たかいがあるってもんだ。」
「あ、こっちこっち。 ほら、あれ、ドゥオーモのクーポラじゃない?」
「そうかもしれねぇが、ちょっと木が邪魔だな…」
「ねぇ、さっきの展望台ならよく見えるんじゃないの? 行ってみようよ!」
「おう、わかったから、そんなに慌てるなよ。」
「いいから、早く!」
駆け出しはしないが、いそいそと歩みを速める。

そして辿り着いた展望台は、果たしてフィレンツェの街を余すところ無く望むことが出来た。
限りなく黒に近い群青色の空。
東の空にある、つぶれた団子のような月はまだ黄色がかっていたが、それに照らし出された雲は鈍い白に輝いている。
黒と黒で描かれたアルノ川の細長い扇状地に多数の光が連なり、人の営みを示す。
その光からは、美しく広大な自然の中にあって、人の作り出した美しさも相当な広がりを持っていることがわかる。
そして、その瞬く光の花園の中心に、まるで蕾のように、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂のクーポラがあった。
さっきまでは饒舌だった亜美も今は静かにその景色に見入っていた。
こうなると、一気に大人の女の雰囲気に変わる。
モデル業が染み付いているのか、頭の天辺から、爪先まで、その動きは洗練されていて、美しい。
何も言わず、静かにその隣に並ぶ。
微かに触れた腕に、やがて温もりと、微かな重みを感じて…

120プリマヴェーラ 58/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:54:04 ID:EQ3WOOcI

はたして、どれくらいそうしていたのだろう。
月はすでに蒼くなっていた。

「隣にいるのがお前で、本当によかったと思ってる…。」

自分でも思いがけず口からこぼれ出た台詞。
それは、理性が訴えるのとは矛盾した気持ち。 幼い、感情。
こいつの隣に立っているのは、いつも俺でありたい、そんな我侭な… けれど正直な俺の『本当』の気持ち。

「誰かの手を引いたり、誰かの背中を支えたり。 そういう関係もあるだろうが…」
「今の俺は、自分の足でしっかりと歩いていきてぇと思ってるんだ。 だから、支えて助けてくれる人よりも、一緒に隣を歩いて
くれる相手が欲しい。 いつもくっついて支えあうんじゃない。 傍で見守り続けてくれる相手が、欲しい。」
息を呑む気配。
「お前、前に言ったよな。 俺達は対等だって…。 それから、こうも言った。 俺の一歩前を歩いていくって、よ。」
「思い…出したんだ…。」
「いや、『覚えて』いたんだ。」
「そう… あたし、口ばっかだね。 全然、前なんか歩いてない。 今にも置いていかれそうだよ…」
「違うだろ、お前だってちゃんと前に進んでるだろう? お前、今の仕事、好きになってきてるんじゃねーか?」
「………」
「もう、簡単に辞めるなんて言えない位には、好きなんだろ? 役者ってやつがよ。」
答えは無い。
ただ、風に乗って届く都会の音が、微かな地響きのように聞こえてくるばかりだ。

やがて亜美は一つ大きな溜息を吐くと、場違いなくらい明るい声で答える。
「…やだな… 高校の時と立場逆転しちゃったね。 …なんでもお見通しってやつ?」
「あの頃は俺も餓鬼だったよ。 ま、今もそんなに変わらねぇけどな。」
「竜児の言うとおりかもね。 あたし…」
声とは裏腹な切なげな表情。 だから、その先は言わせない。
「それでいいよ。 ちゃんと自分の夢に向かって俺達は歩いていく。 それぞれの足でな。 それでも俺はそんなお前をずっと
見ていたいし、もし、お前が転んだら… その時は……」
「その時は?」
「起してやる。 お姫様だっこでな。 …だから、俺がすっころんだり、鴨居に頭ぶつけてぶっ倒れたら、…お前が起してくれ。 
その、…できれば優しく、な。」
「………」
「………」
「ぷっ。 くっくっくっ……」
「…なんだよ…。」
「せっかくかっこよく決めたのに、なんで最後でヘたれるの?」
「なんでって、お前、いつもめちゃくちゃ手厳しいじゃねーかよ。 俺はこんな面してるが、ガラスのように繊細なんだよ!」
「あはははははは。 ははっ…ガラスのようにって、あははは。 自分で言う? そういうの。 あははは。」
「…事実だ。」
「ぷっ。 なにふくれてんの? あははは。 かっわいー。 あはっはははっ……… 」

涙が出るほど笑う亜美。
少し無理やり感がある笑い声は暫く続いて…

121プリマヴェーラ 59/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:54:44 ID:EQ3WOOcI

急に笑い止んだ亜美は俺の首に手をかける。
「できたらいいね。 そういうの。」
「やるんだよ。 少なくとも、そう在りたいと努力するんだ。 …二人でな。」
「そうか…。 そうだね。」
「そうだよ。」
「ふふふ。」
微笑む亜美の唇を奪う。
最初は軽く触れるだけ。
「竜児。 さっきの言葉、あたし信じてみる。 …竜児はこんなあたしのこと、本当に必要としてくれてるんだね…。」
「それはな、俺が生まれてから今まで質問されたなかで一番の愚問だぞ。」
次の口付けは舌を絡めて。
呼吸が苦しくなるほどに求め合う。
ようやく唇を離したら、狂おしいほどに抱きしめたくなる。
フィレンツェの街を彩る光の渦が、亜美の背後に広がり……嗚呼、まるでそれは女神を讃える星々の様だ。
その美しさに、逆に囚われていたのかもしれない。
俺が求めたのは亜美の美しさではなかった。 その内面にこそ心を奪われたのに。
昨日まで、その事実を俺は見失っていた。
こいつが女優だろうが、世界中の人々から愛されていようが、そんな事は関係ないじゃないか。
臆病で、寂しがりやで、不器用で、いつも自分から外れくじを引きたがるこいつの事が俺は好きなんだ。
大切で、大切で……ずっと守ってやりたいんだ。
だから、これからのことも一生懸命考えるしかない。
どんなに困難でも、俺にはこいつのことを諦めるなんてことはとても出来そうにないから。
すこしづつ伝えていこう。 俺の想いを。
すこしづつ近づけていこう。 二人の道を。

そうして、何度も、何度もキスをする。
まるで何かに取り付かれたように。
少しでも俺の想いが届きはしないかと、深く、激しくキスをする。
性器のつながりは無くとも、それは正しく交尾と称するに相応しい交わりだった。
時折唇が離れても、亜美が声を上げる暇は無い。
あえぐように息をするとまた、激しく唇を奪う。
背中に爪を立てていた亜美の手が、力をなくして俺の背を滑り落ちていった。
…そして
いまにもその時が訪れてしまいそうになった時、亜美は、強引に俺から体を離す。
とろんと欲情した顔。
しかし、彼女なりのプライドなのか、達するのを拒絶した。
だが、かえって艶っぽい。
不規則に震える体、荒い息、頬に張り付く髪。
「…ねぇ…ここじゃ…いや…。 ホテルに戻ろう?」
ようやく口にした言葉も、蕩けそうに甘い声だ。
正直、服を引き剥がし、このままクローバーの絨毯に押し倒してしまいたい衝動に駆られた。
だが、ここは公共の場で、イタリア警察はそういうことにはすこぶる厳しい。
「…お、おぅ。」
あ。 俺も声が震えてる。 こりゃ、ちょっと休まないとダメかもしれない。
時計を見る。
いつの間にか、時計の針は22時を指そうとしていた。

122プリマヴェーラ 60/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:55:22 ID:EQ3WOOcI

残念ながら、休むのはバスの中にしよう。 22時を過ぎるとバスの便数が半分以下になる。
15分刻みだったのが、30分刻みになり、やがて一時間刻みになるのだ。
大急ぎで中央広場に戻り、なんとか22時のバスに飛び乗ってフィレンツェに戻った。
フィレンツェ行きのバスはガラガラで、フィエーゾレを出る時には俺達以外には老紳士が一人乗っているだけ。
わびしいバスの車内灯が寂しさを加速する。
そんな、うらびれた雰囲気も俺達に似合いな気がした。
「なんかさ、駆け落ちでもしてるみたい…」
亜美も同じ事を考えていたのか、苦笑いを浮かべて言う。
「おう。 芸能記者の追跡をかわして逃れる、川嶋亜美と若頭だ。」
「ぷっ。 それじゃ、三流ドラマだっての。」
「…そうか? うーん…脚本家はできそうにねぇな…。」
「春田くんの方がまだマシだね。」
「よりによって春田かよ… せめて能登にしてくれ…。」
「それ、能登くんに失礼っしょ?」
「……散々だな、おい。 言うんじゃなかった。」
そんな毒舌を吐きながらも、亜美は時々体を摺り寄せてくる。
まるで甘える子犬のように。
時折触れる柔らかな膨らみは、その先端がはっきりそれとわかるくらいに硬くなっている。
女性の性感は、肉体的なそれよりも、精神的な部分に大きく影響されると聞いたことがあったが、どうやらまんざら出鱈目
という訳でもないらしい。
亜美は、すっかり体が出来上がってしまっているが、一生懸命欲情に流されないよう耐えている様子だった。

そして、サンタ・マリア・ノヴェッラ駅につくまでの27分間、亜美はなんとか、その劣情に耐え切ってくれた。
駅からホテルまでは5分程度。
幾分か気温が下がり、少しばかり肌寒く感じられるフィレンツェの夜は、こんな時間でもまだ賑やかだ。
まだ沢山の人がうろつく広場を横切って辿り着いたホテルのフロント。
そこにはとんでもないサプライズが待ち受けていた。
たしかに部屋を交換するとは聞いていた。
だが、フロントで渡された鍵は…『Bellavista Suite』
最上階にある、いわゆるハネムーンスイートだった。 もちろん高い。 というより、普通には予約すらできない特別な部屋
である。
ホテルのフロントのべったりとした色男は亜美をチラ見して、片眉を上げる。
高額なその部屋には泊まれないが、スイートに泊まりたいという客でも居たのか。 空いている部屋を埋めて、一組でも
多く客を入れるのは、部屋の回転率勝負のホテル業では当然の事だが、そこで有名人をいい部屋に泊めてやろうという
打算が働いたのだろう。 
もちろん、宣伝効果を狙ってだ。 どこかで亜美が喋ってくれれば儲けもの、という腹なのだ。
ホテルにとっては打算の産物でも、俺達にとってみれば、純粋に嬉しい出来事。
イタリア語はまだ片言の亜美だが、それでも部屋が変わった事は聞き取ったらしい。
「なんなの? トラブル? ダブルブッキングとかじゃないでしょうね。」
「いや、トラブルというか… むしろ、いい話だ。」
とっさに説明に困っていると、キスシーンを堪能していただいた件のボーイが何食わぬ顔でまた俺達を案内し始める。

「…最上階。」
「おう。 部屋がアップグレードした。」
「まじ? 超ラッキーじゃん。 やっぱダブルブッキング誤魔化したんじゃね?」
とことん性悪説な所が亜美らしい。
そして部屋に着くと、亜美はすっかりご機嫌になった。
フィレンツェには建物に高さ制限があって、大きな建物が建てられない。 多くのホテルはどんぐりの背比べ。
そして、俺達の案内された部屋には広々としたオープンテラスがあった。
つまり、キャンドルライトがゆらゆらと照らすそのテラスからは、フィレンツェの街並みが360°見渡せるのだ。

123プリマヴェーラ 61/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:56:02 ID:EQ3WOOcI

今回、例のボーイはチップも貰わずに、そそくさと出て行った。
早速お楽しみください、と言わんばかりの微笑を残して。
無理も無い。
亜美が放出するフェロモンは半端じゃなかった。
エッチしたいオーラが全身からみなぎっている感じ。
「あー。 つっかれたー。 なんだかんだいって、今日も楽しかった。 竜児のお陰だね。」
そう言って、そのままソファーにドスンと沈む。
だが、その目線も、声も、仕草も、いちいち色っぽい。
俺はといえば、そのあまりの色気に我を忘れてしまいそうで、インテリア観察に逃避していた。
インテリアは…どれも素晴らしい。 それぞれが上手く調和して、現代風の部屋に適度な風格を与えている。
よほどセンスのいいスタッフが居るに違いない。 これなら、少し落ち着けそうだ。
亜美はそんな俺の心理はとうに見透かしているのだろう。
「さて、バスルームはどんなかなぁ?」
独り言じゃない独り言を言ってそれらしいドアを開く。
「うわぁ、すっごい! 竜児、天井が全部ガラス張りだよ! すっげーゴージャス!」
「おおぅ。 こいつは…」
「ねぇ、あたし先にお風呂入っていいかな?」
俺に落ち着く時間をくれるつもりらしい。
「おう。 いいぞ、ゆっくり疲れを癒してくれ。」
「じゃ、おっさきー。」
そうして、亜美がバスルームに消えた直後。
突然のノックの音。
「なんだ? ルームサービスは頼んでいないし… 」
ドアを開けると、先ほどのボーイが立っていた。
曰く。
部屋を突然入れ換えて、迷惑をかけたので、サービスということだが…
もって来たのはこれまたセンス抜群の食器に一山のイチゴ。そして、フェッラーリ・ロゼ。 値段の割には素晴らしい味わいの
イタリアを代表するスプマンテだ。
その素晴らしいプレゼントを見ていると、どういうわけか、無性に亜美の体が見たくなってきた。
映画なんかじゃ、大抵こういうアイテムがあると、大人の女が色気たっぷりにイチゴをくわえ…
いかん…俺って変態か? それとも既に亜美の魔力で正気を失っているのか?
もう一度、インテリア観察に意識を向ける。
だが…
今度は唇からサクラ色の液体を溢れさせる女の口元が頭に浮かぶ。
…だめだこりゃ。
認めちまおう。
俺もとっくの昔に欲情しちまってるんだ。
亜美の体が欲しくて欲しくてたまらない。
大河風に言うならば、今の俺は盛りのついた馬鹿犬ってやつだ。
この二日、連続で交われなかった。
ぶっちゃけ溜まってる。
そのうえ、フィエーゾレでの熱いキス。
目を閉じれば、シャワーのお湯が亜美の真っ白な体を滑り落ちる光景しか思い浮かばない。

そしてその妄想に囚われた俺は、服を脱ぐのも忘れてふらふらとバスルームに進入したのだった。

124プリマヴェーラ 62/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:56:45 ID:EQ3WOOcI

「え? なに… 竜児…」
「………」
「…イチゴ?」
しまった。イチゴを持ったままだった。
「お、おう。」
「どうしたの、それ。」「なんか、ホテルからのサービスらしい。」「へぇ… ラッキーじゃん。」
「………」
「ど、どうしたの?変だよ?」
「いや、お前、やっぱりめちゃくちゃ綺麗だよな…」
薄暗くムーディな部屋の明かりと違って、バスルームの照明は煌々と白い大理石を照らし、その中に立つ亜美の肉体を
これでもか、というくらいに鮮やかに見せる。
「…だめだ。 もう我慢できねぇ…」
俺はイチゴを洗面台に置くと、真っ直ぐ亜美に抱きついた。
慌ててシャワーを止める亜美。
「ちょ、あんた、服!」
そんなの、気にしている場合じゃない。 
亜美を抱きしめる。 亜美がなにか騒いでいるが、もう聞こえなかった。
「亜美。 お前を見せてくれ。 もっと、もっと、近くで、全部、何もかも… お前の全てが見たい。」
ぎゃーぎゃーなにか騒いでいた亜美が、急に大人しくなる。
「なんなの? もう。 いっつも見てるじゃん…… はぁ… いいよ。 どうすればいい?」
「そのまま、そのままじっとしていてくれ…。」
「…うん。 でも、せめて服…ってもう遅いね…びしょびしょだよ…」
少し呆れ顔の亜美。
長い黒髪は深く艶のある、蒼さすら感じさせるほどの漆黒。
細く、繊細で柔らかい髪は濡れて白い肌に張り付いている。
美しい眉は殆ど手入れしなくてもいいから楽だと言っていた。 額にかかる髪をよけながら、親指でその眉をなぞった。
そのまま手を美しくシャープな顎の線に添って滑らせる。
頬は柔らかく、しかしスッキリとしていて、精悍な印象を受ける。 本人はいつも可愛いを連呼するが、明らかに美人顔だ。
大きな目は、千変万化に表情を変える。 はっきりとした二重瞼につけ睫毛かと思うほどの長い睫毛。
日本人としてはやや彫りが深いが、外人のようなゴツゴツとした印象は無い。 まさに絶妙のさじ加減は神にのみなせる
技だろう。すっと通った鼻梁も、顔の中でのバランスを最優先できめられたかのよう。
そしてその唇は…
「ちょっとその目つき、自重してよね。 今日見たカラヴァッジオのメドゥーサより怖いって…亜美ちゃん石になっちゃーう。」
こんな毒舌を吐くなんて想像さえできないほど、美しい。
そして細く長い首筋も、鎖骨のくぼみに溜まるお湯の煌きも、吸い付くような柔らかい肌と相まって、完璧な造形美を成して
いる。 肩から、二の腕に続くラインも無駄が無く、細くも太くも無い見事な曲線美で構成されている。
そして、少し視線を下げると、そこには女性美の象徴のようなふくよかな乳房がある。
全く形が崩れない半球形のそれは巨乳というには小さいが、十分に豊かで、それでいて全身のバランスを崩さない程度の
大きさ。 そして、その先端を彩る、やや褐色がかったピンクの乳首は明らかにその体積を増やしていた。
明らかに何らかの刺激を期待しているその器官に、視線だけを送る。
亜美は少し落ち着かなくなってきた。
「竜児、なんか変な気分だよ… あんまりじっくり見ないで… ここ明るいし、ちょっと恥ずかしいよ。」
いつもは堂々と俺に裸を見せつけてからかうくせに…。
亜美の言葉は無視して、その滑らかな肌を凝視する。
その美しい体に手を這わせれば、吸い付いてくるような柔らかさ。
美しく見せるために鍛えられた体は、筋肉質でありながら適度な脂肪をのこし、女性らしさを少しも失っていない。
きゅっと締まった腰は、おそらくはカタログスペック通りで、同じ数値の筈の他のタレントとは明らかに細さが違う。
そこから安産型というのか、やや張り出した腰骨へ向かう曲線の悩ましさよ。
この付近の曲線美はどんな男でも虜にしてしまうであろう。
俺は、膝をつき… 顔を近づけ… 縦長の可愛らしい臍へとキスをする。

125プリマヴェーラ 63/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:57:24 ID:EQ3WOOcI

一瞬、キュッと腹筋が引き締まる。
頭上では乳房がゆらめき、微かに息を飲み込む音。
「ね、ねぇ、竜児」
「すまん、もう少し…」
「う、うん…」
臍から下腹部へと俺の顔は降りていく。
なだらかな曲線を描く下腹部も、亜美の特別に美しい場所の一つだ。
下腹がでっぱっていると、さほど太っていなくとも、全体の印象として、たるんだ体に見えるものだ。
しかし、亜美のそこは緩やかな曲線を描きつつも、少しもたるんだ印象もなく、まるでアスリートのよう。
それでいて、女らしい柔らかさを保っている。
そして胴体の終わりには、美しきヴィーナスの丘が待っている。
小高く盛り上がったそこは、これだけ痩せているのに、なぜこうもピンポイントで脂肪が集まるのだろうと、不思議に思わず
には居られない。
とろけてしまいそうなくらいに柔らかいそこ。 鬱蒼とした茂みに覆われたそこ。
「竜児、やめて、恥ずかしいよ…」
そういって、軽く開いていた足を閉じようとする。
太ももに手をやって、それを阻止しつつ、更に顔を近づけた。 鼻先が触れそうなくらいに。
「いや… あんまり見ないで……だって、その……あたしのって、…変じゃない?」
「はぁ?」
突拍子も無い問い掛けに、思わず変な声をあげて、顔を離した。
何を今更言ってるんだ? っていうか、何が変なんだ?
「変って、なにが?」
「そ、その…」 「おぅ。」 「そ、その…」 「おぅ。」
「……ちょっと、毛深いっていうか…… あと、もっこりしてるし……」
「はぁ? そんなの、別に変でもなんでもないだろ。」
「だ、だって、他の子と比べて…」
「あのな、俺はお前しか抱いたことがねぇ。 これからも他の女を抱く気はねぇ。 だから、他の女なんか心底どうでもいい。」
「…う、うん。」
「それにな、毛なんかあって当たり前なんだからそれが多かろうが少なかろうがたいした問題じゃない。 もっこりしてるのは
女の骨盤はそもそもそういう形をしているんだし、出産の時は有利だ。 それに骨盤がちゃんと閉まっている証拠だぞ。 健
康には必須といってもいい条件だ。 歩行に関わるからな。 さらに、セックスのときは柔らかくてすげー気持ちいいんだぞ。
そもそも古来から…」
「竜児。」
「…なんだ?」
「うぜぇ。 超うぜぇ。 このタイミングで薀蓄始まるとは夢にも思わねっつーの。」
台詞は厳しいが、今にも笑い出しそうな顔と声。
「おぅ? す、すまん。 つい…。」
「だめだね、こりゃ、きっと死んでもなおらないわ… うふふふふ。 でも、 そっか。 気持ちいいんだ…」
「おう。 お前のあそこはぷくぷくして、キュッとしまって、うにうにして、最高に気持ちいい。」
「あのさ、うれしいんだけど、もうちょっと何とかならないの? 表現。」
「…俺はそんなに口は上手くねーんだ… これでいっぱいいっぱいだよ。」
「じゃぁさ、今度特訓してあげるよ。 どうやって亜美ちゃんを口説いたらいいか。 そして、セックスする度に亜美ちゃんの事を
褒め称える…っつ」
口では当然勝てるわけもないので、攻撃に出た。 股間に顔を埋め、一番敏感な場所を舌で探す。
「って、奇襲攻撃かよ、ずるっ っふぅ あっ」
「おう、実力行使だ。」
そう宣言して俺達は本格的に交戦状態に突入した。

126名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 22:57:33 ID:Qfqjc7/1
C
127プリマヴェーラ 64/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:58:05 ID:EQ3WOOcI

広めのバスタブ、お湯は4分の一くらいたまっているが、そこに亜美を押し倒す。
ばちゃばちゃと水音を立てながらの格闘戦。
「あぅ…」 「はっ」 「んあっ」 「ふうっ…」
亜美が時々喘ぐ。 緒戦は俺の圧倒的優勢だ。
「ちょ、ずるいっ。 あああっ」
乳房を揉みしだかれ、さらに股間も揉まれて、亜美が不規則に体を震わせる。
「こ、このっ」
反撃を試みるも、俺の圧倒的優勢は揺るがない。 亜美はすでに、体の全部が性感帯といっていほど出来上がっていた。
「もう、ずるい! 服ぬげっつーの、このおばさん男!」
はっはっはっは。 いくら罵られようが、勝ったほうが正義だぜ。
すっぽんぽんの亜美と、普通に服を着ていてしかもびしょびしょなので非常に脱がしづらい俺。

自ずと勝者は知れている。
やがて亜美は殆ど抵抗も出来なくなって、ただ喘ぐだけ。 激しく愛液を吹きだして、あえなく轟沈した。

相当具合がよかったのか、亜美はそのまま10分ほど復活できずにぐったりしていた。
その隙に、俺は一旦部屋に戻ってフェッラーリ・ロゼの栓を抜き、服を脱いでバスルームに戻る。
ぐったりしている亜美は俺の姿を見ると頬を膨らます。
「…ずっるい。 超ずっるい。」
「ははは。 悪かった。 第二ラウンドは正々堂々やろうぜ。 だが、その前に、コイツを楽しもう。」
コップはあえて持ってこなかった。
洗面所に置いたイチゴを一つ、亜美の唇に運ぶ。
亜美は未だに不機嫌に膨れているが、二度ほど唇に押し付けてやると、ようやくイチゴを咥えた。
それから、たっぷりともったいつけてイチゴを齧る。
コレだよ、コレ。 流石女優、と言わざるを得ない。
映画のワンシーンを見るような、実に色っぽいイチゴの食べ方。 特にリクエストしたわけでもないのに、何気にやってしまう
辺りがすげぇ。
そしてボトルから直接喉にスパークリングワインを流し込む。
当然のように、唇の端から溢れ出たサクラ色の液体が、泡を立てながら、喉を流れ、胸に辿り着く。
コレだよ、コレ。 流石女優、と言わざるを得ない。
映画のワンシーンを見る……って、さっきも言ったな…。 
何も言わなくても心のリクエストに答えてくれる辺りが亜美の凄いところだ。 喜ばせ方を良く判っている。
「どうせ、こういうの期待してたんでしょ? もう、ほーんと男ってアホなんだから。」
「ハハハ…すまん。」
「ん、でも、このイチゴもシャンパンもすっごい美味しい。 竜児も試してみなよ。」
「おう。 そうだな、俺も頂くとするか。」
「あ。 あたしが食べさせてあげる。」
俺の手から素早くイチゴを奪うと… 咥えやがった…。
「ん。」
「んって、お前…」 「ん!」 「はいはい…」
当然唇が触れ、キスになる。
「次はシャンパンね。」 「スプマンテだ。」 「細かいなぁ。 おなじっしょ。」
「ん。」
まぁ、予想通りだ。 亜美のやつ、自分の口に含みやがった…。
「ん!」 「はいはい…」
今度はキス以外の何者でもない。

こうして、典型的バカップル状態に陥った俺達は暫くバスルームで戯れたのだった。

128プリマヴェーラ 65/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:58:41 ID:EQ3WOOcI

………
そして日付が変わって1時間後。
第二ラウンドを終えて、亜美を抱えるようにしてバスタブに横たわる。
天蓋はすべてガラスで、フィレンツェの夜空につぶれた団子のような月が蒼く光る。
「月だ…」
「だな。」
「綺麗だね。」
「だな。」
「前に、竜児のこと、月に例えたよね。 覚えてる?」
「ああ。 お前の別荘行った時だよな。 覚えてる。」
「あの時は、こんな関係になるなんて思えなかったな… たぶん、望んではいたのかもしれないけどね。」
「…お前… あの時から?」
「どうなのかな……自分でも本気だったのか、わかんないの。 でも、多分、本気だったんだろうね。」
「………」
「わかってなかっただけでさ。 バカだよねぇ…」
「そんなもんだろ… あの頃は俺だって自分の気持ちなんか…、恋だったのか、憧れだったのか。 …よくわかってなかったさ。」
「だがな、今はわかってる。 はっきりと。」
顔を上げた亜美と逆さに見つめあう。
「もう、離さねーぞ…。」

そうして、俺は抱きしめる。 絶対に離さない。 この手は二度と離さない。
「……ありがとう…竜児…。」

「ねぇ。」
「ん?」
「第三ラウンド行ってみる?」
「……元気だな。」
「だって、二連敗なんて、亜美ちゃんのプライドが許さないもん。」
「しかたねぇ… 受けて立つか。」

129プリマヴェーラ 66/66  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 22:59:18 ID:EQ3WOOcI
* * * * *


「くあっ」
大きな乳房が激しく揺れる。
俺のペニスを根元まで咥え込んだヒダが怪しく蠢く。
クリトリスは痛々しいくらいに赤く腫れあがり、僅かな刺激でも、激しく体を震わせた。
本日の第三ラウンド。
どうやら亜美は戦闘不能寸前。
今日も3連勝のようだ。
「あっ、あっ、あっ… あぁーーーっ」
普段はあまり大きな声は出さない亜美だが、本格的に駄目になると、とことん乱れる。
ストロークの度に甘い声を上げ、ついに絶叫した。

俺の安アパートのベッドをびしょびしょにしたのは殆どが亜美の体液だった。
俺の下で大きく足を開き、腰をひくひくさせて横たわる亜美。 時々からだが跳ね、胸がたゆんと揺れる。
この姿を見ていると、俺は更に亜美に突き刺したくなるが、ここは武士の情け、優しく抱きしめてやろう。

暫くして、ようやく口がきけるくらいに回復した亜美。
「……トータルではまだあたしの勝ち越しだからね。」
負惜しみを言う。
実際、付き合い始めた頃は一方的に俺がいかされまくっていた。 だが、最近、亜美の弱点がわかってきて、かなり優勢に
戦えるようになっていた。

「でもよぉ… 結局、フィレンツェにいても、俺の部屋に帰ってきても、あんまりやってる事かわらねえのな…」
「確かに、昨日はやりすぎた。 ちょっと勿体無かったかも……。」
「だよな。 流石に7連続は疲れたぜ。 せっかくのハネムーンスィート、もっとエレガントに…」
「あんたが言う? あんたが止めないからでしょうが! 亜美ちゃん、干からびるかと思っちゃったよ!」
「お、おぅ… すまねぇ。 だ、だが、お前だって、途中までは、リベンジとか言って乗り気だったじゃねーか。」
「最後の二回は余計だったの!」
「そ、そうは言うが、リアルタイムじゃ、お前文句言ってなかったぞ。 イかされてからだろ、文句言い出したのは。」
「きーーーー。 生意気!生意気! 調子に乗ってんじゃないわよぉー。」
にやりと意地悪顔で笑う亜美。 喧嘩腰の台詞に反して、顔は楽しげだ。
「おぅ! じゃ、いくか! 第四ラウンド。」
「もちろん!」
「ふふっ、また返り討ちにされるとも知らずに……」
「いったわねー……………」
「おう!………」
「………」

トラステベレの安アパートの一室で、組んず解れつ。
石造りというだけで、防音なんて全く考慮外のこの建物だ。
きっと表の窮屈な通りにも、俺達の笑い声が微かに届くのだろう。

それは……最高に幸せな、そんなローマの点描。


                                                                    おわり。
13098VM  ◆/8XdRnPcqA :2010/02/17(水) 23:02:25 ID:EQ3WOOcI
お粗末さまでした。
分割投下いかがでしたでしょうか?
読み易かったならば、何よりですが、問題点もありそうですね。
なお、作中ではいわゆる、ご都合主義がありますw あくまでファンタジーですからw

で、自分の好きなように書くと、原作の雰囲気を損なってしまうのは分っているのですが
ついつい、自分設定を作ってしまう傾向があります。
本作によって気分を害された方がおられましたら、お詫びいたします。
また、ご支援・感想いただきました皆様、有難うございました。
131名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:04:29 ID:2S2f6y4O
GJ GJ GJ
ごちそうさまでした。
132名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:24:50 ID:znE/e/qu
>>130
GJ!
133名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:26:26 ID:znE/e/qu
>>130

GJ!!
134名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:36:27 ID:hUVP/DL1
>>130

GJ!
またお願いします!
135名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 03:59:25 ID:WuouhWHx
>>131
GJ!
もぅ、笑ったり泣いたり笑ったり、大変でした。
本当にイタリアに行った気分にもなれました。
お疲れ様でした。
136名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:30:55 ID:GIyocO2n
おはようございます。

ちょっと遅れましたが
能登「…女って…怖いよ…」王様ゲーム@
を投下します。

今回は3レスと短いですがお付き合い下さい。


137名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:31:30 ID:GIyocO2n
「よーし、第1回目の王様ゲーム始めるぞ!」
北村の掛け声と共にそれぞれが見えないように紙を引いていく。
「王様の命令は「「「ぜったーい!」」」せーの「「王様だーれだ?」」」
「おうっ…俺か…」
「おっ、最初は高須が王様か。じゃあ、他のみんなは番号を引いてくれ」
「…王様ゲームなんて初めてだし、何を言ったらいいかわかんねぇ…」
「高須くん、そんなに考えなくてもいいんだよ。女の子としてみたいこと言ってみたら?」
(そうすれば、ある程度思考がわかるしね)
奈々子がそう竜児に言うと、竜児は少し恥ずかしそうに俯き
「おう…じゃあ、男の1番と女の1番が…その、手を繋いでくれ…恋人繋ぎでな…」
「1番はオレだな。女子は…き、木原!?」
「の、能登なの?し、しょうがないね。ホラ、早く繋ぎなさいよ」
「よ、よろしくお願いします…」
ゴシゴシと手をズボンで擦り、おずおずと木原の手を握る能登。2人とも顔を真っ赤にし、俯いている
「よっ、ご両人!お似合いだねぇ」
「み、みのりん。わ、わたしも…ゴニョゴニョ」
茶化している実乃梨に大河が何かを言っている
「じゃあ、暫く2人はそのまま繋ぎながら参加と言うことで。よし、次行くぞ」


138名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:32:01 ID:GIyocO2n
「「王様だーれだ?」」
「亜美ちゃんでーす。さあて、どうしちゃおっかなぁ…」
と、意地悪そうに笑みを浮かべる亜美
「おいおい、亜美よ。まだ始めたばかりだから、お手柔らかに頼むぞ」
「しょ〜がねえな〜。じゃあ男の2番が胡座を掻いて、その上に女の4番が座るのはどうよ?」
「うむ、そのくらいならいい…って2番は俺か」
「わ、私が4番?」
「おっ、女子は逢坂か?遠慮なく座ってくれ」
「お、お、お邪魔します…」
大河は着ているフリフリのワンピースを揺らしながら、ゆっくり北村の胡座に座っていく
「逢坂は軽いな。それにいい匂いがするぞ」
「き、ききき…そそ、そそそ…」
「ははは、逢坂は可愛らしいな」
「か、かわいいなんて…」
北村の上でちっちゃい身体をさらにちっちゃくする大河
(((いいなぁ…)))
「さて、祐作とタイガーはそのままで次やっちゃおうか」
「「「王様だーれだ?」」」
「俺!春田、いっきま〜す」
と、元気よく手をあげる春田
「じゃあね〜男の3番が女の2番を後ろから抱き締めて、告っちゃう?」
「…おう!お、俺が3番だな…」
「…あっ、私が2番ね。高須くん、優しくしてね?」
「香椎か…悪いな、俺なんかで…」



139名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:36:00 ID:GIyocO2n
「ダメだよ高っちゃ〜ん。告るんだったら奈・々・子って呼ばなきゃ〜」
「そうなのか?」
「そうだよ〜」
春田の指摘に竜児は頷くと、ちょっと短めのシャツワンピを着ている奈々子にそっと後ろから抱き締めると
「じ、じゃあ…奈々子、愛してる」
(愛してるまで言わなくても…)
誰ともつかない呟きが聞こえた
「嬉しいよ、た…竜児くん。私も愛し「は、ハイハ〜イ。終了だよ〜!じゃ、次いってみよ〜」
「…実乃梨ちゃん。邪魔しないでよね」
「邪魔なんかしてないゼヨ〜」
竜児の告白?に奈々子が返事をしようとした所に、実乃梨のチャチャが入る
「…しょうがないわね。じゃあやろっか」
「「「王様だーれだ?」」」
「またまた俺っち〜誰が呼んだか春田マ〜ン」
「お次は告白ぱーと2でお姫様ダッコばあじょんだ〜男1番女4番ね〜」
「おう…また俺か…」
「あ、亜美ちゃん4番〜」
「今度は川嶋か…」
「高須く〜ん、亜美ちゃんって呼ばなきゃ…ダ・メ」
亜美はそう言いつつ竜児首に手を回す
「そうだったな…よっと。あ、亜美は意外に軽いな」
「意外ってどういうことよ?亜美ちゃんへこんじゃう」
「わ、悪い。…亜美そんな拗ねてる顔も可愛いな。愛してるぞ」
(やっば…これマジでいいかも…)
「…亜美ちゃん、そろそろ終わりだよ。早く降りて」
「…奈々子。自分が邪魔されたからって亜美ちゃんに当たるの酷くな〜い?」
「あら?そんなことないわよ。さ、次やりましょ」
…王様ゲームはどんどん混沌としていく…


140名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 08:39:38 ID:GIyocO2n
以上です。


次はとうとうエロシーンに突入していきますが、書いていて自分でも思った以上に混沌としてます(笑)


前に投下している98VM様と比べると駄文過ぎですが、最後までお付き合いいただけるとありがたいです。
141名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 19:40:26 ID:lG6MY4Mr
>>140
GJ!
142名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 22:14:14 ID:WWbFlhFQ
GJ
143名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 23:07:15 ID:2dnhm5Zm
GJ 期待。
144名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 01:02:10 ID:wN6cKNgh
楽しみだー!
145名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 01:49:37 ID:1Sgo6Bwj
誰も居ない事を祈る。

ちょっと過去スレ見てたら書きたくなった。
SSですらないから・・・すまん!
146スレ語り:2010/02/19(金) 01:50:07 ID:1Sgo6Bwj

多数の書き手と大多数の読み手を内包するこの「とらドラ」スレ。
過疎の波が押しては寄せるこのエロパロ&文章創作板において、小説、アニメ化、原作修了にゲーム化の時を経て尚活気を見せるスレッドである。
過去、そして現在において、保守のみやクレクレマダーのレスばかりが横行する数多のスレを尻目に、比較的頻繁にSSの投下が有り、スレ内の空気も比較的穏かであると言う、稀で奇特なスレッドであろう。
現在29皿目を迎え、そう遠くない日に30皿目に突入すると予想される今、このスレの歴史を紐解いてみようと思う。



2006年12月4日。
現在【田村くん】竹宮ゆゆこ ●皿目【とらドラ!】として愛着の有るこのスレは
[田村くん]竹宮ゆゆこ総合スレ[とらドラ]
と言う名でその産声を上げたのだった。


なかったので立ててみました。


歴史的第一声がソレだった。

スレッド発足時、このスレは竹宮ゆゆこ作「わたしたちの田村くん」の色が強く出ていた感は否めない。
とらドラをこよなく愛する諸氏にとっては馴染み無い。だが古参、言うなれば生粋のゆゆぽっ子からすればソレを避けては通れない「田村くん」への感謝と哀悼の念は、29皿目を迎えた今日に至るもスレタイの頭を陣取る所からも伺える所だ。

発足時、このスレに向けられた要望として先陣を切ったのは


4 :名無しさん@ピンキー:2006/12/04(月) 22:08:20 ID:PgmOW7mD
竜児と大河のラブラブモノも是非よろしく。


であった。
まさに主人公の竜児とヒロインの大河。その王道であり正道のカップリングへの要望であり原作では満足出来ない。否、原作を読んだが故に独自の妄想を膨らませてはちきれたい者の願望がココには在った。
しかし、中々にしてSSの投下は無く、小ネタや雑談を重ね、さらにはソレに数倍する「田村くん」話でページはしばし下へとスクロールする様相を呈したのは止むを得ない話では有る。

そしてスレを立ち上げた日から数日。
時に2006/12/10日曜日。G1レースの余韻も冷め止まぬ夕方。人気(?)お笑い番組笑点を横目にする16:51:07。
最後のとらドラ関連レスを過ぎる事30レス。SSと呼べる作の奇襲投下が成された。

それが「わたしたちの高須くん」である。
147スレ語り:2010/02/19(金) 01:50:28 ID:1Sgo6Bwj
歴史的なこの奇襲先制攻撃とされるこの空爆時「トラ・トラ・トラ!我、寄生に成功セリ」と手乗りタイガーからの暗号を放った事は有名な話である。

翌11日の夜。22:51:08の完結報告を持って投下を完了した「わたしたちの高須くん」は非エロでありタイトルから推察される様に「わたしたちの田村くん」を織り込んだ物であったが、その初の投下爆雷に関しては住人各所より賛美の声が寄せられた。


70 :名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 17:55:16 ID:xc5F2Gmh
竜児が恐ろしく可愛いと思った俺は負け組みか? ともあれGJ

82 :名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 23:22:27 ID:itQcE5qJ
ちょwww鮮血の結末www
大河のデレは想像できんかったが、亜美の包丁は容易に再生できたw

83 :名無しさん@ピンキー:2006/12/11(月) 23:38:40 ID:QtN5SKj5
これは>>80には、大河と亜美二人と肉体関係になって、
その後3Pで二人が仲良くなるエンディングも書いてもらわなければ。

86 :名無しさん@ピンキー:2006/12/12(火) 22:32:44 ID:pf45G4f9
スクールデイz    まぁGJ


田村くんの色濃いこの時期に有って、このゲリラ攻撃は成功を収めたと言って良いだろう。
あえてゲリラ攻撃と言わざるを得ないのはこの空爆に続く2本目の矢が、一月以上あと、2007年まで投下されなかった点だ。
間、確かに田村くん達はソコソコの賑わいを見せ、相も変わらぬ平和を満喫していたのだが、正月気分も抜け、成人式で羽目を外しまくって大いにリアル荒らしと化した若者達も落ち着きを取り戻した、1/19(金) 00:00。
遂に2本目の矢は放たれたのだった。

自らを初心者と名乗りタイトル判別では「252」「259」と続けたこの爆撃はスレ初の「みのりん遊撃隊」であった。
とらドラエロとみのりん効果。
このエロパロ板ならではエロと原作では寄り添う事が出来なかった櫛枝実乃梨と高須竜児のカップリングに周囲のざわめきもただ事ではなく。現在においてもしばしばお目実する。

  _  ∩
( ゚∀゚)彡 みのりん!みのりん!
 ⊂彡

の初登場もこの時期である。
しかしこのSSが「みのりんSS」の先陣を切ったと同様に、「未完SS」の先陣を切ったらしい事もまた歴史の裏側を垣間見る結果となってしまう。
後の世に伝わる「259事件」がコレである。

148スレ語り:2010/02/19(金) 01:51:37 ID:1Sgo6Bwj
だがこの未完はそれほどの騒ぎに成ることは無い。この段階では依然として「田村くん」支持層が体勢を占めており、また時を空けずして小ネタと称した「竜児と大河の王道モノが投下され、皆の心にもゆとりが生まれていた。

スレ内で田村くんが松澤をイカしてしまっている間にもとらドラもまた着実に勢力を伸ばしつつあった。
事、ココに至り、現状に見られるスレの特徴がその片鱗を見せたのもこの時期であった。
このスレが他スレに比べて比較的女性の住人が多いのでは無いか?と言う発言はしばしば見受けられたところでは有るが、この2007年の2月末日。自ら「女」を名乗る書き手が
「ヒマなんで女だけどSS考えてみる。」と名乗りを上げた。女性記(議)員の性(政)界進出がコレで在る。
竹宮ゆゆぽが女性である事から


373 :名無しさん@ピンキー:2007/02/28(水) 23:07:58 ID:tSqbeMdH
女流SS作家とは貴ty
……ゆゆぽか! 貴様がゆゆぽか! たらスパをたーんと喰らわせてやる!


など、この時期「スパ」がスレ内を乱れ飛ぶ要因と成った。
この3月1日より爆撃が開始されたSS「夏休みの境界線」はその2日の戦闘行為により完全なる勝利を獲得した。
投下終了の焼け野原にあって尚、続の爆撃を望む声も出ていた。


399 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 01:50:12 ID:S1E6SbwF
GJ………待て、オイ待て、いやさ待ってください。
ここで終わりなのか? な、生殺し! 生殺しなのか!!
邪神じゃ、このスレッドに邪神がいらっしゃるぞ!!
これじゃあwktkしてるしかないじゃないか!!

400 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 04:09:39 ID:DQC1sSAf
wktkするなぁぁぁぁぁっ! >>399―――――――ッ! 全ては邪神の謀略だっ!

401 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 07:57:05 ID:6sNNHlFW
>>398
全裸で正座しながらたらスパをファックしつつ続きを所望しますよGJ

402 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 09:49:59 ID:enkirMA1
>>398
GJ、続きを所望します。
支払いはたらスパ+からあげで

403 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 20:35:09 ID:lhkqcS5R
今なら手数料としてチューブの内側についたたらこまで絞り出してあげようではないか

404 :名無しさん@ピンキー:2007/03/03(土) 22:22:41 ID:pT39DTzS
みんな>>398を「ゆゆぽ体型」にしようとしてるだろ。

405 :名無しさん@ピンキー:2007/03/04(日) 02:16:41 ID:maYEyluj
職人待ちアゲ

406 :名無しさん@ピンキー:2007/03/06(火) 01:39:16 ID:+L29cHxx
>>400

⇒wktkする
 wktkしない


など種々様々なwktk論者が出没する事態となったのは戦後の被災地の混乱振りを想像するに難くない。

149スレ語り:2010/02/19(金) 01:52:11 ID:1Sgo6Bwj
竜虎設定の流が完成しつつあった。まさに時流に乗り登場したのが「よめトラ」であった。
まさに嫁虎を読めどら?と言った感である。
およそこのスレタイに恥じ入る事のない。正攻法、真正面からの波状攻撃は3連夜に及び、そのほのぼのの中のエロに打ちのめされた者達はその勇士に拍手を送った。


500 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 01:45:06 ID:EC01xD6F

ほのぼのしてていいな。

501 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 02:34:18 ID:iz5IMoMY
GJ
また次回作もwktkしながら待ってるぜ

502 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 03:21:15 ID:lKjzuU/8
狂おしいほどにGJ
大河スキーの俺には最後の「エヘヘ 竜児」は破壊力が強すぎたぜ

503 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 03:26:21 ID:E81Q5H8l
いやいやそう謙遜せんでも。
ちゃんと「竜児」と「大河」がエロしてるって感じで実に良かった。
願わくば実乃梨編をwktkして待つぜ。

504 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 07:56:37 ID:YJDaD4mX
た、たいがあああああああああ

505 :名無しさん@ピンキー:2007/03/28(水) 12:38:18 ID:DMWGMpk9
GJ
最後の一言でKOされますた。


3夜に渡る声はこの比では無いのだが、ココでそれらをあげつらうのは止めにしよう。
だがココで驚くべき事態が発生していった。
時勢に乗り「とらドラ民族」が市民権を獲得してくるに比例して、スレ内でのレスもまたとらドラをネタにするモノが増えだした。
しかし皆のネタやアイデアを小出しにレスするも「よめトラ」以降のSSが投下されず、また自分達の希望と願望、そして満たされぬ欲求があるレスを引き出す事となった。
150スレ語り:2010/02/19(金) 01:52:39 ID:1Sgo6Bwj
570 :名無しさん@ピンキー:2007/04/15(日) 20:05:53 ID:kUFNmlLi
いっそのこと、大河がヤンデレ化すればいいんだ。
虚ろな目をして可愛く微笑んで、全身返り血を浴びて。
喉元を喰いちぎられたばかちーとみのりんの骸を両手に掴んで。

大河「エヘヘ、竜児・・・」
竜児「や、やめろ、来るな・・・・」
大河「もうみのりんもばかちーも動かないよ。私が潰したから。だから、私だけを見て?
   私だけを好きになって?ね、りゅうじ?」
竜児「う、うわああああああああああああ!」


・・・・ココに「アル大河(カイダ)」の発足は成った。
そして遂にこのスレに後世に語り継がれる作品がその産声を上げる事と成る。

「やんドラ!」

その凄まじいまでの病みであり闇の描写は、恐い、けど読みたいと言う、読み手を恐怖と混乱に陥れるモノと成った。
スレ半ば、570レスから始まったこの流は全体をして以降の大半を占め、まさに18禁を色々な意味で痛感してゆく事態となるのである。
またその勢いは他へも波及し、近親相姦、レイプなどまさに病み具合を深めていった。
スレ終盤ではインコちゃんまで犠牲になった事を考えるに、皆が皆、何かに追われるかの様に突き進んでいったのだった。
これが「第3帝国ヒ虎ーのゆとり人虐殺」である。

そんな暗黒時代にあって緋炎さんが書いた「あおいタオル」とはまさに一服の清涼剤。
竜児&実乃梨を取り入れ、闇の中に在ってもエロを忘れなかったかの作を「あおいフランクの日記」と語り継ごうとした現地住民を私は批判する事は無いだろう。

現在においては想像も出来ないであろう、このスレをして1000レス。そしてそれに要した時間およそ半年。
その間際に落とされた埋めネタがインコちゃん惨殺のお知らせで在った事を残念に思っては成らない。
何故ならばその歴史の上に立つ事によって、今、我々が立つ29皿目が存在する事もまた事実なのだから。

だが私はあえてココに一つのレスに賞賛を贈ろう。
2008年10月にアニメ化されたとらドラを見た私がこのレスを見た感動は忘れない。


1000 :名無しさん@ピンキー:2007/06/02(土) 20:31:59 ID:4BGeoa6w
1000なら
竜児=植田佳奈  大河=田村ゆかり
みのりん=堀江由衣  ばかちー=浅野真澄
北村=小野大輔  独身=水谷優子でとらドラアニメ化決定


・・・・もう櫛枝実乃梨は君の嫁でも良いだろう。


こうして、とらドラのスレはその1ページ目に幕を下ろし、更なる新天地へとその歩を進めて行ったのだった。

151スレ語り:2010/02/19(金) 01:53:07 ID:1Sgo6Bwj
え〜・・・・数万年ROMります。
失礼しました
152名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 02:11:32 ID:GTe+MN0q
>140

乙。このあと、亜美ちゃんと奈々子様を交えた3Pに突入するんですね!?そうですか。
ごちそうさまです。

……そろそろ奈々子様分を補充したいこの頃
153名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 02:45:08 ID:wyXFxI3n
>>151 <br> ちょっと久々にまとめ読み返したくなったww
154174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:33:09 ID:FqxSh17Q
やっちゃんSS投下

「お見合い!」
155174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:34:07 ID:FqxSh17Q

ある休日の昼前。
絶好の洗濯日和ないい陽気にも関わらず、日照権を侵害しているとしか思えない隣のマンションが建ってからというもの、
我が家の洗濯物はすこぶる乾きが悪い。
おかげで昼飯の支度もしなけりゃいけない時間だってのに、少しでも多くの洗濯物を太陽の恵みに当てようと試行錯誤していて、
未だに洗濯物を干しきることができないでいる。
飯の時間が遅れたら、遅れた分だけ腹を空かせた大河の機嫌が悪くなるっていうのに。
気まぐれな空模様と、頼りにならない天気予報のせいで溜め込まざるをえなかったのが恨めしい。
そんな時に限ってシルクだのコットンだの、面倒な衣類を出してくる大河は泰子と暢気にテレビを見ているだけで手伝う素振りすら見せない。
いつものこととは言え、少しは手伝ってくれてもいいんじゃないのかとも思うが、どこでドジるか気になって他の仕事が手につかなくなりそうだし、
その後の後始末に追われるくらいなら、今みたく大人しくしていてくれた方がまだ楽だ。
精神的な意味で。
 
(・・・ちゃっちゃと終わらして飯作ろう・・・今日はなにを・・・ああ、そうだ。飯が済んだら久々にインコちゃんのカゴでも掃除してあげよう)

頭の中で献立を作りながら、その傍らで空いた時間の使い方を考える。
そんな、なんてことない休日のはずだった。
だが、また一枚洗濯物をカゴから取り出したと同時に窓越しに大河の馬鹿でかい声が、

「お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?」

ビリィィィィッ!

聞こえた瞬間、シワを伸ばそうと引っ張っていた大河のシャツを引き千切っていた。



「見合い!」



お見合い・・・週末になると、担任が意気揚々と繰り出す───週明けの荒れっぷりを見れば、結果は概ね分かったけど───あれのことか?
まぁ、それしかないよな。
お見合いっていったら、普通は独身の男女が結婚相手を探すためにするあれのことだろう。
最近は婚活って言い方もされていて、ブームに乗ろうと月9でドラマもやってたし、そんなのは分かってる。
そうじゃなくて、誰がその見合いをするって?
泰子が? 嘘だろ。
何かの聞き間違いだろう。
聞き間違いに決まってるのに、大河の服を引き裂いちまうほど動揺するなんて俺もどうかしてる。
破いてしまったシャツを極力大河に見られないようにしながらカゴに戻して、別の衣類を手に取るついでに居間の方に目を向けてみると、
泰子はテーブルに頬杖をつきながら大河とクッチャベっている。
パッと見はいつもの泰子だ。
おかしなところも、変わったところもない。

(・・・やっぱりさっきのは俺の聞き間違いかなんかか・・・あぁバカバカしい、つかどうすんだよこのシャツ・・・今夜中に全力で縫おう)

だが、フッと俺の気が抜けたところを狙いすましたようにそれは耳に届いた。

「うん。どうしてもって言われちゃってぇ、じゃあ、そこまで言うならいいですよ〜って」

窓越しに俺が見ていることにも気付かずに、特に困った風でもなく、泰子は至って普通に言ってのけた。
暫しの間呆然としていると、なんだか妙な手触りを感じる。
見れば、今度は滅多に洗いに出てこない、大河のお気に入りのワンピースを真ん中から引き千切っていた。

「・・・・・・・・・」
156174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:35:13 ID:FqxSh17Q

どうやら、聞き間違いでも空耳でも幻聴でもないらしい。
泰子が見合いをするようだ。
それもわりと乗り気で・・・泰子自身はちゃんと分かってるのだろうか。
見合いをするってことは、結婚するかもしれないってことだろ。
そのために見合いをするんだから、可能性は0じゃない。

ビィィィィィィイッ!!

結婚か・・・泰子が結婚? ダメだ、全く想像できない。
飲み屋のママなんて仕事をそれなりに長くやっているのに、今までそういう「浮いた話」みたいなものを泰子から聞いたことも、
そんな空気を感じたなんてこともなかった。
それに言っちゃあなんだが、こんな女を誰が嫁に欲しがるんだとも思っていた。
飯は作れないことはないにしろ、何をするにしてもトロいし、掃除をすれば余計に散らかすし、
洗濯をしたらどういうわけだか服を全部脱色させちまったこともある。
俺が自炊を始める前は、コンビニが無くなったら餓死するような食生活だった時期もある。

ブチンブチブチブチ・・・

なにより二言目には「竜ちゃん、あれやって〜」や、「これお願いね、竜ちゃん」という、ズボラな面を見てきたせいもあるのかもしれない。
とにかく子供っぽくて、家事能力が低くて、母親らしさが見当たらない、「良妻賢母」なんて言葉を祖母ちゃんの腹の中に置いてきたような
そんな泰子が見合いなんて、にわかには信じられない。
ましてや結婚を?

ギギギ・・・ギィ・・・ブチィンッ!

だけど、落ち着いて考えてみれば、在りえない話でもないのかもしれない。

(・・・・・・大河にどう言おう、これ)

カゴ一杯にあった洗濯物がボロ切れの山と化した頃、ようやく冷静になった頭がその考えに至る。

息子の俺が言うのもなんだが、泰子だってまだ若い。
俺が成人しても三十半ばだ。
適齢期は大幅に過ぎてはいるが、手遅れってこともないだろう。
婚活に燃える誰かは、三十歳以降はグンと勝率が落ちるとそれはそれは悲観していたが、そんなのは人それぞれだと思う。
今の時代、三十前半なら結婚を考えるのに遅すぎるような歳でもないし、見た目なんて実年齢より更に若く見える。
どのくらい若いかっていうと・・・まだ高校に上がる前、泰子に連れてかれた映画館でこんなことがあった。
──────***──────
『なぁ、本当にあれ観るのか』
『だめぇ?』
『まぁ、なんでもいいけどよ・・・えっと、『僕は母に恋をする』のチケット二枚で。一枚は学わ』
『はい、当館では本日カップルデイ割引を実地しておりまして、そちらの方がお得になっておりますが』
『いや、俺まだ中が』
『じゃあカップル割で。はいお金』
『あっおい泰子、ちょっと待って』
『ほらぁ竜ちゃん早く行こ行こ、もう始まっちゃう』
──────***──────
たまたまやっていたカップルデイ割引だかをすんなり通れた。
泰子はわざわざ腕まで組んできたが、始めからその必要もなかったほどすんなりと。
いくら見た目が若いっていったって、歳の差が十五はあった俺と並んでも周りに何の違和感も与えなかったくらいだから、
相当なアンチエイジングっぷりだ。
実際は親子だっていうのに、傍目には完全にそう見られてたんだろうな。
鑑賞料金を安く済ますことができたから何も言えなかったけど。
ちなみにあの時一番ショックだったのは、受付の奴にいくら自分が中学生だって言っても信じてもらえなかったことよりも、
観終わった後になってから、その映画がR指定されていたことに気付いた事だった。
思春期という多感な時期に、母親と一緒に濡れ場だらけの映画を観るというのは拷問と言って差し支えないんじゃないのか?
それも妙に境遇に共感できるような設定が目に付いた映画だった。
親一人子一人の母子家庭とか、水商売で生計を立てる歳若い母親と、母親に代わって家庭を切り盛りする息子とか、
その息子は生まれる前に母親を捨てて蒸発した父親の面影を色濃く残していたりとか。
157174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:37:14 ID:FqxSh17Q
そこまでは、まぁありきたりの一言で済むが、そこから先が禁断の世界にまっしぐらで・・・掻い摘んで言うと、親子関係を超えて行く所まで行っていた。
結末では新しい命まで授かっていて、今思い出しても恥ずかしさと、それ以上にやるせなさが胸に淀んでいる気がする。
そういう映画だってあらかじめ知っていたら、頼まれたって観には行かなかった。
原作は少女マンガだそうだが、あんなに過激なもんを大河や櫛枝も見てるのだろうか。
川嶋辺りは、鼻で笑いながら顔色一つ変えずに読んでいそうだけど。
・・・泰子も読んでたのか? ・・・もしそうなら、内容を知っていて、どういうつもりで俺を連れてあの映画を観に行ったんだろう。
知りたい気もするが、知ったら知ったで後悔しそうな気がする。
当時もそのことが頭の中でグルグル回っていて、居心地の悪さと相まって、帰り道では俺は終始無言だった。
気を遣ってくれたのか、泰子から手を握ってきたのが少しは救われたけど。

「・・・・・・・・・」

顔だって悪くはない・・・と、思う。
照れや贔屓目を抜きにしても、客観的に見ても。
目つきを始め親父にばっかり似てしまったとはいえ、俺が泰子から生まれたとは思えないほど顔の作りはいい。
その上見た目の若々しさと露出の激しい服のせいで、驚くほど男にウケがいい。
授業参観の度に切り取ったように変わらない若さで他の奥様方の輪から浮く泰子の異様さに驚かされる。
他の父母はキチンと老いていくのに、泰子だけは流れに逆らいながら泳ぐ鮭みたいに、老化という自然現象に反逆している気がしてならない。
それだけに留まらず、元々の顔だって悪くないものだから、
参観日は厚化粧と振りすぎな香水で武装してきた他の参観者が嫉妬と羨望の嘆息を漏らしまくるのが常だ。
クラス替えがあると、俺の家族だと分かるまでは「姉ちゃん連れてきた奴誰だよ? 金払うから紹介してくれ」という具合に、
男子が沸き立つのも恒例だった。
中には俺の家族だって知っていても泰子に話しかける奴もいた。
父兄や教師でさえもだ。
当然ながら軽くあしらわれていたけど。
単純な話、泰子はモテる。
この間も、毘沙門天国の買出しに付き合った先でこんなことがあった。
──────***──────
『・・・なにしてんだ?』
『あっ、竜ちゃ〜ん! この人たちがね、しつこくってぇ』
『んだテメ・・・ぇ・・・た、たたた、高須さん!? その人高須さんの彼女だったんスか!?』
『はぁ? ・・・何があったんだよ』
『そこでね、いいお店知ってるからって声かけられて・・・もう、やっちゃん子供がいるって言ってるのにぃ・・・』
『えぇっ!? 子供って・・・高須さん、その歳で・・・お、奥さん美人っスね』
『・・・・・・なんでもいいけど、用は済んだんだろ。もう帰るぞ』
『うん。ねぇねぇ、さっきの人、やっちゃんのこと奥さんだって。竜ちゃんの奥さん・・・あ、待ってぇあ・な・た』
──────***──────
向こうは俺を知っていたみたいだけど、こっちからは一切知らない男達からナンパされていた。
俺が知ってるだけでもそんな事があったのは一度や二度じゃないし、モロにお水な格好をしていない時でもそれなりに声をかけられるらしい。
俺が一緒の時はまだしも、一人で歩いている時はどうしているのか聞いたら、ケータイの待ち受け画面を見せているそうだ。
前に見せてもらったことがあるが、納得したと同時に少しげんなりとした。
俺と一緒に写っている写メを待ち受けにしていたら、誰だって泰子に手は出さないだろう。
おかげで待ち受けを別の画像にしろとも言えず、こっちとしてはかなり複雑だが。

「・・・・・・・・・」

結婚願望だって、「あの」担任の「それ」に比べたら小指の先程かもしれないが、人並みにはあったらしい。
以前自分で買ったのか、誰かから借りてきたのかは定かではないが、
大河がうちに持ち込んだ雑誌の中から見つけたブライダル情報誌を熱心に読んでいたこともあったりした。
──────***──────
『はぁー・・・いいなぁ・・・ねぇねぇ竜ちゃん、これってけっこうよくない? やっちゃん似合うかもって思うんだけど』
『いつものドレスよりはいいんじゃないか。ケバくも際どくもないし、裾が長すぎて接客には向かないだろうけどな』
『ウェディングドレスでお店に出たら、結婚してーってお客さんたちから言われそうでやだなぁ・・・稲毛さんとか本気でしつこそう』
『・・・そんなの、やっぱり着てみたかったりするのか』
『ん? ん〜・・・うん・・・着てみたかったりするなぁ、今でも』
──────***──────
あの時、少し寂しそうだった泰子の横顔を見た時は、胸が痛んだ。
158174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:39:27 ID:FqxSh17Q
俺さえいなければ、ひょっとしたら親父よりも真っ当な誰かと結婚した泰子が、祖父ちゃん達から反対もされず、周りからも祝福されて、
雑誌の中で微笑むモデルみたいに綺麗なドレスに身を包んで、本当に、幸せになれたんじゃないか・・・そんな考えが頭を過ぎった。
だけど、
──────***──────
『でも、ドレスだけ着ても嬉しくないなぁ・・・やっぱり旦那さまがいなくっちゃ・・・いつも傍にいてくれる、素敵な旦那さまが・・・』
『・・・それなら、なおさら・・・』
『だからね、ドレスなんか着れなくっても、もうやっちゃんは幸せなんだよ』
──────***──────
言いたいことはよく分からなかったが、伝わってくるものだって確かにあった。
寂しそうに見えた顔に、いつの間にか照れ笑いを浮かべていた泰子が何を考えてあんなことを言ったのかは俺には分からないままだけど、
不思議とその一言で、胸の痛みが引いていくのを感じた。
・・・まぁ、そうは言っていてもあの日から泰子の中の何かに火が点いたらしく、事ある毎にそういう類の雑誌やテレビを観ては、
大河とキャーキャー盛り上がっている姿を頻繁に見るようになった。
それと同じくらい、火花が飛んでるんじゃないかと思うほど睨み合う姿を見ることも多かったが・・・趣味の違いか何かか?
とにかく人並みだったはずの泰子の結婚願望は、いつしか相当な物にまで膨らんでしまったらしい。
『あのブランドの新作でね』や『あのデザイナーのなんだけど』という前置きの後、見せてくるドレスの感想を求められることもしばしばあり、
布地や繕い方について意見を述べたらおもいっきり場が白けたこともある。
それからは当たり障りのないことしか言った覚えがない。
女っていうのはいくつになってもああいう話をしょっちゅうしていて飽きないのかと、何が良いのか全く俺には理解できなかったが、
後日、古紙回収に出した古雑誌の中に、大河が持ってきたブライダル情報誌も混じっていたのもそれに拍車をかけた。
何故か持ち主の大河は元より、泰子もかなり落ち込んでしまったからだ。
訳を聞くと、相当思い入れがあったドレスが載っていたらしい。
大河も似たようなことを言っていた。
そんなことでそんなに気を落とすのかと言ったら、
──────***──────
『『 だって、竜ちゃん(竜児)が・・・ 』』
『俺? ・・・俺、何か言ったっけ』
『覚えてなぁい? ほら、あのページのドレスがね、やっちゃんに似合うってぇ』
『ちょっとやっちゃん? あれはね、私に似合うって竜児が』
『え〜、そかなぁ、大河ちゃんには似合わないと思うけどなぁ。ほら、胸元なんてスカスカになっちゃうしぃ』
『そんなのどうとでもなるもん。でもやっちゃんにはドレスなんて・・・ああ、イブニングの方なら要るわよね。式には必要だし』
──────***──────
それを合図にするように言い合いを始めてしまい、どんどんヒートアップしていって、終いには二人とも涙目になっていたが、
それでも「どっちが似合っているか」を譲らなかった。
埒が明かなかったから、街中の本屋を駆けずり回って捨ててしまった雑誌と同じ物を探して買ってきた。
二冊もだ。
一冊は大河に、もう一冊は泰子にやった。
生活費から出すわけにもいかないから一冊千円を軽く超える本を自腹で、しかも二冊もというのはさすがに懐が痛んだが、
あんな胃が痛みを訴えてくるような空気を後々まで引きずられたらこっちが堪ったもんじゃない。
泰子も大河も、聞いてるこっちが耳を塞ぎたくなるような、誰のどこの部分とは言わないが「ぺったんこ」だの「たれ」だのと、
色々と危ないことを大声で口にしていた。
いつ取っ組み合いになるかって、こっちとしては気が気じゃなかったほどだ。
幸いにも、その後や今の様子を見る限りだと、お互い特に気にしてはいないらしいが。

───ともかく

結婚するのに遅いわけでもなく

好印象を与えられるような容姿をしていて

本人にも多少なりともその気があるんなら

だったら、見合いくらいしたって───

「・・・・・・・・・」

見合いをしただけで即結婚なんて事態にはならないだろうが、それで上手いこと話が決まったとしても、何も悪いことなんかないだろ。
今まで働き通しで、ろくに休みも取れなかった泰子もようやく落ち着いて暮らせるんなら、それは良い事だと思う。
それに老後って言ったら随分先の話に聞こえるけど、誰かが泰子の面倒を見ないといけない時が来たら・・・
159174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:41:50 ID:FqxSh17Q
今はまだ俺がいるからいい。
別段嫌ってわけじゃないし、基本的には今も大して変わらない。
だが、先の事を考えるとどうしても心配になる。
・・・前にも一度、泰子とそんな話をしたことがあった。
あの時は、
──────***──────
『・・・今日はエイプリルフールじゃないよぉ。どうしてそんなつまんない嘘吐くの、変な竜ちゃん』
『どうしてって、俺だっていつかはこの家から離れなくちゃならないかもしれないだろ』
『・・・嘘でもそんなこと言うのやめようよ・・・竜ちゃん、いなくなったりしないもん。そんな嘘にやっちゃん騙されてあげないんだからね?』
『嘘じゃなくて・・・お、おい・・・や、泰子? おいって、なぁ』
『嘘じゃ・・・ない・・・? ふぐっ・・・りゅうっちゃ・・・ひっ・・・いなく・・・やだぁ〜〜〜〜・・・なんで? ねぇなんでぇ?』
『な、泣くなって!? なにも今すぐにってんじゃなくて、もしかしたらそういう事もあるかもしれないっていう話をだな』
『やっちゃんなんにも悪いことしてないのにぃ・・・ひっぐ・・・なんでそんな酷い嘘言ったりするのっ! 竜ちゃんのばかああぁぁぁ・・・』
──────***──────
・・・ビービー泣く泰子を宥めるのに一晩中かかったんだった。
喚き散らすわ、手近にある物を手当たり次第に投げつけてくるわ。
投げる物がなくなったからって、インコちゃんのカゴに手をかけた時は冷や汗が出た。
インコちゃんも、滅多にない命の危機に瀕したせいか、「へ! へ! Help me 〜〜!!」なんて気味が悪いくらい流暢に鳴きながら盛大に泣いてたし。
さすがにシャレじゃ済まなくなってきたんで取り押さえようとしたら、どこにそんな力があったのか逆に床に押さえつけられた。
ハッキリとは聞き取れなかったが、抜け出そうともがく俺の上に乗っかって「・・・そうだ、いっそ・・・とか切っちゃえば・・・」と・・・
続いて「そうすればぁ、竜ちゃんももうどこにも・・・やっちゃんがいなくちゃトイレだって・・・自宅介護ってお金貰えるんだっけ・・・」
とか、不穏な事をブツブツ呟く泰子に、寒気を通り越して戦慄した。
虚ろな顔、いつもはのほほんと垂れていた目が半分以上据わっていたのも、泰子が本気だと思わせるに十分な迫力を持っていて、
正直生きた心地がしなかった。
情けない話だが、俺が上げた悲鳴を聞きつけて、文字通り自分の部屋からうちのベランダまで飛んできた大河が来てくれなかったら、
今頃どうなっていたか分からない。
何を勘違いしたのか、俺に覆い被さる泰子を見て顔を真っ赤にした大河に事情を説明するのはかなり骨が折れたけど、
あの危険な状況をぶっ壊してくれたのには心から感謝してる。
大河の乱入がなかったら、まさかとは思うが・・・やめとこう、俺を介護する泰子なんて想像するだけで恐ろしい。
俺が介護されるに至る経緯なんてもっと考えたくない。
それからもしばらくの間、しきりに泰子は「竜ちゃん、いなくなったり・・・しないよね・・・?」と・・・
その度に「だって『一生ここに置いてくれ』って、竜ちゃん言ってたもんね。やっちゃんずぅっと覚えてるよ」なんて、
自問自答に一喜一憂していた。
一々念書まで見せてきた事もある。
親父の影響か知らないが、血判なんてものドコで覚えてきたんだ。
ケータイのムービー機能で録画した『一生〜』の件を、毘沙門天国に来る客に頼んでDVDに焼いてきやがった時はさすがに目の前で叩き割った。
だが、荒い息をつきながら胸を撫で下ろす俺を前に珍しく不適に笑った泰子は、バッグからこれ見よがしに今叩き割った物とそっくりなDVDをチラつかせた。
呆然としている俺に、「まだまだた〜くさんあるから、欲しかったら言ってね、竜ちゃん」って微笑んでいた泰子に思い知らされた。
俺は生涯この家から独り立ちすることはないだろう、と。
自分の首に輪っかが嵌められた音まで聞こえた気がした。
常軌を逸した考え方といい、やり口のエゲツなさといい、あまりにも普段の泰子からかけ離れすぎている。
言い換えれば、一人になるのがそれほど我慢ならなかったのかもしれないが。
それならなおのこと、やっぱり必要になるんだろうな。
俺でも大河でもない、ちゃんとした人っていうのが、泰子には。

「それでねぇ、あれ、竜ちゃん? もうお洗濯終わったの?」

「どうしたのよ竜児、そんな思いつめた顔して。なんかあったの」

ガラリと、閉じたままだった窓を開けると、居間へと入って泰子の目の前で止まる。
洗濯を中断して自分を見下ろす俺を、不思議そうに見上げる大河と泰子。
目が合うと、込み上げてくる物で胸が詰まる。
160174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:43:41 ID:FqxSh17Q
このまま何もしないで、何事もなく平穏なままでいたいと、首をもたげた弱気が囁く。
でも言わなきゃならないことがあって、なにを言えばいいかも分かってる。
考えるまでもないんだ。
たった一言でいい。
がんばれよって背中を押してやれ。
それができるのは俺だけで、してやんなくちゃいけないのも俺だけなんだから。

「・・・泰子」

小さくした深呼吸。
狭まっていく咽喉が呼吸を邪魔して痛いくらいだ。
しかし、それでも裏返りそうになる声をできるだけ低く、太くし、泰子に声をかける。

「うん」

小さくなったって、そう思う。
いつしか抜いた背も、大河ほどじゃないにしろ華奢な線も。
こんな小さな体でずっとムリしてきたんだ
幸せを願うなら、泰子に言うべきことは一つだろ。
俺はしっかりと泰子を見据え、痺れが走る口を開いた。

「断れよ」

肺から押し出すように吐露したそれは、考えていた事と間逆の言葉だった。

「ふぇー・・・なぁにそれ? 竜ちゃん、ほんとにどうしたの?」

いきなりのことに泰子が途惑っているが、それ以上に俺自身戸惑っていた。
そうじゃねぇだろ、断るように勧めてどうすんだ。
幸せを願うんだろうが。
だったら今すぐ訂正しろと、弱気とはまた違う何かが耳元で喚きたてる。
だが、ひとたび口にしてしまうと自分でも止めようがなかった。
ヤケクソに似た感情と勢いに任せて、俺は更に語調を強める。

「断れって言ったんだ。見合いなんてするなよ」

「お見合いって・・・あぁ、さっきのこと? ・・・だけど、もう相手の人とも約束しちゃっててぇ」

相手っていうのは、まさか見合い相手のことを言ってるのか?
よもやそんな所まで話が進んでいたのか。
俺に一言の相談も無しに。
冗談じゃねえ。

「関係ねぇよ、とにかく絶対断れ。なにを言われても断れ、必ずだ。しつこく言われるようなら俺から言ってやる」

文化祭の時みたいに前髪を上げて、サングラスでもして行けば十分だろう。
こっちの準備はその程度で済む。
なんなら大河から木刀を借りて持って行ったって、俺は一向に構わない。

むしろ持っていく。
使ったりはしない、ただ持ってるだけだ・・・多分な、多分。

それでも相手が諦めないようだったら、力の限り睨んでやればいい。
ある意味そっちの方が効果がある気がする。
自慢じゃないが、泰子に大河、学校でも極一部の連中を除けば、俺から目を逸らす人間は初対面で九割を超える。
逃げ出す奴だって相当数いるから、木刀なんかをチラつかせて脅すよりも手っ取り早そうだ。
そもそも、俺と目を合わせてもいられないような奴を家族に迎え入れるつもりなんかさらさら無い。
161174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:44:56 ID:FqxSh17Q
泰子の上っ面と体目当てに、あの隙だらけな性格に付け入るような奴なんてもっとお断りだ。
どうせそんな奴、泰子が子持ちだって言ったら同情混じりに「それでもいい、君の子供なら僕の子も同然さ」なんて甘い言葉でもかけて、
いざ俺が顔を出せば泡食って逃げ出すに決まってる。
期待させるだけさせておいて、ちょっとでも気に入らなかったら「今回はご縁がありませんでした」って言い残して・・・
それで傷つく泰子のことも放り出して・・・
──────***──────
『どぉおして私ぶぁ〜っかり即日お断りされんのよぉ・・・あのマザコン、見る目ないんじゃねぇ!? なんか童貞くさかったしぃ・・・
 つかいい歳ぶっこいて、見合いの席でアニメの話してんじゃねぇってぇ! そんなんだから童貞臭出てるんですぅ! 未だに独身なんですぅ!
 職業聞かれたから普通に教師っつったら『宇宙人ですか?』って、もう先生ついてけまっせ〜ん!! アーッハハハハハ・・・ハハ・・・・・・結婚してぇ・・・』
──────***──────
不意に、最早見慣れた担任の咽び嘆く姿が目に浮かんだ。
教室に入ってくるなり、暗黒物質でも生み出さんばかりの暗い何かを口から吐き出すと、その場に泣きながら崩れ落ちる先生。
頭の中で、その姿が自然と泰子のそれに重なる。

だめだ、絶対にだめだ。
見合いなんか絶対に許さん。
一体全体誰の許可取って見合いなんてもんやるってんだ、ちゃんと俺の許可取ったのか。
取ってねぇだろ? ふざけんな。

「う〜ん、でもぉ・・・やっぱり悪くないかなぁ、急に断ったりしたら・・・」

だが、いくら俺がまだ見ぬ見合い相手への効果的な対処や、泰子に訪れるかもしれない悲劇を回避させようと考えていても、
肝心の泰子は相手に気を遣ってるようで中々煮え切らない。
焦れったい、メチャクチャ焦れったい。
俺の知らない、それも親父になるかもしれない奴相手に気を遣う泰子を見てると、自分でも信じられないくらい苛々してきた。

「あぁ、ったく・・・! 気に入らねぇんだよ! どうして見合いなんかすんだ、今の暮らしに不満でもあるってのかよ!?
 それとも、俺が泰子一人の面倒も見れないって思ってんのか!?」

子供の癇癪とか、ワガママとか、それと同じ類のものだっていう自覚はあった。
分かってもらえないからっていう自己中心的な理由で当り散らして、そんなことしたって情けないだけだって頭では分かってるのに、
それでも言わずにいられなかったのは、俺もまだ子供なんだろう。
日頃から泰子のことを子供っぽいとか言っていたが、これじゃあもう人のことをどうこう言えないな。

「・・・え〜っと・・・竜児? ちょっといい?」

ふと、それまで黙っていた大河が突然横槍を入れてきた。
そういえば熱くなっていて忘れていたが、今この場には大河もいたんだった。
できれば、あまりこういう場面を見せたくはないな。

「・・・悪い、大河、少し外しててくれないか。俺は今泰子と」

「ねぇ、竜ちゃん」

言いつつ、大河に向き直ろうとする前に、今度は泰子が口を開いた。

「竜ちゃんはある? 今の暮らしに不満とか、やなこととか・・・竜ちゃんは、ある?」

無いと言えば、それは嘘になる。
もっと野菜室の広い冷蔵庫があればいいとか、いい加減くたびれてきた二層式の洗濯機をどうにかしたいとか、
通販に出ていた強力な洗剤も欲しいとか、あの狭っ苦しくて仕方ない浴槽もそうだ。
言ってしまえば、貸家から一軒家に、とか。
生活していれば、不満なんてゴロゴロ出てくる。
だけど、

「ねぇよ、不満なんて。俺は今のままでだって十分満足してる。泰子がいて、大河がいて、インコちゃんがいて・・・
 そりゃ、生活は苦しいときだってあるけど、でも、俺は今のままがいいんだ・・・泰子は、それじゃダメなのか?」
162174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:46:05 ID:FqxSh17Q
そんなちっぽけな不満よりも、もっと気に入らない事がある。
質問に質問で返してきた泰子に、俺は今の本心を伝えると共に、そうであってくれと願いながら同意を求めた。
すると何故か泰子は満足気に微笑み、今の言葉を反芻するように二度、三度と頷く。

「そんなことないよぉ、やっちゃんだってもう十分幸せだもん・・・それにぃ」

それに?

「竜ちゃん、やっちゃんの面倒見てくれるって言ったよね、今」

そんなことを言ったのは確かだ。
熱くなっていたせいで細かいとこまで覚えちゃいないし、少し違う気もするが、それは別にいい。
いいんだが・・・何で泰子は今、それも顔を赤くしながらそれを持ち出すんだ。

「あれってぇ、ずっと、ずぅっと一緒にいてくれるって言ってくれたんだよね」

そう取ってもらっても、特に不都合があるってわけじゃないが・・・なんでだろう、なんか変な方向に話が行ってる気がする。
それに何故だか嫌な予感がしてきた。
とても、とてつもなく嫌な予感だ。
主に足元から地響きを立ててしてくる。
地震かと思ったが、周りを見渡しても震えている物はなく、しかし俺の膝だけはバカみたいに笑っていた。

「やっちゃん、今すっごく幸せ・・・竜ちゃんからこんな、プロポーズみたいなこと言ってもらえるなんて・・・」

ビキビキキィッ!!

「竜児・・・も う い い か し ら・・・」

手の中の湯飲みを、握力のみで砕いた大河が俺の不安を更に加速させる。
明らかに大河は怒っている。
そんなの一々見なくたって分かる。
だが、何でここまで怒っているのかが俺には分からない。
大河がいくら気が短いっていっても、こんな短い時間待たされた程度であそこまで怒る訳がない。
張り付くような、それでいて滝の如く溢れ出る汗を流し続ける俺は、首だけを大河の方へと巡らす。

「あんた、さっきからお見合いがどうとか言ってるみたいだけど・・・」

すっと大河は人差し指を突きつけた。
顔だけは俺に向けて固定したまま、その不気味な体勢でぐるりと腕だけ動かして、ピタリとある一点を指差すように止める。
その先には





「・・・・・・ぐ、ぐぇ? ・・・てゅ、てゅいまてん・・・・・・」





「まったく、呆れてものも言えないわ。ほんっとにバカなんじゃないの?
 よりにもよってブサインコの話をやっちゃんがお見合いするって、竜児、一回病院で診てもらった方がいいんじゃない、あたま」

あの後。
意識が飛ぶほど強烈な、大河曰く「躾」を加えられた後に受けた説明はこうだった。
毘沙門天国の、特に仲のいいお客に俺や家の写メを見せていたところ、たまたま写っていたインコちゃんが大ウケしたそうだ。
中々見る目があると思うが、なんとそのお客、自分の飼っている雄のインコとお見合いさせて、
うちのインコちゃんとその雄インコの愛の結晶を・・・という話を持ちかけてきたらしい。
163174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:48:21 ID:FqxSh17Q
何でもその雄インコ、驚く事にもう十年近くも生きているんだそうだが、最近やたらと気勢が激しいらしく
心配になった飼い主が病院に連れて行ったところ、単なる発情期ということが判明。
寿命や変な病気のせいじゃなかったと安心したそうだが、いくら経っても、何故かその雄インコの発情期が収まらず。
どうしたものかと悩んでいるところに、泰子が見せていた写メに写っていたインコちゃんに目を付けた。
と、そういう事らしい。
なんのことはない。
最初の大河の『お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?』というセリフは、
『(あのブッサイクが)お見合いぃ!? やっちゃん、それマジで言ってんの!?』という意味だったらしい。
俺は聞き間違えてはいなかったが、大河の一言だけでとんでもない勘違いをしていただけだった。

「・・・返す言葉もねぇよ」

脇腹に蹴りでも喰らったような衝撃を受けて目を覚ました俺に、仏頂面した大河が昼飯の催促をしてきた。
咽ながら時計を見たら、とうに昼を過ぎてしまっていた。
急かされ、抜け切らないダメージを押して昼飯を用意している間も、遅くはなったがこうしてやっと落ち着いて昼食をとっている間中も、
俺はひたすら終わりの兆しのない大河からの冷ややかな目と皮肉というよりか罵詈雑言を一身に受けていた。
おかげで身も心もズタズタのボロボロだ。
それでも、自分の分のおかずを貢いだり、口答えなどしたりせずただただ黙って頭を下げ続けていると、
大河もだんだんと食事の方へと集中しだす。
間違っても俺を許したわけじゃない、猛烈な勢いで箸を動かす大河は今もって怒気を撒き散らしている。

「大河ちゃん、竜ちゃんにバカとか言わないの。
 やっちゃんがお見合いしちゃうって勘違いして、あんなに必死になって止めさせようとしてたからってぇ」

下降線の一途を辿る大河の不機嫌さとは打って変わって、泰子は何故かさっきから上機嫌だ。
やたらとベタベタしてきて、その内溶けるんじゃないかと思うくらいふにゃふにゃにした顔で絶えずニコニコしている。
それに比例して大河が不機嫌になっていくのも何でなんだろうな。
おかげで、表面上だけでも落ち着きを取り戻した空気がまたギスギスしだす。

「な、ななななに言ってんのよやっちゃんてば・・・バカにバカって言って何が悪いのよ、ねえぇっ、そうでしょバカ犬! ・・・おかわり! 大盛り!」

「お、おぅ・・・・・・ッ!?!?」

突き出された茶碗を受け取ったと同時に背筋を冷たい物が流れていく。
茶碗には所々に罅が入っていた。
割ってないだけ我慢しているんだろうが、その我慢も時間の問題だろう。
そしてその時はすぐに訪れた。

「もぉ、意地っぱりなんだからぁ。
 でもぉ大河ちゃんがヤキモチ焼いちゃうのもしょうがないよねぇ、だって竜ちゃんとやっちゃんはラブラブなんだも〜ん」

大河にしろ茶碗にしろ、なるべく刺激しないように注意しながら飯をよそっていたら、泰子が思いっきり刺激しやがった。
っていうかラブラブって古。
泰子は全然分かってない。うちじゃあ藪を突いたら虎が出るんだぞ。
それはもう凶暴な虎が、主に俺を的にするってのに、なんてことをしやがるんだ。

パキン・・・

て、手の中の茶碗が独りでに割れた・・・っ・・・も、もうダメだ。
逃げようと勝手に浮きそうになる腰を、今まで根性で下ろしていたが、これ以上は無理だ、限界だ。
どこだっていい、すぐに逃げよう。

「りゅぅぅぅぅうじぃぃぃぃぃいいいい!!」

いつの間に目の前に!?
164174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:49:27 ID:FqxSh17Q

「ちょっと待て大河!? 俺は何もしてないのに何でぶべらっ!!」

「あ! ん! た! がぁッ!! 変な勘違いしたせいだぁぁぁぁらああ!!」

最後に見たのは、真っ赤な顔に涙を浮かべた大河の、顔面目がけて振りぬかれた渾身の右拳だった。
遠のく意識の中、叱っているのか、泰子が大河に文句を言ってるのが聞こえる。
が、もう遅いし、大河も聞く耳持ってないだろうし、第一どうでもいい。
次に目を覚ました時は、きっと夕飯時で腹を空かせた大河に起こされるんだろう。
そんなのもいつものことだ、もう嫌になるほど分かりきってる。
どうせまた大河のご機嫌取りに、凝った物よりも量に比重を置いた献立になるんだ。
なんせ今日洗いに出されていたシャツとワンピースをダメにしたことも、まだ大河は知らないままだ。
機嫌なんて、いくら取りにいったって足りはしない。
そんなことをしても無駄かもしれないが、しないよりはマシになるだろう・・・2〜3発分ぐらいは。
それまでは、

「なぁ、インコちゃん」

「ぐぇぇえ?」

目の前にいるインコちゃん。
カゴから飛び出し、ゆったりと滑空してくると、器用に指先に止まった。

「お見合い・・・してみるか? せっかくだし、インコちゃんも女の子だから興味あるだろ」

「む、むむむ・・・む〜む〜・・・むリ、むり」

「うん? 無理って・・・どうして?」

「ぐぇ・・・だ、ん・・・だん、だん・・・だんなさっま、りゅうちゃ、だんっだん」

「ハハハ・・・そうか、インコちゃんはもう人妻だったのか。それじゃあお見合いはできないよな」

「そそそそ、そう・・・いぃ、いいぃい・・・いんごちゃん、りゅうちゃっん、すっき、すき、すき」

「・・・インコちゃんはいい子だなぁ・・・」

こんなに可愛らしい上に優しいインコちゃんなら、お婿さんも引く手数多だろう。
だけども、親バカかもしれないが、こんなに懐いてくれているのが嬉しくて、まだ暫くは嫁がせたくはない。
約束してしまったと言っていた泰子には悪いが、あの話は無かったことにしてもらおう。
こうまで言ってくれてるんだしな。

「ぐええぇ。すっき、しゅき」

頭を撫でると、くすぐったそうに、あのぱっちりとした大きなおめめを細めるインコちゃん。
体ごと摺り寄せて甘えてくる様は身悶えするくらい可愛くて天使そのものだ。
今やこの世に残された唯一の癒しとまで言いきれる。
まぁ、これ夢なんだろうけど、それでもインコちゃんが俺を癒してくれてることに間違いはない。

予想通り、俺は夕方になるまで寝ていた。
それも、まるで死んだように、身動ぎの一つもしなかったらしい。
そしてこれもまた予想通り空腹を訴える大河に無理やり起こされて、そのまますぐ飯の支度だけを手短に済ませると、
隠していてもいずれバレるだろうからと素直に洗濯カゴの中、繕い合わせればちょっといい感じの雑巾に生まれ変われることだけは保障できる、
ボロ切れの山となったあの衣類を大河の前に並べた。

結局その日、俺はほとんどを寝て過ごすこととなり、またもわざわざ夢に飛んできてくれた優しいインコちゃんにずっと慰めてもらっていた。

                              〜おわり〜
165174 ◆TNwhNl8TZY :2010/02/19(金) 09:50:46 ID:FqxSh17Q
おしまい
そういえばインコってなんにでも発情するそうで、人間(特に甘やかす飼い主)相手にも発情するんだとか。
夢枕に立つ淫語ちゃんならぬインコちゃんも、きっと。
166名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 16:21:37 ID:55bLr1Eo
インコちゃんはかわいいなあ
167名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 19:52:10 ID:1ZIG4cyd
なごむww
その内やっちゃんに押し倒されそうな竜児に合掌、じゃなくて乾杯。
168名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 21:33:26 ID:rKpsfbQM
GJ!
家族愛というか、マザコンな竜児が原作っぽくておもしろかった。
169名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 23:20:52 ID:+3awQdN8
>>165
GJ!
完全に狙ってやってるよね、やっちゃん
もう観念して結婚しちゃえよw
170名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 00:44:26 ID:0MztpGPs
>>165
GJ!
竜児と大河の結婚式に、ウェディングドレスで出席したいと駄々をこねるやっちゃんを想像したw
171名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 01:54:46 ID:iOxtN3bj
>>165
ああ、とてもGJだよ。

大河の泰子に対する嫉妬というのかどぎまぎ感がたまらん。
172名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 02:33:49 ID:+pXHUxPT
ちゃんと自分の事正しく言えないインコちゃんとか
実に芸が細かくてGJw
173名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 02:43:42 ID:UqL6qhI4
インコちゃんがヒロインとは見事などんでん返しだ…
174名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 15:44:56 ID:4kgS0AfT
昔、飼ってたペットたちが美少女になって恩返しに押しかけて来るアニメがあったなぁ。
175名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 16:36:09 ID:VZuxauZ1
獣姦
176名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 22:03:26 ID:TnOHydBk
獣姦はさすがにないだろうけど
>>165の作者さんがインコちゃんが卵産んだ話書いてたよね
177名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 22:20:21 ID:CnvkdYh/
こら糞野朗>>633

駄クソゲーの宣伝なんてすんな

ところで
キチガイブサイクめくら>>598はキモクソエロゲーのやりすぎで目も腐ったんだねえ

哀れ哀れ
そんなブサキチガイのためにもう一度
完全勝利神☆愛知です
前スレでも、規制されたファビョリ馬鹿チョン荒らしさんを差し置いて、1000ゲットしてしまいました・・・
心苦しいです。
お詫びといっては何ですが、前スレのテンプレを貼っておきます


          |ソリlヽ_-‐‐‐-、ノ |ルl|
          |ソフ|/l||||||||||l\|フレ|
          |フ「li||||||||||||||||||lilハレ|
          |ヘ>、l|||||||||||||||/<ソ,|    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
          ゙|<ベ゙ll||||||||||l"/]エ'|    | どうしたのだ?
          ム_二ニ゙゙Y"ニ二_ゝ   | さっきまでの
          [l ||\_o>┴<_o/|| l]   | 勢いは……
           ヽ|l|||  ゝ  ||||,//゙   < 荒らせよ?
            |、||  ニフ ||l,/l|     | バカチョン?キモホモ小心者クズ?キモブサイクおっさルー♪♪wwwwwwwプププ
         ,ヽ、/| \、二ヽ/ l |\-、ヽ、 \
          ヽ__\ ̄// ヽ  /


そうそう、それとはまた関係ないけど
ファビョれ、ファビョれ、ほらっ、ほらっ! あははははははははは!
b79wG1Y00<><a href="../test/read.cgi/hand<>
<>ACCA1Aat120.tky.mesh.ad.jp<>219.107.72.120<><
>Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 6.0; Windows NT 5.1; SV1; DigExt)
キモチョン本人以下の
糞スペックWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWW

キチガイキタチョン民が必死に巡回するも神愛知様にフルボッコ論破喰らって敗走したスレww(ウププ
【PSP】夢想灯籠 5輪廻
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1252671374/
【PSP】夢想灯籠 4輪廻
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1248453416/
【PSP】夢想灯籠 3輪廻
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1244774735/
【PSP】夢想灯籠 2輪廻
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1237860021/
【PSP】夢想灯籠 1輪廻
http://jfk.2ch.net/test/read.cgi/handygame/1222408856/

おまけに最底辺のゴミバカキモオタちゃんが巡回しているスレッドルも晒しておくよおおおおおおおおおおおおおおぉぉ
使用した名前一覧 書き込んだスレッド一覧
枯れた名無しの水平思考
【MHP2G】モンスターハンターポータブル2ndG HR371
【PSP】夢想灯籠 6輪廻

http://hissi.org/read.php/handygame/20091116/bkJjUUVLTmww.html

178名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 01:57:16 ID:pnUps8l3
>>165 ???????

勇者の人の続きを待ちわびているよ。
マダーッ
179名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 03:25:50 ID:q0b0MBpR
>>178 同意
勇者の人帰ってきてくれ〜〜

>>177 意味不明スレ汚しはやめろ。ここは、とらドラを愛する人のための場所。
180名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 07:27:48 ID:/TKKUHVc
日記とエンドレスあーみんも待ってます
181名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 07:36:49 ID:CeZa8p9+
ななこいもね。
もう半年以上経ちますが、どうなりました?
日記、ななこい、エンドレス、勇者
早く続きを〜
182名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 23:07:23 ID:vlYvRhs1
なら、高須棒姉妹も。
次、奈々子さまってところで停止してる。
183名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 09:08:10 ID:R7lfCiFo
今や数人の書き手でスレ回してるって感じだしな
184名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 16:49:57 ID:a1gvueuC
>>183
君も加わってくれれば感謝^^
185名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 17:18:10 ID:FPk248LL
数人いるだけで相当恵まれてると思うが
半年以上も投下がないスレとか普通にあるし
186名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 17:52:57 ID:f4FPDJsz
>>180-181
みんなどっか行っちゃった
187名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 20:02:31 ID:qDhGwU7P
>>182
ごめん、八九寺に浮気した
188名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 20:07:42 ID:BTibiqJM
>>187
待って下さいリュウマジさん
189名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 17:07:00 ID:NFf2Q05K
現状ROM居るのかな?
190名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 19:52:08 ID:FDAXaTE9
いるいるwww
191名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 22:46:04 ID:/zpuVWVD
逆にROMばかりなんだなコレがww
192名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 00:50:29 ID:1Gv7BHrD
そろそろ書かないと
193名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 08:59:38 ID:/DB0RzaJ
規制?
194勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:30:03 ID:/DB0RzaJ
穴から落ちた先は真っ暗な世界だった。別に気分の問題ではない。ホントに真っ暗な世界なのである。
ポツンと小さな小屋が建っているだけの何も無い小島。その小屋の主が告げた。
「ようこそ。アレフガルドへ。この世界は夜しかない。この小屋はアレフガルドを救う勇者を歓迎する場所。勇者よ、まずはここから東にあるラダトームの城を目指しなさい。」
あなたはこんなトコで何をしているんだ?
「私は上の世界からやって来た人の舟渡しです。
国家公務員と言っても、T種やU種のエリートとは違って、我々の様なV種に与えられる仕事はこんなものです。」
男は小さな声で、だけどこの仕事に誇りを持っています。とも言った。どうやらラダトームの役人さんらしい。
大人は大変なんだな……この時点で、俺はこのアレフガルドには太陽が無く、陰鬱とした暗闇の世界である事を悟った。
そして、俺は舟を借りて、東の大陸へと渡った。少し歩くと2つの城が見えてきた。さて、どっちがラダトームかな?

A 右手に見える、海を隔てた島にある城。高台に建ち、毒の沼地と岩山に阻まれた難攻不落の天然要塞。
B 左手に見える、平地にポツンとあるだけの頼りなさそうな小城。
地方の領主でももうちょっとマシな城を持ってると思う。あれが一国の本丸だとしたらアレフガルドオワタ\(^O^)/

答え。A(ゾーマ城)B(ラダトーム城)

とりあえず、Aは海の向こうで入れないので手近なBに入って見た結果、得られた答えである。
ラダトームの街も城もとにかく活気がない。この世界ではただの旅人に過ぎない俺でも、王様の待つ謁見の間に入れた。
「ゾーマを倒して欲しい」
とか、頼まれるかと思ったが、そんな事はなかったぜ。国王も、既に光を取り戻す事を諦めているのかもしれない。
結局、その日は何もする事も無く、宿屋へ泊まる事にした。宿代はなんとたったの1G。安い。
だが、旅に出て初めて過ごす独りの宿はとても寂しかった。
195勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:30:29 ID:/DB0RzaJ
−81日目−

敵の本拠地が目の前にある。という事は今すぐにでも乗り込んで叩き潰せば良い話。
だと、思ったらどうやらそうでも無いらしい。内海は荒れやすいので、船が出せないらしい。
だから、ゾーマ城に行きたければ、グルリと陸伝いに遠回りする必要がある。面倒だが、仕方がない。やってやるさ。
ちなみに、何故、急にやる気になったかと言うと、昨晩、あまりの寂しさに気がついたらロープを握りしめていた。
このままでは流石にマズイな。と思い、さしあたって生きる目標みたいなモノについて考えみた。
そして、妥当なトコでゾーマ討伐という事に落ち着いた。誰にも望まれていないが、まあ冒険を続ける限り、少しは気が紛れるに違いない。
気紛れに討伐されてしまうゾーマカワイソスとか言う心配は無用らしい。
「あなた程度では大魔王ゾーマの前にたどり着く前にゾーマの腹心である八魔将に殺されてしまうでしょう。」
と、町娘からお墨付きを頂いた。そりゃそうだ。俺だって、1人でゾーマを倒せるとは思ってない。
(ちなみにバラモスは八魔将の1人だったらしい。だから今は七魔将。)
別に結果が討ち死にならそれはそれで良い。俺の生きた証を…この世にわずかな爪痕を残せるならそれでも良い。
俺は、次の目的地をリムルダールと決めラダトームを発つ。

−83日目−

リムルダールに到着。宿で妙な噂を聞いた。なんでも、八魔将ラゴンヌが何者かに討たれたらしい。
そいつは俺より一週間位前にふらりとアレフガルドに現れた旅の剣士だという事らしい。
他に有力な情報は得られなかったが、俺はなんとなくフロンティア…すみれの事が頭に浮かんだ。
だが、今のあいつに戦う力があるのだろうか……しかし、どうも気になる。
もし、すみれがゾーマ軍と戦っているなら、俺も合流して力になってやりたい。
まさか、あのフロンティアを心配する事になるなんて…俺のあいつに対する印象は知らない間にまるで変わっていたんだな……
196勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:32:05 ID:/DB0RzaJ
−86日目−

噂の剣士の足跡を追い辿り着いた町が、ここドムドーラである。
が、残念な事にこの町に噂の剣士の姿はなかった。5日前にメルキドへ向かったらしい。俺もメルキドへ。

−89日目−

イン、メルキド。またまた妙な噂を聞いた。今度は、八魔将のだいまじんが討たれたらしい。
すみれ(と思しき剣士)は流石に強い…と思ったら、よく聞けば話が違う。今度の英雄は、旅の女魔道士だったらしい。
彼女を見たという道具屋のおっちゃんの証言によると、
「俺はあんなに美しい人を見た事がない。あれはきっと聖霊ルビス様が人の姿を借りて我々を救いに来て下さったのだ。」
との事。そして、さらに有力な情報を得る。そのルビス様はこの町の闘技場で、しこたま稼いでホクホク顔だったらしい。
………。これは参った。確か、次会った時は云々。とか言ってた気がする。川嶋に会いたい自分と怖がっている自分がいる。
さて…どうしたもんか?まさか、川嶋もアレフガルドに来ていたとは……
まあ、とりあえず、道端でばったりみたいな再開でなくて良かった。こうして、前情報を得れた事に感謝しよう。
ちなみに、謎の剣士の情報も集めてみたが、この町で姿を見た者は居なかった。メルキドには立ち寄らなかったのだろうか?
北にマイラという村があるらしい。そっちに向かったのかもしれないな。行ってみるか。

−90日目−

マイラに到着。道中でやくそうを使い果たしてしまったので、道具屋へ直行。早く、やくそうを補充しないと落ち着かない。
なんでも、ここの道具屋はイラナイ物を引き取って商売しているらしい。リサイクルショップか……
そのエコロジーな経営理念に感銘を受ける。よし。やくそうの他にもなにか掘り出し物があるかも知れない。ちょっと見てみよう。

→ おうじゃのけん 35000G(売約済)

ん?なんだコレ?せいすいとかまんげつそうに混じって、剣が一本置いてあった。スゲェ…凄いぞこの剣。
何が凄いかって、刀身から発する圧倒的なオーラを感じる。不死鳥を模した鍔の造りも素敵。まさに王者の風格。
俺が腰に差してる駄剣(ゾンビキラー)とはエライ違いだ。
197勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:32:33 ID:/DB0RzaJ
刀身の淡い輝きに見覚えがある。ああ、そうだ。すみれが持ってた剣に似てるんだ。
確か、くさなぎのつるぎとか言ってたっけ?て事はこの王者の剣も魔力剣なのかな?火とか斬れたりするのかな?
良いなぁ〜欲しいなぁ〜しかし…35000G。高い。ちょっと手が届かない。それと気になる売約済の文字。
………。ダメだ。諦めよう。ウチはウチ。余所は余所だ。俺はふくろをやくそうで満たし、道具屋を後にした。
何故だろう?その場で一枚味見したやくそうが、いつもに比べてほんのりと苦いのは……
夜の事。この村には温泉があるらしい。(逆に言えば温泉しか無いとも言える。)
旅の疲れを癒やすにはもってこいですよ、と宿の亭主に勧められ、俺は温泉に浸かってみる事にした。
町の外れにある露天風呂。今日は星も綺麗だし、なかなか風情があるじゃないか。ちゃぽんと足を浸けてみる。
あぁ〜良い湯だなぁ〜疲れた身体に染み入るねぇい。こんな御時世だからか誰も居ない貸切状態。
だからと言ってハシャいで泳いだりする年齢でもない。俺は岩に背中を預けてのんびりゆったり空を仰げる場所を探した。
ふぅ〜〜。良い気分だな〜。身体が泥になって溶けてしまいそう……極楽だ。思わず、寝てしまいそう………
「お〜い。そんなトコで寝てたらのぼせちゃうぞぉ〜〜起きろ〜☆」
不意に声を掛けられハッとする。どうやら半分寝てしまっていたらしい。声の主は俺がもたれている岩の上に立っていた。全裸で。
まあ、風呂なんだから全裸なのは当たり前か。しかし、手で隠す位はしなさいよ……(炭になった筈の左腕は綺麗に治ってる。流石は賢者)
川嶋は腰に手をあて女神像みたいな奇跡の体躯を惜しげも無くさらけ出していた。あ…でも意外に毛深いな。
「高須君ってバカ?あたしの身体に恥じる箇所なんて一つも無いじゃん。だから隠す必要なんてなし。
てか、そこどいて欲しいなぁ〜あたしの特等席なんだよねっと」
とか言いながら川嶋は岩の上から俺に向かってダイブして来た。ヤバ…逃げ…ダメだ間に合わない…かくなる上は……
ガシッ!!っと降ってくる川嶋の身体を受け止める事に成功。おぉう。柔らか〜い。
198勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:34:16 ID:/DB0RzaJ
何だこの展開は?何故、川嶋がここに居る?次に会った時にはてっきり戦闘になるものと思ってたのに。呑気に温泉だとぅ?
しかし、川嶋の身体を抱き締めた俺にはそんな疑問どうでも良かった。俺は俺で次に川嶋に会った時にやるべき事をちゃんと考えていた。
そして、このシュチュエーションはチャンスでもある。やっちゃえ、やっちゃえ。
「俺は川嶋が好きなんだぁ〜〜〜!!」
必殺!!一方的に告白しちゃう攻撃。ついでに口も塞いでしまえ。こうすりゃ呪文も唱えられまい。
呪文さえなけりゃお互いに丸腰で条件は五分。いや、男の俺の方が有利。
川嶋が唇を固く閉ざして抵抗する。なんの、そんなの鼻つまみで対処だ。息が出来なくなって、口を開くしかなかろう。
おりゃおりゃおりゃ。どうだ。俺だって、これ位出来るんだ。今更、遠慮なんかしないぜ。
舌と舌をディープに絡ませあったら、変な気分になってきた……都合の良い事にお互いに全裸。なあ?イイだろ?川嶋も俺の事が好きなんだろ?
息を荒げる俺。ここで川嶋の様子がオカシイ事に気付く。
「やめて…怖いよぉ…乱暴しないでぇ」
まるで命乞いをする羊の様な瞳を揺らし、身体を心細気に震わせる川嶋。
ギクッ。罪悪感と加虐心を同時にチクチク刺激される。あぁ…このまま勢いに任せてコイツを壊してしまいたい。
しかし、猛る身体とは逆に頭の方がスゥーと冷えた。オカシイ。川嶋らしくない。川嶋はこんな事言わない。
何度も何度も脳内川嶋を相手に情事を交わした俺である。川嶋は一度もこんな事を言わなかった。俺の川嶋はこんな事言わない。
ふと、緑色のハゲを思い出す。あいつは変化の杖を用いて、サマンオサの王様に化けていた…嫌な予感がする。
俺は慌てて川嶋の身体を突き飛ばし叫んだッ!!
「お前は川嶋じゃないッ。偽物め。正体を現せッ!!」
出来れば美形の女性型モンスターでお願いします。もう、キスまでしちゃったしハゲは勘弁。
199勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:34:43 ID:/DB0RzaJ
突き飛ばされた川嶋はニタァ〜と意地の悪い笑みを浮かべた。先ほどとは打って変わって肉食バリバリの狼の眼。
「ニセモノ?あたしが?何でそう思うの?」
何でもクソもない。川嶋はそんな普通の可愛らしい女の子じゃないからな。川嶋の姿で俺を騙すつもりなら研究不足じゃないか?
「ふふふ。なるほどねぇ〜。って事はホンモノって訳か。」
は?お前は何を言ってるんだ?
「らしくないのはお互い様でしょ。君こそらしくなかったよ。高須君があんなに積極的にあたしを求める訳がないからね。
当然、ニセモノじゃないか?って疑う。モシャスっていう魔法があるからね。誰かが高須君の姿に化けて……とかね。
だから一芝居打ってみたのよ。弱々しい乙女な亜美ちゃんを演じてみせた。
あたしのこ〜いう演技に引っかからない奴なんて、高須君を除いてこの世に存在しないからね。
あたしの圧倒的可愛さの前では、例えホモでも自らの過ちを悔いる筈。女でも、あたしと睦んでみたくなる筈。
だから、釣られなかった君はホンモノの高須君だ。でも、ホンモノならホンモノで、気になるなぁ〜
さっきの言葉。キス。高須君の真意を。どういうつもりだったか知りたいなぁ〜」
ジリジリと川嶋が距離を詰めてくる。その分だけ俺は退がる。
その場しのぎの言い訳って事も無さそうだ。この川嶋は間違いなくホンモノだ。そう言いきれる。
簡単だ。目だ。目が川嶋なんだ。バラモス城で最後に見せたちょっと病み気味の 目だ。やべぇ……
「確か、言っておいたよね。確かに言った。次、会った時は覚悟してね。って。
まさかこんな場所で会うとは思わなかったから、最初は軽く世間話でも。って思ったけど……
さっきのキスで亜美ちゃん、スイッチ入っちゃったよ。高須君、初めてじゃないね?上手だったもん。
その辺りも含めて、色々、身体に聞いてみる事にしよう。高須君はただ何も考えずに勃たせてりゃ良いから。
よく、女を喰うなんて言うけど、あれは変な言い方だよね?男と女のアソコの形から考えて、喰うのは女の方だよね?
そういう訳だから…頂きます☆」
アッーーーーーーー!!!
200勇者の代わりに竜児が(ry ◆NHANLpZdug :2010/02/25(木) 09:35:44 ID:/DB0RzaJ
ぐすん。もうお婿にいけない。川嶋は大変な物を盗んで行きました。それは俺の貞操(後の)です。
川嶋に湯の外へと追いやられた俺は、光の速さでマウントポジションを奪われてしまい、女がするには魅力的で男がするにはなんとも屈辱的なポーズを強いられている。
そして川嶋はひたすらに俺の性感帯を虐めている。ああ…自分でも知らなかった…乳首がこんなに気持ちいいなんて…
「でしょう?あたしも最初、びっくりしたもん。男でも乳首はイイんだよね。
あたしさ、オナニーする時、モシャスで高須君の身体になってヤルのが好きでさ。高須君の身体の事はもうエキスパートって位、研鑽を積んでんだよね。
だから、高須君が知らない高須君の感じるトコ、いっぱい知ってるんだよ?」
川嶋の長い指が俺の後ろの穴に侵入してきた。しかも2本。身体の中に異物が挿ってくる感覚。気持ち悪い。
川嶋が指を曲げる。ヤバイ。何か変な感覚。自分の身体なのに訳がわからない。川嶋に支配されてる。犯されてる。
「知ってるよ。高須君のお尻がいきなり2本も飲み込んじゃう欲張りさんな事も、第2関節を曲げたトコにヤバイスポットがある事も。」
右手で穴を陵辱し左手で玉をグニグニと揉みほぐす。川嶋の責めには癖があった。川嶋は徹底して俺の身体を虐め抜くが、ただ一点。竿には一切触れない。
わざわざ皮まで剥いて、ご丁寧にベロベロしてくれる癖に竿をシゴいてくれないのだ。
おかげで俺は、溜まった欲望を外に出す事が出来ずに、先ほどからぴゅぴゅっと情けなく透明の汁を出すだけに留まっている。
これは正直辛い。出したい。出させてくれ。このままじゃ気が変になりそうだ。
「キツイでしょ?シコシコしないと射精せないもんね?玉がゴロゴロしてきて、辛いよね?
ホントはイってるのに出さないと収まらないから、次から次に波みたいに気持ち良いのが来て、
あ〜ん。もうチンポなんか要らない。千切って。取って。
って気分にならない?あたしはなったよ?高須君の身体でコレやった時。」
なるかバカ。お前とはコレに対する愛が違うわい。コレがなきゃ、それはもう俺じゃないだろッ!!
てか、人の身体で何してくれてんだよ。まあ、普段から脳内川嶋をオカズにしている俺が言うのもなんだけど。
って、そんな事言ってるバヤイじゃない。これはマズイ。このままだと本気でアレ壊れかねない。股間に、あ間違えた沽券に関わる。
201sage:2010/02/25(木) 10:28:45 ID:JbWKkMQP
C
202名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 11:00:20 ID:DhZmNKGf
キャーw
203名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 14:55:50 ID:WzS51kkq
GJ
やたー ありがとうー
204名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 14:59:16 ID:4LiZorrK
待ってたぜー&他の人も待ってるよー
205名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 19:53:36 ID:QixnvJYt
GJ,相変わらず面白い、だが、ここで止めるのはどうよw

そういえば、ななこいも大河が木刀振り上げたところでストップしてたな。
頼むから続きを読ませて欲しい
206名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 23:12:58 ID:JwwYGN6O
GJ
良かった!
ちゃんとらぶらぶしてて
207名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 19:02:54 ID:/nswxqoW
>>206がぶらぶらに見えた…
208名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 20:13:27 ID:JuQcNvSi
>>206がぶらぶらさせて全裸待機していたと聞いて
209名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 04:38:05 ID:IXPPOQKG
わたしまつわ
210名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 07:36:11 ID:CG3PXR2L
いつまでもまつわ
211名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 11:51:47 ID:z4WpoXB/
まつやー
212名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 22:53:43 ID:lfOdSlR3
ふっかつー
213名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 22:55:00 ID:rvmm97/6
今回は、南朝鮮のサイバーテロだ。
チョンは、本当にどうしようもないな。

氏ね。在日も、氏ね。
214名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 23:06:41 ID:Hpt67tEc
ここも相変わらずで何よりだ
215名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 23:19:18 ID:vASz3mZL
ああ、ホントだな。

しかしアニキャラ板にまだ繋がらない・・・(´・ω・`)
216名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 23:27:17 ID:N63o2zls
にしても、ここ最近で急激に寂れてきた気がするのは気のせい?。
217名無しさん@ピンキー:2010/03/02(火) 23:34:08 ID:Y3bO3KBC
携帯規制に加え今回のこれだ。仕方ない。
218名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 01:36:11 ID:SKYD774R
これだからチョンは・・・
219名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 03:16:07 ID:ykkszmSV
サイバーテロがマジのテロになっちゃったな
米政府も被害とかワロタ
220名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 09:23:18 ID:z7AkMebw
チョン教師を悪役にした作品があったけど、
リアル・チョンの性悪さは、それを超えていたな。
まさに、事実は小説よりも奇なり。
221名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 09:47:20 ID:5N8klAHE
あれも実際にあった話だっていってたしな
Linux使いのSL66氏は友愛砲を撃ったのだろうか
222名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 10:07:57 ID:z7AkMebw
2010/03/04 高校無償化における朝鮮学校の取り扱いに関する勉強会

日 時 3月4日(木)午後1時10分集合、1時30分開会

会 場 衆議院第1議員会館第3会議室
    (議員会館入り口に受付を出す予定です)

内 容 無償化法案の趣旨
     朝鮮学園の歴史と教育内容
     情勢と今後のとりくみ

連絡先:神奈川 朝鮮学園を支える会事務局 日本朝鮮学術教育交流協会事務局
(所在地)
〒220-8566
横浜市西区藤棚町2-197 神奈川県高等学校教職員組合内 ←!!!

ttp://www.labornetjp.org/EventItem/1267533831073staff01

連投・スレチ陳謝だけど…、本当に日教組とチョンは仲がいいんだな。
まじで、ぞっとした。
223名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 10:23:42 ID:yTyVTgiZ
tes
224名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 11:41:10 ID:1D1E7bY4
朝鮮人も嫌韓厨もスレ違い
+とかニュー極に行け

では引き続き可愛いあーみんのSS投下をお待ちしております
225名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 20:01:33 ID:8K2D9Hbm
同じく
あーみん!あーみんっ!!
226名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 22:04:33 ID:gBxKU4Sy
他のとこならチョンざまぁwww、と同調するがここではそういうのはやりたくない

未完のシリーズ物はもちろん新たな職人さんお待ちしていますよ
227名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 01:00:41 ID:X0s1UuwV
あーみん好きだけどあーみんに限らず、
みのりんのバイト先のファミレスの同僚とか、
生徒会書記とか、
ミスコンで大河の潜り込んだカバンを締めたメイド衣装の子とか、
待ってます!
228174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:40:08 ID:SrvVJfBX
SS投下
原作と設定がかけ離れすぎてるので、そういうのがダメな人は弾いてください。

「おおはし幼稚園」
229174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:41:14 ID:SrvVJfBX
雀の囀りをBGMに、かれこれ十分は格闘しただろうか。
「こんなもんか」
鏡の前で四苦八苦しながらも、ようやく納得というか、自分の中で妥協点を出すことができた。
就活用にと投売り同然のセールで買った、いつまで経っても着慣れないスーツ。
シワ一つとしてないよう念入りにアイロンを掛け、今日はいつも以上にパリッと仕上がっている。
クリーニングに出したものと遜色ないと、胸を張って言える出来栄えだ。
シャツもそうだしネクタイだって、あまり派手すぎず、かつ地味ではない色の物をしている。
着られている感が否めないのは、まぁしょうがないだろう。
追々そんなこともなくなるさ。
なんたってまだ社会人一年生なんだからな。
そこまではいいんだ。
「時間だぞ、泰子。ほら、さっさと起きろ」
「ん〜…あとごじかんだけ…」
揺するも目も開けずに寝返りをうっただけで、しかもそうのたまう。
無視して背中に手を這わせ、腰から上を強引に起こす。
「俺は今日は早いんだよ。朝飯はもう用意しといたから、他は自分でやれよ」
眠たそうに瞼をごしごし擦っていた泰子が、これまた眠気の抜けきらない目やにだらけのしょぼんとした目で俺を見上げる。
「りゅうちゃん、きょうなんかあるの…あぁ〜、そっかぁ。もう今日だっけ」
寝ぼけていた泰子は俺が普段着ではなくスーツを着ていることに気が付くと合点がいったようだ。
「んしょ」
温もりが残る布団から起き上がるとタンスからタオルを取り出して、さっきまで俺が篭っていた洗面所へと歩いていった。
その隙に残っていた身支度を整える。
出勤初日から遅刻や忘れ物なんてできないからな。
昨日だって何度もカバンの中身を確認したが、一応最後に持っていくべき物がちゃんと入っているか見ておく。
「あ〜おべんとうだぁ〜。いいなぁいいなぁ、やっちゃんもおべんとうがいい」
最後に入れようと思っていた弁当箱を、タオル片手に戻ってきた泰子が見つけてしまった。
「ねぇ竜ちゃん」
「だめだ」
キラキラ輝く星を放っていた眼差しが瞬く間に隕石を飛ばしてくる。
そんな顔したってだめだ。
ぶーぶー言ったってだめだ、ぶたかお前は。
それにちゃんと拭いてからにしろ、まだ顔中濡れてるじゃないか。
「なんでぇ」
むくれた泰子の顔をタオルで拭いつつ時計を見ると、そろそろ家から出ないといけない時間になっていた。
やや乱暴に終えると弁当箱をカバンに押し詰め、俺は玄関へ。
「俺は仕事があるんだよ、泰子と違って」
「じゃあやっちゃんのお昼は?」
「朝飯のおかず多めに作っといたからそれでどうにかしてくれ」
あからさまに不満げな雰囲気を出されてもどうしようもない。
昼飯まで別に用意する時間がなかったし、弁当箱の中身だってあまり変わらないんだ。
あるもので我慢してもらうしかない。
「あと大家さんに頼んであるから、鍵だけちゃんとかけてけよ。それと二度寝もするなよな」
いじけた泰子は返事をしないで、体育座りの姿勢になって体をゆらゆら。
その頭に手を乗っけてくしゃくしゃ撫でる。
「できるだけ早く帰ってくるから、それまでに食いたいもん考えとけよ。晩飯に出してやるから」
「…ほんと?」
「ウソなんか言ってどうすんだ」
チロリと覗かせた瞳は思案でもしてるのか、キョロキョロと忙しなく動く。
だけど最後に俺がそう言うと、泰子は膝にくっ付けていた顔を上げた。
「はやく帰ってきてね。やぶっちゃダメだよ、竜ちゃんからやくそくしたんだからね」
「わかったわかった」
苦笑を一つし立ち上がる。
「それじゃ行ってくるな、泰子」
「はぁい、竜ちゃん、いってらっしゃい」
230174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:42:10 ID:SrvVJfBX
開け放したドア。
その向こうに広がる景色は代わり映えのしない見慣れたもので、だけどいつもとは少し違う気もしないでもない。
緊張するのはまだ早い、落ち着け。
見送る泰子を背に、俺は今社会人としての一歩目を───
「あっけど竜ちゃん、スーツでその髪ってなんかへ〜ん。おたくのやくざさんみたいだよ」
踏み出す寸前で引き返した。

「おおはし幼稚園」

大急ぎで正門を潜り、通用口を走りぬけ、職員室へと駆け込んだ俺を待っていたのは暖かな歓迎ではなく、
さながら強盗か脱獄犯…どっちにしてもとりわけ凶悪で極悪で卑劣な…が、立て篭もるために押し入ってきたのかと誤解されたような悲鳴だった。
目と目が合った瞬間震えて泣き出した人もいた。
泣きたいのはこっちの方だ。
いくらなんでも即座に電話に手をかけないでくれ、目星なんて簡単に予想できるが、どこにかける気だったんだ。
遅刻したことと他諸々に対して頭を下げる俺を、その場にいた全員がこう思っていただろう。
観念して自首する気になったのか? と。
だから面倒なんだ、この時期は。
どこへ行こうと第一印象はこれ以上なく最悪の最低で、そこから始める人間関係は良好だなんて言えるはずもなく、
しかも他人からの評価は大抵下がりやすく上がりにくいから、しばらくの間はやり辛くって仕方ない。
早い話、居心地が悪い。
小中高といいその後といい、それまでとの環境が大きく変わるたびにこういった嫌な思いはしてきた。
いや、今だってしている。
これから同僚として一緒に仕事をしていく、まだ名前だって知らない先輩たちは一様に顔を引き攣らせ、怯えたままでいる。
向こうだってそういう意味では嫌な思いはしているだろうが、こっちが好い気になっているとでも思ったら大間違いだ。
それもこれも全部この目つきのせいだ。断言してもいい。
生まれつき悪い、なんて言葉じゃ生易しい鋭すぎるこの目つきは、会ったことすらない親父に瓜二つらしい。
それもどうやら相当な穀つぶしだったそうだ。
決して多いとはいえない親父の話は、ほぼ全てが悪評でしかなかった。
甚だ迷惑な置き土産に、もしかしたら親父と関わったばかりに悲惨な目に遭った誰かに呪われてるんじゃないかと疑ったこともあるくらいだ。
この両の目は俺に不幸しか持ち込まない。
今朝にしろ、若干暗くてもいいから、せめて大人しい印象を与えられるようにと引っ張り、前髪を下ろしていたんだが、
泰子の一言でそれも諦めた。
いくらなんでも見かけがオタクのヤクザじゃあ、暗いだろうけど大人しい印象は与えられないだろうし、変人の枠に押し込められることは想像に難くない。
さすがに勘弁願いたいし、そんな根暗の犯罪者みたいな奴が、こんな犯罪者も竦む目をしていたら、保護者が余計に不審がるかもしれない。
俺は、今日から幼稚園の先生になったんだから。
些細な事からどんな大問題に発展するか分からないこのご時勢、教育者の人格も常に問われ続け、何かしようものならすぐマスコミを賑わせる。
幼稚園教諭ともなれば、なおのことと言えるだろ。
ましてこんな目つきじゃあな。
そういったものを考慮してかどうかはさて置き、就活中も書類選考だけで落とされたのは数え切れない。
おそらくは貼り付けた証明写真を一瞥しただけで履歴書が紙くずになっただろうことは容易に考えられ、運良く面接まで残っていても、
主に目つきのことを重点的に指摘され、遠回しにうちには必要ない、来るなと言われたこともある。
このままじゃ職にあぶれ、生活の危機という嫌な影も脳裏をチラつきはじめたとき、合格通知を送ってきたのがここだった。
おおはし幼稚園───灯台下暗しとはよく言ったもので、自宅から大して離れていない場所に在ったこの幼稚園に目が行ったのは、
けっこう…いや、かなり社会の厳しさを目の当たりにして打ちひしがれていた辺りで、本音を言うとまさか受かると思っていなかった。
にわかには信じられず、ダメもとで採用理由を尋ねたところ、園内に一人しかいない男性教諭が退職してしまい途方に暮れていた折に、
唯一やってきた男が俺で、力仕事を任せられる人手として俺を雇ったと、そういう次第だそうだ。
なんだか腑に落ちないというか、素直に喜べなかったのは何でなんだろうか。
ともかく、一応は希望した通りの職に就くことができ、晴れて今日から園児の前に立つ俺が最初にした事といえば、
「お騒がせして申し訳ありませんでした…」
深々と、園長はじめ職員の方々に頭を垂れて本気の謝罪をするという、普通だったらまずありえないような自己紹介だった。
231174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:43:11 ID:SrvVJfBX

「…そんなに恐がることないじゃねぇか…」
あれから大体三十分が経過した頃だろうか。
俺は庭園の隅で一人、何をするでもなしにぼんやりとしていた。
向こうでは年長組みと年中組み、それに今年から入園する子供たちとその保護者が並び、壇に立った園長がなにか話をしている。
本当なら俺も混じっているはずだった。
が…子供はおろか親すら涙ぐむんだ、そのままその場に居られる訳がない。
俺は人影に隠れるように身を小さくしてそこから離れた。
世の中上手く立ち回れるに越したことはないんだが、なにもそれが全てじゃないのも理解している。
でも、こんなんでこの先やってけるのか、俺。
「…ん?」
早々に弱音が出そうになった俺の視界の端を何かが横切っていった。
ぱたぱたちょこちょこ、小動物みたいなすばしっこさで走っていくのは腰まである長い髪を揺らした、小さな女の子だった。
変だな、俺以外はみんなあっちに並んでいるはずだったんだが。
なんとなく気になったんで様子を見ていると、その子は人が出払い、明かりを消した教室へと入っていった。
「どうしたんだ? 忘れ物でもしたのか?」
遅れて俺が入ったとき、その子はバッグを前に、何故か頭を抱えていた。
床にいくつも散らばる、どれも同じ色、同じ形をした、指定のバッグを。
自分のがどれだか分からなくなってしまったんだろうか。
手伝ってやった方がいいか?
そう思い声をかけるも、瞬間、その子はビクリと体全体を大きくわななかせた。
しまった、驚かせたかもしれない。
「…? …だれよあんた、こんなとこでなにしてんの」
しかしおっかなびっくり振り返った女の子は俺を見るなり態度を不遜というか、えらく強気なものにする。
しかもまぁ、ずいぶんと迫力があるな。
膝を曲げて視線を同じくらいにしようとするも、相手が小さすぎて若干見下ろす形になっているというのに、
それでも子供らしからぬ、気を抜けば飛び掛ってきそうなガンを放つその女の子に、俺の方が萎縮しそうだ。
と同時に、捕らえようのない違和感も覚える。
「ああ、いや、俺は」
「なに? ひょっとして泥棒? やめときなさい、どうせすぐ捕まんのがオチよ」
「…俺は今日からここで働くんだよ、さっき紹介されてたろ」
すぐ引っ込まされたけどな。
だが、その女の子は周りが悲鳴でいっぱいでも、ましてや元凶の俺すらも眼中になかったらしい。
首をかしげて思い出そうとしていたが、早くも飽きたのか、断念。
「ふぅん、本当かしら…まぁいいわ、私には関係ないし」
「あっ、おい」
「それよりもあんた、ここで見たことだれかにチクったらただじゃおかないわよ。いいわね」
これまた子供らしからぬ凄みだった。
見た目人形みたいな、その実生意気な女の子は釘を刺すついでに捨て台詞を吐くと、入ってきたときとは逆に悠然と教室内から出て行った。
取り残された俺は溜息を吐き出して床へと手を伸ばす。
あいつ、自分でやっておきながら友達のバッグ、散らかしっぱなしにしていきやがった。
本当に女の子かよ。
幸いというか中身はぶちまけられておらず、ロッカーにもバッグにも園児の名前が書かれたシールが貼ってあったためすぐに片付けは終わる。
だが、
「なんだこれ」
一枚だけ落ちていた、よれよれの紙。
拾い上げると、クレヨンか? でかでかと何か書いてあるみたいだが、蛇がのたくったような、おそらくは平がなの文字。
かろうじて『さた』と『あり』とだけは読めないこともないが、他はもう俺の識字できる範疇を遥かに逸脱していて分からない。
元々落ちていたんだろうか。
…それとも、さっきのあいつが、今落としていったのかもしれない。
にしたって、なんだってこんなもん持ってたんだろう。
捨てようかとも思ったが、もし大事なものだったら後々面倒だし、とりあえずどこかで見かけたら返してやった方がいいか。
捨てろと言われたらその時捨てりゃいいんだから。
俺は初めからよれてしまっていた謎の文字が躍る紙を丁寧に折りたたむとそれをポケットにしまい、教室から出ようとしたところで、
「そういやあいつ、俺のこと恐がったりしなかったな」
違和感の正体に思い至った。
232174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:44:11 ID:SrvVJfBX

「えー、今日から黒間先生に代わってみんなの先生になりました、高須竜児です。よろしく」
大きな声で返事がかえってくる。
以外にも、まともに自己紹介できたことに俺自身驚きを隠せない。
いつもの調子ならもう泣き声が響いていてもおかしくないのに。
驚いたといえばこの教室、さっき俺が入った教室で、やはりというかあの女の子もいた。
年中だったのか…他の子と比べても身長が小さいもんだからてっきり年少か、もしくは慣らし保育で来てるいるのかもと思ったが、そうか年中か。
それにしても気分でも悪くしたのか? 机に突っ伏したまま、隣の子に心配されているが。
案外体が弱いのかもな、気の強さに反して。
「せんせーしつもーん」
「お、おぅ、なんだ?」
はいはいと天井めがけて手を伸ばすのは鼻を垂らした、男子にしては髪の長い春田という子だった。
この子は元気そうだ、鼻を垂らしちゃいるが風邪だってひきそうにない。
根拠はないがそんな予感がする。
春田は椅子から立ち上がると満面の笑顔でこう言った。
「さっきせんせーが元ヤクザだって話してんの聞いたんだけどマジでー? そんじゃあせんせーやる前は組長だったりすんの?」
春田は瞬きする間に隣にいたメガネをかけた子に腕を引っ張られて着席した。
なんとも微妙な空気が漂う。
冗談のつもりで肯定してみようか?
いやいや本気にされたら取り返しのつかないことになりそうだし、やっぱり否定するべきか。
「そんなことないけど、ちなみにそれ、誰が話してたんだ?」
「いや〜こればっかりは園長せんせーに内緒って言われてるし、高っちゃんにはわりーけど教えらんねぇって」
それは冗談だよな? そうだよな?
あといきなり馴れ馴れしくなるんだな、引かれるよりはよっぽどマシだが。
「あれ、俺なんか変なこと言った? ちょっと重くねー、空気とか」
分かってるじゃないか。
それすらも分からないほどアホというわけじゃないようで安心した。
せめて繰り返すうち学習してくれることを願う。
と、そこへ別の子が手を挙げる。
「えっと、北村?」
名札に書かれた名前を呼ぶと、さっき春田の隣にいたのとはまた違うメガネをかけた男子が立ち上がる。
「高須に質問があるんだ」
成長すれば委員長か生徒会長にでもなりそうな礼儀正しい見かけをしていて初っ端から呼び捨てなのか。
最初だけとはいえ、あれでまだ先生と呼んでいた春田の方が礼儀を弁えていたのかよ。
「いや、質問というよりもちょっとした確認なんだが、もし気を悪くしたらすまん」
確認? なんだろう。
もったいぶる上に北村はずいぶんと畏まる。
「…黒間先生の急な退職に高須が関与しているという噂が巷で飛び交っているんだが…」
耳にし、言わんとしていることが何なのかに考えが及んだ瞬間唖然とした。
実際に会ったのは引継ぎの時の一回程度しかない俺が、なにをどうしたらそんな非道な事をするっていうんだ。
ひょっとして、俺はそこまでこの仕事に執着しているように傍から見られているのか。
「そうか、そうだな。高須、このとおりだ。疑ってすまなかった」
力なく首を横に振ると北村はすんなりと納得した。
ピンと背筋を伸ばし、お手本のような角度でお辞儀をする。
そのまま静かに着席。
今度は示し合わせたように女の子二人が立つ。
「ねぇ麻耶、やっぱりやめない?」
「もー、奈々子も見たでしょ、それにへいきだって…たぶん…」
乗り気でないらしい長髪の女の子の手を握った明るそうな女の子は、あまり俺とは目を合わせたくないのか俯き加減に口を開く。
「あのね、あたしらさ、さっき高須くんがタイガーと一緒にここ入ってくの見ちゃったんだけど」
「…なにしてたのかしらね、二人で」
近頃の子供はマセているとは聞いていたが、この歳でもうそんなことを気にするのか。
それとも単に不思議に思っているだけなのかもしれないが、女の子は男に比べて成長が早いともいうし。
いや、それよりも。
「タイガーって…」
233174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:45:15 ID:SrvVJfBX
自然と目を向けると、そこには俺を親の敵みたいに睨みつける、あの女の子。
そういえば出席簿に珍しい名前があったな、大河って。
大河…たいが…たいがー、ああ、それでタイガーか。
誰のことを指しているのかは理解できたが、どちらにしろあんまり女の子らしくないな。
…もしかして、本人も気にしていたりするんじゃないか?
しかも怒ってないか? 俺がオウム返しに、その気にしているあだ名で呼ぶもんだから。
ほら、立ち上がってずんずんこっち寄って来てるし。
「ど、どうした? 具合、悪いのか?」
「あんた、ほんとにここで働いてんのね」
信じてなかったのかよ。
「お、おぅ。それで、俺になにか用か? タイ…ええっと、逢坂」
慌てて言い直し、名札に書かれた苗字を口にするも、片側の眉がピクリと反応する。
器用だな、そんな仏頂面じゃなければ俺もこんなに気にしないのに。
それに何だ、この異様な緊張感は。
ひそひそと内緒話しながらこちらを窺う園児たちは、逢坂が右手をゆっくりと持ち上げると、何かを諦めたような沈痛な面持ちになる。
春田でさえもだ。
どうしたっていうんだ。
「あー…ああ、そうだ。お前さっき紙切れ落としてかなかったか」
不意に、本当に唐突に、拾ったあの紙のことを思い出した。
大して面白いわけでも広がる話でもないが会話のきっかけにはなるかもと口にしてみる。
「ぶっ!? ゲホッ、ゲフッ!」
「た、大河ー!? しっかり! 傷はあさ…ちょちょ、大河っ!? マジでしっかりー!?」
すると突然変な体勢で固まった逢坂が盛大に噴出す。
しかも今ので咽てしまったらしく、膝を着いて咳き込んだ。
「お、おい!? 一体どうし」
「なんでもないわよ! なんでもないから触んないで、バカ!」
なんでもないって、そんな鼻から口からいろいろ垂らしててなんでもない訳ねぇだろ。
涙まで滲んでるじゃないか。
「ちょ、ちょっと!? あんたどこ触ってんのよ、離しなさいよ! 離して!!」
耳の傍でギャーギャー喚く逢坂を無視して抱き上げる。
ぼかすか叩いてくるが、そのまま保健室まで、っと。
その前に、
「北村、あと頼んでいいか」
「わかった。みんな、今日はもう帰っていいそうだ。携帯電話を持ってるやつは親御さんに迎えに来てくれるよう連絡網を回してくれ」
ひと欠片も動揺せずに即答かよ。
しかもけっこう手馴れてるんだな。
こういったことはなにも初めてじゃないのかもしれないという確信を胸に、俺は咳としゃっくりで息も絶え絶えな逢坂を抱えたまま教室を出た。

「けぷっ…」
頬にやや赤みが差してはいるが、ついさっきまでは真っ赤だったり真っ青だったりで信号みたいになっていたんだ。
もう大丈夫だろう。
とんとんと若干強めに叩いていた背中を、今度は押し当てた手で撫で摩る。
「落ち着いたか?」
「うん…」
「悪いな、結局なにもできなくて」
保健室に辿りついたとき、用でもあったのか室内には誰も居らず、俺にできたのはただ呼吸が楽になるよう背中に手を当てていただけだ。
大事にならずに済んでほっと胸を撫で下ろす反面、そんなことしかできない自分が不甲斐ない。
「ううん、いい…ありがと…」
だけど逢坂はそれでも感謝してくれた。
それに生意気さがなりを潜めて、嘘みたいにしおらしい。
息ができず苦しくてそんなに心細かったのか。
「いや…それはそうとお前、体弱いのか? 教室にいるときもずっと顔色悪くしてたろ」
逢坂の表情が曇る。
そんなに重病で、聞かれるのも嫌だったのか。
だったら無神経なことをした。
234174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:46:10 ID:SrvVJfBX
「…てがみ」
しかし、どうやら俺の考えは外れたらしい。
ぽつぽつと、蚊の鳴くような小さな声で逢坂は語りだす。
「…てがみ…入れとこうとおもって…失くしちゃって…それで…」
「手紙って、これか?」
ポケットから折りたたんだ、あの紙切れを取り出す。
捨てないで正解だった、探していたようだ。
逢坂は小さく首を振るとその手紙を摘み、開いてみせた。
そこには相変わらず暗号じみた、ぐじゃぐじゃの文字と思しき羅列。
「読んだんでしょ、これ」
指でなぞる逢坂は泣きそうな顔をしていた。
「…読んだことは読んだけど、俺には何て書いてあるのかさっぱりだったぞ」
言い訳に聞こえても仕方ないんだが、俺は嘘は言っていない。
それに何て書いてあるんだ、なんていうことも聞かない。
「…そう…いいわ、信じてあげる」
だって、私にだって読めないんだもん。
逢坂は顔を隠してそう呟いた。
無理もない、平がなとはいえ自分の名前だってまだしっかり書けないだろうに、手紙だなんて。
むしろ俺でも読めた文字があったことを褒めてやらなくちゃ、いくらなんでもあんまりだろう。
きっと、一生懸命がんばって書いたんだから。
あのよれ具合を見ればなんとなく分かる。
直接渡さず、他人から隠れてバッグに忍ばせようとしていたのも、恥ずかしかったんだろうな。
そういう気持ちも分かる。
そういう手紙がどういう物かってのも、まぁ。
そんな時に居合わせた俺も間が悪いったらない。
「さっきは大事なとこで邪魔して悪い、逢坂。次こそ渡せるといいな」
「いいのよもう」
けれど逢坂は折り目のついた通りに手紙をたたむ。
「なんでだよ、相手も喜ぶと思うぞ」
「だって…よく考えたらこれ、名前だって書いてなかったのよ? 北村くんのバッグも、どれだかわかんなかったし…」
あの散らかりようはそのせいだったのか。
一つしかない手がかりであるはずの名前が読めなかったんだろう。
それで目に付くバッグを手当たりしだいに引っ張り出して、土壷に嵌った、と。
そそっかしい性格をしてるんだろうな、肝心の手紙の存在まで忘れてさっさと行っちまったくらいだし。
あと、今のは聞かなかったことにしておいてやった方がいい。
何を口走っていたのか、自分じゃあ分かっていないようだからな。
「…バカみたいでしょ、誰からかもわかんない、読めもしないてがみ出そうとして、それ落っことして、失くして」
逢坂は簡素な作りのベッドの上で膝を抱え、小さな体を丸めてより縮こまる。
「だから、うん…もう、いい」
「でも、それじゃお前」
「ありがとね。あんたがこれ拾っといてくれなかったら、もしかしたら大恥かいてたかもしれないもの」
口を挟もうとする俺に四の五の言わせまいと、捲くし立てるように先を続けた。
幾分明るい口調が、余計に空元気だってことを強調させる。
触れたままでいた背中から上がった体温が伝わってくる。
それに、微かな震えも。
ぐぅぅぅぅぅ〜〜〜───……
…あと、腹の虫の音と、お腹が猛烈に動き出す、まるで地響きみたいな感触。
携帯電話のマナーモードよりも強い振動だった。
「…あの…いまのは、その、私じゃなくて…あにょ…」
またも体温が上昇する。
天井が見えないのか、ぐんぐん上がっていくと同時にじんわり湿り気も帯びてきたような気もしなくもない。
そして腹の虫が二度目の叫び声をあげた瞬間、鳴り響くお昼のチャイム。
最初のから数えても誤差は十秒とない、驚異的な正確さを誇る腹時計に、俺は堪えきれず体をくの字に折り曲げる。
「な、ななななに笑ってんのよ、ひとが真剣に話してるのに!?」
真剣に話してる最中だったからだ、とは言えなかった。
というよりも返事ができないくらい苦しかった。
腹筋が痙攣でも起こしたように引き攣って息が苦しい。
235174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:47:07 ID:SrvVJfBX
「もう! いつまで笑ってんのよ! しょうがないでしょ、お、お腹減ってんだから! お腹減っちゃ悪い!? …笑わないで!」
ぐぅぅ〜…ぐきゅるるるる〜……
狙いすましたかのようにタイミングがぴったりと重なるのは、やはり狙ってやっているのか。
苦し過ぎて痛い、何が痛いって腹が痛てぇ。
てかもう吐きそうだ、涙まで出てきた。
「〜〜〜〜っ……」
と、別の意味で真っ赤になっていただろう逢坂が一転して静かになる。
どうしたんだ。
やっと落ち着いてきた、口から飛び出て行きそうなぐらい暴れていた肺と胃を収めた胸を撫でていると、妙な予感に襲われる。
いや、妙というか、正直な話、ものすげぇ嫌な予感に。
「…っ…っ、っ…」
…誰だって笑われたら嫌な気分になるだろ。
それがお腹が鳴った、なんていうしょうもない、けれど本人からしたらどうしようもない理由じゃなおの事だ。
しかもこんな、目の前で腹抱えて笑われたりしたら、
「…ぐっ…ひ、っく…」
女の子だったら、まぁ、そうなるよな。
「お、おい、なにも泣くこと…」
「だって…ずず…だってぇ…うぇ」
「わ、悪かったって、な?」
ああ、やっぱり、俺の思ったとおり顔は真っ赤だった。
さっきともその前ともまったく別の意味でだったが。
「ぐず…わだっじ、わら、わっ…く…笑わないで、って、言ったぁ…」
慌てて手にしたハンカチで、なるべく力を入れすぎないよう顔を拭う。
後から後から溢れる涙で早くも濃い染みだらけになってしまったハンカチで、それでもただただ拭き取っていく。
「そうだな。笑わないでってちゃんと言ったよな、お前」
「なのに、なのにぃ…ひぐっ…」
「そうだよな、俺がいけなかったな。泣かすつもりじゃなかったんだよ、ごめん」
「ひっ…しらないわよ、ばかぁ…」
どうしたもんだろうな。
なかなか泣き止んでくれない逢坂を前に、俺は完全にお手上げだった。
こんな時、泰子だったら飯で釣るんだが…飯、か。
「なぁ、ちょっと待っててくれるか」
鼻を啜り、しゃくりあげる逢坂は何も言わなかったが、僅かに頷く。
俺はハンカチだけ渡してやり、逢坂を残し保健室から退室すると廊下を駆け出した。
「───おいしい…ほんとにあんたが作ったの、これ?」
「おぅ、朝飯の残りだけどな。それよりもお前、口の周りベタベタだぞ。米粒もこぼしまくって」
およそ二分ほどだろうか、いっても三分はしてないだろう。
わりと本気で走ってきたおかげでいくらか呼吸が乱れていて、人気の疎らな園内、それも二人きりで保健室にいるこの状況。
事情を知らない第三者に見られようものなら多大な誤解を招くこと受けあいだ。
それでも、こうして泣き止んでくれたことを思えば、大した問題じゃあない。
ベッドの上、茣蓙をかいて俺の持ってきた弁当を貪るという表現がぴったりな勢いでかき込む逢坂を眺めていると、なんだかそう思えた。
「一々うるっさいわね、細かいんだから…しょうがないでしょ、このお箸じゃ食べづらいんだもん」
これでもうちょっとさっきまでのしおらしさというか、大人しい性格と言葉遣いだったら言うことねぇんだけどな。
しかし逢坂の言う事も、ただの言い訳じゃないのも確かだ。
使ってるのは俺の箸なんだ、子供の手には大きい。
俺は順手で持ってとりあえず突き刺すという、原始人よりはまだまともな、けれど決して行儀のよろしくない使い方をしはじめた逢坂から、
弁当箱と箸を取り上げる。
「ほら、口開けろ」
「…いいわよ。そんなの、ひとりでできるもん。バカにしないでちょうだい」
実際そうなんだが、子供扱いされたのが気に食わなかったようだ。
不満を全開にして箸を奪い取ろうとする逢坂が腰を上げかける。
が、頭を押さえて力ずくで座らせた。
「食事中に立つな、座ってろ」
ベッドの上でものを食うのも行儀悪いが、今は横に置いておこう。
「ぐっ…わかったわよ、立ったりしないから手ぇどけなさいよ」
漬物石よろしく乗せていた手を軽く持ち上げるとすかさず逢坂は立ち上がろうとする。
瞬時に押さえつけると、今度こそ抵抗するのをやめた。
恨みがましく見上げてくるのは忘れていないが。
236174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:48:11 ID:SrvVJfBX
その眼前に、適当な大きさにした、これなら好き嫌いはないだろうと踏んだ卵焼きを持ってくる。
ものの、素直に口にはしない。
じっと黄色い卵焼きを見つめる逢坂。2〜3度喉が動いて涎を飲み込む音がこっちにも聞こえてくる。
俺はボソリ、と呟く。
「今日は甘い卵焼きにしたんだよな。それもうんと甘くしてあるぞ」
横一文字に引き締めた唇の端から垂れていく、透明な一筋の糸。
コロコロと忙しなく代わる表情。
そして、まるで催促しているように間隔を空けずに鳴る、ぐぅぐぅという腹の虫。
葛藤に揺らいだ瞳の中、映る俺は自分で言うのもなんだが、意地の悪い笑みを浮かべていた。
ほどなくして口を開けた逢坂は、目を瞑っていた。
「…あまい」
「だろ。もっと食うか?」
「…そっちのウインナーがいい。タコさんの」
「これはカニな。そんでこっちはチューリップだ、よくできてるだろ」
「…今度はタコさんにしなさい」
注文をつけられた上に予約までされた。
タコか…ただのタコじゃ面白くない、度肝を抜くタコを作ってやろう。
タコはタコでも正月に揚げるタコとか。
「やだっ、いらない」
「好き嫌いすんな、大きくなれねぇぞ」
次のはよっぽど苦手だったのか、逢坂は頑として折れなかった。
そのため、ブロッコリーは俺が食うことに。
結局、俺が昼飯に口にできたのはそれだけだった。
その後もせっせと餌を運ぶ親鳥と、運ばれるままに餌を啄ばむ雛鳥よろしく箸を進めていると、
「ねぇ」
「おぅ、なんだ」
「あんた、どうしてこんなことやってんの」
半分ほど胃に収めた辺りで、逢坂は突拍子もなく、訳の分からないことを尋ねてくる。
言葉の意味がきちんと捉えきれず、どう答えればいいか考えあぐねている俺に、ちゃんと伝わってないと感じたらしい逢坂もフォローを入れた。
「だって、ぶっちゃけあんたって向いてなさそうじゃない、こういうの」
「…俺が弁当作るのがそんなに似合わないか?」
「そうじゃなくって」
「…この箸じゃお前、食いづらそうだし」
「だーかーら、そうじゃないのよ、そういうんじゃ」
あーでもない、こーでもないとうんうん唸り、言葉を選んでいる逢坂が、手をぽんと叩く。
「そう、おしごと」
喉まで出かかっていた言葉がようやく出てきたことに、逢坂は一人、何度も大きく頷く。
自分だけ納得されても、聞かれた俺には言わんとしていることがまだよく理解できていない。
何で仕事してんのかって訳じゃあるまいし。
いや、待てよ。
確か直前に向いてなさそうとか言ってたな、こいつ。
そういうことか。
「変か? 俺が先生やってちゃ」
納得顔の逢坂は、俺と目を合わせると心底不思議でならないという風に言う。
「変よ、変。あんた自分の顔かがみで見たことある?」
純粋な疑問なんだろうが、しかし元の口の悪さと相まって辛辣な言葉として投げられたそれは、俺の胸に深く突き刺さった。
自覚がないって、残酷だよな。
子供に発言の重みを自覚しろっていう方が酷なのかもしれないが、それでも、こうも面と向かって告げられるってのも、正直傷つく。
「そんなゆーかいはんみたいなおっかない目つきしてて、よく幼稚園の先生なんてなれたわよね。こどもがどん引くわよ、ふつう」
反論の余地がないのが自分でも情けない。
けど、
「お前はどうなんだ」
「なにがよ」
「少なくともお前は俺のこと、恐がってねぇみてぇだけど」
頭上にいくつも疑問符を浮かべた逢坂は、あごに手をあてがうと、はたと動きを止める。
待ってみると、眉間にシワを寄せよるという感じの渋面を作り、首を傾げる。
237174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:49:11 ID:SrvVJfBX
「なんで私があんたなんかにビビんなきゃいけないのよ」
そういう問題じゃねぇよ。
「…俺が言うのもなんだけどよ、お前、変わってるって言われないか」
「んな、ななななに言ってんのかしらね、当てずっぽうでもの言うなんて、あんた先生に言いつけるわよ」
「俺がその先生だぞ」
「え? あ、そっか」
動揺の仕方から見て十中八九そうだと思っていいだろう。
けど、腑に落ちない。
変わり者扱いというか、俺と周りの人間との間に距離が生まれるのは、主に目つきによる容姿に対しての偏見でというのが一番の理由だ。
目を合わせれば避けられ、表を歩けば人波が割れ、肩がぶつかれば財布を差し出される。
人は外見よりも中身が大事だとは俺も思うが、そう言われるのは外見が無視できない部分を占める重要な要素であり、
しばしば中身よりも優先されがちだからだ。
誰だって目に映るものの方が簡単に分かるからな。
中身なんて見えないもん、実際に付き合ってみなけりゃ良いのか悪いのか、なんて分からないんだ。
大抵の奴が俺を一目見ただけでやれヤンキーだ、関わったら何されるか分からないという具合に怯えるのは、
俺の目つきがそれだけ凶悪であり、知らず知らずの内に相手に威圧感や恐怖心を植え付けるからという単純な理由からで、なお更手の施しようがない。
それこそ整形でもしなきゃどうしようもないだろ、こんな問題。
いっそ会う奴全員と親しくなれる方法でもあれば別だが。
でも、逢坂は丸っきり違う。
同じ目を引くといっても、俺のそれとじゃ完全に逆転している。
黙ってりゃ可愛いんだから、ちょっとくらいお転婆でも人の輪の中から外れることはないだろうに、
なのにこいつからはあまりそういう空気がしてこない。
思えば教室でもどこか浮いていた。
おそらくは気に入っていないだろうあだ名で呼ばれていたし、他の園児の態度も、逢坂には余所余所しいものがあった。
いや、一人いたな、仲良さそうにしていた子が。
逢坂が咽込んでしまったときも、いの一番に飛び出してきてた、活発そうな女の子。
孤立しきっている訳じゃなさそうだ。
少し、安心した。
「こほん…わ、私のことはいいでしょ、あんたには関係ないんだから。それよりも質問にこたえなさいよ、ぎむよ、ぎむ」
わざとらしい咳払いをした逢坂が軌道修正を図る。
それ、その理屈だと俺のことだってお前には関係ないし、わざわざ答える義務だってありはしないんだが。
「俺は昔から子供の面倒をみるのが好きで、将来はそういう職業に就きたいと兼ねてから」
「へぇ、そのくせ平気でこどもにウソつくのね、あんた。そうなんだ、ふぅん」
人聞きの悪いころを言うな。
一応これでもれっきとした俺の本心の一部だ、履歴書にもしっかり書いてあるんだぞ。
「ま、今のはじょーだんってことにしといてあげるわ。さっ、続けなさい。
 …ちなみに、つぎウソ言ったらハリせん本のますわよ。いい? これ、じょーだんなんかじゃなくてガチだからね」
俺の言葉を本音ではないと見抜いたのがそんなにご満悦なのか、えっへんと胸を張る逢坂が先を促す。
ついでにありがちな、しかし冗談とは到底思えない釘を刺す。
これ以上伸ばしても、はぐらかしてもこいつは引き下がらないだろうと、何でそんなに知りたがるのか、興味津々に輝く瞳がそう物語っている。
それに手紙の件で邪魔をしたり、泣かせてしまったという負い目が今さら圧し掛かる。
観念し、俺は渋々打ち明けた。
それに対する逢坂の反応はこうだった。
「い…い…」
口をパクパクとさせ、ベッドの端、俺から対角線上になるまで後ずさりすると、
「いやあああああああ!? あんたやっぱりそういうシュミしてたのね!?」
汚物でも見るような目で、俺に向けてそう言い放った。
「あのな、お前絶対勘違いしてるぞ、俺はそんな意味で言ったんじゃ」
「いやっ、やだ! 近づくんじゃないわよこのロリコン! ペド!」
出した手を即座に叩き落とされた。
なんだよペドって。
感じるものとしてはいささか早すぎる類の身の危険を俺の一言から感じたらしい逢坂は、端っこでブルブル体を震わせ、
近づく度にジリジリ動いては一定の間隔を保つ。
それでも、そんな状況に陥ってなお空腹を訴えてくる、食欲に忠実な腹の虫。
238174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:50:11 ID:SrvVJfBX
「…なんにもしねぇ、約束する。破ったら針千本だって飲んでやるから、だからこっち来いよ、腹減ってんだろ」
文字通り頭隠して尻隠さずをやっている逢坂は耳まで塞いでいる。
だが、もぞもぞ身動ぎをする様から、声は届いているようだ。
俺は背を向け、聞こえるか聞こえないかという大きさで言う。
「まだから揚げが残ってんだけどな」
振り返ったとき、逢坂はすでにそこに正座していた。
泳いだ目のちょっと下では、今か今かと待ちわびて、溢れそうになっている唾液の海。
「お前、やっぱ変わってるよな」
「…うるふぁい」
「口に物入ってるときは喋らない」
「………うるさい」
そこから先、照れ隠しにペースを速めた逢坂は凄い勢いで残りを平らげ、弁当箱は米粒一つ付いてないキレイな空箱に。
満足したらしい、少しばかり膨らんだように見えるお腹をした逢坂が、それを感じさせない身軽さでベッドから飛び降りる。
「こら、お前ごちそうさましてないだろ」
「…お米のかみさま、けいさんしゃのみなさん、ごちそうさまでした」
「お前なぁ、それを言うなら生産者だろ、たく」
包みに空箱をしまい終え、軽くベッドのシーツを直してから保健室から出ると、少し先の廊下に立つ逢坂の姿が。
「なにボケッとしてんのよ」
こっちのセリフだ。
仁王立ちになり腕を組み、指をとんとんと叩く。
なんで焦れてんだ、あいつ。
「早くしなさいよ、私もう帰るんだから」
「お、おぅ、わかった」
小走りで寄ると、逢坂はぷいっと振り返り、俺の前を歩き始める。
途中、他の教室の前を通ると人気はまったくなかった。
今日は入園式があった以外はただ登園するだけの日だから、式さえ済めば帰っても問題はない。
いろいろとゴタゴタしていたから、すっかり出遅れてしまったらしい。
案の定俺たちの教室にも誰も居なかった。
北村がしっかりとしていてくれたからか、あるいは、みんなも慣れているのか? 先生なんかいなくても。
逞しいな、こんなことでもう存在理由を見失いかけるほどに精神的に脆弱な俺よりも、断然。
「なにそんな泣きそうな顔してんのよ」
「なんでもねぇ。ほら、バンザイしろ」
一着だけ壁のフックに掛かっていた上衣は、確認をとるまでもなくこいつのだろう。
一緒に掛かっていた帽子とともに、脱がせたスモックの代わりに着せてやる。
そこでふと、あることに気が付く。
「お前、迎えとかどうしてるんだ?」
他の園児は、ここに残ってないからには親御さんが来たんだろうが。
「ないわよ」
「ああ、そうなのか」
あっさり過ぎるくらいあっさりと、それが当然の如く言うもんだから、俺もそのまま流しそうになる。
が、バッグを肩に提げてやった辺りで、
「いや、そんなわけねぇだろ」
しかし逢坂は代わらず、帰り支度の手を止めないで、
「いいのよ。べつにうち、こっからそんなに遠くないから。ママだって忙しいし、それに」
第一印象は、とにかく小さいって、そう思った。
年中とは思えないくらい、小さな体。
それ以上に小さく見えた背中。
「いつものことだもん」
逢坂は本当にどうでもいいという、投げやりな声でそう言った。
239174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:51:12 ID:SrvVJfBX

「…お前、本当にここに住んでんのか?」
疑っているわけじゃない。
ただ、できすぎというか、世の中の狭さに驚いているというか。
蹴躓くこと三回。内、膝を擦りむくくらい派手に転ぶこと一回。
見かねて手を繋ぎ、小さな歩幅に合わせ、こっちと指差す方へ案内されながら歩いてきた俺は、逢坂がここだと主張する建物を前にそんなことを考えていた。
いや、そこまでおかしなことじゃないんだ。
歩いて通える距離、それも子供一人でもというなら、ありえなくはない。
もう一度見上げる。
眼前に聳え立つそれはけっこう最近に完成したもので、真新しいのはもちろん、部屋の広さに加えてしっかりとしたセキュリティー、
そして、その割りには手ごろな家賃を謳い文句にしている、しかし常識に照らし合わせれば十分に『高級』を冠せられる新築のマンション。
「そうよ。ちょっと狭いけど、まぁがまんするわ。この辺じゃまだマシだもの」
そうだ、最近できたばかりなんだから、こいつもこいつの家族もつい最近になって越してきたことになる。
その前は一体どんな家に住んでたんだろう、これを狭い呼ばわりするくらいだからかなりの物なんだろうが、俺には今一ピンとこない。
「…それに、やなやつもいないし…」
不意にそんな声が聞こえた気がした。
「なんか言ったか?」
「…なんでもない」
そう言うわりには不機嫌になっているのは俺の気のせいだろうか。
顔つきにも、若干翳りが差したように見える。
「にしてもあんた、さっきからなにジロジロしてんのよ。そんなにこれが珍しい?」
話題を逸らそうと、逢坂が立てたと親指を突きつけたのは、背にしたマンション。
そんなことはない。
このマンションのことならよく知ってる。
着工から完工までどれくらいの期間かかったか、とかな。
だが、逢坂は俺を一瞥するとフッと冷ややかな笑みを浮かべる。
「ムリもないわね、あんた、すっごくビンボーしてそうだもん」
否定はしない。
事実そうだ、俺にこんなマンションの部屋を借りられる甲斐性はない。
だから否定はしないが、とりあえずその場で体を抱え上げ、お尻ペンペンをかます。
子供の内からつけ上がるとろくな人間にならない。
手加減はしてるんだ、これは僻みじゃない、愛の鞭だ。
「なな、ななななにすんのよ!? こ、ここ、こ、こんな…人前で…」
なにもじもじしてんだ。
人前っつったって誰も居ないし、居たとしても見ちゃいねぇよ、そんな色気の欠片もないイチゴ柄のパンツ。
だからそんな恥ずかしがんなよ。
「…もうおよめにいけない…」
「そんときゃ貰ってやるよ。それよりもお前、何階に住んでんだ」
「へ………」
逢坂が変な表情になったまま固まる。
手を目の前でひらひらと翳しても何の反応もない。
尻、叩きすぎたか?
「おい、逢坂、おいって」
肩に手を置いて揺すってみる。
すると途端にビクリと全身が跳ねて、おずおずと逢坂が顔をこちらに巡らせる。
「な、なに…?」
「いや、なにってお前聞いてなかったのかよ」
「う、ううん、聞いてた…けど…そんな、いきなり…きょ、今日あったばっかりなのに…」
だめだ、聞いちゃいねぇ。
ブツブツとよく分からないことを呟く逢坂は次第にその声を大きくしていく。
一向に終わる気配が見えてこず埒が明かない。
俺は逢坂を抱き上げる。
「なぁ、お前ん家って何階なんだよ。ていうか今誰かいないのか、家に」
突然の浮遊感に、ようやく降りてきたようだ。
パチクリ瞬かせた目が合う。
240174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:52:14 ID:SrvVJfBX
「たぶんまだ…夜になんないと、ママ、帰ってこないから」
「…そうか」
「…あの…あのね、うち、ここのにかいなの」
二階、か。
「よかったら」
「お前さ、あれ、なんだか分かるか」
何か言おうとしていたようだが、遮ってしまう。
それが気に入らなかったんだろう、目を皿にした逢坂だが、とりあえずは俺の示した方を見る。
これっぽっちも面白くなかったらしく、顔にも出まくっている。
なにがしたいんだ、って。
「なにって、ただのぼろいアパートでしょ」
「ただのじゃなくてかなりぼろいアパートだな」
「ああ〜、たしかにそうね、はじめ見たとき倉庫かと思っちゃった。人の住んでいい家じゃないわよ、あれ」
「人のじゃなくて俺ん家だ」
「へー、そうなんだ。おもしろいじょーだんね」
沈黙でもって返事にする。
何も言わない俺をからかってるもんだと、逢坂はやめてよなんて笑っていたが、じきにそれも収まる。
自宅があるバカでかいマンション、その影に隠れている、今にも潰れそうな隣のボロアパートと、そして俺。
順に見やった逢坂は、今しがたのものとは異なるぎこちない笑みを貼り付けていた。
「…ほんとに?」
「針千本はイヤだからな」
今度こそ冗談のつもりだったんだが、クスリともウケなかった。
こいつ、よりにもよって隣に住んでたのか。
通園路にやけに見覚えがあるから近所かもとは思っていたが、まさかこんな、うちから目と鼻の先に行き着くなんて。
それも二階って、窓から丸見えじゃねぇか。
全然知らなかった。いや接点なんて殆どなかったんだから無理もないんだが。
「あんた、あそこに住んでるんだ…」
しげしげと、それこそ物珍しそうにアパートを見つめる逢坂が小さく言う。
こいつ曰く人の住んでいい家じゃないそうだが、そこに住む俺は一体なんなんだろう。
なんだか自分が心配になる。
それにしても、だ。
こいつ、こんな真昼間から夜になるまで、どうやって過ごすんだ。
道中なんの気なく聞くと、昼飯はコンビニ弁当を、ついでに晩飯まで帰りがけに買って済ますつもりだったと言っていた。
それもいつものことだと。
それに、逢坂は一人っ子だという。
一人きりで、親が帰宅するまでの間、だだっ広い部屋に。
「…上がってくか、うち」
想像すると、自然とそう持ちかけていた。
「え…いいの?」
「ムリにとは言わねぇけど、暇なら」
逢坂がブンブン首を振る。
「そうか…ただ、なんもないぞ?」
「あんたはいるんでしょ」
綻んだ顔でそう言われ、不覚にも子供を可愛い可愛いと溺愛する親バカの気分にさせられた。
「竜ちゃんおかえり〜…だぁれ?」
「あんた子持ちだったの?」
丸と三角になった二対の瞳に見上げられたのは玄関先での事だった。
前者はまだ分かるが後者はどうしてだ。俺、何もしちゃいないだろ。
言わずもがな目を真ん丸に丸めているのはわざわざ出迎えにきた泰子で、ジトっと、それでいて鋭く吊り上げた目で俺を睨むのは逢坂だ。
「ただいま。逢坂っていうんだ、仲良くしてやってくれ、泰子」
人見知りの気があるようには見えなかったが、泰子から隠れる逢坂に手洗いとうがいをするよう言いつけ、一足先に済ませた俺は自室へ。
着替えて出てくると、居間で泰子は逢坂相手に質問攻めを行っていた。
大体は好き嫌いやどこに住んでるのかという他愛無いことを尋ねていて、一々大げさに反応を返す泰子にだんだんと逢坂も警戒心を解いてきたのか、
次第に緊張が抜けていく。
「ねぇねぇ竜ちゃん、大河ちゃんとなりのマンションに住んでるんだって」
「聞いたよ。それも二階だってよ、そっから見えるんじゃないか。それよりも泰子、帰ったらまず着替えろっていつも言ってんだろ」
241174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:53:22 ID:SrvVJfBX
腰を下ろす俺にすぐいろいろと教えてくる泰子は逢坂が着ているのと同じ制服姿で、胸の周りに薄っすら染みがある。
今朝にはなかったものだ。昼食にやらかしたな。
「だって竜ちゃんのごはんおいしくってぇ、ついつい食べすぎちゃうんだもん」
それとこれとは関係ないんじゃないのか、たんに食べ方の問題で。
「あ、わかるわかる。あいつ顔ににあわず料理上手なのね、びっくりしたわ」
「うんっ、でしょでしょ? けど大河ちゃあん、竜ちゃんにあいつなんて言っちゃだめぇ」
嗜めるのは、曲がりなりにもお姉さんだからか。
年長のわりには泰子は成長が早いというか、見てくれは、他の子よりはちょっと大きい。
たまに小学生にも間違われるほどで、中身はそうでもないが、これを期に少しでも追いついてくれるんならいいんだが。
「だってあいつの名前知らないんだもん。それにあいつだって私のことずっとお前って呼ぶし」
「そうなんだぁ。じゃあね、やっちゃんがおしえたげるね」
泰子はまず自分を指差して大きな声で言う。
「やっちゃんはぁ、やっちゃんていうの」
「それは知ってる」
その指を今度は隅っこへ向ける。
「あそこにいるのはねぇ、インコちゃん。とってもかわいいんだよ。インコちゃ〜ん、大河ちゃんだよ〜」
「ぐっ、ぐぐ…イィ───ッ!! よよ、よろ、よっ…よろちくび」
カゴの中、羽を元気よくバタつかせたインコちゃんはふんわり愛され系なヒーリングボイスでお返事。
「うわっ、キモ。微塵もかわいくないし、ていうかそれマジでインコ? ウソでしょ、だって本で見たインコってもっと愛らしかったもの。
 でなきゃインフルエンザにでもかかってんじゃないの、早いとこ消毒してやったほうがいいわよ。顔とか顔とか、あと他にも顔とか」
「ガーンッ!? ひひひ、ひどいぃ…とりも、木から、おちる」
インコちゃんには生まれて初めての経験かもしれない。
こうも徹底的に、それもあの個性的な容姿を否定されるというのは。
逢坂には我が家のエンジェルはお気に召さなかったようだ。
けれどインコちゃん、そんなに気に病む必要はないんだ。
落ちる様を演出しようとしてるんだろうが、そんな止まり木に宙吊りになってまで自己アピールしなくっていいんだ。
インコちゃんの魅力は子供にはちょっとまだ早いってだけだって。
いつかきっと分かってもらえるさ。
「それでね、竜ちゃん」
とてとてと膝の上まで来た泰子はそのまま座り、俺の手を引っ張ってシートベルトのように自分に回す。
「やっちゃんのなの。いいでしょ」
いつからそうなったのか問い詰めたいのは山々だが、それ以上に目を見張るのが逢坂の様子。
ぷくっと膨らんだほっぺたはリスかハムスターのようで、それにリンゴみたいに赤く色づいている。
尖らせた唇はアヒルみたいだ。
「…竜ちゃ…あんた名前なんてのよ。なんかもうちょっとちがったわよね」
「だからね、竜ちゃんはぁ竜ちゃんっていうの、りゅーうーちゃん」
泰子が再度教えるが逢坂はじっと俺に合わせた視線を外さない。
「竜児だ、りゅうじ。これでいいか?」
「りゅうじ…」
「そうだ、竜児」
ちゃんと教えると、逢坂は口の中で俺の名前を反芻する。
「りゅうじ…りゅぅじ…リュウジ…りゅーじ…」
色々イントネーションを変え、何度も繰り返し呟くと、逢坂は俯き始めていた顔をおもむろに上げた。
「竜児」
「おぅ」
普通に。
「竜児っ…竜児?」
「なんだ」
尋ねるように。
「竜児!」
「なんだよ」
怒っているように。
具合を確かめながら名前を呼ぶ逢坂は、もう一度名前を呼んだ。
242174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:54:18 ID:SrvVJfBX
「大河」
俺のではなく、自分の名前を。
言うことは全て言い切ったという誇らしげな逢坂は、十秒もすると「ん?」なんて感じになって、
一分も経つ頃には「まだ?」というあからさまに待ちくたびれた雰囲気を全身から放つ。
そして堪えられなくなった逢坂は、
「大河よ、大河。た・い・が」
ちょっとイライラしながら、噛み砕くようにしっかりはっきりもう一度自分の名前を俺に言う。
何がしたいんだこいつ。
「ああもうっ! いい!? あのバードドーパントみたいのはなに!?」
「いや、なんだそれ」
「いいのよなんだって! それよりもあれよあれ、あのぶっさい鳥。あいつ、なんて呼んでんのよ」
「はぁ? …インコちゃんだろ」
よく分からんが、とりあえず失礼なことをインコちゃんに言っていた気がする。
「…やっちゃんのことは?」
「泰子」
膝の上に陣取る泰子をちらり。
一気にテンションが下がるが、ぐっと耐えるように大きく息を吸う。
「…私は…?」
「そりゃあ逢さっ…なんだよ」
手の甲を抓った泰子は、仰け反って俺と顔を合わせると口だけ動かす。
だめ? そう言いたいんだろうか。
「…そう」
「あ…」
目を伏せる逢坂。
落とした視線の向こう、胸に付けた名札には───
ああ、そうか、やっと分かった。
さっきも言ってたじゃないか、俺は、お前としか呼んでなかったなかったって。
「…大河だろ、大河。逢坂大河。あんまりないけど、良い名前だな」
名前で呼んでほしかったんだ、こいつは、大河は。
その証拠に大河はパァッと咲いた花のように、だけどもそれを素直に表に出すのを恥ずかしがって抑え込もうと、
顔中の筋肉をピクピクさせてにやけそうになるのを必死に我慢する変顔になってしまっている。
「大河」
片側の瞼が跳ね上がる。
「…大河?」
口角が右と左で逆さまに。
「大河!」
すげぇ、耳が動いた。それも両方。うさぎか。
不謹慎ながら面白くってつい調子に乗っていじってしまった。泰子もけたけた笑っている。
「な、なによ! ちょ、ちょっとびっくりしただけだもん、笑うことないじゃない…ていうか馴れ馴れしく呼ばないでよ」
「ああ、悪かった、逢坂」
「…べ、べつに名前で呼ぶなっていってるんじゃなくって、私は、ただ…だから、そにょ…うう〜…」
膝の上の泰子を降ろす。
保健室での二の舞はごめんだからな。
「それじゃ、これからは大河って呼んでいいのか? 大河」
「うん…あっ、ちっちが…もう、あんたがそうしたいんなら勝手にすればいいじゃない。一々私に聞かないでよ、ばか…」
本当に素直じゃねぇな。
今日一日で大河の天邪鬼ぶりもだいぶ慣れたけどよ。
「……ばか……」
243174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:55:16 ID:SrvVJfBX

それから大河は日が暮れ、かなり遅くなるまでうちに居座っていた。
泰子はともかく、喋るお人形さん代わりに相手をさせられていたインコちゃんは今はもう憔悴しきった様子で、
しかし若干いじめられながらもチヤホヤされるというのは満更ではなかったらしい。
大河からのムチャ振りにも果敢に挑戦していった。
まあ、だから疲れきってしまったんだが。
探検と称しては狭い家の中をあちこち駆け回る大河は大河で遠慮とは無縁であり、風呂まで浴びていき、
晩飯もしっかりと食っていったほどだ。
俺はいつにも増して忙しかったが、大河は楽しそうにしていた。
だからだろう、時間はあっという間に過ぎていった。
「じゃあね、私そろそろ帰るわ」
予め帰らねばならないと言っていた時間ギリギリになってから、大河は腰を上げた。
名残惜しそうに泰子と、それにインコちゃんにもおわかれをしている。
「待て、送ってってやるよ」
「いいわよ、すぐそこなんだから」
「なんかあったらどうすんだ」
気付けば窓の外はすっかり暗くなっていた。
こんな夜道を、たとえ隣とはいえ一人で歩かせるのは心配だ。
むしろすぐそこだからこそ送っていくことに面倒は感じない。
「いいってば、そんなのないから」
「ないって言い切れねぇだろうが…心配なんだよ、お前のことが」
過保護だな、俺も。それもかなりの。
大河も煩わしそうに顔を顰めるが、しばし見つめ合っていると、フッと柔らかいものにする。
「いいのよ、ほんとに」
「…でも大河、俺は」
「今日はもう十分だから、いいの」
言うと、大河は卸したての、まだ真新しい靴に足を通す。
忘れ物がないかを確認し、それを終えると帰り支度が済み、
「ねぇ」
開けてやったドアの向こう、
「また、来ていい」
大河は背を向けたまま、そう俺に尋ねた。
言葉になった期待が、春先のまだ冷たい風に乗って耳に届く。
「おぅ、いつでも来いよ。待ってるからな、大河」
振り返りかけた大河は、だけど顔を見せることはなく。
小さくばいばいとだけ言い残して帰っていった。
244174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:56:11 ID:SrvVJfBX

                    ***

玄関の鍵は開いていて、中は明かりも点いていた。
靴もある。
帰ってきてたんだ、ママ。
今日はいつもよりもずいんぶん早いわね。
「ただいま」
リビングにはうつ伏せになってソファーに倒れこんでいるママがいた。
寝ちゃってるのかな。
「…こんな時間までどこにいたの」
起きてた。
テーブルの上にはダイレクトメールの束と、よくわからない書類と、それに二人分のお弁当。
まだご飯食べてないみたい。
待っててくれたんだったら、電話の一つくらいしとけばよかった。
ううん、そんなことしなくても、すぐそこにいたんだから、ママも呼んであげた方がよかったかしら。
こんなのよりずっとおいしかったのに。
「えっと、ママ、あのね、ちょっとね、そこの」
「大河? ママすっごく疲れてるの」
「…うん」
「でも今日は早く帰れたから、せっかくだしあなたとどこか外に食べに行こうと思ってたんだけど…もうこんな時間だわ」
お弁当はすっかり冷めてしまっていた。
ただでさえおいしそうじゃないお弁当。もっとおいしくなさそう。
「あんまり心配かけないでちょうだい」
「…ごめんなさい」
ママは一度深く息を吐き出すと私に傍に来るよう手招きをする。
シワが寄ったスカートを伸ばして、その膝の上に抱っこした私を乗っけて、ぎゅっと抱きしめた。
「それで、今日はホントにどうしたの? 珍しいわね、大河がお外で、それもこんなに暗くなるまで遊んでるなんて」
香水の匂いに混じるママのいい匂い。
なんか、落ち着く。
「それなんだけど、ママ、そこにアパートあるじゃない」
「あの倉庫のこと? だめよ、ああいう所で遊んじゃ。いつ崩れるかわからないでしょ、危ないんだから」
思わず噴出しちゃった。
ママは全然わかってなくて、それも本当にあのアパートを倉庫だって思ってる。
竜児がこの場にいたらなんて言うだろう。
きっと私のこと、ママとそっくりだって呆れるわね。
本気で怒ったりはしなさそうだけど。
でもさすがに落ち込んじゃうでしょうね、立て続けにそんなこと言われたりしたら、あいつじゃなくったって。
見た目と違ってバカみたいに真面目な竜児のことだから余計にありえそう。
それはそれで面白いけどね。
「ママ? 一応言っとくけど、先生の前で言わないでね、それ」
「…? ……え、それ本当に?」
半分信じてないママに向かって、大きくこくりと首を振る。
「やだ、挨拶してきた方がいいかしら」
「やめてよ、恥ずかしい。竜児だって迷惑だろうし」
ママは今度こそ信じられないというように、ずいっと顔を近づける。
大きく見開かれた目には、心なしか頬を染めた私。
むずがゆい。
「驚いたわ、あなた北村くんだってそう呼んでるのに、その先生のことは名前で呼び捨てにしてるのね」
「あ…き、北村くんはべつに…それに、竜児だって私を呼び捨てにして、だから…」
「あら」
今みたいに優しいママは好き。
さっきみたいに怒ってるママは嫌い、恐いもん。
でも、優しいけどニヤニヤしてるママは…嫌いじゃないけど、イヤかな。
だっていぢわるするんだもの。
245174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:57:13 ID:SrvVJfBX
「さすがはママの子だわ、やり手さんなんだから、もう」
「そ、そんなんじゃないわよ!? そんなんじゃ…ただ、竜児が私のこと…その、もらってくれるって…」
「まあ、なににかしら」
「……およめさん」
「まあ、まあ」
やっぱりニヤニヤしてるママは嫌い、それもただ嫌いなだけじゃなくって、大っ嫌い。
いぢわるなママもしつこいママも嫌い。しつこいっていうかしつこすぎるのよ、性格悪いんだから。
「そう、あなたそれで帰ってくるのが遅かったの」
「そ、そうよ。ご飯食べたりしてて、それで」
「帰るのを渋ったのね、迷惑とか言っといて。困った子なんだから、ほんとに」
「ちちち、ちがうもん! なんでそうなるの、私は」
「隠す必要はないのよ、あなたがとんでもなくワガママな子だって、ママちゃんとわかってるから。
 ええそれはもう認めたくないけど最近小じわが増えたって実感しちゃったくらい」
ぼそっと、瞬時に疲れきった目になって、ママはどこか遠くに向けて重たそうなため息を吐き出した。
シワとかそんなの、こうしてても全然気になんないしわかんないのに、そんなにヤなのかな。
それにしても、私、そんなにワガママばっかり言ってるのかしら。
「どうしたの、そんな顔して」
「…私、いい子じゃないんでしょ」
キョトンとするママは、苦笑すると、優しく頭を撫でてくれた。
「でも、ママは大河が大好きよ」
「ウソよ、だって」
「いい子にしていてくれるのは助かるし、ワガママ三昧なのは困るけど、ママはそんなことで大好きな大河を嫌いになったりしない」
「…ほんと?」
「ええ。それに、そのワガママを叶えてあげるのもママのお仕事の内なの」
とっても素敵でやり甲斐があるでしょって、ママは囁く。
私は手を回してママにしがみついた。
ママも一層力を込めて抱きしめてくれる。
やっぱりママ、大好き。
「言い方が悪かったわね。ごめんなさいね、大河。許してくれる?」
「ううん、私も…遅くなってごめんなさい」
「いいのよ、そんなの。ママの代わりに先生が優しくしてくれたんでしょ?」
「うん…最初はね、ビックリしたの。あんまり恐い目つきしてたんだもん。ゆーかいはんかと思っちゃった」
「そういう男はけっこう狙い目よ。見た目がアレでも性格さえまともなら他はどうとでもなるし、変に外で遊ぶこともないわ」
誰か、についてははっきり言わないけど、間違いなくパパのことね。
たしかに正反対かもしれない、性格とかっていうのは特に。
ま、ママじゃなくてもあんなの願い下げだけど。
「そのときは、たいして話とかしなかったんだけど、次に会ったときもね、ビックリしたわ。今日から先生だって言うんだもの」
「そう」
「それで、私最初に会ったときにてがみ落としちゃってたんだけど」
「ああ、北村くんに書いてたあれね。転んじゃった大河に手を貸してくれてありがとうって」
「そ、それはいいの! …そのてがみ、竜児が拾っててくれて…でも竜児、人が真剣に話してるときに笑うのよ、ひどくない?」
「あなたが何かしたんでしょう」
「そ、それはその…だって、お腹減って…」
ほらごらんなさいって、ママは批難めいた目で私を見る。
「けど、そしたら竜児がお弁当くれたの」
「…晩御飯だけじゃなくてお昼までごちそうになったのね」
「うん。そこいらのお店で食べるよりもおいしかった」
また食べたいな。
ううん、今度はタコさんウインナーって約束したもの、竜児ならちゃんと作ってくれるはずよね。
なによりあんなお弁当、頼んだってママじゃ絶対作れないし。
ママの前じゃ口が裂けても言えないけど、本当に比べものにならない差があるもん。
「まったく…その張った食い意地は誰に似たのかしらね…それで?」
「えっとね、帰ろうとしたら迎えはどうすんだって聞かれて、ないわよって言ったら竜児が送ってくれた」
「…そう」
「そのあとはずっと竜児のお家にいたんだけど、すっごく狭いのよ、あのお家」
246174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:58:14 ID:SrvVJfBX
けれど、ちょっとだけ羨ましい。
狭い分誰かがずっと傍にいてくれるようで、あの窮屈さは思いのほか気持ちよかった。
この家と違ってどこも整理整頓されててキレイだったし、家事は全部竜児がやってるってやっちゃんが言ってたから、
真面目なだけじゃなくて几帳面なのね、竜児って。
「あ、そうだ。竜児のお家にね、年長の女の子がいたの。あとよく喋るきもちわるい顔したインコも」
「あら、その人そんなに大きなお子さんがいるの」
「わかんない」
結局なんだったんだろう、あの子。
みのりんもけっこう掴めないところあるけど、もっと掴みようがない感じ。
こっちに合わせてあんな間延びしたお子ちゃまっぽい喋り方してるわけじゃなさそうだし、じゃあ素であれ?
どうなんだろ。
悪い子じゃないのはきっと合ってると思う、そんな風には見えなかったのもあるけど、竜児と一緒に暮らしてるんだから。
てか一応年上なのよね、年長なんだからたぶん、そのはず。
それにしたって、なんか、胸の辺りに他の子には普通はない、体に不釣合いなふかふかしたのがあったような気がしたけど…まさかね。
もし仮に、仮によ、百万歩譲って本当にそうだったとしても私だって大人になれば、そこそこ大きくなるだろうし。
焦る必要はないわね、うん。
それに、
「でもね、ママ」
「うん?」
「竜児、名前で呼んでくれた」
「よかったわね」
大河、だって。
タイガーってバカにした呼び方じゃなくって、大河って、私の名前を。
嬉しかった。
「そうだわ、大河? こんな話知ってる?」
ふと、ママは思いついたように言う。
「虎と竜はいっつも一緒にいるのよ。なんだかぴったりじゃない、あなた達に」
虎って、わたしのこと?
きっとそうだと思う。
私の名前からもじったタイガーってあだ名、虎のことだったはず。
じゃあ竜って、竜児?
「ほんとう?」
「ほんとうよ」
「ずっと?」
「さあ、それはどうかしら」
矛盾してる。
いっつも一緒って言ったのに、ずっと一緒なのかどうかはどうかわからないなんて、そんなのおかしい。
考えても考えても、なにを言いたいのかわからない。
難しい顔をした私を見て、ママは含み笑い。
「あなたしだいよ」
スーッと、凝り固まった頭と心にその言葉が染み込んでいった。
「私しだい…?」
「ええ。大河がずっと一緒がいいならそうなるし、その逆だって…あなたには、まだちょっと難しいかしらね」
難しいけど、でも、なにか、わかったような気がする。
要は、したいことをすればいいんでしょ。
大事なのは、きっと、そういうこと。
「ママ、おねがいがあるの」
「なぁに?」
「明日の朝って、いつもとおんなじで早いんでしょ。起こしてってほしいの」
「いいわよ。その代わり、一度で起きなきゃだめよ」
一つ目は簡単にきいてくれた。
あとは、残りの二つ。
「それでね………で、これからは竜児に………なんだけど、いい?」
「そうねぇ」
ある意味これが一番重要で、ワガママの度が過ぎてる。
だけど、おねがい。
「…ママはいいわよ。ただし、きちんとお願いするのよ、先生に」
247174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 19:59:13 ID:SrvVJfBX
よし、最大の難所は通った。
最後の一つは、おねがいっていうほどのおねがいでもないんだけど、やっぱり聞ける相手なんてママくらいだから。
「あのね、教えてほしいんだけど───」
聞き終えたママは柄にもなく大きな声で笑っていた。
ひとしきり笑うと、荒い息をしたママはこう言う。
「任せなさい、とっておきを教えてあげるわ」
とっても素敵で、やり甲斐があって、絶対叶えてあげたいワガママね。
そう付け加えたママは、耳元にそっと口を寄せた。

                    ***

「なぁ、大河」
「なによ」
「たしかに俺は昨日、いつでも来いとは言った」
「ええそうね」
「だからって、こんな朝っぱらから来ることないんじゃないのか」
テーブルに着いているのは俺と泰子と、そして大河。
囲む朝食。玄関がノックされたのはその支度中だった。
インターホンまで手が届かなかったんだろうが、にしたって早朝からドンドンドンドンと、
力いっぱい何度もノックをされるというのは近所迷惑以外の何物でもない。
イタズラだったらどうしてくれようとドアを開けると、そこには大河がいて、開口一番こう言った。
『遅い、寒い、お腹減った』
そのままさも自分の家みたいに上がりこんだ大河は勝手にテレビを点け、ニュースなんかには目もくれず、
こんな時間から放送している幼児番組にチャンネルを合わせると食い入るように見ていた。
泰子も、テレビから流れる着ぐるみたちのやりとりで目を覚まし、枕を引きずって起きてきた。
その枕に頭を乗っけ、寝そべってテレビを見るのはどうかと思うんだが。
しかし大河と並んで『ゆゆぽおねえさんのたらふくたらスパ体操』をうつらうつらとしながらもしている内に眠気は完全に払拭できたようだ。
大河に習って言われもせずに着替える。
手間が省けていいな。
泰子の方がお姉さんなんだから普通は逆だろとは、この際置いておこう。
それよりも大河の方が気にかかる。
なんだってこんな時間から、もう登園する気まんまんでうちに来るんだよ。
「やっちゃんこれきらーい」
「私もイヤ」
無視かよ。しかも人の皿にさりげなく嫌いなもん除けるな。
「あ、そうそう。ねぇ竜児」
「…なんだよ」
大河が今思い出したように言う。
「ママがね、竜児に幼稚園連れてってもらえって」
唐突で、かつかなり意外な申し出だった。
別段それ自体は構わないんだが、面識もない、それも大河にだって昨日初めて会ったばかりの俺にそんなことを頼んでいいのか。
「だめ?」
「いや、だめってことは…まぁいいけどよ」
「やった」
大河はほっと一息、そして続けざまに爆弾を落とした。
「それじゃ、今日から毎日おねがいね」
静まり返る室内。
外から聞こえる音以外はなにもしない。
時間が止まったようだ。
「げふぅーい」
だが、ご飯を食べ終えたインコちゃんの可愛らしいげっぷを境に、時計の針が動き出す。
「ま、毎日ぃ? 今日だけじゃなくてか?」
「そうよ、毎日。いいでしょ、どうせ行き先は一緒なんだから連れてきなさいよ」
「わぁー、じゃあ大河ちゃんとずっといっしょだねぇ〜」
泰子、それは喜ぶところなのか。
そりゃお前は遊んでもらったり、面倒見てもらったりだのと、おおよそ世話をかける方だからいいだろうが、俺はそうはいかないんだぞ。
「お前、弁当は? 今日から持ってかなくちゃいけないんじゃないか」
「タコさんウインナー、楽しみにしてるわね」
ほら見ろ、こんな調子だ。
248174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 20:00:39 ID:SrvVJfBX
こんなこともあろうかと急遽三人前の朝食と一緒に弁当の用意をしてなかったら、今頃大わらわでまた台所に立っていたことだろう。
しかも、これが毎日ときたか。
嫌ってほどじゃねぇんだけど、かといって手放しで喜べる事態でもない。
他はともかく食費とか、最低でもそれだけはどうしたもんか。
「安心して、竜児」
大河が胸を張る。
洗濯板よりはまだ厚い胸囲をこれ見よがしに見せ付けられても、俺の不安は小指の先ほども解消されない。
どちらかといえば将来、寸分違わないサイズのままでいそうなソレの方が要らぬ不安を掻き立てる。
「その…カラダでかえしてあげる…」
ぽっと頬を染めるな、ちゃんと意味分かって言ってんのか。
「からだでかえす? 大河ちゃん、それなぁにぃ? なにするの?」
「よくわかんないけど、こう言えばイチコロだってママが言ってたの」
それでイチコロされたとして、そんな男の目の前に自分の、しかも言葉の意味も理解してない年齢の子供を置いておける神経を疑う。
話に出てくるのは一貫して母親だけだから、こいつの少々ズレた性格や並外れた行動力はひょっとしたら母親譲りなのかもしれない。
どんな人だろう、できればあまりお目にかかりたくない。
だって偶然に偶然が重なったとはいえ、さらりと隣家の住人を送迎係り兼子守りにするような人間だぞ。
それも本人の了承は一切得てない上に子供を通して伝えるなんて、どうかしてるだろ。
挙句にあんなことを言わせて。
「竜ちゃ〜ん、やっちゃんもぉカ・ラ・ダ・で、かえすからぁ、ほしいのがあるの」
なんで子供ってなんでもすぐマネするんだろうな。
とても子供のおねだりとは思えない仕草でもたれ掛かってきた泰子が、やけに大人びた声で囁く。
言うだけ言ってみろ、たいしたものじゃなかったら考えておく。
まぁどうせおもちゃとかそこら辺だと、
「あのね、やっちゃんね…あかちゃんがほしい…」
「大河? お前忘れもんとかないよな? なかったらちょっとこっち来い」
子供のおねだりはよりにもよって子供が欲しいという子供らしからぬおねだりだった。
俺は今の場面を頭から忘却するよう無理やり自分に言い聞かせ、いやぁ〜んなんてアホみたいに身をくねらせる泰子を尻目に、
三人分の弁当箱を詰めたカバンを引っ提げ大河の手を取り玄関へ。
「ああいうの、二度と泰子の前で言うなよ」
「でで、でも、そんな、私のせいじゃ」
「言うなよ」
「…わかったわよ」
しゅんとうな垂れる大河。
ちょっと、キツく当たりすぎたか。
考えてみればこいつだって、なにも悪気や変な狙いがあってあんな言葉を口にしたわけじゃないんだよな。
「ふにゅ…ひゃみすんにょよ、ばか」
両側の頬を持ち上げる。
ひょっとこ顔の大河がギロリと俺を睨んだ。
パッと手を離す。
「ほら、しゃんとしろ。もう幼稚園行くんだぞ」
「…だからってなんでほっぺ抓ったりすんのよ。痛いじゃない」
「泰子、そろそろ出るぞ」
「ふぁ…ん…やぁん、竜ちゃん、だぁいたぁ〜ん」
「シカトするなんていい度胸してるわね」
ひとりおままごと絶賛真っ最中の泰子を抱きかかえる。
大河はこめかみをピクピクさせながらも、時間がないのが分かっているからか手を出してこない。
が、大人しかったのも外に出るまでで、歩き始めたとたんに脹脛に鋭い蹴りをお見舞いされた。
「ふんっ、これでおあいこよ」
靴跡を残されたズボンを叩き、砂埃を払い落とす。
片手じゃ、いい加減辛くなってきたな、泰子を持ち上げているのも。
「ん」
もう片方の手まで塞がれてしまった。
殊更足なんか滑らせないよう注意して歩かないと。
人の目がそこはかとなく刺さってくるが、まぁ、こういうのは何も初めてじゃない。
潔く諦めよう。
「おい、歩くの早いって」
「竜児が遅いのよ、早くしなきゃ遅刻しちゃうわよ」
なにせ、毎日これが続くんだからな。
249174 ◆TNwhNl8TZY :2010/03/05(金) 20:01:42 ID:SrvVJfBX
おしまい
時代はスモック。
だってスモック着たやっちゃんが頭から離れなかったから。
これ、あんまり幼稚園らしいネタもなかったから、できたら短い話でぽちぽちやりたい。
250名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 20:14:36 ID:/bnS9Zo/
GJ!!
相変わらずの豪腕っぷりで、面白かったです
251名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 21:14:50 ID:uk/QTs1D
良い
実に良いぞ
252名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 21:25:29 ID:YSDkYH9K
GJ
スモックってなんだろと・・・ググってみたら

ああ、良いな。
253名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 11:08:28 ID:Xyu2hASA
>>249
GJ!
スモック着たちみっちゃい大河達が目に浮かぶ
マジで良いね、ほのぼのしてて

てかインコちゃんドーパント呼ばわりすんなww
254名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 22:10:46 ID:mR8CexcO
奈々子さまがたりん
実にたりん
でも幼稚園はGJだ
255名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 01:35:00 ID:f+3/aYdz
>>249
GJ!
アニメ化だ!アニメ化するしかない!!
256 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 04:59:56 ID:iWLRntF5
皆さんお久しぶりです。
長々とお待たせしてすいません、[Lovers.-How you like me now-]の続きが書けたので投下させてください。
前回の感想をくださった方々、まとめてくださった管理人さんありがとうございます。
※この作品はみのドラで性的描写があります、苦手な方はスルーしてやってください。
それでもよろしければ読んでやってください。
では次レスから投下します。
257 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:00:49 ID:iWLRntF5


[Lovers.-How you like me now-(中編)]



「っ…くふ、ふぁ…ふっ……っ」

俺は暖かく柔らかい彼女の胸の中に抱かれたまま夢中でしゃぶりつく。
刺激で張り詰めた乳首を口に含んでも母乳なんて出やしない…解ってる、でも止められない。男なら解るだろ…『楽しい』んだよ。
何で楽しいのか? 知るか…ともかく楽しいのだから仕方無い、彼女が抑えた声で喘ぐからより楽しくなる。
心地よい柔肌の感触、甘い彼女の匂い、愛撫に身体を震わせて抱き締める仕草…そんな魅了される要素は言い出したらキリが無い。
しゃぶって、吸って、次に試したいのは少しアブノーマルなこと。実乃梨のサクランボを前歯で甘噛みしてみる。

「う…ぅんっ! あ…あっ、くぅ…っ、は…っう!? コラァッ…だぁめ」

甘く啼いていた彼女がビクッと肩を震わせて小さく可愛い悲鳴をあげ、俺の頭を軽く小突く。

「もう…りゅーじくん悪戯なんかしちゃダメだよ、…ねっ? くすくす 」

実乃梨は優しい言葉でそう紡ぐとスッと耳元に唇を近付けて囁く。

「おっぱい美味しい?」


「おぅ…やっぱりいいもんだな、落ち着く…」

俺がそう返すと彼女は胸を押し付けて左右にグリグリと擦り付ける。



「んふふ〜っ♪ うりゃうりゃ、それならサービスしちゃろう」

と…嬉しそうに言いながら。
ほんのり汗ばんだ柔肌が俺の顔面を覆いむにゅむにゅと潰れて押しつけられる。ほんの少し前までなら胸元で微かに感じていた感触を直に味わう。

「ん…、くふっ。 本当に好きなんだね、ひぅっ…あ、おっぱいちゅぱちゅぱするのが…」

でも感触を味わうより俺は…。途中で中断させられた『ちゅぱちゅぱ』の方をすぐに再開したくて…唇に当たる乳首を含んでしゃぶる。
すると彼女は子供をあやす時のように優しく甘く問い掛けてくる、発情した艶を混じらせた喘ぎを漏らして。

「う…んんっ、は…っう、んふっ! や、ぁ…」

乳首を唇で引張って離す、また含んで摘んで…今度は大口を開けて飴玉を舐めるようにねぶり回す。
左手は背中に回して、右手は再び尻へと伸びる。触れるか触れないか…微妙なタッチでゆっくり撫でて、不意にワシ掴みしてみると

「あんっ」

と、実乃梨が微かに悲鳴をあげる、これは良いものだ。下着に隠された触り心地良い柔肌に五指が埋まる。
何処まで指が沈むか試してみたくもある、しかしやり過ぎるとまた怒られるから遠慮はしている。




258 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:02:13 ID:iWLRntF5


でも、だ…ただ撫でるだけで俺は満足出来ない。実乃梨への興味は尽きずに一つ知れば新たな感覚を求めてしまうものだ。
だから思い切って強行する、迷うより行動…すぐに実行。一年間無意味にシミュレーションしていた訳じゃない。
会話から始まってデートの時に行く場所、ドライブで聞く音楽、彼女を想って綴ったポエム…そこまでなら実乃梨も知っているのだ。
大河のヤツがバラしやがったからな…。
『みのりん、このエロ犬はこんな物まで作って日々妄想して悶々としていたんだよー』
というニュアンスの事を俺の部屋で彼女に告げ口して証拠の品まで見せて…、その時は目の前が真っ暗になった。
意外にも実乃梨は引かずに興味を示して
『そんなに好かれてたんだ…ふふ〜照れちまうよ』
と満更でもなさそうにしてくれたから助かった訳だが、一歩間違えば破局の原因にも為りかねない出来事だった。
まあ…それでも隠し通した物はある、こればっかりはネタも無い、あるとするなら俺の脳内。
つまり…ナニをナニする時のオカズ、エロ本でも無ければDVDでも無い、豊かな想像力でシミュった彼女との…………。



「なあ実乃梨、ちょっと身体の向きを変えよう」

俺は彼女の胸から口を離してそう提案する、それは何を意味するか…俗にいう『恋人座り』をしようと言いたいわけだ。
あぐらをかいた男の膝を椅子代わりに女が座る…今の俺達で例えるなら向き合った実乃梨が180°身体の向きを変え背中を俺に預ける。

「ふ、んぅ? どういう向き?」


「こうだよ」

トロンと陶酔した彼女は甘えた声で聞き返す。俺は答えると同時に実乃梨の尻を両手で僅かに持ち上げて身体の向きを強引に変えようと試みる。
察した彼女は自ら身体を動かして俺の膝の上に腰を落着けた後、背中を預けてくる。指示なんて必要無い、実乃梨は導かれるまま身を委ねる。
彼女を背後から抱き締めて左手で胸を揉みしだく、強く優しく…強弱を付けて。

「んくっ…、ふあぁ……あ、んん…」

そして右手は締まった太股へ。これまた尻の時と同じく触れるか触れないか…そんな触り方で撫でる。
実乃梨はくすぐったそうに身を捩らせて僅かに前屈みになり逃げようとする、俺は彼女の首筋に顔を埋めて鼻を鳴らす。

「やだぁっ…嗅いじゃ…だ、め…だよぅ、汗かいてい、るから…くふっ!」





259 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:03:43 ID:iWLRntF5


そう告げる実乃梨の言葉は震えていた、だが羞恥から来る声色ではなく媚びた艶声なのを俺は見逃さない。
硬くなって自己主張する乳首を摘んで強く転がしながら、しっとり吸い付く太股を五指でくすぐる。

「あ、ぅ…んあぅ、りゅーじくん、ん…あぁ…ん」

身体を震わせる彼女を熱情で焦がしていく、他の誰でもない俺が…だ。甘えきった声で俺の名を呼び…もどかしそうにモジモジ。
否応にも興奮は高まっていく、今まで見た事の無い彼女の『サカり』がついていく様を見せつけられて、そしてムスコに押しつけられた尻の感触に注意が向いてしまう。
彼女は気付いていない、スカートが捲れて下着越しだがムスコが尻の割れ目に挟まっているのを…いや本当は気付いているのかも知れない。
分かっていて『気付かないフリ』をしてくれている気もする。それを確かめたくて試しにムスコを擦り付けてみる。

「んんっ…ふっ、はあは…あ、んくっ…」

擦り付ける動作に合わせて実乃梨が恥かしそうに呻き、一度だけ喉を鳴らして生唾を飲み込んだ。
あてがった手の平の中で彼女の胸がドキドキしている、やっぱり気付いているんだよな…多分。


どうせバレているなら少し大胆な事をしても…いいよな? 最後には見られるというか、コイツが実乃梨の膣内に入る訳だから…。
まだ恥かしいから見せるのは勇気が要る、だから『感触』くらいなら…と言い訳してみる。実際にはズボンの中で苦しそうにしているムスコを『解放』してやろうと思ったのだ。
更に言うなら『手だけじゃなく敏感な部分で実乃梨の柔尻を感じてみたい』という欲求が首を擡げてきたんだ…かなり変態じみているよな、否定はしない。

「なあ…ここ触ってもいいよな? …触りたい」

その前に彼女の緊張を和らげた方が良いかもしれない、同時に俺自身も触れてみたいし見てみたかった。実乃梨の股間を下着越しに撫でてみる。
彼女に紡ぐ言葉は本心の発露でもあった。

「え…っと、う…うぅ〜、ちょいと待っておくれぇ…そのさ…初めに言っておくけどあまり"いいもの"じゃないよ?
りゅーじくんがどんなものを"想像"をしているかは分かんないけど…多分、幻滅するかも……そ、それでも…良いの?」

実乃梨は恥かしそうに少し顔を伏せて恥じらう、その言葉を紡ぐ唇は震え、うわずって途切れ途切れに…。




260 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:05:13 ID:iWLRntF5


だけど…嫌そうでは無い、さっきも言ったように恥じらっているだけ。
『誰にも』見せたことが無い、自分の『女の部分』を晒すのだから当然だよな。

「実乃梨、大丈夫…俺はそんな…大切な恋人の身体に"幻滅"とかしねぇよ」

そう返すと彼女は頷き
『だよね、りゅーじくん…ごめん』
と小さな声で呟く。そしてもじっと一回だけ腰を捩らせた後、実乃梨の両手が俺の右手を包み込む。

「…触って?」

緊張した様子が読み取れた、でも精一杯に甘えた声で一歩を踏み出す。
それは初めて見る彼女の『いやらしいおねだり』 口付けの時はワクワク顔で…ハグの時はウットリとした顔で…そして今のこれは……だな。
ほんのり桜色の頬で目元をトロンと蕩けさせ、はあはあ…と発情した吐息を漏らしながら…。
俺を魅了する煽情的な表情だ、おもわず生唾を飲み込んでしまう。高鳴っている心臓が更にドキドキと脈打つ。
恐らく俺はこれから先、実乃梨のこの『表情』を何度も見る、その毎に……こんな想いをするのだろうか?
シミュレーションでは初体験に戸惑い強張っている姿を想像していた、実際に目にするのは俺に対して身を委ねてくる実乃梨で…ああいかん、勝手な妄想は捨てろ。

「ん…ふっ!」

壊れ物に触れるように優しく彼女の秘部に触れるとピクンと肩が跳ね、直後にブルッと一回身震いする。
太股をピッタリと閉じ、俺の愛撫を無意識の内に彼女は抗う。それは仕方無いこと。
俺は気落ちする余裕なんてない、何故なら感動と羞恥と興味に絆されていたから。
人肌より少し暖かく、いや熱いと言っても過言ではないプニプニ柔らかい感触、そして…下着に滲む『実乃梨の涙』を感じたから。
AVで見たような『濡れ濡れのグチョグチョ』とか…そういうもんじゃねぇ、ほんの少し…少しだけだけど埋めた中指の先で感じたんだ。

「うぅ、んん…はっ……はっ…。あ…」

人差し指、中指、薬指、三指の腹で揉む。秘部に沿って撫でるように掻くように…くすぐるように。逸る気持ちを抑えて繊細に。
その愛撫とはとても言えない稚拙な指遣いに彼女はフルフルと身体を震わせて返してくれる。
僅かに聞こえる衣擦れの音と押し殺した喘ぎ、そして興奮しきった俺達の息遣いだけが部屋を支配する。

「あっ、くぅ…っ、ああ…ぁっ、あっ…」

中指をくの字に曲げ秘部に少し強く擦り付ける、残った二指でその周囲を撫でる。



261 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:06:49 ID:iWLRntF5


すると次第に彼女は弛緩していく、抑えきれなくなった喘ぎは甘く甘く…啼き声に変わる。それに比例して下着に愛液がジワジワと染みていく……。
添えられるだけだった彼女の手に力が入りギュッと掴む。次いで

「ふっっ…くふっ! ゾ、クゾク…するよぅ…何か変な…ひぅっ…気持ち」

と、微かに呟く…。

「それは"気持ち良い"って事か。じゃあ、よう…聞くけど触られてどこが一番気持ち良い?」

俺はうわずった声でそう質問してみる、それにはもちろん下心もある、あるに決まっている。だが彼女を更に悦ばせたいという想いもある。

「ん……ここ、かなぁ? んん、ぅ…分かんないよ、りゅーじくんが触ってくれるところ…全部が気持ち良いんだよぅ」

しばしの間を空けて実乃梨は俺の手を誘導する、そこは…膣口。
そこへ彼女は俺の指を押し付けるように教えてくれる、言葉と行動、そして身体の変化で…。
熱を帯びた身体より熱く、溢れた愛液をくちゅりと鳴らして、初体験は『濡れにくい』なんて聞いた事がある。
俺だって初めてだから全然分かんねぇよ多いのか少ないかなんて、だけどこれだけは分かる、間違いなく実乃梨は俺の稚拙な愛撫に『濡らして』いる。


個人差はあるだろう、しかし下着に染みた愛液が指先にくちゅくちゅと纏わりつく感触、これだけで俺は嬉しくなるんだよ。

「おぅ…これ以上は下着が汚れてしまうし脱がせてもいいよな」

『おぅ』からは一息に言い切って彼女の返答を待つより先に手が動いてしまう。両手の指先は下着の脇に掛かる、落着き払っているつもりでも焦ってしまうのだ。

「りゅーじきゅんは"あわてんぼーさん"だぁ…ふふ、なんだろ…言ってもいいかな?
言っちゃおうか、うん…かなり可愛いよ」

実乃梨は振り向いて微笑んだ、続いて前へ向き直し俺の手を下着から引き剥がして一瞬だけ動かなくなり…腰を僅かに持ち上げる。
白い指が下着に掛り…ゆっくりずれて衣擦れの音を残して太股…ふくらはぎ…足首へ。
俺は見てしまった、脱ぐ一瞬にツツッと愛液が糸を引いていくのを…初めて目の当たりにした生々しい『実乃梨の女の涙』を…。

「恥かしいけど…私も勇気を出す、セックスって一人じゃ出来ないから…大切な人と…りゅーじくんとするものだって想うんだ」

赤面して俯いた彼女は自分に言い聞かせるように言って両手の指でスカートを摘んで持ち上げる。




262 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:08:11 ID:iWLRntF5



「……やっぱり恥かしい、けど…その……もっとして貰いたい、な?」

彼女は『おねだり』して俺の膝の上で開脚する、背後からじゃよく見えないが丸見えなんだよな絶対に…。
緊張もほぐれたよな、そろそろ…俺も。

「な、なら実乃梨もしてくれよ。俺…我慢出来ねぇ…頼む、おまえが出来るって思う範囲でいいから」

ああ…言った後でなんだが直球だよな、さり気なく…なんて無理、考える余裕が無い。

「あー…それってつまり、うぅ…ナニをナニして欲しいってことだよね? は、初対面…しちゃうわけだ」

実乃梨はモジモジしながら俺の顔をチラチラと盗み見てゴクリと喉を鳴らす。

「じゃあ…一緒にしよっか? よいしょ」

彼女は戸惑いながら右手を自身の背後に回して俺の股間に手を伸ばし…恐る恐る触れる。

「お、おぉお…でっっか……こんなに硬いんだ」

人差し指と親指がムスコの形を探る、摘んで上下に擦られて時折もみもみ…、実乃梨が触れている…俺のムスコにっ! も、もう駄目だ!

「どうせなら直に触ってみろよ、ほら俺もおまえのアソコに色々するんだし遠慮するなって」



興味を示した彼女を見てこれ幸いとばかりにベルトのバックルを外しチャックを下げて硬直したムスコを握らせる。

「ひぇっ…な、何…ビクビクして、る? てか…熱いっ…し? お、おぉ〜」

控え目な力でムスコを擦る彼女は感嘆の声を洩らし、再びゴクリと生唾を飲み込む。

「ね、ねぇ…んくっ、私がりゅーじくんの上に座ってたら一緒に触りっこ……出来ないよね?
ほら後ろ手じゃ難しいし、んぅ…う…ちゃんと顔を見ながら"しこしこ"してあげたいし…はぅ…あ……そ、そっちでしよっ?」

ギュッとスカートを握り締め真っ赤な顔を伏せたままの実乃梨がベッドを指差す。
俺は彼女の秘部を中指の腹で上下にゆっくり擦りながら聞き返す。

「あのベッドは見ての通りシングルだから狭いぞ、それでも大丈夫か?」

あとお世辞にも心地よいとも言えないのだ、この時期はマットを敷かないからな…薄い敷き布団だけだ。

「いいよっ…その方がりゅーじくんと密着出来るじゃん、それに…セックスをする時は私の上にりゅーじくんが"の、乗っちゃう"から…狭くても大丈夫だよ、きっと…」

彼女はそう言っていそいそとベッドまで移動し俺に手招き。

263 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:09:30 ID:iWLRntF5



「おいでよりゅーじく、ん…」


「おぅ…」

緊張を隠しきれないが、優しい笑みを浮かべた彼女に俺はフラフラと引き寄せられる…。
ずり下がるズボンを持ってベッドの端に腰掛けた彼女の横に座ろうとしたら手で制止された。
ちょうど実乃梨の眼前に仁王立ちする形、もちろんムスコは手で隠してはいる。

「ちょいと見せてよ、おっきくなったおちんちんって見たこと無いんだ…」

と言って手を引き剥され……実乃梨はムスコと真の意味で初対面。

「こ、こんにちは…だぁ…あはは…」

目を見開いた彼女は恥かしそうにそう呟き、ジーッとムスコを凝視する。ちなみに実乃梨は記憶から消し去っているようだが夏に北村のムスコを目撃している。
『ワカメ』がどうとかなんて誤魔化していたがモロに見たのだろう、複雑な気持ちだ。
北村と一度スーパー銭湯に行ったことがあるがアイツのムスコはなかなか立派なものだ。
太さは恐らく俺の方が勝っている、しかし北村は長さが凄い…マジマジと見た訳じゃ無いがそれはハッキリしている。
勃起した状態でないから(見たくねぇ)アレだが、少し劣等感を覚えたのだ。
興味深々に注視する彼女に『比べ』られているように思えてしまうのは仕方無い。


「これが入っちゃ…うんだよね」

彼女の興奮した吐息すら感じる至近でマジマジと見られると恥かしい、だが隠そうとは思わない。
いずれは見られるのだ早いか遅いかの違い、ならばと腹を括る。

「くふっ!」

指先が敏感なムスコの頭をつつき、続いて優しく手の平の中へ包まれる。
ソフトボールをしているからって彼女の手は硬くはない、やっぱり女の子な訳で…ぷにぷにと柔らかい。
先程したようにもみもみ…と揉まれ、包皮を二度三度と戻され剥かれ…人差し指と親指の輪は根元まで滑る。
扱かれるよりは優しく、擦られるよりは強くといった感じだが気持ち良い。
確かに自分でした方が気持ち良いそれは認める、だが気持ちの問題だろ?
実乃梨にムスコを愛撫されている、それが重要なのだ、好奇心が愛情に変わっていく様子がひしひし伝わってくる。

「男の子ってしこしこ…したら気持ち良いんだよね、こうかな? 気持ち良い?」

興奮のあまり腹に引っ付きそうな程に反り上がったムスコへ愛撫しながら彼女は問う。

「あ、ああ…凄く…、ぅ…う」

ムスコから発生した快感の痺れは腰を通って背中へ流れる、絆されて夢中になる。




264 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:10:58 ID:iWLRntF5


だから気付かなかった、次第に彼女の顔が俺の方へ近付いてきていることに…。

「ふっ!? うっ!」

それは突然に沸き起こった…、目を閉じて彼女にされるがまま心地よい刺激を甘受していて、急に感じた腰砕けになりそうな痺れる強い電流…。
手の平なんか比較にならない程の柔らかさ、熱くてぬるぬるしていて、それでいてザラザラ。不思議な感触。

「ちょっとしょっぱい…」

下腹部に目を向けると同時に実乃梨が照れ笑いしながら呟く。
そう…彼女の舌がムスコの頭を一舐めしたのだ……、目が合うと悪戯っぽくそして艶を出した笑みに変わる。

「…りゅーじきゅんが女の子の身体に興味深々なら私だって男の子の身体に興味深々なんだ、ごめんよぅ…痛く…はないよね?」

と…今度は遠慮無しにぺろぺろ…小刻みに舌先が躍る。ムズムズする、腰が引けそうになるが男はムスコを掴まれたら動けなくなる。

「ぴちゃ…ちゅっ、ぴちゃぴちゃ」

おもわず彼女の頭を引き離そうとした手は虚空を掴み、ズボンを握り締める事で代わりとする。

「やっぱり慣れない事をしたら駄目だね、舌が疲れちゃった…」

一分かそこらの短い時間、だが途方もなく永く感じた。


彼女は愛撫を止めて、ベッドの中心へ座ったまま後退りし寝転ぶ。そして両手で紅潮した顔を隠してモジモジ。

「うっわ…やっといて今さらだけど…はずっ!」

身悶えする彼女を見つつ俺は途方に暮れる。焦らすように少し舐められて、ちょっと期待していたのだ…口の中で愛撫されることを…。
お預けを食らって欲望に身を焦がされ、彼女の横に寝転がって見詰め事で無言の抗議をする。

「ごめんようーマジですまんっ! ま、またしてあげるから…ぺろぺろはこれくらいで堪忍しておくれやすっ!」

だが届かない、なら仕方無い…これはサプライズだったのだとポジティブに受け止めて、膝を立てた彼女の膝頭を持ってグイッと大きく開脚させる。
それに前後して覆い被さるように身体を少し起こして肘で支える。

「んっ! もしかしてお、怒ってる? 期待させて…すぐに止めたから怒ってる?」

なんだよ…確信犯か…まあお互いに初めからあれこれ出来る余裕は無い。だけどいつかは出来るようになる、それでいい。

「怒ってねぇから心配するな、ありがとうな実乃梨」

そう紡いで微笑み頬を撫でると彼女は肩から力を抜いて安心したように胸を撫で下ろした。



265 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:12:28 ID:iWLRntF5


人差し指を秘部に沿って下から上へ滑らせる、一回目はゆっくり…二度目はほんの少し速く、三度目はそれより速く…と徐々に指先を躍らせていく。

「あっ、あぁ…んくっ! あ…ひぅっ!!!」

彼女の啼き声も徐々に大きくなっていき切なさが見え隠れし、トロントロンに蕩けた表情で色香を漂わせる。
指先でクリトリスをつついてみると足を閉じられ太股に腕を挟まれる。

「だ…め、そこ……だめ……アソコがキュンてな、るか…ら、ひぁんっ!!」

そう言われたら当然だが俺はまたしたくなる。今度は指の腹を押し当てて優しく転がす。

「あんっ……っ!! や、…やぁっ!! だめぇ…らぁ…め……くふんっ!」

小さな小さな突起をクリクリと転がす毎に彼女の身体がピクンピクンと跳ね、掲げた右手で俺の身体を押し返そうとする。
だめ、と口走りながらも快楽の虜になっていく姿に俺は理性が弾け飛ぶ。

「実乃梨っ…」

俺は彼女の抵抗を押退けて艶やかな唇を貪る、思うままに舌を絡ませて唾液を絡ませ奥へ奥へ…。

「っんむ! ふっ! ふっ…くふっ!! あっ! ちゅくっ!」

実乃梨はすぐに順応して俺と口内で戯れる、抗わずに熱と愛情を以て互いを高めていく。

甘噛みして、されて、唾液を啜って、啜られ、強く吸われると離してくれない。
口元がベトベトになっても構わない、背中に回された左手が掻き抱いてきて鈍い痛みが走っても気にしない。
伸ばされた彼女の右手がムスコをゆっくり扱き、俺の右手はクリトリスを摘んで弾く。

「あふっっ!!」

彼女が背中をのけ反らせ甘えた声で啼いて身体を擦り寄せる、そして熱っぽく見詰めて唇に一回吸い付いて耳元へ顔を近付ける。

「りゅーじきゅんのスケベ……"だぁめ"って言ってんじゃん、っは…ふっ。おイタしたから"おしおき"だよ…」

と満面の笑みでムスコの頭を逆手で握って、ゆっくり手の平の中で上下に扱く。

「うあっ! まっ…待て!」

『潤滑』の無い愛撫は俺に痛みと快感…二つの刺激を与える、腰を引いて逃れたくても出来ない、何故なら実乃梨が足を腰に巻き付かせて組み付いているからだ。

「待たないし止めない、りゅーじきゅんが敏感な所をイジメるなら…私はおちんちんをしこしこ…してお返し…ですよん」

彼女はしてやったりな顔で笑みを浮かべ、太股で挟んでいた腕を解放し再び開脚する。



266 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:14:01 ID:iWLRntF5


そしてポツリと呟く。

「…なんちゃって、へへ…嘘ぴょん」

語尾にもはや死語となった一言を添えて彼女は俺と額を重ねる。

「こっちの方がいいって言ったじゃん、…ねっ? りゅーじくんが今イジメてる所は本当に敏感なんだ…痛気持ちいいっていうか、まだ慣れない」

あやすように諭すように…それでいておねだり、実乃梨は右手をムスコから俺の右手へ動かして愛撫する指を膣口へ誘導していく。

「だから今日はこっちから慣れさせて欲しいかなぁ〜って、我儘だけど…お願い」


「お、おぅ…悪かったついつい…な、その…指挿入ても…」

俺は『おねだり』されてドキドキしている、さっき実乃梨が言っていたが『セックスは一人じゃ出来ない』それを体現してくれているから…。
胸の奥がジーンと暖かく幸せな気持ちになるのだ、俺に合わせて無理しているのでは無く身も心も一つになろうとしてくれている。
それがどんなに嬉しいかなんて言葉で言い表せない、したくない。代わりに愛情を載せて贈る。それが考え付く『最大限』だと思う。

「うん、挿入て欲しいな」

実乃梨はジッと熱を込めて見詰め、ムスコを扱きながら誘う。



「あ…ふ、う…ん…んん、は…っ」

人差し指で膣口を探る、ここで合っているのか…挿入るのか…指を受入れられるくらいには濡れているのか…。
そんな不安に囚われ、指先で掻くように撫でる、なかなか先へ進めない。
実乃梨は焦れているのか身を捩らせて切なそうに微かに喘ぐ、 キシッとベッドが軋み呼吸に合わせて上下する胸が揺れている。
その様子を見て俺は迷いを捨てる、意を決して人差し指を慎重に膣内へ挿入ていく。

「あ、んぅ…ふっ…ふぅっ、ひあ…ぅ」

彼女の膣は暖かくて…潤っていて指に柔らかい柔肉と共に纏わりつく、ねっとり絡み付いて…それでいて少し芯があって…。
ああ…これが女の…と妙な感慨を覚え、高まった興奮で息遣いが荒くなってしまう。
俺は生唾を飲み込んで比喩無しに狭く閉じられた膣を抉開けていく、探るように指先で膣壁を撫でながら埋めていく。

「は…っ、は……っ。あん、ん…んぅ? ひぅう…やぁあ…」

根元まで挿入終わり絡み付く膣肉を押してみると彼女はピクンと腰を震わせ、蕩けた瞳をこちらに向けて微笑む。
『痛くないよ…気持ちいい』
そう伝えている…。
だから彼女をもっと悦ばせたいという欲求が生まれる。



267 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:15:20 ID:iWLRntF5


スッと指を引き抜く時に抵抗はさほど感じない、だが挿入るとまた柔肉に包まれて絡み付かれ押し潰さんばかりに圧迫してくる。
緩やかな抽送で、その未知の感覚を味わう…甘く啼いて素直な反応を返す彼女を見ながら…。

「あ…あぁっ、あんっ…ん、んく…ふあっ」

指を目一杯挿入て優しく掻き回してみると、腰を落ち着き無く震わせてキュンと膣内が収縮する。これが『締まる』という事なのか?
汗ばんだ肢体を密着させ愛しそうに彼女の手がムスコを根元から絞る、時折親指が鈴口をこねる。
それは誰かから教わったわけでは無く彼女が順応していっている証、無意識に…している。
愛撫に互いの身体を震わせて喘ぎ、発情し甘受して絆されていく。俺なんか必死だし焦ってるし…彼女はどうなんだろう?
多分、俺と一緒だ。いっぱいいっぱいなんだ、でも勇気を振り絞って慈しむ。
抽送を速め繋がる時に少しでも苦痛を和らげたいと膣肉を慣らす、愛液が絡むやらしい音と雌の匂いにクラクラしていく。

「はぁ…はあ、……ああぅ! ら、めぇ……。お、お腹の中がビリビリ…するよぅ」

人差し指と中指…膣内へ二指を挿入直して拡げていく。


相当気持ちいいのだろう彼女は俺への愛撫を止めて『いやいや』と頭を振って甘える。
全身がほんのり桜色になり乱れ髪が枕の上で躍る、身体が硬直してすぐに弛緩し…ビクンッと跳ねて膣で指を締め付ける。
こんな姿を見てしまったら誰だって魅了される、この姿を見るのは俺だけ…。繋がりたい気持ちと愛撫し続けていたい気持ちで心が揺れる。

「りゅーじくんんっ!! き、気持ちいいよぅっ…ふあっ!! ああっ!」

と…彼女がギュッと閉じた瞳から涙を流して歓喜している様を見て情愛を激しくしていく。
濡れそぼった膣へ叩き込むように抽送し、内部で抉り、重ねた二指をピンッと弾く。
こうしたら彼女は悦ぶ、と…知ってしまった俺は埋めた指で掻き回し、これらの動作を不意に行なう。
そして親指でクリトリスを撫で回してみると実乃梨はゾクゾクと身体を震わせ可愛い声を出す。

「お、おりぇ…俺っ! してぇよ…挿入たい…っ!」

ここで俺は欲求に負ける、一つになりたいと彼女に懇願する。

「んっ…は、はあは…あ、う…う、うん」

少し間を開けて彼女は薄ら目を開け、両腕で俺の頭を抱き寄せて強く頷く。



続く

268 ◆KARsW3gC4M :2010/03/07(日) 05:17:34 ID:iWLRntF5
今回は以上です、次回で完結ですので今しばらくお付き合いください。
書き終えたらまた来させていただきます
では
ノシ
269名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 06:59:05 ID:PHxa9yw4
早起きしたら〜 GJでした。
270名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 08:50:37 ID:sLv3M87S
……ふぅ。 

GJでした
やっぱみのりんええなぁ
後編待ってます
271名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 14:26:19 ID:vxQrvrPp
>>268
・・・最高だ、gj
272名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 18:51:58 ID:P4b1Voq/
GJ
273名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 20:51:03 ID:NIWPA9f+
KARs様キテタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
GJ!!
274名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 22:31:44 ID:NyJte+BY
GJでした。相変わらずの寸止めですね……続きが楽しみです。
二人のキャラクターを踏えた自然なエロ描写は流石と存じます。
竜児のせっくすおふぇんだーぶりが最高でした。実用性も高く、
読後に思わず雨の街に飛び出してひとっ走りしてしまいました。
……というのは言葉のあやですが、ドキドキしたのは確かです。
本当この手の作品に関しては最右翼ですよね。失礼いたします。
275名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 18:36:41 ID:3PemLOxZ
また規制か
276名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 02:51:31 ID:4B5CKn97
規制なのか
277名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 03:40:39 ID:K5yY28Ul
規制ですね
278名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 04:41:35 ID:CweHbMkr
規制か
279名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 17:50:12 ID:LT4vuMb3
規制ねぇ
280名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 18:00:08 ID:fXSjkdhv
規制はもういいよ

それにしてももう容量が420なのか
レス数は300も行ってないのに凄まじいな
281名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 18:26:29 ID:6fltV9Nk
来月に最後の巻発売か
それに影響されて再びスレが活気ずいてくれるといいな
282名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 20:00:26 ID:xz/jLnE2
ベントラ、ベントラ
書き手様カモン
283 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 20:46:51 ID:8YTYuHqe
初めまして。初投下です。九時までだれも投下してなかったら投下したいと思います。今回は恋愛色が薄いですがどうかお付き合いくださいませ。
284 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:07:45 ID:8YTYuHqe
投下します。題名「オレンジ」

まだまだ寒さは残るものの、草木が萌え始めた3月の中頃、1人の少年が、「高須竜児」はいつものごとく自宅の台所に立ち3つのオレンジを眺めていた。
別に『今までに取った獲物の人の首に似てるな!』とか思ってるわけではない。料理の材料を吟味しているのだ。
「ヤンキー高須」それが彼の見た目からつけられたあだ名だった。
目が合うだけで相手に恐れられ、財布を渡され、知らぬ間に縄ばりが増えていく。そんなイメージをつけられていた。
それに加え、周囲に比べ若すぎる母親のおかげで、周囲の大人たちの評価も悪く人付き合いも幼少のころから苦労していた。
けど彼はそんな評判に負けることもなく、たった一人の家族である母親を大切にし、周りに渡されるお金に手を出したり、ましてやグレたりすることもなく、なによりも人に優しくすることを大切にし、少ないながらも友人には恵まれていた。
母子家庭ということもあり、お金には縁のなかった彼だが、小さなころから、母親の代わりにやっていた家事に没頭できため、
ゲームや漫画とかより掃除や料理をするほうが彼の趣味になっていてその腕前はそこらへんの主婦にも負けないものだった。

「ふう・・・」

いつものように台所に立つ。しかし料理が得意な彼といえどこの料理には気合いが入っていた。思えば今年はいろんなことがありすぎた。
高校1年の時もやはり彼は周りから誤解された。新しい環境になると彼は、周囲の誤解を解くことから始めなければならない。
けど人に優しくすることを続けた彼の人となりを理解する人も周りの年齢も上がるにつれて増えてきた。親友と呼べる友もでき、それに片想いながらも、年頃らしく、好きな人もできた。
けど自分に自信のない彼はその人と話すこともできなかった。

2年になり、親友とも、なんと恋焦がれていた笑顔の素敵な彼女とも同じクラスになれた。それに自分よりまわりに恐れられている手乗りタイガーに負けた?おかげで、去年より周囲の誤解も早く解くことができた。
そして、突然の夜の襲撃から、高須家にその『手乗りタイガー』が高須家に加わり、そこから今思えば怒涛の1年が始まった
。手乗りタイガーの恋人になるなどという新しい誤解をされたり、モデルの美少女が現れたと思ったら、その子に付きまとわれたり、ストーカーを撃退したり、
虎対チワワの対決に巻き込まれたり、ワカメの霊を見たと思ったら、夏に想い人と思いのほか距離を縮められたり、プロレスショーで悪役を演じたり、喧嘩してた人と福男になったり、
学校一の暴れん坊を生徒会長に仕立て親友を挑発したり、クリスマスパーティーで玉砕したり、インフルエンザ、修学旅行のいざこざ、そして・・・

「ふふふっ・・・」

クリームを泡立てながら彼は笑い、着々と料理が進む。
目の前に子供がいたらトラウマ級になる怖さの笑顔だが、今の彼は上機嫌だった。なんせ彼にとって特別なことが起こったのだ。ようやく・・・

「さてと・・・おっといけねえ!メールしとかねえと。」

手早く要件を打ち込み、送信ボタンを押し、彼にとって大切な人を想いつつ、再び調理に戻った。
285 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:11:40 ID:8YTYuHqe
____________________________________________________________________

大橋高校、未だに木造校舎のある古きよき高校だ。静かな住宅街の坂の上にあり、偏差値は全国的にみても高いレベルにありながらも、穏やかな雰囲気の流れる学校だ。
そして学校の校舎裏・・・

「・・君はもう、私のことなんか飽きたんでしょ。他の子の荷物持ったりして褒められてデレデレしちゃったりしてさ!」

「違うよ!あれは僕がぶつかったお詫びで、僕が好きなのは君だけだよ!」

とある男女が、ここにいた。学校の校舎裏、男と女の二人きり。しかし、流れるのは甘い雰囲気ではなく、何かと険悪なムードが流れる。

「本当に?」

「本当だって!!」

「なら私で名前を呼んで言ってよ!」

「好きだよ!!!さくらちゃん!!」

「幸太君・・・私も」

「さ〜く〜らちゃん♪」

「幸〜太君♪」
「あは〜ん♪」

「ふふふ〜ん♪」

桜色のショートカットの少女と茶色の短髪の少年が手を取り合い・・・


「はぁ・・・」

その様子を見ていたある少女が心底どうでもよさげに長い髪を揺らしその場を去った。
決して相変わらずいちゃついている2人をわざわざ付けたわけでなくたまたま聞こえてしまい、
なぜか今日は時間を置いて家に来いというメールをもらったため時間が空いていたので暇つぶしに見ていただけである。
若干見せつけるかのごとく、いちゃつく二人に軽く殺意が湧く、来なきゃよかったと少し思ったがこの場に来るとあの事を思い出す。
思い返せばだいたい1年前あの場で自分は告白したのだ。そしてたぶん覗いていた奴もここから見ていたのかなと思う。


彼女の名は「逢坂大河」天下無敵の「手乗りタイガー」と呼ばれる少女である。
なぜ彼女がこんなあだ名なのかというと、まず彼女はミスコンに選ばれるほどの美少女であり、入学時から男子の目を引くほどの容姿であった。
長く緩やかなウェーブを描く栗色の髪、フランス人形にたとえられる整った顔立ち、当然多くの男子から交際の申し出があったのだが、
すべての誘いにパンチやキック付きの断りの返事を出した。
145cmにも満たない小柄な体、暴力的な性格、そして「大河」という名前から「手乗りタイガー」と呼ばれるようになった。
彼女に普通に話せるのは恐らくソフト部の女部長1人と、周りを寄せ付けなかった彼女だったが、2年の4月にとある少年と出会ったことで彼女の人生が一変する。
きっかけはラブレターを書いたことだった。決死の思いで、
なぜか気にしてしまっていたメガネをかけていて、ソフト部で、生徒会の少年に告白しようとしてラブレターを出すことにしたが、
やはり恥かしくなってどうしようか悩んでいた。そしたら、なぜかヤンキー面の少年がやってきて、手紙の入れたカバンを持っていこうとした。
慌てて取り返そうとしたものの抵抗むなしくカバンを取り返すことはできず、その場は退散することしかできなかった。
けど、ラブレターを出した事は恥ずかしすぎて知られる訳にはいかない、それに確かあのヤンキーまがいは自分の向かいのボロアパートに住んでいたはずだ。
ということであいつが寝静まるのを待って、ラブレターの奪還、あるいはすでに知られていた場合を考え記憶の抹殺を試みようと、この夜に勝負をかけた。
結果はここ最近ろくなものを食べてなかったため敵地で倒れるという最悪の結果となったが、その時作ってもらったチャーハンの味は一生忘れないだろう。
286 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:13:53 ID:8YTYuHqe
その後、お互いがお互いの親友を想っていることが分かり、互いの恋愛が成就するために、共同戦線を張ることを約束した。けどそう簡単にうまくいくわけでもなく、結局協力のかいはあまりなかった。

けど今改めて大河は思う。最初のほうは竜児を脅して主に向こうにいろいろやってもらった。関係ないのに、家事全般三食付きで世話になった。
それに竜児のことを犬呼ばわりしたが考えれば犬は自分のほうだったかもしれない。
ご飯で餌付けされ飼いならされて。竜児に私を飼う気はなかっただろうけど形的には、そうなわけだし、最初、私と竜児が付き合ってると思われるのも今思えば自然なことだよね?

野生の生物は自分の縄張り、食料を確保しなければならない。両方がなかった私は周囲が敵に見えこの世がみんな敵だと思っていた。
けど竜児が自分に居場所とおいしい料理を提供してくれた。やっちゃんにもよくしてもらえたし初めて家族というものが理解できたと思えた。『家族ってこんなに素敵なんだ』ってね。


「やあ!逢坂じゃないか!まだ学校にいたんだな」

そろそろ帰ろうとして下校時間も割と過ぎ閑散とした昇降口にたどり着いたとき、クラスメイトであり現生徒会長、北村祐作に出会った。

「あっ、北村君。私は今帰るところ。北村君は?」

北村は基本的に忙しい。ソフト部と生徒会の両立を成功させているうえに成績もトップクラスまさに優等生といったところだ。

「ああ、生徒会の仕事をしているんだが、1年の2人、幸太とさくらが見当たらなくてな。」

目をつぶり、メガネに手をかけながら北村は答えた。すると、

「う、うん。確か校舎裏にいたよ。」

嫌な顔を北村に見せないようにさっきの忌々しい記憶を忘れつつ答える。

「そうか。仲がいいのは感心だが仕事をさぼるのはよくないな。わかった。ありがとう逢坂。気を付けてな。」

仕方なさげに北村が2人を捜しに行こうとする。

「じゃあね北村君頑張ってね。」


日の時間も少し伸びてきた3月の夕方、上履きからローファーに履き替え大河は『自宅』に向かう。その『自宅』は自分の箱庭でなく、家族の待つ家へと向かう。

去年北村君に言われた通り北村君と『いい友達』になれたと思う。前は北村君と話すのもままならなかった。
告白したあのときもしそのまま付き合っていたらどうなっていただろうか?その時は多分死ぬほどうれしいと思うんだろうけどそのまま気がおかしくなっちゃうかもしれなかった。
顔見るだけでドキドキしたし、うれしいんだろうけど気持ちは確実に落ち着かない。
そう考えると、北村君の隣よりあの犬の隣のほうが私のとって落ち着くところになったようだ。なぜだか知らないけど竜児の隣はものすごく気が安らぐ。
それに一緒に行動していたこともあってか竜児はいつでも助けてくれた。私はどんなに救われただろう。去年まで感じてた孤独を感じることもいつからからかなくなった。
この帰り道もたとえ一人であろうと退屈な道ではなくなった
。自分に帰る場所があることの喜びを踏みしめつつアパートに向かう。私が上がりこみ始めてもうすぐ1年だ。いつものように竜児は晩御飯の支度をして待ってくれているだろう。

「♪〜〜〜」

鼻歌交じりに足を進める。なので気付かなかった。後ろから迫る猛獣使いの影に・・・
287 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:17:36 ID:8YTYuHqe
「お疲れ様でした〜〜〜」

日も暮れつつある頃、大橋高校のグランドに響く女子生徒たちの声、今しがたソフトボール部の練習が終了したところだ。

「今日どうする〜?」

「どうしようか〜?そういえばおなかすいたよね〜?」

練習が終わり片付けのない上級生部員の声がこだます、関東大会にも行ったこともある大橋高校ソフト部の練習はもちろん厳しい。
特に現キャプテンの代になり周囲のチームにも大橋高校が注目されるようになった。
しかし秋ごろからエースでもあるキャプテンの調子が不安定になり始め、それにつられてかチームの成績もなかなか良くならなかった。
しかし練習熱心な彼女は自らの努力の甲斐もあり最近の対外試合でもなかなかの成績を収め始め今年の夏は全国大会にも行けるのでは?といわれるようになった。
もちろんキャプテンを中心としたチームワークと放課後までの居残り練習のおかげだ。

「キャプテン!今日も残っていきます?」

下級生の女子部員がキャプテンに尋ねる、実力も申し分なく、テンションの高い(たまについていけない時もあるが・・・)
キャプテンは下級生の人望も厚い。いつものごとく、ともに練習あるいは指導をもらおうとキャプテンに声を掛ける。

「もちろん今日も!!…って言いたいところだけど、ごめんよ〜!!きょうは外せない用事があるんだぁ!」

顔の前で両手をパンと合わせ、後輩の『わかりました。お疲れ様です。』という声を背にキャプテンはグランドを後にした。

「あれ?櫛枝じゃん。残っていかないってことは今日はバイト?」

ソフト部の部室で先に着替え始めていた部員が居残り練習をせず珍しく早めに戻っていたソフト部キャプテン櫛枝実乃梨に声を掛ける。

「いやいや、今日は友達の家にお呼ばれだぜ」

「へぇ、手乗りタイガーの家?」

早速今まで来ていたユニフォームを脱ぎながら答える。

「んいや、大河の家じゃないよ。」

「じゃあ誰もしかしてこれ?」

にやつきながら小指を立てて部員は聞く

「違うって!友達の家だって!!」

実乃梨は若干慌てつつ答える。

「怪しいね〜、あんたの仲のいい男ったら北村君か高須君とかかな?」

そんな問いを流しつつ片付けをする動作を早め。

「もう!そんなんじゃないってば!!急いでるからもう行くね」


意味ありげな笑みで『頑張ってね〜』という冷やかしの声を聞き流しつつ実乃梨は手早く着替えた制服を身にまといスポーツバックとバットを肩に背負い携帯を一度見ながら足早に学校を後にした。

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『櫛枝実乃梨』手乗りタイガーやヤンキー高須に比べるともちろん高校内での知名度は劣るものの、
関東大会に出場するほどの強豪ソフト部の中心選手でそれなりに名も通っている。だが恐らく校内の評判を聞くと変な人との答えが返ってくるだろう。
赤のショートカットに突出してないものの可愛らしい顔をしているが、その実、常にハイテンションで元ネタをとりにくいネタなどを連発し、
彼女のノリについて行くのは校内最強の手乗りタイガーだけというのがあってか、普通の生徒は彼女のネタをスルーすることが多い。加えてジョニーズを軸に多くのバイト掛け持ちをしているというのもあり恋愛の話はほとんど出ない。
288 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:21:20 ID:8YTYuHqe
それに実乃梨は恋愛というものを信じなかった。それはあると言われたり、ないと言われたりしている幽霊と同じものだと思っていた。
だって見えないし身近に感じない。男の子と2人で隣にいて…ということを実乃梨は楽しいとかドキドキするとか思えなかった。
しかし高二の夏に友達の別荘でそんな話をある少年にポロッとしてしまったがその考えが変わると思わなかった。
けどだいたい文化祭の後頃からその話をした少年のことが気になるようになってきた。けどその少年を好きになっていいのかと悩むようになってしまった。
なぜならその少年は自分の親友にとってなくてはならない存在だからだった。でも親友は別の人が好きなのかなと少し思っていた。

学校を抜けて、自宅でもバイト先でもないところに向かいながら実乃梨はふとあのころを思い返す。

大河が生徒会選挙で暴れた日、大河の本当の思いに気づいてしまったあの日。
そして自分も高須君を想っていることを・・・
確かに高須君は付き合うには申し分のない相手だった。
だって『高須君はちゃんと私を見てくれた。』自分が周りから浮いてるな、と思うこともたまにある
。結構思うがままに行動してるし、多くの人は多分自分をスルーしてるのもわかる。去年まで自分についてきてくれたのも大河くらいだったし。
特に幽霊の話・・・照れくさくて思い返せばばかばかしい話…でも高須君は笑うこともなくあきれることもなく真剣に私の話を聞いてくれた。あれは結構うれしかったんだ。
でも高須君と付き合うことを一番ためらわせたのは私が高須君と付き合うことで大河の生活を壊してしまうという憂いがあったからだ。

高須君の顔を見るとドキドキする。でも大河への思いもありそのことで胸が苦しくなるようになった。
眠れない夜を過ごすようになり、少し露骨かもしれなかったかもしれなかったけど高須君を避けるようになってしまった。
そういった悩みのせいで部活に迷惑を掛け、挙句の果てにダンスパーティーも危うく壊してしまうところだった。
いや壊したんだ、何気なく打った打球で大河の星を壊してしまった。綺麗に輝いてた星はものの見事に粉々になっていた。
それは大河が大切にしていたもの、私の中でも何かが壊れる音がした。

必死で直そうとした、絶対に直すのは無理と思ったものを。でもその時高須君が手伝いに来てくれた。でもその時の私は高須君と顔を合わせたくなかった。
何より悩みの元だったしそれに今の状況で高須君に助けてもらいたくなかった、
いや違う。嫌われたりみじめな私を見られるのが嫌だったんだ。すれ違ってる中で久しぶりに2人きりになった状況がこれじゃあね・・・・
でも高須君は言ってくれた「お前を助けるんじゃなく自分のためにやるんだ」ってね。
ずるいよ高須君・・・こんなこと言われたら誰っだって君に惹かれちゃうよ。
大河の星は高須君の協力の甲斐あって、いびつながら星の形に戻った。大河も宝物を壊した私を優しく許してくれた。
普通なら絶交ものの状況で。そして高須君はこんな私をクリスマスパーティーに誘ってくれた。

289 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/12(金) 21:23:22 ID:8YTYuHqe

でもわかるよ・・・いくら私でもさ、クリスマスに誘われてるんだもん理由は一つしかないよね。
それに私は2人に何も言えない状況。それでもとてもパーティーなんてものに行く気になれなかった。あちこちで光るイルミネーションはあの時の私にはまぶしいだけだった。
でも大河は私にどうしてもパーティーにいや高須君に会って欲しいみたい。私が来ないと高須君は帰れなくなるという脅し文句付きで。
でもいいの大河?本当にそれで?多分告白されたら私は「うん。」と言うしかない。断る理由より付き合う理由の方が多いもの、でも・・・

私の中で自分と大河の天秤は決まらず、もう一度大河に直接聞こうとした『私と高須君が付き合っていいのか?』を。答えは聞けなかった。
いや聞く必要がなかった。だって『竜児ぃぃぃ〜〜〜〜〜っっ』って叫びながら泣いているんだもん。それを見て高須君と付き合う気には到底なれなかった。
だって知ってしまったから、大河にとって高須君はがどれだけ大切な存在なのかを。だから告白を聞かないという最悪の逃げの手段をとってしまった。
だってそれを聞いて「ごめん」という勇気は私にはなかったから。高須君には悪いことをしたと思ってる。

そのあと苦しいながらも必死に隠しながら高須君と接した。気まずいような雰囲気は出したくなかったしさ。
でもそれがさらに高須君を苦しめることになるとは思わなかった。でもそうすることが私にとっていいことだと思ってたんだ。
でも修学旅行、あ〜みんに私が冷血女みたいな言い方をされた時にはさすがにカチンときた。
私だって苦しむよ?いつものようにふるまうのがそんなに悪いこと?そしてなぜかそりでぶつかっただけでキレられて喧嘩した。
私はそう時どう思っただろう?あ〜みんにいろいろ悪いことを言ったのは覚えてる。でもそのあと無視されたりしたけど仲直りできた。
それにあ〜みんはやっぱりいい子だよ。大河の次にね!

「おっといけねえ、なんかしんみりしちまったZE!」

ついうっかり声に出してしまい顔を赤らめ周囲を見回す。
どうやら今の声を拾った人はいないみたいだ。なんで今年を振り返ったんだろう。不思議に思いながら先ほど届いたメールと時間をもう一度確認する。
それに改めてこのいろんなことがありすぎて、楽しくもあり大変だった1年を過ごせてよかったと思う。それにまだ終わってないよ?ね、大河?

「おおう!!あれは愛しのマイハニーではないか♪」

前方50メートルくらい先に長い髪を揺らす顔は見えないが小柄な美少女を見つけた実乃梨はターゲットめがけてダッシュを始めた。



ひとまず今日はここまでです。明日はもちろんあの人から始まります。ではまた明日きます。ノシ
290名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 21:30:14 ID:7g9TMBai
GJ……なのだが、嫌でなかったら設定を書いて欲しかった。
普通に原作アフター?
291名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 22:13:43 ID:xz/jLnE2
おう!、言ってみるもんだ。書き手が召還されてた。

既にSSを書いた事のある方かな、書きなれてる風があるね。
290の言うとおり、他の人みたいに、頭に簡単な説明入れてくれると
ありがたいかな。と言っても投下してくれるだけでありがたいのだが

読んでみると、三年の三月が舞台のようだね。
ただ、原作、アニメと違って、完全には人間関係が定まっていないのかな?
いやよく解からん。展開が読めん。なんで明日も期待してるよ。GJした。

余計な戯言
ここのスレは、とらドラ熟知してるばかりだから、
原作の設定、経緯を説明しなくててもOKだと思うよ。
292名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 11:10:20 ID:vzHLCuY0
新作キター!続き楽しみに待ってます。
293名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 12:47:49 ID:expfNNOG
いいねーいいよー!
続き期待してる
294 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 00:51:40 ID:xMTz38Vs
昨日の続きを投下します。設定についてですが時期は二年の三月人間関係についてですが・・・
パラレルワールドということで!言葉足らずですいません。では次レスから投下いたします。
295 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 00:54:05 ID:xMTz38Vs
「でさ、この前なんか駅前で手つないでいちゃついちゃってさ、マジ似あわねーって感じ〜」

明るい髪の色をしたまさに今どきと言えるギャル風の子がそう話す。

「そう?私はお似合いだと思うけどな〜。」

話した子とは対照的に落ち着いた清楚な雰囲気の子が答える。

「ええっ!絶対似あってないよ!男の方が劣ってるって言うか、基本この学校にいい男いないよね〜」

「それは同感かも。あたしも誰かと付き合おうと思わないしね。でもなかなかいい男の人とは会えないと思うしね。」

彼女たちにとってはいつも通りの放課後を過ごしていた。ここは大橋高校の近くの「スドバ」と呼ばれる喫茶店。
始めて聞いた人は全国チェーンの少しお高い緑の人魚が描かれた店を思い描くだろう。
だがこの店は基調の色は緑だが描かれているのは髭のおじさん。この「須藤スタンドコーヒーバー」の店長が描かれている。
そっちの方の権利権などで訴えられたら太刀打ちできなそうだがこの近辺ではそれなりに好評を得ている「スドバ」に大橋高校の2−Cの美少女達が集まっていた。

「そうそう!ここの学校の奴はバカときもい奴しかいないしさ!」

2−C美少女トリオの1人木原麻耶がそう話す。

「そうね〜みんな楽しくていい人たちなんだけど、付き合おうとは思わないわね〜何というか子供っぽいって気がしてね。」

同じく2−C美少女トリオの1人香椎奈々子が言う。

「・・・・・・・」

ここにいるのは3人、でももう1人の美少女は携帯とにらめっこしていた。

「で?亜美ちゃんはさっきから誰とメールしてるのかな?」

「ええっ!?い、嫌だなぁ奈々子・・・あたしは誰ともメールしてないよ。」

携帯が閉じる音がし、明らかに慌てた感じでもう1人の美少女、川嶋亜美がスマイル満開で答えた。

この「2−C美少女トリオ」はもともと木原麻耶、香椎奈々子の2人で「2−Cかわいい系女子ツートップ」と呼ばれていた。
容姿が優れる子は特に色恋に敏感な高校生において特別な存在とされる。
確かに顔がいいなら入学時人気を博した手乗りタイガーなどもいるが性格や雰囲気を交えると、
活発な木原麻耶、年の割に色っぽい香椎奈々子が人気となった。(二人が仲良しでよく一緒にいたのもあった)
そして5月、現役女子高生モデルの川嶋亜美が転校してきた。
容姿、性格、共に良く男女両方に大人気の彼女は特にこの二人と仲良くなりいつしか「2−C美少女トリオ」と呼ばれるようになった。
296 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 00:55:26 ID:xMTz38Vs
今まで会話に入らず携帯を凝視していた亜美が切り出す。

「にしてもさ、もうすぐクラス替えだよね。あたしらさ、また同じクラスになれるかな?」

「クスッ・・フフフ・・・」

2人が顔を合わせ笑う。

「なっ・・・なによ急に!あたしそんなに変なこと言った?」

少し慌てた感じで亜美が尋ねる。すると奈々子がまだ少し笑いながら

「だって、それ麻耶が最初の方に言ったことだもん。亜美ちゃん本当に携帯に夢中だったんだなって思って。」

「ほんとほんと!あのときは亜美ちゃん会話に混ざってたはずなのに覚えてないんだね。」

麻耶もそう続く。

「・・・そう言えばそんな気も」

気まずそうに亜美が答える。

「で、亜美ちゃんは携帯で何を?」

と奈々子、麻耶も

「亜美ちゃん!私たちの仲だよねぇ?」

そう問い詰める。少しの間をおき亜美は体勢を少し直して

「し、仕事よ。仕事。ちゃんとやり取りしてたから耳に残らなかっただけだもん。」

目をそらし髪を払いながら答える。

「な〜んだ、つまんないの。」

麻耶口をとがらせそう言い放つ。

「ふ〜ん?会話も耳に入らないくらいの内容の仕事ねえ?一体どんな仕事なのかしら?」

「それは・・・条件面でね?いくら春休みになるっていってもあたしは学生なわけだし!」

そんなことを言いまた携帯に目をやると今の時刻が映し出される。それを確認すると亜美は

「ごめ〜ん、少しお手洗いに行ってくるね〜」

「あ、いってらっしゃい」

麻耶が手を振り亜美がカバンを持ち席を立った。
297 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 00:57:42 ID:xMTz38Vs
「けどモデルも大変だよね。休むわけにもいかない世界だし。」

麻耶がそう切り出す。

「そうかしら?あの感じ、あんなに真剣に携帯を見る亜美ちゃんなんて始めてみた気がするけど。」

亜美の様子を気にした奈々子がふと疑問を口にする。

「そう言えばそうだね。いつもこういうとき亜美ちゃんあんまり携帯いじらないし仕事の連絡って電話だったような・・・」

2人の間に流れる沈黙・・・亜美はまだ帰ってくる気配はない。

「亜美ちゃんの好きな人ってさ・・・高須君しかいないよね?」

麻耶が若干声を小さくしながらそう言う。

「そうね・・・それ以外に亜美ちゃんのよく話す男子ってまるおくん位だし。」

「でもでも、亜美ちゃんとまるおはないよね?いつもの感じを見ると!」

少し声を大きくして麻耶が即座に否定する。

「あったら麻耶も困るしね?」

意地悪気に奈々子が言う。

「今は私のことはいいの!ってことは?」

「業界人ってこともなさそうだしやっぱり」

目つきは悪いが人のいい少年が2人の間に浮かぶ。

「お待たせ〜ってとこで悪いんだけどこの後用事があるからもう行くね。またね〜。」

戻ってくるなる開口一言亜美はそう言い放つ。

「うん・・・またね。」

「またね。亜美ちゃん。」

麻耶は困りながら、奈々子はいつもどおりに亜美を見送る。
そして亜美は机の上に自分の分の代金をおき店を出る。

「聞かれたかな?」

亜美が出て行ったのを確認し、麻耶が言う。

「たぶん大丈夫だと思う。それに・・・」

少し言い淀む奈々子。それに対し麻耶も

「それに?なに奈々子!?」

『早く!』とせかすように身を乗り出し返事を待つ。

「亜美ちゃんの化粧の感じが変わったような・・・」

2人の間に流れる一時の間。

298 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 01:03:06 ID:xMTz38Vs
「・・・確かにトイレにしては長かったね。」

再び顔を合わせる二人。

『やっぱりなんかあるのかな?』

そう思いつつ2人の足はまだ席から動かなかった。

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スドバを出て亜美はいつも行く家の方角ではなくそれとは逆の方向へ前髪をいじりながら足を進める。
初めは若干急ぎ足だったが携帯に映る時計を見るとまだ時間があるようだ。
汗をかいて行くのも嫌なので長い脚の歩幅とペースを緩める。

『川嶋亜美』中高生を中心に人気のある売れっ子モデルだ。
実の母に有名女優の川嶋安奈を持ち、流れるような長髪、
身長165センチの八頭身、顔は拳ほどに小さくそして体の線は細いもののスタイル抜群の美少女だ。
そんな売れっ子ゆえに彼女は悩みを抱えることになる。それはストーカーだ。
売れるにつれてファンは増えるもののその全部に常識がある人なはずもなく、数が増えるほどそんな非常識なファンができてしまう。
こと女性についてはその問題は深刻なのだが亜美についてしまったストーカーは一筋縄でいくものではなかった。
普通の悪質なストーカーなら警察に突き出せば済むがこのストーカーは撮ったプライベートな写真を送ってくるだけと十分気味の悪いものだが何せ実害がない。
そのため警察も踏み込んだことはできずストーカーから逃れるために、亜美は都会から少し離れたかつて幼少を過ごしそして伯父母の住むこの大橋の地へときたのである。
仕事を休業してまでこの地へ来たのにかかわらず、ストーカーはここまで付いてきた。
そのおかげでストレスのたまった亜美は暴飲暴食を繰り返してしまいモデル体系から少し遠のいてしまった。
本来ならここでの回避生活も少しのはずなのにストーカーに見つかるという誤算、それに亜美にとっては珍しい出会いもあった。

ゆっくりだが足を確実に進めつつ亜美は彼女たちとの出会いを思い返す。

まず「逢坂大河」自分から見ると相当小柄なこの少女は亜美にとっての宿敵だった。
いつもどおりみんなに好かれる亜美ちゃんだと思いこの小さな少女にも奉仕させてやろうと思った。
しかしこの少女は無視するだけでなくこともあろうにモデルの、亜美ちゃんの顔を殴った。
さらにこいつは転校先で同じクラス!距離を置き様子を見ていたがどうやら大河は友達がいない様子。
いるとしたらなぜか世話を焼いている高須竜児くらいだった。

気に入らないやつだったしどうせこの高須ってやつも亜美ちゃんにメロメロだしこいつを1人ぼっちにしてやろうと思った。
でもこの「高須竜児」いや高須君は最初こそあたしに興味を持ってくれたみたいだけど学校だとファミレスの時とは距離感が違うように思えた。
祐作はさておき多くの男子の視線を感じたけど高須君からはあんまり感じなかった。
ゴミ拾いの時に「俺に好かれようと努力して何の意味がある?」って言われた時、初めてあたしを見てくれた気がした。
モデルとしてでなくただの川嶋亜美として。そしてストーカーに怯えることなんかせずに立ち向かっていったタイガーを見たら何か吹っ切れた。
そのあとは夢中だった。勢いでストーカーに向かって行って・・・後は気付いたら高須君の家に着いていた。
タイガーが無茶できる理由は高須君がいるからだと思う。あたしがその時無茶できたのもきっと高須君のおかげ。
なぜか高須君といると安心する。思えばあの時からもう高須君に惹かれていたのかもしれない。
299 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 01:06:33 ID:xMTz38Vs
けど高須君を好きになるわけにはいかなかった。夏にあたしの別荘に行って気づいたことが二つあった。
まず高須君の好きな人、これは見てればわかりやすいよね?明らかに彼女に対する態度がいつもと違うもん。
そして最後の思い出にと思ったこの旅行だったけどもう一つ気づいてしまったこと。それはタイガーの気持ちだった。
好きという気持ちではなかったと思う、けど応援してる彼の恋が成就することがどういうことかというのを気づいてしまった。
そしてなぜかあたしにはタイガーを救ってやらなきゃという思いが生まれていた。

迎えて二学期に訪れた文化祭準備、あたしなりの考えを実践してみた。
プロレスをやるはめになってやる気をなくしているクラスのやる気を出させることしてクラスのムード作りを買って出た。
基本的に大河はみのりちゃんと高須君くらいしか話し相手がいない。だからまずあいつをクラスに馴染ませてやろうとした。
そうすればまずあいつが感じている孤独感をクラスに居場所を作ることでなくそうと考えた。
文化祭はクラス全体行事みんなに馴染むにもってこいのイベントだし最初は嫌がっていたけど父親が来るとかで主役をやりたいと言い出したりと徐々にやる気を出してくれたようだ。
みのりちゃんと高須君がケンカするなんて出来事もあったけどあたしにとっては順調に文化祭当日を迎えられていた。
けど当日、順調にことは進まなかった。ショー自体は上手くいった。クラスの出来としては最高だった。大河が主役を演じることがなかった点を除いて…
続くミスコン、亜美ちゃんがばっちりなのは当然として大河も麻耶たちのおかげで完璧なメイクで登場。
父親は最後まで来なかったみたいだけどミスコンも無事優勝。まあ背はともかく素材はいいしあたし的には当然かな?
けど結果的にこの優勝がまずかった。その後の福男レースは奮起した高須君とみのりちゃんの優勝。
大河の自立を促すつもりがさらに高須君への思いを強めてしまった。そして同時にみのりちゃんにも・・・

自ら糸を絡めてしまった。みのりちゃんと大河どっちとくっつくべきかは高須君が決めることだということはわかってる。
けど高須君は気付くだろうか?自分とみのりちゃんがくっついた後の大河のことを。
そしてもう一人その事実に気づいてる人がいる。

高須君は大河は祐作が好きなんだと思ってる。大河が言ってる通り高須君とみのりちゃん、祐作と大河が結ばれればと思っていた。
恐らくその事実を知るもう一人もね。けどそうもいかない事態が起きた。それは生徒会長選挙での祐作の告白だ。
全校生徒の前で前生徒会長狩野すみれに告白・・衝撃的な告白ののち大河がすみれに喧嘩を吹っ掛け停学。
その後始末で2−Cのみんなが見てしまった。大河の手帳の中身を。でもそこに映るキャンプファイヤーの写真。
そしてもう一枚・・・これはあたしともう一人しか気づかなかった。もちろんあたしは知ってたことだけど今は後悔・・いやずっと後悔している。
知ってるくせにまた考えこんでいるいる奴に、とっさに出てしまった嫌味、自分の嫌いな本性が出てしまったこと。彼女の罪悪感を強めてしまったこと。
お詫びの意味も込めてクリスマスパーティーを盛り上げようとしたけどもう遅かった。
大河はクリスマスの申し子なんて言ってすっかりクラスの一員になっているようなんだけどみのりちゃんは考えっぱなしで落ち込んでいる様子。

その時ふと思った。『あたしはなんでこんなとことをしているんだろう』って。
もとはと言えば高須君があいまいな態度をとってるせい。
好きなのはみのりちゃんのくせに大切なのはいつも大河。
なんて違う・・仲間はずれの自分がさみしいだけ。そんな思いをふと彼にぶつけてしまった。
馬鹿な高須君は気付いてくれなかったけどね。
あたしも彼が好きなんだと思うけどそんな事をしたらむちゃくちゃになるだけじゃ済まない。
クリスマスパーティー自体は成功を収めたんだろうけど相変わらずあたしを見てくれなかった高須君にいらつくだけであたしにとっては寂しいだけのパーティーになった。

300 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 01:11:11 ID:xMTz38Vs
にもかかわらずあの三人は同じことを繰り替えし、
言われるがまま再トライの高須君、自分の感情を隠して高須君を応援する大河、ずっとこのままを意地でも続けるみのりちゃん。
気持ち悪いったらありゃしない。
特に一度告白しようとしたのにそれをなかったことにできるはずがない。
そうして逃げてるみのりちゃんに一番腹が立った。修学旅行にその本意を聞こうとした。
けどそこに誰もたどり着こうとはさせなかった。無理やり聞こうとしてもいつもはぐらかす。
そのくせそのことを根に持って陰険な攻撃。そしてあたしはすべてをぶつけた。

もう駄目だと思った。自分で居場所を壊して、もうここにはいられないと感じた。
けど高須君はあたしがいなくなったら寂しいと言った。だけどその言葉は残酷だよ…
それは友達としてだとわかったから・・・それでも嬉しかった。だってあたしを見てくれた。
だから残ることにした。みのりちゃんとも仲直りして決めたんだ。ここでみんなと卒業するってね。

_________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________


もう一度時間を確認する。うん。ちょうどいい時間だ。カバンから手鏡を出す。うん。今日も亜美ちゃんかわいい。
なんて・・かわいい亜美ちゃんは武器にならない。なんせ高須君が相手だから。
それにこの辺はストーカーに付かれていたときに高須にかくまってくれたところ。確かにたくさんのことがありすぎた。
取り返しのつかないところまで行ってしまった感じもある。けど今こうしてメールで家まで呼んでくれたってことはあるいは

『川嶋!…いや亜美って呼ばせてくれ!今まですまなかった。俺と付き合ってくれ!』

なんてことはない。か。だいたい現実味がなさすぎる。
大体へたれの高須君が告白するなんてありえないし・・・
フフフ、だったらこっちから襲ってみようかな。そしたらあるいは・・・

多分あたしはにやつきながら道の中央にいたんだろう。周りの目を気にせずに・・・




今回はここまでです。明日というか14日中にラスト投下します。もう少しお付き合いください。駄文失礼しました。
301名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 01:22:57 ID:VnOZ49j2
そろそろ新スレ?
302名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 01:59:03 ID:vcEd8LEY
GJ 
どういう結末になるのだろ?
幸せあ〜みんだったら、うれしいがの。
303名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 11:53:39 ID:P0lS12MQ
あーみんの章、書き込みの熱量が違うな。ヒロイン、亜美でいいのか?
だが話は進展してない。それとも恋愛方向薄いから日常報告的なSSなのか?
やはり先がよめん。ラスト楽しみにしてますよ。
304名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 13:51:41 ID:681T4F4x
タイトル的に考えて恋愛調の話と言うより3人娘が竜児の家に行く話で、メインとかはいない気ガス…
あまり予想すると書きにくくなってしまうのでやめるか。
何はともあれGJ
305 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:28:32 ID:aGaAB12w
さてオレンジラスト投下です。あんまり期待しないでくださいね?
306 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:31:53 ID:aGaAB12w

「たーーーーーーーーーーいーーーーーーーーーーがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「えっ!みの・・・ぶぎゃっ!!!!!」

日頃から鍛えられた女ながらも強烈な突進の前に、いくら手乗りタイガーといえど突然の事態で対処しようもなく、後ろから来た親友に抱きとめられる。

「おお〜〜大河〜〜!!久しぶりすぎておれっち感激だぜぇ!!」

大河の頭を抱え力いっぱい抱きしめながらみのりがそう言う。

「む〜〜〜む〜〜〜〜!!」

手足をばたつかせ必死に脱出を試みるががっちり決まった寝技のごとく離れられる様子はまるでない。

「なんだい大河!?無視とはみのりん悲しいよ〜」

ようやく大河の頭を開放し実乃梨がそう言う。

「ぶはっ・・・もう!みのりん!!あんなに強く抱きしめられたら何にもしゃべれないもん。それに今日学校で会ったばっかりじゃない。」

「そうだったかのう〜?最近婆めは記憶がおぼろげのう…」

「全くみのりんってば…そう言えばどうしたの?こんなところで会うなんて。この辺で新しいバイトでも見つけたの?」

「そう言う大河は?こんな時間にこの辺にいるとは珍しいじゃん?」

「私は帰ってる途中だよ。なんか竜児が今日は遅く帰って来いとか言ってたからさ。」

三月といえどまだまだ日は短くもう6時近くなるころには辺りは暗くなる。
部活で帰宅が遅い実乃梨はともかく帰宅部の大河がこの時間に下校するのは珍しい。
一方実乃梨も自宅はこの辺でもないしバイトを雇いそうな店もないわけで夕方、帰宅中の2人が会うことはほぼありえないわけで

「へぇ〜大河も高須君の家に?」

実乃梨は少し震えた声でそう発した。

「そうだよ。まったくあの駄犬。ご主人様に時間つぶしをしろだの本当にいい度胸してるわ!!
っといけないいけない確か6時にってメールにあったわね。じゃあねみのりんまた。」

そう言って大河が去ろうとしたが

307名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 23:32:10 ID:ERrmaNGV
やだね期待する
308 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:34:21 ID:aGaAB12w
「あいや待たれい!!。」

実乃梨の一喝に大河は足を止める。

「みのりんも一緒に行くぜよ」

「え!?なんでみのりん?これから私は晩御飯を食べるだけだけど」

こんなことはなかったために当惑する大河

「・・・・」

じっと大河を見つめる実乃梨。

「ええっと・・・」

本当なら断りたいが実乃梨の誘いを無下にするわけにもいかない。困った大河は

「竜児がいいって言ったらいいと思うよ。」

と言うしかなかった。それを聞いて実乃梨は満開の笑顔で

「さっすが大河〜〜〜〜〜!高須君に関しては大丈夫だしね」

「う、うんまぁ・・ね。」

こんなことが今までなかったが恐らく竜児は実乃梨の突然の訪問も歓迎するだろう。
過去にいろいろあったとはいえ実乃梨を追い返す真似は絶対にしないだろう。大河は歯切れの悪い返事をするしかなかった。

そして実乃梨は、おや?と言うと前方を指差し、

「ふむ、それにもう一人高須家に用のある人がいようだね。」

大河が顔をあげ実乃梨の指をさす方を見てみると、電柱を前に両手を頬にやり頬笑みながら腰を振って悶えてるクラスメイトの姿があった。

_________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________

『お、おおう!?川嶋!?お前何を!?』

『高〜須君♪亜美ちゃんにぜ〜ん部任せて♪ねっ?♪』

『任せるって…おい!?なんでそんなに近づくんだよ!?』

『大丈夫、すぐ終わるからさ』

『何がだよ!?』

『高須君ならすぐ終わりそうじゃん』

『それは俺に失礼だぞ!?俺は以外と…って何言わせるんだよ!!』

『へぇ〜なら楽しめそうだな〜じゃあ行くよ?』

『おまっ、ちょっ、おおおうっっっっ〜〜〜〜〜』

クイクイ
309 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:35:14 ID:aGaAB12w
誰かがあたしのブレザーの裾を引っ張った。
「今いいとこなの!ほっといてよ!?」

と、誰かも確かめずに怒鳴ってしまった。

「へぇ〜何がいいところなのかしら?教えてばかち〜?」
「お〜あ〜みんも夢の世界行きかぁ〜〜おれっちも連れて行ってくれよ!?」

その瞬間あたしは頭が真っ白になった。
そこにいたのはチビトラとみのりちゃんだった。

「な、な、なぁ!!?。」

言葉がうまく出なかった。自分の世界から一気に現実に引き戻されたからだろう。

「なにその妙なダンス?新しいダイエット法?っうかこんなところでやるんじゃないわよこのメタちー。」

いつものように亜美に疑問をぶつける大河、ようやくしゃべれるようになった亜美は

「メタボじゃね〜よ!!亜美ちゃんはいつでも完璧ナイスバディだよ!つかなんでチビトラとみのりちゃんがいるのよ?」

と言い返す。大河は一息ついて

「はぁ〜〜。干されモデルはこれだから困るわ。私はこの辺に住んでるのよ。そんなことも覚えてないのかしら?」

腕を組みながらそう言い放つ。

「うっ・・・そう言えばそうだったわね。」

いかにもけげんな顔をして亜美がそう言う。と、大河は先ほど実乃梨の言ったことを思い出す。

「ねぇばかちー?もしかしてあんたも竜児の家に用があるとか言わないわよね?」

鋭い目つきで大河がそう言う。すると亜美は驚いたように目を見開き

「なっ!?なんでそれをあんたが知ってるのよ!?」
310 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:36:39 ID:aGaAB12w
料理というのは基本的に時間が掛かる。それはお菓子作りになればなおさらだ。
ずっと作業していられれば料理好きの人にとっては楽しいことばかりだが、お菓子作りは基本的に焼く作業に最も時間を要しかつ大切な作業だ。
この間に皿洗いなどをすればいいのだが手際のいい彼はその作業を終えて一息・・・と言いたいところだが

「・・・う〜ん・・・」

雑誌を読もうとするもののそれも手に付かず竜児はレンジの中を何度も覗き込む。
手際はいつも通り完璧、お隣さんのようにドジもしない、
生地から乗せるオレンジ、クリームなどとすべて手作りであとは焼きあがりを待つのみ。
だがやはりきちんとできているかが不安で、レンジからなかなか離れられない。
何度もその鋭い目で『早くできなきゃつぶすぞ!』と言わんばかりの視点を浴びせてもレンジのタイマーは同じペースでしか時間を刻まない。
お茶の準備ももう済ませたし指定した時間ちょうどに焼きあがるようにタイマーも時を進めている。

「もうすぐだな」

レンジのタイマーの表示時間が一分を切ったころ階段を上がる複数の足音、話し声、そしてドアの開く音が聞こえる。

「つかばかちーは来るな。帰れ!」

この声は大河だろう。

「はぁ?なんであんたにそんなこと言われなきゃいけないのよ?」

言い返すのは川嶋だろう。それに

「まあまあお二人さん!おっ!」

櫛枝がこっちに気付いたようだ。それを見て大河と川嶋も言い合いをやめてこちらを向く。

「おおっす!高須君!」
「こんにちわ高須君。」
「ふん。来てやったわよ。」

櫛枝が元気よく左手を上げて笑顔で、川嶋も右手を振って、そして大河は腰に手を当てあごをそらしそれぞれあいさつしてくれる。
311 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:38:31 ID:aGaAB12w
「で?わざわざ私たちを呼んだからにはきっとすごい理由があるのよねぇ、竜児?」

自称マイ座布団に座りながら大河はそう言う。実乃梨も亜美も同じく興味しんしんと言った感じで竜児を見る。三人とも呼ばれただけで何があるか知らない。

「ふふふ・・・それはな…」

竜児が口を紡ごうとした瞬間

「その笑い方きもい。」
「ってか早く言ってくれる?」

相変わらずの2人から容赦ない突っ込みが入る。

「うるさいな、お前らが言わしてくれないからだろ!!」

顔を赤らめ竜児がそう言い返す。

「なんかいい匂いしない!?私が推理するにはズバリレンジの中からだね!」

実乃梨が鼻を動かしそしてレンジにビシッと指差す。

「えっなに!?食べ物!?」
「ほんとだ、この香りは・・オレンジ?」

大河が急に顔色を変える。亜美も気づいたようだ。

「そうだ!今準備するから待ってろ」

うまく言いだせなかったがまぁいっかと思いつつすでにタイマーの止まったレンジを開けた。
____________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________________
「うわ〜〜」

三人から感嘆のため息が漏れる。

机の上にはまさに出来たてといったオレンジタルトが用意されていた。

「今日はホワイトデーだろ?これは俺なりの感謝の意味を込めて作ってみたんだ。なんせこれは気合の入れようが違うからな!俺の最高傑作といっても過言ではない。」

タルトに少し合わないかもしれないがお茶を出しながら得意げに竜児が言う。

「すっげーよ高須君!これ手作り!?」

「おう!もちろんだ」

「本当においしそう、って先食べるんじゃないわよチビトラ!」

「うるふぁい!ふぁふぁいはひほ!」

一足先に大河が食べたようだ。

「なにが早い者勝ちよ!だよ?まったく口にものを入れたまましゃべるなって言ってるだろ?まぁいっか・・・櫛枝も川嶋も遠慮せずに食べてくれ。」

いただきまーすと2人が言った後、実乃梨は手づかみで、亜美は上品に、大河はフォークを使いながらもいそいそとそれぞれ口にし、

「んめ〜〜!!」
「うん!おいしい♪」
「・・・(モグモグモグ)」

三人の評判も上々だ。これなら大丈夫だなと竜児は安心してお茶を口にした。
312 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:40:00 ID:aGaAB12w
みんな1つづつ食べた後、竜児は何か作業をしにキッチンに戻った。そんなとき大河が疑問を話した。

「ねぇ?竜児ってさなんでみのりんやばかちーにまでお返ししたんだろう?2人とも竜児にチョコあげてないよね?」

「たしかにそうね?けどあんたがあげたのはチョコらしき何かだったわよ」

「けど大河の言うことも一理あるべ?わたしもあーみんも渡してないわけだし。」

三人が口ぐちに疑問を並べる。確かにそうだ。
竜児がもらったチョコはバイトの派生で作った大河のものだけ。実乃梨も亜美も結局渡すことはしなかった。

「ってことはこれを食べる権利は本来私1人だよね?じゃあ残り全部私のもの〜」

大河がそう言いタルトに手を伸ばす。しかし

「いやいや大河!高須君は私達も呼んでくれたってことは私達三人に食べてほしいってことだと思わない?」

「そうよチビトラ。けどそれだとさらに妙ねぇ、タイガーだけならあたしらは呼ばないわけだし」

三人の疑問それは今日の竜児の目的だ。すると

「キ、キアイ!キアイーーーーイ」

「居たのブサ鳥?いきなりしゃべりだすと心臓に悪いわ!」

大河がそうインコちゃんに食いかかる。
だがそんなインコちゃんの言葉に引っかかるものを感じた亜美は

「気合い?そういえば高須君もそんなこと言ってなかったっけ?」

「言ってたねぇ!最高傑作とか何とか!」

「ホワイトデーに最高傑作・・・」

亜美がそうつぶやくと大河もインコちゃんから興味が亜美たちに戻る。

ホワイトデーそれはバレンタインの逆で男子が女子にアプローチをする日・・・
なんだかんだで未だに竜児は誰とも付き合ってないわけで
そんな竜児に思いを寄せる三人は『もしかしたら私のために…』とか思った時、竜児が戻ってきた。
313 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:41:40 ID:aGaAB12w
「どうしたんだお前ら?みんなして黙りこんで?」

インコちゃんにえさをやりつつ場の空気がわからない竜児がそう言う。
だが誰も口を開けない。なにを言ったらいいかわからない。そんな折に

「いやあ、しっかしうまく作れてよかったぞ。なんせこれがうまくいかなかったら俺自身の想いを疑っちまうからな!」

それを聞いてさらに顔を赤らめる三人。
竜児は誰かを想いこのタルトを作ったようだ。

「ねぇ竜児。1つ聞いていいかしら?」

実乃梨と亜美がすごい速さで大河を向く。
「カッ」っと目を見開き『聞くのか!?』という視線を投げつける。

「なんだ大河?別にかまわんが?」

すっかり上機嫌の竜児。本当に場の空気お構いなしに大河の問いに答える。

「今日はなんで私たちを呼んだの?」

聞いたよこいつ!と2人が注目する。そして竜児の答えは・・・

「言っただろ?今日はホワイトデーだって。
確かにチョコは大河からしか貰ってねえが櫛枝と川嶋にも世話になったからな。
女子とこんなに親しくなったのは初めてだし、今年一年本当に楽しかったしな。
俺なりの感謝の意味もこもってるんだ。それにお前らに食べてもらえなきゃ困るわけだしよ」

「高須君・・・」
「竜児・・・・」
「高須君・・・」

その言葉に素直に心が温まる。本当にこの男ときたら・・・という感想を三人が思っただろう。
こういう人が喜ぶことを何気なくする。高須竜児とはそういう人なんだって。
314 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:44:35 ID:aGaAB12w
「なんたって泰子のために作った大切なタルトだ。男と女の味覚は違うっていうし味見してくれて率直な意見を言ってくれそうな女子ってここにいる三人しかいないしな!」

『うんうん・・・ん?』

三人に疑問が浮かぶ。いまなんつった?
そんな三人を尻目に竜児がこのタルトを作った理由を語る。

「やはり息子の立場からしたら母親が夜の仕事に就くよりも普通の時間で働いてくれる方がありがたいし安心する!
今までの職場には悪いが弁財天国に移ってくれて俺は本当にうれしいんだ。
泰子ももう若くないしもともと体も弱いしな。ちょうどホワイトデーだし持っていったら店の人も喜んでくれるだろう。」

言葉を失う三人。三人は再び思う。高須竜児はこういう男だって。
インコちゃんも空気を察してか「アワワ…」と震える。そして鳴り響くレンジのタイマーの音。何かができたようだ。

「ふふっ・・出来たようだな。生地とかはお前らが食べたのと一緒だし焼いた時間も同じ。完璧だ!
・・・さて俺はこれを泰子のとこへ持って行くから大河!後は閉じ・・・!!!ぐはっ!!」

腕を組み目をつぶりながら得意げに語る竜児。
大河に家のことは任せ泰子のもとへ行こうとしたが感じたのは腹部の激痛。原因はもちろん…

「ねぇ?竜児?ということは私達ってただの味見役ってことでいいのよね?そうなんだろこの駄犬!?」

今しがた竜児のみぞおちに入れたばかりの拳を握り締めながら大河がそう言う。
一時は竜児の家に通わなくなった大河だが毎日ではないにせよ竜児の家でご飯を食べる生活、
そして自立の両立で生活が送れるようになってきていた。
かつて北村に向いていた恋心も言うタイミングがつかめなかったものの竜児にあると自覚している。
それなのに味見などと言われたら黙っていられない。だが納得いかないのは大河以上に・・・

「高須君?亜美ちゃんさ、味見に来るほど暇じゃないんだよねぇ?プレゼントをもらう時間はあるんだけどさ。」

外面全開笑顔満開で亜美がそういう。しがらみやらいろいろな気を遣ってきた亜美だがその関係も落ち着いたころだと思った。
そろそろ素直に?など思ったころにこの誘い。少しは期待もあっただけにこの扱いはプライドの高い亜美を苛立たせるには十分だった。

「お、おう!?」

怒られる理由がわからない竜児は未だにに混乱中。そして実乃梨までも

「高須君、さすがにそれはよくないと私も思うんだよね?」

一度は大河に譲ろうとした。けどそれは大河自身の決めること。そう思って過ごしてきたが進展はない模様、ならいいのかな?
など思った矢先の今日の誘い。実乃梨も純粋にうれしかった。まだ可能性はあるんだろうなと。だから実乃梨もカチンときてしまった。

異様な雰囲気で詰め寄ってくる三人に恐怖心を感じる竜児。

「ま、待てお前ら!とりあえず甘いものでも・・・」

そんな言葉が火消しになるわけでもなく

「んなもんいるか〜!!!!この鈍犬野郎!!!」

三人で見事にハモリ、そして…

≪うまく言葉にできそうにないのでインコちゃんが実況いたします≫

「ア、アア―!ギャアアーー!!クワ?ク、クワ!!ハ!ハッパ?
パッパー!パイー!イ!イ、イン、イイン、イン、テル!ハイル!イルーー!」
315 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:46:08 ID:aGaAB12w
ピンポーン

「はーい!竜ちゃーん。いらっ・・・竜ちゃん!!!?どうしたの!?その傷!?」

わざわざ開店祝いのタルトを届けてくれた息子をねぎらおうと出迎えたが、そこにいた息子は一戦交えかろうじて帰還したやーさんの姿以外の何物でもなかった。

「虎はともかくチワワも肉食だったな・・・」

そう歴戦の勇者、でなく竜児がそう漏らす。

「え?虎?チワワ?」

話をつかめない泰子はまだ動揺中。さらに竜児は

「太陽に触ったらやけどするしな・・・」

遠い目をしてに竜児がそうつぶやく。

「竜ちゃん?なにがあったかやっちゃん、まだ分からないでガンスが大丈夫でガンスか?」

心配そうに聞く泰子に竜児はこう答えた。

「虎とチワワに襲われて太陽に焦がされただけだ。ってもいつものことだがな。」

タルトを渡しながら竜児はそうつぶやいた。


「まったくあの駄犬さっさとこのご主人様に決めればいいのに。(モグモグ)」

ところ戻って高須家では残った少女たちのティータイム。八等分されたタルトは竜児、大河、実乃梨、亜美が一つずつ食べて残った三人がもう一つずつ。

「いやいや大河よ?大河のターンはとっくに過ぎたぜ?まわりまわってもう一回みのりんのターン到来だ」

ともに戦った者同士は気が通じ合うと言うかそんな感じで談笑中な三人。話題はもちろん・・・

「はぁ?あんたらはもう賞味期限切れよ。まだ何もないあたしが有利に決まってるじゃん」

「ばかちーは勝手に妄想でもしてな。」

「してねーよ!んなもん!」

言い合いの中大河がすっと残りの1つに手をつけようとしたとき、

「待ちなチビトラ。」
「ちょっと待ったーー!!」

すかさず待ったを掛ける二人。残るタルトはもうひとかけらだ。

「なによみのりん、ばかちー。私のものになったはずじゃない?」

「なってないし。勝手に決めないでもらえる?」

「ぬけがけはずるいぜ大河?この一つは譲れない!」

1つを取り合う三人。この一つは誰のものになるのか?というのはまた別の話。

「クレ!リュウチャン、タルト、クレ!」

「いや、あんたは無理でしょ・・・」
316 ◆nw3Pqp8oqE :2010/03/14(日) 23:52:30 ID:aGaAB12w
以上です。なんというか・・・すいませんでした(苦笑)設定むちゃくちゃキャラもあんまり活かせなかったなあ・・・
エンディングで上手く作れないかなと思いプラスホワイトデーで作りましたがいやはや・・・
特定のカップリングやらなかったのはそれだと三人がうまく回らないかと思ったからです。
っとあんまり愚痴っちゃいけませんね。次はきちんと恋愛させる気でいます。相手は…わかりやすいだろうな(笑)
以上、お付き合いくださってありがとうございました。
317名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 23:54:28 ID:zfT2U4jL
GJ!面白かったです。
次の作品にも期待してます。
318名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 00:08:13 ID:oQZZ8MyN
そろそろ次スレの季節か
ちょっくらいってくる
319名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 00:17:25 ID:CieYBvfx
と思ったけど調子が悪くて?無理だった
320名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 00:20:12 ID:LJK6q90p
>>316
インコ落ち着けww
いい終わり方でしたGJ
次作カプ決まってるなら前書きよろ(出来ればだが)
321名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 03:31:15 ID:tBasRjBz
GJでした。
おもしろかった。
322名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 18:48:28 ID:IDLjQluZ
次スレ立ちました

【田村くん】竹宮ゆゆこ 30皿目【とらドラ!】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1268646327/
323356FLGR ◆WE/5AamTiE :2010/03/15(月) 21:00:45 ID:sqZ7wYm+
356FLGRです。
 書いてしまったので投下します。
 タイトル:「Tears of joy / きすして〜Supplemental story」

「きすして3 Thread-B」=(北村×木原)の続編です。補間というか、補足というか、
そんな位置付けのお話です。前スレで予告していた最終話は次スレに投下します。
「きすして3 Thread-B」の既読を前提としています。未読の場合、保管庫の補完庫さん
で読んでいただけると嬉しいです。

注意事項:北村×木原、エロ無し、時期は高校三年の夏休み、レス数11
次レスより投下開始。
規制等で中断するかもしれません。
324Tears of joy 01:2010/03/15(月) 21:01:53 ID:sqZ7wYm+
 清水寺の舞台からバンジージャンプを決めるぐらいの意気込みで北村君に告白してから
三週間あまり。夏休みは残すところ一週間ほどだが、空模様もジリジリと照るつける日差
しも三十度を超える気温もまだまだ夏が終わっていないことを私に教えてくれている。
 あの日、亜美ちゃんの別荘で交わした約束を北村君は守ってくれて、ついに今日、私は
彼とデートしてしまうのだ。

 と、状況を反芻するだけで顔が赤くなったような気がする。大丈夫か? 私。

 平日の十一時ちょっと前ということもあって、大橋駅の改札口は閑散としていて、待ち
合わせに失敗するようなことは万に一つも無さそうだ。待ち合わせの時間まであと十分。
私は携帯電話を握りしめ、それが鳴らないことを祈っている。

「木原!」
 はっとして顔を上げると、小走りで近づいてくる北村君の姿が見えた。
「北村君」
 私は手を振って応える。呼び方もちょっと変えてみた。『まるお』はいかにも友達って
感じでちょっと嫌だったから。亜美ちゃんみたいに『祐作』って呼べたら素敵なんだけど、
いきなり下の名前で呼んで馴れ馴れしい奴なんて思われたくないし、だからとりあえず、
しばらくは『北村君』。

「ごめん、待たせちゃったか?」
「ううん… 私も今来たところ」 もちろん、ウソです。

 北村君は今日もシンプルなカジュアルファッションだった。黒いスリムジーンズにTシャ
ツとチェック柄のカジュアルシャツ。
 私は半袖の白いワンピースにパステルブルーのサマーカーディガン。ちょっと地味で子
供っぽいかなと思いながら、でも北村君の好みに合いそうな服を選んだらこうなった。昨
日、美容院で落ち着いた感じのダークブラウンに染め直してしてもらったロングヘアはさ
らっさらのきらっきらで、今日の私は避暑地のお嬢様って感じだ。

「じゃあ、行こうか」
「うん」
 応えた私を北村君はちょっと眺めて、
「かわいいね」と。

 ホント? ホントにそう思ってる? かわいいって思ってる? 
 首筋がかぁっと熱くなって、彼の顔を見ていられなくなる。

「本当に? うれしいな。北村君も、格好良いよ」
「そうか? 俺はいつもこんな感じだけど」
「じゃあ、いっつもかっこいいんだよ」
 わ、わ、何恥ずかしいこと言っちゃってるのよ。そりゃ、いっつもそう思ってるけど、
タイミングってのがあるでしょ。
「…そ、そうかな」
 ほら、北村君、困ってるじゃん。
「う、うん。良く似合ってるよ。北村君、そんな感じの格好だろうなって思って、私も合
わせてみたんだ。いつもとちょっと違う感じでしょ」
 スカート部分の裾を摘んで身体を捻って見せた。
「ああ、なるほど。それでか…」
 彼は小さく、うんうんと頷いた。
 ああ、何とか乗り切った。もう、浮かれすぎだよ。
325Tears of joy 02:2010/03/15(月) 21:02:34 ID:sqZ7wYm+

「切符は?」
「え? 切符? ああ、まだ…」
「じゃあ、買ってくるよ。待ってて」
 そう言って彼は自動販売機の方へ歩いて行った。
 こんなに舞い上がっちゃっていて、私は今日を乗り切れるのだろうか。ちょっと不安だ。

***

 私達は三十分ほど電車に揺られて大きな街にやってきた。初デートのために北村君が選ん
でくれたのは映画鑑賞だった。定番中の定番だけど、共通の話題が作れるから私もこのプ
ランに全面的に賛成だった。

 私達は駅近くのファーストフード店に入ってポテトフライと飲み物をオーダーして、二
階のこぢんまりとしたテーブル席に座った。北村君はバッグから情報誌を出してテーブル
の上に広げた。広げられているのは映画の紹介ページ。この街には大小合わせれば二十以
上もの映画館があって、国内で観られるほとんどの映画がこの街のどこかの映画館で観ら
れる。だからこの街に来ることだけ決めておけば、あとはどの映画を観るのか二人で決め
れば良いワケで、それだって話のネタだった。

「木原は何がいい?」
「え? う〜ん。どうしよっかな」
 私は情報誌のページをめくっていく。お目当ての映画はあるけど、いきなり『じゃあ、
コレ』なんてあっさり言ったら投げやりな感じで可愛くない。

「北村君はどんなのが好きなの?」
「うーん。ありきたりだけどアクション物とかだな」
「へぇ。私もそういうの好きだよ。じゃあさ、これなんかどうかな?」

 私は情報誌のページを開いて北村君の方に向けた。そのページで紹介されているのはア
クション物のいかにもハリウッドものっぽい映画で、ミイラがわらわら出てきてひたすら
アクション&バトルという、そんな映画だった。
 北村君はそのページを見て、一瞬驚いたような表情を見せた。
「へぇ、意外だな。俺もこれはちょっと興味があったんだが、その、なかなか言い出す勇
気がなくってな。確かにアクション物ではあるな」
「え? そんなに変だった?」
 ひょっとして駄作だったとか? 評判倒れだったとか。
「いやいや。そんな事無いさ。言っただろ。俺も興味があるって」

 北村君は雑誌を手にとってぱらぱらとページをめくっていく。

「すぐ近くの映画館でやってるよ。時間も丁度良い感じだな」
 彼はそう言って、ポテトを口に放り込んだ。

「それにしても意外だな。木原がこういう映画に興味があるなんて」
「そうかな。普通だと思うけど。それにさ、恋愛ものとか苦手なんだよね」

 特に、『死んじゃう』系の物語って、絶対に反則だと思う。

「そうなのか。女子って恋愛物が好きだと思ってたけど」
「嫌いじゃないけどね。苦手。なんか、いろいろ考えちゃうんだよね」
326Tears of joy 03:2010/03/15(月) 21:03:05 ID:sqZ7wYm+

 私はポテトを摘んで口に運んだ。炭水化物の揚げ物なんてダイエットの大敵だけど、
でも、おいしい。赤い厚紙で作られたパッケージから二人で交互にポテトを摘み出して口
に運ぶ。こんななんでもないシーンだって、ずっとずっと憧れだった。

「へぇ。でも、そうかもな。俺はあんまり観ないからわかんないけど」
「男の子は、そういうのあんまり観ないんだよね」
「そうだな。男同士でそんな映画見るのはかなりヘンだろ」
「う、うん。ちょっとアレだよね」
 一瞬、北村君と高須君がペアシートに座っているイメージが…。
「女の子同士はいいのに不思議なもんだよな」
 うああ。なんか、男同士で恋愛映画が観たいように聞こえる。そう言えば、高須君が女
だったら絶対惚れるとか、北村君言ってなかったっけ。

「お、女の子は良いけど、高須君はダメなのっ!」
「え? いきなりどうした? なんで高須?」

 それは私が私に聞きたい。ぜひとも問い詰めて行きたい。どうして思ってることが口に
出ちゃうかな。 

「そ、それは…。北村君と高須君が一緒に恋愛モノを観てるのを想像しちゃって」

 くくっ…と北村君は笑って、それを奥歯で?んだ。

「俺もそれは遠慮したいよ」
「そ、そうだよね」
「高須に泣き顔なんて見られたくないからなぁ」

 ええっ。一緒に観ること自体はアリなの? なんてことを思っている私の目の前で、北
村君は最後のポテトを口に入れた。

「そろそろ行こうか」
「う、うん」 …… 深く考えないでおこう。
 
 私達は席を立って店を出た。平日の昼前ということもあってか、歩いているのは夏休み
中の学生がほとんどで、通りはそれほど混雑していなかった。。
 私は北村君の行く方向へと付いていった。ただ、彼の向かっている先は私の知っている
映画館とは微妙に違う感じだった。でも、方角的にはそんなに違っていないし、何より彼
の足取りは自信満々、戸惑う素振りなんてまるで無い。もし、彼が迷っているのだとして
も、そんなの全然問題ない。こうやって一緒に歩けることに比べたらそんなことはどうで
もいい。

 けれど、この三十センチの距離がもどかしい。

 でも、仕方ない。彼はまだカレシになってくれたわけじゃない。今は『お試し期間』み
たいなもので、私が強引にデートを約束させただけなんだから。今日の夕方になったら、
『やっぱり友達で』なんて言われてしまうのかも知れない。ひょっとしたら、北村君はも
うそのつもりでいるのかも知れない。
327Tears of joy 04:2010/03/15(月) 21:03:46 ID:sqZ7wYm+

 あーっ! もう、なに弱気になってんのよ!

 そうならないために必死に服だって選んだし、メイクだって髪の毛だってばっちり決め
てきたんだから。清楚な感じでまとめたコーディネートはシンプルカジュアルの彼とベス
トバランス。誰が観たってお似合いのハズなんだから。
 とにかく、デートに誘ってくれたってことは北村君にも好意があるって事なんだから、
もっと自分を見てもらって、もっと好きになってもらわなくっちゃ。

「どうした? 木原」
「ええっ! ううん、な、なんでもない」

「そうか。おっ、ここだな」
「え?」
 思わず声を上げた。見上げた看板に描かれていたのは…

『○○戦隊 ××××ジャー 劇場版!』
 どうみたってハリウッドのハの字も無かった。確かにアクション物には違いないが、私
達の周りにいるのは親子連ればかりで、しかも子供の方は小学校低学年ばかりだ。あきら
かに私達二人は三百メートルは浮いている。

 これは何? どういうこと? ひょっとしてギャグ? ボケ? 
 突っ込むの? 突っ込まなきゃいけないの? 

「櫛枝のお薦めだったんで気にはなってたんだよな」
 腕組みしながら頷く北村君に「そ、そうなんだ」と言うしかなかった。どうやらギャグ
でもボケでも無いようだ。それにしても櫛枝実乃梨、恐るべし。まさかこんな展開になる
とは思わなかった。
「そ、そう。櫛枝さんのお薦めなんだ。そういうのって良くあるの?」
「まあ、そうだな。ソフト部には櫛枝の推奨作品リストが貼ってあるからな」
「そんなのがあるんだ」
「ああ。こういうアニメとか特撮ものが特に多いんだけどな。それで、俺もいくつか観て
みた、というか無理矢理鑑賞させられたというか、ともかく、結構刺さってくるんだよな。
櫛枝リコメンド作品は」
「ふーん。そうなんだ」
「そうなんだよ。それで気にはなってたけど、こうやって観る機会にめぐまれるとは思わ
なかったよ。一人で観に来る気にもなれないし、それでいて微妙に気になって引っかかっ
てたんだよな」
 北村君は大真面目。基本的にそういう人なんだけど、でも、特撮ヒーロー物の映画を観
るか、観ないかでそんな深刻な顔をするのはどうだろう。まあ、そういうところも好きなん
だけど。
「木原はどうしてコレを?」
「え?」

 し、しまったぁぁあああ! 今更、『コレじゃない!』なんて言えない。

「え、ええっと…。
 せっかくだから、普通だったら、ぜぇぇったい観ない映画にしよっかなぁ〜とか…」

328Tears of joy 05:2010/03/15(月) 21:04:28 ID:sqZ7wYm+
 あ、ああ…。終わった。これ観るんだ。初デートなのに。
 最初で最後のデートかも知れないのに… 特撮ヒーロー物なんだ… ははは…

「なるほど。普段は観ないんだな。こういうの」
 観るわけないじゃん。高校三年でこれをリコメンドする櫛枝がおかしいんだよ。
「観ないよ〜。小さい頃にちょっとテレビで観ただけ」
「まあ、普通そうだよな」
 そう言って北村君は微笑んだ。安心してくれたのか、がっかりさせたのか分からない。
なんだか凄く不安だ。

「じゃあ、チケット買ってくるから。ちょっと待っててくれ」
「あ…」
 行っちゃった。引き留める間もなく。
 
 私はロビーのソファーに腰掛けた。テンション上がりまくりのお子様達が走り回るやら
跳ね回るやらで兎にも角にも騒々しい。ロビーには見覚えのあるポーズをビシッと決めた
原色バリバリの五人組の等身大看板が立てられている。こいつらはさっきの情報誌に、こ
の看板とまったく同じ決めポーズで、よりによってお目当ての映画の次ページに載ってい
た…ような気がする。後で確認しておこう。手遅れだけど。
 ロビーのモニターでエンドレス再生されている予告編映像をしばらくボンヤリと眺めて
いると、北村君が駆け足で戻ってきた。
「お待たせ」
 そう言って彼はチケットを私に差し出した。
「あ、お金」
 私はバッグに手を入れた。
「いいよ。今日は俺のおごり」
「そんなの、悪いよ」
「いいから」
「うん…。ありがと」
「どういたしまして」
 そう言って北村君は微笑んだ。それから彼はちらっと腕時計を見て、
「もう、入ろうか」と言った。

 まあ、いっか…

 彼の笑顔を見てそんな気分になった。何を観たって、彼と同じ時間をすごせるって事に
は変わりないんだから。

「うん。そうしよ」私は笑顔で彼に応えた。


 北村君が取ったのは劇場の後方の席だった。平日ということもあって席は三分の一ほど
空いている。後ろの方は割と空いていて、周りに気を遣う必要もなさそうだった。

「子供のころさ、亜美がウチに遊びにきてたんだよ」
「そっか。幼なじみだもんね」
 だから亜美ちゃんは彼を『ゆうさく』と呼ぶ。それがちょっと羨ましい。

329Tears of joy 06:2010/03/15(月) 21:05:17 ID:sqZ7wYm+
「それでさ、よく三人で一緒に観てたんだよ。戦隊モノ。俺と兄貴と亜美で、母さんがビ
デオに録っておいてくれてさ。ごっこ遊びなんかもしてたな」
 北村君は肘掛けに頬杖をついて優しい目をしていた。
「へぇ。ごっこ遊びかぁ。やっぱり、亜美ちゃんがピンクだったりするの?」
「いや、それがさ…」
 北村君は悪戯っぽく笑った。
「亜美は敵の女幹部役なんだよ。で、兄貴がレッドで俺がブルー」
 敵の女幹部っていうのがどういうキャラなのか私には分からない。
「えー。じゃあ北村君とお兄さんで亜美ちゃんをいじめるわけ?」
 北村君は首を振りながら手をパタパタと振って、
「いや、亜美が勝つことになってるんだよ。ヒーローやられちゃうの。俺たちのごっこ遊
びでは悪の組織が勝利して亜美が高笑いして終わるんだよ」
 北村君はそう言ってクスクスと笑い始めた。
「だめじゃん。負けちゃったら」
 私も可笑しくてクスクスと笑ってしまう。
「だろ。けど、俺も兄貴も亜美の言う通りに芝居をするだけだから、筋書きは亜美の思う
ままなんだよ。そうそう、レッドが亜美に籠絡されてブルーと戦って相打ちなんてのもあっ
たな。すっかり忘れてたけど思い出したぞ」
 
 思わず吹いた。

「それっていつ頃の話?」
「小学校の二年とか、そんなもんじゃないかな」
「亜美ちゃんって、その頃から可愛かったの?」
「そうだなぁ。その頃はなんとも思ってなかったけど、昔の写真を見るとやっぱ美少女っ
て感じだよ」
「そっか…」

 照明がすーっと暗くなっていく。

「お、始まるみたいだな。携帯切っておかないとな」
 北村君はポケットから電話を取りだして電源を切った。私も鞄から携帯を出して電源を
切った。スクリーンが明るくなり、予告編の上映が始まった。
 皮肉なことに、私のお目当ての映画の予告編が流れている。
「これも面白そうだよな」
 北村君が小声で話しかけてきた。面白そうでしょ。私もそう思ったんだよ。
「うん、そうだね」
 
 そうだ、ここでさりげなく次のデートの約束をしてしまおう。

「あ、あのさ。北村君」
「ん? どうした」
「こ、今度はこれを…」
「お?」

 前の席に座っている男の子が私達をガン見してた。そして口の前で人差し指を立てて、

「シーッ!」

330Tears of joy 07:2010/03/15(月) 21:05:56 ID:sqZ7wYm+
 北村君は私の顔を見て肩をすくめた。それから口の前で人差し指を立てて男の子と同じ
ポーズを取る。男の子はそれに納得したのか、前を向いてすとんと椅子に腰掛けた。
 小さな男の子に咎められて、なんだか猛烈に恥ずかしかった。別に予告編なんだからい
いじゃん、と心の中で言い訳する私の耳に『上映中はお静かに!』という予告編に続いて
上映されている注意事項のナレーションが飛び込んできて、私の身体は五パーセントぐら
い小さくなった。

 そして、本編スタート。
 冒頭の巨大ロボの格闘シーンから物語はハイテンション、ハイスピードで突っ走る。子
供の頃にちょっとだけ見たヒーローと比べるとあきらかに垢抜けている。CGも結構凝っ
ていて、そりゃあハリウッド物の大作なんかとは比べものにならないけど、アクション
シーンは思っていたより全然まともだった。と、言うか、かなり引き込まれちゃってる自
分がちょっと嫌だ。隣に座っている北村君は、完璧に小学生の顔になっていた。

 そして、微妙に露出度の高いコスチュームのお姉さんが登場。そうか、これが噂に聞く
女幹部というやつに違いない。

『おのれ、××××ジャー。これを喰らうでおジャル』

 ごめん、亜美ちゃん。ウケた。笑いのツボにずっぽりだった。
 もう、このお姉様が亜美ちゃんに見えて仕方ない。
 笑いを堪えていると苦しくて涙が出た。

***

「いやー、なかなか良かったな。結構、ストーリーもしっかりしてるんだな」
「うん。ホントに。ちょっと引き込まれた」
 それは本当の事だったけれど、大きなスクリーンと音響の効果だと思いたい。ただ、思
いの外、映像もアクションもストーリーもまともだったのは事実だ。それは潔く認めよう。
多分、期待してなかった分だけ驚きが大きかったのだ…だと思いたい。

 映画館を出ると、時刻は二時を少し過ぎていた。
「お腹空いたね」
「そうだな。昼メシにしよう。木原は何がいい?」
「北村君が決めて。でも、あんまり脂っこいものは嫌だな」
 
 そんな私のリクエストに応えて、彼が選んだのは、それほど高くないイタリアンレスト
ランだった。昼ご飯には少し遅い時間だったけれど、店はかなり繁盛していて席は殆ど埋
まっていた。
 私と北村君は『これ、美味しそう』とか『これなんかどうだ?』とか言いながらメニュー
を眺めた。私は、やっぱりニンニクとかは避けたいな、とか。白いワンピにトマトソース
のシミがついたら嫌だなとか、色々と熟慮の末にサラダとリゾットをオーダー。北村君は
ピザとパスタという炭水化物コンボだった。男の子は基礎代謝が高いからこれぐらいの量
は全然問題ないんだろう。

 オーダーを済ませた私達は映画の話や亜美ちゃんの別荘での事を話した。
 しばらくすると料理が運ばれてきてテーブルに並べられた。

 私は熱い湯気を立てるリゾットを眺めながらサラダに手をつけた。北村君はピザカッター
でスモールサイズのマルゲリータを四半分にカットして、その一つを手にとってかじりつ
いた。
331Tears of joy 08:2010/03/15(月) 21:06:27 ID:sqZ7wYm+

「うん、うまい」と北村君は顔をほころばせる。

 彼は二口、三口とピザを囓り、残った一欠片をぱくりと口に入れた。
 私はリゾットをスプーンですくい、ふうふうと息を吹きかけて少し冷ましてから口に入
れた。

「んー…、おいし」
 空っぽの胃袋にリゾットがすとんと吸い込まれる。お腹がすいていた所為もあるかもし
れないけれど、なんたって目の前に北村君がいて、ふたりで食事しているのだ。美味しく
ないはずがない。目の前の北村君はペンネアラビアータをフォークでつついて口に運んで、
うんうんと頷きながらもぐもぐと口を動かし、

「うん、これもうまいな」と満足げに微笑む。

 その表情。言っては悪いけど、やっぱりかわいい。

「ねえ、北村君。ちょっと味見させて」
「ああ、いいよ。食べてみなよ」
「うん、ありがと。頂くね」

 私はフォークでペンネを突き刺して口に入れた。ぴりっとした刺激が口の中に広がる。
オリーブオイルとトマトのフレーバーが赤唐辛子の辛みを引き立てる。個性の強い食材で
作られたソースだけではくどくなってしまうところをイタリアンパセリの香りがさりげな
くカバー。

「おいしいね」辛い料理を口にしたのに私の頬は緩みっぱなし。

「そう言えば、亜美の別荘に行ったとき、高須がアラビアータを作ってくれたよな。高須
のアラビアータ、これに全然負けてないよな」

 チクッと針で刺すような小さな痛みが胸に走った。

「うん、ホント。でもさ、高須君、ひどいよね」

 うん、高須君はひどい。ある意味、女の敵だと思う。

「え? なんで?」
 北村君は不思議そうに私を見た。
「だって、あれで手抜き料理だ、なんて言われちゃったらさー、私、立つ瀬無いよ」
「まあ、そう言うなよ。高須的にはそうだったんだろうし、みんながあんまり褒めるから
照れくさかったんだろ」
「そうかもしれないけどさ。私は、その、あんな風には出来ないから…」
 
 …羨ましいんだよね…

 好きな人と一緒に食事をするだけでも楽しいのに、美味しい料理が作れて、それを好き
な人に食べて貰って、喜んでもらえて、笑ってもらえて…。そんな幸せ、私は知らないか
ら。
332Tears of joy 09:2010/03/15(月) 21:07:11 ID:sqZ7wYm+

 私はスプーンでリゾットをすくって口に入れた。

「いいじゃないか。今は出来ないってだけだろ」

 ううっ。励まされてしまった。しかも、全然料理が出来ないと思われてるっぽいリアク
ション。いくらなんでもそれはない。そこはちゃんと否定しておかないと。

「北村君、私が全然料理が出来ないと思ってるでしょ。言っておくけど、全然出来ないっ
てワケじゃないんだからね」
「いや、そんなつもりじゃないんだ。ごめんごめん」
 そう言って北村君は首に手を当てた。

 謝らせちゃった。そういうつもりじゃなかったのに。言い方が悪かったのかな。なんか、
悔しくてつんけんしちゃう。もっと可愛らしくしなくちゃ。

「ううん、いいの。気にしないで」
「そうか。ごめんな」

 ああっ。なんか雰囲気悪くなっちゃった。どうしよう。

「ホントに気にしないで。それにさ、実はあんまり料理得意じゃないから。やっぱり男の
子ってそういうの得意な女の子が好きなのかな…」

 って、何言ってるのよ、私。これじゃ、誘導尋問じゃん。答えよう無いじゃん。
『いやぁ、俺は料理の出来ない女が大好きなんだ』…とかって有り得ないから。

「…なんて聞かれたら困るよね。ハハハ…。ああ、気にしないで、気にしないで…」

 一人相撲の泥沼状態。もう、このままさくっと地面に埋めて欲しい。北村君はすっかり
困惑。情けなくて、恥ずかしくて、私はリゾットをスプーンで無意味にかき回す事ぐらい
しかできない。

 もうやだ、せっかくのデートなのに。楽しくお話したかったのに。彼の笑顔を見ていた
かったのに、何を言っても混乱させて困らせちゃう。 

「木原」

 伏せていた顔を上げて彼を見た。

「すごいモノを見せてやる」
「え?」
 まさかここで脱ぐの? と思ったらさすがに違った。ごめんね、北村君。
 北村君は水の入ったグラスに人差し指を入れて濡らすと、その指でテーブルに五センチ
ほどの円を描いた。私は意味が分からなくて、ただ、その輪を眺めた。

「これな、スイッチなんだよ。指で押すとちょっとだけ時間が戻る」
 私は多分、きょとんとしている。そんな私に北村君は「いいから、押してみろよ」と言っ
た。私は言われるまま、水滴で描かれた輪の中央に右手の人差し指を置いた。すると北村
君は効果音のものまねをして「きゅぃーん…」っと。まるっきり意味が分からない。
333Tears of joy 10:2010/03/15(月) 21:07:37 ID:sqZ7wYm+

 北村君はおもむろにフォークでペンネを突いて口に入れ、
「うん、これも美味しいな」と微笑んだ。

「木原も食べてみろよ」
 彼はそう言ってフォークでペンネを突き刺して、私の目の前に突きだした。
「いいから」
 私は彼の突きだしたフォークにかじり付くようにペンネを口に入れた。
「おいしいね」
「そう言えば、亜美の別荘に行ったとき、高須がアラビアータを作ってくれたよな。あい
つのアラビアータ、これに負けてないよな」

 そっか。そういうことか。

「ふふっ。ホントに時間戻っちゃった」
「え? 何言ってるんだよ」
 北村君は真顔でそんなことを言っている。

「ううん、なんでもない。そうそう。高須君のアラビアータ、ホントに美味しかったよね」

 私は目一杯微笑んだ。暖かくて、甘くて、ちょっと酸っぱいような、そんなフィーリン
グに私の頬はだらしなく蕩けるように緩んでいる。たぶん、きっとそうなっている。


***


「さてと、そろそろ引き上げるか」
「うん、そうだね」

 頃合いだった。食事の後、買い物に付き合ってもらっていろんなお店を見て回った。そ
して時刻はもうすぐ午後五時。清い交際の第一歩としてはこれぐらいにしておくのが良い
と思う。物足りない、と言えばそうだけど、好きな人から好いてもらえそうな自分でいるっ
て言うのは結構疲れる。

 でも、肝心の第二歩はあるんだろうか?

「あのさ…」
 聞くのが怖い。『またね』と言わせてもらえるのだろうか。
「ん?」
 北村君の優しい目が私の表情を捉えた。
「…その、また、デートしてくれるかな? 北村君が暇な時でいいから」
 ぼぅっとするのが自分で分かった。私の顔も耳も真っ赤だろう。
「もちろん!」
 そう言って彼はにこっと笑った。

 嬉しくて涙が出そう。だから、私は瞼を閉じて彼に微笑んだ。こんな事ぐらいで泣いちゃ
うような女の子だって思われたくないし、変に気を遣わせたくもない。
334Tears of joy 11:2010/03/15(月) 21:08:04 ID:sqZ7wYm+

「ありがと。北村君」
 私はちょっと俯いて、軽く洟をすすった。

「帰ろ」涙を押し戻して彼に微笑んだ。

 夕方の街は人波で溢れていた。はぐれてしまわないように人混みを縫うように歩く。

「やっぱり、夕方になると混むんだな」
 彼の声も雑踏にかき消されそうになる。
「そうだね」
 私は少し大きな声で応えた。
 彼がふっと振り向いて、微笑んだ。次の瞬間、彼は私の手から紙バッグを取り上げて、
大きな左手で私の右手をそっと握った。
「えっ!」突然の事に思わず声を上げた。
「ああ、ごめん。はぐれちゃいけないと思って」
 北村君はそう言ってはにかんだ。
「ありがと。離さないでね」
 私も笑顔で応えた。

 大きな手は温かくて、夏なのに、暑いのに、その温もりが嬉しくて、

 嬉しくて、
 嬉しくて、
 嬉しくて、

 本当に、唯々、嬉しくて…


 押し込んでおいた涙がたった一粒だけこぼれて頬をつたった。


(Tears of joy / きすして〜Supplemental story おわり)

335356FLGR ◆WE/5AamTiE :2010/03/15(月) 21:08:30 ID:sqZ7wYm+
以上で投下完了です。
読んでいただいた方、ありがとうございます。

356FLGRでした。
336名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 21:24:47 ID:00WJlwen
>>335
相変わらずGJです。
それにしても、乙女ですねー。 麻耶たん。
あと、亜美の悪の女幹部。 似合いすぎw
自称、川嶋原理主義の私にもツボでしたww
337名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 23:32:23 ID:E+XCXAPn
>>335
いつもながら癒されますGJです。
あーみんの高笑いはまさに女幹部www
338名無しさん@ピンキー
例によって埋め代わりの何か。


大河とする時は大体食後になるか。食欲の次は性欲を満たそうという本能が働いているかは謎だ。
とりあえず皿洗ってる時に後ろからズボン脱がそうとするのはやめてほしい。絡まったりするし。
どうも大河にはムードというものを介さない節があるから困る。そっと抱きしめてやって何度もキスしてやると
俺の腕の中で虎が猫になっていく様はとてもかわいい。そのままお姫様抱っこでベッドに運んでから
蕩けるまでキスしてやってからことに及ぶ。なるべく事前に力を削いでおかねば、虎との交わりは危険なのだ。

実乃梨は事前にすると決めておかないとはぐらかされてしまいがち。それを押し切って、というのも悪くはないが
基本的に目覚ましフェラなど予定にある時以外は性的なことをしない。本番に向けて調子を上げ心構えを整えてから
いざ本番、という具合。それなりに回数を重ねても緊張はするらしい。全裸でベッドの上に正座して待つ実乃梨の
緊張を解すため、軽くマッサージしてやりながらなだれ込むのが通例となっている。鍛えられ絞られた身体には
亜美や奈々子とはまた違った美しさを感じるな。肌がほのかに桃色に染まるまで解したら食べ頃だ。

亜美は色々と趣向を変えてくる。突然(大河の)部屋にポールが設置されたかと思えば、どこで習得したのか
ポールダンスとストリップで俺の劣情を煽ってくるし、時には手首が傷つかないような柔らかい素材の手錠を使い
自らを後ろ手に拘束するなどしてくる。とにかく奔放にエロいことをしたいしされたいのだ、このエロアホ娘は。
それなりに嬉しくもあるので、野外露出とか言い出さない限りはこの方向でいいかとも思う。あと自分でマ○コを
広げて見せつけてきたら、ちゃんと綺麗だって褒めてやらないと不機嫌になるので注意が必要。実際綺麗だけど。

奈々子はそれとなく触れてくることが多い。肩や背中、座っている時の膝、寝ている時の脇腹やつま先、そんな俺の
性的とは言えない場所に触れる回数が増える。それが奈々子のサイン。決して自分からしようとは言ってこない。
亜美に言わせると、そういうところが奈々子はずるいそうだがよく分からん。一度、敢えてサインを無視し続け
こちらからも肝心な場所には触れないよう、ギリギリの場所を愛撫し続けることで奈々子から言わせようとしたが、
最終的には泣いても我慢を続けたので俺が折れた。許してもらうまでに抜かないまま5連を要したことを記す。

麻耶とは友達感覚で一緒にいることが多くなった。最初の頃はお互いにそれなりに意識したもんだが、今では教室で
話すのと同じぐらいの距離感で一緒に過ごせる。ただ二人きりだと無防備になりがちで、麻耶がベッドに寝転がって
雑誌読んでるとスカートの中が覗けてしまったり、イヤホン片耳ずつで音楽プレイヤー聞いてる時に覗き込めてしまう
胸元だとか、そんなちょっとしたことで欲情して抱き寄せることは多い。麻耶の方から誘ってくることもそれなり。
じゃれてふざけて笑い合えて、不意に自然と身体を重ねられる……こういうのをセフレっていうんだろうか?

独神が俺に一夫多妻制のある国籍を取るように勧めてきたのはともかくとして、する時は思いっきりムードを上げる。
年齢差のことを気にしているからか、セックスがややもすると愛を確かめる行為でなく、子作りになってしまいがちだ。
だから耳元でいかに先生が魅力的か、俺が先生を愛しているかということをなるべく甘い言葉で囁き、身体を寄せる。
とどめに「ゆり」と普段は口にしない名前で呼んでやれば完全に女のスイッチが入る。そこからはしつこいぐらい
絡み付いてくるので気合を入れる必要ありだ。……いつまでも独神じゃなんだし、入籍をそろそろ真面目に考えるか。