【ベーグル】ブラックラグーンVOL.12【チョコパイ】

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1名無しさん@ピンキー
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【死人と】ブラックラグーンVOL.11【舞踏を】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1256889990/

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【デレデレ】ブラックラグーンVOL.10【子猫ちゃん】
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【銃と】ブラックラグーンVOL.9【弾丸】
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【ずるいぜ】ブラックラグーンVOL.8【まったく】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1203247517/  

【アミーゴ】ブラックラグーンVOL.7【タコス】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1184475016/

【尻か?】ブラックラグーンVOL.6【尻よ
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1173400775/

【今晩はが】ブラックラグーンVOL.5【抜けてるぜ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1167315026/

【言いたく】ブラックラグーンVOL.4【ねェな】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1157639957/

【むしろアニメが】ブラックラグーンVOL.3【ブラクラ】
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1145776198/

【ふたりはブラクラ】ブラックラグーン vol.2
http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1098608817/

ブラックラグーンでハアハア
http://idol.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1067839049/

*保管庫
2chエロパロ板SS保管庫
ttp://sslibrary.gozaru.jp/
ttp://red.ribbon.to/~storage/index.html
2名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:50:13 ID:RiC/t3t1
          _人人人人人人人人人人人人人人人_
         >      ごらんの有様だよ!!!  <
           ̄^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^
_______  _____  _______    ___  _____  _______
ヽ、     _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ 、   ノ    | _,, '-´ ̄ ̄`-ゝ  、  |
  ヽ  r ´           ヽ、ノ     'r ´           ヽ、ノ
   ´/==─-      -─==ヽ   /==─-      -─==ヽ
   /   /   /! i、 iヽ、 ヽ  ヽ / / /,人|  iヽヽ、   ヽ,  、i
  ノ / /   /__,.!/ ヽ|、!__ヽ ヽヽ i ( ! / i ゝ、ヽ、! /_ルヽ、  、 ヽ
/ / /| /(ヒ_]     ヒ_ン i、 Vヽ! ヽ\i (ヒ_]     ヒ_ン ) イヽ、ヽ、_` 、
 ̄/ /iヽ,! '"   ,___,  "' i ヽ|     /ii""  ,___,   "" レ\ ヽ ヽ、
  '´i | |  !    ヽ _ン    ,' |     / 人.   ヽ _ン    | |´/ヽ! ̄
   |/| | ||ヽ、       ,イ|| |    // レヽ、       ,イ| |'V` '
    '"  ''  `ー--一 ´'"  ''   ´    ル` ー--─ ´ レ" |
3名無しさん@ピンキー:2010/02/09(火) 21:51:33 ID:fs4o5pgp
>>1
4名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 09:06:21 ID:JSeofn6O
>>1
乙です
とりあえず、これどうぞ
つ【タマゴサンド&コーヒー】
5名無しさん@ピンキー:2010/02/10(水) 23:33:58 ID:ctYmcwlQ
>>1



つ【免許皆伝スクロール】
6名無しさん@ピンキー:2010/02/11(木) 07:52:22 ID:yy9Wcjix
>>1


つ【たまごかけごはん&味噌汁】
7ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:38:24 ID:XlES7GZa


その日、ロックがラグーン商会に出勤してみると、事務所には先にレヴィが来ていた。
少し早めに着いたからまだ誰もいないだろうと思っていたのに、これは予想外だった。
特にレヴィはいつも始業時間ぎりぎりにやって来る。
「おはよう。今日は早いな」
窓際でこちらに背を向けているレヴィに声をかけると、
「おぅ」
彼女は肩越しに振り返った。
「ロック」
「ん?」
「やる」
レヴィが言うと同時に飛んできた物を、ロックは辛うじて受け止めた。
「――っと! 投げるなよ……。で、なにこれ?」
「開けてみりゃ分かるだろ」
普段のぶっきらぼうに輪をかけた無愛想さだったが、
レヴィが投げて寄越した物は両手に収まるぐらいの小箱で、
落ち着いた茶色の箱にブルーのリボンがかかっている。
どう見ても、贈り物。
ロックは不思議に思いながらも、光沢のあるサテンのリボンを、ゆっくりと引っ張ってほどいた。
そして、蓋を開ける。

「……チョコレート? なんでまた」
小箱の中に行儀良く収まっていたのは、小さなチョコレートたち。
甘いカカオの匂いがほのかに漂う。
チョコレートなど最近とんとお目にかかっていないのに加え、
まさかレヴィから渡されるとは思ってもいなかったので、ロックは首をひねる。
レヴィは、こちらには視線を合わせようともせず、ぞんざいに言った。
「下っ端のあんたにもくれてやるんだ。有り難く思え」
「あー、そういえば今日ってバレンタインデー……?」
遅まきながら本日の日付をカレンダーで確認すると、レヴィが軽く眉を寄せて睨んできた。
「か、勘違いすんなよ。同僚としてのコミュニケーションの円滑化、ってヤツだ」
「はは、義理チョコか。そんなの日本だけの習慣かと思ってたよ」
「フン、じゃなかったら誰があんたになんかやるか」
レヴィは腕を組んで、また、ぷい、とあらぬ方を向いた。
8ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:40:06 ID:XlES7GZa

義理だろうと何だろうと、他ならぬ彼女からの贈り物だ。
ロックはソファーに腰を落ち着け、しげしげとそれ見つめた。
一粒ずつ味が違うのだろう、微妙に茶色の濃さが違ったり、
トッピングや造形が違ったりする端正な粒が並んでいる。
「あれ、これ、フランスのメゾンじゃないか。よく手に入ったな」
一緒に入っていたメゾンの小さなカードには、フランス語。
チョコレートには詳しくなかったが、
そんなロックでも、それが高級なものだということくらいは分かる。
ここタイでは、バンコクの大きなデパートにでも行かないと手に入れることは出来ないだろう。
「あ? 作った野郎のことなんて知るか」
ロックとは少し間を置いてソファーの隣に腰掛けたレヴィが、
煙草を取り出して口にくわえながらボソボソと言った。
「高かったろ」
「覚えてねぇ」
レヴィはまともに取り合おうともせず、ライターで煙草に火をつけた。

ロックは箱の中の一粒をつまみ出し、口に入れる。
すぐに舌の上で溶け出すチョコレートに歯を立てると、
中には外側とは別の、ペースト状のものが入っていた。
ナッツのような味のする、なめらかな舌触り。
甘いことは甘いが、カカオのほろ苦さと混ざって、すぅっと舌の上でなじんでゆく。
後に残るべとついた甘さは無く、意外にすっきりとした後味。

「――うまいよ」
「そりゃ良かったな」
脚を組んでくぐもった返事をするレヴィに、ロックは箱を差し出した。
「レヴィもひとつ、どう?」
「いらねぇ。そんなクソ甘いもん食ってられるか。あたしは酒のがいいね」
レヴィはそっけなく言って、
二本の指で煙草をはさみ、大きく煙を吐き出したかと思うと、腰を上げて行ってしまった。
9ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:41:02 ID:XlES7GZa

「今日は暇だな……」
夕方の事務所に、ロックの呟きが漂った。
その言葉に目線を上げたダッチは、
同じように暇を持て余して映画雑誌を眺めているベニーの方もちらりと見た。
「ちょっと早いが、レヴィが帰ってきたら今日は店じまいとするか」
買い出しに出かけた彼女を手持ちぶさたで待つ男衆に、異論などあるわけがない。
「それはありがたいな。気の利く雇用主で助かる」
ベニーが嬉しそうに雑誌から顔を上げた。
ダッチは片頬でにやりと笑う。
「恋人からのプレゼントまでは用意してやれんがな」
「そいつは世話してもらうまでもないな」
「言うじゃねぇか」
気安く言葉を交わす二人の会話から「プレゼント」の単語が耳に入ってきて、
ロックは不意にちょっとした疑問を思い出した。

「そういえば、ここにも義理チョコの慣習ってあったんだね」
思い出したままにそれを口に出すと、ダッチとベニーが怪訝な顔でロックを見た。
「……?」
「……?」
三人の間に沈黙が落ちる。
「――義理……、チョコ。だと……?」
ダッチがロックを凝視しながら、低い声を絞り出した。
「? 日頃世話になってる仲間とかに渡すアレだよ」
ここではそういう言い方はしないのか、と思って説明を加えると、
ダッチはふいとベニーの方へ視線を戻した。
「……ベニーボーイ、教えてくれ、いつからここにそういう慣習ができた?」
「奇遇だな、ダッチ。僕も今それを君に訊こうとしてたとこだ」
「……え? だってレヴィが――――」
事態がよく飲み込めないままに発したロックの言葉は、ガチャリ、と開いたドアで遮られた。


「帰ったぜー……。――――って、なんだよ。あたしの顔になんかついてるか?」
ドアの陰から現れたのは、大荷物を抱えたレヴィ。
彼女の顔に、三人の男の視線が集中した。
言葉もなく呆けた顔をしてレヴィを凝視する三人に、彼女は訝しげな顔をしてドアを閉める。
レヴィは、それぞれの顔を順繰りにうかがう。
三人に無言でじっと見られたのでは、誰だって良い気分はしない。
レヴィの眉が、顰められた。
そんな彼女の不審に答えたのは、硬直から一番最初に立ち直ったベニーだった。
「…………いや、僕らが知らなかった慣習について、ロックから教えてもらってたとこさ」
普段と変わらない、穏和な口振り。
「…………?」
意味が分からない、とレヴィの眉間の皺が更に深くなり、小首が傾げられた。
そんなレヴィの理解を促すように、ダッチが続いた。
「レヴィ、俺は雇用者同士の仲が良好で嬉しいぜ」
暫くの間。
本当に訳が分からない、という風だったレヴィの顔が、ハッと変わった。
目が大きく見開かれ、見る間に首まで真っ赤になる。
「――――――――!! ロォォォォォォック!!! てめなにぬかした!?」
レヴィは抱えていた荷物を放り出すと、鬼の形相でロックに詰め寄ってきた。
「いやっ、俺は何も――っ!」
真正面から、ぐいと胸元を掴み上げられ、そのまま掌で口を塞がれる。
「ふざけんなクソ馬鹿ロック! それ以上一言でも喋ったら殺す! くたばれこの野郎!」

ぎゅうぎゅう締め上げるレヴィと、目を白黒させるロック。
そんな二人の応酬が、すっかり事情を理解したダッチとベニーを楽しませたことは、言うまでもない。
10ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:41:49 ID:XlES7GZa

 * * *

さて、レヴィがその小さな騒動の元凶となったチョコレートを手に入れるに至ったのは、
今から数日遡ったある日。
レヴィが所用で暴力教会を訪れた時のことである。

「レヴィ」
レヴィが教会の前庭を横切っていると、
礼拝堂の入り口でにやにやと不気味な笑いを浮かべて立っているエダに呼び止められた。
悪い顔だ。
この上なく不吉な顔だ。
この顔を見ただけで、もう悪い予感しかしない。
レヴィの頭の中では、アラームがけたたましく鳴り響いた。
「……んだよ」
警戒感を剥き出しにしたレヴィに、エダは立てた人差し指でちょいちょいと招く。
「いいもんやるよ。ちょっとこっち来い」
レヴィの返事も聞かずに、エダは背中を向けて礼拝堂の中へ歩いていく。
「あー? 何だってんだよ。てめぇがそんな顔してる時は大抵ろくなことねェんだ」
しかし、エダはそんなレヴィの文句など歯牙にもかけない。
「いいからとっととついて来な」
「……ったく――」
甘く見られている、とは思うものの、
あのクソ尼が何を企んでいるのか知るには大人しくついて行くしかない、と諦め、
レヴィはのろのろとエダの後を追った。
11ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:43:15 ID:XlES7GZa

「で? なんだよ」
椅子の背を前にして両腕を乗せ、跨るように座ったレヴィに、
祭壇を挟んで向かい合ったエダは、ずい、と小箱を差し出した。
「これをお前にやる」
「はぁー? なんだこれ」
目の前に出された勢いにつられてつい受け取ってしまった小箱は、
やけに品が良く、ご丁寧につやつやしたリボンまでかかっていた。
「チョコレートだよ。M.O.F賞とったパティシエの逸品だ。特別に仕入れてやった」
頼んだ覚えも無いのに、エダは恩着せがましい。
「なんだ突然。興味ねェよ、んなもん」
「お前の興味なんか関係ねェ。お前がこいつを食うなんざ豚に真珠だ」
「……んだと?」
聞き捨てならないセリフにレヴィは睨みをきかせたが、エダは人の悪い笑みを崩さない。

「おっと、怒るのはまだ早いぜぇ。食うのはロックだ」
「……は?」
予想外の方向に話がずれて、レヴィの寄せられた眉は、一気に開いた。
「だから、お前がこいつをロックにやるんだよ」
「冗談言うな。なんであたしが」
「なぁに言ってんだよぅ、もうすぐ2月14日だろ?」
「2月14日? その日がどうした」
話の流れを理解しないレヴィに苛立ったように、エダはバンと平手で祭壇を叩いた。
「バレンタインデーだろうが! 
お前な、2月14日は『血のバレンタイン』だけの日じゃねーんだぞ」
「バレンタインデーだぁ? はッ! 
アル・カポネがバッグズ・モランの奴等をぶっ殺したか、
出刃亀のじじいがお節介焼いてローマ皇帝にぶっ殺されたか、
どっちにしたって大して変わらねェだろ」
何を言い出すのだこの女は、とレヴィが一蹴しようとすると、
エダは、全く嘆かわしい、といった様子で溜息をついた。
「……お前って奴はどうしてそんなに色気がねェんだ!
世間では、この日は愛の誓いの日ってことになってるはずなんだがねぇ!」
レヴィは耳を疑った。
この女の口から「愛」だの何だの聞く日が来ようとは、露ほども思っていなかった。
寝ぼけた事を言っているのは、エダの方だ。
絶対に、エダの方だ。
レヴィは、フン、と思い切り鼻で笑いとばした。

「だとしたって、あたしに関係あるか。そんなめでてぇお遊びにゃ縁がねェな」
「――ああ、そうだろうよ? お前のは『お遊び』なんかじゃねェんだよな、レヴィ?」
下世話な色を滲ませるエダに、レヴィは更に不愉快な気分になる。
「……ヘイ、エダ。おちょくんのもいい加減にしな。
なんであたしがロックにチョコレートなんかやらなきゃいけねェんだよ!
大体バレンタインなんて、男が女に渡すのが普通だろ!」
女からなんて聞いたことねぇ、と顔を背けて床を睨みつけると、
ヒュウ、とエダの高い口笛が響いた。
「顔が真っ赤だぜ、エテ公。猿のくせに随分乙女思考じゃねェか。あぁん?
――待て! 殴んな、バカ! 誰も、口移しでくれてやれとは言ってねェだろ」
「――ったり前だ!」
今にも祭壇を乗り越えんばかりのレヴィを目の前にしても、
エダは人を小馬鹿にした笑みを引っ込めない。
「良いこと教えてやろうか? 
日本でバレンタインデーといやぁ、女が男にプレゼントを渡すのが普通なんだぜ?
お前、ロックから貰うの悠長に待ってたら、石の下だぞ」
「別に待ってねェよ! いらねェし、やらねえ!」
「あー、もぅ、うるっせェな。叫ぶな黙れ。いいか、重要なのはこっからだぜ。よく聞けよ。
バレンタインデーっつーのは、何も恋人のことで頭が一杯の脳味噌煮えた奴等だけのモンじゃない」
エダは楽しそうに声をひそめる。
サングラスの奥の目が細められた。
12ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:44:21 ID:XlES7GZa

「日本にはな、『義理チョコ』って習慣がある」
「『義理』……?」
聞き慣れない言葉にレヴィが問い返すと、エダはしたり顔で大きく頷いた。
「女が、日頃世話になってる男に感謝の気持ちでチョコレートを渡す、儀礼的虚構だ」
「――なんだそりゃ。暇な奴等だな。理解できねェ」
「……それはまったくだが、てめぇが理解する必要はねェんだよ。ロックはその習慣の中で育った」
「…………」
「それで十分じゃねぇか? ん?」
エダは覗き込むようにレヴィの顔を見る。

「でもよ……」
「だぁーっ、お前ロックにゃいつも世話になってんだろ!?」
「そりゃまぁ、時々は……」
「時々ぃ? 昨夜だって酔っぱらったお前を家まで送ってくれたんだろうが!」
「あれは――」
「あ? 毎日毎日ツルんでてよ、毎晩泊まり合ってるくせに、『時々』だと? 死ね」
「………………毎晩じゃねェよ」
この『尼』とは到底思えぬ女の無駄な目敏さに、レヴィはうめいた。
「んなこたどうでもいい。頻度を訊いてるわけじゃねェんだよ。
お前がどうしても言いたいっつーんなら聞いてやってもいいがよ。ん?
毎晩じゃねェなら週に何回だ? あ? ほれ、言ってみ?
レヴェッカちゃんは何回彼をお部屋に泊めてあげたのかなー? 
お部屋で何してるんですかー? 
お姉さんに教えてごらーん?」
エダは下から覗き込むようにしてレヴィを見上げる。

レヴィの拳はふるふると震えてきた。
腹立たしいことこの上ない。
「……っざッけんじゃねーぞ、エダ! その舌引っこ抜いて鳥に食わせんぞ!」
がたん、と椅子を蹴倒してレヴィは立ち上がったが、
「やかましい。ま、その意気だ。いいな、しっかりやれよ」
一言で切り捨たエダは、椅子から腰を上げて踵を返し、片手をひらひらさせて去って行った。
「……お、おう……」
後には、レヴィのすっかり気勢をそがれた呟きだけが、礼拝堂の中に小さく響いた。
13ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:45:29 ID:XlES7GZa

 * * *

そんなこんなで、レヴィが手に入れたチョコレートは、ロックの元へと渡った。
しかし。

――最悪だ……。
事務所での一騒動の後、逃げるように一人で自分の部屋に帰ってきたレヴィは、
がっくりと盛大な溜息をついた。
ダッチとベニーにバレただけでなく、ロックにも、他の二人に渡してなどいないことがバレた。
せっかく二人がいない時を見計らって上手いこと渡せたと思ったのに。
やはり、事務所で渡すというのは選択を誤っただろうか?
けれど、業務後に改めて呼び止めたり、部屋まで訊ねて行ったりなどしたら、
そちらの方がよっぽど意味深ではないか。
業務後だと、誰かに見られる可能性も高い。
となると、ここはダッチやベニーにも渡しておくべきだったか?
いやいや、あの二人のバレンタインデーに対する認識はアメリカン・スタンダードだ。
チョコレートなぞ渡そうものなら、
にっこり笑ってピンを抜いた手榴弾をプレゼントするより驚かれるに決まっている。
聞かれてもいないのに、「訳ありですよ」と言っているも同然。
それこそ、自ら火をおこして煙を立てるようなものだ。

――チクショウ、どうすりゃ良かったってんだ……。
レヴィはとりあえず椅子に腰を落ち着け、ぐるぐると頭を巡らせたが、今更どうしようもない。
自分が男にプレゼント、しかもバレンタインデーにチョコレートだなど、笑い物もいいところだ。
ロックだって、気楽な儀礼なら笑って受け取れるだろうが、そうではなかったとしたら。
――引く。
自慢ではないが、レヴィは、
その手の贈り物が似合わないことにかけては自分の右に出る女はいない、と思っている。
そんな女から半ば本気で渡されたなどということを知ったら、
太平洋の遙か彼方まで引くに決まっている。
ただの仕事仲間というには、少々一線を踏み越え過ぎてはいるものの、
愛の誓いの日だかなんだか知らないが、バレンタインデーなどというふざけた日に
プレゼントを贈るような間柄ではないのだ、自分達は。
ああ、やっぱりあの腐れ尼の口車などに乗せられるべきではなかった。
きっと、あの悪魔のような女は、ここまで見越して持ち掛けたのに違いない。
なぜあの時、自分は小箱を受け取ってしまったのだろう。
レヴィは、はあぁ、とまた大きく後悔を滲ませた溜息をつくと、目の前の木机に突っ伏した。
14ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:47:15 ID:XlES7GZa

机の上に伸ばした腕に頬をのせ、もう今日は酒でも呑んで寝てしまおうか、
とレヴィが現実逃避に入ろうとした時、部屋のドアがノックされた。
軽く二度、ノックされるその音。
いつもの――、
「……レヴィ? いる?」
ロックの訪問を、告げる音。
普段ならば少なからず心を浮き立たせる音も、今は厄介事が到来した音でしかなかった。
一体ロックは何をしに来たというのだろう。
あのプレゼントの真意を問い質す為か?
レヴィの眉間に皺が寄った。

――どうしよう、何と言って誤魔化す?
しかし、レヴィの動揺した頭に、上手い言い訳は思い浮かばなかった。
再度、ドアが二回、ノックされる。
もう居留守をつかってしまおうか?
レヴィがそう思った時、ドアの外でロックの声がした。
「レヴィ、いるんだろ?」
外は暗く、部屋には明かりがついている。
レヴィが室内にいることなど、一目瞭然だ。
レヴィは口の中で小さく舌打ちすると、諦めて立ち上がり、ドアを開けた。


ドアの向こうには、ほっとしたような顔で微笑するロックがいた。
「なんだよ」
ロックの顔をまともに見られず、レヴィの言葉は必要以上に無愛想なものとなった。
「あの、ちょっとレヴィに用があって。……入っても、いいかな」
廊下に筒抜けのまま話をするわけにもいかない。
レヴィは身体を引いて彼を招き入れた。
扉を閉め、さてどうしようか、とレヴィが視線をさまよわせていると、ロックが先んじた。
「あのさ、さっきのチョコレートだけど――」
「あー! あれな!」
やはりそれか、とレヴィは慌ててロックの言葉を上から塗りつぶした。
「ま、あれは、なんだ、忘れろ! 大した意味はねェから! 
その、たまたまあたしの手に渡ってきたんだけどよ、あたしはチョコレートとか食わねぇから、さ!」

「レヴィ」
やけに静かな声が、レヴィの上から降ってきた。
「なんで、『忘れろ』なんだよ」
「それは――」
「俺は、お礼を言いに来たんだけど」
瞬間的に頬が熱くなって、レヴィは顔を上げられなくなった。
「さっき、ちゃんとお礼言ってなかったから」
――ありがとう。
穏やかな声が落ちてきて、ロックの掌がレヴィの頭にのせられた。
礼を言われるのは、慣れていない。
何と返していいのか分からず、レヴィは無言で小刻みに二度、頷いた。
15ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:48:08 ID:XlES7GZa

「あと――レヴィは、チョコレート、嫌い?」
不意にロックの声の調子が変わって、いつもの気安いものとなったが、
質問の意図が掴めずにレヴィは首を捻った。
チョコレートなど特に好きでもないが、積極的に「嫌い」という程でもない。
「いや、俺もチョコレートはあんまり食べなかったんだけど、さ……」
ロックは、手に持っていた大きめの紙袋をごそごそとまさぐって、
今朝レヴィが渡した小箱を取り出した。
「これ、うまかったから。レヴィが嫌いじゃなければ、一緒に食べようと思って」
レヴィがもう二度と見たくもないと思った茶色い箱を、ロックは開ける。
「レヴィ、これ、食べたことある?」
「ねぇよ、んなもん。あたしはハーシーズ止まりだ」
チョコレートといえば、子供の頃、中にねっとりとしたヌガーが入ったような、
喉が焼ける程に甘いものしか食べたことが無かった。
「俺も無かった。甘い物はそんなに得意じゃないんだ。でもこれは、ほんとにうまいと思ったから。
うまいものは、一人で食べるより二人で味わった方が、よりうまいだろ?」
そう言って、ロックは箱を差し出す。

そんなに言うのなら、とレヴィは小さな粒のひとつに指を伸ばし、つまみ上げた。
指先の温度ですぐに溶けそうなそれを、口へと運ぶ。
チョコレートは、舌に触れた途端、とろりと溶けだした。
驚くほどなめらかな舌触り。
深いカカオの味がレヴィの口の中に広がった。
昔、臭く汚い路地裏で、
ただエネルギーを補給するためだけに口にしたものと同じ種類の菓子だとは思えなかった。
「どう?」
「――悪くねェな」
口の中にチョコレートを入れたままレヴィが肩をすくめてみせると、ロックは満足そうに頷いた。
16ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:49:25 ID:XlES7GZa

そして、
「味見」
そう言ったかと思うと、ロックは片手でレヴィの顎をとらえ、唇を重ねた。
レヴィの唇の隙間から入り込んできた舌は、表面が溶けて角のとれたチョコレートに寄せられた。
二人分の熱に絡め取られたチョコレートは、いっそう柔らかにとろけていった。
二人の舌に、ほろ苦いカカオが甘く絡まる。
チョコレートのかたまりが、急速に小さくなっていった。
レヴィの舌の上で溶けて液体となったチョコレートを絡め取ると、ロックは舌を引き抜いた。
片手に持っていた小箱を、側にあったテーブルの上へ置く。
それから、ゆるりとレヴィの腰に両手をまわし、レヴィの耳元で低く言った。
「噛んで」
多分、中身は外側と味が違うと思うから。
レヴィが口の中のかたまりに歯を立てると、確かに、ロックの言った通り、内側からは別の味がした。
「何の味だった?」
「……ラム・レーズン」
「へえ?」
「――確かめる、か?」

ロックは頷くより先に、また唇を寄せた。
カカオにラム・レーズンの味が混ざったレヴィの口腔内に、ロックの舌が滑りこんでくる。
小さなふたつのかたまりになっていたチョコレートが、ロックの舌で転がされた。
さっきまで小箱の中でつめたく並んでいた粒はなめらかに溶けて、
その容積のほとんどが液体に変わろうとしていた。
溶けたチョコレートに二人分の唾液が混ざって唇から零れそうになり、
レヴィは慌ててそのあたたかな液体を飲み込んだ。
ロックは、豆粒ほどに小さくなったふたつのかたまりの内のひとつを、舌でさらっていった。
残りのひとつは、自分の熱だけで溶かした。
二人で溶かすのに比べ、随分と減り方が遅いと思った。

口の中のかたまりが全て消えた頃、ロックが言った。
「――やっぱり、」
レヴィが見上げると、満足そうな笑顔にぶつかった。
「二人で味わった方が、うまい」
邪気の無い顔で言われ、レヴィは目を逸らした。
このプレゼントは一体どういうつもりだったのだと問い詰められるのも勘弁願いたいが、
こんなことを言われるのもまた、尻の座りが悪い。
結局、ロックはこのチョコレートを迷惑がっているわけではないと思って良いのだろうか、
と考えていると、ロックは「あ、そうだ」と言って、緩やかにレヴィを囲んでいた腕をといた。
危うく忘れるとこだった、と言いながら、ロックは小箱を入れてきた紙袋にまた手を突っ込んだ。
「これ――」
出てきたものを見て、レヴィはぽかんと口を開けた。
これは――。
今ここでシルクハットから鳩を出されたって、こんなに呆気にとられたりはしなかっただろう。
レヴィはまばたきを繰り返した。

何度見ても、ロックの指の間にあるのは、一本の、薔薇の花。
深紅の、薔薇の花。
17ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:50:51 ID:XlES7GZa

「――誰からもらった?」
レヴィの口をついて出たのは、そんな一言。
ロックはいささかムッとした表情で、レヴィに向かって薔薇を差し出した。
「いや、……レヴィに」
思わずレヴィは一歩下がった。

――何だこれは何だこれは何だこれは!

こんな事態は、まるっきり想定外だった。
――日本じゃ、男が女に贈る習慣なんか無かったんじゃねェのかよ! エダの馬鹿野郎!
レヴィの混乱した頭は、エダへの八つ当たりとも言える恨み言で埋め尽くされる。
――ふざけんな、あのクソビッチ、いい加減なこと言いやがって! 死ね!
頭の中で、エダ本人が聞いたら憤慨すること間違いなしのお門違いな罵倒を浴びせ、
ちらりとロックをうかがうと、彼もまた、居心地の悪そうな顔をしていた。
「――んだよ、リチャード・ギア気取りかよ」
やけに頬が熱いのを忌々しく思いながらレヴィがうつむくと、
ロックは弱々しく溜息をついた。
「言うなよ。……似合わないってことは俺が一番よく分かってる。
日本じゃ、バレンタインデーに男が女にプレゼント渡す習慣なんか無いんだから」
言い訳がましく、ロックは続ける。
よく見ると、ロックの顔も赤い。
これはこれで、ロックの方が気恥ずかしいのかもしれない。
そう思うと、レヴィの心には少しの余裕が生まれた。


差し出されていた深紅の薔薇を、レヴィは受け取った。
幾重にも重なり合ったビロードのような花びらは、まだ開ききってはおらず、
七分咲きといったところだった。
外側の花びらはゆるやかなカーブを描いていて、縁のあたりはくるりと外側にめくれている。
内側は、薄く繊細な花びらが螺旋を描くようにすぼまっていた。
「棘があるから、気をつけて」
ロックが言った通り、薔薇には固くて丈夫な棘が残っていた。
「見りゃ分かる」
しかし、茎は太くしっかりしているし、
茎から枝分かれするように伸びている葉もぴんと張ってみずみずしい。
見るからに高級そうな薔薇だった。
そっと花に顔を寄せると、ふわりと良い香りがした。

「……匂い、する?」
「ああ、するな」
これが薔薇というものの匂いか、そういえばちゃんと嗅いだことなど一度も無かった、
と思っていると、ロックの手が、薔薇を持ったレヴィの手に重なった。
そして、自分の顔も近づけてくる。
目を瞑ったロックが、空気を吸い込んだのが分かった。

「どうだ? するだろ?」
「あぁ、する。……好きだよ。――この、匂い」
至近距離で、ロックとレヴィの目が合った。
「……あたしも、好きだ。――この、匂い」
ロックがかすかに笑う。
「気が合うな」
「だな」
18ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/13(土) 21:52:22 ID:XlES7GZa

「――で? 薔薇を持ってやってきた尋ね人の頼み事は何だ?」
似合わないプレゼントの空気が気詰まりになってレヴィが言うと、
ロックは心得たとばかりにくすりと笑った。
「『この薔薇を差し上げる代わりに、一晩泊めて頂けませんか?』」
薄汚く狭苦しいこの部屋。
それでもここはレヴィの唯一の『お城』に違い無かった。
「断ると、野獣にされんだろ?」
「……そうだな」
「――じゃあ、断れねェな」
ゆっくりと、レヴィの腰にまわされたロックの片腕に、力がこもった。
二人の手の中には薔薇の花。
これ以上胸を寄せ合うと、つぶれてしまう。
レヴィが薔薇の花に目を落とすと、
ロックは重ねていた手をずらし、レヴィの指から薔薇の茎を引き抜いていった。
そして、テーブルにのせてあった小箱の隣に、そっと置く。

両手を空けたロックは、今度は気兼ねなく、ぴったりとレヴィを抱きしめた。
「随分と話の分かる王子様だな」
身体を密着させたレヴィの頭のすぐ斜め上から、ロックの声が響いた。
「――野獣にされんのは、ごめんだからな」
レヴィはロックの首もとに顔を埋め、さらさらとしたワイシャツの布地越しに言った。
ロックがくつくつと小さく笑う。
「レヴィはすでに、『美女で野獣』だけどね」
ロックの胸が可笑しそうに震えるのが、触れ合ったところからレヴィに伝わってきた。
「……誰が、野獣だって?」
レヴィは身体を起こすやいなやロックの腕を掴み、すぐ側にあったベッドの方に一歩踏み出して、
そのまま体重をかけてロックを押し倒した。

――あたしの狭い『お城』は勝手が良い。

そう思いながら、レヴィはベッドに横たわるロックの腹の上に跨って、見下ろした。



19名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 22:21:00 ID:kCsoEE/X
GJ!

というわけで岡島さんが野獣になるんですね、わかりますw
20名無しさん@ピンキー:2010/02/13(土) 22:54:05 ID:26ubD1Hq
ああ、前回のエダ視点と話がリンクしてんのね。
なんていい奴なんだ、CIAのくせに。

このエダ姉さんだったら抱かれてもいいぞ(ぉ
21ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 20:58:46 ID:EF6/Dsh7

 * * *

あ、と思った時にはロックの視界は反転していて、背中に薄いマットレスの感触。
腹の上には、やけに物騒な薄笑いを浮かべる、美しい危険物。
「レヴィ、靴――」
片足はまだベッドの外だったが、勢いよく倒れ込んだせいで、
ロックのもう一方の足はベッドの上に乗ってしまっていた。
ロックに跨ったレヴィの両脚も、コンバット・ブーツを履いたままだ。

「黙れ」
レヴィは正確にマウントを取ってロックの動きを封じると、
自分の履いていたコンバット・ブーツを手荒く脱ぎ、床へ放った。
それからロックの革靴も脱がせ、他人の靴に対する仕打ちとは思えぬ乱暴さで放り投げた。
ベッドの外にあったロックの片足もベッドの上に引きあげさせると、
レヴィはロックに跨ったまま、後ろでひとつに結んでいた髪を、勢いよく片手でといた。
それと同時に振られた首につられ、ばさっ、と長い髪が広がった。

そして、短いタンクトップの裾に両手をかけると、一気に上までたくしあげた。
縦に一本、すうっと割れた見事な腹筋。
腕が上げられたせいで浮き上がった肋骨。
細く硬い肋骨とは対照的に、その上で震える柔らかな乳白色のふくらみ。
彼女の右半身に絡みつく茨のような黒いタトゥーも、その全貌を明らかにした。

レヴィはタンクトップを脱ぎ捨てると、今度はロックのネクタイに指をかけた。
獲物に狙いを定めたような目で、ロックを見据えながら。
爛々と輝くレヴィの瞳は、琥珀を通り越して金色がかって見えた。
レヴィによってネクタイをほどかれ、するするとワイシャツのボタンを外される間も、
彼女の金茶の瞳に射すくめられてしまったかのように、ロックは何も出来なかった。

スラックスの中からワイシャツの裾を引きずり出して、全部ボタンを外したレヴィは、
ロックのベルトに手を伸ばしてきた。
柔らかな尻に腰を圧迫されて、ロックの身体の中心はとっくに熱く疼いていた。
カチャカチャという金属が触れ合う音にも、必要以上に反応してしまう。
レヴィは体重をかけていた腰を上げ、スラックスの前ボタンを外してジッパーを下ろすと、
今度は片手をロックの肩口について、押さえつけた。
向かい合った顔と顔が近い。

ロックの腰は自由になった。
しかし、スラックスの中に滑りこんできたレヴィのひんやりした手が焦らすように絡みついてきて、
思わず腰が震えた。
その震えが伝わったのか、それとも顔にまで出てしまったのか、
ロックの様子を感じ取ったらしいレヴィは嗜虐的な笑みを浮かべると、更に手の圧力を強めてきた。
こすり、撫であげ、かと思うと、ここがいいのだろう? 
というように、ロックの目をじっと見ながらわざと指先で軽くなぞる。


――このままだと、ヤバい。
何も出来ずに終わりそうな気配がして、ロックは押さえつけられていない方の腕を伸ばし、
レヴィの顔の脇で垂れ下がっていた長い髪をかきあげた。
その手に、レヴィが一瞬気を取られた気配がした。
それに乗じて、ロックは髪の中を伝って後頭部まで滑らせた手で、レヴィを引き寄せた。
唇が重なるまで、強く。
22ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 20:59:53 ID:EF6/Dsh7

レヴィの目が一瞬慌てて、スラックスの中にあった手は離れ、ロックの腹の脇に付かれた。
今、レヴィの上半身を支えているのは、ロックの肩とベッドに付いた二本の腕だけだった。
それならば、もう全部の体重をこちらにかけてしまえばいい。
そう思って、ロックは両の手でレヴィを引き寄せたが、レヴィは頑として身体を預けてはこなかった。
意地になったように、腕に力が入った。
――なんでそこで頑張るんだ。
おとなしくしなだれかかってくればいいものを、とも思うが、
そうやって意地になってこそレヴィという女だという気がして、むしろ微笑ましい気分になった。
ロックは更に引き寄せる腕に力をこめる。

すると、レヴィは重なっていた唇を引きはがして、大きく息をついてから、言った。
「あんま引っ張んな、バカ。疲れんだろ」
レヴィは、不安定な位置で支えていた両手を移動させて、ロックの両脇で肘を付く格好になった。
「いや、疲れないように、こっちに全部体重かけていいよ」
「何言ってんだ、ボケ。んなことしたら潰れんだろ」
「潰れないよ、失敬な」
「どうだか」
レヴィは、フン、と半分小馬鹿にした調子で笑う。
ロックにだって男の自尊心というものがある。
ぐい、と先程よりも力を入れて、半ば無理矢理レヴィを引き寄せた。
今度は、胸と胸が合った。
「レヴィ一人分の体重くらい、全く平気だよ」
胸でレヴィの柔らかさを感じながら言うと、
「ハッ、強がりやがって。
あたしは伊達に鍛えてねェよ。あんたと腕立て勝負したら、勝つのはあたしだぜ」
そう、耳の側で言い返された。
「いや、それはそうかもしれないけど……」

確かに、それはかなり信憑性のある言葉だ。
彼女と腕立て勝負をして勝つ自信は無い。
「無い」と言い切らざるをえないのがまた悲しいところだが。
しかし、なぜここで「勝負」なのだ。
そういう話じゃないのではないか。
「それとこれとは、また別だろ」
ほら、まだ腕に力が入ってる、と指摘すると、レヴィは力ずくで上半身を少し上げた。
「いいから、黙れ」
そして、唇を塞がれた。

舌を触れ合わせながら、ロックは、今、一瞬見えたレヴィの表情を頭の中で反芻した。
ちょっと拗ねたような、間が悪そうな、薄く染まった顔。
もしかしたら彼女は、とても照れくさいのかもしれない。
そう思うと、いとおしい想いがつのった。
23ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:02:32 ID:EF6/Dsh7

いつも自分がしているように、ベッドに付いた両肘で体重を支えるレヴィを、
無理に引き寄せるのはやめにした。
代わりに、口づけを交わしながら彼女の体をなぞる。
片手は喉元を包み込んでから、ゆっくりと下げる。
指先に鎖骨の出っ張りを感じながら、胸元へ。
すぐに、しっとりとしたふくらみにゆきあたる。
温かくやわらかなそれは、仰向けになった時よりも溢れるばかりにロックの掌を満たし、
少しの力でかたちを変え、指を沈み込ませる。
それだけで心臓が速くなった。
もう片方の手を伸ばしたレヴィの背中では、肩胛骨が指で掴める程に浮いていた。
背中の真ん中で縦に割れた背筋、その下にある背骨を確かめるように撫で下ろす。
腰の近くにたどり着いたとき、レヴィの背中がぴくりと小さく反った。

くすぐったいのだ。
脇腹や背中を触れるか触れないかの力で撫でると、レヴィは決まって身を竦める。
いつだったか、それがあまりに可愛らしかったのでしつこく絡んだら、本気で両手を拘束された。
あの時の二の舞はごめんなので、ロックはあっさりとそこを通り過ぎ、
くっと締まった腰を経て、レヴィのホットパンツの中へ手を差し入れた。
ウエストはゆるゆる、ベルトもサイズの合わないまま飾りのように巻いているだけなので、
ロックの手は難なくホットパンツの隙間から入っていった。
下着越しに丸い輪郭を確かめてから、薄い布の下に手を差し込み、素肌を掌で包み込む。
吸い付くような、脂肪よりしっかりと手応えのある、それでいて柔らかな感触。
筋肉の上に薄く脂肪がのっているのか、
それとも女の筋肉というのはこんなにも柔らかいものなのか、
ロックにはよく分からないが、滑らかでほんの少し冷たい手触りは、最高に心地よかった。

レヴィの手も、ロックのスラックスをくつろげにかかっている。
主導権を握られる前に、ロックは彼女のホットパンツを下げようとした。
唇をつなげたまま、ベルトの留め金に手をやって、外す。
外し慣れたそれは、本当に、目を瞑っていても外すことができた。
レヴィのホットパンツを下げると、レヴィも、ロックのスラックスのウエストに手をかけた。
ロックは腰を浮かせたが、そこから先は、唇を重ねたままでは互いに腕が届かない。
名残惜しく唇を離し、それぞれ自分ではいていたものを脱いで、ベッドの外に追いやった。


下着一枚になったレヴィに薄布の上から触れると、レヴィもまた、下着越しにロックに触れてきた。
レヴィの丸い尻を片手で包み込み、そのふたつの丸みの隙間に指を落とす。
後ろから探れば、湿った布の感触。
布の上から柔らかい粘膜に指を押しつけると、じわりと湿り気が広がった。
指先で小さく円を描くように動かすと、次第に布がぬるりと滑ってくる。
彼女の身体が、腰を中心に小さく波うった。

レヴィの手は、煽るように下から輪郭をなぞり上げてくる。
ますます血液の流れが速くなって、集中する。
レヴィは、まるであやすように刺激してきた。
指がまとわりつき、揉み込むように圧力を加えられると、ふわりと意識が浮いた。
薄い布越しであっても分かる。
お互いもう準備が出来ていることは明白だった。

レヴィの腹の方から手を差し込むと、レヴィの手もロックの下着の中に入ってきた。
レヴィの手はしなやかに絡みついてきてロックを煽ったが、
彼女のあたたかな体液で濡れた指をとろかすように上下させると、一瞬、手の動きを止めた。
ロックの方も、彼女の指の腹で一番敏感な先端近くを擦られると
簡単に意識が自分の指から離れそうになるので、お互い様ではあったが。
24ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:05:23 ID:EF6/Dsh7

下着を脱がせ合い、前をはだけたのみでまだ袖を通していたワイシャツを脱ぐと、
ロックは避妊具に手を伸ばした。
正方形の薄い包みの封を切ろうとすると、レヴィの指がそれを掠め取っていった。
「貸せ」
ロックの腰の上に乗ったレヴィは、たった今ロックから奪った小さな包みを手に、にやりと笑った。
そして、包みの端に歯を立てると、鋭く頭を振って封を開けた。
反動で、髪がさらりと舞った。
レヴィは中身を取り出すと、二本の指で先端をつまんで、ロックに被せていった。
あの、狩をするような金茶の瞳でロックをひたと見据えながら。
輪を作ったレヴィの指が、徐々に下がってゆく。
わざと、ゆっくりと。
今、お前はこんなにも臨戦態勢なのだと、この先待っているお楽しみの為の準備をしているのだと、
じっくりとロックに確認させるように。
必要な事だからしている。
別に気まずくなる必要などどこにも無いのだが、
それでもこうまじまじと見られたのでは何となく身の置き場が無い。
そんなロックの心の中を覗き込むように、レヴィは愉悦を滲ませた瞳で、ロックを見た。


全ての準備が整うと、レヴィは自ら溶けた入り口にロックをあてがった。
そして、身を沈める。
あたたかく、同時にぴったりと締めつける粘膜に包まれてゆく。
レヴィの頭が息を詰めるように項垂れたが、
全部おさめきってから上げられた顔は獰猛に美しかった。

どうして欲しい?
レヴィはそう目で訊いて、ロックの顔を射るように見ながら、わずかに腰を揺らす。
ぎゅっと強く締めつけられたまま動かされて、揺らぎそれ自体は些細なものであったのに、
ロックの腰は馬鹿正直にもっと欲しいと求め出した。
レヴィの腰を支える手も、汗ばんでいる。
レヴィはそんなロックの望みを読みとって、承知した、とばかりに腰の動きを大きくした。
きつく、きつく、締め上げながら、上下に動く。
抑えきれないロックの腰の動きに合わせて。
ぎりぎりまで引き抜かれて、そこからまた深く落とされる度、ロックの熱は高まる。
もっと強い刺激を求めて、腰が速まっていった。
ロックの胸に両手を付いたレヴィの髪が揺れる。
タトゥーが絡みついた肩にぎゅっと力が入って、短く息が吐き出された。
伏せた睫が頬に影を落とす。

息をつめたレヴィの眉が、ほんの少し苦しげに歪んで、ロックは慌てて腰の動きをゆるめた。
しかし、レヴィは睨むように強い視線を寄越してから身体を起こすと、片腕を後ろ手に付いた。
ちょうど、ロックの太ももを押さえつけるように。
身体を反らせるような姿勢になって、またレヴィは動きを開始した。
じわじわと腰を浮かせて、ゆるやかに沈める。
何度も繰り返すうちに、段々とその間隔が短くなっていった。
レヴィの豊かな乳房も、一緒にやわらかく揺れる。
力の入った腹筋は硬く締まっている。
目線を下にずらせば、二人が繋がったところが見えた。

今、レヴィと繋がっている。
そんなことは薄いラテックス越しでも感じる熱とうごめきで分かっているのだが、
こうして視覚的に、自分の一部が今まさにレヴィの体内に取り込まれているのだと突き付けられると、
それだけで更に熱く身体の芯が昇ぶっていった。
脳髄が、絞り取られる。
思わず眉を寄せたロックの顔を認めたレヴィは、満足そうに唇の端を歪めて、笑った。
そしてまた、ロックの動きに合わせながら、強く締めつけた。
25ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:06:28 ID:EF6/Dsh7

ともすると、このまま勢いにまかせて突き上げ、果てまで流されてしまいたくなる衝動に、
ロックは無理矢理待ったをかけた。
今のレヴィは、自分の快楽など後回しだ。
声ひとつ上げず、唇だけを歪めて薄く笑い、目を細めて硬質な瞳でロックを鋭く見据える。
それは確かにぞっとするほど美しくはあったが、どこかよそよそしかった。

本当に感じている時のレヴィは、こんな顔はしない。
眉は時折きゅっと寄せられ、吐息が鼓膜を震わせる程に荒くなった時、
身体の奥がきしんだように、はかなく掠れた声を漏らす。
行為の最中は瞑られていることの方が多い瞳は、ふいに瞼が上がった時には水っぽく揺れている。
それに、繋がったところだって、いつもだったらもっと、とろけるようにやわらかい。
二人の境界線が無くなって、本当に溶けてしまったのではないかと思えるぐらい。

こんな風に終始きつく締めつけてくるのは、彼女の冷静な作為だ。
彼女自身が良くてそうしているわけでは、ない。
その証拠に、レヴィはさっきから律儀なまでにロックの動きに合わせている。
肌だって、常ほど熱くなってはいない。
もっとしっとり汗ばんで、
彼女の身体の奥から湧き出る熱によって、その肌が薄紅色に染まるところを見たかった。

「レヴィ、もう、いい」
ロックは上半身を起こして、レヴィを抱きしめた。
レヴィから与えられた快楽は強烈だったが、せっかく二人で交わっているのだ。
「ひとりで無理しなくていい」
言って、彼女を押し倒す。

もっと、溶け合いたかった。

26ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:08:15 ID:EF6/Dsh7

 * * *

「もう、いい」
そう言われた時、レヴィの背中はひやりとした。
何か間違えただろうか、『良く』なかっただろうか、そう思った。

けれど、
「無理しなくていい」
その言葉に、ああ、『良く』なかったわけではないのだ、という安堵感と、
結局この男には本当のところを全て見透かされていたのだ、
という悔しさ、それに羞恥心が同時に沸き上がった。
「別に、無理なんかしてねェ、よ――っ」
背中をシーツに押しつけられながら、レヴィは言った。

嘘ではなかった。
ロックが自分の挙動によって、眉を寄せたり、息を飲んだり、
身体を熱くさせたりするのを見ることは、レヴィにとって大変な至福だった。
それに、いつもロックは何もかもお見通しだというように、気付けば主導権を握っている。
レヴィの胸中を、まるで実際に見えているかのようにすくい上げ、的確に煽ってくる。
決まってロックにペースを作られ、追い立てられ、冷静さを失った顔を見せるのはレヴィの方なのだ。
だから、たまにはこの男に、余裕の無い表情をさせてみたかった。

だが、
「本当に?」
上から覆い被さるように深く貫かれ、内側も外側も強く圧迫されると、
埋み火のように穏やかだった熱は、一気に燃え上がった。
さっきまで意のままだった全身の筋肉が、一瞬で、統制不可能になる。
「――――っ!」
口を開いたら言葉にならない声が出てしまいそうで、レヴィはそれ以上反論することは出来なかった。
「レヴィも、一緒に――」
深く繋がったまま、更に奥を突いてくるロックの言葉は、そこで途切れた。
やはりお見通しなのか、とレヴィはバツの悪さを感じたが、
それよりも、いかにもこの男らしい気のまわし方が、くすぐったかった。

――一緒、に。

レヴィの高められた熱は、もう体内だけには留まっていられず、
火照りとなって、ぬるい液体となって、身体の外まで溢れていた。
ロックの腰の動きは段々と大きくなり、レヴィの身体からしみ出た粘液が、
その動きをなめらかにしていた。
もう、息が上がっていて、迂闊に喋ることなど出来ない。
しかし、レヴィは細心の注意を払って、腹筋に力をこめた。

「うまいもの、は、二人で、味わった方、が、いい。――か?」

唇の端で笑ってやると、ロックは動きを止めて、一瞬ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしたが、
すぐに相好を崩した。

「――その通り」
そう言って、笑った。
27ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:08:39 ID:EF6/Dsh7

そこから先は、下らないお喋りなどをしている余裕は無かった。
互いに、追い立て、追い立てられ。
相手の呼吸を読んで、それに合わせ。
吐息。鼓動。脈動。体温。粘膜。視線。輪郭。
すべてが混ざり合って、溶け合った。

確かに、二人一緒でないと、たどり着けない場所があるのかもしれない――。
レヴィがそう思ったのは、白い頂点を見て、そこからゆらゆらと舞い戻ってきた時のこと。

しかし、その後すぐに、レヴィは深い眠りの中へと引きずり込まれていった。

28ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:10:30 ID:EF6/Dsh7

 * * *

レヴィの意識がおぼろげに覚醒して、ゆっくり瞼を上げてみると、部屋の中は暗かった。
隣には、静かに寝息をたてているロック。
霞む目で時計を確認すると、まだ零時をまわってはいなかった。
気を失ったかのようにすとんと深く眠ってしまった気がしたが、
あれからそれほど時間は経っていないようだった。
身体は気怠いし、眠気が全身にまとわりついている。
いつもだったら朝まで一度も目覚めることなく眠りを貪っているところなのに、
なぜ今日に限って、とぼんやりする頭でレヴィは考える。

そう、何か、ひっかかっていた。
何か、気に掛かることがあって――。
「!」
その、気に掛かっていたこと、が急に頭の中で像を結んで、レヴィはがばっと起き上がった。

――薔薇!

ロックに貰った、薔薇。
テーブルの上に置きっぱなしだったのだ。
早く水につけてやらないと、と頭の片隅をかすめたのに、そのままだった。


レヴィは、そろりとベッドを抜け出した。
さすがに夜になると肌寒い。
素っ裸で歩き回る気にはなれない。
しかし、ちゃんと服を着込むのも面倒だ。
そう思ってあたりを見回すと、ロックの白いワイシャツが目に留まった。
これなら、さっと羽織れて丁度だ、とレヴィは勝手に拝借することにした。
今まで散々「いつまでそんなもん着てんだ」「目障りだ」「ダセェ」と馬鹿にし尽くしていたので、
こんなところを見られたら何を言われるか分かったものではないが、
ありがたいことに今、本人は夢の中だ。
レヴィが袖に腕を通すと、思ったよりもそれは大きく、
肩は余るし、半袖なのに肘のあたりまですっぽりと隠れる。
特に鍛えてもいないくせに、と何となく面白くない気分になったが、
太ももが隠れるぐらいの丈は具合が良いと思い直し、
レヴィはひたひたと薔薇の置いてあるテーブルに歩み寄った。

ひっそりと横たわる薔薇を取り上げて、ためつすがめつしてみると、
まだしおれている気配は無かった。
きっと、ロックはここに来る直前に買ったのだろう。
ラッピングはされていないが、根本に水分を含ませた小さな布が巻き付いて固定されている。
そのおかげもあるのかもしれない。
レヴィは水にさそうとキッチンへと向かったが、ふと、花瓶が無いことに思い当たった。
花など買ったことも貰ったことも無いので、そんな気の利いたものがこの部屋にあるわけがない。
何か代わりになるようなものは無いかと考えるが、
背の高いグラスは無いし、ペットボトルというのもあんまりだ。

その時、キッチンの隅にハイネケンの空き瓶があるのが目に入った。
レヴィはその瓶を取り上げ、軽くゆすいでから水を満たした。
そして、薔薇の根本の布を取り払って、水をはった瓶の中にさし込む。
空き瓶が花瓶代わりとは少々不格好だが、とりあえずはこれで良しとすることにして、
レヴィは薔薇をさしたハイネケンの瓶をテレビの横に置いた。
29ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:12:18 ID:EF6/Dsh7

ほのかに差し込む月明かりでは、薔薇本来の色は分からない。
だが、レヴィの脳裏には、先ほど灯りの下で見た鮮やかな深紅が焼き付いていた。
それに、この頼りない光であっても、きめ細かくしっとりとした花びらの質感は充分に分かる。
闇に沈むと、深い香りが更に匂い立つようだった。

この花びらに触れたら、どんなになめらかだろう――。
指を伸ばして、しかしレヴィは寸前で思いとどまった。
自分が触ったら、枯れてしまう。
そんな気がした。

行き場を無くした手で、とりあえず、棘をなぞってみた。
固く、鋭く尖った棘。
――あたしには、これぐらいがお似合いだ。
レヴィは片頬で声もなく笑った。
そう、全く似合わない。
こんなお上品な薔薇をレヴィが貰うのも、ロックがかしこまった様子で渡すのも。
先程ロックが見せた居心地の悪そうな顔を思い出し、自然とレヴィの頬は緩んだ。
それに、レヴィがチョコレートを渡すのだって。
お互い似合わないプレゼントを贈り合って、普通の恋人の真似事めいたことをして。
まったく滑稽なことだ、とレヴィは思った。
けれど、悪い気はしなかった。
なんなら、――――嬉しい、と。言っても良かった。


場違いな暗がりで咲く薔薇を見ながら、レヴィは思う。
明日あたり、マーケットにでも行って、花瓶を買って来るのもいいかもしれない。
シンプルな、ガラスで出来た細身のもの。
どうせ今回一回限りだ。
大袈裟なものでなくて良い。

――一回限り。

それしか使われないなんて、花瓶としてみれば自らの不運を嘆いてもいいところだが、
それでも、誰かから「嬉しい」と思える贈り物を貰うなど、レヴィは初めてのことだったのだ。
施しでも、哀れみでもなく。
今回のものだって、イレギュラーが重なった末の出来事だということは分かっているが。
多分、そんなプレゼントは最初で最後。
――そんなことは分かっている。
だからこそ、ちゃんと、贈り物は贈り物らしく扱ってやるべきだと、レヴィは思った。

こんな事でおめでたく浮かれているなんて、
他の誰かに知られたら、明日ロアナプラに核爆弾が落ちてくると言うより仰天されるに違いない。
レヴィ自身、自分の脳味噌がすべてヌガーにでもなってしまったのではないかと思う。


けれど、まぁ、いいか、とも思う。
薔薇の花の下でのことは、全部『秘密』になるのだから。

お伽噺のように、『真実の愛』とやらは望まない。
その前に、この薔薇は枯れるだろう。
でも、こうして、ただ見ているぐらいは、許されるはずだ。


レヴィは、飽かず、薔薇の花を見つめ続けた。

30ロック×レヴィ バレンタイン  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/14(日) 21:13:26 ID:EF6/Dsh7

そんな、男物のワイシャツを羽織り、裾からしなやかな脚を伸ばして
月明かりに照らされながら佇む女の後ろ姿を、ベッドからそっと見守る男がいたことなど、
彼女は知らない。



"under the rose"

すべては、薔薇の花の下の『秘密』にて――。





31名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 21:42:26 ID:gLJOw2d+
うおおお、続きキター!
GJGJGGJ!
32名無しさん@ピンキー:2010/02/14(日) 22:00:08 ID:gq8n62gQ
毎回GJ過ぎる!
33名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 00:30:31 ID:1LinON0S
you are the best!
34名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 08:28:04 ID:Pf+ccEVa
神だ!神すぎる!!!
35名無しさん@ピンキー:2010/02/15(月) 20:36:55 ID:Dhd+aUrO
たまらんGJ(´Д`*)GJ
36名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 09:28:22 ID:quDMwx5P
GJ!これはいいバレンタインプレゼント。

美女で野獣とか誰うまw
野獣の筈がぬっこぬこにされた訳だが。
そういや今年は虎年レヴィ年…

レヴィたんは赤い花似合うと思います。
37 [―{}@{}@{}-] 名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 11:56:08 ID:lrTJWXI6
超GJ
おかげで今年のバレンタインは乗り切れそうだ
38名無しさん@ピンキー:2010/02/16(火) 12:41:04 ID:vk5sulOM
ロックがレヴィの山桜たらんことを祈りつつGJ
39名無しさん@ピンキー:2010/02/17(水) 13:50:41 ID:vmmxgHIW
素晴らしいね。GJGJGJ
40名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 03:15:26 ID:4sP2OeS+
>>38

「貴女に微笑む」か・・・(・∀・)ニヤニヤ
41名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 13:37:03 ID:7PF01KHz
薔薇の花の吊るされた下で交わされた言葉は口外法度

古代ローマの密約ですねわかります GJGJGJGJGJGJ!!
「月が綺麗ですね」といい「死んでもいい」といい、雰囲気がたまらん。
保管倉庫のどこかにもそんなネタがあった気がするんだがどこだったか……
42名無しさん@ピンキー:2010/02/18(木) 17:05:26 ID:ezanwCHT
>>38
どゆ意味?
調べてもなかった
43名無しさん@ピンキー:2010/02/19(金) 12:54:54 ID:raph3wtH
>>42

>>40
44名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 13:54:04 ID:UoDqJAuz
GJ
神って実在すんのな
45名無しさん@ピンキー:2010/02/20(土) 22:18:45 ID:J8vdGEGb
ベニーとジェーン
ヤリまくってたんだな。あの褐色巨乳を好き放題できるなんて羨ましい
(*´д`*)
46名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 07:31:07 ID:toN0lIp+
だが、印度人は臭い
なんか独特な臭いがするorz
47名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 08:19:33 ID:l7PoSXd6
いや、タイに生息してる時点で全員相当臭いぞ。
身体と持ち物にパクチーとスパイスと醗酵調味料の匂いが絡みついて…。
東南アジアから帰国して最初にすることは洗濯とファブリーズとシャワーだ。
現地では気にならんけどね。
インド人の理屈も同じだと思うからベニーさんそんなに気にしてないんじゃないか?
48名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 08:40:59 ID:QZElwVxX
レヴィの脇も臭いしな
49名無しさん@ピンキー:2010/02/21(日) 09:38:49 ID:2gvsfPmQ
レヴィは案外気にしてそうだな
50名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 04:25:33 ID:BBbX3Lxm
腋臭レヴィたんなんて俺得すぎる。タンクトップの汗染み吸いたい
俺の頭をガシガシ殴るレヴィたんを無視してクンカクンカペロペロしたい
51名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 08:04:39 ID:FPk248LL
へ、変態ry
52名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 18:00:20 ID:E6dZurh2
そういやソウルシンガーのアリシア・キーズはワキガらしいな
ああいうのがたまらん人はたまらんのだろうな
53名無しさん@ピンキー:2010/02/22(月) 21:45:00 ID:KCFcS2OJ
今日2月22日はニャンニャンニャンで猫の日だからぬこレヴィネタとか密かに期待しちゃったりしてた。

書く能力ないから妄想するか。
54名無しさん@ピンキー:2010/02/23(火) 23:01:48 ID:HiIrrQep
ロックの股間についてるマタタビでメロメロになっちゃうのか>レヴィたん
55名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 18:54:41 ID:xnu2Uze3
2月24日はにゃんにゃんしようぜの日ってことで、ロックに突かれる度「にゃんっ!にゃんっ!」となくレヴィたんを妄想で創造
56名無しさん@ピンキー:2010/02/24(水) 21:06:10 ID:V3zctWYd
GXのアンケ結果、「レヴィと結婚してる」選んだ人のコメント読んでたら
ちゃんと同志がいることになんか安心した
57名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 15:44:27 ID:MIRmuUSj
ていうか、アレは明らかにここに棲息してる輩だろ。
58名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 17:00:53 ID:6Krlf2De
レヴィたんは猫好きそうだな。
ひっかかれても噛みつかれても面倒見そう。
59名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 19:43:01 ID:sZ/bjEuG
ロックに猫が懐いちゃって怒るんだろ?
60名無しさん@ピンキー:2010/02/25(木) 19:55:51 ID:q5YunNMv
そんでぬこ相手に嫉妬しちゃって
「お前も可愛がってほしかったらこいつみたいに振る舞え。何?出来ない?どうしたらいいかわからない?しょうがないな、じゃあ先ずはとりあえず形から入ってみたらどうだ」
とか岡島に言われ、ネコミミ+肉球手袋+しっぽ着せられるんですね
61名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 12:31:26 ID:uIQDRk4J
レヴィたんかわゆす
62名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 15:14:26 ID:FiVrUS4U
このスレはエロパロ板でも屈指のラブエロスレだよなー。
野郎向けによくある凌辱系はまず無いのが好ましい。みんなレヴィに
幸せになってほしい奴らで大好きだ。
63名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 17:44:43 ID:yiHpSObk
スカも微グロも陵辱系も過去にいくつかあったっしょ。

悲惨で可哀想なレヴィたんも萌えるけど、幸せにもなってもらいたいというジレンマ。
つーか原作ではハッピーエンドなレヴィたんはまず拝めないだろうから、せめてここでは見てみたいんだ。
64名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 19:06:23 ID:Gn99Geug
岡島さんがお亡くなりになったりレヴィたんが岡島さんと二人でお亡くなりになったりしたSSもあったよなw
65ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:02:10 ID:UpQ1x7yE

<注>
レイプ、暴行、虐待描写有り。
苦手な方、ご注意。

66ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:02:51 ID:UpQ1x7yE

「レヴィ」
ロックの声に、レヴィはロードスターの助手席で目を覚ました。
遠出をして、ふたりで一仕事終えた帰り道。
疲れがたまっていたのか、
ロックに運転を任せているうちに、レヴィは寝入ってしまっていたらしかった。
眠い目をこすって辺りの様子をうかがってみると、車はだだっ広いスペースに停まってしていた。
駐車場らしく舗装されているが、周りにはほとんど車が無く、閑散としている。

「……どうした?」
太陽は地平線に近づいてきているが、夕刻の空はまだ明るい。
順調に車を飛ばしても、ロアナプラに帰り着くのは日が暮れてからのはずだった。
ここがロアナプラからまだ遠く離れた地であることは一目瞭然。
何かトラブルだろうかと思ってロックの方を見ると、
ロックはエンジンキーを引き抜いて言った。
「いや、ちょっと寄って行こう」
「――寄って行こうって、どこにだよ」
レヴィの問いに、ロックは人差し指で答えた。

ロックの指が示した方に視線をやると、
そこにはポップな色が踊る、やけにファンシーなゲートがあった。
ゲートの先には、コースターや回転ブランコなどの鉄骨が見えている。
「……遊園地?」
「そのようだね」
「おいおい、正気か? まっすぐ帰ったって夜だぜ。
ダッチに報告もしないといけねェのに、こんなとこで寄り道してられるか。
ガキじゃねェんだ。さっさと帰るぞ」
しかし、ロックは引き抜いたエンジンキーをポケットにしまった。
「ダッチには今さっき連絡しといたよ。
今日はもう事務所に顔出す必要無いから、ゆっくりしてこいってさ」
そして、ドアを開けて外に出る。
「――おい!」
「ああ、そのカトラスは車に置いてった方がいいと思うよ。
グローブボックスの中にでも入れておいたら?」
目で抗議をすると、ロックは笑って座席のレヴィを見下ろした。
「いいじゃないか、たまには息抜きも必要だ。ちょっとだけだから、付き合ってよ」
レヴィが渋々車を降りると、ロックは恥ずかしい様相を呈しているゲートに揚々と向かい、
二枚のチケットを買った。
67ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:03:52 ID:UpQ1x7yE

入場口をくぐると、そこは駐車場と同様、さびれて閑散としていた。
塗装してからもう何年も経っているのだろう、色褪せて所々剥げた遊具が並んでいる。
妙に空間の目立つ園内には、時折小さな子供とその親らしき人々が散見されるだけ。
掃除も行き届いておらず、フライドポテトの紙容器らしき残骸や使い終わったストローなどが、
隅の方にに吹き溜まっていた。
音の割れたスピーカーから流れる明るい音楽が、却ってもの寂しい。
ロックは、やる気の無い店番が新聞を読んでいるゲームコーナーや、
客を乗せずに止まったままのコーヒーカップ、
メリーゴーランドなどの間を迷いなく突き進んで行った。
レヴィは遊園地になどこれまで来たことも無いので、
物珍しくあちこちに視線をさまよわせていると、あやうく置いて行かれそうになるほどだった。

ロックは園内の奥まで行って、ようやく足を止めた。
「これ、乗ろう」
言われて見上げた視線の先にあったのは、大きな観覧車だった。
首が痛くなるくらいに見上げても、一番てっぺんまではよく見えない。
数え切れないほどのゴンドラをつけた円が、ゆっくりゆっくりと回っている。
レヴィが見上げていると、左手をロックに取られた。
「行こう」
引っ張られるままに、レヴィは観覧車の乗り場に続く階段を上がった。
客など来ないだろうと居眠りをしていた昇降場の係員をたたき起こすと、
ふたりで狭いゴンドラの中に乗り込んだ。


固い座席に向かい合って座り、ドアが閉められると、ゴンドラは徐々に高度を増していった。
地上に散らばるパラソルや屋根、今まで通り過ぎてきた遊具などが、どんどん小さくなってゆく。
身体には感じない程度の遅さで回る観覧車というのは、随分とじれったい乗り物だった。
「ロック、これに乗りたかったのか?」
「そうだよ」
「……観覧車、好きなのか?」
「――いや、そういうわけじゃない」
ロックの答えに、レヴィは首をひねった。
「じゃあ、なんで――」
「観覧車、探してただろ、レヴィ」
「……え?」
「日本で縁日に行った時、言ってたじゃないか」

『カーニバルか。観覧車が見えねえな』

レヴィの脳内に、記憶が蘇った。
吐く息すら白く凍りつきそうな、星の出た寒い夜。
タクシーの中からふと目に留まった縁日を見て、確かにレヴィはそう言った。

「――覚えてたのか」
「覚えてるさ」
言った本人は今の今まで忘れていたというのに。
あれからもうどれぐらい経っただろう。
何の気無しに言った言葉の切れ端が、こんな形で拾われるなんて。
「……あたしが知ってる観覧車ってのは、もっと小さくて速いやつだけどな」
「ああ、映画の中で見るような、足ぶらぶらさせて乗るやつか」
「すっげー速いんだぜ、あれ。
アミューズメントパークのはどんなだか知らねェが、移動式遊園地のやつは大抵そうだな」
「へえ。日本のはみんな、こんなかんじにゆっくり回るやつだからな。
移動式遊園地か……。いいな、それ」
「……別に、いいって程のもんでもねェよ。ただの子供だましだ」
68ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:04:41 ID:UpQ1x7yE

レヴィが子供の頃過ごしたニューヨークの街角には、
時々、魔法のように移動式遊園地が出没した。
見慣れた街角はたちまちお伽の国と化し、きらびやかな灯りを振りまいた。
色とりどりのお菓子に、つやつや光るキャンディ・アップル。
子供の歓声と笑顔を乗せて回るアトラクション。
人々の笑い声と明るいざわめき。
数夜限りの夢を振りまいて、気が付くと煙のように消えてしまう。
その光景は見ているだけでも心躍ることだった。
幼いレヴェッカはその中に混じることはほとんど無かったのだが――。

特に思い出したくもない記憶に引きずられそうになって、レヴィはゴンドラの窓の外に目をやった。
地上はもう遙か下だ。
うす青い空が迫ってきている。
つかみどころのない青に、うっすらと白い雲が漂っている。
レヴィは窓際に肘から下を乗せ、額を窓ガラスに寄せた。

昔から、空の青だけは好きだった。
雨は傘を持たないレヴェッカに冷たく、風は温かな上着を持たないレヴェッカに薄情だった。
空の青さだけがレヴェッカを傷つけず、誰に対しても公平だった。
レヴェッカは、たいそうな事は望んでいなかったはずだった。
ただ、人並みのものが、欲しかっただけだ。
例えば、ゴミ箱から残飯を漁らなくても済むくらいの食事。
それから、安心して眠れる寝床。
そんなものを望むのは、分不相応なことだったのだろうか?
他人より多くのものを望むわけじゃない。
他の子供が当たり前のように持っているものの内のひとつでもいいから、欲しかっただけなのに。

レヴィの意識がうす青く染まる。

――空が、近い。
69ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:05:49 ID:UpQ1x7yE

 * * *

口を閉ざしたレヴィがぼんやりと窓の外に目を向けるのを、ロックは向かいに座ってじっと見ていた。
斜め上に固定された横顔からは、何の表情もうかがえない。
焦点の合わない目が、空だけを映す。
ロックには、今にも彼女の意識がふわりと抜け出して、昇っていってしまうように思えた。

――行くな。

ロックは衝動的に、窓枠に乗せられたレヴィの手に自分の手を重ねた。
触れた瞬間レヴィは、はっと意識を戻した。
瞳に表情がかえる。

「……飽きた?」
「――いや、そうじゃねェが……。眠くなるな、これ」
「確かに。今度は、レヴィの言った観覧車に乗ろう」
「……ニューヨークの話だぞ」
「ここにもきっとあるよ、移動式遊園地」
「どうだかな。雲をつかむような話だ」
「運が良ければ出会うさ。車で走ってたら偶然目に入った今日みたいに」
レヴィは、さあな、と言うように肩をすくめた。
「いつか、一緒に乗ろう」
重ねた手をそっと握ると、レヴィはしばらく沈黙した後、小さく笑って呟いた。
「……運が良ければ、な」
「ああ、運が良ければ」


暮れ方の太陽の光は大分弱々しくなってきていたが、まだ夜は遠そうだった。
「失敗したな。どうせ観覧車に乗るんだったら、夜にすれば良かった」
「はァ?」
眉をひそめるレヴィの片手を取ったままロックは立ち上がり、
レヴィの背後のガラス板に手をついた。
「そうすれば、『星を見て』って言えたのに」
レヴィは眉を上げてみせると、唇の端で笑った。
「……"Look at the star!"って、アブラとキャルのように、か?」
「そうだよ。今ときたら、星ひとつ出ちゃいないし、太陽は沈みかけだ」
「アホが。……星が出てなきゃ、キスひとつ出来ないのか?」
レヴィの瞳がまっすぐロックを射抜いた。

その瞳に誘われるように、ロックは身を屈めた。
重ねていた彼女の手を離し、同じ手で顎をとらえる。
レヴィの背後についた手へ体重がかかり、ゴンドラが静かに傾いた。
が、構わずロックは唇を重ねた。
温かくなめらかな唇を触れ合わせては柔らかく挟みこむ。
浅い口づけを繰り返す。
やわらかい粘膜が離れた時にたてられる音が、狭いゴンドラの中に響いて、鼓膜を震わせた。
レヴィの片手が背中にまわってきた。
更にふかく口づけてしまいたい衝動に駆られたが、もう地上が近い。
後ろ髪を引かれながら唇を離した。
最後に中指の先で触れたレヴィの唇は、しっとりと湿っていた。
70ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:06:51 ID:UpQ1x7yE

観覧車を降りてからぶらぶらと園内を歩いていると、軽食や菓子を売るスタンドが並んでいた。
ホットドック、ピザ、わた飴、アイスクリームといった日本でも見るようなものに混じって、
時々見たことの無いものもある。
うす茶色の平べったい円形に、粉砂糖らしき白い粉がかかっているもの、
あれは一体なんなのだろう?
ロックはよく分からない物体に目をやりながら言った。
「結構色んな種類のスタンド出てるんだな。珍しいのもある。こんなに客いないのに」
すると、レヴィはロックの視線をたどった。
「あの丸いやつなら『フランネルケーキ』だぜ。……何だ、日本では無いのか?」
「『フランネルケーキ』? 初めて見た。アメリカではメジャーなのか?」
「ああ、ニューヨークじゃよく見たな。揚げ菓子みたいなもんだ。カーニバルなんかじゃ必ず出てた」
レヴィはどこか懐かしそうな目をする。

ロックはそのスタンドに足を向けた。
そして、暇そうにしている売り子に声をかける。
「ひとつ、下さい」
適当に紙皿に乗せられたそれを持ってレヴィのところに戻ると、
彼女は、なにやってんだ、というような呆れ顔をして、眉間に皺を寄せた。
「一緒に食べよう。この際だ。どうせ今日中には帰れないよ」
言って手近の丸テーブルにつくと、
レヴィも、しかたない、といった様子で小さく息を吐いて椅子に座った。


結構な面積のある揚げ菓子を目の前にして、とりあえず、ふたりで少しずつちぎってみた。
指先に油と粉砂糖をつけながら、口に運ぶ。
小麦粉と砂糖をこねて、油で揚げ、粉砂糖をふったもの。
フランネルケーキは、単純に、そんな味がした。
「……素朴な味だね」
ロックが感想を述べると、レヴィはしかつめらしい顔をして口を動かしていた。
「なんつうかこう、ドーナッツみてェだな。上にかかってんの粉砂糖か? 甘ェ」
「……え、レヴィ、食べたことあるんじゃなかったのか」
まるで初めて食べたかのような口振りに驚くと、
レヴィは口の中のものを飲み込んで、口の端についた粉砂糖を指先で拭った。
「ねェよ。『見た』っつっただけだろ。食ったことあるなんて誰が言った」
そしてまた、適当にちぎり取る。

なんとなくロックひとりで空回った気がして間が悪く思っていると、
レヴィが突然立ち上がった。
「口ん中が甘ェ! ちょっと飲みもん買ってくる」
そこにいろよ、と言い置いて、レヴィはスタンドの方へ歩いて行った。
確かに、飲み物なしで最後まで食べろと言われるのは少々きついかもしれない。
多分これは、子供の頃の思い出を食べるものなのだろう。
特別な日に外で買って食べる、甘いお菓子。
それを食べたことが無いと言う彼女に対し、
今になって差し出すのは、ちょっと無神経だったかもしれない。
ロックは先走った自分に少しばかり後悔した。
71ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:08:21 ID:UpQ1x7yE

「待たせたな、ロック」
レヴィの声とともに、壜が二本、テーブルの上に置かれた。
そして、オニオンリングとホットドックの乗った皿も。
戻ってきたレヴィはもとの席に腰を下ろした。
「あんたはこっちな」
二本あるうちの一本をこちらに寄越し、レヴィはもう片方の壜を取る。
渡されたのは、ウィルキンソンのジャンジャーエール。
レヴィが取ってあおっているのは――
「ずるいぞ、レヴィ! 自分ばっかり!」
茶色い壜の表面に汗をかいた、チャーンビール。
「あ? 何がずるいんだよ」
二匹の象が可愛らしく向かい合ったラベルの壜を唇から離して、
レヴィはちらりとこちらに目を向けた。
「運転手はおとなしくソフトドリンクでも飲んでろ。飲酒運転はいけねェな」
そう言って、これ見よがしにまた美味そうにビールを飲む。
ロックはため息をついて、緑色の壜に口をつけた。
ぴりっと辛い炭酸とジンジャーの味が、乾いた喉に心地よかった。
しかし――
「オニオンリングとホットドックだったら、どう考えてもビールだろ……」
お世辞にも上手に揚がっているとはいえないオニオンリングをもそもそと噛みながら、
ロックは恨めしげにレヴィを見た。

同じようにオニオンリングに手を伸ばしていたレヴィは、
しょうがねえな、といったように肩をすくめると、壜を寄越してきた。
「一口だけだぞ」
「どうも」
受け取って、ロックは冷えたビールを流し込んだ。
さっぱりとした炭酸が喉の奥ではじけて、食道の中をすべり落ちていった。
「あっ、ちょっ、ロック、どんだけデカい一口だよ! 飲み過ぎだぞ、コラ!」
レヴィが取り返そうと身を乗り出してくる。
「残念でした。日本人はビールを見ればイッキするように出来てるんだ」
「ふざけんな、バカ!」
「日本人の習性を見誤ったレヴィが悪い」
残り少なくなった壜を笑って返すと、レヴィは乱暴にひったくっていった。
「怒るなよ、レヴィ。もう一本買ってくるから」

新しいビールを買って戻ると、レヴィの機嫌は簡単に直った。
そもそもこんな程度のものは機嫌が悪いうちに入らないが、
どうせ食事をするなら少しでも楽しい方がいい。
あまり質のよろしくない油で揚げられたオニオンリングも、
冷凍らしきソーセージを頼りないパンに挟んで、
鮮やかすぎる赤いケチャップと黄色いマスタードをうにうにとかけたホットドックも、
ふたりで楽しく食べればそれだけでご馳走だ。
72ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:09:47 ID:UpQ1x7yE

沈みかけた太陽が世界をオレンジ色に染めあげる中、少し早い夕食を済ませてしまうと、
刻々と暗くなってゆく園内を、ゆっくりと駐車場の方へ歩いた。
母親と手を繋いだ子供が、ちらほらと出口へ向かっていく姿も見える。
乗り手のいない遊具には、ところどころ欠けた電飾が光り出した。
「何か他にも乗ってく……?」
ついでだから、と思ってかけた声は、レヴィの耳には入っていないようだった。

彼女の目線は、一点に固定されていた。
向けられているのは、客もいないのに煌々と明かりをふりまいているスタンド。
目にいたい程の光の中でレヴィの視線を浴びているのは、
細い棒に刺さった、透明の飴をかけられてきらきらと赤く光っている丸いもの。
――りんご飴。
女性の拳よりも一回り小さい赤い球は、日本の夜店で見たりんご飴によく似ていた。
「ちょっと待ってて」
ロックは、先ほどしたばかりの反省も忘れて、
『キャンディ・アップル』と称して売られているものを一本、買った。
「あげる」
レヴィに差し出すと、彼女は躊躇した末、おそるおそる受け取った。
「……もう腹いっぱいだぞ」
「無理に全部食べることないさ。こういうのは気分だろ?」
レヴィは手に持ったキャンディ・アップルを見下ろしながら、口の中でぼそぼそと言う。
「――ガキじゃあるまいし……」
「大人になったからこそ、ちょっとぐらい贅沢したっていいじゃないか。持ってるだけで可愛いし」

唇を尖らせたレヴィは、つややかな透明の膜をまとった赤い球に、歯を立てた。
かりっ、と小気味よい音をさせて囓りとる。
「……美味い?」
聞くと、レヴィはしゃくしゃくという果汁のみずみずしい音を立てて咀嚼しながら、
無言でこちらにキャンディ・アップルを差し出してきた。
ロックも一口囓ってみると、水飴の甘さとすっきりしたりんごの爽やかさが口の中で混ざり、
意外と食べやすかった。
「結構、イケるな」
「……そうだな」
車のところへ戻る間、レヴィはキャンディ・アップルを指の中でくるくる回して、
それに視線を落としていた。
そこここに設置されたライトを反射して、つやつやした球面は小さな光を何度もちらつかせた。

車まで戻っても、レヴィの持つキャンディ・アップルは、ほとんど減っていなかった。
「腹一杯だったら無理しなくていいよ。片づけてこようか?」
ロックは手を差し出したが、レヴィはかぶりを振った。
「いや、いい」
そして、走り出した車の助手席で、思い出したようにちびちびと口をつけた。
73ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:10:42 ID:UpQ1x7yE

このまま走り続けても、ロアナプラに帰り着くのは夜中だ。
それに、呑んだ内には入らないが、アルコールも口にしている。
発車させてからほど近いところにモーテルを見つけたので、そこに一晩泊まっていくことにした。
部屋のドアを開けてみると、埃っぽい室内に、古びたシングルベッドが二台。
上等とはいえないが、ベッドで寝られるだけありがたい。
自分たちの下宿だって似たようなものだし、車や船の中で寝ることもざらだ。
ロックもすっかりそんな暮らしに慣れた。

先にレヴィにシャワールームを譲って、入れ替わりにロックもシャワーを浴びた。
手早く身体と髪を洗い、腰にバスタオルを巻きつけて出てみると、照明を落とした部屋の中で、
レヴィはふたつ並んだベッドの片方に腰掛け、窓の外を見ていた。
シャワールームから出てきた時の格好のまま、下着一枚で、バスタオルを肩からはおっている。
「レヴィ、いつまでもそんな格好してると風邪ひくぞ」
ロックは、レヴィの背後から近寄った。
「――ん、あぁ……」
生返事をするレヴィのかたわらに手をついて、背中越しにロックも窓の外に目をやる。
レヴィの視線の高さに合わせると、
暗闇の中にはちょうど、さっきまでいた遊園地が浮かび上がっていた。
近いとも遠いともいえない微妙な距離の向こうで、
ライトアップされた観覧車がひときわ目についた。

「観覧車は、好きだったの?」
尋ねると、レヴィは小さく肩をすくめた。
「好きって言うほど乗ったことねェよ。……乗ったのは、一回だけだ」
もうずっと昔にな、と呟くレヴィの後ろに、ロックは座った。
記憶を遡るように、レヴィは伏せた睫をゆっくりとしばたたかせた。
74ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:11:51 ID:UpQ1x7yE

 * * *

「一回だけ、移動式遊園地に行かせてくれたことがあったんだ」

幼いレヴェッカの家は貧しかった。
なけなしの金は全部、父の酒代といかがわしい雑誌やビデオ、女遊びの為に消えた。
毎日の食事だって満足に無い。
そんな中で、レヴェッカが遊びに使える金など、あるはずが無かった。
子供らしい娯楽は別の世界の出来事のようだった。
いつも金網の向こうに、幸福な光景を羨望の目で見ていた。
しかし、どういう風の吹き回しか、移動式遊園地へ行って来いと言われたことがあった。

「母親に、5ドル持たされてよ。『これでしばらく遊んで来い』って」

嬉しかった。
夢でも見ているのではないかと思った。

「アホだよな。男連れ込むために追い払われたとは全く気づかないでよ」
「レヴィ――」
背後に座ったロックの腕が、ゆるやかにまわってきた。
「……ガキだったのさ、あの頃は」

何も知らない子供だったレヴェッカは、純粋に楽しかった。
5ドル程度ではいくらもアトラクションに乗ることは出来ないし、
賑やかな音を立てて誘惑するゲームのコーナーも、
甘く香ばしい匂いを放つキャンディースタンドも、
すべての興味を満たすには全く足りなかった。
それでも、どれかは選べるのだということ、ただそれだけで嬉しかった。

なぜその中で観覧車を選んだのかは、よく分からない。
けれど、一番たかいところへいけるその乗り物に、心惹かれた。
観覧車が回転する前、他のゴンドラに客が乗せられていくのを待つ間、
中空から見下ろした街は、肥溜めのくせにやたらと美しく見えた。
射的で遊んで、レモネードとピザ、それからカラフルなジェリービーンズを少しだけ買うと、
もう5ドルは使い果たしていた。
本当は、赤く輝くキャンディ・アップルに心惹かれていた。
白々としたライトを反射させて光る赤は、おおきな宝石のように思えた。
けれど、それを買うには残った金では足りなかったし、そばで見ることが出来ただけで充分だった。
それに、ちいさなジェリービーンズだって文句なく可愛らしい。
レヴェッカは、その後しばらく、それを食べてしまうことが出来なかった。
紙に包んで奥に隠し、そうやって隠しておきながら、しょっちゅう取り出しては包みを開いた。
甘い香りを嗅ぐと、あの一夜の記憶が蘇った。
75ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:13:33 ID:UpQ1x7yE

「……たのしかったよ、すごく」
「そう……」
ロックからは何か言いたそうな気配を感じたが、レヴィが黙っていると、
そのまま飲み込んだらしかった。
「お母さんは、優しくしてくれることあったの? ――その、時々は」
「優しい!?」
その単語とあの女とがあまりにも釣り合わず、レヴィは思わず笑ってしまった。
「『なんで産まれてきたんだ』ってあたしにあたるようなヤツだぜ? てめェで生んだくせしてよ」

母は、若くしてレヴェッカを産んだ。
水商売をしていたところ、客だった父とデキたのだと言う。
結局、彼女はまだまだ子供だったのだろう。
働きもせずに酒ばかり呑む父にヒステリーを起こし、いつも耳障りな声で怒鳴っていた。
「こんなはずじゃなかったのに」
「ほんとはあんたなんか産みたくなかったのよ」
「あんたなんか産まれてこなければ良かったのに、ヴェッキー」

「んなことあたしに言われたって困るぜ。なぁ、そうだろ?」
ロックの返答は待たずに、続けた。
「文句言うなら種付けしたヤツに言え、ってんだ」
母が一体どんな顔をしていたのか、レヴィはもうよく思い出せない。
ただ、夜叉のような顔をして吐き出された呪詛の言葉だけが、
頭蓋骨の裏にねっとりとこびりついていた。
「そんで自分の子供はしっかり金儲けの道具にするんだからよ、しっかりしてるぜ」
「……え?」
「――自分の食い扶持は自分で稼げ、ってことさ。……意味、分かんだろ?」
もっとも、稼ぎは自分の食い扶持にすらならず、全部巻き上げられることがほとんどだったのだが。
76ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:14:46 ID:UpQ1x7yE

ある時、突然警官に呼び止められた。
事態がよく分からないまま、取り囲む警官の言うことから推測すると、
どうやら盗みを働いたと思われているらしかった。
全く身に覚えが無かった。
自分はやっていないと訴えたが、警官達はまるで聞く耳を持ってくれなかった。
あちこちを小突く手は段々と強くなり、拳がみぞおちに入ると、立っていられなくなった。
うずくまったレヴェッカに、容赦なく靴のつま先や踵がめり込んだ。
内蔵がひっくり返るような痛みと、手足が引きちぎられるかのような衝撃。
頭が揺れて吐き気が込み上げ、目の前が暗くなった。
レヴェッカは泣き声をあげて息も絶え絶えに「やめて」と懇願したが、
その泣き顔を見た警官達は、醜い笑いに顔を歪ませ、心の底から楽しそうに笑い声を上げた。
あの時の、腐敗した臓物がうねるような赤黒い顔。
一生忘れないと思った。

レヴェッカの口の中は切れて、生臭い血の味がしていた。
身体も、血と泥が混ざってめちゃくちゃだった。
骨を一本か二本やられていたのだろう、冷や汗が出て血の気が下がった。
頭を蹴られて意識が朦朧としたあたりで、服を剥がれた。
乱暴に布が裂かれる鈍い音。
身体中の皮膚が、すうすうした。
本能的に危険を感じて逃げようとしたが、
万力のような力で押さえつけられた身体は少しも動かなかった。
その直後、脚の間に激痛を感じた。
殴られたり蹴られたりする痛みは、今まで散々親から与えられていたおかげで、よく知っていた。
けれど、そのどれとも違った、重くねじ込まれるような痛み――。
引き裂かれ、力ずくで押し込まれる感覚。

――これは、なに?

自分の身に何が起こっているのか全く分からず、レヴェッカは狼狽した。
ただ、身体の内側に無理矢理侵入されているのだということだけは分かった。
身体の中心に杭を打ち込まれて、内蔵を掻き回されているような。
純粋な恐怖がレヴェッカを支配した。
小さな身体を押しつぶす黒い巨体は、入れ替わり立ち替わりのしかかってきた。
レヴェッカは、磔にされた哀れな供物そのものだった。
それは気の遠くなるほど長い間続き、終わりが来るよりも先に、意識を手放していた。


輪姦されたのだと分かったのは、その少し後。
レヴェッカは七歳。
初潮はおろか、まだ胸だって膨らんでいなかった。
77ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:16:08 ID:UpQ1x7yE

死んでいないのが不思議なほどに痛む身体を引きずって、ほとんど這うようにして家に帰り着くと、
血まみれで裸のレヴェッカの姿を認めた母は、顔を顰めた。
「汚いわね、ヴェッキー。こっちに来ないでよ」
床が汚れるじゃないの。そう言って、はやく身体を洗って来いとバスルームを指し示した。
そして、脚の間からも血を流しているのに気づくと、汚物を見るような目で吐き捨てた。
「けがらわしい子」

そこにやってきた父は、レヴェッカを見ると激怒した。
泥酔した呂律のまわらない舌で、酒くさい息を吐きながら怒鳴った。
「なんだこいつは! ファックしやがったのか! 処女は高く売れんのによぅ!」
チッ、と舌打ちすると、分厚い手で母の髪の毛を乱暴につかんだ。
「お前がちゃんと躾けないからだぞ! この淫売が! 淫売の子はやっぱり淫売だな!」
引きずり倒された母は、耳をつんざくような悲鳴をあげた。
「あたしが知るもんですか! あたしの知らないうちに、この子が勝手に……!」
両親は自分の子供など全く目に入っていない様子でののしり合った。

レヴェッカは部屋の隅で静かに泣いた。
つかみ合い、怒鳴り合う両親を見ながら、泣いた。
身体も確かに痛かった。
けれど、薬をつけてくれなくても、包帯を巻いてくれなくても、
病院に連れていってくれなくても良かった。
ただ、
「かわいそうに、ヴェッキー」
そう言って、抱きしめてくれるだけで良かったのに。
78ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/02/27(土) 21:17:49 ID:UpQ1x7yE

その後からは、父から加えられる暴行の種類がひとつ、増えた。
「他人にやるぐらいだったら俺が味見してやったのに」
そう毒づいて、父はレヴェッカにのしかかってきた。
「お前の身体には淫売の血が流れているんだからな。これからはてめェの身体で稼ぐんだぞ」
だから調教してやるのだと言って、身体を開かせた。
しかし、何度繰り返されても、激しい痛みが消えることは無かった。
痛いと言って泣くと、うるせえ、と激昂して頬を張られた。
そのうち、どんなに痛くても声を上げず、涙も流さずにいることを覚えた。
父は、レヴェッカの薄い身体を押さえつけながら言った。
「お前は俺が作ったんだからな。俺の好きにして当然だろ? たっぷり稼いで来いよ」
そうして、娘の血をなすりつけて、狂ったように笑った。

母はもちろん、気づいていた。
組み敷かれながらふと頭を巡らせると、
開け放たれたドアの向こうに、どす黒い顔をして見ている母の姿を認めることさえあった。
たすけて、母さん、たすけて――。
しかし、レヴェッカの哀願は届かなかった。
母の顔は憎悪に歪み、目は憎しみで濁っていた。
「まだまだ子供だと思ってたら、いっぱしの娼婦ね、ヴェッキー」
レヴェッカの顔を見るたび、思い出したように、ねばついた声で言った。
やわらかい耳たぶを、母は尖った爪でつねった。
「その目でたらしこんでるの? いやらしい子」
そう言って、レヴェッカの頬をとらえた。
母の細い指は、ぎりぎりと薄い皮膚に食いこんだ。


「……父親はガキに手を出すファッカー、母親は自分で作ったもんにもジェラシー燃やすような女だ」
「――レヴィ……」
ロックの吐き出した息が、首筋にかかった。
「……昔の話だよ、ロック。昔の話だ。今はもう、二人とも、――いない」


父の虐待はエスカレートしていく一方で、その矛先は母にも及んだ。
殴る蹴るは当たり前。
生傷の絶えない顔と身体では、客も取れない。
質に入れられるものは全部、父の酒代となって消えた。
貧しさは底を極めた。
母は元々弱い人だったのだろう。
身体とともに精神も壊れていった。
突然奇声を上げたり、かと思うと部屋の隅で死んだように丸まってみたり。

レヴェッカが最後に見たのは、父が隠し持っていた拳銃を自分のこめかみに当てる母。
引き金に指をかける母と目が合った。
立ちすくむレヴェッカに、母は言った。

「さよなら、ヴェッキー」


その時からレヴェッカは、『ヴェッキー』という呼び名が死ぬほど嫌いになった。



79名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 21:17:55 ID:P7Kvnn6w
C
80名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 21:19:45 ID:txbEGlmN
リアルタイム初めて遭遇〜。
続き待ってます。
81名無しさん@ピンキー:2010/02/27(土) 21:46:33 ID:pQtD16O/
続き激しく期待してます
82名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 00:26:15 ID:ITBvAeK5
泣いた…いや本気で
英国人が日本で創業したウィルキンソンのジンジャエールがタイに輸出されてるとは思えないが、
そんなの忘れるくらいよかった!

いいねいいね
抜けないけど18禁にせざるを得ない、こういうタイプの文章に飢えてる
これからも楽しみにしてます!
831992年、フロリダ:2010/02/28(日) 01:17:30 ID:rgTRHiFa
俺はその日も、日光でホカホカに熱くなったサンファイアのステアリングを握り、パーミッションをルームミラーから下げ、トップを全開にして大学の構内へと乗り入れた。
俺の一台後ろには……フルスモが張られたピカピカのレクサスSC。
ありゃ教授のやかん頭のクルマだな。
こんな時間からご出勤とは、よっぽど教授会が忙しいか?

俺はホルダーからスラーピーを取り、一口飲み込んだ。
今度の学会の、教授の分の分析はまた俺に回ってくるに決まっている。
それが……憂鬱だった。

自分の発表だけなら、執筆の空いた時間でペンタゴンの連中とリアルAVGができる。
しかし教授の仕事が入ると、そんな息抜きを入れるのはボストン茶会事件の茶葉を探せと言われるに等しい。

パーキングの"COMPACT"とあるスペースに頭からクルマを突っ込んでキーを抜き、コンクリートの上を歩き出すと、さっきのレクサスが俺の横に停まり、パワーウインドウが開く。

"ベニー君、お早う。
例のSASプログラム、改良してくれたかね?"

"いえ……まだです、すみません。"

やはり教授は俺に仕事を押し付ける気満々のようだ。
俺はため息をついた。
一日がまた、始まろうとしていた。
84名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 01:57:26 ID:Ibrijx4t
またキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

待ちに待っていた年代シリーズキタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!
851992年、フロリダ:2010/02/28(日) 09:39:43 ID:rgTRHiFa
"できました教授……プログラムに入力するデータ行列を二乗和基準化行列にして計算すれば、三元二層因子分析の結果が解釈しやすくなります!
すなわち……"

俺は教授室で、ハンドアウト片手に熱弁を振るう。

"よくやったベニー君、これで次の本学COE予算はもらったようなもんだ。"

教授、わかってるんだか、わかってないんだか……。

このSASプログラムには穴がある。
しかしこの耄碌した教授にはそれが見抜けていない。
学内政治にばかり明け暮れて、肝心の学問には無関心だ。
それが、俺の心を締め付けた。
俺の、虚無感を一層強めた。

もっと、刺激が欲しい。
日常をがらりと変える、何かが。
だから俺はその晩も、研究室のパソコンをネットに繋ぎ、政府データベースのクラッキングに精を出した。
くだらない稟議書だの支出伺いだの、そんなものが中には溢れている。
……つまらない。
もっと刺激が欲しい。

だがそんな俺の失望は、次の瞬間がらりと崩れ落ちた。
そのデータは、セキュリティが厳重に施されたそれは、とある上院議員のマフィアとの間の、機密費の支出に関わる、ある書類だった。
……これをバラしたら一大スキャンダルだ。
俺は、息を飲んだ。
86名無しさん@ピンキー:2010/02/28(日) 12:14:25 ID:fY9OqjhX
>>78 
俺のネ申キテタ━━(゚∀゚)━( ゚∀)━( ゚)━( )━(゚ )━(∀゚ )━(゚∀゚)━━!!!!

( ゚∀゚)o彡゜続き!続き!

久しぶりに読んでてリアルに辛くなったぜ。
でもこういうの好きなんだぜ!

それにつけても相変わらず博識だなぁ。
マラサダは知ってるけどフランネルケーキってのは初めて知った・・・
毎朝めざにゅ〜よ〜く見てるのに!
見た目はでっかいクッキーみたいで美味そうだな。
でも油ぱねぇキケンな食べ物らしいのね。

甘いのは好まない派でもテキサスサイズのシナモンロールを頬張るのとか密かに憧れてたりするのかな・・・ベッキーちゃん・・・
87名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 09:58:16 ID:VBdrk2Af
>>78
俺のネ申でもあるぞ!
続き、無理せず早めにお願いしますw
88名無しさん@ピンキー:2010/03/01(月) 11:53:30 ID:Vf2re8Je
私のネ申でもあるんだからね!勘違いしないでよね!

ベッキーって呼び名が嫌いってのはもっちー先生の本でもあったっけ。
あれはもっちーの独断による想像なのか、広江先生から聞いたのか、ちょっと気になった。

レヴィたん来日した時ポンデリング食えばよかったのに
って当時はまだないか。
その地方紙の記者が待ち合わせ場所に指定してきたのは、町外れのビーチの駐車場だった。
ボンネット越し、メキシコ湾に沈む夕日が、徹夜続きの目に痛い。
だが、こういう火遊びのスリルと多少の小遣い稼ぎがないと、退屈な大学に残って安月給のオーバードクターなどやってはいられない。

と、赤い240SXがバンプを乗り越え、ゆっくりこちらに向かってくる。
確か、記者が事前の電話で言っていた車種だ。

"ハイ、あなたがベニーね。
待った?"

"いや、途中で買ったクリスタルペプシをちょうど飲みきったとこさ。"

ドアを開けて出てきた女性記者が俺を一瞥する。
……冴えない、ダサい男だと、記者の視線にある種の軽蔑を感じたのは、俺の自意識過剰だろうか。
だが記者は表情を変えずに続けた。
その顔は、明らかに仕事モードの顔だった。

"あなたが掴んだ証拠というのは、フォン上院議員とドン・マルコの間の不透明な資金の流れに関するものね?"

"ああ、プリントアウトもあるが、まだ誰にも言っていない。"

"それは好都合だわ。"

振り向いた記者の手に、ワルサーPPKがギラリと光る
俺の顔から、一気に血の気が引くのがわかる。
"おい、冗談はよそうぜ……特ダネであんたはハッピー、小遣いで俺もハッピー、そういう約束だろ?"

"議員のお相手が寄りによってドン・マルコだってのがいけないのよ。
明るみに出る前に、証拠は消すの。"

記者が言うが早いか、周りに停められた無人だと思っていたキャデラックやリンカーンの中から拳銃片手の男たちが不意に現れ、俺はいつしか囲まれていた。

もはやここまでか、俺の人生も?
今までの一生が、走馬灯のように俺の頭を流れる。
ああ、俺もここで潰えるのか。

尻を振りながら、サイドドアを開けた白いダッジバンが猛スピードでこちらに走ってきたのはそのときだった。
バンの運転席の中国系らしい女、タンクトップの肩にトライバル・タトゥーのある二十歳そこそこくらいの女が見事な曲撃ちで、数人の男たちに鉛弾を食らわせる。
そして俺の前で急停車する。

"お前、ベニーだな?
死にたくなきゃ、さっさと乗れ!
うちのボスがお前の力が必要だって言って聞かねえんだ。"

その運転席のブルックリン訛りの中国系の女の言うまま、俺はバンに飛び乗った。
ホイールスピンをかましたバンは、バンプを乱暴に越えると街に向かってフルスピードで突っ走り始めた。
911992年、フロリダ:2010/03/02(火) 21:13:20 ID:6tdXQTmH
俺は、未だに何がなんだかわからなかった。
あの女記者に、マフィアの息がかかっていたということは、当然理解できた。
だが、この中国系の女は、いったい何者だ?
なぜ、俺が必要なんだ?

"お前、何で俺のこと知ってるんだよ?
ていうかお前、誰なんだよ?"

俺は、前方の運転席に向かって、開け放たれた窓からのエンジンの騒音に負けないくらいの大声で尋ねる。
バンはその間も、いくつも信号を無視して田舎道をひた走る。

"あたしはレヴェッカ、レヴェッカ・チョウ。
レヴィでいいぜ。"

"じゃレヴィ、お前さんのボスってなぁ何者だ?
何で俺を助けた?"

"あたしらは、ちょっとした運送屋をやっててな。
食うためにゃ法に触れることもする…そっちの仕事で、腕のいいクラッカーと海洋生物学の知識がある人間に用があったってわけさ、ベニー・ヤノフスキー博士。
いや、Mr.『ジョニー・B・グッド』と呼んだ方がいいか?"

"へえ、俺のハンドルネームもしっかりお見通しってわけだ。"

"うちのボスはナム帰りのヴェテランでね、あたしも知らない情報網をたっぷり持って…。"

銃声とともに運転席側のサイドミラーが割れたのは、レヴィがそう言い終わるか終わらないかというタイミングだった。

"ベニー、あたしの横に来い!"

言いながらレヴィは、片手でハンドルを握りつつ両脇につけたホルスターから拳銃を抜く。
ベレッタM92…にしちゃあ、バレルがやけに長い。

後ろを盗み見しながら、俺は運転席と助手席の間から助手席に身体を滑り込ます。
銃を持った男たちがハコ乗りした、白いタウンカーとシルバーのコンチネンタルがバンを追ってきている。
再び、散発的な銃声とともに、今度はバンのリアガラスが割れる。

"おい、どうすんだよ、俺、銃なんて撃てないぞ?"

"あたしがヤるから、お前、ハンドル握れ!
リチャード・ペティみてえに運転しろとは言わねえ、ぶつけなけりゃそれでいい!"

"サイドに43番のゼッケンをつけてくれりゃ、デイトナ500にだって出られるぜ?"

レヴィが手を離したそのハンドルを、俺はぐいっと握る。
と、レヴィはアクセルをベタ踏みしたまま上半身を器用に窓の外に出し、景気よく2丁のベレッタを連中に向けてぶっぱなす。
見る間にタウンカーのフロントグラスに穴が開き、そのまま鮮血に染まる。
タウンカーは少しふらついたかと思うと、対向車線にはみ出し、ちょうど走ってきたケンワースのトレーラーヘッドに突っ込む。

"よし、これで一台!"

もう一台、コンチネンタルがその煙の間を抜けて俺たちに近づいてくる。
そしてそのまま、俺たちの右側に並ぶ。

"レヴィ、ぶつけんなって言ったよな?"

"いや、かまわねえ、どうせボログルマだ!"

その言葉を合図に、俺はステアリングをくいっと右に切って、わざと俺たちのバンをコンチネンタルの脇腹に擦りつけた。
コンチネンタルはそのまま、サイドウォークに乗り上げ、電話ボックスに突っ込んで、止まった。
92名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 01:50:27 ID:MjpHTO4+
今気が付いたのだがよくよく考えると立ち位置がロックとさほど変わらんな。
93名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 09:50:40 ID:HmbVtww9
フランネルケーキ、沖縄の基地の祭りでは割とポピュラーなんだな。
うちの地元にも米軍基地あって勿論お祭りん時のみ入れるが売ってるの見たことない。

トランス脂肪酸削減や、ショートニングの量記載義務付けに取り組んでる昨今でも売られてるんだろうか?

何にせよNew York編やってくれないどころか新章突入したのにちーともレヴィ出してくれないからレヴィ分補給できますたGJ!
94名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 10:29:57 ID:hWE5stN8
フランネルケーキ、俺食った事あるけどあんまり好みじゃなかったなー。
でもりんご飴食った事ないや。
95名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 20:07:08 ID:/GcMouOf
俺は観覧車に乗った事がない…いつか出来るだろう彼女のために初をとってある。
96ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:56:14 ID:TSxhsj9a

 * * *

「母親は、拳銃で自殺した。……それから数年後かな。その拳銃で、あたしが父親を殺した」
そう言ってレヴィは、ふぅっ、と大きく息を吐いた。

その時、ロックの脳裏にひとつの場面が蘇った。

『ロック、傷になる、あいつを見るな』

冷たい風が吹きすさぶ日本で、死んだ男の後を追って自らの喉に刃を突き立てた少女。
レヴィは「見るな」と言った。
かすれた声で、絞り出すように。
「傷になる」から、と。
あの時、深い傷を負って、おびただしい鮮血を流していたのはレヴィの方だったというのに。
ロックの傷になるから、見るな、と。
青ざめた顔をして、崩れ落ちそうになりながら。
レヴィ。
歪んで、捻れて、ひどく不器用な、やさしい女――。

「レヴィ――」
ロックは、後ろから彼女を抱きしめた。
彼女の傷――。
レヴィの傷は、まだ生のままそこにある。
胸の奥で、真っ赤な血をとろとろと流し続けて。

しかし、抱きしめたレヴィの身体は、強ばっていた。
いつものように、ゆっくりと力を抜いて、こちらに身体を預けてはこなかった。
「……少し、話し過ぎた」
レヴィの低い声が、小さく零れ落ちた。
「――」
何か言おうと息を吸い込むと、途端に腕の中の身体が緊張した。
呼吸が胸の奥に引っ込んで、首を落としたままの姿勢で固まった。
レヴィが、ぎゅっと縮む。

ロックは瞬間的に理解した。

――身構えている。

レヴィが身を固くしているのは、間違いなく、ロックがこれから発する言葉に対してだった。

後悔の念が激しく沸き上がった。
過去の、自分が言ったことに対して。

――俺は、レヴィに、何を言った?

『答えに詰まりゃ都合よく悲劇のヒロインかよ。それがお前の一番、卑怯なところだよ!!』

ロックのような温室育ちには、どんな暮らしをしてきたかなんて分かるハズが無い、
屋台の箸立てをなぎ払ってそう叫んだ彼女に、何て事を言った――?
97ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:56:48 ID:TSxhsj9a

『悲劇のヒロイン』?
彼女が生きてきたのは、『悲劇』などという甘美な物語ではなく、ただの現実だった。
そして、自分の人生でありながら、『ヒロイン』ですらなかった。
他人に振り回され、世界に翻弄される中で足掻いてきた彼女。
彼女のストーリーには、王子様も足長おじさんも登場しない。


「ったく、はた迷惑な奴等だよなァ? 厄災だけ産み落としていきやがった」
レヴィは明るい声で言った。
しかし、精一杯の明るさは却って不自然で、痛々しかった。
「ま、今から考えてみりゃ、真理を突くことも言ってたな。
結局、血と運命からは逃れられないってことさ。
それにあたしが気づくのが、ちょっと遅れただけってことだ。
親の言うことも聞いとくもんだなァ? ろくでなしの子はろくでなし、淫売の子は――」
「違うよ、レヴィ」
妙に饒舌な彼女を、ロックは遮った。
「そうじゃない。レヴィはろくでなしでも淫売でもない」
「――やめろ、ロック。あんたは知らないんだ。あたしが何をしてきたか。
それを知ったらきっと、あんただって――」
「……ああ、知らないよ。けど、じゃあ、レヴィは何をされてきたって言うんだよ」
やりどころの無い、怒りに似た感情が沸き上がっていた。

ぴたりと黙った彼女の後ろから、続ける。
「レヴィは、生き残ったんだろ? 自分の力で。
地獄の中を勝ち残ったんだ。
血なんか関係あるか。運命だってクソ食らえだ。――選ぶのは、レヴィだ」
彼女の希望と尊厳を踏みにじった者が憎かった。
蔑まれ続けて生きると、誇りが失われる。
「レヴィはレヴィだ。何にだってなれる。そうだろ?」

誰もが少なからず罪を背負っていて、完全な善人などいない。
皆、楽園を追放された不完全な人間に過ぎない。
なるほど彼女は罪深い。
けれど、本当に罪深いのは一体誰だろう?
生まれながらにしてついた差。
悪夢のような負の連鎖。

――でも、選ぶのは、変えるのは、世界でも他人でもない。自分だ。
98ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:57:26 ID:TSxhsj9a

ロックは、レヴィの耳元に唇を寄せて囁く。
なるべく優しく響くように。
「……難儀だったな、レヴィ」
「――別に、」
大した事じゃない、多分そんなようなことを言いかけたレヴィに全てを言わせず、
ロックは言葉をついだ。
「俺は、レヴィの両親を赦すことは出来ない。
――けど、レヴィを産んでくれたことにだけは、礼を言わないと」
レヴィの身体が小さく震えた。
息が鋭く吸い込まれた後、細く吐き出された。

「どんなにレヴィが地獄を見てきたとしても、俺は、生まれてきてくれて良かった。そう思ってる。
だって、――会えた」
すごくエゴイスティックだけど、と言うと、レヴィはかすかに首を横に振った。
「――バカが」
うつむいたレヴィの呟きが、ベッドの上に零れた。
「バカで結構」
「……あたしはただの人殺しだ。もう何人殺したかも、覚えちゃいねェ」
「……知ってる。でも、そんなことはどうでもいいんだよ、レヴィ。
何人死のうが、俺はレヴィが今ここにいてくれればそれでいい。
言ったろ? 俺は自分勝手なんだよ」
レヴィの首がまた、左右に振られた。
「――狂ってやがる」
「……そうかもな。でも、『狂ったこの世で狂うなら、気は確かだ』。そう言うだろ?」
レヴィはため息をついた。
「昔のジョンブルが言ったことなんざ知るか。
……それに、大袈裟すぎんだよ、ロック。別に『地獄』っつーほどのもんじゃない。
良いことだって、それなりにあったさ」
「……観覧車とか?」
「――そうだな」
「あとは?」
「あとは――」
言い淀んだレヴィを無言で促すと、しばらく経ってから、震えた声がもれた。

「例えば、今――」
99ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:58:01 ID:TSxhsj9a

気づいた時にはもう、ロックはレヴィの顎をとらえて、肩越しに口づけていた。
首をねじらせた彼女の片頬を掌で包みこみ、引き寄せる。
まだしっとりと濡れているレヴィの髪が、裸の胸に張りついた。
湯上がりの肌はすっかり冷えてしまっていたが、
今度は先ほどのような拒絶は無く、レヴィの身体にまわした腕は、やわらかに受け入れられた。
皮膚のうすい唇の感触を、何度も確かめる。
穏やかについばむと、レヴィの呼吸が頬をかすめた。
わずかに開いた唇の隙間から舌をさし入れ、浅いところで絡ませ合う。
自分の肌も冷えていたが、冷えた身体どうしが触れ合ったところは、ほのかに温かくなっていった。

頬を支えていた手で首筋を撫で下ろすと、すぅっと筋が浮き上がっていた。
意外と細い、女の首。
肩からかけられていたバスタオルの隙間から手をもぐりこませる。
洗ったばかりの裸の胸。
包みこむと、レヴィの身体が反応して、胸郭がほんの少し沈み込んだ。
冷えた肌を温めるように熱を伝えていると、段々と先端がかたさを増していく。
指のつけ根にしこりを感じながら、掌全体で乳房をそっと揺らすと、レヴィの身体が波うった。

身を乗り出すようにして口づけを深くすると、レヴィの上半身が傾いた。
反った身体を、ロックは腕で支えた。
それでも、レヴィの身体はどんどん溶けくずれていった。
ロックはそんな彼女に覆い被さるようにして、ふかく追った。
最後には、レヴィはベッドのリネンの隙間で、ロックの腕の輪郭に囲われていた。
ロックの身体に吸いつくようにやわらかくなった身体で、うずもれていた。
肩からかけていたバスタオルが少し乱れたその間から、乳房の谷間が覗いていた。

あんな話を聞いた直後にこんなふうに盛るなんて、ひどく不誠実な気がしたが、
それでも、彼女のすべてを知って、すべてが欲しいという想いは止められなかった。
「――抱いても、いい? ……レヴィ、お前を、抱きたい」
はだけた胸元を整えるようにバスタオルの乱れを直しながら言うと、レヴィの眉が寄せられた。
「……バカ。――んな野暮なこと、いちいち訊くな」
そして腕が伸びてきて、首に絡められた。
レヴィの腕に導かれるまま顔を寄せる。
互いの頬に息がかかるほどに距離が縮まった時、レヴィの唇が小さく動いた。
「……イヤだったら、キスなんかするかよ――」
囁くようなかすれた声。
最後の距離は、ロックが詰めた。
100ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:59:13 ID:TSxhsj9a
身体を伸ばして横たわるレヴィのわきに、ロックは肘をついた。
彼女の上半身を覆うバスタオルをそっと開く。
そして、首筋に口づけた。
濡れた髪のせいで湿った肌。
シャンプーと石鹸の香りが匂いたった。
自分からも、同じ匂いがしているはずだった。
なのに、レヴィの肌から感じる匂いは、自分よりもずっと甘くやわらかなものに感じた。

冷たい肩口を掌で包みこんで、真ん中の鎖骨の出っ張りを唇でそっと吸いあげると、
レヴィの息が震えた。
唇を離して、指先で骨を横になぞる。
くっきりと浮き上がる鎖骨が美しかった。
黒いタトゥーが一段と濃く踊っている。
見ていると、レヴィの片腕が胸元にかぶさってきた。
じっと見られているのに気づいたのだろう。
だが、手首をとってゆっくりのけると、簡単に腕は開いた。
レヴィの顔のわきに手首を着地させた手で、掌を重ね、指を絡める。
いつもしている黒革のグローブを外した彼女の指は、自分のものよりずっと細い。
静かに握ると、同じように握り返された。

覆い隠すものが無くなった胸元に、ロックは唇を落とした。
何度も乳房の曲線に口づけた後、とがっている先端へ。
唇で柔らかく包みこんで、そしてやはり柔らかくした舌をよせる。
レヴィの身体の震えと呼吸の乱れが、じかに伝わってきた。
彼女の体温は、徐々に上がっていく。
ほんの少し舌を動かすだけで、レヴィは息をつめる。
軽く吸いたてると、レヴィの身体がよじれて、胸の奥がきしんだような甘い声がもれた。
その声に、自分の体温も上がった。

レヴィは、声を飲みこむように呼吸を止めた。
ロックが乳房の先端から唇を離してレヴィの顔を見ると、彼女の瞳は、
今のはちがうのだ、こんなのは自分の声ではないのだ、と言っていた。
怒ったような困ったような目をして、ふい、と顔ををそむけた。
ロックはレヴィの声が好きだった。
罵声を浴びせる時の低く凄みのある声も、機嫌が良い時の明るく弾むような声も、
眠たい時のぼんやりとしたかすれ声も。
そして、身体を合わせた時にだけもれる、吐息混じりの甘い声。
それがどんなにロックを昇ぶらせるか、レヴィは知らない。

もっと聞かせて欲しかったが、今の様子のレヴィにそれを要求するのはあまりに酷だ。
ロックは代わりに、レヴィの耳のそばに口づけた。
そこから唇をずらして、耳たぶをはさみこむ。
マシュマロよりもやわらかい、少しひんやりとした耳たぶ。
レヴィの身体がきゅうっと小さくなった。
ロックの耳を、あたたかく湿った吐息がかすめる。
それで、充分だった。

レヴィの傷痕だらけの皮膚のすぐ下では、温かい血が流れている。
やわらかく湿った体温。
とくとくと心臓が鼓動する。
呼吸をするたび、レヴィの胸は震えた。
ほのかに息づくレヴィの身体。
この身体を、どうして乱暴に扱えよう。
肌の上を掌や唇でそっとたどるだけで、レヴィの息は揺れる。
その内側は、もっと繊細だということを知っている。
そんな身体を、そして目には見えない奥底を蹂躙していったものを思うと、ロックは哀しくなった。
憐憫や同情などではない。
ただ単に、哀しかった。
レヴィ。
心の底から親を憎める子供なんて、どこにもいないのに。
101ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 20:59:54 ID:TSxhsj9a

ロックはレヴィの首筋にうずめていた顔を起こして、今度は唇に口づけた。
穏やかに、長く。
レヴィの繋いでいない方の手が背中にまわってくると、身体の中がざわめいた。
「……レヴィ、嫌なことがあったら、言えよ」
「――だから、嫌じゃねえって」
近い距離で見下ろした彼女は、憮然とした表情で言った。

ロックは、やわらかな頬を撫でながら思う。
彼女は一体、この身体の中にどれだけの傷をためこんできたのだろう?
想像もつかないほど沢山の傷と大きな痛みを所有しながら、
それでいて、ひとつもロックに分け与えてくれようとはしないのだった。
ここまで来い、一緒に来いとその存在で誘うくせに、
いざそばに行くと、するりと身をかわし、巧妙に偽装しようとする。
傷に触れないで、と言うように。
もしくは、他人に触れられる前に自ら抉ってみせるかのように。
レヴィのいるところがたとえ地獄であっても、ロックはそこを選んだ。
なのに、肝心な時になると、闇を見るな、腐敗したものを見るなと、そっと目隠しをするのだ。
ロックはレヴィの痛みにこそ、近づきたかったのに。


「じゃ、して欲しいこと、でもいいけど」
喉の奥に笑いを滲ませて言うと、レヴィが言葉につまった。
「な――っ」
部屋の中は薄暗くて顔色まではよく分からないが、きっと耳のふちまで赤くしていることだろう。
前髪をかきあげて額に軽くキスをすると、レヴィが眉間に皺をよせて睨んできた。
「……ふざけんなよ」
からかわれていると思ったのだろう。
特に冗談で言ったわけではなかったのだが、この内容でレヴィから正直な返答を期待するのは無理だ。
「ふざけてないよ」
それだけ言って、ロックはまたレヴィの口を塞いだ。

ロックは、しっとりしたレヴィの全身をゆっくりとなぞった。
わきの下のくぼみも、ひじの内側も、ひざの下から固く突きでた膝蓋骨も。
手の届く限りの全身を、くまなく。
レヴィの身体は美しく、魅力的だ。
しかし、その身体が欲しいわけではないのだと、分かって欲しかった。
――いや、正確に言うなら、全部欲しかった、と言った方が正しいかもしれない。
女の部分だけでなく、彼女のすべてが欲しかった。
ふたりの意志が合致したセックスは、レイプとは違う。
けがらわしいことなんか何も無い。
それを分かって欲しかった。

しかし、何か言えば、彼女はまた『レヴィ』という女を演じなければいけないことを思い出す。
『トゥーハンド』としての『レヴィ』を。
言葉は、肝心な時にはいつも無力だ。
だから、もし彼女が分かってくれていないのだったら、
分かってもらえるまで、行動で繰り返すだけだ。

――レヴィ、分かれよ。

ロックは丁寧に、彼女に触れ続けた。
102ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 21:00:35 ID:TSxhsj9a

 * * *

ロックが静かに溶けた内側にはいってきた時、反射的にレヴィの身体はわずかに痙攣した。
つむった目のせいで、敏感になった内部をロックがゆっくりと進んでいくのが
却ってはっきりと分かった。
身体の中心をざわりと奔流が走って、レヴィは息をつめた。
ロックは、レヴィが長く息を吐くのを待ってから、唇を重ねてきた。
ふかく貫かれて密着したまま揺らされると、腰の裏まで甘い疼きが響く。
喉の奥から思わず小さな声がもれた。
口の中では舌が絡まっていて、声を噛み殺すことが出来ない。
それを知ってか知らずか、ロックは唇をつなげたまま、緩慢に押しあげてきた。
「――――――ん……っ」
口腔内で声が響いた。
すぐに、つま先も熱を持ってくる。
粘膜をなめらかにこすられている。
そう感じられるくらいに動きが大きくなって、少々息苦しさを感じるようになると、
絡まった舌は解かれ、呼吸は回復した。

けれど、身体の中心でつながった方をかき混ぜられて、吐息に声が混じった。
ロックはゆるゆると往復する。
レヴィの空虚がどれくらいなのかを知らせるように、ふかく、入り口まで戻って、また、ふかく。
自分の本能が、吸いよせるように彼を求めているのが分かった。
ロックは奥を突いたかと思うと、浅いところを漂って、また、奥まで埋める。
最初にどうしても感じる圧迫感や重たい衝撃は、もうまったく無かった。
ぴったりと、彼のかたちに即した身体になる。
レヴィの身体からあふれる粘液をまとって、ロックはレヴィの足りない部分を満たしてゆく。


そう、ロックはいとも簡単に、レヴィの欠けたところを満たす。
そっと撫でる手も、抱きしめる温かな腕も、唇や額に落とす口づけも。
それが、どんなにレヴィにとって特別なことであるか、ロックは分かっていない。
親におやすみのキスすらもらえない哀れな子だった女が、
どんな気持ちでそれを受けているかなんて、絶対に分かりはしないのだ。
世界の腫瘍たるべく肥溜めに生まれ落ちてきて、
実の親をして「生まれてこなければ良かった」と言わしめた女に向かって、
「生まれてきてくれて良かった」と言う馬鹿な男。

母の気紛れで一度だけ乗った観覧車、見ているだけだったキャンディ・アップル、
行ったことのない遊園地、仲の良さそうな家族が楽しそうに食べていたフランネルケーキ、
ただ抱きしめてくれる腕、穏やかなキス、優しい交わり。
それらが、レヴィにとって、どんなに特別な、ことであるのか。
ロックは知らない。

なんだか一生分の幸せを一日で使い果たした気がして、レヴィは泣きたいような気分になった。
103ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 21:01:21 ID:TSxhsj9a

狭くなった喉の奥を上下させると、ロックの指が髪の中にもぐりこんできた。
「レヴィ……」
瞼をあげると、見下ろすロックと目が合った。
大丈夫? というような顔をされて、レヴィは困った。
こんな時に何を言えばいいのかなんて分からない。
だから、腕を背中にまわしたまま、片脚を絡ませ、ロックの腰に向かってすりあげた。
「レヴィ――」
ロックが微笑して、髪をすいた指が離れていった。

次にロックの両手が腿の裏側にまわったかと思うと、脚がすくわれた。
シーツから踵が離れる。
ロックはレヴィの身体を大きく開かせて、更に奥を突いてきた。
「――――や、……あ…………ッ」
さっきよりも一層ふかいところまで届いたことと、あまりに羞恥を覚える格好、
そして、耳を疑うような女の声に、レヴィは逃げ出したい気分になり、目をつぶった。
情欲が滲み出た、女の声。
男を誘う、女の声。
父は、母は、お前が男を誘っているのだと言った。
いやらしい子、と。
確かにレヴィは、ロックとの情交に快楽を覚えていた。
けれど、ロックには、自分が今まで受けた陵辱をも歓んでいたと思われたくなかった。
セックスが好きなだけな女だと、思われたくなかった――この期に及んで。
――ロック、ちがう。
レヴィは、さらに強く目をつむった。

「レヴィ」
しかし、ロックの穏やかな囁き声が降ってきて、レヴィは瞼をあげた。
ロックの目元は微笑んでいた。
動きを止めたまま、掌でレヴィの頬を撫でてくる。
何度も。
レヴィの心はだんだんと落ち着きを取り戻してきた。
身体の強ばりが解けてゆく。
それを見計らって、ロックは抽送を開始した。
ゆっくりと、大きく、さし貫く。
呼吸と同じリズムで。
彼にしか届かない奥まで、繰り返し。
地上に縫いとめて、とろかすように。
レヴィの体液はロックを根本まで濡らしていた。
これ以上もう進めないほど奥まで満たされて揺らされると、その律動に合わせて声がこぼれ出た。
歯の奥に押し戻すと、また、ロックの湿った声が降ってきた。
「レヴィ」
名前を呼ぶロックの声は、霧雨のようにレヴィの髪や皮膚から染みわたっていく。

右手を伸ばすと、ロックは両脚を支えていた腕を放して、レヴィの手を取った。
「――ロック」
「ん?」
身体を倒してきたロックの耳元で囁く。
「……もう一度。名前――」
彼の声で発音される、今の呼び名の響きが好きだった。
ロックは迷い無く呼んだ。
「レヴィ」
耳の奥に注ぎこまれる。
彼の声は、頭蓋の中でやわらかく反響した。
身体中が水っぽくなった気がした。
104ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 21:01:54 ID:TSxhsj9a

ロックに突きくずされて、身体の芯まで溶けそうになりながら、
レヴィの意識だけは上昇していった。
もう、浅いも深いも、手前も奥も分からない。
この男に満たされたい。
そして同時に、この男にも自分の身体で満足して欲しかった。

心臓が動悸を忘れるほどに押しあげられた時、臨界を越えて、空中に放り出された。
息が止まる。
甘い痙攣に腰を揺らめかせると、ロックの震えも伝わってきた。
そのまま重なり合って、余韻を最後まで感じる。
思い出したように、汗が体中から噴きだした。
胸が突き破れるかと思うくらいに速い心臓と、上がった息とが、互いに混ざり合う。
熱の膜が全身を覆っている。
意識が冷え固まってくると、ゆっくり身体を引き離した。
肌の上には汗がたまっていた。
汗で張りついたこめかみの後れ毛を、ロックの指がかき分ける。
穏やかな目で笑ってから、ロックはレヴィの隣に移動した。

身体は、今は泥の中に沈んでしまいそうに重い。
けれど、甘い水で満たされたようなだるさは、心地よかった。
向かい合うと、当たり前のようにロックの腕が伸びてきた。
今度は眠るために、抱き寄せられる。
レヴィは、慣れ親しんだ肌の匂いを感じながら目を閉じた。
105ロック×レヴィ 観覧車  ◆JU6DOSMJRE :2010/03/03(水) 21:03:15 ID:TSxhsj9a

この地上はまったく厄災に満ちていて、ろくでもない汚物の複合体だ。
……しかし、そんな中にも小さな光はある。
レヴィは、この混沌も悪くない、と思った。

この先、その小さな光が再びまたたくかどうかは分からない。
けれど、「いつか、一緒に乗ろう」と言われた移動式遊園地の観覧車。

約束は嫌いだった。
叶わない未来を期待させられるのは、つらいことだった。
あまつさえ「一緒に」だなど、全く論外。
もう、置いていかれるのは、ごめんだ。

でも、この男とだったら、もしかしたら、きっと――。

どこまで行っても虚無しか無いと分かっている確定より、
たのしい未来があるかもしれないという可能性は良いものだ。

それに、そう、天国に一人でいたって、さみしいだけだ。



 『君のいない天国よりも、君のいる地獄を選ぶ』 (スタンダール)




106名無しさん@ピンキー:2010/03/03(水) 23:50:45 ID:ZkrQsDnh
GJGJGJ!!
弾痕だらけのバンを捨て、俺たちが這々の体で俺のフラットに帰り着いたのは、もうとっぷり日も暮れた後だった。
全く、クソったれな1日だった。
俺は早いとこシャワーでも浴びて、丸太みたいに眠りたかった。
だが俺の期待は、虚しく破られそうだった。

"やっぱしな、もう連中ここに来てやがるぜ。"

ホットパンツとタンクトップの上にライダースを羽織ったレヴィが、吐き捨てるように言った。
無人の筈の俺の部屋、閉じられたカーテンの隙間から灯りが漏れているのを、あと数ヤードでフラットの入り口というところでレヴィが目ざとく見つけたのだ。

"ビジターパーキングのグレーのカプリス見えるか、あれ、ライセンスプレートからしてFBIのだ。
大体今時あんな、いかにも覆面パトカーでござい、ってクルマに乗りたがる奴はいねえよ。
今朝方、不正アクセス防止法違反でお前に逮捕状が出てるからな、奴らが張っててもおかしかねぇ。"

"おいおい、勘弁してくれよ!
マフィアだけじゃなくてFBIにまで追われてるってのか俺は?"

"覚悟の上の火遊びだろう?
どのみちダッチが機材をマイアミのヨットハーバーのボートに用意してあるから、今日はモーテルにでも泊まって…。"
"ダッチ?"

"ああ、うちのボスさ。
タフで知的で変人、2年仕事で付き合ってそれ以上適切な表現は思いつかねえ。"

"冗談じゃない、あのフラットには俺のヴィンテージアロハのコレクションがたんまりあるんだぞ?
特にレイン・スプーナーとカメハメハの一連のシリーズを買い戻すにゃ、軽く新車のマスタングあたりが買えるだけの金がかかる。
ラハイナ・セーラーなんか全てのバージョンが揃ってるんだぞ。"

"ガタガタ抜かすな、命あっての物種だろう?
それにあたしらラグーン商会の仕事を受けりゃ、そんくらいの金はすぐに入る。"

"商会?
お前とそのダッチ以外にお仲間がいるのか?"

"ああ、あとあたしらのボートの面倒を診るキューバ人の爺さんが1人、計3人だがな。"

"オーケー、レディ。
ビジネスの内容を聞こうじゃないか。
このまま帰宅して問答無用で豚箱にぶち込まれるかトランクに詰められて海に沈められるかよりゃマシなら、考えてもいい。"

"話が早いな。
ここじゃ何だ、デニーズでコーヒーでも飲みながら商談といこう。
このままアホみてえに突っ立ってたんじゃ、奴らに見つかるのはナショナル・エンクワイアラーのゴシップ記事よか早いに違いねえ。"
デニーズでのレヴィの話の内容をかいつまむと、要はこういうことだった。

マイアミのとある日本企業の支社のビルに、大きな鮫のわらわら泳ぐ深い水槽がある。
その底に隠し金庫があり、中身のCDロムを盗みたい。
相手に気づかれずにビルに忍び込むのに建物全体のセキュリティをハックし、暗号化されたCDロムを解読するのにコンピュータに詳しい人間が要り、無数の鮫に食われずに金庫を盗むのには海洋生物学上の豊富な知識が必要だ。
そこで白羽の矢が立ったのはこの俺、稀代のクラッカー『ジョニー・B・グッド』こと理学博士ベニー・ヤノフスキーというわけだ。

俺への報酬は10万ドル。
それだけあればアロハシャツのコレクションを買い戻し、おまけにレストロッドの1〜2台くらいなら買える。
悪い話ではなかった。

"……どうする、博士さんよ?"

"受けない話はないね。
アカポスが取れるまで、いつ終わるとも知れない退屈な毎日を過ごすよりゃ随分と有意義だ。"

"決まりだな。
じゃ明日ダッチに紹介するよ。
今晩はモーテルでゆっくり眠るといい。"

よくわからない何かが、俺の中で動き始めていた。
それは、この閉塞した日常を打開する、一筋の光明かもしれなかった。
110名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 02:06:55 ID:rz33TqCE
>>105
GJ。
もうラブラブすぎて生きるのが辛い。
・・・モーテルに入ったことを見逃していて「ああ、観覧車内プレイ」かチャレンジャーだな、と思いました。
まあ、レヴィの居るところならどこでもいいか。地獄でも観覧車でも。

>>109
キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!

>その底に隠し金庫があり、中身のCDロムを盗みたい。
ルパンみたいなアナログさだなと感じたが18年前の話だったらハイテクか。

111名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 06:36:48 ID:ZYyl31iQ
>>110
俺もまったく同じ勘違いして、いくらなんでも観覧車の中にベッドはないだろって突っ込んでたw

>>105
毎度ながらGJ!!
ロクレヴィの中で一番萌える。
112名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 16:28:09 ID:UGTiT/FX
観覧車!観覧車!!
113名無しさん@ピンキー:2010/03/04(木) 21:30:08 ID:Qw3logqI
>>105
原作絵で脳内再生されて激しく悶えた
114名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 21:02:05 ID:UEcTocMz
特定されやすいように、ID同一のまま誤爆
しかも、妙に挑発的
細切れ(1〜2レス)投下
やめる宣言
舌の根の乾かぬうちに投下(どっこい細切れ)
GJ貰えなさに原作者に責任転嫁
115名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 21:22:17 ID:lhQws7dI
>>105 
まさかおピンク板のエロパロスレきてマジ泣きさせられるとは思いもしなかった・・・

“君のいない天国よりも、君のいる地獄を選ぶ”を最後に持ってくるとか巧すぎる・・・GJ!!!
号泣&感動した!
116名無しさん@ピンキー:2010/03/05(金) 23:41:25 ID:3rovWz2M
>>105を漫画にしてほしい…
117名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 00:10:51 ID:hnN8AM1r
>>105
GJ。リアルタイム投下に初遭遇したw
原作でのレヴィ不足解消〜。
118名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 00:31:19 ID:m7vHT4WS
美女で野獣の話のほうがクールで面白かったな
自分的には観覧車の話はいまいちだった
119名無しさん@ピンキー:2010/03/06(土) 09:47:42 ID:jmrd7b4o
俺は観覧車ドンピシャに読みたかった話すぐる。
この衝撃はいつぞやのボンテージ祭り以来だ。

これからも期待してるぜMy GOD
120名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 20:54:40 ID:GrgtIlGK
ボンテージ祭なんてあったのかw
121名無しさん@ピンキー:2010/03/07(日) 22:07:53 ID:ujmlNPy+
119の脳内祭りだろw
でもボンテージ確かによかったよな〜。
122名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 07:04:53 ID:pY8bwAIH
あれは軽く祭りだったろ。
エロパロスレにしてはかつてない伸び様だったし。
123名無しさん@ピンキー:2010/03/08(月) 10:19:48 ID:xUuzH7ka
どんな祭りだったの?
124名無しさん@ピンキー:2010/03/09(火) 11:20:28 ID:gxLBL9A8
>>113の脳内に行きたい。

ボンテージ懐かしいな。
久しぶりに読んで原作レヴィ飢饉を凌ぐか。
125名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 22:18:48 ID:Dttyu+6Q
アマゾンでBDスリーブ絵が公開されてるが、
繋げたらロックとレヴィが分身してるみたいになるなw
ロックは雪男の手を引っ張ってるんじゃなくて、
負傷したレヴィに肩を貸してる構図とかだったら最高だったな
126名無しさん@ピンキー:2010/03/10(水) 23:58:16 ID:wfxt9NuZ
ゆきおとこ、って誰だよと思ったら雪緒ちゃんかw
鼻緒の緒だよ、お間違いなく。
127名無しさん@ピンキー:2010/03/11(木) 15:56:47 ID:g3kasxvb
日本編衣装のレヴィたんならパンチラアクションにしてくれればもっとよかったのによ
128名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 18:18:42 ID:ybxjWaNp
本スレでは普通に見るから今じゃ違和感なくなったけど、最初は自分も雪男をゆきおとこって読んでフイタな。

いやわかっちゃいるけど緒で変換すんの面倒くさいんだよ。

レヴィたんみたいな暗い過去持ってる殺人系キャラって雪が好きなのが多いイメージあるけど、レヴィたんはどうなんだろ?
とか最近関東では珍しい雪を見て思った。
129名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 20:49:20 ID:jY5MQv8T
めちゃくちゃ寒いのに家に入れてもらえず震えてたあの雪の夜を思い出すから
雪は嫌いだ…みたいな方向に行くかも。
130名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 21:37:08 ID:MSveMXj8
でもロックと二人で歩きながら見た雪は綺麗だと思った、

とかだったら悶え死ぬ
131名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 22:28:46 ID:gGnkg/3I
童心にかえって、雪合戦や雪だるまを作ってはしゃぐレヴィ

その後、ホットチョコレートを手にまったりしているレヴィまで想像した
132名無しさん@ピンキー:2010/03/12(金) 22:34:56 ID:VLVCC/MA
しかしあの本編からどうしてそういうハートフルな妄想ができるのか謎だなこのスレw
133名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 07:47:48 ID:OJdglnip
えっ、だってブラックラグーンて荒んだ過去から闇世界でしか生きていけなくなったそんなレヴィたんの淡い初恋が成就するか否かを見守る漫画でしょ?
134名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 11:51:33 ID:ivZpDVgH
何言ってんだ?ファビオラのスパッツを観察する漫画に決まってんだろ
135名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 12:28:33 ID:cv3zj3p/
え、ですだよ姉ちゃんの紐パンを崇め奉るスレじゃなかったのか
136名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 22:39:55 ID:JjsLaTBk
ソーヤーのゴスロリな日常を淡々と描く作品じゃなかったっけ?
137名無しさん@ピンキー:2010/03/13(土) 23:05:30 ID:FTgzjjcW
いやいや、カピターンの谷間をあwせdrtgyふじこ
138名無しさん@ピンキー:2010/03/14(日) 16:41:09 ID:myD28Xxv
レヴィたんはちゃんとロックからお返し貰えたんだろうか。

3月14日は円周率の日でもあるから、男性から無限の愛、とか割り切れない想い、って意味を込めてプレゼント贈るなんてのもあるそうだぞ?ロックさんよ。
139名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 11:02:34 ID:WXqqp6kb
おまえが書けよw
140名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 12:57:28 ID:EYYgg+SJ
またこのパターンか?
いい加減にしろ
141名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 13:06:06 ID:IeerEGjX

なにキレてんのこの人
142名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 14:38:47 ID:VTsoPHNe
生理がこなくてヒステリック起こしてるだけだろ
143名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 21:32:52 ID:hBloY7vY
>>138

レ「なぁ、今日って何日だ?」

ロ「ん〜?3月14日だけど・・・」

レ「ふ〜ん・・・」



レ「3月14日って何の日か知ってっか?」

ロ「円周率の日」

レ「・・・」



(その夜)



ロ「レヴィちょっと良い?」

レ「何だよ改まって・・・」

ロ「・・・チョコのお返し」

レ「ちょ・・・何だよこれ・・・」

ロ「見たまんま。指輪だよ」

レ「////」

ロ「円周率の日って言っただろ・・・」


こうですか?
144名無しさん@ピンキー:2010/03/15(月) 22:47:48 ID:/xCobuFt
ななななにこの砂糖爆弾w
ハートフルにも程があるぞwww
145名無しさん@ピンキー:2010/03/16(火) 16:17:00 ID:7DW7sya7
ロックめ・・うまいことすっとぼけてそういう作戦に出るとはやってくれるぜw

今月こそレヴィたん出てくれないと泣き喚くよ
146名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 01:18:38 ID:n2woeFwO
出るといいな
147名無しさん@ピンキー:2010/03/19(金) 11:55:58 ID:ZbeKiKk9
今月号、ピザ食べながら楽しそうに笑ってるレヴィカワユス
148名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 19:03:29 ID:IKq8SbWv
アニメ版ビバ!ヤング見たら厨房ロック×スラムレヴィのエロが脳内で開花した
149名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 21:27:41 ID:KKvr6DnH
>>148
 N.Y.のスラムで小汚い女の子を見つけたので虐待することにした。
 他人の目に触れるとまずいので家に連れ帰る事にする。
 この時点でギャーギャー暴れるので俺のほうが体力を消耗している。
 それでも何とか連れて帰ることは成功し、嫌がる彼女を風呂場に連れ込みお湯攻め。

 充分お湯をかけた後は薬品を体中に塗りたくりゴシゴシする。
 薬品で体中が汚染された事を確認し、再びお湯攻め。
 チクショウとかこの野郎とかブッ殺してやるとか盛んに罵られる。
 ゴシゴシするボディタオルが痛いらしい。
 仕方が無いので手で石鹸を泡立てる手間のかかる虐待方法に代えてみた。
 ……そっちのほうが耳元で物凄い勢いで悲鳴を上げられた。有効らしい。
 湯船に浸けたらやっと大人しくなった。何だ他愛も無い。

 風呂場での攻めの後は、髪の毛にくまなく熱風をかける。
 その後に、乾燥した不味そうな塊の小麦製品を食わせる事にする。
 そして俺はとてもじゃないが飲めない白い飲み物を買ってきて飲ませる。
 もちろん地獄のように熱くして砂糖を放り込み甘ったるくしてやったヤツだ。」

こうですか!?わかりません!!><
150名無しさん@ピンキー:2010/03/20(土) 22:52:22 ID:ITb3PoIn
随分可愛い虐待だぞおいw
151名無しさん@ピンキー:2010/03/21(日) 22:22:43 ID:fnl1dXvU
今月号のロクレヴィ、微妙に距離が縮まったように見えるな
152名無しさん@ピンキー:2010/03/22(月) 07:17:02 ID:WzbFeh3W
距離が縮まったと思って上機嫌なるんるんレヴィたん
153名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 17:24:34 ID:zPqQmnVj
レヴィたんとピザ食べたい
154名無しさん@ピンキー:2010/03/23(火) 23:03:08 ID:dhBpdu3S
レヴィたんはワキガで油足で、もう全身が獣くさいのに何でカワイイの?
くさいくさいと文句を言いながら、レヴィたんの全身をくまなく嗅ぎ回りたい。
眉間に銃口を当てられても鼻をピクピクさせて挑発したい。
155名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 09:05:46 ID:13l791CC
もの凄いドSだなw

しかしアジア系って体臭そんなしないんじゃないの?詳しいことはよく知らんけど。
レヴィたんからは硝煙の匂いとラムの甘い匂いがしそう。

硝煙の香ばしい匂い+ラム酒の匂い=焼き菓子の香り

つまりレヴィたんからはクロワッサンやパイの香りがすることになる。
156名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 11:19:38 ID:QOayA6Or
でも少なくともあのブーツは臭そう。ロアナプラは蒸し暑いだろうし。
157名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 15:11:51 ID:p+s0jm99
そういう二次元豚の夢や希望をぶっこわすのが広江の仕事。
158名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 15:59:13 ID:TysbeMhX
ブーツを脱いで、自分の足をクンカクンカした瞬間、物凄く渋い顔をしたレヴィたん萌え

あまりの臭さにブーツを窓の外にぶん投げちゃったレヴィたん萌え

……その時のブーツが当たって出来た傷がこれさ。まぁ、男の勲章ってやつだよ
159名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 19:59:32 ID:RBvnQViK
かっこいいなw
160名無しさん@ピンキー:2010/03/24(水) 23:28:11 ID:FH6L2Gfy
田丸スレを間違って開いたかと思ったw
161名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 10:18:00 ID:xOc1qezo
まったく、どいつもこいつも歪んだ愛を持った野郎ばかりだな。
真剣にレヴィたんのこと想ってるの俺だけじゃねーか。

レヴィたんを有刺鉄線でギチギチに縛り上げて「そんなに岡島さんのことが好きなの?ねぇ、岡島さんとはどこまでいったの??」って根掘り葉掘り尋問したい。
162名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 11:04:30 ID:9919j2mN
レヴィたんにカツアゲされたい。
カツアゲされたらロックに言いつけたい。
そして逆恨みしたレヴィたんに蜂の巣にされたい。
163名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 11:16:35 ID:y7fmuha3
レヴィにいじめられ属性+ロックと話をする程度には面識あり+陰険

そのポジションはソーヤーだな…
164名無しさん@ピンキー:2010/03/25(木) 13:12:01 ID:zm944fOq
ロックをカツアゲしてチクられてラジカルに蜂の巣にされたい
165名無しさん@ピンキー:2010/03/26(金) 16:01:05 ID:4K6aq83t
ラジカルの声可愛かったな。
豊口本領発揮してた。

ロリレヴィの声も以外な程ハマってた。
高いのにドスがきかせてあって。
166名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 20:16:02 ID:y2ZCV3kW
本スレで今更ヤッたかヤッてないかで白熱しててワラタ
167名無しさん@ピンキー:2010/03/27(土) 22:08:49 ID:2erEHZzs
OVAってもうでてんの!?
168名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 00:13:01 ID:ws7HCZdn
あのロリレヴィの声をNY編で見たいなぁ
169名無しさん@ピンキー:2010/03/28(日) 11:08:18 ID:pY6Meb9w
レヴィを耳レイプする夢みたら夢精したでござるの巻

蒸し暑くて汗だくなレヴィの耳を指で形をなぞるように弄ってたら激しい尿意を催したんだけど、
止められるわけもなくニチャニチャ続けてたら快感も合わさって射精してしまったのさ

汗だくなレヴィのうなじたまらんかった
170名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:22:27 ID:Z+0HlCK1
前スレの没子沢山の続き。

*************
ロックが帰って来たのはその一週間後だった。

部屋の電話線はあるべき場所に戻ることは無く、事務所に掛かって来た電話も取り継ぎを拒否してロックとレヴィが直接話をすることは無かった。
エダやダッチとは連絡を取っていたらしい。
当分ウォトカには困らない、ずっと喧嘩していろとエダが上機嫌で嘯いていた。
因みに、アレキサンドライトが馬鹿高い宝石だと、ダッチに聞いて知った。
価値を知ったことによる、馬鹿かあの男は、という苛立ち。
そして、自分にはくれたこともない宝飾品をエダにくれてやる約束をしたことへの絶望。

一度萎んだはずの鬱憤は再び圧力を増し続けていた。

街が寝静まった時間。何者かがガタガタと音を立てて侵入する気配に、警戒心と殺気は一気に高まった。
カトラスは居間の引き出しの一番上。取りに行けば相手とハチ合わせだ。
予備は、子らの手の届かぬクロゼットの奥。相手が寝室に来るのとどちらが先か。
子に泣かれては厄介だ、まとめて抱えて行ってそのまま中に閉じ込めておくか。
速やかに判断したレヴィだが、ドアの向こうからは「あー…散らかってるな〜」と聞きなれた暢気な声。
警戒だけは一気に萎えた。

何の予告も無く帰宅したロックは、寝室に侵入するや「いいな…」と呟く。
仰向けで左腕に娘を抱き、胸に相変わらずの息子を収めて寝ていたレヴィは、眠いし腕は痺れるし膨れた腹ともうすぐ2歳になる息子の体重で息は苦しいし、
ロックの言っている意味も…そこにロックが立っている意味も理解出来ないしで、殺気はそのまま不機嫌に相手を睨みつける。
「ただいま」
だが、彼女のそんな冷視線に負けることなく朗らかに笑う男は、正面から目を合わせてそう言った。
レヴィは寝ぼけた頭で考える。
まだまだ日程は残っているはずだ。
マフィアとの約束を違えるなど、子を儲けてからしなくなったのに。
「一ヶ月だろ」
「うん。明日また戻るよ」
深夜便だから昼過ぎには出なければならないと、上着を椅子に掛けながら大仰に溜息を吐く。
「……飛行機代ロハじゃねぇんだよ」
ロックはハードスケジュールだとぼやいているが、まずは金の心配だ。
エダに宝石や酒を貢ぐ約束をしてみたり、北の果てから日帰りしてみたり。
金が天から降って来ると思っているのかと罵れば、「レヴィが逃げなきゃどれも節約できたよね」と、シレッと言い放つ。
「話があるし、チビ達には自分のベッドで寝てもらおうか……」
言うなり、手前で眠る娘を抱き上げるべくタオルケットをめくる。

「……………………」
「………………………何だよ」
「いや……」
膝丈のロングシャツにもめげずに潜り込んで来た愚息のお陰で、タオルケットの下のレヴィの姿は…半裸と呼んでも差し支えのない、とてつもなくあられもないそれだった。
何で今更その程度で頬を赤らめて視線を逸らしているのだろう、この男は。しかもショーツは色気の無いボクサータイプだし、見てくれだって間抜けな腹ぼてだ。

そんなレヴィの言葉にならない疑問をよそに、ロックは視線を泳がせたまま娘を抱き上げ部屋を出る。
蕩けそうな顔で娘の旋毛にキスをするのを見て、子供が心配で帰って来たのだ、どうせ明日面倒見のいいヤツのところにでも連れて行くつもりなのだろうと歯軋りせずにいられない。
信頼の欠片もない。なけなしのそれを壊したのは自分だが…。
自分の血を引く子を疎ましく思っている筈なのに、奪われるのではないかと気が気でない。
いや、必要無い、全部棄ててしまえ。
男も、彼と自分の血を引く子供も、必要ない。
だって、うんざりしているんだ。
重くて重くて、これ以上抱えられない。
守り切る前にもろとも潰れてしまいそうだ。
171名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:23:06 ID:Z+0HlCK1
矛盾した思考と感情に身体を固くしていると、ロックが戻って来て再び「いいなぁ」と呟いた。
「何がだよ」
視線を遣ると、拗ねたような赤い顔で口を開く。
「一回胸に顔を埋めて寝てみたいんだよね。それに、チビだって俺にそんな甘え方しないだろ、ママの特権だ」
どうやら、レヴィの胸をしゃぶりながら寝息を立てる息子も、しゃぶられているレヴィも羨ましいらしい。馬鹿な野郎だとレヴィの口から溜息。
何でこうも巧みにこちらの毒気を抜けるのだろう。
「気色わりぃこと抜かすな、てめぇはゲイか?ペドか???」
「えー何でそうなるのーー?レヴィってばいつもそんなこと考えて健人くん抱いてるの??えっちだね」
罵倒したつもりが笑われて、どうやら墓穴を掘ったらしいことに気付く。
「…っ!!!???…こうしとけば黙るんだからっ…しかたねぇだろ!?」
「冗談だよ。…まだまだママに甘えたいんだ」
甘く微笑むロックは、そのままレヴィに覆い被さる。
いつでも拒絶できるよう身構えるが、彼は母の胸にしがみ付く息子をそっと抱き上げた。

胸の圧迫感が消えると同時にぐずり始めた息子を、彼は器用にあやして連れ去って行く。
軽くなったレヴィの胸に残るのはひどい敗北感。
自分はあんな風に上手くあやせない。
彼の口から二度飛び出した「ママ」という単語。
だが、現実はお前にその資格は無いのだと彼女を詰る。
とりあえず、胸に抱いて好きにさせれば息子は黙るし、弟が黙れば姉もいずれ遠慮がちに抱きついてくる…それだけはこの数日で把握した。
とは言え、こんなのは家の外では通用しない。二人の示す怯えた目も警戒心も相変わらず。

だが、それでいいと彼女は想う。

だって、ロックがするように甘えさせていたのではこの街で生きていけないではないか。
優しいヤツがいいヒトじゃない。
母親を警戒する位でちょうどいい。
特に、娘には性別ゆえに自分が舐めてきた辛酸など味わって欲しくない。
いいヒトなどいないこの街で力の無いメスガキが生きて行くには誰も信頼しないこと。
だから、これでいい。
あたしが、あいつらを棄てれば完璧。ママに棄てられて、あたしは人を信じることをやめた。
だからと言って、あたしと同じ想いをすることは無い。だって、パパはあいつらを傷つけない。だから、安心して棄てればいい。
自分勝手な理屈だ。
単に逃げ出したいだけなのに、子のためだと屁理屈を並べているだけ。だが、それでも…。

ともあれ、このまま不貞寝が赦されないことくらいは理解している。その為にロックは戻って来たのだろう。
裾を整えながらよろよろと起き上がったレヴィに「いない間に大きくなったよね」と、いつの間にか戻ってきたロックの声がかかる。
何のことかなんて訊かなくともわかる。ロシアに経つ前からしきりに気にしていたし、彼の視線が雄弁に語る。
「十日ちょっとでそんなに変わるかよ」
「変わった気がするけど?」
言いながらベッドサイドに膝をつき、愛おしそうにレヴィの腹を撫でて頬を寄せる。
帰って来て、初めて触れて来たと思えば、気にしているのは腹ばかり。
いらいらする。
「まだ蹴らない?」
「………………………………………ああ」
嘘をついた。
母のやけっぱちな行動の後も、赤子は自己主張するように腹の中で暴れている。むしろあの後の方が激しい位だ。
産みたくないという気持ちはますます膨れ上がるのに、赤子は自らの存在を主張するし、ロックは蕩けるほど幸せそうな顔で腹を撫で回す。
いらいらする。
こんなに嬉しそうなのは、まだ見ぬ我が子が可愛いだけ。
もう、うんざりだ。
172名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:23:39 ID:Z+0HlCK1
腹の子を慈しみながら、ロックはレヴィの様子を観察する。
ずっと笑わない。
この子を宿してから、ずっと淋しそうな顔をして、決して自分を見ようとはしない。もっとも、自分も似たようなものだという自覚は彼にもある。
彼女がこちらを見てくれないことを寂しいとは思うが、それ以上に、きれいだな、と思うのだから苦にはならないのだ。

彼女は不器用ではあるが二人の子供を愛している。
娘の梨花が産まれてからの数日、飽きずに顔を眺め、ぐずり声をあげる度におろおろとうろたえていた姿は今思い出しても笑みが浮かぶ。
深夜に娘が熱を出した時など、様子を見ようと窘めるのも聞かずに真っ青になって医者の元にすっ飛んで行った。
一見、子らが懐かぬように見えるが、それは彼女が肩肘を張って接してしまうから。
いつ誰に対しても器用に立ち回る女が、我が子を前にするとガチガチに緊張してしまう。
母の緊張はそのまま子に伝播し、母はますます触れるのを躊躇う。母子のコミュニケーションは…円滑とは言い難かった。

彼女には苦手なことは無理をするなと言って、全てを自分が受け持ってきた。
それが、かえって彼女に劣等感を植え付けていることに気付いてはいた。気付いていて、苦手を克服する機会を奪って来た。
いつも淋しそうにしていたレヴィ。
きれいだった。

そして、劣等感と正比例するようにロックへの潜在的な依存は強くなった。
だが、ロックの目には、留守中に子と彼女の距離は縮まってしまったように見える。
にも関わらず、レヴィの陰鬱な顔は変わらない。
きれいだ。

エダの非難めいた問いかけや、今の辛そうな様子を見るに、彼女が破滅行動に巻き込みたかったのは子では無く、ロック自身。
それでも、彼はレヴィを苛む最大の要因は子との関係で、今はそれとマタニティブルーが相互に作用した情緒不安定な状態なのだと、そう周囲に説明した。
もっとも、周囲はそれを真に受けたりしなかったようで、遠まわしに、直接的に、彼に現状の打開を働きかけた。
現状維持もそろそろ限界。
彼女を失うのは本意ではないのだから仕方が無い、変化を決意する時だ。

「どうしてあんなこと言ったの?」

『あんなこと』。レヴィには心当たりがありすぎてどの発言のことか判らない。
「…何が」
「チビ達を売ったとか、俺の子供は産みたくないとか…」
「…………………………言ったろ、うんざりなんだ。てめぇやてめぇのガキと住むのも、…ツラ見るのも………話をすんのも。
…………交尾の相手が欲しいなら他を捜せよ………今こうされてるのもムカついてたまらねぇ」
飽きずに腹に纏わり付く男に、彼女は野良犬を見るかのような蔑みの視線を向ける。
何となく選択した『交尾』という表現に、妙にしっくり来るものを感じた。
Copulation……。Fuckと呼ぶ程暴力的ではないが、MakeLoveと呼ぶような感情はきっとない。生理的欲求だけで機械的に交わって、繁殖だけは怠らない。
犬猫の交尾と同じ。
「……嫌なことは嫌だって言えよ。…嫌がることは、したくない」
ロックは、そう言いながらも彼女の太ももに顔を埋める。
「嫌 だ 離 せ 、許可無くあたしに触んな、胸糞わりぃ」
改めてはっきりと拒絶され、名残り惜しそうにレヴィから離れたロックは、ひどく傷付いた目で彼女を見る。
「俺のこと、嫌いか?」
「……………」
173名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:25:18 ID:Z+0HlCK1
レヴィは葛藤する。
嫌いだと言ってやりたい。
お前など大嫌いだと。
だが、それを言えばますます傷付いた顔をするのだろう。
現実に目の前で傷付いた顔をされると、それ以上の嘘を吐くことが出来ない。
電話との勝手の違いに、急に口をつぐんだレヴィを見つめながら、ロックは寂しげに吐き出す。
「何か言えよな…」
「………こっちが訊きてぇよ…産む理由が見つかんねぇ…あんたが何考えてんだかわかんねぇ」
「せっかく授かったんだから」
「ナンだよそれ…。誰彼構わずファックして中出しすりゃガキなんざ出来んだ、知らねぇなら試してみろよ」

欲しいなら別の女と交尾しろ。
あたしはもうたくさんだ。
産みたくない。
最初の時だって堕胎の予約は済んでいた。
何で解ってくれないんだよ、産みたくなんかないのに!!!
…産みたくないんだよ。

そんなレヴィの呟きをロックは黙って聞き続けた。
今まで頭の中だけで止めて来たことをロックの前で言葉にした瞬間堪らなくなったのか、レヴィはぽろぽろと涙を流す。

そんな彼女の泣き顔を、ロックは、やはり、きれいだと、思った。

「…………あのさ、レヴィは今までどう思ってたの?」
ロックは唐突にレヴィに問い掛ける。
今までどう思っていたかなんて、今散々言ってやったというのに、これ以上何を言えというのか。
「何をだよ!?」
「その…やっぱり………、結婚したくないんだよね?」
彼の口にした言葉の意味をたっぷり十秒は考え、考えた結果理解不能であると脳は判断する。
「……は?………意……味…解んねぇ…」
『やっぱり』??『結婚したくない』って、お前のことだろう。レヴィはそう思う。
思ったから伝えた。
ロックは心底情けない顔で彼女を見る。
「…俺、…レヴィにプロポーズ断られたよね」
恐る恐る、そんな形容詞がふさわしい。ますます意味がわからない。
だが、初めて聞いた肯定的な彼の言葉に鼓動は速くなる。
「お前がいつそんなモンした!?だ…大体…………す…好きとすら言ってくれた事ねぇじゃん」
言ってしまった。遂に。これでは言って欲しいみたいではないか。いや、事実そうなのだが、あそこまで辛辣な言葉を吐いた手前、恰好悪いことこの上無い。
だが。
「……………………ぇ………言って……欲しかったの?」
「…………………………………………………お前……ナメてんのか?」
「まさか!!一緒に映画見た時、『こういう女みたいな男は嫌いだ』って嫌がってたから…。俺、男らしくはないからさ、せめて口にしないようにしてたんだけど」

………………言ったかもしれない。
やたらと『I love you』だの『I miss you』だのを連呼する主人公に見ているこっちが恥ずかしくなって、『こんなこっ恥ずかしい台詞が吐ける男なんざ願い下げだ、
犬のクソみてぇな男だな』とか何とか。
ついでに、ジョークのように甘ったるいベッドシーンでは、かえって冷静になって思わず真顔で馬鹿にした。
174名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:26:04 ID:Z+0HlCK1
ロックは何やらブツブツと、「ベタベタすると怒り出すくせに」とか「カワイイって言った時には拳で殴られた」とか、怨み節を滔々語る。
確かに。そんなこともあったかもしれない。だが…。
「んなモンはメリハリってモンだろ!!?そ…そそそ…それに、プププ…プロポーズなんて…してねぇ…だろ、…お前」
レヴィは取り敢えず逆ギレしつつ、本題へ戻る。こっちは本当に記憶に無い。多分。
「したよ」
「いつ!?」
「リカが産まれる少し前!名前は何にしようかーって話しながら。英語でも日本語でも呼びやすいのがいいねーって話をしてて」
「……ぁ?」
その会話は記憶にある。リカとケントの名前はその時決めた。
とは言え、日本人の名前の響きなど知ったことではないし、漢字の意味まで説明され出した日には全く理解不能で適当に相槌を打っていただけ。
その時そんな話など出てきただろうか?
レヴィの記憶に彼からのプロポーズなど塵ほども無い。
「レヴェッカ・オカジマって照れくさいね、って言ったら何であたしがそんなださい名前になるんだ馬鹿って…」

「………………………………………………………あ?」
レヴィは必死で記憶をたぐりよせた。
何せこの3年間、全く彼女の記憶から消えていた会話だ。
しかも、コトの後で相当眠かったし、言葉の意味を深く考えず、彼の言うこと全てを適当にあしらっていた気がする。
この街でファミリーネームなど意味を持たないから…仮にそんなことを言われても何言ってんだ?としか思わなかったはず。
華僑であるが故結婚でファミリーネームが変わるという文化ともなじみが薄い。

「もしかして、気付かなかった?」
「…うん」
「気が変わったらよろしくって言ったのも覚えてない?」
「んなコト言ったか?」
あからさまに落胆するロックに追い討ちをかけるようにそう言い放つ。
「かなり真剣に言ったつもりだったんだけど…レヴィがその気になるのをず〜っと待ってたんだけど…」
「解りにくいんだよ、いちいち」
「………汚名返上したい」
「チャンスは一回だ」
あからさまに落ち込んで涙目で懇願するロックに一度だけチャンスを与えると、緊張した面持ちで一頻り何かを考え、レヴィに向き直る。そして。

「レヴェッカ、不甲斐ない俺に二人も宝物をくれてありがとう、大好きで我慢できなくて、三人目まで出来ちゃったんだけど、その…、俺達もう、家族だろ?
だから…そろそろファミリーネーム…統一しない?」
「……………………………………………。」

レヴィは思う。
ナメてるのか?この男は。
どうしてこう、クドクドと解りにくい言い回ししか出来ないのだろう。しかも前回の失敗をなぞっている。評価出来るのは「ありがとう」と「大好き」だけだ。
それすら、今この空気でこう言われると心底イラつく。
「じゃ、チョウな。お前、今からロクロー・チョウ。リカとケント含めてチョウ・ファミリーだから」
ロックはこの時初めて気付く。
この期に及んで、初めてレヴィのファミリーネームを知った気がする…考えてみると俺の子供を産んだのは本名すら知らない女だったのか…。
内心かなりのショックを受けた。
だが、今はそれよりも…。

「…ごめんなさい、ちゃんと言います……」
レヴィの苛立ちを察し、ロックはオロオロしながら文字通り彼女の身体にすがり付く。
「ぁぁ?てめ、誰があたしに触っていいっつったんだよ。チョウじゃ嫌なのか?チャンスは一回だっつったろ」
「いや、チョウが嫌なんじゃなく…でも、もう一回!」
「ほら、早くしな」
「待って、心の準備が!!」
「10秒だけだかんな」
レヴィは、我が身に縋りついたまま深呼吸するロックの背中を、子にするように叩いてやる。
3度目の深呼吸を終えたロックは、意を決したように身体を離しレヴィの目を真っ直ぐ目を見据えて、告げた。



「愛してます。もちろん、結婚してくれるね」
175名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:26:37 ID:Z+0HlCK1
「……………………………け…決定事項かよ」
あまりに傲慢なもの言いに、まるで現実感が湧かなくて、反応が遅れた。
自分の顔が赤くなるのを止めたいのに上手く出来なくて、視線から逃れるように俯いて目の前の肩に額を預ける。
「ああ、拒否権は認めない」
ロックは悪びれる様子も無く、選択肢は与えないと言い放つ。
さっきまで棄てられた仔犬のような目で縋り付いた癖に、甘い顔をすればすぐこれだ…と、これからを不安に思わずにいられない。
もっとも、満更悪くも思っていないのだが。

「…ったく…3人も孕ませた後に言うことかよ」
「ごめん」
「ホント…お前って…ずりぃよな…」
「…レヴィは俺の欲しいものをくれるから、それに甘えてたんだ」
「…あたしのせいかい。その間に他の男に乗り換えたらどうするつもりだったんだ」
「……どうしようか、想像もしたくない。…………………………それで、その、返事は?」

小首をかしげながら甘えるロック。
返事をせがまれ考える。
よくよく考えれば、別に、結婚したかったわけではない気がする、というか、したところで今までと何が変わるのだろう。
ただ惰性のように隣にいて、理由も与えられぬままに重荷が増えることに耐えられなかった。
結婚は、全てを受け入れる『理由』になるのだろうか。
正直、名前云々は心底どうでもいい。そういえば、彼の前で初めて本名を口にした気すらする。
共に暮らして、家族を持つことを結婚と呼ぶならば、今と何も変わらない。こんな生き方をしている以上、法的にどうこうなる問題ですらない。単なる気分の問題だ。
本当にずるい。
一言好きだと言われれば、それが理由になったのに。
それだけで暫くは今の生活を守ることが出来たのに。
結婚など承諾してしまえば、逃げることが出来なくなってしまう。
だが、この期に及んで逃げ道は必要だろうか。

………無理だ、今更棄てられない。

「……決定事項なんじゃねぇのかよ?…………………それにさっき言ったろ?チョウ・ファミリーだって」
そう言って寄り掛かる。
「ありがとう、うれしいよ。」
そう言って彼女を抱き寄せたロックだが、躊躇いながら「……………でも、その…やっぱり…オカジマじゃだめかな」と彼女の姓を否定する。
「な〜んだよ、嫌か?」
「いや、どうせ使わないし俺はどちらでもいいんだけど」
そう前置きした彼が語った内容を要約すると、万一両親が揃って死んだ時に、彼らが利用できるのはきっと日本人の立場である、と。
大使館に父である彼と写った写真、そして実家の住所が渡れば悪いようにはならない。日本人めいた名を付けただけでなく漢字まで宛てたのはそのためだ、と。

命名を彼に丸投げした彼女は、「へーそうなんだ」という感想を喉元で押し止める。
日本人の名前を付けたのもファミリーネームにこだわるのもマーキングの一種なのだと思っていたから意外といえば意外だったが、拒否する理由も特には無い。
短く同意を示し、彼の言葉を反芻する。
今の暮らしを続ければ、いつか彼が憂慮したような事態はやって来るのだろう。
以前よりも生き意地汚くなった自覚はあるが…否、だからこそもあの小さな子供達が大人になるまで生きていられる気がしない。
その生き意地だって、生きたいというよりも生きなければ、という義務感のようなものだが、それが自分と彼の寿命を縮めることになるのだろうと思う。
176名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:27:15 ID:Z+0HlCK1
「ねぇ……レヴェッカ・オカジマって、何か照れるよね」
だが、彼女なりの真剣な考え事の外野から、彼はそんな事を言う。それは、彼いわく、失敗したプロポーズ。ジンクスにこだわるわけではないが、いい気はしない。
「…………お前さぁ、……何が言いたいんだよ」
「夢だったんだよ!それに同意してもらうのが!」
「馬鹿だろ、別に全然照れねぇよ?」
「…ぁぁ…そ。……………なら、コレは?」
サイドのポケットを何やら漁るロックを眺めていると、うやうやしく小箱を差し出される。
それ自体、いかにも高そうな細工が施された、どこから見てもピアスか………指輪を納めるための、小さな箱。
「………な、ナンだよ、それ…」
直前の会話を思えば何となく想像はつくが、過度な期待をすれば外れた時の落胆は大きいに違いない。
それに、自分から指輪を期待するのは…。悔しいが、何となく……………………照れ臭い。
「ん?レヴィのここに嵌めて欲しいなと思って」
空いている手でロックがなぞるのは、心臓と直結していると云われる、指。
「…………………後から返せったって、返さねぇからな」
「こっちだって返したいって言われても、絶対に許さない……嵌めるよ?」
小さく頷いた彼女に向け開かれた小箱の中には、小さな赤い色の石が埋め込まれた銀色に光る輪。
ロックはゆっくりと儀式ばった挙動でレヴィの指へそれを嵌めると、そのまま肩を抱き寄せ口付ける。
そして、キスをするのは何ヶ月ぶりだろうと考えた。

彼女の三度目の妊娠が判明した時に、純粋な喜びはもちろん、これでまた一つ彼女を縛る理由ができたという昏い喜びを胸に口づけた。
それが最後だったと思う。
つまり約4ヶ月ぶり。
その時だってセックスレス気味だったから、その最後のキスすら最後に関係を持った時…つまり、彼が彼女を孕まさんと、時を狙い澄まして彼女を抱いた時以来だった。
それ以降レヴィの表情も日に日に沈み、同じベッドに寝ていながら髪に触れるのすら拒まれる有様。
それでも、そんな状況を放置して来たのは、そんな彼女がきれいだったからだ。

誓いのキスのつもりが、気付くと本気で舌を絡ませ、レヴィの腕もロックの首にかかる。
少なくとも、今は拒まれてはいない。
軽く重心を移動させると抗うことなく身を任せるレヴィ。そのまま仰向けに押し倒し、覆いかぶさる。
そして、ずっと彼女が待っていた「I love you」を改めて口にした。
耳元で甘く甘く囁かれたそれに背中を震わす様は、ロックに言い難い悦びをもたらす。
やはり、この女は最高だ。
首筋のトライバルを指先でなぞりながら、賛辞と愛情を何度も何度も口にする。

息子の形に伸び切ったヨレヨレのシャツ越しに乳房に触れると、二人の授乳を経た経産婦らしいぷっくりと熟れた乳首。
子を産む前のようなみずみずしさは無くなってしまったが、それをもたらしたのが自分が孕ませた子らなのだと思うと、かえってそれが愛しい。

3人を孕ませたのは、偶然や事故ではなく作為の結果だったと言えば、どんな顔をするだろう。
愛しているのは本当だ。
彼女の産む赤子が欲しいと思ったから、孕ませた。
だが、もっともらしい言葉で煙に撒いたが、本当は今日まで………彼女にプロポーズしたことなど、一度たりとも、無い。
いつか、その話題を避けられなくなった時の言い訳として、ずっと温めてきたのだ。
…嘘をつくコツは、それ以外は真実で固めること。
177名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:28:29 ID:Z+0HlCK1
愛している。子を儲けたいとも思った。
全て欲しいと思う。
本当に、愛している。
上機嫌に笑う顔も、怒った顔も、子を儲けて知った母としての顔も、幸せそうな穏やかな顔も。
けれど、肉食獣のように獰猛で、薄刃のように鋭く脆い表情も深く深く愛している。
身を裂くような孤独あってこそ作ることの出来るそれ。
だから、彼女が死地へ向かうことを厭いはしない。
寧ろ、死に逝く彼女の顔をずっと眺めていたい、そんな妄想に何度耽ったろう。

そして、何より、陰鬱に沈んだ儚い顔は、彼女をいっそうきれいに見せる。
ロックは心底彼女の陰を愛していた。

勿論、今目の前にある、全て満たされた笑みだって愛している。
だが、そんな穏やかな顔も彼女の抱える闇があって引き立つのだと、ずっと信じていた。
痛みと孤独にのた打ち回り、叶わぬ愛を請いながら空を睨みつけて死ぬのがお似合いの女。
愛していると伝えてしまっては、結婚などしてしまえば、レヴィという女を美しく彩る孤独が癒えてしまう。
愛しているが、幸せは願って来なかった。

だが、同時に子らも愛していた。
不幸せであれと願っていても、愛する女が産み落とした自分の子である。
その事実だけで心底愛おしい。
不幸など望みはしない。
全身全霊で慈み育んで来た。

レヴィを彩る孤独は実に魅惑的ではあった。
その孤独の捌け口が名も知らぬ何処かの誰かに向かい、『それ』がどんな最期を迎えようと興味は無い。
だが、その矛先が愛しい我が子に向かうのも、彼女が自分の下を離れて行くのも彼の本意ではないのだ。

この一週間、ロックは葛藤した。


「愛してるよ、レヴィ」
レヴィが上肢に纏う膝丈のスウェット・シャツを脱がせると、下肢にはショーツを纏うのみ。
赤黒く熟れた両の胸の突起を唇と指とで挟む。
短く吐息を漏らしたレヴィの指は、子に与える時のように優しくロックの髪を撫で付ける。
小さいくせにごつごつした男のような手は昔のままで、指のささくれが髪に引っかかる。
乳房を味わいながら片手でネクタイを緩め、引きちぎらんばかりにシャツのボタンを外していると、「焦んなくてももう逃げねぇよ」と、掌が頭から頬に下りてきた。
「ああ。でも久しぶりなんだ…」
促されるままに顔を上たロックの視界には、微かに潤んだ目を細めて笑うレヴィの顔。
きれいだった。
頬を撫でる掌を取りシーツに縫いつけると、腹を圧迫してしまわぬようになけなしの理性を保ちつつも全身を押し付けキスをする。
煙草の味のしない唾液に、彼女なりのいじらしさを感じ、とてもとても可愛く思う。

直前まで焦らされていた胸を彼の胸板に擦り付けてくるレヴィの求めのまま、空いた手で軽く爪を立てる。
「んっ…」と鼻を鳴らして手を強く握り返された。
重心を上げて温かく柔らかな丘を羽根のように軽く撫でながら、掠めるように先端を刺激する。
合わせた唇の隙間から、熱っぽい吐息が漏れ続ける。

レヴィがもどかしげに身体をよじらせ始めた頃合いに乳首を摘んで弾くと、背がしなり、「ぁん…」と掠れた鳴き声を漏らした。
「こんなに感じやすくて、健人に吸われて平気なの?」
唇を離してからかうロックの声に、レヴィは一週間前のあの夜を思い出して顔に血が集まる。
「んなワケあるか!?馬鹿!」
真っ赤になって抗弁するレヴィの鼻先に短くキスをすると、再び乳房に顔を寄せ、いつも息子がしているように何度もそこを吸い上げる。
声を我慢するように息を詰めるレヴィの顔は、息子に与えているときとは違って明らかに色が乗っている。
堪らなくなって乳房を貪りながら羽織ったままのシャツ、そしてウールパンツを下着ごと蹴り捨てるように脱ぎ捨て、細い首筋に軽く歯を立てる。

「俺の『モノ』だよ、俺だけの身体。俺だけのレヴェッカ…全部、髪の毛一本余さず、俺の…」
うっすらついた歯型を思い知らせるように指でなぞりながら、囁く。
178名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:29:10 ID:Z+0HlCK1
レヴィは、笑う。
心底から幸福そうな笑み。
ロックはそんな笑みを前に、愛する女に外れぬ首輪を着けたのだという満足感。
そして、もう彼女の孤独を目にすることは叶わないかもしれないという喪失感……そんな噛み合わぬ感情を持て余していた。
生活は何一つ変わらない。
これまでだって事実上の夫婦だった。
どう考えてもこれが正解。
求め、押し付けるばかりで、望むものは何も与えて来なかったではないか、愛しているのならば幸せにしなければ、と自らに言い聞かせる。

ロックはレヴィの身体の輪郭を確かめるように、脇から腹にかけて柔らかく唇を滑らせる。
自分の子種によって身篭り、ぽっこりと膨れた下腹に触れていると、心底満ちたりて、素直な労りや慈しみの感情が溢れ出るのを知っていたから。
彼の髪を撫で続ける彼女の節ばった手に自分のそれを重ねて引き寄せると、掌に口付ける。
レヴィは自身の掌の皺をなぞる舌に、「くすぐってぇ…」とくすくすと笑って手を引こうとする。
逃がさないと囁いてレヴィの背中を押し上げ身体を横臥させると、脚を跨いで側面から全身をきつく拘束する。
身重の身体に負担をかけすぎぬように注意を払いながら、彼女の腿に硬く存在感を増したオスを擦りつける。
レヴィの腰が誘うように揺らめいた。
美しいラインを描く背骨に沿って下へ指先を滑らせると、逃げるように全身が震える。
下着の中へ手を差し入れ触れた秘所は、すぐにでもに受け入ることが出来るほどに蜜を滴らせている。
「凄く濡れてる」
ロックは中指の第一関節までを挿し入れ、浅いところだけで円を描くように動かし入口を解す。
半年ぶりの行為だ、念入りなくらいでいい。
緩く押さえ付けたレヴィの脚がもじもじと擦り合わされてもどかしさを伝えて来る。
目の前のタトゥーにキスをしながら、彼女の下着を腿の半ばまで下ろす。
指を根元まで進ませると、レヴィの壁はきついくらいに締め付ける。
このまま挿れれば最高なのだろうと頭を過ぎるが、今は我慢と、全体を解すように指を動かし続けた。
ぷっくりと腫れた核には触れず、周りを親指でぐるぐるとこね回す。
しばらくそうして焦らし、彼女の瞳が耐えられないと訴え始めた頃合に、核心を指で擦って爪を立てる。
耐えるように枕に顔を埋めたレヴィの身体から、ふっと力が抜けた。
ロックは蜜を溜める彼女の筋に沿って自らを擦りつけ、そして、ゆっくりと侵入した。
179名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:30:09 ID:Z+0HlCK1
レヴィには口か裂けても言えないが、ロシアで、女を宛がわれた。
日本の酒席ですらよく聞く話。マフィアと同行した以上は、特段驚くような話では無い。
とは言え特に興味も湧かず、パートナーがいると固辞はした。
だが、カミさんがいないのだからハメを外せ、相手が不満ならば好みを言え、中国人よりもイイはずだと言い募られた。
一部に事実誤認はあるが、身辺は調査済みらしい。妻ではないなどと藪を突くような真似はしなかったが、プライベートに言及されるのは些か面白くない。
それでも、敵対する相手からならば警戒するべき事態だが、これはマフィア側…つまり身内からの話。客人への「心遣い」。
こちらが裏切るようなことが無い限りそれ以上でも以下でもない。
頑なに断れば先方の顔を潰す上、宛がわれた女は所謂極上品という部類だったのだから、難癖をつけるわけにもいかない。

透けるような肌と金糸のように輝く髪、ブルーグレイの大きな瞳、長くしなやかな四肢、豊かなバスト。
余程特殊なフェチズムでも無い限り、英語でのコミュニケーションが出来ぬ以外は、文句のつけどころの無い女だった。
否、それが最大の問題だった。
つまり、ロックは話でもしながら、自分はソファで一晩過ごせばいい…そう思っていたのに、蓋を開ければ意志の疎通がまともに出来ない相手だったのだ。
それは、彼女の『仕事』を口八丁で円満に辞退する術を持たぬということ。
いっそゲイを名乗ろうかと思ったが、それが知れて本当に男娼を宛がわれても、困る。
困るなんて話では済まない。

結論を言えば、半ば義務感からくる行為とはいえ、彼女と同衾した。
さすがにプロはテクニックもサービスも満点。愉しまなかったといえば全くの嘘になる。
が、そのくせ酷く物足りなく、かと言ってそれ以上を求めようとも思えず、ちらつくのはどうしたってレヴィの顔。
そういえば、接触を拒絶され続けて半年以上抱いていない。ずっとキスすら避けられている。
情緒不安定な彼女の陰鬱な表情があまりにきれいで、そのまま放置していたのだが、これまでこんなに避けられることはなかったような気がする。
世の夫婦はこうしてセックスレスになっていくのだろうか、いや、少し違うか。

急に声が聞きたくなって、電話した。
聞こえて来たのはひどくいらついた愛しい女の声。
他の女と寝た後ろめたさから、コトがバレたような気がして冷や汗をかいたが、それどころではなかった。
もっと根源的な問題だった。

怒鳴りあいの末電話を叩き切り、知人に連絡を取ろうと手帳をめくるうち、頭が冷えてくる。
冷静になってレヴィのSOSに気付いた瞬間、怒鳴り返した自分はあのまま彼女を失うのだと思った。
死に逝く顔をずっと眺めていたいなど、ふざけているにも程がある。側にいるからそんな妄想に浸れるのだ。
彼女から離別を突き付けられただけで、全身が凍り付くというのに。
180名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:31:33 ID:Z+0HlCK1
あの時の絶望を想うと、こうして情を交わすことができる瞬間がたまらなく嬉しい。
思わず口の端が上がる。
レヴィの中へ挿入し終え、温かな感触を楽しむ。
ねっとりと絡みつくような生身の膣の感触は、スキン越しの商売女では味わえない。
その上、二人も子を産み落としたとは思えぬ程にきつく吸い付いて来る。
レヴィは挿入だけで感じてしまったようで、相変わらず枕に顔ををうめたまま。
シーツを握り締める手を取り指を絡ませると、うなじに吸い付いて痕をつけ、ゆっくりと律動を開始した。
本当は、正面から彼女を潰してしまうほど身体を押し付け、肌を貪りたい。そして自らを刻み込むように荒々しく突き上げるのだ。そんな欲求を堪えて、そっと触れる。
優しく乳房を包んで、腰の動きに合わせてゆさゆさと揺らした後に、膨らんだ腹を何度も何度も撫で回す。

「レヴィの子宮にいるのはね…こうやって繋がって、愛し合って出来た子だよ。」
耳元に唇を寄せて、確認するように、ゆっくりと囁いて、思い知らせてやる。
「…くだらねぇ…」
嫌がっていないことは、きゅっときつく締まった肉壁が伝えてくれる。
「楽しみだね……名前は決めてるんだ。愛実。メグだよ…………」
暖めて来た名前を披露するも、レヴィは実感が湧かないようだった。心底鬱陶しそうな顔でロックを見上げる。そして。
「ぁ?メスガキに決定かよ…きっと男だぜ、コイツ」
腹の中での暴れ方が、ケントの時に良く似ているとあっけらかんと言い放つ。
ロックは「動かないんじゃなかったのかよ…」と唖然とした後、「なら、男の子ならカイだ。漢字は海って意味」と、気を取り直して男児の名前も披露する。
だが、ふーんと適当に相槌をうちつつ、その実彼女にとってはどうでもいいことだった。
事実、ロックは自分の本名を今日まで知らなかったし、自分も彼の本名を呼んだことなど殆ど無い。
どんな名前でも呼んでいれば馴染むものだから、産まれてから決めようと、途中で変えようと、正直言ってどうでもいい。
それでも、ロックがそれがいいというのなら、別にメグだろうとカイだろうと好きにすればいい。

「こんなに大きくなって…これからもっとデカくなるんだ」
膣をこするロックの陰茎の感触を楽しむ傍ら、適当に言葉を聞いていたレヴィだが、最後まで聞き終えると「デカくなられちゃ困るんだよ………」と、身体を固くする。
「…………………ハサミでちょん切られるのはもう御免だ」
ロックがどうにか聞き取った呻き声は、彼女の剥き出しの恐怖心だった。

彼女が出産に恐怖心があることを知っていながら、二度目の時は仕事で海の上だった。
小柄に産まれた長女ですら難産だったというのに、長男は、少しだけ大柄だった。
教会に母娘で居座っている最中に産気づき、たまたまそこに居合わせたNGOのナースに付き添われての出産。
海は大荒れで電波状況は最悪。ロックとは連絡すら取れず、なかなか出て来ない息子にパニック寸前。
初産で断り無く鋏を入れられた事から疑心暗鬼になっていたのだろう。ナースを罵倒し泣き喚きながらも、エダの軽口でどうにか正気を保っていたようだ。
もっとも、終わらぬ激痛とパートナーの安否不明にパニックに陥る寸前の産婦の前で煙草をふかし、にやけ面で品性下劣なことばかり口走るシスターは、
生真面目なナースの理解の範疇を大きく超えていたらしい。
彼女たちの腐れ縁を知らぬことも手伝って、怒り心頭だったという。阿鼻叫喚の光景が嫌でも目に浮かぶ。
181名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:32:26 ID:Z+0HlCK1
「怖い?」
動くのを止め、安心させるように、背中を撫でてやると、枕に顔を埋め「ま、どうにかなんだろ…多分」と、か細い声を返してくる。
顔に掛かった髪を耳に掛けてやってからこちらを向くように促すと、その顔は言葉と裏腹に随分と満足そうだった。
「そういえば、産む理由は出来たの?」
「『夫のガキ』を産まない理由は無ぇだろ?」
そう笑って、身体を捻ると、閉じた膝に絡み付いたままの下着を片脚から抜き、ロックの腰に廻そうとする。
正常位を望んでいることを察して手伝ってやると、伸びてきた腕が首に廻って引き寄せられた。
「こっちの方がいい」
唇が触れるほどの距離でそう言って、浮かせた腰を押し付けて来るから、腰に枕を入れてやる。無理はかけたくない。
「辛くないか?」
片腕で抱き上げそこらの寝具や衣服を即席の背もたれにしてやると、満足そうに「余裕」と笑う。
「夢中になったら押し潰しちまうかも」
ロックは彼女の後ろ、ベッドの背もたれに手をついて圧迫せずに覆い被される位置を探すが、そんな彼の腕の中でレヴィは薄く笑って溜息のように囁いた。
「それくらい夢中になってみせなよ」
レヴィの腕に力がこもり、距離がゼロになる。
彼女の中の彼が、一層に強く脈打った。

そうは言っても、無策のまま流されるほど、ロックという男は愚かにはなれなかった。
彼女の腿の下に折った膝を差込んで支えてやりながら、ゆっくりと、穏やかに、往復を繰り返す。
これ以上前屈みになれば彼自身の抑制が効かなくなるだけでなく、レヴィにとっても負担になる。
レヴィも、彼の気がかりは心得たと見えて、腕を伸ばしてロックの頬を撫でたり、髪を弄んだり、彼の手を自らの乳房に導いたり…と、自由がきかないなりに楽しんでいるようだった。
肩を辿り、肘の下まで降りて来たレヴィの左手を取る。
指先に当たる、硬いリングの感触。見せ付けるように薬指に口付けると、レヴィはふわりと微笑んだ。
ああ、もしかして、しきりに左手で触れてくるのは、指輪を見たいからだろうかと、何となく思った。

「なぁレヴィ。苦しくないか?」
目を閉じて行為に没頭するレヴィに、不意に声がかかる。
「過保護だな。まだそこまでデカくねぇって」
「いや、本当はもっとくっつきたいなーと思って…」
レヴィとしては今のまま密着されても差し支えは無かったが、ベストかと訊かれればそうでもない。それに、希望を言った方がロックも安心するのだろう。
「…なら、ケツが、もうちょい後ろの方がいい」
少し考えて、そう伝えると、嬉しそうに了解と言って位置がずらされる。半分座った格好となったレヴィとロックの顔の位置は、近い。
お互い少し首を伸ばせば、無理せずキスできる、そう思っているとロックの両手が肩に触れた。
そのまま肩を引き寄せられ、重なる唇。
口付けが深くなる程に強く肩を抱きしめられ、快楽とは違う何かに満たされるのを感じた。
唯一と決めた男と約束を交わし、彼の腕の中でキスをして、結ばれて、腹の中には彼の赤子。
嬉しい。
嬉しくて、だらし無く頬がゆるむ。
随分と心地がいい。
気持ちいい。
快楽と呼ぶにはあまりに穏やかなこの快感を、きっと幸福感と呼ぶのだろう。
「ロッ……ク……だい…すき…」
息継ぎの合間、自然と零れた言葉に、ロックは「初めて言ってくれた」と、嬉しそうに笑う。
そういえば、初めて言ったかもしれない。そう意識すると妙に照れくさくて、顔を隠すように、彼の肩に顎を載せる。
髪を撫でる手、彼の肌の感触に没頭すべく、彼の匂いを吸い込んで瞳を閉じた。

レヴィの熱っぽい吐息に煽られて、ロックの体内の熱も 緩やかに高まる。
初めはきつく締め付けて来た秘所も、今に至っては溶けてしまったかのように柔らかい。
いつもならばこの後奥まで突き上げて中へ吐き出すところだが、今日はそうも行かない。
レヴィは時折、甘えた声を漏らす以外は腕の中でじっとしている。
どんな顔をしているのだろうか。情事に蕩けた顔を思い出し、思わずにやけてくる。
顔を覗き込もうと身体を離すと、彼の肩に支えられていた頭はだらりとうなだれ、首に回っていた筈の腕も…力無く、ぼとりと落ちた。

「…え?」
182名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:33:06 ID:Z+0HlCK1
一瞬で様々な悪い予感が頭を巡る。
本当は辛いのを我慢していたのではないかとか、喋らなかったのではなく辛くて喋ることが出来なかったのではないかとか、このまま死んでしまうのではないかとか。
慌てて彼女から自身を抜くのと、頭を埋める最悪の事態に背筋が震えたのは同時。
震えるに任せそのまま吐き出してしまうが、そのことに自身で気付くより早く、彼の口の端が上がる。
楽な姿勢にしてやろうと抱き寄せたレヴィの顔は、苦痛を訴えるものではなく、満足を絵に描いたような、寝顔だった。

「レヴィ。レ〜ヴィ?」
拗ねたように名前を呼ぶロックの声に、レヴィは目を閉じたまま訝し気な表情を浮かべると、「……………シねぇの?」と尋ねて来る。
コトの最中だったと自覚はしているらしい。
まぁ仕方ない。
疲れが貯まっているのも理解できるし、今の彼女の身体が生殖行為よりも休息を優先するのは無理からぬこと。
「…終わったよ?」
「そっか……わりぃ…」
あくびを噛み殺しながらも目を開けようと頑張るしかめっつら。
可愛い。
梨花が眠い時に見せるのとよく似た、少し幼い表情。
顔のパーツや小さめの爪、レヴィよりも硬めの黒髪、そんな部分的なところで父親似と言われることの多い姉弟。そう言われること自体、彼としては嬉しい。
だが、彼はむしろ、生活の中の些細な空気や仕種でレヴィの面影を見ることの方が多かった。
「何、ニヤついてんだよ、きもちわりぃ」
ようやく重い瞼を上げたレヴィの視界には、やたらと嬉しそうなロックのにやけ顔。
「いや?やっぱりレヴィが一番だと思ってた」
「ふーん」と相槌をうつレヴィの頬が一瞬引き攣ったことに、浮かれ気分のロックは気付かない。
「もう寝よう?きっと明日は忙しい」
「んぁ?」
「チビを連れてスラタニまでドライブしよう?」
コトの後始末をしながら、空港までのドライブを提案するロックに、「………ああ、悪くねぇな」と同意する。
レヴィの声のトーンは少し不機嫌。けれど、寝しなを起こしてしまったからだと、ロックは気にも留めない。
悪いとは思えど、少しでも話をしていたかった。
「帰りの運転は出来る?」
「……………ああ」
帰り道に、ロックはいない。そんな当たり前のことに、レヴィの声のトーンは更に下がる。
「俺がロシアに行くのは寂しい?」
「ああ…………って、んなワケねぇだろ、バっカじゃねぇ!?」
寝ぼけ眼で素直に同意しかけたレヴィの隣に潜り込んだロックは「リカの誕生日には帰って来るから」と抱き寄せ明かりを消した。
胸に小さな棘を感じながら、身体の欲求に抗えずに、レヴィは眠りに落ちる。
まぁいいや、仕置きは明日すればいい。
そんなことを考えながら。
183名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:33:51 ID:Z+0HlCK1
「ぅああああ!!トラック!!おおきー!!」
「まーむぁ!いっしょ!!!!」

運転席のロックはご機嫌だった。
チビ二匹も後部座席でえらくご機嫌だった。
ステレオから流れるディズニー・アニメのキャラクター・ソング。
それに合わせ手を叩き、調子の外れた歌らしきものを喚きたてては、思い出したように話しかけて来る。

助手席に座るレヴィだけが、何となく落ち着かない様子で、ロックが用意した野菜サンドとココナッツジュースを不味そうに口にしていた。
「誰だよ、ディズニーなんて見せやがったのは。しかも曲までテープにダビングしてやがる。ガキにゃサウス・パークでも見せとけ、馬鹿。」
真っ赤な顔でぶつぶつと不満を垂れる。
「照れるなよ、こういうのも悪くない」
「照れてんじゃねぇよ、恥ずかしいんだよ。馬鹿」
「こいつらも喜んでるんだからいいだろ?」
「それがこっぱずかしいんだろが!?」


朝から子供らのテンションは異常だった。
一緒に寝たはずのママが起きるといない。挨拶代わりに泣きわめくと、部屋に来たのはいなくなったはずのパパ。
豆鉄砲を喰らった鳩のような顔が二つ並ぶ様は見物だったと、後のロックの談。
一方レヴィは、少し寝坊しろと言われるがまま久しぶりに惰眠を貪る。
部屋の外が随分騒々しかったが、機嫌よく遊んでいると知れるのは悪い気分ではなかった。子を気にかけずに眠るのは久しぶりで、馬鹿みたいによく眠れた。

が、日も高くなってダラダラと起きたレヴィの脚に、テンション爆超のチビ二匹が纏わり付いてきた。
父親にべったりだと思ってたのに何事だ。大体、昨日まで他人行儀だったというのに。
リカに至ってはピンクのワンピースと、短い髪にリボンまで結い付けて、随分ご機嫌。
「こんな服あったか?」
いつも娘に男児用の服しか着せていない彼女は、ロックが買い与える度に物置の奥に葬ってきたスカートの類を思い出そうとして、すぐにやめた。いちいち覚えていない。
それでも、いつも着せて貰えない可愛い服にご満悦の様子を見て、たまにはいいかと溜息。
そして、馬鹿なヤツだと仕立て上げた男に半ば呆れながら頭を撫でてやる。
ロックは、昨晩のまま乱れていたベッドの後片付けを手早く終え、事務所の車を取って来るから着替えてろとバタバタ部屋を出ていく。
いちいちせわしない男だ。眉をよせずにいられない。

ともあれ喉が渇いた。まずは水だと冷蔵庫に向かうと、娘は母親のシャツの裾を掴んであっちに行こうと引っ張りまくる。
なんだなんだとそちらに視線を向けて、子らのハイテンションの理由を理解。そして同時にうんざりする。
そこにあったのは、リカと色違いの白いワンピース。そして、真新しいコンバースのスニーカー。
もしやと思ってケントを見ると、案の定足元はお揃いのコンバース。
スニーカーはともかく、こんなワンピース似合う筈もない。というか、親子でお揃いなんて恥ずかしい真似死んでもしたくない。
だが、足元には彼女を見上げる、期待できらきら光る目が二対。
「……………………………………shit」
184名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:35:20 ID:Z+0HlCK1
「何だかんだ言って着てくれるんだね」
「あんな目で見られたら着ないわけにいかねぇだろ…」
「こんなことでも馬鹿みたいに嬉しい位ママのことが好きなんだって」
持ち物を揃えて喜ぶなんてガキか?いや、こいつらガキか。いや、そうじゃなく、こんなもん着せてニヤニヤしてるロックの趣味の悪さは本物だ。
そう、レヴィの心中は穏やかとは言い難かった。
自分と子供ばかりが揃いのものを身につけて、ロックはいつものビジネススーツだ。
「で、お前のは?」
「ん?」
「輪っかだよ!お前、あたしにだけ首輪つけて自分は勝手気ままのつもりか?」
ロックは、言われて初めて合点がいったかのような顔をする。
「……ああ。…ロシア産の天然石は貴重でさ。取り寄せて貰ってるんだ、帰って来たらレヴィが嵌めてくれよ」
これで俺もお揃いだと、鼻歌でも奏で出さんばかりのロックに、「アホか」と呟きながらも、頬が緩む。
それに、この指輪も安物ではなさそうだ。高ければいいわけではないが、それでも自分のために大枚をはたいたのだと思うと嬉しくなる。
「…そういや何の石だ?これ………あれ?…青…い…?」
朝起きてから、改めて見る機会が無かった。昨晩抱かれながら何度も何度も眺めた赤い石は、今は何故か青く輝いていた。
「アレキサンドライト………当てる光によって色が変わるんだよ」
「え、マジで!?」
やけに驚いた様子でしげしげと様々な角度から指輪を眺めるレヴィに、後ろのチビ二人も「なにー?」と興味を示す。
レヴィは腕を伸ばして、「真ん中のは何色だー?」と指輪を見せてやる。
「あおー」という姉の声を真似るように「ぁおー」と響く弟の声。
「すっげーなおまえらー」
珍しく褒める母におうむがえしするように「すっげー!」とシートの上ではしゃぐ。
「俺たちにぴったりだと思ったんだ。外と、家の中の顔を、上手に使い分けようね」とロックは笑う。

二面性をいつまでも失わないで。
外ではいつまでも孤独で冷酷無比な殺人者としての顔を。
家の中でだけは暖かな安寧を許してあげるから。

「よくわかんねーけど赤になるんだぞーすっげーだろー」
「すっげー!」
レヴィの言葉など殆ど理解していないだろうに、とりあえず「すっげーすっげー」と連呼しまくる娘と息子。
まずい、このままではまともな言葉遣いが身につかない。ロックの胸に突如として湧き上がる危機感。
「ママと仲良しなのは嬉しいんだけど、お願いだからママの言葉遣いは真似しないで…」
腕に纏わりついた娘をそのまま助手席に引っ張り寄せながら「うっせーよ、馬鹿」とレヴィは笑う。
「ばか!ばか!」
レヴィの膝の上でおうむ返しする無邪気な高い声。
今までコミュニケーションが希薄だった分、縮まった距離はレヴィの褒められない部分をも吸収させていた。
帰りがけにバンコクによってディズニー・アニメを片っ端から買って来よう。ロックは固く誓った。
そうだ、こいつらがいつか日本に渡る日が来ないとも限らない。困らない程度の日本語も覚えさせよう。あの位の年頃はドラえもんでいいだろうか。
ほんの小さな子供の間だけは、きらきらした夢を見る権利があるはずだ。
「サウス・パーク見せたら離婚してやる…」
「返さねぇって言っただろ」
「…我慢ならないことの例えさ」
レヴィは、姉に続いて座席の間を這い上がって来る健人もまとめて膝に乗せ、わざとらしく溜息をつくとシニカルに笑った。
「ロアナプラで生きるにゃディズニーよりも役に立つ」
レヴィの言わんとしていることは理解出来る。自分たちの住む街で綺麗事を貫くには覚悟が必要だ。
彼女が梨花に男児の服ばかり着せたがる理由だって理解している。
それでもやはり…。
「やめてくれ…」
ロックはうんざりと呟いた。
185名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:39:18 ID:Z+0HlCK1
「「うあああああああああああああ!!」」
空を飛んでいく飛行機に、疲れも見せずに再び舞い上がる二人のテンション。
田舎の飛行場の窓にへばりついて、大はしゃぎだ。
「とりー!!!!おおきー!!!」
どうやら空を飛ぶものは「とり」らしい。レヴィは隣で「何だそりゃ」と呆れながらも楽しそうだ。
「可愛いな」
「うっせーだけだろ?」
また増えるんだぜ、たまったもんじゃねぇ。そんなレヴィの愚痴めいた呟き声は、言葉とは裏腹に棘が無かった。
「なーロック?」
珍しくレヴィが、窺うように話しかけて来る。「何?」と促すと、躊躇いがちに口を開く。
「車買わねぇ?3人になったら、抱いて歩けねぇよ。いざって時銃だって撃てねぇ」
――それに、これから色んなところに連れて行ってやりたい。
何となくそんな声が聞こえた気がした。決して口にはしないだろうが、きっとそれが彼女の本心。
「引越しもしなきゃと思ってるから…うん、でもまぁ、中古なら何とか…、いやでも…」
今回の件で貯金は減った。だが、どうせ買うなら頑丈なものがいい。ロックは曖昧に返事をすると脳内で電卓を叩き始める。
待合所には、彼らの他にはバンコクへ向かう飛行機を待つ数人のバックパッカー、地元の人間もちらほら。
旅行客の持つ、大きなリュックサックに目を丸くしたり、外国の飴を貰って頬張ったり。
待っている間も初めてのことばかりだったらしい。幼子たちは終始ご機嫌だった。
やはり無理をしてでも車を買って遠出をしよう。
これからの算段を始めたロックの耳に、搭乗を告げるスタッフの声。
別れ難いが仕方が無い。あと二週間の辛抱だ。
後ろ髪引かれるように、別れを告げ、スタッフにチケットを渡す彼の背中にレヴィの声がかかる。

「…ロック、言い忘れてた」
「ん?」
「あっちで女抱いたら、………次は殺すからな」
後半明らかに殺気を迸らせた彼女の目に、美しさを感じる余裕も無く空気が凍る。
「………え…」
「ばればれなんだよ、ばーかばーか」
どうしてばれたのだろう、痕を残すようなプレイはしていないはず。
そうは思っても、藪を突けば蛇が出て来る。しかも、アナコンダ。

「「「ばーかばーか」」」

「ちょっと、レヴィ!?」
思わぬ三重奏に顔面蒼白のロック。そして彼を急かす飛行場の職員。
一時前とは別の後ろ髪を引かれながら、ロックは機上の人となった。

******
妊婦ファック書きたくて書き始めたが、やっぱりえろくなかった。
犬も食わんものにああだこうだと肉付けしてくとダラダラ長いし。
ナンも考えないで、適当にその辺の漫画から外人っぽいような日本人っぽいような名前を当て嵌めたが、よく考えるとめぐみって豊口の名前だった。痛さ倍増。
186名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 20:57:09 ID:+r5q8NH0
メグって狙ったのかと思ってたw
187名無しさん@ピンキー:2010/03/29(月) 21:04:44 ID:Z+0HlCK1
>>186
のだめカンタービレとメグ・ライアンw
で、適当に漢字変換
188名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 13:21:44 ID:BA76t2/Y
レヴィたん子供にもツンデレw
子供かわいくてニヤニヤ
189名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 21:55:10 ID:XoWjGgVl
レヴィたんの姓って“チョウ”っていうの?!
超兄貴と被るな・・・
190名無しさん@ピンキー:2010/03/30(火) 22:54:29 ID:HpyTjD/s
ファミリーネームがチョウなのは、ヘタレの地平線かなんかで明かされたネタだったよな確か
191名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 10:25:15 ID:v94zWVr8
まじで?何月号の?
バックナンバーあるかな。読みたい。

てことは糞親父さんが中国系で母親が欧米人か。

それはともかく俺もレヴィたんのソーマ吸いたい。
192名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 17:55:13 ID:nHO/udjv
ポテ腹レヴィもいいなあ。
なんていう節操なしなんだろう。

えろくなかったかねえ。充分一定水準には達していると思うけれども。

事後の子供たちとの絡みも面白かった。
いやこっちの方が動いていたのでより面白かった。

わんぱくなガキどもだなあ。
次の作品も期待していますよ、地図屋で。
193名無しさん@ピンキー:2010/03/31(水) 23:11:40 ID:VzQnTxx0
レヴィたんのボテ腹にオイルを塗りたくってテカテカにしたい。

そしてレヴィたんのテカテカボテ腹に張り手を叩き込んで、真っ赤な紅葉を咲かせたい。

レヴィたんのテカテカボテ腹紅葉を肴に一杯呑みたいね。
194名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 19:19:24 ID:etleqxrB
今月発売のGXでセクロスはないけどロックとレヴィのちゅっちゅはあるらしいよ
195名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 20:36:30 ID:BptUXkhE
本当ならGX発売日にTSUTAYAに駆け込む

…ガセネタだろうけどさ
196名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 23:45:27 ID:RXOPsN8f
ロックが風邪をひいたらレヴィたんはどうするの?看病してあげるの?

お粥がわりのピザをふーふーして食べさせたり、タオルを交換してあげたりするの?
197名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 23:54:31 ID:lRj3wTHH
いつものようにロックのヤサの廊下を歩く。
ゴツいブーツを踏み鳴らしながら、ロックを迎えにレヴィは歩く。
今日は何を飲んで、何を話そうか考えながら、足取り軽やかに、歩く。

今日のメンツは、彼女と、ロック。そして、エダ、ベニーに、リコ。
元は、いつの間に知り合ったのか知ったことではないが…リコとロックとベニーの三人が顔を突き合わせて飲むという話だった。
それを聞き付け、エダとレヴィも半ば強引に加わった。
今からロックを連れて、イエローフラッグへ向かう約束。
今日は二人じゃないけれど、エダと飲むのは勿論楽しい。リコとエダの会話を聞くのは愉快だ。
それを他人事のように眺めるベニーになみなみ注いだラムを押し付けるのも、そんな自分に呆れ顔のロックに絡んで、ますます嫌な顔をさせるのも、きっときっと楽しい。
初めての顔合わせなのに、これからきっとそうなるだろうと、何となくだがそう思う。
賑やかなのは嫌いじゃない。むしろ大好きだ。
楽しくてたまらない。


そんな彼女の耳に、銃声。
そして、窓ガラスの割れる音。
何のことはない。この街では有り触れたBGM。
問題は、それがロックの部屋から聞こえて来たという、ただ一点のみだった。

ノックをしないのはいつものこと。いつもと違うのは、ドアノブをひねるための彼女の手には、二挺の銃が握られていて、安普請の木のドアは、穴があくほど強く蹴り破られたということ。
室内に武装した何者かがいるかもしれぬ部屋に、こんな真正面から侵入するなど馬鹿にも程があるが、一秒でも早くロックの無事を確認したかった。
というか、それが最優先。
それしか考えていなかった。
きっと部屋で映画でも見ているのだ。そして、ドアをブチ壊した自分を見て迷惑そうに溜息を吐くのだ。
そうに決まっている。


だが、目の前の光景は彼女に無情だった。
割れた窓ガラスと、床に残る、…真新しい血痕。
部屋から人の気配は、しない。
「ロック!?ヘイ!ロック!」
誰もいない部屋の壁に、レヴィの声が吸い込まれていく。


無人の部屋で存在を主張するように割れた窓。
駆け寄って下を覗き込み、絶句する。
ガラスの散らばるアスファルトの地面に倒れ込むロックの身体。腹と頭から流れる血が周囲を赤く染めていた。
198名無しさん@ピンキー:2010/04/01(木) 23:56:10 ID:lRj3wTHH
「ロック!!」

悲鳴のように叫んで、身体を乗り出し、思いとどまる。ここは三階。下には割れたガラス。自分の怪我などこの際どうだっていいが、ロックに衝突せずに落下する自信までは、無い。
ここは、走った方が確実だ。
それだけを判断し、猛然と走り出したレヴィに、彼女を見つめる硬いレンズがあったことなど知る由もない。


転げ落ちんばかりに階段を駆け降り、ロックの倒れていた場所へ急いだレヴィだが、そこにあったのは赤い血だまりと、身体を引きずったような血痕と、タイヤの跡。
彼の姿は忽然と消えていた。

悪あがきのように微かにのこるタイヤの跡を辿るが、10メートルほどで跡形も無く消えていて、右に曲がったのか、それとも左なのか、皆目見当もつかなかった。


頭が真っ白になる。
次に何をするべきか、全く頭が働かず、タイヤ跡の消えた場所にへたりこむ。
そんな馬鹿なと何度も否定するが、見間違えるはずがない。
あの時倒れていたのは確かにロックだった。
腹を撃たれて、きっと三階から落下した。
頭を打っていたようだ。
きっと、助からない。
いや、だが、ここで諦めては後で後悔してもしきれない。
今だって、無茶を承知で飛び降りれば良かったと、そう思っている。




「あああああああああああああああっ!」




悲鳴のような雄叫びを上げ、レヴィは走り出す。
車で移動しては、わずかな手掛かりを見落とすかもしれない。
どうせアテが無いのなら少しの手掛かりだって見落とせない。
やるだけやらなければ。
まずは頭数が欲しい。幸いイエローフラッグには暇なヤツらが3人集まっている。
まだ来ていなくたって酒場には人と情報が集まるものだ。バオの人脈だって役に立つかもしれない。
息が切れるのも構わず、レヴィは走った。


そんな彼女を見つめる目が8つ。
(ヘイヘイ、どうすんだよ、あの馬鹿マジだぜ?誰だよ、こんなの始めたヤツ)
(姐さんっすよ)
(だから僕はいやだったんだ、レヴィはロックが絡むと冗談が通じない)
(ノリノリで盗撮の準備整えたのは誰だい?)
(それを言うならロック、君だって随分楽しそうにしてたじゃないか)
(まさか、こんな不自然な状況で気付かないなんて思わなかったんだ。で、どうする?…多分全員ただじゃ済まないよ?)
(((……………………)))
(何でこっち見るのさ)
199名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 00:03:34 ID:lRj3wTHH
「バオ!」
店主が最近誂えたばかりの鉄板入りの重いドアに体当たりし、飛び込んで来る二挺拳銃。
道中何の手掛かりも無かったことで、またしても自分の判断を後悔し、その顔は紅潮しているにも関わらず、どこか青ざめて見える。
その場には、既に今日のメンツが顔を揃えていた。
歩み寄るのももどかしく、息も切れ切れに大声で叫ぶ。
「お前ら暢気に飲んでる場合じゃねぇ!ロックが…ロックがやべぇんだ!!」
もう一秒たりとも無駄にしたくないレヴィは、目の前の男女の困ったようなにやけ顔に気付かなかった。
「まー、ヤベぇといえば、ヤベぇカッコしてっけどよ…」
どこか勿体つけたエダのリアクション。その意味を考える余裕は今のレヴィには無い。
何から説明していいのか。こうしている間にもロックに許されているかもしれない時間は減ってしまう。
「詳しい話は後だ!!いいから行くぞ!!」
バタバタと歩み寄ってエダの腕を攫んで踵を返すと、そのまま固まる。
目指す方向、ドアの前に立っていたのは、全身を血に染めた…ロックその人だった。
「…や、やあ…」

彼女が騙されていたことに気付いたのは、その血まみれの胸に縋りついたその時だった。
胸に抱きついた瞬間鼻を抜ける甘酸っぱい…ベリーソースの香り。
「ヘイヘイ、おっぱじめるならおうちに帰んな!」
「まだ早いからな、上のベッドは空いてるぜ」
外野からの野次に、彼女は一気に沸点を超える。
まずは、遠慮がちに肩を抱きしめ返そうとする男の脛に蹴りをお見舞いし、前かがみになった腹に膝を入れてやる。
足元でうめき声を上げてのたうつ男を足蹴にし、レヴィは問いかける。
「誰から先に死ぬ?」
愛銃に手を掛け、笑う彼女の目はしかし、微塵も笑っていなかった。

「騙される方が悪ぃんだよ、これ見よがしにスピーカー置いてたし、床に蒔いたのもソースだしよ、地面に散らばってたのだってプラスティックだぜ?」
レヴィの威嚇射撃で、酒瓶が数本お釈迦になった。
勿論、彼女に弁済するつもりはない。馬鹿をやらかした4人が持てばいいと言ってビールを煽る。
走ってきたからやたらうまい。
「どの時点で気付くか賭けてたんだけどよ、全員負けだ。気付かないなんざ誰も考えやしなかった」

他にも、隠す気の無い盗撮カメラや、彼の部屋のものではないダミーの窓枠など、
冷静になれば気付かないはずのないヒントが多々あったらしい。
聞けば聞くほど腹が立つ。
ここに来るまでの間泣いていたことなど死んでも知られたくない。
「ま、最大の落ち度は今日が何の日か気付かなかったてめぇだけどな」
そう言って隣で馬鹿笑いするエダの足を思い切り踏みつけてやる。
今日もロアナプラは平和そのものだ。

超やっつけ。
200名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 02:03:13 ID:7biwWeEg
最初読んだ時不安になったわww
こういうオチでホッとしたw

純情レヴィ可愛いよレヴィ
201名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 12:21:57 ID:3NS+l9YJ
GJwww
やられたぜwww
202名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 12:23:17 ID:+uJ6Q7ky
これはいいApril foolネタw
GJ!

軽い足取りでウキウキとロックの部屋へ行くとき無意識にスキップ踏んでそうだw
岡島さん絡みだと周りが見えなくなるレヴィたんかわゆすw
正しく愛は盲目。
203名無しさん@ピンキー:2010/04/02(金) 21:27:50 ID:Gn2rm+cX
いじらしいレヴィたん話GJ
その後四人とバオがえらいことになるんだなw
204名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 10:20:34 ID:qRCXbca+
やっぱ馬鹿で乱暴者なのに岡島さんのことが何より大好き!
なレヴィたんが可愛い…。
レヴィたん馬鹿可愛いよレヴィたん。
205名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 11:55:14 ID:iAIJqwgI
レヴィたんは馬鹿じゃないぞ。
学はないけど理解力あるしちゃんと考えて行動してるぞ。

でも岡島さんの為ならひたすら骨折り損のくたびれ儲けなだけの所謂「バカな女ね」と呆れられるような(ry
206名無しさん@ピンキー:2010/04/03(土) 19:18:27 ID:wqVf8lXo
レヴィたんはバカじゃない!って言うけど、頭を洗う時にシャンプーハットしてるよ。

こんなレヴィたんがバカじゃないって、本当に言い切れるのかな?
頭を洗って貰う時には、耳の穴を指で栓して、ずっと息を止めてるんだよ?
やっぱりバカだよ。うん。
207名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 00:34:29 ID:YGeeunHy
もはや馬鹿と可愛いの区別がつかなくなってるんだなw

まあ何にせよレヴィはかわいいな。
アイスやプリン開けたら必ず蓋に付着した部分を舐めとってからでないと食べちゃいけないって頑なに信じ込んでるタイプだな。
208名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 00:41:54 ID:kYIJRcsp
それもうレヴィじゃねえよ
広江が見たら噴飯ものだな
209名無しさん@ピンキー:2010/04/04(日) 01:48:08 ID:Zj6WSZ4p
まあ、レヴィに可愛い仕草をさせたい気持ちも分かるけどさ、それはレヴィじゃねえよ。

レヴィたんだよな。

レヴィたんはとっても可愛いんだお!レヴィたんクンカクンカ!!
210名無しさん@ピンキー:2010/04/05(月) 20:02:08 ID:WggXXY9r
そんなレベルで噴飯するくらいならもっちーに「おまんこいいの!ロックのおにんにんがごりごりしゅりゅのぉ〜!」とか、岡島先生とレヴィちゃんの公園青姦プレイとか、ベッキーちゃんとか描かせねーよw
211名無しさん@ピンキー:2010/04/07(水) 18:54:02 ID:KGwNcSb/
公認でアレってすげえ話だよなw
212名無しさん@ピンキー:2010/04/07(水) 21:56:29 ID:XmJ/9pPg
ベッキーちゃんの話は好きだ
213名無しさん@ピンキー:2010/04/07(水) 22:26:14 ID:WewpNbO2
あのロック楽しそうだよなw
散々言葉攻めで弄んだ挙げ句弱点に一斉射撃。

広江は寧ろ お前らもっとエロいの描いて僕を楽しませてくれたまえwww
ぐらいの勢いだからなぁ。
214名無しさん@ピンキー:2010/04/07(水) 22:28:38 ID:oyzOF6W+
自分のキャラがエッチなことしてるのは親として気恥ずかしくないのだろうか
215名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 01:10:58 ID:Wzcu2fSZ
もっちーにはマトモなバラライカさん本を出して欲しかった。
216名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 02:29:19 ID:RPMFatre
〜ロアナプラあるある〜

大尉の脱ぎたてストッキングを嗅いでいたら、いつの間にか額に穴が開いている。

レヴィのタンクトップでダシを取っていたら、いつの間にか尻の穴が2つになる。

シェンホアのチャイナ服を着てスッキリすると、いつの間にかお腹に切れ目ができる。

メイド長のメガネにスッキリした時に出る汁をかけると、いつの間にか頭が無くなる。
217名無しさん@ピンキー:2010/04/08(木) 08:38:46 ID:90EL0RFw
最後が一番生々しくて最も怖いのは何故だろう(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル

岡島さんはレヴィたんを犯してるときが一番生き生きとしてるなw
218名無しさん@ピンキー:2010/04/10(土) 15:50:41 ID:j58m4kjO
ロック先生スパルタすぎワラタ
219名無しさん@ピンキー:2010/04/10(土) 15:58:53 ID:wXvBWBWL
>>216
※ただし犯島さんをのぞく
220名無しさん@ピンキー:2010/04/10(土) 17:10:02 ID:tTICgJ8b
>>219
犯島さんて何かに似てるなと思ったら
某大神少尉にクリソツでワロタ

221ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:06:29 ID:ArMRWb5n

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222ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:07:29 ID:ArMRWb5n

ぼくは、うす暗い路地裏でうずくまっていた。
じめじめしたゴミのあいだに体を押しこんで、じっとしていた。
もう何日も前からなにも食べていなかったし、
体中の傷が痛んで、動きまわる元気なんてどこにもなかった。
それに、人が沢山いるところでふらふらしていると、またいじめられるかもしれない。
うす汚れたぼくを見ると、みんな「汚ねェな、とっとと失せろ」と言って蹴りとばす。
ぼくはそんなに長いあいだ生きてるわけではないけれど、路上生活は長かった。
路上でうまく生きていくには、だれにも見つからないようにすることが大切。
すみっこの方でおとなしくして、石ころみたいに息をひそめているのが一番いい。
ぼくは路上でくらすようになってから、臆病すぎるほど慎重になったし、逃げ足もはやくなった。
小さくて弱いものは、そうしないと生きていけない。

なのに、空腹にたえきれず、繁盛している食べ物屋のゴミ箱をあさったのがまずかった。
近くにひとの気配を感じて、逃げようと思ったときはもう遅かった。
力まかせに蹴りあげられた足が、おなかのやわらかいところに入って、
ぼくはよろよろとその場にたおれこんだ。
はやく逃げなくちゃ。
それはわかっていたけれど、おなかが空きすぎて、
そして蹴られたところが痛すぎて、体に力が入らなかった。
そこからどうやって逃げてきたのかはよく覚えていないけれど、
途中でかたい石が背中にあたったような気がする。
重い衝撃が骨にまでひびいて、ひざがくずれた。
でも、ぼくは必死に起きあがって逃げた。
気がつくと、手足も切れて血がでていた。
逃げている途中でどこかにぶつかったのかもしれない。
やっと静かな路地裏を見つけてほっとしたのは、きのうのことだったか、おとといのことだったか。
もう、時間の感覚もよくわからなかった。

なま温かい風が、うずくまったぼくの頬をなでた。
食べ物のにおいが風にのって流れてきて、くぅ、とおなかが鳴った。
おもての市場から、にぎやかなざわめきが聞こえてきていた。
そのざわめきを遠くに聞きながら、かたい地面に頭をくっつけて目をつむり、
ぼくは、ああ、もうすぐ死ぬのかな、なんてことを思った。

そのとき、ぼくはなにかの気配を感じた。
頭をあげると、細い路地をのぞきこむように見ているひとと目があった。
黒いタンクトップからのびた腕で茶いろの紙袋をかかえ、
大きな目をさらに大きくさせてこちらを見ている女のひと。

「お前、怪我してんのか……?」
彼女はぼくのことを知らなかったけれど、もちろんぼくの方は知っていた。
この街に住んでいれば、だれだって知ってる。
彼女は有名人。
“トゥーハンド”と呼ばれている女のひと。
223ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:08:20 ID:ArMRWb5n

彼女を怖がっているひとは多かったけれど、なぜかそのときのぼくは平気だった。
ぜんぜん“やさしそう”な顔なんかしてなかったのに。
ぼくは痛む足をひきずって、彼女に近寄っていた。
彼女はすこし眉をひそめた。

路上ぐらしのコツは、ひとに近づかないこと。
すみっこの方でおとなしく小さくなっていること。
ちゃんと警戒すること。
見つかったらすぐに逃げること。

なのに、ぼくはその学習したことをすっかり忘れて、ふらふらと彼女に歩み寄っていった。

ぼくはなぜ、突然そんなことをしてしまったんだろう。
頭がぼんやりしていたからか、
昔ぼくを育ててくれたひとに似ていたからか、
それとも単純に、一目で彼女のことがすきになってしまっていたからか。
それは自分でもよくわからない。

ぼくが下から見あげると、彼女は
「ついて来んな」
と迷惑そうに言った。
けど、ぼくを蹴とばしたりすることはなかった。


彼女は舌うちをして、歩き出した。
ぼくは、ひょこひょこと必死で彼女の後を追った。
短いデニムのパンツからのびた筋肉質の脚で大またに歩く彼女についていくのは、
怪我した体ではつらかった。
だんだんと彼女の後ろすがたが遠くなる。
ぼくは、息も絶え絶えに言った。

――待って。

すると、彼女はくるりと振り返った。
「だから、ついて来んなって」
心底、迷惑そうな顔。
追いはらわれるかと思ったけれど、
ぼくが彼女にようやく追いついても、彼女は不機嫌にため息をつくだけだった。
ぼくを見下ろした彼女の眉間に、しわがよった。
「つ、い、て、来、ん、な」
あらためて一言ずつ念を押すように言って、彼女はきびすを返した。

――でも、あそこにいたって良いことなんかないもの。

ぼくはまた、一生懸命彼女を追った。
224ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:09:03 ID:ArMRWb5n

街はちょうど夕食どきのようだった。
屋台に沢山のひとが集まって、テーブルをかこんでいた。

「いよぅ、トゥーハンド。ケツにフンついてるぜ」
麺をすすっていた男から、声がかかった。
「あ? っせーな、食いながら喋んじゃねェよ。カスを飛ばすのはケツ穴からだけにしとけ」
ドスのきいた声で言い返してから、彼女はちらりとぼくの方を見た。
「あのな。ついて来てもなんも良いことねェぞ。腹減ってんのか?」
――うん、おなかも減ってるけど……。
彼女は声をかけてきた男に向きなおった。
「おい、てめェちょっとこいつになんかやれよ。あたしだって連れて歩きたいわけじゃねェんだ」
予想外の方向に話がとんだのだろう、男は慌てたように言った。
「……は? なんで俺が! 
こちとらメシだけを楽しみにクソ面白くもねェ一日やり過ごしたっつーのに、そりゃ無いぜ!」
「ケチくせえな、このブタ野郎。てめェが食ったってラードになるだけだろ。
それとも、てめェの脂身削いでこいつに食わせてやろうか?」
彼女は、とても良い思いつきだというように、高く笑った。
「ふざけんなこのアマ! 俺の金で買ったもんにケチつけられる筋合いねえよ!」
男は声を荒くして食ってかかった。
すると、彼女の目が、きゅうっとすぼまった。
「なんか文句あるってェのか? ……気に食わねェ目だぜ」
だんだんと剣呑な雰囲気になっていくふたりに、まわりの目も集まってきていた。

にわかに、ぼくは今、沢山のひとの前にいるのだということを思い出した。
――ねぇ、やめて、やめて。ぼくは別になにもいらないから。
ぼくは、男以上にぶっそうな目をしてる彼女の脚にすがりついた。
彼女は思い出したようにぼくを見た。
たぶん、ほんとうにぼくの存在を半分忘れていたんだと思う。
眼力だけでひとを殺せそうな光をはなっていた目が、ちょっとだけやわらかくなった。
「おい、お前、こいつの汚ねェクズ肉食っちゃ駄目だぞ。腹こわすからな」
――うん。
ぼくはちょっとだけ安心して返事をした。

「んだとォ!」
顔を赤くした男が腰をうかせた。
けれど、男が立ちあがる前に、彼女はコンバット・ブーツをはいた足で、男の座っていたイスを蹴りとばした。
「――っと!」
バランスをくずした男がたおれそうになり、テーブルのはしっこに手をついた。
男が手をついた四つ足のテーブルも、ぐらりと傾く。
一緒のテーブルについていたひとが押さえようとしたけれど、間にあわなかった。
地面にたおれこんだ男の上に、熱いスープと麺の入ったどんぶりやら、炒めた総菜の皿やら、
缶ビールやらがつぎつぎと降りそそいだ。
「……ってえ…………」
ひっくり返ったどんぶりに入っていたスープや、油っぽい野菜の切れはしをあびた男が体をさするのを見て、
彼女は腹の底から大笑いした。
「いい眺めだなァ! てめェはそうやって地面に這いつくばってんのがお似合いだぜ」
男は、いまいましそうに彼女をにらんだけれど、
肩と腰を打ったようで、すぐには起きあがれないようだった。
とばっちりを受けた同じテーブルのひとたちも、うらめしそうな顔で彼女を見ていた。
でも、はっきりと彼女に文句を言うひとはだれもいなかった。
「ブタは残飯処理でもやってろ、クソが」
みんなの非難がましい目をものともせず、彼女は捨てぜりふを残して歩き出した。
225ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:09:46 ID:ArMRWb5n

――ぼくもいく。

ついていこうとしたぼくに、別の方から声がとんだ。
「おいおい、やめとけやめとけ。見ただろ。あいつは猛獣だ。お前食われちまうぜ、お嬢ちゃん」
――“お嬢ちゃん”じゃないっ!
ぼくは噛みついた。
体は小さいかもしれないけれど、ぼくは男だっ!
「イキんなよ。あいつを止められる奴なんて――あー、一人、いるかな……。けど、奴は規格外だ。
――とにかく、お前みたいな子猫ちゃんが太刀打ちできる相手じゃねえよ」
――“子猫ちゃん”でもないっ!
ぼくは、ぼくは……!
そのとき視界のはしに遠ざかる彼女の背中がうつって、ぼくは慌てて後を追った。
「おぅおぅ、ヘンなのに気に入られたなァ!」
後ろからなにか言ってくる声が聞こえてきたけれど、ぼくは無視した。
ばかにされっぱなしはイヤだけど、彼女に置いていかれるのはもっとイヤ。
彼女にくっついて歩くぼくを、道ゆくひとは変な目で見てきたけれど、
「失せろ」と言うひとも、蹴とばしてくるひともいなかった。
どうして彼女についていっちゃいけないのか、ぜんぜんわからない。
彼女のそばにいた方が、ずっと安全なのに。
226ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:10:43 ID:ArMRWb5n

しばらく歩いて、彼女は建物の中に入った。
入り口から奥の方に、ほこりっぽい廊下がのびていた。
うす暗くて、床はひんやりと冷たい。
彼女は古びた階段をのぼると、廊下に並んだひとつのドアの前で立ち止まった。
同じところで、ぼくも止まる。
「ったく……。結局、ここまでついて来ちまったのかよ……」
どうやらここが、彼女の部屋らしかった。
彼女はがりがりと頭をかいて、ため息をついた。
「お前、家は?」
――家なんか、ない。
「……みなしごか」
――うん。
彼女は「あー」と小さくうなって、舌うちをしてからドアを開けた。
――入って、いいの?
ぼくが見あげると、
「あたしの目の前で死なれたんじゃ、後味悪ィんだよ」
怒ったように言って、はやく入れ、と手でうながした。

ぼくは彼女の気が変わらないうちに、いそいで部屋の中へすべりこんだ。
床の上には、読みかけの雑誌や空き缶などが散らばっていた。
ぼくは、おそるおそるそのすきまを歩いた。
外はまだ太陽が沈みきっていなかった。
オレンジいろと金いろを混ぜたような光が、窓からあふれていた。
暑かった昼間の熱気がこもって、部屋の中の空気はむわっとしている。
「ぅあっちィーなー!」
彼女はドアを閉めると、手に持っていた袋をどさりと木製の小さなテーブルに置き、
床の上に散乱したものを足で蹴散らして窓に近寄った。
ベッドにひざをついて身を乗り出し、両開きの窓を勢いよく開けると、すぅっと風が通った。

彼女の部屋は狭かったけれど、ぎっしりといろんな銃がならんでいた。
鈍く光るごつごつした銃が、いくつも壁に立てかけてある。
とっても、重そう。
ぼくは、ちょん、と指先で銃にさわってみた。
「――おい! コラ、それに触んな!」
すかさず彼女の大きな声がとんできて、ぼくは身をすくめた。
彼女はそばにやってくると、ぼくを銃の前から引きはがした。
「危ねェから触んな。お前、コレ倒れてきたらつぶされんぞ」
そして、床の上で半開きになっている箱に目をとめているぼくに気づくと、
「あれは弾丸。食いもんじゃねェぞ」
絶対口ん中に入れんなよ、そう言って、部屋の奥にあるドアの向こうに消えていった。
227ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:11:22 ID:ArMRWb5n

積みかさなった雑誌やオイルの臭いがしみこんだ布をつついていると、
ドアの向こうから戻ってきた彼女に、首ねっこをぐいとつかまえられた。
「ほら、ウロウロすんな。腹減ってんのは分かるが、まずはシャワーだ」
――しゃわー?
何それ?
ぼくは彼女を見あげたけれど、彼女はぼくの疑問に答えてはくれなかった。
裸足になった彼女に連れこまれたのは、タイル敷きの狭い部屋だった。
――ねえ、何するの?

彼女は、長い管のついた、銀いろのまるっこい金属を手にとった。
そして壁についた蛇口をまわす。
すると突然、そのまるい金属に開いたぽつぽつした穴から、ざあっと音をたてて水が噴き出した。

――水っ!!

ぼくはびっくりして、とびのいた。

――水っ! 水はキライ!

だってみんな、ぼくがいるのを見ると、水をかけて追いはらうんだもの。
汚いからって、ホースの先をつぶした痛い水を噴射されたこともあるし、
冷たい川や貯水槽の中に放りこまれたこともある。
寝ていたところに熱湯をかけられたことだって。

ぼくは慌ててドアに体当たりして逃げだそうとしたけれど、ドアは開かなかった。
「こーら、逃げんな! ドアはカギかかってんだよ。残念だったな」
彼女の手が、がっしりとぼくをつかむ。
――イヤ! 水はイヤ!
ぼくは必死で身をよじらせたけど、彼女の手はびくともしなかった。
「お前、自分の汚れっぷり分かってるか? 部屋汚されちゃかなわねェんだよ」
――わかってる! わかってるけど! 部屋だって汚いんだからいいじゃな――
問答無用でぼくの頭にシャワーの水がかけられた。

――やめて!

「ちょ……っ! おいコラ、おとなしくしろって……!」
必死でもがくぼくを押さえていた彼女の手もとがくるって、
シャワーの水が盛大に彼女の胸もとにかかった。
その隙に首を振ったぼくの毛先からとんだ水が、彼女の目に入ったらしい。

「――てンめぇ…………! ふざけんなよ! あたしから逃げられると思うな!」
彼女は鬼の形相でぼくを見下ろしていた。

ぼくはそのとき、すべてをあきらめた。
228ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:12:30 ID:ArMRWb5n

すみずみまで洗いあげられて、ようやくもとの部屋に戻ることを許されたときには、
ぼくだけでなく彼女の方もぐったりしていた。
「……あー、お前のせいであたしまで濡れネズミだ……」
クソ、あたしもヤキがまわったな、とぶつくさ言いながらも、
彼女はタオルでぼくの体をふいてくれた。
さっきぼくを押さえつけた手はちょっと乱暴だったけれど、水気をふきとってくれる手はやさしかった。

「……ま、こんなもんだろ。うちにはドライヤーなんかねェからな。あとは自然乾燥だ」
ちょっとそこ座ってろ、と立ちあがった彼女は、四角い箱を持って戻ってきた。

――……今度は、なにするの?

彼女は箱のふたを開けて、中からなにかをとり出した。
「傷の手当てだよ。まず消毒だ。お前それ、結構ひでェぞ。……しみるだろうが、暴れんなよ」
彼女はまだ水滴のいっぱいついている腕で、ぼくの足をとった。
「あー、やっぱ深いな……」
ぼくの傷を見ながらそうつぶやいて、彼女は消毒液をたらした。
――!!
ぼくは痛くてとびあがりそうになったけれど、彼女はつぎつぎと他の傷口も消毒していった。
「我慢しろ。ほっとくと化膿するぞ。ぐちゃぐちゃに腐ってもげるぞ。それよかマシだろ?」
――うん……。もげるのはイヤ……。
ぼくは涙目でこらえた。


消毒した後で薬をぬって、包帯をまき終わると、彼女は立ちあがった。
「さて! んじゃ、次はメシだな!」

――ごはん!?

ぼくはゲンキンにも、目が輝きだすのを止められなかった。
――ねぇねぇ、ごはん!? ごはんなの!?
「んだよ、いきなり元気になりやがったな。そうだよ、メシだよ」

――ごはん! ごはん!

ぼくの頭の中はもう、ごはん一色だった。
ころっと、シャワーのことも怪我のことも忘れていた。
だって、とてもおなかが空いていた。

……ばかにするひとは一度、三日ほど断食してみるといい。
そうすれば、ぼくの気持ちがわかるはず。

「あー、まとわりつくな。……けど、期待すんなよ。うちにはロクなもんねェからな」
彼女はまず、ペットボトルから水をついでくれた。
「ほら、とりあえずそれ飲んどけ」
ぼくは喉を鳴らして水を飲んだ。
まる一日か二日、なにも飲んでいなかった。
勢いよく飲みすぎて咳きこんでいると、彼女は
「ゆっくり飲め、ゆっくり」
そう言って、背中をさすってくれた。
229ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:13:13 ID:ArMRWb5n

キッチンの方でがさがさ音をたてながら、彼女は、くそ、ほんとになんもねェな、とつぶやいていた。
すこし経ってからぼくの前に出されたのは、クラッカーの乗った皿だった。
「ほらよ。……期待すんなって言ったろ?」
――ううん、ありがとう。うれしい。
ぼくはお礼を言うのもそこそこに、クラッカーを頬ばった。
何日かぶりのまともな食事だった。
「――おいおい、そんなにがっつくなよ。喉つまらせんぞ」
彼女はぼくの食べっぷりをあきれたように見ていた。
ぼくはクラッカーに集中しすぎていて、
彼女が途中でキッチンの方に立って、また戻ってきたのにも気づかないくらいだった。
「これも食うか? ソーセージだけどよ」
出された皿には、ちょっとあぶって輪切りにされたソーセージがのっていた。
はしっこに焦げ目がついて、なめらかな断面はうす茶いろをしている。
――うん、食べる!

彼女は夢中で食べているぼくのとなりに座って、缶ビールを開けた。
喉を鳴らして飲んだ後、っはー、と息をつく。
「うまいかー?」
――うん、おいしい。
ぼくは脇目もふらず、クラッカーを噛みくだいていた。
「そうかそうか。これ、結構うまいんだよなァ」
彼女の指がのびてきて、ぼくの皿からクラッカーを一枚さらっていった。

――あっ。

「……なンだよ。お前のとったわけじゃねェよ。ほら、こっちにまだ沢山あんだろ?
もっと欲しかったらやるから。こっち見てないでとっとと好きなだけ食え」
彼女はクラッカーを口にくわえると、ざらざらとぼくの皿にクラッカーを足してくれた。
――ありがとう……。
ぼくはちょっと恥ずかしくなって、うつむいた。
けれど、やっぱり食欲には勝てなくて、もそもそとソーセージを噛んだ。

「あー、あたしも腹減ってきた……」
クラッカーの箱を胸にかかえながら、彼女はぽりぽりとクラッカーをかじっていた。
「でも、これから買いに行くのもめんどくせェな……」
お前のせいだぞ、と言われて気づいてみれば、外はもう真っ暗だった。
「なんか残ってねぇかなー……」
彼女は冷蔵庫を開けて中をのぞきこんだ。
何かをとり出して、コレ痛んでねェだろうな……とつぶやきながら、彼女はキッチンの奥にいった。
なんとなく良いにおいがしてきたな、と思っていると、皿を持った彼女がとなりに戻ってきた。
――それ、なぁに?
「これか? これはピザ。お前んじゃねェよ。お前のメシはそっち。まだ残ってんだろ」
思わず皿の方に身を乗り出したぼくを、彼女は押しもどした。
おなかはそろそろ満腹になっていたけれど、あらたに出現した食べ物がぼくの興味をそそった。
――ピザ? それ、ピザ?
「食いたいか? ――でも、今はやめとけ。
余りもんだし、何日も食ってないとこにいきなりこんな脂っこいもん食ったら、腹こわすぞ」
彼女はぼくから皿を遠ざける。
ぼくは納得して――おなかもいっぱいだったし――座りなおした。
230ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:13:55 ID:ArMRWb5n

おなかが満たされて、ぼくは急にねむくなってきた。
ここ数日、傷の痛みで何度も目がさめてロクにねむれていなかったのと、
ふらふらの状態で必死に彼女についていったのとで、ずいぶん疲れていた。

……ねむい。

そう思い出すと、もうだめだった。
ぼくはよろよろと壁ぎわに寄って、ごろんと寝ころがった。
「――おい、寝るのか? 寝るんだったら寝床作ってやるからちょっと待っとけ」
彼女はピザを片手にそう言ってくれたけど、ぼくは待っていられなかった。
――寝床なんかいらないよ。ぼくは床でじゅうぶんです……。
彼女はまだなにか言っていたけど、その声はすぐに遠ざかった。
ぼくは久し振りに、熟睡した。


目をさましたとき、ぼくは急ごしらえの小さなベッドに寝かされていた。
あれから彼女が作ってくれたんだろう。
部屋の電気は消されている。
彼女は自分のベッドで寝ていた。
なんとなく肌寒く感じて、ぼくは起きあがった。
この部屋へ入ったときに開けられた窓は閉められていて、
天井近くについた機械から冷たい風がながれてきていた。
……ちょっと、寒い。

ぼくは、寝ている彼女に近づいた。
彼女は横向きになって両手をそろえ、すぅすぅ寝息をたてている。

――寝てるの?

返事はない。
しばらく待ってもやっぱり返事がないので、ぼくはそっと彼女のとなりにもぐりこんだ。
――こっちの方がいいや。
寝ている彼女は「……ぅん…………」と身じろぎをしたけれど、
目はさめなかったようで、すぐにまた寝息が戻った。
さっきまで後ろでひとつに結んでいた長い髪はほどかれて、しっとり湿っていた。
ぼくがさっき、もしゃもしゃ洗われたときと同じにおい。
胸もとにすり寄ると、ふんわり暖かかった。
ぼくはちょっと、育ててくれたひとのことを思い出した。
そのひとの顔はもうよく覚えていない。
でも、彼女のにおいは、そのひとのにおいとすこしだけ似ていた。
彼女からは、おしろいのにおいも香水のにおいもしないけれど、
胸もとからなんとなく甘くてやわらかいにおいがした。
女のひとのにおい。

――あったかい。

ぼくはまた、とろとろとねむった。
231ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:14:40 ID:ArMRWb5n

 * * *

「うおっ!」
心地良く寝ていたぼくを起こしたのは、彼女の驚いた声だった。
はじかれたように起きあがった彼女に、ぼくの方もびっくりしてとび起きた。
「お前、なんでこんなとこで寝てんだよ! お前の寝床はあっちだろ? せっかく作ってやったっつーのに……」
起きぬけの顔で、彼女はぼくの小さなベッドを指さした。
――でも、こっちの方があったかかったんだもん……。
ぼくは顔をそらした。

「もうちょっとでつぶすとこだったぞ、おい……」
彼女はまだねむそうにあくびをすると、ぼくを乗りこえてベッドを降りた。
ぼくも目がさめてしまったので、彼女に続いてベッドから降りた。
「……よく眠れたかァ?」
――うん!
まだ怪我はなおっていなかったけれど、
昨日までとはくらべものにならないほどぼくの気分は良かった。
「そうかそうか。朝から元気だなァ、お前は……」
彼女は、んーっとひとつ大きくのびをすると、冷蔵庫を開けて水をとり出し、
ペットボトルにそのまま口をつけて飲んだ。
そして、ぼくにも水をついでくれる。
「ほれ、お前も飲め」
――ありがとう。


彼女はタバコをくわえながら、きのうと同じようにクラッカーをよそってくれた。
そして、身支度をととのえて、ぼくに言った。
「あたしはこれから仕事だかんな。お前はここにいろよ」
てっきり朝になったら追い出されるかと思っていたので、
ぼくの心は一瞬にしてぱあっと明るくなった。
――いてもいいの!?
「イタズラすんなよ。余計なとこ触んじゃねェぞ」
いいな、分かったな。そう念押しして、彼女は出かけていった。

彼女が出かけてしまうと、ぼくはまたねむくなって、今度は彼女のベッドをひとりじめした。
シーツには彼女のにおいが残っていて、なんだか安心した。
いくらねむってもねむっても、面白いぐらいによくねむれた。
じゅうぶんに寝足りると、ぼくは手持ちぶさたで暗いテレビの画面やベッドの下をのぞきこんだ。
すみの方で積みかさなっている雑誌も見てみる。
彼女は「イタズラすんな」「余計なとこ触るな」とは言ったけれど、「見るな」とは言ってなかったもの。
小腹が空いたらクラッカーの残りを食べて、またうつらうつら昼寝をして。
そんなふうにしていたら、あっというまに一日が経った。
232ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:15:19 ID:ArMRWb5n

ドアノブのまわる音がしてぼくが顔を向けると、
ちょうどドアが開いて、彼女が帰ってきたところだった。
――お帰りなさい!
「おう、元気にしてたかー?」
――うん!
ぼくはひとりでも平気だったけれど、でも彼女が帰ってきてくれるとうれしい。
そばに寄ると、彼女がさげていた袋から良いにおいがした。
「お、気づいたか? 土産だ、土産。肉だぞー」

――肉っ!?

そう、この油のとけ混ざったこうばしいにおいは、まさしく肉のにおいだった。
「好きだろ? 肉。お前ちっこいからな。もっと食って太れ」
袋の中をのぞきこもうとするぼくを、彼女は制した。
「待て待て。慌てんなって」
彼女はキッチンに行って大きめの皿を持ってくると、袋から肉をとり出した。
かさなった紙をはいだ先にあらわれたのは、まだ温かく湯気のたっている鶏のもも肉だった。
外側の皮がかりっときつねいろに輝いて、中からしみ出した油でてらてらと光っている。

――肉……!

肉なんて、残飯じゃないこんな完璧な肉なんて、はじめてかもしれなかった。
ぼくは、すい寄せられるように手をのばした。
「待てって。今とり分けてやるから」
彼女はぼくの手をぱしっと叩いて、ナイフを手にした。
「こいつはあたしの夕食でもあるんだからな。半分こ、な」
肉にナイフがつき立てられると、じゅわっと透明な肉汁があふれた。
切りすすめると、中からまた新たな湯気がほわほわと立ちのぼる。
彼女は骨をさけるように肉を切りとった。
「ほれ、お前はこっちの柔らかいとこ食え」
あたしはこっちな、と彼女は肉のこびりついている骨の方をとった。
ようやく食べて良いとのお許しがでたので、ぼくは目の前のチキンにかぶりついた。
肉はまだ熱くて舌をやけどしそうになったけれど、
やわらかく焼きあがった肉は夢のようにおいしかった。

「うまいかー?」
――うん、おいしい!
彼女は骨の先についた軟骨を前歯でそいで、かりこり音を立てた。
「確かに、結構イケるな」
そして、いつのまにか片手に持っていた缶ビールをあおった。
いつ開けたんだろう?
ぼくは不思議に思ったけれど、そんなことはこのごちそうの前ではささいなことだった。

おなかがいっぱいになったぼくは、前の晩と同じように彼女にくっついてねむった。
入れて、と彼女のベッドのとなりをねだったとき、彼女はまだ起きていたけれど、
「……しょうがねェなぁ」と言って許してくれた。
233ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:16:59 ID:ArMRWb5n

ぼくは、朝仕事に出かける彼女を見おくり、
日中はひとりでゴロゴロし、帰ってきた彼女と夕飯を食べる。
傷の手当てをしてもらって、夜は彼女のとなりでねむる。
そんな毎日をすごしていた。

彼女は特にぼくと遊んでくれるようなことはなかったけれど、
座っている彼女のとなりにすり寄ると、
「お前、あんまくっつくな。暑っちィだろ」
と言いながらも、頭をなでてくれた。

ぼくは彼女がすきだった。
彼女に構ってほしくてたまらなかった。
ベッドに寝ころがって雑誌を読んでいる彼女に声をかけても知らんぷりするので、
わざと雑誌の上に頭を乗せて、彼女を見あげてみることもあった。
「お前、邪魔」
彼女は、ぐい、と手でぼくを押しのけたけれど、ぼくがめげずにからむと
最後には笑って、あおむけになったおなかの上に乗せてくれた。
「なんだー? お前、さみしがりか? そんなんじゃひとりで生きてけねェぞー」
そうして、ぼくの首すじをくすぐった。

ただ、怒ったときはものすごく怖かった。
だいぶ怪我の良くなったぼくは、
床から彼女のベッドの上にとび乗り、またベッドから床にとび降りる、
そんなことも余裕でできるようになっていた。
ぼくはすっかり調子に乗って、ちょっと遠くからベッドにとび乗ろうとした。
着地成功!
……と思った瞬間、足もとがずるっとくずれた。
ぼくはバランスを失って、ベッドのはしから落っこちそうになった。
慌ててのばした手はかろうじてシーツに引っかかったけれど、
シーツは頼りなく引っぱられただけで、ぼくは背中から床に落ちた。
どたっ、と鈍い音がした。
あまりにも恥ずかしかったので、何もなかったことにしようと
そ知らぬ顔で立ちさろうとしたとき、首ねっこをがしっとつかまれた。
「コラ! てめェ、暴れるんじゃねえって言ってんだろ!? 
なにしれっと何事も無かったかのような顔してんだよ! こっちはしっかり見てたんだからな!」
これを見ろ! と目を怒らせた彼女の指さす方を見ると、
一か所を強く引っぱられてベッドからはがれたシーツが、だらりと床にたれさがっていた。
「シーツ破ったら承知しねェからな! 次やったらピザの具にして食っちまうぞ!」
――ごめんなさい……。
ぼくは彼女の迫力にたじたじとなった。
ったく、シーツの替えあんまねェんだからな……。
ぶつぶつ言いながらベッドをなおす彼女に、ぼくはしゅんとうなだれた。


たびたび怒られることはあったけど、それでもぼくはピザの具にされることはなかった。
なんだか急に気分が悪くなって部屋のすみで吐いてしまったとき、
ぼくはぜったいに怒られると思ったのに、
彼女は「おい! 大丈夫か!?」と血相を変えてやってきて、ぜんぜん叱らなかった。
「なんか悪いもんでも食ったか?」
聞かれてもよくわからなくてぼくがおろおろしていると、
彼女は「寝てろ」と言って、汚した床をだまってきれいにしてくれた。

やっぱりぼくは彼女のことがすきだった。


そんな共同生活が続いたある日。
闖入者があらわれた。
234ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:17:46 ID:ArMRWb5n

 * * *

その朝も、ぼくは彼女のとなりでねむっていた。
そこに突然、ドアをノックする音がひびいた。
ぼくは、びくっと頭をあげた。
彼女も気づいて目をさましたようだった。
「レヴィー、いるー?」
ドアの向こうからは、聞きなれない男のひとの声がした。
――だれ?
彼女は喉の奥から短いうめき声をもらして、ぼく以上にびくりとした。
ぼくにはぜんぜん見当がつかなかったけれど、彼女には心当たりがあるらしかった。
「レヴィー、入るぞー」
外からカギの開けられる音がする。
「やべっ!」
彼女はあたふたと起きあがって、ぼくの肩をつかんだ。
「ちょっ、お前、どっか――」
彼女がなぜそんなに慌てているのか理解できず、
ぼくは肩に腕をまわされながら、寝ぼけた頭でただ彼女を見あげた。
彼女がぼくを片腕に抱いてシーツをまくりあげたとき、ドアが開いた。

「おはよう、レヴィ」
にっこり笑って部屋に入ってきてドアを閉めたそのひとは、
ぱりっとした白いワイシャツにネクタイをしめていた。
彼女はバツの悪そうな顔でむくれている。
男のひとは、手に持っていた袋をテーブルの上に置くと、うっすら笑みをうかべながら近寄ってきた。
「浮気現場発見」
ぼくと、ぼくを腕の中にかこって座りこんでいる彼女を見下ろす。
彼女はぼくをかかえたまま、不機嫌にあぐらをかいた。
「……女が寝てるとこに勝手に入ってくんじゃねェよ」
「――え? この子、女の子なんだ?」
「ふざけんな、ロック!」

――そうだよ、ぼくは男だ!

「あたしのどこが男に見えんだよ!」
――え?
「ん? 見えないよ。見えないけど、寝てるとこに俺が勝手に入ってってもいい女だと思ってる」
――え、ぼくは? ぼくは?
「……ふざけんじゃねェぞ」
「今更だろ? なに? そんなに見られて困るところだったの?」
彼女は苦い顔をしてうつむいている。
「おかしいと思ったんだ。ここのとこ、ずっと帰りが早いからさ」

ぼくはひとりで置きざりにされたようで、ちょっとさみしくなった。
235ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:18:36 ID:ArMRWb5n

「俺はこの子に負けたのかー。悔しいけど可愛いな」
ロック、と呼ばれた男のひとがぼくに手をのばしてきたので、ぼくは急いでベッドからとび降りた。

――さわらないで!

部屋のすみまで走って逃げる。
「あれ、嫌われたな」
彼が眉をさげた。
彼女はむくれ顔で、ベッドのわきに置いてあったタバコの箱に手をのばした。
「どこで拾ったの? あんな可愛い子」
ベッドのはしに腰かけて、彼は彼女の顔をうかがう。
「拾ったんじゃねェよ。あいつが勝手についてきたんだよ」
彼女はタバコを一本振り出してくわえ、ライターで火をつけた。
「へぇ、ずいぶん好かれてるじゃないか」
「……知らねえよ」
「一緒に寝てたくせに?」
「あいつがくっついてくんだよ」
うるせェな、と彼女はタバコをくわえたまま低い声でうなったけれど、
彼はぜんぜん気にしていない様子でぼくの方をちらっと見た。
「怪我してたのか? あの子。いいとこあるじゃないか、レヴィ」
「……とんだ厄介者だ。あたしゃ慈善団体の職員でもマザー・テレサでもねェんだ。
あいつの怪我がなおるまで、仕方なく置いてやってるだけだ」
彼女は人さし指と中指でタバコをはさんで、ふぅっ、とけむりを吐き出した。

……厄介者? ぼくはやっぱり邪魔だったのかな。
そう思うと、ぼくのさみしさは増していった。
236ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:19:39 ID:ArMRWb5n

「やめろよ、レヴィ。あの子に聞こえてるよ。本気にしちゃうじゃないか」
「――んだよ、じゃ、あたしが嘘ついてるってェのかよ」
「そうじゃないって。……別にからかってるわけじゃないんだから、機嫌直せよ」
彼女はむっすりと押しだまった。
「…………他の奴等に言ったら承知しねェからな」
「分かったよ。勝手に入ったのも悪かった。
――ほら、そこで朝食買ってきたんだ。一緒に食べよう」
彼が持ってきた袋を指さすと、
彼女はふてくされた顔をしながらも、袋の乗ったテーブルをベッドの方に引き寄せた。

「なに買ってきた?」
「カーオ・トムとヤム・ウンセン」
彼女は鼻からけむりを吹き出して、タバコを灰皿に押しつけた。
「じゃ、なんか取り分けるもん持ってくる」
「ああ、頼むよ」
キッチンから戻ってきた彼女は、器を彼に手わたした。
「適当に使え」
「どうも」
「カーオ・トムの具はなんだ?」
「えーと、魚の肉だんごかな」
「肉だんごか。だったらあいつも食えるだろ」
「あの子、痩せてるね。ちゃんと食べてる? 好き嫌いは?」
「さぁ。ここんとこそんなに食わねェが、最初はすごかったな。腹減ってりゃなんでも食うだろ」
「まぁそうだな」
「あー、でもチキンは好きだったみてェだな。すっげー喜んでた」
「へぇ。どこの店で買ったの?」
「ん、あそこの、市場入って右手側んとこ」
「いつも混んでるとこ?」
「ああ」
「うまかった?」
「ま、支払い分の仕事くれェはしてるんじゃねえの」
「俺も食べたかったな」
「じゃ、次はあんた持ちな」
「――え? まぁそれでもいいけど……」


ふたりはぼくそっちのけで話している。
あの男のひとにさわられたり話しかけられたりするのはイヤだけど、
ぼく抜きで、彼女とぼくの話をされるのもイヤだった。
そして、彼女がぼくを見てくれないのはもっとイヤだった。

ぼくはがまんできなくなって、ベッドに並んで腰かけているふたりのところへ戻った。
ベッドをよじのぼり、彼女のそばにくっつく。
「お、どうしたー? メシにつられたか?」
やっと彼女がぼくの方を見てくれて、ぼくはすこしだけうれしくなった。
彼女のひざの上に頭を乗せて、ごろんと横になる。
「コラコラ、もうメシ食うんだから、起きてろ」
彼女のふとももに顔をうずめると、彼が向こう側からのぞきこんできた。
「膝まくらか……。羨ましい……。……ああ、可愛いのは卑怯だ」
「あんたは可愛くねェもんなぁ、ロック」
だれがするか、と鼻で笑って、彼女はぼくの頭をなでてくれた。
237ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:21:06 ID:ArMRWb5n

「はい」
「ん」
彼がよそってくれた皿を彼女は受けとって、ぼくの前に置いた。
――なに? これ。
「魚の肉だんご入りの粥。ほれ、お前、魚も好きだろ?」
器の中には、白くとろりとしたお粥が入っていた。
とけかけた米が、つぶつぶになって混ざっている。
その中に、食べやすく一口サイズに割られた肉だんごが沈んでいた。
鼻を寄せると、魚からでた出汁のいいにおいがした。
「あー、ちょっと冷ましてから食え」
彼女は、お粥の中にスプーンを入れてぐるぐるまわし、ふぅふぅと息を吹きかけて冷ましてくれた。
「ほれ」
そっと口をつけてみるとまだちょっと熱くてびっくりしたけれど、
すりつぶされた魚で作られた肉だんごはおいしかった。
「――気に入ったか?」
――……うん。まぁ……。
「……合格点のようだぜ」
「良かった」
彼はほっとした様子で息をついた。
彼の持ってきたものをよろこんで食べて彼を満足させるのはしゃくだったけど、
仲間はずれはさみしいので、ぼくは気にしないことにした。

「レヴィ、こっちのヤム・ウンセンもちゃんと食べろよ」
「……食ってるよ」
「食ってないだろ」
「食ったって」
「一口だけ?」
「うっせーな、野菜キライなんだよ」
「野菜キライって、どっちが子どもだか分かんないな……」
ぼくだったら、もう子どもじゃないですよ……。
そう思ったけれど、彼には話しかけたくないので、ぼくはだまっていた。
「レヴィは野菜足りてないよ。それにほら、これは野菜だけじゃなくて春雨も入ってるだろ?」
「……春雨なんかに騙されるか」
「いや、騙すとか騙されるとかそういう問題じゃないだろ。ほら、これはレヴィの分」
皿を押しつけられた彼女は、くるりとぼくの方を振り返った。
ぶきみなまでに満面の笑顔。
「お前も野菜足りてねぇよなー? ほれ、遠慮せずに食え食え」
のぞきこんだ皿の中では、細切りにされたニンジンやキュウリ、半透明の春雨が渦をまいていた。
――えー……。ぼく生野菜キライ……。
「なんだよ、好き嫌いしてるとデカくなれねェぞー」
「……レヴィ、自分を棚に上げてその子に無理強いするなよ」
あきれたように彼がため息をついた。

彼がいると、なんだか彼女がいつもと違う気がして、ぼくは落ちつかなかった。


食事をすませると、彼女は彼と一緒に出かけていった。
その後も、彼は一日おきか二日おきくらいにちょこちょこ顔を見せたけれど、
ぼくは正直、彼女とふたりっきりが良かった。
ふたりだけのときは、ちょっとしつこいぐらいにまとわりついても
「んー、どうしたー? そんなに甘ったれだと外に出た時ひとりで生きてけねェぞ」
と言いつつぼくの顔を見て笑ってくれるけど、
あの男のひとがいるとき、彼女の目はぼくをあんまり見ていない。
そばに寄っても邪険にされることはないけれど、
ふたりの会話に入っていけなくて、ぼくはちょっとさみしい。
238ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:22:14 ID:ArMRWb5n

だから、ある夕方に彼女が帰ってきたとき、彼も一緒だと気づいたぼくは、がっかりした。
「やあ、元気だったかい?」
なれなれしく声をかけてくる彼を、ぼくは無視した。
「――嫌われてるみたいだ、俺」
彼ががっかりしても、ぜんぜん平気。
ぼくは彼女のそばに走り寄った。
「お、感心感心。お前、なかなか人を見る目があるじゃねェか」
なんだよそれ、と不満そうな彼を無視して、彼女は
「感心な奴にはごほうびだな。さ、メシにするか」
と言って、テーブルにごはんを広げはじめた。

ごはん中も、ぼくはずっと気が散っていた。
「これ、食べるかい?」
彼が猫なで声で機嫌をとってくるのも腹が立つし、
ぼくがそっけなくしても余裕の態度なのがまた、面白くない。
彼女と彼が一緒にいるところに、ぼくが入れてもらってる。そんなかんじ。
彼女をとられたみたいな気がして、ぼくはつまらなかった。
こんなの、ぼくひとりがコドモみたいだ……。
彼女はぼくにごはんをとりわけて、「もっと食えよ」と話かけてはくれたけど、
そうじゃないときはずっと、彼と話していた。

……つまんない!
ぼくはむりやり彼女のひざの上に乗っかった。
「――っと」
彼女はびっくりした様子だったけれど、ぼくがずり落ちないように両手をまわして支えてくれた。
ぼくは満足した。
「……ほんとにその子、レヴィのことが好きなんだな。俺には指一本触れされてくれないのに……」
「あったりめェだろ。なー? お前はあたしが大好きなんだよなー?」
彼女はぼくのわきの下に手を入れて、くるっと向かいあわせてくれた。
――うん、だいすき!
ぼくは彼女とひたいをあわせて即答した。
「くそ……妬けるなぁ……。なんだよその相思相愛っぷりは……」
彼女は面白がって、さらにぼくをぎゅうぎゅう抱きしめた。
両手で羽交い締めにされた割にはくるしくなくて、
ぼくは彼女のやわらかい体温にうれしくなり、彼女の首すじに顔をすり寄せた。
239ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:23:24 ID:ArMRWb5n

「なんかさ、その子とレヴィって似てるよね」

――ほんと?

「どこがだよ」
ぼくは嬉しかったのに、彼女がイヤそうな顔をしていて、ちょっと傷ついた。
「ん、目が大きいとことか、瞳の色とか、こう……仕草っていうか、行動とか」
「はァ? 行動!? こんな鈍くさい奴とか? こいつ、ベッドに飛び乗ろうとして床に落ちたんだぜ」
――うわー! やめて! そんなことバラさないでよ!
ぼくは恥ずかしくてうろたえた。
彼はおかしそうに声をあげて笑った。
――ひどい!
「なー? んで、知らん顔しようとしたんだよなァ?」
彼女はにやにやしながらぼくの顔を見る。

……そうだけど。
そうだけど、そんなこと彼の前で言わなくたっていいのに。
彼はようやく笑いをおさめると、言った。
「でも、やっぱり似てるって。
何も無いときはゴロゴロしてよく寝てるところとか、
警戒心強い割に一度信頼した人には気を許すところとか」
「……うるせえな。知ったような口きくんじゃねェよ、ロック。あんたはソーシャル・ワーカーかよ」
お前もなんか言ってやれよ、とくすぐられて、ぼくは彼女の手の中で身をよじった。

ぼくは、しあわせだった。


けれど、気がつくとやっぱり、彼女は彼の方を向いているのだった。

あれ、どうなったっけ? 
昨日のやつか? 
そう。 
あれは片づいた。 
そうなんだ。
ちょろかったぜ。こいつでもできる。 
そんな。でも、お疲れ様。 
ああ、後であんたにまわしとく。
分かった。 
明日は? 
特になにも。 
ふーん。 
どうする? 
どうでも。 
そうだなぁ……。  

ぼくにはふたりがなにを話しているのか、ぜんぜんわからなかった。

ぼくは、部屋のすみに彼女が作ってくれた小さなベッドでまるくなった。
ふたりが話している声を聞いているうちにねむくなってきて、そのうちぼくは寝てしまっていた。
240ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:24:14 ID:ArMRWb5n

 * * *

ぼくはぐっすりねむっていたけれど、なにか物音が聞こえた気がして目がさめた。
目を開けてみると、部屋の中は暗かった。
……まだ夜みたい。
そう思って寝なおそうとまぶたを下ろしたとき、また音がした。

「…………ぁ……………………っ」

今度は確かに聞こえた。
空耳なんかじゃない。
彼女の声のように聞こえた。
押し殺した、とても小さな声だったけれど、それは確かに、彼女の声だった。
ギシ、とベッドがきしむ音もした。

ベッドの方に頭をめぐらせてみると、くらやみの中で、
あおむけになって横たわる彼女に、彼がのしかかっているのが見えた。

「――――――ん……っ!」

彼女がくるしそうに息をつめる。
彼女の両手を押さえこんだ彼が、彼女の上で体をゆらすたびに、
彼女は眉をゆがませて小さくもがいた。

――いじめないで……!

ぼくは彼が彼女に乱暴しているのかと思って、止めに入ろうとした。
……でも、なんとなく思いとどまった。
彼女の声はとてもくるしそうだったけれど、なんだかそれだけじゃない、
背中がざわつくような、どこか甘いのに似たなにかを感じたから。

「……ん、――――ぁ…………ッ」

彼女の喉がふるえて、大きな吐息があふれた。
息が乱れている。
肩に力が入って、彼女の上半身がちょっと反った。
彼に押さえつけられた彼女は、いやがるように体をよじる。
そむけた顔が枕にうずめられた。
彼女がぎゅっと目をつぶって顔をゆがませても、彼は動きを止めなかった。
みっしりと彼女を押しつぶす。
彼女の喉が、短く鳴った。

――やめて!

ぼくが立ちあがろうとしたそのとき、押さえつけられていた彼女の手が、彼の背中にのびた。
そして、彼の体に両腕をまわして、ぎゅっと抱きしめる。
彼女のひたいが、彼の首すじに寄せられた。

――いやがってるんじゃ、ない……。
241ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:25:18 ID:ArMRWb5n

ぼくはようやく、自分の勘違いに気がついた。
彼女がいやがっているわけでも、彼がいじめているわけでもなかった。
彼が押さえつけてるように見えた手は、そうではなくて、重ねられていたのだった。

彼女は、彼の動きにあわせて体を波うたせた。
のびやかな腕が、彼の背中にからみつく。
腕の筋がうきあがるくらいに強く抱きしめても、彼の体はびくともしなかった。
ぼくを抱いてくれたときには、決してしてくれなかった強さ。
ぼくがされたら、きっとくるしくてつぶれてしまう強さだった。

彼は、彼女のうかせた頭の後ろに手をやって、すくいあげるように彼女を抱いた。
ふわり、と彼女のやわらかな胸が彼の平らな胸と、かさなった。
つつみこむように、彼は彼女の体を抱き寄せる。
彼女がぼくにしてくれたよりも、ずっとずっと、やさしい抱き方だった。


ああ、彼は彼女のことが、とてもすきなんだ――。
ぼくは思った。
だって、わかる。
ぼくも彼女のことがすきだもの。

そして、彼女も彼のことが、とてもすきなんだ……。
彼女はぼくにやさしくしてくれた。
でも、ぼくはわかってしまった。
彼に対する気持ちとぼくに対する気持ちは、まったく別のものなんだということが。


頭を枕の上に戻した彼女は、彼を見あげた。
ふたりは目をあわせる。
なにかを確かめあうように。
彼の指が、彼女のひたいにふれた。
ゆっくりとこめかみの方にすべらせ、てのひらで彼女の頬をつつむ。
そして、どちらからともなく、ひっそりとほほえみあった。

彼女のその顔は、ぼくが見たことのないものだった。
彼女はぼくによく笑いかけてくれたけど、
こんなふうに、目もとと口もとがゆっくりとほどけるような笑い方をしてくれたことはなかった。

ふたりは、唇と唇をかさねた。
おたがいの唇をあじわうようにかさねあって、ちょっと離したかと思ったらまたすぐにかさねた。
彼はやさしい手つきで彼女の頭をなでた。
彼女も、彼のうなじに手をのばしてまさぐった。
彼女の喉の奥から、声がもれる。
今度は、くるしさよりも甘さの方がまさっていた。
……ぼくが聞いたことのない、彼女の声。
そうやって長いこと唇をかさねた後、ふたりは視線をからませて、またちょっと笑った。
242ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:26:10 ID:ArMRWb5n

彼は上半身を起こすと、腰と背中を支えて彼女のことも起き上がらせ、自分のひざの上に乗せた。
彼の上にまたがるように座った彼女は、じっと彼を見おろす。
彼女が彼に顔を寄せると、わきから長い髪がさらりと落ちてきて、ふたりの顔をかくした。

彼の手が、そっと彼女の腰を自分の方へと引き寄せた。
それにこたえるように、彼女の体はすこしずつゆらめき出す。
彼女は寄せていた顔をあげて、両腕を彼の首にまわした。
彼の作り出す波にあわせるかのように、彼女は微妙に上下しながら体をくねらせる。
平面的でしっかりとかたそうな彼の背中にくらべ、彼女の背中はやわらかく、しなやかだった。
背骨が、くにゃりとたわむ、やわらかいなにかでできているんじゃないか――。
そう思うくらい、彼女の背中はなめらかにしなった。
窓からさしこむ弱々しい月あかりの中に、ふたりのシルエットが黒くうかびあがっていた。

彼女と彼の体は、同じリズムでゆらめいていた。
まるで、ひとつの小舟に乗ってただよっているみたいに。


ぼくはなんとなく気づいていた。
これが“ヒト”の交尾なんだろう、ってことに。

それは、ぼくが本能で知っているものとはずいぶん違った。
交尾は子孫を残すためのもの。
だから、オスがメスに挿入して、すみやかに射精すれば終わり。


なのに、彼女と彼は、波間をただようようにゆるゆるとつながり続けている。
射精することより、抱きあったり、唇をかさねたり、なであったりすることの方が大事だというように。

彼は、ひざの上に乗った彼女の首すじに唇を寄せて、静かに押しあてた。
彼女の頭が、かくんと、すこし落ちる。
彼のてのひらは、彼女の胸をやわらかくつつみこんだ。
そして逆のてのひらは、彼女の腰から背中へと這いのぼっていく。
彼は唇を首すじから離すと、
彼女の背中を自分の方へと引き寄せて、てのひらでつつみこんでいた胸の先を口にふくんだ。
彼女の体が、うねるように反り返った。
長い髪がふわりと宙にゆれる。
うすやみの中で、彼女のとがった顎から喉もとのラインが、くっきりとした線をえがいた。
243ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:27:42 ID:ArMRWb5n

彼女が自分で動いているというより、
下から彼につき動かされているといった方がよいほどに動きがはげしくなると、
彼は、おさえきれないというように彼女をかき抱いて、そのまま押したおした。
彼の腰が、彼女に強く押しつけられる。

「――――――――ッ!」

彼女が、声にならないかすかな音をもらした。
ベッドが大きくきしむ。
彼女のふとももが、ぎゅうっと締まった。
おおいかぶさった彼は、彼女に体をぶつけるように大きく上下した。
最初とはくらべものにならない勢いで。

「――――ぁ、あ…………っ」

吐息でふくらんだ、彼女の甘くるしい声がもれた。
湿った呼吸が、不規則にみだれる。
ふとももにはきゅっと筋がうき、ひざやふくらはぎにも力が入って、細かくふるえていた。
彼女はぎゅっと目をつぶって、きつく眉を寄せた。
彼は動きを止めない。

……でも、ぼくはもう、彼が彼女をいじめてるんじゃないことを知っている。
彼は彼女におおいかぶさっていても、彼女に体重がかからないように、腕で自分の体を支えていた。
…………最初から、ずっと。

ベッドのきしむ音が、絶え間なくひびいた。
彼女は喉をさらして、噛みしめた歯の奥で小さく鳴いた。
喉の中で小動物が一匹つぶれたような、高くふるえた音だった。

はじめにふたりがかさなっていたときには上掛けがかかっていたけれど、
向かいあって座ったときにすべり落ちてしまって、
今、ふたりの体をおおいかくしているものはなにもなかった。
彼女と彼はぴったりとくっついて、くるおしく相手の体をゆらしていた。
求めあっているのか、それとも、与えあっているのか。
ぼくには、そこまでわかるはずもなかった。

彼の体は何度もはげしく彼女の体に沈み、
彼女もそんな彼をむかえ入れるように受けとめた。
つめていた息を吐く呼吸音と、ふたりの喉が小さく鳴る音が、ぼくの耳をうった。
ふたりの呼吸は、空気をしっとりと湿らせていた。
ベッドのまわりには、透明なもやがかかっているように見えた。
どこかで、とろみのある液体をかき混ぜるような音もする。
ぼくは、甘い潮のかおりをかいだ気がした。
244ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:28:43 ID:ArMRWb5n

と、突然、今まではげしく体をゆらしあっていたふたりが、ぴたりと動きを止めた。
先に動きを止めたのは、彼女。
全身をこわばらせてから、彼にすがりつくように何度か小さく体を波うたせた。
そんな彼女に追いうちをかけるように強くゆさぶったかと思うと、すぐに彼の動きも止まった。
でも、腰だけはまだ終わっていないというように、彼女に向かってぐっと沈んだ。

ふたりの筋肉は数回、淡いふるえをくり返したけれど、
それはだんだんと間遠に、弱々しくなっていって、ついには完全に力がぬけた。
後には、ふたりの荒い呼吸だけが残った。

こわばっていた体をゆるませたふたりは、最後にまた唇をあわせた。
おさまりきっていない呼吸に、胸を上下させながら。
唇を離して、おたがいの目の奥をのぞきこむように見つめあった後、
ようやく、からみあった体をほどいた。


……ぼくの見たものは、ほんとうに“交尾”だったのだろうか。
ぼくは混乱していた。
彼が彼女の首すじを噛んで押さえつけることもなかったし、
性器を引きぬくとき、彼女が悲鳴をあげることもなかった。
彼女が最後に、彼をはねのけて逃げることだって。
ぼくたちがするような交尾とは、ぜんぜん違った。

ふたりが体を引き離したとき、彼女は一瞬まぶたを閉じて息をゆらしたけれど、
それはただ、体の中にたまっていた熱があふれ出しただけのように見えた。

ふたりは足もとの方でくしゃくしゃになっていた上掛けをかけなおした。
彼女は、もぞもぞと寝場所をさがすように、彼の胸もとで身じろぎをした。
彼はそんな彼女の首すじをなぞり、髪を指にからませていた。
「おやすみ、レヴィ」
彼がささやいた。
くぐもった音を、彼女は短く返した。
やがて衣ずれの音も静まり、ふたりはやみの中に沈んだ。


ぼくはそっとベッドサイドに歩み寄った。
ふたり寝るといっぱいになってしまう狭いベッドで、
彼女と彼は、寄りそうようにしてねむっていた。
彼女は、彼の腕と胸とが作り出す狭いすきまにうずまっていた。
くるんと肩をまるめ、両手を折りたたんだ姿勢で、コンパクトにまとまって。

そこに、ぼくの入れるすきまは、どこにもなかった。


ぼくは窓わくにとび乗った。

お別れのときが、きたのだ。

245ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:29:35 ID:ArMRWb5n

できることならもっと一緒にいたかったけれど、もう限界みたい。
ぼくは、わかっていた。
これ以上ここにいると、彼女が見たくないものを見せてしまう。

『あたしの目の前で死なれたんじゃ、後味悪ィんだよ』

そう言った彼女に。


彼女のせいじゃない。
彼女はぼくの怪我を手当てしてくれた。
彼女のおかげで、外側の傷は、ずいぶん良くなっていた。

……でも、体の中の方が、もうだめそうなんだ。
最近はなんだか体がだるくて、食欲もあんまりわかなかった。
でも、あとちょっとでも長く一緒にいたくて、ぼくは知らないふりをしていた。

おいしいものを食べさせてくれて、暖かい寝床をくれて、やさしくなでてくれた彼女。
ぼくは彼女がすきだった。
でも、ぼくはいつも彼女になにかしてもらうばかりで、
ぼくが彼女にしてあげられることはなにもなかった。

ぼくは彼がうらやましかった。
彼女に一番すかれているから。
それもある。
けれど、彼女をほんとうによろこばせることができるのは、たぶん彼だけだったから。

ぼくは、彼女をやわらかくつつみこむ彼の腕がほしかった。
そして、彼の声がほしかった。
「ありがとう」
って彼女に言うための声が。

ぼくは彼女に言いたかった。

「部屋に入れてくれてありがとう」
「ごはんを食べさせてくれてありがとう」
「怪我の手当てをしてくれてありがとう」
「一緒にねむってくれてありがとう」
「そばにいさせてくれてありがとう」
「やさしくしてくれて、ありがとう」

でもきっと、ぼくの声じゃ、通じない。


そんなぼくにできる恩返しは、もうこれしか残っていない。
せめて、彼女に後味の悪い思いをさせたくなかった。

ぼくは、ほんのすこし開いた窓のすきまに手をさし入れて、広げた。
ゆらっと窓が外側に開く。
ちょっとだけ大きくなったすきまに頭を通そうとして、
ぼくはもう一度、窓わくの高さからふたりを見下ろした。

――ありがとう。

そしてぼくは、夜の中にとび降りた。
246ロック×レヴィ 居候  ◆JU6DOSMJRE :2010/04/10(土) 22:30:21 ID:ArMRWb5n

ぼくは音もなく路上に着地すると、彼女の部屋の窓を見あげた。

さよならは、言いたくなかった。
さみしくなって、お別れできなくなりそうだったから。
彼女は、ぼくがいなくなって、ちょっとはさみしいって思ってくれるかな。
ぼくだけがさみしいのは、すこし悔しい。

……ああ、でもやっぱり、そうじゃない。

彼女には、さみしがってほしくなんかない。
短いあいだだったけど、ぼくと一緒にすごした日々が楽しかった、って思っていてほしい。
……ぼくが思ってる半分でも、――ううん、十分の一でもいいから。
ちょっとでも、楽しかった、って思ってくれるといいな。

ヒトは、ぼくたちが九つの命を持っていると言うけれど、それってほんとかな?
ぼくにはよくわからないし、ヒトは嘘つきだから、でたらめかも。
でも、彼女も“ヒト”なんだったら、ちょっとは信じてみてもいいかもしれない。

どうか、今のぼくが九回目の生まれ変わりじゃありませんように。
もし九回目じゃなかったら、来世で恩返しにいくよ。


だから、さよならじゃなくて、

――またね。





247名無しさん@ピンキー:2010/04/10(土) 23:44:31 ID:gXwHQSbB
次の日涙目でぬこ探し回るんだろうな…

それにしても最近の流行りはママンなレヴィたんなのか??
おこちゃまやぬこにデレデレなレヴィたんにハァハァ
おこちゃまといっしょになってドラえもんに夢中になったりぬこの腹に顔埋めてヘヴン状態のレヴィたん妄想するだけで萌える
248名無しさん@ピンキー:2010/04/11(日) 02:02:57 ID:X2rL1t0z
目から塩水が止まらないんですがどうしてくれるんですか!!
いやほんとまじで
目が腫れてやばい

ぬこーーーーーーーーーーーーー!!!!!
249名無しさん@ピンキー:2010/04/11(日) 21:49:50 ID:CyhJJa/3
九つの命か…
レヴィは寂しがるよ、ぬこ…
250名無しさん@ピンキー:2010/04/12(月) 08:12:14 ID:BAiyqRzn
久々に感動して泣いた(´;ω;`)ウッ 素敵な作品ありがとう。
もしぬこ飼ったら絶対に名前はレヴィにするんだ!
251名無しさん@ピンキー:2010/04/12(月) 18:03:40 ID:Z1WtG0Uh
百万回生きたねこって絵本思い出した。
あれもかなり泣けるけどこれもやばい・・・
動物視点でのロクレヴィってのも凄いな・・・本当にこの神は。

愛猫家的に最初の虐められ描写からもう泣きっぱだったんだが。。
レヴィたんも捨て猫と大差ない野良猫生活してきたからなァ。
今度会えるときはちゃんと名前付けてもらえるといいね、、
うう・・・目からポカリが・・・・
252名無しさん@ピンキー:2010/04/12(月) 20:31:46 ID:/BbFL/YM
犯島さんが軽く本気で猫に嫉妬してるのが良いw
253名無しさん@ピンキー:2010/04/13(火) 07:01:38 ID:U+9rhYl/
「……勝手について来て、勝手にいなくなりやがって」
って一人呟きながらぽろぽろ泣いてるレヴィが浮かんで仕方ない…。
二次創作でここまで泣かせるのは滅多にないんだぜ。゚・(ノД`)・゚。
ぬこかわいいよぬこ。
ぬこ可愛がるレヴィかわいいよレヴィ。
254名無しさん@ピンキー:2010/04/14(水) 01:23:14 ID:vtma8A4O
そういや猫飼ってるとある日忽然と帰って来なくなるんだけど、自分の寿命に気付いて飼い主を哀しませない為にいなくなるとか言うよね。


ロクレヴィ派なのに猫ちゃんに感情移入しまくりましたとも、ええ(´・ω・`)
255名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 15:22:31 ID:guYqyvpO
>>247
> 次の日涙目でぬこ探し回る

「マイケルー、マイケル〜!」

「あれ?レヴィ。何やってんだ?マイケルって?」

「…!ロック!丁度よかった。あんたも探してくれ!」

「人捜し?つかマイケルって誰」

「マイケルっつったらマイケルだろーが。あたしにしか懐かないって散々妬いてたじゃねーか。四の五の言わずに早く手分けして…」

「ああ!あの子か。迷い猫になっちまったのか」

「畜生、早く帰って来ねえと部屋入れてやんねーぞ!おしゃまんべ!」

「(…マイケルじゃなかったのかよ)」



こうですかわかり(ry

久しぶりに頭痛がするほど号泣した
256名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 17:27:27 ID:iRvCo/4S
マイケルはホワッツだろうが(古いぞオイ)おしゃまんべがわからん…
257名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 17:44:17 ID:j/P+iJIN
>>251
百万回生きた猫obasanの朗読で泣いた。
つーかもう二次創作を超えた完成度だなこれ。
エダ視点のといい素晴らしすぎる。

>>256
おしゃまんべって今泉(古畑に出てくる)の猫じゃ・・・w
258名無しさん@ピンキー:2010/04/15(木) 21:20:17 ID:D/GkBnSa
◆JU6DOSMJRE氏の作品をまとめて冊子にしたいわw
個人的には月の話と観覧車の話がど真ん中ストライクだった
259名無しさん@ピンキー:2010/04/16(金) 02:46:41 ID:QQep4d0P
そんな本出たら迷わず買うし。

ごはんごはん!ってはしゃいだりレヴィたんに構って構って攻撃したり、ぬこ可愛杉(*´Д`)
260名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 00:07:28 ID:+U6z0mm+
昔ぬこ飼ってたけど、シャンプーしようとするとマジで嫌がって逃げ出そうとバスルームのドアに思いっきり体当たり激突してたわ。
帰宅したら寂しかったのか駆け寄ってくるし。
うp主さんもぬこ飼ってたんかな。
261名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 20:22:19 ID:ErmQEIeB
◆JU6DOSMJRE氏の中ではバラライカのが好きだった俺は少数派なのかな…。
◆JU6DOSMJRE氏はレヴィ萌なんだろが、またできたらお願いしたい。
262名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 21:30:21 ID:2Axq9nxB
レヴィ分不足のあまり、もう同人にでも手を出そうかと探してみたが
ブラクラってやっぱり同人誌自体少ないのかね
ネットの中古店をざっと見てみたがどこもあまり在庫なくて残念
263名無しさん@ピンキー:2010/04/18(日) 21:34:35 ID:mu5Lo+q+
カピターンのエロに餓えているのは自分も同じであります!
264名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 18:23:35 ID:cu1mhQfk
>>262
もっちーかazasukeくらいしかないもんなあ・・・

◆JU6DOSMJRE神の話を描き起こした同人が欲しいw
265名無しさん@ピンキー:2010/04/19(月) 21:20:46 ID:f/Fd7S1N
>>264
激しく同意。文章だけでも素晴らしいが、漫画で読んでみたい

そしてアザスケさんの本全部持ってるわw
266名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 06:54:55 ID:vZYD7KTX
あざすけ氏はCG集なんかでは手広くやってるのに、漫画はレヴィ本しか出してないあたり愛を感じるな。

自己満でぬこ×レヴィの絵血迷って描いちまったけどw
267名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 09:18:13 ID:vqyL+Xhi
見てえ
268名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 20:46:29 ID:4VmLL/9k
何だかんだとちっこいヤツやヘタレを放っておけない、おかん気質っつーか姐御肌つーか、
世話焼きなレヴィたんが読みたい。



原作でもレヴィたんの面倒見がいいと思うのは俺だけなんだろうか。
ついに岡島さんにまでお袋呼ばわりって…報われなさすぎだ。
269名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 21:30:13 ID:LLBzs/01
岡島さんはあそこで「お袋」じゃなく
「女房みたいな言い方止めてくれよ」と言うべきだろ

そして真っ赤になって挙動不振になるレヴィたんを(ry
270名無しさん@ピンキー:2010/04/20(火) 22:02:38 ID:DkkEZxRc
その言い方じゃ「女房気取りすんなよ」って意味にならんか?
すっかり女房気取りのレヴィたん傷ついちゃうぜ。
271名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 03:05:07 ID:D/qJAMzJ
そんないつも尽くしてるのに傷つけられてばかりの嫁気取りレヴィたんが可愛いんじゃないか
272名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 08:09:08 ID:cbqEqiqK
ここ見てると原作とのギャップに悶えるわ
273名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 09:18:40 ID:MOQ56R6q
レヴィたんの太ももを撫で回していたら、いつの間にか夜が明けていた。

もしかすると、レヴィたんの太ももはタイムマシンなのかもしれない。
274名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 09:58:53 ID:s1qPfBes
>>272 前までよくSS投下してくれてた大神竜一って人のは原作に沿って書かれてて
自然と乗っかれたよ。ただ、ロックがかなり黒い。ってか闇。
久々に大神氏のSSが読んでみたいです。最近投下ナシ?
275名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 20:25:26 ID:rbRfD4Vp
大神乙
276名無しさん@ピンキー:2010/04/21(水) 20:58:43 ID:RJQ17ojW
通常時、冬服、スウェット姿(自宅トレーニング中)と披露してきたが
そろそろレヴィたんの新コスチュームは出ないのかねえ
277名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 00:05:44 ID:aNj7Wrj/
境遇の似た凸眼鏡とロックが急接近してレヴィがヤキモチ焼く話誰か書いてくれ
278名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 19:12:58 ID:j20aBQek
>>276

> 通常時、冬服、スウェット姿(自宅トレーニング中)と披露してきたが
> そろそろレヴィたんの新コスチュームは出ないのかねえ
279名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 19:13:59 ID:j20aBQek
↑ミス…

ラフスケッチ集にあったドレスアップレヴィたんは本編で使うべき
280名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 20:42:18 ID:XQ/+9EF9
ドレスアップなんてあるのか!?
毒本と画集は持ってるがラフスケッチってのは知らない…
281名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 22:29:39 ID:j20aBQek
恥ずかしげに顔赤らめてるやつだよ。
全身フルコーディネートされたのか、メイクまでして髪もドレスに合わせてアップにスタイリングされてる。
めっちゃ可愛い。
282名無しさん@ピンキー:2010/04/22(木) 23:35:05 ID:fXZXlCqb
着物のやつ?
283名無しさん@ピンキー:2010/04/23(金) 00:10:53 ID:redlv2Zg
ドレス言うとろーが


前髪の分け目が違うだけで随分印象変わるよね>ラフスケッチ集のレヴィ
284名無しさん@ピンキー:2010/04/24(土) 09:42:37 ID:2jk9MEIw
あれ誰にお化粧してもらったのかな?
普段から化粧に念入りで且つ世話好きなシェンホア?
素材は良いんだからちゃんと磨けあほちんとか言われて、、、

とか色々妄想してまう。
285名無しさん@ピンキー:2010/04/25(日) 23:33:33 ID:P0WiaINN
レヴィとエダがプリキュアに!?
SHIT!毒電波が脳に突き刺さっちまったぜ
286名無しさん@ピンキー:2010/04/26(月) 20:23:33 ID:lK1ftn19
岡島さんとレヴィたん新婚さんいらっしゃ〜いに出演すればいいのにね。


MCそっちのけで痴話喧嘩→ロックが適当なこと言って巧いこと言いくるめる→レヴィ、デレる→MC、空気。
287名無しさん@ピンキー:2010/04/26(月) 21:58:57 ID:fsp71eVi
なれそめで、さんしがコケるなw

最初は旦那を誘拐しました

ドテッ

なんや奥さん、旦那を誘拐したんかいな!何で?一目惚れしたん?

身代金を貰おうと思ってたんです

ドテッ
288名無しさん@ピンキー:2010/04/27(火) 01:32:48 ID:6FHDsCc/
それ、メッチャおもろそう。
三枝とのやりとりが、いちいちおもろそう。
289名無しさん@ピンキー:2010/04/27(火) 03:45:01 ID:hB7AFn9K
「だっ、誰が奥さんだバカヤロー!!
………奥さん、か…エヘヘ…奥さんだってよ…(ムズムズ」

「あー、一旦CMお願いします」
290名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 08:37:07 ID:NWGMHOP9
何回CMになるんだかw
てか、セットとか無傷で済むとは思えないのはワシだけか?
291名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 10:19:45 ID:DqrFtFkr
美術さん達涙目w

徹子の部屋なんかに出たら大変なことになるな。
いや逆にぐったり疲れてばたんきゅーしてるか。
仮に発砲したとしても毛髪クッションで弾除。
292名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 16:23:42 ID:tYOf/LTi
新婚さんは最初は「何のバツゲーム」だよとか「くだらねぇ」とか言ってたのに

最後は景品ビンゴで大はしゃぎ。亀の子たわしを貰って機嫌良く帰るレヴィ

通訳のロックだけが疲れるわけだ
293名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 17:55:58 ID:IyCVsoGL
景品のYES/NO枕の意味が理解出来なかった幼い頃があったなぁと懐かしく思った瞬間死にたくなった。



レヴィたんは毎日YESだよね。
294名無しさん@ピンキー:2010/04/28(水) 19:28:21 ID:9nrl8py/
岡島さんが仕事で疲れてNOの場合

「ざけんじゃねえ!この文字が読めねえのか!」で襲われる笑

295名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 07:49:26 ID:1yGvBnZs
>>293
フレッシュなレヴィたんは毎日YES!してハートキャッチなんですね、わかりました
296名無しさん@ピンキー:2010/04/29(木) 23:27:06 ID:rJW/mle0
なんとかの種だかいう、うんこみたいな物を集めるのか
297名無しさん@ピンキー:2010/04/30(金) 23:54:07 ID:K/liiFrl
バラ兄×緑子さん希望
298名無しさん@ピンキー:2010/05/01(土) 23:12:38 ID:xt9PqfWK
だめだ、◆JU6DOSMJRE神のぬこが頭から離れない

春だからかな
299名無しさん@ピンキー:2010/05/02(日) 02:00:03 ID:FmmbuuyR
神ぬこ話、最初ぬことは気づかなかった・・
少年の話と思って最後まで読んで、なるほど!と思った今日この頃
300名無しさん@ピンキー:2010/05/02(日) 03:46:42 ID:tQmnFjw0
いや気づくだろ普通w
一度だけだけど「子猫」って単語も出たし。
一度だけってのが巧いところか。

レヴィたんがご飯与えるとき「エサ」じゃなくて「メシ」っていってるのがいいな。
301名無しさん@ピンキー:2010/05/02(日) 18:29:17 ID:FmmbuuyR
少年をからかって子猫って言ってるんだと思ったのよ

飯の描写リアルでいいよな。同じメニュー食べたくなった
302名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 02:54:04 ID:LKJaVccI
実は自分もさらっと読んだのと表現が抽象的だったのとで少年だと思い込んでて
後のレスを見てぬこだと気づき鳥肌が立ったw

人間以外の目線っていいね。
でも悲しい話とかだと自分ちの犬と重ね合わせちゃったりして
感情移入がハンパないぜ。
303名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 18:18:01 ID:eh37+9gC
最近うちに野良ぬこが通うようになってあまりにも可愛い声で鳴くもんだからキャットフード買って食わせてんだけど、既に犬二匹飼ってるから飼えないんだよなァ。
雨降ってる日とか家ん中入れてあげたくなる。

タイトルが居候だからひょっとしたら別れがくるんだろうとは思ってたけどあの最後はまじぱねぇよ
ありゃ泣くよJK
304名無しさん@ピンキー:2010/05/03(月) 19:06:05 ID:N8GqMOOU
動物飼ってる奴はたまんないだろうね
レヴィたんの脚に顔を擦りつけるぬこと嫉妬するロック
猫目線で見たHもまた、そこはかとなくエロい感じで良いな
305名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 01:05:13 ID:t87nQTZg
エロスなんだけどそれだけじゃないんだよね。
ノベライズ版書いてもらいたいくらいだわ。
つか同人で出たら買っちゃうって言おうと思ったら先越されてたしw
306名無しさん@ピンキー:2010/05/04(火) 22:36:11 ID:zPnJun3V
ところでレヴィたんって何歳くらいだろ
ロックより年下だよな?
307名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 01:42:49 ID:OPttiUqL
アニメ原画設定で26と書かれてたのを見たことがある。
弾丸と銃の時のシャワーシーンでの乳房のの垂れ具合がそんな感じがした。
308名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 02:27:47 ID:s21Drqiw
スリーサイズや身長と同じで、作者自身あまり厳密に設定していないのかも。
「20前後?」って感じの幼さのある顔立ちに見える時もあるし。
309名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 04:51:23 ID:BGfVz03k
なるほど
俺は雰囲気的にレヴィ23〜24ロック26〜27位かなと思う
310名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 07:23:13 ID:UW7Czv3N
ルックスや雰囲気は二十歳前後、中身はまだ子供って感じだな。
本人も正確には把握してないんじゃね?
誕生日とか祝ってもらった経験なさそだし自分の生年月日知らないまま今に至るみたいな。
311名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 07:46:06 ID:BGfVz03k
そっか。自分では二十超えてると思ってたら実は18,9のガキだったとかv
そんで酒に強すぎたのが仇となり生理不順と

んじゃロックは?
312名無しさん@ピンキー:2010/05/05(水) 15:10:15 ID:HDYPK6Nq
>>311
ロックは国立大卒だとかあるし、会社入った直後に海外飛ばされるわけもないから最低でも23歳以上だろうね。
英語が流暢な辺り海外留学の経験もあったりしそうだし、25〜27くらいな気がする。
313名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 09:45:11 ID:fgVH7uwn
30過ぎたらロックは包容力があっていい男になりそう
314名無しさん@ピンキー:2010/05/06(木) 10:45:46 ID:NdXokHew
裏の頂点に君臨して悪い顔がデフォになってそうだ。
レヴィたんに先立たれたら
ピコーン!そうだ、だったら自分で第二のトゥーハンドを作り上げればいいんだ!
ってなって怪しげな実験に没頭したりしてそう。
315名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 05:06:09 ID:+fDq9g91
レヴィたんは親から客を取らせる為に歳を上に教えられてたら切ない
316名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 17:31:22 ID:TPzfGzKY
レヴィたんの浴衣姿が見たいなあ

普段着より露出が少ないけどね!

帯にカトラスを挟むんじゃありません!
317名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 18:08:54 ID:MGchFqeu
>>315
実際貧しい国なんかではありそうな話だな。

>>316
胸元の懐に忍ばせておくんだよ。
浴衣でジルバしたら帯がほどけていやんなことに!
318名無しさん@ピンキー:2010/05/07(金) 22:53:56 ID:+fDq9g91
誰か張×レヴィを書いてくれんかなあ

同じトゥーハンドで中華系・・何らかの繋がりがあってもおかしくない
会話と同じくほのぼのHが見れそうなんだが
319名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 06:04:34 ID:IlHF9/ZS
おお、新しいな。
普通に仲良しでロックが嫉妬しまくるとかありそうだ
ネタくれ書くぞ
320名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 08:11:27 ID:gvsGX3HT
おお、マジすか同士よ!

レヴィがいつロアナプラに来たか知らんが、昨日今日って事は無いと思う
そんでレヴィが20前後だとすると少なくとも
ローティーンからハイティーンの頃のレヴィを張は知ってると思うんだよね
んで張さんとレヴィは少なくとも10歳以上は離れてるはずだ
そこで思春期ばりばりの街に慣れない小娘を、同胞のよしみと将来性を見抜いて色々世話をしたはずさ☆
ドコの世話にまで及んだかは各人の想像に任せるが・・
321名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 08:17:03 ID:gvsGX3HT
長レスすまん続き

そういう経緯でもないと、あの竹中編冒頭のレヴィの妙に懐いた態度と
お前は筋は良いんだが的な会話は成立しないと思うんだよね私的に
322名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 08:41:24 ID:IlHF9/ZS
お 前 は 天 才 か
 漲 っ て き た……ッ!

よし、ちょっとまってろ
オッサンちょっとそれ練ってくっから!
323名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 09:29:20 ID:9M8B1rYl
張レヴィもいいよね。
ラグーンメンバー以外の男で唯一従順なのが兄貴なんじゃないか?

同胞てのもあるし兄貴は元警官なんだっけ?
レヴィたんみたいな社会的にも家庭内でも力のない貧しい弱者は守って保護してやりたいっていうか、ただの仕事関係じゃなくて親心的なものもあったらいいなと思う。

自分より付き合い長くて自分が知らない頃のレヴィを知ってて嫉妬メラメラ(笑)なロックも見たいw
324名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 09:55:19 ID:gvsGX3HT
322<おう!ありがとよ。待ってるぜおっさん!
その間に妄想の続きでも・・

バラ姐に対しても姐御って呼ぶのはレヴィだけ…
ただ力にひれ伏してるだけじゃなくて、ちょっと慕ってる風が垣間見える
張を窓口にきっと姐御にも可愛がられていたはずだ
とすると・・

どっかの高めの酒場にて

「あの頃のレヴィは可愛かったわよねえ?姉貴姉貴って懐いてきて。
 体面があるからせめて姐御にしなさいって言ったものよ張・・」

「ああ悪かったな・・俺が甘やかしすぎたのがいけなかった」

「本当ね。貴方の前じゃ虎が飼い猫になるんだから、どこまで甘やかしたのやら・・」


「……っ…!姐御!張の旦那・・!頼むからロックの前でそういう会話やめてくんねえかな・・」
325名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:09:52 ID:lJ83qks5
>>284>>318の美味しいトコ取りしてみた

レヴィという女という女のは器量はそう悪く無い。少し幼さを残す顔はもちろん、身体つきもほどよく引き締まっていて最高だ。
それを惜し気も無く周囲に晒しているのだから、余程の自慢なのかと思えば、単にこの方が動きやすく涼しいというだけらしく、
本人にそれを磨く気は毛頭無いようだ。
肌は南国の太陽で焼けるに任せているし、もともと細く頼りない髪も、紫外線と潮風にツヤを奪われて久しい。
爪だけはつやつやのエナメルで覆われているが、本人いわく、元の爪が薄く軟らかいためこうしなければ割れてしまうからだと
いう。
そんな、野生に生きるに任せている女だが、最近になって意中の男が出来た。それはもう、見ていて呆れる程に判りやすい惚
れ込みようだった。相手の男が右を向けば右を向き、左に進めば一歩後ろを歩いている、そんな有様。
まるっきり犬っころとその飼い主。
キュッと引き締まった形の良い尻に、ぶんぶんと振られる尻尾が生えてる様が見えるようだ。
しかも信じられないことに、その飼い主ときたら、銃もナイフも使えぬ、人畜無害を絵に描いたような日本人なのだから、一時
街中が騒然としたものだ。

さて、そんなわけでと言うべきか、レヴィという女も色気らしきものに目覚めたらしい。
市場の片隅にある雑貨店。
レヴィがその一角でうろうろと品定めを始めて小一時間ほど経とうとしていた。
否、品定めと呼んでいいのだろうか。
視線はそわそわと、髪飾りを向いているのに、身体はその隣の石鹸の棚の前にある。
そして時折偶然を装うかのように意中の棚に足を進め、けったいなものを触るかのように気になる品を指で摘んでみては関心
が無いと言いたげにぽいと放り投げ、また別の棚を物色するフリを始める。
先程からその繰り返し。
本人は装飾品に興味の無いフリをしている『つもり』なのも知れないが、見ている方が居た堪れなくなるほどにバレバレである。
運悪くその場に居合わせた客は、珍しいものを見物したいという好奇心と、見てはならぬものを見てしまったという畏怖とを天
秤にかけ、結果皆足早に去って行く。

「ナニしてるか、アホちん」
不意に彼女の後ろから甲高い声がかかる。
その瞬間のレヴィの驚きようと言ったら無かった。びくりと大きく身体を震わせ、摘んでいた髪留めは軽い音を立てて床へと落
ちる。声の主…シェンホアが向けた視線の先には、赤と白のドット柄のリボン…。
そう、まるで世界一著名なメスネズミの衣装のようなそれ…。
「………お前、仮装でもするですか?」
「ちげーよ!アホなモン見つけて眺めてただけだっつの」
耳まで真っ赤にした猪女は、人一人通るのがやっとの狭い通路を、松葉杖をつく乱入者を押しのけ出口に向かって突進しよう
とする。
「お前、着けるなら、コレにしとけ」
だがそんなレヴィの腕を掴んで、シェンホアは赤く光る石が一列に並んだピンを指さす。
「おぉ、お前穴開いてるか、ならコレお揃いね」
更に大昔に開けて定着したままの穴を目ざとく見つけると、小さなピアスを摘んで見せてくる。
「だから、いらねえって」
いまだ赤い顔を隠すように俯くレヴィ。
シェンホアはさも驚いたと言わんばかりに大仰な態度で、「お前、100バーツだけも無いですか」と同情して見せる。
「ば…無いワケねぇだろ!?」
「そか。髪留めとピアスで230ね、まいど」
「!?おま…!!」
「この店同胞のね、嫁さん先週撃たれてこの世に居ないなったから次の嫁さん買って来るまで昼だけ店番よ?ニャハハ」
嫁とは買い換えるものだっただろうか。当事者のことなど知ったことではないのだが、恋する乙女のレヴィは何となく釈然とせ
ぬまま甲高い声で笑うシェンホアから逃げようと後ずさる。
だが、シェンホアは商売人の魂に目覚めたのか、「お前、そのナリじゃ合わないよ」と、ごそごそ在庫の段ボールを漁り初めた。
「おう、あたあた。ほれ、これも持ってけ」
持ってけとはつまり金を置いて持って行けということだが、今突っ込むべきはそこではない。
「……何だこれ」
シェンホアの手には真っ赤なチャイナドレス。
「シルクのドレスよ、見てわからナイか?」
「…………そんなこたぁわかるさ、何でこんなの着なきゃなんねぇ?」
そわそわと落ち着き無く不平を垂れるレヴィに、シェンホアは眉をひそめて溜息を吐く。
「お前、その服で食事行くか?」
「何で知って…!」
「私も行くね」
326名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:11:56 ID:lJ83qks5
レヴィが柄にも無くアクセサリーを物色していたのにも理由がある。
先日の騒動の慰労と称した張主催の会食に顔を出すため。
ロックにその話を聞いた時、「張に招待された」ことが嬉しかった。
その上、ロックに「おしゃれして来てよ、楽しみだな」と(最近の彼にしては珍しく)邪気無く笑われたのでは断る理由は無い。
ロックが自分が着飾る様を見たがってるのだと思うと、満更嫌な気分でも無いのだ、今の彼女は。
とは言え、「おしゃれ」などというものをしたことなど、ほとんど無い。
取っておきと呼べる服はあったのだが、ダンボールの底から引っ張り出したソレは、大きく虫に食われていた。
そんなわけで服から用意し直さなければならなかったのだが、何を選んでいいのか見当もつかない。
女らしく着飾った事が無いわけではない。
が、風俗のバイトをしていた時は、与えられた物を身につけ、備品で化粧をしていたのだし、日本に行った時の服だってロックの
趣味に従っただけだ。
あの時の事を思えば、彼の趣味は何となくわかる気がしたが、張の用意する席に出向くには砕け過ぎている気がしていた。
そして、どうして良いのかわからぬまま今日はその当日。
いっそトンズラしてやろうかと半ば本気で考えていたところだった。

「…………派手じゃねぇ?」
腰近くまでスリットの入った真っ赤なそれから微妙に視線を逸らしつつ尋ねる。
身体に自信が無いわけではないが、似合うかと聞かれれば似合う気がしないし、これを着てどんな顔をしていいのかわからない。
「こんなモン違うか?」
「…………へー…そっか…」
「7000バーツね」
「ぁあああ?たけぇよ……3000!」
「ワタシの店違うよ、値引き無理ねー。にゃは」
「うっせぇよ、なら3500だ」
「主人に直接交渉するよろし、あと半時で戻るヨ。けど、あいつ噂話大好きね、その上ほら吹きよ」
つまり、余計な噂を立てられたくなければ、大人しく金を払えと言っているのだ。
レヴィは観念したように肩を竦めて、赤いドレスをひったくると迷いなくこう言った。
「………請求書はロックだ」
327名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:13:37 ID:lJ83qks5
「動くな、アホ。お前髪に油くらいつけろ、きしきしいってる」
「めんどくせぇ、それに一日経ちゃベタベタするだろが」
「あいや、お前ホントに女デスか?」

化粧の道具すら持っていないことが発覚したレヴィは、シェンホアの部屋に連れ込まれて着付けされることと相成った。
部屋には何故かソーヤーと、サングラスのロットンとか言う男がいて、各々無心で自分の身支度をしている。
姿見の前で珍妙なポーズを取る男と、黒魔術の儀式の最中かと言わんばかりに禍々しいオーラを出して化粧する女を横目に、
窮屈なようで、意外と着心地の

いいドレスに着替える。
腰まで伸びた右側のスリットに、下着はこのままで良いのか尋ねると、脱げと言われた。
曰く、こういうものだ、と。
そして、与えられた椅子に座るなり、そんな乾いた肌では化粧出来ないと脂を拭き取られて、化粧水をパックされた。
その間に、髪を弄られ、肌に続いて髪の駄目出し。
これ以上貶されたのでは、流石の自分も落ち込むと判断したレヴィは話を換えることに決める。
脚を引きずりながらもちょこまかと動き回る女に「お前、杖は?」と尋ねると、「別に使わなくテも無問題ね、邪魔よ、アレ」と返事。
結局、日本から帰国してからの数週間を思い出し、余計に気分が悪くなっただけだった。

下降する一方のレヴィの機嫌など知ったことかとばかりに、彼女の細い髪はあれこれと弄ばれた挙句、細くて結っても映えない
からと下ろして分け目を変えられた。
毛先をコテで巻き、横に流した髪を細身のピンで留め、スプレーを吹きかけられる。
そして、パックによってたっぷり水分を吸った顔に、何だかよく理解出来ぬまま色々なものを塗りたくられる。

苦痛だった。
そして同時に世の女は毎日こんなことをしているのかと、焦りに似た気分も湧いてくる。
されるがまま手持ち無沙汰なレヴィが、煙草が吸いたいと言い出すべきかを考えていると、不意に右から声がかかった。
「シャツは、これとこれ、どちらがクールだろうか」
思わずそちらを向こうとするレヴィ。
「あいや!アバズレ!!!動いたら鼻削ぎ落としてやるですよ!」
そんな彼女にヒステリックな声が上がる。
シェンホアは周囲が思っていた以上に目の前の作品に熱中しているようだ。
そんな家主の空気も読まず尚も声をかける男に、そちらを見もせずに、「右!右でいいね、クールよ、最高ね」と明らかに適当な
返事を返す。
煙草なんか所望したら殺される…レヴィに出来るのは、暫くこの苦行に耐えねばならぬと悟ることのみ。
だが、当人達の本気度と諦めなど、関係の無い人間がもう一人。
「シェン…ホ、あ…コル…セッ…ト、締め…て」
レヴィの後ろから聞こえる機械音交じりの声。
「ソーヤー、食事行くですよ、それ以上締めたら吐くよ、ダメね」
一目だにせず、断るシェンホア。手を止めないのはさすがである。
「…コ…ルセッ…トは、シめ…る、もの…だワ…」
「十分よ、ソーヤー痩せ過ぎよ、沢山食べてくるよろし」
お前はこいつらのママンかよ、そんな突っ込みを噛み殺し、シェンホアが矢鱈と自分の面倒を焼く理由が何となく解った気がした
レヴィだった。
328名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:16:08 ID:lJ83qks5
「完成ね、おう、よく化けた、ワタシこれ天才よ」
そうこうしているうちに、完成したらしい。
作品に満足したように頷いたシェンホアは、レヴィに大振りの手鏡を渡し、自らも支度にパタパタと動き始める。
期待と不安をない交ぜに鏡を覗き込むと、そこにいたのはまるで別人だった、
しっとりと艶やかな髪は女らしく緩く巻かれ、肌もいつもより色白。くすみもシミも目立たない。
目元は、控え目とは呼べぬが決して下品にならない絶妙なグラデーションで彩られ、アイラインとたっぷり塗られたマスカラは、
どんぐりのような彼女の目を更

にぱっちりと大きく見せていた。
最初は気持ち悪くてたまらなかった口紅だって、彼女の薄い唇をぷっくりと女らしく彩っている。
しげしげと自分の顔を見て、うっかり「かなりイケてるかもしんねぇ」などと思ってしまい、慌てて顔を引き締める。
早くロックに見て貰いたい反面、色気づきやがってとか、何それ仮装?とか、鼻で笑われそうで怖かった。
そういえば、とうに四時半を過ぎている。
5時にはロックが迎えに来る。早く帰らなければ。
「ですだよ、わりい!帰るわ!」
そう叫んで、着替えの時に脱いだブーツに足を突っ込むと、「あいや!靴!忘れてますたよ!あばずれ、お前靴持ってるですか!?」
と悲鳴が上がる。
靴はあったような気がするが、どこにあるかまで思い出せない。探せば確実に埃まみれだ。
「……コレじゃ、ダメか」
「いいわけないね、ちょっと待つよろし」
そう言ってクロゼットの奥からストラップ付きのハイヒールを出して来た。
「布詰めて固定すれば何とかなるね、壊したら殺すですよ」
「………ヒール無いヤツねぇの…?」
「そんな自堕落なの履かないよ」
シェンホアに渡された袋を引ったくって走って部屋を出る。
後ろから「トゥクトゥク駄目よ、車よ!髪崩れるね!」と声がした。



レヴィが装った自らの全体像を目にしたのは、タクシーの汚れた車窓に写る姿を目にしたその時が初めてだった。
常とは全く違うその姿に一瞬呆気に取られつつも乗り込むと、ドライバーはあからさまに鼻を伸ばしている。
やはり今日のナリは悪く無いのかと自信を持ちかけたが、乗り込んで来た女がレヴィだと気付いた瞬間、化け物を見るような戸惑
った顔になった。
きっと周囲からは仮装のように見えているのだ。今更だがやはりとんずらしようか。
だが、ロックにはどう言い訳しよう。それにホストは張だ、今更断るなんて出来るはずがない。
なら、着替えるか?だが、何に?さすがの自分も普段の服で出向けるほど面の皮は厚くない。
ネガティブなことを悶々と考え込む彼女の耳に、約5分のドライブの終わりを告げる、ドライバーの声。
そして、我に返った彼女の目の前にあったのは、車の外から真っ赤な顔で自分を凝視するロックの顔だった。
329名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:18:33 ID:lJ83qks5
ロックはいつも、約束をすればその10分前には現れる。
さっき4時40分頃だったから、きっと今は50分くらい。
時間を守らないことを徹底して守るこの男の習性を心底から憎らしく思う。
だが、車の中に篭城するわけにもいかない。金を払おうと尻に手をやり、いつものジーンズを履いていないことに気づく。
さっき脱いだまま、忘れてきてしまった。
つまり一文無し。

「ロック、金貸してくれ、財布忘れたんだ」
車の窓を開けて、金の無心をする。
相変わらず真っ赤な顔のロックが慌てた様子でぎこちなく寄越した50バーツ札を渡して、ドアを開ける。
ロックの態度はきっと、似合いもしないナリの自分に戸惑ったから。
恥ずかしくて死にそうだ。
やはり今日の招待は断るのがいい。笑い者にはなるのは惨めだ。
「…その…、中入ろうぜ、見世物になるのは御免だし」
絶句したまま木偶の坊のように棒立ちになっている男を顎で促し足早に階段を上がる。

慌てて後ろから上ってくる男に、どう今日の予定をキャンセルしようかと考えるが、上手い言葉が浮かばない。そして、ドアの
前ではたと気づく。
ジーンズを着ていないということは、部屋の鍵すら持っていないということ。
「……鍵…」
「持って無いの?無用心だな…どこ行ってたのさ」
そう言いつつも、懐から当たり前のようにレヴィの部屋の鍵を取り出すロック。
「カトラスはちゃんと持ってきた」
「そういう問題じゃないよ、鍵変えた方がいいんじゃないか?」
「んー…?考えとくよ」
そんな会話をしながら入ったレヴィの部屋は、いつも通り足の踏み場も無い有様。
やはりどんなに上辺を塗りたくったところで自分にはゴミ溜めが似合っていると、気づかれぬように嘆息する。
「あのさ、」
「なぁ、レヴィ…」
雑然とした室内に二人の声が同時に響き、同時に口を噤む。
どうぞ、と目で言うロックに促されるまま「今日、やっぱ行きたくねぇ」と口を尖らせる。
「どうしてさ?」
「やっぱ、変だろ?」
「何が」
「このナリだよ、あんたもさっき変な顔してたもんな」
「…へ、変じゃないよ!?似合ってる!…確かにびっくりしたけど、あ、びっくりしたのは、その、綺麗だからで…こんなことなら
タキシードでも着てくれば良かったな…なんて……それにさ!!見せびらかしたい!…行こう?な?」
慌てた様子でどもりながら必死に誘うロックに本当に変じゃないのかと尋ねると、真っ赤な顔で何度も頷く。
嬉しかった。
ベッドでのおべっか以外で、彼に綺麗だと言われたのは初めてだった。
緩みそうになる頬を隠すように大口を開けて笑いながら同意する。
「オーラオ!わーったよ、行くよ、久々にいいモン食えるしな。で?あんたは何言いかけてたんだ?」
さっき彼が言いかけていたことを尋ねるが、その返事に次は彼女が赤面する番だった。
ロック、真っ赤な顔で「え、あの…」と口篭ると、意を決したようにこう訊いた。
「それ、穿いてないの?」
と。
330名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:22:56 ID:lJ83qks5
ロックの疑問は至極もっともだった。
腰までのスリットに、下着など目視出来ない。
「…こういうモンなんだよ」
耳まで真っ赤にし、シェンホアからの受け売りをそのまま伝える。
「…ごめん、見せびらかしたいのに、誰にも見せたくなくなってきた」
「アホ抜かせ」
「ねぇ、下着着けようよ、見えたらどうするのさ」
「見えるかよ、それに着てる方がみっともねぇだろ、丸見えだ」
「なら、座る時は脚を閉じて!いつもみたいに男みたいな座り方しちゃダメだからな!!」
「はいはい」
「歩くときも歩幅は小さくな?あと…」
「ああもう、わかったっつの」
くどくどと仕種に注文をつける男を適当にあしらいつつ、靴を履き替えようとしゃがみ込んで袋を漁る。
「あああああああああ!だから!そんな風に脚開いて!!何?見せたいのか??ていうか見えてる!!!!!」
スリットの隙間から覗く茂みにロックの声は一層高くなる。
一方のレヴィもわざとらしく片耳を塞ぐと、袋から出した靴を突き出し怒鳴り返す。
「靴!履き替えるんだよ!!どうせお前しかいねぇんだから関係ねぇだろ!?」
「こういうところから意識しないと、絶対失敗するんだよ!靴貸せよ!穿かせてあげるから」
ヒステリックにそう叫んだロックは、レヴィの手から紙袋を奪ってベッドに腰掛けさせる。
そして、彼女の傍らに跪き、脚を取って片方ずつブーツを脱がせる。
割れ物に触れるような丁寧な仕種のせいで、履き古しのブーツで蒸れた足が余計に恥ずかしい。
だが、きっとそんなことも理解した上での所作なのだと、何となくレヴィは気づいていた。
目が楽しそうに笑っているのだ。

左に続いてスリットの走る右の足に細身の靴を穿かせ終えたロックは、レヴィの流麗な脚のラインを確かめるように、指先でゆ
っくり撫で上げた。
「…や…」
粟立つ肌に思わず零れた甘ったるい声。
ロックは嬉しそうに目を細めたかと思うと、傷痕だらけの膝の頭に唇を寄せてねっとりとしゃぶりつく。
まだ何か企んでいるなと勘付いているレヴィの思考を肯定するように、両手は彼女のスカートの中、下半身をまさぐるように這い
上がって来た。
掌が内股に入り込むと同時に曝される肌。茂みも僅かに覗く。局部すらも少し動けば露わになってしまうだろう。
「ば…お前、今から出かけるんだろ!?」
「ああ」
ロックは彼女の疑問に肯定を返し、軽いタッチで腿を撫で、決して強制せぬ強さで脚を開かせる。
「何すんだよ!」
口では抗議しても、半分は自分の意志だ。解っているからこそ、口だけは抗議しておかないと、彼女にとって非常に体裁が悪い。
「こうする」
言いながら脚の付け根に向け寄ってくる唇。吐息が薄い皮膚にかかり、その度に甘い疼きが身体を浸蝕するようだった。
ロックの舌が、秘所からすぐ下あたりの内股に触れて、吸い付くようにねっとりと唇が触れてくる。
感じてたまるかと唇を噛もうとするが、そうすればせっかくの口紅が取れてしまう。
声を上げることも噛み殺すことも出来ず、苦し紛れにロックを睨みつけると、ゆるくしゃぶりついていただけの肌をチュウと音が立
つ程に吸い上げて来た。
「……やめ…」
押し返そうにも、常よりきっちりと整えられた彼の髪に下手に触れることもできない。
踵を浮かせてそのまま後ろへ逃れようとすると、脚を掴まれて肩に担がれた。そして、左の脚にも吸い付き執拗に痕を付ける。
そんな風に何箇所かに朱い痕を付ける間も、観察するかのようなロックの視線が、じっとりとレヴィに絡み付く。
身体の中心には触れられていないのに、ごまかしようが無い程濡れているのがレヴィにはわかった。
331名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:26:20 ID:lJ83qks5
レヴィの半開きの赤く艶やかな唇から、悩ましげな吐息が零れるのをロックはじっと見つめていた。
彼はいつだって、スイッチが入る直前のこの表情が好きだった。
身体の切なさに流されてたまるかと抗っている時の彼女は本当に綺麗なのだ。
そして、ただでさえ魅惑的なその表情が、今日は化粧で彩られている。
形よく整えられた眉は耐えるように寄せられ、マスカラで濃くなった睫が細かく震えている。
頬だって紅で彩られているから、いつも以上に華やいで見える。
この後の予定が無ければ、じっくりといただいてしまいたい。
だが、悪ふざけもここまで。
「これでよし」
自らの痕跡だらけの下肢から名残惜しく離れたロックに、「え…?………よしって…………何…が…」とレヴィのか細い声。
ほんの鼻先にあった彼女の秘所が、物欲しげに涙を流していたのは知っていたが、知らない顔でとぼけて見せた。
「…どうかした?」
「………何が『よし』なんだよ」
「…だって、これだけ痕をつけておけば見えないように気を付けるだろ?見えたら見えたで、見せつけられるし」
そう満足げに答えるロック。
レヴィは、微かに潤んだ瞳で信じられないと言う顔をしている。
「期待した?」
「はぁっ!?」
「だって、こんなになってる…」
ロックの指が、ぬるりと割れ目の潤みを掬い上げる。
「ふ…んん……」
甘みのあるレヴィの声と、粘着質な水音が重なる。
「ほら………指、レヴィのせいで濡れちゃった。綺麗にしてよ」
ロックはぬらぬらと光る指を彼女の眼前に突きつけた。
レヴィは一瞬泣きそうな顔でロックを睨みつけるが、怯むどころか甘えるように微笑む男を前に観念し、顎を突き出して薄く唇を開く。
舌を突き出して、彼の指をしとどに濡らす、自分の淫部から湧き出た体液を一舐め。
生臭い。
気分が悪い。
だが、「美味い?」と楽しそうに微笑うロック。
美味いわけがあるかと思ったが下手に反応すれば喜ばせるだけだ。
無視して指を口内に導き入れる。こうなったら煽るだけ煽って生殺しにしてやる。
ささやかな嫌がらせを思い付き、わざと劣情を誘うような音を立て指に吸い付き、舌を見せつけ舐め上げる。
ロックの視線が真っ赤な唇に釘づけになっているのがわかった。
吐息に熱を孕ませ、とどめとばかりに何かをねだるように喉を鳴らした瞬間、細身のスラックスの中で彼が一層に猛る。
それを見たレヴィは笑みを堪える。
いいぞいいぞ、大いに期待しろ。
今からおあずけを喰らわせてやる。

「誘ってるの?」
切羽詰まったようなロックの声。
勝った!掌を打ち鳴らして指差して笑ってやりたいが今は我慢だと、ロックを無視して立ち上がる。
「…ぁ?何が?……『掃除』は終わったんだ、行くぜ?」
「………………………」
絶句するロックを前に、レヴィは痛快で堪らない。
「ほら、早くしろよ、腹減ってんだよ、喉も渇いてっし」
「どちらにしても6時過ぎないとありつけないと思うよ…あと15分ゆっくりしても余裕がある」
「何だよ、不満そうだな。いいんだよ、一服したんじゃ目先のモンに手が伸びちまう。………我慢した後のビールは美味いと思わ
ねぇか?」
「今飲んだってきっと美味いけどね」
今がいいと拗ねるロックを鼻で笑い、わかってねぇなと前置きして屁理屈を捏ねる。
いつもこの男の屁理屈にいいようにあしらわれているから、逆の立場は気分がいい。
「お前はビールの気持ちってヤツを理解してねぇ。かっ喰らう側にとっちゃ同じでも、ビールにとっちゃ大舞台さ、じっくり味わって
欲しいハズだぜ?」
心底楽しそうに笑うレヴィを前に、どうやら我慢するしか無いらしいことを悟るロックだが、何となく釈然としない。
「……小便と一緒って言った女の言うことかよ…」
小声で呟きながらロックが彼女の前に立つと、ヒールのお陰で身長がほぼ同じ。
よくわからない敗北感で一杯になる。
「何か言ったか」
「…別に。この苦しみを乗り越えた先のビールはどんな味がするんだろうって思ってただけ」
お楽しみには、まだ遠い。
332名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:28:01 ID:lJ83qks5
さて、こうして我慢を受け入れたロックではあるが、早速次なる頭痛の種に見舞われる。
つまり、容姿はいいのに今までそれを磨こうとしてこなかったレヴィの、こうまで魅惑的な姿を衆目に晒せばどうなるのか…。
想像に難くない。
レヴィは「いつもより隠れている」というが、ロックにとってそういう問題ではない。
この、見えそうで見えないバランスが、どれだけ男の想像力を掻き立てるのか、この女は解っていないのだと歯軋りする。
その上、いつもと変わらず大股で歩くレヴィ。さっき付けた痕は、内股ばかりで意外と見えないようだ。
自分の手抜かりに喚き散らしたいところだが、そうはいかない。
だが、周囲の下衆な視線に我慢ならず彼女の右側から腰を抱き寄せ、すかさずタクシーを呼び止めた。
「…早めに出たし、歩いて行けばいいんじゃねぇ?多分10分で着くぜ」
レヴィは、腰をがっしりと抱く彼の腕から逃れようと身体を捻る。
「…いいんだよ、暑いだろ?」
「なら離れろよ」
「いいんだよ!見せたくないんだから!!!」
タクシーを前に路上で火花を散らす二人に衆目が集まる。
「いいから!!乗れって!」
レヴィを周りから隠すように車内に押し込む。
「あたし金持ってねぇからな!」
何故か大威張りのレヴィを自分が払うからあしらいながら、これで心労は終わりなのだと思っていた。
会食の行われるサンカン・パレスでは、こんな下衆な視線を気にしなくてもいい、と。

確かにそうだった。
ロアナプラにあるまじき上質な空間で、レヴィの装いにあからさまに視線を寄越す輩はいなかった。
レヴィが忘れていった小汚い服と付属物たちも手元に戻り、憂いは無いように思われた。
会食自体も、堅苦しいものではなく、目下の人間の世話をするのが嫌いではない張が昔馴染みのレヴィやシェンホアと酒を
飲む言い訳だったようで、冗談が飛び交う無礼講の有様。
酒も美味い、料理も美味い。

「その瞬間」まで、同席した皆が上機嫌だった。
333名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:32:24 ID:lJ83qks5
「そう言えばトゥーハンド、その服は前に俺が買ってやったヤツか?よく覚えてないんだが」
気の置けない席でほろ酔いの張が、レヴィの纏う赤いチャイナドレスについて声を上げる。
シェンホアと二人、ロベルタの怪物ぶりについてロックにあること無いこと熱弁していたレヴィは、「わりぃ、旦那。アレ着て来よ
うと思ったんだけど虫に食われちまってた」と台無しにしてしまったと謝罪する。
今日の服を一緒に選ぼうと誘った時、ドレスくらい持っていると言っていたことを思い出し、ロックは聞き耳を立てる。
他の男にプレゼントされた服を着て来るつもりだったのかと、面白くない気分になるのは仕方が無い。
が、レヴィが張を兄のように慕っているのは知っていたし、ホストのプレゼントを身につけるのは招待された側としてはある種の
礼儀と、冷静に考えた。
「なら着たのはあの晩だけか?」
「んー。そう言われりゃそうだな。大事に仕舞い込み過ぎたんだ」
「お前はそういうところが抜けているな。似合っていたんだがな」
今日の服の牡丹も悪くは無いと評価する張に、シェンホアが同郷の言葉で何か言って、張が頷く。
大方、選者は自分だとアピールしているのだろうと当たりをつけたレヴィだったが、張と酒を交えてゆっくり会話をするのは数年
ぶりで、張の興味を自分に戻そうと半ばムキになって声を上げる。
「旦那は服のセンスだけはいいからな」
「『だけ』とはナンだ。他も『超サイコー』を心がけているんだがね」
肩を竦めて笑う張に、円卓にも笑いが起きる。
ロックも、張と話せて嬉しいのだというレヴィの空気を読み取る。
とは言え、レヴィが他の男と楽しそうに会話しているのを黙って聞いているのも面白くない。
もう一人の男は、ミルクの入ったグラスをちびりちびりと格好つけながら舐めている。
明らかに自分の姿に酔っている姿は正直異様で、出来ることならば会話したくない。
仕方なく自分の右に座るソーヤーの派手にデコレーションされた爪について褒めておくことにした。
実は、レヴィの手前あからさまに会話できなかったが、さっきから彼女の手元が気になって仕方なかったのだ。
「ハッ!真面目な顔してタチの悪いジョークはよしてくれよ。『あれ』思い出す度に気分が萎えるんだ」
レヴィの上機嫌な声を聞きながら、目の前のゴシック少女に褒め言葉を送ると、微かに自慢げな顔で爪を見せてきた。
すでに爪なのか、別の何かなのかよく解らなくなっているそれには、小さな墓石や蜘蛛や蝶が煌びやかに配置されている。
正直言って、凄いが、悪趣味極まりない。
「何かおかしなことでも言ったかな?」
張も妹分二人に囲まれて、上機嫌に拍車が掛かっている。
悪趣味な爪に続いて自慢された、アイアンメイデンのピアスに絶句しながら、たまにはこんな席も悪くないと、それなりに楽しん
でいる自分ロックは気付いていた。
だが。

「『死んだ蛙のように力抜け』って。アレから正常位でイケなくなった」

彼の背中に降り注ぐ、あまりに信じられないレヴィの言葉。
「あまりに緊張していたようだったのでね」
それを否定するでもなく、当たり前のように笑い返す張の声。
「あったりまえだろ!?ロクでもねぇ事思い出したんだから。ガキだったんだよ、まだ」
ロックは背中に氷の杭を打ち込まれたかのように全身が冷えて行くのを感じていた。
一方のレヴィは、最近遠くに感じていた兄貴分の関心をもっと引きたかった。
少なくとも、さっきから眉を顰めて自分を見ている女狐よりも。
自分の知らない言葉で旦那と会話をするな、お前よりも自分達は仲がいいのだ、と。
もっと思い知らせてやりたかった。
「ほう、まだまだケツが青いようにしか見えんがね」
だが、張の態度は、子供をあしらうようなそれ。
その背中はあまりに大きいくせに、いつまで経っても、追いつけない。
それがレヴィには悔しくてたまらなかった。
大人の余裕を見せたかった。

「冗談よしてくれ!ナンならためして―――」
「レヴィ!!!!!!」

豪奢な部屋に、外にまで聞こえるのではないかという大声が響き渡る。
334名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:44:26 ID:lJ83qks5
賑やかだった室内が一瞬で静まり返った。
「あ…その、失礼しました、会話を続けて下さい」
声の主は、さっき会話から抜けたはずのロックだった。
彼は慌てて非礼を謝罪して中座を願い出ると、足早に部屋を出て行く。
「お前、化粧取れてるよ、ちょとこっち来い」
あまりに大きなロックの怒声に、振り返ることも出来ず放心するレヴィにかかるシェンホアの声。
そのままレヴィの返事も聞かずに腕を掴むと、ずるずると引きずり出すように、続いて部屋を出て行った。
「どうやら、俺も酔ってるらしい」
おどけるように自嘲する張に、返事は返って来ない。
満足顔で爪を眺める掃除屋と、カラカラと氷を揺らしながらミルクを舐める、どこの誰かも解らぬ男。
自分たちの世界に没頭する、シェンホアが連れて来た二人。
そんなゲストを前に、ホストの義務をどう果たすべきか。
張もまた途方に暮れることとなった。

「お前、さっき何言おうとしまシたか?」
化粧室に連れ込まれたレヴィは、いつになく深刻な顔のシェンホアに詰問されて我に返る。
先程の会話を思い出して床にしゃがみ込むと、小声で言い訳する。
「………『試してみるかって…言いてぇけど、…今は安売りしてねぇ』…って…。」
「お前はアホですか」
「奇遇じゃねぇか、あたしも同じ事考えてた」

張との間にあったことは、笑い話に出来る程度の、消化され終わった過去の思い出だった。
たった一度、誕生日に上等な服と食事を与えられた。
小さな頃から夢見ていたことが叶って経験に本当に嬉しかったが、返せるものが身体しかなかった。
「いい女は自分を安売りするもんじゃぁない」
そう窘められたが、まだ憧れと恋心の区別も付かなくて、好きだと言って身体を預けたのだ。
悦んで貰いたいというプレッシャーと、抜け切らぬセックスへの恐怖心で硬くなった彼女を、張は冴えないジョークで和ませ、
彼女が想像したことがないほど丁寧に抱いた。
セックスで感じたのはあの時が初めてで、だから「あれからイケない」というのは嘘なのだが、それも含めて全て酒の席での
笑い話のつもりだったのだ。

今も、張に抱く気持ちはあの頃のまま変わらない。
憧れている。
けれど、今も昔も、それは恋心とは違うものだ。

面白くなかったのだ。
何年かぶりに張とゆっくり話が出来たのに、自分の知らない言葉で話をされて。
きっと兄を取られたらあんな気分なのだろう。
冷静になったレヴィには理解できたが、それを言い訳するべき相手はここにいない。

「むくれた時のソーヤーですか」
しゃがみ込んだまま無言で床を凝視する小娘を前に、シェンホアは溜息を吐く。
自分は何でこう他人の面倒を背負い込む性質なのだろう、そもそもこの女には辛酸ばかり舐めさせられているというのに。
そんな自分にうんざりしていた。
「ほれ、化粧直すよ、立て。言い訳はボンクラにするよろし」
腕を引き上げ、鏡台の椅子に座らせる。
「やきもち焼かれないよりいいよ。お前、素材悪いない、もっと磨け、そうしましたらぼんくら離れられなくなるね、あんな風に逃げ
ないよ。」
だが、シェンホアの口から出た「逃げた」という言葉に、レヴィは自分でも驚くほどに動揺する。
追いかけても追いかけても、逃げる彼との距離が縮まらない、そんなイメージが脳裏に浮かんで離れない。

嬉しかったのに。
真っ赤になって綺麗だと言ってくれたことも、見せたくないと言って初めて示してくれた独占欲も。
焦がれていた距離が、少し縮まった気でいたのに。
さっきまでの幸福感が遠い昔のようだ。

「自業自得よ、泣くな、化粧取れる」
石造りの化粧室に、シェンホアの二度目の溜息が響いた。

つづく
335名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 20:47:17 ID:guA8qUxA
>>334
GJすぐる
張の兄貴との絡み、いいね!
336名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 21:32:47 ID:IlHF9/ZS
ス、すさまじい出来……! なんという……ぐうの音も出ない……
くっそぉ! 世界はなんでこんなにも広いんだ!!
勉強させてもらいます! 押忍!
337名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 22:07:04 ID:gvsGX3HT
ああレヴィ可愛い・・!
シェンホア良いヤツ!
張さん両手に花でうらやまry…!
338名無しさん@ピンキー:2010/05/08(土) 22:55:13 ID:lJ83qks5
>>336
期待してるぜ、おっさん!!


つか貴兄らの美味しいネタ突っ込みたいだけ突っ込んで、ネタ切(ry
339名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 00:00:01 ID:PK3P1VVs
いやGJだったよv
しかしクール&余韻を残す締めだったな
死を隠し持つ関係の女同士の奇妙な友情に変に萌えたぜ

340名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 00:52:36 ID:wAVW9BEN
レヴィたんも可愛いが、さりげなくソーヤーとロットンがそれっぽくいい味出してるのにちょい和んだw
コメディと見せ掛けてシリアスで、でもやっぱり笑える!
ちょっと笑える変人奇人もブラクラの魅力!いいねいいね!
341名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 02:29:51 ID:PK3P1VVs
この後先に帰ってしまったロックに落ち込むレヴィたん
久々に綺麗な妹分を見た兄貴は部屋に寄っていくよう誘ってしまう
思い出話をするうちに身体を触れ合ってしまうふたり・・
心は青く幼い日に還り反して身体は昂ぶっていく交錯する光と闇・・
少女と男の淡い恋はどこへ辿り着くのか・・!
来月全国ロードショー!!

悪ふざけがすぎました
342名無しさん@ピンキー:2010/05/09(日) 03:52:31 ID:TXMugjkS
最近、続きませんシリーズの神は投下ないですね。
343284:2010/05/09(日) 08:21:30 ID:IxBgFGND
うわーGJ!
妄想した甲斐があったw
ヘアアクセ物色してるレヴィたんカワエエ。
今流行りのウサミミつけさせたいw

シェンホアとレヴィって貧困育ちから裏でしか生きられなくなったってことになんかならなければ普通に友達になれただろうに。

つか六d、ソーヤーお前ら面白すぎ自重ww
344名無しさん@ピンキー:2010/05/10(月) 19:25:54 ID:5C1d+aOn
レヴィってある意味枝よりシェンホアとの方が仲良いように見える。

ていうか続くのか!
久々にフルヌード待機
345名無しさん@ピンキー:2010/05/10(月) 21:17:43 ID:KAf0BcjO
短期間でこんな素晴らしいものをお書きになるとは神と言わざるを得ない!GJ!続き待ってます。
今週はこのSSだけで乗り切れそうマジでww
346名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 04:30:17 ID:XmLsOVMP
心の栄養だよな

昔バナナフィッシュ読んで
中国系マフィアは同胞の結束力が強いという知識を刷り込まれたなあ
あのシンだっけ?好きだった
347名無しさん@ピンキー:2010/05/11(火) 11:34:28 ID:vBOfb8s9
>>325
> キュッと引き締まった形の良い尻に、ぶんぶんと振られる尻尾が生えてる様が見えるようだ。


レヴィ「ロック待って待ってー≧ω≦」

ごめん頭沸いてきた。今では反省している。

エロ描写とかよりこういうとこが妙にツボったりするんだよ…
ぬこが必死にレヴィ追いかけてついてく様とかさ…
348319:2010/05/11(火) 22:38:40 ID:fomReMWZ
頑張ってみたが、俺の能力では張の兄貴がどんどん壊れてゆく……


処女に少女に娼婦に淑女

 また面倒な事を始めたものだ。
 「レヴィ」
 名を呼んでしばらくしても返事がないので諦めた。
 まあこの格好だ、気付かなくて当たり前か。
 俺は時々変装などして憂さ晴らしをする事がある。重圧だの柵だのから逃げ出したいわけでなく、自分の出発点を忘れないようにする自戒のため、ドブを這いずりまわってた頃の屈辱をリプレイする。
 拾ったような帽子を目深にかぶり、煤汚れたシャツと穴のあいたズボン。
 “ここに帰って来る羽目”になっても、抜け道ってのは自分で探しといたほうが何かと都合がいい。何も人生“行きっぱなし”ばっかが能じゃねぇんだ。
 そんな休日のある日、これまた珍しいものを見た。
 真っ赤なヒールに白ワイン色のサマードレス、洗い晒しの髪には靴と同じ色のハイビスカスを差した妹分。
 暑さで頭がいかれたか。
 携帯電話を持っていれば証拠写真を撮ったのに、と忍び笑いをして別の方向に足を向けようとして……一瞬考え、元来た方向に戻る。
 あの銃以外拘りというものに縁のないレヴィが着飾って一体どこへ行こうというのか? 気にならない方がどうかしている。
 ふらりふらりと酔った足取りでそれとなく尾行することにした。久々にこんな事をする自分が面白くもある。
 花屋だの、喫茶店だの、服屋だのを(あのレヴィが!)ウロウロしながら散歩しているのを見ながら、よくもあれでスリだのタカリだのに遭わないものだと思う。あんなカモ一発で裏路地に引きずり込まれるぞ。
 なんだかハラハラしてきた。
 スカートが翻るたび高いヒールでコケるんじゃないかと。
 「……何やってんだ俺は」
 独りごちたら背後からそれを肯定する奴がいた。
 「そりゃこっちの台詞だぜオッサン」
 この街にも一応サツってのがあるんだ。引き渡されたくなきゃ迷惑料を払いな、ストーカーさんよ。
 いつものあの低い声。
 ……暑さでイカれた訳じゃないのか。
 ホッとしたのと同時に、人の悪い笑みがこぼれる。おお、俺の変装も捨てたもんじゃない。
 「ま、まってくれ! そんなんじゃない!」
 おどおどした声を出してホールドアップしながら振り向く。上手に腕で帽子を上げながら。
 「………………………………アアあああぁ!?」
 ハトに豆鉄砲、なんて言葉が日本にあるとロックが言ってたが、まさにそんな顔のレヴィが顔面を蒼白にしながら素っ頓狂な声を上げてワナワナと震えた。
349319:2010/05/11(火) 22:39:25 ID:fomReMWZ
 「だ、旦那……な、なんて恰好してやがんでェ……!」
 「そりゃこっちのセリフだ」
 カンカン帽を被り直してサングラスを少しだけずらし、上から下までまじまじと眼前の女を見る。筋肉質で意外にごつい身体をうまくカバーしたサマードレス。見立てたのはシェンホアあたりか?
 「どこの令嬢かと思った」
 フハハと笑ったら、彼女は顔を真っ赤にして胸元をつかみ、声もなく呻いた。
 「パーティは何時からだい」
 あまりにその仕草がおかしくて突っ込む。
 「……ち、違うんだ旦那! こ、これはだな、その、なんだ! うちのベニーに最近女が出来たのは知ってるだろ? あいつにプレゼントがどうだこうだって、それで、つまりこれはサイズ違いで……その! つ、通販! 通販で間違って!」
 何かを言おうとしているのは解るが、サッパリ意味が分らない。
 まあ興味もないが。
 「似合ってる」
 ポンと頭を撫でてやった。
 「……っ!」
 おー。嬉しそうな顔しやがる。
 「……そ、それより! そっちこそなんだその貧乏を絵に描いたような服は!」
 びし、と煤けたシャツを指差すので、それで顔の赤味が取れるかね? と訊こうとして止めた。
 「趣味の人に向かってひでぇことを言いやがる」
 「……趣味だぁ?」
 「この格好してるとな、街のチンピラがタメ口で遊んでくれるんだよ。酒飲みの呉(ウー)つったらちょいとした顔だぜ」
 へへへ、と笑ったら、信じられないという顔でレヴィがぽかんと口を開けた。
 「三合会のボスの遊びとは思えん……」
 意外にこいつは常識人だな、と思いながら空を見上げる。もうそろそろ4時ってところか。酒場が開くまでもう少し時間があるな。
 「よう、ちょっとした余興に乗らないか」
 「……余興?」
 「この歳で嫁の居ない呑んだくれの駄目親父に美人の令嬢が騙されて安酒を呑まされるってお戯れさ」
 名前を変えて少し化粧をしよう。髪を上げるのもいいな、遊びは真面目にやらにゃ面白くない。言いながら手を引いて酒場の近くにある雑貨屋へ向かう事にする。
 「まままま待て! まだするともなにも……!」
350319:2010/05/11(火) 22:39:48 ID:fomReMWZ
 「ちょいと呉さん。どっから拾って来たんだいこの子」
 「へへ、いいだろう。俺にべた惚れなんだ、なあレシーヌ」
 「…………。」
 雑貨屋のおかみに髪を上げられ、花のバレッタを付けられながらレヴィ改めレシーヌが苦虫を噛み潰したような顔を鏡に映している。
 「綺麗にしてやってくれよ、酒場で披露するんだ」
 「酒代もろくに持ってない男がよくもまぁ、こんな立派なドレスを買ってくれたもんだね、あんた」
 「俺はレシーヌのためなら死ねるよォ」
 へっへっへ、と笑ったら、レヴィの顔がまたおかしな風に歪む。……面白い。
 照りつける日差しがようやく柔らかくなって薄汚れた店のガラスから差し込む。やっぱりこういう場所の方が自分には合っているような気もする。ざんざん振りの泥濘の中、血に塗れて意地でも生き延びてやると必死こいて今までやって来た。
 信じるべき正義に裏切られたのならば、自分で作っちまえばいい。揺るぎない“そいつ”を。……そんな中学生みたいな頭の悪い単純な発想から出発し、これでも“一角の”奴にはなったつもりだ。
 だから“そいつ”を煩わしいなどと思ったことは一度もない。
 だけど、本当に欲しかった物は多分……こういうものだったのだろうと思う。
 静かで何もなく、淡々と進む日常。
 誰も死なず、誰も泣かず、誰も彼も幸せな、そういう世界。
 ――――――――ま、そんなもの少なくとも今の俺が望むわけにはいかんがな。
 だからこれは趣味の範疇。幸せなんてものに手を伸ばせなくなる代わりに、俺はいろんなものを手に入れるという契約をした。
 自分自身と。
 血と、臓物と、汚物にまみれても構わないから、と望んだ。
 だからこれは趣味のお遊び。2ヶ月に一回だけの慰み。
 目を閉じる。雑踏の中から時々上がる歓声に耳を澄ませて、温い空気に身を任せる事が時々出来るだけで……もういいのだ。
 後は望まない。許せなどとは言わないから、それでどうか勘弁してくれ。
 「呉さん、それ、寝てんじゃないよ」
 おかみの声に目を開けたら、黄昏色をした頬のレヴィが俺の前に立っていた。
 「……ど、どうだい?」
 微かな声。
 少し傾げられた首。
 二房垂れた髪が襟元に踊る。
 「――――――――ああ、夢のようにきれいだ」
 言ったら“レシーヌ”らしく、彼女が両手で顔を覆った。
351319:2010/05/11(火) 22:40:38 ID:fomReMWZ
 「酒場が開くまで散歩をしよう。それがいい。そうしよう」
 おかみに少し多めにお礼をして(珍しいこともあるものだと大笑いされた)、レヴィの手を引張る。“カトラスタコ”が出来てる女の手は流石に柔らかくはない。
 「旦那! ありゃ反則だ! 吹き出しそうになったぜ!」
 「なんだ、照れて顔を覆ったんじゃないのか?」
 「腹もケツもカユくてカユくてもうどうにかなっちまうかと思った!」
 けらけらけらけら笑うレヴィが俺の手を振り払いもせず、腕を絡ませて歩く。……なんとまぁ、こんなことまで覚えたか。あの痩せっぽっちの狂犬が。
 「こうして旦那と街を歩くなんてのは、あたしがここに来た時ぶりかねぇ」
 旦那に拾われてなきゃ娼婦宿か石の下だった、とレヴィが昔話など始めたので俺はそれとなく話を逸らした。
 「俺とお前が会ってもう10年以上か。時の流れを感じるよ」
 人前で笑うような女じゃなかった。
 着飾る事を呪ってさえいた人間だった。
 死ぬか生きるか以上に物を考える奴じゃなかった。
 痩せっぽっちの狂犬レヴィ。憐れまれるのが何より嫌いで、馬鹿にする奴は地獄の果てまで追いかける執念深さ、そしてどんな時だろうと絶対に生きるのを諦めない。
 貪欲なエネルギーの使い道を知らない傷だらけの子供に、俺は銃を渡した。
 『欲しいのならば奪い取れ』
 どういう風に転がるのかを見届けようと思っていた。趣味の悪い暇つぶしだと誰に罵られても俺はおおいに頷くだろう。賭けをしたのだと善人を気取る気もない。
 すぐに死ぬと8割思っていた。残りの2割は自ら望んで堕ちてゆくのだろうと。
 ところがこの女は俺の予想を大きく裏切って這い上って来た。泥水の中から。
 『教えてくれ。旦那みたいに銃を2丁持つにはどういうトレーニングをすればいい?』
 解るか? たったの14歳で昨日までパンを拾って食ってた女の子だぞ? それが虎のように昏い目を光らせて闇の中からこちらを窺っているという高揚感が!
 「……な! だんな!」
 「――――――――っ? ああ?」
 「なーに浸ってんだよ! コケんぞ?」
 けらけらけら、とまた“レシーヌ”が笑った。
352319:2010/05/11(火) 22:41:37 ID:fomReMWZ
 普段俺達が居る通りからは4本も奥まった所にある、いわゆる場末の酒場に集まる奴は確実に俺の顔なんざ知らない。レヴィは顔が売れてるかも知れないが、ここまで化粧と雰囲気を変えて声を出しさえしなければ、まあ判る奴はぐっと減るだろう。
 「お嬢ちゃん! 呉なんかより俺にしな、後悔はさせねぇよ!」
 「飲んだくれのウー! 雲隠れのウー! ヘタレのウー!」
 「お、お前ら好き勝手なこと言いやがって! レシーヌに近寄るな! 手を触るな! こいつは俺んだ!」
 酒場の奥のテーブルに陣取って俺がはしゃぐのをレヴィが珍品を眺めるような顔で見ていた。
 「……こいつら、旦那にこんなこと言ってて命が惜しくないのか?」
 「言ったろ。知らねぇんだよ。それでいいんだ」
 どっかと安物の椅子に腰を下ろすとギシギシ音がする。
 「ワカラン。高い酒を静かに飲んでるのが好きだと思ってた」
 薄めに薄めたコーク・ハイ(洒落たご婦人に出す酒がこんなのしかない辺りでこの酒場のレベルを推し量ってくれ)を舐めながらレヴィが埃っぽい店内を眺めながら言った。
 「偶には喧騒が懐かしくなる」
 「……ヘェ、そんなもんかね」
 薄暗い店内でも一際暗い角のテーブル。食べさしの皿とフォーク。煙草の匂い、擦り切れたレコードの音楽。吐き気がするほど懐かしくて、反吐が出そうなほど愛おしい。
 このレベルの酒場に出入りできるようになるまで俺は何年かけたのだっけ? それまでに一体何人殺したのだっけ? そんな世界がイヤで法に守られたいと願ったのだっけ? そしてそいつにまで捨てられて、やっと“目を覚ました”のだっけ?
 思い出すたび胸を掻き毟る。
 ああ、憂鬱だ。
 「なぁ旦那」
 「……あん?」
 「ここって二階あるよな」
 「ああ、あるよ」
 聞き流すよう適当な返事をしながらアルコールという意味しかない酒を煽る。しかし相変わらず笑うほど不味いな、ここの酒は。
 「いこう」
 ――――――――ハぁ?
 「二階。いこう」
 「お、お前、正気か? ここの二階は――――」
 言おうとしたら口をふさがれた。
 「ヘイマスター! 二階を貸してくれ!」


後半へ続く。
353名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 00:54:50 ID:uwfjK8i/
うおおおい!?
レヴィたん誘い受けですかい!くっ可愛いじゃねえか…!
お互い部分的に深く理解しあってる二人がたまらねえぜ。

では今から兄貴と同化してレヴィに誘われるという妄想をしてきます。
354名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 09:48:09 ID:oLySjN4C
新作来てた!上げ!
355319:2010/05/12(水) 21:38:32 ID:2KFmJmTg
>>348-352 のつづき

 覚めた。
 流石に“浸ってた安酒”も“まどろんでいた憂鬱”も吹っ飛ぶ。
 何事だよこりゃ。
 「お、おい……ちょっと待てレヴィ……すまんが状況が飲み込めない」
 頭がガンガンする。混ぜ物の多い酒を呑んだ次の日に絶対来る例のアレ。……まだ飲んで3時間も経ってないってのに、気の早い二日酔いだぜ。
 「ヤーハ! こいつはめっけものだ。シャワーがある」
 “パジャマみたいに”ドレスを脱ぎ、“帽子みたいに”バレッタを取り去るレヴィは、まるっきりあの日あの時のままだ。
 痩せっぽっちで俺にしか馴れないものだから、華僑の連中に爪弾きにされてよく血まみれになってた。
 俺は世話を焼くのがそれほど好きでない性質だから、気紛れにニッケルを握らせるくらいしかしないのに、よく俺の後ろを付いてきた。雨の日はどこからかパクッてきた本を俺に差し出して、礼だと“シンデレラになってる足元”を隠しながらまた何処かへ消える。
 「……お前、もういい年なんだから下着で男の前に出るのはよせ」
 まさかロックの前でもそんな風なんじゃなかろうな? 繊細なアイツなら勃つモンも勃たんだろう。
 「―――――旦那、これでも緊張してんだ。野暮な事をお言いでないよ」
 ド派手な刺青がまるで生きているように蠢いている。まるで“ゴーゴンの髪の毛”のように。
 …………まて、マジかレヴィ。
 「一体どういう風の吹きまわしだ? 小遣いでもせびろうってのか?」
 ドアに背を預けて刻み煙草(こういう小道具に凝るのが好きなんだ)の袋を探した。……そうだった、包み紙を買うのを後回しにしたんだっけ。下に行って誰かから巻き上げよう。
 「……久しぶりに旦那が暗い顔をしてるのを見て“焼けぼっくいに火がついた”のさ」
 ぐっと息を詰まらせた。なんて古い話を持ち出すんだこの女は。
 「――――――――妹分に手ェ出したのはあれっきりだろう?」
 「なんだい、妹だなんて。これでもあんたの弟子のつもりだがね」
 「俺に教えを乞うた時点でお前なんか妹で十分だ」
 「なにおぅ、結局教えてなんざくれなかったくせに。ポリ公の言うこっちゃないね、欲しけりゃ盗れだなんて」
 そこまで言ったレヴィがしばらく黙り、手持無沙汰な時間が流れる。
 「あたしゃねぇ、旦那。あれから正常位が受け付けなくなってよォ」
 そのいかつい眉がだらしなく垂れさがってんのを今でも夢に見るんだぜ。
 ドアの閉まり、蛇口を捻る一呼吸を置いて水滴が猛烈な勢いで噴き出す音が聞こえた。
 ゾク、ゾク、と背が戦慄く。久々に嫌な感じだ。喉にナイフを突き立てるような。こめかみに銃口を突き付けるような。
 ……いや……或いは嬉しいのかね?
356319:2010/05/12(水) 21:38:55 ID:2KFmJmTg
 あの日、どういう具合でああなったのか……実はよく思い出せない。ああ、好きなだけ張っ倒してくれて構わない。でも本当なんだ。つまらん上司に殴られたのだったか、不正を口止めされたのだったか――――まあ、よくあることだ。
 あの頃はまだここまで擦れてなかったものだから、随分堪えてて……そこに痩せっぽっちのレヴィがやって来た。
 ……そうだ、あの日こいつは何の因果か、今日みたいにスカートを穿いていたんだ。
 “どうだい、こんなのを着ればちょいとは小マシだろう?”
 くるっと一回転した途端に押し倒して、無茶苦茶をした。
 うわ……イヤな事を思い出した……口にシーツ突っ込んでわんわん泣くレヴィが涙という涙を売り切るまで犯して犯して犯しまくったんだっけ……
 「なんつう奴だ俺は」
 ずきずき頭痛がヒドくなって、ああこれはいかんと煙草紙を取りに下に降りようとドアノブに手を掛けたその瞬間。
 「敵前逃亡たぁ、死人も逃げ出す“金義潘の白紙扇”って名が泣くぜ」
 「……今日は見逃してくれレヴィ。しばらく振りの休暇なんだ、近頃はいろいろ騒がしくて次の休暇があるかどうか怪しい。負け戦で締め括るなんてのは冴えないじゃないか」
 服に着られてるつもりはないが、この服を着てる時はヘタレで酒飲みでロクデナシの呉。だから呉の性格ならこう言うだろうなという口調で話す。……ま、呉も俺なんだが。
 「くくくく……いいねぇ、そのオドオドした喋り方。誘ってんのかい?」
 「冗談じゃない。本気だよレヴィ。また日を改めて」
 言い終える前にシャツをくっと引っ張られて倒れ込んだ。膝の裏にローキック。まったく、女の作法じゃねぇ!
 「あんた、あの日あたしがどんなに泣き叫んだってやめてくれなかったよなぁ?」
 口に中に甘ったるいコークの味。酒の苦味さえちっともない。この店はペプシの水割りを客に出すのか?
 くちゅくちゅと唾液が鳴る。頭痛。犬歯が時々舌に掠って、ぞわっとした。耳鳴り。粘膜が絡む。熱っぽい息が途切れてくっついてゆっくり離れてゆく。
 「………………」
 声も出さずにやっと女が笑って涎を手の甲で拭う。薄暗い部屋のドアはボロボロで、所々に穴があってピンスポットのように弱々しい明かりが差し込んでいた。砂っぽいシーツは少しザラっとしてて、居心地が悪い。
 年甲斐もなくドキドキする。こんな艶も打算も下心もない無粋なキスなんていつぶりだろうか。
 まるでちょっとマセた高校生だ。
 「どうだい旦那。あの頃よりは上手くなっただろう?」
 長く垂れた髪に付いた水滴が思い出したようにぽたぽたと“呉のシャツ”を濡らす。俺はそれを一房だけ持ち上げて言った。
 「赤点さレヴィ。呼吸の仕方がちっともなってない」
357319:2010/05/12(水) 21:39:41 ID:2KFmJmTg
 あのぺったんこがよくぞここまで育ったものだ。実に感慨深い。
 ふかふかの乳房に右手の中指を埋めて思いっきり焦らすように滑らした。ゆっくり、ゆっくり、痒みを覚えるくらいに。
 「あっ! あぃぃ……っ!」
 ぴくぴくと身体が跳ねるのを観察しながら、ものすごく珍しいものを見ている気になってきた。だってそうだろ、あのレヴィが顔を真っ赤にして、5分に1度はクソったれと言う口からは粘性の高い涎を垂らしてる。おまけにシーツを掴んで身体を捩ったりなんかして。
 少女マンガかお前は。
 はぁはぁとうるさい呼吸をやっとのことで殺して、舌の這う首筋に鳥肌を立てながら俺の左手が股ぐらに近付くのを必死で逸ら沿うともがいているレヴィ。お前、なんかずいぶん変わったなぁ……それ、ロックの趣味かい?
 なんて事を訊ねようかどうしようか迷って、言うのはよす。その時理由はよく解らなかったけど、あとあと考えて、多分この何とも言えない雰囲気が壊れるのが惜しかったのだろうと結論付けた。
 最初抱いた時は命懸けで逃げようとしてたな。レイプされたのだって一度や二度じゃなかったはずだ。同情なんかしないけど、セックスなんか我慢してりゃ過ぎてく“やっかいごと”だと言わんばかりに歯をくいしばって、色気もヘッタクレもなかった。
 それがどうだい。肌はピンと張って、額には汗かいて、頬は真っ赤だ。乳首もビックリするくらい立ってるし……こりゃ、あそこなんぞに指を持ってこうもんなら取って食われちまうんじゃないのか。
 ……あのクソ面倒くさいメスガキを、よくもここまで“女”にしたもんだ。
 畏敬の念を示すぜ、ロック。
 ふっと顔を上げて彼女の顔を見る。
 ――――――――――――――――。
 「なに泣いてんだお前」
 「あ? 泣いてねぇよ?」
 ハッとしたようなレヴィが手を動かす前に頬を拭い、その光った手を見せてやる。
 「お前の涎は随分独創的な場所から出るんだな」
 「……こ、こりゃ、あれだよ、久々で、感動の」
 「―――そういやあの日もそんなこと言ってたな。最初で感動してとか」
 変わらない奴だ。進歩ってものが無い。レイプ犯に取り入ろうってんだから恐れ入る。
 「安売りするなと言っただろう」
 「安売りじゃねぇって言ったぜ? あの日だって」
 あの時の精一杯の全財産だったんだよ。あんたに目を掛けて欲しかった。こっちを向いて欲しかったのさ。だから必死で考えてスカートと石鹸を盗んできたよ。くるくる回って、どうぞ召し上がってくださいってな!
358319:2010/05/12(水) 21:40:21 ID:2KFmJmTg
 腕を伸ばして頭を抱かれた。
 「なあ、あんたはあたしのヒーローだったよ。強くておっかなくって誰にも負けねぇ、あこがれのヒーローだった。……だからそんなんが眉下げて泣きそうなんて、弟子が許せるわけねぇんだ」
 ……お前は本当に頭悪いな。
 どうしようもない。
 骸骨の中におがくずでも詰めてンのか?
 でっけぇオッパイに鼻と口を塞がれてるものだから、息が詰まる。俺は今断じてそれだけの理由で息が詰まっている。
 「あたしは頭がワリィから、こんなもんしか今も昔も考えつかねぇ」
 ああ本当に眩暈がするくらいお前の頭は絶望的だ。
 俺を一体誰だと思ってやがる。あの頃の下っ端警官じゃねぇんだぞ。あれから死ぬほど勉強してエリート組に紛れ込んで、内ゲバに巻き込まれて正義面の悪人どもに糞を擦られて肥え溜めに突き落とされ、あれよあれよという間に“奈落へ真っ逆さまに昇り詰めた”男だぞ。
 それを頭の悪いチンピラ女のオッパイ一つで立ち直らせようってのか?
 いい度胸だよ全く。
 「あん時みたいにガンガン突き上げてくれよ。そうすりゃ明日にゃ機嫌も“治ってる”さ」
 おいおい、マフィアのボスのでこにチューすんな。小学生かテメーは。
 …………………………あれ、やばい。結構機嫌が“直って”きてる。
 いや待て、待て! 俺は趣味で“憂鬱の振り”をしてたんだよな? ションボリして街をぶらつくって遊びをしてたはずだろう? 何を普通に機嫌直してんだよ! おかしいだろ!
 「……ロックに恨まれてもいい事が無い」
 腕を解いてレヴィの枕元に腕を突き立てたら、きゅっと目を閉じて眉を顰める。……処女じゃあるまいし。
 「な、なんでここであいつの名前が出るよ!?」
 はっとした顔でレヴィが思い出したように怒るので、一気に萎えた。
 「さぁな。自分で考えろ」
 手近にあったバスタオルを投げつけてシャワーを浴びて来いと命じる。トゥクトゥクを呼んでくるから、それまでに着替えてろと。
 「レヴィ」
 「……あー?」
 「お前は本当に男運が悪いな。悪党ばかりに絡まれる」
 「…………ああ、おかげで騒動にゃ不自由してない」
 バスルームに消えてく女が忍び笑いのような、自慢げなような、よく解らない顔で笑っていた。
359319:2010/05/12(水) 21:43:03 ID:2KFmJmTg
 「なァ、旦那」
 掠れるようなささやき声が耳元でしたので、目線をフロントガラスの向こう側から外さずに応えた。
 「あん?」
 重ねられて放っておいた手がきゅっと握られて、胸が痺れる。
 「“レシーヌ”ってのは誰の名前だい? フランスにいい人でも居たのかね?」
 夕方に咄嗟に口にした偽名を彼女が掘り返してくる。馬鹿なんだから、そんなこと忘れてろよ。
 薄汚れたフロントガラスに街並みが流れてゆく。ギラギラした下品なネオンと喧噪、チンピラ、クラクション。
 この服を脱げば明日からまたいつもの糞下らなく愛しい日常が始まる。
 痩せっぽっちの狂犬レヴェッカは、いつの間にか乳と腿の張ったトゥーハンドのレヴィになって、いい飼い主に拾われて……もしかしたら子をたくさん生むかもしれない。
 信じてた何もかもに裏切られて発狂しちまった警官は、いつの間にかチンピラのトップに上り詰めて、人を殺しちゃ悲鳴を啜って涙を貪り食う悪党になった。
 レヴィが隣ですぅすぅと寝息を立てている。慣れない靴で疲れたのか。
 「ああ、すまんがゆっくり走ってくれないか。時間は倍かかってもいいから」
 トゥクトゥクに揺られながら手を徒にこちらから重ねてみた。女らしさの欠片もない手と、善意から最もかけ離れた手はそれでも互いに温かい。
 「いいねぇ、新婚さんかい? 俺のかみさんもそんな頃があったよ」
 運転手が早口でそんな事を言うのを聞きながら、俺はゆっくり瞼を閉じた。
 「とんでもない、こいつは嫁に行った妹だ。今からスゥイート・ホームに送るのさ」
 「おう、そりゃ寂しいね兄さん」
 「……たまにはこうやってデートしてくれるから、そうでもないね」
 今日は月末だからダッチにクソ面倒くさいデスク・ワークがあるはずだ。きっとあの二人もまだ手伝っているに違いない。この格好のレヴィを見たらどんな顔をするだろう。
 楽しい想像をしながら、こりゃロックに恨まれるな、と頬を顰めた。

 「……ワインの名前だ。お前の着てるドレスみたいな白で、お前みたいに辛口で安物のな」

・おわり・







シャトー・プリューレ・リシーヌは一般人からすれば安物じゃないけど、張兄貴にとっては所謂“一級品”じゃないだろうなーと。
張兄貴ファンに謹んで哀悼の意を示します。つーか割とマジでごめんなさい。
360名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 21:58:47 ID:we2OKnoK
くあー、いい!
いいもん読ませてもらった!
張兄貴超サイコー!
GJ!
361名無しさん@ピンキー:2010/05/12(水) 23:58:25 ID:uwfjK8i/
わあ待ってました!GJGJ!
昔慕ってた兄貴に犯されてわんわん泣いたレヴィたんだけど
本当は嫌じゃなかったという・・ちょ、きゅんてするだろ!

ロックは義弟だから目をかけてた訳か。張兄貴わかります
362名無しさん@ピンキー:2010/05/17(月) 21:13:13 ID:a5za0dhw
>>334の続き街(・∀・ )っ/凵⌒☆チンチン

気がついたらもう直ぐGX発売か。
どうせ今月もレヴィ出ないんだろうけど(´・ω・`)
363名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 00:43:33 ID:gePdA8gx
今月号レヴィがチョコパイを脅かしてたぞ、性的に
364名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 07:19:23 ID:S4iz7IvQ
ラグーン事務所のおやつ棚と冷蔵庫に買い置きしておいたレヴィたんのチョコパイファミリーパックを、留守中勝手に食われて「食った奴誰だー!!」って怒ってるのかと思った。


その後落ち込んだレヴィたんをロックが「チョコパイの代わりにチョコバナナ食わせてやる」って性的に慰めてるのかと思った。
365名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 07:30:48 ID:/3q/Hvjr
それオモシロ可愛いw

しかしムショでは男役だったのか・・
366名無しさん@ピンキー:2010/05/19(水) 17:55:12 ID:csCU/A2Q
風俗でもマットとかマッサージとか、攻め専門でやってる子は受け身セックスが怖いとか他人にベタベタ触られたく無いってのが多い。
レヴィたんも、何かそっち系な気がする。

そんなタチなレヴィたんが、恋する岡島さんには受け身&尽くす女なのがまたたまらん。
367名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 02:39:47 ID:Le9sa0U9
真性のお人好し若しくはドMじゃなきゃあんな面倒くさい危険な男の為に身を削って付き合えないよなあ
368名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 08:27:38 ID:8OIom0jW
ロックが娼婦をアパートに連れ込んで、それを見つけたレヴィたんが激しく嫉妬する話(原作)を読んでる夢を見た
『あたしにあんなことしといて嫉婦を連れ込むなんて…
あのクソロック… うっ…』
的なレヴィたんがかわいそうだった
369名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 12:20:13 ID:9uCMyfrb
レヴィと俺らは生きてる時代が違うんだぜ

もし生きてても彼女は40歳なんだ

皆、目を覚ませよぉおお。゜(/д\)゜。わぁあ
370名無しさん@ピンキー:2010/05/20(木) 12:45:11 ID:6FpNoTE1
生きてる時代が違うてwつっこみどころ多すぎ
371名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 06:22:02 ID:CrH0syI2
シーッ!まっすぐ見ちゃいけません!
372名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 11:36:57 ID:DHaA4CY4
生きてる時代・・もし生きてても・・?
もしや歴史上の人物か何かと思っているのではあるまいか
彼女はこの時代の漫画の可愛くて凶暴なツンデレヴィなんだよ☆
373バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:28:57 ID:wg83Jrmp


   戦いに結ぶ 誓いの友  
   されど忘れえぬ 心のまち  
   思い出の姿 今も胸に  
   いとしの乙女よ 祖国の灯(ひ)よ



指先を立ち並ぶ小さなボトルの上にさまよわせて、僅かに逡巡した後、一つのボトルを摘み上げた。
私はそれをマホガニー製のドレッサーの上に置き、椅子を引いて腰掛けた。
手元を照らす灯りを点ける。
ぱち、という微かな音が夜の静寂の中に響いた。
薄暗かった私室の中が、ドレッサーの周辺だけ、ぽうっと明るくなる。
鏡の向こうからは、顔の半分が醜く焼け爛れた女が倦んだ目をしてこちらを見ていた。
見慣れた顔。
顔の右側を縦断するひきつれた火傷の痕は“フライ・フェイス”の呼び名に相応しい。
ずっと見ていたい顔ではないが、かといってわざわざ目を逸らす程に悲劇趣味な拘泥も無い。
私は特に何の感慨も無く鏡の中の女を一瞥して、手元に目を落とした。

コットンに除光液を浸して、爪に塗られたマニキュアを丁寧に落としていく。
爪の根本には、地爪の色がはっきりと分かるくらいに隙間が出来ている。
前回塗ってから約一週間が経過していた。
全ての爪から綺麗に色を落としてしまうと、手早くベースコートを塗る。
厚いカーテンを下ろした室内は、息苦しくなる程何の音もしない。
窓の外の街の空気も、弛んで疲れ切っていた。
今夜は、抗争の火種はどこにも感じられなかった。

ベースコートを塗り終えると、私は先程選んだボトルの首をひねった。
透明なボトルから透けて見えるのは、澄んだライラック色。
キャップについた刷毛をボトルの縁で程良くしごき、爪に色をのせていった。
根本から爪の先へと刷毛を滑らせる。
長く整えた爪が、うっすらとライラックの色に染まっていく。
じわじわと、静けさが浸透する。
マニキュアの液体に刷毛を浸した時に上がる、かこ、という小さな音だけが耳を打つ。
十本の爪を塗って、その上からまた色を重ねる。
今度は完璧に、ボトルの色が爪の上に再現された。
仕上げに色を守る為のトップコートをつけると、ガラスのような輝きでライラック色が固まった。

この色を選ぶのは久方振りの事だった。
私は指を広げてみた。
火傷の痕は顔だけでなく体中至る所に残っているというのに、不思議なことに手にだけは無かった。
爪を染めたライラック色は、青く血管の透ける白い手を更に冷たく見せた。
それは、屍蝋のような手を更に本物へと近づける仕上げの施しのようだった。

私はぼんやりと思い出す。
昔、私がまだ少女だった頃、この色は透明感溢れる涼やかさで私を飾ったのだ。
今となっては信じられない事だが、みずみずしい肌を持つ少女にライラックはよく似合う、
なんて可愛らしい子だろう、と大人達は口々に褒めそやした。
無邪気な少女はそれを素直に喜んだ。
374バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:29:58 ID:wg83Jrmp

モスクワの自宅から車で約一時間の郊外にあるダーチャの庭には、沢山のライラックの木があった。
五月になると、ライラックの木は一斉に花を咲かせた。
四枚の花弁を持つ小さな花が集まったうす紫の房は、可憐な香りで庭を満たした。
私はその香りに包まれるのが好きだった。
週末ごとに訪れるその別荘の庭を、私は飽きもせずにさまよい歩いた。
四枚ではなく五枚の花びらのライラックを見つけると良いことがある、
そんな迷信めいた言い伝えを真に受け、群生するライラックの茂みに分け入った。
ソーフィヤ、ソーフィヤ、と呼ぶ父や母の声を葉の陰から漏れ聞くと、
私は顔の横で二つに結い上げたプラチナブロンドの髪を揺らして、
急いで葉むらの中から駆け出たものだ。


街路樹のポプラが風にざわめき、夏になると白い綿毛が街中に舞い散るモスクワも好きだったが、
幼い頃の私は、特にダーチャでの日々を愛していた。
ピオネールに入ると夏期の長期休暇はラーゲリでのキャンプとなり、
ピオネールでの活動は楽しかったものの、ダーチャで過ごせない事だけは惜しかった。
雪に覆われる季節の方がずっと長いモスクワの市民にとって、夏の光は貴重だった。
大抵の市民がダーチャの家庭菜園に野菜を植え、それを夏のうちに収穫して、長い冬への備えとしていた。
我が家でも、トマト、キュウリ、ジャガイモ、ニンジン、ラズベリー、ブルーベリー等を収穫し、
酢漬けや塩漬け、ジャムやジュースにして、数々の煮沸した壜に詰めた。

幼い私の仕事は、ラズベリーやブルーベリー、苺や赤すぐりを摘み採って来る事だった。
大きな籐の籠をよく熟れた小さなベリーで一杯にして母に渡すと、
「あら、すごいわ、ソーフィヤ。こんなに沢山採れたのね。助かるわ、ありがとう」
そう言って微笑み、誰にでも出来る仕事を丁寧に労ってくれた。
私が摘んだベリーは母によって洗われ、砂糖を加えてから大鍋でくつくつと煮つめられた。
弱火で辛抱強く煮つめていると、細かな白いアクが出てくる。
私は、ルビーやアメジストを煮溶かしたような液体から、そっとアクだけを掬い取った。
とろみを増した液体を熱いうちに壜に詰め、きゅっと蓋を閉めると、ジャムは完成だった。
その壜は、ピクルスなど他の沢山の壜と共に貯蔵室に並べられる。
それから一年間、次の夏まで、私達の食卓を賑わせるのだ。

ジャム作りの日の夕食は、決まってブリヌイだった。
普段は朝食に食べるブリヌイを、母は何枚も何枚も焼いて、重ねて大皿に乗せた。
食卓に着くと、めいめいが薄く焼き上がったそれを自分の皿に取り、バターを塗った上に
サワークリームやキャビア、スモークサーモン、ピクルス、ベーコン、ザワークラフトなどを
自由に組み合わせて乗せ、薄い生地をぱたんと二つ折りか四つ折りにして食べるのだった。
食事の後半には、その日作ったジャムが登場した。
「ソーフィヤが作ったジャムよ」
ただベリーを摘んで来て、煮つめるところをじっと見守っていただけだというのに、
母はそうやって、まるで私が一から十まで一人でやってのけたかのように断言した。
「そうかそうか。じゃあ早速食べてみるとしよう」
父は嬉しそうにスプーンを取り、熱が落ち着いてとろみの増した液体をたっぷりと掬った。
赤く透明なジャムを薄い生地で包んでナイフを入れると、端から赤い液体がたらりと溢れた。
父の評価が気になって、すっかり手元がお留守になっている私に気づくと、父はにっこりと笑った。
澄んだ湖のような青をした目が、優しさを増した。
口の中のものをすっかり飲み込んでしまうと、父は大きく頷いた。
「素晴らしい! 素晴らしく美味いよ、ソーフィヤ。君は毎年腕を上げるね!」
「お口に合って良かったわ、父様」
「去年も素晴らしかったが、今年のは更に良いよ、ソーフィヤ」
その賛辞には多分に父の優しさが含まれている事を承知してはいたが、
私は、はにかみと一緒に、少しの誇らしさを抑えることが出来なかった。
375バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:30:58 ID:wg83Jrmp

我が家のダーチャは決して豪勢なものでは無かったが、
木の壁や床、白いレースのカーテン、レンガ製のペチカ、どっしりとした木製のテーブルと椅子、
厚手のラグ、庭に面したサンルーム、琺瑯のボウルや鍋、棚に飾られたマトリョーシカ、
二匹の鹿が描かれたマグカップ、それらが居心地の良い空間を作り出していた。

特にペチカを、私は気に入っていた。
母は、オーブンにもなるこの暖炉で、よくピロシキを作ってくれた。
挽肉、ザワークラフト、時には甘いジャムを中に包み込んで、ペチカで焼いた。
段々と香ばしい匂いが漂ってくると、心の浮き立つ思いがした。
私は、ペチカの前に敷いてあるラグの上がお気に入りだった。
パチパチとはぜる薪の音を聞きながら炎を見ていると、ぼんやりとした酩酊感を覚えた。
ペチカの前で、父はバラライカを爪弾きながら、よく歌を歌ってくれた。
「何がいいかね? ソーフィヤ」
「『ともしび』がいいわ、父様」
訊かれると、三回に二回はこの曲をねだっていた。
「ソーフィヤは本当に『ともしび』が好きだね」
父は呆れたように笑ったが、それは勿論ポーズだけで、
大きな体でバラライカを抱え直すと、決まって私のリクエストに応えてくれた。

   夜霧のかなたへ 別れを告げ
   雄々しきますらお 出(いで)て行く   
   窓辺にまたたく ともしびに
   つきせぬ乙女の 愛のかげ

   戦いに結ぶ 誓いの友  
   されど忘れえぬ 心のまち  
   思い出の姿 今も胸に
   いとしの乙女よ 祖国の灯よ

私は、このもの哀しいメロディーが好きだった。
静かに聞き惚れる私に、父は言った。
「戦争に赴く兵士と、それを待つ少女の歌だよ。
戦場で兵士は、少女の窓辺に灯っていた故郷の火を想うんだ」
「……二人はこの後、会えるのかしら?」
「――どうだろうね。でもきっと、少女はずっと待っているよ。君だったらどうするかね? ソーフィヤ」
「……分からないわ。けど、私は待っているだけなんて嫌。それなら戦場に行った方がましよ」 
「おやおや、これは勇ましいお姫様だ」
父の声が笑いを含んだ。
「からかっちゃ嫌よ、お父様」
「からかってなんかいないよ、ソーフィヤ」

そうやって父の歌を聞きながら、私はいつもペチカの前でまどろんでしまうのだった。

   やさしき乙女の 清き思い
   海山はるかに へだつとも  
   二つの心に 赤くもゆる
   こがねのともしび 永久(とわ)に消えず

   変らぬ誓いを 胸にひめて
   祖国の灯のため 闘わん  
   若きますらおの 赤くもゆる
   こがねのともしび 永久に消えず

ゆらゆらと形を変え続ける炎。
遠くなる父の声と、三弦のバラライカ。
私の中の兵士は、いつも火を見つめていた。
戦場で燃え続ける火を。
376バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:31:57 ID:wg83Jrmp

 * * *

私はいつの間にかぼんやりしていたのに気付き、慌てて過去の残滓を振り払った。
――下らん。
もうあの少女はどこにもいない。
待つ人も無ければ、故郷も無い。
感傷など、とうの昔に捨てた。

……なのに、こうして過去がはみ出してくるのは、今夜が静か過ぎるからか。



戦場の記憶は、砂と風、火と爆音だ。
Mi-24攻撃ヘリの五枚羽が空を切り裂くローター音。
骨まで響くAK74の反動。
機関銃が絶え間なく火を噴き、敵の撃った弾が足元で跳ねた。
すぐ隣にいた同志の胸から真っ赤な鮮血が噴き出し、人の手足は簡単に千切れ、飛んで行った。
今までそこにあった体の一部を失った者が、信じられないといったように顔をひきつらせながら上げた悲鳴を、
私は今でも忘れる事が出来ない。
伏せた砂地のすぐ側にロケット弾が着弾すると、耳は一時的に聴力を失い、
吹き上げられた砂と石、煙だけの世界となった。
この世に地獄があるとしたら、まさにアフガンこそが地獄だった。

私はリャザン空挺学校を卒業してすぐに、スペツナズとしてアフガンに派遣された。
アフガンは、砂と岩の大地だった。
日中は五十度にもなるというのに、夜は零度まで冷え込む。
慢性的な水不足。マラリアや黄疸に罹る兵士が続出した。
物資を運ぶ輸送隊は度々アフガーニのゲリラやムジャヒディンによる攻撃を受け、
我々は常に敵地での孤立を恐れていた。
渓谷道路や橋に仕掛けられた爆発物、待ち伏せに警戒を強いられ、
見通しの立たない戦況も相俟って苛立ちを募らせる者が少なくなかった。
現場の士気は低下し、ジャララバードのソ連軍基地では、大麻やヘロインに手を出す兵士もいた。
司令官は麻薬の蔓延を黙認した。
そればかりでなく、手数料を取って私腹を肥やす士官すらいた。
377バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:33:10 ID:wg83Jrmp

『ピオネールで認められた射撃の腕を生かして』
戦場とは、そんな生やさしいところでは無かった。
第二のルドミラ・パブリチェンコなどともてはやされていた私は、一瞬にして自らの無力を知った。
厳しい訓練を受けたスペツナズであっても、作戦を終えるごとにその数は半減していった。
冷え込む夜に焚き火を囲む同志の口からは、時折同じ単語が零れた。

「今日も“黒いチューリップ”が飛んだぜ」
「ああ、知ってる。俺も見た」

『黒いチューリップ』
死体運搬専用機であるアントノフ輸送機を、前線の兵士達はこう呼んだ。
戦死者の棺桶製造と遺体の輸送を担う国営企業の名から取ったのか、
棺に巻き付けられた黒いリボンがチューリップのようであるからそう呼ばれるようになったのか。
その由来を知る者は誰もいなかったが。

「まったく、これで何度目だ?」
「そんなもんいちいち数えちゃいねえよ。台所で鼠の数を数えるようなもんだ」
「……俺も国に帰る時はあれに――」
「やめな、余計な事は考えるな」
「そうだぜ、お前の帰りを待つかわいこちゃんの一人や二人、いるんだろ?」
「『思い出の姿 今も胸に いとしの乙女よ 祖国の灯よ』ってな」
「よせよ――」
「羨ましいねぇ、俺を待ってるのは魔女みてぇな女房だけだ。
ちくしょう、一緒になった時はお前、可憐な女だったんだぜ? 
それが何だってあんな膨らし粉飲んじまったみたいに……」
「何だお前、女房が待っててくれるだけでありがてえってもんじゃないか。
俺んとこは絶対待ってなんかねえよ。これ幸いと羽伸ばしてるに決まってる」
「お前はあれだ、かみさんの顔見てるよりオリンピック競技見てる方がよっぽど良い、ってやつだろ?」
「ああ、ご名答さ。オリンピックでは少なくとも誰が一位だったか確認できるからな、くそ」
焚き火のオレンジ色の炎が、皆の疲れ切った顔に一瞬笑いがのったところを照らした。

   戦いに結ぶ 誓いの友
   されど忘れえぬ 心のまち  

……誰かがぽつりと歌った。
他の誰かが続く。

   思い出の姿 今も胸に
   いとしの乙女よ 祖国の灯よ


私はそんな部下達を、誰一人として“黒いチューリップ”になど乗せたくは無かった。
乗せたくなど、無かったのだ……。
378バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:34:26 ID:wg83Jrmp

 * * *

爪に塗ったマニキュアは、もう完全に乾いていた。
静けさが私を包む。
私は大きく溜息をついた。
生きすぎた、と思う。

軍人の生きる場所は、戦場だ。
戻る場所の無い軍人の生きる場所は、戦場しか有り得ない。
戦場で生き、戦場で死ぬのが軍人だ。
私は今でも戦場をさまよっている。
火と砂の戦場を。

私が求めるのは火だ。
全てを焼き尽くす火だ。
安寧はいらぬ。


その時、部屋のドアが控えめにノックされた。
「誰だ」
「ボリスです」
堅牢な造りのドアの向こうから、低い声がした。
「入れ」
静かにドアを開けて入ってきた大柄な男を、私は鏡越しに見た。
「どうした」
「夜分遅くに申し訳有りません。月間の業務報告が上がってきました」
「見せろ」
差し出した私の片手に、紙の束が乗せられる。
私はそれをめくり、目を滑らせていった。

『ブーゲンビリア貿易』――勿論それは表向きの形骸的な会社名であって、
実体はロシアに拠点を置くマフィア、『ホテル・モスクワ』のタイ支部、だ――の通常業務に当たる
細かな取り立てや流通に関しては、全てボリス以下の者に任せていた。
トラブルがあればその都度報告がある。

報告書に並ぶ数字は、どれも問題無い。
世界の半分はマフィアで回っている。
一度くわえ込んだ物は決して離さず、勢いづいた車輪が坂道を転がり落ちるように回り続けるのだ。

ショバ代の徴収、売春宿の経営、売春婦の派遣、麻薬の取引、役人への賄賂、
乗っ取った――いや、実質的経営権を委譲して頂いた企業による収益。
特にアフガン製のヘロインは主力商品だ。
ヘロイン――芥子から取れる阿片を精製した、極めて依存性の強い麻薬。
取引相手は大抵、優良顧客となってくれる。
その結果“コールド・ターキー”が何体出来上がろうと、私は何らの痛痒を感じない。
379バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:36:04 ID:wg83Jrmp

しかし、驚くべきことに以前の私は違ったのだ。
私は、アフガンの渓谷に広がる、火の色をした芥子畑を思い出した。
乾いた砂色の大地で、オレンジがかった赤色をした芥子の花は炎のように揺れた。
ヘロインは衛生中隊物資調達班の手によってソ連軍基地内に蔓延していたが、
私は、自分の部下にはヘロインに手を出す事を禁じていた。

それでも、隠れて摂取しようとする者はいた。
私はそんな者に気付くと、口を出さずにはいられなかった。

「そんなに、良いか」
見つかった者は、しまったという顔をして、身を隠すように小さくなった。
「そんなに良いか、と聞いている」
「…………い、いえ……」
「良くないのに、やるのか」
「……いえ、…………はい……」
「ヘロインには手を出すな、と言ったはずだ」
「……はい…………」
「いいか、よく聞け。依存症に苦しむのは貴様の勝手だ。
しかし、薬物は判断能力を狂わせる。作戦に支障が出る。
作戦に支障が出て困るのは貴様だけではない。隊の同志全員を危険にさらす事となる。
私は貴様等の命を預かる上官として、それを許すことは出来ない」
「申し訳ありません……」
絞り出すような、声だった。

「理解してはいるのです……。――しかし、……しかし、自分は恐ろしいのです」
彼は、下を向いて震えていた。
「自分は、アフガーニの連中に一斉掃射を浴びせました……。迫撃砲も、打ち込んで……。
血しぶきが上がり、肉片が飛び散り、人間がずだ袋のように地面に倒れ伏しました……。
掃討してから確認すると――、それはもう……、人の形をしていませんでした……。
赤黒い塊でした。大小の、砂にまみれた血と肉の塊……。
まだほんの子供もいたのです。細い骨が……肉塊の中から突き出して……。
自分がやったのです。自分が……。
自分は恐ろしい……。もう……あんなのは、正気ではとても……」
関節の目立つ筋張った手が、頭を抱え込んだ。

「――貴様の気持ちは分かる。戦場は全く悪夢だ。
まともな神経では到底やっていけまい。貴様は正常だ」
私は小さく息をついた。

「――しかしな、私はアフガーニの連中の命よりも、貴様等の命の方が大切なのだ」
彼が頭を上げた。
「中尉……」
「私は貴様等を生きて本国に帰す。“黒いチューリップ”の世話にはさせんよ。
貴様の射撃の腕、小癪な粉末で衰えさせることはあるまい?」
「…………は……」
消え入りそうな声だった。
「貴様は私の命令通りに撃ったのだ。そしてこれからも、私の命令通りに撃つのだ。
“私の”命令通りに、だ。良いな」
「…………はい……」
「本日、二三〇〇より作戦を開始する。遅れるなよ」
「――はっ!」
彼は立ち上がって敬礼した。
380バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:37:11 ID:wg83Jrmp

踵を返して歩きながら、私は自分の偽善者振りに口の中が苦くなった。

貴様等を生きて本国に帰す?
“黒いチューリップ”の世話にはさせない?

そんなことは、不可能だ。
作戦ごとに半減していくスペツナズの隊の中で、私の隊は驚異的な生存率を誇っていた。
守護天使に守られた隊。そんな馬鹿げた事を言う者もいた。
しかし、戦場において一人の死傷者も出さないなどという事は有り得ない。
私は、極力死傷者を出さないように作戦を立て、入念に下調べをし、退路を確保する。
それが指揮官として当然の仕事だからだ。
それでも、“黒いチューリップ”で運ばれる者は出る。
不可避的に。
戦場とはそういう場所だ。


私は今になって分からなくなる。
あの時、無理に薬物を禁じることは果たして正しかったのであろうか、と。
恐怖と苦痛の中で逝かせるぐらいなら、いっそ陶酔の中で終わらせてやった方が――。

それでも私は、本国の灯の元に帰してやりたかったのだ。
戦場の焚き火に祖国の灯を見ていた兵士達を。
そして私自身、少なくとも帰れる場所はあると、思っていたのだ。
――あの時は、まだ。

それが今、ヘロインを世界に遍く広めんとして、その先頭に立っているなど――。
381バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/21(金) 21:38:42 ID:wg83Jrmp

 * * *

「いかがなさいました、大尉殿」
ボリスの声に、私は我に返った。
報告書をめくる手は止まっていた。
「いや、問題ない。ご苦労だったな、軍曹」
私は書類を閉じ、肩越しにそれを返した。
彼が受け取る。
「……お顔の色が優れないようですが」
「そう見えるか?」
「はい」
この男は朴念仁のような顔をしていながら、なかなかどうして勘が良い。
それには随分と助けられる事が多いが、時として少々厄介な事もある。
今は後者だ。

「気のせいだ」
「しかし……。――何かお持ちしましょうか?」
「必要無い。それより軍曹、付き合え」
尚も食い下がる彼を、私は強制的に断ち切った。
「――はい」
彼は、私の命令の内容を正確に理解して返事をしたらしい。
昔からずっと変わらない。
彼は私の要求を正確に把握し、命令には絶対に従う。


私はドレッサーの椅子から立ち上がり、スーツの上着を脱ぎ捨てて白いブラウスになると、
奥の寝室へと足を向けた。
「来い」
「はい」
彼も少しの距離を開けて従う。
今も変わらぬ、忠実な部下。
要求された事を忠実にこなす、私の片腕。
……こちらが要求しないと、決して自分からは踏み込んでこない、私の片腕。

あの時、彼に手を伸ばしていたならば、何か変わったのだろうか……。
詮無いことを、私は思う。
アフガンでムジャヒディンの捕虜となり、一ヶ月に及ぶ監禁と拷問の末救出され、
本国で治療を受け入院していた頃。
そこに一人、尋ねてきた彼に手を伸ばしていれば、
私と彼の関係は、あるいは何か違ったものになったのだろうか。



382名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 23:45:54 ID:ZV7ge+1m
バラ姐キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!
GJ!! 続き待ってます!
383名無しさん@ピンキー:2010/05/21(金) 23:58:47 ID:mg+I7eoV
GJ!!
メインの二人の良さもさることながら、さり気にスタンに触れられてる(?)のが嬉しい。
後、なんで毎度毎度そんなにメシの描写が旨そうなの?w
384名無しさん@ピンキー:2010/05/22(土) 01:04:47 ID:dzAmplmJ
緋色の時代・・・か・・・
385バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:28:21 ID:oxwLBozp
>>381の続き

<注>
流血、拷問、レイプ描写有り
386バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:29:18 ID:oxwLBozp

 * * *

私が捕虜となったのは、アフガーニのゲリラやムジャヒディンの勢力から輸送部隊を護衛する任務中での事。
地の利を生かしてソ連軍の輸送部隊に奇襲をかけるのが、ムジャヒディンの常套手段だった。
輸送部隊が前線へ赴く時は、必ず物々しい装備をした護衛がついた。
我々の隊が護衛の任務についた時も、ムジャヒディンの襲撃に遭ったのだった。

隊列は、大きな岩がごろごろと転がる岩場の間を一列になって進行していた。
七台の輸送トラックを挟み込むようにして、スペツナズの隊員を乗せた車両が先頭に二台、最後尾に一台。
それぞれの輸送トラックにも、武器を携行した隊員が乗り込んでいた。
隊を指揮していた私は最後尾の車両に、副官であるボリスは先頭の車両にいた。

前方に橋が見えた時だった。
突然、凄まじい轟音が鳴り響き、時間差で別の場所からも煙と爆音が上がった。
耳をつんざくような音と、肌を焦がす熱風。
巨大な岩が吹き飛んで、砕けた破片がバラバラと降り注いできた。
もうもうと砂埃が舞い上がる。
目にも鼻にもお構いなしに入り込んでくる砂塵の中で目を眇めて現状を確認すると、
一台のトラックが爆発で出来た窪みにタイヤがはまり、立ち往生していた。
しかし、大破した車両は一台も無く、前方の橋も落ちてはいなかった。
「全速前進! 橋を渡り切れ!」
間を置かず、周囲の岩陰から機関銃の弾丸が飛んで来た。
「応戦しろ!」
しんがりにいた私は、弾が発射されたあたりを狙って、RPK機関銃を発射した。
「本車両は援護に入る!」
私が乗っていた最後尾の車両は、何とか窪みから抜け出そうとタイヤを軋ませているトラックの側に停車した。
「追わせるな! 撃て!」
輸送部隊は二つに分断されていた。
橋に差し掛かろうとしている前方集団と、後方で取り残された我々の集団。
何とかして前方集団だけでも橋を渡って逃げ切らせねばならない。
先頭の車両にはボリスがいる。
彼ならば的確に指揮してくれるだろう。

窪みにはまったトラックの運転手以外の全員が、フルオートで機関銃の引き金を引き続けた。
空薬莢が次々と宙を舞う。
敵の弾丸が頬を掠めたと思ったら、RPGロケット擲弾が飛んで来て、岩の間で爆発した。
爆風と熱が襲ってくる。
が、幸いな事に目標を外したようだ。
――怯むな!
そう言おうとした次の瞬間、今し方吹き飛ばされた岩の間に、私は信じられないものを見た。

――人!

今まで死角となっていた岩場の陰に、三人の人がいるのだった。
二人の子供と、その母親らしき女。
子供の一人が倒れてきた岩に足を挟まれ、他の二人が必死で引き抜こうとしていた。
――民間人!?
貧しい身なりをして、怯えながらも半泣きで岩をどかせようとしている者達は、明らかに民間人だった。
手は休み無く掃射を続けながら、なぜこんなところに民間人が、この周辺に集落は無かったはずだ、
と不思議に思い、その後すぐに、難民か、と思い当たった。
戦場となったアフガンから、難民となって国外に脱出する民間人は、何百万人にも及んでいた。
あの三人も、徒歩でパキスタンとの国境を越えようとしているのに違いなかった。
387バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:30:04 ID:oxwLBozp

三人の周辺でも跳弾によって砂が吹き上がり、岩が砕け散っていた。
――危険だ。
あそこにいては流れ弾に当たる。
あの子供の足の上に乗っている岩の大きさでは、到底女子供二人で動かすことは出来まい。
それに、橋が落ちなかったところを見ると、仕掛けた爆発物全てが爆発したわけではないのだろう。
どこかに不発弾が残っているはずだ。
もし岩をどかす事が出来たとしても、無闇に歩き回っては危険だ。
私は即座に腹を決めた。
「後方に民間人を発見! 保護する! 援護しろ!」
言うと同時に、AK-74を抱えて飛び出した。
「中尉!」
飛び交う騒音の向こうで声がしたが、私は三人の元へ全力で駆けた。

銃を持って岩場に滑り込んで来た私を見て、三人は顔を引きつらせた。
「大丈夫。ここは危険。岩をどかすのを手伝う」
私は、片言のパシュトゥ語で伝えた。
分かったのか分からぬのか、依然として怯えた顔で身を寄せる三人を尻目に、
私は銃を置き、岩に手を掛けた。
その時、二人の同志が私のいる岩陰に走り込んで来た。
「中尉、フォローします」
やってきた二人は岩場の陰から応戦した。
私は体重をかけ、渾身の力で子供の足の上に乗っている岩を押した。
少しずつ岩がかしぐ。
岩の下に隙間が出来、血塗れになった足が抜けたと思った瞬間だった。
私が先程まで乗っていた車両が、爆音と共に吹き飛んだ。

RPG擲弾が命中したのだ。
咄嗟に三人の上に覆い被さるように伏せた私の上に、小石や車の残骸、そして肉片が降り注いだ。
熱風をやり過ごしてから顔を上げてみれば、RPG擲弾の当たった車両は炎を上げており、
輸送トラックも横倒しになっていた。
二台の車両からの掃射が止んだのを見て、AK-47を手にしたムジャヒディン達があちこちの岩陰から出て来た。
そして、トラックに近づいて行く。
――輸送物資を積んだトラックから鹵獲する気だ。
「させるか!」
フォローに来た二人と共に、私はAK-74の引き金を引いた。
弾丸が残り少ない。
しかし、構わず引き金を引き続けた。
ムジャヒディン達は、岩の死角を使って我々の銃弾を巧妙に避け、火を吹いているトラックに近寄った。
そして首尾良くトラックに辿り着くと、運転席にAK-47をぶち込んだ。
運転手、兵士、道ばたに吹き飛んで既に死んでいることがはっきりしてきる死体にも、一人残らず。
388バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:31:04 ID:oxwLBozp

私の弾が切れた。
そして、残り二人の弾も。
それを見計らって、車両に残っていた全員を完全に沈黙させたらしいムジャヒディン達が、
こちらに向かって距離を詰めて来た。
私はマカロフに持ち替えて発砲した。
しかし、そんなものは気休めに過ぎない。
AK-47の弾丸が、雨あられと襲ってきた。
一人の同志の脇腹にムジャヒディンの撃った弾が当たり、前のめりに崩れ落ちた。
遮る物の無い地面に倒れ込んだ彼に、銃弾が集中する。
戦闘服にぼつぼつと穴が開き、血しぶきが飛び散った。
耳を覆いたくなる程の悲鳴が上がったが、頭蓋骨が砕けた瞬間、すぐに止んだ。

マカロフも撃ち尽くした。
私は、携行していた最後の武器、ナイフを取り出した。
狙いを定め、投げる。
一人の男の胸に当たったが、ナイフは一本しか無い。
ムジャヒディン達は四方に広がって、我々を捕獲しようとしていた。
じりじりと距離を詰めて来る。
岩に背中をぴたりと付けて息を潜める私の耳に、砂を踏みしめる足音が聞こえた。
私は姿勢を低くして岩陰に身を潜め、足の影が見えたところで思い切りその足を払い、
バランスを崩して倒れた男の首の後ろに、組んだ両手を叩き下ろした。
絶命した男から、AK-47を奪い取る。
……しかし、そこまでだった。
AK-47を構えようとした瞬間、首に重たい衝撃を感じ、私の視界は暗転した。

 * * *

意識を取り戻した時、私の両手両脚は荒縄で拘束されていた。
薄暗い室内に、十数人の人影があった。
だぼっとしたズボンと、裾の長いシャツにベスト、頭には丸いコットンの帽子。
浅黒い顔に髭を蓄えた男達だった。
落ち窪んだ眼窩の奥に、闇を煮つめたような暗い目があった。
私は負けずに睨み返した。
命がまだあると知った時点で、私は自分の立場を理解していた。
捕虜になったのだと。
389バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:33:11 ID:oxwLBozp

ムジャヒディンの捕虜に対するもてなし方は、ソ連軍の中でよく知られていた。
彼らは生きたまま捕虜の皮を剥ぐ。
兵士を捕虜にすると、ソ連軍の野営地点の側に全身の皮を剥がれて赤黒くなった死体と、
その皮が転がしていくのだった。
見せしめのように。
皮を剥がれた状態で死にきれない兵士の悲鳴を聞いた、と語る者もいた。
部分的に皮を剥がれたり、裂けた腹から腸を引き出されたまま、岩場に放置されることもあった。
動けないよう、アキレス腱を切られて。
私が目にしたことのあるそれは、野犬に食い荒らされてはいたが、
視神経でぶら下がった眼球、あれはムジャヒディンの手によるものに違いなかった。

私は沸き上がる恐怖を押さえつけた。
反対側の部屋の隅には、もう一人の同志が両手を縛られて転がっていた。
私の意識が戻ったのに気付いたムジャヒディン達は、彼を取り囲み、物も言わずに銃底で殴りつけた。
彼は両手を縛られたまま、身を守るように丸くなった。
しかし、打撃はお構いなく次々と彼の上に降り注いだ。
彼の顔が赤く腫れ上がる。
先程の戦闘で脚を負傷したのだろう、彼の戦闘服は引き裂け、べったりと赤黒い染みが広がっていた。
その脚で、彼はじりじりと必死に地面を這った。
少しでも打撃から逃れようとする彼を、ムジャヒディン達は一層激しく痛めつけた
踏み付けた踵が彼の傷にめり込む。
「やめろ!」
堪らず叫ぶと、側に立っていたムジャヒディンが間髪入れずに私の頭を銃底で突いた。
衝撃と痛みで視界が揺れた。

ムジャヒディン達は、ぐったりした彼を部屋の中央まで引きずり出した。
うつ伏せにして、一人の男が彼の尻の上に座る。
そして、片方の膝を折り曲げるようにして脛を取った。
もう片方の脚は、他の男が伸ばして固定した。
更に一人の男が彼の背中の上に座った。
尻の上に座った男がナイフを取り出す。
ナイフが、彼のブーツを切り裂いた。
一緒に傷つけられた足から、鮮血が滴った。
彼の悲鳴が上がる。

――これから、何が行われようとしているのか。
私は、喉が焼け付いてしまったかのように、何も言葉を発することが出来なかった。
ばたつかせようとする彼の脚を、別のムジャヒディンが捉えて固定した。
剥き出しになった彼の足首に、鋭いナイフの刃がぴたりと当てられる。
丁度、アキレス腱の裏側。
くっきりと筋が浮いている。
彼のハシバミ色の目が、助けを求めるように私を見た。
瞳の表面が、水気を帯びて潤んでいた。

その一瞬後、振り上げられたナイフが彼のアキレス腱に鋭く突き立てられ、
そのまま抉るように横に薙ぎ払われた。
悲鳴。
そんな生易しいものではなかった。
恐ろしさに脳が縮み上がる程の絶叫だった。
どくどくと溢れる血で、たちまち彼の脚が真っ赤に染まった。
私は金縛りにあったかのように硬直して、ただ彼がのたうつところを見ていた。
彼の目が私を捉えたと思ったが、その瞳は虚ろだった。
390バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:34:28 ID:oxwLBozp

その後の事は思い出したくない。
軍の中で囁かれる話は真実であった事。
しかし、現実はその百倍も二百倍も凄惨でおぞましいものであった事。
そして何より、赤い肉塊となって部屋から引きずり出された彼が、まだ生きていた事。
血と臓物の臭気と、彼の恐怖が凝って残ったような空気の中で、私は正気を保っていた。
狂ってしまった方がよっぽどましだと思った。


彼を部屋から引きずり出してしまうと、ムジャヒディン達は私を取り囲んだ。
ぐい、と大きく固い手で顎を掴まれ、上を向かされる。
憎しみが冷え固まったような目をしていた。
私は目を逸らさずに睨み返した。
恐怖よりも、今目の前で惨殺された――まだ死んではいなかったにしろ、
彼の行き着く先が一つしか無い事は明らかだった――彼の恐怖を想う憤怒の方が勝っていた。
私の部下。
目の前でなぶり殺された。
私は何も出来なかった。
あんなに助けを求めるような目で見ていたのに。

私は乱暴にうつ伏せにされた。
硬い床に押さえ付けられ、背中の上に乗られる。
足を縛っていた縄が、ぶつりと切られた。
自由になった両脚は、即座にがっしりと万力のような力で固定された。
ブーツが脱がされる。
片足、そしてもう片方の足も。

――私も今から彼のような目に遭うのか。
私は覚悟した。
彼の、耳をつんざくような絶叫と、流れ出る鮮血が蘇った。
今にも抜き身の冷たい刃が、私のアキレス腱に宛われるだろう。
固く歯を食いしばって身構えていると、戦闘服のズボンが
裾の方から太腿の方にめがけてナイフで一直線に引き裂かれた。
腰の方まで裂かれて、恐らくボロ布になったであろうズボンの残骸が投げ捨てられた。
露出した両脚が寒々しい。
ズボンの下につけていた下着も、乱暴に破り取られた。

――そっちか。

私は暗澹たる気持ちになった。
女の身で戦場に赴く事を決意した時から、それは当然起こりうる事態として覚悟はしていた。
しかし、いざその時になってみると、眩暈がする程の屈辱感を覚えた。
ムジャヒディンは、私の戦闘服の上着を腰の上まで捲った。
背中の男がどいたと思うと、腰を掴んで引きずり上げられた。
両脚は、膝から下でがっちりと固定されている。
後ろ手に縛られたままの私は、なすすべもなく尻を突き上げさせられた。
引き上げられた時に顔が床に擦れて、ひりひりと痛んだ。
剥き出しの下半身が男達の前であられもなく晒されているのかと思うと、
私は叫び出してしまいたいような心持ちになった。
391バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:36:07 ID:oxwLBozp

背後に、腰を捕らえた男の気配を感じた。
何かが私の陰唇に宛われる感触。
次の瞬間、私の膣に異物が挿入された。
重くねじ込まれる衝撃に、私は呻いた。
直接は見えないが、見えずとも分かる。
挿入されたのは陰茎だ。
私に抵抗するいとまを与えず、男は乱暴に突いた。
全ての憎しみを込めるように。
まるで準備の出来ていない体が、苦痛を訴えた。
激しく突かれる度に、私の顔は床に擦り付けられた。
膣壁と腹の底が痛み、部屋の中に充満した血と臓物の臭いと相俟って、嘔吐感が込み上げた。
男の腰が、狂ったように叩きつけられる。
荒くなっていく男の息を、聞きたくないと私は思った。
男の突き上げが更に速まり、握り潰すように腰が強く掴まれたかと思うと、動きが止まった。
私の膣中で男の陰茎が脈打ち、生温い液体の存在を感じた。

ずるりと陰茎が引き抜かれ、ほっとしたのも束の間、背後は別の男に入れ替わった。
そしてまた、奥まで突き入れられる。
前の男が吐き出した精液のせいで、最初に比べると擦過的な痛みは軽減されていると言えたが、
それは歓迎すべき事でも何でも無かった。
力任せに突かれる痛みは内蔵まで響く。
部屋には複数のムジャヒディン達がいるというのに、誰も何も言わなかった。
息を潜め、暗い目をして、惨めに尻を突き出す私をただ見ているのだろうか。
そう思うと、途方もなくぞっとした。
男の腰が私の尻を打つ、肌の音だけが響く。
悲鳴など、絶対に上げるものかと私は歯を食いしばった。
しかし、止めていた息が限界になると、呻き声が漏れた。
この男もまた、欲望というよりは憎悪を、私の中に吐き出した。

その時点で、三人目、四人目、恐らくそれ以上があることを、私は確信していた。
そしてそれは正しかった。
果たして何人目なのか、もう定かではなくなった頃になっても、私の意識は正常だった。
膣の中に溜まった精液が潤滑油の代わりをするのが不快だった。
ぬるぬるとぬめって、男の腰の動きを助けた。
深く抉られる度に、ぐちゅ、と聞こえる気色の悪い音。
何度目かの排泄の後、陰茎が引き抜かれると、中に溜まった精液がどろりと溢れ落ちるのを感じた。

私がぐったりしているのを見ると、男達は私を仰向けにした。
蹴り飛ばそうとした脚には思ったより力が入らず、簡単に受け止められ、脚を開いたまま固定された。
縛られたまま下敷きになった手が痛い。
飽きもせず、男が陰茎を突っ込む。
これによって、私の尊厳を奪えると確信しているように。
そんなムジャヒディン達が酷く滑稽に思えてきて、私は薄く嗤った。

私はこんなことで屈したりはしない。
――お前等はソ連の軍人が蹂躙され、許しを請い、怯えたところを踏み潰したいのだろう?
そんな願望は満足させてやらない。
私の部下をなぶり殺した奴等を、満足させてたまるか。
こんなことで私を蹂躙出来たと思ったら、大間違いだ。
392バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:37:30 ID:oxwLBozp

唇を歪めて見返してやると、男は一瞬ひるんだようだった。
しかし、別の男がナイフを閃かせてやって来た。
戦闘服の上着が引き裂かれる。
胸が露出し、下着も胸の中央部分で切られ、取り去られた。
無造作に乳房を掴まれ、無骨な指が食い込んだ痛みに声が上がりそうになったが、堪える。
私を見下ろしながら、男は腰を激しく振った。
突き上げられる度に、頭が振動で揺れた。
乱暴に脚を開かれ、代わる代わる男の陰茎を差し込まれる間、
私は頭が痛くなる程に、きつく奥歯を噛み締めていた。

――こんなことで私は屈しない。こんなことでは、決して……!



まるで無限地獄のように果てしなく感ぜられたが、何事にも終わりはある。
ようやく男達による陵辱が終わった時、私は宙を睨みながら思った。
――殺すなら殺せ。
部下が目の前で惨殺される様を何も出来ずに見ておいて、
自分一人がのうのうと生き残る事など、期待してはいなかった。
どんなに無惨な仕打ちを受けようと、決して命乞いなどするものか、と思った。

「お前は中尉だな」
戦闘服に付いていた階級章を見たのだろう。
男が尋ねてきたが、私は答えなかった。
「スペツナズか」
「……」
「お前等の任務の内容は」
「……」
「答えろ!」
「……」
ムジャヒディン達は、私を惨殺する方よりも、私から情報を引き出す方を選んだらしかった。
私は沈黙を貫いた。
苛立った男に頬を張られたが、その男を別の男が止め、何か言った。
利用する方法はいくらでもある、そう言っているようだった。

私は後ろ手に縛られたまま、両脚の膝を折り曲げて畳まれ、
片脚ずつ、太腿とふくらはぎの周囲をぐるりと束ねるように縛られた。
服を奪われ、尻をついた姿勢で座らされたまま、私は監禁された。


一日に一回、食事が与えられた。
そのついで、あるいはムジャヒディン達の気が向いた時に、私は男の憎悪と性欲の排泄場となった。
私は彼等の憎悪を感じた。
アフガンの、ソ連に対する憎悪を。
ソ連軍――それは“私”と同義である――が、彼等に対してやってきた事を思えば、
当然と言えたかもしれない。
しかしその時の私は、それを致し方無い事だと割り切れるまでに達観の境地へと至ってはいなかった。

私は、いくら酷く問い詰められても、何一つ口を割らなかった。
情報源として価値無し。そう判断されて殺されても構わなかった。
部下を死なせた上、更に同志を危険にさらすなど、愚の骨頂。
そんな選択肢は有り得なかった。
それでも、ムジャヒディン達は私を殺さなかった。
その理由は判然としない。
ソ連軍の捕虜となった味方との交換でも交渉していたのかもしれなかった。
あるいは、鬱屈したムジャヒディン達が飼っていた憎悪の捌け口として丁度良かったのか。
393バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:38:24 ID:oxwLBozp

殺されない代わりに待っていたのは、拷問だった。
ムジャヒディン達の詰問に沈黙で答える度に、真っ赤に焼けた焼き鏝が私の肌に押しつけられた。
焼き鏝が迫って来ると感じる熱い空気。
だが、触れた瞬間は熱いのか冷たいのか分からない。
反射的に飛びすさりたくなるような、激痛。
体は逃げたいと欲するのに、固く拘束されていて、叶わない。
じりじりと肉の焼ける嫌な臭いがした。
情けない声など上げたくない。
しかし、呻き声を抑えることは出来なかった。
ムジャヒディン達はじっくりと肌を焼くと、また丁寧に細長い焼き鏝を熱し直して、
先程押し当てたところから少しずらして、その隣の肌を焼いた。
腕、脚、背中、腹、尻……。
日に日に、私の体は焼け爛れていった。
朱く崩れた皮膚からは、血液とも体液ともつかぬものがじくじくと滲み出た。
正常な皮膚の陣地が狭まっていく。
しまいには、どんな姿勢をとっていても床が火傷痕に触れるようになって、
眠ることすらままならなくなった。
意識が飛んだと思った時は、気絶していたのかもしれなかった。

そのうち、目覚めている時も朦朧として、夢との境が分からなくなった。
全てが靄の中に漂っているようで、男達の声も遠い。
抑えきれなくなった悲鳴も、誰か別人のものであるかのようだ。
焼き鏝の炎のような赤色と、焼け付く痛みだけが現実だった。

それでも、焼き鏝が顔に迫ってきた時は、切り裂かれたように意識が冴えた。
頭の芯が冷たくなる程の恐怖。
男の手が私の髪の毛を掴む。
頭はしっかりと押さえ付けられていて動けない。
焼き鏝の赤が目の前に迫る。
差し伸べる男は全く躊躇しない。
熱い空気。
熱源が。
迫る。
まずは額。
押し付けられる。
じっくりと。
そして、正確に焼き鏝一本分ずらして、その下を。
鏝が熱し直される。
丹念に。
また迫る。
眉。そして瞼を焼く。
閉じた瞼の下の眼球までもが痛みを訴えた。
少しずつ頬に及ぶ。
ずくずくと、脈打つように痛む。
鼻のすぐ隣で皮膚が焼かれているせいか、耐え難い臭気を感じた。
394バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:39:10 ID:oxwLBozp

救出された時の記憶は淡い。
自力では歩けず、両肩を支えられ、気付けば担架で運ばれていた。
本国に送り返されたのだと知ったのは、病院のベッドの上で目覚めた時だった。
病室の窓から、懐かしい大聖堂のルコビッツァが見えた。
還って来たのだ、と思った。
一人で。
安堵は無かった。
ただ、置いて来てしまった、と思った。


全身が焼け爛れた私を、人は
「あれでよく生きてたな……」
と噂した。
面と向かって言う者はいなかったが、
そんな囁きは、病院の冷たい廊下で密やかに反響するように私の元へと届いた。
生きていて悪いか、と思った。
死んでいれば、救出部隊の手を煩わせることも無かった。
そんな事は私自身が一番良く分かっていた。


夜の病室の窓から見える街の灯りは、私を慰めなかった。
寒々とした空気の中で、黄や橙の光がぼんやりと冷たく滲んでいた。

   戦いに結ぶ 誓いの友
   されど忘れえぬ 心のまち

……前線の兵士達があんなにも恋いこがれた、祖国の灯。
しかし私には、それは戦場で死んだ彼等の鬼火のように感ぜられた。



包帯の取れた私の顔を直視する者はいなかった。
常にもやもやと纏わり付くような視線を感じたが、私がそちらに目をやると慌てたように即、外す。
そして私の視線から逃れたと思うと、またそろそろと窺うのだった。

――メドゥーサでもあるまいに。
私の右目は、ほとんど視力を失っている。
可笑しくなったが、怪物を見るかのようなその目は、私に似合いの待遇のように思えた。
395バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:40:28 ID:oxwLBozp

ボリスが尋ねて来たのは、そうやって私が病院に収容されていた時の事だった。
ベッドの上で半身を起こし、枕に背をもたせかけていると、病室のドアがノックされた。
「どうぞ」
言うと、静かにドアが開き、がっしりした体躯の大男が、くぐるようにして病室へ入ってきた。
招じ入れた者とはついこの間まで毎日顔を合わせていたというのに、
私はその顔を酷く懐かしいように思った。
戦地から舞い戻って故郷を見た時よりも、ずっと。

私は遠近感の掴めない目の焦点を、彼に会わせた。
彼は黙礼をして二、三歩進み出ると、踵を合わせ、直立した。
病室に差し込む薄い光の中で。
軍人の立ち方。
そして、敬礼した。
私も敬礼を返す。
彼の目が私を捉える。
慣れた動作。
戦地では日常だった。

しかし、その手を下ろしてしまうと、私は次に何をしたら良いのか分からなかった。
そして、彼もまた。
互いに、戦場以外の場所でどのような態度で接したら良いのかなど、全く分からなかったのだった。
彼との間に沈黙が落ちる。
彼は静かに私を見つめるだけで、表情の読み取りにくい顔は動かない。

「第十一支隊はどうしている」
苦し紛れに、私は率いていた支隊について尋ねた。
「ジャララバードの基地内に待機しています。今は休養にあたっています」
「そうか」
また沈黙が落ちた。

彼は微動だにしない。
戦場を離れてなお、私の忠実な部下たらんとする事を全身で示すかのように。
このまま除隊するかもしれない、いや、もう既にこの男の上官では無くなっているかもしれない、この私の。

「よく、分かったな」
「司令より伺いました。本国へお戻りになり、モスクワ市内の病院に入院されていると――」
「いや、私のいる場所が、ではない」
私は彼の言葉を遮った。
「私が、だよ」
私の面立ちは様変わりしているはずだった。
顔の右半分は焼け爛れ、どんな表情も表す事が無い。
プラチナブロンドの髪はあちこちが焼き切れ、ざんばらのままだった。
一ヶ月にも及ぶ拷問によって体は窶れ、火傷の痕は朱く膿んでいた。

私の言葉の意味を解した彼は言った。
「分かります」
どんな時も感情に流されない彼にしては珍しく、その声には少しの憤りが含まれていた。
目に不本意そうな色が滲んだ。
「分かります」
今度は低い声で静かに言った。
まるで、太陽は東から昇るものです、とでも言うかのような口振りで。
396バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/22(土) 21:41:25 ID:oxwLBozp

いたわるような彼の目が、却って私の居心地を悪くさせた。
私は黙った。
手元に視線を落とす。
火傷の痕の無い手が、却って不自然に思えた。
しばらくして、立ち尽くしていた彼が初めて自分から口を開いた。

「――申し訳ございませんでした」

私が彼を見やると、彼は頭を垂れていた。
「……なぜ、貴様が謝る」
彼は答えなかった。
その代わり、また同じ言葉を繰り返した。
「申し訳ございませんでした」

護衛中、後方に取り残された私を援護出来なかった事に対してか、
捕虜となった私を救出するまでに一ヶ月かかった事に対してか、
それとも、ここを訪れた事に対してか……。
彼が何に対し謝罪したのかは分からない。
しかし、それが何であっても、彼が謝罪すべき事など何も無いのだ。
それなのに彼は、私がこんな姿になったのは自分の責任だとでも言うように、頭を垂れた。


その時、私は訊くべきだったのだ。
何に対して謝罪しているのだ、と。
だが、私は訊けなかった。
事によっては上官と部下という境界を踏み越えた答えが返ってくるかもしれない――。
それを恐れるが故に。
――そこに僅かな期待が混じっていたからこそ、私は恐れた。


彼は、最初に踏み留まった位置から一歩たりとも私に近付かなかった。
不用意に手を伸ばしても決して触れない距離。
そうすることによって私に安心感を与えられると確信しているかのように、彼はその距離を守った。

最後まで私は上官で、彼は部下だった。



397名無しさん@ピンキー:2010/05/22(土) 22:28:18 ID:xObJJ//w
続きキタ━━━(゚∀゚)━━━!!
凄まじいな…。GJ!
398名無しさん@ピンキー:2010/05/22(土) 23:00:33 ID:KTBLiu12
いいねいいね!
これは続きにも超期待
GJ
399名無しさん@ピンキー:2010/05/23(日) 00:28:26 ID:5HzRvDHw
こんなに読んでて苦しくなる拷問はなかなかないな。GJ!
400名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 04:58:10 ID:+2jqvZfl
続きまだ〜?
401バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:46:23 ID:XAm9Ue/6
連投申し訳ない

>>396の続き
402バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:47:21 ID:XAm9Ue/6

 * * *

私は寝室に入ると、サイドテーブルに置いてあるランプを点けた。
ステンドグラスを通した灯りに、キングサイズのベッドが浮かび上がる。

私はタイトスカートのホックを外し、するりと落とした。
そして、白いブラウスのボタンも外していく。
ボリスがしゃがんで、私の足元に溜まったスカートの残骸を拾い上げた。
私はブラウスを放って、ベッドに腰掛けた。
シルクの下着とガーターベルトで吊されたストッキングだけとなった私の足から、彼は靴を脱がせた。

私は大きなベッドの中央に片膝を立てて座った。
膝に片腕を乗せ、言う。

「来い、軍曹」

それだけの言葉で彼には通じる。
彼は上着と靴を脱ぎ、ベッドに座る私の足元に寄った。
私がガーターベルトのストッキング止めを外すと、彼は太腿からそっと、薄いストッキングを剥いでいった。
するすると膝まで下ろし、ふくらはぎをたぐり、足首に溜めて踵を抜く。
彼の大きく無骨な手は意外と器用だ。
もう片方の脚も彼に任せて素足になると、私は脚を広げた。

やれ、とも、始めろ、とも言う必要は無かった。
彼は私の目から要望を正確に読み取り、私の足の甲に触れた。
彼の掌の皮は厚いが、温度は高い。
両足が温かい熱に包まれた。
足首を登り、脛まで来ると、くるりと掌がふくらはぎの方に滑る。
膝の裏まで来ると、今度は膝の上を通って、内腿へ。
じりじりと這い登って来る。
肌が熱を帯びてくる。
私の脚を押し開くように力が加わった。
左手はそのまま、膝の上で止まる。
もう一方の右手は、腿の終点まで迫って来ていた。
下着の縁を中指でそっと撫で上げられると、ぞくりと下腹が疼いた。
403バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:47:54 ID:XAm9Ue/6

いつの間にか、彼は私の脚の間にまで膝を進めていた。
体温の低い私の肌を温め、丹念に揉みほぐすように太腿に手を這わせ、
そして、ぎりぎり下着に触れない位置、腿の付け根の薄く敏感な肌の上を撫でる。
まだ触れられてもいない下着の奥が、じわり、と熱くなった。

彼は私の体温が上がったのを認めると、指先でそっと、シルクの上から縦になぞり上げた。
快楽の在処が明確になる。
彼の指は先端まで行って柔らかく旋回し、また戻る。
何度も、往復する。
先端の突起の部分をシルクの上から捏ねられる度に、体温が上がっていった。

私の内部からは、とろりとした体液が溢れ、下着を濡らしていた。
その体液はシルクを通し、彼の太い指の腹までをも濡らしているのだろう。
粘液を纏った滑らかな布が、彼の指によって柔らかい襞の間に食い込む。
布と一緒に突起が捏ね上げられ、私は思わず腰を揺らした。
彼の指は、それに応えるように更にねっとりと絡みつく。

すっかり布がぬるりと滑るようになると、彼はゆっくりとそこに唇を寄せた。
体液を溢れさせているところを、シルクの上から舌で突く。
彼の舌と息が熱い。
窪みにほんの少しだけ舌を沈めてから、舐め上げられる。
しっとり湿って襞の輪郭を露わにしているシルクが熱くなり、
じりじりと突端に迫られるもどかしさで体が震えた。

ついに舌が先端の突起に触れ、円を描くようになぞられると、腰が浮き上がりそうになった。
充分に唾液を絡ませた舌で小さな突起を柔らかく押しつぶし、小さく吸い上げられる。
奥から更に温かな体液が零れ出たのを感じた。
404バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:48:53 ID:XAm9Ue/6

私の体は熱かった。
そう、私は熱くなりたかった。
静けさに紛れて迫ってくる記憶から逃れて。

火を絶やしてはいけないのだ。
火を燃やし続けねばならぬ。

火が消えて、砂煙が収まってしまえば明らかとなる。
私の立っている場所が戦場などではなく、白く乾いた骨の上であると。

   変らぬ誓いを 胸にひめて
   祖国の灯のため 闘わん  
   若きますらおの 赤くもゆる
   こがねのともしび 永久に消えず

過去の歌が追ってくる。
祖国の灯は永遠に失われた。
軍人の生きる場所は、戦場だ。
――無ければ、作るまで。

戻る場所を失った軍人は、それ以外のどこで生き、また、死ぬ事が出来るというのだろう?

余計な事は考えてはならぬ。
私が求めるのは火だ。
全てを焼き尽くす、火だ――。



彼の手が下着を下げた。
片方の脚だけ抜いたシルクの布は、膝の下に引っ掛かった。
彼の手が太腿を大きく広げ、髪と同じプラチナブロンドの中に両の親指が潜る。
その指に押し広げられて露わになった粘膜を、舌が舐め上げた。
熱く柔らかいものが、襞の間を生き物のように蠢く。
先を尖らせ、小さな突起を押し上げるように刺激する。
彼の指も窪みに寄せられてきた。
緩くかき混ぜて、掬い取るように体液を絡ませると、私のなかへと入ってくる。
唇で突起を柔らかく包んでおきながら、指は根本まで沈む。
柔らかく濡れた粘膜が、太い指に押し拡げられた。
節の目立つ彼の指の形を内側で感じ、自然、体が反り返った。
崩れそうになる体を、片肘で支える。
私の快楽を示す体液を纏って、指は何度も往復した。
先端の突起の上では、舌がちろちろと遊ぶ。
彼の指の動きが速くなり、私の脳は快楽で満ちてゆく。

堪らず、私は腰を押し上げると同時に彼の頭へ手を伸ばし、髪の間に指を差し込んだ。
手と太腿に力が入った。
私の体は一層熱く、彼の指は粘着質な音を上げて私を責め立てる。
――限界が近い。
そう思った時、柔らかい突起を強く吸い上げられて、私は達した。
405バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:49:42 ID:XAm9Ue/6

痙攣が収まると、私は仰向けに倒れ込んだ。
心臓の鼓動が速い。
熱い血液がどくどくと全身を駆け巡っていた。
少しずつ引いていく熱を感じながら、私はクリネックスで指を拭う男を仰ぎ見た。

いつでも私の命令に従うこの男。
私は彼を信頼していたし、また、彼も私を信頼していると確信に近い思いで信じていた。
しかし、時々思う。
彼の真意はどこにあるのだろう、と。

私は結局戦場でしか生きられなかった。
戦場で生きる事を求め、戦場で死ぬ事を望んでいる。

――だが、この男は?

私を支え、影のようにぴったりと付き添う彼は、
今でも上官に使える部下としてそれが当然であると言うように、そこにいる。
しかし実際は、私と彼は上官と部下でも何でも無いのだ。
“元”上官と部下、に過ぎない。
彼と私を縛る鎖など、どこにも存在していない。
既に鎖の切れている手錠を、さも繋がっているかのように互いの手にはめて、
歩調を合わせて歩いているだけのこと。
ほんの少し斜めに逸れるだけで、私と彼の歩く道など簡単に別れるだろう。

私は、後戻り出来ぬ深みまで彼を道連れにしてしまったのだろうか。
そんな思いがよぎると、私にもまだ人間らしさの欠片が残っていたのかと錯覚する。


アフガンにおける越境作戦中の命令違反により軍籍を剥奪された私が生き残る道は、
そう多くは残っていなかった。
従って、私に後悔の念は無い。
自分の取った行動を悔やんだ事は無い。
何度同じ場面に遭遇しても、私は同じ行動を取るだろう。
だが、外道に身を堕とした私について来た者達の事を思うと、僅かにそれは揺らぐのだった。

あの時、命令違反を犯していなければ、この者達の未来は変わったのだろうか、
この者達の選択肢は増えたのだろうか、と――。
406バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:50:45 ID:XAm9Ue/6

 * * *

あの日、我々第十一支隊は前線からの要請を受け、パンジシール渓谷へ救援に向かった。
前線の部隊が、ムジャヒディンの襲撃に遭っているとのことだった。
私は本国で治療を受けた後、隊に復帰していた。中尉から、大尉となって。
我々はMi-24によって現場近くの上空まで運ばれ、リペリングで降下、
岩場を下り、ムジャヒディン達の背後を取って、掃討した。

前線の部隊と合流した我々は、野営地を探した。
パンジシール渓谷は敵地のど真ん中だ。
夜の中、ゲリラを警戒しながらの進行となった。

そんな時、砂礫の中に灯りが見えた。
パシュトゥン人の集落。
「丁度良い。攻めるぞ」
前線部隊の指揮官が言った。
制圧し、彼らの居住地を利用する気だろう。
「お待ち下さい。あれは民間人の集落です。ムジャヒディンの集合地ではありません」
私は反対した。
我々の存在はまだ気付かれていない。
そっと離れ、目に付かぬ岩場を探して野営すれば良い。
もしここで鳴り響いた銃声がムジャヒディンの耳に届けば、余計に厄介な事となる。
それに、敵に気付かれぬようゲリラ地帯を突破するならば、夜の方が都合が良い。
夜の内に出来る限り危険地帯から離れておく方が得策のように思われた。
しかし、彼の意見は違った。

「どうしてそれが分かる。民間人を装ったゲリラかもしれんぞ」
「ですが、我々の存在に気付いた様子はありません」
「ならば一層好都合だ。気付かれぬ内に潰す。手間がかからんではないか」

私は黙った。
彼の階級は少佐。
大尉である私よりも上だった。
上官の命令には逆らえない。
それに、合流した部隊にいる、不気味に落ち着いた男の存在が気に掛かっていた。

――KGB。

奴はKGBの将校だった。
我々スペツナズはGRUの管轄下にあり、KGBとは別組織だが、
KGBの将校がGRUの作戦に随伴して来る事は稀にあった。
戦況を打開する上で共通の利益となる事は、確かに無いとは言えなかった。
しかし。

――鼠が。

私は忌々しく思った。
奴は、GRUの監視を任務としている管理局の人間だろう。
虎視眈々と、GRUの足元を掬おうと狙っているに違いない。
KGBとGRUとのいがみ合いは、周知の事実だった。

ここで私が上官に反目すれば、KGB将校を喜ばせるだけだ。
そう思って私は黙った。

「よし、行くぞ」
彼の命により、皆の銃の安全装置が解除された。
407バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:51:24 ID:XAm9Ue/6

制圧はあっという間だった。
訓練を受けたスペツナズの攻撃に、無防備なパシュトゥン人達は驚愕の表情を浮かべたまま、
血塗れになって地面に転がった。
狭い集落は、一瞬で死体の山となった。
硝煙と血の臭いが立ちこめた。

すっかり静かになった集落に、突然、女の悲鳴が上がった。
そちらに目を向けると、家畜小屋の飼い葉の中に隠れていたと思しき若い女と少女が
引きずり出されているところだった。
女がうつ伏せに倒され、肩から羽織った布を剥ぎ取られている。
少女の方に手を掛けているのは、集落の制圧を命じた少佐。
仰向けに押さえ付け、必死に暴れる彼女の服を引き裂いていた。

「何をしている!」
私は上官に対する敬語も忘れて、叫んでいた。
「やめろ! 彼女達に攻撃の意志は無い!」
少佐は、ゆっくりと私を振り返った。
「気でも違ったか、同志大尉。こいつらがムジャヒディンへ密告しないという保障がどこにある?」
確かに、これだけの者を虐殺しておいて、今になって止めようとするのは偽善でしかなかった。
「――しかし、その子はまだ子供ですよ!」
「それがどうした。“林檎は林檎の木の近くに落ちる”。祖国の諺も忘れたのかね? 同志大尉。
こいつも大人になれば立派なアフガーニだ」
私は唸った。
「しかし――、しかし、辱めることは無いでしょう。せめて服を――」
着せてやって下さい。
そう言うと、少佐は心底うんざりだ、と言うように溜息をついた。
「やれやれ、そんな興醒めな事を言われるとはな。
戦場での愉しみは少ない。その少しの愉しみにまでけちをつけようと言うのか?」
これだから女は、という目をして、彼はこれ以上私の相手をするのは面倒だ、
と少女の上にのしかかろうとした。
408バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:52:31 ID:XAm9Ue/6

「やめろ!」
今度は自らの意志で、私は上官に命令した。
腰からマカロフを引き抜いて、銃口を少佐に向ける。
「……何をしている」
「『何をしている』はこっちのセリフだ。その子から離れろ」
安全装置を外す。
「――待て」

その時、僅かに緩んだ少佐の手から、少女が逃げ出した。
こちらに向かって走ってくる少女に、私は思わず片手を広げた。
彼女が懐に飛び込んで来る。
どん、とほとんど体当たりのようにしてぶつかってくる熱。
銃を構えたまま、私は片腕でその子を抱きしめた。
細い体が、がくがくと震えていた。
小さな手で、私の戦闘服をがっちりと握りしめる。

「大尉、貴様、自分のやっている事が分かっているのか」
「分かっています」
少女の熱い息が戦闘服の分厚い生地に染み込んで、私の肌まで通ってきた。
「大尉、そいつを殺せ」
「嫌です」
「殺せ! 上官命令だ!」
「嫌です」
私は一層強く、少女を抱き込んだ。
小さな熱い塊。
しがみついて震えている。
少佐の顔に血が上って赤く染まった。

隊員達は全員、固唾を飲んで成り行きを見守っていた。
「大尉、殺せ! 国家反逆罪で軍法会議に掛けるぞ!」
「構いません。おやりになったらどうです?」
私は銃口を下げなかった。
大尉……。と、私をよく知る同志の、狼狽混じりの呟きが聞こえた。

「貴様……!」
少佐が腰のマカロフに手を伸ばした。
しかし、少佐のマカロフが私を捉える前に、私は引き金を絞った。
間を置かず、続けて二回。
乾いた炸裂音。
火薬の臭い。
私のマカロフから発射された弾丸は、正確に少佐の額を貫いていた。
いかに右目の視力をほぼ失っていようと、この距離ならば他愛もない。
どさり、と少佐が地面に崩れ落ちる。

一部始終を見守っていたKGB将校が、薄く笑った。



私は軍籍を剥奪され、ラーゲリに送られた。
今度の“ラーゲリ”とはピオネールのキャンプなどではなく、強制収容所の“ラーゲリ”だった。
409バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:53:41 ID:XAm9Ue/6

 * * *

私はあの時の行動を悔いてはいない。
――いや、悔いているか否かという問題ではない。
私は、ああする事しか出来なかったのだ。
私の腕は、どうしても少女を離すことが出来なかった。
どうしても。
それ以上でもそれ以下でもない。

しかし、思う。
あの時、もし命令通りにしていれば、部下達だけでもあるいは――と。



「大尉殿、いかがなさいました」
私はボリスの声で思考を戻した。
仰向けに寝転がったまま目の上に乗せていた腕をのけると、彼が案じ顔で覗き込んでいた。
「どうもしない」
「やはりおかげんが悪いので――」
「くどいぞ」
「――申し訳ありません、大尉殿」

“大尉殿”、か――。

「は――?」
心の中だけで呟いたつもりだった言葉は、どうやら僅かに唇から漏れていたようだった。
「いや」
何でもない、と首を振って、私は半身を起こした。
脚に引っ掛かっていたシルクを抜き取り、背中のホックにも手をやる。
外した下着をベッドの外に放って、仰向けのまま片肘を後ろに付き、上体を傾けた。

「続きをするか? ボリス」
「――」
彼の目に一瞬、私の真意を推し量るかのような戸惑いが浮かんだ。
「どうする」
「――」
彼は困ったように身じろぎをした。
「嫌なら嫌と言え。拒否権はお前にある」
「大尉殿、そうでは――」
「ボリス、これは命令ではない。私は“大尉”として言っているのではない」
だからお前も、“軍曹”として命令に従う必要は無い。
そう続けると、彼の強面が更に戸惑いの色を増した。
「大尉殿、私は――」
私は手で彼の言葉を遮った。
「“大尉”はやめろ。今、ここでは」
彼は口を真一文字に結んだ。
そうして長いこと沈黙した後、ゆっくりと唇を開いた。


「では――、ソーフィヤ殿」
410バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:54:26 ID:XAm9Ue/6

予想外の音が耳から飛び込んできて、私は目を瞠った。
懐かしい、響きだった。
パブロヴナ、もしくはバラライカと――。
そう呼ばれると思っていた。

――まさか、その名で呼ばれるとは……。

唇の端が、僅かに緩んだ。
「――その名…………」
「申し訳ありません、出過ぎた事を――」
「いや、良い」
私はかぶりを振った。
「それで、良い」


彼は、自らのワイシャツのボタンを静かに外していった。
「ボリス、いいか、聞け。お前は自由だ。“今”だけではない。いつだって、お前は自由だ」
ボタンを外す手が止まった。
彼の目が私を見る。
「――私がお邪魔ですか」
「……そうではない。そうではなく――」
「私は、命令だから従っているのではありません」
静かな目だった。
森のような静けさで、まっすぐに、私を捉える。
「……もし私を不要とお思いになった時は、貴女の手で殺して下さい」
「――有り得ん。そんな事は有り得んよ、ボリス」


私は衣服を全て脱ぎ捨てた彼を、抱き寄せた。
「――お前の意志か?」
「はい」
「ならば、良い」
411バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:55:20 ID:XAm9Ue/6

私達は口づけを交わした。
彼の手が肩に触れ、首元に触れ、乳房に触れた。
恐る恐る、といった風情で肌を滑る。
火傷の痕に触れる時は殊更丁寧に。
「構わんよ、ボリス」
そんな風にしなくとも、火傷の痕はもう痛まない。
はい、と承諾の返事をしたものの、彼は依然として丁重な手つきで乳房を包み込み、
先端をそっと唇で挟み込んだ。
まだ柔らかかったそこが、彼の熱い口内で硬く尖る。

下腹を下がっていった手が脚の間に辿り着き、中指が粘膜を探る。
過ぎ去ったかと思われた先程の熱が、再燃した。
一度蕩けた体は、簡単に彼の指を受け入れた。
ゆっくりと、溶かされる。
充分になかを潤した指は、とろりと引き抜かれ、先端を捏ねる。
そして襞の間を滑ってきて、また、なかへ。
溶けた内壁を撫でられる感覚に、堪らず声が漏れた。
彼の唇は、両の乳首をゆっくりと舌で刺激し続ける。
熱から解放された方の先端が、空気の冷たさに触れ、ぴりぴりと痺れた。

彼の体も熱くなっていた。
――いいぞ。来い。
目交ぜで伝えた。

彼はじりじりと腰を沈め、私を押し拡げた。
この期に及んで未だ自制しているかのような様子の彼に、私は自らの腰を浮き上がらせて誘い込んだ。
彼の眉間に皺が寄る。
ぴったりと全てを収めて、ゆるゆると引き抜き、彼をも濡らした粘液の助けを借りてまた収める。
そうして締め上げたまま緩慢に揺すると、彼の顔が一層大きく歪んだ。

彼の硬い腰が動き出す。
躊躇いが残っていたのはほんの最初の内だけだった。
すぐに彼は自主的に私の奥を突き出した。
滑らかに前後されるたびに、私の奥で火が灯る。
激しく突き上げられた挙げ句に腰を密着させてかき混ぜられると、熱い吐息の混じった声が漏れた。
彼の手はがっしりと私の腰を捉えて離さない。
指先までもが燃え上がりそうだ。

――もっとだ。もっと――。

彼の体も同じように熱い。
揺さぶられて、溶け混ざる。
熱の中に。
私の膣が、いや、全身が、痙攣した。
自分の意志の及ばぬ領域で、体が強ばり、震える。
彼もまた、私のなかで震えた。
強く腰を押しつけて。



熱くなった体が収まってくると、彼は荒い呼吸のまま両腕をベッドに付いて私を見下ろし、言った。
「…………申し訳ありません。我を忘れました」
謝るな。
私は言った。

「我など、忘れろ」
412バラライカ×ボリス 灯  ◆JU6DOSMJRE :2010/05/24(月) 21:56:37 ID:XAm9Ue/6

祖国の灯は失われた。
生きすぎた、と私は思う。
私は戦場で死ぬ事を願う。

――しかし、死ぬまでは、生きねばならんのだ。


   二つの心に 赤くもゆる
   こがねのともしび 永久に消えず


冷えた頭に懐かしい歌が蘇る。
私はこの男と共に、同じ灯を燃やし続けるだろう。


死ぬまで。








*作中引用歌:『ともしび(原題:アガニョーク)』
          作詞:イサコフスキー 訳詞:音楽舞踊団カチューシャ
413名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 22:15:53 ID:cs24hdEB
GJとしか言いようがない

先生、張大兄とですだよのカップリングはありなんですか?
414名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 22:20:49 ID:fcGERpSa
GJGJGJGJGッッッッJーーーーーーーー!!!!!!!

姐さんが男前過ぎて惚れるっていうか、神が男前過ぎだ!


なんて言って良いのかわからんけど、とにかくご馳走様でした!!
415名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 23:00:02 ID:hq9fMmnL
うおおおおお!
すげえ! GJすぎる!
なんかもう、ありがとうございます!
416名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 23:09:51 ID:M8BNmFnz
せつねえー!
ごちでした!
GJ!
417名無しさん@ピンキー:2010/05/24(月) 23:16:50 ID:/fnXrLwN
GJ!
不覚にも軍曹に萌えてしまった。
一途で健気だ…なんだろうこの気持ち…
418名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 10:00:31 ID:U0JUYDIT
胸が痛くなるな。
419名無しさん@ピンキー:2010/05/25(火) 20:50:08 ID:Yanm8/Mg
大尉と軍曹の関係に萌えた!
あと、場面場面の描写に臨場感があって、凄く引き込まれた
超GJでした!
420名無しさん@ピンキー:2010/05/26(水) 11:15:45 ID:YwVjo/4/
バラ姐ー!涙が止まらんよ。
421名無しさん@ピンキー:2010/05/27(木) 14:44:35 ID:AXHTOnFn
こんなのをずっと待ってた!良いもん読ませて貰った、ありがとう
422名無しさん@ピンキー:2010/05/27(木) 17:34:27 ID:bLJvYELY
なにこれ切ない。なんか大尉に一生ついて行きたくなった
423名無しさん@ピンキー:2010/05/27(木) 17:43:21 ID:YFgE455I
なんという考証の細かさ&切なさ
こういうの読めるのがここの醍醐味だよね
424名無しさん@ピンキー:2010/05/28(金) 14:22:28 ID:CRqtoLwi
ここの職人の原作愛には頭が下がる。
425名無しさん@ピンキー:2010/05/28(金) 14:31:01 ID:G65+PJUT
Uボート編でロックがレヴィたんを後ろハグで水中に沈み込むシーンに萌えたんだけど
426名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 13:03:44 ID:+g9r4qrh
俺は水中銃をおもちゃ買ってもらってはしゃぐ子供みたいにルンルンノリノリで構えたりしてるところに萌えた
427名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 16:28:19 ID:r22nEWoZ
じゃあ俺は水中銃をお土産に買ってくるバラライカに萌えた
428名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 21:11:24 ID:+JvGVVfP
じゃあ俺は骸骨拾い上げて悲鳴上げるロックに萌えた
429名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 22:39:07 ID:TX7/9mvV
じゃあ、自分はアルフレードと電話でクールなやり取りしているダッチに萌えた
430名無しさん@ピンキー:2010/05/31(月) 22:45:23 ID:5IroDA1T
じゃあ、俺はそんなおまいらに萌えた
431名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 00:06:01 ID:tpDnFlc+
おまいらチームワーク良すぎw

そんな俺はバラとレヴィとエダが仲良くしてると嬉しい
432名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 00:14:02 ID:T/zOmGfM
じゃ俺は人気ない覚醒ファビに萌えよう
あんなじゃじゃ馬っぽい乱暴娘が猫被って丁寧口調のメイドやるなんて、なんて萌えるんだ
リアル厨房の年齢設定だし、岡島さんやその奥さんへの非礼は許す
433名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 00:41:41 ID:D6ljpaET
俺は、ローンレンジャーさ。トントはいないがな・・・
434名無しさん@ピンキー:2010/06/01(火) 01:25:05 ID:D52EyTbY
俺はレヴィとファビが仲良くなってほしかった。

レヴィたんは友好的っていうか結構気に入って世話焼いてたけどファビョがなあ・・・
435名無しさん@ピンキー:2010/06/02(水) 21:39:10 ID:pjxM55NP
テクニシャンなレヴィにガンガン調教される岡島さんが見たい
と今月号見て思った

今シリーズはラブラブドライブ描写が多くて良いな
436名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 00:34:08 ID:omjZVzFS
今の二人の主従関係っぷり見てたら岡島さんがレヴィたんをガンガン調教する光景しか浮かばんわ。
てか既に調教済みだからレヴィたんはあんなに忠実なのか?
437名無しさん@ピンキー:2010/06/03(木) 01:38:24 ID:daP+74Di
犬だって本気になれば人間を殺せるけど忠実だもんな
まあレヴィたんは犬っていうよりやさぐれ狼だけど
438名無しさん@ピンキー:2010/06/04(金) 18:11:26 ID:wSoJ9Lsd
レヴィ→ツンデレぬこ
ロベ→ヤンギレ犬 
姐御→百獣の王 
ソーヤー→病ん鬱ラット
ダッチ→ジャングルバニー
439名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 23:04:42 ID:R0EnB7Ea
>>438
正直ジャングルバニーだけは違和感ありすぎ
ロックにイエローモンキーとつけるのと変わらんし
440名無しさん@ピンキー:2010/06/05(土) 23:09:18 ID:QvJEaERj
おいおいダッチは単にオチ要員でしょたぶん
441名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 03:06:52 ID:MV4rj2dR
>>438
エダはエロバニー
ですだよなんだろ、狐か?

とにかくちょっと百獣の王に捕食されてくる
442名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 10:11:36 ID:E6HpYy7R
無事に帰ってこいよ
443名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 12:33:45 ID:ULrBKPxl
それが>>441の最後の言葉だった・・・


シェンホアが狐ってのは理解できるが枝野どの辺が兎なのかわからんね。
444名無しさん@ピンキー:2010/06/06(日) 14:19:26 ID:MV4rj2dR
>>443
USA

じゃあな、次こそ百獣の王にry
445名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 10:15:05 ID:/7IlnZpC
おっ帰ってきた 
446名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 14:13:55 ID:7NIS1aC1
でもあのアメリカンドリームなプロポーションは、バニーガールにはうってつけだと思うんだ。>枝
447名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 16:01:31 ID:xg2mqk3U
三期予告映像見たせいで激しく妄想乙な夢見てしまった。

何故か再びロックとレヴィが日本に行って、撃たれて血流し倒れてるレヴィをロックが抱き締めながら敵(日本人)の前で英語で喋って強がって凄んでたりして、それ聞いたレヴィたんが「よく言ったロック」的な事言いながら復活して。

そのあと二人は前回ゆっくり日本を案内できなかったからってことでラブラブ観光して、二人の顔が接近したところで目が覚めた。
448名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 16:07:47 ID:wCgPAwM2
>>447
さあ早くその夢を文章化するんだ
449名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 17:17:09 ID:/7IlnZpC
どこで目覚めてんだー!
あと1時間は寝て伝えてくれなきゃだめだろっ
450名無しさん@ピンキー:2010/06/07(月) 19:17:10 ID:xg2mqk3U
俺だって目ぇ覚ましたくなかったわ!!
犬がギャンギャンくそやかましくて目覚めた。

でもほんとにアニメでそれ見てるみたいで、相当悶えた。
自分の脳内なのにw

レヴィたんが煙草の火つけようとライターとろうとしたらロックがそれを先に奪い取ったりしてた。
なんか夢って凄いな。
451名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 15:23:03 ID:ygxSe8/v
ぬこ話バリの神こないかなあ・・
452名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 17:36:20 ID:MpyhGA6e
ぬこは泣けたな。

後話として、探し回ったところ路地裏で朽ちたぬこを発見してしまい、黙って抱っこして連れて帰る道中、横から「ヘイレヴィ、なーにボロ雑巾抱えてんだ?w」なんて声飛ばされても、黙々と歩き続けるレヴィたん……

とか妄想した。
453名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 20:38:59 ID:hqw/lzv6
黙って抱っこして連れて帰る道、途中から黙って寄り添うロック、
2人歩いてるうちにこらえきれず泣きだすレヴィたん。


とかがいいな。
454名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 22:38:14 ID:ygxSe8/v
埋める場所は浜辺かな
途中でエダに会ってからかわれながら教会に埋める3人

とかでもいい
455名無しさん@ピンキー:2010/06/09(水) 23:44:13 ID:3Zugm2rX
暴力教会の裏にも、ペットセメタリーがあるのだろうか?
456名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 00:35:00 ID:t0FnXgFm
やめてー、ロアナプアにゾンビが溢れるーw
457名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 04:43:40 ID:69UeEW/t
一人で浜辺に埋めて、お気に入りだったチキンと弾丸をお供えしてやる・・・

みたいなのがラグーンぽいかな?
458名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 19:57:41 ID:qvpquobS
番外編ロアナプラ・オブ・ザ・デッドをやってほしい
ロメロ映画のオマージュたっぷりで
459名無しさん@ピンキー:2010/06/10(木) 20:55:04 ID:RAADR/PB
レヴィたんは、乱交パーティーに否定的なロックに対して
内心ホッとしたりしたんだろうか
460名無しさん@ピンキー:2010/06/11(金) 00:58:44 ID:BE8+l4CI
>>457
想像しただけで視界が歪むわ!!
おせんべいって、こんなにしょっぱかったっけ…

もう随分とGX買ってないけどレヴィたん出てるのか?
燃料ネタがないってことは出ててもチョイ役程度なのかどうか
ヒロインなのに
461名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 14:35:46 ID:fun+huLq
レヴィたん出てるよ
百合ネタを華麗に投下されてます
462名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 18:34:45 ID:19mVLd1Q
百合ネタ、ラブラブドライブ二回、ジェーンの「あんたの彼氏の日本人〜」発言等
結構投下されてるんだけどな
463名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 19:34:58 ID:Q5a/mCqm
mjd!?

彼氏って言われて嬉し恥ずかしつつ内心舞い上がってるレヴィたんかw
464名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 20:19:22 ID:nYwaTjAR
レヴィたん本人が嫌う相手ほど、ロックを彼氏と呼んでくれる法則w
465名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 21:37:48 ID:fun+huLq
え、ジェーン以外に誰かいたっけか
466名無しさん@ピンキー:2010/06/14(月) 21:52:09 ID:Q5a/mCqm
レヴィたんてそんなにジャネットさんのこと嫌ってたっけ?w
まあ好感持ってるようにも見えないけど。

つか同性で今まで自分から気に入って関わろうとしたのってファビオラくらいなキガス。
他は

姐御→逆らえない。ダッチに叱られちゃう。

ロベ公→クソメガネ!

雪男→なんかロックとあたしの知らない言葉で話してた。

ですだよ→味方になってくれると頼りになる。

ソーヤ→めんどくさい。仕事さえちゃんとこなしてくれればおk。

双子→ロックをからかった!!

キャロライン→フーン

467名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 00:14:43 ID:HzVpozSm
江田さん忘れてんぞ
468名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 02:22:28 ID:6Oz/ynJY
エダ→何だかんだいって気が合う。あたしより胸でかい・・
469名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 02:51:48 ID:Dwq6xfDh
そういや何か忘れてると思ったらヘダさんだったか。
キャロラインはいんのにww

ファビたんはきっと成長したらあの時のレヴィたんの親切も理解できる日がくるだろうさ・・・
470名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 09:23:35 ID:EAP8e/Sb
>>465
チャカさん
471名無しさん@ピンキー:2010/06/15(火) 23:19:05 ID:6Oz/ynJY
あ、なるほど
472名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 07:49:36 ID:RpAjkmKJ
>>468
俺はレヴィたんの大きそうで大きすぎない ほんの少し大きいおっぱいが好きだよ
473名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 10:47:44 ID:3rJjZuHo
うむ。デカ過ぎるよりあのくらいのおっぱいちゃんがいい。
474名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 20:39:44 ID:DE3yGUpC
シェンホアの場合、胸よりもお尻から足のラインに魅力を感じる
475名無しさん@ピンキー:2010/06/16(水) 21:31:59 ID:RpAjkmKJ
ヒール+スリットチャイナだからね。
凄く綺麗に描かれてるよね。
476名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 01:57:23 ID:MGFnoa4X
そりゃあ尻フェチが描いてる訳だし・・・
477名無しさん@ピンキー:2010/06/17(木) 03:49:51 ID:1AOvs4xP
レヴィのキュッとぷりっとした尻はたまらんな
478名無しさん@ピンキー:2010/06/19(土) 10:18:46 ID:n3CNwHEs
>>472
それなんてラー油w
479名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 03:39:30 ID:Phb5FiRJ
水着+水中銃レヴィフィギュアいい出来だな。
五右衛門て人いい仕事してくれる。


でこのフィギュア見てたら、レヴィってこういうグラビアモデルのスカウトとかされてもおかしくないよね。
ルックスは勿論ノリノリでポージングしそうだし。
簡単な小遣い稼ぎ感覚で引き受けてみたらロアナプラ中の話題になってしまい、写真も出回りだしてそれを見たロックさんが……

みたいなの妄想中。
480名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 20:35:19 ID:1EeDvj5q
ヘンゼル×グレーテルに萌えてしまう俺は異端なのか?
481名無しさん@ピンキー:2010/06/20(日) 22:10:16 ID:4TH2te/x
来月も休載か…
夏コミのロクレヴィ本に期待しよう
というか誰か出してくれるのかな…
482名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 00:00:38 ID:LWI+/PMr
俺大阪インテにしか行けないから報告頼む
483名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 06:54:44 ID:dkFq/SV7
夏といったらazasukeさんは?
今年はどうなんだろう。

でもなあ・・・原作がのろのろだし何しろレヴィ分少なすぎるからな・・・
本人がゲスト参加してくれたりで今まで何とか贔屓して漫画出してくれてたけど、いくら描きたくてもネタがなきゃどうしようもないしね・・・
484名無しさん@ピンキー:2010/06/21(月) 17:43:24 ID:b/L5/Q0I
アザスケさんは残念ながら別ジャンルの本を出す模様
485名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 06:58:43 ID:qEwTkhX7
レヴィはアザスケさんがいてくれるからいいじゃねえか…またいつか良作出してくれるかもしれん
他キャラの同人誌なんて出してくれる人自体少ないし…
姉御とですだよ萌えの俺はどうすれば
同人誌なんて贅沢言わんからせめてイラストでもあればいいんだがな
486名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 15:53:01 ID:5sxmb2nR
>>485
イラストなら絵板で描いてる人いなかったっけ
レヴィだけじゃなくて姉御・ですだよ・メイドに枝さんまで多岐に渡ってたような

ぶっちゃけ需要的にレヴィ以外って書いても反応極端に薄いからやる気しない
487名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 16:40:16 ID:Mc4i+JRk
まったくだ、ロクレヴィ以外も好きな奴の声にも、ロクレヴィ以外のカップリングの作品にも反応薄いもんな
ロクレヴィには罪はないが悲しくなってくる
488名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 16:57:35 ID:Wfb0o446
こういう醜い嫉妬に構わずこれからもばんばんロクレヴィ投下してくださいね^^
489名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 17:02:07 ID:FtV4ydNt
>>486
マジで?絵板とかあったのか
探してみる、ありがとう

ブラクラはいいキャラが多いのに
全体的に描き手が少なくて勿体ないよなあ…
490名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 18:18:01 ID:/OzDX3pw
ここはいつのまにかすぐ嫉妬嫉妬言う腐女子のすくつ(なぜかへ(ry
491名無しさん@ピンキー:2010/06/22(火) 23:17:17 ID:YGfwYL/u
ブラクラサーチや他にも検索すれば結構サイトいっぱいあるよ
その中にはロクレヴィはもちろんバラ姐や張ロベ他キャラの同人通販やってるとこもあるし
結構マンガも小説もみんなレベル高い
ピクシブにもレベル高い絵が多いよな
492sage:2010/06/22(火) 23:35:04 ID:rgDkHGss
一冊でもいい、もっちー先生に「まともな」バラライカ本を出して欲しかった。
ロックを誘惑するべく、ジャパニーズスクールガールのスイムスーツを着るちょっとズレた姉御の話とか
493名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 00:59:50 ID:j6fEUxo0
>>491
頑張って絵板探し出したら
業者だらけになっててがっかりしてたところだった
ピクシブか。登録してないけど行ってみる

>>492
それまともじゃねぇ、いつものもっちー先生だ
494名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 01:37:57 ID:iNBbHaan
>>493
ピクシブは見る価値あるよ。是非登録をおすすめする
495名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 04:07:39 ID:o8znK3yj
>>486-487
ボク、21歳未満はきゃだめよ
496名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 17:10:18 ID:TfesXk4U
ロクレヴィ(に限らず他のカプのことも)書いてる職人のことも考えられないガキはこなくていいよ
497名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 19:50:35 ID:iNBbHaan
>>487
ここでは反応薄いって事ないよ。この前の軍曹×バラも絶賛されてたし。
絶対数としてロクレヴィファンが多いけど(自分も含め)
少なくともここでは良い作品には反応くるから悲しくなるな

498名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 21:30:42 ID:j6fEUxo0
もういっそ全キャラ乱交すればみんな幸せなんじゃないかな
499名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 22:26:43 ID:8mk7sPAo
全キャラってことは、フローラやヨランダも参加するのか
500名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 23:30:52 ID:iNBbHaan
キャラがあみだやって当たった者同士は絶対ヤラなきゃいけない・・
っていうのを巻末マンガでやったら楽しそうだけど
501名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 23:52:51 ID:Qh3jm52S
六d×陳
502名無しさん@ピンキー:2010/06/23(水) 23:54:52 ID:+U98m2xl
ダッチ×軍曹
503名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 00:42:43 ID:coCmNH4h
レヴィ×グレーテル
504名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 02:42:33 ID:CKJ/oOSb
結局どうしてほしいの
興味ないやつでも投下あったらすごいすごいって言えばいいの?
505名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 02:57:34 ID:ojOoI9eh
バオ×ロック
506名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 06:37:54 ID:aE2iR2wZ
別に反応薄いことを嘆くのは構わないけど、そういう恨み言を零すのは控えていただきたいね。

つーか一人で勝手に悲しんでろよw

とりあえず途中で止まってる張レヴィをダッチコーヒーでも飲みながら待とうよ。
507名無しさん@ピンキー:2010/06/24(木) 08:12:01 ID:coCmNH4h
まあ話し相手自体が少ないのも辛いだろうさ・・
俺はたまたま多数派だからよかったけど
同じブラクラファン同士けんか腰にならず仲良くやろうぜ
508名無しさん@ピンキー:2010/06/25(金) 20:20:40 ID:Krf3EUda
明日になれば久しぶりにレヴィたんに会えるのか。
オラわくわくしてきたぞ!
509名無しさん@ピンキー:2010/06/26(土) 22:19:18 ID:TXTqgZxW
地デジは3chTVK〜♪もうすぐじゃん!!
プロモ映像らしいけどレヴィのシャワーシーン少しでも入ってたらいいなあ
510名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 01:31:45 ID:QImTL+Es
ロックのお財布を律儀に取り返すレヴィたんに萌えた。


アニメ三期はそれが全てだった。
511名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 09:18:54 ID:eEgEutkP
それで十分じゃないか


あれが、ベタベタ甘やかすダメ父と、甘やかすまいとついついキツくなるダメ母の会話に見える俺は
脳みそ腐り落ちてると思う
512名無しさん@ピンキー:2010/06/27(日) 22:19:45 ID:lLmHTgUs
レヴィのシャワーシーンは二巻くらいに収録かな

あそこの作画は是非原作に忠実に映像化して欲しいもんだ
513名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 01:40:53 ID:TQF6mfGs
どうせなら前後の繋がり関係なくシャワーシーン入れてくれても良かったのに
514名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 07:05:21 ID:VOA/U4/C
>>511
気持ちはわかる。
見てていつぞやに投下された子供ネタ思い出したわw

あのストリートチルドレンからレヴィたんは何て言って財布取り返したんだろね。
やっぱり有名人だから「さっきくすねたもん出しな」程度ですんなり返してくれたかな。

「あのくらいやってもいいじゃないか!」
と子供可愛さにお小遣いあげようとするロックと
「甘やかすことで、後々あいつの命取りになるんだよ!」
っていう厳しさあっての愛情を持つレヴィたんの夫婦喧嘩みたいな。
515名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 08:58:15 ID:+7u2WyKW
ユッキーの写真肌身離さずもってたロックさんにレヴィたん切なさを噛み締めたりしなかったんだろうか
516名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 09:11:52 ID:jzcV5oRh
写真を見たかどうかの会話になんだか萌えた
どこまで踏み込むかのじれったい感じいい
517名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 10:12:10 ID:VOA/U4/C
てか「見たのか?」のあとレヴィたんが何て言ってるのかはっきり聞き取れないんだけど。

あと初回版のジャケめっさべっぴんさん。
OP最初落胆したけどカトラス持って内股で飛んでるカットはかわいい。
518名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 12:54:47 ID:sNCDHRTE
「見るともなしにな」
  訳:べっ別に見ようと思ったワケじゃねぇからな!?たまたまだ、たまたま!
と言ってる。
519名無しさん@ピンキー:2010/06/28(月) 16:55:39 ID:VOA/U4/C
わかりやすい解説と共にありがとうw

ダッチ達が会話してる後ろでファビにちょっかい出してるとこ和んだけど「やめてくださいまし!」が…orz
520名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 01:50:27 ID:fY62VwNp
新OP、レヴィたん睫バッサバサ長ぇな。


つか野郎達はまだなんとか違和感ないけど、ファビオラ以外女キャラの作画酷い。
怖く描くのはブチギレ婦長さんだけで十分だ。
521名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 03:26:46 ID:t/P47MBu
やっぱ作画変わったよな?前のに戻してほしい
ジャケット最高だから買うけど
522名無しさん@ピンキー:2010/06/29(火) 14:34:03 ID:y1xD1FhJ
岡島さんの数歩後ろをついて歩くレヴィたんがイイな〜

あんな無防備無警戒で平然と出歩けるとか、よっぽどレヴィがじぶんの身を守ってくれるって自信があるんだな
523名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 00:56:15 ID:4CjzvKc4
うらやましい奴だよなあ〜
524名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 11:12:58 ID:rG/lvcdy
ようやく放送&ジャケ見れた。

ファビたんは可愛かったけど坊ちゃん老けたなw
ジャケットのレヴィたんかわええ!婦長様こええ!!
例のオリジナル場面ニヤニヤしながら観たw

アニメスレで散々言われてるレヴィたんの声はあれだ、アニメの時系列だと日本編後だから環境の変化で風邪引いちゃったんだよ、だからあんなガラガラ声してんだ。

おっぱい編が楽しみでしょうがない。
鉄棒に逆さまにぶら下がりながら、ましてや腹筋しながら喋るのってなかなかキツいからそこんとこの演技にも注目したいな。
525名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 11:38:51 ID:4CjzvKc4
坊ちゃん老けたよな。でも体だけは妙に小さいからなんか怖い・・
てか登場人物の顔がなぜか全員突然老けてる
ダッチの声も変わってるし・・演出かもしれんけど前の画が良かった
526名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 12:28:39 ID:rG/lvcdy
んっ?ダッチ変わってなくね?

よくよく考えたらめぐぅレヴィたん演じるのかなり久々(おまけ漫画のは女子高生やらラジカルやら幼少期だったりしたし)だから、話進むうちにとり戻していってくれるかな。。
527名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 12:40:47 ID:4CjzvKc4
いやダッチ声優は一緒だけど声というかしゃべり方がTV版と違った
ロックもだけど・・全員妙に陰気なんだよなあ
528名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 15:51:46 ID:XsFwHByp
久しぶりに動いてるの見るとやっぱ火が着くなw

改めてレヴィは俺の嫁だと再認識。
ジャケットかわいすぎる。
529名無しさん@ピンキー:2010/06/30(水) 22:04:57 ID:4CjzvKc4
あのジャケットはブルーレイの初回版?DVDの初回版も同じかな。
あのアマゾンに出てる登場人物の多い絵は何だ?
530名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 04:02:21 ID:REyag16d
車内でのやりとりや震えて立ち上がれないところを手ぇ貸して引っ張ってやったり、とことんファビとの絡みがカットされちまってたな。

ファビちゃんとの絡みはレヴィたんがお姉さんぶったりやけに楽しそうだったりして何かとオイシイんだが。

ていうかレヴィたん、男の財布の中を勝手に見ちゃいけません
531張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:27:48 ID:qIW/fqg5

*本投下分にエロ無し、張さん未登場。
532張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:28:23 ID:qIW/fqg5


庇を貸して母屋を取られる。

昔の人は本当に上手い事を言った。
朝起きて自分の部屋を出たシェンホアは、リビングの惨状を前に立ちすくみつつ、そう思った。

以前、シェンホアはこの街で一番たちの悪い女二人組を敵にまわした結果、見事返り討ちに遭い、
死にかけていたところを、胡散臭いミュージシャンのような風体をした優男に助けられた。
人助けなど、私利私欲の渦巻くこの街に最も似合わぬ行為。
よくもまあ一文の得にもならない事をやるものだと呆れたが、
それでもシェンホアとて死ぬよりは生きている方が有り難い。
病院まで連れて行ってくれた胡散臭い優男ことロットンには、素直に感謝した。

それ以来、ロットンと、同じく性悪女二人にやられるも運良く生きていた掃除屋ソーヤーは、
何かとシェンホアの家に入り浸っている。

その事自体は構わない。
部屋の中でもサングラスを外すことなく、ロックミュージジャン風の格好で全身びっしりキメた男と、
がりがりに痩せた体をゴスロリファッションで包んだ顔色の悪い女が、
部屋の片隅で一心不乱にテレビゲームに興じる様は一種異様だが、
基本的に二人とも大人しくゲームをやっているだけなので、邪魔にはならない。
それに、もともとシェンホアは大家族の中で育ったのだ。
幼い時分は、実の弟妹だけではなく血の繋がらない近所の子どもたちとも、
兄弟同然にひしめき合っていた。
長女で、かつ一番年長だったシェンホアは、あれこれと年少者の世話を焼いたものだ。
だからシェンホアは、一人陰気に過ごすよりは、大勢でわいわい暮らす方が好きだった。
なので、この一風変わった二人も、何かの縁、快く迎え入れてやっていたのだ。


……しかし、しかし、ここまでの行いを許したつもりは無い!

シェンホアは、あんまりな様子のリビングを目の前に、
今起きたばかりだというのに早くも疲労が全身に巡るのを感じた。
533張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:29:41 ID:qIW/fqg5

朝からシェンホア宅のリビングを占拠しているのは、お馴染みソーヤーとロットン。
ソーヤーは土葬された人よろしく部屋の隅に小さく丸まって、ロットンは壁に寄りかかって眠っている。
二人とも夜通しここにいたのかとか、それについてはどうでも良い。
許せないのは、つけっぱなしのテレビ、
エンドレスで電子音楽を垂れ流しながらブラウン管の上に固まっているゲームの画面、
放り出されたままのゲーム機とコントローラー、
夜中に腹でも減ったのだろう、散らばったスナック菓子の空き袋やカス、
そして何より、ここは冷凍庫かアラスカかと思う程ガンガンにきいたエアコン!
部屋のドアを開けた途端流れ込んできた冷気に、あいや、気持ち良いね、と思わず涼みかけたのはほんの一瞬だ。

――ふざけるないね! 一体いくら電気代かかる思うてますか!

一晩中この温度でエアコンを入れっぱなしだなんて、今月の電気代はどんなことになるのだろう。
想像するだけで恐ろしい。
家主であるシェンホアが寝苦しいのを我慢してエアコンなしで眠っているというのに、厚かましいにも程がある。
シェンホアはエアコンを止めるべく、足音荒くリモコンの探索に取りかかった。

自分がいつも置いている所定の場所には見当たらない。
とりあえずゲーム機の電源を切り、テレビを消す。
大人三人はゆうに腰掛けられるカウチの上――無い。
刺繍の入ったクッションの下――無い。
小さなチェストの隙間――無い。
カーテンの下――無い。
立ったりしゃがんだりする度に、
先の仕事で、泣く子も黙るロシアン・マフィアの女ボスに頂戴した脚の傷が疼いて辛い。
ようやく杖無しで歩けるようになったばかりなのだ。
立ち上がると、血が脚の方にざぁっと下がってきて、脈打つようにずきずきと痛んだ。
シェンホアの苛立ちは更に増す。

――このゴミ溜め、どういうことね! 私、一等きれい好きよ!

衣食住足りて礼節を知る。
昔の偉い人の教えの通り、
シェンホアは、常に服も髪も化粧もぬかりなく整え、朝昼晩きっちり栄養のある食事をとり、
掃除も洗濯も万全、部屋はきれいに片づけ、居心地の良いようにしつらえている。
ただ一点、マンハントという物騒な仕事を生業としている以上、
「礼節を知る」と言えるかどうかについては異論を差し挟む余地のあるところだが、
――とにかく。
チャイナドレスの下の太腿に装備したクナイや、
壁に掛かってはいるが決して飾りなどではない刃物にさえ目を瞑れば、
シェンホアの暮らしはとてもまっとうだ。
……少なくとも、シェンホア自信はそう自負している。

それがなぜ、自分の部屋の床にいかにも健康に悪そうなスナック菓子の空き袋などが散乱しているのだろう。
悲しくなりながら、シェンホアはガサガサとゴミを回収する。
床の上には使い終わったコップまで鎮座している。
白っぽく濁ったグラス、これはミルクを飲んだのだろう。
ミルク。大いに結構。
良質なタンパク質やカルシウムが摂れる。
大変健康によろしい。
けれど。

――使うましたらちゃんと洗うね!

ミルクを飲みっぱなしでグラスを放置されると、ミルクの飲み残りが乾燥してこびりつき、
洗ってもすぐにはきれいにならない。
せめて水につけておいてくれれば良いのに……。
しかし、そんな気遣いはこの二人には毛ほども無いらしい。
534張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:30:36 ID:qIW/fqg5

ゴミとグラスでシェンホアの両手が一杯になった時、
ようやくそのゴミの下からエアコンのリモコンが発掘された。

シェンホアは一度台所へ行ってゴミを捨て、洗い桶に水をためてグラスをひたしてから
すぐにリビングへ戻り、エアコンのリモコンを手に取った。
何気なく表示された設定温度を見て、シェンホアの両目は飛び出しそうになった。

――18度!?

思わず二度も見てしまったリモコンの表示画面には、確かに18という数字がくっきりと浮き上がっていた。
18度とは、冷房の設定温度として有り得る数字だったか?

――えと、私、いつも設定温度、何度にしてるましたか……?

冷房として常識的な数値が分からなくなって、シェンホアは一瞬混乱したが、すぐに思い出した。

――28度ね!

冷やしすぎはお財布にもお肌にも良くない。
シェンホアは猛然と設定温度を上げるボタンを連打して、親の敵とばかりに怒りを込めてスイッチを切った。
その勢いのまま窓を開けると、外はまだそれほど暑くない。
これくらいなら風を通していれば充分快適に過ごせる。
それに、部屋の隅でダンゴ虫になっているソーヤー、彼女のあの様子を見ると寒いのだろう。
いつも青白い顔が、更に血色が悪くなっている。
だったらこんなに寒くするんじゃないと怒鳴りつけたいが、仕方ない。
起こして温かいものでも食べさせよう。
そう考え、シェンホアはソーヤーの薄い肩を揺さぶった。

「ソーヤー、ほれ、起きるね。もう朝ですだよ」
彼女はもぞもぞと身じろぎをしてから、眠そうに瞼を上げた。
「シェ…んホア…? ……まダ…眠イ…」
「夜更かしするからですだよ。眠い思うてもお天道様の光浴びれば、これ、オーケーね」
さぁ起きた起きた、とシェンホアはソーヤーの細い腕を取って起き上がらせる。
「お宅もささと起きるよ!」
今度は壁に寄りかかって寝ているロットンに声をかける。
「……む、……良い朝だ」
おはようの挨拶ぐらいもっと自然に言えないのか。
シェンホアは、壁によりかかったまま斜め下を向き、
黒いレンズの入ったサングラスの真ん中、ブリッジの部分を勿体つけて中指で押さえるロットンを、
うんざりした思いで見た。
が、今はそれよりも、この二人に言い渡しておかねばならない事がある。

「あんたら、私の部屋でテレビとエアコン一晩中つけたままおねんね、とても良い度胸ね。
18度、これ冷房の温度違うますよ? ここ、ノーあんたらの部屋、私の部屋ね!
ゴミ出るましたら捨てる! 食器使うましたら片づける! 
次しましたら窓から放り出してやるですだよ。良いか?」
床に座った寝ぼけ眼の二人を目の前に、シェンホアは仁王立ちで宣告した。
「分かるましたか? 返事は?」
「……はイ」
「……心得た」
態度だけはしおらしい二人を前にシェンホアは、ふぅ、と小さく息をついた。
535張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:31:31 ID:qIW/fqg5

「反省するましたら良いですだよ」
しゅんと項垂れる二人を見ていると、なんだかこっちが悪者のような気分になってきて、
シェンホアは早々に説教を切り上げた。

「さてソーヤー、ロットン、朝ご飯はどうするますか?」
片づけと説教で時間を取られたが、軽く何か作って食べようと、シェンホアは台所へ向かった。
冷蔵庫には何が残っていたっけ、そんな事を考えていると、
ソーヤーの機械を通したかすれ声が雑音混じりに聞こえてきた。
「いらな…イ」
「はぁ? 何言うね。朝ご飯抜く、ノーよ。力出るないね」
「食べたク…ナい」
「昨日の夜、そんなに食べるましたか? 夕ご飯、何でしたね?」
まったく、この鶏ガラ娘は胃まで小さいのだろう。
夕飯を食べた上に夜食にあれだけ菓子を食べれば、まだお腹がいっぱいなのかもしれない。
シェンホアはそう思ったのだが。

「ラッ…ふルズ…」
「それ、おやつね」
「…スなイ…ダーズ」
「それもおやつね」
「……」
それもこれも、空き袋がさっき片づけたゴミの中にあった。
「私聞いてるますは菓子じゃない、夕ご飯ですだよ」
「……」
「夕ご飯は何食べるましたか?」
妙に口の重い娘を、シェンホアは問い詰める。

「……食べて…なイ…」
「えええ!?」
ソーヤーの答えに、思わず、シェンホアの声は裏返った。
この娘、夕飯も食べないで夜中に菓子ばかり食っていたのか。
「じゃ、昼は? 昼は何食べるましたか?」
ずい、とソーヤーに詰め寄ると、彼女は崩れかけたマスカラの乗った睫を気まずそうに伏せた。

「……バ…スキン・ロビんス…の…オれンジ・シャー…ベット…。…こレ、とても…おイしい…」
「アイスはご飯に入るません!」
嫌な予感がしたが、やっぱりだ。
アイス・シャーベットだけで昼を済ませるなんて、何を考えているのだ。
しかも、本人も微妙に気がとがめていそうではあるのに、やたらと具体的だ。
フレーバーも、ましてやそれが美味いかどうかも、誰も聞いていない。

――決めるました!

「ソーヤー、あんた全然栄養足りるないね。今、美味いものこしらえるますから、ちょっと待つね」
この枯れた小枝のような娘に、まともな人間らしい食事をさせてやろう。
シェンホアはそう決意して、憤然と台所へ向かった。
「いイ…。食欲、ナ…い」
「いい、じゃないですだよ! おりこうに待っとれ!」
「……」
不健康娘を黙らせて、シェンホアは颯爽とエプロンをつけた。
腰の後ろで、きゅっと紐を結ぶ。

――私、料理得意ですだよ。私の料理まずい言う人、これ、味覚音痴ね。

食欲が無かろうが何だろうが、絶対に食べる気にさせてやる。
使命感に燃えたシェンホアは、勇んで冷蔵庫を開けた。
「――――」
しかし、冷蔵庫の中の光景を見て、シェンホアは唖然とした。
536張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:32:36 ID:qIW/fqg5

――ミルクが……増えとるます……?

冷蔵庫には、シェンホア宅に入り浸るロットンの為にミルクを常備している。
そのミルクの本数が、昨日シェンホアが見た時よりも明らかに増えている。
昨日だって一リットル入りのミルクが五本も入っていたというのに、
今、目の前に八本のミルクがずらりと立ち並んでいるのはどういうわけか。
ミルクとは、人が見ていないところで増殖するものだったか。
シェンホアの頭は痛くなる。
ここタイのミルクは、溶けたシェイクかと思うほど甘くしてあるものが多い。
なので、無糖のお気に入りを買い込みたい気持ちはシェンホアにも分かる。
分かるが、一本一リットルもある上に消費期限だって短いミルクをこんなに買い込んでどうしようと言うのだ。
手近の一本を取ってみると、消費期限は今日だ。
こんなに飲みきれるわけがない。

……決まった。
今朝のメニューはミルク粥だ。
粥ならば、食の細いソーヤーも食べられるだろう。
本当はもっと身になる肉でも食べて欲しいが、そんな重いものを出しても手をつけてくれないだろう。
それでは意味が無い。
そう判断して、シェンホアは手早く米をといだ。
水と一緒に米を強火で煮立て、チキンコンソメを入れる。
その間に青ネギを細かく小口切りに切る。
米の鍋が沸騰したら火を弱火にして、ふつふつと煮つめる。

煮詰まるまでの時間で何か果物でも切ろうと、シェンホアは冷蔵庫を開けた。
確かマンゴーを入れておいたはずだ。
シェンホアは野菜室からマンゴーを取り出し、種のところを避けて切り分けた。
ナイフはするりと果肉に入っていく。
果肉を切り取った後の平べったい種に残った果実を吸ってみると、とろりと甘い。
ちょうど良く熟れて、まさに食べ頃。
濃い黄色をしたマンゴーを食べやすく切り分け、二人分の皿によそってやった。

「ほーれ、あんたら、ご飯できるますまで、これ食べるよろしいね」
とん、と皿を背の低いリビングテーブルに置いてやると、二人は興味深げにじりじりとにじり寄ってきた。
「マンゴーですだよ」
皿の前に行儀良く正座してフォークを取った二人は、粛々とつつき出す。
「――美味いか?」
こくりと、無言で頷くのはソーヤー。
「…………美味いな」
無駄な美声で感想を述べるのはロットン。
それにしてもこの男、いちいち開いた手を顔の周辺に持ってこないと気が済まないのだろうか。
いくつもの指輪をはめた手を口元にかざしてポーズを取る様は、
斜めにした首の角度だの伏せた目線だの手の角度だの、絵にならない事は無いが、
マンゴーが美味かったぐらいの事で、正直少しうざったい。
これがスポットライトに照らされた舞台の上ならば、女子の黄色い声のひとつやふたつ飛ぶだろうが、
ここは、さして広くもないただのリビングだ。
そして、目の前にはマンゴー。
その整った容姿も、美声も、無駄遣い以外の何者でもない。
場違いなこと甚だしいが、これしきの事を気にしていたら精神が保たない。

「それは良いでした。もうそこしで粥もできるますよ」
シェンホアは気にしないことにして、台所へ戻った。
537張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:33:58 ID:qIW/fqg5

鍋の中では良い具合に米が煮詰まり、とろりとした半透明の液体からぷつぷつと小さな泡が出ていた。
普通の粥より少し粘度が高いぐらい。
これで良い。
シェンホアはミルクを取り出すと、粥の鍋にとぽとぽと注ぎ込んだ。
鍋の中の粥が不透明な白みを増す。
お玉でぐるりと大きくかき混ぜ、塩こしょうで味を整え、味見をしてみると、ちょうど良い。
ミルクがまろやかに溶けた米つぶに絡みつき、コンソメの塩みも良い具合にきいている。
少し深めの器を三つ出してよそい、粉チーズをふりかけ、
さっき切った青ネギを上からぱらりと散らせば出来上がりだ。

「お待たせするました」
きれいにマンゴーを食べ終わっている二人の前に、シェンホアはトレイに乗せた器を運んだ。
「ミルク粥ね。これならお腹もたれるないよ」
粥の熱で、粉チーズが程良く溶けてきている。
ちゃんと米から作ったので、どろどろと嫌な感じにはなっていないはずだ。
木の匙を添えてやると、さっきまでいらないと言っていたソーヤーも匙を手に取って、
つんつんと粥をつついている。
そして、先の方でちょっとだけ掬い、小さな口でふぅふぅと息を吹きかけた。
ロットンは神妙な顔で匙を口に運んでいる。
その二人を横目で見ながら、シェンホアも改めて粥を口に運んだ。
ミルクのやわらかい甘さにチーズがこくを加えていて、とろみも理想的。
我ながら美味く出来ている、と思う。
「お…イしい」
「……とてもナイスだ」
シェンホアは、二人のその誉め言葉に満足する。
「おう、お代わりあるですだよ。沢山食べるね」
二人はもくもくと匙を口に運んでいる。
自分が作ったものを美味しいと喜んで貰えるのはとても嬉しい。

ほくほくと気分よく食べ終え、きれいに空になった二人の容器も一緒に下げ、
洗い物をする段になって、シェンホアはハッと我に返った。

――私、なに餌付けしてるね!

自分はついさっきまで、どんどん図々しくなっていく客人に苛ついていたのではなかったか。
それが、何を間違って料理まで作って食べさせてやっているのだろう。
つい長女の世話焼き気質が顔を出してしまった。
飯など与えたら、更に居着くに決まっている。
野良犬や野良猫と同じ原理だ。
奴等は餌をくれる人のところに居着くのだ。
つい情け心を出して、何度同じ失敗を繰り返したことか。
台湾にいた頃はただでさえ貧乏だったのに、
気付いたら小さな弟妹に加え、犬猫の食い扶持までをも確保するのにあくせく働く羽目となった。
この二人に料理をご馳走してやるぐらい、何という事はない。
今回は自分がご馳走してやりたいと思って作ったのだし、
シェンホアは大勢で賑やかに過ごすのが好きだ。
……しかし、これ以上好き放題されるのは困る。
食器を洗いながら、シェンホアはため息をついた。
思い出したように、脚の傷がずきずきと痛み出す。
538張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:34:47 ID:qIW/fqg5
――私、これ、まだ怪我人よ……。

一言ぐらい、片づけを手伝おうとか、そういう心遣いは無いのだろうか。
シェンホアは、リビングで思い思いにくつろぐ二人を肩越しにちらりと窺った。
実際に洗い物をして欲しいわけではない。
こんなもの、大した手間ではない。
しかし一言、手伝おうかと言ってくれれば、その気持ちだけで充分なのに。
掃除だって、あの二人が来ようと来なかろうとするものはするが、
二人が散らかしたものを片づけているのは誰か、分かっているのだろうか。
シェンホアはもう一度、ため息をついた。
別に礼を強要するわけではない。
自らやっている事だ。
だが、時にはちょっとばかり感謝の言葉が欲しいと思っても、罰は当たらないのではないか。

――やめるね。愚痴、みっともないですだよ。

シェンホアは、キュッと水道の蛇口をひねって洗い物を終わらせた。
リビングへ戻ってみると、二人はやけに静かだ。
ソーヤーは部屋の隅にうずくまり、
ロットンはカウチに座って長い脚を組み、小さな手帳に何やら書き留めている。

行儀良くしていてくれるなら、それで良い。
シェンホアはリビングテーブルに家計簿を広げた。
何せ、今月は大変なのだ。
この二人のおかげで電気代や食費が高くつくというのもあるが、
大怪我からようやく復帰したと思った矢先に、また脚に銃弾を頂いた。
病院代がかさんで仕方ない。

それに、仕事道具の柳葉刀。
地球外生命体としか思えぬメイドのせいで、愛用の柳葉刀が壊れた。
修理するのにまた金がかかる。

……確か記憶によると、刃の部分を歯で噛み割られた気がするが……。
冗談のような光景が、シェンホアの眼裏に蘇った。
虎だろうが狼だろうが尻まくって逃げ出したくなるようなメイドが、
シェンホアの放った柳葉刀を歯で受け止めたかと思うと、その一瞬後、柳葉刀の刃が砕け散った。

……いや、気のせいだろう。
きっと気のせいだろう。
鋼で出来た刃を噛み砕くなんて、メイドの歯は超合金か。
何かの見間違いだ。
そうに違いない。
悪夢のようなメイド襲来の記憶を、シェンホアは懸命に振り払おうとした。
539張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:35:52 ID:qIW/fqg5

「……シェンホア、聞きたい事があるのだが」
「――どうするましたか?」
急にロットンが話しかけてきて、シェンホアは慌てて意識を戻した。

「この偽りの世界、因果に縛られしそなたを解き放つは我が宿命。断罪の瞬間は来た。
そらより舞い降りし堕天使、我が命賭けて――」
「何ですねそれ」
思わずシェンホアは遮った。
何の前触れもなく寒気のするフレーズを朗々と詠じられて、シェンホアの背筋はぞわぞわと泡立った。
「……次に使う決め科白」
「…………」
シェンホアは、がっくりと全身の力が抜けるのを感じた。

そんな事ではないかという気がしたが、やっぱりだ。
毎回毎回、よくもまあ鉄火場でそんな口上を述べる暇があるものだと呆れ返っていたが、
日頃からこうしてせっせと考えていたのか。
あの切羽詰まった状況でアドリブだったなら大したものだが、
こうしてちまちまと手帳に書き留めているというのも、ある意味大したものだ。
シェンホアはため息をついた。
大体、敵を目前に滔々と決め口上を繰り出す隙丸出しのアホの子ロットンが無傷で、
敵と見れば瞬時に柳葉刀を閃かせる自分が大怪我とはどういうわけだろう。
シェンホアは全く腑に落ちない。

――真面目にお仕事してるますは私の方よ!

この男、あのメイドとのご対面の際、何か役に立っていただろうか。
思い出そうとするが、とんと覚えがない。
そういえば一度だけ、プロテクターを犠牲に盾らしきものになっていた気がするが、それだけだ。
これで報酬が同額だなんて、どうも納得がいかない。

――私、いつも貧乏籤ね……。
540張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:37:04 ID:qIW/fqg5

「…………ンホア。……シェンホア」
気が遠くなりかけていたが、ロットンの話はまだ続いていたらしい。

「まだあるか、ロットン」
「……この『そら』は、『宇宙』と『天空』、どちらの字がクールだろうか……」
「はぁ!?」
どうやら先程の眩暈がするような口上の事を言っているらしい。
「『宇宙』と書いて『そら』、『天空』と書いて『そら』、どちらが――」
「あー、そんなのどちらでも変わるないね」
「……いや、変わると思うのだが……。ちなみに、『宿命』は『さだめ』、『瞬間』は『とき』と読む」
「どっちも『そら』、同じね! クール、どっちもクールよ!」
どちらも寒いことこの上ない。
ちなみにもへったくれも無い。
なにが『宿命』と書いて『さだめ』、だ。
アホすぎる。

「……しかし、字が」
「字!? 心配するないね! お前の科白、活字になんかなるないから、安心するですだよ!」
「……ならないだろうか」
「ないない! なるわけないね! それよりロットン、あんたまた高いとこから登場する気か?」
「……駄目か?」
「駄目に決まってるます! お前の頭、豆腐ですか? 
この前アバズレも、『拳銃向きの場所じゃない』言うてましただろ?」
「……そうか」
ロットンはさも残念そうなポーズを取ってみせるが、信用できたものではない。
さくさくと一言で――もしくは一発で――この男を黙らせる、あのアバズレが羨ましくなる。
シェンホアは、アバズレこと“トゥーハンド”と呼ばれる、
悪口大会があったら地球代表にだってなれそうな二挺の拳銃使いの女の顔を思い浮かべ、
それから急いでかき消した。

――あのアバズレここに欲しい思う、世も末ですだよ。
541張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:39:06 ID:qIW/fqg5

それよりも今月の出納だ。
「……シェん…ホア」
ペンを握り直した時、すぐ耳元からソーヤーの機械を通した声がして、シェンホアは飛び上がりそうになった。
「ソーヤー! 近いね!」
いつの間にかソーヤーが、シェンホアの斜め後ろにぴたりと体を寄せていた。
半分死んでいるかのような顔色の痩せっぽちな娘は、体温も低いのだろうか。
およそ人間らしい気配がしない。

「……何か用ね?」
「肉が…欲シい…の」
「肉?」
思いもよらぬリクエストに、シェンホアは思わず問い返したが、ソーヤーはこくりと頷く。
彼女もようやく血となり肉となる物を食べる気になったのだろうか。
これは良い徴候、とシェンホアは嬉しくなる。
先程した餌付けの後悔も忘れて、シェンホアは機嫌良く請け合った。
「お安い御用ですだよ。何肉が良いね?」
「…なまニ…く」
「……生肉?」
これまた変わった好みだ。
しかし、元よりこの娘にまともな趣味など期待していない。
「……なかなかツウね、ソーヤー。ユッケか?」
問うと、今度はふるふると首を横に振る。
「ユッケないなら何か?」
首をひねるソーヤーに、シェンホアは不思議に思う。
なぜ自分からリクエストしておいて首をひねるのだろう。
「ほれ、肉言うても色々あるね。牛肉、豚肉、鶏肉……。それとも、魚肉か?」
日本人は生の魚肉、サシミというやつが好きだという事をどこかで聞いた事があるが、
もしかしてそれだろうか?
シェンホアが色々と頭をひねって並べ立てても、ソーヤーはまだ首をかしげている。
「それ違うなら何か? 言うないと分かるませんよ。……どんな料理食べるしたいね?」
シェンホアはさすがにテレパシーの能力までは持っていない。
想像するにも限界がある。
この娘は、一体何をご所望なのだろう?
シェンホアが訝しく思っていると、とんでもない答えが返ってきた。
「食べるノ…は、…ワタシじゃなイ…わ」
「え?」
シェンホアの思考は停止する。
「……じゃあ一体なに――」
すっと目の前に差し出されたソーヤーの細い指につままれてぶら下がっているものを見て、
シェンホアは今度こそ本当に後ずさった。
「――ひっ!」
親指と人差し指でしっぽをつままれ、じたばたしながらぶら下がっている生き物。
「ヤモリ!」
別に爬虫類ぐらいできゃあきゃあ言うような柄ではないが、あまりにも不意打ちだった。
さっきからやけに静かだと思っていたのは、これだったのか。
ヤモリを喜々として捕まえ、飼育したいと言っている、そういう事か。
「生肉、ヤモリにやるますのか……?」
「そウ…よ」
ソーヤーは嬉しそうに頷く。
「ふざけるないね、このアホちん! うち、ヤモリにやる餌のお金、無いですだよ!」
ただでさえ厳しい家計を如何せん、と今まさに頭を悩ませているのが分からないのか、
とシェンホアの堪忍袋の緒は今にも切れそうだ。
「ダ…め……?」
「駄目ね! うち動物園違うますよ!」
絶対に許すものか、とシェンホアは眦を上げた。
「……分かっ…タわ」
しょんぼりと肩を落とし、すごすごと引き下がるソーヤーを見ると
仏心が沸き上がりそうになるが、ぐっと抑える。
542張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/01(木) 21:40:16 ID:qIW/fqg5

そもそも、ヤモリは生肉など食べるのだろうか。
生きた昆虫とか、そういうものを食べるのではなかったか。
シェンホアは思ったが、そんな事を言ったら今度は家中が虫で溢れ――――

「ソーヤー!!」

つい大きくなったシェンホアの声に、ソーヤーはびくっと振り返った。
「あんた、仕事場から生肉調達して来るないよ!」
彼女は“掃除屋”。
その気になれば、喫茶店から角砂糖を失敬してくるたやすさで、新鮮な生肉がいくらでも手に入る。
それに気付いて、シェンホアは青くなった。
ソーヤーの目に残念そうな色が浮かんだところを見ると、釘を刺しておいて大正解だったらしい。
そんなもの持ち込まれたら、ヤモリの大好きそうな蛆までわいてしまうではないか。
ソーヤーとヤモリはご機嫌だろうが、シェンホアはたまったものではない。

「ソーヤー、ヤモリ、ちゃんと逃がすですだよ。
ヤモリ、狭いとこ閉じ込めるされますより、広い外、よりハッピーね。オーケー?」
「……オー…ケー」
口約束だけでは心許ない。
しっかり外に逃がすところまで監視して、シェンホアはやっと一息ついた。

――疲れるました……。

まだ太陽は燦々と空高く輝いているというのに、この疲れようは何だろう。
シェンホアは脚の傷が癒えるまでは仕事の依頼を受けるペースを落とすつもりでいるが、
この二人は碌に怪我もしていないくせに、出かける気配が全くない。
そっと様子を窺っていると、ソーヤーはゲーム機ににじり寄っていって、電源を入れた。
それを見て、ロットンもいそいそと参加する。
……この調子では、また一日中居座る気だ。
それが悪いとは言わないが、ゲームから流れてくるのっぺりした電子音楽が、
シェンホアのささくれかけた神経に障った。

「……ちょと買い物に出かけるます」

気分転換が必要だ。
そう思い、シェンホアは身支度をして部屋を後にした。
二人はゲームに熱中していて、振り返りもしない。
上げられた二人分の片手だけが、ひらひらと「いってらっしゃい」と言っていた。




543名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 22:08:45 ID:rp1DyLx7
ぜひ漫画で読みたいと思うほど面白い


けど、これ今後エロ有りなの?
個人的には無くても良いよ
このまま3人のアダムス・ファミリー的ライフ
スタイルを傍観していたい
544名無しさん@ピンキー:2010/07/01(木) 22:48:55 ID:uGtYyPKd
こういうの、大好きだw
GJ! 続きも楽しみにしてる!
545名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 19:30:50 ID:J4h42Dqe
シェンホァアアアア!!!
ですだよ好きな俺への御褒美ですか、全裸で正座待機してるます!
ミルクが増えてたところでフイタ
やりとりが本物っぽすぎる、うめぇえええ
546名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 19:48:27 ID:4fjalHrB
やっぱりアニメ3期はラグーンメンツちゃんと出てて兄貴や姉御も要所要所に絡んでてシェンホアも参戦しててブラクラらしい雰囲気の小説版がよかったな。
って今頃言ってもどうしようもないけどさ。
547名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 19:53:04 ID:2agh8MBI
アメリカン忍者が動いてるところ、観てみたかったよねえ
548名無しさん@ピンキー:2010/07/02(金) 22:50:57 ID:4aGQipXB
続きはまだですか!
なんとハイクオリティーな出来!!
これ、公式の小説として出せるよね
549名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 03:04:37 ID:GhLYSU86
もういっそぬこ話OVA化しようぜ
550名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 04:10:37 ID:9hhVVQs3
ブラックラグーン外伝〜Cat meet a girl〜
551名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 06:19:37 ID:3gNn0uf6
傍若無人に見えるロットンやソーヤーだけど、
シャンホアの誕生日が近づくと一所懸命、紙
テープで鎖リボンつくったり、くす玉準備してそう。

きっと、良い子。だからそんな二人を見捨てないでね
シャンホア姐さん
552張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:43:41 ID:D/UfmGvZ
>>542の続き

*若干ロクレヴィ色有り、まだエロは無し。
553張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:44:29 ID:D/UfmGvZ


 * * *

部屋の主である自分が、どうして追い出されないといけないのか、
いや、追い出されたわけではないが、なぜこんな事に……。
表の通りをとぼとぼと歩くシェンホアは情けなくなったが、
せっかく出て来たのだから用事を済ませよう、と頭を切り換える。
傷薬、包帯、それからシャンプーの予備も無くなっていたはずだ。
冷蔵庫は林立するミルクに占拠されるばかりで、肝心の食材はほとんど使い切っている。
まず市場に行って、足りないものは雑貨屋と薬局で調達すれば良い。
頭の中でそうプランを組み立て、シェンホアはまず市場へと足を向けた。


市場は込み合っていた。
軽く食べられるものを出す屋台や、野菜や果物、肉といった食材を売る店、
こまごまとした日用品を売る雑貨屋、安っぽい洋服屋、胡散臭い宝飾品を売りつける店、
どこから拾って来たのか分からないがらくたを並べる店、そんな小さな店が立ち並び、大勢の人で賑わっている。
当然のように、銃だの弾丸だのナイフだのを売る店があるのが、この街らしいといえばこの街らしい。
そんな店を覗きながら、さて何を買おう、と物色するのは楽しい。
シェンホアが、色とりどりの野菜や果物が並ぶ青果店の屋台の前に差し掛かった時、
前方に見覚えのある二人組が見えた。

――おや、アバズレとボンクラね。

海賊まがいの運び屋をやっているラグーン商会の二人組。
触るな危険、とばかりに街中の人間が警戒している二挺拳銃の女、レヴィと、
鈍くさいくせになぜかこの街に馴染んでいる日本人の男、ロック。
この二人と組んだ初めての仕事の際は、
書類を持っていながらまんまと拉致されたボンクラことロックを仕方なく助けに行ってみれば、
実は全てあのアバズレの狂言だったと後から分かった。
シェンホアはすっかり良いように踊らされて、腹立たしいことこの上ない。

その二人、そもそもは身代金目的でレヴィがロックを拉致したのだと聞いた時は、大層驚いたものだ。
今では生まれた時から一緒にいますという雰囲気で、当たり前のような顔をして並んで歩いている。
同僚だろうがなんだろうが、オフの時まで一緒にいる必要はなかろうに、
街の中でどちらかを見つければ、大抵もう片方が側にいる。
まさに、縁は異なもの味なもの、だ。
554張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:45:48 ID:D/UfmGvZ

二人は何か買い物をし、店員から茶色の大きな紙袋を手渡された。
レヴィが受け取り、左腕で抱えるように紙袋を持った。
すると、隣にいたロックが何か彼女に話しかけた。
レヴィは、いい、というように首を横に振る。
彼が荷物を持つ、と言っているのだろう。
そういえば、先の荒ぶるメイドの件では、レヴィも腕を負傷していたはずだ。
見ると、彼女の右腕にはまだ包帯が巻いてある。
少しの間押し問答をしていたようだが、結局、レヴィは紙袋をロックへ渡すことにしたらしい。
半身を彼の方に寄せるようにして差し出した。
ロックは、紙袋とレヴィの体の間に手を滑り込ませて紙袋を受け取る。

――ボンクラにしては、なかなか気利くますね。

彼がレヴィの右側を歩いているのは、意図的なことなのかそうではないのか、
それはよく分からないが、二人は人混みの中でもはぐれることなく、言葉を交わしている。
猛獣か爆弾かと恐れられていても、ああやって笑っているとレヴィも普通の女に見える。

……ただし、M字開脚で露天商の前に座り込み、嬉しそうに中古の銃を吟味していなければ。

せっかく二人で買い物に来たのなら、洒落たワンピースの一枚でもねだってみれば良いものを、
とシェンホアは呆れる。
レヴィは休日であろうとなんだろうと、いつ見てもボロ雑巾みたいな黒いタンクトップと、
裾がかぎざきになったデニムのホットパンツを着用している。
無駄な脂肪が一切ついていない引き締まった体は一級品であるし、
目つきと口が絶望的に悪いだけで、顔面の造作は充分すぎるほどに整っているのだ。
女らしいワンピースだって、似合うだろう。
彼女が欲しいと言えば、ひらひらした服の一枚や二枚、彼は喜んで買ってくれるに違いない。
男の気を引くために洒落た格好をするのは馬鹿らしいとは思うが、
それ以前に、女ならば、ちょっとは小綺麗な格好をしてみたいとかいう欲求は無いのだろうか。

だが、彼女の興味は相変わらず無骨な鉄の塊にしか無いようで、
彼の方も後ろから覗き込んでは肩越しに何か話している。

本人達がそれで良いのならば良い、が。
それにしても、あの二人は一体どういう事になっているのだろう、とシェンホアは途方に暮れる。
こうして見ていると、ただの――ではないが、ちょっと変わった――仲良しカップルにしか見えないのだが、
本人達はあくまでも同僚です、という姿勢を崩さない。
もう面倒くさいから、さっさとくっつけば良いのに。
シェンホアはいささか投げやりな気分になってくる。

シェンホアとて、恋だの愛だのにうつつをぬかす十代の女子ではない。
誰と誰がくっついたのくっつかないの、そんな事に興味は無い。
しかし、あの二人は本当に面倒くさいのだ。
555張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:46:29 ID:D/UfmGvZ

いつだったか、朝っぱらからレヴィが眠たそうにしていたので、
「おう、昨夜はボンクラとお楽しみか?」
と声をかけたら、さぁっ、と彼女の目元が赤く染まった。
その一瞬後、
「下らねェ事ぬかしてると、突っ込まれる穴、ひとつ増やしてやるぞ」
ぐいと襟元を掴まれ、悪魔のような目で凄まれた。
「――な……、ジョーク、ただのジョークですだよ」
「笑えねェジョークだな、“ですだよ”。てめェのセンスは絶望的だ」
「……私、本省人よ。アメリカン・ジョーク上手いないね」
にゃはははは、と笑って誤魔化したが、あの目は怖かった。
ちょっと本気で怖かった。

大体、「昨日はお楽しみか」なんて、「ご機嫌よう」の挨拶みたいなものではないか。
あの女も一応は大人なのだったら、「ああ、張り切りすぎて腰が痛いぜ、HAHAHA!」ぐらい返してみればどうか。
少なくとも、「誰があいつと楽しむってんだ、バーカ」くらいの反応を予想していた。
……それが、目元を赤く染めた上に、あのキレよう。
ただならぬ関係である事を自ら暴露しているようなものだ。
迂闊にからかえもしない。
非常に、面倒くさい。


露天商の前にしゃがみ込んでいたレヴィが立ち上がった。
また、二人並んで歩いていく。
二人の間の距離は、肩先が触れ合うかどうか、といったところだ。
「同僚」と言い張っても充分通用する距離。

しかし、あの二人の場合、彼らを包む空気が独特なのだ。
肌で、お互いの存在を感じているかのような。
直接見ていなくとも、相手がどう動くか、自然に呼吸するように感じ取っている。
そんな空気。
一緒にいると、二人の間の空気が同じ色になる。

あの二人は、皆の前では決して、手を繋ぎも、腕を組みも、腰に手をまわしたりもしない。
けれど、あの手はきっと互いの肌の温度を知っている。
そんな空気が、二人の間に挟まっているのだ。

まいった、とシェンホアは嘆息する。
バカップルよろしくいちゃついていれば、こちらも存分に馬鹿にしてやれるのに。
556張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:47:17 ID:D/UfmGvZ

それにしても、あのボンクラといいアバズレといい、けったいな趣味をしている。
シェンホアからしてみれば、信じられない。
銃もナイフも使えない、鉄火場はからっきし、敵に出会えばさらわれる、ちっとも使えなさそうな男のどこが良いのだろう。
彼女の趣味は最悪だ。
しかし、あのボンクラの趣味はもっと分からない。
口は悪い、態度も悪い、目つきも悪い、ちょっとばかり見た目は良いかもしれないが、
感心するところは銃の腕だけ、柄の悪さは折り紙つきの女と、よくもまあ四六時中一緒にいられるものだ。
あんな女と同衾なんて、とんでもない話だ。
いくら見事な体を持っていたって、猛獣と同じベッドに入るなんて、死んでも御免だ。
虎の穴にのこのこと裸で入っていくようなもの。
あのボンクラ、よく生きて出て来られる、とシェンホアは心の底から感心する。

……それとも、あれだろうか。
まさかとは思うが、普段は黒豹、ベッドの中では黒猫、なーんて…………。

………………………………………………。

――いやいやいやいやっ! 私いま、なに想像するましたか!

シェンホアは、頭の中に思い浮かべてしまった映像を、ぶんぶんと振り払った。

……恐ろしいものを想像してしまった。
ほんわりとエフェクトのかかった、花か星でも飛んでいそうな薄桃色のロマンス映画的な、何か。

――そんなアホな事、あるわけないね!

絶対に無い、と言い切れないところがあの女の空恐ろしいところだが、
いやしかし、それが本当だったらショック死する。
そう、あのアバズレもボンクラも変な趣味をしているだけだ。
割れ鍋に綴じ蓋。
両方、変態。
ただそれだけだ。
そうに違いない。


と、ロックが斜め後ろを振り返り、何かレヴィに声をかけた。
彼女も振り返り、二人揃って方向転換をしてこちらの方に向かって来たので、
シェンホアは慌てて踵を返した。

これ以上面倒な事には関わり合いになりたくない。

あの女に関わると、本当に碌な事がないのだ。
一度目は無駄働き。
二度目は死にかける。
三度目は脚を負傷した上に柳葉刀まで粉々に。
他にも何かあったような気がするが、いずれにせよ。

――触らぬ神に祟り無し、ですだよ。

ただし、“神”は“神”でも彼女は“疫病神”だ。
557張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:50:18 ID:D/UfmGvZ

つい市場を出てきてしまったシェンホアは、さて、これからどうしようと思案する。
別の用事を先に済ませても良いが、と思いかけて、そうだ、張大兄のところへ行こう、と思いつく。
一応シェンホアはフリーランサーということになってはいるが、
香港系のチャイニーズ・マフィア『三合会』から仕事をまわしてもらう事が多い。
その『三合会』タイ支部のボス、張とは長い付き合いだ。
今は脚を負傷した事で融通をきかせてもらっているが、
いつから本格的に仕事を受けられそうか、一度報告に行かなければ。

そうと決まれば話は早い。
シェンホアは足取りも軽く、『三合会』のビルへと向かった。

 * * *

「やー、ご免なされ。久し振りですだよ」
顔見知りの警備員と受付嬢に挨拶をして、シェンホアは『三合会』の小綺麗なロビーを横切った。
彼らも目礼だけで通してくれる。
「張大兄、おいでなさるか?」
エレベーターホールにいた黒服の男に問うと、
「ああ、いらっしゃる。客人が見えているようだが、お前なら構わんだろう。一番上だ」
顎で最上階を示す。


エレベーターで最上階まで昇って降りると、その階には社長室と重役会議室しか無い。
社長室をノックしようとして、そういえば客人が来ていると言っていた事を思い出し、
シェンホアは重役会議室の方のドアを開けた。
今の時間は使われていないらしいこの部屋で、客人との会談が済むまで待とう。

誰もいない会議室――と思ったが、予想に反して、絨毯敷きの床の上には子どもが座り込んでいた。

――この子、誰ですね?

年の頃は三歳か四歳といったところだろうか、黒い髪をした東洋人らしき少年が床に尻をつき、
ぺったりと座って本を広げていた。
シェンホアにはとんと見覚えのない子どもだ。

「あー、はじめました。どこから来るましたか?」
とりあえず笑いかけてみたが、子どもはきょとんとした顔でシェンホアを見上げるばかりだ。

「?好。从?里来?」
こんにちは。どこから来たの?
と、今度は中国語で訊いてみた。
すると、子どもは嬉しそうににっこりと笑った。

「とおく!」

……言葉が通じても、これではどうしようもない。
シェンホアはそれ以上詳しく訊くのは諦め、手近の椅子を引いて腰掛けた。
558張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:52:33 ID:D/UfmGvZ

それにしても不可解なのは、こんな小さい子どもがこんなところにひとりでいる事だ。
悪党の巣窟のようなこの街で、小さな子どもの姿を見る事は滅多に無い。

――まさか、張大兄の隠し子……?

ふっと頭をよぎったが、いやいや、そんなはずはあるまい、とシェンホアは即座に打ち消す。

多分、張大兄を訪っているという客人の子どもだろう。
誰だか知らないが、こんな物騒な街に子どもを連れてきて、
しかもひとりで放置しておくなんてもってのほかだ。
何を考えているのだろう、とシェンホアが幼い子どもを見ていると、こちらを見上げた彼と目が合った。
すると、彼はおもむろに読んでいた本を手に持って、ほてほてと近寄ってきた。

「よんで」

舌足らずの中国語で懐っこく本を差し出されたシェンホアに、断るという選択肢は無い。
子どもは好きだ。
――いや、好きか嫌いかという前に、本能で長女モードになる。
シェンホアのDNAには『長女』という塩基が組み込まれているに違いない。

「我? 好的」
私が読むの? いいわ。
と、シェンホアは小さな体を抱き上げて、膝の上に座らせてやった。
子ども特有の体温の高さと体のやわらかさが、故郷に残してきた弟妹を思い出させた。
もっとも、彼らも今では青年と言って良いぐらいに成長しているだろう。
……それをこの目で見る事は適わないだろうが。

膝の上の子どもが振り返って、曇りのない目で見上げている事に気付き、
シェンホアは慌てて彼の要望に応えるべく本を取った。

……いや、“本”というより、これは“小冊子”だ。
どれだけ読み込んだのか、黒ずんでよれよれになっている。
その紙の束の表紙を見て、シェンホアは眉をひそめた。
なにやら筋骨たくましい男が、ロットンとはまた違う意味で妙なポーズをとっている。
中国語なら任せろと思ったが、書いてある文字はアルファベットだ。
「……コウガ、デス、シャドー……?」

――英語?

「デス・シャドー」は"DEATH SHADOW"で良い。
……いや、あまり良くない気もするが、まぁ良いことにする。
しかし、その前の「コウガ」とは何だろう?
これだから英語は嫌だ。
その後に続く「ニンジュツ」も「シナン・ショ」も何の事だかさっぱり分からない。
シェンホアは、知らない単語ばかりが踊る本を前に、早くもため息をつきたくなった。

しかし、膝の上の彼はわくわくして待っている。
シェンホアが持つ冊子をじっと見つめる彼の後頭部から、期待の波動が満ちあふれている。
たとえ分からずとも、やるしかない。
大切なのは、子どもの期待に応える事。
自分が理解しているかどうかなど関係ない。
559張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:53:27 ID:D/UfmGvZ

シェンホアは意を決して表紙をめくったが、その先はまさに胡散臭いとしか言えない、イッツ・ア・ミステリアス・ワールドだった。

分身の術、変わり身の術、空蝉の術、隠れ身の術、影縫い、口寄せ……。

――何ですね、これ!

この上なく怪しげな術を英語で解説してあるその冊子は、“ニンジャ”についての本であった。
ニンジャとは何かという解説本でも、ニンジャを扱った物語でもない。
ジャンプ力と走力を鍛える為に、長く垂らした布が地面に付かないように走れ、だの、
胸に当てた笠が落ちないように走れ、だの、
成長する麻の上を毎日飛び越えろ、だの。
どう見ても、「これを読んでニンジャになろう!」の本だ。

――この子、何者ね……。

シェンホアの頭はくらくらしてきた。
彼は目を輝かせて、シェンホアが冊子に書いてある英文を適当に訳した中国語を聞きながらかぶりついているが、
これがこの子の趣味なのだろうか?
だとしたら本気でこの子の将来が心配だが、そんなわけはないだろう。

――こんな本この子に与えるましたの、誰ね!

大方、誰か周辺の大人が与えたに決まっている。
こんなもの、子どもが読む本ではない。
こんなの読んで育ったら、十年後には愉快なロアナプラの仲間達に加わっていそうで怖い。
この純真そうな子どもに、人の道を外させるのは忍びない。

時刻が分からない時に猫の瞳孔の大きさを見て何時かを知る「猫時計の術」であるとか、
潜入先の番犬に吠えられない為に自らも異性の犬を連れていってその番犬にあてがう「合犬の術」であるとか、
あいや、結構面白いね、などとついうっかり興味津々と読んでしまっているのに気付き、
こんなことではいけない、とシェンホアは気を引き締める。
しかし、この本を気に入っているらしい彼は大変に楽しそうだ。
英語はまだ読めないのだろう、適当な訳でも中国語で読んでもらうと嬉しいらしい。
前のめりになって冊子にへばりついている。
彼が楽しんでいるならば、それで良いのか……。

どうしたものか、と思った時、社長室に繋がるドアが開いた。
560張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:54:26 ID:D/UfmGvZ

「おお、シェンホア。来てたのか」
「張大兄、お邪魔しています」
ドアの向こうから現れたのは、『三合会』タイ支部のボス、張維新だ。
今日も仕立ての良いブラックスーツを着こなし、
黒いレンズの入ったティアドロップのサングラスをかけている。
黒髪をポマードで整えたのも、嫌味がなく決まっている。
いつ見ても隙の無い姿――その姿の後ろに、妙な黒っぽい巨体が影のように張り付いているのが見え、
シェンホアは眉間に皺を寄せた。

張に続いて現れたのは、怪しげな黒装束――そう、たった今この子どもと一緒に読んでいた冊子に
載っていたような格好――の男。
黒い覆面のせいで顔の造作までは分からないが、その隙間からは青い目が覗いている。

瞬時に、シェンホアの警戒心は最高値まで跳ね上がった。
あの黒装束といい、覆面といい、背中に背負った刀といい、忘れもしない。

「お前は……!」

ザルツマン号襲撃事件の落とし前をつける為、乗り込んだ廃工場で相まみえた男。
睨み合いの末、何一つ手を出す事が出来ずに、逃げられた。
――いや、それだけではない。
武の道を極め、手練れ揃いの『三合会』の中でも一目置かれる程になったシェンホアが、気圧された。
あの髪一筋も動かせぬ対峙の間、シェンホアは、自分が異様な黒装束の男に圧倒されていた事を認めざるを得なかった。
何たる恥辱。
張大兄からの信用に傷がついたばかりでなく、手も足も出なかったとあっては、己の矜持が黙っていられない。

その男が、目の前にいる。
シェンホアの双眸は、研ぎ澄まされた刃のように鋭くなった。
そろりと、手が太腿に隠したクナイへと伸びる。

しかし、張はシェンホアの殺気をきれいに受け流し、飄々と黒装束の男の肩を叩いた。
「いやーあ、シェンホア、丁度良いから紹介するぞ。こいつはシャドーファルコン。
今は香港の総主の元、日々重大なる任務に当たっているグレーターNINJAだ」
「……………………はぁ?」
なんだかもの凄くやる気を削がれる単語を聞いた。
「……………………シャドーファルコン……? グレーターNINJA……?」
シェンホアの顔は、うすら苦いものを噛んだかのように渋くなった。
「そしてシャドーファルコン! この女性はシェンホア、またの名をシャドークレイン!
お前にだけ特別に明かすが、彼女もマスターNINJA、俺の一番弟子だ。くれぐれも内密にな」
「Oh,このお方もマスターNINJAでいらっしゃるのですか?」
「おう、そうだ。お前の先輩になるんだからな、敬えよ」
「御意! そうとは知らず、拙者、先日は大変なご無礼を……。どうかご容赦下され」
シャドーファルコンなる彼は、突然跪いたかと思うと、屈強な体を丸めて手をつき、地面に額をこすりつけた。
シェンホアの口は、あんぐり開いたまま塞がらない。
561張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:55:21 ID:D/UfmGvZ

――シャドークレイン、誰の事ね……? 私、いつから“マスターNINJA”なるましたか……?

土下座した黒い物体を前に唖然として立ちすくむシェンホアに、
張は顎を小さく動かして「合わせろ」と合図をしている。

「あ、あー。気にするないね。これからは仲良くやるですだよ」
シェンホアが上ずった声で言うと、シャドーファルコンはがばっと顔を上げた。
「お許し頂けるので!?」
「ん、ああ、もちろんですだよ……」
「なんとご寛容な! 拙者、痛み入ります……」
演技でも何でもなく声を詰まらせる巨漢の男から、シェンホアは目を逸らしたくてたまらない。
「……良いから早く立つね」
「まこと、お優しいお言葉……! かたじけない事に御座います」
……ああ、鬱陶しい。
なんて鬱陶しいのだろう、この男は。
どうでも良いから早く帰ってくれないか、シェンホアがそんな事を思っていると、
先程まで一緒に冊子を読んでいた子どもが、おぼつかない足取りでとことこと寄ってきた。

それに気付いたシャドーファルコンは、熊のような手で、よしよしと子どもの頭を撫でた。
「そなた、粗相は無かったか?」
この子はシャドーファルコンの英語など理解していないのだろうが、にこにこと笑いながら、
手に持った冊子とシェンホアを交互に指さした。
「もしや、このお方に忍の極意を手ほどきして頂いていたのか?」
子どもは笑顔のまま、うんうん、と頷く。
分かっていない。
この子は絶対に分かっていない。
「なんと有り難き幸せ! 拙者、この感謝、如何に表明して良いか……!」
「……もう良いね。この子、とてもおりこうですだよ」
「勿体ないお言葉に御座います……!」

「あー、シャドーファルコン、ご足労だったな。もう帰っていいぞ。
道々、弱き子どもを狙う悪党どもに充分警戒しろよ。
小さき者を守ってこそのグレーターNINJA。分かるな?」
「ははーっ!」
話を畳もうとしてくれたらしい。張が横から入った。
「では、日が暮れる前に行け。達者でな」
「Oh,マスターのお二方も、どうかお達者で……」
ようやく立ち上がったシャドーファルコンが、子どもの手を引いてエレベーターホールに出ていった。
到着したエレベーターに手を引かれて乗り込んだ子どもが、ばいばい、と小さく手を振る。
思わず顔がゆるんで、シェンホアは手を振り返した。
あの子だけだったら、また会っても良いかもしれない。

だが。
562張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:56:27 ID:D/UfmGvZ

「張大兄、なんです、あの“シャドークレイン”とは!」
シェンホアは、自由に操れる中国語で張に詰め寄った。
「ああ、鶴だ、鶴。お前にぴったりだろう?」
「そうじゃありませんっ! 一体どういう事になっているのか、私に分かるように説明して下さい!」
「……分からなかったか?」
「分かりません!」
せっかく浮き立つ気持ちでここを訪れたというのに、今はぐったりだ。
シェンホアは、通された社長室のソファーに深々ともたれかかった。

「あの男、ちょっと面白かったんで、うちがもらったんだよ。腕は立つしな。今は香港にいる。」
「……でも、グレーターNINJAだの何だのというのは……」
「ああ、それか。あいつは忍者だ」
「はぁ?」
「いやー、うちのNY支部が出してる忍者グッズ通販のお得意様だったようなんだな。
どうやら奴さん、そこで買った指南書を真に受けて生真面目に修業したら、本当に忍者になれちまったらしい」
ははは、と楽しそうに笑う張は全く大物だ、とシェンホアは思う。

「で、あの子はどうしたんです……? まさかファルコンの子ども……?」
青い目をした親から生粋の東洋人の子どもが生まれるとも思えないが、もうここまできたら何も驚くまい。
すると、張は「違う、違う」と扇ぐように手を振った。

「あの子はファルコンの弟子だ」
「弟子ぃ!?」

まさかどこからか拉致して来たのか?
それとも、インチキ通販の顧客を増やす為?
あんないたいけな子を汚い商売の毒牙に……!

「おいおい、そんな目で見るな、シェンホア。
何を想像したのかは知らんが、あの子はあいつに懐いてるんだぞ。
香港のガキだが、どうやら両親を亡くしたらしくてな。
それをファルコンが拾ってきちまったんだと。なかなか仁の心の厚い奴じゃないか。ん?」
「……なら良いのですが」
「いやぁ、お前があの子を見ていてくれて助かったぞ。さすがお前は子どもの扱いが上手いな」

張は気軽に、ぽんぽん、とシェンホアの頭に軽く触れていく。
そんな張こそ全く子ども扱いだ、とシェンホアは苦々しさを飲み下した。
張にとってシェンホアは、今でもずっと、あの貧民街であくせく働いていた貧相な小娘にすぎないのだろう。

「そう思われるなら子どもをひとりにさせないで下さいよ」
「それはそうだが、血生臭い話をしているところに子どもを置いておくわけにもいかんだろう。
……どうした、今日は機嫌が良くないな」
「いいえ、別に」
シェンホアは朝からの顛末を思い出し、ふぅっと長く息をついて天井を見上げた。
563張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 20:57:59 ID:D/UfmGvZ

張はそんなシェンホアを眉を下げて見ていたが、
おもむろにスーツの上着を脱ぐと、部屋の隅に立っていたコートハンガーに掛けた。

「それはそうと、怪我の具合はどうだ? 良くなってきたか?」
張がシェンホアの隣に腰掛けたので、シェンホアはソファーの背もたれに預けていた首を起こした。
「はい、まだ痛みは残りますが、もう杖なしで歩けます。
前のように仕事を受けるまでにはもう少しかかると思いますが……」
「ああ、良い良い。そんな事は気にしないで、まずはしっかり治せ」
「はい、ありがとうございます」

張は人心を掴むのが上手い、とシェンホアは思う。
黒いサングラスの奥の目はいつも冷徹に大局を見ており、
情に流される事なく計算を働かせているはずであるのに、
時折、人の心の隙間にすっと入り込むような気遣いをしてみせる。
所詮、それもまた、駒を駒として最大限の力を発揮させて動かす為の手段に過ぎないのだろう。
分かってはいるが、もしかしたら、そこに少しばかりの張の本心からの心遣いが混ざっていはしないか。
シェンホアは、馬鹿馬鹿しい事だと思いながらも、その期待を完全に抑えきることが出来ない。

「最近どうしている?」
張がジタンを一本取り出し、慣れた様子でくわえてから、「吸っても?」と聞いた。
シェンホアは煙草を吸わない。
「どうぞ」
返すと、済まない、というように軽く顎を引いて、マッチを擦って火を付けた。
煙草の先端に火を寄せ、それから、手首で振り消す。
この人はまだマッチを使って火をつけているのか。
そうぼんやりと思いながら見ていると、張が続けた。
「で? 最近どうだ? 聞くところによると、男と一緒に住んでいるそうじゃないか」
「え……?」
男と一緒に住む?
一体なんの事だろう、とシェンホアが思っていると、張はふぅっと煙草の煙を吐き出した。
「大層良い男だそうじゃないか。良い仲か?」
「――違います!」
多分ロットンの事だ。
シェンホアはそう理解し、理解した瞬間、思い切り否定した。
「……どうした」
煙草を指の間に挟んだ張が、怪訝な顔でシェンホアを見ていた。

――強く否定しすぎた。

「……良い仲なんかじゃありません」
「そうなのか?」
「そうです。あの男は私が怪我をしたところを助けてくれただけで――、ソーヤーも一緒です。
その時の縁で、何となく二人が私の部屋に入り浸っているだけです。
別に男と二人で住んでいるわけではありません。
気付くと泊まっている事もありますが、大抵ソーヤーとゲームをしているだけですし。
そう、彼はいつもソーヤーとゲームばかりしていて、ソーヤーとの方が気が合うみたいですよ?
私はいつも雑用係です。今朝だって……」

張には誤解されたくない。
それがシェンホアを饒舌にさせたが、最後には愚痴にスライドしていた。

「……すみません。下らない事を喋りすぎました……」
シェンホアは少しの自己嫌悪に襲われたが、張は「いや、いいさ」と小さく笑った。
「時にはガス抜きしないとやってられんだろう。……それにしてもお前は昔っから苦労性だな」
隣に座った張のサングラスの隙間から覗く目が、わずかに懐かしそうに細まった気がした。



564 ◆JU6DOSMJRE :2010/07/03(土) 21:26:40 ID:D/UfmGvZ
>>557のシェンホアのセリフが表示されませんでした

「?好。从?里来?」
の、最初の「?」は「弥」の偏を人偏に
次の「?」は、「那」に口偏を付けた字

申し訳ない
565名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 23:33:43 ID:RcdPqciX
続きキテタ━━━(・∀・)━━━!!
ここでファルコンとか、上手いなぁ
ロクレヴィには相変わらず萌えるし、色々幸せすぐるw

>>564
ドンマイ! 意味はちゃんと分かったから、無問題!
566名無しさん@ピンキー:2010/07/03(土) 23:52:24 ID:HL2S6dqZ
文字化け把握ドンマイ
世話焼き長女可愛いぞチクショー
引き続き全裸待機
567名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 02:09:46 ID:KQ8M6Sai
ノベライズ第2弾延期はショックだが、
これさえあれば、何の問題も無い

面白いし、読みやすい
続き期待しております

568名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 02:35:21 ID:UvHN/mTc
シャドーファルコンは卑怯だよなあ、飛び道具だらけだし。

GJ
569名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 08:21:47 ID:xPPvlH5X
ロクレヴィ描写萌えたー!
シェンホアの口調超うまいな
570名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 10:29:54 ID:5g5gCpmU
大股広げて楽しそうにゴツい銃器物色する。
そんなレヴィたんがたまらなく可愛いんだ!!!
gj!
571張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 20:58:46 ID:CIp8cqrP

>>563の続き
572張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 20:59:59 ID:CIp8cqrP


 * * *

張と出会ったのは、まだ彼が警察官をしていた時の事だった。
幼い弟妹を養うため、シェンホアは毎日身を粉にして働いていた。
稼ぐに追いつく貧乏なし、そう言ったのは誰だろう。
働いても働いても一向に借金は減らず、働けば働くほど貧しくなるように思えた。
シェンホア自身もまだ充分に幼いと言えたが、子ども扱いしてくれる者は誰もいなかった。
シェンホアは、日々の暮らしに疲れ果てていた。

家に帰り着く気力も失せて、シェンホアが道ばたに座り込んでいると、頭上で声がした。
「おい、どうした。具合でも悪いのか」
顔を上げると、まだ年若い、どこか人の良さそうな顔をした青年が見下ろしていた。
それが張だった。

実入りの良い仕事は、リスクを伴う。
警察にしょっぴかれたら事だ。
冷や飯を食らうぐらい何でもないが、自分がいなくなると弟や妹たちが困る。
そう思って慌てて逃げようとしたシェンホアを、張は引き留めた。
「逃げるな逃げるな。俺は怪しいもんじゃないよ。ただのチンピラさ」
そして、包子を買ってくれた。
「俺は腹が減ってるんだが、付き合ってくれるか」
そう言って。

子どもがこんなところにいてはいけないとか、こんな事をしてはいけないとか、
そういった説教は何ひとつしなかった。
ただ、たわいもない話をして、笑った。
声を上げて笑うなんて、いつぐらい振りだろうとシェンホアは思った。
彼は懐から出したよれよれの箱から煙草を一本引き抜いて、マッチで火をつけた。
その煙草をふかしながら、シェンホアの話を聞いては屈託なく相槌を打った。
何を話したのかはもう覚えていないが、武道をやっていると言ったら感心してくれた事だけは記憶にある。
そうして、一言、
「お前、苦労してるな」
と、そう言って、ぽん、とシェンホアの薄汚れた頭に手を乗せた。

途端、手に持った食べかけの包子の輪郭が滲み、口の中の塩気が増した。
働くのも、誰かの面倒を見るのも、自分が汚れ仕事をするのも、当たり前の事だった。
誰も、それをねぎらってくれる者などいなかった。
一番年長であるシェンホアがそうするのは当然であったし、
また、シェンホアもそれが当然であると思っていた。

けれど本当は、誰かに一言だけでも良いから言って欲しかったのだと気付かされた。
よくやっているな、と。

張の手は、うつむいて肩を震わせるシェンホアの頭が再び上がるまでずっと、撫でるのを止めなかった。
573張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:00:40 ID:CIp8cqrP

彼が警察官だという事は、後に知った。
それでも、まるで兄のように接してくれる彼に対する思慕は変わらなかった。
――その更に後、彼が警察官を辞め、マフィアの世界に足を踏み入れたと知った時も。

シェンホアは既に、後戻り出来ない世界に足を踏み入れていた。
精神の鍛錬の為に始めたはずの武道は、仕事を完遂する為の手段となっていた。
表の世界で生きる事を許されない女の進む道は、ふたつにひとつ。
殺るか犯られるか。
どこの世界だって同じ。
ここロアナプラに吹き溜まってきた女たちだって、皆そうだ。
シェンホアは、殺る方を選んだ。

マフィアとなった彼を追ってここまで来たのは、自然な流れだった。

「お前も来るか?」
そう訊いた張の手を、シェンホアは取った。
代償は、家族との別離。
可愛い弟妹の顔が浮かんだが、それでも、シェンホアは張の手を取った。
574張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:01:21 ID:CIp8cqrP

 * * *

「そうか、良い仲の男じゃないのか」
過去が蘇ったのは、ほんの一瞬だった。
「違いますよ」
シェンホアは、ため息混じりに否定した。
「お前はそういうところはお堅いからなぁ。お前みたいな良い女、男は放っておかないと思ったんだがな」
「全然ですよ。やめて下さい」
張は、もしかしたら、付き合いの長い妹分のように思ってくれているのかもしれない。
ただの手駒ではなく。
シェンホアは、それならば嬉しい、と思う。
「嘘つけ」
もしそうだとしたら、それはとても嬉しく、
「思ってもいない事、言わないで下さい」
少し、かなしい。
「思ってるさ。お前は良い女だよ」
張の口から、一般論など聞きたくない。
彼の中では相変わらず、自分は小汚く貧相な小娘のままなのだろう、とシェンホアは思う。

「……なら、張大兄はどう思ってらっしゃるんですか?」
シェンホアは身を翻して、隣に座る張の正面に向き合い、片膝をソファーについて見下ろした。

「――試して、みます?」
張のワイシャツの肩に手を置く。
シャツの下に、しっかりとした筋肉の手応えを感じた。

「……よせ」
張の顔から笑みが消えた。
真顔の裏に、酷く困ったような気配が滲んだ。

「満足させますよ?」
シェンホアは、肩の手をすべらせ、ネクタイの結び目に指をかけた。
赤いマニキュアを塗った爪を結び目の奥へと差し込み、そのまま下に引く。
そして、ゆっくりと張の首筋に唇を寄せた。

と、突然、シェンホアの手首が強い力で掴まれた。
肩も掴まれたかと思うと、そのまま勢い良くソファーの座面に押し倒された。
背中が柔らかいソファーに押しつけられ、沈む。
手首も、仰向けになった頭の上で拘束された。
見上げた先には、張の顔があった。

一瞬の事だった。
575張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:02:08 ID:CIp8cqrP

「――男をあまり、舐めるなよ」

見下ろす張が、低い声で言った。
肩も手首も、痛いくらいの力で押さえ付けられている。

しかし、その力はすぐに緩んだ。
手を離し、そして起き上がらせようとする。
その張のネクタイを、シェンホアは掴んだ。

「――女を舐めているのは、貴方の方です」

体の上に覆い被さっている張に、シェンホアはゆっくりと片脚を絡めた。
ふくらはぎの横を通り過ぎ、太腿をこすりあげる。
つま先を張の脚の内側にすべりこませ、片脚を絡めとる。
脇にスリットの入ったチャイナドレスがはだけ、素脚が露出した。

張は呆気に取られたように固まっていたが、ふっとその表情が緩んだ。
「……大人になったな、シェンホア」
ネクタイを掴んでいたシェンホアの手に張の手が重なり、ほどかれた。
「もうとっくに、大人です」
シェンホアは負けずに、視線を返した。
その視線を受けて、張はサングラスを外した。

「……じゃあ、大人の付き合いをするか」

張の手にチャイナドレスのスリットから露出した脚を撫で上げられて、シェンホアの背筋はぞくりと疼いた。
クナイを収めて太腿に仕込んでいたベルトが外される。
手は、腿の裏側から腰のあたりまで這いのぼる。
シェンホアの脇につかれた手にぐっと体重がかかり、
心持ちそちらへ体が沈んだかと思うと、首筋に顔を寄せられ、唇を押しあてられた。
ジタンの香りが漂う。
首筋に感じる、熱い感触。
シェンホアが小さく息を吸うと、張は起き上がった。

「ここは人が来る。……続きをするなら、向こうへ」
言って、社長室の隅にある小さなドアに向かった。
「仮眠室だよ。俺以外の奴は来ない」
シェンホアをソファーの上に残して、張の姿はドアの向こうへ消えた。

シェンホアがドアの中に踏み込むと、そこは張の言った通り、
狭い空間にベッドとサイドテーブルがあるだけの、簡素な部屋だった。
枕元の読書灯のみがついた薄暗い室内で、張はベッドに腰掛け、入り口のところに佇むシェンホアを見上げていた。
本当に来てしまったのか。
そんな顔をして。
シェンホアがほとんど睨むような顔で張を見ていると、
張は立ち上がり、シェンホアの背後のドアを閉めた。
社長室の明るさが遮断され、空気が静まる。
576張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:03:07 ID:CIp8cqrP

ベッドの方へ。
シェンホアは一歩踏み出そうとしたが、それよりも前に、張の両腕に後ろからがっしりと抱きすくめられていた。
首筋に熱い息がかかる。
彼の手が腰にまわり、もう片方の手が胸元を這う。
骨っぽく大きな、男の手。
刺繍がほどこされたなめらかな生地の上から乳房を包み込まれて、シェンホアの鼓動は高鳴った。

張の手はゆっくりと乳房を揺らす。
布の上から先端をかすめるように撫でられると、反射的に肩が内側に入った。
腰にまわされた手は、腹部周辺を温めていく。
ゆっくりと腹を撫で、じわりじわりと旋回する。
下腹を通り過ぎ、服の上から縦になぞられると、全身が緊張した。
呼吸を乱したシェンホアを、張は逃がさない。
チャイナドレスのスリットから、彼の手が差し入れられた。
なめらかな内腿を撫であげ、今度は下着の上から揺らす。
思わず身をよじったシェンホアの上半身をしっかり拘束しながら、
張は執拗に、焦らすような強さでこねた。
彼の指によってじわじわと熱があふれていくのを、シェンホアは感じた。

細い下着の脇から、指がはいってくる。
うるみを纏わりつかせてから、なかへ。
下着を押しのけるようにして奥まで進み、少し引き抜いてから、更にまた奥まで沈められた。
指の根本まで、深く。
「――あ…………っ」
きゅっと締まったシェンホアの体を、指はなめらかに探った。

張の指が、シェンホアの腰の脇で結ばれていた細い紐を引いた。
はらり、と半分だけ下着がほどける。
落ちそうで落ちない下着をそのままに、また深々と指が沈められた。
ぬるりと引き抜かれ、襞の間をさまよったかと思うと、今度は指が二本に増やされた。
「ん………………っ」
下着がとかれて自由になった脚の間を、張の指は容赦なく上下に動いた。
思わず脚を閉じようとしたが、張の手に阻止される。
太腿のところでがっしりと捉えられ、閉じる事は許されない。
そして、指が深く、押し進められた。
視線を下にやると、チャイナドレスの赤い布の下で、張の手がうごめく様子が見えた。
シェンホアの膝は砕けそうになったが、腕はしっかりと体を抱きとめる。

このまま高みに登りつめてしまいそうになるのを何とかこらえて、シェンホアは張の手を押しとどめた。
そして、彼の腕の中でくるりと体を反転させる。
ひとりで放り出されるのは嫌だった。

張のしっかりと厚みのある胸に手を這わせ、今度こそ、ネクタイを抜き去る。
ひとつずつワイシャツのボタンを外し、露わになった胸板に小さく口づけると、つけていた紅が張の肌に移った。
すべてボタンを外したワイシャツに、両手を差し込む。
胸板を撫でるようにして開くと、シェンホアは長く整えた赤い爪の先で小さな乳首をつまんだ。
そして、唇を寄せて包み込む。

手をスラックスに這わせると、張りのある固さが押し返した。
煽るようにさすると、張の体がぴくりと震える。
シェンホアは、彼の腰に腕をまわし、逃さず指を絡めた。
何度も下から撫であげてから包み込んだ後、ベルトのバックルを外す。
窮屈そうなスラックスの中にするりと手を差し入れ、今度は直に触れる。
暖かな体温が生々しかった。

手の中でますますかさを増していくのを感じながら、
シェンホアは胸元に寄せていた唇を、徐々に下の方へ移動させていった。
みぞおち、腹、腰を撫で下ろしながら、臍……。
577張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:03:59 ID:CIp8cqrP

スラックスと下着を一緒に下げようと指をかけた時、突然、シェンホアは張の手に頭を捉えられた。
これからしようとしている事を阻止される格好になって、シェンホアは不可解な顔で張を見上げた。
「それはしなくて良い」
「でも……」
満足させる、と言ったのは自分だ。
シェンホアは食い下がろうとしたが、
「脚、痛いだろう?」
怪我の治らない脚でしゃがむのはつらいだろう、と指摘され、手が止まった。
「大丈夫で――――うわっ!?」
シェンホアは続行しようとしたが、動きの止まった隙に、
同じ高さにしゃがみこんだ張に膝の裏を掬われ、一気に抱き上げられていた。

膝の裏と背中を支えられて横抱きにされるという
今まで遭遇した事の無い体勢になって、シェンホアは動揺した。
「ちょ……っ! ちょっと、降ろして下さい!」
シェンホアがもがくと、張は楽しげに笑った。
「はは、お前、大人になったかと思いきや、そういうところはまだまだ子どもだな。
良い女ってのはな、男に横抱きにされたら、にっこり笑ってしなだれかかるもんだぞ」
ほら、腕は首に。
そう促されて、シェンホアは恐る恐る腕を張の首にまわした。

別に抱き上げて運ばれるまでもない短い距離を移動して、シェンホアはベッドの上に降ろされた。
靴を脱がされ、チャイナドレスの背中を開かれる。
服も、下着も、全て取り去られてシーツに背中を押しつけられ、シェンホアは思った。
この人にはかなわない、と。
全部、全部、張の思うがまま。
胸元に口づけられると吐息があふれ、乳房の先端を熱い舌でねぶられると声が漏れ出る。
脇腹を撫で下ろされると体の奥がざわめき、指でなかを往復されるとぬるい体液が彼の指を濡らす。
「満足させる」など、思い上がりも甚だしい。
全てが張のペースに飲み込まれていく。
この人の前では、赤子も同然。

彼を体のなかに受け入れたシェンホアが出来る事は、ただ振り落とされないようについて行く事だけだった。
「あ、ぁ…………っ!」
最初の内は緩慢だった動きが段々と激しくなり、なめらかに奥を突き立てる。
シェンホアは、縋り付くように体を寄せた。
張の、そう大柄というわけではないが強靱な体が、シェンホアを責め立てる。
もう、虚飾などどこにも残っていない。
汗ばんだ体を、ただぶつけ合った。
思うさま貫かれ、根本まで埋めて強く揺らされると、快楽が弾け、全身が強ばった。
脳がとろける感覚を味わいながら、シェンホアはぎゅっと目をつぶった。
張はシェンホアの痙攣した体をなおも行き来してから、喉の奥でうめいた。
体の内側で、彼も痙攣したのが分かった。

脚の痛みなど、きれいに忘れていた。
578張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:05:15 ID:CIp8cqrP

吹き出た汗が収まって、そそくさとチャイナドレスを身につけるシェンホアの背に、張の声が届いた。
「……すまなかったな」
束の間、シェンホアの手が止まった。
「……いえ」
しかし、即座にまた手を動かした。
今、彼に背中を向けていて良かった、と思いながら。
自分が苦い顔をしている事は、鏡を見なくても明らかだった。

そこで謝らないで欲しい、とシェンホア思う。
結局、張にはすべて手に取るように分かっていたのだろう。
シェンホアが誘いをかけたのは大人のお遊びなどでは無かった事、
しかし、それを装わずにはいられなかった事、
彼への思慕には、妹が兄に対して抱くものとは違った感情が混ざっている事――。

「今度、食事にでも行くか。――何か欲しい物は無いのか」
飄々とした声で、張は言った。
シェンホアが振り返ると、そこにはいつもと変わらぬ張の余裕たっぷりの顔があった。
「お前は働き者だからな。つい、その有り難みを忘れる」
だからボーナスだ、と続ける。
「お気遣いは無用です。欲しい物も特に……」
シェンホアが首を横に振ると、張は大袈裟に眉を下げてみせた。
「それも不合格だな、シェンホア。男が物を買ってやろうって言ってる時には、素直にねだってみせるものだ。
そんな事じゃ、良い女への道は遠いなぁ」
そうして、床に転がっている踵の高い細身の靴をひょいと取り上げた。
「靴にするか? お前、怪我してる時ぐらいもっと楽な靴を履け。心配でならん」
シェンホアは、曖昧に頷いた。
誰かに何かしてもらうのは慣れていない。
ひどく居心地が悪かった。
「……なんだ、俺の見立てた靴は嫌か?」
「いえ! ……そういうわけではありませんが、そこまでして頂くのは申し訳ないので――」
「なら、決まりだ」
張は勝手に話をまとめ、約束だぞ、とシェンホアの頭に軽く触れた。
シェンホアは、ぎこちなく頷いた。
579張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:06:19 ID:CIp8cqrP

 * * *

『三合会』のエントランスを抜け、高くそびえ立つビルを見上げながら、
シェンホアは、本当に張大兄にはかなわない、と小さく息をついた。
つい先程までの神経がささくれるような苛立ちは、きれいさっぱりどこかへ吹き飛んでいた。

もう日暮れが近い。
わずかにオレンジ色がかった街の中、シェンホアは今度こそ市場で買い物をしようと歩を進めた。


夕暮れ時の市場も込み合っていた。
足りないものを揃え、食材を買い込む。
まだソーヤーとロットンがいたら、今晩は何を作ってやろう。
エビチリなどはどうだろうか。
そうだ、いつか、三人で餃子を作ってみるのも良いかもしれない。
餃子はシェンホアの得意料理だ。
具を作ってやって、皮で包むだけだったらあの二人にも出来るはずだ。
自然とそんな事を考えているのに気付いて、シェンホアは苦笑した。

そう、シェンホアは、誰かとわいわい過ごすのも、頼りにされるのも、世話を焼くのも好きなのだ。
あの二人の来訪だって、本当は歓迎している。
ただ、時にはほんの少しねぎらって欲しかっただけ。

シェンホアは小さな雑貨屋で売っていた黒いレースに目をとめ、それを買い求めた。
このレース、ソーヤーのチョーカーにしてやったら喜ぶだろう。
彼女の拡声マイクをチョーカー仕立てにしてやったのはつい先日の事。

――おう、私、良い事思いつくましたね。

そして、ではロットンが欲しそうな物は何か無いだろうか、と思案する。
ソーヤーだけにお土産があるというのは良くない。
不公平だ。
拗ねられるかもしれない。
しかし、彼が欲しそうな物といっても一向に思いつかない。
服飾品には大層なこだわりがありそうなので、下手なものを贈る事も出来ない。
かといってミルクはもう結構だ。
欲しそうな物でなければ、何か必要な物、足りない物でも……。
シェンホアは考えを巡らせる。

――そうね! あのメイドにやられてお釈迦になるましたプロテクター……。

超合金メイドの蹴りを受けて見事にべっこりとへこんだプロテクターの無惨な姿が蘇り、
一瞬、とても良い考えが浮かんだように思えたが、シェンホアは即座に正気に戻った。

――あいや、私、なに考えるか!

さすがに土産でプロテクターは無いだろう。
実用的なら良いというものではない。
慌てて却下して、シェンホアは家路を急いだ。
580張×シェンホア 苦労性  ◆JU6DOSMJRE :2010/07/04(日) 21:08:00 ID:CIp8cqrP

「ただいま帰るましたよ!」
部屋に戻ってみれば、果たして、そこには当然のような顔をしてソーヤーとロットンが待っていた。
「オ帰…り、…シェンホア」
帰ってきた時に出迎えてもらえるのは、やはり嬉しい。
「良い子にしてるましたか? お腹、空いたか?」
「……うン。…少し」
「……かなり」
壁にもたれかかってポーズをつけるロットンがシェンホアの目の端に映るが、
もう好きなようにさせておこう、と思う。

「おう、それ、良い事ね。何か食べたいものあるなら言うよろしいよ。作ってやるですだよ」
「じゃ…ア、フカヒレ…」
「…………燕の巣」
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!?」
せっかく太っ腹にリクエストを聞いてやったというのに、この二人の図々しさはどうだろう。
厚かましいにも程がある。
シェンホアの声は裏返った。
「調子乗るないね、このアホちんども! それ食べるご希望なら、自分で取って来るよろしいね!」


ああ、前途は多難。
先程、この共同生活も悪くないなどと思ったのは気が早かっただろうか?
シェンホアの頭はまたしても軽く痛み出したが、
しかし、そんな事もどこかで楽しんでいる事もまた、事実なのだった。

一樹の陰一河の流れも他生の縁。
こうしてけったいな者たちが集まったのも、何かの縁だろう。

シェンホアは軽やかに、ひらりとエプロンを取り上げた。





581名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:13:56 ID:btO5ZQ/E
リアタイ遭遇ktkr全裸待機してたかいがあった
GJ!
ですだよ可愛すぎて死ぬ
582名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:15:09 ID:oiN8Gsr5
完結おめ!

そして、ありがとう!!

でも、続きを期待する楽しみが消えて
少し哀しい!!!


次なる新作、良作お待ちしております

583名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:30:26 ID:xPPvlH5X
なんだこの良作は
光景が目に浮かぶ。そして張かっこいい。
584名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 21:48:01 ID:nN5A92GF
張兄貴サイコー!
余裕のある大人の男っていいね

GJでした
585名無しさん@ピンキー:2010/07/04(日) 22:49:39 ID:25kl1XlE
なんだか凄くほのぼのしちゃったよ!
お疲れ様!
586名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 00:15:46 ID:FV9hN6mR
あれ、張さんは広東語で、ですだよは北京語じゃないのか?
虚渕さんも勘違いしてるから、ま、いいか
乙でした
587名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 00:23:42 ID:vInURefS
次こそ神の十八番、ロクレヴィが読みたい


と思いつつ、ですだよいいよですだよ
GJでした!

シェンホアはもっと原作でも出してレヴィたんと絡ませてもいいと思う。
あの二人のボケとツッコミ(?)はなかなか面白いし、アクションシーンでも映えるんだよなあ。
588名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 00:34:47 ID:vWM2yPoG
口上の台本に漢字を使う6tに驚いたw
GJ、GJ!
好きだよ、シェンホア
589名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 05:52:38 ID:y6ia8pOZ
眠れないのをいいことに、このスレを最初から読み直してみた
薔薇、観覧車、ぬこ、子沢山、バラ、文章に一切の無駄無し
観覧車と子沢山のロックの違った愛し方に涙・・

590名無しさん@ピンキー:2010/07/05(月) 20:44:23 ID:hPWNPEhU
おおお 久々に来たら神がいらしていたんですね GJです!
張アニキがかっこよすぎて孕むかと思いますた
591名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 06:44:33 ID:+lY7HE9c
>>589
観覧車とぬこはガチで泣ける。

久々に保管庫で神のSS読み返してみたらシャンプーに悶えた。
朝からnynyが止まらない俺間違いなく不審者。
592名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 08:34:21 ID:LA+MhcN3
完成度が高すぎて何回読んでも泣けるし抜ける
ロクレヴィ愛が止まらない俺も不審者
593名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 09:20:53 ID:nSdKiOlq
この流れで空気を読まずに言わせてくれ!

俺しばらく来てなかったけど>>261なんだ。
神よ、リクエストにこたえてくれてありがとう。
遅ればせながら泣いた。号泣した。>>373-412
まさにこういうのが読みたかったんだ。
このスレにいてよかったよ。またバラライカが好きになった。
594名無しさん@ピンキー:2010/07/06(火) 10:57:29 ID:LA+MhcN3
よかったねv
595名無しさん@ピンキー:2010/07/07(水) 03:18:35 ID:w5IyqfYU
今更かもだけど観光協会の水着レヴィの仰向けおっぱいが…すごく…いやらしいです
596名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 18:46:09 ID:CrHg7Es+
きっとロックに見せたかったんだよw
597名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 19:41:44 ID:PNlnA5fW
フィギュアのビキニはヒモパンなんだよな。
ひっぱりたい。
水着で水中銃装備とか破壊力抜群すぎる。

次はパンツいっちょで寝てるレヴィフィギュアを希望したい。
598名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:08:53 ID:lvNDSm8F
水着といえば、以前GXの表紙になってた青空の下無邪気な笑顔で
タンクトップ脱いでるレヴィたんが最高に可愛かった

ああいう表情って今まであんまり無かった気がする
599名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:24:18 ID:PNlnA5fW
なんだそれ!!GX買ってるし画集も持ってるのに見たことないぞ!!!

こいつぁ一体・・何の冗談だ・・・?

水着の表紙って、婦長様との乳合わせツン顔しか思い出せねぇぇぇよorz
600名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:35:16 ID:lvNDSm8F
確か今年の一月号だったかな

表紙のみで本編は休載だったから買わなかったが今は後悔してる
601名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 21:41:54 ID:CrHg7Es+
その表紙この前たまたまネット上で見た!
俺も初めて見たんだけど、598とまったく同じ感想だった
可愛すぎて絶叫・・あれポスターにしたら絶対売れるぜ広江さん
602名無しさん@ピンキー:2010/07/08(木) 22:11:29 ID:jGr73r1V
なあ、今月のGXってブラクラ休載なの?
603名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 00:06:28 ID:bcz9gRoe
>>601
You!スマートにうpしてネ申になっチャイナYO!



お願いしますお願いしますお願いしますおなg
604名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 08:51:44 ID:3zYhiIW2
>>603
BIGLOBEで「サンデーGX 2010 1月号」と検索してみれ
そして速やかに3番目のアマゾンページをクリックだ
そこに目的のモノがあるだろう・・
605名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 10:30:04 ID:bcz9gRoe
>>604 
有難うthx謝謝グラッチェグラシアスメルスィーサランヘヨハラショー!!!!!
貴殿のことは生きている限り忘れない。

なにこの可愛い子
なにこのけしからん乳
可愛いのかエロいのか可愛いのかハッキリしろ!!!
606名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 16:11:56 ID:uWCjs2tb
>>604
なにこの可愛い女の子
乙女じゃん
なにこの可愛い女の子
607名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 19:41:24 ID:3zYhiIW2
そうだろう・・
ホットパンツの下の水着チラ見えも見逃してはならんぞ
ロックの前で着替えたのかい?と問い詰めたくなるエロさなのだ
608名無しさん@ピンキー:2010/07/09(金) 20:27:09 ID:qC2Ne/OP
ROCK YOUの文字を見つけてしまったのでそうとしか思えない>>607
609名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 06:45:22 ID:A9JIMtTp
つか、あんなたわわでけしからんおっぱいしてるのに、作中ではちっぱいな方とか・・・
広江の感覚が狂ってるとしか思えない

レヴィたんの健康的な水着姿に動悸が止まりません
610名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/10(土) 21:27:39 ID:x5V5KCQP
レヴィたんの新しいフィギュア出るんだ。グレーテルも!
611名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 00:34:09 ID:/A4bb8Xu
mjd?今度はどんなのん?
GX公式にはまだ何の情報も出てないよね。
これで何体目だレヴィたんフィギュア。
グレーテルはもっと早く出ててもよかった気が。

新しいテレビの高画質大画面でシガーキス編見たらやっぱりクオリティ高ぇなこの回。動きがエロすぎる。
表情も角度も、煙草抜いたら完全にキスじゃんw
612名無しさん@そうだ選挙に行こう:2010/07/11(日) 14:04:43 ID:MeRUyS9e
>>611
今月号のGXに載ってるよ

ブルーレイをフラットTVで見てこそブラクラの真髄が解るね
シガーキスは絶品すぎて一瞬時が止まる
613名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 06:33:33 ID:ACn1+HwB
今月(つうか先月?)分のGXもうどこの書店にも残ってねぇよww
元々部数少ない上に店側も他の雑誌に比べたらマイナーだからそんなに仕入れてないだろうし。

詳細kwsk
614名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 20:37:52 ID:31OFOtq2
どこの田舎に住んでんだよwしょうがねえな

グレーテルはあの黒い衣装で笑顔が可愛いかんじ
レヴィはホットパンツで両手にカトラス持った凛々しい雰囲気(DVDBOXの絵みたいな)
発売は11月か12月だからいずれ詳細でると思うけどね

615名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 21:20:14 ID:zzV0DbSQ
フィギュアっつってもプライズだから
あまり期待しない方がいいと思う

>>614
レヴィが8月末でグレーテルが12月発売じゃなかったっけ
616名無しさん@ピンキー:2010/07/12(月) 23:38:08 ID:31OFOtq2
>>615
あれレヴィ8月だっけ?フォローサンクス
写真見た限りでは綺麗なフィギュアだったよ
617名無しさん@ピンキー:2010/07/13(火) 06:19:54 ID:hIs9BNK3
>>615-616

詳細d。クソ田舎でスマソw

なんだレヴィいつもの格好かー。NY時代バージョンとか出てもいいと思うんだ。
レヴィこれで何体目だろう。
かなり沢山出た気がするけど、そん中で秀作だったのはニューライン制の二つくらいな気が・・・

グレ子は帽子BAR付きだといいな。
てかヘンゼル・・・双子なのにw
618名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 21:00:46 ID:+vCPgyni
ロクレヴィに飢えてきたよパパン!


今月も休載なんだっけか、広江のコミケ的都合で
619名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:19:13 ID:7md/yI41
そういう時はSS保管庫で飢えを凌ぐんだ同志諸君!

個人的おすすめは無人島もしくは赤だ
620名無しさん@ピンキー:2010/07/14(水) 22:28:15 ID:kKihOM2U
早く続きが読みたいよ
ラブラブドライブのシーンで終わって休載とか辛いわ
621名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 00:54:08 ID:QJWNcGM8
>>619
赤で感動して観覧車でウルっときてぬこで乾物になるほど涙腺崩壊した俺が居座りますよ。

マイナージャンルかと思いきや以外とSS豊富だよな。しかもクオリティ高須クリニック。
レヴィと流れるプールやウォータースライダーで遊びたい(ポロリ前提)
622名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 02:17:25 ID:fYqa9W7f
>>621
あのクオリティの高さは驚異だな。書いてる人達何者なんだ
涙腺崩壊することが分かってるから出かける前は読めない

レヴィのポロリは本人の物理的ロックの精神的報復が待ってるからやめたほうがry



623名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 06:12:40 ID:njDQ3wC8
ぬこまじ名作すぎる。
目腫れてブッサイクになるからなんの用もない休日にゆっくり読みながら枕濡らすんだぜ。

レヴィたんはウォータースライダー大はしゃぎで何周もやりそうだなw
バナナボートにもにこにこ乗ってそう。
624名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:50:05 ID:fYqa9W7f
「月」と「停電」も名作だな。海でレヴィとしてるロックがうらやま・・

昨日とあるサイトで萌えなロクレヴィのキス絵見つけてテンションUP
625名無しさん@ピンキー:2010/07/15(木) 23:51:54 ID:ZYJdVjsH
何人かの職人さんが書いてる日本編ロクレヴィはどれも素晴らしい
626名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 07:52:31 ID:pNLlZsVH
日本編の泣き出しそうな顔がたまらなく萌える。

プールで思い出したけど、レヴィたんあの目洗い専用の水道に驚きそう。
627名無しさん@ピンキー:2010/07/16(金) 19:14:10 ID:FF3kcgeh
ぬこ話読むと猫飼いたくなって困る

もし飼ったらレヴィと名づけてわしゃわしゃ洗ってやるんだ
マンションだから叶わぬ夢だけどな
628名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 08:15:23 ID:XrWJN8h0
今日のにゃんこスペシャル見たら、またぬこ飼いたくなったな。

庭で元気に走り回ってたり蝶々にじゃれついて遊んでたり、たまに鳥の首持ち帰ってきてギャアアア!!なんてこともあったけどひたすら可愛いんだ。

そんなにゃんこの行動をレヴィで変換して妄想してたらヨダレが垂れた。
629名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 20:09:31 ID:NPrk+w/k
レヴィたんが殺した敵の首を持ち帰ってロックがギャアアア!!
まで妄想したが、これはさすがに萌えられんぞ
630名無しさん@ピンキー:2010/07/17(土) 20:15:21 ID:odG2kerL
いや、その後勝手にベッドにもぐりこんできてくれれば全てOKだw
首はこっそり捨ててご褒美のカリカリをあげたい

そんで初回版のジャケの可愛さはなんなんだ!
631名無しさん@ピンキー:2010/07/18(日) 04:55:55 ID:MK47TP9b
>>629 
ロックに「捨ててきなさい!!捨ててくるまで家に上がらせないからな!それまでは飯も抜き!」
と言われしょんぼりするぬこレヴィたんを妄想したら萌えた
632名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 00:20:48 ID:FrxliuCa
初回版ジャケ絵のレヴィたんかわいいなー。
その代わりアニメキャラデザの人が描いたロベルタが・・・w

にしてもお前ら、ほんっっと猫好きだなw
まあ私もなんですけどね。
633名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 02:33:33 ID:PpG7A+tl
レヴィたんの可愛い所って言えばやっぱり、ロックの前で
どーしてもオナラを我慢できなくて、キレたふりしてカトラスをぶっぱなす所だよね!

オナラの音はもちろん、臭ーいかほりだって血と硝煙の匂いで誤魔化しちゃう!
だって女の子だもん!
634名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 03:04:43 ID:Ul9efmgL
>>632
レヴィたんを見ると猫しか連想できない体になってるからなw
その逆もしかり・・たまに子猫
ロックは犬だな。ロベルたんはジャッカル。バラ姐は豹かな
635名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 04:17:23 ID:NSaMLM8R
いやいや、バラ姐は狼でしょ?
636名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 17:27:28 ID:+CwpCtf2
いやでも狼(と狂犬)はロベルタが本編内で言われてるじゃないか
バラ姐は虎なんじゃないかなと個人的には思う。アムールトラ。
637名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 18:12:50 ID:FrxliuCa
寧ろあのワサワサ大量の髪が百獣の王の鬣に見えるぞw
638名無しさん@ピンキー:2010/07/19(月) 18:52:47 ID:o3t0zXkN
百獣の王のリーダーは雄だから難しいな。
バラ姐の生態はむしろシャチに近い。
639名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 04:11:20 ID:QNUdpu6G
雄よりも雄らしい漢前っぷりに板東さんを腕一本で殺す剛力、そしてモジャモジャ黄色のタテガミ


ぴったりすぎるwww
640名無しさん@ピンキー:2010/07/20(火) 04:25:43 ID:Hvw3vaGK
残念ながら「たてがみ」は雄にしか生えないんだぜ。
641名無しさん@ピンキー:2010/07/21(水) 00:33:03 ID:+ZIZoCxH
リアルに雄か雌かとかじゃなくてあくまでイメージの話だろうに。

そんなことより、今頃9巻の感想言っていい?
(本誌追ってた時ヴィソトニキ出動した辺りでつまんなくてもうこのエピはどうでんいいやってなって切った。けどOVAも出たのと、時が経って気が変わったせいもあり買った)


レヴィの弱点は脇腹?
ロックさんお顔が怖いです。
レヴィよりロックさんに「その顔鏡で〜」と言いたい。
642名無しさん@ピンキー:2010/07/22(木) 08:20:50 ID:LnGYArVT
あのシーンでまさかのソヤレヴィを想像してしまったw

ネズミのしっぽ掴んでるソーヤーが可笑しいw
「(…コレ、食べられるノ…かしラ?)」みたいな感じが。
643名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 11:37:41 ID:tZGd62Xn
原作でロクレヴィのキスシーンが出るまで死ねん
一生出ないかもしれんが・・
644名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 18:56:43 ID:TDsWSa53
ロクレヴィシガーキスは普通のちゅーよりも不思議なくらい大幅にエロく見えるぞ。
まぁもっちー先生が描いてくれたから広江は描かないだろうな(´・ω・`)


熱中症で倒れたレヴィたんに口移しで水飲ませたい。
645名無しさん@ピンキー:2010/07/23(金) 23:28:44 ID:tZGd62Xn
ロアナプラならきっと熱中症になり放題だな
てか今テレビでNYの観覧車が映ってたよおレヴィたん・・
646名無しさん@ピンキー:2010/07/24(土) 00:50:25 ID:bDLu+e9I
レヴィは既にロックに熱中症
647名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 01:49:25 ID:UxhURxjy
ロックめ・・・
648名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 02:00:41 ID:IIVKARfa
毎度毎度提案するのも気が引けるんだが、スレタイ考えませんか?
?な人は容量見てね
649名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 02:56:57 ID:nyHMel0B
【にゃんこと】【同棲】
650名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 05:11:44 ID:UxhURxjy
うーん【現在】【ドライブ中】
651名無しさん@ピンキー:2010/07/25(日) 07:12:04 ID:VEZ8nuPy
【両の指じゃ】【足りねえ】
65240:2010/07/25(日) 15:33:13 ID:L8PAdBh5
【ブラじゃねぇよ】【水着だよ】
653名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 12:37:36 ID:8i7NQM/U
>>649
にゃんこ原作ネタじゃねえw
それだけ名作ってことか。

スレタイ考えんのも大変だな。
ネタもう尽きてきてるし。
654名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 13:11:01 ID:ZkbXnEuZ
ロックが煮え切らねえからにゃんこレヴィがキレちまうぜ
ところで容量の限界はどこまで?
655名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 14:30:41 ID:3pprii7c
>>654
500。
雑談がてらスレタイ考えて、後は埋めるカンジ。
少なくとも、ある程度のSSなら投下するのを躊躇う容量
656名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 16:53:55 ID:Oy3Q6tfD
>>650
あたりが無難でいいと思う。しばらく話進まないだろうし

保管庫でまとめ読みしてたんだが、観覧車は途中までしか載ってないんだな
657名無しさん@ピンキー:2010/07/26(月) 20:13:40 ID:8i7NQM/U
異存はないけどとりあえず立てられる人がスマートにおっ立ててくれるのであれば文句はないぜ。

ファビオラに言いたい放題言われて内心一人沈んでるレヴィたんを思うと胸が痛むぜ。
658名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 06:29:57 ID:rQJRUZDI
>>656
ほんとだ気づかなかった。
観覧車は俺のバイブルなので保管庫収納よろしくお願いします
659名無しさん@ピンキー:2010/07/27(火) 19:22:38 ID:rQJRUZDI
今日GX見てたら>>598が言ってた絵がなんとポスターになっていた・・!
さすが広江&編集分かってるぜ!
660名無しさん@ピンキー:2010/07/28(水) 06:27:44 ID:XrPEHIyx
あの絵のレヴィは可愛すぎるしおっぱいはエロいし情熱が湧き上がる。

( ゚∀゚)o彡゜ おっぱい!おっぱい!
661名無しさん@ピンキー:2010/07/29(木) 07:25:15 ID:sOc+jYyd
あ、観覧車が全部保管されてる!いつもありがとうございますv

OVAを買うと店頭で貰えるうちわにもあの絵が採用されているらしい
662名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 06:00:02 ID:e2VK98Ia
で、次スレ立てられる殿方はいないのか?

大量規制ループのせいで辛うじてピンク板他のみ書ける状況だからなぁ・・・
663名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 15:45:05 ID:smf35zc0
前から聞きたかったんだけど規制って何のこと?
664名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 19:25:27 ID:q704dSmq
>>650でスレ立て行ってくる
665名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 19:28:00 ID:q704dSmq
立てたよ

【現在】ブラックラグーンVOL.13【ドライブ中】
http://yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1280485621/
666名無しさん@ピンキー:2010/07/30(金) 19:47:33 ID:smf35zc0
おっありがたい。レッドラムを湯呑でどうぞ つ且
667名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 15:11:54 ID:SoMX4Jpr
無事次スレ勃ったことだし、埋めますか。

神ぬこ話のぬこは何模様なんだろか?
個人的には白と黒のブチを想像してる。
668名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 16:10:56 ID:xMjPWqTG
( ´д)ヒソ(´д`)ヒソ(д` )ヒソ
669名無しさん@ピンキー:2010/07/31(土) 16:36:31 ID:U/CobvYL
白茶の縞模様
俺も猫になってレヴィたんの胸元にもぐりこみたいよ
670名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 15:15:23 ID:/AaWbogi
この間科学君で見たスコティッシュフォールドがめっさ可愛かった埋め
671名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 16:06:22 ID:Du2HvBMT
マンチカンもかわいかったぞ!

レヴィたんの琥珀色の瞳は猫の目の色と似ているとは前々から思ってた
672名無しさん@ピンキー:2010/08/02(月) 18:47:04 ID:RUr9SNPO
レヴィたんは雑種か山猫系の野生種だとおも
自然公園の保護区域を守るロックにしか懐かないんだよ
673名無しさん@ピンキー:2010/08/03(火) 02:26:39 ID:U4dbhDYO
レヴィたんに懐かれてもぬこちゃんには嫌われるロックさんw

動物は本物の悪を見抜いてる・・・
674名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 18:41:40 ID:iLlAu5/2
明日も暑ければレヴィたんのお尻は俺のもの
675名無しさん@ピンキー:2010/08/04(水) 22:20:42 ID:O972ZfQw
明日も暑ければシェンホアの美脚は俺のもの
676名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 00:38:52 ID:4NWc1azi
明日も暑ければエダの乳は俺のもの
677名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 03:30:12 ID:JS6m1H1Z
猫になってレヴィのおっぱい枕にしたい
678名無しさん@ピンキー:2010/08/05(木) 14:04:54 ID:fE9b4KqZ
猫になってレヴィのおっぱいに頭すりすりして喘がせたい
679名無しさん@ピンキー:2010/08/07(土) 21:55:35 ID:1QhalcQ5
a
680名無しさん@ピンキー:2010/08/09(月) 06:57:19 ID:RGFM82Za
kk
681名無しさん@ピンキー:2010/08/10(火) 00:15:56 ID:+RN36CLF
あとどのくらいで埋まるかな
682名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 01:13:52 ID:YK59wo/t
レヴィにゃん愛してるv
683名無しさん@ピンキー:2010/08/11(水) 06:45:49 ID:kcAXjD1Z
lobe
684名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 22:10:54 ID:UD8Mu2rs
ここらで、ちびメイドちゃんのSSが見たい
685名無しさん@ピンキー:2010/08/12(木) 23:55:26 ID:ycPC2ptp
ラブレス家が好きな俺はこのスレでは異端なのか?
686名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 04:49:49 ID:a0+d4f2A
いいえちびメイドは大好物です
687名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 09:43:39 ID:1VyW2wsc
ファビオラのスパッツくんかくんかしたい
688名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 12:28:31 ID:1grOaSZs
あれこっちまだ残ってたのか。なかなかしぶといw
KB見る限りもうすぐな気配なんだが落ちそうで落ちないね。

てことで覚醒ファビ×レヴィ
得意の足技で傷跡攻めつつ言葉攻め。
689名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 20:49:19 ID:a0+d4f2A
え?書かないの?逃げんの?
無いわー
ファビオラ可愛いいいいいい!!!
クンカクンカしたいいい!
690名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 21:41:01 ID:uTE32h60
これが噂のヒステリー女か…確かにファビオラ可愛いけども…こええよ
691名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 21:45:04 ID:a0+d4f2A
ロリ姐御も好き
692名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 22:27:16 ID:uTE32h60
落ち着いたか?しかしファビオラはえらい女に人気あんのな
693名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 22:29:36 ID:a0+d4f2A
俺ついてるぞ・・・弾
694名無しさん@ピンキー:2010/08/13(金) 22:38:30 ID:uTE32h60
マジか!すまん…てかss書いてみれば?
695名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 06:19:04 ID:kPhfYOp0
d
696名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 06:28:45 ID:kPhfYOp0
どっちでもいいからファビたんを早く・・・禁断症状が。
俺には文才が無いもので待機せざるを得ない


水着ファビが見られるのは2巻か?待ち遠しすぐる
697名無しさん@ピンキー:2010/08/14(土) 06:29:50 ID:nz3eV/ST
妄想はあっても具現化する方法が無いからなぁ
698名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 13:33:54 ID:bZAChuUB
俺男だけどファビオラのうなじペロペロしたい
699名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 18:28:35 ID:DVZMmXXk
俺漢だけどレヴィの内腿ペロペロしたい
700名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 22:55:24 ID:/HbC+nMF
おまいらのチームワークときたら・・
701名無しさん@ピンキー:2010/08/15(日) 23:41:25 ID:F4MgTBlg
俺男だけどファビオラにタマ蹴られたい
702名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 02:36:24 ID:x/KhyhI0
姐御を忘れてくれるな
703名無しさん@ピンキー:2010/08/16(月) 06:31:28 ID:yVYGdNN1
俺男だけど姐御(9)ぺろぺろしたい
704名無しさん@ピンキー
俺男だけどレヴィの汗ぐっしょり胸の谷間に挟まれてふやけたい