ここは、ヤンデレの小説を書いて投稿するためのスレッドです。
○小説以外にも、ヤンデレ系のネタなら大歓迎。(プロット投下、ニュースネタなど)
○ぶつ切りでの作品投下もアリ。
■ヤンデレとは?
・主人公が好きだが(デレ)、愛するあまりに心を病んでしまった(ヤン)状態、またその状態のヒロインの事をさします。
→(別名:黒化、黒姫化など)
・転じて、病ん(ヤン)だ愛情表現(デレ)、またそれを行うヒロイン全般も含みます。
■関連サイト
ヤンデレの小説を書こう!SS保管庫 @ ウィキ
http://www42.atwiki.jp/i_am_a_yandere/ ■前スレ
ヤンデレの小説を書こう!Part27
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1258747508/ ■お約束
・sage進行でお願いします。
・荒らしはスルーしましょう。
削除対象ですが、もし反応した場合削除人に「荒らしにかまっている」と判断され、
削除されない場合があります。必ずスルーでお願いします。
・趣味嗜好に合わない作品は読み飛ばすようにしてください。
・作者さんへの意見は実になるものを。罵倒、バッシングはお門違いです。議論にならないよう、控えめに。
■投稿のお約束
・名前欄にはなるべく作品タイトルを。
・長編になる場合は見分けやすくするためトリップ使用推奨。
・投稿の前後には、「投稿します」「投稿終わりです」の一言をお願いします。(投稿への割り込み防止のため)
・苦手な人がいるかな、と思うような表現がある場合は、投稿のはじめに宣言してください。お願いします。
・作品はできるだけ完結させるようにしてください。
・版権モノは専用スレでお願いします。
・男のヤンデレは基本的にNGです。
3 :
キレた人々3:2010/02/14(日) 00:08:35 ID:6ZMHYmyA
月曜日。
本来週の始まりは日曜日からなのだが、学生及び社会人の皆様は今日からが一週間の始まりと言ってもいいだろう。
まあそんなことはどうでもいい。
それにしても昨日は大変だった。突然姉さんが訪ねてきたと思ったら何故か如月までもが乱入してきて
「その女、誰?」とか言いながら勝手に上り込んでくるし、姉さんも姉さんで
「まーくん、この人誰?」なんて声のトーン下げてどことなく殺気を漂わせて聞いてくるし。
とりあえず二人とも追い出すことで一時解決したわけだが、姉さんには聞きたいことがあったな。
特に、母さんのこととか。
まあ、今はそれもいい。学生の本分は勉強だ。学校に行かなければ。
* * *
あいつは図ったように俺と登校時間を合わせてくる。もう文句を言うのも面倒なので何も言わないようにしている。
如月は何時もの様に一方的に話しかけてくる。俺はそれに適当に答えるばかり。昨日あれほどまでに殺気立っていたにも関わらず姉さんのことは聞いてこなかった。
しかしこいつはとにかく喋り続ける。それは教室に入ってからも同じで、俺が席についても延々と続く。
その光景をクラスの奴ら(主にというか全員男子)は俺に怨恨の篭った眼差しを向けてくる。
如月は一応学年の中でもトッップクラスの美人(らしい)、狙っている奴も多いのだろう。
なんでお前みたいな奴なんかが、という思考が目が合った奴から流れ込んでくる。もっとどす黒い感情の奴もいた。
まったくもって、吐き気がする。気持ち悪い。保健室で寝ていたい。
如月も如月で、一体何がしたいんだ。
なんでもいいから、とにかくもう放っておいてくれよ。
支援?
5 :
キレた人々3:2010/02/14(日) 00:36:13 ID:6ZMHYmyA
放課後。如月が委員会のためにおらず珍しく静かな時間。
たった一人だけの為に買った携帯電話が、全く弄っていない不気味な電子音を奏でる。
別にこの言葉に深い意味はない。一人しか掛けてくる人間がおらず、そもそもが携帯電話自体がその人に買わされたものだ。
「ただいま電話に出ることが出来ません。ぴーっという発信音の後に適当な伝言でも残しておいてください」
「もしもーし、元気だったー?まあ、まーきゅんが元気なんてこと滅多にないんだろうけどさー」
「あ、スルーですか天音さん。まあ何時ものことですけど」
俺の遠まわしな通話の拒絶も意に介さず一方的に話す。
彼女の名前は鬼門ヶ崎天音(きもんがさき あまね)。職業は・・・まあ、何でも屋みたいなものだ。危険な仕事が多いが。
しかし何だ、電話の向こうが少し騒がしい。
「で、何ですか?また仕事手伝えって言うんですか?」
階段を降りながら話すが教師は一切咎めない。
「いえーすざっつらいと!流石よく分かってんじゃン私のこと!嬉しいねぇ」
「嫌ですよ。今はまだお金もありますし、大体貴女の所為で何回死にかけたと思ってんですか」
下足場に辿り着き靴を履き替える。
「まあまあ、いいじゃねぇの細かいことは。こちとらお前に会えなくてスゲェ寂しいんだぜ?」
「知りませんよ。貴女と会う度に死にかけてるんですから。貴女が寂しくなるだけ俺の生存率が上がるんだったらそのまま寂しい思いをしっててください」
「死にかけるのは当然だろ?だって『そういう』知り合いはまーくんしかいないんだから」
「一人でも行けるでしょう。それに貴女なら『そういう』人種じゃなくても、危ない仕事のプロくらいはいるでしょう。デューク東郷でも連れて行ってください」
「ハッハー、私の背中を任せられるのはお前だけだぜ光栄に思いな。それに会えなくて寂しいってのは本当だぜ?だって・・・」
そこまで聞いて校門が騒がしいことに気付いた。生徒達が屯して何か騒いでいる。
まあそんなものに興味はないのだが・・・
「おう、いたいた!まーくんこっちだぜ」
さっきまで電話越しに聞こえていた声が直ぐ傍から聞こえる。
「テヘッ、来ちゃった」
そんな風に言われても困るだけなんだよ・・・
終了
駄文で失礼厨で失礼
GJ!
正直自分で駄文とか言わないほうが良いと思いますよ。
もっと自信を持って。
8 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 12:10:45 ID:SoIt2pGT
おまえら聞くがチョコは貰ったか?
独人達のバレンタインは最高だった
はっはっは 自分で買ったに決まってるじゃないか
>>9 俺もあれは好きです。あの作者にはまたバレンタインネタ投下してほしいですな。
四夜連続投下改め、四日連続投下三日目投下します。連投規制が怖いので途中少し間が開きますが勘弁してください。
「ねえ、あの女は辰巳君にとってなんなの? 辰巳君とどんな関係なの?」
えー、突然こんな質問をされましても、私としましてはなんと答えてよいのか検討もつかないわけでして。
そんなことより部屋の空気が妙に寒くなった気がしたりするわけでして。平坂が少し怖い気がするわけでして――
「あの女って、誰?」
「とぼけないでよ。いつも仲良く話してる女。辰巳君のバイト先にまで来てるあの女のことよ」
脳内検索該当者一名。その間僅か2秒。危機的状況である事を察知してか本能が脳を活性化させた結果である。グー○ルに勝てる日も遠くない。
清村真希(しむら まき)は大学の同期であり、同じ講義で仲良くなった女子だ。なかなか可愛いのに彼氏はいない。
「ああ、清村のことか。あいつはただの友達だけど、それがどうかしたのか?」
「嘘じゃないわよね? 辰巳君はわたしに嘘つかないわよね?」
「嘘じゃない。なんであんなだらしない飲兵衛のことでお前に嘘をつかなきゃならんのだ」
清村は大の酒好きで、飲み会と名のつくものがあればどこにでも現れるという女だ。おまけに酒癖が悪い。
初めて会う人間は清村の快活な人柄と容姿に惹かれるのだが、一緒に飲むと翌日には接し方が変わる。酒は人を狂わせるのである。
「よくバイト先に来るじゃない。それどころか辰巳君のアパートによく来るのはどうして?」
おいおい、どうしてそんなこと知ってんだよ。どこから見てたんだよ怖いよ平坂。
アルバイトの大半を酒に注ぎ込む飲兵衛女な清村だが、バイトの稼ぎなんてたかが知れている。基本は宅飲み(家で飲むこと)になることが多い。
俺のバイト先が居酒屋であることを知り、そしてアパートがなぜか近い事を知った清村は暇と金があれば酒を持って転がり込んでくる。
目的は分かっている。居酒屋で身につけた俺の料理の腕だ。清村は料理の腕が致命的である。
美味い酒には美味い肴が必要と考える清村は、俺を専用コックとして見てるだけなのだ。間違っても男女の仲ではない。貧乳だしなぁ。
懇切丁寧に清村の悪行と人格、酒癖の悪さについて教えても、平坂の表情は変わらない。それどころか少し怖さが増してきている。
「――というわけだ。な、これで清村に対して何とも思ってないことも、ただの友人ってことも、」「あの雌豚……」
……はい? なんか聞こえたような気がしたんですけどコレハキノセイデショウカ? メスブタ?
「駄目よ辰巳君、そんな女とはもう関わっちゃ駄目。辰巳君の迷惑も考えないそんな女なんて付き合っちゃ駄目」
「駄目っておい……」
「駄目なの」
抑揚のない冷たい声で平坂が押しきるように言う。相変わらず表情は戻らない。想像してみたまえ、冷たい顔をした裸エプロンの美女を。
先程とのあまりの変わりようにたじろぐ俺を見つめたまま、ようやく平坂は笑った。
口元だけ。
なんと歪な顔ができるんだろうか。無理やり笑った人形の顔みたいでホラーすぎる!
「ねえ、辰巳君。まだ聞きたいことがあるんだけど、良いかな?」
「な、なんだよ」
「バイト先の女でやたら辰巳君に馴れ馴れしい女がいるけど、なんなのかな?」
なんなのかなってただのバイトの先輩ですけどそれが何か? つーか「なんなのかな」って言い方おかしいよね?
そう普段ならあっさり言えるのに、目の前の平坂がこんなんですからね。そりゃあ大和魂荒ぶる日本男児である俺は
「た、ただのバイト先の先輩だよ……」
とまあどもりながら頼りなげな言い方になってしまっても仕方ないのではなかろうか。とんだ腰抜け野郎である。
しかしなんだこれは? まるで嫁に浮気がバレた旦那みたいではないか。キャバクラの名刺がポケットから出てきて見つかった的な。
というか、どうして清村といいバイト先の先輩といい平坂は知っているのだろうか。いったいどこから見てたのだろう。
「ねえ、辰巳君。正直に話してほしいの。別に疑ってるわけじゃないんだけど、彼女とはどんな関係なの?」
平坂よ、その変な言い方はまるで自分が彼女のような言い方だぞ。そして目が濁ってるみたいで怖いんだっつうの。
「瀬名さんはただの先輩だよ。バイトに入った時から世話になってるだけでなんの関係でもない」
「その割にはべたべたしすぎなんじゃないかなあ? 休みの日には一緒に遊んでない?」
だからなんでそんなことまで知ってるんだよ。探偵ですかお前は。
「平坂よ、瀬名さんとはなんの関係でもない。あの人は誰とでも仲が良い人なんだ」
瀬名翠(せな みどり)先輩はバイト歴3年のベテランである。頼りがいがあって厨房とホールが兼任できるし周囲の信頼も厚い。
気さくで優しくおまけに美人、男性スタッフはみんな一度は惚れた事があるらしい。そして玉砕して涙を飲んでいる。
なんと彼女はレズビアーンな人なのだ。いわゆる同性愛者。そりゃ玉砕するわな。特殊な性癖であるから男を男として見ていない。
新しく入ってきた女性スタッフは彼女の毒牙にかかる。そして入ってもすぐに辞めてしまうのだ。よって瀬名さん以外の女性は店長だけしかいない。
常連のお客様の中にも目を光らせていて、清村は特にお気に入りらしく、清村と仲良くなりたいために休日に俺は餌になるのだ。
清村もなんとなく察しているらしく(伝えてない)瀬名さんのことは苦手らしい。平坂、気をつけろ。お前なんて恰好の獲物だ。
またも懇切丁寧に説明する俺。間違っても俺と男女の仲になることはないという事を知り、多少平坂の空気が和らいだ。そんな気がした。
「――というわけだ。そんなわけで瀬名さんと俺とはなんの関係も」「紛らわしいのよ糞虫が……」
……あれれ〜? なんかまた、変な言葉がキコエタキガスルアルヨー? クソムシッテナニゴデスカ?
ふと見ると平坂は両手の拳を握りしめている。白く小さな手が微かに震えているのは寒いからか? 寒いなら服着ろよ。
どうしたものか、平坂の様子が目に見えておかしい。どうも命の危険を感じるくらい危なげな気配を振り撒いてる。デンジャーデンジャー。
「辰巳君、そんな女と仲良くしちゃ駄目よ。そんな変態と一緒にいたら辰巳君の人生に悪影響がでるわ」
「おいおい、瀬名さんは良い人だぞ。性的趣向がどうだろうと」
「駄目よ」
……平坂よ、ハッキリ言うようになったなあ。昔は声も小さくハッキリしない喋り方してたのにね。
ここまで周囲の女性陣にダメ出しされるとは思わなかったよ。まあクセの強い女ばっかだからなあ。でも現在一番クセの強い女は平坂だよ?
「辰巳君、人間関係ってとても大事なことだけど、付き合う相手は考えた方が良いと思うの。特に女の子とか。
辰巳君は格好良いし優しいんだからそこにつけ込んでくる女だっているの。女は一皮剥いたら何考えてるか分からない生物なのよ」
俺は平坂が分かりません。
女が女について語ると生々しいものがあるが、平坂は妙に力強く語る。何があったんだい?
「辰巳君の隣にいるのはわたしなの。わたしじゃなきゃ駄目なの。側にいていいのはわたしだけなの。ねえ、分かるよね?」
「お、おい平坂、どうしたんだよ? なんか怖……じゃなくて、言ってることおかしいぞ?」
「おかしくないわよ。わたしの言ってること間違ってる? あの頃も隣はわたしだったじゃない」
いかん、いかんですよ。なんか危ない匂いがプンプンしてきやがったですよ。尋常じゃねえ。こいつぁヤベェッ!
頭の中で警報が大音量で鳴り響く。第六感が告げているが今の平坂はヤバイ。怒った母ちゃんより恐ぇ。
顔が能面のように表情がないくせに、口元だけ笑ってるというビューティーホラーフェイス。素直に感情を丸出しにして怒ってるほうがなんぼかマシだ。
特に目が恐いんだよ。なんだよその濁った目は。死んだ魚みたいな目で恐いんだっつうの! 生気がまったくない目でこっち見んな!
危なげな空気を平坂が発散し、重苦しい空気が部屋を覆いつくす。裸エプロンがトラウマになりそうだ。
そうだ! 確か将臣が言っていた。「女が怒ってる時はとにかく謝れ。全肯定で切り抜けろ」だそうな。さすが彼女持ち、言うことが違ぇ!
「わ、悪かったよ。俺が間違ってた。勘違いだ。平坂が正しいよ」
これで平坂が更にヤバくなったら将臣は今度ぶん殴る。生きて明日を迎えられたらの話だけど。
はたして効果はどうかと生唾を飲んで見守っていると、平坂はにっこりと微笑んでくれた。ナイス将臣!
「じゃあ、あの二人とは二度と関わらないでくれるわよね」
なぜそうなる。
「いや、それはちょっと無理があるだろ?」
「どうして? わたしがいるんだからあの二人はいらないじゃない」
会話が成立してねぇ! どんな理屈でそうなるんだ。助けて将臣! 彼女持ちなら良い案を今すぐ教えてくれ!
いくら大和魂荒ぶる日本男児な俺でもだ、神の申し子と呼ばれる俺でも今の平坂を納得させるだけの言葉が思いつかない。
というかどうしてこんな状況になっているのだ。こっちはこっちで聞きたいことは山ほどあるのに。
そうだ、考えてみれば一方的に平坂が話して俺はまったく受け身の状況なのだ。ここは一つ話題を無理にでも変えるしかない。
「清村と瀬名さんのことは置いといてだ、俺まだ聞いてないことがあるんだ」
「……なに?」
どうやらまだ話は通じるらしい。問題は質問に素直に答えてくれるかだ。嘘つかれたらどうしようもないんだけどな。
「一番最初に聞きたかったんだけど、どうして俺はここにいるんだ? どうやって連れてきた。そして、どうして俺を縛ってた?」
ここが平坂の住む部屋ということくらいは分かる。問題はそれまでの経緯だ。
平坂は少し迷ったように見えた。僅かな沈黙。そして――
「ごめんなさい。アルバイト先から帰ってきた辰巳君にちょっと眠ってもらって部屋に連れてきたの。
縛ったのは昔みたく暴れられたくなかったし、目が覚めて部屋から出ていってほしくなかったから」
……運命的な再会がどうとかって言ってなかったっけ、キミ?
間違っても眠らせて両手両足縛って部屋に連れ込むのは運命的じゃないと僕ァ思うんですよ。
「そうか。で、後頭部が痛いんだが、そこのバットで殴ったのか?」
視線の先には血がべったりの金属バット。よく見ると少しヘコんでいるね。
しかし平坂は首を横に振り、
「ううん、スタンガンで気絶させたんだけど、倒れた辰巳君を引き摺ってたらあちこちぶつけちゃって」
「おい、まさか足持って引き摺ってたんじゃないだろうな? ってか話聞いてる限り足持ってたろ? 普通逆だろうが!」
「ごめんなさい。途中で気付いたんだけど、でもすぐだったし」
「引き摺られてハゲたらどうすんだっつうの。ってか頭って大事な部分を粗末にすんな!」
なるほどな。俺の後頭部が痛い理由に金属バットは関係なかったんだね。そりゃバットで頭殴るなんて危ないこと、普通しないよな。
つーか平坂ってかなり荒っぽいよね。もしかしてテレビとかぶっ叩いて直すタイプ?
「ごめんなさい。起きたら説明しようと思ってたんだけど、話すタイミング掴めないし忘れてて……」
「いや忘れんなよ。そこはしっかり話せよ」
「こんなわたしのこと、嫌いになった?」
悲しそうに目を伏せて平坂が謝る。ぐっ、卑怯な。お前ね、なんか俺が悪いみたいに見えるじゃないか。
「嫌いになるも何もだな……」
「ごめんなさい、ごめんなさい。謝るから怒らないで、嫌いにならないで!」
むぅ……そんな必死に謝られたら許すしかないじゃないか。いや、嫌いにならないでって言われても好きでも嫌いでもないし。
まあ悪意があったわけじゃないんだろう。悪意っつうか邪悪な何かは感じるんだけどね。
気絶させて拉致る(しかも拘束オプション付き)って悪意無しでできるもんかね?
しかしだ、こんな非日常な出来事を出来心でやれるものだろうか? 計画的犯行にも思えるんだがそこら辺どうなんでしょう?
なんだか怯えてるような、悲壮感を漂わせて俯いている平坂だが、申し訳ないけどその辺について聞いてみるか。
むう、これは長い夜になりそうだぜ。(刑事風に)
起承『転』結は終了です。10〜15分後に起承転『結』を再投下します。間を開けて申し訳ありません。
前回までのあらすじ。
俺を拉致った裸エプロン(平坂睦美容疑者)に事情聴取中。後頭部が痛い理由が判明。
「別に嫌いになりはしないけどさ、これって前々から計画しててやったのか?」
平坂は俯いていた顔を少し上げて、潤んだ瞳で上目づかいに俺を見る。しかし俺は動じない。反則的に可愛くても動じない。
なんせ瞳が濁ってるからね! 死人の目みたいだからね! むしろ恐いだけです。
「……ううん、昨日辰巳君の部屋に雌ブ……あの女が来たでしょ? それを見て我慢できなくなって……」
メスブタって言いかけたよな? あえてツッコまないけど。
「我慢できなくなってってことは計画的にしたことじゃないんだな。でもスタンガンなんて普通持ってないぞ」
「女の子の一人暮らしは危険だからって義父さんが護身用に買ってくれたの」
おいコラ、平坂のダディよ。アンタの娘さんはアンタのプレゼントで俺に酷いことしやがったぞ。今度俺に謝れ。
平坂は清村が俺のアパートに遊びに来たのを見て我慢の限界がきたのか。清村よ、今度飯でも奢れ。
「にしてもだ、普通に話しかけてくるなりすればよかったのに、なんでこんな事をした?」
そうなのだ。別にこんな事しなくても普通に会いにくればいいのだ。それが普通だろ。運命的な再会とか求めんな。
こんな強引に拉致ったりして後のことを考えなかったのか。
「……怖かったの」
「怖かったって、何が?」
「あの女と付き合ってるんじゃないかって考えるのが怖かったの。あの女と何かしてるんじゃないかって毎日考えるのが怖かったの。
ううん、あの女だけじゃない。もう一人の女も怖かった。辰巳君の側に近付くあいつらが怖くて、憎くて……。
普通に会うのも怖かった。辰巳君が忘れてたらって考えるとどうやって会えばいいのか分からなくて怖くて、会いたいのに会えなくて……」
そこまで思い詰めてたんだなあ。積もりに積もった感情が爆発したってわけだ。
平坂は再び俯き、泣声混じりで懺悔をするように告白した。刑事ドラマの取り調べ中みたいだと思ったのは内緒だ。
俯いた平坂の顔から雫が落ちる。泣いているということに俺が気付いたのは手の甲で目を拭ったからだ。鈍いとか言うな。
慌ててティッシュはないかと部屋を見渡して、近くに置いてあったティッシュ箱から数枚抜き取って平坂に渡す。日本男児は女の涙に弱いのだ。
ティッシュを渡そうと差し出すと、平坂が顔を上げて見つめ合う形になる。泣いている平坂は俺を見て、驚いた顔に変わる。
こんな時に俺はなんて言ってやればいいのか分からない。女が泣くのは苦手なのだ。慰めてやればいいのだろうがやり方なんて分からん。
肩に手を置いて慰めの言葉をかけるのか? 頭を撫でてやるのか? それとも抱きしめてやるのか? こんなことなら将臣の話をもっと聞いとけばよかった!
どうしたもんかと黙って考えていると、平坂が突然抱きついてきた。体勢が不安定だったのと、平坂の勢いで押し倒されかけるような形になってしまう。
しかしそこは俺。慌てて自分の上半身と平坂を支え、なんとか踏ん張った。押し倒されてたら後頭部を床にぶつけて悶絶してただろう。
平坂は俺の胸に顔をうずめて泣きだした。おお、美女が俺の胸で泣く日が来ようとは……。
溜まりに溜まっていたものが堰を切って溢れ出したのか、平坂は長い間泣き続けた。それはもう俺のシャツがぐっしょり濡れるくらい。
その間の俺はというと、全知能を総動員フル回転して考えた結果、子供をあやすみたいに背中と頭を撫でていた。男前やで!
平坂のおっぱいがどうとか尻がどうとか勃起してんの気付かれてないよなとかそんな事を考えてたりしてたのだが、それは男の業である。
素数を数えるのに飽きてきた頃、俺はある程度泣き止んできた平坂にぽつりと聞いてみた。
「なあ平坂、一番不思議だったんだけどさ、どうして裸エプロンなんだ?」
裸エプロンでカレーってソニンのマネ? とかそんな冗談を言うほど空気が読めない男じゃない。だが聞くタイミングが分かるほど空気が読める男でもない。
ぐすぐすと鼻を鳴らしながら、平坂が至近距離から上目づかいで見上げてくる。くそっ、泣いた後の上目づかいは反則だぞッ!
「ぐすっ、だって、男の人は裸エプロンって好きなんでしょ? お母さんも「これで男はイチコロだ」って言ってたし。
恥ずかしかったけど、裸エプロンでいたら辰巳君が興奮して襲ってきてくれるって思って……」
おいコラ、平坂のママンよ。アンタ娘になに吹き込んでんだ。おかげさまで眼福でしたけどね!
そうか、一歩間違えたら性犯罪者になると踏みとどまっていたが、実は襲ってよかったんだな。そうだと思ってたんだよ! ああなんとなく気付いてたさッ!
でも紳士な俺がそんなことするわけないんですけどねー。それに縛られてたし。平坂怖いし。
「……辰巳君は、その……わたしの体って、どう思う?」
……いや、どう思うって言われたらエロいですよ。エロいですね。超やらしいです。
「……いやぁ、そりゃまあ、良い体してるし、興奮するよ」
ね。ですから正直に話しますよ。なんか雰囲気的にあれなんでね。なんといいますか、こう、大人の夜の雰囲気なんでね。
すると、平坂は少し嬉しそうに笑うと、なんとエプロンを脱ぎだして一肢纏わぬ姿になった。キタコレ! 予想通りの展開キタコレ!
太古より女体の神秘は宇宙の可能性よりも男が追い求め続けてきたロマン。そのロマンが眼前に姿を現している。なんたる至福! 恐悦至極にござる!!
恥ずかしそうに、嬉しそうに平坂は俺の目の前にしゃがみこむ。胸と股関を隠そうともしないで、その両手で俺の顔を包む。
「辰巳君、わたしのこと、好きにしていいのよ。いいえ、わたしが辰巳君のものになりたいの。好きよ、愛してる」
アドレナリンとドーパミンがサンバを踊り、エンドルフィンが褌一枚で和太鼓を叩きまくる。御先祖様、ありがとう。父さん母さんありがとう!
大人の階段と天国の階段って同じなんですかね? やっぱ天国ならキリスト教? トチ狂ったように意味の分からない疑問が脳内を縦横無尽に駆け抜ける。
――だがしかし。だがしかしなのだ。
目の前にニンジンをぶら下げられた馬の如く、マタドールがはためかせる赤マントを前にした闘牛の如く興奮していた脳が急速に冷めていく。
決して童貞だから緊張してとかじゃない。うっかり出しちゃって賢者になったからでもない。
据え膳食わぬは男の恥というが、膳の中は猛毒だったりボッタクリ料金が請求されたりするのが平成の世である。
頭の片隅に僅かにこびりついて残っていた理性が「冷静になれ!」と叫んでいるのだ。
すでに片方の乳を揉んでいた手を引っ込めて(指が埋まるほど柔らかいし大きい!)、不思議そうに俺を見る平坂を見つめ返す。
「なあ平坂、俺の気持ちをまだ言ってないよな?」
「それがどうかしたの?」
「俺ってこういう事には頭固いんだよ。こういうのは付き合って恋人同士になってからしたいんだ。
で、俺はお前にまだ返事をしてない。それに、肉体関係から入る恋愛とかってのは嫌なんだ」
なんとでも言うがいい。いつの時代の人間なんだとか堅物とか豚野郎とか好きに蔑むがいいさ。
だがな、曲げられない曲げたくないポリシーってのは誰にでもあるだろ? 俺の場合はこれがそうなんだ。純情で純愛派なんだ。
正直平坂のことは美人だと思うし抱きたい。ヤリたいさ。なんせ極上の美女だ。貪るように思う存分したい。だが恋愛感情はまだない。
時間をかけていけばそういう目で見れるかもしれないが、今はまだ無理だ。もったいないがね。本当にもったいないけどさぁ!
「なんで?」
ぽかんとした顔で平坂が不思議そうに聞いてくる。ううむ、恋愛観が違うのか。
「だからさ、言っただろ。まだお前とは」
「だってわたしは辰巳君の彼女なんだよ? わたしは辰巳君のもので、辰巳君はわたしのものだよ?」
…………はい?
「わたしは辰巳君の彼女だよ? 辰巳君のことを世界で一番愛してる。誰よりも好きだし辰巳君のことは何でも知ってる。
好きなものも嫌いなものも趣味も全部知ってるよ。ずっと側に居たしこれからもずっと隣にいて良いのはわたしだけよ」
え〜っと、あの、……あれぇ〜?
すいません、なんか思考が追いつかないんですけど。言ってる意味が分かりません。
「辰巳君はカレーが好きで椎茸が嫌い。得意な料理は肉じゃがで趣味は旅行と地酒巡り。毎週近くのコンビニで立ち読みをするよね。
大学ではよく居眠りをしてるけど単位は大丈夫? よくバイトのシフトが変わって大変だろうけど無理しちゃ駄目よ」
わーぉ。本当に何でも知ってるんだね。ゾッとして背筋凍りついちゃうくらい。ねえ平坂、見てよこの鳥肌。原因はお前だ。
つーかオイ! 完璧ストーカーレベルじゃねーか。しかも病んでるっぽくてマジ怖ェ!!
そうだよ、最大の謎についてまだ聞いてないんだよ。なんだよ平坂レベル高ぇなあちくしょう。
「あ、あのさ、平坂」
「睦美って呼んでほしいな♪」
いやー、もうすでに恋人気分ですねキミ。
「じゃあ、睦美。あのさ、俺を見つけたのは一年前なんだよな?」
「そうよ」
「……じゃあ、一年間どこから俺を見てたんだ? 俺は今日初めて5年ぶりのお前を見たんだぞ」
「ずっと側にいたよ。化粧を変えて、服装も変えて帽子被ったりサングラスかけたりして変装してたもの」
お前はスパイかっつーの! 直で来い直で! 奥ゆかしいってレベルじゃねーぞこんにゃろう。
「……まさかとは思うけどさ、この部屋って」
「うん、隣だよ。一年前に引っ越してきたの」
どうりで俺の部屋の間取りと同じな気がしたわけだ。しかしこれで謎の隣人がようやく判明した。今まで一度も会ったことなかったんだよ。
まさか俺をずっと間近で観察してたとはな。うん、完全にストーカーだ。確定です。
っていやいや、いかんですよ。平坂ってば尋常じゃねえ。こんな美人なのにぶっ飛んでやがる。やべーどうしよう。据え膳食わなくて良かった!
「ねえ辰巳君、どうしたの?」
平坂は俺の手に負えない。百歩譲ってこれを究極の純愛だと別視点で見ても難易度が高すぎる。
本能が逃げるべきだと訴えてる。しかしどうやって逃げれば良いのだろう?
俺の顔を両手でガッチリ掴んだまま、平坂は俺の目を見据える。ヤバイ、指が食い込んでる。目が鬼怖い。
「……もしかして、あの女が邪魔なの?」
「……は?」
「どっち? 雌豚と泥棒猫、両方ともなのかな? あいつらとやっぱり何かあるのかな?」
オイオイオイオイ! ヘイ、ストップ! ちょっと待て落ち着け。冷静になれ。雌豚と泥棒猫ってどっちが清村でどっちが瀬名さんだ?
やっぱあれか? 首だけ振り返って見てるあのバットは凶器なのか? 頼むから草野球用ペンキ付きバットって言ってくれ!
「どっちも関係ないし何にもないって。まだ誤解してんのかよ!?」
「関係ないなら、もう喋る必要も関わる必要もないわよね?」
あーまた話が戻ったよ。どうしろってんだよどちくしょう。今夜の俺は考えさせられっぱなしだなぁ。
相変わらず平坂の瞳は濁っている。大きく綺麗な瞳は暗い海の底のようだ。どうしたらそんな目になるんだろう。
「じゃあ今度、いえ、明日にでも会いましょ。わたしと辰巳君の仲を見せつけて恋人に近寄らないでってわたしが言うわ」
「だからまだ俺とお前は付き合って……」
「ねえ、辰巳君。5年間を埋めるのって大変よね。でも辰巳君と一緒ならわたしは世界一幸せになれるわ」
平坂睦美は囁くように言う。嬉しそうに、幸せそうに言う。ちくしょうやっぱ可愛いなぁ。
広くもなく狭くもない七畳間の中心で、俺は今人生で一番悩んでいる。どうしてこうなったんだろうか。
平坂の顔が近付いてくる。顔は両手で掴まれて逃げられない。決断するにはあまりに短い。
――ああ、長い夜になりそうだ。
投下終了です。四日かけて投下するはずが三日になってしまいましたが大人はみんな嘘つきなんです
では女の子の働くコンビニでチョコ買ってきて渡してもらいに行きます。ジャイアントさらば!
支援・・・出来なかった
普段ROMってるけど乙
投稿します
木村千華という奴がクラスメイトにいる。
滅多に他人とコミュニケーションを取らない、過剰なくらい無口で無愛想な女である。何を考えているのかもわからないし、声を聞く機会と言ったら、教師に名指しされたときくらいだった。その返答は意外にもしっかりしているし、問題を間違えているところを見たこともない。
だが別段テストの点が学年トップクラスということはなく、上位ではあるが飛びぬけているわけではなかった。それについては、単に予習に余念がないのだろうな、と勝手に想像している。
テストのときには、それなりに覚えていないし、それなりに間違う。そのあたりに、無感情に見えても人間味を感じられるものだ、などと思うのだ。
身長が低いし、括っていないストレートの黒髪は病的に長いし、ふとすれば人形のように見えはするが、彼女は間違いなく同い年の少女であり、友人たちの話すように、別次元の住人だと思ったことは一度もなかった。
とはいえ、そもそもがただのクラスメイトという関係なので、あまり彼女のパーソナリティについて特別に考えていたかというと、そうでもない。個性的な子だなあ、程度の感想を抱いていただけだ。
ただ、彼女の一際目立つその長い黒髪は、非常によく手入れされているのだろうと、気になっていた。いつだって色艶がよく、まったく癖なく腰まで流れる彼女の黒髪を、いつか触ってみたいもんだと胸に秘めていたのだ。
校則違反など知ったことではないと、中学時代、あるいはもっと前から伸ばされ続けている彼女のその拘りの綺麗な髪について、彼女自身の見解を聞いてみたいとも思っていた。
彼女の髪に触れる機会は、草木が枯れ始めた十月の終わりに、予想もつかない形で訪れることになった。
教室に入り照明のスイッチを入れると、床が真っ黒で驚いた。
その驚きは、見慣れたものが思ってもいない場所に展開されていたことに対してで、床に髪が散らばっているという状態は、個人的に結構慣れているものだった。
放課後、部活に精を出す生徒たちも帰宅したあたりの午後八時、日の光もまったくなく真っ暗だった教室が蛍光灯に照らされると、床に黒髪が大量に散らばっていたのである。それはもちろん一部、ちょうど忘れ物のジャージが詰まった鞄の置いてある教室の後部だけだった。
冬も間近とはいえ、汗の染み込んだジャージを放置する気はなく、忘れたことに気付いて自宅と学校間を往復したわけだが、そんなことはその真っ黒な光景を前に吹き飛んでしまった。
その床を染める散らばった黒髪の中心に、うなだれて座り込んでいる、短髪になった木村千華がいた。腰まであった髪は耳が見えるほどまで短くなっていて、今まで一度も見たことがない彼女の頭の輪郭を知った。
髪が短くなっても彼女が彼女だと気がついたのは、その癖のない黒髪が綺麗なままだったからかもしれない。
「木村、どうしたんだよ」
走り寄り、彼女のすぐ傍で屈みこむ。肩を掴んで声を掛けると、木村千華は顔を上げてこっちを見た。
このとき受けた衝撃は、どうにも表現が難しい。泣いていたのだろう、頬には濡れた跡があったし、目も真っ赤に充血してしまっていたが、たった今我に返ったのか、こちらを見るその表情は驚きから、力がまったく入っていないごく自然なものだった。
初めてまともに顔を見た木村千華は、思っていたより遥かに幼い顔つきをしていた。
「……大須賀君」
意外なことに名前を覚えられていた。当たり前だが、名前を呼ばれたのも初めてだった。そして彼女が誰かの名前を呼んでいるところもまた、初めて見たと言える。
「どうしたんだこれ」
これとは勿論、彼女の切られた髪のことだった。この異常事態に浮き足立って、それしか聞けなかった。正直に言えば、彼女の素顔を知ったということもまた、異常事態に含まれていた。
一度口を開いた彼女は、声を出す前に俯いてしまった。
「嫌いに、なったから」
名前を呼んだときとは違う。目を伏せて、よく知るはっきりとした言葉ではなく、弱々しく小さな声で、彼女はそう言った。
つまり自分の髪が嫌いになって、衝動的に切った、というのだろうか。そんな馬鹿な、という思いが瞬時に過ぎった。あんなに綺麗な髪だったのに。手入れも怠らず、この長い髪に拘りと思い入れがあったのではなかったのだろうか。
だが、思い入れが強ければ強いほど、一度嫌いになってしまえば、それはもう憎しみのように重く嫌ってしまうのかもしれない。それに似た経験が自分にあったから、反動が大きいということは理解ができた。
俯いたまま、黙ってしまった木村千華の、短くなった髪を見る。毛先の切り口はひどいもので、かなり乱暴に切ったことがわかった。
実は、相当気性の激しい性格をしていたんだなと、少し落ち着きを取り戻してから思った。そして繊細なのだろう、というのは、見たままというべきか。
彼女はここから動く気配がない。朝までこうしているのか、なんて心無い言葉を掛けるわけにはいかず、まず掃除でもしようぜと無難なところから声をかけるか、あるいは黙って掃除してあげるべきか迷ったところで、ちょっとした名案を思いついた。
「なあ木村、これから俺ん家来いよ」
言ってから、これまったく意味が通じないだろ、と自分で思った。やはり通じなかったらしく、俯いていた彼女は、顔を上げはしたものの、困惑するようにこちらを見るだけだった。
「ぼさぼさの髪、俺が整えてやるからさ」
その綺麗な髪が適当な扱いを受けているのが、個人的に気になってしまったのだ。せめて毛先くらい梳いてやろうと思うのは、彼女の綺麗な髪の密かなファンだったからであり、彼女の髪に触れる機会だという下心もあった。
それに、もう大分落ち着いているように見えるが、きっと心の中はまだぐちゃぐちゃなままだ。今まで好きだったものが嫌いになるというのは、とても大きな変化であり、一昼夜で整理できるものではないと思う。
傷心の彼女に、少しでも安らげる時間を提供してやりたい。そして、短い髪にも愛着を持ってくれたら、また自分の髪を好きになる機会も訪れるではないか、そんなことを考えていた。
きっと、嫌いになったものも、また好きになるときが来る。あんなに嫌いだった家業の理髪店が、改めて好きになった自分のように。
ひとまずここまで
乙です
貴重な黒髪ロングががgg
アドバイスなんですけど投稿のときはメモとかに書き溜めてから投稿したほうがいいと思います
いや書き溜めてはあるものの推敲足りてないと思いなおして
32 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 19:08:09 ID:zNNTD+5K
>>23 この後辰巳がどうするのか続編が是非見たいです!!!
お願いします!
職人の皆様GJです。
平坂睦美容疑者の恋する乙女ぶりがキモ可愛い。
両想いなら許されるだろうに…
四日連続投下企画最終日。投下します。もう終わったと思ったでしょうが、大人は人を騙します。
「――遠見に彼女ができたんだって?」
「ああ、しかもすんげー美女。いきなりですよいきなり」
「ぐぁっ、マジかちくしょう! アイツに遅れを取るとは!」
「……う〜ん」
ハンバーガーをパクついて、摘みにポテトを食べてコーラで流しこむ。店内は昼間なのに若者で賑わっている。
大学の近くにできたハンバーガーショップは、やはりというか大学生御用達の店となる。
そこそこ安く、そこそこ早くてそこそこの味のそこそこな店ならそこそこの身分の学生も通えやすいのだ。
そんなそこそこの店内の一角にあるテーブル席に、4人の男女が座っている。男2人と女2人で向き合う形だ。
テーブルには4つのトレイと4人分のセットメニュー、そして灰皿。大学構内は禁煙で、この店で喫煙をする生徒は多い。
4人の内1人を残して、3人は楽しそうに語っている。会話の内容は友人に彼女ができたという話題。
朴念仁で固いアイツには彼女なんて百年早い。美人なら紹介しろ。とりあえず記念にゴチれなどと好き勝手に言っている。
そんな中、1人だけあまり喋らない者がいた。普段は明るくてムードメイカーな存在である女だ。
清村真希(しむら まき)は、ストローをくわえたまま、ポテトを指先で転がしている。不格好なポテトは上手く転がらない。
「でもさぁ、あたし遠見は真希と付き合うもんだと思ってたよ」
「あ、それは俺も思ってた。っつーか隠れて付き合ってるもんだと思ってた」
「いっつも2人は一緒に見るの多かったし、実際この中で一番仲良かったろ?」
「んー……そーなんだけどねェー。一番仲良かったはずなんだけどねェー……」
清村真希はぼんやりとした表情でコーラを下品にズズーっと音を立てて啜りながら、まだポテトで遊んでいる。
「遠見にそんな相手がいるって知らなかったの?」
「うんにゃ、まったく。一昨日会ったらできたって言われてさァー……」
「なんだ清村、アイツが取られてそんなにショックなのか?」
いつもと反応が違う友人の様子に、片方の男がおどけて言う。その空気も読めない気遣いの欠片もない一言に、本人と真希を覗く2人は怒った。
「アンタさ、その言い方はないでしょ?」
「ああ、今のは俺もどうかと思うわ」
「おいおい、なんだよお前ら」
真希を庇うように怒る2人に少したじろぎながら、男は吸っていた煙草を揉み消した。
「あのな、清村は遠見と一番仲良かったってだけなんだろ。それは親友かそれ以上かどっちだ?
清村は恋愛感情はないって言ってたじゃねーか。なら親友だろ。親友に恋人が出来たら祝ってやるもんだろ?」
男の言う事に間違いはない。ただ、それは時と場合、そして言い方というものがある。
2人も言っていることに納得はしても、その言い方に納得ができないからか食い下がった。
「それでもさあ、アンタにはデリカシーってもんがないの? 自分が相手の立場だったらって考えない?」
「そうだぞ。少なくともお前の言い方は悪い。清村に謝れよ」
4人のテーブル席一帯の雰囲気が変わり、重苦しくなる。周囲の席に座っている者達は面白そうに様子を窺っている。
気まずい空気に堪えきれなくなったのか、それとも言い過ぎたと思ったのか。男は素直に真希に頭を下げた。
「確かに言い方は悪かったな。ゴメンな、清村……清村?」
「……真希? ねえ、何やってんの?」
真希のトレイには潰れたポテトが幾つも落ちていた。そのポテトは押し潰されていて、路上に捨てられたガムのようになっている。
真希は黙々と人差し指でポテトを押し潰している。トレイの上にポテトの残骸が一つ一つ増えていく。
ストローをくわえたまま、真希は黙々と残骸を増やしていく。
「そーなんだよねー。取られちゃったんだよねェー。なんでだろォー? ずっと一緒にいたのになァー……。
ってゆーかアイツ、どっから沸いてきたのかなァー? せっかく一生懸命こっちがアピールしてたってのに横からかっさらいやがってさァー……」
3人はぶつぶつと小さく呟きながら奇行を繰り広げる真希に異様さを感じたが、それを止めることはできなかった。
真希の視線は定まっていない。どこか虚ろな視線は、宙の粒子を見ているかのようだ。
ストローの端を八重歯で噛みしめながら、潰れきったポテトの残骸の上で新しい一本を擦り潰す。
「ねェ、アイツなんなのかなァー? 人のもの取っちゃいけませんって学校で教えられなかったのかなァー?
せっかく遠見の隣にいれたってのにさァー、なんで遠見はいないのかなァー? 遠見はあたしのだよ? それをさァ〜〜……。
遠見も遠見だよねェー。あんな女のどこが良いのかなァー? あっ、そうか。弱み握られてるとかあるかなァァ〜〜……」
「ね、ねぇ真希。どうしたの? ちょっと落ち着きなよ……」
「清村、ショックなのは分かるけどさ、冷静になろうぜ」
ようやく真希の異常さにただならぬ様子を感じた2人は真希を宥めるように説得する。普段とはあまりにかけ離れた真希に、2人は恐怖を感じていた。
それでも真希はポテトを何度も指で押し潰して擦り潰すのを止めない。
ようやくトレイの上のポテトを全部擦り潰すと、真希は虚ろ気な表情のまま立ち上がった。
ポテトを潰して油と塩にまみれた指をぺろりと舐めながら、真希はうっすらと微笑んだ。
「ねェ、ユズ。午後の代返お願いしてもいいかなァー?」
「え? べ、別に良いけど、真希どこか行くの?」
ユズと呼ばれた女友達は、声を震わせながら真希にそう聞くと、
「うん、ちょっと奪り返しに。あとポテト作ってくる」
「ちょっ、奪り返すって、ポテトってどういうことなの? ねぇ、真希!」
友人の質問に何も答えずに、うっすらと笑いながら、真希はそう言って店から出て行った。
残された3人の視線は、揃って潰されたフライドポテトの残骸に集まっていた。
「そうなの。遠見くんに彼女がね」
「いやぁ〜、マジびっくりしましたよ。まさかアイツにあんな美人の彼女ができるなんてね。こりゃ宇宙の法則が乱れた証拠ッスよ!」
「その美人の彼女なら私のところにも来たわよ」
「マジッスか? 瀬名さんとしてはどうでした? やっぱ点数高かったッスか?」
まだ客の居ない居酒屋の小さなホールは、2人の声が離れててもよく通って聞こえた。
男のアルバイトはテーブルを拭きながら、レジのチェックをしている女性に話しかけている。
店内でかかる小さなBGMのボリュームに霞みそうな声で、瀬名と呼ばれた女性は小さく、
「そうね……0点かしら」
と答えた。
「え? 何点ッスか?」
「う〜ん、92点ね」
再び聞いてきた男の店員に、瀬名翠(せな みどり)は何事もなかったように点数を言い変えて伝えた。
「おお〜レベル高ェ〜! 瀬名さんが言うなら間違ぇねえな。ちっくしょー遠見の野郎、今度全員に奢り決定ッスよ」
男は悔しさと羨ましさの混じった声で、それでも笑いながら言う。
「そうね、でもその前に今日の仕事はキッチリやってね。遠見くん今日は休みだから」
「ウィ〜ッス。くっそー、ゼッテー遠見のやろう、あの彼女といちゃついてんだろなぁー」
瀬名は男にそう伝えると、男を見ることなく更衣室の中に入っていった。
「『わたしの彼氏に二度と関わらないでください』ですって? ふざけんじゃないわよ、あの女……」
更衣室の壁を殴りつけて、瀬名は忌々しげに吐き捨てた。固い壁を殴りつけた拳は微かに血が滲んだ。
「チッ、せっかくコツコツ距離縮めてきてもう少しだったってのに、いきなり現れて奪って……油断したわ」
瀬名は突如現れた敵の顔を思い出し、顔を怒りで歪める。悔しさと怒り、嫌悪と苛立ちが整った綺麗な顔を般若に変貌させている。
「どうして上手くいかないのよ……。あの真希って女だけ消せば安心だと思ってたのに、毎回逃げられるし。
レズなんて不名誉な設定にして男遠ざけてなかったら、もっと早く簡単に付き合えてたのに……」
瀬名は心の底から後悔していた。
瀬名は異性にモテる。その整った容姿と周囲に慕われる性格の良さで、過去から数えきれないほど男から言い寄られてきた。
女子校に行ったのは男に言い寄られるのが嫌だからという、長年染み付いた男性への嫌悪感からだ。しかし女子校に入っても同性からも言い寄られていたが。
女子校を卒業して大学に入り、居酒屋にバイトに入ってから、最初は彼氏がいるからと告白を断っていた。それでもしょっちゅう言い寄られるのが鬱陶しかった。
この居酒屋のバイトを始めた時、当時の先輩に告白された時に、強引だった先輩を諦めさせようとしてレズだと嘘をついたのが不幸の始まりだ。
先輩は諦めたものの、悔し紛れに言いふらすことまでは考えが及ばなかった。おかげでレズという嘘はバイト仲間に伝えられ、未だ根付いたままなのだ。
いい加減レズに見られるのも嫌になり、貯金も貯まったし新しいバイトにくら替えしようと思っていた。そんな時に遠見が入ってきた。
偏見もなく今までにない接し方をしてきた遠見に瀬名はすぐに恋に落ちた。そして、自分の置かれた状況を呪うことになる。
おかげで今現在まで瀬名は人知れず苦労を重ね、やっとそれが実を結びつつあると実感してきた矢先にこれである。
一年間側で片思いをしていた相手は突然現れた女にあっさり奪われてしまった。これほど悔しい思いはない。
「なんなのよ、なんなのよ、なんんなのよ、なんなのよ、なんなのよ、なんなのよ、なんなのよ、なんなのよあの女……」
バレンタインが終わったぜひゃっはー
職人乙
誤解されたままでも近くに居れれば良いと思ってた。いつか振り向かせようと努力した。敵は全て排除してきた。
ようやく仲良くなってもうすぐだというのに――
「なんなのよ、あの勝ち誇った顔は。なんなのよ、あの幸せそうな顔は。なんなのよ、あの忌々しい顔は。なんなのよ、アイツは!
私がどれだけ苦労してきたか分かってんの? わたしの彼氏? 二度と関わらないで? ふざけてんじゃないわよ。
遠見くんは私の彼になるの。いえ、“私の彼氏”なの。もう決まってることなの。彼の隣にいる女はアイツじゃなくて私なのよ……」
ダンッダンッと壁を殴りつけながら、瀬名は壁に向かって呟き続ける。
瀬名の表情は般若の如く怒りに満ちている。それなのに不思議と怒りや悔しさ、悲しさといった感情が抜け落ちているように見える。
“感情の抜け落ちた般若”という言い方が一番表現しやすいかもしれない。瀬名はまさにそんな顔をしていた。
蒼白になった顔で瀬名は呟き続ける。狭い更衣室の中での瀬名の声は呪詛のようにこもり、床に沈殿していく。
「遠見くん、遠見くん、遠見くん、遠見くん……遠見くんは私のもの、遠見くんは私のもの、遠見くんは私のもの、遠見くんは私の――」
繰り返し繰り返し呼ばれる一人の名前。その名の男のことを考えながら、瀬名はひたすら繰り返す。
「私のもの、遠見くんは私のもの。こんなの間違ってる、間違ってるわ。だって遠見くんは私の彼氏でアイツのじゃない。
だって一番愛してるのは私なの。彼は私じゃないとダメなの、ダメなの、ダメなの……そう、ダメなのよ……」
呟き続けた呪詛が小さくなり、更衣室のドアを叩かれる音でピタリと止んだ。
「瀬名さーん、どーしたんスかぁー? 中で何かあったんスかぁー?」
「なんでもないわ。ちょっとロッカーが締まりにくかったの」
ドアの鍵を開け、更衣室から瀬名が顔を出した。瀬名は何事もなかったように笑顔に戻っている。
「そうッスか。店長に言っといた方がいいッスよ。っつーか瀬名さん、顔色悪くないッスか?」
「ええ、ちょっと体調が悪いみたい。風邪かもしれないから、今日の団体客が引いたら早退させてもらうかも」
「あんま無理しちゃダメッスよ。瀬名さんシフト多いし長いんだから。店長来たら俺から伝えときまスよ」
「ありがとう」
再びドアを締め、瀬名はドアノブを掴んで見つめたまま、ぼそりと呟いた。
「――厨房の包丁、よく研がなきゃ」
投下終了です。蛇足的後日談ですがこの先はありません。続きを期待してくれる方には申し訳ありません。本当に終わりです。
終わりなのかいw
3人の壮絶バトルが見たかったのに
43 :
sage:2010/02/15(月) 01:05:25 ID:uIXxO8xl
え〜ここで終わり!?
これからジャマイカ…。
ヒント 大人は嘘つき
GJ、面白かった。
恋する乙女ぶりにクスッと来る。
こういう基地外な精神状態でも両思いだと無罪どころか
純愛扱いになりかねないから人間って面白い。
大人は人を騙すんだろ!?
はやく!はやく続きを書いてくれよぉおおおお
この3人だったら俺は真希の支持に回る
作者達GJ。
最近の作品ラッシュでヤンデレ成分過剰摂取になりそうだわ。
51 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 23:49:21 ID:emy629b9
派手 濃い
52 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 23:49:47 ID:emy629b9
明るい
貴重なポテトが
54 :
◆BaopYMYofQ :2010/02/16(火) 15:36:51 ID:+GmEAEwq
投下します。
朝―――外から聞こえる小鳥の囀りで…などと洒落た目覚めではなく、ふと意識が覚醒した。
壁の時計を見ると、午前11時を指している。14〜5時間ほど寝た計算になるな、そんなに寝たのは久々だ。よほど疲れていたのだろう。
………ん? なんか、布団の中がやけに温かい。体を起こそうと手をつくと、何やらふにっ、とした手触りが感じられた。
「ん………っ」
…おいまさか。僕は慌てて掛け布団をめくってみた。すると、のえるが丸まって潜り込んでいるではないか。
「んぁ……おはようございます」
「おはよう、っておいこら」
のえるは眠気眼をこすり、ぼうっとしながら何事もないかのように朝のあいさつをした。
「なぜ僕の布団の中にいる」
「いや、その…ベッドって使ったことないから、逆に寝付けなくて…」
「……わかったよ、今夜からは布団を使ってくれ」
「はいっ」
およそ27歳とは思えない、明るい笑みを浮かべてのえるは返事した。
僕はさっさと布団から出て、カーテンをさっと開けて外を眺めてみた。
昨日の悪天候、いや異常気象が嘘のように空は晴れやかで、路面の雪もわずかに隅っこに残っているだけだ。
ただ、空気はすでに真冬のそれに近く冷たい。今年は暖冬と予測されていたが、見事に予測を裏切る結果となったようだ。
ぐぅ、と腹が鳴る。そういえば時間的にも昼飯時だ。そう思ったのはのえるも同じようで、こんな提案をしてきた。
「あの…ご迷惑でなければ、お昼ご飯作りましょうか? 昨日ごちそうになったので、そのお礼にというか」
「ふむ、有り難いけど…冷蔵庫にはろくな食材がないぞ。昨日の夜に買い出しに行くつもりだったからな」
だがそれも突然の降雪と、のえるの件でパァになってしまった。とは言わなかったのだが、のえるは自分のせいだと思ったみたいだ。
「……すみません。ご迷惑かけてばかりですよね、私」
「あんたは悪くない。そうだな、強いて言えば…僕のクラスメイトのせいだ、とでも言っておこう」とりあえず、水城のせいにしておいた。あながち間違いでもないだろう。
「クラスメイト…ですか。失礼ですが、真司さんは大学生さんですか?」
「…僕はそんなに老けて見えるのか。僕は高校一年生だ」
「はわっ! す、すみません! すごく大人っぽいし、料理も上手だったからつい…」
「あんたがガキっぽいだけだ。27歳とは思えんな。精神年齢も止まってるのかと思ったぞ」
「…また、見ます? 傷が治るところ」のえるは微妙に邪悪な笑みを浮かべながら物騒なことを言った。右手はチョキを作り、カットする仕草をとっている。
「やめんか。僕の精神衛生によろしくない」
「ふふっ、冗談ですよー」
「……冗談でも、やめろ」僕はのえるの目を見ながら、ゆっくりと言いきかせた。
「そうやって今まで何回自分を傷つけた? 僕の家にいる限りは、もう絶対そんなことさせないからな。覚えておけ」
「………っ、はい。優しいんですね、真司さん。うっかりときめいてしまいましたよ」
「冗談はよせ」
「本当ですよー」
そんな他愛ない話を30分は続けてただろうか。さすがに空腹もピークに達したのでまず買い出しに行こうと思ったのだが…
「面倒だな。ファミレスにでも行くか? 買い出しはその後で」
「え…私、持ち合わせありませんよ?」
「心配するな、生活費から出す。あんたは今同居人なんだからな」
しかし、いつまでも父さんの金に頼り切りというのも後味が悪いな。特に、今後しばらくのえると暮らすなら尚更。…バイトでも探すか。
#####
自宅から徒歩10分ほどの距離にあるファミレスにやってきた。
ここは最近喫煙席を完全に廃し、禁煙で統一したことで地元では良くも悪くも有名になっている。
日曜の昼間となると混んでいるだろうと思ったのだが、案外そうでもなかった。
僕らはドリンクバーが近い席に座ることにした。のえるは早速メニューと睨めっこをスタートしている。
「はわわ…こんなの、贅沢ですぅ…」
「…ファミレスごときでそこまで目を輝かせるやつは初めて見たよ」まるでクリスマスの夜にサンタを目撃した子供のようだ。僕は会ったことないからわからんが、その表現がしっくりきた。
「わ、私…これにします」のえるが指をぷるぷる震わせながら指したのは、このファミレスで(メインディッシュ類の中では)一番安価な、普通のハンバーグ(390円)だ。
「今日ぐらい遠慮するな。僕の金じゃないが、財布の中には諭吉さんがいるからな」
「でも…390円もあったら、三日は食いつなげるんですよ!? それをたった一回の食事で使うなんて…」のえるは涙目でなんとも切ない気分にさせられることを言った。…帰ったら、父さんに電話で感謝の言葉を送ろうかな。
「そうか…なら、僕も同じものにしよう」間髪入れずに僕はテーブルの上の呼び鈴を押した。
ピンポーンと軽快な電子音が店内に鳴り響き、すぐにウェイトレスさんがやってきた。
僕は無言で、しかし何か言いたげに口をぱくぱくさせているのえるを尻目に、ハンバーグを二つ注文した。
「真司さんはいじわるです…私に気を遣わなくてもよかったのに」
「何を言う、僕もたまたまシンプルなハンバーグを食べたいと思っただけだ」
「…やっぱりいじわるですよ。でも…優しいです」
「気のせいだ。ところで、390円で三日って…何を食ってたんだ?」僕はうまく話を反らせようと質問した。するとのえるはここでも哀しいことを言った。
「100いくらで五つ入りのあんぱんとかクリームパンとかあるじゃないですか。お金がないときはそれを一日一袋食べてました。あとは公園の水ですね」
………とりあえず、フライドポテトとライスを追加で注文しよう。
「……あの。真司さんって、私になにも聞かないんですね」ふと、のえるが喋りだした。
「昨日から私の方から話してばっかりで、真司さんからは…」
「聞きたいことなら山ほどあるぞ。けど、僕はそこまでデリカシーのない人間じゃないつもりだ。あんたが話したいと思ったら、その時話せばいい」なんて、本当のところはあまり深入りしないようにしているだけなんだが。
「それに、質問ならしたじゃないか。100円ちょいで五個入りのパンのこと。まさか、小学生の頃の僕と同じ発想で実際に食いつないでいたなんてな」
皆さんも、一度は考えたことあるだろう。朝一個、昼と夜で二個ずつ、と。実際、小学生ですらそんなんじゃ保たないだろうが。
「あー、あんぱんを馬鹿にしないで下さいよ。私の命の恩人なんですからね。まあ、私死なないんですけど」
「死ななくても腹は減るだろ?」食欲は、人間の三大欲求のひとつと言われているしな。
#####
「し、幸せです…私いますごい贅沢してます…。天国のお父さんお母さん…うぅ、幸せすぎて怖いです…」
「…泣きながらハンバーグを食べるやつも初めて見た」
「だって、ごはんがお皿一杯で150円だなんて…お芋さんまで…」
「……米に塩、かけすぎじゃないか?」
テーブルに並ぶほかほかのランチ。のえるは感涙しながら一口ずつ噛み締めるようにそれらを食べていた。
僕はというと、ひたすらのえるのペースに合わせて食を進めることに努めていた。また余計な気を遣わせたくはないからな。
「真司さんにはいくら感謝してもし足りません……私にできる事があったら、何でもおっしゃってくださいね…? 夜のお相手でも何でも、喜んで引き受けますから」
「そういう事はもう少し育ってから言ってくれ………」
あどけない顔で夜の相手、などと恥ずかしげもなく言えるあたりは、大人なんだろうか。はたまた、ませたガキなのだろうか。少なくとも、それを頼むことだけはしないがな。
「はむっ…うぅ、おいしいです…ぐすっ」
とりあえず、のえるにはもう少し人並みの感覚(主に金銭的な)を思い出してもらわないとな、と僕は思いながらハンバーグを口に運ぶのだった。
#####
「そうだ…僕は肝心なことを忘れていた」
「どうしましたか?」
ファミレスで何とも奇妙なランチタイムを過ごした僕は、店を出てからソレに気づいた。
「あんた、着替えは今どのくらい持ってるんだ? 下着類も含めて」
「はっ…まさか真司さん、私の下着で性欲処理を?」
「断じて違う。そこ、顔を赤らめるな頬を手で隠すな」
「私なら、喜んでお貸ししますよ? むしろ、私がいるとしづらいでしょうから、その間お散歩に行っても…」
「…そういった気遣いはもっと健全な方向に発揮してくれ」
こいつ…さりげなくさっきから爆弾発言が目立つぞ。本来こんなキャラなのか?
こいつに気にされるようなことではない。それよりも、
「いつまでも僕の服を着てるわけにもいかないだろう? 足りないなら、今から買いに行くぞ」
何しろ、今のえるが着ているのは僕のTシャツに上着、下に至っては僕が中学生のときに着ていたスウェットなのだ。
「足りてますよ。昨日着てた服と、もう二、三枚枚長袖のシャツ。下着は昨日のと合わせて…」
「ストップ。これ以上は読者様のあんたに対するイメージが台なしになるから言うな」
「は、はぁ…」
そして僕らは、近所の衣料店に向かった。
普段あまり行ったことのないその店の空気は、僕は苦手だった。服が大量にあるせいか妙に息苦しいし、圧迫感がある。
私的な感想だが、とても落ち着いて服を選んだりなどできない。だがのえるは数々の服を目の当たりにして、
「真司さん…ここ、いいところですねぇ…ぐへへ」と言い出した。
「変な声を出すな、僕の人格も疑われるだろう。それに、そんなにいいか? 眺めてるだけで」
「それはもうっ! あそこにある服着たらどうなるかなー、とか可愛くなるかなーとかもっと大人っぽくなるかなーとか、想像しただけでお腹いっぱいですよぉ!」
「はは……そうかい」全く、僕には理解しがたい。
「とりあえず…今日のところは普段着と下着を選んでくれ」
「はいっ」
なんとなく思ったが…今までののえるの言動から考察すると、かなりのド貧乏根性が染み付いてるようだ。すると、のえるに選ばせたら果てしなくケチる可能性がある。
不安になった僕はのえるに内緒でカウンターに行き、店員にアドバイスをお願いすることにした。
「いらっしゃいませー」
「あの…僕の妹がかくかくじかじかで…」
「わかりましたー。えっと、お予算はどのくらいで」
「そうですね…5000円以内で」
「かしこまりましたー」
店員はのえるの元へさりげなく向かって行った。
女性用衣類の値段の相場なんか知らないが…5000円で足りるのか?
…のえるがやたら商品カゴにたくさんの衣類を入れて店員を連れてレジへ戻ってきた。
もう少し持ち出してくればよかったかもしれないと思ったのだが、値段を確認してみるとなんとか予算以内だったので、ほっとした。店員さんにも感謝だな。
店を出て帰路につく。時刻は午後3時過ぎ。一旦帰ってから買い出しに行けば、ちょうどスーパーの品揃えも豊富なはずだ。
「えへへ…ありがとうございます、"兄さん"」
…兄さん? ああ、そういえば店員に、"兄妹"とごまかしたんだった。
「これからは、毎日違う下着を穿けるんですね。これも真司さんのおかげです」
「………今度、なにか可愛い服でも買ってやるよ」あまりに不敏過ぎて、気がついたらそんなことを口走っていた。
「いいんですよ。私…今すごく幸せですから。昨日真司さんに出会ったばかりなのに、私の世界はこんなにも変わったんですよ?」のえるは無垢な笑顔でそう僕に言った。
「買い被りすぎだ。あんたは、ただ"僕"というチャンスに巡り会ったにすぎない。世界が変わったとしたら、それはあんた自身のおかげだ」
「真司さん………」
「…なんてな。」
それに、僕自身も悪くないもんだと思っている。実際、休日なんて家に篭りっきりでとても有意義だとは言いがたい過ごしかたをしていた。
だが、今日の出来事を楽しいと思っている自分がいる。…今まで一人だったからだろうか。
妹ができたような、そんな気分だ。まあのえるは自称27歳で、年齢的には姉に相当するのだが。
「真司さん、ここで問題です」
「?」
いきなりのえるが立ち止まり、質問を投げかけてきた。
「人を好きになるのに理由はない、とよく言いますけど…真司さんはどう思いますか」
「…いきなりなんだ」
「たっ、例えですよ。ほら、よくテレビで言ってるじゃないですか」
「…わからんな。僕は今まで誰かを好きになったことがないんだ」
これは真実だ。僕にとってそれは必ずしも必要なことではない。
"恋愛は一種の精神病"と、どっかの団長様みたいなことは言わないが、所詮男が女を好きになるのは性欲から由来しているに過ぎない。
そして、女が男に積極的に性欲を抱くことなどありえない、というのが僕の持論だった。
「だから僕に聞くのはあまり意味はないぞ。むしろあんたの方が、恋愛経験は多いと思うが」
「…私には、まともな恋愛なんて無理ですよ。こんな体になってから、ろくな思い出がありません」のえるは再びゆっくりと歩きはじめながら、語り出した。
「私が中学生の時、両親と私を乗せた車が事故に遭ったんです。車はぐしゃぐしゃになって、両親は死にました。私も、全身が痛くて死を覚悟しました。
けどお察しのとおり、怪我はすぐ治りました。いえ…その時に、こんな体になったようなんです。
私は"奇跡的に"無傷だったということになり、そのまま養護施設に入れられました。けれど、その施設で虐待されたんです。
毎日暗がりの中殴られましたよ。それでも次の日には怪我一つないものですから、今度は気味悪がられて、手出しされなくなりました。そのうち食事も出されなくなってから、私は施設を逃げ出しました。
それからは必死に働きながら公園で寝泊まりして、二年前にバイト先の店長さんの家に住まわせてもらうまではずっとそんな暮らしをしてました。あ、でも体だけは売りませんでした。私、今でも処女ですよ」
「……………」
なにも言えなかった。あまりに壮絶な人生に。そして、それでも笑顔を絶やさずに語るのえるは、どこか痛々しいと思った。
「私、最初真司さんのこと警戒してました。だから、ハサミであんなことしたんです。大抵の人は気味悪がるか、好奇の目でみるようになりますから。
…でも真司さんは違いました。真司さんはほんと、平気で人のことガキ呼ばわりして、言動もぶっきらぼうで、容赦ないですよね」
「……それはよく言われるよ」主に水城にだが。
「けど、私感じましたよ。真司さんのさりげない優しさ。さっきだって、私のために店員さんを呼んでくれましたよね? ううん、こんな私を拾ってくれたんですもの」
「…あそこで捨て置けるほど人で無しじゃないってだけだ」
「またー、真司さんは素直じゃないですね。…私、そんな真司さんが好きですよ」
「…そうかい」
はた迷惑な話だ。勝手に人の気遣いを誇大解釈して、挙げ句出会った次の日に"好き"だなんて。
「…本気ですよ? そのうち、夜這いかけますからね? 寝てる間にキスしたり、既成事実作ったりしちゃいますよ?」
「…好きにしろよ」もはや溜息しか出ない。
のえるはどこまで本気なのだろうか、イマイチ計りかねる。爆弾発言が目立つが、もしかしたら逆にのえるは恋愛経験がないのかもしれない。いわゆる背伸び、というやつか。
…わからない。それでも、のえるの笑顔は悪くない、と思った。
終了します。
>54sage忘れすみません
いいぞもっとやれ
第一話 3レス消費
「何度でも言うぞ。私は君がす・・・」
女は困ったような顔をして、すでに二度繰り返した言葉を再び口にした。
女の目の前に立つ男の顔はすでに茹で上がったように真っ赤になっている。
窓が開いて薄ら寒い教室の片隅には、すでに人垣が出来上がっていた。
当たり前だ。学校中で有名な美人の女が、突如告白をしたのだから。
1分前から唐突に始まった事件に、教室中はもう興味深々だ。
顔を真っ赤にした男は焦ったように大きな手振りで女を遮った。
「ストォーップッ!!ストップストップ!分かったから!ちょっとまって!」
女は男の大げさな反応に戸惑って彼の目をじっと覗き込んでいる。
男は、はぁーっ、と大きなため息をついて脱力してみせた。冬の風が沁みる。
思わず、「なんの罰ゲームだよ・・・」と口中で呟いてしまった。
男が顔を上げるとそこには、困惑し、どこか悲しそうな女の顔。
「・・・、あの、さ。」
おずおずと男が語りかけると、なぜか女は俯いて呟いた。
「め、迷惑だった、か・・・?」
右手で拳を作り、左手でスカートの端を握り締める女の表情が男には見えない。
ぽつりと呟く言葉だけが、教室で一番寒い空間に残された。
沈黙。
男には相手の言葉の意味がつかめない。だから聞き返した。
「め、めいわくっていうか、さ・・・。」
そう男が答えると、なぜか今度はポタッ、ポタッと音が。
床に眼を落とすと、なるほど雫がポタポタと落ちてきている。
男は、声にならない叫びを上げた。
『泣いてるよぉぉお・・・。』
女がぐずぐずいいだすと同時に、さぁっと教室の空気は凍っていく。
さっきまでの生暖かい視線は刺すようなトゲトゲしいものへと早変わりしていた。
男は咄嗟にここにいてはいけないと思った。
男に弁解の余地は無い。しかし女を通せば後で評判を回復できるかもしれない。
そう考えた男は、「ここじゃちょっと、ね」と女の手を引いて教室を出る。
何とか、女との関係を修復して、クラスの皆に言ってもらわねば。
立て付けの悪い引き戸をガタンと開けて廊下に出た。
昼休みが終わるまでまだ時間はあるだろう。
空き教室を探す男の背に、泣かせんなよ!と声がかかる。
男の右手に絡みつく指は、血が滲むかとおもうほど爪を立てていた。
※※※※
逃げ込んだ空き教室は昼でも薄暗く、先刻よりも寒い場所だった。
女はまだ俯いて泣き続けている。
「・・・あの・・・。」
男が声をかけると、女はピクリと肩を震わせた。
「顔、見せてよ。その、話ができないし・・。」
そう言われてあげた女の顔はやっぱり美人だった。
大きな眼に、すっと通った鼻筋。抜けるような白い肌。
きゅっと結ばれた口が解かれて、おずおずと開いた。
「どうして・・・」
先ほどの告白とは打って変わった、呟きのような言葉。
「どうして、止めたんだ?・・・わた、私は、ただ、気持ちを伝えたかったのに。」
強いまなざしと真摯な表情に圧倒され、男に口を挟む余地は無い。
「好き、だ。好きなんだ、君が。」
再び告げると、女は男に詰め寄った。肩に手をかけて目線をそらさせない。
男は痛みを感じるほど強く掴まれ、後ずさりしかかる。
放せとか、やめろとか出てきてもおかしくないはずの言葉が出ない。
深くて暗い女の瞳を見つめることしかできなかった。
「なあ、素直に言っただろう?素直に、私の気持ちを。だから・・・」
「だから・・・答え、くれないか?・・・」
肩を掴んでいた手は男の背に回り、女の顔が息のかかる距離に迫っている。
涙を溜めた眼ですがる女に、男の判断は吹き飛んでいた。
それもそうだ。
モデルなみに整った顔立ちから学校中で人気がある。
これと言って格好良くもない自分を真剣に思ってくれている。
その女にほとんど抱き合うような体勢で、迫られているのだ。
どう考えても男の人生で今後起きないような最高のシチュエーションだった。
どこか違和感を感じないわけではなかったが、男は無視した。
気のせいに決まってる、と。
「なんだか、いきなりでさ。ちょっとびっくりしたけど・・・。」
カチリと音がしそうなくらい、女は完全に視線を合わそうとしてくる。
「うん・・・。」
一息ついて、男は答えを返した。
「お、俺でよければ、その、」
最後まで言う前に男の口は塞がれた。
まるで喰らいつくような、女からのキスだった。
※※※※
長いキスを終えた後、恋人として女は男にあることを誓わせた。
“嘘と隠し事をしないこと”
“素直かつ率直であること”
“堂々として照れないこと”
後者二つは難しい、と文句を付けると女は微笑んで言った。
「私が訓練する。なに、難しいことはない。反面教師など沢山いるからな。」
そして急に真顔になると、ただし、と付け加えた。
「何があろうと嘘と隠し事は許さん。絶対にだ。」
その瞬間、底冷えのするような瞳が男の深いところを探っていた。
どんな些細なことも逃さぬようにぎりぎりと抉ってくる。
昼休みが終わるまで、二人はそうして互いの肚を探りあい、抱き合っていた。
暗い空き教室は、冬の曇天で真昼にもかかわらず薄暗い。
剣のように凛とした女の言葉と気持ちは、場の雰囲気に似つかわしくない。
ああ、これが違和感の正体か、と男は一人納得していた。
はじめは不審にも思ったが、いまは心地よく感じられる。
男は思わず苦笑した。自分の心はどうにも都合よくできているらしい。
女は、男の耳元に囁いた。
「君を愛している。ずっと、ずっとだ。だから、君も私みたいに、な。」
男の背中には女の爪痕が、服の上から見えるほどくっきりと残っていた。
男の名前は石堂明。女の名前は須崎律。二人の名前だ。
※※※※
投下終了
GJ
面白かったです
68 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 02:15:44 ID:fd9oBc2L
70 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 16:34:37 ID:vTvihre4
香草さんまだ〜?
空気を読まない質問で申し訳ないのですが、
題名の無い長編7は完結しているのでしょうか?
投稿します。
変歴伝ではないほうです。
第八話『シグナム・ファーヴニルの疑心』
ブリュンヒルドが出て行った後、顔色の悪いシグナムを心配するイリスも退出させ、
一人だけになったシグナムは、大きくため息を吐いた。
魔王の討伐、ブリュンヒルド、父の急死、
心労ばかりが溜まりそうな出来事が、次から次へと噴出しているのだ。
ため息の一つや二つが出てくるのは仕方のないことだった。
「それにしても……」
シグナムにはとある疑問が生じていた。
それはレギンの王位継承である。
一度結論を出したが、改めて考えてみると、奇妙な事が多すぎるのだ。
レギンはまだ政治もなにも分からない七歳の子供である。
いかに王の晩年の子供で可愛がられており、その後ろに後妻がいたとしても、
そんな子供を擁立すれば、弟達だけでなく、重臣達も黙ってはいないだろう。
それなのに、ブリュンヒルドの口調からは、
まるでなにごともなく、全て恙なく即位の儀が行われた、という様に聞こえた。
なぜなのか、とシグナムは考え、すぐにそれが馬鹿らしいことだと気付いた。
答えなど、既に出ているのだ。
シグナムの頭に、にっくきガロンヌの顔が浮かんだ。
おそらくガロンヌは、かなり前から後妻と手を組んでいたのだ。
どの様な経緯で二人が知り合ったのかは不明だが、自分の実子を王位に就けたい後妻と、
権力を握りたいガロンヌの利害が一致したのだ。
だとすれば、王の急死も疑いの目を見なければならない。
魔王討伐という名目で追い出された自分がいない隙に、きっと王は毒を盛られたのだろう。
一気に致死量ではなく、少しずつ毒を盛り、弱らせていったのだ。
後は判断力の鈍った王に、後妻が讒言をし、
レギンの即位に邪魔な者達を消していったのだ。
これ等のことは全て憶測であるが、十分合点のいくものであった。
すると同時に、シグナムはガロンヌという男に凄みを感じた。
ここまで用意周到に且つ自身はまったく表に出ず、ついに果たしたのだ。
これほどの男が、摂政という位で満足するとは思えない。
ガロンヌが次に狙うとすれば、それは王位。
レギンだけでなく、他の弟達を殺して、ファーヴニル国を乗っ取るつもりなのだ。
おそらくブリュンヒルドを送ってきたのも、念には念を入れての事だろう。
もし、下手に動けば(動かなくても)暗殺される。
シグナムは身震いしてきた。
今、自分のいる立場が、まさしく籠の鳥であるという事に気付いたからだ。
翌朝、外は相変わらず雨だった。
あの後、シグナムは部屋に入ってきたイリスに事の全てを話し、
今すぐ逃げろ、と命令した。
ブリュンヒルドがイリスに手を出すとは思えないが、
目障りになれば殺すかもしれないので、念には念を入れての配慮だった。
しかし肝心のイリスが、逃げないでシグナム様と戦う、と言って譲らなかった。
シグナムはイリスを鼻で笑った後、汚物でも見る様な目付きで、
「戦力にもならないクズが、偉そうな事を言うな!
お前のせいで俺の右腕はなくなったというのに、
今度は俺の左腕を捥ぎ取るつもりか!
お前など、色町で腰を振っているのがお似合いだ!」
と、口汚く罵った。
それを聞いたイリスは、なにも言わずに出て行ってしまい、そのまま帰ってこなかった。
昨日はそんなことがあり、シグナムの表情は相変わらず暗かった。
シグナムは、自分で言った言葉に自己嫌悪になりそうだった。
一度は許した右腕の件をぶり返させ、さらにはイリスを侮辱したのだ。
こんな最低な主はいないであろう。
だが、こうでもしなければ、イリスは自分の下から離れないだろう。
イリスはまだ十六歳の年若の少女である。
あんな理不尽極まりない契約書の内容を律儀に守って、
その青春を散らすのはあまりにも惜しい。
このままイリスが帰ってこなければそれでよし。
帰ってきたとしても、自分に失望していてくれればそれでもいい。
要は、ブリュンヒルドがイリスを障害と思わなければいいのだ。
しこりは残ってしまったが、これでイリスの身を助ける策は成った。
しかし、肝心の自分の身を救う策は未だに思い付かないままだった。
この計略は、自身だけでなく、ガロンヌが自分の利益になると思わせなければ成功せず、
そんな都合のいい考えなど、まったく思い浮かばなかった。
「いっつも貧乏くじを引くのは、この俺なんだよなぁ……」
一瞬、シグナムは目の前が真っ暗になった。
昨日からブリュンヒルドを警戒し、なにも食べておらず、寝てもいないのだ。
「これでは、殺されるよりも先に自滅してしまうかもしれんな……」
シグナムはおでこに手を置き、これで何度目かも分からないため息を吐いた。
昼過ぎ頃、ブリュンヒルドが部屋を訪ねてきた。
寝不足と空腹のシグナムは、無表情でブリュンヒルドを迎えた。
ブリュンヒルドは跪くと、シグナムの顔を見上げ、
「殿下は、御食事を御召し上がりになっていないと仄聞しております。
御身体の調子でも悪いのですか?」
と、聞いてきた。
どことなく心配している様な顔をしているが、白々しい、とシグナムは思った。
まるでつまらない芝居を見ている様で、シグナムは気だるさを超えて、
イライラが募っていった。
「お前には関係のない事だ。私には私で考えなければならない事があるのだ。
軍人であるお前が無闇に口出しする事ではない。疾く去れ」
「ですが殿下……、このままなにも御召し上がりにならないのは、
御身体によくありません。せめて少しだけでも……」
「くどい」
ブリュンヒルドの話を遮ったシグナムの目は、恐ろしいほど細くなっていた。
命を狙っている奴に身体の心配をされた所で、シグナムはまったく嬉しくない。
こんなくだらない会話、さっさと終わらせたかったのだ。
嫌な沈黙が続いた。
最初に口を開いたのはブリュンヒルドだった。
「殿下……、最後に一つだけよろしいですか?」
ブリュンヒルドの目は、シグナムの右腕に向けられていた。
「その右腕……、いったいどうなされたのですか?」
シグナムの背中に冷たい汗が流れた。
医者と鍛冶屋の技術の粋を集めて作った義手は、
傍から見れば本物と見分けが付かないという出来である。
それをもう見破ったのか、とシグナムは一瞬勘繰ったが、
来たばかりのブリュンヒルドが自分の負傷を知っているはずがない。
ここで嘘を吐いて余計な詮索を受ければボロを出す可能性がある。
シグナムはニュアンスを変えて本当の事を言うことにした。
「不覚を取って怪我をしただけだ」
右腕を『引き千切られた』と『怪我をした』は、まったく違うように聞こえるが、
最終的に負傷した事には変わりない。
ブリュンヒルドは、シグナムの右腕を凝視し続けていたが、
納得がいったのか、目を伏せて黙ってしまった。
シグナムはそれを質問の終了と受け取り、
「さてと……、用事が終わったのなら、早く出て行ってもらおうか。
私も色々と考えなければならないことが多くてな、出来れば一人で考えたいのだ」
と、ブリュンヒルドに退出を促した。
ブリュンヒルドは、一度シグナムを一瞥した後、部屋から出て行った。
再び、部屋にはシグナム一人だけとなった。
寝たら殺される。なにか食べれば毒殺される。外に出たくても雨が降っている。
「飲み水には困らないんだがな……」
シグナムは空のコップで雨水を集めると、それを一息に飲み干した。
少し酸っぱく、埃っぽい、不味い水だった。
「これが俺の生命線か……。……はぁ……、なんだか泣けてくるな……」
テーブルに目を向けると、出来立ての夕食が並べられている。
ステーキ、コーンスープ、サラダ、パン、ワイン。
どれも美味そうであるが、食べることが出来ないので、
シグナムのストレスは溜まる一方である。
なにを思ったか、シグナムはステーキの皿を手に取ると、窓からステーキを投げ捨てた。
食えないものはサンプル同然である。
同じ様にコーンスープもサラダなども投げ捨てると、シグナムは椅子に座った。
「暇だ、眠い、腹減った!!!
濡れたくないけど外出たい!
死にたくないけど眠りたい!!
逝きたくないけど飯食いたい!!!」
まるで子供の様な駄々を捏ねてみたが、それで自体が好転する訳でもない。
シグナムは黙って、テーブルに突っ伏した。
ここに来て、シグナムはイリスを追い出した事を大いに後悔した。
例え頭の中が常に春風で吹き曝しの馬鹿のイリスであっても、
話し相手としてならば、暇を潰せるだけでなく、
眠気や空腹を忘れる事が出来るかもしれないのだ。
しかし、そのイリスは昨日追い出してしまい、もうここにはいない。
イリスのことを思ってやった事が、結局は自分を苦しめる羽目になってしまった。
「皮肉だな……、本当……、可笑し過ぎて涙が出てくるわ……」
運命の皮肉というものを感じながら、シグナムの体力もついに限界を超えた。
身体は重くて動かず、瞼もズルズルと下りてくる。
抵抗も空しく、シグナムは眠ってしまった。
床の軋む音と水を含んだ足音が廊下に響いた。
足音の主は女である。顔は髪で隠れており、さながら幽鬼の様である。
女はシグナムの部屋を見つけると、なんの遠慮もなしに扉を開けた。
最初に女の目に入ったのは、テーブルに突っ伏して眠っているシグナムだった。
女はベッドから毛布を取り出し、シグナムに掛けてやった。
一瞬、髪の間から女の顔が見えた。その表情は、とても嬉しそうだった。
なにやら周りが騒がしい。
部屋には自分しかいないはずなのに、まるで他の誰かがいるみたいである。
起きていれば誰かが入ってくることなどすぐに分かるというのに、
なぜ、気付かなかったのだろうか。
シグナムはそんなことを考えながら、ある結論に達した。
自分は今、眠っているのだ。それもかなり浅めの眠りである。
だから眠っていても、なんとなく物音が聞こえるのだ、と。
「……………………しまった!!!」
やっと自分が眠っている事に気付いたシグナムは、凄まじい勢いで目を覚ました。
「あぁ、シグナム様、おはようございます。まだ夜ですけど」
そこには、昨日追い出したはずのイリスが笑顔で立っていた。
バスローブを身に付け、見るからに風呂上りである。
「イリス、なぜお前がここにいる。
お前は邪魔だから目の前から失せろと言ったはずだぞ!」
あれほど酷い事を言ったというのに、イリスが戻ってきたという事にシグナムは驚いたが、
なぜわざわざ戻ってきたのか、シグナムは詰問しなければならない。
イリスはシグナムの厳しい声を聞いても、ニコニコと笑いながら、
「確かに、あの時は驚いて出て行ってしまいましたが、
よく考えたら、シグナム様は根がとっても優しい方だから、
あんな酷い事を言ったのも、きっとなにか訳があっての事だと思ったんです」
と、答えた。
まるで自分の心が見透かされている様な気分になったが、シグナムは、
「例えそうだとしても、なぜ逃げなかった?
このまま逃げれば、お前は自由になれたのだぞ。
なぜ、わざわざこんな人生を棒に振るかもしれない事に首を突っ込むんだ?」
と、不機嫌面でイリスに聞き返した。
「だって、私の事を人として扱ってくれたのは、シグナム様だけだから……。
そんな人を見捨てるなんて、私には出来ません」
イリスの表情は、いつになく真剣だった。
「まさか、それだけの理由で人生を棒に振るつもりなのか……。
……はははっ……、お前は馬鹿だ。正真正銘の大馬鹿野郎だ」
シグナムは額に手を置いて大いに笑ったが、悪い気分ではなかった。
ここまで自分の事を信頼してくれる女がいるのだ。
ならば、自分もそれに答えるのが礼儀というものであろう。
「分かったよ……。付いてくるなりなんなり勝手にしろ。
ただし、死んでも俺を恨むなよ」
シグナムはそう言って、イリスを再び受け入れた。
荷物は増えてしまったが、シグナムの顔はどこか清々しいものになっていた。
投稿終了です。
第九話は今週に出来ると思います。
GJ!
個人的にはブリュンヒルドにデレて欲しい
80 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:45:01 ID:K7oLP9hm
濃い 派手
81 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 23:45:34 ID:K7oLP9hm
明るい
82 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:09:13 ID:eYGxox+V
ケチャップ
83 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 01:10:25 ID:eYGxox+V
かゆ うま
303 :月宮:2010/02/18(木) 18:05:37 0
死ねば助かるのに
ねえ、兄さん。自分なんて捨てちゃいなよ
どう生きようとこの人生、自分が死ななければ終わらない
何か考えて、その結果、意味や価値や感情なんかが起こる
でも、もう私は考えるとか考えないとかそんな次元にいないの
偶然、奇跡、運不運、矛盾、不合理、理不尽、不条理に身を委ねてこそ
それこそ兄さんが生きる事、そのものなのよ
兄さんはあの薄汚い泥棒猫共に誘惑されてるのよ
生きるという言葉じゃなくて、その言葉が指す言葉ではないそのものを
(見せられないよ)するのよ
304 :兄じゃ:2010/02/18(木) 18:08:25 0
>>303 俺は……ただウィンウィンを絶対視してただけなんだ
こんな惨劇がお前が見た未来か! ルナ!!
305 :兄じゃ:2010/02/18(木) 18:13:53 0
例え卑怯者と罵られようとも
んじゃ、ちょっと競馬行ってくるから
帰ってきたら真剣で殺ろうぜ
306 :月宮:2010/02/18(木) 18:14:46 0
>>305 まてぇ!!逃げるな!!
その罪ぃ・・万死に値する!!!!
というのを見つけたんだが
これはヤンデレなのか?
>>86 そうか、、いつも俺の考えるヤンデレにはデレがない
なんでデレないのかなぁ・・出直してくるわ
では投下致します
第11話『ババア無双』
老婆は当主の情報網から引っかかった情報を頼りにして、ついに見つけ出すことができた。
嘆願していた装備は届き、着実に任務を遂行できる状態となった。
人を殺す快楽を覚えたババアにとっては、任務自体が報酬に等しかった。
老体となった今でも血を見るだけで興奮し、武者震いが起こる。強き者と戦い、勝利をする。
この過程こそがババアの至福の時であり、相手が強ければ強い程、ババアは興奮する。鼻血が出るぐらいに。
「ババア様。当主様から頼んでいた武器が届きました」
「うむ。ごくろう。下がっていいぞ」
「はっ」
当主の飼い犬の男が持ってきた武器はこの日本では手に入ることができない物ばかり。
普通に銃刀法違反で検挙される危険な品物ばかりであった。
頼んでいた武器が全て来たことにババアは早速戦闘のための準備をする。
長年着ていた、戦闘用に優れた防御力重視のプロテクターを身に纏う。
使い古して、あちこちに破損箇所が見当たるが、それは仕方ない。
使い込んだ物ではないと従来の敏捷力に影響がする。
次に武器だ。
愛用しているのは、刀。剣道という全うな競技に参加したことはなかった。
死線を潜り抜けた中で得た剣術。殺人剣に昇華した流派の名はババア流。人を確実に死をもたらすことができよう。
現在ではそのような刀すらでは太刀打ちできないぐらいに戦いは変化してしまった。
それゆえに最新の戦闘に対応した武器もまた必要になってくる。
それが、イスラエル製のデザートイーグルである。あらゆる破壊力を重視した結果、
無難に何か知名度が高そうな拳銃を選ぶことにした。
ただ、女子供や老人が打つと反動だけで肩の骨が外れるようだが。
ババアは他の常人よりも何倍も鍛えているので老体であったとしても気軽に使いこなせる。
そのための訓練も欠かさず行ってきた成果と言える。
しかし、その装備すらもババアの真の敵にとってはそれらが通用する可能性は低い。
依頼者の内容次第ではあの地上最悪の生物『ヤンデレ』と交戦することがある。
いや、戦う機会は多い。あの永遠の揺りかごから愛しい人を奪うために恋する乙女は
ヤンデレ化して、敷地内に侵入してくるであろう。
特殊部隊の隊員を軽く上回る身体能力、人間の潜在能力を超える力を持った人間の相手は当主が
いくら金で雇った警備員や私兵団でも容赦なく殺されるであろう。
だから、ババアがあの敷地の管理人に任されている。
唯一、当主にとってヤンデレに対抗できるカードは老婆しかいない。
歯には歯を。目には目を。常識外の相手には、最高の殺人快楽者を。
人を殺すことを快楽を楽しむことに生涯を捧げた老婆。ババアもすでにヤンデレの域に達している。
純粋に相手のことを想い、その想いのせいで心が病んでしまった女性たち。
愛しい人を愛する気持ちが激しく間違った方向に向かったとしても、
その想いは原子爆弾の破壊力を勝る。そんなヤンデレな彼女らと長年人を殺すことで快楽を得た自分が劣るとは
ババアは思わない。
だが、残念なことに今回の任務はヤンデレ駆除ではなく、クズ男の抹殺するという退屈な任務だ。
戦国時代より劣化した軟弱な男児など居眠りしてでも殺すことができるだろう。
それではババアの淀んだ心は癒されるはずもなく。退屈ならば、面白いやり方でクズな男を殺害することによって、
乾いた喉を癒してやろう。
さあ、狩りの時間だ。
受け取った情報通りに扇誠が所有しているであろうビルに邪魔者は薬とかで眠らされた状態で連れ込まれたそうだ。
玄関ホールの入り口には怪しげな黒服の男二人が立っていた。それらを視認するとババアは動き出す。
細い足で走ったとは思えない程の速さで駆け出していた。
見張りを行っている警備員には首だけが動いているババアが自分達の前に突然現れたと思ったことであろう。
その瞬間にババアは愛用している自分の刀を鞘から素早く抜き出す。
そして、彼らの首を強引に力任せで切り落としていた。
「ふむ。やはり、人を斬るには日本刀に限るのぅ」
地面に落ちている黒服の男たちの首をもう飽きてしまったオモチャのように軽く蹴った。
すでに壊れたオモチャには用はない。
今ここで殺害した人間の命などその辺の蚊を殺した如く、軽くスルーしたババアは任務を果たすために
堂々と隠れることなくビルの中へと進んで行った。
実際にどうでもいいザコを無残に殺したとしても、ババアは快楽を感じることはない。
何の興味も持たない者を殺しても、何の得にもならないからだ。
仮にも任務以外で自分の快楽のために人を殺害したことはない。
人に理解できない殺人狂だとしても、自分より弱い人間を殺すことは全くないのだ。
本来、戦いというのは命と命の奪い合いであり、その駆け引きを楽しむことが最高のスリルを感じる。
その過程こそがババアが最も重視している事柄だ。
そう、相手が強ければ強い程、その殺人までの過程は面白くなり、
最終的に相手を殺すという結果こそがババアが求める快楽へと繋がっていく。
とはいえ、人の命はそう軽い物ではない。
だが、殺人快楽者に従来の価値観などすでに存在せずに、己の価値観のみに従って生きている。
弱き者がそれを正そうと言うのはまず不可能。
異常者にこの世界の法律に従わせたければ、強き力を持って排除するしか方法は無い。
対象は邪魔者を拉致した後に部屋に引き篭もって、存分に今は鑑賞プレイを堪能している最中であろう。
当主の情報工作員によりこのビルの見取り図を受け取っているババアにとっては扇誠が恥辱の限りを行っている部屋を突き止めることは容易であった。
更に幸いなことにあのビルの前にいた見張り以外の人間は見当たらない。
余程、狩ってきた女との行為を邪魔されたくなかったと思える。
ババアには好都合であった。
このビルの内部にはクズな男と邪魔者しか存在していないのならば。
さっさとクズな男を殺害して、邪魔者は依頼者の監禁行為を邪魔させないようにどこかに閉じ込めておくことができる。
依頼内容の完了に一歩近づくのだ。
そう、この依頼内容こそが我が祖国の命運がかかっていると言ってもいい。
当主や政界の人間達がこの依頼内容の結果次第で事の全てを決める。
全てはヤンデレ症候群の平和的な活用のために。
男は突然の侵入者に怯えていた。
老婆の威圧的な態度や、小柄な身長よりも長い日本刀を持っている時点で只者ではないことがわかる。
今から人生史上の最高の至福な時間が始まるはずだったが、動揺することはない。
こちらの方が有利な状況にいる。外に待機させている警備員に連絡して警察さえ呼べば、彼の勝ちだ。
扇誠はいつものように人を見下したような目で言った。
「バアさんさぁ。あんたさ、ここは俺の親父が所有している物件なんだよ。
あんたが今やっているのは不法侵入だよ。わかっているのかぁ? あん?」
「自分よりも強い相手以外はそうやって接してきたのか。クズ男よ」
「く、クズだとぉぉぉ!!」
「お前以外に誰がいるのじゃ」
「てめえ、ババアの分際で俺様に……ぐはっっ!!」
扇誠が喋り終える前に、ババアは彼の足に世界最高峰の威力を誇るデザートイーグルで射撃していた。
射撃した反動など感じさせずに気軽に扱うババアは冷笑した。
「クズの男の話は耳が腐る」
「いてぇぇぇぇ。な、な、なにしやがるんだぁぁぁぁ!!!!」
撃たれた箇所は太ももではあったが、すでに原型を留めずに肉片があちこち弾き飛んでいた。
血塗れになった部屋の風景に邪魔者が軽く悲鳴を上げていた。
「普通なら意識を失うか、衝撃でそのまま心臓麻痺で死んでもおかしくないのに。このクズは極上のクズってことかのぅ」
「う、う、うるせ。は、早く。救急車をよ、よ、呼んでくれーーー!!」
「嫌じゃあ」
「な、な、なんだと」
「次はこの愛刀の味を楽しませてくれんかのぅ」
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ」
鞘から抜いた刀は何の躊躇もなく扇誠の右足を切り裂いた。
鈍い悲鳴に気にすることはなく、今度は右腕を切り裂き、最後には左腕を日本刀で突き刺す。
この殺害方法は相手を最も苦しめることが前提だと言わんばかりだが。
ババアはつまらないものを斬ったような表情を浮かべていた。
「やはり」
「お、お、お、れがな、な、何を、や、や、やったんだよ?」
「一度殺さないとダメじゃ」
時間をたっぷりと懸けていた殺し方が急遽、ババアは一気に日本刀で扇誠の心臓を突き刺した。
「ぐぎょぉぉぉぉっぉぉぉおぉぉぉぉぉお」
どこかの漫画みたいに扇誠の断末魔の声がこの部屋に轟く。
「ふふふっ。何度も聞いてたまらんなぁ。人が死ぬ時の無様な表情と声は!!」
つまらない任務を満足させるためにはこのような卑劣な殺害でしかババアは快楽を感じることができない。
しかし、それだけでは十分に満足することができなかった。
何度も何度もこの世界に生き続けていたババアにとって、この程度の快楽では足りないのだ。
すでに死体となった扇誠を見る。
グロテスクマニアが見れば発狂するぐらいに損壊している。二度と遊ぶことができないのなら、また直せばいいのだ。
「ババア再生!!」
その一声でバラバラになっていた扇誠の体が元通りに再生された。
先程、傷つけた刃物による損傷はなく、新品同様に扇誠は正常な形へ戻っている。
「な、なんだ、これは」
「無駄に長く生きていると。人を生き返らせるぐらいの秘術だって得ることはあるのじゃ」
果てしない修羅場の経験を経て、辿り着いた先の領域で修得した秘術
『ババア再生』により、あらゆる生物すらも再生することができるという。
この技の使い道は殆どない。任務は必ず完全抹殺することにあり、抹殺相手を再生することなどあるはずがない。
ただ、ババアの退屈を埋めるためには大いに役に立つ程度なのである。
「や、や、やめろ。来るなぁぁぁぁあぁ!!!!!」
「貴様みたいなクズな人間は何度切り殺しても足らんな。このババアが満足するまで、
殺して、再生して、殺して、再生して、殺して、再生して、何度でも地獄を体験させてやるぞぉ」
「お、お願いだ。や、やめてくれ。お金なら、親父が好きなだけくれてやるからよぉ」
「くれてやる? 残念ながらお金など、一生困らない程の年金が支給されるから必要はないのぅ」
「くそぉ……。こんなとこで俺は……俺は……」
「クズ男が弄ばれた女性もそうやって懇願したようだが。
ならば、お前はよく知っているはずだ。絶対的な強者が取る選択を」
冷笑して見下す老婆を見て、扇誠は自分の命が今日ここで終わることを自覚した。
今まで散々女を食い物にしてきた彼だったが。その最後は何度殺害されたとしても、償うことができない大罪であった。
最初は記憶喪失の女性を拾って、適当に弄んだ後にその彼女を妊娠したとわかった途端に
あっさりとゴミを捨てるように捨てた。
次は、大人しそうなお嬢様を騙して、大金を貢がせた後に他の女に乗り換えた。
最後の別れ方は携帯であばよと一言だけで済ませたと思う。
その後、そのお嬢様がヤンデレ化して扇誠に関わる女性を襲うのだが、彼の父親の権力により、
この世から抹殺することとなった。
それまで自分が犯してきた罪を走馬灯のように思い出すのは、この状況が扇誠にとって
今までのツケが返っているかもしれなかった。
銃声。
ババアは容赦なく頭に銃弾を撃ち込む。
斬撃。
罪人を打ち首にするかのように真っ二つに切り裂かれる。
殺しては、再生して、また殺して、また再生する。何度も何度も無様な扇誠の絶叫魔が部屋の響き渡っていた。
「あはははは!! もっとじゃ。もっと、ワシを愉しませてくれ!! クズ男よ!!!!」
もはや、任務よりも殺害する快楽に夢中になっているババアに扇誠の声なんか聞こえているはずもなかった。
ただ、この部屋にもう一人いる例外を除けば。
「ちょっと待ってください!!」
「ふむ?」
扇誠の手首をありえない方向に曲げて楽しんでいたババアは予期せぬ声の主に反応して、行為をやめた。
後ろを振り返ると未だに体を分厚い縄で拘束されている少女が何か煩く喚いていた。
「そこの世界最高のクズ店長を何度でも殺せるんですよね? どこぞのお婆さん」
殺害の現場をずっと見続けていた瑞希は嬉しそうな表情を浮かべて、楽しそうな声を弾ませて言った。
「ワシが飽きるまでずっと殺せるぞ」
「だったら、私も殺します。うふふふ。
私をこんな目に遭わせた挙句に襲うなんて、本気で万死に値しますよ。
後、店長には無限地獄を体験してもらいましょう。確か、店長を泣かせた女性達をここに呼び出してもいいかもしれませんね」
「邪魔者よ。任務が……」
「そこのお婆さん。拘束している縄を解いたら、お婆さんの得物を少し貸してくださいね。
人間の刺身をすぐにご馳走してあげますから」
「いらねぇよ。そんなもの」
邪魔者と名づけられたコードネームの持ち主である瑞希の拘束を自慢の日本刀で切り裂く。
久しぶりに自由になった瑞希は軽く体の背筋を延ばした。
そして、ババアが持ってきたあらゆる武装オプションを眺めて、自分にとって使いやすい武器を選んだ。
「やっぱり、鋸ですよね。女の子なら一度は憧れる展開です」
まるで長年の戦いを潜り抜けた相棒のように手に馴染む鋸を握り、積年の相手に優しく瑞希は微笑んだ。
「誠死ねーーーーーー!!」
それはバイトの日々で溜まった鬱憤が開放された時であった。
「なんだ……これは」
25年の刑事生活を送っている自分ですら狂気を疑うのような惨状に胃液の中の物を吐き出しそうになった。
死体は見慣れている。いや、見慣れすぎて死体を前にして動揺することはなかったはずだが。
しかし、この事件だけは違う。
キモい男の声が煩くて眠れないという近所から通報を受けて、
警官がこの部屋を調べた時に一人の男の死体を発見したが。あまりの惨劇にその警官は失神してしまったのだ。
鋸。
鋸。
鋸。
鋸。
鋸。
鋸。
鋸。
鋸。
死体のあらゆる箇所に鋸が突き刺さっているのだ。
目や口や鼻や耳、そして、毛穴にまで多数の鋸が刺さっており、その刺し傷から血が流れていた。
あまりの残忍な殺害方法に刑事としての勘はこう言っている。
このヤマには関わってはいけない。そう、事件の真相を知れば、きっと自分がこんな風に殺されてしまうと。
「ヤマさん」
「なんだ、ヤス」
「上層部から命令です。この事件の被害者は、扇誠だから別に犯人とか捕まえなくていい。
面倒臭そうだし。だそうです」
「扇誠だと?」
扇誠という名前には聞き覚えがあった。
多数の暴行事件などを起こしながら、決して逮捕できない男。
あらゆる場所に権力とコネを行使できるらしく、うちの署長も彼らの一族から多額の献金を貰っている。
地元の有力者に逆らうことができず、彼らの犬として率先として扇誠が起こす事件を揉み消していた。
その男がこんな無様な死に方をするなんて誰が想像できようか。
ただ、最低最悪の男を殺害した人物に市民を代表して感謝の言葉を述べたい。
ヤマと呼ばれた刑事は部下達に撤退命令を出して、最後にこう呟いた。
「早く浮気相手と別れよう」
以上で投下終了します
リアルタイムGJ!
扇で誠とか絶対良い死に方しないと思ってたら…案の定w
記憶喪失の女を妊娠させるってどこかで見たことあるような展開だったなアニメで
ババァ強すぎです
作者とババアGJ!
ババァの人気に嫉妬
作者GJ!
第二話 3レス消費
律の告白から一週間後の帰り道。
すでに薄暗くなりつつある通学路を律と明の二人は歩いていた。
その道すがら、明は気になっていたことを聞いてみた。
「・・・でもさ、須崎さんはなんで俺のことが好きになったの?」
何気ない一言だったが、律は明の目をじっと見つめた。
明は律の探るような目つきが苦手だ。しかし、同時に吸い寄せられてしまう。
いつも通る街角だが、律に見つめられているだけで全く違う場所に思えてきた。
「・・・??須崎さん?俺、なんかまずいこと聞いた?」
思わず尋ねると、律は目をそらすことなく微笑んで答えた。
「いいや。それよりも、君が私に率直に聞いてくれたことが嬉しいんだ。」
「後の一言は余計だったが、及第点だ。ありがとう。」
こう言って律は一息ついた。手を握る律の力が強くなる。
「君の問いに答えたいが、長くなるぞ。それで良いなら、寄り道しよう。」
明は神妙にうなづいた。
「いいよ。俺も、なんていうか、須崎さんのこともっと知りたい、し。」
薄暗いなか、律の目だけはなぜか爛々と輝いているように見えた。
「ふふ、君も私のことを知りたいと思ってくれるんだな?嬉しいよ。」
でもそれなら、と微笑んで律は付け加えた。
「お互い、名前で呼び合おう。明。率直かつ素直に、な。」
※※※※
10分ほど、住宅街を抜けていくと、律のお気に入りだという喫茶店についた。
ジャズソングが静かに流れる、高校生には似合わない店。
しかし、大人びた雰囲気の律にはちょうど良いのかもしれない。
たっぷりと生クリームを使った濃厚なココアが運ばれると、律は話しだした。
それこそ自分の趣味や好きなものから家庭環境、生い立ちに至るまで包み隠さず。
しかも、それがプライベートな部分になればなるほど、言葉に熱がこもっていく。
「私の両親は互いに喧嘩していてね。ずっとだったよ。」
「それから二人は私を憎むようになった。お互いの子だと思うと我慢ならないそうだ。」
堰を切ったように喋り続ける律を前に、明は圧倒されていた。
「彼らは互いにずっと嘘をつきあっていてね。きっとそれが喧嘩の原因なんだろう。」
「しかも私を前にすると二人とも途端に優しい顔ばかりさ。下らない・・・。」
よくよく考えて見れば、今や恋人とはいえお互いほとんど接点などなかった。
今日まで交わした言葉など挨拶とか、その程度だろう。それなのに。
「私が家を出されて、祖父の家に引き取られるその時まで、二人とも優しい顔だった。」
「でも私は知ってたんだ。あいつらは私を追い出す算段を整えていたんだ。こそこそと。」
それなのになぜ、律はこんなにも赤裸々に話せるのか、明には分からない。
なんとなく感じる、あの違和感。
「普段怒鳴りあう夫婦が夜中には突如静かになるんだからな。盗み聞きしたんだ。」
「それで、最後に言ってやったんだ。」
「厄介払い出来て良かったな、って。全部、聞いてたぞ、・・・って。」
一息に語りつくした律の瞳にはうっすらと涙が溜まっていた。
最後は声が詰まっていたので、泣いていたのかもしれない。
何と言ってよいのかも分からず、明はただ律の手を握っていた。
ありがとう、と頬を染めた律は
「私が素直や、嘘にこだわるのは、きっとそのせいなんだ。」
と締めくくったのだった。
※※※※
自分の半生を語りつくした律の瞳は涙を湛えながら輝いていた。
どう考えても、恋人とはいえよく知りもしない男に話すことではない。
どうしてそんなに開けっ広げなのか。
どうしても疑問に思えた明は控えめに口を開いた。
「あの・・・律、さんてさ。いつも、こんな感じなの?」
非難するつもりはなかった。ただ知りたかっただけである。
しかし、明の言葉に律は怪訝な顔をする。
「こんな、とはどういう意味だ?私は、なにか変だったか?」
予想外に不満げな律の反応に、明は驚く。
一転、不穏な雰囲気に思わずしどろもどろな言葉しか返せない。
「あ、いや。何ていうか、その悪い意味じゃなくて・・・」
煮え切らない明の目をガチリと喰らいつくように律が捉える。
その目はまるで蛇や獣のような、獰猛な輝きを放っていた。
「なんだ?遠慮なく言ってくれ。」
「あの、律さんが素直というかストレートというか・・・」
「えと、・・・言い方が、悪かったよね。ゴメン・・・」
ギラギラとした光を増していく律の目が怖くて、謝罪してしまう。
律が静かに切り込んでくる。
「私が素直なのが、何かいけないのか・・・?ゴメン、とは何だ?」
そこには静かに怒りだした律がいた。
時々見せる可愛らしさとは間逆の、般若の顔。
何かいわなければいけない。だが分かっていても頭が働かない。
「いや、その・・・。」
きゅうう、と律は目を細める。また、明の中を探ろうとしていた。
「君に対してありのままでいることが私の全てだ。分からないのか?」
「なぜいけないのか教えてくれ。私が明に素直になって何が悪い?」
詰まった明の首にそっと律の手が添えられる。
「もういい。後で聞く。」
添えられた両手はそっと首を絞めつけはじめた。
じわじわと絞め上げながら、律は明に顔を近づけてゆく。
なぜか身体が石のように重く、明は声を上げることさえできない。
肺は悲鳴を上げているのに、何も出来ないままだ。
律は微笑みながら、耳元で囁いた。
「教えてくれ。私の何がいけないんだ?必ず直すから・・・」
明はそれを最後に意識を失った。
※※※※
投下終了
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じ
ぃ
じ
ぇ
い
投下します。
週初めというのは実にだるい。休日のだらだらした感じをそのままに、無理矢理体を動かすのだから。
ローマは一日にしてならず、ということわざは本当なんだな、とつくづく思わされる。
しかも…朝っぱらからこいつに出会ったらもう決定打。瞬獄殺を喰らったようなもの。僕のライフはもうゼロだ。
「おっはよー☆」
「…なんでアンタは朝からそうテンションが高いんだ」
家を出て歩くこと20分。駅に着き、改札をくぐろうとしたとき、水城が現れやがった。
「そりゃー、真司に出会ったからだよっ」
「馬鹿か。僕は憂鬱で仕方ない。僕の半径5メートル以内に近づくな」
「ひーどーいーよー、私と真司の仲じゃないのよぅー」
「アンタと僕はただのクラスメイトだろ」
「真司には見えないのー? この小指の先の赤い糸が。それと、いい加減"歌音"って呼んでよねー?」
「ああ、その糸なら三組の伊藤の指と繋がってたな」
「あんなでぶちんは眼中にないわいっ!」
水城歌音は校内でも良くも悪くもかなりの有名人だ。
良い意味では、水城は恐ろしく頭の出来がよく、運動神経も並外れてる。
9月にあった前期末テストでは全教科満点をとり、体育ではサッカーをやらせればハットトリックは当たり前。
バスケをやらせれば一試合に五回はダンクシュートか、ハーフラインより後ろからのスリーポイントシュートを決めると聞いたことがある。
ちなみに水城の身長は156センチ。もはや化け物だ。
悪い意味では…普段のこいつはまるでアホ。
常にマイペースで、平気で女子の友達の胸を揉むわ、授業中は音楽聴きながら爆睡するわ、人目をはばかることなくオタクっぽい会話をするわ…変人、という言葉が一番似合う。
しかも何の嫌がらせか、ここ数ヶ月は僕に付きまとってくる。
休み時間は一人でいたい僕にねぇねぇと会話を振り、頭が良いくせにノートを写させろとせがんだり…はっきり言ってしつこい。
さらに、どこぞの団長よろしく曜日によって髪型を変える習慣まであり、月曜日の今日は右側のサイドポニーと決めているようだった(ちなみにおとといの土曜日は左側のサイドポニー)。
これで不細工なら誰も見向きもしない、痛いヤツで終わりなのだが…残念なことに、水城はかなりの美少女と名高いのだ。風の噂によると、高校で告白された回数は50回にも昇るらしい。
だが水城は誰かと付き合っているようには見えない。全部フッたのだろうか?
「! …ねぇ真司。休み中、女の子と会ったりした?」と水城がいきなり尋ねてきた。
のえるの事を言ってるのか? なんて鼻の効く奴だ。だが僕は、
「アンタには関係ないだろう」と答えた。
「っ…! なによ、真司のばか! 私はねぇ…真司が心配なのよ!?」
「何がどう心配なのか知らんが、心配ならまずわめくのをやめてくれ」
「…ばか! もう知らない!」水城は僕を置いてさっさと階段を登っていった。…あんな水城は始めて見た気がする。
しかし当たり前というか、電車はすぐには来ず、僕は余裕で水城に追いついてしまった。
水城はむすっ、とした顔で黙っている。触らぬ神に祟りなし、僕は何も言わないことにした。
『間もなく、一番線に準急、○○行き電車が参ります…』
アナウンスが電車の到着を告げ、すぐに電車は僕らの目の前にやってきた。
車内は人が溢れんばかりで、すし詰め状態だ。僕は押し負けないようになんとか電車に乗り込む。水城は無言で僕の隣に来た。
扉が閉まり、電車が動き出す。初速の反動で大きく揺られるが、加速するにつれてバランスも安定してくる。
水城は未だに沈黙している。普段なら、何が面白いのか僕の顔をじっ、と見てるのに今日は見向きもしない。
それは"普通"のことなのに、普段から水城の奇行に慣れつつある僕にしてみれば不気味としか言いようがない。
僕は顔色を窺おうと、水城の方をちらっ、と見た。
……目を閉じて、なにかを我慢しているような顔をしている。肩が震えてる…? まさか!
僕はそうっと水城の後方を見てみた。そこに立っているのはスーツを着た中年の男性。
その男の手元を見てみた。すると…水城のスカートがはた目にはわからない程度にめくれているのに気づいた。耳をすますと、その部分からもぞもぞ、と音がする。
「………しんじぃ…」水城がか細い声で囁いた。それだけで僕のすべき事が決まった。
「おい、おっさん」僕は男の方にさっと向き直り、スカートの中の手を思い切り掴んだ。そのまま上に掲げる。
「朝から痴漢行為を働くとはずいぶんと大層なご身分だな?」
「な、なんだね君は!?」
「痴漢野郎に名乗る名前なんざ、ないな」
「い、言い掛かりはよせ!」そう言いながら男は顔中冷や汗をだらだら流している。
「だ、第一君はいったい何者なんだ! その女の子の知り合いなのか!?」男は歌音を指差して言った。
「ふん…僕は痴漢行為を指摘はしたが、こいつが痴漢に遭ったなんて一言も言ってないぞ。女性なら、あんたの目の前に三人はいるじゃないか」
「あっ、しまっ……ぐぅぅぅ〜〜!」
馬鹿な奴だ。制服が同じだからわかったんだとか、すぐ隣にいたからわかったんだとか言えばよかったものを…。歌音を除いた女性は二人とも私服。おまけに一人はどうやらズボンだ。
それでもこんなブラフにひっかかるのは、この男にやましい所があって、指摘されて焦っていたからに他ならない。
「しんじぃ…ふぇぇぇん…」歌音はとうとう僕にすがりつき、泣き出した。体はまだ震えている。
「大丈夫だ、歌音。僕がついてる」
「しんじ…しんじぃ……ありがとぉ…」
#####
次の駅で降りた僕らはそのまま痴漢野郎を駅員に突き出し、その場で警察を呼んだ。途中、男が何度も「金はやるから離してくれ」と言ってきた。
僕はそれを聞いて蹴り飛ばしたくなったが、ミイラ取りがミイラになりたくもなかったので必死に怒りを堪えた。今は警察が着くのを駅の待合室で待っている状態だ。
歌音はというと、ずっと僕の手にすがりついて泣いていた。僕は心配で歌音を慰めようと声をかけたが、
「大丈夫だよ…真司が守ってくれたから、嬉しいの」と、涙の理由を教えてくれた。
「あの…厄介なことになりましたよ」と、女性の駅員がそっと僕らに話しかけてきた。
「さっきの男…○○党のカタヒラとかいう議員だったんです。しかも、『弁護士を呼べ』と言い張って…多分、金でなかったことにするつもりですよ」
……クズ野郎め。
「そんなことさせるか。…すみません、歌音を少しお願いします」
「え? …は、はぁ」
僕は歌音を駅員に預け、待合室を出て携帯を出し、父さんの会社に電話をかけた。
親に頼るのも情けないが…それほど僕はあの男が許せなかった。
『真司くんですね、お父様に御用でしょうか』
「はい。急いで繋いでほしいのですが」
『かしこまりました』
僕がかけた番号は、以前父さんから教えてもらった、緊急連絡先。
ここに電話をすれば、どんなに忙しくても父さんは出てくれる、そう教えられたのだ。
ただし…緊急時以外の使用は禁止。父さんも、僕はけしてくだらない用事でこの番号を使わないと信じてくれるからこそ、このホットラインを用意してくれたのだ。
『おお、真司。どうした』
「悪い、父さん。…頼みたいことができたんだ」
『…言ってみなさい』
「僕の友人が痴漢を受けた。痴漢をしたのはカタヒラっていう○○党の議員。身元は駅員さんが確認した」
『そして、地位と金でなかったことにしようとしている…そういう事か?』
「…ああ。それをさせない為には、情けないが父さんに頼らざるを得ない」
『情けなくなどはないさ。真司はまずその娘を痴漢から助けたんだろう? 十分だよ。…わかった、父さんに任せなさい』
「…ありがとう。父さん、体に気をつけてな」
『ああ、真司も気をつけてな』
―――通話終了。僕は携帯をしまい、待合室に戻った。
「だから弁護士を呼べと言ってるだろう!? 私はここを動かんぞ!」男はいまだわめきちらしている。
「黙れクズ野郎。呼びたきゃ自分で呼べ」僕は苛立ちをそのまま口にした。
「小僧、私が誰だかわかってんのか!?」
「痴漢して開き直ってるクズの顔なんか知るか」
「貴様…ッ」男は携帯を取りだし、電話をかけた。どうやら弁護士にかけているようだ。
「キミか、実は厄介な事に巻き込まれてな…すぐ××駅に来てくれ。…何、キミ冗談はよしてくれよ。
え…懲戒? 略式で、たった今決定した、って…おいキミ何を言ってるんだ! おい…嘘だろ…」
かちゃん、と携帯が男の手から滑り落ちた。男はさっきまでの開き直りが嘘のようになにかを呟きはじめた
「私は悪くない私は悪くない私は悪くない……」
…気分が悪い。僕は男から目を反らし、歌音のそばへ戻った。
それから10分後、警察が到着した。男を痴漢の現行犯で逮捕、警察官の一人が手錠をかけた。その瞬間、男が弾けたように抵抗を始めた。
「私は悪くない! そうだ、あの女だ! あの小娘が私を誘惑したんだ! 仕方なかったんだ! 離せ、離せえ!」
…僕の怒りは限界に達した。つかつかと男に歩み寄る。拳を握り、男めがけて振り抜こうと…したのだが、
「ぶふぉあッ!」
それよりも早く、歌音のキックが男の顔面に炸裂した。
「ふざけんじゃないわよ…誰が誘惑ですってぇ…!?」歌音は僕の腕を掴み、物凄い事を叫んだ。
「私はねぇ! この桐島真司の事を誰よりも愛してるのよ! あんたなんか…眼中にないわよこの×××野郎!」
もう一発ハイキックが入った。一瞬わけがわからず呆けていた警官が、慌てて間に入って歌音を制す。僕も一緒になって歌音を抑える。
「落ち着け歌音! あの男はどちらにせよ社会的に死んだんだから!」
「真司ぃ…はぁ、はぁ…ひぐっ」
「…おい歌音!」
「あれ…い、きが…?」
…過呼吸だ。
「駅員さん! ビニール袋を!」
「は、はい!」
歌音はなおもひゅうひゅう、と苦しそうにしている。僕の腕を掴む力はばかみたいに強くなってる。
僕も鞄の中を探り、ビニール袋ないし応急処置に使えそうなものを探す。…だが見つからない。
焦りを感じている中、突然腕を強く引っ張られた。
「し、んじ…ごめん……ね…」
歌音は僕の唇を塞いだ。そのまま必死に口呼吸をする。どうやら、ビニール袋の代わりに人口呼吸で代用するつもりのようだ。
よくもまあそんな知識を持っていたな…
「ふーっ…はぁ、はぁ…はぁ…んむっ…」
「っは………おい、もう少しゆっくり息をしろ」
「んっ……はぁ…………はぁ………」
徐々に呼吸が落ち着いてくるのがわかった。歌音の、万力に匹敵する腕の力もだんだんと緩んできた。
「はぁ……はぁ……もう、だいじょうぶ…だよ…」
「…そうか」
「ごめんね…嫌、だった?」落ち着いた歌音は、今度は僕の顔色を気にしながら尋ねてきた。
僕は歌音の唾液で濡れた口元を軽く拭おうとしたのだが、それを聞いてやめた。僕にだってそれくらいの配慮はできる。
「気にするな、案外悪くなかった」
#####
それから約1時間後。男は歌音のキックにより気絶したまま連行された。
僕は学校に今回の顛末を連絡し、そのまま遅刻する旨を伝えた。
伝えた…のだが、僕らはなぜか駅構内のマックにいた。
「どんだけ食う気だ……」机の上にはポテトのLサイズ、バーガー、ドリンクがすべて二つずつ。ちなみにすべて歌音のもの。僕はベーコンポテトパイしか頼んでない。
「だって急いでたから朝ごはん食べてなかったもの。どうせ遅刻するなら腹ごしらえしちゃう」そう言いながらばくばくと食べまくる歌音。
「急いで、って………ん?」
ここで僕はあることに気づいた。僕が改札をくぐったとき、つまり歌音と遭遇した時刻は7時42分。 遅刻するような時間じゃあない。
しかも歌音は毎朝僕とばったり会う。偶然にしては出来すぎだと思ったが…まさか。
「待ってたのか? 僕を」
「………そうだよっ」歌音は顔を真っ赤にしてそう言った。
「毎朝?」
「うん」
「偶然じゃないんだな?」
「うん」
「僕の事愛してるのか?」
「うん………はっ、誘導尋問!?」
「馬鹿だろ」
まったく…どいつもこいつも、簡単に好きだの愛してるだの言いやがって……僕にはわからない。
「むー…そういう真司はどうなのよ? 私の事…どう思ってるの?」
「…わからないんだ」
「…え?」
「僕は生まれてこのかた、誰かを好きになったことがない。理解できないんだ。"好き"という感情が。それに…僕には恋愛なんて無意味だから」
「………どういうこと? 無意味って」
「僕は先天性無精子症だ。だからだよ」
今まで誰にも話さなかったことを、僕は歌音に語り出していた。
「それがわかったのは11歳のとき。僕の父さんも、生まれつき精子を作る機能が弱かったんだ。だからある日、病院に連れてかれて、そう診断された。
でも僕は父さんと違って、弱いどころか…全く"ない"。…僕が生まれたのも、奇跡的だったんだと」
「……ふふっ」
「何がおかしいんだ?」
歌音はうっすらと微笑みながら言った。
「馬鹿だねぇ真司は。子供ができなくたって、好きな人の傍にいられれば幸せなんだよ? …私が教えてあげる。私のこと好きにさせてやるんだから」
「自信満々なんだな」
「それが私の取り柄だもん。それに、真司だって満更でもないんでしょ。だって、さっきからずっと私のこと"歌音"って呼んでるじゃない。
いつもはアンタ、って呼んでるのに」
「………!」
気づかなかった。僕はいったいいつから名前で…?
「私は真司のこと、好きだよ。真司と、ずっと一緒にいたい」
「……わからないよ」
「今はそれでもいいよ。いつか絶対、わからせてあげるから」
歌音はそう言ってにこっ、と微笑みながら、二つ目のバーガーに手をかけた。
#####
結局、学校に着いたのは午後11時ごろになってしまった。
まずは職員室に寄り、教師に事の顛末を報告せねばならない。
「失礼します」と声をかけ、歌音と共に中に入ると、副校長と二、三人の教員がいた。
「君か…」と副校長が口を開いた。僕は歌音に代わり、駅での出来事を、議員の懲戒の件を除いて話した。
「ふむ…わかった。そういうことなら、今回は二人とも公欠扱いにしよう」
「「ありがとうございます」」
ここの副校長は、僕の中学のと比べるとかなり融通がきくと思う。別に、公欠になってもならなくても困らないが…
「さて、もうじき10分休みのチャイムが鳴る。君達も早く教室に行きなさい」
「はい」
副校長に促され、職員室を出る。すると、体育教師で一年生の担当をしているうちの一人である、持田という教師とばったり会った。
「う〜ん? お前さっきの授業、いなかったよな?」
「ええ、色々ありまして」
僕はこの男が、一目見たときから嫌いだった。バスケの授業の事を根に持っている訳じゃない。そもそもバスケの時はもう一人の方の体育教師だ。
この男は嫌に威圧的で、何かと理由をつけては生徒に因縁をつける。やれスカートが短い、男子の癖に髪が長いだの。
そのせいで多数の生徒からは嫌われている。ねちっこい性格から、"ネチ田"というあだ名さえつけられているほどだ。
「女連れで遅刻するたぁ、朝から結構なご身分ですなぁ」
「持田先生! 真司は私を庇ってくれたんです!」
「話は聞かされたよ。ふん、お前もお前だな。痴漢ごときで騒ぎやがって、減るもんじゃないんだし、黙って触らせておけば良かったものを」
…よくわからないが、どうも今日の僕は頭に血が昇りやすいようだ。持田のその言い草に、黙っていることができなくなってしまった。
「痴漢ごときとはなんだ。あんたに、歌音の味わった恐さの10分の1でも理解できるのかよ」
「桐島、口のきき方に気をつけろよ?」
「その言葉、そっくり返してやる。あんたこそ、とても教師とは思えない口のきき方をしてるぜ」
持田の目つきが変わった。なめ回すような視線から一転、僕を厳しく睨みつけてくる。
「教師に刃向かうのか? そんなやせっぽちの、もやしみたいな体で。聞いたぞ? こないだバスケの試合で倒れたんだってな。お前みたいなガキは見ててイライラすんだよ」
「あんたみたいな大人気ない教師よりはましだ」
「は! いいだろう桐島、放課後格技場に来い! 俺が直々に、お前に稽古をつけてやろう。…逃げるなよ?」
そう言うと持田は、来た方向とは反対の方に去っていった。
「真司! 今からでも謝ろうよ!」持田の姿が見えなくなってから、歌音がそう言ってきた。
「こんなの、ただの体罰…ううん、嫌がらせだよ! あいつ柔道の段持ちだよ! 真司が勝てないのわかってて…ボコボコにされるよ!?」
「あれで段持ちかよ。まったく、あんな奴でも段が取れるなんて、日本の国技が聞いて呆れる」
「真司! 私のこと庇ってくれたのは嬉しいけど、そのせいで真司が怪我するなんて…嫌だよ!」歌音は弱冠涙目になっている。…こんな歌音は初めて見る。
僕は歌音の不安を取り除いてやるように、言ってやった。
「僕があんなやつに負けると思うか?」
#####
「聞いたぞ、桐島。お前、ネチ田に喧嘩売ったんだってな?」
「売ってきたのは持田の方からだ」
昼休み。
さっきの一件はすでにクラス中、いや学年中に広まってしまっていた。おかげで僕は休み時間中、色々な奴に話し掛けられている。正直、鬱陶しい。
歌音には、適当な場所で人目につかないように時間を潰すように言っておいた。いつものように僕に付きまとえば、間違いなく好奇の視線を寄せられるからだ。…世話焼き? ほっとけ。
「大丈夫なのかよ? 以前他のクラスで似たようなことがあって、体罰とか稽古とかいってこっぴどくやられた奴がいたらしいぞ。ましてお前、バスケで倒れるくらいだし」
「………バスケの件は思い出したくないんだ、話題にしないでくれ」
「ねえ桐島くん」一人の女子生徒が割り込んできた。
「あれ本当なの? その…歌音ちゃんが痴漢に、って」
「僕は眠い。おやすみ、話しかけるな」
僕は女子生徒を無視して、机につっ伏した恰好で寝たふりをした。拒絶のポーズだ。
まったく…どいつもこいつも、本当に暇人だな。
しかし僕の席の前に立っている生徒二人はおかまいなしで喋る。
「でも珍しいわよね。いつも我関せず、な桐島くんが歌音ちゃんをかばうなんて。しかも痴漢とネチ田と、二回も」
「ああ、そういやそうだな。桐島、ここ最近水城にかなり気に入られてたみたいだし…情がわいたのかもな」
「かっこいとこあるじゃん、桐島くん。ルックスもいいんだし、もちっとアクティブになればモテるのに」
こいつら、人が寝てる(ふりだが)のにお構いなしでぺちゃくちゃと………
今日の夕飯でも考えよう。そうだな…昨日買った合挽肉でハンバーグ、付け合わせは……
そんなこんなで6時限目まで終わり、あっという間に放課後を迎えた。
僕はクラスメイトに絡まれる前にさっさと鞄を持ち、教室を出た。
「真司!」…歌音が教室から飛び出して僕の名を叫んだ。
「やめようよ! 真司怪我するよ!? 相手はネチ田だよ、逃げたって誰も馬鹿になんかしない…ううん、私がさせないから!」
歌音はわかってるのだろうか…いや、わかってないな。普段からマイペースなあいつが、まさか教室内でみんながダンボ耳になってる事に気づくわけないか。
「はぁ……」僕はため息をつき、投げやりに言った。
「何言ってる、僕が怪我をするわけないだろう。僕はただ持田に、"稽古をとってもらう"だけなんだからな」
……瞬間、教室から凄まじい歓声が響いたのは言うまでもない。
格技場。床には発泡体入り軽量畳が一面に敷き詰められている。
この高校には格技場を使う授業はなく、柔道部があるだけだ。だから、フローリングがあらわになることは滅多にない。
持田はジャージ姿で格技場の真ん中にいた。
「桐島、格技場に入るときは一礼しろと教わらなかったか?」
「僕は武道をやりにきた訳じゃない」
「減らず口を…お前は上にいる者に対しての礼節を欠いているな。俺が叩き直してやる」
持田はさっ、と僕の前に立ち、右手で僕の制服の袖を、左手で襟元を掴んだ。いきなり投げ飛ばす気だ。
「ふんっ!」持田は僕に対し、いきなり大腰を決めてきた。僕はとっさにばしん、と受け身をとる。
「ほお、受け身の取り方は知っていたか。だがまだこんなものじゃないぞ? 七組の松本は痣だらけになるまでしごいてやった。お前も、同じようにしてやるよ」
松本。その名前は知っていた。
松本は図書委員で部活には入っておらず、ひょろい訳ではないがスポーツマンでもない、ごく普通の生徒だ。中学時代は卓球部で、柔道の体験談は聞いたことがない。
なぜそこまで知っているかというと…僕も図書委員だからだ。
まさかど素人に対してそこまでしていたとは…歌音の言う通り、これは理不尽な体罰、嫌がらせ。ならば…手加減は無用だ。
入口付近が妙に騒がしい。どうやら、野次馬が何人も覗き見てるようだ。
松本の時はここまで大騒ぎにならなかったと記憶しているが…これは僕、というより歌音の影響だろう。
さっきは鬱陶しかったが、僕はこれを待っていた。言い換えれば、彼らは証人になり得るのだ。
僕はハネ起きで畳から立ち上がり、持田に向き直った。
「じゃ…先生には稽古に付き合ってもらいます」
次の瞬間、持田は宙を舞っていた。
「え…!?」
どさっ、と大きな音がする。僕は、後頭部から落ちるように持田を投げたのだ。
「あれ、先生。受け身もとれないんですか。…それで有段者ですか?」
「ぐ…桐島ァ!」
普通なら気を失ってもいいのだが畳に救われたようで、持田は再び立ち上がり僕に突進してきた。
よく言うだろう。冷静さを欠いた獣はタチが悪い、と。だが、持田が冷静さを失うのはむしろ好都合だった。
失えば失うほど、スキだらけになるからだ。
僕はつかみ掛かってきた持田を軽くあしらい、また投げる。
それでも持田は立ち上がる。そのたびに投げる。はたから見れば、お手玉をとっているようだ。
「畜生!」持田はついに柔道をやめ、僕に拳を放った。だが僕はあえて避けない。
拳が触れる瞬間、衝撃をやわらげる為に体を引きながら右頬に拳を受けた。
僕は大袈裟に吹き飛び、倒れる。歯は大丈夫だが…さすがに痛い。だが、痣は確実にできただろう。柔道ではつくはずのない痣が。
「ふは、ははははは…大人に逆らうからこうなるんだよ!」持田はゆっくりと歩みよりながら言う。
目的は果たした。あとは持田に眠ってもらおう。僕は再びハネ起きをして立ち上がる。
「何!?」
油断した持田の懐に入り込み、そのまま素早く投げ飛ばす。さっきまでよりも、高く。…ここまで投げ甲斐のない奴は初めてだ。
「あーっ、すいません!」畳にたたき付けられた持田。僕は投げた勢いを利用して跳び上がり、持田の鳩尾に肘を叩き込んだ。
ばきっ、と音がした。持田はぐふっ、と情けない声を出し、泡を吹いて気絶した。
「すいません、僕素人だから"うっかり"肘入っちゃいました! ほんとすいません!」野次馬どもにもよく聞こえるように大声で叫んだ。
格技場の扉が派手に開かれた。野次馬(主にクラスメイト)が一斉に道場まで押し寄せる。
(すげぇ…あのネチ田を倒しやがった)
(しかも"うっかり"とか…白々しいな)
(あのネチ田が一方的にやられてたぞ。しかも桐島、ご丁寧に顔に痣まで作って、抜け目なく被害者になってるな)
(こりゃー、ネチ田もクビか? 松本のこともあるし)
(…お、お姫様のご到着だぜ)
「真司!」歌音が野次馬を割って、道場に入ってきた。
「その顔…っ、大丈夫!?」
「持田に殴られてな。けど大丈夫だ」
「もっ…ばかぁ!」
歌音は僕に強く抱きついてきた。瞳からは大粒の涙を流している。
「ばか…心配したんだから………ぐすっ…ふぇーん…」
「…すまないな」僕は歌音の頭をぽんぽん、となだめるように軽く叩いた。
イヤッホー! と野次馬が騒ぎ出した。ヒューヒュー、と口笛を吹いたり、拍手をしだしたり…やかましい!
その後、持田は気絶したまま保健室に運ばれた。僕は顔の痣の診察を勤務医に受け、「激情した持田に殴られた」と話した。その後、診断つきで担任にも報告。
この点に関しては圧倒的な目撃者数、証言があり、疑う余地なしとされた。
持田が寝ている間に事態は校長にまで報告され、持田が不在のまま職員会議にまで発展したらしい。…ただでは済まないだろう。
すべてが一段落ついた頃には、もう日が暮れていた。
僕は今、歌音と一緒に帰っている。仕方ないんだ…さっきから手を繋いだまま放してくれない。
けど、歌音だけだ。僕がなぜ持田を返り討ちにできたかを尋ねなかったのは。…別に教えてもよかったんだが。
「真司、今日は本当にありがとう」
「…ん?」
「私のこと、ずっと守ってくれたよね。今だって、家まで送ってくれてるし」
「アンタの家が僕の家の近くだからだろ、たまたまだ。まったく…駅から歩いて10分だなんて。方角も同じだし、僕の家の目と鼻の先じゃないか」
「素直じゃないなあ…まあ、そういうところも大好きだよ?」
「……………そうかい」
…のえるもまったく同じ事を言っていたな。やはり、二人は本当に僕を好きなのか。
できれば教えてほしいよ、あんたらの精神構造を。いくら考えても、その感情が理解できないんだ。
ただ…さっきクラスメイトにこう聞かれたとき、僕は回答に迷ってしまった。
『どうして歌音ちゃんを守ろうとしたの?』
わからない。ただ、無性にいらついたんだ。あの痴漢と、持田が。気がついたら行動していた。まるで、のえるを拾った時のように。
本当に……僕は何がしたいんだ。
第3話終了です。
>109-115 タイトル抜けてますが入力忘れです。
続いて、間隙話投下します。
月曜日は右側のサイドポニー。
火曜日はツインテール。
水曜日は三つ編みおさげ。
木曜日はベーシックなポニーテール。
金曜日はふわふわカール。
土曜日は左側のサイドポニー。
それが私の知る水城 歌音だ。
初めて出会ったのは入学式の日…当たり前か。
入学式のあとのホームルームが終わり、教室を去っていくクラスメイト。だけど一人、ポニーテールの女の子が私のもとへやってきた。
「あ、理遠ちゃんだよね! かわいい〜!」
それを聞いて私は驚きを隠せなかった。
なぜなら私の名前は"秋津 理緒"だからだ。理緒と理遠、似ているが違う。間違えたのかな?
…突然、胸を鷲づかみにされた。
「う〜ん…91! 理遠ちゃん、控えめな性格なんだね。みんなは82って思ってるけど」
「ちょ…なんなんですか!?」
「私? 私は水城歌音っていうの。よろしくね、理遠ちゃん」
あまりに一方的な会話。私は、困惑はもちろん憤りすら感じていた。
けれど、次のひとことでそれらの感情は消し飛んだ。
「1stシングルの頃から理遠ちゃんのファンなの。会えて嬉しかったよー!」
むしろ、びっくりした。この"私"を一発で見抜くなんて。この娘…何者なの。
#####
私の名前は秋津 理緒。またの名を、秋山 理遠。中学時代にアイドルユニットへのスカウトを受けたがイマイチ性に合わず、マネージャーも常々そう思っていたのか…私はスカウトから一年後にユニットを抜け、ソロデビューさせられた。
結果、その判断は正しかったらしい。ユニットを組んでいたときは私の人気はパッとしなかったのに、打って変わってうなぎ登り。
1stシングルを聞いて、とある大物作家が制曲を引き受けてくれたりと、自分でも驚くことばかりだった。
だが私は日常下では、ひたすら正体を隠すことに専念した。
理遠のときはショートカットにコンタクトレンズ、少々ボディラインの目立つ衣装。理緒のときは長いかつらをつけ、眼鏡をかけ、制服を"地味に"着る。案外これだけでばれないものだ。
メイクもしてないし、それで中学時代は乗り切った。けど、こうもあっさりと見抜かれるとはねー…甘かったかしら。
5月の晴れた日。歌音ちゃんは相も変わらずマイペースだ。
歌音ちゃんは早くも大勢の女子と打ち解けていた。マジメ系、オタク系、ギャル系…それら異種文化が歌音ちゃんを中心に混在する図は想像したくないが、だいたいそんな感じなのだ。
しかも、男子にもかなり人気が高い。
限りなくマイペースだが気さくな性格、間違いなく美少女の部類に入るだろう容姿、運動神経抜群。女子からの人気も相当高く、歌音ちゃん限定の百合っ娘もちらほらといるらしい。
そんな歌音ちゃんだが、今日も私に話しかける。
「おはよー理緒ちゃん!」
「あ…おはよう」
歌音ちゃんはツインテールをぴょこぴょこさせている。
なぜか、歌音ちゃんが私を理遠、と呼んだのは入学式の日だけだった。次の日からは一転し、"理遠"の一面にはまったく触れなくなった。
弱みでも握ったつもりか、と最初は思ったけど…歌音ちゃんを見ているうちに「それはないな」と思うようになった。正体も、歌音ちゃん以外知らないみたいだし。
そして…なぜか歌音ちゃんは、週に一回必ずラーメン屋に私を連れていく。決まって火曜日、ツインテールの日にだ。もちろん、今日も例外ではなかった。
歌音ちゃん行きつけのラーメン屋は今日で6回目だ。塩、醤油、味噌、湯麺、サンマー麺…残る豚骨を食べれば全種制覇になる。
味は、とても美味しい。正直…最初に来たときは、こんなに美味いラーメンは初めて食べた、と思った。
今日頼んだ豚骨も同じ。豚骨といえば脂っぽいとかクセがあるというイメージだが、この店の豚骨は真逆。白湯、というものに近いらしい。さっぱりとした味わいで、しかし味はばっちりついている、不思議なラーメンだった。…ごめん、うまく表現できない。
「理緒ちゃんは食べっぷりいいねー」
「歌音ちゃんこそ。さすがに私はチャーシュー丼までは入らないわよ」
私が丼を抱えてスープを飲み干そうとしている時、歌音ちゃんはすでに味噌ラーメンとチャーシュー丼を食べ終えていた。…男子並に早いんじゃないの?
#####
雨が続く6月。今日の歌音ちゃんは三つ編みおさげ髪だ。
私たちはカラオケボックスに来ていた。もちろん…歌音ちゃんの誘いで。
ここのところ新曲のレコーディングで忙しかったが、たまには息抜きも必要だろう。自分へのご褒美だ。
私は実は、カラオケに来たことが一度もない。けれど、一応唄える曲はある…と思う。自分の歌以外でね。
「あおくーすんだめーにうーk」
「こら、まだ売ってないでしょその曲」
てへっ、と笑いながら歌音ちゃんは曲を次々と入れていく。私も、適当に数曲入れる。予約欄には20曲近く入れられた。
歌音ちゃんが最初に歌ったのは…
「あまぎぃぃぃぃぃぃーごぉえぇぇぇぇぇー」
…全体的に見ると歌音ちゃんは、ミズキナナというアニソン歌手が好きなようだ。天城越えも、その一端らしい。他は…アニソンばっかり。
しかも、抜群に上手い。本人越えてるんじゃね? と思ったのは一度や二度じゃない。まああんまりアニソンには興味ないから、本人の歌を大して聞いたことないのだが。
私は私で、初めてのカラオケに戸惑いながらも、なんとかキーを探し当てながら歌った。もちろん自分の曲以外。
西川タカノリは私の心の師匠、これは譲れない。
そうしてカラオケタイムは過ぎていった(70%は歌音ちゃんが歌っていたが)。
…ひとつ思った。歌音ちゃんはカラオケで秋山理遠の曲をひとつも歌わなかった。出会った日、大ファンだと言っていたのに…自意識過剰かな、うん。
「いやー、楽しかったね理緒ちゃん。また行こうね?」
「うん。…ねえ歌音ちゃん。前に、"理遠"のファンって言ってたよね」私はそう尋ねた。…自意識過剰って思うかな。軽く後悔。
「そうだよ。私、理遠ちゃんの歌はiPodにも入れないし、カラオケでも歌わないって決めてるの」
「…え、それって」逆じゃない?と言いかけた。だが歌音ちゃんの話はまだ続く。
「大好きだから、冒涜したくないの。音質下げたくないし、安っぽいカラオケの音も耳に入れたくない。奈々さんの曲も好きだけど…私は理遠ちゃんの声が一番好き」
「歌音ちゃん……っ」
「あーもう、泣かないのっ!」
嬉しかった。そこまで好いていてくれたなんて、知らなかった。私は歌音ちゃんに抱きついて、柄にもなくしばらくの間、泣いた。
その間歌音ちゃんは…
「あー、やっぱりいい形してるよねー」
…私の胸を揉んでいた。
#####
変化があったのは9月のとある休日。新曲のレコーディングも一段落ついた私は歌音ちゃんの家に遊びに来ていた。今日の歌音ちゃんは朝から夜までポニテだ。
部屋に入ると、各種TVゲーム機、携帯ゲーム機、24インチTV、オーディオ機器などがずらっと並んでいた。
「いやー最近ヴェスペリアにはまっちゃってねえー。徹夜続きだったんだよー」
「はは…プレイ時間…やば…」
そのゲームのことは詳しく知らなかったが、発売一週間足らずで70時間は多いと思う。一日10時間か?
「さて、何やりたい?」歌音ちゃんはディスクを出し、PS3の電源を落とした。
「…じゃあ、ポケモンで」
私が今日持ってきたのはダイヤモンド。歌音ちゃんはパールを持っていた。早速対戦したが…見事負けてしまった。
なんなのあのガブリアス…私のパーティ6匹全部倒しやがって。
次にやったのはモンハン2G。これでも私は500時間はやっている。
上位クエなら全部やったし、ミラ三種も解禁…おっと失礼、マニアックな話になりすぎたみたい。
だが歌音ちゃんの腕前はハンパなかった。まさか片手剣でG級ティガレックスをああも無惨に倒すとは…。
私がヘビィボウガンで狙撃してる間にティガレックスは尻尾と爪を剥がれ、足を執拗に斬られ何度も転ばされ………
何が言いたいかというと…歌音ちゃんは実はかなりのゲーマー、いや廃人だったのだ。それだけが言いたかったわけ。
「討伐完了…っと。ねえ理緒ちゃん」一息ついた歌音ちゃんが私に話しかけてきた。
「んー?」
「私、好きなひとできちゃった」
「そう……えぇ!?」
だだだだだ、誰!? さすがの私も、頭の中が一瞬でパニックになった。だってあの歌音ちゃんが、超自由人の歌音ちゃんが…えー!?
「うちのクラスの桐島真司くんだよ」
「あの、いっつも一人でいる、暗い男子!? 確かに顔は悪くはないけど…」
「失礼ねー、真司くんは顔だけじゃなくて、心も綺麗だよー?」
…あんた以上に心が綺麗なやつはいないと思うけど。良くも悪くも。
その日私は一晩中桐島くんについての話を聞かされた。
次の日から歌音ちゃんの猛烈アタックが始まった。休み時間中は毎回ねぇねぇと桐島くんに話しかけ、朝から待ち伏せし、休日は偶然を装って会ったりしたらしい。
普通の男なら簡単に堕ちただろう。…私女だけど、あんな素敵な笑顔を毎日向けられたら百合畑の住人になってしまいそう。
けど桐島くんは、ぴくりともしなかった。むしろ、鬱陶しがっていた。まあ…今の彼なら当たり前だろうね。
男子たちも最初は桐島くんを羨んでいたが、あまりに桐島くんがそっけなさすぎるので、そのうちみんなが歌音ちゃんを応援するようになったのは言うまでもない。
#####
だから本当にびっくりした。二人が揃って遅刻してきたときは。
しかも歌音ちゃんを痴漢から守り、ネチ田の嫌味にも食ってかかって歌音ちゃんを庇った、と聞いたときは本当に驚いた。
バスケで倒れて、私と歌音ちゃんに保健室に運ばれたのが嘘みたいだった。
本当に驚くべきは放課後。桐島くんはホームルームが終わるといち早く教室を出ていった。
それを追って、歌音ちゃんも飛び出す。
「やめようよ! 真司怪我するよ!? 相手はネチ田だよ、逃げたって誰も馬鹿になんかしない…ううん、私がさせないから!」
…歌音ちゃんのこんな必死な叫びは初めて聞いた。桐島くんを本気で心配してるんだ。
私同様、クラスのみんなも固唾をのんで二人を見守ってる。
外からさらに声が聞こえてきた。
「何言ってる、僕が怪我をするわけないだろう。僕はただ持田に、"稽古をとってもらう"だけなんだからな」
―――呆れた。なんなの、その自信に満ちた声は。瞬間、クラス中が凄まじい声援で湧いた。
全てにけりが着いたのは午後5時。
結局桐島くんは、ネチ田をお手玉にした挙句事故を装って鳩尾に肘打ちをキメた。勝ったのだ。
しかも、桐島くんの顔には痣ができている。殴られたんだとひと目でわかる。みんなが見たままを証言すれば疑いの余地はないだろう…策士だ。
歌音ちゃんは桐島くんを保健室に連れていった。ネチ田は…やだ怖い。だれか運んどいてよ。私保健委員だけど。
その後は事情聴取…クラスのみんなは"見たまま"を先生に話した。"ど素人の"桐島くんに投げられ、激情したネチ田が顔を殴り…そのあと稽古中にうっかり肘が入った、と。
まあ、プロのくせにかわせなかったネチ田が悪い、と証言したのだ。誰一人として、ネチ田を庇わなかった。…かかと落としは無理があると思うんだけど。
歌音ちゃんが聴取を受け、桐島くんがひとりで(厳密には囲まれて根掘り葉掘り聞かれてるが)いるうちに私はどうしても聞きたいことがあった。
「どうして歌音ちゃんを守ろうとしたの?」
…桐島くんは数秒悩み、こう答えた。
「わからない。ただ…我慢できなかったんだ。多分守ろうとしたわけじゃない。結果的にそうなっただけだ」
「………そう」
決まりだ。
良かったね歌音ちゃん、あんたたち両想いだよ。だってあの桐島くんが。
面倒なことに首を突っ込みたがらない桐島くんが"我慢できなかった"んだもの。そりゃそうだよね。
好きな人が目の前で傷つけられて我慢できるやつなんかいない。だから桐島くんは………
後日、桐島くんは非公式イケメン番付(早い話、女子からの人気具合)でトップに立った。
投下終了です。
gj!
ところで無精子症ってオナニーどうするんだろう?
GJです!
>>131 『それ』らしいモノは出るけど、妊娠させることはできないとか聞いたような気がする。
間違ってるかも…。
GJ!!
>>132 精通がまだの小学生と同じ…かもしくは
>>133の言うようにカウパーみたいなのが出るんじゃない?
135 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 22:05:26 ID:hcnwwmnH
137 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 22:45:26 ID:hcnwwmnH
続き投稿します
大量にばら撒かれた黒髪をまとめてゴミ袋に詰めて、校内のゴミ捨て場に放り込み、木村千華を連れて自宅へ向かうことになった。
床には彼女が使ったらしい普通の文房具である鋏が転がっていて、これで切ったなら髪も痛むに決まっていた。
わかった、という短い返答以外、彼女からの意思表示は特になく、やっぱり何を考えているかはいまいちわからなかったが、素直についてきてくれるようだった。別に投げやりになっているわけではなさそう、と思う。
そもそもが素直な性格なのではないだろうか。ゴミ袋を探してくるから、箒でまとめておいてくれと言って一旦教室を離れて、戻ってくるとこれがまた鮮やかにまとめられていて、後はちりとりでゴミ袋に詰め込むだけという状態だった。
嫌いになって切った髪の後始末に、思うところはきっとあるはずだ。それでも、片付けようというこちらの言葉に誠実に応える姿は、自分勝手や我儘といったものからは遠い。
無口で無表情でも、実は気性が激しかったりしても、他人を拒絶しているわけではないのだ。声を掛けられたら、相手の名前を呼ぶくらいには。クラスメイトの名前を覚えているくらいには。
髪を切った理由を聞こうかどうか、ずっと迷っていた。本音を言えば、かなり知りたい。果たしてどんな理由で、あの拘りの黒髪を切ることになったのか。
でもそれは、もっと彼女が落ち着いてからでもいいと思った。そのうち、ゆっくりと話してくれたらいい。今は、ぼさぼさになってしまったその髪を整えて、それでまあ、少し親しくなれたらそれでいい。
大須賀理髪店は、おそらく木村千華の自宅と高校を直線で結ぶ延長線上にあると思われる。通学に使っているバスが同じだからだ。
当然推測である。要は毎朝乗ってくるバス停から、通っていただろう中学が隣の学校であることと、その辺りに住んでいることくらいは想像できるということだ。
彼女が普段使うバス停を二つ過ぎて降りて、先導しながら自宅へ向かう。ここまで会話らしい会話は一切していない。
明るく話題を振ってくる木村千華というのも想像できないので、こっちから何かしら声をかけたほうがいいかな、と考えつつ、どうにも思いつかないまま自宅に辿り着くこととなった。
明かりの消えた店内へ勝手に入り、照明をつける。
幼い頃から見慣れた、両親の仕事場。そして自分自身もまた、それを仕事にしようと手をつけて、もう三年ほどになっていた。
「適当に座っててくれ。準備するからさ」
入口で立ち止まって、物珍しげに見渡す木村千華に声を掛ける。髪をほとんど切ってないだろうから、床屋にはあまり縁がない子なのだ。
それじゃあ美容室なんかに通っていたわけでもないのか。それは少し、いやかなり意外な事実かもしれない。
彼女は自身から見て、一番近い理容椅子に腰掛けた。目の前の大きな鏡を通して、彼女の視線と目が合う。まあ見つめ合っていても準備できないので、受け取っていた上着をハンガーに掛け、さっさと梳き鋏を取り出して、刈布を持って彼女の髪を整えることにした。
「なあ、俺が髪触ってもいいのか?」
授業中にそうであるように、背筋を伸ばして座る木村千華。刈布を被せ、手洗いを済ませる間、ついに聞きたいことの一つを聞いた。
彼女は髪に拘りを持っていて、それをほんの少し前に衝動的に切り落としたのだ。もう愛着がないのかどうかもわかっていないし、他人が気安く触っていいものか確認したほうがいいと思った。
後ろに立っていても目が合う鏡越しに、彼女は頷いて、そして静かに目を瞑る。
遠慮はいらなさそうだった。鋏を構えて、彼女の髪に触れる。
指の上を流れる綺麗な黒髪は、思っていた以上に柔らかくて、彼女の髪を梳いている間、久々に何の雑念もなく集中していたと思う。綺麗な髪に触れていると意欲が出るという、それ自体を雑念と呼ばれてしまえば反論できない気もするが。
梳き終って時計を見れば、午後九時半を過ぎていた。
「……やべえ」
思わず口に出た。こんな時間まで女の子を拘束してしまった。身の回りにそういうことを気にする連中がいないせいで、完全に失念していたが、そもそも学校にいた時点ですでに夜だったのだ。
「木村、親とか大丈夫か、こんな時間まで」
刈布を振って髪を床に落とし、立ち上がった彼女の制服をはたきで払う。上着を取ろうと背を向けると、返答があった。
「大丈夫。心配なんてされない」
まあ、うちの両親も息子の心配などした例はない。こうして仕事場を勝手に使っていても何も言わないし、丸一日までは連絡がなくても放っておかれる。二日目になって初めてメールが来る。
木村千華の親子関係がどうなのかも興味なくはないが、今は彼女が家族に叱られるようなことにならなければそれでいい。しかし、いきなり短い髪で帰宅するのだから、そこは問題だったりしないのだろうか。
上着を渡そうとすると、木村千華がこっちを見ていないことに気付いた。
じっと鏡を覗き込んでいる。見ているのは、自身の髪だ。耳が見えるほど短くなったが、ぼさぼさだったさっきまでとは違い、短くはなったが、流れるような黒髪が復活していた。我ながら、なかなかの仕事ぶりと言える。
見つめるその表情に、嫌いになったから、と俯いたときのような暗さはない。純粋に驚いているように見えた。
「短い髪はどうよ?」
長い髪が嫌いになっても、髪そのものは嫌いにならないでほしかった。せっかくこんな綺麗な髪をしているのだ。
「凄く、新鮮な気持ち」
こちらに向き直った彼女は、少し笑ったようだった。
一人で帰らせるわけにはいかず、彼女を送ることにする。
バス停で二つ。歩けない距離ではないので、徒歩で帰宅すると言う彼女を少し前に、夜の住宅街を歩く。身長の低い彼女の歩幅は小さいので、ゆっくりとしたペースだった。
彼女の自宅は、やはり隣の中学の通学区域内にあった。ちょっと大きめの公園がすぐ傍にある、至って普通の一戸建。
外灯のついた玄関の前で、木村千華がくるりと向きを変える。
「今日は、ありがとう」
今までと変わらない、よく見る彼女の無感情な表情だったので、お礼を言われた事実に、かなり驚いた顔を返したと思う。多分、その表情を見たから、彼女はそこで少し笑った。今度は、はっきり笑顔とわかるそれだった。
「少し、楽になったよ。理由も聞かないでいてくれて。こんな風に誰かに優しくされたのは、初めて」
「いやそれは、なによりだけど」
こんな直接的に感謝を伝えられると、照れる以外にできることなんてないだろう。
「また明日、学校で」
「ああ。またな」
軽く手を振って、彼女と別れた。
自宅の方向へ歩き出してから、携帯を取り出して時間を確認すると、午後十時。寝るまでに何かできるような時間はなさそうだった。
無表情で無愛想だと思っていた木村千華は、意外と感情の起伏がある奴だということを知った。
素直で誠実な性格をしているらしいこと、気性はおそらく相当に激しいことも知った。何を考えているのかはやっぱりよくわからないし、個性的な子だという感想は変わらないままだが。
まあなんというか、彼女に言われた感謝の言葉に、寝るまで顔を火照らせてしまうことになったのだった。
投稿終わります
続きはまた今度
GJ
ただ、題名つけてほしいんだな。
桐島なんたらってやつなんか読んでて恥ずかしくなった
あとはよしなに
ヤンデレが包丁を持って女さんの前に立ちふさがった。
目が座っているし、包丁を持つ手は強くその柄を握っているところから、殺す気なのは間違いない。
逃げようとする女さんを壁際に追い込んだ。
友「修羅場だな」
男「ところで友、この後どういう結末になると思うよ?」
友「え……そりゃ決まってんじゃん」
男「僕は女が殺られる方に、ベーコンエピ1個」
友「あ! ズリーぞ、どう考えたって、女さんが殺される展開しか残ってねーじゃん!」
男「絶望的状況か?」
友「ああ! ヤンデレゲーを極めた俺の考察に死角はない」
男「じゃあ、僕は女が死なない方に、焼きそばパンとメロンパンを賭ける」
友「よし、俺は死ぬほうに」
男「分かったよ。そろそろ、頃合だな、女を助けに行くぞ!」
友「ちょ、待て! それはないぞ!」
あの画像のネタか(笑)懐かしいな
第三話 3レス消費
明が目を覚ましたのはそれから二時間後のことだった。
窓の外は既に真っ暗だ。
場所は全く知らないどこかの和室。律の家だろうか。
明は布団をごそごそと抜け出した。暖房が効いていて暖かい。
「すいません。」
声を上げてみる。襖の向こうに誰かいる気配は無い。
とは言え、他人の家だ。勝手はできない。
「律さん、いる?」
再び声をかけると、向こうから「すぐ行く」と返事が。
階上から、階段を下りる音が聞こえる。
襖を開けたのはやはり律だった。
「起きたか。喫茶店で突然倒れるなんて驚いたぞ。」
不安そうな顔で腰を下ろす律を見ると、明はなぜか頭痛を感じた。
『そうだ。俺は喫茶店で律と話してて・・・、なんだっけ、何かあった気が。』
「うっっ・・・。ごめん、律さん。俺なんだかよく分かんないけど・・・。」
事情を尋ねようと声を上げた途端になぜか律に遮られる。
「大丈夫だ。店で何かあったわけじゃない。ただ君の体は心配だな。」
すこし強引な律に違和感を感じるが、思考がまとまらない。
「本当に?俺、ちょっと思い出せな・・・。」
「大丈夫だ。言っただろう。それより突然倒れたりして本当に大丈夫なのか?」
「私は明の体調のほうがよっぽど心配なんだが・・・。」
どうやら店のことは話したくないようだ。
思い出せない以上仕方ない、と諦めると明は笑顔で答えた。
「いや、大丈夫だよ。なんだか気分が悪くなったみたいだけど、今は全然。」
そう言うと、律もやっと安心したようだった。
「良かった・・・。」と言いながら顔を綻ばせている。
「大げさだよ。ちょっと気を失ったくらいさ。」
「何を言ってるんだ。大病なのかと本当に心配したんだぞ。」
いつもの凛とした表情でオーバーに言うので、すこし笑ってしまう。
すると、律は困ったような顔で言うのだった。
「私は明の恋人だからな。君のことを心配するのは当たり前だ。」
「うん、ありがとう。心配かけてごめんな。」
まったくだ、という律をみて明は何となく彼女をすこし理解できた気になった。
幸せ、とはこういう気分だろうか。
※※※※
その内、何かを取りに律は部屋を出て行った。
身体が心配だから動くなと明に言いつけ襖をしっかりと閉めていく。
『汚れているのだろうか、気にしないのに・・・』
そして、律の先ほどの可愛らしさと告白の時の迫力を思い出していた。
確かに律の明への態度には異常なくらい変動があるのだ。
好きだから、とかいう理由で説明がつくのか、明には分からなかった。
眠りすぎたからだろうか、さっきから思考がうまくまとまらないのだ。
ぼんやりしていると、律が戻ってきた。持ってきたのは鍋と茶碗。
来たときと同じく、襖をしっかり閉めている。
さっきと同位置に座る律の頬は、なぜか少し赤みくなっていた。
『可愛いなあ』などと思っていると、差し出されるレンゲ。
「中華粥だ。元気が出るぞ。」
そう言って律は二人の前に置いた鍋から粥を茶碗に盛り付ける。
しょうがの、食欲をそそる良い香りがしてきた。
「じゃあ、いただきます。ほら、明も。」
あまりに自然な流れで、明もつられてしまう。
「あ、うん。いただきます。」
口に含むと、ごま油の風味が広がる。
続いて海老のプリッとした食感。海鮮粥だ。
しかし、それだけではない、何か独特のコクがある。
「あ、おいしい。」
「ふふ、そうだろう。私の特製だ。」
律も心底嬉しそうな顔をする。見ているほうも満たされるような笑顔だ。
料理の上手さに脱帽しながら、食べていると明は大事なことに気付いた。
「あ、そうだ家に連絡・・・。」
なぜだろうか、完全に忘れていた。明は慌てたが、律は落ち着いている。
「もう連絡しておいたぞ。寝ている間に携帯を見させてもらった。すまない。」
「いや、俺が助けてもらったんだしいいよ。ありがとう。」
「ふふ。ご家族も心配していたからな。後で電話するといい。」
「うん。」
※※※※
食後、明は律とくつろいでいた。
本当は食後に帰る予定だったのだが、律に引き止められたのだ。
家に電話してみると、なんだか変な声で「泊まってらっしゃい」と言われる始末。
幸い、明日は日曜日。昼のこともあるし、明は泊まっていくことにした。
「話したいことがある」と律は言っていた。
それで二人でソファに座り、テレビを見ている。
律は学校で見た事が無いような、甘えた雰囲気だった。
しなだれかかり、何かせがむような目で時おり明を見つめる。
明の緊張が最高潮に達した頃、律が切り出した。
「なあ、明。君が聞いてたことだが。」
「なんで私が明を好きになったのか知りたがっていたな?」
下から見上げるような視線で尋ねる律の表情に明の顔は熱くなった。
「うん。なんで?」
落ち着いた風を装って答える。
「それはな。この前の始業式の時だ。」
律によると始業式の日の小さな騒動がきっかけだという。
教師がペットボトルジュースを式場で見つけて、明たちのクラスを疑った。
そのとき、誰も出てこないのに痺れを切らした明が名乗り出たのだ。
教師はあからさまに明の告白を疑問視したが、それでも仕方なく明を叱った。
何とそれは律のボトルだったのだという。
式の用意が忙しく、うっかり持ってきてしまったそうだ。
片づけを手伝っていた律はその場におらず、後で事情を聞いた。
普段から素直さや自らの正しさを全うする律は、明の行動に衝撃を受けた。
なぜやってもいない罪をやったと言えるのか。
しかもずっと待たされるのが面倒だという理由だけで。
律は石堂明という人間を不思議に思うと同時に心惹かれた。
「もしかしたら、君の打算の無さに惹かれたのかもしれない。」
「私を捨てた両親は打算しかない人間だったし。私は人間不信なんだ。」
「クラスメート達もそうだ。みんな浅い計算で動いてる。」
「でも、君だけは。君だけは違うと、そう思えたんだ。」
話し終えると律は明にキスをせがんだ。
「明・・・キス、してほしい。」
キスをする間も、律はうわごとのように呟き続けた。
「・・・はぁ、・・・君を、ンム、石堂明を愛したい。」
「生きていて、ンン、はじめて、チュッ・・・なんだ。」
どんどんキスは深くなっていく。
「・・・つっ・・・はぁ・・・抱いて、くれ。明・・・。」
そう言いながら律は明の首筋に甘噛みする。
ぐるぐると回る思考のなかで、明はそんな律を抱き寄せた。
気がつけば二人とも裸になってしまっている。
律が明の全身に噛み付くようなキスをしてくる。首筋から出血。
あまり豊かではない胸をギリギリと押し付けてくる。
全身をこすりつけ、噛みつき、爪をたて、体液をなすりあった。
やがて律が凄絶に身体を震わせて気絶するのを見た直後、明も意識を飛ばした。
※※※※
投下終了
155 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 23:22:27 ID:qnIA3PVc
主に 得た
みんあGJ
>>157 焦ってレスすると見苦しいですよキチガイさん^^;
素直クールにツンデレとはツボを心得てやがるぜ…
>>159 ヤンデレに訂正
あと最も大切な一言を忘れてた
GJ!
香草さんまだなのか
傍観者はやくきてくれー
あの兄貴は今頃、ユニコーンでも観てるんかな…。
真夜中のよづりをずっと待ってます
>>164 作者のサイトの更新が10月で止まってるから、生存が心配。
全員しね
お兄ちゃんに近づく奴は
妹、お姉ちゃんは今とっても悲しんでるんだよ
あれだけ弟君は私のだと言って聞かせたのに
兄さん、ああ兄さん
好きだよ。愛しているよ
いいや、好きや愛してるだけで言い表せられるものじゃない
海よりも深く?山よりも高く?そんなものじゃない
こんな言葉じゃ表現出来ないほどに僕は兄さんを愛しているんだ
僕が生まれて十数年、兄さんはずっと僕を助けてくれたよね
怪我した時も虐められた時も母さんや父さんが事故で死んじゃった時だって
兄さんはいつだって僕の味方をして励ましてくれた
僕はそれに感謝つくしても足りない位兄さんには感謝してるよ
本当に嬉しかったし、心強かったよ
僕は独りじゃないって教えてくれたもんね
とはいっても、それが原因で好きになった訳じゃない
元から兄さんの事は大好きだったけど、あの事があったからより兄さんへの愛が深まったんだ
なんで好きになったかなんて覚えていない
でも物心がついた時からずっと兄さんの事を考えていたのははっきり覚えている
僕がこんなに兄さんの事を愛しているんだ
兄さんだって僕の事を愛しているだろう?当然だよね
愛しているから助けてくれたんだろう?
好きでもない奴の事なんかは放って置くものな
僕達は相思相愛なんだよ
血の繋がりだってあるんだ
僕達なら世界一のベストカップルになれるよ
法律や世間なんてどうでもいいよね
僕には兄さんさえいればそれでいいんだ
兄さんだって僕さえいればそれでいいよね
だからさあ兄さん。ねえ兄さん
あんな女と付き合うだなんて冗談を言うのはやめてよ
なんであんなのの方がいいのかな
だってあの女なんかよりも僕の方がずっと兄さんと一緒にいた時間が長いんだよ
僕が兄さんの事1番分かってるんだよ
兄さんが僕の事1番分かってるんだよ
僕はずっと兄さんを想って努力してきた
兄さんの好きな髪型、兄さんの好きな体型、兄さんの好きな性格、喋り方、特技嗜好趣味
なんだって兄さんの理想どおりのはずだよ
ほら兄さん、ポニーテール、好きだよね
ほら兄さん、痩せすぎず太りすぎずのDカップ、好きだよね
ほら兄さん、男勝りだけど時々か弱い性格、好きだよね
ほら兄さん、男の子っぽい喋り方の女の子、好きだよね
ほら兄さん、一緒にゲームとかアニメを語れる女の子、好きだよね
兄さんは兄さんのままでいいんだよ
僕はありのままの兄さんが1番好きだから
でも兄さんは理想の女の子の像があった
だからほら、兄さん
完璧でしょう?僕、頑張ったんだよ
なのに、なのに、なのにだよ
なんで兄さんはあっちの女の方を向くのかな
なんであの女からバレンタインのチョコを受け取って嬉しそうだったのかな
なんであの女のチョコを食べたのかな
なんであの女の告白を受けたのかな
なんで明日あの女とデートに行くのかな
なんで、明日、僕と一緒にお出かけに行くっていう約束を、忘れているのかなあ
だから、さ 兄さん
僕はもう我慢出来ないんだ
兄さんが僕のそばを離れるなんて我慢できない
もうがまん、できないんだ
ごめんよ兄さん
ちょっとその手錠、痛いかもしれないけど我慢してね
僕の我慢に比べたらどうってことないよ
たった2、3日の我慢さ
その間に、全部、終わらせて来るから
大丈夫、犯罪なんてしないさ
人を殺して刑務所に入ったらそれこそ兄さんと離れ離れになってしまうだろう?
心配しないで。僕はあの子を殺さない
僕は、犯罪なんてしないさ
だから、さ 兄さん
待っててね
あ、そうそう
ほら兄さん、ヤンデレの女の子、好きだよね
334 :兄者(´_>`):2010/02/22(月) 18:13:33 0
ところで、弟者、妹者の方は大丈夫なのか?
こないだ、なんか子供連れて来たんだが、まさかお前と妹者の子供じゃないだろうな?
335 :弟者(;´_ゝ`):2010/02/22(月) 18:16:14 0
えっ?、妹者はあれ兄者の子だって言ってたけど。。。
名前がまだ決まってないから兄者に決めてもらおうと思ってるって妹者が言ってたぞ
336 :弟者(;´_ゝ`):2010/02/22(月) 18:19:34 0
…………兄者?
175 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 19:09:16 ID:huBaiAoH
最後には絶対に捕まると分かっていながらヤンデレから逃げるのもまた一興
そして捕まって簀巻きに猿ぐつわで目隠しされても芋虫のように這いながら逃げようとするわけだ
くねりくねりと這いながら逃げる男の頭に何かがぽたりぽたりと滴り落ちてくるわけだ
そして目隠しを外された男の前には血塗れで血塗れの鋸を持った女が血塗れな薄ら笑いをしているわけだ
で、女は別れた元カノでこっぴどくフった女なわけで、噂では自殺未遂を繰り返してたわけで
でも束縛が酷く嫉妬深い彼女には愛情はすっかり冷めていて俺には関係ないと思っていたわけで
近くに見えるバラバラグチャグチャになった肉塊の頭部は今付き合っている彼女によく似ているわけで――
「ねえ、これで私たち、元通りになれるよね? もう離れちゃ嫌だよ。……二度と離さないから」
ってなわけですね
>>177 ちょっとそれじゃ良く分からないから
8〜10レスくらいでやってみようか
179 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 21:55:44 ID:2ydI43CA
濃い
>>172 GJ! 俺達このスレの住人は自分の首を締める結果を招くかも知れないのかw
>>180 それは本望だろう
皆さんgj!!
ついでに投下
182 :
キレた人々4:2010/02/23(火) 01:43:42 ID:4S0OiKYh
「ぃよーう、久しぶりさねぇ。重ねて言うけど寂しかったぜ」
そう言って笑いながら肩を組んでくる天音さん。
周りの生徒たちは俺のことを『なんだこいつは』みたいな眼差しで見ている。目が合った奴は美人と知り合いなのを羨んでいる。
しばらくすると、その生徒たちもどこかへ散って行った。
それにしても、相も変わらず派手な人だ。生徒の目を引くのも当然だ。
肩まである髪の先を赤く染めて、一房だけ長い部分を七色に染めている。これだけでも目立ちに目立つが、この人は服装もどこかおかしい。
ディーラーが着ているような腕の袖のないパンツスーツ・・・しかも特注らしい・・・の上に俺に奢らせたジャケットを羽織っている。しかし靴は軍用のブーツ。実にアンバランス極まりない。
「さってと、じゃあ行きますか!」
「まだ手伝うとは言ってないんですけど」
「いいじゃねぇかよ。今回は報酬が凄いんだよ、な、な?」
腰を屈めて俺より低くなって上目遣いで見てくる。大抵の男ならこれで何でも言うことを聞くんだろうが、俺にそういうのが通じないことくらいこの人なら分かってるだろうに。
しかしなんだ、やっぱりこの人の思考は読めないな。プロテクトが厳重だ。
「・・・貴女の場合、ついていかないとしつこいですからね・・・、分かりましたよ行きますよ」
そう言うと天音さんはガッツポーズで「YES!!」と決めた。
「じゃ早速行くか」
「せめて家くらい行かせてくださいよ。どうせ三日は帰ってこないんですから」
「おし、じゃ行くか。運転は・・・まあ私がするわ」
「当たり前です。学生服でバイク乗り回せると思ってるんですか」
と言うことで、俺たちはその足でアパートに向かった。
支援
184 :
キレた人々4:2010/02/23(火) 02:06:01 ID:4S0OiKYh
別段特筆することもなくアパートに着いた。隣の姉さんは留守らしい。
「しっかしアレだな。相変わらず殺風景な部屋だな」
「そうですか?」
生活に必要な家電は揃ってるし、一応DVDレコーダーもあるんだがな。
「んー、自覚してないところがまた可愛いね」
自覚?あれか?ゲーム機の類でも期待してたのか?
「でもでもアレか?ん?ベッドの下に色々入ってたりすんのか?ん?」
「ないですよ。あんまり興味ないの知ってるでしょう?」
「んー、つまんねぇなぁおい。それは思春期男子としてどうなのよ?まあ、あったらあったで目の前で破り捨ててやろうかと思ったけどな」
「性悪ですね」
「そんなことすんのはお前だけだぜ」
益々性悪だよ。俺限定って。
その台詞のあと何かぶつぶつ呟いてベッドに寝転んだ。放っておいて着替えることにしよう。
俺はあまり服を持たないほうなので迷うことなく服を選ぶ。
「あれ、なんだよ、前買ってやったの着ねぇのかよ」
「あれ着てバイク運転するのは貴女くらいですよ。てか、そもそも買ったの俺ですし」
あれ、とは、以前の仕事を手伝ったときに買わされたタキシードのことだ。天音さんは「ペアルックぅ」とか言ってにやついていた。別にペアルックではない気がするが。
「おいおい、着ろよ。相手方にも礼儀ってもんをはらわねぇと」
「今回もどうせはえあうような相手じゃないんでしょう?」
「私はいつもスーツだぜ?お前がさっき言ったデューク東郷だってそうだろ?それにほら、これが一番の理由だがな」
天音さんはベッドに座り直して言った。
「ペアルックにした方がなんとなく格好いいじゃねぇか」
「・・・そんな理由で買わせたんですか、これ」
「そんな理由っておい。格好いいってのは大事なことだぜ?」
「・・・分かりましたよ。いいですよ着ますよ。何時までもこんな会話してても意味ないですし」
「あ?私は結構楽しんでんだけど」
「いいからさっさと行きましょうよもう」
というわけで、仕方なくタキシードに着替えてバイクに跨った。うん慣れないな。
185 :
キレた人々4:2010/02/23(火) 02:06:42 ID:4S0OiKYh
投下終了
打つの遅くてすいません
GJ!!
リアルタイムでの投下を目撃したの初めてだ。
嗚呼、貴方は私の子供
私が腹を痛めて産んだ子供
夫と私の愛の結晶
私は貴方を手に抱き、私は夫の隣に居る
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、貴方は私の子供
私が自分の胸でお乳をあげた唯一の子供
私がお風呂に入れてあげた唯一人の子供
私は貴方を背負い、夫は私達を見て微笑む
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、貴方は私の子供
貴方が生まれてから私の周りの景色は綺麗に見える
貴方が生まれてから夫と私は喧嘩しなくなった
夫は貴方を肩に乗せ、私は写真を沢山撮る
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、貴方は私の子供
貴方はすくすくとその丈を伸ばす
貴方が「ママ」と喋った時、私は貴方を抱きしめた
貴方が「パパ」と喋った時、夫は涙が止まらなかった
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、貴方は私の子供
貴方のぽつんと立つ姿は、一輪の花の様に弱々しく
貴方のたったと走る姿は、草原の馬の様に雄々しい
あ、転んだ 大丈夫?痛かったね 強い子強い子 泣かない子
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、貴方は私の子供
誰が何と言おうと私の子供
この世が終わっても、なにもかもが無くなっても私の子供
夫が、死んでしまっても、私の子供
嗚呼、私は今、
嗚呼、貴方は私の子供
私が腹を痛めて産んだ子供
私と私の愛の結晶
私は貴方の隣に居て、私は貴方の隣に居る
嗚呼、私は今、幸せ
嗚呼、私は貴方の母親
私が自分の胸でお乳をあげた唯一の子供
私がお風呂に入れてあげた唯一人の子供
私が自分の料理を振る舞う唯一の子供
私がずっと側にいた唯一人の子供
私が貴方の世話をした
私が貴方を18まで育てた
私が貴方をずっと見ていた
私が貴方を1番愛している
貴方の隣に居るのは、
嗚呼、貴方は私の子供
貴方はその子と結婚して
貴方はその子と家庭を築き
貴方はその子との間に子を宿す
嗚呼!私は今!シアワセ!
嗚呼、貴方は私の夫
貴方はわたしと結婚して
貴方はわたしと家庭を築き
貴方はわたしとの間に子を宿す
嗚呼、私は今、幸せ
香草さん早く来てくれ
191 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 22:08:59 ID:dStajMd9
濃い 強い
194 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 20:32:47 ID:hmsmRcoD
濃い
投下します
持田の転任が決まったのは騒動の一週間後だ。
先生方の話によると、以前までの性格は一転かなり大人しく、おどおどするようになった、と。何より…なにかに酷く怯えたような挙動を時折見せるらしい。
恐らく転任先でも使い物にならないだろう…という話だ。僕にやられたのがそれほどまでショックだったのだろうか。
それはいい。
もう二つ、僕の周りに変化があった。それは。
ここ一週間のうちに下駄箱に差出人の書かれてない手紙が何回か入れられているということ。酷いと、教室の机の中にまで入っていることがある
。…僕に対する嫌がらせだろうか。持田は、実は人気者だったのか? まさかな。どうせろくな事が書いてないだろうから、一つも読んでないが。
もう一つは、歌音が以前よりも僕にべったりになったこと。朝の通学時はもちろん、休み時間、放課後は常に僕のそばにいる。
何度か「あんたが傍にいると目立って仕方ないんだ」と遠回しに苦言を呈したが、そんなものはお構いなしとばかりにべったり。
しかも…体の密着度も目に見えて上がってる。男子からの視線は痛く、女子からの視線は生温かい。
当然、「二人は付き合っているのか」と聞かれる事はあるが…僕はNOと答える。しょうがないだろう、実際そうなんだし。
というより、歌音のこのくっつき様はまるで僕から目を離さないため、のような気がするんだ。それは「付き合っている」とは言わないだろう?
のえるの方も、ここ一週間で今の生活に慣れてきたようだ。そこは僕も同じだが。
朝食と晩飯は交代で分担。昼飯はそれぞれ自由(僕は300円程度で売店で買っている)に。
また、そこまでしなくてもいい、と言うのに自ら進んで掃除や洗濯をやってくれる。いやに手際がいいのは年の功なのだろうか。
見た目は子供だが、そういった部分はやはり年相応なのだろう。
11月10日、夜。僕の家に意外な来客が訪れた。
「………秋津?」
「へえ、名前覚えてたんだ」
「ああ」
玄関先では寒いだろう、と僕は秋津をリビングまで上げた。
のえるは秋津を見ると、訝しげな視線を送っていた。…別に、変な関係じゃないぞ。
「…どちら様ですか?」声色に少し翳りがあるように感じたのは、はたして気のせいだろうか。
「こいつは秋津、といって…ただのクラスメイトだ」
「…この娘は、妹さん?」と今度は秋津が尋ねた。
「似たようなもんかな」
「ふうん…」
秋津はそう言うといきなりかつらを取り、眼鏡を外した。かつらの下からは肩ほどの長さのショートカットの髪があらわになる。
「…驚かないんだ」
「リアクションを期待してたのなら、残念だったな。僕はずいぶん前からあんたの正体に気づいてた」
「…つくづく、歌音ちゃんといい、あんたらは不思議ね」
のえるは目をぱちくりさせて驚いているが。まあ…目の前の少女がいきなり人気歌手の秋山理遠に化けたら、無理もない話だ。
「そりゃあわかるさ」僕はのえるを放置したまま会話を続行した。
「自覚ないだろうが、あんたの声はかなり独特だ。いい意味でな。多分、僕と歌音以外にも気付いてる奴はいると思うぞ」
「…声、か。確かに、変装しても声は変えられないわね。それはいいとして…桐島くんは、そんな殺し文句をさらっ、と言えるような性格だったのね」
「どの件だ」
「"そりゃあわかるさ"ってとこかしらね。桐島くん、顔はいいんだからそんな事言って回ってたらいつか後ろから刺されるわよ?」
…もしかすると、僕はラノベによく出てくる"鈍感"というやつなのだろうか。
「ご忠告どうも。…で、あんた一体何の用があったんだ?」
「歌音ちゃんの友人として、桐島くんの値踏みに来たのよ。正直…不安ね」
「ふん、頼りなくて悪かったな」と僕は秋津に悪態をついた。
「君じゃないわ。心配なのは、歌音ちゃんよ。…普段の彼女からはこの前の取り乱し方は想像できない」
「…僕よりも歌音に詳しいあんたが言うんだから、余程変だったんだな」
「あの…」と、のえるがやや気まずそうに言った。
「私、晩ご飯の用意しますね。…秋津さんも食べて行きますか?」
「いえ、私はもう行くから。…じゃ、頑張ってね」
秋津はそう言うと再びかつらを被り、玄関へと向かった。
「なあ、かつらなんかわざわざしなくてもいいんじゃないか?」
「清純派で通ってる秋山理遠がこんなサバサバした性格だったら、ファンは興ざめしちゃうもの。矛盾してるけど、私が私らしくするためには、これが必要なのよ」
「僕にはわからないな。…まあ、気をつけて帰れ」
どういたしまして、と秋津は言い、外へ出ていった。
普段の歌音からは想像できない。僕は秋津の言葉を反芻していた。
いつもの歌音といえば…飄々としていて、ハイテンションで口数が多く、いつも笑顔を絶やさない。あんな風な歌音は初めて見た。それはどうやら秋津も同じらしい。
いや、それよりも…いつもと違ったのは僕自身だ。
痴漢が許せなくて、父さんに頼んでまであの男を逃がさなかった。持田もそうだ。歌音を侮辱したのが許せなくて喧嘩を売った(翌日筋肉痛になったが)。
どれも、いつもの僕では有り得ない…考えすぎか。
「あの、真司さん」のえるが疑問符つきで話し掛けてきた。
「さっきの、理遠ちゃんですよね? ご知り合いなんですか?」
「ああ…うちのクラスの生徒だ。曲は好きだったからうちにもいくつかCDはあるが、僕も最初はまさか、と思ったもんだ」
「そ、そうなんですか!?」
のえるは秋山理遠が僕のクラスメイトだというのに相当驚いたようだ。まあ、無理もないか。
その後、てっきり歌音について根掘り葉掘り聞かれるかと思ったが、秋山ショックが余程大きかったようで、何も聞かれないまま夜は更けていった。
日曜日。
朝から携帯電話がけたたましく鳴り響く。休日くらいゆっくりと眠っていたいのに…誰だ。今はまだ7時過ぎだぞ。
幸いにものえる未だ夢の世界から戻る様子はない。僕はのえるを起こさないように布団からそっ、と出て携帯を握り廊下に出た。
着信は、歌音からだった。
「…………なんだ」僕は不機嫌さを隠さずに、喋る。
『おっはよー! ねぇ、せっかくいい天気だからさぁ、どっか出かけない?』
「断る。僕はまだ眠いんだ、あと48時間は起きないからそのつもりで」
『寝かさないよ!? …わかった、少し待っててね!』
―――電話は唐突に切れた。
ったく…すっかり眠気が覚めちまった。仕方ない、朝風呂でも浴びるか。
その前に、部屋に携帯を置きに戻る。…のえるも目覚めてしまったか。
「悪いな、起こしちまって」
「いえ、私朝は休日でもこのくらいですよ」
「そうか…。僕は風呂に入ってくる」
「はい」
のえるの気のいい返事を聞き、僕は部屋をあとにした。
シャワーの蛇口を捻り、頭から湯を浴びる。こうすると一発で眠気が消し飛ぶんだ。まあ、今日は既に歌音に吹き飛ばされたのだが。
シャンプーで髪を洗いながら、頭の中で思考を巡らす。
なぜ僕は、歌音の事であんなにも積極的に動いたのだろうか。今まで僕は何に関しても、我関せずのスタンスでやってきた。
のえるを拾った時はさすがに、生命の危機をのえるから感じたからなのだが…、
痴漢はいい。ああいう人間は本当に嫌いだから。では持田は?
あんなやつの挑発なんぞ乗らずに、あのまま家に帰ってもよかった。なのに僕はわざわざ出向き、お祖父さんに昔仕込まれた体術で持田を返り討ちにした。
その理由が、僕自身わからずにいた。
歌音の、僕を心配そうに見つめる表情が思い浮かぶ。その次に、ありがとう、と言った時の表情も。思い出すと、頭がもやもやというか…いらいらする。
思考をクリアにしようと、湯を再び頭から被る。たちまち湯気が浴室中にたちこめ、視界がぼやける。それでもなお頭の中も同じく、ぼやけたままだった。
風呂から上がると、リビングの方から"秋山理遠"の歌が聞こえてきた。テレビだろうか。曲にかぶせてナレーションが聞こえる。
『先日のオリコンチャートで、見事二週連続一位に輝いた人気歌手、秋山理遠さんの……』
「ねー、だから言ったでしょ? 理遠ちゃんはすごい歌上手なんだよ?」
「凄いですね…今まであまり聴いたことなかったですけど。…この家にNEWシングルあるかな?」
…どうやら、目眩と頭痛と胃痛を同時に患ったようだ。聞こえるはずのない声がリビングから聞こえてくる。あとで病院に薬でももらいに行こうか。
「聴いたことないって…もったいないよー! 理遠ちゃんは今に人間国宝になるんだから!」
…夢なら醒めてくれ。
「国宝じゃなくて天然記念物なら、既にこの家に侵入しているがな」僕は不満いっぱいに喋りながらリビングに出た。
やはり、声の正体は歌音だった。なぜ家にいる。まさか、さっきの"少し待っててね"は僕の家に来る、という意味だったのか。
「あ、真司さん。彼女さん来てますよ?」
「彼女?」
「ええ。それはともかく…真司さん。とりあえず、上なにか着た方がいいのでは?」
―――言われて気がついた。いつもの癖で、風呂上がりはパンツとスウェット。上は裸のままだった。
歌音は顔を手で覆い隠しながら…指と指の間に隙間を作り、覗き見てやがる。
「悪い、すぐ着てくる」僕は寝室に、シャツか何か適当なものを取りに戻った。
歌音のやつ…何がなんでも追い返してやる。
それから、歌音は彼女でもなんでもない!
数十分後。
追い返すどころか、僕は今歌音と一緒に地元の駅にいた。あれから僕は歌音に引っ張られ、強制的に着替えさせられ、そのまま連行されたのだ。
のえるは「私は家でお留守番してますよ」と言い、ついてこなかった。…唯一の救いの糸だったのに。
そして歌音はどこに向かおうとしているのかというと…どうやら遊園地のようだ。今はようやく9時手前。
今から行けば確かに一日中どっぷりと楽しむことができるだろう。今からでものえるを呼ぼうかな…一人だけ留守番というのは少し可哀相な気もする。
と、思っていると電車がホームに滑り込んでくる。風圧が髪を吹き付けて鬱陶しい。いつも通学に使う路線とは違う路線、こんなに金属音がひどいとはな…
車内は割と空いており、僕たち二人も座ることができた。不本意だが隣同士だ。
周りを見渡すと、いかにもデートっぽい男女二人の組み合わせがちらほらと見られる。
他には、座席に座りながらPSPをかちゃかちゃと玩ぶ男や、耳にイヤホンを差して眠る女性など。
そういえば今日は日曜。歌音の"曜日ごとに髪型を変える法則"で唯一、見たことがない髪型だった。
何も手を加えてない、ただまっすぐに伸びた黒髪。主観抜きにしてもその髪は艶があり、いつもの歌音とは違った雰囲気を醸し出している。
「どうしたの真司、そんなに見つめちゃって…照れちゃうよ」歌音はやや顔を赤らめつつ言った。対して僕はつい反射的に、憎まれ口をたたいてしまう。
「こないだテレビか何かでやってたが…やたらめったらに髪を束ねたりすると、抜けるらしいぞ」
「うそっ!?」
「嘘だ」おろした方がよほど似合ってる、と喉まで出かかったが僕は言わなかった。
「もうっ!」歌音は肘で僕の脇腹をぐいぐいと突く。やめんか、くすぐったい。
それから電車に揺られること小一時間。僕らは目的地の駅へと着いた。
#####
「いやぁ、いい天気だね!」
歌音はさんさんと輝く太陽の下、子供みたいにはしゃいでいる。だが、全身黒コーディネートだと暑苦しくて仕方ない。
今日の歌音の服は、いわゆるV系な装いだった。上はグレーのYシャツに黒のカジュアルスーツ。黒く細長いネクタイを、リボンのようにつけている。
下は黒地で、フリルがきれいについたスカート、さらに黒のパンスト。靴まで黒いヒール。とにかく、黒い。
歌音曰く、「V系じゃないよ、ただのカジュアルだよ!」らしいが、素人目にはジャンルの区別がつかん。
かくいう僕も、歌音の見立てで家にある服を組み合わせて着せられた結果、歌音と似たような格好になったのだが(むしろ、こんな服がよく家にあったな)。
だが、普段は何かしらの形でくくったりしている髪が今日はストレートなせいか…歌音がひどく大人びて見える。
太陽の光で髪がまぶしく輝く。その瞬間ですら、妙に綺麗だと思った。…何を考えてるんだ、僕は。
チケットを買い入場の手続きを済ませた後は、さっそく歌音の気のままに連れ回された。
最初はジェットコースターから始まり、振り子のように空をぶんぶん動く船のアトラクションや垂直落下する、塔のようなアレ…
女は絶叫マシーンが好きだと聞いた事があるが、それは歌音も例外ではないようだ。
しかし、カタパルト射出式のジェットコースターに三回連続で乗せられたときはさすがに目眩がした。四回目? 馬鹿いうな、僕が持たん。
そんな絶叫マシーンのオンパレードで午前中の時間は過ぎていった。
「か、歌音…少し休ませろ…」
「もー、仕方ないなあ」
なぜお前はそんなに元気が有り余っているんだ。僕はもう幾度となく時が見えたというのに。
「んじゃー、アイスクリーム買ってくるからここで待っててよ」
「ああ。あ、僕はバニラで」
小銭を歌音に托し、僕はいよいよぐったりとベンチに身を預ける。
…後ろの方から絶叫が聞こえる。それを聞き、さっきの記憶が呼び覚まされる。ただ速いだけならまだいい。時速70キロ超で後ろ向きに走るなど、思い出しただけで恐ろしい。
人は、特に歌音はなぜあんなものに乗りたがるんだ。ドMなのか?
「おまたせー」
アイスクリームを両手に持ち、歌音が帰ってきた。右手にはチョコレート味、左手にはバニラ。僕がバニラアイスを受け取ると、歌音は僕の隣に座ってきた。
寒いねーと言い、歌音はさらに身を寄せながら、すでにアイスを食べ始めていた。しかし風の吹いてくる方角的に、歌音は僕の風よけになってしまっている。それは寒いだろ。
「風邪引きそうだ。他のところに移動しないか」
「うんっ」
歌音は僕に促されベンチから立ち上がる。
二人でアイスを食べながらぶらぶらと歩き、僕は道中に暖をとれそうな場所がないかを探す。そうして見つけたのは、屋内フードコートだ。
ちょうど小腹も空いてきたころなので、僕は歌音を連れてフードコートの中に入った。
中はそれなりに人がいるがまだ空いている方だ。アイスをさっさと食べてしまい、僕らもファーストフード店の列に参加する。
歌音はレジ後方上部にあるメニューを眺め、チーズバーガーのセットにする、と言った。僕は普通のハンバーガーセットにしよう。
注文から約一分で品は揃い、僕らは出入口からやや離れた位置にある座席に座った。
歌音は早速チーズバーガーを包みから出し、頬張っている。それを見て、いつぞやの痴漢事件の後にマックでバーガーセット二人前をきれいに平らげたことを思い出し、
「今日はそれで足りるのか?」と、つい尋ねてしまった。
「あ…あの時はいろいろあってお腹すき過ぎただけだよ」と、歌音は顔を赤らめながら答える。
「そもそもねぇ、女の子にそんな"大食いです"なんて話題振っちゃだめだよ? けっこう恥ずかしいんだから…」
「? 僕は少食を気取る女よりそっちの方がよほどましだと思ってるぞ」
「そ、そう…?」
そこ、いちいち照れるな。
「やっぱ真司って、優しいよね」
「心外だ。僕は人に優しくした覚えなど微塵もない」
「またぁー」
…そのはずなんだがな。歌音といるとどうも調子が狂う。
こんな遊園地にまでのこのこついて来て…僕は一体何がしたいんだ。まあ…悪くはないんだが。
#####
昼食の後は再びアトラクション巡りが再開された。
お化け屋敷はあまり面白くなかったが(互いにリアクションが無さ過ぎたのだ)、コーヒーカップで死ぬほど回転させられたり、メリーゴーランドなどという甘ったるい乗り物に無理矢理乗せられたり…
歌音の勢いは衰えることを知らず、遊園地のアトラクションの大半を制覇した頃には太陽が沈みかかっていた。
「そろそろ最後だね…真司、あれ乗ろ?」と歌音が指差したのは観覧車だった。
「デートコースの締め括りの定番だよ?」
これはデートだったのか…と内心言い訳をしてみる。だが、ここまで遊園地を満喫してしまったら、わざわざ断る理由もない。
「ああ、行くか」とだけ返事をした。
観覧車の列は思っていたより長く、待ち時間30分と看板に書かれていた。ようやく乗れる、という時には既に星が見えつつあった。
僕らを乗せた観覧車はゆっくりと回転、上昇を始める。観覧車から見下ろす景色は、ライトアップを始めた遊園地、沈みかけた夕日の鮮やかなオレンジ色。
見るものを魅了するには十分だと思った。
そして数分後、頂上部分に達したと思われる頃。
「ねえ…真司」
僕の真正面に座っている歌音が口を開いた。
「私、真司のことが好きだよ」
「前にも聞いたよ。けど僕は前にも言ったが…」
「真司が私の事好きになってくれるまで堪えるつもりだった。けど…もう我慢できないよ。気づいてないみたいだけど、真司のこと好きな娘たくさんいるんだよ? …真司のこと、取られちゃいそうで怖いよ」
歌音の手はかすかに震えている。笑顔を作ってはいるが、今にも崩れそうだ。
「真司のこと取られたくないよ…お願い、私の傍にいて。誰にも振り向かないで、私だけを見て…?」
「歌音…」
歌音の哀しむ顔を見ると胸が痛くなる。ここで歌音の手をとるのは簡単だ。だが、僕は歌音の事を…好きなのか? いい加減な気持ちで応えれば、歌音がいたずらに傷つくだけだ。
「僕は…歌音を傷つけたくない。多分僕は…自分で思ってる以上に歌音が大切なんだ」
なんともはっきりしない言い訳じみた事を、僕は歌音に言った。けど歌音はそれを聞いても、ただただ優しく微笑む。
その笑顔を見ると、心拍数が上がり、胸がより痛くなる。そして…抱きしめたいと思って、頭よりも速く体が動いた。
歌音は今、僕の腕に包まれている。一瞬、自分でも訳がわからなかった。
「真司…っ、しんじぃ…ありがとぉ…」
歌音は僕の腕の中で啜り泣きながら僕の名前を呼ぶ。
歌音の体温はひどく心地よく、いつまでもこうしていたいとさえ思えた。
そこでようやく、僕は気付いた。
「歌音…好きだ」
「あっ…真司ぃ…うあぁぁぁぁん……」
観覧車が地上に着くまで、僕らはそのまま抱き合っていた。
#####
間隙。
はぁ……やっぱり、私には人を好きになることはできないのね。
真司さん…本気で好きだったのにな。真司さんなら、年を取らず一人若いまま取り残されるだろう私を受け入れてくれると思ったのに。
歌音さんのあんな顔見たら…私なんかが横から割り込むわけにはいかないじゃない。
さようなら真司さん。この10日間、楽しかったです。本当…幸せでした。
私はメモ用紙に書き置きを残し、真司さんの買ってくれた服をリュックに詰め、出発した。
いっそ…山にでも篭ろうかな。意外と食べ物には困らないかもしれない。まあ、それはこれから考えよう。
どこにいても、何年経っても…私は貴方の幸せを願っていますよ、真司さん。
「やっぱり、こうすると思ってたわよ。のえるちゃん」
玄関から出るやいきなり声をかけられ、私は立ち止まった。
あ…あなたは……?
#####
泣きじゃくる歌音をなだめながら、観覧車から外のベンチへと移ってきた。
しかし歌音は未だに僕に抱き着いて離さない。道行く人々の視線が刺さり、肩身が狭い。
だが、離してくれとは言えずにいた。
すっかり日も暮れ、人気もだんだん減って来た頃、ようやく歌音は僕から離れた。手はつないだままだが。
「あはは……ごめんね。真司に、無理に言わせちゃって」歌音は気まずそうに謝ってきた。
「見損なうな。…僕だって、心にもないことを言った訳じゃない」
「…そっか」
そうして僕たちは、遊園地をあとにする。
振り返ると、イルミネーションが夜の遊園地を綺麗に飾っている。
ディズニーランドのパレードにも遠く及ばないだろうその景色はしかし、僕の心の中に深く残るだろう。そう思ったのは、隣に歌音がいるからかもしれない。
「また…二人で来ようね」
「ああ」
#####
地元の駅に着き、歌音と分かれてようやく家に着いた頃には20時を回っていた。
鍵を開け、中に入る。………? いやに静かだ。
「ただいま。のえる、いないのか?」
靴がない。まあ、のえるとて近所に出掛けたりはするだろう。ならは、今日の夕食は僕が作ろうか。
僕は上着を自室に脱ぎ捨て、リビングに向かった。
机の上に紙切れが置かれている。…何か書いてある。
"真司さんへ
今までお世話になりました。ありがとうございます。
貴方の幸せを願っています。
のえる"
支援
「な……のえる…!?」
僕はメモを握りしめ、すぐさま外に飛び出した。
のえる…いきなりいなくなるなんて一体!?
「のえるちゃんは帰らないわよ」
不意に声をかけられた。その声は透明感があり、かつ重みが感じられる。知ってる人なら、たとえ姿を見なくてもその人だとわかるだろう。
「秋津…?」だが僕はこっちの名で呼ぶ。目の前にいる女性は、仮面をつけていないからだ。
「おかえり、桐島くん。歌音ちゃんとのデート、どうだった?」
「今はそんな場合じゃない! それより、のえるは!?」
「………はぁ」
―――ぱしん、と乾いた音が鳴る。数秒して、頬をはたかれたのだと自覚した。
「君がそんなだから、のえるちゃんは出て行ったのよ。今の言葉…歌音ちゃんが聞いたらどう思うかしら」
秋津は左手を押さえ、続ける。
「のえるちゃんは君の幸せを願って、身を引いたのよ。なのに君は、歌音ちゃんのデートを"そんな場合じゃない"って…君にとって歌音ちゃんって、何?」
「あんたこそ…何がしたいんだ?」
「友人として、歌音ちゃんが傷つくのを黙って見てられないだけよ…なんてのは建前。ホントはね、"真司くん"」
秋津は左手を伸ばす。またはたく気かと思い、僕は身構える。だが秋津のしたことは僕の予想とは大きく異なった。
「君が好きなの」
そう言って秋津は、僕にキスをした。触れるだけ、なんて易しいものじゃない。いつの間にか両手で僕の頭をホールドし、舌をねじ込ませてくる。
僕は突然感じた未知の異物感に困惑し、抵抗できずにいた。
「んっ……ふぅ、んむっ…………ぷは」秋津は満足したのか、唇を離す。
「っ、秋津…何のつもりだ」
「…私も真司くんが好き。歌音ちゃんが君を好きになるずっと前から好きだった。…初めて会った、五年前から」
「五年前……だと…?」
記憶が蘇る。五年前と聞いて僕が真っ先に思い出すのは……母さんの死だ。
秋津…おまえは何をどこまで知っているんだ?
終了です。
支援ありがとうございます。
208 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 19:08:16 ID:DSIByBMk
GJ
>>207 GJ
いよいよヤンデレが本格始動しそうですね。
GJ
のえるが好きなので戦線復帰に期待
ヤンデレを紹介してください
212 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/26(金) 21:50:17 ID:NwZgLbiL
濃い
題名の無い長編10を書いたものです
今回からは、題名をつけて投下します。
投下します
オゥフ、やっと家に帰ってこれたでござる。
このボロいアパート(2LDK)が拙者の家でござる。
ガチャ、パタン。
オッフゥ、疲れたでござるなぁ。
朝比奈さんは、周りの方々に対しては優しい方でござるが、拙者だけにはとても辛くあたるので、酷いでござる。
しかし、拙者の見た目や性格はどうも人を苛立たせる性格でござる。
グフゥ。
しかし、昔の事を思い出すと今までイジメられぱなっしの人生でござるなぁ。 ウッフゥ。
中学、高校のイジメは耐えきったでござるが、大学では、拙者の存在は周りからは無かったことにされたのが辛かったでござる。
拙者の家庭は、決して裕福ではなかったので、両親の為にも頑張りたかったでござるが・・・
無理でござった。
大学を中退してから、すぐに仕事を必死で探し、今の職場に就いたでござる。
拙者は、もう両親には迷惑をかけるのは申し訳ないので、実家ではなく、1人暮らしでござる。 ちなみに拙者は父上似でござる。
母上は、拙者から見てもすごい美人でござる。 何故、契りを交わせたのかが謎でござるなぁ。 ドゥフ。
母上にどうゆう成り行きで、父上と結婚したのかを聞いてみたでござる。
母上が仰るには、
「お父さんはね〜。 すごく優しくてね〜、一緒にいてすごい落ち着くんだよ〜。」
・・・いや、そういうことではなく、結婚までの過程を聞きたかったのでござるが・・・。
しかし,その後は、父上の事だけで軽く三時間も話されたでござる。
父上に聞くと、苦々しい顔をして
「あぁ・・・、うん、色々あるんだよ。 大人はな・・・。」
言葉を濁されてしまったでござる。
人の人生は色々あるでござるなぁ。 ウッフゥ。
まぁ、拙者がいない今、二人ともゆっくり過ごして欲しいでござる。
オゥフ、拙者としたことがおセンチな気分になってしまったでござる。 ドゥフフフ。
明日は、会社が休みですし、秋葉に行くでござる。 グゥフフ。
うーん、明日は会社が休みだしなぁ。
彼が外出してくれるとすごい嬉しいんだけどなぁ。
私の休日の過ごし方は、外出する彼を後ろからつけたり、ずっと彼が家にいる時は、彼がコンビニなど行くときは、彼の家の前で待ち伏せし、一目見れたらその日は満足など・・・。
この2年間、彼と一切まともに喋っていない・・・。
会話をするとしたら、事務的な会話ばかりだ。
もっと、色んな事を喋りたいのに・・・。
彼と顔を合わせると考えている事と口にしている事が全然違ったりする。
「おい!」
(ずっと、好きでした。付き合って下さい!!) 「は、はい、何でしょうか?」
「この書類、ミスが多いぞ。」
(彼女じゃなくてもいいです。貴方専用の犬にして欲しいです。)
「ぁ、も、申し訳ありません。 すぐに直します。」
「・・・全く、同じミスを何度もするのは、止めてくれ。」
(そうだよ。 私とすぐに付き合うべきだよ。) 「グフゥ、は、早く直します。」
「さっさと、お願いね。」
(あああ、彼との会話が終わってしまう。 貴重な会話が・・・)
いつも、こんな感じだからなぁ。
彼の前に立つと、自分の言いたい事も言えなくなってしまう。
素直になれない自分が嫌になっちゃうなぁ。
・・・よし、明日こそは、彼の家に一日中張り付いて、彼がお出かけするのを待っちゃお。
明日こそは、彼と・・・。
仲良くなりたいなぁ。
投下終わります。
2話で妹を出そうとしたのは、内緒でござる。
見てくださった方は、お疲れ様です。
GJwww
新しいな。 GJ
>>216 GJ
あのござる口調の妹の息子だったのかw
>>216 GJ
けっこう好きな設定です。気長に投下待ってます。
223 :
名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 23:51:16 ID:XgerDo2T
イジメる 有る
この板でヤンデレ属性スレって、
こことキモートと修羅場以外になんかある?
ヤンデレ逆レイプスレとかか
たぶん住民は相当数かぶってるだろうな
ほのぼの純愛スレは?
巣に帰れ
だれか前スレのdat持ってない?
もってたらどこかに上げて欲しいんだけどお願いできないかな。
変換サイトへ行け
233 :
231:2010/03/02(火) 21:38:49 ID:mIEk29nJ
第四話 3レス消費
翌朝、明が目を覚ますと、目の前には律の顔があった。
いつも学校で見ている、彼以外にはほとんど感情を示さない鉄面皮とは正反対の寝顔。
ありえないほど緩んだ表情と静かな寝息で、幼くさえ見えてしまう。
明は、幸せそうな寝顔に思わず顔をほころばせながら起こさないように身体を起こした。
携帯電話のチェックをしたかったのである。
案の定、メールが何件か来ている。が、なぜか個別のフォルダに入っていない。
メールを開いて見たがおかしい。友人のものまで未設定フォルダに入っている。
しかも、名前でなくアドレスが表示されている。
アドレス帳から削除した覚えは無いにも関らずだ。
慌てて明はアドレス張を確認する。
『おかしい・・・。無くなってる。』
確かに、あったはずのアドレスが一部なくなっていた。
先ほど入っていた友人の登録も無い。
『誰のがなくなったんだ・・・?ていうかなんで?』
頭がうまく働かない。昨日からずっとこの調子である。
それでも思いつく限りの知り合いの名前を片端から調べていく。
妙なことに、女性の登録だけが抜けているようだった。
学校にいた時まで異常なかったのだ。
とするとアドレスが消去されたのは下校以降。
『もしかして、律、なのか・・・?』
それ以外考えられない。
律を呼ぼうと明が振り向こうとした時、後ろから抱きつかれた。
「アドレス帳、見たんだな。」
律だ。どこか浮き浮きとした声に調子が狂う。それでも怒気をこめて返事した。
「ああ・・・。ていうか、これ・・・。」
それなのに律にはまるで届かない。
「ふふ、どうしたんだ?怖い声を出して。」
流された明は耐えられずに声を荒げた。
「どうしたもこうしたも、まず他人のアドレス帳をみるとかありえないだろ?」
「しかも、女のだけ削除するなんて、何の意味があって・・・」
そういった瞬間、明の首に腕が巻きついた。
「なぜだ。」
律の冷厳な声。
「まず一つ目。なぜ他人なんだ?明と私は恋人だろう?」
「二つ目。なぜ恋人の携帯電話の中を見てはいけない?隠し事は駄目だろう?」
「それから三つ目。他の女のアドレスが何でいるんだ?いらないだろう?」
「4つ目、なぜ君が怒る?私は君との間に何も作りたくないだけなのに。」
「正直に答えてくれ。明を愛しているからしたことだ。怒られた理由を知りたい。」
声は冷厳なままに、重ねる詰問はだんだんと嗚咽交じりになっていく。
「なぜだ。教えてくれ。お願いだ。私が嫌いじゃないなら・・・。」
「ちょ、ちょっと落ち着けよ。律のこときら・・・」
明は興奮する律のとどめる。しかし逆効果だった。
「落ち着け?私は、落ち着いているっ!!」
「いや、でも・・・。」
凄まじい剣幕だった。律は明をがっちりと掴まえる。
逃れようともがくが、そのまま押し倒された。
ぎりぎりと音がしそうなくらい、手には力が入っている。
律に掴まれた肩からは、爪が食い込んで出血していた。
「私が周りから面倒な人間だと思われているのは知っていた。」
「それでも明なら、私の、この性格を理解してくれてると思っていた。」
「だが違った。明も同じだったんだな?私を面倒に思うんだろう?」
般若のような面で明に言葉をぶつけてきた。
明の顔には、律の涙と、噛み締める唇の血がポタポタと落ちてくる。
「それは・・・。」
否定できなかった。
「さっきもそう。君は私がどんな思いで両親のことを告白したか、分かるか?」
『・・・そうだ。喫茶店でもこんなやり取りが・・・。』
ぼんやりと思い出せるが、明の頭はクラクラしたままで働かない。
「なぜ受け止めてくれないんだ?恋人なのに。愛しているのに。セックスまでしたのに。」
「許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない」
何無表情だった律の顔が苦しみに歪む。
次の瞬間、明を抑える力が緩んだ。
明は、彼女をはねのけて玄関へと脱兎の如く走りこむ。
背後からは「どうして!」と悲痛な叫び声があがるが無視。
ほとんど体当たりするようにドアを開けた。
転がり込むようにして外に出る。
久しぶりにも思えるほど、朝の光はまぶしかった。
空気が信じられないほど新鮮に感じられる。
一瞬でも気を抜けば、あの手に引き戻されそうな気がして明は走った。
背後から迫る足音は無い。が、怖かった。
目に浮かぶのは、律があの虚ろな目のまま追ってくる姿。
肺が悲鳴を上げるのも構わず、ひたすら家を目指す。
自宅に着いた明は、ほとんど無言で自室にこもった。
妙な雰囲気を察して親が声をかけてくるが無視を決めこむ。
窓の外が気になり、カーテンをきっちりと閉めた。
血の滲む肩がヒリヒリする。
『痛ぅ・・・。一体何なんだよ・・・。』
一息ついた途端、今度は携帯電話が鳴り出した。
『いまはそんな気分じゃないんだよ・・・』
しかし、いつまでもたっても鳴り続ける。相手はたぶん、律だ。
『お願いだから、勘弁してくれ・・・』
明は電源を切って眠った。
律は客間に敷いた布団の上に座り込んだままだった。
明が彼女を押しのけて逃げ出した瞬間から、律は動いていない。
同じ態勢のまま、ただ独り言を呟いていた。
「どうして、どうして、どうして、どうして、どうして・・・」
布団と畳には、彼が倒していった中華粥の残りが染みている。
引っかき続けた畳はそこだけぼろぼろになっていた。
明がなぜあんなに怒ったのか、全く分からない。
『ただ恋人として分かち合いたくてやっただけなのに・・・』
セックスまでしてなぜ明は躊躇したのか。
なぜ自分のことをもっと知ろうとしてくれないのか。
「明はきっと、何か障害を抱えているんだ・・・。」
「私のことを心から好きになれないような。」
もしかしたら、それは女かもしれない。
だとしたら、全て説明がつく。
『明が私を愛しているのは確かだ。でも邪魔があるんだ。』
『きっと明にしつこくする女がいるんだ。そうに違いない。』
律の思考はどんどん飛躍していった。
前向きに、ただ彼との幸せを願いながら。
※※※※
投下終了
ヤンデレから放課後に屋上へ来るように呼び出されてるのに放置して帰りたい
つまんね
>>238 おい・・・お前・・・最近だれかにつけられてるぜ・・・きをつけろよ
甘々な素直クールばかり見てきたからこういうのは新鮮だ
乙
余計なお世話かもしれないけど
同一人物の連続した会話は同じかぎかっこに入れた方が見やすいかも
242 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 22:36:26 ID:z6SoXz7l
特殊 おもしろ
ぽけ黒とヤンデレ家族マダー
これがヤンデレのデレかっ
247 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:40:29 ID:EpI5OOf1
では投下致します
第12話『束縛される者』
長い協議の果てに俺たちは結論に辿り着いた。これから始まる快適な監禁生活の大事な大事な掟をここで発表しよう。
『猫さんの契約書』
1・猫さんはとても寂しがり屋です。
2・猫さんは習性で愛しい人を束縛しますが、これは愛情表現の一つです。
3・猫さんはあなたと手を握っているととても安心できます。
4・猫さん以外の女性の人と接触や会話を禁じます。
5・猫さんは嫉妬深い性格なので、選択肢を間違えるとハグハグの刑にします。
6・猫さんとできるだけ衣食住を共に傍で居てあげてください。
7・猫さんはあなたのことが好き好きなので、鼻血が出たとしても嫌いにならないでください。
8・この監禁施設の外に出る時は猫さんと一緒に出かけましょう。
9・それらの掟を破った場合は、猫さんは泣きます。
10・最後に忘れないでください。猫さんがずっとあなたを愛していたことを。
「というわけで、この書類にサインしてくださいね」
「契約書の他に?」
「そうですよ」
彩さんから差し出されたのは封筒。しかし、ただの封筒ではない。
B5サイズの茶色の封筒で、表面が2箇所だけ穴が空いていた。
「その穴の空いた部分に、周防さんの本名と印鑑を記入してください。
一字一句丁寧にお願いしますよ。後で名前とか間違えたら、物凄く怒ります」
「わかったよ」
監禁されている身分では怪しげな封筒に自分の名前と印鑑を記入することに拒否感を感じるが、
彩さんの奇妙な迫力には勝てるつもりはない。余計な反抗をするぐらいなら、
無駄な体力を消費することよりも温存していた方がこの後の展開には有利に働くはずである。
「書いたよ」
「どれどれ」
と、封筒の穴の空いた部分に書かれた名前を麻薬取締官のごとく、彩さんは綿密に確認していた。
10回ぐらい見直してから、彩さんは天使のような微笑みを浮かべた。
「うにゃーー!! これで忍さんと私の素晴らしき監禁生活が始まりますね」
「始まりたくない。始まりたくない」
「もう、そんな事を言う人は、私がキスしちゃいますよ」
「や、やめてくれ」
「うっ、そんなに嫌がることないじゃないですか」
「嫌がっているじゃないんだよ。恥ずかしいの」
「恥ずかしいって」
「学園時代から全く異性と関わり無かった人生だぜ。恋人がいたどころか、
女の子と手を握ったこともないんだ。そんな純朴な俺を監禁は刺激が強すぎる。120禁ものだよ」
「奇遇ですね。私も男の人と触れ合った記憶はありませんよ。ずっと、一人でしたから」
「一人って……」
俺を監禁して幸せ一杯の表情を浮かべていた彩さんが急遽にその明るさが消えた。
まるで何かのトラウマを打ち明けるかのような真剣な眼差しで俺を見つめてから、口元が動いた。
「私、孤児なんです」
「孤児?」
「私が生まれた頃に両親が交通事故で死んでしまったんです。
両親は駆け落ち同然に飛び出したので、引き取ってくれる親戚もなく、私は孤児院に預けられました。
それからは、両親の愛情を知らず、家族と呼べる物に触れることができなくて。寂しい日々を送っていました」
突如、彩さんは自分の過去の事を語りだした。それは他人に打ち明けるにはとても重い過去であり、
そんな話を俺にわざわざ話すということはそれなりに信頼しきっていることだろう。
俺は黙って、彼女の話に耳を傾けた。
「孤児だったから、誰も私と友達になってくれる人もいなかったし、
逆に親がいないことが珍しいのでしょうか。それを理由に嫌がらせをされたこともたくさんあります。
孤児院から追い出されてからは、ずっと一人で生きていました」
「一人が寂しかったから、俺を監禁したのか?」
「ううん!! 違います」
彩さんは思い切り首を左右に振って、否定の意志を示した。
「私は人を信用することができなくなったんです。温もりさえ求めなければ、何かに期待しなければ裏切られることはない。
だから、愛情を求めずに、ずっと一人で生きていこうと決めていたのに……」
このアパートに彩さんが引っ越してきた時の事を思い出した。
最初に挨拶した時も社交辞令を軽くこなしていたが、表情はどこか固くて、他人を明らかに拒否していた彼女。
その彼女はいつから、俺に無垢な笑顔を見せるようになったのはいつ頃だったのか。
「私が引っ越しセンターに騙されて、荷物とか外に置きっぱなしにされた時。
忍さんが助けてくれて、荷物を私を部屋まで運んでくれたよね。
その優しさがとても嬉しかった。誰かに優しくしてもらったのがこれが初めてだったんです。
だから、あなたのことを好きになったんだよ。
この監禁部屋で忍さんを監禁するぐらいに愛しているんです」
頬を朱に染めて、感情的になっているのか彩さんは大粒の涙を流していた。
細かく小刻みに彼女の体が震えていた。自分にとって二度と思い出したくはない過去を話して、
それを他人に拒絶されるのを恐れている。
いや、そうやって拒絶され続けたからこそ、他人を信用することができなくなってしまっていたのだろうか。
少なくても、温もりを俺に求めているのがわかっていた。
しかし。
何か違うのだ。これは愛情ではなくて、依存しているようにしか思えない。
都合のいい相手がいれば、周防忍以外の男を監禁して温もりを求める。
それは果たして、『愛』なのだろうか? そのような疑問が頭に浮かんだ。
ふと、昔のことを思い出す。
それは両親のことだ。
多額の借金を抱えたせいで、返済することもできずに自殺という選択肢を選んだ両親。
その両親は俺に心配させまいとその事実をひたすら隠した。
俺が学園を卒業するまで、一人の力で厳しい世間を生き抜くことができるまで。
それは多分、『愛』なのであろう。
ヤンデレ症候群に感染した病んでしまった女性のゆがんだ『愛』よりも、正真正銘の『愛』なのだ。
ゆえに否定しなければならないのだ。
彩さんが始めようとする監禁生活を。
嘘の愛などいらないから。
だが。
「忍さん。うにゃ。うにゃ」
せっかく、他人に告白できないような自分の気持ちを吐露したというのに、
何の反応も示さなかった俺に不安を覚えたのか、彩さんは俺に抱きついてた。
自分の胸を押し付けて、俺の顔を挟むような形になる。
思わず、窒息死するぐらいに苦しさを感じたが、柔らかな感触と確かな弾力の前では、
あっさりと自分の否定の意志とか吹き飛ばした。
「そ、その、忍さんもいきなり監禁されてしまって戸惑っているのかもしれませんね」
普通はこの世の悲劇に耐え切れずに、自身の儚い命を散らすとこなんだけど。
「いいえ。ヤンデレになった女の子に監禁された男の子の98%が、自分を監禁した女の子を好きになるようですよ」
そいつらこそがヤンデレなのでは?
「人は愛されることによって、価値観も認識も変わるものなのです」
そうなのか……と、彩さんの胸に挟まれた状態で口を満足に動かすことはできない。
しかも、抱きしめられているので離れることもできん。
「だから、忍さん。今日から監禁されてますけど、私たちはあつあつの新婚夫婦さんごっこをしましょう」
「はい?」
慌てて、見上げようと顔を動かすと彩さんの胸元に深く入り込み、彼女は小さく喘ぎ声が出した。
「そ、の、賭けです。この3ヶ月間、私と忍さんは新婚夫婦を演じるんです。
この監禁されている部屋と敷地外というか、場所と時間を問わずに新婚夫婦のようにイチャイチャするんです」
「バカップルを超えし存在、新婚夫婦でイチャイチャとは。なんて神をも恐れぬ所業だ」
「それで、3ヶ月後に忍さんが私のことを好きになったら、私の勝ち。
忍さんが私のことを嫌いになったら、私の負け。もし、負けたら、忍さんを監禁から解放します。
どうですか? この賭けを受けますか?」
「ギャンブルは苦手なんだけどねぇ」
「新妻の私を好き放題にしてもいいんですよ。
私たちはもう夫婦なんですから♪」
「ってか、もう奥さん気取りかよ!!」
「うふふっ。今日も愛情がたっぷりと込めた料理をご馳走するので。
楽しみにしてください。ア・ナ・タ……。ちゅう」
「その賭けに乗ったぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」
もちろん、彩さんのキスより、3ヶ月間料理を作ってもらえることに俺の心を動かされたことは言うまでもない。
紫煙
以上で投下終了です
というわけで、次回から偽新婚生活編がスタートしますが、
後、3話ぐらいで完結です。
それでは。
256 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 15:51:47 ID:AyZ2V5Q/
すいません、下げ忘れました
彩さんかわええww
259 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 17:14:04 ID:hVR32Gg1
待ってたぜ!続き期待
>>255 トライデント氏GJ!もうこの二人結婚しちゃっていいんじゃね?
さて、それじゃ投下します。使用レスは7〜8レス
登場キャラの名前が隣の彩さんのキャラと被ってることに気がついたけど変更しませんごめんなさい
不動産屋には築二十年と言われたが、実際のところは築三十年の間違いじゃねーのってなボロアパートの一室で、ようやく彼女と初めての
イチャコラチュッチュをしようとしてたらば、ボロアパートに相応しいボロいドアを激しく叩く音に邪魔された。
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
どこぞの未来からやってきたターミネーターの登場音がドアで鳴らされる。ボロいドアが軋み、今にも破壊されそうだ。つーか壊す気だろ。
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
なんて遠慮のない力強いノックなんだ。ドアの向こう側にはきっとサングラスをかけたマッチョが居るに違いない。
人間関係の少ないオレにはそんな知り合いになんかいないので早々にお引き取り願いたい。何より迷惑だ。
俺も彼女も半裸になって、いざ鎌倉という時なのだ。愚息はすでにはちきれんばかり。ほうれん草を食ったポパイ状態だ。
彼女に入れるか入れないかの瀬戸際って時に邪魔者を入れるかっつうの。脱☆童貞まであと一歩なんだっつうの! だから悪魔よ去れッ!
ドアを見ながら不安げな様子の彼女を心配させまいと肩を抱き、オレは男前な顔で優しく「ほっとけよ」と言ってやる。
なんせ彼女もオレも半裸の状態だ。ここまで来ておいてあとに引けるか。ここで白けて彼女が服を着だしたら俺はどうする。
何かを言おうとした彼女を抱き寄せて、キスをするため顔を近付けようとすると、再びドアが激しく叩かれた。
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン! ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
お前空気読めよ。ここはハリウッドじゃねーっつうの。お前はとっとと溶鉱炉にでも落ちてろ邪魔すんな。叩くなら隣の板倉さん(42歳独身)のドアを叩け。
ようやくここまで辿り着いたんだよ。周りが次々と卒業していく中、我慢して耐えて堪えてやっとゴールは目の前なんだよッ!
今日ばかりは親が死のうと世界が滅びようとオレには関係ない。目の前の彼女とチュッチュすることだけが俺の全てなんだ。
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!! ダダッダンダダンッ!!
しつっけーよッ! なに? なんなの? オレに恨みでもあんの? 喧嘩売ってんの? バカなの? 死ぬの?
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
「なーおーやく〜ん! 居るんでしょー? 居るよねー? 居るの知ってるんだよー? どーして開けてくれないのー?」
ドアの向こう側から聞こえてきたターミネーターの声は野太く低い声ではなく、甘ったるい可愛らしい声。予想外も甚だしいではないか。
しかも散々聞き慣れた変声期を知らなそうな声である。最近のターミネーターはどうやら女子版も生産されているらしい。というか――
「この声ってまさか……国東か? なんであいつがここに!?」
「ねー開けてよー、いるんでしょー? 尚哉くんのあたしが来たんだよー。尚哉くんの彼女ですよー」
「ばっ、バカヤローッ! 誰が彼女だ!」
言い返してしまってからハッとする。刑事に言い逃れのできない一言を発してしまった容疑者の気分が少しだけ分かった気がする。
ドアから隣の彼女に視線だけ恐る恐る戻すと、彼女はやはり恐ろしい形相で俺を睨んでいた。
「……誰、あの女?」
「いや、ただの大学の知り合いでだな……」
「やっぱりいたー。ねー開けてよー、ねーってばぁー!」
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
「……入れてあげたら? わたしも彼女と話がしてみたいし」
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
「いや、優花……」
「なーおーやくーん」
ダダッダンダダン! ダダッダンダダン! ダダッダンダダン! ダダッダンダダン!
彼女――優花が服を着はじめた。それはつまり、イチャコラチュッチュはもう無理ってわけである。残念無念。
前門の虎、後門の狼ならぬ、前門の優花、後門の国東。
二人がテーブル越しに向かい合って俺が間にいるって形だ。ぱっと見は裁判か修羅場。最悪である。ちなみに出口は二人とテーブルに阻まれて逃げ場はない。
背中まである黒髪ロングの日本人形みたいなスレンダー美人が優花、肩までの長さの栗色ヘアーの西洋人形みたいな見た目(美)少女が国東だ。
にこにこと笑っている二人だが、会話は一切ない。部屋の空気は冬のシベリア海峡にまで低下している。
関ヶ原ランデブー、桶狭間超ファンキー。二人の背後から戦国武将が睨み合っているのが見えるのはオレだけだろうか。
コーヒーカップが二人分しかないので男らしく我慢して二人に出したのに、二人は口をつけようともしない。おもてなしの心は踏みにじられた。
――というか、だ。おもてなしはどうでもいいとして、だ。
何故に国東がオレのアパートに来たのだろうか。しかも連絡もなしに突然だ。つーかなんでここを知っている? だいたい何の用がある?
そういえば国東はここ最近様子がおかしかった。オレに彼女ができたと自慢してやった後くらいからだが、どうにも塞ぎこんでいたのだ。
しばらくそっとしておこうと距離を置いていたのだが、半月ぶりくらいに見る目の前の国東は明らかにおかしい。笑っているのに目が笑ってない。
大きな瞳は生気がなく、そのくせ妙に力強さと危なさを感じさせる。今まで生き生きとした瞳をしていた国東の目とは正反対だ。
なんだがダイエットに失敗した後に徹夜したような感じだな。年頃の娘は健康に気を配れよ。というか帰れ。ぶぶ漬け食わせるぞ。
一方の優花も表面上は笑っているのだが、やっぱり目だけ笑ってない。間違いなく怒ってる。
優花は静かな女だ。怒るときも静かに怒る。名前のとおり優しい彼女だが、怒ると恐いのだ。そりゃもう泣きたくなるくらい。
言っちゃあれだが優花は嫉妬深い。怒るときは大抵が女絡みで、テレビに映ってる女優の話題をしたり女友達の話題をしただけで怒る。
一緒に外を歩いてる時なんかは通りすがりの他の女性を見ただけで手を握り潰されそうになる。ちなみに優花はリンゴを片手で握り潰せる。
そんな優花がこんな状況で怒らないはずがない。きっと内心ではマスクメロンを握り潰せるくらい怒っているだろう。
重苦しくも殺伐とした空気の中、俺の脱☆童貞を邪魔したターミネーター女こと、国東がようやく口を開いた。
「尚哉くんの正妻の国東望(くにさき のぞみ)です」
なにすっとぼけた発言してやがんだコラ。お前は俺をとことん不幸にしたいのか、この悪魔め!
「優花、違うぞ。コイツの発言は、」
「尚哉の“本妻”の周防優花(すおう ゆうか)です。あ、もうすぐ籍入れるから赤城(あかぎ)優花になるわね」
……なに張り合っちゃってんのキミ。見栄張らなくていいから。付き合ってまだ1ヶ月ちょいだから。でも愛してるぜ。
二人とも落ち着け。戦国武将が後ろで刀抜いてんのが見えるぞ。なんて力強い守護霊抱えてんだよ。
「あのな、お前らさ……」
「へぇ〜、籍入れるんだ〜。でも間違いなんじゃないの? “籍を入れる”じゃなくて“籍に入る”んでしょ? “鬼籍”っていう籍に」
「面白いこと言うわね。鬼籍に入りたいなら入れてあげましょうか? 落ちたい階段ってある? 背中押してあげるわよ」
「あはははー……ぶっ殺すわよ」
「うふふふ……挽き肉になりたいの?」
あらあらうふふ。なんて邪悪な会話を笑顔でしてやがんだ。こいつら一触即発すぎる。前世からの因縁でもあるのか?
口を挟もうにも恐くて二人の間には入れない。これは止めるべき状況なのだろうが無理だ。誰だって死にたくない。オレだって死にたくない。
オレごとき若僧は黙って部屋のオブジェと一体化しているしかない。呼吸をする珍しい置物となるのが一番なのだ。
というかね、オレは女同士の会話に男が入り込むってのは野暮だと思うんですよ。別にチキン野郎じゃないよ。いやホント、マジでマジで。
「ところでさ、えーと、“周防”さんだっけ? “周防”さん、悪いけど尚哉くんとは縁を切ってくれないかな?」
なぜ周防って呼び方を強調する? そしてオレの彼女になんてこと言いやがりますか? やっぱりオレに恨みがあんだろお前。
「言ってる意味が分からないわね。なんで他人のあなたにわたしと尚哉のことを言われなきゃならないの?」
二人とも底冷えのする冷たい声ですね。外は夏なのに部屋の中は真冬ですね。置物なオレだけど逃げ出したい気持ちでいっぱいですよ。
しかし、国東の要求は意味がさっぱり分からない。オレの彼女だとか自称するなんて何を考えている? 本気でオレを不幸にしたいのか?
まさか自分が彼氏できないのにオレが彼女できたってことがそんなに許せないのだろうか。国東に彼氏ができないのはオレのせいじゃないぞ。
だいたい二十歳で中学生高校生に間違えられる子供っぽさが悪いんだ。女っつうより妹的に見られるのは仕方ないだろ。まあ可愛いけどな。
気の合う女友達だと思ってたのに残念だ。今日が無事に終わる前に、コイツとの付き合いかたを考えないとな。無事生き延びれたらの話だが。
「周防さんは尚哉くんに相応しくないよ。だって尚哉くんのこと何にも知らないでしょ?」
「ふざけたこと言うわね。わたしが尚哉のことを何にも知らない? 分かった風に言ってるあなたはどうなのよ?」
……まさか、オレの隠れた趣味である『ストッキングの似合うエロい女性の画像集め」のことを言ってるんじゃなかろうな?
それともあれか? 秘蔵の『団地妻・若奥様シリーズ』コレクションのことなのか?
「周防さん、あたしは周防さんより尚哉くんとずっと長く一緒にいたんだよ? 少なくとも周防さんよりは尚哉くんのことは理解してるよ。
趣味も性格も特技も口癖も寝る時間も性癖も愛読してる雑誌も良いとこから悪いとこまで全部知ってるよ。周防さん、全部知ってる?」
いやちょっと待て。なんか聞き捨てならないこと言わなかったか? なんで国東が俺の寝る時間や性癖や毎月こっそり愛読してる雑誌まで知ってるんだ?
はっ! そういや国東はよく薄地の黒ストッキングを履いている。俺の好みを理解してんなあと思いきやマジで知ってたのか!?
「笑わせないで。そんなの全部知ってるに決まってるじゃない。仮に知らない部分があってもこれから知っていけばいいわ。
ねえ、分かってると思うけど、私は尚哉の“彼女”なの。あなたは尚哉のただの“友達”よ。どっちがより深い関係かなんて理解できるわよね?」
……あの、優花さん? オレたち付き合って1ヶ月ちょいだけど? オレ優花に自分のこととかそんな話してないよね?
「ただの友達じゃないわ。あたしが尚哉くんの彼女なの。あたしが一番尚哉くんのこと知ってるし愛してるわ」
「分からない人ね。悪いけど尚哉の彼女はわたしなの。もう決まってるの。なんなら尚哉からハッキリ言ってもらう?」
優花さん? なにとんでもないキラーパスをいきなりカマしてくれやがるんですか?
余裕の笑みで静かにこちらに目線を向ける優花、そして今まで見たことのない真剣な表情でこちらを見る国東。
「尚哉くん、尚哉くんはこの女に騙されてるんだよ。お願いだからあたしを見て。あたしを選んで!」
「尚哉、可哀想だけどハッキリ言ってあげたほうがいいわよ。自分の彼女が誰なのかって。彼女の目を覚ましてあげて」
嗚呼……せっかくの記念日がどうしてこんな事になったんだ。厄年仏滅天中殺のトリプル役満か? 俺が何をしたってんだよ誰か教えてくれ。
……つーかハッキリ国東に言ってやればいいだけの話なんだがな。オレが付き合ってるのは優花なんだし。たった一言で済む話だ。
明らかに国東はおかしい。オレを本気で好きなのは分かったが、それでもオレの彼女は優花なのだ。国東はただの友達だ。
しかし、これは慎重に言葉を選ばなければいけない。言い方を間違えると国東を傷つけてしまう。うーむ、まいった。
ゆっくりと、静かに深呼吸をする。目の前では二人が息を飲んでオレを見つめている。
考えても良い言葉なんて思いつかない。言葉を選ぼうにも結局意味は同じなのだ。女の子をフった事なんか一度もないだけに難しすぎる。
それにこんな短時間で良い言葉が思いつく脳みそなんか持ち合わせちゃいないんだなオレは。せめて三日は欲しいところだ。
なので、自分に正直に、かつ誠実に優しく柔らかく真摯に真面目に素直にオレらしく言うことにした。
「国東、悪いけどオレの彼女はお前じゃなく優花なんだ」
その瞬間、目の前の二人にハッキリと明暗が分かれた。
愕然とした表情の国東、勝ち誇った表情の優花。やはりというか、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
つーか優花さ、その「計画どおり!!」って顔やめようよ。なんかすごく悪人顔っぽく見えるぞ。ちょっと考え方変わっちゃう顔だよ?
国東は口を開いたまま呆然としている。まるで信じていた者に裏切られたような顔で非常に心苦しい。
――だが、オレは続けなければならない。言ってしまったからには最後まで言わなければならないのだ。
「お前がオレのことを好きだってのは正直驚いた。でも嬉しいよ。多分これが優花と出逢う前だったら考えも違ってた。
だけどさ、オレはもう優花と付き合っているし、国東のことは友達としか思えない。オレも国東は好きだよ。でも“友達”としてで恋愛感情はないんだ」
できるだけ柔らかく、一息でそこまで言い切る。国東は俯いたまま微かに震えている。
息苦しい重たい空気――沈黙が一秒毎にその密度を増していく。まるで棺に押し込まれて密閉されたみたいだ。
「どう? 分かったかしら? 誰が尚哉の彼女なのか、本人が言ったんだから認めるしかないわよね?」
おい優花、ちょっと黙れ。なんで追い討ちかけてトドメ刺すようなこと言いやがんだ。さすがにそれはねーわ。
だけど事実は事実だけに何も言いようがない。オレは優花を選び、すでに付き合っているのだ。
言ってしまってから後悔する。もっと良い言い方があったんじゃないか。もっと柔らかく言えなかったのか。
一番正しい答えなんてのはきっと無いんだろう。でも、多分自分が最も納得できる後悔しない答えこそが一番正しい答えなのだと思う。
オレは「これからも良い友達でいよう」なんてふざけたことは言わない。それは自分の無責任で我が儘な願望なだけだって分かってるからだ。
例えば、自分が仲の良い女友達に告白してそんなこと言われても絶対無理だ。恋愛感情の混じった友情なんか上手くいくわけがない。
しかも相手には自分の気持ちが知られているのだ。こういうのは絶対に溝ができて、告白前の付き合い方はきっと無理だろう。
他に好きな相手が現れて、好きという感情が薄れてきたならなんとかなるかもしれないが、しこりってのは必ずある。
だから、オレはそれだけは言わない。例え今日限りで国東との関係が断ち切られようとも、そんな相手の気持ちを踏みにじる言葉だけは吐かない。
どれくらいの時間が経ったのだろうか。体感的には一分にも五分にも十分にも感じられた沈黙。
ゆっくりと顔を上げた国東の表情を見て、今度はオレが愕然とした。
国東の表情からは感情が欠落しているように見えた。まるで能面のような表情。それなのに――国東は笑っていた。
笑った顔の能面。目は生気が完全に消え、口元だけが歪に三日月のように歪んでいる。凄絶なまでに異常な人間の能面がそこにあった。
言葉を失ったオレに、国東は能面のまま口を動かす。
「あはは、あははは……尚哉くんったらこの女に洗脳されてるんだね。こんな女のことなんか好きじゃないのにね。
可哀想な尚哉くん……この女が消えれば目が覚めるよね――あたしが助けてあげるね。だって尚哉くんの彼女なんだから……」
そう言って国東は顔だけを優花に向けて、ゆっくりと立ち上がる。その手には――いつの間にかナイフが握られていた。
つーかさ、どこから出したんだよ、国東……。
投下終了です。何もなければ次回は明日の夜投下予定です。
271 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 00:20:56 ID:epvZYtwW
いいね
久々にきちんとしたヤンデレをみた
初めて投稿するものです。
ボク、我妻 光華(あがつま こうか)は姉の我妻 婁愛 (あがつま るあ)が嫌いだ。
物心付いたときからボクは姉の言いなりだった。
逆らうとすぐにグーで殴ってきた。
ボクの友達も気に入らないとすぐに暴力を振るった。
中学三年生になってやっと姉は社会人となり実家からでていって正直ボクはほっとした。
だけど時すでに遅し……姉の身勝手な行動と噂によって友達は全くできなかったボクは今日高校生になった。
姉も両親もいない遠い県外の学園にきた。
長年やってきたバレーボールの推薦がとれたのだ。無性にうれしかった。
ここでボクは仲のいい友達を作ったり体育祭とかでいいところをみせたりあわよくば可愛い彼女をつくったりいろんな想像をしていた。
……この言葉を聴くまでは……
『次に、学年主任兼校長、我妻 婁愛さんのお言葉です』
「やめてよ!!お姉ちゃん!!友達をいじめないで!!!」
ムカツク
「なにが友達よ!!こんなのただの猫じゃない!!」
光華の傍に擦り寄ってゴロゴロ喉ならしてんじゃないわよ!!
「だって……ボクの学校に友達なんかいないもん……」
そりゃそうよだって私が近づくなって忠告したんですもの。
光華には近づくなって……ね?
「ほらぁ〜逃げていったね〜」
所詮動物なんて光華を物としか見ていない。
そんな安い愛情で光華が振り向くと思ってるの?
光華の笑顔は私のもの。
光華の手も腕も足もぜぇんぶ私のもの。
「……光華ぁ?あんたにも、お仕置き、しなきゃね?」
ビクリと肩が震えた。そのおびえた表情もまた可愛い♪
「うっぐ……ハァ!!ごべ…ん……だ…ざい!!!ごべんなざい!!」
何度も何度も謝ってくる。ゾクゾクしちゃう……もうこのくらいで許してあげよう。
「うん。許してあげるよ、光ちゃん。そのかわり今お姉ちゃんはとっても寂しいの……何をして欲しいかわかるかな?」
「……チュー、だよね?……」
恥ずかしそうに小さく呟いた。
「そうそう!!それぇ、して欲しいなぁ?」
目を閉じながら唇を光華の前につきだす。
暖かいものが触れる。
お姉ちゃんは幸せ者です♪
そんな私も社会人になってしまった……なりたくなかったのに……
大学では教育課程を修了し、私は高校の教師となった。
言い寄ってくる男はみんな私の胸と下半身に話しかけている。だから一蹴してやった♪
そして寒い冬と共に大変な受験の時期がやってきた。この時になるとすでに校長と学年主任という大任を任されていた。
「こんなの、みんなやりたくないだけでしょ……」
ピラピラと紙をみる。
そこで目にしたのだ。
我が愛しの弟にして最愛の男。
我妻 光華
さっそく推薦枠に入っていた一人を排除し、光華をいれてあげた。
喜んでくれるよね?光華。
入学式
『次に、学年主任兼校長、我妻 婁愛さんのお言葉です』
やっと私の出番がやってきた。この場面をどれほど思い描いたのだろうか。
光華は涙を浮かべながら微笑んでいるに違いない。
私は台にあがる。
愛しの光華を見るために。愛しの光華に私の存在を知ってもらうために……
投稿終了です。
何か変になったと思うけど……生ぬるい目でみてください・・・
276 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 12:30:49 ID:cABR4EUm
あれ?続きは?これからめくるめく拘束・・・もといラブラブ生活もあるんでしょ?
まあ…キモ姉キモウトスレ向けじゃね?
間を空けてすみません、c&cの者です。
間を空けていた理由ですが、振られました。
初恋はダメージがきついですねw
一か月ほどテンションが最低だったのですが、なんとか立ち直れました。
というわけで、c&c9です。
皆さんの暇つぶしにでもなれば幸いです。
それでは、ごゆるりと。
〜依音side〜
……ん……あれ……
オレ……何時の間に寝てたんだ……?
……てか……ここは……って此処はどこだ!?
辺りを見回す、暗くて何にも見えない。
まだ暗闇に目が慣れてないせいか……
とりあえず周りに何があるか確認しよう。
ガチャガチャッ
……?
いやいやいやいや、まさかねぇ……
もう一回やればきっと自由に動くはずさ、きっと疲れてるんだよ。
ガチャガチャガチャガチャッ!
……あー、あれか……手錠ってやつか……
うん、ちゃんと右手についてましたよ、それも二個。
これは左手があっても外せそうにないなぁ……
これが現実か、覆すことのできない現実か。
俺なんか悪いことしたっけ?
……してないはずなんだけどなぁ。
おっ、そろそろ暗闇に目が慣れてきた。
ここは……どこだ?
どっかの地下室みたいだけど、こんなとこ見覚えがない。
ってか俺いつのまに寝てたんだ?
むしろ昨日はいつ寝た?
少しずつクリアになってきた頭を働かせ、記憶の糸を手繰る。
えっと……まずは空港だ、そこで飛行機に乗って、そのあと列車に乗った。
その次はタクシー、そんでようやくはいねぇの家について……ん?
……はいねぇ?
そうだ、オレは今ドイツにいるんだ。
まだ出歩いた記憶はないし、友達どころか知り合いすらいない。
この国でおれの存在を知ってるのは両親とはいねぇ、あとはタクシーのおっさんくらいじゃないか。
そしてまだ両親には会っていない、タクシーのおっさんだってオレの顔も覚えちゃいないだろう。
そして残るのははいねぇしか居ない。
ガチャッ
オレの思考を肯定するかのようにドアが開く。
外はまだ明るいらしく、暗闇に慣れたオレの眼を光が焼いた。
そして光を背に受け立っていたのは、想像通り、はいねぇだった。
「おはよう、えねちゃん」
はいねぇが言う、昨日と同じように、ごく普通に。
「お、おはよう」
対するオレは答えるのが精いっぱいだった。
声は震え、日常的な非日常という恐怖に顔が引きつる。
「どうしたの? 怖い夢でも見たの?」
いやいや、今この状況が恐怖ですよ?
「おなか空いてない? 朝ご飯何にする?」
怖すぎて何にも考えらんねぇ、いやマジで怖い。
「ねぇ……答えてよ」
口の中がカラカラで声が出ない、何か言わなきゃ。
「ねぇ……答えてよ……答えなさいよッ!」
「ひっ!?」
はいねぇの表情が一変する、あの優しそうな雰囲気はもうかけらも残っていない。
「私がどんな気持ちで今まで過ごしてきたか解る!?
毎日寂しくて、辛くて、悲しくて、でもそれを我慢して詰め込んで!
研究に没頭することで自分の感情をごまかして、そうしてさらに詰め込んで!」
涙を流しながら叫び続けるはいねぇ。
はいねぇがそんな事を思ってるなんて知らなかった……
「えねちゃんが事故に遭って、手術するって聞いたときだって!
研究を放り出して、我慢できなくなって、気づいたらら飛行機に乗ってて、それで、それで……」
うつむきながら、涙を流しつづけながら、話し続けるはいねぇ。
すでにその顔に怒りは無かった、あるのは悲しみだけ。
「ゴメン……」
そんなに想っててくれたなんて、知らなかった、知ろうともしなかった。
「これからは、何時でも頼っててくれていいから、何時でも背負うから」
今までの感謝と謝罪を込めて言う。
「オレはずっと、はいねぇのことが好きだから」
それから一時間程、オレははいねぇを慰め続けた。
以上で投下終了です。
いつもながら少ないですねw
これからもこんな感じで少しずつ投下していきます。
最後までお付き合いしていただければ、嬉しいです。
それでは、またの機会に。
P.S. :猫娘のヤンデレは擬人化はいいのでしょうか?
前回うやむやになったのでもう一度。
擬人化が無しであれば、擬人化スレに書き込もうと思っています。
どうでしょうか?
はいねぇ来た!!!
GJです!!!
俺なんか初恋の相手は親友に取られたぜ(^-^)しかも次の相手も(^-^)v
GJ
個人的には擬人化はありだと思う
乙
まぁ、ありじゃないか擬人化
>>281 GJ
くっまた焦らしですか…早く続き読みたいですがマイペースでがんばってください。
286 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:48:58 ID:HW+a6mw5
一日に二回とか……でしゃばってすみませんorz
以前から言っていた猫娘のヤンデレssなんですが……
猫じゃなくなりましたw擬人化もなしになりましたw
それでもいいという方のみお読みください。
また皆様の暇つぶしになれば幸いです、それでは、ごゆるりと。
287 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:49:36 ID:HW+a6mw5
彼女を見つけたのは、強い雨の日だった。
ずぶ濡れのボロ衣を纏い、暗い瞳を携えた白い長髪の少女。
「気まぐれ」、「憐れみ」、「憐憫」。
そんな感情だったかもしれないし、違うかもしれない。
手にぶら下げていたスーパーの袋の中からパンを取り出し、少女にくれてやった。
僕の手の中から、それを奪うように掴み取り、慌てたように食べる。
パンを食べ終えた後、僕の方をじっと見続ける少女に……
「もうない、付いて来たかったら勝手に付いて来るといい」
と言い、傘を置いて家路に着いた。
僕は後ろを振り返ることなく歩く、周りの人からの奇異の視線にさらされながら。
マンションに着き、エントランスのロックを解除し、自室に入る。
少女の姿は無い、まぁそんなものだろう。
その日はいつものように夕飯を作り、風呂に入り、寝た。
いつもと何ら変わらず、退屈に。
翌日、僕はドアを叩く音とインターフォンの音のコンボで目が覚めた。
「……誰だよ、こんな朝っぱらから、バカじゃないの……」
以前鳴り終わる気配のない騒音にうんざりしながら玄関のドアを開ける。
「何なんですか、こんな朝っぱらか、ら……?」
居た、そこに、少女が、いや、美少女が。
「……お腹空いた……ご飯……ちょうだい……?」
可愛く小首をかしげながら。
288 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:50:07 ID:HW+a6mw5
「……で、此処に代入……?」
「…………スゥ…………」
「……あれ? xの値が……」
「…………クゥ…………」
「ん〜、わかんない、もういいや」
数学の課題から視線を離し、時計を見る、もうそろそろお昼時だ。
「チノ、起きて」
「…………ヤダ…………」
「ご飯、要らないの?」
「……ご飯よりもクゥが欲しい……」
「じゃあ左手でも食べる?」
「…………バカ…………」
渋々といった表情で僕の膝から頭をどけるチノ。
「おはよう、今日のお昼ご飯は何がいい?」
「オムライスとコンソメスープ」
「ん、じゃあ少し待っててね」
キッチンへ向かい、食事の準備をする、今日の献立はオムライスとコンソメスープ(インスタント)だ。
卵はまだある、ご飯も……冷やご飯があるかな?
コンソメスープは買い置きがたくさんあるはずだし、買い物に出なくても大丈夫かな。
ポットにお湯を入れ沸騰させている間、オムライスに取り掛かる。
冷やご飯をレンジで解凍し、玉ねぎとベーコンと混ぜて炒め、ケチャップを加えてご飯は出来上がり。
更にもう一つのフライパンに油を敷き溶き卵を入れる、そしてよーく伸ばして……
「……よっ」
ご飯の上にかぶせて出来上がり。
最後にコンソメスープのインスタントをカップに入れて、お湯を入れれば出来上がり。
「出来たよ」
テーブルに料理を並べる、残念ながらご飯が一人分しかなかったので僕の昼食はスープだけだ。
「さぁ、召し上がれ」
「うん……クゥのは?」
「あぁ、僕はあんまり食欲ないから、スープだけ」
嘘だ、本当は結構お腹もすいている。
それでもチノに心配はかけたくない、彼女は僕の恩人なのだから。
289 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:50:41 ID:HW+a6mw5
「……お腹空いた……ご飯……ちょうだい……?」
へ……? いやいや、何故? っていうか誰?
「……昨日……約束……ご飯……」
昨日、約束、ご飯……?
「もしかして、昨日のずぶ濡れだった子?」
「……うん……」
そう言って彼女は一本のビニール傘を差し出す、昨日あの場所に置いてきたはずの僕の傘だった。
あの時は暗くて解らなかったが彼女はものすごい美少女だったらしい。
「まぁ……上がりなよ」
「……うん……」
僕は傘を靴箱にかけ、少女を招き入れた。
そこからはよく覚えていない、いや覚えてはいる。
ただ、自分が冷蔵庫の中身をありったけ使って料理を作ったこと。
そのおかげでその月は普段の倍の量のバイトをこなさなければいけなくなったこと。
その二つを早く忘れたいので割愛させてもらおう。
その後、ぐっすり眠ってしまった彼女が起きるのを待ち、事情を聴くことにした。
そこで彼女の名前が「チノ」ということ、年齢は15歳であること。
彼女には家族がおらず、保護施設にも入ってはいないこと。
今までは母方の祖父母に育てられていたが、二人とも事故で死んでしまい、今まで飲まず食わずで過ごしていたこと。
もうあんな生活には戻りたくないことを話してくれた。
「それで、君は一体これからどうしたいの?」
「……此処に……居たいです……」
消え入りそうな声で彼女は答える。
「施設に入った方が幸せになれるよ?」
「……嫌……なんでも……しますから……迷惑には……なりませんから……っ!」
うつむきながら、さっきよりも強い口調で、彼女は続ける。
彼女ならすぐに養子にしたいという里親が現れるだろう、そして此処にいるよりもずっと幸せになれるはずだ。
それを説明しても彼女は此処に居たいという。
「……食事は一日三回、ベッドは僕と兼用、おこずかいなんてあげられない、それでもいいの?」
「……!」
「これ以上はどうやっても無理だけど、それでもいいなら置いてあげる、どうするの?」
「はい! お願いします!」
290 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:51:11 ID:HW+a6mw5
それから半年、僕は彼女のおかげで明るくなった……らしい。
彼女は僕が少しでも嫌な顔をすると、涙目になって謝ってくるのだ。
その結果、いつ何時も笑顔を絶やすわけにはいかなかった。
そしてずっと彼女と生活していたおかげで、女性の扱い方にも慣れてきていたらしい。
彼女と出会う前、自慢じゃないが僕は暗かった、それも相当に。
何をやるにしても面倒くさく、やる気が出なかったというのと、それ以上に毎日が退屈だった。
変わり映えのしない毎日に絶望していたのかもしれない。
それを彼女という存在が一変させた。
彼女のために料理を覚え、彼女のためにバイトを増やした。
以前と変わらない生活なのに、彼女のためと思うと自然と楽しくなった。
簡単な話、僕は誰かに必要とされたかったのかもしれない。
そして以前よりも笑顔が増え、他人への接し方を覚えた僕を待っていたのは「友達」だった。
男性女性を問わず、いろいろな人が僕に話しかけてきてくれた、サークルに誘われたことも一度や二度ではない。
残念ながらバイトとチノのことがあるので、サークルに入ることはできないが、それでも嬉しいと思える、もちろん今でも。
だから、僕は彼女を必ず幸せにしようと決めた。
291 :
私の居場所:2010/03/07(日) 21:56:20 ID:HW+a6mw5
とりあえずここまでです。
後2〜3回で終わる予定です。
ちなみに私は書くことよりも読むほうが好きなので遅れるかもしれません。
それでもマイペースに書いて完結させることだけはお約束します。
最後までお付き合いいただければ嬉しいです。
それでは、またの機会に。
P.S. :なんだかんだで作者別のほうに私は居ませんw
最初に私がsageることを忘れていたからなのですが。
いつか私の作品をよかったと思う方がいらっしゃいましたら、その時はお願いします。
GJ!
GJです
294 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 22:36:49 ID:nRMFd1bv
GJですっ。
投下します。6〜7スレ使用します。
一瞬で全身に鳥肌が立った。血の気が一気に引いていき、背筋が凍りつく。
国東の手には鈍く光るフォールディングナイフ。やたら凝ったデザインだがアマ○ンで買ったのかそれ? つーか銃刀法違反でしょっぴかれるぞ。
なんで国東がこんなもん持ってんだよと一瞬考えたが、謎はすぐに解ける。国東は“変なもの収集家”なのだ。だから不思議じゃない。
なんとこのバカは南米の部族御用達の仮面とかチリの珍しい呪い人形とかどこぞの国のブーメランとかを通販で買うのが趣味なのだ。
河童のミイラの手で喜ぶようなアホの子だから良い友達付き合いができていたのに、しかしここでナイフは反則だろ。そりゃオレだってビビるわ!
表情を強ばらせるオレと優花。ここで平然とできる人間なんているわけがない。いたら今すぐ飛んでこい。そして助けろ。
どんな軍人でも格闘家でも、丸腰でナイフ持った相手(しかも様子が尋常じゃない)を前にしたら笑ってなんかいられない。(オレは普通の素人だけど)
ボロアパートの一室はデンジャーゾーンと化した。国東が右手に持つナイフを振り回しただけで血の雨が降ることうけあいである。
優花は固まったまま動けない。悲鳴を上げないだけ立派だ。下手に騒いだり動いたりしては国東がどうなるか分からない。
「ちょっと待っててね、尚哉くん。すぐに始末して洗脳を解いてあげるから」
笑った能面のまま、国東が言う。ヤバイ、国東は本当にターミネーターだった。ガチで殺す気満々だ。
脅迫でもなんでもない、本気で“殺る”って気配がビシバシ伝わってくる。つーか洗脳を解くって何するつもりだ?
ナイフを持った手が動き出そうとした時、瞬間的にオレは立ち上がっていた。こう、本能的に動かなきゃヤバイと思ったのだ。
「ちょっと待て! 落ち着け国東、そんなもん持ちだして何考えてんだこのバカ!」
「邪魔しないで尚哉くん、すぐに終わるから」
なに言っちゃってんのこのバカターミネーター。邪魔するに決まってんだろうがボケ。
「トチ狂ってんじゃねーよバカタレ! この部屋を殺害現場にしてブタ小屋旅行に行くつもりか。ちったぁ後先とオレの迷惑考えろ!」
ここで優花の名前は出さない。優花を殺すなとか、オレの彼女になんたらかんたらなんて言えば余計に火に油をぶっかけるだけだ。これ死亡フラグね。
言い方は悪いかもしれないが、今の国東を止めるには下手な言い方が一番だと思う。
国東は少し迷ったのか、眉を寄せて少し黙ったあと――
「大丈夫だよ。部屋はあたしが綺麗にするし、死体の始末なら知ってるから。絶対バレないし尚哉くんには迷惑かけないよ」
正気じゃねえッ! つーか平然とエグいことサラッと言うな。お前はどこまで突き進むつもりなんだ。
「だからそういう問題じゃ――」
そこまで言いかけたところで――不意に、横から押されてよろめいた。
国東の少し驚いた顔が視界から離れる。カメラアングルが移動するように、視界が真横にズレていく。
何が起きたのか分からずにそのまま倒れ、ベッドの角に頭をぶつける。柔らかい部分と固い部分がこめかみに鈍い衝撃を伝えた。
「あがっ!」とオレが呻き声を出したすぐ後に、近くで激しい音が聞こえた。人が倒れた音、カップが割れた音、乾いた音、小さな悲鳴。
オレが倒れていたすぐ後の一瞬で何が起きたのか――目を瞑って痛みを堪えること十秒後、なんとか薄目を開いて振り返る。
そこにはとんでもない光景が広がっていた。
優花に組み伏せられて倒れている国東と、馬乗りになって国東の右手と首を掴んでいる優花。ほんの僅かな時間で状況は逆転していた。
状況を確認するに、おそらくオレを突き飛ばしたのは優花だろう。そして国東の顔と服がコーヒーで濡れている。
――察するに、突き飛ばされたオレに注意を逸らせ、その隙に手元のコーヒーを国東の顔にかける。
突然の奇襲で視界が見えなくなった隙に、優花はナイフを持った右手を掴み、そして足を引っ掛けるなりなんなりで押し倒したのだ。
そしてそのまま馬乗りになって国東の首を絞めている。多分こんな感じだろう。正解は後で優花に聞けばいい。問題は今の現状だ。
マウントを取った優花と取られた国東。普通に見れば優花が圧倒的に有利。ポジション的にも体格的にも優花の優勢は明らかだ。
「先にヤッパ(刃物)出したのはあなたよ。油断したわね、でもこれで終わりよ」
氷のような冷たい声で優花は言う。なんかそっち筋の専門用語が聞こえた気がするが気のせいだ。
国東は足をバタバタとして足掻いている。しかし上に乗られた状態では蹴り上げることもできないし、もがけば無駄に体力を消費するだけだ。
ってか、これは見てる場合じゃない。状況的にも止めないとヤバイ。
優花の目には明らかに殺意が籠もっている。怒りながら笑うという般若の表情は完全に“ブチギレてますよ”のサインだ。
慌てて立ち上がり優花を止めに入る。なんせ掴んでいるのは首だ。優花の握力を忘れちゃいけない。
「ストップ! 止めろ優花。今度はお前が殺す気か!」
後ろから引っ張って止めようとするがビクともしない。スゲー、岩のようである。
優花は首だけ振り返り、
「邪魔しないで。……大丈夫よ、殺っても正当防衛って認められるわ」
なんてとんでもないことを言う。殺す気満々である。うん、これは全力で止めねばなるまい。
……っていうかですね、優花の目って国東に似てるよね。なんか真っ黒っつーかさー。危なく見えるよねー。デンジャーデンジャー。
国東の顔は既に土気色だ。コーヒーまみれもあるだろうが、首を絞められて意識を失う寸前だろう。苦悶の表情がそれを物語っている。
「おい! 止めろって優花! それ以上やって本気で殺す気か!? 頼むから止めろ!」
「ちょっと待ってて尚哉、もうすぐ終わるから。首へし折っちゃ変に疑われるけど絞殺なら大丈夫よ」
だからなんでそう一直線なんだよ!? 完全に殺すこと前提に喋ってんじゃねーよ。会話が成立してねーよ。笑顔で言うな笑顔で。
首を絞め続ける優花。それを全力で引っ張って引き離そうとするオレ。左手だけ動いている国東。……左手だけ? んん?
一瞬、国東と目が合う。国東の目が『離れて』と伝えている。いわゆるアイコンタクト。何故かオレと国東は練習したことがあるのだ。
嫌な予感――瞬間的に離れると同時に国東の左手が動き、その手に持っている黒い物が優花の脇腹に当てられる。
バチバチバチバチバチッ! と音が鳴り、優花がショックを受けたように仰け反り痙攣した。
「ぅあ゛ッ――!」
優花は小さな呻き声を上げると、全身から力が抜けたように、ぐにゃりと横に倒れる。
ショックを受けたように、じゃない。実際に受けたのだ。初めて生で見たが、見れば分かる。国東が持っているのはスタンガンだ。
……もうさ、ツッコミたいけどどうでもいいや。優花も優花だしさ。
「げほっげほっ、ごほっ……はぁ、はぁっ……こ、この怪力ゴリラ女……」
苦しそうに咳き込みながら、国東は喉を抑えながら優花とは反対に横向きになる。
優花は気絶しているのか、揺すっても起きない。死んでいないから良しとしよう。ある意味しばらくは眠っていてほしい。
「だ、大丈夫か国東?」
「ごほっごほっ……だ、大丈夫だよ、尚哉くん。嬉しいな、心配し、してくれて……」
そりゃ良かったな。でもな、殺される寸前まで首絞められたら誰だって心配するっての。
背中をさすってやりながら、さりげなくナイフとスタンガンを回収しておく。
「ああ、嬉しいな、嬉しいなぁ……。尚哉くん、やっぱりあたしに優しくしてくれた。あたしを心配してくれた。好き。大好きだよ」
「分かった、分かったから黙ってろ恥ずかしい。あと人の胸に頬ずりすんな」
ペシッと頭を軽くひっぱたく。国東はえへへっと笑うと、そのまま眠るように意識を失った。
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、薄汚いボロ雑巾になーれ!!」
魔法のセリフと同時にサリーさんのコンパクトメリケンが鈍く光り、美少女女子高生の左頬に突き刺さる。口元からキラリと白い歯が飛び出た。
膝が崩れかけた女子高生の胸ぐらを掴み、倒れるのを阻止してサリーさんは鳩尾にボディブローを入れた。
「ぐぇっ!」
カエルのような呻き声を出す美少女女子高生。既に戦意は喪失しているが、サリーさんは止まらない。
「テクマクマヤコンテクマクマヤコン、オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァッ!!」
ストレート、ボディブロー、アッパー、ボディブロー、ショートフック、ジャブ、アッパー、ストレート、レバーブロー、アッパー。
ダース単位の攻撃を受けた女子高生が、トドメのアッパーで吹き飛んでいく。
生き延びていると面倒なので、秘密のコンパクトを使った必殺の『サリーフラッシュ』が炸裂する。
哀れ無惨にも上空で星となった女子高生に、サリーさんは決めゼリフを呟く。
「あたしの旦那に擦り寄ってきた罰よ。地獄で反省しなさい」
はるか上空で粉微塵になった女子高生。その先を見ながらサリーさんはアンニュイな溜め息を吐く。
「いけない、タイムセールに間に合うかしら……?」
オレンジ色に染まる夕焼け空にパトカーのサイレンが響き渡る。誰かが通報したようだ。
サリーさんはバッグを拾い上げ、商店街の方へ小走りで走り去った。
戦えサリーさん、負けるなサリーさん。旦那を狙う町内女性達の魔の手から幸せを掴み取れッ!!
次回・『サリーさん、初めての監禁プレイ』お楽しみに!
「……ねえ尚哉、そろそろ解いてほしいんだけど。それに、どうしてわたしが縛られてるの?」
「尚哉くーん、さすがにこれは酷いんじゃないかなー? でもあたしならまだまだ大丈夫だよー」
「死ね、この変態マゾ女」
「そっちが死ね、怪力ゴリラ女」
部屋の右端と左端からステレオのように声が聞こえてくる。右が優花、左が国東である。
二人を無視してオレはテレビを見続ける。この『魔法使い人妻サリー』はエンディングテーマが珍しくデスメタルでそれがまた良いのだ。
毎週土曜日は欠かさずこの番組を観ているのだ。この時間だけは譲れない。
「チビ、ペチャパイ、キチガイ、ブス、泥棒猫、勘違いバカ女!」
「ゴリラ、ブス、雌豚、鼻クソ、性悪、くたばれ凶悪害虫!」
あらあらうふふ、すっかり打ち解けちゃって。殺伐としてるが随分低レベルになったなあ。戦国武将の守護霊もいつの間にか犬と猫になってるし。
床に寝転がった状態で二人はギャーギャーと口汚く罵りあっている。格好が笑えるだけに威勢が良くても迫力がまるでない。
二人には悪いが、眠っている間に縛らせてもらった。ちょうど二人分縛れるロープがあったのだ。SM用じゃなくて引っ越し用な。
両手と両足を縛ってから、それを背後で繋げて海老反りの状態になった二人がゴロリンコと転がっている姿はなかなかにシュールである。
これは仕方ないのだ。拘束しておかないと再び血生臭い修羅場が起きるに決まっている。いつの世も平和的な解決方法は話し合いだ。
未だにギャーギャーと罵りあう二人だが、先程に比べれば幾分はマシになった。あとは二人を納得させて鎮めるだけだ。
あれから大変だった。部屋の掃除とか両隣と真下の住人の苦情に謝りに行ったりとか縛ったりとか。特に板倉さんなんか恨めしそうだったし。
しかしさすがはご近所付き合いの希薄な世の中。あんな騒ぎでも通報がなかったのは幸いである。現代人の無関心さって時には素敵。
お巡りさんが来たらどう説明すればいいのか分からなかったし、騒ぎが大きくなったら口うるさい大家さんに追い出される可能性もあったのだ。
しかしまあそれはそれとして。とにかく頑張ったよオレ。
後はなんとかなるだろう。間違っても殺し合いにはならないだろうし、一晩話し合えばきっと分かってくれるさ。
こんな事さえなければ今頃は童貞なんか燃えるゴミと一緒に捨ててたのになあと思うと涙が出そうになるが、ここは男らしく我慢だ。男は我慢。
きっと次があるさ。とにかく今はこの仁義無き戦いを終わらせることに専念しよう。オレ、もう少し頑張るよ。
「そんなわけで、今から二人と話し合いをしようと思うんだけど――」
人が話しだそうとした矢先だというのに、それを邪魔するかのように携帯の着信音が鳴り響く。どうも今日は邪魔されてばかりだ。
珍しく鳴った着信音はジョーズのテーマ。あの海で泳いでる女性にジョーズが近づく時のあれだ。ちなみに優花はエマニエル婦人、国東はターミネーターだ。
放っておこうかと思ったが、二人の怪訝そうな視線が痛いので仕方なく出ることにする。嫌な予感がひしひしとする。
「はいもしもし……」
『ヤッホー! 久しぶりー! 元気してたー?』
鼓膜を破りそうなほど大きな声が携帯からこんばんは。それはもう離れた二人に聞こえるくらいの大きな声なわけで。
このバカでかいうるさい声は久しぶりな女の声なわけで。両隣の二人の視線が揃って痛く突き刺さるわけで。嫌な予感とは当たるわけで――
「この声は――五月(さつき)か?」
『ぴーんぽーん! 正解者にはサプライズとして、今夜愛しいアタシが一晩泊まってやる権利を与えよう!』
「――はっ!? ちょっ、なに言って――」
言い終わる前に、不意に両肩を掴まれた。背筋が凍りつき、全身が硬直する。やだなあ、けっこう強く縛ったんだけどなあ……。
「……ねえ尚哉、その話し相手、誰?」
「……尚哉くん、ちょっとその携帯、貸してくれない?」
耳元で、二つの冷たい声が囁かれる。部屋の室温はシベリア海峡に逆戻り。遠くで法螺貝の音が聞こえ、犬と猫が戦国武将に大変身。
「ち、違うぞ。五月は二人が考えるようなやつじゃ……っつうか、二人ともどうやって縄を解いたんですか……?」
「五月、ねえ……。ずいぶん親しそうな関係みたいだけど? 初めて聞く名前よね?」
「尚哉くん、怒ってないから、ね? ちょっと携帯貸してくれないかな?」
優花は静かに笑い、国東は口元だけを歪めて笑う。二人の目は黒く、暗く、奈落の底みたいに深い闇。
般若と能面に挟まれて、携帯からは第三の悪魔(すっとこどっこい)の声が喧しく聞こえてくる。
そして予想外にも早いインターフォンの音が室内に鳴り響いて――オレは全てを諦めた。
投下終了です。皆様の暇つぶしになれば幸いです。
次に投下するときはもう少し真面目に考えて真面目に書いたのを投下します。多分。
>>302 GJ!!
しかし・・・これで終わり・・・とな・・・!?
304 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 00:55:16 ID:xIweUENA
GJ
今更だがやっぱり起承転結の人かw
話の続きが気になる所で切っちゃうところが、
読み手としては残念なものの、読後感を良くしているのかもしれません
◆BAPV5D72zs氏のお話はすごい雰囲気があって好きです
今後も楽しみにしています
おもしろかった。
だがまだ4Pを書く作業が残ってると思うんだが
えー従姉のおねーさん乱入編無しなのー?
個人的には最後ギャグにしないで欲しかった
GJ!!
だが、もっと見たい!!!
>>291 作者別メニューはコテか酉を付けた人だけまとめてるので(^_^;)
どちらか付けて投下した作品名を言ってくれれば作りますよー(^_^;)
312 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 13:59:10 ID:P63qxImG
これ、「大人は嘘をつく」って言ってた人だよね。
また、いい意味で予想を裏切ってほしいものです。
>>302 解ってるよ、ホントは続きは書いてあるけど
僕らを焦らすためにワザと投稿しないだけなんだよね?
また自演感想か。これさえなけりゃ、けっこういい作者なのになあ。
自演があるかどうかはわからんが、たとえ自演だったとしても、素晴らしいSSを書いてくれてありがとうと私は言いたい。
317 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 23:03:40 ID:Qm2UjOVo
昨日のさんまのスーパーからくりテレビにでてた女の子がヤンデレぽかった件。誰か見てたら感想聞かせて!
319 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 23:51:52 ID:mv7hei/C
かなう シンプル
もうすぐ、こはるの日々の単行本が出るが買いかなあ。
なんか狂気が薄まりそうな感じが出てきてるんだが。
久しぶりにスレを覗きに来たが、お茶会の人の続きはまだかね
まぁ、まだだろうね。わかっちゃいるさ
322 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 22:01:46 ID:p1aId/c3
おもしろい 派手
>>302 GJ!
やっぱりギャグな修羅場は良いw
しかし電話の相手と会話せずに速攻で通話を切って
「間違い電話だった」と言い張れば
少しだけ二人の覚醒を遅れさせられたのではないだろうか
ヤンデレの前で抵抗は無意味だぜ
>>324 カオスの前ではヤンデレすら霞んで見えるがな
レベルの低いヤンデレと結婚したい
俺の彼女がまさにそれ
そんな俺は幸せ者です
ちゃんと愛情注いであげると無害化できるレベルのヤンデレって事でわ
単に嫉妬深いだけって気がしなくもないけど
ヤンデレの見てる前でエロ本で抜いてみたい
掃除をしては部屋を汚し、洗濯をしては服を引き裂き着れなくし、食事はアフリカの難民が拒否するほどのゲロ不味さ。
買い物をすれば財布を忘れ、パートに行けば失敗の連続、愛想は良いのに商店街では苦笑される。
近所のママ友に旦那の事を誉められるとノロケ話をして、旦那が家に帰ればママ友について問い詰める。
泣いて喚いて包丁を持ち出して、うっかり旦那を刺しそうになって慌てふためく。
自己嫌悪と自己憐憫、旦那への重すぎる愛に翻弄されながらも健気に頑張る駄目ヤンデレ。
夕飯作るのに二時間かかる若奥様。テレビのアイドルに嫉妬して化粧を濃くする若奥様。そのくせ情事は無駄に凄い。
……良いじゃないか。低スペックなのに可愛らしさといじらしさ満載なヤンデレなんて最高だろ。
>>328 三次話や自分語りをここで始めさせようとしないでくれ
ヤンデレに「これって陰毛だよな」って言ったらどうなるの?
まず誰のものなのか確かめようとするんじゃね
臭いを嗅ぐなり舐めるなりして
335 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 09:15:44 ID:quzZTQxF
死ね
投下します
五年前の夏のある日、母さんが事故に遭ったと聞かされた。
その日僕はお祖父さんに体術を教わりに、家から二駅離れた道場に通っていて、報せを受けて病院へ着いたころには既に息を引き取っていた。
この頃父さんは海外へ出張に行っており、病室に訪れたのは僕と祖父母。あとは見知らぬ女の子が一人。
そして、その日から僕は体術を習うのをやめた。
僕が五年前と聞いて真っ先に思い出すのは、このことだ。
「そう、そのことで間違いないわよ。…やっぱり真司くんは覚えてないんだ、私のこと」秋津は長いかつらの髪を掻き分けながら、がっかりしたように言った。
…いや、まだ続きがあるんだ。僕の脳裏にさらに記憶が呼び起こされる。
病室にいた女の子は、当時の僕と大して変わらない年頃だった。女の子は母さんの遺体が横たわるベッドにすがるように泣き、許しを乞うていた。
お祖父さんとお祖母さんは"あの娘は誰だ?"と囁き、病室に入るのを躊躇っていた。けれど僕はそんなことはお構いなしに病室に入り、母さんの傍へ寄る。
そうすると、女の子が何と言っているのか、何を乞うていたのかが聞こえた。
「わたしがしねばよかったんだ」
泣きじゃくり、声も小さく、何を言っているのか解りかねるほどだが、その一言だけははっきりと聞き取れた。
そばにいた医師は僕にだけ聞こえるように囁いた。お母さんはあの娘を庇って車に轢かれたんだ、と。
気がついたら僕は女の子の襟元を掴み、吊るし上げていた。怒っている? それはそうだ。
けど僕が許せなかったのは、この娘を庇って母さんが死んだという事よりも、母さんが救った命を"私が死ねば"と言われた事だった。
僕はその思いを女の子にまくし立て、逃げるように病室を出た。…今思えば、大人げなさすぎたか。
思い返してみれば、この頃の僕は自暴自棄になっていたんだ。事故の日の一月前、この病院でとある診断を受けたから。
僕は何のために生まれたんだ? と自答したことも一度や二度じゃない。普通に考えれば、11歳で性や子孫について悩むのは早いだろう。
だが今でこそある種の諦観がついたが、当時の僕にはまだ無理な話で。
たぶん、あの女の子の言葉が…いや、あの姿がどことなく自分と重なって、許せなかったんだと思う。
僕はそのまま病院の屋上に出た。いつの間にか空は暗雲が立ち込め、雨がぽつぽつと降り始めている。しかし身体が冷えようと構わなかった。
一人になりたかったんだ。暗い空をぼうっと眺めながら、ただ無機質につっ立っていた。
なのに、女の子は僕の後を追ってきたのか屋上に上がってきて、息を切らせながら僕の傍へ寄って来る。
「ごめんなさい。もうあんなこといわないから、ゆるしてください」
雨なのか涙なのか。もはや判別は困難になっていた。身体は大分冷えている。かすかに震えているのは寒さからか、それとも…。
僕は女の子の手を引き、屋上から室内へと戻った。
「…僕も悪かったよ。けど、母さんが救った命なんだ。…無駄にはするなよ」
「…………うん」
ずぶ濡れで母さんの病室へと戻る僕ら。途中、僕は女の子に名前を尋ねてみた。
女の子は少し言葉に詰まったが、こう答えた。
"あきやま りおん"と。
#####
「そんな…あんた、あの時の…?」
秋津…いや、秋山は僕のうろたえる様子を見てようやく満足げに微笑んだ。
「そうよ。ずっと、ずぅーっと待ってた。思い出してくれるのを」
どうして忘れていたのだろう。こいつは、五年前の秋山理遠で、芸能人としても秋山理遠を名乗っていた。だが僕はまったく思い出さなかった。
今の今まで、"まさか"という深層心理がそれを邪魔したのだろうか。
秋山は今度は僕の手をとり、僕の家へと引っ張ろうとしていた。
「おい、今度はなんだ」
「こんなとこ、歌音ちゃんに見つかるわけにはいかないわ。早く家に入れて」
「そう思うんなら…」帰れよ、とは言えなかった。まだ僕は肝心なことを何一つとして聞き出せていなかったから。
秋山は僕の家に上がり込むとまっすぐ台所に向かい、勝手に湯を沸かし、お茶の準備をし始めた。
それは僕の役目だろう、と言おうと思ったが、別に秋山は僕が招いたわけでもない。客というよりは重要参考人だ。僕は開きかけた口を閉じた。
「秋津理緒って名前はね」食器棚からカップを厳選しながら秋山は言った。
「マネージャーがいくつか挙げた、芸名の候補のひとつなの。でも私は逆に、自分を隠すためにその名前を偽名として使うことにして、本名でデビューした」
逆転の発想か。芸能人としての自分をベールで覆うのではなく、本来の自分を変えて注目を反らす。
「誰にもバレなかったのよ、今まで。でも歌音ちゃんは初めて出会ってその瞬間に見抜いた。ま、その後は気がついたら友達になっていましたってとこね」
しゅうしゅう、と蒸気の漏れるような音がする。湯が沸いたのだろう。秋山はその湯をポッドに移し、カップ二つと合わせてリビングに運んできた。
僕はそれらを受け取り、紅茶のティーバッグをカップにひとつずつ、そこに湯を適量注ぐ。
たちまち紅茶のいい香りが漂う。その香りは僕の心を落ち着かせるのに一役買っただろうか。
「本当はね、歌音ちゃんにだったら真司くんを譲ってあげてもよかったのよ。…でも、そうもいかなくなったの」
「どういう意味だ」僕は紅茶のティーバッグを出し、カップの中身を口に運びながら尋ねた。
秋山は角砂糖を五つ紅茶に入れ、スプーンで混ぜながら答える。
「我慢できなくなったの。真司くんの横で歌音ちゃんが笑ってるのが。必死に自分に言い利かせてきたけど、だめだった。やっぱり…真司くんは誰にも渡したくない」
「そんなこと、…っ?」
なんだ? 急に頭がくらくらしてきた。カップを持つ手にも力が入らない。
「あら、早いわね」
「秋山…な、にをした…?」
朦朧とする意識のなか秋山の顔を睨むように見る。だが答えは得られず…僕の意識は暗闇に落ちた。
「………ごめんね、歌音ちゃん」
#####
―――少しずつ、意識が覚醒してくる。ぐらぐらする頭を軽く横に振ってみると、どうやらベッドに寝かされているようだ、とわかった。
うっすらと目を開ける。飛び込んできたのは僕の部屋の天井。状況を把握できない僕は、ベッドから起き上がろうとした。だが、起きれない。
手足に違和感を感じる。よく見ると…両手は手錠でベッドに固定されている。見えないが、おそらく足も同様だろう。…余計に状況が把握できない。
肝心の秋山の姿は、この部屋には見えない。耳を澄ますとかすかにシャワーの音がした。あいつ、なんなんだ。
と思った瞬間キュッ、と湯が止められる音がした。それから一分弱、バスタオルを胸元に巻いた秋山が、髪から水滴をわずかに落としながら部屋にやって来た。
「目が醒める頃だと思ったわ」
眼鏡もかつらもつけていないそいつは、まさにTVで見たまんまの秋山理遠その人だ。
「これは何の真似だ。今すぐこれを解け」と僕は静かに言った。だが秋山は聞き入れる様子もなく、
「だめよ? 真司くんはこれから私のものになるんだもの」と言ってバスタオルを床に落とした。白く透き通るような素肌があらわになる。
僕はつい目を背けるがそのまま秋山はベッドにあがり、僕の上に乗り、顔をぐいと真正面に向かせてゆっくりと唇を近づけてきた。
接触。唇を舌でこじ開けられ、侵入を許してしまう。秋山の舌は僕の咥内をこれでもか、と蹂躙する。唾液がぴちゃぴちゃと音を立て、口のまわりを濡らす。
「んっ、ん…………んぁ…」
気持ち悪い、はずなのに抗えない。手足の拘束は問題ではない。精神的にも抗えない。今の僕は色々な意味で抵抗力を奪われていた。
「ん………ふぅっ…」秋山は満足したのか唇を離す。透明な糸が唇から垂れ、なんとも言い表しがたい雰囲気を醸し出す。
「…あら? 真司くん、女性経験はないわよね? なのに今ので"反応"しないなんて…なら、こういうのはどう?」
秋山は上から僕を一瞥した後反対向きに跨がりなおし、僕のズボンのベルトに手をかけはじめた。やめろ、と叫んだが聞く耳を持つ様子はまったくない。
「すぐ…気持ちよくしてあげる」
とうとう局部がさらけ出される。秋山はそれを最初、手で弄り出す。
適度な硬度を得るまで触り、それから突然生温かい何かがソレを包んだ。
「くっ……!?」
どうやら口のようだ。秋山は僕の下半身に顔をうずめ、先端の敏感な部分に恐らく舌を這わせている。
元々性的な行為に関心が薄く、自慰行為もろくにしていない僕がその感覚に耐えるのはすさまじい苦痛だった。
「やめ…やめ、ろ…っはあ、っ…!」
「らしたかっはら、いひゅへも(出したかったら、いつでも)」
喋るな。そう言いたかったが、余裕はなかった。
ずずっ…ぴちゃ…ぴちゃ……
秋山はわざとらしく音を立てながらなおも行為を続ける。僕は既に限界にきていた。手足を動かしもがいて、堪えようとするが拘束のせいでままならない。
唯一、手錠の痛みが気をわずかにそらす程度だが、直後に秋山が快感を送り込んでくるので気休めにもならない。
「っ、もう…だめ、だ…!」
僕はついに白濁を放った。
秋山は一瞬身体をびくん、とさせたがすぐに迸りを舐めとりだす。ごくん、と嚥下する音がした。
「ふふ、いっぱい出たわね。…おいしい」
再び、硬度を失いぎみのモノに舌を這わせる秋山。中のモノをすべて吸い出すように、しゃぶり出した。
「あっ、くぁぁぁぁっ…よせ、やめろ…っ」
敏感になっていた局部はその刺激に、あっという間に硬度を取り戻す。そのまま、達してしまいそうになった。だが…
「ふぅ…」
秋山は直前で、計ったように口を離した。
「ふふ…真司くん、かわいい。女の子みたいな声出してやめろ、やめろ、って。…欲しく、ない?」
そう言って秋山は体勢を変え、今度は僕にしっかり見えるように自らの恥部をさらけ出した。
ソコは真っ白で、隠すものが毛一つもなかった。
「習慣になってるのよね、剃るの。もともと薄かったけど、仕事で水着着たときに剃って以来、ずっと白牌。男の人は好きらしいわね? よく見えるから、って」
秋山は僕に見せびらかすように、ゆっくりと指で恥部を開いてみせ、秘肉の中に指の先端をゆっくりと、出し入れする。
くちゃ、といやらしい音と共に、分泌液が垂れてきた。それを数回繰り返すと秋山は指を止め、机の上に手を伸ばし、鍵をとる。
その鍵で僕の手の拘束だけを解いて言った。
「挿れて、いいよ。」
そして秋山は、僕の憤りに恥部をなすりつけるように腰を動かす。だんだんと、互いの分泌液で濡れてきているのが感じられた。
僕はそのいざないに負けてしまいそうだった。けれど、不意に歌音の顔が思い浮かぶ。
観覧車の中での、歌音の哀しそうな顔。それが僕を思い止まらせた。
「だめよ、何も考えちゃ」秋山は、僕の心を的確に読んだような台詞を言った。
「君は何も考えなくていい。ただ私に身を委ねればいいの」
「身…委ね……?」
「そうよ。いっぱい愛してあげる」
そう言って秋山は、僕に優しくキスをした。触れるだけの、温かさだけが伝わるキスを。
「あなたを精一杯慈しんであげるし、あなたの望む限りの愛を注いであげる。だから…来て?」
一本の糸が、僕の中で切れた。
僕は自由になった両手で、秋山を力いっぱい抱きしめる。
「ふふっ…そう、もっと強く抱いて? 壊れちゃいそうなくらい、強く」
秋山に言われるままに、腕の力を込める。その肢体は滑らかで温かく、石鹸の香りが心地よい。
ふくよかな胸は押し潰れ、僕の身体に当たる。その柔らかさはよりいっそう僕を刺激した。
そして僕は秋山を抱きしめたまま、憤りを秘肉にあてがい…ゆっくりと突き入れた。
「んぁっ……きた、きたぁ…あっ」
秋山のナカはかなり狭く、奥に進むだけで相当締め付けられる。加えて、襲い掛かる未知の感覚。
秋山を気遣う余裕もなく、僕は激しく腰を動かした。
結合部を見ると、泡立った分泌液とともに、かすかに赤いものが確認できた。つまり…秋山は初めてだった。
だが、止められそうにない。僕の身体はもはや意志とは無関係に動いていたのだ。
「そう、よ…もっと、乱暴、にいっ! 壊して! ぜんぶ、うけとめるから、ああっ!」
秋山も、僕の背中に手を回ししっかりと抱き着いて腰を振る。指を立てて食いしばってるようだが、背中に爪の痛みを感じないのは秋山の気遣いだろうか。
僕はすでに二度目の限界を感じた。背中に寒気が走り、何かがこみ上げてくる。
だがそれよりも早く、秋山の身体が痙攣しだした。
ぷしゃ、と結合部から水分が吹き出てきた。粗相したのとは違う、透明な水分だ。
「〜〜〜〜〜っ!!」
少し遅れて、僕も限界を迎え、秋山のナカにすべてを注ぎ込んだ。膣壁は一滴残らず搾ろうとせんと、締めつけてくる。
「はぁっ、はぁっ……あき、やま…」
「いっぱいでたね…お腹のなか…熱い…」
けれど、秋山は絶対に妊娠しない。僕は"種無し"だから。
言おうとしたが、僕はやはり黙っておくことに決めた。
身体の熱も冷め、萎えたモノを引き抜く。秋山の中からは白濁した液がたらり、と流れ出てくる。
秋山はそれを指ですくい、舐めながら言った。
「これであなたは…私の事が忘れられなくなる。歌音ちゃんと、あるいは他の誰と寝たとしても私を思い出すの」
「………!!」
「ふふっ…今の君に、歌音ちゃんの顔まともに見れるかな?」
身も心も絡み取られた、そう感じた。
歌音を裏切り、最初は無理矢理ながらも秋山とセックスをしてしまった。
きっと秋山の言葉通り、セックスをするたびに…いや、歌音の顔を見る度に思い出すだろう。脳裏に焼き付けられた記憶は、消えない。
歌音……僕は……
#####
事後。僕たちはそれぞれ別々にシャワーを済ませ、リビングのソファに座っていた。
秋山は相変わらずタオルを胸元に巻いただけだ。僕はちゃんと家着を着ている。
暖房こそ効かせてはいるが、髪も乾かさずにいる秋山。風邪引くぞ?
「平気よ」
「歌手だろう、体調管理くらいしっかりやっておけ」
秋山はくすっ、と笑いながら僕の顔を見る。
「歌音ちゃんの言う通り…いえ、五年前からそうね。真司くんは優しい」
「心外だ」
「けど事実よ。…その優しさに惹かれた娘が、三人もいるんだもの」
三人と聞いて僕は秋山、歌音…そしてのえるの名前を連想した。
「…のえるは何処に行ったんだ?」と僕は秋山に尋ねた。
「ふふ…大丈夫よ、マネージャーの家で預かってもらってる。あ、マネージャーって、女よ?」
「…そうだったのか」
胸のつかえが一つ消えたような気がした。実際はつかえどころか十字架を二、三本背負わされた気分なのだが、のえるの所在を知れただけでもましだった。
だが…のえるは帰るつもりはない、と秋山は言っていた。そのこともまた、胸につかえる。
「ふふ…今日、泊まっていっていいかな?」秋山は僕に寄り掛かり、肩に頭を置いて尋ねる。
「馬鹿いうな」本当なら今すぐ帰ってくれ、と言いたいのに。
「冗談よ。私明日からまたレコーディングだから、あと少ししたら帰らなきゃ」
時計の針は20時を指している。カーテン越しに窓の外を見るが、すっかり夜は更け、暗くなっている。
「ひとつだけ、聞くわ」と秋山は再び口を開いた。
「真司くんは、歌音ちゃんが好き?」
「何をいきなり…ああ」
「それって、本心?」
「なに…?」
一瞬、返答に困った。そして気づく。なぜ言い淀んだ。はっきり言えば良かったじゃないか。好きだ、と。けれど…?
「…なるほど」
秋山は一人納得したようにふっ、と微笑んだ。
なにを自己完結しているんだ、おまえは。
そもそもおまえがあんな事をしなければ……自己嫌悪。
「いずれわかるわよ、あなたにも。私の言ったことの意味が」
そう言い残し、秋山は服を着はじめた。最初に会ったときに着ていたシャツにスカートとコート、それとかつら。
すべて着終わると秋山理遠は姿を消し、秋津理緒へと変わっていた。
秋津はそのまま玄関へと向かう。僕も、一応は見送りに行く。
靴を履き、ドアノブに手をかける秋津は、振り返り最後にこう言った。
「ふたりのときは、理遠って呼んで」
#####
10日ぶりにひとりで迎えた朝は寒く、いやに寝覚めが悪かった。
6時半に眼を覚まし、自分用の弁当を作り、ひとりで朝飯を食べる。リビングには僕一人の生活音しかしない。
のえるはなぜ突然出て行ったのか…考えずともわかる。
あのメモには"貴方の幸せを願っています"と書かれていた。歌音がいたから、のえるは出て行ったんだ。
べつに歌音が悪いわけじゃない。むしろ、悪いのは僕だ。それなのに、あまつさえ秋山と……
深くため息をつき、制服を着る。
7時16分。今から出れば7時42分の電車に乗ることになる。恐らく歌音は、今日も待っているだろう。
学校を休みたい気分になった。だが、そんな事をしてもあのコトがなかったことになるわけではない。僕は重い足を踏み出し、家を出た。
駅に着くとやはり歌音がいて、満面の笑みを浮かべながら僕のそばにやってきた。
「おはよー☆」
「ん、ああ」
僕は平静を装うが…嫌でも昨日のことが思い出される。歌音の笑顔から眼を背けたい。
秋山の言ったとおりだ。僕は、歌音の顔すらまともに見れない。僕はどうしたら…
ばんっ!
突然、僕の身体は壁に押し付けられた。一瞬何が起きたかわからなかったが…歌音だ。
歌音は僕を壁に押し付けたまま、僕の頬に手を添えて、無言で唇を重ねてきた。
「かの、ん…なにを…っ?」
「……………真司は誰にも渡さないよ」
歌音はそう言って唇を離し、にこり、と微笑んだ。
ぞくり、と背筋に悪寒が走った。歌音の微笑みは無邪気に見えて、氷のような冷たさを感じた。すべて見抜かれている?
「だから真司も、私だけを見てね」
「あっ…ああ」
「行こ? 電車乗り遅れちゃうよ」
僕は歌音に手を引かれて改札へと向かう。その手は力が込められていて、僕の手をぎゅっと掴んで離さなかった。
僕は、その行動の中に歌音の本質を垣間見たような気がした。
終了です。
GJ!この節操無しの種無し野郎!!(この業界では誉め言葉)
GJ!
349 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 00:05:18 ID:VhHzcYPN
GJ!これからが本番!楽しみにしてますw
伝わりますか、今夜は悪い女になっています…、ってか。
351 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 02:36:24 ID:cA9HQQ+3
死ね
立て続けですが、投下します
おそらく、全ての本の表紙だけをひとつずつ見て回るだけで一日はかかるだろう。
その規模の大きさから、外部からの利用者もちらほらと見かける。当然そういった人達には貸出までは行っておらず入校証も必要となるが、
図書室は朝の10時から17時まで開放しており、委員の生徒が授業でいないときは司書の教員数名が対応を行っている。
図書委員は各クラスから二名選出される。
交代でカウンターの仕事が月に一回回って来るか来ないかだが、固定の仕事があるのは水曜日、ちょうど今日だ。
歌音もついて来る、と言っていたが確実に夜遅くになってしまうため、先に帰して図書室にやってきた。
「あ、桐島君。久しぶり」
「松田か」
松田秀人は僕と同じ図書委員だ。
僕達の間には委員会以外の接点がまったくなく、こうして会うだけだ。
そして松田と僕の数少ない共通点の一つは、先日転任した某体育教師に目をつけられた、ということだ。
もっとも、それをわざわざ話題に出すことは互いにしなかったのだが。
僕達図書委員の仕事は、作業自体は至って簡単だ。
開放の終わる17時半から、司書の教員が事前に調べた本の在庫のリストと、本棚の本の数が一致するかどうかを二人一組でチェックする。一年生の仕事はこれだけだ。
先ほど、全て見て廻ったら一日かかると言ったがそれは一人なら、の話。一年生16人もいれば、2時間ほどで終わる。
司書の人からいつも通りの説明を受け、僕と松田はさっそく小説・ライトノベルの本棚のチェックに向かった。
僕は図書委員の誰よりもライトノベルに詳しく、松田はアニメに詳しい(というより、僕たち以外詳しくない)、という事でいつも最初はこの辺りの担当になるのだ。
ただ、そこが済んだ後は他のエリアに向かうのだが。
「うわ、ここスカスカじゃん。こりゃ10冊分くらいないよ、桐島君」
「"インデックス"のあった所か。たしか貸し出しになってたな」
人気のある本は全巻貸し出しなんてことがたまにある。期限は二週間だが、10巻を超える本なんかはかなりハイペースで読まなきゃならないだろう。
僕みたく、暇な時間にちまちまと読むタイプとは大違いだ。
だが、先々月は涼宮シリーズが三冊盗難に遭った。ここほどよく確認しなければはならない本棚はなく、僕達で端から端までくまなくチェックをしなければならない。
幸い、今週は盗難に遭った本はなかった。だが最近の文庫のアニメ化の影響で一気にメジャーな本が放出され、本棚に空きスペースがいくつもできていた。
こういう場所には小型のスタンドを当てて、隣の本が倒れないようにするのも僕らの仕事だ。
そうして僕らは次々に本棚をチェックしていき、仕事が終わった頃には時計は8時を指そうとしていた。
図書室を出て僕と松田は、腹が減ったので帰りにマックに行こうという流れになった。
学校から駅まで歩いて10分。外はすっかり暗くなり、空気も一段と冷え込んでいる。松田も僕も制服の上にコートを着てはいるがとにかく寒く、早く暖かい店内に入りたい。僕らは若干早歩きでマックに向かった。
マックの一階は相変わらずニコチンの煙が充満しており、視界が白い。いくら禁煙席が二階にあるとは言え、発作持ちなら注文を待つだけで具合が悪くなりそうだ。
一階席は混んでいたがレジ前は空いていたので、僕たちはさっさと注文して二階に上がった。
適当な席に腰を下ろし、ようやく一息つく。松田は暖かい紅茶のカップを両手で包むように持ち、暖をとっている。
コーンスープが取り扱われなくなったのが実に惜しい、と思えるワンシーンだ。
「ふぅ…桐島君ってさあ」と、松田が唐突に尋ねてきた。
「水城さんと付き合ってるの?」
「ブルータス…お前もか」
「ははは、その様子だと俺以外のやつにもかなり聞かれたみたいだね」
まったくその通りだ。松田に聞かれる前に、すでに30回以上は聞かれている。ったく…どいつもこいつも、他人事だと思いやがって。
「でも意外だったよ。あの水城さんが桐島君と付き合うなんてね。高校入ってからかなり印象変わったけど、その時以上のびっくりだね」
「…ん? 中学一緒だったのか?」
「うん。といっても三年の時クラスが同じだっただけだけど」
「どのくらい違ってたんだ?」
「うーん…僕が言うのもなんだけど、暗かったね。けっこうイジめられてたっぽいし。桐島君のクラスでいったら、秋津さんみたいな雰囲気?」
秋津の名前が出てきたとき、僕は内心びくり、としてしまった。…落ち着け、松田に悪気はないんだ。何も知らないんだから。
僕は動揺を気取られないように気をつけ、ポテトを食べながら相槌を打った。
「それは、確かに意外だな」
「でしょ? あ…水城さんにはこのこと聞かない方がいいよ。たぶん思い出したくないだろうから」
「そうだな…」
そうして話題は移り変わり、30分くらい経過した辺りでお開きにすることになった。
松田の家はこの駅の南口の近くで、駅はただ通り道の途中というだけだ。改札前で僕と松田は別れ、僕は定期をタッチし改札を抜けた。
すると今度は、柱に寄り掛かり立っている、うちの制服を着た女子が目についた。あの髪の長さには見覚えがある。あれは…
「こんばんわ、真司くん」
「秋津、何やってんだ?」
「真司くんを待ってたの。お話がしたかったから」
そう言って秋津は僕の手をとり、僕の家とは反対側のホームへ続く階段に向かった。
僕は、どこに行くんだと尋ねたが、秋津は何も言わないまま階段を登り、ちょうど来ていた電車にそのまま乗り込んだ。
握られた手は冷たく、身体の震えがかすかに伝わる。
「どのくらいあそこにいたんだ?」
「…10分くらい」
「嘘をつけ」
僕は自分の着ていたコートを脱ぎ、秋津の肩にかけてやった。
「…ありがと」秋津は若干口元に笑みを浮かべながらコートに袖を通した。
秋津は普段から表情がわかりにくいが、今のは誰が見ても嬉しそうな表情だ。
電車に揺られること20分、6駅目で秋津と僕は電車を降りた。
その駅は学校や僕の家の駅とは大きく異なり、何もない。視界の先には森が広がる、まるで田舎のような駅だった。
急行も止まらず、利用者も少ないだろう。夜風がもろに吹き付け、身体が一気に冷え込むのがわかる。
「あんたの家はこの辺りなのか?」
「違う。けどここには、お母さんがいる」
「………?」
「ついてきて」
秋津はさくさくと歩を進めた。僕は一瞬出遅れたが、すぐに後を追う。
無人の駅(駅員すらいない)を出て、電灯もわずかしかない薄暗い道を進む。どこに向かっているのかすらわからないが、黙ってついて行く。
そうしてたどり着いた先は…墓地だ。お母さんがいるって…まさか。
秋津はひとつの墓石の前で完全に歩を止めた。その墓石には、"秋山家之墓"と刻まれていた。
「このお墓、私が買ったの。ここにお父さんとお母さんがいる。お姉ちゃんもいる、と以前は思ってたけど…お姉ちゃんはいない」
「…姉がいたのか。両親は、いったいなぜ?」
「事故。12年前にね。私が物心ついた時にはすでにいなかった。
事故があった日、私だけはお祖母さまの家にいた。私以外はお姉ちゃんの進級祝いって言って、旅行に行ったの。
あとからお祖母さまに聞かされたけど、私は両親に"いないもの"として扱われてたらしいの。ネグレクトってやつかしら。
それを知ったお祖母さまは私を引き取った。そしてその翌日、両親は死んだ」
秋津の声には何の色も感じられない。ただ記憶をなぞってるだけのように聞こえた。
「両親が憎くないのか。墓まで建ててやって」
「なんとも思ってないわ。私の親はお祖母さまだから。でもまさか…お姉ちゃんが生きてたなんてね」
「なに…?」
その時点で、秋津の話を聞いてる裏でひとつの思考が巡っていた。
のえるの両親は中学時代に事故死した。のえるは27歳と言っていた。12年前なら、ちょうど中学生くらいの歳だ。
そして両親と姉の三人が事故に遭い、姉だけが生きていた。のえるも、家族で事故に遭い、自分だけ助かった。…まさか?
「姉って…のえるのことか?」
沈黙。
木々が風でざわ、と揺れる音だけが聞こえる。秋津は声を出さず、静かに首肯した。
「びっくりしたわ。姉がまさか不老不死?になってたなんて。でも…姉が私を覚えてなかった事の方が衝撃的だったわ」
「のえるが…?」
「お姉ちゃんだけは、私に優しくしてくれた。他は覚えてないのに、それだけは覚えてたの。お姉ちゃんは優しかった。なのに、忘れられてたのよ。どれだけ悔しかったか、わかるかしら…?
でも、どうにかしようなんて考えなかった。それをしたら、両親と同じ人間になってしまいそうで、嫌だったの。
お墓を建てたのもそう。私の邪魔をさせないために、ここに縛り付けるために建てたのよ…!」
秋津の声はしだいに感情が込められていく。
「でも…お祖母さまにとっては大事な息子と娘だから、粗末にはできなかった。縛り付けるためならそこら辺の木の枝で十字架でも作って刺しとけばよかったのに」
「ん? 息子と…?」
「兄妹だったのよ、両親は。でもそれも、どうでもいいわ。…最低な女よね、私。友達の彼氏寝盗るわ、両親をないがしろにするわ」
秋津は僕から顔を背けたまま、声を微かに震わせながら話す。見えないが、恐らくは泣いているのだろう。
僕にどれくらい秋津の気持ちを理解できるのだろうか。僕は母を失いはしたが、父さんには大事にされて育ってきた。虐待を受けた事もないし、親を恨んだこともない。
秋津の経験した辛さは、おそらく少しも味わっていないだろう。だが、これだけは断言できると思った。
「お前は最低なんかじゃない」
「え…?」
「歌がそれを証明してるじゃないか。最低なやつなんかの歌は聞いても何も感じないし、好きになんかならない。…少なくとも、僕はそう思ってるぞ。歌音だって、そうだ」
「…ふふ。本当、あなたって人は…優しいわ」
秋津はこちらへ向き直り、涙目ながらに笑顔を浮かべて答えた。
天使のような、優しい笑顔だ。僕は思わず、数秒見惚れてしまった。秋津はそんな僕に、またも口づけをしてきた。互いの温度だけが伝わる、優しい触れ合いを。
「…ふう。ねえ真司くん、歌音ちゃんと私のどちらかを選べなんて言わないわ。だから…ときどきこうして、触れてもいいかしら。もう、無理矢理襲ったりなんかしないから」
「間に挟まれる僕の身にもなってくれ…」
「大丈夫よ。歌音ちゃん、こうしてるのが私以外だったらとっくに殺してると思うから」
「物騒な事を簡単に言ってくれるな」
秋津の論理は目茶苦茶だ。よほど自信があるのだろう。歌音の友人としての自信が。それなら逆に最初からこんなマネはしないはずなんだが…。
それよりも、このままズルズルと秋津との触れ合いを続けることの方が…僕はもう、歌音を裏切りたくはないのに。
そんな哀しそうな顔するなよ…嫌だ、って言えないじゃないか。ああ、僕の方こそ最低だよ。
「ねえ真司くん、土曜日暇かしら?」
「…はい?」
いきなりの話題の飛躍に、一瞬ついていけなくなり、間の抜けた返事をしてしまった。
「これあげるから、来て」と秋津がブレザーのポケットから出したのは、なにかのチケットだった。暗くてよくわからないが、秋山の名前が書いてある。秋山理遠のライブチケットだろうか?
「それが、まだ真司くんに見せてない私の一面。見てほしいの、だから来て。なんなら歌音ちゃんと一緒でもいいわ」
なんと、秋山理遠自らのライブの招待だ。確かに歌音なら泣いて喜ぶかもしれないし、ファンなら感激のあまり発狂しかねない。
だが、僕はこのチケットを渡された意味を反芻する。秋津は今日、僕に両親の事を打ち明けてくれた。僕には、自分の全てを見てほしいと本気で思ってるのだろう。ならば、僕の答えは…。
「楽しみにさせてもらうよ」
#####
薄暗い墓地を出て、地元の駅に着いた時には10時を回っていた。
僕はここで下車をするが、秋津は乗り換えのため、一緒に電車を降りたら簡単に別れの挨拶をし、コートを僕に返して別の路線のホームへ向かっていった。
僕はそれを見届け、改札を出て家に向かおうとした。すると今度は…朝と同じ場所で立っている歌音を見つけた。
「おかえり、真司」
「歌音…先帰ってろって言ったろ! 風邪引くぞ!」
僕は慌ててコートを歌音にかけてやる。さっきまで秋津が着ていたことなど、きれいに忘れていた。
歌音はゆっくりと袖を通しながら、俯いてこう言い放った。
「ねえ真司…理緒ちゃんとはどこまで"シタ"の?」
−−−背筋に冷たいものが走った。歌音の声は、それだけで対象物を凍りづけにできてしまうほど冷たかった。
「正直に言って? そしたら、怒らないから。ね?」柔らかく微笑むが、その瞳は笑っていない。
歌音はゆっくりと僕の手首を握り、きりきりと力を込める。バスケットボールの7号球を鷲づかみにできる握力が、じわじわと僕の手首を締め付ける。
だが痛さよりも、言い表しがたい恐怖の方が強かった。僕でさえ、身震いしてしまうほどだ。
「……何もない」僕はその恐怖に苛まれつつも、ごまかそうとして言った。しかし歌音の返事はこうだ。
「嘘。」
歌音はなおもにこにこと作り笑いを浮かべながら、腕の力を強める。
「真司のことはね、顔見ただけで何考えてるかわかるよ。こないだからずっとそう。なにか私に隠し事してる。で、さっきまで理緒ちゃんと一緒にいたよね?」
「……っ」
僕はそれに対して何も言い返せなかった。
「…まあ、いいや」ふと、歌音は突然腕の力を抜いた。
「理緒ちゃんなら、特別に許してあげる。他の女の子だったらただじゃ済まさないけど…特別だよ?」
「…なんで、だ」握り締められていた腕をぶらぶらと振りながら僕は尋ねる。
「理緒ちゃんは私の親友だからだよ」
この時、のえるがいなくなった日から10日が経過していた。
#####
秋山理遠は、二年前にアイドルユニットから独立した歌手だ。
最初はアイドルのイメージが強く、曲を出したものの当初1stシングルの売上は伸び悩んだと聞く。
だがその並外れた歌唱力と歳不相応な深い表現力で徐々にファンを増やしていき、知名度が上がるにつれて評価もかなり改善されていった。
1stシングルは発売からおよそ一月後にチャート一位を取る、という偉業を。3rdシングルで三週連続一位を果たし、さらに知名度はアップ。
今ではCDを出す度に一位をかっさらって行くように。衣装や番組でのトークの影響でアイドル色が未だに抜け切らないが、間違いなく一流アーティストの仲間入りを果たしている。
ちなみに情報ソースはWI○IPEDIAより。
迎えた土曜日。僕は結局歌音を誘うことはせず、単身で横浜文化体育館へとやってきた。
開場は夜6時。現在は午後4時だ。まだ2時間も前だというのに、辺りは人込みがハンパない。さすがは平成のアイドル歌手といったところが。
だがどこを見渡しても、いわゆる"痛い"ファンが見当たらない。モ○娘やA○B48なんかはそういった痛いファンが必ずいる、というのをTVで見たが、そこは意外だった。
さて、開場まで何をして待っていようか。僕は文化体育館の周りをぶらぶらしながら暇つぶし手段を模索していると、見たことのある人影を見つけた。
そして、相手もそれに気付いたようだ。
「あれ、桐島君じゃん」
「松田か…」今回は、このパターンが多いな。
「へぇ〜、桐島君も秋山理遠聴くんだ。意外っちゃ意外だけど、納得もあるような…」
「松田こそ、意外だったな。僕はてっきり、アニメばっかりでアイドルには興味ない男だと思ってたぞ」と、僕は正直な意見を述べた。
「正直、理遠さんは最初ただのアイドルだと思ってたね。でもたまたま歌を聴いたとき、こう…なんか、ビビっとキタんだよね。
理遠さん歌上手だし、良曲ばかりだし、それにすごい美少女。ほんと尊敬しちゃうよ。それにね…」
どうやら松田は、夢中になると能弁になるようだ。僕は適当に相槌を打ち、所々共感しながら松田の会話に付き合った。
「あ、ごめんね桐島君。俺ばっかり喋ってて」
「気にするな」
そうしているうちに時は過ぎ、すぐに開場の時間になった。
入口で係員にチケットを渡し、半券を返してもらう。その後は松田に引っ張られて、いい座席をキープすべく奔走。ステージの真正面という、なかなかの良席を獲得できた。
荷物を座席に置き、僕たちは交代でトイレに行くことに。先に僕が席を立ち、トイレに向かった。
用を足し、さっさと戻ろうとすると、なぜか係員に呼び止められる。
「チケット番号0827…桐島さんですね?」
「はあ…何ですか」
係員はそっ、と僕に耳打ちをしてきた。
「秋山さんからメモを預かっています。…どうぞ」
「メモ?」
係員が手渡したのは、四つ折にされたルーズリーフの1ページ。係員の態度から察した僕は少し歩き、こっそりとメモを見てみた。そこには、
"ライブが終わったら楽屋に来てくれる? 秋山"
と、可愛らしい文字で書かれていた。
僕はすぐにメモをポケットに突っ込んで隠し、松田の元へ戻った。
#####
午後6時59分、施設内は暗転し、ステージに明かりが集まる。
いよいよ始まる。松田は隣でわくわくしながら既にステージに釘付けだ。
ステージの上には静かに秋山が現れた。最初は静かに唄い始め、観客たちの間に静寂を作り出す。一曲目はピアノ伴奏だけのバラード曲。
1stアルバムの最後に収録されていたものだった。観客は皆、その秋山の姿に見とれているようだ。
そのまま最後まで静かに唄い上げ、曲が終わるとMCに入った。
『こんばんわー、秋山 理遠です』
こういったライブには初めて来たが、秋山のライブはとても充実していてまさに"楽しめる"ライブだと思えた。
アップテンポな曲では観客と一緒に盛り上がり、しっとりと聴かせる歌では観客はピタッと静かに聴き入る。その一体感が心地よかった。
またMCもなかなかに軽妙で笑いを誘い、飽きが来ない巧みな話術を披露してみせた。特に、マーボーカレー作りに挑戦したくだりはかなり面白かった。
それらすべてが、僕の知る秋山理遠とは掛け離れていた。
アンコールを挟み、23曲目。未だに疲れを全く見せない秋山の、本日最後の曲となった。
『えー、次で最後なんですが…来週の水曜日、12月の頭に発売予定のアルバムに収録されてる新曲です。みんな、買ってね?なんてw』
「まじで!新曲だよ桐島君!」と松田が小声ではしゃぐ。
「それは興味深いな」
「ああもう、給料日前なのになぁ…でも絶対買いだね!」
そして演奏が始まった。曲調はロック調なバラードといったところか。
歌詞は、一人の女性がとある男の大切なものを次々と奪ってしまい、それでもなお男は優しいまま。なぜ貴方はそんなに優しいのか、というような感じだった。
だが、一つ一つのキーワードをよく考えながら聞いてみると…これは、秋山自身のことじゃないか。
秋山は僕の母を奪い、歌音から僕を奪い、僕の体をを無理矢理奪ったことを歌にしたんだとわかった。そして…それでも愛している、と詫びながら曲は終わった。
秋山が静かに一礼するとステージはゆっくり暗転。辺りからはすすり泣くファンの声がちらほらと聞こえてくる。そうした空気を残したまま、ライブは終わった。
僕は松田に「用事があるから先に帰っててくれ」と告げ、楽屋を探しに走り出した。すると、さっきメモを渡した係員に掴まり、そのまま楽屋の前へと案内された。
僕は深呼吸をして、ドアを二回ノックしてから中に入った。そこには、疲れからかソファにぐったりと身を預ける秋山がいた。
「あ…来てくれたんだ」
「ああ。…すごく、良かったよ」
ありがとう、と微笑んで秋山はソファから身を起こした。
「ごめんね。今汗びっしょりで、べたべたしてる」秋山はタオルで顔を拭きながら謝る。
「…なあ、最後の曲。あれって秋山…」
「ううん。あれは、一人のずる賢い女の事を書いた曲。真司くんは何ら関係ないよ。…だから」
「だから、"愛している"ってのもフィクションか?」
秋山はぴくり、と動きを止める。タオルを顔から下ろし、僕から目を軽く反らしながら答えた。
「…私はほんとずるい女なの。そんな私に愛を叫ぶ資格なんてない。そんなことわかってる」
「そんなことはない」
「っ…なら真司くんは、私を愛してくれるの!? 無理だよね!歌音ちゃんがいるんだもの! サイテーな女なのよ、私は! …どうして!? 私の方が先に好きになったのに! 何年も前から! なのに歌音ちゃんは憎ませてくれない! 真司くんもよ!
あの日真司くんを犯したのだって、本当は軽蔑されたくてやったのよ…歌音ちゃんだって、絶対気付いてる。なのに二人とも、なんでそんなに優しくするのよ…! もう…私に優しくしないでよ…!」
秋山は僕に初めて激しい感情をぶつけてきた。瞳からは涙がぼろぼろと流れる。秋山の悲痛な叫びが、僕の胸を刺す。
秋山は自分をずるい女と言った。だが今目の前にいる女は、どこまでも純粋に思える。純粋だからこそ、こうまで苦しんで、悲しんでるのだと。
歌音…ごめん。
僕は秋山の座るソファに近付き、隣に腰を下ろしてこう言う。
「今から僕がすることは、すべて僕自身の意志だ」そして、秋山の身体をゆっくりと押し倒した。
「えっ…真司、くん…? だめよ、歌音ちゃんが…んぐっ」
僕は秋山の唇を無理矢理唇で塞ぐ。舌を挿れ、秋山の咥内を味わうように舐める。びくん、と秋山の身体が動いた。
「んっ…やぁ、やだ…だめ、〜〜〜っ!」
衣装の下から右手を入れ、形の良い胸を優しく揉みほぐす。左手は人差し指だけぴんと伸ばし、背中をゆっくりとなぞる。その度に、秋山の身体ががくがくと震える。早くも絶頂に達したようだ。
僕は衣装の短パンに手をかけ、そっと脱がせた。下着も一緒に下ろすと、汗と愛液で蒸れた秘部があらわになる。
指で谷間を開き、秘唇をじかに舐める。
「やぁっ…舐めちゃ嫌ぁ…汗、かいたのに…ひっ!?」
そんなことは気にならなかった。僕はただ秋山を執拗に愛撫し、感度を高め続ける。愛液は滝のように溢れ出し、時折間欠泉のようにほとばしる。指で膣壁をこすってやると、声にならない叫びをあげて身体を痙攣させた。
僕の方も準備は整った。秋山をうつぶせに寝かせ、かちゃかちゃと手早くズボンを下ろし、滾りをあらわにする。
「…挿れるの? だめ、それ以上は来ちゃ…あっー!?」
秋山が何か言いかけたのを黙らせるように、後ろから一気に突き入れる。秋山の身体は、ばねのようにのけ反った。
僕は指に愛液をたっぷり塗り付け、注挿をしながら秋山の菊門をぐりぐりとほぐす。
「うそ、おしり…!? だ、だめぇぇ!」
さらに感度を増したのか、秋山の身体は震えっぱなしだ。もはや声にならない叫びをあげるだけ。呂律が回らず、ひとつひとつ聞き取るのさえ困難だ。
だが、「もっとして」「壊して」などの声は聞き取れた。
前回もそうだ。秋山は僕に壊される事を願っているのだろうか。だとしたら、危うい。
僕は壊すつもりはなかった。ただ今は、全身全霊をかけて秋山を愛する事に専念する。
ついに僕も限界が近づく。歯を食いしばり、一分、一秒でも長く堪える。それも限界になると僕はとどめとばかりに秋山の身体に覆いかぶさり、耳元で囁くと同時に白濁を秋山の中に放った。
「…理遠っ」
「あっ…あ、ぁ…?」
秋山は糸の切れた人形のように倒れた。見開かれた瞳は焦点があっておらず、涙を流している。口からは唾液が溢れ、乙女としてはいただけない状態になっていた。僕はタオルでそれらを拭き、まぶたを閉じてやる。
今度はティッシュをがさがさと大量に出し、秋山を起こさないように下腹部の粘液の処理にかかった。
それらを済ますと僕は秋山に毛布をかけ、傍らで寝顔を眺めていた。
僕はもう、目の前ですやすやと寝息を立てる少女がたまらなく愛おしくなってしまっていた。観覧車で歌音に対して抱いた感情とも違う。僕は間違いなく僕自身の意志で、秋山に惹かれていた。
心に棘が刺さる。歌音は悲しみ、傷つくだろう。それでも、秋山のそばにいたい。
歌音といるときは感じられなかった心の充足を、秋山とこうしている今は感じられているからだ。…つくづく、僕という男はクズだな。
#####
その後は目を覚ました秋山に大慌てで連れられ、体育館の管理人にあいさつを済ませてダッシュで施設を出た。利用時間を危うくオーバーするところだったのだ。
そしてマネージャーの車に乗せられ、僕たちは帰路につく。おそらく車なら2時間は軽く超えるだろう。そうなると日付は確実に跨ぐ。
秋山は車に乗ると僕に寄り掛かり、再び眠りについた。警戒心のかけらもない、無垢な寝顔だ。
マネージャーは鏡ごしにそれを見て、言った。
「理遠は昔から、ライブのあとはこうして泥のように眠るのよ。…でも、そんな赤ちゃんみたいな寝顔、初めて見るわ。ふふ、可愛いわね?」
「そうなんですか…」
「ええ。…あなたが、桐島くんね。のえるちゃんから話は聞いてるわ。私は真田陽子、よろしく」
やはり、このマネージャーがのえるを引き取った人か。
「あの子、異様にできすぎた子ね。今までの人生、辛いことがありすぎたのね」
「のえるは…自傷行為をしてませんか」
「あ、それは大丈夫よ。髪の毛の段階で信じたから」
「髪の毛……そうですか」やはりあれは、誰に対してもやっていたのか。
もうひとつだけ、聞きたいことがあった。
「のえるは秋山の……理遠の姉って」
「本当よ。身の上話が、あまりに理遠のそれと交差しすぎてるから、試しに髪の毛から血液型を調べてもらった。…二人とも、RHマイナスA型だった」
「RHマイナスって…」
「実はマイナスの人自体はけっこういるらしいのよ。芸能界にも何人かいるし。ただ、理遠とのえるちゃんの場合、偶然でここまでの符合はありえないわよね」
確定的だ。もはや覆しようのない一致。二人はやはり姉妹だった。
こうなると、僕とのえるの出会いも偶然なのかどうかわからなくなってくる。
「まあ、深く考えるこたないわよ。…お腹すいたでしょ。今から私の家に行くから、今日は二人とも泊まっていきなさい」
そうして車に揺られることおよそ50分。東京23区内某所のマンションに僕は連れて来られた。
僕は眠っている理遠をおぶさり、真田さんは両手に理遠と自分の荷物を持ってエレベーターで7階まで上がる。
707と書かれたドアの前に立ち、鍵を開けると真田さんは先に僕らを入れてくれた。
すると、中から懐かしい声が聞こえてきた。
「陽子さん、おかえりなさい。お疲れ………真司、さん?」
「久しぶりだな…のえる」
だが、その姿は最後に見たときから少し変わっていた。背丈は少し伸び、顔付きも幼さが少し消えたよう。ツインテールはやめたのか、髪はストレートのまま。
そう…今ののえるはまるで高校生並の身体にまで成長していたのだ。
僕はそれを見て、言葉に表せない焦燥を感じていた。
不老不死でなくなってるのか? ならば…この先はどうなるんだ。
終了です。
365 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 21:28:42 ID:dSUjp4fF
GJ
お礼にキスしてあげる(*´3`)
367 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 22:44:12 ID:cA9HQQ+3
sageれば?
sageにうるさい奴は童貞
よかったなしね
370 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 18:14:46 ID:uVbZQzMh
sine
371 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 18:15:52 ID:uVbZQzMh
mouittyo sine
すぐ出来るって嘘吐きました。ごめんなさい。
投稿します。
第九話『旅立ちの日に』
その日、シグナムは自らが見張りに立ち、イリスを寝かせた。
寝る前に、シグナムは鎧戸を閉め、扉に鍵を掛けた。
これで大丈夫とは思えないが、要は気休めである。
粗方終えたシグナムは、椅子に座ると蝋燭に火を付けた。
ゆらゆらと揺れる火を見つめながら、シグナムは考え事に浸った。
睡眠に関してはこれでなんとかなるが、問題なのは食事である。
ブリュンヒルドと戦うには、万全の体制で臨む必要があり、
そのためには、食事は絶対重要である。
だが、この宿の料理を食べる訳にはいかない。
ブリュンヒルドが料理に毒を盛ってくる事もありえるからだ。
相手がどの様に毒を盛ってくるかは、こちらで把握する事は不可能である。
毒見役を置いたとしても、相手が毒を少量にして衰弱させてくる可能性もある。
そうなると、シグナムは父と同じ運命を辿る事になってしまう。
どの道、シグナムには絶食する以外方法がないのだろうか。
「いや、まだ他に方法はあるはず……」
シグナムは再び頭を回転させた。
前にブリュンヒルドが部屋に来た時、なぜ料理を食べないのか、と聞いてきた。
これを素直な気持ちで聞きに来たのか、それとも韜晦だったのか、それは分からない。
しかし、いずれにしても、お互いの気持ちは未だに分かっていないのは確実である。
ならば、そこに付け込む隙があるはずである。
立ち上がったシグナムは、部屋を出てブリュンヒルドの部屋に向かった。
出迎えたブリュンヒルドは慌てて跪き、
「でっ……殿下、この様な夜遅くになんの御用でしょうか!?」
と、言った。シグナムは手で制しながら、
「畏まらなくてもいい。どうしてもお前に言っておかねばならないことがあってな……」
と、一旦話を区切り、
「今日の昼は、心配していたお前に酷い事を言ってしまった。
だが、あれは父上の事や魔王の事を考えていたが故に、
食事が喉を通らず、気が立っていたのだ。許してくれ」
と、言って、頭を下げた。
王太子に頭を下げられ、ブリュンヒルドはさらに驚いたらしく、
「殿下、御顔を上げてください。私の様な下賤の者には畏れ多い事です」
と、言った。
ブリュンヒルドの表情の変化を見つめていたシグナムは、頃合と見て、
「そこで提案なのだが、明日、私達と一緒に朝食を食べないか。
私には従者のイリスがいるのだが、流石に二人ではつまらなくてな」
と、唐突にそう切り出した。
これが話の本題だった。
謀主を表に引きずり出せば、勝算は十分にある。
それに、ブリュンヒルドがこの提案を拒否する事は出来ないはずである。
ブリュンヒルドと自分は、謀主と暗殺対象である前に、軍人と王太子なのである。
軍人が王族の提案を無下に断るはずがない。
ブリュンヒルドは、再び驚いた様な表情になったが、すぐに感無量という表情になり、
「殿下と朝食を御一緒させて頂けるとは……、これほど栄誉な事はございません。
喜んで御一緒させていただきます」
と、言って賛成してくれた。
シグナムは内心ほくそ笑んだ。
「殿下、この度は朝食に誘っていただき、実にありがとうございます。
このブリュンヒルド、この日を一生忘れません」
ブリュンヒルドのにこやかな声が、シグナムの部屋に響いた。
シグナム達の目の前には、既に朝食が置かれており、ブリュンヒルドが来たことにより、
やっと朝食となったのである。スプーンは握られた。運命の朝食の始まりである。
皆が料理に手を付ける前に、シグナムは、
「ブリュンヒルド、一つだけ言っておく。私は王太子ではあるが、今はただの流浪の旅人だ。
殿下、殿下ではなく、名前で呼んで欲しいのだが」
と、ブリュンヒルドに言った。
「でっ……殿下、なにを仰るのですか!
ただでさえ朝食を御一緒するだけでもおこがましい事だというのに、
さらに殿下を御尊名で呼ぶなど、臣下である私には畏れ多くて出来ません!」
まるでテンプレートの様な返事が返ってきたが、それは当然といえば当然であった。
王衛軍二番隊隊長とはいえ、ブリュンヒルドは臣下である。
臣下が王太子に馴れ馴れしく名前で呼ぶことは、
不敬罪で打ち首になっても文句が言えないほどの大罪なのである。
しかし、シグナムはそのことにはまったく触れる事なく、
「私とお前は知らぬ仲でもあるまい。それに、我々はこれから共に魔王を倒す仲間だ。
いつまでも、殿下、殿下では、お互いギクシャクして仕方ないからな」
と、言って心無い笑みを浮かべた。
ブリュンヒルドはしばらく考えるそぶりを見せ、おもむろに、
「シグナム……様……」
と、呟いた。
「まぁ、今はそれでいいか……」
シグナムはそうに言うと、スプーンでキャロットスープを掬い上げた。
ブリュンヒルドは、顔を紅くしてそれを見つめていた。
「ほら、ブリュン、口を開けろ」
唐突にシグナムはブリュンヒルドを愛称で呼び、とんでもない事を口にした。
一瞬、時間が止まり、再び動き出した。
「でっ……シグナム様、いったいなんのお戯れですか!」
「別に戯れているつもりはない。仲間との親交を深めるために、
飯を食わせてやろうとしているだけだ。女同士、こういうのはよくやるのだろ?」
「女同士でもその様な事はしません!」
ブリュンヒルドの顔は、紅を超えて真っ赤になっていた。
しかし、シグナムはまったく気にしない様子で、
「さぁ、早く食べてくれないか。こうやって腕を保ち続けるのも、結構辛くてな」
と、言って憚らなかった。
「ですが……」
「それとも……、私の好意が受け取れないというのか?仲間であるこの私の……」
ブリュンヒルドの退路を潰していくシグナムの表情は、薄っすらと笑っていた。
影に隠れて姦計を巡らせている謀主を表に引きずり出す。
これこそがシグナムの狙いだった。
ブリュンヒルドは、シグナムのスプーンを見つめていた。
これでブリュンヒルドがスープを飲まなければ、その中には毒が入っていると言うことで、
シグナムは、反逆罪、という理由でブリュンヒルドを誅殺する事が出来る。
これならば、ブリュンヒルドを殺したとしても、ガロンヌはなにも言う事が出来ない。
また、逆に飲むという可能性も考えられたが、その場合は毒を入れてなかったか、
遅効性、もしくは少量の毒による衰弱を狙っていた、の二つに絞る事が出来るが、
その中で、後者の可能性はありえない、とシグナムは確信していた。
ブリュンヒルドはファーヴニル国の軍事の重鎮である。
そんな高位にいる人間が、わざわざ毒を飲むという危険を冒してまで殺しにくるとは思えない。
ここまで追い詰められたら、なにかしらアクションを起こすだろう。
さぁ、どうなる。
シグナムの右腕は、ブリュンヒルドの喉元に気付かれない様に向けられていた。
「分かりました」
ブリュンヒルドはそう言うと、スプーンを口に含んだ。
ゴクリ、と喉が鳴った。
確実に呑み込んだのは間違いなく、それはつまり、毒が入っていない事を意味していた。
しかし、シグナムはまだ警戒していた。
次に、クロワッサンを千切り、ブリュンヒルドに差し出した。
これも、ブリュンヒルドはそわそわしながら食べた。
最後は、サラダ、デザートと、ブリュンヒルドに差し出したが、
ブリュンヒルドは顔を真っ赤にして食べるだけだった。
毒がない事を確認したシグナムは、やっと安心して朝食を食べる事が出来た。
この時シグナムは、ブリュンヒルドが口を付けたスプーンやフォークをそのまま使ったが、
これといった感情も抱くこともなかった。
「でっ……シグナム……様、きっ……今日は、御朝食をごっ……御一緒させていただき……、
こっ……この、ブリュンヒルド・アッ……アーフリード……、
かっ……感激のきっ……極みにござい……ます……」
朝食が終わり、ブリュンヒルドは顔を紅くし、たどたどしい口調で、シグナムに謝辞を述べた。
シグナムは、ひたすら頭を下げるブリュンヒルドを宥め、
「どうだろう、ブリュン。これからも共に食事を取るというのは?
どうせ、雨が止むまでここに釘付けなのだから、いいだろ?」
と、誘った。当然、ブリュンヒルドが断れない事は想定済みである。
案の定、ブリュンヒルドは頷いてくれた。
ブリュンヒルドが出て行った後、イリスは、
「あの人、本当に刺客なのでしょうか?そうは全然見えないんですけど……」
と、いう疑問の声を上げた。
「刺客ならば、あれぐらいしなければ誰も信用しないさ」
相変わらず、ブリュンヒルドに悪感情しか抱いていないシグナムは、
あの慌て振りも全て演技であると断言した。
「まぁ、用心する事だ」
シグナムはそう言って、椅子に座った。
「私も、シグナム様に、あーんして欲しかったな……」
「あれは俺の演技だ。お前が騙されてどうする!」
不穏な発言をしたイリスに、シグナムは突っ込みを入れた。
相変わらず雨は降り続いている。
既に三日もこの宿に釘付けであるが、シグナムもイリスも生きていた。
体調に異常もない所を見れば、毒はまだ盛られていない様である。
随分と出し惜しみをするな、とシグナムは思いながら昼食を食べていた。
料理を食べ終えた後、突然ブリュンヒルドが、
「シグナム様、あの……、これ……、お受け取りになってください」
と、言って、小さな紙袋を差し出してきた。
「これは……?」
困惑するシグナムに、ブリュンヒルドは、
「それは私が作ったお菓子にございます。お口に合うかは分かりませんが、
どうかお召し上がりになってください」
と、顔を紅くして言った。
しばらくその紙袋を見つめていたシグナムは、ブリュンヒルドに顔を向け、
「ありがとう、ブリュン。後でゆっくりと頂くよ」
と、言った。口は笑っているが、目は笑っていない。
ブリュンヒルドが出て行ってから、すかさずイリスが近寄ってきた。
「なにが入っているのですか?」
「さぁな」
シグナムは紙袋のリボンを解き、中を確かめた。
中に入っていたのは、所謂トリュフチョコというやつだった。
「シグナム様、私、あの人が本当に刺客なのか疑問になってきました。
これから殺そうする人に、チョコなんて送るとは思えないんですけど……」
イリスはそう呟いたが、シグナムは未だにブリュンヒルドを疑っていた。
なにせ、過去にシグナムはブリュンヒルドに薬を盛られた事があるのだ。
それは七歳の時、鍛錬という名の拷問を終えた後、ブリュンヒルドが夕食に誘われ、
なんの疑いもなくその夕食に参加したシグナムは、急に身体が痺れて動かなくなった。
次に目覚めた時には、吊るし上げられ、冷めた目をしたブリュンヒルドに、
「知ってる人だからって、なんでも信用しちゃ駄目ですよ」
と、言われ、一晩中滅多打ちにされた挙句、眠る事も許されず、鍛錬をさせられたのだ。
これでブリュンヒルドを信じろというのが土台無理な話である。
「それじゃあ、試してみるか」
シグナムはそう言うと、イリスを連れ添い宿から出た。
傘を差して向かった先は、残飯が捨てられているゴミ捨て場だった。
その周りには、野良犬が残飯を漁るために屯っている。
シグナムはチョコを一つ手に取ると、野良犬に向けてそれを投げ付けた。
チョコに気付いた野良犬が、そのチョコに食らい付いた。
変化はすぐに表れた。
チョコを食べた野良犬が突然痙攣を起こし、その場に倒れてしまった。
近寄って見てみると、野良犬は口から泡を吐いて死んでいた。
「……はっ……はははっ……、やっぱりな……、こんな事だろうと思った!
あいつはこういう奴なんだ!人が完全に油断した所を間髪入れずに突いてくるんだ!
ほんっと、いい性格をしているよ!とことんな!くそっ、くそっ、くそっ!!!」
シグナムは、残りのチョコを全て踏み潰し、さっさと宿に戻ってしまった。
頭に血が上っていたシグナムは、その時は別段なんとも思わなかったが、
この行為が後に大きな誤算になる事を知る由もなかった。
夕食の時間になった。
この頃になると、さすがのシグナムも頭が冷え、自分の犯した失策を酷く後悔した。
あのチョコに毒が盛られていた事は確かであったが、
怒りに任せてそれを全て踏み潰してしまった事は、あまりにも早計だった。
持っていないとなれば、それは既にチョコを食べたと取られ、感想を聞かれる。
素直に食べたと答えれば、嘘がばれてしまい、
食べていないと答えれば、今すぐ食べてくださいと言われ、結局嘘がばれる。
こうなると、今まで嫌悪感を表に出さないでやってきた事が全て無駄になり、
それどころか自分達の命も危うくなる。
シグナムは、ブリュンヒルドが感想を聞いてこない事を祈ったが、その願いは届かなかった。
「シグナム様、私が作ったチョコは、いかがだったでしょうか?」
夕食の終了後、ブリュンヒルドがそう声を掛けてきた。
ブリュンヒルドの表情は、真剣そのもので、誤魔化す事など不可能であった。
ならば、なにがなんでも騙し通すだけである。シグナムは開き直った。
「実はな、チョコを食べようとした時、運悪く…………、すまなかった……」
これほどありふれて且つ完璧な言い訳はないだろう。
チョコが『どうなった』の辺りを暈したため、
ブリュンヒルドは、その『どうなった』の辺りを想像して話さざるを得ない。
ブリュンヒルドがなにを想像し、なにを言おうと、シグナムはひたすら謝ればいいのである。
そんな事を思いながら、シグナムは頭を深々と下げた。
しかし、シグナムの思惑に反し、一向にブリュンヒルドがなにも言ってこない。
不思議に思い、顔を上げてみると、ブリュンヒルドがこちらを見つめていた。
それだけならまだよかった。問題なのはブリュンヒルドの目である。
どこを見ているのか分からず、淀みきったそれは、まるで人形の様である。
ブリュンヒルドのこの様な目は、子供の頃に拷問をしていた時にも見せた事がない。
そんな目に見つめられて、シグナムは心底気味が悪かった。
「誰が……、邪魔をしたのですか……?」
小さく、平坦なブリュンヒルドの声が響く。
これほど不気味で、危機感を掻き立てる声は、そうそうない。
イリスなど、部屋の隅で震えていた。
「だっ……誰って、そんな事は憶えていない」
あまりの威圧感にシグナムの声が揺れた。それに乗ずる様にブリュンヒルドが詰め寄ってきた。
シグナムの目の前に、ブリュンヒルドの淀んだ瞳が広がる。
「シグナム様……、なぜ庇うのですか?
私が丹精込めて作ったチョコを食べようとしたシグナム様の邪魔をしただけではなく、
そのチョコを踏み潰して謝りもしないクズメイドを、なぜ……?」
ブリュンヒルドの吐息が、シグナムの顔に掛かり、それが雫になって頬を伝った。
吐息は熱いはずなのに、シグナムの背筋は冷えたままだった。
だが、それでもシグナムには収穫があった。
「ブリュン、すまなかった」
シグナムは、すぐさま頭を下げた。
トラブルはあったが、これでブリュンヒルドはこの世に存在しないメイドに激怒し、
自分がそのメイドを庇っているという図式が出来上がり、後はこれを押し通すだけとなったのだ。
それからのシグナムは、ブリュンヒルドになにを聞かれ様ともひたすら謝り続けた。
ブリュンヒルドの無表情が近寄ってきても、肩を掴まれ強く握られても、
シグナムはひたすら謝り続けた。それこそ首が取れるくらいに。
こうなると、ブリュンヒルドも埒が明かないと思ったらしく、
「分かりました……」
と、言って、詰問を止めた。シグナムの粘り勝ちという事である。
深夜、シグナムはイリスに揺り起こされた。
これは、事前に足音や物音が聞こえたら起こす様にとイリスに伝えておいたものであり、
ブリュンヒルドの闇討ちに対するための策である。
目を覚ましたシグナムは、起き上がり、耳を澄ました。
軋み音は家鳴りではなく、誰かの足音で間違いなく、真っ直ぐにこの部屋に向かっている。
シグナムは、剣を握り、いつでも斬り掛かれる様に身構えた。
足音は、部屋の目の前で止まり、シグナムの剣を握る力が強くなった。
蝋燭のぼんやりとした火が、シグナムの横顔を照らす。シグナムの頬を汗が伝った。
しかし、なぜか扉は開かず、沈黙を保ったままだった。
不思議に思ったシグナムは、鍵を開け、慎重に扉を開いた。
そこには誰もいなかった。
念のため、左右の廊下の先を見渡したが、なにかが動く気配はなく、
冗談のつもりで上を向いてみても、やはり誰もいなかった。
扉を閉めたシグナムは、再びを鍵を閉め、ベッドに横たわった。
「あっ……あの……、ごめんなさい……。私の勘違いで……」
すぐにイリスが謝りにきた。シグナムは小さく笑いながら、
「別にいいさ。これぐらい警戒しないと命が持たん。
これからも、なにか物音がしたら遠慮なく起こしてくれ」
と、言ってイリスを慰めた。
それで、イリスはほっとしたらしく、
「それでは、明日、朝になって晴れていたら、私にもあーんをしてくださいね」
と、軽い冗談を言ってきた。
「……バーカ……」
シグナムはそう言うと、さっさと目を閉じ、寝返りを打った。
背後で、イリスの笑い声が聞こえた。
そんな笑い声を聞きながら、明日の朝食時に本当にあーんをやって、
イリスを驚かせてやろう、とシグナムは内心笑いながら再び眠りに就いた
シグナムが再び目を覚ました時、部屋は真っ暗だった。
いつもであれば、この時間には鎧戸が開けられ、
イリスは椅子に座っているはずである。
不安に駆られたシグナムは、急いで鎧戸を開けた。外は久し振りに見る快晴である。
だが、シグナムの表情は暗い。イリスがいないのである。
まさかブリュンヒルドに、とシグナムは一瞬考えたが、それはありえなかった。
仮に、昨日の夜にイリスが殺されたのなら、なぜ無防備の自分を狙わないのか。
もしや、身体に毒でも仕込まれたのだろうかと思ったが、それらしき形跡はない。
また、精神的なダメージを与えるためにイリスを殺したとも考えられるが、
ならば目の前に死体があった方が効果的であるのに、死体どころか、血の跡もない。
ふと、シグナムの目に、蝋燭入れが留まった。
夜から朝まで、この蝋燭なら六本もあれば事足りる。
蝋燭の減り具合を見れば、いつイリスがいなくなったのかも大まかに割り出す事が出来る。
さっそく箱を開けてみると、蝋燭の数が六本減っていた。
この事からつまり、イリスはついさっき部屋から出て行ったという事になる。
単独行動はするなと言っておいたはずなのに、とシグナムは舌打ちしたが、
そうも言っていられなくなり、すぐにイリスを探しに行こうとした。
しかし、それはノックの音によって制せられた。
「シグナム様、起きていますか……?」
聞こえてきたのは、ブリュンヒルドの声だった。
部屋に入ってきたブリュンヒルドは、いつもの様に跪いた。
「早朝から申し訳ございません。どうしてもお聞きしなければならない事がございまして……」
こんな時に、とシグナムは思ったが、無下に断る事も出来ない。
シグナムの頭には、イリスが従業員に襲われるという可能性も浮かんでいたが、
仮に、事前に従業員を買収していたとすれば、その様な荒事に慣れていない素人が、
ブリュンヒルドの命令を完遂出来るとは思えず、出来たとしても簡単な命令くらいであろう。
そんな足の出るリスクの方が大きい事を、狡猾なブリュンヒルドがするとは思えない。
とはいえ、可能性がゼロという訳でもないので、シグナムは早くイリスを探しに行きたかった。
「なんだ?出来れば早く済ませたいのだが」
「あのイリスというメイド女は、なんなのですか?」
「……はぁ……?」
ブリュンヒルドが聞いてきたのは、シグナムの斜め上を行くものだった。
朝っぱらから、しかも五日も一緒にいたイリスの事を、なぜ今になって聞いてくるのだろうか。
「なにって、イリスは私達の仲間だろ」
とにかく、それしか答えようがない。
だが、ブリュンヒルドはそれでは納得がいかないらしく、
「嘘です!あの女は、シグナム様の事を一人の男として見ていました!
女の私が言うのだから、間違いありません!王族が平民の汚種を入れるべきではありません!」
と、言って詰め寄ってきた。
昨日も詰め寄ってきたが、今日は目は淀んでおらず、綺麗に澄み切っていた。
話が長くなりそうだ、とシグナムはため息を吐きたくなったが堪え、
「あのな、確かにイリスは美人だ。しかし、私はイリスに恋愛感情など抱いていない。
それに、イリスがどんなに美人であっても、イリスは平民だ。
平民が王族と付き合える訳がないだろ。」
と、もっともな事を言って返した。
しかし、ブリュンヒルドは納得する所か、さらに近付いて、泡を飛ばしてきた。
「シグナム様、御存知ですか!?遥か東方の国では、丈夫な子を産むために、
王侯貴族の娘ではなく、平民の娘を嫁にするというのです!なぜだか分かりますか!?」
シグナムの顔は、ブリュンヒルドの唾でべとべとになっていた。
拭っても拭っても次から次へと飛んでくるので、濡れ放題である。
「さぁ……なぁ……」
「それはですね、平民の娘の方が、王侯貴族より子供の出生率が高いからです。
それに、王侯貴族だと結納に大量のお金が掛かるのに対して、平民ならば端金で済みます。
誰だって、お金の掛かる美人より、お金の掛からない美人の方がいいに決まってますからね」
ブリュンヒルドの口舌が熱を帯び、唾も少し熱を持っていた。
「それで……、お前はなにが言いたいんだ……?」
シグナムの結論を求める様な声を聞き、ブリュンヒルドが顔を離した。
ここでやっと、シグナムは顔の唾を拭く時間を得る事が出来た。
「世の中には、常識が通じないという事もありえるという事です。
この世界の非常識が、別の世界では常識になっている事もざらにあります。
シグナム様も、常識には囚われてはいけないという事が言いたかったのです」
ブリュンヒルドは、まるでやり遂げたみたいな表情になっていた。
「なぁ……、ブリュン……。もしかして、これだけのために、わざわざこんな早朝から……?」
「はい、そうでございますが……」
ブリュンヒルドがにっこり笑いながら言った。シグナムは、顔面から床にぶっ倒れた。
シグナムが鼻を押さえながら起き上がった時、俄かに外が騒がしくなった。
直後に、一人の従業員が息を切らして部屋に駆け込んできた。
「たっ……大変です!物置小屋からひっ……火が!」
物置小屋は、凄まじい火柱を上げて燃えていた。
従業員が総出で消火に当たっているが、火勢は一向に治まらず、勢いは盛んになっていった。
宿泊客は延焼を警戒し、皆庭に避難していた。
シグナムはその中でイリスを探したが、見付からなかった。
もしかしたら、まだ宿の中にいるのかもしれないと思い、
宿に踏み込もうとしたが、従業員に止められて入ることが出来なかった。
完全に鎮火した頃には、物置小屋は殆ど全壊していた。
従業員達は、火災の原因を探すべく、まだ煙の立ち上る物置小屋に踏み込んだ。
焼け落ちた木材などを退けていくと、その中から一体の焼死体が見付かった。
死体は、服は焼け落ち、顔も焼け焦げるなど、損傷が激しかったが、
その中で、特に右胸の損傷は激しく、深く抉れ、焼き爛れていた。
運び出された死体を見たシグナムは、嫌な予感がした。
駆け寄って見ると、その予感は的中した。死体は、イリスだった。
焼け残った靴が、間違いなくシグナムがイリスに買ってやった皮のブーツだったのだ。
シグナムは、イリスだったものを見て、嗚咽せずにはいられなかった。
「なんで……、なんでこんな事に……。
俺が……、俺が守ってやるって誓ったのに……、……なんで……」
泣かないと決めた目から涙が溢れ、頬を伝って地面に落ちた。
「シグナム様……」
背後からブリュンヒルドが気まずそうな声を掛けてきた。
シグナムはブリュンヒルドの方に向き直った。
顔には涙の跡が残っているが、既に泣いてはいなかった。
この女にだけは泣き顔を見せる訳にはいかない。
「シグナム様、死んだ者を悔やんでも、戻っては来ません。
今、私達に出来るのは、変わり果ててしまったイリスを、
これ以上衆目に晒させない事だと思いますが……」
ブリュンヒルドの言う事は、至極全うな事だった。
シグナムは、イリスの顔に布を掛けると、亭主に頼み、簡易な葬式を挙げてもらった。
埋葬が終わり、軽めの昼食を食べ終えたシグナムは旅支度をしていた。
次に向かう先は既に決めている。それは西大陸、リヴェントである。
西大陸は、シグルドの伝説とはまったく関係なく、行く必要のない場所であるが、
今のシグナムにとっては、保身のために向かわなければならない場所だった。
既に旅支度を終えているブリュンヒルドにその事を告げると、快く快諾してくれた。
取り合えず、第一関門突破である。
支度を終えたシグナムは、信用ならないブリュンヒルドを侍らせ、
嫌な思い出しか残らないニプルへイムの町を後にした。
投稿終了です。
バレンタインの時に投稿したかった。
乙
おま、イリス・・・・
GJ!ところで犬にチョコって(ry
>>381 無理せず自分のペースでお書きください。
・・・ってイリスが・・・
>>381 GJです
イリスはホントに死んでしまったのか?
>>381 GJッス!!!
でもイリスの死は偽装説だと信じたいです(泣
ヒントつ 泉
美姫-ブリュンヒルド-は血を欲す。ですな。
GJ!
ただ補足をすると、犬にチョコはダメだが数グラムで死に至ったり、食ったあとすぐに死ぬことはないんだよね・・
やはり確信犯か・・?
ガキは書き込むな
GJ!
イ、イ、イ、イリスー!
だがまたなんらかの形で出てくることを信じてるぞ
誰でもいいから
飛行機が墜落して、たまたま漂流した先は無人島だった
そこに辿り着いたのは主人公と、ストーカーの女の子
って感じに誰か書いてくれw
オチがそんな話あったな
オラァァァを連想した
396 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 00:50:31 ID:u+7kYSWM
はじめまして!
カキコさせていただきます。
自分もそんな感じの落ちの話見た事ありますよ。
タイトルはDESTORYだったような・・・?
ラストは飛行機じゃなくふねでしたが
sageろカス
>>397 >369 :名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 10:27:26 ID:57T8E8ud
>sageにうるさい奴は童貞
>よかったなしね
だまれよ童貞
>>396 自分のレスをよく見直してみろ
周りにお前みたいなレスしてるヤツいるか?
わかったら冗談抜きで半年ぐらいROMってろ
>>396 自分のレスをよく見直してみろ
周りにお前みたいなレスしてるヤツいるか?
わかったら冗談抜きで半年ぐらいROMってろ
なんという反面教師…
404 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 08:04:50 ID:u+7kYSWM
>>400
確かヤンデレ巡りをしていた時に出会った気がする。
最初は付き合ってたけど、とある事情により別れ、ストーカー化。
その後、紆余曲折を経て主人公拉致という。
荒れてるな・・・
男がスレばかり見てる→私のこと見てくれないヤダヤダ
→そうだ、見るに堪えないものにしてしまえば良い→スレを荒らす
という一連の流れが
>>405を見て一瞬で幻視できたんだが……疲れてるのかな
>>406 なにをしてる、早くSSを書く作業に戻るんだ
お前が書け
言い出しっぺの法則
>>410>>411 ごめん、俺文才ないから
まあやってくれたらイイなー、みたいな感じで。期待してます
>>412 どんな馬鹿でも30年かければ傑作小説が書ける。書け
416 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 23:47:36 ID:u+7kYSWM
小学校の時の作文ですら精神力を相当損耗するのに、
作文みたいに字数を稼ぐために無駄な事をダラダラ書くわけにもいかないからな。
自分の書きたい物にヤンデレないと駄目だな。
とある作家は言っていた
「小説は才能ではない。99%は技術と努力だ」と
独創的な発想とか表現力があっても読ませる文章じゃなければ価値はない
読み手に読ませるのは文章の技術。技術は努力の積み重ね。それが表現力(文章力)に繋がる
努力すらせずに才能が云々とか言ってるなら書くべきではない
そういう場合は読み手として他者の作品を読んでいるのが一番幸せだろうしな
まあ「書きたい、読んでほしい」って強い願望がなければそもそも根気良く努力しようもないけど
昼間っから演説乙
ヤンデレに対してヤンデレることが出来たら時間さえ越えられる
421 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 17:20:29 ID:qQzF2rwl
422 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 18:54:40 ID:BVcJw60B
雑談最高!
423 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 22:40:48 ID:vz1qqOPZ
ある 越える 超える 有る 主に
「ステイ…また空を見ていたのか?」
薄暗くカビ臭い部屋。
明かりといえば部屋に一箇所だけある換気用の窓から夕日が差し込むだけ。
その窓も鉄格子で防がれている。
粗末なベッドに一人の青年が座っていた。
その青年は窓の外を見つめるだけで時折入り込む風に、その綺麗な金色の髪を揺らす。
青年は私が部屋に入った事を気がついたようで、首だけ動かしこちらを向く。
「ああ…。すまないアイリーン大佐。気がつかなかった」
薄いターコイズブルーの瞳が少しだけ申し訳なさそうに語る。
「ノックはしたんだ。それとリーンでいい。何度も言っているだろう?」
後ろ手で扉を閉めながら食事をのせたトレイを簡素なテーブルに置く。
「なんだ。せっかく市場で買ってきたのに一冊も手を付けていないじゃないか。」
先日街を視察した時に部下に数点見繕って貰った、流行り物の書物。
そのどれもが先日置いたまま薄く埃を被っていた。
…すまない。と一言詫びた後、また窓の外をステイは眺める。
私はその瞳を見ると拳を少しだけ握り締めた。
「…また、祖国の事を思い出しているのか?」
彼の隣に座りながら問う。
「ひと時も忘れる事なんてないさ。それだけ大切な事なんだ。国王陛下、騎士中隊を忘れる事なんてない。」
窓を眺める青年の首に背後から腕を廻しながら問う。
「それは…、私の事よりもか。」
肩に顔を埋める。私の赤髪が彼の肩を覆う。
「…リーン。私はあなたの事は好きだが愛してはいない。心はいつも祖国にある。」
「違う。それだけではない。違うだろう、ステイ。お前の心はいつも、ある女の場所だ。」
戦場で彼と別れた女。アリマテア王国騎士の女。彼と婚約の約束を交わした女。
「ドリィの事は諦めていると言っただろう。元々貴族との婚約なんて不可能だ。それに…んっ」
続く言葉を切り、口付けを交わす。
「…それなら、今日も私を満足させてくれ。ステイ。」
足が不自由な彼をそのまま押し倒し、続けて口付けを交わす。
「お前といないと辛いんだ。寂しいんだ。…ステイ。お前は私を直ぐに不安にさせる。私はお前が消えてしまうのが怖いんだ。お前を失うのが怖いんだ。…ステイ、一緒にいてくれ…。」
真っ直ぐに彼の瞳を見つめる。
しかし彼の瞳は私には向いていなかった。
「…こんな時間。きっと長くは続かない。」
彼は明後日の方向を向きながら呟いた。
そう、きっと狂っている。佐官の座に着きながら敵国の捕虜と身を寄せ合っている。
彼が足を負傷していて抵抗もうまく出来ない事を知っていて迫っている。卑怯な女。
いずれどちらかが失ってしまう。こんな時間は続かない。それでも…
「それならば、もう少しだけ。…あと少しだけ。こうさせてくれ。私に捧げてくれ。」
返答を待たずに三度目の口付けを交わす。そのまま二人は交わった。
グラスランドのグラン帝國は現在戦争中である。
そして帝國佐官、アイリーン大佐は敵対国に加入している連合軍の捕虜、ステイを愛していた。
んでそっからどうしようかなと考えてみたけど特に思いつかなかったしスケールでかすぎて中身スカスカになりそうだったし許婚がヤンデレで突入とかいうネタを考えたんだすまない
むしろ婚約者でてこなくても通用するんとちゃう
最終的にジェノサイドになるんだろうな
428 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/17(水) 12:55:22 ID:xm393W5K
429 :
1〜風見乃音の4月30日〜:2010/03/17(水) 23:02:00 ID:9yEnl4aS
やるなら明日しかない。
明日から5日までは5連休になる。
いわゆるゴールデンウィークというやつだ。
しかも、おあつらえ向きに彼のご両親と弟はそのゴールデンウィークを利用して旅行に出かけるらしい。
旅行嫌いな彼をおいて。
彼の親友である、双葉良助によれば今日から出発して、帰りは最終日の午後だそうだ。
私の計画の唯一の不安要素は家族や友人などの人間関係のことだったが、これでそれもなくなった。
それどころか、明日行動に移せば彼を私に振り向かせるための時間が5日間もあることになる。
5日間もあれば、彼をしつけ……振り向かせるには十分なはずだ。
それでも、もし時間が足りなければ……。
でもまさかそんなことはないだろう。
状況は全ていい方向に転んでいる。
私の勝利は近いと思う。
さあ、後は愛しの彼を捕まえるだけ……。
早く明日にならないかな。
こういう時に限って、時間がたつのって遅いんですよ。
……う〜ん、眠れない。
中学校の修学旅行の前日だってぐっすり眠れたのに……。
まあいいです、それだけ楽しみなんですから。
きっと眠れないだろうけど、挨拶だけはしておこう。
私は枕元にある彼の写真に、おやすみなさいと言って布団の中にもぐった。
430 :
2〜吉川翔の5月1日〜:2010/03/17(水) 23:06:50 ID:9yEnl4aS
今日からは待ちに待ったゴールデンウィーク。
5連休という響き……最高だ。
いつもはうっとうしい太陽の明るさまでもが素晴らしく感じる。
これで家に突然あこがれの人から電話がかかってきた日には昇天してしまうだろう。
……あり得ないだろうけど。
まあ、憧れの人と言っても別に好意を抱いているとかそんなんじゃない。
純粋にあこがれているだけだ。
アイドル的な感じだろうか。
ちょっと可愛いな、くらいだと告白したりも出来るんだろうがこのくらいのレベルまで行くと無理だ。
勝率0%のかけをする人間がいないのと同じで、俺にそんな勇気はない。
だから脳が勝手に、こいつは好きになってはいけない、と指令を出しているのかもしれない。
風見乃音と華岸美琴。
うちの学園にいる二人のアイドルは優にそのレベルを超えてしまっている。
現に二人とも非公式のファンクラブ…という名のストーカ予備軍…的なものがあるくらいだ。
そいつらは一週間に一回集まって二人の幸福を祈る儀式的な事をするらしいが、詳細は謎だ。
ちなみに風見乃音の方の集会が月曜日で、華岸魅琴の方の集会が金曜日なのだそうだ。
何故そうなったのかは不思議でならないが……
♪〜
いきなりなりだした携帯の着信音に思考を遮られる。
まさかっ、噂をすれば〜な展開か?!
期待に胸を躍らせるも、サブディスプレイを見た瞬間に失笑。
着信相手は双葉良助。
俺の親友兼悪友だ。
「はい吉川……。」
「どうした?やけにテンションが低いじゃないか!愛しの良助さまが電話をかけてきてやったんだぜ!無理にでも元気出せよ!」
「……切るぞ。」
「ちょっ、待て待てぃ!落ち着け、俺の面白い話は最後まで聞くもんだ。」
「面白くない話だったら、お前に火炎瓶投げつけるからな。」
火炎瓶投げ込つけるまでやったら犯罪だから、明日から5日間無言電話をかけ続けてやる。
「ああ、いいだろう。そして予言してやる。お前はこの話を聞いた瞬間に俺にひれ伏しながら、どうかお供させてくださいと叫ぶはずだ。」
「前置きはいいから早く言ってみろ。」
「あの風見乃音とボウリングに行けるん……」
「どうか是非お供させてください!」
……負けた気分だ。
電話越しにも関わらず頭を下げてしまった。
予言通りの叫び声をあげながら。
431 :
2〜吉川翔の5月1日〜:2010/03/17(水) 23:09:13 ID:9yEnl4aS
先に来た俺たち三人が待ち合わせ場所の駅前のベンチに座っていると、そこに見知った顔が駆け込んできた。
「やけに早かったな。」
「当たり前だ。」
いつも待ち合わせ時間に間にあったことのないお前が……というのは飲み込んでおく。
余計なことは言わないのが長生きする秘訣だ。
逆に早死にしたいなら、余計なことをどんどん言っていくといい。
そのうち、後ろから刺されるはずだ、多分。
「てか全然早くねーだろ。俺が男子の中で最後じゃねーか。」
「いや、十分早いだろ。俺たち全員が。まだ11時だぜ?」
集合時刻は12時ジャストのはず。
そう、吉川が遅いわけじゃない。
他の奴らが早すぎるんだ。
俺もさっき来たところだけれど、4人いるうちの男子の中で3位だった。
俺より早く来ていた二人に聞くと、二人とも10時前から待っていたらしい。
早すぎる。
気持ちは分からないでもないけど。
「しかし、よく俺を誘ってくれたな。いつもかなり倍率高いだろ?俺なんかを誘ったらファンクラブの奴にぼこられるんじゃないか?」
「たまになら大丈夫だろ。たぶん。」
男女混同で遊びに行く時の男子の人選は大抵、俺が任される。
まあ、風見や華岸が女子のメンバーの中にいるときは、男子のメンバーをファンクラブから適当に選ばないといけないのだけれど。
ちなみに、今回吉川を選んだのは俺じゃない。
風見乃音からの直々の指名だ。
でもたまになら、大丈夫だろうというのはあながち間違いじゃないと思う。
ただでさえ少ないチャンスを自分から潰しに来るようなバカはいないはずなので。
「しかし、暇だな〜。一時間も早く来なけりゃよかった……。」
「あれ、お前何も持ってきてないの?」
そういいながら俺はかばんからPSPを取り出す。
俺たちの隣にいるファンクラブの会員たちも同時にPSPを取り出す。
「いやいや、普通はもってこねぇだろ。」
「これだから素人は。」
「ふつうは持ってくるぞ。人を待つなら。」
「ま、お前はいつも人を待たせる側だからね〜。今日はおとなしく俺たちの狩りを見学しとくんだな。」
カセットは誰もがしるPSPの定番モンスターハンター。
全員で、ベンチと近くにある垣根に座り込む。
さあ、狩りの始まりだ。
432 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/17(水) 23:14:44 ID:9yEnl4aS
↑タイトルミス
2〜吉川翔の5月1日〜⇒3〜双葉良平の5月1日〜
ヤンデレ初心者でも読める、ソフトなヤンデレものがあったらいいなと思ったので作ってみた。
一応少し先まで書いてるけど、長編にするか短編で終わらせるか検討中。
グインサーガを越えるぐらい書いてくれ
いいねいいね〜
ゴルゴはとりあえず超えるくらいの長編希望
435 :
未定:2010/03/18(木) 02:25:29 ID:RMem8h1u
私は朝が嫌いだ。
頭は良く働かないし、これから学校があると思うと憂鬱になる。
朝6時に起床。
7時30分に家を出て。
8時に学校に着く。
その後はくだらない授業を聞き流し。
昼休みになれば購買で買ったパンを食べる。
そしてまた授業。
放課後になれば自宅へ帰り。
コンビニで適当に見繕ったお弁当を食べる。
その後は風呂に入り。
出たら明日の諸用意。
課題なんか出ていたらこの時終わらせる。
そして遅くても12時には就寝する。
これが私「東条 美紀」の日常だ。
至って普通の高校生。
それが私だ。
436 :
未定:2010/03/18(木) 02:26:04 ID:RMem8h1u
今は授業中。担当の教師が世界史について授業をしている。
岡部康仁 47歳。温和な教師で、学生にも人気がある。
人間観察は私の趣味だ。
「東条、何年か分かるか?」
「1939年です」
私はさっと答える。
「そうだ、さすがだな」
岡部は私に微笑を浮かべると、全員に視線を戻し授業を続ける。
世界史は好きだった。
世界史が終わり、今は休み時間。
クラスメイト達は幾人かのグループを作り、話に興じる。
ふと、この前読んだSF小説を思い出した。
星間戦争の話だ。星と星が争う壮大なスケールの物語。
とても面白かった。続編があるようだしな、今度買いにいくとするか。
「美紀ぃ」
ノイズが入った。
「用件」
「いきなりですかぁ、少しはゆとりを持ちましょうよぉ」
「用件」
機械的に繰り返す。
「冷たいなぁ、でもそこが良いんですよねぇ」
「3.2.1」
「分かりましたよぉ、言いますぅ。えーとぉ、今度家にぃ」
「却下」
「ひどいなぁ、最後まで言わせましょうよぉ。もしかしたらいい事かもなのにぃ」
溜息をつき、相手の方を向く
「どうせ、家に遊びに来たいとかそういった類のものだろう?」
「その通りぃ♪」
この女は「如月 沙織」
顔は文句の付け所のない美少女で、スタイルも抜群。
成績優秀で、運動もできる。
人当たりは良く、友人も大勢いる。
困った事に、何故かは知らないが私に好意を寄せているのだ。
愛の手紙を貰ったこと34回、告白を受けたこと62回と、異常だ。
「やだ」
「聞こえません」
「お前は小学生か」
「何を言われようが、決意は変わりませんよぉ」
駄目だ、もう我慢できない。
私は顔を伏せた
437 :
未定:2010/03/18(木) 02:27:35 ID:RMem8h1u
スレ汚しだが、寛大な心で見逃してほしい。
438 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/18(木) 03:07:53 ID:VxhN3JZA
つまらん
二度と書くな
書かない天才より書く凡夫のほうが偉いとじっちゃんが言ってた
まー百合は百合スレに投下した方がいいんでないかい
とりあえず「投下します」「投下終わりです」の一言とsage進行は守ろうよみんな
自治厨サーセン
>>441 正しい事を言う時は胸を張るべき
自治厨も何も
>>1に書いてある最低限の基本ルールなんだから、それくらいは守るべきだろ
自由と無法は違う。秩序のないスレは荒れて住人を減らすだけだよ。最近sageないのが多すぎる
俺自身もわざわざageないけど
sage進行って人に強要するほどの意味が残ってるとは思えないけどな
>>443 確かにsage進行自体にはそこまで深い重要性はないかもしれないが
>■お約束
>・sage進行でお願いします。
って
>>1のルールに書いてあるからな
ルールも読めないヤツが好き勝手に書き込みしたら
それは荒れる元になるからな
とりあえず落ち着いてヤンデレの話しようよ
>>445 みんな落ち着いてるよ。で、どんなヤンデレの話題なんだい?
それじゃ
>>406ネタでも投下するよ
注:エロなし、文中にある掲示板についての考察はフィクションです
「……またか」
退屈な授業を卒業のためにこなし、やっと終わって意気揚々と帰ってきたのがさっきのこと。
恒例の楽しみのためパソコンを立ち上げ、灰色の無機質なアイコンをダブルクリック、
更新された内容を流し読みして、溜息が洩れた。
「何だか最近荒れっぱなしだなぁ」
溜息の原因は、眼前の掲示板(正しくはその内部のスレッド)の「荒れ」である。
普段はそっち系のSS(ショートストーリー)などが投下される場所なのだが、
たまに些細な食い違いなどから、口汚い言い争いに発展してしまうことがある。
俺がここを見始めたころは、荒れることなど滅多になかったのだが。
荒れた内容も見るに堪えないけれど、何よりも投下が無くなる・しづらくなるのが痛い。
投下があれば流れも正常化することが多いが、荒れている場に投下する人がどれだけいるか。
掲示板のウインドウを閉じ、再び溜息をついたところで、背後から窓を叩く音が聞こえた。
振り返れば、見慣れた顔が笑いながらこちらへ手をひらひらと振っている。
……用のないパソコンの前でじっとしているのも何だし、暇な幼馴染の相手でもしてやるか。
からりと窓を開けると、待ってましたと言わんばかりにこちらへと乗り込んでくる。
お隣とこの家は妙に近く、この窓に至っては間が五十センチほどもない。
「彼氏持ちが男の部屋に入って良いのか?」
「甲斐性なしのキミの部屋だから大丈夫だと思うよー?」
甲斐性なしといわれるのはいただけない。
……まぁ、こいつを異性として意識していないのは確かだが。
目の前のこいつは嵐山玲、先ほども述べたように一つ下の幼馴染である。
ただ幼馴染といっても、子供のころ泥にまみれて遊んだ仲、つまるところ弟分に近い。
成長して女らしくなった今でも、タンクトップに短パンで駆けずり回るイメージが付きまとう。
美人といえる顔も、膨らんだ胸も、引き締まったウエストも、適度に丸みを帯びた尻も、
一つとして劣情を掻き立てるようなことはないのだから、健全な青少年としてはゆゆしきことである。
「平均点21のテストとか神田の奴外道すぎる。少しは物理担当見習えってんだ」
「岩山センセ? あの人は面白いよねー」
肩まで伸ばした漆黒の髪が、玲の身振り手振りに合わせて揺れている。
たわいのない教師の話題で盛り上がる。色気のかけらもないのが俺達らしい。
こんな関係でなければ、こいつが彼氏を作った時に、もっとぎこちないことになっていただろう。
玲が報告に来た時に、一緒にいた友人が「お前ら付き合ってたんじゃないのか」と首をかしげていた。
少しでもそういう感情があれば、あの場で「おめでとう」などとは言えていない。
そう言ったとき、心に小さな痛みが走ったのと、玲の表情が曇っていたのは気のせいだろう。
そんなことを考えつつくだらない話をしているうちに、ふと、最近こんな時間が多いことに思い至る。
……ここ最近の荒れ方のせいで、パソコンの前に座っていることが減ったからか。
以前であれば、今頃は投下された物語を読んだり、ちょっとしたものを書いたりしていた時間帯だ。
しかし、俺はともかくとして、こいつは彼氏と過ごす時間を増やさなくて良いのだろうか。
「じゃ、そろそろ戻るよ。暇があったらまた来るね」
「……なぁ、彼氏ともっと一緒にいたほうが良いんじゃないか?」
言った途端に、部屋の温度ががくんと下がった気がした。
身を乗り出す途中で振り返った彼女の顔には、底冷えのするような笑みが張り付いている。
「なぁに? ボクが来ると迷惑?」
「い、いや、そういうわけじゃないけどさ」
笑ってるのに怒ってる。美人が怒ると怖い。何でいきなり気圧されなきゃならないんだろうか。
なんか悪いこと言ったか? それ以前に、弟分に気圧される兄貴分って何さ。
「ふぅん……じゃ、またね」
「あ……ああ、また」
枠をひらりと飛び越えて、玲は自分の部屋に戻った。
ちなみにあいつは運動神経も良く、頭も回る。文武両道で才色兼備ってうらやましい。
ここ最近、荒れる頻度が更に高くなっている気がする。
それに比例するように、玲の訪問回数も増えている。それで良いのか彼氏持ち。
「毎回毎回同じようなくだらねぇやりとりしやがって……って、ん?」
何の気なくつぶやいたセリフの、何かが引っかかった。
毎回毎回同じような……中身が似ている、という意味はもちろんなのだが。
気になって、過去のログを確かめる。前回と今回、前々回と前回、同じような点はどこだ?
「時間、か……?」
そうだ。荒れるトリガーになっているレスの時間帯がいつも同じなのだ。
しかも日数を洗い出してみると、特定のパターンで繰り返されているようだということが分かる。
最近は頻度が増えているようだが、時間帯はいつも同じ、ちょうど俺が見る時間の30分前位だ。
「どういうことだ?」
スレに対する手の込んだ嫌がらせ? それともまさか、俺個人へのものか?
流石に後者は考えづらいから、多分前者なのだろうが……。
いや、意外と簡単に確かめられるかもしれないな。
方法は簡単だ。荒れる元凶の居るであろううちに、作品を投下する。
基本的に、作品に対しては肯定的なレスをするというのがスレの空気としてある。
スレに対する嫌がらせであれば、これだけ手の込んだことをやる相手だ。
住民全体を敵に回すようなレスは返さない、つまり俺の投下に反応しないことが予想できる。
俺に対する嫌がらせなら、俺個人さえ追い出せればいいのだから、こっぴどくやっつけるだろう。
フォローできないぐらい徹底的に、複数のIDを使ってでも叩きのめすはずだ。
どう考えても後者はあり得ないと思うが、前者であっても元凶は沈黙し、
スレの流れも良くなる(だろうと思いたい)、一石二鳥だ。善は急げ、サクッと書いてしまおう。
翌日、授業中に構想をまとめ、いつもより少し早く帰って考えたものを形にする。
体験記風の短いものだから、打ち込むのに時間はかからなかった。
内容は、学校の下校途中に同級生にヤられるというもの。そこそこの出来だと自負している。
「……うし、後は釣りあげるだけだ」
いつも通り荒れているスレッドを見つつ、投稿ウインドウを開く。
メモ帳に書きためていたものを数十行ほどコピペし、投稿ボタンを押した。
突然の投下にレスが止まったのを良いことに、コピペと投稿を淡々と繰り返す。
最後に投下終了の旨を書いて……後は反応を見るだけだ。さて、どうなるのやら。
396 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:31 ID:Mac0T0Sn
え
こっちが「えっ」て言いたいわ。レスの途中でshift+Enterでも押したんだろうか。
首をかしげつつ再び更新ボタンを押し、画面を見た瞬間――目を疑った。
397 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:33 ID:8anDe0cN
うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそ
398 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:36 ID:QluTTaAI
だれ
399 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:39 ID:KaNK1nsR
○○、××、それとも△△?
400 名前:名無しさん@ピンキー[] 投稿日:2010/03/15(月) 19:50:42 ID:Nok0GIR1
ひとがみtないうちにあああああああああああああああああああああああああああああ
「なん……だ、これ?」
それぞれが異様なレスなのは確かなのだが、何よりも複数のIDであることに恐怖を覚える。
しかも、どのIDも青だったり赤だったり……つまるところ複数回レスしているのだ。
「複数の回線から、1人がこれだけのレスをしている……ってことか?」
それも、○○やら××やらは俺のクラスメイトの女子である。
先の予想がどうやら後者で正解であった、という事実に背筋が寒くなった。
「どういうことだよ……」
「どういうことなんだろうねー」
不意に耳元に息を吹きかけられて、ただでさえ寒かった背筋が凍ってしまった。
おかしい。俺は窓を開け放した覚えなどない。ただでさえまだ寒い季節なのだ。
「毎日毎日ボクと話しもせずに、パソコンの前に座ってるような不健康な生活してるからさー。
改善してあげようと、キミと一緒に下校するのを我慢して、早く帰宅して頑張ってたのにさー」
そういえば最近は、こいつと一緒に下校することが少なくなっていた。
てっきり彼氏と一緒に居るものだと思っていたが……。
「その間にさー、キミをぱっくりやられちゃったんじゃ本末転倒だよねぇ」
後ろからするりと腕を回され、背中に胸が押しつけられる。
感触でエレクトしてないかって? ハハハそんな余裕ないっすよ。
「他の人と付き合うって言えばさー、なんかアプローチしてくれるんじゃないかと思ったけど。
それもまったくないしさー、ほんともーねー、報われないよねー?」
「何を……言ってるんだ?」
「先輩に協力してもらったり、友達の携帯借りたりしたんだー。ボク頑張ったでしょ?」
ほめてほめてーとでも言わんばかりにすり寄ってくる。
やめてください。虎かなんかにすり寄られてるような気分になります。
「でもさー、もっと簡単な方法があったんだよ」
絡みついた腕に力が込められる。どこにこれだけの力があるのだろう。
「放し飼いにするから泥棒猫にがぶりってやられちゃうんだよね。
だから屋内で飼うことにするの。それにそうすれば、いつでもボクを見てくれるでしょ?」
「ちょっと待て、お前は何か勘違いして――」
「泥棒猫のことなんか忘れられるように、たくさんたくさん愛してあげるね」
それじゃ、おやすみなさい。そんな声を聞きつつ、俺の視界は暗転していった。
――おしまい――
おおおおおぉぉぉ!!!
すげぇ!
GJ!
投下完了。タイトルは適当、分母が増えてるとか細かいことは気にしないでくれ
ちなみに俺は隣の幼馴染などいないのでこんなことは起こり得ないな
素晴らしすぎる。
自分も駄作を投下していいだろうか?
文才が無いので見れたもんじゃないが・・・。
ひさしぶりに背筋が震えるほど言い病んでれをみた。
これはあのスレのことか。
なにはともあれGJ.
458 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/18(木) 20:16:42 ID:y5mr/T4y
すごい。
気持ちいいくらいのヤンデレだ・・・!
続きが無くても続けてほしい・・・
>>455 期待する
>>454 これはGJと言わざるをえないな。素晴らしい
ちょっと窓を開けといた方がいい。きっとヤンデレが御褒美に来てくれるはず
時代背景みたいなものを設定しているんだが
「クレタ島の戦い」で検索してくれれば話がよく分かると思う。
駄作で僭越ですが・・・投下。
外では銃声が鳴り響き、爆音が聞こえる。
味方はどうなったのだろうか、部隊の皆は・・・。
「また、外を見てるの?駄目だよ」
微笑を浮かべながら女が近づいてくる。
美しい少女だ、初めて見た時は純粋にそう思った。
「なあ、もういいだろう。ここから解放してくれないか?」
手に巻きつけられた、鎖を見ながら呟いてみる。
「何言ってるの?そんな体で行ったらすぐ殺されちゃうよ」
またか、何回繰り返せばいいのだ。
「足はもう平気だ、君も知っているはずだろう」
看病してくれたのは彼女だ、知らないはずがない。
「・・・手当てしたのは私だよ、傷の具合は私が一番知ってる」
「なら――」
「足がまだ動かないっていうことは私が一番よく知ってるよ」
「!・・」
くそ、何を言っても駄目か。できることならあの日に戻り、自分に
警告してやりたい気分だった。
そう、この監禁生活が始まったのはあの日からだ・・・。
支援
「降下猟兵」はエリートだ。普通の兵士なんかじゃ出来ない芸当を
軽々しくやってのける。
空から舞い落ち、敵陣の真っ只中で任務をこなす。
だから俺達はエリートなのだ。
5月20日
俺は機内の中にいた。もうすぐCrete島への降下が始まるのだ。
ふと、体中を震えが駆け巡った。
これは俺にとって初めての降下なのだ。
「緊張しているのか?」
部隊長が声をかけてくれる。
「大丈夫です」
嘘だ、本当はこの場で叫びたいほど緊張している。
部隊長は微笑を浮かべた。
「私からはぐれなければ、生きて帰れるさ」
俺はその言葉を胸に刻みつけた。
「降下準備!」
部隊長のそんな声が聞こえた。
立ち上がり、気を引き締める。
「いけ」
「いけ」
「いけ」
どんどん前の奴らは舞い立ち、あっという間に俺の番だ。
風の声と心臓の鼓動以外なにも聞こえない・・・。
「いけ」
ドン!と背中を押され、空へ。
重力が一層、強くなる。
次の瞬間には風の洗礼と対空砲火の嵐。
生きて、帰れるさ。
支援
ビュオオオオという風の音。
今日は風が強い、窓がガタガタ揺れる。
「飛んでいってしまいたい・・・」
そんな呟きは日常茶飯事だ。
私は風が好き。だって自由だしどこへでも行ける。
パルテノン神殿だって、自由の女神だってどこへでも。
しがらみも何もない空が心底羨ましかった。
唐突に外へ出たくなった。
風を感じたい。
1階に降り、玄関のドアを開ける。
「ッ!・・・」
予想以上に強い風が私の顔を打つ。
でも、そんな感覚すら嬉しくて、私は外へと歩き出す。
「はあぁぁ・・・・・」
「すうぅぅ・・・・・」
息をはいて吸ってを繰り返す。
心が軽くなった気がする。
よし、いつもの場所へ行こう。
私は歩き出す、風に打たれながら。
「着いたぁ」
私の家から歩いて少しの所に草原がある。
草原の真ん中には、大きな岩があった。
その石の上が私の定位置だった。
「うんしょと」
石の上に登り、大の字で寝転がる。
空が見える、私の大好きな空が。
ゥーーン
「?」
遠くからかすかに聞こえてくる。
なんだろうか?
ゥーーン
段々と
ウゥーーン
音が
ウゥーン
大きく
ブゥーン
明確に
ブゥン!
あ、大きな影が
通りすぎ――え?
私は弾かれた様に上半身を挙げる。
「何!?」
ついさっき通り過ぎた「それ」を目で追う。
知っている。あれは――
「戦闘機!」
どうしてこんな所に。
頭の中を疑問が飛び交う。
なぜ?
どうして?
何をするつもり?
パパは――
「そうだ!父さまが危ない!」
確か今日は軍の飛行場に行くと行っていた。
知らせないと!
私は岩から飛び降りると、一目散に走り出した
ちょいと小休止。
駄文なうえ、まだヤンデレのヤの文字も出てきてませんが
どうか見捨てないでくれると嬉しいです。
書き溜めてからまとめて投下したほうがいいかも試練?
>>468 もしかして直接書いてるの?
書き込むなら一端メモ帳か何かで書き起こしてからのほうがいいよ
>>469さん
そうですね(汗、今度からそうさせていただきます。
>>470さん
確かに・・・。アドバイスありがとうございます。
お二人のアドバイス、非常に参考になりました。
無知な私ですが、こうしてアドバイスを頂けると、ホッとしますw
駄文ですが、がんばって行こうと思いますので
よろしくお願いします。
472 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/18(木) 22:53:26 ID:Ftj+2OE2
473 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/18(木) 23:27:43 ID:y5mr/T4y
>>471 応援してます
頑張ってください
さて、自分も書きためてた分を投下しますか・・・
昨日からクラスメイト達がボウリングに行くというのは聞いていたけど、体がだるかったので行かないでおこうと思っていた。
でもクラスの女子から男子のメンバーに吉川翔がいることを聞いて、急遽参加させてもらうことにした。
彼と私はいわゆる幼馴染の関係だったけれど、中学生くらいから急に疎遠になった。
それはどうやら、私が学園のアイドルだとか言って持ち上げられていることが原因らしい。
男子の友人から私の事を根掘り葉掘り聞かれる上に、それだけが目的で友達になろうとするやつまで出てきたから嫌気がさしたのだそうだ。
最初はその気持ちが全く理解できなかったが、最近になってやっとわかるようになってきた。
ファンクラブとかいうものに所属して居る人たちに、しつこく追いかけまわされたり、予定を聞かれたり、誘われたりするのだ。
中にはストーカーじみている人までいる。
最近のもっぱらの悩みの種だ。
翔は中学時代にこれを耐えていたのだからすごい。
「お〜い、魅琴〜?どうしたの?」
「あ、ごめん。ぼーっとしてた。」
待ち合わせ場所まであと少し、という所で親友の斎藤加奈に話しかけられる。
多分会話の途中に生返事で返していたからだろう。
わけのわからないことも言っていたかも知れない。
「あ、駅前についたよ。……いたいた、吉川君。みんな何かに熱中してる感じなのに一人だけ涼しそうにしてるね。」
彼女には私が翔を好きなことを知られている。
以前、吉川君の事好きでしょ?と聞かれた時に異常な程あわてて否定してしまったからだ。
普通にポーカーフェイスで行けばばれなかったのに……。
「お、斎藤と華岸!遅いぞ!」
双葉君がこっちを向いて叫んでいる。
まだ待ち合わせ時間の30分前なのに……。
みんな早すぎる。
翔の隣には風見さんの姿が。
どうやら風見さんは一人で来たらしい。
ゲームをやっていなかった翔が話し相手になり、他の三人がそれをうらやましそうに見ている。
逆に私は風見さんがうらやましい。
「お待たせ!みんな早いね。」
「確かに。まだ30分前だよ?」
「俺たちは待ち合わせの2時間前にやってくるほど、几帳面なのさ。」
「まあ、そういうことだ。それにしてもあとの2人は遅いな〜。」
それは逆にちょっと異常な気がする様なしないような……。
残りは女子二人。
たぶん一緒にやってくるだろう。
しかし、30分前でも遅いって言われるなら、本当に遅刻してきたらなんて言われるんだろう?
その疑問は残りの女子二人によって解明された。
答えは何も言われない。
男子からの冷めた目線攻撃だった。
ストライク、の文字が画面に出てくる。
「二回連続だよ?すごーい!」
「すごいね〜。練習してるの?」
「お、お前まさかこの日のために徹夜で……。」
「してねーわ!ボウリングは得意分野なんだぜ?」
「私、ボウリング強い人好きだよ。」
その風見さんの言葉で、男子の雰囲気が一変した。
なんと、全員が連続でストライクやスペアを出し始めたのだ。
いざ終わってみると、男子全員200超えという恐ろしい成績だった。
「次ゲーセン行かない?」
「いいねいいね、プリクラとろうよ!」
「エアホッケーでトーナメントやろうぜ。」
ボーリングの後はそれぞれ思い思いのゲームを楽しむことになった。
「おい、もうちょっと詰めろって!」
「いや無理。限界。」
「あっ、変なところ触らないでよ!」
「ちょっ、押すなって!」
「俺手しか写ってない……。」
「取り直し取り直し!」
9人でプリクラ撮影という偉業を果たす。
本当に狭かった。
エアホッケー大会は私と風見さんと双葉君の三人がシードであとは適当にトーナメント表を作成。
初戦は魅琴と吉川君と少年A……あの子誰だっけ?魅琴や風見さんのファンクラブの子かな?……が勝ちぬき、二回戦で私と魅琴が戦うことになった。
「ふふ、行くわよ。私の本気を見せてあげるわ。」
「目が怖いよ、目が……。」
魅琴の目が本当に怖かった。
どんより曇っているというか、濁っているというか……。
何かあったのだろうか?
「ふふふ……。罰ゲームに何をさせようかしら……。」
うわごとのようにつぶやくセリフから察するにおそらく、吉川君と何らかの密約を結んだらしい。
多分負けた方が罰ゲーム的な?
だからと言ってわざと勝たせてあげるほど、私はやさしくないけど。
100円硬貨を投入して試合開始。
どうやら、先攻は魅琴の方らしい。
「かかってきなさ……」
言い終わる前に私の手の真横を突き抜けて、ゴールの方に何かが入る。
ゴールゴール!という機械音が鳴り響き、点を入れられたことを知る。
「……え?」
「どんどんいくわよ!」
魅琴の新たな一面を知った。
エアホッケーが以上にうまい。
結局、私の試合は魅琴のワンサイドゲームになり、11対0でコールド負けしてしまった。
そこまで燃えなくても。
次は吉川君と双葉君の試合だ。
開始の機械音が鳴ると同時に、吉川君のシュートが入る。
「俺はこの試合に勝って、来週一週間の昼飯をおごってもらうんだぁぁぁ!」
なるほど、一週間昼ご飯をおごると言って釣ったのか。
予想通りこの試合も吉川君のワンサイドゲームになり、双葉君がコールド負けしていた。
「そ、そんな……。俺のもっとも得意なゲームでコールド負けだと……?!」
「ふっ、かけているものが違うんだよ。」
かけているものが昼ご飯でなければものすごく格好いいセリフを吐いて、吉川君はその場を後にする。
三試合目は風見さんが勝った。
この後、三人でリーグ戦の予定だったが、風見さんが
「絶対勝てないです。」と言って棄権したため、吉川君と魅琴の決勝戦を残すだけになった。
「俺はこの試合に勝って、昼飯代を持って帰るんだ!」
「ふふふ、私に勝てると思ってるのかしら。」
二人が決め台詞を言った後、すぐに試合開始の機械音が鳴る。
「行くぜっ!うおおおぉぉぉぉぉぉ!」
「甘いわね。」
吉川君の渾身のストレートショットを魅琴は軽く受け止める。
「な、何だとっ!」
「次は私の番ね。」
魅琴が普通の人が打つのと殆ど変らない速さでショットを打つ。
「こんなの楽……えぇぇぇ?!」
なんと、ゴール直前で曲がったのだ。
ぐにゃっと。
「そ、そんな馬鹿な?!」
「ふふふ……かけているものが違うのよ。」
魅琴の決め台詞のあと、吉川君もがんばったものの敗北。
どうやら、罰ゲームは後日執行らしい。
可哀想に。
ついに今日がやってきた。
今日こそ愛しの吉川君……いえ、翔君を手に入れなければ。
問題は誰にも怪しまれないで吉川君を捕まえなければいけないということ。
誰かに怪しまれて警察を呼ばれたら最後、私の計画は台無しになってしまう。
それどころか、警察につかまって翔君に会えなくなってしまう。
それだけは避けなければいけない。
そのために吉川君を遊びに連れだしたんだし。
このまま、暗くなってから一緒に帰ってもらってその途中で我が家に拉致してしまえば……。
でも、どうやって送っていってもらえばいいんだろう?
幸い、私の家と吉川君の家は近くにあるから送ってもらえないことはないだろうけど。
直接言ってみようかな?
でも今、翔君には華岸さんがべったりくっついてるし……。
「うわ、怖いな……。知ってるか?昨日通り魔事件が起こってたらしいぞ?スタンガンで気絶させた後にめった刺しだってさ。」
携帯のニュースフラッシュを見ながら、翔君がみんなに言う。
「俺もそれ昨日のニュースで見たぞ。」
「俺も見た。てか今更だな。」
「私もみたよ。この近くっていうかこの市だよね。」
私は知らなかった。
やはり、神様が私に味方しているのかも知れない。
これで格好の口実ができた。
「もしよかったら……」
「じゃあ私は吉川に送っていってもらおうかな。襲われたら危ないし。」
「おう、構わんぞ。俺がついてれば体重80キロまでの奴なら倒せる。でもそれ以上ならお前を餌にして逃げる。」
「何それ?!ひどっ!」
私が翔君を誘おうとすると、華岸さんに遮られてしまった。
多分わざとじゃないだろうけど……ひどい。
これで通り魔を装って気絶させた後に、私の家に運んで行くしかなくなった。
「じゃあ、風見さんは俺が送って行くよ!」
「いや、ここは俺が!」
「私は一人で帰れるから大丈夫です。みんなも気をつけて帰ってくださいね。」
何人かが送ると申し出てくれたが、丁重にお断りする。
ここで誰かに送られてしまったら、翔君を尾行して捕まえることができなくなってしまう。
「じゃあここで解散にしようよ。」
「OK。また今度な〜。」
「みんなお疲れ〜。」
「では失礼しますね。」
みんな思い思いの挨拶をして帰っていく。
華岸さんと翔君のエアホッケーの試合が終わった後、昼食をとったり、他のゲームをしたり、カラオケに行ったりしていたので、もう外は暗い。
駅前からはなれるほど街灯が少なくなって真っ暗になるので、翔君を捕まえるのはおあつらえ向きだ。
とりあえず、私は帰ると見せかけて近くの物陰に隠れ、二人を観察する。
華岸さん……最近、翔君に積極的にアプローチしているように思える。
聞いた話だが、二人はどうやら幼馴染らしい。
きっと彼女は私の知らない翔君をたくさん知っているに違いない。
他のひとならまだしも彼女と翔君をとり合うことになれば、間違いなく負けてしまうだろう。
だから、今回の計画を練った。
こうでもしなければ、きっと翔君は私には振り向いてくれない。
だから、仕方ないんだ……。
「さっきの罰ゲーム何にしようかな〜。来週の朝礼の時に全校生徒の前で踊ってもらおっか?キューティーハニーをフルコーラスでもいいけど。」
「いやいやいやいや、勘弁してください。」
「あ、踊りなら沖縄の踊りね。ちゃんと練習してくるように。」
「なんなのそのチョイス?!俺をそんなに登校拒否にさせたいの?!」
「じゃあ、譲歩してあげるわよ。全校生徒の前で阿波踊りでいいわ。」
「どこに譲歩があったのかな?!一番危険な全校生徒の前でっていうのがまんま残ってるよね?!」
「じゃあクラスメイト全員の前で私に告白してみる?後から嘘でしたって言ってもいから。」
「ファンクラブの奴に殺されます。そんなに俺に死んでほしいんですか?!」
楽しそうに話しながら歩いている。
うらやましいです。
でももうすぐ私も翔君と二人っきりに……。
「じゃあここまででいいわ。送ってくれてありがとね。」
「ああ、お前を送るのが罰ゲームみたいなもんだったから、罰ゲームをなしにしてくれると嬉しい。俺的には。」
「……本当に躍らせるわよ。」
「マジすいませんでした。調子こきました。」
翔君が華岸さんへと頭を下げる。
華岸さんはそれをみると家の中へとはいって行った。
「ふう、疲れた〜。」
翔君が自分の家へと歩き出す。
そしてそれはその途中にある、私の家へと近づいているわけでもある。
……よし、もうすぐ私の家の近くだ。
家に一番近いところで襲えば人に見つかるリスクは少ない。
念のため用意しておいたタオルで顔を隠し、スタンガンを片手に持って準備する。
もうすぐ翔君は私の物に……。
……よし、次の交差点を超えたところの一本道で襲いかかろう。
翔君の後ろを歩く私の中に緊張が走る。
あと少しあと少し……。
今だ!
出来るだけ足音をさせないようにして翔君へと走る。
そして……。
えいっ!
心の中で声を出す。
失敗した時のために正体を知られるわけにはいかないから。
「おっと……甘いな。」
「っっ!!」
しまった……。
かわされてしまった。
「人を後ろから襲うとは卑怯にも程がある。まだ普通に喧嘩を売ってくる不良の方がましだ。」
どうしよう……逃げてもたぶんすぐに追いつかれる。
こうなったらなんとか気絶させるしかない。
「まあ、剣道と合気道と捕縛術を極めた俺をターゲットにしたのが運のつきだな。大人しくつかまってもらうぞ。」
それは嘘だ。
合気道と捕縛術は本でちょっと読んで習得しただけって言ってた。
剣道は本当に二段を持ってるらしいけど。
翔君が一歩一歩と間合いを詰めてくる。
詰め切られる前にしかけないと!
スタンガンを両手で構え、一気に突っ込む。
しかし、またしても翔君の体には当たらない。
両手の手首を下からはじかれ、左手がスタンガンから離れてしまう。
そしてスタンガンを持った右手と胸倉をつかまれ、背中で抱えて投げ飛ばされる。
柔道の背負い投げだ。
全然合気道でも捕縛術でもない。
「ぅぅっ……。」
なんとか受け身に近いものはとれたけど、素人だし、そもそも本物の受け身を知らないのでかなりダメージを受けてしまう。
投げ飛ばされた時のあまりの痛みに、思わずうめき声をあげてしまった。
それでも、計画をやめるわけにはいかない。
意地でなんとか立ち上がる。
「加減しすぎたかな?じゃあ次は本気で行くぞ。」
とんでもない。
十分痛いです。
今度は翔君の方から仕掛けてきた。
まだ少しふらついている私に近寄ってくると、スタンガンを持っている右手をひねって、背中の方に回してきた。
間接を固められてしまった。
これはまずい。
全く抵抗も出来ないし、相手の意志で腕を上にあげられればそのたびに痛みが増す。
「よし、捕まえたぞ。9時49分、現行犯逮捕だ。」
翔君は携帯で時間を確認して私に告げる。
ああ、なんてことだ。
最後の最後で失敗してしまった。
「全く、ご丁寧にタオルなんかで顔を隠しやがって。顔をさらす度胸もないのかよ。」
翔君のあきれたような声が聞こえる。
このまま私は刑務所に入れられて一生翔君に会えなくなるのだろうか。
そんなの嫌だ。
そんなの嫌だ。
そんなの嫌だ。
なんとかこの間接技から逃れようと暴れる。
「おいっ、このっ!おとなしくしろっ!」
腕をさらに上にあげられる。
「痛いっ!痛いよぉ……。」
あまりの痛みに思わず泣き声混じりの声が出てしまう。
もともと私は体育会系じゃないし、そんなに強いわけでもない。
それが武道の有段者相手によく頑張ったと思う。
「えっ?!お前まさか……。」
私の声を聞いたとたんに、翔君の私の腕を持つ力が緩む。
今しかない!とっさにそう思った。
その瞬間、持てる全ての力を尽くして翔君の腕から逃れ、下に落としてしまったスタンガンを拾い、翔君に押し当てる。
翔君は私の声を聞いてかなり驚いたようで、その間全く動けなかったようだ。
スタンガンがバチバチっと光った直後、翔君の「うっ」といううめき声が聞こえて、彼は地面に倒れた。
私の家はもう目の前。
引きずっていくと、誰かに見られた時に怪しまれるかも知れないから、酔った人を送っていますといった感じで、肩を貸す格好で歩く。
「ふふふ、これからどうしようかなぁ……。」
本当に最後の最後で私に味方してくれた神様に感謝しながら、翔君を部屋まで運び込んだのだった。
一応、投下終了。
次回から監禁生活に入ります。
ヤンデレの小説は長くなればなるほど暗くなっちゃうから、この小説はそうならないことを目標に頑張っていきたいです。
……いっそこれで打ち切りにしたほうが明るいかな……?
つまんね
484 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 00:08:14 ID:EX7eJQbN
死ね(暗黒微笑)
>>482 GJ
監禁パートに入った時のwktk感は異常
491 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 20:24:04 ID:Fye7V37G
派手
ヤンデレ物って、大体主人公がヘタレで平凡だけど、
出来れば、ヤンデレ並の高性能で、ヘタレない主人公の小説が見てみたい。
単芝キモいです
>>496 ムヒョロジの9巻なら、割とましな主人公と、
ヤンデレのバトルが見れたはず。
主人公が高性能でヤンデレと張り合える=ヤンデレの思いが上手くいかないだからな
高い決断力と自主性を持ってる場合、ヤンデレが発動しにくいってのもあるだろうし
にしても、ロージーは割とヘタレ主人公的な要素を持ってると思うんだが
正直ヒロインが金持ち、容姿端麗、天才、文武両道、学園のアイドルとかってハイスペック設定は飽きた
超絶美人とか超天才とか超人気者とかって設定に中二臭さを感じてしまう
そんな女に固執される主人公も普通の平凡なヘタレ男ばっかりでこれといった特徴がなかったりだし
優れた女が凡庸な男に病むほど惚れる理由もなんだかなあってなもんばかりで納得できない
わざわざそんなキャラ設定にする意味があんのかって思ってしまう
ヤンデレが病むほど惚れる理由とか病む過程とかを掘り下げて書いたもののほうが、下手な設定入れるより面白い作品になると思う
>>496 保管庫漁ればいくつかあるんじゃね?
>>505 そう思うのはいいけどヒロインがハイスペックな設定を批判する様な書き方はいただけない
連載中の作品にもヒロインハイスペック設定な作品が多いというのに
508 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 13:49:48 ID:kElnGb+m
>>505 書いてる側としてもそれは思うんだけど、難しい。
平凡な人同士だと、読む側がさめてしまったり。
察してw
509 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 14:16:00 ID:UrpFLZer
クラスのへたれイケメンとヤンデレ症候群をおもしろ半分でからかっていたら、いつの間にかヤンデレ症候群が自分のことを好きになっていた。
なんてやつない?
保管庫みても普通っぽいヒロインはほとんどいないなぁ
みんな高スペックな感じ
へたれない主人公はいないこともない
確かへたれな感じのヤンデレってネタがあったような気がした
泥棒猫を殺そうとして醤油ぶちまけたり
包丁で刺そうとしてコケたりする感じの
>>505 いいところ付いてるけどそれはもはや恋愛小説全般における問題になってるんだよ。
普通の少女で書いていってもどうしても超人になっていっちゃうのがジレンマなわけで。
題名のない長編のなんかが普通のヒロインじゃなかった?
開き直ってそもそも非人間にしてしまえばどうだろうか、妖精さんとか
見初められるきっかけも不思議パワーで補強
ヒロインが美人なのは当然だと思う
不細工なんて読む気なくすし
主人公に特徴ないのもいいと思う
その方が理不尽さが出るし
516 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 16:08:11 ID:r8WgOPSq
>>515 同意
そういう設定に飽きたやつは見なきゃいいよ
けど
>>505の言ってることも分からないこともないけどね
まあ俺は今まで通りで良いと思うけど、そういう設定好きだし
>>505 少年誌に載るラブコメの主人公が冴えないとりえの無い普通より少し下な子ばかりなのはなぜか?
読者を安心させて読ませるためだよ。
そこに現実より楽しくする工夫があって、ヒロインは特別な子もしくは複数になる。
少女向けラブコメでも性別を入れ替えただけでテンプレは同じ。
完全に男性向けであるこういう場所で、このようになるのは読者サービスとして正しい。
男主人公にスペック的に負けてると、ヤンデレとして成り立たないんだよな
かわされてしょんぼりしておしまい、なんて言うのを読みたいかって話
同時に、不細工にヤられる話なんてのも誰が喜ぶんだ
傾倒、依存するきっかけをはっきりするのは、長編だと心がけるべきだろうが
ここは雑談スレです。だからSSは投稿しないでね
ちょこっと書き溜めているのがありますが
投下してもよろしいでしょうか?
まだ序章で、ヤン部分は出てきませんし
主人公と出会ってもいませんが・・・。
書き逃げじゃなくて、後日ヤンデレ描写まできちんと投下されるのであれば、何の問題もないかと思います。
ある程度書きためてあるんなら問題ないかと
(⌒\. /⌒ヽ
\ ヽヽ( ^ิ౪^ิ) ←ヤンデレ
(mJ ⌒\
ノ ________/ /
( | (^o^)ノ | < おやすみー
/\丿 l|\⌒⌒⌒ \
(___へ_ノ. \|⌒⌒⌒⌒|
▂ ▪ ▂▄▅▆▇■▀▀〓◣▬ ▪ ■ … .
/⌒ヽ .▂▅■▀ ▪ ■ ▂¨ ∵▃ ▪ ・
( ^ิ౪^ิ)< おやすみー ◢▇█▀ ¨▂▄▅▆▇██■■〓◥◣▄▂
/⌒\ ⌒\ ■ ▂▅██▅▆▇██■〓▀▀ ◥◣ ∴ ▪ .
ノ \ \,_/ / ▅▇███████▀ ▪ ∴ ….▅ ■ ◥◣
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/\丿 l|\⌒⌒▒▓\ ■ ¨ ▀▀▀■▀▀▀ ▪ ■
(___へ_ノ.\|⌒⌒⌒⌒|
男っぽいからヤダ
526 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 13:49:06 ID:oXOeGa+P
かなう 超美形
527 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 14:32:00 ID:cO5d+6vF
香草さんまだかよ
528 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 14:35:49 ID:DWTLL9Yy
傍観者まだかよ
529 :
Y:2010/03/23(火) 15:00:05 ID:xIjLAKDO
ポケモン黒 早く更新しないかなー
不妊症のヤンデレに将来は子沢山がいいとかいっぱい子作りしたいとか言ってみたい
最終話投下します。
見知らぬ部屋で僕は目を醒ました。辺りを軽く見渡し、それから昨夜の事を反芻する。
確か僕は真田さんのマンションに来て、晩飯とシャワーを頂き、そのまま泊めてもらって……
「………くぅ…」
「……すぅ…」
…僕の両サイドから可愛らしい寝息が聞こえてきて、思わず背筋がびくん、としてしまった。
左右を見てみると右には理遠が、左にはのえるがいた。神よ、これはなんの試練でございますか?
僕は二人を起こさないように、ベッドからの脱出を試みる。だが真ん中という位置にいる以上、脱出は困難。
とりあえずそっ、と掛け布団をめくる。二人には少しの間寒い思いをしてもらわなければならないが、やむを得ま…い…?
…理遠は全裸でベッドに潜り込んでいた。なんだ、お前は裸族か? 家にいるときは裸じゃないと落ち着かない人種なのか?
いずれにせよ…こんな実態を知られたら理遠の歌手生命は別の意味で危機を迎えるだろう。
あとで真田さんから注意するように頼んでおこう。
ひとまず僕は寝室から脱出する。リビングに出ると、真田さんはテレビをじっ、と見ていた。
「いい歳してプリキュアですか…真田さん」
「失礼ねー、これでもあたしは27よ?」
なんと、のえると同い年だったとは。
「いやなに、来期のプリキュアの声優オーディションに理遠をどうかなー、と思ったんだけどさ。大御所が何人か来るみたいだし、やっぱ無理か…」
「まあ、無理に売り込む必要もないんじゃないですか?」
「うん、そうね。君わかってるねぇ。朝ごはん何がいい? お姉さん頑張っちゃうよ?」と、真田さんは腕まくりをしてやる気満々だ。
TV画面の少女達が必殺技のモーションに入った。と同時に、理遠が寝室から現れた。…裸で。
「こーら理遠、また裸で寝たの?」
いいぞ真田さん、もっと言ってやってくれ、と内心僕は思ったが、
「風邪引くわよ? 夏ならまだしも、今は冬なんだから」
夏ならいいのかよ! というツッコミに数秒で昇華してしまった。
「…朝ごはん、私が作るわ」
「頼むからその前に服を着てくれ」
#####
「さーんぐらすぅ、はぁーずしたら、ふぅーきだしちゃうほどぉー♪」
理遠はとても朝には似つかわしくない、泥沼展開ドラマの主題歌を口ずさみながら野菜をリズミカルに刻んでいる。
…実際に手錠をかけられたことのある僕からしたら、なんとも落ち着かない。
「理遠さんのマーボーカレーは絶品なんですよ? 最初は何の冗談かと思いましたけど」
まあ…一時期某人気RPGの宣伝も兼ねて全国のコンビニチェーン店でレトルトが売られてたくらいだし。
僕は実際に食べたことはないが、のえるが言うからには本当に絶品…というか、食物として成立しているのだろう。
「そーそー! ほんとビールに合うのよねぇソレ」
そう豪語する真田さんだが、グラスの中身はグレープフルーツジュースだ。
「さなちゃん、そんなんだからいつまでも彼氏できないのよ」理遠は地味に手厳しい一言を放った。
「あによー、独り身上等じゃない。まあ、もしもの時は桐島くんに婿n」
「認めないわ」
「認めませんよ?」
のえると理遠は、示し合わせたようにほぼ同時に真田さんの提案を却下した。その声色がやけに刺々しいと感じたのは…僕の気のせいだと思いたい。
「でさ、桐島くんは一体誰が好きなのかな? かな?」真田さんは僕の肩に手を回し、小声で囁いた。
「誰って…」
「のえるちゃんと、理遠。それと、歌音ちゃん…だっけ?」そう問い掛ける真田さんの目は、真剣だった。
「………っ」
どう答えたらいいものか、わからなかった。僕は言葉に詰まる。のえるはそんな僕の目を真剣な表情で見つめ、こう言った。
「真司さん、中途半端な優しさでは、誰も救えませんよ」
のえるの言葉は僕の心の痛いところを的確に突いていた。
まさしくその通りだ。今の僕は優柔不断もいいところ。
理遠に対して好意を抱いてしまった以上、このまま何もしないわけにはいかない。僕は、答えを出さなきゃいけないんだ。
「のえる、僕は…」最低な男だよな、と言いかけて止めた。
のえるに聞いたところで、肯定はしないだろう。他人に否定してもらい、安堵を得ようとしている事に他ならない。
「…ちゃんと答えを出そうと思う」せいぜいそう言うのが精一杯だった。
#####
結局僕と理遠は朝食を頂いたあと、真田さんの車で家まで送ってもらった。
のえるはやはり、僕の元には戻らないそうだ。真田さんが離す気がない、というのもあるが…のえるは僕ら二人と一緒に車に乗り、理遠の家で降りた。
仕事でテスト勉強がままならない理遠に頼まれ、勉強を教えてあげるそうだ。
僕は彼女達と別れ、真田さんに自宅前まで乗りつけてもらい、そこで降りた。
「んじゃ…少年、がんばんなさい?」
「ええ……ありがとうございます」
自室でひとりベッドに突っ伏して半日を過ごした。その間に頭の中は様々な事象でごちゃごちゃになり、無駄に糖分を消費した。
そして僕は、ひとつの覚悟を決めた。明日…歌音と別れよう、と。
憂鬱な気分で迎えた朝はやはり寝覚めが悪く、シャワーとコーヒーで強制的に意識をはっきりさせる必要があった。
時間はいつも通り。7時42分の電車に乗るつもりで家を出る。駅に着くと歌音はやはりいつもと変わらぬ笑顔で僕を待っており、いつも通りの登校をした。
よくよく考えたら二日後には期末テストが控えており、授業ではテスト対策をやっていたのだが…何一つとして頭に入らなかった。
この三週間ほどでもはや定例と化した歌音との昼食も、他愛ない話をしただけでいつも通りに終わった。
そして早くも迎えた放課後。僕と歌音はやはり一緒に駅まで歩く。僕はとうとう、歌音に話をするべく切り出した。
「歌音、大事な話があるんだ」
「…うん、なに?」
歌音はここでもいつもと変わらぬ笑顔で答える。その笑顔に一瞬、躊躇してしまう。だが僕は、告げるべき意志を搾り出した。
「…別れよう」
静寂。歌音は笑顔のまま、ぴたりと固まった。
「ははっ、やだなぁ。真司、いじわるにしては度が過ぎてるよ」
「本気なんだ」
「嘘だよ。私にいたずらして、からかってるんだよね?、誰か隠れて見てるの? ねえ? ねえ?」
次第に、歌音の声色には焦りが見えてきた。
「そばにいたい人ができたんだ。だから…これ以上は歌音の傍には居られない」
「嘘だよ!」
突然、歌音がそう叫んだので僕は内心たじろいでしまった。だがそれを気取られないように努める。だが歌音は…
「私の事好きって言ったよね!? キスだってしたし、何度も私を守ってくれたし! ねえ、嘘だよね!? 嘘って言ってよ! ねえ! ねえ!?」
ついに笑顔は崩れ、今にも泣き出しそうな顔で僕の肩を掴み、揺さぶりながら必死にそう強く訴える歌音。
「嘘だって…言ってよ…! しんじぃ…」
「…すまない」
「しんじぃ…っ、いや、いやだよぉ…うあぁぁぁぁぁん…」
歌音は涙を流し、僕の胸元に顔を埋める。しかし僕は…手を回したりなどはせず、されるがままに立っているだけだ。
こんなにも弱い歌音は初めて見た。痴漢事件なんてメじゃない。今にも壊れてしまいそうなくらい、弱々しかった。そう、思ってたんだ。
「ぐすっ………そっか、そうなんだね真司」
歌音は突然、ぴたっと泣き止み、冷静さに満ちた声でそう言った。わかってくれたのか…?
「ふふっ……あはは、あははははっ…」
「…………歌音、何がおかしい?」
その笑い声に、背筋が凍りついた。冬の寒さなどとは比べものにならない。
「あは、あはははははははは! そう、そうなんだね真司! 理遠ちゃんなんだね! くく、あははははははっ!」
「……な、歌音…?」
「理遠ちゃんにたぶらかされたんだ! まったく、ダメだなあ! 親友なのに…ううん、親友だからこそ、はっきり釘を刺すべきだったね!?
大丈夫だよ真司、私が目を醒まさせてあげるから!」
恐怖。まるで蛇に心臓を鷲掴みにされたような感覚。今の僕を支配しているのは、その感覚だけだ。
歌音が暗く淀んだような目を見開き、笑いながらまくしたてる。その姿は不気味ともなんとも言えず、ただ僕の心にえも知れぬ恐怖を植え付ける。
瞬間、僕は下腹部に強い衝撃を覚えた。歌音は膝で僕の腹を強く蹴ったのだ。
「く、はっ…!」
歌音を女子だからとナメてはいけない。3.05メートルの高さのリングに余裕で手が届くほどの脚力、瞬発力を持っているのだ。
その脚から繰り出された蹴りは寸分違わず鳩尾に叩き込まれる。その一撃は僕の意識を奪うには十分過ぎた。
僕はすさまじい苦しさに襲われながら、重力に引かれてその場に倒れた。
「何も怖くないよ真司。私が目を醒ましてあげるから」
#####
次に目を醒ました時、僕はどこか知らない部屋のベッドに横たわっていた。
やはり両腕両足は拘束されている。理遠の時と違うのは、手錠がロープに変わっているという所か。
鳩尾には未だ痛みが残る。歌音の力は相当なものだ。僕でさえ一発で意識がもぎ取られたのだから。
「あは、目が覚めた?」
「歌音、何の真似だ!?」
「すぐにわかるよ。これから、ゆっくりと時間をかけて教えてあげる。真司には私しかいないんだ、ってね…!」
歌音は下着類をつけただけの姿で、僕の上に乗る。一度されたことだ。何をされるかは容易にわかった。
歌音は僕のズボンのジッパーを下ろし、手探りで僕の分身を外気に晒す。
「ほら、見ててよ真司。私、真司のためなら何でもできるから」
そう言って歌音は僕の分身を口に含む。舌で転がし、敏感な先端をひたすら舐める。ソコは見る間に充血し、硬度を得た。
歌音はさらに、喉の奥に挿れるように深く飲み込む。
「んっ……んっ……っは、じゅぷ」
歌音は涙目になりながらも口で擬似的にピストンを行う。何度も吐きそうになるのを堪え、必死に顔を上下させ、喉で僕を扱いた。
唾液が滝のようにこぼれ落ち、根本まで濡らす。喉の締め付けは、僕を瞬時に限界まで追い詰める。
「やめ、ろっ! 出る!」
「んっ………ぐぅっ…!」
歌音はそのまま、喉奥で僕の精液を受け止め、喉で搾り出し、嚥下した。
「ごくっ……ごくっ………ぷは。美味しいよ、真司の」
妖艶に微笑みながら、いやらしい言葉を吐く。その姿に全身がぞくり、とした。言っておくが、快楽でぞく、としたわけではない。
歌音は下着を下ろし、脱ぎ捨てる。秘部をくぱっ、と開き、そこに怒張をあてがう。
「やめろ歌音! それ以上は、やめろぉぉ!」
が、僕の叫びは届かない。歌音はついに、一思いに腰を落とした。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!」
おそらく痛いのだろう。歌音は言葉を失い、息をぜぇぜぇとさせていた。しかしすぐに、腰を振りはじめる。
「どう、気持ちいいでしょ!? 私は理遠ちゃんとは違う! いつでも好きなときにヤらせてあげるよ!?
真司の好きなプレイでもなんでも、させてあげる! 真司はただ私に吐き出せばいいだけなんだよ!?」
歌音のナカは僕をこれでもかとばかりに締め付ける。だが、その締め付けは快楽よりも…苦しさを伝える。
僕は大きな不快感と、恐怖に襲われた。何もできない。されるがままに、歌音に犯されることしかできなかった。
結局僕は、数えきれないほど精液を搾り取られた。もはや痛みしかない。歌音はようやく満足したのか、僕の上から降りて服を着始める。
「待っててね真司。すぐに戻ってくるから」
「どこに、行くん、だ…っ」今にも途切れそうな意識をなんとか保ちつつ、尋ねた。歌音の答えは…
「理遠ちゃんに教えてあげるの。ひとの物を盗ったらどうなるか。きついお仕置きをしなきゃ、ね?」歌音は服を着ると、押し入れの中から棒のようなものを取り出した。
鈍色に光るソレは…金属バットだ。
「おい、ソレで何する気だ…? 何する気なんだよ!」
「言ったじゃない。きついお仕置き、って。もしかしたら死んじゃうかな?
でも、おあいこだよね。私だって胸が張り裂けそうだった。痛くて痛くて、死んじゃいそうだったんだよ?
あは、心配しなくてもいいよ。親友だからね、手加減なんかしないから…ねっ♪」
歌音はそう言い残し、振り向くことなく部屋を出た。
「やめろ歌音! 殺すなら僕をやれ! 歌音!」僕は必死に叫ぶ。だが、叫びは届くことはなかった。その直後に、玄関のドアが開かれる音と、施錠がされる音がした。
理遠が殺される。そう思うと、僕はもはや正気ではいられなかった。全身にすさまじい寒気が襲い掛かる。身体が、恐怖で弛緩している。
「理遠……逃げろ理遠! 理遠ーーーっ!!」
#####
水城歌音は黒いコートに身を包み、秋山理遠の自宅に向かっていた。金属バットは人目につかないように、抱き抱えるように持って。
冬の夜風が歌音の髪をふわり、となびかせる。空は夜の帳が落ち、歌音は闇に溶け込むように歩く。
歌音は自宅からおよそ30分かけて、理遠の家の前にやってきた。
理遠は真田陽子を保証人に立て、小さい平家を購入してそこに住んでいる。歌音は呼び鈴を一度押し、ドアの前で待つ。バットは後ろ手に隠し持つように。
呼び鈴に反応してドアが開かれる。現れたのは、のえるだった。
「歌音さん? どうしたんですか」
「のえる…ちゃんなの? しばらく見ないうちに大きくなったね」
実際は大きくなったどころではない。たった二週間で小中学生並の身体から、高校生程度の身体に育っていたのだから。
だが歌音はそんなことはどうでもいいかのように、家に上がる。
のえるに導かれ、歌音はリビングまでやって来る。理遠はリビングのテーブルで問題集とにらめっこをしていたのだが、歌音がやってくると顔を上げて言った。
「…そろそろ、来ると思ってた」
理遠は眼鏡を外し、歌音の目を見ながら続ける。
「私を、殺しに来たの?」
歌音は何も答えない。代わりに、右手にバットを持ち直し、振りかぶるモーションに入った。
「理遠さん!」
バットの軌道は確実に理遠の頭をえぐるコースを捉えた。しかしそこに、のえるが庇いに行く。
がつん、と鈍い音が響く。のえるの身体は歌音から見て左に吹き飛び、さらに壁に頭を打ちつけた。
ごきっ、と嫌な音がする。おそらく、一撃で命を絶たれただろう。そう、常人ならば。
歌音はのえるを一瞥することもなく、再び理遠を見据える。
「ねぇ理遠ちゃん。ひとの物をとったら泥棒なんだよ?」
「……知ってるんでしょ。私は、歌音ちゃんが好きになるずっと前から真司くんを好きだった」
「知ってるよ。でも真司は、私を選んでくれた。なのに理遠ちゃんは、後から割り込んできた。いっそ最初から真司とくっついてれば、気にしなかったのに」
「そんなこと…っ」
歌音はもう一度バットを振る。理遠はとっさに身を引き、バットをかわす。だが、今のバックステップで理遠は壁に追い詰められた。
歌音は三度目の一撃を放つ。今度こそ、理遠を死に至らせるかと思われた。
だがそこに、再びのえるが庇いに入る。理遠を突き飛ばし、代わりに一撃を受けた。
肩の骨が砕ける音と共に、吹き飛ぶ。しかしのえるは痛みを口に出さない。
歌音が理遠に襲い掛かる度に、のえるは理遠を庇った。最終的には理遠に覆いかぶさり、何度も何度も殴られ続けた。
「なんでよ…なんで邪魔するのよのえるちゃん! 私はもう止まれないのに!」
おびただしい量の血液が二人と、床とバットを濡らす。頭蓋は二回割られ、背骨は10回以上砕かれ、腕は何度もへし折られた。
もはや物言わぬ骸となっていてもおかしくはない。むしろ、生きている方が異常。
だが、のえるは"異常"なのだ。
どんなに殴り続けても、数秒で元通りになってしまう。便利、というレベルではない。まさに異常。だがその代償として、のえるには失神は許されない。
すさまじい痛みに意識を失っても、一瞬で強制的に目が覚める。つまりは、意識を失わないのとほぼ同意議。
すべての苦痛を、受け止めなければならないのだ。それでものえるは、理遠を庇う。理遠も、「もうやめて!」と何度も叫ぶ。
それは歌音へ、それとものえるへか。おそらく両方へ、だろう。
のえるが理遠を守る理由は二つあった。一つは、実の妹であること。もう一つは…理遠こそが、真司がようやくたどり着いた"答え"だから。
歌音はついにバットを振り下ろす手を止める。
「どうしてよ……私は、真司が好きなだけなのにぃ…なんでよぉ………」
バットはカラン、と金属音を鳴らし、落下する。歌音もその場にへたりと崩れ落ち、嗚咽を漏らす。
のえるは痛みを必死に堪えながら、ふらふらと立ち上がり、歌音に近づいた。そして、バットを拾い上げる。
理遠は恐怖に打ち震えながら、見ていることしかできなかった。その光景は、スローモーションのように見える。のえるは最初にやられたように、バットを振り上げてこう言った。
「真司さんのしあわせは、私が守ります」
#####
真司は手首の関節を外す事により、拘束からの脱出に成功した。
すぐに衣服を身につけ、大急ぎで部屋を出る。そこはどうやら団地だったようだ。表札には"502 水城"と印されている。
だが真司はそれを確認する間もなく、階段を駆け降りて下に向かう。
真司は焦っていた、どころではない。理遠が殺されてしまう。ただその思いだけが、真司の足を突き動かす。団地の敷地から出ると、見覚えのある景色が広がる。
真司が通学で使っている道だ。真司は真田の車で通った記憶だけを頼りに、理遠の家に向けて走り出す。
車にして5分弱。そこまでは離れていないはず。真司は、犯され消耗させられた体力をを振り絞り、走る。
倒れる余裕などない。真司の脳には理遠のことしかなく、ほぼオートランに近い状態だった。
歌音が徒歩で30分かけてたどり着いた道筋を、真司は10分で駆け、理遠の家にたどり着いた。
息は絶え絶え、意識も朦朧とする。もはや気力だけで、真司は玄関のドアを開く。と同時に、血の臭いが鼻をついた。
「理遠…? おい理遠! 返事をしろ!」
真司はリビングへと駆けた。そこに広がる光景は、真司の予想、杞憂を完璧に裏切った。
床には頭から血を大量に流した女が一人、倒れている。呼吸は見られない。おそらく…既に事切れているのだろう。
「…なんだよ。なんだよこれは!」
その女は、水城歌音だった。
「私が、やりました」 のえるは理遠を優しく抱き寄せたまま、告白した。
「理遠ちゃんの、そして貴方の幸せを守るために」
「のえ…る…?」
「そして、私も限界みたいです。もう、身体が動かないんです。それに、ものすごく眠くて。ああ…私、ついに死ぬんですね」
「なに…言ってるんだよ…!」
のえるはひどく衰弱していた。歌音から受けた暴力のせいだけではない。のえるはとうとう、12年前に終わるはずだった生命を今、終えようとしていたのだ。
「私たぶん、この為に生かされてたんですね。妹と…あなたを…」
「待てよ! 今救急車を呼ぶ! だかr」「真司さん!」
のえるは精一杯、叫んで真司を制す。
「歌音さんはもう死んでいます。私ももう…だから、いいんです。どうか…私の最後のお願いを聞いてください」
「待てよ…っ、最後なんて言うなよ!」
「どうか…りっちゃんと、しあわせ…に…」
のえるの瞳はゆっくりと閉じられた。もう二度と目覚めることのない、眠りに就いたのだ。
「…のえる? 行くな、行くなよ! のえる! のえる! うっ…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ…!」
真司はただ、泣き叫ぶことしかできなかった。己の愚かさが、二人の命を奪った。そして、理遠をも危険に晒した。
自らの愚かさを怨んだ。あの日、観覧車にさえ乗らなければこんな結末にはならなかったのかもしれないのに。
だが全ては過ぎたこと。いまさら悔やんだ所で二人は帰ってこない。
悲しみに押し潰されそうになる。今の真司に唯一残されたのは、のえるの亡骸に抱かれている理遠だけだ。
真司は理遠にすがるように、嗚咽を漏らす。理遠はそんな真司を包むように、優しく抱きしめる。
「理遠っ…僕は、ぼくはぁ…あぁぁぁぁ…っ」
だが理遠は何も言わない。代わりに、抱きしめる腕の強さを上げる。心地好い体温はまるで、母に包まれているかのような感覚を真司にもたらした。
真司は顔を上げ、理遠と目を合わせる。理遠はゆっくりと真司に口づけ、再び包んだ。
理遠は声を失ってしまったのだ。目の前の惨状に衝撃を受け、のえるの死を悟り、真司以外では唯一自分を好いていてくれた他者、親友を失ってしまったから。
だが理遠は、今はそれを教えまいと決めていた。目の前の愛しい人に、これ以上十字架を背負わせたくなかった。
理遠も、真司にすがりつきたい気持ちで一杯だった。しかし理遠は、真司が幼い頃に失った母の代わり…には遠く及ばないにしても、真司をただ優しく抱きしめた。
連続投稿引っ掛かったので携帯から自分支援します
意味なかった
少し時間空けます
つC
支援?
#####
あれから、五年の歳月が流れた。
理遠は声を失ったことを伏せ、アルバムが発売された次の日に芸能界を突然引退した。日本中に衝撃が走り、最後の作品となったアルバムは伝説的な記録を作りだし、理遠もまた伝説となった。
くだんの事件は、綿密な捜査により被疑者死亡として扱われた。僕たちは聴取を受けたが、何も答えなかった。
いや、答えられなかったのだ。そして事件は謎のまま、報道されることもなく今日に至る。
僕たちは高校卒業と同時に入籍、完全な同棲を始めた。僕は卒業後は大学に進学し、理遠は僕の留守をあずかってくれている。
理遠は今はかつらをやめ、自毛を伸ばしている。最初は肩よりも少し下くらいしかなかった髪も、今は腰まできれいに伸びている。もう理遠は、"秋山"も"秋津"も演じる必要はなくなったから。
理遠は喋ることはできないが、何を言いたいかは僕には簡単にわかる。
(ねぇあなた、たまには今度二人で出かけましょう?)
「そうだな。どこか行きたいところはあるか?」
(そうね…遊園地、行きましょ?)
「ははっ…ジェットコースターは勘弁願いたいな」
理遠の笑顔は、とても幸せに満ち溢れているように見えた。
その笑顔を見てようやく僕は、安らぐことができるんだ。
うん
すべてが、うまくいった。
最初に真司くんの家でお姉ちゃんを見た時から、今日に至るまでのビジョンはできていた。
その日のうちに歌音ちゃんに、真司くんをデートに誘うように薦め、二人がいない間にお姉ちゃんと接触。その時にお姉ちゃんが不死の身になっていたことを知り、確実にうまくいくと思った。
真司くんは優しいから、たとえ犯されたとしても私に優しくしてくれると思った。もちろん、軽蔑されるとも思っていたけど、やはり真司はそうはしなかった。
そして真司くんに、墓地で私の全てをさらけ出した時の彼の顔を見たとき、確信は深まった。
最悪、歌音ちゃんを焚き付けるだけでもよかった。本当の歌音ちゃんを知れば、真司くんは歌音ちゃんから離れると思っていたから。
私は、親友としての歌音ちゃんは愛していた。けれど、真司くんに恋をする歌音ちゃんは大嫌いだった。そして、その二つを使い分ける歌音ちゃんはもっと嫌い。
真司くんがライブのあったあの日、私を抱いてくれたのは予想していなかった。あの日は私から抱くつもりだったから。
最後は正直、自信はなかった。というより、予想よりずっと早く結末が訪れた。真司くんは歌音ちゃんから次第に距離をおき、私の元へ徐々にやってくる。それにはもっと時間をかけるつもりだった。
お姉ちゃんが私の家にいたのは偶然じゃない。お姉ちゃんは私を絶対に庇ってくれるという確信があった。歌音ちゃんはやはり私を殺しにやってきたが、お姉ちゃんは私を守ってくれた。
けれど…不死となったお姉ちゃんがまさか、死んでしまうとは万に一つも思ってなかった。
本当の筋書きは、私を殺そうとした歌音ちゃんを真司くんに目撃させ、歌音ちゃんに対し完全に見切りをつけさせる。それだけだった。けれどお姉ちゃんは死に、歌音ちゃんもお姉ちゃんに殺された。
私は、全てを裏切ってでも真司くんを取り戻すつもりだったし、覚悟もあった。なのに結末はどこまでも残酷。二人の命は私が奪ったのも同然。真司くんは五年前から今でもずっと自分を責めているけど、悪いのは私なの。
でも、それをずっと言えずにいた。私はもう、声の出し方がわからない。歌音ちゃんや真司くんが褒めてくれた歌も、もう歌えない。それに、言えば真司くんは私の傍からいなくなってしまうかもしれない…それが一番怖い。
彼が私を抱く度に、私は"ごめんなさい"と心の中で呟く。彼に抱かれている時は本当に幸せすぎて、逆に怖くなる。真司くんは結婚してから「理遠がいなければ僕はどうかしてしまいそうだ」と言ったことがある。けど、それはむしろ私のほう。
全てを裏切った私には、真司くんしかいない。
でも、予感はしてる。そうして手に入れた幸せは、けして永くは続かない、と。
だから私は、今日も彼を心に強く刻み付ける。この幸せが、明日も続きますように、と願いながら。
ほうほう
これで全話終わりです。
携帯から残り投下しました。なので見づらいかもしれませんがご容赦ください。
刀、 , ヘ
/´ ̄`ヽ /: : : \_____/: : : : ヽ、
,. -‐┴─‐- <^ヽ、: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : }
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,. -──「`: : : : : : : : : :ヽ: : : : : : : : :\ `ヽ ̄ ̄ ̄ フ: : : : :/
/: :.,.-ァ: : : |: : : : : : : : : :\: : : : :: : : :ヽ \ /: : : :/
 ̄ ̄/: : : : ヽ: : : . . . . . . . . . . .、 \=--: : : :.i / /: : : : :/
/: : ∧: \: : : : : : : : : : ヽ: :\: : : 〃}/ /: : : : :/ 、
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/ / !: : : : :.ト‐|- ヽ \: : : : : l::::__:' :/ i: : : : :{ |: : : :.ヽ
l/ |: : :!: : .l: :| \: : : l´r. Y {: : : : :丶_______.ノ: : : : : :}
l: : :l: : :ト、| 、___,ィ ヽ: :| ゝ ノ '.: : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : : /
|: : :ト、: |: :ヽ ___,彡 ´ ̄´ ヽl-‐' \: : : : : : : : : : : : : : : : : : イ
!: :从ヽ!ヽ.ハ=≠' , ///// ///u /  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
V ヽ| }/// r‐'⌒ヽ イ〉、
ヽ、______ー‐‐' ィ´ /:/:7rt‐---、 こ、これは乙じゃなくて
ィ幵ノ ./:/:./:.! !: : : : :!`ヽ ポニーテールなんだから
r‐'T¨「 |: | !:.∨:/:./: :| |: : : : .l: : : :\ 変な勘違いしないでよね!
/: : .|: :| !:.!ィ¨¨ヾ、:.:/ !: : : : l: : : : : :.\
乙と言わざるを得ないな
553 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 19:54:09 ID:oXOeGa+P
メイン
554 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 20:04:33 ID:oXOeGa+P
有個性 強個性
乙
556 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 22:32:53 ID:DWTLL9Yy
557 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 23:44:49 ID:oXOeGa+P
メイン
558 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 01:04:45 ID:jbEdOrOz
>>550 乙です
ラストの語り自分的にとてもよかった
なんでageるの?ねぇなんでなんで?
あの泥棒猫が悪いの?あいつが唆したんだね?
分かったよ。これから猫退治に行ってくるから君もssを書いていってね?
>>559 きっと、君のためにageたんだよwww
歌音ルートはないのかな?かな?
香草さん早く来て
キモオタと彼女と桜の幹まだかな
最近某スレに長い間更新されなかった作品が投下されて歓喜だった
やはり待ち続けるものだな
未完の長編作品の続きはとてもとても読みたいけど。
題名出してその作者に催促するみたいなのはどうなのかな。
もう何年も経つのはいいと思う
諦めも込めて
566 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 22:18:54 ID:q9r57lx5
メイン
>>550 なんかみんなに罰が当たったみたいな終わり方だなあ
おもしろかったです、おつかれさまでした
チラ裏なのは自覚してるつもりだけど
何年経とうがお茶会は続きが気になる
この前ヲチスレに捕捉されまくってたDQN女子高生(中退)と一緒に東方同人出してたしもう無理でしょ
570 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 14:14:57 ID:m/3RU/hV
571 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 20:26:47 ID:OXkixZx3
メイン
最近マジキチっぽい書き込みをする人いるよな。多分同一人物だと思うが。
正直触れるのが怖くて今までスルーしてたが突っ込んだ人がいたので便乗させてもらう。
キモ姉&キモウト小説スレにもいるよな
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顔の陰と目の光具合でこわい。
スクロールして見たときドキッとした
閻魔あい か
ここはAA感想スレなので雑談、SS投下は禁止です
基本的にエロパロ板のスレは500KBに到達しまうので
AAで容量を食う行為はいけない
580 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 16:20:05 ID:rtH1TLCQ
ヤンデレにオナホ発見されたらどうなるの…と
帰宅したら女は男の自室に居て、
オナホを鋏でジョキンジョキンしてます。
男「なにしてんだお前!!?」
女「こんな有り得ないヒダとイボで男君を誘う、悪いメスゴム穴を殺してたの」
羨ましいじゃねえか畜生
現実は引かれるだけだってのによ
もしくは「こんなのより私とした方が……ってなって瀕死になるまで絞られます
畜生
585 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 00:04:06 ID:ZfrRDzfu
じゃあ、引きこもりがヤンデレに向かって
「俺、二次元にしか興味ないから」
っていったらどうなる?
まず、間違いなく言葉様召還でしょ
587 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 00:25:07 ID:ZfrRDzfu
生きて再び引きこもれる可能性は・・・?
その前に何とか二次元に入り込むのだ
ヤンデレは好きな人が構ってくれなかったり、別の女の子と話してるのを見たとき、自分が別の男と付き合ってると誤解されたときの、影のかかったどんよりとした顔や全てに絶望した顔がたまらない
お前さん強者だな
>>589 わかる
すごいわかる
そこからハッピーエンドに持っていったあとの幸せな顔が同じくらいいい
クーツンヤンデレな女の子が空から降ってこないかなあ
593 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 12:58:40 ID:nTDezsp4
幼女ヤンデレに会いたい
>>589 主人公に近づくためだけに主人公の男友達と話してるところを誤解されたりするのは最高だな。
595 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 15:06:56 ID:czi0q8aj
うんこ
>>589 いやいや、その程度じゃなくてヤンデレの目の前で他の女の子とセックスしてみたい。
なんて表情するか見もの。
597 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 17:17:15 ID:ZfrRDzfu
絶対殺られるよ
相手の子が・・・
>>592 こんな感じか?
「な、なんだ!?急に空から女の子が!?」
「はじめまして。私は哀願用エン○ェロイドタイプαイカ●ス」
「なんなりとご命令を、、、マイマスター」
「命令?ならクーツンヤンデレになってくれよ(笑)」
「わかりました。これよりクーツンヤンデレプログラムを起動します」
「え?冗談だよ?」
「命令の中止はできません、、、プログラム起動」
「別にマスターになってほしくありませんでした」
「でも・・・もし他のエン○ェロイドとインプリンティングしたら・・・」
女:降りなさい!何で入るの!?これ!
おじさん:どうなんだ
女:早く降りなさいよ!キャー!気持ち悪いこの人顔気持ち悪い
おじさん:人の顔見て気持ち悪い呼ばわりされる筋合いないよ
女:お前、降りろぉお!早く!早く降りろ!この野郎!うるさいこの野郎!
普段うちの子供は身体障害者だけど乗れないんだよほら!
優先席あくもん!降りろ!なんで私が降りなきゃいけない!
降りろ!お前たちが降りろ!気持ち・・・降ろして!気持ち悪い!
身体障害者がみんな降ろされてるんだよあんた、優先席乗れてないんだよあんた
報われてないの(?)
おじさん:ぇ・・・?
女:うちの子は普段降ろされてるの、うるさいからって!降りなさいよ!早く!早く降りて!
お前だよ早くこのジジイ!身体障害者だって
おじさん:静かにさせるように。
女:気持ち悪い・・・
おじさん:そうしないと、
おじさん:全員乗りました?
女:気持ち悪い・・・ちょっと肘(?)が当たってる・・・なにこれ!?なにこれ
警察に・・・警察に
おじさん:警察行って訴えられるのあんただよ?
女:何いってんの?
おじさん:警察でもなんでもいってくださいよ*2
おじさん:逆にあんた訴えるよ?
女:うるさい訴えてみろ!この野郎!私には障害持ちの子供がいるんだ!
おじさん:そんなの関係ないよ!
おじさん:なんで男性というだけで乗れないんだよ!
おまちかねのヤンデレだぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
なんかこそこそ書いてましたら、量がたまりましたので
皆さんの許可さえいただければ投下したいと思います。
注意
・書いてる人は文才がありません
・まだ序章なのでヤンが出てきません
・文才がないのでスッゲー駄文です
これでも許してくださるのなら・・・。
しちゃいなよユー。
602 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 21:55:22 ID:HCZB3emI
>>600 許可なんていらないよ!
はやく書いてよ!ほらぁほらぁ!
それでは投下。
あ、これは長編ですので。
今から投下するのは続きです。
それでは本当に投下。
私は走った。
鳴り響くサイレン。
燃え盛る建物。
逃走する人々。
それを誘導する兵士達。
色々な風景がよぎった。
それでも私は父さまのことしか頭になかった。
(無事でいて)
思うのはそれだけ。
しばらく走ると飛行場が見えてきた。
飛行場はひどい有様だった。
私の中に不安がよぎる。
父さまが死ぬ・・・。
(いやっ!)
気がつくと、私は走り出していた。
飛行場のゲートは壊されていて入ることが出来た。
色んな人達が走り回っていた。
私はその中から父さまを探そうと必死に目を凝らす。
(いた!)
いつもの柔和な顔つきをガラリと変え。
忙しそうに走っている。
着ている白衣は血と埃で薄汚れていた。
「父さま!」
「!? エリーザ――」
父さまは走ってきた私を抱きしめてくれた。
「エリー、なぜここに・・・」
「父さま、ぐす、戦闘機が戦闘機がぁ、」
「エリー、分かった、分かったから・・・」
私は泣くのを堪えられなかった。
(父さまが無事で本当に良かった・・・)
私は心から安堵していた。
「エリー・・・」
父さまが私を呼んだ
「ふあぁ」
顔をあげて父さまを見る。
「エリー、よく聞きなさい。ヒットラーの軍隊がここに攻めてくるんだ。
お前はここにいてはいけない、家に戻って地下室に隠れていなさい」
「それなら父さまも一緒に・・・」
「駄目だ、父さんは医者だ。怪我をしている人がいるのに離れることは
できないよ」
「でも、でも」
「エリー、大丈夫だよ。父さんは絶対にエリーを一人にはしない」
「父さま・・・」
父さまは微笑を浮かべると言った。
「絶対に家に帰るから」
「・・・うん・・・」
本当はとても心配だったけど、頷いた。
父さまの性格は良く知っていたから。
それに父さまは約束してくれた。
「よし、レッドフォード君!」
軍人さんが向こうから走って来た。おそらくレッドフォードという人だろう。
「なんでしょうか?ドクターハイネン」
「悪いんだが、娘を私の家まで送ってくれないか?ここに居させる訳にはいかない」
「丘の上にある邸宅ですね。わかりました。ジープを回してきましょう」
「すまないな」
「いえ」
そういうとレッドフォードさんは行ってしまった
それから5分ぐらいでジープが来た。
「さあ、ミス・ハイネンどうぞ」
「あ、はい・・・」
私は後部座席に乗りながら父さまを見る
(父さま・・・)
「レッドフォード君、頼んだぞ」
「まかせてください、イギリス紳士の名にかけてお嬢さんは無事お届けしてみせますよ」
「うむ、また後でな。それからエリー」
「はい?」
「すぐ帰るからな、それまでちゃんと隠れているんだよ」
「わかってます、父さま」
「それではな、エリー。愛してるよ」
「私もです、父さま・・・」
それを合図に、ジープは走り出した。
後ろを振り返る。
父さまはさっそく患者の元へ走り出していた。
ふいに、嫌な予感がした。
(もう、会えなくなるんじゃ・・・ううん、ダメ)
私はそんな考えを振り切ると、前を向いた。
送られている途中、レッドフォードさんから色んな身の上話を聞いた。
イギリス人で、故郷のバーミンガムには奥さんと娘さんがいること。
ある日、飛行場で事故に巻き込まれ、それから医者である父さまと親しくなったこと。
好物はアップルパイなど・・・etc
「大丈夫ですよ、ナチどもが上陸しようとしても我らが誇る
イギリス地中海艦隊が阻止しますからね」
そう語ったレッドフォードさんの目は輝いていた。
若干手が震えていたのはこの際、見なかったことにしておこう。
そんな話をしている内に私の家に着いた。
「どうぞ、ミス・ハイネン」
私はエスコートされて降りた
「いいですか、ドクターの言いつけをちゃんと守るんですよ」
私がお礼を言うと、彼はニコッと笑い、ジープで走り去っていった。
私は家のドアを開けて中に入った。
(言いつけは守らなきゃね)
私は地下室に続く階段を降り、厳重なドアを開けた。
地下室はかなり広く、食料庫やお風呂、トイレなどがある。
昔、父さまに何故このような設備があるのか尋ねたことがあった。
すると父さまは寂しそうな目をして言うのだ。
「お前をあの子の二の舞にはさせたくないんだよ・・・」
あの子とは誰?二の舞って?色々質問したけれど
微笑を浮かべるだけで何も答えてくれなかった。
私は扉を閉め、鍵をかけた。
少し離れた所にあるベットに潜り込むと、目を閉じた。
(無事で帰ってきてね・・・)
思うのはそれだけ。
投下完了です。
駄文失礼しました。
ヤン部分はもう少しで出す予定ですので、見捨てないでください・・・。
610 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 23:00:18 ID:HCZB3emI
>>609 GJです。
ここからヤン部分が出てくる展開が読めない。
娘の父親に対するヤン?
>>611さん
>>461-467を見ていただければ、お分かりになると思いますが
まだ主人公はヤン娘と会ってもいません( ̄Д ̄;;
もうすぐ主人公が出てくると思いますので・・・
どうかお待ちください
613 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 01:02:48 ID:yi98+xtI
>>609さん
3人?いや、4人?。
曖昧でごめんなさい(^▽^;)
実は何人にするか迷っておりまして・・・
どの程度の長さになるのかわからないけど、プロットは大まかにでも組んでおかないと大変なことになるよw
616 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 03:45:07 ID:0Z8jsjWb
>>609 GJです。
第何話と書いてないので、初めての投下と思いました。続きだったのですね。
どうせ完結せずに投げるからGJは不要
>>614 過去ログ見てない(見れない)なら言っとくが、作品の投下以外はあまり語らないほうがいいよ
自分語りや必要ない語りはあまり好まれないからね。スレによって傾向は違うけどさ
あと創作するならプロット組んだほうがいいよ。行き詰まって途中放棄するハメになるから
プロットってのは、簡単に言えば設計図みたいなもん。詳しくはググればわかる
ハナタレ初心者ってことはわかった。とりあえず基本的な事を勉強しつつ頑張ってくれ
視聴者様長文お疲れ様です
そこは読者様って…いやなんでもない
慣れてないのは、最初ながら投下してたのと顔文字多用でよく分かる
暇があったら他のスレもざっと見てくると気をつけるべきこととか分かるかもしれない
>>580にレスするつもりで書いたけどすでに話題はまったく別のものに移っていた
だけどせっかく書いたので子ネタ投下
部屋に入ると机の上に見慣れぬオブジェがあった。
いつもの机。乱雑で漫画や学校のプリントが散乱しコップが放置されたいつもの机。
その普段なら気にもかけない風景の中にひときわ目立つ構造物。
それは形容するなら大きなカブトムシの幼虫や芋虫のような乳白色の粘液のような質感を持った20センチほどの円筒状の物体。
その物体は白いからだのところどころに鼠色の何かが埋まっているのがうっすらと確認できた。
俺はこの奇妙な作品の材料にひとつ心当たりがあった。
三ヶ月前に購入、家族に隠れこっそり使用していた非貫通オナホールである。
手にとって確認するとそれがはっきりと確認できた。
毎晩俺を楽しませてくれる柔らかな空洞は奇妙なゲル状の物質でパンパンに満たされ、形容し難い悪臭を放っている。
どういうことだろうか。誰がこのようなことを。
俺はかなり狼狽しつつも遺体の状況を確認するため表面に顔を出した薄い板状の物体を指で引き抜く。
カッターナイフの刃……俺の筆箱にも入った一般的な文房具の一部である。
一片一片に分割された刃がかつて俺に奉仕していた擬似性器に埋め込まれていたのだった。その数、一見して十数片。
新品の刃を軽く3枚は費やしただろう残忍な犯行。
ただのシリコンの塊とはいえ、その用途からちょっとは愛着を持っていたのに。
すでに3ケタ単位で俺の精を受け止めてくれたモノを陵辱した犯人に憤りを隠せない。
憤慨する俺は惨殺体が載せられていた紙に書かれたメッセージに気づく。
先ほどは自分が放置した宿題の類だと考え気にも留めなかったが、よく見れば自分の筆跡でない肉筆の文章がおどっていた。
その内容は以下のようなものであった。
"発 岩倉粒子,宛 石地明.本日8時マデニ我ガ自室ニ出頭スベシ"
三十文字にも満たない置手紙。状況から考えて、この手紙の差出人こそがこの事件の犯人に違いあるまい。
そうなればこの岩倉粒子なる人物が仇であるはずなのだが……
この人物を知らぬわけではない。むしろ家族以外ではもっとも互いに関わりがある人物と言えるだろう。
岩倉粒子、名前の読みは「りゅうし」なる変わったネーミングだが昔から俺は「つぶこ」で通している。
小学校の低学年から親交があるいわゆる幼馴染というやつだ。
やつは日常的に我が家に遊びに来ているから怪しまれずに侵入できる。普通に考えれば彼女が犯人で間違いない。
しかしながら俺の中にいくつか疑問が生じる。俺の脳内の彼女のイメージとこの陰湿な犯行がどうにも重ならないのだ。
粒子はどちらかと言えばこういった陰湿さからは対極にある女に思える。
どんな悪意が向けられようともさらりと受け流し、何があろうとも常に上を向いている。そんな人間だったはずだ。
それにやつとの付き合いは長い。いまさら俺がオナホを持っていたところで引かれる仲でもないはずだ。
やつならたとえ俺がアナルオナニーに興じていた場面に出くわしたとしても腹を抱えて笑い、寂しいやつめなどと取り乱した俺に追い討ちをかけるだろう。
だが考えても仕方があるまい。悩んで解決されるような単純な問題とも思えなかったので、とりあえずは手紙の指示に従うことにした
粒子の家は自宅から徒歩5分の場所に立地するごく普通の戸建住宅だ。
玄関のブザーを鳴らしインターホンからの返事を待つ。
俺は故オナホのことについて思いをめぐらせつつ数十秒ほどそうしていると開錠される音が耳に入った。
当然人がでてくるのだろうと身構えた俺だったが、それから何も起きない。
これは入れということだろうか?まぁ俺もこの家には散々押しかけたことがある。いまさら文句も言われないだろう。
そんなことをおもいつつ粒子の部屋がある二階まで上ってきたのだが……
道中が妙に静かに感じた。いつもは粒子と談笑でもしながら過ごす場所だからだろうか。
フローリングの床に響く足音すら騒音に感じる。
俺はドアノブに手をかけた。何度も開けたドア。この扉一枚先の光景を鮮明に思い出すことが出来る。
カーペットが敷かれた床に、右奥にベッド、その隣に学習机が壁に向け設置され、さらに左に本棚
左側の壁側は桐で出来た高そうなクロゼットなど各種の収納スペース
プラズマテレビが右手前の壁にかけられていて、それを椅子に座った粒子が見てる。そんないつもの風景。
なにも気にすることはない。あいつも今回はちょっとイタズラが過ぎただけだ。
たぶん俺が顔を赤くして文句をつけに来るのをニヤニヤ楽しみに待ってるに違いない。
そう思ってはいるのだが、本能的なものか心拍がどんどん早くなるのを感じる。
が、ためらっても仕方が無い。時間にして二秒ほど動きを止めていた手を一気に引き寄せドアを開けた。
刹那、俺の目に飛び込んできたものは……ダンボールだった
複数のダンボール箱をガムテープでつないだ長さ2メートルほどの直方体。それは小学校の図工の時間を思い起こさせた。
その茶色い物体が部屋の真ん中に堂々と鎮座している。はて、粒子のやつなにか買ったのだろうか?
なにやらメモが乗せられている。自分の口で伝えるという発想は今日に限っては出てこないらしい。
"四の五の言わずにとりあえず中身を確認しろ"
ふむ。まぁ今日はこの箱を開けないことには話が進まないのだろう。
サイズや状況からいって粒子がこの中にいるんじゃないかとは予測できる。
だがたとえそうだったとしてどんな趣向なのかはまるでわからないし、言われたとおりまず開けるしかないか。
どうやら箱の床に面した部分は切り取られているのか外側に露出しているのでひっくり返すのが手っ取り早いだろう。
俺は取っ手に開けられているのだろう穴に手を差し込み、一気にダンボールを剥ぎ取った。
すると、さっきまでダンボールに覆われ隠れていた場所には予想どおり粒子が人形のように横たわっていた。
ホブカットの黒髪に意志の強さを感じさせるツリ目気味の片二重。いつも晴朗な笑みを浮かべるかわいらしいリップ。
もうほとんど毎日見てきた見知った顔。だがいつに無く真剣なまなざしと目が合う。
無言だった。その目の言わんとすることを計り取れなかった俺は思わず目をそらした。
粒子は二時間ほど前に学校で談笑した彼女とまるで変わらない学校指定の紺色ブレザー。
その胸元は三年ほど前から気になり始めたバストのふくらみが厚い布越しにいつもよりはっきりと認識できた。
そして、腰にまで目線を移した俺は目に入った光景に驚愕し思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
「ちょ、おま。待て待て待て」
ブレザーの裾から先は通常プリーツスカートで覆われたワイシャツの裾が見え、その先からはごくわずかに白い下腹部が露出していた。
さらに何より俺を悩ませるのはその下にあるごくわずかな面積のローレグパンツ。
それは本当に機能を果たしているのか疑わしい代物で、むしろぷっくりと膨らんだ恥丘を強調してるようにすらみえる。
そしてその薄い白布は濡れているのか彼女の外性器にペッタリと張り付き、桃色のワレメがはっきり透けて見えた。
安産型の腰の括れと共に目にしっかりと焼付けながら視線を下げると、いつもは絶対に身に着けない黒いストッキング。
そのいつも気になっていた長く美しい足との相乗効果で完全にノックアウトされそうだ。
こうしてみると、上半身のブレザーですら淫靡な意味が付与されているように思える。
まるで都合のよい淫夢のような光景に下半身に血が凝集するのを感じる。おそらくズボンに情けなくテントを張ったことだろう。
しばらく目を奪われていうると、黙っていた粒子が声を上げた。
「なあ、あのオモチャはいつ買ったの ? 毎日どのくらい使った?」
どこか俺を責めるような声色。だがこのさいそんなことは些細なことだった。
「……三ヶ月前、毎日2,3回だ」
動揺しきっていたおれは正直に答えてしまう。いつもなら考えられない、見知った女とはいえ(だからこそ)オナニーの頻度を告白するなど。
「ということはあんな道具の中に200回以上も子種を注いだと言うわけか」
「それがどうしたんだ。俺くらいの男だったらみんなそうだろ!」
この状況についていけないながらもどうにか虚勢を張る。嘘でも勢いが無ければ何も言えなさそうだ。
しかし、その虚勢は滑稽に見えたろう。なにしろ俺は今、思わず勃起したペニスを外に出して扱きだしていたからだ。
「私が怒っているのはそこじゃない。私が怒っているのはね、私がいつもOKサインを出しているのに無視されて
あんな道具にあんたを寝取られていたってこと。」
「な、なんだと!」
OKサイン……心当たりはある。自分の男に与える影響に無自覚な行為だと思っていたが
同じ部屋で隠れもせず着替えることや、後ろから胸を押し付けるようにしがみついてくることとか・・・
「それならそうと、直接口で言えばいいだろうに」
押し倒そうと思ったことは何度かある。だが、それを実行に移してしまえばこれまでのような関係は完全に失われる。
好転すれば万々歳だが、ただの友達にレイプされたとなればすべてが終わる。リスクヘッジの観点からそうするわけにもいかなかった。
「怖かった。もしかしたら拒絶されるかもしれない。そう思うと、たとえ友達でも心地よい関係を続けようと思ってた。」
なんだ。互いに似たようなことを思ってたんだな。馬鹿な話だ。しかし、腑に落ちない点がある。
「寝取られたってのはどういうことだ ?。アレはただの道具じゃないか。」
そう。ついに勇気を出して実行に移すのが粒子のほうが早かったというのはわかる。
しかし、ずいぶんと性急ではあるまいか。例のan ex-Onahoがきっかけであると言うのはわかるが……
「私がすでにロストバージンを済ませていると言ったらたらどう思う?」
「なっ」
「無論そんなことはないけど。だけど想像して。あんたの倍はある太っといオチンチンが私のオマンコを押し広げていく光景を
カリなんか人間にはありえないくらい深くて、創意工夫を凝らしたイボイボや括れが付いてるの」
粒子の声は興奮からいままで聞いたことも無いくらい艶やかだった。この声だけで普通に抜くことも出来そうだ。
しかもよく見ると彼女は美味しそうなムチムチの太ももをわずかな動きだがこすり合わせて快感を得ようとしているのがわかった。
俺は今すぐにでもズボンを下ろして高ぶった思いをぶつけたかったが、ここは話を聞くのがよさそうだ。意志の力でどうにかこらえる。
さらに粒子は胸の上に置いていた右手をゆっくりと移動させる。人差し指を突き出し、そのままパンツの布を押し上げ潜り込む。
もはや下着としてではなく男を誘惑する淫具としてしか機能していないパンツごしに、彼女の指がワレメを覆うのがはっきりと見えた。
「それでね、わたしのココに飲み込まれていくペニスから血が垂れ下がるの。本当はあんたが破るはずだった処女膜が他のオチンチンに取られちゃった証
たった一度しか味わえない穢れ無き肉壁をゴリゴリ擦って私を未知の快感でよがらせる栄誉を他のモノが奪っている光景を想像して?
その後にいくら私を味わっても永遠に得られない特別な一回を失うことを想像して?悔しくないわけ?」
悔しかった。その架空の一物を根元から切り落としたい気持ちに駆られる。
憤怒に顔をしかめると、粒子の表情にいつものような笑みが浮かんだ。
「ふふふ。そんな怖い顔しないで。私の気持ちがわかったでしょ
心配しなくてもあんた以外の男となんか未来永劫セックスするつもりは無いわ。
いろいろがんばってあんたに変な虫が付かないように頑張ったんだから、私が虫を飼うのは不公平でしょ」
「頑張って、というと?」
素直に疑問に思い質問した。すると粒子はいかにも”失言だった”とでも言うような気まずげな表情を浮かべると答えた。
「あぁ…そのね、あんたがホモっていう噂を流したのは私なの
私みたいな女とこんなに親しいのに付き合っていないのは女に興味が無いからって」
「ぶふっ」
なんてこった。俺が長いこと悩まされた噂はコイツが発信源だったのか。
「なるほど、おかげで柔道部の主将に尻の穴を狙われたのはお前のせいだったと…そういうわけか」
「いや、ガチのやつらに狙われるのは想定外だったのよ。そのバカは私が処理しといたからそれで許して」
処理……そういえば大会旅行のバスが大破・炎上して柔道部がしばらく活動不能だった事件があったがまさか……
「それでも許してくれないなら」
そういうと粒子は床から立ち上がり俺の目を鋭く見据えると
「ベッドでたっぷりオシオキしてちょうだい」
デフコン1が発令された。核兵器の使用が許可される。
俺は即座に粒子の肩をつかみ、上半身をベッドの上に押し倒す。
抵抗は無く、むしろ自分から倒れていったようだった。
俺が上半身だけがベッドに乗るように誘導したため、自然とベッドの外側に腰から下を突き出すような体制になる。
粒子はベッドの上に体を完全に乗せようとしたが、俺は彼女の腰をガッシリ両手でつかんで阻止する。
このベッドはちょうど俺の腰よりわずかに低いくらいの高さなので都合がよかったのだ。
くびれたウエストの吸い付くような感覚が素晴らしく手にフィットする。
そうか、女の腰は男がつかんで引き寄せやすいようにくびれているのか。
そんなバカなことを考えつつ、彼女の閉じられた足をひざを使って割って入る。
股が開かれた瞬間、ムワっと彼女自身が分泌した香り高い淫臭が俺の鼻腔を刺激した。
そのまま手で布切れを横にずらした。何度も夢想した粒子の可愛いヌメヌメした性器の感触が指に伝わる。
その場所を充血した目を見開き凝視する。彼女の汁で濡れたそこはテカテカと光っている。剃っているのだろうか、陰毛はうっすらとしか確認できなかった。
俺のペニスはかつて無いほど滾っていた。あまりの興奮にヘソの高さまで反り上がっているようだ。
前に出て本能のままに挿入の準備をする。もう前戯とかそういった言葉は頭にありはしなかった。
が、かろうじて残っていた理性が粒子の顔を確認させた。
ベッドに載せられた彼女の上半身は学校にいたときのままだろうブレザー姿で
たったいま男を受け入れようとしている歓交のためだけの衣装とのギャップが俺を惑わせる。
粒子の息遣いは心なしか熱っぽく、顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
目は漫画的表現をするならハイライト半分で欲情のためグルグル渦巻きが描写されている。
「どうしたの?はやく私をあんたのモノにしなきゃ誰かに取られちゃうかもよ」
「いや、まだはっきりと告白したことが無かったなと思って。」
そうだ、これをせずに処女を奪ってしまうのは後々後悔しそうだ。
俺は精一杯の勇気を振り絞って思いをぶつける。
「粒子、ずっと前から好きだった。お前のすべてを俺のモノにしたい」
しばらくして意味を理解したのかただでさえ赤かった顔がさらに赤くなるのが視認できた。
「それ、反則よ。私、いま子宮がキュンキュンって疼いちゃったじゃない
私も、貴方のすべてがずっと前から欲しかった。私の全部、受け取ってちょうだい」
もうこれ以上の言葉は不要のはずだ。粒子がまぶたを閉じる。そこから涙が一滴たれるのを見て
俺はそのまま俺のオンナに進入を開始した。
ズプズプと俺の亀頭が彼女の陰唇を押し広げ進んでいく。
ソコは十分に濡れているにもかかわらず、直後から俺の陰茎に吸い付くように締め付けてきた。
肉壁と擦れる感覚に酔わされ、すべての意識が俺の欲望に集中し始める。
入れる前にすこし自分で扱いてしまったことを後悔する俺はこのままゆっくりと進んでは持たないと判断し、一気に最奥に突き込んだ。
ブチン
脳髄が揺さぶられる様な快感だった。緻密で顫動する肉襞が至高の快楽を与えてくれる。
途中で何かに阻まれるような圧力をわずかに感じたが、それが処女膜だったのだろう。
コツンと奥に当たり押し上げる感覚は子宮口を圧迫する味だったのだろうか。
この瞬間も精を吐き出してしまいそうだ。だが、いまさらだがコンドームも無いのに中で出すわけには行かない。
かつて発揮したことの無い精神力をもって押しとどめた。それに、童貞喪失の一撃を出来るだけ長く味わいたかったというのもある。
人生最高の時間をじっくりと堪能する。ずっと思い続けた幼馴染がいま俺に完全に支配されていた。
粒子は歯を食いしばって何かに耐えていた。ベッドのシーツもぎゅっと握り締めている。
俺は精液を睾丸から直接引きずり出そうとするような淫肉地獄を楽しみながらも粒子に声をかけた。
「やっぱり、いたいのか?」
「バカ、ファーストキスの前に処女を奪う男がどこにいるのよ」
彼女は痛いだろうに無理に引きつった笑みを浮かべ優しい声で非難する。
「なに、鈴口と子宮口……口同士でちゃんとキスしたぞ」
「バカ。本当にバカ。」
「痛いんだろ。俺もいま動かすと出してしまいそうだし、お前が動いて欲しいっていうまで待つぞ」
そういうと、彼女は首を縦に振って返答する。
よし、なるべく痛みを忘れられるように手伝ってやろう。そう考えた俺は腰を掴んでいた手をそのまま上に滑らせる。
すべすべした手触りが俺を魅了する。ワイシャツの中に手を滑り込ませながらさらに北上。狭い空間は彼女の体温で暑いほどだった。
自然と覆いかぶさるような体制になる。ウエストのくびれを直に確認しつつ胸周りまで進入へ成功した。そして俺はあることに気が付く。
「ブラジャー、してないんだな」
すると彼女は恥ずかしそうに呟く。
「……だって、こういうことやるつもりだったし」
粒子の顔は鼻先から10cmくらいの距離しかない。だからその音量でも鮮明に聞き取れる。
ワイシャツとブレザーを押し上げながら、いつも気になっていた胸の肉を揉みしだいてやる。
ハリのあるその胸はプニプニと反発して素晴らしい揉み心地。想像してた以上だった。
「じゃあ、こんなことされるの期待しながら待ってたんだ」
「うん。あんたがやさしく撫でてくれるの想像して毎日揉んでたの。そしてらこんな大きく、あっ!」
粒子が思わず声をあげた。決して不快感や痛みではない快感からの声。
俺は不意打ちで左の乳首を軽くつまんでやったのだ。乳首は勃起して堅くなっていた。
ワイシャツとブレザーという厚い布の下である以上、あまり大きく動かすことは出来ないため指先で出来る乳首への愛撫へと切り替えたのだ。
親指と人差し指でころころと転がしてやる。そのたびに粒子の表情が快感に眉を動かすのが愛らしい。
愛撫を始めてからただでさえ強かった膣の締め付けがさらに強くなったのが感じられる。
声を上げないように口を堅く閉じてるのは”私を喘がせてみろ”と挑戦しているのだろうか。
それに対し俺は無理に開かせず、口を使って開かせることにする。
彼女の唇に吸い寄せられるように顔を下げていく。柔らかな感触が俺の口に広がる。
ただ触れ続けるだけの口付け。それでも、恋人とのキスという精神的な充足は心を暖かなもので満たした。
すると、粒子は俺の口にかぶりつき、口腔内に舌を進入させてきた。熱い感覚が俺の中に入ってくる。
それに対し俺も舌で応戦してみる。熱と熱を口の中でやり取り。
そうしていると、それに連動するかのように膣内の肉襞がキュウキュウとより強くリズミカルに締め付けてきた。
まるで俺の子種をおねだりしているようだ。もちろん、それに答えるわけには今はいかないのだが。
顔を上げキスから開放される。中に進入していた舌が名残惜しそうに絡みつく感覚が甘美だった。
密着していた彼女の顔を少し離れて見直すと、力んでいた筋肉は弛緩し
目などはトロンとだらしなく緩みきっていた。口からたれるヨダレが妙な美しさを与えている。
しばらくそうして見つめていると、その表情のまま上気しきった声でこう囁かれる。
「お願い、もう動いていいよ。今ならオマンコも喜んでくれると思うから。」
その言葉に安心し俺は胸元から手を引き抜いて腰を掴む状態に戻す。パンパン出し入れしてやる体勢だ。
俺も膣の感覚にちょっと慣れてきたところだ。今なら動かしたとたん出してしまうような失態は避けられるだろう。
腰をゆっくりと引き抜いていく。いきなりすばやいピストンはさすがに無理だろう。
カリが肉壁を引っかく感覚が予想以上の威力を持って睾丸にダメージを与える。
それに加えて襞が”出て行かないで”とでも言うように中へ引きずり込もうとしてくる。
カリの見えるところまで抜き出すと、陰茎は彼女が分泌した愛液でヌッタリと付着しヌラヌラてかっていた。うっすらと破瓜血も見える。
カーペットにはポタポタと愛液と血の混合液が滴り落ちてシミを作っている。
俺は更なる快感を得るためピストン運動を開始する。
粒子の閉じられた肉壁を掻き分けて進む快感も、亀頭がざらざらしたGスポットを擦る味も
肉襞を裏返しながら次なる進入の準備をする至福も、子宮口にぶつける衝撃も、すべてが互いの性感をたかまる。
「あぁ、いい!おちんちんすっごく美味しいよぉ!」
粒子の嬌声が部屋中に響く。俺が肉棒を突き立てるたびに彼女は背中をめいいっぱ反らし
シーツを握り締めて快感に反応する。もう声を我慢することはやめて素直に与えられる肉棒の味を堪能することにしたようだ。
「好きぃ!大好き!私、さっきから何度もイっちゃってるよ〜」
この声が俺を耳から犯してくる。俺の一物で喘いでくれるなんて男冥利に尽きるではないか。
彼女が快感におぼれるこの表情だけで何度でも抜ける自信があった。
それに彼女はすでに何度か絶頂に達しているのか、何度か出すたびに膣の締りの感覚がしばらく変わるのだ。
これで長く持つはずがない。むしろここまで持ったのが奇跡的だ。限界が訪れようとしていた。
「うぅ、もう出そうだ!」
このままでは中に出してしまう。放出の直前に引き抜こう。そう甘い考えでピストンを続けたのが拙かった。
「ダメ!離れちゃダメ!」
背に圧力を感じる。驚いて下を見ると粒子のストッキングに包まれた足が俺を逃すまいと絡みついているではないか。
「おい、中に出しちまうぞ!」
「中に出して!私のオマンコにあんたの赤ちゃん汁いっぱいちょうだい!」
彼女の淫らなお願いは近所に聞こえるのを心配するほどの絶叫だった。
くそ、こんなにねだられて断るわけにはいかないじゃないかよ。
その言葉で俺の脳内は膣内射精しろという本能の衝動に完全に屈する。
本来なら絶対に回避すべき妊娠という結果も、むしろ孕んでしまえという言葉がちらついてしまう。
俺はなるべく深く射精そうとするため、全力で体を粒子に叩きつけた。
「うおおおおおぉぉ!」
脳内が真っ白に染まった。決壊したのだ。
俺の睾丸から粥のように半固体の精液がビュクビュクと送り出され最愛のオンナの子宮口に叩きつけられる。
腰に絡みついた粒子の足が痛いほど挟みつけを強めている。どうやらあまりの快感に声も出せずにいるらしい。
もしかして俺は今世界一幸せなんじゃないだろうか……そう思う最高の時間がしばらく続く
ギチギチと快感を逃すまいと絡みつき歓喜する膣に射精を手伝われ数十秒単位での放出が継続しているのだ。
粒子の足から力が抜けた。目はどこかわけのわからない場所に焦点が合い白目を向いている。
どうやら失神してしまったようだ。なんかちょっと自分の精力に自信が付いた。
すると、腹に温かい流れがを感じた。湯気と共にアンモニア臭が鼻腔を刺激する。
なんとお漏らししてしまったらしい。チョロチョロと尿が流れる様子を観察すると
何だか征服感が心を満たした。オンナを完全に屈服させた喜びが素晴らしい。
ペニスを引き抜くと俺と粒子の交歓の証が彼女のパックリと開いた陰唇から零れ落ちた。
下のカーペットはひどい有様でかなりの面積が濡れてしまっている。
陰茎はまだその堅さを失ってはおらず、まだまだ戦えそうではあったが
彼女が気を失っているとなっては二回戦に突入するわけにもいかない。
仕方がなく俺は粒子の股をティッシュで拭ってベッドに寝かせてやった後
床掃除と換気のため窓を開けるなど事後処理を済ませてから家に帰った。
後日、全校集会を占領しての交際宣言や両家を巻き込んだ妊娠騒動はまた別の話である。
投下終了
本当はもっと早く書き終えるつもりだったのに
素晴らしい
GJ
ちょうどいいお昼ご飯のおかずになりました
633 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 12:43:28 ID:yi98+xtI
ヤンデレ妹とヤンデレ姉、どっちの方が魅力的か………
うむ…やはり姉が堅いかと
635 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 14:35:00 ID:0/om7SSh
妹だとヤンデレ化して襲われても、返り討ちにできてしまうというジンクス
個々の好み次第しか言いようがないな。一生付きまとう問題だろう。
>>636 ヤンデレは幼馴染が一番映えるんだよ!
彼のすぐそばでずっと見守ってきた私が言うんだからあたりまえでしょ!
ずっと彼のそばで彼をみて彼を導いてきたんだから!
姉や妹なんか結局は家のことしか知らないじゃない!
いつでもどこでも彼を見ていたのは私なの!私しかいないの!
だからね?私と一緒にいよう?私があなたを幸せにしてあげるから絶対絶対私といたほうが幸せだから
あんなあなたのことを何もわかってない女なんておいてさ
だって私あなたの好み全部知ってるよ?
服装のも味付けもちょっと胸の大きな子が好みなのもあなたの趣味の全てを私はわかってるよ!
だから私のものになってほしいな、私があなたを幸せにしてあげるから
ていうか私しかあなたを幸せにできないんだからね?だから今すぐ私と一緒にくらしましょう?
私はあなたのために何でもしてあげられるんだから、ね?いいでしょう?一緒にいよう?
あなたがそばにいないと私だめだから、ずっと一緒にいようよ
ね?ずっといっしょずっといっしょがいいよね?いっしょにいてよいいでしょ!?
ねぇ!いっしょがいいでしょ!そうでしょ!
いいっていいなさいよ!いいっていってよ!!じゃなきゃ私あなたを…
まで妄想した、すまんだたのたわごとだ忘れてくれ
>>599ってどういう意味?
どうにも理解できないのは俺の頭が足りないだけなのか?
どうして俺にはヤンデレどころか女の子と接点がないんだ
坊やだからさ
ホワルバ2をプレイするとテンションが上がるんだけど
誰か͇̦̭̯͍̱͖̾助けて̛̼͔̣̲͙͋ͪͣͦ͑̍ͅ誰か̧͇̼͈̃͊͟
く̧̛͇̦̭̯͍̱͖̼͔̣̲͙͇̼͈̃͋̓̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟͟͠ͅ
͇̦̭̯͍̱͖̃͋̓̾͋ͪͣͦ͟͠なま̛̼͔̣̲͙͑̍̃ͅ助けて̧͇̼͈͊͟
̃͋̓͟͠しぬ͇̦̭̯͍̱͖苦しい̧̛̼͔̣̲͙͇̼͈̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟ͅ
͇̦̭̯͍̱͖̃͋̓̾͋ͪͣͦ͟͠ぎゃ̛̼͔̣̲͙ͅください̧͇̼͈͑̍̃͊͟
̃死͇͋̓͟͠助けて̦̭̯͍̱ずぬ̧̛͖̼͔̣̲͙͇̼͈̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟ͅ
̛͇̦̭̯͍̱͖̼̃͋̓̾͋ͪͣͦ͟͠助けて̧͔̣̲͙͇̼͈͑̍̃͊͟ͅ
̃͋しぬ̓͟助けて͇̦̭̯͍̱͖̾͠うぐ̧̛̼͔̣̲͙͇̼͈͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟ͅ
̧̛͇̦̭̯͍̱͖̼͔̣̲͙͇̃͋̓̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟͟͠ͅくるしい̼͈
͇̃͋̓͟͠しぬ̛̦̭̯͍̱͖̼̾͋ͪͣͦ寒い̧͔̣̲͙͇̼͈͑̍̃͊͟ͅ
̃闇͇̦̭̯͍̱͋̓͟͠あ̛͖̼͔̣̲͙̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊ͅかなしい̧͇̼͈͟
̧̛͇̦̭̯͍̱͖̼͔̣̲͙͇̼͈̃͋̓̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟͟͠ͅ
̃だれか͇̦͋̓͟͠くるしい̭̯͍̱͖̾͋暗い̛ͪͣͦ狭い̧̼͔̣̲͙͇̼͈͑̍̃͊͟ͅ
̧̛͇̦̭̯͍̱͖̼͔̣̲͙͇̼͈̃͋̓̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟͟͠ͅ
̛͇̦̭̯͍̱͖̼͔̣̲͙̃͋̓̾͋ͪͣͦ͑͟͠ͅこわい̧͇̼͈̍̃͊͟
そそそ̃͋だれか̓͟だれか͇̦̭̯͍̱͖͠救い̧̛̼͔̣̲͙͇̼͈̾͋ͪͣͦ͑̍̃͊͟ͅ
あれ、どこに行くの?
私のそばから離れるなんて、許さないよ?
uxx
そろそろ次スレたてるか?
>>643なんだけど、文字に文字が重なってみたいに表示されるんだけど
他の人もそうですか?
>>647 俺だけじゃなかったのか
重なって見えるぞ
649 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 14:00:55 ID:NO3P451y
濃い
最近は精液の出が悪くてしかもなかなか立たない持続しないなんだが、まさかヤンデレの仕業
651 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 16:32:22 ID:xosRrXaT
ヤンデレ義姉はM男にとっては至高の存在。
異論は包丁で千切りにして認めない。
今は傍らで夕飯つくってます
部活やめて一ヶ月ぐらいしたら、携帯に同じ部活だった女子からいきなりメールが来て
女子「元気にしてる?」
俺「はい。」
女子「今、部活なに?」
俺「無所属です。」
女子「そうか、いや君の行き先知らなくてさ。ちょっと気になって。」
俺「そうですか。」
女子「うん・・・。じゃあね・・・」
というやり取りをちょっとヤンデレっぽいと思ったんだが。
>>653 なんか部活名言ってたら、その部活は間違いなく廃部になってたなそれ
655 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 01:43:02 ID:YJCiVcZd
昔中学校で俺の前の男子が休みでそいつの隣がめちゃくちゃ不機嫌なことがあったな。
もっぱら俺に八つ当たりがきて大変だった。
摺醴霾醴髏蠶蠶鸛躔か ベ∃壮鎧醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
勺儲靄靄醴醴醴蠶體酌偵Auru山∴ ベヨ迢鋸醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
∃儲霾ヲ露繍蠶髏騾臥猶鬱h ご笵此∴ ∃f謳廱躔騾蔑薺薺體髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶
ヨ儲諸隴躇醴蠶歎勺尓俎赴 f蠶蠶蠢レ ∴f醴蠶鬪扠川ジ⊇氾衒鑵醴蠶蠶蠶蠶蠶
ヨ鐘諸薩讒蠢欟厂 ベ状抃 傭蠶蠶髏厂 .ヨ繍蠶蠶臥べ泣澁価価櫑蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
f罐諸醴蠶蠶歎 マシ‥…ヲ冖 .∴瀦醴蠶襲jJ鶴門門攤蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
加罐讒蠶蠶欟厂 ヘ ∴f醴醴蠶甑欄鬮°f蠢蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
溷霾醴蠶蠶勸 ∴ヨ繍醴蠶蠶鬮狡圷し醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
醴蠶蠶蠶蠶髟 ベ湖醴醴蠶蠶蠶庇⊇⊇體髏髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶欟 f繍蠶蠶蠶蠶蠶曲三三巛憫髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶歉 澁畄_迢艪蠶蠶蠶蠶蠶蠶甜川⊇川川衍捫軆髏髏蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶髟 コ醴蠶奴繍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶齡辷シジ⊇川介堀醴醴蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶鬮か .ベ苛ザベ繍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶醯己に⊇三介f繙醴蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶髏鬮シ 尽慵蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶自辷三沿滋鐘醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶醴勸 氾隅髏蠶蠶蠶蠶蠶靦鉱琺雄躍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶醴訃 ∴∴∴沿滋溷醴髏蠶髏髏韲譴躇醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶髟 _山辷ムf蠡舐鑓躍醯罎體體體驩讎櫑蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶a f躍蠶蠶J蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶醯註珀雄醴醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶廴 f醴蠶欟閇憊體醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶靦錐讒醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶欟シ 禰蠶蠶蠢螽螽蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶躍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶監シ ∵ヴ門夢曠髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶a ∴シ∃愬嚶髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶診 ベ沿u旦以迢u讒醴髏曠醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶髏蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶甑シ .げ隅艪蠶蠶蠶蠶蠶蠢J蠶髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶鬮ヒ ベ状隅髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠢テ∴ ベ川捍軆髏蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶ルシ ∴∃氾据醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶蠢此 ∴⊇以f繙醴蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶蠶ル∠∴ .∴∴∠ヨ旦滋躍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
蠶蠶蠶蠶蠶蠶醢山ム沿当u錙躍蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶蠶
658 :
Y:2010/03/31(水) 12:36:58 ID:OnKnpzgS
ヤンデ霊写真ですか?
659 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 19:33:08 ID:FTYtb22K
660 :
名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 20:29:38 ID:7albllH9
ちょwww
…そういやまだ春休みか
sageは知らないし、意味のわからないもの貼り付けるからガキは本当に不愉快
ここは18禁だということをたまに忘れてる人が居る
sageろ 無意味に芝生やすな vipでやれ ガキは来るな
投下します
エイプリルフールネタ
5レス消費
エロ無し
NGワード 彼女は嘘つきである
「俺はお前が大嫌いだ」
嘘をついても大抵のことがその日だからと許される日、エイプリルフール。
だから、適当な嘘を彼女に言ってみた。
特に深い理由は無く、強いて言えば嫌いといったらコイツはどんな顔になるのか見て見たかっただけかもしれない。
しかし特に面白い反応を見せることはなく、彼女は穏やかな笑みを浮かべたままだった。
「その発言は今日が何の日か把握した上で、受け取ったほうがいいのかな?」
やはりコイツは気づいていたか。
あっさりと嘘を見抜かれて気まずげに頭を掻きながら、ふと気づく。
嫌いというのが嘘というのならば、先程の発言はお前のことを好きだと言ったことになるのではないのか。
適当に言ったことが相当恥ずかしいことだったと気づき、頭を掻く手が止まってしまった。
顔に血が集まってきているのを感じる。
「おや、何をそんなに照れているのかい?」
「別に照れてなんかねーよ」
「ふむ……どうやら、君は勘違いをしているようだ」
「は? 何をだ?」
彼女は心底愉快そうに唇を歪めながら答えた。
「嘘を、だよ」
……嘘というものは、本当のことの逆のことをいうことではないのか。
考えが顔に出ていたのか、彼女は全部お見通しとでもいうかのように頷いた。
その様子は出来の悪い生徒に優しく教えようとする先生の様、というよりもそのものだった。
「先ほどの君の照れっぷりから見るに……」
「だから照れてなんか無いって」
「どうやら嘘とは真実とは逆のことを言うもの、とでも思っているようだね」
はい、その通りです。
そんな風に素直に認めることが恥ずかしかったので、口を閉ざした。
「うんうん、その勘違い大いに結構。そのおかげで君は率直に好意を伝えると羞恥心を感じる
可愛らしい人間だということが分かったからね」
「……うるさい。お前は俺の勘違いを正したいんだろ。だったらそんなことは関係ないだろ」
「あはは、これは失礼。では言うが、嘘とはそもそも……」
彼女はそこで言葉を止めてしまった。
某クイズ番組の日本国民の大半の方が知っている司会者のようにニヤニヤしている。
……今の自分はそんなに面白い顔をしているのだろうか。
数十秒後、満足したのか彼女は口を開いた。
「嘘とは真実でないことだよ」
「……散々焦らして、結局はそれだけかよ」
「ああ、それだけだ。しかしそのおかげで僕はいいモノを見れたね」
「もう勘弁してください……」
なんであんな軽はずみな発言をしてしまったのか。
数分前の自分をぶん殴ってあの発言を無かったことにしてしまいたい。
「ふふ……旬なネタを使うのならもっと勉強をしてくるのだよ」
いつも見ている彼女の笑みも、今は恥ずかしくてとても見れない。
コイツの面白い顔を見るつもりが逆に見られてしまうとは。
何とかコイツに一泡吹かせたい。
……そうだ、嘘とは真実でないことを意味するのならば。
「俺はお前のことが大好きだ」
「うん、僕も君が大好きだよ」
……これは、嘘だ。
わかっている。
わかっているのに、顔のにやけが止まらない、止められない。
「やっぱり君はここが足りてないんだよ、ここが」
彼女は笑いながら俺の頭を指差している。
「愛の告白の返礼、というには不十分だが僕なりに旬のネタを使ってみようか」
「何をするんだよ」
「僕はこれから嘘しか言わないよ、いいね?」
一体何が来るのだろうか。
いつも自分をおちょくっている彼女だから、予想も付かないものが来るだろう。
「ああ」
ゴクリ、と唾を飲む音は彼女に聞こえてしまっただろうか。
かくして、彼女の”嘘”が始まった。
「僕は君のことをよく知らない」
いや、それはないだろう。
コイツとの付き合いは長い。
趣味特技性癖何を知っていてもおかしくは無いはずだ。
「僕は君のことをよく知っている」
……待て。
知らないが嘘で、知っているのも嘘だと?
矛盾してるぞ。
抗議の視線を送るが、彼女は微笑んだままだ。
「僕は君のことを憎んでいる」
「僕は君のことを愛している」
何がなんだか分からない。
二律背反を続けて言われている。
全部嘘だとしても辻褄が合わない。
「僕は君に嘘をついたことが無い」
「僕は君を欺いたことがある」
「僕は処女ではない」
「君は童貞ではない」
「君は人を殺したことがある」
「僕は人を殺したことがある」
「……はい、ここまで」
彼女は両手をパンパンと鳴らして、ネタの終わりを告げた。
……結局なんだったんだこれは。
全く分からない。
最後あたりは何か物騒だったし、一体何がしたかったんだ。
「僕は最初に嘘しか言わないって言ったけど、あれ嘘だから」
「なぬ」
「僕は真実と嘘を混ぜつつ話したんだよ。
さて、ここで問題です。僕が話した中でいくつ嘘があったでしょう」
「なんだよそのネタ…… そもそも何個話したか忘れたし」
「十だよ。なんなら最初から話そうか」
「いや、いい。憶えている」
たしか俺を知っているか、好きか嫌いか、嘘をついたことがあるか、処女か童貞か、人を殺したか……
大まかに分類すればこんな感じになる。
まず最初の三つの分類。
これは簡単だ。
コインの表裏の関係のようなものだったから。
一方が真実であるなら、もう一方は真実になりえない。
よってまず嘘が三つ
次に処女か童貞かだが。
……これはたしか両方とも”〜ではない”と言っていたはずだ。
とりあえず、俺は童貞だ。
認めがたいが、事実である。
そして、コイツも処女であろう。
コイツとの付き合いも長いが、異性と付き合った話は一度たりとも聞いたことが無い。
だから、多分、おそらく、きっと。
よって嘘が二つ追加される。
最後に人を殺したかどうか。
俺もコイツも人を殺したことは無いはずだ。
そもそも殺したのなら今頃刑務所にいるだろう。
よってこれまた嘘が二つ追加される。
つまり、嘘は合わせて七つだ。
「わかったぞ。嘘は七つだ」
「そう。君がそう思うんならそうなんだろうね」
悩んで答えた割には彼女の反応は投げやりであった。
「あれ、間違ってた?」
「うーん、まぁどっちてもいーかなー」
「なんだその適当な反応は! 謝れ! 真面目に答えた俺に謝れ!」
「あはは、ごめんごめんーメンゴメンゴー」
「フザけんな!」
握りこぶしを作って殴るジェスチャーをすると、彼女は笑い声を上げながら逃げ出した。
それにおもわず苦笑を浮かべながら、俺も追いかける。
傍目から見れば青春を謳歌している微笑ましい若造共、とでも映っただろう。
俺も、今俺青春してるなー、となんとなく感じていた。
ちなみに答えを知ったのは最期のとき。
彼女はたった一つしか嘘をついていなかった。
”僕は君に嘘をついたことが無い”
もう先は無いというのに、何故こんなときになって、”俺”が戻ってきたのか。
否、今だからこそ戻ってきたのか。
死ぬということが確定しているから彼女が戻してくれたのか。
首をゆっくりと回す。
鉄格子の付いた窓の外に広がる景色を見て思う。
―――木しかねえ。ここは、というか俺はどれだけ社会から隔絶されてるんだよ……
生きている間は、彼女に束縛され続けた。
彼女を殺した後は、ここで彼女の夢を見続けた。いや、見させられた。
そして今。
枯れ果てた身体を、ベッドに縛り付けられている。
多分、俺は数時間後には彼女がいる場所へと逝くだろう。
そこでも束縛されるのだろう。
672 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 18:44:43 ID:M5Oms+tq
GJ!初めてリアルタイムの投下をみた。
GJ
Gj
誰かがエイプリルフールネタをやってくれると思ってた
>>672 ちゃんとsageような
675 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 22:13:42 ID:O5vqj+A4
age
676 :
名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 22:48:54 ID:cH7j/MZ6
age
test
主人公:春休みになりこのスレの作品を全て見尽くした上で新しい投下がないか一日中ネットサーフしている
ヒロイン:学校が休みなので主人公と会えなくなる
主人公の部屋の監視カメラには一日中PCに向かう主人公の姿が写り
スレを荒らして家の外に出そうと奮闘するが
春休み最後の日4月1日になってしまい…
まで設定思い浮かんだが前投下された作品と被りすぎるし
無理矢理エイプリルフールに繋げても何も思い浮かばなかったorz
じゃあ来年のエイプリルフールまでには完成させとくんだぞ
初めまして。
本当なら昨日投下予定だったんですが、
今から投下します。
既に白い輝きを失った淡い午後の日差しが、カーテンの隙間から部屋に入る。
射しこんだ一筋の光は空中に漂う小さな埃が舞う様を美しく映しだし、
机の上に置かれた写真立てを煌めかせる。
その遙かな天からの光に導かれるように一人の女が机に向かって歩を進め、
写真立てを手に取った。
女は一体いつまで見入っていたのだろうか。
「あ、あの……お母さん。」
「……!」
「お線香、無かったから買って来たんだけど……。」
女が突然横から呼びかけられて振り向くと、
其処には小学校に上がるか上がらないかくらいの年齢の男児が居た。
その少年は彼女を心配そうに見つめている。
「そ、そう。ありがとう。一人でお買い物に行けたの? 偉いわね。」
女は何気ない動作で写真立てをテーブルに置くと、
その少年に向けて笑顔を作り、頭を撫でた。
しかし少年は照れたり喜んだりする様子も見せず、
ただ母親を心配そうに見つめている。
少年は母親に問う。
「その写真一体何なの?」
「何でもないわよ。」
「教えてよ。前に聞いたときも教えてくれなかった。」
「別にどうでもいいじゃない。対したことのない昔の事よ。」
話を逸らし続ける女に、業を煮やしたのか少年は
「じゃあ、どうして泣いてたの?」
「――っ。」
女は固まった。
しばし黙り込んだ後、苛立ちを露わにして少年を叱り始めた。
「……ねえ、そう何度も聞き出そうとするのはやめなさい!
これは言いたくないことだってことくらいわかるでしょ!?
いい!? ちゃんとその場の空気を読みなさい!
いつもさんざん言ってるでしょうが。
そうじゃないと――」
ここで女は言葉を詰まらせた。
怒りで強張らせた顔から力が抜け、ゆっくりと悲しそうに目を細めていった。
そして声をとても静かなものにして、少年を諭し始める。
「そうじゃないとね、周囲と衝突ばかりして、
結局は自分も、周囲も、何もかも不幸にしちゃうんだから。
だから、わかって……ね?」
女は少年の頭に手を載せた。
「……」
「とりあえず早く部屋に戻りなさい。」
「……わかったよ。」
怒られた少年は部屋を出て行き、中には女だけが残される。
彼女はため息をつき、
自分の息子につい苛立ちをぶつけてしまったことを悔いた。
わかっている。
あの子は、自分勝手なんかじゃない。
私のことを心配している。
だからさっきはあんなに食い下がったのに、
私は苛立ちをぶつけて――
――でも。
しかし仮にそれが無くても、こうなる当然のことかもしれない。
この写真を人に見せびらかしたことはないが、
仮にそうしたなら誰もが興味を引かれて説明を乞うのではないか。
私は再び写真を手に取った。
この写真は、とある部屋で夕方の黄昏時に撮られた物だ。
窓が中央に来るように撮影されており、外の地平線の少し上にある夕陽は、
あと一二時間も経てば沈んでしまうだろう。
それは日中の直視できない程の眩しさを主張する白い日光より、
遙かに光量を落とした柔らかな微光である。
太陽という星の命の輝きが、この空から徐々に潰えようとしているからだ。
だが日中よりも輝きを失ったが故にむしろ神々しさは増し、
光は所々に浮かぶ雲を輝かせ、空を金色に染め上げている。
部屋の中は照明がつけられておらず、
薄暗い部屋の壁は窓から差し込んだ夕日の茜色にほのかに染められている。
そんな中、写真の中心に二人の人物が居た。
窓から差し込む夕陽の影響は、特にその二人の被写体に顕著に現れている。
背後の地平線の少し上に浮かぶ夕陽がちょうど二人の間にあって重なり、
逆光となっているのだ。
カメラの自動調整がきちんと働き、
逆光の影になった部分が見えるように明るくしていなければ、
彼らは光に完全に覆い隠されていただろう。
それでもなお、光に包まれ若干薄暗く映る二人の姿は儚さを秘め、
どこか危うさがあった。
だが反面、神々しさを秘めた橙色の微光は
二人と重なり包みこむ後光になった。
ここに一つの宗教画が生まれたのだ。
言葉が無くともこの写真一枚で本質を説明出来ていた。
レンズは何もかもを凝縮し、一枚の写真に嘘偽りの無い真実を捉えていた。
この写真が撮られた時点から先のこと、この二人に訪れる未来までも。
何時どこで撮られ、そして彼らは何者なのか、
そんなことを何一つ知らなくとも、
これを見た者に二度と戻らない時間への感傷を与える一枚だった。
写真に封じ込められた過去のこの一瞬が、
額縁を手に取る私の心に、かつてあった時間を鮮やかに蘇らせる。
夕陽に照らされながら、ベッドの上で無邪気な笑顔を浮かべる少女。
とても薄い硝子細工のような美しさがあった。
そして彼女の視線の先に居るのは、一見すると無表情に見える、
だがよく見れば安らかな表情を浮かべる高校生らしき少年。
彼は確かにあの時、微笑んでいた。
写真の中の光景という過去に確かにあったものの一部を使い、
頭の中に仕舞われてる記憶を、再び広げ、思い描く。
「――っ。」
私は奥歯を噛み締めた。
この記憶は今のように意図して思い出そうとしなくとも、
いつも遠慮無く私の脳裏に現れる。
そしてその度に私はいつも――
でも今日は特別だ。
だから避けることなく、思い出そう。
誰も知らなくとも、私だけは真実を知っているのだから。
覚えているのだから。
だから戻ろう。
再び浸ろう。
しばしの間だけ、遠い追憶の日々に。
そう。金色の光に照らされた、あの場所へ――――
再び、過去の世界が蘇った。
投下終了。
他で書いている作品がそろそろ終わりそうなので、
今回よりこちらに投稿させて頂きます。
長期連載になりますが、最後まで必ず完結させる所存です。
どうぞよろしく。
あとタイトルは選びかねているので、まだ未定です。
乙
>>685 GJ!
まさかこちらでもあなたの作品が読めるとは。。嬉しい限りですわ
では早速、全裸待機します
GJ
なかなかよかった
たった今、実際に体験した話なんだけどさ。
ケータイの某オンラインゲームやってたら、知らないプレイヤーに
『○○くん/久しぶり/戻って来た/んだ/ありがとう』
とか言われたんだ。
俺、そのゲーム…つうか、ケータイのオンラインゲーム自体初めてだったし、人違いだろうと思って
『たぶん/ひと/ちがい/かな?/ごめんね』
(↑定型文を連ねてのチャットなのでこういう言い回しになる)
て言って、パーティ申請も断って、気まずいし足早にフィールドに出ようとしたんだよ。
そしたら何か
『え?』
『なんで』
『逃げる』
『の?』
『ねえ』
『ねえ』
『ねえ』
『ねえ』
とか言って延々追いかけ回されてさ……
リアルでヤンデレはマジ勘弁orz
つか、始めたばっかりなのに、怖くてしばらくログイン出来ねえw
SSなら間違いなく萌えてるんだろうけどなw
へー
>>690 部屋に盗聴器類がないか調べたほうがいいと思う。
まぁ惨事にはヤンデレなんてのは存在しないわけで…
メンヘラしかいないだろjk
投稿します
「赤ちゃんができたの」
午後6時、誰もいない教室。教卓越しに俺の目の前に立っている、小柄な女子生徒はそう言った。
静寂。正午から降り始め、今はもう土砂降りとなった雨の水音と、俺自身の息を飲む音だけが聞こえる。
「………冗談、だよな?」
俺は静寂を裂き、喉の奥から搾り出すように小さく喋る。
だが背中には冷たい、嫌な汗の感触。心拍数がしだいに上がっていくのがよくわかる。
「本当よ。今、三ヶ月だって」
彼女−朝霧 湊はしかし俺の目を、光を宿していないような瞳でじっと見つめてそう答える。
愛おしそうに自らの腹部をさすり、頬を赤らめながら湊は微笑んだ。
「私、産むよ。先生との子供」
「な、なにを…」
「名前、何がいいかなぁ? 先生も一緒に考えてね?」
その言葉を聞いて俺は、今すぐにこの空間から逃げ出したい気持ちに襲われた。
だが膝が笑って、動けない。湊は教卓に手をつき、つま先立ちになって顔を近づける。
今時珍しい、日本人形のような美しい黒髪。パーツの一つ一つが無駄なく洗練され、思わず背筋がぞくりとしてしまいそうなくらい美しい顔立ち。
体の無駄な部分には脂肪はまったく無い。しかし女性特有の膨らみはしっかりと有しているその身体を、俺はよく知っている。
なぜなら俺は、朝霧 湊の担任であり…同時に、生徒…湊と身体の関係を持ったからに他ならない。
「先生の名前は十六夜 刹那。私は朝霧 湊。…うーん、二人の名前からとるのは、難しいね」
呆然と立ち尽くすだけの俺を残したまま、湊は語る。
「うふ、先生も一緒に考えてね? この子の名前」
冷や汗は掌の中にもかき、体感気温が5度は下がったような感覚だ。
仮にもしあの時、あの瞬間に戻れるなら、俺は全力で俺自身を止めただろう。
だが実際にそれは不可能なわけで、取り返しのつかない事態であることを嫌でも実感させられる。
湊の双眼は限界まで開かれ、食い入るように俺の顔を見つめる。まるで「逃がさない」と言わんばかりに。
なぜだ。どうしてこうなった。…決まっている。出会ってしまったから。
俺と湊との距離が近すぎたから。そして、互いに惹かれあってしまったから。
######
2009年、9月1日。夏休みも明け、さっそく授業が始まる。学生にとっては憂鬱な日(少なくとも、俺にとっては)だが、教員という職に就いて四年も経ってしまえば、自由気ままに過ごす学生たちを見て懐かしくもあり、うらやましいと思えてしまうものだ。
俺は今年度は1年5組の担任に割り当てられている。相も変わらずガキくさい生徒の集まりであるが、今年度はさらに、本校歴代でもトップクラスの成績を誇る女子生徒が一人。…ただし、授業態度は最悪。
毎時間決まって耳にイヤホンを差して机に突っ伏して眠るそいつは、曜日によって髪型を変えることでも有名だった。
だが提出物、定期テストはすべてパーフェクト。ゆえにケチのつけようがない。
昔とは変わってしまった成績付けのシステムのせいで、関心意欲態度が悪くても他が完璧なら5、最悪4が取れてしまうのだ。これもゆとり教育の賜物か。
それだけでなく、変装して登校している現役アイドル、なんてのもいる。こいつは授業態度も成績も中の上くらいで、才女サマに比べればまだ可愛いげがあるってものだ。
そして9月からは、外部からの編入生が我がクラスにやってくる。そいつこそが朝霧 湊である。
湊は朝早くから職員室に訪れている。今日一日の流れを簡単に説明してやり、ホームルームの時間になったら一緒の教室まで向かう手筈だ。
一応湊には、どの部活動に入りたいか、などと世間話レベルで尋ねてはみた。もし入部するなら、いろいろと根回しをしてやらなければならないからだ。
だが湊はよりにもよって、「茶道部に入りたい」と答えた。
残念ながら茶道部は俺が赴任する直前に廃部になった。しかし、茶道部室はそのままで残っており、十分な清掃、茶葉などがあれば一応は再開できる。
湊は以前までいた高校でも茶道部に属しており、どうしても続けたい、と懇願してきた。さらに面倒なことに、その話を副校長が聞いていたのだ。
副校長はわりと情にもろく、お涙頂戴さえすればイエスマンと化すのは周知の事実、暗黙の了解である。そうなればたとえ部員が湊だけだとしても、茶道部の復活は確定。顧問は…おそらく俺になるのだろう。
頭をぽりぼりと、痒いわけでもないのに掻き、ため息をつく。俺は英語教師だ。なのになぜ日本の和の文化をレクチャーせねばならんのだ。
いや、別にレクチャーをするとは限らないが……まあ担任だし、諦めることにした。
そうしているうちにホームルーム開始のチャイムが鳴る。だがチャイムから5分は遅れて開始されるのはこの学校ではごく当たり前である。
「んじゃ…行くとしますか、朝霧」
「は、はいっ」
5組の1時間目は英語。俺は教材と出席簿を抱え、職員室を後にした。
ホームルーム。
朝霧には廊下で少しだけ待ってもらい、俺はかしましい生徒共に、席につくよう促した。
「こら水城、さっさと座れー。桐島がいいかげん迷惑そうにしてるぞ」
「ちぇっ……真司、また後でねぇ」
我がクラス随一の問題児が渋々と座席に戻ったのを皮切りに、クラスの騒がしさは終息を迎える。これがいつもの風景だ。
「今日はみんなにいい報せだ。今日から転校生が、うちのクラスに仲間入りする」
「せっちゃーん! それ女子か?」
いかにも女好きそうな、軽薄そうな見た目の男子生徒がそう尋ねる。
「まあ見ればわかるだろ。…朝霧、いいぞ」
俺は廊下にいる朝霧にドア越しに声をかける。朝霧はゆっくりとドアをスライドさせ、一歩一歩に緊張の色を見せながら教室内に入ってきた。
同時に男子生徒たちの、息を飲むような声、ため息が聞こえる。さっきの軽薄そうな男子生徒も、言葉を失ったようだ。
それもそうだろう。28年間生きてきて、色んな女を見てきた俺でさえ、思わず眼鏡がずり落ちそうになってしまったのだから。
朝霧 湊は今時にしては珍しい、どこまでも"和"が似合いそうな美少女だった。
その漆黒のビロードのような髪はひとつひとつ、毛先まで美しく、肌は陶磁器のような白さと赤ん坊のようなみずみずしさ。
くっきりとした顔のパーツは一瞬、西洋人形を連想させる。だが柔らかく微笑む姿と、凜とした背筋、姿勢と合わせて全体を見ると、やはりドレスよりも着物が似合いそうだ。
俺でさえついちらちらと目が向かいがちなのに、たかだか10代の男子高校生がカッコつけて口説き文句やジョークを飛ばしたりもできるはずがない。
「私の名前は、朝霧 湊です。みなさん、よろしくお願いします」
ごく普通の挨拶を済ませた湊。ちょうど秋津の後ろの席が空いていたので、ひとまずそこに座るように促した。
うちのクラスには二人、いや三人といない一般女子同士の組み合わせ。ばか共の集まりのクラスで、うまくやってくれればいいが(まあどうせすぐ席替えなわけだが)。
同日、放課後。どうやら朝霧は今日一日の授業をつつがなく終えたようだ。
朝霧はホームルームが終わると生徒たちの好奇の目をなんとか振り切り、俺の元へやってきた。
そのまま俺達は職員室まで戻り、茶道部室の鍵をとって部室へ下見に向かう。
開錠してドアを開けると埃臭い空気が溢れてくる…と思ったのだが、中は意外と綺麗にしてあった。
どうやら本校の事務員は、四角い角を四角く掃くことができるほどの人材のようだ。
上履きを脱ぎ、狭い畳部屋に上がり込む。部屋の隅に置かれている壷のようなものは、湯を入れておくものなのだろう、と素人の俺でもわかる。
その壷でさえぴかぴかと光沢があり、抜目なく磨かれたのだと察した。これなら、簡単な下準備で明日からでも開始できそうだ。
準備の仕方なぞわかるはずもないが、そこは朝霧に教えてもらえばいい。どうせ顧問など、名前だけのポジションなのだから。
「わぁ…すごく落ち着きます」
「そんなに気に入ったのか、この部屋が」
「はいっ。これなら明日にでも、先生に美味しいお茶をお出しできますよ」
朝霧は、邪念など微塵も感じられない、無垢な笑顔で俺にそう言った。
「そうか。それなら、明日が楽しみだな」
そうして翌日へと話が飛ぶわけだが。
やはり朝霧はホームルームが終わるとまっすぐ俺のもとへやって来て、茶道部室へと手招きする。
鍵は朝霧に預けたし、朝霧は唯一の部員にして部長。勝手に始めればいいものを、と言ってみたが、
「一人でお茶なんか飲んでも楽しくないですよ」
キッパリと、反論されてしまった。
結局朝霧は俺が職員室に教材と出席簿を置きに行く時でさえついて来て、職員室から出るやいきなり俺の手をとって茶道部室へと小走りで向かった。
そんなに楽しみなのか、茶を飲むのが。と言ったら朝霧は
「先生にも茶道の楽しさを知ってもらいたいんです」
と言い返した。
別に俺はそんなもの…と言いかけたが、あまりにも無邪気に微笑むものだから、口をつむるしかなくなってしまった。
朝霧は茶道部室に入るとすぐ、俺に楽な恰好で座るように促してきた。
正座でなくてもいいのかと尋ねたが、楽な恰好の方が美味しく飲めると言われ、なんとなく納得した。
朝霧は早速、慣れた手つきで準備をする。茶道具と、おそらくお抹茶の入っているであろう筒と、茶菓子らしきものが鞄の中から出した風呂敷から現れる。
例の壷の中を一度、水道の水でさっと洗い、それから2Lペットボトルのミネラルウォーターを鞄から出し、壷の中へどぽどぽと入れる。
壷はどうやら電子ポットのようなものらしかった。数分待ち、朝霧は抹茶を椀に少しだけ入れ、杓で湯を入れて、泡立て器のようなアレでしゃかしゃかと泡立てる。
それが終わると朝霧は椀を畳に置き、すっ、と俺に差し出した。
これは、もう飲めるのか。なにぶん素人なもので、それすらわからない。だが朝霧はただにこにこ笑いながら俺を見つめるだけだ。
沈黙は肯定、と俺は勝手に解釈し、椀を持って口元へ運んでみた。
抹茶の濃い色と、意外と少ない湯の量が、口に含んでもないのに苦味を連想させる。だから俺は、最初のひとくちはがっつかず、少しだけにすることにした。
口の中にはたちまち抹茶のほろ苦さと、良い香りが広がる。なるほど、これは安物のブラックコーヒーなどとは比べものにならないほど、格段に美味い。やはり最初のひとくちの量を抑えたのは正解だった。
ほど好い苦味が口の中に広がると今度は、甘味が欲しくなった。なるほど、この練り菓子はそのためのものか。
多分そのまま食うよりも、抹茶を一口飲んでから食べた方が甘味がより深く広がるだろう。スイカに塩、トマトに砂糖を盛るような感じか。逆の味がするものを少し食べてから、あるいはそれを一緒に食すと味が際立つのと同じだ。
「どうですか、先生?」
朝霧はなおも笑顔を絶やさずに俺に尋ねた。俺は用意された練り菓子のひとつを手に取り、ひとかじりしてこう答えた。
「結構なお手前で、ってやつか?」
それからしばらくは、午後の陽気とほどよく暖かい空間で色々なことを話した。
以前の学校での朝霧のこと。俺のちょっとした昔話。うちの高校について。気がつけばあっという間に5時になっていた。
そろそろ切り上げるか、と俺が持ち掛け、朝霧はそれに同意。部活の日割などの話は結局忘れていたが、明日以降でも構わないだろう。
今日のところは朝霧をさっさと帰すことにした。
######
茶道部の活動日は毎週水曜に決まった。以前あった茶道部の活動日は月水金だったのだが、なにぶん部員がたった一人。
顧問の俺を入れても二人。それに俺も仕事があり、そんなに暇なわけではないので、週一回にしたのだ。まあこの辺は、部員が増えてから調整してもいいだろう。
と思ったものの、早くも2ヶ月が経とうとしていた現在、部員は相変わらず一人だけだ。
ハロウィンを三日後に控えた水曜日。俺はいつものように湊が立てる抹茶を飲み、和菓子をつまむ。
抹茶を回し飲みする、という事を知った時は少し驚いた。それまで俺は、一人分ずつ煎れるものだと思っていたから。だが、それももう慣れた。
湊はいつも俺に先に飲ませ、それから自分で飲む。それはもはや当たり前の風景となっていた、と思ったのだが、
「そういえばこれって、先生と間接キスしてるんだよね」
などとぬかすものだから、つい眼鏡がずり落ちそうになってしまった。
「こ、高校生にもなって、そんなもんいちいち気にするなよな。俺がガキの頃なんか、ペットボトルの回し飲みなんて当たり前だったぞ」
「嫌、ってわけじゃないんだよ? ただ、前の高校の茶道部は女子生徒しかいなかったから…ちょっと、どきどきしたというか…」
「今"も"女子生徒しかいないだろ?」
「もー、それは言っちゃだめだよ」
湊の話し方は、俺に対してはずいぶんと砕けたものになった。
俺がもともと、敬語を使われるのが苦手だったので、気軽に話せばいい、と湊に言ったのがきっかけだ。
それからは湊の表情はさらに柔らかくなったと思う。堅苦しさも失せ、今みたいにけらけらと笑う姿は、快活でとても好印象だ。
その笑顔につい俺も、目が惹かれてしまう。湊が俺の視線に気づく前に目を反らし、俺は練り菓子を手にとる。
甘味を口に含むと、今度は眠気が襲ってきた。なにしろ、茶道部室の中はほど好い湿気と温度、畳の香りが合わさる癒し空間。眠くなるのも無理はない。
実際、今までに何度か昼寝をしたこともあった。その時は湊が適当な時間で起こしてくれるのだが。
「わり、ちょっと寝るわ」
「うん。あ、膝枕してあげよっか?」
「ありがたい誘いだが、遠慮しとくよ。…おやすみ」
こういう時、畳というものは便利だ。フローリングの床と違って、身体が痛くならないからな。
心地好い温度の中俺は畳に横たわる。そのまま意識が夢の世界に落ちるのには、さほど時間はかからなかった。
######
石鹸だろうか。良い香りが鼻につく。身体も妙に暖かく、ずしりとなにかの重さがかかっていて、心地好い。
眠りから覚めると部室内はなぜか薄暗かった。窓の外を見ると、太陽は沈んでしまったようだ。
…っておいおい、今何時だよ? 俺はポケットから携帯を取り出し、サブディスプレイで時刻を確認してみる。…7時、だと?
慌てて俺は、身体を起こそうとする。その時ようやく、身体に、特に左腕にかかる重さの正体がわかった。
「…湊?」
なるほど…湊も眠ってしまったのか。まあ仕方ない。俺だけ寝といて、湊に「寝るな」とは言えないからな。
とは言え、湊に起こされるのを期待していたのは確かだ。そこは自業自得か。とりあえず、帰らないとな…。
「あ…先生、おはよ…」
湊が目を覚ましたようだ。むにゃむにゃと眠そうに喋る湊もまた、なかなか可愛らしい。…一応言っておくが、単純に褒めただけだぞ?
「今何時ですかぁ…?」
「7時だ」
「しち、じ…えっ! 先生、大丈夫なの!?」
「あー、気にするな。どうせ運動部の奴らもまだ残ってるだろ」
「そうかぁ…ごめんなさい」
「謝るなって…いてて」
どうやら湊は俺の左腕を枕にして眠っていたようだ。肩から先の感覚が麻痺していて、動かそうとするとじーん、と痺れる。
おいおい、こんなもん枕にしたって、安眠は保証しないぞ?
というか、部室内は電気が点いておらず、真っ暗だ。うっすらと湊のシルエットは見えるが、その美しい黒髪は今はステルス機能を発揮している。
「湊こそ大丈夫か? 首、寝違えたりとかしてないか?」
「平気だよ。むしろ、よく眠れた」
「はは…そうかい」
とりあえず俺は部室内の電灯を点けるために立ち上がった。しかし寝起きで眼がぼやけ、暗闇なのもあって、スイッチがなかなか見つからない。
壁にそって手探りすれば見つかるだろう、と俺は考え、壁に近づこうとする。だが…
「っ!?」
何かに蹴っ躓いて、バランスを崩してしまった。
どさっ、と倒れ込む。ぎりぎりで床に手をつき、畳との正面衝突の回避には成功した。
いったい何に蹴っ躓いたんだ? 俺は足元をちら、と見てみる。
徐々に暗闇に目が慣れてきた今なら、判別が可能だ。どうやら湊の鞄に蹴っ躓いたようだった。
ふぅ、とため息をつき、右手に力を入れて立ち上がろうとする。左手は未だ麻痺しているため、なるべく右手に意識を集中した。
すると、右手の先につるつるとした感触を覚えた。上質の絹を触ったときのような感覚だ。だがこの部屋にはそんな布はなかったはず。ただひとつだけ、心当たりがあった。
「…先生?」
俺の真下から、俺を呼ぶ声がする。その時俺は、初めて今の状況を把握した。
倒れ込んだとき、ちょうど湊を押し倒したような格好になってしまったのだ。
俺は慌てて、湊の上から離れようとする。だが、ぱっちりと見開かれた湊と、目があってしまう。その瞳の奥に潜む何かに吸い込まれそうな気がした。
ふっ、と湊が優しく微笑んだのがわかった。俺は、無意識のうちにその口元にゆっくりと顔を近づけ…口づけてしまっていた。
「………………………悪い」
謝るくらいなら最初からするなよ、と自分に言いたい気分になった。たぶん、湊もそう思っているのだろう。
そんなことより…俺はいったい何をやってんだ。相手は生徒で俺は教師。しかも半ば強引?にキスするなんて。
「いいよ」
だが湊は笑顔を崩さずに、そう言った。
「嫌じゃなかった。先生だから、いいよ」
「何言ってんだ。そんなのいいわけ−−−」
「いいの。ねぇ、もう一度…」
…なんだと。誘っているのか、俺を?
…いかん、乗ってはいけない。俺は教師だ。そんなこと、してはいけない。
たとえどんなに湊の唇の感触が気持ち良かったとしても、してはいけないんだ。俺は必死にそう自分に言い聞かせ、自制を試みる。
そうしなければ、もう一度口づけてしまいそうだったから。
「…もう帰るぞ」
そう吐き捨てるのが、俺の精一杯だった。
だが今ならはっきりとわかる。俺の、そして湊の人生が変わってしまったのは、紛れもなくこの瞬間なのだと。
GJK
転載
17 名前: 赤と緑と黒の話 第一話 ◆ BaopYMYofQ 2010/04/04(日) 00:02:54 ID:bKoNhfMMO
投稿終了のカキコミをしようとしたら「合言葉はみーライオン」と出て、いくら同意して戻ってもだめでした。
>>704 これはこの先が怖くて素晴らしい
ついでに容量やばいから次スレ立ててくる
さようならPart28
お前だって十分楽しんだだろ?
梅
彼が行方不明になって一週間が経った
携帯は五日前から電源が切れている
が、三日前から家に変な手紙や無言電話が来るようになった
そして昨日あの女が来た
彼と幸せに暮らしていると言っていたが持ってきた彼の手紙は所々赤くなっていた…
震える字体で一行目から逃げてと書かれていたその手紙は何行かあの女に消されているが彼の思いがふんだんに込められていた
あの女に彼の解放を求めたところ
今日……
ドン!
「…やっとビッチを始末できます。待っててくださいね?ふふふふふ…」
多分私の命が尽きるのだろう
彼はあのおんn
, --Λ-- 、__
( > < `ヽ、
,`= ====、_ ) 新スレに移動ですよ〜
/ イ / | 、 , `ヽ_,ノ ヽ,
レ L_/-,_|」Vヽ-,_ヽi ヽ, i _
(`,`(i ,i i''''-,._ L__iノ i// ̄ ` 〜 ´⌒/
イ.i"`´ .i、_ノ´ ,イ // 病み /
(人 i - , _ "" (Y. //─〜 , __ ,─´ , -- 、_
Yイヽ 、_ノ_,,, イノ .//| .|. , -- 、_ i・,、・ /
[>ノイ´ヽ人_, イ(イノ// | | , -- 、._ i・,、・ / ゝ____ノ
(イ/イ イ `−[=//」i_」.」 , -- 、._ i・,、・ / ゝ____ノ ::::'::::'::::
/~<,__三__イ(⌒ヽ, i・,、・ / ゝ____ノ ::::'::::'::::
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