「弟思いのいいお兄さんじゃない?」
「弟思いねえ……」
精一杯フォローしたつもりだったが、どうも納得いかない様子。
「彼女いるのにそーゆーもん持ってくるか普通」
「それは私が居るとは思わないからじゃ」
「いや、あの人にはそうした恥じらいとか気遣いとかはまるで無い。さすがに成実――妹には言わないけど」
「仲悪いの?悪気はないと思うんだけど」
「悪くはないけど……よくわからん。義理の兄貴だから。――姉貴の旦那なの、あの人」
そうなんだ。ああ、そう言えば女きょうだいだけなんだっけ。
「可愛がられてるんじゃない?」
「そうかあ?……そりゃ、向こうも女ばっかの三人姉弟だから立場は同じなんだろけど」
「だったら尚更そうだよ。男の子同士だから仲良くしたくてたまらなそうじゃない」
『育実』と彼を呼ぶ声と、私に彼をよろしくと言った笑顔の中に残る真摯な眼差しが思い違いでないのなら――いや、きっと
そうだ。
あの人の愛する妻の血を引く彼を、愛おしく想わない筈はないだろうから。
「あの人にはどうしたって勝てない。姉ちゃ……姉貴を人目もはばからず嫁が嫁がってのろけてすげー大事にするし、俺や成実も
自分のきょうだいみたく守ろうとしやがる。バカのくせにくそ真面目だし嫁に見つかって怒られてもエロ本読んで勉強だとか
ゆーし。つうか隠せよ」
勉強って……。まあ、何だか一度会っただけだけど、取り繕った感じがしなくて、妙にすっきりとする。
ていうか多分素直すぎてあんまりは怒れないよね、奥さん。
「許されるんだよ何もかも」
しょぼんと丸まった背中にらしくないと思いながら、私は何となくそれに気が付いてしまった。
「……増田く……育実くんは育実くんでいればいいと思うよ」
細っこい目を少しだけ丸くして、首を伸ばして私をまじまじ見る。
「なりたい人になろうとするんじゃなくて、今の自分を大事にして欲しいと思う」
無理して明け透けな自分を作ろうとして、多分予想と少しずつずれてしまったのだ。現実はそううまくゆくものじゃない。
「だから。私の前だけでも」
本当は臆病なひとなのかもしれない。
男だから誰かを守りたいって気持ちがあって、誰かに――愛されたいって願いもあって。
それを隠すためには強くありたい。私だってそう。
そのために、自分の瞳にそう映る誰かになろうと鏡の中の自分を造り上げようとしてたんだ。
私にとってはそれがどんな人間なのかよくわからないでいる。でも彼には居たんだ。近付きたいと思える誰かが。
「育実くんには育実くんの良さがあるよ。多分不器用なんだと思う。けど」
あの人とは違う。
自分をどんなにさらけ出してるようでも何かを無理してるから、どこかちぐはぐして時に誤解を生む事もあったのかもしれない。
「私は……育実くんが好きだよ」
そうじゃなきゃいくらなんでも、あんな真似できるわけないじゃん。
「幻滅とかしないの?つまんねーちいせー男だって」
「最初にしたからもういい」
「……あんまりアレも上手くないし」
「?――知らないよっ!!」
「今更隠しても仕方ないから」
別にどうでもいいんだけど。知りたいわけでもないんですけど。
「自分から押し倒したの、初めてだわ」
「……あ、そう」
もしかしたら喜ぶとこかな?ここは。
「私わかんないもん」
――でも、嫌じゃなかった。 そう小さく呟いてみたら、ちゃんと聞こえたみたいで、今までで一番優しく肩を抱かれてキスされた。
「じゃ、二度目ある?」
「……私以外、拒んでくれたらね」
ぎゅっと抱く腕の力が強さを増した。
「ずっと、いくみくん、て呼んでいい?」
「うん。――千代」
「なに?……育実くん」
「いっぺん電車で尻さわ……いてっ!!」
背中に回していた手で思いっきり肉を摘んでやった。
「痴漢と一緒じゃん変態!」
「じゃ、今なら?」
これは犯罪じゃないとばかりにお尻を揉んでくるし。
――結局、男の本性ってこうなわけ?
「風邪移したら看病してあげるからさ」
「ばかっ」
あんまり裏も表も実は変わらないんじゃ?と不安が募る私だった。
――終――
長々ありがとうございました
ゲス田くん可愛いなー。
いきなり千代ちゃんの初体験とは読むまで思わなかった。
面白かったけどちょっと展開早いかなーって思った。でもこれは自分の感覚でわってことだけどね。
お友達の話も読んで見たいと思うような、ほんわかで良い人物設定と思います。
楽しみに読ませていただきました。GJっす!
確かに後半の展開がちょっと駆け足だった気もするけど、
楽しく読ませていただきました。ありがとう!
393 :
名無しさん@ピンキー:2012/05/04(金) 14:39:08.92 ID:8XscgzCB
hosyu
395 :
名無しさん@ピンキー:2012/06/08(金) 11:07:59.73 ID:Bk7GTJtu
誰か投下しなさい!
では、書き込ませてもらいます。
このスレ見てるともやもやしてきて、何故か男の俺様としては風俗店に行きたくなります。
さりとて資金的に余裕は無く、妄想や萌えに浸りたい俺様は風俗遊びも儘ならず。
激安って無いかなあと、妄想に耽り探していると。
いま凄い流行の即プレイの風俗にすぐ辿り着けました。
激安で流行りの風俗、即プレイ?
本当かと池袋などに出かけてみましたが情報は正確でした。
特に池袋は激戦区らしく、激安なのに嬢のレベルが高い高い。
それなのにホテルは安い。
プレイ時間によってはAFが無料とか、
潮吹きなんか基本プレイの中に当然含まれてたり。
先日は池袋サンシャイン側のある店で着エロのアイドルと遭遇。
そこはAV嬢の在籍も多く、それに激安。
お金に余裕が有れば渋谷とか、新宿に行きたいのですが。
新大久保も安いと思ったら、割と高く、
嬢レベルも高く激安は池袋かな?
大塚もお奨めかもです。
女向けソープはねーのか
女向けソープは
建ってもすぐ潰れるんだよなあ
男の体力が持たないから
399 :
名無しさん@ピンキー:2012/07/15(日) 00:56:11.55 ID:SHIqXiNO
復帰
過疎
401 :
名無しさん@ピンキー:2012/07/30(月) 03:25:15.60 ID:v5/U6ZjJ
保守
402 :
名無しさん@ピンキー:2012/08/08(水) 10:19:48.67 ID:P1ZnwuAD
保守
403 :
名無しさん@ピンキー:2012/08/11(土) 17:44:08.13 ID:FarWnj0r
まだあ?
404 :
名無しさん@ピンキー:2012/08/11(土) 17:44:09.33 ID:my74TSVi
まだあ?
まだあ?
406 :
名無しさん@ピンキー:2012/09/18(火) 14:26:32.13 ID:9p+itsbC
保守
407 :
名無しさん@ピンキー:2012/10/08(月) 16:05:09.57 ID:f3EvO+4V
ほしゅ
そろそろ…
このスレ二次創作は禁止なのか
ほしゅ
ほしゅ
413 :
名無しさん@ピンキー:2013/02/05(火) 12:31:08.77 ID:jzN362Sb
保守
ほ
しゅ
おっさんのケツ振りダンスを見たい
職人さんを待ちつつ保守
昔ここでオススメしてた「雨の様に聞こえる」
この続きが読みたい
サイトの更新がストップしたまんま(泣)
420 :
377:2013/11/16(土) 00:49:20.20 ID:e4QPQ8in
投下します。
こんなゲームがあったらなあと思って2分くらいで考えた話第2弾です。
イベント集っぽくなっているのは仕様です。
「そういう訳で、この『うみなりタウン』の借金5億ゴールド、一括でお払い致します」
どどん、と、札束の山を業界屈指の会社社長、リオンさんに渡した。
若干ドン引きしながら、リオンさんは書類を纏め、ハンコを押す。
「……しかし、こんな田舎町に、元・カニエビカンパニーの次期社長候補様が隠居してな
さるとは、思いもよりませんでした」
リオンさんも、私の事は多少は知っていたのだろう。
特に嫌味でもなんでもなく、本当に驚いての言葉みたい。
「ええ、私も母の出身地がこのような事になるとは、ついぞ」
首を振り、特に何の感慨も湧かずに返す。
「それはお気の毒に……でも、何故ですか? 貴方の住んでいらっしゃる土地は、この町
の土地ではなく、私達も貴方に何かをする訳でも無かったのですが……信用が足りなかっ
たのでしょうか?」
信用は、別にしていない。
というか、信用出来る人間なんか、誰もいない。
「いえ、きまぐれです」
それよりも。
「リオンさんこそ、何故5億ゴールドの借金を、『太陽の初恋』などと言う宝石を見付けて
来たら帳消しにする、なんて条件を出されたのですか?」
笑顔は崩れない。ただ、ほんの少しだけ瞳の奥が暗くなったような気はするけれど。
「どうしても、欲しかっただけですよ。もしもこの手に入るのならば、全財産を差し出し
ても良いと思う程に」
と。
そう、言った。
「ですのでアンジュ様、もしも『太陽の初恋』を手に入れたならば、是非とも私に御一報
を。どんな代償も支払いますし――どんな事も、させていただきます」
にっこり笑って、物騒な事を言ってくれた。
契約は完了。既に用は無いとばかりに、リオンさんは立ち上がる。
「……知っていますか、リオンさん」
「はい?」
なんとなく、ほんの少しの悪戯心。
崩れぬ笑顔を崩したくなった。
「『太陽の初恋』は、私の母親が製造元だという事を」
私は、終始一貫、無表情を貫き通した。
リオンさんは、そこで初めて、眼を見開き、驚愕の表情を晒した。
……別に、勝ったとかそういう事は何も思わない。こんな顔か、と思っただけ。
というか、製造元って意味もわからないだろうけど。
「……どこに行ってしまったのでしょうね、私も探してはいるのですが」
溜息をつく。
「本当に、どこに行ってしまったのでしょうね……」
笑顔を取り繕い、リオンさんもそう返した。
まあ、持ってるんだけどね、私。
私以外には開けられない金庫の中に、フッツーに鎮座してるんだけどね。
言わないし、渡さないけどね。
そう言う訳で、全ては終わった。
私は、うみなりタウンの集会所へ向かう。そこには、町民ほぼ全員が揃っていた。
そもそも、このうみなりタウンがアホみたいな借金を背負うようになった理由は、ただひ
とつ。
町長が怪しい商売に手を出して、あれよあれよと借金嵩んで、この町全体を担保にしちゃ
ったせいな訳で。
「ああ、アンジュさん、本当にありがとう」
「アンジュさんのおかげで、俺達は助かったんだ」
「あんたは、この町の救世主だ」
等々、口々に私を称賛してくれているけれど。
「……アンジュ、すまない。僕の父親のせいで――」
元町長(今現在、フルボッコにされて集会所の真ん中で吊るされている)の息子、ルビー
さんが頭を下げる。プライド高い人から頭を下げられるのは、中々かもしれない。
でも。
「私、アンジュさんの事、誤解していました」
「アンジュさん――」
勘違いしてるよね、この愚民ども。
「いや、お金は返して下さいよ? 5億ゴールド」
さらりと、契約書を出す。
言うなれば、借金返すのが、期限激早のリオンさんから、もう少し緩い私に変わっただけ
で、現状は、ほとんど変わっていないのだ。
私は次期社長時代のように、ホワイトボードを駆使し、説明する。
平たく言うと。
・別に、5億ゴールドやった訳じゃない
・期限は緩くするが、きっちり返して貰う
・逆算して返せるであろうギリギリの時期まで返済が出来なければこの町は健康ランドに
・でも
「ひとつ、条件を飲んでいただけるのなら、1億減額しましょう」
因みに、5億ゴールドくらい、たいした額じゃない。私に取っては。
ついでに、今現在の町民の全財産をかき集めて、1億行くか行かないか。
町民が固唾を飲んで見守る中、私は口を開いた。
「何故、俺を」
物凄く不満そうかつ、それでも最大限の礼儀を払い、彼――
「申し訳ございません、貴方、お名前は」
「……ハヤトだ……です」
「わかりましたハヤトさん。貴方は本日付けで私の奴隷となりました」
1億減額の条件。
それは、町民の中の一人を、私に差し出す事。
私が何をしようが、その誰かがどうなろうが、何も咎めない事。
それだけだった。
最初は反抗する人が多かったけれど、現実を直視させるプレゼンを行うと、渋々認める事
となった。
で、私は町民の輪の中には入らず、壁に背を預けてこちらを睨んでいたハヤトさんを指名。
孤独で人付き合いが悪いと思いきや、そうでもなく、彼の友人っぽい同年代の方々が、自
分をどうぞ的な事を言って来たけれど、ハヤトさんがそれを制し、私の家までやって来た。
勿論、荷造りをさせて、元いた家を引き払わせてから。
「で、貴様は――っ、あ、アンジュ……様は」
「呼び方はお好きなように。ハヤトさん、お仕事は何を?」
本当に、ただ適当に選んだだけなので、この人の事は何も知らない。興味も無い。ただ。
「へ? あ……集会所の近くのケーキ屋で、ケーキを作っている、ます」
まだ辞表を出していない、と言うけれど。
「わかりました。お仕事は今までと同じようにして下さい。お給料は、貴方は私の所有物
ですので、借金返済の天引きはいたしません」
月に一度、住民全員の給料から天引きしたものを纏めた分を終日にいただく事となる。
その役目をハヤトさんにさせようかとも思ったけれど、気の毒にも程があるのでやめた。
「は……? え、じゃあ、金は」
「貯金するなり、必要なものを買うなりして下さい」
私は椅子に座ったまま。ハヤトさんは立ったまま。
「私は私で生活しますので、貴方は私の邪魔にならないように暮らして下さい」
「意味が、わからん」
首を傾げ、溜息をつく。
「意味も何も……アンジュさん、ハヤトの事好きなんじゃないの?」
配達途中のリクが、少しニヤニヤしながら言った。が。
「……好意どころか、興味すら持たれていない気がする……食事も別で、ここ二日は姿も
見ていない」
宛がわれた部屋は、元の家よりも上等過ぎるもので、ベッドとかもう、落ち着かないくら
いにフッカフカだった。
「オレ、半月に一回アンジュサンのハウスにクリーニング行くケド、あのヒト、マジで静
かで寡黙でおしとやかダヨねー」
「カミュ、意味が同じようで違うけど重複してるよ」
半笑いになりつつ、リクもカミュも俺を見る。
客観的に見て、俺の生活は、ほぼ変わっていない。
住居が変わったのみである。
固く口止めされて、給料天引きされていない事は話していない。
町民は引っ越しも夜逃げも許されない中、生活は微妙に苦しい。
そんな中、御主人は微妙に自分の生活ランクを上げた。一応、経済が回るようにしてくれ
ているようだが、逆に住民はモヤモヤしているそうだ。
恩人ではある。
だが、謂われの無い借金を背負わせている人物でもある。
しかし、今の状況にならなければ、無一文で町を追い出されていたのだ。
既に、元凶のハガネのオッサンは粛清して返済の為尽力しているから、余計に矛先は御主
人に向かう。それが、どれだけ恩知らずな思いかも、知っていて。
「ルビーはどうしている?」
「毎日、本職とバイトいっぱいやってる。町ちょ……ハガネのオッサンも工事現場で頑張
ってんよ」
「でないと、殺サレるだろう死ネ」
「……今の、変換ミスだよな?」
真顔で呟いたカミュに、ハヤトは顔を引き攣らせながら突っ込んだ。
「別に、食事は用意しないでも良いと言った筈ですが」
私は、朝が遅いので、食事時間もハヤトさんとはズレている。
冷蔵庫も、私用とハヤトさん用できっちり分けている。なのに。
「……いらないなら、いい」
「ええ、結構です。毒やガラスでも入っていたら困りますので」
そう答えると――
「っ、俺が、そのような事をする人間だとでも言うのか!?」
と、激昂する。
でも。
「……いえ、私、そこまでハヤトさんの事知りませんし……毒が入っていたら苦しくて痛
くて、眼がぐるぐるしますし、ガラスを噛んだら口の中、ズッタズタになりますし」
なので、基本他人の作ったご飯はノーサンキュー。
それを聞いたハヤトさんは、真っ青になってこっちを見た。なので。
「では、いただきます」
と、手を合わせた。
「え?」
何故か戸惑うハヤトさん。
「今の様子から見て、ハヤトさんは異物混入をなさる方では無いと判断しましたので」
美味しそうなスープとパンに、お魚のムニエル。簡素だけれど、食欲をそそる。
「……御主人、アンタ一体どういう生活してたんだ」
溜息交じりに聞いて来る。ごはんがおいしいので、ほんの少し口を滑らせる。
「骨肉で血を洗う羅刹のホラーハウスの権力争いから身を引いた負け犬ですよ」
と。
それだけ言った。
「……そうか」
ハヤトさんはそれだけ言って、食事を始めた。
終始、お互い無言だったけれど。
「何故、食事を用意してくれたのですか」
「……他の皆が、返済で生活苦だからな……なら、俺だって少しはアンタに還元せねばと」
「貴方の身柄そのものをいただいている訳ですけれどね」
ちょっと勘違いをしているみたいなので、私は釘を刺した。
けれど。
「俺に、その価値はあるのか」
ハヤトさんは、絞り出すように言う。
「さあ、あると思います?」
「無い」
「そうですか」
パンを齧り、返す。
会話は、また途切れた。
「……おい」
フラフラしつつ、テーブルに皿を置く御主人。上には、出来たてのパンとオムレツに野菜
スープ。御丁寧に分厚いベーコンまで。
「先日の御礼です。勿論、毒物も劇物も鉱石も入っていませんよ」
「……アンタ、いつも俺が家出てから起きるだろう……」
「でも、それでは朝食に間に合いません……」
そう言いながら、船を漕ぎ出す。
「……パンとか、買って来たのか」
「作りました……」
食べてみると、滅茶苦茶美味かった。しかも、惜し気も無く高級品を使っていると見た。
今現在、このうみなりタウンでは庶民には手が出せないもの。
……自分だけが、今、こんなに裕福な生活をしている。
そう思うと、胸が苦しい。だから。
「御主人、アンタは本当に、どうして俺を買った。何が目的だ。何か、俺がアンタに出来
る事は無いのか」
「ありません」
ものの見事に、即答された。
「……その、普通、アンタが言ったみたいに、奴隷って言ったら……」
「肉奴隷という事でしょうか。『えっちなハヤトのいけないおちんぽから、こくまろみるく
がいっぱいあふれてくりゅのおぉおおぉんほぉおおぉっ!』とか言いたいのですか?」
「朝から言うかそんな事を!?」
今この瞬間、御主人の見方が完全に変わった気がした。
眠そうなのに無表情で普通に言うから、俺が寝惚けているのかと思った程だ。というか、
一瞬でそんなセリフを羅列出来る事そのものに畏怖を覚えた。なんだこの痴女。
「こくまろホットミルクもどうぞ」
「やめろ! 水でいいから!!」
……いつから、笑わなくなったのかな、と思ったけれど。
それはやっぱり、お母様が死んでからなんだろうなあ、と思った。
お母様が死んでからというもの、それまでも堂々と屋敷に来ていた妾とその子供達が、大
手を振って家の中を闊歩するようになった。
様々な嫌がらせも受けたし、被害もたくさん。私に安息の場所なんて、無かった。
全部全部嫌になって、婆やとか、使用人の人や、会社の人に協力して貰って、逃げた。
私の手に残ったのは、受け継いだお母さんの実家の土地と、お母さんの形見の『太陽の初
恋』、自分で稼いだ現金66兆2700億ゴールドだけ。
誰も信用出来ないし、全てを投げ出した自分も許せない。
けれど、でも、私は。
「――御主人?」
不意に、肩を揺さぶられ、私は眼を覚ます。眼の前には。
「ハヤトさん……あれ、まだ」
時計を見ると、うわ、もうハヤトさんが帰る時間。あ、だからいるのか。
「どうした御主人。顔色が悪い」
「…………」
心配、してくれているのでしょうか。
お金で人を買った人間なのに。
まあ、買ったというか担保というか……でも。
「……貴方は私の?」
まっすぐに――もしかして、初めて、眼を見据えて、言う。
「に……奴隷です」
肉、は言わなかった。けれど。
「肉奴隷になっていただきます」
私は、そう、はっきりと言った。
「……世間一般では、これをだいしゅきホールドと言うそうです……」
きっと、いつも通りに無表情で言っているのだろうと思うと、やりきれない。
「そうか……」
今現在、俺は御主人の抱き枕となっている。
正直、腹が減って仕方が無いのだが、奴隷なので仕方が無い。というか、初めて頼られた
のだから、このぐらいはせねば。
……だいしゅきホールドとやらが何の効果を発揮するものなのかは知らんが……
「因みに、性行為をしている時に効果を発揮するもので、これをされた男性は強制的に膣
内で射精をしてしまうという、恐ろしい技です」
頭の中を読まれたのか、恐怖の説明を受けた。それは怖過ぎると思った。
とはいうものの、別に俺と御主人はヤッている訳ではなく。
無駄にシックで豪華な、初めて入る御主人の部屋の、まさかの予想通りな天蓋付きベッド
の中で、ぶっちゃけ美人な成人女性にゼロ距離密着されているという状況……というか。
「御主人よ、何故にいきなりこのような事を」
「哀れな負け犬が独り身の寂しさにも負けて気弱になった結果です」
ほう、と、温かい息が胸に掛かる。
いい匂いがする。
背は高くて、細身で、胸は……恐らくそこそこ。
「……ああ、お金持っていて良かったです。こんなに便利な肉奴隷を一括キャッシュでゲ
ットだぜ! 出来るのですから」
「…………」
いつもより、饒舌。そして、自虐的。
この町の人間は、俺を含めて、御主人――アンジュという人間を、知らない。
昔から、うみなりタウンの一等地を所有していたが、管理をしていたキニス一家ですら、
20年近く持ち主を見ていなかった。
そんな、話でしか知らない金持ちが、半年前にやって来た。
誰とも交流を持とうとせず、それどころか家から殆ど出ず、買い物等は殆ど家に持って来
させていた。
たまに姿を見た者からは、物憂げな美人だと評されていた。
町長の不祥事が露見し、町そのものが無くなる危機が訪れた時、颯爽と現れ――
けれど、恐らくは権力闘争に傷付き、全てを捨てて静かに余生を過ごす筈だった。
きっと、誰にも関わらず、一人でいたかった筈。
そもそも、彼女には関係の無かった事。
「……?」
決める。
肉奴隷になってから、かなり経った。
そんな中、ようやく頼ってくれたのだ。ならば、この一括キャッシュ肉奴隷に出来る事は。
「…………」
強く抱き締めた事に、一瞬の躊躇いも見せたが、御主人は無言で更にだいしゅきホールド
とやらを決める。手も足も、力が籠って、俺を締め付ける。
そうなると、当然。
「……………………」
無言で、身体を押し遣られた。
そりゃまあ、そうだろう。
実は煌々と明かりが点いていた中、無表情のままに顔を真っ赤にした御主人が見えた。
「あ、あの、その、肉奴隷は肉奴隷でも、ちんぽの方はちょっと……」
「御主人、口を慎んでくれ。アンタちょっとおかしい」
非常識なのは俺の方なのだが、気にしなかった。
少し、かなり、だいぶ苦しいが、知った事では無い。
「アンタが望むなら、切り落としても良い。どうせ俺は買われた身だ」
「っ――!? ちょ、な、何を!?」
無表情が、崩れた。
何故かわからなかったが、その顔に、気分が高揚した。が、今はそんな事はどうでもいい。
「それが嫌なら、我慢しろ。肉奴隷の身だ、貴様に何かしたら処分される」
我慢とは、下半身の事。勿論、双方に。
「え、え……えと……なに、これ……」
半分脅すような形で、御主人を再度抱き締める。無論逃がさぬように、今度は俺が御主人
を抱き枕にするような形で。
――正直、俺も最早何がしたいのかわからなくなって来たのだが……
――正直、私、この人が何をしたいのか、わからない……
逆だいしゅきホールド掛けられて、あ、あそこに、ハヤトさんのが押し付けられてる状態
で、なのに、この人、何かする気も無いみたいで……
で、でも、でも……
「……っ」
お互い、その体勢のまま硬直していられる訳でもなく、ほんの少しだけれども身じろぎを
してしまうと、変な風に擦れて、私だってムラムラしてしまう。
というか、ハヤトさんだって、これ、苦しいんじゃないのかな。というか、これ、なんて
いう拷問なのかしら……?
「あ、あの、別に、こんなのなら、していただかなくても――ひっ、ん」
自分から離れようとしたのと、ハヤトさんが逃がさないように更に力を込めたのが災いし
て、変な風に力が掛かってしまったのか、変な声が出るような事に。
「私、私は、貴方をお金で買った人間です。貴方は、言われた事だけを、していれば。変
な気を回されても、私、私――どうすれば」
だって、私は。
「迷惑か?」
ハヤトさんの顔は、見えない。
迷惑なんて、そんなの。
「迷惑なのは、貴方でしょう。いきなり貴方の生活を変えてしまったのに、それなのに」
声が、震える。駄目だ。こんなだから、こんなに弱いから私は、負けてしまうんだ。
もっと強かったら、私は何もかもを捨てなくても良かった筈なのに。
「……貴様がいなかったら、この町は無い。今よりも生活は変わっていただろう」
低い声が、耳を擽る。
「御主人――アンジュという人間がいたから、この町は救われた。どうして救った本人が、
独りで泣かなければいけないのだ」
――そんな、そんな私の中に無理矢理入って来るような、私には許されないような事を、
この人は、言った。
「っ、離れて下さい、奴隷の癖にっ!」
大声を出す。
必要以上にハヤトさんはビクッとして、その隙に私は逃げ出す。
言い忘れていたけれど私、結構強いです。雇われ暗殺者をワンパンKO出来る程度には。
「生意気なんです。何を知った風に、どこぞのエロゲ主人公みたいなセリフ吐いてくれて
やがっているんですか。そんなにいい人ぶりたいんですか? 私、貴方から見て、そんな
にかわいそうな人にでも見えるのですか!?」
ああ、確かに。
傍から見れば、私は清楚で可憐な深窓の令嬢的なモノに見えるだろう。この見た目が人眼
を引く事だって、ちゃんと知っている。
私は、充分に大多数の男の人を魅了できる程の器量を持っている。
「もしかして、ハヤトさん、貴方は私を抱きたいのですか?」
知っている。
男の人って、別に美人でなくても、好きでなくても、女の人を抱けるって。
きっと、私を抱き締めたのは同情心。けれど、こんな絵に描いたような令嬢と密着したら、
インポテンツや同性愛者でもない限り、ああなる。
でも、そうなってしまったら、格好の攻撃材料。
「……いいですよ? さっきので、私だってムラムラしていた所ですから」
そう言って、私は裾の長いスカートを捲り上げる。
……そう。
私は、この町の人やハヤトさんが思っているような、そんな存在じゃない。
生唾を飲み込む音。視線が下半身に一極集中するのが、見て取れる。
「っ、御主人――」
「命令です。今から私の言う通り、動いて下さい」
とりあえず、気でも触れたのかと思った。
抱きたいか否かで言えば、こんな絵に描いたような美人、犯したいに決まっている。
彼女の言う通り、かわいそうな女だと思ったのは事実。身体に反応してしまったのも事実。
しかし、俺は、こんな泣きそうな顔で笑う女を、どうこうしたいなんて思わない。
1億の価値が俺には無い以上、少しでも還元しなければならない義務感と、それでも、俺
がいる事で、少しでも心が落ち着くなら、力の限り抱き締めたいと――そう思ったから、
そうしただけで。
「……ほら、肉奴隷のハヤトさん? お望みのお仕事ですよ」
お仕事と。
自由に出来る筈の奴隷に命じる事が、何故、明らかに主人を傷付ける事なのか。
「こんな簡単な事も出来ないのなら、奴隷失格ですよ? 1億ゴールド、うみなりタウン
の皆さんに、上乗せされちゃいますね」
初めて、借金を盾に振り翳す命令が、こんな事だとか。
けれど、俺には何の力も無い。金など、もっと無い。
ふらふらと、引き寄せられるように御主人の元に向かう。
一見して高そうな服を、命令されるがままに脱がせると、これまた当然というか、見た事
が無いような、豪奢な下着を身に付けていた。ぱっと見、どう脱がせるのかすら不明だっ
たが。
「奴隷らしく、きちんと御主人様を気持ちよくして下さいね? 私がいいと言うまで、私
に入れる事は、許しませんから」
そう、下着姿のまま、命じられた。
ここからは、俺の裁量と、暗に言われてしまった。
とは言うものの、俺とて経験豊富な訳では無い。そもそも、御主人に経験があるのかも、
わからない。というか、聞ける雰囲気ですらない。
寧ろ、さっきより、もっとかわいそうな人に見えて来ている。
が、清楚美人の下着姿で興奮しているのも事実。個人の力でどうにか出来る相手でもない
事もわかっている。俺は御主人の顎をすくい、口付けようとするが。
「許可しません」
いきなりのダメ出しを喰らった。いきなり出鼻を挫かれたが、とりあえず口を使うのが駄
目なのかを知りたくて、首筋に顔を寄せる。成程、キスするのは駄目と。キスと本番はN
G。どこの風俗かと思ったが、奉仕する側はこちらだという事を思い出した。
こちらが口付ける度に小さく声を上げ、かたく目を瞑って震える。どう見たって、望んで
こんな事をしているようには見えない。金で身体をどうこうしているのは、俺の方なので
はないかと錯覚する程に。
高級品とはいえ、下着を外す方法は殆ど変わらない。やたらと手触りの良い下着を、なん
とか取っ払ってしまうと、後は長い髪を結った髪飾りのみを身に纏った美女が、寝台に寝
そべる格好となった。
己の息が荒くなるのがわかる。
頭では同情心や猜疑心を抱いていても、身体は正直で、その身体の反応に心も侵される。
「――あ」
ほんの少し、薄目を開けてこちらを見た御主人の顔が、脅えの色に染まる瞬間を見た。同
時に、俺はその身体に手を伸ばした。
掌に収まる程の胸は柔らかく、既に興奮していたのか、立ち上がった乳首の感触が少しく
すぐったかった。
一度吸い付いた、細い首筋にもう一度口付け、甘噛むと身体を震わせた。感じているより、
脅えの方が強い。
……どうしたものかと思ったが、最早後戻りも出来ない。
俺が、嫌いなわけでは無い……という事を願いつつ、身体を起こして、抱き締める。
息を飲む様な音が聞こえた。少し慌てたように身動ぎをしたが、それでも、何もせずに抱
き締め続けていたら、今度は御主人が俺の背に腕を回して来た。心中ガッツポーズをしな
がら、暫くそのままでいる。
……と、俺を求めるように、もっと強く抱き付いて来た。
行けるか、と思い、力が弱まった所で、少し身体を離し、顔を近付ける。
「――嫌」
わかっている。御主人の許可しない事はしない。だから、頬に口付けた。びっくりしたよ
うに眼を見開いた顔は、こっちが驚く程に可愛かった。
こちらは不許可が出なかったので、逆の頬にもする。
頬に添えた手に、御主人の手が触れる。
最早、キス出来ないのがおかしいとすら感じるが。
しかし、真正面から行って、また怯えられても困る。鼻の頭に口付けて、御主人の身体を
ひっくり返す。そうして、今度は後ろから抱き締めた。
少しは俺に心を許してくれたのか、ほんの少しの間はあったが、俺に身体を預けてくれる。
これなら行けると確信して、両手を胸に伸ばした。
「や……んっ」
今度は、最初から声が甘かった。肩越しに見る身体は、先程よりもほんの色付いていた。
寝そべっているよりも胸は大きく感じられ、心なしか触り心地も少し違うような気がした
が、張り詰めた乳首の感触は、変わらない。吸い付きたいと思いながら、両方を同時に摘
まんでみる。大きく震えたと同時に、鳥肌が立った。
「あ……っ、ん、や、だ……ぁ……」
項に口付けると、更に総毛立った。髪飾りが邪魔だったので、片手で外す。長い髪が広が
るようにして、流れた。
さらさらの髪に顔を埋めつつ、胸から下へ手を滑らす。脇腹の辺りを撫でると、少し反応
が良かった。身体から徐々に力が抜けて行き、俺の拙い愛撫にも、それなりに反応を返し
てくれる。ゆっくりと寝台に身体を横たえると、潤んだ瞳が、少しだけ期待するようにこ
ちらを見ていた。
――どうしても、無性に、その唇を奪いたいと思ったが。
しがない奴隷の身、それはしてはいけない事だという事を再確認し、その身体に覆い被さ
る。代わりに、額に口付けた。顔のどこかにそうする度に、ほんの少し怯える顔すら、可
愛いと思う。御主人は、主人の癖に苛め甲斐がありそうだと、そう思った。
唇を我慢して、胸に行こう……と思ったが、御主人が身体を捩った。
「…………」
本人も、意識しての行動でも無かったようで、ただ胸が揺れただけだった。
尻は、あまり大きくないとも思った。
気にせずに胸に顔を寄せると、何をされるか勘付いたようで『許可しません』と言いそう
な気がしたので、先手必勝でむしゃぶりつく。
「ふぁ……っ、あ……っ」
同時に、やはり、あまり肉付きの良くない太股にも手を伸ばす。
付け根の方に指を滑らせると、やはり足よりも肌が熱い、と感じた。
「あ、だめ……そこ、は」
「……御主人よ、満足させるなら、一応必須に近い場所だろうが」
最早、こちらも一々許可を取るのも億劫というか、我慢が出来ない。若干の恨みも込めつ
つ、指を中に差し込む。
「っだめ……だめって……」
こちらが驚くくらいに、ズルッと指が入った。
……ズルッと行っても、蕩ける程に濡れていたからで、けして緩いという訳でもなく、一
本だけ差し込んだ指を、きつく締め付ける。
指を抜くと、明りに反射して、そこだけが濡れ光っていた。その指を口に含んで、顔を真
っ赤にする御主人を見る。
そして、理解する。言葉で攻めたら、逆ギレというか、正統派ブチギレをされる。
……なので、無言で続きをする。今度は指を二本。入れる前に親指を口で濡らし、クリト
リスに添える。ほんの少し掠った程度だが、身体が大きく震える。
「ひゃ、あ――っ、や、だめ……っ、やだ……ぁ、あああっ……!」
痛みを感じない程度に、それでも中をかき回すように指を動かす。ぐちぐちと、泥濘んだ
音がして、溢れてくる液が指を濡らす。シーツを掴んで首を振る御主人は、可愛い声を上
げながら、善がっている。
時折太股の裏側や臍の下辺りを撫で回すと、腰をくねらせて、指を締め付ける。
指だけでここまで感じるなら、実際に犯されたら――こんな膣内を、好き中に蹂躙出来た
ら。そう思うと、
「や――だ、や、わた、し、だめ――変っ、いや、いやぁああっ!」
びくびくと、下半身が痙攣する。涙を流して嫌がるが、大股を開いて俺の指に股間を押し
付ける様は、そこらの娼婦顔負けのエロさがあった。
至近距離で達する顔が見たいと、そう思い、耳元に口を寄せ。
「――御主人、イけ」
そう囁くと同時に、親指で押し潰すように刺激する。
「あっ……あ、あああああっ! ……っあ、あ……」
跳ねるように腰を浮かせ、俺の眼の前で達する。口を開いて、指が抜けそうになるくらい
に締め付けられる膣内と同じくらいに表情は蕩けている。
御主人が満足したかどうかなど、確認するまでもない。そんな事よりも。
……今すぐに、俺は、この女を犯す。
焦るようにベルトを外そうとする。こういう時に限って、時間が掛かる。普段は、何も考
えずとも外せる癖に。
「――あ」
ほんの少し、ボーっとしてしまっていた。ハヤトさんに私、指で――まだ、あそこに……
「……え?」
声が、漏れる。
私の真上には、男の人――ハヤトさん、が。私に、覆い被さってる。手は、私の足と、腰
に。え、じゃあ、当たってるのって――
「い、や……」
声が、上手く出ない。ハヤトさんは、怒っているような顔で、私を見る。
「っ、だめ、だめ、それ、やだ……」
私は首を振って逃げようとするけれど、がっちり捕まえられていて、出来ない。
ハヤトさんは、何も言わない。私の事睨んで、凄く、怖い。
「ひっ」
私の中に、少しずつ、入って来る。
知らない人が、私の中に。嫌だ。心の中に入って来るのが嫌だから、こんな事したのに。
なのに、なんで、どうして、この人は。
「っ……やだ……やめて、やめて下さい……いや……」
私は、懇願する。泣きたくなんてないのに、涙が溢れて、顔が見えなくなる。
ハヤトさんが今、どんな顔をしているのか。これから、どうするのか、全然わからない。
けれど、確かに聞こえた。
……思いっきり、舌打ちする音が。
そして。
「そこまで泣くなら、最初からするんじゃねえ。さっきの続きだ。お互い妥協するぞ。誘
ったのは貴様なのだからな……!」
「え? え? きゃ――やああっ!?」
荒ぶる言葉に対して、ハヤトさんは、その、あそこから抜いてくれた。けれど、そのまま
私から離れてくれるという訳でもなく、擦り付けるようにして――
「あ、えあ、だ、妥協という事は、挿入したいハヤトさんと、したくない私の間を取って、
素股でGO! という訳――っん」
ようやく現状を理解したけれど、正直それも嫌。でも、ハヤトさんが擦り付けて来る度に、
力が抜けてしまう。
「――御主人、貴様、実は馬鹿だろ」
御主人様に向かって、とても失礼な発言をしつつ、手が胸に――行くと思ったら、私の涙
を拭った。
「……う」
ハヤトさんは、顔に似合わず……その、キスするのが好きなのか、涙を吸うように、目縁
に口付けて来た。
口は嫌だって言ったからって、それ以外にしてもいい訳でもないけれど……
不満げな顔をわざと出したけれど、ハヤトさんは意地悪く笑うばかりで――あ、笑うの、
初めて見たかもしれない。
……けれど、すぐに、あまり考えが纏まらなくなる。乱暴に胸を掴まれる度に、先端が入
口を擦る度に腰が動いて、あそこから、お漏らしをするみたいに、溢れる。それを潤滑剤
のようにして、わざと音を立てるみたいになぞる。
お互い無言で、でも荒い息が、最早どちらのものかもわからなくて、うわ言めいた喘ぎ声
を我慢する事も出来なくて、私は何もかもが、どうでもよくなって来る。
もっと、欲しいと――ぐちゃぐちゃに犯して欲しいと、そう思える程に。
でも、それを言うには、お互いもう遅かったようで。さっき指でされた時のように、昂っ
て来る。自分からせがむみたいに、あそこを押し付ける。
「あ――ぅ、うっ……あ……いや……いやあああっ!」
眼の前が、真っ白になった。呆けたように開いた口から、涎が流れる。心臓がバクバク行
って、小刻みに身体が震える。
同時に、おなかに熱いものが振りかかるのが、わかった。
ハヤトさんも達したのだと、理解するのに時間は掛からなかった。
「貴方は、クビです」
奴隷にクビがあるのかどうかもわからないけれど、でも。
お風呂から帰って来るまで、もしかしてハヤトさんは、ずっと服を着て正座したままだっ
たのだろうかと思った。それはともかく、部屋に入って、開口一番のこの言葉を聞いて、
驚いたような顔をした後、すぐに顔を下げた。
ハヤトさんは項垂れたまま、私の言葉を待っている……のかな。
「荷物を纏めて、今すぐにこの家を出て行って下さい」
「――御主じ」
顔を上げ、今更焦ったようなお顔。けれど。
「止めて下さい。貴方はもう、私のモノでもなんでもないのですから」
そう言うと、顔を引き攣らせる。ああ、お金の事か。
「御安心を。別に、1億程度なんて、貴方を買った時に帳消しにしてあります。そのくら
いのお金、家の中で硬貨を落として無くした程度の損失ですから」
声も、きっと顔も大丈夫。
私はいつも通りに戻っている。だから、あの時みたいに説明を続ける。
「そうです。5億ゴールドなんて、私からすれば、ちょっと高いケーキを買うくらいの価
値しかありません。けれど、貴方達みたいな庶民には、ポンと貰うには、罪悪感を引き摺
ってしまうような大金のようですからね」
出来るだけ、嫌味に聞こえるように、私は続ける。
きっと、さっきから私の評価なんて最悪だろうけれど。
もう、自分が何を言っているかも、よくわからないけど。
「最初から、貴方が目的だった訳ではありません。誰でも良かったのです。適当な人を見
繕って、我が家で奉公させて、次の人をまた買えば、それで借金は少なくなって行きます。
真のお金持ちは、庶民への施しにも、きちんと気を使ってあげるものですから」
貴方なんか、私に取って、ちっとも特別なんかじゃない。
ただあの日、あの町民の中で、一番人と関わりが無さそうだったから。だから、選んだ。
「ふふ、私、とても気が回るでしょう? もう、貴方のお役目は終わりです。次はどなた
にしましょう。掃除夫のカミュさんなんて良いですね。毎日屋敷をピカピカにしていただ
きましょうか」
もう、貴方になんて、毛の先程の興味が無い。だからこれ以上、私の中に入って来る事を
許可なんてしない。それをわかって欲しくて。
何故か、さっきから眼を逸らしてしまっていたけれど、私は頑張って正面を向く。
ハヤトさんはそんな私を、真っ直ぐ見据えて。
「――貴様は、馬鹿なんだな」
溜息をつくように、そんな事を言われた。
「……は?」
「ああ、そうだな。最初から疑問はあったが、色々我点が行った。要は、無駄に金を持っ
ている、ただいい恰好をしたいだけの癖に、褒められる事に罪悪感を覚える、勉強の出来
る馬鹿だという事か」
と。
要は、と言っている割に、無駄に長い罵倒をするハヤトさん。
「貴様の過去に何があるかは知らんが、この町の救世主である事は事実だ。どれだけ貴様
が自分を卑下しようと」
ようやくハヤトさんは立ち上がり、私の方へ向かって来る。私は後ずさるけれど、更に近
付いて来る。一昔前に巷で流行った壁ドン状態となり、私は怯える。
……どうして、こんなにこの人が怖いの。
きっと、殴り倒せる筈なのに。私、この人をきっと、どうにでも出来る筈なのに。
「――どれだけ、貴様が貴様自身を嫌っていても、自らを貶めようとしても、町民――俺
に取って、貴様の存在は神に等しい程に尊く、有り難い存在であるという事を、忘れるな。
貴様はそう思われるような事を、してしまったのだから」
そう、脅すような声色で、髪を梳いて――そのまま、物語のように、髪に口付けた。
すぐにハヤトさんは私から離れて。
「アンジュさん、ありがとう。俺の大切な生まれ故郷を救ってくれて」
泣きそうな程の笑顔で、私の手を握った。
――胸が、何故か、物凄く痛くなって。
ハヤトさんが泣きそうだと思ったのに、また泣いてしまったのは、私だった。なんだか、
凄く凄く、悔しかった。
手を握る以上の事はして来なかったハヤトさんが、ありがたくもあり、その気づかいが余
計にムカついたりしたのだけれども。
「では、明日からはこのうみなりタウンの一般市民として、貴様の家に遊びに来る。出来
れば貴様の性欲の処理は、他の男を使わないで貰えると有り難い。俺の心が擦り切れる」
あの後、通常運行に戻ったハヤトさんは、テキパキと荷物を纏めて、家を出る準備をした。
さっさと出て行っていただきたいのに、急に玄関で振り向き、そんな事を言い出した。
「は、はあ!? 貴方、何をそんな――」
「勿論、貴様から呼び出して貰っても構わん。仕事中は困るが、何せこの町の恩人だ。店
長も眼を瞑ってくれるだろう。当座の目標としては挿入する事として、最終的には本来の
用途でだいしゅきホールドを行って貰う」
「だ、だからだから、ハヤトさん」
「必要以上に俺を幻滅させようとした事が裏目に出たな。悪いが俺の身も心も、貴様を肉
奴隷にしたいと渇望している」
この、人の話を聞かないどころか、物騒な事をのたまう元・肉奴隷は、私の胸倉をいきな
り掴んで。
「っ……あ、あっ、貴方という人はっ……!」
「別に、俺はもう貴様の奴隷でもなんでもない。許可など求める必要も無い」
凶悪な笑みを浮かべて、つい今しがた口付けた、私の唇を、舐めた。
――毒を飲んだ訳でもないのに、眼が、ぐるぐる回った。
瞬間、頭がかっとなって、もう、何が何だかわからなくなる。
「も、もう、二度と来ないで下さいっ! き、来たら、来たら、絶対に叩き出しますっ!!」
「とりあえず、明日も仕事が終わったら来る。飯の用意をしていてもしなくても構わん。
が、先に食事を終えていられると気まずい」
よ、よく見たら、この人、手荷物しか持っていない。というか、いつも出社する時の格好
じゃないですか。
「今日は、リクの所にでも泊まる。では、行って来る――そうだ、明日はケーキでも持っ
て帰る。余り物だから、何が来るかは不明だが」
「ひっ、人の話を聞いているんですか!? 来ないで! 出てって! 二度と私の前に姿
を現さないで下さい!!」
「だから、貴様の言う事を聞く必要など無い」
ズバンと言い切って、ハヤトさんは出て行った……というか、出掛けて行った。
私は、へなへなとその場に座り込むしか、出来なかった。
その日の内に、うみなりタウン全域に、私がハヤトさんを買った本当の理由が知れ渡った。
その際、自分が惚れたから、奴隷要請が来ても全員断るように、とか言いやがった。
次の日から、色々な人が何かお菓子とかお惣菜とか野菜を持って屋敷に来るようになった。
堂々と普通に帰って来るハヤトさんには、もう、どう対処していいかすらわからない。
とりあえず、奴隷が調達できないので、町内会でビンゴ大会やって、賞金1億を一本と5
千万を三本入れて、当たったその場で没収したりした。
因みに他の景品は高級肉とか家電とか商品券入れた。
参加賞は、隣町の高級焼き肉店お食事券にしてみた。
……別に、このくらい、ちょっといいお刺身を買ったくらいの出費でしかない。庶民とは
違うんだから、私。
そういえば、この間、強制的に一緒にお風呂に入る羽目になった。
凄くやだった。当たり前みたいにキスして来るし、それが普通みたいに胸とか触るし。
……その癖、何か、色々と決定的な事をするに至っては、一々断りを入れて来て、ノーサ
ンキューしたら、あっちが謝って来るし、なんなの、あの馬鹿元奴隷。
……あんな人、大嫌い。
終
435 :
377:2013/11/16(土) 01:03:33.81 ID:e4QPQ8in
以上です。
自由度満載、金持ち救世主主人公(男女選択可能)の行動次第で町民レッツやり放題。
純愛も良し、肉奴隷化も良し、ホモレズロリショタジジババなんでもござれ。
権力振り翳して嫌われるも、町のアイドルも貴方次第☆
あれ、もしかして敵の筈の社長って、落とせるんじゃ……?
的なゲーム誰か作って下さい。
>>437 スレ立て乙
>>435 GJ!
ひさしぶりに377さんの萌えとエロと笑いが同居した話を読めてうれしい